個性「メ化」 (カフェイン中毒)
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入学編
1話


 うおおおおっ!という隣の家から聞こえる気合の雄たけびで目を覚ました。今日も幼馴染の男の子が朝の鍛錬をしているのだろうか、と思ったけどまさか今日という大事な大事な受験の日に根性とか、漢とかそういう暑苦しい気合の声をあげてトレーニングに励むということはない、と思う。断定じゃないのはもしかしたらあり得るんじゃないかなって思っちゃうからだ。

 

 部屋のほとんどを埋める特注サイズの巨大ベッドから足を下ろすとフローリングに足が付いた瞬間ゴトッと硬質なものが落ちたかのような音がした。当然だ、私の足は機械なのだから。異形型の個性を持って生まれた私の手と足は硬質で、冷たくて、金属質な機械のもの。鈍色に輝く尖った自分の指を確認してベッドのそばにある分厚い長手袋に手を通した。これがないと、ものを傷つけずに触れないもの。

 

 立ち上がると、高い筈の天井スレスレに頭が来る。そばにあるベッド以外のなにもかもが小さい、だって私が大きいから。重い重い機械の体を自由に動かすため、対抗するように私の体は勝手に大きく成長していったんだ。中学3年生にして、身長240㎝、個性豊かのこの個性社会においてはあまり珍しくないけど、人目は引いちゃう。おまけに手足がごついメカだもの。

 

 人目を引いちゃうのが恥ずかしくて顔を隠すために伸ばしたガラスのようなファイバー形質の前髪越しに見る部屋の時計は、何時も起きる時間ちょうどを指し示していた。体内時計、機械だから正確なのが自慢、勉強も理数系は大得意だし、覚えるだけの科目も得意だけど、国語は苦手。だって機械だから、人の気持ちは分かりかねます、って言えたらいいんだけど私は人間なのだ、個性で機械になってるだけで。

 

 自己紹介が遅れた。私は「楪 希械(ゆずりは きかい)」自他共に認める引っ込み思案で、体が大きいのがちょっとイヤで、ヒーロー志望のカッチカチな幼馴染がいて、自分も全身カッチカチの15歳の女の子。個性は「メ化」ダジャレじゃないよ?自分の体を機械に変えて自在に操れる、ミサイル、機関銃、戦車にロボット何でもござれな自分でいうのもなんだけど強い個性。

 

 そんな私は今日、幼馴染と共に大事な大事な受験の日を迎えていた。雄英……国立雄英高校ヒーロー科の受験日は、今日なのだ。

 

 

 パキッ、と音を立てて釘を嚙み砕きながら結田付中学校の制服に着替える。朝ごはんはさっきすまして歯も磨いたけどこっちは個性の補給用。摂取したものを材料として私は個性を使うのでコンクリだろうが鉄だろうがガソリンだろうが食べることはできる。味覚的な意味では全く嬉しくないので心は死んでるけど。鉄臭いんだよね、おいしくない。緊急時なら口以外でやれるんだけどうるさいのでちょっと……。

 

 お母さんに行ってきますと挨拶をして玄関を出る。私にとっては小さな標準サイズの玄関を何とかかがんで通って外に出る。ひんやりとした空気の2月の26日、滑り止めの受験は終わり、残りはこの試験のみとなった。深呼吸して、吸った空気が耳近くにあるアクセサリの排気孔から水蒸気と一緒にぶしゅっと出てくる。どんな体の中身してるんだろね、私。

 

 「お!希械!おはよう!」

 

 「お、おはよう。えーくん……」

 

 「おう!今日は頑張ろうな!」

 

 玄関前で深呼吸してたら隣の家の前で立っていた男の子が話しかけてきた。突然だったので首をすくめつつ何とかおはようと返す。黒髪のギザギザの歯が特徴的でとっても快活な男の子。えーくんはあだ名で、本名は切島鋭児郎、私よりも背は小さいけど同年代の男の子の中では大きい方だと思う。というか私が大きすぎるだけなんだけどね……私の胸までしかない。

 

 「もしかしてさっき、部屋で叫んでたりしたの?」

 

 「ん?もしかして聞こえてたのか!?」

 

 「うん、ばっちり。私、もしかしてトレーニングしたんじゃないかってビックリしちゃった」

 

 「いやいや、さすがの俺も今日朝練する勇気はないぜ!?」

 

 「いやでもほら、えーくんなら……」

 

 「やらねーから!」

 

 がーっ!と大口を開けて否定するえーくんに一安心した私。アスファルトをガツガツと音を立てて歩く、靴は履いてない、意味ないから。靴より私の足の方が堅いよ!嬉しくない!だってさ、去年の同じくらいの頃かな?えーくんの顔つきが何となく変わったの。元から雄英高校に行きたいっていうのは知ってたけど、そこから毎日の自主トレがハードになっていったりとか変化していった。雄たけび上げるのもそこから。もう日常だったからそういうもんだって思っちゃって。

 

 「雄英か~、楽しみだな!先輩とかヒーローとかに会えんのかな!?」

 

 「パワーローダーに会えたらいいかな……」

 

 そもそもなんで私とえーくんが国立雄英高校を目指しているのか、それは「ヒーロー」になりたいからだ。私の身体が機械なようにこの世界ではみな人間は特殊能力を備えていることが多い。例えばえーくんなら体を硬くする「硬化」他にも目からビームを出せたりとか、火を吹いたりとかそういうの。それは当然、悪いことをする犯罪者も持っている。

 

 それを取り締まるのが「ヒーロー」だ。個性を法律で封じられた警察の代わりに個性を使って犯罪者「ヴィラン」を捕まえる職業。いい方を変えれば戦う国家公務員?とかそんな感じ。個性社会になってからそれなりに世代を重ねた私たち中学生と言えば、進学先はとりあえずヒーローになれるヒーロー科!という風潮で私も例に漏れず。大きくなったのはしょうがないので有効利用するならヒーロー、という感じなんだ。

 

 えーちゃんと私は話しながら、電車に乗り込んで雄英高校を目指して進むのだった。

 

 

 

 「うおっ……」

 

 「でっか……」

 

 「ひぅ……」

 

 「あー、大丈夫か?希械」

 

 「うん、大丈夫……覚えたことメモリから飛びそう」

 

 「シャレにならねーだろ受験だぞ!?」

 

 「大丈夫、メカジョーク」

 

 受験会場、と書かれた立て札、巨大な雄英高校の校門前で私は大きな体をできる限り縮こめようと努力していた。無駄な努力だけど。というのも視線が悪いのだ。他の背の高い人よりも頭二つ分は高い私の背は無駄に目立つし、年不相応に育ってしまった肉体に視線が集まるのはしょうがないとしても男の子の視線はどうしてこうも分かりやすいのだろうか。えーくんはそんなことないのに。喉からか細い悲鳴を上げた私の背中をさすってくれるえーくんのおかげで何とか大丈夫だ、今の所。

 

 「おっ!?切島に希械ちゃんじゃん!やっほー奇遇だね!」

 

 「みっ、三奈ちゃん!よかった受験前に会えないかと……」

 

 「おう、芦戸!今日はガンバローぜ!」

 

 「もちもち!むっ!こらそこー!希械ちゃんは見世物じゃないぞーー!しっしっ!!」

 

 そんなことをしていると私たちの前にいた女の子が振り返って駆け寄ってきた。彼女は同じ中学校の芦戸三奈ちゃん、同じくヒーロー志望で明るくてよく笑う、今時の女の子って感じ。私と同じ異形型の個性が混じってて、肌の色はピンクで、角が生えてて白目が黒目になってる。異形型個性はまだまだ周りから奇異の視線にさらされるのに私と違ってそれを気にせずに誰とでも友達になれる凄い女の子だ。

 

 両手を振り回した三奈ちゃんが私を物珍し気に見ていた他校生たちを追っ払ってくれた。ホントなら自分でできないといけないとか、見られても堂々としてるべきっていうのは分かってるんだけど……興奮して熱が籠ってしまったのでまた耳の排気口から熱を水蒸気と一緒に捨てる。その湯気を見た三奈ちゃんがだきっと熱烈に抱き着いてくる。

 

 「ん~やっぱ希械ちゃんあったかい!冬場は一家に一台欲しいよお」

 

 「わ、私でよければ……」

 

 「いやいいのかそれで」

 

 欲しいって言ってくれてるならあげようかなと思っただけなのにびみょーな顔したえーくんの突っ込みで正気に戻る。3人で一緒に雄英高校の登校口に入るとまず驚いた。入口が低くない、天井も高い。いつもだったら私の学校みたいに屈んでくぐらないといけないのにそんなことない!すごい、雄英高校って私たちみたいな異形型の個性にも理解あるんだ!

 

 そんなことを考えながら校舎内に入って靴に履き替える下駄箱あたりで脚の構造を組み替えて地面を歩いて汚くなった脚を変形させる。設地面積を小さくしたくてハイヒールみたいな形をしてた私の足がカチャカチャと音を立てて組変わり、室内を傷つけないように普通の靴みたいなゴムを底面に敷き詰めたうち履き用のものに変形する。靴、脚が金属だとすぐ破れちゃうんだよね……2日持たないから、脚を変形させて対処してるの。ゴムは古タイヤを食べて確保した、美味しくなかった……。

 

 とりあえず私は個性への補充がてら粗大ごみの処分のアルバイトをしてたりする。こっちでは限定的に個性を使っていいって許可も出たから片っ端から危険物も含めて相当な量の金属やら何やらを体の中に蓄えて個性の大本にしてるのだ。質量保存の法則は異次元に吹っ飛んだらしい。じゃなきゃ今頃私の体重は何トンもあることだろう、個性万歳。

 

 

 

 「エヴィバディハンズアップ!セェェェイ……ヨウコソー!」

 

 「無理だと思うな」

 

 「無理だろ」

 

 「無理じゃん」

 

 おっきなおっきな会場に詰め込まれた受験生全員、今は午後だ。午前中に学力試験は終わってしまった。勉強が苦手な三奈ちゃんと普通だけど好きじゃないえーくんのために頑張ってプリント作ったりして勉強会をした成果を二人は発揮してくれた……と信じている。一応私と答え合わせしていい結果を出してるからいけるハズ。私の個性は手足どころか骨や脳みそまで影響が及んでいるので個性禁止と言われても禁止にできない部分があり、勉強もそれに入る。意図してメモリを消去しない限り私は忘れないし、計算能力も電卓とは比較にならない。

 

 ずるい、と三奈ちゃんには言われるけれども、私にはどうしようもないのだ。ごめんなさいとしか言えません。そして今、教壇に立っている金髪を物凄い逆立てて首元に機械を付けたサングラスの先生、プロヒーロー「プレゼントマイク」さんだ。人気商売なヒーローは副業が許されているので彼は人気ラジオDJでもある。で、いまそのセリフを言ってだだ滑りしているのだ。私たちは3人そろって今盛り上がるのは無理だって思ってるけど。

 

 シヴィー、とけたけた笑ってからプレゼントマイク先生は受験の実技についての内容を説明しだした。3種類の敵がいて、それぞれポイントが違うその敵役のロボットを倒してポイントを稼ぐルール。さらにはゼロポイントの回避推奨な大型お邪魔ギミックが存在する、ふむふむ。えっ……これ……

 

 「受験場所……みんな違うの……?」

 

 「あっほんとだ。切島は?」

 

 「俺もちげえや。なんでだ?」

 

 私の半分絶望にまみれた声に三奈ちゃんは暢気に受験場所の書かれた紙を見て、えーくんは首をかしげる。そんな、一緒に行けると思ってたのに……いや、3人バラバラなのはいいのかもしれない。同会場だとライバルになっちゃうけど別会場なら敵のポイントを取り合わなくて済む。3人が同時に合格できる可能性も高まる!そういうことならやる気出てきた!頑張ろう!

 

 「おっし!こっからはバラバラだし、3人合格を祈って気合い入れてこうぜ!よし!希械!」

 

 「う、うん!」

 

 移動と準備の時間になった途端、拳を硬化させてガツンと打ち合わせたえーくんがそのまま硬化したままの拳を差し出してきた。硬いもの同士しかできない何時ものやつだ。私は手袋を取って、同じように拳を握ってえーくんの拳にぶつける。硬いものをぶつける気持ちいい音が鳴った。それを見た三奈ちゃんがむーーっ!!とほっぺをパンパンにした。

 

 「なにそれ切島ずるい!じゃあ私も希械ちゃん!ぎゅってして!」

 

 「えっ、えっと……それでいいなら……」

 

 私とえーくんのやり取りをみてなにそれー!となったらしい三奈ちゃんは両手を広げて抱っこ!と言わんばかりの態勢を取り、私に突っ込んできた。私もそれでいいなら、と彼女を受け止めて少しだけ力をこめて抱きしめる。むっふー!と息を吐いた三奈ちゃんが私から離れた。顔にエネルギー満点!と書いてあるので大丈夫だと思う。

 

 

 

 「うわー、ホントにそれでやるの?その、凄いよ?」

 

 「だ、だって……こうしなきゃ破れちゃう……」

 

 更衣室から出て、雄英高校専属のバスに乗り別れる寸前で大胆だあと言った三奈ちゃんからそんな言葉を貰う。今現在の私の恰好は、タンクトップとスパッツ、これだけ。だってほかに服を着てると体を変形させられないし、燃えたりとかするし……ならそうならないように最初から布面積の少ない服を着るしかないのだ。だから、これはしょうがないの!コラテラルダメージ!旅の恥は搔き捨て!受験のためなら羞恥心の一つや二つ!と思いながら私は身を縮こめながらバスに揺られるのだった。

 

 開始まで準備してもいい。と広い広い演習場に到着した私たちにプレゼントマイク先生の連絡が入る。それじゃあ、開始まで私も準備しないと、私は集団から少し離れたところで個性をフル稼働させる。

 

 「チャージジャベリン&スラストハンマー、形成開始(レディ)

 

 使う武器をイメージして言葉を使ってより鮮明にする。私の両手が機械音を立てて変形、拡張して大きな武器を形作っていく。機械音が止んだ時には、大きくぶっとくなった私の手足と、3mを超える大型のバーニアが付いた槍とハンマーが両手に握られていた。ぶんぶんとそれを軽く素振りして感触を確かめる。これなら機械でも問題なくつぶせると思う!槍だけで100㎏はあるし、ハンマーは驚異の500㎏超え!質量は大正義だって物理の教科書が言ってた!

 

 「バーニア、余熱開始(レディ)

 

 バックり背中を開けてあるタンクトップの素肌の部分から金属片が積み重なって変形してバーニアを形作っていく。廃材から得られた化学物質を混合して作った推進剤を吹かしてあっためて、これでヨシ!ふふん、とちょっと得意げになっていると他の人たちがじっと私を見てる。試験前だけど大丈夫なのかな?

 

 「はいスタート」

 

 ……えっ?




 楪 希械(ゆずりは きかい)

 楪’s頭 メカクレ 白い髪。右目は機械だが左目は生身
 楪’s体 でかい、発育の敗北。ド迫力ぼでぃ、むちむち
 楪’s腕 肩から先はメカ 変形する。ロマンの塊
 楪 ’s足 太いから太ももって言うんだよ。膝から下はメカ。靴が履けない

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2話

 スタート?スタートって言ったよね?今先生絶対スタートって言ったよね?よーいドンの合図だったの?もっとこう、あるんじゃないかな!?と予想外の事態で処理落ちした私、当然ながら他の受験生たちもえっ?という感じで固まってしまっている。

 

 「ほらどうしたぁ!?実戦じゃカウントなんてねえんだぜ?!走れ走れ!賽は投げられてんぞ!?」

 

 その言葉でようやく、本当にスタートしていることに気づく。重い私は瞬発力に劣る、それは個性でカバーできるけど、こんなところで高熱のブーストを全開にしたら周りに迷惑だ。しょうがないので、一旦待つ。ようやく気付いた他の人たちが慌てて走り出す、団子のように押し合いへし合いしながら皆いなくなったところでようやく私は個性に燃料をくべた。

 

 「ブースト!フル!」

 

 爆炎と爆音を立てて背中のバーニアが推進剤を吐き出して、私を浮かせるどころか飛ばした。演習場のビル群を一瞬で飛び越えて最前列に躍り出た私が片手で巨大なスラストハンマーを振り上げて、なんか物騒な言葉を発しながらこちらに迫ってくるロボット数体に向けて振り下ろす。振り下ろした瞬間にスラストハンマーのブースターが起動して振り下ろしに更なる加速を加えた。

 

 「やあっ!!!」

 

 振り下ろされたスラストハンマーは豪快に数体巻き込んでアスファルトの地面に見事なクレーターを作った。飛び散った鉄の欠片やコードやガラスなどをなんかもったいないな、と思いつつチャージジャベリンを横に振るってこちらに来ていた3体ほどの敵マシンを両断する。えーとこれで……10点くらい?

 

 「うぇ、うぇい……」

 

 「あ、あああ、危ないっ!」

 

 ちょうど私の間近に居て、私の攻撃に驚いてしまったらしい金髪の男子生徒。私に気を取られてしまったせいで動きが止まり周囲の敵マシンの攻撃が当たりそうになる。吃りながらジャベリンを手放してその男子生徒を片手で抱き寄せて背中で割り込んだ。背中に敵マシンの攻撃が直撃する、が私はメカで今の背中は機械になっている、痛くもかゆくもない。胸の内でもごもご言っている男子生徒を解放しつつ、横薙ぎのスラストハンマーでビルの壁の染みにしてやる。

 

 「ご、ごめんなさい!私のせいで!あの、お互い頑張ろうね!」

 

 早口でいろんなことをないまぜにしながら謝り、ジャンプしてビル壁を蹴った私はまた飛んだ。もうちょっと前線の先に行った方がいいかもしれない、さっきみたいに私のせいで危ない目に会っちゃう人いるかもしれないし。咄嗟だったけど思いっきり胸を押し付けちゃって申し訳ないし、恥ずかしいし……。早く忘れよう、メモリから消去消去……。

 

 「もう!お前らのせいだああああああああ!」

 

 周りに誰もいないのをいいことに、普段はないくらい思いっきり叫んで力んだ私のジャベリンを構えた突撃(チャージ)は数体纏めて串刺しにしてビルを貫通してようやく止まる。あ、まずい演習場壊したらヤバいかも!?……し、試験だし事故だしまさか弁償なんて……ないよね?

 

 途中で見かける人が危なかったりしたらとりあえず割って入って助けたり、他個性の流れ弾が当たったりしながら暴れていると、残り2分だというプレゼントマイク先生の放送と同時に地面が揺れる。オイルを吹き出しながらジャベリンに貫かれた敵マシンからジャベリンを引き抜いていると、どこに仕舞ってあってどうやって出てきたのか分からないけど……ビルよりもずっとずっと大きいゼロポイントの敵マシンが、こちらに迫ってきていた。

 

 「すっご、おっきい……!」

 

 「でかすぎだろ!逃げろ!」

 

 「あんなのに巻き込まれたら死んじまうよ!」

 

 いつも言われる大きいという言葉を私は自分以外に久しぶりに使った。だって、そのくらいに大きい。身長240㎝の私がまるで小人のようだ。そいつはまるでドミノ倒しのようにビルをなぎ倒してこちらにやってくる。動きはゆっくりではあるが、歩幅が大きいのですぐにこちらにやってくるだろう。このままじゃ私も巻き込まれる。

 

 「逃げないと……っ!?」

 

 自分から出てきたその言葉にハッとなる。私はここに何しに来たんだ?思いっきり力を振るうため?……違う。じゃあ有名な雄英高校を記念に受験しておくため?……もっと違う。

 

 「私は……私はヒーローになりに来たんだっ!」

 

 自分への発破、そうだ。私はヒーローになりたい、大きな体、人から離れた機械の手足、そんな私でも人を守れると。誰かの手をこの冷たい機械の手で取って、守ることが出来ると証明するために!私は今ここにいるんだ!私のこの大きくて、硬い機械の体は、誰かの前に立って守るためにあるって!証明するために!

 

 「レールキャノン!形成開始(レディ)!」

 

 チャージジャベリンを持っている左手を変形させる。カチャカチャと金属音や何かが合わさる音を立てながら私の体積を越えて巨大な砲身が完成する。2本のレールの間に弾頭としてチャージジャベリンをセット、まるで戦艦にある砲台をそのまま持ってきたかのような長大なレールキャノンを持ち上げて、こちらに向かうお邪魔ロボットに向ける。

 

 同時に杭打機のように変形した私の足が地面に杭を打ち込んで体を固定し、腰から伸びた支えを利用してレールキャノンを発射態勢に持っていく。ブースターの中で燃やした推進剤の熱で発電、体内に元から作ってある不要物を分解してエネルギーに変える炉心をフル稼働させて必要な電気を急速にチャージしていく。

 

 排熱が間に合わない、体の各部に排熱口と吸気口を増設、空気を取り込んで急速に冷却を開始。オーバーヒートして行動できなくなる前にかたをつけないと、残り1分、十分だ。チャージ終了、右目の網膜に映るレティクルのど真ん中にやつを収めてロックオン。発射まで残り3秒、2秒、1秒……!

 

 「レールキャノン、発射(ファイア)!」

 

 2本のレールの間に紫電が走り、一筋の光となったチャージジャベリンが轟音を立てて発射される。すさまじい反動が私の左手ごとレールキャノンをぶっ壊して、その代わりにこちらに向かってくる巨大なお邪魔ロボットの足から上を消し飛ばした。バシュゥゥゥッ!と排熱機構から余った熱を吐き出しながら、私は片手をあげてガッツポーズをするのだった。よし、勝った!

 

 そしてぐううううっとお腹が鳴る。残った右手でお腹を押さえる。排熱とは関係ない熱さが顔に集まっていくのを感じる、ばっと右を見て、左を見ると同じ会場の受験生はみんな気まずそうに私から顔を逸らしている。え、エネルギーを使い果たしてしまったとはいえこんな高速でお腹が鳴るなんて……

 

 「おい、手!大丈夫なのか!?」

 

 「ふ、ふええええ~~~~ん!!!」

 

 完全に混乱した私は序盤で助けた金髪の男の子が心配してくれていたにもかかわらず、持ち直したのにスラストハンマーを放り投げて泣きながら逃げるという最悪の選択肢を取ってしまった。すさまじい音を立てて地面に落ちたスラストハンマーの音を聞きながら、私はバス停まで逃げかえり、そこで合流した三奈ちゃんとえーくんの顔が真っ青になるのを見て初めて、左手を忘れてきたことを再認識するのだった。

 

 

 

 

 「き、肝が冷えたぜ……!」

 

 「アタシ、希械ちゃんの手が取れるなんて想像だにしてなかったよ……」

 

 「ご、ごめんね。今は戻らないけど個性が使えるようになったら生やすから……!」

 

 「「生えるんだ……」」

 

 私の手足は機械なので、もげても一応再生させることはできる。触覚を感じられる程度の痛覚は通っているので痛いには痛いんだけどさっきまで興奮してアドレナリンドバドバだったし、熱が籠りすぎてオーバーヒートを起こしてたせいで感覚器官が一部死んで痛覚も麻痺してたから全然痛くなかった。今までもげたことなかったから二人には言ってなかったけど、再生できるのは理解してた。ロケットパンチを試した時に出来たのでできるとは思ってたんだ。

 

 今もすでに再生が始まっていてバチバチと電気やらが漏れてた肩口の所も既に漏れてたあれこれも止まっている。片手で凄い着替えにくかったけど三奈ちゃんに手伝ってもらう。熱が抜けきるまでは個性の使用は出来ないので帰るまではそのままでいいや。ああ、それにしても……

 

 「お腹空いたよぅ……」

 

 「思いっきり動いて確かに腹減ったなあ~」

 

 「ファミレスいこファミレス!ご飯食べてこー!」

 

 またしても大きな音を立てるエネルギー切れのお腹の音を二人に聞かれる。耳から蒸気を吹き出しながらゆでだこのようになる私に便乗するように腹が減ったというえーくんの助け舟とそれを察してくれた三奈ちゃんのおかげで私のエネルギー補給のめどは立ったのだった。落ち込んだり、喜んでたり、受験生の数だけ反応があるのだ。この中から上位の37人、今回は定員が一人多い形で選ばれる。

 

 制服の左袖がプラプラしてて落ち着かないな、とまだまだ体内の熱が冷める気配はなく個性もうんともすんとも言わない状態で歩く、気合で脚と手は普段モードに変形させたけどまだ腕が生えない。強制的に放熱できなくもないけど服燃えて全裸になるからヤダ。しょうがないのでそのままだなあ……三奈ちゃんのお話に気を取られて立ち止まってしまい、ちょうど腰あたりにぽすん、と誰かがぶつかってきた。あ、しまった!

 

 「ごごごごめんなさい急に立ち止まったりして!怪我してない!?大丈夫!?」

 

 「い、いいいいえ僕こそぶつぶつボケっとしててごめんなさい!」

 

 「いいいいえこちらこそ……」

 

 私の油断が招いたことなので振り返って謝る。やっぱり私よりもだいぶ小さい男の子だ、赤い大きな靴ともさもさの頭が印象的、彼はぶんぶんと頭を下げて謝ると私の言葉を待たずして足早に去っていってしまった、何となく落ち込んでるように見えたのは気のせいなのだろうか。彼も受験生だったし、もしかしたら結果が芳しくないのかもしれない。みんながみんな受かればいいのにな、とありえないことを考えながらも……私も変なことして失格とかになってないかなって心配になるのだった。特に最後のレールキャノンやり過ぎじゃないよね?あんなデカブツ出しといて、それはないと信じたい。

 

 

 「あ~~~~っ!!!そこ違ったの~~!?」

 

 「う、うん。でも私が間違ってるかもしれないし……」

 

 「やっべえ俺もここちげえわ。あー、ギリギリかこれ……?」

 

 「ううん、私が正しければだけど、二人とも合格ラインは上回ってると思うよ。私はその、国語が……」

 

 「希械ちゃん漢字とかそういうのは覚えられるけど作者の心情を読み取れ~とか苦手だもんねえ」

 

 「気持ちが分かれば戦争なんて起こらないんだよ!」

 

 「すっげえ極論だぜそれ」

 

 私は多分国語とか漢文とかとは一生仲良くなれないと思うのだ、と帰りの道で個性が使えるようになり新しく生やした新品の左腕でファミレスの昇天ペガサスマックスハンバーグセットをかきこむ。多少お行儀が悪いけどお腹が空いているから見逃して欲しい。何せ私は個性を使うと頗る燃費が悪くなる。不要物を分解する廃棄炉のエネルギーはあれど結局私の摂取したエネルギーで個性を使うのでご飯がそのままパワーになるのだ。個性使わなければ普通だけど。

 

 えーくんはミックスグリルとドリアのセット、三奈ちゃんはパスタとケーキ。私たちはご飯を食べながら今日の学科試験の答え合わせをしているのだ。と言っても答えが配布されてるわけじゃないので私のメモリ頼りになるんだけど、多分正答率は結構高い筈だ。自己採点の域は出ないけど、自信はある。つまりそれは二人の合格ライン越えを保証するものでもあるから。

 

 「あとは~~~実技だねえ~……」

 

 「芦戸は自信ねえの?」

 

 「いやさー、ヴィラン壊すよりも人助け優先しちゃって……ヒーロー志望だから、見捨てるのは変かなって」

 

 「私……街凄い壊しちゃった……失格になってないかな」

 

 「あー、確かに俺もどっちかっつったら人助けの方だなあ。だって俺の個性って守る方が適してるわけだしよ」

 

 「ま!これであとは結果を待つだけよ!何とかなるなる!この後カラオケ行こー!久しぶりに希械ちゃんのアレみたい!」

 

 「こ、これ?」

 

 「うおっ!?それどうなってんだ!?」

 

 「ゲーミングに光ってるだけなんだけど……」

 

 アレ、と言われてあたりを付けたのは私のお尻まである長い髪の毛。ファイバー形質のこの髪の毛は武装につなげればエネルギー供給できる優れものなんだけど副次機能として、いろんな色に光らせることが出来る。私の数少ない隠し芸で、ゲーミングな1680万色に発光させることが出来るのだ。カラオケで立った状態で歌えばセルフミラーボールである。一瞬で虹色になった私の髪に驚くえーくんに見せたことなかったかな?と疑問を持つ。

 

 この後、ご飯を食べ終えた私たちはカラオケ屋にフリータイムで入室し、受験のストレスから解放されるように思いっきり歌うのだった。あとセルフミラーボールはえーくんに結構ウケた、うれしい。




 機械がぶっ壊れうるのは様式美。反動でかい武器はロマン、発射後の排熱はロマン。全身機械の女の子もロマン。やはりロマンはこうでなくては。

 金髪のうぇいうぇい言ってる男の子は役得かもしれない(小並感

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3話

 『私が投影されたぁ!』

 

 「ふおっ!?」

 

 「おおお!オールマイトじゃん!」

 

 「っか~~!やっぱ画風が違うなあ!」

 

 受験日から約1週間、私たちは今までの受験勉強の鬱憤を晴らすかのように遊びまくり、ついでに自主トレをしていた。やっぱり思ったけどえーくん硬すぎるよ、金属の私より硬いって何?300㎏ある私を持ち上げたりするしさあ……ホントに個性硬いだけ?ビックリしちゃう。

 

 それはともかく、やっと雄英高校からの合否通知が届いたのだ。それで、三奈ちゃんとえーくんと3人で集まって一緒に合否通知を開けようと私の部屋に集まって頂いたのだ。そんなわけで3人同時に封筒を開けたら、入ってたのはなんか機械だった。よくわからないそれを3人で弄り倒していると、唐突にパッと空間に画面が投影された。そこに映っているのは、日本の平和の象徴、№1ヒーローのオールマイトだ。

 

 筋骨隆々で常に笑顔を絶やさない超強いヒーロー、えーくんと三奈ちゃんの機械にも同じようにオールマイトが投影されて、HAHAHA驚いただろうと笑っている。この日本にオールマイトを知らない人間はいないので、実は私も含め3人ともテンションが上がりまくっている。

 

 『なぜ私が雄英の合格発表をしてるって!?それはね、今年度から私も雄英に入るからさ!教師としてね!え?巻きで?しょうがないなあ……んっん!では、嬉し恥ずかし合格発表だ!』

 

 「き、きた!」

 

 「やっべなんか心臓飛び出しそう」

 

 「わかるよ~」

 

 同時に起動したせいか、同じセリフを同じ速度で読み上げるオールマイト。というか春から教師になるってすごくない!?オールマイトに教えてもらう……これは是非とも合格であってほしい!高鳴る心臓の音を聞きながら遂にみんなで押し黙って続きを唾飲んで待つ。

 

 『では、楪少女!筆記は国語が若干低いが文句なしの大合格だ!続いて実技だが、敵ポイント33!結構頑張ったね!そしてもう一つ!この試験には裏のポイントがある!』

 

 「裏の、ポイント?」

 

 「あー、俺は敵ポイント43点かあ」

 

 「あたしの倍じゃん。ちょっと分けてよ」

 

 「できるか!」

 

 『それはレスキューポイント!他を蹴落とす試験の場でどれだけ他人のために動けたか!審査制の特別ポイントだ!楪希械!レスキューポイント45点!総合78点で同率2位で合格だ!おめでとう!ここが君のヒーローアカデミアさ!』

 

 レスキューポイント、なんだそれ。思わず笑ってしまった、ヒーローならこの場でどうするかの資質を先に見ていたなんて。そして、同率2位、一位はもっとすごかったんだろうか。

 

 「お、希械、俺と同じ同率2位だってよ。って合格!?マジで!?やった!」

 

 「あたしも合格だ~~~!!!ふぇえええん!勉強教えてくれてありがとう希械ちゃん~~~!!」

 

 「み、皆合格……!やったぁ!」

 

 えーくんと同じだったのか、と飛び上がって喜んだ三奈ちゃんが胸の中に飛び込んできたので抱き留めながらそう考える。えーくんすごいな、私はあの大きいお邪魔メカを倒して得た30点のレスキューポイントが大きいんだけどえーくんはそれなしで人を助けて助けて助けまくった証拠だ。やっぱりえーくんは凄いなあ、自覚あるけど私は力こそパワーなので人助け、上手にできないもの。

 

 とりあえず盛り上げようとスピーカー作ってファンファーレ鳴らしまくったらしつこいと怒られてしまった。とりあえず頭に作った猫耳型スピーカーを解体して体の中にしまい込み、そこでようやく3人ともへたっと力が抜けて座り込んだ。ここ1週間、遊びながらもどうも緊張感とか不安感に襲われてたけど、最高の形で終わることが出来た!

 

 「ね~、春からまたよろしくね」

 

 「おう、クラス一緒だといいな!」

 

 「切島だけクラス違うもんね~」

 

 「う、うん。一緒だと嬉しいな……」 

 

 

 

 

 

 「お、希械!おはよう!」

 

 「うん、おはようえー……くん……?」

 

 「どうした?」

 

 「えーくんが……グレちゃった……!」

 

 「ちっげーよ!」

 

 そんなことがあって今は4月某日、入学手続きを済ませた私とえーくんと三奈ちゃん。制服も届いて見せ合いっこしたりもした、私の特大サイズの制服、なんと特注ではなく普通にサイズ表にあったのだ。雄英すごい、異形型の個性で普通の人より大きいっていうこともあると理解してくれているというのを完全に確信した。合格してよかった~~。

 

 それで今日が雄英の入学式、なんだけど。家の前でえーくんと合流したら、思わず鞄を地面に落としちゃうくらいにびっくりしてしまった。というのもえーくんの髪の毛、黒髪だった髪の毛が目に鮮やかな真っ赤に染まって滅茶苦茶尖って逆立ってたのだ。えーくんがグレちゃった!?と混乱したら違う!と突っ込まれる。

 

 「えっと、悩みがあるなら聞くよ?幼馴染だし……?」

 

 「だからちげーって!これはだな……ちょっと色々あるんだよ。戒めっつーかなんつーか……」

 

 「……似合ってる。カッコイイよ、えーくん」

 

 「お、おう!さんきゅな!」

 

 何となく、歯切れが悪い。多分、私に知られたくない理由がえーくんの中にあるんだろう。何が原因で、どうしてそうなったかという理由に心当たりがないわけじゃないけどそれを無理やり聞き出そうとはとても思えないので、実際似合っててかっこよかったので素直に褒めることにした。気持ちは素直に伝えるべし、それが誉め言葉なら猶更。お母さんの教えに従って褒めるとえーくんははにかみながら返事をしてくれる。

 

 「あーっ!切島それなに!?高校デビュー!?」

 

 「まあ、そんなとこ。お前はやらねーの?」

 

 「アタシはすでにインパクトの塊だからね!」

 

 「……ちょっとこのえーくんも新鮮かも」

 

 「ねー、深くは聞かないけどさ。話せるようになったら教えてよ。高校デビューマンってみんなに言うから!」

 

 雄英の校門前で、家の方向が違う三奈ちゃんと合流する、やっぱり三奈ちゃんもえーくんの変貌っぷりには驚いたみたいだけど、何となく察するものはあるみたいで茶化しながらもあまり突っ込む様子はない。下駄箱前のクラス分け表を見る、3人一緒だといいなあ。えーっと、ヒーロー科ヒーロー科……2クラスしかないんだ。A組から、三奈ちゃん、えーくんはあった。私はゆだから最後の方……あった!A組だ!

 

 「やったね希械ちゃん!切島も!みんな揃ってA組じゃん!」

 

 「うん、よかった……電源切れるかと思った……」

 

 「お前のジョークはいちいちこえーわ!電源切れるとどうなるんだ!?」

 

 「……切ってみる?」

 

 「「やめろ」」

 

 いつものように足をうち履き用に変形させて、校舎の中に入る。うーん、一回でいいからサンダルとか履いてみたいなあ。足元のおしゃれってやつを体験してみたい。まあ生足じゃないから魅力はないかもしれないけど気分的に?私だって女の子なのでおしゃれというやつをやってみたいんだ。可愛い服はサイズがないし、あったらあったで手足のせいでコレジャナイ感出ちゃうし。三奈ちゃんのぼでーが羨ましい。

 

 校舎内も大きくて歩きやすいなあ、中学校の時はドアとかは必ずくぐらないといけなかったから凄い楽ちんだ。3人でこれからのことにわくわくしながら1-Aの教室を目指す。私は歩幅が大きいので二人に合わせてゆっくり目に歩く。

 

 「よし、開けるぞ……」

 

 「う、うん!」

 

 「いけ、切島~!」

 

 私が先陣を切って知らない人ばかりの教室の中に飛び込むとか考えただけでフリーズしてしまうので二人が一緒でホントに良かった。多分別クラスだったら本当に機能停止して教室前で止まってたに違いない。内心ほっと息をつきつつ勢いよくスライドドアを開けて中に入るえーくんと三奈ちゃんに便乗して私も中に入る。

 

 「おはよー!こっから1年よろしく頼むぜ!俺は切島鋭児郎!仲良くしてくれよな!」

 

 「アタシ、芦戸三奈!こっちが楪希械ちゃん!みんな同中なんだ!よろしくね~~!」

 

 「ゆ、楪希械です……えっと、その……仲良くしてくれると嬉しいデス……」

 

 シーン、と一瞬教室が静かになる。まあ、今までもそうだった。教室にいる人たちの視線が集まるのは私、中学校の入学式もこうだったな、懐かしい。私は大概の高身長と呼ばれる人でも見降ろすくらいの身長を持っているので初めて見る人はみんな私に視線をやってしまうのだ。それも一瞬で、同じクラスの人たちはそういう個性なのだと納得したのか、各々視線を元に戻したり、ノリのいい人はよろしく!と返事をしてくれた。嬉しいな、皆優しそうで。

 

 とりあえず教卓の座席表に従って席に座ろう、名前順みたいだからいったんここで二人とはお別れだ。と言っても同じ教室だから一緒は一緒か。ぽふ、と三奈ちゃんに背中を叩かれてからばらける。衝撃で手足をばらけさせて一発芸を、と思ったけど絶対引かれるのでやめよう。奇抜なことすると後に響くし。

 

 「……初めまして、よろしくお願いします……」

 

 「ええ、よろしくお願いいたしますわ。随分大きな机だと思っていたら、そういうことですのね」

 

 「ご、ごめんなさい大きくて!」

 

 「あ、その……謝罪させたかったわけでは……こほん、八百万百ですわ。仲良くしてくださいね」

 

 「ゆ、楪希械です!その、お友達になってくれると、嬉しいな」

 

 「勿論、喜んで」

 

 八百万さん、私の前の席にいるポニーテールの女の子と自己紹介をする。凄く落ち着いてて、でも優しそうな女の子。座高から推測するに女の子にしては背が高いかもしれない。私?私はほら、例外というか測定外というか……私が座るために私の机は他のみんなの机より大きいし頑丈そうだ。だって私重いから、中学校の時椅子をいくつか潰しちゃったりとか……アハハ……

 

 二人の方を見ると既に他の男子や女子と話していて私も負けてられないと思った。折角新しい環境にいるんだから二人に頼ってばっかりじゃダメだ、えーくんじゃないけど高校デビュー、頑張っちゃうぞ!初めに八百万さんともっと仲良くなりたいな、どんな話題がいいんだろう。やっぱり入試の話かな?

 

 「八百万さんは、入試どうだった?私その、街をたくさん壊しちゃって減点貰っちゃって……」

 

 「まあ、私実は推薦入学でして……皆さんと同じ入試は受けていませんの」

 

 「推薦!八百万さん凄いんだねえ。頼りになりそう」

 

 「え、ええ!頼って頂いて構いませんわ!」

 

 ふおっ!?なんか褒めたらすごい嬉しそう。プリプリとしててなんか可愛い。早速新しいクラスメイトの意外な一面を知れてホクホクかもしれない。そう思ってると前の席から女子制服が歩いてきた。んんっ!?いや待ってこれもしかして……視界を切り替える。サーモグラフィ……ダメ。紫外線、ダメ……通常の光学観測に頼ってちゃ見えないのかな?じゃあ反響定位……見えた!一応超音波を調整して……よし!

 

 「おっはよー!初めまして!私葉隠透って言うんだ!前の席で寂しかったから私も仲間に入れてよ~~!」

 

 「勿論ですわ、八百万百です、仲良くしてくださいましね」

 

 「初めまして、楪希械っていいます。葉隠さんでいい?」

 

 「うん!透でもいいよ~!……?……!?」

 

 「どうしましたの?」

 

 反響定位で視界を作っているので彼女の顔形がはっきり見える。だから前髪越しに彼女に目を合わせて自己紹介したら目線があったことに疑問を覚えてしまったらしく、私の机の周りをまわってみる葉隠さん、とりあえず何してるの?という八百万さんの疑問をよそに目を合わせ続けてると彼女の表情が疑問から確信に変わる。

 

 「もしかして……私の事見えてる!?」

 

 「見えてる……っていうのは正確には違うんだけど葉隠さんの顔は分かるよ。凄い美人さんだねえ」

 

 「ふぇっ!?……私そんなこと言われたの初めて。だって誰にも見えないから……」

 

 「あ、もしかして見られるの嫌だった?だったらやめるけど」

 

 「ううん!凄い、人と目線が合うのってこんななんだ……」

 

 「どうやって彼女を見てますの?」

 

 「ソナー……反響定位っていうやつなんだけど、わかる?超音波を出して跳ね返ってきた音の反響を映像にして右目の網膜に映してるの」

 

 こんな感じ、と前髪を書き上げて目を露出する。私の右目は生身じゃなくて機械だ。真っ赤な色でレティクルの照準補正用の目盛が常に浮いている。左目は両親から継いだマリンブルー、オッドアイなんだ。覗き込めばわかるけど今は葉隠さんの顔が白黒で映ってるのが網膜にあるだろう。

 

 「へーーーっ!」

 

 「反響定位……音に関する個性でしょうか?」

 

 「えーっとね、違うんだ。私の個性はこういうの」

 

 カチャカチャ、と音を立てて私の頭に機械で出来たうさぎの耳のカチューシャが組みあがる。うさぎ耳型集音機&ヘッドセットだ。片耳が折れてるのがこだわり、重量約100gの軽量合金製の逸品である。すぽんと頭からとって机の上に置くと八百万さんがガタッと席から立った。

 

 「創造系の個性ですの!?」

 

 「うーん、ちょっと違うかも。私の個性は「メ化」って言って機械に関することなら大体できるんだ」

 

 「へー、なんか音楽鳴ってるって思ったらアンタだったんだ?」

 

 「ふぇ?」

 

 私たちの会話に割って入ってきたのは、耳たぶからイヤホンジャックが伸びてる女の子だった。

 

 




 本日は2話投稿します。まずは入学編から。

 実は目の色が違う楪ちゃん。右目は完全に機械の目、虹彩に文字とか何やらが浮いてる。左目は生身、機械の自分の数少ないみんなと一緒な部分だからお気に入りらしい

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4話

 イヤホンジャックが耳から伸びてる女の子が私から聞こえてるという音に言及してきた。なんか音楽鳴ってる……音楽鳴ってる!?聞こえてた!?万が一聞こえても不快じゃないように反響定位に使う音を一定のリズムを持つ音楽にしてたんだけど普通に聞こえてたんだ!?凄いな、人の可聴域じゃないんだよ?

 

 「ご、ごめんなさい!もしかしてうるさかった!?」

 

 「いや、ウチも言い方悪かったかな?結構ノリいいリズムだったから気になってさ。ウチ、耳郎響香。よろしく」

 

 よ、よかったあ。可聴域を超えてるとはいえ今回は超音波と超低周波を組み合わせたものだから、人によってはうるっせえぶっ殺すぞ!と言われてもおかしくないと思うのだ。だからとりあえず一安心、耳郎さんかあ、凄いクールっぽくてかっこいい人だなあ。

 

 「アンタ、すごかったよね入試。あのゼロポイントのやつぶっ壊したの」

 

 「えっ!?一緒の会場だったの!?」

 

 「そうそう、手大丈夫だった?」

 

 「えーーーっ!?楪ちゃんあのお邪魔ロボット倒しちゃったの!?」

 

 「う、うん。ヒーロー志望だし、逃げるってなんか違うかなって思って……」

 

 「ゼロポイントのお邪魔ロボット……」

 

 「えーと、こんな感じのロボット」

 

 うさぎ耳型集音機をまたまた変形させて空間投影モニターに作り替える。そこで私の右目に映ったゼロポイントのロボットの画像が表示される。八百万さんはそれを見てまあ、と口に手を当てて驚いている。空間投影モニターの電源を落としてバッグの中に仕舞う。いったん切り離しちゃうと作り替えることはできても体の中に再吸収するには食べるか体を変形させたシュレッダ―に入れるしかないから、あとで食べよう。美味しくないけど。

 

 「そう、最初はでっけーハンマーと槍持ってたと思ったら手が変形してよー。びっくりしたぜ」

 

 「あ、入試の時の」

 

 「覚えててくれたんだな!俺ぁ上鳴電気、入試の時は悪かったな」

 

 「いや、あれはその……私が悪いと申しますか、忘れて頂けるとありがたいと言いますか」

 

 「腹が鳴るのは元気な証拠だぜ?」

 

 「はうっ」

 

 「ちょ、アンタ遠慮なさすぎでしょ!ほら真っ赤になってるじゃん!」

 

 「わ、忘れてくだしゃい……」

 

 む、蒸し返されちゃった!入試の時のアレを!思いっきりお腹が鳴ったアレを!耳郎さんが知ってるってことは聞いてたんだ!上鳴くんの武士の情けなのか抱きかかえちゃったことに関しては何も言ってこないけど、その気遣いをこっちにも欲しかったよぉ!

 

 「だ、だって個性全開で使ってエネルギーが切れちゃったんであっていつもあんな風にお腹鳴らしてるわけじゃ……あうあうあう……」

 

 「いやあんなことしたらそうなるって。ロックだったよ」

 

 凄いな、皆フレンドリーだ。なんか前の席で金髪の男の子とメガネの男の子が凄い言い合ってるけどそれ以外はいたって平和、そう思ってるとドアが開いてまた新しいクラスメイトが入ってきていた。もさもさ頭の……あ!入試の時私のお尻にぶつかってきちゃった人だ!ほんと、邪魔くさい体してて申し訳ない……でもここであえて嬉しいな、ちゃんと名前聞かないと。

 

 「お友達ごっこがしたいなら他へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 ……なんか、寝袋の化身みたいな人がゼリー吸ってる……

 

 

 

 

 

 「個性把握テストぉ!?」

 

 寝袋の化身(暫定)は何と私たちA組の担任の先生だった。相澤消太先生、本名だから分からないけどこの人もきっとプロヒーロー、なんだろうけどメディアで見た覚えがない。合理性に欠くね、というセリフと共に差し出されたのは体操服、これを着てグラウンドに出ろ、とのことだった。ガイダンスは?という疑問をよそにとりあえず着替えた、着替えたんだけど……

 

 「いやその、ごめんって」

 

 「すっごいおっきいから、つい……」

 

 「お、お気になさらず……」

 

 「すっごいでしょー!これでまだ成長途中なんだよ希械ちゃん!」

 

 「な、なあ!?何やったんだ!?何やったんだよぉ!?オイラも詳しく!」 

 

 着替えに女子更衣室に行って、服を脱いだ……まではよかったんだけど……葉隠さんと耳郎さんとついでに三奈ちゃんに盛大に胸を揉まれた。そりゃその、身長分ひとよりおっきい自覚はあるんだけど、そんな激しく揉まれるだなんて思ってもなかったから……熱がひかないよぉ。あと葡萄頭の凄い小さな男の子が私に両手を合わせて拝みつつ詳細を聞こうとしてくる。えーくんがなんか凄い怖い顔して連れてっちゃった。

 

 「はい静かに」

 

 ぴたっっと音がしたようにクラス全員が静かになる。正直この先生結構怖い、コントロールがとてもうまい恐怖の与え方をしてくるのが酷く合理的だ。だからみんな素直に言うことを聞いている。

 

 「個性無しの体力テスト、やったことあるだろ。あれを個性ありで行う、そうだな……爆豪、ボール投げ……個性ありでやってみろ。何してもいい」

 

 ぱしっ、とボールを受け取った金髪の男の子……さっき眼鏡の男の子と言い合ってた子だ。彼は思いっきり振りかぶり、死ねという掛け声と手から発する大爆発でボールを彼方へぶっ飛ばした。右目の測距測角で飛距離を計算するとざっと700m、かなりの破壊力の持ち主と見ていいだろう。

 

 「自分の最大限を知ることはヒーローの素地を作るための第一歩だ」

 

 「なんだこれ、すげー面白そうじゃん!」

 

 あ、と思った。面白そう、という誰かの声で先生の雰囲気が変わる、右目を通さなくても分かる重苦しい雰囲気。声紋もかなり低くなった、よくない証だ。きっと今の遊び半分な言葉が導火線だった。

 

 「面白そう、ね。よし、ならトータル最下位のものは見込みなしとして……ヒーロー科を除籍処分とする。普通科には行けるから安心していい」

 

 うわあ……としか言いようがない。自由な校風ということは最初に知っていたけれどもそこまで自由だとは。多分訴えたら勝てそうなぐらい横暴だと思う。それでもまあ、納得し飲み込んでしまえばやることは決まってるんだ。私はここで除籍されるわけにはいかない。えーくんもそうだし三奈ちゃんもそう。ならあとやることは本気で取り組むことだけだ。声紋のブレがないから、多分本気で除籍される。

 

 「50m走からだ。始めろ」

 

 準備をしよう、まずは足から、と私は体操服のジャージのすそを捲り上げる。露になった鈍色の機械の足、物珍しそうに見る人もいるけど今は関係ないや。足を組み替える、歩行から移動へ、空気を噴き上げて浮かすホバークラフトがいいだろう。足にジェットエンジンを増設、空気供給用の管を増設して……うん、歩きにくいけどこれでいいや。次は手、最近作れるようになった水素プラズマジェットを試してみよう。手のひらから出るようにして、うん、これでいいや。

 

 「次!楪!」

  

 「……はいっ!」

 

 うう、緊張して声が裏返っちゃった……スタート位置について足のジェットエンジンを稼働させて浮く。そのまま手を後ろにやって、プラズマジェットを待機状態でアイドリング。クラスメイトのみんなは私の足からなる凄い音にわくわくと興味津々な様子。今まで二人一組だったのが私だけあぶれて一人だったから余計に視線がつらい。

 

 「スタート……3秒7」

 

 プラズマの光の尾を連れた私が爆音と一緒にゴールする。爆豪君がいたあたりから「パクんな!クソが!」という恐ろしい声が聞こえたので今後は別の手段を模索していきたいと思います。あのその……確かにパクりましたごめんなさい。だってほかの手段は服が破けて……それと多分こっちの方が瞬間的には速いから……ひっ!?凄い顔で睨んでる怖い。

 

 第二種目の握力、私の手足は機械なのは再三言ってるので、当然ながらセーブしなければそりゃ強い。油圧と電気モーターの組み合わせの握力で3トン、なんか握力計から変な音鳴ったけど……大丈夫だよね?立ち幅跳びは、手を変形させてヘリコプターのローターを形成、結果は測定不能。最大値らしい、飛べるからね私。そして反復横跳び、手段が思いつかず普通に敢行したらみんなよりも少ない、だって私重いから動きも遅いもの。30回、がちゃがちゃうるさくてごめんなさい。そして次、ボール投げ。

 

 「なあ、今度はどうなるんだろな」

 

 「手と足が変形するのおもしれえよな」

 

 「え、え、あう……あう……ろ、ロケットパーンチ!」

 

 「「「男のロマンきたあああああ!!!!」

 

 周りの期待の視線と緊張で喉からエネルギー炉が出そうになった私はてんぱってしまい、やろうとしてたリニアカタパルトによる発射ではなく腕をボールごと飛ばしてしまう。結果周りは大盛り上がり、男の子からの興奮の視線のおかげでなんだか自分がびっくり箱か何かになった気分だ。戻ってきた手がガッチョン!と合体するとさらに歓声が沸く。男の子ってこういうの好きだよね。

 

 すでに順番は前種目が終わった順になっているので、私の後ろはもさもさ頭の彼。名前は確か……緑谷くん。入れ替わりで私のいたところに立った彼の表情は非常に暗い。だって今までの記録、全部合わせても最下位だから。もしかして応用できない凄い限定的な個性か何かなのかな?そう思って様子を見ていると、右目に突如としてすさまじいエネルギー源が発生したという警告と脳内にアラート音が。緑谷君からだ、だけどそれは投げる瞬間で一瞬で消失してしまう。

 

 やったのは相澤先生、彼の個性は個性の消失というとても強いもので、緑谷君の個性は莫大なパワーの代わりに自損をしてしまうというもの、らしい。眼鏡君……飯田君が言うには私と同じようにゼロポイントのロボットを壊してしまったらしいからそれは相当なものだろう。だけど行動不能になることと引き換えで。

 

 相澤先生から何か注意を受けた彼は一層追い詰められた顔になってすさまじい速さで何かを呟いている。私の後ろにいる爆豪君は除籍勧告だろ、と面白くもなさそうに言っている。彼が投げる瞬間、もう一度右目にアラート、けど規模が小さい……指だけ?なるほど!腕全体に個性を発動するんじゃなくて指一本だけを犠牲にして最大限の効果を引き出したんだ!凄いな、でも痛そう……そう思ってると後ろの爆豪君が両手に小爆発を起こして緑谷君に跳びかかった!

 

 「どういうわけだ!デクてめえわけをい……んがっ!?」

 

 「だ、だめ!」

 

 明らかに緑谷君に襲い掛かろうとしてたので咄嗟に彼の前に出て真正面から抱き留めて動きを封じる。ほんとにヒーロー志望?クラスメイト、多分知り合いなんだろうけどその人に明らかに危害を加えに行くなんて!私の胸の中でもごもご言いながら暴れてた爆豪君の顔を覗き込む。

 

 「何しようとしたの?人に個性で危害を加えちゃダメ……!」

 

 「放せモブメカ女!」

 

 「楪、放していい。爆豪、次緑谷に何かしようとしたら強制的に最下位だ」

 

 「チッ……!」

 

 諦めて掌を下ろした彼を解放する。舌打ち一つして彼は踵を返して別の場所に行く。途中で葡萄頭の男の子に何かしら絡まれてたけど完全無視だ。私は呆然としている緑谷君の前に立って彼を見下ろす。右目のレントゲンでは……うわ、指凄いことになってる。これは痛い、色もひどいし……

 

 「えっと、その……指、見せてもらっても大丈夫?」

 

 「え、う、うん」

 

 そう言って差し出された指をしゃがんだ私の手で覆う、ちょっと重いけど許して欲しい、手の中で緑谷君の指を小さな金属片が覆って即席のギプスが完成する、最近研究途中の液化冷却ジェルを組み込んで患部を冷やしつつ痛みを麻痺させ固定させた。一応曲げることもできるように電気モーターと1時間分のミニバッテリーを搭載して、完成。

 

 「ギプスだ……」

 

 「う、うん。あんまりにも痛そうだから……でも無理したら指が動かなくなっちゃうからね?先生、これくらいならいいですよね?」

 

 「競技中は外せ。それ以外なら好きにしろ」

 

 緑谷君の手を放して私は立ち上がり離れる。彼はポカンとしてて追いついてないけど私はやりたいことをやれて非常に満足してる。三奈ちゃんがやさし~と言いながら抱き着いてきたりしたけどみんな多分助ける手段があったら助けようって思ってたんじゃないかな?救急箱を持った八百万さんとかもそうだし。

 

 

 

 「ではパパッと結果発表だ。口頭では非合理的なので一括で表示する。あと最下位除籍は嘘な」

 

 最後にボソッと呟いた相澤先生の合理的虚偽という一言のおかげで緑谷君の魂からの驚きの叫びが響き渡った。というか全員大なり小なり驚いてる、だって声紋からして本気だったから。八百万さんは嘘に決まってますわ、って言ってるけど違う。嘘をつき慣れているか嘘にしたかのどっちかだと思う。凄いな雄英、こんなのもありなんだ。

 

 ちなみに結果は1位だった。反復横跳びがアレだったから心配だったけど、私の研究を重ねた最新鋭の変形のおかげで記録は物凄く伸びたし。フィジカルなら負ける気はありません、素早さを除いて。




 本日2話目です。次回からまた1日1話投稿をできる限り続けていきますのでよろしくお願いします

楪ちゃんの個性は作ったものを切り離すともう一度取り込むには食べるか個性で作った粉砕器に入れる必要があります。手と足は例外で元々ついてるので合体するか生やすか選べます。

 感想評価よろしくお願いいたします


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5話

 「えーくん、帰ろー」

 

 「おーう、しかしまあやっぱまだ勝てねーかぁ」

 

 「えーくんの強みは私とは別じゃないかな?私はほら、便利なだけだもの」

 

 「……待て!切島ァお前、楪さんとどういう関係なんだ!?きりきり吐けオラァ!」

 

 「何って……家が隣で幼馴染」

 

 「はああああああ!?」

 

 体力テストが終わって着替えも済んで、相澤先生から解散の命令を貰った私たちA組はガイダンスそっちのけでもう帰ってしまった他クラスの後を追うように帰宅準備をして、今帰るところだった。私とえーくんは家が隣同士なので帰り道も一緒、じゃあ別々に帰る理由はないので一緒に帰ろうと誘って、えーくんも了承してくれた。

 

 そこに待ったをかけたのはえーくんのコミュ力ですぐに仲良くなったらしい男子たち、えーと上鳴くんと瀬呂くん。彼らは私が当たり前のようにえーくんと一緒に帰ろうとするのが不思議でしょうがなかったらしく、えーくんの制服の胸倉を掴んですごい剣幕でいろいろ言ってる。

 

 「お前こんな美女と幼馴染とかどうなってるんだ!?もしかして付き合ってるのか!?」

 

 「いや別に付き合ってないぜ?そういう感情とか、もうお互いないよな?」

 

 「……そう、かも?でもお付き合いするんだったらえーくんが基準になっちゃうかも」

 

 「おう、俺をぶっ倒さねえと認めねえかんな」

 

 「私、誰ともお付き合い出来なさそう……」

 

 すでにえーくんは私がぶっ叩いても堪えないくらいにはガッチガチに硬いのに。倒せる人なんているのだろうか?葡萄頭の子……峰田くんの怨嗟の表情が結構迫真で怖い、思わず縮こまってえーくんを盾にしたら余計怖くなった。私は縮こまってもえーくんには隠れられないけど、怖いものは怖い。これもいずれ克服しないとヒーローにはなれないだろうなあ。

 

 「……こんな関係の幼馴染って存在したんだな」

 

 「俺はある意味感動を覚えてるぜ瀬呂」

 

 「オイラも、ワンチャンあるかな」

 

 「多分ないだろなあ」

 

 「えーくん、明日お弁当何食べたい?」

 

 「やっぱ肉だろ」

 

 「「「弁当作ってもらうの!?」」」

 

 「あー!希械ちゃんあたしもー!」

 

 明日からは通常授業が始まるらしいのでお昼ご飯が必要になる。一応ランチラッシュというヒーローがやっている学食があるんだけど、なにせ私は目立つうえに邪魔くさいし椅子も壊しちゃうかもしれない。だから、自分でご飯を作ってくるのだ。料理の腕にはそれなりに自信がある、というか鉄とかゴムとかのまずいものを食べたあとどうしても口直しに美味しいものが食べたいという理由で料理をする様になりました。でもいつか学食にも行ってみたいな。

 

 えーくんも学食に行きたいなら学食でいいと思うんだけど、一つ作るのも二つ作るのも一緒なので中学でお弁当になってからは私がよくえーくんのお弁当も一緒に作ってた。学食に行きたいなら断ってくれると思うし、三奈ちゃんもお弁当食べたいみたいだから作ってあげないと。

 

 「じゃあ、帰りにお買い物行かないとね。お肉……唐揚げでいいかな?」

 

 「いいな!荷物持ちは任せとけ!」

 

 「希械ちゃんのから揚げ私好きー!」

 

 

 

 翌日のこと、雄英の普通の授業ってどんなだろうと思ってたけど案外普通だったなあ。DJやってるプレゼントマイク先生の授業とかどんなとんでも授業かと思ってたけど進む速度以外は普通に中学校と一緒の学生授業って感じだった。三奈ちゃんはお勉強は苦手なので助けを求められたら教えてあげられるようにしとかないと。

 

 「はい、えーくんの分のお弁当。こっちは三奈ちゃんのだよ」

 

 「お、さんきゅな!あー腹減ったぜ!」

 

 「わーありがとう希械ちゃん!」

 

 「お三方ー、俺たちも入れてくんね?」

 

 「おう、一緒に食おうぜ!」

 

 「私も、いいかしら?」

 

 「いいよー!蛙吹さんだっけ?」

 

 「ええ、蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

 

 今は昼時、クラスのみんなはお弁当派と学食派、購買派に分かれてそれぞれご飯を食べているところ。お弁当組の私とえーくんと三奈ちゃん、購買組の瀬呂くんと上鳴くん、あとえーくんが引っ張ってきた不満げな爆豪くん、お弁当らしい蛙吹梅雨さんで机を寄せた。

 

 というわけで今日のお弁当!えーくんリクエストのから揚げ、三奈ちゃんリクエストの甘い卵焼き、お新香とプチトマト、ブロッコリー。ご飯の上には鶏そぼろ。ちょっと茶色いけど普通のお弁当だと思う。あ、これも。朝のうちに作ったタルタルソースの蓋を開けて置いておく。私唐揚げはタルタルソースが好きなんだよね。レモンもいいけど、素でもいい。

 

 「にしても、量よ」

 

 「しょうがないよ、希械ちゃん体大きいんだもん」

 

 「あと午後動くからその分の補給も兼ねてんだよな?」

 

 「うん、午後のヒーロー基礎学、実技って聞いたから」

 

 言えない、実は気合を入れて作り過ぎちゃったからお重になっただなんて。成長期だし動くからえーくんも三奈ちゃんも大きめのお弁当だけど私は3段のお重、唐揚げがほとんどを占めている。だって昨日鶏もも肉が安くて……

 

 「美味しそうね、楪ちゃんが作ったのかしら?」

 

 「うん、良かったら食べていいよ。たくさんあるから、上鳴くんも瀬呂くんもどうぞ。爆豪くんも、良かったら」

 

 「あら、ありがとう」

 

 「まじで!?女子の手料理!?」

 

 「食いつくとこそこかよ……ありがたく貰うわ、楪」

 

 「いらねぇ」

 

 「まーうまいから食ってみろって爆豪!」

 

 「いらねぇっつってんだろクソ髪!」

 

 えーくん、いつも見てて思うんだけれどそのバイタリティーはどこから来るんだろう。爆豪くん、本気で嫌がってるわけじゃないってわかってるのかな?それはそうと、美味しく食べてくれるなら作り甲斐はあるなあ。皆美味しいって言ってくれて私は嬉しい、にぎやかな昼食はゆっくり過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 「わーたーしーがー!普通にドアからきたあああああ!!!!」

 

 そんな声と共に勢いの割には優しめのドアが開く音がして陰影の濃いお顔をしたヒーローが教室に入ってきた。生で直接見るのは初めてだけど、メディアではよく見る№1ヒーローのオールマイト。上鳴くんの感想じゃないけど本当に先生やってたんだ。折角直接見れたんだし、と多少失礼ながら右目をフル稼働させて動きやら何やら解析をかける。うわ、すごいエネルギー量……?このエネルギーの個性パターン、緑谷君が個性を発動した時と同じ……?……???どういうことなんだろう。

 

 銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームに身を包んだオールマイト先生、私の右目に映る解析データの数々はすべてが規格外そのもの、彼は力強い大股で教壇に立つと、大きな手の中に握ったBATTLEのカードを見せる、戦闘訓練ということらしい。やっぱり実技か、沢山食べておいてよかった。

 

 「まず初っ端から戦闘訓練だ!それに伴って、こちら!君たちの要望通りにあつらえたコスチューム!着替えたら順次グラウンドβに集まるんだぞ!形から入るってのも大事だ!今日から君たちもヒーローなんだと自覚するのだ!!」

 

 オールマイト先生が大袈裟なほどの手ぶりでその手に持った小さなリモコンを操作するとクラスの壁がせりだしてきて、そこには学籍番号が降られたアタッシュケースが収められていた。私の番号も、ある。皆と同じ大きさで、私からしたら結構小さいけど、要望が通ってればそんなにかさばるものじゃないから。

 

 オールマイト先生からアタッシュケースを受け取って胸に抱く。これが、私のコスチューム……私の力からすればかなり軽い筈なのに、とてもとても重い物を持ったような感じがした。

 

 

 

 

 「ぶっ!?」

 

 「ヒーロー科最高……」

 

 「ああ……」

 

 今回の女の子たちはみんな自分のコスチュームに夢中だったので私は特に揉まれたりすることもなく着替えを終えて早めにグラウンドβに到着した。私の姿を確認した男子たちは噴き出して驚いたり、サムズアップしたり、同意したりと予想通りな反応をしている。だって今の私、かなり露出がすごいことになってるから……

 

 私のヒーロースーツはまず短いタンクトップ、スパッツを身に着けてて色はスカイブルー、へそ出しのデザイン、タンクトップのすそを結んでるのがポイントでさらに上からマリンブルーに銀色の線が一本入ったぶかぶかのフード付きジャンパー。実はお願いの段階ではジャンパーなかったんだけど法に引っかかるから追加されたみたい。私は肌からメカを出すので服を着ると破けちゃうんだけど、このジャンパーとタンクトップにスパッツは再生機能が付いてるらしいの!すっごいね技術の進歩!

 

 私自身はヒーロースーツに合わせてちょっとおしゃれしてるんだ。鉄の色だった手足を真っ白にして、髪の毛も光らせることができるのを利用して青のメッシュを入れて、私の体で一番大好きなところ、蒼い左目を出している。右目は引き続き隠してるけど、あんまり関係ないから。青と白で統一された、私の印象はどうだろう……?

 

 ちなみに追加されたジャンパーには大事な意味があって、なんと私の体の放熱を助けてくれる機能があるらしいの!オーバーヒートすると個性が使えなくなるから、排熱の手助けになる機能があるのは嬉しいなあ……

 

 「おお!希械それかっけぇじゃん!似合ってるぜ!」

 

 「あ、えーくん。えーくんも凄い似合ってるね!」

 

 私に声をかけてくれたのはえーくん、彼のヒーロースーツは個性を活かすために上半身はほとんど裸だ。でも顔を防護しているプロテクターとか、凄いかっこいいと思う。まあ、生半可な防具や服だとえーくんのほうが丈夫なので着る意味がないというのは実に理にかなってる、と思う。私にも一応羞恥心というものはあるにはあるんだけど、私みたいな大きくて体の半分が機械の人間に興奮するような人はいないので、私自身はそんなに気にならない。直接触られたりしなければ平気だ。

 

 「ん~~~みんな似合ってるぜ有精卵ども!では本日の訓練は、入試のもう二歩先!屋内戦闘訓練だ!君らにはこれから2対2の屋内戦を行ってもらう!」

 

 「基礎訓練もなしにですか!?」

 

 「基礎を知るための訓練さ!いいかい!?設定はこうだ!ヴィランが核爆弾と共にビルに籠城している!ヒーローは核爆弾を回収するかヴィランを捕まえねばならない!制限時間は10分だ!過ぎれば核爆弾が起爆する!」

 

 おお、ドラマとかで見るアメリカンな設定……核爆弾かあ……それが機械の範囲なら私がどうにかできるんだけど。重水素での核融合炉も作ったことあるし、割と核への対策はばっちり出来てるのだ。両親には滅茶苦茶怒られたけど、もう安全対策ばっちりだもんね。イエローケーキだって食べる女の子なのだ私は、食べたことないけど。

 

 「そしてコンビの決め方は……くじだ!現場でのチームアップということを念頭に入れて欲しい!では引いてみよう!」

 

 なるほど、誰とコンビかなあ。出来ればえーくんか三奈ちゃんが気心知れててやりやすいな、って思うんだけど。逆に爆豪くんとかはダメかも、連携取れる気がしないよ。あと希望を言うなら……八百万さんとは組んでみたい。彼女の個性の創造は私より作れるものの範囲が広い。弱点かどうかわからないけど構造を知らない物は作れないというものも私が機械化してしまえばどうとでもなる、あと上鳴くん!大容量の電気を帯電させることができるらしいので夢のガトリングレールガンを作れるかもしれない!火力過剰だからこの訓練では使えないけど!

 

 仮に爆豪くんと組んだらどうなるんだろう……スタンドプレーしか見えないし、私に合わせるということもしないだろうな……それはそれで私も好き勝手出来るということではあるんだけど、訓練の趣旨とは違うし……あとは誰と組んだらいいだろう……緑谷君は正直心配になっちゃう。あの0か100かしかない超パワーは魅力的ではあるけど屋内戦には適さないし、ついでに行動不能のデメリットが結構いたい。あと、怪我ばっかりしてたらいずれ体が追い付かなくて壊れちゃうよ。うーん、うーん……

 

 「Jチーム!楪少女!切島少年!」

 

 「……やった!えーくんと一緒だ!」

 

 「だー!気持ちは分かったから抱き着いて持ち上げないでくれ!ハズい!」

 

 「……ごめん」

 

 オールマイト先生のくじの結果を聞いて、嬉しくなった私はえーくんを抱き上げて嬉しさを表現してしまった。えーくんに言われてシュンとなって下ろしたけど、オールマイト先生の微笑ましいものを見る視線と、クラスの大多数からみる何か可愛いものを見たという感じの緩い視線に私は、蒸気を吹き出して黙り込んでしまうのであった。

 




 ヒーロースーツ紹介話 いや八百万さんと一緒ですね。肌からメカが出るので普通の服だと破けるという。取蔭さんのヒーロースーツのおかげで再生機能付きの服があるというのはわかってよかったです

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6話

 「では最初の組み合わせだ!Aコンビがヒーロー!Dコンビがヴィラン!ヴィランは先に入って準備をして、5分後にヒーローが突入する!」

 

 雄英に入って初めての戦闘訓練、初っ端の組み合わせは爆豪くんとメガネが特徴的な飯田くん、緑谷くんと全体的にほわほわしてる麗日さん。どうしよう、すごく心配だ。なぜか知らないけど爆豪くんは緑谷くんを目の敵にしてるように感じる。昨日の個性把握テストの時に抱き留めて無理やり止めた時、本気で爆豪くんは緑谷くんに攻撃するつもりだった。

 

 まるでそれが当然のように躊躇いがないほど自然体、普通なら個性で人を攻撃するのはいけないことだと習う。特に、私みたいなやろうと思えば人を殺せてしまう個性だと特にそうだ。それがあんなに躊躇なく攻撃しにかかるなんて……とてもとても心配だ。緑谷くんが大怪我しないといいけど……

 

 「では開始だ!ヒーローは突入!」

 

 始まった。観戦用の監視カメラを確認するに飯田くんは最後まで作戦会議をしようとしていたみたいだけど始まった瞬間にすべて無視した爆豪くんが勝手に飛び出していってしまった。麗日さんと緑谷くんを動物的としか言えないほどの直感で見つけ出してすぐに奇襲をかける。

 

 「爆豪、奇襲か!俺ぁ正面からの方が好きだけどやるじゃねえか!」

 

 「うん、曲がり角の死角から速攻で攻撃したのかな。緑谷くんよく気付けたね」

 

 爆豪くん、個性把握テストの時から思ってたけど、色々とうまい。自分の個性をどう使えばいいのかというセンスがすごく突出してるように思える。爆発で空を飛んだりとか、そういう柔軟な発想にシンプルかつ応用性が高い個性、性格に目をつぶればヒーロー候補生として満点ではないだろうか。

 

 その初撃を麗日さんを抱えて躱した緑谷くんも、すごい。それと同時に、やられ慣れてるから避けられたという事実に気づいてしまって何とも言えない気分になった。右目が勝手に攻撃がかすってマスクが破損した緑谷くんの口元の動きから言葉を割り出した。最初は大抵右の大振り、つまりそれを理解するほどやられてたんだ。あんまりいい印象じゃなかったけど、爆豪くん……君は彼に何をしてたの?

 

 私心丸出しの緑谷くん狙い、麗日さんは眼中に入ってないんだろう。麗日さんがその場を離れて核を確保しに向かっても無視している。これ以上は知るべきじゃないと思って、意図して右目の機能を抑える。確保テープを巻こうとする緑谷くんを苛烈に攻める爆豪くん。逃げるヒーロー側を負うヴィラン側。その追いかけっこは、私にとって一線を越える形で終息した。

 

 オールマイト先生がストップをかけたにもかかわらずビルの壁が吹っ飛ぶ。やったのは爆豪くん、コスチュームの機能なのだろうか今までにないほどの規模の大爆発だ。当然当たれば人は死ぬほどの……クラスメイトがざわつく。だって、明らかに殺しにかかってるように見えるから。しかも訓練の趣旨である核があるという前提を無視してまで。私はオールマイト先生に駆け寄って止めるように催促する。

 

 「お、オールマイト先生……これ、だめです。止めないと、緑谷くん大怪我じゃすまないですよ!」

 

 「……双方中止、これ以上は……むっ!?」

 

 オールマイト先生が画面を注視する。するとそこには、初めて右腕に個性を発動した緑谷くんが爆豪くんに反撃……してない?する様に見せて上に放った超パワーは直上の部屋を粉砕して核の部屋の床を抜いた。そのがれきを麗日さんが柱をフルスイングして散弾のように発射、飯田くんが避けた隙に核に抱き着いて回収してしまった。

 

 無傷のヴィランと満身創痍のヒーロー、特に緑谷くんの腕は……おそらく複雑骨折以上の怪我をしている。はちゃめちゃだ、こんなの訓練じゃない。チームを迎えに行ったオールマイト先生の後ろ姿を見ながら、私は授業続行できるかなと一人心配になるのだった。

 

 

 

 

 「では次はヒーローチームB!ヴィランチームはJだ!」

 

 「お!次は俺たちだぜ希械!俺たちで空気変えてこうぜ。勝つぞ!」

 

 「……うん!頑張ろうえーくん!」

 

 帰ってきた爆豪くんは講評の時間ずっとさっきまでの苛烈さが嘘のように静かだった。八百万さんの分析はなるほどと頷けるものでオールマイト先生も太鼓判を押す程。なんか若干震えてるけどどうしたんだろう?それはともかく緑谷くんは保健室へ搬送され、気を取り直して別のビルを使って訓練を再開することになった。そしてその順番が来たのは、私たち。

 

 相手は轟焦凍くん、障子目蔵くん、お昼を一緒した瀬呂くんの3人チームだ。私たちは先にビルに入って準備&作戦会議タイム。さて、どうしようかな……

 

 「しかしまあ、ヴィラン役ってどういう風にやったらいいんだ?希械はどう思う?」

 

 「えっと、ね。多分ヒーロー側がやられたらいやなことをやればいいんだと思う。えーくんは苦手だと思うけど、協力してくれる?」

 

 「あー……しゃーねーな!何せ俺たちゃ今ヴィランだ!嫌がらせ、やってやろうぜ!」

 

 「じゃ、じゃあ頑張ろうね。まずは核なんだけど……私が取り込んじゃおうかなって」

 

 「おお!希械ならできるもんな!」

 

 作戦会議、私は崩れた正座で、えーくんは胡坐をかいて向かい合い、ハリボテの核を前にして考えてた作戦を説明する。ハリボテだけど、核爆弾なら機械だ。つまり私の個性の範疇内、利用しない手は一切ない。オールマイト先生はビル内に隠せばいいって言ってたから、私がビル外に出なければルール違反じゃないし、意表も付ける。

 

 そんなわけで私は真っ白の機械腕をハリボテの核に当てる。私の手から広がって蠢く微細な鉄片やチューブなどが核爆弾を覆う。一応オールマイト先生に何か言われても大丈夫なように大きさから予想される構造の爆弾の起爆解除処理を並行して行った後に思いっきり力を込めて、ぐしゃりと核を圧縮。私の顔くらいになった核をバリボリと音を立てて平らげる。

 

 「美味しくないぃ……」

 

 「あー、帰りになんか奢ってやるよ。ラーメンでも行こうぜ」

 

 「……ラーメン……元気出た!」

 

 座った状態で美味しくないハリボテを食べ切って、率直な感想を漏らす私。美味しい昼食の後にこれでテンションが下がってしまった。しょうがないなあという顔をして立ち上がったえーくんが私の頭を軽く叩いてそんなことを言ってくれるお陰で元気を取り戻し、すくっと立ち上がる。えーくんと一緒なら負ける気がしない!

 

 えーくんに向かって手を差し出す。入試の時と同じだけど今度は私から。えーくんはそれに笑顔で硬化した拳を合わしてくれる。気合いのグータッチはここぞという時こそ。よし、頑張るぞ!

 

 『では、2試合目スタートだ!』

 

 オールマイト先生の宣言、それと同時に私たちのいる部屋が凍り付いた。いや、多分違う。ビルごと凍り付いたんだ。それは私たちの足もそう、なるほどこれは凄い個性だ。誰だろう、轟くんかな?ビルごと凍らせて核兵器を無力化しつつ私たちも無力化かあ……でもなあ。

 

 「じゃ、行くか希械。真正面から男らしく正面突破だ!」

 

 「あ!だめえーくん。守勢なのに攻めに行ったら本末転倒だよ。それに、折角だからこのまま利用しちゃおうよ。嫌がらせ第2弾、油断させて奇襲しよ」

 

 「だー……やっぱこういうの性に合わねえわ。男らしくねえ。でも負けるのも男らしくねえしなあ」

 

 暢気に会話する私たちにはあまり関係ない。私の機械の足なら凍り付いても強引に砕けるし、脚を硬化してるえーくんも同じ。動けないと見せかけてだまし討ちしたほうがいいと思う、えーくんのやりたいことからは遠ざかっちゃうけど私たちは今ヴィランなので飯田くんがなりきっていたように私たちも真剣に徹するべきだ。ヴィランはヴィランらしく、相手の嫌がることを徹底的に。

 

 「……核が見当たらない。轟、どうする」

 

 「関係ねえ、無理やり動いても脚の皮剝がれちゃ満足に動けねえだろ。確保して終わりだ」

 

 「ひえ~~なんだこれ、轟お前も才能マンかよ」

 

 来た!どうやら私たちが完全に動けないという前提でいるらしく、3人とも少し気が緩んでいる様子。部屋に入ってくる前にえーくんとアイコンタクトして頷きあう。作戦開始だ。部屋の中に入ってきた3人に対してえーくんががっくしと肩を落とす。

 

 「んだよこれ、こんなん反則じゃねえかよ。動けねえ!」

 

 「えーこれで終わりかよ。俺のテープ出番ゼロじゃねえか!」

 

 「すさまじいな。個性テスト1位を張り付けか」

 

 「わりぃな。レベルが違い過ぎた」

 

 確保テープを持った瀬呂くんと障子くんがこちらに近づいてテープを巻こうとしてくる。あと少し、ちらりとえーくんに合図を送る。頷いたえーくんと私は同時にバキン!と足元の氷を割って、動き出す。突然のことに3人は動きを一瞬止めた。

 

 「えーくん!障子くんをおねがい!」

 

 「任された!うらあああああ!!!」

 

 えーくんは私の声に大きく返して障子くんにタックル、全身を硬化させて障子くんごと壁を突き破り隣の部屋に消えていった。私は近くにいた瀬呂くんに加減しつつもぶつかって壁に押し付ける。そのままホッチキスの芯を大きくしたような拘束具を作りバスバスバス!と手足を壁に縫い付ける。そこで拘束具が起動して微量の電撃を流して瀬呂くんの筋肉を麻痺させて固定し無力化した。

 

 「……っ!」

 

 そこまでやってようやく事態を飲み込んだらしい轟くんが私に向かって氷結を放ち、私の左半身が凍り付く。けど私は左手と左足の油圧システムを思いっきり加圧して手足を動かして氷を砕き、轟くんに向かって手を向ける。ガシャコンと音を立てて左手が変形、前腕から手の甲までが上にせりあがって前腕内部から機関砲が姿を現した。

 

 もちろん中身はゴム弾で火薬で発射するんじゃなくて空気圧を利用した威力調整版、バシュシュシュ!と音を立てて連射されたゴム弾を轟くんは前に氷の壁を作って防御する。目の前に氷つくっちゃったら相手が見えない!好都合!私は全力でダッシュして右手で思いっきり氷を殴り砕いて轟くんに接近する。

 

 「効かないよ!」

 

 「……ちぃ!」

 

 「おらぁっ!!」

 

 「なに!?」

 

 私の平手をスウェーで回避して距離を取ろうとする轟くんの横の壁をまたタックルでぶち抜いてきたえーくんが奇襲をかける。どうやら障子くんの無力化に成功したみたい!流石はえーくん!まあえーくんが負けるってことは私の全力パンチより強いってことなのでそうそうないとは思ってたけど!それでもナイスタイミングで戻ってきてくれて最高にうれしい!大きくバックステップを取って躱した轟くん、仕切り直しかな。

 

 「形勢逆転だぜ、轟」

 

 「えへへ、作戦成功だね。えーくん」

 

 「おう、ちなみに核の場所なんだけどな。希械が核を取り込んでるんだ、だから俺たちを確保しない限り終わらねーぜ」

 

 「どっちが反則だ」

 

 「だって私たち、いまヴィランだから」

 

 「まあこっからは男らしく真正面からガチンコだぜ。やるんだろ、轟」

 

 返答は攻撃だった。そう来なくっちゃと笑った。私に向かって迫る氷の柱を割って入ったえーくんが受けてくれる。その隙に私は腕の側面を開いて、小型徹甲ミサイルを3発、氷に向かって打ち込んだ。全身氷漬けになったえーくんの周りの氷が吹き飛んで彼の自由を取り戻す。雄たけびを上げたえーくんの突進をもう一度いなす轟くんだけど、動きが鈍い。右目の視界を切り替える、サーモグラフィーで理解した、轟くんの体温がどんどん下がっていってる。個性を使用しすぎると体温が下がってしまうのか!それで身体機能に障害が出てる。

 

 「希械!なんかアイツ動きが鈍いぜ!速攻だ!逃げ道塞いでくれ!」

 

 「わかった!クアドラプルガトリング!形成開始(レディ)!」

 

 両手を変形させる。機械音が積み重なり、6連装の大型ガトリング砲を上下くっつけた重火器二門が両手に出現する。耳をつんざく金切り声をあげて弾丸を吐き出すガトリング砲が轟くんの逃げ場を奪う。当てても大丈夫、死ぬほど痛いけど。まあ当てないように外してるし、えーくんなら当たっても全然平気。私は轟くんの逃げ場を奪えばいい。

 

 両目で行き場がないことを確認した轟くんは真正面から突っ込むえーくんに向かって今一度の氷結を見舞う、が正面突破をするえーくんはまさに重戦車、硬化して氷漬けになっても私のガトリング砲が氷を砕いてしまい、その歩みを止められない。逃げ場を失った轟くんをえーくんは片腕で壁に押し付け、硬化した貫手を突き付ける。

 

 「今回は俺たちの勝ちだぜ、轟」

 

 「……ああ」

 

 『ヴィランチーム、WIIIIIIN!!!!!』

 

 「よっしゃああああああ!」

 

 「やった!」

 

 轟君を解放したえーくんは両手をあげて喜んで、こっちに走ってくる。私も手を元に戻してえーくんに走り寄る。そのままどちらともなくガチン!と私の機械の手とえーくんの硬化した手をハイタッチでぶつけて、私たちは勝利の喜びを共有したのであった。

 

 「あの~、お二人さん。喜ぶのはいいんだけど、これ外して……」

 

 「あっ!!!ごごごめん瀬呂くん!すぐ外すから!」

 

 若干締まらなかったけど、これはこれで私らしいかも。

 




 今作の切島くんは原作より強いし硬いです。というのも

 木刀を使った受打訓練
 ↓
 幼馴染が振るう鎖での殴打
 ↓
 幼馴染による平手打ち
 ↓
 幼馴染の全力パンチ
 
 という感じで楪さん全面協力の元雄英受験に向けて個性を磨いてきたので現在、硬くて力持ちという感じのメインタンクとしてとても便利な感じに強くなってます。

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7話

 「では、講評だ!まず今回のベストは楪少女と切島少年の二人だな!理由はわかるかな!?」

 

 「あれ?楪さんだけやないんや」

 

 「はい、オールマイト先生!」

 

 「うむ、では飯田少年!」

 

 瀬呂くんを拘束していた拘束具を引っこ抜いて回収し、帰りながらばりぼりと口に収めながらモニタールームに帰ってきた。轟くんは一人でさっさと帰っちゃったし、どうやら壁を2枚突き破ったせいで気絶しちゃった障子くんに肩を貸しながらにやり過ぎたわと謝ってるえーくん。瀬呂くんは私がかじってる拘束具を見てうまいのか?と聞いてきたけど驚くほどまずいよと返したら食わなきゃいいのにって言ってた。こういうのをケチらなきゃいけないの。食べなきゃ材料が底をつくんだよお……。

 

 そんな感じで講評タイムに入る。私より目線がちょっと低いオールマイト先生の隣に並ぶ、凄いなオールマイト先生、おっきい。身長の高さで言えば私の方が高いんだけど、筋肉とか溢れる力強さとか安心感とか……人としての大きさが全身からにじみ出てる。それに対して私は注目されてるのが恥ずかしくてぷしゅ、と耳あたりから放熱してしまう始末だ。でも私の隣に並んだえーくんが誇らしげなのを見て少しうれしくなる。初訓練にして初勝利、これは嬉しい。

 

 そして私たち二人がベストだった理由、正直私にはわかんないや。ヒーロー側の勝利条件を一つ潰したっていうのだったら私だけになるはずだし、無力化数だったら障子くんと轟くんを拘束したえーくんになるはず。だからどうして、二人なのか。是非とも気になる。手を挙げたのは八百万さんと飯田くんの二人、八百万さんはさっき答えたのでオールマイト先生は飯田くんを指名した。

 

 「二人がベストな理由、それはチームワークの巧みさであると思います。轟君の個性による制圧を逆利用して油断を突き、身体能力が一番高かった障子君を別の部屋に分断して拘束、残った瀬呂君を同時に拘束することで瞬時に形勢を逆転させました。また轟君の個性を受けても問題ない楪さんが残ることで障子君を拘束する時間を稼ぎ、さらにはもう一度奇襲をかける隙を作る。完成されたコンビネーションだと思われます」

 

 「むぅ、またしても思ってたより……ごほん!飯田少年の言う通りだ!もっと言えば轟少年への対処も素晴らしい!切島少年の個性をうまく利用して切島少年に当たっても問題ないが轟少年が当たったらまずい攻撃で逃げ場を塞ぎ、状況判断を鈍らせたうえでの拘束!初めての訓練とは思えないほど素晴らしいぞ!高得点だな!ところで楪少女、核爆弾の起爆解除なんてどこで知ったんだ?」

 

 「今時爆弾の起爆装置の構造なんてネットの深いところに転がってますよ」

 

 「現代社会の闇!」

 

 「……冗談です、メカジョーク」

 

 「だからお前の冗談は冗談じゃねーってば」

 

 実はアルバイト先の粗大ごみ回収危険物回収の人がヒーロー免許持ってて色々扱いを教えてくれてるだけなんだけど。人気が出なくってヒーローからは引退したんだけど持ってる知識だけは本当だし……雄英を目指すって言ったら必要になるかもって教えてくれたのだ。ありがとう社長さん。でもなんで核ミサイルとかの図解を持ってるの?

 

 はちゃめちゃだった緑谷くんたちの時とは違いある程度まともだった私たちの試合を見て他の人たちもやる気をあらわにしたみたい。皆ああすればいいのか、こんな感じで行こうかと他のチームの人たちにも火が入った様子。でもやっぱり、私は対人戦が苦手かもしれない。使える火力に上限が出ちゃうから、対ロボットにやったレールキャノンなんて使えるわけないし……課題、かなあ。

 

 「楪さん、お疲れさまでしたわ。素晴らしいコンビネーションでした、切島さんも」

 

 「うん、ありがとう八百万さん。八百万さんは……峰田くんとだよね?大丈夫そう?」

 

 「ま、まあ峰田も訓練になったらまじめにやるだろ。何で入学2日目で頓珍漢なキャラになってるのかはしんねーけどよ」

 

 「時々視線が怖いですわ……」

 

 話題になってる峰田くん、どうにも男子から見てもその、えっちな方面にいろいろ傾きすぎてるらしい。昨日1日でそこまで知られちゃってるってことはそういうお話をしちゃったのかな?もしかしてヒーロー科ってみんな濃ゆいのかなあ?私は自分を棚に上げてそんなことを考えつつも、次の試合を観戦するのであった。あ!次三奈ちゃんだ!がんばれー!

 

 

 

 

 

 「ん、希械どこに行くんだ?反省会やってこうぜ」

 

 「あ、うん。ちょっと相澤先生に用があるから職員室に行くの。アルバイトの事、出来ないと私の個性弱くなっちゃうし」

 

 「あー、そういうことかあ。オッケー教室で待ってるわ」

 

 授業を終えて、ヒーロースーツから制服に着替えた私たち。教室の中ではそれぞれが今のヒーロー基礎学の反省会を行っていた。私もそうしようと思ったんだけど、相澤先生にアルバイトを続けていいか確認しないといけなかったので一旦教室を出ることにする。クラス全体でやろうと飯田くんが張り切ってたんだけど轟くんと爆豪くんは帰っちゃった。

 

 引き止めたえーくんは残念そうで、私も爆発のこととか聞きたかったからちょっと残念。とりあえず行こうかなと教室のドアを開けるとぽふり、と胸に衝撃が。別に痛くもかゆくもないけど相手はそうかもわからない、首を下ろして見下ろすと私の胸に激突したのは緑谷くんのようだ。彼の手はやはり重傷だったらしくギプスで固定されて吊られている。うわあ、痛そう……

 

 「ゆゆゆゆ楪さん!?ごごごめんなさい悪気はなかったんです!」

 

 「あ、だめだよ腕動かしちゃ!私こそ確認不足でごめんね。腕は痛くない?私鈍くさいし痛覚も鈍いからぶつかっても気づけなくて……」

 

 私の胸に顔を突っ込んだことの情報がようやく処理出来たらしい緑谷くんが飛びのいて腕をぶんぶん振って謝ろうとするもんだから私は逆に距離を詰めて彼の手をできる限り優しく抑える。骨折してる腕を動かしちゃだめだ、うんでも元気そうでよかったなあ。緑谷くんが帰ってきたことに気づいたえーくんや三奈ちゃん、麗日さんに飯田くんが団子のようになって彼に口々に色々いう。そこでようやく再起動した緑谷くんは爆豪くんの事を尋ねる。帰っていってしまったことを言うと緑谷くんは一言謝って駆けだしていった。

 

 緑谷くんと爆豪くん、この二人にはどうやら私たちの考える以上に複雑な事情があるのかもしれない。深入りするべきではないかもしれないけど、心配だ。とりあえず私は走っていってしまった緑谷くんに続いて教室を後にする。本来の目的である相澤先生の所に行かないと。

 

 雄英高校は大きい、普通科、ヒーロー科、サポート科、経営戦略科などのたくさんの科がある、よって校舎も大きい。私たちのクラスから職員室までもそれなりの距離がある、私は速く用事を済ませて反省会に参加したかったので少し早歩きで通り道である下駄箱前を横切ろうとしたら、緑谷くんが何かを話しているのが聞こえた。その内容の衝撃具合に、思わず足が止まってしまう。

 

 「この、個性は……人から授かった個性なんだ」

 

 えっ?息をのむ。だって、個性は自分のものだから、他人に渡したり奪ったりできるものじゃない。ましてや自分の力を渡すだなんて、もっとあり得ない。そもそも個性の譲渡なんて夢物語のはずだ、極めて不可能そのもの。ひゅっと息をのむ、繋がった、繋がってしまった。

 

 緑谷くんの個性発動時に観測したエネルギーとオールマイト先生が纏ってるエネルギーの同一性にすぐ行きあたってしまった。緑谷くんと爆豪くんはまだ何かを言い合っているようだけどもう私には聞こえない。下駄箱を背にずるずると座り込む、幸い誰もいない。ヒーロー科以外の下校時間はとっくに過ぎてるから。これを聞いてしまった、聞かれてしまったらとんでもないことになる。

 

 いつの間にか爆豪くんはいなくて、代わりにオールマイト先生が緑谷くんと話し合っていた。話したのか、とオールマイト先生が言ったとたんに私の推論が真実だということに行きついて、もう耐えられなくなった。音を立てないように立ち上がって二人に気づかれないように私は足早に職員室に向かう。この話は絶対誰にも話せない。緑谷くんの個性がオールマイト先生のものだったなんて、誰にも言えるもんか。

 

 

 

 

 「失礼します……」

  

 「お!なんだA組のリスナーじゃねえか!どうした?なんか元気ないな!」

 

 「あ、いえ……今日初めての訓練でオールマイト先生と一緒だったと思うと……なんかどっと疲れちゃって。機械だから疲れ知らずが自慢なんですけど」

 

 「精神面っていうのは馬鹿にできないもんだぞリスナー。体と心のバランスだ、今日は帰ってゆっくり休むといいぜ?それで職員室に何の用だ?サインなら明日にしてやるから」

 

 「あ、いえ相澤先生に用がありまして……いらっしゃいますか?」

 

 同級生と平和の象徴のとんでもない秘密を知ってしまった私がほぼ満身創痍で当初の目的を果たそうと職員室のドアを開ける。流石にあんなことをほとんど盗み聞きに近い形で知ってしまった直後なので動揺が顔に出てたらしい、背の高い私を下からのぞき込むような形で明るく心配してくれたプレゼントマイク先生にお願いして相澤先生を呼んでもらう。

 

 「おいイレイザー!お前のクラスのビューティーなリスナーがご指名だぞ!」

 

 「マイク、声がでかい。なんだ楪、下校時間は過ぎてるぞ」

 

 「えっと、その……少し相談がありまして、お時間頂けたらなと」

 

 「……少し待て。談話室の3番で待ってろ」

 

 「え、あの別にそこまで大事な話じゃ」

 

 「いいから待ってろリスナー。俺たちはヒーローだが教師なんだよ。相談って言われたら本腰入れるのが仕事だ」

 

 「その、はい……」

 

 どうしよう、ただのアルバイトの許可が欲しいだなんてとても言いづらい。他の先生方も私が大きくて目立つものだし、さらには入学2日で相談なんて持ちかけるものだから何かあったのかととても心配そうにこっちを見ていて思わずいたたまれなくなってしまう。違うんです、アルバイトを続けたいだけなんです。個性に使う素材を取り込みたいだけなんです、口を使わずに。さっきとは別の意味で緊張してきた、どうしよう。

 

 言われた通りに職員室の近くにある談話室、複数あるうちの3番の部屋の中に入って待つ。えーくんたちに時間かかるかもしれないから先帰っててってメールうっとかなきゃ。と自分の携帯を個性で電子的に操作してメールを二人に送信する。既読着いたから多分大丈夫。少しして相澤先生と、なぜかプレゼントマイク先生が一緒に入ってきた。どうして?

 

 「マイク、お前は別の仕事が入ってるだろ。すまん楪、待たせたな」

 

 「目の前で相談だの言われたら聞いてやるのがヒーローだろ?ああ、聞かれたくないなら出てくぜ?」

 

 「ごめんなさい、お騒がせして。その、相談というのは……アルバイトを続けたくて……」

 

 「アルバイトぉ!?リスナーお前中学の時から働いてたのか!?」

 

 「バイトか、理由は?」

 

 「先生方は、私の個性ご存じですよね?私は素材を取り込んで、機械に変えます。だから、素材を集める為に粗大ごみや危険ゴミの処理のアルバイトをしているんです」

 

 私は八百万さんみたいに脂肪から何かを作るとかそういう器用な個性じゃない。鉄が必要なら鉄を取り込まないといけないし、絶縁体に半導体など機械に必要なあらゆる素材がないと私の個性は一気に弱体化する。武器を作った後使い終わったら出来るだけ回収して食べるのもそういう理由からだ。体内で合金を作ったりは出来ても元の元素は作れない。酸素があってもそれを鉄にしたりなんてのは不可能だ。

 

 私がアルバイトをしている、というとプレゼントマイク先生は驚いたようで素っ頓狂な声をあげている。確かに国立の雄英に通う生徒、偏差値79という圧倒的な数値を持つこの進学校で苦学生は中々見ないのかもしれないがそんなに驚くことなのだろうか。それとも理由が理由だからなのだろうか?

 

 「基本的に雄英がアルバイト厳禁なのは分かってるな?特にヒーロー科はそんな時間一切ないぞ」

 

 「はい、実感してます。ですけど素材がないと私の個性は弱くなるばかりです。リサイクルにも限度が……」

 

 「だろうな……金が目的なわけではないんだな?」

 

 中学3年間で貯めた素材貯金は膨大だけど、それこそ湯水のように使うわけにはいかない。特に今日のガトリングでゴムの在庫は目減りしてしまっている。ゴムは特にまずいので好き嫌いしてたらこれだ、だめだね選り好みしてたら……。ただ、お金目的ではないのはそうだ。お金は全額お母さんに預けてるし私はお小遣いだけでやりくりしてる。お弁当とかの食費もお母さんに申請して買ってるくらいだから、アルバイト代は使ったことない。

 

 「お金目的ではないです。というかアルバイト代は全部両親に預けてるので使ったことなくて……」

 

 「そうか……わかった。結論だが、アルバイトを続けることは許可できない」

 

 えーーーっ!?流れ的に許可をするべきでしょうそれは!と思ってしまったが何か続きがあるようだ。マイク先生が内線でどこかに連絡しているので続きがあるのだろう。マイク先生の連絡が終わってぐっとサムズアップをしている。それを見て頷いた相澤先生が続けて口を開いた。

 

 「代わりに、もっといい素材を提供してやる。サポート科にいくぞ」

 

 

 




 悲報 楪少女秘密を抱える。

 メカジョークを考えるの難しいですな……

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8話

 サポート科、それはヒーローを支えるコスチューム、サポートアイテムを開発する技術者を養成する雄英の隠れた屋台骨の学科。私の好きなヒーローである掘削ヒーロー、パワーローダー先生が受け持つ学科である。アルバイトの続行を却下された私であるが内線でどっかに連絡したプレゼントマイク先生といきなりサポート科に行くと言った相澤先生に私は困惑してしまう。

 

 「サポート科に、ですか?でも私サポートアイテムはあまり……」

 

 「行けば分かる、時間は有限だ。いくぞ」

 

 「は、はい!」

 

 あ、これ反省会いけないやつだ。と私は悟る。けど、私の個性の弾切れ問題は滅茶苦茶に重要なのでここは大人しく相澤先生たちについていくことにしよう。談話室の扉を開けた相澤先生とプレゼントマイク先生の後ろについて廊下を歩く。途中で凄いガリガリの金髪でスーツの男の人と校長室近くですれ違ったけど、あんなヒーローの先生いたかな?プレゼントマイク先生が冷や汗だらだらで体調でも悪いのかと思ってしまう。

 

 そうしてサポート科に行くと、なんかすごいことになってる。いやその、爆発跡がいくつかあるのだ。まるで爆豪くんがあたりかまわず個性を使ったみたいになってるけど、爆豪くんはそういうことをむやみやたらにしないと言い切れないのが怖い所だけど多分違うと思う、思いたい。まさか負けたのが悔しくてサポート科で暴れたなんて、ないよね?ないはずだ、さすがに、うん。

 

 「アローパワーローダー!お悩み解決の手段を持ってきたぜ~!」

 

 「くけけ、待ってたよ。初めまして楪希械、僕はパワーローダーだ、よろしくね」

 

 「ゆ、楪希械です!あの、私まだ何も聞いてなくて……」

 

 「ああ、そうなんだ。君ここに来るまでの爆発跡、見たよね?元凶は今もまだ作業中だけど……」

 

 「え、はい!いろんなところが黒焦げで……」

 

 「その元凶が発明した失敗作が、ここにあるんだ。サポートアイテムの場合機能しないようにばらしてから廃棄しないとダメなんだけど、この量ではね……君は大概のものを取り込んで個性の材料にできるとイレイザーヘッドから聞いてるよ」

 

 「えと、つまりこのアイテムたちを私が使っていいということですか?」

 

 教室の中に入ると、山積みになった大小さまざまな機械が置いてあり、そこでガシガシと鉄爪で頭を掻くパワーローダー先生の姿があった。どのアイテムもピッカピカでここ最近に作られたことが分かるがどれも破損しているようだ。だけど見る限り素材は一級品ばかり、私がいつも摂り込んでいるさびた鉄、古びたステンレス、ボロボロになったゴムやショートした跡がある銅線などもうリサイクルできないものとはけた違いにものがいい。

 

 「そうだ。パワーローダーもどうやら倉庫がパンクする前にどうにかしたいと思ってたみたいでな。サポート科の後処理、やってみないか?代替手段がなかったらアルバイトを許可してたが、こっちの方がゴミより物がいいだろう」

 

 「入試の映像と残骸を見せてもらったけど、ごみからあのレールガンを作りだすなんてね、大したものだよ。今からでもサポート科に来る気はないかい?掛け持ちも歓迎するよ」

 

 「私はその、ヒーロー科でいっぱいで……でも、後処理は任せてください!」

 

 「うん、それでいいよ。ただでやらせるのも心苦しいから、欲しい素材があれば言ってくれ。報酬として君に渡そう」

 

 「いいんですか!?それならその、ゴムが余ってたら欲しいです。これからたくさん使うので……」

 

 「ゴム?いったい何に使うんだ?」

 

 「え、と重火器の非致死弾で大量に必要で……金属系は割と沢山貯金が残ってるんですけど今日ゴムをたくさん消費したので」

 

 「ああ、あのガトリングか。演習見せてもらったがお前と切島が今の所一番点数が高いな。そのくらいならすぐだろう」

 

 重火器を使わない、という選択肢もあるにはあるんだけど、そうなると私の場合素手か近接武器に頼ることになる。でも私のパンチもハンマーも銃より明らかに威力があるので本気では人に使えない。そういう意味で銃は私にとって手加減しやすい武器なのだ。ゴム弾なら当たっても大丈夫だし、意図的に外せるし……あと相澤先生にも褒めてもらえてちょっと鼻高々。嬉しいな。中学校の先生は私と話すとき、皆目を逸らしたりして怖がってたけど、雄英の先生はみんな私の顔を見て目を見て話してくれてとても嬉しい。私頑張っちゃうぞ!

 

 「とりあえず今日はこれを処理すればいいんですか?」

 

 「ああ、好きなタイミングでサポート科に来てくれれば都度処理できるようにためておくよ。来るときはイレイザーヘッドか僕に声をかけてくれればいい」

 

 「わかりました。相澤先生、プレゼントマイク先生、パワーローダー先生。ありがとうございます」

 

 「気にするな」

 

 「お悩み解決だなリスナー!」

 

 「くけけ。助かってるのは僕らのほうさ」

 

 「じゃあ、始めますね」

 

 制服のすそを捲り上げて、腰あたりから機械のアームが伸びてくる。それが見る見るうちに変形、拡張して金属粉砕機を作り上げた。シュレッダーのようなそれに私が次々ぽいぽいと失敗作アイテムを放り入れていく、金属が砕けたり拉げたりする不快な騒音が響いてアイテムが粉砕され私の中に入っていく。私は大雑把に金属、非金属、有機物その他に分けた後体内で元素に変えて貯蔵、貯金が増えてうれしいなあ。

 

 「パワーローダー先生、ここなんですけどあーーーっ!私のベイビーに何してるんですか貴方!」

 

 「ひっ!?ベイビー!?何の事ですか!?」

 

 「発目……君の失敗作の後処理をしてもらってるんだからそんなに突っかかるな」

 

 私がホクホク顔で粉砕機を詰まらせる勢いで両手いっぱいに抱えた失敗アイテムを処理していると、パワーローダー先生に用があったらしい女の子の生徒が私がやってる処理を見て悲鳴を上げて私に詰め寄ってきた。びっくりして何の事かと思ったけどベイビー……赤ちゃん、つまりこのアイテムたちの開発者で爆発の元凶は彼女ということなのだろう、うん。なるほど

 

 「発目、作ったはいいが興味をなくして部屋の片隅に放置するなら有効利用したほうがいいだろう。それにその子は君がご執心のレールガンの制作者だ」

 

 「え!あのロボインフェルノを消し飛ばしたレールガンですか!?ってことは貴方がヒーロー科のメカの女の子!聞きたいことが山ほどあるんです今時間ありますかありますよねじゃあ私の工房へあいた!」

 

 「却下だ。すまないな、こいつは発目、入試で合格が決まった途端に雄英に潜り込んで開発ばかりしてる変わり者だ。だが腕は確かな方だから、頼れるときは頼ると良い」

 

 「え、あ、はい……?」

 

 ズガガガガガという粉砕機が奏でるBGMに負けないくらいの大きな声で私に詰め寄る女の子、発目さんの頭を小突いて止めてくれる。うんと、私が言うのも何かあれかもしれないけど変わった子だなあ。でも後片付けしないのはダメだと思うよ、でも個性の産物で庭が埋まったことがある私としては親近感が湧く。お話くらいならしたいかな、なんか分解とかされそうになったら抵抗するけど。このタイプは多分、やるから。

 

 「ああ、そうだ。君が入試で置いていったものはこっちで保管してるよ。ただまあ、興味を抑えられなかったそこのアホとか上級生が分解してしまってるけど……回収するならごめんだけど保管場所に来てね。あれオールマイト先生くらいしか動かせないから」

 

 「あ、いえ置いていってしまったのは私なので……でも回収はさせてもらいます、ご迷惑おかけしました」

 

 「いや、結構みんな勉強になったみたいだよ」

 

 「それとその……発目さん?そのドライバーとレンチはなにかな?私の足をどうするつもり?」

 

 「いえ、中身が気になるので分解しようかと」

 

 「見せてあげるから分解しないで……」

 

 いつの間にか私の足をしげしげとみてる発目さん、やっぱり分解しようとするのね……。しょうがないので外部カバーを開いて内部機構を露出するとなぜかパワーローダー先生もふむふむと私の足の中身を見てる。憧れのヒーローにそんなことをされて一気に恥ずかしくなった私は……相澤先生に目線で助けを求めた。ため息をついて、相澤先生は私を助けてくれるのであった。

 

 

 

 

 「あの!すいません!オールマイトが教師をしているそうなのですが、授業の様子はどうですか!?」

 

 「意外と普通っすよ。でもやっぱり所々で強さとか風格ってやつがにじみ出てるっすね」

 

 「そうなんですか!ではそっちの……でかっ!?」

 

 「あぅ……すいません大きくて」

 

 「ばかお前それ個性差別だぞ!雄英の生徒に何やってんだ!」

 

 「あの、いっていいすか。いやもう行きます、行こうぜ希械」

 

 「あ、うん」

 

 翌日の事、今まで手に入らなかった素材やら貴重な元素やらを補給出来てホクホク……まあいろいろ恥ずかしい思いもしなかったわけではないけど……私は結局反省会には間に合わなかったのである。皆と仲良くなるチャンスが……しょうがないんだけどさ。とにかく私のアルバイト問題は解決、アルバイト先の社長さんにも昨日の内に挨拶してきた。餞別に、となんか色々な先端技術の資料を貰ったけどホントに何者なんだろう……個性の特訓で敷地を使わせてもらった時「後ろにも目を付けるんだ!」という凄いアドバイスをくれた元ヒーロー社長さん……

 

 まあそんなことが昨日あって、すっきり眠った私は元気100倍なわけで。えーくんと一緒に登校していると、雄英の前で張っているマスコミの皆さんにカメラとマイクを向けられてインタビューをされているところなんだ。正確にはえーくんが私を引っ張って雄英の敷地内に入ったところなんだけど。

 

 オールマイト先生が雄英の教師として就任したというビックニュースは当然マスコミにとって格好の特大ネタ。なら生徒だろうと情報は引き出したい、なので登校途中の生徒へ手当たり次第にインタビューを行ってるんだと思う。最初は普通にインタビューを受けてたえーくんだけど、私にマイクを向けた途端若い記者がでかい、と言ったせいで少し機嫌が悪くなったみたい。

 

 私が大きい、大きいって言われるのはしょうがないから諦めてるんだけど、個性への差別って表向きはダメだからいくら思っててもマスコミみたいな人たちがやっちゃだめなんだよね。ツーマンセルの相方らしい中年の記者さんは私に大きいっていった若い記者さんを叱りつけてくれるけど、えーくんは怒っちゃったみたい。事実だから気にしてないんだけどな、おっきいのが私だから。

 

 後ろで雄英バリヤーなる防御機構が発動して地面から障壁がせり立っていくのをしり目に、私たちは教室に入って行くのであった。

 

 

 

 「えぇ……すっごい……なにこれ……」

 

 「全く、いくらかかったと思ってるんだか……悪いね楪、昨日の今日で」

 

 「いえ!私がお役に立てるなら!ね、えーくん!」

 

 「ウッス!時間あるしトレーニングにもなりそうだな!緑谷、お前腕大丈夫なのか?」

 

 「うん。すっかり治してもらったよ。ヒーローは本来奉仕活動ってオールマイトも言ってたし、これもヒーロー活動だよね!」

 

 「おし!委員長!号令くれ!」

 

 「任せたまえ!では1-A諸君!これより破損した雄英バリヤーの残骸の撤去作業を行う!各自がれきは楪さんの所へ持っていくんだ!」

 

 授業が終わって夕方、実は日中、お昼ぐらいに少し事件があってマスコミが敷地内に侵入するというアクシデントが発生、一時期パニックになったみたいなんだけど飯田くんの活躍で収めることが出来たみたい。ホームルームで委員長決めを行った後の出来事で、それを見た緑谷くんは自分に決定してた委員長職を飯田くんに譲渡したのだとか。これにて委員長決め問題はめでたしめでたし、で終われたらよかったんだけどねえ……

 

 目の前にあるのは雄英バリヤー、だったもの。扉がまるで崩壊したかのようにバラバラに壊れてしまっている。やったのはマスコミだっていうけど……よくわからない。明日以降も雄英バリヤーがないと困るので突貫作業でパワーローダー先生が直すのだけど、がれきが邪魔だから私に残骸をプレゼントしてくれるのだとか!私はそれにホイホイ乗っかったらあれよあれよとクラスのみんなが集まってがれき撤去のお手伝いをしてくれるっていうの!

 

 昨日は帰った爆豪くんも轟くんもいるし、みんないい人なんだなあ。と私はここ外していいよというパワーローダー先生の指示で持ち前のパワーを活かし、何百キロとある金属塊を引っぺがして粉砕機に入れる作業を始めた。分解できるところは分解してゴミは私の個性いき。警察の捜査も証拠が出なくて迷宮入りだから半分諦めてるみたい。

 

 飯田くんも委員長の初仕事で非常に張り切っている。凄いカクカク動いてる、おお、麗日さんすごい。替えの雄英バリヤーを無重量にして浮かせて持ってきてる!みんなが手伝ってくれるお陰で1-Aとサポート科総出の雄英バリヤー交換作業は日の沈まないうちに終わってしまうのだった。流石に全部はもらえないので扉の金属を延べ棒に変えて後で半分くらいお返ししないとなあ…… 




 分解されなくてよかったね楪さん、というお話でした

 ちなみに最後のがれき撤去はヴィランに捜査を諦めたと誤解させるための雄英の罠だったり

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USJ編
9話


 「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイトともう一人の3人体制で見ることになった」

 

 「何するんですかー!?」

 

 「地震雷災害何でもござれ、レスキュー訓練だ」

 

 雄英バリヤーを修復した翌日の午後、授業開始前にやってきた相澤先生が今日のヒーロー基礎学の内容を説明してくれる。レスキュー、つまりは人命救助。ヒーローと切って切り離せない超重要な訓練内容だと思う。今は屋外の派手な個性戦が人気でワイドショーでもヒーローの戦闘シーンの切り抜きが流れるほど。人を救助する姿がテレビに映るなんてオールマイト先生くらいじゃないかな?

 

 クラスのみんなもやっぱり雄英に入学するエリート揃いなだけあってみんなそこら辺をきちんと理解しているみたい。にわかにレスキューこそがヒーローの本分であるというざわつきがクラスに広がっていく、けど相澤先生のひと睨みで一瞬で沈静してしまった。流石は相澤先生、この短い期間の中で私たちを完全に掌握してると思う。怖いけど、頼りになる先生だ。

 

 「今回コスチュームの着用は各自の判断にゆだねる。訓練場はバスに乗っていくからきびきび動け、以上。準備を始めろ」

 

 それだけ言って壁のコスチューム保管ボックスを動かした相澤先生はそのまま出ていってしまう。私は立ち上がって上の方にある人たちのコスチュームを取ってみんなに渡してから自分の分のコスチュームを取った。こういう時おっきいと便利だよね。長手袋を外して、ついでに手足を白に変えてしまう。髪の毛に青メッシュを入れて準備完了。着替えよーっと。

 

 「は~~、楪さんコスチュームを付けた時とそうじゃない時だいぶ印象変わるやね~~。アニメのヒロインみたい」

 

 「そう、かな?こんな大きいヒロインはお断りだと思うけど……でも、自分の好きな色を纏えるのはテンション上がるかも」

 

 「青が好きなん?」

 

 「うん、私の目の色。私の右目は機械だからみんなと見てる色も景色も違うけど、左目はみんなと同じものが見れる。だから私はこの目が好きなんだ」

 

 「めっちゃいい話や!」

 

 「そうかな?」

 

 同時に着替え終わった麗日さんと話しながら集合場所に向かう。途中で麗日さんにいろいろ褒められたので少し赤くなりつつも私はコスチュームの色の由来を言うと、すごくいい反応をしてくれた。ジャンパーの銀のラインはデザイナーさんの趣味みたいだけど、色はえーくんとかアルバイト先の人と相談して決めた。アルバイト先のある人曰く「エレガントな配色」らしいんだけど、エレガントってごつい私と対極にある言葉だと思うんだ……

 

 「あ、デクくん体操服なんや」

 

 「あ、うん。戦闘訓練で壊れちゃったから修復待ちなんだ」

 

 「デク?もうあだ名で呼んでるんだ」

 

 「あ、うん。もともとはかっちゃんがバカにして付けてたんだけど……麗日さんがコペルニクス的転回をしてくれたから……今は気に入ってるんだ」

 

 「……じゃあ私もそう呼ぼうかな。よろしくねデクくん、個性の制御手伝えそうだったら手伝うから遠慮なく言ってね。あんまりこういうこと言いたくないんだけど、一人にしたらすんごい怪我しそうだから」

 

 「うっ……キヲツケマス……」

 

 緑谷出久くん、下の名前を読み方変えてデクくんかぁ。私が知ってしまった彼の秘密、個性の制御が上手くいかないのも他人の個性だから、ということなんだろう。もし彼の個性がサポートアイテムで解決できる類のものなら私が使い捨ての籠手とか作って数を撃たせて制御するっていう方法もあるんだろうけど……知ってしまった罪悪感と怪我ばっかりする心配が混ざって思わずちくりと言ってしまう。

 

 これが例えばえーくんみたいにカッチカチだったら反動も無視できるのかもしれないけど……オールマイト先生が無傷で使えてるってことは反動に耐える体なら大丈夫ってことじゃないかな……うーん、オールマイト先生みたいな体したデクくん……私の脳内画像で勝手にコラージュされたデクくんの顔をしたオールマイト先生の画像が完成して思わずコレジャナイと顔に出てしまう。会ったばっかりだけどこんなゴツイデクくんは違うのだ、うん。

 

 「みんな!バスの席順はスムーズに出席番号でいこう!2列に並ぶんだ!」

 

 「飯田くんフルスロットル……」

 

 「凄く輝いてるね。ある意味で天職かも……流石にバスの天井とか入り口は高くないよねえ」

 

 「普段は不便なん?」

 

 「うーん、慣れちゃったから不便ではないかも」

 

 

 

 

 

 「こういうタイプだった!くそう!」

 

 「あはは……」

 

 私はバスに乗る機会はそんなになかったので飯田くんと同じ想像をしてたかは分からないけど彼が想像してたであろう学校でよく乗る長距離移動用のバスではなく市営バスみたいな椅子の並びで自由に選んで座ってねという感じだった。まあ私にとってはありがたい限りなんだけど。ずっと腰をかがめてるのはアレなので気を利かせて入り口近くの横並びの椅子を譲ってくれた砂糖くんにお礼を言う。天井低いとつらいよねえ……

 

 「ねえ緑谷ちゃん、いいかしら」

 

 「あ!?なに!?蛙吹さん!!」

 

 「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 これから実技だし、エネルギーを補給しとかないとダメだということで私はお昼ご飯に追加して持ってきていたカロリーバーをもっさもっさと頬張る。一口で一本、釘とかゴムとかより100倍美味しいけど口が乾くなあ。ごくりと喉を動かして食べ切った私、隣で梅雨ちゃんとデクくんが話してるのを聞いていると

 

 「私思ったことは何でも言っちゃうの。あなたの個性ってオールマイトに似てるわね」

 

 「ぶっ!!!???」

 

 「げほっ!?」

 

 「希械どうした!?」

 

 「ごめん、喉に釘が刺さっただけ」

 

 「一大事じゃねーか!?」

 

 「大丈夫、抜けたし治った」

 

 「そそそそうかなー!?でも僕の個性はえーっと」

 

 梅雨ちゃんが話題にしたのはデクくんの個性の話、あまりにもデクくんと私にとってタイムリー過ぎて思わずせき込んでしまった。私がせき込んだせいでえーくんが話に入ってきてしまった……ごめんねデクくん。というかえーくん流石に今の慌てた誤魔化し方で納得されるのは少し私としても来るものがあるぞ。実際刺さったら魚の小骨くらい面倒なんだけどさ。

 

 というかデクくん誤魔化し方がすごいへたくそだ。嘘が付けない性格なんだろうなあ……頑張って誤魔化して欲しい、私も誰にも言わないように頑張るから、盗み聞きしてごめんね……いやいや、と私を心配するついでに会話に入ってきたえーくんが否定してくれる。ありがとうえーくん信じてた!

 

 「でもよ、オールマイトは怪我しねえだろ?似て非なるってやつだぜきっと。でもま、派手で羨ましいけどなあ。ま、俺の硬化は負けねえけど」

 

 「派手っつったらこのクラスだと、爆豪と轟、あと楪ちゃんか。楪ちゃんはロマン詰まってるから人気出るだろなあ」

 

 「そう、かな?男の子はみんな変形とか合体とか好きだよね。私もそういう方面で売るべきかな」

 

 「爆豪ちゃんは怒ってばっかりだから人気でなさそ」

 

 「んだとコラ!出すに決まってるだろ!」

 

 「ほら」

 

 話題が逸れてくれて一安心だぁ……それはそうと私の個性って派手?というよりはゴツイというか実用重視で見た目気にしてないんだよね。使えればよし!みたいなデザインばっかりしてる、私がそうだから。今度は見た目も考えてみるべきかな?それはそうと梅雨ちゃん爆豪くんを弄るなんてなかなかクレイジーだねぇ。だってほら、爆発されたら怖い……というか今も顔が怖い、目をそらしておこう。ひっ!?掌ぱちぱちいってる!?

 

 「希械ちゃんは~~お色気路線でも売れると思うよ~!可愛いしね~?」

 

 「うーん、それは……無理じゃないかな?三奈ちゃんくらいのスタイルの方が人気出そう」

 

 「デビューしたら二人でその路線やってみる?」

 

 「オイラは応援するぜ!」

 

 「やっぱやめとこうか希械ちゃん。アタシ峰田に推されたくない」

 

 「ひでええええ!!上鳴オイラなんかしたか!?」

 

 「俺に聞くなよ。日頃の行いじゃね?」

 

 「そんなに日数経ってねえじゃねえかよおおお!」

 

 「上鳴もなんかヤダ」

 

 「えっ?」

 

 上鳴くんはともかく、峰田くんは私もちょっとイヤかも。胸、見すぎだよ。女子のみんなそう言ってるから、こんな扱いされちゃうんだよ。

 

 

 

 

 「おっきい~~……」

 

 「すっげ~~!USJかよ!」

 

 雄英に入学してから何度も使ったこの言葉。言われる側から言う側に回ったことで分かるのは、本当にぽろっと出てきてしまうということだ。それは如何でもいい話なんだけど、私たちの前に広がる演習場……ホントに演習場かと疑うほど広いしまるでテーマパークのように入り口がある。右目でズームしてみると台風だったり雷だったり火事に地震、災害のオンパレードがそこかしこで起こってる。ナニコレ滅茶苦茶ヤバいんだけど……

 

 「この演習場はあらゆる事故や災害を想定して僕が中心となり作成しました。名づけてウソの災害や事故(U S J)ルーム!!」

 

 それ権利的に大丈夫なんだろうか?と私は心配になってしまう。USJは別に商標に登録されてたりはしないけど連想してしまうものがあるから……それはともかく、籠ったような声で演習場の紹介をしてくれたのは宇宙服のような重厚かつ分厚いコスチュームに身を包んだヒーロー、災害救助を専門とするスペースヒーロー「13号」だ。

 

 「スペースヒーロー13号だ!災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

 「わーーー!私好きなの13号!」

  

 「うん、女の人だったんだね。初めて知った……」

 

 「「「「そうなの!?」」」」

 

 「え、うん。声紋が女の人のものだから……」

 

 「僕が女だと初見で見破るなんてやりますね楪さん」

 

 デジタル的な分析は私が最も得意とするものの一つだ。声が籠ってても変声機を使われない限りは基本的に声紋分析は可能なの。13号先生の素顔はヒーロー界隈だと割と謎に包まれてるわけだけど、どれ透視でも試してみようか……と思ったが流石に失礼なのでやめよう。デクくんが13号先生の性別が女性だとわかった途端すさまじい勢いでノートを取り出して書き込み始めた。ああ、爆豪くんが言ってたナード、ってそういうことなんだ。ヒーローが好きなんだねデクくんは。

 

 そういえばオールマイト先生が見えないな?さっき相澤先生が一緒に見るって言ってたもんだからここにいるって思ってたんだけど……後で来るのかな?

 

 「では始める前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ……」

 

 めっちゃお小言増えてる……

 

 「皆さんご存じかもしれませんが、僕の個性「ブラックホール」はあらゆるものを吸い込んで塵にしてしまいます」

 

 「それでどんな災害からでも人を救い出すんですよね!」

 

 「ええ、しかし一歩間違えれば人を殺すことができる力です。皆の中にもそういう個性の人がいるでしょう」

 

 耳がとても痛い。私の個性はまさにそれ、というか人を殺すことに特化してると言ってもいいほど攻撃力が高い。作るものによっては大量虐殺すら可能だから。この世界で一番メカが発達してる分野はなに?と聞かれれば医療でも福祉でもなく……軍事方面。そこから漏れた技術が民間に伝わるんだ。レーダー技術の応用をした電子レンジのように。だから私は力の責任を自分に問わないといけない。

 

 「超人社会の現代が成り立っているのは貴方たちの個性を行き過ぎないように管理しているからです。体力テストで上限を、対人戦闘で人に向ける怖さを体験したと思います」

 

 そう、そうだ。体力テストで何ができるかを工夫して、対人戦闘でどうすればできるだけ傷つけずに無力化できるか頭をひねった。まともに向ければ殺せてしまうから、遠慮呵責なしにぶっぱなした入試の時とは全く違って冷や汗だらだらだったんだよ実はね。

 

 「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではなく、人を助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな。以上!ご清聴ありがとうございました!」

 

 「カッコイイ!」

 

 13号先生の言葉に誰かがそう漏らした。うん、カッコイイ。力はただ力だけど、それをどう使うかという方向性を考えさせられるお話だった。お説教?とんでもない。これは激励だ。私たち、オールマイト先生が言うには有精卵がこれからどう孵化するかの指針の一つを示してくれたことに感謝しなくちゃ。

 

 13号先生のお言葉に感動しながらUSJの中に入り、相澤先生がまずはと声をあげたところで……私の右目が広場に黒い靄があふれ出すのを捉えた。ズームして観測、正体不明……?でも微かな空間のゆがみがある。周りと景色が微妙にずれてるから空間自体がおかしいのかも……?誰かの個性?じっとそれを見つめると……何かが出てくる。人だ、人の手をたくさん付けた人間に続いて……たくさんの人間。……だれ?

 

 「一塊になって動くな!」

 

 相澤先生が怒鳴った。思わず背筋が伸びる。演習の一環か何かだと思ってたらしいクラスメイト達も異常事態に気づいたみたい。ざわざわと少しづつ声が広がっていく。

 

 「あれは……ヴィランだ!」

 

 

 

 

 




 USJに突入。次回から戦闘が始まります

 楪少女の秘密、実は生身の肉体に密かな憧れを持っているぞ!

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10話

 ヴィラン、私たちが目指すヒーローとは対極にある存在。自らの欲望のために個性を行使し人を傷つけ、迷惑をかける犯罪者。真っ黒の霧の中から現れた人物たちを相沢先生はそう評した。右目のズームをフル稼働させて観察する。ほとんどは……チンピラ?統率感が一切ない。ただ……黒い霧の塊みたいな人と、黒い大柄で脳みそがむき出しの人、それに手を一杯つけている人……異様に落ち着いてて逆にそれが怖い。

 

 「先生、侵入者用のセンサーは!?」

 

 「当然ありますが……反応しなかったということは」

 

 「センサーが反応しねぇなら向こうにそういう個性持ちがいるってことだな。周到に用意された計画、バカだがアホじゃねえ」

 

 轟くんの言う通り、時間割が向こうに漏れてたとしか思えない。校舎から離れた演習場で、これだけの人数を連絡を封じつつ奇襲をかける……これが本物のヴィラン……!相澤先生が13号先生に避難を開始するように言って戦闘準備を整えている。この人数差で一人で戦うつもりなの……?

 

 「電波妨害系の個性持ちがいる可能性がある。上鳴、楪は個性を使って通報できるか試せ」

 

 「ウッス!」

 

 「……衛星通信、携帯電波共にエラー。通信は無理だと思います……」

 

 「……そうか。13号!生徒たちを任せる!」

 

 「わかりました」

 

 相沢先生に言われて上鳴くんと一緒に通報できるか試す。衛星通信に携帯電波、アマチュア無線に至るまで全ての通信手段が遮断されている。いくらなんでも用意周到が過ぎるよ……ホントに全部の通信手段を封じられているみたい。アンテナがあっても意味ないくらいだ。階段前に捕縛布を持って立つ相澤先生、イレイザーヘッドを緑谷くんが止める。

 

 「相澤先生、一人で戦うんですか!?イレイザーヘッドの戦闘は個性を消しての捕縛で……多対一じゃ……」

 

 「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

 ゴーグルを被った相沢先生は階段を飛び降りてヴィランのど真ん中に向かう。射撃系の個性を持ったヴィランが撃とうとするが発射のタイミングでそれぞれ個性を消されて不発、さらには捕縛布でぶつけあわされて無力化されてしまう。あれが、相澤先生の戦い方……誰の個性を消しているのか、消していないのか……目線を隠すことで分からないようにして相手の焦燥感を煽ってるんだ。

 

 「すごい、あれがイレイザーヘッド……」

 

 「デクくん、分析してる場合じゃないよ。私たちがうだうだしてたら格好の的―――」

 

 「その通り。逃がしませんよ」

 

 うそっ!?目を離したつもりはなかったのに一瞬で私たちのそばに!?黒い霧の人物……(ヴィラン)連合の黒霧と名乗った男の人は私たちを前にして余裕たっぷりな様子で自己紹介をした。固まる私たちに彼が告げたのは……目的がオールマイト先生を殺すことだということだ。あの、オールマイト先生の、平和の象徴の抹殺……!?無理だ、そんな手段があるならとっくの昔にあの人は負けてるんだ。最強だから、平和の象徴だって言われてるんだ。

 

 「まあ、平和の象徴がいなくとも私のやることは変わらず……ここで、散らして殺す」

 

 「その前に俺たちにやられるって……希械!?」

 

 「死ねぇクソ霧野郎!」

 

 「だめ!爆豪くん!13号先生が個性を使えない!」

 

 黒霧は私たちに向かって自身の黒い霧を向ける。私たちを覆いつくそうとするその霧が覆いつくす前に黒霧を攻撃して止めようとしたえーくんの腕を掴んで無理やり止める。どうして、という顔で私を見るえーくんだけど私はそれよりも止められず攻撃に入って爆発を見舞った爆豪くんにどくように叫んだ。私が止めた意図を悟った二人がハッとするが既に13号先生の射線上に入ってしまった爆豪くんが邪魔で13号先生はブラックホールを使えない。

 

 「流石は、雄英……生徒さん方も優秀だ。その優秀さが、今回の命取りだったわけですが」

 

 黒い霧が私たちを覆いつくす。えーくんの手を離さないように強めに握る、足元の地面が消えて体が浮くと同時に、音もなく私の手首から先がなくなった。これ、霧と接触したところをワープさせる個性……!空間を閉じることで引きちぎられたんだ。なんで空間系なんて珍しい個性がヴィラン側に……!

 

 

 

 

 空に放りだされた。周りは倒壊した建物ばかり……!ここは多分地震災害用の演習場所……?どさり、と尻もちをついて放り出された私は周りを見る。手首から先はやっぱりなくなっていた。ショートしてバチバチいう左手に意識を集中して組みなおす。それと同時に回りの状況把握、音響探知……いる。クラスメイトじゃない、大人の人間が。他にも霧に巻き込まれたクラスメイトがいないか探してみるけど……どうやらここには私一人みたいだ。

 

 「ひゅ~~!こら随分な上玉が出てきたなあ!ちょっとでかいけどまたそれがそそるじゃねえの!」

 

 「敵連合様様だぜぇ!おい嬢ちゃん、俺たちと楽しいことしようぜ?」

 

 「まあ、断る権利はないけどなあ!ぎゃはははは!」

 

 私がやってきたのを見つけた男の人たちはげらげらと下品なことを言いながら私を取り囲んでにやにやと笑っている。でも、さっきの黒霧ほど怖くもないし強そうでもない。町にいるチンピラレベル、解析してみても素人の域を越えない。そうか、ここにきてやっとわかった。主犯格は黒霧とあの手が沢山ついたやつなんだ。それ以外は、足止め以下の三流ヴィラン……!やることは単純、戦って生き残ること。迷う理由は、ない。

 

 「いろいろ、気になることがあります。なので……遊んであげられません。あしからず!」

 

 「ぐあっ!?」

 

 真後ろから下卑た顔で私のお尻に手を伸ばしたヴィランの手を掴んで強引に片手で振り回し、投げつける。背中から倒壊したビル群に突っ込んだヴィランはこふ、と口から咳と一緒に血を吐いて気絶した。それに向かって私は腕の内部で作り出した拘束具を発射、ヴィランの足首、腰と手、肩に巻き付いた拘束具は電磁石で強烈に締め付けて彼を行動不能にした。

 

 今私がやることは、このヴィランたちから生き残ること。そして広場に戻って先生たちと合流すること。正当防衛が効くかは分からないけど、抵抗しなければ私は好き放題されてしまうのが自明の理。それはその、いやなので全力で抵抗させてもらうことにする。チャリチャリと腕が変形して、戦闘形態に移行する。足も装甲とバーニアを追加すればいい。

 

 「こいつ……!」

 

 「一人でよかった……巻き込みを考えなくていいから。あの、ヴィランの皆さん。私、まだヒーローの入り口に立ったばかりで……その、手加減の具合を分かってないんです。ですから……腕や足が飛んでも怒らないでくださいね」

 

 「舐めるなあ!」

 

 「やっちまえ!」

 

 向かってくるヴィランたちに。遠距離系の個性はとりあえず無視して、飛び込んできた腕が高速振動してるヴィランの男の拳に合わせて私も拳で対抗する。がきぃっ!と音がして私の手に一方的に負けた男の手が変な方向に曲がった。多分普通の金属相手だと高をくくったのかもしれないけど、私の戦闘形態の腕と足は私が合成した超硬質の合金だ。10トン以上の圧力を受けないとまず変形しないのが自慢。特に指先は極めて硬くしてある自信作なんです。

 

 声にならない悲鳴を上げて崩れ落ちたヴィラン私は指先からの電気ショックで気絶させて拘束具で拘束する。ここでようやく、周りのヴィランが私が学生でも戦闘ができるということに気づいたようで、じり……と後ずさりを始めた。私はその隙に武装を構成する。

 

 「スラストハンマー、グレートメイス、テイルブレード、形成開始(レディ)

 

 バーニア付きハンマー、大型のメイス、そして背中から伸びたワイヤー付きの大型ブレードが完成する。ジャージの裾から伸びたワイヤーで自在に動くブレードが後ろのヴィランを薙ぎ払った。遠距離個性が放ってくる硬化した指や髪の毛、生体ミサイルが私に直撃するが、無視して脹脛に作ったバーニアを吹かして飛び上がる。スラストハンマーのスラスターを思いっきり吹かして地面を殴りつけると、音速を越えたハンマーの衝撃波が周りのヴィランたちを直撃して吹き飛ばし、壁にたたきつける。

 

 「ば、ばけもの……!ひぎゃっ!?」

 

 「うん、機械だから。でも、殺さないから安心してください。ちゃんと生かして警察に届けます」

 

 一撃で大多数を戦闘不能にした私に恐れをなしたらしいヴィランが私にそんなことを言ってくる。化け物、うんその通り。だって私は機械だから。ヴィランになんて思われようと関係ない、私が私だってわかってくれる人がいるんだから、敵になんて思われても平気、へっちゃら。巨大な金属バットのような形をしたグレートメイスを軽く振るって3人ほど巻き込んで壁にたたきつける。手加減って難しいな、力を籠め過ぎたら死んじゃうし……怪我はさせちゃったけど致命的な怪我はないかな、と気絶したヴィランを拘束して私はそう判断する。

 

 「さて……」

 

 「ひっ!?ゆ、ゆるして……!」

 

 「うん、じゃあ……目的とか話してください」

 

 テイルブレードでこかしたヴィランの最後の一人の上に立って、顔面横を思いっきり踏みつけて脅す。顔の真横が私の足で陥没したのを見て唾を飲み込んだヴィランは震える声で作戦を話してくれる。まず、私たちを分断して各個撃破し、中央に残った主犯格がここにいるハズだったオールマイトを殺す、なんとも用意周到な割には稚拙な作戦だ。もう何もない、というヴィランを拘束具で拘束して私はその場を後にする。

 

 「ここから広場までは少し距離があるから……メガ・ブースター、形成開始(レディ)

 

 テイルブレードを再変形させて、ロケットブースターを作り出す。ロケットを何本も束ねたようなブースターが私の後ろに伸びて白煙と炎を吹き出し始める。一回使えば壊れて使用不能になるものだけど、今の私の状態だとこれが一番速い。アイドリングが終わり、爆炎を発したブースターが私を打ち出した。

 

 一瞬で音速を越えた私が、広間を目指して空を駆ける。発射だけで燃料が切れたブースターを腰からパージして残った速度を維持しつつ、脚のバーニアで方向を調整する。そして広間と水難エリアのちょうど境目あたりに私は着弾、というか墜落した。着地方法が雑なのが一番あれだなあこの飛び方……

 

 「あ!楪さん……!」

 

 「楪ちゃん、無事だったのね……」

 

 「楪!おめえが戻ってきてオイラ嬉しいよ!これで一安心だ!」

 

 「3人とも無事でよかったけど……デクくんはまた、使っちゃったんだね。それ以上その指動かさないでね?」

 

 私がクレーターの中から出てくると水の中から上がってきたデクくん、梅雨ちゃんに峰田くんが駆け寄ってくる。デクくんが手を抑えてるのを見てまた、無茶したんだと心配してしまう。私が派手に墜落したのは向こうの手が沢山ついたヴィランも分かってるし相澤先生も分かってる。相澤先生が私が戻ってきたことを好機ととらえて大声で指示を出した。

 

 「楪!全員抱えて13号の所まで戻れ!」

 

 「はいっ!みんな掴まっ――っ!?」

 

 「だめだ。君たちは観客だ。いてくれないと困るなぁ……平和の象徴が死ぬところを見ないとダメじゃないか。脳無」

 

 反応できたのは奇跡だった。全員を一纏めにして脚のバーニアで離脱しようとした私を脳無と呼ばれた私と同身長くらいの脳みそ丸出しのヴィランが一瞬で移動して私にパンチを放ってきたのだ。私は咄嗟に3人を水難エリアに投げ飛ばして、右手を曲げた状態の右肩で脳無のパンチを受ける。踏ん張った足が足の甲まで陥没して体験したことのない力が私を襲った。ミシミシメリメリと私の骨格が悲鳴を上げる。

 

 「楪さんっ!?」

 

 「楪ちゃん!?」

 

 「おいおい、なんだよあれ……!?」

 

 「楪!貴様……」

 

 「おいおい、あれを耐えるのかよ。どいつもこいつもチートだなあおい!だがこれで分かっただろ?本命は俺じゃない」

 

 喋る余裕がない。こいつ、瞬間的な出力なら私より強い!まるで体のリミッターをすべて無視してるようなそんな力だ。反動はどうなってるの?けど、持続力なら負けない。押し合いなら私が有利!ぐぐ、と腕のパワーを最大に高めてもう片手のパンチを掌で受け止めて、右手も捕まえる。手四つの押し合いだ。ずり、ずりと少しづつ私が脳無を押していく。戦闘形態で個性テスト時よりもパワーをあげた握力が脳無の手を握りつぶした。手のヴィランがガリガリと顔を搔いている。

 

 「おいおいおい!なにしてんだよ!さっさとそのでかい女を殺せ!」

 

 「えっ!?きゃあああっ!?」

 

 もう少しで地面に膝をつかせられる!と私があらんばかりの力を籠めたところで、手のヴィランが他のヴィランと一緒に相澤先生に襲い掛かりつつ脳無に命令をした。途端に脳無は一気に私以上のパワーを発揮して私の手を掴んだまま振り回し、投げ飛ばした。私はきりもみ回転をしながらエリアを跨いで市街地演習場のビルに突き刺さる。痛い、こんなに痛いのは初めてだ。脳無の握力で右ひじを潰されたのかうまく動かない。何とか立ち上がって私が開けた穴から外を見る。

 

 息をのむ、その一瞬で形勢が逆転していた。相澤先生が、脳無に……手を……

 

 「なに、してるの……!」

 

 自分でも驚くほど低い声が出た。私たちの先生に何してるんだ、私の大事なクラスメイト、友達に何してるんだ。個性をフル稼働、強制全冷却。体から空いた穴から爆風と一緒に熱が放出される。熱に強いはずのジャンパーが燃えてしまう。冷却終了……全力で、皆を守るんだ。

 

 「構成拡張(オーバード)、重装近接格闘型強化外骨格『ゴリアテ』機能更新(スタンバイ)形成開始(レディ)

 




 次回、マジギレ楪ちゃん、脳無に挑む

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11話

 「構成拡張(オーバード)、重装近接格闘型強化外骨格『ゴリアテ』機能更新(スタンバイ)形成開始(レディ)

 

 私の身体を機械が覆っていく。今まで腕や足のみだった変形を体全体に使う、奥の手中の奥の手だ。分厚い丸太のような手、巌のような足、外骨格が私を覆う。身長も元の私を逸脱して3メートルと50センチを超えた、人外の姿。幾重にも重ねられた特殊合金の装甲と背部の大型バーニア、全身に配置された姿勢制御スラスターに胸部を覆う増加装甲内部に重水素核融合炉を設置してエネルギー源にする。体内の水分を分解して重水素へ変換しスターターを入れて融合炉をアクティブへ。ヘルメットが形成されて頭に被さる。

 

 「ううっ!!!」

 

 歯を食いしばってから穴から飛び出す。背中のバーニアが殺人的な加速を生み出し私を発射した。外骨格に包まれてもなお生身の部分が悲鳴を上げる。再びの墜落、だけど今回は脳無を巻き込むように墜落する。相澤先生に覆いかぶさって打ち下ろしのスレッジハンマーを放とうとしていた脳無を片手で掴んで連れて、私は地面に突っ込んだ。

 

 「おいおいおい今度は何だってんだよ……脳無!」

 

 「相澤先生……!楪さん、なの……?」

 

 「まさか、あれ……楪ちゃんだわ!」

 

 「さっきと全然ちげーじゃねーかよ……あれじゃまるで……ロボットそのものじゃねーか……」

 

 動きを止めた脳無からいったん離れて、相澤先生の前に仁王立ちする。相澤先生の意識はあるみたい、けど片腕を潰されちゃってる。無事な方の腕で体を起こして私を見る相澤先生、ごめんなさい。私、戦います。逃げたら……相澤先生が死んじゃうから。あの脳無っていうヴィラン、本当にすごく強い。勝てるか分からないけど、戦わなきゃ。

 

 「相澤先生、私戦います。命令無視で除籍していただいても構いません。今だけは私がみんなを守ります」

 

 「楪、ダメだ。いいから逃げろ……!」

 

 「みんなから離れろ!SMAAAASH!!!!」

 

 「脳無」

 

 恐怖に耐えかねたのか、デクくんが個性を纏って飛び出した。比較的冷静だと思ってたけど、まずい!行動不能になる……!手のヴィランは脳無を呼び寄せて、脳無は無防備でそのままデクくんの右ストレートをもろに食らう、けど堪えてない。脳無もデクくんの手もだ。個性の制御に成功した?この土壇場で?いや、関係ない。けど脳無の方もおかしい、デクくんの超パワーが効いてない?

 

 「すげえだろ?ショック吸収の個性さ。脳無は対オールマイト用の改造人間、君程度の力じゃビクともしない」

 

 「そう、じゃあ……私なら?」

 

 「楪さんっ!」

 

 「うん、ナイスガッツだよデクくん。あとは任せて、ね?私がみんなを助けるから」

 

 怖い、怖いけどそれよりもみんなの方が大事だ。デクくんを握りつぶそうと手を伸ばす脳無の手を私の手が掴んで止める。ぎゃあぎゃあ言って暴れる脳無を振り回して投げつける。壁を突き破って脳無が消えた。私は目に涙をいっぱいにためたデクくんを見下ろしてにっこり笑う。安心できるように、勇気づけられるように。そのまま本気で戦う態勢に入った。ヘルメットの上からマスクがスライドしてガチンと音を立てて私の顔を覆う。内部のディスプレイが起動して私の右目とリンクして、ゴリアテの機能を全てフルに稼働させていく。

 

 「お前いったいなんなんだよ……!いいところで邪魔ばっかしてさぁ!脳無ぅ!」

 

 「邪魔でいいよ!貴方たちの邪魔をするのが私が目指してるヒーローだもの!」

 

 背中のバーニアに火が灯る。流星のように飛び出した私の拳がこちらに向かってくる脳無の拳と衝突した。肘部のブースターがパンチを加速させ、さらに前腕内部で火薬が炸裂、インパクトと同時に拳を杭のように打ち出すことで威力を増加させる。そこまでやってやっと、脳無のパンチと拮抗した。脳無に与えた衝撃はすべて吸収された、ゴリアテの方は脳無のパンチで腕部に亀裂が入った。反則だよそんなの……!

 

 ガランと右腕から廃莢された薬莢が音を立てる。次弾装填、左手で同じように拳をぶつける。結果は変わらず、なら……!私は突撃して脳無の肩を掴んで拘束、ゴリアテの両肩から顔を出した連装徹甲ミサイルが脳無を打ち据えるが、効いてない。爆発で抉られた肉は再生してるし、爆発の衝撃は吸収されてる。焼いて塞いでも再生するのか……!

 

 吠えた脳無のパンチがゴリアテを打ち据える。10層構造の装甲が一撃で半分持ってかれた……!パンチにパンチをぶつけて防御し続けるけど、追いつかない。漏れた脳無の拳がゴリアテをどんどんボロボロにしていく。まだ、まだ頑張れる。私はまだ戦える!

 

 「やああああああっ!」

 

 右腕部、全損。脳無の拳でぐしゃりと潰れ、それをチャンスとした脳無に腕を引っ張られて引きちぎられる。鈍い痛み、無視する。残った左手を盾にしてラッシュに耐える。無理やり左手で跳ね上げて、顔面を左手で掴んで後頭部を地面にたたきつける。これでも無傷、ずるい。左手の掌に穴をあけて、内部爆破用の薬莢を転用。連続で爆破を顔面に浴びせる。これも駄目。なら次は……っ!

 

 脳無の手がゴリアテの左手前腕を掴んで握りつぶした。これで左手も駄目、捕まったらまずい、自切する。両手がなくなった。踏みつけて動きを防いでた脳無がゴリアテのど真ん中にストレートパンチをぶち込んだ。すさまじい衝撃が装甲をひん曲げる。核融合炉に異常発生、シャットダウン。核爆発防止のため体の中へ再結合。エネルギー源まで絶たれた……!

 

 「あれだけやっても……ダメなのかよ……!」

 

 「ちぃ!数が多い……楪!下がれ!死ぬ気か!」

 

 マイクに片手で他のヴィランを相手しながらデクくんたちを守る相澤先生の声と絶望的という色を乗せた峰田くんの声が拾われる。大丈夫、まだ大丈夫。私は機械だから、壊れたって直せるんだ。人より頑丈なんだ。私を私としてみてくれる友達を見捨てるもんか、放り出すもんか。

 

 「まあ、よく頑張ったんじゃない?それでもここまでだけどさぁ……!脳無、やっちまえよ!」

 

 「まだまだ……!」

 

 脳無が迫る。私はあえて、やつの攻撃をそのまま受けた。左肩がオシャカだ。脳無が私を捕まえて引き裂こうとする。その瞬間をついて私はゴリアテを放棄し、前面装甲を開けて飛び出した。脳無の胸のど真ん中に、ドロップキックの体勢で両足を当てる。腕がないからこれしかないや。そのまま足の裏から赤熱する杭が打ち出される。両足の耐久を無視した一撃は、私の足を吹き飛ばして、やっと脳無のショック吸収を越えてやつを真向かいのビルまで吹っ飛ばすことに成功した。

 

 両手両足を失った私は、そのままざぶんと水難エリアに落ちる。完全にオーバーヒートした私の周りの水がじゅううと音を立てて蒸発して、私の熱を下げる。そのまま水底に行くかと思ったら近くに誰かが来る。左目で見たそれは、梅雨ちゃんだった。少し表情が分かりづらい子かなと思ってたけど今はなんだか泣きそうな顔してる。

 

 梅雨ちゃんは手足を失ったとはいえそれなりの重さの私を抱えると泳いで水面に向かった。待ってたデクくんと峰田くんが私を引っ張り上げてくれる。腹筋、というのが私にあるかどうかは微妙かもしれないけどお腹に力を入れて起き上がり座り込む。

 

 「ごめんなさい、やっぱり勝てなかったみたい……!」

 

 「いや、すごかったよ!あそこまで……!」

 

 「そうよ、それに手と足が……」

 

 「ごめんね、変なもの見せちゃって。個性が使えるようになったら作り直すから……」

 

 流石に個性はうんともすんとも言わないか。でも、脳無との距離は離せた。あそこまでやって倒せない、そして再生して無傷になるというのは正直悔しいけど、時間稼ぎは十分できたはずだ。手のヴィランは何度も脳無の名を呼んでいる。そこでようやっとこちらに来ようとしていた雑魚ヴィランを倒し切った相澤先生が捕縛布で潰された手を固定しながらやってくる。

 

 「全員無事か!?」

 

 「私たちは大丈夫よ、相澤先生。それよりも楪ちゃんが……」

 

 「大丈夫です。けど動けないので逃げるなら水に沈めて置いていってください。個性が使えるようになったら今度こそ脱出しますから」

 

 「バカを言うな!っち、状況が悪い……」

 

 私の状態を見た相澤先生が歯噛みする。そういえば私、今個性把握テストでデクくんが言われたことと全く同じミスを犯してるんだ。その場から動けないお荷物が増えた結果が、ヴィラン一人の一時戦線離脱。なんだ、それ。悔しい、私にもっと力があって頑丈だったならそんなこと起こさなくて済んだのに。どうするべきか、を考えた時、USJの正面玄関が吹っ飛んで……希望の光が見えた。

 

 

 

 「全員……よく頑張った!もう大丈夫だ……私が来た!」

 

 「オールマイトォ!」

 

 「待ってたよヒーロー……社会のごみめ。脳無ぅ!ぐずぐずするな!コンティニューだ!」

 

 ビルからボコボコと体を蠢かせて再生しつつある脳無が飛び出してくる。どてっぱらに大穴を開けたはずなのに気絶もせずにあっさり……オールマイト先生はそれをギラリと見ると私の右目でも捉えることができない速度で踏み出したかと思うと、さらに加速して脳無と手のヴィランに一撃見舞うついでに私たち全員を担いで階段近くまで戻った。一瞬のことでみんな状況を理解できてない、相澤先生以外は。

 

 「助かりました。オールマイト」

 

 「遅れて済まなかった。すぐに片を付ける。子供たちを頼んだぞ」

 

 「オールマイト先生!あの脳無っていう黒いやつ……複数個性を持ってる改造人間だそうです。ショック吸収と超再生、それに私を上回る超パワー……」

 

 「大丈夫だ楪少女!その程度のヴィラン、いくらでも相手にしてきたさ!」

 

 グッと右手をサムズアップして突っ込むオールマイト先生、SMASHの掛け声とともに脳無に叩き込んだクロスチョップが脳無にたたらを踏ませる。ショック吸収が通用してない?いや、ちがう。ショック無効じゃなくて吸収、限度があるのかもしれない。散々私が叩き込んでやったゴリアテの拳も、ミサイルも、最後のヒートパイルも意味があったんだ。

 

 「ショック吸収が……あのメカの女のせいかぁ……!」

 

 「どうやら楪少女が私に繋いでくれたようだね……!ありがたいっ!」

 

 オールマイト先生の鉄拳が脳無の顔面を捉えて地面に埋める。拳の風圧がここまで届いた。植えてある木が盛大に揺れている……なんてパワー……だけどなんだかおかしい。オールマイト先生の個性のエネルギーが戦闘訓練の時より小さいし、断続的に減ってきている。右目の解析が、彼の口の端から吐血しているのを捉えた。デクくんがそわそわしている。

 

 「クソ、んだこの状況はよぉ!」

 

 「あれが……オールマイト……平和の象徴か……」

 

 「わり、遅くな……希械っ!?お前それ、誰にやられたんだよ!?」

 

 「落ち着いて、えーくん。大丈夫、半分自爆だから。それよりも担いでくれると嬉しいな」

 

 「お、おう。すいませんっす相澤先生。俺なら持てますから」

 

 突風が吹き荒れる広間に戻ってきたのは爆豪くん、轟くんそしてえーくんだ。えーくんは両手足がなくなって捕縛布ぐるぐる巻き状態で相澤先生に背負われてる状態でいるのを見てカッと頭に血が上ったらしく珍しく声を荒げた。私が落ち着くように言うと私本体に目立った怪我がないことが分かってほっと息をついた。そして相澤先生の手の状態に気づいて私を横抱きで抱き上げてくれる。

 

 「ああああーーっ!何してんだよ切島おまへぶっ!?」

 

 「この状況でそれを言えるのはある意味尊敬しちゃうわ峰田ちゃん」

 

 なんか梅雨ちゃんが過激な突っ込みをしたような気がしたけど知らないふりをしておこう。オールマイト先生が殴り、脳無は後ずさる。不完全とはいえショック吸収が機能してるせいで再生がそれを補完して押しきれてないんだ!エネルギーの総量が来たときの半分を切った。これ、もしかしたらまずいやつじゃ……!

 

 「よく見ておきなさい少年少女たち……プロの本気がどういうものかを!」

 

 私たちに安心させるような笑顔を残してオールマイト先生が突風と共に突っ込んだ。脳無も応えるように突っ込んでまるで台風のような暴風が吹き荒れるほどの威力のパンチのラッシュがお互いに始まる。私が相殺に失敗したそれをオールマイト先生は全て相殺するどころか逆に脳無に攻撃を当てている。一撃が、ビル一つを倒壊させて余りあるほどの威力の鉄拳の乱舞。次第に脳無はただただ打たれるだけのサンドバックのようになってしまった。

 

 「私たちヒーローは、常にピンチを打開し切り拓いていくもの!ヴィランよ、この言葉を知っているか!!!?」

 

 脳無のラッシュが完全に止まり、抵抗できなくなったのを確認したオールマイト先生は拳を強く握りしめる。右目の解析で残ったすべてのエネルギーが握った拳に移動した。拳に円錐型の衝撃波が纏い始め、オールマイト先生の渾身の一撃が放たれた。

 

 「更に向こうへ!Plus Ultra!!!」

 

 音が後から聞こえるほどの威力の拳が、USJの天井を破って脳無を天高くに飛ばした。




 重装近接格闘型強化外骨格『ゴリアテ』

 簡単に説明するとアイアンマンのハルクバスターにトールギスのブースターポッドくっつけたやべーやつ。楪さんがテクノロジーでオールマイトを再現することを目指して作り上げた外骨格。全身に搭載されたスラスターのおかげで殺人的な加速を誇り、パワーも今までとダンチ。武装は腕部パンチングユニットと肩部連装徹甲ミサイルのみ。殴り合いに特化している。今回は流石に相手が悪かった、脳無は反則である。ちなみに全力稼働すると中身にもダメージがいくというバカみたいな仕様。生身があるのが悪い(暴論

 ちなみに今回の原作変更ポイントは相澤先生が腕の骨折だけで済んでる所とオールマイトが限界を超えすぎなかったところです。ラッシュの数が300発ではなく150発くっらいに減っているうえ、ほぼ無傷で勝ってます。つまり活動時間が原作より減ってません。

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12話

 「さてとヴィラン。お互い早めに決着をつけたいね」

 

 「チートが……!」

 

 オールマイト先生の剛拳が脳無を天空高くにぶっ飛ばしてしまった。拳を握ってヴィランに最後通告を出すオールマイト先生に、私は驚きしかない。私があれだけ必死に攻撃してやっと数分動きを封じた脳無をああもあっさり……これがトップ、プロの世界なんだ……きゅ、と思わず口に力が入ってしまうけど、私を持ち上げるえーくんも傍で見るみんな、爆豪くんでさえもその光景に言葉が出ない様子だ。

 

 「あんな天変地異みてえな動き……」

 

 「でたらめな力だ……何発撃ったんだ……?」

 

 「わかんない……私の目でも見えなかったし……」

 

 もぞもぞとえーくんの抱っこの状態で体の態勢を変えた私が右目を使ってオールマイト先生を改めて観察する。戦闘訓練の時はまるで燃え立つ聖火のようにたぎっていたエネルギーが影も形もない。まるで吹けば飛びそうな風前の灯火だ。デクくんに個性を渡したから……?焦った顔をして今にも飛び出しそうなデクくんに私は声をかける。

 

 「だめだよデクくん、行っちゃだめ。オールマイト先生を信じて待たないと」

 

 「……緑谷、あの人が負けるなんてそうそうない。俺も含め、今あの人の邪魔になるようなことは非合理的だ」

 

 相澤先生に個性を消された状態で釘を刺されたデクくんはそれでもハラハラとオールマイト先生を見ている。デクくんはオールマイト先生の何を知ってるんだろうか?そう考えていると状況が動いた。黒霧が動いたのだ、オールマイト先生に向かって靄を飛ばして攻撃しようとしている。オールマイト先生は……動かない?なんで?

 

 私の疑問をよそに、手のヴィランはオールマイト先生に走り寄って手を伸ばす。あの人の個性が何なのかは知らないけど、攻撃だ。何でオールマイト先生は動かないの!?危ない、と口に出す寸前で聞き慣れない銃声が響き渡り、手のヴィランと黒霧に銃弾が降り注ぎ動きを封じた。

 

 「1-A委員長飯田天哉!只今戻りました!」

 

 その声で私たちは振り向いてUSJの入り口を見る。するとそこには、雄英に所属しているプロヒーローが勢ぞろいしてこちらを見下ろしていた。銃弾を浴びせたのはスナイプ先生、彼は2丁のリボルバーを見事なほどの早撃ちかつ正確な精密狙撃で次々と黒霧と手のヴィランに攻撃を当てている。別の所にも撃っているが、おそらく他のクラスメイトを助けたんだろうか。

 

 「っち。ゲームオーバーだ……おい、平和の象徴。次は殺してやる」

 

 「逃がすと思う?僕なら捕まえられる……!」

 

 黒霧の靄の中に入ってワープで逃げる主犯たちをコスチュームが半壊している13号先生の個性が捉える。靄を吸い込み続けるブラックホールだけど、今一歩遅く……主犯たちは逃げていってしまった。私は脅威が去ったことを確認して改めてオールマイト先生を見る……煙でうまく見えないから、右目で透視状態でじっと彼を見る。やっぱり、おかしい。何でこんなに急激にエネルギーが減っているのか……?

 

 「えっ……!?」

 

 「希械、どうした?」

 

 「ううん、何でもない。ちょっと、疲れちゃったみたい」

 

 口から驚きの声が漏れてしまった。煙に包まれて見えない状態だったオールマイト先生の身体が縮んでいったのだ。それは、昨日にサポート科に行く途中に見たスーツの人の容貌と同じ……!?プレゼントマイク先生が冷や汗をかいていたのは彼がオールマイト先生だったからなんだ……!幸いなのかセメントス先生がセメントを操って私たち生徒から見えないようにオールマイト先生を隔離してしまう。私は、また一つ増えた秘密をどうするべきか、どう処理すればいいのか分からなかった。

 

 

 

 「ちょ、ちょっと楪……それ」

 

 「楪さん、それは……!?」

 

 「ああ、えへへ……ちょっと頑張り過ぎちゃった。大丈夫だよ、ちゃんと生えるから」

 

 警察が捜査になだれ込む中、えーくんにおんぶされた状態の私がUSJに入り口に行くと、先に戻ってきてたらしい別の場所に飛ばされたクラスメイトのみんなが絶句してしまった。そりゃそうだ、だって私今手と足がないから、体重マイナス230キロくらい?大幅ダイエットだわーい、なんて言ってる場合じゃないのだけれども。

 

 八百万さんに耳郎さん、葉隠さん麗日さんはもう何も言えないって感じだね、ごめんなさい気持ち悪いものを見せて。あとは、そこで今にも泣きそう、というか完全に泣いちゃってる三奈ちゃんにも謝らないと。

 

 「ごめん、三奈ちゃん。変なもの見せちゃったね」

 

 「ううん、あたし希械ちゃんが頑張ってたの……見てたから!変じゃない!もう絶対希械ちゃんを一人で戦わせないから……!今度はあたしも隣にいるから……!」

 

 「おう!芦戸の言う通りだ!ぜってえもう無茶させねえかんな!今度はぜってえ……俺が前に立って、全部受け止めてやるから!」

 

 「うん……うん……ありがとう。ごめんね、ごめんなさい……」

 

 私にすがって大泣きする三奈ちゃんと悔しさをにじませるえーくんの言葉に私の涙腺も決壊しちゃった。左目から熱い涙がえーくんの背中に伝っていく。暫く周りを気にせずお互いに泣いて、落ち着いたところで生徒指導のハウンドドッグ先生がやってきてえーくんから私を持ち上げて抱えなおした。

 

 「え、あの……」

 

 「グルルルル……!バウッ!アオーン!」

 

 「ああ、彼は君を保健室に運んでくれるそうだよ!興奮すると人語を忘れるのが玉に瑕なのさ!」

 

 「それと緑谷くん、貴方も保健室よ。指、折れてるんでしょ。あとイレイザーも。13号はもう運ばれてったわ」

 

 「え、はい。あの……オールマイトは……」

 

 「彼ももう保健室に行ったわ。大丈夫、ほとんど無傷みたいなものよ」

 

 そのあと私は、デクくんより一足先にハウンドドッグ先生によって保健室に運ばれた。手足がない私を見た雄英の屋台骨、リカバリーガールは顔をしかめたけど個性で戻るということを話したらそれを前提に無茶をするなと物凄い叱られた。うん、それはまあその通りなわけで……。診断結果は全身の疲労と多数の打ち身。脳無が遠慮なくゴリアテの上から殴ってくれたおかげで生身の部分は青タンだらけだ。それで念のため1日保健室に入院することになっちゃった。

 

 今はリカバリーガールは席を外している。多分……デクくんとオールマイト先生、相澤先生の治療をしているんだと思う。保健室に運ばれて30分ほどでようやく個性が使えるようになったので手足を再生させて、一安心。お母さんお父さんは明日になったら迎えに来てくれるって言ってた。今日は流石に捜査の関係上雄英には入れないからね……

 

 私にとっては小さいベッドの上で考え事をする。隣では13号先生が眠っている。彼女も裂傷が酷いみたいだけど、命に別状はないみたいで。疲労が回復し次第治癒を受けるんだそうだ。初めて見る13号先生はとても美人だったけど、痛い筈なのに私のことを心配してくれて私優先でリカバリーガールに施術を頼んでたほど。まあそれは私はほぼ無傷ですでごり押して13号先生に先に診察受けてもらったんだけど。今は麻酔が効いて静かに眠ってるみたい。

 

 雄英に入ってからすぐにとんでもない体験と秘密を知ってしまった。ヴィランとの命のやり取りと、平和の象徴オールマイトの秘密と級友との関係。考えるだけで脳がオーバーヒートするぐらい重い内容だ。1テラバイトくらいあるんじゃないか?いやそれ以上かもしれない。

 

 まさか保健室に私のサイズの下着があるとは思わなかった着替えを済まして体操服でそのことについて湯気をだしながら考えているとこんこんとドアがノックされる。誰だろう、と考えながらも私以外にいないし私に用なのかな?ということでどうぞと返事をするとドアを開けたのは片手を吊った相澤先生だった。あー、うん。除籍してくれてもいいって命令無視したし、そのことかな?正直、後悔はないけどヒーローへの道が遠のいたのは悔しいなあ。

 

 「楪、少しいいか」

 

 「はい、除籍のことですよね?」

 

 「いや、違うが。今回のことで除籍はあり得ない。安心しろ」

 

 あら?違うんだ………………よかった~~~~!!!!そうすると相澤先生は一体何の用なんだろう?事件直後で忙しそうだし……私に何かあるのかな?私がベッドに座りなおすと彼は椅子を引っ張ってきて私の前に座って、深く頭を下げた。

 

 「楪、今回のことは済まなかった。かなり怖い思いをさせたと思う。お前たちを預かる教師として、謝らせてくれ」

 

 「へっ!?あ、相澤先生が謝ることなんて何もない筈です!私が勝手に戦っただけで……!」

 

 「違う、お前にそう判断させたことがそもそもおかしいんだ。結果的には確かにお前はあの脳無とかいうヴィランに真正面から対抗できた。だが、生徒に命を懸けて戦わせる教師がどこにいる。ヒーロー以前の問題だ。今回の件は俺たち教師側の力不足に原因がある」

 

 誠実で、優しい人なんだな……相澤先生。私にまっすぐ合わせてくれる目がそれを物語ってる。この人が私たちの担任でよかった。でもやっぱり、勝手に動いた私も悪いはずだから、私だって謝らないといけない。

 

 「私も、すいませんでした。逃げろって言われたのに勝手に戦って。相澤先生の腕が折られた時に頭に血が上って……それで考えるよりも先に、動いちゃいました」

 

 「……コレは受け売りだが、考えるよりも先に体が動く。ヒーローとして名を残した人物は共通してそう語ってるよ。正式な謝罪はご両親の前でさせてもらいたい。それと一つ、いいか?」

 

 相澤先生はこれ以上は謝罪合戦になると判断したのか私の言葉をフォローする形で切ってくれた。私が何でしょうと彼に尋ねると相澤先生は入ってくださいとドアに声をかける。すると一人の男の人が入ってきた。トレンチコートがよく似合う男の人だ。誰だろう……?

 

 「こんにちは。警察の塚内といいます。怖い思いをした直後で申し訳ないんだけど……調書を取らせて欲しいんだ。あの黒いヴィランと直接戦ったって聞いたからね。もしも話すのが無理なら落ち着いてからで構わないよ」

 

 「あの、個性の無断使用は……」

 

 「それは間違いなく正当防衛になるから問題ない。全く警察も合理的じゃないな。生徒の心労も考えてくれ」

 

 「耳が痛いよ。だけど、あのヴィランの異質さは異常だ。早期に捜査を始めないと取り返しのつかないことになるかもしれない」

 

 「わ、分かりました。お話します……2分だけ時間をください」

 

 「うん、大丈夫だよ」

 

 入ってきた男の人は警察官だった。今日の事件の捜査をするために調書を取って回っているらしい。それなら私も役立てることがある。目を閉じて深く集中し、今日あったことを脳みそに直結してるメモリから洗い出して時系列順に私が見たことを映像化する。さらに脳無との戦闘映像も私の一人称視点という話になってしまうがそれも纏める。右目が集めたあらゆるデータを封入してオールマイト先生がぶっ飛ばしたところまでを一本の動画データに出力する。オールマイト先生の秘密の所までは入れないでいいはずだ。

 

 チーンと電子レンジのような音がなって、私の右耳当たりのアクセサリが一部開き、USBメモリがにゅっと出てきた。集中を切って目を開け、手袋がないので壊さないように慎重に手に取って相澤先生に渡す。

 

 「これは?」

 

 「今日1日、USJに入った時からオールマイト先生に助けられるまで私が見たものを映像にした動画データです。覚えていたことを話すよりずっとわかりやすいかと思って。私は機械ですから」

 

 「なるほど、いい個性だね。必ず捜査に役立てる、約束するよ」

 

 「すまん楪、これ雄英の方でもコピーしていいか?今度の職員会議での対策検討の時に使えるかもしれない」

 

 「はい、構いませんよ。どんどん使ってください、私も覚えてることは全部お話しますから」

 

 そこから始まった調書取り、何があったかを時系列で話して地震災害演習場でのヴィラン拘束と広間に戻っての戦闘の事を話して終わった。塚内さんはボイスレコーダーを仕舞って席を立ちあがり、あとでUSBを取りに来ると言って帰っていった。私はそこでようやく全部終わったんだな、と完璧に力が抜けて相澤先生の前なのにふら~~~っとベッドに倒れ込んでしまう。

 

 「おい、どうした?大丈夫か?」

 

 「全部これで終わったと思うと力が抜けちゃって……それに」

 

 そこでくぅ~~~っと私のお腹の虫の音が鳴る。相澤先生の前なのに!鳴っちゃった!お腹減ったなあとは思ってるけどタイミングが悪いよぉ!蒸気を吹き出して真っ赤になった私は枕に顔をうずめながら話す。

 

 「お腹が減りました……」

 

 「ランチラッシュに飯を頼んでくるよ」

 

 「通常の3倍量でお願いします……」

 

 相澤先生は触れなかったけど、私は恥ずかしさでいっぱいになってしまうのだった。




 楪さんの戦闘での悪い癖「基本的にライフで受けがち」防御行動はとるにしろそこまで頓着せずまともに受けて反撃してくる。あと自分の手足とかに全く頓着してない。必要ならあっさりと犠牲にできる。正直緑谷くんより治る分質が悪い。そして大概の攻撃なら無視して反撃に移れる硬さとタフネスが拍車をかけている。

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体育祭編
13話


 ヴィラン襲撃の翌日は臨時休校だったらしい。というのも私は保健室にお泊りしたので休み?というのがいまいち実感出来なかったのだ。ただ、お母さんとお父さんに滅茶苦茶心配されたという事実が、私が無茶苦茶やったっていう証拠で何とも申し訳ない気分になった。相澤先生は私の両親に頭を下げて危険にさらしたことを謝罪してくれた。雄英高校をヴィランが襲撃というニュースはセンセーショナルに世間に広まってたみたいだけど、両親は先生の謝罪を受け入れて、私は家への帰路につくことができたのだ。

 

 「皆!朝のホームルームが始まるぞ!席に着くんだ!」

 

 「皆ついてるよ。着いてねーのおめーだけだぞ飯田」

 

 「しまった!」

 

 教室内を暖かい笑いが伝播していった。臨時休校明けの朝、ホームルームの前のことだけど……私にべったりくっついて離れない三奈ちゃんとそれを苦笑するえーくんと一緒に教室に入ると、私の姿を見たクラスメイト達はみんな一斉に安心したようなため息をついたのだ。爆豪くんは舌打ちだったけど。麗日さんと葉隠さんに至っては「楪ちゃんが立って歩いてるぅぅ……」というなんか赤ちゃんが初めて立ったみたいな反応されてしまったし。

 

 申し訳なさで縮こまってしまった私を前の席の八百万さんが励ましてくれて少しだけおしゃべりしているとドアが開いて手を吊った状態の相澤先生がやってきた。ホームルームが始まるということでみんながピタッと静かになる。うん、すぐ静かになるあたりみんな相澤先生に教育されちゃってるね……。

 

 「さて、皆も知っているかもしれんが……雄英体育祭が迫っている!」

 

 「「「「クソ学校っぽいのきたああああ!!」」」」

 

 相澤先生の言葉にクラス中が大盛り上がりした。学校行事というやつはテンションが上がるのか?という疑問があるかもしれないけど雄英の体育祭は別なのだ。というのも雄英体育祭は日本全体にとってもビッグイベントで、それはかつてのオリンピックと同等なのだというから驚いちゃう。だって学校のイベントで日本中がテレビにかじりついて熱狂しちゃうんだよ?すごいよねえ……

 

 「ヴィランごときで中止するイベントじゃない。それに、うちの体育祭は年に1回しかないビッグイベント、逃す理由もない」

 

 あんなことがあったのにこの体育祭を強行する理由は何か……それは私たちにとっても重要なことがあるからだ。雄英体育祭はヒーローも観る。けど普通の人とは視点が違う、彼らプロヒーローはスカウト目的で体育祭を見るという話だ。だからプロの目に留まるために私たちも頑張る必要がある。

 

 自分で独立しちゃえばいいのでは?という話もあるけど、大抵ヒーローになったらどこかの事務所に所属してサイドキックとして活動するのがセオリー。そこからどばっと人気が出て独立する人……例えばオールマイト先生とかもいるけど、普通は地道に人気を稼いで実力をつけるの。だから、スカウト目的の体育祭は私たちにとってはとても大事な話なんだ。

 

 

 

 「あ、ごめんねえーくん。私今日お弁当作れてないの。だから食堂に行ってもらっていい?私はちょっと用事があるから、今日は一緒できないんだ」

 

 「おお、気にするなよ。んじゃあ午後のヒーロー基礎学でな。芦戸~、希械は今日メシいっしょに行けねーって」

 

 「ええ~~!ん、でも用事があるならしょうがないか~~。何の用事なの?」

 

 「私の個性の関係のお話。サポート科にちょっと行こうかなって」

 

 「そっか~~」

 

 4限目の現代国語という私の天敵を相手にした後の話、えーくんに手袋越しの両手を合わせてごめんなさいのポーズをして、今日はお弁当を作れなかったと謝罪する。あんなことがあった後で楽しく料理をする気分にはちょっとなれなかったから。なので今日は学食に行ってもらおうというのが一つ、そして……このお昼で私の抱える秘密に決着をつけたいのが一つ。

 

 オールマイト先生とデクくんの関係、個性の話、小さくなったオールマイト先生……すべて私が一人で抱えるにはちょっと重すぎるし、知ってしまった申し訳なさもある。だから、オールマイト先生に全部打ち明けて沙汰を決めてもらいたいというのが一番の理由だ。

 

 なので私はサポート科に用があるという方便を使ってクラスから離れることにした。まあ今日会えなかったら実際サポート科に行って発目さんとお話しすることにしよう、お預け状態だからね今。暴走されて本格的に分解される前にちゃんと話しておきたいし、最悪手と足ワンセット置いておけばいいかなぁ……?

 

 二人に手を振って別れてから教室を出る。目指すは職員室……ではない。というかオールマイト先生が普段どこにいるのか全く分かんない。そもそも私は入学したてでここの地理にも明るくない。仕方がないので個性を使うことにする。私は二つの手段を切り替えて音を聞いているんだけど、一つがみんなと同じ鼓膜を使ったやつ。でもう一つ私がどうやって音を聞いているかと言えば耳近くについてるアクセサリ、実はこれが私の二つ目の耳みたいなものなんだ。集音マイクが付いててこれで私は音を聞いてる、メカなので。

 

 というわけで集音機能をフル活用、職員室まで歩きながらオールマイト先生の特徴的な重い足音を探す。まあ見つからないよね……っ!?普通にいた!?しかもデクくんと一緒だ!これは何というチャンス!幸い昼休み始めでみんな学食や購買に群がってて職員室周りには人がいない!私は目立つのでこそこそするには向いてないし、こんな状況はめったにないだろうし……二人には悪いけど、ちょっと後を付けさせてもらおう。一階下からだけど。

 

 向かう場所は職員室からさらに奥まった場所にある談話室の先、仮眠室のようだ。ばれたら一巻の終わりなので遠回りして二人が仮眠室に入ったのを確認、そして右見て、左見て、誰もいない!うああ……緊張するぅ……どうやって切り出したらいいんだろう……?え、ええい!えーくんじゃないけど男は度胸!女も度胸!やってやれないことはない!覚悟を決めて仮眠室のドアをノック!

 

 「ん?HAHAHA!楪少女じゃないか!こんなところに何か用事かい?」

 

 「その、少しよろしいでしょうか?オールマイト先生、デクくんも一緒ですよね?大事な話があるんです、今じゃなきゃいけません」

 

 「……何の話か聞いていいかな?」

 

 「……ここで話して、誰かに聞かれても困るんです。私もう、どうしていいか……」

 

 「随分深刻そうな顔だね。いいよ、入りなさい」

 

 ノックした後少しドタバタして仮眠室のドアが開く。そこから顔を出したのはいつも通り人を安心させる笑顔をしている筋骨隆々のオールマイト先生、私が言葉を濁しつつ話があると伝えると彼は逡巡しながらも中へ入れてくれた。中には予想通りデクくんの姿もある。彼は私が来た事にあたふたしてる。ごめんね、大事な話かもしれないけど、私の方も大事なんだ。

 

 「それで、楪少女。私に大事な話というのはなんだい?サインならいつでも歓迎だぞ!」

 

 「……これ、見てください。デクくんは多分、知ってるんだよね?」

 

 私は手袋を外して掌を組み替えて空間投影型のディスプレイを作り、そこに捜査協力した時にあえて入れなかったオールマイト先生が縮んでいく様子を収めた映像を映し出す。オールマイト先生の笑顔が一瞬凍り付くがすぐに元に戻る、デクくんは……なんかこう凄く言い表せない凄い顔してる。

 

 「随分と合成が上手だね楪少女。残念ながら私のこの自慢の筋肉はニセ筋ではないんだ。ドッキリかい?」

 

 「そ、そうだよ楪さん!オールマイトがこんなガリガリになるわけないじゃないか!」

 

 「誤魔化さないでください。オールマイト先生は私が捜査協力の際に提供した映像が私の見たものであるというのはご存じのはずです。この映像はあえて入れませんでした。それにデクくん?あんなに大きな声で爆豪くんに個性を貰ったって話してたし、そのあとオールマイト先生とも話してたよね?」

 

 決定的な一言。まさか私が聞いていたとは思わなかったらしくデクくんが絶望的な表情になる。オールマイト先生も笑顔が消えてシリアスな顔になった。なんか、私悪いことしてるみたい……二人にとっては悪いことなのか。ごめんなさい、だけどもうこれを抱えておくのは私には難しいんです。

 

 「そ、それは……!」

 

 「シット……!見てたのかい……!?」

 

 「ええ、見てました。そのあと校長室の前ですれ違いましたよね?プレゼントマイク先生の反応も変でしたし。USJで確信しました」

 

 「そう、なのか……」

 

 ここまでやってようやくオールマイト先生は誤魔化すのを諦めたみたいで、ぼふんと彼が座っていた場所に煙が立ち上る。煙が晴れるとそこにはさっきまでの筋骨隆々なオールマイトとは真逆のガリガリで、眼光だけがそのままな骸骨のような人がぶかぶかのスーツ姿で座っていた。

 

 「君は……いつから気付いてたんだい?」

 

 「戦闘訓練の時、オールマイト先生とデクくんの個性のエネルギーが同一なのに気づいたんです。何か関係あるのかなって思ってたら……下駄箱で」

 

 「そうか……どうしてこのタイミングで私たちに接触を?」

 

 「端的に言えば……心苦しかったからです。脅すような形になって申し訳ないんですけど……秘密が漏れているかもしれないって知ってほしくて。デクくんバスの時も思ったんだけど誤魔化すの下手すぎだよ」

 

 「うっ……」

 

 「緑谷少年……」

 

 「フォローしときますと動揺が酷かっただけで誤魔化しはまあ……」

 

 「そんなに下手だったかなぁ!?」

 

 「音声再生する?」

 

 「ヤメテクダサイ……」

 

 バスの中の動揺っぷりはひどかった。せめてその、笑いながら違うよくらいは言って良かったんじゃないかな。そしたら私は喉に釘が刺さった変な女で終われたのに……というかデクくんが一番気を付けないといけないのになんで私は気を張ってるんだ!盗み聞きした私が悪いんだった!ごめんなさい!自業自得じゃん……

 

 「一応聞いておくけど……誰にも言ってないよね?」

 

 「あの、言えると思います?平和の象徴の個性をクラスメイトが持ってるんだって。オールマイト先生が縮んだって……悪い冗談以下ですよ……」

 

 「だが君は証拠を持っていた。インターネットにばらまくような真似もしてないのだろう。その判断に感謝するよ……私が弱体化しているという噂が流れたら、ヴィランが活性化してしまう」

 

 「弱体化、ですか?失礼ですけどそのようにはとても……」

 

 「いや、私は弱くなっている。脳無と戦った時150発以上拳を叩き込む必要があったが、全盛期なら5発で終わっていた。とあるヴィランとの戦いで呼吸器官と消化器官の半分を失ってね。それ以来私の活動時間は衰える一方なんだ」

 

 そうだったの……?脳無を5発でノックアウト出来たという全盛期のすさまじさはともかくとして……体の中身まで勝手に見るのは気が引けてオールマイト先生が怪我の後遺症に苦しんでいるというのは気づけなかった。けど、USJの時動かなかったのには納得した。動かなかったんじゃなくて限界だったから動けなかったんだ。

 

 そこから私はオールマイト先生の事情を聴かされた。自分の後継を探しており、それがデクくんだということ。譲渡可能な個性、力を蓄え次代に繋ぐ「ワンフォーオール」……デクくんの中に今はあり、オールマイト先生はその残り火を使っている状態だということ。近くオールマイト先生は戦えなくなるかもしれないこと……どれもこれもが特大級のスキャンダルだ。こまった、秘密が増えてしまった……。

 

 「さて緑谷少年、色々しっちゃかめっちゃかになってしまったが……私からのお願いだ。体育祭……このビッグイベントにて……君が来た!ということを世の中に知らしめて欲しい!」

 

 「僕がきた……ということを……あのでも僕、ワンフォーオールをまだ全然……」

 

 「そうだね、君はまだスイッチのオンオフを知った状態だ。どうしよっか」

 

 「でも……デクくん脳無に使った時は折れてなかったよね?何か違いとかないかな?」

 

 「あ……!人に使おうとしたから?」

 

 どうやらオールマイト先生がデクくんを呼び出したのは自分の後継として世の中にアピールをしてほしいという話だったらしい。そこに私が突撃してきたせいでぐっちゃぐちゃになってしまったのだ。うんその、ごめんなさい。私が悪いんですぅ……。でもデクくんとオールマイト先生が師弟関係というのは羨ましい話かもしれない。だって平和の象徴のマンツーマン指導だよ?羨ましいなあ……ん?でも……

 

 「あのオールマイト先生、デクくんへの指導って週何回やってて、どういうトレーニングをしてるんですか?」

 

 率直に伝えた私の疑問に、平和の象徴は血を噴いて固まった。




 一人の女の子にずっとあれを秘密にしろは難しいし、原因が盗み聞きなら猶更ですよね。

 ところでオールマイト先生、デクくんに個性トレーニングの一つや二つ、付けてあげてもいいと思うんだ。次代の平和の象徴は勝手に生えてこないぞ

 というわけでデクくん特訓編開幕です。

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14話

 「あのオールマイト先生、こんなこと先生に言いたくはないんですけど……デクくんのこと大切じゃないんですか?」

 

 「ち、違うのだ楪少女!緑谷少年のことは大切に思っている!だがそれには深い事情が……」

 

 「事情って何ですか!?デクくんに個性を託したんでしょう!?発表するのは無理でも雄英に入った途端放置ですか!?デクくん個性で何回怪我してると思ってるんですか!そのうち体動かなくなっちゃいますよ!?」

 

 「あの、楪さん……僕は別に平気だから……」

 

 「デクくんも!貪欲に教えを請わないとダメだよ!?オールマイト先生の個性だよ?一番知ってるのはオールマイト先生なんだから、分からないことは聞かないと!殴るたび怪我してたら痛いでしょ?」

 

 「ハイ、その……ゴメンナサイ……」

 

 仮眠室に私の興奮した声が響く。まさか平和の象徴とその弟子にお説教じみたことを言わないといけないなんて物凄い恐れ多い。だけどデクくんが雄英に入ってからオールマイト先生に個人的なレッスンを受けてないというのは流石に看過しかねるんです。物凄い余計なお世話だろうけど、個性使うたびに大怪我して、リカバリーガールに直してもらって……そんなの痛いに決まってる。苦しいに決まってる。私みたいに換えは効かないんだから、自分を大切にしてほしいな。

 

 「……そもそもなんで個人的なレッスンをしなかったんですか?」

 

 「忙しかったとしか……」

 

 「……それはそうでしょうけど……例えば、個性のマニュアルを作るとかあったんじゃないですか?」

 

 「マニュアル?」

 

 「ええ、いわば説明書ですかね?オールマイト先生の個性の使い方を言語化して、整理するんです。いきなり渡されて使ってみろ!は難しいかと……ちなみにそのワンフォーオールの使い方はどういったものなんですか?」

 

 「うむ、ワンフォーオールの使い方はずばり……感覚だ!」

 

 「なるほど、デクくんが苦労するわけですね」

 

 「なんかアタリ強くない楪少女?」

 

 ヒーロー基礎学の授業の時からずっと思ってたけどやっと納得できた。オールマイト先生は超がつくほどの感覚派だ。自分の感覚で個性を使えてしまっているからいざ他の人にとなった時にうまく説明できない状態になっているんだと思う。端的に言えば天才というやつ、爆豪くんとかと一緒だね。

 

 デクくんは今まで無個性だったから、個性があるという感覚そのものを知らない。オールマイト先生の元の個性がどうなのかは知らない、あるいは無個性だったかもしれないんだけど……あれこれ結構ムリゲーというやつなのでは?感覚を説明するって非常に難しいし……デクくんとオールマイト先生が共通でわかるものを例に挙げないと無理な奴だ。

 

 「デクくんは、どうやって個性を使ってるのかな?スイッチの入れ方……私は回路に電気を通すイメージが一番近いかも」

 

 「僕は……今はオールマイトに言われた通りに、力を込めてスマッシュって……」

 

 「……ああ、だから0か100なんだ。調節の仕方が分からないんだね?オールマイト先生、一ついいですか?」

 

 「なにかな?緑谷少年にアドバイスをくれるなら実にありがたいが……」

 

 「オールマイト先生って、SMASHを打つ時、常に全力ですか?要は、個性を使う時……例えば人を巻き込むかもしれないから力を抑えようっていう場合……どうやって調節してるんです?」

 

 「……難しい質問だ。確かに常に全力ではないね。一時的に力む、といったらいいのかな……その力の入れ具合としか言えない」

 

 ああ、嚙み合ってない。デクくんは感覚派じゃなくて思考と試行回数、分析、解析……いろんな手段を用いて物事を努力し解決していくタイプだ。数学で言うなら証明問題でちゃんと途中式を全部書くタイプ。対してオールマイト先生は直感が物凄くすぐれている天才タイプ、証明問題で途中式無しにどんと答えを導き出せるんだ。そもそもタイプが違うから噛み合わずにうまく師弟関係を作れてない。

 

 さらにはデクくんはオールマイト先生の超超々大ファンだって聞いたし、憧れが大きすぎてよくわかってなくてもオールマイト先生が言ってるから正しい!と妄信して本来の持ち味である分析、解析を働かせてない。分からないです、と言えてないんだ。どうしよう、じゃあそのままで頑張りましょうなんて言えないし。

 

 「そろそろ授業が始まるだろう。私の用事は終わったし、緑谷少年も楪少女も体育祭、頑張るんだぞ」

 

 「オールマイト先生!今日はどのくらい活動時間が残ってますか!?」

 

 「……そうだね、残り10分あるかないかってところかな。それがどうかしたのかな?」

 

 「ならその時間!私に全部くれませんか!?授業の後、お時間を割いてほしいんです!そこでデクくんに個性の使い方を教えてあげてください!」

 

 「……なにか、考えがあるのかい?」

 

 「はいっ!オールマイト先生の感覚を、私が言葉にします!」

 

 

 

 ヒーロー基礎学を終えて、下校時刻。オールマイト先生に呼び出しを受けた、ということにして私とデクくんはオールマイト先生が抑えてくれた演習場にやってきた。既に体操服に着替えていて、オールマイト先生が来るのを待っていると、デクくんが話しかけてきた。

 

 「あの、楪さん」

 

 「ん、と……なに?デクくん」

 

 「その……どうして、そこまで協力してくれるのかなって、思って……」

 

 「あー……怪しいよね、ごめん」

 

 「いやいやいや!そうじゃなくて、その……楪さんには関係のない話のはずだから……」

 

 がっちゃんがっちゃんと音を立てて私がラジオ体操を繰り広げてるとデクくんは私が何で肩入れしているのか不思議になったみたいで、質問してきた。正直に言えば、罪悪感かな……だって、私が黙ってれば終わってた話だけど、私が抱えきれない弱い女だったせいで結局オールマイト先生の秘密を暴く形で知ってしまったんだから。けど、他に理由がないわけじゃない。

 

 「クラスメイトで、友達に協力してあげたいなって思うのっておかしいかな?」

 

 「そ、それだけ?」

 

 「それだけってひどいなあ。でももう一つあるよ、デクくんに自分を大切にしてほしいなって思ったから」

 

 「僕に……僕を大切にしてほしい?」

 

 「そう、何かあるたび怪我してさ。骨折っちゃって……見てる私が痛いくらい。私だって人のこと言えないけど、デクくんには換えがないんだから、羨ましいくらいだよ?生身の手があるのに自分でボロボロにしちゃうんだもん」

 

 しゃがんで、彼の両手を私の手で包む。私の機械の手にはない体温、正直羨ましい。私のこの機械の手では、誰かを暖めることはできない、同じ体温を共有することはできない。私にとって生身の体というのは自分にはないもので、ちょっとした憧れ。産まれた時から手足が機械で手を繋いだ時の感覚とか、そういうものを私は知らない。触ってることはわかるけど、結局それは機械の圧点のデータが脳に送られてるだけだから。生身同士で感じる感覚みたいなものは正直分からないんだ、私。

 

 「私も……USJで見たよね?手と足、必要なら犠牲にするよ。けど、それはまた元に戻せるからなの。でもデクくんは違うじゃない。あんな風に壊してたら、本当にヒーローになる前に手が動かなくなっちゃう。私はそれが嫌なんだ」

 

 「楪さん……」

 

 「せっかく暖かい生身の手があるんだもの。それなら、その手で誰かを助ける前に自分を助けないと。ヒーローが自分を大事にできないのに他人を大事にしてたら怖がられちゃう」

 

 ぎゅっとできるだけ優しくデクくんの手を握って立ち上がる。デクくんは自分の手を見て何か考えてるみたい。そうだそうだ、ちゃんと考えろよ若人~、なんてね。手を壊すのが常態化してきたら正直まずいし、そもそもそれを躊躇なく行えるのは正直頭ぶっ飛んでるよ。私ですら腕なくなるのちょっとイヤなのに。だから早めにおかしいってことを自覚させたい。訓練で腕ぶっ壊すな!初めて見た時炉心一瞬止まったんだぞ私!

 

 「おーい緑谷少年!楪少女!待たせてごめんね!」

 

 「オールマイト!」

 

 「オールマイト先生!すいません、無理を言って」

 

 「なに、楪少女の言うことももっともだよ。私はもっと緑谷少年に寄り添わねばいかんのだ。それで、ワンフォーオールの使い方の話だね?」

 

 「ええ、準備しますので少し待ってください」

 

 トゥルーフォーム、というらしいガリガリの姿でやってきたオールマイト先生に頷いた私は体操服の上のジャージを脱いで、裾を捲り上げてお腹を露出する。なんかデクくんが異常に慌ててるけど私のヒーロースーツはもっと露出してるでしょ?お腹くらいでそんな慌てられたらヒーロースーツの私はどうなっちゃうのさ。それはともかくとして

 

 私の腰後ろあたりからいくつかのメカアームが変形しながら現れて、数台のカメラと金属を重ねた積層材のようなメカの塊を生み出した。アームからそれを切り離した私はそれをせっせと配置する。今回は暴風が想定されるので演習場の地面に挿すタイプのカメラだ。最後に重さ1トンを超える金属塊をカメラの真ん中あたりに設置して準備完了。

 

 カメラは今回確実な動作をしてほしいので有線にした。設置するたびに有線コードを私の首後ろに直結して、とこれでよし!オールマイト先生に金属塊の前に立ってもらう。

 

 「準備完了です。オールマイト先生、先生は威力の調整ができるとお昼に仰ってたので、その機械に段階的に出力を上げたワンフォーオールの一撃を放って欲しいんです。私がそれをデジタルに解析します。まずは5%から」

 

 「なるほど、しかし硬そうだね。緑谷少年、よく見てなさい。ムンッ!」

 

 「はい!オールマイト!」

 

 オールマイト先生が力むと何時ものムキムキマッスルなオールマイト先生に変身した。これがただ力んだだけだというからよっぽど個性っぽいんだけどな……SMASHの掛け声とともにオールマイト先生の拳が金属塊に打ち込まれる。これで5%?すごいなワンフォーオール……積層材の表層にがっつり拳の跡が付いてる。なるほど、力み方はこういう感じね。

 

 「どうだい、楪少女」

 

 「はい、力の込め方が分かりました。あとワンフォーオールのエネルギーの流れもです。続けてください。10%を」

 

 右目の上にモノクル状のHUDを増設して適当なピンで右目を露出する。カメラの耐久値確認、もんだいなし。情報処理能力をフル稼働して起きた事象を解析する。拳の内から、練り上げられた力の流れを見る。ワンフォーオールはかなり観測しやすい個性だ。何せエネルギー量が大きすぎる。倍の威力のSMASH、積層材の1層目が死んだ。威力にして20トンはくだらない。そりゃこんな力を振るえば腕も壊れるよね……

 

 

 「では、100%全力でお願いします」

 

 「わかった。流石に危ないので少し離れてなさい……DETROIT……SMAAAASH!!!!」

 

 「わあああっ!?」

 

 オールマイト先生の100%の打撃、15%あたりから暴風が伴うようになってきたんだけど、必死にノートを取るデクくんと解析を続ける私は気にも留めなかった。だけどこれは違うや、吹っ飛ばされる。乙女の秘密の体重が300㎏を超える私がだよ?デクくんも吹っ飛びそうだったからとりあえず抱き寄せて私が踏ん張る。1mほど暴風に押されてようやくそれが収まる。積層材のパンチングマシーンが影も形もないや。けど、情報収集はおわった。うん、これならいけそう。

 

 「む、むむぐ……」

 

 「あ、ごめんねデクくん。抱っこしたままだった」

 

 「ぷ、ぷはあ!ゆ、楪さん!?」

 

 「どうしたの?顔真っ赤だよ?」

 

 「HAHAHA!青春してるねえ緑谷少年!どうかな楪少女、何かわかったかい?」

 

 「はい。色々と。ですけどそれを全部吹っ飛ばす収穫がありました」

 

 オールマイト先生のSMASHを解析しているうちにとてもとてもいい収穫があった。私にとってじゃなくてデクくんにとっての話。ワンフォーオールのエネルギー移動の話とか、力み方のデジタル的な話とか全部纏めてなかったことになっても余りあるほどの大収穫があったのだ。

 

 デクくんは私に抱っこされたのがよっぽど恥ずかしかったのか分からないけど真っ赤な状態でブツブツ言ってる。私は首元に繋がってる有線ケーブルを纏めてぶちぶちっと引っこ抜いて、デクくんの目の前で手を打ち合わせる。ガシャアン!という音で飛び上がってびっくりしたデクくんが正気に戻ったタイミングで二人に向き直った。

 

 「私、デクくんに100%を撃たせて怪我をさせない方法を見つけました」

 

 「えっ!?それほんとなの!?」

 

 「ブハァ!?楪少女それほんと!?」

 

 興奮すると吐血するらしいオールマイト先生と全く同じ反応をするデクくんを見ながら私はにっこり笑って口を開くのだった。




 これより原作主人公の強化を執り行う!よくよく考えれば手をぶっ壊して勝つってめっちゃ怖いっすね...

 デクくんには個性制御を早めに覚えてもらおうと思います

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15話

 デクくんにワンフォーオールの100%でのパンチを撃たせる方法を見つけた、そう言った私に二人はかなりのびっくり顔を披露してくれてる。デクくんは顎が外れんばかりにポカンとしてるし。オールマイト先生は凄い勢いで吐血してる。その、病院行かなくて大丈夫なのかな?心配になってくるんだけど……

 

 「その、楪さん……100%を打つ方法って……?」

 

 「うん、説明するね。まずなんだけど、デクくんとオールマイト先生、個性の発動の仕方全然違うの。多分ワンフォーオールって継承者によって変わっちゃう部分があるんじゃないかな?」

 

 「えっと、つまり?」

 

 「オールマイト先生だと、個性は体の中のみで完結してるの。デクくんの場合、ワンフォーオールの力?そのものが腕から漏れてる。内と外両方に作用してるんだ」

 

 私はゴリアテを着ていたことで強化されていた右目で解析してあった折れなかった時のデクくんのワンフォーオールのパンチと今見たオールマイト先生のSMASHを比べながらそう判断した。デクくんがワンフォーオールを使った時、緑色の電気のようなオーラと腕に浮き上がる赤っぽい力の流れが観測できた。これはオールマイト先生にはないものだ。オールマイト先生のエネルギー移動は体表に漏れだすことなく体内を移動し力として発動していた。

 

 ワンフォーオールのことを説明された時、極まった身体能力の結晶という話をされた。身体能力ということは体の頑丈さも含まれてるはずなのに、デクくんは大怪我をしている。それはなぜか?器としてまだ未熟だからエネルギーが外に漏れてるのか?あるいはまた別の理由か……そもそも、腕を振って衝撃波が出る威力の拳を撃って反動がないというのも変な話。反動がないんじゃなくて、反動をものともしない頑丈さをワンフォーオールは与えているんだ。

 

 それは体の中に作用する力で、きちんとデクくんにも作用している。じゃあなんでデクくんは大怪我するのっていうことなんだけど、外に漏れてる方のエネルギーのせい。これは威力を高めてると同時に反動も高めてるんだと思う。その反動が強烈すぎて、ワンフォーオールで頑丈になったはずのデクくんの体でも受け止めきれない。だから結果的に使ったら大怪我するんだ。

 

 「オールマイト先生は最初からワンフォーオールを自由に扱うことが出来た。だから、外に何も漏れなかった。でもデクくんは違う、その漏れたエネルギーがデクくんを傷つけると同時に、強力な威力の増加を招いてる」

 

 「じゃ、じゃあその漏れたエネルギーを何とかすれば……」

 

 「いや多分それは無理じゃないかな……?器として完成すれば別かもしれないけど、今この段階でそれしたらデクくん破裂すると思うよ?安全装置みたいなものだよ、それ」

 

 厄介なのが、ワンフォーオールという個性の性質、力を蓄えて次代に繋ぐ、つまり次代に繋がった状態の今デクくんのワンフォーオールはオールマイト先生のそれより強くなってる……んじゃないかな?エネルギーが漏れるというのがもし、収まりきらないエネルギーの有効利用みたいなものだったとすれば……蓋をした場合待ってるのは破裂だもの。エネルギーが漏れた状態のままで何とかしなければだめ、うん。

 

 「は、破裂!?オールマイトも未熟な状態で受け取れば四肢が爆散するって言ってたような……」

 

 「やっぱり」

 

 「なるほど、緑谷少年と私の違いか……確かに入試の映像や戦闘訓練の映像を見る限りそういう状態なのは理解できる。して楪少女、緑谷少年に100%を打たせる方法とは?」

 

 私の説明に納得してくれたオールマイト先生が口元に手を当てて記憶を思い出しながら肯定してくれた。私はそれに頷きながら、手を変形させる。デクくんのワンフォーオールで100%を打たせる方法、それは……

 

 「外骨格、です。デクくんはこの手覚えてるよね?」

 

 「あ、脳無と戦った時の……」

 

 「そう、デクくんの腕が折れる原因は跳ね返ってくる衝撃とエネルギーに耐えられないから。じゃあ、耐えられるものを身に着けて打てば、大丈夫」

 

 「サポートアイテムでの補助か!なるほど、私も一時期試したことはあるがあまり効果なくてね、盲点だったよ」

 

 「サポートアイテムを着けたオールマイト!?なんだそれ全然知らないぞ……!?くそ、どこで見落としたんだ……?」

 

 「わー、凄い早口」

 

 「緑谷少年……君のことなんだぞ……」

 

 腕部分だけゴリアテを纏った私がデクくんへの解決法、つまり衝撃とエネルギーを受け止めてくれるものを付ければ理論上100%のスマッシュを打つことができるはずなのだ。肝心要のデクくんはオールマイト先生がサポートアイテムを着けていた時期があると知ってスマートフォンとにらめっこしながらとんでもない早口でブツブツ呟いている。オールマイト先生はそれに若干呆れ気味だけど、好きなことに没頭できるのはいいことだと思うよ。私相手でよかったね、爆豪くんならキレて爆破されてたと思うよ多分。

 

 「それで……んしょっと」

 

 「わっ!?楪さん!?」

 

 「けーそくちゅーだから動かないで。うーん、と。ここ、こうして……強度的には、構造的にもこれがいいよねえ。はい完成!」

 

 「うわあ……凄いや楪さん。カッコいいねこれ」

 

 「でしょ~~」

 

 正気に戻すのもめんどくさかったので私は腕を元に戻してデクくんの後ろからもたれかかるようにして両手を緑谷くんの腕に重ねる。急に重くなったせいかびっくりしたのかひどく慌てるデクくんをほって意識を集中。するとそこから私が即興で設計&ビルドした細かい装甲が重ね合わさったような無骨な籠手がデクくんの肩から先を覆った。

 

 「名付けて……チョバムガントレット!というわけでデクくん一発スマッシュ!」

 

 「え!?ええっ!?流石に今からは少し……」

 

 「……だめなの?ほら、オールマイト先生が見てくれるうちにやった方がいいと思うよ?大丈夫、計算上は問題ないから!」

 

 「緑谷少年、仮に怪我をしたらこの路線はやめて別の方法を探ろう。希望が見えている以上やった方がいいとおじさんは思うな」

 

 「オールマイトはおじさんじゃないです!」

 

 そこじゃないんだけど……でも正直安心した。ここで二つ返事でやります!って言われてたら私は問答無用でリカバリーガールのメンタルヘルスにデクくんを突っ込んでいたところだ。あんなひどい折れ方、痛いに決まってる。自分の体の状態に頓着してないわけじゃなくてちょっと安心した、かな?まあやってもらわないと進まないからどのみちやってもらわないと困るんだけどさ。

 

 オールマイト先生のおじさん発言に慌てて訂正を入れたデクくん、大丈夫かな?怖くないかな……?ちょっと発破かけようかな……挑発に乗ってくれるといいんだけど……

 

 「正直私、デクくんがこのまま体育祭に行ってもいいと思うよ?怖いなら怖いでしょうがないし……ただ、今のデクくんがどう逆立ちしても私に勝てるビジョンはないもの」

 

 「うっ……」

 

 「デクくんの100%は脅威だけど、一発きりの大砲なんて攻略手段山ほどあるもん。現時点で私、10通りくらいデクくんを何もさせずに封殺する方法思いついてる。少しでもワンフォーオールが使えたら別だけど。今のままなら確実に何とでもできるって断言してあげる」

 

 「うん、そうだね……僕は弱いんだ」

 

 「あ、それは違うよデクくん。デクくんは弱くない、私が胸を張っていってあげる。あの時、脳無に向かっていったデクくんの勇気、無謀だったかもしれないけど……強い人じゃなきゃアレはできないから」

 

 いきなりおかしなことを言いだしたデクくんに私は否定の言葉を返す。弱いって何さ。弱かったらみんなを助ける為にヴィラン相手に飛び出せるわけないじゃない。私は物理的な強さってすごく曖昧なものだって思ってるの。だって、力があっても立ち向かえなければ意味がない、逃げてしまえば力があっても何もできない。心の強さこそ、本当の強さだって私は思ってる。

 

 「楪さん……」

 

 「わー、デクくん思ってたけど泣き虫さんだね。涙腺どうなってるの~?」

 

 どばぁ、とまるでコミックの表現のようにデクくんの両目から滝のように溢れる涙、そんなに私おかしいこと言ったかなあ?オールマイト先生はにっこにこで何も言わないし、しょうがないのでハンカチを取りだして優しく両目を拭いてあげるとそこでようやく覚悟が決まったらしいデクくんが口を開いた。

 

 「うん、やるよ。折角楪さんがここまで協力してくれたのに僕が怖気づいてたら意味ないもんね」

 

 「よし!それでこそだ緑谷少年!」

 

 「はいっ!じゃあいきます!スゥマァッッッシュ!!!!」

 

 デクくんが気合を込めて思いっきり殴るモーションを取ると、バリィと私の観測通りにチョバムガントレットの上から緑色の雷みたいなエネルギーが迸って、殴ると同時に開放される。さっきのオールマイト先生の100%並みの威力を持ったデクくんのパンチはすさまじい風圧を伴って演習場を駆け抜けていった。

 

 バリィ、ガラガラとデクくんの腕から破損したチョバムガントレットが外れて落ちる。その下の手は……無傷。よし!計算通り!この状態からデクくんのワンフォーオールを調節可能にする下準備が出来たとみていいはず!たぶん!何せ私も譲渡可能な個性の使い方を考えるなんてやったことないからぶっちゃけ手探りだ!

 

 「あ、あの楪さん!こ、これ……!」

 

 「あ、ガントレット?大丈夫計算通りだよ。それ、壊れるように作ってるから。それよりもほら、腕……折れてないでしょ?」

 

 「ほ、ホントだ……!痛くない!」

 

 「やったな緑谷少年!ワンフォーオールを全力で放てる機会が増えるということは力み方のパターンを試せるということだ!調整に一歩近づいたぞ!」

 

 チョバムガントレットは、壊れることで衝撃を吸収し中身を守る構造になっている。というのもさっきのオールマイト先生のデモンストレーションで私が今作り出せる物質ではワンフォーオールを耐えきれないということが分かっていたからだ。なので、使い捨てと割り切り中身を守ることだけに専念したガントレットを作ったというわけ。喜んでる所悪いんだけど……

 

 「まあ、私がずっと協力するっていう前提の話ですけどね~」

 

 「「え」」

 

 「あの、楪少女?協力してくれる、ヨネ?」

 

 喜ぶ二人に水を差す形になってしまった私のつぶやきにびしりと二人が固まる。オールマイト先生がつんつんと指と指を突っつきながら非常に申し訳なさそうに聞いてくるんだけど、私も私で事情があるんですよ。それこそ体育祭が近いというやつが。

 

 「協力するのは吝かじゃないんですけど……私も体育祭に向けて準備がしたいんです。デクくんのワンフォーオールの特訓にずっと付き合ってあげられる時間も場所もないわけですし……」

 

 「あ、そうだよね。みんな体育祭頑張りたいに決まってるんだ……僕だけのために楪さんの時間を消費するのも……」

 

 「ふむ……確かに正論だ。ならばこうしよう楪少女!雄英ではないが、私が個人的に使っている演習場を、体育祭まで授業後私の名で貸切る!そして、私も時間があれば君の特訓に付き合おうじゃないか!必要なら他の生徒を連れてきても構わないよ!トゥルーフォームの時は申し訳ないけど私のことは管理人で通して欲しいが……どうかな?」

 

 「それは……よろしいのですか?」

 

 すごいな、言ってみるもの、という言葉があるけどまさにそれだ。実際私も体育祭ではかなり本腰を入れて頑張りたいので個性が使える広い場所を探していた。雄英の演習場には限りがあるし取り合いになるので望むべくもなかったけど、オールマイト先生が持っている演習場を使えるというのは物凄い魅力的な響きだ。まあ元からこのまま放置なんてする気は一切なかったけど、棚から牡丹餅かも。

 

 「そこまで言っていただけるのなら、協力させてもらいますけど……いいんですか?贔屓とかそういうの」

 

 「まァ……そういうやっかみはあるかもね。だけど、緑谷少年は私の弟子なんだから多少は贔屓したって許されるはずだ。世間一般に公表できないから、こういうところでは師匠面をさせて欲しいな」

 

 「お、オールマイトォ……」

 

 「わー、また泣いちゃって……デクくん水分補給しなよ?脱水症状出ちゃう」

 

 大丈夫なんですか?という私の問いにオールマイト先生はぽりぽりと痩せた手でガリガリの頬を掻いて、デクくんの頭にポンと手を置いた。直接弟子、と言われたことがそんなに嬉しかったのかデクくんはまた滝のような滂沱の涙を流して喜んでいる。いいな、デクくん。№1ヒーローがお師匠様なんて、でもそれだけその身にかかる期待と重圧は重い物だと思うから、少しでも早く背負えるように私も手伝うことにしよう。もしも、許されるのならその重荷を少し分けてもらえたらなと私はまた考えて、今度はタオルでデクくんの顔を拭ってあげるのだった。




 解決法はやっぱこれですよね。OFAについては少し独自解釈入ってるのはお許しください。内側で爆竹が爆発したようにって原作で表現されてますけど、ガントレッドとかを付けて壊れないなら多分外からの力じゃないかなって思いますし。中からならガントレッドつけても、というかガントレッド付けたら圧力の逃げ場がなくて多分もっとひどいことになる。

 豆知識 楪ちゃんがことあるごとに人に抱き着いたりして止めるのは抵抗が一気になくなって楽なのと自分の体で包み込めば盾になるからです。邪な思いは一切ありません。

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16話

 「希械ちゃん一緒に帰ろ~」

 

 「あ、ごめんね。今日は用事があるの」

 

 「またか?最近お前ぇ忙しすぎだろ。今度はなんだ?サポート科か?オールマイトか?」

 

 「うーん、どっちも違くて。特訓?」

 

 「「特訓?」」

 

 デクくんのワンフォーオールを怪我させずに打たせる方法を発見した翌日の事、ヒーロー基礎学を終えて帰宅時間になった私に一緒に帰ろうと誘ってくれる三奈ちゃんとえーくんにまた手を合わせてごめんなさいする。ここから毎日夕方はデクくんのワンフォーオールの特訓をすることになってるんだ。あとついでに私が構想中の新兵器その他もろもろの特訓も!体育祭に向けてplus ultraしなきゃいけないし。脳無にかなわなかったゴリアテをバージョン2にもしたいし。

 

 「えっと、ね?デクくんの個性あるでしょ?私が協力すれば骨折無しで撃てることが分かったの。だから、威力の調整の練習でこれから毎日デクくんと個性のトレーニングするの」

 

 「なにそれ緑谷ずっこい!」

 

 「え、ええっ!?いやまあ確かに楪さんに協力させてるのはその……」

 

 「ず~~る~~い~~!!あたしも希械ちゃんと特訓する~~~!」

 

 デクくんと特訓するんだぁと私が告げた瞬間三奈ちゃんは脱兎のごとくデクくんの席まで走って机をバン!と叩き抗議する。その音に飛び上がったデクくんがあたふたしてブツブツ言ってるけど、それよりも三奈ちゃんだ。戻ってきて私に抱き着いてかまって~~~とお願いしてくる三奈ちゃん。確かに最近はあんまり一緒にいないもんね。よしよし、と抱きしめて頭を撫でてあげて、と。

 

 「じゃあ、一緒に特訓する?デクくんも、いいよね?」

 

 「あ、希械それ俺も入っていいか?体育祭ちけぇし」

 

 「うん、いいよ。いこっか」

 

 「勿論だよ!切島君と芦戸さんに聞きたいこともあるし……」

 

 「べっつに今聞いたっていんだぜ緑谷。クラスメイトだしよ」

 

 オールマイト先生に他の人を連れてきても構わないっていう話もされてるので二人を連れて行っても大丈夫なはずだ。二人の参加を決定したところでデクくんは特訓するんだといつも一緒に帰ってる飯田くんと麗日さんに謝ってるけど二人はむしろ応援モードだ。二人とも今日は別の用事があるっていう話で不参加だけど時間があったら参加させて欲しいっていうし、今後は人数増えそうだなあ。

 

 オールマイト先生が持ってる演習場、雄英から結構近いし……オールマイト先生もしかして雄英の出身なのかな?本拠地は東京だけどこっちにも家あるって言ってたし……もしかして今はそこに住んでるのかも。やった~~と背中に抱き着く三奈ちゃんをおんぶして私はえーくんとデクくんと一緒に学校を出るのだった。

 

 「そういえば特訓てどこでするんだ?」

 

 「オールマイト先生が個人的に持ってる演習場を貸してくれるらしいの」

 

 「「オールマイトの演習場っ!?」」

 

 「声が大きいよ!秘密だよ?」

 

 演習場までの道すがら、行き先が気になったらしいえーくんが三奈ちゃんをおんぶ状態で歩く私に尋ねる。素直にオールマイト先生から借りたんだよ~と言えばそれは驚くよね。流石は平和の象徴、名前のビッグさでは他の追随を許さない有名人だ。二人はオールマイト先生が使っている場所と聞いて俄然ワクワクしている様子。だけどやっぱり気になるのは……

 

 「なあ、どうしてそこ貸してもらえたんだ?オールマイトってそういう贔屓みたいなの嫌いそうじゃねぇか」

 

 「んー、端的に言えばデクくんがあまりにもヤバいからかな」

 

 「あ~~……」

 

 「確かに緑谷、いろんな意味でヤバいかも」

 

 「ヤバいってなに!?いや確かに遅れてるって意味ではヤバいかもしれないけど……」

 

 「いやだってよ。訓練で腕ぶっ壊したり、USJでも指個性で折ってたじゃねえか。ありゃ流石にヤベえってなるって。良かったじゃねえか緑谷、オールマイトは個人をちゃんと見ててくれたってことだよ」

 

 なんでオールマイト先生が演習場を貸してくれたのかっていう言い訳、それはデクくんの個性の発動の仕方に危機感を感じて、解決手段があるなら早急に身に着けたほうがいいと判断したから、という理由になる。簡単に言えばテレビに映る行事で骨折カーニバルを開催されたらコンプラ的にもやばいし学校的にもやばい、じゃあ特訓するしかないよね?っていう理由だ。さっきからヤバいがゲシュタルト崩壊しそう。

 

 すとん、と三奈ちゃんが背中から降りて私は猫背だった背中を伸ばした。にしし~と笑う三奈ちゃんに緑谷くんはたじたじだ。三奈ちゃんは距離近いもんねえ、えーくんも最初のころはタジタジだったよ。雄英に入る前のえーくんはちょっぴり内気だったからね、でも困った人は見捨てなかったしいじめも率先して割って入って解決してた。根本は全く変わってないんだけど。

 

 「お~~、おっきい~」

 

 「希械ちゃん最近それよく言うようになったよね」

 

 「うん、皆が私をおっきいっていう理由が分かったよ。ポロっと出ちゃうね」

 

 「確かにでけえなぁ。雄英にあるのとそんな変わんねえんじゃねえの?」

 

 「お、来たね少年少女!」

 

 「オールマイト!?」

 

 「HAHAHA!実は今日は非番でね!少しだけ様子を見に来たってわけさ!」

 

 雄英のグラウンドくらい大きな演習場、郊外にあるから人家の距離も結構離れてるぽつんとした演習場から、私たちが来た事を察したらしいマッスルフォームのオールマイト先生が出てきた。彼の今のマッスルフォームの維持時間は2時間ほど、活動時間は1時間と15分らしい。この後用事があるから管理人とバトンタッチするけどねと笑っているから、今日の活動時間を使い切り、マッスルフォームの時間も残りわずかなんだろう。

 

 「あ、それと楪少女、これここの鍵ね。体育祭終わったらかえして頂戴な。緑谷少年もハイ」

 

 「見たこともないオールマイトキーホルダーだ……!」

 

 「そこ気にするんだデクくん……お借りします」

 

 「いいなー」

 

 「HAHAHA!メインで使うのはこの二人だからね!使いたかったらこの二人と一緒にくるんだぞ!着替える場所はあそこだ!鍵はかかるから安心したまえ!」

 

 頑丈そうな金属製の高い塀で囲まれてる演習場の機密扉を開けたオールマイト先生が私たちを中に入れてくれる。中には、更衣室と思われるプレハブ小屋と、ただ広いだけの演習場があった。正直十分すぎるんだけど、個性を自由に使っていい場所というのはもんのすごく貴重なの。だって危険だから。遠慮会釈なしに個性を使えるなら大丈夫、必要なものは私が作っちゃえばいいので!便利でしょ~。

 

 

 

 「じゃあ、さっそく始めようかデクくん。はい、手だして~」

 

 「う、うん」

 

 「緑谷少年、君のパワーは非常に有用だが抑え方に難がある。少し力を抜いてみるイメージを持つといい。USJで使った時の感覚を思い出すんだ」

 

 「はいっ!スマァッッシュ!!!」

 

 「うおおお緑谷やべええええ!?」

 

 「やっぱパワーあるねえ!」

 

 プレハブ小屋は一室しかないのでえーくんは女子は中で着替えろよっていってデクくんと一緒に外で着替えてくれた。私は三奈ちゃんと一緒に中で着替えて荷物を置いて雄英のジャージ姿で演習場にコンニチハする。オールマイト先生が最初の一発だけは見てくれるというのでデクくんの手にチョバムガントレットを装着、デクくんはもう自損しないのを知ってるので躊躇なく空に向かってアッパーをぶちかました。右目のデータを見ると、昨日よりもちょっと抑え気味。

 

 「うん、デクくん昨日より抑えられてるよ。100%が98%くらいになってるだけだけど……」

 

 「み、道は遠いね……」

 

 「やっぱりデクくんの個性発動のイメージを捉えないとだめかなあ。出来れば出力が調整出来て自分で分かりやすいもの……」

 

 「僕のイメージ、何があるんだろうでも今のやり方だとまずいし言う通り何かかんがえないとえーと」

 

 「でた、緑谷ブツブツ」

 

 バラバラになったガントレットを金属製の熊手を作って一塊にしながら右目のデータと合わせてデクくんに伝える。ワンフォーオールは上限がかなり大きいので僅かな出力の低下が威力を格段に減らす結果につながる。簡単に言えばとても分かりやすいのだ。あとは数を打って試行回数を増やし、その中でデクくんにイメージを掴んでもらうしかない。

 

 「うむ、では私はこれから用事があるので失礼するよ。管理人がいるから彼によろしくね」

 

 「あ、オールマイト先生!帰る前に一つお願いいいですか!?」

 

 「うん、何かな切島少年!サインかな!?」

 

 「サインも欲しいっすけど!俺を一発殴ってほしいんス!」

 

 「バイオレンス!何か理由があるのかい?」

 

 「今の俺の硬さがどれだけのものなのか、知りてぇんすよ。いざ前に出た時防御力が足りねぇなんて男らしくないんで、上を知りたいんス」

 

 ガツン、と硬化した手を打ち合わせながらえーくんはそんなことを言った。えーくん、カッコいいな。私の全力パンチをものをもしない時点で十分にすごいことだと思うんだけど……いっちゃなんだけど私そこらの重機くらいには馬力あるんだよ?メカだから。あ、でも戦闘形態でのパンチは試してないかも……

 

 「ふむ、そういうことならいいだろう。構えなさい切島少年」

 

 「ウッス!ありがとうございます!」

 

 そう言ってえーくんは全身を硬化して防御の構えに入る。いくよ、と声をかけたオールマイト先生が力を込めた拳をぶつける。えーくんは地面を抉りながら後ろに押されて塀に背中をぶつけてようやく止まった。肩で息をするえーくんに駆け寄って無事を確かめる。

 

 「ぐぅ……って~~!全然耐えられねえ、やっぱすげえわオールマイト先生!」

 

 「HAHAHA!だが今のを無傷でしのぐとはすばらしい硬さだ切島少年!正直私の拳もヒリヒリしてるよ……ではな少年少女!頑張りなさいよ!」

 

 目をキラキラさせてオールマイト先生を褒めるえーくんを褒め返したオールマイト先生はぐっとサムズアップした後大ジャンプをして去っていってしまった。えーくんは今ので頗るやる気が迸ったみたいでよしやるぞオラアアア!と叫んでいる。三奈ちゃんは私も頑張る!とふんすと鼻息荒く準備運動を始めた。

 

 「オールマイト先生、全く本気じゃなかったけどあの威力……デクくんと何が違うんだろうな……」

 

 「緑谷のパワーもやべえけどやっぱオールマイト先生の年季が違わなあ。緑谷は個性使いまくって調整の練習か?」

 

 「うん、楪さんが大変になっちゃうけど……」

 

 「いーよー。何かイメージを探すことを優先して打ってみよ?スイッチ、レバー、電化製品でも何でもイメージしやすいものを」

 

 「うーん、あたしのイメージってなんだろう?……手汗?なんか汚くてヤダー!あっ!手洗いだ!多分!」

 

 「俺が多分一番緑谷とちけーんじゃねえかな。ホレ、俺これ腕力んでるだけなんだぜ?」

 

 「そっか!切島君がかなり僕と近いんだ!ごめんだけど詳しく話聞いてもいいかな!?」

 

 「おお、いいぜ!」

 

 ガキンと片腕だけ硬化した状態の手をデクくんに見せて自分の個性の発動のイメージを語るえーくんに食いついたデクくんが矢継ぎ早に質問していくのを見ながら、私はがらがらと音を立ててチョバムガントレットを量産していく。三奈ちゃんがみてみて~と言うのでそっちに目を向けるとぶおんぶおんとトーマスフレアを決める三奈ちゃんの姿が!そういえばダンスが趣味なんだったね、凄いパワフル……

 

 「じゃあ、デクくんはひたすらスマッシュしまくってイメージのきっかけをつかもっか」

 

 「うん!頑張るよ!ありがとう楪さん!」

 

 「俺は……どうすっかな。希械さ、何時もみたいに俺殴ってくれね?」

 

 「いいけど~そしたら三奈ちゃんなにする?」

 

 「うぇ~~あたしだけ仲間外れにしないでよ~寂しいじゃーん」

 

 「あー、んならあれだな!組手!授業でやったやつ3人でやろうぜ!緑谷も疲れたら混ざって来いよ!」

 

 「うん!ありがと切島君!スマァッッシュ!!!」

 

 演習場の隅に私が作った台車の上に山積みになったチョバムガントレットと一緒に移動したデクくんはそこでひたすらスマッシュを上に向かって打ち始める。一発ごとにばらばらになるチョバムガントレットを見つめつつも口はブツブツと何かを呟いていて一発ごとに自分の中でイメージを固めつつあるみたい。

 

 私とえーくん、三奈ちゃんはそのまま3人で授業で習いだした近接格闘術の訓練を始める。これがなかなか面白くて、投げ方によっては私だって投げ飛ばされたりするのだ。体育祭の例年の目玉であるトーナメント式のガチバトル。それは個性ありの対人戦なのでこういう練習も超大事、私たちは日が暮れるまで、特訓に明け暮れるのだった。




 特訓パート。原作では数を打てずに制御に苦労していたOFAですが、この作品では材料さえあれば無限にガントレットを量産できる便利なメカむちむち少女がいるので試行回数を増やせます。便利。

 次回にもう一回特訓挟んで体育祭いきます。

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17話

 「今日の特訓は二人とも来るの~?デクくんは引き続き頑張ろうね」

 

 「うん!今日もよろしくね、楪さん」

 

 「当然!次こそは希械のハンマーを止めてやるよ!」

 

 「あたしもー!仲間外れは寂しいよー!」

 

 「4人とも、何のお話をしてるのかしら?」

 

 「あ、梅雨ちゃん」

 

 デクくんの特訓二日目、今日の特訓にくるの?と二人に聞いたら当然行く!というお返事が。まあ当たり前だよね、昨日の進捗としてはデクくんのワンフォーオールの発動速度が速くなるという結果に終わった。本題の威力の調節は95%までで止まってしまったけど、なんと今日デクくんに朝聞いたらイメージを見つけたって聞いたからちょっと楽しみなんだ!

 

 そんな話を4人でしてるとこのメンバーで固まってるのが珍しいのか口元に指を当てた梅雨ちゃんが会話に入って来た。実は、演習場を借り切ってデクくんの個性の特訓してるんだ。ついでに私とかの個性の特訓もしてるの、という話をすると。梅雨ちゃんは遠慮がちに手をツンツンとしながら

 

 「あの、それって私もお邪魔したらダメかしら……?」

 

 「来てくれるなら全然大丈夫だよ~。お家とかに連絡しなくて大丈夫?」

 

 「ちょっと確認してみるわね」

 

 「すまない、昨日聞いて気になってはいたんだが……俺たちも参加していいだろうか?」

 

 「私も!参加させて欲しいですっ!」

 

 「あ、飯田くんに麗日さん。いいよいいよ~おいで~」

 

 飯田くんに麗日さんも参加だね~。家族に確認し終わったらしい梅雨ちゃんがホクホク顔で大丈夫だったわ、と戻ってきたので今日はまた増えたなあ、と思いつつもドアを開けて出ようとすると……なんかめっちゃ人がいる!?え?なにこれ……外に出れない、と困惑していると同じ状況らしい後ろ側のドアを開けた峰田くんが

 

 「んだよこれ!?外出れねえじゃん!」

 

 「敵情視察だろザコ。意味ねえからどけモブども」

 

 「あの、人の事モブっていうのよくない……」

 

 「ああん!?」

 

 「ひっ!?」

 

 「希械ちゃん爆豪みたいなタイプに弱いよね。よしよし怖かったね~」

 

 教室の外にいたのは別クラスであろう人達の山で、廊下一杯に埋め尽くされるほどの数が集まっていた。爆豪くんは前から思ってたけど人の事モブって言っちゃダメって注意したんだけどあまりにも怖すぎて結局尻すぼみになってしまい、さらに睨みつけられて私は三奈ちゃんに慰められる始末、情けない。うう、爆豪くん怖すぎない?目の吊り上がり方がえげつないよぉ……

 

 「ヒーロー科にいるやつってみんなこんななのかい?ちょっと幻滅しちゃうなあ。知ってる?体育祭のリザルトの話。結果によっては……ヒーロー科編入も検討してくれるって話を」

 

 「知ってるわんなもん。んだけど今この時点で入試の時のてめぇとどれだけ違う?体育祭で下克上できんなら最初っからヒーロー科におるわクソ隈野郎」

 

 「っ……悪いけど、宣戦布告しに来たんだよ。調子乗ってると足元掬っちゃうぞ……ってさ」

 

 な、なんて大胆不敵な宣戦布告を……それに眉を動かさずに答える爆豪くんも豪胆だなあ……でも確かに爆豪くんの言うことにも一理ある。入試は確かに戦闘できる個性が有利なのは間違いないんだけど、例えば葉隠さんとかがいい例で、ただ透明なだけでも素手でメカは破壊できたし、何なら人助けという隠れた手段もあった。入学からひと月立たないこの時点でヒーロー科に編入できるポテンシャルがあるなら、最初からヒーロー科にいるハズなんだ。

 

 失礼ながら、大胆不敵な彼を右目で捉えると……うん、あまり運動能力は高くないと思う。多分、このクラスの誰よりも体は鍛えられてはいない。だけどこんなに自信があるのだとするならば何かあるはず、例えば個性とか。使えば問答無用で相手をどうにかできる個性だからここまで余裕なのかも……?

 

 「おいおいおいおい!隣のB組のもんだけどよぉ!ヴィランと戦ったつーからちっと話しようかと思ったら随分調子乗ってるじゃねーか!本番で恥ずかしいことになんぞ!」

 

 「ちょ!希械ちゃん急にどうしたの?」

 

 「……さっきから聞いてたら、なんで私たちが調子に乗ってるだなんて決めつけてるの?力不足を痛感したばっかりなんだよ、私たち」

 

 「お、おお……!?」

 

 2連続で調子づいてるなんて言われたら流石に私としても言いたいことがある。調子に乗ってる?とんでもないよ。外から見たらヴィラン相手に誰も欠けることなく生き残った優秀なクラスに見えるかもしれない。でも、私は全力を尽くしても勝てなかったし、デクくんは怪我をした。他の人たちもヴィラン相手に大なり小なり戦って、思うところはみんなある。プロの世界を間近でみて、今の自分がどれだけ足りないかを頭を殴られた衝撃くらい、ガツンと知ったんだ。

 

 近づいて、B組の男子生徒を見下ろす。いきなり私が出てきて見下ろされたもんだからB組の人は少し引き気味だ。私は確かに引っ込み思案であんまり自己主張が得意じゃないけど……言うべきことは言わないといけないというのはよくわかってるつもり。だから、彼にも言いたいことを言わせてもらう。

 

 「調子に乗ってないよ、私たち全員。私たちはヴィラン相手に生き残って、自分の力のなさを知った。ヴィランの怖さを知った。だから、強くなる。体育祭に向けてみんな必死にやってるよ。あなたも、そうじゃないの?」

 

 「確かに、そうだ。悪ぃ、廊下で聞こえた言葉でついカッとなっちまった。すまん!謝らせてくれ!体育祭じゃお互い正々堂々力比べしようぜ!」

 

 「うん、私も強い言葉使っちゃってごめんね」

 

 B組の人は勢い良く頭を下げて、帰っていった。何となくえーくんと同じ感じの性格っぽかったからちゃんと話せば伝わるんじゃないかなって思ったし、その通りだった。爆豪くんは舌打ち一つして帰っちゃったけど、どうも普通科や他の人たちにも火を付けちゃったみたいで敵情視察らしい人たちはまばらに解散してしまった。

 

 「楪ちゃん、かっこよかったわよ」

 

 「……私大分調子に乗ったこと言ったんじゃないかな……?」

 

 「さっき調子に乗ってねーって言ってたろ希械。言いてーこと言ってくれてすっきりしたぜ俺は」

 

 「違うの……みんなをバカにされた気がしてつい……」

 

 全部終えた後で私は自分がとんでもない宣戦布告を逆にし返したんじゃないかと思い至り、顔が真っ赤になった後真っ青になるというムーヴをかましてえーくんに泣きついた。慰めてくれる梅雨ちゃんとえーくんがあったかいよぉ……他のみんなも私を慰めてくれるし、みんないい人だ……。特訓頑張らないと……。

 

 

 

 「おお~~!ひろーい!」

 

 「僕、ごほん。俺が思いっきり走っても問題ない広さだな……流石はオールマイトの演習場……!」

 

 「飯田ちゃんはインゲニウムの使っているところを使えたりしないのかしら?」

 

 「それは流石にフェアじゃないだろう」

 

 「そう?使えるものは何でも使っていいのよ。それも含めて実力だって、相澤先生なら言うわ」

 

 ところ変わってオールマイト先生の演習場、ここに来るのは昨日ぶりだけどやっぱり広い、それは飯田くんに麗日さんも同じ感想なわけで、両手を広げて海だー!みたいにやってる麗日さんと感心しきりの飯田くんの対比がちょっと面白いかもしれない。それはともかくとして、これを聞かなきゃ始まらないや。

 

 「それで、デクくんが固めたイメージってなにかな?」

 

 「あ、うん。その、電子レンジに入れた卵……なんだ」

 

 「……なるほど?電子レンジが個性で、卵がデクくん?」

 

 「うん!そう!だから、卵が爆発しないイメージ!」

 

 で、デクくんって感性が独特なのかな?それとも家にある電子レンジで思いついたのをそのままイメージしてきちゃったのかなあ?そんなわけで私は電子レンジを作ってゴトンと地面に落とす。卵はないけれど実物があればより分かりやすくなるはずなのだ。腕にコンセントの穴を作ってそこに電子レンジのケーブルを繋ぐ。

 

 「電子レンジだと、一番わかりやすいのはワット数を減らすことだよね。デクくんのイメージの電子レンジ、どんな感じ?私が作ったこれであってる?」

 

 「うん、こんな感じだよ。出力を減らすってことは……」

 

 「この摘まみ、ちょっと古い型にしたんだけどスイッチ操作よりわかりやすいかなって思って。個性を使う時に、この摘まみを思いっきり弱い方に入れるイメージでどうかな?」

 

 「うん、やってみるよ」

 

 「そうそう、その調子だよ。じゃあ頑張ろうね!みんなー!デクくんが使うから注意してねー!」

 

 演習場の片隅で、しゃがみ込んだ私とデクくんがイメージについてあーでもないこーでもないと話しながら相談を済ませる。昨日と同じでチョバムガントレットをデクくんに装着した私はHUDを右目に増設して全力解析でイメージを固めたデクくんを観察。スマッシュの気合の雄たけびと共に放たれた一撃は、かなりいいセンをついていたようで、私は喜んで飛びあがる。

 

 「デクくんデクくん!凄いよ!昨日と全然違う!40%!大幅削減だよ!このまま行けばすぐに怪我しないレベルに持っていけるよ!」

 

 「うん!今のは僕もかなり手応え感じたよ!これで行けるのなら……あとは……」

 

 「あ、ブツブツ始まった。あとは試行回数だね!ガントレット置いておくから足りなくなったら言ってね」

 

 昨日は95%までしか下げられなかったのに昨日の今日で40%まで一気に減った。やはりイメージを掴むのはかなり大事なようだ。というのも私の個性も設計図とかそういうのをきちんと覚えて何を作るかイメージしないと変なものができるからね。メモリのおかげで設計図とかは詳細に覚えられるからあんまり気にしてないんだけど。よそ事に気を取られると愉快なオブジェができる。GANRIKINEKOが出来た時はどうしようかと思ったよ。

 

 「おーい希械。今日はアレやってくれ。次のステップに行きてぇ」

 

 「ホントにやるの?ハンマーで叩いてほしいだなんて」

 

 「おう!オールマイトのアレ食らった後だと俺ももっと頑張らねえとッて思うんだよ!」

 

 「うーん、そもそも私えーくんをぶつのも嫌なんだけど……」

 

 「何するん?」

 

 「えーくんの個性の特訓。見てれば分かるよ」

 

 そして私はグレートメイスを作り出して構える。通常形態だから戦闘形態ほど威力はないけど全力パンチよりは威力あるよ?上半身を脱いだえーくんに相対した私が思いっきり横に振りかぶってえーくんにメイスをぶつける。全身硬化したえーくんにぶつけるとすさまじい音がして火花と一緒にえーくんが地面を擦って吹っ飛ぶ。10mくらい吹っ飛んでようやく止まった。

 

 「ぶはっっ!どうだ!行けるじゃねえか俺!」

 

 「切島ちゃん、凄いわね。希械ちゃんといつもこんなことしてるのかしら?」

 

 「うん、えーくんの個性って打たれれば打たれただけ硬くなっていくの。今までは木刀とか、鎖とか、私が叩いてたんだけどついには私に満足できなくなったみたいで……」

 

 「切島君、最低や」

 

 「なんでだよ!いい方が悪いだろいまのは!」

 

 「???何の話?」

 

 「希械ちゃんはそのままでいてねー?」

 

 「????」

 

 なんだかよくわからないけどえーくんがめっちゃ責められてる。えーくん何も悪くないのに。それはともかくとして、えーくんが遂に私のパンチを越えて武器の領域に足を踏み入れ始めちゃった。カチカチや~と硬化したえーくんをぺしぺし叩いて遊んでる麗日さんが癒しなんだけど、これ体育祭でえーくんに当たったらヤバいんじゃないかな?本当に戦闘形態で全力パンチすることになりそうで怖いと、私は若干戦々恐々としつつ特訓に精を出すのだった。

 

 翌日以降も、八百万さんや耳郎さんをはじめとした人たちが特訓の話を聞きつけて参加していき、いつの間にかクラスの半数がオールマイト先生の特訓場に集まって各々個性の特訓に励むようになっていた。ヒーロー基礎学の復習も兼ねた反省会も開かれるようになって益々みんな盛り上がっていた。そんな中、デクくんのワンフォーオール制御特訓もかなりいいとこまで行き、1週間でかなり集中する必要はあれども体が壊れない上限、5%でワンフォーオールを使えるようになってしまったのだ。凄いなデクくん、個性初めてってほんとかな?

 

 そして2週間で制御能力はかなり上がったと思う。連続して別の部位に発動することができるようになり、チョバムガントレットなしでも手が折れるようなことはなくなった。初めて成功した時は涙の圧で地面に足が埋まるほど泣いてたんだよねデクくん。それがあまりにもヤバくて私珍しくおろおろして久しぶりに変なオブジェを作っちゃったよ。

 

 2週間はあっという間に過ぎて、雄英体育祭の日がやってくるのだった。

 




 次回から体育祭を始めます。デクくんがどれだけ強くなったかはお楽しみに!

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18話

 「緑谷、お前……オールマイトに目かけられてるよな」

 

 「轟くん……?」

 

 「別にそこ詮索するつもりはねェが……お前には勝つぞ」

 

 体育祭の控室、開会式を間近に控えて飯田くんが全員に準備は終わったか尋ねていると、深呼吸したデクくんに近づいた轟くんがいきなり、デクくんに向かってそう言ったのだ。私はエネルギー補給のために頬張ってたおにぎりを咥えた態勢のまま固まってしまったけど、どうやら言われたデクくんも思うところはあった様子で

 

 「皆……他の科の人も本気で取り組んでるんだ……言われるまでもないよ、轟くん。僕も本気で勝ちに行く」

 

 「……おお」

 

 喉に詰まりそうだったおにぎりを何とか飲み下してバチバチに変な空気にならないか心配してた胸をなでおろす。体育祭前に変な空気になるのはちょっとごめんかな……そう思ってると今度は私の方にやってくる轟くん。ちょっと待って今私おにぎり頬張っててめっちゃかっこ悪いから!30秒待って!ごっくんするから!

 

 「楪、お前もだ。今度は負けねぇ」

 

 「う、うん……もうちょっとタイミングとかない?」

 

 「なんか問題あったか?」

 

 ないと言えばないんだけど、私の口の中がいっぱいな問題とかがあったんだ。クラスのみんなからの生暖かい視線がいろんな意味で恥ずかしい。ええい、やけ食いして誤魔化そう……え?もう出番?そんな……私の3合おにぎり……。

 

 

 『雄英体育祭1年ステージぃ!入場行進だぜエヴィバディ!どーせ目的はこいつらだろ!?ヴィランの襲撃をしのいだ超新星!1年A組だろぉ!?』

 

 「ま、マイク先生そんな他のクラスにケンカ売るような紹介しないでよぉ……」

 

 「な、なぁ?なんか緊張するぜ爆豪……」

 

 「しねぇよ。ただただアガるわ」

 

 確かに私たちには話題になるものがあるというのは理解するけど、この体育祭は学校行事なので一クラスだけに肩入れするような紹介はやめて欲しいんだよプレゼントマイク先生……ひぃ……!他クラスからの視線が怖い……あと客席からちらほらとうお、でかい子だな、とか。パワーありそうでいいな、指名入れてみるかとか私に向かっての声が聞こえる。ひぃ、でかすぎて悪目立ちしてるよ私……!

 

 「では!選手宣誓!選手代表!1-A爆豪勝己!」

 

 他のクラスと一緒になって入場した私たちが中央で整列すると今年の体育祭の1年ステージを担当するらしいとんでもない薄い煽情的なヒーロースーツを身にまとった先生、18禁ヒーロー、ミッドナイト先生が選手宣誓を宣言して爆豪くんを指名した。あれ?爆豪くん宣誓の練習してるの見たことないけど大丈夫なのかな……?

 

 「爆豪なのか、あいつ入試1位だったしなぁ」

 

 「ヒーロー科の、入試な」

 

 爆豪くんが壇上に上がる時に吐き捨てるように言われてポケットに手を入れて壇上まで上がる。その時にぽろっとでた瀬呂くんの言葉に目ざとく反応した隣の普通科の人の言葉が妙に引っかかった。何でこんなに敵意むき出しなんだろう、別に私たち貴方たちに何かやったわけじゃないよね?爆豪くんのことは別にしても。なんだか気分悪いぞ……。

 

 「せんせー、俺が一位になる」

 

 「やると思った!」

 

 「かっちゃん……」

 

 「ふざけんなA組コラぁ!」

 

 「ヘドロヤロー!」

 

 「せめて跳ねのいい踏み台になってくれや」

 

 訂正、これなら嫌われるのもしょうがないよね。とても納得できました、私はこの1年きっと別クラスのお友達は出来ないんだろうなあ、くすん。なーんで爆豪くんは自分から嫌われるようなことしちゃうかなあ!私たちまで巻き込んでもう!しらないよどうなっても!むー、これはちょっとこまったぞ。首を掻っ切るジェスチャーをして列に戻った爆豪くんとついでに私たちに強烈なヘイトが向いてるのを感じる。

 

 「では早速第一種目よ!それはこれ!障害物競走!」

 

 きょ、競争!?どうしよう私そんなに早くない!いやその、早くする手段は沢山あるんだけど大体周りに場所がないと無理だよ!この人数で密着して競争するのはとっても不利だ!こ、こまった倍にこまった!うーん、あ!いいこと思いついた!

 

 「ルールは単純!このスタジアムの外周4kmを走って先着順で決めるわ!当然わが校の売り文句の自由さを存分に発揮して、コースを守れば何したってかまわない!」

 

 その言葉に私は、にんまりと笑った。コースさえ守ればルール違反がないというのは私にとって物凄く有難いルールだからだ。何してもいいということは、手段の豊富さが売りの私の独壇場……と言いたいところなんだけどこの種目と出来れば次の種目までは順位を抑えたい、んだよね。ただでさえ目立つ私がさらに目立てば対策を取られちゃうかもしれない。今回と次回は出来れば情報収集に徹したいかな。

 

 位置につきまくりなさい、というミッドナイト先生のお言葉で、皆が正面のゲートに我先に殺到する中私は逆に最後尾に向かって逆走する。正直やる気がないらしい他の普通科の奇異の視線に少しだけ顔を隠して恥ずかしく思いつつも狙い通りの場所、最後尾から少し先に着くことが出来た。

 

 『スターートォ!!!」

 

 わぁっ!と我先に入り口に殺到する1年生たち、A組のみんなはあっという間に消えちゃった。それに対して私は、動かない。というか動けない。レースとはいえ強引に特攻できなくもないんだけど、まず間違いなく誰かにけがをさせてしまう。なので密集地点は出来るだけ避けてみんながいなくなった時に一気にごぼう抜きする予定。

 

 『おーっと注目の1-A楪ぁ!!動かないぞどういうことだぁ!』

 

 「もう、マイク先生も視野が広いんだな……もういいや。ホバーバイク、形成開始(レディ)

 

 私の下半身が変形して宙に浮き続ける流線型のバイクのような乗り物を作り出した。これはホバーバイク、I・アイランドというところで最近発見された反重力発生装置の理論を組み込んで私が作り出した空を飛ぶバイク、の試作品である。当然サポートアイテムの許可は取ってないし私には取れないので私専用です。足と切り離してそれに乗った私、アクセルを捻ってホバーバイクを加速させてゲートに突っ込んだ。

 

 おそらく轟くんあたりに凍らせられたであろう足が凍り付いて進めない人たちの上空を飛んで、なんかドンパチ聞こえるエリアに到着する。目の前にあるのは……うわー、懐かしい。入試の時の大型ロボットが沢山!どんだけお金かけてるんだろう、というかお金ありすぎじゃないかな?

 

 『あーーーっ!そのバイクイカすな楪!今度の授業で乗せてくれよ!動かなかったのは場所を確保するためか!』

 

 『マイク、私情を入れるな。楪の強みは豊富な手段と圧倒的な科学力。そして、入試のロボ・インフェルノを木っ端微塵にした一人だ。障害が障害にならんぞ』

 

 あ、相澤先生いるんだ……?解説?それはその、ぜったいマイク先生が引き込んだに違いない。だって相澤先生こういうの自分からやるわけがないって短い付き合いでもよくわかるもん。普通なら多分だけど、寝袋にくるまって寝てたんじゃないかな……?それはともかく、私はホバーバイクについてる機銃を連射して、ロボ・インフェルノを穴だらけにするけど……流石に数が多いし、他の人も危ないし……消し飛ばしちゃおうかな。入試の時みたいに。

 

 「ギガランチャー、形成開始(レディ)

 

 相澤先生に個性発動の邪魔になるので、と入れさせてもらったジャージの背中のファスナーを下ろす。背中から出たメカアームが巨大な2丁のバズーカに変わり、ホバーバイクを手放し運転した私がそれを両手に背負う。さらにメカアームは背中で大きな弾倉を形成してそこから伸びたベルトリンクがバズーカにつながる。ギガランチャー、端的に言えばベルト給弾式ロケット砲弾発射装置。その威力は押して知るべし、毎分100発のロケット弾のカーニバルなのだ。弾頭は破砕しないで燃焼して溶ける仕様になってるから爆発しても破片手榴弾みたいにはならない。

 

 『うおおおおおっ!?楪やり過ぎだろぉ!?』

 

 『よく見ろマイク、当ててるのはロボ・インフェルノの上部だけだ、下に被害がいかないようにしている。爆発半径を完全に知っていないと不可能な行為、自分で武器を作る楪ならではの策だ』

 

 ひょえ、なんか相澤先生がめっちゃ褒めてくれる嬉しい。それはともかく、絨毯爆撃で目の前のロボットを粉砕した私はそのままギガランチャーを投げ捨て、空っぽの弾倉を誰もいないところに放り捨ててホバーバイクを唸らせる。上空10mほどを人の足よりも速く進むホバーバイクのおかげで第二の障害、マイク先生の説明曰く、ザ・フォールにたどり着いた……んだけど……

 

 「これ、今の私意味ないよね……」

 

 空を飛んでる私には全く関係ない。どうやって掘ったんだろうと思えるほど深い円状の谷の中に足場とロープが張り巡らされているけど今の私はホバーバイクで地上から浮いている状態、これ便利だな。通常の移動手段として候補に入れてもいいかも。少なくともメガ・ブースターで墜落するよりはまし。膝が悪くなるよ……私の膝は機械だけど、太ももまでは生身だからちょっと考えた方がいいのかなあ?

 

 みんながロープに苦戦する中私は悠々と一直線に横切ってザ・フォールを抜ける。先頭集団が見えてきたかな……狙いは10位から20位の間。上位何組が上に行くっていうのは聞いてないんだけど流石に30人くらいは上に進むことができるだろうというやつだ。

 

 『さあラストの障害!怒りのアフガン!一面の地雷原だぁぁぁ!!!』

 

 「じ、地雷!?流石にこれじゃ安定性に欠けるし……!そうだ!プーマバギー!形成開始(レディ)!」

 

 地雷と相対するにはホバーバイクだと不安だ。というのもこのバイクは反重力を使って浮いているので早い話が麗日さんの個性を使っているような状態、まともに攻撃や爆風に当たるとひっくり返ったりするかもしれないんだ!だから私は誰もいない地面に突っ込んで再変形、どんな悪辣な地面でも進めてさらに横転にも備えたバギー、プーマバギーに変える。当然これも無許可!武装は機銃と連装ミサイル!使わないけど!

 

 ブルゥゥロロロォォン!と甲高いエンジン音をあげると同時に、私がいる前で大爆発が起こった、咄嗟に右目を出して爆発の先を見ると……デクくんだ!地雷を集めて大爆発させて……さらに使えるようになったワンフォーオールの5%で空中を蹴って加速させて、転がり込むように一番にスタジアムに戻った!

 

 『誰が予想したぁ!今一番にスタジアムに帰ってきた男!緑谷出久の存在をぉ!』

 

 「すごいや、デクくん。本当に勝ち取ったね……!負けられないけど!」

 

 クラッチを放してフルスロットル。アフガンを一文字に突っ切る。みんなは誰かが通った後があって地雷が少ないエリアを選んでるけど私には関係ない。地雷原のど真ん中に突っ込んで、爆発で時折浮きながらもバギーをフルスロットルで動かし、誰かを轢かないように激しくハンドル操作をしながら怒りのアフガンを突っ切る。

 

 『最後尾からごぼう抜きィィィ!1-A楪希械!インテリジェンスを見せて9着でゴールだぁ!!!!』

 

 『周りを気にしすぎるきらいがあるが、そのくらいがちょうどいい個性かもしれん。何にせよ、個性の使い方はうまい方だ……が、危険な運転は厳禁、あとで説教だ』

 

 「そ、そんなあ……!だから最後まで残って巻き込まないように頑張ったのに……!」

 

 「だーくっそギリギリ負けたか……希械おめー、後続爆発でビビりまくって一瞬止まったぞ」

 

 「……素直にお説教受けます。ごめんなさい……」

 

 私の後ろでゴールしたらしいえーくんにずびしと運転席の上からチョップを貰って反省の弁を述べることにします。あ、先生これどこに置いたらいい?え?セメントス先生乗りたいの?いいですけど……はい、キーです。クラッチ重いんで気を付けてふあっ!?何という運転スキル!?すごい、ドリフトで別のゲートから出ていっちゃった……。

 

 それはそうと、ぐいっと立ち上がって背中のファスナーを閉じる。これでよし、ギガランチャー作った時から開けっ放しで背中丸見えだったもんね。うわ、峰田くんが八百万さんの背中に引っ付いて入って来た。これはわかるよ、サイテーだ。もう、しょうがないなあ峰田くんは。

 

 「みーねーたくーん。今すぐ離れるのと私が引きはがすのどっちがいい?」

 

 「いや、俺がやった方が早い」

 

 「いぎゃぎゃぎゃ頭潰れる!潰れるから!離れるからやめうぎゃああああああっ!?」

 

 「あ、楪さん切島さん……ありがとうございます……」

 

 よっぽど不快だったのかぷんぷんと怒ってる八百万さん、私が選択肢を与えたんだけどそれよりも早くえーくんが手を硬化させて峰田くんをアイアンクロー、あまりの痛さに峰田くんは悲鳴を上げて八百万さんから離れた。その隙に私は金属板を作って八百万さんの周りに突き立てる。簡易的な更衣室の完成。天井作って中に電球付けて、よし。

 

 「八百万さん、もぎもぎ引っ付いただろうし着替えちゃいなよ。周りに見えないようにしたからね、服は作れるでしょ?」

 

 「はい!ありがとうございます楪さん、何から何まで……」

 

 「お友達だもん、ライバルでもこういうことはさせて欲しいな」

 

 「はいっ!」

 

 簡易更衣室の中からの元気なお返事に、ぷりぷりとしてる可愛い八百万さんを想像してしまって、私も笑顔になってしまうのだった。




 元ネタ解説
 ホバーバイク&プーマバギー
 ラチェット&クランク4より。ガラメカ系はロマンと面白さが詰まってるのでちょくちょく出ると思います
 ギガランチャー
 ガンダム種運命のドムトルーパー正式採用型のウィザードより。毎分100発でバズーカ撃ってくるのは頭おかしいと思う

 多作品武器が本格的に出始めるのでタグにクロスオーバーを追加します

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19話

 「ようやく全員戻ってきたわね!予選通過は上位42人よ!落ちちゃった人も見せ場は残ってるから安心ね!」

 

 『喜べマスメディア!こっからが本選!お前らごのみの番狂わせオンパレードだぜぇ!』

 

 全員が戻ってきて、ミッドナイト先生が通過者の人数を発表する。それ以外の人たちは終わったなどと言いながらため息をついて退出してそれぞれクラスに用意された席まで行くために競技場を出ていく。上位42人はヒーロー科で……いや違う。青山くんが43位で脱落だ。お腹を押さえながらとぼとぼと出ていく青山くんを見送って私たちはミッドナイト先生に向き直る。

 

 「本選の競技はこれ!騎馬戦よ!」

 

 「騎馬戦……あれ?個人競技じゃないんだ」

 

 「はいそこオダマリ!参加者は二人から四人のチームを組んでもらうわ!それで騎馬を作って頂戴!基本の騎馬戦とルールは一緒!ただし個性使用は自由!そして予選の順位に応じた持ちポイントがチームの合計点になる!ポイントの取り合いよ!」

 

 ミッドナイト先生がビシッと鞭を鳴らすと後ろの投影画面に騎馬戦の文字が表示される。なるほど騎馬戦……また私不利だよお!だってさ!だってさ!いろんな意味で大きい私のこの大きさだとまともに騎馬組めない!かといって上になんてなれるわけない!潰れるの必至!ふ、ふぐううう!こうなったら誰かをおんぶして私が全部やれば……!それじゃあ相方の子が可愛そう……あれ?私終わった?そんなあ……

 

 「わ、楪さんどうしたん!?急にふにゃふにゃになって……」

 

 「私……終わったかも……」

 

 「え、ええ!?」

 

 ぐんにゃぁ~とその場に折りたたむように崩れ落ちる私を心配したお茶子ちゃんに弱音を漏らす。こ、このままでは誰も騎馬を組んでくれないかもしれない……!ノー!それだけは絶対にノー!仲間外れになって戦えもしないだなんて情けない真似できないよ!ふわ~っと心配して思わず触ってしまったらしいお茶子ちゃんの個性で浮く私、すぐに降ろしてくれたけど……

 

 「そして1位の子に与えられるポイントは……1000万よ!」

 

 「あ、これデクくんヤバいやつだ」

 

 「上位の奴ほど狙われちゃう……下克上サバイバルよ!」

 

 サーーッと絶望的な顔でだらだらと冷や汗を流すデクくんとそれを見つめる私含めた参加者全員、これ実質1位の奪い合いだぁ……デクくんと目が合う……悲痛なくらいいっぱいに飽和した涙が浮かぶ目に書いてあるのは「助けて」の文字。私は微笑んで……目を逸らした。デクくんが驚愕する空気が伝わってくる。うん、私も組んであげても大丈夫だと思うんだけど……むしろ私でいいのだろうか?バランス酷いけど……

 

 「あぅ……あぅ……どうしよ」

 

 「ねぇ」

 

 「あ、はい!?」

 

 声をかけられたので返事をして振り返る。そこにいたのは確か宣戦布告をしに来た普通科の人……?なんだか頭に靄がかかったような感じがする。意識が落ちる、瞬間に脳内にバチンと衝撃が走って元に戻った。……?あれ?どうして意識が急に落ちそうになった時のセーフティーが働いたんだろう?頭を振って向き直る。

 

 「……??なにかな?」

 

 「っ!?いや、アンタじゃない。悪かったね」 

 

 「えっ!?ええ~~~!?」

 

 普通科の人は何かに驚くような雰囲気を出したけどプイっと顔を背けて別の場所に行ってしまった。もう!なんなの~~!あっ!?ちゃんと騎馬組まなきゃ!えっと!誰かいないか~~~!?

 

 「おい!クソメカ女!組め!」

 

 「ば、爆豪くん!?私でいいの!?」

 

 「何度も言わせんな!クソ髪のご指名だバァカ!俺の爆発に揺るがねえ騎馬がいるんだよ!」

 

 あたふたしてるとどうしたもんかどうしたもんかと焦りまくった私に後ろから爆発的なボイスが、片手をパチパチ言わせながら私に声をかけたのはなんとなんと爆豪くん。一番声をかけてこないと思ってた人なのであまりに驚いてしまった。後ろにはグッと親指を立てるえーくんと三奈ちゃんの姿が!ふ、ふたりとも……!

 

 「ケッ!当然俺が騎手だぁ。文句あるか!後は好きにやれ!」

 

 「あ、ありがとう3人とも~~~!私頑張るよ~~!」

 

 「ま、このメンバーなら一番互いの事知ってるからな!一番やりやすいだろ!」

 

 「希械ちゃんかなり強いからね~~!爆豪が上なら勝ち確定だよ!」

 

 「あたりめえだろ!俺が目指すのは完膚なきまでの1位だ!足引っ張ったらぶっ殺してやるからな!」

 

 き、騎馬が組めた!持つべきものはやっぱり幼馴染と親友とクラスの爆発才能マン!……語呂がちょっと悪いけど割と完璧な布陣だと思う。基本的に爆豪くんは接近戦、一部中距離戦でかなりの実力がある、と思う。戦闘訓練の様子を見る限り好みなのは接近戦だ、なら私たちがそうできるように調整すればいい。

 

 「とりあえず俺が前だな!どう組む?」

 

 「私、背が高いから背中から別のアーム出して両手フリーにするよ。遠距離攻撃は私が防ぐから」

 

 「私はトラップかな!酸で地面を転ばない程度に滑りやすくすればチャンス出るよね!」

 

 「勝手にしろ!んだけど……まずは1000万取ってからだ」

 

 「15分経過よ!騎馬を組みなさい!」

 

 ミッドナイト先生の宣言で私たちは騎馬を組み始める。前がえーくん、右後ろが三奈ちゃん。左後ろが私。私は背の関係上騎馬がいびつになってしまうので二人の身長に会わせた位置にアームを増設してそれで騎馬を組んだ。ついでにそこから金属製の鐙も作って爆豪くんが踏ん張りやすいように努める。私の両手はフリー、銃器を腕に作って遠距離攻撃への防御を行う予定だ。あと万が一爆豪くんのフォローが必要になった時のために開けといたほうがよさそう。

 

 「爆豪くん調整必要なら今言って!すぐ対応するから!」

 

 「左もっと下げろ、んで踵部分に角度つけやがれ」

 

 「ん、これでいい?」

 

 「赤点だクソメカ女」

 

 「……これ合格ってことでいいんだよね?」

 

 「爆豪ツンデレ~」

 

 「るっせえてめえらから死にてえか!」

 

 爆豪くんの言葉を理解するのはちょっと大変だけど、指示は割と的確に改善点を指摘してくれるのでかなり頼りになりそうだ。騎馬戦開始のカウントダウンが始まる。ちょっと緊張して来たけど、大丈夫。なぜならえーくんと三奈ちゃんの二人がいるから。この3人チームなら私たちは……無敵だ。

 

 「スターート!!!」

 

 「クソメカ女!クソデクの動き止めろ!」

 

 「楪って呼んでよぉ……」

 

 開幕から飛んだ指示にすぐに対応する。スタングレネードを体内で製造して腕に発射口を設置、ポンッ!ポンッ!と若干間抜けな音を立てて発射されたスタングレネードがデクくんどころか全ての騎馬の周りに転がって、炸裂する。一瞬の閃光、それに完璧に対応したのは私が発射してすぐ狙いが自分だと気づいたデクくん、常闇くん、発目さん、麗日さんの騎馬、轟くん、ものを見て創造を始めた八百万さん、飯田くん、上鳴くんの二つの騎馬だけ。そして爆豪くんは、腕から爆破を発して空を飛び、デクくんに襲い掛かった!

 

 「死ねえクソデクゥ!んなっ!?」

 

 「防げ!ダークシャドウ!」

 

 「やっぱり楪さんの万能性は八百万さんと並んで脅威……!早く離れないと!」

 

 デクくんの前騎馬にいる常闇くんのお腹から出てきた黒い闇の塊みたいな生き物が、爆豪くんの攻撃を防いだ。私はワイヤーを発射して爆豪くんに巻き付けて巻き戻し、騎馬の上に戻す。あれはありなのかと文句が出るがミッドナイト先生はテクニカルだからありとの声。じゃあもうちょっと踏み込んでも大丈夫そうかな……?

 

 「んだありゃ……!」

 

 「……常闇くんの個性、もう一人敵が増えたと思った方がいいかも。あの騎馬の誰よりも手強い……」

 

 「関係ねえ!取りに行くだけだ!」

 

 「単純なんだよ、A組っ!?」

 

 「……私いるのに後ろからとりに来てよかったの?」

 

 三奈ちゃんの横からかすめ取る様に爆豪くんのハチマキに手を伸ばしたB組の人の手首を掴んで止める。途中で空気が固まった壁みたいなものがあったから力を強めてたたき壊した。当然掴む力はかなり力加減に気を付けたけど。確かに爆豪くんはデクくんで頭がいっぱいかもしれないけど、下の騎馬の私たちはそうでもない。少なくとも、爆豪くんがハチマキを守り切れば上位に行けるからね。

 

 「ぐっ!放しなよ!見た目通り随分と力が強いね、まるでゴリラだ!」

 

 「おい!てめえ!それは」

 

 「いいよ、放してあげる」

 

 カッチーンときた。B組の人の余りの言い草にちょっと、私は怒った。言うに事欠いてゴリラって!みてよ私の手機械じゃん!あんなに毛深くないもん!三奈ちゃんもえーくんも私がそう言われたのが腹に据えかねたらしく言い返してくれるけど私が怒ってるのを察して黙った。私は肩から腕を自切してその人を解放する。自切した手はその子の手についたままだ。手の部分はサークル状に変形して手錠のようになり、そのB組の人は片手に70㎏を超えるおもりを付ける形になった。

 

 「ほら、放したよ?爆豪くん……取りやすいでしょ?」

 

 「ああ、よくやったメカ女ぁ!」

 

 「楪だってば!」

 

 自分のハチマキを取ろうとした、というのがかなり怒りポイントだったらしい爆豪くんは特徴的な三白眼をさらに釣り上げてヒートアップする。私たちの上から飛んだ爆豪くんは途中の空気の壁を全て爆破でたたき割って、挑発してきたB組の男の子は死ねえといういつもの爆豪くんの叫びと共にポイントが入った鉢巻を全てぶんどられる。今一度ワイヤーで回収した爆豪くんの目の先にあるのは……デクくんだけだ。

 

 「全員、飛ぶよ!上鳴くんから放電が来る!」

 

 「爆豪!掴まってろよ!」

 

 「希械ちゃんおねがいっ!」

 

 「指図すんじゃねえ!」

 

 右目からのデータで高電圧の気配がある。ここで固められたら厄介だ、私は増えたアームで全員をひっつかんで持ちあげる。さらに足にジェットエンジンを増設してジャンプと同時にブーストして空中に浮かんだ。意外なことに爆豪くんが爆発でバランスを取ってアシストしてくれる。その隙にとろうとしてくる人もいるけど甘い、噴射熱が邪魔になって近づけないからだ。そして、上鳴くんの電撃が来た。

 

 「このままタイムアップまで耐えるって方法もあるぜ爆豪!?」

 

 「クソ下らねえ冗談はやめろクソ髪!俺がとるのは完膚なきまでの一位だ!」

 

 「だって、希械ちゃん」

 

 「じゃ、取りに行こう!」

 

 「だから指図するんじゃねえ!」

 

 既に時間は3分の1を切ってしまった。マイク先生のちょっとだけやかましい実況を頭の隅に追いやってどうやったらこの状況からデクくんが持ってる1000万を奪えるか思案する。言うまでもないけど、私と一緒に特訓したワンフォーオール、たとえそれが一瞬でもどの部位で使ってくるかわからない以上迂闊に近寄れない。麗日さんのゼログラビティも常闇くんのダークシャドウも、そして発目さんのサポートアイテムも厄介だ。何をしてくるかが分からない。

 

 「悪いが、あとは引かねえ。他は我慢しろ」

 

 「しまっ!?着地を!」

 

 やられた。轟くんは私たちが電撃を避けることは予想してたんだ。避けた上で、氷結を打ってきた。私とえーくんはすぐに足の氷結を砕いたけど、パワー型じゃない三奈ちゃんはそうはいかない。凍り付いてしまった足を動かせずにいる。酸で氷を溶かさなきゃまずい。強引に砕いたら三奈ちゃんの足も大変なことになる。それを理解してるのか爆豪くんは無茶なことは言わずに歯ぎしりだけして待ちの体勢に入った。

 

 『あーーっっと残り1分にしてぇ!轟氷結でサシの状態を作ったぁ!!』

 

 「ごめん溶けた!どうする!?」

 

 「時間がねえ!おいクソ髪!あのクソ氷突っ込んで割れるよなあ!?」

 

 「当然!3人でやるぞ!希械、芦戸!」

 

 「まっかせて~!酸で道を作る!」

 

 「私が推進力っ!」

 

 「俺が!破壊力ぅ!」

 

 時間がないので、突貫作業だけど!足が自由になった三奈ちゃんが名誉挽回とばかりに前方のフィールドを酸で溶かして滑りやすくしてくれる。私はそこで背中にバーニアを作って点火し、轟くんが作った氷結に向かって一直線に加速して突っ込む。えーくんは全身を硬化して推進力をそのまま破壊力に転換して氷結に突っ込む。爆豪くんはまた意外にも突入のタイミングに合わせて両手で爆破を放っていきすぎないように勢いを殺しつつ氷結を破砕してくれる。

 

 『あ~!ここで爆豪チーム!氷結ぶっ壊して侵入だあ!』

 

 「クソデク!1000万よこしやがれ!」

 

 「違う!爆豪くん1000万は轟くんが!」

 

 電光掲示板をチラ見するとポイントが変動している。両手にワンフォーオールを纏ったデクくんとデクくんに飛びかかろうとして途中で爆破で向きを変えた爆豪くんが同時に空中で轟くんに飛びかかる。八百万さんが創造しようとした何かを私は腕を変形させた機関銃で潰した。この攻防で終わりだ、どうなる!?

 

 『しゅ~~~~りょ~~~~!!!!1位は轟チーーーーム!!!』

 

 ……!やられた。爆豪くんが轟くんに目を奪われた瞬間に、デクくんは標的を爆豪くんに変更して、ハチマキを一つ奪っていった。爆豪くんはそれに気づいて片手で防御しながらも、轟くんが持ってたハチマキの内二つをもぎ取った。だけど轟くんの方が一枚上手で、1000万は一番下に隠されており、爆豪くんの手は今一歩届かなかったのだ。

 

 クソが、という爆豪くんが地面を殴りつける音を聞きながらも、2位通過ということを知った私たち3人は、笑って頷くのであった。あ、B組の人につけた手を回収しないと




 ちょっと柔らか爆豪くん。次回トーナメントはガッツリと変えますのでお楽しみに
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20話

 「午後の応援合戦だけどよ、みんなあの格好でチアリーダーするらしいぜ」

 

 「……そうなんだ?私の入る服あるかな?」

 

 「いや楪さ、こいつらの言ってることあっさり信じすぎでしょ」

 

 騎馬戦が終わってお昼休憩、さすがに今日は体力を温存したかったのでお弁当はなし。おにぎりはおかあさんが握ってくれたものだけど。そんなわけでなんと今日は女子全員で集まって女子会的なお昼を楽しんでいるのだ。私のお盆の上に載った特大のかつ丼が目を引くかもしれないけど、今回は私、恥を捨ててるのでがっつり食べます!例年通りならここからガチバトルがあるはずなので!

 

 実は初体験の学食なんだよね。オールマイト先生に突撃した時はお昼食べ損ねたし。午後の基礎学大変だったなあ……パクっとスプーンでかつ丼を食べてみると、すっごい美味しい!流石はランチラッシュ!災害現場での炊き出しが主な活動だけど、逆にその料理が食べたいと被災者以外まで集まっちゃうだけあるなあ。それはそうと、上鳴くんと峰田くんの言葉、本当かな?

 

 「まー信じるも信じねえも自由だけどよ、相澤先生の言伝だからな」

 

 「オイラたちも飯食うからこれでな~」

 

 「……相澤先生からの連絡なんだ?」

 

 「じゃ、じゃあチアやらないとダメなん?」

 

 「えー!ヤダよウチ!」

 

 「いーじゃん!おもしろそー!私透明だから目立てるの好き!」

 

 「チア服ないのかな?ヤオモモだせる?あれ」

 

 「え、ええ。出せはしますけど……」

 

 「ケロ、しょうがないわね。学校行事だもの」

 

 上鳴くんと峰田くんが生真面目な顔で手短に応援合戦はチアの服でという相澤先生の言伝を伝えてくれる。伝えてきたのがこの二人だというのがいまいち信用できないんだけど、相澤先生だったらたまたま通りがかった二人に言伝を頼む可能性は十分にある。さらには峰田くんが一切セクハラじみたことをしないで去っていったのが情報の信ぴょう性を高めてるし……着なきゃだめなのかぁ。チア

 

 「私、手足機械だからあんまりこういう場で出したくないんだ……誰も見てうれしくないと思うんだけど……」

 

 「その発育の大敗北があってその言い草は看過できないんじゃよ希械ちゃん!」

 

 「ひゃっ!?も、揉まないで……」

 

 「ほんと……すごいよね……」

 

 な、なんか耳郎さんの顔というか目が怖い!?ち、違うんです手足という生身と一緒に成長していく部分がない私の体は何故かそこを成長させただけなんです!あれ?そう考えたらこれって贅肉なのかな……?だ、ダイエットしなきゃ!明日から!私は半分平らげた特大カツ丼を見ながらそう決意するのだった。

 

 

 

 『ヘイ1-A組ィ!!!なんだそのサービスはぁ!!!』

 

 「上鳴くんと峰田くん!騙したんだね!きらい!」

 

 「上鳴さんに峰田さん!騙したのですね!!」

 

 「うわ、希械ちゃんからきらいって言葉がでた。しばらく口聞いてもらえないねあの二人」

 

 お昼休憩を終えた私たちは応援合戦のためにチア服に着替えて競技場に戻ってきた。けど、全員でポンポン持って並んだタイミングで騙されたことを知った。折角八百万さんがわざわざ創造でチア服出して、着替えて、それでやらなきゃダメなのッて言いながら出てきたらこれだよ!もう私体育祭の間二人と口きかないから!もう!

 

 「デッッ!?」

 

 「でっっっか」

 

 「キタコレ」

 

 『ヘイ観客ぅ!うちの生徒を邪な目でみるのは厳禁だぜぇ!!』

 

 ほら~~、ヒーロースーツなら必要だから別に出してていいんだけど、必要じゃないならこんな大きいもの出しててもしょうがないんだよ!変に悪目立ちしちゃうし注目だって集めちゃう!は、恥ずかし~~!恥は捨てたっていうけどこの類の恥はまだ持ってないといけないやつだと思うの!

 

 「どうしてあの二人の策略にまんまと騙されてしまいますの私……!」

 

 「アホだろあいつら……そこまでしてみたいの?」

 

 「まあ本選まで時間開いちゃうし……いいんじゃないやったろ!?」

 

 「透ちゃん好きね」

 

 葉隠さんと三奈ちゃんは割と乗り気みたい。私はぽんぽんで顔を隠しつつ小さくふりふりと動かすしかできない。みんなやるから恥ずかしくないと思ってたけどそれが私たちだけなら恥ずかしさを忘れるなんて無理だよ!う、う~~~!!

 

 「や、やったろうじゃないの!」

 

 「お、希械ちゃんがヤケクソだ」

 

 「むおおおお~~~!!」

 

 色々メーターが振り切れた私は葉隠さんと三奈ちゃんに習って大きく手を振りながら観客の前に飛び出すのだった。あっ!?下着のホックが……!跳ねすぎたぁ……!

 

 

 

 

 

 「わ、忘れてください……」

 

 「無理やねえ」

 

 「無理ですわ」

 

 「無理かな~!」

 

 「か、かくなるうえはこの頭を吹き飛ばして全てに片を……」

 

 「わーちょっとストップストップ!体育祭でスプラッタはだめ!」

 

 えー、懺悔します。わたくしこと楪希械は恥ずかしさを忘れる為に全力でチアリーディングを行い、結果的に後になってから激しく後悔をして黒歴史を作りました。誰かレクリエーション前の私の手足を吹き飛ばしてでも止めて欲しかったです。意外と私みたいな体にもニッチな需要があると知りました。知りたくなかったです助けて。あと峰田くんと上鳴くんはきらい。

 

 「いっそ自爆を……」

 

 「もう怖いことばっかいわないの!ほら!本選始まるんだから頑張る!ね!?」

 

 「それよりもほら!試合始まるから!」

 

 「えぅ……デクくんの出番だぁ……」

 

 「半泣きだ……どんだけ恥ずかしがってるのよ……」

 

 ほぼ泣いてる私がクラスに用意された客席からタイマン用にセメントス先生が作ったステージを見る。黒歴史の前に引いたくじにより体育祭の最大注目競技であるガチバトルの組み合わせが決まっている。尾白くんとB組の庄田くんの二人は辞退をするって決めたらしいけど、同じく心操くんのチームだった瀬呂くんは出るつもりみたい。

 

 組み合わせとしては1試合目からデクくんと心操くん、轟くんと瀬呂くん、上鳴くんと三奈ちゃん、飯田くんと発目さん、私とB組の塩崎さん、えーくんとB組の鉄哲くん、常闇くんと八百万さん、麗日さんと爆豪くんの順番。私、勝ったらえーくんと戦うかもしれないんだ……えーくんが負ける、という可能性もあるけど。えーくんを真正面から倒せる人はなかなかいないと思う。爆豪くんの持久戦、デクくんの30%以上、轟くんの全身凍結……少なくともこれくらいはいると思う。

 

 「心操……頼むよ緑谷……」

 

 「尾白くん、その……辞退したのって心操くんと関係あるの?」

 

 「あ、楪さん……うん、あいつの声に答えたら意識が飛んで、気づいたら結果発表の所だった。洗脳、されたとしか思えないんだ」

 

 「精神系の個性なんだ……道理で私に声をかけた後に驚いたわけだね。かかってなかったから驚いたんだ」

 

 「楪さんはどうやって彼の個性から抜け出したの?」

 

 「えっと、ほぼ偶然なんだけど……私、大きくて重いでしょう?変なタイミングで気絶とかしちゃうと危ないから……急に意識が落ちると再起動がかかる様になってるの。意識が覚醒したから効かなかったんじゃないかな?」

 

 「へぇ……不便じゃないのかい?」

 

 「オンオフは効くんだよ。意識的にやってることだから。授業中とかはずっとオンだけどね、今回みたいな行事でも。私が倒れた時運べるのは……えーくんぐらいだから」

 

 これは、中学校の時に炎天下での体育でオーバーヒートを起こして倒れてしまった時、私を誰も運べなくて救急車が来るまで放置されざるを得なくなったことがあった時にこれから必要かもと思って作ったプログラムなんだ。結局そのあとからは自分でも気を付けるようになって同じことは起こってないけど……人生何があるか分からないね。

 

 『さあ結局これだぜガチンコ勝負!成績の割になんだその顔!ヒーロー科緑谷出久!ヴァアアアサス!どこからやってきたダークホース!普通科心操人使ぃ!』

 

 「うそっ……デクくん、かかっちゃった……!」

 

 「ああ、もう!言ったのに!」

 

 壇上に上がった二人、試合開始のゴングと同時に一歩前に進んだデクくんが完全に動きを止めた。ここからじゃ遠すぎて読唇は難しいんだけど心操くんの口元が動いてたから何かしらの言葉がトリガーになってデクくんの精神に作用した、んだと思う。尾白くん曰くおそらく言葉に返答することが条件……凄い個性だ。その気になれば戦闘全てを無血で終わらせられるし、ヴィラン相手にはめっぽう頼りになる個性、宣戦布告だってしたくなるわけだよ。

 

 一歩、また一歩と自分から外に歩いて行ってしまうデクくん、このままじゃ場外アウトで負けちゃう……!最後の一歩、というところでデクくんを中心にすさまじい衝撃波と突風が駆け抜けた。思わず立ち上がって手すりまで走ってしまう。デクくん、ワンフォーオールを暴発させた……!手段がない、とは言ってもあれじゃ指が……!

 

 そこからは速攻だった。デクくんは反転するとワンフォーオールを両脚に発動して一足飛びにジャンプ、爆豪くんの動きを参考したらしい飛び膝蹴りを心操くんの胸ど真ん中に叩き込んだのだ。何かを言おうとする心操くんの顔に必死な色が色濃く出てくる。そこで分かった、言いたくないんだきっと。どんなことを言ってるかは分からないけど、挑発して返事を言わせようとしているんだと思う。

 

 その挑発にはきっと、ひどい言葉も含まれているんだろう。心操くんはそれを言いたくない、だけど勝つためにはひどい言葉を使わなければいけない。それでも彼は、勝ちたいんだ。ヒーロー科に入ってヒーローになるために。だからデクくんも、彼を真正面から打ち倒すために、今できる全力のワンフォーオールを使うことにしたらしい。

 

 せき込んで膝をついた心操くんが何とか立ち上がる。けどデクくんは既に準備を終えて、折れてない右腕でのスマッシュを彼の顔に思いっきりぶつけた。それが決定打となり、吹き飛んだ心操くんは場外に落ちる。意識が飛ぶほどじゃなかったらしい心操くんが呆然と座り込む中、デクくんはステージから駆け降りて、彼に手を差し伸べた。

 

 心操くんは一瞬だけ悔しそうな顔になったけど、すぐにそれを引っ込めてデクくんの手を借りて立ち上がる。そして、普通科を中心として拍手が彼に降り注いだ。プロヒーローからの賞賛の言葉もちらほらとあるが、それよりも大きいのは普通科の人たちから心操くんへの誉め言葉とエールの量。きっと彼がヒーロー科に行きたいということはクラスメイトにとっては周知の事実で、みんな応援してたんだと思う。ひどい言葉は上っ面だけで、本当はみんなに慕われてるいい人なんだね、心操くんは。

 

 『第二試合!強すぎイケメンプリンス!轟焦凍!ヴァアアアサス!優秀だけど地味!地味だけど優秀!瀬呂範太!』

 

 二試合目、デクくんと心操くんがフィールドを入れ替わる様に同じクラスの二人が姿を現した。轟くんの氷結と炎……炎の方は授業でも氷を溶かす以外で使ったのは見たことないけどかなり強い人だ。特に熱は私の天敵なので戦うなら対策必須だけど……なんで彼は氷結ばっかりこだわるんだろう……?

 

 一方瀬呂くんの個性、テープは遠距離向けの個性で、肘からテープを射出し、巻き戻したりもできる便利な個性だ。直接的な攻撃力はないけど拘束力に非常に長けている。もしも私が彼の個性で轟くんに挑むとしたら速攻をかけての場外狙いが一番可能性が高いとおもっているけど……。

 

 『試合開始ぃ!』

 

 パキィン……と音がして観客席の眼前に巨大な氷山が出現した。轟くんの氷結だ……試合は一瞬だったけど、やっぱりテープで拘束したのちに場外に出そうとした瀬呂くん、轟くんは拘束されつつも氷結ですべて凍り付かせて終わらせた。ビル一棟丸ごと凍らせた時に思ったけどなんて出力なんだろう。

 

 会場はドームだ。そのドームの半分を埋め尽くす氷山、もしもあれが最大規模じゃないとしたらいくら私でも強引に真正面から迎撃するのは難しい。入試でも実践したけど、質量は正義なんだ。私の馬力がいくら強かろうと馬力以上の重さを被せられたらどうしようもない。流石に氷山は動かすことは……このサイズならできなくもないけどちょっときついのは変わらない。

 

 「すごいね、轟くんは」

 

 「あーやだやだ、才能マンだねこりゃ」

 

 「……」

 

 「え!?なに無視!?」

 

 「上鳴、希械ちゃんホントに怒ってるから暫く口きいてもらえないと思うよ?」

 

 「えっ!?ちょっと待って無視は流石に心にくる!楪みてーな奴だと特に!」

 

 「楪ちゃん、優しいから怒らせたら多分その分怖いと思うわ。無視だけでよかったわね上鳴ちゃん」

 

 謝ってくれないから許してあげないもんね。峰田くんにもべーっと舌を出して私は次の試合の準備に向かうために席を立った三奈ちゃんを応援するのだった。上鳴くんも同じ試合だけど、私は三奈ちゃんの親友なので三奈ちゃんを贔屓することにします。でも、クラスメイトとしてちょっぴりは応援してあげる。三奈ちゃんの次あたりに。

 

 




 激おこ楪ちゃん。ハメられてチアやらされて黒歴史作ったらそりゃそうなるよね
 
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21話

 『第4試合!見事なアッパーカットを決めて芦戸が勝利だぁ!』

 

 「三奈ちゃんさすが!」

 

 「楪ちゃん、嬉しそうね」

 

 「嬉しいよ!上鳴くんは残念だったけど……あ、そろそろ行かなきゃ」

 

 三奈ちゃんと上鳴くんの試合は一瞬だった。開幕の上鳴くんの全力放電を、前方に酸を噴射し続けて防いだ三奈ちゃんがアホになってしまった上鳴くんにアッパーカットを決めて勝利したんだ!三奈ちゃんの勝利に飛びあがって梅雨ちゃんと喜んだ私も、出番が近いので試合に備える為に控室に向かった。

 

 控室のテレビに映される映像だと、発目さんのペースに振り回される飯田くんが、彼女が自分から負けを認めたので勝利したところだった。どうも釈然としない顔をしている飯田くんに苦笑いしながら私は控室を出て、会場に向かう。途中ですれ違った飯田くんに無言のサムズアップをしたら微妙な顔をされたので急いですれ違いました。バッドコミュニケーション……

 

 『さあ第5試合!男のロマン詰め合わせ欲張りセット!楪希械!ヴァアアアサス!B組からの刺客!キレイな顔して棘があるかぁ!?塩崎茨!』

 

 「申し立て失礼します。刺客とはどういう意味でしょうか?私はここに勝利を目指してきただけであり……」

 

 『あ、ああごめん!』

 

 「え、と塩崎さん?よろしくお願いします」

 

 「はい、楪さんですね。お互い正々堂々と良い試合をしましょう」

 

 マイク先生のキャッチコピーに訥々と突っ込んで謝らせた塩崎さん。か、変わった人なのかな?まあ、マイク先生に好き勝手言われるのは今に始まったことじゃないと思うから私とか全然気にしなくなっちゃった。普段の手足の私だけど、これは舐めてるとかそんなんじゃなくて、単純に膂力過剰だから。ヒーロースーツみたいな防護服を着てない状態で、指先がナイフより鋭い戦闘形態の手があたりでもしたら……割とマジでスプラッタになっちゃう。こっちの方がまだまし。何だったら小回りはこっちの方が効くくらい。

 

 『試合開始ぃ!!!』

 

 「先手必勝!」

 

 「アロンダイト、形成開始(レディ)

 

 塩崎さんの文字通り茨のような髪が伸びて四方八方から私に迫る。私は腕を変形させて、大型の刀剣型兵器を作り出し、薙ぎ払った。アロンダイト、私の身の丈ほどの大剣で、一番の特徴は刀身の刃部分にレーザーが走っていて、ものを熱量で焼き切るという構造になっていること。レーザー兵器はすでに実用化されてるので、話には聞いてるかもしれないけど。

 

 巨大な金属の塊をレーザー付きで振り回す私。どうやら塩崎さんの茨は切り離しても動くらしい。なので脅威にならないよう振る速度を速めて短くしてしまう。水分が含まれてるからか燃え上がりはしないらしい。だけど、物量で勝負するなら私もそういうの沢山あるんだよね。

 

 「くっ……流石に一筋縄ではいきませんね」

 

 「貴方も、強いね」

 

 お互いに短く褒め合って、私は一旦距離を取る。場所はラインぎりぎりだけど、これを使う時は広範囲攻撃だから、相手が離れれば離れるほどいい。ガチャガチャ、チャリチャリと音を立てて私の手がジャージを破って変形し、出来たそれを迫る茨をアロンダイトで薙ぎ払いつつ肩に担いで構える。

 

 「ナンバーナッシング!形成開始(レディ)!」

 

 出来たのは超大型のミサイルランチャー、に見える物体。実際は別物なんだけど。狙いは塩崎さんの周り全て!絶対に当てないようにコントロールする!ガチャン!とトリガーを引くとナンバーナッシングから無数の砲台型衛星端末が飛び出て地面をターゲティングする。20数個が全て私と塩崎さん以外の地面にガイドレーザーでターゲティングを済ませる。塩崎さんは何があるか分からないので迂闊に動けない。

 

 『あああああ~~~!これは流石にやり過ぎだろ楪ァ!派手過ぎだぜ!』

 

 『よく見ろ、外してる。動きを止めるのが目的だ。当てに行ったら除籍したがな』

 

 上空から降り注ぐのは極太のレーザーの雨、塩崎さんは襲い掛かってくる熱を茨で防ぐ。予想通り!視界がふさがった!ステージが熱で溶けて移動もできない。私はアロンダイトとナンバーナッシングを捨てて、全力で壁を作り出す。ステージを横に横断する金属製の大壁。そこにある取っ手を掴んで私はパワーを最大限に高めて、その壁を押して前に移動する。

 

 『おっと逃げ場が消えたぁ!迫りくる壁!これを攻略するには……押し合いで勝つしかねぇえええ!』

 

 『なるほどな、楪の一番得意なこと……真っ向からの力比べに相手を落とした』

 

 「く、っくう!なんという、力……!」

 

 壁越しに伝わる塩崎さんの抵抗、あの茨はかなりのパワーがあるとみていい。なら……私はここで初めて手足を戦闘形態に変形させる。たまった熱を戦闘形態の手足から放熱させて、さらに力を籠める。取っ手を握りつぶす程のパワーを受けた塩崎さんは、一気に後ろに押されて、場外のラインを超える。私の勝ちだ。

 

 『ヒロイン対決!勝利したのはメカヒロイン!楪希械だぁぁぁ!!!』

 

 「……おめでとうございます。貴方の次の勝利を応援してますね」

 

 「ありがとう、塩崎さん。とっても強かったね」

 

 「ふふ、あなたこそ」

 

 メカアームで繋げてたので壁を再吸収し終えて塩崎さんと相対する。すっと手を出してくれた塩崎さんに少しかがんで普段状態に戻した手で答える。いつの間にか会場にやってきていた発目さんを始めとしたサポート科の面々が私がポイしたアロンダイトとナンバーナッシングを掲げて喜んでたんだけど……あの、返して?え?だからその、返してくださいぃぃ……パワーローダー先生?暫く貸して欲しい?私の秘蔵技術なんです……ダメですぅ……返してぇぇ……

 

 「ひどい目に会いましたぁ……」

 

 「大丈夫です。これはきっと試練ですから……」

 

 涙目になって全部取り返して破砕機に放り込んだ私を不憫に思ったのか慰めてくれる塩崎さん、いい人だ……観客席の位置はA組とB組で隣同士なので一緒に帰って少しだけ仲良くなれた気がする。そして私の次の試合は、えーくんと鉄哲くんのはずだ。えーくんに勝って欲しいから思いっきり応援しないと……!

 

 『さあ行ってみようぜ第6試合!硬化の男!個性だだ被り!切島鋭児郎!ヴァアアアサス!鋼の男!こっちも個性だだ被り!鉄哲徹鐵!硬い男同士の対決だぁ!』

 

 「えーくーん!頑張ってー!」

 

 「切島さぁ……応援されちゃってさぁ……!」

 

 「峰田ちゃん、顔がすごいことになってるわよ」

 

 「だってよぉ!なんなんだよこの扱いの違い!」

 

 「日頃の行い……」

 

 「常闇はいてえところついてくるな!」

 

 えーくんが壇上に上がった時に大声出して応援する。三奈ちゃんは行くまえに思いっきりハグして応援したけどえーくんとはすれ違いになっちゃったからここで思いっきり!心操くんの例もあるから一応何言ってるか聞こえるようにうさ耳型の収音機を頭の上に作って八百万さんがチアの時作ったぽんぽんを振り回して応援する。

 

 えーくんは私の声が聞こえたのか分かんないけど、こっちの観客席をちらりと見て、グッと腕をあげてガッツポーズだけした。気合いが乗ってるんだね、えーくん……!峰田くんはそのしぐさにさらに文句を言い募ってるけどとりあえず一発頭をはたいたら黙ったのでよしとする。間違えて椅子殴って潰しちゃったのが効いたかな?えーくんを悪く言うのは許しません。

 

 「だだ被りだってよ。マイク先生もうまいこと言うもんだぜ、な?」

 

 「お前は硬化、俺は鋼……方向性は同じなのはそうだろうけどな」

 

 「んじゃあよ……やることは決まってるよな?」

 

 「わかってるじゃねえか!」

 

 二人の会話を収音機が拾う。多分私も分かった、二人とも真正面から行く気だ。マイク先生の試合開始の言葉と共に、二人が同時に個性を使う。全身鈍色になる鉄哲くんに対して、色は変わらずとも岩のような質感に変わったことが分かるえーくん、二人が同時に硬く拳を握った。

 

 「先手は譲るぜ、鉄哲」

 

 「お言葉に甘えさせてもらわぁ!ウラアッ!!!」

 

 硬いもの同士が激しくぶつかる音を立てて鉄哲の鋼の拳がえーくんの顔ど真ん中を捉える。が、硬化したえーくんは全く身じろぎすることなくノーガードで受け切った。たたらすら踏んでいない、鉄哲くんはどうやらそこで一気に警戒度を引き上げたらしい。首をゴキリと動かしたえーくんは

 

 「次は俺の番だぜ。顔面だ、ガードしろよ」

 

 「来ぉい!」

 

 「フンッ!!!!」

 

 『き、切島ワンパンで鉄哲をリングに沈めたぁぁぁ!!!』

 

 宣言通り、えーくんは顔面ど真ん中に向かって硬化した拳をぶち当てた。鉄哲くんのガードをものともせず……いや、ガードの上からねじ込まれたえーくんのパンチは鉄哲くんの鋼の腕に罅を入れるだけに飽き足らず。振りぬかれた拳が彼をコンクリートに沈め、蜘蛛の巣状の罅が鉄哲くんを中心に広がるほどの威力を見せた。会場にはパワー差へのどよめきが静かに広がっていく……やっぱりえーくんは強いね。

 

 「こいつ……一撃で俺のスティールを……!?」

 

 「悪いな。いっつも俺と特訓してるやつは……お前の比じゃねえくらいのパワーで打ち込んでくれるんだよ。俺は、そいつに勝ちてぇんだ。だからお前を、超えていかせてもらうぜ」

 

 「切島……!」

 

 「どこからでもこいや鉄哲ぅ!俺の硬化を破ってみろ!」

 

 『鉄哲立ち上がった~~!切島は迎撃かぁ!?』

 

 鉄哲くんは何とか立ち上がるが、すでに膝が笑っている。えーくん、ほんとに遠慮なしで鉄哲くんの事殴ったんだ……私以外にそんなことできなかっただろうから嬉しいだろうな、えーくん。硬化した自分を真正面から受け止めてくれる相手なんてきっとなかなかいなかっただろうし……。

 

 今一度の顔面への右ストレートに対して、えーくんが選択したのは硬化した頭を使ったヘッドバット。鉄哲くんの右拳にカウンターを入れる形で迎撃したそれは、彼の拳の罅をさらに広げる結果に終わる。右手を抑えて後ずさる鉄哲くんに、えーくんは見せつけるように拳を握る。硬く、一塊の岩塊のようになったえーくんの拳はまともに鉄哲くんの頬に入って彼の意識を刈り取り、ステージ上に沈めた。

 

 『個性だだ被り対決!圧倒的なパワー差を見せつけたのは切島だあああ!いい殴り合いだったぜ!』

 

 えーくんは、判定を聞くと気絶しちゃった鉄哲くんを担ぎ上げて一緒にステージを降りる、二人の健闘をたたえる拍手が会場中から響いた。それは勿論私も。えーくん、さすが。次の試合で当たることにはなっちゃったけど……手加減は一切しないからね。

 

 「ねえ、楪さん」

 

 「ん?何かな、デクくん」

 

 「切島君って、いつもどれだけトレーニングしてるの?」

 

 「あー、弱点しりたいんだぁ?」

 

 「ちちち違うよ!いやでも違わないけどそれはそのあれで」

 

 「ふふっ、冗談だよ。メカジョーク、メカ要素ないけどね」

 

 鉄哲くんの形に陥没しているステージをセメントス先生がセメントを流し込んで修復してるのをぼーっと眺めてた私にデクくんが話しかけてくる。さっき麗日さんを追うように出ていったと思ったらもう戻ってきて、こんどは私にえーくんの話を聞こうだなんて、すごい熱心だね。

 

 「えーくんはね、私を持ち上げられるの。USJの時みたいに手足がない私じゃないよ?今こうやって手と足がちゃんとある私を、えーくんは軽々と抱き上げられるの」

 

 「楪さんを、軽々と?えっと、その」

 

 「私の体重、手足の状態で上下するんだけど……だいたい300㎏くらいかな。えーくんって根性とか男らしいとかそういうスポ根系のワード大好きなんだよ。だから、私で筋トレしたりするの。上に載って腕立て伏せとか」

 

 「そ、それってすごいことなんじゃ……?」

 

 「そうだよ?個性テストの記録、えーくんほとんど素なんだから。もしえーくんが私に勝ってデクくんとえーくんと戦うことになったら……デクくんも覚悟した方がいいかも」

 

 えーくんって影響されやすいから、漫画で読んだ人を乗せた状態での腕立て伏せとか、スクワットとかそういうのをやりたがるんだよ。私は重いから危ないって言ってもお前がいいんだっていうから付き合ってるけど……そういえばなんで私じゃなきゃいけないんだろうね?単純に重いからか、ちょっと傷ついたけど事実だししょうがないよね。

 

 「よく知ってるんだね……切島君のこと」

 

 「知ってるよ。デクくんだって、爆豪くんの事よく知ってるでしょ?えーくんが強いことは、私が一番よく知ってるの」

 

 噛み締めるようにデクくんがそう聞いてくるので私は肯定する。えーくんのことならそりゃあよく知ってますとも。逆にえーくんも私のことをよく知ってる。幼馴染だもん。次試合のためにステージに出てきた八百万さんと常闇くんの試合が始まるので、私はそこで会話を打ち切るのだった。




 元ネタ解説
 アロンダイト デスティニーガンダムが持ってるすっげえでっかい対艦刀。折りたたんで変形するロマン付き。今作ではまだビームを楪ちゃんが実用段階に持っていってないので刃はレーザーで代用
 ナンバーナッシング
 作者の青春が詰まったラチェクラ4の最強兵器。冗談抜きに天変地異が起こるほどのレーザーが上空から降ってくる。つよい(小並


 今作切島くんはクソ強いですはい。単純硬い上にパワーがある重戦車。これも全部主人公ちゃんが悪い

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22話

 『えー……第8試合勝者、爆豪勝己……』

 

 『マイク、やるならちゃんとやれ。いい試合だった、二人ともだ』

 

 ……シン、と会場中が静かになっている。1試合前のそれとは大違いだ。というのも今の試合、爆豪くんと麗日さんの試合は……一方的なワンサイドゲームのようなものだったからだ。轟くんのように一瞬で勝負を付けず……えーくんの時のように抵抗を許したわけじゃない。麗日さんの策を一つ一つ真正面から粉砕し、蟻の足をもいでいくように詰みまで持っていった。

 

 私たちはそれが爆豪くんが油断せず、麗日さんの全てを警戒しているからだとわかってたけど、分かってない会場からのブーイングが響いてしまう始末。そのブーイングは相澤先生が黙らせたけど、やはり思うところはあったみたい。倒れ伏した麗日さんに背を向ける爆豪くんには賞賛に交じって一部批判的な視線もある。

 

 「次、デクくんと轟くんだね……」

 

 「ああ、2週間特訓しただけでだいぶあいつ変わったよな。骨折克服したしよ」

 

 「うん、問題は……氷結の攻略法。今のデクくんには……自損での打消ししかない」

 

 せめて……20%を使えれば……と思う。デクくんの許容上限は5%、風圧も出なければ……すさまじい威力は持たない。訂正、威力はそれなりにある。氷の表面を多少砕く程度はできるだろう。はっきり言えば焼け石に水ってやつだとおもうんだ。そして、それ以上は出せない。生身の彼の身体が追い付かない、肉体を完成させなければワンフォーオールの上限をあげていけない。オールマイト先生が筋トレばかりを教えてたのも分かる。

 

 『さあああいってみようぜ!2回戦第1試合!轟ヴァアサス!緑谷ああああ!!!!』

 

 マイク先生の文字通りのマイクパフォーマンスで轟くんとデクくんの二人が修復されたステージ上に並び立つ。スタートの号令がかかると同時に、やはり轟くんは範囲を強めた氷結をデクくんに向けて思いっきり放った。それに対してデクくんはやはり自損での打ち消し……じゃない!?ワンフォーオールを両脚に纏ってジャンプして飛び越えた……?そうか、考えたねデクくん!

 

 「脚の力は腕の3倍って言うけれど……デクくんの個性なら凄く有効だよ!氷を直接砕くより、よっぽど合理的だもん!」

 

 「やるじゃねえか緑谷!回数打たせる度に手前ェが有利になるぜ!」

 

 脚の力は腕の3倍、つまりワンフォーオールを腕に使った場合の3倍、一時的に15%……どんぶり勘定だけどね?実際は別だけど……ワンフォーオールの場合は少し違う、なにせ……強化倍率が圧倒的すぎる。脚の5%でも轟くんの氷結より先に逃げられるうえに、残った氷を足場にして逃げ場すら確保できてしまう。緑谷くん、私の始めての戦闘訓練の動画が欲しいって言ってたけど……この攻略法、いつ考えたんだろう。

 

 多分、最初から轟くんが最大威力で短期決戦に挑んでいたらデクくんは負けていた。だけど、轟くんはデクくんが自損覚悟で打ち消しに来ると思ってたから、打ち消されるの前提で数を打てるように氷結の威力を抑えた。それが、デクくんの狙い。自分がどれだけ動けるかを、隠してた。そしてそれを今全開にして、轟くんを仕留めにかかってるんだ……。

 

 そして轟くんも、デクくんがここまで動けるようになっているというのは少し予想外だったに違いない。だって彼は……あの2週間の特訓に入っていなかったから。それに氷結は体温が下がって身体機能に異常をきたすので使用回数に制限がある個性だ、左側の燃焼を使えば解決できる、っていうのは少しわからないけど……彼が使わない理由があって実際使わないのであればそれは強力なアドバンテージ。

 

 そしてデクくんの立ち回り、常に轟くんから見て左側にいる。轟くんの個性は右で凍らせて左で燃やすもの。逆はできないはずだ。というかできたら左でも凍らせてるはず。左に回り続けるデクくんのせいで、轟くんの氷結は一瞬遅れる、その隙にワンフォーオールで飛んで逃げる……凄いね、特訓でやった鬼ごっこを活かしてるんだ。

 

 そして、轟くんが氷結を使うたびに、デクくんには上の逃げ場が増える。この場合、轟くんができるのはやっぱり、最大出力の一撃で逃げ場を完全に封じること!私の予想通り、業を煮やした轟くんは最大出力の氷結を出そうとして一旦力んだ。そこで私は気づく、デクくんの狙いがそれだったことに。

 

 『緑谷ボディブロー!!!えげつないのが入ったぞ!』

 

 「デクくん、全身に個性を……!?」

 

 「マジか緑谷、それありなのか!?」

 

 轟くんが力んだ瞬間だった。その隙にデクくんはワンフォーオールを全身に纏って飛び出し、氷結が出る前に轟くんのボディに一撃入れた。轟くんは正直、個性の使い方が大雑把なきらいがある。ビルごと凍らせたり、瀬呂くんを閉じ込めた氷山も狙いすました一撃というよりも当たればいいという広範囲攻撃……。デクくんはその癖を見つけたんだ。この体育祭の間で……!

 

 全身にワンフォーオールを纏うのは一瞬しかできないみたいだけど、回避と攻撃を両立できるその使い方は非常に厄介だ。轟くんもここまでやられるとは少し意外だったんだろう。いつも無表情な顔が驚愕に歪んでいる。非常にうまいと言わざるを得ない。だって、これで轟くんは氷結がデクくんに通用しないと理解してしまった。残るは個性無しの接近戦か……炎熱を使うか。

 

 「轟のやつ……!接近戦もできるのか!?」

 

 「何でもできるって思ってたけど……!デクくんの勝ちの目が薄くなっちゃった……」

 

 轟くんは聞くところによると、現在の№2ヒーロー、エンデヴァーの息子らしい。エンデヴァーは事件解決数だけで言えばオールマイト先生を超えるスーパーマンだ。当然それは荒事も含まれる。個性無しの接近戦ができないわけがなかった。攻撃を入れたタイミングでカウンターを返され、蹴り飛ばされたデクくんに氷結が迫る。デクくんはまたも全身にワンフォーオールを纏って飛びあがって回避、その氷結の上に着地する。

 

 「震えてるよ、轟くん。君の戦闘映像、見れるものは全部見た。君の個性は使うたびに体温が下がって動きが鈍くなるんだ。でもそれって、左側を使えば解決できるもんじゃないのか?」

 

 「俺は戦闘で左はつかわねぇ。言っただろ」

 

 「ふざけないでよ!」

 

 収音機に二人の会話が届くと同時だった。爆風が轟くんの周りの氷ごと全て吹き飛ばす衝撃波と一緒に襲い掛かったのだ。発生源はデクくん……紫色に腫れあがった右の人差し指が彼が制御を捨てて全力でワンフォーオールを使ったことを現している。なんで、使ったの……?戦えてたじゃない……!その爆風を耐える為に自分の後ろに氷結の壁を張った轟くんの体には霜が降りている。戦闘訓練の時よりもひどい状態だ、相当苦しいと思う。

 

 「君は僕を見てないね……!僕を通して誰を見てる!?エンデヴァー!?オールマイト!?そうじゃないだろ!君の前にいるのは僕だ!僕を見ろ!」

 

 「緑谷……!」

 

 「皆、本気でやってるんだ……!君が半分の力で1番になりたいのは勝手だ。だけど僕はふざけんなって今は思う!君の氷結は僕には通じないぞ!君が完全に動けなくなっても僕は当たらない……!使えよ!炎!」

 

 「うるせぇ……!」

 

 「全力で、かかってこい!」

 

 ……デクくん……。貴方って人は、とんでもないね。勝てるかもしれないのに、勝てたかもしれないのに……それをあっさりと捨ててしまうなんて。多分デクくんしか知らない轟くんの事情があるんだ。それが轟くんが左を絶対に使わない理由。その理由はデクくんにとって納得できるものであっても、受け入れられるものじゃなかった。

 

 だから、彼はいま……己を捨てた。お前が全力じゃないなら僕が勝つ、たとえ何をしてでもと。それを現すために本当の全力……制御を捨てたワンフォーオールで指を壊して見せた。全力を出さなければ負けるんだぞと轟くんに示したんだ。A組の観客席が静まり返る。沸く会場とは真逆、皆試合に夢中になって成り行きを見守ってる。

 

 「僕はヒーローになりたい……!笑って皆を助けられるオールマイト(あの人)みたいに!だから僕は君に勝つ!君を超える!」

 

 レバー打ち、そして頭突き。動きの鈍った轟くんに最早ワンフォーオールを纏っていないデクくんの攻撃が突き刺さる。かなり生々しいのが入った。レバー打ちを教えたのは確かえーくんのはずだ。お腹を押さえて立ち上がる轟くんの体の霜はかなり広がっている。明らかに使い過ぎだ、凍傷が出始めててもおかしくないはず……!

 

 「俺は……親父の力なんて……」

 

 「その力は君の力だ!氷結も炎熱も!全部!君の力じゃないか!」

 

 その叫びが発端だった。ゴゥ、と轟くんの左半身から炎が噴き出した。使わせた……左の炎!いろんな感情がない交ぜになった顔で炎を噴出させ続ける轟くん。彼の心境はどんなものなんだろうか、デクくんの必死さが、真摯さが彼に伝わったのだろうか。それとも心の柔らかい部分を無遠慮につつき回されて怒ってしまったのだろうか……いずれにせよ……

 

 「デクくん、自分で不利な状況に持ち込んじゃった……」

 

 「何がしてーんだ?緑谷……」

 

 炎の噴出音がひどすぎて最早二人が何を言ってるかは分からない。ただ、分かるのは……やっぱり左を使えば轟くんの個性の弱点は消えるということ。体中におりてた霜は蒸発し、体温は正常に戻ってしまった。落ちてた運動能力も元に戻ってしまったに違いない。

 

 それを見たデクくんは凄絶に笑った。無事な左手、そして両脚にワンフォーオールを発動させる。腕の方はエネルギー量からして、100%だ。轟くんも右の氷結と左の炎熱を同時に全開にしている。これ……かなりまずいやつじゃ……!?その威力の程を察したのかセメントス先生とミッドナイト先生が動く。

 

 それよりも早く二人の緊張の糸が切れた。最大威力の氷結を放った轟くんとワンフォーオールで踏切り、飛び越えたデクくん、轟くんはそこで白く見えるほど炎の威力を高め、デクくんは全力のスマッシュを近くでぶち込んだ。何枚もショック吸収のためセメントス先生が出したセメントの壁を豆腐のように壊した二人の攻撃が、凄まじい衝撃波を伴って炸裂する。

 

 「緑谷……ありがとな」

 

 攻撃の刹那、轟くんのそんな声が聞こえた気がした。崩落したステージ、こちらに来る爆風が私たちを叩く。吹っ飛んだ峰田くんの足をひっつかんで椅子に戻して結果を確認する……勝ったのは……!?

 

 「緑谷君場外!よって轟君の勝利!」

 

 「デクくん!」

 

 「あっ!バカ希械どこ行くんだよ!?」

 

 崩落したステージの上に立つ轟くんと、場外の壁にたたきつけられた左手の折れたデクくん、勝敗は決したけど……私は観客席から飛び降り、脚にスラスターを付けてデクくんの所まで一直線に向かう。言ったのに、もうやっちゃダメって約束したのに……!もう!ずり、と崩れ落ちる気絶した彼を抱き留めて、横抱きにする。色々言いたいことが山ほどできた。それよりも先にリカバリーガールの所へ……!

 

 

 「楪、さん……?」

 

 「あ、おきた?もう、デクくん私との約束破ったよね?頑張ったね、お疲れ様」

 

 「ごめん、悔しくて……つい……」

 

 「いいの、やっちゃったんだし。轟くんと何かあったんだよね?でも全部ひっくるめてマイナス50点だよ。途中まで100点満点だったけど、腕壊しちゃったからマイナス50点」

 

 「……少年」

 

 「オールマイト……!」

 

 デクくんの口から出た言葉に私はあっとなってリカバリーガールを見るけど彼女は驚いた様子はない、知ってたんだ……!当然か。USJの時、トゥルーフォームのオールマイト先生は保健室に行ったんだから。気絶から目覚めたデクくんを見下ろすオールマイト先生はデクくんの頭にポンと手を置いた。

 

 「君は……彼に何かをもたらそうとして、実際に彼に何かを与えることができた。結果は残念だったかもしれないがそこに関して私は胸を張って君を誇りに思いたい」

 

 「でも僕は……果たせなかった……!」

 

 「やり方はよくなかった。もっと別のやり方もあった……!だが君はヒーローの本質の一つを違えなかった」

 

 「……本、質?」

 

 「余計なお世話ってやつさ。ヒーローはそこから始まったんだから。お疲れ様だ緑谷少年。よく頑張った!でも、身を滅ぼす戦い方はもうやめような。一緒に違うやり方を考えよう」

 

 「はいっ……!」

 

 デクくんのやり方は褒められちゃいけないものだった。リカバリーガールも褒めるなと言ったし、今後はもう身を滅ぼした結果の怪我は治癒しないとまで言い切られてしまった。だけど、オールマイト先生とデクくんだけが知ってる轟くんの闇に少しだけ罅を入れることができた。誰かの手を取り助けること、余計なお世話でもデクくんはそれを果たした。ヒーローとしてのそれを。

 

 心配した皆が出張保健室になだれ込んできて、私の思考はそこで打ち切られたけど、デクくんの分まで頑張らないとと、次の相手のえーくんを見てそう思ったんだ。

 

 




 映画の描写からおそらくOFAは足の5%でも氷結から逃げられると思ったのでデクくんに頑張ってもらいました。フルカウル(一瞬)も習得、これは強いですねデクくん。

 あと重要なのが、原作より怪我がだいぶ軽いです。片腕骨折と指一つの骨折。手も歪んでない、これは緑谷お母さんも号泣。結局泣くわこれ。

 明日以降毎日更新ではなく2日に1回くらいのペースで更新します。端的に言えばストックが消えました。書き溜めに入らさせていただきます。

 感想評価よろしくお願いいたします。


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23話

サブタイトル 楪希械:オリジン


 そういえば、まだ話してなかったと思う。何の話かっていえば、私がどうしてヒーローを目指そうと思ったかって話。まあ、ありきたりで、よくある話かもしれないし、珍しい部類の話かもしれない。私にとっては少しだけ苦い思い出ではあるけど、この際だから思いだしてみようかな。これは、私がヒーローに出会ったお話だ。

 

 当時、私は幼稚園児で4歳だった。今と同じで両手両足は機械で、重くって硬かった。今と違う点と言えば、そのころの私は今ほど大きくなくて、皆と同じくらいの身長だったこと、体が出来上がってなかったから重い重い手足のおかげでまともに立つことすら出来なかったこと、あとは……両目がちゃんと青かったってところくらい。

 

 今みたいに髪の毛で目を隠してなかった私は当時はヒーローなんてほとんど興味がなかった。他のみんなみたいにお外で遊ぶなんてこともできなかったから、教室の中で座って絵本ばっかり読んでいる、そんな感じだったと思う。何分10年以上前のことだからそんなに覚えてないし、ここで話すのも少し恥ずかしいくらい。

 

 さて、4歳と言えばなんだけど……個性が発現する年齢ってことは知ってると思う。個人差あれど、大体4歳。私みたいな異形型はともかくとして、発動型や変形型、まあその他もろもろの個性は大体4歳までに発現する。そして、当時はオールマイト先生の絶頂期だった。1000人を同時に救った動画はとても有名で、ヒーローっていえばテレビの中の人っていう認識だった私でも知ってるくらい。

 

 えーくんとは産まれた時から一緒で、幼稚園も一緒だった。私は自分では遠くへ行けないし、先生でも持ち上げるのに苦労するくらい重かった。もうすでに成人男性くらいの重さはあったみたいだから。それで私はどこへ行くにも台車に乗っていて、その台車を押して移動するのは専らえーくんの役目だった。俺が連れてってやるからな!って言って、私が乗った台車を一生懸命押してくれたのを覚えてる。

 

 前置きが長くなったけど、ここからが本題。当時はオールマイト先生の絶頂期で、みんながみんなヒーローについて熱く語っていた。幼稚園にいる子みんなしてヒーローになるって言って、ヒーローごっこがそこかしこで行われてたくらい。そんな時期に、自分だけの超凄い特殊能力である個性が発現したらどうなる?答えは……何とかして使ってみたくなる、だと思う。

 

 人間っていうのは自分より違うものを受け入れがたいものだっていうのは15年の人生の中で学んできたことの一つかな。当時もそうだったから。手足が機械っていう異形の個性、おまけのその手足は積み木を握りつぶせるときたら……排斥したくなるのはしょうがないと思う。当時の私はえーくん以外まともにお話してもらった記憶はない。

 

 いじめかと言えば違う。単純に、どうしたらいいか分からないから、話さない。ずっと台車に乗って動かない私よりも、一緒に遊べるお友達の方が大事になるのは当然の話。そんな時期に個性が出て、何人かの男の子が俺の個性は凄いんだって自慢してたところにえーくんに連れられてきた私が、来てしまった。

 

 人に向かって個性を撃ってはいけません、って教えてもらってはいたけど分別のつかない子供の時期、魔が差しちゃうこともある。そこにちょうどよく動けなくて、それなりに全身が硬くて、仲間外れにされてる私がきた。ここまで言えばわかると思うけど、私は的になった。ちょっと驚かせてやるつもりだったって後から聞いたけど、当時の私には関係なかった。

 

 子供だから狙いも甘くってほとんど私には当たらなかった……ただ本当に運が悪かった。そこでサイコキネシスの個性を持つ子が私に向かって撃った石が……私の右目を抉っていった。私の悲鳴に驚いたのか、私に向かって個性を向けていた子たちの個性は制御を誤って暴走して、一気に私に向かってきた。

 

 教室の中にいた先生が慌てて駆け寄ってくるけど間に合わない。私はまた痛いのが来ると思って泣き喚きながらぎゅっと縮こまった。そんな私の前に立ったのが、えーくんだった。当時のえーくんもすでに個性は出てたけど、少し硬くなるだけで全然派手じゃなかったし、どちらかと言えば地味な部類だった。

 

 だけど、えーくんは私が攻撃を受けた時点で私と一緒に遊んでくれる他のお友達を誘っていた場所から駆け出して、迷いなく私の前に割って入ってくれた。幸い制御を失った個性は私にもえーくんにも当たらなかったし、そのあとに走って来た先生によって事態は沈静化した。

 

 それが、私のオリジン。動けない私を一切迷うことなく守るために立ちはだかってくれたえーくんの小さいけど大きな背中。右目が見えないパニックの中でその後ろ姿だけが酷く輝かしく脳裏に焼き付いている。今でも鮮明に思いだせるほどに。私にとってヒーローっていうのは、オールマイト先生でもパワーローダー先生でもなくて、えーくんだった。

 

 えーくんが私にやってくれたように、私も同じように誰かを迷いなく守れるように強くなりたい。誰かのために考えるより先に体が動いたえーくんのようになりたいと心からそう思って、ヒーローに興味を持ったんだ。まあ、あとは色々あって、個性が右目を補って、色が違う目と、日増しに大きくなる体が恥ずかしくなって目を隠し、今に至るというわけ。

 

 『2回戦第3試合!ガチャガチャメカガール!楪希械VSカチコチハードボーイ!切島鋭児郎!』

 

 「やるか、希械」

 

 「うん。本気でやるのって、初めてだよね?」

 

 「そりゃあなあ……お前が本気で個性使える場所なんてなかったし、俺が本気でお前を殴るってのもなかったしな。つーか俺お前殴りたくねえ」

 

 「私には自分殴らせてるくせに」

 

 「俺はいいんだよ俺は、男だからな!」

 

 「男女差別だー」

 

 体育祭のステージ上で、私はそのヒーローと相対する。私とえーくんは特訓で模擬戦じみたことをやったことはあったけど、お互いどうしても本気は出せなかった。危なかったし、心理的にもブレーキがかかった。だから今この瞬間お互い本気で戦うのは初めて。手は抜かないっていう無言の約束通りにお互いを叩き潰すつもりで戦う。にい、といつもの太陽のような笑顔と好戦的な顔を混ぜたように笑うえーくんに私も応える。きっと私も同じ顔をしているのかな。

 

 『スタートォ!』

 

 「おらあああっ!!!」

 

 「やああああっ!!!」

 

 同じタイミングで駆けだした私とえーくんが鏡像のように同じ態勢で振りかぶってお互いに向かって拳を発射する。何の打ち合わせもしてないのに拳同士がぶつかって……力負けしたえーくんが吹っ飛ばされる。だけど、力負けしただけだ。私の右拳は……手首まで潰れてしまっている。えーくんの硬さに手が負けたんだ。

 

 「そりゃ、普通の手じゃこうなるよね……!」

 

 「効かねえぞ希械ぃ!」

 

 「知ってる!」

 

 チャリチャリ、と音を立てて私の手足が戦闘形態に変形する。肩から先、膝から下のジャージが破れて見るからに攻撃的な手足が露になる。当然のように無傷のえーくんが突進してくるのを、私は避けずに受け止めた。ドガガガ!とコンクリの床を削って押される私。流石えーくん、私の重い体をタックルで押して移動できるなんて!私は思いっきり踏ん張ってタックルを止める。えーくんの手を掴んで、脳無にもやったように手四つの力比べの体勢になった。

 

 「ふんぎぎぎぎ……!!」

 

 「くぅぅぅ……!」

 

 押し込めない。上から圧殺するように力を籠める私だけど、えーくんは関節を硬化させて固めることによって私の超膂力に対抗してる。それより進めないけど、それより後退もしない状態。えーくんの足元が私のパワーを現すように陥没して沈んでいく。えーくんの弱点は全身の硬化が永続しないこと。いつかは息を入れる必要がある。その時に……っ!?

 

 『切島巴投げーっ!?マウントポジションだぁぁぁ!!』

 

 やられた。えーくんは息を入れるタイミングで後ろに倒れ込んで私を巴投げして、仰向けになった私に馬乗りになった。そしてえーくんは、思いっきり拳を握って振りかぶる。

 

 「守れよ」

 

 「うん」

 

 『切島容赦ねえええ!女子の顔面に思いっきり!?』

 

 手でガードするけど、えーくんの力は鉄哲くんの試合で見た通り。押し込まれた私の後頭部が地面にめり込んで罅が周りに浮かび上がる。会場からはどよめきと驚愕の声が。違うんだよ皆、えーくんは私にこれが効かないって知ってるからやってるの。全力を受け止めてくれるって信頼してくれてるから本気で殴ってくれるんだよ。

 

 「っぱ効かねえかぁ!もう一発……ぐぁっ!?」

 

 「お返し!」

 

 上と下が入れ替わる。ガードに使ってなかった逆の手でえーくんの腰を掴んで引き倒し、今度は私が上になる。今ここで拘束してもいいんだけど、それじゃ味気ないし物足りないもんね。えーくんに習って私も思いっきり振りかぶって彼の顔面に振り下ろす。すさまじい音がしてえーくんのガードごと彼をコンクリのクレーターの中に沈めた。

 

 「っか~~!今度は効いた!」

 

 「嘘つき、全然元気そうだもん」

 

 マウントポジションを解くと、ガラガラと音を立ててがれきの中からえーくんが無傷で立ち上がる。んもう、半分私のせいとは言えカッチカチなんだから……!正攻法だとまず効かないしやっぱりこうしかないよね……!

 

 「スラストハンマー、形成開始(レディ)

 

 「そう来るよなあ……!」

 

 大質量で、えーくんを場外に吹っ飛ばす。大きなブースター付きハンマーを構えた私、ブースターから断続的にボ、ボと噴出する炎が私を照らす。えーくんも最終的にそう来るのは予測してたみたいで、完全に受け止めてくれる構えだ。ゴォォォォッ!!とスラストハンマーのブースターから爆炎が上がる。

 

 「いくよ……!」

 

 「こぉい!」

 

 『切島が楪の特大ハンマーを止めたぁぁぁぁ!!』

 

 スラストハンマーに引っ張られるようにえーくんに突撃した私が掬い上げるように鉄塊をえーくんにぶつける。ワンフォーオールほどじゃないにしろ衝撃波があたりを叩く。えーくんはハンマーが接触する瞬間にコンクリの地面に片足を挿しこんで飛ばされるのを防いだようで、ハンマーとの押し合い勝負になってる。でも、力押しなら私の有利……!

 

 「ぐぬぉぉぉ……!」

 

 「えーくん、負けないから……!」

 

 内蔵燃料が切れたスラストハンマーのブーストが切れる。瞬間、えーくんは潜り込むようにハンマーの柄をくぐって私の懐に入ってくる。私もハンマーから手を放して拳を握ってえーくんを迎撃しにかかった。私より早く攻撃の準備を終えたえーくんの鉄より硬い拳が私のお腹に突き刺さる。けふ、と息が漏れたけど攻撃の瞬間にゆるんだえーくんの意識の隙間を縫って、私の全力の拳が彼のこめかみを見事にとらえる。

 

 そこからさらに、肘にスラスターを作って瞬間的に噴射し、地面に向けて思いっきり降りぬいた。潰されるように地面に突き刺さったえーくんの体から力が抜ける。くたり、と脱力したのをミッドナイト先生が確認して勝敗が決する。

 

 「切島君気絶のため、楪さんの勝利!」

 

 『ガチガチの殴り合いを制したのは楪希械!ナイスファイトだぜ!』

 

 「いったぁ……脳無にやられた時より痛いかも……」

 

 痛覚が鈍い私なのにもかかわらず響くような痛みを訴えてくるお腹をさすってから、私はえーくんを抱っこして出張保健室に向かった。何とか、今回も負けなくて済んだ。えーくんより弱かったら、いざって時にえーくんの前に立つことができない。えーくんはショックが強すぎたみたいで当時のことは覚えてないけれど、幼稚園の時のように……今度は私が、えーくんを守ってあげたいから。色んな人の盾になる彼を、私が支える為に。

 

 

 

 「すまねえ!!!!!」

 

 土下座だった。それはもう見事な土下座だった。真っ赤なつんつん頭をベッドの上にこすりつけて土下座を敢行してるのは、さっきまで私と本気で殴り合いを繰り広げていたえーくんである。私はリカバリーガールにお腹をめくって見せていて、これから治癒を受けるところだったんだけどえーくんが目を覚まして私のお腹を見た瞬間に、赤くなったり青くなったり忙しい反応を見せて、これだもの。ビックリしちゃう。

 

 「試合だったとはいえ本気で殴った!跡が残っちまうだなんて……」

 

 「いやいや、えーくんだってたんこぶ……」

 

 「俺はいいんだ!男にとっちゃ傷は勲章みてえなもんだろ!けどよぉ……」

 

 「熱くなってる所悪いけどねえ、ひどめの内出血だよ。治癒ですぐに良くなる、安心しなさい。にしてもあんたら二人とも頑丈だねえ、楪は普通の人間だったら内臓爆発してるし、切島に至っては頭が取れてただろうに」

 

 「まあ、私は機械ですから」

 

 「俺は硬い事が取り柄っすから!」

 

 どうも、えーくんは青紫色に染まった私のお腹に責任を感じてたみたいだけどそんなのお互い様だし、私は結構嬉しかった。えーくんと本気で殴り合いするなんて今後なかなかないと思うから。正直気持ちよかったなあ……えーくん、私の想定を超えた強さだったしうかうかしてられないね。はんせーかい、とえーくんに声をかけて彼の隣に腰掛ける。あーだこーだと言い合いながら、幸せだと私はそっと感じるのだった。

 

 




 なんで希械ちゃんはオッドアイなのか、というお話でした。切島君はスパダリ、はっきりわかんだね。切島君は朧げながらこの記憶を有しているので楪ちゃんのことに無意識に過保護になってしまうわけですね。しょうがないね。
 
 お互いを守りたいから相手より強くありたいって関係...素敵やん?

 では次回もよろしくお願いします。感想評価をくださると励みになりますのでどしどしお送りください


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24話

 『無敵かと思われた個性、ダークシャドウを真正面から粉砕!爆豪勝己勝利ィィ!』

 

 「すごいね、爆豪くんって。戦闘だけじゃなくて洞察力も秀でてる……」

 

 2回戦第4試合、内出血を治してもらった私と、たんこぶを治してもらったえーくんが観客席に戻ると、飯田くんに負けちゃった三奈ちゃんがおめでとうと駆け寄ってきてくれたと同時に切島も頑張ったねと褒めてくれた。どっち応援したらいいかわかんなかったよ~という三奈ちゃんに膝の上を占拠されて胸を枕にされた状態で観戦した最後の試合は、遠中距離でかなりの強さをもつダークシャドウを有する常闇くんとクラスの爆発才能マン爆豪くんとの戦いだった。

 

 圧倒的、と言葉にするしかなかった。ダークシャドウによる攻撃を全て爆破によるカウンターで防ぎ、ダークシャドウはダメージを受けないという既知の情報からどうにかして接近戦に持ち込むしかないと思ってたけど、あえて爆豪くんは中距離戦でダークシャドウに爆破を当てまくった。ダークシャドウに攻撃は効かないにしろ怯みはする、意思と痛覚はあるのだ。

 

 そして暴いた。ダークシャドウの弱点である……強い光を。思えば騎馬戦の時私が放ったフラッシュバンの後、ダークシャドウはなんだか弱弱しかったけど、そこら辺から既にあたりはつけていたのかもしれない。最終的に爆豪くんは両手を使って閃光のように光に特化した爆発を選択し、ダークシャドウを完全に弱めて常闇くんを撃破してしまった。

 

 「次は、轟くん対飯田くんだね……」

 

 「飯田、すっごい早くてさー!私、何にもできんかった……」

 

 「いや、芦戸さんすごくきれいにカウンター入れてたよね……?」

 

 「でもー!飯田の眼鏡割れなかったんだもんー!」

 

 私の前の試合だった三奈ちゃんの試合、私はモニターでしか見てなかったけど、飯田くんが速攻勝負にくるとみて三奈ちゃんの初撃はカウンターによる右ストレートだった。飯田くんの顔面に見事に入ったそれだけど飯田くんは止まらなかった、歪んだ眼鏡をかけたまま三奈ちゃんを場外に引っ張り出してしまったのだ。予備の眼鏡沢山持ってるんだね飯田くん……

 

 左手の骨折と右人差し指の骨折を治癒してもらったデクくんは毎試合毎試合物凄いスピードでブツブツ言いながらノートを取っているけどすごく気持ちわかるなー。データとそれの分析ってとっても大事だからさー私も右目をガンガン使い倒して今データ蓄積してるんだ。今度ノートの中身見せてもらおうかな、私のページとかとても気になるし。

 

 『3回戦第1試合!氷結のプリンス轟VSハイパースピードエンジン飯田ァ!』

 

 きた、轟くん。デクくんに炎を使わされたからこの試合でどうなるか……前と同じように氷だけなのか、炎も使いだすのか……はっきり言って読めない。炎側は正直言って情報が少なすぎるから……最大何度の炎を出せるのか、持続時間は?体への負担は?全ての情報が足りない。だからこの試合は私にとっても大事、爆豪くんに勝てたら次は彼と戦わなきゃいけないもの。

 

 試合開始、飯田くんの選択は……やっぱり速攻!レシプロバーストと聞いた飯田くん曰く誤ったエンジンの使い方で途轍もなく加速した飯田くんは轟君が氷結を出す前に彼の脳天に蹴りを入れて地面に打ち倒すと、そのまま服を掴んで場外に向かって走りだした。やっぱり場外狙い、そうなるよね。レシプロバーストの時間は約10秒、このペースなら……

 

 「レシプロバーストが止まった……!?」

 

 「あ、マフラーが凍ってる……!詰まらせたんだ、排気できないとエンジンは止まっちゃう……!」

 

 デクくんの驚愕の声に私は右目をズームさせて二人を見ると、飯田くんのエンジンのマフラーが轟くんの氷結で凍り付いて詰まっているのが見て取れた。ヤバいなあれ、飯田くんのエンジンが私が知ってるエンジンと同一の構造をしてるか知らないけど最悪爆発する止め方だ。あ、でも飯田くんのエンジンの燃料はオレンジジュースなんだっけ。可燃物じゃないから爆発しないのかなるほど……?

 

 大技ばっかり見せてきた轟くんの小技、止まってしまった飯田くんは轟くんの氷結の餌食になり、行動不能になってしまう。結局、炎熱は見せなかった轟くんだけどまずいかも……私の体って精密機械の塊だから、体の内部まで凍らせられるのだとすれば結構厄介この上ない。対処法としては極限まで隙間を小さくするしかないかな……?それだと排熱に支障が……?うーん、どうしよう……?

 

 「行ってくるね……!爆豪くん、よろしくお願いします」

 

 「……ケッ」

 

 試合が終わったので準備時間に入る。私と爆豪くんは試合に出る為に控室に行かなきゃいけない。けどステージの補修がないからすぐ呼ばれそう……みんなから応援の言葉を貰って観客席を後にする。爆豪くんの個性は爆発、威力は私が作る爆発物と同等、いや面積規模で言うなら彼の方が繊細で威力が高いかもしれない。拡散する爆発をピンポイントで最大威力で当ててくるだろうから……色々対策しておかないと。

 

 

 

 

 『3回戦第2試合!爆豪勝己VS楪希械!行ってみよーーー!!』

 

 『キャッチコピー考えるの面倒くさくなったのか、マイク』

 

 『盛り下がること言うのやめない?』

 

 爆豪くんと向かい合う。向かい合って初めて分かった、ポケットに両手を突っ込んでこっちを痛いほど睨みつける彼は少し汗をかいている。体、あっためてきたんだ。デクくん曰く、爆豪くんは個性の都合上動けば動くほど汗が分泌されて爆破の威力が上がるらしい。つまり、試合前に動いて個性を最大限使えるように高めてきたんだ。傲慢に見られがちだけど抜け目ない、爆豪くんの一面を新たに発見した気分。

 

 「試合開始!」

 

 「おい、楪」

 

 「だから楪……あれ?」

 

 ミッドナイト先生が試合開始を告げると同時に、動き出そうとした私を爆豪くんの声が止める。しかもクソメカ女とかじゃなくてちゃんと名字で呼んでくれた、なんという青天の霹靂、何事だ!?ば、爆豪くん変なものでも食べたの?いやでも拾い食いする性格じゃないだろうし……そもそも私爆豪くんがまともに人の名前呼んだの初めて聞いたよ?幼馴染のデクくんだってクソデク呼ばわりだし……

 

 「な、なに?」

 

 「てめぇ、本気出してねえな?舐めプしやがって。使えよ、USJであの脳みそクソヴィランに使ったやつ。しょうゆ顔から聞いた、てめえの全てをねじ伏せて、俺が勝ってやるからよ」

 

 「……ダメだよ。ゴリアテは使えない、人に使うものじゃない。ましてや試合でなんて」

 

 本気を出していない、というちょっと腹が立つ指摘は置いておくにしろ、ゴリアテをクラスメイト相手に使うだなんてとんでもないもいいところだ。そもそもアレは救助用の用途が大部分、倒壊した建物を持ち上げることやがれきを支えるなどの重機じゃ器用さが足りないところを補うために開発したもので、戦闘もできるように最低限の武装を付けただけ。目指すのは救助をするオールマイト先生のトレースでしかない。

 

 それに、威力過剰が過ぎるし加減が効かない。当たれば100%殺してしまう。マイク先生曰くクソの攻撃になってしまう上に、反則に近いんだ。攻撃を当てないようにして戦うのは私にとっては難しい。えーくんですらゴリアテのパンチを受け止めるのは絶対に不可能なのだ、いくら爆豪くんでも死んでしまう。

 

 「ダメ、絶対にダメだから」

 

 「関係あるか、俺が勝つ。いいから使え!舐めてんのか!」

 

 やっぱり聞いてくれないよね……主審のミッドナイト先生に目を向けると、私の提供した動画でゴリアテのことを知ってるらしく、無言で首を横に振られた。そこで改めて爆豪くんを見ると……盛大に舌打ちをして一言

 

 「なら使わせてやるよ……!」

 

 「使わないってば!」

 

 とびかかってくる爆豪くんに対して私は手足を変形させつつそう答える。いつもの戦闘形態じゃない、普段使う手足に近い状態だけど材質が違う。爆豪くんは速いうえに動きが細かい、若干大雑把なきらいがある戦闘形態だと後れを取ってしまう、だから組み上げた。対爆豪くん専用の手足だ。

 

 開幕の爆破を腕で受ける。初っ端から顔面狙いとは容赦がないね、それでこそ爆豪くんかな。爆発が腕に触れた瞬間に、腕の装甲が逆に爆発を起こして爆豪くんの爆破の威力を完全に殺した。その隙に腕を掴もうと手を伸ばすけど流石の反応速度で腕から爆発を起こしてバックステップ、そりゃこんな簡単にいかないか。

 

 「てめぇまたパクリやがって……!」

 

 「一発ネタだよ?爆発反応装甲、知ってるよね?あ、知らないか」

 

 「知ってるわ舐めんな!戦車についてるやつだろうが!」

 

 「……あ、ホントに知ってるんだ。爆豪くんも男の子なんだね」

 

 「俺のどこを見たら女に見えるんだクソが!」

 

 「そういう意味じゃないんだけど……!」

 

 まあ、爆発反応装甲は一発ネタ、これ以降は使わないし意味はないと思う。本命はこの手足、普段は油圧と電気モーターで動かしてる私の手足だけど、今回は別物。何と部品の全てが電磁石接合されており、さらには球体関節という仕様になっているんだ。端的に言えば、爆発の衝撃をインパクトに合わせて一旦接合を解き、衝撃を逃がしたうえで再接合するという構造になっている。パワーは少し落ちるけど十分!

 

 「レアアロイシールド、スタンバトン、ホーダインクラブ、形成開始(レディ)

 

 左手に高硬度の希少金属で来た円形のシールド、バチバチと音が鳴る電気の流れる大型警棒、手のひら部分を変形させた自動砲台設置システムを一気に作成する。シールドが付いた手のひらから丸い機械の塊を次々投げる。爆豪くんはそれを手榴弾あるいは閃光弾だと思ったのかさらに距離を取った……だけど、これは違うんだよ。機械音を立てて一気に変形した玉は……自動砲台へと姿を変えて爆豪くんに向かって圧搾空気を利用したゴム弾を発射する。

 

 爆豪くんが逃げたのは当然だけど上、地面にいたら格好の的だもんね。そして私の真上を取る、そのまま両手の爆破で高速回転を始めて突っ込んできた。多分これ超大技だ!避けられないし耐えるしかない!

 

 「榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ォ!」

 

 「くぅ!」

 

 シールドを上にかざして攻撃に備える。彼の最大威力に加速が加わった大爆発が、私を襲った。設置した砲台は一瞬で壊されてしまった。シールドの上からの爆発の圧力で私の足が地面に埋まる。閃光と煙で視界が悪い……!

 

 「殺った……!!」

 

 「とってない!」

 

 煙に紛れて私の背後を取った爆豪くんが至近距離から爆破を放とうと手を向ける。だけど私は前を向いたまま腕を人体の関節を無視した動きで動かして彼の手をシールドで叩いて逸らした。電磁式球体関節はどんな方向でも曲げられるのが強み、爆破を逸らされた爆豪くんが離脱しようとするより一瞬早く振り向いた私は電磁バトンを彼に向かって叩きつける!

 

 「があああああっ!?」

 

 人体に影響がない程度だけど十分に高圧の電気が爆豪くんを襲う。全身が硬直してしまった彼の隙をついて私は武装を投棄して、彼の肩を腋から掬い上げるようにを両手でつかむ。じたばたと暴れる爆豪くんを軽く持ち上げて拘束状態に持っていくけど……どうやらこの状態では勝利判定ではないみたい。暴れる爆豪くんが遠慮なしに爆破を私の顔にたたきつける。

 

 「ねえ、爆豪くん」

 

 「離しやがれぇ!」

 

 「ロケットパンチって、知ってるかな?」

 

 前髪が焦げて、鼻血を出した状態の私の問いかけに、爆豪くんは一層暴れだして四方八方やたらめったらに爆破を打ち出すが、腐っても機械の手、そう簡単に拘束からは逃れられない。そして私は肘部分にロケットエンジンを作り出して、腕ごと爆豪くんを発射する。手を何とか後ろに回して爆破を連続して勢いを殺そうとする爆豪くんだけど……その手、最大出力で30分は飛ぶんだ。

 

 「爆豪くん場外!楪さんの勝利!」

 

 爆豪くんの身体が抵抗むなしく壁に接触した瞬間にミッドナイト先生の宣言が響いた。私はそこで腕を呼び戻して再接合する。ずり落ちるように壁から落ちて座り込んだ状態の爆豪くんは、こちらにも聞こえるほどの大きな歯ぎしりをして、無言で立ち上がり歩いて会場から去っていった。

 

 『決勝進出はぁ!ヒーロー科轟焦凍と同じくヒーロー科の楪希械だぁぁぁ!!!小休憩を挟んで決勝だぜ!リスナーたちよ!盛り上がれぇぇぇ!』

 

 会場が爆発するように沸く。私は焦げてしまった前髪を弄りながら、鼻血を啜って出張保健室に向かう。治癒は受けなくていいけど、女の子的にはこの焦げちゃって癒着しちゃった髪の毛はどうにかしたいし、鼻血も止めたい。爆豪くんホントに遠慮しなかったけど、逆にそれが嬉しかった。爆豪くんにとって私は全力を出さない嫌な奴かもしれないけど、私は今までの爆豪くんのデータから導き出した一番勝率が高い装備を選んで本気で相手をした。それだけはきちんと理解して欲しいと私はそう願っている。……無理かもしれないけど。折角苗字を覚えてくれたのに、舐めプメカ女とか呼ばれだしたら私泣いちゃうかも……。




 実は殴り合い専用パワードスーツでありつつもブレイキングマンモス枠でもあったゴリアテ君。強化形態案はまだありますけど他は純粋戦闘用ですね。戦争用ぐらいの勢いですけど。

 元ネタ紹介

 レアアロイシールド アメリカのケツが持ってるアレ。ビブラニウム製ではない。星条旗カラーでもないし塗装もされてない

 ホーダインクラブ ラチェクラシリーズより。自動砲台を投げて設置するメカ手袋。便利

 感想評価よろしくお願いします。


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25話

 『さぁいよいよ決まるぜマスメディア!雄英の1年生の頂点がここで決まる!轟VS楪!』

 

 「……目、出したんだな。初めて見た、両目」

 

 「そう……だっけ?爆豪くんのおかげで前髪滅茶苦茶になっちゃって……」

 

 「そうか」

 

 「お揃いだね、オッドアイ」

 

 決勝の舞台で向かい合う、私と轟くん。轟くんとの交流は爆豪くんより薄いし、私は授業でも右目を余りだしたことはない。でも恥ずかしくはあっても見られて不快ってわけじゃないから露出したことは何度かあったはず……?多分それだけ周りに興味がなかったのかそれ以上に何かを強く追い求めて周りの情報をシャットアウトしてたのか……。

 

 轟くんが言う通り私は爆豪くんの爆発で前髪が見事に溶けて癒着しちゃったのでぱっつんと切って露出してる。個性使って伸ばせなくもないけど、余計な出費は後で響く。僅かな差で勝利が決まることもあるんだから全部終わらせてから余分を考えるべきだ。お揃いだね、と轟くんの左右で色が違う目を見ながら言うと、彼は少しだけ目を見開いてそのまま黙ってしまう。

 

 「轟くんってさ、どうしてヒーローになりたいの?」

 

 「お前に、関係あるか?」

 

 「ないかもね。だけどクラスメイトだから……あなたの事知りたいの。だって轟くん、誰とも話さないから」

 

 「仲良しごっこするつもりはねえ」

 

 「……私はね、誰かを守りたいからヒーローになりたいの。なりたい自分になりたいから。轟くんもそうでしょ?なりたい自分になるためにヒーロー科に来た、そうじゃない?」

 

 『決勝戦、スタートォ!」

 

 「うるせぇ……」

 

 「お節介かもしれないけど、それがヒーローだから!本気を出せない理由があるなら、それでいい!でも、私は……全力の轟くんと戦いたい!」

 

 スタートの合図とともに轟くんの右側から規模の大きい氷結が襲ってくる。左の炎はうんともすんとも出してこない。しっかりと両目を捉えた彼の目は、揺れに揺れていて、私を見ていない。遠いどこかを憎むようなそんな目をしてる。どこ見てるの?誰を思ってるの?上の空で勝てると思われてるほど……私って弱く見えるのかな……?

 

 「リヴァイアサンテイル、形成開始(レディ)

 

 右手からの断続的な機械音、形成されたのは青いエネルギーの棘が生えた鉄球を備えた武装。リヴァイアサンテイル、端的に言えば衝撃波発生装置を内蔵した棘付き鉄球、要は力押しの象徴みたいな武装だ。いわゆるモーニングスターっていう可愛くない武装。金属製の鎖でつながってる鉄球を柄から伸ばして、思いっきり眼前の氷壁に叩き付ける。

 

 『楪氷結を一蹴ぅぅぅ!!!』

 

 「氷は私に通用しないって、知ってるよね?」

 

 音を立てて私の手足が変形する。戦闘形態、バーニア増設。脹脛のスラスターを噴射して飛びあがり、轟くんの近くの地面に向けて思いっきり叩き付ける。ステージに叩き付けられた鉄球の中にある衝撃波発生装置が起動して、周りにショックを振りまいていく。それに押された轟くんは背後に氷の壁を出して吹き飛ばされるのを耐える。

 

 炎はでない。どうも轟くんは私と接近戦をするのがお気に召さないみたいで、距離を取って氷結を連打してくる。けど私は都度それを丁寧に砕いていく。振り回される鉄球がステージを穴だらけに変えていく。別に轟くんが本気を出さないなら出さないでもいいと、私は思うけど……でもさ、自分に嘘をつくのは良くないと思う。

 

 多分轟くんは、勝ちたい。勝ちたいはずなんだ、だけどデクくんに無理やり心の柔らかい所をつつかれて、炎を使って……分からなくなってる。自分がどうしてここに立ってるのか、流されてるだけなのか、目標があったのか……いろいろ全部ぐちゃぐちゃになっちゃってる。本来の目的を見失ってる。みんな、勝つためにここにいる。それだけは間違いない筈なんだ。

 

 「勝ちに来ないと!本当に何もできずにこのまま私に譲っていいの!?じゃあなんで勝ち上がってきたのっ!?」

 

 「っ……!」

 

 「デクくんとの試合で言ってたよね!?俺だってって!ヒーローになりたいって!なりたいんならなればいいんだよ!なりたい自分になっていいんだよ!」

 

 あとから録画で見返した時に気づいた轟くんの言葉、音声では聞こえなかったけど、口元の動きで分かった。轟くんの底の底にあった本音が。ヒーローになりたいって言ったんだ、氷結だけっていう縛りを取っ払ったその先にもあったその言葉が本音!

 

 「負けるな!頑張れ!二人とも!」

 

 「……緑谷」

 

 「デクくん……!」

 

 観客席から届いた、応援。私たち両方に届いたエール、その流れは会場の全てに伝播して……私たち二人を応援してくれる。降り注ぐエールの雨に、少しだけ顔がほころんだ。

 

 「一回さ、全部忘れちゃおうよ。全力って出したらすっきりするよ。考えるのはそのあとでもできる。今は、今できることを本気で取り組むのが一番だと私は思うな」

 

 「……緑谷も、お前も……変な奴だ。なんも知らねえのに俺の中かきまわして……どうなっても知らねえからな」

 

 「望むところ!」

 

 パキパキ、ゴウゴウと轟くんの左右から氷結と炎が顔を出した。リヴァイアサンテイルを作り変えてスラストハンマーに、そしてもう一方、チャージジャベリンを新しく作り出す。大型の武器を二つ両手で構えて、背中のジャージを破ってゴリアテの背中についてるブースターが生成される。

 

 襲い掛かる氷結に恐れず突っ込む。バカみたいな加速を生み出すブースターの勢いに乗せてチャージジャベリンを構えて氷結に突っ込んだ。最大威力の氷結の中をジャベリンの突破力だけを頼りに掘り進む。氷結を突破した私が勢いに負けて折れ曲がったジャベリンを捨てる。そのままスラストハンマーの噴射口から思いっきり噴射炎を吹かして大上段に構えて轟くんに向けて流星のように突っ込んだ。

 

 「あっ!?」

 

 炎での迎撃が来ると思ったけど、無視して一撃くらいは行ける、そう考えて迫る熱に向けて覚悟を決めた私と反比例するように、轟くんの左から出てた赤い炎は収まってしまった。私は迎撃される前提だった攻撃を無理やり逸らして轟くんの手前の地面に無理やり軌道変更する。勢いは殺せず、そのまま轟くんの近くに着弾した私の攻撃は、轟くんを吹き飛ばして……場外に押しやってしまった。

 

 「……私じゃ、足りなかったんだね」

 

 『試合終了!!!今年の1年生のトップを飾ったのは……メカガール!楪希械だぁぁぁ!!!』

 

 ぽつりと呟く私の言葉をかき消すように、マイク先生の絶叫と健闘をたたえる拍手が降り注ぐ。私は腕と足を元に戻して、焦げちゃった背中丸出し状態のジャージ一枚のままステージを降りて轟くんの元に向かう。座り込んで私を見た轟くんは、すっと目を逸らした。

 

 「はい、お疲れ様轟くん。ごめんね、勝手に色々好き勝手言って。嫌だったよね」

 

 「……いや、俺の方こそ……悪かった。最後の最後でまた……迷っちまった」

 

 ちょうどよく背中が開いてたので排気口を作って排熱した私は、轟くんに謝りつつ手を差し出した。戦ってる最中とか気が高ぶっていつもより饒舌になっちゃうのが私の悪いところかもしれない。目をそらしていた轟くんだったけど、差し出された私の手を見て、ついで私を見てくれた。うーん、結局私は轟くんが抱えてる事情を知らずに好き勝手やっただけなんだよね。迷惑千万極まりない。

 

 「なりてえ自分、か……小せえ頃、おかあさんにも同じこと言われた」

 

 「おかあさんが、私と?優しいお母さんなんだね」

 

 「……そうだな。そうだった。ずっと忘れてたんだ、俺のおかあさん……優しかったんだ」

 

 「……」

 

 「どうした?」

 

 「轟くん、イケメンってよく言われない……?」

 

 「……何の話だ?」

 

 咄嗟に出た照れ隠しに轟くんが首をかしげる。おかあさんの事を思い出して語る轟くん、その微笑みはまさに絵画のようで思わず見惚れそうになってしまうくらい絵になっていた。半分機械でビックサイズな私だけど一応、女の子なんです。そういうのを直視しちゃうとその、こう……言葉にできない気持ちになる。しかも私、今目を隠してないからその爆撃を直視してダイレクトアタックを貰った。そういえば三奈ちゃんが轟って顔がいいよね~って言ってたのを思い出した。超納得した、うん。

 

 「ねえ、轟くん」

 

 「何だ?」

 

 「仲良しごっこ、するつもりはない?」

 

 「……いや」

 

 「私と友達になってほしいの、オッドアイ仲間、初めて見つけたし」

 

 私の手を取ろうか迷っているらしい轟くんの手を掴んで強引に立ち上がらせながらそう尋ねる。轟くん、何となく体育祭前と雰囲気が違う。氷のようだった拒絶の色が、今はない。その原因は私じゃなくてデクくんだろうけど、折角雰囲気が柔らかくなったし、クラスメイトになったんだからずっと一人でいるのも寂しくないかな?それこそ余計なお世話だけど、まあ私の欲望だ。轟くんとお友達になりたい、それだけ。

 

 「……俺で、いいなら」

 

 「轟くんがいいんだよ。きっと私以外も、轟くんと友達になりたいって思ってる」

 

 「……そう、か」

 

 「だから反則だってそれ……」

 

 またまたイケメンフェイスを緩やかに微笑みの形にした轟くんからダメージを貰いつつ、私は一緒に出張保健室に向かうのだった。

 

 

 

 「それではこれより!表彰式を行います!」

 

 「ん~~~~!!!!」

 

 「爆豪くんどうしちゃったの……!?」

 

 ミッドナイト先生の音頭で上空にぽんぽんと花火が撃ちあがる、表彰式、保健室で新品のジャージに着替えて個性を使ってまた目を隠せるくらいに髪を伸ばした私と、何となくそれを残念そうに見る轟くんが会場に戻ってくるとセメントス先生の個性によって作られた表彰台の3位の場所にありとあらゆる方法で雁字搦めにされた爆豪くんがご丁寧に猿轡を噛み砕く勢いで暴れていた。

 

 「あいつ……顔すげえな」

 

 「否定できないけど出る感想それなんだ……」

 

 ひぃ……もともと怖いと思ってたけどより怖さが倍増してるよ爆豪くん……。目の血走り方と吊り上がり方がコミックもかくやみたいな感じ。というか手枷の中で小爆発が連続して起こってるみたい、だってみるみる間に手枷が内側からボコボコになってるもん。大丈夫だよね?襲ってこないよね……?とびくびくしながらミッドナイト先生に促されて1位の台に上がらせてもらう。

 

 「折角カワイイ顔してるのに、もう隠しちゃったの?もったいないわ」

 

 「い、いいんです。私はやっぱりこの方が落ち着きますから」

 

 ミッドナイト先生の残念そうな言葉に私ははっきりとそう返す。やっぱり私は目が隠れてる方が落ち着くし、周りの目線も気にならなくなってちょうどいい。1位の表彰台に注がれる視線は強烈でいつもの私だったら縮こまって誰かの後ろに隠れてたかもしれないけど今だけは胸を張ってこの場所に立とう。どんな形であれ、私はこの場所を勝ち取ったなら、それにふさわしい姿であるべきだから。

 

 「じゃ、早速表彰に移らせてもらうわ!今年のメダル贈呈は勿論この人!」

 

 「私がメダルを持って「我らがヒーロー!オールマイト!」……」

 

 か、被っちゃった……!凄い、すごい気まずい……!表彰台に漂うこのいたたまれない空気、何時もの陰影の濃い画風の違う笑顔で無言のままミッドナイト先生を見るオールマイト先生、暴れる爆豪くん、我関せずの轟くん……なんて個性的なんだろう。どうすればいいのこの空気……助けてえーくん……。

 

 「本来なら3位には飯田くんもいましたが、おうちの都合で早退となりました。ご了承くださいな」

 

 「気を取り直してメダルを授与させてもらうよ!まずは爆豪少年……これはあんまりだな……」

 

 「オールマイトォ……そんなメダル要らねえからさっさと終わらせろォ……!俺は負けた!それで十分だクソが!次は絶対に1位になってやる!」

 

 「む、上昇志向なのはいいことだ爆豪少年。有言不実行は残念だが、受け取りなさい。これは君が努力し、勝ち取った証なのだから」

 

 「いらねンガッ!?ん”ん”ん”~~~~~!!!」

 

 爆豪くんの猿轡を外したオールマイト先生が入れ替えるように猿轡を爆豪くんに咥えさせてメダルを授与する。授与って言っていいのかな……?めっちゃ歯がギリギリ言ってる。その、すり減って折れちゃいそう……

 

 「顔つきが変わったね轟少年!決勝で左を収めてしまったのには理由があるのかな?」

 

 「……分からなくなったんです。緑谷にきっかけ貰って、俺だけ吹っ切れて……それじゃダメだと思った。全部清算してからじゃないと使えないと、思ったんです」

 

 「そうか、今の君なら必ずできる。準優勝おめでとう轟少年!次の年も期待しているぞ!」

 

 轟くんをぎゅっとハグしたオールマイト先生が、彼の首に銀色のメダルをかける。そのメダルを手に取って見つめた轟くんは静かに頭を下げて前を向いた。それを満足気に見つめたオールマイト先生が今度は私の前にやってくる。私より少し背が低いオールマイト先生は、グッと右手のサムズアップをくれた。

 

 「優勝おめでとう楪少女!頑張ったね!今君は雄英の1年生の頂点に立った!プロの目からも君を欲しがるところは沢山あることだろう!」

 

 「はい、ありがとうございますオールマイト先生」

 

 「多くを語る必要はないみたいだね!君の応用力の高い個性はどの現場でも必要とされる素晴らしいものだ!いつか同じ舞台で君と肩を並べるのを楽しみにしているよ!」

 

 オールマイト先生はそう言って、私の首に金メダルをかけてくれる。そしてそのまま、大きな暖かい手で頭を撫でてくれた。オールマイト先生に促されて、私は片手をあげる。ガッツポーズだ。その瞬間に爆発するように観客が沸く。クラスの席からもみんな、歓声を上げていた。私はそれに満面の笑みで返す。

 

 初めての体育祭は私の優勝という結果で終わった。だけど、それだけじゃなく沢山変わったこともある。クラスメイトの新たな一面を知れたり、お友達が増えたり。つまり何を言いたいかと言えば……私にとっては考え得る限り最高の結果だったってことだ。




 楪ちゃん、優勝。これが炎を完全開放したガチろきくんなら話は違いましたが流石に氷結だけならメッタメタのメタが成り立つのでね。あとお友達も増えたよ、やったね。

 この作品の轟くんはゆるゆるド天然イケメンです。主に女子の心を撃ち抜く役割を担ってもらいます。原作でもイケメンって言われてるしいいよね?

 元ネタ紹介

 リヴァイアサンテイル ラチェクラ4における友情破壊兵器。超強いガンダムハンマー、多分ゴックを真正面からぺちゃんこにできる。小惑星を粉砕できるという設定もあるほど。ロマン。


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職場体験編
26話


 「ねえ、君!楪さんだろ!?体育祭!見てたよ!」

 

 「ひゃ、ひゃい!あ、ありがとうございますぅ……」

 

 「そっちは切島君かい!?体育祭凄かったね!ヒーロー目指して頑張ってね!」

 

 「ウッス!ありがとうございます!」

 

 あの体育祭からはや二日、体育祭の振り替え休日を挟んだ今日は登校日……なんだけどこれがすごいの。歩くとそこかしこから声がかかって、体育祭のお話をされる。やれえーくんとの戦いがアツかったとか、爆豪くんの時もカッコよかったとか。メカはロマンだとか、安心感ある大きさだね、とか。

 

 私と一緒に登校してるえーくんもそれは同じでえーくんはその圧倒的なコミュニケーション能力をいかんなく発揮して笑顔ですべてに対応しているんだけど、私は全然ダメダメ、どもったりいいコメントが思いつかなかったり……というかなんで変装してるのに私だってわかるんだろう……?

 

 「コー、ホー……」

 

 「なぁ希械。ベイダー卿のマスク被っても多分背と手足で分かっちまうぜ?」

 

 「そんな!不気味さで曖昧にできると思ったのに!」

 

 「逆に注目集めて見つけられてるんだよ……ホントお前……テンパると処理能力が落ちるよなあ」

 

 「社長さんにも言われた……慌てると反応が遅いって」

 

 今日はあいにくの雨、この二日間で繰り返し何度もメディアに映って武器を振り回す私の姿が放送されたかわかんない。だって例年話題になるのは3年生と2年生で、1年生は新聞の隅っこにちょこんと結果が張り出されるくらいだったから。それが3年生を押しのけての主役扱いな上に、掲示板に至っては専用の実況スレッドまであったんだ。その、中身に関しては思いだしたくない……。

 

 私専用サイズの巨大な傘を差して、えーくんと雄英に入る。雨の日はちょっとイヤ、だってみんなと違って裸足な私は足を拭かないと校舎の中に入れないから。バスタオルを取り出して、念入りに機械でできた足を拭う。錆びたりはしない、というか錆びるまで放置はしないので私の足はいつもピカピカ、鈍色の鏡のような感じに保ってる。

 

 「お!来たぜ優勝者!なあ楪!お前道中どうだった?声かけられただろ!?」

 

 「あ、上鳴くんおはよう。うん、とっても……ちょっと怖かった……」

 

 「だよなーっ!!一気に注目の的になっちまってよ!やっぱすげえな雄英って!」

 

 教室の中に入ると、早くに来た人がそれぞれグループに集まって雑談に興じていた。ベイダー卿のマスクを小脇に抱えた私に話しかけてくる上鳴くんに思わず返してしまう、しまったまだ私は体育祭のチアのことを許したわけじゃないんだぞ。掲示板でとんでもないこと書かれてたから恥ずかしさ倍増なんだぞ、とウェイウェイ言ってる上鳴くんに無言でマスクを被せて私は自分の席に向かう。

 

 「え?なにこれ!?」

 

 「上鳴ちゃん、ベイダー卿ね」

 

 「呼吸音まで再現してすげーっ!」

 

 話題がそれてベイダー卿マスクで遊び始める皆をしり目に、私は机に突っ伏して、失った体力の回復に努めるのだった。え?八百万さんどうかした?頭から湯気?熱がこもってるんですぅ……。 

 

 

 

 

 「おはよう、体育祭お疲れ様だったな。今日の連絡事項だが若干多い、よく聞くように。上鳴はそのマスク取れ」

 

 ガラガラ、と教室のドアを開けて寝袋を片手に持った相澤先生が入ってくる。粉砕骨折で治癒が長引いてたらしい腕の包帯はすっかり取れて、私も一安心だ。ドアが開いた瞬間に自分の席について静かにしてた皆だけどベイダー卿マスクをつけてた上鳴くんは出遅れて怒られてる。

 

 「で、まずだが今日のヒーロー情報学。コードネームの考案だ」

 

 胸が膨らむやつだ!と私のテンションが上がるのと同じようにみんなのテンションも上がって腕を振り上げる人もいるくらいだ。相澤先生のその言葉は私たちの興味を引くのに充分過ぎるものだった。というのもヒーローネーム、オールマイトとかパワーローダーとか……活動中に名乗る名前を自分で考える、否が応にも楽しくなってくるでしょ!

 

 「はい、静かに。というのも体育祭前に話したプロからのドラフト指名に関する話でな。君たちには指名の有無関係なく職場体験に行ってもらう!」

 

 しょ、職場体験!?ってことはヒーローの事務所に行ってヒーロー活動のお手伝いをさせてもらえたり直接アドバイスを求めることができるってこと?それってとってもすごいことだ!しかも指名無くてもいける!!私は正直体育祭だと破壊力に長けたゴリラ女っていうB組の物間くんが言う通りの活躍をしたと思うので都市部で活動するヒーローには嫌われたかもしれない。多少は指名あればいいかな~~って思ってたけど……どうだろう?

 

 「で、その肝心の指名なんだが……今年は大分偏ってな。結果はこうだ」

 

 「「「「楪(さん)が7000件!?」」」」

 

 「あの、さすがに集計ミスでは……?」

 

 黒板に投影された集計結果、爆豪くんが3000件、轟くんも3000件と並んでいき、デクくんは100件えーくんは300件の指名があるみたい、なんだけど私の数字が抜きんでているというかダブルスコアで他を引き離してるので棒グラフがちっさい。というか7000件は流石に盛ったとしか思えない……。

 

 「楪の場合は少し事情が違う、ヒーロー事務所が4000弱、残りはサポート会社だ」

 

 「え、サポート会社も指名権を持ってるんですか?」

 

 「持ってるわけじゃないが、ラブコールが山ほどきてな。お前も知ってる発目にも来ている。それで校長の判断で指名として扱うことになった。職場体験はどっちに行ってもいい、お前の場合はどっちも糧になるだろうからな」

 

 な、なるほどサポート会社……そういうのもあるんだ……確かに私にとってはどっちに行っても糧になる。最新の技術に触れれば個性が伸びるし、ヒーロー活動は言わずもがな。最近詰まってる荷電粒子の実用化とか超圧縮技術だとかについて知れたら私はもっと強くなれるから。あと新素材!頑丈で、軽くて、硬くて!そういう凄いのがあったら知りたいなあ!ああ、I・アイランドに行けたらいいのに……

 

 「それでヒーロー名だ。プロの職場に行くんだからな、適当な名前を付けるなよ。付ければ……」

 

 「地獄をみちゃうからね!」

 

 「ミッドナイト先生!」

 

 「とまあ今からのヒーロー情報学、ヒーロー名のセンスなんぞ俺にはよくわからんのでそこら辺をミッドナイトさんに査定してもらう」

 

 「ボードを配るからそれぞれヒーロー名を考えて発表してもらうわ!名は体を表す!なりたい自分をよくイメージしてね!」

 

 相澤先生の言葉を遮ったのはミッドナイト先生、時計を見るともう既に1時限目に突入する寸前だった。時間をきっかり守る相澤先生にしては珍しい、というか私が延ばしちゃったからか。反省しないと。ミッドナイト先生が用意した真っ白いホワイトフリップに私は手持ちの油性ペンを使ってヒーローネームを記入していく。実はもう決まってたんだ、えーくんにも内緒にしてたけど。

 

 そして15分後……名前順で発表していくということで登壇したのは青山くん、彼はこのクラスの中でも私と話さないし誰かと一緒に何かしてるのを見たことない不思議な男の子。

 

 「輝きヒーロー! I can not stop twinkling!」

 

 え?短……文……?ありなの?と私が目の前の事象にメモリと脳みそをフリーズさせていると、ミッドナイト先生は大まじめにIを取って短縮形にした方が呼びやすいとアドバイス。なんか流れがおかしくなってきた気がする。もしかして三奈ちゃん……?大丈夫だよね?信じていいよね?

 

 「リドリーヒーロー!エイリアンクイーン!」

 

 ガッシャン!と音を立てて私は自分の机に沈んだ。三奈ちゃんの流れで確定してしまった、完全に大喜利めいた流れになってきてしまっていると!は、発表しづらいよぉ……あ、机が凹んじゃった……さっきの短文はオッケーだったのに三奈ちゃんのやつはミッドナイト先生のやり直しを貰っている。何がダメなんだろう?著作権とかそういうのに引っかかるからなの……?

 

 「ケロ、私は……梅雨入りヒーローフロッピー!昔から考えてたの」

 

 か、かわいい!梅雨ちゃんらしいいい名前だと思う!ミッドナイト先生の手放しの賞賛を受けて照れ臭そうに席に戻る梅雨ちゃん、かわいい。そこで完全に流れが変わり、みんなそれぞれ自分の考えたなりたいヒーロー名を発表していく。えーくんの烈怒頼雄斗、昔から聞いてたやつ。他にはチャージズマやウラビディ、イヤホン=ジャックとか皆らしい名前を発表していく。

 

 本名そのままのショート、デクくんはヒーロー名も頑張れって感じのデクにしたみたい。爆豪くんの爆殺卿はリテイク、そっとベイダー卿マスクを見せたらすごい目をされたのでひっこめた。2回目三奈ちゃんはピンキー、クリエティ、グレープジュース……そして今度は私の番。

 

 「メカヒーロー、エクスマキナ。一番しっくりくるかなって思います」

 

 「デウス=エクス=マキナからかしら?」

 

 「はい。強引なハッピーエンドにする機械仕掛けの神様……だけど、ハッピーエンドでいいじゃないですか、神様にはなれませんけどみんなを幸せにする機械でいられたらって思います」

 

 何でもできる神様じゃないけれど、救いの手にはなれる。ハッピーエンドにする機械仕掛けのヒーローとしては中々いい名前じゃないかなって気に入ってる。最後まで考えてた飯田くんは自分の名前で落ち着いたけど……とても悩ましい顔。お兄さんのことが関係してるのかな……連休中のニュースで飯田くんのお兄さんであるプロヒーロー、インゲニウムがヒーロー殺しなるヴィランに再起不能にされたという話を聞いた。

 

 とても深くは聞けないし、聞くべきことでもないからクラスのみんなも察して話題にするのは避けてる。幸い、命に別状はないと聞いてるけど……大丈夫かな……?

 

 「爆殺王……!」

 

 「違う、そうじゃないわ」

 

 爆豪くんも違う意味で大丈夫かなぁ……?

 

 

 

 どっさぁ……と私の目の前に積みあがる紙の束。ちなみに規模は違えど轟くんと爆豪くんの机にも同じ現象が起きてる。ざああっと雑に鞄に詰め込んでさっさと帰っちゃった爆豪くん、一方の轟くんはちらっと眼を通していくつもりみたい。私は流石に多いので情報学の授業の後データでくださいとUSBメモリを作って渡して、帰りのホームルームでメモリを受け取っている。

 

 ぶすっと右耳のアクセサリにメモリをぶっ刺して中身を閲覧する。うわ、ほんとに7000件近くある……ヒーロー事務所は……有名どころが沢山……!?リューキュウ事務所に、ファットガム事務所、クラスト事務所、ギャングオルカ事務所……!!サー・ナイトアイの事務所まで!

 

 「えっ……エンデヴァー事務所まである……!」

 

 「それ、ほんとか?」

 

 「え、轟くん?」

 

 「クソ親父は俺に入れるとは思ってたが……もう一つをお前に入れたのか。何を考えてやがる……!」

 

 「どうしたの?」

 

 「何でもねぇ。俺はクソ親父の所に行くから……一緒になったら俺が守るからな」

 

 「……轟くん、凄いこと言ってるよ今……」

 

 「友達守るのは当然だろ。なんか問題あること言ったか?」

 

 クラス中がシン、と静まり返っている。轟くんが私のことを友達って言ってくれたのは嬉しいけど、これ女の子が選ぶイケメンに言われたいセリフ堂々1位に燦然と輝くやつじゃない?轟くん、ド天然なんだね……デクくんと話してたえーくんは轟なら安心だな!って言ってるけどそうだけどそうじゃないの。女子のみんなはイケメンだぁ……って言ってるし、峰田くんは血の涙を流してる。

 

 だめだカオスだ。こうなれば他の情報はシャットアウトして真剣に選ぶほかないよね、と思考の海に沈む前に教室に独特な体勢でやってきたオールマイト先生によって教室の空気は一変した。ありがとう№1ヒーロー!でもデクくんを呼び出したってことはワンフォーオール絡みなのかな?気になるなぁ……。

 

 サポート会社の方は……なんか偏ってる。主に色々と、というか半分軍需産業もやってる会社ばっかり!スプーンから宇宙ロケットまでのキャッチコピーでお馴染アナハイム・エレクトロニクスの日本支社、圧縮技術に秀でたサナリィ、センサーのアクアビットに火薬庫こと有澤重工、うわ、海外だけどメガコープに謎が多くて有名なファクトリーまで……!どうしよう、サポート会社のほう行きたくなってきた。最新技術が沢山ありそう……!このコジマっていう企業は聞いたことないけどどんな会社なんだろう……?

 

 「だめだ。かえって考えなきゃ……」

 

 「そーだよねー。希械ちゃん沢山指名貰ってるし!私はゼロだよおかしくない!?」

 

 「え、三奈ちゃん飯田くんにキレイにカウンター入れたしいいところまで行ったのに……」

 

 「うわーん、慰めて希械ちゃん~~!」

 

 半泣きで飛び込んでくる三奈ちゃんを受け止めて、私は三奈ちゃんの魅力が分からないなんて案外プロは見る目がないのかとちょっと怒るのだった。

 

 

 

  




 別作品の変態企業が沢山出てきましたが、本筋には全く絡まないので気にしなくて平気です。たまに小ネタとして名前が出てくるでしょう。

 企業にもヒーロー事務所にも人気が出る個性だと思います多分

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27話

 「オイラはMtレディの所に行くぜ!」

 

 「峰田ちゃんいやらしい事考えてるのね、不潔だわ」

 

 「梅雨ちゃん……オイラなんもしてないんだけど!?」

 

 「アンタ楪に謝った?ウチらは制裁したけど、楪はなんもしなかったじゃん?」

 

 「オイラはそれに関しては謝る口は持たねえ!」

 

 「上鳴さんはきちんと謝罪いたしましたのに……」

 

 職場体験の行き先の話でクラス中が持ちきりだ。明日までに希望の体験先を記した書類を先生に出さないといけないので割と急ぎでもある。もう体育祭のチアの件に関しては諦めの域に入ったのでいいや、だけど峰田くんは私じゃなくてえーくんからお話があるみたいだよ?あ、連れてかれちゃった。えーくん騙すとかそういうの嫌いだからね、合掌。

 

 かくいう私も迷いに迷ってる最中で、だって時代を時めく最先端の技術の集まりである企業に体験に行くか、本分であるヒーロー事務所に体験に行くか……これほど悩ましいことがあるだろうか!?いやない!なので私は脳内CPUのクロック数を極限まで増幅して悩みに悩みぬいてる最中なんだ。こういう時に頼りになるのは……

 

 「ねえ、デクくん。デクくんは職場体験行くところ決めた?」

 

 「あ、楪さん。うん、僕はもう決めたよ……昨日オールマイトから勧められたところなんだけど

 

 「そうなんだ……私と一緒で最後までうんうん唸ってるかと思ってたのに……うらぎりもの~」

 

 「う、裏切り者!?いや別にそういうつもりはなくてその」

 

 「冗談だよ~。デクくんはからかい甲斐があるね。それでなんだけど……エンデヴァー事務所とアナハイムエレクトロニクス社で迷ってるんだ。どっちいけばいいと思う?」

 

 「どっちも超大手じゃないか……!エンデヴァー事務所は確かに№2で事件解決数に至っては間違いなくトップ、それでいて人命救助も怠らないがエンデヴァー本人は……」

 

 でた、デクくんの超速ブツブツ情報整理。デクくんはどうやらヒーローオタクというやつみたいでそれはヒーロー本人じゃなくてサポート会社にも及んでる。端的に言えばこのヒーローがつけてるスーツはどこの会社が作ったものでどういう機能が付いているかを把握してるんだ。ぶっちゃけヒーロー関連で言えばこのクラスの誰よりも頼りになると思う。ナードって爆豪くんはいうけどヒーロー科ならそれは武器だ、それに私は凄いと思うから。

 

 で、デクくんからの情報を整理するとエンデヴァー事務所は間違いなくトップクラスだけどエンデヴァー本人がファンサービスを一切しないお陰でそういう内情の情報がほとんどないみたい。幸いサイドキックの人たちはファンサービスに厚いみたいだから雰囲気的には悪い事務所じゃないと思うそうだ。

 

 打って変わってアナハイムエレクトロニクスはヒーロー業界では大手に位置にするけど作ってるのはスーツじゃなくて汎用サポートアイテムが多いらしい。そこまでは私でも知ってるけど、最近の傾向としては一気にお金が取れるサポートアイテムの中でも大型のもの、要は私のホバーバイクみたいなサポートビークルを主力に位置付け始めてるのだとか。ふぅむ、それは知らなかった……。

 

 「なるほどなるほど……デクくん詳しいね。そうするとやっぱり私はエンデヴァー事務所かなあ」

 

 「す、好きだから自然に……あの、聞いていいかな?」

 

 「ん、なあに?」

 

 「どうしてエンデヴァー事務所がいいって思ったの?楪さんならそれこそリューキュウ事務所とかホークスとか……飛べるし個性的に合ってる場所からも指名きてたんじゃ……」

 

 「ああ、それは私の弱点が関係してるの」

 

 「弱点って……オーバーヒート?」

 

 そう、私の弱点である個性のオーバーヒート問題。私の個性は使えば使うだけ熱がたまっていって最終的に許容量をオーバーすると個性が使えなくなっちゃう。これは外からの熱も関係していて、例えば轟くんの炎や爆豪くんの爆発の熱は私にとってはウィークポイント。ばれてたら体育祭負けてたかもしれない。一応ある程度は排熱とかで補うことができるんだけど……

 

 「裸になっちゃうから強制排熱は現実的じゃないし……エンデヴァー本人の弱点もそうでしょ?体に熱がこもって身体機能が下がる」

 

 「……確かにそうだね……轟くんは氷結が相互補完してるけどエンデヴァー本人はどう対策してるのかってことだよね?」

 

 「うん、そう」

 

 裸、というワードで死に体の峰田くんがガタッと椅子から立ち上がったけど耳郎さんにジャックを刺されてドックンと心音を聞かされて沈黙した。流石に色々と敏感だね……あとは私本人の熱耐性をあげられたらなって思う。それはそうとエンデヴァー事務所って炎系のヒーローがサイドキックとして沢山いるけど……なんで私にも指名を入れたのかな?

 

 「そういえば、切島君はどこに行くか決めたの?」

 

 「お?俺か?俺ぁBMIヒーロー、ファットガムの所に行くぜ!指名来てたしな!」

 

 「えーくんにぴったりだよね。ファットガムって防御系のヒーローだし……でもクラストからも来てなかった?」

 

 「ああ……考えたんだけどなあ、クラストはシールド出して守るだろ?んでファットガムは体で受けるだろ?ファットガムの方が俺にちけーかなって」

 

 「ファットガム事務所は対都市犯罪のスペシャリストだし、切島君の個性は魅力的に映ったんだね!すごくいい選択だと思うよ!」

 

 デクくんのお話を参考にしつつ、私はやっぱりヒーロー事務所に行きたいから、記入用紙にエンデヴァー事務所と書いて、相澤先生に提出に行くことにした。

 

 

 

 

 「いました!!」

 

 「へうっ!?は、発目さん!?」

 

 「はい!発目明です!というわけでサポート科に行きましょうすぐ行きましょう!」

 

 「いや、行かないけど……」

 

 「どうしていかないんですか~~!」

 

 相澤先生に職場体験の紙を提出したすぐ後で、職員室前にて作業服姿でオイルと煤にまみれた発目さんに見つかった。次のサポート科に行く日は職場体験が終了してからなので私としては用がないと言いますか……まあいろいろ我慢させたのはそうだけど、気になるんだね私の技術……うーん、やろうと思えば公開されてる技術だけしか使ってないから再現は出来るハズなんだけど……

 

 私の腕を引っ張ったり、背中を押しくらまんじゅうのように押して私を移動させようとする発目さんだけど残念ながら私は常人の力では移動させることは不可能なんだ。何キロあると思ってる?成長したぜ主に肉体部分が。嬉しくないです。

 

 「楪さんは……楪さんは私がきらいなんですかぁ……?」

 

 「いやきらいってわけじゃうっ……」

 

 私を見上げる発目さんのスコープのような十字が入った目からぽろり、ぽろりと涙がこぼれ出る。うえ、まさか泣かれるだなんて思ってなかった!どうしようヒーロー科のくせして他クラスの一応優秀な女の子を傷つけたとあってはどんなおしばきが待ってるか分からない……ん?あれ?

 

 「目薬じゃん!」

 

 「あーだめですよねえ……なので普通にお願いします。分解とかそういうことは一切しませんので、少しだけお話して欲しいのです」

 

 「最初からそう言えばいいのに……」

 

 「フフ、あわよくばということもあるじゃないですか」

 

 「あったら困るのは私です、もう」

 

 じっと彼女の顔を伝う涙……よく見たらっていうか隠すつもりもなく右手に目薬が握られていた。危ない危ない、峰田くんたちと同じようにまたまた騙されるところだった。まあずっと私がほったらかしにしたせいというのもあるし、今回ばかりはちゃんとお話を聞いてあげようじゃない。分解しないって言ってるし……

 

 「さー着きましたよ!私の3代目研究室です!」

 

 「3代目……?」

 

 「前二つは爆発で木っ端みじんになりました」

 

 「良く生きてたね……」

 

 何度かサポート科にはお邪魔してるのでまあ顔見知りの人はそれなりに。一番強烈だったのは3年生の人かなあ、根掘り葉掘り聞いてきてパワーローダー先生から締め出されたりとか。パワーローダー先生も私のことをよく助けてくれるんだけど根は発目さんたちと一緒なようで私の武器が気になるというのは変わらないみたい。

 

 3代目らしい研究室のドアを開けると、腕を組んだパワーローダー先生が指をトントンと動かして若干いら立っている様子。せ、先生怒らせるなんて発目さん何しちゃったの!?はぁ、とため息をついたパワーローダー先生は

 

 「残念ながらここは僕の研究室で君はここを間借りしてるだけだよ。初めてだよ入学してそう経たないのに研究室をダメにした学生は」

 

 「失敗は成功の母と昔から言います!どんなことでも恐れずチャレンジしてこそ成功への道が開けるのです!」

 

 「言ってることは正しいがリカバリをもっと考えなさい。それで?楪まで連れてきたのはどういう理由かな?」

 

 「はい!実はこのベイビーについて意見を聞きたくて……楪さんはヒーロー科ですけどサポート科(こっち)寄りでしょうし、御詳しいんじゃないですか?」

 

 そう言って発目さんが見せてくれたのは明らかに開発途中らしいパワードスーツだった。あ、もしかしてUSJで回収されたゴリアテの残りから発想を受けたのかな?ゴリアテの方はほとんどスクラップみたいなもんだったけど技術的には結構最先端な方だったという自負がある。特にパワーには自信が、というかそれ目的で設計したわけで……特に自信作なのが関節に搭載されてるパワーシリンダー!あれが無かったら間違いなく脳無に力負けしてた。

 

 で、右目を使いつつパワードスーツを見てみると……ありゃ?これいかんやつだ。熱の排気どうなってる?主電源はバッテリーみたいだけど……中の人火傷しちゃうよこれ……。

 

 「もしかして熱問題?」

 

 「はいっ!流石楪さんこのベイビーの問題点を見抜くなんて!排熱が追い付かないのですっ!あの楪さんのおっきなパワードスーツを参考にしてみたのですが……現在の技術では排熱よりも籠る熱の方が凄いもので……楪さんはどうやって解決したのでしょうか?」

 

 「私の場合はこれかな。冷却ジェル……私が個性で作ったものなんだけど……熱を奪う性質があるの。これを全身に回して熱を回収して、気化させて排気と一緒に放出する。冷却専用のシステムを組み上げる必要があるけど、それを補うほど便利だと思うよ」

 

 「……楪、君これどうやって作った?」

 

 「え?素材の方は発表されたものの組み合わせで、あとは試行回数を踏みました。失敗しても私の個性ならすぐに別のものを組み立てられるので。これの場合はざっと……600回くらい成分を変えてたと思います」

 

 気化しやすくそれでいて熱を奪う性質を持つ液体、デクくんが個性テストで指を折ってしまった時に使った冷却ジェルはこの完成品の失敗作の一つだが、冷却効率が良くて尚且つ気化しない性質を持ってたので使ったんだよね。私の個性があれば他の実験室とは比べ物にならない速度で実験を繰り返すことができるから。机の上に置いたケースになみなみ入った冷却ジェルに発目さんは目を輝かせ、パワーローダー先生はむっつりと黙ってしまう。

 

 「このジェルの構成は後でメモで教えてあげるね。雄英の施設ならすぐ作れると思う」

 

 「ありがとうございますっ!いやーやはり相談してみるものですねぇ。出来ればベイビーについてもっと語り合いたいものですが!」

 

 「楪……君、免許取るつもりはない?」

 

 「免許、ですか?」

 

 ジェルをかがげて喜んでくれる発目さんを微笑ましく思っているとパワーローダー先生がそんなことを言う。免許ってヒーロー免許かな?でもそれはまだ無理のハズで……いや、このタイミングで言われるってことはサポートアイテムの免許のことか。

 

 「サポートアイテムの免許のことですか?」

 

 「そう、僕も持ってるけどね。いずれは君も必要になるだろう、例えば他の人に君が作った武器を貸し出す必要が出た時とかね。持っておけば違法じゃなくなる」

 

 「そんなに簡単に取れるものじゃないんじゃ……」

 

 「いや、君の場合……まあ発目もだが取得要件は満たしているんだよ。オリジナルのサポートアイテムの開発という要件をね。あとは法律関係を暗記すればいいが……君はそこら辺も得意だろう?」

 

 「あ、法律なら全部覚えてます!違法実験を家でしたくなかったので!」

 

 「君、隠してるだけで実は発目とおんなじだね?」

 

 「え、技術者ってみんな大なり小なりそういうものなんじゃ……?」

 

 ねえ?と発目さんをみるけど彼女は目をキラキラさせてジェルに夢中、ちょっとかわいい。というかパワーローダー先生だって人のこと言えないのでは、だってだって私のアロンダイトとかナンバーナッシング分解したかったんでしょ!?レーザー技術は軍に持ってかれてるからあまり見ませんもんね!でも苦労したんですよ、特にあのナンバーナッシング!

 

 技術者にしかできないトークを展開する私に当然のようについてくる発目さんとパワーローダー先生に突っ込んだ話を振る。理解が早いうえに私じゃ気付かなかったところまで突っ込んできてくれる!私の周りじゃそういう話ができる人はいなかったから楽しいなあ。用が無くてもサポート科来てもいいかもしれない。

 




 実は割と技術者としては発目よりな楪ちゃん。単純に表に出してないし自制できるけどお家では実験を繰り返しています

 いくぜエンデヴァー事務所!が次回です。感想評価よろしくお願いします


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28話

 「コスチューム持ったな?本来公共の場じゃ着用禁止なわけだが……落としたりするなよ。特に上鳴」

 

 「なんで俺名指し!?」

 

 「ブフッ……アホになったらサムズアップで落とすんじゃない……フフフっ……」

 

 職場体験当日、大きな駅に集まった私たちに学校から運んできたコスチュームを相澤先生が配ってくれる。周りにはB組の姿もあったけど、こちらにやってくる物真くんをクラス委員長だという拳藤さんが華麗に当身で気絶させた。これから新幹線乗るのに大丈夫なのかな……あ、塩崎さんだ。手を小さく振ったら微笑んで振り返してくれる、いい人だ。

 

 「希械、おめー結局エンデヴァー事務所にしたんだな。轟と一緒か。轟!希械のこと頼んだぜ!」

 

 「ああ」

 

 「二人は私の事を自衛もできない大型犬か何かだと思ってるのかな?」

 

 「いや、そういう意味じゃねえんだ」

 

 「……轟くん……?」

 

 二人は顔を見合わせて頷きあってるんだけど多分えーくんが考えてることと轟くんが考えてることは違うような気がする。轟くんが言葉少なくてそこら辺の意思疎通がうまくいってないような、そんな感じ。でまあ、私の職場体験先であるエンデヴァー事務所に行くのは即決したらしい轟くんだ。お父さんの事務所に行くのはやっぱり個性が似通ってるからだろうか……?でも轟くん、お父さんの事嫌いなんだよねきっと。

 

 身内がヒーローと言えば飯田くんだけど……インゲニウムの事務所はいま活動停止状態だ。サイドキックの人たちが治安維持に努めてるんだろうけど職場体験に行く余裕はないみたい。それでも、それでも引っかかるのは飯田くんが選んだ指名先が保須市のヒーロー事務所だということだ。ノーマルヒーローのマニュアルが構える事務所、ビルボード圏外ではあれど堅実的な活動で知られている。

 

 保須というのはインゲニウムがヒーロー殺し「ステイン」にやられた場所……飯田くん、変なこと考えないといいけど……。いつもルールや規則を重んじる飯田くんが法律を越えて復讐に走る、そんなことはないと思いたい。だけど私は、新幹線に入る飯田くんの硬い横顔に、いまいち不安をぬぐえないのだった。

 

 

 「なあ……何でアイツの事務所を選んだ?№2だからか?」

 

 「え、あ、うん……弱点の克服かな。轟くん知らなかったっけ?私、熱に弱いの。だから轟くんの左側は私の天敵」

 

 「……弱点なのに使うよう煽ったのか?」

 

 「あはは、まあそうかもね。デクくんに触発されちゃった。轟くんはどうして?お父さん、多分きらいなんでしょ?」

 

 電車の中、エンデヴァー事務所は雄英から割と近い場所にあるので快速特急に乗って移動中。実は私、あんまり電車に乗ったことないからちょっとだけワクワク。でも私のようなビックサイズはやっぱり邪魔だね、でも空いててよかったぁ~。ぎゅうぎゅうづめで轟くんを潰したりしたら申し訳ないし、新幹線だと相澤先生は隣の席取るから私のお尻が轟くんスペース侵略しちゃうし。快速特急でよかった……。

 

 轟くんはお話するのはそこまで得意じゃなさそうだから積極的にお話するのもと思って私は脳内でネットに接続してネットサーフィンと新装備の設計をしつつ割と嫌いじゃない沈黙の中にいたんだけどその沈黙を破ったのは轟くんだった。聞かれたのはエンデヴァー事務所を選んだ理由、確かに№2っていうのは大きな肩書だけど、私はあんまり気にしないかな。自分の糧になる場所を選びたい……そういう意味では~~!アナハイムとサナリィにも行きたかった!

 

 「俺は……確かめてぇことがある。クソ親父から俺は目を背け続けてきた。でも、知らなきゃならねぇこともあるってお前らに教わった、だから」

 

 「そうなんだ。轟くんの事情、私は全然知らないけど……知れるといいね。まあ、轟くんはエンデヴァーさんが直接見るだろうしいやでも知れるかも。私はきっとサイドキックの人と一緒だと思うし」

 

 「……なんでだ?」

 

 「いや、体育祭の時さ。デクくんで左を使った時、エンデヴァーさん何か叫んでたでしょ?多分、かなり入れ込んでるように見えたから……忙しくても轟くん自体は自分で見る為に指名したんだと思う。私は……余り?」

 

 「楪と一緒じゃねえのは……嫌だな」

 

 イ、イケメンが発動した……絶対轟くん中学校で告白祭りとバレンタインデーで机がチョコで埋まる現象が起きてたに違いないよ!そんなストレートに嫌だっていえる!?私は言えないよ!轟くんすごいね……!?あ、でも轟くんってお友達をあまり作らないタイプだったみたいだし、距離感が分かってないのかも?そうするとちょっとかわいいかもしれない。

 

 「一応俺から言ってみる。呼んだんならてめぇが見ろって」

 

 「いやいやダメだよ!?向こうはお仕事で見てくれるんだから!私情入れたらだめ!」

 

 とんでもないことを言う轟くんにぶんぶんと腕を振って否定する。体育祭より前は全然関わりなかったんだけどこういうキャラクターだったのか轟くん……!私は目的地に着いた電車から降りるため、立ち上がる。遅れて立ち上がった轟くんの半分に分かれた髪の毛を見ながら、心配されるのは轟くんじゃないかな?と失礼なことを考えてしまうのだった。

 

 「よく来た焦凍ォ!それと君もよく来たな。俺がエンデヴァーだ」

 

 「……うるせェ……!」

 

 「え、え、とその……楪希械です。よろしくお願いいたします」

 

 「よし、事務所に行くぞ。そこで職場体験の内容について説明する。急いで乗り込め」

 

 歩きかタクシーで事務所まで行くと思ってたんだけど、駅の前にヒーロースーツ姿のエンデヴァーがメラメラと髭を燃やして仁王立ちしながら待っていた。後ろでは待っている間に捕まえたと思しき犯罪者が山積みになっていて警察が対応してる。うわぁ、あつぅい……!やっぱり私ついで説高いなこれ?エンデヴァーに促されて車高が高めの車に乗り込んだ。私の体重でぎしっと沈む車に真っ赤になりながらも、車はスムーズに発進する。あ、エンジン音からしてこの車アナハイム製だ。何でも作ってるなあの会社。

 

 流石に車の中では炎を消したエンデヴァーさん、そして彼が来てから一気に不機嫌になった轟くん。気、気まずいよぅ……!電車の中でのほわほわ轟くんじゃなくて、氷みたいに無表情になっちゃった轟くん。こ、この状態で1週間職場体験するのぉ……?私、耐えられるかなこの重さに……。物理的な重さなら電車一両くらい持ち上げられる私だけど精神的な重さはどうにもならないんだよぉ……うぅ、たすけてえーくん……。

 

 「先に事務所に戻っていろ」

 

 「え!?エンデヴァーさん!?」

 

 そう言うや否やドアを開けて飛び出したエンデヴァーさんが足の炎を推進力にして空を飛び、ビルの向こうへ消えてった。エンデヴァーさんがドアを開けた瞬間に、遠くから小さな女性の悲鳴がかすかに聞こえた。ま、まさか……今のを車の中から見抜いたってこと!?私だって無理だよそんなの!?だってまだ何も起きてないんだから!すごい……ひたすらに見えない高みにいるとしか思えないよ……!

 

 「あいつ……いつの段階で見抜いてたんだ……?」

 

 「何も起こってない時から警戒を怠らない……凄い、これがエンデヴァー……」

 

 運転手さんはそれが日常のように無反応で車を運転し続けている。そして私と轟くんでさえも№2との圧倒的な差にただただ驚くしかなかったのだった。

 

 

 「ようこそエンデヴァー事務所へ!案内させてもらうよ!」

 

 「バーニンさん」

 

 「久しぶりショート君!貴方は初めましてだよね!?体育祭みてたよ~!エンデヴァーが焦凍君以外に票を入れるなんて前代未聞!1週間みっちりヒーローを体験させてあげましょう!私たち!」

 

 「「「「炎のサイドキッカーズ!」」」」

 

 「あぅ……よろしくお願いします」

 

 事務所の中に入るなり歓迎の言葉をくれたのはエンデヴァー事務所の筆頭サイドキックの一人であるバーニンさん。緑色に燃える髪をした彼女はうん、おっきいね~~!と私を評してくれる。ビシ、とお決まりらしい決めポーズをサービスしてくれたサイドキッカーズに若干圧されつつもガチャガチャと拍手を返す私、見慣れてるのか無反応の轟くん。

 

 「じゃあエンデヴァーが帰ってくる前にヒーロースーツに着替えちゃいなさい!楪ちゃんは私が案内するよ!ショートくんは」

 

 「いらねェ。知ってる」

 

 「だよね~!」

 

 轟くんは何度か事務所に来たことがあるみたいで迷いなくヒーロースーツを手に部屋を出ていった。私はどうしたらいいのか全く分からないのでバーニンさんについて女性用の更衣室に案内された。流石は№2の事務所だけあってどこもかしこもきれいだ。ひぇ、ロッカールームまである……!電子錠だ!私にはあんまり意味ないけど。機械だから。

 

 「それじゃ、着替えたらすぐに出ておいでよ!お化粧必要なら洗面台はあそこね!」

 

 「お化粧!?女性ヒーローはそれもするんですか?」

 

 「あー、する人としない人がいるよ。私は燃えちゃってブサイクになるからしないけど!前線ヒーローはしない人が多いんじゃないかな?ただ、ヒーローがお化粧できるってことがそれくらいヒーローが暇ってことだからね!いいことなのさ!」

 

 ぐっと背伸びをして私の頭、後頭部をポンと叩いてバーニンは部屋を出ていく。お化粧かぁ……あんまり考えたことなかったんだよね……だって私、顔の上半分は髪で隠れてるし、ひどくなったら体が熱を持っちゃうからお化粧浮いてきちゃうかも。うん、私には必要ないかな、お化粧。

 

 ブアッと髪の毛に青いメッシュが入り、左目を露出して髪の毛を固定する。下着のラインが出ない特注の下着、授業以外で初めて袖を通すヒーロースーツ。着心地よく、私の意識を塗りかえてくれる。着ると、やるぞと勇気と自信が沸いてくる。だってこれが、小さいころからあこがれたヒーローの姿だったから。

 

 「お待たせしました~……」

 

 「おお、いいデザインしてるじゃない!さ、エンデヴァー戻ってきたよ!ショートくんももう行ってる!」

 

 「はいっ!」

 

 溌剌としたバーニンに促されて広いエンデヴァー事務所の中を歩く。他の部屋とは少し豪華な扉の前で止まり、礼儀正しくノックした。入室を許可する声は部屋の中から聞こえてくる。それを確認してバーニンはドアを開けて入室する。

 

 「失礼します、エンデヴァー。職場体験のヒーロー候補生をお連れしました」

 

 「来たか、バーニン。ご苦労、二人は俺がみる。お前たちは俺が抜けた穴を埋めろ、いいな?」

 

 「えっ……わたし、も?」

 

 №2ヒーローの言葉に私は驚きの言葉を返し、轟くんの視線は一層鋭くなる。バーニンはおお~という顔をして頑張れと私の背中をはたいてから部屋を出ていった。今にも飛びかかろうとする轟くん、すでに個性が出そうだ。私はオロオロするしかない、こんなに確執があるものなの?エンデヴァーと轟くんって……!

 

 「てめぇ!今になって何を企んでやがる!おかあさんと同じことを楪にするってんなら俺が……!」

 

 「どうやら勘違いしているようだな、焦凍。俺は今貴様の父親であると同時に、この事務所のトップヒーローだ。事務所を成長させ得る強さを持つ候補生を指名して何がおかしい」

 

 「なっ……!?」

 

 「貴様に勝った候補生だぞ。くだらん反抗期に入ってるとはいえ、俺が訓練を施した貴様にだ。俺はここの責任者として、30人を超えるサイドキック、事務、受付、管理人、警備員……全ての人間を養う責任がある。事務所を構えるなら当然以前の話だ、よく覚えておけ」

 

 そう言って話を切ったエンデヴァーに轟くんは、まさか自分の父親にこんな一面があったのか、という顔で口を開け驚いている。私は正直、全くついていけなくてあたふたしてる状態の私は会話のワードを拾ってさらに混乱を深める。おかあさんにしたことってなに!?エンデヴァーさんは轟くんのおかあさんに何をしちゃったの!?唇をかみしめた轟くんはぽつりと。

 

 「そう、かよ……」

 

 「納得したようだな。では楪希械、所属とヒーロー名を言え」

 

 「は、はい!雄英高校ヒーロー科1年A組!楪希械です!ヒーロー名はエクスマキナ!よろしくお願いします!」

 

 「ふむ、ではエクスマキナ。貴様は何を求めて俺の事務所にやってきた?ただビルボードチャートが高いからか?」

 

 「……いえ!私はここに弱点を克服しに来ました!体にたまる熱が許容量を超えれば私は個性を使えなくなります!炎熱系の事務所で、弱点をカバーする方法を探しに来ました!」

 

 それを伝えるとエンデヴァーはピクリと目を動かしたが、私の理由は合格点を越えていたようで、それを塗りつぶすようににやりと笑う。彼は勢いよく椅子から立ち上がり、私たちを通り過ぎてドアへ向かう。

 

 「では初日は訓練をする。俺が直々に貴様らの練度を測る!俺に一撃入れてみろ!」

 

 「……はいっ!」

 

 「……おう」

 

 ドアを開けて出ていったエンデヴァーを慌てて追いかける私たち、轟くんの思いつめた顔に、私は不安を感じるのだった。

 

 




 轟くんがなんとなく過保護だったのは自分と楪さんが個性婚させられるんじゃって焦ってたからですね。まだエンデヴァーをちゃんとみてない時期ですからそんな勘違いもありうるかと。

 ちなみにこの作品のエンデヴァーですがヒーローとしては有能オブ有能です。ほぼ完璧超人。ですが私生活はまあ原作通りということで....

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29話

 「うむ、こんなものか。小休止ののちに講評を行う。倒れててもいいが、10分後に俺の部屋へ来い」

 

 「こ、こんなに差があるなんて……」

 

 「……クソ、分かってたはずなのに……」

 

 エンデヴァー事務所の滅茶苦茶おっきいトレーニングルームにてボロボロの私は仰向けに倒れ込んで、轟くんはうつぶせになって倒れ込んでる。エンデヴァーとの戦闘訓練は本当にかすりもできないほどに圧倒的で、考え抜いて作った筈の戦闘形態の手足が両腕共にドロドロ、ギリギリ形を取り繕ってる感じだ。それでいて生身の方はほぼ無傷。完全に遊ばれていなされてしまった。

 

 熔けてそこかしこに落ちてる私の武器たち、そして熱耐性が高いタングステンを主軸にしたシールドが赤熱して形が変わっている。ヤバいな、エンデヴァーのヘルフレイム……炎熱系で間違いなく地上最強……だけどすさまじく洗練された使用だった。最小限の準備で最大限の効果を。エンデヴァーの代名詞である赫灼を浴びたそれは一瞬で形を失ってしまった。熱対策があまい~~!

 

 「しかも……私の個性の排熱のタイミングを把握して待ってくれてこれ……」

 

 「腐っても№2ってことかよ……ああ、よくわかった……」

 

 うつ伏せだった轟くんがゴロンと仰向けに代わる。彼の右側からひんやりとした空気が漂ってきて私の手を冷やしてくれるんだけど……あ、待って轟くん!今熔けてるから!地面とくっついちゃう……!ああ、くっついちゃった……まあ、いいか。どうせ生やすものだからと個性が使えないのでバキンと無理やり切り離す……ガタッと轟くんが起きた。

 

 「う、うで、お前……」

 

 「え、ああうん。生えるのは知ってるでしょ?ここまでバキバキだと作り直すより生やした方が早いんだ。冷やしてくれたのは嬉しかったよ、ありがとう」

 

 「お、おお……心臓に悪いな」

 

 「お互い様~」

 

 それで私もなんとか起き上がって、エンデヴァーの部屋に向かう。スーツの再生機能は凄くて、腕ごと熔けてしまったジャンパーの腕部分はもうすでに再生し終わって私の手があった部分をひらひらしてる。まあ基本的に肘までしかないんだけどねジャンパー。上腕部分は良く変形させて機関銃とかだすし。

 

 氷と炎で凄いことになっている部屋を抜ける。壁にある無数の傷がここのヒーローたちの努力の跡だ。私の銃器も、剣も、ハンマーも槍もすべて溶かしてしまったエンデヴァー。私は絶対に熱に対する対策を考えなければならない。それはつまり、私の生存に直結することだから。

 

 「来たな。予想より3分早い。では講評を始める!焦凍!」

 

 「……ああ」

 

 「右は及第点だ、だが左の操作が甘い。ただ放出するだけではいたずらに被害が広がる。炎熱系の二次災害のことは何度も話したはずだ。操作を訓練しろ、無意識レベルで擦りこめ」

 

 私の腕については雄英からの資料で生やすことができるというのを知っていたからか特に言及せずエンデヴァーは講評を始める。つらつらと並べる問題点は正論かつ強めの口調ではあるが確実に轟くんの問題点だ。特に二次災害、遠中距離で戦う轟くんと前衛を任された私、轟くんの炎が何度かかすりかけた。というかエンデヴァーが射線に私を誘導するのがとてつもなくうまかった。それで轟くんの攻撃タイミングで私が割り込むというのが何度か。フレンドリーファイア……私も気にしないとダメだ。

 

 「次は楪……初動が遅い。バーニアを噴射して移動するようだが、初速に難がある。一撃の威力は並のプロを超える、個性にも努力の跡が見える……よく研鑽を積んでいるようだ。特に終盤の挟み撃ちは見事だった」

 

 うぐっ、それを突いてくるか……!私の移動は専ら足につけたバーニアだ。噴射してから移動できるまで一瞬の隙がある、それを遅いとエンデヴァーは言っている。確かにエンデヴァーの移動は足から噴射する炎だ。そしてそれは噴射された瞬間に移動してしまうほど素早い。褒めてくれた終盤の挟み撃ち、ミサイルを回り込ませて、正面から私がスラストハンマーで突撃、轟くんが氷結で追い打ちという二段構えの作戦の事だろう。結局ハンマー熔かされて、ミサイルは全部迎撃されて、優しく投げられて終わったんだけど。強いなあ……。

 

 あと気付いた。エンデヴァー、教えるの凄い上手。簡潔にまとまった要点、解決法の提案、あるいは思考の促し……エンデヴァー事務所に入るサイドキックたちもこうやって鍛えてもらってたんだ……!そりゃ強くなるわけだよ、炎系なら地上最強の人だもん。

 

 「で、問題の排熱問題だが……はっきり言うが貴様の排熱効率は俺以上だ。能動的に排熱できる貴様に対し、俺は自然に熱が抜けるのを待つしかない。故に貴様が行うべきことは……」

 

 「熱耐性の向上、ですか」

 

 「そうだ。炎熱系の個性の特徴として、非常識な体温に耐えることができる。俺や焦凍、サイドキックたちも同様。貴様は違う、許容量はそこまで高くないだろう。個性を伸ばせ、熱に耐えろ」

 

 「地道な訓練が成果を結ぶ……そういうの大好きです、私」

 

 トライ&エラーは何回も行っている。武器開発、技術開発、私は個性を使うために科学知識を蓄え、電気回路を学び、実験を繰り返し……何度も反復して思い通りのものを作れるように練習した。それの焼き映し、熱耐性を高めること。でも同時に、その熱を別方面に使えないかとは思ってるけどとん挫しているのが現状だ。

 

 「明日も訓練だが……今日はもう上がれ。宿泊設備は事務所に整っている。焦凍もだ、貴様は一時的にこのエンデヴァーのサイドキック。ここで生活しろ」

 

 「……言われなくてもそのつもりだよ、クソ親父」

 

 「……ふん。では解散だ。明日に疲れを残せば叩き出すぞ」

 

 や、やっぱ仲が悪いよね~~~!!この、クソ重い空気が唐突に流れるから胃にずしんと来るよ~~!私はそれに気圧されて赤べこのようにこくこくこくと頷くしかない。だって、その……気まずいじゃん!?かと言って轟くんに何がどうしてそうなったのなんて聞けるわけないから……1週間で私の胃、穴が開くかも……。

 

 

 

 

 「それじゃ、ここが1週間アンタの部屋よ!食事は基本自炊!ヒーローは料理もできないといけないからね!材料は冷蔵庫の中のもの勝手に使ってよし!業者が定期的に補充していくからどれだけ使ってもいいよ!それじゃね~」

 

 「な、なんて大きいシステムキッチン……!何作ろうかなあ……!」

 

 シャワーを浴びて着替えて、轟くんと合流したら待っていたのはバーニンさん、彼女に部屋に案内された後連れてきてもらったのは泊まる時に使う厨房だった。綺麗に整っていて、火力が強そうな業務用ガスコンロに、大きなオーブン、業務用冷蔵庫……!まるでお店の厨房みたい!家庭用のそれとは違うものにテンションが上がる私と反対になんだかしょんぼりしている轟くん。うーん、火力と言えばチャーハンだけど手の込んだものも作りたい!でもここは職場体験先なわけで……!

 

 「俺、料理できねぇ」

 

 「え、そうなの?轟くん涼しい顔で何でもできると思ってた」

 

 「……したことねぇんだ」

 

 「へー……食べられないものって何かある?あ、好きな食べ物とかは?」

 

 「蕎麦、冷たいやつ。食えねえもんは別に……」

 

 「流石にお蕎麦は打てないかなあ……轟くんの分も私が作ることにするよ」

 

 冷たいお蕎麦……ざるそばとかかな?冷蔵庫の中には何が……おお!めっちゃ色々あ……?見るからに高級そうなお蕎麦が……?お高そう過ぎてなんだかな……私は庶民らしく、野菜炒めとご飯といきましょう。キャベツ、ニンジン、玉ねぎ、豚肉……お豆腐あるし冷ややっこもいいね!後はお揚げのお味噌汁~。カツオ出汁とって、出しガラはふりかけにしちゃおう。メニュー決まった!よしやるぞ~~!

 

 個性で料理用のゴム手袋を作って両手につける。よく手入れされた包丁に感嘆しつつも私は慣れている順番でお料理を開始、轟くんは私に全部やらすのがなんか申し訳ないらしくおろおろしてるけど好きでやってることだからお気になさらず~~。るんるんと鼻歌交じりに完成した料理をお盆に乗せて食事用スペースへ。

 

 「いただきます……うん、上出来」

 

 「いただきます……うめぇ」

 

 「あ、ほんと?よかった~~。三奈ちゃんとかえーくんとかは美味しいって言ってくれるけど轟くんの口に合って良かったよ」

 

 両手を合わせて食事を始めた時、野菜炒めを口に運んだ轟くんからぽつりとこぼれた言葉にちょっと嬉しくなる。お料理は好きだし、自分が美味しいものを食べたいから始めて今となっては趣味なんです。お弁当をおすそ分けすることも最近は多くなってきたから皆にも気に入ってもらえたんだと思うんだけど、改めて美味しいって言われると嬉しいなあ。

 

 無言の食事だけど、雰囲気は別に悪くない。轟くんの食事ペースも落ちることはないし私も同様。轟くん、ものを食べる所作がきれいだ。じっと見つめてしまって軽く首を傾げられてしまい、慌てて何でもないと訂正して私も食事に戻る。そうしてお米一つぶ残さず食べ切った私たち、あとはお片付け!

 

 「作ってもらったし、俺が片付ける。先部屋戻ってくれ」

 

 「え、でも……」

 

 「何もしなかったら据わりが悪ぃ」

 

 「んー、じゃあ一緒にやろ!轟くんがお皿洗って、私はキッチンの掃除するから!」

 

 「おお」

 

 私が好きでやったことだし、一人分も二人分も作るのは一緒だし、特に今日みたいな簡単メニューなら負担でもない。お片付けやってくれるっていうのは嬉しかったけど、使ったものを自分で片さないのは私としてもあれなので折衷案を提案して一緒に片付けをする。使ってたフライパン、コンロを清掃して、包丁を研ぎなおし、油汚れを掃除してこれで良し!轟くんは不慣れっぽい手つきでお皿洗い終了!お部屋戻って反省会しなきゃ……!

 

 「なあ、少しいいか?話してぇことがある」

 

 「え、うん。大丈夫……だよ?」

 

 背中越しにそう言われて、私は首をかしげながらもオッケーの返事をする。ここじゃ何だから、と言われて轟くんが使う予定の宿泊室に入らせてもらう。私の部屋と同じ作りで、片隅に置いてある轟くんの荷物以外は変わったところはないんじゃないかな。男の子の部屋……厳密には違うけど……に入るのはえーくんの部屋以外だと初めてかも。

 

 「正直、なんか聞いてくると思ってた。今日の事、分かんねぇことだらけだっただろ」

 

 「……私が聞いていい事かどうか分からなかったし……話したくなる話でもなさそうだから、聞かない方がいいかなって」

 

 この事務所に来るまで、来てからも何度も感じたエンデヴァーと轟くんの確執、かなり根深い話だと思うし、私がどうこうできる話ではなさそうだった。それを飛び越えていったのがデクくんなんだけど、きっと彼はすべてを轟くんから聞いてそのうえであの行動をとったに違いない。ただ、引っかかるのは……おかあさんと同じことを私にしようとしてるんじゃないかという、轟くんの心配は、気になっている。

 

 「……そうか。個性婚って知ってるよな?2,3世代あたりで問題になったやつだ……俺も、そうなんだ」

 

 そこから、轟くんの家の事情を聴いた。自らの力でオールマイトを超えることは不可能だと感じたエンデヴァーは、自らの子供にその野望を託すために伴侶を選んだ。それが、轟くんのおかあさん。上に兄姉がいる轟くんとその兄弟姉妹の中で唯一、エンデヴァーの思った通りの個性を持って生まれた轟くんは、幼少期に隔離され、厳しく修行を付けられる。おかあさんはそれを止めたが、次第に精神的に追い詰められて……轟くんに煮え湯を浴びせてしまった。

 

 おかあさんは精神を病んでしまい入院、以来轟くんはおかあさんをそこまで追い詰めたエンデヴァーを憎悪し、体育祭まで左を封印して右の……おかあさんから継いだ力だけでオールマイトを越えてエンデヴァーを否定しようとした。……なんて、壮絶な生い立ち。

 

 「じゃあ、轟くんは私をエンデヴァーが次の個性婚の相手として選んだって思ったってこと?」

 

 「ああ、1回やったならもう1回やるって思ってた。けど、そこまで腐ってはなかったみてぇだ。そこだけは、少し安心できた」

 

 「優しいんだね、轟くんは」

 

 「優しい?」

 

 轟くんの生い立ちを聞いて、私が思ったことは……彼は、えらいと、褒められるべきだと、そう思った。だって、おかあさんを父親のせいで狂わされて、それでもなりたかったもののために雄英に入学した。全部ぶちまけてエンデヴァーを堕とすことだってできたはずなのにしなかった。きっとそれは彼の中になりたい自分、ヒーローの姿があったからだ。

 

 だけど、えらいと褒めてあげるのは私の役目じゃない。えらかったね、すごかったね、頑張ったね……その言葉を口にして彼に与えてあげるべきなのはきっと、おかあさんの役目のはずだから。体育祭で言ってた意味がようやく分かった、彼は今家族と向き合いだしてるんだ。憎くて憎くて仕方がない筈の父親相手にすら、向き合おうとしている。

 

 「ここに来てからずっと、轟くん余裕ないように見えたんだ。エンデヴァー見た時からずっと怖い顔してたし。でも、そんな中でも私の事心配しててくれたんだね、優しいじゃん、轟くん。轟くんはきっと、おかあさんから氷の個性と一緒に優しさももらったんだね」

 

 「おかあさんから……」

 

 「おかあさんには、会いに行った?」

 

 「……体育祭の振り替えの時に。歓迎、してくれた」

 

 「うん、じゃあさ。今度会いに行った時……俺、頑張ったから誉めて!って思いっきり甘えてきなよ。絶対褒めてくれるから、だって……きっと轟くんのおかあさんは、轟くんのことが大好きだから」

 

 「……考えて、おく」

 

 私の提案に、何時ものポーカーフェイスをほんのりと赤くしながら、彼は私から視線を逸らした。

 

 




 エンデヴァーって絶対教えるの上手だよねというお話。サイドキックの数とか。そう考えるとインゲニウムってすごかったんやなって

 感想評価よろしくお願いします


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30話

 「にしても、エンデヴァーがそんな人だったなんて……かなりショックかも」

 

 「……世間が知ってるクソ親父は、ストイックなヒーローだ。表になんて出すわけない」

 

 轟くんの部屋にて、私はちょっとだけ肩を落としてそう言う。だって、エンデヴァーと言えば不愛想なところはあれど人を助け、守り、多くのヴィランを打ち倒してきた正真正銘のトップヒーローの一人だ。そのイメージは轟くんのお話で私の中でバグってガラガラと音を立てて崩れたわけなんだけど。そりゃあ、クソ親父とか言いたくなるね。ひと様の父親にこんなこと言いたかないけどまごうことなきDV野郎だ。

 

 タチが悪いのが、私人としてはクソオブクソでも公人としては紛れもない完璧超人であるというのがもっとやばい。普通逆じゃない?家族大切にしなよ。オールマイト先生を超えるっていうのは人気の面で?それとも実力で?事件解決数ならもう超えてるのに。何でオールマイト先生を越えようとしてるんだろう?自己顕示欲が高いタイプとは思えないんだけど……。

 

 「むむ、轟くんさ……一発くらいエンデヴァーに思いっきり文句でも言っていいんじゃないかな?」

 

 「……言ったところで意味がねぇ」

 

 「そう……それじゃあ……エンデヴァーの驚く顔くらいは見たくない?」

 

 「アイツの……驚く顔?」

 

 私の言葉に轟くんは小首をかしげる。文句を言っても無駄ならあとはもう肉体言語しかないと思う。つまるところ意趣返し、やつあたりとかそういうたぐいのやつだ。エンデヴァーは轟くんのことをくだらない反抗期と称したけど、じゃあ反抗期らしく思いっきりぶつかってしまえばいい。端的に言えば

 

 「職場体験の終わりまでに、エンデヴァーに轟くんが一撃叩き込もう。そのくらいはきっと許されると思うよ」

 

 「おお」

 

 言葉少なにそう返してきた轟くん。私はそれを受けて努めて明るく反省会しよ!と声を出して周りに私視点ではあるけど訓練時の映像と、轟くんと私、エンデヴァーを簡易的なCG処理で表した動きの動画などなどを投影してどうしたらエンデヴァーに一撃入れることができるか話し合う。轟くんは結構モチベーションは高めらしく作戦を提案しつつも私の意見も聞いてくれる。なれば明日は実践あるのみ!

 

 

 「だめか~~~!もう!流石№2!強すぎ!」

 

 「ああ、全部避けられちまった……けど、かすらせられたな」

 

 「クリーンヒットは無理だったけどね……」

 

 翌日の事、同じようにトレーニングルームの床に倒れ伏した私たちは昨日と違ってボロボロ、とまではいかないがかなり善戦出来たと思う。私たちの連携力が上がったのをエンデヴァーは察したみたいで片眉をあげていたが逆にそれが火をつけたらしく昨日は守勢に回ってたのが逆に攻めに来られた。そのパターンの連携も考えてはあったんだけど、攻勢に回ったエンデヴァーはそりゃもう強かった。というか昨日の3倍くらい強かったと思う。何度地面に叩き付けられて腕が取れたかわかんないや。熱が伝わりにくいように自切しやすくしたのを逆手にとられました。付け焼刃はアカンということですはい。

 

 最後の最後でぎりぎり、ぎりぎりエンデヴァーのコスチュームに掠る形で轟くんの氷結パンチがかすったんだけど。まさか爆豪くん式爆発カタパルトで轟くんを射出するとは夢にも思うまいふふふ……でもこれで奇策も通じないとわかっちゃったんだよねえ……。轟くん、中距離戦が得意なのはそうなんだけど、接近戦もこなせるのはデクくんとの試合で分かってたし……。

 

 及第点だ、と言ったエンデヴァーは午後まで休むように私たちに言いつけて自分は昨日の穴を埋めるべくパトロールに出発した。流石に昨日の今日じゃ私の欠点である初速の遅さを補えるツールは開発できなかったし……ゴリアテのバーニアが一番それっぽいんだけどあれじゃじゃ馬すぎてゴリアテ着てないとまともに方向転換できないんだよねえ。エンデヴァーのあの炎噴射を科学的に真似できないかな?

 

 「お、いたいた!候補生ツインズ!エンデヴァーから連絡だよ~~!」

 

 「ああ!すいませんバーニンさんこんなだらしないかっこで!」

 

 「お」

 

 トレーニングルームに大の字状態でじたばたして悔しさを表すというとても女の子とは思えない状態でバーニンさんと逆さに目が合った私は急いで立ち上がって直角に腰を下げて謝る。轟くんが軽く驚いた声をあげて起き上がった。バーニンさんは気にしない気にしない~とカラカラ笑ってくれたけどこれ轟くんにも見せちゃだめだったやつじゃない?変なもの見せてごめんね轟くん……。

 

 「バーニンさん、連絡って何ですか?」

 

 「よくぞ聞いてくれたねショートくん!アンタたち二人!夜のパトロールにエンデヴァーと一緒に行くことになったよ!場所は保須!理由は分かるよね!?」

 

 「……ヒーロー殺し、ですね」

 

 「流石雄英の受精卵!ニュースはちゃんと見てるみたいね!あのインゲニウムがやられたからね、エンデヴァーも警戒してるみたいだよ。だから出張でパトロールってわけ!」

 

 「しかも夜のパトロール、ヒーロー殺しの被害はほとんど夜に起こってるから……」

 

 タイミング的にあるかもなんて思ってたけどホントにあった。エンデヴァーほどのヒーローが直接動くことを決断するくらいヒーロー殺しの脅威度は高いってことなんだろう。そして、そのパトロールに職場体験とはいえ圧倒的な足手纏い二人を連れて行くことができるという自信と決断力……ヒーローとしてはホントに完璧超人なんだなあ。

 

 「そんなわけでアンタたち二人とも今から仮眠を取りなさい!午後7時にエントランスにヒーロースーツで集合だよ!返事!」

 

 「は、はい!」

 

 「はい」

 

 「よろしい!サイドキックたちも別方面から行くからね!じゃ、よく眠るんだぞ候補生!」

 

 バーニンさんが出ていってから、私はうーんと考え込む。保須はここから行くなら新幹線の距離だ。及第点、という言葉から察するに連れて行ってもいいというエンデヴァーの合格点にギリギリ私と轟くんが達していたということだと思うけど……ヴィランに会うかもしれないんだ。USJの時みたいに、あの時は正当防衛が通ったけど、今は違う。私たちは見てるだけに徹さないといけない……できるかなあ?咄嗟に体が動いちゃいそう……。

 

 「楪、楪……髪の毛、すげえことになってるぞ」

 

 「ええっ!?考え事しすぎてゲーミングしてた!?」

 

 「げーみんぐ?」

 

 悩み事に意識を集中しすぎて髪の毛がゲーミング発光してたみたいで、轟くんに袖をクイクイ引っ張られて教えてもらった。すぐさま普段通りに戻した私とゲーミング発光そのものを知らないらしく首をかしげる轟くん、なんだろなあ。轟くんって要所要所で幼い感じがするんだよ~。今みたいに知らない単語をオウム返しした時とか。思わず頭を撫でそうになってぐっとこらえる。同級生を幼児扱いとかやべーやつだよ……峰田くんの事笑えなくなっちゃう……。

 

 とりあえず、食事をとるために着替えましょうとなって轟くんと別れて私はシャワールームに入る。エンデヴァーってほんとに強いなあ……初見のはずの武器でさえ有効範囲をあっさり見抜いちゃうんだもの。跳弾まで利用したのに当たらなかったし!これはもう私、火が付いたぞ!職場体験終了までに絶対あの人に一撃クリーンヒットをお見舞いするんだから!とボディソープで体を洗いながら決意を新たに、私は泡を流すのだった。またちょっと大きくなってるなあ……困った。

 

 轟くんと合流して何を作ろうかなと冷蔵庫を開けると、なんか蕎麦の量が増えててちょっと怖かった。怖かったのでお隣にあった鶏肉とうどんでカレー南蛮を作った。轟くんは和食派らしいので、次は手の込んだ何かを作ってあげたいなあ。あ、明日の朝ごはんにアジの南蛮漬け作っておこうっと。ん~~、サイドキックの皆さんの分も作っておこうかな?沢山つくっておこう!ん?轟くん何かやりたい?じゃあ玉ねぎ薄切りに……どうやったら全部つながるの……?うわああその手つきはあぶないよおおっ!

 

 手切れてない!?よかったあ……!えっとね、切るときははこう。猫の手!そうそう!飲み込み早いね轟くん!うん、揚げたアジを漬け込んで、これで大丈夫!明日になったら味がなじんで美味しいよ~。こっちがサイドキックの皆さん用で、早い者勝ちになっちゃうけど書置きも残して、完成!

 

 「じゃ、集合までおやすみ、轟くん」

 

 「ん、おやすみ」

 

 部屋のベッド、作りがいいので若干小さいところ以外は私にとっては嬉しいところ。布団もふかふかで寝やすいなあ……手袋だけ外して、おやすみなさぁい……。

 

 

 「よし、バーニンから概要は聞いているな?道すがら説明する、駅まで行くぞ」

 

 「はい!」

 

 「おう」

 

 仮眠をとった私と轟くんはパトロール帰りだというエンデヴァーにヒーロースーツで合流した。やっぱり轟くんはエンデヴァーと一緒だとあんまり機嫌がよろしくなくなる。もう事情を聴いた後なのでしょうがないことだと思うし、向き合おうとするだけ凄いなあって感じるだけなんだけど。

 

 事務所に来たときと同じように車に乗って駅まで移動する、サイドキックの人たちの内バーニンを含めた5人が一緒に保須に行くみたいで、別の車で後ろについてきている。来たときのように事件は起きなかったので今度はエンデヴァーも一緒。もしかしたらヤバそうなのパトロールで全部潰してから来たのかも……。

 

 「おい、なんでお前と俺が隣なんだ」

 

 「開いてる席の都合と性別の問題だ」

 

 「ごめんなさいバーニンさん、狭いですよね……」

 

 「健康的でいいんじゃない!?もっと胸張りなって大きいんだから!」

 

 「そ、そんなことこんなところで……!」

 

 実は私、新幹線は初体験。轟くんが隣の席になったエンデヴァーに噛みついてるけど、領土侵犯を犯している私のお尻についてバーニンさんに謝ると彼女は私の背中をバンバン叩きながらそんなことを言うもんだから、私は余計に蒸気を吹きながら真っ赤になっちゃう。

 

 新幹線の中で説明されたのは、ヒーロー殺しを確保するのが目的のパトロールで、捕まらない限り体験中の夜は基本保須に行くことになるということ。ヒーロー殺しは今までヒーローを一つの都市で4人以上再起不能にしてから別の都市に現れているのでまだ保須にいる可能性が極めて高く、ここでビルボードチャートが高いエンデヴァーが行くことで囮をしつつ捕まえる作戦らしい。

 

 「基本的にショートとエクスマキナは俺と行動する。小競り合いの喧嘩程度ならヒーロー活動も許可しよう。バーニン達は都市の外周に沿っていけ」

 

 了解、とはきはき返事してバーニンとサイドキックたちはそれぞれ分散して都市の外周に向かった。私たちは都市の内部でも治安が悪めな方面を虱潰しにローラー作戦するみたい。治安が悪い、と言うだけあって確かに人通りが多いわりに何となく怪しげな風体の人が多く思える。じっ、と右目を駆使して暗がりを見つめると……!うわあ……!たむろしてる、いかにも不良みたいな人たちが。爆豪くんってまだグレてはなかったんだね……。

 

 「ショート、エクスマキナ。あれを見ろ……おそらく万引き犯だ。先ほどバックの中に商品を隠すのを見た。店の外に出た瞬間でいい、確保しろ」

 

 「おお」

 

 「はい」

 

 ギラリ、と常に鋭い瞳をさらに鋭くして私たちに指示を出したエンデヴァー。その視線の先にあるコンビニでは、やたらに焦って周りを見渡しながら別商品の会計を済ませるサラリーマン風の男の人の姿がある。右目で軽くバックを透視すると……わぁ、盗んでるねワンカップのお酒……。私が直接捕まえます、とエンデヴァーに報告して背中からポンチョ型の布を生成して被る。

 

 「光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリー)形成開始(レディ)

 

 ジジッ……と蛍光灯がつくような音を立てて私の姿が透明になっていく。これは周囲の景色を布型のディスプレイに投影することで高い迷彩効果を発揮するもの。私は透明状態でコンビニの前で仁王立ち、店員さんも気づいていたようでバックヤードから出て来てるのが見える。男がコンビニから出た瞬間に店員さんが声をかけるけど男はそれを無視して全力で走りだして……私にぶつかって尻もちをついた。私はそのまま男の人の肩を掴んで、迷彩を解く。

 

 「えっと、あの……お酒、盗んでますよね?現行犯で、逮捕です」

 

 「ふん、俺の目の前でやったのが運の尽きだったな」

 

 「え、エンデヴァー!?…………すいませんでした…………」

 

 エンデヴァーを見て絶対に逃げられないことを察した男の人は肩をがっくりと落としてうなだれた。エンデヴァーは私に、ぶつかる前に確保するようにと厳しい口調でアドバイスをくれて店員さんに男の人を引き渡した。おそらくこのまま警察を呼ばれて男は引き渡されると思う。個性使ってないから重い罪にはならないだろうけど……魔が差しちゃったのかな……?

 

 「これがヒーロー活動だ。罪の大小は関係ない。犯したのならば捕まえ、向き直らせる。確保が遅くなり、逃がせば次の犠牲者が出るぞ。最速最短で捕まえろ。エクスマキナのやり方は悪くない。ショート、貴様ならどうした」

 

 「逃げる前に、凍らせた」

 

 「それでもいい、が周辺被害を考慮するならば駆けだした瞬間に組み伏せて背中を地面と凍らせて接着するのが一番いいだろう。右ならばコントロールもできるはずだ」

 

 「……」

 

 ヒーローとしての父親の姿を見た轟くんは、深く何かを考えているようだった。エンデヴァーはそれ以上何も言わず歩を進める。私はポンチョを折りたたんで小脇に抱えつつそれについていく。結局この後は喧嘩の仲裁や暴走族の小競り合いなどを鎮圧することはあったけど……ついぞヒーロー殺しに遭遇することはなかった。一抹の不安を抱えつつも、一旦エンデヴァー事務所に引き返すことになるのだった。




 元ネタ解説 
 光屈折迷彩 緋弾のアリアより。布型ディスプレイとかいうそのうち開発されそうなやつ。作者こういうのも好き

 次回かその次あたりでヒーロー殺しですかね。感想評価よろしくお願いします


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31話

 

 「では本日もパトロールとする。今日は昨日より時間を伸ばして対応を行う」

 

 「はい!」

 

 「……おう」

 

 職場体験3日目、今日は夕方から深夜まで保須にいることになっている。茜色の空に照らされる轟くん、エンデヴァーのヒーローとしての姿と自分が知る父親としてのエンデヴァーのギャップに相当打ちのめされている様子だ。だって私も轟くんの話を聞いて尚、ヒーローとしてのエンデヴァーは間違いなくトップ2だって言えちゃうから。深く色々知っている轟くんにとってはもっと衝撃的なんだろうなあ。

 

 肩を怒らせて私と轟くんの前を歩くエンデヴァー。きっと目線は街のあらゆるところを見ていて、些細な異常も見逃さない眼力を有しているんだろう。にしても飯田くん、心配だなあ。実はここに来る前に保須でパトロールするからすれ違えるかもね~と軽くメッセージを送っておいたんだけど、既読がついても返事がないの。

 

 飯田くん、メッセージを既読したら必ず5分以内、長文ならもうちょっとかかるけどそのくらいに必ず返信をくれるんだ。連絡事項でも雑談でも、付き合ってくれるいいひと。だから、既読スルーの現状は滅茶苦茶に心配になっちゃう。エンデヴァーに俺を見ろ焦凍おおおお!!!と叫ばれて舌打ちする轟くんという珍しいものを見つつ脳内でマップを起動して昨日と合わせてパトロールしたところを塗りつぶしていく。

 

 そうして、私たちはノーマルヒーローマニュアルの管轄区域に被るような形でパトロールを進めていく。もうすぐ日が暮れる……というとことろで周りの街並みが唐突に崩れ始め、爆音が響きだした。明らかな異常にエンデヴァーは

 

 「昨日の時点で俺がいるのを理解しただろうに。いくぞ、ヒーローとは何たるかを見せてやる」

 

 そう言って駆け出す。私たちはそれについていきながら、何が起こったのか自体を把握するため情報を収集する。爆発の原因は……?右目をズームさせて煙の中を見る。明らかな異形型の人間がっ!?

 

 「脳無!?」

 

 「んだと……?」

 

 「エクスマキナ!手短に知ってることを話せ!」

 

 「雄英を襲撃した一味が使ってた改造人間に酷似してます。主犯格が一緒なら複数の個性を持っているはずです!それがどうして……?」

 

 「なんでもいい!だが……ケータイじゃなくて俺を見ろ焦凍ぉ!」

 

 その爆発の中にいたのは、形は違えど脳みそがむき出しの造形をした異形……USJで遭遇した脳無に酷似したやつだった。というかほとんど確定で脳無でしかない。あんな脳みそむき出しの造形がヴィラン界隈で流行ってるなんて考えたくないです。それを聞いてきっと向き直ったエンデヴァーがスマホとにらめっこする轟くんを叱る。だけど私も思わずスマホを見てしまう。デクくんからの全体一斉送信……?内容は場所だけ、保須だ!これは……!

 

 「エンデヴァーさん!この場所にできるだけ多くプロを呼んでください!」

 

 「わりぃけど俺はそっちの方に行かなきゃなんねえ。楪、いこう」

 

 「待て、意味を……!」

 

 「友達がピンチかもしれねぇんだ」

 

 困惑してるエンデヴァーにそう言う轟くん。エンデヴァーはそれにたいそう驚いた顔をしたけど無言で踵を返して足から炎を噴射して飛び立った。無言の許可に私と轟くんは走ってデクくんが送信した場所に向かう。じれったいので誰も見てないのをいいことに轟くんを抱えて足を作り変えてローラーダッシュで車レベルの速度で逃げ惑う群衆を避ける。

 

 「楪、あそこだ!」

 

 「うんっ!」

 

 ドリフト走行でブレーキをかけつつデクくんの位置情報と重なる路地裏に入る。そこには……倒れ伏した飯田くんとデクくん、それにプロヒーローの姿とニュース画像に有ったヒーロー殺し、ヴィラン名はステイン!そいつが飯田くんに向かって刃こぼれだらけの刀を振り下ろそうとするところだった。私は轟くんを下ろすよりも先に片腕を圧搾空気で射出、空中でロケットエンジンを作り出してロケットパンチをステインにお見舞いした。

 

 ガキャァァ!と刀を犠牲にしつつそれを防御したステインがバックステップで後ろに下がり、そこに轟くんが私に担がれたまま炎を打ち出してさらに後ろに追いやった。

 

 「ハァ……次から次へと……!」

 

 「ごめんデクくん、遅くなった!」

 

 「緑谷、こういうのはもっと詳しく書いてくれ。間に合わなかったかもしんねえだろ」

 

 「楪さん……!轟くんも……!」

 

 動けないらしいデクくんと奥のプロヒーローにワイヤーを伸ばしてこちらに引っぱる。ステインは妨害しようとしたけど轟くんの炎と氷結に邪魔されて未遂に終わり、そのまま私の後ろの飯田くんと同じ位置に落ち着かせた。ロケットパンチが戻ってきてガチャンと私の片手と接合する。この場合、私が前かな。

 

 「ヒートナタ、形成開始(レディ)

 

 膝の頭の装甲が開き、そこから柄が出てくる。私は両膝からその柄を引き抜く。手に握られているのは分厚い刃を持った鉈……一つただの鉈と違うところをあげるとすれば、赤熱していて物を溶断する武装だということだ。ぶぉん、とヒートナタを振り下ろして構える。右目で見ると相当数の刃物で武装を済ませてるようだから、これで受けて同時に武器を破壊しよう。

 

 「私の友達を殺させないよ、ヒーロー殺し」

 

 「こいつらを殺せると思うなよ」

 

 「二人とも、血を見せちゃだめだ!血を舐められると体の自由が利かなくなる!」

 

 「それで刃物か、俺なら距離保ったまま……っ!?」

 

 「あっっぶない!」

 

 デクくんからの情報提供中にほとんどノーモーションで投げられたナイフを私が弾く、甲高い音を立てて弾かれたナイフに私と轟くんの意識が集中した瞬間に瞬時に距離を詰めたステインはいい友達を持ったなと飯田くんにいいつつも両手にサバイバルナイフと小型のダガーを持って轟くんに振り下ろす。さっきの投げナイフのおかげで態勢が悪い、割り込むことは出来たけど受けるしかない!しょうがないので腕を挿しこんで首の方のサバイバルナイフは防御、ダガーナイフの方は甘んじて受けることにした。

 

 「てぇい!!!」

 

 ざっくりと肩口に刺さったダガーナイフを無視して私はやつに思いっきり頭突きをかました。たたらを踏んだステインに追撃のヒートナタ……は不発に終わる。身のこなしが軽いうえに戦い慣れしすぎている。これが40人のプロヒーローを殺したヴィラン……!

 

 「楪!てめぇ……」

 

 「楪さん!?」

 

 「平気だから、それよりも冷静を保って。強いよ、あのヴィラン」

 

 「ハァ……悪くない。女……お前はなぜその贋物を庇う?」

 

 「贋物って……飯田くんの事?んっ!!痛ぁ……。誰かを守るのに何か特別な理由なんていらないよ。しいて言うなら、お友達だから」

 

 ぶつっとダガーナイフを引き抜いて、ヒートナタの側面で傷を焼いて止血する。血を見せたままなのはまずそうだ。贋物と飯田くんが言われたことにムカッと来たが怒ればヒーロー殺しの思うつぼ、押し殺して警戒に徹する。ホーダインクラブを右手に生成して飯田くんたちが寝転んでいるあたりに落として自動砲台に防御させる。あとは私が、押しとどめればいい。

 

 「ダメだ……二人とも……そいつは俺が、僕がやらないと……兄さんの名を継いだ僕が……!」

 

 「名前、継いだんだ。いいじゃない、飯田くんがインゲニウム。素敵だと思う」

 

 「ああ。俺が見たインゲニウムは、そんな顔はしてなかったけどな」

 

 飯田くんの絞り出すような声。お兄さんの名前を弟が継ぐ……いいことだと思うな。だけど、それが仇討のためだとしたら……悲しい。轟くんはつい最近までそう言う気持ちの中にいたから飯田くんの気持ちが分かるかもしれない。そんな顔、と言われた飯田くんはハッとしてこちらを見ている。氷結がステインを襲う。彼を覆い隠す氷結に刃物が走ってバラバラに斬り裂かれる。

 

 「己より素早い相手にわざわざ視界を塞ぐ……愚策だ」

 

 「私がいなければね!!」

 

 斬り裂かれる氷結の氷の裏、ステインにカウンターを入れる為にヒートナタを振り上げて思いっきり叩き付ける。サバイバルナイフを犠牲にして防御したステインは炎で追撃しようとしていた轟くんにナイフを投げ、私はそれに防御を間に合わせることが出来ず轟くんの腕に刺さってしまった。このっっ!!!

 

 「スマァッシュ!!!」

 

 まだ持っていたらしい刀を抜いたステインが迫ってくるのに不意を突く形でデクくんの飛び蹴りが見事に突き刺さった。血を舐められて動けなかったはず……?時間制限があるんだ!それなら飯田くんやプロの人も復帰の目がある!私たちが耐えれば戦力は逆転する。

 

 「緑谷!」

 

 「なんか動けるようになった!多分時間制限……!摂取量なのかそれとも血液型なのか……!」

 

 「血液型……ハァ……正解だ。三対一か、甘くはないな。だが……正しき世界のために」

 

 これで引かないんだ……!しょうがない、デクくんが前衛に行くなら私は遊撃だ。片方のヒートナタを地面に落とし、右手を変形、前腕内部から機関砲、腕側面から小型ミサイルをのぞかせてステインを威嚇する。私の戦闘スタイルが遠近両用だと知ったステインはそれでもなお、こちらへの敵意を緩めようとしない。何が彼をそこまで動かしてるの……?

 

 「皆で、守ろう」

 

 「おお」

 

 「うん!」

 

 ステインに向かって私の機関砲が火を噴いた。後を追うように轟くんの氷結も迫る、ステインはそれを飛び越して、こちらに距離を詰めようとするがデクくんが三角飛びで頭上に入り、そのまま踵落としを肩に叩き込んだ。ステインはそのままデクくんの手にナイフを突き刺して、その血を舐める。そのままこちらに迫ってくるので私が前に出る!

 

 「やめてくれ……もう……」

 

 「やめて欲しけりゃ立て!なりてぇもんちゃんと見ろ!」

 

 轟くんの叫び、ステインは私の手足が金属製でナイフが通用しないのを知っているからか胴体に狙いを絞って接近戦を仕掛けてくる。ガキン、ガキンと私は何とか腕や足で防御して血を舐められないように努める。ダメだ、私は傷ついちゃいけない守勢が得意じゃない!大抵攻撃を体で受けて反撃をするから防御のみっていう行動が不慣れなんだ。言い訳にもならない!

 

 「このっ!!」

 

 「初速が遅いと、言われないか?」

 

 「しまっ!?」

 

 慌てて大降りになった攻撃をかわされ、掬い上げるような一撃を腹に受けてしまう。浅く斬られてしまった、ステインの刀には私の血がついている。それをやつが舐めた瞬間、体が固まったように動かなくなる。けど……それは体だけ、機械には関係ない……!

 

 「なっ!?」

 

 「ハァッ!!!」

 

 電気信号で動かした私の手が私を脅威から外したステインの足首を掴んでその場に固定する。その隙に飛び出したのは飯田くん、レシプロバーストを使って瞬時に距離を詰めた蹴りをまともに顔にクリーンヒットさせる。私は首から下に人の脊椎を模した骨格を作って、手足に外部から接続。マリオネットのように体を動かして立ち上がる。

 

 「これ以上、僕の学友を傷つけさせやしない……!」

 

 「感化されても変わらん。貴様はどうせ私欲を優先させる贋物にしかならない。粛清対象だ」

 

 「勝手なこと言わないで!そんなのあなたの物差しだよ!貴方にそんな権利も自由もない!」

 

 私はそう叫ぶ。後ろでふらりとデクくんが立ち上がっているのをステインに悟らせないため。飯田くんが復帰してくれた今スピードで勝る彼を主軸に一撃で決める!轟くんにアイコンタクトをして、頷いてくれた彼は氷結を地を這うように放つ、それに合わせて私は徹甲ミサイルを氷結を避けたステインに向かって放つ。それすらも避けたステインだけど、その上には氷結を蹴ってジャンプしたデクくんが拳を握って待ち構えていた。

 

 「もう!お前の好きにはさせないっ!!!」

 

 「いって!委員長!」

 

 デクくんの渾身の一撃がヒーロー殺しの脳天を捉えて叩き落す、予想外の復帰時間の速さにステインの動きが止まった。外れた私のミサイルが氷を砕く中、落ちるステインに最後の一撃を決めれるのは、飯田くんだ!私の声を聞いた彼は、脹脛のエンジンから爆音を、排気筒からは蒼炎を吐き、まるで飛ぶようにステインに向かって距離を詰める。

 

 「行け!飯田!」

 

 「僕はインゲニウム!お前を捕らえるぞ、ヒーロー殺し!レシプロ……エクステンドォ!」

 

 ステインの胴を抉る様に叩き込まれた回し蹴りがやつを吹き飛ばして、氷を砕いて壁に激突させる。少しの間、まだ立ち上がってくるんじゃないかと心配になったけど、ステインは気絶したようでピクリとも動かない。私は拘束用のワイヤーロープを作って、ステインをぐるぐる巻きにするのだった。この体の動かし方……動きにくいなあ。

 




 本日の楪ちゃんの敗因ポイントその1 閉所戦闘なので初速を補う方法がなかった その2 攻撃を受けちゃいけなかった その3 相手が素の楪ちゃんより素早かった。その4 協力プレイだったので使える火力に制限があった。 そして最大の敗因は そもそもステインがクソ強かった。

 ステインさん、楪ちゃんのメタキャラか何かですか。いや違うんだけど……感想評価よろしくお願いします。


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32話

 「とりあえずこれで良し……どれだけ刃物持ってるんだろう……」

 

 「楪、お前肩大丈夫なのか?根元までいってたろ」

 

 「た、たぶん、止血したし大丈夫だよ。こんな強引な止血アニメかコミックでしかお目にかかれないと思ってたけど、自分でやることになるなんて……」

 

 ワイヤーで縛ったステインを引きずりながら路地裏から出る。まだ脳無の騒ぎは収まってないらしく、悲鳴こそ聞こえないものの戦闘音は聞こえている。規則やぶりに規則やぶりを重ねるわけにもいかないが、何もしないというのも歯がゆいな。ダガーが刺さった肩の違和感が酷い、触ってみると……無理な態勢で無理やりナイフを受けたもんだから鎖骨が折れてるかも、これ。認識するとずきずき痛む、確かめなきゃよかった……。

 

 「飯田くん、お疲れ様。こんな形になっちゃったけど、インゲニウム襲名おめでとう。お兄さんも喜ぶと思うよ」

 

 「楪君……すまない!みんな!僕の……僕のせいで傷を負わせてしまった……!何も見えなくなっていた……!」

 

 「僕も、ごめんね。友達なのに、君がそこまで思い詰めてたなんて気づけなかった……」

 

 「しっかりしろよ、委員長だろ」

 

 「次からは、お兄さんが誇りに思うような形で……その名前を使ってね」

 

 「……っ! うんっ……!」

 

 飯田くんは、目に涙をためて頭を下げる。私たち、少なくとも私は飯田くんが少しおかしかったのに気づいていたのでそれを見逃してしまったことを謝らないといけない。でも、仇討か……例えば私がえーくんをヒーロー殺しにやられてたら自制できてただろうか……?あ、ダメだ。考えただけで涙出てきそう……えーくんが傷つくのは嫌だなあ。

 

 「ここか……んおっ!?座ってろっつっただろうが!」

 

 「グラントリノっ!?へぶっ!?」

 

 な、なにごと!?突如現れた小柄なヒーロースーツの老人がデクくんの顔を踏みつけるように蹴った。敵襲か!?となってヒートナタを構えたところで、デクくんの感じからして違うということに気づく。グラントリノ……確かデクくんの職場体験先のヒーローがそんな名前だったと思う。

 

 私がヒートナタを下ろすと同じくらいのタイミングでぞろぞろと応援要請を受けた他のヒーローたちがやってきて、私たちに驚いたり拘束されたステインを見ておののいたりしてる。あの、もうちょっと早く来てほしかった……私の怪我はともかく轟くんにデクくん飯田くんの怪我が結構ひどいと思う……。

 

 「伏せろ!」

 

 「デクくん!」

 

 少し気を抜いた瞬間に全身にやけどを負った脳無の1体らしい個体がデクくんを足でひっつかんで空へ舞い上がった。私は持ってたステインの縄とヒートナタを捨てて脚にスラスターを作り出して飛び立つ。私より一瞬早く飛び立ったグラントリノと並んで上空へ逃げようとする脳無を追いかける。撃ち落とそうと腕から近距離誘導ミサイルをのぞかせた時だった。

 

 いきなり脳無が硬直したように体を止める。この個性は……!落下する脳無を追って私は軌道を変えてデクくんを追いかける。その私を踏み台にしたのは……どうやってか拘束を抜け出したステイン!彼はデクくんを掴んで私に投げつけると脳無の脳天にナイフを刺して止めを刺してしまった。その右肩がダランと垂れさがってるのを見て、関節を無理やり外して脱出したのだと理解する。

 

 「贋物蔓延るこの社会も、力を誇示し振り回す犯罪者も……ハァ、粛清対象だ……ハァ……」

 

 デクくんを抱き留めて背中から地面に落ちる私に、ステインのそんな声が聞こえる。デクくんを固く抱きしめて地面に激突した私がやつの方を見るとぞっとした。背筋にまるで氷柱を挿しこまれたようなそんな感じ。USJの手のヴィランが可愛いと思えるほどの殺気……それは私を越えて、脳無を追いかけてきたエンデヴァーに注がれている。

 

 「全ては……正しき社会のために……」

 

 「貴様……ヒーロー殺し!」

 

 「待て!轟!」

 

 赫灼熱拳の構えに入ったエンデヴァーをグラントリノが止めた。幽鬼のようにふらついて立っているステインに私は動くことができない。私の上で抱えられているデクくんも同じ。じり、とプロたちの足が一歩下がる。エンデヴァーでさえもその異様な威圧感に赫灼の熱を下げて警戒し始める。

 

 「誰かが……血に染まらねば……ヒーローを取り戻さねば……!」

 

 冷や汗が止まらない。痛い筈の背中も、肩も感覚がなくなる。狂った使命感と狂気と思想が煮凝りのように固まったステインの目から視線を外すことができない。彼の主張から耳を背けることができない。オールマイト先生が言ってた思想犯の目がそこにあった。

 

 「来い、来てみろ贋物ども……!俺を殺していいのは……オールマイトだけだ!!」

 

 そう言って、にじり寄っていた足を止めたステイン。この場だけ何倍にもなったように思えた重力のような圧力がふっと消え去って、動かなかった体が動くようになる。荒くなった呼吸を正してステインを見ると……立ったまま気を失っているみたい……?と、とてもじゃないけど生きた心地がしなかった……!あれを路地裏でやられてたら……!考えたくもない。

 

 デクくんを立たせて私も立ち上がる。救急車のサイレンが遠くから聞こえる中、誰もがヒーロー殺しから目を離せずにいた。異様ともいえるヴィラン、こんなのもいるんだ……ヒーローへの道は、やっぱり遠いかな。

 

 

 一夜明けて、朝。なんだかんだ言って私は重傷だったらしくダガーナイフによる鎖骨の分断に深めの刺し傷、自分でやった深度熱傷というトリプルコンボで見事入院と相成ってしまった。というか鎖骨が互い違いになってしまったので手術した。デクくん、飯田くん、轟くんもそれぞれ浅い深いの違いはあれど怪我をしてしまってるので仲良く同室で入院、私だけ性別が違うので一人で隔離されてる。う~~、さみしい~~。三奈ちゃんとえーくんが恋しいよぅ……。

 

 先ほどエンデヴァーと一緒に保須を管轄する警察署の署長だという面構さんという方がやってきて私がやった脱法行為とその責任、及びヒーロー殺しの現在について教えてくれた。轟くんの炎でヒーロー殺しは火傷を負っており、それを利用してエンデヴァーを功労者として擁立するというお話で、そうすれば私たち学生が個性でヴィランを傷つけたという違法行為を無い事にできるとお話してくださった。

  

 何かしらのペナルティ、あるいはヒーロー科からの強制退学程度は覚悟してたんだけど……そんなことができるのか、と思ってしまった。もちろん私たち学生を管理する立場であるエンデヴァー、グラントリノそしてマニュアルたちは責任を負うことになってしまうらしく、それに関してはエンデヴァーに思いっきり頭を下げた。

 

 エンデヴァーは無言ながらも私の謝罪を受け取ってくれたようで、怪我をしてない方の私の肩をポンと叩き「これからに期待している」とだけ言って部屋を出ていった。面構署長もこれから男子の部屋に行って事態を説明すると言って帰っていってしまった。

 

 私はリカバリーガールが雄英から出張してくれるまでは入院だし、それは男子たちも同様。つまり私の職場体験はここで終了なんだ。仮に復帰できたとしても私たちを管理するヒーローたちは監督不行き届きでペナルティを受けるし、これ以上迷惑をかけたくない。でも~~~!悔しい~~!エンデヴァーにクリーンヒット入れてない!轟くんと超協力プレイでパーフェクトな会心の一発を決めたかった!

 

 あの余裕たっぷりなメラメラフェイスを驚きの形に変えたかった!轟くんのお話を聞いて私も思うところがないわけじゃないんだ!でも外野の私がぎゃいぎゃい言うのっておかしいじゃん!というかせめてあの移動の仕組みを解明したかった!あとできれば赫灼のやり方盗んで私に会う形で悪用……もとい利用したかった!右目の映像で復習かなあ……そう考えてるとこんこん、とドアがノックされる。誰かな?

 

 「え、はい!どうぞ!」

 

 「失礼します」

 

 「え?え?……????」

 

 私の頭に?マークがいっぱいになって埋め尽くされる。入ってきたのは真っ黒のスーツに身を包んだ数人の男女……私に面識は全くない。目を白黒として事態を飲み込めないでいる私がとりあえず寝た状態から立ち上がって応対しようとすると一番偉いと思われる中年の女性に手でそのままにしてなさいと制された。

 

 「楪希械さん、でよろしいですね?」

 

 「は、はい!楪希械と申します!あの、不躾ですけど貴方がたは一体……?」

 

 「突然ごめんなさい。ヒーロー公安委員会のものです。少しお話よろしいかしら?」

 

 ヒーロー公安委員会……!?名前と概要しか知らないけど、ヒーローに関するあらゆることを管轄している警察と同権限を持っているヒーローの上位組織のことだ。凶悪なヴィランの収監を行っているタルタロスという刑務所もヒーロー公安委員会の所属だったはずだけど……申し訳ないが私に一切公安のお世話になるようなことをした覚えは……思いっきり昨日しちゃったね。警察からのお叱りは免れてもこっちはダメだったのかな……?

 

 「ああ、楽にしてください。昨日の件とは全くの無関係ですが……少しお話をさせてくださいな」

 

 「えと……その……お話とは……?」

 

 「ええ、単刀直入に申しますと……雄英を卒業しプロになったら……公安所属のヒーローとして活動しないか、というお話です」

 

 「公安所属のヒーローって、今何人かいる方たちですよね?ビルボードチャートに乗らなくなって、あんまり表に出ないっていう……」

 

 公安所属のヒーローっていうのは簡単に言えば国の有事に動く実力を認められた強者だけの称号、みたいな感じで……その存在自体は公表されてはいるものの誰で何をしているのかは全くの不明。半分都市伝説扱いでチャートのヒーローの誰かがそうなんじゃないかと言われているくらいの雲の上のお話だ。

 

 「ええ、概ね間違っていません。ヒーローが準公務員だとすれば公安所属のヒーローは公務員そのもの。国のために人を助ける、そういうお仕事です」

 

 「その……なぜ私に?いきなりすぎてすこし……」

 

 「体育祭の映像は私たちも拝見しています。仔細は話せませんが、私たちが熟す任務はどれも難易度が高く、戦闘、諜報、捕縛……ありとあらゆるスキルが必要です。貴方の個性の万能性、そしてあなた自身……適格者に間違いないと判断されています」

 

 こ、ここで体育祭の話が出てくるのっ!?ヒーロー公安委員会って雄英の体育祭みるんだ……というかますますわからない。私は高校1年生で、まだどう転ぶか分からない。雄英風に言えば受精卵というやつで優秀かどうかも測りかねる段階だと思う。相澤先生が言ってたように指名は興味であってリクルートじゃない。今この段階でリクルートしてくるのは一体どんな意図が……?

 

 「なぜ今ここで接触したのかですが、早い段階で私たちを知ってもらい進路の一つとして意識していただきたいからです。貴方の個性はヒーローとしても、サポート会社としても、そしてヴィラン側からも狙われやすいと自覚してください。時に科学は個性を凌駕します。その逆もしかりですが……個性と科学の両方を持つ貴方の場合はそれが顕著です」

 

 「私の個性が……ヴィランに……?」

 

 「レーザー兵器を個人で運用できる人間にヴィランが目を向けない理由はありません。雄英に入学して良かったと思います。普通校では……ヴィランに誘拐されていた可能性がありますから」

 

 ぞっとした。何でもないように使っていた個性だし、危険性は重々承知してはいたけど……ヴィランに攫われて兵器工場にされる可能性があるなんて考えもしなかった。仮に誘拐されたら……利用される前に自爆でもしよう。どうしようもなくなった時の最終手段だけど、私の武器が無実の人を傷つけるのなんて天地がひっくり返ってもごめんだ。

 

 「はい、意識したようで結構。今回の事件を見るに、若干無鉄砲なきらいが見受けられます。貴方が誘拐され、仮に利用されれば無数の被害者が出ることを心に刻んでください。まあ……お節介なおばさんの余計なお世話というやつです」

 

 「いえ、身に沁みました。わざわざありがとうございます」

 

 「よい顔です。組織人としては今回の件を褒めるわけには参りませんが、いち個人としてはとても好ましく思っています。またどこかで会うと思います、卒業後か、その前か。いい形で出会えることを祈ってますよ。では、お大事に」

 

 そう言って、ヒーロー公安委員会の方たちはドアを開けて去っていってしまった。つまるところ、彼女たちがしたかったのは体育祭の指名、そういうことなんだろう。ヒーロー公安委員会……そういうのもあるのかと私はベッドの上で考える。そして、考え事にふけりすぎてやってきた相澤先生に目の前で柏手を打たれて正気に戻った。ごめんなさい!ノックも声かけも電話もメールもしてくれたのに気づかなくて!え?はい、一応無事……違反行為はごめんなさいぃぃ!

 

 




 これで職場体験編は終わりです。公安の人が言ってたヒーローはホークスやナガンが所属していたものとは別枠です。もちろんスカウト後にホークスの後輩にするつもりでしょう。

 感想評価よろしくお願いします


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期末試験編
33話


 「なぁ……希械お前ぇ……」

 

 「どうしたの?えーくん」

 

 「いや……何でもねえ。無事でよかったな、そんだけだ」

 

 「うん、エンデヴァーに守ってもらえたからね。怪我はしちゃったけど、元通りになったし!」

 

 長いようで短い入院期間を終えて、私の職場体験は終了した。飯田くんの左手は私たちが来る前にステインに刺されたせいで後遺症が残ったらしいけど、彼はあえてそれをそのままにしておくことで戒めにするって言ってた。両親は私がヒーロー科に入ってから怪我ばっかりしているのでかなり心配してくれたけど、全部ステインが悪いと丸め込んだ……というか納得してもらった。正直どうしようもないよ、ヒーロー活動に怪我は付き物だし。

 

 意外だったのは、エンデヴァーが私の両親に頭を下げて謝ったこと。預かった娘さんに傷をつけてしまったと、何時もは燃やしている顔の炎を消して謝罪をしたことだった。思わず私が悪いんだと言ってしまいそうになってエンデヴァーの眼光に黙らされた。これが、責任を取るということだと改めて知って、申し訳ない気持ちになってしまった。

 

 手術した鎖骨も切創もリカバリーガールのおかげできれいさっぱり治癒して傍目には何もなかったように私は職場体験を終えて、家に帰った。そのころには既に世間はステイン……ヒーロー殺しのことでいっぱいだった。ステインの気絶寸前の場面は誰かが動画を撮っていて、それはいま日本中に拡散されて悪い意味で注目を浴びてしまっている。

 

 そして、私たち。轟くん、デクくん、飯田くん……そして私はデクくんが発信した位置情報により、クラスのみんなから何があったかを聞かれ、ヒーロー殺しに遭遇したことを説明して、エンデヴァーに助けられたと面構署長に言われた通りのシナリオを話した。それぞれ怪我してしまったことを説明して、三奈ちゃんをまた泣かせてしまったし、えーくんはかなり暗い声を出していた。

 

 「ヒーロー殺し、すごく強かったよ。USJの脳無とはまた違う……技術を持ったヴィランだった。でも、もういいの!ちゃんと帰ってこれたし、短かったけど職場体験できた!えーくんはファットガムの所で何してたの!?」

 

 「お、おお!ファットガムのとこは大体トレーニングかパトロールだった!ファットガムってやっぱすげえや!俺とはタイプ違うのにまだぜってえ勝てねえ!ってなっちまう。もっと強くならなきゃな!」

 

 「うん、その意気だよえーくん!私もエンデヴァーの技術を再現して強くなるんだから!」

 

 私と朝、顔を合わせてから登校してもちょっと暗めのえーくんを元気づけるため、私は大丈夫!と明るい声を出して話題を切り替える。さすが私の数十倍のコミュ力を持つえーくんはそれを察してくれて話題に乗っかって職場体験でやってくれたことを話してくれた。そして私は最後にエンデヴァーが貴様なら理解できる、と病室の中で口頭で教えてくれた赫灼の極意の一つ「熱の凝縮」をものにして私の個性で溜まる熱の転用方法を模索することをすでに決意しているんだ!

 

 がんばるぞー!といつもはやらないしがらでもないけど腕を突き上げて決意表明、それに乗っかって両手をあげるえーくん。そうそう、えーくんはこうやって明るくなくちゃ。ああ、1週間もえーくんがいないなんて初体験だったからちょっと懐かしさすら感じるなあ、でも無事で会えてよかった。

 

 

 

 「ええ~~~!!!また希械ちゃんと一緒に帰れないの~~~!!???」

 

 「うん、また呼び出されちゃって……」

 

 「希械お前先生たちから頼りにされ過ぎだろ。今度は誰だ?またオールマイト?それともパワーローダー先生か?」

 

 「今度はね、なんと相澤先生」

 

 「ええっ!?相澤先生が!?希械ちゃんを呼び出したの!?それって除籍宣告だったりして……」

 

 「普通科に行ったらごめんね?」

 

 「いやだ~~~~!!」

 

 そんな朝が過ぎてあっという間に授業後。朝は爆豪くんの髪型がベストジーニストの髪型になっててそれを見たえーくんが腹筋に直撃を受けたらしく笑い転げて動けなくなって爆豪くんがめっちゃキレたり、職場体験のことをみんなで話し合ったり、そこでもやっぱり話題になったステインの話も出たけど、飯田くんがキレイに締めてくれたおかげでそんなに重くはならなかった。

 

 そして午前中を終えて久しぶりのお弁当タイム、そのあとはこれまた久しぶりのオールマイト先生によるヒーロー基礎学の時間だった。救助訓練レースと題したそれで驚かれたのはデクくん、私たちはステインの時に知ってはいたけどワンフォーオールを全身に発動し続けるという使い方を会得したとのことで、技名はフルカウルというらしい。途中で滑って落ちて最下位になってしまったけど個性把握テストの時と比べたら雲泥の差だろう。私は普通に空飛んで1位をもぎ取った。こういう単純なものなら私は強いんです。

 

 それで、帰りのホームルームに行く前に廊下で相澤先生に呼び止められて、授業後に時間あるかと聞かれ、あると答えたら手伝ってほしいことがあると言われてしまったのでわかりました~と返事してホームルームを終えたところなんです。正直断ってもよかったんだけど、直近で思いっきり違法行為を働いてしまった負い目がある私としては相澤先生のポイントは稼いでおいて損はないというか現状マイナスなので……。

 

 「やだ~~!最近希械ちゃん成分が不足してるの!ずっと遊べてないもん!女子で集まっても希械ちゃんいないことの方が多いし!」

 

 「うぅ……それ言われるととても弱いんだけど……」

 

 うじゅうじゅと言いながら私に縋り付く三奈ちゃんが私の良心にダイレクトアタックをかましてくる。そこら辺を考えるととても弱い、だってもう既にクラスの女子のみんなは名前で呼び合ってるのに対し、私はそうじゃない!それはなんでかと言えば私の授業後が結構忙しいから。サポート科に呼び出されたり演習場のゴミ掃除に駆り出されたりと半ば便利道具のような扱いを受けているせいでみんなと一緒にいる時間が少ないの……。

 

 「あれ……?もしかして私みんなとそんな仲良くなれてないのでは……?」

 

 「そんなことあらへんよ!?」

 

 ぽくぽく、ちーんと至った結論を口に出すと近くでデクくんと話してた麗日さんがすさまじい勢いで振り返って否定してくれた。前の八百万さんや梅雨ちゃん、葉隠さんに耳郎さんも違う違うと集まって言ってくれる。み、みんな……!

 

 「でも、あんまり一緒には行動できてへんよね」

 

 「そうだよね……」

 

 あげて落とされた、麗日さんに。確かに私もみんなと一緒に遊びたい、とは思ってる。というか普通に普通の休日を過ごしたいとはちょっと思った。半日どうして学校にジャージでいて粗大ごみを粉砕機の中に突っ込む仕事をしてるんだろうとはたまに思うけど。いや金属粗大ごみ出すぎじゃない雄英?リサイクルしよ?私がしてるんだけど。

 

 「なら私の事、お茶子って呼んでええよ~。私も希械ちゃんって呼ばせて欲しい!」

 

 「え、じゃ、じゃあ……お茶子ちゃん?」

 

 「希械ちゃん!」

 

 ちょっと赤くなって麗日さんのことを名前で呼ぶと、ぱぁっと顔をかがやせたお茶子ちゃんが私の名前を呼び返してくれる。それにぽかぽかと温かい気持ちになってると、ずるいと割り込んできた葉隠さんも私も下の名前で呼んでと言ってきて、それを皮切りに八百万さんと耳郎さんもそう言ってくれた。なので私は3人を名前で呼んで呼び返してもらう。

 

 なんだかうれしくなってはにかんでいるとそれを見たデクくんが何か眩しいものを見たようなすんごい顔してる。何その表情、あと轟くんは何を考えこんでいるんだろう。えーくんはいつも通りにっこにこだね、安心する。今度の休日はみんなでお出かけすると約束して、私は呼ばれた職員室へ向かう。相澤先生の呼び出しってなんだか怖いけど、何があるのかなあ。

 

 「失礼します。相澤先生……あれ?」

 

 「来たか、楪」

 

 「アンタは……」

 

 職員室の相澤先生の机のそばに立っていたのは……体育祭の本選に唯一残った普通科の星、心操くん。紫色の無造作へアが特徴的で、個性は洗脳。要望はヒーロー科への編入……その人がどうして相澤先生の所に?ああ、相沢先生って普通科の授業もやってるからその関係かな?じゃあ用事終わるまで待たないと。

 

 「よし、揃ったな。心操、楪、体育館行くぞ」

 

 「はい」

 

 「え?私もですか?」

 

 「そうだ。詳しくはそこで話す」

 

 頭の上に疑問符を浮かべながら、首元を抑える心操くんと一緒に相澤先生についていくことにする。体育館?何をするんだろう……?トレーニング?うーん、予想がつかない。無駄を嫌う相澤先生のことだから移動中に聞いても応えてはくれないだろうし、心操くんがいる時点でちょっと謎だ。というか心操くんジャージ姿だ、私は制服だけど……いいのかな?そうしてついた体育館で相澤先生は私たちに向き直る。

 

 「さて、楪……詳細を話さずに悪いな。お前、定期的に1日授業後を開けられないか?サポート科と被ってもいい。少しお前の時間を貰いたい」

 

 「えーっと……お話が見えないんですけど、心操くんが関係してるっていうことでいいですか?」

 

 「そうだ、ヒーロー科編入へ向けた基礎の基礎作り……お前らに追いつけるかはこいつ次第だが、相当なスパルタになる。肉体面でも個性面でもな。まあなんだ、俺が心操を個人的に見ることにしたんだが、どうしても届かない部分があってな。お前にそれを頼みたい」

 

 「相澤先生が出来なくて、私ができること……?異形型への対処とかですか?」

 

 「流石に鋭いな。それにお前、洗脳が効かなかったそうじゃないか。個性が効かない場合どう対処するかという場合の例としても適切だ。流石にこれは強要できないしするつもりもない。断っても問題ないぞ」

 

 むむ、なんて底意地の悪い言い方だ。敢えてそういう言い方をして私の良心を煽ってるな相澤先生。それはそうと、納得した。相澤先生が心操くんを気に入ってヒーロー科編入を果たすためにトレーニングを付ける手伝いをしてほしい、要はそういうことなんだろう。少し恥ずかしいお話だけど、私のフィジカルはそんじょそこらの男の人を軽く凌駕するし、身長も大きい。今も相澤先生と心操くんを見下ろしてるからね。そしてまあ、機械だから異形だ。変形もできるし異形型っぽいことはそれなりに再現できる。

 

 「これは相澤先生相当心操くんを気に入りましたね?え、と心操くんって呼んでいいかな?」

 

 「別に、好きに呼んでいいよ」

 

 「じゃあ、心操くん。心操くんはヒーローになりたい?」

 

 私は軽くしゃがんで、彼を目線を合わせる。髪越しに見る彼は、私と目線があったと思ったのかすっ、と目をそらしてしまったけど。私の質問が真剣なものだと悟って私の目を見てくれた。じっと彼を見つめる私に、何度か答えようとして、詰まる。彼の言葉を聞くまでは判断するわけにはいかない、相澤先生が見てる時点でそれは事実だけど、心操くんの口からその言葉を聞きたいんだ。

 

 「体育祭で言ったことに嘘をつくつもりはない。俺は絶対にヒーロー科に編入してお前たちより立派にヒーローをやってやる。だから、その……手伝って、欲しい」

 

 「……ん、分かった。じゃあ相澤先生、先生に一つお願いしてもいいですか?そしたら、お受けしようと思います」

 

 「なんだ。言ってみろ」

 

 「私にもトレーニング付けてください。格闘術、武器だけじゃ火力過剰なんです。一芸だけじゃヒーローは務まらない、ですよね?」

 

 「合理的だな。分かった、並行して教えよう」

 

 「クラスのみんなには言わない方がいいですよね?多分みんな押しかけて来るでしょうし」

 

 「ああ、そうしてくれ。今日から始める、楪はどうする?急だから今日は帰ってもいいが」

 

 「参加していきます。お手洗いで着替えてきますね」

 

 そう言って私は、お手洗いでジャージに着替えて戻る。するとそこには心操くんに紙を渡してメニューを説明する相澤先生の姿が。私に気づくとちょいちょいと手招きするので何かなと思って彼らに近づく。

 

 「とりあえず聞きたいんだが、楪お前、なんで心操の洗脳が効かなかったか心当たりあるか?」

 

 「あ、はい。私急に気絶すると基本的に他人が動かせないので、意識がふいに落ちると落ちないように再起動させるみたいな機能を個性で作ってあるんです。心操くんの洗脳の条件は詳しく知らないですけど……」

 

 「俺の洗脳は、俺の肉声を聞くことが条件。強い衝撃が加わると戻ることがある。楪さんのは多分後者、俺は前者だと思ってたけど……」

 

 「へえ、そうなんだ~。じゃあ機械を通して聴けば効かないんだ。でももったいないですよね~ヒーロー向きの個性なのに。ねえ、相澤先生」

 

 「ああ、俺は毎年言ってるんだがあの方式の入試は非合理的だ。心操のような取りこぼしが出る」

 

 「でも対人戦はそれこそ危ないですよね……どうしたの?心操くん」

 

 相澤先生に流石にもったいないですよとお話しすると心操くんはかなり驚いた様子で私を見ていた。顔に何かついてる?私何か気に障ること言っちゃった!?どうしようどうやって謝ろう!?たすけてえーくん!

 




 最近知り合いにこの小説を書いてることがバレたのですが「主人公ってこれサキュバスか何かじゃない?」と言われ、ブチギレて反論しようとしたら否定材料が全くないことに気付かされました。

 そんなわけでこれからもメカサキュバスこと楪ちゃんをよろしくお願いします

 感想評価をくれると作者喜びます


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34話

たまには朝更新


 心操くんが固まってしまった。何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか?それとも私の余りの無神経さに絶句してしまったのだろうか?こ、こういうときに頼りになるのは周りの人……えーくんも三奈ちゃんもいない!相澤先生が助け舟を出してくれる、わけもない!どどど、どうしよう?

 

 「初めて言われた。そんなこと、ヒーロー向けの個性だって」

 

 「え?そう?だ、だってさ?ヴィランに答えさせれば一発で動き止めれるんでしょ!?私が武器振り回すよりよっぽど合理的だよ?誰も傷つくことなく、事件が収束すればみんな幸せじゃないかな?」

 

 「そういう、考えなのか。流石はヒーロー科、根本から違うんだな。大抵のやつはヴィラン向きだっていうし、洗脳されたらどうしようって怖がるよ」

 

 「あ!ああ!そういう考えが先に来ちゃうんだ。うーん、でもそれって他の個性の人もそうじゃない?私だってそうだったし」

 

 「楪、さんが?」

 

 「あ、言いにくいなら呼び捨てでいいよ~?」

 

 なるほど、心操くんは自分の個性がコンプレックスなんだ。ちょっと気持ちは分かるかもしれない、個性差別は良くないっていうのはまあ個性社会の標語としては当然の話だけどはっきり言って無理な話っていうのが体験談。私はまだましな方だけど異形型は差別されやすい。人の形をまだしてる私でも中学校のクラスメイトや教師に陰口を叩かれることもまあ、あった。なのでそういう個性への差別にはそういうものがあるって実感してる。

 

 「そうだねえ、例えば……私から目を逸らす人もいれば、手が触れたら飛びのく人もいないわけじゃなかったよ。しょうがないよね、私の手……鉄を握りつぶせるんだから。怖いって思うでしょ?」

 

 「それは、違うだろ。アンタはそういうことしないって何となく俺でもわかる」

 

 「……ん、ありがとね。だから、今言ったことそのまま返すけど、私は心操くんが洗脳を使って悪いことするとは思わないから、そういう考えが先に来てるの。私以外も個性悪い事に使おうと思えばいくらでも使えるけど、そうしないって考えてそういう風に頑張ってるから外から見て、悪いことはしないって思えるんだよ?」

 

 「……はは、さすがは体育祭1位だな。こんな先にいるのか……」

 

 流石に体育祭は関係ないと思うんだけど……なんで相澤先生は無言なの。もう、こういうフォローは私じゃなくて先生の仕事じゃないですか?それとも前職員室で目を合わせてくれるから嬉しいっていう話をしたせいでそういう体験があるっていうの感づいて、心操くんのメンタルヘルスに私を利用してるな!?何という合理的な先生だ……!そもそも私がそこら辺を完全に割り切ってまったく気にしてないのに気づいてる節すらある。えーくんと三奈ちゃんのおかげなんだぞそれは。

 

 「それに、心操くんは周りにきちんと慕われてるじゃん。体育祭の時、普通科皆で応援してたし……もうちょっと個性に自信持ちなよ。あと相澤先生、私に全部投げないでください」

 

 「お前が俺の言うこと全部言うからだろうが」

 

 「じゃあ、もっと褒めてあげてください。同級生の私に褒められるのって多分恥ずかしいと思います」

 

 「……ごめん、もう既に結構恥ずかしい……」

 

 腕で顔を隠した心操くん、隙間から見える顔は真っ赤っか。ちょっとストレートに行き過ぎたか……?でも思ったこと、特に誉め言葉は必ず伝えるっていうのは両親からの教えだからやめるつもりはないし……。絶対心操くんの個性はヒーロー向きだという確信が私の中にはもう既にあるの。だって誰も傷つくことなく、物事が終わる……凄いことだよ!オールマイト先生だってそんなことできないんだから!返事一つで行動不能、即死&初見殺し!ヤバヤバ激ヤバ!私もそういうことやりたい!初見殺し(物理)しかないもん今!

 

 「と、まあ自罰的なのは自覚あるようだから直せよ心操。じゃないとまた楪に褒めさすぞ」

 

 「え!?何でまた私なんですかっ?」

 

 「お前が俺より人のいいところを見つけるのが得意そうだからだ」

 

 「……相澤先生の方が得意じゃないですか。こそっと褒めてくれたりとか、今みたいにストレートにきてくれたりとか」

 

 私が人のいいところを見つけるところが得意なのかどうかは置いておくとしても絶対それは相澤先生の方が得意だしやる気が出る褒め方も知ってるはず!ぶっきらぼうだけど優しいのは知ってるんだぞ相澤先生!この短いお付き合いでも!私なら10個ぐらいすぐに先生のいいところぐらい言えちゃうよ!……あれ??

 

 「……仲いいっすね」

 

 「問題児だからな、目を付けてる」

 

 「そんな!?」

 

 「それはそうと心操、調子に乗らせたくはないが、今のお前に必要なのは自信だと判断して伝えておく。体育祭の職場体験の指名……おまえにも100件来ていた。ヒーロー科に入っていれば行けていた話だ。気合い入れろよ、周回遅れを巻き返すんだ、並みの努力じゃ置いて行かれるだけだぞ」

 

 「っっはいっ!!!」

 

 ほら、やっぱり先生の方がやる気引き出すの上手い~~。相澤先生の言葉に頷いた心操くんは準備運動をはじめていく。私の場合準備運動は気分でしかないのであんまり意味ないんだ。せいぜい太ももを動かすくらいで……柔軟でもしておこうかな。はい、開脚、べた~~っと。足を180度開いて胸を地面につける。私がやれる数少ない柔軟運動です、手足がメカだと関係ないんだよね……股関節柔らかくするしかないの。

 

 「じゃ、並行して教えるぞ。心操は基礎トレから。楪、お前はスパーリングだ。ただし力は加減してくれ、全力で来られると流石に教える余裕はない」

 

 「はい~」

 

 「はい」

 

 腕立て、腹筋、スクワットから始める心操くんと向かい合った相沢先生とスパーリングを始める私。うっ……エンデヴァー事務所でも思ったけどプロの人たち格闘能力凄いよね……本気で手足を振り回せば私の手は人くらい簡単に殺せちゃう鈍器になるからそれはともかくとしてなんだけど、私の素人&動画でみてモーションキャプチャーして取り入れた動きをあっさりいなして転ばされる。うぐぐ、強い……!

 

 あと相澤先生、私を心操くんの競争相手にするつもりだ多分。雄英式の高すぎる壁の役割として分かりやすく体育祭1位をとった私を連れてきて一緒に訓練させて、こなくそっていう気持ちを引き出してやる気を出させる。諦めるなら途中終了、頑張れればそれはplus ultraってことなんでしょう。す、スパルタぁ……!?

 

 心操くんが熱い思いを秘めてるっていうのは体育祭で何となくわかっているんだけど相澤先生、カリキュラム外だとこういう風になるのか……!授業の数倍厳しいし、いわゆる除籍のハードルラインも下がってそう……!私も本気で頑張らないと……!!

 

 

 

 「それじゃ、今日はここまでだ。心操は毎日基礎トレを怠らないように。楪は力押しを何とかしろ、以上解散」

 

 「……はい」

 

 「わかりました」

 

 トイレでまた制服姿に着替えた私に対して、いまだジャージ姿のまま倒れ伏す心操くんに手短に注意点を伝えた相澤先生は体育館を出ていく。相当きつかったもんね基礎トレ……でもこれ毎日やるの?凄いな、ヒーロー科でも結構顔をしかめそうなくらいきついメニューだけど……そういった訓練が一切ない普通科ならこのメニューは地獄そのものだろねぇ……筋繊維ぶっちぶちに違いない。

 

 「はい、心操くんこれ。私のおごり~」

 

 「……いや、払うよ」

 

 「受け取り拒否します。これから毎日頑張らないとだから、エールの意味を込めてプレゼントね」

 

 着替えるついでに買ってきたスポーツドリンクを心操くんに手渡す。体を起こして受け取ってはくれたけど、払うって言うので受け取りを拒否してみる。今日のトレーニングで分かったのは心操くんがとっても頑張り屋だってこと。キッツいメニューでも全然弱音も愚痴も吐かなかった。ヒーロー科でもきついメニューが来たらちょっとブーイング出たりするけど、心操くんはそんなことなかった。

 

 そこからさらに、彼のヒーローへの情熱というものを伺うことが出来て、私も全力でお手伝いしようと思ったんだ。まあ、なんていうかその……個人的な好き嫌いのタイプとして頑張る人、努力する人、頑張れる人っていうのは私にとってはドストライクに応援したくなるの。素敵じゃない?目標に向かって一生懸命になれるのって、えーくんとかデクくんとか、私の男友達はそんな人ばっかりだけど、そこに心操くんが追加された感じだ。

 

 バックを漁って取り出された財布からお金を差し出す心操くんにぷい、と差し出されたお金をやんわり受け取り拒否する、それでようやっと諦めてくれた心操くんはペットボトルの中身を一息に開けて大きく息を吸った。うーん、やっぱり汗沢山搔いてるし喉乾いたよねえ。

 

 「そんなあなたにもう一本!どうぞ?」

 

 「どこから出したの……?この際ありがたく貰うけど……」

 

 「バッグ型冷蔵庫だよ~~」

 

 個性で作ったウエストポーチ型冷蔵庫、腰の後ろから取り出した2本目のスポーツドリンクを差し出すともう諦めたのか普通に受け取ってくれる。うんうん、素直が一番だよ~。そのペットボトルを半分開けてようやく一息付けたらしい心操くんは私を見て、話しかけてくれた。

 

 「あれだけ動いたのに全然疲れてなさそうだね、さすがヒーロー科」

 

 「私は機械だからね、疲れないのがデフォだよ。こんな重い物付けて生活してたら体力だってつくよぅ」

 

 「……重いって?」

 

 「はい、持ってみて」

 

 「うわおもっ!?待って腰抜ける、っていうか腕……」

 

 重い、の理由が理解できなかったらしい心操くんに左手外してパスすると成人男性より重い腕を支えきれずにすさまじいガニ股になってしまう心操くん。私の腕が外れたことについてはもはや説明する必要もないだろう、便利でしょ?セルフロケットパンチ。最悪ジェットエンジンの変形間に合わなかったら腕外して投げて当てればいいんじゃないかなって最近思い始めたんだ。外して投げる、2行程、何という簡略化だろうか。

 

 「あ、でも股関節の柔軟性だけは毎日鍛えてるよ。こんな感じで」

 

 「うわ、カンフー映画で見たやつだ」

 

 「あ、心操くんそういうの好きなんだ、アクション映画はえーくんがよく見るから私もたまに見るよ~」

 

 脚を前後に開いてストン、と腰を地面に落とす。お風呂上がりの柔軟の成果が今ここに!柔軟これしかやれないんだけどね!ちなみに心操くん結構体固めみたい。開脚して前に倒すやつ全然できてなかったからあんまり体鍛えてなかったのかな?まあ個性鬼つよだから話術とかそういうの鍛えるほうがいい気がするけど。

 

 そんなことを話しながらあれこれやってたけど、流石に着替えると言って心操くんは行ってしまった。私もスーパーに買い物に行ってから帰るという用事があるので心操くんとはここでお別れ、茜色の沈みかけの夕日に照らされていつもお世話になっているスーパーの中に入る。お野菜~と見ているともやしの目の前で悩ましい顔をしている知り合いの顔が

 

 「あれ、お茶子ちゃんだ。どうしたの?もやしとにらめっこなんてして」

 

 「はえっ!?希械ちゃん!?ちゃ、ちゃうねん実はおかずが家になくって買い物に来たはいいもののお肉は予算オーバーでもやしで何作ろうかとか考えてたわけじゃ……」

 

 「全部言ってるよ?」

 

 「しまった!?」

 

 話を整理するにお茶子ちゃんは夜ご飯が家になくっておかずの材料を買いに来たはいいものの予算が足りないからなくなくもやしで我慢しようとしていたと。ふむふむ、なるほど……体育祭でお茶子ちゃんの実家はあまり裕福ではないという話は聞いたし、一人暮らしの予算も少なめなのかも。んー、余計なお世話はヒーローの本質、だよね。

 

 「ねえ、お茶子ちゃん。今日、私のお家でお泊りしない?」

 

 「え?」

 

 「急かもだけど、折角会えたし……今日明日私の両親出張でいなくて、寂しいなって思ってたの。よかったらご飯食べに来てくれると嬉しいなって」

 

 幸い今日は土曜日で、明日は学校休みだ。お茶子ちゃんに用事があったら残念ってなるけど、私は明日暇になったのでこうしてお誘いするに至った。相澤先生にお願いして粗大ごみ回収の頻度下げてもらったのだ。スケジュール伝えたら頭抱えて「頼み過ぎだ……お前も断れ」ってなって私への手伝いについて学校でルール決めるって言ってた。そこまでしなくてもって思ったけど有無を言わせぬ感じだったので何も言えませんでした。

 

 「その……迷惑じゃ、ないん?」

 

 「迷惑だったら誘ってないよ~。お茶子ちゃんの事もっと知りたいし、仲良くしたいな~って。お家、ここから近いの?」

 

 「う、うん!待っとって!すぐ準備して戻ってくるから!」

 

 「やった!じゃあ私お夕飯のお買い物してるから、ゆっくりね?」

 

 「マッハで戻ってくる!」

 

 ぜひお家にきて!という私のプッシュが通じたのかお茶子ちゃんは物凄く嬉しそうに笑ってくれて、そのままスーパーを出て走ってお家の方に行ってしまった。私は楽しくなってきたな~と人知れず気合を入れて、お夕飯の献立を考えながらお買い物にいそしむのだった。ふふふ、お腹いっぱいに食べさせてくれようぞ。




 心操くん、個性差別受けてるんですよね...それでも異形型や無個性よりだいぶマシですけど。自信持ってもろて、君はすごいんやで

このあとお茶子ちゃんとめっちゃいちゃいちゃした(描写外

 しばらくまったり行きます

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35話

 本日2話目


 「全く勉強してね―――!!!」

 

 「……時間は結構あったんじゃ……?」

 

 「希械ちゃんみたく覚えたら忘れないわけじゃないんだよ私たちは!この~~!!」

 

 「あ、ちょ、お腹揉まないで……」

 

 時は流れて6月の最終週、7月頭の期末テストに向けてラストスパートの追い込みの時期なんだけど……三奈ちゃんと上鳴くんはどうやら全く勉強してないみたい。私は勉強するのは好き、というか知識が個性と直結しているので学ばないと強くなれない。だからとりあえず学校の勉強は欠かさずやって、それから個性の方の勉強もやってる。中間テストは2位だったけど、百ちゃん凄いなあ……。国語という不俱戴天の仇がなければ私ももっと……言い訳ってかっこ悪いよね……。

 

 体育祭に職場体験とイベントが目白押しだったせいで勉強する時間が取れなかったという二人に、お休みの日とか勉強しなかったの?と尋ねれば青春してた!と返されたので勉強はしてないんだね……と私のお腹のくびれあたりを揉みまくる三奈ちゃんをあやしながらどうしたもんかと考える。峰田くんはそのよだれ拭いてね?

 

 「勉強するしかないよねえ……」

 

 「うう、希械ちゃんお助け……」

 

 「あの、それでしたら私お手伝いできると思いますわ!」

 

 「ヤ、ヤオモモ~~!!!」

 

 受験勉強の時みたく、楪先生によるマンツーマン授業を執り行おうかと考えてたら、それよりも早く控えめに手をあげた百ちゃんが教えますわ!と言ってくれて、三奈ちゃんは一も二もなくその蜘蛛の糸に縋り付いた。むむ、三奈ちゃんにお勉強を教えるのは私の役目だぞ、なんて嫉妬じみたことを言うつもりはないけど、ちょっと寂しいような、そうでないような。

 

 「あ、ウチも二次関数躓いちゃって……」

 

 「ワリ、俺も古文不安なんだわ!」

 

 「私も行っていい~~!?」

 

 「俺もいいかな?」

 

 「良いデストモ!!!」

 

 響香ちゃん、透ちゃんに瀬呂くん、尾白くんも百ちゃん勉強会に参加するみたい。当然それはそこで崩れ落ちている上鳴くんも。ふむぅ、そうなれば私はえーくんのお勉強を見てあげればよろしいのかな?えーくんも正直お勉強は得意じゃなくて、クラス内の順位は高い方じゃない。ちゃんと教えればわかるから、地頭は悪くないし、そもそも雄英に入ってる時点でお勉強は出来るハズなのだ。

 

 「みろよ、あれが人望ってやつだぜ爆豪」

 

 「俺にもあるわお前教え殺したろか……!」

 

 「おお!頼む!」

 

 どうやらえーくんにも私の手は必要ないらしい……ちょっと寂しいぞ、くすん。でも大丈夫、スタンドアローンでも私は動きます。メカなので。いいもんいいもん私はいつも通り勉強して心操くんのトレーニングに付き合ってついでに新装備を設計していつも通りに期末試験に挑むもんね。あ、心操くんの時間が空いてたら心操くんとお勉強会やってもいいかもしれない!

 

 「ヤオモモ~~~!希械ちゃんも一緒でいいよね!?私ずっと希械ちゃんに勉強教えてもらってるの!とってもわかりやすいし、教師役ヤオモモ一人だと大変でしょ?!いいよね、希械ちゃん!」

 

 「み、三奈ちゃん……!もちろんだよ!私頑張っちゃうよ!国語以外……!」

 

 「最後のそれで親近感湧くな」

 

 「まあそれでも俺たちより国語の点数は高いけどね……」

 

 「勿論構いませんわ!希械さんは文章問題で躓いてらっしゃるだけですものね、少し解き方を教えて差し上げればすぐですわ」

 

 私が予定立てていたところにブーメランのように百ちゃんの所から帰ってきた三奈ちゃんが私を引っ張って勉強会に誘ってくれる。三奈ちゃんの優しさに感動した私はぷしゅ、と気合の排気を見せつつむん!と頑張るぞのポーズ。国語という不倶戴天の敵も百ちゃんに教えてもらえれば大丈夫!他の教科は任せて欲しい!そこら辺なら私も役に立てますとも!

 

 「そうでしたらお母さまにお願いして講堂を開けて頂かないと……」

 

 ん?講堂?普通のお家にあるものだったっけ……?あれだよね?あのその、雄英の受験の時に私たちが入ったような場所。それが講堂、私の認識が間違ってなければ……?

 

 「皆さんお紅茶は御贔屓ありまして!?我が家はいつもハロッズかウェッジウッドなのでご希望があればご用意させていただきますわ!」

 

 ハロッズ?それって確かイギリスの超老舗高級百貨店の紅茶ブランドで、ウェッジウッドは王室御用達のブランド……ぶ、ブルジョワジィ……!ナチュラルに産まれの違いを叩き込まれちゃった……みんなも同じような顔をしているけど正直ぷりぷりと嬉しそうに、楽しそうにそれを語る百ちゃんになごんでいる。あ、でも私は……

 

 「なんだっけ?いろはす?それでいいよ?」

 

 「ハロッズですわね!」

 

 「あの、私コーヒー党だったりして……」

 

 「まあ!お父様とお話がお合いになるかもしれません!もちろんご用意させていただきますわ!」

 

 実は私、コーヒーが好きなんです。ハロッズとかウェッジウッド……最高級の茶葉を嗜んでいる人の家にあるコーヒー、ずうずうしいけど気になっちゃう。あ、当日は私もお土産作っていかなきゃ。バターたっぷりのフィナンシェとかいいかも。よし、腕がなるぞ~~!。

 

 

 

 

 「え、ここ……?」

 

 「ウソだろ……?これどっかの公共施設とか大使館とかじゃねーの……??」

 

 「ちょ~~~豪邸!ヤオモモの家すっご!」

 

 「住所はここだから、ここが百ちゃんのお家だね。すごいね~~、私ですら小さいや」

 

 日付変わって週末、百ちゃんの勉強会に参加する人たちで駅に集合して、百ちゃんのお家に向かったんだけど……ものすごく大きい塀がずっと続いていて、それが目的地まで途切れないからまさかな~と思ってたら大正解で、ホワイトハウスとかといい勝負の大豪邸が姿を現して、ドラマとかでしか見ない門が私たちがそこについた瞬間に自動ですっと開き、初老の燕尾服を着た人が恭しく私たちを迎えてくれた。

 

 「耳郎様、芦戸様、葉隠様、楪様、上鳴様、尾白様、瀬呂様でございますね?ようこそお越しくださいました。私八百万家の執事の内村と申します。さ、どうぞこちらへ」

 

 「はいぃっ!」

 

 はずかし、声が裏返っちゃった!だって執事だよ!?本物だよ!?私以外もみんなどう反応したらいいのか分からないって感じだよ?!す、すごいんだね百ちゃんのお家……生まれの違いとか正直どうでもよくなるくらいの格差を感じるよ……途中で百ちゃんのお母さんに、三奈ちゃんがヤオママと恐れ多いあだ名を付けちゃったりしながら、講堂に案内される。本当にあるんだねお家に講堂……。

 

 「皆さんっ!お出迎えもできずごめんなさい。実はどの参考書がよろしいか今まで迷ってまして……」

 

 「それでは、私はこれにて。あとでお茶をお持ちするわ。百、しっかり教えて差し上げるのよ」

 

 「はいっ!頑張らせていただきますわ!」

 

 うわ、百ちゃんって形から入るタイプなんだね。先生っぽいレディススーツでバッチリ決めて、眼鏡をかけた百ちゃんがお出迎えしてくれた。頬が上気してほんのり赤くなってるところがまたカァイイなあ。多分、この日をずっと楽しみにしてたんだね。私もちょっと楽しみだったんだけど……ぷりぷりと輝く笑顔で参考書タワーを示す百ちゃんに上鳴くんがドン引きしてる。苦手そうだもんね、勉強。

 

 「あ、こんな凄いお家に出すのは恥ずかしいんだけど……お土産にフィナンシェ焼いてきたの。休憩するときに食べてくれると嬉しいな」

 

 「やったー!希械ちゃんのお菓子~~!」

 

 「まじ?!やった!」

 

 「まあ、是非とも!希械さんのお菓子とても楽しみですわ!」

 

 「希械ちゃん、料理上手だもん!美味しいよ~~!この前のアイスクリームもおいしかった!」

 

 中身の温度を適温に保ってくれる機械式のバスケットを見せながらそういうと、皆楽しみだ、と言ってくれる。頑張った人にはご褒美があって然るべき、というのは私の勝手な考えだけど。美味しく食べてくれるようならそれでいいや。それはともかく勉強開始!頑張るぞ~~!

 

 

 

 「XとYが助動詞でインカの目覚めがペルシアでメンデルの法則が……あばばばば……」

 

 「上鳴、頭破裂してるんじゃない?もうしてるか」

 

 「若干アホ面になってきてるよね」

 

 開始1時間ほどで、すでに限界になっている子が一人。何を隠そう、上鳴くんである。百ちゃんの勉強プランは完璧で、私たちのレベルに合わせた問題を選別、プリントまで作ってしまう力の入れようでみんなするすると自然に勉強が進む作りになっていた。私は国語以外は全然平気だから、教える側に回っていたけど……最初に集中が切れたのがやっぱりというか予想通りというか上鳴くんだった。

 

 「うおおお……誰か俺の頭を取り換えてくれぇぇ……」

 

 「えっとね、上鳴くんどこが分からないか、わかる?」

 

 「わかんねえ!」

 

 「そこからかあ……じゃあ、分かりやすいように教えるよ?とりあえず数学から、はい注目!」

 

 参考書に沈む上鳴くんがあまりにも悲哀に満ちているので、私はどこが分からないのか聞くと、どこが分からないかもわからない、つまり全部わかんないとお返しされた。上鳴くん、いちおう偏差値79のヒーロー科に合格してるんだよね……?百ちゃんが心配そうに駆け寄ってきたけど、三奈ちゃんがヘルプを求めてるので私が教えるよ~と百ちゃんに伝えて、私は空中に画面を投影する。

 

 「二次関数の基本なんだけど、まずはここからね」

 

 「お、おお……?」

 

 画面の中で、計算式と公式を表示して、ヒーローのアニメーションなどを挟んでどこをどうするか、なんでこうなるのかをスライド形式で上鳴くんに細部の細部まで噛み砕いて説明する。理解を示してくれれば思いっきり褒めて、出来なかったら躓いた部分を見つけて一緒に修正、パズルを組み立てるようにステップを踏んで一緒に問題を解いていく。そして5分後……

 

 「と、解けた!全然わかんなかったのに!楪すげえ!」

 

 「ぜーんぜん!私は説明しただけだよ。上鳴くんが頑張ったから解けたの。それじゃあ、次はこの問題!同じやり方で解けるから、やってみて!」

 

 「うおおお!!今の俺はクソ強ええ!!」

 

 「か、上鳴が勉強できてる……!?」

 

 「響香ちゃんそれは流石にひどいような……」

 

 「流石は希械さんですわ。非常に分かりやすくて、私も聞き入ってしまいましたもの」

 

 バリバリ、とやる気を見せつつ問題を雷の勢いで解いていく上鳴くんにみんなが驚いてる。流石にひどくないかな~?やってること相澤先生とそんな変わんないよ?興味を持続させて、やる気を引き出して、出来たら自信がついてるうちに身に着けさせる。それこそが勉強を続ける秘訣なのです。私は褒めて伸ばすのが好き、だってそっちの方がお互いに幸せだから。

 

 「皆さん、そろそろ休憩にしたらいかがでしょう?お茶をもって参りましたの」

 

 「ヤオママ~~!!」

 

 そこからさらに1時間でそろそろ他の人の集中が切れ始めていた時百ちゃんのお母さんがメイドさんと一緒にお部屋に入ってきて、私たちの前に紅茶とクッキーを置いてくれた。しかも私にはちゃんとコーヒーだ……!な、なんとも申し訳ない。私が変な好奇心をうずかせたばっかりに……!

 

 紅茶はみんなの口にあったみたいで、美味しい美味しいと声をあげてみんな飲んでる。コーヒーも香り高くて苦みのキレがいい……脳みそが覚めていくのを感じるよ……。そこで私たちは目の前にあるこんがりと焼けたクッキーを何の疑いもなく口に入れた。その味は……何とも表現しがたいものだった。何だろう、何の味が近いんだろう……?いや、ゴムとか鉄とか人が食べるものじゃないのと比べ初めてあれれ?となってきた。クッキーだよね、これ?

 

 「不思議な味だね~」

 

 「……??っ!?し、失礼いたしますわ!」

 

 皆が筆舌に尽くしがたい顔をしてるのに疑問符を浮かべた百ちゃんがクッキーを食べると、口を押えて血相を変えて出ていっちゃった。それを見ながら2枚目に手を伸ばす私にみんながあり得ないものを見るような目をしているけど、まあなんだ……焦げた配線とか、そんなものよりは美味しいのでまだ食べられる部類。多分、塩と砂糖間違えて、それでクッキーに入れちゃいけないものを入れたんだと思う。もしかして百ちゃんのお母さんの手作りかな?そう思うとありがたいなあ。

 

 「楪お前……よくぽりぽり食べれるな」

 

 「まあその、ゴムとかよりは美味しいかなって。残すのも可哀想だしもったいないし……甘いもの食べたいよね?はい、フィナンシェどーぞ!」

 

 紅茶で口をゆすぐ形になっちゃった皆に、私はバスケットからフィナンシェを取り出してみんなに配る。こっちは味見もちゃんとしたし、美味しく焼けてるよ~。漂うバターの香りにみんなは唾をのんで、フィナンシェに手を伸ばしてくれる。美味しく食べてくれるみたいで嬉しいな。

 

 

 

 

 

 「すまねえ!勉強教えてくれ!!」

 

 あの後色々あって友情を深めた私たちの勉強会は滞りなく終了し、私たちはそれぞれの家に帰った。私は百ちゃんから教わった文章問題の解き方を忘れないようにメモリに焼き付けて、夜ご飯の支度に精を出していた。私の両親は基本夜勤なので朝食、夕食の時間が合わない。なのでお料理は私の役目、作り置きや焼くだけなどの状態で冷蔵庫に放り込んでおいて両親が食べる。翌日感想のメモ書きがあったりとかするとガッツポーズ!やる気が出るよ~。

 

 なのでお料理に精を出そうとしていると、玄関からピンポン、と音がして来客を知らせた。エプロン姿のままで玄関の扉を開けると、直角90度の角度で頭を下げて勉強を教えて欲しいと懇願するえーくんの姿が。あれ?爆豪くんにお勉強教えてもらってたんじゃないの?

 

 「爆豪くんとのお勉強は?」

 

 「ああ、教えてもらったんだけど……その、だな」

 

 「……お夕飯、生姜焼きでいい?」

 

 「すまねえ!!!」

 

 私はえーくんを家に招きつつ、夕飯の献立を伝えるのだった  




 重要なお知らせです。夏休み前半のエピソードである映画ですが、この作品でもやろうと思います。端的に言えばやった方が面白そうだからです。お許しください。

 ちなみに切島くんですが当然の権利のようにこの後マンツーマンでお勉強を教えてもらってご飯食べてます。爆豪くんですが教えるのがクソ下手ということが小説で判明してるのでこうなりました。

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36話

 「ヤオモモ~~!希械ちゃん~~!!!おかげでペーパーテスト何とかなったよ~~!ありがとう~~!」

 

 「お役に立てて光栄ですわ!上鳴さんも頑張られたようで、私も鼻が高いです」

 

 「ありがとな八百万!楪も!マジで二人いなかったら赤点だった!」

 

 「上鳴くん、頑張ったからね~。自己採点これだけ高かったら赤点のラインはクリアしてるよ~」

 

 期末テスト当日、午前中全てを使ったペーパーテストを乗り越えた上鳴くんと三奈ちゃんの勉強苦手コンビが机に突っ伏して頭から湯気をあげながらお礼を言ってくれるので次につながるように褒めておく。頑張ったならご褒美がありま~すと朝焼いてラッピングしたクッキーを二人にあげる。クラスのみんなの分もあるよ~と配ると皆お礼を言って受け取ってくれた。爆豪くんも受け取ってくれた、意外。

 

 演習試験はデクくんたちの情報によると去年は対ロボット演習だったみたいだから、私の個性ぶっぱで超余裕!ロボインフェルノの耐久値も他のロボットの耐久値も全部頭に入ってるし、人間相手の手加減を考えなくていいなら破壊力重視のピンポイントレーザーライフル狙撃の一撃でいける!この間社長さんにメールでもらった設計図の一つにあったKARASAWAっていうレーザーライフルのお披露目を……!

 

 

 

 「残念!今年から諸事情があって内容を変更しちゃうのさ!」

 

 そん……な……!?余裕ぶっこいてどの兵器を試そうかうきうきで考えてた私ははしごを外されて絶望の淵にいた。真面目に取り組むつもりではあったんだけど人で試せないあれこれをロボでやろうとしてたから対策が全部丸々パーになっちゃったダメージがおっきい。特にこの期末テストに落ちちゃうと夏休み中にある林間合宿に行くことができないので実は私も割と必死、50体同時に攻撃できるクラスターミサイルとか、ガトリングパイルバンカーとか用意したのに全部パーだ!対人演習だったらまずい、私の持ち味である火力が意味をなさなくなる。

 

 あまりのことに既に林間合宿モードだった上鳴くんと三奈ちゃんは天を仰いで絶望を表現してしまっている。とても分かるよその気持ち……!でも切り替えなきゃ、もしかしたら対ロボット演習より簡単……なんてことはこの学校ではありえないか。難易度あがってるんだよねきっと……。

 

 「これからは対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視することにしてね!では相澤先生!」

 

 「……というわけで諸君にはこれから……二人一組、チームアップにてここにいる教師一人と戦ってもらう」

 

 た、たたたた……対人戦だああああっ!?うわああ対策のために作った武器、兵器その他もろもろ全部おじゃんだああああ!あれ?二人一組?チームアップ?……一人余るのでは?ああ、一つだけ3人一組になるんだね、分かるとも。だって教師の人も10人いらっしゃるからね。11組を担当するには一人足りないから、仕方ないかあ。

 

 「ちなみに一人余るがその場合は一人になるのでそのつもりでいるように」

 

 あれぇ!?私の考えてることとことごとく逆行ってない!?一人かぁ……大変だよね一人って。しかも先生たちと戦うのに一人、不安でしょうがなくなるよ。皆も一人で先生とやる場合があり得るということを理解したのかサーっと顔を青ざめさせるものや、好戦的な笑みを浮かべる人もいる。まあ爆豪くんのことなんだけど。

 

 「ペアについてはこちらで決めさせてもらっている。対戦相手もだ。さて……まずは轟と八百万。お前らは俺とだ。そして……」

 

 ペアが次々と発表される。校長先生は三奈ちゃんと上鳴くんと、13号先生は青山くんとお茶子ちゃん、プレゼントマイク先生は響香ちゃんと口田くん、エクトプラズム先生は梅雨ちゃんと常闇くん、ミッドナイト先生は瀬呂くんと峰田くん、スナイプ先生は透ちゃんと障子くん、セメントス先生はえーくんと砂藤くん、パワーローダー先生は飯田くんと尾白くん……一向に名前を呼ばれなくて焦っていく私……そして

 

 「で、緑谷と爆豪がチーム、相手は……」

 

 「私が、する!全力で勝ちに来いよ!お二人さん!」

 

 「わ、わわ私、一人なんですか?」

 

 「ああ、その通りだ。相手はオールマイトさんだ」

 

 わ、私が一人……!しかもあのオールマイト先生が相手で……!か、勝てるビジョンが一向に思いつかない。ゴリアテレベルのものを出さないと対抗すら出来ずにパンチ一発で腕とかもげちゃいそうだ……!ん?ゴリアテ……そうか!オールマイト先生なら私の本気のさらに上の上だ!私の本当に全部を出さないと攻撃を当てることすら無理のハズ。だって、エンデヴァーにだってかすらせるのが精いっぱいだった。オールマイト先生はそれ以上だ。ゴリアテをめちゃめちゃにした脳無を一方的に殴り倒してしまったのだから……!

 

 つまり……ゴリアテや他の強化外骨格……タイタンシリーズを総動員して挑める……!そうか、試験だから……!私の全力を出せるように取り計らってくれたんだ……!ゴリアテ見せておいてよかった~~!あれ?でもなんでわざわざチームアップなんて……?あ、なんか組み合わせの理由が分かってきた。みんなこれ、弱点突かれてる。えーくんとかが顕著だけど継続戦闘時間に難がある個性とセメントス先生の時間に左右されない個性や、音に関する個性の響香ちゃんたちとプレゼントマイク先生。なるほど、何かしらのウィークポイントを突かれてるのか。

 

 「では、バスに乗り込め。楪以外は一斉に開始する。楪演習場近くで待機だ」

 

 露骨に準備する時間をくれてる……?いやだとしても、組み合わせに意図があるとしたら私が一人にされたのにも意図があるはず……?まさか単純に余ったとか体育祭優勝したからとかそんなあっさい理由で組み分けをするなんて考えづらい、というか相澤先生なら非合理的だって言って別の方法考えて壁をぶつけてくるはず。

 

 何かしらの意図がある、それだけ分かってる状態はもどかしい。わざわざ距離をとってバスの後ろに乗り込む爆豪くんと憧れのオールマイト先生とガチバトルすることになって緊張で顔がすごいことになっているデクくん、そして考え込む私と何故か焦り顔のオールマイト先生……そういえば、なんで二人は組まされたんだろう?個性的にオールマイト先生が弱点だと思えないし……むむ、わからない。

 

 「あの、オールマイト先生……私が一人なのって、余ったとかじゃなくてきちんと理由があるんですよね?」

 

 「そうだね、楪少女。組み合わせは意図して組まれたものだ。当然君が一人なのにも理由がある。なぜなのか、は言えないがそこだけは安心するといい」

 

 「目の前にそびえる天を衝くバベルの塔を見て安心しろとは凄いこと言いますね。私一人ですよ?あなた相手に。難易度ファイナルですか、ルナティックですか、大往生ですか」

 

 「楪少女、自暴自棄はいけないよ」

 

 「抱き着いて自爆すればいけるかな……?」

 

 「楪さんとんでもないこと言わないで!?」

 

 「え、だってまともに戦って勝てると思う?デクくん」

 

 「無理、かな」

 

 「ほらね?」

 

 「HAHAHA!ルールについては演習場に到着したら伝えよう!消極的なせっかちさんめ!」

 

 自暴自棄にもなりたくなるよ!絶対壊れない壁ですよ?平和の象徴ですよ?全盛期より弱体化してるとか正直信じられないんですよ!でも、これが試験なら頑張らなくちゃ。プルスウルトラだ、私。目の前の壁を全力でぶち壊して乗り越える!試験である以上、合格できる何かがあるはず。それを見つけ出して何としてでも期末テスト演習試験を合格しなくちゃ!

 

 不安に駆られる私がどうにかして脳内メモリからオールマイト先生に有効な武装やら何やらを超高速で探しながらバスに揺られる。でもオールマイト先生に有効な武装?あるわけないよね。あったら平和の象徴とかそんなこと言われてるわけないし。やっぱり……私の強みを押し付けるしかないよねえ……

 

 そうして雄英のバスは演習場、確かここは市街地演習場Σだったはず。到着してバスを降りた私たちにここで試験をするよ、と声をかけたオールマイト先生がおほん、と咳払いをしてルールを説明しだした。

 

 「いいかな!?制限時間は30分!演習に合格するにはこのハンドカフスを私にかけるか指定のゲートから外に逃げること!私たちをヴィランと同じように考えてくれよ!」

 

 「逃げるか……戦うか、でもそんなの逃げる一択なんじゃあ?」

 

 「HAHAH!せっかちだな緑谷少年!まだ説明の途中だぞ!」

 

 確かにこの条件ならば確実に逃げるほうが楽だ。楽とはちょっと違う、確実って言った方がいいかな。相手は経験豊富なプロヒーローなのに対して私たちは孵化すらしてない受精卵、相対的な戦力比は明らかに負けている。その旨を口にするデクくんに指を振ってオールマイト先生は見せたのは、リストバンド。

 

 「まあ、それじゃあ逃げ一択になるのは緑谷少年の言う通り。そこでこれ、超圧縮重り!体重の半分の重りを付けて動きを制限するのさ」

 

 「戦闘を視野に入れさせるためか……舐めてるな」

 

 「どうかな。楪少女は逃げるためのゲート前で待機!仮眠するもよし!何するもよし!楪少女の時はまたルール変わるからね!」

 

 「変わるんですか……」

 

 「大丈夫!難しくするわけじゃないよ!さ、移動して頂戴な!」

 

 オールマイト先生のサムズアップに促されて私はゲート前で待つ。個性で適当に椅子を組み上げてそこで座り、二人の演習試験を見守ることにする。それと同時に、個性をフル稼働させる。ジャンパーを脱いで、背中に大型のラジエーターと排気口を作り、手足に冷却ジェルを回して全力冷却をしつつ、体の中で組み立てて、保持し続ける。

 

 雑草が熱でしなびていく、私の個性の本領である組み立て、外で組み立てないのは何を組みたてているのかバレないように準備するため。正直このやり方ってくしゃみを寸前で止め続けるとか、そういうたぐいの気持ち悪さがあるからやりたくないんだけど、相手がオールマイト先生なら準備に過剰なんてものはないし、どれだけやっても無駄じゃないと思う。

 

 オールマイト先生がゲートの目の前に陣取ると同時に時間になったのかスタートの合図が。オールマイト先生はスタートしてすぐに、その場で腕だけ動かすようなパンチを一発放つ。するとすさまじい衝撃波が通りのビルや家屋をなぎ倒して、おそらくデクくんと爆豪くんがいるであろう位置まで襲い掛かる。

 

 右目を望遠モードにして、様子を見守る。爆豪くんはやっぱりデクくんとは協力するつもりはないみたい。流石に轟音が響きすぎて音まで拾えないけど、様子からして喧嘩してるのは分かる。オールマイト先生の姿がぶれて、二人の近くに移動する。捉えられないよね、やっぱり……。

 

 逃げようとするデクくんと真正面から立ち向かおうとする爆豪くん、スタングレネードを放ったみたいだけどオールマイト先生には効かず、拘束されるがそのまま爆破を連打して抜け出そうとしている。きょ、協調性ゼロ……!爆豪くんだけじゃない、デクくんまで固まっちゃってチームワークがとれてない、叩きつけられた爆豪くんとフルカウルを発動するデクくん。バックステップをしたら空中で衝突する、噛み合ってない動き。

 

 「……もしかして、チームワークを取らせるためにこの組み合わせに……?」

 

 オールマイト先生はガードレールでデクくんを拘束して、重いパンチを爆豪くんのお腹に入れる。強烈すぎて嘔吐してしまう爆豪くん……もうだめ、見てらんないよ……!

 

 「えっ!?デクくん!?」

 

 目を背けようとしたとき、拘束を解いたデクくんは爆豪くんを思いっきり殴って路地裏に姿を隠した。いきなり仲間割れ……!?ああ、もう!路地裏なんて透視できるわけないからどういうやり取りしてるかわかんないよ!あ、出てきた!爆豪くんが後ろを取って……!デクくん!爆豪くんの腕のアイテム付けてる!?他人が使えるようにしてるんだ……!轟音が鳴り響いて、爆豪くんの最大威力の爆破がオールマイト先生を襲う。

 

 応えてるか分からないけど煙幕に紛れて脱出ゲートに向かう二人、オールマイト先生もさすがに今ので吹き飛ばされたらしい……ダメージらしいダメージは入ってないけど……距離は大分離れた、今のうちに逃げ切れば……っ!?

 

 「今ので、あんなに早く復帰を……!?」

 

 爆豪くんの最大威力の爆破は家一軒更地にできるレベルだ。それをほぼゼロ距離でまともに受けたはずなのに、一瞬で二人に追いつくオールマイト先生……爆豪くんがもう片方の籠手を向けるが無情にも破壊される。

 

 『ここで最初の合格者が出たよ!八百万、轟チーム!演習合格!』

 

 「百ちゃん!轟くん……!やったんだ……!」

 

 でも、と私は二人に目を向ける。オールマイト先生にやられてしまった二人は、また振出しに戻ってしまった。何をしたか分からない、何かをされたとしか理解できない。そんな隔絶された力量差……!

 

 あっ!!爆豪くん素手で最大火力を!その隙にデクくんを投げ飛ばすけど……オールマイト先生はパンチを推進力にしてデクくんにぶつかり、無力化してしまう。だけど爆豪くんは諦めず最大火力をオールマイト先生にぶつけ続ける。プライドを捨てて協力して、負けたくない。ゲート前から見える顔がそう語っていた。オールマイト先生に地面に押し付けられても必死に抵抗している。

 

 「デクくん……!オールマイト先生を……!」

 

 殴った、思いっきり。デクくんは素早く態勢を立て直して、今まで攻撃しようとしなかったオールマイト先生に対して思いっきり拳を振るって爆豪くんを助け出す。オールマイト先生はそれを満足そうに受け入れて、デクくんは爆豪くんを抱えてゲートを飛んでくぐる。私は慌てて立ち上がり、二人を受け止めた。その瞬間にカチリ、と私の中で全ての準備を終えた音が聞こえる。排気孔を塞ぎ、ラジエーターを切り離し、気絶寸前の二人に微笑む。

 

 「お疲れ様、二人とも。次は私の番だね……よく見てて、勝ってくるから」

 

 この頑張りを見せられたら強いとかそういうの、言ってられないよね。オールマイト先生……全力でぶつからせてもらいます。

 




 楪ちゃんの組み立て方の違い。いつもは体の外で機械が組みあがる感じですが、体内で組み上げて使う時に八百万さんのように完成品を肌から直接出す方法も使えます。ですがこれはくしゃみを我慢し続ける類の気持ち悪さとまともに動けなくなるというデメリットがあるので時間があるとき以外は使えません。戦いながらやるのは不可能。

 次回、脳無戦以来の何でもあり本気楪ちゃんVSオールマイトをやります。乞うご期待!

 あと何話がどの話か分かりづらいと思ったので章分けを実施しました。サブタイトルがあった方が分かりやすいかもしれませんが、サブタイトル考えてると更新に影響出るので折衷案です。

 では感想評価よろしくお願いします。


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37話

 「さて、待たせたね楪少女!君の試験概要を説明しよう!」

 

 「ええ、お願いします。オールマイト先生」

 

 二人が自立可動式のレスキューロボットに担架で運ばれていったのを見送った私に、予想通りというか何というかコスチュームが汚れただけにしか見えないオールマイト先生がいつも通りの人を安心させる包み込むような笑顔で私の前に現れた。あれだけ二人が必死になって攻撃して、応えてないどころかノーダメージとしか思えない。でも、唯一の懸念点と言えば……

 

 「時間は、大丈夫なんですか?」

 

 「HAHAHA!大丈夫!まだまだたっぷりあるさ!終了してない組もいるからね!」

 

 オールマイト先生の戦闘可能時間。2時間くらいだったはず、だけどどうやら今日のために時間を残してくれていたみたい。試験官を心配するなんておかしいかもしれないけど、秘密を知っているのは私を含めたごく少数だから……それに、今回私はデクくんを見て武装の加減を辞めて本気で挑むつもりでいる。それこそUSJの時の脳無のように。それですら、当てられるかも分からない。

 

 「さて、ではルールの追加についてお話しよう。君の場合、一人ということを勘案して勝利条件を追加する!それは「制限時間いっぱいまで行動不能にならず生き残ること!」当然逃げてよし、私に向かってきてもよし!隠れるもよしだ!」

 

 「それは、タイムアップの脱落と矛盾しちゃうんじゃ……?」

 

 「おいおい、行動不能になったらダメだぜ?」

 

 「確かに、あなた相手に30分無傷はむりですね」

 

 「それに、ヒーローとしての行動も期待しているぜ。私というヴィラン相手に、な」

 

 うわ、遠回しに逃げるだけなら不合格だぜって言って来た。ルールとしては何しても生き残ればいい、だけどそれが期末テストの合格じゃない。演習に合格できても期末では赤点かもしれない、そういうことか。なら猶更やることは一つだよね……私は受け取った拘束用カフスをバリ、ゴリとかじって食べてしまう。ああ、美味しくない。

 

 「……どういうつもりかな?」

 

 「ええ、まあ……これでカフスを量産できますので」

 

 材質、構造はこれで解析できた。ふざけてるわけじゃないんですよオールマイト先生。ありとあらゆる手段を使って今から私は貴方を出し抜きにかかります。オールマイト先生はそれで私が自棄になったわけじゃないということを理解してくれたみたいでうん、と頷いて位置に着くように促してくれる。その間にもリカバリーガールから演習の合格を告げる放送が響いてる。その中には、えーくんの名前もあった。

 

 

 

 

 『では、楪希械、期末演習、スタートだよ!』

 

 「ギガ・クラスター、形成開始(レディ)

 

 開始と同時に、私は私の何倍もある大型のコンテナ型ミサイルを背中に3つ、作り出す。これが、最初の仕込み。私が時間を貰って組み上げたすべてがそこに詰まっている。オールマイト先生が気づく前に、と打ち上げたミサイル3基は、上空に打ちあがり、うち一基から生じた白煙で姿を隠した。そして、夥しい数のミサイルが解放されて、右目でロックオンしたオールマイト先生に襲い掛かる。

 

 幸い彼が陣取っている場所は彼自身が更地にしてしまっている。一点集中の火力、私はそのまま続けて、もう一つ体内で作り上げていたものを解放した。

 

 「構成拡張(オーバード)、重装中距離殲滅型強化外骨格『ヘカトンケイル』機能更新(スタンバイ)形成開始(レディ)

 

 出し惜しみはなし、私の身体を機械が覆う、ヘッドギア、一つ目の金属製のマスク、サブアームを4本、肩にはギガランチャー、背中には動力炉を入れたミサイルランチャー兼ブースター、脚はジェットエンジン内蔵型のホバークラフト、腰にはレールランチャー、それぞれをサブアームで掴む。手にはこれ専用に開発した、ミサイルランチャー、ガトリング砲、レーザーキャノンを一纏めにした武装「シェキナー」、もう片手には盾、レーザーガン、大型の杭を打ち出す機構、レーザーブレードを複合した兵装「トリケロス」を装備。前腕にトリケロスを固定して両手でシェキナ―を持ち、私は滑る様にその場から離れて、オールマイト先生の所に向かった。

 

 50発はくだらないマイクロミサイルがオールマイト先生を襲う、彼は両手を構えて、クロスチョップをミサイルたちに放った。その途端、ありえないほどの衝撃が既に更地だったはずの場所を広げるほどの威力をもってミサイルを全て叩き落してしまった。当たるとは思ってなかったけど……!当然だよね!

 

 「HAHAHA!その程度かい楪少女!」

 

 「いいえ!ここからです!」

 

 「むっ!それは……!」

 

 ドリフト走行をしながらオールマイト先生の前に現れた私に彼はゴリアテの事を思い出したのか、少しだけ警戒の様子を見せる。だけどこれは違う、圧倒的な弾幕の手数量をもって、貴方をそこに縫い付ける!そしてすれ違いざまにカフスをかける!作戦その1!私は6本の腕を全て操って同時にオールマイト先生に照準をつける。マスクの単眼、高性能射撃用センサーで彼を捕らえて一斉に弾幕を吐き出した。

 

 「どこに撃ってるんだい!?」

 

 「外れるのも想定済み!」

 

 当たるわけがない、とは思っていたけど一瞬でその場から姿を消したオールマイト先生は私の後ろに現れて、背中のブースターを壊そうとしてくる。だけど当たるわけがない、とは思ってた!だから、一拍おいてミサイルを真後ろに発射していた。これは近接爆発型……!当たらなくても近くによれば爆発する!私は至近距離で爆発したミサイルに吹っ飛ばされるがなんとか空中で体勢を立て直して着地する。オールマイト先生は……!

 

 「なぜ、そうなんだい?」

 

 「……?何のお話ですか?」

 

 「君の戦い方の話さ、誰かを守ろうとするその戦い方は素晴らしい……だが、そこになぜ君がいない?」

 

 「おっしゃっていることがよくわからないのですが……?」

 

 「自分の負傷を勘定に入れてないのは何故か、という話さ」

 

 ミサイルで多少煤けたオールマイト先生はそう聞いてくる。私が自分を勘定に入れてない……ああ、そういうことか。何のことはない話だと思う。べつに

 

 「え、だって私の手と足はほっとけば生えますし、生身を怪我してたとしても個性で補えます。即死しなければ内臓が吹っ飛んでも個性で代用できると思います。えーと、つまりですね……私の方が頑丈だから、です」

 

 「だが、痛いはずだ」

 

 「ええ、まあ……でも私よりも他の人の方が痛いに決まってます。私は、機械ですから」

 

 どこかで話したかもしれないけど、生身の身体は私の秘かな憧れだ。だから私は自分の左目が好きだし、他の人の体が大事だと思う。ただ、他の人は私にみたいに頑丈じゃないし、怪我すれば直すのだって時間がかかるし……失えば、戻らない。なら、私がそうなったほうが合理的だ。失っても戻るし、直すのだって一瞬。じゃあ、それでいいと思う。そりゃ、見る側からすれば気持ち悪いかもしれないけど……

 

 話は終わり、と私は腰のレールキャノンを連射してオールマイト先生に弾幕を張る。彼は一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐに顔を引き締めてレールキャノンを手刀で迎撃した。嘘っ!?手刀で弾丸切るの!?しかも音速越えのレールキャノンを!?冗談でしょ!?いやそれでこそ平和の象徴か!

 

 毎分100発の連射力を誇るギガランチャーの榴弾が連続でオールマイト先生に迫る、ついでシェキナーとトリケロスのレーザーも。だが、スマッシュの一撃ですべてなかったことになる。シェキナーのミサイルを握りつぶしたオールマイト先生がぶれる、そして、両肩が軽くなった。

 

 「そうか、君は分かった上で……そうしてるのか」

 

 「はい、私のそれは受け入れがたいものかもしれません。ですけど、私は保身して他人の命を投げ出せない。出し惜しみして、助けられなければ一生後悔するからです」

 

 根元から切断されたサブアーム2本と、ギガランチャー。それはオールマイト先生の手の中で握りつぶされて拉げる。被害想定、戦闘行動支障なしなれど最大火力を喪失……ヘカトンケイルはここまでにした方がよさそうだ。作戦を2段階目に移行しよう。

 

 「だが私は断言するぞ、君はいつも自分を機械というが、君は人間だ。私と何も変わらない、君は君を大事にするべきだ」

 

 オールマイト先生の強い瞳にそう見据えられて、マスク越しでも気圧されてしまう。私自身を大事に、かあ……私は確かに傷ついちゃいけない戦い方が得意じゃない。避ける、躱す……それをできるほど私の体は身軽じゃないから。どうしたって避けれないものがある。言い訳か……そうかも。考えるのは後だ、今は試験に集中!

 

 「後で考えてみます。ですけど、今は置いておかせてくださいっ!」

 

 「むぅっ!?」

 

 残りの武装をオールマイト先生の周りにばらまきながら突撃する。自分ではなく周り、更地に突き刺さる鋼の豪雨がオールマイト先生の動きを少しだけ鈍くする。そのまま突撃してタックル……ではなく私は手足を切り離して、ヘカトンケイルを脱ぎ捨てた。交錯するようにオールマイト先生を飛び越えて、周りにバラバラになったヘカトンケイルが、熱風を吹き出してさらにオールマイト先生をその場に固定する。

 

 エンデヴァーから理論を教わった赫灼の極意「熱の圧縮」……それは一部だけ成功して私は手足に熱を圧縮することで生身の中枢を熱から守り、さらに切り離して熱のコントロールを行ってオーバーヒートへの対抗手段として身に着けることができた。だけど、今の私は手足がないだるま状態、だからこそ最初の仕込みが生きてくる!

 

 「タイタンフォール!スタンバイ!」

 

 空から、何かが落ちてくる。そう、最初に打ち上げたミサイルは3つ、クラスターミサイルだったのは1発だけだ、残り二つは……私の残弾。ヘカトンケイルが通じなかった場合の別の手段だ。鈍足ではあっても威力と範囲に優れたヘカトンケイルならばオールマイト先生の動きを止めて脱出ゲートをくぐれるかと思ったけど、甘かった。

 

 それならば次の手を。私の強みを押し付ける。手段の豊富さこそが私の真の強み。機械の力でも、硬い体でも、再生する手足のどれでもない。あれが通じなかったからこれ、を特化していくらでも試せるのが私の個性の最大の利点。トライ&エラー、それこそが今までの私とここに押し上げてきたものだから。

 

 「構成拡張(オーバード)、軽装近接速度特化強化外骨格『アルビオン』機能更新(スタンバイ)形成開始(レディ)

 

 オールマイト先生が熱風牢獄から脱出する前に、圧搾空気で空中で態勢を整えた私に迫った外骨格、アルビオンが結合する。肩口のユニバーサルブースターポッド、腰後ろにメインスラスターであるテールバインダーを両腰2つづつの計4機、脚はまるで鳥の足のように二股に分かれて足の内部にはバーストタービンエンジンがうなりをあげている。バイザー型のヘルメット、全体的にシルエットは細め、大きさも何時もの私を逸脱してない。

 

 しゃりん、とこの外骨格の唯一の装備、レアアロイブレードを抜いて構える。黄金色の刀身は希少金属をありとあらゆる方法で鍛え上げた西洋剣、折れず、曲がらずを体現した最硬の剣だ。全身スラスターの塊になった私が、ホバリングしながらオールマイト先生を見下ろす。遠距離でのつるべ打ちはダメだった。ならこれなら!

 

 熱風牢獄を腕の一振りでかき消してしまったオールマイト先生に、私はレアアロイブレードを構えて突撃する。背中のスラスター達がうなりをあげて私を射出する。音を突破してソニックブームを連れてオールマイト先生に突っ込む、けど……目で、追われてるのが分かった。振りかぶるレアアロイブレードと先生の拳が衝突して、私は押し負けて吹き飛ばされる。

 

 「大分、速くなったね!だが、そろそろ私もエンジンがかかってきたぞ!」

 

 「私もです、まだトップスピードじゃありません!」

 

 この外骨格は私の弱点であるスピードを埋める為に開発したものだ。背中のブースターポッドも、テールバインダーも、脚のバーストタービンエンジンもそれぞれが単騎で私を飛行させることができる推力を持っている!ならそれを8機、同時に運用すればどうなるか……答えはこれ!

 

 「ふぐぐぐ……!」

 

 バイザーの下で歯を食いしばる。上下左右に滅茶苦茶にスラスターを向けてオールマイト先生から逃げる。当然のように、追いついてくるし、気を抜けば攻撃がクリーンヒットする。軽装、の名の通りアルビオンはヘカトンケイルと比べて紙装甲だ。オールマイト先生の攻撃をまともに食らえば落ちる。でもそれを補っても初速から前を凌駕できるこれならば!

 

 「はあああああっ!!!」

 

 「DETROITSMASH!!!」

 

 私の両手で振りかぶった剣と、オールマイト先生の拳が衝突して、凄まじい衝撃波が周囲を駆け抜けた。




VSオールマイト前編でした。以下設定解説

 重装中距離殲滅型強化外骨格『ヘカトンケイル』

 端的に言えば6本腕のドムのバックパックをZZのものにした感じ。地走専用、飛べない。武装はベルト給弾式バズーカ2門にミサイル、腰についたレールガン、ブリッツのトリケロスにホワイトライダーのシェキナ―を手持ちにしてる。圧倒的弾薬庫。人に向ける火力じゃないが相手が人間かも怪しいのでセーフ。

 軽装近接速度特化強化外骨格『アルビオン』

 体のシルエットは流線型、イメージ的にはガンダム00のマスラオとかフラッグが近い。色は白。ただし背中に試作1号機FBのスラスターと腰に試作3号機のバインダーを4つ、さらに足はマクロスのバルキリーの足を積んでる。全身スラスターの塊、強化外骨格の中でも法外な最高速度を誇ってる。武器はバエルソード2本のみ。パワーはあまりないけど加速力で補う設計、そして一番紙装甲。アストレイのガーベラストレート持たせようか最後まで悩んだけど刀として使わない、叩き付ける切り方をするのが楪ちゃんなのでバエルソードになった。満足。

 では次回後編をお楽しみに。感想評価よろしくお願いします。


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38話

 「なんで、追いつけるんですかっ……!」

 

 「今の君並みに速い相手はいたさ!だが、君は動きが雑だからね!」

 

 「そりゃ、ぶっつけ本番ですもの!」

 

 拳と剣が衝突し続ける。ヒットアンドアウェイでオールマイト先生の周りを飛び回り、黄金色の刀身を振るう。だけどそれはオールマイト先生の拳にあっさり負けてしまう。音速の加速を加味してもなお、打ち負ける。すぐそばにあるはずの脱出ゲートが酷く遠いものに思える。被害を小さく抑えたいからオールマイト先生がすでに壊し終わったところで戦ってるけど、それが逆に私を縛っている。

 

 やっぱり一人は難易度が高いよ!いま何分!?10分経ってないね!だめだ、私の熱圧縮を使っても、オーバーヒートまではあと1回換装できるかどうか、それ以上は体にたまる熱を無視できなくなる域まで行ってしまう。何度かカフスを生成して剣戟と同時にカウンターで腕にかけようとしてみたけど、デコピンで壊されて対処されてしまった。最低でもこのレアアロイブレード並みの硬度が必要だと思う。

 

 それに私自身、シミュレーションはしていても外骨格であるタイタンシリーズを動かすのは全部ぶっつけ本番だ。機能テストは出来ても思いっきり動かすなんて日常生活で出来るわけないから。一旦逃げると見せかけて脱出ゲートへ!

 

 「おっと、逃がさないよ」

 

 「あうっ!?」

 

 回り込まれて、水平チョップが私を襲った。とっさにレアアロイブレードを十字に構えて防御する。受けたら敗北必至だから……!吹っ飛ばされてビルに突っ込む寸前でスラスターで急減速を取り、オールマイト先生がその場から放った衝撃波による空気砲を横方向に飛んで避ける。ビルが見事に陥没してる、頭おかしいよ。私じゃ再現できないレベルだ……!

 

 「これクリアさせる気ありますかっ!?」

 

 「plus ultraさ楪少女!目の前にある壁を真正面からぶち壊す!それが雄英の校訓!」

 

 「知ってます!」

 

 内臓がGによって潰されそうなほどの慣性が私を襲い続ける。ゴリアテ以上の加速でデタラメな軌道をとって戦ってるんだ。そりゃ、内臓が滅茶苦茶になってもおかしくない……!オールマイト先生の一撃をまともに食らえばいくらレアアロイブレードでも折れ曲がってしまうだろう。というかなんで刃物に素手で対抗出来てるんだこの人は!?これ個性の搾りかすで戦ってるだなんて思いたくない!

 

 幾度目かの交差、初動の遅さを動き続けることで解消するアルビオンでも、相手が速すぎるとここまで苦戦を強いられるのか……!でも、データは揃ってきた……!オールマイト先生の打撃の打ち方、力の込め方、初動の癖……!蓄積されたデータをもとに行動を予測する!そしてこれが、作戦3段階目……!

 

 「タイタンフォール!スタンバイ!」

 

 「2度目はないぞ楪少女!」

 

 「ええ、ですからこうです!」

 

 落ちてくる外骨格を私が装着する前にオールマイト先生は破壊しようと足に力を込めて飛びあがろうとする。だけど、その予備動作を予測していた私の上からの斬撃を防御せざるを得なくなる。そのまま私はオールマイト先生が行動の予備動作に入る前に先の先を取る形でオールマイト先生に攻撃を放ち続ける。力負けは必然、少しミスをしたらだめ。少しでも連撃に隙を見せればたちまち脱出されてしまう。予測し続けろ、その場に縫い留めるんだ!

 

 そして、空から降ってきた外骨格最後の一つ……改良型ゴリアテ、バージョン2が私が中に入ってないのにもかかわらず、組みあがって着地する。超大型外骨格であるゴリアテ、私が入ってなくても操作できるように改良済み!さらなる改良点は主に腕部、硬くして、パワーをあげた。さらに肘部分が突出しており、その中には杭が覗いている。ゴリアテの肘が伸縮する。片手を構えたゴリアテが突っ込んできて、パンチをオールマイト先生の背中に打ち込む。

 

 「サドン!インパクト!」

 

 「うおおおおっ!?」

 

 内部で圧縮に圧縮を重ねた空気砲が衝撃波と一緒に炸裂する。私は一瞬で炸裂範囲から逃れたが、私に邪魔されてギリギリ防御行為を取れたオールマイト先生は吹き飛んで、脱出ゲートの真逆に吹っ飛んでいった。けど、一瞬で戻ってくる。やはり、ダメージらしいダメージはない。サドンインパクトはワンフォーオールの攻撃による空気砲の原理を解明して開発した武装だ。火薬式杭打ちパンチより連打力は劣るけど威力は段違い、遠距離攻撃も可能になった。

 

 作戦3段階目、ゴリアテとアルビオンによる2対1でオールマイト先生にカフスをかける。スピードのアルビオンとパワーのゴリアテならオールマイト先生にだって小さい隙を作ることくらいはできると思うから、メキ、と道路を陥没させて大地を踏みしめるゴリアテと、そのうえでホバリングする私。

 

 「これでダメなら、私の負けです」

 

 「受けて立とうじゃないか。君の全てを受け止めよう」

 

 「行きますっ!」

 

 突っ込む、先駆けは私、両手の剣を揃えて横一文字の斬撃を見舞う。オールマイト先生はそれをバックステップで躱すけど、遅れて追いついてきたゴリアテに組み付かれて手四つの状態に持ち込まれる。当然それを抜け出そうとするオールマイト先生……ごめんなさい!オールマイト先生!

 

 「What!?」

 

 『楪希械!合格だよ!』

 

 手四つになった瞬間、ゴリアテの前面装甲が開いて、本来私が収まっているべき場所から大量のトリモチが発射された。作戦4段階目、ゴリアテを加えた2対1に見せかけてここまで見せてこなかった搦め手を使って、一気に脱出作戦。サドンインパクトでゴリアテのパワーを印象付け、真正面から衝突すると見せかけて、スピードのアルビオンで一気に離脱する。騙し討ちみたいな感じだけど、多分あのままだったらゴリアテを1撃で壊されるとかあったかもしれないし……。

 

 「こ、こここ……怖かった~~~!!!」

 

 「やられたよ楪少女……お疲れ様だ!」

 

 「えっ!?と、トリモチは……!?」

 

 「HAHAHA!全部振りほどいてきた!」

 

 「うそぉ……」

 

 何とか脱出ゲートをくぐった私がアルビオンのバイザーをあげてへたり込んでいるとすぐ後ろに多少スーツにトリモチがついているものの応えてない様子のオールマイト先生がやってきた。ひぇ、トリモチ通用しないんだ……!戦ってる最中のオールマイト先生強すぎて絶望感しかなかったから、全部終わって私は今涙目になっている。ヒーロー殺しとか脳無並みに怖かった……!

 

 「なんですかオールマイト先生、ぜったいデクくんたちの時より本気出してましたよね!?」

 

 「あ、いやまあ……その、思ったより強くてだね」

 

 「ほんとに……3回くらい死ぬかと思ったんですけど……」

 

 バンバンと地面を叩きつつオールマイト先生に抗議すると、案の定私に対する加減の弁がどこかに吹っ飛んでいたらしいオールマイト先生がバツが悪そうに頬をぽりぽり書く。だってデクくんたちの時は直当てしないように気を付けた感じで攻撃してたのに私の時は全部直撃コースだったんだもん!一発当たればいくら私でも重症ですよ!

 

 「あー、ほら、ね?そういう試験だから……」

 

 「私たちの課題部分を見てたようですけど……大方、私の場合「自分の負傷を無視する傾向がある」とかそんな感じですか。あと継続戦闘能力に難がある。だから一撃当たったらおじゃんなオールマイト先生で、30分の時間制限の生き残りっていう勝利条件が追加された。そんなところですかね」

 

 「むむ、分かってたのかい?」

 

 「いや、試験中あんなこと言われたら流石に分かりますよ。まあ、予め手足のストックを打ち上げてて良かったです」

 

 アルビオンの全面装甲を開いて私はアルビオンを脱ぎ捨てる。ギリギリオーバーヒートしてないからまだ何とか言い訳立つレベルじゃないかなあ?そう信じたいなあ。ああ、奥の手であるタイタンシリーズ3機を同時に投入しても足止めが精いっぱいだったオールマイト先生。№1ヒーローという頂きがどれだけ高いのか思い知りました。もっと頑張らないとなあ、私も。

 

 私は強化外骨格すべてを遠隔操作して、私の所に呼び集める。そして、粉砕機に全部放り込んで取り込んだ。そろそろサポート科に回収させるのも失礼な話だし、これからはこの方式で頑張ろう。そのあとやっぱり私が一番最後に試験が終わったらしくて、バスにオールマイト先生と乗り込んで教室に帰るのだった。でもこれ自慢できそうだよね、オールマイト先生の一撃を何度も防御したのに折れ曲がらなかったレアアロイブレード……!えーくんよりも硬いかもしれない。

 

 

 

 

 

 「ひぐっ……うぐ……うえええ……」

 

 「み、みみみ三奈ちゃん!?どうしたの!?」

 

 「希械ちゃぁん……慰めてぇ……」

 

 「????」

 

 「あのね、上鳴ちゃんと三奈ちゃんは、不合格だったのよ」

 

 着替えたりなんだりでみんなより遅くなってしまった私が教室に入ると、まるでお通夜のように沈み込む上鳴くんと、ぐすぐすと号泣する三奈ちゃんの姿があった。私が慌てて三奈ちゃんに駆け寄って何があったのか尋ねると慰めての一言で抱き着いて何も言わなくなってしまう。とりあえず膝に抱き上げて私が椅子に座ってよしよしとあやしていると残念そうな顔をした梅雨ちゃんが三奈ちゃんと上鳴くんの組がタイムアップで不合格になってしまったことを教えてくれる。

 

 「そうだったんだ……でも三奈ちゃん頑張ったんだよね!私は頑張ったの知ってるから!夏休みはいったらいっぱい遊ぼ?」

 

 「うわああん!林間合宿行きたかった~~!」

 

 「あー、芦戸。今日帰り付き合ってやるから。カラオケ行こうぜ?なんか奢ってやるよ」

 

 「ぱふぇ……」

 

 「おう、パフェでもパンケーキでも何でも食え!男に二言はねえ!」

 

 「明日のお弁当、三奈ちゃんの好きなもの沢山入れるから!ね?」

 

 「うん……」

 

 よっぽど林間合宿に行けないのがショックだったのか幼児退行を起こしだしてる三奈ちゃんに思うところがあったのかえーくんも加わって私と二人で慰めにかかる。私の胸に顔をつけた状態でもごもごいう三奈ちゃん、物で釣ってるみたいであんまりよろしくないかもだけど、元気じゃない三奈ちゃんは三奈ちゃんじゃないので……

 

 「まるでお父さんとお母さんね」

 

 「あそこだけ家族オーラやべえな」

 

 「芦戸って末っ子っぽいところあるよな」

 

 「あ、ウチも行っていい?久しぶりに思いっきり歌いたい気分」

 

 「カラオケ……行ったことないですわ」

 

 みんなも期末テストがどんな結果に終わったかはわからずとも息を抜きたいというのは共通しているようでえーくんのカラオケという言葉に食いつく人が結構いた。三奈ちゃんのためにも賑やかな方がいいと思うので来てくれる分には構わないし、歓迎だ。でも私、このクラスのみんなに歌を聞かせるの初めてだ。なんか緊張してきた……あ、そうだ。

 

 「えーくんはセメントス先生とだったよね?どうやってクリアしたの?」

 

 「あー……男らしく正面突破しようとしたんだけどな、無限に壁生えてきてよぉ。砂藤は途中でダウンしちまうし……」

 

 「うわ、ある意味予想通り。それで?」

 

 「んで、セメントス先生ってセメント操って壁作って俺ら囲ってたから……見えてなかったんだよな俺らの事。だから、砂藤背負って地面掘って、足元から奇襲してカフスかけたんだ」

 

 「いや、悪かったな切島……お前のおかげでクリアできたぜ。今度菓子でよければ受け取ってくれ」

 

 なるほど、地面からの奇襲をかけたんだ。えーくんの手なら硬化させてスコップ代わりにしても問題ないだろうし……でも凄いな。手で地面掘って奇襲?根性とかそれで片づけていいものなんだろうか……?それにしても

 

 「よくわかったね、セメントス先生がいるところ」

 

 「あー、いや……勘だったんだよ、それ」

 

 「……運も実力の内?」

 

 抱っこちゃん状態で私から離れない三奈ちゃんの頭を撫でながらえーくんと話していると、ようやく気持ちの整理がついたらしい三奈ちゃんがばっと顔をあげて会話に混ざってきた。ちょっと涙目のままだけど、何時もの三奈ちゃんだ。

 

 「もー!校長先生どこいるかわかんなくてさー!どんどん逃げ場ふさがっちゃうし!希械ちゃんみたいに空飛べれば私も~~!」

 

 「でも空飛ぶのって大変なんよ?行きたい方向に行けんかったり……」

 

 「お茶子ちゃんは浮くだけだからねえ。スラスター貸してあげよっか?」

 

 「あはは、明後日の方向行きそうやから遠慮しとく」

 

 「おし、カラオケ行こうぜ!反省会と一緒に思いっきり歌おう!」

 

 「切島君奢ってくれるん?」

 

 「え、マジ?切島ごちー」

 

 「何頼もうかな」

 

 「いや奢るのは芦戸と希械だけだぞ!?」

 

 「私も?」

 

 なぜか私にも奢ってくれるらしいえーくんと他の人たちのブーイングを聞きながら、私は帰り支度をするのだった。一発芸のゲーミング希械ちゃんの出番がついに来たか……!ミラーボールいらずの輝きを見せてあげよう……だから歌わせるのは勘弁して……




 切島くんはライジングしました。さて次回からは映画のお話をやっていこうと思います。なくてもいいかなとは思ってたんですが話の都合で重要になりそうだったのでやることにしました

 感想評価よろしくお願いします


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I・アイランド編
39話


 「はい、50回。インターバル5分挟むよ~」

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 バタン、と倒れる心操くん。腹筋50回という中々に筋繊維ブチブチな回数を終えて、私に足を抑えられた状態で仰向けに倒れ込んだ。期末テストから一夜、まだまだ朝も早い時間帯である。なんでも相澤先生から心操くんが朝練を始めたという話を聞いて、オーバーワークしてないかなと心配になった私は様子を見ることにしたんだ。期末テストの時はあんまり顔出してあげられなかったし。

 

 で、心操くんが一人っきりで走り込みやら筋トレを黙々とこなしてるのを見つけたのでお手伝いするよー、と乱入しました。あ、でもえーくん私が起こさなくても起きられるかなあ?雄英に入ってからくたくたになって帰ることが多くて、疲れがたまってるせいか一人で起きられなくなったんだよねえーくん。

 

 まあ、昨日の内に今日は私朝早くに学校行くって言ってあるし、えーくんのお母さんが起こしてくれると思う。硬化した手で目覚ましを壊さないように気を付けてね……!それで心操くんなんだけど、黙々と基礎トレをこなしていたので私はやっぱり情熱あるんだねと感心した。普通科の期末試験はペーパーテストだけだったから余計に焦ってはいないかと思ったけど……。

 

 「そういえばなんだけど、他の普通科の人たちって心操くんみたいにヒーローになりたい!!っていう熱い人いないの?」

 

 「わからない、かな。ヒーロー科に多かれ少なかれ不満を持ってるやつはいる。けど、じゃあ俺がヒーロー科入って不満を解決しよう!って努力するやつは今んとこしらない」

 

 「私たち、不満もたれてるの……?」

 

 「結局体育祭もヒーロー科の独壇場だったし、ヴィランの襲撃にあったのもヒーロー科。茶番に付き合わすなって言ってたやつもいたな」

 

 「それ、私たち何も悪くないんだけど……」

 

 「わかっててもそう思っちゃうんだよ、人間ってやつは」

 

 うーん、理不尽。雄英に於いて普通科はヒーロー科の滑り止め扱いで入学する人が多い。それが虎視眈々と心操くんのようにヒーロー科の席を狙い続けるというわけでもなく、自主練に明け暮れるわけでもなく、不満を漏らして中傷するだけの人がいるんだね。確かに、そういう不満はあるかもしれないし直接言ってこないだけ偉いけど……。

 

 「心操くんみたいに、頑張ればいいのに」

 

 「置いて行かれるとわかってて、追いかけるのは馬鹿のやることだよ。俺はその馬鹿なだけ」

 

 「はい、そんなことありません。心操くんが自罰的なこと言ったら褒めろって相澤先生に言われてるから誉めるね」

 

 「ちょ」

 

 皮肉気にそんなことを言う心操くんにむかっと来た私は心操くんがいかに頑張っているかというお話を懇切丁寧に彼に伝えていった。ここ頑張っててえらい、ちゃんと毎日続けててえらいと伝えていくうちに真っ赤っかになっていく心操くん。かわいい。相澤先生がいないからないと思った?やれって言われてるからやるよ。人を褒めるの、私好きだし~。

 

 「ねぇ、ヒーロー科の期末試験、どんなのだったの?」

 

 「え、私はオールマイト先生とタイマンしたけど、他の人は二人一組で先生と戦ったよ」

 

 「……勝ったの?」

 

 「まさか、不意をつけたから合格は出来たよ。採点基準分かんないし、期末試験を合格できたかは分かんないけど……私視点でよければ、見る?」

 

 「………………見たい」

 

 私の褒め殺しから逃れるためか、顔を手で隠した状態で期末試験のことを訪ねてくる心操くん。むむ、では褒め殺しはここまでにしときましょう。心操くんの凄い所はまだあるけど。対オールマイト先生の動画、まあ私の右目で捉えた映像なんだけど……見たいの?って聞いたらたっぷりの間の後に見たいというお返事をくれたので、一旦朝練は中断、私は映像を投影するのだった。

 

 

 

 「ふふんふーん」

 

 「なんだ希械、上機嫌じゃねえか」

 

 「えっへへー、実はちょっと嬉しいことがありまして」

 

 教室で鼻歌を歌う私にちゃんと起きられたらしいえーくんが何があったのかを聞いてくる。なぜ私がこうも上機嫌なのか、それは心操くんにサンドイッチをご馳走したら美味しいって言ってもらったからです!あと様子を見に来た相澤先生にも勧めたら受け取ってくれて、それで食べてくれたの!心操くんの身体作りどうしてるのかなって聞いてみたら、ご両親が忙しいらしくてコンビニ弁当とか総菜が多いんだって。

 

 それならばと私は朝お弁当をサンドイッチにして、沢山作っておいたんだ。だからそのうちの少しを心操くんと相澤先生にあげたってワケ!心操くんがお気に召したのは照り焼きマヨサンドで、相沢先生は明太ポテサラサンドが気に入ったみたい。朝から美味しいって言ってもらえて私はご機嫌なんだ~。私は褒めるのも褒められるのも好きだからね!

 

 「へー、何があったんだ?」

 

 「ないしょー」

 

 「だああ!気になるじゃねえかそんなこと言われたらよぉ!」

 

 「ひーみーつー、だからね」

 

 「ちぇー」

 

 口元に一本指を立ててしー、とやってみせると私の上機嫌の秘密を知りたかったえーくんはがしがしと頭を掻いてやっと諦めてくれる。ごめんねー、心操くんのことは内緒なんだ。いつか彼が胸を張ってヒーロー科の敷居をまたぐまでは内緒。えーくんに伝えるとあっという間にクラス中に広がっちゃうからね、えーくん嘘つくの苦手だから。

 

 「予鈴がなったら席につけ」

 

 しゅばっ、とみんなが自分の席に着く。相澤先生が教室に入ってきたからだ。みんな相澤先生に立派に躾けられてそういう行動を起こすのがとっても速く正確になってきている。相澤先生もそれはそれは満足気。相澤先生が怒ると怖いもんね、峰田くんとか上鳴くんとかはよくご存じのはず。女子更衣室覗こうとしたのは私でも流石に怒っちゃうよ?

 

 「さて、昨日の期末試験だが……赤点が出た。上鳴、芦戸はもう分かってるな?他は瀬呂、砂藤が赤点だ。心当たりはあるだろう」

 

 「みんな……お土産話期待してるから……!」

 

 「寝てただけだからな……そうだよな……」

 

 「切島に背負われてただけだもんな……」

 

 「うぇい……」

 

 「従って林間合宿には全員でいきます!!」

 

 「「「「どんでん返しだぁ!!!!」」」」

 

 赤点者の発表に呼ばれてどよーんとなってしまう4人。あそこまでやって赤点だったら私はどうすればよかったのかという話になるので一応合格しててよかったぁ……そして相澤先生が真顔で言った林間合宿全員参加の言葉に4人が感涙を隠せずに叫んだ。すごい、ホントにどんでん返しだ。よかったね三奈ちゃん、楽しみにしてた林間合宿に行けて。

 

 「が、当然ながら現地で補習も行う。ぶっちゃけ残っての補習よりきついのでそのつもりでな」

 

 そしてあげて落とすのも忘れない相澤先生、飴と鞭の使い方が上手だなあ。飯田くんが相澤先生の合理的虚偽に文句というか意見を言ってるけどこの学校でそれ気にしてたら多分やっていけないよ。私は学んだからね、騙されるの前提で頑張るのさ!嬉しくないなあ……。

 

 合宿のしおりを見ながら予定立てをする。合宿は夏休みの後半にかけてだから、前半は色々できるよね。短い休みだけど私たちにとっては貴重な長期休暇!英気を養ってヒーローになるために頑張るぞ!

 

 

 

 

 

 「楪少女、緑谷少年。ちょっとお話があるからおいで」

 

 「え!?は、はい!」

 

 「なんでしょう?」

 

 すでに夏休みモードが漂う教室に筋骨ムキムキのオールマイト先生が私とデクくんを指名した。この組み合わせってことはワンフォーオール絡みの話かなあ?でもこんなに堂々と私たちを呼ぶってことはまた何か別の話題なのかも。談話室に一緒に入って鍵をかけたオールマイト先生が煙を上げてぼふんとガリガリのトゥルーフォームになってしまう。今日はギリギリだったのかな?

 

 「さて、帰りがけに悪いね少年少女。実は夏休み中に小旅行に行かないか、というお誘いをさせて欲しくてね」

 

 「小旅行、ですか?合宿もあるのに?」

 

 「そうだとも!特に楪少女!君のためになる場所でもある!I・アイランドは知っているね!?」

 

 「勿論知ってます!最先端の科学を研究する人工島であのデヴィット・シールド博士が所属してることで有名!常に移動しているうえに警備はタルタロス級だと……」

 

 「あぅ、全部言われちゃった」

 

 「ご、ごめん楪さん!つい!」

 

 I・アイランド!その名前を聞いてときめかない技術者はいないであろう最新技術の宝庫にして科学の最前線!デクくんに全部言われてしまったけど常々行ってみたいなあという話をしていた場所だ。それが何でオールマイト先生の口から……?あっ!デクくんから聞いたことがあるんだけどシールド博士はオールマイト先生のヒーロースーツを作っている人だった!そうか、そういう関係か!

 

 「とまぁそんなわけでI・アイランドのエキスポ招待チケットを頂いてね。折角だから君たちと一緒に行きたいと思ったのさ!」

 

 「こ、光栄です!オールマイトに誘ってもらえるなんて!」

 

 「あの、デクくんは分かるんですけどなんで私もなんですか?」

 

 「HAHAHA!緑谷少年と私は君に随分と世話になったからね!お礼の意味を込めてさ!」

 

 デクくんを誘うのは師弟関係なわけだし分かる。とても分かる話だけど、私ってぶっちゃけ勝手に首突っ込んで好き勝手やっただけなのであってお礼されるほどのことをしていないような……ああ、でもI・アイランドは非常に魅力的だ。行かない選択肢はあり得ない。もしも、もしもだけど荷電粒子の権威の一人であるミノフスキー博士に会えたりしたらビーム兵器を実用に持っていけるかもしれない……!

 

 「まあ親御さんのこともあるから返事は夏休み前にくれれば平気だよ。あ、でも楪少女、君パワーローダーからサポートアイテムの免許取る様に言われてただろ」

 

 「え、はい。模試はA判定でしたけど……」

 

 「流石だね。実はI・アイランドでも試験があってね。作品を事前に送って、合格点に達していれば国際版の免許が発行されるんだ。楪少女の場合そっちを取った方がいいと思う。どうかな?」

 

 「や、やりますっ!!!絶対!」

 

 そうか!科学の総本山であるI・アイランドにサポートアイテムの免許試験がないわけないんだ!というか向こうの学校であるアカデミーだとそれを取ってからじゃないと入学できないだなんて話も聞くくらいだし!日本だと取れるのは夏休みあと!夏休み中に取れるかもしれないなら越したことはないよね。お父さんお母さんを何としてでも説得しなきゃ!

 

 「何送ろうかな?プーマバギー?ホバーバイク?あーでもスイングショットシステムも捨てがたいよね……」

 

 「HAHAHA!やる気みなぎっているようで何より!君の作品ならば問題ない筈さ!パワーローダーに模試の結果を向こうに送るよう言っておくよ!」

 

 「あ、発目さんにも……あ、でも彼女模試判定Dだったような……」

 

 「流石にそれだと私の名前を使って推薦するのは難しいかな……」

 

 「オールマイト先生に推薦されるんですか私!?」

 

 「そうだとも!というか私相手にあそこまでやれるサポートアイテムを作ってる君が無免許なのは少々まずいからね!相澤君風に言うと合理的推薦というやつさ!」

 

 発目さんは実技方面では途轍もなく優秀なんだけど、興味が向かない部分にとことん無頓着みたいで法律を覚えるよりもトライ&エラーですとのことでパワーローダー先生の実験室にこもっている結果みたい。パワーローダー先生は頭を抱えているみたいだけど発目さんらしいっちゃらしいかも。まあ、彼女なら必要と理解させれば超速度で試験を通過しそうだし。

 

 とにかく、I・アイランドに行ける!滅茶苦茶楽しみになってきたぞ夏休み!それならば!私も全力で研究に励みレポートを作って向こうの科学者の人に質問できる時が来たら質問するんだ!……あれ?私人前で初めて話す人に質問できるかな?声震えて詰まって何も言えなくなっちゃいそう……せ、せめて超圧縮技術だけは掴んで帰りたい……!

 

 

 

 

 

 「むむむ、どうしようこれ」

 

 そんなことがあった夜、私の部屋の私の机の上に、なぜかあるI・アイランド行きのチケットレセプションパーティーへの招待状付き。何でこれがあるかっていうとオールマイト先生に誘われた直後、帰る段階になって相澤先生からもらってしまったのだ。何でも体育祭優勝の商品らしい。しかし私はオールマイト先生と一緒に行こうと誘われてしまっている。

 

 オールマイト先生に推薦していただく以上一緒に行動するのは当たり前の話だし、そしたらこのチケットは腐らせてしまうことになる……ん?これ私限定のチケットじゃないね。誰でも使えるみたい。そうとなれば……

 

 「えーくーん!I・アイランドに興味ない!?」

 

 「何だそりゃめちゃくちゃ興味あるぜ!」

 

 私は窓を開けて隣の家の庭にてバーベルスクワットをしているえーくんに声をかける。デクくんほどじゃないにしろ私もえーくんもヒーロー好きなのでI・アイランドのことはえーくんも知っている。となれば食いつくのは必然。シャワー浴びてそっちに行くわ!というえーくんに私はお茶の準備をしに自分の部屋を出るのだった。

 

 




 映画の導入です。サポートアイテムの免許に関してはどうも色々とよくわからないので勝手に設定します。ちなみに他作品からいろんな博士がI・アイランドにいる予定ですが基本的にマッドじゃありません。善人です。ナニカサレル可能性はないです多分!

 感想評価よろしくお願いします。


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40話

 まさか人生でプライベートジェットなるものに乗ることができるとは思いもしなかった。現在私は空の上、トゥルーフォームのオールマイト先生と制服姿のデクくんと一緒に貸し切りの飛行機の中にいます。凄いね№1ヒーローの移動って。オールマイト先生は全盛期身一つで日本を縦断してたらしいけど。

 

 「I・アイランド……楽しみだね。ね、デクくん」

 

 「うん……!最新技術のサポートアイテムにパビリオン……ああ、どこから回ろうかな」

 

 「私は免許が取れてるといいんだけど……」

 

 すぴょ~という感じで眠るオールマイト先生を前にして会話する私たち。平和の象徴の鼻提灯だなんて貴重すぎてよくわかんないかも。夏休みに入る前にデクくんがヴィラン連合の首魁、死柄木弔に遭遇するという事件もあったりしたが、その後は特に何もなく私たちは夏休みを迎えることができている。

 

 私は結局自分の分のチケットをえーくんに譲ってえーくんは爆豪くんを誘って二人でI・アイランドに行くことになったみたい。私と一緒じゃないのは残念って言ってた。あとみんな割とI・アイランドで行われるエキスポが気になっていたみたいで、女子のみんなは百ちゃんの同伴者になるべくじゃんけん大会を催していた。向こうで会う予定だし、一週間楽しんじゃうぞ~。

 

 デクくんもワクワクを隠せないようで眼下に見えだしたI・アイランドに夢中だ。窓にほっぺをくっつけて瞳をきらきらと輝かせている。何となく、幼く見えて少し笑いが漏れちゃう。ぎゅっと握られた付箋だらけのエキスポのガイドブックがそれを助長してる気がするよ。

 

 「オールマイト、オールマイト、見えてきましたよ!」

 

 「ん?おお……もうそんな時間かい?」

 

 「はい、もうすぐ着陸態勢に入るみたいですよ?」

 

 「む、では二人とも、着替えなさいな。学校に申請してヒーローコス、持ってきてるんだろう?」

 

 ムキ、と一瞬でマッスルフォームになったオールマイト先生が、スーツの胸元を開くと中には彼のヒーロースーツが輝いていた。プロヒーローは私服の下にいつでも出動できるようにヒーロースーツを着ていることが多いという話を聞いたけどオールマイト先生も例に漏れずなんだ。私は自分の席に引っ込むと、カーテンを閉じてそのまま着替える。更衣室なんて無いからね、ここは我慢。まさか峰田くんじゃあるまいしデクくんが覗きなんてあり得ないから安心。オールマイト先生は言わずもがな。

 

 バッグの中に綺麗に畳んだ制服と下着を入れて、チェック!うん、大丈夫!左目出して、はい完成!シャッとカーテンを開けるとデクくんも既にヒーロースーツに着替えてるようだ。なんか別の意味でドギマギした顔してない?大丈夫?動悸が酷いならついたら病院に行った方が……え?違う?ふーん……?

 

 なんだか慌ててるデクくん、顔が真っ赤だから心配して覗き込んでみると凄い勢いで顔を逸らされた。なんかショック……。緩やかに着地する飛行機の中で私は、すこし頬を膨らませるのであった。

 

 

 『只今より入国審査を開始します』

 

 「国じゃないのに入国なんだ」

 

 「細かいね楪少女……さてここでクエスチョンだ!この人工島が作られた理由は?」

 

 「はいっ!世界中の才能を集めて個性の研究や新技術の開発を行うためです。移動できるように作られてるのは研究者たちや研究成果をヴィランから守るためで……」

 

 「そのおかげで今まで一度もヴィラン犯罪が起こったことがないっていう稀有な地域ですよね。しかも警備システムはあのタルタロス並み……」

 

 「うーん流石二人とも詳しいね!先生の出番がないぞ!HA-HA-HA!」

 

 動く歩道の横に私たちのパーソナルデータが表示されて入国審査が開始される。この島ってどの国にも属してないことが売りなのに入国審査とはこれいかに。あ、ちゃんと3サイズは隠してある、体重も。ちょっとした気配りが嬉しいなあ、もしくは知られて問題になっちゃったりとかあったのかなあ?

 

 オールマイト先生のクイズにデクくんと二人でI・アイランドのことを解説していくとオールマイト先生はいつかの授業の時のように全部言われた!という顔をしつつもサムズアップを返してくれる。まあ、I・アイランドについては前々から行きたい行きたいと思っていたので入念に、隅々まで、会ってみたい科学者の人に至るまで調べてあるのです。1テラバイトくらいの容量はあるぞ。

 

 ゲートの前で動く歩道が止まる。けどすぐに入国審査が終了して私たちが入国する許可が下りた。エキスポを宣伝する人工音声に見送られてゲートをくぐると、物凄く心が躍る光景が広がっていた。

 

 あらゆるところに空中に投影された画面が浮かび、巨大なパビリオンがいくつもある。遠目で見るだけでも最先端の科学がふんだんに使われてるのがよく分かった。そして個性を使ったと思わしきパビリオンもここから見えるだけでいくつもある。凄いなあ。そして、そこにいる一般来場者の人たちの笑顔!はじけるような笑顔が沢山あって私まで楽しくなってきちゃう。

 

 「一般公開前ですよね、プレオープンなのにお客さん沢山いますねえ。あ!あれもしかして反重力発生装置!?」

 

 「ここまで客を入れるとは、アイランド側の本気が垣間見えるな!とりあえずホテルに行って荷物置こうか!」

 

 「あ、地図は頭に入ってるのでご案内しますよ」

 

 「楪さん、この島かなり広いけど地図覚えてるんだ」

 

 覚えてますとも、メカですから!というかオールマイト先生は目立つうえに超人気なので早いとこ移動しないと人だかりができて大変めんどくさ……もとい、時間を消費してしまうので急いで移動するべきなんだ。マッスルフォームを維持できる時間制限もあることだからね。

 

 「I・アイランドにようこそ~……え!?オールマイト!?」

 

 「あ、バレましたね」

 

 「オールマイト!?」

 

 「№1ヒーローの!?」

 

 「うわあああ!?」

 

 「あ、デクくん危ないよ~」

 

 移動する前にバレちゃったらどうしようもないよね。あっという間に人だかりがオールマイト先生を覆って、私はともかくデクくんはその流れに押し負けて流されてどっかに行きそうになってるのでとりあえず私が引き寄せて確保した。ファンサービスに厚いオールマイト先生のことだからしばらく動けないだろうなあ。テレビカメラまであるよデクくん。流石はI・アイランド!

 

 「オールマイト先生本人の方がどのパビリオンよりも人気だね」

 

 「流石はオールマイト!……あの、楪さん、ち、ちかいぃ……」

 

 「ああ、ごめんね。流されないように気を付けてね~」

 

 オールマイト先生に集まる民衆に流されないように密着状態だったデクくんの文句を受けて彼を解放する、んだけど民衆の密着具合のおかげで全く離れられない。凄いなオールマイト先生、それでいてファンサービスを欠かさないその様子は正しく平和の象徴。感心するばかり、と私は女性たちからキスの雨を降らされている彼を少し気の毒に思うのだった。サインかー、そういえば貰ってなかったし、今度お願いしてみようかな~。

 

 

 「あそこまで足止めされるとは……いやはや約束に間に合わなくなってしまうところだったよ」

 

 「約束?どなたかと待ち合わせしているのですか?」

 

 「そうとも!招待状を送ってくれた人でね!私の親友の娘なのさ!親友にサプライズをしたいらしい!可愛らしいお願いを叶えるのもヒーローの務め!」

 

 「オールマイトの親友の娘さん……」

 

 顔中にキスマークを付けたオールマイト先生といろんな民衆の方々を振り切って少し、どこから出したのかハンカチで真っ赤なルージュの跡をふき取るオールマイト先生が実は待ち合わせをしているということを教えてくれる。それだったら猶更ファンサを早く切り上げて用事があるといえばいいのになあ。そうしないから人気なんだろうけど。

 

 「ああ、そうだ二人とも。ワンフォーオールについてはここでも他言無用だ。親友にも話していない話だからね、彼らを巻き込むわけにはいかない」

 

 「は、はい!」

 

 「わかりました」

 

 指を立てて個性のことを小声で話すオールマイト先生の念押しに素直に頷くことにする。そう考えると無理やり押し掛けた私のなんと迷惑なことよ……立派なヒーローになって恩返ししないとね!と気合を入れなおしていると、遠くから物凄くジャンプする何かに乗った人影が近づいてくる。ホッピング?にしてはえらい近未来的な……使われてる技術は最新鋭だ、すごいなあれ。もしかしてあれもエキスポの何かなのかなあ?

 

 「マイトおじさま~~!」

 

 「OH!メリッサ!久しぶりだね!」

 

 うわ、待ち人来るだ。満面の笑顔でやってきたのはオールマイト先生の言う通り女の子、多分アメリカの人で金髪、眼鏡をかけてて青い瞳。親近感湧いちゃう。そして百ちゃんなみにプロポーションがいい、峰田くんがいたら涎を垂らす……彼は女の人なら何でもいいんだっけ。ゆりかごから棺桶までというとんでもない事を言ってたような気がする。メモリから消しとこ。

 

 ○○少年、少女と呼ばずにオールマイト先生が呼び捨てにしたってことはかなり親しい間柄と見た。ホッピングから飛び降りた少女はオールマイト先生に空中からハグを決めて、オールマイト先生は彼女を軽々と抱き留めて、ゆっくりと地面に降ろしてあげる。うーん、私たち場違いだねデクくん、あ。また固まってるや。

 

 「見違えたね!すっかり大人の女性だ。今日は招待ありがとう!」

 

 「17歳になりましたもの。昔と違って重いでしょ?マイトおじさまはお元気そうでよかった~!パパは研究室で缶詰してるの。きっと会いたいと思うわ」

 

 「デイヴも相変わらずのようだね!ああそうだ二人とも、彼女が待ち合わせの相手で、私の大親友の娘だ!」

 

 「メリッサ・シールドです。はじめまして。メリッサって呼んでね!」

 

 なんとなーく所在なさげだった私が明後日のパビリオンを見ていると急にオールマイト先生に話を向けられてグキリと急いで彼女に顔を向ける。とてつもなく人懐っこそうな笑顔を浮かべてデクくんに手を差し出して握手した彼女が、私にも手を差し出してくれる。冷たい手でごめんなさい、とおもいつつ力加減を謝らないように握手。うーん、えーくんと同じタイプな感じがするなあ。つまり、コミュ力高そう。

 

 「み、緑谷出久です!雄英高校ヒーロー科1年A組に所属してます!」

 

 「同じく雄英高校ヒーロー科の楪希械っていいます。オールマイト先生の同伴者です、お招きしてもらってありがとうございます」

 

 「まあ!ってことはマイトおじさまの……!」

 

 「未来のヒーロー候補たちさ!」

 

 「すごいわ!マイトおじさまが連れてくるってことは将来有望なのね!ミドリヤくん、でいいかな?個性ってどんなの?」

 

 「あ、デクって呼んでください、個性は……パワー系、です」

 

 おーいデクくん、そこ躊躇ったら怪しいぞ~。もう言ってるじゃん個性に関してはノータイムで答えないと怪しいって。メリッサさんは流石科学の街の女の子らしく、デクくんのヒーロースーツを周りをぐるぐると回りながら見聞しだした。むむ、まさか彼女私や発目さんと同じ技術屋(こっち)側か?シールドというと……?

 

 「カッコいいけどオーソドックスなデザインね……補助的なアイテムも見当たらないし……あ、改良したほうがいいかも」

 

 デクくんのスーツを摘まんだり引っ張ったりしながら呟いているメリッサさん、うわあ、外国の人っぽい距離の近さだなあ。デクくんのヒーロースーツは確かにサポートアイテムがない。というのも力こそパワーな増強系はそういうのあんまり必要ないし、デクくんも頼まなかったみたい。顔がリンゴみたいなデクくんを観察し終えたメリッサさんは、今度は私の方へ。私も?

 

 「すっごい大胆なデザイン……!デクくんと違ってこっちはサポートアイテムゴテゴテね。見たこともないサポートアイテム……!どんな個性でこれを活かすのかしら……!?」

 

 あ、メリッサさん私の手足の事サポートアイテムだと思ってるのかな?まあ、そうだよねえ。機械を出せる個性って希少らしいし、私は自分以外に個性として体が機械だっていうひと両親以外知らないからそういう風に見えちゃうのかも。あと確信した。メリッサさん完全に私たち側の人間だ。仲良くなれそう……。

 

 「私の個性は異形型なんです。だから、手と足は私の体、ほらこんな感じ」

 

 「えっ!?すごいわ!創造系と異形型のいいとこどり!もしかして貴方……私たち側?」

 

 カチャカチャと音を立てて私の右手が変形して戦闘形態をとって、元に戻る。それを見た途端にメリッサさんのテンションは振り切れて私の左手を取ってぶんぶんと握手をしてくれる。わあ、やっぱり同じタイプの人だった!嬉しいな~えーくんも三奈ちゃんも科学のお話についていけないから同年代で深いところまで語り合えるの発目さん以外にもいてうれしい!

 

 「あっ!思い出したわ!ユズリハさん、だったよね!?アカデミーに雄英から送られてきた反重力で浮くバイク!貴方の作品!?」

 

 「そうだよ!ホバーバイク!陸と空で運用を考えてるバイクで、耐荷重は1トン弱!武装は10ミリ口径機関砲、マルチパーパス仕様!送るの色々考えてたんだけど、あれが一番驚いてもらえるかなって!」

 

 「やっぱり!教授が手放しに褒めてる所なんてなかなかないもの!皆嫉妬しちゃったわ!反重力装置をあそこまで小型化して並列に稼働させるなんて!是非是非色々聞かせて欲しいわ!」

 

 「あー、メリッサ?楪少女?」

 

 「「はっ!?」」

 

 両手を取り合って科学について語ってた私とメリッサさんはオールマイト先生の声で正気を取り戻すのだった




 楪ちゃん、メリッサと会う。彼女の存在はめちゃくちゃ大事です。映画だけではなく本筋的に重要キャラになる予定?具体的にいうとデクくん強化的な意味で

 感想評価よろしくお願いします


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41話

 「ごめんなさい、おじさま……私つい夢中になっちゃって……」

 

 「すいません……」

 

 しまった、あまりにもメリッサさんと技術者として波長が同じすぎて話がかみ合いまくってしまった。発目さんの場合、割とゴテゴテしてロマンとかそういうものを重視しているんだけど私の場合、最新技術をぎっちぎちに詰め込んで尚且つ省スペース化とかそういうたぐいの方向性なので若干発目さんとはずれてるんだ。で、メリッサさんは私と同じ方向、最新技術が好きなタイプだと思う。絶対メルアド交換しようと今決意した。

 

 「早くパパを喜ばせてあげなくちゃ。案内するね、マイトおじさま」

 

 「……!超圧縮技術……!」

 

 「知ってるの!?あとでゆっくりお話しましょ!夜のパーティーの時とか!」

 

 「うん!是非!」

 

 傍らで自立していたホッピングにメリッサさんが手をやると見る見るうちにホッピングは小さなひも状の物体になってメリッサさんのポケットの中に納まってしまった。知っている、これが本家本元の超圧縮技術!私が概論だけじゃ答えにたどり着けなかった最新中の最新の技術の一つ!それを目の当たりにしてしまって私の中の熱が高まる。ああ、色々話してみたいけどがまん!1週間もいれば話す機会は沢山作れるから!

 

 そしてやってきたのはI・アイランドの中枢に位置するセントラルタワーと呼ばれる施設。文字通りの中央、ここにI・アイランドの警備システムやら何やらの全てが詰め込まれているらしい。普通なら多分入れない場所だ。見るからにハイテク!分厚い気密扉のエレベーター!自動で動く警備ロボット!うーん素晴らしい!住んじゃいたいくらい!発目さんも来れればよかったんだけどなあ……模試の結果がね、あとパワーローダー先生が「帰ってこなさそうだから」という理由で……。

 

 そしてその上層階にやってきた私たちに、メリッサさんはしー、と口に指を一本立てて目の前のドアをくぐる。

 

 「パパ、研究がひと段落したお祝いに、パパのだーい好きな人に招待状送ったの!」

 

 「私がぁぁ!再会の感動に震えながら来た!!」

 

 「トシ……!?オールマイト!?」

 

 「ほ、本物ですか!?」

 

 「当然本物だとも!わざわざ会いに来たんだぜデイヴ!」

 

 部屋の中にいるのは初老で小太りの男の人と、シールドの姓で何となく察してはいたけどやっぱり、個性研究の第一人者にしてノーベル賞を受賞した天才博士、デヴィッド・シールド博士!ほ、本物だ!どうしよう、サインとかしてくれるかな?この際腕でいいから!後で装甲版剥がして飾るから!技術オタクとしては彼の特許についてはお世話になりっぱなしなんだよね!このスーツの再生機能の大本の技術は彼の特許だから!感動だなあ!

 

 旧交を暖めていた二人が、こつんと拳をあてる。私もかなり興奮しているけど、それ以上に興奮しているのはデクくんだ。彼は勢いそのままにデヴィット博士に詰め寄ると彼の功績を並べ立て始める。個性研究のトップランナーであり、オールマイト先生のヤングエイジ、ブロンズエイジ、シルバーエイジ、ゴールデンエイジ……つまりすべてのヒーロースーツを作っている人。余りの勢いにシールド博士は少し引いていたけどただのファンだっていうのが分かってからから笑ってくれてる。よし!わたしも!

 

 「は、初めましてシールド博士!雄英高校ヒーロー科の楪希械です!ご功績はかねがね……その、ファンです。特にこの前の個性数値に関する論文には感銘を受けて……」

 

 「ああ、ありがとう。楪希械……もしかして国際免許の子か!オールマイトの名前で推薦されていた……。いや、あのバイクは一学生が作ったなんて考えられなかったよ!特にエネルギーの循環!反重力の慣性制御の技術、素晴らしかった!間違いなく免許は発行されると思っていい!全くヒーロー志望じゃなければすぐに研究室にスカウトしたかったくらいだ!」

 

 「そんな、私なんてまだまだで……詰まってる技術が沢山あるくらいなんです。このエキスポ中にヒントを見つけられたらなと思ってるくらいで……」

 

 「そうか、ここには1週間いるんだったね?機械系の個性は珍しいからアカデミーの教授たちも興味津々だったよ。私も君とディベートをしたい。良ければ時間を取ろう、話させてくれ。メリッサも参加するといい」

 

 「こ、光栄です!よろしくお願いしますっ!」

 

 「ええ、私も話したい事沢山あるもの!ありがとう、パパ!」

 

 わ、わ~~~~!!!なんてこと!?あのデヴィット・シールド博士とディベート!?夢じゃないよね!?仮に夢だったら私暫く寝込むよ!?ああ、何聞こうかなあ!は、私も聞かれるのか!ええ、プロというか科学界のオールマイトみたいな人から質問とかとちって変なこと言っちゃいそう!ああ、でも超圧縮技術については聞かないと!あとはエネルギー効率の話と熱放出技術についても!忙しいぞー!楽しみ!

 

 「追って連絡させてもらうよ。私の連絡先だ、登録しておいてほしい。ああ、でも先にオールマイトと積もる話をさせてもらえないだろうか。何せ久しぶりの再会なんだ」

 

 「は、はい!もちろんです!ね、デクくん!」

 

 「え!?はい!当然ですよね!」

 

 「ありがとう、メリッサ。二人にエキスポを案内してあげなさい。きっとお前のためにもなる」

 

 「勿論よ!むしろさせて欲しいっていつ言おうか迷ってたもの!」

 

 シールド博士の連絡先!なんて恐れ多いものを……!すぐ登録して返送メールを送っておこう。こういう時私の個性は便利だね。何となく話題を逸らされたような気がしたけど……もしかしてシールド博士はオールマイト先生の後遺症の事を知ってるのかな?でもメリッサさんの様子を見るに彼女は知らないんだ。そういえばオールマイト先生がマッスルフォームを維持して1時間は経ってるし……そうか。気を使ってるんだ。じゃあそれを察さないようにするのも役目だよね。

 

 咳払いに見せかけた咳き込みをするオールマイト先生が心配だけど、シールド博士を信頼して私たちはお暇することにしよう。オールマイト先生、休めるといいのだけど……。

 

 

 

 「すごいねー、ここが人工の島だなんて思えないや!」

 

 「大都市にある施設は一通りそろってるわ、旅行だけはできないけどね」

 

 「守秘義務があるっていうもんね。情報漏洩は怖いから、それを防いで科学者を守るために、でしたっけ」

 

 「そういうことか……あぁっ!?カイジュウヒーロー・ゴジロ!?」

 

 「わ、ホントだ。流石デクくん、すぐ名前が出てくるね。本物が都市部にいるなんてなかなかレアショットじゃないかな?」

 

 デクくんが大興奮で指さしたのは岩のような巨体をのっしのっしと動かすヒーロー、噴火などの大規模自然災害で活躍するヒーロー、ゴジロだ。端的に言えば私の倍は大きい巨体、都市部じゃ二次災害を誘発するということでめったなことでは見ることができないレアヒーローでもある。気づけば周りには日本だけじゃなく各国で活躍する外国のヒーローがファンサービスに励んでいた。私は知らない顔の方が多いけどデクくんはすべて頭に入っているようでアレは誰、これは誰と私たちに解説してくれる。うーん、テーマパークに来た小学生よりテンション上がってるね。

 

 「デクくんはヒーローが大好きなんだね。夜には関係者を集めたパーティーがあるから、その時にもたくさん会えるよ」

 

 「なるほど、正装が必要だっていうのはそういうことだったんだね。スーツのデクくんかあ……期待していい?」

 

 「え、その期待されても困るというか何というか……」

 

 「いやデクくんの私服ってこう……反応に困ってさ。Tシャツって書かれたTシャツとか、いわゆるダサTっていうジャンルっていうのを私は初めて人が着てるのをみたんだよ~。そのデクくんが正装だよ?気になるよ~。大丈夫!私もちゃんとドレス着るから!あんまり私の方は見栄えは良くないけどね、大きいから」

 

 「あはは、それは夜のお楽しみね!ほら、こっち!最新アイテムの展示場があるわ!」

 

 メリッサさんの言葉に私とデクくんの目がギラリと光り輝く。最新のアイテム?見に行かない選択肢はないよねデクくん?うん、同じ考えみたいで安心した。メリッサさんに先導されてやってきたのは最新のサポートアイテムを展示している場所!すっご、滅茶苦茶参考になる!メリッサさんが指し示したのは飛行機型のビークル、なんと陸海空すべてに対応するスーパーマシンらしい。水中まで対応とは恐れ入る。私だけだったら個別に作った方が確実だけど同行者がいるならこういうアイテムは全然ありだ。

 

 「この潜水スーツは深海7000mまでの水圧に耐えられるの!そしてこっちが36種類のセンサーが内蔵されてるゴーグル!」

 

 「深い!見えすぎる!」

 

 「あ、これアクアビット製なんだ。そっちのビークルはアナハイム……職場体験に行けばよかったか……!」

 

 「実は、このアイテムのほとんどはパパが発明した特許を元に作られてるのよ」

 

 「お父さんの事、尊敬してるんですね」

 

 「勿論、パパみたいな科学者になることが私の夢なの」

 

 あのアイテムはこれ、このアイテムはこの特許と説明してくれるメリッサさんはお父さんであるシールド博士のことをかなり尊敬している様子だ。きっとそれは、デクくんのオールマイト先生のような存在が彼女にとってのシールド博士だからだろうか。特許、特許かぁ……パワーローダー先生にどやされて私もいくつか特許出願をせざるを得なかったんだけど、シールド博士の持つそれは私なんかミジンコみたいなものだと思う。世界中のヒーローが彼の発明の恩恵をどこかで受けている、それほどの科学者なのだから。

 

 「メリッサさんは、ここのアカデミーに?」

 

 「うん、そうなの。3年生よ」

 

 「すごいですよね!I・アイランドのアカデミーと言えば全世界の技術屋の卵や科学者志望からすれば夢の学校ですよ!」

 

 「私なんてまだまだ……」

 

 デクくんの素直な賞賛を受けてメリッサさんは顔を赤らめて謙遜をしている。でも、すごいと思うよ。アカデミーはいうなれば世界版雄英高校だ。しかも技術者養成高校だけあってその偏差値は雄英高校よりお高い。難関中の難関であり才能がなければ入れない、優秀な人材の蟲毒とすら言われている。そこに所属し3年生に上がっている時点で彼女は将来が成功するといわれているようなものなんだ。

 

 ん?ん~~~~……私は2歩、3歩と下がってメリッサさんを褒め続けるデクくんと照れくさそうなメリッサさんを少し離れて見る。手でパースを作って収めてみると、意外とお似合いかもしれないね?三奈ちゃんじゃないけど恋バナは割と好きな方だし、これは面白い並び……にやにや。ん?この足音は

 

 「楽しそうやね、デクくん」

 

 「う、麗日さん!?どうしてここに?」

 

 「……楽しそうやね」

 

 わー、お茶子ちゃんだ。こっちに来ているのは当然知っていたけどこうやって連絡せずに会えるとは思わなかったよ~。あとこれが修羅場ってやつ?お茶子ちゃんデクくんが好きだったり?なーんかいつも通りうららかでいるようでいて笑顔が平たんなんだよお茶子ちゃん、ちょっと怖い。

 

 「とても楽しそうでしたわ、緑谷さん。希械さんもごきげんよう」

 

 「緑谷、聞いちゃった。希械、ついたんなら連絡頂戴よ」

 

 「ごめんね~。まだホテルにも行ってないの~」

 

 「そうなん?希械ちゃんはデクくんと一緒だったんやねえ」

 

 「あはは、たまたま飛行機が一緒だったの。ね?デクくん」

 

 「うん!そそそそ、そうなんだ!」

 

 「え、でもマイトおじさまと……?」

 

 荷物自体はメリッサさんが呼んでくれたロボットに部屋に置いておくように頼めたんだけどホテル自体にはまだ行ってない。あとオールマイト先生と一緒、というとなんだか面倒そうだし、公私の私の部分でオールマイト先生と関係があると思われちゃったらデクくんの師弟関係に支障が出ちゃうのでメリッサさんだけに見えるように、私が彼女の前に出てオールマイト先生のことは秘密という文字を背中に投影して教える。メリッサさんが思い至ることがあったのか背中に指文字でオッケーと書いてくれて一安心。

 

 「お友達かしら?」

 

 「そうなんです。私とデクくんのクラスメイトで、麗日お茶子ちゃん、八百万百ちゃん、耳郎響香ちゃんです。姿を見ればわかるけどみんなヒーロー科なんですよ!」

 

 「よろしくお願いいたしますわ。八百万百です」

 

 「麗日お茶子です。よろしくお願いします」

 

 「耳郎響香っていいますよろしくお願いします」

 

 「まあ、そうなの!私、メリッサ・シールドよ!みんな二人のお友達なのね、良かったらカフェでお茶しませんか?」

 

 メリッサさんの提案に、私たちは1も2もなく頷くのだった。




 やったねデクくん、ハーレムだ!(峰田くんが見たら憤死しそう)
 デヴィット博士にも会えて良かったね楪ちゃん。一応ですけどちょっと原作改変しますのでお許しください

 では感想評価よろしくお願いします


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42話

 「へー、女子はみんな来るって話は知ってたけど、クラスのほとんどがいまI・アイランドにいるんだ。世間って狭いねぇ」

 

 「そうだな!俺もクラス委員長として励まねば!」

 

 「こーんなところまできてそれは流石にねーよ飯田~」

 

 「オイラたちだって真面目にやってるんだぜ~?」

 

 「メリッサさんナンパしようとしてたでしょ二人とも。ぶつよ?」

 

 「それかウチのイヤホンジャックか選ばせてあげる」

 

 「「何でもありません!すいませんでした!」」

 

 「みんな雄英高校の生徒さんなのね!とっても個性的だわ!」

 

 私たちが入ったカフェで雑談に花を咲かせていると私たちがオーダーしたドリンクを運んできたのは何とクラスの少しお茶目なコンビこと上鳴くんと峰田くん、その二人が私たちと一緒にいたメリッサさんに目を付けてあろうことかナンパを敢行しようとしたのを止めたのは、クラス委員長の飯田くん。実は彼も家族の代理としてこの島に来ていて、アルバイトに励む二人がちゃんと働くか見守っていたのだそう。そして、ナンパを阻止するためにやってきたのだ。

 

 私だけならともかく他の女子や外部の人に何かするのは雄英の恥になるので私としても強めのお仕置きをせねば、とゲンコツを見せる、そしてそれに便乗してイヤホンジャックをつんつんと動かす響香ちゃんと見た二人は直角90度の角度できれいにお辞儀をして謝る。アルバイトに来たならまともに働かないとね。

 

 「それでねー、明日の一般公開にはみんなで一緒に回るんだ、希械ちゃんも一緒にね!」

 

 「うん、それは約束してたからね。私は試験結果の通知とか呼び出しとかもありそうだからそこまで一緒にはいられないけど……」

 

 「そうなの……折角会えたのだしよかったら私がおすすめの所案内しましょうか?明日の役に立つと思うわ!」

 

 「まあ!よろしいのですか!?ぜひお願いいたします!」

 

 「やった!」

 

 私とデクくん、メリッサさんのパーティーに4人ほど追加された瞬間だね。とても行きたそうな顔をしている上鳴くんと峰田くんには申し訳ないんだけどみんなで飲み物を飲み切って出発することにした。ガックシと肩を落としながらテーブルの片づけをする二人に私は両手を合わせてから皆に合流すると、ズドン!と凄い音が聞こえてきた。

 

 「うるっさ!何この音……?」

 

 「多分ヴィラン・アタックっていうアトラクションね。こっちよ、案内するわ」

 

 ヴィランアタック……確か雄英でも使われてるヴィランロボットを個性ありで撃破したそのタイムを競うアトラクションだったっけ。なるほど、思いっきり個性を振るえるわけだからそれは人気が出そうだね。えーと、誰がやってるのかな……あれっ!?

 

 「えーくん!?」

 

 「え、またクラスメイト?」

 

 「希械ちゃんの幼馴染なんよ~」

 

 「かっちゃんもいる!?」

 

 ヴィランアタックを行っていたのはえーくんだった。硬化した手で岩山を無理やり足場にしてロボットに飛びかかり殴り壊す、それを繰り返してロボット全てを壊したところでタイムが表示される。タイムは22秒、第2位だ。そして手をパチパチ言わせてスタートを待っていたのは爆豪くん、彼はスタートした瞬間に爆破で空を飛び目にもとまらぬ速さでロボットを次々壊していく、タイムは15秒、トップだ。だーくっそ!と言っているえーくんが私に気づく。

 

 「お!おお!希械!なんだ着いてるなら言ってくれよ!お前のおかげで俺もこっち行けたぜ!サンキューな!」

 

 「ううん、全然!えーくんも楽しそうでよかった」

 

 「ああ!楽しいぜ!お前もやったらどうだ!?お、緑谷も一緒か!飯田に八百万たちも!」

 

 「ああん!?」

 

 デクくんの名前が出た瞬間に目が釣りあがる爆豪くん、地雷なんだね相変わらず……てめえ何でここに居やがるだの、色々文句を言う爆豪くんを何とか止めようとする。てめえが俺の記録抜けるハズねえという爆豪くんにうん、そうだねというデクくん、でもやってみなければわからないよねとお茶子ちゃん、そうだねとデクくん。あっ、やっちまった感じする。案の定それにブチギレした爆豪くんがデクくんをスタート位置にぶん投げた。

 

 「んだらやってみろやクソナード!ミジメな結果出してこい!」

 

 あっちゃー。変な形で参加することになったデクくんだけどここは雄英生らしく、やるからには本気、プルスウルトラだ。スタートがかかった瞬間にワンフォーオールフルカウルを発動させて、岩山を跳ねまわり次々とヴィランを撃破していく。おお、ちゃんと自壊しない5%でパワーをセーブ出来てるね!うん、やればできる子のデクくん!特訓に付き合ったかいがあるよ~。そして、かかった時間は16秒、おお、爆豪くんと1秒差だ!やるじゃん!

 

 「ん、の……クソナードが……!」

 

 「よーし、次は私やる!みててねえーくん!1位もぎ取ってくるから!」

 

 「おお!おっしゃ応援してるぜ希械!ぶちかましてやれ!」

 

 「まっかせて~!」

 

 『さあ御次の挑戦者はおおきな女の子!好タイムの連発ですが、どうなるでしょうか!?ヴィランアタック・スタート!!』

 

 「てい」

 

 予め出現位置は絞っていたので右目で捉えたすべてのヴィランをマルチロックオン、私の両手から放たれたマイクロミサイルが空中に七色の噴射煙をたなびかせながらそれぞれのヴィランを同時に撃破した。噴射煙はお祭りなので派手がいいよね、というお遊びだけど、タイムはどうかな?あ、あっさりしすぎてみんなポカーンとしてるや。ふふ、同じ位置に出てくるのなら2回も見れば位置なんてすぐですよ。そして私はこういうのが得意なんです。

 

 『し、新記録!ぶっちぎりの新記録です!タイム7秒!現在トップに躍り出ました!』

 

 ふふん、と憧れの地にいるせいかハイテンションな私は胸を張ってえーくんにピース。えーくんは腕を振り上げて喜んでくれるけど爆豪くんは緑谷君の胸ぐらを掴んで振り回してたのを放り捨ててずんずんこっちにやってくる。こわぁ……。

 

 「おい……」

 

 「な、なにかな?」

 

 「調子に乗るんじゃねーぞ、5秒以下とって突き放したらぁ……」

 

 『おおっと13秒!現在第二位に躍り出ました!』

 

 「あああああっ!?」

 

 「ひぃっ!?」

 

 私の次の挑戦者がデクくんと爆豪くんのタイムを上回る好タイムを叩き出したせいで瞳が吊り上がり作画が変わったような人相になる爆豪くん。これ以上はダメだ、私は彼を羽交い絞めにして回収する。離せコラァ!と暴れる爆豪くんを空輸しながら挑戦者の人を見ると……氷山だ、んん!?

 

 「あ、轟くん!来てたんだね」

 

 「ああ、楪。緑谷たちも一緒なのか」

 

 「轟くん!こっちに来てたんだね!紹介するよ、こっちのアカデミーに通ってるメリッサ・シールドさん!」

 

 「メリッサ・シールドです。雄英生ってすごいのね、退屈しなさそう」

 

 「離しやがれ楪コラァ!クソ重いもん押し付けてんじゃねえわ!」

 

 吠える爆豪くんを苦笑いして羽交い絞めし続ける私。そりゃあ、私の手足は重いけれども。いつの間にかやってきた百ちゃんにより猿轡をかまされて、ぐるぐる巻きにした爆豪くんを担いだえーくんたちと一緒に私たちはヴィランアタックのパビリオンから離れるのであった。雄英の恥部はあの二人以外にもいたね……。

 

 適当なところで爆豪くんを解放した私たちだけど、爆豪くんは団体行動なんかしてられるか!とさっさと行ってしまい、招待チケットを持ってるえーくんも追いかける形で離脱してしまった。えーくんとは夜に会う約束したし、この後のパーティでも一緒だろうから平気。そして私たちは目いっぱいにエキスポを楽しんだのだった。

 

 帰り際に1日頑張ったであろう上鳴くんと峰田くんにメリッサさんからご褒美パーティチケットを渡され、レセプションパーティーに行くメンツが決まり、仕切りだした飯田くんが集合時間を決めてしまった。それならということで準備をする私たちは、解散となり、ホテルが同じデクくんと私とついでにメリッサさんが残る。メリッサさんがついてきてほしいところがあるといって私たちを先導し、ついた場所は何とアカデミー、メリッサさんの研究室だった。個人で研究室を持つって相当凄いよ!?雄英じゃ発目さんくら……彼女は一緒に人がいると危ないからか。

 

 「ふふ、じつはね。私そんなに成績良くなかったの。マイトおじさまみたいにヒーローになりたくて一杯勉強したわ。だけど、無個性だったから諦めたの」

 

 「……無個性……!?」

 

 デクくんの驚く声が聞こえる。無個性っていうのは私たち第5世代と呼ばれる世代の子供たちには珍しいものだった。デクくんもワンフォーオールを受け継ぐまでは無個性だったって聞いてるしそれを理由にいろいろ嫌なこともあっただろう、同じ、なんだきっと。デクくんもそう思ってるんだね。

 

 「でもね、私にはもう一つ目標があった。それが私のパパ、個性なんて関係なく誰でも広く助けられる技術を持って人を助けている。間接的にヒーローをしているの」

 

 「科学は万人に開かれてる。学べば応え、使えば応える。責任はその人間にある……それならばヒーローを助けるヒーローに……」

 

 「パパの格言ね!そう、楪さんの言う通り。私は科学で、皆を助けるヒーローになりたい。だから、その第一歩としてこのアイテムをデクくんに送りたいの」

 

 メリッサさんが白い箱から取り出したのは赤い腕輪のようなもの、それをデクくんの右手につけると、タッチパネルのようなものをぽん、と押した。するとそのアイテムは自らの形を取り戻すようにデクくんの右手にバンテージのように巻き付いて硬質化、固定化して腕を守る防具、ガントレットを形作ってしまった。これは、また超圧縮技術……!右目で分かる、これ私が作ったガントレットとは比じゃないくらい頑丈だ。すっごい、メリッサさん……!

 

 「これはマイトおじさまを参考に作ったものなの。デクくん、なんだか個性をセーブして使ってるよね?もしかして体に見合ってないんじゃないかと思って……そのガントレットはマイトおじさまの全力でも3発までなら拳を守ってくれるわ」

 

 「すごいね、メリッサさん。デクくんが個性をセーブしてたのを見抜くなんて。デクくん、全力でパンチしたら手が壊れちゃうもの、いいもの貰ったね」

 

 「やっぱり、それは名付けるならフルガントレット、といったところかしら。困っている皆を助けられるヒーローになってほしいの。未来のヒーローヘの、投資かしら?」

 

 いたずらっぽく笑うメリッサさんからのデクくんに向けてのエールに、彼は姿勢を正して学校で返事をする時以上に力強く「はい!」と答えた。満足げにそれを見守るメリッサさんはまさに技術者、科学者の顔だった。しかし、すごいもの貰ったね、デクくん。

 

 「あ、ユズリハさんにはフルガントレットの設計図とデータ、あとは超圧縮技術の細かいところまで教えるわ」

 

 「待ってくださいそれは流石にまずいです!技術者として何より大事なものですよ?」

 

 「いいえ、さっきユズリハさん言ったでしょう?科学は万人に開かれているって。パパのあの言葉を聞くにサポートアイテムの免許は発行される。それなら雄英で、デクくんにフルガントレットを改良して作り続けてあげて欲しいの。それが間接的に私の作品がデクくんを助け続けることになるわ」

 

 「……そういう、ことなら。ですけど私もタダでもらうわけにはいきません。なので、私が製作したパワードスーツを支える技術の一つを交換という形で受け取ってほしいです。これなら、見合うと思います」

 

 「嬉しいわ!貴方に出会えたことに感謝しなくっちゃ!」

 

 メリッサさんにそこまで言われたら私が受け取らなければ無粋だ。だけど、貰い過ぎもよくない。なので私から差し出すのは、パワーシリンダー……オールマイト先生並みの馬力を生み出す駆動装置だ。文字通りの秘蔵技術だけど、このくらいは差し出さなければ割に合わない。彼女の努力の結晶を受け取るのだから。ささっとメモリにすべてをまとめたメリッサさんがそれを差し出し、私も指から交換する技術が詰まったメモリを差し出した。今までで一番重いメモリを差し込んで読み取る。解析は後。

 

 フルガントレットを元に戻したデクくんがそれを見つめてると、ピリリリ!とデクくんの携帯が鳴った。ん?と思って時計を見ると……あ、まずい!もうすぐ集合時間過ぎちゃう!飯田くんに謝らなくっちゃ!わたわたと電話に出たデクくんのスピーカーモードの携帯から飯田くんの怒声が響いた

 

 『何をしている緑谷君!集合時間までもう少しだぞ!』

 

 「えっ!?あっ!?しまった!?」

 

 「ごめん飯田くん、ちょっと用事が入っちゃってそっちにかかりきりになっちゃったの。申し訳ないけど遅刻しちゃう」

 

 『む、それなら連絡を入れてくれれば、いや急用ということなら仕方ないな。分かった、待機してるので急いで来てくれ』

 

 「ごめんね」

 

 飯田くん結構怒ってた~~!急がないと!ダッシュ……というか飛ぶよ!デクくんほら掴まって!ホテルまで飛ぶから!メリッサさんは?あ、お家すぐなんだ!じゃあパーティー会場で!ヒーロースーツでよかったぁ!腰からアルビオンのテールバインダー二基を作り出した私はデクくんを抱えて研究室の窓から飛び立ち、ホテルへ急ぐのだった。個性が使用自由でよかった!飛んでる人も結構いるしバレないよね!いそげ~~!




 祝フルガントレット、デクくんの固定装備化!やっぱりね、血反吐吐きながら個性を使いこなしていくのもいいですけど安全策取れるなら取りたいですよね。

 次回なんとか頑張って楪ちゃんの正装考えます。少し更新遅れるかもです。感想評価よろしくお願いします


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43話

 「変じゃないよね……?」

 

 ホテルの部屋の姿見の前で私は来ている礼服と髪型、お化粧が変じゃないかを何度も確認する。夜のパーティーに参加するのなんて初めてなものだから緊張するなあ。この日のためにお母さんといっしょに選んだドレスだし気に入ってるんだけど……ちょっとえーくんに見せるのが楽しみかも。三奈ちゃんには後で写真送ってあげよっと。

 

 私が着ているのはブルーグレーのオフショルダー、フィッシュテールのドレス。いつもの手袋じゃなくて長いレースの手袋、脚もカバーを付けている。スカート丈は後ろの方が私の脹脛くらいまである。夜会のドレスは肌をある程度見せるのがマナーらしいのでオフショルダーを選んだんだけど、いいのかなこれで?その、谷間まで見えちゃってるから下品な印象を持たれないといいんだけど……。

 

 髪型も変えてるし私だってわかってくれるかな?個性で髪を少し短くして、緩い三つ編みを作ってサイドから流してるの。流石に正式なパーティーに御呼ばれしてるのに顔のほとんどを髪で隠してるだなんて失礼極まりないので今日はちゃんと髪を分けてピンでとめて両目を出してるんだ。うーん、落ち着かない。ああ、そろそろ行かなきゃ!足の色もドレスに合わせたし、多分これで大丈夫。

 

 すでに遅刻してるのでひぃひぃ言いながらドアを閉めて鍵をかけ、手近なエレベーターに乗る。何とホテルはセントラルタワー内だから集合場所までエレベーターで直通なの!すごいねI・アイランド!あ、えーくんに連絡……繋がらない?あ、また携帯を忘れてるね?もー、合流したらでいっか。あ、ついた。

 

 「ごめんね~、お待たせしました」

 

 「ゆ、楪さん!?」

 

 「そうだよ?あ、そんなに印象変わった?似合ってる?デクくんはハマってるね、礼服」

 

 「神よ……」

 

 「オイラは今日生きてて初めて神の存在を信じたぜ……」

 

 私より先に集まってたのは男子たち、ただ爆豪くんがきっと渋ってるんだと思うんだけどえーくんと爆豪くんはまだ来てない。正装のデクくん、飯田くん、轟くん。ウェイター服に上着を着た上鳴くんと峰田くんが先に待ってたみたい。女の子は準備に時間がかかる……って遅刻してる言い訳に使っちゃダメだよね。反省。

 

 私の姿を見た途端上鳴くんと峰田くんは手を合わせて私を拝んだと思ったら天を見上げて今度は神様にお祈りを始めた。これ如何いう反応なんだろう?似合ってると考えてもいいのかな?それともご愁傷様、見るに堪えないから目を逸らすねっていうやつ?後者だと私そこはかとなく傷つくんだけど……。

 

 「に、に、に、似合ってるよ、楪さん!」

 

 「ほんと?よかった~~。デクくんもかっこいいよ、素敵」

 

 「……目、出したんだな」

 

 「うん、正式な場で顔を隠しているのは失礼だからね。またお揃いだね~」

 

 「そうだな。よく似合ってる」

 

 「うむ!楪君らしいドレス姿だ!似合っていると俺も思う!」

 

 あ、もしかして結構高評価?あまりに褒められすぎてちょっと恥ずかしくなってきちゃった……。どもりながらも褒めてくれるデクくんに、私が両目を出した状態を気に入ってるらしい轟くん、真面目な飯田くんがダメだししなかったってことはきっとこの服装はちゃんとTPOを弁えてるということなんだろう。そんなことをやってると別のエレベーターのドアが開いた。

 

 「ごめーん!遅れてしもうた~~」

 

 「申し訳ありません、響香さんが……」

 

 「だ、だってウチこんな格好したの初めてで……」

 

 「「おぉぉ~~~~っ!!!」

 

 どうやら響香ちゃんがかなり渋ったみたいだけど百ちゃんセレクトらしい礼服に身を包んだ3人、超かわいい。私なんか目じゃないくらいカァイイなあ。自信もっていいよ、峰田くんと上鳴くんを指標にしちゃだめだけどね。デクくんはお茶子ちゃんを褒めていて、上鳴くんはサムズアップで響香ちゃんを褒めてる。あ、照れ隠しでイヤホンジャック。あちゃ~。デクくんに褒められたのがよっぽど嬉しかったのかお茶子ちゃんは顔を赤くして手を振り回して慌ててる。うーん、青春。

 

 「き、希械さぁ……だ、大胆、だね」

 

 「え、そう?夜会である程度肌を見せるのはマナーって聞いたんだけど……」

 

 「ええ、間違っておりませんわ。正礼装、大人っぽくてお似合いですわよ」

 

 「ほんと?嬉しいなぁ。お嬢様の百ちゃんに言われたら自信出てきた」

 

 響香ちゃんが私の姿を上から下まで眺めて、イヤホンジャック同士をつんつんとしながらそう評してくれる。大胆かあ、下品って言われないだけましかな?機械部分がカバーとか手袋とかでほとんど見えてない状況だからそういう風に見えちゃうのかな?でも百ちゃんが両手を合わせて褒めてくれるってことはお墨付きをもらえたということなので胸を張っていいだろう、むん。

 

 「あれ?デクくんたちまだここに居たんだ?パーティー始まっちゃってるよ?」

 

 「真打ち登場だぜ!」

 

 あ、メリッサさん。メリッサさんもまたカワイくて、私並みにセクシーな正装に身を包んでいる。そんな大胆に足を露出する正装もあるんだね……。流石はパーティーの本場アメリカ出身、いやこれは関係ないか。あと峰田くんと上鳴くんのテンションが酷い。真打ち登場ってなに……?私らはおまけですかそうですか、ちょっと傷ついたぞ。

 

 「ダメだ、爆豪君も切島君も電話に出ない。全く団体行動を何だと思ってるんだ……」

 

 「えーくんは多分携帯忘れたんじゃないかな?爆豪くんはよくわからないけど……」

 

 先ほどから5分おきというすさまじい正確さで二人に電話をかけていた飯田くんが首を振る。なんせ私が来てから通算3回目だからね、もう諦めるしかないよ。えーくんが頑張って爆豪くんを連れてくることを信じて先にパーティーに行かないと……

 

 『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムより、エキスポ会場内に爆発物が仕掛けられたという情報を入手いたしました』

 

 「えっ?」

 

 「……爆発物!?」

 

 「メリッサさん、これ信用できる?」

 

 「ええ、I・アイランドの警備システムの堅牢さは折り紙付きよ。だからこそ、バレずに爆発物を持ち込むなんて不可能なはずなのに……」

 

 突然の警報、I・アイランドに爆発物?……ありえない。私は元よりメリッサさんがそれを一番よく理解してるはず。I・アイランドはエキスポの開催に合わせて普段でもタルタロス級の警備をさらに厳戒態勢で運用してる。ネズミ一匹どころかありんこの足跡まで把握できるほどのはず。その状態のこの人工島に爆発物を持ち込む?さらに警備が一番厳重なエキスポのエリアに仕掛けた?嘘としか言いようがない。

 

 私の考察をよそに警備システムの音声はより厳重モードに入ることを警告している。これ以降の外出者は問答無用で拘束されること、さらには……主要施設はこれより封鎖されること……私たちがいる場所でも窓に防火シャッターが閉まっていき、常夜灯の光だけが照らす暗闇が私たちを包んでしまった。そして、あらゆる手段の連絡網が断たれた。携帯の電波に、ネット、無線……全部だめだ。

 

 「……パーティー会場に、様子を見にいこう」

 

 「なぜだ、緑谷君。警備システムの言う通り部屋に帰るべきじゃないか?」

 

 「ううん、違うの飯田くん。今この島、オールマイト先生が来てるの。こうなった時点で動き出してないと変じゃないかな?」

 

 「オールマイトが……!」

 

 「何だ、それなら安心だな!」

 

 薄く動揺が広がりつつあった私たちを一瞬で冷静に戻してくれる平和の象徴、その彼が動けばこんな事態は一瞬で鎮圧されている。けど、もしパーティー会場で何かあったとしたら……避難誘導の手伝いくらいは許されるはずだ。デクくんと同じ考えかどうかは分からないけど、様子を見るくらいは大丈夫なはず。

 

 「メリッサさん、ここから徒歩でパーティー会場に行けますか?」

 

 「ええ、非常階段があるから……」

 

 メリッサさんが指し示した防火扉の先の非常階段、私は重い扉を開けて、そのままみんなを促して非常階段を昇る。パーティー会場近くまで来たところで、大人数でいくと仮にヴィランがいた場合オールマイト先生をピンチにしかねないという理由で響香ちゃんと護衛役の私とデクくんでパーティー会場の上階の窓から様子を伺うことにした。

 

 「2人とも、これ被って」

 

 「え、これ……」

 

 「わかった」

 

 光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリ―)のポンチョを作り出して二人に手渡す。同時に私も被って透明になると、二人も用途を理解したのか素直に被ってくれてその状態でパーティー会場の上からのぞき込むような形で様子を見ると……やっぱり、パーティー会場の中では武装したヴィランと警備システムの捕縛用ワイヤーにかかったオールマイト先生の姿が。

 

 デクくんが携帯のフラッシュをつけたり消したりしてオールマイト先生の注意を引く。気づいてくれたオールマイト先生が見えるように空間に投影された文字で『デクくんと楪です、響香ちゃんが聞いてますので状況を説明してください』と表示する。オールマイト先生の口元が動いた瞬間に画面を消した。

 

 「ヴィランがタワーを占拠、警備システムを掌握……!?人質は島民全員で、ヒーローたちも拘束されている。危険だから逃げなさい……!?ヤバいよ、希械、緑谷!」

 

 「……一番最悪のパターン引いた感じだね……」

 

 「いったん戻ろう、二人とも」

 

 デクくんの号令で私たちは一旦、非常階段の踊り場に戻る。待っていた皆に状況を説明すると皆、黙り込んでしまった。私もどうすればいいか分からない、ただ一つ言えるのはこのままだとI・アイランドはヴィランの思うがままにされてしまうということ。行方が分からないえーくんと爆豪くん、ホテルにいるであろう三奈ちゃんを始めとしたクラスメイト達の安否も非常に気がかりだ。

 

 「……俺は、オールマイトの提案通りに脱出するべきだと思う。俺たちができることは、何もない」

 

 「飯田さんに賛成しますわ。私たちはまだ無免許、ヒーロー活動はできません」

 

 「んならよ、何とかして脱出して外のヒーローに……」

 

 「無理、かな。ここの警備はタルタロス級だから……外から入りづらいのは勿論だけど……中から逃がさないようになってると思う」

 

 「じゃあ、オイラたち待つしかねーのかよ……」

 

 飯田くんの現実的な提案に賛成する百ちゃん、上鳴くんに峰田くん。そう、そうなんだよ。私たちに許されるのは逃げることと、隠れること。嵐が過ぎ去るまで震えて待つしかない……けど、それがこの状況の最適解だとは思えない。

 

 「ねえ、メリッサさん。警備システムってこの塔の最上階にあるんだよね?ヴィランが制圧したってことは……」

 

 「警備システムのプロテクトが解除されてる……!奪い返せるかもしれないわ!」

 

 「ダメだ!オールマイトが逃げろと命令してるんだぞ!?俺たちが規則違反を犯してヴィランと戦うわけにはいかないんだ……!」

 

 「ウチは、希械に賛成する。ただ震えてヴィランが好き勝手するのを黙ってみてるなんて……ヒーローじゃないよ……!」

 

 私とメリッサさんのやり取りに賛成したのは響香ちゃん、それに続くのは轟くんだ。ヒーローを目指しているなら、ここで指をくわえて見ているわけにはいかない。何もしなくていいのか?という轟くんの問いかけに飯田くんは押し黙ってしまう。飯田くんも分かってるんだ、本当ならどうしたいか。けどそれはしちゃいけないことだから賛成できない。

 

 「……助けに行きたい。戦う必要はないんだ。隠密行動して最上階までいって、システムを取り戻す。そうすれば、ヒーローたちが動けるようになる」

 

 「デクくん!行こう!私たちにしかできないことがあるならやらないと!ヒーロー以前の問題だと思う!」

 

 「うん、行こうよ。幸い、私たちはまだ気づかれてない。それなら、気づかれないように上に登って、どこかの端末から私の個性でクラッキングを仕掛けるか……」

 

 「私が直接、システムを変更するわ。お願い、私も行かせて欲しい!きっと役に立てるわ!」

 

 麗日さんがデクくんに賛成をし、私もそれに続く。メリッサさんもそれに続いて、百ちゃん、響香ちゃん、轟くん、上鳴くん、峰田くんも次々に賛同に回ってくれた。ステインの件があるからか、飯田くんはそれでも消極的だったけど……止めても行くということを理解したんだろう。深くため息をつきながらも了承してくれた。

 

 「……危険になったら引き返し、逃げに徹する。それを吞んでくれ、でなければクラス委員長として賛同できない」

 

 「ありがとう、飯田くん!みんな!行こう!」

 

 デクくんが飯田くんの目を真摯に見つめて、皆の言葉を代弁してくれる。私たちはそのまま急いで非常階段を駆け上っていく。途中でデクくんはパーティー会場を覗き込み、オールマイト先生と無言のやり取りをした。最終的に振り切る形になってしまったのだろうが、やれることをやってから怒られよう。今は、誰も犠牲にしない方法を探るんだ。

 

 

 




 動き出しましたね。さあみんなに頑張ってもらいましょう

 では次回から戦闘です。感想評価よろしくお願いします


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44話

 階段を駆け上がる。非常階段はどうやら監視カメラなどの防犯機能の対象外らしく、着ているだけで邪魔になってしまう光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリー)を着ながら走る必要はないみたい。幸い私たちの体力はそれなりに余っているから、階段を昇り続けることくらいはなんてことない。

 

 「最上階って何階だ!?」

 

 「200階だよ!今30階!」

  

 「マヂか!そんなにあるのかよ!?」

 

 「文句言う暇あったら足を動かす!」

 

 「ヴィランに出くわすよりはましですわ!」

 

 走りながら階数表示のプレートを見て上鳴くんの疑問に答えると、まさか200階まで階段だという事実に打ちのめされる峰田くん、彼は歩幅が私たちと違い過ぎるから体力の消耗も激しいだろう。それに……技術畑のメリッサさんなんかは特に体力がないと思う。ええい、この際恥ずかしいとか見られたくないとか言ってられないや!

 

 「お茶子ちゃん、全員浮かせてもらえる?お茶子ちゃんは私におんぶの状態でそのままでお願い」

 

 「了解!みんな、手を!」

 

 「よいしょっと」

 

 「うおおおお!!ぎゃあああっ!?」

 

 スカートをたくし上げて足カバーを外す。お茶子ちゃんがその後ろでみんなの手に振れて無重力状態にして浮かせている。何があるか分からない以上体力の消耗は避けるべき、それは私もそう。だから、機械に任せられる部分は任せちゃおう。私のスカートの中を覗きに来た峰田くんがイヤホンジャックで沈黙してるけど、全部終わったらビンタするからね。

 

 脚が変形して、人外の形をとる。鋭く先がとがった8本足、端的に言えば今の私はアラクネ状態、蜘蛛でいう腹の部分にゼログラビティ状態のみんなを乗せて、ワイヤーで固定し、無音で走り出した。お茶子ちゃんは許容超過しての酔いを避けるために自分は浮かせてない。ちょっとぎゅうぎゅうで申し訳ないけど許してね。

 

 「なんでオイラの扱いがこんななんだよ!」

 

 「殴られないだけありがたいだろ、峰田」

 

 「轟ィ!場所変われ!」

 

 「峰田君!状況を考えたまえ!」

 

 「すごい、ユズリハさん……でも体力が……」

 

 「生身部分は動かしてないから大丈夫!一気に登っていくよ!」

 

 一番後ろで逆さま状態でぐるぐる巻きになっている峰田くんの抗議は無視する。スカートの中は見られたくないの、いくら私でも。暫くそこで反省しててください、ちょっとしたら普通に戻すから。アラクネ楪ちゃんのスピードはまあ、並みだけどみんな抱えてこれ以上早く階段を昇る方法は正直思いつかないから、許して欲しい。メリッサさんが私の体力を心配してくれてるけど、まあ機械なので!金属疲労以外は平気!

 

 そんな感じで50階を越えて、70階を過ぎ、80階に到達しようとしたところで、私は立ち止まる。隔壁が降りている、このままじゃ進めない……!ああ、もう!非常階段のくせして非常時に使えないとはなんということだ!文句を言ってもしょうがないけど!みんなを下ろして、お茶子ちゃんがいったん個性を解除する。

 

 「どうする、壊すか?」

 

 「ダメ!そんなことしたら警備システムに引っかかってヴィランに気づかれるわ!」

 

 「……うーん、操作できそうな端末も見当たらないなあ……」

 

 パネルか何かがあれば私の個性で一部だけハッキングして隔壁を開けることもできるんだろうけど……流石はI・アイランド、そんな便利な穴は見当たらないよね……。アラクネ状態の私がうーん、と天井スレスレを掠っている頭をかしげて考えているとぐるぐる巻き状態の峰田くんが

 

 「じゃあ、このドアの向こうに行けばいいんじゃねえの?」

 

 「なるほど峰田、それがいいかもな」

 

 「あ!ダメ二人とも!」

 

 峰田くんが指し示したドアに、上鳴くんが手をかけてしまった。慌てて止めるのも間に合わず、ドアが開いてしまう。轟くんが走れ!と言って皆でドアをくぐって走り出す。私はその場にアラクネを捨てて自分の足で走り出した。峰田くんのワイヤーを切り離してからどうすべきか頭を高速回転させる。

 

 「気づかれた……!」

 

 「しょうがないよ!どっちにしろあの状態なら隔壁壊すかドアを開けるかだから!」

 

 「反対側に同じ構造の非常階段があるはずよ!そこまで走って!」

 

 「わかりましたわ!」

 

 「急ぐぞ!」

 

 飯田くんの号令に従って皆が廊下に転がり込んで急いで走りだす、当然ここには監視カメラが山ほどあるので、気づかれてしまっているだろう。それを現すように、廊下の隔壁である防火シャッターが次々と上から迫って閉まっていく。あっ!あれは!

 

 「楪さん!危ない!」

 

 「いいから!飯田くん!ドア!」

 

 「そうか!了解した!」

 

 「楪!」

 

 私は防火シャッターの下に身を躍らせるとシャッターを受け止めて、持ち上げた。グギギギギ、と異音を立てて私を押しつぶそうとするシャッターを押し込める。視線で飯田くんに示したドア、飯田くんはすぐに私の意を察してくれて蹴りでドアを壊してくれる。轟くんが氷結でシャッターを凍らせてくれたおかげで私も脱出し、壊されたドアの先にみんなで入る。

 

 中に入ると、うっそうと生い茂った植物と、近代的な機械装置のコントラストがアンバランスな場所だった。メリッサさんの説明によるとここは植物プラント、個性の影響を受けた植物を観察するための施設らしい。足を止めずにそこを突っ切ろうとすると響香ちゃんがみんなを止めた。見るとエレベーターが動いている。急いで皆植物の影に隠れる。

 

 「ガキはこの中にいるらしい」

 

 「ああ、メンドーなとこに隠れやがって……。匂いがするな、こっちだ」

 

 「……完全に気づかれてる……!」

 

 ヴィランたち、抜け目がない。背が高くて細い男とずんぐりむっくりな男の二人組、ずんぐりずむっくりなほうは個性なのか鼻をひくつかせて確実に私たちの方に向いた。完全に気づかれてる……!みんなの顔が青くなる、しょうがない。覚悟を決めなきゃ……!

 

 「皆、いい?私が飛び出したら一目散に非常階段を目指して。いいね?」

 

 「何を言ってるんだ!戦闘は……!」

 

 「今この状況でそれはもう通らないよ。逃げるかまた上に行くかは飯田くんに任せるけど……この中で、時間稼ぎが一番できるのは私だよ。他の人は残らないで。巻き込むかもしれないし、私も本気で戦えない」

 

 「希械さん……!」

 

 「さあ、行って!」

 

 「……っ!楪、絶対追いついてこい!」

 

 「もちろん!」

 

 手袋を脱ぎ捨て両手に機関砲を展開した私が植物の影から飛び出してヴィラン二人組に向かって走り出す。他のみんなは私と逆方向に走っていく。私はヴィランたちに向かって機関砲を連射するが、のっぽの方の男の手が手袋を破って肥大化し、振るわれた風がカマイタチとなって弾丸を一掃し私に襲い掛かる。体の方は手でガードしたけど……

 

 「ドレス、お気に入りだったのに」

 

 「わーるいことしたなぁ?大人しく死んでくれや」

 

 「一人か?いや、時間稼ぎか。涙ぐましいぜ、女残してとんずらか」

 

 「ふふ、私一人で十分なだけだよ?卑怯なことしかできないヴィランなんて」

 

 「強がったってなぁ……ガキ一人30秒もいらねえわ」

 

 カマイタチでドレスはずたずた、にやにやと笑うヴィランたちにむかっとしたけど今は冷静でいることが大事。火力をあげよう、圧搾空気から火薬で発射に変更、弾丸を徹甲弾へ。これでだめなら近接戦闘かな。ジャコッ!と大口径に変形した私の両手の機関銃を二人に向ける、ずんぐりむっくりの方のヴィランの身体が毛で覆われ、巨躯に変わった。人と獣のあいの子のようになったヴィランが跳躍して私に拳を振り下ろそうとする。

 

 咄嗟に両腕で防御しようと腕を構えた。衝撃に備え歯を食いしばってたら……予想された衝撃が来ない。はっと目を前に向けると、目の前に見知った背中があって、ヴィランの拳を体で止めてくれていた。

 

 「おい、誰かしらねえけどよぉ……俺の幼馴染に何してんだ!?」

 

 「こいつ、俺の拳を……ぐあっ!!?」

 

 「死ねえ!」

 

 「えーくん!爆豪くん!」

 

 獣人ヴィランの拳を止めていたのは硬化したえーくんだった。もう、かっこよく駆けつけてくれて!ありがとう!大好き!そして爆豪くんが爆破でヴィランを吹っ飛ばしてくれる。体勢を立て直した私は数瞬考えて爆豪くんに指示を飛ばす。

 

 「爆豪くん!私の後ろでみんなが上階を目指してるの!貴方の力が絶対にいるから追いかけて!詳しくはみんなから話を聞いて!」

 

 「ああ!?俺に指図す「お願い!」……チッ!」

 

 一瞬反発した爆豪くんだけど、真剣に頼んでたおかげか緊急事態であると理解したからか、舌打ち一つだけして爆破で空を飛んでみんなを追いかけていってくれる。えーくんは何も言わずともここで残ってくれる構えだし、これで私たちの勝ちは確定した。えーくんがいれば、私は誰にも負けない。私のヒーローが一緒だもの、かっこ悪い所見せられないよね。

 

 「おい、どっちだよ。こいつに攻撃したの」

 

 「俺だよ、悪いなクソガキ。かわいー彼女のおべべを破っちまってよ」

 

 「服だけしか破れてないけどね。団扇みたいな手の割にそよ風しか起こせないんだ?」

 

 「言ってくれるねえ……!」

 

 「ってぇな……あ?他のガキ逃げたか」

 

 「この馬鹿ガキ潰してさっさと追うぜ」

 

 どうも、このヴィランたちは私たちのことを知らないらしい。私たちが有名だとかそんな話じゃなくて、ヒーロー志望の学生だということを把握できてないようだ。獣人ヴィランが妙に強気なのもおそらくただの一般人の子供相手だと思ってるからだろう。ガツン!と拳と拳を撃ちつけたえーくんが私の前に出てヴィランたちに立ちふさがる。私はビリィ!とドレスのスカートを破って動きやすい形に変える。もったいないなもう!そして、戦闘形態に手足を換装した。

 

 「えーくん、いくよ」

 

 「おう」

 

 短くそう言って、えーくんは振り返らず返してくれた。それが生意気だったのだろうか、団扇のヴィランが両手を振って風を起こした。けど、えーくんが全てを受け止めてくれる。右目の観測、風を起こしてるんじゃないな。空間がえぐれてる。カマイタチは副次的効果なんだ。当たったらいくら私たちでもまずいかも。

 

 「くたばれクソガキ!」

 

 「ふんっ!」

 

 「ごぁっ!?」

 

 獣人ヴィランがえーくんに向かって飛びかかる。えーくんは獣人ヴィランの拳に拳をぶつけて対抗、打ち負けはしたものの相手の拳はえーくんの硬化した拳によって潰れて、拉げてしまった。即座に体勢を立て直したえーくんは軽いフットワークで相手の懐に入る。私はそれに合わせて足のバーニアで飛びあがった。えーくんのボディブローが正確に相手の肝臓を打ち据え、私のドロップキックが顔面を撃ち抜く。吹き飛んだ獣人ヴィランは壁にめり込んで気絶。団扇のヴィランは一瞬で行動不能にされた相方を見て冷や汗を流した。

 

 「えーくん、正装似合ってるね。汚れてないの見たかったなあ」

 

 「お前もな。ドレス、一生懸命選んだんだろ?ちゃんと見たかったぜ」

 

 「後で写真見せてあげる。全員助けたあと」

 

 「何者だ、お前ら……!?」

 

 ドロップキックの体勢で落下する私を横抱きで受け止めてくれるえーくん、戦闘で汚れちゃってるけどえーくんの正装、カッコいいな。お姫様抱っこの状態から立たせてもらい、残った団扇のヴィランを二人で見据える。

 

 「えーくん、あの手直接受けちゃダメだよ。多分防御できないやつ」

 

 「あー、俺そういうの苦手なんだよなぁ……突っ込むわ」

 

 「ん、わかった。じゃ、行ってらっしゃい」

 

 ジャコ、ジャキジャキ、と私の足や手が変形してハリネズミのように重火器やらミサイルが顔をだし、冷や汗をだらりと流したヴィランに私はにっこりと笑顔を向けて……全弾を相手を囲むように発射した。えーくんは私が制圧射撃を始めた瞬間に合図無しでまっすぐ相手に突っ込む。必死になって手を振るいミサイルや銃弾を排除しようとするヴィランだけど数が多すぎて追いついてない。えーくんの背中にも被弾してしまうけど、彼も私もそれは織り込み済み!当たっても大丈夫なのはお互い知ってるし、信頼してるから!

 

 「おい、歯……食いしばれ!」

 

 「待っ……!?」

 

 つるべ打ちのミサイルの煙に紛れて接近したえーくんの硬く硬く握られた拳がヴィランの顔面を捕らえる。命乞いに聞き耳持たなかったえーくんの鉄拳が顔面に直撃して背後のエレベーターの壁を陥没させるほどの威力をもってヴィランに襲い掛かった。うわー、いたそー……あれえーくんかなり本気で殴ったね。当然ながらヴィランは気絶……ズタボロの正装だけど私たち二人とも無傷。戦果としては上々だ。

 

 「えーくん、ん」

 

 「おう!」

 

 ガツン!と拳と拳をぶつけ合った私たちは、ワイヤーでヴィラン二人を拘束しにかかるのだった。

 

 




 流石はえーくん、お強い。アラクネ希械ちゃんの想像図は皆さんにお任せします。ですけどでかいのは間違いないです、はい。折角着たのに秒でボロボロにされる正装、おいたわしや。

 感想評価よろしくお願いいたします。


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45話

 「なし崩し的にやっちまったけどよ……何が起こってんだ?」

 

 「…………放送、聞いてなかったの?」

 

 「あー、なんか流れてたような……」

 

 「えーっとね……?」

 

 ステインに縄抜けされた前回を踏まえて脱出できないように手錠、足輪、重り、その他あらゆる手段を用いてヴィラン二人をぐるぐる巻きにしていく私にそういえば、といった感じのえーくんが手錠をガチャガチャと相手に嵌めながら聞いてきた。え、まさか何も知らずに当然のように加勢してくれたの……?そういえば爆豪くんも状況を分かってなかったような?

 

 とりあえず私は知っている情報をえーくんに話す。ヴィランが島内のセキュリティを全部乗っ取ったこと、オールマイト先生を始めとしたヒーローたちは島内の人間を人質に取られて拘束されたせいで動けないこと、唯一自由の身である私たちでセキュリティを取り戻すことが出来ればオールマイト先生が自由に動けるようになり状況が逆転すること。全て話し終わった私が猿轡をヴィランに嚙ませてガンガン、と手をはたく。なるほど、と得心顔のえーくん。

 

 「いや、お前が殴られそうだったからつい頭に血がなぁ。しかしまあ、状況は分かったぜ。さっさとみんな追いかけてオールマイトを助けようじゃねえか!」

 

 「うん!あ、でも……その前にまだひと悶着ありそう」

 

 「あ、あ~~……多くね?」

 

 先を急ごう、と話しをまとめ上げたところで聞こえたサイレン、その方向に目を向けるとI・アイランドの警備ロボットが大挙して押し寄せているところだった。物量による消耗戦が苦手なえーくんが流石にこれは多い、と硬化して前に出ながらぼやく。あ、でもただの機械なら全然だ。というか……

 

 「メカで私に挑むなら、このくらい対策しないとね」

 

 「おお!一網打尽!」

 

 ぽいっとハンドグレネードを投げる。警備ロボットの波の前に落ちたハンドグレネードは一瞬雷光を走らせて起爆、その瞬間警備ロボットたちは全身から火花を散らして機能を完全に停止した。私特性のEMPグレネード、威力範囲無制限バージョン。ちなみに私には効かないしえーくんは硬化してたので効かない。あ、でもこの階の電装系は死んだかもしれない。いやタルタロス級なら……?警備ロボット達には効果は抜群だったというわけです。

 

 全身の電子機器に致命的な損傷を受けて黒煙を上げる警備ロボットたち、よしこれで次の階に……まだ来るの!?えー……きりないやつだこれ。どうしよう、あ!防火シャッター閉まってる!もう!あの状況でみんな逃げるとは全く思わないので目指すべきは上だから……最上階までどうやって行こう。えーくんに数発グレネードを渡して私が考えてる間えーくんが警備ロボットにグレネードを投げて対処してくれる。ふむ、うん……よし!

 

 「えーくん!外から登ろう!」

 

 「おお!……外出れるのか?」

 

 「出口がないなら作ればいいんだよ!はい!」

 

 「よしきた!」

 

 元来た道を戻る様にして私とえーくんは植物プラントから飯田くんが壊したドアを抜けて廊下に戻る。私はえーくんにもう数発グレネードを渡して足から放熱、短くなったスカートが暴れる。一発でこの頑丈なセントラルタワーの外壁を破る装備は……これしかないよね。いくぞぉ……!

 

 「サドンインパクト、形成開始(レディ)……!スタンバイ!」

 

 ゴリアテの右手だけを生成する。肘が稼働して杭がせりだす。そして思いっきりパンチと一緒に杭が撃ち込まれて圧縮された空気とオールマイト先生並みの馬力のパンチが壁に打ち込まれる。轟音を立てて壁に大きな穴が開く、溜まってしまった全身の熱を圧縮して右腕と一緒に捨てる、腕を再構成すると同時に私の足が変形する。

 

 「ホバーバイク、形成開始(レディ)。えーくん!乗って!」

 

 「……よし来た!」

 

 生成されたホバーバイクに私は跨り、グレネードの残りを後ろに全部投げたえーくんが私の後ろに飛び乗る。壊れた警備ロボットを踏み越えて迫る警備ロボットが到達する直前で私たちはホバーバイクを発進させて上まで一直線に上る。それと同時に上階の方から爆発音が聞こえる。これは……!爆豪くんの爆破だ!おそらく最上階の一歩手前、風力発電エリア近く……!

 

 「えーくん飛ばすよ!落ちないようにね!」

 

 「俺は気にすんな!目いっぱい飛ばせ!」

 

 えーくんが私のお腹に手を回したのを確認してホバーバイクのアクセルを全開にして、ロケットのように空を急上昇する。風力発電システムでひときわ大きな爆発が起こり、何かが打ち出される。あれは……!デクくんとメリッサさんだ!爆豪くんが上に送り出すために二人を爆破で飛ばしたんだね!?

 

 「希械!あれ!麗日が!」

 

 「えーくん!お茶子ちゃんをお願い!」

 

 「任せろぉ!」

 

 風力発電システムのある階まで一気に登り切った私が見たのは、風にあおられて進路が変わってしまったデクくんとメリッサさん、警備ロボットにのまれようとしてるお茶子ちゃんとそれを助けようとする爆豪くんだった。とっさの判断でえーくんにお茶子ちゃんのことをお願いすると彼は二つ返事でバイクから飛び降り、お茶子ちゃんの目の前に着地して警備ロボットを殴りつぶした。

 

 「切島君!希械ちゃんも!」

 

 「遅えんだよ切島ぁ!楪ぁ!」

 

 「悪ぃ爆豪!希械!こっちは任せとけ!」

 

 「うん!」

 

 お茶子ちゃんが私たちに気づいて嬉しそうに声をあげた。警備ロボットに邪魔されてお茶子ちゃんの元に遅れてたどり着いた爆豪くんがわっるい顔で笑っている。いやほんとに遅くなって申し訳ない、他の人はどうなったんだろう?轟くんが残ったってことは無事だと思うんだけど……!

 

 空中で風にあおられているデクくんの手を取ってメリッサさんごと引き寄せる。抱きかかえるように私の前に座らせて覆いかぶさるようにふたりを固定した。そのまま目指してるであろう非常口にまっすぐ突っ込む。寸前で二人を抱きかかえてホバーバイクを質量弾扱いして非常口を無理やりぶち破り、バーニアで移動してその中に入った。私たちが着地したのが見えたのかゼログラビティ状態だった二人の体に重さが戻る。

 

 「潜入成功だね、二人とも怪我無い?」

 

 「ありがとう楪さん、僕は大丈夫」

 

 「私も大丈夫。それよりも急がなきゃ……!」

 

 「っ!?デクくん!メリッサさん抱えて先に!」

 

 安否確認をしてたらデクくんの背後にヴィランの影が見えた。とっさに二人を腕で引いて私が前に出る。体から刃物を生やす個性……!メキバキ、と私の手がヴィランの刃物を握りつぶしたのを見てヴィランは一歩後ろに下がった。デクくんはメリッサさんを横抱きにして背後の階段に一目散に昇っていく。

 

 「胸糞悪いガキどもめ!」

 

 「どっちが!」

 

 「やかましい!ヒーロー気取りかよ!」

 

 「んんっ!!!!」

 

 手の刃物を新しく生やして襲い掛かってくるヴィラン、けど80階で対処したさっきのやつと違って単純な物理攻撃だ!無視できる!武装を作ってる時間も惜しいので私はカウンター気味に思いっきり戦闘形態の拳を突き入れてヴィランと壁をサンドイッチする様に殴りつける。刃物が全て砕かれ、蜘蛛の巣状の罅が入った壁をずり落ちるようにしてヴィランは意識を失った。簡易的な拘束具を作ってすぐさまデクくんたちを追いかける。銃声がなっている、心配だよ……!

 

 ブーストジャンプで階段を一足飛びに上る。ドレスのスカートは戦闘に巻き込まれて焦げたり解けたりなんだりしてミニスカートより正直頼りないかもしれない。階段の途中でデクくんが倒したらしいヴィランが気絶している。拘束する時間も惜しいのでそのまま進み、出遅れたのがわずかだったのもあって200階到達と同時あたりで二人に追いつけた。

 

 一番ヴィランの警備が厳重な場所である制御ルームまで何があるか分からないので一気に駆け抜ける。やはりヴィランは大挙して押し寄せてるわけじゃなくて少数精鋭でI・アイランドを乗っ取りに来たみたい。一番防御が硬いはずなのに誰もいない、そして制御ルームの入り口……!あれは!

 

 「パパ!?」

 

 「シールド博士……!?助手の人!?」

 

 「サムさん……!なんでパパに銃を……!?」

 

 制御ルームの入り口少し前にある保管室とプレートに書いてある部屋にいるのはシールド博士と助手のサムさん……!だけど様子がおかしい、サムさんはシールド博士の背中に拳銃を押し付け、シールド博士は信じられないようなものを見る面持ちで端末を操作し、何かのブロックの鍵を開けた。サムさんはそこからトランクを取り出して、抱える。

 

 「パパ!サムさん!何してるの!?」

 

 「……メリッサ!?逃げなさい!サム!止めろ!」

 

 「お嬢さん……申し訳ないね。見られた以上帰すわけには……!」

 

 「動かないでください」

 

 メリッサさんが飛び出してしまい、私たちもあわてて後を追う。メリッサさんに拳銃を突き付けるサムさんにシールド博士は「よせ!」と叫ぶ。私が彼に機関銃を突き付けるとサムさんはそれでも拳銃を下ろさずに引き金に指をかけた。

 

 「よせ!サム!なぜだ……!なぜヴィランを島に手引するようなことを……!」

 

 「なぜ?あなたがなぜというか!この研究成果を奪われ、凍結させられてあっさり引き下がった貴方が!何年貴方に仕えてきたと思ってるんです!?地位も名誉も、全てが泡沫と消えた!せめて、金くらい手に入らなければ割が合いません!」

 

 「そんな、理由で……?言ったじゃないか!これがダメなら別の方法を探るべきだと!政府の言う通りだ!この研究は危険すぎる!個性社会そのものを揺るがしてしまうかもしれないんだぞ!?」

 

 「……あなたには、分かりませんよ……!」

 

 サムさんの目に浮かぶ苦悩の色は長年仕えていたシールド博士が完成しかけの研究をあっさり諦めて自分の時間を無駄にしたことに対する侮蔑と憎悪が入り混じり、とても正気とは思えなかった。この人……!何のためかと思えば……!お金!?たったそれだけのために島民を犠牲にしようとしてたの!?

 

 「そう、お前にはわからない。デヴィット・シールド……その研究、個性増幅装置の真の価値など。それによって引き起こされる混沌に莫大な金。素晴らしいじゃないか……!」

 

 「ウォルフラムさん……!約束のものです!これで……」

 

 「ああ、ご苦労。そこのでかいの、邪魔だ」

 

 「きゃあっ!?」

 

 「楪さん!?」

 

 私たちの後ろから入ってきたヴィラン、ウォルフラムと呼ばれた筋骨隆々の仮面の男は個性なのか金属を操って私にぶつけてきた。真後ろからの奇襲に私は対処しきれずまともにもらって保管庫の壁に埋められる。その隙にウォルフラムに駆け寄ったサムさん、いやサムがケースをウォルフラムに渡してしまう。パワーはある個性だけど私の方がまだ強い、鉄塊を無理やり押しのけて壁から復帰する。

 

 「報酬を渡さないとな」

 

 「なにを……ぐああああっ!?」

 

 「いやあああっ!?」

 

 「……サム……!」

 

 ウォルフラムはケースを受け取るやいなや懐から出した拳銃をサムに向けて発砲する。至近距離で膝を撃ち抜かれたサムが膝を抑えてのたうち回る。メリッサさんの悲鳴が響く中、ウォルフラムはごり、と拳銃をサムの頭に押し付ける。まずい、デクくんと私が同時に動いた。

 

 「おまええええっ!!!」

 

 「やめなさい!!!」

 

 デクくんのフルガントレットに守られた拳がウォルフラムに叩き付けられ、その隙に私が拳銃を奪って握りつぶした。ガードしたらしいウォルフラムが吹っ飛ばされるがデクくんの制御を誤ったらしい攻撃を受けたのにも関わらずダメージが少ない。私はメリッサさんに叫んだ。

 

 「メリッサさん!制御ルームへ!お願い!みんなを助けて!」

 

 「ここは僕たちが食い止めます!だから!」

 

 「っ……!わかったわ!」

 

 「させると思うかぁ!?」

 

 「「するんだよ!!」」

 

 メリッサさんが駆け出していくのを阻止しようとするウォルフラムに私とデクくんは叫んで突っ込んだ。ウォルフラムが触った壁の鉄板が剥がれてまるで生き物のように襲い掛かってくる。私は戦闘形態の両手の爪を利用して鉄板を引き裂き、殴りつぶしながら接近し、打って変わってデクくんは身軽に壁や向かってくる鉄板を飛び越えて迫る。

 

 「スマッシュ!」

 

 「このおお!!!」

 

 デクくんの蹴りと私の振り下ろしはウォルフラムが操った鉄の壁に防がれる。そのまま壁に押されて生き埋めにされた。デクくんを庇って背中で壁を受け、サンドイッチ状態で腕を伸ばして耐える。デクくんが私の脇の下からワンフォーオールを纏った拳を突き出して壁を壊してくれる。脱出した私たちに対してウォルフラムは攻撃を私たちに集中するのではなく、非戦闘員のシールド博士と彼に手当てされているサムに鉄柱による攻撃を向けだした。いけない!

 

 「そうだよなあ?動いちまうよなあ?ヒーローってのは難儀だ。たったこれだけで、身動きできなくなる」

 

 「う、うぐぐぐ……」

 

 「くぅぅ……」

 

 全方位から迫る鉄柱を私たちはシールド博士とサムを庇って受けざるを得ない。そして鉄柱はどんどん数を増し、私の力でも支えきれないほどの重量で私とデクくんを地面に埋めてしまう。それでもなお、鉄柱の衝撃は数を増し、それが20を超えたところでようやく止まった。

 

 「やめろ!!」

 

 「チッ、警備システムを復旧されたか……博士、そこのガキどもはまだ殺してない。生かしたいんだったら、大人しくついてくることだ」

 

 「は、博士……ダメ……」

 

 「黙ってろ」

 

 「あああああっ!?」

 

 鉄柱の隙間から博士に声をかけるが、ウォルフラムはさらに鉄柱を追加して私に重量を追加した。ねじりつぶされるような痛みに私の口から悲鳴が上がる。辛うじてデクくんは潰されてない……私もまだ、息ができる……!博士を守らないと……背に腹は代えられない。

 

 「わかった……ついていこう」

 

 「賢明だ」

 

 ダメ、ダメ……!声が出ない。ウォルフラムの悪党らしい三日月のような笑みだけが残され、保管庫から二人が去っていく。サムは気絶してる、デクくんは動けない……私がやるしかない……!

 

 

 

 

 

 




 シールド博士には今後出演予定があるので今回ヴィランを招き入れたのは助手のサムの独断という形にしました。すまんなサムさん

 では次回もよろしくお願いします。感想評価をいただけると励みになるのでよろしくお願いします
 


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46話

 ふぅ、ふぅと息を吐く。あんまりやりたくないけど……これをやらないと脱出できない。右隣で同じように潰されているデクくんに被害がいかないように……私は左手を自爆させた。至近距離での大爆発が鉄柱ごと私を吹き飛ばす。声にならない悲鳴が口から洩れたけど、これで自由になった。片腕の状態で鉄柱を引き裂いてデクくんを助け出す。

 

 「ごめん……デクくん、大丈夫?」

 

 「楪さん……僕は大丈夫だけど、楪さんは……」

 

 「大丈夫、ちょっと痛かったけど……それよりも」

 

 「うん、博士を助けないと」

 

 もうぼろきれと化したドレスを翻して走り出す。左手を作り直し、下半身から思いっきり排熱して体の温度を下げる。これでまだしばらくは個性が使える……!デクくんも鉄柱であちこち痛めてしまったのだろう。少し動きがぎこちないが歯を食いしばってヴィランの後を追う。多分ウォルフラムは逃げるつもりだ。目的のものであるシールド博士とその発明品を手に入れたのなら。脱出手段も確保してるはず……それは恐らく空路!おあつらえ向きに屋上はヘリポートだ。

 

 タックルするように屋上のドアを開ける。やはりヘリポートには軍用らしいヘリが止まっていて、拘束されたシールド博士を後部に無理やり乗せたウォルフラムとその部下が今にもヘリを飛ばしそうだった。デクくんはその光景を前にして叫ぶ。

 

 「待て!!」

 

 「なるほど、そこまでする価値がこの男にあるのか?身内から犯罪者を出したこの男を」

 

 「関係ない!私たちは博士を救けにきたの!エクスカリバー、形成開始(レディ)!!!」

 

 「ははっ!!出来もしないことも言うなよ、ガキ!」

 

 ウォルフラムの個性が襲ってくる。もう何も奪わせない!何人の人の命を弄べば気が済むの!私の両手が変形して大型の刀剣型武装が姿を現す。連結状態だったそれを切り離して鉄柱に向けて振るうと、レーザーの刀身が鉄柱を焼き切った。私の後ろからデクくんが飛び出してウォルフラムに迫る。私もバーニアを吹かして両手のエクスカリバーで鉄柱を次々切断しながらデクくんと挟撃するようにウォルフラムに迫る。

 

 「なっ!?」

 

 「うっ!?」

 

 「はっはぁ!ヒーローってのは不自由だよなあ!何度も同じ手に引っ掛からないといけないなんて!」

 

 攻撃を当てようとした瞬間に私たちの動きが止まる。ウォルフラムが部下から受け取っていたらしい拳銃をシールド博士に向けていたからだ。そして、動きを止めた私たちを見のがさずにウォルフラムは巨大な鉄柱をぶつけて私たちを吹き飛ばした。何度か地面をバウンドしつつも立ち上がった私たちをあざ笑うかのようにヘリは発進する。だけど、軍用ヘリなのが残念だったね……!後部座席のドアがないタイプのヘリだ!

 

 「デクくん!私を信じてくれる!?」

 

 「楪さん……!もちろん!博士を救けよう!」

 

 デクくんの返事を聞いてすぐさま私はデクくんを抱えて飛び立った。ウォルフラムの鉄柱は、こない。やっぱり一回触らないと金属は操れないんだ!腰からもブースターを生成して速度を上げた私がヘリコプターに追いついて……!デクくんを思いっきり投げる。デクくんはワンフォーオールを発動して私の手を蹴り、加速する。そしてそのまま……銃を向けようとするウォルフラムの隙をついて後部座席を通り抜けるようにシールド博士をさらうことに成功した!

 

 「デクくん!きゃあっ!?」

 

 「楪さんっ!?」

 

 デクくんをキャッチしようとした私に、ヘリから発射された近接誘導ミサイルが直撃する。とっさに足で蹴りつけて逸らしたけど爆発によって大幅に吹き飛ばされてしまった。このままじゃデクくんとシールド博士が地面に激突しちゃう!間に合え……間に合え!間に合ってええええ!!!加速しつつ手を伸ばす、だけど遠い、遠すぎる!誰か、お願い……!二人を助けて……!

 

 「よくやってくれた!有精卵たちよ!もう大丈夫、なぜって?私が来た!!!」

 

 「おーる、まいと先生……!」

 

 私と、デクくん、そしてシールド博士を抱き上げて助けてくれたのは……平和の象徴、オールマイト。彼は私にデクくんとシールド博士を託すとヘリに向かって拳を握り締める。ここまで来て不利になったと察したらしいヴィランが逃げようとするけどそれを見逃す彼じゃない。オールマイト先生の鉄拳に殴り飛ばされたヘリは、ヘリポートへ逆戻りして墜落した。空中を蹴ってヘリポートに向かうオールマイト先生を追って二人を抱えた私もヘリポートに着地する。

 

 「パパ!!」

 

 「メリッサ……!済まない、怖い思いをさせてしまった……!ミドリヤ君もユズリハ君も、ありがとう……!」

 

 シールド博士が私たちにお礼を言ってくれる。それだけで救われた気持ちになった、無理をした、無茶苦茶をやったけど……助けることができた。その事実だけでこんなにも嬉しい、それをあざ笑うかのように突然また鉄柱が飛び出してきてオールマイト先生を吹き飛ばしてしまう。即座に警戒に移行した私とデクくんはメリッサさんとシールド博士を鉄柱から庇う。

 

 「オールマイトォ!」

 

 「メリッサさん、博士!私たちの後ろから出ないで!」

 

 近くに落ちていたエクスカリバーを拾い上げて私や博士に襲い掛かる鉄柱やパイプを熔断して無力化する。あまりにも数が多いそれはヘリポートをめくりあげて蠕動し、まるで魔王が住む塔のようなまがまがしい物体を組み上げていった。その頂点にいるのは、ウォルフラム……!仮面を外した彼の頭に見慣れない機械が付いている。シールド博士がそれを見て叫んだ。

 

 「よせ!その装置は未完成だ!個性は暴走し寿命を削る!目的が何かは知らないが死ぬ気なのか!?」

 

 「……この期に及んで俺の心配とはお優しいことだ。当然、生き残るために使わせてもらう」

 

 「往生際が悪いな!TEXASSMASH!!!なにっ!?」

 

 「……うそ」

 

 防がれた。ただの鉄塊に、オールマイト先生の打撃が。一振りで天候を変える打撃をただの鉄塊が防ぐ、個性増幅装置といったそれは流石シールド博士の発明品ということだろうか……!そして、また鉄塊に吹き飛ばされるオールマイト先生、金属の蠕動は続き、まるで静脈のような青い線があたりに走って、金属がめくれあがって塔の一部になっていく。セントラルタワーそのものが敵に回ったような、そんな感覚に陥る。

 

 高笑いするウォルフラムが操る鉄塊が私に降り注ぐ。エクスカリバーを捨てて私はメリッサさんとシールド博士を抱えて避ける。デクくんもフルカウルを纏って避けた。オールマイト先生に降り注ぐ鉄塊を全て受け止める彼の身体から、薄く蒸気が上がってるのが見える。そうか、活動限界……!さらに降り注ぐ鉄塊に、オールマイト先生が膝をついた。

 

 「オールマイト!」

 

 デクくんの叫びと同時に、オールマイトに迫っていた鉄柱たちが凍り付く。この個性は轟くん!そして聞き慣れた爆発音が響いて空を駆けているのは爆豪くんだ!くたばれ、といういつもの口の悪い言葉と共に爆豪くんの爆発がウォルフラムを直接襲う。ウォルフラムは壁を出して爆破を防ぐ、かなり個性を酷使したのだろう、腕を抑えて此方に戻ってくる爆豪くん。そして、誰一人欠けることなくみんながここに到着した。

 

 「えーくん!シールド博士とメリッサさんをお願い!デクくん、轟くん、爆豪くん!オールマイト先生を助けよう!」

 

 「うん!行こう!」

 

 「けっ!言われんでも分かるわ!」

 

 「ああ、やるぞ!」

 

 4人で並び立つ。ウォルフラムは私たちを邪魔だと感じたのか鉄柱を増やして押しつぶそうとしてくる。轟くんの氷結がそれを凍らせて、爆豪くんが爆破で粉砕した。そうか!温度差で脆くすれば壊せるのか!二人が壊してくれた鉄柱の隙間を縫ってオールマイト先生の所まで行ったデクくんと私、私がオールマイト先生を支えて、デクくんが……全力のスマッシュを鉄柱に叩き付けた。フルガントレットに包まれた手は、傷一つない。

 

 「二人とも……なんて無茶を……!」

 

 「だって……オールマイト先生、困ってたじゃないですか……!」

 

 「困ってる人を助けるのがヒーロー、そうでしょ……オールマイト……!」

 

 「……HAHAHA、確かにそうだとも。ありがとう二人とも!少年少女たちよ!しばし手を貸してくれないか!」

 

 オールマイト先生が立ち上がり、私とデクくんはおろかその場にいるクラスメイト全員にそう問いかける。当然答えは決まっている、イエスだ!えーくんも、爆豪くんも轟くんもみんな!私と同じように肯定の言葉を帰した。それににっと笑ったオールマイト先生が何時ものようにマッスルポーズを決める。その体から蒸気が消えうせた。

 

 「行くぞ!二人とも!」

 

 「「はいっ!」」

 

 「くそ、ごみの分際で往生際が悪いんだよ!」

 

 「そりゃてめえだろうがぁ!!!」

 

 「邪魔はさせねえ!」

 

 ウォルフラムはいっそ狂気を感じさせるほどの表情で金属を操り私たちに向けてくる。轟くんがその大部分を凍らせて爆豪くんが粉砕する。オールマイト先生とデクくんが一直線に走りだして、私も付いていく、二人が作ってくれた隙に体を変形させながら、纏う。もうここで終わらせる、オーバーヒート前提、出し惜しみはなしだ!

 

 「構成拡張(オーバード)、重装近接格闘型強化外骨格『ゴリアテ』機能更新(スタンバイ)形成開始(レディ)!!」

 

 久しぶりに直接身に纏うゴリアテ、サドンインパクトで眼前の鉄柱を薙ぎ払い、余波がウォルフラムの塔を揺らす。両肩から発射される連装ミサイルが爆豪くんが処理しきれなかった鉄柱を粉砕した。えーくんがメリッサさんに迫る鉄柱を受け止め、飯田くんがエンスト寸前の足を酷使してぶち壊す。頭皮から血を流してももぎもぎをもぎった峰田くんが即席のシェルターを作り出してそこにもう戦えない人たちを避難させ、八百万さんが盾で覆う。

 

 「うぐおおおおおっ!!!」

 

 ウォルフラムが、吠えた。全ての力を振り絞る様に両手を上にあげる。すると、ウォルフラムの塔の天辺に今まで操っていた鉄、パイプ、捻子……ありとあらゆる金属が集まって巨大な金属塊を作り出す。人がありんこのように思えるサイズ、お茶子ちゃんが驚愕に目を見開くのが視界の端に見える。

 

 「潰れちまえ!」

 

 「デクくん、オールマイト先生!私に任せてください!血路を開きます!後はお願いしますね!」

 

 「楪少女……!任せよう!緑谷少年!力を込めろ!限界を超えて!プルスウルトラだ!」

 

 「はいっ!楪さん!任せるよ!だから、僕らに思いっきり託して!」

 

 「ありがとう、二人とも!これで最後!50(フィフティ)ガーベラ・ストレート!形成開始(レディ)!!!」

 

 ゴリアテの両手から金属が伸びて、大きな大きな刀を作り出す。まさかこんな形で役に立つとは思わなかった、どれだけ大きなものが作り出せるかという限界値を見極めるためだけに設計した武器……!50mの長さを誇る刀、50ガーベラ・ストレート!ゴリアテの手と融合し、大上段に構えたそれを金属塊に向けて思いっきり振り下ろす。こちらに迫る金属塊を真っ二つにした50ガーベラ・ストレートがセントラルタワーの屋上にめり込んだ瞬間ぎりぎりで、全て体内に再吸収した。被害はギリギリ、ゴリアテの両手は肩からもげた!それでも活路は開けた!後はお願い!ヒーロー!

 

 「いって!二人とも!」

 

 「「緑谷!」」

 

 「「ぶちかませぇぇっ!!!」」

 

 「「DOUBLE DETROIT SMAAAAAAASH!!!!」」

 

 二つに分かれた金属塊の間を吹き飛ぶように通った二人の拳がウォルフラムを襲う。苦し紛れの鉄壁を粉砕して、ウォルフラムの塔を真正面から粉砕していく。衝撃波があたり一面を叩く、デクくんのフルガントレットが耐え切れずに砕けた、それでも二人の雄たけびはウォルフラムの企てごと全てを打ち破り、粉砕する力を二人の拳に与えている。

 

 そして、一瞬の静寂と共に塔が爆散して崩れ去る。ガラガラとセントラルタワーの屋上にウォルフラムが好き勝手に操っていた金属たちが自由を取り戻したのを喜ぶように甲高い音を立てて次々と落下し、積み重なっていく。私たちは、しばらく動けなかった。ただ、デクくんとオールマイト先生が塔があった部分に着地して、オールマイト先生の手にやせ細ったウォルフラムが気絶している状態で持たれているのを見て、ようやく状況を理解した。

 

 「……倒した!ヴィランを倒したんだ!」

 

 「うおおおっ!やったな!希械!緑谷!オールマイト!」

 

 「うんっ!やった!やった!守れたよ!」

 

 皆、ボロボロで元気なんて欠片も残ってないはずなのに広がった喜びが伝播して手を取り合って喜んだり、思いっきり両手を振り上げたり……各々の方法でみんなが喜びを表現する。私はゴリアテから転がり落ちるように降りる。両手を失った私を見越していたかのようにえーくんが受け止めてくれる。私は彼に、とびっきりの笑顔を向けてから、白んできた空の朝日を見つめるのだった。

 

 




 戦闘は終了になります。150ガーベラストレートは流石にでかすぎたんで50にしましたけどそれでもクソデカですね。映画最後のウォルフラムの鉄塊はそのくらいの大きさだったんでそれで押し通しました。エクスカリバーは約束された剣じゃなくてインパルスが持ってる対艦刀の方です。

 あ、匿名解除しました。というのも活動報告で少しだけご協力を賜ることが出来ればなということがありまして。良ければ覗いていってください。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=296431&uid=88429

 では感想評価よろしくお願いします。


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47話

 夏休みの大冒険というにはちょっと、いやかなりヘビーだったI・アイランドセントラルタワー占拠事件から一夜明けた。朝方に終わった事件だったんだけど私たちはまー、その……資格未取得にもかかわらず大立ち回りを繰り広げたので警察の世話になる必要があったんだよね……。怒られ、はしなかった。というのもヴィランを招き入れたのがI・アイランドの人間で私たちは巻き込まれてなし崩し的に戦うことになったのが大きいみたい。

 

 I・アイランドの責任者、いわゆる市長とかそんなクラスのお偉いさんは私たちがやったことに対して感謝の意を直接伝えに来てくれて、この件を公にしない代わりに私たちの将来に傷がつく事態は回避されたということみたい。うーん、ステインの時と一緒かあ……現場検証でゴリアテとか色々持ってかれちゃったけど返してもらえるかな?法には触れてないけど私まだサポートアイテム資格取れてないから突かれたら痛いかも……。

 

 まあ、そんなことはどうでも、よくはないけど置いとけばいい。今は、目の前にあるグリルでじゅうじゅうと油を滴らせながら焼けているお肉の焼き加減を見ることの方が大事なんだ。ん、今!ひっくり返して……ん~~!いい焼き加減!いいお肉だなあ、そろそろステーキの方は良さそう。え?何をしてるかって?

 

 「さぁ食べなさい!」

 

 「焼けたよ~~!」

 

 「「「「いっただっきまーす!!!」」」」

 

 四方八方からグリルに向かって手が伸びて、焼けたお肉と野菜が刺さった串を我先にと手に取って、口に運んでかぶりついた。あ、何してるかだったよね?私たち雄英高校ヒーロー科1年A組はいま、I・アイランドの人工湖のそばにあるテラスを貸し切って、BBQ大会を開いております!あ、えーくんこれ食べて?はいあーん。美味しい?えへへ、私がスパイス調合したんだよ?あ、峰田君もあーんね、頑張った話聞いたよ~?ハーレムは無理だけど、このくらいはしてあげよう、私でごめんね?

 

 昨日?一昨日?時間が曖昧だけど、ヴィラン襲撃の件でエキスポの開催は延期されちゃったんだ。何と今このI・アイランドには1年A組が全員集合してたの!凄いことだよ!?ほんとに世間って狭いね!で、オールマイト先生が戦った私たちの労を労うという意味を込めてと、エキスポが延期になってしまったからその代わりを兼ねてBBQをご馳走してくれることになったの!

 

 お料理と聞いては黙ってられないのが私こと楪希械なので、美味しいものをもっと美味しくしたいですとオールマイト先生にお願いして一緒に準備をさせてもらうことに成功して、ここにBBQ奉行希械ちゃんが誕生したわけです。寝かせてたアルミホイルを開けて~、んん!いい感じの熱の入り方!トマホークステーキ……一回でいいから丸ごとかぶりついてみたかったんだよね!

 

 「おいし~~!」

 

 「ええ、ほんとね。希械ちゃん、みんな大変だったって聞いたわ。私たちがホテルの中にいた時にそんなことが起こってたなんて……」

 

 「あはは、まあレセプションパーティーに行った人たちだけしか分からなかったと思うよ?ああ、パーティーと言えば私のドレス……」

 

 「あ!希械ちゃんあのドレスすっごい似合ってたよね!また着せてみせてよ~~!」

 

 「うぅ、三奈ちゃん聞いて……あのドレス破れてなくなっちゃったの……」

 

 「ええ~~~っ!もったいない!」

 

 うん!ほんとにもったいない!最終的に私のドレスはアマゾネスみたいな襤褸切れと化して、ゴミ箱行きになってしまった。いやほんと、私のヒーロースーツより布面積少なかったよ!絶対下着見えてたよね……いやでも峰田くんが言わないってことはギリギリ見えてなかった説が……?

 

 うわあああん!と言いながら焼きそばを作り焼きおにぎりを焼き、さらには揚げニンニク、アヒージョなどを高速で作っていく私、うう、お料理してると癒されるよ……あ、焼きそば美味しい?やった~~。あ、爆豪くんこれ試してみて?辛いの好きだって聞いたから、唐辛子多めのスパイスと麻辣風のスパイス別で調合しておいたの!爆豪くんに瓶に入った二つのスパイスを差し出すと彼は無言で受け取った後、デクくんに「気持ち悪い事教えてんじゃねええええ!!!」と卓上に丁寧に全部置いてから襲い掛かった。うーん、いつも通り。

 

 「ごめんなさい!遅れちゃったわ!」

 

 「すまない、お招きいただき感謝するよ。トシ……オールマイト。少し取り調べが長引いてね」

 

 「デイヴ!メリッサ!HAHAHA!気にする必要はないさ!皆!紹介しよう、私の親友のデイヴとその娘、メリッサだ!仲良くしてくれよ!」

 

 「よろしくね!」

 

 「やあ、君らがオールマイトの教え子たちか。よろしく頼むよ」

 

 よろしくお願いしまーす!とそこかしこから挨拶の声が聞こえるのは流石物怖じしないヒーロー科、やってきたのはメリッサさんとシールド博士!どうやらオールマイト先生が誘ってくれたみたい。シールド博士はそのままオールマイト先生と雑談に興じ始め、メリッサさんはデクくんに軽く挨拶したら私の方にやってきた。

 

 「ユズリハさん!こんにちは!やっと落ち着いて話せるわ」

 

 「えへへ、大変でしたものね。色々聞かれるとは思ってましたよ~、技術者ですから」

 

 「うふふ、お見通しかしら。でもね、さっきデクくんにも言ったのだけど、先にこれだけ言わせて欲しいわ。助けてくれてありがとうね、ヒーロー」

 

 「メリッサさんもですよ。助かりました、ヒーロー」

 

 メリッサさんがお礼を言ってくれるのに、そう返すと彼女は少し目を丸くしてから花が咲くように笑った。そのあと開始された技術者トークを料理しながら繰り広げていると他のみんなの頭に?マークが飛び始める。ギリギリついていけてるの百ちゃんくらい?あ、上鳴くんショートした。難しい話かもしれないけどこれ私にとってはすっごく楽しいの!あ、メリッサさん忘れてた!連絡先交換!お願いします!やった~~!お友達が増えた!炭火でバケット焼いて、アヒージョのオイルとニンニク、アンチョビが混ざった残りを塗ると美味しいんだよ~~?女の子的には口臭が気になるからそこまで食べられないけどね!

 

 

 

 

 

 「な、な、な……なして、こんなことに……?」

 

 「あはは、ユズリハさんのことみんな気になってたんだよ?パパがディベートするって言ったら、あれよあれよとこんなことに……」

 

 「私の心臓が持たないよぅ……」

 

 BBQの翌日、私はI・アイランドの学校、通称アカデミーにヒーロースーツでやってきた。というのもシールド博士からサポートアイテム国際免許の結果が出たので取りに来るついでに約束してたディベートをやろうというお話を貰ったのでメリッサさんとシールド博士と楽しく科学について語り合いあわよくば詰まってる所のアドバイスを戴こうかな~~とうきうきしながらアカデミーにやってきたんだ。

 

 ちなみになんだけど他のクラスのみんなはそれぞれ思い思いのことをして過ごしている。だけどオールマイト先生はアカデミーにやって来てて、それについてきたのがえーくん、デクくん、飯田くんに轟くん、お茶子ちゃんに百ちゃんだね!三奈ちゃんはお勉強というワードが出た瞬間に別行動になっちゃった。えーくんは私が緊張で硬化するのが分かってるのでそれを緩和するためについてきてくれたらしい、ありがたや。

 

 それで、なんだけど……現在私の目の前にいるのはシールド博士!だけじゃなくて……アカデミーはおろかI・アイランドで研究をしている高名な科学者の方々、それがデェェェェンと私の前に鎮座してるの……違うんです……会ってみたいとは思ってたけど会えるなんて思ってなかったから何も考えてなかったんです……。

 

 わ、わぁ……ミノフスキー博士もいらっしゃる……ひぃ、ビーム物理学を確立したドクターJ博士……!あ、駆動装置の権威老子O!……それら様々な科学分野のトップをひた走るエキスパート達。エキスポの関係でI・アイランド以外からも科学者が集まって忙しいだろうにそれを縫ってここに居ると思うとお腹が痛くなってくる……!

 

 「は、はひぃ……!?」

 

 「あはは、大丈夫大丈夫。みんないい人たちだし、気さくで優しい方たちよ。パパ、そろそろ」

 

 「ああ、すまん。じゃあユズリハ君、少々遅れたが君の国際サポートアイテムの免許についてだが、協議の結果合格ということになった!おめでとう!これが、免許証だ。再発行は日本でもできるけど、なくさないようにね」

 

 「は、はい!ありがとうございますぅ!」

 

 シールド博士が卓上からケースを取り出してそのまま私に渡してくれる。ケースの中に入ってるのは証書と、金属製のカードに文字と私の顔写真が刻印された免許証。わ、わ~~~~!!!ほんとに取れちゃった免許!オールマイト先生の名前を使ってるから裏口みたいな感じかもしれないけど!あれ?もしかして私不正にとったのに近い……!?精進します……。

 

 「さて、大勢で押し掛けて申し訳ないね、君の作品であるホバーバイク、あれの完成度の高さは学内でも話題になったんだ。オールマイトからの推薦というネームバリューもある。仮に君が雄英のサポート科所属だったら十中八九、上が引き抜き交渉を根津さんに持ち掛けてただろう」

 

 「そ、そこまでですかっ!?」

 

 「ふむ、どうやら君はいささか自分が持ってる技術に無頓着のようだな。よいかね?超小型化した反重力生成装置、それを動かすエネルギー発生装置、慣性の制御による加速装置……確かに既存の技術を使ってるのだが、今の最先端を超えることに違いはないのだ。現に、エキスポの反重力発生装置は出力の都合こそあれ、建物サイズなのだから」

 

 途中で口を挟んできたのはミノフスキー博士、な、なるほど……確かにそうだったけど!でもそれ私の個性ですから!そこまで最先端を突き進んでるとは思えません!あーでも褒め、られ、てる?のかな?

 

 「まあ、難しい話は置いておこう。つまりここに集まった私たちは、君と有意義に話したいだけなのだ。聞けば詰まっているところがあるそうじゃないか。私たちなら君の技術を理解できるだろうし、解決の手段も提案できる……未知の才能というのはいつだって研究者をワクワクさせるものなのだよ」

 

 「はは、そういうことだよユズリハ君。メリッサも通った道だ、存分に私たちに質問をぶつけてくれ」

 

 「そ、そういうことでしたら……こちらなんですけど……」

 

 「……ほう、シンプルな形だね。これは?」

 

 「試作中の荷電粒子ビームを発射するライフルと荷電粒子を刀剣型に固定する装置です。名前を付けるとしたらビームライフルとビームサーベルでしょうか」

 

 「ビームの個人使用が可能な装置だと!?今どこまで!?」

 

 「ビームライフルの方は一応発射出来るところまではいってるんですけど……発射後のビームの収束率に難がありまして、拳銃よりも射程が短いんです。ですけど荷電粒子をため込むエネルギーパックの容量が上がらないと収束率をあげることが出来ず……とん挫してます。サーベルの方は荷電粒子を斥力フィールドで包んで刀剣型に固定してるんですけど……若干むらがあってビームが漏れちゃうんです。私と接続し続けないとビームは維持できませんし……使うエネルギーも膨大でとても実戦には……」

 

 「そこまで実用化出来てるのか……!ドクターJ、彼女になら開示しても問題ないのではないか?」

 

 「……とにかく今どこまで出来ているかを確認してからでも遅くあるまい。差し支えなければ稼働しているところを見たいものだな」

 

 「え、と動かすこと自体は可能ですけど……」

 

 「パパ、実験場どこかあいてないかしら?」

 

 「大丈夫だ、多分こういうことになると思って一つ抑えてる。行こうか」

 

 私が今一番実用化したい技術であるビーム、あるいは荷電粒子砲の試作品を手から作り出すと、やっぱりその道の権威である博士たちは食いついた。ビームサーベルの方は救助に使いたいので実装を急いでるんだ。というのもレーザーブレードより高出力なのでだいたいのものを切ることができる、つまりがれきの撤去などに有用!完成したらヒーロースーツに組み込みたいの。私はわたわたと試作品を両手に抱えて実験場に急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 「とっても楽しかったわ!ユズリハさんアカデミーに転校するつもりない!?皆歓迎してくれるわ!」

 

 「ふふ、もし雄英を除籍されちゃったら留学を考えてみますね。ヒーロー科は厳しいですから」

 

 「そうね、ヒーロー志望だものね。私も頑張らなくちゃ」

 

 「おっ!希械にメリッサさん!戻ってきたんだな!オールマイトが飯奢ってくれるってよ!行こうぜ!」

 

 この1日で私の持つ技術がジョグレス進化したこと間違いないディベート&実験を終えて、メリッサさんと一緒にアカデミーを出た。私の質問や技術的な疑問に対して嫌な顔一つすることなく答えてくれた偉大な博士たちは今日のことをレポートにまとめるとかなんかでアカデミーの研究室にこもっちゃったみたい。でも、祝!荷電粒子実用化!ビバビーム!まさかこんなあっさりと実用出来るなんて思わなかった。超圧縮技術とミノフスキー博士のE-CAP技術とドクターJのエネルギー縮退技術のおかげだよ!他にも私の持ってる技術は進化したので帰って実験をするのが楽しみだなあ……。

 

 そんな私たちをアカデミーの前で待っててくれたのはえーくん。どうやら他の人たちは別の場所にいるクラスメイトにご飯のお知らせをするために先に行ったみたい。待っててくれたえーくんにお礼を言って私たちもオールマイト先生が抑えてくれたご飯屋さんにいこう。お腹減った!たくさん食べるぞー!




 これにて映画のお話は終了です。他の博士はともかくメリッサとシールド博士は後々まで出番がありますはい。
 そしてこのタイミングでビームが実装されました。楪ちゃん強化です強化。そし超圧縮技術も習得。進化する楪ちゃんをお楽しみに

 次回はアンケートと取ってた番外編を1話挟んでから夏合宿に行きます

 感想評価よろしくお願いします


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番外編 ミニミニパニック!

 ご都合個性による番外編です。キャラ崩壊上等で書いてます。それでもよろしければお進みください

 異世界おじさんって面白いですよね(余談


 「え、ナニコレ……?」

 

 「轟……か?」

 

 「おかしいよ、私の知ってる轟くんはこんな小さくないしもちもちしてない。いやでもこの頭半分紅白おめでたいヘアーは私の知ってる限り轟くんしかいないような」

 

 「だよなあ……じゃあよ」

 

 「「なんで赤ちゃんになってんの?」」

 

 I・アイランドでの一件を終えた私たちは日本に戻り、合宿前の注意事項を伝えられる夏休みの登校日、道端に雄英の制服が落ちてたと思ったらその中には気持ちよさそうに眠る紅白ヘアーの赤ちゃんの姿が。えーっと、これはつまり……?つまりどういうことなんだ!?ベビー服は着てるんだけど……でも面影ありまくりなんだよねえ……。

 

 「し、しつれいしまーす……」

 

 そう言って私は暫定轟くん(仮)を優しく持ち上げて抱っこする。図太いのか態勢が変わってもすよすよと眠っている赤ちゃんに私はどうしたものかと戸惑いを隠せない。というかこのまま熱い地面に放置するとかは人としてどうなのかということもある。仮に轟くんだったらもっと困るし……えーと、右目で見て……うん、脱水とか危ない症状はないね。じゃあ私たちが来る少し前にこうなったのかな?いやしかし、解せないなあ。

 

 「あ!固まってる場合じゃない!えーくん!こういう時は相澤先生に連絡してそのあと警察にも!」

 

 「お、おう!そうだ!そうだったな!ってこれやっぱり轟の鞄じゃねえか!お前轟かぁ!?」

 

 「えーくん声が大きいよぅ」

 

 「ふえ……うえぇぇぇん!!!」

 

 「す、すまねえ!」

 

 「あーよしよし、びっくりしたねえ轟くん?なのかな?く、首据わってるっぽくてよかったぁ……」

 

 落ちてた制服を確認したえーくんが鞄にある轟くんの名前を見て素っ頓狂な大声をあげる。それにびっくりしちゃったらしい赤ちゃんはぱっちりと目を覚まして泣き出してしまった。顔を青ざめさせてえーくんが謝ってるけど赤ちゃんにはそんなの関係ないんだよ~。私は赤ちゃんを抱っこしたまま体を揺らして優しく声をかけながらあやし始める。やっぱり驚いただけなのかすぐに泣き止んだ赤ちゃんがぱっちりとした目で私をきょとんと見つめて、ふわりと笑った。

 

 「か、か、かわいい~~」

 

 「あ、相澤先生っすか!?すんません俺たちにも分かんないんすけど轟の制服とかばんと一緒に轟っぽい赤ん坊が落ちてて!はい!?お前らもか!?はい!希械に代わるッス!」

 

 『楪か、状況をもう一度説明してくれ』

 

 「あ、はい。えーく、切島くんと一緒に登校してたんですけど……道端に轟くんの制服と鞄と一緒に赤ちゃんがいて……一応脱水症状とか危ない状況ではないんですけど……」

 

 『やっぱりか……いいか、それはヴィランの個性だ。同時多発的にテロのように無差別に人間を赤ん坊の姿に変えるヴィランがいてだな……ヴィランそのものはオールマイトさんが捕まえたんだが、個性の効果が切れるまで暫くかかるらしい。警察も今てんやわんやだ。うちにも被害者が何人もいる。雄英で保護することになるから悪いが連れて来てくれ……』

 

 「そんなコミックみたいな!?」

 

 「コミックよりタチが悪くないかこれ……?戻るんだよな……?」

 

 えーくんの携帯に接続した私が相澤先生に事情を聞かれて説明すると驚愕の事実を返された。人間を赤ちゃんに変身させる個性!?なんじゃそりゃ!?あと相当相澤先生お疲れみたいだね……?いつも気だるい感じの声をしているけど輪をかけてそうなっちゃってる。まって今雄英にも被害者がいるって言わなかった!?テロだよこれ!?テロって言ってた!

 

 「希械、ネットニュースにもなっちまってる」

 

 「うそぉ……」

 

 通話が切れて、えーくんが制服を簡単に畳んでかばんと一緒に持って、ついでに検索したらしい画面を見せてくれる。そこには、同時多発的に人間が赤ん坊に代わるヴィランテロのニュースがあり、私は眩暈がしてくる感覚を覚えるのであった。ねえ、君ホントに轟くんなの?と私の制服をぎゅっと握ってきゃっきゃしてる赤ちゃんを見て、可愛ければ何でもいいや、と脱力するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うそぉ……」

 

 「現実だぜ、希械」

 

 「あはは~梅雨ちゃんだけじゃなく皆赤ちゃんになってしもたんやねぇ」

 

 「上鳴さあ……ウチいなかったら危なかったよ……」

 

 「かっちゃんがそうなってるのは分かったんだけど……まさか他のみんなもだなんて……」

 

 「尾白君かわいい~~!私が面倒見るからね!」

 

 「ヤオモモかわいい!だけどこの状況でヤオモモいないのヤバいんじゃあ……?」

 

 「畜生!なんでオイラに被害いかなかったんだよ!変われよ!なあ!」

 

 「「「却下で」」」

 

 悲報、A組だけでもかなり被害者がいた。まず私が抱っこしてる轟くんでしょ?デクくんに嫌そうにだっこされてる爆豪くんでしょ?お茶子ちゃんが抱っこしてる梅雨ちゃん、響香ちゃんが抱っこしてる上鳴くん、透ちゃんが抱っこしてる尾白くんに三奈ちゃんが抱っこしてる百ちゃん……足元で色々アピールしてる峰田くんを砂藤くんが回収して瀬呂くんが個性でぐるぐる巻きにして黙らせてくれた。

 

 「はい、席に……今日はつかなくていいか。それでなんだが、今朝の無差別個性テロの件はニュースなりで知ってると思う。このクラスどころか隣のB組や普通科のクラスにも被害者が出た」

 

 「「「「「委員長!?」」」」

 

 「被害者1号だ。後処理で俺ら教師陣まで駆り出されることになってな。戻るまではすまないがみんなで面倒を見てやってくれ」

 

 「流石に無茶です!赤ちゃんですよ!?」

 

 「ちなみにここらの保育園や幼稚園、あるいは小学校の教諭までもテロの後処理に駆り出されてるのでヒーロー志望が山ほどいる雄英に回す人員がないと上から決定事項が伝えられてな。警察も普通科の対応で手いっぱいだ。正直俺にもどうしようもない。またこの個性が厄介なのが血縁関係にある人間に接触すると広がるらしくてな。親御さんに預けると親御さんも赤ちゃんになってしまう」

 

 「地獄か!?」

 

 「現在被害者がどれくらいいるかもわからん状況だ。幸い家の中や建築物の中にいれば大丈夫というのは実証済みでな。ヴィランが個性を使った瞬間外にいた人物が赤ん坊に変化している。なのでお前らが面倒を見るしか選択肢がない」

 

 やってきた相澤先生に抱っこされてるのは我らが委員長である飯田くん、珍しく姿が見えないと思ったらまさか委員長までも個性の被害にあってるなんて……困ったなあ、と私は軽金属と化学繊維を組み合わせて赤ちゃん用の小型ベッドを自作し、その中に轟くんを寝かせる。これ元に戻ったら二重の意味で地獄だよね。クラスメイトに赤ちゃん的なお世話されてるだなんて。

 

 「……楪」

 

 「はいなんでしょう」

 

 「そのベッド、54個作れないか。学校の被害者全員分だ」

 

 「54人も被害受けてるんですか!?犯罪史に刻まれますよ!?」

 

 「間違いなく教科書には載るから安心しろ。3年後くらいからな」

 

 「安心できませんっ!とにかくベッドについては了解しました。作るんで……えーくん悪いけど轟くん見てもらっててもいい?」

 

 「おう、わかった!あ、相澤先生俺が飯田の面倒見ますよ!希械も頼んだぜ!ガッコのみんなを助けてやってくれよな!」

 

 えーくんに促された私はとりあえずクラスのみんなの分のベッドを作ってから相澤先生について教室を出る。どうやらホントに被害者がそこかしこにいるみたいで、別クラスから赤ちゃんの泣き声がこだましてたり必死にあやす教師の声が聞こえてくる。これはひどい、何という地獄……。被害クラス行脚をしてベッドを手渡し、適当に音が鳴る玩具も渡して対処、これもヒーロー活動……?

 

 回るたびに警察の人とか生徒たちから感謝されて、なんでこんなことになったんだろうと私の目は死んでいた。そしてヒーロースーツのゴーグルをかけた先生が電話をかけながら出ていってしまった。残ってるのはミッドナイト先生だけ……え?どうしようもなくなったら強制的に眠らせる?な、なるほど無慈悲な……。私は教室に戻ろう……。

 

 

 

 「ただいま~」

 

 「うぇぇぇん!!!」

 

 「お邪魔しました~~~」

 

 「待って希械ちゃんいかないで!」

 

 防音ばっちりの私のクラスの扉を開いた瞬間、赤ちゃんたちの泣き声の大合唱が聞こえたのでぴしゃりとドアを閉じて回れ右しようとしたら飛び出してきた三奈ちゃんを始めとした他数名により私はクラスの中に引きずり戻された。だって……明らかに面倒そう、もとい大変そう、じゃなくて問題が起こってるのがね……?

 

 「さっきから皆泣き止まなくて……あやしてるんだけど……」

 

 「……ちょっとごめんね?よしよ~し」

 

 三奈ちゃんが抱っこしてる百ちゃんを受け取ってあやしてみるけど、少し静かになったあとまたぐずりだしちゃった。うーん、何が原因なんだろう……?赤ちゃんのお世話だなんてお母さんのお姉ちゃんのお子さんくらいしかやったことないしわかんないよ~。はっ!?もしや……

 

 「お腹減ってるのかな?赤ちゃんって3時間ごとにミルク飲まさないといけないっていうらしいし……」

 

 「それだっ!」

 

 「でもよぉ……流石にミルクなんてないぜ?」

 

 「……でるかな?」

 

 「でぇへんよ!?希械ちゃん正気に戻って!?」

 

 「流石に冗談だけど……うーん、困った……あれ?皆乳歯生えてるんだ。離乳食で大丈夫かも。誰か、ランチラッシュ先生に電話!」

 

 赤ちゃんのお世話だなんてやったことないし手探り状態なわけで、泣いて口を開けた瞬間に皆歯が生えそろっているのが分かった。多分これなら離乳食で大丈夫だと思うんだけど……砂藤くんが食堂に連絡を入れるとランチラッシュ先生はすでに動き出していたらしく配膳ロボットが離乳食を届けてくれるらしい。よかった~~。

 

 「希械ちゃんが抱っこするとなんか静かになるね」

 

 「そりゃおめえオイラが考察するにあの豊かな母性がだほげえええっ!?」

 

 「死ね峰田」

 

 「耳郎さんのシンプルな殺意!?」

 

 ぐるぐる巻きにしてなおも足りないらしい峰田くんのセクハラ発言に耐えかねたらしい響香ちゃんがぐずる上鳴くんをあやしつつも両耳のイヤホンジャックで峰田くんに制裁を与えた。それに髪の毛が逆立つほど驚いたらしいデクくん、あれ?爆豪くんは泣いてないんだ。意外とデクくんがお気に召したのかな?あと轟くんも静か。他の子は泣いちゃってる、いやクラスメイトが赤ちゃんになるとかどんな奇跡体験を今してるんだろう私たち……。

 

 「ヘイオマチ!デリバリー!」

 

 「待ってました!あ!涎掛けもある!」

 

 「どうやって食べさせるん?」

 

 「流石にベビーチェアはないからね……作ってもいいけど片付けもあるし……仕方ないから膝に抱いてあげるしかないよ」

 

 「ウチこういうのやったことないんだけど……」

 

 「経験ありそうな梅雨ちゃんが赤ちゃんになっちゃってるからね……」

 

 「つーかこのクラスでそういう方面で頼りになるやつが赤ちゃんになってるよな、楪以外」

 

 「あはは、私が赤ちゃんになったらえーくん以外抱っこできないんじゃない?とりあえずご飯あげてみよっか」

 

 デリバリーロボットが人数分の離乳食を運んできてくれたので、百ちゃんを三奈ちゃんに返してから、私は轟くんを抱き上げて膝に横に座る形にして片手を背もたれみたいな感じにして保持する。じーっとこっちを見る轟くんに涎掛けをつけてからスプーンでほんの少し離乳食をすくって口元に持っていくと。口元をスプーンでつん、とすると大きく口を開けてくれたのでゆっくりと口の中にスプーンを入れて離乳食を食べさせてあげる。むぐむぐ、と一生懸命に咀嚼する轟くん、他のみんなも私の見様見真似でやってみるとみんなやっぱりお腹減ってたのか泣いてたのが嘘みたいにご飯に夢中になった。うん、その

 

 「かわいいね~~。クラスメイトの男の子に言ったらあれだけど」

 

 「かっちゃんが覚えてませんように……」

 

 「爆豪が知ったらクラス全員爆殺だな!」

 

 「上鳴かわいいって思っちゃった……不覚……」

 

 「尾白くん尻尾でスプーン掴もうとしてる~~!かわいい~~!」

 

 「ヤオモモ食べるペースはやっ!?詰まらせないでね!?あー、でも普段から結構食べてるっちゃ食べてるよね~」

 

 うん、その可愛いんだ、みんな。だってさ、赤ちゃんって無条件に可愛いでしょ?じゃあ今赤ちゃんになっちゃってる皆も無条件で可愛いよね……結局私たちはご飯タイムを終わらせてそこから30分ほど赤ちゃんの姿になった彼らに構っていたのだが、唐突に彼らは元の姿に戻った。ご丁寧に制服姿で。当然ながら荒れに荒れてしまうよね。

 

 「デクてめえ何くっついとんじゃ死ね!殺したるから動くな!」

 

 「うわわわごめんかっちゃんこれには深いわけが!」

 

 「うるせえ!聞きたかねえ!」

 

 「ケロ……お茶子ちゃん……お話聞かせてくれるかしら……?もしかして私とっても迷惑をかけたような気がするの」

 

 「朝から記憶がありませんわ……」

 

 「耳郎っ!?ちょ、おれなんかしたか!?ぎゃあああっ!?許してくれえええ!」

 

 「葉隠、さん?あのどうして俺は君の手を握ってたのか心当たりある?」

 

 「うーん!秘密!」

 

 「切島君!なんだかわからないが迷惑をかけたような気がする!済まなかった!」

 

 「おう!特になんもなかったから気にすんなよ!」

 

 「楪……俺はどうしてお前の膝の上にいるんだ?まさか……」

 

 「そ、そ、想像してるようなことは何もなかったよ!?その……このニュース、みて?」

 

 そして私たちはそれぞれ赤ちゃんだった人たちにネットニュースをスマートフォンで見せる。すると、彼らはその見出しを熟読し、内容を精査し、たっぷり1分ほどかけて内容を理解した。段々と彼らの顔に赤みがさしてそして……学校のそこかしこから聞こえる悲鳴と同調するように同じように大声で悲鳴を上げるのだった。私たちはそれをいたたまれない表情で見るしかない。唯一峰田くんだけは羨ましいと顔に書いてあるけど努めて無視する。

 

 結果的にこの事件は学校全体で黒歴史となり、誰も話すことも触れることも話題にすることもなくなった。赤ちゃんだった人は暫くふさぎ込み、世話をした人は自分もそうなってたらと恐れおののき、結果として誰も幸せにならないし笑えないにもかかわらず比較的平和な事件として……本当に日本のヴィラン犯罪史に名を連ねることになってしまった。私は、全てをメモリから消去することにしてこのお話を締めくくりたいと思う。

 

 せーの、イキュラス・キュオラ。




 ギャグって書くの難しい!といういつもほざいてるセリフはともかくとして。一回やってみたかったんです年齢操作の個性。私が書くとどうしても理屈っぽくなってギャグにならないですねえ。そして笑いどころが少ない!

 ま、まあ次回からは合宿編に入ります。楪ちゃんはここで大きなターニングポイントを迎えるでしょう。それがいい方向か悪い方向かは、お話次第ということで

ご意見を募集しているのでよければこちらにどうぞ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=296431&uid=88429

 ではでは感想評価よろしくお願いします


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夏合宿編
48話


 「あれぇ!?A組赤点いるの!?補習の人がいるの!?A組はB組よりずっとずっと優秀なはずなのにおかしかぺっ!?」

 

 「ごめんな~。あとお前も補習組だろ、人のこと言えない言えない」

 

 色々あって林間合宿当日、荷物を持った私たちは雄英のバスストップに参上した。そこでB組の人たちと体育祭ぶりに一緒になったんだけどどうやら物間くんは私たちが相変わらず気にくわない様子で補習者弄りを展開しようとしてたみたいなんだけど……拳藤さんにいつか見たような感じで首に思いっきり打撃を打ち込まれて失神し、バスの中に吸い込まれていった。

 

 私たちはそれを無言でどうしていいか分からず見送り、何とも言えない空気のままB組と別れてバスの方に向かう。私は体の大きさが大きさなので荷物も大きな傾向にあるんだけど……バスもバスだしちゃんと乗るよね!ボストンバッグ二つ……!1週間分の着替えとかそういうの入れたら重くなっちゃったの。

 

 「A組のバスはこっちだ、席順に並びたまえ!」

 

 「いい天気でよかったね、轟くん!」

 

 「そだな」

 

 「あ、ごめんね飯田くん。私体の大きさ的に普通の席じゃだめなの。席順じゃないけど一番後ろに行かせてもらえないかな?」

 

 「むっ!?そういうことなら当然そうしたほうがいい!みんな!後ろを楪君に譲ってくれ!」

 

 「別に好きなところに隙に座ればいいんじゃね?早い者勝ちでよー!荷物積んだやつから乗り込めー!あ!後ろは座んなよ!」

 

 「「「「おー!!!」」」

 

 上鳴くんの意見にみんな賛同して各々荷物を積み込んでバスの中に行く。私もそれにならって手荷物だけをもってバスの中へ、天井が低いので腰をかがめたり頭を曲げたりして何とか一番後ろにたどり着く。あー、やっと座れたよ。若干座席が余ってるみたいだから私が2席分占領しても大丈夫だよね!

 

 相澤先生の目があるからか無駄な時間をできるだけ作らないようにささっとみんなが乗り込んで緩やかにバスが発車した。ユーチューブで曲を流したりとかしたいらしいみんなの声が聞こえてくる。私は一番後ろなのでみんなの顔は見えないんだけど楽しそうで微笑ましい。まるで小学生の遠足のようだけど皆高校生初めてクラス皆でお泊りする機会なのだから、それはそれは楽しみだったのだろう。ちなみに私の隣、まあ2座席ほど隣は爆豪くん。

 

 一緒の座席でやかましくつるんでられっかとのことだけど、本当に鬱陶しいらしくバスが出発した瞬間から腕を組んで目を閉じて眠るスタンスに入っちゃった。まあ、私も眠るんだけど!というのも実は昨日まで夏休みなのをいいことにI・アイランドの件で実用化に成功してしまったビームについてI・アイランドの教授たちと夜遅くまでテレビ通話で知見を深めてたので眠くてしょうがないんだ。

 

 あと!メリッサさんとも超圧縮技術の技術交流からデクくん用のフルガントレットを改良するためのメール通話、その他やり取り……恐れ多いことにシールド博士も一緒に!なので私は毎日寝不足だけど充実した日々を過ごせてるの……!フルガントレットの強度改良はまだ時間がかかりそうだけど応用技術も開発できた!デクくんへ披露するのが楽しみだな~~。

 

 そんなことを考えつつも眠気が限界になった私はバスのカーテンを閉めて窓にもたれかかるようにして目を閉じる。皆のワイワイした喧噪を子守歌代わりにして、私の意識はまどろみの中に消えていくのだった。

 

 

 「……いちゃん!希械ちゃん!」

 

 「んぅ……んん……?お茶子ちゃん?どうしたの?」

 

 私の聴覚センサーがお茶子ちゃんの声を捕らえたので眠りから覚めるとお茶子ちゃんが前の席から私を呼んでいた。何という輝く笑顔であろうか、とてもうららかで可愛らしい。わざわざ眠っている私を起こす程のことなんだから何か大事な用事があるに違いない、なんだろう?

 

 「今皆でしりとりしてるんよ!次希械ちゃんで『ら』だよ!」

 

 「……しりとり?何で……?私起こす必要あった……?」

 

 「あああごめん楪さん!事情があって!実はね……」

 

 気持ちよく寝てたところを起こされたことに文句を言うつもりはないけどしりとりのためだけに起こされたのかとちょっとしゅんと悲しくなってしまった私に慌てたデクくんが説明してくれたところによると、何でも青山くんがバスの中で鏡を見続けたせいで乗り物酔いを起こしてしまっているのでみんなで気を紛らわす何かをしようとなり、それでしりとりとなったのだとか。なるほど、それで私より先に起こされたであろう爆豪くんの眦が吊り上がって怒ってるのね。ふーん……車酔いか荷物の中に……ん、あった。

 

 「百ちゃーん!ちょっとアイマスク作って青山くんに渡して欲しいの~!」

 

 「ええ、構いませんわ。しかしどうして……」

 

 「青山くん、これ飲んで。酔い止めね。あとこれ付けて、静かな森の環境音と焚火の音が流れてるから。あとはゆっくり休んで、ね?はい、スポーツドリンク」

 

 「……め、メルシィ☆レディー……」

 

 私は酔い止めとスポーツドリンク、それと個性で作ったヘッドフォンを彼に渡す。補助席を使ってる轟くんに私の隣でいいならきていいよ、と変わってもらって青山くんが足を延ばして寝られるように場所を確保する。百ちゃんから回されたアイマスクを付けて、ヘッドフォンをして酔い止めを飲んで寝転ぶ青山くん。多分だけど、気を紛らわそうと騒いだせいで悪化した感じする。善意が空回りした感じがするな~。でも、それはそれで……

 

 「みんな、体調悪い人の周りで騒いじゃいけません。静かに休ませてあげて欲しいの。風邪の時と一緒だよ?こういうのは変に意識するよりもちゃんと休んだ方がいいと思うな。というか誰も酔い止め持ってきてないの……?」

 

 「「「「ごめんなさい………」」」」

 

 「私じゃなくて青山くんが復活したらちゃんとごめんなさいするんだよ?でも、みんなの気持ちは嬉しいはずだからね。皆優しくて素敵だな~」

 

 「……も、勿論だよ。みんなの気持ちは嬉しくてたまらなかったさ☆今は羽根を畳んでバスを降りる頃にはキラめいてる僕に戻るから待っててくれたまえ~☆」

 

 どうして気を紛らわすのにしりとりに発展したかはよくわかんないけど、皆の優しさは青山くんに届いてはいたんだ。ちょっと方向性を間違えちゃっただけで。だから青山くんも律儀に文句も言わず付き合ったし、みんなも爆豪くんすら青山くんを心配してしりとりに参加した。うーん、いいクラスだなあ、私A組大好きだ!

 

 「すげぇな、楪。さっと対処しちまった」

 

 「そんなことないよ?皆と一緒、どうにかしたかったけど手段だけ違ったんだよ。酔い止めが無かったら私もあわててたかもね」

 

 「そうか」

 

 「ん~~目が覚めちゃった!何しようかな~。轟くん何かテーブルゲームする!?」

 

 「……将棋しかできねぇ」

 

 「いいよ!将棋!やろっか!」

 

 私はI・アイランドの技術を応用して作った感触はないけどつまんだりして操作できるホログラムを投影して将棋盤を作り出す。ホログラムの王将を不思議そうに持って、碁盤に置くとちゃんとパチンと駒を置いた音がする。ふふふ、こういうところをこだわってこその楪さんなのです!さあ、行くよ轟くん!勝負だ!

 

 

 

 

 

 「ふ、ふぐうう……轟くん強い……!」

 

 「いや、楪も相当だぞ……!まだ分からねえ……!」

 

 轟くんは結構将棋をやりこんでいるらしくて普通に強い、私の穴熊を振り飛車で崩してくる……!物凄い接戦だ!そして私たちはお互い負けず嫌いなので段々と駒を打つ手が白熱しだして、今となってはみんなが後ろを振り向いて私と轟くんの将棋を見物しだした。私と轟くんの一手がパチンパチンと音を鳴らして繰り広げられる。将棋のルールを知っているらしい障子くんと飯田くんが解説と実況を務めている、楽しそうで何より。

 

 「まだまだ……!」

 

 「ここで攻めるぞ」

 

 きたっ!轟くんの怒涛の攻め!私はここで少しだけ長考をしようと口元に手を当てて思考を整理しようとする。そこでタイミングよくききっとバスが止まり、相澤先生が立ち上がった。

 

 「お前ら、ここで降りるぞ」

 

 「「「「「「ええええ~~~~~~っ!?」」」」」

 

 「なんかあるか」

 

 「「「「「「なんでもないですっ!!!」」」」」

 

 「残念、水入りだね」

 

 「ああ、楽しかった。楪、またやってくれ」

 

 「うん、いいよっ!」

 

 相澤先生が降りるといった瞬間に対局を中断する私と轟くん、上がるブーイングと一瞬で鎮圧される何時もの流れをお約束のように繰り返して、私たちは休憩だというのでバスを降りる。それで外に出ると……あれ?崖に作られた一時待避所じゃないこれ?みんなも同じようでトイレに行きたいらしい峰田くんが絶望的な顔をしていると

 

 「煌めく眼でロックオン!」

 

 「キュートにキャットにスティンガー!」

 

 「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」」

 

 「今日からお世話になるヒーロー、プッシーキャッツの皆さんだ」

 

 「知ってます!山岳救助を得意とする4人組ヒーローチーム!キャリアは今年で12年になる大ベテランの……!」

 

 「心は18!」

 

 私でも知っているヒーローチームの二人だ。ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ、デクくんの解説を途中で差し止めたプッシーキャッツの一人、金髪のピクシーボブに肉球が付いたグローブで顔面を握られてるデクくんをよそに茶髪のマンダレイが山の麓を指さして説明するには、合宿所はあそこらしい。早ければ12時半くらいに着く……あれれ?何かおかしくない?

 

 「悪いね諸君。合宿はもう始まってる」

 

 「やべえ!バスに戻れ!」

 

 相澤先生がそう言った瞬間にピクシーボブが地面に手を突くと土石流が発生して私たちを飲み込もうとする。私が咄嗟に個性を発動して壁を生成しようとすると……個性が出ない!?あれっ!?まさか……ああああ!やっぱり!相澤先生が私の個性を消してる!?そんなっ!?

 

 「相澤先生~~!恨みますからね~~~!!!」

 

 「私有地につき個性は自由に使っていいからね!目指せ3時間以内に合宿所到達!頑張ってよ~~!何せここは魔獣の森だからね!」

 

 なすすべもなく土石流に飲み込まれるクラスメイト全員。これがピクシーボブの個性……!土を操ることができる超強個性だ!どうやら空気を含ませて柔らかい状態にした土で私たちを包み込んで優しくおろしてくれたみたいで、私たちは怪我をすることなく地面につくことができた。そして、魔獣の森……?なにそのゲームによく出てきそうな名前は……?あ、個性使える。相澤先生、私が強引にどうにかしようとするのを予期して消したね?凄いなあプロ……

 

 「ドラクエめいた名前の森だな」

 

 「やべえ漏れる!オイラは耐え抜いたぞ……!」

 

 「魔獣っつったってなにが……」

 

 「………………」

 

 「「マジュウだーーーーーー!!!!」」

 

 峰田くんが物陰に走ると、その物陰から土くれでできたような動物……正しく魔獣と言わんばかりの造形のモンスターが現れて、上鳴くんと瀬呂くんが叫んだ。わ、私よりおおきい……!?サイズにしたらゾウとおんなじくらいだよ!?ここで即座に動いたのは動物を声で操ることができる口田くん。

 

 「静まりなさい獣よ、下がるのです」

 

 「効かないっ!?」

 

 「ビームサーベル、形成開始(レディ)!」

 

 口田君の個性が通用しない……ということは生き物じゃない!攻撃して大丈夫な奴だ!私はすぐさま足に力を入れて踏ん張り、魔獣に向かって突撃する。そしてそのまま膝頭から出てきた丸い柄を片手で引き抜いて振るう。柄から伸びた光の剣が魔獣を一刀両断する。そして、私とほぼ同時にデクくんと飯田くん、爆豪くんに轟くんの攻撃が魔獣に当たって魔獣は見るも無残な姿に代わり、土くれになってしまった。

 

 実践投入成功、かな。私は一部真っ赤なマグマになってる魔獣の残骸を見て、ビームサーベルのビームを仕舞う。荷電粒子を斥力フィールドでまとめたビームサーベルの威力は御覧の通り。火力で言えば私のどの装備よりも高い。一撃で全部ぶち壊せるまさに最強ウェポン!私は太ももにサーベルを仕舞うラックを作ってそこにサーベルを仕舞っておく。また使うだろうけど。

 

 「みんな!さっき相澤先生が言った通りだ!もう合宿始まってる!これが最初のプログラム!」

 

 「そういうことか!緑谷君の言う通りだ!ここから合宿所まで全員で進むぞ!」

 

 デクくんと飯田くんの号令に威勢よく返すクラスメイトたち。私も戦闘準備を整える為に個性をフル活用してベルトに小さな小型ボックスが10個ほどついてるものを生み出して腰に巻く。そしてそのあと、木を踏みしめる音を立ててやってくる魔獣たちを油断なく見据えるのだった。

 




 初手で最大火力をぶつけるのは基本。というわけでビーム兵器実戦投入です。バス内のシーンはノベライズからですが、なんで誰も酔い止め持ってなかったんでしょうね。不思議ダナー

 ちなみに描写外でI・アイランドの変態、もとい博士たちとは連絡を取り合って随時アップデートをしています。だからたまにやべー技術が開発されるかもしれません。最近はそこに金持ち天才社長が加わったとか。世も末やな(適当

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49話

 「左!3頭来るよ!」

 

 「空からも!」

 

 「空は私がやるよ。ビームライフル、形成開始(レディ)

 

 「陸の方は僕らが!飯田くん!轟くん!」

 

 「おお」

 

 「了解した!」

 

 地面にイヤホンジャックを指して周りの魔獣が何頭いるかを確認した響香ちゃんが索敵の結果を教えてくれる。空を見ていた梅雨ちゃんの言葉通り翼を持った如何とも形容しがたい形をした魔獣が飛びながらこちらにやってくる。右腕から変形させた新兵器、ビームライフルを構えて、撃つ。独特な射撃音と一瞬だけピンクの閃光が駆け抜けて魔獣を撃ち抜き、撃墜した。うん、快調だね!

 

 「何それ!?SF!?」

 

 「凄いでしょ!!ビーム兵器だよ!一撃必殺!」

 

 「マジかよ楪それ男のロマンじゃん!俺にも貸してくれよ!」

 

 「……私が接続してないと使えないの……」

 

 空を飛んでいる魔獣を次々ピンクのビームで撃ち落とす。残念ながらビームサーベルもビームライフルも手のコネクタで私と接続してないとうんともすんとも言わない金属の塊になるので誰かに貸すことはできないの。ごめんね瀬呂くん、私はビームライフルの下部についてるエネルギーパックを地面に落として、腰の小型ボックスを手に取る。小型ボックスは一瞬で膨張するように姿を変えてエネルギーパックに変形した。超圧縮技術のたまものだよ。私が変形するよりずっと速い。

 

 リロードを終えたビームライフルを照射モードにして横薙ぎに払い3頭の魔獣を真っ二つにする。最大発射回数は単射で15発、照射で3発、このエネルギーパックだとあと10発撃てるね。陸の魔獣はえーくんを始めとした近距離系の人たちが対処してくれる。アッパーで魔獣をぶっ飛ばすえーくん、爆破で粉微塵にする爆豪くん、氷結で行動不能にする轟くんにパンチで砕くデクくんのキルスコアが結構高いかも。

 

 「希械さん!出来ればいろいろ詳しくお伺いいたしたいですわ!私にも作成できれば出来る幅が広がりますもの!」

 

 「理論を説明するのはいいんだけど、サポートアイテムの免許取らないとこれ動かしちゃだめな奴だよ?」

 

 「そうなんですの!残念!ですわっ!」

 

 百ちゃんが私のビーム兵器に興味を示したらしく話を聞きたいと言ってくれるので後で理論から組み立てまでスライドショーで説明しようかな。残念ながら百ちゃんが動かすにはもう何ステップか準備がいると思うんだけど……大砲で魔獣を攻撃する百ちゃんの隣に立ってボックスの一つを解放、連装ロケットランチャーに変形させて目の前の魔獣を一掃する。

 

 サポートアイテムの定義は色々あるんだけど、私のこれ、というか作ってる火器の大半はどうやら免許がいる奴らしい。自分で使うのはいいんだけど他人に教えたり他人が模倣したもので事故ったら私もやばいのです。あとビーム兵器は免許ないと動かしちゃダメな奴だってシールド博士が教えてくれた。作成した私みたいに分かってないと重大な事故につながる恐れがあるからだ。

 

 「うぇ~~~い」

 

 「やばい上鳴がアホになった!」

 

 「陣形組みなおせ!直接戦えねえ奴は内にはいれ!」

 

 「対空は私だけでいいよ!他は地上に集中して!」

 

 「撃ち漏らしたら爆殺すんぞ楪ぁ!」

 

 「任せるよ!楪さん!」

 

 許容量の関係で個性が使えなくなってくる人たちが増えてきた。最初にダウンしたのは放電し続けていた上鳴くん。サムズアップの両手を振り回して隙だらけになってしまう。即座にフォローに入ったえーくんが魔獣の攻撃を受け止めカウンターで粉砕する。キリがないな魔獣!どれだけいる……ピクシーボブの個性だから無限か!なるほど!最悪ぅ!

 

 空から迫る魔獣は私がビームで撃墜する。土を熱と圧力でガラス質に変えてしまうほどの熱量を持つビームのおかげで全部一撃だ。空に撃たないと森は燃えてしまうので地上の敵は超圧縮技術で封じ込めた腰ベルトのボックスたちで対処する。私は戦闘中に体を変形させて武器を作るのがデフォだったけど、結構集中力がいるから誰かと一緒じゃないと実は難しいの!特にオールマイト先生みたいな滅茶苦茶強い人相手だとほぼ無理だね!

 

 でも、予め武器を作っておくことはできてもストックするのは無理だった。やれて背負うとかそういう形で両手合わせて4つが限度。でも、超圧縮技術を覚えた今は違う。予めいくつもの武装を作ってストックしておくことができる。超圧縮技術は優秀で、私が通常使用する普通の人にとっては巨大な兵器を指先サイズの小さな小さなボックスに収めてしまえる。これで私の戦闘に幅がかなり出てきた!どのボックスがどの兵器かを記憶するという新しい問題が出来たけどそれは私、メモリがあれば忘れない!ありがとう個性!

 

 「うわわわ!近づきすぎた!」

 

 「透ちゃん!大丈夫!?」

 

 「わ!希械ちゃんさんきゅー!あ!ライトセーバーだ!」

 

 「ビームサーベルだよぅ……プラズマじゃなくてビームなの……」

 

 「……どう違うの?」

 

 「3時間くらいかかるけど聞く?」

 

 「後で3分でわかるように教えて!」

 

 「3分!?」

 

 魔獣相手に囮を務めてた透ちゃんが距離を誤って魔獣に潰されそうになってしまったので咄嗟にビームサーベルを抜いて魔獣を切り捨てて助け出す。違うの透ちゃん、ライトセーバーはプラズマの光剣であってビームサーベルは粒子を加速させたビームなの……違いを説明すると長くなるんだけどカップラーメン感覚で教えるのは……いや、プルスウルトラだ。これくらいできなくてヒーローには成れないと思う!

 

 「きりがねえ!」

 

 「でも近づけてるよ!あと少し!」

 

 「つーか3時間ってウソだろ!もう夕方だぞ!」

 

 「直線距離で3時間って意味かな……?戦闘しっぱなしでそんな速くは無理だと思う……」

 

 もう無理だ、うん。3時間?いやいや8時間近くかかってるんですけど……。最後に残った魔獣をビームサーベルで消し飛ばしてため息をつく。とっぷり茜色の夕日が私たちを照らしていた。みんな個性を使いすぎてヘロヘロなうえに全身の疲労で言葉が少なくなっている。かくいう私もくぅくぅお腹がなっていて、エネルギーが足りない中無理やり個性を捻りだしている状態。ビームライフルもとっくに弾切れして残弾を補充する暇もなかった。ふぇえん、お腹空いたよぅ……美味しいものが食べたい……。

 

 

 

 

 「ねこねこねこ……とりあえずお昼は抜くまでもなかったねえ」

 

 「なにが……3時間ですか……!」

 

 「悪いね、それ私たちって意味なの」

 

 「実力差自慢かよ……やらしいな」

 

 あぁ~~、やっと着いた……みんなドロドロのボロボロ状態でようやく相澤先生やプッシーキャッツのいる合宿所にたどり着くことができた。なお上鳴くんはアホ面から戻らず、峰田くんの頭皮は限界を迎えて流血し、砂藤くんは半分寝ている。そして脂質を使い果たした百ちゃんを私がおんぶしている。乗り心地悪くてごめんね~

 

 「百ちゃん、大丈夫~?着いたよ~」

 

 「ええ、申し訳ありませんわ……ご迷惑をおかけしました……」

 

 「ぜーんぜん!もうちょっと待っててね~」

 

 「でも正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣を簡単に攻略してくれちゃってもう……!3年後が楽しみ!唾つけとこ~~!」

 

 ピクシーボブが指し示したのは私を含むえーくん、デクくんに爆豪くん、飯田くん轟くんの6人、ちょっと離れたところに立ってた私に被害はいかなかったけど物理的に唾をつけられてる5人はちょっと気の毒かも……え?ピクシーボブは焦ってる……適齢期的な意味で。ヒーローも婚活に苦労するんだね……結婚かあ、私はどんな人とするのかな。いやむしろこんな大きい女(半分メカ)を貰ってくれる人がいるのかしら……悲しくなってきたので考えるのを辞めよう……。

 

 「適齢期と言えば」

 

 「と言えば!?」

 

 「もがっ!?いやその、ずっと気になっていたんですがその子はどちらのお子さんで!?」

 

 「あー、いや違うの。この子は私の従妹の子ども。ほら洸汰!1週間一緒なんだから挨拶しなさい」

 

 なんてひどい話のつなげ方だよデクくん。ピクシーボブのネコハンドに顔面を掴まれた状態のデクくんがさっきからマンダレイと一緒にいた男の子、幼稚園か保育園に通ってくるくらい幼い男の子を指さしてどっちかのお子さんですかと尋ねる。マンダレイは手を振って否定し、自分の従妹の子供で事情があって預かっていると説明してくれた。あんまり私たちにいい印象は抱いてないみたいだけど……。

 

 「あ、僕は雄英高校ヒーロー科の緑谷出久、よろしくね……っっっ!?!?!?!?!?……きゅう……」

 

 「いやあああっ!?デクくん!?しっかりして!?」

 

 「いってーわ、あれ……おい緑谷大丈夫か!?」

 

 「何してるの洸汰!?」

 

 「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」

 

 洸汰くんに握手しようと手を差し出したデクくんに向けて、容赦なく突き刺さる小さな拳。普段というか戦闘訓練で痛いのは慣れっこだと思うけど……その、男の子、しか分からない痛みだよねきっと。どこがどうなったかはあまりにも悲惨すぎてちょっと考えられない。泡を噴いて倒れ伏したデクくんを慌てて抱き起す。えーくんが酷く同情的な顔でデクくんの顔をぺしぺしと気付けしてくれてる。

 

 洸汰くんは、私たちのことがよっぽど気にくわないみたいでマンダレイの注意を無視して合宿所の中に入っていった。それよりもデクくんだよ!思いっきり入ったから凄い痛いんだよね!?想像できないけど!えーくんも女子には分からねえよ……って言ってるからね……男の子は大変だなあ……。

 

 「茶番はいい、さっさとバスから荷物を下ろして部屋に置いてこい。そのあと食堂で夕食、のちそのまま就寝だ。明日の起床時間は午前5時30分!」

 

 「茶番で重症者出てるんですけど……」

 

 「それに関しては同情しよう」

 

 相澤先生も同情する一撃だったんだ……洸汰くん、おそるべし。次やったら謝るまで無言で見つめてやる。

 

 

 

 「いただきまーす!」

 

 「お腹減ったよぅ……自分で料理しろって言われなくてよかった~」

 

 「そしたらアタシ希械ちゃんに作ってもらおうかな」

 

 「いいけど~、三奈ちゃんのご飯も食べてみたいな~」

 

 もっしゃもっしゃ、と我ながら少しお行儀悪いかもしれないけど個性の使い過ぎでエネルギーがデッドゾーンに突入してる私は卓上にあるおかずと奇麗につやつやと輝いてる白米を口の中に詰め込んで咀嚼もそこそこに嚥下していく。今なら多分大食いの自己記録を達成できそうな気がするよ……にしてもおいしいなぁ。お腹が減りすぎてるせいもあるかもしれないけどプッシーキャッツのお二人お料理とっても上手だ!時間あったらレシピ聞きたい!

 

 すさまじい速度で料理を消費していく私たちに怒ることなく次々補充してくれるお二人に感謝しつつ私も対抗してご飯を食べる。明日からも大変そうだし食いだめをしておかないと……。

 

 

 

 「浮く……んだね」

 

 「ういてるね!」

 

 「……ほんまやねえ」

 

 「ケロケロ」

 

 「みんなしてどこを見てるの……別に大きくてもいいことないよ?下は見にくいし……時々邪魔だし……」

 

 「ええ、そうですわ」

 

 「これは私のだよ~」

 

 「いやちがうよ?私のだよ?三奈ちゃんは自分のがあるでしょ?」

 

 かぽーんと、鹿威しの音がする露天風呂。露天風呂だよ?凄いね合宿所、至れり尽くせりだ。そういえばこのクラスのみんな、正確には三奈ちゃん以外と一緒にお風呂に入るのは初めてだな~。あ、手足はちゃんと防水加工しております。漏電したらセルフ電気風呂になっちゃう。普通の人が入ったら死んじゃうくらい高電圧だけど。じーっと私の胸を見つめてくる皆。そっかー、お湯に浮いてるのが珍しいんだね~。大きくても別にいい事無いんだけど……。

 

 髪を纏めて、頭にタオルを乗せた私、温泉の深さの関係上仰向けに寝転ぶみたいな感じで温泉を堪能中であります。個性の関係上肩こりとは無縁だけど邪魔だなあって思うことは多々あるよ。特に下が見えないせいで何度か峰田くんを気づかず踏みつぶしちゃったことあるし……あ、でも私のぱんつ覗きに来たからお相子なのか、えーくんから何度もお話されてるのに懲りないよね峰田くんも。

 

 「壁とは!超えるためにある!プルスウルトラぁぁぁぁ!!!」

 

 「……もしかして峰田くん、覗きにきてる?」

 

 「げ、まじ!?あいつさあ……」

 

 「こりないねー峰田。切島に殴ってもらおうか?」

 

 「えー!峰田くんに見られるのはなんかヤダ!」

 

 「普通に男子に見られるのは嫌なんやけど……」

 

 「ケロ、流石に相澤先生に怒ってもらった方がいいと思うわ」

 

 「とりあえず全力で迎撃いたしましょう!」

 

 「私、撃ち落とすね」

 

 体を起こして腕を変形、怒りの6連ガトリングが顔をのぞかせる。圧搾空気なのは慈悲だと思ってほしい、峰田くん、覚悟!ってあれ!?洸汰くんだ!洸汰くんが柵を乗り越えてこちら側にやってこようとした峰田くんを柵の合間から顔を出して落としてくれる。クソガキィィ!という峰田くんの叫びが響くけど、自業自得だよね。

 

 「ありがとう、洸汰くん~」

 

 「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」

 

 「中に水はいっちゃった……後で錆び止めしないと……」

 

 「あっいけない洸汰くんっ!?」

 

 覗きを防いでくれた洸汰くんにお礼を言うと、彼は反射的に私たちの方を見て、驚いてしまったのか男湯側に落ちてしまった。立ち上がって柵まで走っていく。ヤバいよ、下石畳だよ!?頭を打ったり……それでなくても骨折とかしちゃう!

 

 「おーい男子~~!洸汰くん無事~~っ!?」

 

 「大丈夫だ!緑谷が受け止めた!おいマンダレイのとこ行くぞ!」

 

 「うん!行こう切島くん!」

 

 えーくんとデクくんからの返事を受けて、私たちはほっと胸をなでおろしたのだった。峰田くんには後で三奈ちゃんが考えたお仕置きを実行しようかな……でも効果あるのかな?ひたすら筋トレ中のパンツ一丁ボディビルダーの動画を見せ続けるのって。

 




 峰田はそろそろ自重せよ。書いてるのわしだけどほとんど原作の所業やぞ。あ、当然の話ですが楪ちゃんはでかいです。ナニがとは言いませんがでかいです。この作品の根幹なのでお許しください

 では感想評価よろしくお願いします


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50話

 「おはよ~、みんな起きれる?」

 

 「むにゃ……希械ちゃんおあよ~」

 

 「おはようございますわ……」

 

 「ケロ、まだ眠いわ……」

 

 「希械ちゃんすごいね~……眠くないん?」

 

 「すぴ~~」

 

 「んぅ~……」

 

 「あはは、私の体内時計は正確だからね。ほら響香ちゃんに透ちゃん、朝だよ……透ちゃんなんで裸なの!?」

 

 「私、寝るときは裸派なの~」

 

 そうなんだ……じゃなくて!あの魔獣の森トレッキング(不本意)があった合宿初日から一夜明け、集合時間少し前に目を覚ました私がみんなを起こす。私は起きようと思った時間にセルフ脳内アラーム&強制起床をすることができるのでみんなの目覚ましをやるよーと昨日のうちにお話してある。個性で寝ぐせぼさぁな髪を直してみんなを起こすと皆昨日のことで滅茶苦茶疲れてるのか何とも寝起きが悪い。

 

 うゆ~希械ちゃん寝ぐせ直して~と甘えてくる三奈ちゃんの寝癖を櫛で治して、顔を洗わせたりなんだりしてるとすっかり集合時間間近だ。わーい朝ごはん……え?お預け?特訓が先?しょんなあ……動くためにジャージに身を包んだ私たちを出迎えてくれるのはいつも通りの相澤先生がいた。いつも眠そうなのに早起きなんだねえ~。

 

 「本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及び、プロヒーロー免許の仮免許の取得だ」

 

 強化、なら私たちは毎日励んでいるわけだけどどうやらそれとは別のお話みたいだ。筋トレや訓練、戦闘に救助の経験じゃないものかもしれない。というのも不本意ながら私たちはヴィランに襲撃されて、体育祭を勝ち抜いて、さらにはI・アイランドでヴィランから島を取り返したというなんじゃそりゃという感じの濃ゆーい3か月を過ごしているのだ。こんなこと言いたかないけどそこら辺のヒーロー科では絶対できない経験だ。

 

 「で、だ。入学から3か月、君らがどれだけ成長しているか、だが……爆豪、これ投げろ」

 

 「こいつは……」

 

 「お!そりゃ個性把握テストの時の!確かになあ!1キロくらい行くんじゃねえか?」

 

 渡されたのは個性把握テストで使われたボールだ。それを受け取った爆豪くんがにやりと笑い……くたばれ、というまた何とも反応しがたい気合の掛け声とともに爆破でボールを打ち飛ばした。右目で観測すると、あれ?思ったよりも飛んでない?709mと少し、入学した時は705mだったから、あれだけ濃い経験をした割にはあまり伸びてないような気がする。

 

 「とまあ、君たちは確実に成長していることは間違いないが……それはあくまで経験に技術、多少の体力向上くらいだ。見ての通り個性そのものに関しては伸びていないのが現実」

 

 な、なるほど……確かに私の個性に関してもそうだ。例えば私の個性の上限と言えばオーバーヒート、熱耐性そのものが私の許容上限、熱圧縮だったり強制放熱だったり冷却ジェルだったりとあの手この手を尽くして熱への対策を積んできたものの、許容できる熱の上限が上がったわけじゃない。あくまで放熱効率が上がった、もしくは熱を捨てる手段が増えただけなんだ。

 

 「この合宿で君らの個性を伸ばす!つまりはプルスウルトラ……限界突破だ!」

 

 

 

 「じゃあ、轟くんよろしくね?私のことは気にしなくていいから」

 

 「いや……普通に気にする」

 

 「大丈夫だよ、私頑丈だから!」

 

 個性の限界突破……私の場合は弱点を埋める方向になったみたい。そもそも私の個性を伸ばそうと思ったらやることはお勉強と実験なんだけど、既にビーム兵器まで実用化してるので攻撃力その他に関しては過剰もいい所、なので許容できる熱量をあげる特訓をすることになりました。

 

 それで、その特訓をしてくれる相手は轟くん、彼は個性を交互に使ってお風呂の温度を一定に保つ特訓をするみたい。彼はアクセル全開状態なら両方を同時に使えるんだけど繊細なコントロールをするのがまだ無理なので両方を使いながらコントロールを目指すって感じかな。なので私は彼の近くで個性を使い続けて氷結と炎熱を交互に食らって温度に対する耐性をあげよう!っていうわけだね!

 

 「いつでもどーぞ~」

 

 「おお」

 

 個性で椅子を作って座り、ついでに今一番作るときのコストが高いゴリアテを含めたタイタンシリーズやビーム兵器などをメカアームの先で作ったり仕舞ったりして私は個性を使い続ける。うぐうう~なんもやってないとすぐ熱こも……いやあつぅ!?轟くんの炎やっぱりエンデヴァーの息子なだけあって滅茶苦茶温度高いよ!あっつ!生身が焦げそう!ちべたっ!?今度は氷漬けだ!

 

 「ゆ、楪……?大丈夫か?」

 

 「だ、大丈夫だよ今の所!あ、いけないオーバーヒートした……轟くんは私気にしてたらダメだよ~直撃してもへーきへーき」

 

 「……心臓に悪ぃ」

 

 冷却ジェルも放熱も全くしないせいで一瞬で許容量を超えてオーバーヒートする私、個性は使えないけど熱耐性をあげるわけだからあんまり関係ないね。轟くんはところどころ焦げた私を心配してくれてるけど案外無傷だよ?え?もうちょっと離れろ?嫌です特訓なので。この夏の熱気がさらに私の中に熱を蓄積させていくぅ……。

 

 暫く冷たいとあっついの地獄のハーモニーを甘んじて堪能していると、えーくんが尾白くんと一緒に個性伸ばしをしているのが目に入った、氷越しに。尾白くんは割と必死なんだけどえーくんの方は何とも余裕そうで不完全燃焼って感じがするね。

 

 「あー、尾白。すまねえけどもっと強く打ち込めねえか?まだ俺の方余裕あるわ」

 

 「やっぱそうだよね。結構本気なんだけど……具体的にどのくらい?」

 

 「そうだなー……希械ー!わりぃけどちょっといいか~!」

 

 「なに~!?」

 

 「お」

 

 えーくんに呼ばれたので氷漬けの状態から氷をバリバリと割って立ち上がり、メキャメキャと音を立てて体の自由を取り戻してから二人の元へ向かう。轟くん氷結の中にいた私が急に動き出したことにたいそう驚いたみたいだけど何度もやってるじゃん。うーん、氷漬けのおかげでオーバーヒートからは脱せたかな?オーバーヒートからの強制冷却を繰り返してるから大分酷使されたって感じする!

 

 「いつもやってるみたいに殴ってくんね?思いっきり」

 

 「りょうか~い。いくよ?ていっ!!!!」

 

 「ふんぬっ!!!」

 

 ゴガキャァ!!!とすさまじい音がして硬化したえーくんに振り下ろされる私のパンチが彼の足元を陥没させる。火花を散らして私の拳とえーくんの硬化した体がぶつかり合い、えーくんが耐えて私は拳を引いた。唖然とした顔でこっちを向く尾白くんにえーくんと二人で声をかける

 

 「「このくらい」」

 

 「できないよ!?」

 

 「まあ、そうだよなあ。相澤先生に相談すっか。あ、でも尾白は俺殴ると個性伸びるんだよな?だったら変えるのやめた方がいいかぁ?」

 

 「ならば、我ーズブートキャンプへ来い……!切島、貴様は我が揉んでやろう。尾白!貴様もだ!尻尾で筋トレ!筋繊維を千切り飛ばせ!」

 

 「は、はい!」

 

 「マジっすか!虎さん!ありがとうございます!」

 

 如何せんえーくんは硬い、硬すぎる。何せ私の全力パンチをこうも耐えるのだ。尾白くんは異形型であって増強型じゃない、筋トレを繰り返せばえーくんばりのパワーを出せる可能性があるけどえーくんがこれだけのパワーを誇るのはガッチガチに体が硬いので自分に帰ってくる反動をすべて無視して力を籠めることが出来るからだ。普通の人体でえーくんのパワーを再現したらデクくんがそうなっちゃうみたいに反動で骨が折れるかもしれない。

 

 「デクくーん、尾白くーん!あとB組の人たちも!これ期末で先生たちが使ってた超圧縮重りのリストバンドだよ!折角だし使ってみて!重さは一つ10キロね!」

 

 「ほぉう、いいもの出すじゃないか楪……!全員それをつけてもう一回!」

 

 「「「イエッサー!!!」」」

 

 増強系で筋トレと言えば重りでしょ?と私が出したリストバンドをつけてブートキャンプを再開する増強組とプッシーキャッツの虎さんに連続で打撃を打ち込まれるえーくんを置いて私は特訓を続ける轟くんの元に戻る。もういいのか、という轟くんに大丈夫、と返すと彼は短くそうかと言って、また炎熱と氷結を繰り返していく。熱い、冷たい、熱い、冷たい……これ私じゃなかったら死んでるよね、今更だけど。

 

 

 

 「世話を焼くのは昨日までって言ったね!?」

 

 「己が食うものは己が作れ!カレー!」

 

 「「「「「「イエッサー……」」」」」」

 

 午後4時、一旦特訓を中断した私たちは飯盒炊飯をするという実に林間合宿らしいイベントを体験することになった。料理といえば私、私といえば料理。つまりここは私の独壇場!いや違うか。皆が楽しく料理するのが大事だよね~。私も適当に大雑把に頑張ろうかな。ニコニコしながら野菜に皮むきを進めていると

 

 「ねー、希械ちゃん。私希械ちゃんの本気カレー食べたいな~」

 

 「いいけど……材料が……」

 

 「カレーっつったら希械のカレーうまいよな芦戸!分かるぜ!」

 

 「え、なに楪のカレーそんなうまいの?」

 

 「そういや楪の弁当のおかずどれもうめーもんな!そう考えると俺も食ってみてーなー」

 

 三奈ちゃんの発言に端を発してクラスのみんなが調理をしながらも私のカレーの話に花を咲かせている。うーん、別に私のカレーは特に変わったところはないんだけど……えーくんも三奈ちゃんも確かに招待してカレーを振舞ったことはあるし、二人は味も知っている。そうなれば私も作ってあげないとダメかなあ……でも聞いてみないと……。

 

 「すいませんマンダレイさん、材料ってこれ以外にもあったりします?あとスパイスも……」

 

 「ええ、あるけど……あら、レシピがあるの?じゃあ台所から好きなもの取ってきて、作っていいわよ。か・わ・り・に……私たちにも食べさせて頂戴な」

 

 「え、はい!私の料理でよければ!」

 

 許可が出たので合宿所の台所に駆け込んで必要な材料を取ってくる。えーっと、牛もも肉のブロックに、赤ワイン、リンゴ、はちみつ、ヨーグルトにチョコレート、コーヒー、あとパウダースパイス!ローリエも!ルーには頼らないのが楪ちゃん式です!むんっ!頑張るぞー!ゴム手袋嵌めなきゃ。

 

 「あ、戻ってきた。って何それ!?」

 

 「え?電気式圧力鍋だけど……時間がないし……」

 

 時短のために個性で作り出した文明の利器と私が調理を開始する。ゴロゴロと大きくカットした牛もも肉にすりおろしにんにくと生姜を塗りたくってから焼き目がつくまで焼いて、そのまま赤ワインと一緒に圧力鍋に入れて煮込む。灰汁を取ってから圧力鍋の蓋を閉めて加圧開始。同時並行でIHヒーターを作り出してフライパンでみじん切りにした玉ねぎをバターであめ色になるまで炒め、パウダースパイスと一緒にカレーペーストを作っていく。そのまま鍋にジャガイモ、ニンジン、マッシュルームを入れて煮込んでおく。

 

 「はっやどうなってるん……?」

 

 「クソがこんくらい俺もできるわ!」

 

 「かっちゃん張り合うところ違うんじゃないかな……」

 

 それで、湯剥きしたトマトを角切りにして野菜が入っている鍋の中に入れる。コクが出て美味しいの!トマト缶でもいいんだけど、折角生のいいお野菜あるし!加圧時間は30分でいいかな。その間にご飯を炊いておこう。あ、やってくれてる?ありがと~~!カレーペーストを別皿に移して今は待ちの時間!

 

 「希械ちゃん慣れとるね。ずっと家でもやってるん?私が泊まらせてもらった時とかもそうやったし」

 

 「そうだよ~。私お料理大好きなの。本当だったら前日にブイヨン作ってそれでカレー作るんだけど……流石に昨日にタイムトラベルはできないかなあ」

 

 「何だろ、もうすでにうまそうっていうのが分かる」

 

 「市販のルー使ってない時点でなんかやべえもん作り出したって感じするよな」

 

 「ケロ、お茶子ちゃんお泊りしたのね。羨ましいわ」

 

 「ふふ、梅雨ちゃんも来る?みんなも来たければ来ていいよ」

 

 「じゃあ是非オイラが……」

 

 「峰田はダメだろ。考えろよ」

 

 瀬呂くんに真顔で突っ込まれた峰田くんがなんでだよと言っているけど仕方ないと思います。私は加圧が終わった圧力鍋からトロトロになったお肉を野菜の鍋に汁ごと投入して、そこにカレーペーストと隠し味のリンゴやはちみつ、チョコにコーヒーを少しづつ入れて、ウスターソースで味の調整をする。まあこんな感じかなあ。あとは味がなじむまで15分煮詰めれば完成!私特性カレー!

 

 ぐるりと寸胴一杯にあるカレーをかき混ぜて、小皿に移して味見。うん、これで大丈夫かな。じゃ、マンダレイたちプッシーキャッツの分のご飯によそって……うーん、つやつやのご飯にカレーってどうしてこんなに食欲をそそるんだろう!?我ながら美味しくできたぞ~。

 

 「プッシーキャッツの皆さんと相澤先生、ブラドキング先生、良かったらどうぞ」

 

 「うわー!すっごい美味しそうにゃん!」

 

 「やるねー、想定以上のものが出てきた」

 

 「感謝する……」

 

 「あちしにも!?ありがと~~!」

 

 「俺の分もあるのか!いい子じゃないかイレイザー!」

 

 「……ま、そうかもな」

 

 そうこうしてるうちにみんなのカレーも完成したみたい。鍋敷きに敷かれたカレーは私からしたらどれも美味しそうだなあ。でも、みんなの視線は私が作ったカレーに注がれてる。流石に全員分を大盛りにする量はないから、小盛りで許してね。と配膳を済ませてみんなで手を合わせて頂きます!

 

 「うーん!やっぱり希械ちゃんのカレー美味しい~~!」

 

 「ええ、美味しいですわ……!」

 

 「お肉がトロトロや……!」

 

 「えへへ、ありがとみんな」

 

 どうやらみんなのお口にあったようで、皆が美味しいと言ってくれる。私はそれに嬉しくなって笑いながら、皆が作ってくれたカレーを口に入れるのだった。うーん、やっぱりこっちも美味しいね!市販のルーは偉大だよ、でもやっぱり。皆が作ったから美味しいのかな。




 カレーって奥が深いですよね。ちなみに楪ちゃんと切島くんのトレーニングは常人なら殴り殺されてます。流石えーくんガッチガチ。普通に強いんだけどね、尾白くん……

 楪ちゃんの個性特訓は熱耐性の底上げです。上限値なので突破できればよし!体制が上がればもっと良し!

 感想評価よろしくお願いいたします。


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51話

 「えー、峰田くん。流石にこれは私としてもフォローのしようがありません。間違いなく犯罪行為です。分かるよね?」

 

 「なんだよ!風呂場で服着てんじゃねえよ!反則だろ!」

 

 「峰田ちゃん、貴方が覗くって昨日のうちに分かってたからこうやって罠を張っていたのよ?」

 

 「お仕置きされちゃえばいいんだ!もう!」

 

 鹿威しがいい音でなる露天風呂、私たちはロープとその他さまざまな拘束具を使い思いつく限りの方法で目の前にいる性欲モンスター、峰田実を捕獲していた。昨日覗かれるっていうのを察した私たちはマンダレイの許可を取り私と百ちゃんプレゼンツによる女湯の要塞化を済ませていたのだ。そして峰田くんは案の定引っかかった。当然だ、私と百ちゃんが本気を出した&I・アイランドの技術力の無駄遣いの双璧を搔い潜れたのだとしたらそれはプロの技量だからね。

 

 久しぶりに私も本気で怒っている、結局峰田くんチア服の件頑として謝ってくれなかったし。ぷんすこと私がお説教をしていても峰田くんはどこ吹く風、怒ったぞ!私怒ったぞ!百ちゃんに目配せすると彼女もこくりと頷く。これからB組女子のお風呂で、私たちも峰田くんを捕獲出来たらそこで混ぜてもらうことになっている。

 

 ひょい、と峰田くんの首根っこを掴んでお風呂場の脱衣所を出てマンダレイたちがいる管理人室に運ぶ。女子全員怒ってるので無言で。きっと私たちの目には今ハイライトがない事だろう、持ち方もまるで腐った牛乳がしみ込んだ雑巾を摘まむような感じだ。私たちの怒りが伝わったのか峰田くんはゴクリと唾を呑んで無言になった。

 

 「失礼します、マンダレイ」

 

 「あら……昨日で懲りなかったのね。全く、思春期の男の子はこれだから……」

 

 「で、どうするにゃん?」

 

 「相澤先生に女子からお仕置きする案の許可を貰っています。その際ここでやれと言われてるので少しだけ間借りさせてください。ていっ」

 

 「んぎゃっ?!おいもっと優しく……ひょぇ……」

 

 ぽい、と峰田くんを床に転がすと、彼は扱いの悪さに文句を言おうと私たちを振り返って固まった。多分、にっこりと笑う私たちを見たからに違いない。私はどうか分からないけど、他のみんなは確実に怒ってるのが分かる笑顔なのでお仕置きされるのが確定だというのを察したのだろう。私がVRゴーグルとヘッドフォンを、百ちゃんが拘束椅子を作り出して、峰田くんをセットする。私がそこで峰田くんにゴーグルとヘッドフォンを付けて、スイッチを入れる。

 

 「なんだ、なんだよこれ!?AV流してくれるのならかんげ……うぎゃああああああっ!?止めてくれ!救けてくれ!筋肉が!筋肉が迫ってくる!?」

 

 「2時間くらいこの状況でいてね。聞こえてないだろうけど……」

 

 「はー、これで安心。希械ちゃんお風呂はいろお風呂!B組の子たちと一緒に!」

 

 「そやね~。峰田くんおらへんからゆっくりできるわ~」

 

 彼のゴーグルとヘルメットの中で流れているのは三奈ちゃん発案のボディビルダーの筋トレ画像、さわやかかつ暑苦しい笑顔でバルクアップをするマッチョたちに囲まれてさぞ幸せだろうね峰田くん。ちゃんとASMRもしてるし、どこ向いても筋肉がいるからね。よかったね峰田くん、裸の人たちと一緒にいれて、ね。

 

 「えげつないにゃん」

 

 「あちしでもちょっとのーさんきゅ~」

 

 悲鳴を上げる峰田くんをほって、私たちはお風呂に向かうのだった。次覗いたらもっとひどいことするからね。流石にライン超えちゃうと私たちも庇えなくなっちゃうからここら辺でやめて欲しいなあ。ああ、暖かいお風呂が染みるよお。

 

 

 

 

 

 「あー峰田、まだ叫んでるね」

 

 「しょうがないよ、ウチがやられても叫ぶから、アレ」

 

 「や、やり過ぎたかなあ……?」

 

 「峰田くんにはあのくらい必要だよ!もう!」

 

 ぷんすこぷんすこと怒る透ちゃんが私にもたれかかりながら文句を言っている。実は透ちゃんと私はそれなりに仲良しだ、というのも現状透ちゃんの顔を認識できて過たず目を合わせて会話できるのが私であり、今までそういう人間がいなかったらしい透ちゃんはよくよく話しかけてくれることが多くなった。きっかけがなくて名前で呼ぶタイミングを逃してたけど、三奈ちゃんをのぞいたら一番仲がいいかも。その次は席が近い百ちゃんかな?

 

 どうも透ちゃんは無意識のうちに透明な自分を見れる人物を探してたようで、鏡にも映らない自分の容姿がどんなのか私に聞いたりして、髪型変じゃない?とか頼ってくるようになった。というのも透ちゃん、誰にも見えないもんだから髪の毛は感覚で自分で切ってるみたいだし、自分がどんな顔をしてるのかを知らなかったのだそう。これも個性の弊害だね、私の体重とかと一緒。

 

 まあつまり、何といえばいいのか分からないけど私は透ちゃんが好きだし透ちゃんもきっと私のことを好いてくれてると思う。三奈ちゃん並みにスキンシップが好きみたいだし。今もほら、体勢変えて私のお腹を枕にして寝転び始めた。いくら私が寝転んでるからって自由な。三奈ちゃんも三奈ちゃんで私の隣で寝てるし。嬉しいです。みんな大好き。

 

 「ごめーん、拳藤だけど少しいい?さっきはありがとね、これほんの少しだけど気持ち程度のお礼。受け取ってよ」

 

 「おー、お菓子や」

 

 「峰田さんのことでしたらお礼を言われることではありませんわ!寧ろ私たちのクラスの男子が皆さんに迷惑をかけるところでしたもの」

 

 うんうん、とみんなで頷く。やってきたのはB組の拳藤さんに塩崎さん、角取さんに取陰さんだ。どうやら私たちA組の困ったちゃんで性欲モンスターの峰田くんの件で私たちにお礼を言いに来たらしい。そう、お礼を言われると逆に困ってしまうのです。なぜならアレは間違いなくA組のクラスメイトなので連帯責任というか何というか……ねえ?やっぱり峰田くんきらい。

 

 「ありがたく貰うけど……折角だしみんなで食べようよ!女子会しよ女子会!」

 

 「オゥ、ジョシカイ!実はやってみたかったんデス!」

 

 「あー、折角の合宿だしね。悪くないじゃん」

 

 「女子かーい!いいね!ね、ね!」

 

 「透ちゃん、好きね」

 

 なるほど、女子会。三奈ちゃんが提案したそれに乗っかるA組女子たち、私もまあB組の人とは話してみたいし塩崎さんいるし、賛成かなあ。どうも他のB組の女の子は個性猛特訓の件で先生に呼ばれてるみたいで不在みたい。女子会、女子会かあ~。何話せばいいんだろう?私の会話デッキって科学の話とかそういう女の子らしくないものが多い気が。あ!でもお料理の話ならたくさんできるぞ?

 

 みんなで廊下に出て自販機でジュースを買って戻ってくる。お菓子を真ん中に置いて車座でそれを囲んで乾杯。思い思いの体勢で話し出した。けど、皆何を話したらいいかわかんなくてうーん、と考えてるとここで頼りになるのは賑やかしに定評がある三奈ちゃん、元気よく手を挙げて発言した。

 

 「女子会と言えば恋バナ!というわけで~~!付き合ってる人がいる人~!」

 

 「あー、そういうやつ……」

 

 「オツキアイ……私イナイデス!」

 

 「わ、私たちにはまだ早すぎますわ!」

 

 ああ、そういう話題に行っちゃうんだ……流石は三奈ちゃん、恋バナ大好きだね。私たちも女の子なのでそういう、恋とかいうふわふわした青春の一幕みたいなものには俄然興味があるわけで、なんだけど皆ワクワク顔で誰か名乗り出るのかな、と見まわしてみるが結局誰も名乗り出ない。というかあれだね、作ってる暇ないよねヒーロー科って。

 

 「えっ!?誰もいないの!?」

 

 「流石に危機感出てくるよ!?」

 

 「中学の時は受験勉強で、入ってからはそれどころじゃないもんなー」

 

 「あー、友達が言ってたね。付き合うことになったとか……え、私らかなり遅れてる……?」

 

 取陰さんの言葉に私たちは雄英ではなく別の学校に進んでいった中学のお友達を思い出す。繋がり自体は薄味になってしまったけどグループSNSとかでたまに流れてくる彼氏が出来たとか友達にお付き合いしてる人がいるだとかそういう話、割と多くない?もしかして私たち、青春とかそういうものに乗り遅れてるのではなかろうか?

 

 「うあー!悔しい!でも恋バナしたい!キュンキュンしたいよぉ!ねね、片思いでもいいから誰か好きな人いないの!?」

 

 両手をぶんぶんと振る透ちゃんがそんなことを言う、片思いかぁ……残念ながら私はそういうのないかなあ?何せ毎日がエブリデイで滅茶苦茶忙しいからね!特にI・アイランド行ってからなんてそれに輪をかけて凄いことになってるもん!恋に生きるより科学とテクノロジーだぜ!って感じ。メリッサさんとエナドリで乾杯するのが日課になりつつある。

 

 「お茶子ちゃん、どうしたの?」

 

 「あー!もしかして好きな人いるの!?」

 

 「おっおっおらんよ!?おるわけないしっ!」

 

 片思いでも好きな人、という話題になった途端か~~~っともちもちしたまあるいほっぺをリンゴのように真っ赤にしていくお茶子ちゃん。ほほう、この反応は脈ありですね?なるほどお茶子ちゃんが……ふ~~~ん。面白くなってきたね、これは根掘り葉掘り、もとい優しく相談に乗ってあげないとなあ、うふふ。

 

 「その焦り方は怪しいね、お茶子ちゃん?ふふ、秘密にするから教えてよ~」

 

 「いや、これはその!そういんじゃなくてっ!」

 

 「そういうのってどういうのさ?」

 

 「ほらほら!恋、してるんでしょ!?」

 

 「ちゃうちゃう!そういう話が久しぶり過ぎて動揺しちゃったんよ!そういうのじゃないから!」

 

 ぶんぶんぶん、とお茶子ちゃんが手を振って全否定する。ここまで否定されちゃったら私たちとしても引き下がらざるを得ないのでお茶子ちゃんを解放する私たち、なおもえー、ぶーぶーつまんなーいという三奈ちゃんを抱えて撤去して私の膝の上に置いておく。ややあって平静を取り戻したらしいお茶子ちゃんがぷくぅと頬を膨らませて今度は私に詰め寄った。

 

 「そんなこと言ったら~!希械ちゃんはどうなん!?切島君との関係!」

 

 「私とえーくん?」

 

 「あー!確かに仲いいよね切島くんと希械ちゃん!どうなの!?ねえ!?」

 

 「……仲がいいのはいいことです。貞淑な関係をお築きください……」

 

 ありゃ、矛先が私に代わっちゃった。私とえーくんねえ……どうだろなあ。言っての通りお互いに好きとかそういうの、恋愛感情?みたいな部分は通り越してる気がするの。一番近いんだったら家族、双子の姉弟?とかそんな感じじゃないかな?そもそもえーくんには私よりも素敵な人が現れるに違いないのだ。えーくんの彼女……気になるなあ、いつになるかわからないけどちょっとした楽しみなの。

 

 「うーん、確かに男の子の基準はえーくんになるかもだけど……お付き合いとかそういうのをしたい、とは思わないかなあ?」

 

 「冷静や……」

 

 「切島ってあの鉄哲殴り倒したヤツ?なに?どんな関係?」

 

 「希械ちゃんと切島は~幼馴染なんだよ!あと中学校も私と希械ちゃんと一緒!」

 

 「でもさ~、希械って毎日切島の分の弁当準備してくるじゃん?もう付き合っちゃいなよ」

 

 「でもそれ三奈ちゃんも一緒だよ?」

 

 「尽くすタイプね、希械ちゃん。ケロケロ」

 

 どうやら切り口を変えて私に攻め入るつもりらしい響香ちゃんをさらりとかわす。ふふふ、お弁当は三奈ちゃんにも作ってるのでえーくんにだけ特別ということはないのだ!お弁当の部分で色めき立ったB組の人たちには申し訳ないけどね、でもさ、と三奈ちゃんが

 

 「切島って、暑苦しいけど悪くないやつなんだよね。さらっと気遣いができるし、優しいし。さり気に守ってくれるし」

 

 「あー確かに!戦闘訓練で組むとすっごいやりやすいの!ほとんど攻撃効かないし、普通に強いし!」

 

 「楪とまともに殴り合ってたもんなあ。体育祭の時」

 

 「あの鉄哲が一方的に殴り倒されてたしね~。鉄哲悔しがってたな」

 

 えーくんの評価はおおむね好意的、話題に上がる上鳴くんとか物間くんとかよりも好印象な様子。暑苦しいのが玉に瑕って言うけれどもそれを含めてえーくんなので、私はそのままでいいと思っている。まあ、彼の言う男らしさをたまに理解できないのがちょっとばかり私の足りない部分でもあるのかな、反省。勉強しないとね。

 

 「嬉しそうですわね、希械さん」

 

 「うれしいよ~?どこに出しても恥ずかしくない自慢の幼馴染だから。皆が高評価してくれるなら私は嬉しいの。カッコいいでしょ?えーくん」

 

 「大好きなのね、切島ちゃんの事」

 

 「うん、恋愛的な意味じゃないけど勿論大好きだよ?だってね、私が最初に見たヒーローだからね」

 

 「何それ気になる!?」

 

 「ふふ、教えて欲しい?でもざんねーん。三奈ちゃんは補習の時間だし、私たちは消灯だよ。さ、解散解散」

 

 私がそういうとみんなしてブーイングが返ってきた。特に最後の方にのめり込んでいたB組の面々はずっこける始末。気になる~と取陰さんが言ってくれるけど、また時間があるときにお話しするよ。というか三奈ちゃんは知ってるでしょ~?幼稚園の時のあの話だってば。さ、補習いってらっしゃいな。




 ※恋愛感情はありません(大本営発表)

 峰田はお仕置きを受けました。マッチョ神の思し召しです

 では感想評価よろしくお願いします


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52話