ブルアカにTS転生してメス堕ちする話 (アウロラの魔王)
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プロローグ
青色のはじまり


2周年から始めた勢、私のお姫様が可愛すぎてとうとう自分で書いた。


 

「す、すぐに自警団や委員会の方たちが来ます。こんなことはもう、やめてください!」

 

「へへ……大人しく金目のモン置いて行きゃ命は助けてやるぜ」

 

 早朝の通学路。まるで一昔前のドラマのような光景が目の前に広がっていた。

 

 トリニティ総合学園の制服を着た少女に迫る、お嬢様学校の制服に目を付けた不良女学生たち。と、それを眺めるオレ。

 

 相変わらずこの学園都市の不良は、いつの時代かと問いたくなるようなキャラをしている。しかし、持っているのはバットじゃなくて銃。そして、迫られてる少女も抱えてるのは銃。

 

 透き通りすぎて世界観ぶっ飛んでんよ、この世界。

 

 恐らく不良に絡まれ少女も応戦したが、多勢に無勢で追い詰められてるのだろう。なんてぱっと考えるくらいには、オレもこの世界に馴染んできていると見える。

 

 益体もないことを考えていると少女と目が合った。何故、とは思わない。だって遠くから焼き鳥齧りながら見ているだけの、しかも同じ学校の生徒ならなおの事気になるだろう。オレは気になる。

 

 しかし、目を合わせた少女はオレを見てから気付いたのかアッって顔している。もう遅い。

 

 少女の視線に気づいた不良が、視線を辿りオレと目が合った。

 

「あ?なんだテメェ?ガン飛ばしてんじゃねえぞ!」

 

 飛ばしてない。

 

 しかし、オレを見てノーリアクションとは、どうやら相当遠くの学区から来たらしい。少女はオレを知っているのだろう。青い顔で首を振っているが、安心させるように笑顔を向けると、さらに青くなった。

 

「よく見りゃテメェもトリニティの生徒じゃねえか。コイツはツイてるぜ」

 

 バカな、そこは溢れる男気で安心する場面だろう。なぜ顔が青くなるのか、こらこの世の終わりみたいな目で見るんじゃない。

 

 それにほら、これは不可抗力だ。不良たちは目が合ったオレを逃がす気は無さそうだし。

 

「テメェも痛い目に会いたくなけりゃ金目のモン置いていきなっておい!聞いてるのか!」

 

 聞いてない。

 

 最近は"アイツ"に拘束されてストレス溜まってたし、ストレス解消に丁度良さそう。

 

『ミーサちゃんっ♪』

 

 背中がゾワゾワする感覚に、ハッとして周囲を見渡すが"アイツ"はどこにもいない。

 

 当たり前だ。バレないように細心の注意を払って抜け出してきたんだ。ここに居るはずがない。なんだかホッとしたような、残念のような変な気持ちになってモヤモヤしてきた。ん?残念?残念ってなんだ……?なんかお腹の下が熱くて、無性にイライラする。なんとなく首元にそっと触れる。

 

 無視されて怒ったのだろう。不良の一人がおもむろにオレの肩を掴んできた。

 

「テメェ!いい加減に―――」

 

「あ"?」

 

 背負っていた重機関銃―――MGを片手で持ち、引き金を引く。不良はくの字に折れ曲がりながら吹っ飛んでいく。周りの不良たちは呆けた様にそれを見ていて、倒れた不良は至近距離で弾をぶち込まれたせいか小刻みに痙攣したまま動かない。あの様子ならしばらく起き上がれないだろう。さて―――。

 

「―――今ちょうど機嫌が悪くなったところだ。お前らで憂さ晴らしさせてもらおうかッ!!」

 

 自分用にカスタムされた装飾の付いた白のMGを両手に持ち直し、不良たちに向ける。

 

「ひぃ!マズい撃たれる!」

 

 銃を向けられた不良たちは、倒れた不良を見て威力に恐れたのか慌てて物陰に隠れる。それを見たオレは笑みを浮かべ銃を構えたまま、不良たちの一角へ突っ込み、スカートを翻しながら飛び上がる。

 

「バカがっ―――殴るんだよォ!!!」

 

 その勢いのまま、銃身を地面に叩きつけ、衝撃波で不良たちを吹き飛ばす。ついでに地面が割れてしまったが、……まあ必要な犠牲だった。

 

「ぎゃっ!」「ぐぇ」「うぐぅ!」「ごぽ」

 

「よーしっ、4人ダウンさせた。残りは―――11人!!」

 

 いや、多すぎぃ。よくもまあこの人数で自警団にも委員会にも見つからなかったな。運が良いのか悪いのか。遅かれ早かれどちらかに見つかって捕まるだろうが……だったら、その前にオレがぶちのめしてもいいってことだ。

 

 そんなことを考えながら、次の獲物へ走り出そうとすると銃弾が飛んでくる。

 

「っと?」

 

「こ、こっちにはまだ10人もいる!数で押せ!やっちまえ!」

 

「ふぅん、アイツ邪魔だなぁ」

 

 10人の持っている銃、アサルトライフルから一斉に銃弾が飛び出してくる。……だがそれらの銃弾がオレに当たることは無かった。オレの持っているMGには、シールドが取り付けられるようにカスタムしており、シールドに阻まれ銃弾がこちらに届くことは無い。銃弾に当たったら痛いからな!代わりに相応に重量があり、振り回せるようめっちゃ筋トレした。

 

 シールドがちゃんと使えるのを確認して、そのまま銃を撃ちながら前進する。流石に衝撃でブレるが、狙いを付ける必要はない。適当に放たれた銃弾は、道の地面や壁を削り、道端にあったゴミ箱を吹き飛ばす。

 

「オラオラオラァ!!弾幕薄いぞー!!」

 

「ひぃ!?」「撃たれながら前進して……」「め、滅茶苦茶だぁ!」

 

 不良たちが怯み、さらに弾幕が薄くなった。今だ!

 

 MGの引き金を引いたまま駆け出し、再度スカートを翻しながら飛び上がる。先程の光景が目に焼き付いているのだろう。不良たちは銃を撃つ手を止めて逃げようとする。―――結果、オレはフリーになった。

 

 盾に使っていた銃から、片手を離し、空中に吹っ飛ばされていたゴミ箱のフタを掴む。それをそのまま一番奥の指示を出していた、スナイパーライフルを持っている不良に投げつけた。

 

「おいバカ!お前ら銃を撃つ手を止め―――ふぎゃ!」

 

「ああっ!?」「リーダー!?」

 

 ガィンッ!!と硬質な音を響かせ、リーダーらしき少女が倒れる。―――残り10人!

 

「空から失礼!!」

 

 空中から落ちる勢いのまま、オロオロしている不良に膝蹴りを食らわせ、着地と同時に銃身を振り回し2人吹っ飛ばす。

 

(あと7……6、5、4)

 

 走りながら銃を撃ち、蹴り飛ばし、殴り飛ばした。

 

(3……2……)

 

「あ……あ……」

 

「―――1」

 

 残った一人にマシンガンを突き付ける。

 

「お前……まさか、あのトリニティの《破壊天使》―――あぎゃああああッ!!」

 

「…………」

 

 無言で引き金を引き黙らせる。破壊天使って何?名乗った事なんてないんだけど……とりあえずこれで全部か。

 

「―――さて」

 

 ちらっと後ろを見る。

 

 道の壁や地面は銃弾で抉れ、物は散乱し、不良たちが死屍累々と倒れている。なるほど、破壊天使ってそういう。いつの間にやら最初に詰め寄られてた女学生もいない。

 

「逃げるか!」

 

 さすがにこんなところを見られてはまた怒られてしまう。だが、その場にいなかったことにより適当に誤魔化すことができるのだ!

 

 不良たちは……まぁ《正義実現委員会》か《トリニティ自警団》辺りがなんとかするでしょ。

 

 そうしてその場から速やかに立ち去った。

 

 

 

 

 

 

「―――こっちです!ここから凄まじい銃声と爆発音が、あぁ……」

 

「うわ……これはまた、派手にやりましたね」

 

 何者かがここで銃撃戦をしている、という通報を受けて出動した《正義実現委員会》―――いわゆる他の学校で云う風紀委員会のような立場―――である少女は、現場の惨状を見て即座に誰の仕業か想像がついた。

 

「とりあえず、気絶している不良たちを捕らえておいてください」

 

「あの……これをやった犯人についてはどうしましょう?」

 

「あー」

 

 そう、大体の目星はついている。そもそも、トリニティでこんな口径の銃をバカスカ撃ちまくるのは一人しか思い当たらない。が、しかしだ。さぁ捕まえるぞって言って捕まえられるような相手ではない。散々暴れられて、こちらが全滅するのが目に見えてる。何せ、《トリニティの戦略兵器》とか言われてるあの剣先ツルギ先輩と同等、と云うウワサもある。

 

 それを正直に後輩に話しても不安がらせるだけだ。とはいえ、なにも策が無いわけではない。

 

「そちらに関しては上に報告しなければならないので、こちら任せてもいいですか?」

 

「あっはい!おまかせください!」

 

 まぁ、策というか上にチクるだけである。というのも少女が以前も同様の報告を上げていたが、上司である先輩から『彼女の関与が疑わしき場合、即刻報告せよ』と言われ、それ以来、《トリニティの問題児》である光園ミサ先輩が暴れた際は、必ず先輩に一報入れている。

 

 どういう仕組みかは詳しく知らないが、どうやら各所に連絡が飛ぶらしく、報告から次の日には『解決した』と先輩から言われる。一度気になって先輩に尋ねたことがあったが、言葉を濁されはぐらかされた。いつもはハッキリと物を言うタイプの先輩にしては珍しかった。そしてなぜか顔を赤くしてモジモジしていた。よくわからないが、いつか分かるそうなのでまあいっか。

 

 そして、いつも通りにハスミ先輩へ報告した。

 

 

 

 




すぐに続き上げるね!


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桃色のはじまり・まえ

1話で納めようとしたけど主人公いじめが楽しくて分割になっちゃった!


 

 

 

 現場から無事脱出し、トリニティ総合学園にたどり着いたオレは、ようやく一息ついた。

 

 ―――この透き通る世界観を持つゲーム、《ブルーアーカイブ》に転生してどれくらいの年月が経ったのか。前世が男だったオレは、寝て目が覚めたら光園ミサという美少女になっていた。

 

 特徴的な頭の輪っかと背中の羽で、"まさか"と思って調べたら出てくるワードが《キヴォトス》、《連邦生徒会》で自分の住んでるところが《トリニティ総合学園》と知って気が遠くなった。

 

 他の学校に逃げようか考えた時期があったが、どの学校に行こうともここが《キヴォトス》である限り、過酷なのは変わらないことに気が付いてからは結局トリニティ学園に通っている。そもそも、見た目がガッツリトリニティ生だから他の学校に行ってもめちゃめちゃ浮きそうではある。

 

 どこに行っても変わらないなら楽しむのが肝要。古事記にも書いてある。よく考えれば、この世界美少女が多い。つまり、合法的に美少女とイチャつける世界だ!ならば、オレの男気溢れるオーラに当てられ、美少女とイチャイチャ出来る。最高か?

 

 その考えに至ってから、男の中の男で男らしくあるために努力を積み重ねた結果、なぜか《トリニティの問題児》と呼ばれるようになってしまった。なんでぇ?

 

 しかも余所様では《破壊天使》なんて呼ばれてる模様。なんでぇ?

 

 女の子を堕とすどころか、女の子に避けられる始末。どうしてこうなった?

 

「だが、それも今日までの事。今日から高校生、華麗に高校デビューを決めて女の子からモテモテだぜ!そして、今度こそアイツの魔の手から逃れて見せる!ハッハッハッ!」

 

 

 

「―――ハァ……」

 

―――あ、見て見て光園ミサさんよ

 

―――ホントだー!ねぇ、あのウワサってホントなのかな?

 

―――ちょっとやめなよー!

 

―――アハハ!

 

 そうだった、ほとんどエスカレーターだからメンツなんて中学から変わるわけなかった。

 

 もっと早く気づけよ、このおバカ!!

 

 廊下で女子とすれ違う度、ヒソヒソと何かを話し、クスクスと笑われる。オレを見て笑われることなんてあまり無いことなので、なんだか妙に気恥ずかしい気持ちになり体を縮こませて歩く。怯えられるよりマシだが、一体何なんだろう?

 

 ちなみに始業式はもう終わった。先生はこのキヴォトスにいないので生徒会である《ティーパーティー》が長々と話して終わりである。

 

 そういえば、壇上にはナギサも居たな。桐藤ナギサ、のちの《トリニティ総合学園》を代表する3つの分派のひとつであるフィリウスの首長であり、《ティーパーティー》の生徒会長だ。確か中学の時には、《ティーパーティー》にはもう入っていた。真面目かアイツ。

 

 一応、知り合い以上友達以下な関係ではあるが、向こうがオレをどう思ってるかは知らん。

 

 しかし、なぜか壇上のナギサとよく目が合った。式を進行する際も、ちらちらとオレに目線を送り続けていた。……まさか、とうとうオレの魅力に気が付いてしまったのか?本人に言ったら怒られそうだから絶対言わないが。

 

 冗談はさておき、わざわざナギサに見られることに心当たりがない。まぁいっか。

 

 ふと、窓に映った自分を見る。青い翼が円状に広がり、中心に♂マークという特徴的なヘイロー。これはオレが男だという動かぬ証拠であり、オレのアイデンティティだ。背中からは白い翼が生えており、トリニティの白い制服と相まって神々しく見えることだろう。

 

 だが、左肩から弾薬などを入れているでかいバッグを下げて、右肩からはこれまたでかい機関銃を背負っているので威圧感の方がすごい。あっ。

 

「羽がちょっと乱れてるかも。ブラシ、ブラシ」

 

 サッと翼を撫でつけて整える。窓に全身を映して、大丈夫か前後に振って確認する。腰を振るたびに、翼に付いたアクセサリーが揺れ存在を主張する。

 

 他に変な所は無いか、髪を撫でつけながら確認する。パッパと服に付いたホコリを払ったり、首元を確認して安心する。

 

 ……うん、大丈夫そう。小さく息を吐きながら、改めて教室に向かう。

 

 

 

―――……ねぇ、やっぱりあれホントなんじゃない?

 

―――あれって……「女にされた」っていう?アンタほんとにそういうの好きねー

 

―――いや~、この学園そういうのありそうであまり聞かないからついってそうじゃなくて!?私小学校からアイツ知ってるけどさ、もっとやばかったんだって!なのに!!今、あんなにおとなしいの変だって!てことはやっぱり……

 

―――はいはい、勘繰るのは良いけど、あんまり深く突っ込みすぎると痛い目会うわよ?よく言うじゃない?恋路を邪魔する奴は~ってやつ

 

―――……なんかそれ使い方ちがくない?

 

―――~~~っ!うっさい!アタシがアンタを襲うわよ!?

 

―――きゃーっ!襲われるー!

 

 

 

 

 

 

 ?なんか妙に後ろが騒がしいがまあいいや。

 

 さて、教室に着いたが、どう中に入ろう。せめてアイツにバッタリ出くわすのだけは勘弁してほしいんだが……。とりあえず姿勢を低くして、ドアの隙間から中を覗こう。

 

―――そういえば、あの通りの喫茶店新しいスイーツ出したんだけどもう食べた?

 

―――新しいネイル試してみたんだけど、どう?

 

―――それでねー、あはは!

 

「……ふむ」

 

 いない、な。クラスが違うということは無い。クラス分けのショートメールはちゃんと見たし、アイツも一緒に見た。朝は用事があるって言ってたから、まだ用事が終わってない感じか?どこ、とは言ってなかったがどうせ分派の連中だろう。まぁ、いないなら今のうちに―――。

 

「おはようミーサちゃんっ♪」

 

「―――イィヤァァァアアアッッッ!!?!?!」

 

 脳が誰の声か認識するよりも早く、体が反応し、凄まじい悲鳴を上げてしまった。

 

 違う、違うんだ。別に驚いたとかでは、いや、驚きはしたがこんな声を上げるつもりはなくて。ちゃんと声で誰か分かってるんだ。でも無意識と意識が別の反応をしたというかなんというか。だから、これは他意があったわけでもなく、恐れてるとかそういうのじゃないんだ。だから、こーいうあれで、あーいうそれで……。

 

 既に頭の中に無数の謝罪が溢れながら振り向くと、思った通りオレと同じピンク髪の少女が驚きの表情で固まっていた。ついでにちらっと見えた教室の中のみんなも驚いてこちらを見ていた。

 

 髪の一部をお団子にしてシュシュでまとめた、オレと似た白い制服を纏った美少女、聖園ミカだ。

 

 ミカはその端正な顔を、分かり易く『わたし、不機嫌です』という風に歪ませ、笑顔になる。あっ、ダメだ、おわった。

 

「もう!ミサちゃん、声聞いただけで悲鳴上げるなんてヒドイよ!」

 

「いや、これはそのー……」

 

 オレもそう思う。でもなんて誤魔化せば良いんだ。唐突に悲鳴や奇声あげても大丈夫そうな場所と言えば―――ッ!

 

「じ、実はゲヘナで流行ってる挨拶で」

 

「は?」

 

「というのは冗談でーっ!!!」

 

 しまったぁぁぁああああああっっ!!オレのバカ!!オレのバカ!!!ミカは大のゲヘナ嫌いなのに、ゲヘナの話題出したらキレるに決まってるじゃん!!

 

 もう土下座と勢いで謝るしか方法が無い!!!

 

「ごめんなさいっ!!ビックリして思わず声が出ちゃって、ワザとじゃないんです!!!」

 

 全身の血の気が引いていくのを感じながら、さながら審判を待つが如く。

 

 ゲヘナを引き合いに出してしまったから許されないかもしれない。そう思ってるとそっと頭に温もりが。

 

「ちゃんと謝れて偉いね!でも、次からは変な言い訳したらダメだよ?」

 

 あっ……♡

 

 頭に乗せられた手が優しく髪を撫でつける。……許された?いつもならここからネチネチと皮肉交じりにいじめてくるのに……。

 

「あ!今、『いつもなら許してくれないのになー』って思ったでしょ!」

 

 なんでバレるの……?まさか表情に出てるとか?

 

「もう、ミサちゃんにそんな風に思われてたなんて心外だなー。ホラ!そろそろちゃんと立と?いくら綺麗に掃除されてるからって汚れちゃうよ?」

 

「あっ、うん」

 

 差し出された手を取って、立ち上がりスカートのホコリをはたく。

 

 ミカとオレはやや身長差がある。……いや、オレの方がデカいのではなく、ミカの方が10㎝近く大きい。そのため、立ち上がっても少し上を向きながらじゃないと話せない。悔しい……!オレにミカを見下ろせるだけの身長があれば……!とかなんとか考えていたが、ミカの手がまだ離れていないことに気が付いた。

 

「…………?あの気になってたんだけど、ミカ、手」

 

 ―――ミシィッ!!

 

「ッ!!?!?!」

 

 ぎゅっ!みたいなかわいい音は無く、骨の軋む音がオレの手から鳴る。離したくないとか、そんなもんじゃない。これは絶対に逃がさないという意思の表れだ。

 

 ……なにか彼女の逆鱗に触れてしまったのだろうか。あるいは、先程の事がまだ許されていなかったか。右手から感じる痛みとお腹の奥に疼きを感じながら、焦った思考が流れていく。

 

「あはっ。どうしたのミサちゃん?顔が青いよ?大丈夫?今日から高校生だからはしゃぎ過ぎちゃったのかな」

 

「ぅ…………」

 

 焦り、混乱で言葉を紡げないオレを余所に、彼女は笑っていた。脳が警鐘を鳴らしていた。今すぐ逃げろと。だが、手はガッチリ掴まれていて振りほどくことができない。

 

「あ!そうそう、はしゃぎ過ぎで思い出したんだけど―――」

 

 彼女がポーチから取り出した一枚の紙に、全身の血の気が彼方へ飛んで行くのを感じた。

 

 『光園ミサ 今朝の不良との喧嘩及び公共物の破壊について』

 

「―――"これ"、どういうことかな?」

 

「あ……あ……」

 

 な、なんでバレて……。まさか不良たちが?いや、まだ起きるまで時間掛かるはず……他に目撃者はいなかったはず……。

 

「ミサちゃん、黙ってたら分かんないよ?……もしかして、なんでバレたんだろうって考えたりして無いよね?」

 

 だから、なんでドンピシャで心の中当ててくるんだよぉぉ!

 

「分かるよ、ミサちゃんの事だからね☆あの口径の弾を連射できる銃は限られるし、使ってる人も限られるんだから、直ぐ割り出せるよね。おまけに、地面粉砕するような戦い方する人なんてもっと居ないし」

 

「ミ、ミネとか……」

 

「ミネちゃんの銃じゃ連射出来ないし、弾の大きさも違うでしょ!そもそもミネちゃんだったら、自分で負傷させて自分で治すからその場に放置なんてしないよ」

 

 苦し紛れで出た反論はあっさり論破される。な、なんでぇ……完璧に逃げ切れたはずだったのにぃ……。

 

「ミサちゃん……素直に白状すればちゃんと許してあげたのに、仕方ないね」

 

 残念そうに、しかし分かっていたのか口に笑みを浮かべながら、手を繋いだままクルリと背を向ける。

 

「じゃ、行こっか?」

 

 そう満面の笑みを浮かべていた。どこに行くのか想像が付きながらも、反射的に聞き返してしまった。

 

「え、ど、どこに?」

 

「アハハッ。ミサちゃんもよく知ってる場所だよ」

 

 そう言うと、オレがロクに抵抗もできずにグイグイと引っ張られだす。

 

 『よく知ってる場所』。その言葉を聞いた瞬間、今度は全身の血が沸騰するように熱くなり、お腹の奥がきゅんっ♡と鳴いた。でも、オレは認めたくなくて反抗しようとしてしまう。

 

「や……!オレは……!」

 

「…………………………『オレ』?」

 

 底冷えするような声。全身の震えが止まらなくなり、涙が出そうになってしまう。

 

「あっ、いや……わ、わたし。私です!エ、エヘヘ……きょ、今日から高校生だからちょっとはしゃいで……」

 

 泣きそうになりながら、言葉を紡いで必死に訂正するオレ。そう、"私"だ。『女の子らしくすること』それはオレとミカの間で交わした約束。口調も、持ち物も、振舞いもすべて。破った場合は恐ろしいお仕置きが待っている。だから、彼女の前では常に女の子らしく振舞わなければならない。

 

「もー、うれしいからってはしゃぎ過ぎだよ?あんまりはしゃいで知らない人に迷惑かけたらダメだからね」

 

「エヘ……えへ……」

 

 そう言って振り返ったミカは笑っており、怒っているような雰囲気は感じられなかった。聞かなかったことにしてくれるのか、それとも怒り過ぎて笑顔になる現象が発生してるのか、オレには判断が付かなかった。だが、彼女の足は止まらず、いまだ引っ張られているあたり『あの場所』に行くのは避けられないのか。

 

「ミ、ミカ!あの……私……」

 

「んー?なぁに?」

 

 足は止めない。それでも話はまだ聞いてくれるらしい。

 

「じ、実は言ってないことがあって……今朝のは同じトリニティの生徒が不良たちに囲まれていたんです!そ、それで、助けようとしたら結果的に私が絡まれてしまって……」

 

「ふ~ん?」

 

 訴えかけることで、何とか回避しようと試みるも、ミカはこちらに振り向かず、取り出したスマホをポチポチと弄りだした。

 

 関心すら持たれないのか。思わず泣きそうになり、目に水が溜まってくるが何とか堪える。

 

「そ、それで、ほら、私ってこの辺りだと有名だから!だから、いつもなら私見たら逃げ出すんだけど、今日は遠くの学区から来たみたいでそのまま戦うハメに……」

 

「へー、そーなんだー」

 

 あんまりな態度に、引っ張られていた手を逆に引っ張って、無理やり足を止めさせる。驚くほどアッサリと止まってくれたが、依然としてこちらは見ない。

 

「あのっ、本当なんです。信じて、しんじて……ください」

 

 どうしよう、止まらない。

 

 堪えていた涙が、ぽろぽろと溢れ出してしまう。オレはこんなに涙もろかっただろうか。堰を切って溢れた涙は、床に少しずつ染みを作っていく。こんな顔を、ミカにだけは見られたくなくて、俯いてしまう。

 

「…………」

 

 視界の端の影が動き、ミカがこちらに近づいてくる。そして、オレの前で止まったミカから腕が伸びてきて、思わず肩を震わせた。

 

「信じるよ」

 

「……え」

 

 伸びてきた手はオレの頭をやさしく撫でてくれていた。顔を上げると、そこにはニコニコしたいつものミカがいた。

 

「ミサちゃんの言うことだもん。ちゃんと信じるよ」

 

「ミ、ミカ……「でも」ぅ?」

 

「ちょっとストレス解消にいいかなって思っちゃったんだよね」

 

「う……」

 

 見透かしているのではない。ミカの目にあるのは理解だった。嘘も誤魔化しも効かない。光園ミサはこういう行動をとる、というのを理解していた。だから、これは疑問ではなく確認なのだろう。

 

「………………思い、ました」

 

「ふふっ、ちゃんと正直に言えて偉い!」

 

「―――わぷ」

 

 掴んでいた手をグイっと引っ張られ、そのまま吸い込まれるようにミカの胸に収まってしまった。そこは、ミカの匂いとミカのぬくもりがあって、一番落ち着く場所だった。

 

「もしかして、私が怒ってるって思った?」

 

「……うん」

 

「やだなー、私がミサちゃんに怒るわけないよ」

 

「……ほんとに?」

 

「ほんとほんと……あれ?もしかして、私信用されてない?」

 

 あれ~?とミカは目を丸くしていた。

 

「ミサちゃんにそう思われてるなんて、キズついちゃうな~」

 

「……だって、いつもは……」

 

「『いつも』?……あー」

 

 記憶の中の、激しく責め立てるミカを思い出す。思い出すだけでも、全身がブルリと震える。胸に埋もれてるオレからはよく見えなかったが、ミカはそんなオレを見てニヤニヤと笑っていた。

 

「……ふ~ん、そっかぁ。嫌だったんだね、ごめんね。次からはうんっとやさしくするね」

 

「え、いや、ちが」

 

「大丈夫大丈夫!わかってるって。ほら!あんまり泣くとメイク落ちちゃうよ」

 

「な、泣いてない!……嫌じゃ、ないのに」

 

「……。ん?何か言った?」

 

「な、なんでもない!」

 

「ふふふっ」

 

 そうして、しばらくミカにしがみ付いたままだったが、人気の無かった廊下の奥から別の一団がやってきた。

 

「―――あれ?ミカさん?」

 

 その声を聞いた瞬間、はじかれる様にミカから離れ、顔を見られないように後ろを向いた。

 

「あーもう、タイミング悪いよーナギちゃん」

 

「仰ってる意味が分かりませんが」

 

 顔は見えなかったが、やはりナギサだった。他にも人を連れているところを見ると、分派の会合帰りだろうか。

 慌ててバッグから鏡を取り出し、手早くメイクが崩れてないか確認する。メイクと言っても凝ったものではなく、ベースを整えてリップを塗っただけの簡単なものだ。ミカが言うには、元が良いから凝りすぎると逆効果らしい。だから、元の良さを引き出すために簡単なメイクでいいそうだ。

 

「それより、ミカさん。今は教室のはずでは?」

 

「あー、それなんだけど。ちょっとやることできちゃって、まぁでもちょうど良かったかな」

 

「やること?……なるほど」

 

 ちょうどメイクを直したところで、鏡越しにナギサと目が合った。慌てて鏡を閉じて、ミカの後ろに隠れようとしたが、ミカに肩を掴まれナギサの前に引きずり出されてしまった。

 

「そう!ほら、ミサちゃん」

 

「ミ、ミカ?な、なにを」

 

 ミカは顔を寄せると、そっと囁く。

 

「迷惑を掛けた人たち、いるよね?だったら、ちゃんとしないと、ね?」

 

「う……」

 

「大丈夫だよ、私が付いてるから」

 

 脳髄に染み込むような甘い声で、ミカは囁き続ける。収まっていた体に再び熱が灯る。吐息に熱が混じり、思考が綻んでいく。

 

「ミサちゃんは、『素直で』『かわいい』『女の子』だもんね。大丈夫、ミサちゃんならちゃんとできるよ」

 

「は、い」

 

 ミカに促されるまま、私は一歩前へ進み出て―――。

 

「―――おはようございます、ナギサ、様」

 

 ミカに教わった通りに、スカートを軽く持ち上げ礼をする。

 

「え、ええ、おはようございます、ミサさん」

 

 ナギサは、ちらっと目線を私の奥に向ける。おそらくミカを見たのだろう。私からは見えないが笑っているに違いない。

 

 顔から火が吹き出そうなほど恥ずかしい。心臓が早鐘のように鳴っている。今すぐここから逃げ出したいがミカが許さないだろう。

 

「今朝の件なのですが、不良たちとケンカしたこと、公共物を破壊してしまったこと。多大なご迷惑をおかけして、申し訳、ありませんでした」

 

 言い切ってから、ゆっくりと頭を下げる。そのまま、10秒ほど経って何も言わないナギサに業を煮やしたのか、声を上げるミカ。

 

「もー、ナギちゃん!"あの"ミサちゃんがこんなに謝ってるんだから許してあげてよ!」

 

 自然な動作で私の隣に歩み寄ると、そのまま私のお尻付近に手を這わせる。……ミカさん?

 

「どういう理屈ですか……。それと、ミサさんももう顔を上げて頂いて結構です」

 

「あ、は―――んヒィッ!?」

 

「ど、どうしました?ミサさん」

 

「―――あ、にゃんでも♡ない、です……♡」

 

 私のお尻付近を這っていた手は、私のスカートの中に侵入していた。隣のミカに顔を向けると、何食わぬ顔で「どうしたの?」と言いながら、その手は私のスカートの中で蠢いていた。

 

「ミカさん……」

 

「あれー?ナギちゃんどうしたの?まだ何か話すことあるんでしょ?続けて続けて!」

 

 何をしているか分からなくても、何かしているのはミカだと、ナギサも気づいているのだろう。呆れた目でミカを見ていた。私は突如として与えられた信号に耐え、体を支えるのに精一杯だった。後ろに手を回して、これ以上ミカの手が入り込んで来ないようにミカの腕を抑える。とりあえず、周りに"音"が聞こえてないかだけが心配だった。

 

「はぁ……、ではこのまま話を続けますが、んん!先のケンカの件ですが、先程ミカさんから連絡を頂いた直後に件の女子生徒が訪ねられまして」

 

「え?そうなの?」

 

 連絡?いつのまに?……あっ。

 

「ええ、《正義実現委員会》から《ティーパーティー》に連絡が回ることを知っていたのでしょう。その方が『助けて頂いたのに、お礼も言わず逃げてしまって申し訳なかった。どうか彼女に対する罰を軽くしてほしい』と。今回の裁量は私に任されたので、今回に関しては人助けであったことも考慮し不問、とさせて頂こうと思います」

 

「わぁ!よかったね!ミサちゃん!」

 

「んっ♡は、はい。ありがとうん、ございますっ」

 

 どうやら不良に絡まれていた子が、《ティーパーティー》に直談判してくれたらしい。不良に一人で立ち向かったことといい、勇気のある子だ。

 

「ただし!!」

 

「わぁ!?」「んあっ!♡」「―――え?」

 

 急な大声で驚いたミカが、驚いた拍子に入り込んでいた手がさらに奥に入ってきた。その際、とんでもない艶声を出してしまった。慌てて、手で口を塞いだが、幸いナギサの後ろの人たちはミカの驚いた声に紛れて聞こえなかったようだが、近かったナギサには聞こえてしまったようで、"なに"をしているのか気付いたのだろう。顔は耳まで赤くなり、口元を引きつらせていた。ナギサはこちらを見てくる。見ないで。

 

「ミ、ミカさん。あ、貴女―――」

 

「あ、あははー。ど、どうしたのナギちゃん。ほら、お話続けて続けてー」

 

 ミカも気付かれたことに気付いたのだろう。目を泳がせながら誤魔化そうとする。それに対し、ナギサは口をパクパクと動かすが声が出ていなかった。うまく言葉が出てこなかったのだろう。できれば何も言わず、聞かなかったことにしてほしい。

 

 と、硬直したナギサを不審に思ったのか、取り巻きの一人がナギサに声を掛ける。

 

「あの、ナギサ様?」

 

「―――はっ。んんんっ、こほんこほん。し、失礼しました。い、いいですかケンカの件は不問と致しますが、公共物を破壊したのは事実です。後日、改めて各所へ謝罪に向かうことと反省文の提出です。い、いいですね!?」

 

「ひゃ、ひゃい……ごめんなさい」

 

 呂律は回ってないし、顔は真っ赤だし、涙目だし、こんな姿をミカ以外に見られてるし。もう顔からとは言わず、全身から火が出そうである。

 

「そ、それと女生徒からの伝言です。『助けてくれてありがとうございました。会いに行く勇気が出たら、また改めて必ずお礼に行かせてください』だそうです。良かったですね、ミサさん」

 

 ……別に助けようと思って助けたわけではないし、同級生どころか上級生にも距離取られるくらい怖がられてるの知ってるから、無理して会いに来なくてもいいと思うけど。

 

 ミカは分かり易いくらいキョトンとした顔をしていた。あの顔は、『変な子だー』と考えてるな。

 

「変な子だー。というかナギちゃんのところに直接行くのに、直接お礼を言いに来るのはダメなんだ」

 

「……まぁ、ミサさんのところへ行き辛いのは分かりますけどね。それでも、『必ず会いに行く』と言えるのは、とても勇気のある方だと思いますよ」

 

「えー、そうかなぁ。ミサちゃんはこーんなにかわいい女の子なのに、みんなヒドいよ!ねー、ミサちゃん」

 

「う、うん」

 

 そこで私に同意を求めるのはおかしいと思うんだけど。そもそも、私の評判は嫌でも耳にするから、聞けば確かに普通の人は距離を取りたくなるな、と。だから、距離を取られるのは仕方ないし、正直なところ昔は気にしてはいたが今はもう気にしてない。よく分からないけど、気にならなくなった。

 

 それはそれとしてミカ、手を動かさなくなったのは良いけど、手を離してもらえるとありがたいのですが。足をモジモジ擦り合わせていると、たまにナギサが私の下半身辺りに目を這わせてくる。ほんとに見ないでください……。

 

「それでは、私たちはもう行きますね」

 

「うん!」

 

 話は終わったのか、ナギサたちは私たちの横を通り過ぎようとする。とミカが思い出したように「あっ!」と声を上げる。

 

「そうだ!ナギちゃん、また"あの部屋"使わせてもらうねっ!」

 

 あ、あの部屋……。ミカは視線だけでこちらを見ると、口元に笑みを浮かべる。

 

「―――はぁ、"ほどほどに"お願いしますね。ミカさん」

 

「モチのロンだよ!!」

 

 そのまま、ナギサたちは歩いていき姿が見えなくなるまで見送った。

 

 

 

 

 

 

「ナギサさま、よろしかったのですか?」

 

 ミカたちと分かれ、廊下を歩いていたときの事。ナギサは取り巻きの一人に話しかけられた。

 

「それは、どちらのことで?」

 

 聞くまでもないが、ナギサは一応聞き返した。

 

「もちろん、光園ミサのことです」

 

 やはり。心の中で溜め息を吐く。

 

「それは、先程お伝えした通りです。今回の件については、首長より直々に裁量を任されていますので」

 

 おそらく、ナギサに任せたのは、ナギサがどう対処するのか知りたかったからなのだろう。ナギサは、聖園ミカと幼馴染であり、光園ミサともミカが小学校の時に紹介されて以来の付き合い、知り合い以上友達以下な関係だ。向こうがどう思っているかは分からないが。

 

 そんな相手にどういう判断を下すのか。知りたかったのはそれに違いない。実際何かしら処分を下そうと思っていた。そんな折、ちょうどミカからの連絡がきた。ケンカに巻き込まれた生徒あるいは目撃者がいたかもしれないと。その連絡が来た直後だった。件の生徒が訪ねてきたのは。

 

 甘い判断だと思われるかもしれない。しかし、態々直接訪ねて来てまで訴えかけてくれた人の願いを無下にするわけにはいかないし、状況的にミサに対し情状酌量の余地があったのも事実だ。しかし、ゴミ箱を破壊したり、街灯を折ったりしてるので、総合的に見て謝罪と反省文が妥当であろうと。

 

 公共物の破壊については、正直なところあまり強くは突っ込めないのだが。騎士団や委員会、果ては自警団までもが戦闘になった際、よく始末書で上がってくるのだ。銃の撃ち合いとなれば、どう立ち回っても被害は出てしまう。

 

 ちなみにだが、今回不良の人数に対して使われた弾は30発程度。一度に100発以上撃てる銃なのに半分も使われていない。おそらく被害を最小限に留めようとしたのだろう。つまり、破損の大よそは不良が原因だ。

 

「しかし、"あの"光園ミサですよ。いつまた悪さをするか……」

 

「口を慎んでください。ただの噂に踊らされるなど、《ティーパーティー》として恥ずべきことですよ」

 

 ―――またか。ナギサは今日で何度目になるか分からない溜め息を吐いた。こうしてミサの話題が上がる度に、『もっと重い処罰を!』と声を上げる者が多い。しかし、本来なら今回の件でミサに罰を与えるのは難しい。というのもミサが行ったのは、不良と戦って、少し物を壊したぐらいだ。

 

 彼女が無所属だから、というなら非公認の自警団にも同じように対応しなければならなくなる。自警団は、治安を守りたい有志が集まってできた非認可の活動であるため、実態としてはミサと同じ無所属である。

 

 それでも彼女一人が悪く言われるのは、一人歩きしている噂のせいだろう。実際に会って話してみると、噂は噂でしかないのだが、噂を信じる者にはミサが恐ろしいナニカにでも見えているのだろうか。

 

 ナギサ自身も昔はミカに紹介されるまでは、噂を鵜呑みにしていた時期があった。だからと云うわけではないが、彼女らのことは強く責めず、今回も注意で済ませる。ミサの良さを伝えきれない歯痒さに、妙な苛立ちを覚える。

 

 しかし、ミサの事を恐れる者は多いが、同じくらい彼女を認める者も多い。先の委員会に自警団は会うことが多いからか、特に多い。不良との交戦中にミサの姿を見た不良が、一斉に降伏したり、悪いことをしようと集まった不良がミサの姿を見た瞬間、全員が回れ右して逃げた話など、彼女の武勇伝は数多い。

 

 彼女の噂が一人歩きした結果、争いに対する抑止力となっており、委員会や自警団から一目置かれる存在になっている。さらに、争いが減ることにより負傷者の数も激減したので騎士団からの評価も高い。

 

 つまり、ミサのことを恐れているのは一般生徒が多い、ということだ。ただ、それも今回でまた一人、ミサのことをちゃんと知った者がいる、というのは友人として大変喜ばしい。

 

 願わくば、彼女の理解者がもっと増えればとナギサは思うのだった。

 

 

 




絶対にミカは好きな子をいじめるタイプ。
私の下半身がそう言ってる。


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桃色のはじまり・うしろ

ぴんくあーかいぶ!

本番はしてないし、直接表現も避けたから大丈夫なはず!

百合はいいぞおじさん「百合はいいぞ」


 

 

 

 ナギサたちの姿が見えなくなって、ようやくミカの手が離れ、緊張やら何やらで腰が抜けた私は、その場にへたり込んでしまう。

 

「う~!ミカのバカバカぁ!絶対ナギサに気付かれてたじゃん!」

 

「いやー、まさかナギちゃんが大声を出すとは思わず、てへっ」

 

 言いながら、取り出したハンカチで手を拭うミカ。

 

「あれ?もしかして舐めたかった?」

 

「ばっ!ちがっ!?」

 

「アハハッ!冗談だって!あっ、でも目は口ほどに~って言うけどミサちゃんの場合、体だったね!」

 

「……?……っ!?~~~っ!!」

 

 最初は何を言ってるのか分からなかったが、すぐに思い当たりミカをポコポコと殴るつける。

 

「アハハッ!痛い痛い!ごめんって!ほら、さっきも言ったけど座り込むと服が汚れちゃうよ」

 

「む~っ」

 

 ミカを睨みながら、足に力を入れどうにか立つ。が、よろけてバランスを崩してしまう。

 

「あっ」

 

「っと、ミサちゃん大丈夫?」

 

 倒れかけたところをミカが割り込んで受け止めてくれた。こういうところ、ズルいよミカ……。

 

「う、うん。大丈夫、ありがとう」

 

 ミカに支えて貰いながら、もう一度しっかりと地面に立つ。今度はちゃんと立てた。

 

 そして、次行くところを思い、ドキドキして―――。

 

「じゃ、私たちも教室戻ろっか!」

 

 ―――え?

 

 そのまま来た道を戻ろうとするミカ。思わず制服の裾を掴んで引き留める。

 

「ん?どうしたのミサちゃん」

 

「あ、その、へ、部屋」

 

「部屋?あ~!あれね、成り行きとはいえ今朝の事は許してもらえたし、ミサちゃんも疲れてるみたいだから今日はやめておこうかなって」

 

 や、やめる?そんな……じゃあ、"これ"どうしたら……。い、いや!元々行くのを諦めさせたかったからこれであってる!でも一人じゃ"これ"をどうしたらいいか……。

 

 一人で葛藤してると、ミカが手を繋いでくる。

 

「ほら、帰ろっ」

 

 そう言って、私を引っ張って歩こうとする。あ、ダ―――。

 

「―――ダメ!!」

 

「わっ!?」

 

 普段力をセーブしてたのに、ミカが相手だったから思った以上に強い力で引っ張ってしまったらしい。歩き出そうとしたミカは、体勢を崩し私を押し倒す形になった。

 

 ドクン、と心臓が跳ね上がる。目の前に、ミカの顔が。だが、顔を赤らめる私に反して、ミカは厳しい顔をしていた。

 

「もう、ミサちゃん!いい加減にしないと怒っちゃうよ!」

 

「ご、ごめんなさっ……」

 

 さっき私には怒らないって言ったのに……!ミカはサッと立ち上がると、私をすぐに助け起こす。

 

「さっきからなに?言いたいことがあるなら、ハッキリ言わないと分からないよ?」

 

「そ、それは……」

 

「それは?」

 

 手を腰に当てて、怒ってますアピールするミカが問い詰めてくるが、なんと返せばいいのか私は言葉に詰まってしまう。助けを求めるようにミカに伸ばされた手は、ミカにぺちっとハタキ落とされる。

 

「うう~、ヒドいよミカぁ……ぐすっ私……もう……」

 

 行き場を失った手でスカートを掴み、体に溜まった熱に耐えるようにぎゅっと握る。頭はずっと熱に浮かされたようにボーッとしていて、目には涙が浮かんでいる。

 

 どうすればいいのかは分かっている。でも、一人では無理だった。ミカじゃないと……。

 

「―――ぷっ!アハハハッ!!」

 

 静かだったミカが突然笑い出し、思わずポカンとしてしまう。ひとしきり笑った後、ミカは両手を伸ばし私の顔をやさしく包み込む。

 

「ごめんね、ミサちゃんが可愛かったからちょっといじわるしちゃった」

 

「……いじ、わる?う~!なんでそんないじわるするのぉ!ばかぁ!」

 

「だって、ミサちゃん。かわいい反応しかしないから、つい、ね?」

 

「むー!」

 

「もー、やりすぎたのは謝るから許してよ~。ほら、ミサちゃんが行きたがってたあの部屋も行くから~」

 

「べ、別に行きたがってなんか」

 

「行かない?」

 

「……いく」

 

 ミカは、いじわるだ……。

 

 

 

 

 

 

 ミカは持っていたスマホを扉の横の端末に掲げる。すると、ピピッと電子音の後、がしゃんとロックが解除された音がした。そのまま扉を開け、慣れた足取りで部屋の奥へと入る。

 

「いやー、何度見てもトリニティにあるとは思えない部屋だよねー」

 

「うん……」

 

 そこにはピンク色のライトで照らされた一室だった。確かにトリニティの校風を考えれば、こんなラブホみたいな部屋があるとは思わない。しかし、この部屋はれっきとした生徒会公認で運用されてる。通称・《勉強部屋》。なにせ、この部屋に入るために《ティーパーティー》の三人の首長、誰か一人の承認が必要だからだ。ミカは特殊な経緯で、ナギサを経由して許可をもらっている。

 

 だが、この部屋生徒会公認ではあるものの、その存在は秘匿されている。あくまで一部の生徒に開示されている、特別な部屋だ。さて、一部の生徒とは誰を指すのか。それはこの学園に限った話じゃないが、学園には女の子ばかりだ。当然、女の子同士で"そういう関係"になる者も出てくる。この部屋は、"そういう"生徒のための部屋というわけだ。つまり目の届く範囲でイチャついてくれ、ということである。

 

「ほら、ミサちゃん。こっちだよ」

 

 無言で手を引かれながら、ミカについていく。私とミカがこの部屋に来た、ということはそういうことをしにきた、ということ。ここに来るのは初めてじゃないのに、ここに来るたびに体のドキドキが抑えられないほど大きくなる。

 

 ミカに連れられて向かったのは、部屋の奥にあるとても大きなキングサイズのベッド。

 

「ミサちゃん」

 

 ベッドに座ったミカがぽんぽんと自分の膝を叩いてる。この部屋に来た時の私の定位置だ。

 

「し、失礼します」

 

「ちゃんと足揃えて座れてえらいね」

 

「ミカがそうしろって……」

 

「うんうん」

 

 荷物を下ろした後、ミカに背を向ける形で、ミカの膝の上に乗る。そして、この位置は座ったちょうど正面に全身を映せるほど大きな鏡がある。そこには頬を上気させた"メス"が映っており、何より頭の上のヘイローがピンク色になっていた。

 

 部屋のライトに照らされて、ピンクに見えてるわけではなく、青色からピンク色に変化した。この変化に気付いたのは中学の頃で、アロナと同じように感情の振れ幅によって変化することが分かった。しかも、色だけではなく中心の♂も♀に変わっている。変化する条件は単純で、今みたいに女の子の思考に寄ってるときだ。ヘイローが変化するだけだから、私の『男』のアイデンティティにダメージを受ける以外、特になにかあるわけじゃないが……。

 

「どうしたの?ボーッと鏡見つめて」

 

「ぅあ、えっとその」

 

 一瞬だけ自分のヘイローを見てしまった。私の目の動きを追っていたミカは、それだけで私が何を見ていたか察したのだろう。ニヤっと口元を歪める。

 

「あー!ミサちゃんのヘイロー、すっごい女の子って主張しててかわいいよねー!私、いつもの青いほうよりこっちのほうが好きだなー」

 

「あぅ……」

 

 特には無い、わけではない。こうしてミカが偶にヘイロー弄りしてくる。前世でヘイローによって個人を識別してないみたいな話を聞いたが、普通に認識されている辺り、単に相手のヘイローの形を覚えていないだけな気がした。確かに大勢の生徒がいるキヴォトスで、一学区に限定しても四桁を超える生徒個人のヘイローまで正確に覚えているのは、余程のことでもない限り普通にキモい。

 

 なお、私のヘイローは余程のことに当て嵌まって、ミカに限らずナギサや個人的な知り合いにも認識されている。覚えやすいヘイローなんだろうなぁ……。

 

「私は、ミカのヘイローの方が綺麗で素敵だと思う」

 

 かっこいいし。コスモを感じる。

 

「そうかなぁ、みんなと全然形違うから私はあまり好きじゃなかったんだけど、ミサちゃんがそう言ってくれるなら少しは好きになれそう」

 

 そう言って、ミカは私の髪をやさしく梳きはじめる。

 

「あっ、そうだ!今日は久しぶりに女の子チェックしよっか!」

 

「えっ!?わ、私恥ずかしいからやりたくない……」

 

「だからやる意味あると思わない?自分から進んで女の子出来るまで続けるからね~」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 女の子チェックとは、読んで字の如く女の子らしくできてるかのチェックだ。ミカの姦計にハメられ、『女の子になります』と宣言させられてから時々行われる恥辱の時間だった。

 

 なんでそんなことになったのか。それはいずれ語る時が来るだろう。

 

「すぅーっ。ミサちゃんの髪良い匂い……髪伸びてきたね。昔はこーんなに短かったのに」

 

「だって、ミカが伸ばせって言うから……」

 

 ミカはこーんなにと言いながら、私の後頭部あたりを撫でさする。私がこの世界に転生した直後、腰まであった髪をバッサリとベリーショートまで短くした。ミカと会ったときには短かったので、不満だったのか『髪は女の子の命だよ』と言って伸ばすことになった。今は、肩甲骨あたりまで伸びている。

 

「うん!じゃあもっと伸ばそっか!」

 

 十分長いと思うけど、まだ伸ばすんだ。

 

「んー、ミサちゃんの髪好きだな。さらさらで、ふわふわで、甘い匂いがする。それに私と同じ髪の色なのも好き」

 

「んっ」

 

 ミカはずっと私の髪の匂いを嗅いでいた。恥ずかしいし、こそばゆいからやめてほしい。

 

「あーあ、目の色も同じだったら良かったのに。でも、銀色の目って神秘的みたいで綺麗だよね。抉って飾っておきたいな!」

 

「え"っ」

 

 その言葉を聞いて、直ぐ様両手で目を守る。

 

「冗談だって!私がミサちゃんにそんなことするわけないでしょ」

 

「ミカならやりそう」

 

「しないよ!?心外だなー、そんなこと言う子はこうだ!」

 

「ひゃうっ!?」

 

 胸への突然の感触に目から手を離す。腋から手を差し込まれており、胸を鷲掴みにされていた。

 

「あれ?ケープに隠れて分からなかったけど、意外と?」

 

「んっ、あ!ふぁっ」

 

 形を確かめるようにミカは胸を揉みしだく。私はミカの手が気持ちよくて悶えることしかできなかった。

 

「最近、成長期って言ってたけど。そっかぁ、こっちが成長期だったかぁ」

 

「ち、違っ!身長!身長のはなし!」

 

「んー?あんまり伸びてる感じしないけど、何センチ?」

 

「えっ。ひゃ、ひゃくごじゅう……よん」

 

「……」

 

「……」

 

 なぜか珍獣を見たかのような目で見られた。ちょ、ちょっとサバ読んだだけなのに。

 

「あー、そっかぁ。身長追いつかれちゃうかなー」

 

「そ、そうだよ!ミカの身長もうすぐ追い越しちゃうんだから!」

 

「うんうん。そうだねー」

 

 ミカはなぜか母親のような顔で私の頭を撫でてくる。ぜ、ぜったい身長追い越してやる……。

 

「あれ?あっ!これ着けてくれたんだ。私がプレゼントした星飾りのチョーカー!」

 

「あっ」

 

 首元に触れたミカは、そこに着けていたチョーカーに気が付いた。シルク製の黒い布に、星飾りを短いチェーンで繋いだシンプルな造りのチョーカーだった。確か星飾りに、なんかの星のかけらを実際に使ってる、とかいう胡散臭い代物で、数十万クレジットしたやつ。

 

「買った時は、『恥ずかしいから絶対着けない!!』って言ってたのに」

 

「それは……だって、恥ずかしいんだもん。でも、せっかく買ってもらったのに1回も着けないのは、アクセもかわいそうかなって。それで、偶々首元空いてたし、襟で隠れるからまぁ1回くらいなら着けておこうかな、みたいな」

 

「…………ミサちゃん、こっち向いて?」

 

「な、なに?―――っんむ!?」

 

 呼ばれたので素直に振り向くと、ミカの顔が視界いっぱいに広がっており、唇に熱くて柔らかい感触が。

 

「んふっ、んちゅ……はぁ……はぁ……ミ、ふっ……んちゅ、ミカ……!まって……んっ!」

 

 濃厚なキスを浴びせ掛けられ、蕩けたまま体をベッドに押し倒される。体を押さえつけられたまま、ミカはより強く唇を押し付けてきた。

 

「……ちゅっ、ん、ちゅぷ……ぴちゃ……ふ……ぺろ―――ぷはぁ」

 

「っはぁ!はぁ……はぁ……っ」

 

 ようやく唇が解放され、足りなくなっていた酸素を取り込む。私とミカの口周りは、お互いの唾液で濡れていた。そして、ミカは自身の口元を舌で舐め取りながら口を開く。

 

「ホントはもっと焦らす予定だったんだけど―――あんまりかわいいこと言うもんだから、我慢できなかった」

 

「み、みかぁ……」

 

「ふふっ、顔とろっとろ。……ねぇ、キス……そんなによかった?」

 

 頭にモヤが掛かったようで思考がうまくまとまらない。そんなときにミカが耳元で囁いてきた。キス?すごくよかった。ボーっとしながら頷いた。

 

「そっか、じゃあ……もっとしてあげるね、ん」

 

「ん……!んん、ん……っ。ぷあ……?みか?」

 

 体の中がぽかぽかしてきて、体の芯からなにかキそうだったのに直前でミカが離れた。

 

「ここからは、どうすればいいか……理解るよね?」

 

 しってる。それは、幾度となく口にした言葉。恥ずかしい……でも、それ以上に体の疼きをどうにかしてほしくて、私はいつも通りスカートをたくし上げながら言った。

 

「私に、女の子を……教えて、ください……」

 

「―――ふふっ、よくできました」

 

 私は、そのまま覆い被さってきたミカに、体を預けるのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 ―――ァァァァアアアアア!!恥ずかしい!恥ずかしい!!

 

 情事が終わり、気絶するように眠って、起きて、自身の行いを顧みた結果、オレは今猛烈に悶えていた。

 

 うう、状況に流されるまま、またヤラレてしまった……。オレのバカ!オレのバカ!男の中の男を目指してるのに女の子になってどうすんだ!くそぉ、本来ならオレがリードするはずだったのに……どうしてこうなった?

 

 うーん、と10分ほど考えてみたが答えが出なかった。―――待てよ?オレに落ち度が無いならミカが悪いのでは?おのれミカァ!いつも人の事を『かわいい!かわいい!』って言って撫でまわしやがって……。いいもん、牛乳たくさん飲んでオレがミカより大きくなれば、ミカもオレの魅力に気が付くもん。ふっふっふっ。

 

「……さむっ」

 

 春先で暖かくなってきたとはいえ、全裸でいれば寒いに決まってる。とりあえず、もうちょっと布団にもぐろう。そう思い、ごろりと寝返りを打った。

 

「……」

 

「……」

 

 目が開いてるミカとバッチリ目が合った。

 

「ミサちゃん、おはよっ」

 

「―――」

 

 にっこりと笑うミカ。下を見れば、そこには散々見た白い肢体があり―――って。

 

「ばっ!?起きてたなら言ってよ!?」

 

 見えた山から全力で目を逸らし、もう一度寝返りを打つ。

 

「えー、私がミサちゃんの寝顔を堪能してたら、急に唸りながらごろごろしだしたのミサちゃんでしょ?」

 

 めっちゃ最初から起きてる……!へ、変な顔で寝てなかったよな?

 

「んー?えいっ!」

 

 ミカの掛け声とともに、背中にふよん♪と柔らかいものが当たる感触が……まさかこれって。

 

「何やってんだ、ミカァ!?」

 

「えへへ、これなら寒く無いよね」

 

 そう言って、さらに密着度を上げてくるミカ。ああ、ミカの身体柔らかくてすべすべしてる……。

 

「……。青いまま、うーん」

 

「……あの、ミカ?」

 

 ミカが体をえいえいと押し付けて、遊んでたかと思うとおもむろにそんなことを言った。

 

「えっちなことすれば、ピンクになるって訳でもないんだねー」

 

「ミカさん!?」

 

 なんかこの娘、恐ろしいこと考えてます!?

 

「ミサちゃん、ちょっとパパッとエッチな気分になってよ」

 

「意味の分からないこと言うのやめて!?」

 

「だってー、ピンクの方が可愛いし」

 

 地味に傷つく!青いのも愛してあげて……。

 

「えいっ!隙アリ!」

 

「隙なんてな―――後ろから抱き着かれてるんだった!?」

 

 抱き着いたまま、ミカは両手を胸に移動させ鷲掴む。

 

「んにゃあ!?」

 

「おーきくなーれ、おーきくなーれ」

 

「やめて!?これ以上大きくするのはやめて!?」

 

 うっ……せっかく治まったのにまた変な気分になっちゃう……。

 

「これは、もう一押しってところかな?」

 

 ミカは片方の手をするりと、下半身へ持っていこうとする。

 

「さ、流石にそれはダメっ!」

 

 両手でミカの手を掴むが、抵抗が強い。ぐっ……こっちは両手なのになんで拮抗するんだ!?というかどんだけ触りたいんだよ!ぐぬぬっ!

 

「むっ!ミサちゃんの癖に生意気だよ!―――なーんちゃって♪」

 

「あっ!」

 

 片方抑えられても、もう片方で触ればいいじゃん、と空いていた片手を下半身へ下ろす。阻むものは無いので、楽々とソコへ到達した。

 

「……あれあれ?ミサちゃん?」

 

 肩に顔を乗せながら囁くミカ。顔がカーッと熱くなってしまう。

 

「もしかして、満足できなかったの?それならそうと言ってくれればよかったのに」

 

「ち、違っ」

 

「違わないよね?触って欲しくて、気のないフリするなんて、ミサちゃんのえっちー」

 

「え、えっちじゃないもん!」

 

「ふ~ん?―――よいしょっと」

 

 ミカは体勢を戻すと、オレの上へ覆い被さってきた。

 

「さて―――どうしてほしい?ミサちゃんの口から聞きたいな?」

 

「ううっ……」

 

 ミカのいつものいじわるな質問だ。逃げ道を潰しておきながら、あたかも逃げ道があるように見せる。どう答えようが、この後やることは変わらないのに、私の口から言わせたいんだ。

 

「どうしたの?そのままでツラいのミサちゃんだよね?」

 

 これは、仕方の無いことだ。一時的なものであって、決して状況に流されてるわけではない……!

 

「お、お願いします……」

 

「うーん?何をお願いしてるのかわからないなー」

 

「私にもっと、女の子のこと、教えてください……!」

 

「ふふっ、じゃあ第2ラウンド、いくよ」

 

 いつか、いつか絶対にミカを押し倒してぎゃふんと言わせてやるからな!!―――あっ♡




簡単な紹介(いらないなら飛ばして)

光園ミサ
144cm。高校1年生。ブルアカ世界にTS転生した元男。モテたいという不純な動機で鍛えていたが、女の子としてあまりに無防備だったため、ミカに堕とされる。一度火が付くと中々治まらないタイプで、自分で慰めても満足できないので毎回ミカにお願いする。ピンクでロリなので強い(偏見)。

聖園ミカ
156cm。高校1年生。女の子でも2年あれば1センチ伸びるかなって思って、現時点で156cm。最初はミサのことは、強くて可愛かったので、自分の傍に置いておこうというアクセサリー感覚だった。しかし、一緒に過ごすうちに好意を抱き、ある出来事をきっかけにミサのことが好きだと自覚したが、同時に失恋した。と思っている。



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修行編
転生してきた話


主人公はいくらでも曇らせていい。古事記にも書いてある。


 

 

 さて、なんでオレがブルーアーカイブの世界に来たのか。どういう経緯で今に至ったのか。説明する必要があるだろう。

 

 あれは10年前のことだった―――

 

 

 

 

 

 なんだこれ。

 昨日までは男、だったはずだ。ブルアカを起動して、デイリーを消化して……そこからの記憶が無い。まさか、寝落ち?これが夢でないならなんだというのか。

 

 震える手で頬をつねってみる。

 

「……いたい」

 

 喉から出たのは可愛らしい少女、よりも小さい幼女の声。

 

 鏡に映ったのは、ピンク髪を背中まで伸ばした銀眼の幼女。頭上にはどことなく見覚えがありそうでない青い輪っか。背中からは一対の白い翼が生えている。

 

「……うそだろ?」

 

 夢じゃない。気が遠くなりそうになりながら、何とか意識を保たせる。

 

 そうだスマホ……!

 

 ここには文明の利器がある。きっとなにかの間違いだ。震える手でロックを解除し、開いたニュースサイトには《キヴォトス》、《連邦生徒会》の文字が並び、《ゲヘナ学園》での事件や《ミレニアムサイエンススクール》で新発明の見出し。

 

 部屋の机の上には学生証があった。先程鏡で見た顔写真と《トリニティ総合学園》初等部1年生の文字。

 

 今度こそ、気が遠くなった。

 

 

 

 少しの間、気絶していたようで、目が覚めてもう一度鏡を見たが変わらず幼女。夢であることを期待したが、ダメだったらしい。思わず頭を抱えてしまった。

 

 これからのことを考えて、一気に不安が押し寄せてきた。不安を誤魔化すため、家の中を歩いてみることにした。

 

 家の中を軽く散策したが、幼女はこの家に一人暮らしのようで誰もいない。そういえば、ブルアカで家族の話って聞いたことないな。科学と魔術が交差する学園都市みたいに、キヴォトスの外にいたりするんだろうか。

 

 そういえば、自分の名前なんなんだ?いつまでも幼女呼ばわりはアレだし、確か学生証があったな。

 

「……こうその、みさ」

 

 光園ミサ。なんだろう、どこかのお姫様(ゴリラ)と間違えそうな名前してるぞ。よく考えたら、ピンクなのも一緒じゃねえか。やめてくれ、そこはトリニティでも一番避けたい場所だぞ!

 

 ……いや、待てよ?別に同年代とは限らないんだし、そもそも確実に会うような立場じゃないんだし、杞憂が過ぎるのでは?一番杞憂してた《エデン条約編》も、積極的に関わろうとしなければモブとして処理されるはず。じゃあいっかー。あーよかった。

 

 悩みが無くなったので、どうしようかと思ってると机の上の拳銃に目が向く。

 

 ……やっぱり触ってみたいよね男の子なら。

 

 とりあえず、持ち上げてみる。……そんなに重量は無い?見た感じ、普通のセミオートピストル。いや、サイズ感が小さい気がする。幼女の手でも握れるし、子供用か?まさか、おもちゃ?いやいや、ここキヴォトスだぞ。……試し撃ちしてみれば分かるか。

 

 ―――バンッ!

 

 適当な構えで適当に引き金引いたら、なんか出た。呆然として壁に出来た弾痕を見つめることしか出来ない。

 

 いや、本物じゃん……。なんか出た、じゃないよ。普通に銃弾だよ。え?もしかしてオレ捕まる?まさか7歳でムショの世話になってしまうとは……。いや、ここキヴォトスじゃん。銃撃ったぐらいじゃ捕まらないでしょ。

 

 ……心配だから、ちょっと外覗くか。

 

 ベランダから外を見れば、何事もなく歩く人々の姿。銃を撃ったこちらの事を気にした素振りはない。ホッとして、とりあえずまた銃を撃ってしまわないように、机の上に銃をそっと戻す。

 

 好奇心で動くべきではないと、学びを得てしまった。あんな迂闊な行動をとってしまうなんて。もしかしたら、無意識の内にテンションが上がっていたのだろうか。

 

 さて、寝るか。そろそろこの夢から覚めるだろう。中々に面白い夢だった。おやすみ。

 

 

 

 起きた。夢じゃなかった。どうして。どうして。

 

 どうしよう、と思っていたら下半身がブルリッと震えた。やばい、漏れそう。先に家の中探索しておいてよかった。ダッシュでトイレに駆け込み、便器の前でズボンとパンツを下ろしたところで気が付いた。

 

「むすこいねえ。どうやってトイレすんだ。―――あっ」

 

 まだ、我慢できると思ったのだが、急に尿意が高まり、しょああーっと黄金水が勢いよく流れ出す。呆然と、足を濡らしながら足元に水溜りが出来るのを眺めていた。

 

 ………………漏らしちゃった。じわりと、目に熱が溜まってくる。濡れたズボンとパンツが気持ち悪い。着替えと、あとタオルも取ってこなきゃ。

 

 

 

 自分の出したものを処理した後、自室に戻り、ベッドの上に俯せに倒れる。

 

 まさか、この年にもなって漏らしてしまうなんて、一生の恥にもほどがある。

 

 下半身丸出しでうー、と唸りながらベッドの上で転がる。着替え?かわいい女の子パンツとスカートしか見当たらなくてやめたけど?

 

「……ハッ!よく考えたら、すわってすればよかったじゃん」

 

 今更過ぎる。もっと早く思いついてよ。……もしかして、脳が変わった影響か?精神は肉体に引っ張られる、みたいなことは聞くけど、脳に記録された情報を引っ張り出してるせいだろうか。この手の分野は専門じゃないと詳しくは分からないから、何とも言えないけど。

 

 難しいことを考えるのはやめよう。眠くなる。それより、これからどうするのかを決めないと。

 

 机の上の学生証を見て、ふと思った。あれ?昨日学校行ってねえ。思わず跳ね起きて、今日の日付を確認する。8月3日。8月ってことは……たぶんどっかに行程表とかあるよな。あった、夏季休暇じゃん。安心して、どっと疲れが出た。

 

 8月31日まで休みだから、学校のことはとりあえず置いておこう。

 

 さて、明日も明後日もこの体のままなら、ここでの生活をしないといけないわけだが。となると、まず必要なのは食糧!冷蔵庫を見に行こう。

 

 冷蔵庫の中は、ジュース!以上!……。冷凍室は、アイス!以上!

 

 この体……どれだけダラダラして過ごす気だったんだ。さすがに、ごはんが無いのは困る。買いに行くしかないな。はぁ。

 

 ということは、だ。このパンツに足を通さなきゃいけないわけだ。パンツの前で、10分ほど悩み、ようやく履く決心がついた。

 

 は、履くぞ……。そっと、片方の足を入れた後、もう片方の足を入れ、ドキドキしながらゆっくりとパンツを引き上げる。一番上まで引き上げ、手を離すとぱちん!とゴムの締まる音がした。パンツ全体がお尻を覆っていて、股の部分がピッタリと張り付いてる。

 

「はいてしまった……女の子パンツ」

 

 なんだろう、いけないことをしてる感がすごい。ぺたぺたと何もない股を触る。張り付いてるせいか、より何もない感じがしてドキドキする。これ以上は、踏み込んではいけない気がする。早くスカートを履こう。スカート、を……履くのか?オレが?こっちのほうが難易度高くないか?

 

 いや、ここまで来たら何を履いても同じだ!フレアスカートを手に取り、一気に足を通す。左前でぱっと留めて、よし!なにも問題なかったな。……足がめっちゃスースーする。足を開いたら、見えてしまいそうで自然と内股になる。

 

 ……早く着替えよ。パジャマの上を脱ぎ捨て、水色のガーリーなTシャツを上から被る。あとは靴下。取り出したピンクの靴下をぺろーんと広げた。いや、なっが。くるくると足先まで通してから一気に引き上げ、もう片方も同じようにして履く。

 

 鏡の前に立ってみた。うわ、絶対領域だ。ていうか女の子腰の位置高すぎ。スカートの中見えそう。なんというか、幼女にだけ許された格好だよ、これ。

 

 サイフは、っと普通にシンプルなサイフが出てきたな。中身は、黒いカードだけ?これで支払いすんのかな。カバンはこれかな。ポーチみたいで肩に掛けれる奴だ。これにサイフとスマホと、……一応銃も入れておこう。キヴォトスなら何が起こっても不思議じゃない。

 

 準備が終わって、玄関の前にぺたぺたと歩いていく。小さなエナメル靴に足を通し、いざ!扉を開けた瞬間、熱気が押し寄せてきたので、そっと閉じた。

 

 いや、暑すぎんだろ……。そういや夏だったわ。この中を歩いて行かなきゃならないのか。嫌だぁ。でも、行かないと今日のご飯が無い。

 

 意を決して、もう一度扉を開ける。再度、熱風を浴びるが何とか耐えて外へ出た。家から出ると、長い廊下に出た。ここマンションだったのか。エレベーターを使って下まで降りると、ようやく外だ。下に来ると一層暑さが強まった気がするな……。

 

 太陽がギラギラと輝き、熱を溜め込んだアスファルトが熱気を放って蜃気楼を作っている。往来を歩く人々は忙しなく動いている。……犬と猫とロボットが歩いてるのすっごい違和感あるな。

 

 人間っぽいのは学生だけか、って言っても羽とかヘイロー付いてるけど。いや、それはオレもか。変なこと考えてないで、早く行こ。暑いし。

 

 スマホを取り出して、近場の店を検索する。すると徒歩10分ほどの所に、大型のショッピングモールがある事が分かった。とりあえず他に無さそうだし、そっちに行ってみるか。

 

 

 

 暑い。

 

 動いてるのに、暑いよ~。……動いてるから当たり前だよー。……今日の最高気温、42度!?アカン、殺しに来てる。外に出るんじゃなかった~。しぬ~。

 

 ふと、目に入ったトリニティの制服を着たお姉さんたち。お姉さんたちは日傘を差して歩いていた。オレも傘持ってきてれば、多少はマシだったかもしれない。

 

 談笑しながら歩いていくトリニティ生を見て思った。めっちゃかわいいな。普通にアイドルやってそうな顔がそこら辺歩いてるって、やばいなキヴォトス。トリニティはお嬢様学校なためか、より顔面偏差値に磨きがかかってる気がする。もう顔で選んでるだろ、って言われても仕方ないレベルだ。

 

 中身さえ……!中身さえまともなら……!今すぐ告白したい……!でも、ゲームでトリカスムーブを見た後だと、二の足踏んじゃう。にんげんってこわい。

 

 ……トリニティ。そうだよ、トリニティかわいい子いっぱいいるじゃんか!やべー所に近づかなきゃいいんだし、相手がゲームのキャラでもいいよね!お嬢様多いし、オレの男の魅力でイチコロよ!

 

「はぁ……はぁ……」

 

 やべぇ、興奮して頭が茹で立ってきた。あれ?なんか、世界もぐるぐるしてる気が。ちゃんと前見て歩かないと。あれ、前ってどっちだ。―――あれ?

 

 視界が暗転し、倒れたと思ったがあまり衝撃が来なかった。目を開けてみると、そこには黒い壁。なんだこれ?と思い上を見ると、ヘルメットを被った危なそうな人がいた。

 

「―――あ?なんだガキ」

 

 血の気が引くとはこのことか。さっきまで暑かったはずなのに、急に体が冷えた感じがする。

 

「おい、どうした」

 

「あ、姐さん。いえ、ちょっとガキが」

 

「ガキ?はーん、逃げ遅れたトリニティのガキか。かわいそうになぁ、周りから見捨てられちまうなんてよ」

 

 逃げ遅れた?周りを見て見ると、先程までたくさん人が歩いていたはずなのに、今は人っ子一人いない。嘘だろ……。

 

 姐さんと呼ばれた人もヘルメットを被っていた。よく見ると、周りの人みんなヘルメットを被ってる。こいつら、まさか……。

 

「ちょうどいい、アタシら《カタカタヘルメット団》の人質になって貰おうか。ガキがいりゃ大人しく金を出すだろ」

 

 やっぱりヘルメット団か!治安どうなってんだよ!

 

「さすが姐さん!人質なんて全く思いつきませんでした!」

 

「はははっ、褒めても弾しか出ねえぞ」

 

 や、やばい。逃げなきゃ……〈ダァンッ!〉ぴゃ!?足の間に銃弾が撃ち込まれ、足元から煙が立ち込めている。オレは驚いて腰が抜けてしまい、尻もちついてしまった。

 

「おっと?どこに行くんだ?大人しくしてれば危害は加えねえよ」

 

 そうだ、銃!ポーチから銃を取り出し震える手で構える。

 

「ソイツは何のマネだ?」

 

「く、くるな!それ以上ちかづいたら、う、うつぞ!ほんきだからな!」

 

「へぇ?いいぜ?撃てよ。但し―――ソイツを撃った瞬間、アタシもお前を撃つ」

 

 そう言って、手に持っていたポンプ式ショットガンの薬室に弾を送り込む。

 

 本気だ、コイツ。この世界では、銃は威嚇になり得ない。撃って、撃たれるのは当たり前で。銃は戦いの道具で、銃は力だった。銃を構えてから気付くなんて、遅すぎる……!

 

 どうしよう。撃つのか?でも人を撃つどころか、銃をまともに撃ったことないのに。それに、撃てば、撃たれる。当たり前だ。撃たれたら、きっと、すごく痛い。でも、今撃たなかったら……きっと次も撃てない。この世界でそれは致命的欠陥だ。だから―――撃つ。

 

 撃たなきゃ。

 

 ―――撃てッ!  〈バンッ〉

 

 ヘルメット団の女が持っていたショットガンに比べれば、軽い音がするそれは(くう)を切り、空の彼方へ飛んで行った。

 

「―――やるじゃねえか」

 

 ヘルメットに隠れて見えないが、なぜか笑ってる気がした。

 

「度胸は買ってやる。だがな、次からは―――ちゃんと敵を見て(・・・・)撃つんだな」

 

 そう言ってショットガンを構えた女はゆっくりと、銃を構えたまま動かないオレの胸元へ照準を合わせる。

 

「安心しな、一撃で眠らせてやるよ」

 

 その瞬間だった。一発の銃弾が、ヘルメット団の一人に直撃した。

 

「なんだ!?」

 

 ヘルメット女は直ぐさま銃を引き、弾が飛んできた方向へ向ける。そちらからは、黒いセーラー服の一団が走って来てるのが見えた。

 

「あれは、チッ《正義実現委員会》の連中か。しかし、来るのが早すぎるな。どうやって正確な位置を……」

 

 女はハッとしてオレを見てくる。

 

「そうか、成程な。全く、運が良いんだか悪いんだか。―――お前ら!委員会相手は分が悪い!退くぞッ!」

 

「―――待ちなさい!撃てーっ!」

 

 女は他のヘルメット団を引き連れ、即座に撤退していった。そこへ、委員会がアサルトライフルを持って追撃を仕掛ける。

 

「君っ大丈夫!?ごめんね、来るのが遅れちゃって……っ。君、泣いてるの?」

 

 委員会の制服を着た一人が、オレの所へ来てそう言った。泣いてる?言われて初めて、自分が涙を流してることに気が付いた。

 

「あ、オレ……っ」

 

「そっか、そうだよね。ごめんね、怖かったよね。もう大丈夫だから」

 

 委員会の少女は、構えたままだった銃をそっと下ろしてくれた。

 

「はじめて、人に、銃をっ」

 

「うん、うん。君が空に銃を撃ってくれたおかげで、私たちもすぐに駆けつけることが出来たんだ」

 

 あの時の……。

 

「我々《正義実現委員会》は、貴女の勇気に敬意を表します。委員会を代表して、感謝を」

 

「うっ、ぐすっ……」

 

「今は、ゆっくり泣いていいからね」

 

 

 

 

 落ち着いた後、椅子を用意してもらい、そこに座って委員会の人が慌ただしく動いてるのを眺めていた。さっきの少女は、「私が傍に付いてるから大丈夫だよ」と言ってオレの近くにいる。

 

 近くに置いた銃を見てから、自分の両手を見つめる。落ち着いてから、ようやく手から銃を離すことが出来た。まさか、二日目でいきなり人に向かって発砲することになるなんて……キヴォトスの治安の悪さをナメていたかもしれない。

 

『全く、運が良いんだか悪いんだか』

 

 運が良かった。委員会に助けられたことも、銃を撃ったことも、……あの女に出会ったことも。すべて。でなければ、今も勘違いしたままだったかもしれない。

 

 この世界は、透き通る世界であっても、都合のいい世界じゃない。……前世で見た4thPVのバッドエンドラッシュ。最終編の最後まで見ることは叶わなかったが、あれはきっと失敗した世界。実際に起きたことなんだろう。"先生"がいなかったのか、あるいは"先生"がいてもどうにもならなかったのか。一種のボタンの掛け違いなのかもしれない。そして、それはいつのことであっても起こりうるはずだ。

 

 あのヘルメット女は、それを教えてくれた。今後のオレに必要なものも。

 

 まずは、銃の扱い方だ。ちゃんと銃が撃てるようにならなければ、このキヴォトスでは話にならない。次に銃。もっと威力が高くて強い銃がいる。今回は委員会が助けてくれたが、次があると思ってはいけない。一人でも倒せるだけの力を付けなければ。このキヴォトスで生き抜けるだけの力を。

 

「―――委員長!」

 

「なんとなく、何を言うのか分かりますが、どうしました?」

 

 思考の海に沈んでいたら、急な大声で現実に引き戻された。声の方に顔を向けると、そこにはさっきの委員会の少女が……えっ?あの人、委員長だったの!?さっきは見る余裕なかったけど、めっちゃ美少女。

 

 委員会の黒セーラーに、肩からカーディガンを羽織っており、黒髪を肩口で切り揃えた。全体的に物静かな雰囲気であるのに、佇まいがタダ者ではない。

 

「はっ!ヘルメット団以下6名を捕らえましたが、リーダー他数名は追撃を振り切り、雲隠れした模様です!捜索部隊を出しますか?」

 

「―――いえ、やめておきましょう。追い詰められたあの女が何をするか分かりません。それより、あの女が率いたヘルメット団の犯罪を未然に防げたことの方が大きいでしょうね。これで、しばらくは大人しくしてくれればいいのですけど」

 

 よく聞こえないけど、あの女って姐さんって呼ばれてたやつ?話してる口ぶりからするに、アイツやべーやつだったのか!?

 

「他の部隊にも撤収指示を、捕らえたヘルメット団も護送しておいてください」

 

「はっ!了解しました!」

 

 少女―――委員長さんは部下に微笑みかけると、こちらに戻ってくる。

 

「一人にしちゃって、ごめんね」

 

「あ、いえ、それより委員長さんだったんですね」

 

「ああ……別に隠してたって訳じゃないんだけどね。私自身、そう名乗るのに足るのかなって思うから」

 

「そんなことない!委員長さんすごくかっこよかった!……あ、ご、ごめんなさい」

 

「ううん、そう言って貰えてすごくうれしい!」

 

 キョトンとした顔のあと、綺麗な笑顔を見せる委員長さん。あまりに綺麗だったので、ドキッとしてしまった。

 

「私たちはそろそろ戻る予定だけど、君はどうする?良かったら、お姉さんが家まで送ろうか?」

 

「えっ!?」

 

 助けてもらったのに、流石にそこまでしてもらうのは忍びない。それに、家に戻る前に行っておきたい場所がある。善意で言ってくれてるのに申し訳ないけど、断らせてもらおう。

 

「その、ごめんなさい。まだ用事があるので」

 

「そうなの?もし良かったらお姉さんが付いていこうか?」

 

 委員長さんがサファイアブルーの瞳で覗き込んでくる。これは、顔面の暴力……!

 

「大丈夫!委員長さんのおかげで元気になったし」

 

 椅子から飛び降りて、銃をポーチにしまいその場から離れようとする。

 

「あ、そうだ。委員長さん、助けてくれてありがとうございました!オレ、委員長さんみたいなかっこいい人になれるように頑張ります!それじゃ!」

 

「あっ。……かっこいい人、か。ふふっ」

 

 

 

 

 委員長さんと帰れば安全に帰れたかもしれないが、やはりずっと頼りっぱなしというのは男が廃るというものだろう。強くならねば。あのヘルメット女も次会ったときはぎゃふんと言わせてやる!

 

 そう思い、やって来たのはガンショップ。銃を売ってるお店だ。

 

 ここに来た目的は、さっき考えていた銃の問題を解決するためだ。早くに解決するに越したことは無いので、早速買いに来た。

 

 店内を物色しながら、目的のモノに合いそうなものを探す。アサルトライフル……却下、サブマシンガン……却下、ショットガン……。ショットガンか、威力は悪くはないんだが、いかんせん連射力と射程が無さ過ぎる。セミオートなら連射力を上げられるが、集弾性が落ちる上、威力も落ちる。集弾性が落ちれば射程も落ちる。うーん却下で。スナイパーライフル、威力は高く射程が長いがやっぱり連射力が足りないし、もっと弾数欲しい。グレネードランチャー……自爆しそう、却下。ロケットランチャー……同じく、却下。

 

 マシンガン、やっぱり探すならこの中かな。……ん?

 

「でっか、なんだこれ」

 

 明らかに場所を取り過ぎな純白のマシンガンがあった。……これ、前世のFPSで見た覚えあるぞ。持って歩くものじゃなくて、設置物だったり、戦艦に取り付けてあるような、いわゆる重機関銃と呼ばれる大型銃だ。使用弾薬、12.7×81mm……これ50口径の方じゃん。50口径といえば対物ライフルやマグナムなどの高威力の銃に使われる弾と同じものだ。厳密には違う弾種だが。流石重機関銃。威力は対物ライフル、射程も元々長距離で撃ち合うものだから申し分ない、連射力は折り紙付き、弾数も多い。……まさか運命に出会ってしまったか?気になるお値段は……は?

 

「高すぎんだろ……。他の銃と比べても、全然桁が違うじゃん」

 

 しかし、これを逃せばもう出会えなくなるような。そんな予感がした。

 

「店員さん!これください!」

 

 呼ばれたロボット店員は目を丸くした。

 

「た、大変申し上げにくいのですが……こちら、お客様のお体に合ってないと思いますが……」

 

「これから成長します!」

 

「そそれに、こちら大変重量がありまして、お持ちになれないかと……」

 

「それくらい!ふんっ……え、重」

 

「約30kgでございます」

 

 重すぎィ!でも持つゥ!レールガンに比べれば軽い軽い!

 

「ふんぎぎぎ!も、持ったぞ……!」

 

「いや、目が血走ってる上にすごい汗が」

 

「支払いおねがいします!」

 

「あ、はい」

 

 勝った!めっちゃ重たかったが、なんとか会計に移動した。

 

「支払いはなにでなさいますか?」

 

 あ、今更ながらこの黒いカード使えるのかな?

 

「このカードでお願いしたいんですけど」

 

「はい、お預かりしま―――え!?」

 

 店員、カード見て固まったんだが大丈夫か?もしかして使えないカードだったんだろうか。

 

「店員さん?」

 

「はっ、失礼致しました。コチラお預かりさせて頂きます」

 

「限度額届きそうなら、分割で」

 

「いえ!こちらのカードは限度額が無いのでお支払い出来ますよ!」

 

 え?そうなの?それって金色のカードじゃなかったっけ?まぁ、使えるならいっか。

 

「じゃあそれで」

 

「はい。弾薬もご一緒にいかがでしょう?」

 

「え、お願いします。あ、筋トレグッズとかあります?」

 

「はい、ございます。そちらもご一緒で?」

 

「お願いします」

 

「今お買い上げになられた商品。こちらで御自宅まで配達を依頼しておきましょうか?」

 

「え?おねがいします?」

 

「はい、かしこまりました!」

 

 

 

「ありがとうございましたー!またのご来店をお待ちしております!」

 

 ……なんか急に態度変わったような。まぁ、銃買えたからいっか。

 

 よし、次行くか!

 

「たのもーっ!」

 

「いらっしゃいませー」

 

「髪切ってください!」

 

 というわけで来たのは美容院。髪鬱陶しいからな、バッサリ行こうと思う。

 

「かしこまりましたー。本日のカットはいかがなさいますか?」

 

 かっと?髪型の種類?……考えるのめんどくさいな。

 

「ボーズで!」

 

「なるほど、坊主……ってええ!?お、お客様、流石に坊主は……ベ、ベリーショートなどいかがでしょう?」

 

「あ、じゃあそれで」

 

 髪のことよく分からないし、おまかせでいいか。

 

 

 

「―――はい、終わりましたよ」

 

「んえっ」

 

 やばい、完全に寝てた。散髪してるときってなんでか眠くなる。と正面の鏡には少年のような風貌の少女が。

 

「おおー」

 

 見た目が完全にショタだな。っていうか今の格好だと女装にしか見えねえ。あとでズボンも何着か見繕っておこう。

 

「いかがですか?」

 

「めっちゃいい!あ、支払いはカードで」

 

 この見た目なら、成長すればなかなかのイケメンになりそうだ。

 

「っ!?はい、カードのお支払いですねっ……完了しました。ありがとうございましたー」

 

 めっちゃ顔引き攣ってますけど。このカード、マジでなんなんだ……。

 

 

 

 あとは服買って……。とそこでお腹がぐぅ~っとでかい音を鳴らす。

 

 そういや、昨日からなんも食ってなかった。服の前に飯だな。飯食って、そのあと服買って帰ろう。今日は疲れた。

 

 

 

 

 その後、何事も無く家に帰ることが出来た。朝、騒動に巻き込まれたことが嘘のようだ。

 

 荷物はもう届いていた。はっや。早速中身を確認。重機関銃は相変わらず重かった。ん?名札?"Lux Dei"?ルクスデイで読み方あってるのだろうか。ルクスは前世でゲームやってたから分かるぞ。光系の魔法でよく見るからな。デイはなんだろう。日?光の日ってこと?怒りの日みてーな名前しやがって。字も似てるしたぶんあってるだろ。そういえばブルアカって生徒の銃に名前付いてたんだっけ?

"

 とりあえず、かっこよさげな名前付いてても使えなきゃ意味ないよ。というわけで、筋トレだ!学校始まるまでには、普通に持って歩けるようになりたい。がんばるぞ!―――明日からな!!今日はもう疲れた!寝る!おやすみー。




光園ミサ
ヤベー女ホイホイ。この頃はまだ、メインキャラを避けようとしていた。気が付いたらメインキャラのど真ん中に居た。奇跡的に送り狼を回避した。なお、本人は気づいてない模様。まだ日本人メンタルだったので、銃を撃つのも、銃を人に向けるのも怖かった。曇らせが捗る主人公。形状記憶合金メンタル。ボコボコになっても元に戻ってくれる。助かる。

正実の委員長
ヤベー女。165cm。高校1年生。まだ高1なのに正実の委員長やってる。委員長任されるだけあって相当な実力者。その上、人格者で慕うものが多い。ロリコン。ミサに一目惚れしたので、ミサを送り狼しようとしたが失敗した。部下は呆れた目で見ていた。その後、たびたび偶然を装ってミサに会いに行ってる。ロリコンは人格者なのかって?先生も人格者だけどロリコンだぞ。

ヘルメット団のリーダー
ヤベー女。170cm。学校に通っていれば高校2年生。ショットガンで股抜きしたやべーやつ。当てない自信はあった。やたら高いカリスマ性を持っており、実力も高く正実の委員長が警戒するレベル。なんでヘルメット団に居るのかよく分からない。間違いなく、ミサに大きな影響を与えた。ミサのことは「おもしれー女」って思ってる。

黒いカード
限度額なしのブラックカード。主人公の生命線。実は主人公、超が3つ付くお嬢様。憶えてないけど。アビドス買い取れるレベルの金を動かしたが、全然余裕。その気になれば、土地をコロコロしたり、店ごと買い取れるレベルの代物。知らぬが仏。やったねミカ!トリニティ追い出されても余裕で生活できるよ!


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1年生の話

難産だった。

感想覗いたらなんかめっちゃ来てたうれしい。返信できてないけど、ちゃんと全部ニコニコ顔で読ませてもらってます。コメントを返そうと思って、「いや、相手に不快な思いさせてしまったらどうしよう」ってなって返せない(コミュ障)
みんなミサの銃の話してて、あれ?と思って前回見返したら銃の解説いれるの忘れ、いえ今回入れようと思ってました本当です。

誤字報告もてんきゅー!何誤字ったんだろうって見たらフィリウスとサンクトゥス間違えてて「んっふw」って声が出た。まあ、パテル以外空気だから……(言い訳)ナギちゃんファンの方ゴメンナサイ!

評価いれてくれた方もありがとうございます!すごく励みになってます!


 

 今日から学校が始まる……!

 

 結局、夏休みの間はずっと筋トレしてた。夏休みという貴重な時間を使ったが、おかげでこのバカでかマシンガンを持って歩けるようになった!本当に持つだけだけど。ま、まあ普段は背負ってるし大丈夫でしょう!

 

 さて、制服よし!サイフよし!スマホよし!マシンガンよし!バッグと中身諸々よし!

 

 よしいくぞー。

 

 

 

「ミサちゃん、おはようございます」

 

「あっ委員長さん、おはようございます」

 

 あの日、助けてもらった《正義実現委員会》の委員長さんだ。まだ高1らしい。高1で委員長に任命ってすごすぎない?この人、たぶんゲヘナの風紀委員長のヒナクラスの強さだよね。

 

 あの日以来、外出の度に会うようになった。どうやらあの日に会ったヘルメット団の女は、学区を跨いで警戒されるほどの危険人物らしい。あの女を捕捉したときには、すでに犯罪を起こした後で、未然に防げたのは初めてなんだそうだ。やばすぎだろ……、なんでヘルメット団やってるんですかね?

 

 そんな危険人物が出たということで、この辺りの見回りを強化してくれたらしい。委員長さん、めっちゃ良い人だ。

 

「今日から学校なんだ。制服似合ってるよ!」

 

「ああ、うん。正直、スカートはスースーして落ち着かないから、ズボンが良いんだけど」

 

 流石トリニティというべきか。小学生でもキッチリ制服だ。せっかくズボン買ったのに……。

 

 それから、学校に着くまでの間、色々話した。と言っても委員長さんの話に相槌を打つぐらいだけど。最近読んだ本の話とか、どこかの喫茶店に出た新作スイーツの話とか。女子ってよくそんな話題がポンポン出るな。オレ?オレは筋トレした話しかできないぞ。

 

「それじゃ学校頑張ってね~~!」

 

「委員長さんも委員会のお仕事がんばってください」

 

「ありがとー!」

 

 見えなくなるまで手を振った後、教室に向かった。

 

 

 

 そっと扉の隙間から教室内を覗く。

 

 普通に教室前まで来たけど、よく考えたらオレは向こうのこと知らないけど、向こうはオレを知ってるんだよな。どうしよう。いっそのこと勢いで誤魔化すか……。

 

「どうしたの?えっと……ミサちゃん、だよね?入らないの?」

 

「―――ほぉぉぉぉぉぉぉぉんんっ!?」

 

 急に背後から声を掛けられ、驚いて大声を出してしまった。後ろを振り返ると、驚いた顔で固まるピンク髪の、……誰だろう?

 

 とにかく、悪いことをした。普通に謝ろう。

 

「きゅ、急に大声出してごめん!突然でびっくりしちゃって」

 

「あ、うん。やっぱりミサちゃんだったんだー。なにソレ、イメチェン?」

 

「まあ、うん、そんなところ……」

 

 し、知り合い……?いや、クラスメイトなら当たり前か。どどどどうしよう、気さくに話しかけるべきか?いや、そんなに話す仲じゃなかったら、なんだコイツ馴れ馴れしいな、とか思われるんじゃ。

 

「とりあえずこんなところで話すのもなんだし、教室入ろ?」

 

「た、たしかに」

 

 いつまでもこんな所に居ても仕方ないし、もう覚悟を決めるしか。

 

 深呼吸した後、勢いよく扉を開ける。

 

「お、おはよーッ!!」

 

 教室内の視線が集中する。誰か分からなかったのか、首を傾げる者が多かったが、近くに居た人は数秒考えこんで「あっ」と声を出す。

 

「もしかしてミサちゃん?」

 

「う、うん、そうだけど」

 

「えー!全然わかんなかったー!雰囲気変わり過ぎだよー!」

 

 それを皮切りに、クラス中がえー、うそー、わかんなかったーという声で溢れる。

 

 流石に一気に髪切ったのはやり過ぎたか?でも、髪長いと邪魔だし、動き辛いしなぁ。

 

「なんで髪切ったの?短いのもいいけど、やっぱり長い方が似合ってたと思うなー。それにその大きい銃なにー?ミサちゃん前に戦うのは怖いからって小さい銃持ってなかった?」

 

 後ろから付いて来ていたピンクロリから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。なにこの子、圧強すぎるんだけど。

 

「なんでー?」

 

「それは……オレ、男の中の男を目指そうと思ってさ」

 

 言った!言ったけど、冷静に考えてこのセリフはただのヤベーやつだ!うああ、もう言ったから下手な訂正入れたら余計悪化しそうな気がするぅ……。

 

「へぇー、そうなんだー」

 

 めっちゃ軽く流された。自分で言うのもなんだが、クラスメイトが急にこんなこと言いだしたら、心配するなりドン引きするなり、ありそうなもんだけど。

 

 そういえばオレの席ってどこだろう?もうこの際だし、この流れのまま聞いてみるか。

 

「オレの席ってどこだっけ?」

 

「あははっ、なにソレー新しいギャグ?」

 

「し、しばらく学校来てなかったから忘れちゃって……」

 

 流石に苦しいか?と思ったが奥に居たクラスメイトが、こっちだよーと手を振っていた。

 

「もう仕方ないなー。ほら、こっちだよ」

 

 それを見たピンクロリの子が、オレの手を引っ張ってオレの席まで連れて来てくれた。このクラスあったかすぎ。

 

「ありがとう、その助かった」

 

「いいよー、私の席隣だし」

 

 あ、ついでだったのね。まあ、それでも助かったけど。

 

 

 

「ふぃ~」

 

 席に着いてから、クラスメイトからのなんでー?の嵐を受けた。気が付いたら始業のベルが鳴っていて、そこでようやく人が散った。そして、今は各々BDを取り出して授業を受けている。

 

 ……先生、マジでいないんだな。前世でも映像媒体を使った授業はあったが、それでも先生はいたからなぁ。

 

 さて、小学生のそれも1年生の授業をもう一度真面目に受けるのもな。中身をざっと確認したが、基本科目は前世と内容は変わらなさそうだ。となると、トリニティ特有の宗教関係や歴史、特殊科目あたりに気を付けて、勉強範囲を絞れば時間に余裕ができるな。

 

 ちょっと不良行為だが……。やっぱり、銃について勉強したいからな、今の時間を銃の扱いや撃ち方の勉強に当てさせてもらおう。馬鹿正直に銃を使う授業が来るのを待ってられないからな。

 

 そうして、持って来ていた別のBDに差し替えて、流れ始めた銃の動画を見ていると、視線を感じて隣を見たら、お隣のピンクがこっちを見ていた。いや、ガン見ぃ。

 

「(ねえ、それ違うBDだよ?)」

 

「(知ってる)」

 

「(……この授業のBDはどうしたの?)」

 

「(さっき3倍速で見終わった)」

 

「(うそ!)」

 

 まあ、嘘だけど。でも、内容分かったから見る必要ないですって言うのもな。

 

 ピンクロリは、自分の机に向かって何か考え込んだ後、手元のノートにさらさらと書き込み、こちらに見せてきた。……問題か。答えを書き込んで返してあげた。ピンクロリはギョッと驚いた顔でこちらを見たので、ドヤ顔で返した。というかお前、それ1年の問題じゃねーじゃねえか。

 

 ピンクロリはぷくぅっと頬を膨らませていた。なんだろ、ちょっと罪悪感が。でも、銃の勉強はしたいからな。割とマジで見逃してくれ。また不良に襲われて死にそうな思いはしたくない。

 

 

 

 1限目が終わって、休み時間。ピンクロリはジト目でこっちを見ているがスルー。

 

 時間割を確認した限り、残りの授業はサボっても問題無さそうだ。なら、早速習ったことを試しに行くか。ちょうど許可も取れたことだしな。そう思って、席を立つとまたしてもピンクロリが立ち塞がる。

 

「どこ行くの?」

 

「射撃訓練場だけど?」

 

「初等部の訓練場使用は、許可が無いと使えないよ」

 

「知ってる。許可なら貰った」

 

 ちゃんとあらかじめ調べておいたし、……まあホントはこんな急には取れないけど、そこはちょっと偉い人にお願いしたというか。

 

「……うそ」

 

「ホント、ほら」

 

 そう言ってピンクロリにスマホを見せる。

 

「……ホントだ。えっ!?認可者《正義実現委員会》委員長ってこれどういう」

 

 驚いてるピンクロリからスマホをひょいっと取り上げる。

 

「そういうわけだから」

 

「ま、まって!授業は!?授業はどうするの!?」

 

「ごめん、今はこっちの方が大事だからパスで」

 

「ちょ、まっ―――」

 

 

 

 ウッキウキで射撃訓練場に着くとそこには先客がいた。

 

「来たね、待ってたよ」

 

「お願いしたのはこっちなのに、お待たせしてすみません」

 

 先に来ていたのは委員長さんだ。

 

「ううん!待ってないよ!」

 

 え、どっち。

 

 委員長さんがここにいるのは、朝会ったときにお願いさせてもらったからだ。

 

 

 

 

 

 

「え?射撃訓練場の使用許可?」

 

「ええ、どうしてもすぐに取りたくて。委員長さん経由ならすぐ取れるのかな、と」

 

 そう言うと、先程までニコニコと話していた委員長さんは思案顔になりしばらく俯く。

 

「……それは今どうしても必要なもの?」

 

 委員長さんは、見たことない真剣な表情で問うてきた。

 

「こう言うのもなんだけど、ミサちゃんはまだ初等部の、それも1年生。これからゆっくりと学んでいくこと、色々あると思う。戦うことも、いつかは知ると思う。急がなくても、君には時間がたっぷりとある。その上で問うよ、それは本当に必要なこと?」

 

「……」

 

 委員長さんの言ってることは100%正しい。同時に深く考えず、安易に委員長さんを頼ったことが大変申し訳なくなる。

 

「……《正義実現委員会》の立場としては、守るべき人に戦わせるようなことはしたくない。戦うのは、私たちの仕事だからね」

 

 確かに、その通りだ。立場を考えれば、守る対象を戦場に送り出すような人はいないだろう。……やっぱりこの話なしにさせてもらおう。流石に無茶を言いすぎた。こうなれば仕方ない、どこか人気の無いところで練習するしか―――。

 

「……でも、そうだね。いいよ、許可取ってあげる」

 

 ―――え!?

 

「い、いいの?」

 

「うん、ここでダメって言っても、ミサちゃんこっそりやりそうだし」

 

 どきっ。

 

「そ、そんなこと、ないよー」

 

「うん、こっち見て言おうね。だからね、一つ条件」

 

「条件?」

 

「うん、それは―――」

 

 

 

 

 

 

「―――条件は委員長さんの監視の下でやる事、でしたよね?」

 

「そうだよ。小さい子を一人にするわけにもいかないから」

 

「……委員長さんの善意に付け込んでおいて言うのもなんですけど、委員長さんの権力を利用する形になってしまってすみません」

 

「あははははっ!」

 

「な、なんで笑うんですか!?」

 

「あははごめん、最初から私に許可もらえるの前提で話を進めてたのにさ、そこ気にするんだって思って」

 

 心底おかしいと言わんばかりに笑う委員長さん。

 

「オ、オレにだって罪悪感ぐらい―――」

 

 言いかけた言葉は委員長さんの人差し指に止められる。

 

「私は、なんでミサちゃんが今すぐにでも戦う術を身に着けようとしてるかは知らない。でも、それはきっと私たち《正義実現委員会》の力不足が招いてしまったことなんだと思う」

 

「……」

 

 違う、と言えなかった。ここで否定したとしても、上辺だけにしかならないからだ。それに、次に不良に襲われても都合良く助けてもらえると思っていない。そのために、一人でも戦える力が欲しいんだ。

 

「だから、その罪悪感は仕舞っておいて。そして、利用するなら最後まで利用して、ね?」

 

 そう言って、委員長さんは笑った。

 

「ずるい、ですよ。そんなの、オレずっと、貴女に後ろめたい気持ちでいなきゃいけないじゃないですか……」

 

「そうだよ、知らなかった?私はね、ずるい女なんだよ」

 

 いたずらっぽく笑う委員長さんがなんかおかしくて、ふっと笑ってしまう。

 

「はじめて笑ってくれたね」

 

 その言葉に、えっ?となった。

 

「今まで笑ってませんでしたか?」

 

「笑おうとはしてたかな。硬くて、ぎこちない笑みだったけど。君をよく見てる人なら気付くんじゃないかな、作り笑いだって」

 

 よくわからなくて、自分の顔を触ってみるが、やっぱりよくわからない。

 

「……ねぇ、ミサちゃん。訓練を始める前に、2つのお願い、聞いてくれる?」

 

「お願い、ですか?」

 

「うん、一つは絶対に無茶しない事。お姉さんとの約束」

 

「は、はい」

 

「もう一つは……」

 

 そこで、言葉を噤み黙ってしまった。心配になって声を掛ける。

 

「委員長さん?あの、大丈夫ですか?」

 

「ううん、大丈夫。もう一つはね、これから君の生き方を否定する子がきっと現れると思う。だから、その子が現れた時は、どうかその子の話に耳を傾けて欲しいの」

 

 もう一つのお願いは、よくわからないものだった。

 

「えっと、よくわからないです」

 

「もう一つの方は、今は分からなくてもいいかな。その時が来たらきっと分かると思う」

 

 思わず眉を顰めてしまう。生き方を否定って、襲われても返り討ちに出来るように強くなるのはおかしいことなのか?みんなもやってることなのに。

 

「時間取り過ぎちゃったね。それじゃ、はじめよっか」

 

「あ、はい。おねがいします」

 

 委員長さんの言葉は気になるけど、今は切り替えよう。

 

「ミサちゃんが使う銃って……」

 

「これ、ですね」

 

 背負っていた重機関銃を下ろし、委員長さんに見せる。

 

「……大きすぎない?これ持って撃ち合うの?しかも、これトリガー後ろの方にあるんだけど」

 

「トリガーが後ろにあるのは、元々は設置銃座なので。今は重すぎて難しいですけど、持つときはこう、脇に抱えて撃つ感じになるかなって」

 

 右脇に抱えながら、左手をトリガーに添える。

 

「あー、うん、なるほど。え?ホントに?それほとんど片手で持つことにならない?どうみても重いよ?」

 

「まあ」

 

「まあ、じゃないけど。……私はちょっと見積もりが甘すぎたかもしれない」

 

「その辺は追々、筋トレして持てるようになってからですね」

 

「あ、しかも筋力でゴリ押すんだそこ」

 

 ???

 

「ひとまず今日の所は、射撃を見てもらえると助かります」

 

「……そうしよっか。じゃあ、そこの射撃レーンで準備お願いね」

 

 言われた通り、レーン台に重機関銃を設置する。

 

「それじゃあ、的を固定で出すから撃ってもらっていい?」

 

「わかりました」

 

 レーンの奥に人型の的が現れる。深呼吸、集中して、しっかり狙って―――撃つ!

 

 ―――〈ドドドドドドドドドドドッ!!!〉

 

 引き金を引いた途端、襲ってきた衝撃に全身が揺さぶられる。内臓をシェイクされるような感覚に吐きそうになりながら、なんとか撃ち終えた。これは手応えあったな。

 

「こ、これは―――銃弾が人の形をなぞるように外れていく!」

 

「あれぇ?」

 

「あれぇ?じゃないよ」

 

「ゲームならスティック倒すだけで反動制御できるのに……」

 

「現実を見て」

 

 どうやら、オレの射撃練習は前途多難であるらしい。

 

「ひとまず、銃を体に慣らすこと、とにかく撃って数をこなすしかないね」

 

「わかりました!」

 

 その日からオレと委員長さんの射撃特訓が始まった。




光園ミサ
性格も口調も行動も、(便宜上)前のミサと変わらない。あえて変わった点を挙げるなら、キヴォトスでの常識が無くなったことくらい。射撃はへたっぴだった。ちなみに、「銃弾が人の形をなぞるように~」は私がFPS始めたての頃よくやった失敗。

委員長さん
正義のロリコン。《ティーパーティー》に、ヘルメット女の危険性と邪魔をしたミサへ報復する可能性を説いて、正規の手順、正論武装、さらに自分に回ってくるように手回しをした上で、ミサのストーキング、もとい見回り強化することに成功。そして、ミサの近くに居たからこそ、ミサの抱える闇と歪さに気付いてしまった。同時に、自分の声が届かないことも。だからこそ、自分ではない誰かがミサを救ってくれると信じて楔を打ち込んだ。未来に願いを託した。ロリコンであることを除けば、ガチの人格者。

謎のピンクロリ
一体どこのわがままなお姫様なんだ……。主人公、ヘイローを確認しなかったため痛恨のミス。しばらく出てこないが、割と主人公の近くに居る。

Lux Dei
モデルはヴィッカース.50重機関銃。なんでこれになったかというと、イギリス製機関銃かつ振り回しても大丈夫そうな銃がこれしかなかった。結果、主人公がより異常に。片手はトリガーで塞がるので、片手持ちが基本のスーパーストロングスタイル。未来では、トリガーを引きやすいように改良を施してある。なお、鈍器として使う模様。主人公も人のこと言えないくらいゴリラ。


しばらく、特訓だから話膨らませにくいなぁ。はやくミカとのイチャイチャ書きたい。でも、強さに説得力が無いと私が納得できないジレンマ。

ところですごく言い辛いことがあります。中学1年生編が丸々カットになりそうです。なぜかというと、メス堕ちしたからメス堕ちするからですね。何回か頭の中で組み替えてはいたんですけど、なぜか逆に過酷シーンで埋まりました。なぜなんだ。というわけなんでアンケート取っちゃおうかな。別にどれ選んでも構わないんで、自分の欲望と相談してね。


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2年生の話

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感想、評価いつもありがとうございます!

次は早く上げられるように頑張るね!でも次は話が長くなりそう。がんばって書くから待っててください!


 

 人気の少ない射撃訓練場。爆発音と聞き間違うような銃声が響いていた。

 

「そこまで、やめ!」

 

「ふぃ~」

 

 満足気に声を出し、一息つく。その間に、黒髪の少女は的の確認をしていく。

 

「うん、いいね。狙いが正確になって来てる、ちゃんと指示された場所へ撃ててるよ」

 

「シエルさん、ホントですか?」

 

「もちろん、嘘を言ったってしょうがないでしょ」

 

 羽佐間シエルさん。《正義実現委員会》の委員長さん。この1年の間に、いつまでも委員長さん呼びは余所余所しいから、と名前で呼ぶことになった。

 

 そう、あれからちょうど1年。またクソ暑い夏がやってきた。

 

「それにしても、弾が綺麗に的から外れるミサちゃんがよくここまで、ううっ……」

 

「もう、大袈裟ですよ」

 

 よよよ、とわざとらしく泣くシエルさん。

 

「……シエルさんに会ってもう1年になるんですね」

 

「そういえば、そうだね。なんか、ミサちゃんに会ってからあっという間過ぎて、1年経ったなんて信じられないよ」

 

「確かに、あっという間でしたね」

 

 ……あのヘルメット女に会ったのも1年前か。ホント、あっという間に感じるな。あの時は、何もできなかったけど、今なら一矢報いることは出来るかもしれない。

 

「シエルさんはこのあと委員会の仕事でしたよね」

 

「そーなんだよー!はぁ、もう少しミサちゃんと一緒に居たかったなぁ」

 

「あはは……そう言ってくれるのはうれしいですけど、仕事はちゃんとしてくださいね」

 

「ミサちゃんはこの後どうする?今日は終わりにしとく?」

 

 この後か……。シエルさんがいないからな、射撃練習は出来ないがカバーの方は問題なくできるだろう。

 

「隣の演習場でカバーの練習しとこうかなって思います」

 

「真面目にカバーの練習する人初めて見たよ」

 

「そうですね、オレが行った時も人いないですし。でも、オレって結構な重量武器抱えてるんで、こういう基本の動きを早く動けるようにしておきたいんですよね」

 

「楽して強くなりたいって言いそうな性格なのに、訓練とかちゃんと段取り組んでから取り組んでる辺り、意外と真面目だよねミサちゃん」

 

「意外と、は余計です。楽して強くなれるならしたいですけど、そんな都合のいいモノは存在しませんから。それに、楽して強くなれたってどんな代償を要求されるか、分かったもんじゃないです。結局は、地道に努力を重ねるしかないんですよ」

 

 都合のいい物語なんて存在しない。やれることは今のうちにやっておかなければ。それに、今のうちに鍛えておけば、安全も確保できるってもんよ。未来に、自分の平和と安心を担保出来るなら地味な訓練だって悪くない。

 

「なるほどね。っとと、じゃあ私はそろそろ行くね」

 

「はい、委員会がんばってください」

 

「ありがと~!」

 

 シエルさんは笑顔で手を振りながら、その場から去った。ああいう、元気な人が居るとこっちも元気がもらえてうれしいよね。オレもさっさと片付けて、演習場に向かうか。

 

 

 

「―――ふっ!!」

 

 カバーからカバーへ走りこみ、カバーから乗り出しマシンガンを向ける。マシンガンを向けた所にはタレットがあり、それが地面に吸い込まれるところだった。

 

 今何やってるのかというと、ランダムにせり上がってくるスナイパータレットがあって、訓練用の模擬弾を撃ってくるのでかわしながら、カバーからカバーへ移動する、という訓練演習だ。タレットは銃口を向けるか一定時間で別の場所へ移動する。そうしたらまた別のカバーへ移動する、その繰り返し。ちなみに、移動せずに留まると、バリバリ射線が通ってるところに出現して撃たれる。すごく痛い。

 

 最初の内は、タレットの出現と撃ってくるまでの時間が長いのだが、時間が経過するごとに、段々と出現と射撃の間隔が短くなっていく仕様だ。徐々に速くなっていくので、こちらの動作もより早く、より精密に、と最適化していかなければならない。

 

 と、またタレットの動きが速くなった。まずい!と思い、スライディングでカバーに入る。すると、先程まで自分の頭があった付近を弾丸が通過していた。スライディングした勢いのまま、左足を軸に回転、カバーに張り付きながらマシンガンをタレットに向け……。

 

「あれ、いないっ!?―――あだっ!?」

 

 既に移動していたタレットに別方向から撃たれ、終了した。

 

 オレはズキズキと痛む頭を擦りながら、地面に転がる。

 

「さすがに20Levelオーバーは反応が人外染みてきやがる。いてて……」

 

 なかなかにハードだが、持久力や足腰が鍛えられるし、重機関銃抱えながらなので筋力も鍛えられるという一石三鳥な訓練だ。

 

 ふと、時間を見ると結構な時間が経っていた。もう5時間もやってたのか。そろそろ帰る準備するか。

 

 

 

 学園を出た時には、時計の針が5を指していて黄昏時だった。

 

「もう夕方か。訓練に夢中になると時間を忘れてしまうな」

 

 さて、直帰でもいいけど……。今日は普通にご飯作るか。じゃあ、いつものショッピングモール寄って帰ろうかな。

 

 ふと、ある通りに差し掛かったとき、1年前の出来事を思い出した。

 

「ここでシエルさんに初めて会ったんだよな。……あのヘルメット女も」

 

 苦い記憶だ。でも、オレもあの日のままじゃない。次会ったら必ず……。

 

 そのままとことこ歩いて、モールにあるスーパーに到着した。もう1年もお世話になってる。いつもは、適当な惣菜で済ませるが、今日は普通に作ると決めたんだ。ガマンガマン。

 

 うーん、とりあえずキャベツと豚バラと……ニンジン安いな。ニンジンも入れちゃお。雑調理でもおいしい、男の調理セットだ。お、しいたけも安い、買っとこ。

 

 その後、家に帰りお腹を満たした後、なんとなしに寝転がりながら天井を見上げる。

 

「1年……1年かぁ。オレがこの世界に転生して、もう1年」

 

 この1年やったことと言えば、射撃練習して、ピンクロリいなして、射撃練習して、ずっとその繰り返しだった気がする。2年のクラス替えでピンクロリと離れたので、ようやくやかましいヤツから解放された。

 

 2年生分のBD予習はもう済ませてあるし、存分に訓練に時間を回せるな!明日からもがんばるかー。

 

 

 

 あれからひと月が過ぎて、新学期が始まった。シエルさんとは、結局あれから練習できていない。連絡を取ると、やっぱり忙しいらしかった。そういえば、最後に練習した時もらしくなく慌てて出て行ったけど、あの後何かあったのかな。心配だけど、シエルさんが何も言わないなら大丈夫なのかな。

 

 そんなことを考えながら、朝の通学路を歩いていたら、突然前を塞がれた。

 

「どーもどーも!君、トリニティの子?実は、いいモノがあるんだけど買っていかない?」

 

 前を塞いだ人は急にそんなことを言って、思わず呆けてしまう。なにこれ、押し売り?

 

 ってコイツ、ゲヘナ!?

 

 制服の校章を見たら、そこには間違いなくゲヘナのマーク。なんでゲヘナ生がトリニティに。しかも、意味わからん押し売りで。

 

 さすがに気味が悪いので距離を取ろうとしたが、後ろにも仲間がいたようで、壁際に追い詰められてしまった。

 

「あの、そういうのいいです。間に合ってるんで」

 

「まーまー!そんなこと言わずにさぁ!」

 

 さすがに鬱陶しく思ってきたので、無理やり押し退けようか考えてたところ、《正義実現委員会》が駆けつけてきた。

 

「貴女達、そこまでです!相手を騙して、高額商品を売りつけるのは立派な詐欺ですよ!」

 

「ヤバッ!ズラかれッ!」

 

「こらっ!待ちなさい!」

 

 ゲヘナ生たちは、素早い動きであちらこちらに散っていく。あれでは追うのは難しいだろう。そう委員会の人に伝えようと顔を見たら、シエルさんだった。

 

「はぁ……また逃げられた」

 

「シエルさん?」

 

「えっ?ミサちゃん!?あいつら、私のミサちゃんまで毒牙に掛けようとしてたのね!?」

 

「シエルさんのではないです」

 

 それにしても、『また逃げられた』『オレまで』か。シエルさんが何か知っているのは間違いないだろう。聞いていいか迷ったが、巻き込まれた以上、聞いておくべきだと思った。

 

「シエルさん、ゲヘナ生がここに居る理由、知ってるんですよね?教えて貰っていいですか?」

 

「うっ、できれば隠しておきたかったけど、こうして被害に遭っちゃった以上、話さないわけにもいかないよね」

 

 

 

「実は最近、ゲヘナ生による詐欺や恐喝が横行しててね。高額な商品を売りつけたり、相手を脅しつけて無理やり金品を奪おうとしたり。それらすべてトリニティ生を狙った犯行でね……」

 

「ゲヘナ学園との対立問題ですか?」

 

「うん、そう。その関係もあって、周りには知らせず委員会で動くことになって学区内を見回ることになったんだけど」

 

「いまだ確保に至って無いってことですか……」

 

「うぅ……面目ない」

 

 事件の発生規模に対して、委員会の人数が不足してるんだろう。追いきれないの仕方ない部分はある、が……。

 

「……シエルさん。ちょっと聞きたいんですけど、その犯人って複数組ですか?」

 

「ううん、今ミサちゃんが見た子たちしか見てないけど」

 

「……なら、ゲヘナ生以外が犯人グループに紛れ込んでる可能性は?」

 

「それもないよ。ゲヘナに知り合いがいてね、ちょこっと生徒名簿で確認取ってもらったから。それがどうかしたの?」

 

 え?そんなことできたの?というかゲヘナに伝手があるって、すごいなこの先輩。

 

「いえ、妙に動きに無駄が無かったな、と思って。それに、ホームでトリニティの地理にも詳しい《正義実現委員会》が追いきれないぐらい、他校の生徒がトリニティに詳しいのも違和感が」

 

「言われてみれば、確かに。……っ!まさかトリニティ内に内通者?」

 

 たしかに、内通者がいるならトリニティに詳しいのは納得できる。でも、逃走の仕方を考えると違う気がする。委員会が来たと見るや、全員が散り散りに逃げるなんて判断。あまりにも早すぎる。しかも、それをずっと続けてる。異常だ。

 

 あの動きの無駄の無さと言い、委員会を振り切れる逃走ルート。なんだろう、オレは前にも同じものを見た気がする。もしかしたら……。

 

「シエルさん、もしかしたら……なんですけども、ヘルメット団のあの女が関わってる可能性は?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、シエルさんの顔が一気に険しくなった。

 

「……どうしてそう思ったの?」

 

「どうしてって、今の状況が1年前のあの時と重なったからですかね。その上で、この状況どう転んでもあの女に得しかないな、と」

 

「…………」

 

 オレの言葉を聞いて、しばし長考する。可能性を考えてないわけでは無かったんだろう。だが、1ヶ月もの間動きが無かったことで、その可能性を無意識に排除しようとしてたのかも。しかし、それがあの女の狙いだとしたら、委員会が散らばって連携が取りにくいこの状況は、あの女が動くには十分すぎる好条件だ。他の学区でも、あの女が危険視されている理由が分かった気がする。

 

「ミサちゃん。今の話、誰にも話しちゃダメだよ」

 

「話さないです、というか話す相手がいません」

 

「そういうのはいいの!……絶対に、誰にも話しちゃダメ。それと今日は訓練せずにまっすぐ帰る事、わかった?」

 

「……訓練もダメなんですか?」

 

「ダメ、ちゃんと帰って。なんか嫌な予感がするの……」

 

「……わかりました」

 

 しぶしぶ頷くと、シエルさんはよし!と笑った。

 

「じゃあ私は一度委員会に戻るけど、ミサちゃんは学校がんばってね!」

 

「はーい」

 

 シエルさんはそのまま走り去ってしまった。オレもこのまま突っ立っていても仕方ないし、学校行くか。

 

 

 

 今日はちゃんと教室に居たら、物珍しかったのかクラスメイトがこちらをチラチラと見ていた。オレだってちゃんと勉強ぐらいするわい!とはいえ、普段教室で勉強しないので何しに来たんだって思われても仕方ないかー。

 

 教室に居たものの、仲いい人とかいないのでホントに時間を潰しただけだった。1年の頃は、よくピンクロリが突っかかって来たから、暇しなかったなぁ。懐かしい。

 

 結局、終業の時間まで教室でボーっとしてた。みんながぞろぞろと教室を出る波に乗って、オレも外に出る。

 

 さて、どうしようかな。って言っても直帰なんだが。シエルさんにもダメって言われたし、おとなしく帰ろう。ご飯は、確か昨日の惣菜の余りがあったから大丈夫。他に特にいるものは無いし、買い物しに行かなくても良さそう。空いた時間は筋トレに回すかー。

 

「なぁ、アレ……」

 

「……間違いない、朝のヤツだ」

 

 なにやら声が聞こえたので、そちらを向くと朝に会ったゲヘナ生だった。

 

「いやー、どうも!今朝ぶり。ちょっとさぁ、付き合ってくんね?」

 

 な、なんでこいつらがここに!?委員会が追ってるはずじゃあ……。

 

「い、いやです」

 

 シエルさんに連絡を……。

 

「まーまー!そう言わずにさぁ。あっ、そうそう!そっちの自治組織の連中ならしばらく来れないから、おとなしくしたほうが身のため」

 

「来れない?お前ら一体何を!」

 

「ちょちょ、私らはなんもやってないって。まあ、今頃別の集団に襲われてる頃だと思うけど」

 

 別の集団?っまさかヘルメット団?このタイミングで動いたのか!?でもなんで、動くなら同時に騒ぎを起こした方が動きやすいはず。

 

「お前らの目的が何かは知らないけど、委員会が動けないなら絶好の脱出タイミングだろ。オレに何の用だよ」

 

「それなんだけどさぁ。私らの目的は、最初から"君"なんだよね」

 

 ……え?

 

「詐欺や恐喝したのは、まあトリニティだしいっかなって。どうせお金いっぱいあるでしょ?いつも上から見下ろしてさ、ちょっとは痛い目見たらいいよ!」

 

 ……オレ?なんで?狙われていた?最初から?だれに?

 

「私たちがキミを狙うのは、トリニティの情報くれた人がちょっとキミをいじめて欲しいって依頼してきたんだ」

 

「アレ、ちょっとよくわかんない依頼だったねー。初等部の女の子を痛めつけろってさ。まぁ、お金貰っちゃったし、情報もくれたからやらないとね。そういうわけだから―――恨まないでね?」

 

 なんで、どうしてっ!オレがこんな目に!!

 

「―――くそったれッ!!!」

 

 とっさに近くにあった、店の看板を担いで投げつける。まずは、距離を取らなきゃ!この距離じゃ戦えないっ。

 

 持っている銃は形状からして、ARが2人、SGが1人、SMGが1人。距離を取れば、相手も戦いにくいはずっ。

 

「うわっ!?」「あぶなっ」

 

「あの小さい身体でデカい看板投げてくるの反則じゃない?」

 

「ちょっと!喋ってないで、逃げられるよ!」

 

 道にあった倒せそうなものは、ひたすら倒してあいつらの行く道を塞ぐ。さらに、もしかしたら使うかもと思って、持っていたグレネードも地面にバラまいておく。ちょっと脅かすだけの爆竹程度のものと、一つだけ混ぜた本物。そこまでしてようやく、距離を取れた。

 

「ごほっごほっ!ちょっとこれ、シャレにならないね」

 

「ホントにあの子初等部!?同年代相手にしてる気分なんだけど!」

 

 固定させてる暇は無い。重機関銃の銃身部分を、カバーに使った石ブロックの上に乗せる。銃口を向けてから思う。ホントに人を撃つのか?

 

 思わず目を瞑ってしまう。そうだ、見えなければ、何を撃ったか分からないなら……。

 

『次からは―――ちゃんと"敵"を見て撃つんだな』

 

 瞼の裏に焼き付いた、あの日がフラッシュバックし、ハッと目を開ける。

 

「っ!?ちょ、それ、マジでシャレにならないって……!」 

 

「ヤバッにげっ」

 

 そうだ、"敵"だ。あいつらは"敵"なんだ。"敵"は、倒さないと……。

 

「―――ぶっとべっ」

 

 重機関銃から無数の弾が吐き出される。

 

 ぐっ!ちゃんと固定してないから反動がっ……!

 

 制御しきれない弾が、壁を、地面を、窓を、周囲の物を破壊していく。それでも今回は、目を開けて、銃を撃ち続けた。

 

 百発以上の弾を撃ち続け、弾切れになってようやく銃を撃つのをやめた。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 自分でやっといてなんだが、周囲の惨状はひどいものだった。オレはゆっくりと、ゲヘナ生たちがいた場所に近づく。オレが倒したものをカバー代わりにしたんだろう。だが、さしたる障害にならなかったようで、無残に破壊されて倒れたようだ。

 

「う~ん……」

 

 ゲヘナ生たちは目を回して気絶していた。その様子にホッとするのと同時に笑いが込み上げてきた。

 

「ははっ、ざまあみろ……」

 

 オレが勝ったんだ。オレ一人で敵を倒したんだ。シエルさん、褒めてくれるかな。そうだ、こいつらも捕まえておこう。シエルさん、きっとびっくりするだろうな。

 

「―――ミサちゃんッ!!!」

 

「あっシエルさん!」

 

 噂をすれば、シエルさんがちょうどこちらに走って来ていた。そして、走ってきた勢いのまま、オレを抱きしめる。

 

「ヘルメット団のあの女がいなかったから、もしかしてって思ったけど無事でよかった!」

 

 シエルさんは、周囲を見渡しその惨状にギョッとする。

 

「これ、ミサちゃんがやったの?」

 

「ふふん、そうだよ。オレだってやればできるんだから」

 

「何バカなこと言ってるのっ!一歩間違えば、倒れてたのはミサちゃんかもしれないんだよ!」

 

 え?え?

 

「で、でも、悪いのはこいつらで……」

 

「ミサちゃん。最初に約束したよね?『無茶しない』って。危ないと思ったら、逃げて。そして、私たちでもいいから、誰かに助けを求めて、ね?」

 

「でも……シエルさんたち忙しそうで。だから、少しでも役に立ちたくて……」

 

「そっか、心配してくれたんだね。ありがとう。でもね、悪い人から生徒を守る事、それが私たちの仕事なの。守る人の中にミサちゃんも入ってるんだから、もう無茶しちゃダメだよ?特に私は、ミサちゃんには傷ついてほしくないんだから」

 

「う……ごめんなさい……」

 

「うん」

 

 ようやく笑顔になったシエルさんは、合流した他の委員会の人と一緒に事後処理を始めた。オレは当事者だったので、事情聴取がてらシエルさんの傍にいることになった。

 

「……なんでゲヘナの子たちミサちゃんを襲ったのかな。委員会の目を引きつけてる間に、逃げられたと思ったんだけど」

 

「そういえば、シエルさんたち委員会はヘルメット団の相手してたんですよね」

 

 そう言うと、シエルさんは目を見開いて驚いていた。

 

「え?私、ヘルメット団と交戦してたって言ったっけ?」

 

「あ、そのゲヘナの人たちが、委員会は別の集団の相手してるから助けに来ないぞ、って言ってて。……やっぱりヘルメット団だったんですね」

 

 シエルさんは、あ、という顔で固まっていた。

 

「ちょっと、カマ掛けるのは卑怯だよ!……待ってもしかして、助けに来ないって言われたから一人で戦おうって思ったの?」

 

「え、ま、まあ」

 

「うー、そうだったんなら先に言ってよー!そういう事情とは知らず先に怒ってゴメンねぇ!」

 

 そう言いながら、オレを抱きしめてわしゃわしゃと頭を撫でる。

 

「あ、あのシエルさん!?」

 

「でも、そういう時でも私に連絡していいから!私一人抜けても大丈夫だから!」

 

「ええ……?委員長が抜けたら大幅な戦力ダウンですよね」

 

「大丈夫!うちの委員会はそんな軟弱集団じゃないから!だから、次からはちゃんと連絡頂戴ね」

 

「わ、わかりました」

 

 結局押しに負けて、次からは連絡することを約束した。シエルさんは、抱き心地がいいのか、抱きしめたまま「うーん、よしよし」と頭を撫でている。恥ずかしいけど、こうしてるのはなんか嫌じゃない気がする。

 

「他に、ゲヘナの子たちは何か言ってなかった?」

 

「あ、その……最初からオレを襲うのが目的だったって」

 

「っ、なんでそれを先に言わないのっ!」

 

 シエルさんのオレを抱きしめている腕に力が入る。その余りの痛さに思わず声を上げてしまう。

 

「ひぅ!シエルさん、い、痛いっ」

 

「あ、ご……ごめん、ごめんね。言ったのはそれだけ?」

 

「い、依頼者がいて、ソイツからオレを痛めつけるようにって。それとトリニティの情報もソイツから貰ったって」

 

 シエルさんは、オレの話を聞くたびに腕に力がこもっていく。でも、さっきよりは痛くない。

 

「……あの変態ロリコンクソ女」

 

「シ、シエルさん?」

 

 今なんかすごい単語が聞こえたような。

 

「……これは、話すか話さないかずっと迷ってたんだけど、こうして狙われた以上話した方がいいのかもね」

 

「シエルさん……?」

 

「ミサちゃん、今朝ここで会ったの覚えてる?」

 

 ……もしかして、バカにされてる?

 

「流石に数時間前の記憶が飛ぶような頭の作りはしてないです」

 

「あ、いやそういう意味で言ったわけじゃ……こほん、実はあそこで会ったのは偶然じゃないの」

 

 偶然じゃない?もしかしてストーキングしてたとか?

 

「シエルさん、ストーカーだったんですか?」

 

「ち、違うから!誤解しないで!ってそうじゃなくて!話の腰を折らないで、ちゃんと聞いて」

 

 だったら、できれば遠回しな言い方はやめて欲しい。何も伝わらないので。

 

「……実は、最近ミサちゃんの周囲が妙だったから、調べてたらヘルメット団の不良どもがミサちゃんの近くをうろうろしてたんだよ。それも一度や二度じゃなく、何度も」

 

「え?」

 

 シエルさんは、もちろんそいつらは捕まえたから安心してね、と言ってたがオレは別の不安が湧き上がっていた。

 

「もしかして、あの女が……?」

 

「……私もそう思って動いてたんだけど、襲ってきたヘルメット団の中にも、ミサちゃんの方にもいなかったんなら、今回は直接手を下す予定じゃないんだろうね。目的が、報復なのか、別の目的があるのかよくわからない女だけど」

 

 そう思うと、今回はホントに綱渡りだったかもしれないと、改めて思った。もし襲ってきたのがゲヘナ生たちでなく、ヘルメット女だったら、あるいは近くで見ていてゲヘナ生を倒した隙を狙われていたら、もしシエルさんが駆けつけてなかったら、倒れてたのはホントにオレだっただろう。そう思うと、全身が震えた。

 

 抱きしめてるシエルさんには、その震えが伝わったのだろう。さっきよりも強く、抱きしめてくれた。

 

「大丈夫だよ、またしばらく委員会が護衛に付くから、安心して。でも、ホントによかった、ミサちゃんが無事で……」

 

 

 

 その後の顛末として、捕まえたゲヘナ生たちを証拠にゲヘナ学園の生徒会を糾弾したが、ゲヘナの生徒会は自分たちに非は無いと、知らぬ存ぜぬを貫き通した。今回の一件は、結局内々で処理されることになり、表に出ることは無かった。

 

 シエルさんは、まあそうなるよね、と笑っていたがあまりいい気持ちでは無いのだろう。でも、仕方の無いことなのかもしれない。トリニティとゲヘナの関係がただでさえ悪いのに、この事を表に曝せば、最悪全面戦争に発展するかもしれない。それを回避するためだろう。

 

 しかし、人の口に戸は立てられぬ、とはよく言ったもので、噂として学園内に広まっていた。だが、噂と言っても信じる人はいるもので、結局ゲヘナに対して悪感情が高まることを防げなかった。

 

 こうした積み重ねが、エデン条約編に繋がるのかもしれない。今回の件で、漠然とそう思った。

 

 




~いつもの解説~
光園ミサ
中心人物なのにずっと蚊帳の外だった。犯人捕まえたことを褒めてもらいたかったが、怒られてしょんぼり。戦闘センスが開花しつつある。シエルのことは好きだが、どちらかというと憧れの感情。抱きしめられるの好き。

羽佐間シエル
《正義実現委員会》の委員長さん。やっと名前が出た。ミサの周辺にきな臭さを感じて調べたのは本当だが、ミサをストーカーしてたのも本当。むしろ、ストーカーしてたから気付けたまである。だって心配だからね、仕方ないね。たった1年でミサが急激に強くなっていて驚いてる。ちなみに抱きしめているとき、こっそり匂いを嗅いでた。いい匂いだった。

例のヘルメット女
変態ロリコンクソ女(シエル談)。めっちゃ暗躍してる人。ゲヘナ生焚きつけたり、情報上げたり、ヘルメット団派遣して委員会誘導したりと、トリニティを荒らす。ミサを痛めつけろと依頼した、目的はよくわからない。


アンケートみんなミサをいじめた過ぎか?わかる、私もいじめたい。いりゃない言ってる人もいるし、健全版も書くかー。過酷(R-18)版が完全版になるけど、そこから描写とか諸々カットでギリギリストーリー分かる程度の健全版。実際にナニやってたかは完全版見てね!って言う感じで。

ちなみにだけど、ミサとシエルのモチーフになった天使はもう決めてあるんだよね。シエルは分かり易くしたつもりだけど、ミサはかなり分かりづらいかも?みんなも是非考察してってねー。


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3年生の話・まえ

話が詰め詰めなので二つに分けました!というわけなので前編です。

相変わらず遅筆ですまぬ。短く文を切れたらいいんだけど、切れそうなところが見つからなくて……。

感想、評価いつもありがとうございます!


 

 あれから、また年が明け3年生になった。春の陽気に誘われ、みんなが眠い目を擦りながら談笑している中、オレは銃弾の雨を避けていた。

 

「相手が撃ってから動かない!相手が撃つ前に動きなさい!」

 

「はい!」

 

「狙いが甘い!相手の動きに狙いを合わせるんじゃなく、自分の動きに相手を誘導するの!」

 

「はいっ!」

 

 オレの使ってる重機関銃を、片手で撃てるようになってから、訓練は本格化した。

 

 止まっている状態での射撃は安定した。じゃあ、次は動きながらやろうか。つまりはそういうこと。

 

 射撃訓練場から移動して、演習場で実戦形式での訓練を行うことになった。

 

 お相手は《ミレニアムサイエンススクール》という科学が発展している学区から買い付けた、人型ロボット。よくお店とかにいるロボット店員ではなく、あらかじめ打ち込まれたプログラムで動く、機械人形の方だ。

 

 機械だけあって狙いが正確で、さっきから何発も体に撃ち込まれている。泣きたくなるくらい痛い。

 

「狙いが正確ってことは、それだけ避けやすいってことだよ!相手の銃をよく見て!」

 

 オレしってる。それできるやつ人間じゃない。だが、教えて貰ってる立場で拒否できるはずもないので頷くしかない。

 

「は、はいィィっ!」

 

 

 

「ぜぇーっ……ぜぇーっ……」

 

 全身で息しながら、演習場の真ん中でぶっ倒れる。

 

「ミサちゃん、お疲れ様。ってこら!女の子がはしたない!」

 

 シエルさんが顔を赤くしている。なんだろうと思ったら、スカートが捲れ上がってパンツが見えてるだけだった。

 

「見たいなら見てもいいですよ?」

 

 別に減るもんじゃないし。スカートをヒラヒラさせながら言うと余計怒られた。なんでぇ?うーん、ただの無地の綿パンだ。こんなのに興奮する奴なんているのか?

 

「全く……訓練のことだけど、だいぶ動きが良くなって来たね。でも、もう少し被弾減らすように動こうね」

 

「はーい。でも実際問題、どうやって被弾を減らせばいいのか分からないんですけど?」

 

 オレの疑問に、ふむ、と顎に手を当ててしばし考えこむ。

 

「とりあえず、さっきの訓練を例にしようか。相手が複数人いる場合だけど、射線を通し過ぎたらダメ。射線を通せば、それだけ撃たれやすくなるから」

 

「でも、こちらから射線を通せば自動的に相手も射線通りますよね?」

 

「うーん、通る場合と通らない場合があるけど、それはややこしいからまた今度話すね」

 

 そうなの……?うーん、わからん。

 

「まず、例えば相手が一人、前にいます。その後ろにもう一人います。っていう状況だった時、当然二人は連携を取ってくるでしょう?」

 

「ふむふむ」

 

「そうなったとき、後ろの相手は前の味方と射線が被らないように動くわけ、味方に弾当てるわけにはいかないからね。それを利用して、常にこちら側が前の相手と後ろの相手の射線が被るように動くの」

 

「あ、なるほど。後ろの相手が撃てない状況であれば、二人いても実質1対1」

 

「そう!いかに自分に有利を作れるか、っていうのは戦いにおいて基本だからね」

 

 はぇー、戦いって奥が深いなぁ。ただ撃ち合うだけじゃなく、こんなに色んなこと考えながら戦うのか。

 

「それじゃあ次からは、そこを意識して立ち回ってみようね」

 

「はい!」

 

 それから、訓練によって時間が過ぎて行った。

 

 

 

「ミサちゃん!これ、プレゼント!」

 

「……」

 

 月が替わって少ししたある日、シエルさんは唐突に綺麗に包装されたそれを差し出してきた。

 

「……オレにですか?」

 

「もちろん!っていうかここにミサちゃんしかいないでしょ」

 

 それはそうだけど。何に対するプレゼントなのか。

 

「いや、今日!5月8日はミサちゃんの誕生日だよね!?」

 

「ああ~!」

 

「去年、誕生日聞いたら『もう過ぎた』って言ったから、来年はちゃんと渡すって言ったのに……」

 

 そういえば、そんな話をしたような気がする。確か、いつ誕生日か聞かれて、オレも知らないなと思って学生証見たら、もう過ぎてたんだっけ。

 

「……本当にオレが貰ってもいいんですか?」

 

「だから、そう言ってるでしょ?改めて、ミサちゃん誕生日おめでとう!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 どうしよう、すごい嬉しい。

 

「あのっ、開けてもいいですか?」

 

「もちろん、いいよ」

 

 受け取ったプレゼントを、丁寧に開けていく。中には、オシャレな銀の腕時計が入っていた。

 

「これ、時計……?」

 

「そうだよ。ミサちゃん、訓練に夢中になって時間を気にしないこと多いでしょ。なので、時間を気にして動けるように時計にしてみました!」

 

 確かに、集中しすぎて数時間経ってること多い。手に取ってみて、ズシリとした重さがあるのに気が付いた。これ、メッキじゃない!?

 

「もしかして純銀?しかもすごい綺麗な細工入ってる。こ、これすごく高かったんじゃ……」

 

「あはは!銀は金に比べたら全然、すごく安いよ。まあ、細工の方と時計自体が高かったけど」

 

 銀はそこまでしないのかよかった。

 

「銀にしたのは、ほら昔から銀には魔除けの力があるって言われてきたでしょ?そこで魔除けの力を高める特殊な細工をしてもらったの」

 

「へぇ、そんな細工あるんだ。……ん?『してもらった』?」

 

「ふふん、もちろんオーダーメイドだよ!材料に細工に、時計のパーツに至るまで全部指定した、世界に一つだけの時計だから、大事にしてね!」

 

 か、完全オーダーメイド……。手の中の時計が別の意味で重くなった気がする。

 

「……今着けてみても、いいですか?」

 

「うん!今着けてるところ見たい!」

 

 右と左で迷って、右は銃持ってるし、左に着けよう。左腕に巻いて、チェーン同士を繋げて留める。

 

「わぁっ……!」

 

 時計を着けた左腕を空にかざすと、銀が光を反射してキラキラと輝いていた。

 

「ふふっ、どう気に入ってくれた?」

 

「はいっ、この時計大事にしますね!」

 

「気に入ってもらえてよかったー。時計、よく似合ってるよ」

 

 腕を動かすたびに、チャリチャリと音を立てるのがかわいい。

 

「実はね、銀にしたのはもう一つ理由があるんだけどね……」

 

「理由?それってなんですか?」

 

「うーん……ふふっ、なーいしょっ」

 

「えー!なんでですか!気になるんですけど!?」

 

「恥ずかしいから秘密っ。ほら、今日の訓練始めるよ!」

 

 結局はぐらかされて、今日の訓練が始まった。

 

 

 

「―――はい!今日の訓練はおしまいっ!」

 

「え?もうですか?」

 

 貰ったばかりの時計を見れば、いつもの半分くらいしか時間が経ってない。

 

「うん、このあと委員会の会議があるし、天気も崩れそうだしね」

 

 空を見れば、確かに今にも降り出しそうな曇り空だった。

 

「ホントだ。今日、雨の予報出てなかったのに……」

 

「最近、予報外れること多いし、早めに切り上げるに越したことは無いかなって」

 

「むー、もう少し訓練したかった」

 

 口を尖らせていると、シエルさんはそっと頭に手を乗せて撫でてくれた。

 

「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。今日の訓練見てて思ったけど、この短期間でメキメキと腕を上げてる。もしかしたら、最初から私の指導なんて無くても……」

 

「そんなことない!シエルさんがいたから強くなれたんです!シエルさんは尊敬できる先輩です!」

 

「―――ぷっ、あははははは!」

 

「ど、どうして笑うんですか!?オレは真面目に……」

 

「あはは!ごめんね、ミサちゃんのことを笑ったわけじゃないの。ただ、昔私も先輩に同じこと言ったなぁって思って」

 

 そう言って、シエルさんは懐かしむように空を見上げた。

 

「―――そういえば、あの日もこんな空だったなぁ……」

 

「シエルさんの、先輩……」

 

 空を見上げるシエルさんの横顔は、オレの知らない憂いを帯びたもので、知らないシエルさんがいるということに、なぜか胸の奥がチクッとした。

 

「……?」

 

「あれ?気になった?私と先輩の話」

 

「まあ、気にならないと言えば嘘になりますが」

 

「あはは、あんまり聞かせて面白い話じゃないけどね。……その先輩っていうのはね、私の前の《正義実現委員会》の委員長だった人なんだ」

 

 シエルさんの前に委員長してた人。じゃあ、シエルさんを委員長に選んだのはその人?

 

「先輩はね、ミサちゃんみたいにちっちゃくて可愛い人だったよ」

 

「かわいいより、かっこいいって言われたいです」

 

「あはは!そうだね、先輩もそんな人だったかもしれない。ちっちゃくて、かわいくて、かっこいい人だった……」

 

「……好き、だったんですか?」

 

「……好き、か。そうだね、好きだったかも。でも、憧れの方が強かったかもしれない。ミサちゃんと違って、すごくいい加減な性格でね。すぐ委員会の仕事をサボろうとして、色んな人に迷惑掛けてた。でも、戦ってる時はかっこよくてね。ちっちゃい背中なのに、とても大きく見えたんだ」

 

 『先輩』のことを語るシエルさんは嬉しそうなのに、どこか寂しそうで。

 

「強かったんですか?」

 

「私なんて目じゃないくらい強かったよ!強くて、かっこよくて、みんなの憧れで、私の目標だった。いつか私も先輩みたいに、誰かに憧れられるかっこいい人になるんだってね」

 

「そうだったんですね」

 

「他人事みたいに言うけど、私の夢を叶えてくれたのはミサちゃんなんだよ?」

 

 へ?オレ?

 

「初めて会った日のこと、覚えてる?私のことかっこいいって、私みたいになりたいってミサちゃんが言ってくれたんだよ?私、すごく嬉しかったんだから」

 

 あのときはいっぱいいっぱいで、あんまり覚えてないけど、たしかに言った気がする。

 

「その先輩って、今は……」

 

「―――亡くなったよ。ヘイローを壊されてね……」

 

「あ……ご、ごめんなさい……」

 

「ううん、いいよ。もうだいぶ前のことだし、心の整理は付けたから。それに最期を看取ったのは私だしね」

 

「……そうなんですか?」

 

「うん、そのときにね次の委員長を任せられてね。最期までいい加減な先輩だった」

 

 その時のことを思い出してるのか、シエルさんはずっと泣きそうな顔をしていた。オレはシエルさんがそんなことになってしまったら、冷静でいられる自信が無い。シエルさんって、やっぱり強いな。

 

「そういえば、その先輩のヘイローを壊したのって」

 

「……ミサちゃんも会ったことあるよ」

 

 オレも……?

 

「黒野サユリ。ゲヘナ学園出身で、ヘルメットを被ったあの女だよ」

 

「………………え?」

 

「先輩は、最後にあの女と戦って、死んだ。殺されたんだよ。だから、私はあの女を絶対に捕まえてやるって決めたんだ」

 

「……」

 

 シエルさんの目は、怒りや憎しみに囚われたものではなく、前へ進む確かな意志を感じ取れた。

 

「ね?聞いても気分のいい話じゃなかったでしょ?あ、この話は誰にもしちゃダメだからね。私を含めて、一部の上層部しか知らないから」

 

 ゲヘナ生がトリニティ生を手に掛けたと広まれば、全面戦争待ったなしだろう。逆に、このことを知っている上層部がよく踏みとどまったなと思う。

 

「もう一つだけ、聞かせて貰ってもいいですか?」

 

「うん?」

 

「恨まなかったんですか?」

 

「何を?……なんて、言うまでもないよね。うん……全く恨まなかったって言ったら、嘘になるよ。私だって人だもん。尊敬する人を亡くしたら、恨みたくもなる。……でもね、ある日それが間違いだってことに気が付いた。私が本当になりたかったものを思い出せたんだ」

 

 そう言ったシエルさんは、恨みを一切感じさせない穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「やっぱり、シエルさんは尊敬できる人です」

 

 大切なものを失ったとて、この人と同じことを言える人が一体何人いるのだろうか。

 

「シエルさんに会えてよかったです」

 

「あ、あはは、そう面と向かって言われるとやっぱり照れるなー。は、話し込み過ぎちゃったね。ほら!雨が降る前に帰ろ?」

 

「顔真っ赤ですよ?」

 

「こら!お姉さんをからかわない!ほら、片づけは私がしておいてあげるから!」

 

 照れたシエルさんに押されるまま、演習場から出て行く。外へ出ると、さっきよりも薄暗くなった気がする。降り出す前に早く帰ったほうがよさそう。

 

「……私が欲しかった言葉をくれたのは、なりたい私を思い出させてくれたのは、ミサちゃんなんだよ?ミサちゃんも、いつか本当の自分を見つけられるように、祈るからね」

 

 

 

 家までの道すがら、ふと立ち止まって左手を天にかざす。曇り空にあってもなお、銀の時計は輝いていた。初めて貰ったプレゼントが嬉しくて、何度も立ち止まり眺めていたら、後ろから影が差していることに気が付いた。

 

 立ち止まりすぎて、通行の邪魔になってしまったらしい。謝りながら道を譲ろうと後ろを向いた。

 

「あ、すみませ―――え?」

 

 そこに立っていたのは、ヘルメットを被った一団。その先頭に立つ、覚えのある出で立ち。

 

「直接会うのは久しぶりになるか、なあ?―――光園ミサ」

 

 突き付けられたショットガンによって、視界を白く塗りつぶした―――。




光園ミサ
重機関銃を片手撃ちするゴリラになったので、本格訓練開始。シエルから初めてのプレゼントをもらった。ちなみに、銀は女性や月を象徴するモノで関連の深いものになってるそうです。たぶんミサの誕生日は、ミサのモチーフになった天使の最大のヒントかもしれない。

羽佐間シエル
唐突に重い過去が出てきた人。先輩は尊敬する人という意味で好き。ミサは恋愛的な意味で好き。ミサに初めて会ったとき、一目惚れ+欲しい言葉をくれた+自分を思い出させてくれた特別な人、というトリプルパンチを食らいべた惚れした。

先輩
シエルの前の委員長。体は小さかったが、態度はデカかった。シエルが小さい子好きになった原因の人。性格は良く言えば大ざっぱ、悪く言うならいい加減。後輩であるシエルを可愛がっていて、仕事をサボる度にシエルに怒られていた。ヘルメット女・黒野サユリと戦ったのち、ヘイローを破壊された。シエルに次の委員長を任せた後、そのまま息を引き取った。

黒野サユリ
ヘルメット女。元ゲヘナ生。高校4年生。札付きの超危険人物。ミサに出会い頭に挨拶ショットガンした



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3年生の話・うしろ

遅くなりました。ゴメンナサイ。

結局長くなりすぎて三年生編をさらに分割しました……。おかしいな……半分で分けたつもりだったんだけど。

今回は、かなりきつい描写入れたので注意です。書いてて私のメンタルが逝きそうでした。

感想くれた人ありがとうございます!

というわけで、ブラッディアーカイブはじまります!(ヤケクソ)


 

 突き付けられたショットガン。咄嗟に体が動いたのは、訓練の賜物か、あるいは運が良かっただけかもしれない。放たれた散弾が、体の横を通り過ぎたことを感じながら、全力で距離を取る。

 

「ほう?」

 

 距離にして20m。その間、何もしてこなかったのは不気味だが、改めてしっかりとその姿を確認する。……間違いない。

 

「黒野、サユリ」

 

「なんだ、知ってたのか。アタシのほうから名乗る手間が省けたが、ふむ」

 

 黒野サユリは、ヘルメットに手を当て、なにやら考え込む素振りを見せる。だが、その手のショットガンはしっかりとオレに照準を合わせている。

 

 あの形状、M870……しかも取り付けてあるのはロングチョークか。まずい、だとすれば、この距離でも安心できない。

 

「オレに何の用だ」

 

 なにかあったら、即座に動けるように最大限警戒した上で、問い掛ける。

 

「ふふふ、気になるか?テロリストが、一介の小学生でしかないお前に会いに来たということが」

 

「当たり前だろ。子供一人を執拗に追い回してるお前らの方が、異常だからな?」

 

「まあ、確かにな。教えてやりたいのは山々なんだが、アタシらも知らん」

 

「はぁ?」

 

「アタシらが、クライアントから受けたのは一つ。光園ミサ、お前が"器"に値するかどうか"力"を見たい。ただ、それだけだ」

 

 なんだそれ?もっと意味が分からないんだが。……とにかく、今の状況はまずい。

 

『次からはちゃんと連絡してね?』

 

 ……また迷惑を掛けてしまうかもしれないけど、一度シエルさんに連絡を取ろう。

 

 あの女からは見えないように、体と銃で隠しながら右手で携帯を操作する。―――瞬間。衝撃が右手を襲い、携帯が弾き飛ばされる。

 

「悪いな、今あの委員長に来られると困るんでね。ようやく、委員会のマークが外れたんだ。この機会を逃すわけにいかないな」

 

 一瞬、何が起きたか分からなかったが、黒野サユリがあの距離からショットガンでオレの携帯を弾き飛ばしたらしい。2年前といい、曲芸染みたことしやがって……逃げなきゃ……。

 

 痛む右手を抑えながら、反転し駆け出す。その際、弾き飛ばされた携帯も回収した。

 

「おいおい、ここで逃げるのか。大方、あの委員長の入れ知恵だろうが。随分と入れ込んでるじゃないか、まさかアイツが幼女趣味だったとは知らなかったが、なっ!」

 

「―――ッ!」

 

 また、発砲音。同時に背中に熱と衝撃を感じて、倒れこみそうになりながら、近くの路地に逃げ込む。

 

「はは、2年前同様、いい根性してる。お前ら!半分はアイツを追え!もう半分は別の路地から挟み込みな!」

 

「イエス!マム!」

 

「さあ、狩りを始めようか」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

「はぁ……!はぁ……!……ぐぅっ!」

 

 入り組んだ路地の奥で、痛む右手と背中を抑え、座り込む。

 

 ―――痛い。訓練用の模擬弾なんかとは比べ物にならない痛さだ。命を脅かす痛みがそこにあった。……死にたくない。

 

「……ダメだ。電源が付かない。さっきの衝撃で壊れたか……」

 

 震える手で、ヒビの入った携帯を触っていたが、電源が入らなかった。ショットガンで弾き飛ばされたときに壊れたんだろう。シエルさんに連絡を取ることが出来ない。孤立無援だ。

 

 ははっ……オレ、神様に何か嫌われるようなことでもしたかな。

 

『こっちにはいない、向こうを探せ!』

 

 近く、聞こえた声に体がビクついて怯える。……戦うしかない、一人でも。そのために、今まで訓練してきたんだ。震える身体を抑え、立ち上がる。大丈夫。怖くない。戦える。

 

『おい、こっちに足跡が残っている!まだ新しい、近くに居るぞ!』

 

 重機関銃を抱え直し、こっちに来ようとしている連中に向かって引き金を引いた。

 

 

 

 次から次へと現れるヘルメット団を、一人ずつ確実に倒していたがキリがなかった。

 

 くそっ、もう20人くらい倒したぞ。一体、どこからこんな数湧いてんだよ。

 

 現れるヘルメット団を倒しながら、路地の中をを疾駆する。……!出口だ!走っている内に路地の出口まで来たようだ。ヘルメット団も撒いたのか、近くには誰もいない。よし、このまま脱出して、学園に逃げ込めれば―――。

 

「よぉ、遅かったな」

 

 路地を出たすぐそこには、黒野サユリがいた。

 

「なっ!?―――ごふッ!?」

 

 腹に鋭い痛みが走る。それが黒野サユリの足の仕業だと認識するのに、時間が掛かった。浮き上がったオレの身体に、黒野サユリはショットガンを突き付けていて……!?待て、それは洒落にならない!?

 

 痛みに悶えながら、咄嗟に重機関銃を盾にし、だがショットガンから吐き出された弾丸は目の前で爆発し、オレの小さな体を容易に吹き飛ばす。2発、3発、4発、続けて放たれ、その弾丸も爆発した。壁に叩きつけられたオレは、壁ごと吹き飛ばされ、どこかの建物の中まで飛ばされた。

 

「―――!!?」

 

 あまりの痛みに、声が出ない。息が詰まって、苦しい。爆発で耳がイカレてるのに、足音だけはやけにはっきりと聞こえて。まずい、逃げないと……。バッグから取り出したグレネードを転がし、痛む体を引きずり、身を隠す。

 

「ふむ?砂埃にしては多いと思ったが、なるほど煙幕か」

 

 建物に入ってきた黒野サユリは、周囲を見渡しながら笑っていた。

 

 どうやらこの建物、今は使われてない立体駐車場のようだ。廃車なのか、至る所に車が放置されている。オレはいくつかある柱の後ろに身を隠していた。

 

「……フーッ……フーッ……」

 

 撃たれた所が熱を持っていて、苦しい。どうする、この狭い駐車場内じゃ、どこにいても黒野サユリの射程圏内だ。無策で出て行けば、その瞬間ハチの巣だ。

 

「さて、どうする?光園ミサ。そちらが来ないなら、こちらから行くぞ」

 

 再び、足音を響かせ近づいてくる。この状況で、悠長に策を考える余裕なんてない!傍に転がっていたコブシ大の石を掴み、最初に左に投げる。間髪入れずに右にも投げて、最初に投げた左側から飛び出す。右に投げた石がショットガンで粉々になった。

 

「!?」

 

「喰らえええええええッ!!!」

 

「ははっ!2回目が本命と見せかけて、最初のカモフラージュが本命とはな!悪いが、その銃の直撃を貰ってやるわけにはいかないなっ!」

 

 黒野サユリは、後ろに下がりながらショットガンを撃ってくるが、元々明かりの少ない駐車場に加えて、転がしたスモークグレネードで視界は最悪だ。黒野サユリが撃った弾は、明後日の方へ外れる。

 

「……くっ!これを見越してのスモークか。まったく、同年代を相手にしてる気分だ、な!」

 

 オレは声や音を頼りに、重機関銃を撃ちながらジグザグに動き、距離を詰めていく。じきにスモークは晴れる、そのとき距離があれば射程が変わらない分、こちらが不利だ。それを避けるには、リスクは高いが相手の懐に入り込むしかない!オレはジグザグに動きながら、少しずつ相手の側面、銃の持ち手と反対方向へと回る。

 

「……!そこだッ!―――何ッ!?」

 

 銃の持ち手とは反対側に居たこと、スモークで視界が悪かったことで距離を見誤ったのだろう。銃弾はオレの顔のすぐ横を通り過ぎていく。M870は一発撃つごとにスライドアクションがいるポンプ銃。今しかチャンスはない!スモークの中から黒野サユリの前へ躍り出る。

 

「近いッ!?」

 

「おおおおおおおおおッ!!」

 

 銃を撃ちながら、一気に接近する。距離が近すぎるためか、黒野サユリもこちらが放った銃弾のすべてを回避できず、少しずつ弾が掠り始めている。

 

「ちぃっ!」

 

 もう距離は5mもない。黒野サユリは、ショットガンを構えこちらを撃とうとしている。この距離ならもう一度撃つ時間があるだろう。この女は確実に当ててくる。どう避ければいい―――。

 

『狙いが正確ってことは、それだけ避けやすいってことだよ!相手の銃をよく見て!』

 

 ―――!相手の銃を……!この距離で確実に相手をダウンさせられる場所は―――胴体ッ!

 

 ヘルメットのバイザーの奥で、奴の目が驚きに見開いてるのが分かった。避け切れず、掠った弾丸が脇腹を焼いていたが、どうやら思った通りだったらしい。

 

 残り1mを切った。もう目と鼻の先だ!このまま全弾ぶち込んで《カチンッ!》―――ッ!?ここで弾切れ!?リロード……だめだ間に合わない!武器!他に武器になるもの……は……。

 

「ッ!ああああああああぁぁぁーーーッ!!」

 

 咄嗟の判断だった。弾切れで、他に武器になるものを探した時、自分の抱えてる銃が目に入った。考えてる時間は無かった。オレは"それ"を大きく振りかぶり、黒野サユリの身体に叩きつけた。

 

 黒野サユリは叩きつけられた勢いのまま、駐車場の奥へ消えて行った。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

 勝った……のか……?約30kgの金属で殴ったんだ。無事でも、そう簡単に起き上がれないだろ。とりあえず、ここを出てシエルさんになんとか連絡を取らなきゃな。

 

「……つぅッ!」

 

 緊張が解けてきたからか、全身が痛みだしてきた。やっぱり、重機関銃抱えて弾避けるのきつすぎだな。いっそのこと避けなくてもいいように、重機関銃に盾でも付けるか?そっちのほうがいい気がしてきたな。それは帰ってからゆっくり考えればいいか。

 

 そう思い、奴が開けた穴から出ようと足を踏み出した時だった。

 

 ―――《ダァンッ!!》

 

「―――えっ?」

 

 脇腹に走る激痛と凄まじい衝撃。気が付けば目の前に地面があった。あまりの痛みに一瞬意識が飛んでたらしい、先程の場所から数m動いていた。近くに落ちていたショットシェル、ショットガンの弾を見て驚愕する。―――スラグ弾!?長距離カスタムなのはこの弾を使うためか……!

 

「ゴホッ!ガフッ!」

 

 ―――コツ……コツ……。

 

 痛みに霞む視界で、奴がゆっくりとこちらに歩いて来てるのが見えた。まずい……!逃げないと、なのに!なんで、体が動かない!?くそっ、動け!動け!!

 

「直撃させたのに、まだ意識があるのか。くくっ、よく睨むじゃねえか。好きだぜお前のそういうところ」

 

「……ぐぅっ!」

 

 黒野サユリはそう言いながら、倒れてるオレの身体を踏みつける。

 

「アタシに手傷を負わせたのは久しぶりだ。褒美と言っては何だが、コイツを受け取ってくれ」

 

 ―――《ダァンッ!》

 

「~~~ッ!!」

 

 奴はオレを踏みつけたまま、オレの身体にショットガンを撃ち込む。どうにか悲鳴を上げまいと歯を食いしばって耐えた。

 

「へぇ?耐えたか。ならもう一発」

 

 ―――《ダァンッ!!》

 

「ぐうぅぅぅぅぅッ!!?」

 

 ずっと背中に溶けた鉄を流し込まれてるようだった。ひどい激痛に意識が飛びそうになる。

 

「ん?おいおい、ここでお寝んねとか寂しいじゃねえか―――もっと楽しませてくれよ」

 

 ―――《ダァンッ!!!》

 

「―――ああああああああああぁぁぁッッッ!!!??」

 

 飛びそうになった意識を、無理やり覚醒させられる。視界がチカチカと明滅していた。今はただ、この地獄が終わることだけを願っていた。

 

「ハハハッ!いい声で鳴くなよ、愛おしくなっちまうだろ!」

 

 その後も意識が飛びかけては、無理やり起こされてを繰り返した。何度も。何度も……。

 

 

 

「―――ふぅ……反応が薄くなってきたな。いや、お前は誇っていいぜ。こんなに長く持ったのはお前が初めてだ。いっそのこと、このまま連れ帰ってもいいかもしれないな。依頼内容にも反していないし。なあミサ、お前はどう思う?」

 

 オレの身体はすでに感覚がマヒしており、痛みをほとんど感じてなかった。もはや、自分が寝ているのかも、立っているのかもさえ分からない。

 

「返事が無いってことは、いいってことだな」

 

 気が付けば、黒野サユリの顔、というかヘルメットが目の前にあった。何を言ってるのか分からないが、胸倉を掴みあげられているらしい。

 

「そういえば、昔お前みたいに小さいのイジメたことあったなぁ。ソイツは全く鳴いてくれなかったから、すぐ飽きたんだけど」

 

 ……その、小さい、のって……。

 

『―――亡くなったよ。ヘイローを壊されてね……』

 

『先輩は、最後にあの女と戦って、死んだ。殺されたんだよ』

 

 やっぱり、こいつが……。こいつのせいで、シエルさん、が。一発ぶん殴ってやりたいのに、体が、動かない……。

 

「ん?どうしたミサ?泣いてるのか?アタシと一緒に居れるのがそんなにうれしいのか」

 

 なんでもいい。たった一発でいいんだ。こいつのスカしたヘルメットを、飛ばすだけでもいい。だれか……。神様……!

 

 その願いが通じたのか、右手に抱えたままだった。弾の入ってない金属の塊に、熱がこもる。……撃てるのか?……違う、撃つ。

 

「持って帰る前に、もう一発撃っとくか。良い声を聞かせてくれよ。愛してるぜ、ミサ」

 

「―――」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「……くた、ばれ……って言った、んだ……くそ女っ……!」

 

「……ッ!?ちぃッ!」

 

 黒野サユリもオレの持つ銃の異様に気が付いた。掴み上げていたオレを放り投げながら、ショットガンで吹き飛ばす。

 

「ぐっ、ああああああぁぁぁッ!?」

 

 痛みに悲鳴を上げながらも、最後の力を振り絞ってトリガーを押し込む。弾が入ってないはずの銃から、光の弾丸が放たれ、それは寸分違わずヘルメットに直撃し、衝撃でヘルメットを弾き飛ばした後、天井をぶち破りながら、空へ消えて行った。

 

 姿勢制御も反動制御もあったもんじゃない、無茶苦茶な空中撃ちで体中が悲鳴を上げている。これが今のオレに撃てる特大パンチだ。シエルさん、褒めて、くれるかな……?それとも、また無茶なことしてって、怒られるのかな……。オレは自らが作った血溜まりに落ち、その体を赤く染める。

 

「―――ふぅ、ふふふ……。ハハハハハハハハハッ!!」

 

 高笑いをしている女がいた。ヘルメットが無くて一瞬分からなかったが、あいつが黒野サユリなんだろう。黒髪が腰まで伸びていて、金のインナーカラーと赤のメッシュが入っている。その目は赤紫色をしていて劇毒のようだった。そして側頭部からは、折れた……ツノ?二本の角のうち、片方だけ折れていた。

 

「いいッ!いいぞ!光園ミサッ!アタシのメットを取ったのはお前で二人目だッ!最初の一人目もトリニティの生徒だった。《正義実現委員会》の前委員長!奴も強かった!欠点を挙げるとすれば、一切鳴いてくれなかったことだけだ。だがその点、ミサお前は最高だ!ああ……!欲しい!お前が欲しい!クライアントも見たいものは見れただろう。なら"これ"はアタシが貰ってもいいはずだ!」

 

 そう言って笑い続ける黒野サユリ。常軌を逸している。

 

「……くる、ってる……」

 

「そうか?そうかもしれないな。だが、アタシからすればお前も十分狂って見えるぞ」

 

 オレは別に狂ってなんか……。

 

「その顔は、自分は狂ってないとでも言いたげだな。だが、今ここにお前がいるのが異常の証明だと思わないか?」

 

「……な、にを」

 

「アタシと戦って、まだ命も意識も保っている。小学3年生が、だ。これが異常じゃなくて何だとする。しかもアタシに血まで流させた。まるで―――戦うために生まれたみたいじゃないか!」

 

「……ちが……ぐぅ!?」

 

「違わないさ!自ら、戦いに赴こうとするのは何故だ?他の手段を用いず、仕方ないと割り切って戦うのは何故だ?―――それは、お前が戦いたいからだ。戦うために生まれたお前が、戦いを求めるのはなにも間違いじゃない」

 

「ちがう……ちがう……オレは、ただ……」

 

 本当に違うのか?別に戦わなくてもよかったはずだ。それでも戦う手段を選んだのは、オレが戦いたかったから?戦うために生まれたから?ちがう、ちがう違う!!

 

「―――大丈夫だ。誰もお前を理解できなくとも、アタシはお前を理解してやれる。お前を愛してやれる。狂った者同士、お似合いじゃないか、なあ?―――ミサ」

 

「あ……あ……」

 

 黒野サユリの言葉が、ジワジワと心に染み込んでくる。心を、体を、明け渡してしまいたくなる。

 

「オ、オレ……は……」

 

 

「―――黒野、サユリィィィィィィッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「―――以上が、自治区内における先月の犯罪発生率の推移です。続きまして今月の巡回ルートですが、先程の犯罪発生場所から―――」

 

 壇上で話す副委員長を眺め、手元のスマホに目を落とす。

 

 さっき、ミサちゃんから電話が来てたけど何かあったのかな。すぐに掛け直したけど、繋がらなかったし、心配だな……。一応、お守り代わりになればと、銀時計をプレゼントしたけど、効果あるといいなぁ。

 

「―――ちょう。委員長!」

 

「はぁい!?え?なになに?」

 

「ハァ……しっかりしてちょうだい。まったく、最近貴女を慕ってる初等部の子が、普段のぽやっとしている貴女を見たらなんて言うのかしらね?」

 

「ちょっ、しー!しー!もう、せっかく私が頼れる先輩に見えるように頑張ってるのに!」

 

「そこは否定しなさいよ……」

 

 副委員長には困ったものだ。幼馴染だからといって、言って良いことと悪いことの区別も付かないのだろうか。

 

「ロリコンの貴女にだけは、言われたくはないわね」

 

「あれ?私口に出してた?」

 

「いいえ?でも、貴女が考えてそうなことくらい、手に取るように分かるわよ」

 

 幼馴染特権ずるい。というか私はロリコンではない。好きになった子が偶々小さかっただけだ。それはそれとして、特に他意は無いけど、ミサちゃんは是非あの小さいまま成長してほしい。

 

「それより、仕事してちょうだい。あなたの口から説明が必要な件もあるって伝えたでしょ」

 

「はぁーい。もうちょっと融通利かせればいいのに―――」

 

 ―――ガラッ!

 

 私が資料を持って壇上に向かう途中、突如開いたドアに室内の視線がそこに釘付けになる。そこに居た子がミサちゃんに見えて一瞬ドキッとしてしまった。でも、髪が長いしよく見たら違う。こんなに似ている子がいるんだ、とぼんやり思ってると副委員長がその子に話しかけていた。

 

「ごめんね、今は大事な会議中だから、用があるなら会議が終わるまでちょっと外で待っていてもらえる?」

 

 驚いた。副委員長はこんなやさしい声で話すことが出来たんだ。どうして私にもやさしく話してくれないんだろう?と副委員長がこっちを睨んでる。

 

 件の少女は息を切らせており、室内を見渡して、私と目が合った。

 

「いた!」

 

 え?私?

 

「お願い!ミサちゃんを助けて!ミサちゃんが危ないの!」

 

 聞き逃せない単語があった。でも要領を得ない。副委員長を下がらせて詳しく聞く。

 

「ミサちゃんがどうしたの?ゆっくりでいいから」

 

「ゆっくりなんてダメッ!!!」

 

 急な大声で私の声を遮る。よっぽど切羽詰まってるらしい。……なんだか嫌な予感がする。

 

「ミサちゃん、ヘルメットを被った変な集団に追い掛けられてたの!あの人たち、悪い人たちなんでしょ!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、愛銃を引っ掴んで外へ飛び出した。外はすでに雨が降っていた。後ろから、副委員長の静止の声が聞こえたが、止まってなんていられない。

 

 ヘルメット団、なんで今!いや、今だからこそか。委員会が会議で招集され手薄になった今こそが。失態だ。どうして、そうまでしてミサちゃんを狙ったの?あーもう!守るなら何が何でも傍に置いとくべきだった……!

 

 きっとミサちゃんは私に連絡をくれようとしていた。あのすぐ切れた通話、もしそうなら……私は……!

 

 通い慣れたミサちゃんの通学路を逆走していく。途中で真新しい弾痕を見つけた。集弾性の高いショットガンの弾痕……まさか、あの女が来ている!?まずい……!弾痕を追い、通学路から外れ、郊外の方に向かっていく。助けを呼べないように、人気の少ない方へ誘導したんだ。

 

 脳裏に浮かぶ血だらけで倒れる先輩の姿。そういえば、あの日も雨が降っていた。もしも、ミサちゃんも同じように……いやだ!あの日の絶望も、あの日の無力感も、もう二度と繰り返さないって決めたんだ!お願い、無事でいて……!

 

 近くで、銃声とともに光の弾丸が空へ消えていくのが見えた。あっちか!

 

 そこは今はもう使われていない、立体駐車場だった。私は直ぐ様突入する。

 

 中に入った私が見たのは、全身ボロボロで血溜まりに沈む―――ミサちゃんの姿だった。

 

 私の中でナニかが切れる音がした―――。

 

 

 

 

 

 

 

「―――黒野、サユリィィィィィィッッッ!!!!」

 

 飛び掛かるように現れたのはシエルさんだった。その表情は、今までに見たことないような鬼気迫るもので、本気を怒っているのが分かった。

 

「ちっ羽佐間シエルか。毎度、良いところで邪魔をしてくれるッ」

 

「ふざけるなよッ!!私から先輩だけでなくミサちゃんまで奪う気か!?さっさと私のミサちゃんから離れろおおおおおおおッ!!」

 

 放たれた銃弾の的になる気はないらしく、素直にオレから離れて行った。

 

「ミサちゃん、遅くなってごめん!応援は呼んでるから、もう少しの辛抱だよっ」

 

「おいおい、ミサ今の見たか。この女、お前ごと撃って来たぞ」

 

「ミサちゃんに当たらないように撃ってるに決まってるでしょっ!それより、なにミサちゃんの名前を気安く呼んでるのよッ!?」

 

「いいだろ?今日からミサはアタシのもんだからな」

 

「はぁッ!?誰が誰のものですって!?というかミサちゃんを物扱いすんな!」

 

「大丈夫だからな、ミサ。アタシはコイツと違って物は大切に扱うんだ。やさしいだろ?」

 

「―――ぶっ殺してやる」

 

 ひどい問答をしながらも、恐ろしくハイレベルな銃撃戦をする二人。遮蔽に隠れず、お互いノーガードで撃ち合っていた。確実に避けるシエルさんと、多少の被弾をものともせず正確に狙ってくる黒野サユリ。

 

「ッ流石にミサに撃たれた分のダメージが残っているから、厳しいな」

 

 先に音を上げ始めたのは、黒野サユリだった。当然、その隙を見逃すシエルさんではない。

 

「そこだああぁぁッ!!」

 

「ちぃッ!?」

 

 シエルさんの猛攻に、ついには膝を突く。

 

「黒野サユリ、諸々の罪で貴女を逮捕します」

 

「ふっ」

 

「……?なにがおかしいの―――え!?」

 

 ヘリのモーター音。頭上に空いた穴から大きな輸送ヘリが見えていた。

 

 そして、一瞬視線を外した隙に、黒野サユリは懐から取り出したワイヤー銃をヘリに向けて撃った。

 

「ッ待ちなさい!黒野サユリ!」

 

「本当はミサも連れて行きたかったが、仕方ない。それは次の機会にしよう」

 

「まだそんな世迷言を!」

 

「ミサ。さっきアタシが言ったことは全部本気だからな?アタシだけがお前を理解してやることが出来る。それを忘れるな。それと、そのヘルメットはお前の戦利品だ。部屋にでも飾るといい」

 

 それだけを言うと、黒野サユリはワイヤーで上へ上がっていき、そのままヘリとともに去っていった。

 

「クソッ。今度こそ捕まえられると思ったのに!」

 

 もし、オレが動けていたら、ヘリなんて墜とせたのに。その後、シエルさんはすぐにこちらに駆け寄ってきてくれた。

 

「ミサちゃんっ!―――ッ!ひどい傷……」

 

「……シエル、さん」

 

「ミサちゃんっ、あまりしゃべっちゃダメ!」

 

「……助けに、来てくれて……ありがとう……それと、ごめんなさい」

 

「ミサちゃん……」

 

「助け、呼ぼうと思ったんですけど……携帯、こわれちゃって……」

 

「そんな、そんなこと……!謝るのは私の方だよ!すぐに異常に気が付いていれば、ミサちゃんがこんな目に遭うことなんて……」

 

 ぽたぽたと雫が、オレの顔に落ちてくる。

 

「……泣かないで、ください。泣かれると、どうしていいか……いつもみたいに、叱ってください……」

 

「グスッ……うん、ごめんね。もう、ミサちゃん無茶しないって約束したのにっ。こんな、こんなにボロボロになって!」

 

 泣いてるのか、怒ってるのかよくわからない顔に思わず、クスッっと笑ってしまった。

 

「な、なに笑ってるの!」

 

「……すみません、つい……」

 

「もう、傷に響くからしゃべっちゃダメって言ってるのに、こんなにしゃべっちゃって……」

 

「……それが、不思議と……痛くないんです……」

 

「え?」

 

「……おかしい、ですよね……こんなの……」

 

 やっぱり、黒野サユリが言ってたように、オレは狂ってるのかもしれない。

 

「そんなこと……もしかして、黒野サユリになにか変なことでも吹き込まれた?」

 

「……それは……っ!ゲホッ!ゲホッ!」

 

「ミサちゃん!?」

 

「ゲホッ!ゲホッ!―――ゴフッ」

 

 ビシャっと赤いモノが辺りに広がる。

 

「うそ―――……っミサちゃん!しっかりして!ミサちゃん!?」

 

「―――」

 

 オレは大丈夫、そう口にしようとしたのに、声が出なかった。なんでだろう、別に痛くもなんともないのに……。

 

「っ!副委員長!まだなの!?」

 

『今向かってますっ!』

 

「もっと早く急いで!?じゃないと……ミサちゃんが死んじゃう!!急に血が、血が止まらないの!?」

 

『ッ!10秒で着きます!出来るだけ彼女の意識を繋ぎとめて!』

 

「ミサちゃん!?聞こえる!?聞こえるならお願い私の手を握って!?」

 

 そう言われ、シエルさんの手を握ろうと手に力を込めたが、ピクリとも動かない。あれ?おかしいな、さっきまでは普通に動きそうだったんだけど。

 

「ミサちゃんっミサちゃんっ、いや……いやよ……。お願い、神様……!なんでもします、だから……だから、ミサちゃんをたすけて……おねがいします……!」

 

 今すぐにでも、大丈夫って言ってあげたいのに声が出なくて、体もどんどん重くなる。

 

「―――!?―――!?」

 

 あれ、シエルさんの声が遠い、姿が見えないし、どこか行ったのかな。一人は、いやだな。寂しいし。誰でもいいから、そばにいてくれないかな。誰でもいいから、がんばったねって褒めて欲しいな。だれでも、いいから……オレを―――

 

 ――――――――――――(弱いオレをみつけて)

 

 

 




光園ミサ
小学3年生ながらに、経験豊富なテロリストに戦闘において肉迫し、傷をつけた。結果、完全に目を付けられ、ヘイローが壊れる寸前まで痛めつけられた。依存体質なので、黒野サユリの勧誘に心が揺らいだ。

羽佐間シエル
ミサの前以外ではわりとぼんやりしてる人。ミサの前では頑張って出来る女になってる。偶々ミサを見かけたミサ似の女の子が、ヘルメット団のことを知らせたことにより、ミサの状況を知った。黒野サユリに対し、ミサと先輩を重ねて、本気で切れた。ミサが血を吐いた後、ピクリとも動かなくなり、死ぬかもしれないと恐怖した。今回の件で、自分を責め続けている。

黒野サユリ
……ちゃんと最初にやべー女って書いたもん!私悪くないもん!相手を痛めつけるのが好きな生粋のサド。片角でクソ強い悪魔なので、書きながらモンハンのマ王思い出してた。あれはきっとみんなのトラウマ。ついでに作中でもトラウマを撒き散らした。脱げたヘルメットはミサにプレゼントした。当たり前だが、ヘルメットを脱いだ方が強い。ミサのことは今回で『おもしれー女』から『愛しい女』にランクアップした。


今回の話だけで3つぐらいBADEND分岐考えちゃって泣きたくなった。あと、ミサをイジメ過ぎて私のメンタルないなった。痛めつける話書くの苦手なんじゃ。イチャイチャ書きたい。ミカどこ?ここ?

3年生編はもうちょっと続く。出会いがあれば、別れがあるからね……。


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卒業の話

3年生編だけで余裕で2万字いっちゃったー。ミカほぼいないのにがんばりすぎでは?

今回の話は書いてる間、涙ぼろぼろでつらかった…。花粉マジ許せねえ。

感想ありがとうございます!

一応、今回と次回の4年生編で修行編が終了となりますので、わざわざお付き合いいただきありがとうございます!


 

 目を覚ますと、そこは慣れ親しんだ校舎と薬品の香り。掛けられた布団をめくると、包帯を大量に巻かれた自分の身体。体を動かすと、すごく痛かった。口には呼吸器が取り付けられて、体の至る所に変な機械みたいなものが伸びている。すごく邪魔だ。とりあえず呼吸器は外しとこ。

 

 体の感覚が戻って来て、ふと右手が握られてることに気が付いた。

 

「……シエルさん」

 

 もしかして、ずっと付いててくれたのだろうか。……そういえば、夜みたいだけど今何時だろう?見た感じ、そんなに時間は経って無さそうだけど。そもそも、なんで寝てたんだ?朝、訓練してたのは覚えてるんだが……。

 

「……んぅ」

 

 右手を握っていたシエルさんが身じろぎして、目を覚ました。

 

「いけない、私また寝ちゃ、って、た……?」

 

「あ、シエルさん。おはようございます」

 

「ミ、ミサちゃんっ!!」

 

「うわぁっ!?」

 

 シエルさんはオレを見るなり、急に抱き着いてきた。

 

「ミサちゃん!ミサちゃん!よかった、生きてて本当によかった……!」

 

「生きててって、そんな大げさですよ」

 

「大げさなんかじゃないよ!一ヶ月も目を覚まさなくて、もう二度と目が覚めないんじゃないかって、毎日不安で……!」

 

「一ヶ月ッ!?」

 

 一ヶ月も眠りっぱなしって、何やったんだオレ。全身包帯まみれだし。

 

「そうだよ!あのとき、あと一歩でも処置が遅れていたら助からなかったって、死んでたかもしれないって。でも、全然目を覚ましてくれなくて私……!」

 

「お、落ち着いてください!死って、なんでそんなことに」

 

「覚えて、ないの……?黒野サユリにされたこと」

 

「黒野、サユリ……ッ」

 

 一月前の出来事がフラッシュバックし、食道を熱いものがこみ上げてきて、思わず口元を抑える。

 

「ミサちゃん!?だいじょうぶ!?ごめんね、思い出したくなかったよねっ。ごめん、ごめんねっ」

 

「っすみませ、水を」

 

「ちょ、ちょっと待ってて!えーと、これ!ほら、飲める?」

 

 なんか透明なポットのようなものを差し出してきた。あまり、こういうのに直接口付けたくないけど、仕方ない。

 

「んくっ、んくっ……ぷはぁ」

 

「ミサちゃん、大丈夫?」

 

「ええ、なんとか……」

 

 ようやく落ち着いて状況を整理できる。自分の身体に巻かれた包帯を見る。全身隙間なく巻かれたそれによって、どれほどの大怪我だったか分かる。たしかに、ショットガン撃たれて、爆発に巻き込まれて、ショットガンに撃たれて、ショットガンに撃たれて、ショットガンに撃たれて……よく生きてたな。

 

「そうか、あのとき死にかけてたのか、オレ。道理でなんも感覚無かったわけだ」

 

 今は普通に痛いし。

 

「なんで、そんな落ち着いてるの!?」

 

「そういうシエルさんこそ、今日はずいぶん感情が爆発してますね……」

 

「当たり前だよっ!どれだけ、どれだけ心配したと思ってるの!?うぅ、うえぇぇーん!」

 

「シエルさん……」

 

 その後、シエルさんが泣き止み、落ち着くのを待った。

 

「ずびっ、ごめんね。今日ずっと、かっこ悪いとこ見せちゃってるよね」

 

「まあ、でもいつもと違うシエルさんが見られてうれしいですよ?」

 

「……いつもの私は、《委員長》ってメッキを張った私だから、どっちかって言うとこっちが本来の私になるのかな」

 

「そうだったんですね」

 

「うん……」

 

 そのまま、お互いに話さなくなり、無言の時間が流れる。その沈黙を破ったのは、シエルさんだった。

 

「あっ、あ……」

 

「急に変な声出してどうしたんですか?」

 

「いや、その……」

 

「なにか聞きにくいことなのはわかりましたけど、言ってくれないとオレも何も判断できないんですけど」

 

「その、ミサちゃんはどこまで覚えてるのかなって。さっきも、記憶の混濁みたいなのもあったし、心配になって……」

 

 なるほど、またフラッシュバックして吐くかもしれないから、遠慮してたのか。あれから、頭の中で記憶を整理してるが、特に吐き気もない。

 

「今は大丈夫ですよ。記憶は、最後にシエルさんと話してた時、血を吐いた辺りまでなら覚えてます」

 

「……うん、最後だね。あの後、病院に運ばれて治療を受けたんだけど、ミサちゃんは全く目を覚まさなくって。お医者さんが言うには、ヘイローと肉体へのダメージが限界ギリギリだったんだって」

 

「ヘイローも……」

 

 自分の頭の上にチラリと視線をやる。普段そこにあるのは分かるが、触れないし、視界に入らないしであまり意識することなかったな。

 

「うん、あと一撃、撃たれてたらヘイローが耐えきれず、破壊されてたかもしれないって。傷の治りが遅いのも、意識が戻らないのも、ヘイローが回復するのを待たなきゃいけないって」

 

「あと一撃……」

 

 黒野サユリに最後撃たれてからもう一発……アイツは撃とうとはしなかった。あそこで撃ったら壊れるって分かっていたのか。いや、アイツもオレがあんなに持つとは思わなかったって言ってた。つまり、おかしいのは……。

 

「何をされたか、かいつまんでお医者さんに説明したら、あの状態でまだ生きてることが奇跡だって言われたよ。それでね、療養するなら親しみ深い学園の方がいいだろうって、私もお見舞い来やすかったし」

 

「奇跡……」

 

 奇跡。本当にそうなのか。小学3年生、8歳の子供が受け切れるダメージだったのだろうか。普通じゃない。それはきっと、異常だ。

 

『アタシだけがお前を理解してやることが出来る。それを忘れるな』

 

「……」

 

「ミサちゃん?どうかしたの?」

 

「……いえ、なんでも。そういえば、黒野サユリはどうなったんですか?」

 

「え?うん、ミサちゃんを病院に送った後、追跡したよ。けど、途中でヘリを捨てて徒歩か、別の足を使ってトリニティからは出たみたい。でも、ヘリに残ってた血痕の量から、黒野サユリもしばらくは療養に専念して動かないと思う」

 

「そう、ですか……」

 

 あれ、なんで今ちょっと残念だなって思ったんだろう……。

 

「ミサちゃん……」

 

 シエルさんは覆い被さるようにオレをやさしく抱きしめる。

 

「……シエルさん?」

 

「ごめん、今は、今だけは委員長の羽佐間シエルじゃなくて、ただの羽佐間シエルでいさせて」

 

 服が湿る感じがした。シエルさんは泣いていた。

 

「ごめん、ごめんね、私のせいで……」

 

 シエルさんを抱きしめようとした腕が、力なく落ちた。違う、シエルさんのせいじゃない。シエルさんを泣かせたかったわけじゃないのに。オレは、ただ……。

 

「……よし!ごめんねミサちゃん。肩貸してもらっちゃって」

 

「いえ、役に立てたのなら、うれしいです」

 

 シエルさんを悲しませるオレなんかが、そばに居ちゃいけないのは分かってる。それでも……。

 

「どうかしたの?」

 

「え?」

 

「なんか暗い顔してたから……」

 

「あ……その、そばに居てくれませんか。……ずっと」

 

「よくわからないけど、もちろん!ちゃんと、そばに居るからね」

 

 その言葉がうれしくて、笑みが浮かぶ。

 

「はい、ありがとうございます。ん、ふわぁ……」

 

 安心したら、眠気が襲ってきた。目が覚めるまで回復したとはいえ、まだ時間が必要なのだろう。

 

「ふふっ、今日は話し過ぎちゃったね。明日、改めて検査があるから今日のところは帰るね」

 

「あ、シエルさん」

 

「うん?」

 

「その、眠るまでいてもらってもいいですか……その、目を閉じると不安で」

 

「えっ、今日はずいぶんと甘えたがりだね」

 

「……」

 

「うんわかった、いいよ。ミサちゃんが眠るまで、そばにいるね」

 

「……ありがとうございます」

 

 できれば、ずっといてほしいけど、さすがにわがままなのかな……。

 

 布団に潜って、すぐに眠くなり、そのまま睡魔に身を委ねた。

 

 

 

 ―――それから。次の日に、検査を行い、結局全治2か月の療養を言い渡され、暇な2か月を過ごす羽目になった。

 

 《正義実現委員会》からは正式な謝罪が来た。テロリストの横行を未然に防げなかったこと。一般人を巻き込んでしまったこと。色々だ。そのとき、シエルさんの幼馴染の副委員長さんに会ったけど、すごくいい人だった。人に言えない趣味を持ってるけどシエルさんと仲良くしてあげて欲しい、と言ってなんか高そうなおいしいものくれた。幼馴染思いだなぁ。でも、人に言えない趣味ってなんだろう?

 

 シエルさんは、毎日お見舞いに来てくれた。ミレニアムで流行ってるらしいゲームを持って来てくれるのだが、持って来た8割くらいクソゲーだった。シエルさんはクソゲーハンターだったのだろうか。

 

 2か月経って退院したあと、学園に行くとみんな余所余所しかった。なんか噂が流れてて、テロリストとガチったやべーやつのレッテルが張られてた。事実だけども!まあ、元々大して親しくなかったし、それは別にいいかな。

 

 学園に行っても、結局やることが無くて、ずっと訓練していた。訓練は引き続き、シエルさんが見てくれることになった。シエルさんといるのは楽しいので、うれしかった。

 

 そういえば、一つ大きく変わったことがあった。それは、街の不良たちがオレを見るなり、襲ってくるようになったことだ。裏社会において、大きな力を持っていた黒野サユリを負傷させ撤退させた、という噂がトリニティに留まらず、別の学区にも広まっており、噂を聞いた不良たちがオレを狙いに集まってきているらしい。

 

 らしい、というのは委員会からのまた聞きだ。普段は委員会の人たちが対処してくれるが、オレのせいなのにずっと頼りっぱなしなのもどうかと思い、一人の時は自分で不良を倒している。それをすると、毎回怒られるんだけども。

 

 委員会の人たちは、黒野サユリの件を申し訳なく思ってるらしく、不良たちのことも含めて罪滅ぼしをさせてほしいと言われてしまった。オレは別に気にしてないんだけどなぁ……。

 

 やがて、季節が過ぎ、卒業のシーズンがやってきた。卒業。シエルさんは3年生だ。だから、今年で卒業してしまう。そのことは、オレに暗い影を落とした。

 

 

 

「―――やーっ!卒業式終わっちゃったー!」

 

 そう言って、両手を上げて叫んでるのはシエルさんだ。

 

「はぁ、今日でこの学園ともお別れかぁ」

 

「シエル、さん」

 

「ミサちゃん……」

 

 そばで立ち尽くすオレに、シエルさんはやさしく微笑みかける。

 

「ちょっと、二人で話そっか」

 

 

 

「ミサちゃんと会ってから、色んなことがあった気がする。嬉しいことも、悲しいことも、楽しいことも、……怖かったことも」

 

 卒業式が終わり、賑わってる中庭から外れ、裏庭のベンチで二人座っていた。

 

「オレ、は」

 

 言いたいことはあるのに、言葉がでない。

 

「私、ミサちゃんに会えてよかったって、思ってるよ。ミサちゃんは?私に会えてよかった?」

 

「そんなの」

 

 当たり前だ。シエルさんに会えなかったら、オレは今ここに居ない。どうして、今そんなこと、そんなのまるで……。

 

「……私ね、トリニティの外の学校に行こうと思うの」

 

 ―――っ!

 

「ど……して」

 

「うーん、私たちってトリニティしか知らないわけじゃない?だからトリニティ以外の学区って、どうなってるかわからない。そういうのを勉強したくてね。……きっと、将来の役に立つ」

 

 ……いやだ。

 

「それと私ね、夢があるんだ!」

 

「ゆ……め……」

 

「うん、オシャレなカフェを経営してみたいの!やっぱり、そういうこと勉強するために、トリニティ以外を知っておくのは必要だと思うんだよね」

 

 ……いかないで。

 

「ミサちゃんとは、離れ離れになっちゃうのは寂しいし、全く違う土地に行く不安もある。でもミサちゃん応援してほしいな!」

 

 ……ここで引き止めるのは簡単だ。でも、シエルさんには幸せになってほしい。オレのそばに居ても悲しませるだけだから。オレのそばじゃ、シエルさんは幸せになれないから。

 

 ……ちがう。

 

「は、い。もちろん、応援してます。がんばってください、シエル、さん……」

 

「うん、ありがと!―――それじゃ、戻ろっか」

 

「あっ……」

 

 ベンチから立ち上がり、歩き出したシエルさん。反射的に伸ばした手が空を切る。行く、行ってしまう、シエルさんが、いやだ、いかないで、オレは、まだ……。オレじゃシエルさんをまた悲しませてしまうかもしれないけど、でも……!

 

「―――シエルさん!!」

 

 走って追いかけて、後ろから力いっぱい抱きしめる。

 

「ミサちゃん!?」

 

「いやだ、いかないで!ずっと、ずっとそばにいて……どこにもいかないでよ!」

 

「ミサちゃん、泣いてるの?……そっか、泣いてくれるんだ、私のために。うれしいな」

 

「約束したじゃん。ずっとそばに居てくれるって!なのになんで……!」

 

「約束……?あっ!……あはは、私ほんとダメだなぁ。ミサちゃんのSOS。いつも見逃しちゃう」

 

「オレ強くなるから……!シエルさんを悲しませないように、もっと強くなるから!だからお願い……いかないで。オレを見ててよ……ずっと……」

 

「ミサちゃん……」

 

 オレはシエルさんに縋り付き、泣き続けた。行ってほしくない、卒業してしまったら、もう二度と……。

 

「ねぇ、ミサちゃん」

 

「いや!離れない!絶対離れない!」

 

「ミサちゃん、聞いて」

 

「やだぁ!聞きたくない!」

 

「―――光園ミサッ!!!」

 

「ひぅっ……」

 

 怒鳴り付けられ、反射的に手が離れてしまう。離れまいと、もう一度手を伸ばすが、先にシエルさんに顔を両手で挟むように掴まれてしまった。

 

「いいから、聞いて、ミサちゃん」

 

「ぐすっ、は……い……」

 

「ねぇミサちゃん、訓練を始めるとき言ったこと覚えてる?」

 

「……絶対に、無茶なことしない……」

 

「うんそうだね、じゃあもうひとつは?」

 

「もう、ひとつ……」

 

 覚えている。でも、それは……。

 

「うん、覚えてない?」

 

「お、覚えてます。でも……」

 

「じゃあ、言って」

 

「う、……オレの生き方を否定する子が現れるから、……ちゃんとその子の話を聞く」

 

「うん、そうだよ。なんで私がそんなこと言ったか、分かる?」

 

「……わからない、ずっと考えてたけど、なにも」

 

「うん、そうだろうね」

 

「……もしかして、オレがわかってないから、シエルさんオレのそばに居てくれないんですか?」

 

 そんなのいやだ!でも、考えても考えても答えが出ないよ。なにがダメなの。なんでダメなの。

 

「シエルさんも知ってるでしょ?オレが今学園でなんて呼ばれてるか。なんて噂されてるか。誰も近寄ってこないよ?だから、この約束だって意味がない」

 

「……ううん、私は確信したよ。絶対にミサちゃんの所に現れる。だから、その時は約束を守ってほしい」

 

「どうして?シエルさんじゃダメなの?オレはシエルさんじゃないとダメだよ!」

 

「ダメなの、私じゃ、ダメだったの。だから、先輩として最後のお願い。約束、守ってね」

 

「そんなの―――ずるいよ!シエルさんはオレとの約束を守ってくれないのに!ずるいよ……!」

 

「そうだよ、知らなかった?私はね、ずるい女なんだよ」

 

 シエルさんは、顔を掴んでいた手を離し、そっとやさしく抱きしめる。

 

「うぅ、うううううぅぅぅっ!!」

 

 頭を撫でる手が、暖かくて、涙が溢れて止まらなかった。

 

「そういえば、プレゼントを銀の時計にしたもう一つの理由、言ってなかったよね。銀にしたのはね、ミサちゃんの目の色にそっくりだったから。あの日初めて会った、ミサちゃんの目に。私が好きになった―――銀の瞳に」

 

 その後、泣き止むまでシエルさんはオレの頭を撫で続けてくれた。泣き止んでも離れないオレを見て、苦笑しながらやさしく引き剥がされた。

 

「ミサちゃん、笑って?私、泣き顔で見送られたくないよ」

 

「ぐすっ、う……こ、こうですか?え、へへ」

 

 涙に濡れた顔で、精一杯の作り笑顔。きっとシエルさんは気付いてる。でも、シエルさんは何も言わなかった。

 

「うん、いい笑顔だね。そうだ!これ渡そうと思ってたんだ」

 

 そう言って取り出したのは、赤い封筒だった。それを不思議に思って見てると、シエルさんが説明してくれた。

 

「これは《正義実現委員会》の特別推薦状。本当ならミサちゃんの今の年齢だと入れないんだけど、この推薦状を渡せば委員会に入れるようにしてあるから。もし、その気があるなら良かったら使ってね」

 

 いらなかったけど、黙って頷いて受け取った。シエルさんのいない委員会に価値なんてない。

 

『シエルー!みんなで写真撮るってー!』

 

「はーい!今行くー!それじゃあね、ミサちゃん。何かあったら、普通に連絡してくれればいいからね」

 

「あっ……」

 

 最後に見たシエルさんが悲しい笑顔なんて嫌だ!

 

「シエルさん!……卒業、おめでとうございます!」

 

「―――うん!ありがとね!」

 

 嬉しそうに笑って去っていくシエルさんを、今度は止めなかった。シエルさんが見えなくなるまで、ただその場で立ち尽くしていた。

 

 ―――シエルさんとはこの日以来、会うことは無かった。

 

 

 

 

 

 

「―――全く、卒業だっていうのに忘れ物なんて、貴女らしいわね」

 

「あはは、付き合わせちゃってごめんね」

 

 学園の長い廊下を副委員長いや、"元"副委員長と歩いていた。《正義実現委員会》の部室に忘れ物をして、それを取った帰りだ。

 

「これだけはどうしても、持って帰らなきゃ!って思ったから」

 

 手に持ったのは、ぬいぐるみのキーホルダーだ。ミサちゃんと私そっくりのそれはとてもかわいらしかった。

 

「光園ミサから貰ったものね。改めて見ると初めて作ったにしては、よく出来てるわね」

 

「そうなの!もううれしくてうれしくて!」

 

 誕生日になにが欲しいか、と聞かれてつい反射的にミサちゃんが欲しいと言ったら、最初は難しい顔をしていたが、当日に自分はプレゼントできないけど代わりに、と渡してきたものが手作りのぬいぐるみキーホルダーだった。あまりの嬉しさに抱き着いて頬擦りしてしまったくらいだ。

 

「―――はぁ」

 

 ミサちゃん、ちゃんと帰れたかな。ミサちゃんのためだったとはいえ、やっぱり突き放してしまうのはやり過ぎだった気がしてきた。特に、最近のミサちゃんは心が不安定なことが多いし……。今日だって、あそこまで取り乱すとは。

 

「また、光園のことで溜め息?」

 

「だって心配なんだもん!ハミちゃんだって好きな人出来たら分かるよ!」

 

「……私は今恋する気はないわ」

 

「ふーん?あ、さっきハミちゃんと新しい委員長の子が下駄箱でむぐぐっ」

 

 凄まじい速さでハミちゃんは私の口を塞ぐ。

 

「―――幼馴染といえど、それ以上踏み込むのはどうかと思うわ?というか見ていたの!?」

 

「いやー、偶々ね?ほんと偶々目に入っただけだから」

 

「貴女に見られたことが最大の失態よ……」

 

 ちょっと!それどういう意味!

 

「はぁ、まさかハミちゃんに先越されちゃうとはなぁ」

 

「むしろ貴女がまだ手を出してなかったことの方が驚きだわ」

 

「いやいや、ハミちゃんだってミサちゃんに会ったんだから分かるでしょう!?あの純真で無垢な肢体を穢していいものか、毎日ミサちゃんに触れるたびに葛藤する私の気持ちが!?」

 

「とりあえず変態チックな言い方はやめなさい」

 

「あ、すんすん、このぬいぐるみミサちゃんの匂いがする、すぅー」

 

 これ、ミサちゃんの髪と同じ匂いするな。シャンプーかな。

 

「今ほど貴女の友人をやめたいと思ったことは無いわ」

 

「なぁんでよぉぉぉ!」

 

「わかった!やめないからダル絡みしないで!」

 

 ふふん、ハミちゃんが私に勝てるわけないでしょ?何年幼馴染してると思ってるの。

 

 ふと、廊下の向こうから歩いてきた子と目が合った。

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 ピンク髪のミサちゃんに似た子だ。印象的だったからよく覚えている。ミサちゃんと違って髪は長いし、目の色は違うし似ているところはあまり無いはずなのに、なぜかすごく似ていると思った。

 

「シエル、知り合い?……あれ、この子って」

 

「ごめん、ハミちゃん。ちょっとこの子と話したいから、先行っててもらえる?新しい委員長の子とイチャイチャしてていいから」

 

「一言多いわよ!やっぱり貴女に知られるんじゃなかったわ。……それじゃあ、先に行ってるから」

 

 ハミちゃんが離れたことを確認してから、目の前の子と話す。

 

「キミって確か、前ミサちゃんが不良に襲われてた時に教えてくれた子だよね?あの時のお礼が言いたかったんだ」

 

「そう。お礼とか別にいらないから。話はそれだけ?」

 

 すっごい小生意気!冷ややかな目も相まって、ミサちゃんとは正反対なのに、妙にミサちゃんと重なるのはなんでだろうか。

 

「ううん、ちょっとキミと話がしたくて」

 

「私は別にないけど?もう行っていい?」

 

 ……会話を即ぶった切って、そのまま通り抜けようとする。

 

「ミサちゃんのことなんだけど」

 

 そういうと、ピタっと止まり、明らかに不機嫌そうにこちらを見る。私この子に何かしたかなぁ。

 

「キミってミサちゃんの同級生なんだよね?」

 

「……1年生の頃に同じクラスだっただけなんだけど?それがなに?」

 

「ちょっとミサちゃんのことで頼みたいことがあるんだ」

 

 同級生ってことなら都合がいい、私がいなくなった後のミサちゃんを頼もうと思ったのだが。

 

「じゃあ、断るね」

 

「え?」

 

「え?じゃないけど、断るって言ったんだよ」

 

「え、聞く前からなんで」

 

「私がその頼みを聞く必要ないじゃんね?それがあなたの頼みって言うならなおの事」

 

 この子、私に怒ってる?でも、なんで?

 

「……なんで、私の頼みだとダメなのかしら?」

 

「分からない?流石は戦闘だけしか能がない集団だよね」

 

「っ、私はともかく委員会の悪口はっ」

 

「―――ミサちゃんに戦いを教えたのってあなただよね?」

 

「え、そう、だけど」

 

「それが答えだよ」

 

 え、どういうこと?私がミサちゃんに戦い方を教えたから、この子は怒っているということ?

 

「まあ、あなたでなくとも、誰の頼みでも受ける気は無いけど。私には私のやり方があるから、私のやりたいようにやるね。じゃあね、先輩。あっ、もう先輩じゃなかったね」

 

 それだけ言うと、彼女はそのまま廊下の奥へ消えて行った。

 

「―――はぁ、これじゃ戦いしか能がないって言われても否定できないよ」

 

 あの子には、あの子なりの思惑があって動いてるのだろうか。今の私にそれを探るすべはなかった。しかし、あの子口悪いな。

 

 




光園ミサ
体は痕も残らず治ったが、心はボロボロだった。すぐ近くに居たシエルに依存したが回復しきらないうちに、シエルが卒業することになり、メンタル削られすぎて幼児退行した。が、元々幼いので年相応になったようにしか見えない。基本、自分の世界で完結するタイプなので、自分と親しい相手にしか興味がない。一人は嫌だが、自分から友達を作りにはいかない受け身型。元々メンタルが脆い部分があり、それを虚勢とフィジカルで誤魔化してる。ぬいぐるみ作ったり、料理が出来たりと女子力が高い。

羽佐間シエル
今回の話で卒業。トリニティの外の大学に進学した。ミサが自分の世界に引き篭もるタイプなのは気が付いていたが、今回でさらにメンタルも弱いことに気が付いた。どうにか改善しようと動いていたが、ミサの交友関係が狭すぎてどうにもならなかった。ミサの危機を知らせてくれた子に、ミサの事を託そうとするが、にべもなく断られる。でも、なんとなくあの子なんかしそうだなーと思ったので、勝手に任せることにした。ミサから貰ったぬいぐるみは宝物。ミサの匂いがして幸せ。モチーフになった天使はシェムハザ。

ハミちゃん
《正義実現委員会》の元副委員長。シエルの幼馴染。シエルが頭を悩ませていた裏で、新しく委員長になった後輩の子と百合百合してた。

ピンク髪のミサ似の生意気なロリ
語尾が面白いじゃんね?全然似てないのに、すごくミサに似ている。なぜかシエルにすごく怒っていた。この頃からお口が悪い。


基礎を固めたのでミサは経験積めば、あとはもう坂道を転がり落ちるように強くなっていきます。なので修行編終わり!

今回の話書いてて思ったのは、肉体を傷つける話じゃなければ、メンタルブレイクくらい別にいいかって思ったのやばすぎじゃんね?ミサの前に、私の情緒がおかしくなってんよ。


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4年生の話

本日2本目。0時に上げた分あるので、まだの方はそちらからどうぞ。

今回で修行編エピローグとなります。



 

 初等部4年生になった。

 

「なんだテメ―――ぐああッ!?」

 

 とは言っても、シエルさんが卒業してからというもの、あまり学園に行ってない。

 

「侵入者だ!こっちに―――ぎゃあああッ!?」

 

 なんというか、行く気が起きないのだから仕方ない。それでも、一応進級に必要な最低出席日数は計算してあり、必要な日だけ行くようにはしてる。

 

「クソ!なんなんだアイツ!?―――うわああッ!?」

 

 学園に行ってない日は、こうして街をぶらついてる。

 

「ま、まさか……コイツが噂の黒野サユリを倒したガキ―――うぐッ!?」

 

 そのついでに見かけた不良をすべて倒してる。向こうから来られるより、こっちから潰した方が楽だ。

 

「―――ふぅ……この周辺の不良は殲滅できたかな。次は―――このエリアにするか」

 

 

 

 そんな日を繰り返していたある日のこと。出席日数に余裕を持たせるため、特に用事も無いけど学園に向かっていたときのことだった。

 

「……?」

 

 いつもは人が居るはずの大通り。今は人っ子一人おらず閑散としている。どういうことだ?と辺りを見渡していると、通りの奥から大量の戦車と人が雪崩れ込んでくる。

 

「いたぞ!」

 

「あれが光園ミサだ!」

 

「よーし!やっちまえッ!」

 

 見えてる範囲だけでも50は下らない。奥の方からさらに増えてるので、100超えてそうだ。数を揃えたら勝てると思ったのだろうか?バカバカしい、ゴミをいくら集めたところで黒野サユリ一人にすら届かないことも分からないのか。

 

 新たに盾が取り付けられた愛銃を構える。盾を付けたうえに、銃の下部にトリガーも増設した。後部のトリガーを取り外したわけではなく、下部のトリガーを引くことで連動して後部のトリガーが押し込まれる仕組みだ。内ではなく外の増設なので、難しいものではなかったが、そこそこ大きい装置なので後部のトリガーを直接使えなくなったこと、あと下部のトリガーが連動性なのもあって重たく、引くのにかなり握力がいることだろうか。オレはあまり気にならなかったけど。

 

 その甲斐もあって、この重機関銃を片手で扱うことが可能になり、後部のトリガーを押すだけだった左手がフリーになった。これからは左手で銃身を抑えることが出来るし、それ以外のことも出来る。代わりに総重量が40kgを超えたが、まあ大した重さじゃない。

 

 改造された愛銃を構え、先頭を走る不良に突撃する。先頭の不良はギョッとしていた。なんだよ、まさかマニュアル通りの戦い方すると思っていたのか?バカが、これは戦いだぞ。そんな素直な戦い方、するわけ無ぇだろうが。

 

 持っていた愛銃を槍のように突き出し、不良の腹をえぐりそのまま持ち上げ、地面に叩きつける。驚きに固まった周囲に向かってトリガーを引き、銃弾の雨を浴びせ掛ける。

 

「な、なんなんだアイツは!?」

 

「オイ!戦車隊!早くアイツを撃て!」

 

 飛んできた戦車砲を横に避け、後ろの爆風でブーストして飛び上がり、そのまま不良を蹴り飛ばす。次に近くに居た不良は銃身を振り回し、吹き飛ばす。不良たちとの距離が近くなったからか、撃って来たが銃に取り付けた盾を上手く使い、弾を逸らしながらこちらも走り回り、銃を撃って周りの不良を無力化していく。

 

 戦車が近くなってきたから、そろそろ鬱陶しいな。潰すか。

 

 戦車はその構造上、砲身の角度には限界があり、真上と真下が死角になる。砲身の旋回も、街中じゃ満足にできないだろう。だったら……。

 

 足に力を入れて飛び上がり、建物の壁に着地し、そのまま壁を走って戦車の上に向かって飛ぶ。

 

「―――は?」

 

「じゃあな」

 

 着地した戦車に、銃弾を撃ち込み続け、飛びのいたと同時に戦車が爆発する。

 

 爆発した戦車を通り抜け、周りの不良を処理しながら次の戦車に向かう。―――ッ!

 

 咄嗟に構えた盾に、衝撃が襲う。盾の隙間から見えたのは、小型の戦車だった。大きい戦車に挟まれて気付かなかった。それでもやることは変わらない。次の弾を装填する前に一気に近づき、砲身に組み付く。

 

「こ、こいつ何を―――え?」

 

 トントン、と何回か地面を両足で叩いた後、砲身を鉄棒代わりに砲身と同じ高さまで飛び上がり、グッと砲身を地面に沈めるように押し込む。当然、戦車の本体が引っ掛かって沈むわけないが、そこに着地と同時にさらに力を加え、引っ掛かってる砲身を下に押し込むと、戦車の後部がふわっと浮き上がる。

 

「ふぅッ―――おおおおおおぉぉぉッッ!!!!」

 

 その浮き上がった勢いを利用して、砲身を担いでそのまま一本背負いをして、戦車を地面に叩きつけた。

 

「フーッ……!フーッ……!」

 

「ヒッ」

 

「バ、バケモノ……」

 

 そのまま、もう一つの戦車に取り付き、砲身を無理やり引き剥がして破壊する。

 

「―――こ、こんなバケモノなんて聞いてないぞ!?クソッ、私は降りる……ひっ」

 

「……」

 

「た、たすけて……」

 

 オレは無言で撃った。不良はその場に倒れる。誰も逃がさない。―――さぁ、殲滅戦だ。

 

 

 

 ザーっと雨が降っている。オレの後ろの方には、大量の不良と戦車の残骸が転がっている。途中から数えてなかったが、やっぱり100人以上いた。トリニティだけじゃなく、他の学区からも集まったんだろう。

 

 流石に弾を受けすぎて、ボロボロになった盾を取り外して、その場に捨てる。新しい盾をバッグから取り出し、取り付けた。

 

 結局、学園に行けなかったな。今からじゃ間に合わない。

 

 激しい雨が、全身を濡らしていく。火照った体に丁度いい。

 

 いつも、こんなのだ。戦って、戦って、戦い続けて。

 

 ―――なんでオレ、戦ってるんだろう……。どうして、なんのために……。

 

 …………オレが戦うために生まれたから、なのかな。わからない、なにも、わからないよ……。

 

 

 

 疲れた体を引き摺って、家に着いた頃には雨も上がっていた。

 

「……ただいま」

 

 日はとっくに暮れて、家の中は真っ暗だった。電気は付けないまま、自分の部屋にバッグと銃を置いて、床に寝転がる。体が濡れたままで気持ち悪いが、拭く気も起きなかった。

 

 スカートのポケットからスマホを取り出し、履歴を見る。

 

『着信履歴 0件』

 

 分かっていても、残念な気持ちは抑えられない。そのままスマホを操作して、通話履歴の画面を呼び出す。

 

『シエルさん 323件』

 

 ―――ポチッ、プルルルルッ―――ガチャッ

 

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません』

 

「―――シエルさん、久しぶり。え?昨日も掛けた?あはは、そうだったけ」

 

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません』

 

「そういえば、聞いてよ。今日ね、学園に行こうと思ったら不良の集団に襲われちゃってさ」

 

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません』

 

「え?全然大丈夫だったよ!オレ強いからさ。もうシエルさんを悲しませないぐらい強くなったんだから!」

 

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません』

 

「うん。そういえばシエルさんのほうは大丈夫?うん、今日雨凄かったよねー。あはは!」

 

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません』

 

「―――あ、見てシエルさん、星がきれいだよ。この星、シエルさんも見てるかな。ねぇ、シエルさん。―――シエルさん?」

 

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません』

 

「シエル、さん……」

 

 ―――ピッ、ツーツーツー

 

 スマホが手から滑り落ち、床に落ちる。オレはそちらに目を向けることもなく、フラフラとした足取りでベッドに倒れこむ。

 

「…………つき」

 

「……ずっと、傍に居てくれるって、言ったのにっ…………うそつき…………」

 

 

 

 ふと、転がったバッグから零れ落ちる物があった。シエルさんから貰った赤い封筒だ。それを拾い上げると、キッチンに持っていき火を付けた。

 

 十分に火が付いたことを確認して、テーブルの上の皿に落とす。火が付いたそれは、煌々と燃えており、暗い部屋を照らしていた。オレの記憶も燃やしてくれたらよかったのに。そうしたら、こんな気持ちにならずに済む。いっそのこと、最初から出会わなければ―――。

 

「……あーあ、こんな世界―――」

 

 

 

 

 

 ―――壊れてしまえばいいのに

 

 

 

 

 




光園ミサ
シエルと別れた後も何とか生きている。戦闘力は類を見ないほど高くなっており、今のミサならヘルメットを被ったサユリとも、正面から渡り合えただろう。メンタルやばすぎて、エア電話しないと心を保てない。このままメンタルを回復できなかった場合、色彩反転ルート(BADEND)。


サユリ戦だけで3つもBADあるのにまだ増える。ちなみにサユリの所は、ミサ死亡END、ミサ誘拐END、どちらもシエルが間に合わないと起きます。かなり特殊なルートだけど、シエルと恋人になっていた場合、かなり早い段階で間に合うがミサを人質に取られ撃てず、無抵抗のままシエルが嬲り殺されるシエル死亡ENDがあった。いやぁ正規ルート通ってよかったー。

主人公が痛めつけられてる裏で、さらに主人公曇らせるようなこと考えてる作者がいるってマ?

まあそんなつらい修行編も終わり、次回から新章開幕!やっと私のお姫様を出せる…!

しかし、今回も書いてる最中涙が止まらなかった。花粉つらいなー。特に電話のシーンはちょっと生々しすぎたかなって。ミサのメンブレシーンを書いてたはずが作者がメンブレしちまうよぉ。

はやくお姫様書きたいから続きもすぐ書くね。そういえば、ミサのBADあと3つあるんだよね。ミサだけで七つの嘆き(BADENDスチル7枚)回収できるよやったね!(白目)


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青春編
5年生の話・春


おかえり!ブルーアーカイブ!

やっと…やっとお姫様出せる…ここからが本番だぞー!

感想ありがとうございます!なんというか、欲しい反応貰えた時って思わず口がニヤってなりますね。


 

「―――ふふっ、それじゃあはじめようか?吠え面かかせてあげるね」

 

「うるせぇ。吠え面かくのはお前だ」

 

 トリニティ学園の体育館。バスケットボールを突きながらオレと向かい合うのは、ピンク髪の女―――聖園ミカ。

 

 なんでこんなことになったのか、話は数時間前に遡る―――。

 

 

 

 ―――見て、光園ミサよ。

 

 ―――ホントだ。学園に来たくなければ、来なきゃいいのに。

 

 5年生に無事進級し、学園に来たらこれだ。ヒソヒソと話してる生徒を一睨みすると慌てて去っていく。ふん、と鼻を鳴らして長い廊下を進む。

 

 教室に着いて、躊躇なく開け放つと、直前までざわついてた教室がシンと静まり返る。注目を浴びるが、無視して座席表を確認する。……窓際の一番後ろ。日が当たるいい位置だ。これなら寝るために、たまに学園に来てもいいかもしれない。

 

 そのまま、真っ直ぐ自分の席に向かい、腰を下ろす。早速、寝ようと思ったら隣の席から話しかけられた。

 

「―――ミサちゃん、久しぶりだね!」

 

 ……?だれだ?

 

「あ、あれ?覚えてない?」

 

「……どこかで会ったか?」

 

「え、ええー……」

 

 なにやらむくれているが、周りの人は慌ててオレに話しかけたソイツを止めに行ってる。

 

「むぅ……いいや!ここまで来たら思い出してもらわないと!」

 

 クソ面倒くせえ……。

 

「ほら!私見て何か思い出さない!?」

 

 思い出すって言われてもな。目を引くとすればピンク髪だろうか。でもトリニティって意外とピンク髪多いんだよな。

 

「ぐぬ……ほら1年生の時とか……」

 

「1年……」

 

 でも、オレ1年の頃もあまり教室にいなかったし。

 

「と、隣の席だった……」

 

「隣?」

 

 1年の頃。隣の席にいた。ピンク髪。あっ!

 

「ピンクロリ!」

 

「ミサちゃんあのころあんまり身長変わらなかったよね!?しかも、今は私の方が大きい!」

 

「は?これからまだ大きくなるんだが?」

 

 こいつ失礼だな。まあたった数cmの差なんて一瞬でひっくり返せるが。

 

「で?何か用か?ピンクロリ」

 

「いや久しぶりだし挨拶しておこうと―――ってちょっと待って!ピンクロリって何!?まさか私の名前覚えてないの!?」

 

「は、じゃあ名を名乗れよ」

 

「なんで上から目線なの……?はぁ、聖園ミカだよ。今度はちゃんと覚えてよね」

 

 みその、みか。ん?聖園ミカ?

 

「冗談も休み休み言え」

 

「なんで自分の名前で冗談を言わないといけないの……?」

 

 嘘だろ……?ミカは一番距離を取ろうって思ってたのに、普通に知り合ってるじゃん。しかも1年生のときから。

 

「1年生の頃から、その人をおちょくる性格は治んなかったんだね」

 

「人をおちょくったことなんてないが?」

 

「え?本気で言ってる?」

 

「え?逆になんで本気じゃないと思うんだ?」

 

「……」

 

 なんなんだコイツ……。まあ、隣がミカだからといって、別にまともに相手しなければ向こうも飽きるだろ。

 

「ほら、そろそろ始業ベルなるぞ。勉強しろ」

 

「ミサちゃんも勉強しようよ」

 

「オレはもう終わったの」

 

「うー……」

 

 なにやら恨みがましい目で見ていたが、手でしっしっと追い払っておいた。

 

 ふぅ、ようやくゆっくり眠れる。

 

~1限目~

 

「ミサちゃんミサちゃん」

 

「……」

 

「この問題なんだけど、あってると思う?」

 

「……あってる」

 

「わー!ホントだ!ミサちゃんありがとー!」

 

「……」

 

~2限目~

 

「ねえミサちゃん。この問題おかしくない?なんでわざわざ作者の気持ちになって考えないといけないわけ?」

 

「それぐらい考えてやれよ……」

 

「他人の気持ちなんて分かるわけないじゃんね?」

 

「正論やめろぉ!」

 

~3限目~

 

「ミサちゃんミサちゃん」

 

「今度は何?」

 

「これの訳なんだけどさ……」

 

「……Benedictus Dominus Deus」

 

「わ、はやーい!」

 

「お前、わざと問題振ってるだろ……」

 

「あれ、気付いた?」

 

「お前が聖歌の訳を知らないわけねぇだろ」

 

「へぇ?わかるんだ?そういうの」

 

「1年の頃、聖歌の授業で熱心に歌うお前見てればな」

 

「思い出したの?」

 

「……ちょろっとだけだ」

 

「ふーん?次の時間も楽しみだね!」

 

「おい、まだ続けるのか……?」

 

~4限目~

 

「ミサちゃんミサちゃん」

 

「……」

 

「あれ?ミサちゃーん」

 

「……」

 

「えいっ、こしょこしょ」

 

「あはははははッ!!―――何しやがるッ!?」

 

「きゃーこわーい☆」

 

「なんっ、ぐっ……なんだよ」

 

「あ、うん、え~と……なんだっけ?」

 

「―――ぶっ殺すぞてめぇっ!?」

 

「あはははははっ!」

 

 

 

「ミサちゃーん、お昼食べないの?」

 

「いらない……」

 

 つかれた……。今までの学園生活全て合わせても、今日の方が断然疲れた。

 

「ミカさま!これ、喫茶店で出てた新作スイーツです!」

 

「わー☆ありがとー!」

 

 コイツ人気だな。自然と人が集まってくる。まあ、オレの周りとミカとの間の空間が不自然に空いてるが。

 

「あっ、ミサちゃんも食べる?」

 

「菓子ばっかり食ってないで、ちゃんと飯食えよ……」

 

「えー、だってお菓子の方がおいしいんだもーん」

 

「ご飯だってちゃんと作ればおいしいだろうが」

 

「うーん、あっじゃあそこまで言うなら、ミサちゃんが作って来てよおいしいごはん」

 

「は?」

 

 何言ってんだコイツ。なんでそこでオレが作る話に?

 

「あれ?もしかして出来もしないのに言ったの?」

 

 うっぜええええええええ!さっきから人のこと煽り散らかしてなんなんだ!

 

「でき…………る」

 

「わー!じゃあ楽しみにしてるね!」

 

 死にたい。なんで出来るって言ったんだオレ。出来ないって言えばわざわざ作らなくてよかったのに!でも、出来ないって言ったら普通にバカにされそうで、めっちゃ腹立つ!コイツにバカにされると妙にイライラすんのはなんでだ。

 

「あの、ミカ様。光園ミサとあまり関わらないほうが……」

 

 取り巻きの一人がそんなこと言いだした。そうだ、もっと言ってやれ!でも、わざわざオレに聞こえるように言うな!

 

「うん?なんで?」

 

「光園ミサには色んな噂が……。それに、こんな危険人物が教室で暴れたら……」

 

 それを聞いたオレが暴れるという発想は無いのか。噂のことは知ってるし、今更どうこうしないけど。

 

「……ただの噂だよ。それに、暴れる気があるなら最初からやってるよ。それをしないのは、暴れたらどうなるか分かってるし、そもそも意味が無いことだって分かってるから、でしょ?ミサちゃん」

 

「なんでそこでオレに振るんだよ……」

 

 ミカってこんな理知的なキャラだったか?もっと直情的というか、感情的なイメージがあったが……。でも、あれはエデン前後だったから、ああなってた可能性はあるんだよな。いやでも、裏切り者探しで情報かく乱を仕掛けるくらいには知恵が回るんだよな。……ゴリラのイメージが先行しがちだが。

 

「……特に理由もなく暴れないって、ここで宣言しといてやるよ」

 

「真面目じゃん」

 

「うるせぇ」

 

 はぁ、ホントに疲れた……。ちょっと寝ようかな。

 

「あっ、ミサちゃーん」

 

「……なんだよ、今から寝るとこなんだが」

 

「次、体育だから移動だよ?」

 

「は……?」

 

 時間割を見ると、確かに体育だった。オレの寝る時間……。……帰るか。そう思い、荷物を持って立ち上がろうとすると、横から声を掛けられる。

 

「更衣室行くの?なら私も一緒に」

 

「いや、帰る」

 

「え?なんで?」

 

「……ここじゃ寝られないから」

 

「えー!ここまで来たら最後まで一緒に授業受けようよ!」

 

 コイツ、なんでそこまでしてオレに絡むんだ。まさか、1年の頃になにか怒らせるようなことしたのか?

 

「なら、勝負しようよ」

 

「はぁ?勝負?」

 

「うん!この後の体育でミサちゃんが勝ったら、好きにしていいよ」

 

「……お前が勝ったら?」

 

「え?うーん、私がミサちゃんを好きにする!」

 

 オレに何のメリットもないだろうが。

 

「帰る」

 

「―――あれ?こわいの?」

 

「あ?」

 

「だってそうでしょ?勝負からしっぽを巻いて逃げ出すなんて、負けを認めてるようなものじゃんね?」

 

「……それで、挑発してるつもりか?才能無いな、やめとけ」

 

「ふーん、そうやって逃げるんだ―――2年前、ヘルメット団から逃げたみたいに」

 

 ―――ミシッ

 

「……どういう意味だ」

 

「どうって、そのままの意味だよ。戦うのが怖くて、傷つくことが怖い。泣き虫で、弱虫で、可哀想な―――ミサちゃん♡」

 

 ―――バァンッッ!!!!

 

 机を叩いて、無理やり言葉を止める。周りの人は、ざわついて顔を青くしているが、ミカは涼しい顔をしていた。

 

「……上等だ、吠え面かかせてやる」

 

「ふふっ、どっちがかくことになるのか、楽しみだね」

 

 

 

 ―――そして、今に至る。

 

「ウォームアップは済んだ?」

 

「ああ」

 

 履き替えたシューズをキュッキュッと鳴らして、調子を確かめる。正面のミカは、髪を結んでポニテにしていた。

 

「時間は10分。その間に、点を多く取った方が勝ち」

 

「シンプルでいいな」

 

 近くに居た生徒に審判を任せ、ボールを渡す。ジャンパーはオレとミカ。すでに向かい合って互いに戦意をむき出しにする。

 

「―――ふふっ、それじゃあはじめようか?吠え面かかせてあげるね」

 

「うるせぇ。吠え面かくのはお前だ」

 

 笛が鳴り、ボールが高く放り投げられる。オレとミカは完全に同時に空中へ飛び上がり、僅かな身長差でミカに先手を許してしまう。

 

「―――ちぃっ!」

 

「ボールこっちに回してっ!」

 

 ミカはオレの横を、通り抜けるとボールを受け取り、そのままゴールにシュートを入れる。鮮やかな流れだ。ミカが相手でなければ賞賛してるところだ。

 

 ミカはこっちに振り返ると、勝ち誇った笑みを浮かべて自陣へと戻っていく。あの野郎……。

 

 試合が再開した。ボールを味方に渡し、すぐにオレに戻してもらうとそのままドリブルして、相手陣地にボールを運ぶ。カットを駆使し、ディフェンスをすべて避けゴール前で飛び上がり、そのままボールをゴールに叩きこんだ。

 

「力技すぎ……」

 

 ゴールリングに掴まってぶら下がりながら、声が聞こえた方を向くとミカとバッチリ目が合った。ので、鼻で笑っておく。

 

「~~~っ!?」

 

 気持ちいいな、これ。

 

 ボールが相手に渡され試合が再開する。その後も、互いに譲らず点を取りあい、防御を捨てて攻撃一辺倒でシーソーゲームのようになっていた。

 

「ピーッ!ろ、66-66!」

 

「ハァ……!ハァ……!」

 

「ふぅ……!ふぅ……!」

 

 体操服の裾で流れた汗を拭う。向こうも、袖で額を拭っており、その表情に余裕はない。

 

「同点……」

 

「時間はっ!?」

 

「あ、あと20秒ですっ!」

 

 泣いても笑っても最後の攻撃だ。だが、目の前のミカはそう簡単に抜けそうにないし、抜かせてくれないだろう。どうする……。ボールを取られないようにドリブルしながら考える。

 

「あと10秒!」

 

 ふと視界に入ったものがあった。ちらっとそちらを見ると、目が合う。時間がない。これに賭ける!

 

「5秒!」

 

 動き出し、ボールを背中に隠しミカから見えないようにする。その状態でミカの横をドリブルしながら抜ける。ミカがオレの手からボールを奪おうと手を伸ばすが。

 

「―――ッ!?ボールがない!?一体どこに……!」

 

「3!」

 

 そう、オレの手にボールは無い。ドリブルしたように見せかけ、背中に隠した時にパスを出した。

 

「―――シュートを打て!」

 

「え!?そんな、いつのまに!」

 

「2!」

 

「え?え?」

 

「なんでもいい!ゴールに向かって投げろ!」

 

「は、はいっ!」

 

「1!」

 

 時間はゼロになった。だがボールはまだ空中にあるため、試合はまだ終了していない。

 

「そんなシュートでゴールに入らないよっ」

 

 ミカの言う通り、ボールはリングに弾かれる。だが。

 

「ほら―――え」

 

 ゴール前で飛び上がったオレは空中でボールを掴み―――。

 

「―――らぁあああああッ!!」

 

 リングにそのまま叩き込んだ。

 

「ピ、ピピーッ!!66-68でミサチームの勝利っ!」

 

「っしゃああああああああッ!!」

 

「あー!!負けたー!!悔しいいいい!!」

 

「最後お前もよく投げたな。褒めて遣わす」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「いや、誰」

 

 最後、他の人の力を借りたとはいえ、これはチーム戦。勝ちは勝ちだ。

 

「ミカ、勝負はオレの勝ちだ」

 

「あー、そうだったね。仕方ない、約束は約束だし、この後帰ってもいいよ。まあ―――」

 

 ミカが言葉を区切ったタイミングで、5限目の終了のベルが鳴る。

 

「今日、5限目までだからこの授業で終わりだけどねっ☆」

 

「…………は?」

 

「じゃあ、約束通り帰っていいよー。また明日ねー」

 

「……………………は?」

 

 終わったー、熱い勝負だったねー、そんな言葉を吐きながら、クラスメイト達は体育館を出て行く。

 

「―――く、くそったれえええええええええ!!」

 

 次があるなら、あの女の勝負には乗らないと、誓うのだった。

 

 




光園ミサ
グレミサちゃん。言葉遣いが荒っぽくなって、現代ミサにまた一歩近づいた。とうとうミカと邂逅してしまう。関わらないようにしたら、向こうから積極的に話しかけて来て困惑してる。ミカのクリティカルな煽りに負け勝負に乗ってしまった。なお、勝負に乗った時点で負けてた模様。メンタルがちょっと回復した。

聖園ミカ
言わずと知れたゴリ私のお姫様。ミサが自分のことを忘れていたので、内心ブチギレていた。ない、内心……?ミサ自身でも把握してない心の内をさらっと暴き、それを煽りに利用した。なお、それがあまりにもクリティカルだったのは想定外。勝負に乗らせて、勝ちムーブをした女。こいつ、ホントにミカか?


ブルーアーカイブ、始まったな。ミカ出た途端に、世界観透き通り始めて困惑を隠せなくなりそう。
ところで2周年新規先生だからゴズ君HCすら勝てなくて泣きそう。

さて、次の話を書かなくては。春ときたらやっぱ次は夏だよね!


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5年生の話・夏

ミカとのエピソード書きたいことが多すぎて、手が止まらん!

ミサとミカのイチャイチャを書くことにより、私のメンタルが回復し、またイチャイチャを書く無限ループ。百合はいいぞ。

感想ありがとうございます!


 

 くそっ、これだけは着まいと避けてたのに……。ミカを避けるために休みすぎて、今日出ないと単位が……。

 

 今オレの前に広げられているのは、スクール水着。いわゆるスク水だ。スク水の上半身まで覆う感覚とピッチリと張り付く感覚が慣れなくて、今まで一度も水泳の授業に出ていなかったのだが、単位が足りなくなりそうで出る羽目になってしまった。

 

「―――あれ~?ミサちゃん一人で着れないの?手伝ってあげようか☆」

 

 オレが水泳に出なくてはならなくなった元凶が、ヒョコっと顔を出す。くそっ、一体誰のせいでこんなに葛藤してると。

 

「い、いらないっ!一人で着れるから!」

 

「ほんとぉ?じゃあ先に行って待ってるからねー」

 

 そう言うと、ミカはプール♪プール♪と上機嫌に駆けて行く。能天気で羨ましい。

 

 オレはオレで、覚悟を決める必要があった。意を決して、水着に足を通す。ええい、ままよ!

 

 

 

 プールで水を掛け合ったり、泳いで競争したり、クラスメイト達がはしゃいでる横でオレはタオルを全身に巻いて、プールサイドで一人項垂れていた。

 

 やっぱり、体に張り付いてて妙な感覚が、特に股に張り付いてるのはいつまで経っても慣れない。ま、まあ出席はしたし、あとは隅っこで大人しく座って―――。

 

「―――ミーサちゃんっ☆」

 

 声とともに、バシャッと水を掛けられる。全身は濡れ、当然スク水も濡れるので不快感が増す。

 

「―――ミカああああああッ!!」

 

「きゃー☆」

 

 ミカを追い回すも、すばしっこくて捕まりやしない。

 

「あ、ミサちゃん勝負しようよ」

 

「……またかよ」

 

「せっかくプールに来てるんだし、水泳で勝負ね!負けたら勝った人に学食のパフェ奢りで!」

 

「やるなんて一言も言ってな―――」

 

「―――わーい!不戦勝だー!みんなに言いふらしてこよー☆」

 

 そう言うやいなや、プールに飛び込み泳いでいく。

 

「待ちやがれ!?クソッ!やってやらぁ!!」

 

 オレも追いかけるように飛び込み、ミカを追った。

 

 

 

 バシャバシャと水をかき分け、進んでいく。隣を見れば、ミカも同じ速度で進んでいた。

 

 そして、ゴールをタッチする。

 

「―――ナギサ!」

 

「―――ナギちゃん!」

 

「どっちが勝った!?」

 

「私だよね!?」

 

「えっと、完全に同時でした」

 

 審判役をやっていた桐藤ナギサが、困惑しながら判定を出す。使ってるのはミレニアム製の判定装置だ。コンマのズレもない。つまり完全に同時だった。通算16回目の。

 

「はぁ!?またかよ!」

 

「ちょっと!その機械壊れてないよね!?」

 

「先程、別の方で測りましたが正常に作動したのを確認しましたよ。というかお二人もそれを見ていましたよね?」

 

 確かに、見たが……。というかコイツ、なんでプールで紅茶飲んでんだ。

 

「うー……納得いかなーい!」

 

「それはこっちのセリフだ。こうなりゃもう一回だ!今更へばったとか言わないよな!?」

 

「当然!決着つくまでやるよ!そっちこそ、疲れて溺れても助けてあげないからね!」

 

「は?ならこっちもお前が足攣って溺れても助けてやらないからな!」

 

 ミカとどつき合いながら、早歩きで開始位置へと向かう。

 

「はぁ……仲が良いのか悪いのか……。お互い暴力に訴えないだけ、まだマシなのかも知れませんけど」

 

 その日はベルが鳴るまで勝負したが、結局勝負の決着はつかなかった。

 

 

 

 

 

 ―――ピンポーン♪

 

 夏休みに入ったある日。家でゴロゴロしていると、インターホンが鳴った。荷物を頼んだ覚えは無いし、まさか不良が家まで押しかけてきたんじゃないだろうな、と思いながらドアを開けると見知った顔が。

 

「ミーサちゃん!あーそーぼー!」

 

 ドアをそっと閉じようとしたが、足を挟み込まれ阻止される。

 

「ッ―――お前、どうやってこの家の場所知ったんだよ……!」

 

「ッふふん、私の情報収集能力を舐めないでよね……!」

 

 突然の来訪者ミカは得意げな顔でドアを力ずくで抑えている。コチラも全力で引いてるのだが、ビクともしない。

 

「良いことを教えてやる……!それは、能力の無駄遣いって言うんだ……!よかったな、また一つかしこくなったぞ!」

 

「それは、どうもありがとう……!お礼に外に連れ出してあげるねっ」

 

「間に合ってます!お帰りはどうぞあちらです!」

 

 拮抗していた力は突然崩れた。掴んでいたドアが耐えきれず壊れたのだ。

 

「あっ」

 

「あっ、じゃねーが。壊れたじゃねえか!」

 

「えっと、ごめんね」

 

「……チッ、素直に謝られるとこっちも怒れないだろうが」

 

 壊れたものは仕方ない。スマホを取り出して、修理屋に依頼しておく。……修理が終わるのは夕方ぐらいか。

 

「あ、ミサちゃん。えっと、今日は……ごめんね。ドアの修理代はこっちで出しとくから……」

 

 所在なさげに立っていたミカは、申し訳なさそうな顔で帰ろうとする。これじゃあオレが悪いみたいじゃねえか。内心で舌打ちしながら、急に空いた予定を埋めるべく、ミカに声を掛ける。

 

「待てよ。修理代はいらない。代わりにちょっと夕方まで付き合えよ」

 

「え?」

 

「え?じゃなくて、だ、だから遊びに行くんだろ!着替えてくるからちょっと待ってろ!」

 

「あっうん!」

 

 

 

「……」

 

「……なんで制服?」

 

「し、仕方ないだろ!学園と家の往復ぐらいだから必要無かったんだよ!」

 

 よく見れば、ミカは普通に私服だ。白のワンピースと麦わら帽が眩しい。黙ってれば美少女だから、普通に似合ってるのが悔しい。

 

「ふふっ、じゃあ今日はミサちゃんの服見に行こうか?」

 

「は!?な、なんでだよ!?」

 

「だって、これから必要になるじゃん!」

 

「これからって、お前まさか毎日来る気じゃ……!」

 

「ほら!行こミサちゃん!」

 

「ちょ、引っ張るな!自分で歩ける!」

 

 なぜか急に上機嫌になったミカに首を傾げながら、渋々付いていくのだった。

 

 

 

 はぁ、ミカといると調子が狂う。というか、なんでこんなイライラするんだ。ミカとの勝負にも結局乗ってしまうし、どうしてもミカには負けたくないって思ってしまう。さっきもオレが先に引けばよかったんだ。なんで力比べみたいなことを……くそっちゃんと自制しないと。あーもう!イライラするぅ!

 

「着いたよ!」

 

 ミカの声で、意識を現実に戻す。目の前にはブランド名を掲げた洋服店が。

 

「おい、ここって」

 

「うん!私の行きつけのお店だよっ」

 

「いや、そうじゃなくて。ここって結構有名なブランドじゃん」

 

「そうだけど、え?何か問題あった?」

 

 いや、普通に高い。って思ったが、トリニティってお嬢様学校だった。隣を見れば、ブランド店がズラーっと並んでいる。普段、家の近くにある一般向けのショッピングモールで買い物してたから、忘れてた。

 

「いや、なんでもない」

 

「んー?変なミサちゃん。ほら行こ?」

 

 ミカはオレの手を引っ張って店の中に入っていく。

 

「いらっしゃいませ」

 

「今日はこっちの子の服見に来たから」

 

「かしこまりました。お申し付けがございましたら、お呼びください」

 

「ミサちゃん!さっきのドアのお詫びってことで、好きな服選んでいいよ!」

 

 選んでいいって言われてもな。服の良し悪しが分からないし、あと……。

 

「ヒラヒラとフリフリ多すぎないか……?」

 

「かわいいじゃん?」

 

 見る分にはよくても、自分で着るのはちょっと。

 

「ヒラヒラとフリフリ以外でお願いします。ヒラヒラとフリフリは嫌だ」

 

「むぅ……絶対似合うのに、仕方ないなぁ。じゃあこっちのショーパンとかは?このブラウスとの組み合わせよさそう。あっ、このキュロットかわいい!」

 

 渡される服を吟味していく。確かに、先程まで見ていた服よりかは、ヒラヒラとフリフリが低減されてる。これぐらいなら、まぁ。ふと、横を見るとミカがオレの顔をじっと見ていた。

 

「な、なんだよ」

 

「うーん、さっきなんでお店に入るのためらったのかなって」

 

「いや、それは……時間差で聞いてくるなよ」

 

 聞くならさっき聞いてくれ。

 

「えっと、なんか気になっちゃった」

 

「はぁ……オレは普段、家の近くにある一般大衆向けのモールで買い物するから、こういう高級ブランド店だと金銭感覚が追いつかないってだけだから」

 

「あー、それならそうと言ってくれればよかったのに」

 

「……今日はミカの遊びに付き合うって決めてるから良いんだよ。だから、別にミカが悪いって訳じゃないから。勘違いさせるような態度取ったのは……悪かった」

 

 ミカが驚きに目を見開いていた。

 

「謝る機能付いてたんだ」

 

「ロボットじゃねえよ」

 

「あはは!ごめんって!でも、私に気を遣ってくれたんだね、ありがとう!」

 

 オレは笑うミカに、別にとそっけない返事しか返せなかった。……やっぱり、コイツといると調子が狂う。オレはもう、誰とも関わる気なんて無かったのに……。でも、叶うならもう少しだけ……。

 

「あっ、ショーパン履くなら、このワンピースとかどう?」

 

「え?これ下短すぎないか?」

 

「だから、下にショーパン履くんだよ」

 

「あ、なるほど」

 

「ちょっと着てみよう!」

 

「あ、ちょ」

 

 試着室に無理やり押し込まれてしまった。外に出て行っても、押し返されるだけだろう。……仕方ない、着るしかないか。

 

 制服を脱ぎ、綺麗に畳んでから脇に置く。どっちから着るか悩んで、ショートパンツを手に取り足を通した。良い生地使ってるからか肌触りがいいし、伸縮性もあるから体の動きを阻害しないの良い。次に、ワンピースを手に取り、どうやって着るのか少し悩んだ後、普通に上から被った。手に取ったときから感じていたが、ワンピースもすごくさらさらしていて、肌の上をよく滑る。肩出し袖に腕を通し、近くの全身鏡で確認する。

 

「……あれ、これなんかえっちすぎないか」

 

 白いワンピースの丈が、下に履いたショートパンツが見えるか見えないか、という絶妙すぎる位置にあった。これ、あれだ。スカートの下見えた!うおおお!と思ったら下にショートパンツ履いてるじゃねえか!ってなるやつだ。

 

 ぴらっと下をめくると、オレンジのショートパンツが眩しい。鏡にはピンク髪ショートの女の子が、スカートをめくって見せており、もう4年も見た顔なのにドキッとしてしまった。鏡の中の女の子は顔を赤らめていて、なんだかイケないことをしてる気分になり、余計に顔が赤くなってしまう。

 

「―――ミサちゃーん!ちゃんと着れたー?」

 

「わあああああっ!?」

 

「もう!ミサちゃん!1年生の頃もそうだったけど、なんで私が声掛けると驚くの!?」

 

「いや、ちが!その、ちょっと間が悪かっただけで」

 

 バクバクする心臓を抑えながら、何とか弁明する。

 

「……あれ?」

 

「え、どうかしたのか?」

 

「あ、ううん。……気のせい?」

 

 ミカはオレの頭を見て、首を傾げていたが、そのまま視線を落とすと目を輝かせた。

 

「あ!ミサちゃんすごい似合ってる!私の見立てに間違いは無かったね!」

 

「ちょっとこれ、女の子っぽすぎないか?」

 

「女の子だから当たり前じゃない?」

 

「いや、そうなんだけど、そうじゃないっていうか……」

 

 中身が男なんです。とは言えないしどう説明したらいいんだ。

 

「あ、そうだ。これ、ミュールサンダル。なるべく、ローヒールのもの選んだけど、合わなかったら言ってね」

 

 そう言って差し出したのは、白いサンダルだった。

 

「靴も変えるのか?」

 

「さすがにその恰好じゃ学園のブーツは合わないから」 

 

 確かにと思い、足をサンダルに通す。履いてみると、サイズがぴったりだった。

 

「あれ?ぴったり」

 

「ホント?よかったぁ。学園のブーツ見てサイズは確認してたけど、やっぱり実際に履いてみないと分からないよね。あ、留め具するからじっとしててね」

 

 ああ、オレの靴見たからサイズ分かったのか。

 

「じゃーん!我ながらパーフェクトなコーデ!すっごいかわいいよ!」

 

 両手をいっぱいに広げて、喜びを表すミカ。

 

「かわいいより、かっこいいのほうがうれしいなぁ」

 

「はいはい、かっこいいよ!」

 

 なんか今適当じゃなかった?

 

「ん?あ!ミサちゃん、後ろちゃんと羽通してないじゃん!」

 

「え?あ、ホントだ。普段ワンピースとか着ないから気が付かなかった」

 

 制服は、上下別れてるから気にしなくてもいいし。

 

「ホントだじゃないよ、もう。ほら、通してあげるから後ろ向く!」

 

「いや自分で、あはははっ!ちょ、くすぐったいって!」

 

「はい、通ったよ!ミサちゃん、ちゃんと羽のお手入れしてないでしょ。すごくボサボサだよ」

 

「いや、だって面倒くさいし」

 

「面倒くさくても、ブラシぐらい入れるの!もう、今度お手入れセット持って来て、ミサちゃんの羽を徹底的にお手入れしようかな……」

 

 ミカ、今なんかすごいこと呟いてたような。

 

「あ、これ、そのまま着ていくのでタグと会計お願いしまーす」

 

「え!?」

 

「お支払いはいかがなさいますか?」

 

「カードで」

 

「ちょ」

 

「あ、元着てきた服はクリーニングに出して指定した住所に届けて」

 

「かしこまりました」

 

 オレが止める間もなく、会話が進んで店員さんにタグを取られる。

 

「じゃ行こっか!」

 

「行くって、この格好でか!?」

 

「当たり前じゃん?そのために着替えたんだし。ほら、行くよー!」

 

「お、おい!」

 

 最早当然のようにオレの手を取り、引っ張っていく。

 

 外に出て前を歩くミカの隣に並ぶ。その顔は、やたらと上機嫌で鼻歌まで歌っていた。

 

「待てってミカ。金なら自分で払ったのに」

 

「~♪ん?別にいいよ。さっきも言ったけど、ドア壊しちゃったお詫びだって」

 

「いや、あれはオレも」

 

 悪い、と言おうとしたところで指で口を止められる。

 

「いーの!代わりに、今日はたくさん遊ぼうね!」

 

「……わかった」

 

「うん!あ!あそこでタピオカ売ってる!」

 

 ミカが指差す先に、キッチンカーが止まっており、タピオカミルクティーが売られていた。

 

「今どきタピオカ……?」

 

「もう!私が飲みたいから良いの!ミサちゃん行くよ!」

 

「はいはい」

 

 どれにしようかなー、とメニューを眺めるミカ。オレも、何味を頼もうか。やっぱり抹茶かな。

 

「ミサちゃん決まったー?」

 

「オレは抹茶で」

 

「じゃあ私はプレーンにしようかな」

 

「プレーンって普通のタピオカミルクティーじゃん」

 

「色々飲み比べてみると、最終的にここに落ち着くんだよね」

 

 1周まわって戻ってくるとか、歴戦の猛者かよ。

 

「ここ座って飲も」

 

 ミカの示したベンチに二人並んで座り、タピオカを飲む。抹茶うめー。

 

「……」

 

 ミカがこっちをじっと見ていた。

 

「な、なに?」

 

「隙アリッ!」

 

「おい!?」

 

「ん~♪抹茶もおいしいよねー」

 

 オレが口を離した隙に、ミカはオレのタピオカに吸い付く。とりあえず頭を叩いておく。

 

「痛ーい!なんで叩くの!」

 

「なんで叩かれないと思ったの」

 

「もうしょーがないなー。私のタピオカも一口上げるから」

 

「……な!?ばっ、おま」

 

「ほらほらー」

 

 こいつ……。それはもう楽しそうな顔で、オレにストローを向けてくる。

 

「じー」

 

 くっ。飲まないと引かないつもりか。さっき、自制すると言った手前、対抗意識燃やして我慢比べするわけにはいかないよな。こっちが折れるしかないか……。

 

「……い、いただきます」

 

 あ、これって、か、間接キス。ど、どうしよう、オレ彼女出来たことないからこの後どうすればいいんだ!?ぢゅーっと吸い上げてると、ちゅるんとタピオカが入って来たのでさっと口を離す。

 

「おいしい?」

 

「ま、まあまあ」

 

 やばい、こんなのうまく顔を見れない。

 

「……」

 

「ミカがプレーンがいいって気持ちは分からなくもないけど、やっぱり抹茶の方が……ってミカ?」

 

「あ、ごめん。ボーっとしてた」

 

「どうかしたのか?」

 

 ミカはうーん、とオレの顔と頭の上を交互に見て唸ってた。頭の上?ってことはヘイロー?自分で見ようとするが、さすがに鏡に映さないと見えない。ミカのヘイローはいつも通り、宇宙みたいななんかすっごいやつ。

 

 あれ?オレこの世界来て初めて、他人のヘイロー見た気がするぞ?話すときって顔見るから、ヘイローが視界に入らないんだよな。普通に考えて、人の頭見ながら話す人なんていないし。あと、結構似たような形が多い。そこまで、細かく覚えられない。

 

「オレのヘイローがどうかしたのか?」

 

「あーうん、なんて言えばいいのかな。……ごめん、やっぱり見間違えたのかも」

 

「そうか?」

 

 そうには見えないんだが、帰ったら一応ヘイロー確認しておくか。

 

「……ミサちゃんってさ、昔言ってたあれってまだ目指してるの?」

 

「あれって?どれだ?」

 

 昔なんか言ったっけ?

 

「ほら、男の中の男を~ってやつ」

 

「あ、ああ」

 

 そういえば、なんか言った覚えあるな。そもそも男なんだから目指す意味がないのでは。しかもあれ、動機がモテたいだった気が……めっちゃ逆の位置にいるんだが。

 

「ま、まあ?オレは男だからな。なにもおかしいことは無いだろ」

 

 言ってから、これ他人に話すの恥ずかしい奴では?と思い、心の中で悶える。

 

「そっかぁ、正直ミサちゃんのことだから忘れてると思った」

 

 半分くらい忘れてたとは、口が裂けても言えない。

 

「ミサちゃんが覚えてるかは知らないけど、1年生の入学したての頃、野球したいからチーム作ろうって言った1週間後に、サッカーやりたいとか言い出す子だったんだよ」

 

 変な子じゃん。ノリと勢いで生きすぎだろ、前のオレ。……と思ったけど、オレも人のこと言えねえ……。

 

「正直、全然覚えてないな」

 

 とりあえず、過去の話にして流してしまおう。このままだと、黒歴史を量産しそうだ。

 

「だよね。当時も夏休み前には野球もサッカーも何ソレ?って言ってたし」

 

 はえーよ。突発的奇行にもほどがあるだろ。もう少し、間を持たせろ。

 

「ねえ、ミサちゃん。5年生になって再会してから、ずっと聞きたいって思ってたんだけど」

 

「なんだよ……?」

 

「ミサちゃんって―――」

 

 ミカが口を開いたところで、割り込む者がいた。

 

「お前、光園ミサだな?」

 

 話しかけてきたやつの格好を見て、目がスッと細まる。

 

「ってあれ?二人いますよ?」

 

「どっちもやりゃいいだろ」

 

 持っていたタピオカのフタを親指で弾いて、中身を目の前の不良どもにぶち撒ける

 

「うわ!?」

 

「なんだこれ!?」

 

「カエルのタマゴ」

 

 そう言いながら、不良の一人を蹴り飛ばし、近くにあったゴミ箱にシュートする。

 

「―――なるほど?サッカーやるのもいいな。目指すはメジャーリーガーか」

 

「ミサちゃん!」

 

「ああ、ミカ悪いけど」

 

「メジャーリーグは野球だよ!」

 

「そっちかよ」

 

「くそ!バカにしやがって!」

 

 不良が戦闘態勢に移る。せっかくの休日なのに、面倒になったな。

 

「ミカ、悪いな。せっかく遊びに誘ってもらったのに。埋め合わせはするから、お前は先に―――っておい何やってんだ」

 

 ミカはオレの隣に並んで、サブマシンガンを構えていた。

 

「ミサちゃんを一人にしておけないよ。それに、二人でやった方が早く片付くでしょ?」

 

「……言っておくが、フォローは期待するなよ」

 

「いらないよ。私って結構強いんだから」

 

 自信満々な笑みに、知ってると返した。

 

 銃撃戦が始まり、オレは前に出ると、盾で銃弾を受け止めていく。全部で5人か。いつもより、人数が少ない分衝撃も軽かったので、そのままトリガーを引き一人無力化する。

 

 ミカは大丈夫か?と思い、横目で見たら余裕そうに銃弾を避けて反撃してる。

 

「バイバ~イ☆」

 

 あ、なんか降ってきた。大丈夫そうだな。

 

 こっちも終わらせるべく、銃身で殴りつけまた一人無力化する。さてあと、と思ったところで上から隕石が降ってきて残りを爆散させる。

 

「あぶなっ」

 

「あ、ごめーん!大丈夫だった?」

 

「な、なんとか」

 

 さっきの隕石で、不良は全員無力化されたらしい。いや、隕石ってなんだ。空を見るが、とても隕石が降るような天気には見えない。……あれ?オレ二人しか倒してねえな。

 

「ミサちゃんが盾になってくれたおかげで、倒しやすかったよ。ありがとね!」

 

「あーうん。巻き込んだのはオレだし、役に立ったならよかった」

 

 ふぅ、と息を吐き、緊張を解く。

 

「……ねえ、ミサちゃんってやっぱり……」

 

「ん?」

 

「ううん、今言ってもしょうがないし、また別の機会にするね」

 

「お、おう?」

 

 そんな含みを持たせた言い方されると、気になるんだが?

 

「今はそんなことより、デートを楽しも!」

 

「え!?で、でーと!?」

 

 でーとってデートのことか!?

 

「あはは!ミサちゃん顔真っ赤~」

 

 真っ赤にもなるだろ、おい!ミカに手を引っ張られ、デ、デート……を再開することになった。

 

 

 

「あ、ミサちゃん。みてみて~」

 

「なんだ、びっくり箱か?それぐらい」

 

 ミカの持った箱の横が開いて、銃弾が飛んできた。

 

「おおおおいっ!?」

 

「あはは!びっくりしすぎだよ」

 

「誰だってびっくりするわ!?」

 

 街中を歩きながら、面白そうな物を見つけては手に取って。

 

「あ、お茶の茶葉売ってる。ナギちゃんに持ってったら喜ぶかな?」

 

「ナギサが飲むのは紅茶だろ?他のお茶って飲むのか?」

 

「うーん、あまり見ないかも。あ!梅昆布茶だって、これ新作の紅茶だよって渡したらどんな顔するかな」

 

「やめてやれ、絶対泣くから」

 

 お店に入っては色んなものを物色して楽しんで、この世界に来て初めて普通の日常を過ごした。

 

 

 

「あー!楽しかった!ミサちゃんは?どうだった?」

 

「ん、まあまあ、かな」

 

「ふふっ、そっか」

 

 気が付けば、日が傾いており、じきに空も夕焼け色に染まるだろう。

 

「あ!最後にこのお店に入ろうよ!」

 

 ミカが指を差したのは、アクセサリーショップだった。

 

「ああ」

 

 ミカに手を引かれて、店に入る。店には色々な装飾品が置いてあり、一目で高価そうだと分かる。

 

「へぇー、色々あるね。こんな所に、いいお店があるなんて知らなかったな」

 

「ミカも知らないお店なのか?」

 

「うん、結構穴場だよね。店の入り口も分かりにくかったし」

 

 知る人ぞ知る名店ってことか。

 

「そうだ!ミサちゃんって誕生日いつ?」

 

「もう過ぎてるぞ?」

 

「え?そうなの?」

 

「……5月8日」

 

「あれ?私と同じ?」

 

「キヴォトスに何万人の生徒がいると思ってんだよ。誕生日ぐらい被るだろ」

 

 そうだ別に被っても何もおかしなことは無い、はずだ。

 

「うーん、そっかぁ。誕生日一緒だったんだ。それじゃあ、誕生日近いからプレゼントするねってできないね」

 

 またなにか買うつもりだったのか。もう、服を買ってもらってるから、十分なんだが。

 

「誕生日プレゼントは来年の楽しみに取っておくね!ミサちゃんも何か買っておいてね?」

 

「ん!?オレも買うのか!?」

 

「当たり前だよ、誕生日一緒なんだもん。だから、プレゼント交換しようよ。きっと、その方が楽しいよ」

 

「……まあ、考えとく」

 

「わーい、楽しみー☆」

 

 誕生日プレゼント、か。ミカが喜びそうなものってなんだ?まあ、誕生日は来年だし、ゆっくり考えるか。

 

 店の中を見て回ってると、一際輝きを放つ宝石が目に留まる。

 

「ミサちゃん、なにか見つけた?」

 

 手に取って眺めていると、横からミカが覗き込んできた。

 

「たぶん、エメラルド」

 

「ホントだ。え?すごく大きくない?」

 

 子供の手とは言え、手のひらと変わらないサイズだ。ペンダントだろうか。それでも、大きい気がする。

 

「んー、店員さん。羽飾り用のパーツって置いてる?」

 

「はい、ありますよ。少々お待ちください」

 

「ミカ?」

 

 店員が持って来た部品を、慣れた手つきでエメラルドと繋げると、流れるようにオレの羽に取り付ける。

 

「っておい」

 

「あー、ミサちゃん羽おっきいから見栄えいいなぁ。ちゃんとお手入れすれば、もっと良くなるのに勿体無い」

 

 そう言いながらミカは、オレの羽をわしゃわしゃと撫でる。

 

「ミ、ミカ、くすぐったいっ」

 

「店員さん、このエメラルド買います」

 

「ミカァ!?この大きさ、オレでも相当高いって分かるぞ!」

 

「色も輝きも、普通の市場に出回らないくらい良いから、すっごい高いね。なんでこのお店に置いてあるかは、分からないけど」

 

「で、でも買うために見てたわけじゃないし」

 

「気になったんだよね?だったら、買った方がいいよ。これは私の経験則!次があるか分からないしね☆」

 

「む、むぅ」

 

 しどろもどろになってるうちに、ミカが会計を済ませてしまう。行動早すぎだって!

 

「ミ、ミカそんなカードほいほい使って限度額は大丈夫なのか……?」

 

「あー、私のはちょっと"お願い"してあるから」

 

 お願いって……いや、聞かなかったことにしよう。

 

 店の外に出ると、ミカはグッと体を伸ばす。空はすでに夕焼け色に染まっていた。羽に着けたエメラルドが、夕日を浴びて一層輝きを増す。

 

「ん~っ!ふぅ……お店の中だと、邪魔にならないように羽をたたまないといけないから、外だと思いっきり羽伸ばせるー」

 

 羽が大きいと気を遣うの分かる。うっかり羽たたむの忘れて、店の中荒らした経験あるからな……。

 

「その、ミカ。今日は……あ、ありがとう。服買ってもらったり、アクセサリーも買ってもらって」

 

「お礼言う機能付いてたんだ」

 

「その流れ朝もやった」

 

 天丼はダメだ。許されない。

 

「あはは!私も楽しかったよ!服は最初に言った通りドアのお詫びだし、エメラルドは……えーと、そう!初めて一緒に遊んだ記念だから!」

 

「今思いついただろ……」

 

「えへへ」

 

「オレ、さ。こうやって遊ぶの、初めてだったから、なんて言えばいいのか分からないけど、た、楽しかった」

 

 自分の顔に熱が集まっていってるのは、夕日に照らされているせいだ。ミカはポカーンとした顔のあと、満面の笑みを浮かべた。

 

「そっか、そう言ってもらえたならうれしいな!」

 

「うん……」

 

 ミカはニコニコとオレを見ていたが、オレはなんだか気恥ずかしくなり顔を背ける。

 

「あ!私そろそろ帰らないと。それじゃあ、ミサちゃんまた明日ね!バイバーイ!」

 

 ミカは夕日の方へ走りながら、こちらに大きく手を振る。

 

「あ、うん。また、明日」

 

 見えなくなるまで手を振り返した後、オレも家に帰るために踵を返し、ミカとは反対方向へ向かう。

 

 今日は楽しかったな。級友と遊ぶのが初めてだったからかもしれないけど、まだ一緒に居たい、まだ遊んでいたいって思った。

 

「ミカ……ん?また明日……?」

 

 アイツ、明日も押し掛けてくる気か!?

 

 次の日、案の定家の前にはミカがニコニコと立っていた。

 

 




光園ミサ
ミカと水泳対決したが、なぜか全く同じタイムが出続ける。ミカが遊びに来た時、ドアを引く力が拮抗するなど。最近フィジカルに自信が無くなってきた。前のミサと今のミサにそれほど差はない。強いて言うなら、今のミサが持たない6年間の記憶。はじめて友達と遊びに行った。はじめて普通の日常を楽しんだ。ミカといるとずっとモヤモヤしてる。メンタルがかなり回復した。おや?ヘイローのようすが…。

聖園ミカ
ミサのフィジカルに対抗できるゴお姫様。ドアを壊したのはやりすぎたので落ち込んだ。このお姫様も大概メンタル弱い。ミサと遊べて楽しかった。がある一点が気になって仕方がない様子。ミサから目を離しちゃいけないとずっとモヤモヤした気持ちを抱えてる。結局夏休みは毎日ミサと遊んでた。

桐藤ナギサ
ミカの幼馴染なので、ずっと出さないのは不自然過ぎるので出した。なぜかプールでイスとテーブルと紅茶を持ち込んでる。ミカからお土産に紅茶と騙されて梅昆布茶飲まされた。


前のミサ、今のミサと便宜上分けたけど、作者の中では完全に同一人物。まあ、前のミサは全く話に絡まないので、特に隠すこともないんですけど。単に、前のミサってどんな人だったんだろう→今のミサと変わらないやってするためだけの設定。

結構な伏線をバラ撒いてるけど、ここ伏線!みたいな分かり易いサインは出さない。個人的に、それは伏線じゃないと思ってる。そして、この話を聞いてモヤモヤする読者がいるのが楽しい。

ミサとミカの関係は、ミサのモチーフの天使が分かったら、なるほどってなるようにしてる。


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5年生の話・秋

仕事終わった後にちょろちょろ書いてるから、時間掛かっちゃった。

今回は、後半にナギサ視点あり!ミカの視点は、色々核心ついちゃうのでまだ温めます。

感想ありがとうございます!それと、非ログインでも感想書けるようにしました。設定よく見ずに、そのまま投稿したから確認してませんでした!ちゃんと見ないとダメだね。


 

「―――準備はいい?」

 

「―――いつでも」

 

 緑が色づき、秋が深まったころ、トリニティ学園にある初等部の教室は、緊張感に包まれていた。オレとミカの二人は向かい合って相対し、誰もが固唾を飲んで見守っている。

 

 オレと机を挟んだ向かい側のミカは、手に何かの紙を持って笑みを浮かべている。自身の勝利を疑わない顔だ。やれやれ、力の差を思い知らせてやらないといけないな。

 

「いくよ―――!」

 

「いくぞ―――!」

 

「「せーのっ!」」

 

 掛け声とともに机の上に叩きつけられるテスト用紙。オレのテスト用紙とミカのテスト用紙。見比べてみて、確信し笑みが浮かぶ。逆にミカは驚愕に目を見開いていた。

 

「―――フッ、オレの勝ち、だな」

 

「うわぁーん!また負けたー!ぐやじいいいいいっ!」

 

 ミカは机に突っ伏し、足をバタバタさせてる。

 

 オレのテスト用紙は、どれも90台後半。ミカのは90台前半だ。勝ったとはいえ、結構僅差まで縮めてきたな。だが、それはそれ、これはこれだ。ここでミカを煽り散らかさねば、男が廃る!

 

「ププーッ、たまにしか学園来ない奴にテストの点で負けてどんな気持ち?ねえ、どんな気持ち?ざーこざーこ!」

 

「うぎぎぎぎぎぎっ……!」

 

「ミカさん、落ち着いてくださいね」

 

「ナギちゃん、私はこの上なく落ち着いてるよ……!」

 

「般若のような顔で言っても、説得力がありませんよ」

 

 むふー、と満足げな顔でミカを見る。

 

「っま、オレを見習ってがんばりたまえよ」

 

「次は絶対勝つもん!」

 

「はっはっはっ!」

 

「ミサさんも、あまりミカさんを煽らないでください」

 

「あ、はい」

 

 ナギサに怒られたので、この辺でやめておこう。将来的に権力を持つ人にはやはり媚びておくに限る。

 

「なんでナギちゃんの言うことは素直に聞くの!?」

 

 そうは言われましても。ミカがポカポカ殴ってくるが、めっちゃ痛いやめてくれ。お前のポカポカは重機関銃みたいな音鳴ってるから。

 

「ほら、授業始まるからさっさと座れよ。ちゃんと勉強しないと永遠に勝てないぞ、ざこミカちゃん」

 

「むぐぐ……」

 

「ミサさん……?」

 

 いや、違うんだ。今のは馬鹿にしたわけではなくだな?勉強意欲を引き出そうとしただけなんだ。本当なんだ信じてくれ!

 

 

 

 学園行ったり行かなかったりしながら、ミカやナギサとも交流が増え、友人と言える仲になったころ。

 

「ミーサちゃんっ♪」

 

「……なんか、もうお前が家まで来るのにも慣れたな」

 

 家のドアを開けた先に、いつも通り立っているミカ。

 

「休みの日に何の用だ?せっかくゴロゴロしてたのに」

 

「何もしてないじゃん」

 

 ゴロゴロしてたんだよ。

 

「今日、ナギちゃんの家行くからミサちゃんも一緒にどうかなって」

 

 誘ってくれるのはうれしいが、ちょっと心配が。

 

「急にオレが行ったら迷惑だろ」

 

「大丈夫!私も連絡してないから!」

 

「おい」

 

 迷惑が服着てる二人揃って行ったら、でもナギサのことだからなんだかんだ言いながら許してくれそう。

 

「はぁ、着替えてくるからちょっと待ってろ」

 

「りょーかいっ」

 

 

 

「……制服じゃん」

 

「オレが秋服なんて持ってるわけないだろ」

 

 男のオレに何を期待してるんだ。

 

「じゃあ、ナギサの家に行くか」

 

「先に洋服屋寄ろうね」

 

「なんで!?」

 

「当たり前じゃんね?」

 

 抵抗したが、結局ズルズルと引き摺られ洋服屋に連行された。最期の抵抗で、せめてと思いスカートは却下して、ズボンに落ち着いた。でも上は丈が長めなトレーナーみたいなシャツを着せられてしまった。

 

「ミカ、これ膝下まであって落ち着かないんだけど」

 

「でも、下ズボンだから平気でしょ?」

 

「そうだけど……でも全体的にシルエットがダボッとしてるというか」

 

「そういうのがかわいいんだよ」

 

「……かっこいいのがいいのに」

 

 この分野に関しては、ミカに勝てる気がしない。さっさとナギサの家に向かおう。

 

「じゃあ、冬服も買っちゃおっか☆」

 

「え…………?」

 

「逃がさないよ。このままだと、冬出かけるときも制服で来そうだし」

 

 なんで分かるんだ。こいつ、エスパーか!?

 

 その後、冬用に数着買わされた。ズボンは死守したが、上がなんかスカートと一体になった感じの服とか買わされて、これ結局スカートなのでは?と言ったが、ミカは下がズボンだから大丈夫でゴリ押してきた。こいつ、下がズボンならスカート履かせても問題ないと思ってるんじゃないだろうな!でも、下ズボン履いてるなら別にいいかぁ。

 

 その後制服を家に送り、ナギサの家に向かった。で、今ナギサの家の前に居るのだが……。

 

「でっっっか」

 

「大きいよね、ナギサちゃんのおうち」

 

 大きな門の横にあるインターホンを鳴らす。

 

「めっちゃオシャレな音楽とか流れるかと思ったけど、普通のピンポンなんだな」

 

「ミサちゃんが、お嬢様にそういうイメージ持ってるのは分かったよ」

 

『はい、どちらさまで―――あら、ミカさん』

 

「やっほー☆遊びに来たよナギちゃん!」

 

「急にテンション上げるな。悪いなナギサ、今すぐこいつ持って帰るから」

 

「いや、来たばっかりだよね!?」

 

『ミサさんまで、大方ミカさんの差し金でしょうけど』

 

「あ、あれー?ナギちゃん、私のことなんだと思ってるの?」

 

「さすが幼馴染だな。ミカのことをよく分かってる」

 

 インターホン越しに、はぁと溜息が聞こえてくる。

 

「おいミカ、がっつり迷惑掛かってるぞ責任取れ」

 

「ええ!?ミサちゃんも結構乗り気だったよね!?」

 

『ミカさんの責任はあとで追及するものとして「ナギちゃん!?」せっかく来て頂いた友人をそのまま追い返すのもなんですから、どうぞ入ってください』

 

 大きな門が音を立てて開いていく。

 

「なんか、納得行かない……」

 

「どうしたんだよ、早く行こうぜ」

 

「むー……」

 

 不満気なミカを後ろから押しながら、門をくぐった。門はくぐると勝手に閉まっていった。ハイテクだなー。

 

 無駄に長い道を進んでいくと、広い庭に出た。庭の真ん中辺りに、いくつかのイスとテーブルが用意されており、その一つにナギサが座っていた。

 

「いらっしゃいませ、ミカさん、ミサさん。お好きなイスに座ってください」

 

「お邪魔します」

 

「わーい、どっちに座ろうかな?」

 

 どっちに座っても変わらねえよ。早く座れ。

 

「ミカさん、遊びに来るのは構いませんが、次からは事前に連絡をくださいね。こちらも、もてなす準備がいりますので」

 

「わかった!」

 

 わかってなさそう。ナギサもそれが分かってるのか、はぁと溜息を吐くだけで、それ以上の追及は無かった。

 

「ミサさん、毎日ミカさんの相手を任せてしまってすみません」

 

「オレも慣れたし、別にいいよ」

 

「あれ?まるで私が迷惑掛けてるような」

 

 学園では毎日ちょっかい出してきて、学園行かなかったら毎日家に来るじゃねえか。

 

「迷惑は掛けているでしょう」

 

「ミサちゃんが寂しくないようにしてあげてるんだよ!?」

 

「それでも、毎日来なくていいだろ」

 

「あれ?寂しいのは否定しないんだ?」

 

「ばっ!ちが!?」

 

「あれあれ~、ミサちゃん顔赤いよ~」

 

「おいミカァ!」

 

「ふふふっ」

 

 ミカがオレをからかって、オレが怒って、ナギサが笑ってそれを見ている。最近ではいつもの光景だ。

 

「こちら、紅茶とケーキをどうぞ」

 

 人数分用意されたティーカップとケーキスタンド。オレとミカが来たのは急だったのに、……まさかな。

 

「オレたちが急に来たから、慌てて取りに行ったのか?」

 

「いえ、最初からここにありましたよ?」

 

「え、でも」

 

「最初から、ありました」

 

「あ、ハイ」

 

 笑顔の圧に押され、頷いた。ナギサもあまり人に弱みを見せたがらないよな。ナギサから視線を外し、ケーキを選ぼうとスタンドに目を移す。

 

 うーん、どれにしよう。どれもおいしそうだからな。こっちは苺のカヌレかな、これにしよっと。

 

「あっナギちゃん、梅昆布茶どうだった?」

 

「ぶふっ」

 

「えっ」

 

 唐突に発したミカの言葉に、ナギサが口にしていた紅茶を噴き出した。

 

「お前マジで渡したの……?」

 

「うん!新作の紅茶だよー☆って」

 

「……ミカさん」

 

「なになにー?」

 

「その節は、"どうも"ありがとうございました」

 

 そう言うと、ナギサの手によってミカの口にロールケーキがねじ込まれていた。

 

「むむむーっ!」

 

 は、速い……。ミカの口にロールケーキが入るまで気付けなかった。ミカがこっちに助けを求めているけど、見なかったことにしよう。このカヌレおいしい。

 

「ミサさん」

 

「は、はい!」

 

 やばい、目が合った。

 

「なぜ、ミカさんを止めてくださらなかったんですか?」

 

「止めました!でも、ミカは言ったところで止まりません!」

 

「むむーっ!」

 

「それもそうですね」

 

 ロールケーキを最後まできっちりねじ込んでから、ミカから手を離した。こわ、ナギサは怒らせないように気を付けよ。

 

「むぐぐ……はぁ、もう心が狭いんだからナギちゃん」

 

「紅茶と騙されて梅昆布茶飲まされた、私の気持ちになってください」

 

「ミサちゃん!たすけてって目線送ったのになんで無視したの!」

 

「巻き込まれたくなかった。ただそれだけだ」

 

「それに、ちょっとくらいは私の弁護してくれたっていいじゃん!」

 

「お前の行動のどこに弁解の余地があったの……?」

 

 とりあえず、自分の行動を正当化するのはやめなさい。

 

「そういえば、ずっと気になってたんだけど、ミサちゃんって"力"あまり使わないけど理由ってあるの?」

 

「へ?」

 

「そうですね、私も気になってました」

 

 力、単純に筋力の話じゃないのは、二人の様子から明らかだ。なら、なんなのか。疑問はぶつけてみるしかないだろう。

 

「……"力"って、なに?」

 

 オレがそう言うと、二人は驚愕に目を見開いていた。この反応で確信した。ずっと感じていた。オレとこの世界の住人の間にある差異。それは、あまりにもキヴォトスにおいて常識だったがために、オレは知ることが出来なかったものだった。

 

「え、えっと」

 

 ミカがナギサに目配せすると、ナギサは困惑しながらも頷いた。

 

「こういうの?」

 

 ミカが何もないところに、サブマシンガンを向けると隕石が降ってくる。その現象、誰も突っ込まないなと思ったけど、なるほどキヴォトスでは普通だったからか。EXスキルやノーマルスキルに相当する謎の現象は、キヴォトスでは当たり前のように存在する"力"で引き起こされている、ってことか。

 

 元の世界の常識で戦っていたオレと、キヴォトスの常識で戦っていた彼女たち。ずっとおかしかったのは、オレだけだった。

 

「ミサちゃん?大丈夫?」

 

「え?」

 

「その、顔色悪かったから……」

 

「あーその……」

 

 隠したってしょうがないし、正直に言うしかないだろう。

 

「たぶんオレ、今まで使ったことない……」

 

 ミカがあまりって言ったのは、どこかで無意識に使ってたんだろうか。……もしかして、黒野サユリと戦ったときのあれも……?

 

「やっぱり、変、だよな……」

 

「変っていうか」

 

「まあ、ものすごく珍しい事案では、ありますね」

 

 すごく気を遣われてる……。

 

「あ、いえ!"力"が強すぎるから、と成長するまで"力"の使い方を教えない、というのが過去に実際ありましたから」

 

「成長前に使うと、体に悪影響を及ぼす子とかいるからねー」

 

「そ、そうなのか?」

 

 本当に気を遣ってるわけじゃなく?

 

「うーん、じゃあさ!実際に今使ってみればいいんじゃない?成長っていう面でも、もう十分なはずだよ」

 

「……そうですね。大丈夫かどうか、現時点で判断しようがありませんし。一度使ってみた方がいいでしょう」

 

「決まりだね!」

 

 あれよあれよという間に、オレが"力"の試し撃ちを行うことが決定していた。

 

 

 

「一応何が起こってもいいように、向こうの山が見える方角なら誰もいませんので安全に行えますよ」

 

「りょ、了解」

 

 いつもの重機関銃を構えて、山の方を見る。

 

「ミサちゃーん!硬いよー!リラックスリラックスー!」

 

「わ、わかってるよ!」

 

 とはいえ、今まで無意識下でやってたことを意識してやろうって話だ。硬くもなる。

 

「ミサさん、自分の内に集中してください。そしたら、底から力が湧き上がる感覚があるはずです」

 

 集中してみるが、よくわからない。

 

「ナギちゃん、そんな説明じゃダメだよ!ミサちゃん!ぐっとしてバーンッ!だよ!」

 

「ミカさん……?まさか、今までそんな使い方を」

 

「なるほど」

 

 ぐっとしてバーン、ぐっとしてバーン。

 

「ぐっと?」

 

 構えてる重機関銃に違和感があり、見るとあの日のように光を放っていた。だとすると、あの日のように光の銃弾が出るはずだが……。

 

「ミサちゃんの銃光ってる!おもしろーい!」

 

「ミカさんの助言で本当に……?」

 

 何かおかしい。脳が、尋常じゃないレベルで警鐘を鳴らしていた。―――違う、あの日、光を放っていたのは銃弾そのものだ。銃が光ったわけではない。だったら、これはなんだ。ダメだ、これを地上に向けて撃つのはまずい―――!?

 

 予感は的中し、咄嗟の判断で、重機関銃の照準を山からズラす。それと同時に銃口から巨大な光が迸った。莫大な光量と熱量が空を裂き、飛んで行く。

 

 熱い、眩しくて何も見えないし、耳鳴りがして何も音が聞こえない。

 

 時間にして10秒程度。光の照射が終わり、光が晴れると山が一文字に焦げた跡を残していて、レーザーの通った跡は、融解してドロドロになっていた。

 

 こ、これは……やばすぎるだろ……。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……うーん、封印かな」

 

「……封印ですね」

 

「こんなもん、人に向かって撃てねえよ……」

 

 あまりにも危険すぎる、という判断が下された。

 

「今まで通り、"力"使わないように戦えばいいのか。……力んだときに、うっかり出そうだな」

 

「いや、そんなお漏らしみたいに言われても。"力"なら銃に纏わせて殴ればよくない?今までも、たまに無意識だろうけどやってたよね」

 

「そんなんでいいのか」

 

「……まあ、無理やり抑えつけてうっかり出るよりは、マシですかね」

 

 聞く限り、色々応用利きそうなのか。キヴォトスの常識を甘く見ていたのかもしれない。

 

「実験も終わったし、ケーキ食べる続きしようよ!」

 

「軽く流すじゃねえか……。こっちは結構ショックだってのに」

 

「え?"力"のこと知らなかった理由も分かったし、教えられてなかったのも危ないからだよね?」

 

「そうですね、"力"が強すぎたパターンなので、これから加減を覚えたらよいかと」

 

「私だってやりすぎないように結構抑えてるんだからね?」

 

 抑えても隕石は降るのか……。

 

「まあ、あれだよね?ドアを開けるのに全力を出す人はいないし、友達の肩を叩くのに全力で叩く人が居ないのと一緒だよ」

 

「そういうもんか」

 

「そういうもんだよ」

 

 オレっていつも深く考え過ぎなのかな。オレもミカぐらい頭軽かったら生きるの楽だったのにな。

 

「あれ?私のこと見つめてどうしたの?あっ、もしかしていいこと言ったから惚れちゃったのかな!?」

 

「ミカの頭軽くて羨ましいなって」

 

「あれ!?なんで私今貶されたの!?」

 

「それは私もたまに思いますね」

 

「ナギちゃん!?う~……こうなったらケーキバカ食いしてやるんだから~!」

 

 ミカはスタンドから直接ケーキをバクバク食べ始める。

 

「おい!そのケーキオレも食べたかったのに!」

 

「へへ~ん、早いもの勝ちですぅ」

 

「うぜぇ!」

 

 ミカやナギサと一緒じゃなかったら、きっとオレはまた一人で悩んでいたかもしれない。口には出さないけれど、二人に会えて、友達なれてよかった。

 

 

 

 

 

 

「―――ミカァ!それオレが取ったケーキ!」

 

「あれ~?ごっめーん良く見えなかった~。ん~おいし~☆」

 

「ふざけんなテメェ!」

 

 今、私の目の前でそっくりな、しかし正反対な二人が今にも殴り合いそうな雰囲気で睨み合ってます。ミサさんの忍耐強さには感服しますね。私なら既に手が出てます。

 

 長いピンク髪が特徴的な私の幼馴染の聖園ミカさん。短いピンク髪が特徴的なクラスメイトの、いいえ友人の光園ミサさん。女の子っぽいミカさんとは対称的に、男の子っぽいミサさん。金眼のミカさん、銀眼のミサさん。こうしてみると本当に。

 

「姉妹みたいですね」

 

「「誰がこんな奴と!」」

 

「むむっ」

 

「ぐぐっ」

 

 そっくりですね。

 

 ミサさんと知り合ったのは今年の始めですが、初めてミサさんを見たのは1年生の頃だったでしょうか。あの頃はミカさんとミサさんで勢力が二分されてて、混沌としていたのをよく覚えています。

 

 あの頃のミサさんは、明るく社交的で自然と人の輪の中心に居るような方で、ミカさんとよくぶつかっていましたね。ミカさんもよく愚痴をこぼしていました。

 

 1学期のころはそんな感じだったのですが、決定的に変わったのは夏休み明けの2学期でしょうか。ミカさんにそっくりだった長い髪をバッサリ切ってしまって、授業にもあまり出ずに射撃訓練場に籠もりっきりになってしまった。

 

 風の噂では、事件に巻き込まれたと聞いてましたが、それが彼女を変えてしまったのか。ただ、あの日のミカさんの言葉が気になりました。

 

『ミサちゃん、泣いてた。こわい、たすけてって』

 

 その日のミサさんは、普通に笑ってましたし、なんだったらミカさんを煽ってます。なのに、煽られた本人からこんな言葉が出てくるのはどういうことなのか。思えば、あの日のミカさんもどこか様子がおかしかった気がしますが、次の日には元のミカさんに戻っていました。

 

 姉妹のようにそっくりなので、何かしらのシンパシーを感じていたのか。しかし、それ以降それとなくミカさんに尋ねるものの、はぐらかされる。ですが、ミカさんはミサさんを見かけるたびに、ずっと目で追っていました。何故かと尋ねたら。

 

『わかんない。でも、目を離したらいなくなりそう』

 

 それから、ミカさんはミサさんを度々追い掛けてました。

 

 3年生になったある日、ミサさんが大怪我した。ヘイローが壊れかけるほどと聞いて背筋が凍りました。ミカさんもショックを受けてるだろうと思い、声を掛けたのですが……。

 

『……あの女……結局……』

 

 何を言ってるかは、所どころ聞き取れませんでしたが、その時聞いたミカさんの怒りようと、底冷えする声が耳を離れません。再度声を掛けると、いつものミカさんに戻りました。

 

 4年生になり、ミサさんが不良狩りしているという噂が流れました。噂ではなく、事実だったようで、ミサさんから距離を取る方が増え、ミサさんも学園にほとんど来なくなりました。

 

 ミカさんは何故そうなってしまったのか、知っている様子でしたが、そのことを聞こうとするとすごく嫌そうな顔をされます。

 

『あの女はね、ミサちゃんを壊して戦闘マシーンを作るのが目的だったんだよ。……許せない』

 

 そう吐き捨てたミカさん。あの女が誰かは分かりませんが、ミカさんは昔から思い込みが激しいきらいがあるので、今回もそうなのではないかと疑いましたが、なにぶん既に卒業した生徒らしく、真実は闇の中でした。

 

 5年生になる前、クラス分けのデータが端末に届いた。そこには私とミカさん、そしてミサさんの名前がありました。ミカさんからはうれしそうな電話が来ました。今まではクラスが違うせいで時間が合わず、学園にいつ来てるかも分からなかったので会えなかったけど、これからは会える、と。

 

 ですが、私はミカさんに言いました。危険すぎる、ミサさんに関わるのはやめておこう、と。相手は不良殺しだの、不良千人斬りなんて噂がある相手だ。下手に関わればミカさんが危険に。ですが、ミカさんは真っ向から私の忠告を否定しました。

 

『違うよ、ナギちゃん。ミサちゃんは今、ずっと戦っているせいで、どうやって普通の日常に戻ったらいいか分からないんだよ。今ミサちゃんに必要なのは、普通に過ごすことだよ』

 

 そんな馬鹿な、そう思いました。ですが、5年生になりミサさんが教室にやってきた。教室が静まり返る中で、ミカさんは物怖じせずミサさんに話しかけ、彼女の関心を自分に向けることに成功しました。

 

 その後、気を引こうとミサさんに話しかけ、授業の質問をするという形でミサさんの気を……いえ、あれは1年生の頃の私怨が含まれてましたね。しかし、事件はその後に起こりました。

 

 お昼の後の授業、体育は面倒だと帰ろうとするミサさんを、ミカさんが止めようとします。しかし、引き留めるために放った言葉が彼女の逆鱗に触れたのか、凄まじい怒りを露わにして、思わず『危ない!ミカさん!』と割って入りそうになりましたが、ミサさんはミカさんに手を上げることはせず、体育で決着をつけると息巻いて出て行きました。

 

 普通に手を出すものだとばかり思っていたので、ポカーンと私にあるまじき表情をしてしまいました。ミカさんは、ミサさんが手を出さないと確信していたように涼しい顔をしていたのも驚きました。ミカさんは、ミサちゃんはやさしいからね。と言ってましたが、本当に?

 

 その後の対決でも、ファウルを取ることなく、正面からミカさんと勝負していました。熱くなって周りが見えてなかったミカさんと、熱くなりながらも最後まで冷静だったミサさん。最後に軍配が上がったのは、ミサさんでしたね。ただ、勝利して悠々と帰ろうとしたのにミカさんにハメられてたのは、可哀想でした。

 

 後日、ミカさんにミサさんを紹介され、挨拶させていただきました。近くに居て分かったのですが、ミサさんは意外と冷静に物事を捉え、ミカさんが授業の質問攻めをしていたときも感じましたが、かなりの教養の高さが伺えました。そのせいで考えすぎるきらいがあるようですが。ですが、ミカさんに怒りを爆発させそうになったときも、努めて冷静になり、理性的に対処しようとしてました。結局、ミカさんに煽り倒されて怒りを爆発させるのですが。それでも、ミサさんは暴力をいたずらに振るうことはせず、言葉をぶつけるのみです。

 

 ここまできて、ようやく私は自身が風聞に惑わされていたのだと気付けました。噂が本当かどうか確かめもせず信じ込み、挙句にそれを通してミサさんを見ていたのです。フィルターを通さずミサさんを見れば、誤りだったとすぐに気付けたこと。私は自身をとても恥ずかしく思いました。同時に、ミカさんが正しかったことも。

 

 ミサさんを見ていると、たまに泣き出しそうな顔になったり、妙に怒ってたりと精神が安定しないことがしばしばありました。普段は、眠そうな顔をしていますので、余計に目立ったと思います。ミカさんはそれに気が付くと、すぐにミサさんをからかいに行きます。

 

 最近では、精神が安定してきたのかあまりそういう行動を取ることは少ないですが、心配で目が離せないというミカさんの言葉がよくわかりました。だからといって、夏休みに毎日遊びに行くのはやり過ぎですが。しかし、ミカさんがミサさんと交流する中で、勉強を頑張るようになったのは、うれしい誤算でしたね。

 

 まさか、こうしてミサさんと親しい間柄になるとは思いませんでしたが。新たに淹れ直した紅茶に口を付ける。

 

「ナギサ!」

 

「ナギちゃん!」

 

「「どっちが姉だと思う!?」」

 

 テーブルを乗り出して、二人が唐突にそんなことを言うものだから、驚いて目を見開く。

 

「えっと……なんの話ですか?」

 

 思い出に浸りすぎて、二人の話を聞いていませんでした。とはいえ、なんとなく想像はつきますが。

 

「さっきナギちゃんが姉妹みたいだって、言ったでしょ?」

 

「だから、ミカよりオレの方が姉っぽいよなって言ったらこいつが」

 

「なんでミサちゃんが姉になるの!どう見ても私だよ!?」

 

「姉が人のケーキパクるわけ無ぇだろ!」

 

「だったら!家でずっとゴロゴロしてるようなのが、姉になれるわけないじゃんね!?」

 

「なんだと!」

 

「なにさ!」

 

「―――ぷっ、あははははははっ!」

 

 二人のやり取りに、堪え切れず思わず吹き出してしまいました。

 

「ナ、ナギサ?」

 

「ナギちゃん?」

 

「いえ、ふふっすみません。なんかおかしくて、あはははは!」

 

 二人は笑っている私を見ると、毒気を抜かれたのかストンとイスに座り直す。

 

「ナギサに免じて、今日の所はこれで勘弁してやるよ」

 

「それは私のセリフだよ」

 

 よくわかりませんが、二人は仲直りしたようです。

 

「―――というか、ナギサはいつまで笑ってんだよ!」

 

「あははっ!すみませ、あはははは!」

 

「ナギちゃん、ツボに入ると中々収まらないもんね……」

 

 二人を見て、ずっと三人で仲良く過ごせますように、と願った。

 

 




光園ミサ
要介護系主人公。精神が安定してきて、調子に乗り出した。これが男の煽る姿か…?ミカの策略により、抵抗の少ないラインを見極められて女の子っぽい服を着せられる。甘いものは結構好きなので、ナギサの用意したケーキをパクパク食べる。二人から微笑ましげに見られているが、気付かない。キヴォトス人の不思議パワーの源を知り、試し撃ちしたら文字通り必殺技過ぎたので、即封印された。今回のごん太レーザー、どれくらいやばいかというと色彩ビナーのレーザーぐらい。

聖園ミカ
毎日家に遊びに来る女。目を離すと危ないからね、しかたないね。ミサを日常に引き戻したことにより、間接的に世界救ってる女。お前がナンバーワンだ。それはそれとして、過去に自分がやられたことはやり返す。最近では、ミサの精神が安定したこともあり、普通の友人関係で落ち着いてるが、本人的にはまだモヤモヤ。

桐藤ナギサ
最初はミサから距離を取っていたが、ミサとの交流の中で自身の間違いに気づいて、改めて友人認定された。ミサの精神の不安定さを知り、気に掛けていたがミカの行動が素早過ぎて特に出番がなかった。三人で過ごすのは楽しいのでずっと続いてほしいと願っている。なお、エデン条約編。


Q.どうやってレーザー防ぐんだよ!

A.暁のホルス呼んで来い

ついでにミサの属性は神秘、重装甲。重装甲なのはミカに弱いからというネタ。役割は耐久型のタンク。回避は低いが、高命中、高い攻撃力を持っていて置物性能高め。シールド持ちだがスキル構成が弱いので、あんまり採用されない悲しみの恒常キャラ。レーザー?封印したじゃんね?



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5年生の話・冬

感想いっぱいありがとうございます!

書き終わってから、いやなげぇ!って思ってどこかで切ろうと思ったけど、今回の話は一息に読んでほしいからそのまま出すことにした。

あ、正月ムチュキと正月ハルカ引きました(1天)アルちゃんとカヨコも欲しかったけど石が無ぇ。

流石に「生徒たちをよろしくお願いします」「はい!(プレ先カード即割)」は人の心が無さ過ぎて私にはできなかった。クロコのピックが来たらちゃんと割ってあげるからね…。


 

「うぃ~っ……さみぃ……」

 

 冬になり、寒くなった通学路をトボトボと歩く。

 

「なんでこんなクソさみぃのに、スカート履いて学園行かなきゃならねえんだ」

 

 文句を垂れたところで、聞いてくれるものはいなかった。独り言つら、早く学園に行こ。ミカ当たりなら適当に反応返してくれるだろ。

 

「見つけたぞ!光園ミサ!」

 

 クソッタレな朝に、クソッタレな集団。ツイてない。

 

 こんなクソさみぃのに元気だなこいつら。そう思いながら、いつも通り重機関銃を構えて、不良どもに突撃した。

 

 

 

「―――おはよー」

 

 相変わらずオレが教室に入ると、シーンとなる。別にいいけど。そのまま、自分の席まで行ってから気が付いた。いつものうるさいのいねえな、と。

 

 隣の席を見ると空席だった。今の時間なら、いつもはもういるのに珍しいな。そう思い、ナギサの席を見ると、ナギサの席も空席だった。ナギサがいない……?あの真面目がイスに乗って空中浮遊してるやつが?天変地異の前触れか……。

 

「あ、あの」

 

「ん?」

 

「ミカ様とナギサ様は、お茶会に呼ばれて席を外しております……」

 

 この子、確かバスケの時の。オレがきょろきょろしてたから、わざわざ教えてくれたのか。

 

「そうなんだ、教えてくれてありがとうバスケっ娘」

 

「い、いえ!あ、バスケはやってないです」

 

「そうだったのか……」

 

 お茶会。《ティーパーティー》?既に交流があったのか。人脈づくりだったりで動きそうなナギサはともかく、ミカが?……アイツのことだからお菓子で釣られそうだな。

 

 アイツら居ないんだったら、学園来る必要無かったかな……。いや、別にアイツらが居ても居なくても関係無いんだが。でも、今からまた寒い中帰るの面倒だし……ちょっとくらい学園に居てもいいか。

 

 そんなことを考えてると、うつらうつらとして来て、気が付いたら眠っていた。

 

 

 

「―――サちゃん、ミサ、ちゃん……」

 

 うるさい声に意識が引っ張られ、うすらと目を開けるとミカの顔がアップで映っていた。教室に戻って来てたのか。しかし、その顔は苦悶に歪められており、なぜかオレの右手がミカの首に食い込んでいた。

 

「―――え?なに、これ」

 

「……ぁ、ミサちゃ、んやっと起きた。寝相、結構……悪いんだ、ね」

 

 すぐに右手を離し、バッとミカから飛び退く。なんで、なんでなんでなんでなんでなんでッ!?ちがう、オレじゃない。オレじゃない!オレじゃ、ないのになんで、右手にミカの首の感触が残って……?

 

「オレが……?オレのせいでミカが……?」

 

「ゲホッゲホッ!待って、ミサちゃん……!」

 

「ハァッ……!ハァッ……!ハァッ……!」

 

 オレのせいで、また誰かが傷ついて、悲しんで。オレのせいでまた……。

 

「あ……あ……―――ッ!」

 

「行っちゃダメ!」

 

 走り出そうとしたオレを、ミカが抱き留める。

 

「やだ!やだぁ!離して!」

 

「ダメ、離さない!」

 

「行かせてよ!じゃないとまた、ミカのことを傷つけちゃう!」

 

「大丈夫、私なら大丈夫だから……!」

 

「大丈夫じゃない!オレが大丈夫じゃない!なんで、なんでこうなるの!?誰かを傷つけたかったわけじゃないのに!オレばっかりこんな目に!もう嫌だ!誰かオレを消してよ!」

 

 涙を流しながら、体を乱暴に振り回しミカの拘束から逃れようとするが、ミカの締め付けが増し、逃れるのが困難になる。

 

「落ち着いて、ミサちゃん。私なら大丈夫。ピンピンしてるよ。だから、ね?」

 

 ミカは抱き締めながら、やさしくゆっくりと浸透するように声を掛けてくる。

 

 ミカが声を掛け続け、次第に落ち着きを取り戻し、暴れるのをやめて今はミカにされるがままになっている。オレが暴れるのをやめたのを確認したミカも、抱き締めたまま少しだけ拘束を緩めた。

 

「……大丈夫?」

 

「……っちがう、ちがうの。オレじゃない、起きたら目の前にミカが居てそれで……!」

 

「うん、大丈夫。分かってるよ」

 

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいっ……」

 

「ミカさん……」

 

 ナギサの声に、体が震える。オレは幼馴染のミカを傷つけた。だから、絶対に怒ってる。謝らないと、でも怖くて顔を見れない。

 

「大丈夫だよ、ナギちゃん」

 

「ですが……」

 

「大丈夫だから、ね?」

 

「はぁ全く、手を出さないでなんて、見てるだけの身にもなってください」

 

「いやー、ミサちゃんのことになると、考えるより先に体が動いちゃって」

 

「……ミサさん」

 

「ひっ、ごめんなさっ」

 

「ぷっ!ナギちゃん、怖がられてる」

 

「……」

 

「ちょっと待って!なんで私を睨むの!?」

 

 やっぱり、怒ってるんだ。痛いことされるのかな。でも、ミカに痛いことしちゃったから、我慢しないと。

 

「ほら!ナギちゃん、そんな怖い顔してるんだから怖がられるんだよ!スマイルスマイル!」

 

「ミ、ミサさん……」

 

「オレをどうやって痛めつけようか考えて笑顔になってる……」

 

「―――ブフォッ!!」

 

「ミカさん……?」

 

「ぷくくくっ―――っていひゃいいひゃい!なんで私をつねるの!?」

 

「腹が立ったので」

 

「ひどいよ!」

 

「はぁ……んんっ」

 

 ナギサはオレの正面に来て、目線を合わせるように少し腰を曲げる。

 

「ミサさん、私は怒ってないので大丈夫ですよ」

 

「うそ、だってオレは大切な友達のミカを、傷つけて……」

 

「本当ですよ。ミカさん本人が大丈夫と言ってるので、大丈夫でしょう。それに」

 

 ナギサが、そっと頭に手を乗せる。

 

「ミサさんだって、大切な友人ですよ」

 

「あ……う……めんなさい、ミカを傷つけてごめんなさい……逃げようとしてごめんなさいっ……」

 

「はい、ちゃんと謝れてえらいですね」

 

 止まっていた涙が再び溢れ出す。そんなオレを、ナギサはずっとやさしく撫で続けてくれた。

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「……うん」

 

 オレが落ち着いたのを見て、ミカは拘束を外し離れる。

 

「ふー、ずっと同じ体勢だったから体バッキバキだね!」

 

「……ごめんなさい」

 

「あ、あわわ……!えっと、えーと、あっ」

 

 きょろきょろと辺りを見渡していたミカが、ナギサを見て何かを思いついた顔をする。

 

「そうだ!クリスマスにナギちゃんちでクリスマスパーティーするんだ!」

 

「え……?」

 

「え」

 

「(あ、合わせてナギちゃん!)それでね、ミサちゃんも誘おうと思って!」

 

「あ、ああ、そうでしたね(ミカさん、あとでゆっくりとお話しましょうね)」

 

 ??ミカが片目をパチパチしてたけどゴミが入ったのだろうか。

 

「で、でもオレなんかが行ったら迷惑に……」

 

「ダーメ!決定事項だよ!ホントはサプライズパーティーだったんだけど、このままだとミサちゃん来なさそうだからね!」

 

「う……わ、わかった……」

 

 ミカのことだ。頷かなかったら、頷くまで迫ってきそうだ。でも、そういう強引さは少しだけ救われる。

 

「……そういえば二人はどうして教室に?お茶会に呼ばれたって聞いたけど……」

 

「ああ!そのお茶会が終わった後に荷物取りに来たら、ミサちゃんが寝てて起こそうとしたら急に……あっ」

 

「……」

 

「ミ・カ・さ・ん?」

 

「ち、違うの!今のはわざとじゃなくて!信じてナギちゃん!?」

 

「わざとだったらもっと怒ってます!どうして今日に限って、思ったことを口に出すんですか!」

 

「ご、ごめんなひゃい……」

 

 ミカはナギサにほっぺたを引き延ばされていた。すごい伸びてる、痛そう。じゃなくて、止めてあげないと!

 

「あ、オレは大丈夫、だから……」

 

「ミサさん……まさか、ミカさんに脅されて……」

 

「しないよ!?」

 

「い、いや特にそういうのは……」

 

「そうですか?ですが、"もし"ミカさんに酷いことされそうになったら、私に言ってくださいね?叱りますから」

 

「う、うん」

 

「わー幼馴染の信頼が痛いなー」

 

 でも、先にミカに酷いことをしたのはオレだから、もしミカに酷いことされてもオレは……。

 

「そろそろ帰りましょう。暗くなりますし、家まで送りますよ」

 

「え、ナギちゃん?」

 

「そんな、悪いから普通に一人で帰るよ」

 

「ダメです。悪い人に捕まって、怖い思いするかもしれないでしょう。ねぇ、ミカさん?」

 

「いや、たぶん怖い思いするのは悪い人だと」

 

「あー!そうだねナギちゃん!暗い夜道に女の子一人だと危ないよね!」

 

 オレの反論をかき消すように、ミカが大声を上げオレを引っ張って行こうとする。

 

「あ、ちょ、わかったから!引っ張らないで!」

 

「ほらほらー!ナギちゃんも行くよー!」

 

「ええ、戸締りの確認をしたら行きますよ」

 

 その後、お茶会でこんな話聞かされたーと愚痴るミカと、面白い話を聞いたと笑うナギサの話を聞きながら家に帰った。

 

 

 

 

 

 

「ふー、一時はどうなるかと思ったけど、帰り着くまでにある程度持ち直してよかったぁ」

 

 ミサさんを送った帰り道、ミカさんは一仕事を終えたように晴れやかな顔でした。

 

「ミカさんから見て、ミサさんってどうでした?」

 

「どうって、あー。とりあえず、2、3日は大丈夫だと思う」

 

「そうですか……」

 

 その言葉を聞いて、ほっとする。ミカさんのミサさん評は当てになりますからね。

 

「ところでミカさん、クリスマスパーティーのことなのですが」

 

「えっと、ごめんナギちゃん!そのまま巻き込まれて!」

 

「当然です。巻き込んでゴメンなんて言ったら、怒るところでした」

 

 私だって当事者ですからね。仲間外れはごめんですよ。

 

「でも、主催にも内緒のサプライズパーティーは勘弁してくださいね」

 

「あ、あれは、ミサちゃんを元気付けるために!」

 

「分かってますよ。ですが、クリスマスまで日にちが無いのも事実です。なので、買い出しとか準備をちゃんと手伝ってくださいね」

 

「も、もちろんだよ!ナギちゃんが幼馴染でよかったぁ~!」

 

 感極まって抱き着いてこようとするミカさんをデコピンで撃退する。本人はおでこを抑えて、ひどいと言ってますが聞かなかったことにしましょう。

 

「うぅ……いたた、そういえば今日ナギちゃんが呼ばれたお茶会って《ティーパーティー》の?」

 

「ええ、《フィリウス》のお茶会に招待していただいたので。中等部に上がれば、そのまま加入するつもりです」

 

 とはいえ、しばらくは下積みになりそうですね。そういえば、ミカさんもお茶会に呼ばれていましたね。

 

「ミカさんは《パテル》のほうに?」

 

「あ、うん、おいしいお菓子も出るからって」

 

「ミカさん……」

 

「そんな目で見ないでよー!」

 

 そんな理由で……いえ、ミカさんらしいと言えばらしいのですけど。

 

「ミカさんも、《ティーパーティー》に?」

 

「それなんだけどね、う~ん……」

 

 あまり乗り気ではない様子ですね。チヤホヤされたいミカさんにしては、珍しい気がします。まあ、ミカさんが乗り気ではない理由はおそらく……。

 

「……ミサさん、ですか?」

 

「え?なんで分かったの?もしかしてエスパー!?」

 

 普通に考えたら分かることなんですが……。

 

「んー、まあミサちゃんから目を離したくないのは理由の一つだよね」

 

 理由の、一つ?

 

「他にも何か?」

 

「ナギちゃんは知ってると思うけど、私ってチヤホヤされたりするの好きじゃん?でも、お茶会呼ばれたときチヤホヤしてもらったんだけど、良かったけどなんか違うなってなっちゃって」

 

「なるほど……」

 

「あと単純に政治とか腹の探り合いは苦手!!」

 

「それが主な理由では?」

 

「そんなことしてる暇あるなら、ミサちゃんと遊んでた方が百倍楽しいよねー」

 

 逆に言えば、ミサさんがいなかったら政治が面倒でも、何も考えずに入ってたんですね。

 

「そんなだから、《パテル》の次期首長さんに断りを入れたんだけど、それなら籍を置いておくだけでもって言われて……」

 

「えっ?通ったんですか、それ?」

 

「通っちゃった☆」

 

 それはつまり、《パテル》の次期首長だけでなく首長も同意したということ。一体なぜ……?ミカさんにただ在籍してもらえるだけでプラスになることなんて……いえ、待ってください。

 

「ミカさん、断るときになんて言いました?」

 

「えっ?えーとそれは……その、ミ、ミサちゃんと遊ぶ方が楽しいから~って」

 

「……そういうことですか」

 

 これは、トリニティの悪い部分が出ていますね……。

 

「ミサちゃんの名前出してから相手の目が変わったから、私もやらかしちゃったって思ったもん、さすがにね」

 

「ミカさんを抱き込めば、ミサさんも付属するとなれば目の色変えるでしょうね」

 

 ミサさんは他組織の勧誘をすべて蹴っており、完全にどこにも属していない無色。かつ、交友関係が狭く、友人から取っ掛かりを得られない状態です。

 

 ミサさんは確かに悪評によるイメージが付きがちですが、逆に言えば悪評が付くほど高い武力を持った人物です。最近だけでも、不良1000人に対したった一人で制圧した、なんて言われてます。……本人は実際には200人程度と言ってましたが、十分おかしいですからね?それ以前、私たちも知らない2年生や3年生の事件も《ティーパーティー》は把握してるはず。

 

「ミサちゃんにそういうイメージ持ってないから、完全にうっかりしてたぁ」

 

「このままでは、本人の与り知らぬところで政争の道具にされそうですね」

 

「勝手に巻き込まれたって知ったら、ミサちゃん怒るだろうなぁ。……組織に属するのは嫌って言ってたし」

 

「怒るかどうかは分かりませんが、道具にされるって分かっていたから、組織とは距離を置いていたんでしょうね」

 

 ミサさんの暴力は他分派や他組織のみならず、他学区……特にゲヘナ学園への牽制に使えます。ミカさんを在籍させたのは、交渉失敗したときや、いざというときの盾、でしょうか。

 

「私だけならともかく、ミサちゃんまで利用しようとするのは許せない……。こうなったら、ミサちゃんを守らなきゃ!」

 

「具体的にはどうするんですか?」

 

「……これから考える!」

 

「あ、ハイ」

 

 つまりノープランなんですね。まあ、その辺りは二人で追々詰めていきましょう。

 

「そういえば、ミサさんと言えば気になってるんですが」

 

「え、なになにー?」

 

「ミサさんのヘイローって……」

 

 そう言うと、ミカさんの顔が若干引き攣りました。

 

「分かりやすい反応ですね」

 

「あーまあ、ナギちゃんは気付くよねー」

 

「何か知っているんですか?」

 

「私も気が付いたのは夏休みの時なんだけど、なるときとならないときの差が、まだよくわからなくって」

 

「ちなみになったときはいつのことでした?」

 

「え?うーんと、洋服屋さんで着せ替えたときと、タピオカミルクティー飲んだ時と、最近だとナギちゃんちでケーキ食べてた時もなってたなぁ」

 

「それと今日教室で、ですか。確かに共通項が見出せませんね」

 

 私の家でケーキを食べてた時も!?見逃してしまうとは一生の不覚です……!

 

「そう!で、気が付いた時には戻ってるんだよねー。人体の神秘ならぬ、ミサちゃんの神秘だよ」

 

「まあ、それで何かあったからと言って、ミサさんの友人をやめるわけではありませんからね」

 

「そうなんだけど……思ってたんだけど、ナギちゃんさぁ。最近、やけにミサちゃんに甘くない?」

 

「そうですか?」

 

 言われて思い返してみれば、確かにそう見えるような。

 

「なんて言うか、ミサさんを見ているとこう、母性が刺激されてしまって……」

 

「あ~、なんか分かる気がする」

 

「ミカさんに比べれば、全然手が掛からないんですけどね」

 

「……ナギちゃん、最近私に厳しくない……?」

 

「そうですか?」

 

「無自覚!?」

 

 いつも通りに接しているはずですが。ミサさんと比べて、そう思っているだけではないですか?

 

 しかし、考えることがいっぱいで、ミカさんではないですが多少煩わしくなりますね。ですが、どれもミサさんに繋がることですし、なんとか一つ一つ片づけて行きたいですね。一先ず、目先のこととしてクリスマスパーティーのことをがんばりましょうか。

 

 

 

 

 

 

「―――おっはよー!」

 

「昼間っから元気だな……」

 

「いや、もうお昼だからね!?」

 

 クリスマス当日、いつものテンションでオレの家まで押し掛けて来たミカを見る。服の隙間から首のアザが見えて、落ち込む。

 

「その、首……」

 

「えっ、あーあはは!大丈夫だよこれくらい!」

 

「ホントに、ごめん。謝って済む問題じゃないかもしれないけど」

 

「謝って済む問題でいいよ!それに数日もすれば跡も残らず消えるから!」

 

「うん……」

 

「ほら!ナギちゃんち行くんだから着替えて着替えて!」

 

 ミカに押されるまま、自室に戻り着替えてくる。

 

「うん、じゃ行こっか!」

 

 

 

 以前通った道を通り、ナギサの家まで向かう。

 

「おはようございます。すみません、準備を手伝いに来てもらってしまって」

 

「ううん!全然!ね、ミサちゃん」

 

「いつも迷惑掛けてるし、全然いいよ」

 

 前回は入らなかった邸宅に入り、2階に向かう。案内された部屋は、広いリビングだった。大きなテレビに柔らかそうなソファとクッション。食事をとるテーブルの近くにキッチンもある。ナギサ曰く、客が来たとき用らしい。

 

「とりあえず、何をしたらいいんだ?」

 

「そうですね、とは言っても残っているのは飾り付けと料理の準備ですね」

 

「はいはーい!私飾り付けやりたい!」

 

「ふーん、じゃあオレは料理の方手伝おうかな。一人じゃ大変だろうし」

 

「え、ミサちゃん料理できるの?」

 

「おい、失礼極まりないな。男の一人暮らしなめんなよ?」

 

 そう言ってオレはミカに向かっていつも通りの笑みを浮かべる。……笑えてるはずだ。二人が気を遣って、いつも通り接してくれてるんだ。なら、オレもいつも通りのオレでいないと。

 

「……そうですか、ならミサさんには私の手伝いをお願いしますね」

 

「ミサちゃんの料理かー。ちょっと楽しみかも!」

 

「おう、任せろ。ミカの舌が壊れるくらいうまいの作ってやるよ」

 

「じゃあ私飾り付けしてくるね!いっぱい星つけちゃおっ。とりゃー!」

 

 変な掛け声をしながら、部屋の飾り付けに向かうミカ。なんだとりゃーって。

 

「では、ミサさんはこちらに」

 

 オレとナギサはキッチンに移動する。キッチンには、既に食材が用意されていた。

 

「作るものは決まってるのか?」

 

「いえ、食材は買ったんですけど、何を作るかはまだ……」

 

「ふーん」

 

 何作るか決まってないのに、食材だけ買ったのか。前から計画してた割に、ナギサにしては行き当たりばったり感強いな、と思いミカを見る。相変わらず、うおー!と言いながら飾り付けしている。そういうことか……。

 

「……なるほどね。こっちの丸いのは?」

 

「パン生地ですね。焼き立てが食べられるほうがうれしいでしょうから、時間を調節して料理が出来る前に、焼き上がるようにするつもりです」

 

「じゃあ、一品はシチューにするか」

 

「いいですね、ならマカロニサラダとポークソテーあたりも作っておきましょうか」

 

「いいと思う。じゃあ、こっちはシチュー作るからそっち頼んでもいいか?」

 

「構いませんが……そちらおひとりで大丈夫ですか?」

 

「まあな、シチューぐらい一人で大丈夫だよ」

 

 ……一人暮らしで料理作ってると、段々と一回で量作れて、日にち分けて食べられるカレーとかシチューの割合が多くなるからな……。

 

 とりあえず、たまねぎとにんじんとじゃがいもの皮をさっさと処理してしまうか。

 

「……手際いいですね。それに皮を剥くのも綺麗」

 

「そ、そうか?はは……まあ慣れてるし」

 

 じゃがいもの皮を包丁でスルスルと剥きながら、苦笑する。オレ、料理できないって思われてるのか。

 

「ミサさん、笑いたくないなら笑わなくていいですよ」

 

 心臓が跳ね上がった。

 

「なんで?」

 

「どういうことではなく、なぜ、と聞くということは自覚はあるんですね?」

 

「誘導尋問はやめろよ……」

 

 野菜を一口サイズに切り分けながら、作っていた笑みが消える。

 

「そんなに笑うの下手だったか?」

 

「いえ、俗人が見れば気付けないと思いますよ」

 

「じゃあなんで」

 

「―――友達ですから」

 

 鍋で野菜たちを炒めながら、目を見開く。

 

「あ、ちなみにミカさんも気付いてると思いますよ。言わなかったのはあの子、あれで変に空気読もうとするところありますから」

 

「そう、だったのか」

 

「笑いたくないなら、無理して笑う必要はありません。笑いたくなったら笑えばいいのですから、ね?」

 

「うん、ごめん」

 

「ふふ、ごめんなさいよりも、ありがとうのほうが喜ばれますよ?」

 

「う、そのあ、あり」

 

「―――ちょっと!二人とも、なにいい雰囲気で会話しちゃってんのっ!」

 

 リビングと繋がってる正面のスペースから、ミカが体ごと乗り出してくる。

 

「……邪魔」

 

 火を使ってるし、普通に危ないからミカを手で押し返そうとするが、なぜか抵抗が強い。

 

「ぬぬ……!あれ?ミサちゃん、何かあった?」

 

「なにって、なにも」

 

「そう?でも、さっきみたいに変に笑うよりも、今の方が自然でいいと思うよ!」

 

 その言葉にチラッとナギサを見るとナギサと目が合い、ほら言った通りでしょう?と言いたげに微笑む。

 

「ってちょっと!?今度は目で通じ合って……私もミサちゃんと目で会話する!」

 

「いや、おい」

 

 アク抜きの邪魔なんだが。ミカは無理やりオレと目線を合わせてくるが、何を伝えたいのかさっぱり分からない。

 

「伝わった?」

 

「いや全然」

 

 ミカはむー!と鳴いてるが、何がしたいんだ……。

 

「こっちはもうすぐ出来そうだ、そっちは?」

 

「こちらも出来上がりそうです」

 

「良い匂いしてきたね~」

 

「飾り付けは終わったのか?」

 

「バッチリだよっ」

 

 部屋を見れば、確かに終わってる。……ミカの趣味全開の飾り付けだが、まあミカらしい。

 

 見れば、パンもちょうど焼き上がったみたいだ。

 

 

 

「おいしそー!」

 

 ミカが盛り付けられたご飯を前にし、目を輝かせていた。

 

「ミカさん、先に食事前のお祈りを」

 

「いただきまーす!」

 

「ミカさん!」

 

「いただきます」

 

「ミサさんまで!」

 

 オレとミカはそれぞれ好きなタイミングで食べ始める。

 

「まあまあナギちゃん、今日ぐらいは神様だって許してくださるよ」

 

「いるかどうかも分からん挙句に、何もしない神に祈るのやだ」

 

「二人とも……」

 

「ミサちゃん、ミサの授業もあまり出たがらないよねー。ミサって名前なのにっ☆」

 

「……名前は関係ないだろ」

 

 ミカの言葉にムッとしながら、シチューを口に運ぶ。横でナギサは、誰もしないから一人でお祈りしてた。

 

「では、いただきます」

 

「ミサちゃん!ミサちゃんが作ったシチューすごくおいしいよ!」

 

「本当ですね。とてもおいしいです!」

 

「おう……」

 

 恥ずかしくてそっぽを向きながら答える。

 

「照れてるー!かわいい!」

 

「て、照れてないし、かわいくない!」

 

 そばにあったパンを一つ掴み、ミカの口に突っ込む。

 

「むぐむぐ」

 

 そんな感じで、3人で雑談しながら食事を食べ終え、まったりしていた。

 

「面白い番組やってねえな」

 

「クリスマスだからでしょうか」

 

「あ、そうだ!」

 

 テレビを見ながら、くつろいでいるとミカが突然声を上げた。

 

「これ!持って来たんだった!」

 

「すごろくですか……?」

 

「……新春って盤に書いてあるんだが」

 

「細かいことは気にしなーい」

 

 そう言って、床に広げ始める。

 

「誰からサイコロ振る?」

 

「じゃあオレから」

 

「お、じゃあはりきって行こー!」

 

 ミカの謎のテンションに訝しげながらも、サイコロを振った。

 

「……3か」

 

「うーん、可もなく不可もなく」

 

 隣のミカに、うるさいとチョップを入れながらコマを進める。

 

「次の自分の手番まで、語尾ににゃんをつける……?」

 

「なんですか?このマス」

 

「え?そのままだけど?」

 

 嫌な予感がして他のマスを見てみた。『右隣の人とポッキーゲーム』『服を一枚脱ぐ』『恥ずかしい話をする』

 

「おい待て、なんだこれ」

 

「~♪」

 

 ミカの隠してるすごろくの箱を引っ張り出す。

 

「『新春!罰ゲームすごろく!』最悪じゃねーか!」

 

「ミカさんのことだから、何か仕込んでると思いました」

 

「ふっふっふっ、バレちゃあしょうがない。だがしかし!勝負を受けたからには最後までやってもらうよ!」

 

 やたら芝居掛かった口調で言うミカ。なんで、見えてる地雷に突っ込まなきゃならないんだ。

 

「仕方ありません。始めてしまったからには、最後までやりましょう」

 

「ナ、ナギサ?正気か?」

 

「ええ、暇していましたし、ちょうどいいでしょう」

 

 まさか、ナギサが乗り気だとは思わなかった。

 

「ふっふっふっ、ミサちゃんも観念して語尾ににゃんをつけるにゃん!」

 

 お前がつけるのかよ。

 

「くっ…………わ、わかった……にゃん」

 

「か、かわいい……」

 

「え?」

 

「んん!つ、次は私の番ですね」

 

 ナギサがサイコロを転がし、マスを進める。

 

「『次の自分の手番までサンタコス』?サンタコスってなんですか?タコス三つ?」

 

「サンタさんのコスプレにゃん」

 

「……コスプレって衣装あるのか?……にゃん」

 

「舐めて貰っちゃあ困りますにゃん!」

 

 そう言ってミカが衣装を取り出す。いや生地うっす。

 

「え、これ着るんですか?」

 

「当然にゃん!」

 

「その、色々小さいような……」

 

「コスプレ用だからにゃん!」

 

「……なぜミカさんが、ずっと語尾ににゃんをつけているんですか?」

 

「ミサちゃん一人だと寂しいと思ってにゃん!」

 

「……余計なお世話にゃん」

 

 その後、ナギサは衣装を持って別の部屋に着替えに行った。

 

「―――あ、あの……」

 

「あ、おかえりーナギちゃん」

 

「うわぁ……にゃん」

 

「これ、破廉恥過ぎませんか……?」

 

「えっちにゃん」

 

 ナギサは超ミニのミニスカサンタ姿で出てきた。上も下も丈が足りておらず、はみ出しそうである。

 

「……まあ、ホントはミサちゃんに着せようと思ってたから、ナギちゃんにはちょっと小さかったよねー」

 

「絶対着ないにゃん」

 

 オレのミニスカサンタとかどこに需要があるんだ。

 

「次は私の番だねーえいっ」

 

 サイコロがころころと転がり、出た目の数だけ進めるミカ。

 

「『右隣の人とポッキーゲーム』やったー!」

 

 ミカの右隣って……オレか!?

 

「ミサちゃん!ん!」

 

 ミカはすでにポッキーを咥えて待機していた。ほ、ホントにやるの?

 

「んー!」

 

 ミカの催促が強くなって来たので、意を決して咥える。

 

「ミサちゃん、先に離した方が罰ゲームだよ」

 

 え?罰ゲームに罰ゲーム重ねるの?

 

「スタート!」

 

 困惑してる間に、始まってしまいミカが少しずつこちらに迫ってくる。

 

「ん~」

 

 ミカの顔がどんどん大きくなる。このままだとミカの唇が……。でも離したら罰ゲーム……。ミカより先に離すのは。ど、どうしたら……。あっ、あっ、あっ―――あ。

 

「……」

 

「……」

 

「まあ」

 

 唇に柔らかい感触とミカの顔がいままでより一番近くで見えて、顔に熱が集まっていく。

 

「あ、あはは、ミサちゃんが最後まで離さないとは、えと、ごちそうさま?」

 

「~~~ッ!?」

 

 は、はじめてだったのに……。はじめてだったのにいいいい!!

 

「あー、どっちも離さなかったし、罰ゲームは無しで次行こっか?」

 

「そ、そうですね?ええっと、ミサさん?サイコロ振れますか?」

 

 こくりと小さく頷いてサイコロを投げる。こうなったら、ミカにも同じ辱めを負わせねば気が収まらぬ!なにかミカを恥ずかしい目に合わせられるマス来い―――!!

 

 

 

 思ったより白熱した罰ゲームすごろくも遊び終わり、ナギサは疲れて眠ってしまい、ミカもトイレに行ったきり戻ってこなくて暇だ。

 

 ボーっとしてると、ふと外に繋がるドアが目に入った。確か、バルコニーに繋がってるってナギサが言ってたな。ちょっと行ってみようかな。

 

 外に出ると、雪が降っていたのか少し積もっており、肌を刺すような冷気に体が凍える。

 

「はー、意外と寒いな」

 

 吐息が白く染まり、空気に溶けていく。周りを見渡すが、真っ暗で何も見えない。手すりに寄り掛かりながら、暗闇をじっと見つめていると吸い込まれそうな気がしてくる。

 

「生きるのって、苦しいな」

 

「―――ミサちゃん?」

 

 声が聞こえて、後ろを振り返るとミカがドアを少し開けてこちらを見ていた。

 

「ミカ?」

 

「あ、ここにいたんだ。家の中探しても見つからないから、ちょっと焦っちゃった」

 

 そう言いながら、ミカはこちらに近づいてくる。

 

「あっ、結構寒いね。雪降ってたんだ」

 

「うん」

 

「はい、ミサちゃん。外に出るときはせめて毛布羽織っとかないと」

 

「あ、ありがと……」

 

 オレもミカも、ナギサから借りたパジャマを着ており、結構下がスースーする。ミカが毛布を掛けると、少し寒さが軽減された気がする。

 

「何見てたの?」

 

 そう聞かれて、少し答えに困った。何か見たくて外に出たわけではないし、何かを見ていたわけでもない。結論として、わからないだった。

 

「……わかんない」

 

「そっか……」

 

 ミカを見ては、ミカの首に目が行き、気まずくて俯く。ミカにどうしたの?と聞かれるものの、なんでも、としか返せなかった。

 

 お互いに無言のままでいると、ふとミカが口を開いた。

 

「そういえば、ミサちゃんにずっと聞きたいことがあったんだけど」

 

 一呼吸おいて。

 

「ミサちゃんって戦うのが怖いんだよね?」

 

「―――そ……」

 

 そんなことない、と言おうとしたが息が詰まって、言葉が上手く出てこなかった。

 

「もっと正確に言うなら、誰かを傷つけるのが怖い、かな?ちがう?」

 

「なんで」

 

 なんとか絞り出せた言葉がそれだけだった。ミカはこちらを真っ直ぐ見つめていて、思わず目を逸らしてしまう。

 

「ミサちゃんって、戦ってるときずっと体に余計な力が入ってるよね。あれって、人を傷つけないか緊張してるからじゃない?」

 

 否定したいのに、否定する言葉が出てこない。当たり前だ、間違ってないんだから否定できるわけがない。

 

「ミサちゃんが銃をあまり撃たないで、殴ったり蹴ったりするのも同じ理由だよね?」

 

「……」

 

 何も言えなかった。何か反論したくても、全部返される気がして。

 

「まあ、重機関銃を片手で振り回す膂力で殴られる方が、ダメージ大きい気がするけどね」

 

「……から……んだよ」

 

「ん?なに?」

 

「だから、なんだよ。別にミカには関係ないだろ」

 

 違う。ミカにそんな言葉投げるつもりじゃなかったのに。こんなのただの逆ギレだ。

 

「んーあるって言ったら?」

 

「だったら、誰も傷つけない方法でも言ってみろよ」

 

「じゃあさ―――戦うのやめたら?」

 

「は?なんだよそれ」

 

 心が冷え切っていくのが分かるのに、感情が爆発しそうなほど煮え滾っていて、自分の感情なのにコントロールできないことが恐ろしい。

 

「だってそうでしょ?戦うことで傷つけるのが怖いなら、戦わなければいいじゃん、ね?」

 

「―――ふざけるなッ!!!」

 

 手すりに、拳を叩きつけたことで、手すりの雪がみんな下に落ちていく。

 

「戦うのやめろ?戦わなければいい?勝手なことばかり言いやがって!勝手に戦いを挑んでくるのはお前らだろッ!オレは何もしてないのにいつもいつもいつもッ!」

 

「嘘つき」

 

「うそ?嘘だと?オレは嘘なんて!」

 

「じゃあ、去年はどうして不良たちの所に自分から向かって行ったの?行く必要なんてなかったよね?」

 

 去年……そうだ、あの人がシエルさんがいなくなって、不良共が襲ってきてだから俺は。

 

「あれは、アイツらが!」

 

「戦いたくないなら、向かってくる奴だけでよかったじゃん。なんでわざわざ学区内の不良全員にケンカ売ったの」

 

「違う」

 

「違わないでしょ?今ミサちゃんが色んな不良から狙われてるのは、ただの自業自得じゃん」

 

「違うっ」

 

「違わないよ。ミサちゃんは、ホントは戦いたくて戦いたくてしょうがないんだ」

 

「違うっ!」

 

「じゃあ、なんで私の首を絞めたの?」

 

 ミカの言葉で、心臓を鷲掴みにされたような感覚。息が詰まり、動悸が激しくなる。

 

「ち、ちが」

 

「ミサちゃんが私の首絞めたのって、ずっと戦ってるせいじゃない?ずっと戦ってるから、戦いの動きが身に染みて、ああいう行動取ったんじゃないの?」

 

 そうかもしれない、あのときも戦ってる直後で体が妙に熱い状態で寝てたから、起こしに来たミカを敵と勘違いしてしまったのかも。無意識に、敵を排除しようと。

 

「ねぇ、ミサちゃん。ホントは違うんじゃないの?」

 

「違、う?」

 

「ミサちゃんは誰かを傷つけるのが怖いんじゃない。自分が傷ついてしまうのが本当は怖いんだ」

 

 カヒュッと音にならない声が漏れた。

 

「誰かを傷つけるのが怖いのも、誰かを傷つけることで自分が傷つくのが怖いから。戦いたくないのに戦うのも、自分が傷つきたくないから」

 

 もう何も言えなかった。ミカは正解にたどり着いてしまった。ずっと誰にも言えず、ひた隠しにしてきた弱い自分。痛いのも怖いのも嫌で、それらを排除しようとして―――失敗した。戦うのが怖いんじゃない、戦った相手に消えない傷を負わせて、責められてしまうのが怖かった。軽蔑される。光園ミサは、強くないといけないのに。じゃないとまた一人になってしまう。また捨てられてしまう。嫌だ、一人は嫌だ。暗くて、怖くて、寒い。やだ、だれかたすけて……。

 

「―――ようやく見つけた。ここにいたんだね、ミサちゃん」

 

 ふわっと、甘い香りとともにミカが横から抱きしめてくる。

 

「やっと捕まえた。弱虫で、泣き虫で……寂しがりやなミサちゃん」

 

「ミカ?オレを軽蔑して……?」

 

「しないよ、軽蔑なんて。弱くたっていいんだよ、だってそれもミサちゃんなんだから」

 

「でも、オレ、ミカに酷いことを」

 

「ミサちゃんは考えすぎなんだよ。もし、誰かを傷つけてしまっても、ごめんなさいってすればいいんだから」

 

「でも、ごめんなさいってするの、怖い」

 

「じゃあ、私が一緒にごめんなさいってしてあげるよ」

 

 どうして?どうしてミカはそこまで……。

 

「なんでミカは、そこまでしてオレを……?」

 

「うーん、なんでだろ。わかんないや☆」

 

 そう言いながらミカは笑った。ミカの笑顔は眩しくて、オレは思わず俯いてしまう。

 

「ほら、ミサちゃん。そんな俯いてばっかりだから、暗いこと考えちゃうんだよ―――上、みてみて!」

 

 上?ミカに釣られて俯いていた顔を上げる。

 

「―――あ」

 

 そこには、満天の星があった。

 

「星が……いっぱい……」

 

「ね!すごいよね!」

 

「でも、いつから」

 

「ずっとあったよ?ミサちゃん、星を見に外に出たと思ったのに、ずっと下見てるんだもん」

 

「そっか、そうだったんだ……」

 

 上を見たら、星があったのに全く気付いていなかったなんて、笑い話にもほどがある。

 

「ミサちゃん!あれがデネブ!アルタイル!ベガ!」

 

「それ夏の大三角だろ……しかも指さす方適当だし」

 

「あははーしってるー!」

 

 ミカは、あれがシリウスだからあっちがプロキオンであっちがベテルギウスかな?と笑っていた。

 

「ねぇ、ミカ」

 

「ん?なにー?」

 

「その、さっきのことだけど誰にも」

 

 誰にも言わないでほしい。そう言おうとしたけど、あまりにも都合がいい要求なんじゃないかと思って、言葉に詰まる。

 

「誰にも言わないでほしいんだ?じゃあ、二人だけの秘密だね!」

 

「ふたりの、ひみつ」

 

「うん!あ、どうせだから指切りしよっか。ほら、指出して」

 

「う、うん」

 

「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら、はーりせーんぼーんのーます!ゆびきった!えへへ!」

 

 ミカは指切りすると、また星を見てオレに冬の星を指さして教えてくれる。そんなミカの横顔をオレは見つめていた。

 

 ミカはずっとオレを見ていてくれた。ずっとそばに居てくれて、ずっと守ろうとしてくれてる。オレが落ち込みそうになったら、すぐに励ましてくれた。……あれ?なんだろう?ミカを見ていると、胸がポカポカしてくる。不思議な感じだけど、いつもの嫌な感じじゃない。この感じが何かは分からないけど、今はただ、君のそばに居たい。

 

「どうしたの?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 そう言って、オレは笑った。

 

「……そっか!」

 

 その後、眠くなるまで二人で星を見上げていた。

 

 

 

「―――ん、んん~~っ」

 

 ソファで眠っていたナギサが目を覚ます。いつの間にか眠ってしまったらしい。体には毛布が掛かっており、二人が用意してくれたんだろう。先に眠ってしまって悪いことをした。

 

 外を見ると、日が差しており太陽が昇っていた。こんなに眠ったのはいつぶりだろうか、二人がいて気が緩んでいたのかもしれない。

 

 二人はどこだろうと思い、探すとすぐ近くに居た。

 

「……ふふっこれは少し、妬けてしまいますね」

 

 ミサとミカは同じ毛布に包まり、体を寄せ合うように眠っていた。ナギサが思わず嫉妬してしまうほど、二人の表情は幸せそうだった。

 

 




光園ミサ
メンタルが回復したからとりあえず曇らせた。過去一番の曇り。首絞め凶行の原因は別。戦うのが嫌ではなく、戦った相手が傷ついて、自分が責められるのが嫌だった。そんな浅ましくて、弱い自分が嫌で殻に閉じこもっていた。ミカにそんな弱い自分を見つけ、受け入れてくれたから心を開いた。

聖園ミカ
ずっと前から弱いミサには気が付いていた。でも、普通に指摘したところでミサは認めないので、首絞めで落ち込んだメンタルと罪悪感を利用し、言い逃れ出来ないようにした。首絞めは偶然だが、似たようなことはさせようとしていた。弱メンタルがミサに流れてるので、強メンタルと化している。

桐藤ナギサ
ミサに対して母性が芽生えた。ミカが首絞められていたとき、そばにいたが手を出さないでと言ったミカを信じて、ミサの身体を抑えるだけに留めた。トリニティの上層部が、ミサを利用しようとする動きがあるので、ミカと連携しそれとなく動きを抑えることにした。起きたらミカとミサが仲良しで、自分が仲間はずれにされたみたいで悔しくて、ミサともっと仲良くなるために、翌日からミカと一緒にミサ宅に突撃するようになった。


5年生編の集大成なので曇らせと、ちゃんと最後に救いを入れた。ミサとミカはまだお互いの恋に無自覚の状態。無自覚に、互いに強い矢印向けあってるのすごい好き。

次回からは6年生編。え?正月?バレンタイン?知らぬなぁ…。本音を言うと、一つの季節に複数行事ねじ込むと話がゴチャゴチャするし、次に書くことが無くなってしまうので!


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6年生の話・春

いつも感想ありがとうございます!

どうも、花粉症が極まりすぎて2,3日ダウンしてた魔王です。魔王だって花粉症には勝てなかったよ…。

エイプリルフールに何か書こうかと思ったけど、嘘で書くからイチャイチャ書きにくいし、かといってミカミサ曇らせを書きすぎるのも胃もたれするなぁってなって、結局何も書けませんでした。やっぱ、曇らせって幸せなシーンからの落差じゃないと心に響かないって話。そして、最後にハッピーエンドだからこそ曇らせ輝くんだなって。(隙自語)

というわけで、今回は普通の話。


 

 ―――また、新しい春がやってきた。この世界に来て、五度目の春だった。

 

 単位も無事足りて6年生に進級出来たオレは、春風に桜舞う通学路を一人で歩いていた。今日は大した授業は無いので、別に出る必要は無いのだが、たまには良いかと思いこうして学園に向かってる。

 

 次第に増えてきた学生に、見知った顔はいないか探して、見覚えのあるピンク色の髪と特徴的なヘイローを見つける。

 

「ミ―――」

 

 声を掛けようとしたところで、ハタと止まる。これじゃまるで、オレがミカに会いたかったみたいじゃないか?いやいや、偶然ミカを見かけたから声を掛けようとしただけだ。でも、大声で名前呼んで駆け寄るのは周りに迷惑だし、冷静になって余裕を持った感じで声を掛けよう。うん。

 

「よ、よおミカ」

 

「え?ミサちゃん?こんな時間に会うなんて珍しいね」

 

 振り向いたミカはオレの姿を認めると、驚きで目を丸くさせる。

 

「そ、そうか?」

 

「そうだよ、いつもは遅い時間に来るじゃん」

 

「まぁ、たまにはいいかなって」

 

「ふーん?」

 

「そういうミカも、いつもはナギサと一緒じゃん?アイツはどうしたんだよ」

 

 ミカとナギサは幼馴染故か、一緒に登校してることが多い。今日もそうだと思ったんだけど、どうやら今日はそうじゃないらしい。

 

「ナギちゃんは今日、日直だから先に学園向かったんだよ」

 

「ふーん、真面目だなアイツ」

 

「ミサちゃんが不真面目なだけだよ。あと、最近分派に顔出してるみたいだから、あまり一緒に登校できてないんだよねー。まあ、教室で普通に顔合わせるけど」

 

「分派ってフィリウスの?」

 

「うん、そうだよ。中等部上がったらそのまま加入だって」

 

 真面目だとは思ってたけど、もう《ティーパーティー》に入るのかナギサ。

 

「ん?ミカはパテルに顔出さなくていいのか?」

 

「あれ?パテルに誘われてるって私言ったっけ?」

 

 やべ、フィリウスはナギサから聞いてたけど、パテルに関してはまだ聞いてなかった。

 

「あー、以前ミカとナギサがお茶会に行ってた時に、教えてくれた子がいたんだよ」

 

 すまん、バスケ……はやってなかった子。名前覚えてないけど、黒羽だったから正実入る子なのかな。

 

「ふーん?まあ、別に隠してたわけじゃないからいいけど」

 

「で?誘われてるってことは入る予定は無いのか?」

 

 ミカは一瞬考える素振りを見せたが、ややあって口を開いた。

 

「実は、籍だけおいて実質幽霊部員みたいな扱いになると思う」

 

「へ?いいのか、それ?《ティーパーティー》って生徒会だろ?」

 

 生徒会に、幽霊部員として迎え入れるメリットってなんだよ。

 

「あはは、まあミサちゃんと一緒の方が楽しいし、私は助かるけどね」

 

「ふ、ふーん?ミカがいいなら、いいんじゃない?」

 

 ……ミカを在籍させるだけで、トリニティ上層部に一体どんなメリットがあるのか。ミカは確かに成績優秀で、人を惹き付けるほどの可愛さがある。本人に言うと、調子に乗るから言わないが。これだけだと、ミカである意味が薄い気がするな。つまり、ミカしか持ってないものか。力、人望、知識、んーあるいは繋がりか。ミカしか持ってない繋がり。フィリウスに入る予定のナギサ。は現時点だと、なにも意味を成さないし、分派同士のコネクションはミカとナギサじゃなくてもいい気がする。他の人が持ちえない唯一無二の繋がり……まさか、それって。

 

「……なぁミカ」

 

「ん?なに?」

 

「もしかしたら―――」

 

 オレのせいかも。その言葉を紡ぐ前に、絹を裂いたような悲鳴が辺りに響き渡る。オレとミカは悲鳴の方へ釣られて目をやる。

 

「あれって……」

 

「……ゲヘナ」

 

 自分でも、思っていたより低い声が出てしまった。目を向けた先では、ゲヘナ学園の制服を着た生徒が、トリニティ生を誘拐しようとしていた。どこから調達したのか、ご丁寧にバンまで準備している。

 

「……ミサちゃんってそんなにゲヘナ嫌いだったっけ」

 

「何度もゲヘナがトリニティにちょっかいかけてるの見てるし、二度、いや三度か、命を脅かされればそうなる」

 

「そんなに?」

 

「オレの住んでるマンションの付近って高級住宅だから、結構な頻度でうろうろしてるの見かける。今日は見なかったから妙だとは思ったけど、まさかこんな学園の近くに出没するとは」

 

「……もしかして、いつも時間ギリギリに教室に来るのって」

 

「はぁ!?べ、別に見かけたら助けてるとかじゃねえから!」

 

「ふーん?そうなんだー。まだ何も言ってないけどね」

 

「なっ、も、もういい!」

 

 ミカからプイっと顔を背けて、騒ぎの中心を見る。何人かが銃を撃って威嚇してる上に、人質を取られてるせいで誰も近づけなくなっていた。

 

「やばそうだな」

 

「あれ、何が狙いなんだろう?」

 

「だいたい身代金目的だとは思うが……」

 

 委員会や自警団が来てくれればそれに越したことは無いが、学園の近くでこれほどの騒ぎなのに駆けつけて来ないということは、別件で出払ってるな?

 

「ねぇ、ミサちゃん。委員会が来ないのって」

 

「別件のトラブルか何某か理由で、こっちに来れないみたいだな」

 

「あっ!ゲヘナ生たちが!」

 

 見ればゲヘナ学園の生徒たちが、全員バンに乗り込んで、攫ったトリニティ生徒ごと逃げようとしていた。

 

「……これ以上、委員会を待つわけにはいかなくなったな。ミカ、車が出る前に止める」

 

「でも、人質は?」

 

「助ける。何に利用されるか分からん以上、人質よりもこのまま連れて行かれる方がリスクがデカい」

 

「傷つけるかもしれないよ」

 

「そのときは謝る」

 

「ふふっ、ミサちゃんはしょうがないなぁ。手伝ってあげるよ、もしものときは一緒に謝ってあげる」

 

「その、ごめ……いや、ありがとう……」

 

「どういたしまして!」

 

 オレとミカは分かれて動いた。ミカは、野次馬に紛れて車に近づいていき、オレは正面から躍り出て、一気に車に接近した。

 

「え!?な、なに!?」

 

 オレはそのまま、正面から車を左手で抑え込む。その結果、発進しようとした車は、その場でタイヤを滑らしていた。その隙に、ミカが後ろから近づく。

 

「ミカ!今のうちに!」

 

「りょーかい!……鍵閉まってて開かないよー!」

 

「それぐらい壊せ!」

 

「あっ、そっか!」

 

 えいっ☆と軽い掛け声と裏腹に、車の後ろから重い音とともに後部ドアが外される。

 

「こ、こんな子供に……!くっ、ナメないでよね!」

 

「こっちには人質がいるよ!」

 

「……ふーん?貴女達は、この状況でまだ自分たちが有利だと思うんだ。角が頭に刺さってるせいで、思考まで落ちてるのかな?」

 

「なっ」

 

「ミサちゃん!」

 

「お、おう!」

 

 なんかひどい罵倒が聞こえた気がするが、聞かなかったことにして車を持ち上げる。すると、悲鳴とともに車から投げ出されるゲヘナ学園の生徒と人質のトリニティ生。車は、そのまま横倒しにして使えなくする。

 

「うぅ……」

 

「はい、私たちの勝ちー」

 

 銃を突きつけ、勝利宣言するミカ。それを横目で見ながら、倒した車の運転席からゲヘナ生を引きずり出す。

 

「……これで全員か?」

 

「みたいだね」

 

「おい、お前大丈夫か?」

 

 誘拐犯どもを全員縛り付けた後、《正義実現委員会》の到着を待つ間、人質になっていた子に話しかける。

 

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 ボーっとしていた女の子は、オレが話しかけるとガチガチに緊張しだして、オレが話しかけたのは失敗だった。学園きっての問題児が話しかけたら、普通の女の子ならそりゃ怖いよな、と。

 

「あのっ、助けていただいてありがとうございます!」

 

 ミカにバトンタッチしようと思ったら、女の子からそう言われた。

 

「いや、オレは別に……ん?」

 

 急に言われたお礼に、うまく返せなくてまごまごしてると、お礼を言うために頭を深く下げた女の子の背中が目に入った。見開かれた目に、だらしなく開いた口から垂れる舌。鳥なのか分からない怪生物のバッグを背負った女の子だった。

 

「なあ、そのバッグって……」

 

「こちらですか?ペロロ様です!!」

 

 バッグのことを聞くと、途端に満面の笑みになる女の子。

 

「へ、へぇ……」

 

「あいにくと、今日はグッズを余り持ち歩いてなくて……あ!このペロロ様キーホルダー差し上げます!私、いくつか持っているので!」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

 普通の女の子かと思ったら、普通じゃない女の子だった。

 

「ミサちゃん、それなに?」

 

「たしか、モモフレンズって作品のキャラだったと思う」

 

「ふーん?こういうの好きなの?」

 

「え?うーん……」

 

 これを好きって言う奴は、なかなか奇特な奴だと思う。

 

「《正義実現委員会》です!通してください!」

 

 そうこうしてる間に、ようやく委員会が来たらしい。

 

「ミカ、悪い後は頼んだ」

 

「え?」

 

 ミカの返事を聞く前に、その場をすぐに離れる。委員会の誘いを断ってるし、不良殴ってる場面にたびたび出くわすせいで、顔を合わせづらい。オレが関わったのはバレるだろうが、その場で居合わせなきゃ、ある程度は誤魔化せる。ミカには悪いがスケープゴートになってもらおう。……あっ、キーホルダー持ってきちゃった。せっかく貰った物だし、バッグにでも付けておくか……。

 

 

 

「ミ~サ~ちゃ~ん~……」

 

 その後、教室に現れたミカは大変ご立腹だった。

 

「よ、よぉ、おはよう。どうしたんだ?」

 

「どうしたじゃないよ!もう!あの後、一人で説明するの大変だったんだから!」

 

「ご、ごめんって」

 

 プンプンと私怒ってます、というミカのいかにもなポーズを見て必死に謝る。

 

「むー……この埋め合わせはちゃーんと、してもらうからねっ」

 

「う……わかった……」

 

 一体何を要求されるのか、今から不安になるがそれで機嫌が戻るならいいか。

 

「よし!じゃあ、早く準備済ませちゃおっか」

 

 そう言って、ミカはおもむろに体操服やら何やらを取り出す。

 

「準備?なんの?」

 

 体育は昼終わってからのはずだけど。

 

「なんのって、え?ミサちゃん、今日何があるか忘れちゃったの?」

 

「え」

 

 何があるかって、え?何かあったっけ?やばい、思い出せない。

 

「今日、健康診断の日だよ」

 

「あ‶」

 

 かんっっっぜんに忘れてた。そういえば、新学期始まってすぐに検査あったじゃん……。他の人と一緒に検査するの嫌だから、今まではわざと日数ズラして一人検査してたんだよな。やべえ、どうしよ今から帰るか。

 

「……あー、ちょっと用事が」

 

「ミサちゃん?だめだよ?」

 

「いや、あの、持病の癪が」

 

「すごく元気そうじゃんね」

 

 うぅ、全部見抜かれてる。こいつの察しの良さは一体何なんだ。

 

「体操着はあるんだよね?他の小道具は貸してあげるから行くよ?」

 

「うー……行くのやだ……」

 

「どうしてそんなに嫌がるのさ?」

 

「だって……」

 

「だって?」

 

「……他の人と検査するの、恥ずかしいし……」

 

「……」

 

 自分の裸もまともに見れないのに、他の女の子の下着姿とか直視できないよ……!

 

「……それだけ?」

 

「え?他に何か理由ある?」

 

「えっと、注射が痛くてダメとか」

 

「痛いのやだけど、別に注射は痛くないし」

 

「あー、うん、そっか……」

 

 ミカは遠い目でなるほど、と呟いていた。分かってもらえたようで何より、じゃあ帰ろ。

 

「……ミカ、この手を離してもらえると有難いんだけど」

 

「じゃあ行こっか☆」

 

「なんでよ!?行かないって言ったじゃん!」

 

「それはそれ、これはこれ。せっかく今日来たんだから、ちゃんと検査受けよ?」

 

「うー」

 

 結局、手を握られたまま引き摺られ、更衣室まで連行された。

 

 

 

「出たー?」

 

「ま、まって、そんなすぐに出ない」

 

 体操着に着替えた後、ミカが検査キット一式を貰ってきてくれて、今は採尿させられてる。さすがに、ミカに見られながらは恥ずかしいので、トイレで採尿しに来たのだが、朝一度出してるのでなかなか出ない。

 

「出ないなら手伝ってあげよっか?私、他人におしっこ出させるの得意なんだよねー」

 

「なんの特技だよ……」

 

 このままだと、ミカの謎の特技によって強制的に排泄させられかねない。少しの間、じっとしてたらようやく下腹部に尿意が溜まってきた。

 

「あ、そろそろ出そう」

 

「えー、ざんねん」

 

 なにが残念なのか、問い詰めたいが藪蛇なので黙っておいた。

 

 少しすると、何もない股からショロショロとおしっこが流れ出す。流れたものを零さないように、皿に受けて止めていく。何もない股をみると、やっぱり棒が恋しくなってしまう。棒なら採尿も楽だったのにな……。

 

「……わーお、これがミサちゃんのおしっこの音かー」

 

「っておい!バカ!?なに聞いてるんだよ!?恥ずかしいから耳塞げ!」

 

 尿検査キットに出したものを詰めて、個室から出る。

 

「……おわった」

 

「おつかれー」

 

 外に出ると、ミカはニコニコ顔で待っていた。この様子だと、耳塞いでないなこいつ。

 

「あっミサちゃん、音聞かれたくないときは、水流したり、音楽掛けるといいよ☆」

 

「……それ先に言えよ!」

 

 

 

 検査に必要なものをまとめて提出した後、ようやく検査の列に並ぶ。周りでは、ナース服のような制服を着た生徒が、パタパタと忙しなく動き回っていた。

 

 トリニティ総合学園では、《救護騎士団》という保健委員会みたいな部活があり、そこの所属員が検査の人手として駆り出されているらしい。

 

「はぁ……」

 

「もう、おしっこの音聞かれたぐらいで、いつまで落ち込んでるの?」

 

「いや、おしっこの音聞かれたら誰だって落ち込むだろ」

 

「まあまあ、ほら!次、ミサちゃんだよ!」

 

「むー……」

 

 ほっぺを膨らませて最低限の抗議をしたが、ミカには伝わらず、ぐいぐいと背中を押されて身長計に乗る。

 

「では、じっとしていてくださいね」

 

「ミサちゃん、動いちゃダメだよ」

 

「わ、わかってるよ」

 

 上からバーが下りて来て、頭にコツっと当たる。去年は140だったから、今年は150ぐらいになってるだろ。

 

「……はい、141.3cmですね」

 

 ん?

 

「すいません、もう一回測ってもらってもいいですか」

 

「え?あ、はい。……141.3cmですね」

 

 ……。

 

「あの、もう一回」

 

「えぇと、何度測っても変わらないと思いますよ?」

 

「後生ですからっ!もう一回だけチャンスをください!」

 

「わわ、分かりましたから離してください!?」

 

 騎士団の生徒に縋り付き、なんとかもう一回測ってもらえる。

 

「こほん、ではもう一回乗っていただけますか?」

 

「はい……」

 

「ミサちゃん……」

 

 さっきのは、たぶんちょっと猫背だったとかそういうのだろう。出来る限り、背中は伸ばしておこう。……ちょっとくらい、かかと浮いてもバレないよね?ちょっとだけ、ちょっとだけ……もうちょっと……。

 

「……はい、えーと、えっ!?145cm!?なんで、こんなに誤差が……」

 

「ミサちゃん、なんで急に身長が、あっ」

 

「あ」

 

 ミカにかかとを上げてるのをバッチリ見られてしまった。

 

「ミサちゃん?かかとは上げたらダメだよ?」

 

「い、いや、これは今上げたから」

 

「言い訳しない」

 

 肩に手を置かれて、無理やりかかとを台に付けさせられる。

 

「はい、141.3cmです」

 

「次行くよー」

 

「あ‶ー……」

 

 渾身のズルもあっさりとミカに見破られ、ズルズルと引き摺られ、次の検査に向かわされる。オレの身長ー。

 

「ところで、ミカ身長いくつだった?」

 

「ふっふっふー、なんと150cm超えたんだよ」

 

「え、ズルい」

 

 最近、ミカを見上げること多いと思ったけど、そんなに差が付いてるなんて……。

 

「ちょっと150cmに変えてもらってくる!」

 

「意味分からないこと言ってないで、行くよー」

 

「やだー!150がいいのー!」

 

 ミカが150超えてるのに、オレが140ちょっとなんて男としてのプライドが。

 

 結局、そのまま他の検査回らされた。ミカに体重も見られ、身長に対して体重軽すぎない?とか言われた。別にいいじゃん!

 

 

 

「づがれだ」

 

 健康診断が一通り終わった頃には、お昼回っていた。女の子しかいないから、全部回るのにすごい時間が掛かった。今日は、健康診断だけなので終わった人から帰っていいらしい。

 

「検査しただけなのに?」

 

「その検査の度に、お前がちょっかい掛けるからだろうが!」

 

「いやー、あんなに無防備にぺろんと肌を見せられたら触りたくなるよ」

 

「いや、ならないだろ」

 

 変態じゃねーか。

 

「だいたい、オレの胸に触って何が楽しいんだ?」

 

「うーん、絶壁というか無乳というかナイチチというか、きっと無いものに惹かれるんだろうね」

 

 全部同じだろ。さすがにそこまで言われるのは、むかつくんだが?

 

「ところで、この後どうする?」

 

「どうするって、帰るだけだろ」

 

 学園に居たってやることないし。

 

「じゃあ、今日はミサちゃんちで遊ぼう!」

 

「今日も、の間違いだろ……」

 

 毎日家来てるのに何言ってんだ。まあ、別にいいけど。

 

「そういえば、前遊びたいって言ってたゲーム届いた」

 

「え!ほんと!?早く行こうよ!楽しみ~☆」

 

 ミレニアムから取り寄せたゲームが気になってるのか、その日はミカに急かされながら帰宅した。

 




光園ミサ
ぺったん娘。現在141cm。女の子の裸見るのが苦手で、健康診断サボってた。女の子がみだりに肌を晒すんじゃありません!というブーメラン使い。ミカにおっぱいを揉まれたけど、性感帯じゃないので何も感じなかった。ミカに対し、かなり心を開いていて、ミカといるときはヘイローくん荒ぶってる。ペロキチから貰ったキーホルダーはバッグに付けた。体重軽いのは、一人の時ご飯あまり食べてないので。ゲヘナくん、家の近くでよく遭う。一部の人は大丈夫と知ってても、ゲヘナが嫌いになりそう。

聖園ミカ
現在150cmほど。成長期でおっぱいもそこそこある。ミサのおしっこの音は録音済み。ミサのおっぱいの大きさも気になったから揉んだ。でも、無乳だった。揉んでも無反応だったので残念。ミサのヘイローが普通の時と変わってる時で、メンタル面での違いに気づきつつある。ゲヘナはとりあえず嫌い。

ペロロ好きの学生
ペロキチ。一体何HUMIなんだ…。


花粉症の上、口内炎できてて二重苦なの草。こんなだからメンタルやられて、エイプリルフールに『セイアちゃん死亡、ナギちゃん意識不明のエデン条約編後のミカミサ』とか思いつくんだぞ。書かなくてよかった。

書くのやめてエイプリルフール終わった後に、『ホラゲに出てきそうな異形と戦ってるミカミサ』の夢を見て、こっち書きたかった~!ってなった。時間戻らないかな。詳しいストーリあるのか分からんが、なんか地下に向かう『先生』の援護で、ミカミサが異形を引きつけておくとかいう、かっこいい展開だった。続きが見たい。



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短編・遅すぎるエイプリルフール

エイプリルフールとは…。4月1日とは…。

書いて欲しそうな人多かったので書きました。曇らせてイチャイチャして曇る話です

この話見なくても本編に影響しないので、見たくない人は見なくても大丈夫です。


 

「せんせー、いるー?」

 

「ああ、ごめんミカ。どうしたの?」

 

 その日は《シャーレ》の"先生"に呼ばれ、資料室で書類の整理を手伝っていた。

 

 終わったので、事務所を覗きに来たら、先生はまだデスクに向かって作業していた。デスクの上には、まだ大量の書類が積まれている。きっと、今日も徹夜するのだろう。私が手伝えれば良かったんだけど、書類仕事はてんでダメだ。この手の仕事は、むしろミサちゃんが得意で、私の仕事もよくミサちゃんにやってもらっていた。

 

「どうしたの、じゃないよー。言われてた書類の整理終わったよ」

 

「ああ、そうだったんだ。ごめんね、せっかく手伝いに来てもらったのに、大したおもてなしも出来なくて」

 

「ううん、大丈夫だよ。先生が忙しいのは、ちゃんと分かってるし。それより、ちゃんと寝てる?目の下のクマすごいよ?」

 

 実際、何度か過労で倒れてると、他の生徒に会ったときに聞いていた。前からワーカーホリックなところはあったらしいが、最近は特にオーバーワーク気味らしい。

 

「他の生徒達にもよく言われるから、この仕事が片付いたらちゃんと寝るよ」

 

「もう!仕事はまたできるんだから、先に寝ようよ!」

 

「あはは……わかってるんだけどね。ただ……」

 

「ただ?」

 

「私がもっと上手くやれていれば、トリニティはもっと良い結末があったんじゃないかって」

 

「先生……」

 

 先生はやさしい。やさしいが故に悩むのだろう。トリニティを退学になった私のために、《シャーレ》で保護してくれたのも先生だ。そんな先生のために、何かしてあげたいけど、私は事務仕事なんて全然できない。出来ることと言えば、戦うことだけだ。ミサちゃんなら、きっと上手く仕事回せたんだろうなぁ。

 

「……あ、ごめん先生。そろそろ時間だから……」

 

「もうそんな時間だったんだ。こんな時間まで付き合わせちゃって、ごめんね」

 

「ううん、全然大丈夫だよ!先生のためだからね!でも、早く帰らないとあの子が心配するから」

 

 時計を見ると、短針が6を回ろうとしていた。そろそろ帰ってあげないと、あの子に怒られちゃう。

 

「……ねぇ、ミカ。その……ミサは……?」

 

「あ、うん。普段は過ごせてはいるんだけど、やっぱりたまに泣きそうな顔したり、何もせずにジッとすることもあって……」

 

「そう、なんだ……」

 

 先生はミサちゃんの話題を出すと、いつも暗い顔になる。先生のことだから、生徒が心に深い傷を負ってしまったのは、自分のせいだと思ってるのかもしれない。そんなことはないだろう。ミサちゃんも口には出さないが、先生には感謝しているはずだ。

 

「大丈夫だよ。時間が経てば、ミサちゃんも立ち直れるよ。そしたら、また4人で遊びに行こうねって約束もしてるから!」

 

「……っ。そっか……。今日は、ミカの元気そうな顔を見れてよかった」

 

「うん!私も先生の顔見れてよかった☆じゃあ、またいつでも呼んでいいからね~!」

 

 そう言って私は《シャーレ》を後にした。帰宅の道すがら、思うのはミサちゃんのことだ。セイアちゃんとナギちゃんが死にかけたあの事件。私が犯した罪を、ミサちゃんがすべて背負ってしまった。心無い言葉を浴びせ掛けられ、裁かれたミサちゃんは心に深い傷を負ってしまった。そんなミサちゃんを庇い、私も退学同然となったところを《シャーレ》の"先生"が退学を一時保留とし、《シャーレ》で保護してくれた。一時保留とは言うが、事実上退学扱いで学園にも今は通っていない。一応、籍は残っているらしいが卒業までの残りを《シャーレ》で過ごすことになるだろう。

 

 そんな私たちの家も、今はトリニティではなく、《シャーレ》のあるD.U.地区にある。ミサちゃんが自費で購入した一軒家だ。今はこの家に、二人で住んでいる。

 

「ただいまー」

 

「―――ミカ!おかえり!」

 

 家に入った途端に、ピンク色の塊が腹に突貫してきた。よく見たら、ミサちゃんだった。ミサちゃんは腰に手を回して私に抱き着いており、顔をすりすりと擦りつけて来ていて小動物みたいだった。

 

「もう、ミサちゃん。急に飛びついてきたら危ないよ!」

 

「えへへ、ごめんなさーい」

 

 そう言いながらも、ぐりぐりと頭を腹に押し付けてきているので、満足するまでされるがままになっておいた。

 

「ミカ、ご飯出来てるけどどうする?先にお風呂にする?そ、それとも、私……なんて、きゃー!」

 

 言っちゃったー、と顔を赤くするミサちゃんにムラッと来たが、なんとか抑える。やはり、お楽しみは最後に取っておきたい。

 

「うーん、先にお風呂入りたいなー」

 

「そ、そう……」

 

 露骨に悲しそうな顔をされると、襲いたくなるからやめて欲しい。この子のこういうところは昔から変わらない。

 

「ほら、ミサちゃんお風呂一緒に入ろ?」

 

「う、うん!あ、お風呂に入る用意してくるね!」

 

 嬉しそうに駆けてくミサちゃんを見送り、ホッと一息吐く。今日は結構元気そうでよかった。その後、ミサちゃんとお風呂で洗いっこした後、ご飯を食べた。

 

「ふー、お腹いっぱい」

 

「ふふ、お粗末様でした」

 

 ミサちゃんの作るご飯はすごくおいしい。家のことは全部やってくれるし、ベッドの上ではエッチだし、私には勿体無いくらい出来たお嫁さんだ。

 

「そういえばね、この前セイアちゃんとナギちゃんと会ったよ」

 

 すると、ガシャン!とガラスの割れる大きな音が響き渡る。音はミサちゃんのいるキッチンからだった。

 

「え!?何の音!?ミサちゃん大丈夫!?」

 

「―――あ、大丈夫!ちょっと、お皿落としちゃっただけだから!」

 

「……ホントに大丈夫?」

 

「うん……ガラスが飛び散って危ないから、キッチン入ってきたらダメだからね!」

 

 そう言いながら、ちりとりと箒を持って掃除し始めた。ミサちゃんがそういうなら、きっと大丈夫だろう。

 

「……ねぇ、ミカ。セイアとナギサは、元気……だった?」

 

「うん?結構元気そうだったよ。私たちが抜けた穴を埋めるのに忙しいって、嘆いてたよ」

 

「そっか……それなら、よかった」

 

 少しして、キッチンの方からすすり泣くような声が聞こえて来て、慌ててキッチンに入るとミサちゃんが膝を抱えて泣いていた。

 

「ミサちゃん!」

 

「あ、ミカ……っ」

 

 私を見たミサちゃんは、そのまま私の胸に飛び込んできた。私は飛び込んできたミサちゃんを受け止め、何も言わずそのまま頭をゆっくりと撫でる。ミサちゃんが甘えたいときに、いつもやっていたことだ。こうすると、ミサちゃんは落ち着く。

 

「ぐすっ、ごめんねミカ。いつもいつも、こんな私で」

 

「ううん、大丈夫だよ。ミサちゃんにはいつも助けられてるから、これぐらいならお安い御用だよ」

 

「うん、ありがとう……」

 

 そのままの状態で、ジッとしてるとミサちゃんがもぞもぞと動く。

 

「ん?ミサちゃん、どうしたの?」

 

「あ、その……ミカ、このままシない?」

 

 ミサちゃんは顔を赤くしながら、上目遣いで足をモジモジと擦り合わせており、すごく煽情的だ。思わず、ゴクッと生唾を飲み込んでしまった。

 

「―――ッ。じゃ、じゃあベッド行こうか」

 

「う、うん。お願いします……」

 

 その場で押し倒さなかった私を褒めて欲しいくらい、ミサちゃんの誘う姿は刺激が強すぎた。

 

 寝室に移動して、二人が寝転がっても全然余裕のある、キングサイズのベッドにミサちゃんを寝かせる。

 

「ミカ……ん……」

 

 期待に潤んだ瞳に、我慢できずミサちゃんにキスする。何度もキスしながら、ミサちゃんの白くてかわいいその肢体に手を這わせていく。キスをしなが手を這わせると、その度にビクビクと反応してくれるのが嬉しくて、何度もしているとミサちゃんに止められる。

 

「ミ、ミカ、あの……こっちも……」

 

 そう言ってミサちゃんは、服の上をめくっておっぱいを露出させる。あまりにもエッチな仕草に興奮してしまう。

 

「ミサちゃんのおっぱい、昔はぺったんこだったのに大きくなったね」

 

 そう言いながら、ミサちゃんのおっぱいを軽く持ち上げる。今はCカップって言ってたけど、Dはありそう。

 

「んんっ、ミカが育てたんだよ?」

 

「ふふっ、そっかぁ、私の手で育てたんだと思うと、愛しさも増しちゃうね。あむ」

 

「ひゃあっ!?」

 

 白くて丸いお山の上で主張していたサクランボを口に含むと、ミサちゃんの腰が浮き上がる。口に含んだまま、口の中で転がすと嬌声を上げて感じていた。そのまま、もう片方のサクランボを空いてる手で押し潰すと、体を弓なりに反った後、ベッドに体を投げ出す。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「……ぷは、ミサちゃん。かわいい♡」

 

「ミカ……私もう……」

 

 ミサちゃんは、視線を自身の下腹部に移す。触ると、すでに大洪水だった。

 

「……あれ?ミサちゃん、下履いてなかったの?」

 

「あ……その、今日はミカにして欲しかったから……」

 

 先に脱いでいたと?私の嫁エッチ過ぎない?もう我慢できない!

 

「ミサちゃん!」

 

「あ♡ミカ、私の中に来て♡」

 

 私とミサちゃんはその後も体を重ね続けた。

 

 

 

 

 

 

 激しい情事の後、疲れ果てて眠ったミカ。シーツを引き寄せて、ミカの身体に掛けた後、私もシーツに潜り込んで、ミカに体を寄せる。そして、ミカの安らかな寝顔を見てホッとする。

 

 ……トリニティで起こった一連の事件、エデン条約編で私は失敗してしまった。セイアは死んでしまい、ナギサは今も目を覚まさない。ゲマトリアのベアトリーチェは倒すことが出来たが、ミカは罪の意識に押しつぶされ精神を壊してしまい、記憶に蓋をしてしまった。ミカは今もセイアもナギサも無事でいると思っている。時折、何も無いところに話しかけて、「セイアちゃんとナギちゃんとお話してた」と笑顔で話すミカに、真実を告げることなんて出来なかった。

 

「ん……んぅ……ミサ、ちゃん」

 

「ミカ……」

 

 抱きしめてきたミカに対し、私も抱きしめ返す。

 

 世界はミカにやさしくなかった。この世界のどこにも楽園なんてない。でも大丈夫だよ、ミカ。驕り高ぶった傲慢な神々も、ミカを救えなかった無能共も、ミカを傷つけるすべて、全部、全部―――

 

 

 

 

 ―――壊してあげるから

 

 

 

 




解説することは、ないッ!!!

解説入れると、本編のエデン条約編のネタバレ盛沢山になっちゃうから、仕方ないね。感想等で、考察する分には面白いのでどうぞ!

一つだけ捕捉を入れると、この世界はこの後ミサちゃんテラーが一晩で滅ぼしました。


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誕生日の話

感想いつもありがとうございます!

前回のエイプリルという名のifBAD結構反響あってびっくり。曇らせ大好きか?

結末がハッピーエンドなら、いくらでも曇らせを書いてもよいと古事記にも書いてある。まあ6年生編は曇らせ無いんですけどね!

なので、今はほのぼのを楽しんでてください!


 

「ミサちゃん!誕生日おめでとー!」

 

「おめでとうございます」

 

 その日、ナギサに呼ばれて家まで行くと、クラッカーの音と共に祝福される。なので、オレも隠し持ってたクラッカーを、ミカに向けて引いた。

 

「ミカも、誕生日おめでとう」

 

 ミカとナギサが呆気に取られた顔をしていたので、作戦成功と心の中でほくそ笑む。

 

 

 

「ミサちゃん、ごめん!ちょっと用事があって一緒に帰れない!」

 

「ふーん?」

 

 また明日ねー!と言いながら教室から出て行くミカ。今日で一週間だ。ミカがそう言って下校を断ったのは。流石のオレでも不審に思う。だが、カレンダーを見てすぐに気付いた。たぶん、オレの誕生会でも計画してるんだろう。ミカのことだ、その日が自分の誕生日でもある事を、忘れてなければいいけど。

 

 しかし、思ったより気付かないフリして過ごすのってしんどいな。特に、ミカがうっかり漏らしそうになるのをフォローするのが。……なんでサプライズされる側のオレが、フォローしてるの?

 

 モヤモヤした気持ちを抱えながら、街に出る。ミカのサプライズは気になるが、それはそれとして、オレもミカの誕生日プレゼントをそろそろ決めないとな。ここ何日か、街をぶらついては店を物色しているが、ピンとくるものがない。

 

「うーん……」

 

 女の子って何をプレゼントしたら、喜ぶんだろう……。悩みながら歩いてると、以前ミカと行ったアクセサリーショップがあった。あの時は、エメラルド置いてたんだよな。そう思いながら、今もオレの羽に着けてる飾りを見る。もしかしたら、またなにか掘り出し物があるかもしれない。

 

 羽が邪魔にならないように折り畳んで、店に入る。ミカと来た時も思ったけど、客が少ない。見つかりにくい所にあるし、やっぱり知る人ぞ知る、みたいなところあるんだろうか。

 

 ミカにプレゼントするなら、やっぱりアクセサリーが良いのかな。店内を物色していたが、オレのセンスではなかなか良いのが決まらない。いっそのこと、目を瞑って掴んだ奴をプレゼントにするか。

 

「……これ!」

 

 そして、掴んだものを見ると、月の形をしたイヤリングだった。オレにしてはセンスの塊では?と思ったが、小学生にプレゼントするには背伸びしすぎな気がする。でも、さっき掴んだ奴をプレゼントにするって決めたしなぁ。うーんうーんと悩んで、結局月のイヤリングに決めた。

 

 よく見たら、これ耳に穴開けて通すタイプだな。んー……エメラルドの飾り用意してくれた店員さんなら、耳に挟むタイプに変えられないかな。

 

「あの、これ欲しいんですけど、耳に挟むタイプに変えられませんか?」

 

「はい、こちらですね、ありますよ。今すぐ変えてきましょうか?」

 

「はい、お願いします」

 

 ホッとしながら、待つこと数分。戻ってきた店員から、イヤリングを包装してもらってから受け取り、会計を済ませた。

 

「ありがとうございましたー!」

 

 ホクホクと店から出て、いつ渡そうかと思う。やっぱり、オレを驚かせようとするタイミングが一番いいだろうか。オレにサプライズをしようとしたお返しだ。サプライズ返しでキレイにハメてやろう。

 

 

 

「―――で、キレイにハマったのがお前らだ」

 

「なるほど、そういうことだったんですね」

 

「むー!ミサちゃんにハメられるなんてー!」

 

 リビングに集まったオレたちは、事の経緯を説明した。やはりというか、ミカはサプライズが失敗どころか、やり返されて頬を膨らませてる。ふふふ、最近はミカにされるがままだったからな、これは気持ちがいい!

 

「ん!」

 

 ミカが手を差し出してくる。

 

「……?」

 

「ん!」

 

 わけも分からず首を傾げていると、再度手を突き出してくる。とりあえず、ミカの手のひらの上に手を置いてみた。

 

「かわいいけど、ちがーう!」

 

「えぇ……」

 

「ミサさん、プレゼントのことでは?」

 

 ああ、手を差し出すのってそういうこと。

 

「それならそうと言えよ」

 

「いや、この流れで急にお手させるわけないじゃん!」

 

 バッグの中から包装されたそれを、ミカに渡す。

 

「はい、これ」

 

「わぁい!……開けていい?」

 

 こくり、と頷く。ミカは丁寧に包装を開けて、中身を取り出すと目を輝かせる。

 

「わぁ……!かわいい!」

 

「月のイヤリングですか。ミカさんにぴったりですね」

 

「今着けてもいい!?」

 

「う、うん、どうぞ」

 

 んしょ!んしょ!と言いながら耳に着けるミカ。

 

「えへへ!どう?」

 

「似合ってますよ、ミカさん」

 

「ん、まあいいと思う」

 

「えへへ~、ミサちゃんありがとう!」

 

「……おう」

 

「ノンホールピアスなので、耳への負担も少なそうですね」

 

「のん……?」

 

 ナギサが唐突によく分からないことを言い出した。イヤリングと何か違うのか?

 

「ノンホールピアスですよ、ミサさん。イヤリングと比べて、まあ耳を痛めにくいものと考えて頂ければ、良いと思います」

 

「へぇー」

 

 よく分からんがいいものらしい。

 

「私からミサちゃんに、はい!」

 

 そう言って取り出したのは、腕で抱えられるくらいの箱。

 

「開けても良いのか?」

 

「いいよー!」

 

 箱を開けて出てきたのは、大きなぬいぐるみだった。

 

「……テディベア?」

 

「うん!ミサちゃんって寝るときよく抱き着いてくるから、ぬいぐるみとか良さそう!って思って」

 

 バカを言うなそんな事実は無い、はずだ。え、オレよく抱き着いてるの?

 

「そうですね。お泊りの時は、よく抱き着いてきますね」

 

「……」

 

「あれ?ミサちゃん、顔赤いよ?」

 

「う、うるさい!」

 

 持っていたテディベアで顔を隠す。

 

「ふふっ私からは、こちらをどうぞ」

 

 ナギサのプレゼントは、ティーセットだった。派手な感じではなく、かといっておとなしい印象も与えない意匠のもの。

 

「行きつけのお店で見つけたんです。派手なものを好まないミサさんに、ぴったりかと」

 

「あ、ありがと」

 

「……私、お礼言ってもらってない。プレゼント嬉しくなかったんだ」

 

 オレとナギサのやり取りを見ていたミカが、そんなことを言った。

 

「ベ、別にそういうわけじゃっ」

 

「でも、言ってない」

 

「う」

 

 ナギサに助けを求めるように見たが、苦笑してこちらを見るだけだった。

 

「だ、だって」

 

「だって?」

 

「……だって、ミカに面と向かって言うの恥ずかしくって……でも、ごめん。プレゼント、嬉しかった……ありがとう」

 

「んー、んふふ!そっかぁ、ミサちゃんは仕方ないなぁ」

 

 ミカは抱き締めて撫で回そうとしてくるので、ぬいぐるみを間に挟んでガードする。

 

「うー、ミサちゃんがいじめるぅ」

 

「正当防衛」

 

「ミカさん、それ以上ミサさんにウザ絡みしたらかわいそうですよ」

 

「うざ!?ナギちゃんひどくない!?そ、そんなことないよねミサちゃん?」

 

「……うん、まあ……」

 

「こっち見て言って!」

 

 いつも通り騒がしくなるミカに、まあまあとナギサが宥める。

 

「澄ました顔で宥めてるけど、ナギサが焚きつけてるんだよな」

 

「そうだよ!ナギちゃんひどいよ!」

 

「おや、何のことでしょう」

 

「む~」

 

「ほら、ミカさん。機嫌を直してください。私からのプレゼントですよ」

 

「し、仕方ないな~」

 

 ナギサに手のひらの上で転がされてる……。

 

「あ!これ欲しかったブローチだ!ありがとうナギちゃん!」

 

「喜んでもらえてよかったです」

 

 プレゼント渡しがひと段落着いたときに、きゅうっと音が鳴る。ハッとして、お腹を抑えるものの、ミカとナギサが音が鳴ったオレの方を向く。

 

「今の音、ミサちゃん?」

 

「ふふっ、随分可愛らしいお腹の虫さんでしたね」

 

「あ、いや」

 

「そういえば、もうこんな時間かー。ミサちゃんのお腹の音が鳴るのも仕方ないよねー」

 

「ミサさんのお腹のために、先にディナーにしましょうか」

 

「あう……」

 

 あまりの恥ずかしさに、ぬいぐるみで顔を隠すしかなかった。穴があったら入りたい。

 

 その後、ナギサが用意していた料理に舌鼓を打ちながら、談笑した。

 

「ふー、おなかいっぱい」

 

「ミカさん、だらしがないですよ」

 

 料理を食べ終わった後、ミカはソファでだらけていた。オレはしてもらってばかりだと悪いから、食器を洗わせてもらってる。

 

「まあ、でも分かる。ナギサの料理食べた後、横になってダラダラしたい」

 

「えへへ~、だよね~」

 

 ミカはトロけ過ぎだが。

 

「はぁ、私の料理をそこまで気に入って頂けたなら、嬉しい限りです。ですが!そのまま寝てしまう前に、ちゃんとお風呂に入ってくださいね」

 

 お風呂か。いつもなら、ミカ、オレ、ナギサの順で入るけど、ミカがこのまま溶けてるままなら、先に入らせてもらおうかな。

 

「あ!じゃあ今日はみんな一緒に入ろう!」

 

 ん?

 

「ふむ、たまには良いかもしれませんね」

 

 え?

 

「い、いや、オレは後で入るから二人でどうぞー」

 

 じゃないと、ミカとナギサの裸を見てしまうことに……!食器を洗い終わったので、そそくさと逃げようとしたが、ミカに回り込まれてしまった。オレの後ろには、ナギサが笑顔で肩に手を置いている。

 

「何言ってるの?ミサちゃんも一緒だよ!」

 

 れっつごー!と言いながら引っ張るミカとナギサに抗えるはずもなく、抵抗空しく脱衣所に連れて来られる。

 

「あわわわわわ」

 

 脱衣所に着くと、ミカもナギサもスルスルと服を脱いでいく。目のやりどころに困る!なんとか目を瞑って、耐えるしかない!

 

「ナギちゃんとお風呂一緒に入るの久しぶりだねー」

 

「そうですね。昔はよく一緒に入ってましたけど、大きくなってからはなんとなく、別々で入るようになりましたからね」

 

「ふーん。遠慮のない間柄ではあるけど、線引きはしっかりとしてるんだな」

 

「うん……って、ミサちゃんはどこ向いてるの?」

 

「あ、お構いなく。二人で友情を確かめ合ってもらってどうぞ」

 

「意味不明なこと言ってないで、脱がすよー」

 

「やー!」

 

 スポーンという音がしそうなくらい簡単に脱がされ、あっと言う間に全裸にされた。どうにか見ないように、そうだ!タオルを顔に巻こう!

 

「ふぅ、これなら安心」

 

「いや、危ないから」

 

「あぁ……!」

 

 危ないからとタオルを取られる。確かにそうだけど!女の子の裸の方が危ない!

 

「うー、じゃあ連れてって」

 

「よく分かんないけど、分かった。手離したらダメだからね」

 

「ミカさん慣れてますね」

 

「ミサちゃんが変なことするのは、今に始まった事じゃないからね」

 

「そういえば、そうでしたね」

 

 まるで、人がいつも奇行に走ってるかのような物言い。問題行動は多くても、奇行には走らないがモットーのオレだぞ。まあ、そんなことを言って手を離されたら困るから、言わないけどな。

 

「わーい!ひろーい!」

 

「ちょ、グイグイ引っ張らないで!見えないから!」

 

「ミカさん、ミサさん。先に汗を流してくださいね」

 

「はーい!」

 

「はやく上がりたい……」

 

 ミカに引っ張ってもらって、イスに座る。自分の身体を見ないように、洗わなければいけないがシャンプーとシャワーの場所が見えない。仕方ないので薄目開けて探すと、すぐ目の前にあった。適量取り、いつも通りガシャガシャと洗う。髪が短いと、洗うのが楽だ。

 

「ミサちゃん、いつもそんな洗い方してるの?」

 

「え?まあ、だいたいこんな感じ?」

 

「その洗い方だと髪痛めちゃうよ」

 

「む、別にオレがどんな洗い方してようがミカには関係ないだろ」

 

「むむ、確かにそうかもしれないけど……せっかくミサちゃんも綺麗な髪持ってるのに、もったいないなぁ」

 

「まあ洗い方は人それぞれですから、あまり押し付けるものではないと思いますよ」

 

 そうだぞ、ナギサの言うとおりだ。

 

 風呂桶に溜まってるお湯を頭から被り、泡を洗い流す。また薄目を開けて、スポンジとボディソープを手に取り、スポンジを泡立てる。スポンジを体に滑らせ、サッと擦りつけるとシャワーを流して泡を洗い流す。よし、終わり!おっふろ♪おっふろ♪

 

「ミサちゃん!ちょーっと待ったぁー!」

 

「ふぇ!?なになに!?」

 

 腰のあたりに、マシュマロのような柔らかい感触に後ろを見ると、ミカが抱き着いていた。あわわ、ミカの裸が!

 

「ミサちゃん、アソコ洗ってないでしょ」

 

「あそこって、どこ!?」

 

「アソコはアソコだよ!その……女の子の大事な所……」

 

 女の子の大事な所って、えー。

 

「やだ」

 

「や、やだって……ソコも汚れが溜まるから汚いよ?」

 

「いやなものはいやなの!」

 

「汚れが溜まりすぎると、病気になったりするんだからね?」

 

 え?そうなの!?でも、うー。あ!そうだ!

 

「じゃあ、そこまで言うならミカが洗ってよ!」

 

 これなら、完璧だ。

 

「へ!?私が!?……い、いいの?」

 

「ミカが言い出しっぺなんだから、そうでしょ」

 

「あ、じゃ、じゃあイスに座って……」

 

 ミカに促され、もう一度イスに座る。ミカはオレの正面に回っている。

 

「足開いてもらっていい?」

 

「ん」

 

「ごくっ、ここがミサちゃんの……。ミサちゃん、デリケートな部分だから、痛かったら言ってね」

 

「ん。……んっ」

 

 ミカの指がアソコに触れ、開いていく。

 

「わーお、キレイなピンク色。ミサちゃん、大丈夫?」

 

「んっ、ちょっとくすぐったいけど大丈夫」

 

「ミカさんは息が荒いようですけど、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だよナギちゃん。私は超冷静だから」

 

 気が付けば、ナギサも近くに来ていたようで、声が近くから聞こえる。

 

「……やっぱり、汚れ溜まってるね。放置してたら、ミサちゃんの女の子の部分が腐り落ちてたよ」

 

「え!?そ、そんなに危なかったの?」

 

「まあ、すぐにどうこう、というものではありませんが、ちゃんと洗わないと炎症を起こして病気になったりするので、危険ではありますね」

 

「あうあう。ミ、ミカ!明日からもオレの代わりに洗って!」

 

「えぇ!?や、やぶさかではないけど、ちゃんと自分で洗わなきゃだめだよ」

 

「うぅ……」

 

 話しながらもミカは丁寧にソコを洗っていく。手慣れてるのか、くすぐったくはあったけど痛くは無かった。

 

「……うん、これで大丈夫かな。はい!キレイになったよ!」

 

「ありがと、ミカ」

 

「うん、どういたしまして!……でも、ミサちゃん今度から人にお願いしちゃダメだからね?」

 

「え?なんで?」

 

「な、なんでって、女の子の大事な所なんだから他人に触らせちゃダメだよ」

 

 ミカとナギサは他人じゃなくて、友達だから大丈夫では?と言ったら、違うと言われた。

 

「そういうのは、家族とか伴侶とか」

 

「あ、なるほど!じゃあオレとミカが家族になればいいのか!!」

 

「へぇあ!?」

 

「かッゴホッ!?ゴホッ!?」

 

「わー!?ナギちゃんがむせた!ミサちゃん!それ絶対に他の人に言っちゃダメだからね!?」

 

「え?うん?」

 

 オレかミカのどっちかが養子に入ればって思ったんだけど、ダメなのか。

 

 ナギサが落ち着いた後、お説教を貰い、3人仲良くお風呂に浸かった。お風呂は乳白色をしていて、肌が見えづらくて助かった。ミカとお風呂で泳いではしゃいでたら、またナギサに怒られ危うく口に拳をねじ込まれるところだった。

 

 お風呂から上がり水気をふき取った後、ナギサに用意してもらったワンピースみたいなパジャマを頭から被り、寝室に移動する。

 

 オレが一番乗りなので、勢いよくベッドにダイブして跳ねて遊んでると、ミカとナギサもやってきた。

 

「ミサちゃんずるーい!私も私も!」

 

 ミカもダイブしてきて、二人で跳ねてるとナギサに手招きされる。また怒られるのかとビクビクしながら近づく。

 

「ミサさん、髪をちゃんと拭かずに出て行ったでしょう。そのままだと風邪をひくので、こちらに座ってください」

 

 そう言われて、ナギサが座ってるベッドの縁の近くに座ると、ナギサが後ろから髪を拭ってくれる。

 

「ふわぁ……」

 

「痛くないですか?」

 

「気持ちいい……」

 

「それはよかったです」

 

 ナギサにされるがままになってると、ミカが複雑そうな顔でこちらを見ていた。

 

「ナギちゃん、やってくれたね?」

 

「ふふっ、まあ早い者勝ちですよ」

 

「むむむ」

 

 よく分からんが、仲良くしろよー。

 

 髪を乾かした後、誰がどこで寝るかを決めることにした。

 

「ミサちゃんは真ん中ね」

 

「ミサさんは真ん中ですね」

 

「あれ?オレに決定権……」

 

「じゃあ、私右ー」

 

「では、私は左側で」

 

 で、今ミカとナギサに挟まれてベッドで横になっている。

 

「なんでオレ真ん中なの!?」

 

「だってミサちゃん、寝相でベッドから落ちそうだし」

 

「あと、川の字ならこの形が自然ですしね」

 

「あははミサちゃん、一番小さいもんねー!」

 

「お、大きくなるもん」

 

 がんばれ!オレの細胞!大きくなって二人をアッと言わせるんだ!

 

「あ、ミサちゃん。はい、ぬいぐるみ」

 

「うぅ、子ども扱い……」

 

「素直に受け取るんですね」

 

 ミカから渡されたぬいぐるみを抱くと、安心感がある。

 

「こうしてると、親子みたいですね。家族で過ごすってこんな感じなんでしょうか」

 

「……ナギちゃん?まさか」

 

「ち、違いますよ!?別にさっきの話がどうという訳ではなく!」

 

「あははー!冗談だって!ならミサちゃんは娘なのかな?」

 

「もう!……そうですね、手のかかる娘、あるいは妹ですかね」

 

 二人が何か話してるが、安心したら急激に睡魔が襲ってきて頭がぼんやりする。

 

「ミサちゃん、もう眠いの?」

 

「今日、一番はしゃいでいたのはミサさんでしたからね」

 

「ふふっ、そうだね。ミサちゃん、おやすみ」

 

「ミサさん、ゆっくり休んでください」

 

 ミカとナギサの手の温もりを感じながら、まどろみに身を任せ目を閉じた。

 

 

 

 翌日、起きたオレがミカに抱き着いてて混乱したのは言うまでもない。

 

 

 




光園ミサ
手のかかる末妹。体が女の子でも、性自認が男のままなので相変わらず苦労している。プレゼントのテディベアとティーセットは、あの後もよく使ってる。ぬいぐるみを抱いて寝ると、よく眠れると分かったので毎晩抱いて寝てる。でも、ミカ抱き締めてる時の方がよく眠れた。人肌恋しい系女児。ミカに女の子の部分触らせたが、自分で触りたくないだけで特に何も考えていない。

聖園ミカ
たまに暴走する次女。ミサからのプレゼントは嬉しくて毎日着けてる。ナギサからのは、その日の気分やアクセの組み合わせで着けたり着けなかったり。ミサの女の子を触るときすごく興奮していた。抱き着く、指先で袖を引っ張る、スカートの中を見せる、胸を隠さないなど、ミサが頻繁に無防備なムーブをするので、最近は自分を抑えるのに必死。

桐藤ナギサ
しっかり者の長女。今回は事前にミカから相談受けてたので、ちゃんとパーティーの準備をした。最近は《ティーパーティー》への根回しのため、あまりミカミサと遊べてなかったのではりきって準備した。ミカはアクセ集めが趣味なのは知っているので、毎年プレゼントにあまり悩まないが、物欲少ないミサのプレゼントはギリギリまで悩んだ。1年も一緒に過ごしてると、ミサに対し手のかかる妹のように思っている。


ミカの誕生日、ひと月後なのに今書いちゃったよ。でもこのペースだと、ミカの誕生日ぐらいにはミサメス堕ち書いてるんだわってなったから、今書いた。

ミサは順調に女の子に染まってる。というか行動が女児そのもの。なお無自覚。


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6年生の話・夏

感想いつもありがとうございます!誤字報告も感謝!

感想に面白い疑問があったので、答えちゃうじゃんね!

Q.ナギサとミサ、プロローグより仲良くなってない?

A.そう見えるよね。実際は、ミカと比べると仲良くなっていない。ナギサはまだミサバリアを突破出来ていないので、距離を詰めると踏み込んでほしくないミサが離れます。二人で話すことはあっても、二人っきりになったことは無いんですね。必ず、ミカが傍に居ます。二人で話しているとミカが絶妙に邪魔してきます。プロローグで、二人がお互いの関係性を曖昧に話すのはそういう事情があったからですね。しかも、ナギサは中等部に上がると会う時間が減り、ミサは中学の間はミカに調教されてる。

プロローグのナギサは、《ティーパーティー》のナギサと友人のナギサがせめぎ合った結果です。ナギサ視点を見ると、《ティーパーティー》として判断を下すナギサと、ミサを誤解しない人が増えたわーいと喜ぶ友人のナギサがいます。判断が甘めなのは友人補正。


 

「授業終わった!ミサちゃん遊びに行こー!」

 

 終業のベルが鳴るなり、はしゃぐミカ。

 

「……今日、水泳あったから疲れてるんだけど」

 

「なら、パーっと遊んで疲れを吹き飛ばそうよ☆」

 

 パリピみたいな発想しやがって……。

 

「……ダメ?」

 

「はぁ、遊びに行くってどこに行くんだ?」

 

「どこか!」

 

「おい」

 

 行くよー、と教室を出て行くやたら元気なミカに、溜め息を吐きながら追いかける。

 

 

 

「……この辺来るの、はじめてだな」

 

「そうなの?」

 

 オレとミカはトリニティにあるショッピングモールに来ていた。ショッピングモールと言っても、オレの家の近くとはまた別のショッピングモールだ。家の近くの縦に広いショッピングモールと違い、こちらは横長に通路が伸びていて、周りには学園帰りの学生に溢れていた。

 

「買い物するなら、家の近くのショッピングモールで十分だからな」

 

「へぇー」

 

 興味無さそうだなこいつ。

 

「ミカはこの辺り、よく来るのか?」

 

「そうだよ!というか私の家この辺りだしね~」

 

「そうなのか?」

 

「うん、あれ」

 

「あれって……」

 

 ミカの指を差した方向を見る。そこには、ここからでも分かるほど大きくそびえ立つマンションだった。ってタワマンじゃねえか……。

 

「でかすぎんだろ……」

 

「今度来る?」

 

「……また今度な」

 

 断るのもどうかと思い、いつか機会があったときに、とは言ったもののあんなデカいマンション、近づくのも怖いな。いや、生体認証盛り盛りでセキュリティがちがちのウチのマンションも大概変だけど。

 

「それにしても、ナギちゃんも一緒に遊べたら良かったんだけどねー」

 

 ナギサは今日もお茶会で、公欠だ。最近特に多く、ミカもあまりナギサと話せてないみたいだ。そのせいなのかは分からないが、今日みたいにちょっとションボリ顔してることがある。

 

「……お茶会のし過ぎで、紅茶依存症になってなければいいけどな」

 

「ぷっあはは!なにそれー!」

 

「紅茶を飲まないと体が震え、魂が紅茶を求めてしまう奇病だ。ううっ!紅茶を求めて右手が疼く……!」

 

「あはははははっ!」

 

 ナギサ弄りでひとしきり笑った後、改めてショッピングモールを歩く。

 

「あっ……」

 

「ミサちゃん、どうかしたの?」

 

「え?いや、えっと……」

 

 オレの視線の先には、ゲームセンターがあった。しかし、仮にもお嬢様校のトリニティ生。ミカだって、お嬢様のはずだ。こんな所に、連れて行って大丈夫なのか?

 

「あー、ゲーセン行きたいの?だったら、素直にそう言ってくれればいいのにー」

 

「え、あ、うん」

 

「ふふん、ミサちゃんに私の鍛えたゲームテクを披露してあげる」

 

「ふーん?」

 

 自信満々にゲーセンに入るミカについていく。ゲーセンに入ったオレは、前世のそれと同じ空気感があるゲーセンの雰囲気に、懐かしさと感動を覚えていた。レトロな台から最新機種まで揃ったトリニティで一番大きいゲーセンらしい。

 

「世間知らずなお嬢様のミサちゃんでも、ゲーセンには興味あったんだねー」

 

「世間知らず……」

 

 言うほど世間知らずでは無いはず、確かに今世ではミカに言われるまでスマホにアプリ入れてなかったし、ミカがやりたいって言うまでコンシューマゲームも買ってなかったし、女の子の身体の洗い方もミカに教えて貰うまで知らなかったけど……あれ?

 

「どんなゲームやりたい?」

 

「どんなゲーム……」

 

 きょろきょろと辺りを見渡し、興味を引きそうなものを探す。

 

「じゃあ、あれ」

 

「あれって……ガンシュー?ゲーセン来てまで銃撃つの?」

 

「べ、別にいいだろ!気になったんだから」

 

 オレが指さした筐体に近づくと、普通のガンシューティングの筐体っぽかったが、結構前世のモノとは異なることに気が付いた。まず、用意されてる銃が複数ある。ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、ショットガンの5つ。重さも本物と遜色ない、というか本物を使ってた。トリガーを引くと、銃に取り付けたセンサーが反応し、ゲーム画面に反映されるらしい。ゲーム画面にマーカーは出ないのでしっかり狙う必要がある。リロードもちゃんとマガジン交換しなければならないらしい。

 

「本格的すぎる……」

 

 ある意味、キヴォトスならでは、といったところなのかもしれない。

 

「ミサちゃん、どの銃使う?」

 

「……流石に、マシンガンは無いか。じゃあ、同じ長物なスナイパーライフルで」

 

「私、サブマシンガン~☆」

 

 いつも使ってる50口径重機関銃に比べたら重さが足りないけど、仕方ない。

 

 ミカがカードを筐体にかざすと、ゲームがスタートする。カードで自動決済できるのか、便利だな。

 

「よぉーし、行っくよー!」

 

 ゲーム画面では、ストーリーが流れており、仲間とはぐれたプレイヤーが森を進んで行くようだ。すると画面の奥側から人が現れ、こちらを撃ってくる。

 

「いや、いきなり撃ってくるのか……」

 

「ミサちゃん!反撃しないとやられちゃうよ!」

 

 ライフルを構え、頭を撃ち抜く。頭を撃ち抜かれた人は、そのまま倒れた。え、よわ。もう一発撃ち込もうとしたオレは、拍子抜けする。

 

「なんか敵のモデル?がキヴォトスの外の人なんだって」

 

「へぇ」

 

「銃弾一発で倒れるなんて脆いよねー」

 

 そのままゲームは進んで行き、中盤辺りから敵の数が増してきた。

 

「やーーー!!楽しーーー!!」

 

「敵漏らし過ぎだ!ちゃんと当てろ!」

 

 ミカが弾をバラ撒いて、漏れた敵をオレが頭を撃ち抜いて、確実に処理していく。ライフルを4連射し、近く敵を倒し、マガジンを交換してリロード、そしてまた連射。ライフルの戦い方じゃねえ……。

 

 そして、ゲームのラスボスを倒し画面にエンディングが流れる。

 

「あはは!すっごい楽しかったねー!」

 

「オレに雑魚処理押し付けて、ボスだけ集中狙いしやがって」

 

「てへっミサちゃんが倒してくれるし、いいかなーって。でもミサちゃん、最後のボスの生物兵器?にすっごい強かったねー!あいつ動き回ってすばしっこかったのに、ミサちゃん全弾正確に弱点に当ててたし!!」

 

「うん、まあ」

 

 褒められるのは満更じゃないので、すこし照れる。マーカー見えないからどうしようと思ったが、逆にマーカーがあったらここまで正確な射撃は出来なかったかもしれない。

 

 その後も、ゲーセン内を回りながら目に付いた筐体をプレイしていく。格ゲー、レースゲー、音ゲー、最後にはクレーンゲームもした。

 

「あー!楽しかったー!というかミサちゃんどのゲームでも強すぎだよ!?」

 

「まあ、大体反射神経が物を言うから」

 

 まさか、こんなところで前世の知識無双する羽目になるとは。知らないゲームは多かったが、経験則と知識量と反射神経で割とゴリ押しできた。前世がゲームオタクでよかった。まあ、ゲームでしか役に立たないけど。

 

「ところでクレーンゲームの景品、オレが貰ってよかったのか?」

 

 オレは手に持ったねこのぬいぐるみを見せる。

 

「もちろん!ミサちゃん欲しそうな顔してたし」

 

「ほ、欲しそうな顔なんてしてないがっ!?」

 

 ちょっと気になって見てただけだし!ゲーセンから出て、少し歩いたところでミカがあっと声を上げる。

 

「そういえば、ミサちゃん。ナギちゃんの誕生日プレゼントもう買った?」

 

「買ったけど、どうかしたのか?」

 

「うーん、私まだ何買うか決まらなくて、ミサちゃんは何買ったのかなって」

 

 なるほどな。今は7月でもうすぐナギサの誕生日だが、どうやらプレゼントを決めあぐねているらしい。ちなみに、オレは紅茶の茶葉を買った。最近、ナギサから貰ったティーセットで紅茶を淹れるのにハマっていて、紅茶の専門店にも足を運んでいて、オレのおすすめの茶葉セットをナギサに送ることにした。

 

「ナギサの誕生日明後日だけど、大丈夫か?」

 

「だから、これでも焦ってるんだよー!」

 

「去年は何送ったんだ?」

 

「かわいいペンセット!」

 

 ナギサが使ってるペン妙にかわいいと思ったら、ミカのプレゼントだったのか。

 

「毎年、見かけてこれだ!と思ったものプレゼントにするから、決まらないときは決まらないんだよね」

 

「とりあえず、アクセサリーショップ見て回ってみるか」

 

「え?いいの?」

 

「いいもなにも、最初からそのつもりだっただろ」

 

「わーい、ミサちゃんだーいすきー!」

 

「す、好き!?何恥ずかしいこと言ってんだバカ!?」

 

「えへへ~」

 

 その後、いくつかの店を回ることになった。

 

「これ、どう?」

 

「うーん、違う気がする」

 

「こっちは?」

 

「昔プレゼントしたモノに似てるから、ちょっと」

 

 うーん、難しいな。ミカの感覚がふわふわしすぎて、どういうモノを送りたいのか分からない。……ミカの感覚で選ぶんじゃなくて、あえてオレの感覚で選んだものを薦めてみるか?

 

 オレの感覚で選ぶなら、実用的なものが良いと思う。ナギサって庭いじりが趣味だって言ってたし、そっち方面でアプローチかけてみるか。

 

「ミカ、ちょっとこっち」

 

「え?どうしたの、ミサちゃん?……ガーデニング?」

 

「ナギサって庭いじり好きだろ?だから、こういうのも喜ぶかなって」

 

 それを見て、ミカは少し考えこむ素振りを見せる。

 

「でも、ナギちゃんって凝り性だから、自分で揃えてると思うけど……」

 

「もちろん、そのまま渡さない。かわいくデコればいい、ミカが」

 

 そうすれば、買ったものだろうと唯一無二だ。

 

「……そこは私がやるんだね」

 

「ミカのプレゼントを、オレがデコってどうするんだ。大体、オレがかわいくデコれるわけないだろ」

 

「そうかなぁ。でも、自分のモノをデコっても、誰かに送るモノをデコる発想は無かったなー……うん、いいかも☆」

 

 ミカは嬉しそうに、いくつかのアレンジする商品を手に取ると、会計に向かう。なんとか、良い落としどころを見つけられてよかった。このパターンだと、延々と悩みそうだったからオレのセンスで選んだものを、ミカのセンスでアレンジは良い思い付きだったんじゃないだろうか。ナイスだ、オレ。

 

「いやー、ミサちゃんに相談してよかったー!」

 

 ルンルン気分で店を出たミカがそんなことを言った。

 

「オレはアドバイスしただけだろ」

 

「そのアドバイスが助かったのっ」

 

「そうなのか。でも、相談するならできればもっと早くにしてくれれば、選択肢を増やせるんだけどな」

 

「ごめーん☆」

 

 ……次はオレから声を掛けてやるか。じゃないと、次もギリギリで聞いてきそうだ。

 

 ふと、横を見るとミカがいないことに気が付いた。

 

「ミカ?」

 

 背筋に、嫌な汗が流れる。まさか、オレを狙ってるやつか?ミカを人質に?それとも……。嫌なイメージが頭に流れる。

 

「ミカ!」

 

「あ!ミサちゃんミサちゃん!こっち!」

 

 後ろから声が聞こえて、振り返るとミカは掲示板の前に立っていた。その姿を認めて、肩から力が抜ける。

 

「……急に、いなくなるな」

 

「あれ?心配してくれたの?」

 

「ちがっ!……わない」

 

「そっか~☆」

 

「~~~っ!」

 

 顔が熱い。自分でも今顔が赤くなってるのを自覚できた。いなくて焦ったことは、絶対秘密にしておこう。余計からかわれるのが目に見えてる。

 

「そ、それより!何見てたんだよ」

 

「えー、ミサちゃん顔真っ赤だよー」

 

「いいから!!」

 

「あはは!えっとね、これ見てたの」

 

 ミカが指したのは一枚のポスターだった。

 

「……夏祭り?」

 

「うん!そう!楽しそうだよね!」

 

「楽しそう、っていうかトリニティに夏祭りなんて概念あったのか」

 

 そういうのしそうな学区と言えば……。

 

「なんか、百鬼夜行連合学院のお祭り参考にして、トリニティでもやるんだって!」

 

「へぇ……」

 

 百鬼の祭りをトリニティで、ね。ということは、当然《ティーパーティー》は認可済みって訳だ。つまり、この祭り自体に双方メリットあるわけか。そこら辺は全く読み取れないけど。

 

「ねぇ、ミサちゃん!このお祭り、3人で行こうよ!」

 

「ナギサもか?でも、アイツ時間空いてるか?」

 

「聞いてみる!」

 

 スマホを取り出し、タプタプと操作してたかと思うと、ションボリ顔になる。

 

「この日、用事があってダメだって……」

 

 そういえば、祭りっていつからだ?……明後日じゃねえか。

 

「この日ダメなら、パーティーも日にちズラさなきゃだな」

 

「うん……」

 

 ミカのことだ。どっちも楽しみだっただろうに。……ミカが悲しそうな顔をしてるのは、やだな。

 

「……なあ、ミカ。もし良かったらなんだけど、夏祭りオレと二人で行かないか?」

 

「え?」

 

 ミカはキョトンとした顔をしていた。こいつ、こっちが勇気出してるのに……!

 

「だ!だから!この日暇ならオレと夏祭り行かないかって!」

 

「えっと、ミサちゃんは私と二人でいいの?」

 

「いいもなにも、今誘ってるだろ」

 

「そ、そうじゃなくて!えっと……」

 

 ミカらしくもなく、口をもごもごと動かして言い辛そうにしている。

 

「なんだよらしくない、ハッキリ言え」

 

「その、ミサちゃんってナギちゃんのこと好きでしょ!?」

 

「…………??」

 

 ……???

 

「ごめん、なんて?」

 

「だから!ミサちゃんはナギちゃんのこと好きなんでしょ!見てたら分かるよ!」

 

 好き?オレが?ナギサを?なんで?分からない。ミカが分からない……!

 

「いや別に、普通だけど」

 

「???なんで?」

 

 なんで、はオレのセリフなんだけど。

 

「でも、ミサちゃんナギちゃんと仲良さそうだったよ?」

 

「……仲良さそうで好きなら、ミカのことも好きにならないか?」

 

「…………たしかに!!……あれ?じゃあミサちゃん、私のこと好きなの!?」

 

 だれかたすけて。

 

「両方ミカの勘違いだ」

 

「かん、ちがい」

 

「そう」

 

「ああぁぁぁ!私すごい恥ずかしい人じゃん!ミサちゃんのバカ!」

 

 オレのせいじゃない。じゃないが、突っ込むと面倒臭くなりそうだから無視しよう。

 

「罰として、私と夏祭り行って貰うからね!」

 

 さっきから一緒に行こうって言ってる。もうどうにでもなれ。

 

「じゃあ、この時間に集合!いい?遅刻厳禁だからね!?あと、さっきのことは忘れるよーに!じゃ、解散!!」

 

 言うだけ言って、ピューと走り去ってしまった。残されたオレは、謎の疲れを感じながら家路へと着いた。

 

 

 

 夏祭り、当日。

 

 去年、ミカに買ってもらった私服に身を包みながら、待ち合わせ場所に向かうとまだ誰も来ていなかった。

 

「来るの早すぎた……」

 

 30分前って浮かれ過ぎか?でも、女の子より先に着いてるのは、男ポイント高い気がするな。

 

「ふふふー♪」

 

 ミカが来るまで暇だし、この前インスコした落ちものパズルでもやって時間潰すか。

 

「ミサちゃん!ごめん、もしかして待たせちゃった?」

 

 20分ぐらいすると、ミカの声が聞こえた。これは、あのセリフ言っていいのかな!?

 

「い、いやオレも今来たところ……」

 

「ミサちゃん……手に持ってるゲームの表示20分経過してるけど」

 

「うっ」

 

 しまった!ゲームつけっぱだった!

 

「ふふふ!ミサちゃん、私が待たせたって思わないように言ってくれたんだね。ありがとう!」

 

「お、おう」

 

 そう言って笑うミカ、今日は浴衣だった。ピンク色の浴衣と黄色の帯が良く似合ってる。

 

「ミ、ミカ。その浴衣、似合ってる」

 

「ほんとー?ありがとう!……あれ?ミサちゃんは浴衣じゃないの?」

 

「え!?い、いや、オレはほら、似合わないし」

 

「えー、そんなことないよ。絶対似合うって!」

 

「それに、今から買いに行くのもアレじゃん?」

 

 見るからに、スースーしそうな服着たくない。

 

「じゃあ、今から買いに行こう!」

 

「話聞いて!?」

 

 ミカが話を聞くわけもなく、結局浴衣売ってる店まで引き摺られた。

 

「なんで、今年はあちこちで浴衣売ってるんだ……」

 

 でなければ、売ってる場所少ないからと逃げられたのに。

 

「夏祭りあるからね~。やっぱり、物珍しさが勝ったり、雰囲気味わいたい人が大勢いるんだよ」

 

「くそぅ」

 

 試着室に押し込められて、ミカに渡された浴衣に着替える。……ん?これって。

 

「ミミミ、ミカァ!これセパレートになってるんだけど!?あとフリルすごいんだけど!?」

 

「えへへ、かわいいよね」

 

「これ邪道です!せめて普通の浴衣にして!?」

 

「んー、邪道とかよく分かんないし、大丈夫だよ」

 

「何が大丈夫なの!?せ、せめてスカートはやだぁ」

 

「スパッツ履いてるから大丈夫だよ」

 

「うぅー……」

 

 結局ミカに押し切られて、ロリータファッションの浴衣を着せられた。ミカの浴衣に似た淡いピンクに、こちらの帯は赤色だった。ミカの用意してくれた下駄に履き替え、会計を済ませた後、店を出る。

 

「スースーする……」

 

「そのうち慣れるって☆」

 

 下駄をカラコロ鳴らしながら、祭りの会場に向かって歩く。

 

「この、下駄?って履物面白いねー。あはは!歩くと音が鳴るよ!」

 

「そうだな……あ」

 

「ん?どうしたの?わすれもの?」

 

 靴擦れ気を付けろって言おうとしたけど、その程度でダメージ喰らう体じゃなかった。

 

「あー、なんだろ?」

 

「……ミサちゃん、大丈夫?もしかして、無理やり浴衣着せちゃったから?ご、ごめんね」

 

「いやいや!?大丈夫!すごく元気!ほ、ほんとになんでもないから」

 

「そう?よかったぁ」

 

 ミカの安心した顔を見て、ホッとする。オレもいい加減、前世と今世を切って考えた方がいいのは分かってるんだけど、体に染みついた考えってどうにも離れないよなぁ。

 

「あ!会場見えてきたよ!ほら、ミサちゃんも早く早く!」

 

 ミカに引っ張られるように、夏祭りの会場に足を踏み入れる。

 

「わー、人いっぱいだねー!それに、外にお店があるよ!」

 

「確かに人多いな。屋台もちゃんとしたのやってる」

 

 トリニティで一か所に人が集まるのって、余程のことだからな。正月の参拝でも結構まばらなのに。

 

「ミサちゃん!見て見て!お面いっぱい!」

 

「へぇ、どれどれ……うっ」

 

 モモフレンズのお面だ。もうペロロのお面買ってった奴いるな。まさか、いるのか……?周りに目を配ると、特徴的なペロロバッグが。

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでも……」

 

 見なかったことにしよう。

 

 二人でモモフレンズ以外のお面を買って頭に着ける。

 

「あはは!ミサちゃん似合うー!」

 

「ぷっ!ミカもよく似合ってるぞ」

 

「ありがとー!」

 

 お互いに変なお面に笑いながら、祭りの屋台に寄っていく。

 

「これなんだろ?」

 

「金魚すくいですよ。1回いかがですか?」

 

 店主に薦められ、1回だけやってみることにした。

 

「―――あー!破れちゃった……」

 

「……」

 

 金魚すくい、懐かしいな。前世でも、よくやってたな。あれは誰と行ってたんだっけな。もう思い出せないな。

 

「ミサちゃん、すごい取ってる……」

 

「あ、やべ」

 

 考えながらすくってたら、10匹ぐらいお椀の中で泳いでいた。

 

「えーと」

 

「あ、い、1匹でいいです!」

 

「はい、ありがとうございましたー」

 

「ミサちゃん、すごーい!なんでそんなに上手なの?」

 

「え?こ、こう魚の気持ちになって?」

 

「んー、よく分かんない!」

 

 ごめん、オレもよく分かんない。すくった中から1匹選んで、詰めてもらった袋で泳ぐ金魚を見ながら口元を緩める。

 

「帰るときに、こいつ用の水槽買ってやらないとな」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 ミカと笑いながら、会場を歩いてると後ろから誰かがぶつかってきた。

 

「ってーな!何ぶつかってん」

 

「あ‶?」

 

 思わずイラっとして、ガン付けながら後ろを振り向くとただの不良どもだった。

 

「ヒィッ、こ、光園ミサ……!?」

 

「―――だったら?」

 

「ご、ごめんなさい!今から悪いことしようとしてましたァ!」

 

「は?」

 

 なんかいきなり絡まれたと思ったら、土下座して罪の告白されたんだが。

 

「こ、これ!祭りの最後の花火を爆弾に変えたら、パニックになって面白いだろーなって思ったんです!」

 

「いや、ダメだろ」

 

 普通に危ないことしようとしてんじゃねえよ。

 

「ヒ、ヒィ……!許してください!なんでもしますから!?」

 

「は?じゃあ今すぐ自首してこいよ」

 

「し、します!あ、そこの《正義実現委員会》さん!あたしらを捕まえてください!!」

 

「え?え?」

 

 通りかかった委員会の生徒は、オレと不良を見比べて困惑してたが、仕事はするべきと判断したのか、そのまま不良どもを連行していった。

 

「……なんだったの、あれ?」

 

「……オレが聞きたい」

 

 気を取り直して、夏祭りを回ることにした。まあ、浮かれて変な奴が寄ってくるのも祭りの醍醐味なのかもしれない。

 

「あ、射的だって!見てこ!」

 

「テキヤか……」

 

 あんまりいい思い出ねえな……。先に行ったミカを追い掛けると、すでにプレイしていた。

 

「むむむ、えいっ」

 

 掛け声とともに発射されたコルク弾は、しかし明後日の方向へ飛んで行った。

 

「うー」

 

「何やってんだよ」

 

「だってミサちゃん、これちゃんと飛ばないよー」

 

「……仕方ないな」

 

 ミカの上から覆い被さるように、銃を一緒に持つ。

 

「ミミミ、ミサちゃん!?」

 

「耳元で叫ぶな……。ほら、一緒に狙ってやるから」

 

「う、うん」

 

 近くのコルクをいくつか手に取り、そのうちの一つを銃に詰める。

 

「ちゃんと脇締めろ。お前、いつもは我流で撃つから外すんだよ。たまにはマニュアル通りに撃ってみろ。ちゃんと狙って……そう。あとは、引き金を引くだけ」

 

「―――っ!」

 

 放たれたコルクは正確に景品に着弾し、倒れた。

 

「やった……当たったよ!ミサちゃん!」

 

「それはよかった。欲しかったのってそれ?」

 

「うん!ミサちゃんにあげたテディベアのピンク版!これ限定のレアカラーなんだよねー!」

 

「へぇ、よかったじゃん」

 

 喜ぶミカを見ながら、ふとあの人のことを思い出していた。オレに銃の撃ち方を教えてくれたのは、あの人だったな。今も元気だといいんだけど。左腕の銀の時計を眺めながら、そう思った。

 

「ミサちゃん?どうしたの?」

 

「あ……ううん、なんでもない。次はどこに行く?」

 

「うーん、りんご飴も気になるし、わたあめも食べてみたい!」

 

「じゃあ、順番に回るか」

 

「うん!」

 

 その後、りんご飴、わたあめ、たこ焼き、焼きそばと色々食べ歩きながら、型抜きで遊んだり、くじ引いて変な景品が当たり笑ったりした。

 

「あー、もう食べられないよー」

 

「流石のミカでも、あの量はきつかったか」

 

「だって、どれもおいしかったんだもん!」

 

「にしても、結構楽しかったな」

 

「うん!また来年もあるなら来たいね!」

 

「来年か……」

 

 呟くと同時だった。暗い空が明るくなり、大きな爆音を響かせる。

 

「あ、ミサちゃん!空!花火!」

 

「ホントだ」

 

 ミカに釣られて空を見上げると、夜空を大輪が彩っていた。来年、オレたちも中学生になるんだよな。……いつまで、ミカと居られるんだろう。原作のことだってあるし、いつかはミカもオレから離れていくんだろう。そうなったら、オレは……。

 

「……!ミカ?」

 

「えへへ、綺麗だね」

 

 オレの不安を見透かしてるかのように、手を絡めるように繋いでくるミカ。目を輝かせて花火を見るその横顔が。

 

「うん、すごく……綺麗だ」

 

 いつか来る別れだとしても、今は。

 

 

 




光園ミサ
アンニュイミサちゃん。夏が近づいてきたので、シエルのこととか前世とか色々思い出していた。シエルからのプレゼントは捨てられず、ずっと使ってる。途中会った不良は、4年生のときにボコしてトラウマを植え付けた子。当時、先輩不良十数名を全員病院送りにしている。ロリータ浴衣は邪道だと思ってる子。私はかわいければいいと思う。

聖園ミカ
タワマン住み。ミサを遊びに誘ったのは、最初からプレゼントの相談をしたかったから。ミサはナギサのことを好きなんだと思い、なんとなく邪魔してた。なんで邪魔してたのか、本人にも分からない。邪魔をしてたが、応援もしてたので遊ぶときはナギサも誘ってた。勘違いだった。恥ずかしい。射的屋でピンクのテディベアを手に入れて、ご満悦。しかし、撃った瞬間のことはミサASMRによって覚えてない模様。アンニュイミサちゃんを感じ取り、離れて行かないように手を繋いだ。

桐藤ナギサ
どんどん出番が減る子。仕方ないね。夏休みの後、二人から祝われた。もらったプレゼントは大切に使ってる。お茶会でささくれだった心を癒してくれる二人が大好き。ミサともっと仲良くなりたいが、ミサバリアとミカガードに阻まれ攻めあぐねている。


感想欄を見てると、別の視点からモノを見れて勉強になって助かる。ナギサとミサは分かり辛かったよね。ごめん。まあ、他の視点をあまり書かない、私が悪いんだけど。また答えられそうな疑問があったら、答えてあげるね☆答えなかったら、あ、答えにくいんだって思って。


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6年生の話・秋

感想!誤字報告!せんきゅー!

常設になった百鬼イベ見たら、アスミスだしイズナほしいなーってなって10連だけ回したけど出なかった。代わりにすり抜けでミモリ引いた。まさか、ピンクを吸い寄せてる……?

不忍ガチャは次のガチャ情報来るまで見送りで……。でもカエデ気になる。イロハ?すり抜けでもう持ってます。

今回の話は短い。次回も短い。


 

「トリック・オア・トリート!」

 

「……」

 

 秋も終わりかけの休日。いつも通り、ミカが来たのかと思って玄関を開けたら、これだ。魔女っ娘衣装に身を包んだミカは、大変かわいらしい。でも、原作を思い出してすごく反応に困る格好はやめろ。

 

 とりあえず、見なかったことにしよう。

 

「あー!?待って!閉めないで!」

 

「……はぁ、その恰好は何?」

 

「何って、ハロウィンだよ☆トリック・オア・トリート!」

 

 手に持った星形の小さな杖を振り回しながら、何かを唱えるミカ。やばい、寝起きで頭が働かない。

 

「……んー?」

 

「ミサちゃんお菓子ちょうだい!」

 

「この前ミカが全部食べたので無い」

 

「あ、あれー?そうだっけ?」

 

 そうだっけ、じゃないが。お前が昨日遊びに来た時、家にあったものをもりもり食べたんじゃねえか。

 

「お菓子が無いなら、いたずらされても仕方ないよねぇ?」

 

 ミカが悪い顔になったのを見て、罠だったことを悟る。まさか、そのために!?

 

「ミカ!お前、ハメやがったな!?」

 

 やたら、菓子要求してきたと思ったら、そういうことか!

 

「ふっふっふっ、逃げられないよ!おとなしく、いたずらされて!」

 

「ちょ、ま、うわぁ!?」

 

 すごく楽しげなミカに押し倒され、服を全部脱がされた。

 

「じゃあ、はい。お着替えしましょうね~」

 

「ミ、ミカ……ストップ……それ以上は、やめ―――!?」

 

 

 

「かーわいー!!ミサちゃん!すっごくかわいいよ!!」

 

「うぅ……しにたい」

 

 ミカの着ている、魔女っ娘のバージョン違いみたいな服を着せられた。ミカはスカートだが、オレが履いてるのはかぼちゃ色のかぼちゃパンツだ。しかもサスペンダーでへそ出しって、誰だ考えたの!?

 

 ミカはというと、オレの周りでスマホカメラのシャッターを切っている。

 

「あ、これナギちゃんにも送るね」

 

「はぁ!?ちょっと待て!」

 

「待たなーい」

 

 静止もあえなく、送信されてしまった。ナギサにまでこの姿が、いっそ殺してくれ……。

 

「あ、爆速で返信来た!『大変可愛らしくて、癒されます』だって!よかったね、ミサちゃん!」

 

「ソウデスネ」

 

 それを聞かされて、オレは一体どんな顔で、明日からナギサと顔合わせればいいんだ。

 

「……はぁ。それで?今日はこの格好のまま家で遊ぶのか?」

 

「ううん、せっかくだから外行くよ!」

 

 外行くよ。外行くよ。外行くよ。

 

「……え?この格好で?」

 

「もっちろん!じゃあ行っくよ~!」

 

「ま、ままま、ま―――!?」

 

 抵抗空しく、この格好のまま連れ出されてしまった。

 

 

 

「トリック・オア・トリート!ほら、ミサちゃんも!」

 

「ト、トリック・オア・トリート……」

 

「わぁ!かわいい魔女っ娘姉妹だ!はい、これトリート」

 

「ありがとー!」

 

 ばいばいーと手を振るミカと去っていくトリニティ生を、赤らめた顔で眺める。

 

「見て見て!もうこんなに集まったよ!」

 

「ミ、ミカ、恥ずかしいからもうやめない……?」

 

「えーやだ」

 

「うぅ」

 

 外に出たオレたちは、あれから道行く人に話しかけてはお菓子をねだってる。お菓子を持ってない人は、ミカの手により油性マジックでいたずらだ。『いっぱいお菓子貰って、ナギちゃんに自慢しようね!』と言っていたが、いつまで集める気なのだろうか。

 

 オレはというと、色んな人にジロジロと見られて恥ずかしいので、ミカの後ろに隠れて縮こまっている。

 

「やっぱり、オレの格好が変だからみんな見てくるんだぁ!」

 

「そんなことないって!ミサちゃんが可愛いからだよ!」

 

「か、かわいくないもん」

 

 ミカはずっとオレのことを、かわいいかわいいと言ってくるが、どうみてもミカの方がかわいい。自分の顔面偏差値の高さを、自覚してほしいもんだ。そもそも、男っぽいヤツにかわいいなんて言うなんて、どういう感性してるんだ。

 

 ちなみに、何度か逃走を試みたが、ミカに手を繋がれているため全て失敗に終わった。

 

「じゃあ、次の獲物もといお菓子をくれそうな人に話しかけに行こう!」

 

「まだやるのか!?」

 

 

 

 ミカに手を引っ張られ、街のあちこちを走り回る。

 

 ……ミカって、どうしてオレなんかに構ってくれるんだろう。自分で言うのもアレだけど、愛想悪いし、口調は乱暴だし、かっこよくないし、それに……すぐ人を傷つけるような最低なヤツなのに。

 

「……」

 

「……?ミサちゃん?」

 

 繋いでいた手を引っ張って、ミカを引き止める。やっぱり、今聞いておいた方がいいと思ったからだ。

 

「なぁ、ミカってなんでオレにそこまでやさしくしてくれるんだ?」

 

「えっと……?」

 

 ミカはキョトンとした顔で見ていた。質問の意味が分からないってことだろう。

 

「オレなんて、良い所無いし、迷惑掛けてばっかだし。5年生になったときなんて、ミカに酷いことしたのに、どうして……」

 

 そうだ、ずっと気になっていた。あの頃のオレは、誰からも腫れもの扱いで話しかけようとする人なんて、一人もいなかった。いなかったのに……。

 

「どうして、オレに話しかけようと思ったんだ?」

 

「えっと……あはは、私ってバカだからさ。もしかしたら、よく分かってないんじゃないかなって」

 

「違う。ミカはバカじゃない」

 

 はぐらかそうとするミカに、真っ直ぐと目を見つめて言った。

 

「バカなら、オレが戦うのが嫌いなんて見抜かないし、近寄っても来ない」

 

「ミサちゃん……」

 

「知りたいんだ。ミカのことを、もっと」

 

 今までは、ずっと誰かにオレを知ってほしいって思っていた。でも、今は弱いオレを見つけてくれたミカのことを知りたいって、思うようになった。初めて、誰かのことを知りたいって思えたんだ。

 

 去年の、あの雪の日からそう思ってミカを見ていたけれど、ミカはあまり自分のことを話してくれない。その上、本心を隠すのも上手くて、ミカが本当はどう思っているのか何も分からなかった。

 

 だったら、直接聞くしかない。

 

「……別に、隠してるわけじゃ無かったんだけど、いざミサちゃんに言おうと思ったら、なんて言えばいいか分からないんだよね」

 

 あはは、と頬を掻きながら困った顔をするミカ。

 

「私ね、ミサちゃんには普通の生活をして欲しかったの。友達と買い物したり、遊びに行ったり、そういう普通の日常」

 

 ミカは繋いでいた手にもう片方の手を重ねる。

 

「ミサちゃんが1年生の頃から戦う練習とか始めちゃって、すごく嫌な気持ちになった。痛くて、怖くて、苦しんで、泣いてるミサちゃん。誰かに傷つけられるのも、誰かを傷つけてしまうことも恐れたやさしい手。そんなやさしいミサちゃんに、私は教えたかったんだよ」

 

「ミカ……」

 

「友達と色んなこと楽しんで、小さなことでケンカして泣いて、でもすぐ仲直りして笑いあって、そんな普通の"日常"を。……ミサちゃんは、戦うために生まれたんじゃない、ただの普通の女の子なんだよって」

 

 そう言って、やさしくミカは微笑んでいた。ミカのやさしさに触れ、オレの目から涙がポロポロと溢れ出す。

 

「うぅ~……」

 

「ミ、ミサちゃん!?だ、大丈夫!?どうしたの!?」

 

「だって……ミカ、ずっとオレにやさしくしてくれてたのに、ひどいことして、オレ何も返せてない……」

 

「もう、別にそんなのいいのに。私もナギちゃんも、ミサちゃんと一緒だと楽しいから、返すとか返さないだとかいいんだよ。だって、それが友達なんだから!」

 

「ミカぁ……」

 

「ほらよしよし、そんなに泣いたらかわいい顔が台無しだよ」

 

 ミカはオレを頭を撫でると取り出したハンカチで、涙で濡れたオレの顔を拭ってくれた。

 

「お菓子は十分に集まったし、今日は遅いから帰ろっか。あっ!その前に、今日の戦果を撮ってナギちゃんに送ろーっと!」

 

 スマホのカメラを起動すると、良く写る位置を探して角度を調整する。

 

「あ、ミサちゃんカゴ反対側持ってー」

 

「う、うん」

 

「もうちょっと寄ってーそうそう!えいっ!うーん、もう何枚か撮っておこうかな」

 

 ミカはああ言ってくれたけど、やっぱりミカに何か返してあげたい。でも、オレに何が出来るんだろう……あれ、なんだろう?ミカを見てると、去年のクリスマスの時みたいに胸がポカポカして、なんだがドキドキする。ドキドキしながらミカの横顔を見てると、ふと最近ネットで見た記事を思い出した。

 

 そうだ、アレなら!

 

「ミ、ミカっ!」

 

 最近、また身長が伸びたのか届かない分をなんとか、かかとを上げてミカの顔に近づく。

 

「ん?どうしたの、ミサちゃ―――んぅっ!?」

 

 ?ミカのほっぺ、意外と柔らかくて湿った感じがするんだ。カシャっと音がして目を開けると、目を見開いたミカと目が合った。ミカの目、綺麗だな……あれ?ほっぺにキスしたのになんでミカの顔が正面から??……正面?じゃあ今オレがキスしてるのって……?途端に顔が沸騰したように熱くなっていく。ゆっくりと顔を離し、かかとを地面につける。

 

「……あ、えっと、今のはその……!」

 

「……ミミ、ミ?」

 

「……友達!そう!友達のキスだから!だからそのっ、~~~っ今日はここで帰る!さよならっ!」

 

 居たたまれなくなり、脱兎のごとくその場から離れた。どうしよう……!ミカの顔をまともに見れないよぅ!

 

「…………ぽぇ?」

 

 

 




光園ミサ
ミカを狂わせる魔性のメス。今回、本編のほとんどでヘイローがドピンクだった。最近、ネットで見た『女の子の友達と仲良くなる方法!』という記事を見ていた。こうして、間違った知識が蓄積されるんですね。家に帰った後、あまりの恥ずかしさにベッドの上で悶えてた。

聖園ミカ
ミサを必ず救うマンレディ。放っておくと非日常に迷い込むミサを、日常に繋ぎとめる存在。ミサに呼ばれたから振り向いたら、マウストゥマウスした。あまりの衝撃に放心していたが、反射的にカメラのシャッターを切っており、バッチリキスシーンが残っているという。ミサがいなくなった後、ナギサに『友達のキスって何?』って聞いたら『は?』って返って来た。結論、何も分からない。

ミサの見たネット記事
性器の見せあいっこから始まり、キスを経て最終的に女の子と手を繋げるようになるというゲヘナ学園で最近できた百合推進委員会が書いた記事。この記事の通りにすれば女の子と手を繋ぐなんて楽勝!と書かれている。後日、悪質過ぎてゲヘナの風紀委員会に検挙され記事ごと消滅した。なお、派生記事がネットで生まれてる模様。


あとは、冬一本書いたら中等部編もといメス堕ち編だね!ハーメルンがどこまでなら許してくれるか、別の意味で震えてきたぞ!


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6年生の話・冬

感想、誤字報告ありがとうございます!

推しの子いいよって言われて完全初見で見たんだけど、90分かけてアイちゃん好きになった後にアレは辛すぎた……。1話見終わった後、感情ぐちゃぐちゃになっちゃった。続き、すっごい気になる。


 

「初詣!行こう!」

 

 最早、恒例と言っても過言ではないミカのモーニングコール。一番に告げられたのは、初詣の誘いだった。

 

「……なぁ、ミカ。オレの記憶違いじゃなければ、現地集合じゃなかったか?」

 

 去年の正月も現地集合で初詣だったので、今年もって話だったと思うんだけど。

 

「ミサちゃん、この着物どう思う?」

 

 言われて、ミカの服装を見る。去年と同じくピンク色が眩しい晴れ着だ。こういう機会でもなければ、トリニティで和のものはお目に掛かれないので、かなり貴重だ。

 

「かわいいと思う」

 

「ありがとう☆じゃなくて!」

 

 話の要領を得ない。ミカは何が言いたいのだろう?

 

「ミサちゃん!去年、現地集合にしたら何の服で来たの?」

 

「普通に私服だけど」

 

「それだよ!なんで私服で来るの!?ミサちゃんの晴れ着姿楽しみにしてたのに!」

 

「なんでって、晴れ着持ってないし」

 

 普通にウン十万する服わざわざ買わないし。

 

「レンタルでもいいじゃん!」

 

「借り物とか気を遣うから、嫌だよ」

 

「……借り物じゃないなら、いいんだよね?」

 

「え?まぁ?」

 

「じゃあ、はい!」

 

 そう言って、笑顔で脇に抱えていたものを差し出してくるミカ。

 

「はいって、なにこれ?」

 

「もちろん、ミサちゃんの晴れ着だよ!」

 

「……ウソだろ?」

 

 オレに着物を着せるためだけにそんな労力と金を?

 

「ミサちゃん、借り物じゃないならいいって言ったよね?」

 

「言っ……た、けど、それは言葉の綾というか」

 

「あれれ~?ミサちゃん一度言った言葉を覆すの?それって、ミサちゃんの言う男らしさとは反対じゃない?」

 

「ぐぅ……!」

 

 ミカはチクチク言葉で、地味に痛い所を突いてくる。オレ、ミカを怒らせるようなことしたのかなぁ。

 

「でもオレ、着方分からないし……」

 

「大丈夫!私着付けできるから!任せて!」

 

「わかった、もう好きにして……」

 

「うん!好きにする!」

 

 せめてもの抵抗を試みたが、結局こうなるのか。でも、まぁミカが嬉しそうだしいっか。

 

「じゃあ、じっとしててね」

 

 無駄に暴れてミカを傷つけるのも何だし、言われた通り大人しくするとミカは鼻歌を歌いながら、服を即脱がし着物を着せてくる。

 

「ミサちゃん、体の凹凸少ないから着せやすーい!」

 

「まぁ、着物って寸胴体型に合うように作られてるからな。体の凹凸少ない方が着崩れしにくいからだとか」

 

「そうなの?ミサちゃんって物知りだよね、すごーい!」

 

「べ、別にこれぐらい普通だし……」

 

 ミカに褒められてちょっと嬉しくなってしまって、でも恥ずかしくてそっぽを向いてしまう。

 

「ミカも着付け上手いけど、どこで習ってきたの?」

 

「ネットで勉強して、何度か自分で練習したんだよ。ミサちゃんのことだから、レンタルしないだろうし。お店で着付けてもらうの嫌がりそうだから、私がミサちゃんにやってあげようと思って」

 

「うっ……」

 

 全部見抜かれてる……!

 

「でーきた!ミサちゃん、私に似てるからやっぱりピンクと赤系が似合うよねー!かわいい!」

 

「うっ、か、かわいいって言わないで……」

 

 全身にかかる重みを感じながら、くるっと体を回転させながら着せられた晴れ着を見ていく。確かに、ちょっとかわいい、かも……。振袖と呼ばれるこの着物は、手を下ろすと長い袖部分が地面スレスレまであり、汚れないかちょっと心配だ。

 

「……」

 

「ミカ?どうかした?」

 

「あっ、ううん!なんでもないよ!?」

 

「そ、そう?ならいいけど」

 

 その割に、ミカにしてはずいぶん焦った声が出てるけど、まぁミカが大丈夫ならいいけど。

 

「そ、それより!そろそろナギちゃん待ち合わせ場所に着くころだろうし、早く行こ!」

 

「あ、引っ張らないで!?自分で歩けるからぁ!」

 

 どうしてか、妙にわたわたしたミカに引っ張られながら、家を後にした。

 

 

 

「―――ナギちゃ~ん!!」

 

「ミカさん、ミサさん。あけましておめでとうございます」

 

「うん!あけおめ~☆」

 

「ナギサも、あけましておめでとう」

 

 待ち合わせ場所まで行くと、ナギサはすでに到着しており、待っていてくれたようだ。ナギサも晴れ着で来ていた。紫系の振袖に、藤の花の柄がマッチしてナギサによく似合ってる。

 

「もう、ミカさん。またそんな言葉遣いをして……」

 

「あ、あはは、そんなことより待たせちゃってごめんね?」

 

「いえ、私も先程到着したところですから、気になさらないでください」

 

 ごく自然に待ち合わせのカップルのようなセリフを言うナギサ。これが、気遣いできる人とできない人の差か……。

 

「……ミサさん、今年は晴れ着で来られたんですね」

 

「こ、これはミカが勝手に……」

 

「ふふっ、良く似合ってます。かわいいですよ」

 

「う、あ……ありがとう……。で、でも、かわいいって言わないで」

 

 休みの間に、少し伸びた髪を弄りながら言う。また切りに行かないと。

 

「……!」

 

「……っ」

 

「ど、どうしたの二人とも?」

 

「い、いえ。……これは思ったよりも破壊力が」

 

「あはは、なんでもないよ。……わざとやってるわけじゃ無いよね?」

 

 なにか小声で言ってたような気がするけど、なんでもないって言うなら気にしないことにしよう。

 

「じゃ、じゃあ参拝しに行こっか!」

 

「そ、そうですね!」

 

「お、おう???」

 

 両サイドにナギサとミカ、オレが真ん中といういつもの並びで神社に向かう。

 

 神社に着くと、参拝客で溢れかえっており、長蛇の列が出来ていた。

 

「わぁ、今年は多いねー」

 

「そうですね、夏にやってたという百鬼夜行のお祭りで感化された人が多いということでしょうか」

 

「……」

 

「ミサちゃん?大丈夫?もしかして帯きつかった?」

 

 黙り込んでるオレに、体調悪いと思ったのかミカが話しかけてくる。

 

「あ、いや、帯は大丈夫。でも、裾が邪魔で歩き辛い」

 

 足の可動範囲が狭くなるので、普段よりちょこちょことした動きしかできない。

 

「あははーそれは仕方ないよ……って、ミサちゃん!裾上げようとしちゃダメ!」

 

「うー……」

 

「そ、そんな顔してもダメなものはダメだからね。ほら、裾上げようとするなら手繋いじゃうから」

 

 足の裾を捲り上げようとしたら、ミカに邪魔されてしまった。そのまま、手を塞がれたので裾を上げることが出来ない。恨みがましい視線をぶつけたけど、ミカは大して堪えなかった。そんなやり取りをしていると、ナギサがクスクスとおかしそうに笑う。

 

「ナギちゃん……?」

 

「ふふふ!すみません、あまりにも仲が良さそうだったので。そうしていると、姉妹にしか見えませんね」

 

「そ、そうかな?」

 

「えぇ、少し嫉妬してしまいます」

 

 そう言ったナギサの顔はすごく嬉しそうだった。

 

「嫉妬してしまうので、空いた手は私が繋ぎますね」

 

「え」

 

「ナギちゃん!?」

 

 当然のように空いた手を取り、繋いできた。それされると、オレ両手塞がるんですけど。

 

「あれ?どうかしましたか、ミカさん?」

 

「どうかしたじゃないよ!いくら、ナギちゃんでもミサちゃんの手は渡せないよ……!」

 

「ふふっ。……無自覚な独占欲ですか。同じ土俵に立つなら、せめて自覚して頂きたいですね」

 

「オレを挟んで睨み合わないで」

 

 その後、結局ミカが折れてオレの手を折半することになった。なお、そこにオレの意思は介在しない模様。なんで、オレを無視してオレの手を取りあってるんだ……。

 

 神社の鳥居が見え、徐々に本殿に近づいてるのが分かった。同時に近づくに連れ、体の中に黒いモヤモヤが溜まっていくのを感じた。オレのその変化にいち早く気が付いたのは、やっぱりミカだった。

 

「……」

 

「ミ、ミサちゃん?ホントに大丈夫?あ、もしかして私とナギちゃんが言い合ったから?もう仲直りしたよーほら!」

 

「……大丈夫」

 

 ミカが心配して声を掛けてくれたけど、顔はしかめっ面のまま戻らなかった。

 

「……ミサさん、確か去年もそんな感じでしたよね?」

 

 ナギサの言う通り、去年もずっと顔をしかめたまま参拝し、終わったらすぐに帰ってしまった。去年は、客もまばらでそんなに人が居なかったから、耐えられたけど。今年は参拝客が多く、長時間居るせいかかなりきつい。

 

「……原因は何なんだろうね」

 

 原因は分かってる。これは、学園で行ってる朝のミサと同じ感覚だ。神に祈るのと同じように、神に願い乞うことに体が忌避感を示している。力を使うようになってから、この感覚がどんどん強くなっている気がする。この感覚が強くなるごとに、いつか今の関係が破綻してしまうんじゃないかと、恐ろしくなる。でも、二人がいる手前そんなことをおくびにも出すわけには行かない。

 

「……一時的なものだから、気にしないで」

 

「ミサちゃん……」

 

「ミサさんがそう言うなら、信じましょう。ですが、もし苦しかったり辛かったなら言ってくださいね?参拝よりも、ミサさんの方が大切なんですから」

 

「うん……ありがとう」

 

 そうこう話している間に、順番が回ってきた。用意してきた小銭を投げ入れ、手を合わせようとして急に体が重くなる。去年もあったことだ。無視して無理やり手を合わせた。

 

 ―――ミカと、ナギサと、今の関係が続きますように。

 

 ……神は嫌いだ。今もその思いは変わらない。神に祈ったところで、神が助けてくれるわけでもないし、状況が良い方向に転がるわけでもない。それでも、神に勝手に願うくらいは許してほしい。だって、人間なんだから……。

 

 参拝が終わり、手を離すと同時に膝から崩れ落ちる。

 

「―――ミサちゃん!?」

 

 咄嗟のところでミカが支えてくれたおかげで、地面に倒れるのは防げたが体に力が入らず立てない。

 

「ごめん、大丈夫……」

 

「大丈夫なわけないでしょ!?顔が真っ青だよ!?」

 

「ミカさん!近くに休憩所があったはずです。一先ず、そちらでミサさんを休ませましょう!」

 

「う、うん!」

 

「ごめんなさい!通していただけますか!?」

 

 ミカとナギサに支えられながら、その場を後にし、近くにあった休憩所に着くなり意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

「―――ミサさんはどうですか?」

 

「うん、今はぐっすり」

 

 ミサちゃんは休憩所に着くと早々に気を失ってしまい、ミサちゃんを横にした後ナギちゃんはタオルと飲み物を買いに行ってくれた。私は、ミサちゃんを一人にするわけにいかなかったので、一先ず着物を緩めて寝苦しくないようにして、傍で看病することにした。

 

「顔色は……悪くなさそうですね。一時はどうなるかと思いましたが、よかったです」

 

「うん、そうだね……」

 

 幸い、休憩所に暖房など設備が充実してたので、困ることは無かった。苦しそうだったミサちゃんの顔も、時間が経つと元の穏やかな顔へと戻っていった。

 

「それにしても、急で驚きましたね」

 

「……急じゃないよ」

 

「え?」

 

「急じゃない、ずっと耐えてたんだ。今日だけじゃない、ずっと」

 

 ずっと衝動に振り回されてたのに、去年あたりからそれがもっと強くなったんだ。でも、ミサちゃんはやさしいから私たちに心配を掛けたくなくて、ずっと一人で耐えてる。

 

「……ミカさん。もしかして、何か知ってるのですか?」

 

「ナギちゃん……」

 

「幼馴染の私にも話せないのですか?」

 

「……ごめんね」

 

「ミカさん……」

 

 話したい。でも、なんて話したらいいか分からない。きっと、それはミサちゃんも同じなんだと思う。でも、多分理由はそれだけじゃない。これはきっと、私とミサちゃんを繋いでるものだ。だから、誰にも知られたくないって思ってる。幼馴染のナギちゃんにさえも。

 

「隠し事が増えましたね……」

 

「お互いにね」

 

「……かもしれません」

 

 ナギちゃんが《ティーパーティー》に入る前にも関わらず、やたらとお茶会が多いのはなにか理由があるのだろう。でも、私はそこに踏み込まない。代わりにナギちゃんも踏み込まないでほしい。

 

「ミカさんは、ミサさんのことが好きなんですか?」

 

「??好きだよ?大事な友達だもん」

 

「あ、いえ、その一人の女の子として好いてるのかって意味で」

 

「女の子としてって……ええ!?」

 

 きゅ、急に何言ってるの!?もしかして、頭打ったの!?

 

「それで、どうなんですか?」

 

「ど、どうって言われても分かんないよ。ミサちゃんは友達だし……」

 

 ミサちゃんを変な目で見たことない、と言ったらウソになるけど……。

 

 はじめはミサちゃんの容姿に惹かれ、傍に置いておきたいと思ってた。でも、本人に言ったら断られて対抗心を燃やした。その後、ミサちゃんを追う内に友達として仲良くなりたいって思うようになった。私は、ミサちゃんとどうなりたいんだろう。今でもミサちゃんは大事な友達だと思っているけれど、その先なんて考えたことも無かった。

 

「ナギちゃんは、どうなの?」

 

「私ですか?私は……秘密です♪」

 

「むぅ……!」

 

 ナギちゃんはどう思っているか気になったけど、はぐらかされてしまった。自分から聞いておいてそれは無いよ!恨みがましい目を向けるものの、どこ吹く風だ。すると、ナギちゃんは何かを思い出したようにあっ、と声を上げる。

 

「秘密で思い出したんですが、ミカさんに耳に入れておきたいことが」

 

「なに?」

 

「……どうにも、《ティーパーティー》内の一部の分派が妙な動きをしているようでして。もしかしたら、ミサさんに関することかもしれません。注意しておいてください」

 

「なんで急に……」

 

「確かに急ではありますが、むしろ今まで何の動きも無かったことの方が不気味でしたけどね」

 

 私を《ティーパーティー》に籍だけ置かせる理由。それは、私とミサちゃんの繋がりを利用するためだろう、というのは予測していたことだ。それでも今の今まで、ミサちゃんに張り付いてたものの、何の音沙汰もなかったので諦めたと思ってたけど、何かしてくるかもしれないらしい。

 

 鬱陶しい、さっさと消えればいいのに。体の奥から、沸々と黒いものが湧き上がってくるが、理性で押しとどめる。

 

「……そうなんだ、教えてくれてありがと。こっちでも目を光らせておくね」

 

「えぇ、私の方でももう少し探りを入れてみます」

 

「うん、ありがとう」

 

 ちょうど話が終わったタイミングで、繋いでいた手がピクリと動き、同時にミサちゃんの頭にヘイローが現れる。やっと起きたみたい。

 

「んぅ……?」

 

「ミサちゃん、起きた?」

 

「……ミカ?オレ……」

 

 まだ寝ぼけてるのか、ぼんやりとしている。かわいい。

 

「……っ!」

 

 ハッとなり、私から体を離そうとするミサちゃん。私はミサちゃんの手を強く握って離れないようにしてから、優しく語り掛ける。

 

「大丈夫だよ、今日もミサちゃん何もしてないから」

 

「……そ、そう、よかった……」

 

 ミサちゃんの肩から力が抜けるのを確認して、私も手を緩める。

 

「……オレ、寝てた?」

 

「寝てたというか、気絶?」

 

「そうですね、この休憩所に着いた途端にパタリと」

 

「そうだったのか……。その、ありがとう。それと、迷惑掛けてごめん」

 

 しょんぼりしてるミサちゃんがかわいいので、頭をナデナデする。いつもは嫌がるが、今はされるがままだ。普段も本気で嫌がってるわけではないのだろう。ただ、男の子に拘ってるから、恥ずかしいことだと思っているのかもしれない。でも、今こうして頭を撫でられて安心してるから、ミサちゃんだって本当は素直になりたいんだ。ミサちゃんの男の子の部分が邪魔をしてて、素直になれない。解決策はミサちゃんが、女の子だって自覚すればいいんだけど……。

 

 その後、動けるまで回復したミサちゃんを連れて、帰路に着いた。……ミサちゃんを、素直な女の子にする方法……なくはないけど、無理やりな方法だからできれば最終手段にしたいな……。

 

 




光園ミサ
最早、にじみ出るメスを隠しきれない。1年生の夏休み以前に、ミカに自分のモノになれと言われたが断っている。普通に、ミカの傍に居たらエデン条約編に巻き込まれるじゃん、と思っての行動だったが結果としてミカの関心を惹き、粘着される。ミサは自身の内側にある神秘の影響を受けやすい体質。そのせいで、色々と影響が出ている。

聖園ミカ
かつてのミカはチヤホヤされていて、欲しいものは言えば何でも手に入っていた。だから、ミサが欲しいと思った時も簡単に手に入るかと思ったら、普通に断られた。その後もアプローチを続けたもののすべて断られて、夏休み以降は相手にすらして貰えなかった。なので、割と今の関係に満足はしている。一人の女の子としてミサのことを好きかと言われると、まだよく分からない。

桐藤ナギサ
ミカもミサも好き。どちらが上とか下とかは無い。自身の味方と発言力を増やすため、頻繁にお茶会に参加してる。


私って曇らせは好きだけど、あれ系の曇らせは苦手なんだよね…。ハピエン厨だからさ。さて、こちらも小学生編が終わり、次から中学生ですね。導入を書いてから、その次を書くことになりそうです。


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メス堕ち編
変わる日の話


感想いつもありがとうございます!

Q.夏休み前のミサちゃんが何でエデン条約編を知ってるの?おかしくない?

この質問こなかったら逆にどうしようかと思ってた。たぶん、大多数の読者が勘違いしてる話。

A.一体いつから―――ミサが転生してきたのが1年生の夏休みだと錯覚していた?


 

 鏡の前で、真新しい制服に身を包む。吊りスカートだった初等部から、中等部はジャンパースカートになった。空色のブレザーとジャンスカがかわいい。鏡を見て、シワになってる所や、変な所が無いか確認する。

 

 ―――ピンポーン。

 

『ミサちゃーん!』

 

「今行くー!―――よし」

 

 鏡の前で気合を入れ直し、銃とバッグを担ぐと外に飛び出した。今日から中学生だ。

 

 

 

「おはよー!」

 

 教室に入ってきたミカが、クラスメイトに挨拶して回ってる。中等部に進級して数日、初等部からの繰り上がりである為、顔ぶれは変わらないが初等部から中等部になり、通う校舎も変わったからかクラスの空気がどこか浮ついてるように見えた。

 

「おはよ!ミサちゃん!」

 

「ん、ああ……おはよ」

 

 ふぅ、と息を吐きながら髪を掻き上げてミカに挨拶を返す。今年もミカと同じクラスだ。話せる相手がいるのは安心する。

 

「……何それ?」

 

「中学生のオレは、クールな感じで行こうと思うんだ」

 

「ふーん、なんで?」

 

「フッ、こう……女の子からきゃーきゃー言われたいというか」

 

「モテたいの?」

 

「モテたい」

 

 別の意味できゃーきゃーは言われるんだけどなぁ。ミカはいいな、何も言わなくても人が寄ってくるし、ちょっと羨ましい。

 

「ただの承認欲求じゃん」

 

「ち、違っ!別にそういうあれじゃないし!?」

 

「へぇ、ミサちゃんは不特定多数の人にチヤホヤされて満足なの?ミサちゃんが欲しいのは、ミサちゃんのことを理解してくれる人じゃない?」

 

「うっ、そういう面も無きしにもあらずというか……」

 

 いいじゃん!オレだってちょっとくらいはモテたいなって思うじゃん!その中で、オレと友達になってくれる人いたらいいな、とか思ったらダメなんですか?

 

「いまだに友達がミカとナギサしかいないから寂しい……」

 

 あ、でもナギサはオレの事友達って思ってくれるかな。以前は友達だって言ってたけど、本気にして『社交辞令だったのにそんなことも分からないんですか?』とか言われたら死ぬ……!幼馴染に付いてる変な虫とか思われてたらどうしよう!?

 

「うーん、面倒くさいこと考えてそう」

 

「ミ、ミカ……オレの友達はミカだけだよ……!」

 

「ナギちゃんも友達だよー」

 

「オレは変な虫だから……」

 

「ごめん、意味が分からない」

 

 大丈夫だよ、と言いながらミカが頭を撫でてこようとするので避ける。

 

「あ、ところでどう思う?」

 

「なにが?」

 

「クールなオレ」

 

「うーん、似合わない☆」

 

 くそったれぇ……。ぐっばいオレの中学校でびゅー。

 

「あっ、そういえばもうすぐ実力テストだね」

 

 机に突っ伏してると、ミカが突然そんなことを言い出した。

 

「実力テスト?あーそんなのあったっけ?」

 

「あったよ。そんな調子で大丈夫?」

 

「んー、まぁ大丈夫じゃない?」

 

 中学のテストなら余裕でしょよゆーよゆー。

 

 

 

「よ……あれぇ……?」

 

 目の前には返ってきたテスト用紙。そのどれもが50点台。つまり、どの教科も40点も落としてることになる。

 

「う、嘘だろ……」

 

 50点を割らなかったのは救いだが……くそぉ、こんな点数ミカに見せられない。

 

「ミサちゃん、テストどうだった?」

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

「ええっ!?」

 

 驚いて勢いの余りテスト用紙を破いてしまった。いや、逆に考えろ、これは好都合だ。ミカに点数を見られずに済む。

 

「点数が良すぎて、嬉しさの余りテストの紙破けちゃったよ、はは」

 

「えー……」

 

「おっと、ちょっと用事が……さらばだ!」

 

 居たたまれなくなり、思わず教室から飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 ミサちゃんが急に教室を飛び出して、すぐのことだった。教室の扉を勢いよく開けて、ナギちゃんが入って来た。

 

「―――ミカさん!ミサさんは!?」

 

 普段の様子から考えられないほど、慌てたナギちゃんに目を丸くしながら落ち着くよう言う。

 

「っ……すみません、ミカさん落ち着いて聞いてください。先程、ミサさんに対し―――」

 

 ナギちゃんの口から語られたソレに、怒りで頭が沸騰しそうになり、今飛び出したミサちゃんが心配で私も追うように教室から飛び出した。

 

「ミカさん!?」

 

 

 

 いない、どこ!?校舎内を隈なく探した。トイレも他のクラスも覗いたけど見つからない。一体どこに……。

 

 窓から、ミサちゃんを探す。……いた!別の校舎に!……でも、一人じゃない誰かと話してる?あれは……見覚えがある、確か《ティーパーティー》の。いや、それよりもミサちゃんの所に行かなきゃっ!

 

 ミサちゃんの居た校舎に来たけれど、さっきまでの所にミサちゃんは見当たらなかった。まだ校舎から出てないのなら、近くに居るはず。と、感覚を限界まで研ぎ澄ませていると、近くからすすり泣くような音が聞こえた。いや、違うミサちゃんが泣いてる。行かないと!

 

 音の聞こえた方に向かうと、階段の踊り場で俯いてるミサちゃんを見つけた。

 

「―――ミサちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 勢いのまま教室を飛び出した俺は、すぐに戻るのも気まずくて次の予鈴が鳴るまで、校舎をブラつく事にした。

 

 テスト、あんな点数取るなんて思わなかったな……。中学のテストだからって甘く見過ぎたか。でも、自己採点でも90点は確実だったと思ったんだけど、どこかで回答ズレたのか?ちゃんと確認しておけばよかったな。同じ轍を踏まないように、筋トレの時間減らして次はちゃんと勉強しとくか……。はぁ……。

 

 そんな事を考えていると、廊下の奥から人が歩いてきた。数人の白い制服の集団。高等部の人たちかな。

 

「ごきげんよう」

 

「……こんにちは」

 

 オレの前まで来て挨拶されたので、挨拶を返すとフッと笑い立ち止まる。癇に障る笑い方に、むっと顔をしかめる。

 

「貴女が光園ミサさん?」

 

「……だったら、なんですか」

 

「貴女の噂は《ティーパーティー》まで届いてるわ。《トリニティの問題児》さん?」

 

「……」

 

 《ティーパーティー》……。いつか、接触はしてくるだろうとは思ったけど、なんで今?

 

「貴女、今回の実力テストが揮わなかったそうね」

 

「……次はちゃんと高得点取れますよ」

 

「ふふっ、だといいわね」

 

「……?」

 

 なんだ?妙に含みがあるというか、変な笑み浮かべやがって、イライラする。

 

「世間話をしに来たんですか?それとも、ケンカを売りに来たんですか?」

 

「あらやだ、すぐ暴力と結び付けようだなんて野蛮人なのかしら?」

 

「……」

 

「ふふふ、怖い顔。怖くて縮み上がってしまいそうですわ。……貴女には申し訳ないけれど、どちらでもないの、アレを頂戴」

 

「はい」

 

 アレってなんだ?付き人の一人が持って来た書類を受け取り、こちらに差し出してくる。

 

「……」

 

「《ティーパーティー》からの正式な通達書よ、受け取りなさい」

 

 受け取らずに見ていたが、渋々受け取る。受け取った書類を見て、驚愕に目を見開く。

 

「こ、これって一体……!?」

 

「本日、《ティーパーティー》にて提言されたものです。普段の素行不良、並びに今回のテスト結果を受けて、改善されない場合、光園ミサ、貴女を停学あるいは退学処分にします」

 

「なっ……!?こ、こんなの急すぎる!」

 

「えぇ、ですからあくまで"提言"です。まだ確定したわけではありません。しかし、書面にある通り改善されなければその限りではないと、思ってください」

 

「そ、そんな……」

 

 停学、つまり矯正局送り。そんな……なんで……。

 

「あぁ、そうでした。一つ伝え忘れてましたね」

 

「……まだ、なにかあるのかよ」

 

「えぇ、貴女がこの通達書を無視した場合についてですが、貴女の友人にも処罰が下されます」

 

「………………は?」

 

 友人、ミカとナギサに?ふざけるなよ……!オレだけならまだしも、アイツらまで巻き込みやがって!!

 

「もちろん、貴女がこのまま《ティーパーティー》に殴り込んでも、同じだということをお忘れなく。まぁ、その場合貴女自身の寿命を縮める結果になるでしょうが。よもや、その程度のことに頭が回らないわけではないでしょう?」

 

「……ッ!」

 

 ギリィッ!と痛むほどに奥歯を噛み締める。

 

「ふふっ、我々も忙しいのでこのくらいにしておきましょう。……賢明な判断を期待してますよ。それでは、ごきげんよう」

 

 廊下の奥から来た一団は、来た時と同じようにオレの横を通り廊下の奥へ消えていった。オレはそれを見届けず、ただ立ち尽くしていただけだった。

 

 オレはふらふらと歩きながら、もう一度通達書を見る。通達書を無視、つまり改善されない場合にもミカとナギサに処罰が適用される。オレが通達書に不満があり、《ティーパーティー》に訂正を求めた場合も同様。

 

 回避する為には、通達書にある二つの条件をクリアしなければならない。そのうちの一つの学力の改善は容易だ。真面目に勉強するだけでいい。だけどもう一つ、素行の改善が一番の問題だ。学力はいい、テストという結果がある。でも、素行が改善されたなどと誰が判断するんだ?そんなもの主観の違いによって変化するものだ。つまり、《ティーパーティー》が是としなければ是にならない。ははっ、なんだよそれ。詰み、じゃねえか……。

 

 オレだけの問題なら、どうとでもできたのに。ミカとナギサまで巻き込んでしまった。オレなんかがいた所為で、オレがいなければミカもナギサも普通に過ごせたんだ。オレが、いなければ……?あぁ、最初からそうするべきだった。ミカとナギサの傍が暖かくて、離れたくなくて、ズルズルと先延ばしにした結果がこれだ。オレが消えればいいんだ。それで、全部おしまい。

 

 おしまい、なのに……ッ!離れたくない……!まだ、ミカと一緒に居たいよ……!でも、どうしたらいいのか分からない。たすけて。だれか、たすけて……。

 

「―――ミサちゃん!」

 

 聞き覚えのある声に、ハッとなり振り返ると階段の上にミカが立っていた。慌てて、涙を拭い、通達書を隠す。

 

「ミ、ミカ、どうしたんだよそんなに慌てて」

 

 ミカは手すりに腰掛けると、滑り台のように滑って下りて、その勢いのままオレに抱き着いてくる。

 

「ミ、ミカ?」

 

「ミサちゃん!大丈夫!?……ナギちゃんに聞いたんだよ。ミサちゃんが停学になるかもしれないって」

 

「あ、ああ」

 

「……ミサちゃん?その紙って」

 

「あっ!?それは!」

 

 ミカはオレが隠し持ってた紙を引っ手繰るように奪うと、それに目を通す。

 

「……ナギちゃんが言ってたこと、本当なんだ。ねぇ、どうして!?どうしてミサちゃんがこんな目に遭うの!?」

 

「……ツケが回って来たんだ。オレがミカのやさしさに甘えてきたツケが」

 

 だから、オレがいなくなるしかない。もう、それしか……!

 

「そう、だからあの人はあんなことを……」

 

 ミカはなにやらブツブツと言っていたが、上手く聞き取れない。ミカから離れようにも、ホールドがきつく抜け出せる気配がない。まさか、ミカはオレが消えようとしてるのに気づいて?ミカほどの鋭さなら、気付いてもおかしくはないけど……。

 

「ねぇ、ミサちゃん。私なら二つの条件をクリアするのに手助けできるよ?」

 

「……えっ!?」

 

 クリア、できるのか?少なくとも、オレが考えた限りでは素行の改善なんてクリアしようがないと思ってたんだけど。でも、ミカが出来るって言うならそうなのかもしれない。

 

「もちろん、ミサちゃんがいいって言うならだけど……」

 

「ホントにできるの?なら、お願い!オレはまだミカと一緒に居たい!」

 

「うん、任せて。じゃあ、ちょっと付いて来てもらえる?」

 

「あ、うん!ところでどこ行くの?」

 

「……《勉強部屋》だよ」

 

「へぇー、トリニティにそんな教室あったんだ」

 

 ミカと手を繋いで長い廊下を歩く。

 

「《勉強部屋》って言うからには勉強する部屋だよね。先に学力の方をどうにかするの?」

 

「それなんだけど、もう一つの方は私に任せてもらえれば解決できるよ」

 

「え?そうなの?」

 

「うん、だからミサちゃんは"勉強"に集中するだけでいいから」

 

「なるほど。ミカが居てくれてよかった!やっぱり、持つべきは友、だよね!」

 

「……そうだね」

 

 しばらく歩いていると、ミカが不意に立ち止まった。

 

「ここだよ」

 

 そう言って、ミカが示したのはなんてことない普通の電子扉だった。ミカは、扉の電子機器にスマホをかざすと、ロックの外れた音がした。ミカに促され、開いた扉の中へ入る。

 

 

 

 ―――それが、オレをどうしようもなく変えてしまう事に気付かぬまま……。

 

 




光園ミサ
メス堕ち秒読み。

聖園ミカ
素行と学力、両方を同時に解決する方法。ね?簡単でしょ?


というわけで導入終わり!完全版(R-18)書いてから添削して本編更新になるから少し遅くなるかも。そういえばさ、天使って両性具有なんだよね。


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メス堕ちさせられた話

ミカミサの誕生日だオラァ!おめでとおおおおお!!!

ギリギリまで削ったけど直接表現残ったのあるかもしれない。あったらごめん。

今回はガチでほぼR-18になってるからダメな人はブラウザバック!

↓今回の話の完全版読みたい人はこっち!↓
https://syosetu.org/novel/315837/

23:53
※さすがに消されるZE!って言われたので雑に修正入れました。運営!もうこれで許してくれ!まだやばそうって思ったらメッセでもいいのでください…。

5/9 1:28
※再修正!おっぱいは前回(エイプリルフール)のとき許されたし、ちんちんも許して。ちんちん許されなかったらちんちん電車が逮捕されてしまう(?)


 

 部屋に入り、ミカが照明のスイッチを入れると、部屋はピンク色のライトで照らされる。

 

「……ここが《勉強部屋》?」

 

 置いてあるのは、大きなベッドに何かの棚、それに全身を映して余りある大きな鏡。これって……ラブ……?

 

「えっと、ミカこの部屋で合ってるのか?なんか違う気が―――えっ?」

 

 急に後ろから強い力で押さえつけられ、ベッドに倒れこむ。状況を把握する間もなく、そのまま両手を拘束されてしまう。

 

「えっ?えっ?なにこれ?ミ、ミカ……?」

 

 両手を上げた状態でベッドに拘束されたオレは、後ろから押してきた人物を見る。部屋全体がピンク色で、その上逆光になっておりミカの表情が窺えず困惑してしまう。

 

「ミサちゃん……」

 

 ベッドがギシッと軋み、ミカがオレの上に跨る。

 

「おい……ちょっと冗談が過ぎるぞ……?と、とりあえず手の拘束外してくれない?」

 

「……」

 

「ミカ……?」

 

 何も言わないミカに困惑していると、伸びてきた手がオレの首を掴む。

 

「ミ……!?」

 

 力は入っていない。ただ掴んでるだけだ。でも、その気になればいつでも首を絞められる。命を握られたことにより、体が強張り嫌な汗が流れる。

 

「ねぇ、ミサちゃん……どうして私たちの前から、ううん私の前から消えようとしたの……?」

 

 垂れ下がった長い髪が頬をくすぐる。だが、長い髪の奥、ミカは一切光を宿していない目でこちらを見ていた。いつものミカとは違う雰囲気に動揺し、ゴクリと唾を飲み込んでしまう。

 

「そ、それは……こ、これ以上ミカに迷惑掛けられないと思ったから……」

 

「……それは嘘」

 

「う、嘘なんかじゃ!」

 

「嘘だよ。ミサちゃんは最初から別の理由で、私から離れようとしてる。それを、それらしい理由で後付けしただけ、違う?」

 

「なんで……」

 

「そのなんでは、嘘を見抜かれたこと?それとも、ミサちゃんが私から離れたい理由を、私が知ってること?」

 

 なんで、ミカが知って……誰にも話したことなんて無いのに。

 

「ふふっ、ミサちゃんが私から離れたいのは―――私のヘイローを壊したくなるから、でしょ?」

 

「なんっ……」

 

 反射的に紡ぎそうになった言葉を飲み込む。言いたくない。言ってしまったら、今までの関係じゃいられなくなる……!

 

「『なんで分かるの?』かな?分かるよ、だって―――私もミサちゃんのヘイローを壊したいって思うんだもの」

 

「―――え?」

 

「ねぇ?ミサちゃんは感じたことない?私はね、ずっと感じてた。ミサちゃんを見てると、どうしようもないほど怒りと悲しみが渦巻いて……。でも、一緒に居ると嬉しいの。まるで、失くしたものを見つけた時みたいな。でも離れると心の中に、ポッカリ穴が開いちゃうくらい寂しくなるの」

 

「……うぐっ!?ミ、カ……」

 

 首を掴んでいた手に力が籠められる。じわじわと気道を圧し潰され、視界がチカチカと明滅する。

 

「苦しい?私もミサちゃんに同じことされたんだよ?覚えてる?5年生のクリスマスの前ぐらいだったよね、懐かしいなぁ。私ね、あの時確信できたんだ。『ああ、ミサちゃんも私と同じだったんだ』って、嬉しかった」

 

「―――カハッ!げほっ!げほっ、ハーッ、ハーッ」

 

「ごめんね、大丈夫。私はミサちゃんのヘイローを壊さないから」

 

 首の拘束が外され、気道が確保されたことにより酸素を求めて何度も深呼吸する。ミカは、外した手をそのままオレの顔に持って来て、頬をそっと撫でた。

 

「私たちがそっくりなのは見た目だけじゃない。もっと深いトコロで私たちは繋がってるんだよ、ミサちゃん」

 

 ……ミカもずっと、同じ気持ちで……。でも、だったらどうして。

 

「どうして、こんな拘束なんか」

 

「……ミサちゃん、さっき私と離れたくないって言ったよね?」

 

「え?う、うん」

 

「私も同じ気持ち。ミサちゃんと離れたくないから、こうするしかないの。ミサちゃんが勝手にどこかに行ってしまわないように、ミサちゃんを私から離れなくするしか」

 

 そう言ってミカはオレの胸に手を置いて、撫で回す。

 

「な、何してるんだよミカ!?」

 

「何って、見れば分かるでしょ?私、結構勉強しただけど、どう?気持ちいい?」

 

「見れば分かるって、大体オレは男だぞ。胸なんか触られたって感じるわけないだろ」

 

「ふーん、そっか」

 

 それでもミカはオレの胸を触り続けてる。確かに胸を触られてるって感覚はあるが、それだけだ。こんなの何十時間と続けたって意味なんか無い。

 

「……いつまで触るんだよ」

 

「んー?男だから別に感じないんでしょ?ならいいじゃん」

 

「確かにそう言ったけど」

 

「それに、ミサちゃんがもう二度と私から離れようなんて馬鹿なこと考えないように、躾けないと」

 

「し、躾け!?」

 

「調教の方が良かった?」

 

「どっちも変わらないだろ!くそ、さっさと拘束外せよ!」

 

 ガチャガチャと拘束具を引っ張るが、オレの力で引っ張っても壊れなくて動揺する。

 

「な、なんで」

 

「私も力が強いからね。どうされたら、拘束が解けないか分かるもん。ちなみにそれは、鎖の上から布を巻いて捻ってあるから、引っ張ってもそう簡単に壊れないよ」

 

「ふ、ふざけるな!くそ……お前は、ミカだけは味方だと思ってたのに、どうして……」

 

 感情が勝手に込み上げて来て、視界が滲む。涙が溢れて止まらない。

 

「ミサちゃん……大丈夫、今も味方だよ」

 

「だったら!離せよ!離してよ!」

 

「ミサちゃん、ごめんちょっと大人しくしててもらえる?」

 

「いっ!!?!?痛い!?痛い!?」

 

 ミカはあろうことか、服の上から乳首を引っ張り上げる。すぐに離してもらえたが、ズキズキとした痛みが、今の状況が夢でないことを知らせてくる。

 

「私も出来る限り、ミサちゃんに痛いことしたくないから、大人しくしてて、ね?」

 

「うっ……うっ……」

 

「ふふっ、いい子いい子。ちょっと脱がすね」

 

 ミカは器用に拘束したまま、ジャンパースカートの上部分を外し、シャツをはだけさせる。

 

「前見た時と同じぺったんこなおっぱい。子供っぽい下着もかわいいね。じゃあ、触るから大人しくしててね」

 

 そう言って、もう一度胸を触り始める。オレはまた痛いことをされたくなくて、それを見てることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、何時間経ったのか。時間の感覚が失せるほどイカされ、何度もイッてるにも関わらず気絶できない自分の頑丈さを恨みたくもあった。

 

 ベッドの上や周りは、オレの出した液体によって至る所がびしょびしょになっており、この部屋を掃除する人には申し訳ないな、と半ば現実逃避気味に益体もないことを考える。

 

 そして、もう何度目になるか分からない絶頂を迎えようと、全身が昇り詰めていく感覚がした。

 

「やだ、またイッちゃう、やめてもう無理、だれか……たすけて……」

 

「……そう」

 

 絶頂しようとした体は、しかし不意に止められる。涙や鼻水などでグチャグチャになった顔をミカに向けると、感情の込もってない目でオレを見ていた。

 

「やめてほしいんだ?ミサちゃんは」

 

 底冷えするような声で話すミカが恐ろしかったが、オレは何度も首を縦に振る。

 

「ふーん……」

 

 感情の込もらない目のまま、水音を響かせて抜かれた指から滴る、粘性の高い液体を見つめながらミカは言葉を続けた。

 

「いいよ」

 

「えっ?」

 

 ミカが言ったことに困惑してる間に、オレを拘束してるモノをあっさり外すミカ。

 

「ただし、条件があります」

 

「じょ、条件……?」

 

 自由になった手をさすりながら、普段絶対に使わないだろう口調に訝しみ、そっと距離を取る。

 

「そう、条件……ねぇミサちゃん、勝負しよっか?」

 

「し、勝負?」

 

 ずいッと距離を取った分、こちらに詰めるミカの圧に怯みながらオレは聞き返す。

 

「ミサちゃんが、我慢出来ずにおねだりしてきたら私の勝ち。我慢出来たらミサちゃんの勝ち。……シンプルでしょ?」

 

「お、おねだりって……ひぅ!?」

 

「―――ふふっ、何の事か分かるでしょ?」

 

 そう言いながらミカはオレの腹をなぞる。絶頂寸前で押し留められた体はそれだけで快感を生む。

 

 つまり、快楽に負けてミカにイカせて欲しいとお願いしたらオレの負け、ということか。何時間でも耐えれる、はずだ。さっきだってオレからおねだりなんてしなかった。

 

「そ、それで、制限時間は?」

 

「時間?うーん……じゃあ、1週間で」

 

 思わず自分の耳を疑った。1週間?長すぎないか?

 

「い、1週間?」

 

「うん、明日から1週間後の午後5時まで」

 

「は、はぁ!?流石に長すぎるだろ!?」

 

 ミカの責めに1週間も耐えられる気が……い、いや耐えられる……。

 

「そうだね、だから帰りたかったら家に帰ってもいいよ」

 

「え?いいのか?」

 

「うん、そのために手枷外したんだし。もちろん、勝負中は私から一切手出ししない」

 

 あまりにもオレに有利すぎる条件だった。なにか裏があるのかとミカを見るが、ミカはオレを見てニコニコと笑うだけだった。

 

「どうせだから、賞品も付けちゃおっか。……勝った人は負けた人になんでも言うこと聞かせられる、っていうのはどう?」

 

「な、なんだよそれ……」

 

「いいじゃん、条件としてはミサちゃんが有利なんだから、これぐらいのリスクは当然だよね?」

 

 確かに、明らかに有利なオレ側が賞品に口出しなんて出来ないけど……。

 

「ち、ちなみに拒否権は?」

 

「ふふ、ミサちゃんに有利な条件で提示してあげたのに、あると思うの?」

 

 ……断ったら、さらにキツイ条件を重ねてきそうだ。勝負を断っても同じだ、ここから大人しく帰してくれるとは思えない。

 

「で、どうするの?」

 

「……わかった、勝負を受ける」

 

「うん、じゃあ勝負成立だね。じゃあ約束通り、1週間私からは一切手出ししないし、家に帰ってもいいよ」

 

 そうミカに言われたので、オレは乱れた衣服を整え、パンツは……気持ち悪かったけどもう一度履いた。投げ捨てられた銃とバッグを担ぐが、疲労からかいつもより重く感じた。

 

「勝負の間、私はこの部屋にいるから、我慢出来なくなったらちゃんとおねだりしに来てね」

 

 後ろから聞こえたミカの声に振り返らず、火照る体を抑え部屋を出て家に向かう。1週間、1週間だ。それだけ我慢すればオレの勝ちだ。外は夕日が差しており、6時間近くあの部屋に居たらしい。

 

 ミカに何もされないなら、この勝負余裕だ。と、この時のオレはそんな甘いことを考えていた。自分の身体の異変に気が付いたのは日が変わってからのことだった。

 

 

 

「―――はぁ、はぁ、はぁ」

 

 次の日の授業中、漏れそうになる声を抑えながら授業用のBDを眺める。元々の目的だった勉強にリソースを割いたのだが、オレは勉強どころではなかった。下着や服が体を擦れる度、快感によって体が震える。

 

 確かに、勝負中にミカは何もしていない。だが、ミカによって開発された体が今オレを苛ませていた。

 

 ミカ……まさかこうなることが分かってて……。……っこの程度なら全然耐えられる。負けるもんか……!

 

 

 

「―――ふぅ……!ふぅ……!」

 

 3日目、手が思わず下へ伸びそうになるのを、指を噛んで耐える。あれから膨れ上がる快楽は治まることを知らず、オレの思考をも蝕んでいく。さわりたいさわりたいさわりたい。

 

「……ん、んふ……!」

 

 無意識に体を揺すって、服を体に擦らせ快楽を得ようとしてしまう。気付いて体を止めるが、また無意識に体を揺らす。

 

 ……まだ、まだ耐えられ……!

 

 

 

 イキたいイキたいイキたいイキたいイキたいイキたいイキタイイキたいイキたいいきタイイキたいイキたいイキたいイキたいイキたいイキたいイキたいイキたいイキたい。

 

 5日目、焦らされ続けてるオレの身体はずっと火照っており、快楽を得ようとイスにお尻を擦りつけるが弱い刺激しか得られず、悶々としていたのだが。とうとう我慢出来ず授業が終わると教室を飛び出し、あまり人が来ない校舎のトイレに駆け込む。

 

 

 

「ふっ……!ふっ……!ふっ……!ふっ……!」

 

 ミカがやっていたようにおっぱいをこね回したり、乳首を摘んだりしてるのになんで……。

 

「なんでイケないのぉ!?イキたい、イキたいぃぃぃ!!!??」

 

 顔を涙でグチャグチャにしながら、快感がより高まるだけで、ミカにされた時みたいに頭が真っ白になるあの感覚が、いつまで経っても訪れない。

 

「ぐすっ、やっとイケるって思ったのにぃ、んっ、イキたい、イキたいよぉ!イカせてよぉ!」

 

 結局、その日の授業が終わるまでずっとトイレに籠もったまま、自分を慰め続けた。

 

 

 

 

 

 

「―――はぁ」

 

 紅茶を一口飲み、カップをソーサーに戻すと、壁に掛かってる時計を見る。

 

 午後4時50分。もうすぐ、約束の1週間だ。

 

 正直に言って、ミサちゃんの精神力をナメていた。1日と言わずとも、3日ぐらいで音を上げると思っていたが、まさか1週間耐えられるなんて……。淫紋付けたり、媚薬飲ませるなり手を打つべきだっただろうか。今となっては遅きに失する、というものだ。

 

 5日目辺りから、ミサちゃんがトイレに籠もってシテるのは気が付いていた。が、確かに条件には自分で弄るな、とは言ってないので少し詰めが甘かったかもしれない。あるいは、ミサちゃんは自分で慰めないだろう、等という楽観的すぎる考えがいけなかったか。

 

 そういえば、ナギちゃんの方は大丈夫だろうか。『出来るだけ《ティーパーティー》の決定を遅らせて欲しい』、なんてワガママを言ってしまった。ナギちゃんも納得が言ってなかったのか任せて欲しいとは言ってくれた。

 

 今回は、焦ってミサちゃんのことを考えず強引に事を進めてしまったけど、いずれはと考えていた計画が前倒しになっただけだ。ミサちゃんが悪いんだ。すぐ私の前から消えようとする。そんな悪い子には首輪を付けてあげないと……。それに、無自覚に変な女を引き寄せるから、私が近くで見張っておかなきゃ。

 

「……とはいえ」

 

 壁に掛かっている時計の針が5を指した。

 

「……私の負け、か」

 

 今回の強引に堕とす計画は失敗したけど、別にゆっくり依存させる計画もあるし、次の機会を待とう。

 

 残った紅茶を飲み干し、荷物を持つと部屋から出る。

 

「―――あ」

 

 すると、そこにはミサちゃんが立っていた。直接会うのは1週間ぶりか、たった1週間なのに随分会ってなかったように思える。ミサちゃんは、制服が乱れており、顔は上気してスカートの中からは何かの液体が滴っている。

 

「どうしたの、ミサちゃん。勝負ならミサちゃんの勝ちだよ、おめでとう」

 

 ミサちゃんの身体を一瞥しながら、なんでもない風を装ってミサちゃんの横を通り過ぎようとすると、ミサちゃんに制服の裾を掴まれる。

 

「ミカ……お願い、オレをイカせて……」

 

「ミサちゃん、もう勝負は着いたから自分でシタらいいでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

 葛藤するミサちゃんを見て、私は計画の成功を確信した。もう一押し、それでミサちゃんは堕ちる。笑みが零れそうになるのを抑え、ミサちゃんを言葉巧みに誘導する。あくまで、ミサちゃんの選択である、と自覚を持たせることでより深く堕とす。

 

「どうしても私にシテ欲しいって言うなら、勝負はミサちゃんの負けになっちゃうけど、それでもいいの?」

 

「……!」

 

 そんな訳がない。既に勝負は着いてるし、勝負はミサちゃんの勝ちだ。普段の頭の回るミサちゃんなら、すぐに気付ける。そう、普段のミサちゃんなら、ね。

 

「いいわけ無いよね。じゃあ、この話は終わり―――」

 

「~~~っ!わかった!負けでいい!オレの負けでいいから!!だから、イカせて!自分でシテも全然イケないの!頭っおかしくなるっ!」

 

「っっ、ホントに分かってる?私の言うことなんでも聞くんだよ?」

 

「聞く、聞くから!早くイカせてよぉ!!」

 

 涙をボロボロと零しながら、懇願するミサちゃんを見て勝った、と思った。同時に目の前で誘惑してくるミサちゃんに、沸々と嗜虐心が湧いてくる。

 

「今度は嫌がっても私が満足するまでイカせるからね」

 

「ミカが満足するまで……」

 

 ミサちゃんの足の間から一筋の雫が流れ落ちる。何を想像したのかは知らないけど、ミサちゃんが想像したものよりもすっごいことシテあげるね。

 

「―――じゃあ、部屋に入ろう?」

 

 私が手を差し出すと、ミサちゃんはおずおずとその手を掴んだ。

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この部屋に入ってから散々ミカにイジメ抜かれた。それどころか、ミカの股間から成人男性も顔負けな怒張が生え、それを体にねじ込まれ女の子の快楽を教え込まれた。

 

「……ぐすっ」

 

「……ミサちゃん?どうしたの?」

 

「だって、オレ、男なのに、こんな」

 

「ミサちゃんは女の子だよ?」

 

「違うぅ……!男なんだもん……!」

 

 堰を切ったように涙が零れ止まらなくなる。ミカはそんなオレを見て、ムッとする。

 

「ミサちゃんは女の子。その証拠を見せてあげる」

 

 ミカが手を引いてベッドの上で向きを変えさせられる。……一体何をするつもり?

 

「ミサちゃん、そこに鏡があるの見える?」

 

 ベッドの傍に人二人分余裕で映れる大きな姿見が置いてあった。

 

「見えるけど、何もおかしい所なんて」

 

「ホントに?もっとちゃんとみて」

 

 大きな姿見に映ってるのはオレとミカの二人だけだ。全身が液体まみれではあるけど、おかしな所はない。ミカはオレが女の子の証拠があると言うけれど……。

 

「―――え?」

 

 そこで違和感に気が付いてしまった。身体の方は何か変わったという訳ではない。この世界に来て6年間付き合ってきた身体だ、今更おかしいとも思わない。だが、身体ではない方、ヘイローに震える手を伸ばす。相変わらず触れられないソレは、以前見た形と変わっていた。

 

「なに、これ……なんで……」

 

 青かったヘイローはピンク色に変わり、中心にあった男を示すマークすら変わり、女を主張している。

 

「やっぱり、気付いてなかったんだね」

 

「やっぱり、ってミカ知ってたの!?」

 

「私だけじゃなく、ナギちゃんも知ってるよ」

 

「なっ」

 

 ナギサも?なんで?そもそも普通の生徒はヘイローの形が変わらないはずじゃ……。

 

「あ、かわった」

 

 ミカの言葉に釣られ鏡を見ると、ヘイローは元の青色に戻っていた。意味が分からない。

 

「一体いつから……」

 

「私が知ってる限りだと、初等部の5年生の頃からかなぁ」

 

 結構前からじゃん……。

 

「……ちなみに、どういう時に変わってた?」

 

「んーと、かわいい服着せた時とかご飯食べてる時とか、あと泣いてる時」

 

 思ったより頻度が高い……!

 

「あ、あと気持ち良くてあんあん言ってる時も変わってたよ!」

 

 ミカの言った言葉に、思わずカーッと顔が熱くなる。

 

「私が思うにね、ヘイローが変わるのはミサちゃんの素直な気持ちが出てる時なんじゃないかなって」

 

「そ、そんなこと!」

 

「あるよ、だから私がミサちゃんを素直な女の子にしてあげる。もう無理に男の子ぶる必要はないよ」

 

「む、無理なんて……」

 

「してるよ、ずっとしてる。ミサちゃんはね、女の子の方が幸せになれるの。今から私がそれを証明してあげる」

 

 そう言うと、ミカは背中からオレを押し倒す。慌てて手をベッドに付いて四つん這いになる。

 

「い、一体何……を……」

 

 抗議しようとしたオレは、ボロンと尻に乗せられた大きなイチモツに言葉を失う。何をするつもりか、理解したからだ。

 

「ミサちゃんが自分から、心から女の子だって言えるまで、何度もこれで責めてあげる」

 

 ペロ、と舌で唇を舐めながらギラギラした目でオレを見るミカ。さながら肉食獣のようで、体が震える。

 

「や、やめ……」

 

 四つん這いのまま逃げようとするが、腰から生える羽を掴まれて動けなくなる。

 

「ふふっ、覚悟してね。私も心を鬼にして、ここからはノンストップで行くから」

 

「や―――っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだぁ!もうやだぁ!やめてよぉ!!はぁんっ!」

 

 

 

「あっ……あっ……もう、無理ぃ……」

 

 

 

「ダメぇ!お尻は無理ぃ!!あああああああああッ!!?」

 

 

 

「あー……!あー……!」

 

 

 

「あはは!気持ちいい!気持ちいいよぉ!ミカぁ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、ミサちゃん素直になったね。すごくかわいいよ」

 

「えへへ」

 

 かわいいって言って貰っちゃった♡ミカは上半身を起こすと、おもむろにオレの唇を奪う。突然で驚いたけど、オレは抵抗せずミカの舌を受け入れる。

 

「んっ♡ちゅむ……れろ♡」

 

「んむ……ちゅっ……ぷはぁ。ミサちゃん、かわいい」

 

 どちらともなく手を繋いで、もう一度キスする。

 

「でも……」

 

「どうしたの?」

 

「オレ、どうやって女の子したらいいか分からない……ずっと、男だったから……」

 

「そっか、そうだよね。ちゃんと素直に言えたね、えらいよ。大丈夫、私が女の子の事教えてあげる。流行りの服とかアクセ、女の子らしい色んな事」

 

「ホント?」

 

「うん、もちろんだよ!まずは、女の子らしい話し方から始めてみよう?自分のことは"私"って言うの。ほら、やってみよう?わ・た・し」

 

「わ、た……し」

 

「うん、そうだよ!もう一度言ってみて?」

 

「私……」

 

「うんうん!いいと思う!すごくかわいい!」

 

 "私"の言葉に、ミカは嬉しそうに何度もうなずく。ミカが嬉しいと私も嬉しい♡

 

「ミカ、私にもっと女の子の事教えて!」

 

 私はミカに抱き着く。

 

「んっ♡もちろん!たくさん教えてあげるねっ!」

 

「やったぁ♡あんっ♡」

 

「あっ!そうだ!ミサちゃん、女の子宣言しよ!」

 

「女の子宣言?んっ」

 

 どういう意味か分からず、小首を傾げてミカに聞く。ミカは私の耳に顔を近づけると、こしょこしょと話す。ミカの息が耳に当たって気持ちいい♡

 

「―――って言って欲しいの!」

 

「……それを言ったら、ミカは嬉しいの?」

 

「すごく嬉しい!」

 

「じゃあ言う♡あんっ」

 

 これじゃ、しゃべりづらいよぉ。

 

「ほら、言ってミサちゃん!『私は』?」

 

「う、うんっ!わ、私は!女の子に!あんっなりましゅ!髪も伸ばして!オシャレしてっ!あぁん!女の子らしくなりましゅうううううううううううッッッ!!!!♡♡♡」

 

 『宣言』によって自分の中で、明確に何かが壊れた気がした。

 

「あ、あへぇ……」

 

「ふふっ、かわいい『女の子宣言』だったよ。……そういえば、今日が何日か覚えてる?」

 

「ふぇ……?」

 

「ふふふ、ほら時計見て」

 

 ミカに示された方にはデジタル時計が置いてあった。5月7日23時59分……?

 

「3……2……1……」

 

 時計が5月8日00時00分になる。

 

「『女の子の』誕生日おめでとう、ミサちゃん!」

 

「あっ……」

 

 そうだ、私とミカの誕生日。ポロポロと涙が流れる。嬉しさか、あるいは別のモノか。

 

「うん、ありがとう……。ミカも誕生日おめでとう!」

 

「ありがとう!」

 

 しばらく見つめ合って、また唇を合わせる。舌を入れない、軽く合わせるだけのキス。幸せなキスだった。抱き合ったまま、じっとしていると瞼が重たくなってきた。

 

「眠たくなってきた?」

 

「うん……」

 

「そっか、じゃあ少し寝よっか。これ抜くね」

 

「あ、そのままがいい」

 

「そう?」

 

「うん、中にミカがいると幸せな気持ちになって安心できるから」

 

 そう言って私は、お腹の上からミカのモノをさする。

 

「そうなんだ、じゃあこのままにしておくね」

 

「うん、ありがとう……ねぇ、ミカ」

 

「うん?なぁに?」

 

「起きたら、私に……また女の子の事……教えて……ね……」

 

「うん、もちろんだよ。だから今はいっぱいおやすみ」

 

「うん、おや……すみ……」

 

 ミカに頭を撫でられながら、微睡みに身を任せ目を閉じる。疲れていたのか目を閉じたら、そのまま眠っていた。

 

 

 




光園ミサ
快楽堕ちとメス堕ちを同時にさせられた。なお形状記憶合金メンタルで起きたら『オレ』に戻ってる。でも、身体は堕ちちゃったし、普通に覚えてるから羞恥心で死にそう。まだ素直になれないお年頃。6年経ってやっとヘイローに気付いた。

聖園ミカ
生えた。すっごく大きい。ミサの中にぴったり。"力"の応用で生やしてるので消すと消える。神秘って便利!



あっぶなああああああい!ミカの誕生日に間に合ってよかった!表側のラインが分からないからどこまで大丈夫か全然分からない。

ミカの誕生日ボイスかわいい♡

※5/9追加
修正という名の文章削除を重ねまくって、1万9千文字が9千文字まで減りました!おせっせで1万字…?消した文に今後の伏線があったり無かったりラジバンダリなので、気になった人はR-18の完全版もみてね!


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桐藤ナギサの話①

感想いつもありがとうございます!

前回から間が空いて申し訳ない。前話では色んな人に心配お掛けしました。許されたのでこのラインぐらいで書いてくぞ~。

でも、今回はミサの話ではなく、みんな気になってるであろうナギサ側の話。ミカとミサがにゃんにゃんしてる裏側の話になります。


 

「―――ですから!光園ミサを即刻矯正局送りにすべきです!」

 

 そう声高に叫ぶのは《ティーパーティー》にある分派、パテルに所属する生徒。その光景に、ナギサはもう何度目になるか分からない溜め息を吐く。

 

 今、桐藤ナギサが居るのは《ティーパーティー》の会合場、それも各分派の首長も交えた大規模な会議だった。今回の議題は当然、光園ミサの処分について、だ。まだ何もしていない彼女の処遇ではなく、処分が決められそうになっているのは普段の素行の悪さ故か。

 

 そういえば、先週のミカとミサの誕生日のことだ。ナギサ自身、《ティーパーティー》の雑務に情報収集にと追われ、ミカとミサは二人で秘密の勉強会をしているらしく、顔を合わせる暇が無かったのでモモトークで誕生日おめでとうのメッセージを二人に送ったのだが、ミカは反応したがミサからの返信が無く、その後何故かミカが『ミサちゃんもありがとうだって』等と代わりに返事をしてきたことに首を傾げたが、今は二人で勉強会をしているし、ミサも自身の手を離せなくてミカに代わりの返事を頼んだのかもしれないと、自分を無理やり納得させた。

 

 ナギサは、手元のスマホに目を落とし、そのトップに表示されてる自分とミカとミサの三人で撮った写真を見て、思い返すのはミカのことだった。2週間ほど前、一枚の通達書が発行されミサに渡った翌日だった。ミカから『出来る限り会議の決定を遅らせて欲しい』なんて無茶をお願いされた。ミカのワガママは今に始まった事ではないし、ナギサ自身も今回の提言には納得の行っていない部分も多かったので、周りの人にも協力を乞い、今回の会合までに情報を迅速に集めた。

 

 なんとか情報は掴めたものの、証拠まで揃えることは出来なかった。果たして、今の手札でどこまで戦えるか……。限られた時間の中で、集められた情報の少なさに、ナギサは自身の力の及ばなさに歯噛みする。しかし、今回で首長たちを納得させるだけの結果を残さなければ、大切な友人がいなくなってしまうかもしれない。ここが自身の人生において一番の踏ん張りどころだ、と気合を入れる。

 

 件の首長たちが座っている奥のテーブル席に目を向ける。すると、三人の首長の一人、フィリウスの首長である記導ミトもその視線に気が付いたのか、ナギサに顔を向け微笑む。そのことに思わずナギサはドキッとしてしまう。ミトは盲目でずっと目を閉じているから、ナギサは自分がミトを見たことに気が付かれるとは思わなかった。盲目だが見えている、という噂も本当なのかもしれない。そう思いながら、ナギサは2週間前のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「―――つまり、私の方から今回の提言を却下してほしい、そういうことですね?」

 

「は、はい!ミト様のお言葉なら、他の者も耳を傾けて頂けるかと」

 

「ふむ」

 

 その日のナギサは、喉がカラカラになるほどに緊張していた。舌も上手く回らない。

 

 ミカのお願いを聞いた後の事、ナギサ自身も行動を開始し、提言そのものを却下できないかと自身の派閥の首長への面会をダメ元で取り付けたら通ってしまった。しかも、一対一で。

 

 ミトは、この《トリニティ総合学園》全生徒の憧れの存在と言っても過言ではない。容姿端麗で、物腰が柔らかく、かつ聡明。その上、過去に事故で両目の視力を失い普段の生活も杖を突いて生活している、というハンデを感じさせないほど堂々としている。ナギサはその立ち居振る舞いに感動し、憧れている。自身もいつかはこの人のような素敵な人になれるだろうか。

 

「―――桐藤ナギサさん、でしたね」

 

「は、はい!名前を覚えて頂けるなんて、光栄です!」

 

「くすっ、そんなに硬くならないでください。《ティーパーティー》の首長の前に一生徒。それに、今は家柄を持ちませんから」

 

「そ、そんな!ミト様を他の生徒と一緒になんて!」

 

「……。うぅっ、こうして人は孤独になっていくのですね……」

 

「え‶っ、そ、そういうわけではなくてですね!?」

 

「はい、知ってます。場を和ませるジョークです」

 

 ―――か、からかわれている……。

 

 からかった本人は、鈴を転がすような声でクスクスと笑っている。ミトは手入れの行き届いたプラチナブロンドの髪を揺らし、「さて」と咳払いし場を仕切り直す。

 

「先程のお願いですが、確かに私なら今回の提言を却下できるでしょう」

 

「―――!では「しかし」っ!」

 

「あくまで一時的なものです。今回はそれで良くても、次は?更にその次は?……根本的な解決には繋がりませんし、他の者も納得しないでしょう」

 

「な、ならどうしたら……」

 

 ミサを助けることは出来ないのか。そんなナギサの悩みを見透かしたように、ミトは口元を緩めて告げた。

 

「方法ならあります」

 

「っ!そ、それは?」

 

「近々、もう一度三分派が集う《ティーパーティー》の会合があるのはご存じですね?その場でまた光園ミサさんのことが議題に上がるでしょう。……そこで各分派の長、つまり私を含めた《ティーパーティー》の生徒会長達を納得させるだけの説明をしてください。光園ミサに対する処分は不当である、と」

 

「……もし、納得させられなければ?」

 

「『出来なかったことを考えるより、今出来ることを考えろ』」

 

「え?」

 

「私の尊敬する方の言葉です。『過去よりも未来が欲しい』……そうよく口にされていました。桐藤ナギサさん、貴女が欲しいものは何ですか?」

 

 ナギサは不意に頭を殴られた気分になった。確かにそうだ、出来なかったことを考えてどうする。

 

(私が欲しいもの、そんなの決まってる!)

 

 ナギサの瞳に宿る光を見て、ミトはまた一つ笑みを浮かべる。

 

「もう言葉は不要ですね。桐藤ナギサさん、貴女には期待してますよ」

 

 ミトの閉じられた目の奥には何が見えているのか、ナギサには分からなかったが、今自分がやるべきことは定まった。

 

 その後はミトに断りを入れ、首長の執務室から退室した後、ナギサは情報を集めるべく奔走した。

 

 

 

 

 

 

 そんな経緯があり、ナギサは今この場で発言の機会を窺っていた。

 

 確たる証拠が無い以上、いたずらに発言したところで潰されるだけだ。話の流れを読み、主導権を握らなければならない。

 

「光園ミサは普段から授業態度が悪く、毎日不良とケンカをするような野蛮人です。その上、今回の実力テストで大きく点数を下げています!そのような人物、我がトリニティに相応しくありません!!何卒、光園ミサに厳正な処罰を「ミト様」―――っ!?」

 

「発言の許可を頂きたいのですが」

 

 ナギサの言葉に周囲の生徒がざわつく。興味なさげに腕を組んで目を閉じていたパテルの首長と紅茶を飲んでいたサンクトゥスの首長も反応し、ナギサに注目が集まる。

 

 そんな中、ただ一人動じていなかったミトは「ええ、どうぞ」といつも通り微笑む。

 

 ミトの許可を得て、ナギサは一歩前へ歩み出ると余計に視線が増したのは気のせいではないだろう。ナギサは自身を落ち着けるように一つ咳払いをしてから話し出す。

 

「先輩方、先程のお話ですがミサさん……光園ミサがテストで点数を下げたとのことですが、先輩方はミサさんがテストでは学年上位……それもトップ10常連だと認識している、ということで相違ありませんか?」

 

「ええ、それがどうかしたのかしら?」

 

「でしたら、今回のテストで彼女が点数を大きく落としたことに、何の疑問も無かったのでしょうか?」

 

「ふふっ、そんなこと。大方、休みの間に遊び惚けていたり、実力テストだから本当の実力で、なんて愚かしい考えでテストに挑んだのではなくて?」

 

「なるほど」

 

 簡単に尻尾は掴ませてはくれないか。ナギサは舌打ちしたい衝動に駆られるが、グッと我慢する。まずは相手の余裕そうな顔を崩さなければ。ナギサは気持ちで負けるわけには行かないと、不敵な笑みを浮かべたまま言葉を続ける。

 

「実力テストと言えば、今回のテストは進級して最初のテストですから、問題の出題範囲が学年末のテストと変わらないそうですが……彼女、ミサさんの学年末テストの点数をご存じですか?」

 

「……学年末のテスト?それがどうしたっていうのよ」

 

「ミサさんはいずれの教科も90点台後半でテストをパスしてました。そんな人物が、同じ内容のテストで大きく点数を落とすでしょうか?」

 

「……何が言いたいわけ?」

 

「そうですね、前置きが長すぎました。つまり、今回のテストにおいて、光園ミサに対し点数操作が行われた可能性があります!」

 

「なっ……!?」

 

 ナギサの放った言葉に、相手だけでなく周囲の生徒も大きくざわつく。ナギサは相手の端正な顔が歪んでるのを見て、その表情から余裕が消えたことを悟る。

 

「意図的な点数操作は不正であり、当然違法です。よもや、先輩方がそんなことも知らないとは、言いませんよね?」

 

「くっ……まさか、私達を疑っているの!?だったら、光園ミサに点数操作が行われたという証拠はあるのかしら!?」

 

「ミサさんに行われた、という証拠はありません。しかし、調査したところテストの後に外部ツールを用いて、データベースにハッキングされた形跡が見つかりました」

 

「それを私達がやった、という証拠はあるのかしら!」

 

「……いえ、時間が足りずそこまでは……」

 

「ハン!話にならないわね!証拠も無いのに犯人扱いとは、底が知れるというものよ。使われたのは外部ツールでしょう?なら、外部の者の犯行じゃないかしら」

 

(くっまずい……!)

 

 相手の調子が戻ってきてしまった。やはり、明確な証拠が無いと追い詰めきれない。ナギサが思わず歯噛みしそうになったとき、思わぬところから助け舟が来た。

 

「―――トリニティ生ですわ」

 

「え?」

 

「は?」

 

 声の主は部屋の最奥から、つまり三派閥の長からだった。

 

「サナ、さま?」

 

 サンクトゥスの首長、真田サナ。彼女は慣れた動作でティーカップをソーサーに戻すと、もう一度口を開く。

 

「ハッキングは外部の犯行ではなく、トリニティ生によるもの。テスト後に、視聴覚室付近で不審な動きをしている、トリニティ生の目撃証言もいくつか寄せられてるわ」

 

「おい、サナ……」

 

 彼女の言葉に待ったを掛けたのはパテルの首長、三枝マイだった。

 

「あら、別に首長が口出ししてはいけないというルールは無いでしょう?フフ、それとも、口に出されたら困る話なのかしら?」

 

「チッ……好きにしろ」

 

「貴女に言われずとも、好きにするわ」

 

「……クソ女」

 

「くすっ、今のは聞かなかったことにしてあげる」

 

「二人とも、そこまでにしておいてください」

 

「フン……」

 

「あら、ごめんなさいね、つい」

 

 ミトにたしなめられ、口論―――というには一方的ではあったが―――をやめる二人。

 

 ナギサは口論していた片割れ、真田サナの名前をごく最近聞いていた。それは、ミサに通達書を直接手渡ししたのがサナだったという話だ。ナギサも最初聞いた時は驚いた。なぜサンクトゥスの首長が直々に渡しに行ったのだろうか?考えても答えの出ない疑問である。

 

「さて、話を戻しましょうか。トリニティ生がハッキングしデータを改竄した。何か反論があるなら聞きましょうか?」

 

「お言葉ですがサナ様。外部犯ではなく、内部犯だったからといって何か変わるとは思えません。それよりもテストであのような点を取った、光園ミサを処分すべきです!」

 

「先輩、たった一度点数を落とした程度で処分なんて、重すぎるでしょう!」

 

 パテルの生徒は首長に直接アピールできるチャンスと思ったのか、嬉々として処分を進言しようとする。パテルの首長はどういう教育をしているのか。ナギサは怒りで爆発しそうな己の心をギリギリで抑え込む。

 

「何も変わらない?それ、本気で言っているのかしら?外部の者ではなく、伝統と格式を受け継いできたはずの我がトリニティの生徒が、不正な手段を用いて他者を陥れようとすること。誰がやったかが問題では無いの。トリニティ生がやってしまったということが問題なのよ。この違いを理解できないお猿さんなのかしら?」

 

「な、そ……それは……」

 

「それに彼女が毎日不良に絡まれている件だけど……」

 

「そ、そうです!そのような者、トリニティの品位を落とすだけ―――」

 

「こちらもトリニティ生が、不良に金を握らせて光園ミサを襲撃するように指示していたことが我々の調査で判明してるわ」

 

「…………」

 

「フフッ、果たして野蛮なのは一体どちらなのでしょうね?まぁ、それらの襲撃を顔色一つ変えずに全て撃退する光園ミサも中々ですけども」

 

 サナはそこまで言うと、紅茶の入ったカップを口に運ぶ。先輩女子はというと、サナの圧に押され口をパクパクとさせながら、顔面を蒼白にさせ滝のように汗を掻いている。きっと何か心当たりがあったのだろう。反論しようにも言葉が出てこないようだ。そんな中、苦し紛れに出たものは反論の中でも最も弱いものだというのは言うまでもない。

 

「しかし、その、授業態度とか……欠席が多いこととか……」

 

「あら、言われてるわよマイ」

 

「は?光園ミサの話だろうが」

 

「あらあら、ごめんなさい間違えましたわ」

 

「テメェ……」

 

 サナに対しガンを飛ばすパテルの首長を見て、ナギサは二人が犬猿の仲という話は本当なのかもしれないと思った。

 

「学園生活のことは級友に聞いた方が早いのではなくて?ねぇ、桐藤ナギサ?」

 

「は、わ……私ですか?」

 

 急に水を向けられ困惑するナギサ。

 

「ええ、授業中の光園ミサの様子や欠席してる時どこにいるか、それを話すだけで構わないわ」

 

「わ、わかりました」

 

 ここまできて、ナギサはようやく場の雰囲気の正体に気が付いた。

 

(とはいえ、それをこの場で言っても仕方がないですし、こちらに味方してくれるなら存分に利用させてもらいましょう)

 

「ミサさんの授業態度ですが、至って真面目です。授業中に騒ぐようなことはありませんし、大抵静かでいることが多いです」

 

 まぁ、つまらなそうにBDを眺めてることが多いですけど。と心の中で付け加えるナギサ。そこにミカがミサに絡むことが多い。それを鬱陶しそうに追い払うミサがよく見られる光景だ。

 

「続いて欠席した日に関してですが、図書館で歴史の本などを読んでいるみたいですね。これは図書委員の方から証言を得られました」

 

(図書館に行かない日は家で寝ていますけど、これは言わなくてもいいですね)

 

「と、言う事らしいですわ。私が聞く限り、とても勤勉な生徒のように思えるのだけれど?」

 

「そ、そんな……」

 

 ナギサのさり気ない印象操作に気付かず、この世の終わりのような顔をする先輩。サナはナギサの印象操作に気付かぬフリをして話を進めた。

 

 と、そこで杖で床を叩く音が響き渡る。その音にざわついていた室内が一気に静まり、音の主に注目が集まる。

 

「―――さて、結論が出たようですね」

 

 音の主であるミトは、杖の上に両手を乗せ室内をゆっくりと見渡す。

 

「とはいえ、納得できない者もいるでしょう。なので今回の議論を鑑みて、光園ミサさんの処分に対する提言を一時撤回とし、次の期末テストの結果を見てから完全に白紙に戻すという形でいかがでしょう?」

 

「構いませんわ」

 

「……今回はウチの不始末だ。二人の決定に従う」

 

 ミトは二人の代表を見渡し頷く。

 

「はい、それと《正義実現委員会》に見回りと警備の強化をお願いして、不正を防止しましょう。そうすれば、光園ミサさんが点数操作されたか否かが分かるでしょう。各人それでよろしいですね?」

 

 ミトはそう言い室内全体を見渡し、異議が無いことを確認する。

 

「―――それでは、今回のお茶会はこれにてお開きとしましょう」

 

 その言葉と共に各分派の生徒たちが一斉に退室していく。今回提言した生徒は悔しそうな表情を見せた後、ぐっと堪え退室していく。それを見届けたナギサも退室しようと席を立つと、ミトに呼び止められる。

 

「ナギサさん、後ほどお呼びするので《ティーパーティー》の校舎までお願いしますね?」

 

「は、はい、かしこまりました……」

 

 失礼しました、と声を掛けて退室するナギサ。ミサに関することで呼ばれたのだろうかと思考を膨らませながら、廊下を歩いて行った。

 

 

 

「―――で?どこまでアンタの筋書きだったんだ?」

 

 伽藍となった室内に響くのはパテルの首長・マイの声。彼女の視線の先には杖を片手に微笑んでいるフィリウスの首長であるミトがいた。マイと同じことを思っているのか、いつもはマイに突っかかるサンクトゥス首長のサナも黙ってミトを見る。

 

「筋書きだなんて、人聞きが悪いですね。その言い方では、今回の騒動を私が仕組んだみたいではないですか」

 

「仕組んではいないでしょうね。でも、話し合いがここに着地するようには誘導したでしょう?」

 

「桐藤ナギサ、アイツがお前の仕込みか?」

 

「……さて、どうでしょうか。それも踏まえて、改めてお茶会を開きましょうか。ゲストも呼んであることですし」

 

 そう言うとミトは立ち上がり、杖を突きながら迷いなく歩いていく。それを見てマイとサナはお互いに見合わせると、溜め息を吐いてミトに続いていく。

 

 

 

 




桐藤ナギサ
今回一番状況に振り回された人。足りない時間で情報をかき集めたが、精査する時間が無かった。ミカがミサとにゃんにゃんしてることをまだ知らない。ナギサの話なのに不憫。

記導ミト
現フィリウスのリーダー。苗字の読みはきしるべ。昔、事故に遭った時に両目を失明。自身の先行きに絶望していたとき、恩人に救われた。今回の件、口を出さずにずっと見守っているだけだった。何か思惑がある模様…。

真田サナ
現サンクトゥスのリーダー。ミサに通達書を渡した人。ミサを煽るようなことを言ったのはワザと。一発くらい殴られるかなと思ってたけど何もされなかったので、噂って当てにならないなってなった。割とドS。

三枝マイ
現パテルのリーダー。乱暴な口調が特徴。実は昔やんちゃしていて不良だった。お嬢様のサナとはソリが合わないので、よく口喧嘩してる。



気が付いたら目の前に『最新話を投稿しました』って言う文字が見えて「え!?文章を見直した覚えが無いのにいつの間に!」っていう夢を見た。

余りに期間が空きすぎて最新話を投稿する夢を見るとは…ってなったので更新しました。


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桐藤ナギサの話②

いつも感想ありがとうございます!

こういう事件の裏側でみたいな話好きだけど、遠回しな会話やめろぉ!ってなるやつ。

ナギサの話、と言いつつどっちかっていうとティーパーティーの話メイン。


 

 ナギサは大きな扉の前に立って深呼吸していた。あの後、一度戻って身嗜みを整えた後ちょうどミトの連絡が来てお茶会に招待されたので、《ティーパーティー》校舎のある一室の前に来たのだが、本来なら一般生徒はおろか《ティーパーティー》の面々でさえ容易には入れない、各分派の首長が集まり会議……いやお茶会するための部屋。

 

 そんな部屋に来て緊張するなという方が難しく、跳ね上がる心臓を抑えつける。落ち着くために、先程ミカに送ったメッセージを見るが、まだ返信は無い。提言の一時撤回に成功したので、ミカにはいち早く伝えたのだがどうしたのだろう。

 

 できればもう少し落ち着いてから入室したいが、これ以上待たせるのは失礼だろうと思い、意を決して扉を数回ノックして声を掛ける。

 

「き、桐藤ナギサです。ただいま参りました」

 

 すると、扉の向こうからよく通る声で返ってくる。

 

「ナギサさんですか?ドアは開いてるので入って来て頂いて結構ですよ」

 

「は、はい、失礼します!」 

 

 ナギサが部屋に入ると、広い室内の奥、テラス付近に大きな円形テーブルがあり、そこに各分派の首長たちが座って待っていた。

 

「お、お待たせして申し訳ありません!」

 

「ふふ、こちらの都合で呼び出したのですから、気にしなくてもいいですよ。どうぞ、こちらの椅子に掛けてください」

 

「え!?そ、そんな、流石に一緒のテーブルに着くはマズいのではないでしょうか……わ、私は立っていた方が」

 

 近くまで来たナギサはミトに椅子を勧められるも、畏れて遠慮する。しかし、それを見ていたサナやマイも口を挟んできた。

 

「あら、別に構いませんわ。それよりずっと立って居られる方が迷惑よ。まるで私たちがイジメているみたいじゃない」

 

「座ればいいじゃねえか。別にそれを見咎める奴はこの場にはいねぇんだからよ」

 

「だ、そうですよ?」

 

 そう言ってミトは微笑む。サナとマイの口添えもあり、ナギサは恐る恐る椅子に座ることにした。

 

「ナギサさんはどのお菓子がいいですか?」

 

「え?えっと……ではそちらのロールケーキを」

 

「はい、こちらですね」

 

 ミトは慣れた手つきでロールケーキを取り分け、ナギサに差し出す。ふと、見えてないのになぜ正確にロールケーキを取り分けられたのだろうとミトの顔を見る。その目は依然閉じられたままだった。実は見えていて薄目を開けている、というわけでも無さそうだった。

 

「ふふっ、見えてないのに物の位置を正確に把握していることが不思議、という顔ですね」

 

「あ、いえ!申し訳ありません!こんなジロジロと人の顔を見るようなことをして!」

 

「構いませんよ、そういう風に見られるのは慣れっこですから」

 

 まただ、とナギサは焦りながら背筋がゾクッとする感覚を覚える。ミトはこちらの視線や表情の変化に正確に反応している。物の位置は極論、完全に暗記してしまえばいいが、コロコロと変わる人の表情をピタリと当てるのは、たとえ偶然でも難しいはず。

 

「ふふふ!ミトのそれを見た人ってみーんな同じ顔するの。すごく面白いわ」

 

「いや、どこがだよ。どう見ても引かれてるじゃねえか」

 

 困惑するナギサを余所に、勝手な事を言う二人。ミトはそんな二人を見てクスクスと笑うだけであった。

 

「あの、不躾な質問で恐縮ですがミト様の目って……」

 

「はい、見えていませんよ」

 

 ナギサの疑問に、ミトは当たり前のように返す。

 

「そう、ですよね……」

 

「ええ、幼い頃の事故で視力を失い、それ以来この目は見えていません。しかし―――」

 

 ミトはそこでひと呼吸区切る。

 

「―――代わりに見える"眼"を授かったのです」

 

「え?」

 

 納得しかけたナギサの脳がまた混乱する。

 

「えっと、目は見えていないんですよね?それなのに、見える目ってどういう……」

 

「そうですね、空間認識能力の拡大と言いますか、一種の能力でしょうか。私には見えてますよ。口元を抑えて笑いを堪えるサナさんも表情を強張らせるナギサさんも、テーブルの上のお菓子やこの部屋の細部に至るまで。この部屋だけでなく、学園や自治区の至る所に私の"眼"がありますから、あっ今ナギサさんの左手中指が動きましたね?」

 

 能力、と聞いてナギサはようやく得心がいった。キヴォトスには、稀に特殊な能力を持った生徒がいる。しかし、実際にこの目で見たのは初めてだった。

 

「なるほど、そういうことでしたか。キヴォトスには特殊な力を持った生徒がいる、というのは知っていましたが、まさかミト様がそうだったなんて」

 

「私も能力に目覚めたのが、事故で両目を失ってからですからね。案外、外から見ると分からないものですよ」

 

「私の所にいる"予知夢"の能力を持った子が居なかったら、私も信じなかったわね」

 

 なんと、サンクトゥスの派閥内にも特殊な力を持つ生徒がいるらしい。実は、そんなにレアな存在でもないのだろうか。

 

「ちなみに、能力に名前が無いと不便だろうと私の恩人から頂いた名で"天眼"と呼んでいます」

 

「ミト様の恩人?確かそれって以前にも……」

 

「あ、その顔は気になっている顔ですね?ふふ、あの方の話をするのも久しぶりなので気合が入りますね―――」

 

 恩人に触れた途端、心なしかミトの顔が先程よりキラキラしている気がした。何故だか踏んではいけないスイッチを踏んだ気がするナギサ。

 

「おっと、ミトその話始めたら数時間拘束するんだからやめとけって」

 

「む、仕方ありませんね」

 

 寸でのところで止めたのはマイだった。ミトも無理やり聞かせるのは良くないと思ったのか、あっさり引き下がる。おもわずナギサはマイに感謝の念を送る。

 

「あ、ありがとうございますマイ様」

 

「気にすんな。アタシらがもう耳にタコができるレベルで聞かされてるからな。これ以上聞かされてもこっちが困るってだけだ」

 

(一体何回同じ話を聞かせたんだろう)

 

 しかし、あのミトが何度も聞かせるほどの"恩人"というのも結構気になる。また時間があるときに尋ねてみようとナギサは思った。

 

 先程の話でふと気になったことがあった。

 

「ミト様、先程能力で学園や自治区も見えてると仰っていましたが、もしかして今回の件も?」

 

「はい、全部知ってましたよ?」

 

 ナギサの問いかけに、ミトは全て知っていたと事も無げに答える。ナギサは目を見開いて驚くが、ミトの能力を知っている二人は平静だった。

 

「誰がハッキングをして、誰が不良と取引したのかも私は知っています」

 

「そ、そんな……だったら議論なんて必要無かったではありませんかっ!それに、犯人が分かっておられたならどうしてあの場でそれを……!」

 

「落ち着いてください、ナギサさん」

 

「……っ!あ、も、申し訳ありません!つい、熱くなってしまって……」

 

「ふふ、構いませんよ。ナギサさんにしてみれば、大切なご友人が被害に遭われたのですから」

 

 思わず取り乱してしまったナギサを、ミトは優しい声で宥める。すぐに冷静さを取り戻しはしたが、恥ずかしさからか顔をりんごのように真っ赤に染める。

 

「……私があの場で何も言わなかったのは、あくまであの場は議論の場であり、誰かを糾弾したり、裁く場ではありませんから。必要なのは光園ミサさんの潔白を証明すること、そうでしょう?」

 

「そう、でした。ミト様、申し訳ありませんでした……」

 

「いいえ、大丈夫ですよ。それに、私も少々言葉足らずでしたから。私は"眼"を飛ばすことは出来ますが、耳は飛ばせないのであくまで見るだけなんです。なので、詳しく知りたいならマイさんに聞くといいですよ」

 

「え?マイ様に?」

 

「ちょっ、おい!?」

 

 唐突なキラーパスに、二人のやり取りをニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていたマイは慌て出す。

 

「ええ、聖園ミカさんから貰った動画で、今回の件を早期に調査することが出来たんです。そうですよね、マイさん?」

 

「え?ミカさん……?」

 

 急に出てきたミカの名前に、ナギサは困惑する。彼女は今、ミサと勉強中のはずだが……。一旦、頭を落ち着けるために紅茶を口に運んだ。

 

「くっそー……あのタイミングで見られてたのかよ……」

 

「ちょっとマイ?あの動画は匿名で送り付けられたって聞いたのだけど?」

 

「い、いやーそのー……」

 

「ふふっ、聖園ミカさんに銃を突き付けられながらの話し合いは迫力満点でしたね☆」

 

「銃?マイ、貴女まさか中学生に脅されたんじゃないわよね」

 

「ミト!ちょっとお前黙っててくれないか!?」

 

「いやです、人の事を普段から黒幕呼ばわりするお返しです」

 

 慌てふためくマイを見て、満足げな表情を見せるミト。反面、サナのマイを見る目は冷えていた。

 

「ぐっ……し、仕方ないだろ!要求を呑まないとタイトル付けてネットに拡散するって言われたんだっ!」

 

「脅しに屈した上に、ちゃっかり相手の要求も呑まないでくれます?」

 

「うっ……アタシは政は苦手なんだよ……。交渉なんて出来るわけないだろ……」

 

「だったら、貴女お得意の暴力で解決すればよろしいのではなくて?」

 

「……」

 

「嘘でしょう……?」

 

(あの子は、ミカさんはミサさんが絡むと、とんでもない力と行動力を発揮しますからね)

 

 ミカはやると決めたらやる女だ。思い返せば、今回の件一番怒っていたのはミカだった。そんな彼女が、何もせず大人しくしているわけが無かった。元々、ミサの近くに居れないからと《ティーパーティー》入りは難色を示していたから、脅迫の件で除名されても痛くも痒くもないだろう。

 

 とはいえ、マイも抵抗は試みた。マイはこれでも《ティーパーティー》で武闘派として名が通っていた。片や実戦経験豊富なパテル分派のリーダー、片や顔が良いだけのチヤホヤされているだけのお嬢様。慢心はあったかもしれない、中学生に負けるわけないと。しかし、勝負は一撃で決した。対峙し銃を取り出して構えた一瞬で銃を弾き飛ばされた。負けた。それも、自分の嫌いな何の苦労もして無さそうなお嬢様なんかに。カスタマイズすらしていない、ただの市販の銃で。

 

「……一つだけ言っておく、アイツは光園ミサなんかより危険だぞ」

 

「負け犬の遠吠えなんか聞く価値がおありかしら?」

 

「それより、一体どんな要求を呑まされたのか気になりますね」

 

「お前らなぁ……」

 

 絞り出すようなマイの言葉は、どうでもいいと一蹴される。自分の派閥内で起こった事くらい、自分で解決しろ、ということだ。実際、暴走して騒動を起こしてるのはどちらもパテル分派で、他派閥はそれに巻き込まれただけである。

 

「チッ、要求は大きく分けて三つ。一つ目は、光園ミサの無罪放免」

 

「でしょうね」

 

「ええ、聖園ミカさんはミサさんのご友人ですから、当然の要求でしょう」

 

「……二つ目は、光園ミサを《ティーパーティー》に仮入部させること」

 

「仮入部?どうしてまた」

 

「そういうことですか……」

 

 ミカの二つ目の要求にサナは疑問符が浮かんでいたが、ミトはその目的にすぐ思い至った。

 

「待ちなさいミト。一人で納得しないで欲しいのだけど?」

 

「簡単な話ですよ、サナさん。聖園ミカさん、彼女はミサさんを矯正局に送れないようにしたんです」

 

「あの、ミト様。浅学で申し訳無いのですが、なぜ《ティーパーティー》に入ることで矯正局に送られなくなるのですか?」

 

 ミトの言葉に疑問符を浮かべたのはナギサだった。それは、当然の疑問と言えるだろう。普通ならば思い付きもしないことで、実行なんて以ての外だ。

 

「そうですね、《ティーパーティー》に入ることで様々な恩恵を得たり、権限が付与されるのはご存じだと思います」

 

「は、はい」

 

「当然、付与される権限の中には《ティーパーティー》だけでなく《トリニティ総合学園》の重要情報へのアクセス権も含まれます。では、ここで問題です。トリニティの重要情報を握った者が矯正局送りになると、どうなるでしょうか?」

 

「え?……ま、まさか……」

 

「はい、トリニティの重要情報を外に漏らされれば、それはトリニティにとって大きな不利益を生むことになるでしょう。それ故、おいそれと違反者を学区外に出すことが出来なくなるのです。当然、矯正局送りなんて以ての外ですね。あちらは連邦生徒会の管轄ですから」

 

 これはトリニティに限った話ではなく、他の学校でも組織に属している者が矯正局に送られた例は少ない。情報を学外に漏らされる事がまずいのもあるが、単純に連邦生徒会を信用していないことが大きい。

 

「あちらさんは、こちらの要望なんて一つも聞き入れない癖に、自分たちの要求だけ通そうとしてくるから面倒極まりありません、はぁ」

 

 連邦生徒会の信用度は、ミトですらこうして悪態を吐いてしまう程度には低い。

 

「まぁ、そうした理由もあり、ミサさんを今後矯正局に送られないようにする事が聖園ミカさんの狙いでしょう」

 

「ミカさんが……?」

 

 ミカがそこまで計算して根回しをしていた、という事実にナギサは思わず舌を巻く。

 

 ミカ一人で考えたとは思えない。まさか、誰かが入れ知恵したのだろうか?しかし、ミカの周りには彼女の恩恵に与ろうと寄ってくる者ばかりで、友人関係と呼べるような人はそれこそミサぐらいなものだったはずだ。だが、ミサは今回裏で起こった事は何も知らない。だとすれば、信じられない事だがミカが一人で考えた行動だろう。

 

 こういう政治的搦め手といったモノは得意ではないと思っていたのだが、必要以上に注目を集めないように隠していたか、あるいはひとえに愛の賜物なのか。

 

「……ただ、《ティーパーティー》に入れるのは構いませんが、何故パテルが彼女を持っていくのですか?」

 

 ピシリ、と室内の空気がミトの言葉で張り詰める。サナも問い詰めるようにマイを見ており、マイはダラダラと汗が滝のように流れ出す。ナギサは急に変わった流れに「んん?」と首を傾げる。

 

「いや、だってそういう約束だし……」

 

「はぁ……こちらは何年も前から何度も勧誘して、一度も首を縦に振って貰えなかったというのに……気が付けば、光園ミサさんの所属がパテルに仮押さえられてるおかげで、こちらから誘うことが出来なくなったではありませんかっ」

 

「えぇ……」

 

「そういえば貴女、派閥の意向に逆らって何度もあの子の所に勧誘しに行ってたものね」

 

 私、怒ってます。と言わんばかりに捲し立てるミトにマイは押され気味になる。が、ナギサはそんなことより聞き捨てならない事を聞いてしまった。

 

(え?フィリウスが、いえミト様がミサさんを?)

 

 何故、とは思わない。ミサ個人の持つ武力を考えれば、どこの組織であっても喉から手が出るほど欲しいはずだ。だからこそ、そこに疑問は持たない。だが、ミト個人がミサを何度も勧誘していたというのは初耳だ。いくら欲しいとはいえ、所属している派閥の意向に逆らってまでミサを欲したのは何故なのか?

 

「私もあの子がまだ誰のお手付きでもないなら、って思っていたのにまさかマイに先越されるとは思いませんでしたわ」

 

 ティーカップに新しい紅茶を注ぎながら、サナは溜息を吐く。

 

「は?なんだそれ、初耳だぞ」

 

「ええ、そう思ったのはつい先日ミサに会ったときですもの」

 

「ふふふ、ぽっと出がしゃしゃり出ないでください」

 

「あら?愛の深さは出会ってからの時間だと仰るタイプ?愛の深さというのは、受け入れる者の度量で決まるものですわ」

 

「お、おい……」

 

 ミトがサナを煽り、サナがミトを煽り返し、気が付けば二人の間で火花が散っていた。マイは思わず、といった様子で二人の仲裁をしようとするが二人は睨み合ったままであった。

 

 先日、というのはミサが通達書を受け取った日のことであろう。そういえば、あの日通達書を渡しに行ったのはサナだった。もしかして、そのとき何かあったのだろうか。聞きたいが、なんとなく聞いてはマズい気がした。

 

「そ、そういえば、通達書を渡しに行ったのサナだったよな。なんでわざわざ自分で行ったんだ?」

 

 なんとか話題を変えようと思ったのか、地雷原に突っ込んだのはマイだった。

 

「そうですわね……シンプルに、噂になっている光園ミサという人物に直接会って見たかったから、かしら?」

 

 身構えていたナギサは、肩を撫で下ろす。てっきり、もっと過激な言葉が飛び出てくるものだと思ったら、存外まともで安心した。

 

(噂に聞くような、相手を虐めて喜ぶような人では無かったのですね)

 

「ほーう?それで?サンクトゥスの首長様から見て、噂の問題児はどうだったんだ?」

 

「所詮は噂は噂でしかなかった、ということですわ。少々卑怯ですが、ご友人を使って揺さぶりを掛けたのですが、ただの一度も手を出して来なかったので結構理性が働く子なのは間違いないでしょう。少なくとも、噂にあるような『気に入らないものは直ぐ壊す』『見ていただけでボコボコにされる』『同じトリニティ生でも病院送りは当たり前』なんてものは嘘っぱちですわね」

 

 ミサは直ぐ壊すどころか古いもの、用途不明なモノも捨てられないくらいモノを大事にするタイプである。それに同じトリニティ生でも見ていただけでボコボコにされるなら、今頃トリニティ学園は血の海だ。ナギサはミサの噂の一人歩き具合に、思わず頭を抱える。

 

 ミサは基本近づかない者には清々しいくらいに無関心だ。自身が注目を集めているのは自覚しているから、わざわざ見ている者に絡みに行ったりもしない。それに、ミサが自身に近づく者への対応も分かりやすいもので、好意には好意で返し、敵意には敵意で返しているだけである。これは初等部1年の頃からそうなので、そういう性格なのだろう。

 

「まぁでも……責め立ててる時のあの子の顔……!泣きそうな顔で、怒りに震えながらも最後の理性を働かせて私を見る目っ!大変可愛らしかったですわぁ~!ハァ……ハァ……」

 

 とサナは凡そ淑女がしてはいけないほど蕩けた顔で、「あの顔で、ご飯3杯いけますわ」なんて意味の分からないことを言っていた。

 

(あれ?《ティーパーティー》まともな人が居ない?)

 

「お前、趣味悪いぞ……」

 

 周りに変な人しかいなくて困惑するナギサは、第一印象が悪いマイが一番の常識人だったことに驚く。ナギサの視線に、ハッとしたサナは「おほほ、はしたない姿をお見せしました……」とハンカチで口元を拭う。

 

「……そういえば、最後三つ目の要求はなんだったんですか?」

 

 ふと気になったナギサはマイに聞くが、マイは「あ」という顔で急に目が泳ぎだす。

 

「あ、あー、そ、そんなこと言ったっけ?」

 

「三つ目……『あの部屋』の使用期間延長と関係あることでしょうね」

 

「そういえば、『あの部屋』の申請来てたから許可出しましたわね」

 

「(あの部屋……?)えーっと、あの部屋とは一体?」

 

 ナギサが訊ねると、三人は目を合わせ一瞬の間沈黙する。

 

「……まぁ、いずれ知るでしょうし、今知っても問題無いのでは?」

 

「……なんて伝えるつもりですの?」

 

「……あー、要は『ヤリ部屋』だよ『ヤリ部屋』」

 

「ちょっと!?」

 

「槍……?」

 

 マイの直球ともいえる言葉にサナは慌てるが、ナギサには伝わらなかったようで頭に疑問符が浮かんでいた。

 

「せ、せめて『勉強部屋』と言いなさいな。お下品ですわよ」

 

「勉強?ああ!そういえば、ミカさんがミサさんに勉強を教えると言ってました。今、お二人が使用してらっしゃるのですか?」

 

 ナギサは勉強と聞いて、ミカがミサの為に勉強を教えると言っていた事を思い出した。もしかして、その勉強の為に部屋を借りたのだろうか?しかし、マイは気まずそうに目を逸らす。サナはそんなマイに対し一言「おバカ」と零す。

 

「え、えーっと?この空気は一体?私、何か変なことを言ってしまったのでしょうか?」

 

「い、いやそれは違うんだが……」

 

 マイは否定したものの、そこから先を言い淀んで口をもごもごさせていた。そこへ、なにやら考え込んでいたミトが口を挟む。

 

「マイさん、映像を見せた方が早いでしょう」

 

「え……正気?」

 

「流石にショッキング過ぎないか……?」

 

「先程も言いましたが、いずれ知るならば早いか遅いかの違いでしかありません。ならば、早いに越したことは無いでしょう」

 

「……ミトがそういうなら、まぁ」

 

「桐藤ナギサさん、でしたわね。心は強く持ってなさい」

 

「は、はぁ……?」

 

 神妙な面持ちで諭すようなサナにナギサは困惑していると、その間にマイは映像が準備できたのかスマホをナギサに渡す。

 

 その映像はどこかの部屋を映しているようで、部屋の中はピンクの証明で照らされテーブルや棚、ベッドといった家具が配置されていた。

 

「これが『勉強部屋』ですか?なんだかピンク以外は普通の部屋の様な……あれ、ベッドの上に誰かが―――え?」

 

 ナギサは映像の中の部屋を隅々まで観察していると、信じられないモノが目に入り驚いて思考が固まる。ベッドの上に居たのはナギサの良く知る人物たちだった。それだけならまだ良かったのかもしれない。だが、そこに映っていたのは二人がまぐわう姿だった。

 

「え……ミカさん、ミサさんがどうして……これは一体……?」

 

 頭が真っ白になる。夢なら覚めて欲しい。そう願えども、映像の中の光景は現実なのだと、ナギサの中の感覚が訴えかけてくる。

 

「……その『勉強部屋』は、昔は勉学の振るわない生徒の為の補習部屋だったのですが、時代の流れでしょうか、今はこうして生徒同士の睦事に使用されています。この部屋の使用には生徒会長三人の、つまり我々全員の認可があって使用できる部屋です」

 

「学園内の色んな所で盛る生徒がいるから、せめて目の届く場所でやりなさいってことで使われていなかったこの部屋を開放したのよね」

 

「まぁ、それでも一部の生徒しか知らないような噂レベルの部屋なんだがな。どうやって知ったんだか……」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 首長たちの説明に、ナギサは気の抜けた返事をすることしかできない。そこでふと嫌な想像が頭をよぎる。ミカが勉強会をすると言ったのは2週間前ではなかったか?思わず、といった様子でナギサは首長たちに尋ねる。

 

「あの、この部屋はいつから使われて……」

 

「……2週間前からですね」

 

「…………」

 

「なんだったらもう1週間ぶっ通しでやってますわよ」

 

「追い打ちを掛けるのはやめてやれ」

 

 絶句するというのはこのことかとナギサは思う。震える手の中で、映像は動いていて二人の行為を鮮明に映していた。

 

「もうこれ以上見るのはやめておけ……」

 

 そう言ってマイはナギサからスマホを取り上げる。そこでナギサは、自分が食い入るように映像を見ていたことに気が付く。あの二人がそういう事をしていたのはショックだったが、それ以上にショックだったのは、自分に何も言ってくれなかったことだった。

 

「―――あ、あのっ!申し訳ないのですが、急用を思い出したのでこれで失礼させていただきます!」

 

 ―――ミカさんと話をしなければ。

 

 何を話せばいいのか分からないが、それでも話をしないといけないと思ったナギサは、イスを引いて立ち上がり、ミト達に深くお辞儀すると飛び出すように部屋を後にする。

 

 

 

「青春してるなぁ」

 

 ナギサが退室したことを見届けると、マイはそうボソッと零した。

 

「ババくさいですわよ」

 

「うるせぇよ」

 

 すかさず飛んでくるサナの野次を受け流して、マイは自分の席に戻る。

 

「それで?結局三つ目は何でしたの?」

 

「……『勉強部屋』の優先使用権だよ」

 

「だろうと思いましたわ」

 

「じゃあ聞くな」

 

「くすっ」

 

 それまで黙っていたミトが二人のやり取りを聞いて、静かに笑みを浮かべる。それに気が付いたサナはミトに言葉を投げ掛ける。

 

「ミト、貴女はこの結末で満足しているのかしら?」

 

「ええ、概ねは」

 

「ふぅん、ところで―――聖園ミカに『勉強部屋』のこと教えたの、貴女ですわよね?」

 

「は?」

 

「……それは、どうして?」

 

 動揺したように声が揺れる、というミトのブラフだ。ミトはこういった嘘の情報を混ぜて会話をしてくる。サナもそれが分かっているので、無視して言葉を続ける。

 

「どうしてもこうしても、貴女が聖園ミカと話をしている所をうちの"優秀な"部下が見ていたからですわ」

 

「あら、そうだったんですか」

 

 先程の動揺はなんのその。ころっと表情を変え、声を弾ませる。

 

「見られていることを知ってた癖に、白々しい」

 

「ふふっ、まぁミカさんとは偶然廊下でお会いしたので、世間話をしただけですよ」

 

「中等部の校舎で?」

 

「ええ♪」

 

 どう考えても不自然過ぎるのだが、これ以上この件をつついてもボロを出さないだろう。結局、『勉強部屋』を教えたことについて、肯定も否定もしてないのは厄介極まりないが。

 

「まぁ、それはどうでもいいことですわ」

 

 アタシはよくない、と横から聞こえるが無視。

 

「本題に入りましょう―――"光園ミサ"って誰なのかしら?」

 

 空気が凍る。マイは驚いてサナを見るが、サナはミトを見つめたままだ。

 

「サナ、お前とうとう頭が……」

 

「おバカは黙ってなさい。で、どうなのかしら?」

 

「ふふ、良い病院を知っているので紹介しましょうか?」

 

「そう、あくまでとぼけるのですわね」

 

 サナの目がスッと細まる。先の一瞬、ミトの顔が動いたことを見逃さなかった。ブラフか、あるいは反射行動かは分からないが、いつものミトと違って話のかわし方が甘い。

 

「なら、聞き方を変えましょう。データベースに"光園ミサ"という人物は存在しませんの。であれば、"光園ミサ"と名乗っている彼女は誰なのかしら?」

 

「データベースに存在しない……?おいサナ、どういうことだ」

 

「そのままの意味ですわ。検索してもヒットしない、いいえアクセス権限が足りなくて弾かれるのですわ。……学園トップの権限が弾かれるってどういうことかしら?」

 

 マイはサナの言葉を聞いて、慌てて手元の端末で生徒名簿を確認する。

 

「……嘘だろ」

 

 確かに、名簿のどこにもミサの名前が見当たらなかった。直接検索しようとすれば、赤い警告文で『閲覧権限がありません』と表示された。

 

「ちょ、ちょっと待てよ。じゃあウチの連中はどうやって改竄なんて」

 

「生徒名簿には個人情報がありますから、テストの成績とは別サーバーで管理されていますわ。テストの用紙を直接読み込んでいるので、名前もテスト用紙に記載されているものですし、アクセスさえ出来れば簡単に弄れるのでそちらで計画を進めたのでしょう」

 

 生徒名簿に載っている個人情報には、名前や住所、種族以外に経歴に個人所有や支給されているカードの情報等も記載されている。それらを隠すという事は、後ろめたい事があると言ってるようなものだ。

 

「それと名簿の他にも気になることがありまして、今回の件、《上》から直ぐ様『光園ミサに対する処分は無い』と沙汰が下されたの、妙だと思いませんの?」

 

「そういえば、職員たちも不審なぐらい浮足立っていたな……」

 

「…………」

 

 生徒の自主性によって統治されているキヴォトスにおいて、"大人"の介入はそうあることではない。行政ですら生徒に任せている"大人"がただの一個人の為に動くわけがない。

 

「気になって光園ミサさんを調べましたが、学園に入学する以前の経歴が存在しませんでした。まるで、トリニティに入学した日にポッと現れたみたいですわ」

 

「まさか……幽霊……?」

 

 マイは顔を青褪めさせていたが、即座に「そんなわけありませんわ」とサナに切って捨てられる。

 

「普通に考えれば、彼女の経歴を知られて困る何者かが抹消したのでしょう。いかがですか、ミト?」

 

「…………」

 

 サナの話を黙って聞いていたミトは、紅茶を一口啜ると口を開いた。

 

「いかがですかと申されましても、何故私が?」

 

「貴女なら知っているのでは?と思っただけですわ」

 

「ふぅ……私とて貴女と同じ生徒会長の権限しか持ち合わせていない以上、貴女が知る以上の情報を得ることは出来ないでしょう?」

 

 そう、ミトが持つ権限はサナと同じモノ。それ以上の情報は得ることは出来ない。しかし、それはミトが普通の生徒だった場合の話だ。

 

「でも、貴女には"眼"がありますわ。ミト、貴女はこの場に居ながらトリニティ自治区の全てを見ることが出来る」

 

「……仮にトリニティの全てを見ることが出来たとしても、トリニティの全てを知ることに繋がらないでしょう?」

 

「……っまだとぼける気!」

 

 ギリッと奥歯を噛み締めたサナは、未だのらりくらりと躱すミトに業を煮やしてテーブルを叩き立ち上がる。ミトが何かを知っているのは明白だ。学園を預かる生徒会長の一人として、自分だって知る必要があるはずだ。でなければ、何かあった時に生徒を守ることが出来ない。なのに、ミトは自分が持っている情報を共有しようとしない。私達は、三人で《ティーパーティー》ではないのか?どうして、私達を信頼してくれない?サナの中にある、ミトへの怒りが溢れ出す。

 

「ミトだって分かっているでしょう!?不自然な経歴の隠蔽、職員の不審な動き!」

 

「……」

 

「生徒名簿だって!《ティーパーティー》の長の権限でも見れないなんて、まるでそれ以上のッ……!……それ、以上……の……?」

 

 怒りのまま言葉を吐き出していたサナの様子が、急におかしくなる。

 

 《ティーパーティー》は学園の最高権力者だ。学園においては最高の権限を行使できるのが生徒会長達だ。その学園の最高権限で閲覧できないなら、学園より上の権限が必要になる。この学園都市において、行政を学園で行っているキヴォトスだからこそ、その可能性を無意識に失念してしまっていた。普通は学園より上なんて存在しない。しかし、トリニティだからこそのルールがその可能性を浮かび上がらせた。

 

「……まさ、か……」

 

「―――サナ(・・)

 

 冷たく低い、人を威圧する声が耳に響く。その声に体をビクつかせ声の主を見ると、いつも柔和な笑みを浮かべていた彼女の姿は無く、閉じられていた目を開き、焔の瞳を向けるミトの姿だった。

 

「それ以上この件に踏み込むのはやめなさい。代償は、その命を以って贖うことになりますよ。これは忠告ではなく、警告です」

 

 それは今までのミトの姿とは一線を画すものだった。今までも圧を掛けることは多々あった。それでもこんな冷たい声を出すミトを見たのは初めてのことで、サナもマイも息を呑んでミトを見る。

 

「……先程の知っているか、という問いですが私の返答はこうです。世の中知らない方が幸せなこともある。もっと自分を大事になさい」

 

「―――ッ!それでも、私はッ……っ!今日の所は失礼しますわ……」

 

 サナはそのままテーブルから離れ、部屋から出て行った。残されたマイはやや気まずそうにミトを見る。その視線に気が付いたミトは、マイにも警告する。

 

「マイさんも」

 

「……分かってる。アタシだってそこまでバカじゃない。この場での事は、聞かなかったことにする」

 

「賢明な判断です」

 

 ミトから発せられる圧が和らぎ、安堵の息を吐くマイ。

 

「しかし、アンタそんな綺麗な目をしてたんだな。どうしてずっと目を閉じてるんだ?もったいない」

 

「ふふっ、褒めても何も出ませんよ。……目を閉じてるのは、単純に閉じていないと"眼"の力を使えないからです」

 

 ミトはそっと目を閉じて、自身の目を瞼の上から撫でる。

 

「つまり、目を閉じてる間はずっと力を使ってるのか……ん?歩いてる時はまだしも、座ってる時に何を見てるんだ?」

 

「それは、秘密です♪」

 

「……聞かないでおいてやるよ」

 

「はい♪」

 

 それから、しばらく無言でマイは何か考え込む仕草をしていたが、ふと口を開く。

 

「……アイツ、サナだってバカじゃない。それでもすぐ飲み込めないのは、アイツが生徒会長だからなのと、貴族籍を持つからだろうな。……ま、アタシみたいな一般層からすれば遠い世界みたいなお話だ」

 

「サナさんは意外と生徒思いですからね。それに貴族の義務を果たそうと、日々努力なさっていますから」

 

「貴族の義務ねぇ……そういえば、ミトも昔は貴族籍持ってたよな?」

 

「ええまぁ、事故の折に剥奪されましたが」

 

 事故で両目の視力と両足が麻痺しベッドの上から動けなくなった際、資格なしと奪われたのだ。

 

「今は足も普通に動いてるし、"眼"もあるんだから取り返せるんじゃないのか?」

 

「ふむ、確かに今の私なら簡単に取り返せますが、今の私には貴族や平民といったしがらみは少々面倒なのですよ」

 

「そうなのか?」

 

「はい、貴族といっても偉ぶれるわけではありませんし、相応に責任も発生します。それに制限や面倒事も多くて、あまり他人にはオススメ出来ませんね」

 

 なりたいなら止めはしませんが、とミトは薄く笑みを浮かべる。

 

「そういうもんか」

 

「そういうものです、それに」

 

「それに?」

 

 ミトが貴族に執着しなくなったのはそういった面倒事が理由ではない。ミトの中で大部分を占めるのは……。

 

「貴族になんて戻ったら、義務に縛られて私の大切な主の元へ行けなくなってしまいますから♪」

 

「あー、例の"恩人"な」

 

 ミトにとってはそれが全てであり、自分を救った恩人に一生尽くしたいというただ一つの想いだった。

 

「あのミトがそこまで言うなんて、いつかその恩人とやらに会ってみてぇな」

 

「ええ、いつかご紹介しますね」

 

 ミトは微笑みながら、その瞼の裏では常に一人の人物を見つめ続けていた。

 

 

 




桐藤ナギサ
中学生にして胃と脳を破壊された女。不憫である。知り合いに変人が多い。なお数年後、天然シスター、救護ゴリラ、すぐ暴走する幼馴染、感度3000倍のコミュ障、ファッション露出狂に囲まれる模様。ナギちゃんの胃が保たない!

記導ミト
何か知ってそうだけど教えてくれない人。両目の視力を失った代わりに、36万5000の目を色んな所へ飛ばせる"天眼"を得た。モチーフはメタトロン。持っている杖は仕込み杖で、マシンピストルが内蔵されている。銃撃戦中、かなりアグレッシヴに動いて敵を翻弄するタイプ。実は《ティーパーティー》で一番強い。

真田サナ
高慢そうなトリカス…に見せかけた、ただの良い人。ミサを煽ったとき普通に殴られる覚悟してた。でも殴られなかったし、涙目で睨まれて「キュンッ♡」しちゃった。貴族の人で努力は惜しまない。武器はセミオートスナイパーライフル。

三枝マイ
常識人枠。派閥の一部の人が暴走するわ、責められるわ、ミカに脅されるわ、たぶん一番の被害者。平民出身で貴族はあまり好きじゃない。ミトは意味深に微笑むばかりだし、サナはすぐちょっかい掛けてくるので、お茶会ではマイが話を振ることが多い。使用武器は二丁拳銃。

聖園ミカ
考えた末にとりあえず脅すかってなったやべーやつ。ミサが関わると色々強化される。そして、ブレーキが壊れる。

光園ミサ
本人は何も悪くないけど、本人の知らぬところで厄ネタが量産されている。やべーやつホイホイは健在。


ブルアカのメインストーリー更新ひゃっほい!した。途中「カヤおまえ…」からの「カヤおまえwww」ってなった私は悪くないと思うの。
そういえば久しぶりに刀使ノ巫女のアニメ観て思い出したけど、昔『光堕ちTS主人公メス堕ち悪堕ち荒魂化』とかいう業の深いもの考えたな…。属性過多すぎる。

P.S.
仕事の時間増えた所為で執筆時間削れてるけど気長に待って


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メス堕ち後の話

いつも感想ありがとうございます!

カルバノグ2章めちゃめちゃよかったー!しかもその直後にウサ夏来るとは。恒常だしハフバ近いから無駄遣い出来ないんだけど、ミヤコが可愛すぎてつらい。特に水着に浮いてるおへそえっちすぎない?性癖が私に引けと囁いてくる…!

今回はミサをイジメてやろうかと思ったら、ただのイチャイチャ回になった。


 

 薄っすらと目を開けると、カーテンから差し込む光に顔を顰める。そして、今自分のいるところが勉強部屋ではない事を思い出す。

 

「……そっか、オレ家に帰って来たんだっけ」

 

 ベッドから体を起こし、伸びをする。その際、服が擦れ「んっ♡」と声が漏れた。直ぐにハッとなり、頭を振って煩悩を追い出す。

 

 今日から普通の生活に戻るんだ。こんなことで一々感じてたら体が持たない。

 

 あの日、我慢出来ずミカに体を委ねてしまってから1ヶ月が経過していた。あの日々の調教の数々は、オレの身体に酷い爪痕を刻んでいったが、それでも生活できないほどじゃない。

 

 時計を見ると、もう10時を回っていた。幸い、今日は学校は休みなのでいつもなら二度寝するところなのだが、あいにく今日はミカに誘われ、待ち合わせをしてるので起きなければならない。

 

 何をしに行くかというと、話は数日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

「……うっ、ぐすっ……ヒック……」

 

「ただいまー……ってあわわわ、ミ、ミサちゃんどうしたの!?」

 

 部屋で泣いていたオレに、どこかに行って帰って来たばかりのミカは慌てふためく。

 

「だって、赤ちゃんできたら学校行けなくなる……」

 

「あ、あー」

 

 顔をぐじゅぐじゅにさせるオレに対し、ミカも思い至ったのかそういえばという顔をする。

 

「ミサちゃん、ごめんねそれ嘘」

 

「え……?」

 

「スイッチみたいにオンオフ出来るんだよ。今回はオフでやったから、ミサちゃんに赤ちゃん出来ないよ」

 

「……じゃあ、なんで子供産んでって言ったの……?」

 

「え?えーっと、そのほうが興奮するし盛り上がるかなーって……」

 

「う~!バカ!バカミカ!私、ホントに赤ちゃん産ませられるのかって怖かったんだから!」

 

 流石にジョークにしてはタチが悪すぎるので、何度もミカをポカポカと叩く。

 

「い、痛い痛い!ごめん、ごめんって!わ、私もミサちゃんが学校に来なかったら寂しいし、ミサちゃんの同意無くそんなことしないよ」

 

「むぅー……」

 

 疑わしくはあるが、行為の最中ミカは出来るだけオレが痛がらないように、ずっと優しくしてくれたし、同意無くしないっていうのはきっと嘘じゃないんだろう。でも、心の準備も無くそんなことされたら誰だって怒るよ!

 

「……そんなに子供欲しいなら、学校卒業したらいくらでも……」

 

「え?なにか言った?」

 

「な、なんでもないっ!」

 

「そ、そう?」

 

 オ、オレは何を言って……これじゃあオレがミカの子供が欲しいみたいじゃんか!きっと一時の気の迷いだと、頭を振って煩悩を振り払う。

 

 ミカのせいだ。ミカがあんなにオレの事を……。昨夜の情事を思い出して、顔が熱くなるのを誤魔化すようにミカを睨む。ふと、ミカのほっぺが赤くなってるのに気が付いた。

 

「ミカ?そのほっぺどうしたの?ほら左のとこの」

 

 ミカの左のほっぺだけが赤くなっていた。オレの指摘に、ミカは自分のほっぺに手を当てる。

 

「あっ、これはナギちゃんに」

 

「え?なんでナギサ?」

 

「あっ!?ううん!やっぱなんでもない!大丈夫だから気にしないでっ」

 

「ミカがそう言うなら……」

 

 話の流れからして、ナギサに叩かれでもしたのか?また、ミカが何かしたのかな。いつもみたいに、ナギサをからかいでもしたんだろうな。

 

 そういえばナギサのやつ、最近全然連絡して来ないな。最後に連絡来たの、実力テストの前か。《ティーパーティー》の仕事が忙しいのかな。

 

「それよりさ、テスト勉強終わったらお出かけしようよ!」

 

「テスト勉強やる気あったんだ……」

 

「うっ、ちょ、ちょっとえっちなことしすぎたのは悪いと思ってるよ!」

 

 丸1週間な。オレのジト目に耐えきれなかったのか、ミカは慌てて話を戻す。

 

「そ、それでミサちゃんの下着とかお洋服とか、色々買いに行こうと思って!」

 

「うっ、そ、それは……」

 

 今度はオレが唸る番だった。最初の日に言ってたけど、覚えてたのか……。

 

「大丈夫、私がミサちゃんの為に女の子らしい可愛いの、いっぱい選んであげるからね☆」

 

「……お願いします」

 

 ミカにハメられ、勝負に負けたオレに拒否権なんて無い。『勝った人は負けた人になんでも言うこと聞かせられる』。ミカはこれに対し、「別に言うこと聞かせられるのは1回とは言ってないよね?」と言った。あの日のオレは帰れることに気が逸り、条件を鵜呑みにしてしまった。あの日の迂闊すぎる自分を恨んだ。結果として、オレはミカの言う事に逆らえなくなってしまった。

 

「じゃあ、教材のBD持って来てるから早速勉強しよ!」

 

 やる気に満ち溢れているのか、鼻息荒くオレを備え付けのテーブルに引っ張る。そうして開始された勉強だが、途中ムラムラしたミカにベッドに押し倒されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 そうして、1ヶ月ものの間えっちと勉強を繰り返し、解放されたのが昨日の事。久しぶりに我が家に帰ってきたオレは、そのままベッドに倒れ込み朝まで寝ていた。そして、昨日帰る前にミカから事前に今日買い物に行くと決めていたので、待ち合わせは昼からだがシャワー浴びて汗を流す時間を考えると、そろそろ起きないとマズそうだ。

 

「憂鬱だ……」

 

 

 

 待ち合わせ場所の駅前噴水広場に来たが、ミカはまだ来ていないようだ。時間は……15分前か、ちょっと早く来すぎたな。ミカが来るまで、噴水近くのベンチに座って待つことにした。

 

「ふぅ……」

 

 休日の駅前という事もあって、色々な人、人種?が歩いていた。偶に視界にゲヘナみたいな角が生えた人を見かけるが、何もしてないなら関わるのも面倒だと思い、視線を切る。

 

 時間を置いて冷静になると、ミカに黙って消えようとしたのは悪かったと思う。そりゃ、ミカだって凶行の一つや二つしてしまうだろうと。オレの考えが浅かったばかりに、またミカに迷惑を掛けてしまった。そう考えるとミカへの償いとして、ミカの言いなりになるのは悪い事ではない気がする。

 

 考え込んでいたのか、ふと近くの柱時計を見たら約束の時間になっていた。周囲を見渡すもミカの姿はまだない。もしかして、何かあったのか?と心配になってきた時だった。

 

「おまたせ~☆」

 

 後ろから声がしたかと思うと、視界が塞がれる。

 

「……ミカ?」

 

「正解!すぐバレちゃったね」

 

「まぁ、オレ知り合い少ないから。それより、時間ギリギリだったけど何かあった?」

 

 ……知り合いが少ない事実は自分で言ってて悲しくなるな。自業自得なんだが。

 

「うん、ちょっと色々準備してたら支度に手間取っちゃって!……ところでミサちゃん、今オレって言った?」

 

「……あ」

 

「ミサちゃん……女の子になるって言ったよね?嘘ついちゃうんだ」

 

 ミカの前では、ちゃんと口調を変えておこうと思ったのに、うっかりいつもの口調で話してしまった。

 

「い、今のは違くて!?つい口が滑ったというか!」

 

 だって女の子の話し方、恥ずかしくて慣れないんだもん。ミカはオレの頭の上を見ると、溜め息を吐く。今、オレのヘイロー確認した?

 

「ヘイローが変わってないから、女の子のミサちゃんになれないのかな……」

 

「えっと、別にそういうアレでは……」

 

 そんなことで人格がスイッチされるのは怖すぎる。

 

「ちょっとこっち来て!」

 

「あ、ちょま!」

 

 強い力でぐいぐいと引っ張られた場所は、近くの茂みだった。

 

「じゃあ、パンツ脱いで」

 

「…………え?ここでヤるの!?」

 

 流石にこんな真昼間の人の往来も多い場所でするのは恥ずかしいな……。どきどき。

 

「ち、違うよ!?私もそこまで性欲持て余してないから!」

 

「あ、そうなんだ……」

 

「ミサちゃんにお仕置きとして、これ入れようと思っただけだよ」

 

 そう言って、可愛らしいピンクのポシェットから取り出したのは、卵型でピンク色の……。

 

(ろ、ローター……!?)

 

「……ミカ、今性欲持て余してないって」

 

「何か言った?」

 

「な、なんでもないです……」

 

「もう、自分で脱がないなら私が脱がしちゃうからね」

 

「あ、だめっひゃあ!?」

 

 ミカは片手でオレの抵抗を抑え込むと、オレの穿いていたショートパンツを引きずり下ろす。

 

「あれ、濡れてる?なんでかなー」

 

「な、なんでだろうなー……にゃあんっ」

 

「はい、おわり!」

 

 オレの下着に手を滑り込ませたかと思うと、異物を置いて手を引き抜きショートパンツを戻す。

 

「じゃ、試運転~♪」

 

「まっ!ひぁああああっ!?」

 

 ミカが手元の機械を弄ると、オレのお腹の奥でブルブルと震える。オレは堪らずその場に崩れ落ち蹲る。それを見たミカは、すぐに機械を止めお腹の中の振動も治まった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ミサちゃん、今日は一日中それ着けてようね」

 

「そ、そんな……わ、私こんなの耐えられないよ」

 

「大丈夫☆ミサちゃんが素直なままなら動かさないから!」

 

「うぅ……」

 

 ミカは地面に座ったままのオレの手を掴み立たせると、そのまま手を繋いで引っ張って歩いていく。

 

「ほら、行くよ。今日はちょっと遠いから、バスに乗って移動するんだから」

 

「う、うん」

 

 その後、ミカに連れられて来た停留所でバスを待ち乗り込んだ。

 

 

 

 休日という事もあって、混み合ってるバスの中で吊革に掴まりながら、ミカとこれから行く大型ショッピングモールについて話していたのだが、オレは異物が気になってずっとモジモジしていた。ミカはそんなオレを見てニコニコと笑っていた。

 

「それでね、今から行くショッピングモールって最近出来たばっかりでね。結構気になってたんだー」

 

「ふ、ふぅん。また新しいの出来たんだ」

 

「トリニティの子ってお金持ち多いからね~。この辺で店出すと利益出やすいみたいだよ。まぁ、相応にブランド力も求められるけど」

 

「そ、そう」

 

「ミサちゃん、ずっと足を擦り合わせてるけど、どうしたの?」

 

「え、いや、その……ひゃわっ」

 

 唐突なお尻を撫でられる感覚に、まさか痴漢!?と戦慄する。隣に立ってるミカの方が可愛いのになんでオレに、と思い振り返り見るとミカの手だった。

 

「ミ、ミカっ!?な、なにして……」

 

「しーっ、ミサちゃんが騒がなければこの混雑具合ならバレないよ」

 

 そう言うとミカはオレのお尻を無遠慮に撫で回し始める。

 

「んっ……ふっ……んぅ……」

 

「んふふ、ミサちゃんかわいいなぁ」

 

 その後も、目的地に着くまで他愛のない話をしながらも、ミカの手がお尻から離れることはなかった。

 

「………………」

 

「ミサちゃんごめんって!ほらほらー!そんなブサイクな顔してるとかわいい顔が台無しだよ☆」

 

 目的地に着いてバスを降りた後、オレはふくれっ面でミカに無言で抗議したが、当の本人はどこ吹く風で堪えた様子はない。

 

「新しいショッピングモール!楽しみだねー!ほら、早く行こ!」

 

「あ、ちょっ!引っ張らないで!自分で歩けるから~!」

 

 

 

 内装は新しく出来ただけあって、かなり綺麗だった。出てるお店はどこもブランドショップばかり、完全にトリニティ生をターゲットにしてきてるな。

 

(床ツルツルで反射してる。スカートで来るの怖そう)

 

「ミサちゃんミサちゃん!あのお店入ろう!!」

 

「あのお店って、げっ」

 

 ミカの指差す先にはランジェリーショップが。しかも、オレでも聞いたことのあるブランド名を店に掲げている。

 

「わ、私はちょっと……は、恥ずかしいからここで待ってるね」

 

「何言ってるの!ミサちゃんの下着買いに来たんだから、ミサちゃんがいないと選べないでしょ!」

 

「えぇ!私の!?」

 

「元々そういう目的だったでしょー!」

 

「うぅ……」

 

 やっぱり無しで!って出来ないかな。出来ないだろうなぁ。

 

「行こっか♪」

 

「はい……」

 

 ミカに連れられ入ったお店は高級ブランド店で、系列店で出してる商品にフリルやレースを多く使ってることで有名なブランドだった。つまり、どういうことかというと……。

 

「わぁっ、見て見てミサちゃん!このブラすごくかわいいよ!」

 

(うわぁ、確かに可愛いけどすっごいフリフリ。誰に見せるわけでもない下着なのに)

 

「へ、へー良いんじゃない?ミカに似合うと思うよ」

 

 気になるお値段は……うわ。値札を見て後悔した。今穿いてる綿パンより0が二つ多い。汚すことを考えると、現実的じゃなくないか?

 

「むー」

 

 そんなことを考えていると、ミカがオレを見てむくれていた。

 

「な、なに?」

 

「今日はミサちゃんの買いに来たんだから、私はいーの!ミサちゃんはどうなの!」

 

「わ、私?うーん……」

 

 実用性やコスト面から考えて安いパンツが良いんだけど、ミカは納得しないだろうなぁ。

 

「わかった!ちょっと待っててミサちゃん!」

 

 悩んでいると、ミカがそう言ってどこかへ行ったかと思うと、手に二つの商品を持って帰ってきた。

 

「ミサちゃん、どっちがかわいい?素直に答えてね」

 

 右手に持ってるのは、ここのブランドでも出してる下着セットだった。しかし、先程見た下着より幾分かフリルが抑えめで、全体的にバランスが良くなってる。デザインも可愛く、オシャレな下着としては結構アリな気がする。オレも女の子脱がせるなら、こういう下着の方が興奮する。

 

「……」

 

 左手に持ってるのは、どこから持って来たのか飾り気のない良く言えばシンプル、悪く言えば地味な下着セットだった。でもまぁ、人に見せないならこの下着でもいい気はする。

 

「うーん、じゃあこっちで」

 

 そう言ってオレが指したのは左手の方。すると、お気に召さなかったのか突如例のスイッチを入れられ、下腹部が震える。

 

「んんっ!?」

 

「……ミサちゃん、私『素直に』って言ったよね?」

 

「ちゃ、ちゃんと答えたじゃん……」

 

 いまだ震えるお腹を押さえながら、ミカに涙目で抗議する。

 

「嘘吐いちゃダメだよ、ミサちゃん。左手のこっちじゃなくて、右手の方がかわいいって思ったよね?右に持ってる方がじっくり観察してたし、左を選ぶ時も一瞬右の方見たよね?」

 

「そ、それは……」

 

 ミカの言う事に何も反論できず、思わず目を逸らす。

 

「図星突かれるとすぐ目を逸らすー。ミサちゃん、顔にすぐ出るんだからバレバレだよ」

 

「うぅ……」

 

 そこまで指摘されると、オレは何も言えなくなってしまった。オレ、そんなに顔に出てるのかなぁ。

 

「じゃあ、こっち試着してみよっか☆」

 

 機械を止め、ミカが差し出してきたのは、右手に持ってたフリフリな下着だ。地味な下着は早々に戻しに行った。

 

「あれ?試着しないの?」

 

 どうしようか迷っていると、戻ってきたミカがそんなことを言った。

 

「いや、サイズが……」

 

「あー、そうだった。ミサちゃん、今まで測ったことは?」

 

「ないよ」

 

「うーん、じゃあ先に測ろっか。ちょっと店員さん呼んでくるねー」

 

 ミカに店員を呼んでもらって、ついでにスリーサイズを測ってもらったのだが。バストとヒップは50ちょっと、ウエストはギリギリ50行かないぐらいだった。

 

「見事な寸胴体型」

 

「いやいや、寸胴以前にミサちゃん細すぎない!?ちゃんと食べてる?」

 

 ミカにそう言われ、思い返してみる。

 

「た、食べてる」

 

「なんで目を逸らすの」

 

「ひょりゃひへひゃい!」

 

 ミカがむにーっとほっぺを引っ張り伸ばす。痛くはないけど、すごく喋りづらい。

 

「胸はぺったんこなのは分かってたけど、AAAカップ。寄せて上げればAA?ほとんど無じゃんね」

 

「何を今更」

 

 寄せて上げる肉も無いが。

 

「頑張って私がミサちゃんのおっぱい育ててあげるしかないね」

 

「え?どうやって?」

 

「揉むと大きくなるから」

 

 騙されてないそれ?いや、別にオレはおっぱいを大きくしたいわけじゃないんだけど。

 

「とりあえず、これとこれとこれ!試着してきてね!下は直穿きしちゃダメだよー」

 

「わ、わかってる」

 

 そう言って試着室に押し込められる。これはちゃんと試着しないと出して貰えなさそう。

 

 仕方なく服を脱いで下着姿になる。そして、ミカの持って来たものからピンク色の、フリルの付いたブラジャーを手に取る。結構スベスベしてて気持ちいい。どうやらシルク生地のようだ。

 

(う、後ろのホック留めづらい)

 

 悪戦苦闘の末、どうにかブラジャーを着けれたオレは鏡を見るとドキッとした。

 

(単品で見た時は、かわいいって感じだったけど、いざ着けてるの見るとちょっとえっちかも。ショーツも上から合わせるくらいなら大丈夫だよね。ミカ、こういうの好きなのかな。着て上げたら喜ぶ?)

 

 妙に胸がドキドキするのは、きっとほど良く締め付けるブラジャーの所為だろう。ショーツも合わせて見てると、鏡に試着室を覗いてるミカが映っていた。

 

「みみみ、ミカ!?」

 

「あ、お構いなく」

 

「構うよ!?」

 

 その後も見たがるミカを追い出して、何着か試着した後いくつか買うことにした。

 

 

 

「ぶー、もっとノリノリで試着してるミサちゃん見たかったなー」

 

「……ノリノリじゃないから」

 

 下着を買ってショップを出たオレ達は、今度は服を買いに来ていた。

 

「服なら、今着てるのでも良くない?」

 

「ダメ!というかミサちゃん、昔の服を一張羅みたいに着回すのは女の子としてどうかと思うよ」

 

「だって、まだ着れるし」

 

 今着てるのは、初等部の頃ミカに買ってもらった服一式だ。あの頃から大して身長が伸びていない為、未だに着続けている。

 

 なんて言ってたら、股のものが震える。

 

「ふにゃああああっ」

 

「ちゃんとオシャレに気を遣おうね」

 

「ふぁ、ふぁい」

 

(や、やばい……。こう何度も動かしたり止めたりされると、身体が……)

 

 すぐミカは機械を止め、ふにゃふにゃになったままのオレを近くの店に引きずり込む。何の店かと周りを見ると、いわゆる地雷系ファッションのお店だった。

 

「み、ミカ……これ私が着るの……?」

 

「ん?そうだけど?」

 

 服を選びながら、さも当然のように答えるミカ。

 

「わ、私よりミカの方が似合うよ。だから、もっと普通の服にしない?」

 

「だめー」

 

 ダメだった。

 

「んー、こっち?いや、こっちかな。ミサちゃんは顔が可愛い系だからねー」

 

 ミカはそう言いながら、服を取ってはオレの身体に合わせてく。正直、オレの目から見てあまり違いが分からない。

 

「これと合うスカートは、これかな」

 

 そう言ってポンポンとオレの手に、フリルやリボンの付いたブラウスやスカートが積み上げられていく。

 

「買い過ぎじゃない……?」

 

「えー、まだまだ少ないよー」

 

 もう上下合わせて20着あるんだけど。

 

「あ、このワンピースかわいい~。こっちのセットアップは色合いが微妙かもー」

 

 ポンとまた新しく乗せられる。色々突っ込みたいところではあるが、ミカが楽しそうなところに水を差すのも悪いと思い、口を噤む。

 

「あ!ミサちゃんミサちゃん!これとこれ合わせて色違いで買ったらペアルックみたいに出来るよ!」

 

 興奮気味にオレにどうかな?と聞いてくるミカ。

 

「……良いと思う」

 

 ファッションの知識が乏しいオレは、思考停止でそう答えるしかなかった。

 

 

 

「はぁ~いっぱい買ったねー。大丈夫?重くない?」

 

「いや、全然」

 

 今、買った服などで大量の荷物を抱えているが、重さで言うなら銃やバッグの方が重いので全く気にならない。

 

「うーん、そのままじゃ他のお店回りづらいだろうし、家に送っちゃおっか」

 

 まだ回るんだ。幸い、近くに宅配サービスをしてる所があったので送ることにした。

 

「じゃあこの住所にお願いします」

 

「かしこまりました。では、こちらお荷物をお預かりさせていただきます」

 

「ミサちゃん、おまたせ~」

 

 ミカが自分がやっておくからと手続きしに行ったので、その間にオレはお手洗いを済ませておいた。何度も膀胱を揺らされて限界だったから助かった。

 

「ちゃんと送れた?」

 

「うん、バッチリ!」

 

 ミカが言うなら大丈夫だろう。その後、二人でモール内を見て回っていると、ミカが映画館を見て足を止める。

 

「どうしたの?」

 

「え?あ、うん。今話題の恋愛映画まだ観てなかったな―って思って」

 

 映画館の外に置いてある看板を見ると、どうも人間の男女の恋愛を描いた映画らしかった。ネットの評判も高く、今キヴォトスで最もホットな映画と言っても過言では無いのだろう。

 

「人間同士の恋愛映画なんて珍しいな」

 

「でしょ!?ネットでも結構話題だからすごく気になってたんだよねー!」

 

「……みてく?」

 

「いいの?」

 

「まぁ、今日は私が買ってばっかりだし、ミカが気になってる映画も気になるし」

 

「わーい!ありがとミサちゃん!チケット買ってくるね!」

 

「あ、うん」

 

 ぴゅー!と音が鳴ってそうなくらい素早く、受付に飛んで行くミカを見送る。

 

(それにしても恋愛映画か、どうせならアクション映画観たかった。オレ、こういうお涙頂戴というか感動しろ系の映画は苦手なんだよな)

 

 

 

「うぐっ……えっぐ……!ふたりが幸せになってよがっだぁ~」

 

「み、ミサちゃん……いつまで泣いてるの」

 

「だってぇ~」

 

 映画を観終わった後も泣き止まない私を見かねて、ミカは近くの喫茶店に入り私の背中を擦りながら慰めてくれる。

 

「あはは、評判通りすごく感動した映画だったね。私もうるっと来ちゃったもん」

 

「う‶ん、離ればなれになってもふたりが想い合ってて、再会出来た時は……うぇぇぇんよがっだぁ」

 

「もう、鼻水まで垂らしちゃって。ほら、チーンして」

 

「ちーん!」

 

 ミカの差し出したちり紙に鼻水を出した後、落ち着くために二人で紅茶とケーキを注文する。

 

「どう?落ち着いた?」

 

「うん、恥ずかしい所見せてごめん」

 

「恥ずかしくなんてないよ。感動を表に出す事って誰にでも出来ることじゃないんだから、もっと自信持っていいと思うよ」

 

 そうなのかな?ミカが言うならそうなのかも。……ミカ、あの映画気になってたって言ってたけど、ミカも恋愛してみたいのかな。

 

「ねぇ、ミカってさやっぱりその、大人の男の人と恋愛してみたいとか思ったりするの?」

 

「え?うーん、どうなんだろ。そういうの意識したことないなぁ。それに私達まだ中学生だし、そういうの考えるのまだ早いというか。まだ、恋に恋してるんじゃないかな」

 

「そ、そうなんだ」

 

 よかった。……ん?なにがよかったんだろう?よく分からない感情を誤魔化すように、紅茶を飲み干す。

 

「ふふっ、また映画観に来ようねミサちゃん」

 

「う、うん!」

 

 紅茶を飲みながらこちらに微笑むミカに顔が熱くなり、私はすでに空になったカップを傾けながら返事をする。

 

 喫茶店の会計を済ませ、店を出た私達は話をしながらまたぶらぶらと歩き、ふと目に入ったお店にまた足を止める。

 

「ミサちゃん、どうしたの?……コスメショップ?」

 

「あ、その」

 

「……気になる?」

 

「……ならないって言ったら、嘘になる」

 

「ふふっ、そっか♪」

 

 ミカに促され、私は一緒に化粧品売場に入ることにした。

 

「ミサちゃんには早すぎるかなって思って、今回はスルーしようと思ってたんだけど、ミサちゃんから興味持ってくれて嬉しい!」

 

「ミカが前にメイクしてきてたから、ちょっと気になっただけだから!」

 

「そっかぁ♪私が前からメイクしてたの気づいてたんだね」

 

「え、まぁ?」

 

 いつもよりかわいかったし、良い匂いしたし。

 

「んー、ミサちゃん顔面レベル高いから、あんまり弄っちゃうと逆にミサちゃんの良さが損なわれちゃいそうだなぁ」

 

「顔面レベル……」

 

「ちょっと手出して?」

 

「あ、うん」

 

 ミカはいくつか化粧品を取ると、差し出した手の甲にいくつかの線を引く。

 

「え?勝手に使って良いの?」

 

「これサンプルだからねー。こうやって肌に直接出さないと、合ってるかどうか分からないでしょ?」

 

「そうなんだ……」

 

「んー、この辺のはあまり良くないかも」

 

 ミカは私の手の甲にライトを当てたり消したりしては、別の化粧品を塗りを繰り返してそんなことを言った。

 

「ライト当ててたのはなんで?」

 

「光の当て方とか色で見え方が変わるのもあるからねー。だから、暗いところ明るいところでメイク変えたりするんだよ」

 

「へー」

 

 ……もしかして興味本位で入ってはいけない世界だったのでは?

 

「あ、新作のコスメだ!前に新しいの出るって聞いて気になってたんだよねー。あ、これミサちゃんに合いそう。ちょっと顔貸してね、うんやっぱり!」

 

 ミカが嬉しそうに私の顔を見る。私は近くの備え付けの鏡を見ると、確かにミカが塗ったところと元の肌を比べてみると綺麗になってた。

 

「あとはボディケアとフェイスケアとヘアオイル、ネイルケア、マニキュア、ペディキュア」

 

 ミカはそう言いながらかごの中に、ドサドサと大量に化粧品を買い込んでいく。

 

「こ、こんなに?」

 

「もちろん!あ、この辺は私も使ってるオススメのだから、帰ったら使い方と使う順番教えるね」

 

「う、うん?」

 

「うーん、あ!ミサちゃん、ちょっと唇出して」

 

「ん、こ、こう?」

 

「うん!そのままね……うん、口をんぱってしてみて」

 

 ミカに言われた通りに口を動かす。

 

「いいかも!ほら、鏡見てみて」

 

「これ、私……?」

 

 唇に薄いピンクが乗り、わずかに出る光沢が成長した少女らしさを強めている。映ってるのは私なのに、私じゃないみたいだった。指で唇をなぞると、鏡の中の私も同じ動きをする。

 

「ふふ、リップひとつですごく変わるよね?また大人の階段を登っちゃったね」

 

 そう言ってミカは顔を寄せてほっぺたをくっつけてくる。恥ずかしさからか、顔が熱くなり鏡を見ると、顔を赤らめた少女がそこにいた。お腹の奥がキュンッと疼いた。

 

 

 

「はーっ、今日は楽しかったねー」

 

「う、うん」

 

 買い物を終えた私達は、沈む夕日を眺めながら帰路に着いていた。

 

「それじゃあ、ミサちゃん私の家はこっちだよ」

 

「うん……うん?なんでミカの家?」

 

 うっかり流してしまいそうになったが、おかしいことに気が付きすぐに疑問を返す。

 

「なんでって、今日から一緒に住むからだけど」

 

「え?聞いてないけど」

 

「今言ったもん」

 

 ミカの返答に、思わず頭を抱えそうになる。

 

「……住むのはいいけど、事前に言ってくれないとこっちにも準備が……」

 

「だいじょーぶ!今日の荷物は全部私の家に送ってあるからね!」

 

「……え?」

 

 最初からミカの家に連れ込む気だったようだ。

 

「でも、制服とか」

 

「私の予備あるよ?あ、ミサちゃんちの荷物は今度取りに行こうね」

 

 どうやら、私に逃げ場はないらしい。

 

「……だめ?」

 

「だめとは、言ってない……」

 

「やったー!」

 

 その後はいつも通りミカに引っ張られ、ミカの住むタワマンにやってきた。

 

「でっか」

 

 ミカの住むタワマンはこの辺りでも有名な50階建てのセレブマンションだ。ロビーを抜けて、エレベーターに乗り込むと当然のように最上階のボタンを押す。ガラス張りのエレベーターから夜に染まる街並みを一望出来た。

 

「すご」

 

「あはは、ミサちゃんさっきから語彙なくなってるよ」

 

 うちのマンションの倍あるからなくなるに決まってる。やがて、最上階に到着しエレベーターから降りるとすぐ近くに扉があった。扉の横には今日送った荷物が積まれている。ミカはドアのロックを解除すると、荷物を入れながら私を招き入れた。

 

 中は予想通り広く、リビングとダイニングとキッチンが合体したバカみたいに広い部屋と下に向かう階段に、ガラス張りの向こうにはテラスにプールまで付いていた。

 

「……一人で暮らすには広すぎない?」

 

「でしょ?そんなわけだから、これから好きに使っていいからね」

 

 好きに使って良いと言われても……。とりあえず、荷物を下ろした私は部屋の中を見て回ることにした。

 

 結構散らかってそうなイメージだったのだが、部屋の中は綺麗に整頓されていた。私の部屋より綺麗かもしれない。棚の中も使う物ごとに綺麗に分けられており、几帳面さが伺える。こっちはアクセサリー入れか。

 

 中央にはその存在を誇示するかのように、大きな天蓋付きのお姫様ベッドが鎮座していた。なんとなくベッドの上に乗り、シーツの匂いを嗅ぐ。

 

(あ、ミカの匂いだ)

 

 ぽふっと大きな枕に顔を投げ出すと、そこからもミカの匂いがした。私は長い時間"お預け"をされてたこともあり、手は自然と下半身の方へ伸びていく。

 

「―――ストップ」

 

「!?」

 

 横から伸びた手が、私の手を止める。見るとミカが呆れた様に私を見ていた。

 

「もう、目を離した隙にすぐそういうことしようとするんだから」

 

「あ、ミカ」

 

 ミカは私の体を起こして、ぎゅっとやさしく抱きしめてくる。嬉しくって私もやさしく抱きしめ返すと、少し抱き締める力が強くなった。

 

 ……わかってる。今は開き直って素直な私でいられるけど、時間が経てば恥ずかしさでまた素直になれなくなる。だから……。

 

「ねぇ、ミカ。私に……もっと女の子を刻んで……?」

 

 ミカは驚きに目を開いて私を見る。

 

「今日は、色んな所に連れ回しちゃったから、疲れてると思って手を出さないって決めてたんだけど……」

 

「……あんなにお仕置きされたら、私もう我慢できないよ……」

 

 ミカは私の唇にゆっくりとキスを落とすと、興奮した目を向けてくる。

 

「いいの?1回で止まれないよ?」

 

「止まらないで。忘れられないように、私にいっぱい刻んで」

 

「―――ッ」

 

 ミカは私をベッドに押し倒すと、そのまま私に覆い被さる。

 

 その後、一晩中私はミカにその身を委ね続けた。

 

 

 

 




光園ミサ
乙女プラグインがインストールされた。女の子モードのミサは傾国レベルの美少女。たぶんやばいフェロモン放出してる。普段素直じゃない分、素直になるとリミッターが外れる。食事は2日に1食摂ってたが、ミカにバレて毎日3食食べさせられるように。

聖園ミカ
ミサに仕掛けたおもちゃは、ホントにただのお仕置きのつもりだったが、結果的にミサのリミッターを外した。ミサがオシャレに興味持ってくれたので終始機嫌が良かった。最後にミサからおねだりカウンターを貰い、理性が飛んだ。



どうでもいい話だけど、今回初めて人間って書いた。


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お引越しの話

いつも感想ありがとうございます!かんしゃ~

今回はあくまでミサの主観で語られてる、という事を念頭に入れておきたい。


 

 その日はミサがある日で、早めに学園に来ていた。

 

 ……いや、ミサというのはオレのことではなく、教会でやってるミサのことで分かりやすく言うなら礼拝のことだ。主日―――日曜日のこと―――と平日に行われ、今日は平日のミサに出ている。

 

 内申に響くだけなので、別に出ても出なくても問題無い時間ではあるのだが、ミカに毎日授業に出ると約束した手前、約束を反故に出来ないとミカが一緒に居るのを条件に来たのだが……。

 

「あ、あの……大丈夫ですか……?」

 

 傍目から見てひどい顔をしているのか、近くに居た《シスターフッド》の制服を着た女の子が心配そうに話し掛けてくる。

 

「……お気になさらず」

 

 オレがそう言うと、納得はして無さそうだが一先ず離れてくれた。

 

「ミサちゃん、ホントに大丈夫?無理しなくていいからね?」

 

 隣に座っていたミカが小声で心配そうに覗き込んでいた。

 

「うん。でも、ホントに今は大丈夫だから、昔に比べればちょっと体調悪くなる程度だし」

 

「昔?あー、初等部の頃暴れたやつ?懐かしいね」

 

 そう、昔ミサに出た際滅茶苦茶に暴れて、《シスターフッド》数人がかりで無理矢理オレを制圧する事件が発生した。なお、それでも止まらず結局《正義実現委員会》が出張って来て取り押さえられることになった。その日以来、一度も教会には近づいていない。

 

 あの日を目撃した生徒はそれなりにいたので、今でもオレが他の子に恐れられたり、避けられたりするのは仕方がないと言える。理由がイライラしたから、とかいう。うん、オレが悪い。

 

「そんなわけだから、もし私が暴れたら床に叩きつけて止めていいから」

 

「あはは、しないよそんなこと。それに、ミサちゃんはもう暴れないから大丈夫だよ」

 

「……うん、ありがとう。でも、手は繋いでてね」

 

「うん、もちろん!」

 

 右手から伝わる熱に、気持ちが和らぐのを感じる。その日はなんとか暴れずに平和に終わった。見覚えのある《シスターフッド》の人が、心なしかホッとしていた。前は暴れてごめん。

 

 

 

 中等部校舎にある教室に戻って来て、今日の授業の準備をする。期末までもう数週間しかないので、出来るだけ復習しておきたい。前回はなんで点数が低かったのかよく分からないが、ミカが手を打っておいてくれたらしいので、安心して挑んでいいらしい。……何をしたのかは分からないけど、《ティーパーティー》の人からは次の期末テストの結果が出るまで保留にするって言われたので、何かしたんだろう。

 

 そんなこんなで始業のベルが鳴り、キヴォトスでは先生がいない為、各々が自習の形で勉強を始める。ミカとの約束もあるし、オレも真面目に勉強に取り組むことにした。

 

「……」

 

 ふと視線を感じ、隣を見るとミカがこっちを見ていた。

 

「どうしたのミカ?」

 

「あ、うん。ちゃんと勉強してるなーって思って」

 

 周りの迷惑にならないように声量を落として会話する。

 

「そりゃ、私だってこんなことで停学だの退学だのは勘弁だし」

 

「……正直ね、私ね、ミサちゃんがこの学園からいなくなっても仕方の無いことなのかなって思ってた」

 

「ミカ……?」

 

「私だって、何も知らないわけじゃないもん。学園の裏側のドロドロとか、ミサちゃんの持つ怒りとか、ミサちゃんやさしいからそういうの嫌になってどこかに行っちゃうのかなって、思ってたからミサちゃんが学園に残る意思を示してくれたのが嬉しい」

 

「それは―――」

 

「ミサちゃん……?」

 

「……ううん、なんでもない。勉強がんばるね」

 

「……うん、がんばれ!」

 

 ……オレが学園に残る理由。言えないよ、恥ずかしくて。ただ、ミカと一緒に居たいだけ―――なんて。

 

 

 

 その日の授業が終わり、ミカと廊下を歩いてる時に教室に忘れ物をしていることに気が付いた。

 

「ごめん、ミカ。忘れ物したからちょっと取りに行ってくる」

 

「一緒に行こうか?」

 

「ううん、すぐだから大丈夫。先に外で待っててくれる?」

 

「うん、わかった。じゃあ、先に行って待ってるね」

 

 ミカと別れ、踵を返し小走りで教室まで戻ると、自分のロッカーの中に入れたままだったBDを取り出す。これが無いと家で勉強出来ないから、気付いて良かった。

 

 その後、BDを両手で抱え、外で待ってるミカの所に戻るため廊下を進んでいると、見知った顔に出くわした。

 

「―――あ」

 

「―――ミサさん?」

 

 最後に会ったのは、1ヶ月以上前だっただろうか。久しぶり過ぎて何を話したらいいか分からない。

 

「その、久しぶりナギサ」

 

「……ええ、そうですねお久しぶりです。お変わりありませんでしたか?」

 

「まぁ、オレは―――」

 

 ミカがいないなら普段の話し方でいいか、と思いそこまで口に出して、ひゅっと喉が鳴る。廊下の先の曲がり角に一瞬ミカのヘイローが見えた。

 

「?」

 

 ナギサは途中で言葉を切ったオレを不審に思ったのか、オレの視線の先を見るが、すでにそこには誰もいない。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「あ、ううん!大丈夫!なんでもないからっ。わ、私は全然元気だよ。ミカもいてくれるし」

 

「……」

 

「ど、どうかした?」

 

「い、いえ」

 

「……」

 

「……」

 

 急に話し方を変えたオレに、ナギサは戸惑ったようでお互いの間に沈黙が流れる。オレもこんなところでナギサに会うとは思っていなかったから、しかもミカに見られてる状態で、女の子の話し方でナギサと話すことになるなんて……。気まずいし、適当な所で会話を切って逃げようかな……。

 

「あの、ミサさん。ミカさんに何か酷い事されてませんか?」

 

「え?」

 

 どう逃げようか思案していた所に、ナギサからそんな疑問が飛んできた。ひどいこと……酷い事?なんかあったっけ?あれかな、ミカがオレに赤ちゃん産ませようとしたこと?でも、あれはオレの勘違いだったし。最近だと、オレが楽しみに取ってたプリンを勝手に食べたことかなぁ。でも、あれもあとで新しいプリン買ってきてくれたし。……なんだろう?

 

「特にない……かなぁ」

 

「……本当ですか?」

 

 ナギサはずいっと体を寄せてくると、オレの肩を強く掴む。

 

「ちょ、ナギサ痛いよ、離して」

 

「本当はミカさんに脅されて酷い事をされてるんじゃなんですか?もし、そうなら言ってください!私はミサさんの力に―――」

 

「―――離してッ!!」

 

 オレ、私の肩を掴むナギサを、手で振り払う。乾いた音と共に、一歩、二歩、ナギサから距離を取る。ナギサは呆然とした顔で私を見ていた。

 

「ミカが私に酷い事するわけ無いじゃん。仮にあったとして、ナギサに何の関係があるの……?」

 

「ミサ、さん……?」

 

「それに、ミカとナギサは幼馴染でしょ。どうしてそんな酷い事言えるの」

 

 ポタポタ、と目から零れ落ちた雫が床にシミが広げていく。

 

「ミカは、酷い事なんてしない。私の方が、ミカに酷い事してるのにミカは笑って赦してくれて。私が苦しいときは、ずっと傍に居てくれた。なのに……そんなミカに酷い事言って、私の力になりたいって何?何も知らないのに勝手な事言わないで!1ヶ月以上連絡もしないで、"お茶会"がそんなに大事?その"お茶会"のせいで私は大変な目に遭ってるっていうのに、ふざけないでよッ!!」

 

「み、ミサさんその……」

 

「言い訳なんて聞きたくないっ。私が、一番傍に居て欲しいときにいなかったのは、ナギサの方じゃない……。……ごめん、ミカ待たせてるからもう行くね。こんなこと言いたくないけど、最低だよナギサ」

 

 私はナギサの横を抜けると、そのまま角を曲がる。

 

「あ……―――っ!私のバカ……!」

 

 角を曲がると、そこにはやはりミカがいた。

 

「あ、あはは……ごめん立ち聞きするつもりは無かったんだけど」

 

「ううん、私の方こそごめん。ナギサに酷い事言っちゃった……」

 

「あー、大丈夫だと思うけど気になるなら後で謝ろ?」

 

「うん、ありがとう」

 

「ふふ、じゃ帰ろっか」

 

 差し出してきたミカの手に、私は自分の手を重ねる。

 

「うん」

 

「あ、ちょっと待って。じっとしてて」

 

 ミカはハンカチを取り出すと、私の目の辺りをポンポンと押す。

 

「擦れちゃうとメイク落ちちゃうからね。やさしくポンポンと……うん、大丈夫だよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 そのまま二人で校舎から出て、校門へ向かって歩いていく。

 

「えへへ、でも残念だったね。おめかし、誰にも気づかれなかったの」

 

「それは、……ちょっと残念だった」

 

「ナギちゃんもナギちゃんだよ!ミサちゃんこんなに可愛いのに!乙女心が分かってないよ」

 

「ナギサは……ナギサ、"お茶会"で変な事言われたのかな。じゃないと、ミカに酷い事言わないよね」

 

 私の言葉に、ミカは困った顔をする。

 

「ナギちゃんが私に酷い事言うのなんていつものことだよ。気にしない気にしない」

 

「でも、ミカが私を脅して無理矢理言うこと聞かせてるとか」

 

「無理矢理言うこと聞かせてるのは本当じゃない?」

 

「勝負の事言ってるなら、経緯はどうあれ、勝負に負けたのは私だもん。無理矢理じゃないよ」

 

「そ、そうかな?」

 

「そうだよ。というか対等どころか、温情掛けられて私に有利な条件で勝負に負けたから、これ以上蒸し返されると恥ずかしさで死にたくなる……」

 

「な、なるほど」

 

 しかも、自分で勝利を放棄しちゃったし。今思うと、あれで良かったのかもしれない。

 

 その後も、今日あった事とか色々話した。

 

 

 

 所変わって、同日の昼下がり。私とミカは、私のマンションに来ていた。ミカの家に送る荷物をまとめるためだ。もういくつかは、ミカの家に送ってるから、今日の分をまとめたらもうこの家に帰ってくることは無いだろう。この家の鍵も返却することになってる。

 

 私は、扉の横に付いてるセンサーに指を置いた後、カメラに目を合わせる。学生証をかざした後、鍵を差し込んで回しロックを解除した。

 

「……前から思ってたけど、ミサちゃんちセキュリティすごいよね」

 

「そう?」

 

 ずっとこれだからあまり違和感ないけど、ミカから見てかなり厳重なんだ。

 

「私の所でも、顔認証と学生証ぐらいだからね。流石に、指紋認証と虹彩認証はしないよ。しかも、最終的に電子ロックじゃなくてアナログなのがなんとも」

 

「まぁ、最終的にアナログが一番だから。ハッキングされる心配も無いし」

 

 確かに、とミカとセキュリティについて話しながら家の中に入る。家の中は、結構片付いていて残るは私の部屋だけだ。

 

 部屋に入り、要るものと要らないものに分けて荷物の整理をしている時だった。

 

「ミサちゃん、これなに?」

 

 ミカが見せてきたのは、壊れたヘルメットだった。ヘルメットの片側だけが抉れたように壊れてるそれは、忘れられない物だった。

 

「あー、それ初等部の時私のヘイロー壊し掛けたやつが被ってた」

 

 それを聞いたミカのヘルメットを見る目は、ゴミを見るそれと同じになっていた。

 

「あぁ、例の……。なんで後生大事に仕舞ってたの」

 

「……戦利品だって押し付けられたけど、なんか捨てたら呪われそうで」

 

「ふーん」

 

 ポイっと綺麗な放物線を描いて飛んだそれは、ゴミと書かれた箱の中に綺麗に収まった。戦利品は、ミカの手により無事ゴミになった。

 

 ミカはまたなにか見つけたのか、私を呼ぶ。

 

「ミサちゃーん」

 

「またなにか見つけたの?」

 

「なにこれ?」

 

 そう言ってミカが見せてきたのは、茶色くてとぐろを巻いた。

 

「……うんち、かなぁ」

 

 より正確に言うなら、粘土で作ったうんちと言った方が正しい。

 

「……なんでそんなもの持ってるの」

 

 ミカが私をうんちを見る目で見てくる……!

 

「ま、待って!?それはホントによく分からないから!勧誘に来た《ティーパーティー》の人に『お近づきのしるしに』って渡されたもので、私もなんなのかさっぱりなの!お願い信じて!」

 

「だからって、なんでこれなの」

 

「さ、さぁ?その人、目が見えないみたいだったから間違えて渡しちゃったとか?」

 

 杖も突いてたし、結構日常生活不便そうだった。ちなみに、その人はその後も何度も勧誘に来てたが、どこかの派閥に入る気は無かったので、全部丁重にお断りした。名前は聞いたような気がするけど忘れた。

 

「目が見えない……?まさか……でも、だったらなんで……」

 

 ミカはぶつぶつと呟きながら、ポイっとうんちを放ってゴミ行きにする。さらばうんち。

 

 そんなこともあって、荷物をすべてまとめ終わった頃には日が傾き始めていた。

 

「これで全部?」

 

「うん、家具類はもう処分したし、荷物もこれだけだよ」

 

「……ミサちゃん、その時計も持ってくの?」

 

「……うん」

 

 ミカの言う時計とは、ある銀時計のことだった。一時期、彼女に関わるものを捨てようとし、それでも捨てられなかったものだ。

 

「その人、ミサちゃんのこと捨てたんだよ。それでも?」

 

「うん……これがあの人の、シエルさんとの最後の繋がりだから」

 

 手の中の時計は、あの頃より小さくなった気がする。でも、あの頃と変わらない銀の輝きを放っていた。去年の夏祭りの後、見てて思い出すのがツラくて外して仕舞い込んでいた。

 

「吹っ切らなきゃいけないのは分かってる。でも、繋がりを完全に断ち切ってしまったら、思い出も消えてなくなってしまいそうで……ごめん、ごめんねミカ」

 

「もう……ほら泣かないの」

 

 ミカは私を胸に抱き寄せて頭を撫でる。

 

「私だって、そこまで言うものを無理矢理取り上げたりしないから」

 

「うん、ありがとう」

 

「ミサちゃん、泣き虫なのは昔から変わらないよねー」

 

「うー、だってぇ」

 

 その後、落ち着いた私はすべての荷物を持って、玄関まで戻ってきた。何も無くなった部屋を見渡した後、6年間過ごしてきた部屋を後にした。

 

 

 

「ただいまー」

 

 ミカの住むマンションに帰って来て、ミカが玄関をくぐったのでついて行く。

 

「お、お邪魔します……」

 

「違うでしょミサちゃん。今日からここがミサちゃんの家なんだよ?」

 

「あ、そうだった。……ただいま」

 

「おかえり!」

 

 荷物を置いた後、ミカがお風呂とご飯どっちがいいか聞かれたので、お風呂と答えたらすぐ沸かすね!と飛んで行ってしまった。あれは合法的にお風呂で私に触る気満々の顔だった。今日、ご飯食べられるかな……。

 

「あ、そうだ」

 

 忘れる前に、やっておかないといけないことがある。スマホを取り出し、モモトークを起動する。ベッドに上半身だけ乗せて、ぽちぽちと文字を入れる。

 

『ナギサ、今日は言い過ぎた。ごめん』

 

 ふぅ、と一息つくとすぐ返事が返ってくる。

 

『いえ、私も配慮が足りませんでした。ごめんなさい』

 

『仲直りに、また一緒に遊びましょうね』

 

『うん、わかった。ミカにも伝えておくね』

 

 ごろりと仰向けになりながら、モモトークを眺める。ションボリしたナギサが打ってるのかと思うと、ナギサには悪いけどちょっと笑ってしまった。

 

 私とナギサの関係ってなんなんだろうと、ふと思う時はある。私にとってナギサは"ミカの幼馴染"ではあるし、ナギサにとって私は"ミカの友達"のはずだ。友達の友達は友達なり得るのか。それはちょっとわかんない。だからこそ、ナギサから返ってきた返事にびっくりしてしまった。

 

『いえ、二人で遊びましょう』

 

「!?」

 

 予想外の返事に一瞬頭が真っ白になるが、何とか返事をする。

 

『わ、わかった』

 

『空いてる日をまた連絡させて頂きますね。では、おやすみなさい』

 

『お、おやすみ』

 

 ……最近は友達の友達でも、こんな気楽に相手を誘うものなんだ。知らなかった。

 

「ミサちゃーん!お風呂沸いたよー!」

 

「う、うん!今行く!」

 

 そうだ、ミカに相談しよう。ミカならきっといいアイデアが浮かぶだろう。スマホをベッドの上に置いた後、着替えを持って脱衣所に向かう。

 

 全身を洗うミカの手付きはいやらしかったが、特に何事も無くお風呂から上がり、ミカが頼んでいたお寿司を食べた後、今日はゆっくり眠れそうと思いきや、ミカに押し倒された。

 

 その日もミカが満足するまで寝させて貰えなかったのは言うまでもない。

 

 




光園ミサ
えっちなことが酷い事にならないピンク。でもまだ赤ちゃんは作っちゃダメ。プリンを勝手に食べたのは許されなかった。ミサは《ティーパーティー》での話は一切知らない。守秘義務あるからね、仕方ないね。

聖園ミカ
ミサが昔の女を忘れてくれないので、嫉妬で押し倒す。ナギちゃんとは遠慮の無い仲なので悪口は特に気にしてない。むしろ、ミサちゃん泣かせてんじゃねーよとキレていた。

桐藤ナギサ
久しぶりにミサに会ったので、気持ちが先走ってしまった。ミサの口調が変わったのは、すぐにミカの仕業だと気付いた。でも、ミサに泣かれて怒られて困惑してる間に逃げられて、自己嫌悪に陥ってた。《ティーパーティー》を優先して、ミサをミカに任せっきりだったので何も言えない。



ミサが弱さを見せるのは親しい相手だけなので、あそこでナギサが押されず無理にでも話していたらワンチャンあった。



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待ち合わせの話

感想いつもありがとうございます!

デート回のはずが、思ったより文字数膨らみそうだったから、キリの良いところで投稿。

ミサちゃんの苗字読み方分かり辛いって言われちゃった♡でも、ゲームも分かり辛い子多いから、ある意味原作リスペクトでは??お前のことだぞ!陸八魔アル!そういえば聖園さんも大概だったわ。


 

 休日のある日、私達はいつもの駅前噴水広場で待ち合わせをしていた。

 

「早く着きすぎたかな?」

 

 そう言って時間を確認するも、15分前だ。一般的には大体このぐらいではないだろうか?まぁ、私が言えた義理じゃないけど。

 

「ミサさん!」

 

「あ、ナギサ。おはよう」

 

「ええ、おはようございます。もしかして、遅れてしまいましたか?」

 

「ううん、15分前だから全然。むしろ早いくらいかも?」

 

「ふふ、お互いに早く来てしまったんですね」

 

 二人の会話を聞きながら、出るタイミングを図る。

 

「今日はミカさんも居ませんし、二人で羽を伸ばしましょう」

 

「あ、それなんだけど―――」

 

「―――ナーギちゃん、おはよう♪私の羽も伸ばしてもらっていい?」

 

「え‶っ、み、ミカさん!?どうしてここに!?」

 

「ごめん、今日の事相談したら私も行くって聞かなくて。まぁ、ミカなら別にいいよね」

 

 陰から飛び出ると、案の定いないと思っていたのか、ナギちゃんは驚くほど飛び上がった。ふっふっふっ、話を聞いた私が来ないわけないじゃん!

 

「み、ミサさんちょっとお待ちいただいてもいいですか?ええ、すぐ終わらせてきますので」

 

「う、うん?」

 

「ミカさん、ちょっとこっちに」

 

 そう言って私を引っ張ってミサちゃんから離れる。ミサちゃんへの対応と私への対応違い過ぎない?

 

「ミーカーさーん―……よく顔を出せましたね」

 

「ナギちゃん、それは私のセリフなんだけど?」

 

 ミサちゃんから離れたところで、お互いにバチバチに睨み合う私達。

 

 私達がこうして睨み合ってるのは、ミサちゃんに関係したことなんだけど……。

 

 

 

 

 

 

―――パァンッ!!

 

 ある空き教室で、破裂音のような強烈な音が響き渡る。

 

「―――痛たた、ナギちゃん急に叩くなんてひどくない?」

 

 打たれた頬を押さえながら、私は手を振り切った状態で静止している、目の前の人物に声を掛ける。

 

「ふざけないでくださいッ!ミカさん貴女、ミサさんに一体何を!?」

 

 それはミサちゃんと《勉強部屋》を使い始めて少し経った頃だった。ナギちゃんに呼び出された私は、ノコノコとこの空き教室に来てしまった。そのまま出会い頭にナギちゃんに頬を平手打ちされ、今に至る。

 

「……一体何の事?」

 

 まぁ、ナギちゃんが何に怒ってるのか、大体想像付くけどね。

 

「とぼけないでください!あ、あんな部屋で、ミサさんにあんな事……!」

 

 やっぱりね。

 

「ふふ、あー見ちゃったんだ、アレ。ナギちゃんには刺激が強すぎるかなって思ったんだけど、まぁ生徒会長に口止めしておかなかった私も悪いかな」

 

 あの部屋のことを聞いたなら、おおよその顛末も知ってるかもしれない。ナギちゃんが生徒会長達とそんなに仲良かったのは想定外だけど、偶々《ティーパーティー》の人達が端末室で何かやってるのを見て、ミサちゃんを一時的に隔離するために《勉強部屋》に連れ込んだ時点でこうなるのは予想できた。

 

 《勉強部屋》にカメラが仕掛けてあるのは知ってたけど、《ティーパーティー》だけじゃなく、学園上層部がみんなそれを確認できるのは後から知った。

 

「どうして、あんな酷い事をしたんですか」

 

「酷い事だなんて、ひどいな~。ちゃんと合意の上だよ?」

 

「ふざけているんですか……?」

 

「ふざけてなんかいないよ。ミサちゃんから『シテ♡』っておねだりされてやったことだもん。疑うなら、ミサちゃんに確認してみる?」

 

 そうなるように誘導したとはいえ、合意の上なのは本当だし、ミサちゃんからのおねだりも本当なので叩いても出るホコリは……いや、ミサちゃんのはじめてを貰う時は強引だったかもしれない。痛くないようにしたつもりだけど、結構血出てたし、あと泣いていたし。あとでミサちゃんに謝っておこう。

 

 私の(表面上は)自信ありげな表情に、ナギちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

「それに、酷いのはナギちゃんの方じゃない?ミサちゃんにも会いに来ないで、ずっとお茶会に入り浸ってさ。ミサちゃん、寂しがってたよ?」

 

 まぁ、寂しがってたかどうかは知らないけど、あの子変な所でドライなところあるし。

 

「そ、それは……ミカさんが近くに居るならと思って……」

 

「それは、私が傍に居るのであって、ナギちゃんが居るわけじゃないじゃない。ミサちゃんって人肌恋しいタイプだから、近くに居ないとすぐに愛想尽かされちゃうよ?」

 

「ぐぅ……」

 

 ふふふ、あのナギちゃんを正面から言い負かせて気持ちいい。

 

「い、今は私の話はいいでしょう。話を逸らさないでください」

 

 別に全く関係ない話をしているわけでもないんだけどね。

 

「あんな事をした理由だっけ?決まってるじゃん、ああでもしないとミサちゃんが学園からいなくなっちゃうからだよ」

 

「……?停学の話なら保留に」

 

「それは後の話でしょ?もっと前、通達書を渡されたミサちゃんが私達に黙って消えようとしたんだよ。自主退学するつもりだったの」

 

「な、なんですかそれ聞いてませんよ!」

 

「言ってないもん」

 

 言わなかったのはわざとだけど。

 

「だから一先ず思い留まらせる為に、24時間体制でミサちゃんのケアしてたの」

 

 まぁ、ミサちゃんを思い留まらせるのはその場で出来たから嘘なんだけど。でも、ミサちゃんのケアしてたのはホント。その場で持ち直したように見えて、強がってるだけで内側はボロボロだったし。

 

「なるほど、ミサさんのケアを……待ってください、それならミサさんを押し倒す必要ないですよね?」

 

 そうだね、ちょっとその辺りの都合の良い言い訳が思い浮かばないんだよね。だから上手いこと話を変えようとしたのに、ここに戻ってくるの勘弁してほしいな。

 

「……違うよ、ミサちゃんとえっちなことしたのは必要だったんだよ」

 

 面倒だからゴリ押しちゃえ!

 

「いや、そんなわけ無いでしょう!そんなことしなくても良かったでしょう!」

 

「うー、あーもー!うるさいよ!ミサちゃんの事ほったらかしにして、ミサちゃんの事何も知らない癖に口出ししないでよ!」

 

「なっ!」

 

「ふーんだ!分からず屋のナギちゃんのばーか!ミサちゃんは私が育てるんだからー!!」

 

 そう言い残し、私は空き教室を飛び出した。

 

「育てるってなんですか!?ミカさん待ちなさい!!―――くっ、逃げ足の速い……!」

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で、幼馴染と絶賛冷戦中なのである。

 

「大体、なんですかミサさんのあの話し方は」

 

「女の子なんだから当たり前じゃん。かわいいよね」

 

 ミサちゃんの話し方ばかり気にしてるけど、もっと気に掛けるところがあると思うんだけど?

 

「内面だけじゃなく、外見も見てあげてよー」

 

 今日のミサちゃんはすごいおしゃれさんなんだよ。肩出しフリルの白ブラウスに、三段フリルの膝上ピンクスカート。最近ちゃんとお手入れさせてる綺麗な肌を、じゃんじゃん見せていくんだよ!話題の中心のミサちゃんを見ると、待ちぼうけて寄ってきた動物と戯れてるけど。

 

「……あれ、ミカさんが着させたんですか?」

 

「人聞きが悪いなぁー。その言い方だと私が無理矢理着せたみたいじゃん。ミサちゃんが自分で選んだんだよ」

 

「そうなんですか?それはも―――」

 

「服をいくつか並べてね、ミサちゃんに『どれが一番女の子になれるかなぁー?』って聞いて、ミサちゃんが選んだのがあの服なんだよ」

 

「―――うし訳ないと思った私がバカでした」

 

「ナギちゃんがバカなのは知ってるじゃんね―――いひゃいいひゃい!なんで急にほっぺを引っ張るの!」

 

「選んだのではなく、選ばされてるじゃないですか。どうしてそう自分に都合の良い解釈が出来るんですか」

 

「自分に都合の良い妄想してるナギちゃんに言われたくないよ!」

 

 私も負けじとナギちゃんのほっぺを引っ張る。そうやってお互いに引かず、ほっぺを引っ張り合ってると噴水の方から騒ぎが聞こえてきた。

 

「なんでしょう?」

 

「ヤバ……ミサちゃん放置しすぎた」

 

 ナギちゃんから離れて、慌てて騒ぎになってる所へ向かうと、ミサちゃんが知らない人に向かって空中コンボしていた。なんか格ゲーみたいな動きしてる。

 

「こら!ミサちゃん!めっ!」

 

 締めにかかと落とし決めようとしてたが、私の声にビクッとしそのまま着地する。ばつの悪そうな顔で私の所に歩いてくるが、顔には「私悪くないもん」と言いたげで不満そうだった。

 

「ミサちゃん、正座。女の子なんだから乱暴な事しちゃダメって言ったよね?」

 

「悪いのは私じゃないもん……ナンパがしつこいのが悪い」

 

「それでもやり過ぎ!」

 

「……次からは一発で仕留めるよ」

 

 仕留めちゃダメだよ。知らない人を殴ってると思ったら、ナンパだったらしい。でも、すぐに顔に出るミサちゃんの目が、一瞬動いたのを私は見逃さなかった。

 

(あ、今の目の動き。気になってるものがある時のミサちゃんの癖だ)

 

 服とかを選ばせる時、ミサちゃんは気になってるモノに最初に目が行く。その後、誤魔化すように気になってるモノとは逆のモノを選ぶ。素直じゃないミサちゃんらしいと言えば、そう。

 

 視線の先を辿ると……あれは、同じクラスのハスミちゃん?クラスでも背が高めな方だから、なんとなく覚えてた。彼女は正座させられてるミサちゃんを見てオロオロしてる。

 

 ふーん?なるほど、大体読めてきた。背が高くて、美人さんなハスミちゃんがナンパに言い寄られてるのを、見かねたミサちゃんが割って入って、しつこさにキレたミサちゃんがナンパをぶちのめしちゃったわけだ。衝動的にぶちのめしたから、彼女を巻き込まないように自分一人で泥被るつもりなんだろうね。

 

 うーん、結果的にやり過ぎとは言え、人助け自体を咎めるのは違う気がする……。なんて言い含めるべきか。はぁ、せっかく女の子らしくさせたのに、こういうところだけ変わらないんだから。

 

「ミカさん、ミサさん……ってなんで正座?」

 

「お説教中。ちょっと静かにしててほしいな」

 

「は、はぁ……」

 

 悩んでる間に、ナギちゃんが来てしまった。

 

「ミサちゃん、ダメって言われて約束破るような悪い子じゃないもんね?どうしてこんなことしたの?」

 

「だから……ナンパがしつこかったから……」

 

 そう言いながらミサちゃんは、フイッと顔を背けながら目を下に落とす。

 

(目を下に落とすのは、後ろめたさを感じてるから。顔を背けるのは、隠し事してる時)

 

 ミサちゃんの癖を冷静に分析しながら、直接ハスミちゃんに聞いた方が早そうだな、と思い声を掛けることにした。

 

「ねぇ、ハスミちゃん、だよね?同じクラスの」

 

「あ、ちょっ」

 

「あ、聖園さん。は、はい。その、光園さんは悪くないんです!」

 

 ハスミちゃんから話を聞いた限り、私の想像は概ね当たってた。違う所があったとすれば、一度ミサちゃんが見逃したにも関わらず、ナンパが逆上してハスミちゃんを傷つけようとしてミサちゃんがキレた結果、あの空中コンボに繋がったらしい。そんなに沸点が低くないミサちゃんにしては、過剰なまでに攻撃してると思ったら、そういうことか。

 

「ミサちゃん?なんですぐに言ってくれなかったの?」

 

「あぅ……だ、だって」

 

「だってじゃないでしょ。言ってくれないと分からないよ」

 

「だって、オレ普段からこんなだし、信じて貰えないと思って」

 

「信じるよ、人助けだったんでしょ?でも、言ってくれなきゃ信じてあげることも出来ないし、知ることも出来ないんだよ」

 

「うぅ……」

 

「だから、指切りしよ?次からは隠さずちゃんと教えてね?約束だよ」

 

 ミサちゃんの小指に私の小指を絡めて、約束をする。すると、ミサちゃんの目から涙が零れ、泣き始めてしまった。

 

「ごめんなさい……嘘ついて、ごめんなさい……」

 

「もう……ミサちゃん、すぐ泣くんだから。人助けの為の嘘でしょ?そんなの怒れるわけないじゃんね?」

 

 ミサちゃんを抱き寄せると、泣き止むまでその頭を撫で続けた。

 

 その後、騒ぎを聞きつけて来た《正義実現委員会》と《救護騎士団》に事情を説明し、私とハスミちゃんの弁明の甲斐もあって、ミサちゃんの事を特別に許してもらえた。でも、やり返すのは良いけど、やり過ぎないようにとは注意された。ナンパは見た目こそ酷いが、ケガは大したことないらしい。怒っても、最大限に手加減したようだ。ミサちゃんが迷惑掛けた人達に、ごめんなさいが出来たのでちゃんと褒めてあげた。

 

 その一部始終を眺めていたナギちゃんは、私に何か言いたげな目をしていた。

 

「ど、どうしたの、ナギちゃん?」

 

「……いえ、なんでもありません」

 

 確かに、静かにしててって言ったのは私だけど、まさかホントにずっと静かにしてるとは思わなかった。こういうときのナギちゃんは、何を考えてるか分からなくて怖い。

 

 かくして、あわよくばナギちゃんの邪魔をしてやろうと付いてきたデートは、波乱の幕開けとなった。

 

 




光園ミサ
意思は曲げられても、芯は曲がらない女。諸々が表情に出やすいので分かりやすい。デートの服装も、そうやって決まった。ナンパは腕をひねり上げられた後見逃してもらえたのに、逆上して手を出したミサじゃなくてハスミ狙ったので、キレた。相変わらずミカの前ではよく泣く。ミカへの依存が頭おかしいことになってる。

聖園ミカ
ミサから、ナギサと二人で遊びに行くねって聞いて、邪魔しないわけがない。ミサの癖は大体把握してる。ミサと交わした大事な約束。だから、すぐに信じたんですね(プロローグ2話)。

桐藤ナギサ
ミカミサてぇてぇを目の前でまざまざと見せつけられる女。前回から時間が経過してる為、ある程度冷静になって物事を見ていた。静かに見てたのは、ミカがどうするのか見たかったから。デート本番は次回なので、解説もつづく!

羽川ハスミ
今回の事件をきっかけに《正義実現委員会》に入った。なお、ミサは自分が助けた相手がハスミだと気付いていない模様。スレンダー体型だったから仕方ないね。なにかでハスミは、高校生になってから急に色んな所が成長しまくった、って聞いたような気がするけど、なんだったかは思い出せない。え?名前で気付け?ブルアカは似た名前の人多いじゃんね。


前回の昼ドラやんって感想を見て、読み返したら確かにってなった。
母親に育児を任せ仕事一筋に生きてたら娘が反抗期になってた父親。ってこと!?生々しすぎて精神ダメージやばそう。


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デートの話

感想いつもありがとうございます!

イベント終わるまでになんとかミユ固有2にできそうで安心。

お話沢山書いたら、カヤ代行がプリンを一日4個食べてもいいと言ってたので頑張って書きました!え?やっぱりプリン無しで?―――弾劾だ!


 

 あれから、私達は後のことを《正義実現委員会》に任せ、三人で遊びに行くことに「待って、待ってください」

 

「えー、急に何ナギちゃん」

 

「なんで自然な流れで付いてこようとしてるんですか」

 

「うーん、そうは言っても」

 

 私は背中に引っ付いてるミサちゃんを見る。どうやら、人前で泣いたのが恥ずかしかったらしく、私の背中に引っ付いて離れようとしなくなってしまった。

 

「帰っても良いけど、そうしたら私にくっついてるミサちゃんも一緒に帰ることになるね?」

 

「ぐっ……そ、それならミサさん、私の後ろに隠れてもいいですよ」

 

「(ササッ)」

 

「……」

 

 ナギちゃんは私の後ろのミサちゃんに手を差し出すが、ミサちゃんはナギちゃんとの間に私が入るように逃げてしまう。

 

「ぷっ、まぁこれが積み重ねた信頼の差って奴なんだよね」

 

「し、仕方ありません。このままで遊びに行きましょうか」

 

 本当に渋々と言った様子で私の同行を許したナギちゃん。とはいえ、このまま歩くとなると私もちょっと歩きづらい。そう思ってると背中側から服を引っ張られる。

 

「ミ、ミカ……」

 

「ん?なぁに?」

 

「その、な、泣き跡隠せるようなメイクって無い?」

 

 なるほど、ずっと顔を背中に隠してると思ったら、泣いた後の顔を見られたくなかったらしい。思ったより乙女な理由に背中がゾクゾクする。

 

「んー、一応手持ちのメイクセットで出来ると思うけど、ミサちゃんそんなにメイクして欲しかったんだね」

 

「か、からかわないでっ」

 

「あはは!ごめんごめん。ナギちゃーん」

 

「はい?なんでしょう」

 

「ちょっと化粧室行ってくるね」

 

 そう言うと、ナギちゃんは疑うような目で私を見る。

 

「……何をしてくるつもりですか?」

 

「やだなー、私の事どこでも発情する猿かなんかだと思ってない?ミサちゃんのメイクが崩れたから、直してくるだけだってば」

 

「はぁ、わかりました。ここで待ってるので、くれぐれも変な事はしないように」

 

「はーい。じゃ、行こっか」

 

 ミサちゃんを連れて、近くの化粧室へ向かう。化粧室に入ると、いくつか並んでる鏡台の一つに、ミサちゃんを座らせる。ピンクヘイローになっているからか、素直に応じる。鏡に映った自分を見てミサちゃんも気が付いたのか、目を彷徨わせていた。

 

 私はその様子を見ながら、化粧品ポーチを取り出し、使う物を並べていく。ふと思い出したことがあったので、ミサちゃんに近づき囁く。

 

「ミサちゃん、帰ったら"おしおき"ね?」

 

「え!?」

 

 ミサちゃんは驚いた顔をしていたが、ミサちゃんのヘイローは濃いピンクに発光していた。んん?見たことない反応だ。

 

「え、じゃないでしょ。"私"って言おうねって約束破って、"オレ"って言ったよね?」

 

「あ、あれはその……」

 

「ダメだよね?」

 

「……はぃ」

 

 ミサちゃんは消え入りそうな声で同意する。それに伴ってミサちゃんのヘイローも、ピカピカと光ったり消えたり。うーん、反応に困るなぁ。

 

 

 

 数分後、ミサちゃんをメイクし直してナギちゃんの所へ戻ってきた。ミサちゃんも、私の背中から離れ普通に歩いている。

 

「おまたせー☆」

 

「あぁ、二人共おかえりなさい。ミサさんは、大丈夫ですか?」

 

「ごめんナギサ、私のせいで時間取らせちゃって……」

 

「ミサさんの責任ではありませんよ。どうしてもと言うなら、ミカさんが責任取ります」

 

「酷くない?」

 

 ナギちゃんの言葉を受け流しながら、どこに行くのか尋ねた。

 

「ふふふ、実は最近出来たという大型のショッピングモールに」

 

「あぁ、この前ミカと行ったところ?」

 

「え……?」

 

「あはは!服買ったり、映画観たり、お茶したり楽しかったねー☆」

 

「あ、はい。で、では、こちらの喫茶店は」

 

「ここって、ジャンボパフェ食べたところだっけ、ミカと行った」

 

「そだねー☆」

 

「こ、こちらは!」

 

「ミカと行った」

 

「ここ!」

 

「ミカと」

 

「こ!」

 

「ミ」

 

 打ちひしがれ膝を突くナギちゃん。そりゃ、2年もあったんだから大抵の所はミサちゃんと行ってるに決まってるじゃん。

 

「ミカ、私何か悪いことしたかな……」

 

「ナギちゃんの自業自得だから、放っておいていいよ」

 

 実際、今まで遊ぶ機会なんて作ろうと思えば作れたはずなのに、そうしなかったのはナギちゃん自身に問題があると思う。私も二人っきりにさせないだけで、一緒に遊ばないとは言ってない。そもそも、私が誘ってもお茶会があるからと断ったのは、ナギちゃんじゃんね。

 

 私も付き合いがあるからと、お茶会に行ってたけど、ある時期からパッタリ行かなくなったなー。あぁ、そういえばミサちゃんは私と同じなんだって気付いた日からだっけ。私がお茶会よりもミサちゃんの近くに居ることを選んだのは。

 

「うぅぅぅん……あ!こ、ここはどうです!?昨日オープンしたテーマパーク!」

 

 スマホを弄っていたナギちゃんが見せてきたのは、先日のプレオープンでかなり話題になり、昨日オープンしたばかりにも関わらず大盛況だったテーマパークだった。あれ?でもナギちゃんって……。

 

「テーマパーク……!」

 

 が、それをナギちゃんに指摘する前に、ミサちゃんがすごく乗り気になってしまった。

 

「まぁ?正直、子供っぽいテーマパークとかあんまり興味無いけど、どうしてもっていうなら」

 

 チラチラとナギちゃんのスマホを見ながら話すミサちゃん。わかりやすいなぁ。

 

「興味無いなら別の所にしよっか!」

 

 私がそう言うと、一転して泣きそうな顔になり私に縋り付いてきた。

 

「嘘、嘘です。ごめんなさい、本当はすごく気になってます」

 

「最初から素直になればいいのに」

 

「では、決まりですね」

 

 そう言うナギちゃんは、心なしか顔色が悪い。ナギちゃん、この手のアトラクションのあるテーマパーク苦手だもんね。

 

「ナギちゃん、大丈夫?」

 

「も、もちろんです」

 

 ナギちゃんが大丈夫と言っている以上、私からは何も言えなかった。その後私達は、目的地までバスを使おうということになり、移動することにした。

 

 

 

 特に何事も無く、テーマパークに到着した。本当は、バスの中でミサちゃんを虐めようかと思ったけど、ナギちゃんの目もあるし、楽しみにしてるミサちゃんに水差すのも悪いかなと思ったので、夜までは好きに楽しませることにした。

 

「ここがテーマパーク……!」

 

「以前までは、トリニティの外まで赴かねばならなかったことを考えると、こうして近場に出来たのは大変喜ばしい事ですね」

 

 ミサちゃんは、あちらこちらにあるアトラクションに、目を輝かせながら目移りさせていた。

 

「……噂には聞いてたけど、すごく大きな施設だねー」

 

「そうですね。聞くところによると、かなり強い影響力を持つところが投資してるとか」

 

「へぇー、そうなんだ。ところで、その影響力を持ったところって?」

 

「それは……私も知りません。けれど、どうにもミト様も関わってるらしく……」

 

 ミト様……確か、胡散臭そうなフィリウスの代表だっけ?

 

「ミカ!ナギサ!どこから回ろう!?」

 

 と、そこにはいつの間に買ってきたのか、ミサちゃんがテーマパークのマスコットキャラクターを模したカチューシャを、頭に着けて手を振っていた。

 

「すごくノリノリですね。いつの間にカチューシャ買ってきたんですか?」

 

「うん!ジェットコースターとか乗ってみたい!」

 

「テンション振り切れてて聞いてないよ」

 

「こっち行こう!こっち!」

 

 ミサちゃんは私達の腕を引っ張りながら、パーク内を進んで行く。仕方ないなぁ、ずっと勉強ばっかで息も詰まってただろうし、今日くらいは好きにさせてあげようかな。

 

 ミサちゃんに連れられて来たのは、パーク内を縦横無尽に駆け巡る巨大ジェットコースターだった。わーお、いきなりハードなの来たね。

 

「こここここ、これに乗るんですか……?わ、わかりました行きましょう」

 

 案の定、ナギちゃんは青い顔で震えていたが、見栄か意地かは分からないがニッコリと笑って、列に並ぶミサちゃんについて行く。

 

 列が進むたびに、ナギちゃんの顔が面白いくらいにどんどん青くなっていった。ミサちゃんは、ナギちゃんの顔に気付かずにおしゃべりしていた。ミサちゃんは普段人の機微には鋭い方だったと思うのだが、気付かなくなるくらい鬱憤が溜まっていたのだろうか。今度お出かけするときは、こういう所にも連れて行ってあげよう。そんなことを考えてると、私達の番が回ってきた。

 

「やったー!一番前だ!」

 

 ミサちゃんの言う通り、私達が乗るのは最前列だ。大きなコースターな事もあってか、三人ずつ乗れるので2:1で分かれるとかそういうのは無いようで安心した。

 

『こちら、三人ずつお乗りください。羽が生えてる方は、危険ですので必ず畳んでください』

 

 荷物をスタッフに預けると、アナウンスに従い、羽を畳んで最初にナギちゃん、次にミサちゃん、最後に私が乗り込む。チラッとナギちゃんを見ると、乗っただけなのに既に吐きそうな顔をしている。ミサちゃんもようやく気が付いたのか、ナギちゃんを見て驚いた顔をしていた。

 

「ナ、ナギサ?大丈夫?苦手なら別に無理して乗らなくても……」

 

「わ、私なら大丈夫です」

 

「でも、震えて……」

 

「これは武者震いです」

 

「そ、そうなんだ」

 

 流石のミサちゃんもナギちゃんを心配していたが、本人が大丈夫というので追及を諦めた。

 

 安全バーが下りた後、ジェットコースターが動き始め、ゆっくりとレールに沿って登り始める。

 

「なんか、私もドキドキしてきちゃった……」

 

「ミカ、ミカ。ジェットコースターはね、両手を上げて叫ぶのがマナーだからね。一緒にやろ」

 

「へぇ、そうなんだ。ナギちゃんにはやらせなくていいの?」

 

「いや、怖がってる人に無理矢理やらせるのは悪いかなって」

 

 ミサちゃんの視線に釣られてナギちゃんを見る。ナギちゃんは、両手で安全バーをしっかりと挟み込んでいて、お祈りまで始めていた。そんなナギちゃんを見て、私はちょっといたずらしてやろうとナギちゃんに声を掛ける。

 

「ナギちゃんナギちゃん!ジェットコースターに乗るときは、両手を上げて叫ぶのが"ルール"なんだって!」

 

「ええ!?そ、そうなのですか!?」

 

「い、いやあくまで楽しむ為のマナーであって……」

 

「そうだよ!だから、ナギちゃんもやろうね!そういう"決まり"だからね!」

 

 何か言ってたミサちゃんを遮って、ナギちゃんに嘘を吹き込む。すると、ナギちゃんは神妙な顔になり。

 

「……わ、わかりました」

 

 と、覚悟を決めた顔でジェットコースターの先を睨む。私はそれを見て、一仕事を終えた清々しい気持ちになった。

 

「ええと、いいのかなぁ?」

 

「いいのいいの。これを機に、ナギちゃんも苦手を克服するチャンスじゃんね」

 

 やがて、頂点まで到達すると傾き、一気に加速した。

 

「きゃー!」

 

「わー♪」

 

「いやぁぁぁぁぁ!」

 

 三者三様の反応を残して。

 

 

 

『本日はご利用いただき、誠にありがとうございます。お足元に気を付けてお降りください』

 

「あー、楽しかったー!自分で飛ぶのとまた違った楽しさがあるね!」

 

「緩急の付け方とか、三回転とかすごかったねー」

 

「うんうん!途中、終わったと見せかけてもう一回落とすのはびっくりした!」

 

「……」

 

 私とミサちゃんが感想言い合ってる中、一人真っ白に燃え尽きてる人が居た。

 

「ふふ……ここが、天国なのでしょうか……?」

 

「帰ってこーい」

 

「……ハッ!」

 

 ミサちゃんがぺしぺし叩くと、ナギちゃんはようやく意識を取り戻した。

 

「わ、私は一体……?」

 

「次はどこ行くー?」

 

「そこでナギサスルーするんだ」

 

 こういうタイプのアトラクションばかりなのに、いちいちナギちゃんに構ってたら日が暮れるじゃんね。

 

「うーん、あれ乗ってみたかったんだけど」

 

 そう言ってミサちゃんが指差したのは、フリーフォール型の絶叫マシンだった。ミサちゃん、絶叫系好きだったんだね。

 

「わ、私は大丈夫です。行きましょう……アレ高すぎませんか?」

 

「だって、333mあるもん」

 

「さんっ!?なんでトリニティタワー並の高さあるんですか……」

 

 トリニティタワーというのは、トリニティの観光区にあるタワーで、その名の通り3つの塔を指す。小さいものから順に、333m、666m、999mとなっている。トリニティにおいて、最も有名な観光名所の一つとして挙げられる。一般開放されてるのは666mの塔までだが、その巨大な塔を一目見ようと、999mの塔も観光客でいっぱいになることが多い。

 

「……ごめんね、ナギサは怖いの苦手なのに無理言って、私はいいから他のにしようか?」

 

「うっ」

 

 しょんぼりしたミサちゃんが、無理した笑顔でそう言うとナギちゃんは呻き声を漏らす。わかるよ。ミサちゃんのあの顔を見ると、すごい罪悪感あるよね。わかる。

 

「……行きますよ」

 

「え?」

 

「行くと言ってるんです!先程のジェットコースターに比べたら、ただ落ちるアトラクションなんて怖くありませんよ!そうですよね、ミカさん!?」

 

「そうだねー」

 

 どう見てもヤケクソだったが、言わぬが花だろう。その後、ナギちゃんに押されるままアトラクションに乗り込む。アトラクションが上昇し始めると、冷静になったのかまた顔が青くなるナギちゃん。

 

「ナギサ、大丈夫……じゃなさそう」

 

「うぅ……!」

 

「ほら見て、ナギちゃん。トリニティタワーがよく見えるし、景色も綺麗だよ」

 

「ほ、本当ですね。景色がすごく綺麗でぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 一番上に到達した辺りで、ナギちゃんに声を掛けて意識を逸らしてあげると、急に落ちて絶叫していた。これぐらい絶叫してもらえると、絶叫マシン冥利に尽きるよね。

 

「ミカ……」

 

「えへへ、ごめんつい☆」

 

 

 

 その後、グロッキー状態になったナギちゃんを休ませる為、近くのレストランで休憩がてらお昼を取ることにした。

 

「立派な外観だったから、高いお店なのかなって思ったけど、案外安いんだね。ミサちゃん、何食べる?」

 

 メニューを見ると、どれも一品5000~10000程度だった。テーマパークだから、軽く食べられるものを出してるのかな?

 

「そうだね、安い……安いか?じゃ、じゃあ私はこのブルーオーシャンジャンボパフェで」

 

「もう!それはデザートでしょ。ミサちゃん、普段食べてなかったんだからちゃんとしたモノ食べないと!」

 

「うっ……夏限定って書いてたからつい。じゃあこのサイコロステーキで」

 

 目を離すと、すぐ偏食しようとするんだから。

 

「ナギちゃんはどうする?」

 

「では、私は三色シチューで」

 

 わーお、カラフル。私は、パエリアにしようかな。注文も決まったので、呼び鈴を鳴らし店員を呼ぶ。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「パエリアとサイコロステーキと三色シチューで、前菜にサラダの盛り合わせと食後のデザートにブルーオーシャンジャンボパフェお願い」

 

「お飲み物はいかがなさいますか?」

 

「三人とも紅茶で」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 注文を終えると、ミサちゃんが嬉しそうな顔で私を見ていた。

 

「ミカ、パフェ……!」

 

「ふふ、最近勉強がんばってたからご褒美だよ」

 

「そういえば、このまえ期末試験でしたね。どうでしたか?」

 

「え?うーん、90点台は堅いと思うけど、結果が出ない事にはなんとも」

 

「余計な横槍さえなかったら、ミサちゃんなら余裕だよ」

 

「そ、そうかな?」

 

 今回は、警備も強化してるみたいだし、ウチの首長にも釘は刺しておいたから大丈夫だと思う。必要無いかもしれないけど、一応ダメだった場合のことも考えておかないとね。

 

「大丈夫そうで、安心しました。私も《ティーパーティー》での話は聞いていましたから」

 

「……正直、今でも意味が分からないんだけど、急に停学になるかもって言われたと思ったら、次の期末で良い点取れって言われて。"お茶会"にかこつけて何してるわけ?」

 

 ジトーっと、ミサちゃんは疑わしいものを見る目でナギちゃんを見る。ミサちゃんの疑念は尤もだろう。様々な思惑が重なった結果というか、ミサちゃんに関してはほとんど事故みたいなものだったけど。

 

「えーっと、ごめんなさい。《ティーパーティー》内の話を外に漏らすわけには行かないので、あまり詳細を話せないのです」

 

「ふーん、まぁいいけど」

 

 いいけど、と言いながらもその顔には不満が浮かんでいる。ミサちゃんからすれば、納得出来ないよね。前菜のサラダをポリポリと食べながら、二人の会話を見守る。

 

「そ、そういえば!ミサさん、この前誕生日でしたよね?まだ直接お祝いしてませんでしたね、おめでとうございます」

 

 傍から見ていても苦しいと分かる急な話題転換。ミサちゃんも呆れてたけど、その話題に乗ってあげた。

 

「直接も何も、今年は今日初めてお祝いしてもらったんだけど」

 

「え?」

 

「ん?」

 

 二人は話が噛み合わず、首を傾げる。それを見て、私はそういえばと冷や汗が流れる。

 

「あの、モモトークで誕生日の日に送ったと思うんですけど」

 

「きてないよ、ほら」

 

「……おかしいですね。私の方には履歴が残ってるんですけど」

 

「どゆこと……?」

 

 ナギちゃんは、悩んだ素振りを見せたかと思うとハッとなり、私を見てきた。私はサッと顔を背けて無視する。

 

「ミカさん……?」

 

「あっ!料理来たみたいだよ。おいしそうだねー☆ほらほら、これミサちゃんのだよ」

 

「あ、うんありがとう。いただきます」

 

 ミサちゃんは料理を受け取ると、ナイフとフォークを持ち嬉しそうに食べ始める。よし、ミサちゃんの意識は逸らせた。ナギちゃんも、それを見て問い詰めても聞き出せないと悟ったのか、料理に手を付けた。

 

 その後、真っ先に食べ終えたミサちゃんが、パフェを持って来てもらえるように頼んで数分後。

 

「―――デカい」

 

 ミサちゃんの目の前には、ミサちゃんの頭より大きいパフェが鎮座していた。澄んだ青い海を思わせるブルーハワイに、星形のチップなどを中に浮かせ、底にはシリアルを細かく砕いて敷き詰めて砂のように演出。上にはバニラ、ウエハース、サクランボ、ゼリーと乗せ放題。下と上の落差やカオス具合たるや……。

 

「ブルーオーシャンって言うだけあってすごく綺麗だねー」

 

「写真撮って、ツイに上げとこ」

 

 そう言ってスマホを取り出すと、カメラを起動して写真を撮る。一応、事前に店員さんに撮影は大丈夫と聞いていたので、問題ないだろう。

 

「ミサさんってSNSをやってらしたんですか?」

 

「私がミサちゃんに教えたら、思いのほかハマっちゃって……」

 

 ナギちゃんは驚いた顔をしている。意外なのかもしれないが、そもそもミサちゃんは承認欲求の塊みたいなものだから、むしろ適正しかなかった。元々は、普通の女の子はこういうことしてるんだよ、と教えたのだがまさかこんなにハマるとは思わなかったよ。

 

 ミサちゃんのツイのアカウントを確認すると、先程上げた写真がもう一万いいねも。コメントも沢山ついててミサちゃんはご機嫌そうだ。自己肯定感の低さと承認欲求の高さを同時に消化できる、良いツールを教えて上げられたんじゃないかな。

 

「そうなんですね。まぁ、炎上しないようにだけ気を付けてくださいね」

 

「……そのー、もうしちゃったというかなんというか」

 

「は?」

 

 私は無言でミサちゃんのアカウントを見せる。

 

「……"トリニティの問題児"」

 

 ミサちゃんのユーザー名だ。SNSでは本名はダメだよ、と教えたらこうなった。どうしてそうなった。ミサちゃん、そう呼ばれてるのミサちゃんだけだから、それはもう個人を指してるんだよ。

 

 当然、SNSをやっている他のトリニティ生も気が付いて、即ミサちゃんは身バレし炎上したが、なぜかフォロワーが増えた。トリニティでは引かれる事でも、他の学区だとフーンで流されることが多い故なのかも。こういうところで、トリニティの内と外とで常識が変わるんだなー、と実感させられる。それはそうと、今度ユーザー名は変えさせよう。

 

「いただきまーす!あむっ……んー!おいしー!」

 

 私達の気を知ってか知らずか、呑気にパフェで舌鼓を打って幸せそうな顔をしていた。その顔を見ると、色々どうでもよくなる私がいて、いい気分になる。

 

「ミサちゃん!私にも一口ちょうだい!」

 

「はい、あーん」

 

「あー……ん!おいしっ!」

 

「だよね!」

 

「ふふっ」

 

 食後のティータイムも済ませた後、会計して出る時ミサちゃんは「……たかっ」と呟いていた。ミサちゃん、前は月の支払いがこの十倍以上のマンションに住んでたのに、偶に金銭感覚バグってるよね。

 

 その後、遊ぶのを再開した私達は、午後からはショーなどを中心に見て回った。水を使ったショーを見ていた際、ハプニングもあり……。

 

『ひゃっ!?……あはは、濡れちゃった』

 

『ミサさん、大丈夫で……!?』

 

『……わーお』

 

『へ?―――あ!?み、みないで!?も、もう……えっち……』

 

 ブラウスが濡れ、下のピンクのブラが透けて見え、しかもそれを恥ずかしがって隠すのが可愛すぎて、危うくその場で押し倒し掛けた。……あぶないあぶない、夜までは我慢しないと。

 

 そんなこんなで楽しんだ私達は、最後に大きな観覧車に乗った。

 

「わー……!いい景色!」

 

「本当ですね。ってわざわざ絶叫マシンで景色を見せなくてもよかったじゃないですかっ」

 

「あははー、あれはちょっとしたスパイスだよ。ねっ、ミサちゃん……ミサちゃん?」

 

 ミサちゃんの方を見ると、イスに座ったまま舟を漕いでいた。

 

「んぅ……?」

 

「あー、今日は結構ハシャいでたもんね。着くまでの間横になる?」

 

「ぅん……」

 

「そのまま横になると頭痛めちゃうから、ほら私の膝の上に頭乗せていいよ」

 

「んー……すー……」

 

 私の膝に頭を乗せると、そのまま可愛らしい寝息を立て始めた。頭を撫でると、くすぐったそうに身を捩る。

 

「ふふ、疲れてたんだね。すぐ寝ちゃった」

 

 そうして頭を撫で続けていると、向かいに座ってるナギちゃんがジッとこちらを見ていた。

 

「どうしたの?ナギちゃんも頭撫でたかった?」

 

 からかい気味にそう聞くと、ナギちゃんは慌てて否定する。ここにも素直じゃない女の子が一人。

 

「ベ、別にそういうわけでは!?ただ、仲が良いな、と思いまして」

 

「それはそうだよ。もう何年も一緒にいるし、今は一緒に住んでるしね」

 

「そうですよね……ん?一緒に住んで?そ、それって一体どういう」

 

「あ、あれ?言ってなかったっけ?」

 

「聞いてませんが!?」

 

 ナギちゃんに、ミサちゃんとの時間を増やすために一緒に住むことにした、という経緯を説明する。

 

「ミカさん、貴女は本当に昔からその場の勢いで物事を決めますね」

 

「あれ?褒められてる?」

 

「褒めてませんが」

 

「いやー、照れるなー」

 

「褒めてませんが!」

 

 私はぶーと口を尖らせて拗ねる。そこまで強く否定しなくていいじゃんね。

 

「まぁ、確かにその場の勢いで決めたけど、別に勢いだけで決めたわけじゃないよ。私達と一緒に居ないときのミサちゃんが、どういう生活してたのかも分かっちゃったしね」

 

「……どういうことですか?」

 

 私は、ナギちゃんに少し前にあったことを話した。それは、《勉強部屋》で出前を頼んだ後、用事で少し出なければならなかったので、ミサちゃんに先にご飯を食べさせていた。その後、用事を済ませ部屋に戻ると、ミサちゃんは食べたものを吐き出していた。

 

『ミサちゃん!?』

 

『あ……ごめ……ご飯……ゲホッゲホッ!』

 

『それよりもこれって、ミサちゃん一旦病院に行こう』

 

『で、でも……どこも悪くなんて……』

 

『いいから!』

 

『……うん』

 

 その後、病院で一通りの検査を受けさせた後、お医者様から告げられた事に私は驚愕した。

 

「拒食症!?」

 

「の一種なんじゃないかって。一人でいると、精神に強いストレスが掛かってご飯が食べられなくなっちゃうみたい。そのせいで、ご飯を全く食べない日もあるみたいで……」

 

「……気付きませんでした」

 

「私だってそうだよ。私達といる時は、おいしそうにご飯を食べるから、余計にね」

 

 しかも、ミサちゃんの話を聞く限り、ご飯を食べられなくなったのは初等部の4年生辺り。つまり、元々の精神への強いストレスが原因だろう。一種のうつ状態だ。ミサちゃんは、長い間この状態が続いてるからか、異常を異常と認識できなくなっていた。兆候はあったのに、気付けなかった私に嫌気が差す。

 

「……まさか、ミサさんが妙に痩せてるのは」

 

「……たぶん、そう」

 

 ミサちゃんのメンタル面が弱いのは分かっていた、分かっていたはずだったのに……!掴んだ座席がミシミシと悲鳴を上げる。周りと壁を作るのも、自分の心を守る為の一種の防衛本能だったのだろう。

 

「それで、色々参考にするためにミサちゃんのスマホを見てたら、誕生日の日にナギちゃんが呑気におめでとうメッセージ送ってるから、ムシャクシャしてつい……ごめん」

 

「そういう事情でしたか……それなら良い、いえ良くはないですけど、仕方の無いことではありますから私は構いませんよ。……ミサさんの前でこの話をしなかったのは」

 

「……うん、あまりミサちゃんの精神に負担掛けたくなくて。ミサちゃんが聞いたら、絶対に気にしちゃうから」

 

 元気になったように見えても、ミサちゃんは今でも限界ギリギリだ。だからこそ、ちょっとでもメンタルが揺さぶられたら、すぐに崩れてしまう。この前の、通達書を渡された日がいい例だろう。

 

「治る見込みは、あるんですか?」

 

「うん幸い、食生活を改善して、ケアすれば徐々に回復するだろうって」

 

「ほっ、それを聞いて安心しました」

 

「それで、ミサちゃんには病気の事とか伝えずに、一緒に暮らす理由も私が一緒に居たいからって言ってあるから」

 

「……分かりました。ミサさんには秘密にしておきますね」

 

「うん!ありがとうナギちゃん!」

 

 やっぱり、持つべきは幼馴染だよねー。

 

「ミカさんの事情は分かりました。たぶん、私ではミサさんを元気にすることは出来なかったかもしれません」

 

「ナギちゃん……」

 

「それでも!ミサさんに、その、えっちなことをしてるのは全然!全く!許せない事なんですが」

 

「あ、あれもケアの一環だから……」

 

「でも、一番許せないのは何もしてこなかった私なのかもしれません。なので、今はミサさんをミカさんに預けます。私がミサさんに何が出来るかを定めるためにも」

 

「……うん、分かった」

 

 下りに入った観覧車。西日がトリニティタワーを照らし、一層輝かせていた。

 

「……あまり、景色を楽しめませんでしたね」

 

「あはは……そうだね、でも」

 

 膝の上のミサちゃんの頭をひと撫でする。

 

「また今度、三人で楽しもうよ」

 

「そうですね。……ミカさん、あと一つだけ聞かせてもらっていいですか?」

 

「改まってどうしたの?」

 

「ミカさんは、ミサさんの事好きですか?」

 

「え?好きだよ?だって大事な友達だもん」

 

「いえ、そういう意味ではなく……」

 

 ナギちゃんは、口をまごまごさせていたがどういうことなんだろう?ナギちゃんの言ってる意味がよく分からなかった。

 

「……自分で気が付いた方が良いと思いますので、私からは何も言いませんが……ですが、早めに気付いた方が良いかもしれませんよ」

 

 私は、ナギちゃんの言葉の真意を読み取れず、首を傾げるばかりであった。そうしてる内にゴンドラが地上に近づいてきたので、ミサちゃんを揺すって起こす。

 

「ミサちゃーん、そろそろ着くよー」

 

「んー……んぅ?あれ?ミカのチンチンは?」

 

「何の話!?」

 

「ミカさん……」

 

「ち、違うから!?夢の私だから!」

 

 最後の最後で、寝惚けたミサちゃんに爆弾を落とされて終わったデートだった。

 

 

 

 園を出て、ナギちゃんと別れた後、私とミサちゃんは同じ帰路に着く。帰ってる最中も、ナギちゃんに言われたことが頭の中で回っていた。ナギちゃんの好きと私の好きは何か違うのだろうか。

 

「―――カ、ミカ!」

 

「え!?ご、ごめん。なに?」

 

「なにって、着いたよ」

 

「え、あ……」

 

 考え事をしていたら、いつの間にやら家に着いていたらしい。

 

「あはは、ごめんごめん。ちょっとボーっとしてた」

 

「……大丈夫?疲れてるなら、家の事は私がやっておくけど」

 

 鍵を開けて、家の中に入りながらミサちゃんは心配そうに私を見る。

 

「大丈夫だよ!それより、ちゃっちゃとお風呂入ってご飯食べちゃおう!私もうお腹ペコペコだよー」

 

「そ、そっか。何かあったら言ってね。私は、その、ミカの味方だから……」

 

「ふふ、ありがとうね」

 

 そう言ってミサちゃんの頭を撫でると、顔を赤らめて俯く。それを見て猛烈に、襲い掛かりたい衝動に見舞われたが我慢した。

 

 その後、何事も無くお風呂と食事を済ませ、ベッドに入っているとネグリジェ姿のミサちゃんがソワソワしながら私を見ていた。

 

「ね、ねぇミカ。今日はしないの?」

 

「え?なにを?」

 

 急にどうしたんだろう。ミサちゃんは顔を赤くしてモジモジする。

 

「な、なにってその……ほら!私、悪いことしたから"おしおき"を……」

 

「……」

 

 ミサちゃんってドMだったのだろうか。ミサちゃんが顔を赤らめてる横で、真剣にそんなことを考えてしまう私。ミサちゃんのヘイローは相変わらず濃いピンクに発光している。どういう感情なんだろう。あ、でもナギちゃんが居る時は光って無かったな。

 

 とはいえ、据え膳食わねばと言う奴だろうか。とりあえず、ミサちゃんを押し倒してみた。

 

「ひゃうっ、あ……んっ」

 

 そのまま、ミサちゃんの鎖骨に何度も唇を落とすと、面白いくらいにミサちゃんが鳴く。

 

「えっちだね、ミサちゃん」

 

 ミサちゃんの耳元でそう囁くと、白い肌が朱に染まっていく。

 

「う、うん……!えっちなわるい子だからいっぱいおしおきして」

 

 手を広げ、そう誘ってくるミサちゃんを見て、またもナギちゃんの言葉がリフレインする。

 

『ミカさんは、ミサさんの事好きですか?』

 

 好きだよ、大好き。なのに、どうして心がモヤモヤするんだろう。私は、そのモヤモヤを振り払うように、ミサちゃんにその欲望を吐き出した。

 

 

 

 ―――後日。

 

『♪撲殺天使アルミサエルちゃん♪

 

 なんかユーザー名変えた方がいいよって言われたので変えたよ!

 トリニティの問題児だけどよろしくね!』

 

「……違う!そうじゃない!」

 

 ミサちゃんに、ユーザー名を変えさせたけど、特に意味が無かったのは言うまでもない。

 

 




光園ミサ
今回ずっとピンクだった子。幸せそうにしてる裏で、クソ重曇らせ設定あるの良いよね。SNSではフォロワー100万人越えの有名人。おかげで他校にも名が知れ渡る。基本、その日の出来事や、食べ歩きの報告などが主な内容。そして、自己主張の激しくなるヘイローくんちゃん。

聖園ミカ
その場の感情と勢いで行動すると言われたら、そう。でも、何も考えてないわけじゃない。え?誕生日メッセ?だってムシャクシャしたじゃんね。ナギサに言われた言葉は、ずっと心の内で引っ掛かってる。

桐藤ナギサ
相変わらずの被害者枠。とはいえ、今回の騒動に関しては自分の悪い部分が大きかったと結論付けた。その上で、ナギサなりのミサとの向き合い方を模索していく。


R-18お待ちの方はもうちょい待って。ネタは大量にあるけど、中一の話を書き切りたいので。次話がミサ視点で、次の次がナギサ視点ってもう決まってるのよね。仕事の掛け持ちを始めてから執筆時間が…時間が…。


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街を散策する話

感想、誤字報告ありがとうございます!

休みを丸一日費やしてもう一話書いたった。


 

 盛夏服へと衣替えをし、学園で今日も授業を受ける。水色を基調としたセーラーワンピースで腰のひもを後ろでリボンに結ぶこの制服は、他校でも人気のある制服らしい。肌が出る分、日焼け止めを忘れないようにと、ミカにきつく言い含められてる。

 

「ミサちゃーん!ごめーん!用事あるから先に帰ってて!」

 

「そうなんだ」

 

「即行で用事終わらせて帰るから!」

 

 今日の授業が終わり、帰る準備をしているとミカがそんなことを言ってきた。……どうしよう、いきなり暇が出来ちゃった。期末テストの結果も届き、平均90点台後半を叩き出した事により、無事課題を突破した。それにより、しばらくの間勉強から解放されたので帰ってもやる事が無い。

 

「……SNSに上げるネタでも探しに行こうかな」

 

 そんなこんなで、今日は一人で街へ繰り出すことになった。

 

 

 

 道端で二足歩行じゃない普通の猫を見かけて、珍しいと思いながら写真に収めSNSに上げる。

 

『帰宅中。かわいい猫ちゃん見つけた』

 

 すぐに沢山のいいねが付いて笑顔になる。ふと、普通の猫を見て珍しいと感じる辺り大分毒されてるなと思った。

 

 そんなことを考えていると、先程写真を撮った猫がオレの足元にその顔を擦り寄せてきていたので、しばらく首を撫でたりして構ってあげることにした。ぶち模様が可愛いなぁ。ついでなので、その間動画も撮らせてもらった。撮った動画を上げると、先程の写真より沢山のいいねがついて嬉しかった。

 

「おまえのおかげだぞ~」

 

「にゃー?」

 

 その後、妙に懐かれたので頭の上に乗せて一緒に散策することにした。

 

『猫ちゃん、頭の上なう』

 

 ハッ!ちゃんって書いたけど、くんだったかもしれない。確認しておこう。……ちゃんだった。

 

 頭の上に猫を乗せたまま、街をぶらぶらと歩く。途中、お店のセール情報やキャンペーンがあればネットに上げておいた。

 

「な、なにするんですか!やめてください!?」

 

 騒ぎが聞こえ、そちらに目を向けると、いつもの如く不良が一般生徒に絡んでいた。どうしよう、割って入った方がいいかな。

 

「待ちなさい!《正義実現委員会》の者です!おとなしくしなさい!」

 

 迷っていると、委員会が駆けつけたらしい。なら、一安心……と思ってたらどうにも雲行きが怪しくなってきた。不良達は、銃を委員会の人に突きつけ脅し始めた。

 

「たった一人でこの人数を相手に出来ると思ってるのか?いいから金目のモン寄越しな!」

 

「……すぐに応援が駆けつけます。何もしないのであれば、今ならまだ厳重注意で済みますよ」

 

 ……《正義実現委員会》は二人一組で動くのが鉄則だったはず。よく見ると、委員会の人の腕に腕章がない。今日は非番だったのだろうか。それに……。オレは周囲を軽く見渡し、懸念が当たりそうで少し困ったように唸る。

 

 もしかしたら、今日はこの辺りは委員会の警戒区域外になってる可能性があるな。だとしたら、応援が駆けつけるまで早くても10分弱。委員会の人は銃を構えて、徹底抗戦の意思を示している。不良は10人程度、あれぐらいの強さなら苦戦はするだろうが、倒せないほどではないだろう。あくまで、周囲への被害を考慮しないならの話だが。

 

『いい、ミサちゃん?無闇に暴力をふるったらダメ。ミサちゃんが悪く言われちゃうんだからね』

 

「……」

 

「にゃー?」

 

 オレは、頭の上の猫を地面に下ろす。

 

「危ないから、近づいたらダメだぞ」

 

 猫の頭をひと撫でし、騒ぎの中心へと駆ける。助走を付け、跳び上がるとそのまま先頭にいた不良へ飛び蹴りした。

 

「ぐへぇ!?」

 

「な、なんだテメェは!?」

 

「ま、待てコイツ。ピンクの髪にバカでかい銃、まさかあの悪名高い……!?」

 

 悪名高かったのか、オレ。となると、また悪名増えそうだなー。

 

「き、聞いてるぞお前。暴れすぎて次は停学になるかもしれないんだってな。いいのか、私達と喧嘩なんかして?ソイツを助ける理由も無いだろ」

 

 誰だよ、そんなこと言ってるの。まぁ、暴れ過ぎてるのは事実だし、停学になりそうだったのも事実だが。

 

「あ、あの私の事はいいですから、貴女はここから離れてください」

 

 後ろにいる委員会の人が、恐る恐るといった風にオレに話しかけてくる。それをみて、なんとなく笑みが零れる。

 

「……どんな理由があろうとも、誰かを助けない理由なんて無いだろ。それと、もう一つ。喧嘩ってのは対等な相手にしか成り立たないんだよ」

 

「て、テメェッ!」

 

 オレは走り出すと、そのまま拳を振るう。続けざまに蹴りを放ち、打撃音が響く。

 

 1分後。不良達は全員地面に沈んでいた。

 

「ご、ごべんなざい、もうじまぜん……」

 

「オレが手を出す前に言えよ」

 

「もうじわけありまぜん……」

 

 顔がボコボコになり泣き腫らした不良が、地面に頭を擦りつけて謝ってきた。

 

 結局、手を出しちゃったな。出たのは足だったけど。また、ミカに怒られちゃう。

 

「はぁ……」

 

「にゃー」

 

 落ち込んでいると、先程下ろした猫がオレの傍に寄ってきた。

 

「お前、危ないから近寄るなって言っただろー」

 

「にゃー」

 

 しゃがんで猫を抱き上げると、分かってるのか分かってないのか鳴き声を上げる猫。

 

「もう、本当に分かってるのかにゃー?」

 

「にゃー?」

 

 猫は落ち込んでるオレを励まそうとしたのか、オレの顔に体を擦りつけてくる。可愛いなぁ、もう。

 

「あ、あの……助けて頂いてありがとうございました」

 

 猫と戯れていると、委員会の人が話しかけてきた。

 

「いや、別に偶々通り掛かっただけだし。それより、あんた今日は非番?」

 

「え、そ、そうです。よく分かりましたね」

 

「腕章着けてないし、委員会は基本二人一組が鉄則でしょ?それに、今日この辺りは警戒区域外だったんじゃない?」

 

「く、詳しいですね。そうです、今日は非番だったんですけど、今日はこの辺りパトロール範囲から外れてしまって、買い物がてら自主的にパトロールしていたんです。まさか、本当にトラブルに遭遇するとは思っていませんでしたが……」

 

「ひどい偶然もあったもんだ。まぁ、詳しいのは昔委員会に知り合いがいたから……」

 

「そうなんですか?さ、参考までにどなたか聞いてもいいですか?」

 

「えっと、シエルさんって人に」

 

 それを聞くと、委員会の人は目を輝かせて迫ってきた。

 

「シエルさん?まさか、あの羽佐間シエルさんですか!?あの伝説の!」

 

「で、伝説?かは知らないけど、その羽佐間シエルさんです……」

 

「そうなんですね!私、羽佐間シエルさんに憧れて委員会に入ったんです!わぁ……!感激です……!羽佐間シエルさんのお友達に会えるなんて!あ、あの!どういう経緯で知り合ったか聞いても!?」

 

 こ、この子……勢いと押しが強い……!

 

「その、昔助けて貰った事があって、それから知り合って戦い方とか教えて貰ったりとか、委員会の事もその時に少し教えて貰って」

 

「戦い方を羽佐間シエルさんから直接!?す、すごい……。あの人の戦い方は、常に冷静沈着で場のコントロールに長けていると聞きます。貴女の先程の戦いは、妙に冷静だと思いましたが、彼女の薫陶を受けていたからなんですね……!」

 

「ま、まぁ多少は」

 

 この子よく見てるなぁ。早くここから離れた方がいいのだが、シエルさんの事を知っている人に会えたのが結構嬉しくて、つい話し込んでしまう。

 

「うぅ~もっと話したいのですが、仕事をしなければ……。あの!もし良かったら連絡先交換しませんか!?今日のお礼もしたいですし!」

 

「連絡先はまぁ、別にいいけど。お礼はいいよ、ホントに通り掛かっただけだし」

 

 交換した連絡先から、彼女のプロフィールを見ると中3の先輩だった。年上だったのか、てっきり同い年くらいかと。

 

「私の気が収まりませんので!」

 

「えぇ……。じゃ、じゃあ普段お世話になってる親しい人に何かしたいんだけど、いいアイデアない?」

 

「お世話になってる人ですか?うーん、それなら料理とかどうでしょう?作った人も、作って貰った人も温かい気持ちになれますよ、きっと」

 

「料理、料理かー」

 

 普段、出前で美味しいもの頼んでるから盲点だった。手料理、ミカ喜んでくれるかな。

 

「ふふ、いいかも」

 

「えっと、こんなのでお礼になりますかね」

 

「全然!バッチリだよ!そうと決まったら、早速スーパーに買い物に行こう!じゃあ、オレはもう行くね!」

 

「あ、はい!また会いましょう!」

 

 猫を頭に乗せると、スーパーに向かう。

 

「……光園ミサさん。話に聞くよりも、とても良い人でしたね」

 

 

 

 歩きながら、何を作ろうかと思っていると本屋さんが目に入った。そうだ、料理の本とか見てみよう。

 

 ふらふらと本屋さんの中を歩いていると、ふと流行の服などが載っている雑誌を見つけた。

 

「……女の子なら、こういうのも買った方が良いのかな」

 

「にゃー」

 

 でも、流行の服とか買っても、着こなせる気がしない。で、でもまぁオシャレの参考にするぐらいなら?と手に取ったところでハッとする。

 

「ハッ!料理の本を見に来たのに何やってるんだオレは」

 

 先程、手に取った雑誌を小脇に抱えながら、料理の本を探す。

 

「あ、あったあった」

 

 これで相手の胃袋もイチコロ!という謳い文句が帯に書かれてる料理本を手にする。

 

「イチコロ……」

 

 中身は普通の家庭料理だった。でも、男料理しかしたことない料理初心者だし、普通で丁度良かったかもしれない。雑誌と一緒に脇に抱え、レジに向かう途中に手芸の本が目に入る。

 

 そういえば、今年はミカに誕生日プレゼント渡せてないな。今からモノ見繕うのもアレだし、次に自然に渡せるとしたらクリスマス?手芸の本をパラパラとめくっていると、マフラーの作り方が載っているページが目に留まった。

 

 ……ミカ、去年も一昨年も寒そうだったし、マフラーを渡すのはアリかも知れない。……やっぱり手作りの方が嬉しいのかな。初心者でも分かりやすそうな本を探してみた。

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

「……」

 

 衝動的に、買い過ぎた……!あの後も、目に付いたものを選んでいたら、いつの間にか手の中は本と雑誌でいっぱいに。色んな本や雑誌でいっぱいになってる袋を見ながら、これミカに見られたらどうしよう。

 

「とりあえず、スーパーに寄って材料買うか」

 

「にゃー」

 

 考える事を放棄したオレは、その足でスーパーに向かった。

 

 何事も無くスーパーに着いたので、カゴを持ちながら何を作ろうか考える。

 

「牛肉とじゃがいもが安いな。肉じゃがとか良さそう」

 

「にゃー」

 

「なー♪」

 

 オレの言葉に合わせ鳴く猫に合わせながら、カゴに必要な材料を入れていく。ちなみにだが、スーパーで猫を連れ歩いても特に問題なかった。普通に二足歩行の犬猫がその辺を歩いてるからだろうか?衛生面とか大丈夫なんだろうか。猫連れ歩いてるオレが言えた義理じゃないけど。

 

 会計を済ませ、スーパーを出る頃にはすっかり日が傾いていた。支払いは学校のカードを使った。普段お金を使わないから、限度額まで全然余裕あるからな。もう一つのカードは、余程の高い買い物じゃない限り、使わないようにしてる。だって、カード出す度に目が飛び出すほど驚かれるし、使いにくいったらありゃしない。

 

「……にゃーん」

 

 帰る途中、路地から鳴き声が聞こえてきた。路地の奥を目を凝らしてみると、そこにはもう一匹猫がいた。

 

「……ホントに珍しい。普通の猫なんてそうそう見かけないのに」

 

「にゃー」

 

「どうしたんだ?……わっ」

 

 オレの頭の上にいた猫が、ぴょんと跳ね地面に降り立つと路地の猫に駆け寄っていく。よく見ると、その路地の猫はオレの拾った猫にそっくりなぶち模様があった。

 

「……そっか、お前家族がいたんだな。姉妹なのか親子なのかは分からないけど、良かったじゃないか」

 

「にゃー」

 

 猫はオレの足元に戻って来て、足に顔を擦りつけてきた。オレは苦笑し、しゃがんで猫の頭を撫でる。

 

「家族がいるなら、大事にしろよ。オレは、こっちの世界の家族に会ったこと無いからさ、いるかどうかも分からないけど」

 

「にゃー?」

 

「にゃーん?」

 

「ぷっ、もう行きな」

 

 首を傾げ同じ動作をする猫に笑みを深くしながら、もう行くように促す。猫は何度か振り返り、もう一匹の猫と一緒に路地の奥へ消えていった。

 

「……元気でな」

 

 あーあ、あのまま連れ帰って家で飼いたかったな。可愛かったし、きっとミカも許してくれただろうに。

 

「……にゃー」

 

 そう思っていると、近くから鳴き声が聞こえまさかと思い振り返ると、そこには二足歩行の眼帯を付けた猫のおっさんが。

 

「……」

 

「養ってくれにゃー」

 

 そのおっさんを地面に頭から埋めると、オレはもう振り返らなかった。

 

 

 

 家に着くと、ミカはまだ帰って無かった。『即行で用事終わらせるから』って言ってたからもう帰ってると思ったんだけど……。いや、まだ帰ってないなら逆に都合がいい。オレは買ってきた料理の本を広げ、早速料理に挑戦してみることにした。あ、先にお風呂沸かしておこうっと。疲れてるなら先に入りたいだろうし。

 

 お風呂の準備が終わった後、材料を取り出しキッチンに立つ。肉じゃがならカレーに近いし、カレーを作り慣れてるならそうそう失敗はしないはず。でも、怖いから一応レシピ見ながら作ろう。

 

 火の通りにくい野菜を先に、お肉は最後……。野菜は食べやすいように、一口大で切り揃えた。鍋に火をかけて、アク抜きしていると玄関の方からドアが開く音が聞こえた。

 

「ただいまー……ごめんね、ミサちゃん。帰るの遅くなっちゃった、すぐ出前取るね……あれ?ミサちゃん、キッチンで何してるの?」

 

 ふらふらとリビングに入ってきたミカは、キッチンに立ってるオレに気付く。

 

「あ、ミカ。おかえりなさい」

 

「あ、うん。ただいま……じゃなくて、質問に答えてないんだけど」

 

 なぜかミカの機嫌が悪そうだ。用事で何かあったのかな。

 

「えっと、住まわせて貰ってるし、何かお礼したいなって思って」

 

「それで、料理?」

 

「うん」

 

「何作ってるの?」

 

「えっと、肉じゃがだけど」

 

 そう言うとミカは、すーっと匂いを嗅ぐ。

 

「……良い匂い。お腹空いてきちゃった」

 

「お風呂沸かしてあるけど、先に入る?こっちはまだ出来るまで時間掛かるし」

 

「ホント?助かっちゃうなー。ミサちゃんは?お風呂はまだ?」

 

「あ、ごめん私は先に入っちゃった」

 

 オレがそう言うとミカは少しむくれたが、仕方ないと笑った。

 

「帰るのが遅くなった私が悪いもんね。でも、代わりにミサちゃんの手料理が食べられるからプラマイゼロ?」

 

 ミカは笑いながらそんなことを言った。オレも釣られて笑うが、ミカの次の言葉で凍り付いた。

 

「ところで、ミサちゃん。私に何か言う事あるんじゃない?」

 

「え?え?言う事?」

 

 本当に心当たりの無かったオレは、ミカの言葉に困惑しながら必死に記憶を手繰り寄せる。そんなオレの様子に、ミカは溜息を吐きながらスマホを見せてくる。

 

「こんな動画が回ってきたんだけど」

 

 そこには、不良に飛び蹴りかましてるオレの姿が。

 

「あ!?」

 

 他にも色々あった所為ですっかり忘れていた。すぐ様その場でミカに向かって土下座する。

 

「ごめんなさい!手は出さなかったけど、足が出ました!」

 

「誰もトンチを利かせろとは言ってないんだけどね」

 

「うぅ……」

 

 動画には大量のコメントが付いており、『撲殺天使キターーーーーー!!!!』『猫と戯れてるの可愛い、これは天使』『初手飛び蹴り草』『多数で一人を取り囲んでるのに、1分もしないうちに全滅かよw』『何のためにデカい銃担いでるんですかね……』『そりゃ、威圧の為でしょ』『銃は鈍器だゾ』などなど。

 

「私のツイよりバズってる……!」

 

「そっちじゃないでしょ」

 

 ミカに容赦なくチョップを入れられた。痛い。

 

「もう、なんですぐに言ってくれなかったの」

 

「その、色々あってさっきまで完全に忘れてました。ごめんなさい」

 

 猫と遊んだり、委員会の子と知り合ったり、本買ったり、買い物したり。

 

「はぁ、お風呂から出たら詳しく聞かせてもらうからね」

 

「はーい……」

 

 

 

 完成した肉じゃがをお皿によそって、テーブルに並べていく。すると、丁度いいタイミングでミカもお風呂から戻ってきた。

 

「わぁ!おいしそう!」

 

「あ、おかえり。いつでも食べられるよ」

 

「じゃあ、食べちゃおっか。いただきます!」

 

「いただきます」

 

 ミカが箸を取り、肉じゃがを口に運んでいく。その様子をドキドキしながら見守る。

 

「んっ、んー!おいしい!」

 

「ホント?良かったぁ」

 

「ホントホント!ミサちゃん、良いお嫁さんになれるよ!」

 

「えぇ……そ、そんなことないと思うけど。あ、どんどん食べていいからね」

 

 本当においしそうにご飯をかき込むミカを見て、オレは嬉しくなってニコニコとご飯を食べるミカを見守った。

 

「あ!ミサちゃん、私が食べるところ見てばっかりで全然食べてないじゃん!」

 

「え?そりゃ、食べて貰う方が嬉しいし」

 

「んー、そうだ!はい、ミサちゃんあーん」

 

「ええ!?」

 

 ミカは一口程度に摘まんだ肉じゃがをこちらに向けてくる。どうしようか迷っている間も、ミカはじっと待っていた。オレは観念して口を開く。

 

「あ、あー……ん」

 

「ふふ、おいしい?」

 

「う、うん」

 

 自分で作ったし、ちゃんと味見しておいしいのを確認してるから知ってる。けど、なんでだろう。さっき自分で味見した時よりもおいしかったような。

 

「ミサちゃん!次私にちょうだい!あーん!」

 

「うっ、あ、あーん」

 

「んむっ!おいひい!えへへ、ミサちゃんの手で食べさせて貰ってるから、おいしさ百倍だね!」

 

「も、もう!ミカ、すぐ恥ずかしい事言う」

 

「えー?恥ずかしくなんて無いよー」

 

 そう言いながら、ミカは隣から体をぐいぐい押してくる。

 

「もう、ミカが猫みたいだよ」

 

「私からすれば、ミサちゃんの方が猫っぽいけどなー。あっ!猫で思い出した!さっき、詳しく話を聞かせて貰うって言ったよね?」

 

 う、覚えてたのか。

 

「その話をするには、今日あった事を話さなきゃいけなくて……」

 

「いいよ、聞かせて」

 

「え?いいの?」

 

「もちろん、私がいなかった間、ミサちゃんが何してたか聞かせて欲しいな」

 

 オレはミカに今日起こった出来事を伝えた。道端で猫を拾った事から、家族と再会した猫と別れるまで。ミカは一つ一つの事に、笑顔で頷いて聞いてくれた。

 

 ちょっと軽い気持ちで街へと繰り出した結果。色んな出会いがあった一日だった。

 

 

 




光園ミサ
SNSの活動と今回の動画で、ネット上でとんでもなく有名になった女。勉強から解放されてちょっとハイになってる。銃より拳の方が威力が低いと思ってるが、キヴォトス人を昏倒させる一撃を放つので拳の方が重い。今回の事で、家事をするとミカが喜ぶ、という方程式を発見したので、積極的に家事をするようになった。

聖園ミカ
パテルの首長に呼び出されたと思ったら、面倒な仕事を振られた挙句小言まで言われてムシャクシャしてた。ミサのSNSを逐一監視してたので、何があったかは大体把握してる。さっさと仕事を終わらせて帰ろうとしたら、追加で仕事を振られた。本気でキレそうになった。


音速の銃弾と音速の拳なら、拳の方が質量が大きいので拳の方が強い理論。
ここすき機能みて、そういえばそんな機能あったわと思い出した今日この頃。この機能、結構忘れやすいですよねー。
次はナギサ視点での話。三人称は面倒なのでしばらくやらない。



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とある過去の話

感想いつもありがとうございます!

新そうりきのグレゴリオくんつよすぎぃ。EXですら1凸しんどいじゃんね。

クソの話からの重要回。


 

 私は今、《ティーパーティー》のとある方にお茶会に誘われ、ある場所に来ています。

 

「すーっはーっすーっ、失礼しますっ」

 

 目の前の重厚そうな扉を潜り、足を踏み入れる。庭園のような所を抜けると、白いテラスでお茶をしている人を見つけます。

 

「……本日はお招き、ありがとうございます。ミト様」

 

「もう私は生徒会長ではないので、様はいりませんよ。ナギサさん」

 

 そう、私が今いるのはフィリウス分派の"元"首長であるミト様の邸宅でした。

 

「無事、後任への引継ぎも終わり、今は悠々自適な学園生活を送らせて貰っています。とは言っても、あと半年もありませんが」

 

「……ミト様は、進学はなさらないと聞きましたが、本当ですか?」

 

「おや、もうナギサさんの耳にも届いたのですね。人の噂に戸は立てられないとは言いますか。ああ、ナギサさん座っても大丈夫ですよ。立ったままなのは辛いでしょう」

 

「し、失礼します」

 

 私はミト様の向かいの椅子に座り、正面のミト様を見据える。今日は他に誰もいない。私とミト様だけのお茶会です。すごく緊張しますね……。

 

「その、すごく立派な邸宅ですね」

 

「ありがとうございます。ですが、この家は《ティーパーティー》の権限で貸与されたものなので、厳密には私の家ではないんですよ」

 

「そうだったのですか……」

 

 《ティーパーティー》の首長ともなれば、その権限は大きいものでしょう。カードの限度額だったり、こうして家まで提供されるほどなのだから。……当然、権力の大きさに比例して責任も重くなるのでしょうが。

 

 ふと、白いテーブルの上に一際異彩を放つ、いや異彩ではなく異常ともいうべきか。

 

「先程の質問ですが、私が進学しない、というのは本当です。理由はいくつかあるのですが、一番の理由は既に就職先が決まっているからですね」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 ミト様は、まるでそれが目に入っていないかのように話を続ける。わ、私がおかしいのでしょうか。私はミト様の話を聞きながら、チラチラとそれを見てるとミト様もようやくそれに触れてくれた。

 

「ふふっ、気になりますかこれ」

 

「え、ええ。それは、もちろん」

 

「これ、何に見えますか?」

 

「え」

 

 茶色くて、太くて、とぐろを巻いていて。いや、なに冷静に観察してるのでしょうか。

 

「何に見えますか?」

 

「う、うんち、でしょうか」

 

 ミト様の圧に負け、正直に口にしてしまう。

 

「ええ、そうです。うんちです」

 

 ミト様はそう言うと、そのうんちを両手で包むように持ち上げる。

 

「み、ミト様!?き、汚いですよそんなの!」

 

「あら、汚くありませんよ。毎日綺麗にしてますから」

 

「毎日綺麗に!?いや、うんちですよね!?」

 

「ふふふふ、ナギサさん。よく見てください」

 

 そう言って、ずいっとこちらに差し出してくる。

 

「うっ、臭ッ……くない?」

 

 この独特な匂いは。

 

「まさか、粘土?」

 

「ふふ、正解です」

 

 こうして間近で見ても、これが粘土で出来てるとは到底思えないほど真に迫ったうんちだった。真に迫ったうんちって何ですか。

 

「あの、どうしてこんなことを?」

 

「何も知らない方に、こうしてうんちの粘土を見せるのが楽しくてつい」

 

「それは悪趣味なので、やめたほうがよろしいかと」

 

 元の場所へ戻ったミト様は、愛しいもののように粘土を抱えていた。

 

「……粘土と分かった後でも、粘土と分からないほど精巧に出来ていますね。なんというか、才能の無駄遣いを感じます」

 

「ぷっ、くふふふふ!無駄遣い、確かにそうかもしれません」

 

 笑いを堪えながら、そう言うミト様はどこか懐かしむように粘土を見ていた。

 

「……ナギサさんは、最初にこの粘土を見た時、どう思いました?正直に言って大丈夫ですよ」

 

「その……汚いなと思いました」

 

「そうですね、うんちですから。でも、うんちだからと言って不要なものではありませんよね。田畑に肥料として撒かれたり、動物達が出したうんちが自然を育てるのですから」

 

「それは……そうなんですが……でも、うんちですよね」

 

「ふふ、そうですねうんちです。ですが『どう見えるか、ではなくどう見るか』じゃないでしょうか。ただのうんちとして見るのか、あるいは自然へ貢献する肥料として見るのか。ただ、見る角度が違うだけ、そうでしょう?」

 

「確かに、そうかもしれません。……でも、お茶会の席で飾るものでは無いですよね」

 

「……正論というのは、時として人を傷つける刃になりますよ」

 

 拗ねたように口を尖らせるミト様。天上人のように感じていましたが、こうしてみると子供っぽくて可愛らしい方だったんですね。

 

 こうして指摘されても、粘土を離さない辺り本当に大切なモノなんだと感じます。

 

「……もしかして、その粘土も例の恩人から?」

 

「……ええ、そうです。決して、長い時間を過ごせたわけではありませんが、あの日々もこの粘土も私の大切な宝物です」

 

 事故に遭い、失明したミト様を救った"恩人"。以前は聞く暇が無くて聞けなかった話。今なら聞けるのでは?

 

「その"恩人"の話。私も聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「……すこし、長くなりますよ?」

 

「構いません」

 

「ふふ、分かりました。そうですね、では私が事故に遭ったところから、語りましょうか」

 

 

 

 

 

 

 当時、百年に一人の才女と言われた私は、友人、家族に恵まれ幸せな日々を過ごしていました。しかし……。

 

―――キキィィイイイイッッッ!!!

 

「危ないっ!」

 

 車に轢かれかけた友達を庇い、撥ねられた私は急いで病院へと運ばれましたが。

 

「両目の失明と下半身の不随!?な、治る見込みはあるんですよね先生!?」

 

「……残念ながら、足は手術してリハビリできたとしても、目の方は……」

 

「そ、そんな……」

 

 

 

 こうして、私はたった一度の事故で友人、家族に見放され、貴族の権利も奪われ、全てを失ったのでした。

 

 

 

 私は与えられた広い病院の個室で、たった一人暗闇の世界で蹲っていました。出された食事も喉を通らず、段々痩せていく私を見て医者も手を焼いていました。全てを失った私はその時、このまま死んでしまいたい、そう思うほどに追い詰められていました。今となっては、馬鹿な考えだったのですが。

 

 そんなある日の事、病室の外が俄かに騒がしくなっていることに気付きました。

 

『―――いいですか?久しぶりの外だからといって騒いではいけませんよ?ここは病院なのですから』

 

『はーい!』

 

『この子は本当に分かっているのかしら……。貴女、この子の事を頼むわ。私は所用を済ませてくるから』

 

『かしこまりました、奥様』

 

 会話の内容からして、どこかの貴族だろうか。こんな病院に一体何の用だというのだろう。ここには、私のような重病患者しかいないと聞いてるのだけど。あるいは、私と同じように怪我や病気をした子供の見舞いに来たのだろうか。いいな、私はもう見捨てられたのに。

 

『お、お嬢様!?大人しくしている、という約束で付いて来られたのでは!?』

 

『そんなもの方便に決まってるじゃーん!』

 

『お、お嬢様~~~っ!』

 

 そんな声と共に病室の外がバタバタと騒がしくなる。騒がしすぎて寝ていられないので、注意しようと目を擦りながら起き上がったとき、病室の戸が開けられ誰かが入ってきた。

 

「およ?人が居るじゃん。おかしいな、誰もいないって聞いたんだけど」

 

 それは、先程お嬢様と呼ばれていた子の声だった。

 

「あ、貴女は誰ですか?」

 

「人に尋ねる前に自分から名乗れよ。ここにいるってことは貴族なんだろ?」

 

 私はその言葉を聞いて、ズキリと胸が痛んだ。

 

「わ、私はもう、貴族ではないので……」

 

 震えるように紡いだ言葉に、お嬢様と呼ばれた子はふーんと興味無さげだった。なんだか、その態度に無性に腹が立ってシーツをぎゅっと握る。

 

「お前は貴族じゃなくなると名前が無くなるのか?」

 

「……記導、ミト」

 

 そうまで言われて、私はようやく名乗った。

 

「あるじゃん、名前」

 

 その声に、小憎らしく笑っているんだろうな、と私はそんなことを考えていた。

 

「私が名乗ったのですから、そちらも名乗ったらどうですか?」

 

「オレの名前?オレの名前、あー」

 

 彼女は何故か急に歯切れが悪くなり、困ったような声を出す。

 

「……なんですか、実は名前が無いとは言わないでくださいよ」

 

 先程の意趣返しも兼ねてそう言ったら、余計に困った声を出すだけだった。

 

「別にそう言うわけじゃないんだけど……オレ、名前を言うなって言われてるからさ」

 

「え?誰にですか?」

 

「そりゃ、親にだろ」

 

「……それは、知らない人に付いてっちゃいけませんみたいな話ですか?」

 

 相手に名乗らせておいて、自分は名乗らないのはどうなんだと問い詰めるが、彼女から飛び出した言葉は私に衝撃を与えるものでした。

 

「いや、神秘の秘匿性がどーたらこーたらって話でよく分かんないんだけど、ホントは他の人とも話したらダメなんだよな」

 

 話を聞くと、彼女は普段家に軟禁状態で滅多に外出を許して貰えないそうだ。今日、ここへ連れて来て貰えたのもこの病棟に誰もいないから、という理由らしい。実際には私がいたわけですが。

 

「そんなわけでさ、久しぶりに他人と話せて嬉しかったんだ。なにか気に障ったことを言ったなら謝るよ、ごめん」

 

「……いえ、私も貴女の事情を知らずに好き勝手言いましたから、そのお相子という事で」

 

 身体が動かず自由が無い私と、家からその存在を秘匿され自由がない彼女。果たして、本当に自由が無いのはどっちだったのだろうか。結局名前の事は、好きに呼べと言われた。

 

「それにしても、お前なんの怪我で入院してるんだよ」

 

「それは……」

 

 私は、事故に遭った事と両目と両足の事を話した。それによって、友達や家族に見捨てられた事も。今日会ったばかりの彼女にここまで話してしまうなんて、あの時は私も人との触れ合いに飢えていたのかもしれません。

 

「なるほどな、道理でさっきから目が合わないわけだ。目が見えてなかったのか」

 

 彼女は私と目を合わせて会話してくれていたらしい。嬉しいと感じる反面、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「私の目にはもう、暗闇しか映りません。貴女がどこにいるのかも、私には分からない」

 

「それなら、こうすれば分かるだろ」

 

 そう言って彼女は私の左手を握る。左手から伝わる熱に、思わずそちらを見る。

 

「やっと目が合ったな」

 

「あ……」

 

「こうすれば、どこにいるか分かるし、足だって手術受けてリハビリすれば動くようになるかもしれないんだろ?なら時間が掛かるかもしれねーけど、普通の生活が出来るくらいにはなるんじゃねえかな」

 

 こんなこと、誰もしてくれなかった。誰も、私に寄り添ってくれる人なんていなかった。これからもいないと、そう思っていた。

 

「……うっ……ふぅっ……くぅっ……」

 

「ええ!?な、なんで急に泣くんだよ!」

 

 そんなこと、私に言われたって分からない。それでも、堰を切ったように溢れ出した涙が、ベッドのシーツを濡らしていく。私が泣き止むまでの間、彼女はずっと左手を握っていてくれていた。

 

「グスッ……ごめんなさい、私」

 

「オレは気にしてないから、別にいいけど」

 

 短い時間だけど、分かる。それは彼女の本心なのだろう。少し話しただけでも、思ったことを口に出すタイプなんだな、と分かった。それだけに、彼女の言葉から真っ直ぐさが伝わり、心が温かくなる。

 

「あー、泣いて喉乾いただろうし、水飲めよ。ピッチャーはこれか……ん?」

 

「どうしました?」

 

「いや、なんでもない」

 

 水を注ぐ音が聞こえ、「ほら」とコップを手渡してくれる。それを受け取り、のどを潤す。

 

「ありがとうございます。……私、足の手術受けようと思います。やっぱり、動くかもしれないのに、塞ぎ込んで自分から自由を手放したら、貴女に失礼ですから」

 

「もう十分失礼だけどな」

 

 私の言葉に、彼女はそう笑った。

 

「目は……まぁ、見えない事にもいつか慣れるでしょう。色々と不便になりそうですが」

 

「……もしかしたら、目の方も何とかなるかもしれない」

 

「え?」

 

 彼女の発した言葉に、私は目を限界まで見開く。医者でさえ治せないのに、まさか彼女には治す方法が?

 

「ああ、何とかなるって言っても、目を治す訳じゃない。たぶんだけど、目の代わりになりそうなモノ、なのかな……。とりあえず、論より証拠だな。失礼するぞ、よっと」

 

 ギシッ、ギシッとベッドのスプリングが何度か跳ねたかと思うと、私の顔に温かい手が触れる。

 

「あ、あの」

 

「ジッとしてて」

 

「は、はい……」

 

 息が掛かるほど近くから声が聞こえ、心臓がバクバクと暴走を始める。お、落ち着きなさい記導ミト。これはあくまで治療行為の一環であってそういうアレでは無いはず……。

 

「ミト、目を瞑ってくれる?」

 

「え、ええええっ!?」

 

 目を!?この状況でするってことはそういうこと!?わ、私まだ小学生なのに大人の階段上っちゃうの!?

 

「落ち着いて、ゆっくり深呼吸して。そう、ゆっくり。そうしたら、目に意識を集中して」

 

 彼女の言う通りに、深呼吸を繰り返していると目の奥がぼんやりと熱を帯びてくる。

 

「そのまま、目を閉じたままオレを見て」

 

「え?」

 

「いいから、オレを信じて」

 

 目の前にいるであろう彼女を見ようと、目に意識を集中させ続けていると、突如光が差し込み視界が白く染まる。既に目を閉じているにも関わらず、目を閉じようとぎゅっと瞼に力が入る。

 

「大丈夫、力を抜いて」

 

 彼女の声に安心し、瞼の力を抜くと徐々に光が晴れ、目の前のボヤけた様になり、それも徐々に輪郭がハッキリしていく。やがて、光が晴れると私は幻想的な光景を目にした。

 

「あ―――」

 

 周囲に無数の光の玉の様なモノが浮かび上がり、その中心に"彼女"は居た。太陽の様に温かい彼女は、月の様な静謐さを纏って私の目の前に居た。

 

「どうだ?見えてるか?」

 

「あぁ……はい……」

 

 腰の下まで伸びたピンクの髪が揺れ、銀の瞳が私を射抜いている。同い年かそれ以上だと思った彼女は、私よりも遥かに幼く美しい少女だった。

 

「そっか、それはよかった」

 

 そう言って笑う彼女は、私が今まで見てきた芸術作品がゴミだったと思えるほど美しいモノだった。この目を開けて彼女を見たい。そう思い、目を開けると再びこの目は闇に閉ざされてしまった。

 

「あ、また見えなくなって」

 

「ふぅん?やっぱり目を閉じる事が発動条件か」

 

「えっと……」

 

 私の困惑を感じ取ったのか、彼女が説明してくれる。

 

「聞いたことあるだろ?特殊な力、異能の力の話を」

 

 キヴォトスでは稀に特殊な力を持つ子供が生まれる。

 

「まさか、私が?でも、どうして気付いたんですか?私も、家族も誰も気付かなかったのに」

 

「オレがこの部屋に入った時、オレの方見ただろ?目が見えてないって聞いた後、そのことが気になっててさ。確信したのは水の入ったコップを渡した時だな。見えてないのに、淀みなく受け取ったから。目ではなく、何か別の方法で無意識に見てるんじゃないかと思って」

 

「貴女を見たのはドアの音がしたから……」

 

「ドアの音が聞こえて見るのはドアの方で、オレじゃないだろ?そもそも、病院なんだから他にもドアがあるのに、この病室のドアでピンポイントに見てきたからな」

 

「そ、そういえば確かに」

 

 あの時、誰かが入ってくるのを見たような気がする。

 

「でも、なんで目を閉じるのが発動条件だと?」

 

「オレが違和感を覚えたのが、起きたばかりのお前と泣き腫らしたお前。どっちも目を閉じてたからな」

 

「……すごい、たったこれだけの情報でその答えを導き出せるなんて」

 

「いや、ホントにもしかしたらぐらいの気持ちだったから、まさか本当に異能だったとは」

 

 なんとも締まらない話だった。それでも、彼女が私に新しい光をくれたのは事実だ。

 

「そういえば、足の手術してリハビリと目の異能の特訓をするとして、退院したらミトはどうするつもりなんだ?」

 

「どうするとは?」

 

「だって、家追い出されたんだろ?」

 

「あ」

 

 そうだった。もう私には帰るところが無い。どこか安い部屋でも探すしか……。

 

「特に決まってないなら、ウチが拾ってやるよ」

 

「―――へ?」

 

「だって帰るところ無いんだろ?オレだって女の子一人で放り出させやしないさ。なに、任せろって」

 

 そう自信満々に言う彼女に、私は何かを言う暇もなく押し切られ、そして。

 

 

 

「このバカ娘!なにが任せろですか!また女の子拾ってきて!」

 

 パシーン!パシーン!と病室に破裂音の様なモノが響き渡り、その度に彼女の悲鳴のようなものが聞こえた。

 

「ひぎぃ!?痛いー!?」

 

「え、えっと……」

 

「あ、ただのお尻ぺんぺんなのでお気になさらず」

 

 私の困惑に、彼女のお付きらしき人の声が答える。

 

「なにか言い訳があるなら聞くだけ聞きますよバカ娘」

 

「だ、だって、困ってたし」

 

「おバカ!」

 

「痛ー!?」

 

 その後しばらく音が鳴り続け、終わった頃には彼女の声が叫びすぎて掠れていた。

 

「全く……懲りない娘ですね」

 

「だって、どんな理由があっても、助けない理由なんてないだろ……」

 

「まだ言いますか……」

 

 彼女の母親(らしき人)の声にまた剣呑さが混じり、慌てて私は間に入る。

 

「あ、あの!私が悪いんです!だから彼女にはこれ以上!住むところなら自分で探せますから!」

 

「……はぁ、何を勘違いしてるかは知りませんが、貴女を引き取らないとは言ってませんよ」

 

「え?」

 

「この娘が勝手に言った事とはいえ、一度口に出した言葉を飲み込む事は我が一族の恥。貴女は我が家で引き取り、保護します。手術が終わり次第、この者に連絡なさい。レイナ」

 

「はい。お嬢様のお付きをさせて頂いております、信楽レイナと申します。あ、こちら私の連絡先です」

 

「はぁ……あ、あの」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 レイナと名乗った少女から、硬くて薄いものを受け取る。しかし、連絡先だと渡されても今の私には困ったものだった。

 

「私、目が見えないので、その読めないのですが」

 

「それでしたら―――」

 

「記導ミト、貴女が持つ目の異能で見ればいいでしょう」

 

「―――ということらしいです」

 

 つまり、私が異能を使いこなせるようになるまで連絡はするな、ということか。

 

「いや、普通に手術の日程を先に聞いてからこっちが合わせれば―――痛い!」

 

 ゴッ、と鈍い音が聞こえた。

 

「ふふ、お嬢様。あれは奥様なりの気遣いですよ。目が見えないと不便だろうから、見えるようにしておけ、ってことです♪」

 

「あー、なるほどー」

 

「レイナっ!!」

 

 ……どうやら彼女の家は、かなり愉快なようだ。手術が決まってもすぐに、とはならないだろうし、経過観察も必要になるだろうから時間はある。その間に、目の異能をいつでも使えるようにしよう。

 

「よし!これにて一件落着っ!―――いだだだだだだっ!?」

 

「ああ!お嬢様の頭が万力の如く締め付けられて、奥様が鬼の形相に!」

 

「実況助かります」

 

「いえいえ」

 

 

 

 その後、何事も無く手術を受け、手術後の後遺症の心配も無くなった私は、その日の内に連絡し彼女の家に向かいました。異能は元々無意識に使っていた節があったので、一度意識すれば短い期間で使えるようになりました。

 

「……ここが?」

 

「ええ、そうです。ようこそいらっしゃいました。私達は貴女を歓迎しますよ、記導ミトさん」

 

 お付きの少女、レイナの車で揺られること一時間。案内されたお屋敷は、とても大きかった。まさか門をくぐってからさらに30分走るとは……。

 

「私の実家の何倍もあるんですが……」

 

「ここに来られた方は、みんな口を揃えて同じことを言いますね」

 

「レイナさんはここに来て長いんですか?」

 

「ええ、お嬢様が生まれる前から」

 

「そんなに……」

 

 もしかして、実は結構高齢の方だったり……?

 

「今、失礼なこと考えましたね?」

 

「い、いえ!?そんなことは!」

 

 あの親子のお付きだけあって、察しが良い。

 

 車を邸宅の前に停車させると、レイナさんは車椅子を取り出してくれる。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「これもメイドの仕事ですから、お客人であるミトさんはゆったりしていてください」

 

 手術は無事成功したので、残るリハビリなのだが、奥様が屋敷でリハビリしても構わないと言い、お嬢様の後押しもあったので、私はこの屋敷でリハビリをしながら過ごすことになった。

 

「いらっしゃいミト!自分の家だと思ってくつろいでいいからな!」

 

 玄関口からエントランスホールに入ると、お嬢様が直々に出迎えてくれた。脇には沢山のメイドが控えており、それだけで彼女の位の高さが伺える。

 

「あら、お嬢様。お嬢様がお出迎えにならずとも、こちらから向かいましたのに」

 

「レイナ、流石のオレだってそれは客人に失礼だって分かるからな。その上、ミトはオレが招いた客人だ。オレがもてなさなくてどうする」

 

「失礼しました。そこまで考えが至らず申し訳ありません。いかようにも罰を」

 

「いい、許す。というかお前に勝手に罰を下すとオレが母さんに怒られる」

 

「それもそうでしたね」

 

「おい」

 

 くすくすと思わず笑いが込み上げてくる。私の事を思い出したのか、お嬢様は照れを隠すように咳払いをした。

 

「お嬢様、来るのが遅くなってしまい申し訳ありません」

 

「構わない。ミト、さっきも言ったが自分の家だと思って過ごしていいからな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 私がお礼を言うと、満面の笑みを見せてくれた。目の異能を通して見る彼女の姿は、病院で見た時と変わらず、可憐なモノであった。あの時は、フォーマルな洋服姿だったのだが、今日は煌びやかなドレスに身を包んでいた。余りにも豪華なドレスに目を奪われそうになるが、それで彼女の美しさが翳るようなことは無く、むしろようやく服が彼女に釣り合ったと言えるほどだった。

 

「よし、今日はオレが直々に屋敷を案内してやるよ」

 

「よろしいんですか?」

 

「もちろんだ」

 

「おや、お嬢様。この後のお稽古は」

 

「よし行くぞ!」

 

 レイナさんの言葉が言い終わらない内に、私の車椅子を押して走り出すお嬢様。

 

「お稽古はよろしいのですか?」

 

「うわぁ!普通に追いついてくるな!」

 

「いえ、お嬢様が遅いので」

 

 お嬢様は「よいしょ、よいしょ」と言いながら車椅子を押していたが、自分で動かすよりも遥かに遅かった。頑張って押す姿が愛らしかったので言わなかったが。

 

「私が代わりに押しましょうか?」

 

「やだ!オレも車椅子押してみたい!」

 

「ですが、ナイフとフォークより重たい物を持った事が無い非力なお嬢様では」

 

「いや、普通にあるわそんくらい。そもそもこの前、初めてハンドガン撃てたんだからな。もう非力じゃない」

 

「盛大に外しましたけどね」

 

「うるさい!」

 

「申し訳ありません。いかようにも罰を」

 

「許す。罰は無い」

 

「それは残念です」

 

「うぐぐぐぐ……!」

 

 仲の良いやり取りを見て、姉妹の様だと思った。

 

「ふふ、本当に仲がよろしいのですね」

 

「もちろん、お嬢様が奥様のお腹に居た頃からの付き合いですから」

 

「そこは普通に生まれた時でいいだろうがよ……」

 

「そうですね。お嬢様のおしめも変えたことがありますから」

 

「わぁー!?なに恥ずかしい事口走ってるんだお前は!」

 

「ほう!お嬢様のおしめ!」

 

「ミトも反応すんな!」

 

「申し訳ありませんお嬢様。このレイナめに是非罰を」

 

「許す!」

 

 彼女たちのやり取りを見て、ふと疑問に思ったことがあった。

 

「お嬢様はすぐにお許しになりますが、お嬢様の性格だと腹いせに無視とかしそうだと思ったのですが?」

 

「ああ、それはですねー」

 

「……前に一度無視して放置したら、『私はご主人様に赦しも罰も与えて貰えない卑しいメイドです』なんていうふざけたプレートを付けて仕事をしやがった所為で、オレが母さんにめっちゃ怒られたんだよ……」

 

 本当に心底嫌そうな顔で、お嬢様はそう言った。

 

「というか今日は一段と頻度が高いが、まだ病院で置いてったの根に持ってんのかよ」

 

「……いえいえまさか、お嬢様をお守りするために私がお傍に居るのに、そのお嬢様に置いて行かれたからってそんな女々しい事を私がするとでも?」

 

「するから困ってる」

 

 そんなやり取りを見て、私はまた笑う。お嬢様はそんな私の姿を見て「仕方ない、今日ばかりは許してやるか」と呟いていた。

 

「おっと、話し込んでいたら通り過ぎるところだった。ここがリハビリルームだ。リハビリするときはここを使えよー」

 

「リハビリ専用の部屋があるのですか?」

 

「レイナに言って用意して貰った」

 

「用意させて頂きました」

 

 私がこの屋敷に来るにあたって、急遽用意したらしい。

 

「器具は一通り揃えてあるし、レイナが有資格者だから安心してリハビリに励め」

 

「え?そうなのですか?」

 

「実はそうなのです」

 

 お嬢様のお付きかつ護衛をこなしながらも、多芸で色んな事が出来るメイド。奥様が信頼するほどのことはあるんですね。

 

「よし、次はお前の部屋に案内してやる」

 

「お嬢様が車椅子を押すと、日が暮れてしまいますので、ここからは私が押しますね?」

 

「む、むぅ……わかった仕方ないな」

 

 先程とは違い、有無を言わさぬ言葉にお嬢様は力なく頷いた。

 

「ふふ、その代わり部屋の案内と説明はお嬢様にお任せします」

 

「ま、まぁそのくらいは働いてやらないとな!」

 

 レイナさんの言葉ですぐに元気を取り戻したお嬢様は、その後も元気よく屋敷内を案内してくれた。

 

 こうして、私は屋敷の一員として迎えられ、日々をリハビリしながら過ごしていました。

 

 

 

「あれ?お嬢様?」

 

「おー、ミトか。どうしたんだ?」

 

「いえ、お嬢様をお見かけしたので声を掛けに」

 

 私が屋敷に来てしばらく経ったある日。私は偶然、屋敷の庭で遊んでいるお嬢様を見かけて声を掛けました。

 

「そういえば、リハビリはどうだ?順調か?」

 

「はい、レイナさんの見立てだと年内には足も元通りに動かせるようになるだろう、とのことで」

 

 あの人は、人体の構造への理解が非常に高く、とても効果の高いリハビリができました。

 

「そりゃよかった!……足が治ったら、やっぱり学校に復帰するのか?それとも実家に?」

 

「……分かりません。今更、私を見捨てた親の元へ戻りたいとも思えませんし。同様に、私を見捨てた同級生に会いたいとも思えません」

 

「ふーん、そっか」

 

 そう言ってお嬢様は手元の作業を再開する。私は気になってお嬢様の手元を覗き込む。

 

「あ、ダメ!まだ見たらダメだから!」

 

 と言って隠されたので、目の異能を使って見る場所を変える。するとそこにあったのは。

 

「……なんですか?この茶色い物体」

 

「あっ!"天眼"使ったな!?」

 

「テンガン?」

 

 聞きなれない単語に首を傾げると、お嬢様が説明してくれた。

 

「ミトの目の異能の事だよ。天の眼、と書いて"天眼"。その場に居ながら、遠く離れたところも見通す眼にピッタリな名だろ?」

 

「名前は必要だったのですか?」

 

「もちろん!相手に効果的な威圧を与えることが出来るし、名前を与えることで能力への理解も深めることが出来る。そして何より―――かっこいいからだ!!」

 

「なるほど、それは大事ですね」

 

「だろ!」

 

 確かにかっこいいのは大事ですね。それに名を与えることにより、そのような副次効果まであったとは、流石はお嬢様です。

 

「ところで、結局その茶色い物体は」

 

「……」

 

 その顔には「誤魔化せなかったか」という感情がありありと浮かんでいた。相変わらず嘘のつけない可愛い人だ。そう思ったのもつかの間、二ッといたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 

「仕方ないな、ほら!」

 

 そう言って私に手渡したのは、茶色くて、太くて、とぐろを巻いた。え。

 

「―――ひゃぁあああ!?」

 

「ぷっはは!引っ掛かったな!……よっと!」

 

 私はお嬢様から渡されたそれを悲鳴を上げながら放り投げると、お嬢様は見事にキャッチしながら笑っていた。

 

「い、今のは一体……」

 

「お?ちゃんと見てみるか?ん?」

 

「いいいえいえいえ!?だ、大丈夫です!」

 

「なーに!遠慮すんなって!」

 

 再度、ずいっと差し出されたそれに私は思わず後退りしてしまう。

 

「お、お嬢様それは一体……」

 

「ん?それってなんだ?言葉にしてくれないと分からないぞ?」

 

「その、だから」

 

「うん?」

 

「う、うんち……です」

 

「その通り!うんちだ」

 

 私は何か乙女として失ってはならないものを失った気がした。

 

「お嬢様は何故こんなことを?」

 

「いたずらをしようにも、他のメイドだとワザと引っ掛かるから面白くない。その点、ミトは期待通りの反応をしてくれて嬉しい!」

 

「どうして、わざわざいたずらを?」

 

「……またしばらく家から出られなくて退屈だからな。ちょっとくらい刺激的な事をしてもバチは当たらないだろ」

 

 そう、彼女はこの家から出ることを許されていない。半ば軟禁状態にあった。出ることが許されるのは、奥様同伴で、向かう場所に誰もいないときだけ。この家と誰もいない場所が、彼女の世界だった。

 

「勉強も、もう大学生の範囲まで終わらせちゃったし、とにかく暇なんだよ。もっと構え」

 

 彼女の強気な態度も、寂しさの裏返しだったのだと気付いた。この家のメイドはお嬢様を慕う者こそ多いものの、お嬢様と親しくしているのはレイナさんくらいだ。そのレイナさんも、あくまでメイドとして接している。それでいて姉妹の様なやり取りが出来るのは、絶妙なバランスと言ってもいい。つまるところ、お嬢様と同じ目線、対等な関係でいられる者が誰もいなかった。だからこそ私は。

 

「仕方ありませんね。まだリハビリ中なので、激しい遊びはやめてくださいよ?」

 

 私は彼女と同じ目線に立とうと思った。だから、足が治っても学園には復帰せず、このまま彼女の傍に居ようと、そう考えていた。

 

「それなら問題ない。このうんちを持ってみろ」

 

「えぇ……」

 

 私は嫌そうな顔をしたが、お嬢様はそれでも押し付けてきたので渋々受け取る。

 

「どうだ?」

 

「どうって、普通のう、うんちに見えますが」

 

 見た目はさることながら、臭いも……あれ?

 

「臭いが……しない……?いえ、というよりこの臭いは、粘土?」

 

「うーん、やっぱり完全再現には程遠いかぁ」

 

「あのお嬢様、これって」

 

「そ、粘土で作った精巧なレプリカ」

 

「な、なんて才能の無駄遣い……」

 

「あはは!そう言うなって!」

 

 私がその精巧さに戦慄していると、ふとお嬢様は真剣な表情になる。

 

「これで、お前は二つの視点を得たわけだ。うんちとして見た角度。粘土として見た角度」

 

「お嬢様?」

 

「なぁミト、うんちを見た時どう思った?」

 

 私はお嬢様の質問の意図が分からず、首を傾げながらも答える。

 

「それは……汚い、と」

 

「確かに汚い。まぁ汚物だからな」

 

 事も無げに肯定するお嬢様。なおの事分からず首を捻っていると。

 

「でも、うんちは肥やしになる。肥やしは畑に撒かれて肥料になる。あるいは草木を食べた動物が出した排泄物から、草木は栄養を吸い成長させることが出来る。どう思った?」

 

「え?確かに、排泄物によって自然が成長するのはすごいですね。命が循環してると言うか」

 

「そうだな。これでミトは新たな角度を得た。不要か必要か。それは単に見る角度が変わっただけに過ぎない。物事はどう見えるかじゃない、どう見るかだ。それは学校だって同じ事だろ?」

 

「お嬢様……何を……」

 

「……オレは、ミトは学校に戻るべきだと思うよ」

 

 私はお嬢様の言葉に目を見開く。それによって能力が解除されるが、そんなことよりもお嬢様の言った事が信じらなかった。

 

「私は……あんなところに戻りたくない……!建前で甘い言葉を吐いて、本心では毒を吐いてるくせに……」

 

「建前か、別にいいと思うけどな。逆に聞くが、どうしてそれが建前だと分かるんだ?」

 

「……え?」

 

「だって、そうだろ?ソイツが建前で話してるのか、本心で話してるのかなんてソイツ以外知りようが無いんだから」

 

「それは……で、でも!」

 

「あー、一応言っておくがオレはどっちが良くて、どっちが悪いとかの話をしてるんじゃないからな?」

 

 私の言いたいことを、お嬢様は先んじて潰してきた。

 

「それに建前だってなにも悪い事じゃない。だってそれは、相手に好かれたい、相手に気に入られたい、そういう相手に良く思われたい気持ちから生じたものなんだから」

 

 そう言われて、ハッとなる。私もお嬢様に良く思われたい。そういう気持ちで発した言葉は、私の嫌う建前ではなかったか。そう考え、愕然とした。

 

「だからオレは、建前と本心に境界は無いと思ってるよ」

 

「境界は、無い?」

 

「そう、それに相手の言葉が建前だろうが本心だろうが、それは言葉の受け取り手がどう受け取るかだ。……ここに手紙がある。たぶん、お前の同級生からじゃないか?」

 

「……手紙?どこにそんなものが」

 

「ミトの病室にあったよ。お前に渡そうかずっと悩んでいた。だから、今日ミトと話そうと思って、ミトの行動を逆算してここで待っていたんだ」

 

 ここに居たのは偶然では無かったのか。

 

「とりあえず、読んでみろよ」

 

 私は天眼を発動し、震える手で手紙を受け取る。封は既に切られていた。お嬢様が先に読んでいたのかもしれない。中身を取り出すと、女の子らしい便箋が何枚か出てくる。手紙は、私が庇った友達からだった。内容は、自分を庇ったせいで大怪我を負ってしまったことへの謝罪が延々と綴られていた。紙には一度湿った後、乾いた様な痕が残っていた。……きっと泣きながら書いていたのだろう。

 

「ミト、それは建前か?本心か?」

 

「……違う、違う!ごめんなさいっ……!私っどうしてもっと早くに気付けなかったのっそうすればっ」

 

 

 

『ミ、ミトさん。そ、そのごめ』

 

『……貴女も、きっと治るなんて建前の甘い言葉を吐きに来たんですか』

 

『ご、ごめんなさ』

 

『もう、来ないで』

 

 

 

「うぅぅぁぁあああっ」

 

「ミト……」

 

 手紙を握り締め涙を流す私を、お嬢様は抱き締めて慰めてくれていた。

 

「私、謝らなきゃっ。学園に、戻らないとっ」

 

「……学校に戻るなら、ウチがサポートするけど、どうする?」

 

 お嬢様の言葉に一瞬揺れ動きそうになるが、首を横に振った。

 

「いえ、私の力で戻れなければ意味がありませんから、私自身の足で立って友達に会いに行きます」

 

「そっか……」

 

 しばらく、お嬢様に抱き締められたままでいた。

 

「ミト?まだ無理そう?」

 

「そ、その、もう少しこのままでもよろしいでしょうか?」

 

「もう、大きな赤ちゃんだなー」

 

 言ってから少々恥ずかしくなったものの、お嬢様に抱き締められていると、心が温かい気持ちで満たされていった。

 

「……なぁミト、正直な話だけどお前がオレの傍に居たいって気持ちは嬉しいよ。でも、オレはお前達にはもっと広い世界を見て欲しいよ。オレには無理な話だからさ、その分沢山の経験をして、できればオレに聞かせて欲しい"外"の世界の話をさ」

 

「……はい、仰せのままに。お嬢様」

 

 その後、リハビリの甲斐もあり足を完治させた私は、しかしお嬢様の強い勧めで杖を突きながら歩くことになり、そのまま学園に戻ることになった。初めは寮に入ろうと思っていたのだが、餞別にと家を丸ごとプレゼントされてしまった。

 

 

 

 

 

 

「それから、私は学園内でメキメキと頭角を現し、今に至るという訳です」

 

 ミト様の話を聞き終えた私は、余りにも壮絶過ぎる人生に開いた口が塞がらなくなってしまった。

 

「ミト様、そのご友人の事は……?」

 

 聞き辛い話題ではあるが、聞いておかねば気になって今日は眠れなさそうだったので、聞いてしまった。

 

「無事に仲直り出来ましたよ。今も友人で居させてもらっています」

 

「ほっ、そうだったんですね。安心しました」

 

 今日はよく眠れそうだ。

 

「では、この粘土は別れる時に?」

 

「ええ、本人からすれば出来の良い一品の一つをあげた、という認識だったみたいですが、私からすれば思い出の品であり、戒めでもあります」

 

「戒め?」

 

「ええ、この粘土を見る度に物事は多角的に見るべきだと、思い出させてくれるのです」

 

 なるほど、確かに。『どう見えるか、ではなくどう見るか』。私も見習うべきでしょうね。

 

「ところで、足は完治したのに何故杖を?」

 

「実は、この杖は仕込み杖になってまして、ヘッドの根元にあるトリガーを引くと弾が出ます」

 

「な、何故そんなことを……」

 

「だって、その方がかっこいいではありませんか」

 

 そういたずらっ子の笑みを浮かべるミト様に、話に聞いた"お嬢様"が重なる。この人の子供っぽいところは、彼女に似たのだろう。

 

「ミト様は卒業後、その家に就職を?」

 

「ふふ、ええ。まぁ、話の流れから分かりますよね」

 

「ところで、話の中で"恩人"の方の名前が一切出て来ませんでしたが、一体どこの方だったんですか?資金力から言って相当位が高そうですが」

 

「……消されても大丈夫なら、お話しできますが、どうしますか?」

 

「……え、遠慮しておきます」

 

「賢明な判断です」

 

 世の中、知ってはいけない事もあるんですね……。

 

「あ、もうこんな時間ですか」

 

「おや、話が長すぎましたね。まだ明るいので大丈夫だと思いますが、お気を付けて」

 

「は、はい!」

 

 ふと、もう一つどうしても聞いておきたいことを思い出した。

 

「ミト様、どうしてこの話を私にしてくださったのですか?」

 

 話の内容からして、その"お嬢様"は余り人に知られたくない話のはず、なのにわざわざ話すのは理由があるはずだ。

 

「……そうですね、私がどれだけお嬢様の事を想っているかという自慢もそうですが、貴女は彼女の事について知るべきだと思ったからですよ」

 

「そ、それは一体……!」

 

「それでは、ナギサさん。ごきげんよう」

 

「……ごきげんよう」

 

 これ以上は聞けないと思った私は、そのまま踵を返し邸宅を後にした。

 

 

 

「そう、知るべきなんです。今彼女に近い場所に居るのは、貴女達なのですから……」

 

 

 




桐藤ナギサ
9割ぐらい話に関係ないけど、聞き手役として優秀だったのと、ミトとの接点が一番強かったので出てきた。

記導ミト
"元"生徒会長。"お嬢様"に救われたからこそ今がある。お嬢様大好きなガチ勢。好きすぎてうんちプレゼントした。お嬢様にバブみを感じている。彼女は私の母になってくれるかもしれない女性だ。

お嬢様
謎のピンク髪のロリっ子。オレ口調。一体誰なんだ…()。出歩くたびに女の子の脳を破壊する。魅力のステータスがカンストしている。



最近ブルアカのTS転生SSがめっちゃ増えてるらしくて、時間がある時に読みたいって思うんだけど、いつ時間が出来るんだろう()


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3度目のクリスマスの話

感想いつもありがとうございます!評価も増えててうれしい。

最近、メメントモリのEtoile(エトワール)聞いてるんだけど、歌詞がめっちゃミカで泣いた。ボーカルがシモツキンだし、普通に良い曲だからおすすめ。


 

 ミカと過ごす、3度目のクリスマスがやってきた。

 

「やー!やっと終わったー!もう、勘弁してほしいよね。クリスマスと終業式を重ねるのはさ」

 

 教室にて、ミカはそう言いながら体を伸ばし、ぐでーっと机に倒れる。

 

「ねー、ミサちゃんもそう思うでしょ?」

 

「……私は、全校生徒強制参加のクリスマスのミサが一番きつかったな。音楽堂貸し切ったやつ」

 

「あー、いつもなら自由参加だったけど、今年は被っちゃったからねー」

 

 いつも参加しない生徒の、早く帰らせてくれオーラは凄まじかった。

 

「ミサちゃんミサちゃん、この後どうする?」

 

「んー去年までなら、ナギサんちでパーティーしたり、私の家で遊んでたけど……」

 

「あー、ナギちゃん今年もダメそうなんだよね。なんかフィリウスの首長候補になっちゃったらしくてさ、あっちこっちに敵がいっぱいみたい」

 

「ふーん」

 

 少し心配ではあったけど、ナギサはこのまま行けば原作通りではあるのか。……ミカがどうなるのかが読めないけど。それとなく、パテルの首長を薦めて……いや、意味が分からんな。うん、放置しとこ。最悪、ミカじゃなくても良いかもしれない。

 

「じゃあ、今年もミカと二人か。とりあえず、クリパの準備するために街に買い物でも行く?」

 

「そだね、賛成!街のイルミネーションも見てみたいし!」

 

 という訳で、クリスマスパーティーの準備も兼ねて街の様子を見に行くことにした。

 

 

 

「わー!今年もすごいね!あ!あの飾りかわいー!」

 

 街の色んな所にイルミネーションが飾り付けられ、クリスマスムード一色だった。

 

「ミカ、そんなにふらふらすると他の人にぶつかっちゃうから」

 

「えへへ、ごめんごめん。かわいくてつい」

 

 光るものに引き寄せられるように、ふらふらするミカの腕を掴んで止める。

 

「今日のお夕飯はどうする?」

 

「今夜冷えるらしいし、温まるビーフストロガノフにしようかなって思うんだけど」

 

 付け合わせに、サラダや人参のグラッセでも作ろうかな。

 

「わーい!ミサちゃんの手料理大好き!」

 

 半年前にミカに作って以来、こうして偶にミカに料理を作るようになった。オレは別に毎日作っても良かったんだが、ミカが毎日は申し訳ないからと、オレへの負担も考えて外食で済ませることもある。それでも週5くらいで作ってはいるので、外食は本当にたまの息抜きぐらいだ。オレが料理を作るとミカが喜んでくれるし、オレも料理を楽しんでいた。

 

「―――あれ?ミサさんじゃないですかぁ!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえて、振り返る。

 

「なんだ、ユイノか」

 

「なんだって友達に酷くありませんか!?」

 

 以前知り合った《正義実現委員会》に所属している結目(むすびめ)ユイノだった。不良から助け、共通の話題で盛り上がったオレ達は、連絡先を交換していた。あの後、連絡が来て単独行動を怒られたと愚痴られた。それからというもの、たびたびパトロール中のユイノと会う機会もあり、妙な関係を築いている。

 

「ユイノちゃんだ、やっほー☆」

 

「あ、こんにちはミカさん!お二人でデート中でしたか!」

 

「うん、私の家でクリパするから買い物のついでにね☆」

 

「クリパいいですねぇ!」

 

 オレは基本ミカと居ることが多いので、当然ミカとユイノに面識が出来る。しかし、ユイノの方が先輩のはずなんだがな……。オレ達は中一で、ユイノは中三だ。なのに、どうみても関係性が逆転してるように見える。まぁ、本人達が付き合いやすい関係が良いだろう、ということにしておこう。

 

「ユイノは今パトロール中?」

 

「そうです、クリスマスは色々ありますから、メンバーフル投入で全域の警備に当たっています」

 

「うわー、大変だねー」

 

 人が多くなると必然的にトラブルも増えるからな。仕方の無い部分もあるだろう。

 

「まぁ大変ではありますが、ミサさんのいる所は比較的大人しいのでその点助かっています!」

 

「私を見た瞬間逃げ出すからね」

 

「そういえば、去年行った夏祭りでも似たようなことあったよねー」

 

「あはは!流石はミサさんですね!」

 

 今年の夏ぐらいから不良に絡まれることが減り、それどころかオレを見た不良が悪さをやめるという、治安維持に謎の貢献をしていた。そんな訳で、ここ半年くらいかつてないほどに、かなり平和に過ごさせてもらっている。

 

「―――せ、先輩!」

 

「あれ、ハスミちゃんじゃん」

 

「あ、ミカさん」

 

 しばらく談笑していると、黒髪の少女がユイノを呼びに来る。

 

「あ、前にナンパに絡まれてた子」

 

「あ、その節はどうも……」

 

「ミサちゃん?言っとくけど、同じクラスだからね?」

 

「え、そうだったの!?」

 

 少女を見るとコクコクと頷いていた。いや、気付けよ俺。

 

「ハスミさんが前に話していた助けてくれた人って、ミサさんの事だったんですね」

 

「ハスミちゃん、委員会に入ったんだぁ~」

 

「は、はい。あの日、ミサさんに助けられたのに、私はミサさんの事を助けられなかったから。そんな私を変えたくて委員会に入ったんです」

 

「私は別に気にしてないけど」

 

 ミカにはお仕置きされたけど、結果丸く収まったし。

 

「私が気にするんです!なので恩返しさせてください!」

 

「あ、はい」

 

「ミサさん、もしかして結構モテます?」

 

「困ってる子見かけたら、何も言わずに助けるから割とね」

 

 ミカとユイノが後ろでヒソヒソと話しているが、よく聞こえない。何の話をしてるんだろう。

 

「あ、ちょっと待っててください、電話が」

 

 ユイノの制服のポケットから着信音が流れる。クラシック好きなのか。

 

「はい……はい……分かりました。直ぐ向かいます……はぁ」

 

「電話何だったの?」

 

「近くで暴漢が数人暴れてるから、応援が欲しいそうです」

 

「クリスマスで羽目を外し過ぎたやつだ」

 

「そのようですね。では私達は仕事があるので、これで。ハスミさん、行きますよ!」

 

「はい!ミカさん、ミサさんまた学園で!」

 

「お仕事がんばって~☆」

 

 挨拶もそこそこに、慌ただしく去っていく二人。

 

「来るのが唐突なら、去るのも唐突だった」

 

「ホントだね」

 

「私達も行こっか」

 

「うん!まだ買い物も済ませてないしね!」

 

 必要なモノの買い物を済ませ、家に送った後も二人で街を歩くことにした。そういえば、ハスミって名前どこかで聞き覚えあるような……まぁいっか。

 

 

 

「こうして見て回ってると、普段見慣れた場所でも全然違って見えるね!ふしぎー」

 

「うん……そうだね」

 

 オレは曖昧に返事をしながら、バッグに視線を向ける。コレ、いつ渡そう……。タイミングを見計らっていたら、どんどんタイミングを外して行ってるような、そんな感じに。

 

「どうしたの?」

 

「う、ううん!なんでも!」

 

 ば、ばか~!オレのバカ!今渡せたじゃん!うぅ、去年まではどうやって渡してたか思い出せない。こんなに緊張してたっけ?

 

「―――くしゅっ」

 

「ミカ?大丈夫?」

 

「えへへ、ちょっと冷えて来たね」

 

「あ、だったら」

 

「ん?」

 

 今渡すしかない!そう思い、バッグの中を漁り、目的のモノを取り出す。綺麗にラッピングされたそれをミカに差し出した。

 

「これ、あとで渡そうって思ってたんだけど、クリスマスプレゼント」

 

「え!いいの!わー、なんだろー!開けてみていい?」

 

「う、うん」

 

 ミカはがさがさと包装を剥がすと、中身を取り出す。

 

「マフラーだ!あ、私の名前が入ってる!」

 

「その、ミカ冬寒そうだったし、今年は誕生日プレゼント渡せなかったから、なにか凝ったもの渡そうって思って。初めて作ったから、ちょっと失敗もしたけど」

 

「え?もしかして、手編み?」

 

「うん、ミカの名前入れる時、色を変えたんだけど初心者にはちょっと早くて、形が歪になっちゃった」

 

「そ、そっかぁ。あ、私もプレゼント今渡すね。はい!」

 

 ミカから渡されたものは可愛くラッピングされていて、開けるのに躊躇したが貰って開けないのも失礼と思い、中身を取り出すとマフラーだった。

 

「……え、これって」

 

「あはは、考えることは一緒だったんだね。ミサちゃん、毎年冬は寒そうだったから、今年は誕生日に何も渡せなかったし、って思ったんだけど。まさか、そこまで考えが似るとは思わなかったよ」

 

 マフラーには『MISA』と入っており、名前を入れるところまでシンクロしてしまうとは。

 

「今着けてもいい?」

 

「あ、じゃあ私も!」

 

 二人共その場でマフラーを巻く。

 

「えへへ、お揃いだね!」

 

「な、なんかちょっと恥ずかしい」

 

 そう二人で笑いあっていると、日が落ちて来たからか、付いていなかったイルミネーションが一斉に付いていく。それは光の波が広がっていくようで、神秘的な光景だった。

 

「わぁ……!すごい!あ、みてみて!巨大ツリーだ!」

 

「ミカ!急に走ると危ないって!」

 

 その大きなクリスマスツリーは、今日用意されたものの中で一番大きいツリーだった。

 

「今日は曇りで、星は残念ながら見れなかったけど、一番大きなお星さまは見れたね☆」

 

 ツリーの一番上で輝く星を見て、ミカはそう言った。

 

「……うん、そうだね」

 

 

 

 その後、観光もそこそこに帰宅したオレ達は、買ってきた食材で当初の予定通りささやかなパーティーを開いた。

 

 料理も食べ終わり、食器を洗い終えると、部屋の中にミカがいないことに気付く。

 

「あれ?さっきまでソファでだらけてたのに」

 

 玄関の方には向かっていないだろう。キッチンの前を通るから流石に気付く。なら、と思ってテラスの方を見ると、いた。冷えるので、自分の分のタオルを肩に掛け、ミカの分のタオルを持って外に出る。

 

「ミカ」

 

「あ、ミサちゃん」

 

「はい、流石に冷えるよ」

 

「えへへ、ありがとう」

 

 そのまま、ミカの横に並んで空を見上げる。今日は天気が悪く、生憎の曇り空だ。

 

「……何見てたの?」

 

「んー、星が見たいなって急に思っちゃったから出てきたんだけど、何も見えないね」

 

 あはは、と頬を掻きながら苦笑する。

 

「……こうしてると、二年前のクリスマスを思い出すね」

 

「うん、あの時は私が外に出てたのをミカが見つけたんだっけ」

 

「あはは、あの時と逆になっちゃったね」

 

 二年前も色々あったな。今年も負けず劣らず色々あったけど。

 

「……ミサちゃんはさ、昔の方が良かったとか、昔に戻りたいって思うことある?」

 

「思わないよ」

 

「そうなの?」

 

「あの時、こうしていればって思う事はあるけど、それで昔に戻りたいって思わないよ。だって、それは今の良さや今の関係を否定することになるから。……確かに、昔の方が良かったと思う瞬間はあるかもしれない。でも、それはこれから変えていけるものだから。昔の方が良かったなら、今を昔より良くしていけばいい。私はそう思うよ」

 

「……。ミサちゃんはすごいなぁ。私はそんな風に考えたことないや」

 

「すごくなんてないよ。失敗ばっかりしてさ、ずっとミカに迷惑掛けてる。たぶん、今も」

 

「……」

 

 星が見えない空は、どこまでも暗く飲み込まれそうだ。

 

「ねぇ、ミカ。何か悩んでいる事があるんでしょ?」

 

「ど、どうして?」

 

「分かるよ。ミカが私の事を分かるように、私だってミカの事が分かるんだもん。半年前からだよね?」

 

「……別に頼りにならないから、ミサちゃんに相談しないとかじゃないからね?」

 

「分かってるよ。……私の事なんだね、悩みって」

 

 傍で見ていたから分かる。たぶん、ナギサに言われたんだろう。だから、誰にも相談できずにいる。

 

「うっ……」

 

「話したくないなら、話さなくてもいいよ。話してくれるまで待つから。ミカが私の味方だって言ってくれたように、私もミカの味方だからね!」

 

「ミサちゃん……」

 

「ほら下見て、星は見えないけどこの光も綺麗じゃない?」

 

「あ……すごい、街の光が海みたいに広がってる」

 

「ずっと上向いてたら首が疲れちゃうからね。偶には下を見ないと!」

 

 人々の暮らしが光となって、街を行き交う車が光の川を作っている。

 

「ミカ、これだけは憶えておいて、ミカが辛い時や苦しい時があったら私が必ず助ける。何があっても、どんなことがあっても絶対に。ミカが私にそうしてくれたように」

 

 オレはミカに向かって、小指を差し出す。

 

「約束」

 

「……えっと」

 

 しかし、ミカはそれを見て戸惑うように見るだけだったので、無理矢理ミカの手を取って小指を絡める。

 

「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら、はーりせーんぼーんのーます!ゆびきった!はいもう約束したから、約束破ったら針千本飲ませまーす」

 

「ええ!?というかこの場合飲むのミサちゃんだよね!?」

 

「そんなことはない」

 

「もう……私、ミサちゃんに相談しないかもしれないよ?」

 

「ずっと待ってるよ」

 

「私、助けてなんて言わないかもしれないよ?」

 

「勝手に助けに行くから大丈夫だよ」

 

「……そっか、じゃあミサちゃんにはずっと待ってて貰おうかなー!」

 

 よく分からないけど、元気が出たらしく笑ってそう言った。

 

「私としては、気になるから早く言って欲しいかなーって」

 

「えー、どうしよっかなー」

 

「うぅー!いいじゃん!私頑張ってるのにー!」

 

「あはは!じゃあもっと頑張って貰おうかな」

 

「むー」

 

 そんな感じで言い合ってると、空からヒラリと冷たいものが落ちてくる。

 

「―――あ」

 

「……ふふ、ホワイトクリスマスだね」

 

「ホントだね」

 

 雪の結晶は、ヒラヒラと街に降り注いでいく。この分だと明日は積もってるかもしれない。

 

「冷えちゃうし、そろそろ部屋に戻ろっか」

 

「そうだね―――っぷちゅ」

 

「ってミサちゃん、言ってる傍からー」

 

「い、今のはくしゃみじゃなくてしゃっくりだし!」

 

「はいはい、部屋に戻るよー」

 

「ちゃんと聞いてよー!?」

 

 ミカ、必ず守るよ。だって、もう決めたから。

 

 




光園ミサ
地味に色んな所に知り合い作ってる。ユイノとは街中で会った際、普通にお茶する仲。シエル談議で盛り上がる。ミカの事は悩んでるのは気付いてたけど、いつか相談してくれるのを待ってる。なお、されない模様。

聖園ミカ
最近、ミサの女子力が留まる事を知らないのでちょっと焦ってる。ミサの友達が増えるのは嬉しいけど、ナギサに言われた事が気になって、ずっとモヤモヤ。内容が内容なのでミサに相談出来なかったが、「まぁいっか!」と思考放棄。ミサに心配かけるくらいなら考えない方がいいってなった。

桐藤ナギサ
ミトの置き土産により政争のど真ん中に放り込まれる。おまけにミサの友人枠をユイノに取られそうになってる。ナギサ様、おいたわしや。

結目ユイノ
半年前に出会ってからずっと交流が続いている。パトロール中にミサを見かけては声を掛け、お茶をしては怒られるを繰り返してる。最近では新人のハスミと行動を共にすることが多い。


ナギサ様がどんどん不憫に…。でも高校生になるまでナギサ様出番増えねぇんだ、ごめんよ。


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お赤飯の話

感想いつもありがとうございます!

感想でめっちゃ性夜のこと言及されてて大草原。確かに描写なかっただけでヤッたけども。

そんなお前たちの為に曇らせ回だ!


 

 その日は実に爽やかな朝だったと思う。

 

 しかし、暖かくなってきたとはいえ、まだ春先で肌寒さが残る。いつもの事ではあるが、夜ベッドに入るまでは着ていた寝間着も、朝になればその辺に脱ぎ散らかしていて、今自分たちは全裸でベッドの中に居る。

 

 まだ、起きるには早い時間の為、腕に感じる温もりを抱き締めながらベッドに潜る。すると、腕の中に居た温もりがモゾモゾと動き出す。寝惚けながら器用に腕の中から這い出ると「……しっこ……もれる……」と言ってふらふらと歩いていってしまった。

 

 腕の中の温もりが消え、少しの寒さと寂しさを感じていると、家中に響くほどの悲鳴が聞こえてきた。

 

「―――ぎゃあああああああああッッ!?」

 

「―――ミサちゃん!?」

 

 思わず、バッと飛び起きて慌ててトイレに駆け込む。そこには便器に座って泣いているミサちゃんの姿。

 

「ミサちゃん、大丈夫!?」

 

「ミ、ミカぁ~~~!!お股がぁ~~~」

 

 そう言われ、視線を落とすと下腹部が赤く染まっていた。もしかして、と思いつつもミサちゃんを落ち着かせるのが先と思い、ズビズビと泣いているミサちゃんの頭を抱き締めて必死に宥めた。

 

 少しして、ある程度落ち着いたのでミサちゃんの状態を確認することにした。

 

「ミサちゃん、体がだるいとかある?」

 

「……すごくだるい」

 

「お腹の辺り、痛い?」

 

「……すごく痛い」

 

 うーん、分かりやすく症状出てるなー。

 

「ねぇミカ、私しんじゃうの?」

 

「死なない死なない。大丈夫だから」

 

「もしかして、昨日ミカがえっちを激しくしたせいなの?だからお股の中が切れちゃったんだ……」

 

 すごく否定しづらい事実を並べるのはやめて欲しいな。というか、ミサちゃんもしかしてアレのこと知らない?

 

「ミサちゃん、たぶんね月経だよ」

 

「???」

 

 ミサちゃんは何のことか分からない、と言う顔をしている。

 

「んー、生理とか、女の子の日って言ったら分かる?」

 

「え……」

 

 それを聞くと、ミサちゃんは分かりやすいくらいに顔を青くさせた。

 

「その様子だと、今日が初経だったのかな。ここの子供のお部屋にね、子供を作る準備が出来たよーって知らせるものなんだよ。今日はお赤飯だね」

 

「え、女の子の日ってこんなに血が出るものなの……?」

 

「人によるかなー。私はあまり出ない方だし。あ、大体一週間近く続くから頑張って」

 

「嘘でしょ……」

 

 絶望した表情のミサちゃんを尻目に、おりものの処理を終えた私はミサちゃんに生理用品とか手帳を持ってくる。

 

「とりあえず、私が使ってる分でごめんだけど、タンポンとナプキンどっちがいい?ちなみにミサちゃんぐらい量の多い子は、両方がオススメ」

 

「……使い方とか違いがよく分からない」

 

「タンポンは中に入れるの、ナプキンはショーツに着けて使うの。量に応じて使い分けるんだよ。少ない日ならナプキンだけで十分だし、多い日ならタンポンで。とりあえず、今日は両方着けて様子見した方がいいかなー」

 

「中に入れる……?」

 

「使い方教えるから、覚えてね」

 

 宇宙猫状態のミサちゃんに生理用品の使い方をレクチャーし、実際に使わせて覚えさせた。

 

 それにしても、全く無いわけじゃないけどこの年まで生理無かったの珍しい。やっぱり、体がボロボロだったせいなのかな。だとしたら、こうして生理も来たってことは身体の機能が回復してきたってことだよね。良かった、私の接し方は間違ってなかったってことだよね。

 

「どうミサちゃん?これで血は出なくなったでしょ?」

 

「血は出なくなったけど、んーなんか変な感じ」

 

「あまり使わない方が良いけど、どうしてもダメってなったらお薬もあるからね」

 

「そうなんだ。……やっぱり、股からひもが垂れてるって変な感じ。まぁ、ミカのモノより小さいから全然平気だけど」

 

「そっかー、恥ずかしいからそれ他の人に言っちゃダメだからね?」

 

「??うん」

 

 よく分かってない顔してる。まぁ、ミサちゃんも自分のえっちなことを、誰かに吹聴したりしないと思うから大丈夫かな。

 

「それと、はいこれ」

 

「……デジタル手帳?」

 

「うん、今日からこれにその日の体調と基礎体温を測って記録してもらいます」

 

「えぇ……めんどくさい」

 

「めんどくさくてもやらないと、次の生理がきつくなるよ」

 

「……次があるの?」

 

「月のモノだからね。毎月あるよ」

 

「うぇぇ……」

 

 それを聞いて心底嫌そうな顔をするミサちゃん。今日は顔によく出るなー。生理のせいかな。そこでミサちゃんが爆発した。いや、物理的にではなく、感情が。

 

「―――もう嫌だ!女の子やだ!もう女の子やめる!!」

 

 と癇癪を起こして暴れ始めた。それを聞いて、私の中でプツンと何かが切れる音がした。両手で顔を挟み込んで目を合わせる。

 

「むぎゅ」

 

「ねぇミサちゃん、女の子になるって約束したよね?嘘つくの?」

 

「う……」

 

「嘘つくんだ」

 

「ち、ちが」

 

「そうだよね、はじめての生理で心が不安定になっちゃって、つい口に出ちゃったんだよね?」

 

 私が矢継ぎ早に言葉をぶつけると、ミサちゃんはどんどん泣きそうな顔になってくる。

 

「ご、ごめんなさ」

 

「それは何の謝罪?あーでも、本心から言ったなら仕方ないけど終わりにしよっか」

 

「お、終わり?」

 

「そうだよ、女の子が嫌ならこの家から出て行って貰わないと、女の子じゃないミサちゃんはいらないからね。分かったら荷物まとめて出て行ってくれる?」

 

「え?え?」

 

 困惑するミサちゃんから手を離して、立ち上がったところでふと我に返る。や、やってしまった……。ミサちゃんの前では感情的にならないように気を付けてたのに。ど、どうする。いや、一度深呼吸して落ち着こう。

 

「はぁ……」

 

「!?あ……あ……」

 

 何やってるんだ私は、ミサちゃんは今生理で不安定になってるのは、分かり切っていた事じゃない。それなのに、あんな責め立てるような事を言ったら……はっ、そういえばミサちゃんは?

 

「ぐっ」

 

 振り返ると同時に、お腹の辺りに衝撃が来る。どうやらミサちゃんがお腹目掛けて体当たりしてきたらしい。

 

「ひぐっ……グスッ……ご、ごめんなさい。もう口答えしないから、がんばって女の子になるから、捨てないでぇ!うわぁぁぁん!」

 

 ミサちゃんは私のお腹に顔を擦りつけながら、わんわん泣いていた。いや、そうなるよね……。くぅ、数分前の私を引っぱたきたい。どうやって収拾つけよう、これ。なんとか丸く収まる着地点はどこだろう。……ダメだ、バカな私の頭じゃロクな解決策が思いつかない!とりあえず有耶無耶にして流せないかな。

 

「ちゃんと生理手帳つけられる?」

 

「ぐしゅっ……し、します」

 

「女の子になれる?」

 

「な、なります……だから、すてないで」

 

「うん、いいよ」

 

「ふぇ……?」

 

「ちゃんと女の子になるなら家に置いといてあげるからね」

 

「う、うん!なる、なるから!」

 

「手帳はつけられてるか毎日確認するからね?」

 

「わかった」

 

「うん、良い子良い子」

 

「ん」

 

 頭を撫でると、気持ち良さそうな声を出しながら、私の手に顔を擦りつけてくる。よし!丸く収まった!

 

「とりあえず、二人共裸のままだし着替えよっか。……ミサちゃん、歩き辛いから離れて欲しいんだけど」

 

「やだ……」

 

 仕方ないのでミサちゃんが抱き着いたまま、移動することにした。

 

 

 

 クローゼットから出した制服をミサちゃんに渡した後、私も着替えることにした。初めての生理だし、キツいようなら今日は休もうかとは言ったけど、「ミカに迷惑掛けたくないから」と無理をしてでも学園に行こうとしていた。たぶん、私がさっき怒っちゃったせいだよね……。

 

 自分の着替えが終わったので、ミサちゃんの方へ振り返るとまだ裸だった。

 

「ミサちゃん?まだ着替え終わって……というかなんでまだ裸なの」

 

「あ、ミカ。その、下着迷ってて、ミカはどっちが好き?」

 

 そう言ってミサちゃんが見せてきたのは、フリルが付いた下着とリボンが付いた下着。これ、私が買った覚えがない……もしかして自分で?どちらも私が好きなデザインだったが、迷いに迷ってフリルの付いた方を選んだ。

 

「こっち、かな」

 

「う、うん!こっちにするね!」

 

 ミサちゃんは私が選んだ下着を嬉しそうにいそいそと着始める。でも、いつもより動きが鈍かった。慣れない生理痛で、体を動かすのが辛いのだろう。それを口にしないのは、また私に怒られるかもしれないと思っているからだ。

 

 違うの、私はそんなつもりじゃなかったのに……。ミサちゃんは大事な友達だから私が守らなきゃいけないのに、私が大好きな友達を傷つけちゃうなんて……。……違う、私は違う!羽佐間シエルや黒野サユリみたいに、ミサちゃんの心と体を傷付けて今ものうのうと生きてる奴らとは違うんだ!

 

 私には挽回のチャンスがある。怒っちゃって傷付けた分、うんと優しくしよう。私は、タンスの引き出しから、腹巻とカイロを取り出す。

 

「ミサちゃん、これ使って」

 

「えっと……腹巻?」

 

「そう、お腹痛いんでしょ?暖かくすれば、マシにはなるから」

 

「で、でもかわいくないよ?」

 

「かわいくないのは認めるけど、だからってミサちゃんが辛そうにしてるのを放置できないよ。……どう?」

 

「あ、すごい楽になった」

 

「ふふ、でしょ?」

 

 分かりやすく、嬉しそうに跳ねるミサちゃんに私も嬉しくなった。

 

 その後、ミサちゃんを制服に着替えさせた後、もう家を出ないと学園に間に合わない時間だったので、朝ご飯は適当にコンビニでサンドウィッチを買って済ませ、登校した。

 

 始業には間に合ったものの、いつも通りの学園生活とは行かなかった。というのも、いつもはある程度距離を離すミサちゃんが、今日は一日中しがみ付くように私にベッタリと張り付いてて、周りの同級生も何事かと注目を集めてしまっていた。

 

「あの、ミサちゃん。色んな人に見られてるし、少し離れた方が良いんじゃ?」

 

 後で、恥ずかしい思いをするのはミサちゃんだし。そう思って放った言葉だったが、逆効果だったようで、より強くしがみ付かれてしまった。当然、そんなことをしていれば噂好きのお嬢様の事だ。あっと言う間に噂は広まってしまった。

 

 

 

「あ!ミカさん、どうもです!―――あー、あの噂本当だったんですねぇ」

 

 授業が終わり、早々に帰宅を決めた私は、未だ離れないミサちゃんを引き摺りながら帰宅していると、帰り道でパトロール中のユイノちゃんに出くわした。

 

「……どんな噂か気になるけど、聞かない方が良さそうだね」

 

 下手な噂を聞こうものなら、噂の出所を調べて潰しに行きそうだ。

 

「まぁ、あまり聞いて良いものじゃ無いですね。とは言っても私が聞いたのはそっちの方じゃなくて……」

 

「あ、こんにちは。ミカさん、ミサさん」

 

「こんにちはハスミちゃん。なるほど、ハスミちゃんから状況を聞いたんだ」

 

「ですです。……何があったか、まぁ話したくないなら聞き出す気はありませんが、話して大丈夫そうなことなら、吐き出してしまった方が良いと思いますよ。特に、その状態が続くのは好ましいようでは無いようですし、私達も何か力になれるかもしれませんしね」

 

「……ユイノちゃんがまるで先輩みたいなこと言ってる」

 

「いや、先輩、先輩です私。この春から私も高校生になったのですから、やっぱりここは先輩としての威厳をですね」

 

 私は、事情を話すべきか逡巡したが、一人で抱え込むよりは良いかもしれないと思い、二人に話すことにした。

 

「―――ていう事があってね」

 

「……」

 

「……あー、思ったよりヘヴィーな話来ちゃいましたね」

 

 私の話を聞いたハスミちゃんは顔を青くさせ、ユイノちゃんは顔を引き攣らせていた。一般的に見て、私の話は重いらしい。

 

「その、怒ること自体は悪くないと思います。相手を想っての事ですから。ただ……いらないって言ったのは、まずいかなって」

 

「だ、だよね……」

 

 客観的に見て、オブラートに包んではいたが、そう指摘され私は落ち込む。

 

「……ミカさんは、本心から言ったわけじゃないですよね?勢いで口から出てしまっただけで」

 

「ハスミちゃん、勢いでも口に出してしまった事だから、言い訳なんて出来ないよ。それが例え本心から出た言葉じゃなかったとしても。前からナギちゃんにも、感情に任せて突っ走るなって言われてたのに、ミサちゃんの前では抑えられてたから大丈夫だと思ってた。ダメな女だね私って」

 

「ミカさん……」

 

「……ミカはダメな女じゃない」

 

 急に後ろにしがみ付いてるミサちゃんから、そんな言葉が聞こえた。

 

「ミサちゃん……?」

 

 聞き返すも、ミサちゃんは抱き締める力を強めただけで、それ以上は何も言わなかった。

 

「……。あまり、第三者の私達が踏み入る話じゃないのかもしれませんね。お二人でじっくりと話し合った方が良いと思います。相談してくださったのに、大した助言も出来なくて申し訳ないです」

 

「ううん、私も誰かに話して良かったと思う」

 

「ミカさん、がんばってください」

 

「うん、ハスミちゃんも話聞いてくれてありがとね」

 

 二人と二、三言話した後別れ、家へと帰った。

 

 

 

「ミサちゃん、家着いたから離れようよ。このままじゃ、家事も着替えも出来ないよ」

 

 そう言うと、ミサちゃんは渋々離れた。

 

「今日は家事とか料理は私がしておくから、ミサちゃんは休んでてよ!」

 

 生理で辛いミサちゃんを休ませておいて、私は家事をすることにした。

 

「食材は買い置きがあるし、お赤飯は朝のうちに頼んでおいたからある。よーし、がんばるぞ!」

 

 久しぶりの料理だったが、なんとか形にはなった。料理を運んだ後、ミサちゃんを呼んで食卓に着く。

 

「さぁ!召し上がれ!」

 

 しかし、ミサちゃんは料理を見つめたまま動かず、その様子に私は困惑してしまう。

 

「ど、どうしたの?」

 

「……ミカに、朝の事謝りたくて。ごめんなさい」

 

 そう言ってミサちゃんは頭を下げた。私は慌ててミサちゃんに頭を上げさせようとする。

 

「きゅ、急に怒っちゃった私が悪いんだよ!ミサちゃんが悪い事なんて」

 

「違うの!私、私がミカに甘えてたから、ミカなら何言っても許してくれるなんて思ってたの。でも、ミカに怒られたとき頭が真っ白になって、捨てられそうになってようやく私がバカだったことに気付いた。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 私は頭をガツンと殴られた気がした。ミサちゃんは、初めての生理で辛いはずなのに、ずっとそんなことを考えていたのだ。なのに、私は……。

 

「……ううん、私はホントに気にしてないから」

 

 どうして、私はミサちゃんに嫌われなくてホッとしてるんだろう。分からない。

 

「それより、ご飯冷めちゃうから早く食べようよ。私お腹ペコペコだよー」

 

「う、うん。……おいしい、ミカ料理出来たんだ」

 

「むー、それどういう意味。私も最初の頃は自分で料理作ってたんだからね!……段々と面倒になってやらなくなっただけで」

 

 私はこれでいい、これでいいはずなのにどうして。

 

「ミ、ミカ、その今夜は」

 

「ダメだよミサちゃん。生理が終わるまでお預けだからね。終わったら沢山シテあげるから」

 

「え、えへ、わかった……」

 

 

 胸が痛い。

 

 




光園ミサ
また女の子のはじめてを経験しちゃった。お腹痛いし、悪い想像しちゃうしで急に泣いたり、怒ったり、落ち込んだりした。それでも、ミカは甘えさせてくれると思ってたら、怒られたので反省した。ミカに頼り過ぎないように、自分で女の子の勉強をしていく。

聖園ミカ
感情で突っ走ったのは『今回が』初めて。それだけに今回一番ダメージが大きかった模様。初めてミサに嫌われない為にお世話していたが、ミカはそのことに気付いていない。どうでもいいけど、ミサの生理周期を把握した。


曇らせ回とは言ったが、ミサを曇らせるとは一言も言ってない。今回何気に一番メンタルがやばかったのミカ。ミサ?あの子、今回はそんなにメンタルやられてないよ。生理で気分の乱高下が激しかっただけ。ちなみに、一番の被害者は一般通過のユイノとハスミ。

次回もミカ視点で。


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催眠で遊ぶ話

感想いつもありがとうございます!

昨日更新するつもりが、偏頭痛でダウンしてました。

今回の話は、前回と併せメス堕ち編のテーマである『二人の関係性を問う』という核心に迫るお話になります。
ちなみに、修行編が0章として1章の青春編が『二人の出会い』。2章メス堕ち編後の3章高校生編が『二人の関係の変化』。で、4章がエデン条約編になります。

30話過ぎてるのに、まだ原作に入らなくてすまない。


 

「ミサちゃん、今日も良かったよ」

 

「そ、そう?えへへ……」

 

 今日も今日とてミサちゃんとの情事を終えて、ミサちゃんと一緒に裸のままベッドで横になる。そっと抱き締めると、柔らかな感触が返って来て抱き心地が良い。

 

 あの生理の日から、ミサちゃんの体つきが徐々に女の子らしく、丸みを帯びてきたように思う。それを見る度に、自分は何も間違っていないと再確認する。また、胸がちくりと痛んだ。

 

「ミサちゃん、髪伸びて来たね。前髪がまた目に入っちゃ危ないし、今度一緒に整えに行こうね」

 

 肩まで伸びたミサちゃんの髪を弄びながらそう言うと、ミサちゃんは頬を膨らませる。

 

「もう、そろそろ一人で切りに行かせてよ」

 

「そう言って、前回一人で行かせたら、髪バッサリ切り落とそうとしたよね?ギリギリで間に合って、止めに入れたけどさ」

 

「あ、あれは前の癖で」

 

「はいはい」

 

「ぶー」

 

 ミサちゃんとそんな会話をしながらも、私はどこか上の空だった。

 

「ミカ?なにかあったの?」

 

「へ?」

 

「前からボーっとすることが増えたというか、何か考え事?」

 

 あぁ、いけない。ミサちゃんは妙なとこ鋭いから気を付けないと。

 

「あー、ほら最近えっちがマンネリ気味じゃない?だから何か刺激的な方法ないかなーって」

 

「そ、そうかな?というか、お尻責めとか淫紋とかやったのにまだ足りないの」

 

「もっとえっちなミサちゃんが見たい!」

 

「……」

 

 ミサちゃんは顔を赤くして伏せていた。私は咄嗟の事とはいえ、口に出してしまったし何かマンネリ解消になりそうなものを探そう。マンネリが解消できれば、この心のモヤモヤもなんとかなるかもしれないし。

 

 

 

 数日後、私は満面の笑みでミサちゃんにスマホを見せた。

 

「見て!催眠アプリ!」

 

「えぇ……うさんくさぁ」

 

 私とは対照的に、怪しいものを見る目でアプリを見ている。

 

「というか、放課後の誰もいない教室でこんなもの出して、どうするつもり?」

 

「ミサちゃんに催眠を掛ける」

 

「おバカ!自分に掛けたらいいじゃん!なんで私なの!」

 

「自分に掛けたら、催眠掛かってるかどうか分からないじゃんね?」

 

 全く、何言ってるんだか。

 

「やれやれ顔なところ悪いんだけど、私に掛ける理由になって無いよね?普通にその辺の生徒を捕まえて、催眠掛ければいいじゃん」

 

「やだ!ミサちゃんにえっちなことさせたいもん!」

 

「待って、私に何させるつもり!?」

 

 こうなれば強硬手段だ!私はミサちゃん目掛けて飛び掛かった。

 

「ちょ、うわぁ!?」

 

 ミサちゃんを教室の床に押し倒すと、そのままミサちゃんに催眠画面を見せようとする。しかし、ミサちゃんも抵抗して私のスマホを持つ手を抑えようとする。

 

「ぐぅ……ふふふ、私とミカの力は拮抗している。このまま続けても無意味だと思うけど?」

 

「くぬぬ……ふふ、それはどうかな?」

 

「え―――ひゃうっ!?」

 

 私はミサちゃんの股を膝で思いっきり擦り上げる。力の均衡は崩れ、天秤は私に傾く。

 

「ちょ、それは反則―――!」

 

「勝てばよかろうなのだ。大人しく催眠掛かって!」

 

「やーーーだーーー!!」

 

 ミサちゃんは激しく抵抗していたが、画面を見せられたミサちゃんは徐々にその抵抗を弱めていく。

 

「ほーら、ぐーるぐーる」

 

「……ぐる……ぐる……」

 

「ミサちゃんは今から私の言う事は何でも聞きます」

 

「……なんでも……きく……」

 

「ミサちゃんは私の言う事に何の疑問も持ちません」

 

「……ぎもん……もたない……」

 

「よしよし」

 

 ミサちゃんの抵抗が完全に無くなってから、ミサちゃんに暗示を刷り込んでいく。

 

「ミサちゃん、服を全部脱いで。もちろん下着もだよ」

 

「……はい」

 

「ふふ、じゃあこっちに付いて来てね。手で隠しちゃダメだよ」

 

 全裸にしたミサちゃんを連れ、教室を出て誰もいない校舎を歩く。誰かが来るかもしれないというドキドキで、興奮してきた。

 

「えへへ、誰かに見られたらおしまいだね。ミサちゃん、今どんな気持ち?」

 

「……恥ずかしい」

 

「そっかそっか!」

 

 恥ずかしいと言いながらも、大事な所を隠さずに歩いてる所を見ると、ちゃんと催眠が効いてて思わずほくそ笑んでしまう。ミサちゃんも興奮してるのか、顔には朱が差していた。やっぱり、こういう機会でもないと出来ない事やるの良いなー。普段のミサちゃんだと、嫌がるだろうし。

 

「次の所曲がって~、そしたら何を命令しようかな……ん?」

 

 次はどんなえっちな命令しようかなと考えてると、曲がり角の向こうから話し声が近づいて来る。

 

「やばっ、こっちに近づいて来てる」

 

「……っ」

 

 どうしよう、戻る?いや、この長い廊下だと間に合わずに見られちゃうかも。だったら……。

 

「ミサちゃん、こっち!」

 

 ミサちゃんを壁に立たせ、ミサちゃんの前を塞ぐように私が壁になる。羽も含めて、ミサちゃんは小柄だからすっぽりと綺麗に納まった。

 

「ふふふ!ええ、それで……あら?」

 

「ご、ごきげんよう……」

 

「……ええ、ごきげんよう」

 

「今のって……」

 

「聖園ミカよ、ほら"特別扱い"の」

 

「あぁ、あの人が」

 

 三人ぐらいの女生徒は、そう話しながら廊下の奥へ消えて行った。私はいなくなったのを確認して、溜め息を吐く。

 

「全く、人の顔を見てあれは無いんじゃない?ねぇ、ミサちゃん……あ」

 

 壁際から離れてミサちゃんを見ると、人には見せられないようなえっちな顔をしていた。腰から下は震えており、どうやら軽く達したらしい。

 

「……見られるかもしれないと思って、イッちゃったんだー?」

 

「……ひゃい」

 

 ミサちゃんは、回らない舌で返事をしながら、小さく頷く。もうちょっと、見ていたい気もするが、一度ここから離れた方がいいだろう。

 

「とりあえず、移動しよっか?」

 

 その後も、催眠状態のミサちゃんを連れ回して、沢山えっちな命令をした。

 

 

 

「いやー、今日は楽しかったねー」

 

 散々連れ回した後、私の家に帰ってきた。

 

「……」

 

 あ、そういえばまだ催眠中だった。一旦解除、いやミサちゃんにえっちな命令してて私は見てるだけだったから、私がスッキリするまでこのままにしておこうかな。

 

「というわけで、このまま催眠続行でベッドに行こっか!」

 

「……」

 

 

 

「ふー、今日はいつもより激しくしちゃった。ごめんね、ミサちゃん」

 

「……」

 

 楽しかったし、気持ち良かったけど、なんだろうこのモヤモヤ。いつもモヤモヤしてたけど、今日はそれが顕著だった気がする。

 

「うーん、良かったけど、私はいつものミサちゃんの反応見ながらの方が良かったかも」

 

 その気持ちがなんなのかは分からないけれど。とりあえず、いつものミサちゃんがいいから、催眠を解除しようかな。と、催眠アプリに手を掛けたところで、ふとナギちゃんの言葉を思い出す。

 

『ミカさんは、ミサさんの事好きですか?』

 

 そうだ、ミサちゃんに聞けばいいじゃん。今なら催眠で正直に答えてくれるだろうし、私頭いいなー。そうと決まれば、ミサちゃんに催眠アプリを見せる。

 

「ねぇ、ミサちゃん。ミサちゃんは私の事どう思ってる?正直に答えてね」

 

「……ぇ」

 

「ん?どうしたの?早く答えて」

 

「……だ、大っ嫌い」

 

「―――」

 

 視界がグニャリと歪んだ。

 

「あ、あはは……そっか、そうだよね」

 

 嫌われる心当たりは……いっぱいある。ミサちゃんの為、と言いながらミサちゃんを今まで歪めてきたのは、私だ。それは私の為だった。

 

「あ、私……」

 

「……ミ、ミカ?」

 

 いつの間にか、ミサちゃんがいつも通りに戻っていた。スマホを見ると、充電が切れてる。それで催眠アプリも落ちたのか。

 

「……ごめん、ミサちゃん。今日は自分の家に帰ってくれない」

 

「え?え?」

 

 困惑するミサちゃんに荷物と着替えを押し付けて、家の外へ追い出す。

 

「―――え?あの……オレの家ここ……なんだけど……」

 

 ミサちゃんを外へ出した後、私はベッドの上で蹲っていた。

 

 ずっとミサちゃんの為だからと言って、ミサちゃんに私自身の欲望をぶつけ続けてきた。そんなの嫌われて当たり前だよね。ずっとミサちゃんの嫌がることをしてきた。女の子らしく振舞うことも、女の子として犯すことも。そうしたのは私だし、そうしようと思ったのは私の意思だ。

 

 嫌われても仕方ないと思ってた。そうすることで、ミサちゃんを危険から守れるなら嫌われてもいいと思ってた。

 

「なのに、私……!」

 

 今までのミサちゃんとの思い出が溢れてくる。どれをとっても、私にとって大切な思い出だ。あぁ、そっか……私。

 

「私―――ミサちゃんの事、好きだったんだぁ……」

 

 友達としてではなく、一人の女の子として。きっと、初めて会ったあの日からずっと。ナギちゃんは、気付いててあんな質問をしたんだ。その上で、忠告もしてくれたのに無駄にしちゃった。

 

「うぅ……うぁぁぁああああああああっっっ!!」

 

 積年の想いを吐き出すように、泣いて、叫んだ。

 

 その後、泣き疲れて眠った私は、翌朝起きた後寝惚けた頭でミサちゃんを探して、昨夜追い出したことを思い出し、慌てて連絡したのだった。

 

 

 

 

 

 

―――その頃。

 

「―――んあーっ、と疲れたー。長い夜だったなぁ。朝になっちまったし、この後どうしよ……あ、ミカから連絡だ『今どこ?帰って来て』どこって、商業区のどっかかな……。まぁ、ミカのお許しが出たし、一旦帰るかー」

 

 ボロボロになった服も取り替えたいし、そう思いながら家に向かってミサは歩き出し掛けた時だった。

 

「―――あー、ミサさん。ちょっといいですか?」

 

 振り返ると、ユイノと委員会の制服を着た生徒が数人、ミサを取り囲んでいた。

 

「ユイノ?どうしたんだ?」

 

「昨夜起こった街中の爆発事件について、心当たりありますよね?」

 

「あー……」

 

 ミサは観念したように、両手を上げ《正義実現委員会》に連行されていった。

 

 

 




光園ミサ
生理後から女の子らしい体つきになって、えろさも増した。ミカに追い出された後、またトラブルを起こした模様。楽しかったけど、催眠プレイはもうコリゴリ。

聖園ミカ
やっと好きを自覚した。無事、心のモヤモヤは晴れた、なお……。嫌いって言われて好きを自覚するの良いよね(隙自語)。昔、少女漫画でよくそういうの読んだ気がする。


へへ、お尻プレイに淫紋プレイに催眠プレイまでしちゃったぜ。R-18のネタが溜まっていくなぁ。
早く、高校生編に入りたいと思う反面、セイアちゃんはよ実装せいと思いながら引き延ばす。セイアちゃんの話、メインストーリーだけだと脳内シミュレートがしにくいのよ。でも、メス堕ち編あと4話か5話くらいで終わりそう。悲しみ。


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長い夜の話・まえ

感想いつもありがとうございます!

へへ、昨日上げて今日も上げるとは思わなかっただろうなー。私も思わなかった()

長くなりそうな気配がしたので、前後編になります。

そういえば前回意図的に書き忘れたんだけど、





ミサ催眠掛かって無いです。


 

「うっ……ぐすっ……」

 

「……」

 

 ナギサは紅茶の入ったカップを傾けながら、目の前で咽び泣くミカをどうすべきか、頭をフル回転させる。

 

「うぅ~……ミサちゃんに嫌われちゃったぁ……」

 

「……はぁ、だから言ったでしょう」

 

「だってぇ……」

 

 何故こうなったかと言うと。早朝の事、ナギサは事件の報せを受け早い時間に学園を訪れ、事件の顛末を聞いた後、与えられた《ティーパーティー》の執務室で作業をしていたら、そこへミカが泣きながら突撃してきた。仕方なしに、お茶の席を用意して話を聞いたのが現在の状況だ。

 

 街中で起きた爆発事件に銃撃事件と、両方に関わってるであろうある人物で頭を悩ませている時に、何故更に頭痛の種を増やしに来るのか。ナギサは思わず頭を抱えたくなった。

 

「それに、ホントにミサさんから聞いたのですか?何かの聞き間違いとか」

 

「催眠で聞いたから間違いないよ……」

 

「催眠って……また何やってるんですか。そういうことをするから嫌われるのでしょう?」

 

「うぅ……」

 

 いつもなら軽く流せるナギサの言葉も、この時ばかりはミカも重く受け止め、また心当たりがあった為、酷く精神ダメージを受けていた。

 

「しかし……(妙ですね、ミサさんのあの態度は……)」

 

「ナギちゃん、何か言った?」

 

「……いえ、なんでもないです」

 

 ミカの聞いた言葉と、ミサの普段の言動が一致しない。なにか妙な思い違いをしているのでは?と思ったがそれを証明する手立てが無いのでは、言ったところで意味が無いだろう。証明する方法はただ一つ、ミサに直接聞くことだが……。

 

「(素直に話すかどうかわかりませんし、今は置いておきましょうか)それで、ミカさんはどうするんですか?もし、今後会うのが辛いのであれば私が……」

 

「……ううん、今まで通りミサちゃんの面倒は私が見るよ……」

 

「……大丈夫なんですか?」

 

 どういう状況であれ、想いを寄せてる相手から直接『嫌い』と言われたのだ。その精神ダメージは計り知れないだろう。仮に聞き間違いだとして、もう一度『嫌い』と言われたら二度と立ち直れなくなりそうだ。

 

「いいの、最初は恋の勘違いから始まった事だとしても、ミサちゃんを歪めてしまったのは私だから。『今まで通り』を最後まで貫くよ、それが私の"責任"だから」

 

「ミカさん……」

 

 彼女の目に映るのは悲愴な決意だった。こんなに弱ったミカを見るのはいつ以来だろうか。ミカは元々そんなに強い女の子ではない。それでも気丈に振舞えたのは、ミサが居たからに他ならない。ミカの中で、それほどまでにミサと言う少女が占める割合が大きい。ミサを守るという事は、好きを自覚した今、何を置いても優先すべきことだ。

 

「仕方ないですね……何かあればすぐに言ってください。力になりますから」

 

「でも、ナギちゃんに迷惑を掛けられない……」

 

「何言ってるんですか。ミカさんが迷惑を掛けるなんて、今に始まった事ではないでしょう?」

 

「うっ、で、でも……」

 

「頼ってください。幼馴染なんですから」

 

 渋るミカに、念を押すように言うと、ようやく頷いた。

 

「ごめんね、ありがとう……」

 

「それでその……ミサさんの事なんですが……」

 

 話が一段落し、ナギサは件のミサの話に移行しようとしたが、何故か言い辛そうに口ごもる。

 

「ミサちゃん?そういえば、委員会に保護されたって連絡来てたような」

 

「保護と言うか、逮捕されてます……」

 

「へ?」

 

「昨夜起きた爆発・銃撃事件の最重要参考人として、現在《正義実現委員会》の方で取り調べを受けています」

 

「え、ええぇぇぇえええっ!?」

 

 ナギサから聞くところによると、どうやら昨夜ミカが追い出した後に起きたらしかった。

 

「な、なんで目を離した瞬間にトラブル起こすのあの子は……」

 

「結局、ミカさんでなくとも誰かが傍で見張っていないと、すぐに爆発する爆弾の様な子なんですよね……」

 

 ショックで動揺していたとはいえ、うっかり追い出してしまったのは失敗だった、と打ちひしがれるミカ。いや、今はそんなことよりもミサに会うのが先決だろう。

 

「ねぇ、ナギちゃん。今ってミサちゃんに会える?」

 

「ちょっと待ってください……丁度、取り調べが一段落した所のようです。今なら会えますよ」

 

「ありがとう、ナギちゃん!」

 

 そうして、ミカは「行くなら私も」とついてきたナギサを伴って、委員会の取調室を訪れた。

 

「あ、ミカ!」

 

 ミカの姿を見つけたミサが、嬉しそうにミカの元へ駆け寄ってくる。

 

「『あ、ミカ!』じゃないでしょ!」

 

「ご、ごめんなひゃい……」

 

 駆け寄ってきたミサのほっぺをむにーっと引き伸ばすミカ。そのままでは話が聞けないので、ナギサはミカを宥めて改めて話を聞くことにする。

 

「それで、昨夜は何があったんですか?」

 

「大体の事は、委員会の連中に話したと思うけど、まぁいいか。かいつまんで言うと、ミカから家を追い出された後、女の子を拾って……」

 

「女の子……?拾う……?」

 

 いきなり、謎のワードが飛び出してきた。突拍子もないことをする子だとは知っていたが、行動が意味不明すぎる。ナギサはミカに目配せしたが、ミカも首を横に振る。

 

「それで、変なマフィアっぽいのにバーン!って撃たれて、お店に逃げたらドーン!て吹き飛ばされて「ちょ、ちょっと待ってください」うん?」

 

「ごめんなさい、要領を得ないので最初から詳しく聞いてもいいですか?」

 

「えー、長くなるんだけど」

 

「そこをなんとか」

 

「むぅ、仕方ない。あれは―――」

 

 

 

 

 

 

 話はオレがミカに追い出された直後まで遡る。

 

「なんか、今日のミカ様子が変だったな。もしかして、生理だったのか……!?それなら仕方ない。あれはきついからな」

 

 そんなことを考えながら、歩いているとお腹が大きな音を奏でる。

 

「腹減った……。ご飯食べる前に追い出されたから、当たり前だけど」

 

 もう、夜の10時を過ぎていて普通のお店はもう締まっているだろう。開いてるとしたら、夜のお店か、ギリギリレストランはまだ開いてるかもしれない。泊まりはネカフェにするとして、ご飯を調達しなきゃな。

 

「おうおうおう、そこの嬢ちゃん金持ってるならアタシらにくんねーか?」

 

「あ‶あ‶?」

 

 オレに金をせびりに来たのはどこのバカだ、と思い振り返るとただの不良だった。

 

「ひ、ひぃ!ピンクの悪魔!?」

 

「あんな角付き連中と一緒にすんじゃねえよ……」

 

「もががが!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 顔を掴んで締め付けてやったら、すぐに謝りだしたので離してやった。

 

「へ、へへ、ミサさんにおかれましてはご機嫌麗しゅう」

 

 離すや否や、平身低頭でごまをすりながら寄ってくる。他の不良達もオレの姿を認めると、蛇に睨まれたように動かなくなってしまった。

 

「いつもやってるのか、今日だけなのかは知らねえけどよ。オレの目が黒いうちはトリニティでそんな悪さが出来ると思うなよ?」

 

「「「「も、申し訳ありませんでした!」」」」

 

 睨みを利かせると、すぐさま土下座へ移行する不良達。これだけ釘を刺しておけば、しばらくは何もしないだろう。

 

 あ、また腹が鳴った。流石にそろそろ腹に何か入れたいな。

 

「そうだ、お前ら。この辺に何か店無いか?ご飯調達したいんだが」

 

「そ、それなら数軒先にコンビニがありますけど」

 

「コンビニ、そういえばあったな」

 

 最近、全然使って無かったから忘れてた。久しぶりに、コンビニ飯と行くか。

 

「ほら、礼だ」

 

 バッグからアクセを一つ取り出し、不良達に投げて寄越す。

 

「え、これ」

 

「売れば百万くらいにはなる。くれてやるから、こんなことからさっさと足洗ってまともに働け」

 

「ひゃ、ひゃく!?」

 

 以前、買ったはいいものの結局一度も使ってないアクセサリーだった。近々、売りに行こうと思っていたので、処分できてよかった。

 

「じゃあな」

 

「……て、天使だ」

 

 風の噂では、その後まともな働き口を見つけて普通の生活をしてるらしい。

 

 

 

「コンビニなんて久しぶりだな。焼き鳥、コンビニ弁当、色々買っちゃおうかな……ん?」

 

 不良達の言った通り、コンビニが営業していた。何を買おうか考えていると、近くの路地から声が聞こえた気がして、覗いてみた。すると。

 

「……み、水……」

 

 そこには、行き倒れた少女が水を求めていた。

 

「いや、ベタかよ」

 

「……み、水と焼き鳥とから揚げとコロッケとお弁当が食べたい……」

 

「ちょっとは遠慮しろよ」

 

 とはいえ、見てしまった以上見捨てるのは心苦しい。仕方なく、すぐそこのコンビニで自分の分と少女の分のご飯を調達し、少女の所へ戻ってくる。

 

「ほら、食えるか?」

 

「……!」

 

 少女の分のご飯が入った袋を見せると、奪い取る勢いで引っ手繰りすぐに中身を出して食べ始めた。よっぽど、お腹空いてたんだな。オレも少女の隣に座り、買ってきたおにぎりといちご牛乳に手を付ける。

 

「……ふぅ、ごちそうさま。ありがとう、おいしかったわ」

 

 その後、10分も経たず完食していた。いや、早いな。オレまだ2個目のおにぎり食べてる途中なんだが。

 

「別に、食いしん坊キャラって訳じゃないわ。ただ、人より頭を使うからカロリーがいるの」

 

 オレの視線が気になったのか、聞いてもいないことを話してくる。フードを深く被ってるせいで顔は見えないが、焦った表情をしているのだろうか。

 

「んで?あそこに行き倒れてた理由は?飯だってすぐそこコンビニなんだから、自分で買えば良かっただろ」

 

「それは……今は、諸事情があってカードが使えないから。倒れてた理由は……言えない」

 

「ふーん」

 

 面倒事っぽいなぁ。騒ぎに巻き込まれたりしたら、またミカに迷惑掛けそうだ。あいつには負担を掛けてばっかだし、回避できるならしておきたいが、どうするか……。

 

「ねぇ、貴女。光園ミサでしょ?」

 

「……よく分かったな」

 

「だって、貴女有名だもの―――愚か者だって!」

 

「帰る」

 

「ちょっと待って!本当の事でしょう!?」

 

「本当の事だから傷つくんだよ!」

 

 というか誰だ!そんな噂流してる奴!見つけたらただじゃおけねぇ……。

 

「セイナよ」

 

「……セイア?」

 

「セ・イ・ナ、私の名前よ」

 

 紛らわしい。

 

「苗字は?」

 

「……いるの?」

 

「一応な」

 

 どこの誰かは知っておきたいし、素性はハッキリさせとくに越したことは無い。

 

「……す、知床セイナ」

 

「なんで今『す』って言った?」

 

「なんでそこ引っ掛かるのよ」

 

「普通に引っ掛かるわ」

 

 最初に別の名前を言おうとしたってことか?だとしたら後に言った名前は。

 

「偽名か」

 

「……頭の回転は結構速いのね。噂よりはバカじゃないんだ。まぁ、貴女も偽名を使ってるから当然か」

 

「オレは本名だよ」

 

「……ふーん?そう、あの噂の方も真実だったのね。あの家が苦労するわけね」

 

 何故か納得した雰囲気で話す少女に、妙な居心地の悪さを覚える。

 

「はぁ……飯食い終わったんなら、オレはもう行くぞ」

 

 まだブツブツ言ってる少女を置いて、この場から去ろうと思い、立ちあがるのと同時だった。近くに複数の黒い車が停まり、中からスーツを着た少女達がぞろぞろと降りてくる。

 

「なんだ、アイツら……」

 

「……!嘘、もう嗅ぎ付けてきたの」

 

 面倒事じゃなくて、厄介事の方だったか。少女達は、こちらを見つけると容赦無く手に持った銃でこちらを撃ってきた。

 

「おい!いきなり撃ってきたぞ!」

 

「……彼女達が狙ってるのは、私よ。貴女はさっさとここから離れて」

 

「言うのがもう少し早ければな……」

 

 一緒に居るのが見られた以上、今離れたところでオレがコイツの事を知っていると思われて、狙われる可能性の方が高い。あるいは、情に絆される可能性を考えて人質にされるか。

 

「……8……15……20か」

 

「ちょっと、何を考えてるの?」

 

 襲撃者の人数を数えていると、セイナが後ろから肩を掴んでくる。

 

「セイナ、戦闘はできるか?」

 

「……生憎、私戦闘はからっきしよ。どうするつもり」

 

「決まってるだろ、倒すんだよ。戦闘出来ないなら隠れてろ」

 

「何言ってるの!相手は20人もいるのよ!?」

 

 未だ肩を掴むセイナの手を払い、立ち上がる。

 

「たった20人だろ」

 

 それだけ告げ、路地裏から横っ飛びで飛び出しながら、重機関銃のトリガーを押し込み数人を戦闘不能に追い込む。そのままの勢いでカバー裏に隠れ、敵の位置を把握する。

 

「今ので、3人はやれたな。敵の位置も把握できたし、一気に行くか」

 

 カバー裏から飛び出し、走り出す。襲撃者たちは、こちらに銃を向け撃ってくるが、こちらも銃を撃って応戦する。銃弾を避ける為に、ジャンプして壁伝いに走りながら相手の中心目掛けて飛び、銃身を叩きつける。

 

「きゃあっ!?」

 

「こいつ、なんて戦い方をぐぁ!?」

 

 敵の中心に躍り出たオレは、そのまま体を回して銃弾をバラ撒きながら、近くの襲撃者に対しパンチやキックで戦闘不能にしていく。

 

「こいつ!」

 

 襲撃者の一人が、近くまで寄ったオレに対し銃を振るが、オレはそれをジャンプして相手を飛び越えるように避け。

 

「い、一体どこに―――ぐっ」

 

 そのまま後ろから殴って気絶させた。

 

「―――こいつで全員か」

 

「嘘、うちのSP達があんな一瞬で……」

 

 僅か一分足らずの攻防で、襲撃者たちは地面に伏せることになった。

 

「さて、また襲われる前に移動するぞ」

 

「移動するぞって、貴女は……」

 

「もう巻き込まれてんだ。こうなったら事情を説明してもらうからな」

 

「……わかったわ」

 

「よし、そうと決まれば行くぞ!表を通るのはマズいから、路地裏通っていくか!」

 

「きゃっ!?ちょ、ちょっと!手を引っ張らないで頂戴!」

 

 そのまま、セイナの手を引いて路地を駆けて行くのだった。

 

 




光園ミサ
メンタルとフィジカルが完全回復した最強状態。お金に執着はないので、数百万したアクセをポンと渡す。一応トラブルを回避しようとはしたが、トラブルが女の子を背負ってきたので逃げられなかった。基本善人のお人好し。名前の紛らわしさで人のこと言えない子。

聖園ミカ
ミサを守る為に『今まで通り』を続けることにした。ミカなりの責任の取り方。ミサが逮捕されてるとは露知らず、ナギサに泣きついていた。だって保護されてるって言ったじゃんね。

桐藤ナギサ
ミカの方の問題とミサが起こした問題の板挟みで、紅茶が手放せなくなった。お労しや。それでも、ミカの力になろうとする辺り、人の良さを隠しきれない子。

知床セイナ
す…知床さんちのセイナさん。行き倒れていた所をミサが拾った。頭脳労働担当なので、戦闘は出来ない。ゲームに実装されたらスペシャル枠。詳しい容姿は次回に…。身長はミサと変わらないくらい。栄養が脳に行ったタイプ。ここに解説が載ったという事は重要キャラだよ(ニチャァ)


後編は明日か明後日に上げる(予定)。予定は未定。
大決戦のカイテンジャーに勝てないんじゃい!うぅ…無知煽りされてるよ…。
無知、だったのじゃ。



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長い夜の話・うしろ

感想いつもありがとうございます!

5000字くらいで終わる予定が、なぜか3倍に。―――理解できぬ。

Q.プレイヤー視点の掲示板があったら面白そう

A.ガッツリネタバレではあるけど、似たようなのは考えてたんだよね。

他のブルアカSSも結構掲示板ネタ多くて、私もちょっと面白そうだなって思っちゃったよ。とりあえず、その辺は原作入るまで保留していい?




 

 あの後、路地を駆け抜けたオレ達はそのまま近くのレストランへ駆け込んだ。ド深夜だが、まだやってるファミレスがあってよかった。学園都市っていう都合上、学生向けに長く開けてるんだろうか。何はともあれ助かった。

 

「何頼む?」

 

「……そんな呑気にしていていいの?」

 

「またいつ襲撃されるか分からないからこそ、今の内に腹に入れとけってことだよ。あ、金の心配ならすんな。オレが払っておいてやるよ」

 

「……そういうことなら」

 

 オレはクリームソーダを、セイナは大盛ポテトとコーヒーを頼んでいた。いや、腹に入れとけって言ったけど、まだ食うのかよ。

 

 注文を取って待つ間に、SNSに助けを求めてみた。

 

『女の子拾った。たすけて』

 

 お、もうリプついた。こんな時間でも、反応してくれるのはネットの良い所だよな。

 

『草』

 

『草』

 

『草』

 

 誰が、草生やせと言った。解決策を提示しろよ。

 

『警察か、自治組織へどうぞ』

 

 ド正論かよ。こいつら面白がっているな?ネットの悪い所出たな。

 

「そういえば、さっきの戦い方はなんなの?敵のど真ん中に突っ込むなんて、倒してくれって言ってるようなもんじゃない」

 

 スマホから目を離してセイナを見ると、呆れたような目でこちらを見ていた。

 

「別に、そっちの方が有利取れるからな」

 

「どういうこと?」

 

「オレが敵さんのど真ん中に居るから、相手は下手に撃てば味方に当たるからな。オレに向かって撃とうと思うと、オレの足元に向かって撃つしかない。で、オレには何の制限も無いから暴れ放題ってわけ」

 

「……そういうこと。相手の射角を制限して、自分に有利な状況を作って、それを解消しようと近づいてきた相手を、容赦無く殴り倒していたわけね。とんでもない怪物ね」

 

「お褒めの言葉どーも。そう言うお前は頭脳自慢してた割にパッとしないよな」

 

「言ったでしょ。私は戦闘の方はからっきしなの。戦術の話なんてされても困るわよ。……でも、そうね。貴女にバカにされるのも癪だから、そっち方面の勉強もしておくわ」

 

 なんでオレにバカにされるの嫌なんだよ。

 

「ところで、セイナはいつまでフード被ってるんだ?」

 

「そ、それは……」

 

 いつまで経ってもフードを取らないので、指摘すると困ったようにフードを深く被り直す。

 

「こ、これは相手に顔を見られないようにする為の……」

 

「さっき『うちのSP達』って言ってたよな?だったら、もうお前の顔割れてるだろ」

 

「き、聞いてたの」

 

「……まぁ、見せたくない理由があるなら無理にとは言わないが」

 

「……いえ、助けて貰っておいて隠し通そうとするのは、流石に不義理よね……見せるわ」

 

 そう言ってフードを外し、顕わになったセイナの顔を見てオレは目を見開く。

 

「これが私。驚いたでしょ?今の貴女には見せたくなかったのだけど」

 

 ピンクの長い髪を一房にまとめ前に流し、金の目がこちらを射抜く。顔の良い生徒の多いトリニティでもトップクラスの顔の良さだ。だが、それ以上に驚いたのは。

 

「オレと同じ顔……!?」

 

 オレに似てるという事は、ミカにも似てるという事だ。なんなんだ、世の中には同じ顔が三人いると言うが、いくらなんでも世間が狭すぎるだろ。

 

「どういうことだよ、作為的が過ぎるぞ」

 

「まぁ、そうなるでしょうね。私も初めて知った時は驚いたし」

 

「まさか、妹?」

 

「そんなわけないでしょう。私は12月生まれ、貴女は5月生まれでしょう」

 

「年下じゃないのか」

 

「同い年よ」

 

「小さいから年下かと」

 

「鏡見なさい」

 

 ということは、マジで似てるだけなのか?でも、そんな偶然このキヴォトスにあるのだろうか。

 

「まぁ、全くの無関係という訳でもないけれど」

 

「どういう意味だ?」

 

「それは言えない。でも、貴女も知っているはずよ……憶えていればね」

 

 オレが知っている事、でもオレが知らない事。もしかして、オレがこの世界に来る前のオレの記憶ってことか?いや、オレが来る前の記憶なんて無いから知らねー……。ミカからも偶に聞くけど、前のオレ何してたんだよ。

 

「もう一つ聞いて良いか?」

 

「どうぞ?」

 

「オレとお前って昔会ったことあるの?」

 

「いいえ、会ったのは今日が初めて。でも、私は貴女の事を一方的に知っていたわ」

 

 他人に個人情報漏れてんぞ。セキュリティどうなってんだキヴォトス。

 

「こちら、クリームソーダとコーヒーと大盛ポテトになりますー」

 

「あ、どうも」

 

「ごゆっくりどうぞー」

 

 やっと来たクリームソーダにストローを刺して飲む。んまんま。ちらっとセイナを見ると、地獄のような光景が広がっていた。コーヒーに砂糖を何個も投入し、あまつさえそこにミルクをドバっと、こいつは一体何を飲んでるんだ……?

 

「はーっ、糖分が染み渡るわね」

 

「いや、ミルクは百歩譲っていいとして、砂糖入れすぎだろ」

 

「私、甘くないと飲めないの」

 

「なんでコーヒー頼んだんだよ……」

 

「知らないの?コーヒーにはカフェインが含まれているのよ」

 

 だから何だって言うんだ。

 

「仕方ないじゃない。頭を使うと甘いものが欲しくなるのよ」

 

「じゃあ、普通に甘いもの頼めよ。というか、セイナが頭使ってるところ見た事無いが」

 

「まぁ、戦闘と勉強にしか頭を使わないおこちゃまにはそう見えるでしょうね」

 

「むかっ」

 

「私達の一族はね、"知"に優れた一族なの。商売、いいえこの場合、経済と言い換えましょうか。かつて、この地がトリニティと呼ばれる前から深く根ざしてきた。物流によって資源を動かし、得た金を使ってビジネスを提供し、"他国"とも渡り合える国力を身に付かせ、トリニティという"国"を豊かにしてきた」

 

 クリームソーダに口を付けながら、情報を整理する。つまるところ、セイナの一族がトリニティを動かしてきたってことか?

 

「それって、トリニティの実質的な支配者なのでは?」

 

「……どうかしら、結局のところ私達は知識を提供し、それによって発展を促すだけ。……圧倒的なカリスマを持つ、本当の支配者には敵わないわ。だからこそ、血をより強くしようとした私達の先祖は、貴女の家と」

 

「え?」

 

「……っ、なんでもない。話を戻すわ、そんな家だからこそ後継者について問題になってね。要は誰が跡継ぎになるか揉めてるのよ」

 

「最後の説明がアッサリ過ぎないか」

 

「結論って言うのは、簡潔なほど伝わりやすいものよ」

 

 なるほど、それは確かに。つまり、家がデカすぎて跡継ぎ誰にしよって混乱の真っ只中にあるわけね。

 

「ふーん、それでどうしてお前は襲われてたんだ?跡目争いにありがちな、候補者の蹴落とし目的か?」

 

「私は……自由になりたくて、逃げて来たの」

 

「うん、うん?」

 

「でも、それを許さない人たちが私を追って来て」

 

「待て待て待て!自由になりたくて逃げたってことは、継承権を放棄したんだろ?だったらなんで追ってくるんだよ。候補者が減るわけだから、わざわざ連れ戻す意味なんて……」

 

 待てよ、オレ何か勘違いしてないか?オレはセイナが大勢の候補者の一人だと思ってたけど、もしかして……。

 

「セイナ、お前を含めて候補者は何人だ?」

 

「……三人よ」

 

「セイナはどうして候補者に選ばれた?」

 

「……私が、歴代最高の能力を持って生まれたからよ」

 

 つまり、セイナVS他の候補者ではなく、セイナVSセイナを跡継ぎにしたい連中ってことか。それなら、逃げるセイナを追う理由も納得だ。で、セイナを跡継ぎにしたい連中が他の候補者を擁する連中と争ってるって。

 

「派閥争いじゃねえか……」

 

「まさか、説明するまでもなく察するとは思わなかったけど、そういうこと」

 

 くそぅ、今日は厄日過ぎる。ミカに催眠プレイさせられるし、変な後継者争いに巻き込まれるし。しかもこの状況、同じ顔が二人。ダメだー!今別れたらオレも狙われるー!最後まで、面倒見るしかないよなぁ……はぁ。

 

「しかし、デカい家に生まれるとそういうのに巻き込まれて大変だな」

 

「そうね、そういうのとは無縁そうなバカが羨ましいわ」

 

「なんでオレを見ながら言った?」

 

「さぁね?貴女と私、何が違うのかしらね」

 

「何の話だよ……」

 

 ちょくちょく刺してくるけど、ホントに前のオレとは何も無いんだよな?

 

「それで、これからどうするんだ?ずっと逃げ続けるわけにも行かないだろ」

 

「それなんだけど……」

 

 その時だった、店のドアが勢いよく開かれ、店内に丸いものが投げ込まれる。

 

「―――グレネードだッ!!伏せろッッ!!!」

 

 

 

 商業区、繁華街の一角にあるビルの2階のガラスが爆発で連鎖的に吹き飛ぶ。突然の爆発に通行人達はざわめき、足を止めていく。未だ黒煙が立ち上るファミレスから、オレはセイナを抱えて、爆発で吹き飛んだ壁から脱出し、外に着地する。

 

「くそっ、一般人を巻き込むのもお構いなしか!」

 

「相手も、手段を選ばなくなってきてるわね……」

 

「どうする?とりあえずさっさとここから離れた方が良さげだが」

 

「……いえ、遅かったみたい」

 

 こちらが行動に移す前に、既に相手が動いていた。前に戦った襲撃者と同じスーツを纏った者達が、ぞろぞろと姿を現す。さらに戦車がこちらに向かって来ていた。

 

「囲まれた、わね」

 

「戦車まで持ち出してくるとは、本気だな」

 

「どうするの……?」

 

「悪いがオレはバカなんでな―――正面から無理矢理押し通らせて貰うッ!!」

 

 オレは相手が動き出す前に駆け出し、一直線に戦車に向かう。

 

「オラァ!」

 

 そのまま拳を突き出し、戦車の装甲をぶち抜く。穴の開いた装甲に銃弾を叩き込み、爆発させる。止まらず後続の戦車に飛び乗り、砲塔を蹴り飛ばして破壊し、銃弾が貫通するまで撃ち続け爆発させる。

 

「戦車如きで止められると思うなよッ!!」

 

「……滅茶苦茶だわ」

 

 一瞬で戦車を潰されて怯んだのか、動きの鈍った襲撃者達を重機関銃と喧嘩殺法で蹴散らしていく。

 

「オレを止めたいなら、この10倍持ってきやがれッ!」

 

 さっき戦った時とは違い、縦横無尽に戦場を駆け回りながら、障害物の裏に隠れた奴を障害物ごと吹き飛ばし、車の陰に居る奴を車に銃弾を撃ち込み、車を爆発させ吹き飛ばす。

 

「くっ……!」

 

「きゃあ!?」

 

 セイナの悲鳴に後ろ向きに飛びながら、振り向きざまに回し蹴りを放つ。

 

「よっと、あまり離れんな。守り切れなくなる」

 

 蹴られた襲撃者は、弾丸のような速度で吹き飛んで壁にめり込む。

 

「無茶言わないで!貴女の傍に居た方が危ないわよ!?」

 

「バカ言うな、これ以上ない安全な場所だぞ」

 

「一体どこが―――っ!?貴女、前!」

 

 振り向くと、奥に残っていた戦車が砲塔をこちらに向けていた。そして、ドンッ!という空気を震わせるほど大きな音を立て、砲弾がこちらに飛翔してくる。

 

「まずい―――直撃コース!?」

 

 オレは大丈夫でも、セイナが耐えられない!

 

「ちぃっ!」

 

「ちょっと貴女何を!?」

 

 オレはセイナの前に立ち塞がり、こちらに向かってくる砲弾に拳を叩きつける。衝撃で制服の左袖が吹き飛ぶが、なんとか押し留める。

 

「ぐ……ぅ……!」

 

 押し負けるか、そう思ったオレの判断は早かった。オレの神秘から僅かに力を開放し、体が軽くなるのを感じると同時に、一気に砲弾を押し返す。先程の巻き戻しの様に、砲弾が戦車の中に戻っていき、砲弾がオレの神秘の影響を受けたのか、他の戦車より大きな爆発を起こし四散する。

 

「いてて」

 

 少し赤くなった左手をプラプラと振って、熱を冷ましているとセイナが怒鳴り込んでくる。

 

「何考えてるの!一歩間違ったら貴女が危なかったのよ!?」

 

 何言ってんだ。オレが間に入らなかったらケガしてたのは、お前だろ。と言ってやりたいが我慢。

 

「オレもお前も無事だったんだから、結果オーライだろ?」

 

「そういう問題じゃないっ!どうして私なんか庇ったりしたの!」

 

「オレが守りたいって思ったからだよ」

 

「……貴女、特大のバカよ……」

 

「知ってる」

 

 周りを見渡すと、今ので相手もようやく品切れらしい。追加注文多かったからな。正直どこから湧いてくるんだと思った。

 

「向こうの兵力がやっと底を突いたらしいし、とりあえずここから離れようぜ」

 

「……はぁ、そうね」

 

 

 

「ここまで来れば、ひとまず撒けたか?」

 

「そうね、それも少しの間でしょうけど」

 

 オレ達はあの場から急いで離れ、繁華街の中を歩いていた。セイナの家のSPかなりの強さだったな。セイナが言うには、特別な訓練を積んだ特殊部隊なのだそうだ。道理で練度がバカ高いと思った。

 

「しっかし、どうやって短時間でオレ達を捕捉したんだ?」

 

「私達は他の人から見て、トップクラスに美少女だもの。目撃証言なんてあっと言う間でしょうね」

 

「自分で自分の事を美少女って言うのなんか嫌だ」

 

「あらどうして?見た目が良いのは得じゃない」

 

「だって、自分の容姿の良さを鼻に掛けてるみたいだし、なんかナルシストっぽい」

 

「何言ってるの、自分の容姿を客観視出来ない人の方が、よっぽど鼻に掛けてるじゃない。謙虚は美徳だけど、度が過ぎれば嫌味にしか聞こえないわよ」

 

「正論は時として人を傷つけるからやめろ……」

 

 頭では分かっていても、自分の可愛さを肯定するのは恥ずかしいんだよ。

 

「ところで、今どこに向かってるんだ?」

 

「何も知らないで、よく無言で付いてきたわね」

 

「知っていようが、知らなかろうが、取る行動は変わらないからな」

 

「今向かってるのは、おじさんの経営してる会社よ」

 

「え、パパ活?」

 

「違うわよ!どういう思考回路してるのよ!はぁ、親族よ。おじさんっていうのは昔から仲良くして貰っていたから、そう呼んでるってだけ分かった?」

 

「お、おう」

 

 早口でそう捲し立てられ、思わず頷く。てっきり、足長おじさん的なパパ活と思ったが違ったらしい。しかし、親族の経営してる会社か。スケールが違うな……。

 

「それで、おじさんが私の事を匿ってくれるらしいのよ。いつまでになるかは分からないけど、後継者争いが終われば、私は晴れて自由の身ってわけ」

 

「自由、か。自由になったら何かやりたいことあるのか?」

 

「そ、それは……まだないけど。な、なによ!笑いたければ笑いなさいよ!」

 

「笑わねえよ。それはお前が広い世界を知ろうとしてる証なんだから、胸を張ればいいんだ。自由になれば、今より時間が出来るんだろ?なら、ゆっくり探せばいい」

 

「そ、そう」

 

 プイっとセイナは顔を背ける。あれ?また怒らせた?そう思い、しゅんとする。

 

「……私が一族の中でも、歴代最高の能力を持ってるって話をしたわよね?」

 

「え?あぁ」

 

「私の一族の力は、思考能力を強化して思考速度や知覚速度を上げることが出来るの。まぁ、だからさっきの砲弾も見えてたから、避けようと思えば避けれたわけ」

 

「見えても避けられる身体能力無かったら意味無いだろ」

 

「うるさいわよ!」

 

「ごめん」

 

 また怒られた。

 

「だから、その力をフルに使おうと思ったら、貯蔵された知識量に比例するから、私達は小さい頃から書庫に籠もりっきりになって、知識を蓄えさせられるの。その中でも私は別格だと言われたわ。私は完全記憶能力を持っているの」

 

「それって、一度見たものを忘れないって言う?」

 

「えぇ、それによって私は破格の待遇で迎えられ、望む物はなんでも与えられたわ。その代わり、私は外へ出して貰えなくなった。知識を得る度、外の事を知る度に、外への憧れが増していった。そんなときよ、貴女の事を知ったのは」

 

「オレの事?」

 

「えぇ―――着いたわ」

 

 セイナが足を止めたので、オレも足を止め目の前のビルを見上げる。

 

「なんで、偉い奴って高い所に住みたがるんだろうな」

 

「他人の事を見下ろせるからでしょ。それより、ここでお別れね」

 

「何言ってるんだ。最後まで付き合うって言っただろ」

 

「言ってないわよ」

 

 そういえば言ってないな。

 

「そういうわけだから、お前の安全が確認できるまで付いてくからな」

 

「はぁ、好きにしなさい」

 

 好きにさせてもらおー。それにしても、またオレの事聞きそびれた。オレはセイナに付いてビルに入っていった。

 

 

 

「……随分アッサリと案内されたな」

 

 今、オレ達は最上階に向かうエレベーターの中に居た。受付で事情を話すと、すぐに社長に繋いでくれて、社長から最上階の社長室に来るように言われたからだ。

 

「……まぁ、親族だし、社長のおじさんとも良く会ってたから、私が来たらすぐに通すように言ってくれてたのかもね」

 

「……」

 

 妙な胸騒ぎと共にエレベーターが最上階に着く。廊下を少し歩くと、社長室にはすぐに着いた。セイナは数回ドアをノックすると、中から声が聞こえてくる。声が聞こえた後、セイナがドアを開けて中に入ったので、オレは後に続いた。

 

 社長室に居たのは、恰幅の良い男性のロボだった。ロボかよ。

 

「おじさん!」

 

「よく来たね、セイナ。ここまで来たらもう安心だ。他の者に手出しさせないよ……そう、誰にもね」

 

 人の良さそうな笑みを浮かべていた社長の表情が変わったと思うと、周りからロボ兵士が姿を現す。その肩には、見覚えのあるロゴがあった。

 

「カイザー!?」

 

「お、おじさん!どういうこと!?」

 

「ククッ、まだ分からないかね?お前に追手を放っていたのは私だよ、セイナ」

 

 更に、オレ達が入ってきた扉からセイナの家のSPだという、スーツ姿の女の子たちが入って来てオレを拘束し、床に叩きつけられる。迂闊にもカイザーに意識を奪われていたオレは、抵抗できずに縛られてしまった。

 

「な、なんで」

 

「決まっているだろう。お前が継承権を放棄して、自由になりたいなどとほざくからだ。私がお前を目に掛けていたのは、最初からお前の力を利用するためだ。お前を後継者にし、私が後見人として立てば、トリニティは私の思いのままだ!ハーッハッハッハッ!」

 

「ゲスが……!」

 

「ククッ、何とでも言うがいい。しかし、放った追手が全滅したと聞いた時は驚いたものだが、まさかここまで連れて来てくれるとは君には感謝しかないな。報告で聞いてはいたが、本当にセイナにそっくりだ」

 

「くそっ……!」

 

 外へ出ることを禁じられていたセイナの姿が知られていた理由。そして、セイナの容姿を知ることが出来た親しい人物。思えば気付けた要素はちゃんと在ったのに、見逃してこんな後手に回ってしまうなんて……!

 

「そう……最初から……」

 

 セイナの手が強く握り締め過ぎて白くなっていた。それは相手に対する怒りか、あるいは自分に対する怒りか。やがて、ふっと力を抜くとセイナの表情は、全てを諦め切っていたものになっていた。

 

「……分かったわ、そちらに従う。だから、その子には手を出さないで」

 

「セイナ!?」

 

「それと、カイザーをトリニティに招いた罪は重いわよ。現当主が許すとは思わない事ね」

 

「ククッ、そんな罪心配せずともすぐに無くなる。それにカイザーほどの大企業と手を結ぶメリットなぞいくらでもある。言わばこれもビジネスだ。カイザーの持つルートを手に入れられれば、キヴォトスの支配者になることも夢ではない!」

 

「支配者は生まれ持った資質よ。貴方如きではなれないわ―――きゃっ!」

 

 図星を突かれたのか、社長は怒りセイナに手を上げる。

 

「黙れっ!お前のような小娘に支配の何たるかが分かるか!」

 

「セイナ!テメェ、黙って聞いてれば支配だの利用だのふざけたこと言いやがって……!」

 

「チッ!おい!そこの小娘も黙らせておけ!」

 

 社長がそう言うと、SP達はオレが動けない事をいいことに、暴行を加えてくる。

 

「……っ!やめなさい!その子には手を出さないでって言ったわよね!」

 

「ふん、何かと思えばどうして人形の言う事を聞かねばならんのだ?」

 

「……その子はアカツキの関係者よ。まさか、支配者を自称する男が。アカツキの関係者に手を出した者の末路を知らないわけではないでしょう?」

 

「な、なんだと……?」

 

 セイナの言葉で、オレへの暴行がピタリと止む。……アカツキ?何の話だ?見れば、オレに暴行を加えていたSPが酷く怯えていた。

 

「バ、バカな……何故アカツキの関係者がこんな所に」

 

「さぁね、でも私と似ている時点で気付くべきだったわね。貴方、無事に朝を迎えられるかしら?」

 

「……っ!ふ、ふん、奴らとて他家への干渉は容易では無いはずだ。おい、ヘリの用意は!」

 

「す、既に完了しております」

 

「ククッ、本家に向かってしまえばこちらのものだ。セイナ、さっさとついてこい!お前達は、そこの小娘を拘束して部屋に閉じ込めておけ!」

 

 社長に従い、付いて行こうとするセイナ。

 

「待てよ、セイナ……!お前、ホントにそれでいいのかよ……!たとえ、どんな家に生まれたとしても、その通りに生きなきゃいけない道理なんて無いだろうがっ!子供の願いを、大人が踏みにじっていいわけ無いだろっ!」

 

「……私ね、ずっと貴女が羨ましかった。貴女は私と同じだったのに、貴女は自由を手に入れた。それが羨ましくて、妬ましくて、貴女に八つ当たりみたいに憎まれ口を叩いてた。それなのに、貴女はそんなの気にすらしてない態度で私と接して、貴女って本当のバカよ。……いや、バカだったのは私か。だから、私がこんな結末を迎えるのは必然だったのかもね。ありもしない自由を望んで、結局籠の鳥。これが、私の運命。貴女との時間、短い間だったけど楽しかった―――さようなら」

 

「待っ―――」

 

 それだけを言い残すと、セイナは扉の向こうへ消えて行き、扉が閉まり鍵が掛かる音がした。オレをこの部屋に閉じ込めておく気か。

 

「……っざけんな」

 

 床には黒い跡が、残されていた。

 

「ざけんなよ、泣くくらいなら、最初から……!」

 

『貴女と私、何が違うのかしらね』

 

 あの言葉は、そういう意味かよ。あの時、思考能力を強化するとかいう力で会話してたのか。その時に、思考の合間にふと漏れた言葉。

 

「違うだろ、何もかも。当たり前だ、お前とオレは他人なんだから」

 

 皮肉屋で、憎まれ口ばかり叩いて、意外と食いしん坊で、何もかも諦めたような顔で出て行ったくせに、未練タラタラなのが丸わかりで、泣き虫で、弱虫で、虚勢を張って。……あぁ、そうか同じだったのかオレとアイツは。アイツは、オレだった。昔のオレだったんだ。だったら―――。

 

「―――助けに行くしか、ねぇだろ……!!」

 

 オレは、体に力を入れると、押さえつけているSPごと体を持ち上げようとする。

 

「なっ!コイツ、急に力が……!?」

 

「は、早く押さえろ!」

 

「うるせぇ!!邪魔だ!!さっさとどけぇ!!」

 

「―――ひっ」

 

 オレの勢いに圧されたのか、拘束が緩んだ隙にSP達を振り払い立ち上がる。

 

「ぐっぉおおおっ!!」

 

 そのまま、自分を拘束してるロープを引き千切る。

 

「くっ、早く取り押さえろ!」

 

 向かってくる、SP達にオレは拳を構えて応戦する。

 

 

 

 ―――ガチャ、ガチャガチャッ。ガチャガチャガチャガチャ―――ドゴォッ!!

 

「チッ、時間を食った!最初から扉壊した方が早かったな」

 

 屋上に向かうエレベーターは……動かないか。仕方ない、階段で急いで向かおう。

 

 階段を駆け上がり、屋上への扉を蹴破る。

 

「……ッ遅かったか」

 

 しかし、ヘリは既に空高く飛んでしまっていた。―――間に合わなかった。これで、終わり……?

 

「―――まだだッ!!」

 

 オレは絶対に諦めない!まだ、アイツに言ってない事があるんだ。それを言うまでは絶対にッ!!

 

 オレは神秘をフル稼働させ、全身に力を纏う。そのまま、一歩踏み込み―――音速を超える。二歩、足に力を溜め―――空高く跳んだ。その際、衝撃で屋上に巨大なクレーターが出来て、下の階のガラスがバリン!バリン!バリン!と割れる音がしたが、構わないだろう。

 

 急激に変わる景色を横目に、オレは段々と近づくヘリに手を伸ばす。

 

「―――届けぇぇえええッッ!!」

 

 

 

「―――ククッ、ここまで来れば、追ってはこれまい」

 

 外の景色を眺めそうつぶやく社長。セイナは、俯きながらミサの無事を祈っていた。自身の何もかもを捨て、自由になった少女を。

 

(これで、良かったのよね……?)

 

 最初から、全てを捨てきれなかった自分が、ミサと同じになれるはずがなかった。そんな自分がミサに嫉妬なんて、醜いにもほどがあるだろう。彼女は相応の代償を支払ったというのに。

 

(私には、これがお似合いってわけね。これからの一生を、ただ使われるだけの人生が)

 

 人形として、その知識を使われるだけの人生。利用されてることに気付かなかった、自分にはお似合いの結末だろう。思い返せば、人生で一番楽しかった瞬間は、ミサと一緒に居た時間だった。たった、数時間の逃避行。

 

(滅茶苦茶で、こちらの言葉にバカなことを言って返して、体を張って私を守ってくれて―――あぁ、私あの時のお礼も言えてない……)

 

 考えなければいいのに、長年染みついた思考する癖がセイナを責め立てるように、次から次へとミサへの思いが溢れてくる。思考が止まらない。気が付けば、また涙が流れていた。

 

(もう忘れなければ、あれは夢だった。ありもしない夢を見ていた、全ては泡沫の夢だったのよ)

 

 ―――瞬間、ヘリが大きく揺れた。

 

「な、なんだ!?おい、何があった!?」

 

 社長が慌てた様子でヘリを操縦している、カイザーのパイロットに詰め寄るが、パイロットは青褪めた様子でしきりに「バカな、ありえない……」と呟いていた。

 

 その様子に社長も"まさか"の可能性を察して、顔を青褪めさせる。

 

(うそ、ウソ、嘘、嘘よ。そんなことあるわけない。だって、あれは夢で。私は救われなくて。だから、だから―――)

 

 ヘリのドアが、けたたましい音を立て吹き飛び、その先に居たカイザーの兵士を圧し潰す。

 

(―――だったらどうして、貴女はそこに立っているの)

 

 夜が明ける。朝焼けの空が夜を塗り潰していく。明けの光を浴びながら、燐光を纏ったミサがそこに立っている。空には、一番星が輝いていた。

 

「―――諦めるなッ!!」

 

「っ!?」

 

「やりたいことを探すんだろッ!!外の世界を知りたいんだろッ!!だったら―――『それでも』と手を伸ばし続けろッッッ!!!!」

 

―――やめてよ

 

―――やっと諦められると思ったのに

 

―――力を使った貴女にそんなこと言われたら

 

―――私は、私は……!『それでも』……!

 

(思ってはいけないのに、願ってしまう。私がこんな願いを抱いて良いの?)

 

 ミサの目は真っ直ぐに、セイナを射抜いていた。彼女はずっと真っ直ぐに接してくれていた。だったら今回も。そう思ったら、体は勝手に動いていた。きっと、自由になれば今みたいな暮らしは出来ないかもしれない。苦しい事も辛い事もあるだろう。

 

「―――私は、それでも自由になりたいッ!!」

 

 セイナはその手をミサに伸ばした。

 

「はっ、な、何をしている!奴を撃て!!」

 

 社長が我に返り、慌ててカイザーの兵士に命令する。カイザーの兵士は銃を構えミサに向かって撃つが、それより早く、ミサはセイナの手を掴み自身の方へ引き寄せると、その勢いのまま空中へ身を躍らせる。

 

「なぁっ!?」

 

 セイナはミサと共に落ちながら、このまま一緒に死ぬのも悪くないかな。なんてことを考えていた。

 

「ねぇ、すごい勢いで落ちてるけど大丈夫?」

 

「うるさいバカッ!口閉じてろ!舌噛むぞッ!」

 

「バ、バカ!?」

 

 ミサは、羽を大きく広げ飛ぶ。それは飛行というより滑空だったが、速度を落としながら地上に向かうのに都合が良かった。そのまま、近くのビルに向かって飛び、靴でブレーキ掛けながらビルの屋上を滑って着地する。かなりの速度が出ていたからか、滑った後が摩擦で焼けていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「い、生きてる……?」

 

「はぁ、靴もおじゃんになっちまった」

 

 ミサの靴は、摩擦熱でゴムが溶けボロボロになっていた。あんな速度で無理矢理靴でブレーキを掛けたのだから、当然の結果と言えるだろう。

 

「あ、貴女さっきの私の事バカって―――痛い!なんでデコピンするのよ!?」

 

「……なんでだと思う」

 

 ミサの真っ直ぐな銀の目が、セイナを見つめていた。

 

「うっ……さっきは見捨ててごめん」

 

「違う」

 

「違うの!?」

 

「あれは、勝手に諦めた分。で、これは泣くくらい未練ある癖に素直に言わなかった分。これは、すぐ憎まれ口を叩く分。これは―――」

 

「―――痛い!痛い!痛い!分かったから!ごめんなさい!謝るからやめて!」

 

 ミサは溜息を吐くと、立ち上がり周囲を見渡す。どうやらあの会社の近くのビルに下りたみたいだ。

 

「―――オレとお前に、何も違いなんて無かったんだ。ホントは弱虫で泣き虫で、そのくせそれを他人に知られたくなくて、虚勢を張って無茶をして。それでも、オレとお前に違いがあるなら、生まれでも、育った環境でもない。きっと、それは―――」

 

 その時、ミサ達の頭上に影が落ちる。そこには社長のヘリが飛んでいた。

 

『逃がさん、逃がさんぞッ!私の人形になることがお前の運命なのだ!!』

 

「……しつこいな」

 

 ミサはセイナを無理矢理後ろへ下がらせる。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「下がってろ。決着をつけてやるよ。運命なんて―――オレがぶっ飛ばしてやるッ!!」

 

 ミサは重機関銃を構えると、ヘリの前に立ち塞がる。

 

『ククッ、バカめ!身の程知らずが、このヘリは最新式の軍用戦闘ヘリだ。貴様如きが墜とせるものでは無い!』

 

「悪いな、むしろオレの愛銃の本来の使い方なんだ。バカはどっちだったか、直ぐに分かるだろうよ!」

 

 ヘリは飛び回りながら、機銃をミサに向け掃射する。ミサはそれを回避しながら、的確にヘリに銃弾を撃ち込んでいく。

 

『くっ、ちょこまかと!おい、アレを使え!』

 

 ヘリの側面がせり出し、そこからミサイルが放たれる。狭い屋上だ。逃げ場はない。屋上が爆炎に包まれる。

 

「きゃあっ!?」

 

『ハーッハッハッハッ!見たか!これが最新式軍用ヘリの力だ!』

 

 しかし、煙が晴れるとそこには無傷のミサの姿が。

 

『バ、バカな……』

 

 ミサは爆風をシールドで受けたおかげで、ピンピンとしていた。避けるなり、撃ち落とすなり出来たのだが、後ろにセイナが居たので全てシールドで受けることにしたのだ。おかげでシールドはボロボロだが。

 

 ミサは、ミサイルボックスが仕舞われる前にそこに銃を撃ち爆発させる。

 

『バカな、バカな~~~ッ!』

 

「最新式の割に、大して自慢にもならない強さだな」

 

 すでにヘリの至る所から煙を吹いていて、墜ちるのも時間の問題だろう。

 

『お、おのれぇ……!なぜ、なぜだ!?栄光はすぐそこなのに!私が支配者になれるはずだったのに!』

 

「おじさん……」

 

「支配者?栄光?女の子を犠牲にする未来にそんなものあるわけ無いだろうがッ!」

 

『ぐぅぅぅぅぅぅッ……!?』

 

 ミサはヘリに向かって飛び上がり、拳を振り上げる。

 

「これで終わりだ!そんなに栄光が欲しけりゃ、テメェがその礎になりやがれッ!!」

 

『あ……あ……!?』

 

 ミサがヘリに拳を叩きつけた。ヘリはその衝撃で装甲を凹ませながら飛んで行き―――会社の壁へ叩きつけられた。ミサは着地すると、ふんと鼻を鳴らす。

 

「これで、少しはマシな会社に見えるだろうよ」

 

 

 

 ビルから降りると、そこには一台の車が停まっていた。

 

「お嬢様、ご当主様の命により、お迎えに上がりました」

 

 オレが文句言おうと前に出ようとすると、セイナに手で制される。

 

「分かったわ、でもちょっとだけ時間を頂戴」

 

 セイナがそう言うと、SPは頭を下げて後ろに下がる。

 

「……いいのか?」

 

「ええ、色々考えてみて出した答えだから」

 

「そうか……」

 

「でも、これは囚われるために戻るんじゃないわ。自由になるために戻るの」

 

「……そうか」

 

 色々な事があった夜だけど、それがセイナの答えの助けになれたなら、こんなに嬉しいことは無い。

 

「……貴女には、色々とお世話になっちゃったわね。迷惑も沢山掛けちゃったし」

 

「別に、気にしてねえよ。……また会えるのか?」

 

「会えるわよ、きっと。……ありがとう、貴女に会えなかったら私はこの結末に辿り着けなかった」

 

「そう思って貰えたなら、助けた甲斐があるってもんだ、お嬢様?」

 

「ぷっ、お互い似合わない事言ってるわね」

 

「自覚してるよ」

 

 そう言ってオレとセイナは笑い合った。

 

「そろそろ、行かなきゃ」

 

「ああ」

 

「そうだ、さっき屋上で言い掛けた事って何だったの?私と貴女の違いって奴」

 

「あぁ、それは―――いや、それは次に会った時のお楽しみに取っておくか」

 

「そう、それは再会が楽しみね―――またね、ミサ(・・)

 

「―――。ああ、またな、セイナ」

 

 セイナが車に乗り込むと、間も無く発進し、オレは見えなくなるまで見送った。

 

「……オレとセイナの違い、か」

 

 きっと、それは"導く者"の違い。オレはシエルさんやミカといった人達に導かれ、支えられてきた。それは、今オレがこの地に立って居ることがその証明だ。セイナにも、傍に居て、支え、導いてくれる者がいたなら……いや、今のセイナなら大丈夫だろう。

 

「―――んあーっ、と疲れたー。長い夜だったなぁ。朝になっちまったし、この後どうしよ……あ、ミカから連絡だ『今どこ?帰って来て』どこって、商業区のどっかかな……。まぁ、ミカのお許しが出たし、一旦帰るかー」

 

 制服ボロボロになっちゃったなぁ、またミカに怒られちゃう。

 

「―――あー、ミサさん。ちょっといいですか?」

 

 振り返ると、ユイノと委員会の制服を着た生徒が数人、オレを取り囲んでいた。

 

「ユイノ?どうしたんだ?」

 

「昨夜起こった街中の爆発事件について、心当たりありますよね?」

 

「あー……」

 

 そういえば、派手に暴れまわったからな。人にもバッチリ見られてたし。あれ?これミカにバレたらやばいのでは?ど、どうにかユイノに口止めを……。

 

 そんなことを考えながら、オレは《正義実現委員会》に連行されていった。

 

 

 

 

 

 

「―――てなかんじ」

 

 ミカはミサのほっぺを全力で引っ張る。

 

「いひゃい!いひゃい!」

 

「なんで、そんな危ないことしたの!」

 

「ひ、人助けだから!」

 

「もっと周りの人を頼りなさい!」

 

「ぴー!」

 

 ミカにほっぺを伸ばされて暴れるミサの横で、ナギサは項垂れていた。

 

「あ、これ。その街中での銃撃戦を撮影した動画になります。勇気ありますねー」

 

 そう言って、ユイノが差し出した端末には大暴れするミサがバッチリ映っていた。

 

『うわぁ……』

 

『ひぇ……』

 

『これが撲殺天使ちゃんの本気ですか』

 

『これじゃあ、撲殺天使じゃなくて破壊天使だよぉ!』

 

『これが人間のやる事か?』

 

『人間じゃなくて天使だからセーフ』

 

『戦車の砲弾って殴れるものなんです?』

 

 動画内には大量のコメントが流れており、いずれもあまりの暴れっぷりにドン引きしていた。しかし、ミサがもう一人の女の子を守るように立ち回ってるのを見て、称賛する者も多かった。

 

「わぁい、有名人―――いたい!?」

 

「喜んじゃダメでしょ」

 

「また、悪名が轟きそうですね……」

 

 ナギサはその事を思うと既に頭痛がし始めていた。そんなナギサに追い撃ちを掛けるように、連絡が入ってくる。

 

「―――え!?ミサさんの罪を不問に!?」

 

「は、はい。皇グループからの正式な抗議文で、従わないなら学園への支援を打ち切ると」

 

「スメラギ……」

 

 ナギサとしては願ったり叶ったりだが、一体どういう事だろう。まさか、動画に映ってるもう一人の少女と何か関係が?

 

「それと、今回の件に関する調査を全て打ち切れ、とのことです……」

 

「……関わるな、という事ですか。遠回しな警告文ですねこれは」

 

 理由はどうあれ、従うほかないだろう。

 

「ナギちゃん!」

 

「どうしました、ミカさん?」

 

「ちょっと《勉強部屋》借りるね?」

 

「―――え!?」

 

 ミカの言葉に驚いたのはミサだった。ナギサは、頭を抱えながら、しかし力になると言った手前断りづらい。

 

「……えぇ、どうぞ。上には私から報告しておきます」

 

「ありがとう!」

 

 どちらにしろ、一度ミサをこの場から遠ざけておいた方がいいだろう、と思い許可を出した。申請を出せば、あっさり通った。

 

「ミ、ミカ?あのね違うの。ホントにアレは不可抗力で、ああしなかったら逆に危なくて―――ミ、ミカぁぁ~~~!」

 

 そのままズルズルと、ミサは引き摺られていった。それを見届けると、ナギサは事後処理に入った。

 

 

 

 

 

 

「―――どうやら、終わったみたいです」

 

「そう……」

 

 どこかの庭園。盲目の少女は、イスに座るこの庭園の主に微笑みかける。ピンクの髪にドレスを纏った女性。どこか、ミサに似た雰囲気を持つ女性はカップを傾け紅茶を飲む。

 

「だから言ったではありませんか。彼女なら大丈夫だと」

 

「……その言い方だと、まるで私があの子の事を心配してたみたいじゃない」

 

「違うんですか?」

 

「……」

 

 女性は、プイっと顔を背けながら扇で口元を隠す。その様子に、盲目の少女はクスリと笑みを零す。本当にこの親子は分かりやすい。

 

「それと、例の会社についてですけど、皇の方から回答を頂きました。『好きにしても良い』とのことです。いかがなさいますか?」

 

「……カイザーと繋がった会社は要らない。潰しなさい。徹底的に」

 

「仰せのままに」

 

 

 




光園ミサ
メスモードに入ってないと、魅力カンストのただのイケメン女子。この日を境に《トリニティの破壊天使》の異名が他学区にも知られ始める。なんか小説のネルパイセンが音速で動けるらしいから、じゃあミサも出来るかってなった。やった。今回、本気一歩手前まで行った。でもまだレーザーが残ってるの。散々暴れた癖に、まだ上があるってマ?

す…知床セイナ
ミサのそっくりさん。モチーフになった天使はハニエル。セイナを"導く者"になったのはミサ。なお、本人は無自覚の模様。大量の伏線をバラ撒いて、再会の約束をして別れた。あれ?メインヒロインかな。

聖園ミカ
あまりにも出番がないメインヒロイン()。なんだったら、しばらくメインの回はない。


今回の話で、ミサ周りの伏線は殆ど張れたかな?解答編はエデン条約編以降になるだろうけど。


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蒼森ミネの話

感想いつもありがとうございます!

今日は早めの更新。

ふふふ、ハフバ前に石が二天分出来た。とりあえず、フェス限キャラは取るのと、そろそろ全知さんください。カジキシロコはスルーで、ハフバで引けたらいいなぐらい。やっぱり、全知さんのバフ+コスト回復が唯一無二過ぎる。


 

「―――光園ミサ、覚悟ッ!」

 

 中等部3年になって、しばらく経ったある日。ミカと登校していると、そんな声と共に、頭上に影が落ちる。すぐそこに盾が迫っているのが見えたオレは、咄嗟に足を振り上げて盾を弾いた。

 

「くっ、防がれましたか」

 

「こんな朝っぱらから、命を狙われる覚えは無いんだけど?」

 

 いつでも撃てるように、重機関銃の引き金に手を掛けながら襲撃者に問い掛ける。

 

「何をとぼけたことを、貴女が不良達を束ねクーデターを目論んでるのは、既に暴かれていますよ!」

 

「はぁ?」

 

 何言ってるんだこいつは。呆れた目で見ていると、オレの後ろからミカが出てくる。

 

「あれ?貴女、ミネちゃんだよね?何してるの?」

 

「知り合い?」

 

「同じクラスだよ……」

 

 オレがそんなの覚えてるわけないじゃん。でも、ブルーアーカイブにそんなキャラいたような気がする。原作の話もほとんど思い出せないし、なんか事件が起きたような気がするけど、なんだっけ。最初の頃にメモ取っておけばよかったな。まさか、こんなに記憶が摩耗して思い出せなくなるとは思わなかった。

 

「聖園ミカ、まさか貴女まで悪に堕ちてしまうとは!」

 

「そんなわけないでしょ」

 

 ミカも呆れた目でミネを見ている。

 

「大体、誰がそんなこと言ったの」

 

「ふっ、そんなこと貴女の部下の不良が言っていたからに決まっているでしょう!」

 

 ビシィッとオレに指を差しながら、ミネは自信満々にそう言った。

 

「えぇ……」

 

「ミネちゃん、普通に騙されてるよそれ」

 

 ミカがそう言うと、ミネはピタッと動きが止まる。

 

「わ、私を騙そうたってそうは」

 

「いや、もう騙されてるんだって。なんだったらミサちゃんの潔白を証明しようか?ナギちゃんに聞いてもいいし、《正義実現委員会》の知り合いに聞いてもいいよ」

 

「む、では連絡させて貰っても?」

 

「はい、どうぞ」

 

 そして、ミネは暫くスマホを耳に当て誰かと話す。何度か電話を掛け、終わると盾を地面に突き刺し。

 

「―――この度は、私の早とちりでご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでしたっ!!」

 

 と、勢いよく頭を下げて、謝罪された。

 

「まぁ、私もミカもケガ無かったしいいよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ところで、ミネちゃんにそんなこと吹き込んだ不良はどうしたの?」

 

 ミカが嘘を吹き込んだ不良について聞くと、ミネは言い辛そうに口ごもる。

 

「それが……クーデターの事を聞いたときに動揺してしまい、隙を突かれて逃げられてしまいました……。要救護対象もいたので、追うことも出来ず。私の失態です、本当に申し訳ない事をしました」

 

「ふぅん?逃げられたんだ。まぁ、このことは騎士団に抗議しとくからね」

 

「ミカ、別にそこまでしなくても」

 

「ダメだよミサちゃん。こういうのはちゃんとしとかないと」

 

「……いいえ、ミカの言う通りですね。潔く、罰を受け入れましょう」

 

 それだけ言うと、ミネはトボトボと帰って行った。

 

「……ミカ、もしかしなくても怒ってる?」

 

「そりゃ、怒るに決まってるじゃん。むしろ、なんでミサちゃんが怒らないの」

 

「急に襲われるのも、名前を騙られるのも慣れてるから、かなぁ」

 

 というのも、オレの名前を使って悪さをする奴が出るのは、今回が初めてではない。名前が売れてしまった弊害ではあるが、幸いナギサや委員会がオレのアリバイを証明してくれるため、そこまで大事に考えてなかった。

 

「それは慣れたらダメだと思うよ……」

 

「はは、まぁでも今回はちょっと悪質だね。私の名前で悪い事するのはいたけど、クーデターは洒落にならないなぁ」

 

 こっちが大人しくしてると、どんどんエスカレートしていくな。そろそろ、自分で動いておかなきゃダメか?

 

「ミサちゃん、なにかいけない事考えてるでしょ?」

 

「え!?い、いやーそんなことは」

 

 ミカに睨まれながら、オレ達は学園に着いた。

 

 

 

「そういえば、思い出したんだけどミネちゃんって《ティーパーティー》の誘いを断って、《救護騎士団》に入ったんだよね」

 

「《救護騎士団》……昔、ケガしたときにお世話になったきりだなー」

 

 確か、救急隊員的な活動してる部活だったか。黒野サユリに負わされたケガの治療でお世話になったとき以来か。

 

「ただ、ミネちゃんってああいう性格だからよく問題になってて……」

 

「ふーん?なんかそこはかとなくシンパシーを感じる」

 

「感じないで。ただまぁ、救護に対する熱量はすごいらしくて、ミネちゃんに助けられたって人も多いみたい」

 

「へー」

 

 なんて話を授業中、BDを見ながら話していた。

 

「まぁ、その行き過ぎた救護が問題になってるんだけど」

 

「なにかあったの?」

 

「《救護騎士団》って、戦闘に介入して負傷してる人を救護するのが仕事なんだけど、ミネちゃんが救護中に戦闘に割り入って救護対象を増やしちゃうらしくて」

 

「……なるほど?」

 

 それってマッチポンプでは?まぁでも、騎士団って救護中に撃たれることもあるらしいから、自衛手段の一つではあるのか?

 

「そういう経緯もあって、ミネちゃん結構上からも睨まれてるらしいの」

 

「ますますシンパシーが……。でも、ミネって悪い奴じゃないと思うんだよね。そりゃ、行き過ぎたこともあるけど、それだけ救護に真剣ってことだろうし。間違ってれば、ちゃんとすぐに謝罪して貰えたしね?」

 

「ミサちゃん……」

 

「そういうわけだからさ、ミカ。放課後ちょっと手伝って欲しいんだけど……」

 

「……はぁ、ミサちゃんお人好しすぎるよ」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ」

 

 そして、オレとミカは放課後になって、街へ繰り出すことにした。

 

 

 

「どう、ミサちゃん?」

 

「うーん……たぶんここじゃないね」

 

 オレとミカは、まずはビル街にやってきた。というのも、この辺に不良がたむろってることが多いからだ。

 

「そういうの分かるんだ?」

 

「まぁ、昔不良狩りとかしてたしね。不良って割と活動範囲決まってるんだよ。だから、見覚え無いのいたらすぐ分かると思う」

 

 普段から街をうろうろしてたおかげだな。

 

「そういうわけだから……ねぇ、ちょっと聞きたいことあるんだけど、いい?」

 

「はぁ?なんでアタシらに……ってミミミミサさん!?」

 

 ビル陰で座り込んでる集団に話し掛けに行くと、すごい慌て出した。どうやら、オレの事を知ってる不良に当たったらしい。

 

「私のこと知ってるんだ。なら、話は早いね。最近、私の名前使って暴れてるのいるらしいじゃん?知ってることがあれば教えてくれない?」

 

「え、えーっと、そんなこと言われても……」

 

 不良達は互いに目配せしながら、困惑する。煮え切らない態度にしびれを切らしたオレは拳を構える。

 

「さっさと話さないと、こう!」

 

 ドゴッ!と壁にヒビが入る。

 

「だぞ♪」

 

「ひぃぃぃっ!?」

 

「し、知らない!ホントに知らないんですぅ!?」

 

「さ、最近この辺りに現れて荒らし回ってるから、アタシらも迷惑してるんです!」

 

「ふーん?ってことは、この辺りの不良じゃないんだ」

 

 不良達は何度も首を縦に振っていた。

 

「なるほど、ありがとね。良い情報だった」

 

 オレはお礼を言うと、その場を離れた。

 

「結局、この辺にはいないってこと?」

 

「まぁ、そうだね」

 

「じゃあ、無駄足だったの?」

 

「いや、この辺にはいないって言う有力な情報だよ」

 

「どういうこと?」

 

「ふふ、まぁそれはもう一つの方に行けば分かるよ」

 

 たぶん、もう一つの方にもいないなら……。オレはミカを促し、住宅街の方へと向かった。

 

 

 

「住宅街?この辺って不良少なそうだけど、ここでも情報収集?」

 

「まぁ、それもあるけど―――」

 

 住宅街に着いたオレ達は、ここに来た目的を話そうとした瞬間、大きな爆発音が辺りに響いた。

 

「ミサちゃん!」

 

「うん、当たりを引いたね」

 

 爆発は今いる所からそう遠くない所で起きたみたいで、大きな煙を吹いてるのが見えた。オレとミカは急いで現場に駆け付けると、爆発現場から慌てた様子で出て行く不良達がいたので、すかさず写真に収める。

 

「ミサちゃん、何してるの早く!」

 

「うん、分かってる」

 

 スマホを仕舞うと、ミカを追って爆発現場に入る。

 

「これは……」

 

 木造2階建てのアパートが、真ん中あたりから吹き飛んでいて、ガスか何かに引火したのか激しく燃えていた。

 

「ひどい……」

 

 近くに住民らしき人達が倒れていたので、近寄って脈拍を確認していく。

 

「ふぅ、どうやら生きてはいるみたいだ。でも煙を多く吸ったなら、早めに治療しないと危ないかもしれない」

 

「ミサちゃん!委員会と騎士団に連絡しておいたよ!」

 

「ナイスミカ」

 

「うぅ……!」

 

 すると、倒れていた一人が意識を取り戻す。

 

「だ、誰か……」

 

「大丈夫ですか?ここに水があるのでゆっくり飲んでください」

 

「うっ、俺っちはいい。それよりまだ中に人が……。盾を持ったねーちゃんが入って……うぅ!」

 

「盾を持ったねーちゃんってもしかして」

 

「―――ッ!ミカ!ここは任せる!」

 

「ミサちゃん!?」

 

 オレは、倒れている人の介抱をミカに任せ、未だ燃え盛るアパートに飛び込んだ。

 

 

 

「……ッ中は酷い有様だな」

 

 木造だからか、至る所に火が移って、中は文字通り火の海と化していた。

 

「……!……!?」

 

「っ!奥から声が」

 

 火を避けながら、急いで奥の部屋に向かうと、そこにはミネと女の子がいた。どうやら、女の子が家具に挟まれて動けないみたいだ。

 

「待っててください!すぐに救護します!」

 

 オレはそれを見てミネに声を掛けようとした時だった。ミネの頭上からバキバキと嫌な音が響く。

 

「おねーちゃん!上!」

 

「―――ハッ!?」

 

 次の瞬間、天井が崩れミネは咄嗟に女の子に覆い被さる。オレは跳躍し拳を振り上げた。

 

「オラァッ!!」

 

 崩れた天井から落ちて来たものをまとめて粉々に砕く。

 

「あ、貴女はミサ?」

 

「話は後だ!また崩れる前に助け出すぞ!」

 

「は、はい!」

 

 女の子がケガしないように、家具をどけた後ミネに女の子を預け部屋の外に出る。

 

「……道が」

 

 先程の天井崩落の時だろう。どうやら一緒に崩れてしまったらしい。火の手の周りも早くなり煙も多くなってきた。これ以上はオレとミネが大丈夫でも、女の子が持たないかもしれない。

 

「……下がってろ」

 

「何をするつもりですか」

 

「決まってるだろ。道が無いなら作るだけだッ!」

 

 

 

 ―――ドガァッ!!

 

「げほ、ミネ!早くしろ!」

 

「分かっています!」

 

 塞がった道を殴って吹き飛ばし、外へ出る。外にはミカ達が心配そうな顔で待っていた。

 

「ミサちゃん!」

 

「おまたせ」

 

 周りを見ると、委員会と騎士団が到着していて対応に当たっていた。

 

「ミネ、また独断専行して……あとで話は聞かせて貰うからな。でも、よくやった」

 

「先輩……はい」

 

 ミネは保護した女の子を、騎士団に預けていた。

 

「おねーちゃんたち、たすけてくれてありがとう!」

 

「ああ、どういたしまして」

 

「救護は私の仕事ですから」

 

 ミネは照れてるのか、そっぽを向きながらそう言った。

 

「もう、ミサちゃんまた危ない事をして……」

 

「ご、ごめんって」

 

 ぷりぷりと怒るミカをなんとか宥めていると、治療を受けていた住民がこちらに歩いてきた。

 

「あんた、ミサって光園ミサか?」

 

「そうだけど……」

 

「やっぱり!あんたがアイツらの親玉なんだな!?あんたのせいでこっちは散々だ!どうしてくれるんだ!」

 

「ちょ、ストップストップ!落ち着いてください。まだそうと決まったわけじゃ」

 

 騒ぎを聞いて、委員会で来ていたのかユイノが慌てて仲裁に入る。

 

「これが落ち着いていられるか!あの不良共が言ったんだ!『光園ミサに命令された』ってな!」

 

「それは、最近彼女の名前を騙って活動してる不良がいるみたいで」

 

「ふん!こいつの名前を騙るほどなんだから、こいつも余程の悪党なんだろ!さっさとこいつを捕まえろ!」

 

「なっ!あんたにミサちゃんの何が」

 

 怒って住民に掴みかかろうとしたミカを、手で制して止めて前に出て頭を下げる。

 

「ミサちゃん……?」

 

「私のせいでこのようなことになってしまい、申し訳ありませんでした」

 

「ミサちゃん……」

 

「ミサさん……」

 

「う……そ……わ、分かればいいんだ。分かれば」

 

「もういいですか?貴方はまだ治療中なので戻ってください」

 

 騎士団の人が、住民の人を連れて行き治療に戻らせる。

 

「……どうして?ミサちゃんは何も悪くないのに……」

 

「いや、私が悪いよ。私がもっと早くに動いていれば、あの人たちはこうならずに済んだかもしれないんだから。ここまでするとは思わなかった、なんてただの言い訳でしかない」

 

「ミサ、そのことで私からも話したいことがあります」

 

「ミネ……」

 

 ミネがオレに近づくと頭を下げた。

 

「まずは先程、助けて頂きありがとうございます」

 

「いやいいよ、オ……私も間に合って良かった。そういえば、ミネは一人でここに来て何を?」

 

「……実は、朝の事でミサに申し訳なく思い、汚名を雪ぐため一人であの不良達を探していたのです。幸い、見つけることが出来たのですが、爆弾を仕掛けられこの様です……朝に彼女達を救護できていればこのような事には、申し訳ありません」

 

「……ミネの言う不良って、こいつらで間違いない?」

 

 そう言ってオレは、スマホでさっき撮った写真を見せる。

 

「は、はい。間違いありません」

 

「ミサちゃん、こいつらって現場から慌てて逃げてた」

 

「うん、掴んだね」

 

「ミサちゃん、どうするの?」

 

「私の名前を使って、ここまでの事をされて黙ってるわけには行かない。―――潰す」

 

 オレが怒りを露わにすると、誰かがゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

「なら、その話私も噛ませて貰いますね」

 

 そう言いだしたのはユイノだった。

 

「いいの?」

 

「はい、委員長にはもう許可を貰っています。下手人を見つけた時、委員会との連絡役が居た方が便利でしょう?」

 

「……自分の売り込み方が上手いな」

 

「誉め言葉として受け取っておきますね」

 

 ユイノはそう言って笑っていた。こういうとき、ユイノが居てくれるのはありがたいな。

 

「あの、私も同行してもいいでしょうか」

 

 ミネは、遠慮がちに口を開いて言う。

 

「……ねぇ、ミネはどうして救護騎士団に入ったの?」

 

「え?それは……『救護が必要な場に救護を』、その騎士団のモットーに共感し、私もそうありたいと思ったからです」

 

「そう……私達はこれから、今回の犯人達をとっちめに行くけど、それって救護とは正反対の事だと思うんだけど」

 

「……いえ、私にとって『救護』とは傷付いたものだけではありません。道を外し誤った者を正すことも、私の『救護』です!なので、私も連れて行ってください!」

 

 その言葉からは、ミネの覚悟が伝わってきた。彼女なら大丈夫だろう。

 

「うん、分かった。いいよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「……救護って何なんでしょうね」

 

「うーん、なんだろうね」

 

 話はまとまり、オレ達は早速犯人探しに出ることにする。

 

「でも、どうやって探すの?また情報収集?」

 

 ミカは当然の疑問を口にする。

 

「そうだね、多分だけどあの不良達はこの辺りの不良じゃないと思う。だから、この辺りの不良から話を聞くのと、もう一つ」

 

「もう一つ?」

 

「うん、そっちはもうちょっと時間掛かるから、先に不良に当たろうか」

 

 そう言って、オレ達は移動を開始する。委員会の生徒と騎士団の生徒を連れ歩いてるからか、注目度が半端ない。

 

「すごい見られてますね」

 

「まぁ、現場で一緒になることはあっても、こうして一緒に歩くことはありませんからね」

 

「目立ってるけど大丈夫かな、ミサちゃん」

 

「うーん、ギリギリ?」

 

 そんな話をしていると、ようやく不良を見つけた。が、こちらを見ると驚いて逃げようとする。オレは、一瞬だけ神秘の力を使い、音を超えると不良の目の前に移動し足を突き出す。

 

「ひっ!?うわぁぁぁ!?」

 

「ミサちゃん!ステイ!」

 

「逃げないように止めただけだから……」

 

 オレは驚いて腰を抜かす不良にスマホの写真を見せる。

 

「こいつらについて、知ってることがあったら全部吐け」

 

「ひぃぃぃっ!?……ってこいつら自然公園の」

 

「知ってるのか?」

 

「え、ああ。こいつら最近あそこでたむろってる連中だよ。そのくせ、こっちまできて荒らしてるもんだから、リーダーともどうするか話してたんだ」

 

「……なるほどな。なら、帰ってリーダーに伝えておいてくれ、こいつら最近オレの名前を使って悪さしてるからオレが直接ぶっ潰すから邪魔すんな、ってな」

 

「わ、わかった……ん?名前?ももももしかして、アンタ光園ミサぁ!?」

 

 不良はオレの名前を言って急に怯え始めた。

 

「そうだけど、あれ?オレを見て逃げようとしたんじゃないのか?」

 

「たぶん、委員会と騎士団見て逃げようとしたんじゃないかな、ミサちゃん?」

 

 ミカがオレの肩に手を置くと、ミシリと軋んだ音と痛みが伝わってくる。

 

「あ」

 

「どうしたの、ミ・サ・ちゃ・ん?」

 

「い、いえ……」

 

 肩がミシミシと音を立てているのを聞きながら、うっかり男口調で話していたので、ミカからの圧がすごい。

 

「ミサさん、大丈夫ですか?汗がすごいようですが」

 

「ハッ!ミサ、もしかして救護が必要なのですか!?」

 

「ああ!うん!大丈夫!」

 

「でも、自然公園広いけど、どうやって見つけるの?」

 

「ああ、それは―――」

 

 ちょうどいいタイミングで、スマホの通知が鳴る。

 

「きたきた♪」

 

「スマホ?」

 

「ああ、さっきSNSに写真上げといたんだよ。情報くれって」

 

『写真の者、自然公園近辺の情報求む』

 

 お、リプ沢山付いてる付いてる。

 

「……あれ?自然公園の話を聞いたのさっきですよね?どうして、自然公園の情報を?」

 

「ビル街で不良の情報を聞いたときに、もしかしたらと思ってさ」

 

 この辺りで動いてる不良なら、大体がビル街か住宅街か自然公園のどこかになる。しかし、ビル街で聞いたのは、ビル街で見たことない連中が暴れてるっていう話だった。何気に縄張り意識が高い連中なので、余程のことが無い限りよその縄張りを荒らしたりはしない。そんなことをすれば、不良グループ同士で戦争になるからだ。……初等部の頃は、その辺を知らず良く巻き込まれていたなぁ。

 

 まぁ、そんな訳だから、住宅街であの不良達が暴れてるなら、あの不良達は自分の所の拠点から離れて活動するタイプだろう、というのがオレの推測だった。その場合、間違いなく拠点は自然公園になる。だから、オレは写真を撮った時に先んじてネットで情報を集めていた。という説明を長々とミカ達に披露したオレ。

 

「なるほど、不良の生態に詳しいミサさんならではですね」

 

「人を生き物係みたいに言うな」

 

「それだったら、最初から自然公園の方行っても良かったんじゃない?」

 

「それだと、情報無しで自然公園を歩き回らないといけなかったし、爆発でケガした人たちも助けられなかったでしょ」

 

「助けられておいてお礼も言わずあんな態度する人なんて、最初から助けなくてよかったよ」

 

「そう言うなってアレは私にも遠からず原因はあるんだから」

 

「あはは、まぁまぁ落ち着いて」

 

「つまり、自然公園に救護するべき人が居るのですね」

 

「そういうこと。ちょっと待って、コメント確認するから」

 

 オレはスマホをスクロールしながら、コメントを流し読みしていく。

 

『私の天使に喧嘩を売ったと聞いて』

 

『こいつらって、自然公園に居る奴らだよな。あの銅像の立ってる所』

 

『こいつら光園ミサの名前出して暴れてるってマ?』

 

『なんて命知らずな……』

 

『あの動画見てないんですかね』

 

『例の動画で、ファンが減るどころか増えてるのマジで草』

 

 こいつら、人のリプ欄で好き勝手言ってるな。まぁいいけど。

 

「自然公園の銅像の所だな。そこであいつらの目撃情報があった」

 

「流石はミサさんですね」

 

「ミサちゃんのSNS趣味がまさかここまで役に立つとは」

 

「早速、自然公園に行きましょう!」

 

 ミネの言葉に、オレ達は頷き自然公園に向かった。

 

 

 

「すっかり、日が落ちてしまいましたね」

 

「ああ、視界が悪いから奇襲にだけは気を付けて」

 

 自然公園に着いたオレ達は中を進んで行く。と、入ってすぐにも関わらず上から不良達が奇襲を仕掛けてくる。

 

「ヒャッハー!ぐへぇ!?」

 

 空中にいて良い的だったので、普通に撃ち落とす。オレが撃ち漏らした分を、ミカとミネが殴って仕留める。

 

「ミサさんが居るのに、普通に襲ってきましたね」

 

「この公園は入れ替わりが昔から激しくてな。だから、私を知らん連中がちょくちょく入り込むんだ」

 

「なるほど、それでミサさんの名前を使うなんて凶行に走ったんですね」

 

 オレの名前を使うだけで凶行扱いになるのか……。

 

 その後も襲ってくる不良を蹴散らしながら、奥へ進むと銅像が見えてきた。オレは、三人にアイコンタクトを送ると、三人は頷いて返してくれた。そして、ミカとユイノはすぐさま行動に移し、回り込むように移動する。残ったオレとミネはそのまま正面から銅像の元へ向かった。

 

 銅像の近くには十数人の不良がたむろしていた。オレとミネは互いに頷き、不良に向かって飛び掛かる。ミネは盾を、オレは拳を叩きつけた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「何してくれてんだテメー!」

 

「あ‶あ‶?何してくれてんだはオレのセリフだろうが、テメェらよくも人の名前で暴れてくれたな」

 

「ひっ!?」

 

 思いっきり睨み付けると、不良達は竦み上がり怯えていた。

 

「よくも私を騙してくれましたね」

 

「あ!テメェは!?はん、騙される方が悪いんだろ!」

 

 オレはバカな事を抜かしているアホの目の前の地面を砕く。

 

「―――騙す方が悪いに決まってるだろうがッ」

 

「ひ、ひぃいいいッ!?」

 

 不良は腰が抜けたのか座り込んで、高速で後ずさる。

 

「おい!お前らさっさとこいつらをやるぞ!」

 

「ミネ、行けるか」

 

「ええ、信念と誇りの為に。救護させて頂きます!」

 

 オレは、放たれる銃弾の雨を紙一重で回避しながら、接近し不良を殴り倒す。暗いおかげか狙いが甘くて助かるな。ミネも盾で殴ったり、素手で殴って不良を倒していた。

 

 オレとミネの暴れっぷりに恐れたのか、リーダー格っぽい不良は部下を見捨てて逃げようとする。

 

「おっと、こちらは通行止めですよ」

 

「うわぁ!?」

 

「あはは☆こっちも通れないよ」

 

「ひぃ!?」

 

 しかし、さっき別れたミカとユイノが道を塞いでいた。オレが二人に頼んだのは、これだ。不利を悟ると逃げようとするだろうから、退路を塞いでもらって正解だったな。あっちは二人に頼むか。さっさと残りの連中を。

 

「くそ!これでも喰らえ!」

 

「―――ミサちゃん!」

 

 ミカの声に振り返ると、不良は懐から拳大の爆弾を取り出すと、それをオレに向けて投げつけていた。あれは、もしかして住宅街で使った……?だとすると、かなり高火力な爆弾だろう。

 

 ミカは撃ち落とそうと、銃を構えているがミカの射撃精度じゃ当たらないだろう。一瞬、回避が頭をよぎったが、後ろにはオレとミネが倒した不良が転がってるのを思い出し、シールドで受けることにした。オレの視界が爆炎に包まれる。

 

「ミサちゃん!?」

 

「ミカさん!今近づいたら危ないですよ!」

 

「よしっ、よし!あの破壊天使をアタシが倒した!―――へ?」

 

 オレは未だ晴れない煙の中から腕を伸ばし、不良の胸倉を掴み地面に引き倒す。

 

「な、な……!無傷……!?」

 

「オレを倒したいなら、大型ミサイルでも持ってくるんだな。……さて」

 

「ひ、ひぃ!?許して!あの爆弾がこんなに威力が出ると思わなかったんだ!あれを売ったやつもそんなこと一言も言わなかったし!」

 

「遺言はそれだけか?あとは地獄の閻魔にでも語るんだな」

 

「あ……ぁ……」

 

 オレが拳を振り上げると、後ろからミカが羽交い絞めにしてきた。

 

「ミサちゃん!ステイ!もう十分でしょ」

 

「チッ、命拾いしたな」

 

 まぁ、最初から殴る気はなかったけど。不良から手を離すと、不良は泡を吹いて気絶していた。あとは、檻の中で反省してもらうか。

 

「委員会と騎士団がもうすぐこちらに到着するそうです。しかし、よく無事でしたね」

 

「ああ、それなんだけど……ミネ、さっきは助かったありがとう」

 

 煙が晴れると中から膝を突いてるミネが出てきた。

 

「いえ、救護が必要だと思ったから体が動いたまでです」

 

 あの時、ミネがオレと爆弾の間に入って防いだおかげで、オレは無傷で済んだ。

 

「ミネが居なかったら、多少焦げてたかもしれないからな」

 

「それでも、焦げるだけで済むんですね……」

 

 オレはチラッと泡を吹いて倒れてる不良を見る。

 

「ユイノ、アイツの使ってた爆弾。市販品じゃないよな」

 

「……おそらく、違法改造品でしょう。最近、トリニティに出回ってると聞きましたが、こんな所に手掛かりがあるとは」

 

「ふーん……」

 

 きっと、尋問はキツイものになるだろうな。

 

「ところで、ミカそろそろ離れてくれない?」

 

「ダメだよ、ミサちゃんすぐ危ない事するんだもん。さっきだって避ければ良かったのに、ホントにお人好しなんだから」

 

「いや、動き辛いんだって」

 

「……ミサちゃん、最近また昔みたいになってるよ。そんなに女の子になるの嫌なの?私のこと、嫌い……?」

 

 オレは慌ててミカの方に向く。

 

「そんなことないっ!ミカは大事な友達だもん!だからさ、今日遊べなかった分また買い物とか行こうよ」

 

 オレだって、出来る事なら争うのは避けたいし、平和に暮らしたいが、いつもなし崩しに巻き込まれるからな。

 

「……うん、そうだね」

 

 それでも、ミカの表情は晴れないままだった。

 

「ミカ……?」

 

 その理由が気になって聞こうとしたものの、そのタイミングで委員会と騎士団が突入してきて、事後処理が始まり、聞くタイミングを逸してしまった。ミカ、なんであんな顔を……?

 

 

 

「今回の件、私自身色々と見つめ直させてもらいました。それも、朝に貴女を襲ったおかげですね、ミサ」

 

「言い方がアレだが、まぁミネが良かったならいいや。いや、襲われたオレは良くないな」

 

「はい、あの時は改めて申し訳ありませんでした」

 

「いや、冗談だから。真に受けんな。……騎士団の仕事も頑張れよ」

 

「ええ、ミサも救護が必要な時は遠慮なく言ってください」

 

「オレじゃなくて、オレと戦ったやつが必要になりそうだけどな」

 

「構いません、私は《救護騎士団》ですから『救護が必要な場に救護を』、私は私の救護を貫き通すだけです。では、また会いましょう」

 

「おう、またな」

 

 そう言って、オレとミネは別れた。その後、騎士団で簡単な治療を受けた後、ミカと一緒に帰っているのだが。

 

「……ミカさん、腕が千切れそうなんですけど」

 

「ぶー」

 

「今度は、怒ってらっしゃる」

 

「ミサちゃん、今日途中からずっと男口調でしゃべってたよね」

 

「え、えーミサちゃん分かんない☆―――いだだだだだだッ!ごめんなさい!」

 

「ダメ、許さない。―――今夜は寝れると思わないでね」

 

「ひぅ」

 

 その晩、ミカにたっぷりお仕置きされたのは言うまでもない。

 

 次の日、教室で顔を合わせたオレとミネは、昨日かっこよく別れた反動もあってか、互いにぎこちなく挨拶を交わすことになったという。

 

「同じクラスだって、言ったのに」

 

 

 




光園ミサ
学習しない女。それどころか、わざとミカを怒らせてお仕置きを激しくさせているフシが。今回の件は、巻き込まれないようにギリギリまで関わらなかったのを、流石に後悔した。戦闘に介入しようとするたびに、ミカとの約束で葛藤している。しかし、着々と各所に信頼を積み上げているのは、人たらしの才能がある。

聖園ミカ
ミサの監視も兼ねて付いてきたが、思った以上にミサがはっちゃけるのでミサストッパーとして大活躍。元気になったのは嬉しいけど、元気になり過ぎてる。


ミネが終わったので、次はツルギ回。次にわっぴー!と見せかけて、ミカとお買い物デートして、中学生編終了です。だって、シスターフッドとミサの話が思いつかないんだもん。


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剣先ツルギの話

感想いつもありがとうございます!
みんなミサの友達発言に引っ掛かり覚えすぎてて草。

ホントは早めに投稿したかったけど、右手薬指が痛かったのと右手全体がしびれる感覚があったので、ちょっとお休み取ってました。

ところでみんなはえっちっちSPは見た!?トリニティの情報盛り盛りでめっちゃうれしかった!ショートアニメすっごい楽しみだね!やっぱミカコハはあるんだ!

あ、ミカの歩数計とアクリルスタンドポチりました。き、気が付いたら手が勝手に。


 

「ふんふんふーん♪」

 

 ある休みの日、お昼ご飯にパスタを茹でながら鼻歌を歌ってる時の事。

 

「あれ?着信?ユイノからだ」

 

 オレは通話ボタンを押し、スピーカーをオンにして通話を繋げる。

 

『あ、もしもしミサさん。ユイノです』

 

「どうしたの、こんな休みの昼間から」

 

『あはは、せっかくのお休みの日に申し訳ないですけど、相談したいことがあるので、お昼から学園にある委員会の校舎まで来れませんか?』

 

 いきなり電話してきたと思ったら、かなり不躾な内容だった。ミカが気にするようにこちらを見ている。

 

「……その相談内容は、今ここで話せない事?」

 

『あーその……』

 

「とりあえずさ、話せることは話しちゃってよ。その相談の如何によっては、頼みの方も引き受けてあげる」

 

『……!?え、私頼みがあるって言いましたっけ?』

 

 電話越しに息を呑む音と震えた声が伝わってくる。

 

「ただの相談だけなら、わざわざ会う必要無いでしょ。つまり、相談にかこつけて私に頼みたいことがあったんじゃない?」

 

『誰かに聞かれると困る相談だとは?』

 

「それこそ、今話してよ。今周りに誰もいないんでしょ?それとも、何?次期委員長様は内緒話を衆人環視の中でやるの?」

 

『……はぁ、ミサさんには敵いませんね。分かりました、今ある程度話しますので、どうするかはミサさんに任せます』

 

 オレはミカに向かって、口元に人差し指を置いて"静かに"というジェスチャーを送る。ミカはそれを見ると、仕方ないと肩を竦めて見せた。

 

『先月にあった事件覚えてますか?』

 

「それって、爆弾の奴?」

 

『そうです、不良から押収した爆弾が違法改造品であることも、話しましたよね。尋問の末、不良がようやく口を割りましてね。どうやら、ブラックマーケットから来たブローカーから買い付けたそうです』

 

「なるほど、ブラックマーケット製か。あそこは表に出ない禁制品の宝庫だからな」

 

『えぇ、あそこは治外法権ですからね。通常なら摘発するのは難しいんですが、先程話したブローカー、差し詰め闇ブローカーと呼びましょうか。以前からトリニティに出回ってる違法改造品も、その闇ブローカーが関わってることが判明しました』

 

「ふーん、わざわざ闇って付けてるってことは何かあるの?」

 

 茹で上がったパスタの湯切りをしながら聞いた。

 

『流石の慧眼ですね。実はその闇ブローカー、ブラックマーケットに内緒で商品を横流しして売り捌いてたらしく』

 

「……ブラックマーケットの法に触れたのか、バカな奴」

 

 ブラックマーケットは治外法権ではあるが、無法地帯という訳では無く、当然ちゃんとしたルールは敷かれている。それが、他の学区に比べたら断然緩いってだけの話だ。

 

「つまり、何をトチ狂ったのか違法に違法を重ねて商品を売ってるのか」

 

『マーケットガードも敵に回してるみたいで……』

 

「今も逃げ回っていると」

 

『いえ、もう捕まえました』

 

「捕まえたんかい」

 

 てっきり、捕まえて欲しいって話かと。いや、オレ捕まえるのは苦手だけど。

 

『こちらで早期に捕まえて、マーケットガードを追い出さないと、私の首が物理的にやばかったんですよ』

 

 いや、なんでだよ。おっとっと、パスタ焦がしちゃう。

 

『それで、闇ブローカーが使っていた倉庫が判明しましたので、ミサさんにはそこへ行って保管されてる品とお金を回収して欲しいんです』

 

「商品は分かるけど、お金も?」

 

『えぇ、元を辿ればトリニティのお金ですからね』

 

 なるほどね。

 

「でも、それだったら私に頼むほどではないと思うんだけど?」

 

『はい、とても簡単な任務です。なので、ミサさんにはある生徒と行って貰いたくて』

 

「……?どういうこと?」

 

『実は、ちょっと問題のある生徒と言いますか、その子の事を怖がって誰も彼女と組みたがらなくて……。今までは、私が訓練やパトロールを一緒に行えていたんですが、委員長になるとそうもいかなくなってしまうので、その前に解決を図りたいと思いまして』

 

「なるほど、同じ怖い生徒の私に頼もうと」

 

『は……いやいやいや!そういうことじゃなくてですね!?』

 

「あはは!冗談だって!」

 

『もう……心臓に悪い冗談はやめてくださいよ。まぁ、その子も色々と悩んでいまして、ミサさんなら相談に乗ってあげられるんじゃないかな、と』

 

「随分、高く買われたね。私、ユイノに何かしたかな」

 

 正直、何かをした覚えは無いんだけど。ナポリタンと、カルボナーラできたー。あとはっと。

 

『あはは!いっぱいして貰ってますよ。正直、貰い過ぎて何もお返しできてないくらいですよ。それで、どうでしょうか?』

 

「うーん……」

 

『……何か心配事でしょうか?』

 

「私は別に引き受けてもいいと思うけど、ミカがなんて言うか」

 

『ミカさんが?』

 

「ほら、最近私暴れ過ぎたから、ミカも心配しちゃってるんだよね」

 

 出来上がったスパゲティをテーブルに並べながら、ミカを見る。ミカはうんうんと頷いてる。

 

『私からもミカさんを説得するので、何とかならないでしょうか!』

 

「ふーん、だってさミカ」

 

『―――え!?』

 

「はぁ、ミサちゃんを悪い道に誘うなんて、ユイノちゃんがそんな悪い子だったなんて思わなかったなー」

 

『え、いや、その』

 

 心の準備が出来ていなかったのか、ユイノはミカを前にして口ごもっていた。

 

『ちょ、ちょっとミサさん!?ミカさんがいるなんて聞いて―――はっ、まさかさっきの会話も!?』

 

「そりゃ、聞いて貰ってたよ。もう一度いちから説明するの面倒だし、この方が手っ取り早い」

 

『あ、あのー……一応内緒の話だったんですけど……』

 

「ミカが聞いても問題ないと思ったから、聞いて貰ったの。《ティーパーティー》だし問題無いでしょ」

 

『それは……そうなんですが……』

 

「もう、二人で話進めないでくれる?ユイノちゃんもさー、ミサちゃんがグレたらどうしてくれるの?」

 

 なんか急に母親みたいなこと言いだした。というか今更、もう散々非行に走った後だわ。

 

『す、すみません!ですが、今回だけでいいのでミサさんをお貸し頂けないでしょうか!』

 

「うん、いいよ」

 

『そこをなんとか!……って、え?』

 

「え?ミカ?」

 

 てっきり、断られるものだと思っていたユイノもそうだし、オレもいいと言われると思ってなかったので、素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「だから、いいよって言ってるじゃん」

 

 無理だろうなと思ってたので、普通に今日ミカと遊びに行く場所考えてたのに。

 

『ええと、良いんですか?その、こちらとしては助かるんですが』

 

「正直な話、良くはないよ。でも、今断ったところでミサちゃん別の日にこっそり手伝う気でしょ?」

 

「うっ」

 

 なんでバレてるの?

 

「ミカ、自慢じゃないけど、私のトラブル体質を舐めてるよ。今回の話、私のトラブル体質を考えると、絶対に回収だけで終わらないよ?」

 

「ホントに自慢じゃないね。私が知らない所で問題起きるより、問題が起きた時私が把握してたら対処もしやすいから。だから、全面的にミサちゃんの考えに賛同はしないけど、ちゃんと相手との関係を考慮して許可ぐらいは出すよ」

 

「み、ミカぁ~……ミカは私のこと考えてくれてたのにごめぇん……」

 

 オレは感極まってミカに泣きながら抱き着く。

 

「まぁ、ユイノちゃんには普段ミサちゃんが疑われた時とか、問題起きた時に庇って貰ってるからね。委員会の手伝い位の協力ならいいよ。ただし!ちゃんと、私に一言言ってね」

 

『あ、ありがとうございます。その、ごめんなさい。私もミカさんの事、厳しくて頑固な人だと思ってたので簡単に許して貰えないと思ってました』

 

「……みんな私の事なんだと思ってるの?ひどくない?」

 

 ミカごめん、オレもユイノと同じようなこと考えてた。

 

「はぁ、とりあえずこの話はここまでにしてお昼ご飯食べちゃおうよ。せっかくミサちゃんが作ってくれたのに冷めちゃう」

 

『あぁ、お昼時なのにすみません。ところで、通話中も料理の音が聞こえてましたが、何を作っていたんですか?』

 

「えっと、ミートソーススパゲティとたらこスパゲティとナポリタンとカルボナーラ」

 

 オレはテーブルに並べたスパゲティを見ながら言った。

 

『……多すぎませんか!?』

 

「だって、ミカにどれ食べたいか聞いたら全部って言われたから。パスタ茹でた後、フライパンで炒める時に一口か二口ぐらいに分けて、種類増やした」

 

 地味に手間が掛かった。ソースとかの分量もその分計算して考えないといけないし。

 

「ふふん、ミサちゃんの料理はホントに美味しいからね」

 

 なんでミカが自慢気なんだろう。

 

『あはは、お二人共ホントに仲が良いですね。とりあえず、私は委員会で使ってる校舎に居ますので、食べ終わったらこちらまで訪ねて貰えると助かります。例の子にも予め話を通しておきますので』

 

「そういえば、例の子って名前は?」

 

『剣先ツルギって子です』

 

「へー、ん?なんか聞き覚えがあるような……」

 

「同じクラスだよ……」

 

 そうだったのか、納得。ってミネといい同じクラスの奴多いな。

 

「ん、りょーかい。じゃあ、詳しい話はまた後で」

 

『はい、お待ちしてます』

 

 通話が終了し、ツーツーと音が鳴る。オレはスマホの画面を消すと、テーブルに置いた。

 

「もう、ミサちゃん。ちゃんとクラスの子の名前と顔位は覚えておこうよ」

 

「あ、あはは……どうも関わりが薄いと覚えにくくて」

 

 その後、料理に舌鼓を打ちながら、ミカに同級生の顔と名前をちゃんと覚えなさいと怒られたのであった。

 

 

 

「ユイノー?来たぞー」

 

 お昼ご飯を食べた後、ミカに見送られ学園まで来たオレは早速ユイノがいる委員会の校舎を訪ねた。校舎内には当たり前だが、委員会所属の黒いセーラーを着た生徒が多く、オレが気になるのかチラチラと視線を送られていた。そのことに居心地の悪さを感じていると、奥からユイノがやってくる。

 

「ミサさん、お待たせしてすみません」

 

「別にいいけど、どこで話す?流石にここだと見られすぎて落ち着かないというか」

 

「それじゃあ、奥まで来てもらっていいですか?ツルギもそこで待たせてありますので」

 

 ユイノに連れられて奥の部屋に向かった。部屋の中には、まるでホラー映画にでも出てきそうなおどろおどろしい雰囲気を持った女の子が、ソファに座って待っていた。

 

 同じ委員会の子に怖がられていると言ってたけど、そういうこと?

 

「ツルギ、お待たせしました。この人が、ミサさんです」

 

「……あ、同じクラスの」

 

「えっと、こんにちは」

 

「……どうも」

 

 オレはツルギを見ながら挨拶するが、ツルギはオレを見ずにそっけなく挨拶を返す。

 

「あ、あはは!すみませんミサさん、こういう子なのであまり気にしないでください」

 

「いやいいよ、恥ずかしがり屋なだけだろ?」

 

 よく見ると、ツルギの目が忙しなく動いていて、手をモジモジさせていた。恐らくだけど、対人経験が少なくて人見知りしてるだけだと思う。

 

「……一目見ただけで、よく分かりましたね」

 

 ユイノは驚いているが、陰キャ特有の雰囲気を纏ってるから、とは言い辛いな。

 

「ツルギ、先程話した通り今日一日、ミサさんについてもらって仕事をしてもらいます」

 

 ツルギは無言でコクコクと頷いている。別に嫌がられてるとかは無さそうで、ちょっと安心。

 

「ユイノ、今日の仕事ってのはここに来る前に聞いた通りで良いのか?」

 

「えぇ、闇ブローカーが隠し持ってた倉庫へ行って、そこにあるものを回収するだけです」

 

 ユイノからオレの端末に、倉庫の座標が送られてくる。……トリニティ郊外にある廃工場か。物を隠すにはうってつけだな。

 

「ツルギはオレと組むことになるけど、ツルギの方はいいのか?」

 

「……あ、べ、別に構わない。ユイノさんが個人的に頼むほど信頼してるなら……」

 

 キョドり気味ではあるが、受け答えはハッキリしてるな。見た目は確かに怖いが、少し話しただけでも、ちゃんと会話が成立するって分かる。ということは、問題はそこじゃないってことだ。

 

「なぁ、ユイノ。ツルギが怖がられてるのって、見た目だけじゃないんだろ」

 

「……なんで、一言二言話しただけで分かるんですか?」

 

「そりゃ、オレが見た目で怖がられてるわけじゃないからな」

 

 ミカが言うには、街を歩いていれば普通にナンパされるくらいには、オレの見た目は可愛いらしいし。

 

「あー、そういえばそうですね。まぁ、ミサさんに簡単に伝えておくと―――」

 

 ユイノが説明しようとしたところで、ツルギが慌てたように体を乗り出してきて、声を発した。

 

「き、きぇぇえぇえぇっ!!」

 

「!?」

 

「―――ということです」

 

 ツルギが急な奇声を発したことで驚いて固まっていると、何事も無かったようにユイノがツルギを見てそう言った。当のツルギは恥ずかしそうに俯いている。

 

「どういうことだよ……」

 

 

 

 あの後、ユイノに追い出されるように校舎を出たオレ達は、その足で街まで出ていた。

 

 隣を見ると、ツルギは体を丸めてのそのそと動いている。見た目と相まって、恐ろしい様相を呈している、今が昼間じゃなかったら四方八方から撃たれていたかもしれない。

 

「そういえば、ツルギってオレと同じクラスだったんだな」

 

「……ああ」

 

「ツルギってどうして《正義実現委員会》に入ったんだ?」

 

「……それは……学園に馴染めなくて……そんなときにユイノさんが委員会に入らないかって……」

 

「ユイノが?」

 

 なるほどな、だからユイノの奴ツルギの事を気にしてたんだな。学園に馴染めない奴を自分で誘っておいて、その子が委員会にも馴染めなかったら、誘った張本人としては申し訳なさが勝つわけだ。

 

「……ミサは……よく学園に馴染めているな……」

 

 そう言うツルギからは、羨ましそうに話された。

 

「別に馴染んでるわけじゃねえよ。オレが周りを気にしてないだけだ」

 

「……そうなのか……?」

 

「当たり前だろ。第一、なんでわざわざ周りの評価を気にして生活しなきゃならないんだよ」

 

 まぁ、気にしなさ過ぎて悪評立ちまくるし、噂に尾ひれ付きまくってるけど。

 

「……」

 

「どうした?」

 

「……いや、お前が学園で悪く言われてる理由がなんとなく見えた気がしただけだ……」

 

「なんだそりゃ」

 

 ツルギと色々話をしながら、街を歩く。ふと、視界に入ったものを見て「あ!」と声を上げ、オレはそこに近づいていく。

 

「これ、前から気になってたブランドの新作バッグだ~っ!実物見るとやっぱりかわいい!ど、どうしよっかな……今月まだ余裕あるし、自分用とミカへのプレゼントに買っちゃおっかなー」

 

 店頭のショーケースに飾られたバッグを見て、オレはテンションが振り切れてしまった。今月の予算から計算して、問題が無いことを確認すると、オレはそのまま店内に入り目的のバッグを買った。

 

「えへへ、これをミカにプレゼントしたら喜んでくれるかな?一緒に遊びに行こうねって言ったのに行けなかったから、これでお詫びになるといいなぁ」

 

「…………」

 

 ツルギを見ると、何故か違う生き物を見る目で見られた。

 

「な、なんだよ」

 

「……お前、二重人格だったのか……?」

 

「はぁ?んなわけないだろ。どこをどう見たらそうなるんだよ」

 

 何言ってんだコイツ。あ、落とさないようにしっかり持っておかないと。いそいそと、買ったものをバッグにしまう。

 

「……私がおかしいのか?」

 

 ツルギに変な目で見られながらも、目的地に向かって移動した。

 

 

 

 目的地である廃工場近辺に到着した。したのだが……。

 

「……最近、誰か出入りしたな?」

 

「……わかるのか」

 

「闇ブローカーを逮捕したのは、1週間以上前。それから、誰も出入りしてないにしては妙な荒れ方をしているな。最初は、どっかのチンピラが入り込んだと思ったけど、これは……」

 

 地面を見ると、複数人の足跡を確認できた。この付き方、靴じゃないな。もしかすると。

 

「……このまま廃工場に入るのは危険だな。ちょっと周辺を探索するぞ。予想が正しければ、面白いものが見つかる」

 

「……了解だ」

 

 ツルギを伴い、廃工場の周りをぐるりと確認した。すると……。

 

「―――見つけた」

 

「……車?」

 

「指揮車両だな。ツルギ、このまま突入して制圧するぞ」

 

「……分かった」

 

 オレとツルギは銃を構えると、指揮車両のドアをぶち破って入った。

 

「な、なんだお前達!?」

 

 そこにいたのは、肩にカイザーのロゴを持ったロボット兵士達だった。先手を取るために、一息で距離を詰めると、そのまま殴り倒す。

 

「ツルギ!あまり機械に向かって撃つなよ!」

 

「きひひっ!きえええええええええっ!!」

 

 聞こえてるか不安だったが、ちゃんと機械は外して撃っていたので、大丈夫なようだ。そのまま20秒ほどで制圧し終わると、オレは指揮車両に備え付けてある端末にアクセスした。

 

「ツルギ、ユイノに連絡取ってくれ。スピーカーオンにしてな」

 

『はい、ツルギどうしました?』

 

 数コールの後、ユイノに繋がったので、簡潔に状況を伝える。

 

「ユイノ、緊急事態だ。廃工場にカイザーがいる」

 

『ミサさん?いや、それよりカイザーですって?』

 

「おそらく、マーケットガードの連中だろう。さっき指揮車両を制圧して端末を確保したが、既に工場内に数部隊入り込んでる。今、オレのスマホから情報を送る」

 

『そんなバカな……。確かにトリニティから出て行くのを確認したはず……』

 

「たぶんだけど、元から闇ブローカーを追う部隊と闇ブローカーのブツを回収する部隊で分けてたんだろ」

 

『……帰ったのは、闇ブローカーの部隊だけですか。すみません、少々時間をください。相手に確認を取りますので』

 

「出来るだけ早くな。指揮車両と連絡が取れなくなった時点で、工場内の部隊にオレたちの存在はバレてる」

 

 それから、数分もしない内にユイノから通話が来た。

 

「もしもし?」

 

『ミサさん、こちらからマーケットガードに連絡しましたが、そんな部隊は知らないという事です』

 

 尻尾切り……いや、計画時点で最初からいないものだったのか。本命は最初からこっちで、闇ブローカーを追っていた方は、トリニティの目をこちらから逸らすためのブラフか。道理であっさりと帰ったわけだ。

 

「言質は?」

 

『取ってあります』

 

「なら、オレ達がどうにかする分には何も問題ないな」

 

 前にセイナの件で会った時もそうだけど、カイザーという名に強い忌避感の様なモノを覚えていた。もしかしたら、奴らは前世で余程の怒りを買うようなことを、しでかしていたのかもしれない。

 

『すみません、私の失態です。最初の時点で気付いていれば……』

 

「気にするな。それを言うなら、オレなんてイレギュラーがある予感しかしてなかったぞ」

 

 やっぱり、オレのトラブル体質は伊達じゃなかったようだ。

 

「さて、カイザーの連中にはさっさとトリニティから出て行って貰おうか―――トリニティにカイザーはいらない、一人残らず叩き潰す」

 

『こちらからも応援を送ります、どうかご武運を』

 

「到着までには全部終わらせておいてやるよ」

 

 ユイノの呆れた声を最後に、通話を終了する。オレはツルギの方に向き直ると、どうするか聞いた。

 

「というわけなんで、工場の制圧はオレ一人でも出来るが、どうする?応援が来るまで、ここに残っていてもいいが」

 

「……いや、私も行く。……お前を一人にするのは危なっかしい気がする」

 

「お前に言われたくないが?」

 

「……それに」

 

「?」

 

「今日は、私とお前はパートナーなんだろう?」

 

「……言うじゃん。指示はこちらから出す。ちゃんと従えよ」

 

「……問題ない」

 

 オレとツルギは指揮車両から出る。と、誰かに見られてる気配がして、勢いよく振り返る。

 

「どうした……?」

 

「……今、誰かに見られてた」

 

「……気のせいじゃないのか?」

 

「いや、気のせいじゃない。見られることが多い分、そういう視線には敏感なんだ」

 

 特に、悪意や敵意にはな。でも、この感覚まるで値踏みしてるみたいな。

 

「……気配が離れた」

 

「……追うか?」

 

「いや、相手がどういう理由で見ていたか分からない以上、正体不明の相手を追うのはリスクがデカい。それよりも、工場の制圧を急ごう」

 

「……分かった」

 

 そうしてオレは先程の視線に後ろ髪を引かれながら、廃工場へ侵入した。

 

 

 

 

 

 

「―――クククッ、危ない危ない。ここから先はもう彼女の感知範囲でしたか、まさかここまで広いとは」

 

 そこは廃工場から離れた小高い丘の上。そこから廃工場全体が見渡せた。

 

 そこにいたのは、黒いスーツを着た全身、肌に至るまで真っ黒な異形だった。その黒い異形はポケットに手を入れながら、工場全体を俯瞰し、工場へ侵入しようとするピンク髪の少女を見て、黒い顔からひび割れた様な口を三日月の形に歪ませ笑う。

 

「クククッ、ようやく見つけましたよ。まさか、普通の生徒に紛れて生活しているとは"トリニティの青い血"」

 

「さぁ見せて貰いましょうか?"叛逆者"の力を、神々に対する"最終兵器"足る力をね。クククッ……」

 

 

 

 

 

 

「……前方5。一気に制圧する」

 

「……ああ」

 

 廃工場に入ってすぐ、兵士たちを見つけこちらに気付く前に一気に接近した。

 

「―――し、侵入者、がっ!?」

 

 声を上げようとした奴に肘鉄を叩き込み、右足軸にすぐ近くの奴に左ひざ蹴りを入れた後、そのまま左足を振り上げもう一人にかかと落としする。鈍い音を響かせ、3人を無力化。ツルギを見ると、2人が倒れてるのが見えた。

 

『おい、なんだ今の音』

 

『確認するぞ』

 

「……どうする?」

 

「こちらから仕掛ける。上を取るぞ」

 

「分かった……」

 

 オレ達は工場内の物を伝って速やかに上へと移動すると、下に見える部隊へ急降下する。

 

「なっ、一体どこから!?」

 

「きひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

 

「な、なんだコイツ!?うわぁ!?」

 

「ふんっ!」

 

「ぐはっ!?」

 

 オレが殴り倒していく横で、ツルギは両手に持った二丁のショットガンで次々に兵士を倒していく。

 

「なるほど、これだけ暴れられたらそりゃ怖がられるか」

 

 オレは出来るだけ被弾を抑えるために、避けれる弾は避けているが、ツルギはお構いなしに銃弾に向かって突っ込んでいた。あの見た目の上、奇声と相まって、相手からすればとんだ恐怖映像だ。しかし、ツルギが暴れてくれるおかげで、オレが楽を出来て助かる。

 

「……ん?おっと、ツルギ危ない!」

 

 オレは近くに居た兵士の腕を掴むと、ツルギの方に向かって投げつける。すると、ツルギの後ろからツルギを抑えつけようとした兵士が、飛んできた兵士に圧し潰される。気付いたツルギが、倒れた兵士に追いショットガンを浴びせて、気絶させていた。

 

「……助かった」

 

「別にいいよ、仲間なんだから」

 

「仲間……」

 

「それより、このまま地下に進んで残りも制圧しつつ、最深部にある保管庫に向かおう」

 

「ああ……わかった」

 

 工場の奥にある階段からオレ達は地下へ降りていった。地下は薄暗く、通路幅が結構狭い。並んで二人歩けたらいいくらいか。道中、出会う兵士を薙ぎ倒しながら進んで行くと、ふと話し声が聞こえ立ち止まる。

 

「……どうした?」

 

「しっ」

 

 耳を澄ませると、話し声は壁の向こうからだった。

 

「この向こうか」

 

「……どうする気だ?」

 

「もちろん、壁をぶち破って奇襲する」

 

「……は?」

 

「いいかツルギ。壁を抜いての奇襲は、何度でも使える手だから覚えておくといい。来ると分かっていても、咄嗟の対処がしづらい有効な手だ」

 

「……なるほど……そうか」

 

「よし、行くぞ!」

 

 ツルギが納得したのを見て、オレは壁を素手で破壊すると、向こうも話し声が聞こえて不審に思っていたのだろう、兵士たちがこちらを見て呆然としていた。チャンスだ。

 

「ツルギ!!」

 

「きぇええええええええ!!」

 

「う、うわぁ!?」

 

 瞬く間に制圧すると、オレ達はそのまま奥へと突き進む。時には壁を破壊して、時には壁を破壊したりした。指揮車両から入手した内部の地図によると、もうすぐ保管庫だ。

 

「……ッ!ツルギ!カバー!」

 

 オレとツルギが同時に物陰に入ると、奥から大量の銃弾が飛んでくる。

 

「この音、ミニガンか」

 

 物陰の隙間から見ると、ミニガンを構えた大型兵士が通路中央を陣取っていた。面倒だな、と思っているとツルギが何か言いたげにこちらを見ていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「……私が突っ込んで相手の気を引く。その間にミサがアイツを撃て」

 

「かなり危険だぞ。それでもいいのか?」

 

「……問題ない。私は普通の生徒より頑丈だからな」

 

 ツルギの目を見ると、止めても聞かなそうだった。オレは溜息を吐くと、銃を構える。

 

「分かった、オレが合図したら頼む」

 

「任せろ……」

 

 物陰から覗くと、兵士はしびれを切らしたのかこちらへ歩いて来ようとしていた。

 

「今だッ!」

 

「きひっ!」

 

 急に飛び出してきたツルギに、慌ててミニガンを構えて撃つが、碌に構えもせず撃ったせいでツルギに掠りもしていない。オレはその隙を狙って、物陰から出て兵士に向かって引き金を引いた。放たれた銃弾が、無防備な大型の兵士に数発当たり数メートル吹き飛ばしたあと、気絶させた。

 

「……ひどい威力だな」

 

「オレもそう思うよ」

 

 毎分600発撃てる銃だが、50口径の重機関銃で人に向かってそんなに撃ち続けたらヘイローが壊れかねない。なので人に向かって撃つときは、大体一秒未満だ。

 

「さて、この奥が保管庫だな。中の物を回収すれば、任務完了だ」

 

「ようやくか……」

 

 どこか疲れたようなツルギの声に苦笑しながら、大きな金属扉を端末を操作して開く。

 

 中へ入ったオレとツルギは驚きに目を見開いた。

 

 ―――ガシャンッ、ガシャンッ

 

「―――ユイノのやろー……回収品が動いてるなんて聞いてねえぞ」

 

 目の前には、多脚型の大型自立兵器がこちらに照準を定めていた。

 

「チィッ!広がれッ!」

 

 オレとツルギが左右に散ると、オレ達が居た場所に爆発が起きる。

 

「大型のランチャー二門、それに機関銃六門装備か。どうみてもお掃除ロボットには見えねえよな」

 

「……私達を掃除する気だろうがな」

 

「はっ、笑えねえ話だ」

 

 多脚型兵器は、脚を忙しなく動かしこちらに大量の弾を吐き出してくる。

 

「ツルギ!まずは脚を破壊して動きを止めるぞ!」

 

「任せろ、壊すのは得意だ―――きぇえええええっ!!」

 

 壊すのはオレも得意なんだがな。ツルギに指示出ししなきゃならないし、ある程度は任せるか。

 

 オレが多脚型兵器の気を引きながら、重機関銃を足に撃ち込み、ツルギは兵器の下に潜り込み奇声を発しながら足を破壊していく。

 

「よし、このまま―――ツルギッ!」

 

 多脚型兵器は脚を折り曲げたかと思うと、高く跳躍した。まずいっ、ツルギを圧し潰す気か。

 

「き、きぇええええええっ!!」

 

 ツルギは奇声を上げながら下から兵器に向かって撃ち続けるが、兵器は無視してツルギに向かって落ちてくる。オレも撃ち続けるが、本体部分は相当硬いのか中々ダメージが通らない。このままじゃ……いや、まだだッ!

 

 世界がスローになるのを感じながら、オレは全身に力を巡らせる。地面を陥没させながら飛び上がると、多脚型兵器を蹴り飛ばし壁に叩きつける。オレは飛び上がった勢いそのままに、壁に埋まる兵器に向かってさらに拳を叩きつけた。衝撃で陥没した壁がさらに陥没する。

 

 オレは地面に着地すると、まだ動こうとしている兵器に向かって神秘を込めた銃弾を撃ち込む。銃弾はあれほど硬かった装甲を数秒で焼き切り破壊していった。一分を過ぎる頃には、兵器はただの鉄くずに成り果てていた。

 

「はぁ……はぁ……やっと壊れたか」

 

「……今まで、手加減してたのか?」

 

 ツルギは驚いた顔でオレを見ていた。

 

「……逆だ、手加減できないんだ。まだ力のコントロールが上手く出来なくて、1か100でしか出力できないんだ。それもあって、あまり人前で使わないようにしてる。危ないから」

 

「……そういうことか」

 

「あ、さっきのこと誰にも言うなよ?特に、ミカの耳に入ったらどれだけ怒られるか……」

 

 力を制御できなかった時に、止められる人が居ない場合、使うなって言われてるからな。うぅ、バレたら酷いお仕置きが……。

 

「分かってる、誰にも言わない。……強い力を見られて怯えられるのは、私にも経験があるから……」

 

「ツルギ……」

 

 少しした後に、武装した《正義実現委員会》のメンバーが保管庫までやってきた。

 

「ミサさん!ツルギ!無事ですか!?」

 

「おー、ユイノか。オレもツルギも無事だぞ」

 

 先頭にはユイノがいた。次期委員長が最前線まで来て良いのか?

 

「ほっ、無事で良かったです。ここに来るまでに、沢山の兵士が居たので心配してましたよ。まさか、たった二人で制圧するとは思いませんでしたが……」

 

 そして、ユイノが破壊された多脚型の大型兵器に気が付いた。

 

「こ、これは……」

 

「……保管庫に辿り着いた時点で、起動しててな。異様に硬くてかなり手こずったぞ」

 

「ミサさんがそこまで言うなんて、相当だったんですね。あとは任せて、休んでいてください」

 

「なら、お言葉に甘えさせて貰おうかな。あ、そうだ。あとで今回の所見を送っとくから」

 

「あはは、助かります」

 

 ツルギを委員会に帰し、オレは後を委員会に任せて帰ることにした。

 

 

 

 その日の晩。

 

 あの後、家に帰ったらおおよその顛末を聞いていたのか、ミカにすごく心配されたので、無傷なのをアピールすると、ようやく安心した。

 

 オレは、ミカのご機嫌取りに買ってきた新作バッグをミカに渡すと、すごく喜んでくれたので買って良かったと思った。無傷ではあるけど、疲れたので今日は甘めのえっちにしてもらおう。

 

 その後、ミカとお風呂に入ってると、スマホが鳴っているのに気づいて、脱衣所に出てスマホを取ると、画面にはユイノと表示されていた。オレは袋にスマホを入れると、スマホを持ってお風呂に戻る。

 

「―――もしもし?」

 

『あ、ミサさん?……もしかして、忙しかったですか?』

 

「ううん、お風呂に入ってるだけだよ。だからちょっと音こもってるけど気にしないで」

 

『あ、もしかしなくてもミカさんもいます?』

 

「そりゃ、ミカの家のお風呂なんだからミカもいるでしょ。……ミカに聞かれたくない話なら、後で掛け直すけど?」

 

 オレは横目で、この二年で伸びたオレの髪を嬉しそうに洗うミカを見る。

 

『いえ、ミカさんなら問題ないので大丈夫です。それで、今日の昼間の件なんですけども―――』

 

 オレは、保管室で交戦したあの兵器についての報告をユイノから聞いた。

 

「―――キヴォトスで造られた物じゃ無い?」

 

『えぇ、キヴォトスの外で造られた物であろう、ということです。現行のキヴォトスの技術では、あれほど巨大でかつ完全自立兵器を造るのは不可能だそうで』

 

「……なんで、そんなものが保管庫に」

 

『分かりません。外部の者が持ち込んだのは間違いないでしょうが。この件について、闇ブローカーを問い詰めましたが、やはり知らなかったそうです』

 

 ……外部の者、まさか工場に入る前に感じた視線は……。

 

「どうしたの、ミサちゃん。何か気になる事あるの?」

 

『そうなんですか?』

 

「んー……そうだね、一応二人に話しておこっか」

 

 オレは二人に廃工場に入る前に感じた視線について話した。ユイノは、ツルギと同じように信じられないというように聞いていたが、ミカは普通に信じて「そうだったんだ、危なかったね」と頭を撫でる。

 

「敵意は無かったし、多分だけど普通に戦っても負けないと思う……けど」

 

 確かに、敵意は無かった。だが、恐ろしいほど強い悪意に背筋がゾっとして、視線が切れるまでその場から動けなかった。

 

「蛇みたいに悪意がじっとりと纏わりつく感覚……思い出しただけでも寒気がする……」

 

 いつの間にか自分の身を守るように体を掻き抱いていたオレは、ミカにそっと抱き締められる。すると、感じていた寒気が嘘のように引いていく。やっぱり、ミカの近くが一番安心する。

 

「大丈夫だよ、ミサちゃん。ここにその悪い大人はいないから」

 

「……うん、ありがとうミカ」

 

「ちょっと体冷えちゃったのかもね。お湯に浸かろっか」

 

 そう言って、ミカに引っ張られながら広いお風呂に二人で浸かる。足を延ばしたミカの間にオレがすっぽりと納まる感じだ。

 

『……ミサさんがそこまで言うってことは、相当危険人物ですね』

 

「うん、姿まで見てないからコイツに会うなって言えないけど、少なくとも似たような感覚を覚えたならすぐに逃げた方がいい、絶対に」

 

 一度相対したが最後、その悪意に絡めとられてしまうだろう。

 

『分かりました、こちらでも追わないように注意喚起しておきますね』

 

「とりあえずはそれでいいと思う」

 

 そいつが兵器を持ち込んだとは決まった事では無いが、もしそうならやっぱり危険であることに変わりはない。

 

『あ、そういえばミサさんから頂いた今回の所見、読みましたよ』

 

「あ、ホント?どうだった?」

 

 思い出したように努めて明るく切り出したユイノに、オレはそれに乗っかった。暗い話題ばかりじゃ、気が滅入るからね。

 

『今回の件に対する別の視点から見た感じに、ツルギに関する事も分かりやすくまとめてくださったみたいですね。すごく助かります。特に、委員会の今回に関するミスの指摘は中々に心を抉りました……』

 

「い、一応正直に書いておいた方がいいかなーって」

 

『今後の課題という事で、重く受け止めておきます……』

 

 いや、もっと軽く受け止めて貰ってもいいんだけど。

 

「そ、そういえばユイノってツルギの事呼び捨てにしてるんだ?」

 

『……実は、次期副委員長にもうすぐ委員長になるのに後輩をさん付けするな、と怒られてしまいまして……。それで、とりあえずは委員会内だけでも後輩には呼び捨てにすることになったんです』

 

 副委員長こっわ。

 

『私もミサさんに聞いておきたいことがあるんですが、ミサさんから見てツルギはどうでした?』

 

「どう?って言われても」

 

 ちょっと質問がふんわりとしすぎてるから、もっと具体的に頼む。

 

『その、《正義実現委員会》としてこれからもやっていけるのかどうか……みたいな』

 

 あぁ、そういうことね。なんか、ユイノが親みたいな目線になってるなぁ。

 

「全然やっていけると思うよ」

 

『ほ、ホントですか?』

 

「嘘言ってどうするの。今回の所見にも書いたけど、確かに見た目のインパクトや奇声を発しながら戦ってるのは、味方からすれば怖いと思う。けど、逆に考えればそれって敵も怖がるほどってことだからね」

 

 実際、今回カイザーの連中ツルギにビビりまくってたし。

 

「ツルギも無秩序に暴れてるように見えて、ちゃんと命令を聞くし従ってくれる。知ってる?アイツ、カイザーの指揮車両制圧するとき、端末壊すなって言ったら器用に端末に弾当てずに戦い始めたからね。だから、委員会はツルギに方向性を与えてやるべきだと思う」

 

『方向性、ですか?』

 

「そう、まずは味方にツルギは味方って覚えさせる。具体的には、ツルギがちゃんと指示通りに動けば大きな声で褒めてやったり、味方が敵を倒したっていうのをもっとアピールする」

 

 そうすれば、敵にしたら恐ろしい相手だが、味方に居れば頼もしい人という評価を得られるだろう。

 

「そうした評価を積み重ねて、ツルギには前線で味方を鼓舞する指揮官になって貰う」

 

『ツ、ツルギが指揮官ですか?あまり想像できないような』

 

「別に、指示出しは出来なくてもいいと思う。ただいるだけで影響を及ぼすっていうタイプだからね。もし心配なら、指示の出来る補佐を付ければいいと思う。そうすれば、ツルギも気兼ねなく暴れられるだろうし」

 

『ま、待ってください!?ちょっとメモしますので!?……そ、そんなこと考えも付きませんでした。色々と勉強してきたつもりでしたが、やはり伝説の人には足元にも及ばないという事ですね。流石はシエルさんの弟子といったところでしょうか』

 

「あ、待ってミカの前でシエルさんの話題は私のお腹がねじ切れるように痛いぃ!?」

 

 オレの後ろで、ミカはオレのお腹に手を回しながら万力の様にお腹を締め上げていた。

 

「つーん」

 

『あ、あはは、そういえばそうでした、すみません。……ミサさん、以前から言おうと思っていた事ですが、《正義実現委員会》に入りませんか?』

 

 ユイノの言葉に、ミカの手がきゅっと動いて内臓が飛び出そうになる。しかし、ユイノはこっちの状況を知らぬまま言葉を続けていく。

 

『ミサさんの才能はやはり勿体無いと思います。強さもそうですが、何より相手や場を冷静に見極める能力に長けているように思えます。その上、人を適切に運用できるのは簡単な事では無いです。そんな強さを持っているのに、誠実さを損なうことなく、誰かの為に怒ったり、頭を下げたり、そういった面を見て評価する者や勘違いを改める者もいます。だから!』

 

「ユイノ、ユイノがそう思ってくれてるのは素直に嬉しい。けど、私はそんな大層な人じゃないよ。私はただのエゴイストだから」

 

『な……!ミサさんがエゴイストなわけないじゃないですか!?自分の利益度外視で動くミサさんのどこが』

 

「あー、ごめんもっとハッキリ言うべきだったね。ユイノ、私は《正義実現委員会》に入らない」

 

『……っ!ど、どうして』

 

「ごめんね、ユイノがどうとかっていう話じゃないの。これは私の問題で、私にとってとうの昔に通り過ぎた場所だから」

 

 何よりオレは、一度その可能性を自分の手で燃やした。だとすれば、オレに委員会に入る資格など無いのだろう。

 

『……分かりました』

 

 オレの意思は折れないと感じたのだろう。ユイノはあっさり身を引いた。たぶん、今日電話してきたのは、最初からオレを勧誘する為だろうなぁ。だって、さっき話したこと全部書いてあるし。

 

「……ユイノがそこまでして委員会に入れたい理由、当てようか?」

 

『え!?』

 

「最近になって、また各派閥が私を引き入れようとしてるからでしょ?」

 

『き、気付いて』

 

「そりゃ、気付くよ。嫌になるよね、私が暴れてた頃は碌に近づきもしなかった癖に、私が大人しくした途端これだもん。だから、ユイノはあれこれ理由を付けて委員会に入れようとしたんだよね。そういうのから私を守る為に」

 

『そ、それは……だって、あんまりじゃないですか。ミサさんは何も悪くないのに勝手に悪く言われて、なのにミサさんは何一つ否定しなくて』

 

「いや、人に怖がられるほど暴れたのは普通に悪いと思うけど」

 

 スマホ越しにユイノの泣きそうな声が聞こえてきたので、オレは茶化すように返す。オレは何も気にしてない、という意思表示をするために。

 

『私だって!ミサさんに会うまでミサさんの悪い噂を信じていました。自分で真実を確かめもせず、他の人と同じようにそうなんだと思考停止して、それが何よりも許せない。正義を掲げながら、ずっと正義に背いてきたんです。だから、ミサさんへのお詫びとしてそれぐらいしないと、釣り合わないじゃないですか!』

 

「別にいいよ、釣り合わなくたって」

 

『え?』

 

「天秤だって常に一定なわけないんだから、釣り合ってる方が珍しいでしょ。ユイノの正義だって同じ事。そういうものが、時間の流れでバランスが変わっただけの事。だから、釣り合わなくたっていい―――だって、それが友達ってものでしょ?」

 

『友達、私とミサさんが……』

 

「そりゃそうでしょ!シエルさんについてあれだけ語り合える人他に居ないもん。だから、またどこかの喫茶店でお茶しながら、シエルさんについて話そうよ。……あのミカさん、そろそろ内臓が飛び出るぅ!?」

 

『あ、あはは!私、もうすぐ委員長になるのに喫茶店でお茶する時間あるんでしょうか』

 

「うん、まぁあるんじゃない……」

 

 ぎりぎりと締め上げられるお腹に、必死でミカの腕にタップするオレ。

 

「まぁ、そういうわけだから、私は大丈夫だよ。だから、シエルさん仲間の友達としてまたお茶しようよ痛だだだだ!ミカ!いつまでシエルさんの事で怒ってるの!?」

 

「……だって、あの人は敵だもん」

 

「意味分からないってぇ!?」

 

『あははっ!そうですね、またお茶しましょう』

 

「うん、またねおやすみー」

 

 それを最後に通話が切れる。が、ミカのベアハッグが解けていないので絶賛ピンチだ。主にオレの内臓が。

 

「……ミカ、何に怒ってるの?」

 

「……ううん、怒ってないよ」

 

「うそ、怒ってる」

 

「怒ってないもん……」

 

「……」

 

「……」

 

 どちらも黙ると、何も音がしなくなるお風呂場。僅かに身じろぎするとちゃぷちゃぷと水音が響く。

 

「……ごめんね」

 

 ミカが何も言わないので、手でお湯をちゃぷちゃぷさせて遊んでたら、ミカが急にそんなことを言った。

 

「ミサちゃんに友達が増えたら嬉しいはずなのに、それを喜べない私がいる。ミサちゃんを取られちゃうんじゃないかって、嫌な女だよね……」

 

「……ミカが嫌な女でも傍に居るよ。だって、そういう約束だし」

 

「……そっか、そうだよね」

 

 その後、しばらくしてようやくミカの拘束が弱まり、お腹が解放された。ミカには、ああ言ったけど何故かもっと良い言葉があったような気がする。けど上手く言葉に出来なかった。他の人には、もっとスラスラ言葉が出てくるのに、ミカの時だけ言葉が出てこない気がする。どうしてなんだろう……。

 

 

 




光園ミサ
超手加減か超全力しか出せない女。きょ、極端すぎる。メスが出たりオスが出たりするので、真面目に二重人格疑われてる子。なお、あれが素の模様。他の子には恥ずかしげもなく恥ずかしいセリフを放つのに、ミカには恥ずかしくて出来ない。前世が大人であった為、大人の悪意には人一倍敏感である。しかし、今世では子供である為に大人の悪意に対抗できない。なので、大人相手は基本すこぶる相性が悪い。

聖園ミカ
以前は見られなかったが、ミサの考えを確認して寄り添うようになった。シエルに対してより辛辣になったのは、ミカが好きを自覚した後、シエルの行動を思い出してそういうことだった事に気が付いて以降、敵認定されてる。

多脚型完全自立兵器
キヴォトスの外で製造されたと思われる。大型ランチャー二門、大型機関銃六門を備えた巨大兵器。更に、本体が異様に硬く攻撃が通りにくい、先に脚を破壊することによって本体が一時的にパワーダウンし、本体にダメージが入るようになる。が、ミサのパワープレイにより、ギミックガン無視で破壊された。




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バレンタインの話

感想いつもありがとうございます!

Q.ミサってゲーム知ってるならツルギ達のこと覚えてないの?

ちょうど今回で中学生編終わりだし、区切り良いので答えちゃいます!

A.忘れてる。10年も前の事なのでもうほとんど覚えてない。情報を確認する手段がないし、メモも取ってないので忘れた時点で思い出す手段にも乏しい。え?なんでメモ取って無いのかって?元々関わる予定じゃなかったからじゃない?あと、キヴォトスに来てからトラブル続きでそんな余裕無かっただろうし、前世の記憶と今世の記憶がごっちゃになってるのも原因の一つ。例・あれ?ミネってどっかで見たような?一緒のクラスじゃんねあっそっかぁ。ちなみにどの時点で記憶が薄まって来てるかは、さり気なく描写してます。どこだろうねぇ。



 

「んんっ……ふわぁ……あふ……もう朝……」

 

 窓から差し込む光に目を細める。時計を確認すると、もう起きて朝の準備をした方が良さそうだ。布団から出ると、冬の冷気に晒され体が震える。暖房が付いてるとはいえ、この時期に裸で寝てたら、そりゃ寒いよね。

 

 隣を見ると、ミカがまだ寝ている。むにゃむにゃ言いながら口を動かしてる辺り、何か食べてる夢でも見ているのだろうか。私は微笑ましくなりながら、ミカに布団を掛け直すと立ち上がり、タンスから自分の分とミカの分の着替えを取り出すと、シャワーを浴びに行くことにした。

 

「ふぅ……あったかい……」

 

 頭から温水シャワーを被り、冷えた体に熱が染みる。体の汚れを落としながら、今日の予定を考えた。今日は2月14日、テスト期間最終日でバレンタインデーだ。テスト期間中はえっち禁止してたから、やっと解禁だぁ~!ミカも溜まってるだろうし、今夜はいっぱいご奉仕しなきゃ。それと今年のバレンタインは、私とミカ別で作ろうって話になったから、ミカがどんなチョコ作ってきたかまだ分からないんだよね。楽しみだなぁ~。

 

「テストが終わった後は、ミカと二人でお買い物に行くし、ふふっ楽しみがいっぱいだなぁ」

 

 脱衣所に戻った私は、用意した下着を身に付けていく。ミカとお買い物行くし、ちょっと気合入れた奴着けておこうかな。

 

「―――んっ!?」

 

 ブラを着けようとしたら、いつものところでホックが留まらない。仕方なく一列下げ……あれ!?何とかギリギリ留められたけど、胸の所がキツイ。うぅ、この前新しいの買ったばかりなのに~……。なんとなくショーツもお尻がキツイ気がする。これが成長期って奴なのだろうか。……身長は全然伸びないのに!

 

 怒りのまま部屋着にパパっと着替えると、脱衣所を出る。ベッドの上では、まだミカはスヤスヤと寝ていた。

 

「さて、朝ご飯どうしようかな」

 

 キッチンに掛けてある私のエプロンを着けると、冷蔵庫を開けて食材を確認する。お昼のお買い物中の食べ歩きを想定するなら、朝は軽めがいいかな。レタスとトマト、確かまだ食パン残ってたしトーストして、あとはスクランブルエッグとベーコンでいいか。必要な食材を並べると、調理を開始していく。調理といっても、野菜は洗ってボウルにそれっぽく並べるだけだし、パンはトースターに入れるだけだから、実際に作るのはスクランブルエッグとベーコンだけだ。

 

 卵を焼き始めてしばらくすると、ベッドの方でモゾモゾと動くのが見えた。

 

「んー……ミサちゃぁん……?」

 

 私がベッドに居なかったからか、体をゆったり起こすと、目を擦りながら顔をきょろきょろと動かしている。流石にキッチンから離れるわけには行かないので、その場から声を掛けた。

 

「ミカ、おはよう。とりあえず、シャワー浴びてきたら?」

 

「ミサちゃん、おはよー……。……うん、そうしてこようかな……」

 

 寝惚け目のままふらふらと、着替えを持たず脱衣所に向かっていくミカを見送る。見送ってから、先にミカの分の着替えを用意しておいて良かったと思った。

 

 その後、出来たスクランブルエッグとベーコンをお皿に並べ、テーブルに持っていく。そのタイミングで、トースターからチン!と音を立て、こんがり焼けたトーストが飛び出してくる。このトースター、見た目はレトロなのに、結構ハイテクで助かっている。そうして、野菜とトーストを並べ終わり、エプロンを外して一息ついたところに、お風呂から上がったミカが突撃してきた。

 

「ミサちゃん!おっはよー!」

 

 さっきのテンションとはえらい違いである。私は苦笑しながら、挨拶を返した。

 

「ミサちゃん、また着替え先に用意してくれてたんだね。すっごい助かっちゃった」

 

「ミカが朝弱すぎるんだよ……。いつも着替えを持たずにシャワー浴びに行くんだから」

 

「えへへ」

 

「あ、もう朝ご飯出来てるから席に着いてて」

 

「はーい」

 

 ミカがテーブルに向かったのを見て、私はキッチンに向かいティーポットをテーブルに持っていく。事前に温めておいたティーカップに紅茶を注ぐと、ミカの元に置いた。

 

「ん~いい香り……あれ?これってもしかしてダージリン?」

 

「香りだけでよく分かったね?」

 

 自分の分の紅茶も淹れ、私も席に着く。

 

「そりゃもちろん。でも、今の時期って丁度収穫前だよね?最近アッサムかセイロンばっかりだったし、保存してたもの?でも、香りが劣化してる様子は無いし、よくこんなの買えたね?」

 

「あはは、やっぱりこの時期でも飲みたくなってさ。ちょっと遠くから取り寄せたんだ。相応に値は張ったけどね」

 

 中々に高い買い物だった。学校のカードじゃ支払えないから、黒いカードを使う羽目になったよ。

 

「なるほどね……ん、ふぅ……おいしい。ミサちゃん、また腕上げたね」

 

「生半可なモノを出すとミカに怒られるからね、頑張ったよ。……うぅ、今思い出しても辛い日々、紅茶がぬるいとカップを投げつけられ、香りがちゃんと出てないとカップを投げつけられ……」

 

「い、いやいや!そこまで怒った事ないからね!?」

 

 まぁ、半分くらいは冗談だけど。

 

「それにしても、ミサちゃんって凝り性だよね。紅茶に限った事じゃないけど」

 

「あーうん、なんというか出来る事は全部やっておかないと、気が済まないんだよね」

 

 例えるなら、RPGでサブイベントを全部消化してからじゃないとメイン進めたくない、みたいな感じだろうか。あ、いくつか積んでるゲームあるからまた消化しておかないと。

 

「あ、そうそう今日のテストだけど―――」

 

 私とミカは朝ご飯を食べながら、今日のテストやそのあとの買い物の話をした。バレンタインチョコの交換は家に帰ってからにしよう、という事になった。

 

 ご飯を食べ終わった後、学園に行く準備を始める。

 

「あれ?ミサちゃん、太った?」

 

「へぁ!?」

 

 制服に着替える際、ミカに見られないように着替えようとしたのだが、ミカは目聡く私の変化に気付く。

 

「ふ、太ったわけじゃないから!」

 

「えー、そうかなぁ。その割にお尻のこことか、胸の辺りの肉付きが」

 

「ひゃあっ!?」

 

「あ、でも腰回りはそんなに変わって無いから、胸とお尻だけ?」

 

「あ……!ちょ、ま……やぁん……!」

 

 ミカの手が私の身体を這い回る。ミカの手により、全身の性感帯が開発されてる私の身体は、一切の抵抗が出来ずされるがままになっていた。

 

「あれ?ミサちゃん、大丈夫!?」

 

「ふにゃあ……」

 

 私の状態に気が付いたミカは、ようやく手を離した。

 

「うぅ……こうなるから見られたくなかったのに……」

 

「えっと……なんかごめんね?」

 

 一体何に対する謝罪なの。

 

「その、たぶんおっぱいが大きくなって、ブラのサイズが合わなくなっただけだから」

 

 私はとりあえず、太ってないアピールするのだった。

 

「あーなるほど、じゃあAからBになったんだね!」

 

「え?あー、うん、そうだね?」

 

 ホントは今着けてるのがBなんだけど、それは黙っておこう。今日の帰りのお買い物でランジェリーショップに寄る話をして、学園に行く準備を終えた。

 

 二人で家を出て学園に向かう途中、隣を横切った影見て最初は何も思わなかったが、「あれ?」と思い振り返るも既に影も形も無かった。

 

「ミサちゃん?」

 

「今、モモフレンズのバッグ背負った女の子が通り過ぎたんだけど、学園と反対方向に向かわなかった?」

 

「あ、そういえば。今日テスト最終日なのにどうしたんだろうね?」

 

 ミカは、忘れ物かな?と首を傾げていた。まぁ、忘れ物ならありえるよね。でも、その女の子を見たとき妙な胸騒ぎが……何だったんだろう?

 

 気にしすぎても仕方ないと、思考の外に追いやり、ミカと学園に向かいテストを受けた。中等部の締めくくりだけあって、問題は難しめだったけど手ごたえは十分だったし、この分ならいつも通り90後半取れるでしょ。

 

「ミカ~!テストどうだった?」

 

「いやー、結構ギリギリだったね。試験勉強の期間設けたのは正解だったかも」

 

 テストが終わり、教室の雰囲気が緩やかになったところでミカに声を掛ける。ミカでも、今回は少々難しいと感じたらしい。ある程度、ミカと難しかった問題の所を、いくつか答えを合わせると、やっぱり余裕で90点取れそうだった。

 

「じゃあ、この後は予定通り街にお買い物行く?」

 

「行くぅ!」

 

 やったぁ、ミカとお買い物だー。楽しみの余り、私はミカの腕にくっつく。

 

「えへへ、何買おうかな?ミカと何かお揃いで買う?」

 

「それもいいかもね!でも、その前にミサちゃんの下着買いに行こうね」

 

「あ、そうだった」

 

 可愛い下着あるといいなー、と思いながら私は周りから突き刺さる視線を無視して、ミカの腕にくっついたまま街へ向かった。

 

 

 

 街へ出ると、バレンタインだけあって色んなところでチョコが売りに出されていた。

 

「へー!結構色んな種類のチョコあるんだー」

 

「ミカ、こっちにはクッキーもあるよ」

 

「バレンタインって確か送るものに意味があったよね?」

 

「うん、クッキーは"友達でいようね"とか、マカロンは"あなたは特別な人"って意味があるらしいね。ちなみにチョコには特に意味は無いよ」

 

「無いんだ……じゃあどうしてチョコを送りあう日になったんだろ?」

 

「流石に私もそれは知らないなぁ」

 

 まぁ、心がこもってるなら私は何でもいいと思うけど。

 

「あ、ランジェリーショップ」

 

「あれ?こんな所に新しいの出来てたんだ。しかも、知らないブランドだね。まだ無名なのかな?ショーケース見る限りだと、デザインは良さそうだけど機能性とかどうなのかな」

 

「ちょっと覗いてもいい?」

 

「もちろん、ミサちゃんの下着買いに来たんだから、ミサちゃんが気に入ったものを買おう」

 

「うん!」

 

 私はミカを連れて、ランジェリーショップに入る。

 

「あ、お店の内装かわいい」

 

「結構細かいところまでこだわってる感じがするね。あ、この辺ミサちゃんに似合いそうな下着いっぱいあるよ」

 

「ホントだ。あ、先にスリーサイズ測ってもらうからちょっと待ってて」

 

「あ、うん。じゃあ、ミサちゃんが戻ってくるまで良さそうなの見繕っておくね」

 

 私は店員さんを呼び、スリーサイズを測ってもらったら、上から72・53・68だった。2年前はほぼ50の寸胴体型だったのに、道理できつく感じるわけだ。ショーツはXSからSに変えるとして、ブラはどうするか。アンダー57って55か60かで一番迷う。仕方ない、試着して決めようかな。今後の成長見込むならC60辺りって感じもするけど。しかし、身長は伸びないのに、胸だけ大きくなりすぎ……はっ!まさかミカが言ってた揉むと大きくなるってホントだった?

 

「あ、おかえりー。どうだった?」

 

「あ、うん。やっぱり、色々大きくなってた……」

 

「そっかぁ!……と、ところで具体的な数字は」

 

「な、言う訳ないでしょ!?いくら女の子同士でも、恥ずかしいって分かるんだからね!?」

 

「だよねー」

 

「もう……!」

 

 ミカの手を見ると、いくつかの商品を抱えていた。

 

「あ、ミサちゃんに似合いそうなの選んでおいたよ」

 

「わぁ!ありがとう!」

 

 チラッとサイズを見ると、Bだったので後でこっそり入れ替えておこう。

 

「このお店、私みたいな子供体型に合う下着あるの助かるなー」

 

「ミサちゃん、ちっちゃいからサイズの合う下着探すの大変だって言ってたもんね」

 

「……XS置いてるお店自体、稀少だからね」

 

 置いてるのは、大体Sからだ。まぁ、私みたいに中学入っても成長の遅い子なんて早々いないだろうから、仕方ないんだろうけど。そう言う意味では、お子様パンツは普通に私のサイズでも置いてるから、探さなくてもいいのは便利だった。

 

「……ところでミサちゃんどれくらい成長した?」

 

「またその話!?教えないって言ってるでしょ!」

 

「お、おねがい!このままじゃ気になって夜しか眠れない!」

 

「健康的でいいね!」

 

「あ、アンダーだけでもいいから~」

 

 何故か私の腰に縋り付くほどの謎の執着を見せるミカ。

 

「う………………57」

 

 勢いに圧され、私は顔を赤くし小さくそう呟いた。蚊の鳴くような声で呟いたその言葉を、ミカは聞き逃さなかったようで、驚いた顔をしていた。

 

「え、ホントに?」

 

「う、嘘言ってどうするの。別に太ったわけじゃないからね!」

 

「そっか、ミサちゃん成長したんだ……良がったねぇ……」

 

「えぇ!?」

 

 ミカは何故か急に泣き始めた。

 

「ちょ、どうしたの!?今日情緒おかしくない!?」

 

「だって、2年前はあんなに痩せ細っていたミサちゃんが、こんなに健康的になったんだって思うと泣いちゃうよ……」

 

「大げさだから!も、もう!私試着してくるから、待っててね!」

 

 さり気なく、ブラとショーツのサイズを交換して試着室に入る。

 

「もう、ミカには困っちゃうよね。……よいしょっと」

 

 ブラのサイズを確認がてら、デザインも確認する。

 

「さすが、ミカの見立て。恐ろしいほど良く似合ってる。……んー55だとちょっときついか、60の方が良さそう」

 

 私は確認をそこそこに試着室を出る。そこには鼻をかんでるミカが待ってた。

 

「あ、おかえり」

 

「あ、うん。やっぱり55より60が良さそうだから、取り替えてくるね」

 

「そうなんだ、買うものは決まったの?」

 

「うん、ミカが選んでくれたやつが可愛いから、これにしようかな」

 

「そっか、じゃあ会計終わるまで待ってるね」

 

 その後、会計済ませてミカと合流し店を出た。買ったものが入った紙袋を抱えながら、どこに行こうかとミカと話していると、ミカの目が私の胸を見ながら話しているのに気づいた私は、ミカにデコピンした。

 

「―――痛い!急に何するの!」

 

「そんなに鋭く私のおっぱいを見つめて『何』もないでしょ」

 

「いやー、私が育てたんだなぁと思うと感慨深くて」

 

「……」

 

 ホントに今日はどうしたんだろう。もしかして、禁欲期間が長すぎておかしくなったんだろうか?そういえば、そろそろ2週間だもんね。前は長くても1週間とかだったし、おかしくなるのも無理はない、のかな?

 

「ミ、ミカその……」

 

「ん?なに?」

 

「今、無理して見なくても今日の夜たくさん見せてあげる、から……ね?」

 

「……」

 

 あれ?今私すごく恥ずかしい事言ったような!?私は思わず持っている紙袋で顔を隠していると、ミカが私の腕を引っ張り路地に連れ込む。そして、私を壁に押し付けると、壁ドンしてそのまま私の唇を奪ってきた。

 

「―――んんっ!?ん……んむ……んちゅ」

 

 そのまま五分近く口内を蹂躙され、解放された頃には私はトロトロになっていた。

 

「ふぇ……???」

 

 あまりにも急すぎて、脳の処理が追い付かず疑問符を浮かべていると、ミカが私の顎を掴み唇を親指でなぞりながら言った。

 

「ミサちゃん、せっかく我慢してたのに、そんなこと言われたら私……抑えられなくなっちゃうよ?ミサちゃんが誘ってきたんだし、いいよね?」

 

「あ、あぅ……」

 

「……でも、そうだね……まだお買い物終わってないし、夜までは我慢しよっか。ミサちゃんも、我慢できるよね?」

 

 そう、耳元で囁くミカ。うぅ、やめてぇ。お腹の下がキュンキュンしちゃう♡

 

「……返事は?」

 

「は、はい……♡」

 

 ただでさえ顔が良いのに、そんな男らしいことされたら女の子になっちゃうよ……。……ん?男、らしい……?

 

「ほら、ミサちゃん。まだお買い物するから行こうよ」

 

「あ、うん」

 

 何かに引っ掛かりを覚えた私は、思考の海に潜り掛けたが、ミカの声で現実に引き戻される。私は火照る体を抑え、ミカの後を追い掛けた。

 

 ミカと街を巡り、服を買ったり、お茶したりした。その途中、ミカがアクセサリーショップを見つけて入りたがったので、一緒にお店に入り見て回る。

 

「あ、見て見てミサちゃん!これとか可愛くない!?」

 

「えー?うーん、こっちの方が合いそうじゃない?」

 

「こっちも可愛い!」

 

 羽用のアクセを二人でアレコレ弄っていると、ミカが何かを見つけて持って来た。

 

「ミサちゃんミサちゃん、これあげる」

 

 そう言ってミカが首に巻いたのはチョーカーだった。首に巻く布は柔らかい素材で肌を痛めにくく、小さいチェーンで釣ってある星形の石が可愛い。

 

「なんか本物の星の欠片使ってるって書いてあったよ」

 

「なにそれ、胡散臭すぎじゃない?」

 

 それ、地面砕けば「はい、星の欠片です」って出せるじゃん。近くの鏡を見ると、黒い布に首を覆われていて、まるで……。

 

「……まるで、首輪みたいだね?」

 

「―――っ!!」

 

 ミカに耳元で囁かれ、背筋を電流が走り、頭の奥でパチッと弾ける感覚。あっ……やばい……イッたかも……。

 

「ふふっ、どうしたのミサちゃん?」

 

「にゃ……なんでもない……」

 

 見透かすように私を見て笑ってるミカに、なんとか崩れまいと足に力を入れ、倒れないように堪える。うぅ、足がガクガクする……。

 

「ミサちゃんもそのアクセ気に入ったみたいだし、買っていこっか」

 

「そ、それは、でも、ミカに悪いよ……」

 

「いいよいいよ、もうすぐ高校生だし、ね?進級祝いに買ってあげる」

 

「で、でもこんなの恥ずかしくて他の人に見せられないし……」

 

 他の人にも首輪みたいに思われたらどうしよう……。

 

「えー、じゃあ分かりやすいように名前書いとく?」

 

「もー!余計に首輪みたいに見えるじゃんか!」

 

「あはは!冗談だってー☆」

 

 結局、ミカに押し切られるままに買って貰った。うぅ、学校のみんなに変に思われそう……。お返しに私も、ミカにいくつかアクセを見繕ってプレゼントした。ミカにも恥ずかしい思いしてもらうために、とびっきりの可愛いやつを選んであげたらすごく喜ばれた。私、人に嫌がらせする才能が無いのかもしれない。

 

 お店を出た後も、誘われるままに色んなお店を回った。しかし、悶々としたものを抱えたままの私は、その度に早く帰ってミカとえっちしたいなぁと思ってたりもする。とりあえず、ミカに体を擦り寄せて、僅かながらに欲求を抑えた。

 

「きゃー!」

 

 なんてことをしていたら、何か事件が起きたらしい。

 

「なにかあったの?」

 

「また、ゲヘナの角付き共が暴れてるみたいじゃんね」

 

「ふーん」

 

 折角、ミカとお買い物に来てたのに、アイツら水を差すのだけはホントに上手いよね。これ以上、邪魔されたらムカつくし、一辺締め上げておこうか。

 

「―――はいストップ」

 

 私の腕を、ミカは引っ張って戻す。なんだろうと思って、ミカを見ると苦笑してた。

 

「ミサちゃんが行かなくても大丈夫だよ、ほら」

 

 ミカが目で示した先を見ると、《正義実現委員会》の黒い制服が見えた。

 

「きひひひひひひひっ!」

 

「ツルギ!あまり前に出過ぎないでください!」

 

「やべぇ、ツルギが出たぞ!?」

 

 いの一番に駆け付けたのは、ツルギとハスミだった。ツルギは両手に持つ二丁のショットガンを巧みに使い、ゲヘナ生を蹂躙していく。ハスミは前に出るツルギを、スナイパーライフルで援護していた。

 

 ツルギの登場に浮足立つゲヘナ生に、更に追い打ちが掛けられる。空から盾を構えた少女が落ちて来たのだ。

 

「―――救護します!」

 

「げげぇ!?ミネまで来やがったぞ!?」

 

「せ、せんぱ~い!ミネせんぱ~い!まってくださ~い!」

 

 《救護騎士団》の中でも、すっかり札付きとなってしまったミネの登場に震え上がるゲヘナ生達。ミネの後ろから追い掛けてきてるのは、後輩だろうか?アサルトライフルの先に注射器が付いてるけど、何に使うんだろう。

 

「セリナ、救護を待つ者達は待ってくれませんよ!さぁ、行きます!」

 

「は、はい!あ、皆さんケガしても私が治すので安心してください!」

 

 セリナと呼ばれた少女は、そう言ってミネに殴り倒された者をいそいそと治療し始めた。なるほど、ミネと違って戦闘じゃなくて治療専門なのか……いや、戦闘専門のミネがおかしいな。

 

「ね?」

 

 ミカは私の言ったとおりでしょ?とウインクしてくる。

 

「……うん、そっか、もう私が出なくても大丈夫なんだ……」

 

 その事に一抹の寂しさを感じている間に、ミネとツルギが大暴れして一気に事態は収束へ向かって行った。遅れて到着した委員会が後処理を行っているのを眺めていたら、ツルギと目が合った。

 

「……ミサ」

 

「あ、ホントですね。ミサさん、ミカさんこんにちは」

 

「ミサ達も来ていたんですね」

 

 と、何故かミネもこっちに来た。ツルギとミネがこっちに来るものだから、野次馬がこっちに気付き、どよめく。

 

『おい、あれって光園ミサじゃないか?』

 

『ホントだ!って隣の美少女誰っ!?彼女!?』

 

 周りがうるさい……。なんで毎日一緒に居るだけで彼女になるんだ。ちょっとミカの陰に隠れとこ。

 

「ハスミちゃん達もおつかれー☆最近、頑張ってるんだねー。色んな所で噂を聞くよ」

 

「私は、ツルギのサポートをしているだけですけどね」

 

「私は救護をしているだけですが?」

 

「……」

 

 ミネ、お前本気でよく分からないって顔するのやめなさい。そして、ツルギは私を無言で見るな。

 

「今日はミサさん静かですね。というか、随分ベッタリなような……」

 

「あ、あはは……なんでだろうねぇ~」

 

「静かといえば、最近のミサは大人しいですね。前はもっと荒々しい感じだったと思うのですが」

 

 ミネがそう言うと、みんなの視線が一斉に向けられる。な、なんで急に私に振るんだよ……!

 

「そうですね、前のミサさんはもっと男っぽかったような」

 

「べ、別に私の周りで事件が起こらなくなったから、暴れる必要が無くなっただけだし。それに……」

 

 それに、こうして心の中はちゃーんと男らしく……男らしく?あれ?私、いつから心の中でも私って言ってた!?

 

「あ、あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「あ、ううん!?なんでもない!?」

 

 わ、わた……オレ、オレだから!わ、オレが心の中も女の子口調になったのいつからだっけ?半年前にあったツルギの件以降だったっけ?あれ以来、一切戦わなかったせい?うぅ、どうしてぇ……!

 

 だ、だめだぁ。なんとか男口調に戻そうと思ってるのに、違和感がすごい!なんでよぉ。

 

「ミサちゃんが暴れる前に、ツルギちゃんやミネちゃんが片づけちゃって、ここ半年くらいはずっと平和な感じだったから落ち着いたのかもねー」

 

「なるほど……なぜ騎士団のミネが片づけてるんですか……」

 

「ハスミ、貴女は目の前で救護を求めてる人を見捨てろと言うのですか!?」

 

「言ってません」

 

 わた、オレの葛藤を余所にミカ達が楽しそうに話してる。私も混ぜて~。

 

「そ、そういえば最近ツルギはハスミと組んでるの?」

 

「……あぁ、委員長がその方が良いと言ってな」

 

「そうですね。……なんだか色々押し付けられた気がしますけど」

 

 ユイノ、前にハスミの面倒も見てたから丁度いいって思ったんだろうなぁ。

 

「そういえば、ユイノは?現場大好きなアイツが来てないなんて珍しい」

 

 いや、現場大好きとは一回も聞いたことないけど。

 

「委員長なら、副委員長と一緒に書類仕事に追われてます」

 

「あー、なるほど。さしものユイノでも書類には勝てなかったんだ……」

 

「ミサちゃんは、逆に書類とかそういうの得意だよね」

 

「え!?」

 

「なんだと……」

 

「そうなのですか!?」

 

「なんでそこ驚くの……?」

 

 私……じゃないオレが書類仕事得意なのそんなにおかしい?

 

「……ミサさんスペックの高さに改めて驚きますね。逆に出来ない事ってあるんでしょうか?」

 

「うーん、ミサちゃん最初出来ないことはあるけどいつの間にか出来てるもんね」

 

「これと言って思い当たることは無い、かなぁ?」

 

 今度、出来ないこと探してみようかな。

 

「ユイノも忙しいみたいだし、今度息抜きにお茶誘ってあげよう」

 

「ええ、そうしてください喜びますよ」

 

「……そろそろ私達はお暇しよっか、みんな忙しいだろうし。ね、ミサちゃん」

 

「え?う、うん」

 

 ある程度、話も終わったと思ったのかミカはそう言って私をんん!オレを引っ張る。

 

「そうですね、私もツルギも委員会の方を手伝わなければいけません」

 

「……壊す以外は苦手なんだがな」

 

「私も次の救護に向かわなければ!」

 

「三人とも頑張って」

 

「またねー」

 

 離れていく三人を見送った後、ミカに連れられて歩く。

 

「ど、どうしたのミカ?」

 

 なんだかミカの様子が変に感じたので、声を掛けたけど、「なんでもない」としか返されなかった。というか歩幅違うから、そんなに大股で歩かれたら疲れる!

 

「……すぅ、ふー。引っ張っちゃってごめんね、ミサちゃん」

 

 ある程度歩いたところで、止まったミカに謝られた。

 

「ううん、私は大丈夫だけど……」

 

 わたオレ、ミカに何かしちゃったのかな。

 

「そろそろ、日が暮れて来たし帰ろっか?」

 

「うん、いっぱい歩いて疲れたもんね」

 

 ミカが差し出してきた手を握り返し、一緒に歩く。

 

「ミサちゃん!今日の晩御飯は何ー?」

 

「えー、疲れてるから出前にしない?」

 

「だーめ!今日はミサちゃんのご飯が食べたい気分なの!」

 

「もう、しょうがないなぁ」

 

 あ、いつも通りのミカだ。よかった。

 

 

 

 帰ってから、ミカに料理を振舞い、一緒にお風呂に入った後、チョコの交換をすることにした。

 

「はい!ミカ!」

 

「わ、わー……まるでお店のチョコみたい。え?ホントに手作り?」

 

 綺麗に包装された箱を開けると、色とりどりのハートの形をした一口サイズのチョコレートが並んでいる。

 

「もちろん!上の段はミルクチョコレートで左から順に食べていくと、どんどん甘くなるよ!二段目はー、ホワイトチョコレートでー中に色々入ってるけど食べてからのお楽しみ!三段目はー苺チョコなの!」

 

「あれ?私の女子力、ミサちゃんに負けた?」

 

 私は自信満々にミカに中に入ってるチョコを説明していくと、何故かミカの顔色がどんどん悪くなる。

 

「ミカのチョコはどんな感じ?」

 

「え、えーと、ミサちゃんのに比べたら全然普通なんだけど……がっかりしないでね?」

 

 そう言って包装されたそれを渡してきた。中身は、ありふれたハート形の手作り感溢れる大きなチョコレート。

 

「わぁ……!かわいい!」

 

 えへへ、これお部屋に飾ってたいなー。……あ、こういう事してるから思考が女の子に寄っていくのでは……?

 

「で、でもミサちゃんのに比べたら全然だよ?」

 

「え?なんで私?」

 

「なんでって……」

 

「このチョコは、ミカが頑張って作ってくれたんでしょ?だったら、私にとってこのチョコは唯一無二だよ!」

 

「……」

 

 あ、あれ?急に静かになったけど、どうしたんだろ?

 

「ミサちゃん」

 

「ひゃわ!?え?なになに!?」

 

 黙ってたかと思ったら、何故か急に抱き締められた。

 

「ねぇ、ミサちゃん。シよ?」

 

「え、えぇぇえええ!?急すぎない!?」

 

「急じゃないよ。夜になったらするって言ったよね?」

 

 言っ……てた!あああ、あのときは流されて了承しちゃったけど、流石に今のわ……オレの状態だと恥ずかしいというかなんというか!

 

「わっ……!?」

 

 ミカに引っ張られ、ベッドに押し倒されると、上からミカが覆い被さってくる。

 

「……やっぱり、男の子のミサちゃんが出ちゃってるんだ。だったら、また女の子のミサちゃんに戻してあげる」

 

 な、なんでバレてるの!?あ!ヘイロー!?ば、ばかばか!ヘイローのばかぁ!顔より分かりやすく出るなよー!?

 

「2週間ぶりだからね、2週間ぶっ通しでもいいよね?テスト終わった後は自由登校だから、学園の事は心配しなくていいからね」

 

 な、なんでそうなるの!?2週間は駄目!流石に死んじゃう!?なんとか拒否したいけど、私の口からは「あ」とか「う」なんて言葉しか出てこない。うぅ、嫌なのに体が期待で反応しちゃってる……。

 

「何も言わないってことは、いいんだ?」

 

「そ、その……や、優しくしてね?」

 

「―――無理☆」

 

 せめてもの抵抗を、すごく良い笑顔でバッサリと斬られた私は、その後2週間外に出られなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

『黒幕登場☆ってところかな?』

 

 

『どうして、こうなったのかな……』

 

 

『私には……もう、帰る場所が無いの……トリニティにも……どこにも……』

 

 

『すべてが虚しいことばかりのこの世界で、ただ救いを願って苦しむだけだった……』

 

 

 

『私が本当の、"トリニティの裏切り者"』

 

 

 

「―――!?」

 

 どこか見覚えのある"イメージ"に私は跳ね起きる。今のは夢……?違う、私は覚えているはずだ。画面越しに見ていたあの光景を。

 

「思い、出した……そうだ、エデン条約」

 

 ミカに犯され、酷いことされても、それでもミカから離れなかった。傍に居なければいけなかった理由。でも、なんでそうしてたか次第に思い出せなくなっていた。段々と、"原作"が思い出せなくなっていたのは気が付いていた。気付いた時には、ほとんど思い出せなくて、それでもミカの傍に居る事だけを選んだ。ミカを守る為に。オレを助けてくれたミカに、今度はオレが助けて上げたくて。

 

「……そうだ、(オレ)がミカを守らないと」

 

 まだ断片的にしか思い出せないけど、きっと徐々に思い出せるはず。とにかく、オレがミカを"魔女"にさせない。

 

 日付を見ると、今日は高等部の入学式だった。そうだ、今日から高校生だった。ということは、猶予は多くても一年。たしか連邦生徒会長が失踪前にエデン条約の話があって、ミカがアリウスに接触するのはその前後……のはず……。まだ一年ある、出来る事は全部やらないと!

 

「……でも、ミカに守られてるオレに出来るのかな……」

 

「ううん、絶対に出来る!そうだ!高校生になったし、もっと男らしくなろう!そうすれば、きっとミカを守れる!」

 

 ミカとお揃いにした制服に腕を通し、引き出しの中に入れていた銀時計を取る。ずっと着けるのを迷っていた。でも、ユイノと話してようやく吹っ切れた気がする。シエルさん……今度は、ミカを守って……。オレは時計を左腕に巻くと、銃とバッグを持って家を出ようとする。

 

「あ……」

 

 テーブルの上に置いていた、ミカに買って貰った星飾りのチョーカー。どうするか迷って、首回りが寂しいし着けていくことにした。

 

「……首輪みたいに、思われないよね?」

 

 まだ寝ているミカに声を掛けようと思ったけど、いつまでもミカに縋っているようじゃ男らしくなれないもんね?とりあえず、朝ご飯と書置きだけして家を出た。

 

 よーし!高校デビューだ!

 

 

 

 

プロローグに続く…




光園ミサ
懲りない女(n回目)。思い出した(思い出してない)。女の子でずっと過ごしてたら、心の中まで女の子に染まっていた。なんとか戻そうと奮闘したものの、最終的に混ざった感じに。高校デビューは失敗した(プロローグ)。こいつ、中学と同じ失敗してるな…。記憶は思い出したように見えて、断片的すぎる上に、ミカの事しか思い出していないという。こいつの原作知識使えないぞ。不安しかないエデン条約編。

聖園ミカ
禁欲はするべきじゃないと学習した女。ミサが「ゲームで見たような…?」をしてるときに見事なアシスト(妨害)を見せた。そりゃ、前世で見たことあるとは思わないし。ずっと、ミサのヘイローがピンクだったのに、急に青くなったので内心ブチギレてた。



フィジカル、メンタル共にMAXの状態で中学生編を終えたため、エデン条約編のトゥルーエンド条件が解放されました。



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《ティーパーティー》編
ティーパーティーの話


《ティーパーティー》編開幕…!

感想いつもありがとうございます!

エデン条約編前日譚である《ティーパーティー》編を数話挟み、いよいよエデン条約編突入となります!原作突入まで長かったなぁ…。

彼シャツハナコは200連目で出たので凸るためにハナコ交換しました。他のフェス限は、ミカの時に全部出してたから他に引くもの無いし、今回限定出ないしね。…ところで水着ミカはまだ?


 

「ぶー、高校生になってちょっとはしゃいだだけなのに、あんなにするなんてひどいよ!ユイノもそう思わない!?」

 

「いやいや、別にひどくないよ。ユイノちゃんもそう思うよね?」

 

「あはは、ノーコメントで。昨夜は《勉強部屋》でお楽しみだったみたいですね」

 

 入学式から一夜明けた次の日。結局、《勉強部屋》で一晩過ごしたオレ達は、謝罪行脚の為に《正義実現委員会》の校舎まで足を運んでいた。

 

「ベ、別にお楽しみだったわけじゃ!?」

 

 あれは火照った体を鎮めるための儀式みたいなものだから!

 

「ってあれ!?なんでユイノが《勉強部屋》の事を知って!?」

 

「ユイノちゃんに限らず、歴代のトリニティ上層部のトップ陣はみんな知ってるよ」

 

「嘘っ!?」

 

「しかも、《勉強部屋》の映像の閲覧権限もあるから、今までのミサちゃんのえっちな姿みんなに見られてたかもね☆」

 

 じゃ、じゃあ《勉強部屋》で私がミカとやったあんなこともこんなことも!?

 

「あ、あばばばばばばばっ!?」

 

 脳が理解を拒み、私は白目を剥きながら椅子ごと後ろに倒れた。

 

「ミサちゃーん、大丈夫ー?」

 

「うぶぶぶぶ」

 

「ダメそうですね」

 

 うぅ、毎日を精一杯生きてるだけなのに、なんで私がこんな目に~っ!

 

 

 

「さて、ミサさんの意識がこちらに戻ってきたことですし、本題に入りましょうか」

 

「うぐぐぐぐぐっ」

 

「ほら、ミサちゃん抑えて抑えて」

 

 なんで、ユイノは人の情事を覗き見ておいてそんなに冷静なの!

 

「昨日の件ですが、こちらとしては問題の早期解決に繋がったので謝罪の必要はありません。むしろ、こちらが感謝したいくらいです。被害も最小限に抑えられていますし、《正義実現委員会》からミサさんに対して何かしらの罰は要求しない。というのが公式声明になります」

 

「そうなんだ、いつも迷惑かけてごめんねユイノちゃん」

 

「元々は我々が対処しなければならない件ですからね。むしろ、責められるべきは私達の方でしょう。それに、ミサさんのいつもの人助けですからね」

 

「……別に助けようと思って助けたわけじゃないけどね。眺めてたら、絡まれただけで」

 

「ミサちゃん、そうやってすぐ捻くれた事言うのダメって言ったよね?」

 

「うぅぅ~っ!」

 

 額に青筋を浮かべたミカに、ほっぺを限界まで引き伸ばされる。

 

「えっと、それじゃあウチからはこんなものですかね。お二人はこの後《救護騎士団》に?」

 

「うん、そうするつもり」

 

「なら、あまり引き留めては悪いですね」

 

「あんまり、ゆっくりお話できなくてごめんね?」

 

 オレはミカに伸ばされたほっぺを擦りながらユイノに謝る。

 

「いえいえ、そうだ!この前良い紅茶の茶葉が手に入ったので、今度一緒に飲みましょう」

 

「ホント?わかった!じゃあ、時間がある時にまた連絡ちょうだい!」

 

 ユイノとお茶する約束をして、オレとミカは委員会を後にした。

 

 

 

 あの後、騎士団も訪ねたが特にお咎め無しだった。それどころか、久しぶりの救護だったから気合が入ったと、感謝されてしまった。

 

「いやー、みんな良い人で良かったねー」

 

「う、うん」

 

「どうしたの?」

 

「その……優しくされるの、やっぱり慣れないなって思って」

 

 今までは、目の仇にされたり、邪魔に思われたりすることの方が多かったし。そう思っていると、後ろからミカにぎゅっと抱き締められる。

 

「大丈夫だよ。これからそういうこと増えるから、ゆっくり慣れて行こうね」

 

「……うん」

 

 ミカの腕に触れて、ミカの温もりを堪能していたら、後ろから急に声を掛けられる。

 

「ミカ様……」

 

「……なに?」

 

 そのままの体勢で、ミカは振り返ることなくいつもより低い声で返事をする。

 

「そ、その……《ティーパーティー》の件で……」

 

「またその話?昨日断ったよね。私はパテルのリーダーに、首長になるつもりは無いよ」

 

 ―――え?

 

「私みたいな利己的で自己中な女を頭に据えるよりも、もっと優秀な子を探したら?」

 

「で、ですが!その、ミカ様の家がなんて言うか……」

 

「家の事を持ち出しても無駄だよ。今の私には無関係なんだから。分かったらさ、邪魔だからさっさと消えて」

 

「っ……し、失礼します……」

 

 オレの方からは姿は見えなかったが、足音が遠ざかっていくのは分かった。

 

「……え、えっと」

 

「あはは、ごめんねミサちゃん。変な所見せちゃったね」

 

「それはいいんだけど……パテルの首長って」

 

 ミカってずっとオレと一緒に居たから、《ティーパーティー》の仕事とか全然してないはずだよね。それなのに、どうして首長候補に?もしかして、歴史の修正力みたいなものでもあるのだろうか。それに、ミカの家か……。長く一緒に居るのに、ミカの事、聞いたこと無かったな。

 

「あーうん、そこ気になっちゃうよね。まぁ、ちょっとした手違いというか、私に次のパテルのリーダーになってくれって頼んでくるんだよ。いい迷惑だよね」

 

「手違い?でも、さっきミカの家がどうのって」

 

「う、うーん、ミサちゃんの好奇心を刺激しちゃったかー。でも、そっちは何も関係ないからね。まぁ、ちょくちょくちょっかい掛けられてるけど、気にしなくていいから」

 

 余程触れられて欲しくないのか、ミカは強引に話を終わらせてきた。

 

「……わかった」

 

 ミカが《ティーパーティー》に入らないなら、オレの目的は意図せずして達成できたのか?《ティーパーティー》の首長にならなければ、ミカは事件を起こさず、魔女にもならない。……うん、きっとその方がいい。

 

 その後、オレ達は教室に戻り、普段通りに授業を受け、何事も無く一日を終えた。

 

 

 

 一週間経ったある日、ミカがまた用事でどこかに行ったので、暇を潰す為に図書館に来ていた。というのも、一度トリニティの歴史を学び直したいと思ったからだ。特に、エデン条約に関わるアリウスについて。

 

 ミカが《ティーパーティー》に入らないなら必要無いかもしれないが、だからと言って今出来る事をしない理由にはならないからな。

 

「とは思ったものの、大まかには載っていても、詳しいことまでは書いてないよなぁ」

 

 流石に一般開放レベルだと、ゲヘナでも知れるようなことしか書いていない。トリニティが昔、各学校に分かれて争っていた事、それらを終わらせる為に三つの学校の代表が集まり友好を結んだこと、それに反対したアリウスが迫害に遭い追われた事。この辺は、ゲームでも聞いた気がする情報だな。できれば、もっと突っ込んだ情報が欲しいんだけど……。

 

 ……あれ?そういえば、アリウスが学校連合に追われた時、支援したところがあったんじゃなかったっけ?……思い出せ、切っ掛けがあれば記憶の糸が繋がるはずだ。

 

「……!そうだ、《ユスティナ聖徒会》」

 

 ……待てよ?アリウス迫害したのもユスティナじゃなかったか?いや、それ以前にこの歴史書……。オレはもう一度本のページをめくり、歴史を遡ったが本にはどこにも《ユスティナ聖徒会》に関する記述が無かった。他の本にも目を通したが、ユスティナに関する記述だけ抜けている。

 

「これは……」

 

 確か、《シスターフッド》の前身が《ユスティナ聖徒会》だったはず。ということは、《シスターフッド》の手によって隠蔽されたと考えるべきか?……そういえば、《シスターフッド》が怪しすぎて良く噛み付いてたのが……あれ、ミネだったか?アイツ、割と重要な立ち位置だったのか。

 

 よ、よしよし。ちょっとずつだけど、思い出せてきた気がする。なんかすごい穴だらけだけど!

 

 あれから時間を掛けて探し回ったが、ユスティナに関する記述は《シスターフッド》の前身である、という情報以外見当たらなかった。

 

「はぁ……他の情報は集まったけど、肝心のユスティナに関することだけ全くと言っていいほど情報が無い」

 

 となれば、後は《シスターフッド》に突撃して情報を聞き出すしかないのだが、流石にそれは最終手段にしたい。前に暴れた前科のある身としては、これ以上悪印象を持たせるようなことはしたくない。とはいえ、これ以上は八方塞がり。どうしたもんかな。

 

 それともう一つ、ミカがアリウスへの行き方を知った経緯はなんだったんだろう。確か、トリニティでも居場所が分からない所へ逃げ込んで、普通の方法で行き来出来ないみたいな話だったはず。そちらも探っておくべきか……。

 

「すみません、本借りたいんですけど」

 

「あぁ、はい……ってミサさん!?」

 

「あれ、ウイ珍しいな」

 

「へぁぁっ、ど、どうしてここに……」

 

「いや、それはこちらのセリフ。ウイこそ、いつもは図書館の奥に籠もってるじゃん」

 

「そ、それは、今日は私しかいないから、受付をやらされてるんですよ……」

 

 古関ウイ。同級生で図書委員をやってる。昔から図書館にサボりに来た時、たまに顔を合わせてた仲だ。お互い、本を読みに来てたので会話らしい会話は殆どしたこと無いが。

 

「こ、こちらの本の貸し出しでいいんですか?」

 

「うん、お願い」

 

「で、ではこちらの貸し出し記録に入力お願いします……期限は一週間なので、そ、それまでに返却してください」

 

 ウイに差し出された端末に、情報を入力する。昔からやっていたので、慣れたものだ。……最近、身近な人がゲームのキャラだって思い出したせいか、ウイもそうなんじゃないかって思ってしまうな。……流石に失礼過ぎるな、これ以上はやめておこう。

 

「……また、珍しい本借りますね。アリウス分派についてですか」

 

 受付の上に置かれた本を見て、ウイは感心するような呆れるような声を出す。

 

「ちょっと改めて調べたくなってさ。でも、流石に一般蔵書だと授業で習った以上の事は詳しく載ってないなって思って。せめて《ユスティナ聖徒会》のこととか知れたらよかったんだけど」

 

「どうしてそこで《ユスティナ聖徒会》が出るんですか?」

 

「え、あー」

 

 そういえば、表向きは関係無いんだよな。なんて言えばいいんだ……。

 

「まぁ、なんにせよ《シスターフッド》の前身である《ユスティナ聖徒会》を調べるのは難しいと思いますよ」

 

「……秘密主義、か。情報が封鎖されてるのも、大聖堂側の仕業か?」

 

「……そういうわけですから、あまり表立って嗅ぎ回るのは、おすすめしませんよ。ユスティナは秘密に近づく者を拷問に掛けたと言いますから、《シスターフッド》にも警戒しておくべきでしょう」

 

「……今日は妙に饒舌だけど、心配してくれてるの?」

 

「へぁっ!?そ、そんなわけないでしょう!よ、用が済んだなら早く出て行ってください!」

 

 そう言うや否や、図書館から追い出されてしまった。

 

「……まぁ、借りるものは借りれたからいっか」

 

 

 

「ユイノーいるー?」

 

 図書館を後にしたオレは、《正義実現委員会》の校舎を訪ねていた。最早、勝手知ったると言わんばかりに奥まで行き、ユイノの執務室の扉を開ける。

 

「あ、お待ちしてましたよミサさん!」

 

 そこにはメイド姿のユイノが居た。

 

「すいません間違えました」

 

 そっと扉を閉じる。

 

「……さて、ユイノはどこかな」

 

 閉じた扉の奥から、ダダダッと走る音の後扉が勢いよく開かれた。

 

「いや、待ってください!なんで見なかったことにして行こうとしてるんですか!」

 

「だって、なんか怖かったし……」

 

「怖い!?そこはかわいいでしょう!」

 

 友人が急にメイド姿で出迎えたら怖いだろうが。

 

「まぁいいです。お茶の準備は出来てるので、入って座ってください」

 

 そう言って部屋の中に戻るユイノに付いてく。いや、お前は着替えないのかよ。ユイノが紅茶を淹れてテーブルの上に置く。

 

「すんすん、あっ甘い香りがする」

 

「そうでしょう、クッキーもあるのでどうぞ」

 

「いただきます」

 

 紅茶を口に含むと、柑橘系の爽やかな香りがスッと喉を通った。確かにさっき甘い香りがしたと思ったけど、これは……。舌で、何度か転がすとその正体に行きつく。

 

「……もしかして、フレーバーティー?」

 

「いい舌してますねぇ。フレーバーティーはお嫌いですか?」

 

「嫌いじゃないよ。でも、珍しいからちょっと驚いた」

 

 というのも、フレーバーティー自体お店で置いてることが少ない。加えて、美味しいフレーバーティーとなると更に数が少なくなる。

 

 フレーバーティーというのは、ベースとなる茶葉に様々な香りを付けたお茶の事だ。単独で付けたり、複数の香りを付けて楽しむことが出来る。口で言うのは簡単だが、これが結構難しく、組み合わせ方によっては酷い味のものが出来上がる。特に、人に振舞う場合は注意が必要だ。フレーバーティーで一番有名なものと言えば、アールグレイが挙げられるだろう。

 

「フルーツ系のフレーバーだと思うけど、香りは二つあったね。甘い香りのものと柑橘系の香りと」

 

「はは、当たりです。さくらんぼと甘夏ですね。良い茶葉が手に入ったので、作ってみたんですけど、どうですか?」

 

「へぇ、自作なんだ。すごくおいしいよ!」

 

 クッキーの甘さが控えめだから、フレーバーティーの香りの良さをより引き立てている。

 

「そこまで喜んで貰えるとは、作った甲斐があるというものです。……ところで、この格好の方はどうですか?」

 

「え?」

 

 そう言ってユイノは、メイド服のスカートを摘まみながらくるくると回る。

 

「うーん、コスプレ感が強い、気品と優雅さが足りない、なんというかメイドという職業をバカにしてる感じがする。趣味で着る分には、とやかく言わないけどウチのメイドに欲しいとは思わないかな」

 

「あ、あれぇ!?いきなり評価が辛口に!?しかも、結構ボロクソ!」

 

 うぅ、と泣き真似をしながら崩れ落ちるユイノを尻目に、お茶を楽しむオレ。今度、ミカに同じものを振舞ってみようかな。ベースの茶葉が何かも、大体の見当が付くし。

 

「それだけ言うってことは、ミサさんの家のメイドはそれほどレベルが高いんですね」

 

 ある程度すると、立ち直ったユイノにそんなことを言われた。

 

「……あれ?私、そんな風に言ったっけ?」

 

「言いましたよ?」

 

「何か無意識に口走っちゃったのかな、よく覚えてないや」

 

「何ですか、それ。ホラーじゃないですか。……もしかして、実家との折り合いが悪いとか?」

 

「う、うーん……」

 

 そもそも、実家があるのかどうか不明なんだけど。あれだけ目立つ事してても何もしてこないって事は、存在しないかとっくに勘当されてるかだよね……。まぁ、今の私にはミカがいるからどうでもいいけど。

 

「委員長、失礼しま―――ってまたなんて格好してるんですか……」

 

「あれ?ハスミじゃん」

 

「あ、あはは、思ってたより帰ってくるの早かったですね?」

 

 ドアがノックされ、ハスミが部屋に入ってきた。手に何かの書類を持っている所を察するに、事件の報告か何かだろうか?そして、ユイノは妙に焦ってるけど、まさかサボりじゃないよな?

 

「ミサさん、こんにちは。今日は委員長とお茶されてたんですね」

 

「うん、良いお茶があるからって。ハスミは報告か何か?私が居てマズいなら、席を外すけど?」

 

 ハスミとツルギって《正義実現委員会》だし、同級生だからエデン条約編で関わってくる可能性あるんだよね……。うーん、でもまだ上手く思い出せないな……。委員会の役割的にミカと対峙するのかな?だったら、オレは委員会に銃を向けなきゃいけない可能性があるのか。……いや、あくまで可能性だし、ミカを魔女にさせなければそんなことにはならないよね。

 

「いえ、大丈夫です。それより、ユイノ委員長。今の時間は書類仕事をされていると、副委員長から伺ったのですが……?」

 

「え、えーと、な、なんででしょうね?」

 

 いや、挙動不審過ぎるでしょ。

 

「しかも、そんな恰好をして他の者に示しが付かないと、また副委員長に怒られますよ!」

 

 これは……。雲行きが怪しくなってきたと思ったオレは、紅茶を飲み干すと荷物を持って立ち上がる。

 

「あ、あれ?ミサさん?」

 

「あー、これからお仕事みたいだし、オレは邪魔にならない内に帰るね?」

 

「い、いやいや!待ってください!お願いします!もう少しだけ、あと少しでいいので居てください!」

 

 どういうわけか、オレの足にしがみついてまで必死にオレを引き留めようとしてくる。ユイノの奴、何か企んでるな?良いお茶を出したのも、メイド服なんて着て気を引こうとしたのも、その為か。

 

「何を企んでるか知らないけど、お仕事なら今日はお断り」

 

「そ、そんな!?」

 

「そんなって言うってことはさ、オレに何か仕事押し付ける気だったんだね?」

 

「あ、しまっ」

 

 慌てて口を押さえるが、もう聞いた後だから今更遅い。オレは、スマホを取り出してモモトークを起動すると、ある人に連絡する。

 

「次のテストの対策立てと夕飯の買い物があるから、もう帰るよ」

 

「お、お願いします!そこをなんとか!この(書類)仕事の山を一人で片付けるなんて、無理です!」

 

「それなら大丈夫。副委員長さんが今すぐこっちに来て監督してくれるってさ!」

 

「―――へ?」

 

 その瞬間、バァンッ!と扉が勢いよく開かれる。

 

「―――ユイノォッ!また委員会と関係ない人に迷惑掛けてるってぇッ!?」

 

「ひぃっ!?ふ、副委員長!?み、ミサさんたすけ」

 

「あはは!嫌☆」

 

「み、ミサさぁ~~~ん!!」

 

 ユイノの断末魔を聞きながら、オレはハスミと執務室から退室する。お茶は美味しかったが、それはそれ、これはこれだ。書類仕事はたまに手伝ってあげてるが、自分でやらないと身に付かないからな。

 

「……自業自得ですね」

 

「ハスミは何か話があって来たんじゃなかったのか?」

 

「いえ、私は委員長に書類を届けに来ただけですから」

 

「なるほど」

 

「では、ツルギを待たせてるので私はこれで」

 

「うん、またね」

 

 手を振ってハスミと別れ、校舎を出るとすっかり日が傾いていた。

 

「今からでも、スーパーのタイムセールに間に合いそうかな」

 

 別にお金に困ってるわけではないが、やっぱりセールとか特売品の文字には弱い。身に染みついた癖ってこわいな~と思いながら、学園の外に向かって歩いてると、後ろから声を掛けられた。

 

「―――あの、先日ミカ様とおられた光園ミサさん、ですよね?」

 

「……そうだけど?」

 

 振り返ると、金髪の女の子が立って居た。姿に見覚えは無かったが、その声には聞き覚えがあった。

 

「前にミカにパテル分派の次期首長になってって、お願いしに来た子?」

 

「はい、先日は急な訪問で自己紹介も出来ず申し訳ありません。私、ミカ様の従者を務めさせて頂いております、ソニアと申します」

 

 そう言い、スカートを摘まみながら優雅に一礼してきた。その自然な所作で、良い所のお嬢様なのはオレでも分かった。

 

「ミカの従者、ね。それで?私に何の用?」

 

「実は、貴女にお願いがあって来たんです」

 

「……私の方からミカに首長になるようにお願いして、って話ならお断り」

 

「え!?な、どうしてそれを……」

 

「バカか?話の前後を考えれば、それしか思いつかないでしょ」

 

「で、では引き受けてくださるのですね!」

 

「なんでそうなるの。お断り、って言ったでしょ」

 

 というかなんで私に言いに来たんだか、"将を射んとすれば、まず馬を射よ"ってことなのかね。まぁ、多分私が言ったらミカは何かしらの条件を付けて、首を縦に振るかもしれないけど。

 

「ど、どうしてですか!?ミカ様が首長になれば貴女だって得しかないでしょう!」

 

「損得の話じゃないから。どんな理由があろうとも、最後に決めるのはミカ自身でしょ。私達が口を挟んでいい話じゃない」

 

 ミカは私が『《ティーパーティー》の首長にならないで』と言えば、それを優先してくれるだろう。未来、エデン条約編の事を考えれば、ここでミカを引き留めるべきだ。でも、私はそうしない。ミカ自身の未来に関わることだから、ミカが自分で決めて欲しい。私はその決定を尊重する。

 

 その結果、首長の話を蹴るなら普通に暮らすだけだし、首長になるなら事件を防ぐために全力で立ち回るだけだ。

 

「……ミカ様は、貴女に出会って変わられました。沢山の人に囲まれて笑っていたあの方が消えてしまった……奪われた。貴女の所為でっ!」

 

 ソニアは叫びながら、デザートイーグルを抜き放つとオレに照準を合わせる。

 

「……」

 

「貴女が居なければ、ミカ様は今頃もっと沢山の人に慕われていたはずだったのに!!」

 

 その言葉にオレは目を伏せた。確かに、オレが居なかったらミカはもっと明るい学園生活を送れたのは間違いない。そんなの、オレだって理解してる。だから、ミカの前から何度も消えようとした。でも、アイツの隣が暖かくて、離れたくなかった。

 

「ミカ様に首長になるよう説得してください!そして、その後はミカ様の前から消えてください!これは脅しじゃありませんよ!?」

 

「脅しじゃないなら、撃てばいいだろ」

 

「……ッ!」

 

 オレの言葉が引き金になったのか、彼女の構えたデザートイーグルが火を噴いた。彼女の撃った弾丸は、寸分の狂いなくオレの頭に直撃した。そして、二度、三度続け、弾倉が空になるまで彼女は引き金を引き続けた。

 

「はぁ……はぁ……う、うそ……」

 

 弾を撃ち切り、肩で息してるソニアを無表情で見つめながら溜息を吐く。

 

「……気は済んだか?」

 

「そんな……無傷だなんて……」

 

 無傷でも、銃弾が当たったら痛いものは痛い。

 

「さっきのお願いだけどな、どっちも断る。ミカがどんな選択をしたとしても、オレはミカを支える。ミカの傍から離れたりしない」

 

 それはそれとして、ミカとのえっちで主導権を握る方法は無いだろうか。どうにか、ミカより上に立って、ミカにぎゃふんと言わせたい。

 

「う、うぅ……」

 

 ソニアが地面にへたり込むのを見ると、オレは買い物に行くために背を向けて歩き出す。後ろからはすすり泣く声が聞こえたが、聞かなかったことにして学園を出た。

 

「……今からだとタイムセール、間に合わないだろうなぁ」

 

 全く、泣きたいのはこっちだ。腹を空かせたミカが暴れたらどうしてくれる。

 

「……女体盛りとかしたら、許してくれるかな……」

 

 なんだか、いつも通りオレがミカに襲われるビジョンしか見えないな。

 

「はぁ……エデン条約編の事と言い、考えることが多くて頭が痛くなってくる」

 

 でも、どうにかすると決めたのは自分だから、頑張らないとな。とりあえず、入学式にミカから自立する方法は失敗したし、次はどうするかな。

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりー、遅かったねミサちゃん」

 

 何とかあの後タイムセールに間に合い、今日の夕飯の材料を確保できた。

 

「うん、ユイノのとこでお茶した帰りにさ、ソニアとかいう奴に絡まれてさ」

 

「……え?あの子が?何かされなかった?」

 

「デザートイーグルでバカスカ撃たれたよ」

 

「え!?だ、大丈夫!?ケガは無い!?」

 

 ソファに座っていたミカは、慌てて立ち上がるとオレの体に傷が残っていないか調べ始める。

 

「ちょ、そんな体触らなくても調べられるでしょ!?」

 

「うーだってー」

 

「それにケガは無いよ。私、こう見えて結構頑丈なのミカも知ってるでしょ?」

 

「傷は無くても、頑丈でも、痛いものは痛いでしょ!……よかった、ケガが無くて」

 

 そう言って、ミカはオレの体をぎゅっと抱き締める。抱き締め返そうか、手を彷徨わせているとミカがぽつりと言葉を零す。

 

「……ごめんね、私のとこの関係者がミサちゃんに酷い事しちゃって」

 

「気にしてないよ」

 

「何か、その子に言われたりしなかった?」

 

「言われたけど、断った」

 

 私は、ミカの背中に手を回して抱き締め返すとそう言った。

 

「あのソニアって子、ミカの従者なんだってね」

 

「う、うん、聞いたんだ……その、私の家の事は」

 

「聞いてないよ。ミカが話したがってないのに、無理矢理他の人から聞いたりしないよ。ミカが自分から話してくれるまで待つよ」

 

「そうなんだ、ごめんね」

 

「《ティーパーティー》の件も、待つよ。ミカがどんな選択をしても、私は受け入れるから。だから、沢山悩んでミカの答えを出して」

 

「ミサちゃん……うぅ、ありがとう……」

 

 ミカは泣きそうな顔で強く私を抱き締めるので、私はよしよしと頭を撫でミカを慰める。

 

「……ミサちゃん、ご飯作る前に一発……」

 

 大人しく撫でられてると思えば、とんでもないことを言いだした。

 

「それは駄目。というかミカ一発で終わらないでしょ」

 

「だよね……」

 

 ミカ、最近性欲が行動に反映されすぎでは?確かに、前みたいに毎日やらなくなったけど、ミカみたいに性欲が強いとやっぱり辛いのだろうか。

 

「じゃあ、ミサちゃんの頭吸ってちょっと落ち着くね」

 

「恥ずかしいし、変態っぽいからやめて!?」

 

 しかし、私の静止も空しく、ミカは私の頭に顔を埋めて深呼吸始めた。ダメだ、一旦ガス抜きしてあげないと、どんどんエスカレートしそうだ。し、仕方ないご飯とお風呂を済ませたら抜いてあげるか……。

 

「……ねぇ、ミサちゃん」

 

「な、なに?」

 

「ミサちゃんはこれから何があっても、力を誇示したり、見せびらかすような事は絶対にしないで。力で、全てを支配、解決できるだなんて思い上がり、絶対にしないで」

 

「……ミカ?」

 

「お願い」

 

「う、うん、わかった」

 

 ミカの鬼気迫るお願いに、私は何度も頷く。そういえば、昔からミカは力が強いのにそれを周りに隠してるんだよね。……もしかして、ミカの家と何か関係があるのかな。

 

「よっし!じゃあ、ご飯にしよっか!ってまだ作って無かったね。仕方ないなー今日は私も手伝ってあげるからね!」

 

「うん……じゃあ、とりあえず買ってきたもの冷蔵庫に仕舞ってくれる?」

 

「おっけー!任せて!」

 

 ……ダメだな。ミカが話してくれるまで待つって決めたのに、つい探るような考えを。オレは頭を振って切り替えると、荷物を置いてミカを追ってキッチンに向かおうとする。すると、荷物から今日借りたばかりの、アリウス分派について書かれた本が零れ落ちる。

 

 あぁそうだ、ミカがどんな選択をしたとしても、魔女になんて絶対させない。例え―――この身を全て犠牲にしても、絶対に……!

 

 

 




光園ミサ
マグナムで撃たれても痛いで済む系女子。自身の痴態が、学園トップに出回ってることをついに知ってしまった。ウイとは初等部の頃からの顔見知り。だが、まともに会話したのは片手で数えるほどしかない。ミカから離れられないので、ミカをぎゃふんと言わせる方向にシフトした。なお、一度も成功しない。ミサの頑丈さは、昔サユリにヘイローを壊されかけた際、回復の過程で身長を犠牲に頑丈になった説が、あったりなかったり。

聖園ミカ
昔捨てたものが、今になって干渉してきて困ってる。ミサをこれ以上曇らせられないから、もう一人の主人公ともいえるミカを曇らせようとしてみた。が、この二人一緒に居ると互いにバフを掛け合うので、崩せないのである…!しかも、ミサに引っ張られて原作より友人多そう。どうすんのエデン条約…。


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自業自得の話

難産だった。良い感じに落とそうと思ったら、話がシリアスに駆け出そうとするので、ギャグに引っ張るのに苦労した。

今回の話の前にR-18のほうも更新してるので、良かったらどうぞ。



 

「ミサちゃーん!」

 

 教室でいつも通りミカにくっついて授業を受けた後、休み時間中にミカが私の事を呼びながら引っ付いてきた。

 

「どうしたの、ミカ?」

 

「えへへ~、実はねー放課後ナギちゃんにお茶誘われてるから二人で行こうよ!」

 

「え、嫌だけど」

 

 ミカはナギサにお茶に誘われたらしい。それを聞いた私は微妙な顔で断った。

 

「え!?どうして!?」

 

「いや、どうしても何も……。先日何したか、忘れたとは言わせないよ?」

 

「え、えー?なにかしたっけー?」

 

 私の言葉に、ミカは目を泳がせる。私はむっと顔をしかめて机を叩く。

 

「この前《勉強部屋》行った時、私の事ナギサに売ったよね!?」

 

 

 

 

 

 

 ―――数日前。

 

「ミサちゃん!今日は久しぶりにあの部屋に行こう!」

 

 その日はやたらとテンションの高いミカに、行こう行こうと絡まれていた。

 

「むぅ、ミカにはテスト勉強に付き合って貰ったし、し、仕方ないなぁ……」

 

「やったー!」

 

 テストが終わった直後で、特に予定が無かったのもあり、口では乗り気じゃ無さそうにしつつ、内心ウキウキで《勉強部屋》に向かった。

 

「ミサちゃん……いい?」

 

「ミカ……ん」

 

 部屋に着くなり、ミカは私をベッドに押し倒し、キスの雨を降らせる。ミカはやさしい愛撫を繰り返し、互いの熱も高まった、という所でミカは言った。

 

「ねぇ、今日は縛ってやりたいんだけど、いい?」

 

「え?ま、まぁ、ミカがやりたいなら……し、仕方ないなぁ……」

 

「やったー!」

 

 ミカは嬉しそうな顔でテキパキと流れるように私をベッドに縛りつけると、今度は……。

 

「今日はおもちゃ使おうと思うんだけど、いい?」

 

「え、し、仕方ないなぁ……」

 

「やったー!」

 

 ミカは近くのテーブルに並べたおもちゃを、全て私に取り付けた。

 

「んん……!ミ、ミカ……そろそろ……」

 

「あ、ちょっと用事があるから待っててくれる?」

 

「え?」

 

「目隠ししてー、ヘッドホンもしておいてあげるね」

 

「え?え?」

 

「じゃ!」

 

 バタン、と扉の締まる音がヘッドホンの向こうから聞こえた。

 

「……え?なんで?」

 

 遠隔操作だったのか、ミカがいなくなってからヘッドホンから大音量で流れたそれは、いつ録音したのか、行為中に嬌声をあげてる私だった。

 

 暗闇の中、おもちゃによる責めと謎の羞恥プレイを味わわせられながら、絶頂出来ない中途半端な快楽に耐えながら待っていると、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

 

「ミサちゃん、おまたせー!ちゃんと待てが出来てえらいねー、よしよし」

 

「ミ、ミカぁ……どこに行ってたの……」

 

 私からヘッドホンを取ると、泣く子をあやすように頭を撫でるミカ。そこで、私は何か違和感を覚え、目隠しされたままキョロキョロと周囲を見渡す。

 

「どうしたの?」

 

「他に誰かいるの?なんかいつもと違う気が……」

 

「えっ、そ、そんなことないと思うけど、気のせいじゃない?」

 

 なんだ、気のせいか。ずっと、耳と目を塞がれてたから、感覚がおかしくなってたのかもしれない。

 

「ほら、そんなことよりミサちゃん、舌出してキスしよ」

 

「あ、う、うん……♡」

 

 ミカは私の拘束を緩めたあと、ベッドに上がり正面から抱きかかえるように私をミカの上に座らせた。そのままミカと絡むようにキスを交わす。目隠しと腕は縛ったままなので、いつもより興奮しちゃう……。

 

「んぅ、ミカ……」

 

「あ、そういえばミサちゃんって、ナギちゃんの事どう思ってる?」

 

「へ……?」

 

 ムードもへったくれもないその質問に、私は素っ頓狂な声を上げた。

 

「えっと……どうって言われても……」

 

 困惑した私はそう返すしかなかった。しかし、ミカは続けざまに質問してくる。

 

「ほら、友達として好きー、とかさ」

 

「友達……?それは友達に失礼なのでは?」

 

「あ、そこ疑問に思っちゃうんだ」

 

「そりゃ、初等部の頃はミカと遊ぶ時によく一緒に居たけど、中等部からは疎遠になったし。なんだったら、最近はミネとかハスミとかツルギの方がよく話すくらいなんだけど。あとは、学年が違うユイノのことを友達としてどう?ってことなら分かるけど、ナギサは同じステージにすら立てて無くない?」

 

「あ、うん」

 

 捲し立てるようにミカに言うと、ミカはなんのフォローも返さずに黙ってしまった。えっ、ホントに何の話だったの。

 

「ええっと、ミサちゃんにとってナギちゃんは友達じゃないの?」

 

「え?うーん……まぁ、友達じゃないんじゃない?」

 

「……」

 

 ミカに言われて勢いで言ってしまったけど、確かに友達と言い難い。よく考えてみたら、ナギサから直接私と遊ぶって聞いたの、中等部の一回だけじゃん。他は、ミカがナギサと遊ぶから一緒にどう?って誘われて遊んだだけだったし。

 

 それにしても、なんでこんな話してきたんだろう。あれかな、ミカにとって私にミカ以外に友達がいたら不安になるみたいな?それならそうと、言ってくれればいいのにー。私もミカがいればそれだけでいいし。

 

「あー……その、だってさナギちゃん」

 

「……え?ナギサ?」

 

 ミカの言葉に、後ろからコトン、とテーブルに何かを置く音が聞こえた。ミカが目の前に居る以上、後ろに居るのはミカじゃない。つまり……。

 

「……薄々、そう思われてるんじゃないかと思ってましたが、直接聞くのは堪えますね……」

 

「な、なんでナギサがここに、どういうこと!?」

 

 両腕を使って目隠しを外すと、そこには紛れもなくナギサの姿が。ナギサに、はしたない姿を見られてる事に気が付き暴れるが、ミカに押さえつけられてる為、足をバタバタと動かしただけだった。

 

「ま、待ってミカ!ナギサに、ナギサに見られてるから!」

 

「うん?見られてるだけじゃん、なんで暴れるの」

 

「だ、だってこんな格好じゃ私とミカのことが……」

 

「んー?あ、そっかミサちゃん知らないんだっけ?ナギちゃんも、私とミサちゃんがこの部屋で何してるか知ってるよ」

 

「え―――?」

 

 頭が真っ白になった。ユイノに知られてる事も恥ずかしかったが、ユイノと出会ったのは女の子にされた後の事だった。でも、ナギサは女の子にされる前の私も知っている。今すぐここから消えたくなるくらい恥ずかしい。ナギサの前で女の子の様に振舞っている時も、何も言われないように出来るだけ話さないようにしてたのに、どうしてぇ……。

 

「い、いつから……」

 

「え、割と最初から?ミサちゃんと初めてシたときくらい?」

 

「一番最初じゃん……」

 

 思わず泣きそうになるが、ぐっとこらえる。

 

「……当時、《ティーパーティー》の首長たちと交流する機会がありまして、その時に偶々知ったんですよ。そんなことより、"友達じゃない"とはどういうことでしょうか?」

 

「い、いや、それは……こ、言葉の綾というか……そういうつもりで言ったわけじゃなくてぇ……」

 

「そういうつもりじゃない?じゃあどういうつもりだったんです?」

 

 ニッコリと笑いながら詰めてくるナギサに、私はしどろもどろになりミカに助けを求めた。

 

「た、助けてミカ……」

 

「うーん、私ね、これはチャンスだと思うんだ。ミサちゃんとナギちゃんが疎遠なままだから、仲直りさせたくてここにナギちゃん呼んだんだよね。だから……」

 

「……?」

 

 ミカは私の腰を持ち上げて、ナギサに向ける。

 

「ナギちゃん、仲直りの印にミサちゃんのお尻使っていいよ!」

 

「……は?」

 

 私はミカが何を言ってるのか分からなかった。

 

「なるほど、そういうことなら仕方ありませんね。私としては、前の方を頂きたいのですが」

 

「いくらナギちゃんでも前はダメ!こっちは私専用なんだから。それに、後ろだって私が毎日のように開発したんだから、腰が抜けちゃうくらい気持ち良いよ」

 

 当然のように受け入れてるナギサに、まるで私の方がおかしいかのようだった。

 

「じゃあ、ナギちゃんどうぞ☆」

 

「ま、待ってよ!なんで、なんでなんで!?ミカは私が他の人に触られてもいいの!?」

 

「え、だってナギちゃんも幼馴染だし、大丈夫だよ?」

 

「意味分かんない!意味分かんないよ!?」

 

「……では、失礼します」

 

「ヒッ」

 

 ナギサがガッシリと腰を掴んでくる。まるで童貞の様なねっとりとした目付きで見られて、思わず悲鳴が零れた。

 

「やだ、やだやだ!?ごめんなさい!?謝るから!?さっき友達じゃないって言ったの謝るからやめてよ!?やだ、やだああああああああああああ!!?」

 

 

 

 

 

 

 あの後、当然ミカとは暫く口を利かなかった。泣きながら、鼻水まで垂らしてミカは謝ってきたが、私はずっと無視した。私がミカを許して口を利いたのは、つい昨日の事だった。もう十分反省したと思ったし、せっかくの年に一度の誕生日を、ミカと喧嘩したまま迎えたくなかった、というのが主な理由ではあるのだが。

 

「うぅ……だからごめんってー。あの時はホントに、ミサちゃんとナギちゃんを仲直りさせるならこの手しかないって思ってたから……。まさか、ミサちゃんがあんなに大泣きするとは思わなかったの!ミサちゃんごめんー!」

 

 ということもあって、仲直りから一夜明けた今でもこの事を責めると、ミカは泣きながら謝ってくる。そんなに後悔するなら、なんで実行に移すのか。話を聞く限りだと、私があんなに拒絶するとは思って無かったみたい。いや、普通に考えて他の人に触られるのは嫌でしょ。

 

「で、今更なんでナギサとお茶する話になってるのか、隠さず話して」

 

「そ、その……ナギちゃんがこの前の事謝りたいからって……」

 

「はぁ?一週間以上経ってるのに、今更?」

 

「ほ、ほら!ナギちゃんも《ティーパーティー》で忙しいから!」

 

 それでも、合間にメッセージくらい飛ばせるじゃん。何でそれすらできないの。

 

「ミサちゃん、お願い!ナギちゃんにもう一回チャンスを上げて!」

 

「……」

 

「この前の事は、ナギちゃんにも隠して《勉強部屋》に連れて来た私が悪いの!だからお願い!ナギちゃんの事は許してあげて!」

 

 いや、普通にケツに突っ込まれて酷い目に遭わされてるんだけど。ここでミカのお願いを突っぱねるのは簡単、だけど……。

 

「……はぁ、分かった。どうするかはナギサに会ってから決める。これが最後になるかは、ナギサ次第ってことで、それでいい?」

 

 私がそう言うと、ミカはぱぁっと明るくなり抱き着いて来る。

 

「うん!ありがとうミサちゃん!!」

 

 ミカを引き剥がしながら、溜め息を吐く。正直言って、碌に連絡もしない、交流も無い人を許しても私に何のメリットも無いんだけど。私って判断が甘いのかな……。

 

 

 

 放課後、ミカを伴いナギサと待ち合わせしている校舎に向かっていた。この方向、《ティーパーティー》の校舎じゃん。派閥の勧誘が鬱陶しいから余り近寄りたくないんだけど……。

 

「―――ミサ、か」

 

 不意に声を掛けられ、声の方を向く。そこには、見覚えのある《正義実現委員会》の黒いセーラー服を着た二人が立って居た。

 

「あれ、ツルギ……とハスミ。珍しい、二人がこんな所に居るなんて」

 

 トリニティで一番近づきたくない場所だと思ってた。

 

「ミサさんも人の事言えないでしょう。むしろ、貴女が一番近づかない場所だと思ってたのですが」

 

 お互いに酷い認識だ。一つ訂正しておくけど、オレは苦手意識があるから近づかないんじゃない。嫌いだから近づかないの。これは大きい違いだからね。

 

「……私達は委員長がこっちに来てるから、報告ついでに寄っただけだ。……ミサ」

 

 ツルギは懐から綺麗にラッピングされた箱を取り出すと、私に手渡す。

 

「……今日はお前の誕生日と聞いた。お前に合うかは分からないが……」

 

 首を傾げていたら、ツルギがそう補足した。

 

「そうなんだ、ありがとう!」

 

「ツルギ、今日は妙にソワソワしてると思ったらそういうことだったんですね。あ、ミサさん、私からはこれを。ミカさんにはこっちですね」

 

「私にも?いいの?」

 

「ええ、もちろん」

 

「わぁ、ありがとう!」

 

 ツルギからはうさぎのぬいぐるみ、ハスミからは銀のティースプーンを貰った。

 

「……ん?ハスミ、何故ミカにもプレゼントを渡している……?」

 

「……え、ツルギお二人が誕生日一緒だったの知らなかったんですか?」

 

「……なん、だと」

 

 ツルギの顔が崩れたタイミングで、暴れないように腕を掴んでおく。

 

「……く、くけえぇぇーーーッ!?」

 

「落ち着けって」

 

 ツルギが奇声を上げ暴れそうになるが、腕を掴んでいたのですぐ鎮静化させる。なんか慣れちゃったなぁ。

 

「ミサさん、ありがとうございます。ツルギに暴れられると、抑えられるのミネか貴女ぐらいですから」

 

「いや、全然いいよ」

 

 ミカが上がらないのは、余り戦闘しないからかな。

 

「……来年は必ず用意する……」

 

「あ、あはは、気持ちだけでも十分嬉しいよ!ね、ミサちゃん!」

 

「え?プレゼント貰えるなら、普通に欲しい」

 

「もう、ミサちゃん!」

 

 

 

 ツルギとハスミは、まだ仕事があると言い別れ、途中ミネが捜してました、といいお祝いとプレゼントを残して風のように去って行った。他にも"偶然"外に出ていたウイに"偶然"持ってたプレゼントを渡されたり、見知らぬ生徒からプレゼントを渡されたり、ナギサの待つ執務室に着く頃には、プレゼントで両手が塞がっている状態だった。

 

「……なんで?」

 

「ミサちゃん、結構色んな人と知り合いなんだね」

 

「いや、知らない子からも貰ったんだけど」

 

「昔、ミサちゃんが助けた子とか?」

 

 それはあるかもしれない。部屋の前で駄弁るのもそこそこに、扉をノックすると、返事が返って来たので入室すると、テーブルに着いたナギサがいつも通り紅茶を片手に座っていた。

 

「ミサさん、それとミカさんも、来て頂いてありがとうございます」

 

「……」

 

「う、うん!幼馴染だもん、遠慮しなくていいよ!ね、ミサちゃん!」

 

 オレが何も言わないのを見て、焦ったミカが慌てて場を繋ぐ。

 

「……」

 

「み、ミサちゃん!」

 

「え、えっと本日は―――」

 

「社交辞令はいいよ。それより、用件があるならさっさと済ませて貰える?」

 

「……っ!で、ではまず席に着いて貰っていいですか?」

 

 ナギサに鋭い視線を送ると、ナギサは一瞬怯んだもののすぐに気を取り直し椅子を目で示す。

 

「ほ、ほらミサちゃん!席に着こうよ!」

 

 ミカにも促され、仕方ないと言わんばかりに溜め息を吐きながら席に着く。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 誰も話さず、無言のままミカとナギサの紅茶を飲む音だけが響く。オレは、紅茶に手を付けずナギサを真っ直ぐに見ていた。やがて、沈黙に耐えきれなかったかナギサが重々しく口を開く。

 

「ミサさん、先日は申し訳ありませんでした。あの時は冷静では無かった、というか。言い訳に聞こえるかもしれませんが、いくら傷ついていたとはいえ、カッとなって許されない事をしたのは分かっています。許してもらおうとは思っていません。ですが、私に何か償えることがあれば言ってください。これでもフィリウス分派内でもいい立場に居るので、大抵の事は叶えられると思います」

 

 オレはナギサの懺悔のような独白を最後まで聞いてから、オレは思っていた事をナギサに全て話すことにした。

 

「……まずは私からも、友達じゃないは言い過ぎました、ごめんなさい」

 

 そう言ってオレはナギサに頭を深く下げる。ナギサの方から息を呑む音が聞こえる。頭を上げると、ミカが心配そうな目でこっちを見ていた。

 

「謝罪をした上で、許せない事が二つあります。まず一つ目、どうしてすぐに謝罪しなかったの?今まで、一つも謝罪を寄越さなかったのはどうして?」

 

「そ、それは……何度かメッセージを送ろうと思ったものの、拒絶されたらどうしようと思って……結局、直接謝ろうと思って」

 

「二つ目、どうしてミカも呼んだの?謝罪だって言うなら1対1で行うべきでしょう?私とナギサの問題って言うなら、特に」

 

「そ、その……」

 

「ま、待ってミサちゃん!私の方から無理矢理同席させて貰うように頼んだの!今回の発端は私だから、一緒に謝りたいと思って」

 

「ミカさん……」

 

 乗り出すようにナギサを庇うミカを無視して、オレは言葉を続ける。

 

三つ(・・)

 

「―――っ!」

 

「ナギサって本当は私の事友達って思ってないでしょ」

 

「そ、そんなことありません!」

 

「あるよ。だったらどうして、私じゃなくてミカに連絡したの。それって、信用してないってことだよね。……私だって、二人きりで謝罪したいって話なら真剣に向き合ったよ。でも、こんな対応されて怒るなっていう方が無理だよ」

 

 怒りを抑えるように、私はスカートの裾をぎゅっと握る。

 

「いや、それは、違うんです!」

 

「何が違うの。ナギサ、私に直接会うってメッセージ送ってきたの中等部の一回だけだよ?他はぜーんぶミカ越しに誘われただけ。つまり、私ってミカのおまけじゃん」

 

「それは偶然そうなって、信じてください!」

 

「……信じて?何を信じるの。信じられてない相手に、私は何を信じたらいいの!ふざけないでっ!バカにするのも大概にしてよ―――!!」

 

 オレは怒りのままに振り上げた拳をテーブルに叩きつけようとした。

 

「―――はいはい、ストップですよミサさん」

 

 しかし振り上げた拳は、闖入者の聞き覚えのある声によって止められた。オレの腕を掴んでる人物を見るとそこに居たのは、ユイノだった。

 

「ユイノ!?」

 

「ユイノさん!?どうしてここに」

 

「いやいやナギサ様、委員会の報告があるので今日伺いますねって連絡したじゃないですか。まぁ、許可も得ずに勝手に入ったのは申し訳ありませんでした。何度ノックしても返事が無かったもので、まさか入ったらあんな修羅場に遭遇するとは思いませんでしたが」

 

「あ、ああ報告……そういえば、そうでしたね」

 

「とりあえず、ミサさんはこれで涙拭いてください」

 

 ユイノがポケットからだしたハンカチを見て、オレは今更ながら泣いてるのに気が付いた。慌ててユイノからハンカチを受け取り、涙を拭く。

 

「あー、何があったのか聞いても?」

 

 

 

「なるほど、そんなことが」

 

 事情を聞いたユイノは神妙そうに何度も頷く。

 

「まず、言い訳の余地も無いほどにナギサ様が悪いです。何はともあれ、一度冷静になって落ち着くべきでした」

 

「うっ、仰る通りです」

 

「その後の対応も最悪です。冷静になるまで時間を置きたかったのは分かりますが、その旨は相手に伝えるべきですし、謝罪の一つも無く、しかも連絡が別の者経由は、誠意が足りないと思われても仕方の無いことだと思います」

 

「うぅ……」

 

 ユイノの容赦の無い正論に、ナギサが圧し潰されていた。

 

「ミカさんは論外です。いくら恋人でも、相手の同意を得ずに恋人を他の人に触らせたらダメですよ」

 

「あ、ユイノ、ミカとは恋人じゃなくて友達だよ」

 

 ユイノがよく分からない勘違いをしていたので、訂正した。

 

「そう、いくら友達でも―――え?友達?あんなことしてたのに?」

 

「何だユイノ、知らなかったの?今どきの女の子は友達同士でも、あんなことするんだよ」

 

 オレはユイノにそう自慢気に話した。女の子同士じゃ恋人になれないから、その為なんだろう。

 

「いやいや、そんなわけ、えぇ……」

 

 ハッとしたユイノは何か気付いたようにミカを見るが、ミカはサッと顔を逸らす。オレはそのやり取りに首を傾げる。

 

「……友達なら尚の事ダメですよ。まぁ、これ以上は当人同士の問題なので、深くは突っ込みませんけど」

 

 え、友達だとダメなんだ。やっぱり、幼馴染くらい関係が深くないとダメってこと?

 

「ミサさん貴女も、友達じゃないは流石に誰でも傷付くと思います……」

 

「あ、謝ったもん!私だって流石に言い過ぎた自覚はあったから、あの時に何度も謝ったし、今日もちゃんと謝ったもん!なのに、うぅー……」

 

 あの時の事を思い出し、また涙が溢れてくる。

 

「……そうなんですか?」

 

「ええっと、まぁ、うん。ナギちゃんは余り覚えてないだろうけど、その、泣きながら何度も」

 

「ミサさんの桃尻に気を取られてましたが、よくよく思い出してみればそうだった気が……」

 

「今無性にミサさんを連れてこの場から去りたくなりました……」

 

 ユイノは頭痛を抑えるように、コメカミに指を当てている。頑張って、今場を収拾出来るのはユイノしかいないから。

 

「ミカさんは、ミサさんが泣いてるのにどうして止めなかったんですか?」

 

「だ、だって、ミサちゃんとナギちゃんを仲直りさせたくて、私とミサちゃんはああしたら仲直りできたから。でも、まさかあんなに泣くとは思わなくて……」

 

「……それで仲直りできるのは、ミサさんとミカさんだけですね。他の人では無理です」

 

「そうなの!?」

 

 待って、それじゃあオレがミカに対してだけチョロく聞こえるんだけど。

 

「ナギサ様は、ミサさんに連絡しなかったのはどうしてなんですか?」

 

「その、中等部の頃からミサさんの当たりがきつくなって、どうにか仲を改善できないかと以前からミカさんに相談してまして、その流れで」

 

 泣いたらお腹空いてきた。目の前にケーキあるし食べよ。あ、紅茶ぬるい。新しいの淹れよ。ついでにユイノの分も淹れてやるか。ナギサの事だから、部屋に茶葉を常備してるでしょ。

 

「それは相談する相手が悪かったとしか」

 

「私も今はそう思います……」

 

「ひどいよ!?」

 

「たぶん、ミカさんに相談するより、直接ミサさんに相談した方が良かったと思いますよ」

 

「……え、ミサさんの事をミサさんに相談するんですか?」

 

 それは、相談されたオレが一番困るヤツでは。

 

「ええ、ミサさんも困惑するでしょうが、真剣に相談に乗ってくれると思いますよ。ですよね?」

 

「……まぁ、相談された以上は、するけど」

 

「委員会に遊びに来た時に、偶に委員の子の相談に乗ったりしてあげて、結構評判いいんですよ」

 

 なんか、相談にくるやつ多いと思ったら、評判になってるのかよ。

 

「どこの部活にも入らないなら、相談室を開いて欲しいくらいです」

 

「開かないよ。個人でなら相談に乗るけど、そんなことしたら学園の規模を考えると、過労死しかねない」

 

 初等部・中等部・高等部、合わせて何人いると思ってるんだ。毎日100人以上捌かなきゃいけないとか、絶対嫌だからな。

 

「行列のできる相談室、良いと思いますけど」

 

「い・や!」

 

「な、なるほど、で、ではミサさん相談に乗って欲しいんですが」

 

「えぇ……この流れで?」

 

「妙にミサさんの当たりがきつくて、何か改善策などは無いでしょうか?」

 

「えっと……それは……」

 

 い、言えない。だってあれは……。

 

「あれ?ミサさん、あの事はまだ言ってないんですか?」

 

「いや、言う訳ないでしょ」

 

 ユイノが何か言いたげにしてたので、言わないようにと先に牽制する。

 

「あの事?」

 

「はい、以前ミサさんにナギサ様に嫉妬で強く当たってしまうと逆相談されて」

 

「わあああああああああ!!なんで言うの!?誰にも言わないでって言ったよね!?」

 

 慌ててユイノの口を塞ぎに行くも、時すでに遅し。

 

「すいません、口が滑りました」

 

「滑り止め付けてやろうか!?」

 

 絶対確信犯でしょ!にやけてるし、言わないように睨みも利かせたよね!?

 

「し、嫉妬……?」

 

 困惑してるのはナギサだった。ナギサには心当たりが無いのだから、当然だろう。

 

「もうここまで言ったんですから、全部言ってしまっては?」

 

「~~~っ!なんで私が暴露したみたいに言ってるの!言ったのユイノだよね!?」

 

「まぁ、相談内容を要約すると、『ナギサ様はミカさんの幼馴染でズルい』って話でしたね」

 

 結局、ほとんどユイノが言ってるじゃん!

 

「ず、ズルい?え?どうして?」

 

 ユイノの言葉に、ミカも困惑した。たぶん、ナギサに相談されてたミカもあれこれ頭を悩ませてたのかもしれない。それはちょっと申し訳ない気持ちになった。

 

「うっ……」

 

 三人からの視線を集めて、オレはたじろぐ。これ以上、隠し通すのは無理だろう。というか、ユイノがほとんど言ったから隠すものが残ってない。

 

「だ、だって……ナギサが羨ましかったんだもん……」

 

「ミサさん、それじゃあ要領を得ませんよ」

 

「うぅ……だ、だから!ナギサはミカの幼馴染で、私はただの友達だから羨ましかったの!ミカの幼馴染は、唯一無二で特別だから、ナギサの事ズルいってなって、気が付いたら当たっちゃってて……ご、ごめんなさいぃ……!」

 

「……えっと、つまりミサちゃんはナギちゃんは私の幼馴染だから、強く当たってたってこと?」

 

 ミカの言葉にコクリと頷く。

 

「……え、それだけですか?」

 

 ナギサの言葉にコクリと頷く。ナギサは力が抜けたように椅子に崩れ落ちる。

 

「えぇ……何が原因かと頭を悩ませたあの時間は一体……」

 

「うぅ……だから言いたくなかったのにぃ……」

 

「いやいや、言わないと伝わらなかったでしょうし、言うしかなかったと思いますよ。まぁ、ミカさんの前では言い辛いでしょうから、ナギサ様は二人きりでミサさんと会うのが正解だったでしょうけど」

 

「え?私のせい?」

 

「結果論だけで語るなら、ですが」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 私、頑張ったのに。と沈むミカ。頑張る方向性がおかしい。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 この部屋に来た時とは、別の意味で気まずい空気になって沈黙する。

 

「さて、これにて一件落着でしょうし、私はこれで……」

 

 気まずい空気を察したのか、逃げようとするユイノの制服を握って止める。問題を解決してくれたのは感謝してるけど、散々掻き回しておいて、はいさよなら、はどうかと思うなぁ……!

 

「えっと、ミサさん?」

 

「まぁまぁ、せっかくユイノのお茶も淹れたし、一杯くらいは飲んで行ってよ」

 

 絶対逃がさない。せめてこの気まずい空気も何とかして。

 

「あ、はい」

 

 

 




光園ミサ
小さい嫉妬から巡り巡って今回の件に繋がった。割と自業自得。察してオーラ全開のめんどくせー女になってる。文章そのままだと分かり辛いけど、幼馴染を特別に言い換えると『ナギサはミカの特別だから嫉妬した』。ミカの特別になりたいと言ってるようなもの、ほぼ告白。でも、ミサ含めてみんなそれどころじゃなかったので、誰も気付かない。

聖園ミカ
良かれと思って無断でミサのお尻を差し出した。ミサに怒られて口を利いて貰えなくなった。思い込みで動くと悪い方へ転がる女。結構自業自得。でも、善意でやってるつもりだからあまり強く言えないミサ。

桐藤ナギサ
ミサの桃尻の誘惑に勝てなかった女。普通に自業自得。次の機会がいつになるか分からなかったから、つい襲っちゃった。なお、その後の対応。それ以前、中等部でもひたすらバッドコミュニケーションを叩き出しまくってるので、察してちゃんになってるミサはキレた。

結目ユイノ
切れかけた縁を結ぶ救世主。正実に入ったハスミ、ツルギをミサに引き合わせ、ミネの件にも関わってと、これまでもミサに重要な縁を結んできた実績の持ち主。モチーフは八咫烏。黒羽だから天使関連と思わせて、カラス。


気が付いたら、評価すごい伸びててうれしい!評価0でも1でもわざわざ入れてってくれてる事実が嬉しすぎる。今回、長くなりそうだったから途中で切っちゃったけど、早く上げられるようにがんばるね!



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勧誘の話

ティーパーティーの倫理観終わってる、だって!?それは原作からそう。ゴミ箱発言のナギちゃんに、ムカついたからボコるミカに、何言ってるか分からないセクシーフォックス。なんだったら、お茶会モブもゲヘナ生見たら、けおるくらいには倫理観ぶっ飛んでる。なんだ、トリニティってやっぱやばい学校じゃんね☆


 

 ユイノを引き留め、この気まずい空気を何とかしてもらおうと思ったんだけど、

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 いや、お前も黙るのかよ。

 

「そ、そういえばユイノ、委員会の報告がどうとか言ってなかった?」

 

 なんでオレが助け舟出してるんだろう。

 

「あー、別に今日じゃなくても大丈夫なんですが。でも、そうですねお二人が聞いても問題ないですし、今ここで報告させてもらいますね」

 

「あ、はいどうぞ」

 

「実は、最近また犯罪件数は増加しまして……詳しいデータは既に報告書に添付して、送信しています」

 

「また……ですか」

 

 ユイノの言葉を聞いたナギサが、苦い顔になる。

 

「また?」

 

「えぇ、時期的にはミサさんが暴れなくなった辺りから、徐々に増加傾向にありますね」

 

「それはまた、分かりやすいね」

 

「はい、組織よりも個人に対する恐怖の方が強いのは、なんとも言い難いのですが」

 

「はぁ……また時間が……」

 

 項垂れ溜息を吐くナギサ。たぶんだけど、ナギサが《ティーパーティー》の業務に追われるようになったの、これのせいな気がするな……。

 

「なので、ミサさんに委員会に入って貰ったら彼女達も大人しくなると思うんですけど」

 

「いや!」

 

「とまぁ、勧誘は悉く失敗してるわけですが」

 

 何度断られても諦めない根性は買うけど、それとこれとは話が別だよ。

 

「ミサさんは委員会以外で、どこか入りたい部活があるんですか?」

 

「ぷいっ」

 

「えぇ……」

 

「み、ミサちゃんはどこか部活入るの?」

 

「……今のところ、特にどこにも入る予定は無いよ。たぶん、どこに行っても私の事が気に食わない連中が暴れるだろうし。だから、フリーで居るのが一番楽」

 

「ミサさん……どうして、私の質問には答えてくださらないのですか……!」

 

「ぷいっ」

 

「ぐぅっ……!」

 

 ナギサに話し掛けられる度にオレは顔を背けてた。口を開くと、ナギサに対してうっかり悪態を吐いてしまいそうだったからだ。

 

「や、やはりもう許しては貰えないのでしょうか……」

 

「あははは!まぁまぁナギサ様、ミサさんにも心の整理をする時間が必要なんですよ。それに、許す気はあると思いますよ。でなければ、酷い目に合わせた本人に会いに、わざわざ来たりしないでしょうしね?」

 

「なっ!?何を言ってるのユイノ!勝手に人の心代弁しないでくれる!?」

 

 ユイノの奴、絶対にこの状況楽しんでるでしょ……!

 

「ミ、ミサさん……!」

 

「ち、違うってば!ひ、人の事ばっかり言ってるけどユイノはどうなの!?」

 

「え?私ですか?」

 

「そう!その、将来の事とか卒業したらどうするのか、とか」

 

「まぁ、普通にトリニティの大学に行くと思いますよ」

 

「ふーん」

 

「なんで興味無いのに聞いたんですか?」

 

 聞いてから興味無いことに気付いたんだもん。

 

「というかトリニティに大学あったんだ」

 

「そっちの方が興味あるんですね……」

 

「大学くらいどこの学区でもあると思いますよ。まぁ、他学区に進学は余程の目的が無いとしないと思いますけど」

 

「そうなんだ……」

 

 そういえばシエルさん、カフェを経営したいって言ってたな。夢、叶えられたのかな。

 

「ミサちゃん?どうかしたの?」

 

「あ、ううん、なんでもない」

 

 ユイノにもシエルさんの事聞きたいけど、ミカの前で聞いたらミカが不機嫌になるからな……またの機会にしようかな。

 

「ところで、話を戻しますけどナギサ様、犯罪抑制の為にパトロールの動員数を増やそうと思うんですけど、予算多めに下りませんか?」

 

「……今もかなり無茶して出してるんですが、更にですか」

 

「それと、ミサさんにはまたお手伝いをお願いしたいのですが……」

 

 あ、なんか面倒臭そうな話題が振られた。

 

「……一応聞くけど、何するの?」

 

「主にパトロールのお手伝いですかね?」

 

「期間は?」

 

「少なくとも一週間」

 

「やだ」

 

「そ、そこをなんとか!」

 

 やだよ、最低一週間ミカと居られないじゃんか。それに、指標も指針も無く行き当たりばったりに動いて、犯罪が起きたら対処、なんて無駄が多すぎる。

 

「ミサちゃん、なんとかならない?」

 

 いつの間にか後ろに居て、オレの首に腕を回したミカが、オレにもたれ掛かりながらそんなことを言った。ミカの頼みなら仕方ない、と溜息を吐く。

 

「ねぇ、ナギサに送ったっていう報告書見せて、ついでにデータも」

 

「えっと……一応機密なんですが」

 

「じゃあいいや」

 

 オレに執着する義務は無いし。と思っていたらミカにほっぺをむにぃと引っ張られる。

 

「ちょっとミサちゃん!諦めるの早すぎるよ!ナギちゃんも、それくらいパパっと見せてよ!」

 

「いや、あの機密……」

 

「実質関係者なんだからいいでしょ!」

 

「あ、はい」

 

 実質関係者とは。バリバリの無関係なんだけど、と思いながらナギサから受け取った報告書とデータに目を通す。

 

「……読みづらい。報告書は要点を押さえて簡潔に書いて。あと、所どころに挟まってるユイノの憶測を交えた感想もいらない。書くならまた別でまとめて」

 

「まさかのダメ出し!?頑張って書いたのに……自分の考えを書くのもダメなんですか?」

 

「事実以外を書くと、読む側に余計な先入観を与えるからダメ」

 

「すみません……」

 

「それで、報告書で何か分かった事は……」

 

「……地図のコピーとペンちょうだい」

 

 ナギサが外に控えていた分派に指示を出して、地図とペンを持ってこさせた。オレはそれをティーテーブルとは別のテーブルに広げ、キュッポンとペンの蓋を取る。

 

「まず、こことここ、それにこことここ、パトロール必要無い」

 

 地図の上に×を付けていく。次に大きく〇を書いていく。

 

「で、残ったこっちとあっちとそっちだけど、こっちとあっちは前に知ってる不良見かけたから、話をして不良の繋がりを使って大人しくさせられる。というわけで、パトロールはそっちだけでいい、おわり」

 

 ペンに蓋を被せると、ポイっと放る。

 

「え、おわり?」

 

「えっと、そっちの×を付けた方ってどうして必要無いんですか?そこは被害の多い地区なんですけど……」

 

「捕まった奴が牢の中から事件起こせるわけないでしょ。報告書見る限り、事件は現行犯で逮捕出来てるみたいだし」

 

 もう活動できる不良ほとんど残って無いだろう。

 

「では、そちらの×は?」

 

「そこは私とミカが住んでる地区」

 

「あ、なるほど」

 

「あれ?でもミサちゃん、郊外の方は?」

 

「そっちは自警団に対応してもらう。幸い、自警団に知り合いがいるから、その子に頼んで見回りしてもらう。郊外は学園から離れる分、委員会の対応が遅れるから、フットワークの軽い自警団の方が向いてると思う」

 

「で、残った〇だけですか。正直、かなり半信半疑な所はあるのですが、ミサさんの言う事ですからね。でも、これが本当なら経費もかなり抑えられそうですね」

 

「そうですね、最近のパトロール強化で疲れてる者も多いですし、負担をかなり減らせそうです。……ミサさん、やっぱり委員会に入りません?」

 

「いやどす」

 

 入るの嫌だから手伝ってるのに、それじゃあ本末転倒だろうよ。

 

「ただ、あくまでも大人しくさせるのは一時的なものだから、その間に対策は講じておいてね」

 

 オレを知ってる連中ならまだしも、オレを知らない連中を長く止められるほどの拘束力は無いからな。しかも、半ば伝説扱いされてる今、言う事聞く奴もいるかどうか。高等部の入学式の時だって、オレのこと知らない不良がトリニティに来てたし。

 

「……ちなみに、対策を立ててくださったりとかは」

 

「や!」

 

「流石にそれは、ミサちゃんのこと頼り過ぎじゃない?ナギちゃん、そういうところがミサちゃんに嫌われちゃうんじゃ?」

 

 そーだ!そーだ!もっと言ってやれミカ!

 

「うぐっ……そ、そうですね」

 

 ミカにまで言われてしまっては、とすごすごと引き下がるナギサ。これぐらい、最初から自分で考えて欲しいんだけど、という念を込めて視線を送る。視線を受けたナギサは、どこ吹く風と紅茶を飲んでいた。あ、よく見たら手が震えてる、

 

「そ、そういえばミカさん、度々パテル分派の生徒と言い合いになってるそうですが、大丈夫ですか?」

 

 声も僅かに震えてるナギサが、思い出したようにミカに問い掛ける。内容は、最近オレもよく耳にするものだった。

 

「う……ナギちゃんの所にまで届いちゃってるんだ。その、大したことじゃないんだけどね、えへへ」

 

「なに?アイツらそんなにしつこく言い寄って来てるの?決めるのはミカなんだから、何もせずに見守ってればいいのに」

 

「え?ミサさんも知ってたんですか?……いえ、考えてみればミカさんの近くに居るミサさんが、一番の障害ですか」

 

 ナギサが驚いたように目を開いた後、一人で納得する。事情を知ってるから良いけど、自己完結やめろ。

 

「知ってるも何も、直接私の所に来て『ミカ様の説得した後消えてくださいー』なんて言われたんだけど?」

 

「ミサさんと面を向かって、そんなこと言ったんですか?え?その人ちゃんと生きてます?」

 

 ユイノが途轍もなく失礼なことを言う。生意気な事言われたくらいで殺してたら、キリが無いだろ。しばくぞ。

 

「『消えてください』って随分物騒ですね。ミサさんは、その、言う通りにするつもりなんですか?」

 

「聞くわけ無いでしょ、って言いたいけど今回に関しては、ミカに自分で答えを出してって言った」

 

「そうなんですか?では、ミカさんがパテルの首長になるなら……」

 

「……まぁ、一緒には暮らせなくなるかな。私、《ティーパーティー》とは関係ない一般市民だし」

 

 そうなったら、以前みたいに一人になるのかな。……それはちょっと、嫌……かな。

 

「……ミカさんは、それでいいんですか?」

 

「い、良いわけ無いよ!ミサちゃんを一人にしたら、また前みたいになっちゃう!それは絶対にダメ!」

 

 なんて信用の無い、いや逆にこれは信用されてる?ミカ、抱き締めるのは良いけど、首キマってるから離して……。

 

「でも、断っても家の事もあって向こうも諦めてくれないし、ミサちゃんと離れたくないし、ミサちゃんは自分で考えろって言うし、私どうしたらいいか……」

 

 は、離して……離して……。

 

「……ミカさん、ミサさんの顔が青を通り越して白くなってるんですけど」

 

「あ!ミ、ミサちゃんごめーん!?」

 

「ヘイロー壊れるかと思った……」

 

 銃弾効かない癖に、なんで窒息攻撃は普通に効くんだこの体。

 

「……ミサさんがそういうスタンスなら、私からは余り口出しはしませんが、そうですね……非公式ですが、フィリウスとサンクトゥスは既に次期首長を選出し終えてます」

 

「それって……」

 

「な、ナギサ様!?それは本当の本当に非公式の話ですよね!?流石にこの場で言うのは……!」

 

 もう、決まってたんだ。なるほど、ユイノの態度やユイノがどうして来たのか、ずっと引っ掛かってたけど、そういうこと。

 

「大丈夫ですよ。ここに居るのは、ミカさんとミサさんですから。それに、ミサさんはもう気付いているでしょうし」

 

 そう言ってナギサはこちらに笑みを向ける。え、何その信頼。オレ何かしたっけ?

 

「ミサさんだったら、フィリウスとサンクトゥスの首長が誰なのか、見当が付いているでしょう?」

 

「いや、私そんな超人じゃないから、知らない事を知るのは無理だから。……まぁ、ユイノが来てからあった違和感は今形になったけど」

 

「え、私ですか?」

 

「……なるほど、小さな違和感を拾い上げて情報を繋ぎ合わせた、ということですか。きっかけがユイノさんの言動。ということは、ミサさんみたいに賢ければ同じように結論出せる人が居るわけですか……。もしかしてミト様は、昔からミサさんの事を見抜いて……?」

 

 何やらぶつぶつと何かを呟くナギサ。やだ、このナギサこわい……。ミカ、たすけて。

 

「そうなんだ、じゃあフィリウスの次期首長は……」

 

「そうですね、慰めになるかは分かりませんが、もしパテルの首長になっても一人じゃないってことを伝えられたら、と」

 

「……そっか、気を遣ってくれてありがとうナギちゃん。でも、やっぱり私はミサちゃんと居たいから……」

 

 そこまで言ってからミカは、はたと何かに気が付いた様子で言葉を切る。その様子にナギサたちは首を傾げるが、近くに居たオレはミカが「そっか……こうすれば……」とか「最初からそうしていれば……」とか呟いているのが聞こえた。なんだろう、嫌な予感しかしない。

 

「あの、ミカさん……?」

 

「あ、えへへ。なんでもないよ!」

 

 ナギサに声を掛けられ、先程とは一転してミカは満面の笑みで答える。いや、なんでもないって顔してないけど?

 

「そ、そうですか」

 

 しかし、ナギサはミカの満面の笑みに圧され、無理矢理納得させられていた。

 

「そうだよ!あ、ミサちゃんミサちゃん!お茶のおかわりちょーだい!」

 

「あ、うん」

 

 オレが淹れるのか。まぁ、いいけど。

 

「あ、そうだ!ねぇねぇ!この前、すっごくかわいいアクセ見つけたんだー!」

 

 急に話が飛びすぎだろ。見ろよ、ナギサもユイノも放心してるぞ。それはそれとして、アクセがどんなのかすごく気になる。

 

 その日のお茶会は、延々とミカが喋り倒して終わった。

 

 

 

 

 

 

「急に呼び出しちゃって、ごめんね~」

 

 パテル分派が主に会合などで使用している校舎の一室で、ミカともう一人、ミカのお付きを名乗っていた少女が対面していた。

 

「い、いえ!ミカ様のお呼び出しですから!そ、それで返事を聞かせてくれるとのことでしたが、もしかして……!」

 

「うん、あの話受けようかなって」

 

「じゃ、じゃあ!「―――ただし」え?」

 

「今から言う要求を全て飲めるなら、っていう条件付きでね?」

 

「じょ、条件……ですか?」

 

 困惑する少女を前に、ミカは指を三本立てる。

 

「まず一つ、私を首長にするに当たって反対する人たちは貴女達が説得する事」

 

「そ、それくらいなら」

 

「二つ、私の決定に逆らわない事」

 

「ミ、ミカ様……?」

 

「三つ、私のお付きとしてミサちゃんを付ける事」

 

「ミカ様!?いくらなんでもそれは!」

 

 少女は、イスを蹴り飛ばす勢いで立ち上がる。あまりな条件に少女は憤慨するが、ミカはどこ吹く風だ。

 

「飲めないなら、私も首長にならない。じゃ、この話は無かったってことで」

 

「ま、待ってください!?ふ、二つ目までならなんとか……しかし!光園ミサは《ティーパーティー》に入っていないのでこの条件では」

 

「何言ってるの?ミサちゃんは《ティーパーティー》のパテル分派所属だよ、ほら」

 

 テーブルに出された書類には、確かにミサが《ティーパーティー》に所属する旨が書かれていた。

 

「た、確かに……首長の印も押されている正式な書類……。こんなもの、いつのまに……日付が三年前?」

 

 その書類が作られたのは、ちょうど三年前の今頃だった。三年前にあった事と言えば……。

 

「ま、まさか……当時の首長とされた"取引"って……こうなることを予見していたと?」

 

「それこそ、まさかだよ。ホントにただの保険のつもりで、ミサちゃんをパテルの所属にしたんだけど、まさかこうして役に立つ日が来るなんてね。―――これで三つ目も問題なくクリアできるよね?」

 

「し、しかし、分派の他の者が納得するかどうか……」

 

「だから、そっちで説得しろって言ってるの。それに、これはそう悪い条件でもないでしょ?なんたって、トリニティの最高戦力であるミサちゃんをデメリット無しで引き込めるんだから☆派閥間のパワーバランスを確実に崩せるよ。ミサちゃんは、そういうの嫌がりそうだけど、私とミサちゃんが離ればなれになるのに比べたら、些細な事だよね」

 

「ミカ様……わ、私は……」

 

「……なに?またミサちゃんの代わりになれるなんて、思い上がりを口にするの?貴女如きがミサちゃんの代わりになれるわけないでしょ。知識も、力も、見た目すら何もかも遠く及ばない。それに、貴女が私の近くに居るのはあの家の命令だからでしょ、私じゃない」

 

「う……」

 

「分かったなら、条件を飲むか飲まないかさっさと決めてよね。もちろん、私はどっちに転んでも問題ないけど。じゃ、ミサちゃんが家で待ってるから、もう帰るね☆」

 

 そう言って立ち上がると、ミカは俯く少女に見向きもせず部屋から出ようとする。

 

「ま、待ってください!どうして、ミカ様はそんなにも光園ミサに執着するのですか!?」

 

 少女の言葉に、ミカはドアに手を掛けた状態で止まる。

 

「そんなの決まってるよ。私はミサちゃんの事が好きだから。世界で唯一無二の、私の半身で―――運命なんだよ」

 

 ミカはそれだけ言うと、部屋から出て行った。部屋に取り残された少女は、ぽつりと呟く。

 

「ミカ様……それでも、お傍に……」

 

 

 

 

 

 

「―――ミサちゃん、ただいまー!えへへ~」

 

 ナギサたちとお茶した日の晩。みんなから貰った誕生日プレゼントを整理していると、遅くにミカが帰ってきた。ちなみに、ナギサ達からもちゃんとプレゼント貰えた。ナギサからは、なんか高そうなティーセット。ユイノからは、よく切れるらしい出刃包丁。

 

「おかえりミカ。ご飯もお風呂も用意出来てるけど、どっちに先にする?」

 

「ミサちゃん!」

 

「ご飯かお風呂って言ってるでしょ。……なんか汗臭いし、先にお風呂ね」

 

「きゃー☆」

 

 妙に上機嫌なミカに着替えを持たせて、強制的にお風呂に放り込む。……新婚プレイとかしたかったんだろうか。で、でも夫婦でもないのにそういうことするのは、流石に恥ずかしくない!?

 

 変な葛藤をしていると、ミカがお風呂を上がっていた。ミカが髪をドライヤーで乾かしてる間に、ご飯を温める。

 

「いただきまーす!今日のご飯は豪華だね?」

 

「え、そ、そう?いつも通りじゃない?」

 

 まぁ、誕生日だし、ちょっと気合入れて作ったけども。

 

「高級牛のステーキ肉なんて、もったいないからって普段買わないじゃんね」

 

 だって高いんだもん。金はあっても、庶民の感覚が抜けないだよね……。

 

「ミカ、随分とご機嫌だけど何かあった?」

 

「えー、ミサちゃんにはやっぱり分かっちゃうかー」

 

 そんなニコニコ顔だったら、オレじゃなくても分かると思う。

 

「実はね、パテルの次期首長の話受けようと思ってね」

 

「……そう、なんだ」

 

 結局はオレがミカに何を言ったとしても、この結果に落ち着いたのかもしれない。ミカと離ればなれになるのは寂しいけど、エデン条約を裏から手助けしよう。そう思っていたのだが。

 

「うん!それでね、ミサちゃんに私の護衛というかお付き?お願いしたいの!まぁ、一緒に居て雑務して貰うだけなんだけど」

 

「へ?お付き?」

 

「うん!もちろん、ミサちゃんが良かったらなんだけど……」

 

「その、私が良くても派閥の人は納得しないんじゃ……」

 

「それは向こうが勝手に納得してくれるから大丈夫!」

 

「か、勝手に??」

 

 よく分からないけど、大丈夫らしい。

 

「やっぱり、ミサちゃんと離ればなれは嫌だから、一緒に居たいなって。それに、ミサちゃんと一緒なら《ティーパーティー》のお仕事だって楽しく出来そうだし!」

 

「……」

 

「その、ミサちゃんに言わないで勝手に話を進めたのは、私が全面的に悪いし、ミサちゃんがそういった政治とか関わりたくないって気持ちも分かるの。でも、今更ミサちゃんが居ない生活とか考えられなくて……」

 

「そっか、ミカはもう決めたんだ」

 

「う、うん?」

 

「だったら、私も覚悟を決めないとね」

 

 ミカのお付きに、って話は正直びっくりしたけど、よく考えればこれはチャンスだ。事件を一番近い所で察知できる。それに、ミカの傍に居るなら他にも出来る事があるかもしれない。

 

「それじゃあ、ミサちゃん……!」

 

「うん、ミカのお付き?してもいいよ」

 

「や、やったー!ありがとう、ミサちゃん!」

 

「ちょ、ご飯中に抱き着かないで!」

 

「えへへ」

 

 オレもミカと離ればなれにならなかったことに、ほんの少し、ちょっとだけ、ミジンコぐらいの安堵を感じながら、未来に思いを馳せた。

 

 

 




光園ミサ
お茶会解散した後、普通に不良をボコしげふん説得しに行ってた。その際、キャスパなんちゃらさんも一緒にボコられた。《ティーパーティー》参入決定とともに、エデン条約編の中心人物になるのが確定した。

聖園ミカ
ミサの事をバカにされると、瞬間湯沸かし器並に一瞬で沸点を超えてキレる。好きを自覚して以来、スキンシップが激しくなり、隙あらばミサに引っ付く。ミサは自分の物だから、という独占欲に基づいたものである。ナギサは幼馴染なので、ギリギリ接触を許した。他は許さない。なので、ミサに女が近づくと魔女顔でキレ散らかしてる。それを悟られるヘマをしてないので、その事実はナギサ以外知らない。

桐藤ナギサ
お茶会以来、ミサに対し頻繁にメッセージを送るようになった。既読スルーされまくっているが、めげずにメッセージを送り続けている。失った信頼は大きい。取り戻すのは並大抵ではない。たまに塩対応返事が返ってくると、すごく喜ぶ。




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顔合わせする話

感想、評価ありがとうございます!

遂にセイアちゃん初登場。もう40話過ぎてるんだよね…。やっとだよ、ホントに。

実は晄輪大祭の話したかったんだけど、2周年先生なのであまり詳しくないんだよね。とりあえず、2年ごとに開催してて、三大校がローテーションで運営してるのは知ってる。そんな訳で、1年生の晄輪大祭はスキップです。いつか「そんなことあったねー」的なノリで語られる日が来るでしょう…。


 

「―――じゃーん!ミサちゃんの髪型、私と同じお団子にしたよ!お団子二つで、お得感も二倍だね☆」

 

「ミカとお揃い……かわいい……」

 

 その日の朝早く、ミカは「髪結構伸びたし、ミサちゃんの髪型弄っていい!?」と言ってきたので、好きに弄らせた。ミカは前々からしたかったようで、髪にブラシを通して色んな髪型にしていたが、最終的に落ち着いたのがミカと同じ髪型だった。

 

 ドレッサーに映るオレの姿に思わず見とれ、頭のお団子二つをぽふぽふする。ミカはポニテもツインテも良いって言ってたけど、オレはこっちの方が好きだな。えへへ、やったミカとお揃いだ。

 

「今日から2年生だし、先輩として、《ティーパーティー》の一員として、ちゃんと女の子らしくおめかししないとね!」

 

「う、うん、それにユイノにも後のこと頼まれちゃったしね」

 

 

 

 

 

 

「卒業おめでとう―――ユイノ」

 

「ミサさん、お見送りに来てくれたんですか?」

 

 3年生の卒業式が終わり、ユイノを探していると、校舎を眺めて佇んでるユイノを見つけて声を掛けた。

 

「そりゃね、数少ない友達の晴れ姿だもん」

 

「友達……そう言って貰えるとは、結構嬉しいモノですね」

 

「ふふん、ユイノは私の一番の友達だからね」

 

 こんなにも話が合う友人は、後にも先にもユイノだけかもしれない。そう思えるくらい、彼女とは気が合った。

 

「あれ?一番はミカさんじゃないんですか?」

 

「ミカは特別だから、一番とか二番の次元に居るわけないじゃん」

 

「越えられない壁が高すぎますねぇ!」

 

 なにを当たり前の事を。

 

「ところで、校舎眺めてどうしたの?もうホームシック?」

 

「いやいや!まだ離れてすらいないのに早すぎますよ!」

 

「あはは!」

 

「まぁ、ちょっと近いかもしれません。あっと言う間でしたからね。大学は別の地区にありますから、こっちに来るのはもう最後だと思うと寂しくなってしまって……」

 

「最後じゃないでしょ、いつでも遊びに来たらいいじゃん!」

 

「ミサさん……」

 

 同じ学区内なら、別に来れない距離ってわけでもないしね。

 

「……嬉しいお誘いですけど、卒業した先輩が頻繁に遊びに来たら、後輩が委縮しますし、私も大学の講義がありますから」

 

「む、それなら行事ごとの時くらいだったらいいでしょ」

 

「あはは、まぁそれくらいなら」

 

 ユイノの返事に満足気にしていると、ふと昔の事を思い出した。

 

「そういえば、はじめてユイノに会った時、すごいテンション高かったよね。高等部入ってからは落ち着いたけど」

 

「あぁ、それですか。……実は、ミサさんを意識して落ち着くようになったんですよね」

 

「え?そうなの?」

 

「冷静に戦うミサさんが、私の憧れにそっくりでしたから。羽佐間シエルさん、あの人に憧れて《正義実現委員会》に入った私としては、ミサさんは私の目指す"正義"そのものだったんです。だから、ミサさんを真似て冷静さを心掛けるようになったんですよ」

 

「し、知らなかった……」

 

 よく他の人からも言われるけど、オレって戦闘中そんなに冷静に見えてるんだ?手加減に神経尖らせすぎて、よく分かんないんだけど。

 

「そりゃ、恥ずかしいので本人に言いませんって!」

 

 そう言ってユイノはカラカラと笑う。その様子に、オレはふっと笑う。

 

「ど、どうしたんですか?急に笑うからびっくりしたじゃないですか」

 

「いやぁ、ここ一年そうやって力を抜いて笑う事無かったから、久しぶりだなぁと思って」

 

「あー、そういえばそうかもしれません。委員会もツルギとハスミに託して、ようやく解放された気分ですよ!」

 

「《正義実現委員会》の次期委員長はツルギに任命したんだって?本人はすごく嫌がってたけど」

 

 その日はハスミに呼ばれて会いに行ったら、発狂しているツルギを押さえる手伝いをさせられた。怖がられてる自分は誰かの上に立つ資格はない、とか何とか言って暴れに暴れて。最終的に、ハスミが副委員長になって引き続きサポートする形で落ち着いたけど。

 

「……他の人にも、色々言われました。ミサさんも、私の判断が間違ってると思いますか?」

 

「なるほどね、判断が間違ってるかどうかなんて、そんなもの今分かるわけないでしょ。実際にやってみないと分からない事なんだから。逆に聞くけど、《正義実現委員会》委員長のユイノはその判断を間違えたと思ってるの?」

 

「―――ぷっはは、そうですね。私自身が、私の判断を疑ってはいけないですよね。ええ、間違ってませんよ。今のツルギなら、問題なくこなせると判断して、次期委員長に任命しましたとも!」

 

「うん、私もツルギなら大丈夫だと思うよ。私が以前教えた通り、委員会に受け入れられてるみたいだし、長年相棒やってたハスミが副委員長になるなら、暴走しすぎないようにコントロールできるでしょ」

 

 ま、あくまで個人の感想の範疇でね。

 

「って、ちゃんと評価してくださってるなら最初から言ってくださいよ!」

 

「何言ってんの、他人の評価なんて当てにしてないで、自分の選んだ答えを信じなよ」

 

「……はは、卒業式で行われた《ティーパーティー》の引継ぎで、周りから白い目で見られても堂々としてたミサさんが言うと、説得力が違いますね」

 

「でしょ?」

 

 《ティーパーティー》は家柄主義な側面もあるから、一般人なオレが入るのが許せない人も大勢いる。オレは家の格とかそういうの分からないし、どうでもいいって思うのはやっぱり貴族じゃないからだろうなぁ。

 

「私の目に狂いは無いとはいえ、まだ心配な所もありますし、委員会のフォロー頼みますね、ミサさん」

 

「私に頼むな。そこはほら、ナギサとかミカとか」

 

「お二人はこれから首長として分派を引っ張って行くんですから、暇じゃないでしょう」

 

「じゃあミネ」

 

「ミネさんもヨハネの首長、《救護騎士団》の団長に任命されたじゃないですか」

 

 そういえばそうだった。なんでオレの周りの奴ら、どいつもこいつも重要なポスト任されてるんだ。

 

「……はぁ、気が向いたら助けてやるよ」

 

「それを聞くと、絶対に助けてくれるという、安心感がありますね」

 

「なんでだ」

 

「それでは、この学園の事お願いしますね。色々と面倒事の多い学園生活でしたが、思い入れも強く、楽しい事も沢山あった学園生活でしたから、荒れ果ててる所なんてやっぱり見たくありませんからね」

 

 面倒臭い学園なのは百も承知だって、だからオレはユイノに力強く頷く。

 

「―――もちろん、任せてよ。だから、安心して卒業してって」

 

 そう言うと、ユイノは安心しきった笑顔を見せて卒業していった。

 

 

 

 

 

 

「……ユイノも大学で頑張ってるだろうし、私達も負けないように頑張ろっか!」

 

「ふふっ、そうだね!」

 

 奮起するように手に拳を作りながら立ち上がると、ミカも笑って同意する。

 

「あっ!そろそろ出ないと間に合わなくなっちゃうね」

 

 時計を見ると、確かにそんな時間だった。

 

「じゃ、ミサちゃん行こっか」

 

「……一応聞くけど、ホントに私も付いてっていいんだよね?」

 

「当たり前じゃんね。ミサちゃんいないと、私何も仕事できないよ」

 

「それは胸を張って言う事じゃないんだけど……うん、ごめん。ちょっと臆病出ちゃった」

 

「大丈夫だよ!ミサちゃんは一人で抱え込みがちだからね、ちゃんと言ってくれるの嬉しい」

 

 これから、オレがいることで物語が大きく変わる可能性がある。それが良い方へ転がるのか、悪い方へ転がるのか、まだ分からないけどオレに出来る事は全てやり尽くそう。

 

 

 

「ナギサ様、セイア様。ミカ様が到着されました」

 

 学園に到着し、向かったのは《ティーパーティー》の校舎。他の生徒に睨まれながら、ナギサ達の待つ会議室へ足を運ぶ。

 

「……ミカさん、もう少し余裕を持って来れなかったのですか」

 

「……」

 

 中で待っていたのは、当然ではあるが桐藤ナギサと百合園セイアの二人だった。他の《ティーパーティー》の生徒は入って来ないらしい。……普通にミカに付いて来たけど、オレも入って良かったんだろうか。

 

「ごめんごめん!ミサちゃんの髪型決めてたら、時間がギリギリになっちゃった☆」

 

 ミカがイスに掛けながらそう言うと、二人の視線がこちらに向いたので、一先ず会釈だけしておく。

 

「今日は一応、首長のみで顔合わせのはずでは?」

 

「ミサちゃんはもう一人の私みたいなものだから大丈夫!」

 

「意味が分かりません」

 

 そして、オレの事を穴が開くほど凝視していたセイアが、ようやく口を開いた。

 

「ふむ……そっくりだと噂には聞いていたが、ここまで瓜二つとは。ミカ、まさか君は影武者を使って何かをする気かね」

 

「それは無い」

 

「それは無いですね」

 

「酷くない?」

 

 思わずナギサとハモってしまった。何故か嬉しそうなナギサはさておき、ミカがそこまで考えてるわけない。

 

「とりあえず、自己紹介しておきましょうか。私とセイアさんは既に済ませましたが、ミカさん……とミサさんはまだですし」

 

「あ、そうだね。聖園ミカ、2年生だよ。趣味はアクセサリー集めとミサちゃんを可愛がること!よろしく☆」

 

 え、どういう趣味なの。初めて聞いたけど、オレはそれを聞いてどういう反応すればいいんだ。

 

「2年の百合園セイアだ。君達が幼馴染なのはナギサから聞いている。まぁ、よろしく頼むよ」

 

「うん!あ、私の隣にいるのがミサちゃんだよ!」

 

 ミカの簡潔過ぎる紹介に溜め息を吐いて、改めて自己紹介する。

 

「紹介に与りました、光園ミサです。至らぬ点はありますが、よろしくお願いします」

 

「わー☆」

 

「……」

 

「……」

 

 スカートを軽く摘まんでお辞儀すると、ミカがパチパチと拍手を鳴らすが、ナギサは何とも言えない表情でこちらを見て、セイアに至っては驚きに目を見開いていた。

 

「……先程、ミカの影武者と言った事は謝罪しよう。ミサ、君の立ち居振る舞いからはミカよりも知性と品位を感じる。ミサが影武者をしてしまったらすぐにバレるだろう」

 

「ちょっとー!どういうこと!?」

 

「どういうとは、言ったままだが?」

 

 ……?そういえば、ミカのテンションがやけに高いな。オレと二人きりの時みたいに、落ち着いた感じで話せばバカっぽくは見えないと思うんだけど。

 

「と、とりあえずお互いの名前が分かりましたね。良いお菓子があるので、お茶にしませんか?」

 

「わーい!お菓子だ!」

 

「……ふむまぁ、これも交流の一環ではあるか」

 

「ミカ様、食べ過ぎて晩御飯が食べられない、なんて事にならないようにお願いします」

 

「えー!?というかミサちゃん、いつもより他人行儀になってない?」

 

「公私を分けてるだけです」

 

 友人だからと言って、そこはきっちりしておかないとまずいだろ。仮にも《ティーパーティー》の長なんだから。オレが馴れ馴れしく接すると、余計に周囲の反感を買いそうだしな。

 

「えー!やだやだ!いつものミサちゃんが良い!」

 

「だめです。他の者に示しが付かないでしょう」

 

 ミカが縋り付くようにしがみ付いてきたが、デコピンで撃退する。

 

「うぅー……!」

 

 そんな涙目で睨んでもダメなものはダメだから。

 

「……ミサさん、今この場には私達しか居ませんし、私達四人で居る時は普段通りの接し方で良いと思いますよ。セイアさんもそう思いませんか?」

 

「何故そこで私に……いや、この場で明確な部外者は私と言えるのか。まぁ、特に業務に差支えが無いのであれば、どちらでも構わないと思うがね」

 

 ミカに甘いナギサはまだしも、セイアまで……。

 

「じゃあ《ティーパーティー》の命令!ミサちゃんは普段通りの話し方をすること!」

 

「ちょ、それは職権濫用っ」

 

「いいですねミカさん!では、三首長最初の命令という事で」

 

「な、ナギサ様まで……」

 

 助けを求めるようにセイアを見るが、スッと視線を逸らされる。

 

「すまないミサ、私にこの流れは止められそうにない」

 

 おま、面倒になっただろ。

 

「……はぁ、分かった。いつも通りに話せばいいんでしょ……」

 

 あ、男口調で話せばよかった。そっちもいつも通りではあるんだし今からでも……いや、ミカのお仕置きが怖いからやめておこう。

 

「やったー!あ、ミサちゃんこのお茶マズいから淹れ直して」

 

「え、不味いですか?いつもの味なんですが……」

 

 ナギサが自分で飲んで確かめるが、いつも通りだと首を傾げる。オレは溜息を吐くと、どこで紅茶を淹れようか部屋を見回していると、ナギサが教えてくれた。

 

「あ、隣の部屋に給湯室があるので、そこで淹れられますよ」

 

「そうなんだ、ありがとナギサ。ミカはちょっと待ってて」

 

「はーい!ミサちゃんの淹れた紅茶以外水みたいで飲んだ気がしないんだよね」

 

 それは舌がバカになってるから、今度一緒に病院行こうね。

 

「ミカさんがそこまで言うなんて、気になりますね。ミサさん、私の分もお願いしてもいいですか?」

 

「なら、私の分も一緒にお願いするよミサ」

 

「はぁ、まぁ二人も三人も変わらないか」

 

 なんか、最近溜め息増えた気がするな。給湯室に入ると電気ポットに水を足す。そして、バッグから持ち歩いてる茶葉を取り出して三人分をティーポットに移し、お湯が出来るまで待つ。

 

 事前に温められていたティーセットを台車に積み、電気ポットとティーポットを乗せミカ達の元へ戻る。三人は何やら話が盛り上がっているようだ。

 

「あ、ミサちゃんおかえりー」

 

「結構盛り上がってるね、何か共通の楽しい話題でもあった?」

 

「うん!ミサちゃんの話!」

 

「なんで私……?」

 

 話をしながらも、手を止めずにティーポットにお湯を注ぐ。

 

「……ここでお湯を入れるのかね?」

 

 セイアは興味深そうに、オレの手元を眺めている。

 

「うん、出来るだけ味を落としたくないから」

 

 ティーカップにお茶を注いでいき、三人に配る。

 

「はい、熱いうちに飲んでね」

 

「わーい☆んー!おいしい!」

 

「ほう……これは中々……」

 

「……確かに、毎日これを飲んでいたら他の紅茶が飲めなくなりそうですね……」

 

「ふふん」

 

「なんでミカが得意気なの」

 

 でも、がんばって練習したモノが褒められるのは、素直に嬉しい。温度を落とさないようにカップとポットを温めたり、茶葉の状態に気を遣ったり、茶葉の量、お湯の温度、蒸らす時間を何度も試行錯誤して、何度も飲み比べて、ようやく納得の行くものが出来るようになった。これを茶葉の種類ごとに繰り返して、紅茶の世界は奥が深い事を知った。

 

「ミサちゃんってば凝り性で、自宅やセーフハウスに専用の茶葉保管庫を造るくらいハマっちゃってるんだよねー」

 

「ちゃ、茶葉保管庫?」

 

「茶葉の劣化を抑える為だよ。あと色々種類揃えたから、管理し易くする為にね」

 

 以前に茶葉が古くなったり、切らした時に新しい物を買おうとして、時期外れで売って無かったり値段が高騰してたりで、酷い目に遭ったからな。買い溜めて保管出来る場所が欲しかった。しかも、同じ茶葉でも茶葉を摘んだ時期によって味が変わるから、それを分けておく必要があるし。

 

「この紅茶、ここに置いてない種類のものだが、もしかして持ち歩いているのか?」

 

 セイアの疑問に、オレはバッグからあるものを取り出し、テーブルに置く。

 

「これは?」

 

「茶葉ボール。二重構造で、中は真空状態にしてる。ミカが出かけた先で私の紅茶を飲みたいとか言うものだから、劣化を抑えて持ち運べるようにした」

 

「最早、とことんまで突き詰めてますね……」

 

「思い付いて行動に移すまでの速度が尋常じゃないな」

 

「作るの自体は簡単なんだけどね」

 

「ふふふん!うちのミサちゃんはすごいんだから!」

 

 だから、なんでミカが偉そうにしてるんだ。

 

「あ、そうだこれ」

 

 オレはふと思い出して、バッグから資料を取り出してテーブルに置く。

 

「……これは?」

 

「一学期の各部活に向けた仮の予算案。一応、過去資料参考にして作ってみたけど、実際に各部活を視察してみないと分からないから、あくまで仮ね」

 

「……ふむ、かなり詳細にデータが詰められていて、仮と言わずこのまま提出しても通りそうだね」

 

「え?ミサちゃんいつの間に作ったの?」

 

「ここ数日、手が空いた時に」

 

「そんな片手間に作りました、みたいな完成度じゃないですけど」

 

 だって、ミカが《ティーパーティー》の準備とかで構ってくれないから暇だったし。それに、仮資料作るのは過去資料参考にしながらなので、結構簡単だった。前世でも同じ事をしたことがあるのか、体がスムーズに動いた気がする。

 

「まぁ、あくまで仮。月末に控えてる全体会議までに完成形が作れると思う。資料の方針としては、仮資料みたいな感じで考えておいて」

 

「なるほど、了解した。では―――」

 

「うん、次の資料だね」

 

「!?」

 

「まだあるんですか!?」

 

「わー」

 

「仕事だから当たり前でしょ」

 

 オレはいくつかの分類別に分けた書類をテーブルに広げる。

 

「溜まってる仕事の中で、期限別で急ぎの案件をまとめておいたよ」

 

「待ちたまえ、溜まり過ぎでは無いかね……?」

 

「どうも期限の遠いものや、緊急性が低いと判断されたもの、手に負えないと判断されたと思われる仕事が弾かれて埋もれた結果、期限がギリギリになった案件が大量に出てきちゃって」

 

「えぇ……」

 

「先輩方、妙に良い笑顔で後を任せてくると思ったら、こういうことですか!?」

 

「とりあえず、期限が過ぎてるものは既に先方にお詫びの連絡入れてあるから、お茶終わったら早めに取り掛かってね」

 

「……なんだかお茶が不味くなってきましたね」

 

「政治に乏しい人間に政治を任せると、こんな惨事を引き起こしてしまうのか……。呑気にお茶してる場合では無さそうだ」

 

 どうも、先代の《ティーパーティー》は相当酷かったらしい。ナギサとセイアが顔を青褪めさせて言うなら、そうなんだろう。

 

「ミ、ミサちゃぁん……!私一人じゃ無理ぃ、助けてぇ!」

 

「分かったから、ちゃんと手伝うから離れて。制服汚れちゃうから」

 

 泣きべそ掻きながら抱き着いて来るミカを引き剥がしながら、頭の中で予定を組み立てる。ミカの仕事の手伝いをして、各部活を視察して、予算案を作って、街を回って各地区の責任者に会って各地区の状況を聞いて、全体会議に使う資料作成して……あれ?仕事……多くない?

 

 茶しばいてる場合じゃねえ!とその日の顔合わせは終了となり、急ぎの仕事を終わらせることになった。酷い滑り出しとなってしまったが、この学園大丈夫なのだろうか。

 

 

 




光園ミサ
一応立場としてはミカの従者。本来、戦闘よりもこっち側の人間なので、得意分野なのも合わさって八面六臂の活躍を見せる。パテル分派内のおよそ9割仕事してる。実はパテル派生徒がミサに仕事を押し付けてるのだが、気付いてないだけ。

聖園ミカ
バカっぽく振舞うのは、高い能力を隠すために身に付けたミカの処世術。ミサに仕事を振ってるが、自分でもやろうと思えば出来る。ミサにやらせるのは、ミサの凄さを見せつける為、という打算から。でも、それでミサに好意を持つ人が増えるのは嫌だなと思っている。

桐藤ナギサ
1年生時にユイノに協力して貰って、なんとか普通にミサと会話するまでに関係を回復させた。ユイノの苦労の大半は、主にナギサだった模様。ミサの敬語に反対したのは、自分が嫌だったからなので、実はミカは関係無いのである。大量の仕事が降って沸いた帰り道、彼女は新たな癒しに出会ってしまう。ブラックマーケット帰りのペロロ狂に。

百合園セイア
まだ常識人。ミカに初手煽り入れようと思ったけど、まだ煽るほど仲良くも無いなってやめた。結構ミサに対して警戒心高めだったが、話してみると普通で拍子抜け。しかも、貴重な仕事できる人材だったので好感度爆上がりである。ちょろい。いや、キヴォトスが人数の割に仕事できる人少なすぎ問題ではあるが。


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全体会議の話

遅くなってごめんなさい!AC6が面白かったので、つい!

そうこうしてる間に、晄輪大祭の復刻来ちゃった。ストーリーあまり知らないからって飛ばしたばかりだったのに……。いいもん……メインストーリーの話にはあまり関わらないし……。


 

「それでは、文芸部の予算はこれで提出しますね」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

「では、失礼します」

 

 文芸部の部室から出ると、その足で次の目的地に向かう。

 

「次は《放課後スイーツ部》か。とりあえず、ここを回ったら今日は終わりかな」

 

 部室の前に立ち、扉に手を掛ける。

 

「ん、あれ?」

 

 開かない。何度か扉を動かすものの、鍵が掛かってるようだ。

 

「留守か……仕方ない、日を改めるか」

 

 一応、メモに訪問した旨を書いて扉に貼っておこう。

 

 ふぅ、流石に百を超える部活を一人で回るのキツイな。とはいえ、書類仕事をミカに振ってる分、こっちはオレが片付けておかないとな。オレが書類の方を担当したかったんだが、首長の印がいるものばかりだったからな。それをオレが処理するわけには行かない。まぁ、ミカも仕事を覚えるいい機会だろう。

 

「さて、残ってる部活は《正義実現委員会》《救護騎士団》《シスターフッド》……」

 

 見事に面倒な所ばかり残ってしまった。なんで三つとも明日しか時間取れないんだ。この後も、街の有力者や企業の責任者達に挨拶と今後の話をしに回らなきゃだし……。

 

「はぁ……面倒臭い」

 

 

 

「では、こちらはお話ししました通りの対応で」

 

「はい、お願いします。いやー、最初かの有名な天使が来られたと聞いた時は、度肝を抜かれましたが、丁寧な応対で、しかもこんなに可愛いお嬢さんだったとは!」

 

「ありがとうございます。昔の事ですが、そう思われるのも仕方の無いことだと思います。それでは、私はまだ仕事が残っていますので、失礼します」

 

「はい、次も是非お願いします!」

 

 企業CEOの人に挨拶した後、会社を出て肺に溜まっていた空気をまとめて吐き出す。

 

「つかれた」

 

 もう帰りたいけど、学園に戻って報告書やら資料やら、やることがたくさんある。学園に戻る途中、喫茶店の表に出ているケースの中のケーキやパフェが目に入り、思わず立ち止まって眺めてしまう。

 

「甘いもの欲しい、でもミカが頑張ってる手前オレが贅沢するわけには……」

 

「あれ?あのヘイロー、ミサ先輩?」

 

「ん?」

 

 名前を呼ばれた気がしたので振り返ると、《放課後スイーツ部》の栗村アイリがいた。一人知らない子がいるけど、いつものメンバーで食べ歩きしていたらしい。道理で部室に居ないわけだ。

 

「アイリ、ちょうどよかった。さっき部室を訪ねに行ったんだけど、居なかったからさ」

 

「あれ!?部室来るの今日でしたっけ!?ご、ごめんなさい!新入部員の歓迎会をしてて……」

 

「まぁ、偶然会えたし結果オーライってことで」

 

 アイリは、中等部時代にSNSのネタ探しにスイーツのお店巡りしてる時に知り合った。チョコミントが好きという変わった嗜好の持ち主ではあるが、それ以外は普通の女子校生だ。オレはチョコミントも食べられはするけど、バニラの方が好き。しかし、アイリはチョコミント好きを増やしたいのか、度々チョコミントを勧めてくる。

 

「あー、ミサ先輩じゃん、やっほ~」

 

「げっ」

 

「ちょっと、カズサ?どうしたのよ」

 

 上から柚鳥ナツ、知らない子、伊原木ヨシミ。知らない子はオレを見た途端、フードを深く被りヨシミの陰に隠れてしまった。

 

「いや、どうしたもなにも、どうして三人ともこの人と普通に話せるの」

 

「どうしてって、この人普通に無害じゃない」

 

「うーん、もしかして先輩の噂のことじゃないー?」

 

「え?あんた噂を信じてビビってるの?」

 

「そう言って彼女は自らがビビってたことを棚に上げるのだった」

 

「は、はぁ!?ビビってませんけどぉ!?」

 

「カ、カズサちゃん!ああ見えて先輩すっごい良い人なんだよ!」

 

 スイーツ部はカズサって子の言葉を皮切りに、わちゃわちゃと騒ぎ出した。正直、見てるだけでも楽しいけど、仕事があるので申し訳ないけど割り込むか。

 

「楽しそうなところ悪いんだけど、部長にちょっと聞きたいことがあって」

 

「ほぅ!この部長、柚鳥ナツがなんでも答えてしんぜよー」

 

「そうだった、お前が部長だった……」

 

 急に生き生きとしだしたナツに思わず頭を抱える。こいつ、唐突に意味の分からないことを言うから、少し苦手だ。

 

「人生に迷える子よ、案ずるなスイーツの光がそなたを導く」

 

「はいはい、聞かれた事だけ話してねー。今、部室で欲しい設備とかある?」

 

「うーん?みんなーなにかあるー?」

 

「あれじゃない?空調壊れてるから直して欲しいかも」

 

「空調ね……それは学園の設備だから、修理の申請してもらえたらこっちで修理の依頼出しとくよ。他には?」

 

「だったら、新しい冷蔵庫欲しいです。今あるの結構古いから」

 

 手元のタブレットを弄り、スイーツ部から聞いた話の内容を書き留める。

 

「ミサ先輩、もしかして今年の部費ですか?」

 

「そう、各部活から話を聞いて予算をまとめてる所。話を聞いた感じ、これぐらいになるかな。スイーツ部は大会とか実績を残してるわけじゃないから、多くは出せないけど」

 

 そう言って、アイリたちにタブレットを見せる。

 

「え?こんなに貰って良いんですか!?」

 

「こんなにって、予算から出せる部費の最低ラインだけど?」

 

 もしかして入力間違えたかと、タブレットを確認するがちゃんと正しい値が入ってた。

 

「これだけあれば、色々買えるね~」

 

「もう少ない部費でやりくりする必要が無いのね!」

 

「えぇ……」

 

 前期の生徒会は何やってたんだホントに。

 

「部活動として正式に申請を出して活動してる以上、活動人数に応じた最低限の部費はちゃんと支給されるから。あ、大丈夫だったらこれにサインして」

 

「これが新生《ティーパーティー》の手腕という事ですかな、感謝ー」

 

「いや、ちゃんとお礼言いなさいよ!」

 

「え、この人《ティーパーティー》なの?」

 

 驚いた顔でカズサがこちらを見ていた。オレを見るその目は、良く知るものだった。

 

「あ、あのねカズサちゃん!」

 

「いいよアイリ、慣れてるから」

 

 フォローしようとしてくれたアイリの言葉を遮って止める。そういう風に見られるのは、元々覚悟の上だったし、今までの事について弁解する気も無い。

 

「それより、一つ聞きたいんだけど、この辺りで《トリニティ自警団》見なかった?」

 

「あ、それならこの先の公園で見かけましたけど……」

 

「そうなんだ、ありがとう。活動の最中だったのにお邪魔してごめんね。用事はこれだけだから」

 

 そう言って、オレは足早にその場を離れることにした。オレが居ては話も弾みにくいだろうと思い、オレなりに気を遣った結果だ。……でも、やっぱりちょっとだけ傷付いた。オレ、怯えられるほど怖く見えるんだ……。

 

 

 

「ふぅ……」

 

「おつかれ、スズミ」

 

「えっ、ミサ先輩?」

 

 暴れていた不良を制圧したスズミに声を掛ける。驚くスズミにオレは缶コーヒーを差し出す。

 

「喉乾いてるだろうと思ってね」

 

「あ……お金……」

 

「いいよ、先輩からの奢り」

 

「ありがとうございます……」

 

 倒れてる不良は連絡しておいた委員会が、じきに引き取りに来るだろう。オレとスズミは近くのベンチに座って、コーヒーに口を付ける。

 

「また派手に暴れたね」

 

「先輩に比べたら、まだまだですよ」

 

「オレを比較対象にするんじゃない」

 

 守月スズミとは、昔不良に絡まれていた所を助けたことがあったらしい。らしい、というのはオレが覚えて無いからなんだけど。その後、自主的にトリニティ生を守る為に自警団を名乗って活動していた所、偶然オレが不良をボコしてた現場に出くわし再会した、という経緯があった。

 

「そうだ、予算の件だけど、やっぱり《トリニティ自警団》に部費を下ろすのは難しそう」

 

「非公認の部活ですからね。団員も各々が勝手にそう名乗って、ゲリラ的に活動してるだけですし」

 

「せめて、弾薬費ぐらいは融通出来たら良かったんだけどね」

 

「仕方ありませんよ。元々、お金欲しさにやってるわけではありませんから。それに、組織立って動くと色々しがらみが多いですからね。今ぐらいがちょうどいいです」

 

「はぁ、組織とゲリラの利点と欠点がそれぞれ分かってるなら、オレからは何も言えないな」

 

 組織的な行動の遅さをカバーできる点は、かなり助かるからな。ただ、あくまで個人活動の範疇だから、命令系統が存在しない事とか、人数差による不利が大きい大規模な戦闘には介入しづらいとか、色々個人は個人で面倒は多い。

 

「とりあえず、自警団活動でスズミ達の立場が不利にならないようにサポートしておく。少なくとも、オレみたいに停学寸前みたいにならないと思うよ」

 

「有名な話ですね。先輩のおかげで平和が守られていたのに、当時の《ティーパーティー》は何を考えていたんでしょう」

 

「さぁな、派閥同士で協力よりも、派閥同士で足の引っ張り合いが激しいからな。当時も何かあったんだろ」

 

 そうこうしてるうちに、《正義実現委員会》の制服を着た生徒達が現れ、不良達を捕らえていく。

 

「これはミサ殿、お疲れ様です!この者達はミサ殿が?」

 

「うん、暴れてたから自警団のスズミに手伝って貰って制圧しておいたよ」

 

「……なるほど、そうでしたか。ご協力感謝します!」

 

 それだけ言うと委員会は撤収していった。

 

「先輩?あの、今のは」

 

「まぁ、ああ言うのが収まり良かったでしょ。ここで言い合いされても時間の無駄だしね?」

 

「あはは、ありがとうございます」

 

 スズミは残っていたコーヒーを飲み干し、立ち上がる。歩いてゴミ箱まで行くと、空になった缶を捨てた。

 

「先程のサポートの件、私の知り合いの自警団員にも話しておきますね。団員から別の団員に話が飛びますから、すぐに広まると思います。それに、自警団ってミサ先輩に憧れてる子が多いので、喜ぶと思いますよ」

 

「それは、スズミも含めて?」

 

「さぁ、どうでしょう?」

 

 スズミは笑ってそう言うと、失礼しますと一声掛けて見回りに戻って行った。

 

「……生意気な後輩だなぁ」

 

 オレもコーヒーを飲み干し、空になった缶を宙に放ると、見事な放物線を描いてゴミ箱に入って行った。オレもそろそろ学園に戻るか。ミカに書類仕事任せっきりだしな。

 

 

 

「ミカー?仕事終わったー?」

 

 日の暮れた校舎を進んで、ミカの執務室に向かった。扉を開けると、そこには真っ白に燃え尽きたミカの姿があった。

 

「ミサちゃん……もう無理……」

 

 横には大量に積み上がった書類。オレは溜息を吐くと、書類を二つに分ける。

 

「こっちはやっておくから、残った分は頑張って」

 

「うぅ……ミサちゃん、ありがとぉぉぉ」

 

 ミカの隣に置いてあるオレの机に座ると、分けた書類をさっさと終わらせる。書類を片付けた後、うんうん唸ってるミカを横目にPCを立ち上げ、今日のデータをまとめたり、予算案を作成したり、全体会議用に資料を作成したりする。

 

「ミサちゃん、これなんだけど……」

 

「これは……はい、こっちの資料にあるデータを参照して」

 

「あ、ホントだ。ありがとう!」

 

 ミカの質問に答えながら、キーボードのパネルに指を滑らせる。……ハードは最新式で揃えてるのに、どうしてソフトウェアは古いの使ってるんだ。滅茶苦茶使いにくい。管理システムも中身がグチャグチャで見辛いし……いっそのこと一から組んだ方がいいか?でもオレ、プログラムは齧った事がある程度だからなー。となるとミレニアムに依頼するしかないか……。仕様書作って……要望送って……またやることが増えた。

 

「ミサちゃーん!やっと終わったー!」

 

 終わった書類をパラララとめくり確認する。

 

「うん、ちゃんと出来てる。一先ず、全体会議までに終わらせないといけない書類は全部かな。おつかれミカ」

 

「もう、ホントに大変だったよー……ミサちゃん、膝枕してー」

 

 いいよ、と言う間も無くミカはオレの膝の上に寝転がる。仕方ないなと思い、ミカの好きにさせる。

 

「久しぶりのミサちゃんの匂い~」

 

「何言ってるの、使ってるボディソープ一緒じゃん」

 

「ミサちゃんの体臭と汗の匂いが混ざって、なんか甘い香りが」

 

「ちょ、汗の匂い嗅ぐのやめてよ。今日も外歩き回って気にしてるのに……ってスカートの中に潜り込まないで!」

 

 もぞもぞとスカートの中で動き回るミカの頭を叩くが、特に気にした様子も無く動き続ける。

 

「んー……ぺろっ」

 

「ひゃあっ!?どこ舐めてるのバカ!」

 

 急に止まったかと思うと、敏感な部分を舐め始めるミカ。流石にこれ以上は困るのでグーで殴って止める。もぞもぞとスカートから這い出てくると、頭をすりすりと撫でていた。

 

「……いたい」

 

「痛くしてんの」

 

「ミサちゃん、えっちしたい」

 

「生理だからダメって言ったでしょ」

 

「うー!そうだったぁ……!」

 

 ミカは、うーうー唸りながら人の膝の上で転がる。一番きつい時期は過ぎたとはいえ、まだきついモノはきつい。この状態でえっちに集中できるわけない。

 

「それにまだ仕事片付いてないし」

 

「……なんでミサちゃんの方が仕事多いの?」

 

「私が聞きたい」

 

 ミカを膝に乗せたまま仕事をしていると、ふと膝の上が静かな事に気が付き、ミカを見るとすやすやと寝息を立てて眠っていた。気付けば外も暗くなってる。

 

「……もう、仕方ないな」

 

 ミカの頭を撫でてから、もうひと踏ん張り……という所で、先程から気になってる扉の向こうに声を掛ける。

 

「……ねぇ、迷うくらいならさっさと入って来てもらえる?―――ナギサ」

 

 そう、声を掛けると遠慮がちに扉が開き、気まずそうな表情のナギサが入ってくる。

 

「あの……どうして私だと?」

 

「なんとなく、見知った気配だなって思っただけ」

 

「……ミト様みたいなことをされたので、ドキッとしました」

 

 ミト……二つ前の生徒会長か。確か、フィリウス派の首長だったな。

 

「それで?こんな時間にどうしたの?」

 

「実は相談があって……あれ?ミカさんはどこに?」

 

「ここ」

 

 オレは膝で寝てるミカを指すと、ナギサは「あぁ……」と納得した表情になる。

 

「仕事頑張ったから、そっとしてあげて」

 

「そういうことですか。でしたら、ミサさんにこちらの意見を頂きたいのですが」

 

 そう言って差し出してきた一枚の書類。オレはそれを見て怪訝な顔になる。

 

「……アビドス?」

 

「はい、《アビドス高等学校》からの支援要請です」

 

「支援……」

 

 書類に書かれてることはシンプルに助けて欲しい、という話だった。確か、アビドスと言えばゲームだと対策委員が……ダメだ、何故か覆面しか思い出せない。

 

「アビドス高校の件はご存じですよね?」

 

「うん、数十年前に大規模な砂嵐で学区全体が砂に覆われたんだってね。で、その対処に色んな所から金を借りまくって、借りた金返すのに自分の所の土地の権利を手放したとか」

 

「そこまで知っていたんですね。えぇ、《ティーパーティー》の情報部が掴んだ情報によると、その借りた所がカイザー系列だったらしく……」

 

「……なるほどね。つまり、借金を盾に土地を安く買い叩かれたわけだ。普通に考えて、元々担保に入れてたわけでもない土地の権利を、人が離れた土地を買う理由は無い。逆に言えば、わざわざ土地を買わないといけない理由があったのか」

 

「セイアさんも、同じ結論を出していました。『アビドスがその事実に早くに気が付いていれば、もっと対処のしようがあっただろうに』と」

 

「そうだね、私もセイアと同じ考えかな。土地を売るにしても、借金を一回で返せるぐらいには値を吊り上げられた」

 

「砂にまみれた土地を高く売れるんですか?」

 

「少なくとも数千万なんてはした金で売らないよ。人が居なかろうが、砂にまみれようが数十億か数百億は稼げるね」

 

「……セイアさんも同じ事言ってましたね」

 

 セイアの言っていたこと思い出し、苦笑するナギサ。それはそれとして、話が逸れた。

 

「話を戻そうか。それで、支援の件だよね。特にうちにメリットは無いから、お断りかな」

 

「はい、私とセイアさんも同じ結論に至りました。可哀想ではありますが、廃校秒読み段階に入ってる相手に支援したところで、返ってくる物は無いでしょうし、こちらも向こうに支援出来るほど余裕ありませんからね」

 

「ふむ……余裕、余裕か」

 

「ミサさん?」

 

 急に考え込んだオレに、ナギサは訝しげな表情をする。オレは目の前のモニターに映る数字を見て、余裕は無いが無理では無いと思った。

 

「……この件、既に対応は決まってる感じ?」

 

「いえ、私とセイアさんはあくまで方針として話して、最終決定はまだですが」

 

「そう……だったら、ちょっとセイアにこの件で話がしたいから明日以降、全体会議までの間で空いてる日を聞いておいて貰える?自分で連絡取りたいけど、ちょっと今手が離せないんだよね」

 

「それは構いませんが……あの、今何のお仕事されてるんですか?」

 

「予算案と全体会議の資料と各部活動の報告書と街の有力者や企業との連携などエトセトラ」

 

「え‶っ。ま、待ってください!なんですかその仕事量は!?他の人は何してるんです!?」

 

「誰もやらないから、私がやってるの。あ、PCのソフトがゴミだから、アップグレードや新システム導入も視野に入れるようにセイアに言っておいて。仕様書はこっちで作っておくから」

 

「えぇ……何言ってるんですか、これ以上仕事増やしたら倒れますよ!?よく見たら、化粧で誤魔化してますけど、かなり顔色悪いですね!?」

 

「はぁ、やらないでいいならやりたくないよ。でも、どれも必要な事だから、出来る人がやらないと」

 

 できれば、事務作業得意な人材が欲しい所。どうも優秀な人は、フィリウスかサンクトゥスに流れてるようだ。羨ましい。

 

「溜め息吐きたいのはこちらですよ。わかりました、仕事をいくつかこちらにください」

 

「……何言ってるの、そっちだって忙しいのは変わらないでしょ。それに、他の派閥に仕事振れるわけ……」

 

「それこそ何言ってるんですか!派閥は関係ありません。同じ《ティーパーティー》ではありませんか。それに倒れでもしたらミカさんが悲しみますし、ミサさんが行っていた仕事分の負担が、全部ミカさんに行くんですよ」

 

「うっ……分かったよ。……はい、これ」

 

 記憶メディアにデータを移し、ナギサに渡す。

 

「いくつかの必要な資料も添付してあるから、そこまで時間は掛からないと思うけど……」

 

「資料はもう用意してくださってるんですね。でしたら、問題ないと思います。むしろ、ここまでお膳立てされて、どうしてそちらで片付かないのでしょう……」

 

「知らないよ」

 

 その後、いくつか話をしてナギサは自分の部屋に戻ろうとする。

 

「あ、ナギサ」

 

「はい?どうしました、ミサさん」

 

「その、ありがとう。体には気を付けて」

 

「―――ッ!い、いえいえ、ミサさんもお体に気を付けてくださいね」

 

 それだけ言うと、ナギサは帰って行った。ミカの寝息だけが響く室内で、オレはどっと疲れを感じ、イスにもたれ掛かる。無意識の内に疲れを溜め込んでいたようだ。今日の分の仕事は、ナギサが持って行った分で最後だ。本当なら家に帰ってベッドの上で休みたいけど、帰る気力も湧かない。ミカを担いで帰る元気もない。仕方ないので、オレもちょっとソファで横に……あ、ダメだ意識がもう飛びそう。イスに座ったままだと、起きた時体痛くなりそうだなと思いながら、意識が沈んで行った。

 

 

 

 

 

 

「―――それでは、これより三首長を交えた"トリニティ全体会議"を始めます」

 

 あれから三日後、オレ達は万全の状態で全体会議に臨んでいた。

 

「司会・進行を務めさせて頂きます2年の光園ミサです。よろしくお願いします」

 

 パチパチと会場内からまばらに拍手が返ってくる。

 

「まず、今日までに必要な仕事をこなしてくださった《ティーパーティー》各位、忙しくも時間を取ってくださった各部活動の皆様方、この場を借りて感謝を述べさせてください。ありがとうございます」

 

 マイクスタンドの前で軽く頭を下げる。

 

「では、最初は各部活動の報告から読み上げさせていただきます」

 

 このトリニティ全体会議は、通常《ティーパーティー》が集まる会合と違い、各部活動の部長も召集される。ここで発表される予算案も、本来は前期の時点で予算会議を通しておかなければならないのだが、これまた前期がサボっていた為、同時進行でこなす必要がある。

 

「(あぁ、見てくださいミカさん。ミサさんが立派に進行をしています!)」

 

「(ナギちゃん、落ち着いて。今、会議中だから……!)」

 

「(ナギサ、君はミサが関わると急に情緒がおかしくなるな……)」

 

 ちなみに、何故オレが司会と進行をやらされているのかと言うと、これにも事情があり選出は首長がそれぞれ行い、話し合って一人を決める。しかし、現首長であるミカ達三人ともオレを指名した為、すんなりと決まった。オレが他派閥からやっかみを受ける以外は、まぁ仲が良いみたいで何より。

 

「続きまして、遅くなりましたが今年の各部活動の予算が決まりましたので、発表させて頂きます。それでは、こちらに映像の方を……出ませんね。どうしました?」

 

 巨大スクリーンに何も映らず、機材の操作をしている子が、わたわたと焦った表情で操作している。何かトラブルが発生してるのか、オレはその子に歩み寄り確認する。

 

「あ、あ、あの……こ、これは!何かの手違いと言うか!そ、その私も何が起きてるのかっ」

 

「大丈夫、怒ってないので落ち着いて、何があったのか話せますか?」

 

「いや、その……手順通りに操作したはずなのですが、映像が出なくて……」

 

「ふむ……」

 

 確かに操作は間違ってない。なら……。

 

「……どうやらコードが抜けていたようですね」

 

「あ、ホ、ホントです。会議前に確認した時は繋がってたはずなのに……」

 

 ……なるほど。オレはチラッと視線を会場に張り巡らせると、合点がいった。

 

「繋ぎ直しましたので、これでどうですか?」

 

「あ、行けました!あ、ありがとうございます!」

 

「はい、次からは落ち着いて周りをよく見てください」

 

「わ、わかりました!気を付けます!」

 

 オレはその子から離れ、元の位置に戻る。どうも、オレを会議の場で恥をかかせたい連中がいるらしい。

 

「失礼しました。少々トラブルがありましたが、無事解決しました。では、改めてこちらが予算表になります」

 

 派閥争いとか面倒だし、関わりたくないんだけどな。タブレットを操作しながら、説明を続けていると、一部の生徒から声が上がる。

 

「ちょっと待ってください、去年とは大幅に変更があるようですけど、どういうつもりですか!?もしや、権力を振りかざして《ティーパーティー》を私物化しようとしてるんじゃありませんか!?」

 

 早速なんか来た……。

 

「……つまり、私が独断で予算を書き換えたと?私は下っ端なので、そんな権力ありませんよ。大体、何のための三頭政治ですか」

 

「しかし!現実としておかしな予算が提出されている以上、言い逃れ出来ないでしょう!?」

 

「おかしい、ですか……わかりました、そこまで言うなら穴の開いた腐ったチーズのような頭でも理解出来るように、1から10まで説明してあげます。皆々様、申し訳ありませんが少々お付き合いください」

 

 オレは手元のタブレットを操作し、スクリーンの映像を動かす。

 

「こちらのグラフをご覧ください。左が去年の物、右が今年の物です」

 

 表示された棒グラフは一目瞭然にある事実を示していた。

 

「……分かりますよね?一部の部活に異常なほど予算が振られています。その一方で、ほとんど予算が与えられていない部活があったんです。《トリニティ総合学園》に定められた規則にある通り、正式な手続きを経て設立された部活は、最低限の予算を保障されています。しかし、去年はその最低ラインにすら乗っていない部活が山の様にありました。これらは《トリニティ総合学園》に定められた規則に反している為、正確な数字に直した物がこちら、今年の予算になります」

 

 多すぎる所を削って、少ない所へ分配しただけだが。ただ、かなり水増しされてたのか分配した後も結構余って、残りは《ティーパーティー》の予算に回されることに。

 

「だ、だからって無断でこのような事を!」

 

「無断?まさか、許可を得ずにやったと思ってらっしゃる?そんなわけないでしょう」

 

 オレは鼻で笑うと、スクリーンにでかでかと証拠を映す。それは署名状だった。

 

「こ、これは?」

 

「見て分かる通り、署名状です」

 

「い、一体何の」

 

「無論、今回の予算に対する同意。全ての部活動の署名ですよ」

 

 そう、オレがわざわざ全部活を回ったのは、大幅に変えた予算の説明と同意の署名を得るためだ。

 

「もちろん、三首長の署名もあり、正式な認可を得たものです。ご理解頂けましたか?」

 

「うっくぅぅ……!」

 

 女生徒は悔しそうな顔をして着席する。別にこのために用意した署名ではないが、役に立ってよかった。と、何のために署名を集めてたのかと言うと、トリニティの規則でそう決まってたからとしか言いようが無いんだけど。予算決める時は各部活の同意を得てねって、誰が決めたんだか。トリニティは何かと手続き踏まされるのが面倒だ。

 

「では、各部活動が予算に同意してるとして、今年の前期の予算はこれで決定とします」

 

 始まった時に比べて、大きな拍手が会場内を包み込む。なんで?よく分かんないけど進行出来ないから、静かにして。

 

「お静かに。次に、こちらセイア様にご相談させて頂きまして、PCのソフトやシステムを―――」

 

 その後も順調に会議を進めて、最後の議題に移る。

 

「最後に、皆様も噂でご存じかと思いますが、アビドスへの支援についてです。こちら―――《アビドス高等学校》へ支援することが決定しました」

 

『えっ?』

 

 ―――ざわざわ。オレの告げた言葉により、会場内が大きくざわつく。

 

「お静かに!理由を説明いたしますのでお静かに願います!なので、そちらの方も席を立たない!!」

 

 腰を浮かせて抗議しようとした生徒を、こちらから先に牽制する。

 

「まずこちらですが、三首長と議論に議論を重ねての結論だという事を、先に言っておきます。皆様も知っての通り、今アビドスは苦難に立たされています。砂による公害に、借金。こちらから支援したとして、向こうから返ってくるものは無い、と断言できるでしょう」

 

 アビドスにはお金が無い。人がアビドスからどんどん去っているため、貸し出せるような人材も無い。なら、アビドスに求めるものとは? 

 

「つまり、アビドスからは見返りを求めない」

 

「では、何故か?」

 

「これは、一種の外交手段です。アビドスに無償の支援をするトリニティ、という構図を作るための。それにより、"トリニティは他学区に支援するほどの余裕と懐の深さを持ち合わせている"とトリニティ外に示すことが出来るでしょう。最初に支援したのがトリニティとあらば、他三大校、特にゲヘナに対し優位に立てますし、他校がトリニティに続いたとして、それはトリニティの真似をしたという印象を世間に与えるだけです。これによって、トリニティの存在感と国力の強さを他校に見せる事が出来ます。と、まぁアビドスに支援する理由は大体こんな所です。何か不明な点があれば挙手を」

 

 会場内を見渡すと、《シスターフッド》の方から手が上がる。

 

「サクラコ様?どうぞ」

 

「支援……と仰られましたが、どのような形で支援されるのでしょうか?」

 

「あぁ、確かに肝心な所を説明していませんでした。支援は1回、3か月分の食糧や生活用品があれば十分だと考えてます」

 

「え、それだけですか?炊き出しなどは……」

 

「これ以上の支援は、アビドスの自立性を阻害するだけでしょう。継続性は依存性を高めます。それは、あちらが望む事ではないと思います。支援に掛かるお金は、部活予算を組んだ際余ったので、そこから捻出します」

 

「なるほど、そういうことならこちらから言う事はありません」

 

 ふぅ、あの《シスターフッド》から聞かれると思わなかったから、ちょっと緊張した。サクラコとは、この前予算について話しに行った日が、初めての会話だったからな。話した限り変な人じゃないと思うんだけど、妙に緊張する。

 

「他に何かある人いらっしゃいますか?……全員納得して頂けたと、言う事でよろしいでしょうか?後から、やっぱり納得できないと言われても……まぁ、ちゃんと納得するまで答えますが」

 

 今度は《救護騎士団》から手が上がる。どうしたんだろう、救護しに行きたくなったのかな。

 

「……ミネ団長、どうされました?救護したいならあと少しで終わりますよ」

 

「ミサは私の事をなんだと思っているんですか。救護はしますが、それよりお聞きしたいことがあります」

 

「なんでしょう?」

 

 ミネが救護のことをそれより?会場内が再びざわつく。救護より大事なことなのか、何聞かれるんだ。

 

「他校にトリニティの強さを見せる、と先程仰いましたが、その目的はなんでしょう?」

 

 ……普通にまともな質問が飛んできた。救護してる最中に頭を打ったのか?

 

「もしや!武力を背景に他校に侵略する気ですか!?」

 

「しません」

 

 よかった、いつものミネだ。

 

「本当ですか!?みんなミサならやると言ってますよ!」

 

「やりません。とりあえず、その"みんな"の言葉は無視してください。逆に聞きますけど、ミネ団長は他校に侵略してくださいと言われたらするんですか?」

 

「……余程のことが無い限りは」

 

「ええ、私も余程のことが無い限りはしません。第一、《救護騎士団》が従わないのに他の部活が従うわけないでしょう?《シスターフッド》は中立、《正義実現委員会》も掲げる正義にそぐわなければ、従わないでしょう。ほら、私に動かせる戦力なんてありませんよ」

 

「……確かに、いくらミサが単騎で強いと言っても限界があるでしょうし、では他校に侵略する気は?」

 

「だからありませんって」

 

 そもそも、私的な目的で軍を動かす力はオレには無いから。まぁ、奥の手も使えば一人でも出来ないわけでは無いと思うけど。

 

「……友人を疑うとは末代までの恥っ。かくなる上は切腹を!」

 

「あ、セリナさん。邪魔なので、ミネ団長を連れてってください。会議ももうすぐ終わりますので」

 

「あ、は、はい!」

 

「セリナ!邪魔をしないでください!私は団長としての責任を!」

 

 何人かに引きずられるように退出するミネを見届けた後、他に無いか確認する。

 

「では、他に無いようですので、トリニティ全体会議を終了とします。支援の件は、追って各所に連絡します」

 

 

 

―――後日

 

「いやー、私達いるだけだったね!」

 

「何かあれば、割って入ろうとは思っていたのですが、まさか全員説き伏せてしまうとは」

 

「ふっ、ミサなら問題無いだろうとは思っていた。それより、ミカが暴れないように見るつもりが、まさかナギサが暴走するとは思わなかったよ……」

 

「う、も、申し訳ありません。ミサさんの苦労も知らず、好き勝手言う輩ばかりだったのでつい……!」

 

「……ん?待って、私が暴れないようにってどういうことセイアちゃん?」

 

「おっと、そういえばミサはどうしたのかね」

 

「ちょっとセイアちゃん!?」

 

「ああ、それなら―――」

 

 

 

 

 

 

―――アビドス高等学校・分校舎。

 

 数機の輸送ヘリが校庭に降り立ち、複数のコンテナを置いていく。

 

「見てください!こんなにたくさんの物資が来ましたよ!3か月どころか1年持ちそうですよ!」

 

「うへ~、ダメ元で支援要請したら、まさかトリニティから送られてくるとはねー。……しかも、食糧は日持ちする缶詰、寝具は砂で汚れやすいシーツ類多めに。よく下調べしてるねぇ」

 

「こちら、受け取りのサインお願いできますか?」

 

「あ、はーい!」

 

 少女は豊満な体を揺らしながら、トリニティから来た生徒の元へ向かう。ピンク髪の少女は、ふと空中に留まっている一機のヘリが気になり、そちらに視線を向けると一瞬驚いた表情をする。

 

「……なるほどね、風の噂で聞いてたけどホントに生徒会に入ったんだ……《トリニティの破壊天使》」

 

「え?《トリニティの破壊天使》って……あの?」

 

「まぁ、有名人だよね。うへ、面倒な相手に借りを作っちゃったかな」

 

 

 

「……あれが《暁のホルス》」

 

 こちらを見るピンク髪の少女に、オレは感嘆の声を漏らす。

 

「弱くなったって聞いたけど、やっぱりただの噂か」

 

 どう見たら弱くなったと言えるんだか。それより、覆面の人居ないな。これから入学してくるんだろうか?今回、支援をゴリ押した理由は、エデン条約編にアビドスが関わっていたような気がするので、それまでに潰れちゃ困るから物資の支援をセイアに提案した。

 

 あれやこれやの理由は大体後付けだ。トリニティの体裁を守りつつ、アビドスを支援できる理由があれば何でもよかった。ついでに、記憶の補完をするために顔を見に来た。……アビドスって最終的に5人くらいだった気がするけど、記憶の中の覆面6人いるのは何故……?

 

「ミサ様、そろそろ学園に戻る時間です」

 

「あ、うん」

 

 様?《ティーパーティー》の生徒に首を傾げながら、ヘリの椅子に座り直すとスマホが震える。モモトークにメッセージが来たみたいだ。誰だろ、ミカかな?

 

「あ、ユイノだ」

 

『トリニティ全体会議の公開映像見ましたよ!流石、ミサさんですね!』

 

 会議の一部を録画した映像を見たらしい。《トリニティ総合学園》の公式サイトで見れるが、いつもはあまり再生されないらしいのだが、何故か今回はいつもの数百倍再生されてたそうな。

 

「んー、『でしょ?』」

 

 なんて返すか少し迷ったあと、オレはドヤ顔スタンプ付きでそう返した。

 

 ふー、会議も終わって少しは仕事減ってくれてたら嬉しいんだけど。

 

 

 




光園ミサ
ミカ以外弱点が無い女。ミサはミカの手伝いをするために、ミカの執務室に自分の作業デスクを置いている。割と一人で抱え込みがちなので、仕事ぶりは有能であるがちゃんと見てないと気が付いたら倒れる寸前まで頑張ってる。インフラも握ってるので、ちゃんとした理由があればクーデターを成功できるくらいには、コネと戦力がある。

聖園ミカ
ミサが気絶するように寝た後、ミカは訪ねて来たナギサに起こされ、ミサがそれほど疲れを溜めてた事に気付かず爆睡してたので、ミサに「ごめーん!」した。ミサとのスキンシップが減って、ミサニウムが枯渇しかかって性欲が暴走しそう。なので舐めた。

桐藤ナギサ
久しぶりにミサと沢山会話出来て、ちょっと距離感がバグってる。会議中、紅茶を飲みながらミサを責める生徒を凄まじい形相で睨んでた。ミサと普通に会話出来るまで信用を回復できたので、そろそろ結婚できそうと思ってる。

百合園セイア
今まで、議論できるような相手がいなかったのでミサと話すのが楽しい。普通にミサが有能すぎてサンクトゥスに欲しいと思ってるが、ミカから奪うのは至難の業なので、とりあえず手始めに、ミサを押し倒そうと思ってる。

放課後スイーツ部
アイリ経由で知り合った。アイリとは不良に絡まれてたところを以下省略。なお、助けた後ミサに襲われてると勘違いしたナツとヨシミに襲われた。カズサは天狗になってた頃ボコボコにされ、普通の女子校生の姿を見て「……何やってんだろ」と我に返り、不良をやめた。ミサにボコされたのは普通にトラウマになってる。その後も、ミサがスイーツ部に会うたびにカズサに威嚇されてる模様。


すでにお気付きの人もいるかもしれないけど、ミサがティーパーティー抜けると重要な仕事を回してる人間がいなくなるので、ティーパーティーが死ぬ。まぁ、ミカがティーパーティーやめない限り大丈夫!
次の話はがっつり原作の話が来ます。次回、エデン条約の話。


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エデン条約の話

感想沢山来てる!嬉しい!ありがとうございます!

>原作開始前に全員犯罪者になるかどうかはセクシーフォックスの自制心に全てがかかっている…!

お、そうだな。

>ミサを押し倒そうとしたところをミカに見られて修羅場一直線になる運命しか見えん。

あれ?感度3000倍いる?

晄輪大祭は飛ばすかーってしたら復刻来てやんの。くそぉ…。体ユウカは天井叩いてやるからなー。

本編書きたい気持ちとR-18書きたい気持ちとAC6やりたい気持ちがせめぎ合ってる。腕6本と頭3つで解決だな!




 

「あ、ナギちゃんだ!やっほー」

 

「やっほーではないでしょう、もう。あれ?ミサさんは一緒では無いのですか?」

 

 お昼の《ティーパーティー》校舎を歩いていたミカは、バッタリとナギサに出会った。ナギサの歩いてる方向からして、目的地は同じだろう。

 

「うん、セイアちゃんと話したいことがあるからって先に行っちゃった」

 

「なるほど、そうでしたか……2か月前の全体会議から、あの二人怪しくありませんか?会う頻度が高いというか」

 

 ナギサの言う通り全体会議以降、何かあればミサはセイアの知恵を借りに行くようになった。それ自体はナギサも悪い事だとは思っていない。むしろ、対等に話せる友人が増えることは大変喜ばしい事だ。自分がミサと1対1で話せるまで掛かった時間を、軽々と超えて行った事は許せないが。

 

(今度またヒフミさんを誘って、ミサさん攻略会議を開きましょう)

 

 自身もミサの事を相談できる友人が増えて、ご満悦のナギサ。以前出会った、ヒフミと言う少女とお茶をしてから、何度もお茶に誘ってはミサとの距離の詰め方を相談している。最初はちょっと愚痴を零すくらいだったのだが、ヒフミが結構乗り気でナギサの相談に乗るので、ナギサもウキウキで相談するようになった。

 

「気にしすぎだよ。もし、ナギちゃんの言う通り怪しい関係だったら、私が気付くってー」

 

(あ、でも私も最近忙しくってミサちゃんとえっちなこと出来てない。ミサちゃんとえっちしたい)

 

「そうだといいのですが……」

 

(やはり、セイアさんには一度釘を刺しておくべきでしょうか?しかし、ヒフミさんは刺激しすぎると逆効果になると仰ってましたし、ううむ)

 

 お互い腹の内を隠しながらの会話だ。会話をしながら、どれだけ相手の腹の内を探れるかがトリニティの基本会話術になる。

 

「ほら、ナギちゃん着いたよ。いつまで考え事してるの」

 

「あぁ、すみませんミカさん―――」

 

 謝罪をしながらドアを開けようとした時だった。

 

『―――あ!セイア、そこはダメ!』

 

『―――ふふ、何を言ってるんだ。誘ったのは君の方からだろう?』

 

「……」

 

「……」

 

 突然の事にミカもナギサもフリーズしてしまう。

 

「……え、これは一体……?」

 

「あ、あはは、もうナギちゃんったら何を想像してるの?どうせあれだよ、二人でボードゲームしてるだけだよ」

 

「そ、そうですよね?お二人共、考えが行き詰まった時に頭を解す為だって、よくチェスをしていましたよね。効果があるのかは知りませんが」

 

「そうそう!そういうわけだから、ミサちゃーん!おまたせー!」

 

 バーン!と大きな音を立てて開かれた部屋の奥、長いソファの上でミサの上に跨り、制服に手を入れながら下半身を露出しているセイアの姿が―――。

 

「……」

 

「……」

 

「……やぁ、早かったね」

 

「ミカぁ……たすけてぇ……」

 

「あはは―――死んで、セイアちゃん」

 

 ミカは、近くにあったテーブルを掴むと、大きく振りかぶる。

 

「ストップです!ミカさん!お気持ちは痛いほど分かりますが、今投げるとミサさんにも当たります!」

 

「ナギちゃん離して!ソイツ殺せない!」

 

「いいから落ち着いてください!」

 

「やれやれ、せっかく病弱を盾にミサを押し倒すところまで行ったというのに」

 

「セイアさんもミカさんを煽らないでください!?」

 

 そんなやり取りをしている間に、セイアの拘束を抜け出したミサは、トコトコとミカの後ろに隠れる。

 

「ミサちゃん、ごめんね。セイアちゃんがこんなケダモノだったとは思って無くて、もう大丈夫だからね。とりあえず、セイアちゃんを亡き者にするね」

 

「あ、うん。私は一応未遂だったから大丈夫。私も無防備だったのが悪いし、半殺しくらいに留めておいて。あと、ケダモノ度合いで人の事言えないよミカ」

 

「とりあえずで亡き者はやめてください。お二人が手を出すと、この場が殺人事件現場になりかねないので、私に任せて貰えますか?」

 

「む、何故銃を持ってこちらに近づく?ちょ、ちょっとま―――」

 

 ゴッと鈍い音が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「では、三人揃った事だし会議を始めようか」

 

 目の前で、頭に大きなたんこぶを作ったセイアが、何事も無かったかのように会議の宣言をしていた。

 

「なにシレっと流そうとしてるんですか!私だってそんなにねっとりとミサさんの体を触ったことが無いのに羨ま……ミサさんが可哀想だと思わないんですか!」

 

「ナギちゃん、もうちょっと本心を隠そうよ」

 

 現在、オレは椅子に座ったミカの膝の上に保護されている。一番安心できる場所だ。

 

「よく考えてもみたまえ、家事が出来て、賢くて、甘えさせてくれる女の子がそこに居たら、手を出さないのは失礼というものだろう?」

 

「開き直るのはやめなよ、セイアちゃん」

 

「甘えさせてくれるって、ミサさんそんなことしてたんですか?」

 

「え、いや、頭を撫でて欲しいって言うから撫でただけだけど……」

 

「ミサは私の母だったかもしれない」

 

「違うけど……?」

 

「ふむ、セイアさんの主張が正しいかどうか、検証する必要がありますね。というわけで、私の頭を撫でてくださいミサさん」

 

「どういうわけなの……?撫でないよ……」

 

「バカな、私の完璧な誘導が……!?」

 

 あれ、みんな急にバカになった?どうしよう、帰りたい。

 

「……今更だけど、ミサちゃんを巻き込んで《ティーパーティー》に入ったのは間違いだったかもしれない」

 

「二人共!流石に冗談が過ぎるよ!ミカがここまで言うなんて相当だよ!?」

 

「……」

 

「……」

 

「……あれ、冗談……だよね?」

 

 オレの問い掛けに、ナギサは無言で紅茶を飲み始め、セイアは急に手の上の鳥と会話し始めた。勘弁して……。

 

「……正直な所、ミカがそこまで怒るのは想定外だった、と言わざるを得ない。《勉強部屋》の映像ではノリノリだったからね」

 

 またあの映像かよぉぉぉっ!!

 

「は?許せるわけ無いよ、自分の体を盾にするような真似。普段、私達みたいに力の強い子が、どれだけ相手を傷付けないよう振舞っているか、知りもしないで。それに……」

 

「ミカ……」

 

 ちらっと、オレに一瞬視線を動かす。ミカが昔の約束をまだ覚えてくれてる。その事実に胸が温かくなる。すりすりとミカに頭を寄せる。

 

「む、むぅ……それは配慮が足りなかった。すまない」

 

「そうですよセイアさん、反省してください」

 

「ナギちゃんもだよ?ちゃんと公私は分けて」

 

「はい、ごめんなさい……」

 

 ミカがキッチリ締める所は締めてくれるお陰で、丸く収まったっぽい。

 

「それで、今日は何の集まり?」

 

 なんで集まってるかは知っているが、会話の取っ掛かりが欲しいので、あえて聞いた。

 

「こほん……そうですね、今日集まって貰ったのは他でもありません。連邦生徒会長からある提案があったので、それに関して三人の意見を聞きたいと思いまして」

 

 あ、仕事モードのナギサだ。いつも仕事モードで居ればまともなのに。

 

「それって、"エデン条約"の事だよね?内容に反して、随分皮肉が聞いた名前だよね」

 

 ミカはオレの乱れた髪に櫛を通しながら、皮肉気につぶやく。

 

「トリニティとゲヘナの和平条約……か」

 

「ナギサはどう思ってるの?」

 

 オレがナギサの考えを聞くと、ナギサは悩む素振りを見せながらも答えた。

 

「そうですね……これを機に、トリニティとゲヘナが手を取り合えるようになるのであれば、私は賛成です」

 

「……そっか」

 

「ふむ……」

 

「……」

 

 しかし、ナギサの答えに対しオレ達の反応は微妙なモノだった。

 

「……私は反対かな。だって、アイツら嫌いだし。角が付いた連中と仲良く出来るわけないじゃん」

 

 ミカは嫌悪感を隠さずにそう言った。オレもミカの意見に概ね賛成だ。

 

「ならば、私はバランスを取るために、とりあえず中立の立場で居ようか。というのも今回の話、納得できない部分も多くてね。曖昧な意見で申し訳無いが……」

 

「納得できない部分……ですか?」

 

「ああ、朝早くにミサを呼んだのも、ミサの意見を聞きたくてね」

 

 これに関しては、オレもセイアと同じ事を思っていたので、セイアの考えが聞きたかったから丁度良かった。セイアとの話し合いの結果、オレは反対、セイアは保留と意見は分かれてしまったが。

 

「なるほど、ではミサさんを襲ったのは何故ですか?」

 

「話が終わった後、二人を待ってる間チェスをしようという流れになったのだが……目の前でお尻が揺れていたので、『据え膳食わねば……!』となったわけだ」

 

「どういうわけだ」

 

 真面目な話から急にボケだすんじゃねえよ。ミカはもう面倒臭そうに見てるだけだから、オレ一人でツッコミ入れなきゃいけない。

 

「では、ミサさんの意見はどうですか?」

 

「私はミカと同じ……待って、なんで私に意見を求めるの」

 

「??何言ってるんですか、私達は四人揃って《ティーパーティー》ではありませんか」

 

「違います、三人です。勝手に増やさないで」

 

 ダメだ、オレ一人じゃボケどもを捌き切れない……!

 

「最近はミサの事を様付けする生徒が増えてるそうじゃないか。案外、ミサがトップの一人だと思ってる生徒もいるかもしれないね」

 

「そうですね、それに雑務全般の統括に、財政管理、情報統制、ネットワーク管理、街や企業とのパイプ役に、インフラ整備、各部活動との交渉と一手に引き受けてくださってるので、とても助かっています」

 

「いや、それは引き受け過ぎな気もするが……」

 

「ミサちゃん……?仕事減らすって言ったのに、なんで増えてるの……?」

 

「え?いや、だって新しく導入したシステムなら管理が楽だし、別に問題無いかなって」

 

 それに、ちゃんと仕事は割り振ってる。今オレがしてるのは、割り振った仕事の報告をまとめたり、後から見返しやすいように管理してるだけだ。

 

「……よく見たら目の下のクマ、化粧で誤魔化してるじゃん。そんな事する為に化粧教えたわけじゃないよ!」

 

「むぐぐ!」

 

 ミカに後ろからほっぺをぐにぐにと引き伸ばされる。

 

「もう!何日寝て無いの!」

 

「ま、まだ5徹だから。それに、1時間の仮眠は取るようにしてるし」

 

「寝てないのに1時間の仮眠で足りるわけないでしょ。前に、倒れかけたのにまだ反省してないの?それとも、ぐっすり眠れるまで私が疲れさせてあげようか?」

 

「だ、大丈夫だよ!初等部の頃、寝ないこと多かったし、今更5日程度へっちゃら……ひっ」

 

「ミ~サ~ちゃ~ん~?」

 

 しまった、初等部の無理してた頃の話はミカが怒るから禁句だった!

 

「ミ、ミカごめんって、許してー!」

 

 ミカに頭を押さえこまれ、万力の様に締め付けられる。ナギサとセイアに助けを求めるように顔を向けると、二人が露骨に顔を逸らした。ミカのパワーの餌食になりたくないのは分かるけど、そんな露骨に逃げなくても……!

 

「ふむ、そういえば報告が上がるとき、ミサが事前に目を通してくれるお陰で、見やすい報告書が上がって来てとても助かっている」

 

「分かります、要点をしっかりと押さえていて、誰が見ても理解しやすい構成なんですよね」

 

「あ!そうだ二人共、なんでそっちの派閥の生徒が私にアドバイス貰いに来るの!そのせいで、三首長に報告する前に一度私を通すっていう謎の流れがあるんだけど!?」

 

 その流れのせいか、パテルに限らず他の派閥の仕事まで見る羽目に……。オレはあくまでミカのお付きであって、決して組織の№2的立ち位置ではない!

 

「いえ、それはミサさんの面倒見が良すぎるからだと……」

 

「たしかに、部下からも困っていた所に、通り掛かったミサがやさしくしてくれたと言っていたよ」

 

「だ、だって困ってたから仕方なく……!私のせいじゃないもん!」

 

「……いっそのこと、ホントにミサちゃんに役職就けるとか?」

 

「ミカ!?」

 

 役職なんて就いたら、今より仕事が増えるのが目に見えるんだけど!?

 

「でもミサちゃん、役職就いてないから決まった仕事が無くて、色んな仕事押し付けられるんじゃない?」

 

 確かに!

 

「えっと?では、総務とか統括管理官みたいな役職作りましょうか?《ティーパーティー》権限で」

 

「そんな中間管理職みたいな役職は嫌だ……!」

 

「まぁ、役職就けたところでミサのやることは変わらなさそうだが」

 

 それって余計な肩書増えるだけじゃないか!

 

「そういえばミサさん、先程ミカさんと同じ意見だと仰ってましたが、詳しくお聞きしても?」

 

「今その話に戻るの……?」

 

「ああいえ、意見が分かれた以上この件は保留ではあるんですが、ミサさんがセイアさんと相談して決めたというので、考えが気になったというか」

 

 ナギサは慌てて早口で捲し立てる様に言い訳する。むぅ、面倒だけど意見を口に出した以上、説明義務はあるかもしれない。セイアに視線を向けると無言で頷く。

 

「……私の意見としては概ねミカと一緒、エデン条約には反対だよ。もちろん、個人的な感情を抜きにしてね」

 

「個人的な感情、ですか?」

 

「そう、まずこのエデン条約だけど、一般生徒からしてもゲヘナの名前を聞けば眉を顰める人が多いと思う。……ゲヘナ生の被害に遭った事がある人なら、もっと露骨に嫌な顔するだろうね」

 

 昔から、トリニティ生を狙った身代金目的の誘拐や詐欺、嫌がらせなど挙げればキリが無い。急に仲良くしろと言われても、反発する者も多いだろう。

 

「仮にエデン条約を結んでも、ゲヘナと和解なんて出来ない。むしろ、新たな火種になり得る可能性だってある、というのが大きな理由の一つ」

 

「一つ?他にもあるんですか?」

 

「ミサにだけ話させるのも悪いし、私からも話そうか。今回のエデン条約に組み込まれてるエデン条約機構についてだ」

 

「それって、トリニティとゲヘナの混成部隊を作るってやつ?」

 

「そうだ、より正確に言うならその混成部隊でトリニティとゲヘナの問題に対処するという話だ。……妙だと思わないかね?ゲヘナがよく問題を起こしてる以上、この部隊が対処するのはゲヘナの問題だ。つまり、ゲヘナの問題をトリニティに押し付けられる形になる。それは余りにも公平さに欠けるというものではないかね?」

 

「加えて、このエデン条約機構は部隊の規模も構成も書かれていない。向こうが人数を出し渋れば、トリニティで補充しなければならないかもしれない。それに、部隊内でトリニティとゲヘナが争えば簡単に空中分解する。正直言ってこの条約、トリニティのどこにメリットがあるのか聞きたいくらい」

 

 さらに補足をするなら、ゲヘナがこの条約を素直に受け入れるとは思えない事か。

 

「というわけでエデン条約、問題点だらけで賛成できない」

 

「い、一応ゲヘナと和平は結べますが」

 

「ハイリスクローリターン過ぎるでしょ。条約を結んだ後も、トリニティでゲヘナ生が問題起こすであろうと容易に想像できる以上、和解できてないし」

 

「確かに、そうですね……」

 

「あと、普段何もしない癖に連邦生徒会の提案とか呑みたくない」

 

「あ、それが本音なんですね」

 

 当たり前でしょ。他校も同じこと考えるよ、きっと。

 

「そういうことなら、仕方ありませんね。一先ず、この件は保留という事で。とりあえず、ミサさんを役職に就けるのはどうでしょう?」

 

「賛成!」

 

「私も良いと思う」

 

「待って、その事はもっと話し合おう!」

 

 その後も色んなことを、主にオレの役職について話し合った。

 

 

 

 あの不毛な話し合いから数日後。とりあえず、オレが役職に就くのは回避したが、次の話し合いでも議題に上がりそうで、戦々恐々としている。

 

 そんなオレだが、今は用事があってトリニティの古書館へ来ていた。古い資料で、図書館で尋ねたところここならあるかも、という事で。

 

「失礼しますー」

 

「え、だだ、誰ですかって、へぇあ!?みみ、ミサさん!?」

 

「あれ、ウイじゃん。何してんのこんな所で」

 

 古書館に入ると、そこに居たのはウイだった。相変わらず人と話すのは苦手なのか、オレを見た途端挙動不審になる。

 

「わ、私はここの司書を任されてるんです。そ、そういう貴女こそここに何しに?」

 

「《ティーパーティー》で使う資料を探しに来たんだよ。そういえば、図書委員長になったんだっけ?すごいじゃん、おめでとう!」

 

「え、えへへそうですかね……。あ、ありがとうございます」

 

 なぜか挙動不審が増したウイを放置し、オレは本棚から目的の資料を探す。すると、再起動したウイがこちらに尋ねて来た。

 

「……そういえば、今日はお仕事で来られたんですね」

 

「え?違うけど?今日は休み貰ったから、次の会議で使う資料取りに来たんだよ」

 

「休みってなんでしたっけ?」

 

 そんな他愛の無い話をしながら資料を集めていると、妙な装丁の本を見つけた。なんとなく手に取ったが、その本には題名が無く何の本か分からなかった。

 

「誰かのいたずらか?……まさか、変な本じゃないだろうな」

 

 他の生徒が間違えて手に取るかもしれないし、一応中身を確認しておくか。

 

「―――え」

 

 そこに書かれていたのは、《ユスティナ聖徒会》の歴史、そしてユスティナの後悔を綴ったものだった。

 

「『あの日、我々が犯した過ちを、誰かが正してくれることを願う』。……《アリウス自治区》への行き方か……ん?これは……」

 

 自分達の間違いを誰かに押し付けんな、勝手すぎるだろ……。そんな風に読み進めると、アリウスへの行き方とカタコンベの地図が描かれたページを見つけた。そのページには、新しい折り目が付いており、最近この本を誰かが手に取り読んだらしい。そこまで考えて、ハッとする。

 

「ウイ、一つ聞きたいんだけど、最近古書館に誰が来たか覚えてる?」

 

「え?ま、まぁ古書館の方はあまり人が来ませんし……そういえば、以前ミカ様が来られましたよ。あの人、古い本とか興味無さそうだったので驚いた記憶があります」

 

「……そっか」

 

 ウイの話を聞いて、エデン条約編までの時間が残り少ない事を悟った。

 

 ミカが既にアリウスと接触してるのか否か、仮に接触してるとしてもまだエデン条約は正式に決定してはいない。それに、ミカとセイアの仲が険悪になって……あ、待てよこの前オレが襲われかけた一件はカウントされるのか?まさかとは思うけど、一応連絡してみるか。

 

「……」

 

『セイア、生きてる?』

 

『……先日、体の弱さを盾に迫ったのは申し訳ないと思ってるが、流石の私でも何も無いのに死んでると思われるのは心外なんだが?』

 

 よかった、元気そうだ。

 

『君がただ煽る為に連絡したと思えない。何かあったのかね』

 

 一瞬、セイアに相談するべきかという思考がよぎるが、なんて説明すればいい。ミカに襲撃されるから、出来るだけミカと仲良くしてくれなんて言うわけにも行かないし。

 

『いや、なんとなく気になっただけ』

 

『そうか……。君にはいつも世話になってるからな。何かあれば、なんでも言ってくれ』

 

『今度の会議で使う資料が集まったから、後で持ってくよ』

 

『……休みの日は休みたまえ』

 

 現時点でセイアがどこまで予知してるか分からないし、いつ襲撃が起こるか分からない以上警備も増やせない。精々、最近物騒だから護衛増やしておいて、と言うくらいが関の山か。とりあえず、ミカとセイアの仲が悪くならないように会話をコントロールするくらいしか、思い浮かばないな。あとは、エデン条約自体が白紙になれば良いんだけど……。

 

「あの……ミサさん?なんだか、すごく怖い顔してましたけど、何かありました?」

 

「あ、ううん!なんでもない。資料も集まったしこれでお暇するね」

 

「そうですか?その……何か力になれることがあれば、言ってくださいね」

 

「はは……うん、ありがとう」

 

 ウイに見送られ、古書館を後にした。

 

 ずっと後手に回りっぱなしだ。こちらから仕掛けようにも、下手に刺激して今後の動きが変わって、原作とズレてしまったら、こちらに打つ手が無い。未来を知ってるというアドバンテージは、未来が変われば何の役にも立たないからだ。

 

 くそっ、どうしたらいい。どうしたら、ミカを魔女にさせずに済む……。誰か、教えてくれ……。

 

 

 




光園ミサ
原作近いが何も対策出来てません!ブラック企業ティーパーティーでお仕事してるからね、仕方ないね。お休み貰っても暇なのでお仕事する。エデン条約反対派。

聖園ミカ
自分がミサをイジメるのは良いけど、他の人がミサをイジメるのは許さない。その場ではブチギレるが、ミサが居るとすぐに冷静になる。キャラ説明欄で公私はキチンと分けてると明言されてる女だ、面構えが違う。シナリオ読み直してたら、ミカがアリウスと接触したの、エデン条約の話が出る前だったので、もうサオリと会ってる。エデン条約反対派。

桐藤ナギサ
ゲームよりポンコツさを強調されてる悲しき子。でも、お仕事してる時はキリッとしてる。ミサが絡まない場合に限り、ティーパーティーの良心。ヒフミとも良い関係を築いてる様子。脳破壊・三重の極みが楽しみですね。エデン条約賛成派。

百合園セイア
自制心を投げ捨ててミサを襲った。もう少し時間があればと反省はしてるが、後悔はしてない。ミサにバブみを感じてる。未遂だったので、ミサの好感度はあまり下がらなかった。まぁ、普段からお互いに色々相談してるので、ナギサほど好感度が低くなかったのもある。エデン条約中立派。


半分ぐらい書いてから、感想にグッド付けに行ったらセイアちゃん居てびっくりしたよね。私もびっくりだよ。だからと言って、展開が変わったり、話を変えたりしないけど。書きたいから書いてんのよこっちはァ!
その話で何を書くかは、書く前に決めてて、最初はこう!最後はこう!じゃあ、中間盛るかーでいつも1万字超えちゃう。今回は中間盛るの自制出来ました!
面白ネタあったらじゃんじゃか拾ってくよー。展開予想もバッチこーい!



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続・エデン条約の話

最近の私の行動
私「ACたのしー!」
友「原神でナヒーダ復刻来るかも」
私「ママ!?石貯めます!」
友「スタレで符玄来たやで」
私「引きます!」
私「イース10発売した!たのしー!」
私「あ、ブルアカの続き書くの忘れてた」←いまここ

というわけで遅れました!ごめんなさい!遅れた分話盛りました!



 

「はい、ここxに2を代入して―――」

 

 ある日のお茶会部屋。いつもの如く、四人で集まり何をしているのかというと……。

 

「うー、こんなまるで学生みたいな事しなくていいじゃんね」

 

「学生だよ」

 

 勉強会だ。

 

「まさか、ミカが期末試験であんな点数落としてくると思わなかった」

 

「だってー、仕事忙しかったんだもんー」

 

「みんな忙しいから言い訳しない」

 

 なんだったら、ミカの仕事の大半はオレがやってる。

 

「むしろ、ミサさんはよく成績落としませんね」

 

「仕事終わった後に予習復習ちゃんとしてるから。ナギサ、そこ間違ってる」

 

「あっ」

 

 ミスを指摘すると、ナギサは恥ずかしそうに訂正する。《ティーパーティー》の業務が忙しく、成績を落とした二人は今必死になって勉強してる最中だ。オレは自分の業務の片手間に、講師役をすることになった。

 

「やれやれ、いい年して幼子に勉強を教わって、恥ずかしいとは思わないかね」

 

「同級生ですが!?」

 

 で、余裕ぶっこいて二人を笑ってるのがセイアだ。今日の分の仕事を終わらせて笑いに来たらしい。

 

「くっ、条件は同じはずなのに、どうしてセイアさんは成績いいんですか……!」

 

「君達とは頭の出来が違うのでね。まぁ、ミサが講師をしてくれる事を事前に分かってたなら、わざと点数を落としたんだが……。くっ!?何故私が欲しい未来を見せてくれないんだ予知夢ぅ!」

 

 騒ぐなら追い出すぞ。

 

「ミサちゃーん……ここ……」

 

「ん、まずxに2を代入して……そしたら、y=3だから……」

 

「あ!出来た!ありがとー!」

 

「ミカ、頭の出来は悪くないんだから、ちゃんと勉強すれば成績落とさないのに」

 

「えへへ~」

 

「笑って誤魔化さないの」

 

 溜息を吐きながら頭を撫でると、ミカは不思議な顔になる。何故だか新たな感覚を得た顔だ。

 

「なんだろう、ミサちゃんに頭を撫でられると、妙な感覚が……」

 

「どういうこと……?」

 

「わかる」

 

「わからないで」

 

 仕事中は真面目なのに、プライベートになった途端自由になり過ぎだろこいつら……。

 

 と、首長三人の自由さに頭を痛めてると、携帯から着信音が鳴る。

 

「ごめん、ちょっと出るね。はい、光園です。……ハスミ?どうしたの。……うん……うん……わかった、報告ご苦労様。声酷いね、報告書は後でも良いから、今はゆっくり休んで」

 

「……ミサさん、何かあったんですか?」

 

 携帯を仕舞ったタイミングで、ナギサが聞いて来る。丁度集まってる時で良かった。報告の手間が省ける。

 

「今、《正義実現委員会》の副委員長からの報告で、駅前ビルのレストランで爆破テロです」

 

「はぁ、爆破……テロ!?」

 

 最初、頭が回って無かったのか疑問符を浮かべていたナギサは、テロの言葉でようやく頭が覚醒したらしい。

 

「ひ、被害は!?」

 

「店はボロボロですが、幸いにも重傷者はおらず、オーナーと従業員数名が軽傷ですね。外の通行人にも被害無しです」

 

「そ、そうなんですね、よかったです……。それで、犯人の方は?」

 

「近くをパトロールしていた《正義実現委員会》が応援を呼んで対処に当たり、無事確保したそうです。その際、交戦し激辛粉末なるものを撒かれ、副委員長以下数名が被害に遭ったそうですが」

 

「えぇ……」

 

 盛大に吸ってしまったのか、電話越しでも酷い声だった。

 

「犯人の素性は既に調べが付いてまして、《ゲヘナ学園》所属の《美食研究会》という部活だそうです」

 

「ゲ、ゲヘナ……ですか」

 

「ゲヘナですね。現在は、《正義実現委員会》に拘留しています。爆破した理由は、店のサービスが悪かったから、と」

 

「うわー、理由もゲヘナって感じだね。……あれ?ミサちゃん、このお店の名前って見覚えがあるんだけど」

 

 オレの後ろからタブレットを覗いていたミカがそんなことを言う。

 

「確かに、見覚えが……あ、もしかして近々監査が入る予定だったレストランですか?」

 

「そうです。以前から色々と報告が上がってまして、先に覆面調査員を送ったところ……まぁ"クロ"って感じですかね。今回の爆破テロのおかげと言っては何ですが、強制監査を入れられそうです」

 

 横領とか帳簿の偽装とかな。前からビルのオーナーに相談されてて睨みを利かせてたんだが、なかなか尻尾を出さず……まさかこんなことで解決の糸口が見つかるとは。

 

「と、今の段階で分かってるのはこんな所かな」

 

「……ミサ、君はまだ話してない事があるのではないかな?」

 

 今まで黙って聞いていたセイアが急にそんなことを言い、ぎくりと体の動きを止める。

 

「……どうしてそう思ったの?」

 

 そう聞き返すと、セイアはドヤ顔で語り始める。

 

「簡単なことだ、既に片付いた事件ならここで説明する必要は無いだろう?それこそ、後から上がってくる報告書を読めばいいだけ。つまり、優先度の低い案件をわざわざここで説明しなければならなかったことが起こったという事だ。よもや、エデン条約の件でトリニティとゲヘナの関係性で頭を悩ませてるナギサを、からかうために言ってるわけではあるまい?」

 

 そこまで聞いてハッとする。

 

「……セイア、"視た"でしょ」

 

「ああ、"視た"とも」

 

「……どこまで?」

 

「うむ、今回の件はおおよそ」

 

 セイアの持つ"予知夢"。彼女の視た夢で、オレがこの後話す事も聞いたのだろう。黙って聞いていたかと思えば、夢の内容と照らし合わせながら口を挟む機会を窺っていたらしい。酷い未来のカンニングだ。はぁ、と溜息を吐き頭の上に疑問符を浮かべているミカとナギサに向かって口を開く。

 

「……現在拘留中の《美食研究会》以下三名に対し、《ゲヘナ学園》の風紀委員長が引き渡しの要請をしています」

 

「うむ」

 

「え!?」

 

「ふーん?"一方的な要求"じゃなくて?あとセイアちゃん、そのドヤ顔むかつく殴らせて」

 

「やめたまえ、君の力で殴られたら私はお星さまになってしまう」

 

「ミサさん、それは風紀委員長個人の連絡ということですか?」

 

「対応したのはハスミなのでそこまではまだ……少なくとも《万魔殿(あちらの生徒会)》は関わって無さそうですが」

 

 風紀委員長と名乗ってるから《風紀委員会》は関わってるだろうけども。

 

「《風紀委員会》の空崎ヒナさん、ですか……」

 

「その勇名はトリニティにも届いているね」

 

「へー、そうなんだ。なんかすごい人?」

 

「ミカさん……」

 

 どうやら、その勇名もミカには届かなかったらしい。まぁ、興味無いだろうと思ってオレも言ってなかったけど、ましてやゲヘナの話だ、聞き流すに決まってる。

 

「今のゲヘナで"誰"を一番警戒してるかと聞かれたら、真っ先に名前が挙がるくらいにはすごい人」

 

「へー」

 

 うん、興味無さそう。

 

「彼女の警戒すべき所の一つは、その"暴"だ。噂通りなら、ミサに並ぶぐらいには有名だね。かの風紀委員長は問題を起こしたゲヘナ生を容赦無く潰すらしい。そのせいか、同じゲヘナ生にかなり恐れられているようだ」

 

「えー、暴力ですぐ解決しようなんて野蛮ー☆」

 

 グサッ。

 

「ミ、ミサさん?心なしか顔色が優れない気が……」

 

「ダ、ダイジョブ……こほん、そ、そういうわけでしてあちらには断りの連絡を入れようと思っていたのです。ウチで問題を起こしたのですから、こちらで罰しても問題無いでしょう?」

 

 そもそもの話、どうしてゲヘナの頼みなんて聞かなければいけないのか。オレはそう思っているのだが、ナギサは妙に焦った顔をしていた。

 

「……あ、あの向こうの要求を呑んでもらってもいいですか?」

 

 逡巡したナギサは口を開くとそう言った。それに表情を歪ませたのはミカだった。

 

「ナギちゃん、正気?」

 

 ゲヘナの要求を呑むのが余程嫌なのだろう。その端正で美しい顔を嫌悪感で歪ませミカはナギサに問い掛ける。セイアを見ると、こちらの視線に気が付き息を吐いて首を横に振る。口出しする気は無いようだ。なら、これもセイアの視た夢の通りという事だろう。

 

「ナギサ、私はナギサが何も考えずにそんな発言しないと思ってる。だからどうしてそんなことを言ったのか答えてくれる?」

 

 語気を強めて言うと、ナギサは「うっ」と餅を喉に詰まらせたような声を出した後話し始める。

 

「……以前お話ししたエデン条約の事を覚えてますよね?」

 

「あー、でもあれって意見が割れたから保留でって……したよね?」

 

 自信が無いのか、ミカは確認するようにこちらを見てくる。オレはミカに頷くと、ミカはホッとした顔になる。

 

「実はあの件、風紀委員長が乗り気らしくて……エデン条約に協力すると《連邦生徒会》を通じて少しお話しまして……」

 

「なるほど……この際、なんでゲヘナの風紀委員が乗り気なのかは置いとくとして、向こうが乗り気ならこっちも行動を起こせば、エデン条約も現実味を帯びてくるわけだ。……セイアも同じ考え?」

 

「ああ、あちらが全面的に協力の姿勢を見せるなら、少なくとも今の関係の改善に一歩近づくと思っている」

 

「……」

 

 エデン条約そのものが無ければ、そう思っていたけど……世界全体が、エデン条約編というお話に誘導しているかのような気味の悪さを感じながらも、なんとか思考を回す。

 

「あ、あのやはりダメでしょうか……?」

 

 黙ったままのオレを怒ってると思ったのか、ナギサは窺うように尋ねてくる。

 

「ダメも何も、私に決定権は無いから。《ティーパーティー》の内、二人がエデン条約に賛成するなら私からは何も言えない。できれば、相談して欲しかったけど」

 

「うっ、す、すみません」

 

「ミカはどう?」

 

「私は反対のままかなー。だって、前回の話で出た問題点は何一つとして解決してないじゃんね」

 

 ごもっとも。結局のところ、《連邦生徒会》は学校単体でしか見ておらず、生徒同士の確執は見て見ぬ振りか興味すら無いのか。そうでなければ、トリニティとゲヘナの友好条約なんてただの嫌がらせだ。

 

「ところで、返事はもうしたの?」

 

「い、いえ、それはまだです」

 

「そう、なら返事は出来るだけ引き伸ばして」

 

「ふむ?なるほど、相手の譲歩を引き出す為か」

 

 頭の回転が早いセイアは直ぐに察したようだ。

 

「相手が乗り気なら、焦らせば多少の不利な条件も呑むしかない。もちろん、こちらに有利すぎると逆に相手が引いてしまうから、そこは慎重にね」

 

「確かに……交渉術の基本ですね」

 

「うん、それと……」

 

 言うかどうか逡巡したが、少しでも未来に変化があるなら、と口にすることにした。

 

「……もしかしたら、トリニティとゲヘナの確執を多少改善する方法があるかもしれない」

 

「ホ、ホントですか!?」

 

「絶対じゃないし、時間は掛かるし、向こうの協力がある前提だけど……」

 

「え、ミサちゃん私知らないんだけど?」

 

「言ったよ……ミカが興味無いからって聞き流したんでしょ?」

 

「あれ?そうだっけ?」

 

「……何故君が代表に選ばれたのか理解に苦しむ」

 

「は?寝たきりのセイアちゃんに言われたくないんだけど?喧嘩売ってる?」

 

「ミカ、落ち着いて……!」

 

 キレてセイアに殴りかかろうとするミカを何とか押し留める。ゲヘナも関係する話だからか、今日のミカはかなり沸点が低い。こんな調子で、セイア襲撃の日まで二人の関係を良好なまま保っていくなんて出来るのだろうか……。

 

「こほん、また話が脱線しましたね。それで、その方法とは?」

 

 ミカを止めた後、場を仕切り直し改めて尋ねてくるナギサ。

 

「はぁ、うんその方法だけど、トリニティとゲヘナで交流会を開けばいいと思う」

 

「交流会……ですか?その方法で二校の関係を改善できるとは思えませんが……」

 

「ナギサが考えてるのは大きな規模での話でしょ?もっと小さくていいよ。例えば数人、大体5人程度を互いの学園から選出して食事会を開く」

 

「しかし、仲が悪いのに顔を合わせたら銃撃戦になったりしませんか?」

 

「違う、選ぶ生徒は相手校に友好的な生徒だよ」

 

「え?どうしてですか?友好的じゃない生徒を選ばないのですか?」

 

「……ふむ、そういうことか。ナギサ、君は少し結果を急ぎ過ぎるきらいがあるようだ、気を付けたまえ」

 

「あ、はい、すみません」

 

 オレの言いたいことを察したセイアがナギサに苦言を呈する。その理解力は嬉しいが、察しが良すぎて逆に怖いぞ。

 

「つまるところ、ミサが必要としてるのは成功例だろう?トリニティ生とゲヘナ生が交流して何事も無く平和に終わった、という"結果"が重要だ。そうすることで次にも繋げやすい、そうだろうミサ?」

 

「うん、それで成功例を元に少しずつ友好的じゃない生徒を混ぜて交流会を開けば、少しずつだけど改善はされるとは思う」

 

 題して、朱に交われば赤くなれ、と言ったところか。

 

「そういうことでしたか……セイアさんの言う通り少し焦っていたようです、ミサさんすみませんでした」

 

「別に気にしてないよ。成功率としては4割程度だけど……まぁ、トリニティって周りの人が嫌ってるから自分もって人多いから、まともな人と話せば認識を改める人多いんじゃないかな」

 

「なるほど……ではミサさんも」

 

「あはは!絶対に無いっ天地がひっくり返ってもあり得ない」

 

「そ、そこまでですか」

 

「会うたびにツノを折ってやりたいくらいだよ」

 

 アイツらがオレにした事を思えばツノを折るくらい可愛いもんだ。

 

「そんなに嫌いな相手なのに、どうしてこの提案を?」

 

「はぁ?嫌いな相手でも、仕事ならどこかで折り合い付ける必要があるからでしょ。やってることはいつもと変わらないよ」

 

「ああ、なるほど……」

 

「……ふむ」

 

「とりあえず、ゲヘナに引き渡しの手続きするから《正義実現委員会》に連絡回しておくね。関係の改善をするって言うなら、ここで拗らせるわけにも行かないし」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「むー……!ミサちゃん、話終わった?終わったよね?じゃあ、お菓子と飲み物ちょーだい!」

 

 放置されて寂しかったのか、ミカが騒ぎ出す。話が終わるのを律儀に待っていた辺り、空気を読むくらいの冷静さは残っていたようだ。

 

「今日は暑いからアイスティーしか持ってきてないけど、それでもいいなら」

 

「うー、お茶は熱い方が好きだけど、ミサちゃんが作ったならどっちでもいいや」

 

 バッグから魔法瓶を取り出すと、ミカのカップに注ぐ。ミカはカップを持つとグイっと一口で飲み干す。

 

「うまい!もう一杯!」

 

「はいはい」

 

「……ミカさん、はしたないですよ」

 

「今はこの四人しかいないし、いいんじゃない?」

 

「そうだよ」

 

「ミサさんはミカさんに甘すぎます」

 

「仕事と勉強は終わりっ!ミサちゃん、お菓子!」

 

 オレはバッグからいちごのタルトを取り出しミカの前に置く。

 

「わー!おいしそう!」

 

「あと、これも」

 

 オレはバッグからさらにシュークリームの入った箱を出し並べる。

 

「シュークリームだ!これもミサちゃんが作ったの?」

 

「いや、しゅーの部分が上手く膨らまなくて、それで勉強しようと思ってスイーツ好きの子がオススメしてたお店のシュークリーム買ってきた」

 

「こ、これは!?日に50個しか作られないと噂のシュークリーム!?」

 

「知っているのかナギサ!」

 

「あまりの人気に、販売から10分で完売になってしまう幻のシュークリームです。ああ……!私もまだ食べたことが無いのに……!」

 

「むむ、そんなになのか。是非とも私も食べてみたいが……」

 

 ナギサとセイアが捨てられた子犬の様な目でこちらを見ている!

 

「いや、ちゃんと人数分買ってきたから食べたいなら食べなよ」

 

「おや、ミサに後光が差して見えるぞ」

 

「神はいたのですね……」

 

「拝まないで、普通に食べて」

 

 仕事じゃなくなった途端に自由だなこいつら。……まぁ、普段の業務が忙しいしこうして集まってる時くらいは息抜きに好きにさせるか。

 

「ミサちゃん、立ったままなのもお行儀悪いし私の上に座るといいよ」

 

「んっ」

 

 ミカにそう促され、特に疑問に思う事も無くミカの膝の上にぽふっと座る。アイリ達に話を聞いてからこのシュークリームすごく食べたかったんだよね~。いただきまーす!

 

「ごく自然にミカさんの上に座りましたね……くっ、どうして私が持って来た椅子には座ってくださらないんですか!?」

 

 ナギサは自分とミカの間に置いた椅子をビシッと指差す。このシュークリームおいしい!今度お礼に私のオススメのお店教えてあげよーっと。

 

「あむあむ♡」

 

「そりゃ、ナギちゃんの椅子より私の膝の上の方が良いからに決まってるじゃん☆」

 

「くぅ!私もミサさんを膝の上に乗せたい……!」

 

「フフン、ミサちゃんを乗せるのは私の専売特許だから、いくらナギちゃんでもこれだけは譲れないなー」

 

「……いえ、あくまで決めるのはミサさんのはず、そうでしょう!というわけでミサさん私の膝も空いてますよ!」

 

「あむあむ♡」

 

「ミサはシュークリームに夢中で何も聞いて無さそうだが?」

 

 シュークリームうまー!

 

「ミサちゃんはそれでいいんだよ」

 

「ミサさんはそれでいいんです」

 

「お、おう……」

 

 あのシュークリーム屋さん限定以外もおいしそうだったし、今度また買いに行こうかなー♡一口サイズとか作業しながらに良さそう!

 

「あむ、ひょうだ。みひゃひゃんひょうのひゃーひーなんひゃへほ」

 

 ミカが何かを言ってるが、タルトを食べながら喋ってるせいで何言ってるか分からない。

 

「ごめん、何言ってるか分からないから口の中の飲み込んでからにして」

 

「ん、んぐ!ミサちゃん、今日のパーティーなんだけどどうするの?」

 

「その話なら私行かないって言ったでしょ」

 

「え、ミサさん来ないんですか!?」

 

「ほら!ナギちゃんだって来て欲しそうだよ!一緒に行こうよ~」

 

「今日中に終わらせないといけない業務があるからダメ」

 

「ぶー、けち!」

 

「けちじゃないでしょ仕事なんだから」

 

 ぶーたれるミカのほっぺを突いてるとナギサは他の分派に回せないのか、と聞いて来た。

 

「派閥内に関する業務だから他には回せないかな。ホントはミカがやっておかなきゃいけないんだけど……」

 

「ミカさん……?」

 

「~♪」

 

 鼻歌で誤魔化そうとするミカ。ミカがちゃんと仕事しないのは今に始まった事じゃないので別にいいけど。

 

「そういうわけだから三人で楽しんできて」

 

「いや、私もパーティーには出ない。見ての通り体が弱いからね、《ティーパーティー》で集まる分には問題無いが、流石に社交パーティーに出る元気は無い」

 

「一応、《ティーパーティー》のトップとして政財界の重鎮達への顔合わせも兼ねてるのですが、仕方ありませんね」

 

 《ティーパーティー》の顔合わせ目的なら私要らないのでは?と思ったが口には出さなかった。

 

 その後も近況などについて話しながらお菓子に舌鼓を打ち、パーティーの準備があるからと解散した。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ミサちゃんが居ないと退屈だなー……」

 

 煌びやかな装飾がされた大きなパーティー会場で、私は壁に寄り掛かりながら大きく溜息を吐いた。挨拶に来た人とニ、三言話しては別れまた挨拶に来た人と話す、その繰り返し。

 

 グラスの中の赤紫色の液体を揺らす。成人してる人はお酒だが、まだ未成年の私達はノンアルのジュースである。ジュースとはいえ、ボトル1本数千万クレジットはくだらない高級品ではあるのだが、自分の持ってる銃と変わらない値段のジュースを見たら、ミサちゃん卒倒しそうだなーと思いながら笑みを零す。まぁ、数千万クレジットなんて私達からすれば、はした金も良い所なんだけど。

 

(ミサちゃん、割と感覚が庶民派だからねー。そこが可愛いんだけど)

 

 あまりにも退屈過ぎて、ずっとミサちゃんの事を考えてる。パーティーとは名ばかりのお堅い社交場なので、適当な理由を付けて回避したミサちゃんとセイアちゃんが賢すぎる。

 

「ミカさん、パーティー楽しめてますか?」

 

 もう何人目かも分からない人との挨拶が終わった後、ナギちゃんがこちらに歩いて来た。姿が見えないと思ったら、一人一人に挨拶して回っていたらしい。真面目だなぁ。

 

「あはは、退屈過ぎて暴れそう☆」

 

「やめてくださいね?」

 

「冗談だよ、でもこれならミサちゃんとお話してた方が百億倍楽しいよ」

 

「ミサさんと比較されたら、そうでしょうねとしか言えないのですが」

 

 ちなみに、周りの人は皆高そうなスーツやドレスに身を包んでいるが、私とナギちゃんは一応《ティーパーティー》として来ているので制服だ。私もドレスでおめかししたかったのに……。

 

「―――あら、そこにいるのは聖園さんちのミカさんではなくて?」

 

「うげっ」

 

 声が聞こえた方に向くと、一番会いたくない人物に出会ってしまった。

 

「開口一番が『うげっ』なのは、流石の私も傷つくわよ……」

 

「……貴女は皇グループの」

 

「ふふ、ええそうよ私は知床セイ「引きこもりはやめたの?(すめらぎ)セイナ」……ちょっとは空気読みなさいよ聖園ミカ。この場に私がいるのがそんなにおかしいのかしら?」

 

 互いに睨むように視線を交わす。目の前の女は、経済連「皇」グループの総帥。(すめらぎ)家の後継者・皇セイナ。皇家は昔からトリニティの経済を支えた、いわば実質的な支配者みたいな家だ。それゆえか、貴族社会であるトリニティにおいて絶大な発言力と決定権を持つ。彼女はその家の正統なる後継者。

 

 そんな彼女と何故私が知り合いなのかというと、ただの親戚だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「そりゃ、おかしいでしょ。貴女がこういう場に顔を出したことなんて、片手で足りる程度じゃない」

 

「ふ、ふん!別にいいでしょ、私の家が主催してるパーティーに顔を出すくらい。偶には、下界の様子でもと見に来てあげたのよ」

 

 この女がその程度の理由で、大好きな本を読むことを止めてまで来るとは思えない。つまり、この女の目的はミサちゃんだろう。そう当たりを付けたところで、皇セイナはキョロキョロと私の周りを見渡す。

 

「……光園ミサはいないのかしら?」

 

 ほら見たことか。あぁ、ホントにこの場にミサちゃんを連れて来なくてよかった。数時間前の私の判断を褒めてやりたい。危うく、ミサちゃんがこの女の毒牙に掛かるところだった。

 

「あはは!いるわけないじゃん。貧相なのは体だけにしてくれる?」

 

「貧相?私が?バカ言わないで頂戴。私は貴女みたいに無駄な肉を付けたりしないのよ」

 

「引きこもって碌に食べないから栄養が回らなかっただけでしょ」

 

 私に似ている、というよりミサちゃんに似ていると言った方が正しいか。身長はミサちゃんと変わらないくらい。長いピンク髪を毛先で一まとめにして流し、出る所が出る前のミサちゃんみたいな体型で無い胸を張っている。

 

「ミサも来ると思って来たのに当てが外れたわ。せっかく感動的な再会を演出しつつ、私の正体を教えてミサの驚く顔が見たかったのに」

 

 この女、碌でもない事にばかり頭を回すね。

 

「セイナ様ご無沙汰しております、桐藤ナギサです」

 

「桐藤ナギサ、居たのね気付かなかったわ」

 

「ずっと居ましたが」

 

「そんな細かい事気にし過ぎよ。それと、様はいらないわ」

 

「そうだよナギちゃん。同い年なんだし、この女は呼び捨てくらいが丁度いいよ」

 

「ええっと、では昔みたいにセイナさんで」

 

 悩んだ末にそこに着地したナギちゃん。真面目だなー。

 

「そうそう、桐藤ナギサ。三年前の件では迷惑を掛けたわね」

 

「ミサさんから話をきいてもしやと思っていましたが、やはりそうでしたか」

 

 三年前……催眠した日の夜に起きた事件。皇家のいざこざにミサちゃんが巻き込まれた話だ。

 

「ええ、直接謝罪に赴きたかったのだけど、あの件で皇家内部も大分ゴタゴタしてたの」

 

 それはそうだろう。皇家の後継者問題に、皇家関係者の企業がカイザーと癒着、その上巻き込まれたのがミサちゃんだったのは、最悪の事態だったはずだ。ミサちゃんは何も知らないだろうから、特に何も考えずに助けたんだろうけど。

 

「後継者問題に速攻でケリを付けて、皇家の私財を投げ売ってでも謝罪したのだけど、生きた心地がしなかったわ……」

 

「別に貴女がどうなろうと知った事じゃないけど、ミサちゃんの前でその話は絶対にしないでね」

 

「分かってるわよ……もしそんなことしたら、今度こそお家取り潰しかもね」

 

「……なんだか恐ろしい話が目の前で淡々と行われてる気がするのですが」

 

「ナギちゃんは気にしないでいい、というか聞かなかったことにした方がいいよ」

 

「そうね、ウチの問題ではあるけど余計な好奇心は身を滅ぼしかねないわよ」

 

「忘れます……」

 

「賢明な判断ね」

 

 ナギちゃん、今ものすごく紅茶飲みたそうにしてる。気付けば聞き耳を立てていた周囲の人も、耳を塞いで距離を取っている。皇家が恐れる程だ、飛び火して火達磨になりたくは無いだろう。

 

「で?ホントにミサちゃんに会いに来ただけなの、皇セイナ」

 

「は?当たり前じゃない。でないとわざわざこんなところまで来たりしないわよ。というか、貴女は光園ミサのなんなの、聖園ミカ」

 

「あ、あのセイナさん……ミサさんはその、ミカさんと……」

 

「肉体関係を持ってる事?知ってるわよ、こっちにも映像が回って来てるんだから。でも、それだけでしょ?この女に開発されてるのは気に食わないけど、まぁ略奪もひとつの愛の形よね」

 

「あはは!見てよナギちゃん、あの女起きてるのに寝言言ってるよ」

 

「彼女のありのままを受け入れられない貴女ほどでもないわ。私はあの子を縛り付けたりはしないもの」

 

「は?」

 

「何?」

 

「ちょ、ちょっと二人とも……!」

 

 険悪な雰囲気になる私達の間にナギちゃんは慌てて間に入る。しかし、もうそんなもので止まる私達じゃなかった。

 

「婚約者ですらなく、分家へ養子に出された貴女をあの家はどう思うのかしらね?」

 

「年が同じだからと来た縁談を、興味無いからって蹴り飛ばした貴女が言うと説得力があるね☆」

 

「……」

 

「……」

 

「あ、あのぉ~……二人とも、一度冷静になって……」

 

「ふふふ……!いいわ、聖園ミカ。そこまで言うなら―――」

 

 皇セイナはそう言って左手のロンググローブを外し、私に投げつけて来た。思わずそれを反射的に受け止めて、しまったと思った時には遅かった。皇セイナは私に人差し指を突き付けて、高らかに宣言する。

 

「―――勝負しましょう!ミサを賭けてね!」

 

 『ミサを賭けて』という言葉を認識した途端、頭がスッと冷めた。受け取ったグローブを皇セイナに叩き返す。

 

「嫌だよ」

 

「あ痛」

 

 皇セイナは投げ返されたグローブを見て戸惑っていた。

 

「え?勝負しないの?」

 

「ミサちゃんを賭けてするわけ無いでしょ。ミサちゃんは物でも景品でも無いんだから。それに、ミサちゃんのいない所で勝手に勝負の景品にしたら、ミサちゃんに迷惑でしょ!」

 

「うっ……確かに、そうね。配慮が足りなかったわ」

 

 それに誰を選ぶかなんて、決めるのはミサちゃんなんだから、私達があれこれ言っても仕方ないじゃんね。

 

「はぁ、なんか冷めちゃったな。ナギちゃん、私帰るからあとはよろしくー」

 

「え、帰るって、え?」

 

 困惑するナギちゃんを置いて、私は会場をあとにする。広い廊下を歩き、エレベーターのボタンを押して待っていると、後ろから誰か追って来た。

 

「―――待ちなさいよ!聖園ミカ!」

 

「はぁ……まだ何か用?」

 

 追って来た皇セイナに、面倒ながらも振り返る。そこには険しい表情を浮かべた皇セイナが立っていた。

 

「貴女、なにするつもり?」

 

「言ってる意味が分からないんだけど?」

 

「とぼけないで!貴女がアリウスに出入りしてる事、私達が気付いてないと思ってるの?」

 

「……」

 

 悟られないように動いていたつもりだが、どこかで皇家の情報網に引っ掛かってしまったらしい。隠し通せるものでは無いし、いつかはバレると思っていたけど……思ったよりも早かったなー。

 

「……アリウスに関わるのはやめておきなさい。あの場所が未だ無事なのは、お目こぼしされてるに過ぎないわ。かつてのユスティナの嘆願があってこその温情よ。だからこそ、戒めとして歴史の教科書に載ることも許された」

 

 かつてトリニティになる前、色んな派閥に分かれ争っていた時代。争いに疲れた者たちが声を上げ、開かれた第一回公会議にて手を取り合いトリニティが生まれた。それに唯一反対したのがアリウス分派。それによってアリウス分派は迫害を受け、トリニティから逃れることになった。その時、過剰なまでに追い立てたのが《ユスティナ聖徒会》なのは有名な話だ。

 

 ここまでは一般生徒も他校の生徒も知っている話。ここからはトリニティの上流階級でも一部の家にしか伝わっていない話。

 

 第一回公会議の際、アリウスにそのお茶会を襲撃された。その時、"至宝"と呼ばれるものが傷つけられた。許されざる大罪。あらゆる派閥の人間が怒りに燃え、『アリウスを許すな』と弾圧し始めた。このままでは取り返しのつかないことになる、しかし言葉ではもう止まらないと考えた当時のユスティナの聖女は、他の者よりも熾烈に、より過剰なまでにアリウスを追い詰める。行いを省みて欲しいと、自分達を反面教師にするようにと、願うように。果たしてそれは成功し、怒りに燃えていた者たちは追撃の手を緩め、アリウスはユスティナの誘導によりカタコンベの奥へ逃げおおせた。その後、ユスティナの聖女は自ら上層部へ出頭した。そこでユスティナの聖女は自らの行いに対する処分と共に、アリウスの助命を請うたのだ。トリニティはそれを受け入れ、ユスティナの聖女は処分された。対外的には、暴走したユスティナへの罰という事になっている。

 

 その後のユスティナの聖女がどうなったかは語られていないが、一説では死んでおらず追放されたのち、孤児院を営んでいたのではないかと云われている。

 

「でも、昔の話でしょ?今だったら和解できるかもしれないよ?少なくとも、ゲヘナなんかよりはね」

 

「……私、昔から貴女のそういう所が嫌いよ。楽観そうに見えて、何もかも諦めているような貴女のその顔が気に入らないのよ!貴女が分家に養子に出されたときだってそう!貴女の実力なら捨てられることなんてあるはずないのに。どうして、抵抗せずに受け入れたの!」

 

「……一つ、勘違いしてるみたいだから訂正しておくね。私は捨てられたんじゃなくて、私が捨てたんだよ。だってあの家嫌いだもん。いつまでも古いしきたりに縛られて、力で相手を抑え込むしかできない、勘違いしてる連中なんかね」

 

「聖園ミカ、貴女……」

 

 そこでエレベーターが到着し、ドアが開く。私はエレベーターへ向けて歩を進める。

 

「―――ッ、待ちなさいっ!貴女が実家にいい感情を持っていない事は分かったわ。でもアリウスと関わろうとする貴女を止めないわけに行かない。もしまたトリニティの"至宝"が傷付けられたら"アカツキ"が出てくる……そうなったら、貴女もタダでは済まないのよ!」

 

「ふふ、皇家は昔から"アカツキ"が苦手だもんね。……でも、そうだね、もし……その"至宝"を守る為だって言ったら―――どうする?」

 

「え、それって―――」

 

 私は皇セイナの言葉を最後まで聞かず、ボタンを押してドアを閉める。ドアが閉まり、動き出したことを確認してから体から力を抜き、壁にもたれ掛かる。

 

「―――はぁ、何やってるんだろ、私」

 

 言う必要の無いことまで言ってしまった。まぁ、知られた所で皇もあの家も動けやしないだろう。

 

「……ミサちゃん」

 

 汚れてしまった私だけど、ミサちゃんだけは絶対に守るから……。

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ、やっと仕事終わったぁ~っ」

 

 時計を見ると短針が7を指していた。もうこんな時間か、ミカ達はパーティー楽しんでるのかな。コリをほぐす為、体を伸ばしてストレッチする。体の至る所からパキパキと小気味のいい音が鳴り、長時間同じ姿勢で体が固まっていたようだ。

 

「ミカが帰ってくるまでまだ時間があるし、先に授業の予習復習終わらせちゃおっかな」

 

 授業用の学習BDを取り出すと、機材にセットし端末と繋げる。端末をテーブルに置き、ソファに寝転んで再生!

 

「むふー」

 

 いつもの堕落スタイルでゴロゴロしながら、映像を眺める。最初は前世と違うかもと思って確認の為に始めた勉強だが、前世と変わらない事を確認した後もなんとなく心配で続けてしまった。

 

 そういえば、今日のお茶会解散した後セイアが気になることを言ってたな。

 

 

 

『ミサ、ちょっといいかな』

 

『セイア?まぁ、ちょっとだけなら』

 

 お茶会を終えて、パーティーの準備の為に先に戻ったミカ達を見送って片付けをしてオレも戻ろうとしたら、まだ残っていたらしいセイアがオレを呼び止めた。

 

『私の気のせいなら良いのだが、最近ミカの様子がおかしくはないか?』

 

『それは……私も妙だなとは思っていたけど』

 

『ふむ、やはりそうか。……ミサ、ミカから目を離さないように頼むよ』

 

『それは言われるまでも無いけど、何か気になる事でも?』

 

『いや、気にしないでくれ。では、本当に頼んだよ』

 

『???うん』

 

 

 

 セイアの言う事だから、多分何かあるんだろうけど……もしかして予知夢で何か見たのか?

 

「うーん……あっ!」

 

 手元が寂しいと思ったらぬいぐるみ持ってくるの忘れてた!起き上がり、トテトテとぬいぐるみを並べてる棚からお気に入りのくまさんを持ってくる。

 

「すんすん……すー……」

 

 ミカの匂いー。ぬいぐるみに顔を埋め抱き締めながらソファに転がる。ミカが寝てる間に擦りつけた甲斐があったというもの。最近、あまりミカにくっついてないからミカ分が不足しがち。

 

「……んぅ♡」

 

 あ、最近シテなかったからミカの匂い嗅いだらへその下が疼いて……♡

 

「……ん……ふ……」

 

 これは、最近シテくれないミカが悪いから、私は悪くないもん。そう思いながら、制服のスカートの上から右手でアソコを擦る。

 

「……んっ……んん……は……ん……ミカぁ……」

 

 ミカの匂いを嗅ぎながら、右手をミカの手に見立ててミカに触られてると思って興奮を高めていく。

 

『ほら、ミサちゃんが好きなのはここでしょ?』

 

「……ん!……んん!」

 

『ふふ、気持ち良いならちゃんと口に出さないと』

 

「ぅん……気持ち、いい……」

 

『よくできました、ほらイっちゃえ!』

 

「んんんっ!!」

 

 軽く達して余韻に少し浸った後、足りないのでフラつく足でベッドに近づき、ベッドの下からミカが私をいじめる時に使うおもちゃを引っ張り出す。

 

「んー……」

 

 いくつか手に取るが、どれもミカのモノより全然小さい。仕方ない、これで我慢するか。小さいと言っても成人男性の平均より大きいけど、ミカのを見慣れると全部小さく見える。

 

 ソファに戻り、足を軽く広げて座り男性器を模したソレをアソコにあてがう―――。

 

「―――たっだいまー!ミサちゃん!仕事押し付けちゃってごめんね!もしまだ残ってるなら私も手伝、う……よ……」

 

「……」

 

「……」

 

 え?え?なんで?まだ帰ってこないはずじゃあ?突然帰ってきたミカに、私は頭が真っ白になり、今の自分の体勢も忘れて困惑する。

 

「……へぇ?ミサちゃんの仕事は随分エッチなんだね」

 

「え?あ!ち、違っこれは!」

 

 私は慌ててディルドーを後ろ手に隠すが、もう遅い。ミカは私に馬乗りになると、後ろ手に隠したものを取り上げる。

 

「何が違うの?そこは私専用だって言ってるのに、こんなおもちゃ入れようとしちゃってさ」

 

「ひぅ、ご、ごめんなさい……」

 

「ダメ、許さない」

 

 そう言うや否や、ミカは私の制服をめくり上げ体の至る所にキスを落とす。

 

「あ!あん!み、みかだめぇ!(あと)になっちゃうからぁ!」

 

「痕を付けてるんだよ、じゃないとお仕置きにならないでしょ」

 

「やぁ……!なんでぇ!」

 

「だってマーキングしておかないと、ミサちゃんすぐ色んな人に目を付けられるじゃない。だからこうして私のものだってシルシを付けておくんだよ」

 

 うぅ、なんでか分からないけどミカの機嫌が悪い。抵抗空しく、体に大量の赤い痕が付けられた。

 

「うー、どうしようこんなに付けられたら隠せない……」

 

「隠しちゃだめだよ、見えないと私のものだって分からないじゃん。ほら、こっち向いて」

 

「ふ……!んちゅ……ぅん……」

 

「ん……ミサちゃんキスだけでトロトロだね。目が虚ろになってるよ」

 

「あぇ……?」

 

「ふふ、ここじゃなんだしベッド行こっか」

 

 ミカは私を軽々抱き上げるとそのままベッドに連れて行き、私の体はミカに隅々まで貪られた。

 

 

 

「ミカ、んー♡」

 

 行為が終わった後、久しぶりにミカに引っ付いてミカを堪能。

 

「ねぇ、ミサちゃん」

 

「んー?」

 

「もし、もしも私が……ううん、ごめん、やっぱりなんでもない……」

 

「……ミカ?」

 

 明らかに様子が変だったのはその一瞬だけで、次の日になるといつも通りのミカだった。なお、ミカに付けられたキスの痕が残ったままで、私が恥ずかしい思いをしたのは言うまでも無かった。

 

 




光園ミサ
またしても何も知らない光園ミサ。ミカに付けられた痕は翌日以降もしばらく残り、色んな人に見られた。余りの恥ずかしさに痕が消えるまでヘイローがピンクのまま戻らなかった。

聖園ミカ
ミサを狙う泥棒猫に牽制して帰ったら、当の本人がひとりでえっちなことして楽しんでいた。申し訳ないと思った気持ちを返して欲しい。

皇セイナ
偽名を名乗っていた人。昔のミカを知っている。ミカとは犬猿の仲だった。一応トリニティに在籍しているが授業には出ていない。テストの日も送られてきたテストを5分で終わらせて送り返すだけの作業。全教科満点で不動の一位、二位はミサ。様々な特権が与えられてる皇家であるが、その本来のお役目は"影"。実質的な支配者とも言われる皇家が最も恐れるものが"アカツキ"である。



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失踪した話

感想ありがとうございます!

今回の話は短めです。

レールガンコラボ来たけど、それよりメインストーリー更新のほうが嬉しい作者です。みさきち欲しいけどセイア石溜まって無いし、3周年石も溜めないとだからちょっと引いて出なかったら撤退ですね…。


 

「連邦生徒会長が失踪した!?」

 

「……はい」

 

 朝、大事な知らせがあるとナギサに呼ばれ集まった《ティーパーティー》。珍しく酷く落ち込んだナギサから告げられたのは、連邦生徒会長の失踪の報せだった。

 

「最悪のタイミングだね」

 

「……連邦生徒会長がいないなら、エデン条約は……」

 

 元々連邦生徒会長が主導の計画で、仲の悪いトリニティとゲヘナの仲介役としていたからこそ成立した計画でもある。

 

「中止……に、なるでしょうね……」

 

「ナギちゃん……」

 

 人一倍この条約に精力的に取り組んでいたナギサだからこそ、今回の一件に落胆を隠せないのだろう。

 

「すみません、今日は体調が優れないのでお先に失礼します……」

 

 ナギサはそう言うと、フラフラとおぼつかない足取りで部屋を出て行った。

 

「……流石に掛ける言葉が見つからないな」

 

「ミサちゃん、なんとかできない?」

 

「一応、政治的に対立してる立場なんだけど……」

 

「ミサちゃん……」

 

 うぅ……そんな縋るような目で見ないで……。

 

「……なんとかツテを当たってみるけど、期待はしないでね?」

 

「えへへ、ありがとうミサちゃん!」

 

「条約反対派が条約の為に一肌脱ぐのか、敵に塩を送るというには些か送り過ぎてる気もするが?」

 

「私もそう思うよ……」

 

 その後、いくつか話した後二人に断ってある場所に向かうことにした。

 

「私がいないからって仕事サボらないでね?特にミカ」

 

「流石の私だって今日くらいはちゃんと仕事するからね!?」

 

 いつもしてほしいなぁ。

 

「ミカは私に任せたまえ、ちゃんと見張っておこう」

 

「うん、お願い」

 

「むむむ~っ!ふふん、セイアちゃんより先に仕事終わらせちゃうもんね!」

 

「私はもう終わるが?」

 

「え」

 

「じゃあ、あとよろしく~」

 

 後ろから聞こえる仲良さげな言い合いにオレは満足気な顔で、《正義実現委員会》の校舎へ向かった。

 

「さて、前使った連絡先まだ残ってるといいけど」

 

 

 

 あれから数日後。ナギサの様子を見に、ナギサの使ってる執務室へ向かうためフィリウス分派の校舎を歩いていた。

 

「―――あれ、ミサ様?」

 

 ふと後ろから声を掛けられ振り向くと、特徴的なバッグを背負った女の子がいた。

 

「ヒフミ、来てたんだ」

 

「はい!ナギサ様にお茶を誘われて……あ!ご、ごごごきげんよう……!」

 

「いや、普通に『こんにちは』でいいけど?」

 

 阿慈谷ヒフミ、一個下の学年でナギサの友達らしくたびたびお茶をしてるらしい。あと、お嬢様に謎の憧れを持っていて、時々変なことを言う。

 

「ミサ様もナギサ様の所に行く途中ですか?」

 

「うん、落ち込んでたからちょっと様子を見にね」

 

「わぁ……!ミサ様が来たならナギサ様も喜ぶと思います!」

 

「そう?私よりヒフミのほうが喜ぶと思うけど」

 

「そんなことありませんよ!ミサ様はもっと自信を持ってください!」

 

「う、うん?自信?」

 

 一体何に対する自信なのだろうか。

 

「あ、着きましたね!ナギサ様、ヒフミです!失礼します!」

 

 もう何度も来てるのだろう。慣れた手つきで扉を開けると部屋のテラスに近いスペースで、ナギサが優雅そうなポーズで紅茶を飲んでいた。

 

「わぁ……!こう、ザ・お嬢様って感じで憧れますね……!」

 

「ザ・お嬢様ってなんだ……?」

 

「ヒフミさん、ようこそお越しくださいました。早速ですが、ミサさん攻略会議を……ってほわぁ!?ミミ、ミサさん!?何故ここに!?」

 

 ほわぁ……。

 

「この前落ち込んでたから様子を見に来たんだけど」

 

「そ、そうだったんですね」

 

「ところで今聞き捨てならない単語が聞こえた気がするけど」

 

「あ、いや、それは……」

 

「……まぁ、ここは聞かなかったことにしてやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 一年の時は本気で怒ったし、ナギサも反省してくれただろうから、流石にあの時みたいな変な事じゃないだろうけど……まぁ、やばいことしてたら自称普通の生徒のヒフミが止めてくれるでしょ。

 

「立ち話も何ですし、席を用意しますのでどうぞ掛けて下さい」

 

「私は急な訪問だったし、椅子も無いだろうから立ったままでも」

 

「いえ、この部屋にはミサさん専用の椅子を常備しているので問題ありません」

 

「なんであるの……?」

 

 ナギサに関してはもう突っ込まない方が良い気がしてきた……。用意された椅子に座ろうとしてふと思う。

 

「……まさか、椅子に何か仕掛けてるとか無いよな?」

 

「し、してませんしてません!ミサさんに誓って何もしてませんとも!」

 

「ふぅ~~~ん?」

 

「うぅ……!疑いの眼差しが強い……!」

 

「あはは……ミサ様、ナギサ様がこう仰られてる事ですし……」

 

「仕方ないな……」

 

 ヒフミに免じて椅子に座ることにした。が、座った後何故かナギサはじっとこちらを見ている。

 

「な、なに?」

 

「い、いえいえおほほ……(ミサさんが私の用意した椅子に座って……!ミサさんの匂いが染みついた椅子、大事に保管せねば!)」

 

 目が怖いんだけど。

 

「とりあえず、はいこれ」

 

 バッグから包みを取り出し、ナギサに渡す。

 

「これは……クッキーですか?」

 

「その、親しき仲にも礼儀ありというか、手土産の一つでもないとどうかと思って、だから別に落ち込んでたから気を遣ってとかじゃないから」

 

「ミサさんが……私の為に?」

 

「いや、だから……」

 

「あ、ありがとうございます!ヒフミさん!やりました!とうとうミサさんから贈り物が!」

 

「ナギサ様やりましたね!おめでとうございます!」

 

「っ~~~!もうっそれでいいよ!」

 

 クッキーの入った包みを掲げるほど喜ぶナギサを見て、否定することを諦めた。

 

「さっきも言ったけど、オレの用事は様子を見に来たのとそれ渡しに来ただけだから!」

 

 そう言って椅子から立ち上がろうとすると、ナギサに制止される。

 

「どうせならミサさんもお茶いかがですか?春先とはいえまだ冷えますし、おいしいお菓子もありますよ」

 

「……お菓子。ま、まぁ少しだけなら」

 

 決してお菓子に釣られたわけではない。断じてない。

 

 

 

「へぇ~!ではナギサ様とミサ様って小学生の頃からの幼馴染なんですね!」

 

「そうなんです!でもミサさんったら何故か幼馴染だと認めてくれなくて……」

 

「いや、普通にオレよりミカの方が付き合い長いでしょ。そもそも幼馴染って言うほど家近くないし、一緒に居た覚えないし」

 

 基本教室でしか顔合わせなかっただろ。あとはたまに遊びに来るミカと時々一緒に居るくらいだったか。するとナギサは急に手で顔を覆い泣き出した。

 

「うぅ、ひどいですミサさん。付き合いの長さや時間の長さで友達を決めてたんですね」

 

「ち、違っ別にそう言うわけじゃ!」

 

「じゃあ私達が幼馴染でも問題ありませんね!」

 

 パッと手を外すと、笑顔のナギサがそう宣言する。ちくしょう……ミカもセイアもいないからコイツを止める奴がいねぇ……。オレが愕然としてるとヒフミがくすくすと笑いだす。

 

「お二人とも、本当に仲が良いんですね」

 

「今のやり取りのどこでそう思ったんだよ……」

 

「ほら!互いに遠慮の無いやり取りって、それだけ相手の事を信頼してるからですよね!」

 

「ミサさん……!」

 

「い、いや普通に嫌がってるとは思わないそれ?」

 

「え?ミサ様って嫌なことはハッキリ嫌って言うタイプですよね?」

 

「なんか会う人みんなにそれ言われるけど、そんなにオレ分かりやすいの……?」

 

 今までは同級生とかよく話す年上の人とかに言われたりしたけど、まさか年下にもそう思われてたなんて……。そういえばミカも『ミサちゃんって顔に出るから分かりやすいよね』って言ってたっけ。うぅ、普通に恥ずかしすぎる……。火照る頬を手で押さえ俯く。

 

「じゃあ、もうそれでいいです……」

 

「ふふ♪ありがとうございます♪感謝で思い出しましたけど、ゲヘナの空崎ヒナさんに連絡してくれたのはミサさんですよね。ありがとうございます」

 

「は、はぁ?な、何の事ぉ?」

 

「ミサ様、語尾が上擦ってます」

 

「い、今のは不意打ちだったから動揺しただけだから!」

 

「動揺したんですね」

 

 あぁ!?しまったついペースを崩されて……。うぅ、この二人苦手だ。

 

「ミサさんのおかげで計画が頓挫せずに済みました。中立の連邦生徒会長がいない分、ハードルは上がってしまいましたけど、元より我々二校の問題ですからね」

 

「そ、そう……オレはナギサの連絡先を渡しただけだから、何もしてないけど」

 

「そういうことにしておきますね」

 

 くそっ、アイツ誰にも言うなって言ったのに話しやがって……。

 

「と、とりあえず仕事残ってるからオレは帰る―――」

 

 そう言って立ち上がろうとした時だった。いきなり室内の照明が全て落ちる。

 

「―――え?」

 

 あまりに唐突な出来事に呆けた声を上げてしまったのは誰だったのか。

 

「こ、これは一体?」

 

 動揺も束の間、ナギサは携帯を取り出しどこかへ掛けようとする。オレも携帯を取り出しミカに電話を掛けた、しかし。

 

「……ダメです、繋がりません」

 

「こっちも繋がらない」

 

「あ!?ナギサ様ミサ様、ネットにも接続出来なくなってます!」

 

 明らかに異常事態だった。まさか、発電施設が落ちたのか?

 

「一体どうなって……いえ、考えるのは後。今は事態の収拾をするべきですね。しかし、どうやって連絡を取れば……」

 

「そこは直接伝えて回るしかなさそうだな。オレは予備の電力施設を動かしてくる。発電施設が故障してるなら復旧まで時間が掛かるし、それまでの間電気無しは不便だからな」

 

「あ、でしたら私も」

 

「いや、オレ一人の方が早い。それより学園の混乱を収めておいてくれると助かる」

 

「……わかりました、そちらはお願いします」

 

 オレは頷くとテラスから飛び出す。

 

 

 

 眼下に見える街並みはどこも電気が消えていて、戸惑って通りに出ている人が居なければ、さながらゴーストタウンだ。

 

 オレは短縮の為にビルからビルへ飛び移り、直線距離で予備電力を貯蓄している施設へ向かっていた。

 

「―――っと、着いたか。流石に遠かったな」

 

 学園から数十km離れた郊外にある電力施設にようやく着いた。オレはそのまま扉に手を掛け中に入ると、ここを管理してる生徒だろうか、数人がわたわたと慌てていた。オレは溜息を吐いてその中の一人に声を掛ける。

 

「ここの責任者はどこ?」

 

「え!?あ、貴女は?」

 

「《ティーパーティー》所属の光園ミサです。責任者はどこですか?」

 

「あ、せ、責任者は私です……」

 

 声を掛けた生徒が責任者だったらしい。丁度良かった。

 

「では、至急この電力施設を稼働させてください」

 

「え、し、しかし《ティーパーティー》の承認が下りない事には……」

 

「私が《ティーパーティー》ですが?」

 

「い、いえその……首長の」

 

 イラッ。

 

「……ナギサ様の承諾は得ています」

 

「あ、その首長三人の承認が必要でして……」

 

 イラッ、イラッ。

 

「……今トリニティ全体の電力が落ちていて、首長全員の承認を下せない状況なので大至急動かして欲しいのですが……」

 

「しゅ、首長の承認が無いなら動かせません……」

 

 ―――ブチッ。

 

「ブチッ?」

 

「……るせぇ、責任ならオレが取る……!御託は良いからさっさと動かせぇ!!」

 

「は、はいぃぃぃっ!!!」

 

 机に手の平を叩きつけながら怒鳴ると、責任者の生徒は慌てて施設を動かしに行った。

 

「……全く、状況に応じて柔軟に動けないのはトリニティの欠点だな」

 

 施設が動いたことにより、付いた照明を眺めて溜息を吐く。

 

 連邦生徒会長の失踪、それに伴って起きた学園の異常。静かに、だが確実に"原作"の開始が近づいていた。ネックだったミカとセイアの仲も悪くない。これなら襲撃事件は起こらないだろうと、この時のオレはそう高を括ってしまっていた。

 

 ―――それが間違いだったと知るのは、少しあとの事だった。

 

 




光園ミサ
珍しくナギサに手玉に取られる。小学生の頃はいつもこんなやり取りしてた。相手に対して怒っていたのに、話してる間に赦しちゃう辺り、自覚は無いけどかなりチョロインの素質があるミサ。まぁ、ミカのガス抜きが優秀なのもあるけど。

桐藤ナギサ
2年掛けてようやく小学生の頃まで好感度が戻り、歓喜したナギサ様。ミサの匂いが染みついた椅子は後で"使う"。そういうとこだぞ。

阿慈谷ヒフミ
この世界ではナギサがミサに懸想してる為、普通にお友達してる。割と暴走しがちなナギサのストッパー。しかし、たまに暴走を後押ししちゃう。女の子はどこの世界でもコイバナや恋愛相談でテンション上がっちゃうから仕方ないね。


セイアどころか珍しくミカもほとんど出ない回。まぁ次回出番あるから…次回以降出番無くなる人もいるけど。

あ!みんな!エデン4章23話のミカのあのシーンに歌が追加されるからメンテ後聞きに行こうね!!!!


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襲撃の話

感想ありがとうございます!

コラボガチャはみさきちを50連で引けたので無事撤退。性能云々ではなく単純に欲しかったので引きました。とあるはみさきちとオッティが一番かわいい。新約の二人のエピはマジでオススメ。

ミカのキリエ聞きました。聞いたら情緒おかしくなっちゃった。改めてあのシーン見たけど、防衛戦で倒せない相手に一人も通さないをマジでするの頭おかしいなって。

そういえばツイッターフォローしてる人は知ってると思いますが、オリジナルで新作書きました。Hシーンは全カットだけど普通にえろねた多いのでまたR-17.9です。こっちはR-18版をメインで書いてるから、Hシーン全カット版はおまけみたいなものだと思っておいて。良かったら読んで感想ちょうだい。


 

 電力施設を稼働させて戻ると、待機してた《ティーパーティー》の生徒に首長が集まっているから会議室までお願いします、と言われた為早歩きで会議室に向かった。

 

「ただいま戻りました」

 

「あっミサちゃんおかえりー!」

 

「お疲れ様です、ミサさん」

 

「やあ、随分と時間が掛かったようだが発電施設の方も見に行ってたのかな?」

 

 会議室へ入ると、三人で話し合いを進めていた。

 

「うん、それも含めてそっちとこっちで情報共有したい」

 

 

 

「―――なるほど、やはり発電施設は止まっているか」

 

「発電機内部に問題は無かったし、外傷もこれといって問題となるようなものは無かった」

 

「となると問題は外部、もしや失踪した連邦生徒会長と何か関係があるのでしょうか」

 

「タイミングを考えると、それが一番正解に近そうだね」

 

 情報交換を終えたオレたちは難しい顔になる。どうやら他学区も似たような状況のようだ。さらに各種決済が下りずどこも業務が滞ってる状態だ。行政が止まれば街も機能しない。解決策を提示できずとも、現状をどうにかする必要がある。

 

「ミサ、予備の電力施設の方はどこまで運用できる?」

 

「……。本来は各区に何かあった時の為の予備電力だから、流石に街全体を補う電力は無い。持って一週間……限界ギリギリまで節約すれば二週間ってところ」

 

「どこを切るか……ということですか。難しい問題ですね」

 

「まず学園は必要だろう」

 

「そうですね、あとは制限は掛かりますがネットワークも確保しておかねばなりませんね」

 

「照明関係は昼間は落としてもらって、夜はロウソクを使って貰うとか?」

 

 タブレット……は電池が勿体無いので用意して貰った紙に色々書き込んでいく。

 

「……ミサさんにまとめて貰いましたが、かなりカツカツですね」

 

「少なくとも一部の生徒から文句は出そうだね」

 

「うーん、なんとか電力を賄う方法とか無いかな?」

 

「ふむ、そもそも足りてない電力を賄う方法か」

 

「どうなんでしょう、ミレニアムだと風力発電すら止まったそうですが」

 

「うーん……人力発電、とか☆」

 

「……」

 

「……人力発電というのはあの自転車使う人力発電の事かね?」

 

「うん、私とミサちゃんでこうバーっと漕いじゃってさ」

 

「えっ私も!?」

 

 なんだか不穏な流れになってきたので黙っていたら、なぜか巻き込まれた。

 

「いや、そもそも二人だけでは足りない電力を賄うのは無理では」

 

「じゃあ、全校生徒でやる?」

 

「それは流石にシュールではないか?」

 

「それ以前に誰も賛成しないでしょ」

 

 なんだかグダグダになってきたので、無理矢理話を終わらせる。

 

「うーん、良い案だと思ったんだけどなぁ」

 

「着眼点は悪くなかったと思うけどね」

 

 発想はぶっ飛んでるけど。

 

「やはり、原因となった元を探した方がいいのではないかね?」

 

「原因ですか……しかし、他校にも影響が出る程の原因とは」

 

「……ねぇねぇ、サンクトゥムタワーの行政権を持ってたのって失踪した連邦生徒会長だったんだよね?だったらさ、今連邦生徒会って何してるの?」

 

「「「!?」」」

 

 ミカから発せられた言葉にオレたちは衝撃を受ける。

 

「そういえば、連邦生徒会がキヴォトスの行政してましたね……」

 

「普段碌に仕事しないからウッカリしていたよ」

 

「目からウロコだった」

 

「えぇ……」

 

 言われて見ればそうだった。他校にも影響出てるなら、どこで問題が起きてるか明白だったのに、冷静なように見えてみんなどこか焦っていたのだろう。

 

「早急に連邦生徒会に連絡する必要がありますね」

 

「どうやって連絡を取る?こちらからの連絡などマトモに取ったことが無い連邦生徒会だぞ」

 

「……直談判?」

 

「誰が行くの?行くならそれなりに役職付いてる人の方が良いと思うけど」

 

「言っておくが、当然体の弱い私は無理だ」

 

「嬉しそうだな病人」

 

「派閥を置いて留守にするわけには行きませんので私も無理です」

 

「あ、じゃあミサちゃん―――」

 

 オレの名前を言いながらこちらを見てくるので、先制して現実を突きつける。

 

「言っておくけど私がいない間、私の仕事はミカがやるんだよ」

 

「―――は忙しいからどうしよっか☆」

 

 くるっと何事も無かったように元の場所に戻る。

 

「ミカ、君は……」

 

「ミカさん……?」

 

 ナギサとセイアは呆れていたが、いつものことなのでみんなはもう慣れていた。結局、誰も行きたがらないので、じゃあ誰に行かせるかという話になった。

 

「ミネちゃんとか?」

 

「絶対トラブル増やしてくるからダメ」

 

「それ以前にお願いしに行く段階でひと悶着ありそうですね……」

 

 何故かあるだろうなという確信があった。

 

「《シスターフッド》のサクラコちゃんはどう?」

 

「中立の《シスターフッド》が動いてくれるでしょうか?」

 

「それにお願いしに行ったら何か見返りを求められそうで嫌なんだけど」

 

「《シスターフッド》の長が要求するモノか……あまり考えたくはないな」

 

「うーん、サクラコちゃんそこまで悪い子には見えないんだけどなぁ」

 

 訪ねる度に何故か毎回二人っきりになりたがるからあの人怖いんだけど?断ってもあまりしつこく食い下がっては来ないけど。

 

「無難に《正義実現委員会》に頼んだらいいんじゃない?」

 

「え?ツルギちゃんに頼むの?」

 

「連邦生徒会を脅しつけるのか、流石ミサだ」

 

「そんなわけないでしょ」

 

 話し合いの段階で、話し合い出来ない人間を送ってどうすんの。

 

「というか今ツルギさんに抜けられると、激増した犯罪に対応する人間がいなくなってしまいますよ」

 

「他学区に比べたらトリニティは大分マシなようだがね」

 

「消去法でまぁハスミかなって、頼むなら」

 

「しかし、ハスミが抜けている間委員会の方はどうするのかね」

 

「私が繋ぐよ、委員会の報告書受け取ってるのも私だし」

 

「ミサさん、大丈夫なんですか?今でもかなりオーバーワーク気味なんですが」

 

 心配そうにしてるナギサの横で、ミカは目を明後日の方向へ向けていた。

 

「別に長期間に渡ってするわけじゃないしね。これぐらいならマルチタスクで処理できるよ」

 

「ミサさんがそう言うなら……ミカさん?」

 

「え、な、なに?」

 

「"ちゃんと"ミサさんを手伝ってあげてくださいね?」

 

「あれ……?手伝って貰ってるのって私じゃ」

 

「ミカさん?」

 

「いいよナギサ。出来ないのに無理してやって貰っても困るし!」

 

「うっ!?」

 

 オレがそう言うと何故かミカは胸を押さえて崩れ落ちる。

 

「あ、あれ?」

 

「トドメだったな」

 

「トドメでしたね」

 

「ご、ごめんミカ!別にミカが全く仕事が出来ないって意味じゃないから!」

 

「なんのフォローにもなって無いが?」

 

「うぅ、うわぁーん!ちゃんとお仕事するから見捨てないでミサちゃん!」

 

「えぇ!?」

 

 何故かはよく分からないがミカが泣いてオレの腰のあたりに抱き着いて来る。く、くるしい……。

 

「ミカが私を見捨てるならまだしも、なんで私がミカを見捨てるわけ?」

 

「え?なんで私がミサちゃんを見捨てるの?」

 

「んん???」

 

「え???」

 

 オレとミカは互いに疑問符を浮かべる。どういうこと?

 

「うむ、カオスになってきたな」

 

「紅茶が美味しいですね……」

 

「いや、二人とも助けてくれない?」

 

「いやいや、考えても見たまえ今君を抱き締めてる力で私に抱き着いてみろ、私は内臓をぶちまける自信があるぞ」

 

「嫌な自信だな」

 

「私は紅茶を堪能するので忙しいので」

 

「最早何の理由にもなってないじゃん!」

 

 こいつら話まとまったからってオフに切り替えるの早すぎだろ。

 

「……ミカ、私まだ仕事残ってるの。ハスミに今回の件もお願いしに行かないと、だから離して貰える?」

 

「やだぁぁぁ!私もミサちゃんとお仕事するのぉ!」

 

「わかった!ミカにも仕事手伝ってもらうから離れて!」

 

「わーい」

 

「……」

 

 たまになんで私が仕事してるのか分からなくなる時があるな……。

 

「で?なんで二人とも助けてくれなかったの?」

 

「逆に聞きますけどあの状態になったミカさんが私達の言う事を聞くとでも?」

 

「逆に聞くけどなんで私の言う事なら聞くと思ってるのさ」

 

「え?自覚無しか君は」

 

「え、自覚?」

 

 なんの?ふと時計を見るといい時間だったので、そろそろ行かないとハスミが捕まらなくなるな。

 

「と、ハスミが巡回に出る前に話したいからそろそろ行かないと。行くよーミカ」

 

「あ、うんー」

 

 そう言ってオレは部屋の入口へ向かう。

 

「あ、ミカ」

 

「ん?なにセイアちゃん」

 

「……いや、やっぱりなんでもない。気を付けて行きたまえ」

 

「えーなにー、変なセイアちゃん」

 

「ミカー?」

 

「あ、今行くー」

 

 そうしてオレとミカが部屋を出た後のこと。

 

「……」

 

「セイアさん?どうかしましたか?」

 

「……ナギサ、もし私の身に何かあったら、後のことを頼むよ」

 

「セイアさん、そんな縁起でもない」

 

「……そうだね」

 

 

 

「―――というわけでハスミにお願いしたいんだけど、頼める?」

 

「なるほど、妙に疲れた顔でいらっしゃったと思ったら、そんなことが」

 

「いや、疲れたのは別の事なんだけどね」

 

「あ、そうなんですね」

 

「え、どうしたのミサちゃん」

 

 チラッとミカを見ると『私何かしたっけ?』と言わんばかりの疑問顔。頭が痛い。

 ハスミは突然の訪問にも関わらず、別室に通してくれて紅茶とお茶菓子まで出してくれた。こらミカ、晩御飯入らなくなるから菓子ばっかり食うんじゃない。

 

「分かりました、今すぐにでも。と言いたいところですが、三日ほどお時間頂けると」

 

「三日ね、了解。もう聞いてると思うけど、予備の電力で持って一週間だからそれまでにはなんとか解決策を持って帰って来て欲しい所」

 

「一週間で、ですか。なかなか無茶振りしてきますね。それだけ切羽詰まってるという事でしょうか」

 

「私もあまり無茶を言いたくないんだけど、こればかりはどうにも」

 

 オレが困ったように笑うと、ハスミは慌てる。

 

「あぁ、すみません。ミサ様を困らせるつもりは無かったんです。《ティーパーティー》の方々が毎日忙しくされてるのは知ってますしね」

 

「そういえばさ、ハスミちゃんはどうして三日なの?」

 

「ええ、ちょっと身辺整理を」

 

「何しに行くつもり……?」

 

 あれ?オレがお願いしたのって話し合いだったよね?

 

「ふふ、冗談ですよ」

 

「この状況で冗談が言えるって余裕じゃん」

 

「本当は後輩たちに私がいない間どう動くかやツルギの扱いを教えておこうと思いまして」

 

「それなら、ハスミが不在の間私が繋ぎに入っても良いんだけど」

 

「ありがたい申し出ですが、まぁ良い機会ですからね。私がいないとき、どうするのかっていう訓練にもなりますから」

 

 なるほど、そこまで考えていたのか。少し出しゃばり過ぎたな。

 

「そう言う事なら、私はいつも通り報告を受け取ればいいかな」

 

「ええ、お願いします。ただ、ツルギが止まらなくなったらミサ様に止めて貰う事になると思いますが」

 

「一番面倒な事を押し付けて来たね……まぁいいけど」

 

 どうしてみんなオレに暴れる奴の対処をオレに頼みたがるんだ。どっちかと言うとオレも暴れる側なんだけどなぁ。

 

「あれでツルギも聞き分けは良いから、必要無いとは思うけどね」

 

「ええ、まぁ念のためです。ツルギもミサ様の言う事は直ぐ聞きますので」

 

 オレ自身ツルギに何かしたわけじゃないけど、なぜかオレが声を掛けるとピタっと止まるんだよな。ホントになんでだ。

 

「それにしても、ハスミちゃんとこうしてお茶するの結構久しぶりだね?」

 

「そうですね、ミカ様がパテル派の首長になってからはお時間が取れなくなってしまいましたから。ただ、ミサ様とは時間の空いた時に何度かありますよ」

 

「えー!ミサちゃんズルい!」

 

「いや、ズルいって何。お茶するって言ってもほんの数分だよ」

 

「ミサ様が訪ねてくる度にやつれてくので、少し休んでは?と私が無理矢理誘ったんです」

 

「うっ」

 

「ミカがもう少し仕事手伝ってくれたら、私ももう少し休めるんだけど?」

 

「だ、だって!ミサちゃん私の倍の仕事持ってるのに、私の半分の時間で仕事終わらせるから手伝う隙が無いんだもん!」

 

 だって、ミカに渡した仕事以外にメールチェックとか色々やること多いし。

 

「ふふっ、お二人とも本当に仲が良いですね。あ、もうこんな時間ですか。そろそろ巡回の時間なので失礼しますね。お二人は今飲んでる紅茶を飲み終わってからで構いませんので。飲み終わったカップはそのままで大丈夫ですよ」

 

 時計を見ると、結構時間が経っていた。

 

「ごめん、少し話込んじゃったね」

 

「いえ、久しぶりにお話できて楽しかったです。また今度集まってお茶しましょう」

 

 そう言ってハスミは部屋を出て行った。

 

「またみんなで集まってお茶できるかな?」

 

「現実的な話をすると、みんな要職に付いてるから時間を合わせるのは難しいとは思うけど、でもまた集まれたらいいよね」

 

「……うん、そうだね!」

 

 ミカとそんな話をしたあと、執務室へ戻って仕事をした。ミカが手伝ってくれるというので、たくさん仕事を渡したらヒーヒー言いながらもちゃんとこなしてたので助かった。

 

 

 

「……ん?消灯か。もうそんな時間なんだ」

 

 あれから三日が経ち、その間混乱はあったもののちゃんと説明したおかげか、混乱は直ぐ収まった。今は電力の節約の為、夜10時以降の全消灯が実施されている。ハスミを見送ってからも出来るだけ電気を使わないように仕事してたお陰で、時間が掛かりこんな時間になってしまった。

 

「ミサちゃんミサちゃん」

 

「ん?」

 

「ばぁっ☆」

 

「……」

 

 呼ばれたので振り返ると、ハンドライトを顔の下から当ててる笑顔のミカがいた。

 

「……何やってるの?」

 

「こうしたら、ミサちゃん驚くかなーって」

 

「ミカを見て驚くわけ無いじゃん」

 

「え?」

 

「え?」

 

 なにやら悲しいすれ違いがあるような気がするが、気のせいだと思う事にした。

 

「ミサちゃんこの後、どうするの?」

 

「どうするって、まぁ仕事できないしご飯食べてお風呂入って寝るだけじゃない?」

 

「そうなんだ、じゃあミサちゃん一緒にお風呂入ろ☆」

 

「ご飯がまだだよ」

 

「じゃあ一緒にご飯作って食べてお風呂入る!」

 

「もう、仕方ないなぁ」

 

 そのあと、一緒にご飯食べた後お風呂に入り、わちゃわちゃと洗いっこして、髪をドライヤーで乾かした後、一緒にベッドに入る。

 

「今日冷えるね」

 

「4月に入ったばかりで、まだまだ春先って感じがする」

 

「ふふふ、ミサちゃんぎゅー」

 

 五人ぐらい寝転がれそうな大きなベッドで、ミカがオレの身体を抱き締める。

 

「急にどうしたのミカ?」

 

「えへへ、こうすれば寒くないかなって」

 

「じ、じゃあ私もミカぎゅー」

 

「ミサちゃん、ポカポカしてあったかいね」

 

「そうなの?自分じゃよく分からない。ミカはちょっと冷たいね?」

 

「え、そ、そう?離れた方が良い?」

 

「ううん、大丈夫。ひんやりしてて気持ち良いよ?」

 

「そっかぁ、よかった」

 

 そうしてる内に、オレはうつらうつらと舟を漕ぎ始める。

 

「ミサちゃん、眠い?」

 

「うー、もうちょっとミカとおはなしする……」

 

「ミサちゃん、普段あまり寝てないでしょ。良い機会だし、今日はちゃんと寝よ?」

 

「……うん」

 

 そう言ってミカが頭を撫でてると、オレはそのまま眠りに落ちて行った。

 

「……ミサちゃん、寝た?」

 

「……すー……すー……」

 

「……ごめんね、ミサちゃん」

 

 

 ―――ギィッ、バタン。

 

 

 

 

 

 

 ―――コツ……コツ……。

 

 深夜、ある建物で足音を響かせながら歩く人影が一つ。

 

 ―――コツ……ギィ……。

 

 人影は目的の部屋に辿り着くと、迷いなく扉を開ける。

 

「……未来は、変わらなかったか。そろそろ、来る頃だと思ってたよ―――ミカ」

 

「へぇ?予知夢で見てたのに、逃げなかったんだ?」

 

 影の正体、ミカは嘲る様に部屋の主であるセイアに言い放つ。

 

「確かに見ていた……それでも、未来は変わると信じたかった」

 

「ロマンチストだね。自分では何もできないのに未来が変わるわけないでしょ?貴女も、私も」

 

「……」

 

 痛い所を突かれたのか、黙り込んでしまうセイア。ミカは手に持っていたサブマシンガンを持ち上げると、その銃口をセイアに向ける。

 

「別に何か恨みがあるってわけでも無いけど、ここで死んでもらうね?―――バイバイ、セイアちゃん」

 

 そう言って引き金を引くミカ。彼女たち以外誰もいない建物に銃声が響き渡った。

 

 

 




光園ミサ
相も変わらず仕事が忙しいが、ミサがやってる仕事の大半は本来ミカがやる仕事である。ミサ本人はあまり気にしてないし、自分がやった方が早いので。ちなみにミサとミカの仕事の割合は8:2。

聖園ミカ
ミカは仕事してない時間何してるの?というのは当然の疑問。その時間はアリウスの支援をしている。物資などミサのチェックを逃れるために、一度ミサが目を通した書類に混ぜたりと工作に余念がない。



イチャイチャ百合からの逃れられないセイア襲撃事件。やっぱり上げて落とす方がメンタルに来るよね!ミサが一番避けたかった事件ですが、当然ミサが居る事で襲撃理由が変わっています。ヒント:ベアおば。



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身代わりを決意する話

あ け お め

いつも感想や評価等ありがとうございます!

年末忙しすぎて気が付いたら年明けてた件。



 

「―――ッ!?」

 

 オレは今見た光景に衝撃を受け目を覚ます。

 ……なんだ、今のは。まるでオレがミカになったような、いやミカの目を通して見てた?

 

「そうだっ、ミカは!?」

 

 眠る直前まで、隣でオレを抱き締めていたはずのミカの姿はどこにもなかった。

 

「そんな……」

 

 あの光景ではセイアに銃を突き付けていた。まさか、そんなことあるはずない。

 

「……ッ!」

 

 オレはベッドから出ると制服を着て家から飛び出す。あの光景がただの夢であって欲しいと願いながら……。

 

 

 

 電力節約の為に明かりの無い暗い街を疾駆する。向かうはセイアのいるセーフハウスだ。

 

「くそっ……どうして。ミカとセイアが仲違いしてる様子なんて無かったのに……」

 

 セイアの所へ行く道すがら、反対側の道をミカが歩いているのを見つける。

 

「ミ―――」

 

 いや、待て。ミカは今どっちから来た?あの方角はセイアのセーフハウスがあるほうじゃないのか?そう逡巡してる間にミカは歩き去ってしまっていた。

 今はセイアの所へ急ごう。思い過ごしでも勘違いでもいい。ただ無事で居てくれればと。

 

 セイアのセーフハウスが近づいた頃だった。セーフハウスから爆発音が響き渡り、大きく煙を上げてるのが見え足を止める。

 

「―――うそ、だろ」

 

 起きてしまったのか?セイアの襲撃事件が?でも、どうして。そんな兆候一切無かったのに……。

 そんな時だった。正面から走ってくる小柄な人影。向こうもオレに気付き、足を止めて手に持ったアサルトライフルを向けてくる。銀の髪に顔はガスマスクを着けて確認できないが、オレはその姿に強い既視感を覚えた。

 コイツ、エデン条約の?直感的にそう思ったオレの行動は早かった。向こうはオレの姿を見て固まっていたので、オレはその隙を突いて一気に接近、向こうもオレに銃を向け引き金を引こうとしたが、オレの方が一手速い。懐まで入ったオレは片手で銃を逸らし、放たれた弾丸が空を切る。ガスマスクの向こうで息を呑む音が聞こえる。オレはそのままもう片方の手で、少女の胸倉を掴み上げ路地裏に投げ飛ばす。

 

「―――ミサ様っ!」

 

 丁度そのタイミングで、少女を追っていた《ティーパーティー》の生徒に出くわす。

 

「これは何の騒ぎ」

 

「は、はい!先程セイア様のおられるセーフハウスが爆発、そこから逃げるように出てきた者が居たので追って来ました!」

 

「セイア様の……その逃げた者が出た後に他に人は?」

 

「はっ!今のところ、出た者も入った者もいません!」

 

「分かりました。この件に関し緘口令を敷きます。今日担当している他の警備にも伝えてください」

 

「え、ですが」

 

「『何故か』を言わなければ伝わりませんか?」

 

 彼女にそう視線鋭く言うと、背筋をピンと張り敬礼する。

 

「は、はい!了解しましたっ!」

 

「分かったら行ってください」

 

「はい!」

 

 逃げる様に駆けて行く生徒を見送り、路地裏を見る。そこには先程の少女が逃げずに待っていた。

 

「そこの道を真っ直ぐ抜ければ、誰にも会わずに逃げ切れるはずだ。抜ける前にその目立つガスマスクは外しておけよ」

 

 そう言って立ち去ろうとするオレを、少女は呼び止める。

 

「何故私を助けた……?」

 

「……」

 

 断片的な情報を追っても、この少女がセーフハウスを爆破したのは明らかだ。それ故、どうしてここで見逃すのか分からず困惑してるのだろう。もしかして罠なんじゃないのか、と。

 しかし先程の直感を信じるなら、こいつは今ここで捕まえさせるわけには行かない。それにガスマスクの向こうに見えたその目。あれは人殺しの目なんかじゃなかった。

 ……今でも忘れられない、本物の人殺しの目を。狡猾で残忍な目で嗤う、あの女の顔を。本物は、この少女の様に真っ直ぐな目をしていない。

 

 だが、それを伝えたところで目の前の少女は知らぬこと。まさか『ゲームではそうだった気がするから』なんて答えるわけにもいかない。

 

「なんとなくだ。オレの勘は良く当たるんだよ」

 

 彼女はそれを聞いて一瞬考える素振りを見せ、ガスマスクを外す。その顔には、やはり見覚えがあった。

 

「ありがとう」

 

 お礼を言うと彼女はそのまま闇の中へ駆けて行った。オレはそれを見送ると、セーフハウスへ急ぐ。

 

 

 

 セーフハウスの入り口の門へ辿り着くと、奥にある建物が黒煙を上げているのがよく見えた。

 

「―――ミサ様!」

 

 覚えのある声に振り向くと、ミネがいた。

 

「ミネ……」

 

「ミサ様、これは一体?」

 

「いや、オレも爆発音を聞いて駆け付けたばかりでまだ何も」

 

「……入って確認するほかありませんね」

 

 オレはミネの言葉に頷き、門を開けると二人で入った。

 

「……妙ですね」

 

 ミネの感じてる違和感。それはオレも気付いていた。

 

「人が居ない……誰一人……」

 

「《ティーパーティー》のセーフハウスは警備を付けないのですか?」

 

「オレとミカのセーフハウスには付けてないけど、他もそうだとは聞いたことが無いな」

 

 自衛できるオレとミカはまだしも、戦闘が得意じゃないナギサとセイアは警備を付けているはずだ。そこでふと思い出す。

 

「そういえば、ここに来る途中で会った警備の生徒。もしかしてセイアの警備だったのか?」

 

「来る途中って、外ですよね?どうしてセイア様の警備が外に?」

 

 問題はそこだ。てっきり他の所の警備かと思ったが、彼女はハッキリとここがセイアのセーフハウスだと断言していた。ここがセイアのセーフハウスだと知ってるのはごく一部の人間だけだ。つまり、彼女がセイアの警備をしていた生徒というのは疑いようもない。だけど、外にいた理由だけがどうしてもわからない。……!待てよ、セイアが今夜の事を予知夢で知っていたなら……?

 

「ミサ様?どうかされましたか?」

 

「あ、いや、ここだなセイアの執務室」

 

 何度も足を運んでいたので、迷いなく辿り着く。

 

「……突入します」

 

「ああ……」

 

 合図無しに同時に扉を蹴破り、中へ入る。中は爆発でぐちゃぐちゃになっており、中央にセイアが倒れていた。

 

「セイア様っ!?」

 

 ミネが慌てて駆け寄る。オレは血溜まりに倒れるセイアを見て、かつての自分と重なる。

 

 まさか死んで。死?嘘だまさかそんな。落ち着け。心臓の音がうるさい。嘘だミカが。落ち着け。大丈夫なはずだ。違うそんなわけない。さっき会った少女がセイアの生存に関与してたはずだ。心臓の音がずっと響いている。うるさい。違う。これは何かの間違いだ。何も聞こえない。ミカがそんなこと。落ち着け。落ち着け!

 

「―――ミサ様!しっかりしてください、ミサ!!」

 

「ミネ……」

 

 目の前にはオレの肩を強く掴むミネが立っていた。返事をしたオレに安堵の息を吐く。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ご、ごめん、オレ動揺して……」

 

 肩を掴むミネの手に触れた時自分の手が震えてるのに気が付いた。ミネもそれに気付いたのか、ふっと微笑む。

 

「いえ、こんな場面を見せられれば誰だって動揺くらいするでしょう。……それと、友人がこんな目にあっても動じない冷血な女ではなかったことを知れて、少し安心しました」

 

「……お前はオレの事をなんだと思ってるんだ」

 

「ふふ、言い返せる元気があるなら大丈夫そうですね」

 

「お前な……ありがとう、お陰で少し冷静になれた」

 

 深呼吸して一度頭を切り替える。自分が死に掛けてた時の事を思い出して、まだ少し手が震えているが、なんとか抑え付ける。

 

「それで、セイアの容態は?」

 

「ええ、傷は見た目ほど酷くありません。今はおそらく、爆発の衝撃で気絶しているだけだと思われますが……」

 

 何度か深呼吸したあとセイアの状態を聞いたが、気絶してるだけ?

 

「え、じゃあこの大量の血は?」

 

「私も気になって調べましたが、ただの血糊ですね」

 

「……ホントだ」

 

 床に広がっている血?に指を付けて確かめる。確かに、血の匂いもしない。セイアが無事だったことに安堵しながら、現場を確認していく。

 

「一体誰がこんなことを……。とにかく、一旦セイアを病院に運んでちゃんとした治療をしたほうがいいか」

 

「……」

 

「ミネ?どうしたんだ?」

 

 おそらく、さっき会った襲撃犯であろう少女がこの偽装工作したんだろう、とオレは考えていた。さっき助けておいてよかったと少し安堵する。すると、何か考え込む素振りを見せるミネ。

 

「……ミサ様、ここへ来る途中この部屋以外が荒らされた形跡はありましたか?」

 

 そうミネに言われてこの部屋までの状態を思い出していく。

 

「……いや、無かった」

 

「つまり、セイア様は泥棒と鉢合わせて襲われたのではなく、最初からセイア様が目的の襲撃だった、というわけですね」

 

「……ミネ、何が言いたい?」

 

 記憶のピースが欠けた記憶にハマってくのを感じながら、オレはミネに聞き返す。

 

「襲撃犯が、セイア様が無事だと知れば、またセイア様が狙われるでしょう。ならば、この偽装工作を利用し、セイア様が死んだことにして匿う他ありません」

 

 状況からセイアが狙われたのは確実だ。ここで匿う事に反対できる確たる根拠を持たない以上、この場ではミネが正しい。だが、セイアの死を知らされたことによって、ミカが後戻りできないと突き進んでしまうから、それは避けたい。

 

「なるほど、それならナギサとミカにもそう伝えて……」

 

「いえ、申し訳無いのですが《ティーパーティー》のお二人にもお伝えせずに匿います」

 

「ミネ、お前何を言って……!」

 

 そこでオレはここに都合よくミネがいる理由に気が付く。

 

「……いや違う、お前、まさか最初から……?」

 

「……っ」

 

 ミネは驚きに目を見開く。そうだ、最初からおかしかった。セイアのセーフハウスの前で《救護騎士団》の団長と会うなんて偶然にしても出来過ぎている。それに、《ティーパーティー》の所有するセーフハウスの場所は秘匿されてるにも関わらず、ミネはハッキリとここが『《ティーパーティー》のセーフハウス』と言った。

 どうやって知ったのか。それを証明するのは難しい。逆に考えよう、誰ならこの場所を知っているのか。ここを知るのは《ティーパーティー》の一部の生徒と、セイア自身だ。つまり……。

 

「ミネをここに呼んだのは、セイアだな?」

 

「……」

 

 ほとんど確信を持った問い。襲撃を予知したセイアがなんの対策もしない筈がない。だが、自身の周囲の警備を逆に減らしたこと、救援を求めたのが派閥外の相手なのはまさか襲撃犯が身内だと知っている?だから説得を試みて、失敗した場合に備えて自身を保護させる為にミネを呼んだ?

 ……だめだ、セイアがどこまで予知夢で見たのか分からないからこれ以上は憶測の域を出ない。けど……もしオレが見た夢の光景が現実だったなら、セイアも同じ光景を見ていたとしたら……。

 

「……ふぅ、貴女の頭の良さは知っていた筈なのに、隠そうとしたこと自体無理な話でしたか。セイア様も『ミサならすぐ気づくから話して良い』と言っていたのは、こうなると分かっていたからなのでしょうね」

 

 ミネはそう観念したように言い息を吐く。

 

「そうです、私はセイア様に保護して欲しいと頼まれここに来ました。……襲撃の事は半信半疑だったのですが」

 

 まぁ、予知夢の事を知っていても本当の事なのか、疑わしく思う気持ちも分からないでもない。オレだって原作知識が無ければ、そもそも襲撃に気付かなかっただろうし。

 

「それで、セイアは何て?」

 

「『私の命を狙っている者がいる。もし生きてたら誰にも言わず匿って欲しい』と」

 

「……"もし生きてたら"?」

 

「ええ、それと『これは賭けだ』とも」

 

「賭け……」

 

 セイアが何の目的も無くそんなことをするわけが無い。けど、未来を知ってもなおリスクのある賭けを選んだ理由は何だ?だめだ、これ以上は情報が足りない。

 

「……。わかった、セイアがその方が良いと判断したなら、それに従う」

 

 セイアに何かしらの思惑がある以上、ここで反対すれば変に思われるかもしれない。

 

「ミネがセイアを匿ってる間、オレは情報統制をして情報を漏れないようにすればいいんだな?」

 

 セイアの死を《ティーパーティー》に伝え、セイアの死を《ティーパーティー》の外に漏らさないようにする。そして、セイアの死の偽装をバレないようにする。

 

 言うのは簡単だが、実行が難しすぎる。かなり厳し目に情報を縛らないといけないだろう。だが、逆に考えれば管理する立場であれば、ミカに不利な情報をオレでシャットアウトできる。そう考えれば、悪い立場じゃない。

 

「……そちらの負担が大きくなってしまいますね、申し訳ありません」

 

「元々情報の管理をしてるのはオレだし、特に問題は無い。……まぁ、負担が増えるのはそうなんだが」

 

「ミサ様、一体いくつの業務を兼任してるんですか……」

 

 全部で20くらい?とは言っても、一日で触ってる業務は5個ぐらいだけど。

 

「それでは、私はこれからセイア様のお体を連れて身を隠します。ミサ様、そちらのこと頼みます。……できれば、《救護騎士団》のことを気に掛けて貰えると助かります」

 

「ああ、そっちも気を付けろ。セイアを狙った奴がまだ近くに居る可能性がある」

 

 ミネは頷くと、セイアを抱き上げ部屋から出て行く。オレはそれを見送ると緊急回線で《ティーパーティー》に掛けながら、考え事に耽る。

 

 セイアはオレに計画を話しても良いと言ったが、その後オレがどう動くかまでは指定して来なかった。そこまでオレはセイアに信用されてるのだろうか。だが、ミカが襲撃犯だと分かればオレがミカを庇うために動くのはセイアも分かるはず……あるいはそれすらも織り込み済みで?

 

 連絡を回した後、携帯をポケットに戻す。

 

 今更になって考える事ではないだろう。こうなった以上、オレはオレで行動しなければミカが魔女にされてしまう。それだけは絶対にさせない。

 

 オレは駆けつけた《ティーパーティー》の生徒に現場を任せ、その場を後にする。

 

 

 

「セイアさんが、死んだ……!?」

 

「……ミサちゃん、それ本当?」

 

 《ティーパーティー》の首長たちがいつもはお茶会を開いてる部屋で、ナギサの悲鳴にも似た声が響く。ミカが空席となったその場所に目を向けてから、オレに確認するように問い掛ける。

 

「……私も確認したので、間違いないかと。セイア様のヘイローは……破壊されてました」

 

「……そう」

 

 そう言って目を伏せるミカからどういう感情なのかは読み取れない。ミカの動揺が無いことに訝しみながら、いや動揺を隠してるだけかもしれないと自分を無理矢理納得させる。

 

「そんな……どうしてセイアさんが……」

 

「それは、分かりません。しかし、襲撃のあった時間に謎の武装集団が目撃されてます。警備の者が追ったようですが、警備が離れた隙に……」

 

 これに関しては警備を担当した生徒を責められない。怪しい者が武装してセーフハウスに近づいてきたら、理由がどうあれ捕らえなければならない。つまり、職務に忠実だっただけだ。

 

「最近、セイアさんの様子がおかしい事には気が付いていたのに……。私がもっと気を配っていれば……!」

 

 涙を流すナギサにオレは無言でハンカチを差し出す。

 

「あ、ありがとうございますっ……」

 

「それでミサちゃん、情報の封鎖はどうなってるの?」

 

「すでに手を回して、《ティーパーティー》外部に漏れないようにしてます。同時に、捜査の為の人員を手配しました」

 

「早いね、流石ミサちゃん」

 

 ミカの浮かべた冷たい笑みに、オレは驚いて固まってしまう。そこでオレはようやく気が付いた。あれは関心が無い時のミカだ。

 

「?どうしたの?」

 

「あ、いえ、なんでも、ありません……」

 

「そう?まぁ、とりあえず今後の事を話し合わないとね―――次の主催(ホスト)は誰がするとかさ」

 

 ミカのその言葉にオレは無意識に体が強張る。ミカが原作でセイアを襲撃したのはホストを奪うためだったはず……。

 

「私はナギちゃんが適任だと思うけど、ミサちゃんはどう?」

 

「え?」

 

「私で、いいんでしょうか?」

 

「ナギちゃんならセイアちゃんも安心して任せられると思うなー。ね、ミサちゃん」

 

「え、え、あ、うん」

 

 動揺して言葉に詰まってしまった。ここでホスト譲ったのにホスト奪うためにナギサに襲撃を?……あれ?ホスト奪うのは後付けの理由だっけ?うぅ……手元にストーリーを確認出来るものがあればよかったのに。

 

「ミサちゃん?大丈夫?さっきから様子がおかしいけど」

 

「な、なんでもない、大丈夫……」

 

「ホントに?ミサちゃんがそう言うならいいけど」

 

 ミカがオレを訝しげに見つめる。ミカに疑われるのはまずい。セイアの死の偽装がバレたらストーリーを気にするどころじゃなくなる。現時点でバレたらどうなるか分からない以上、もっと冷静にならないと。

 

 

 

 その後もミカとナギサの話を聞きながらも上の空なせいで、二人にすごく心配されてしまった。

 

 冷静で居ようとすればするほど、ミカの妙に落ち着いた態度が気になり、本当に原作通りにストーリーが進んでいるのか不安になったからだ。セイア襲撃が起こった以上、原作外の行動を取ってミカを救えるか分からない。それどころか、原作より状況が悪化すれば目も当てられない。原作、未来を知っている事がオレの唯一と言えるアドバンテージだ。だから、できるだけ原作に沿った行動を取りつつ、ミカを魔女と呼ばせない、あるいはミカからヘイトを逸らす方法があれば……。

 

「ミサちゃん、今日ずーっと上の空だけどどうしたの?」

 

 ナギサと別れ、ミカと執務室に戻って来てからも、思考に没頭していたせいでまたミカに心配をかけてしまった。

 

「あ、もしかして生理?確か昨日からだったよね?ミサちゃん、重い方だし、生理の時はいつもより情緒不安定になるから少し心配だよ。セイアちゃんの事もあったしね」

 

 なんで生理周期把握してるのかはさておき、いつも情緒不安定みたいな言い方はやめて欲しい。とはいえ、調子が悪い要因の一つが生理であることは否定できない。昔よりは慣れたとはいえ、ツラいものはツラい。セイアは、最初死んでるかもと思った時はちょっとだけ動揺したけど、今は生きてるって分かってるから大丈夫だ。

 

「いつもよりツラいならお薬出すよ?あとブランケットは?」

 

「薬は大丈夫。ブランケットは……あ、家に忘れて来た」

 

「仕方ないなぁ、私の貸してあげるね」

 

 ごそごそと自分の荷物を漁るミカを見ながら、意を決してミカに問い掛ける。

 

「ねぇミカ」

 

「んー?なにー?」

 

「……昨日の夜、どこにいたの?」

 

「……」

 

 ピタリと一瞬その動きを止める。しかし、すぐにまた荷物を漁りだす。

 

「あー、昨日はねぇ眠れなかったからちょっと夜風に当たってたんだーあはは」

 

「―――セイアのセーフハウスまで?」

 

「……」

 

 今度は完全にその動きが止まった。こちらに背を向けている為、その表情は窺い知れない。

 

「ミカ、私見たんだよ。ミカがセイアのセーフハウスのほうから歩いて来たの」

 

「……そっかーあの辺りにセイアちゃんのセーフハウスあったんだね」

 

「ミカっ」

 

「偶々だよ、偶然あそこを歩いていただけ、そうでしょ?」

 

 確かに、歩いていただけではミカがセイアを襲撃したとは証明出来ない。

 

「……ミカ、トリニティには犯罪抑制の為に防犯カメラが設置されてるんだよ」

 

「うん、知ってるよ。そのカメラの中にダミーが混ざってるのもね。報告にあったセイアちゃんのセーフハウス近辺のカメラはダミーだよね?どこにも繋がってないコードを伸ばしてるダミーのカメラ。仮に本物があったとしても電力カットで動いてないと思うよ」

 

 ……襲撃するなら、当然下調べは欠かさないか。

 

「そっか、なら当然ダミーにフェイクを混ぜてるのも知ってるんだよね?」

 

「―――え?」

 

「ダミーに見せかけたバッテリー内蔵型のカメラ」

 

 そう言いながら、オレはミカにタブレットの映像を見せる。

 

「セイアのセーフハウス近辺に置いてあるのはすべてダミーに見せかけたフェイクだよ。……当然、昨日の夜の映像はハッキリと残ってる」

 

 そこには、ミカがセイアのセーフハウスに入っていく映像が映っていた。オレはミネと別れた後、真っ先にこのカメラを調べに行った。ミカが襲撃犯でないと信じたくて……結果は御覧の有様だ。

 

「……はぁ、そっかバレちゃったんだ。まさか、ダミーにフェイクがあるなんてね」

 

 ミカは机に腰掛けてオレを見ると、笑みを浮かべる。その露悪的な態度が妙に様になっていた。

 

「そうだよ、私がセイアちゃんを撃った」

 

「ミカ……」

 

「どうする?私を捕まえる?」

 

 追い詰められてるのはミカのはずなのに、余裕の笑みでミカはオレを見つめる。逆にオレの顔は酷いもので、窓ガラスに反射したオレの顔色はお世辞にも良いとは言えない。

 

 ここで捕まえれば、ナギサの襲撃は行われない、はず。でも、ミカは魔女として裁かれる。それはダメだ。認められない。じゃあ、どうしたらいい。どうしたら……。そのとき、窓ガラスに並ぶ同じ顔を見て、とんでもない名案を思い付いてしまった。

 

 なぁんだ、最初からこうすれば良かったんだ。

 

「ミサちゃん?」

 

 急に笑みを浮かべたオレにミカは怪訝な表情をする。

 

「捕まえない、私がミカに協力する」

 

「え?」

 

 困惑、想定外だったのか余裕の表情が崩れる。

 

 そう、少し考えれば簡単なことだった。これが確実で良い方法。

 

「私は、ミカの共犯者になるよ」

 

 

 

 ―――(オレ)がミカの代わりに魔女になれば良かったんだ。

 

 

 




光園ミサ
原作知識持ちだけど、役に立たなくて「あるぇ?」ってなってる。原作がある世界だからと言って原作知識が役に立つかどうかはまた別の話。

聖園ミカ
原作よりも破天荒さが抜けて物事を俯瞰して見てる冷静な方のミカ。原作ミカ要素は割とミサに吸われてる。ミサが嘘を吐く時の癖が出てたのでセイアが生きてるのは知ってる。

銀髪のガスマスク
ファッ!?同じ顔!?ビックリして一瞬体が固まった。そして負けた。


ようやく時間取れるし、正月番外編でも書こうかしら。イチャイチャが書きたい。


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それからの話

感想と誤字報告くれた方ありがとうございます!

今回は繋ぎの話のため短め。

全力で足を引っ張り合う百合尊い、尊くない?


 

 あれから何事も無く時間は過ぎた。表面上は。

 

 セイアは対外的に「療養の為、しばらく入院することになった」ということにした。

 

 セイアが担当していた業務はナギサが引継ぎ、オレも一部を担当することになった。ミカ?気が向いたら偶に手伝ってくれるよ。やさしいよね。ただ、あの日から仕事を雑に投げてくることが多くなった。その上、所構わずえっちなことをしてくるようになった。……なんで??

 

 

 

 

 

 

「あ!ミサちゃーん!丁度いい所に!」

 

「あ、ミカ……様、どうされましたか?」

 

 その日は資料をまとめてナギサの所へ持っていく途中だった。ミカはオレを見つけると笑顔で手を振りながら駆け寄ってくる。オレはいつものように返事をしようとして、人目があるのに気付き敬語に直す。

 

「ちょっとえっちしよ?」

 

「え」

 

 一瞬何を言われたのか分からず、フリーズする。そんなオレに構わず、ミカはオレを物陰に引っ張り込む。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「待たなーい☆」

 

 そのまま壁に手を付けさせられると、制服のスカートがめくられる。

 

「まっ、後ろからはやだ!」

 

「ダメだよ。ミサちゃんに拒否権は無いんだからね。私の言う事はなんでも聞く奴隷だもんね?」

 

 それは中等部の時に交わした約束ではあったが、ミカの要求に理不尽なものは無かったから特に拒否したりという事も無かったし、本当にオレが嫌だと思う事はミカが察してしてこなかったので、ほとんど形骸化してるような約束だった。とはいえ、特に期限も回数も設けていないので約束を持ち出されたら従う他無い。

 

「ま、まだ仕事があるから出来れば早めに……」

 

「それはミサちゃん次第だ、よ!」

 

「んああっ!」

 

 

 

 またある時は廊下を歩いていると無言で物陰に引き摺り込まれ、コロンと仰向けに転がされ。

 

「ミ、ミカ!?急に何を―――んぃぃ!」

 

「……」

 

 

 

 またある時は……。

 

「ナギサ様、次のお茶会での資料なのですが―――」

 

「これは確か……あとでミサさんに確認をお願いしておきますね」

 

 廊下をフィリウス分派の一団が歩いている時だった。ナギサが柱の陰にいるオレに気が付き、声を掛けてくる。

 

「あら?ミサさん、こんな所でどうしたんですか?」

 

「っぁ、ちょ、ちょっと休憩、ん……!」

 

「そうですか?それはともかく、丁度良い所に。実は次のお茶会で使う資料についてなんですが―――」

 

「あっ、そ、それだったら部屋にあるから、んっ……ひあ、あとで持ってイくっ、イくからぁ!」

 

「そ、そうですか。では、お願いしますね……?」

 

 ナギサ達が去り、見えなくなったところで力が抜け崩れ落ちる。

 

「―――いやぁ、まさかナギちゃん達が通るとは思わなかったね」

 

 ひょこっと柱の陰、オレの後ろから出てきたミカはそんなことを言っていた。

 

「あ、ミサちゃん執務室にまた書類置いてあるからよろしくね~☆」

 

「は……はひ……」

 

 出すもの出してスッキリしたのか、歌いだしそうなほど上機嫌にミカはどこかへ去っていく。放置されたオレが動けるようになったのは、その15分後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 そんな生活が続いたある日。今日もミカの相手をしてからサンクトゥス分派に顔を出して、その後ナギサに頼まれた資料を渡す為にフィリウスの校舎に赴いた時の事。

 

 ―――コンコンコン。

 

 ドアをノックして待つこと数秒。中から「どうぞ」という声が聞こえたので入室すると、そこにはナギサの他にヒフミが来ていた。

 

「ヒフミ、来てたんだ」

 

「あ、ミサ様!おはようございます!」

 

「おはよう、一般生徒なんだからあんまり遊びに来ちゃだめだよ?」

 

「あ、あはは……」

 

 一応形だけの注意を促す。ヒフミが勝手に遊びに来ているわけじゃなく、ここの主が招いているので、本当に形だけだ。ちなみにナギサにも同じことを言ったが『いえ!これは必要なことなのです!』と断固として譲らなかったので諦めた。

 

 形だけの注意を続けているのは、派閥間争いに巻き込まないようにする為だ。"桐藤ナギサのお気に入り"を使えば……なんて考える輩もいるかもしれないので、オレと関わりがあると含みを持たせることによって、他の派閥に牽制してる。

 

「あの!今回はお茶しに来たわけでは無くて!」

 

 聞けばアビドス高校を支援する為の部隊を貸して欲しいらしい。しかも、相手はあのカイザー。どうやらなんらかの不正を行っていたようだが……。

 

「そういうわけですので、ミサさんの意見も聞かせて頂ければと」

 

 ナギサを見ると、その表情には迷いが出ていた。なるほど、義理や人情という面で考えれば手助けはプラス。特に、トリニティはカイザーと全面的に敵対しているから、カイザーを攻撃したところでおよそ問題は無い。それはトリニティにカイザーの関連企業が一つも無いことから良く分かる。

 

 問題があるとすれば、トリニティ自治区外、他校の管轄であることか。基本的に自治区を跨いでの部隊展開は出来ない。いわゆる違法行為と云う奴だ。そうでなくとも侵略行為だと取られてもおかしくはない。だからこそ、あの"超法規的組織(シャーレ)"はとんでもない権限を持っているわけで。

 

 セイア襲撃事件後、戻ってきたハスミからキヴォトスの外から"先生"が来たことと、《シャーレ》が発足したことを聞いて、ホッとした。シャーレの先生が来たのなら、最悪の場合オレがいなくなってもミカは救えると思ったからだ。

 

 そんなシャーレの先生は今アビドスにいるようだ。ヒフミの話では危ない所を助けて貰ったから何か手助けしたいそうで……。

 

「ところで、ヒフミはどうしてアビドスに?」

 

 アビドスは現在砂に覆われ、自治区としてほとんど機能してないのは周知の事実。アビドス高校に通っていた生徒も、一般人もアビドスから去っていく者も多く、街としてもほとんど機能していない。なにしにそんな場所へ?というのは当然の疑問。

 

「え、え~っと……」

 

 痛い所を突かれたのか目が泳ぎ出す。ちなみに、ブラックマーケットに通ってるのは知ってる。うちの生徒がブラックマーケットに出入りしてると諜報部隊から報告があり、調べたらヒフミだった。あの場所の出入りが禁止されてるのは、危ないのはもちろんの事。何かあった時にトリニティの法で守れないからだ。

 

 目の前の少女は重々承知の上だろう。なまじ実力がそこそこあるせいで、「弱いからダメ」とは言えない。ただ、他の生徒が真似するから行くなとは言わないけど出来るだけ控えて欲しい。

 

「か、観光です」

 

 砂しかないけど?絞り出すように発された苦し紛れの言い訳に、ふーんと返す。ナギサは真面目にアビドスの観光名所について考えていた。

 

「まぁ、いいけど」

 

 ところで、と一呼吸おいてナギサに話しかける。

 

「兵站部から古くなった砲弾の処理を頼まれているのですが、確か次の砲撃演習の場所まだ決まっていませんでしたよね?」

 

 途中まで何が言いたいのか分かっていない様子だったが、砲撃演習でようやく得心がいったようだ。

 

「そうですね、やはり何も無くて広い場所が良いと思うのですが、なかなか決まらなくて」

 

「そういえば、アビドス自治区の近くに広い演習場がありましたよね。あちらはいかがでしょう?」

 

「あ~いいですねぇ~」

 

「えっと……?」

 

 まだよく分かっていないヒフミの為に、もっと分かりやすい言葉を使ってあげた。

 

「まぁ?偶々、偶然、流れ弾がカイザーの基地に着弾することもままありますよね?」

 

 それを聞いたヒフミの顔がぱぁっと明るくなる。

 

「ミサ様……!」

 

 このやり取りに意味はあるのかと問われたら、あると答えよう。やることは明確でも、やはり建前というものは必要なのだ。政治は建前で動かすのが常だ。

 

「では、私は部隊の編成をしておきますので、指揮する者はナギサ様の方で決めて頂いてもよろしいですか?」

 

「分かりました、そちらはお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げて退室しながら砲撃部隊の隊長に連絡を入れる。相手がカイザーだと知れば嬉々として撃ちに行くだろう。カイザーの不正を知って鬼の首を取ったかのように責めてる別部署もそうだが、昔カイザーに嫌な事でもされたのだろうか。

 

 普段は派閥争いだったり、仲違いしてるような者でも"敵"が定まると一致団結してまとまるのは、トリニティの恐ろしい所なのかもしれない。……その熱意を魔女叩きじゃなく別に向けてくれたらなぁ。オレだってこんなに悩まなかったのに。

 

「……」

 

 今、シャーレの先生はアビドスで小鳥遊ホシノを取り戻すために行動している。この話は確かアビドス編の終盤辺りだったはずだ。つまり、遂に来るのだろうあの話が、遂に―――。

 

 上がってきた気温が、夏の到来を知らせに来ていた。

 

 

 

 

 

 

『まもなくートリニティ総合学園駅ートリニティ総合学園駅ー。お忘れ物の無いようご注意ください』

 

 D.U.から遥々列車に乗ってやってきたレディースのスーツに身を包んだ女性。肩にかかる栗色の髪を靡かせながら両手を上げて叫ぶ。

 

「―――遂に来たぞ!エデン条約編ー!!」

 

 波乱の幕開けは、もうすぐそこまで―――。

 

 

 




光園ミサ
ミカの代わりに魔女になるからミカの邪魔しよ。

聖園ミカ
何をする気か知らないけどミサの邪魔しよ。

夢の中から見てるセイアちゃん
えぇ……。

またしても何も知らない桐藤ナギサ
アビドスの観光地がどんなだったかあとでヒフミに聞こ。

栗色の髪の女性
イオリの足を全力で舐めて、ついでにヒナの頭も吸って来た。世界の為だ、致し方ない。


次章よりようやくエデン条約編開幕!の前にちょこっとだけ番外編書くのじゃ。


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正月番外編・初夢

いつもたくさんの感想ありがとうございます!

正月短編どんなの書こうかなーと思って見た夢の一部を前半部に書き起こしております。

除夜の鐘で煩悩を消しきれなかったらしい。

時系列はエデン条約編よりも後、ミカの絆エピ(ミサ愛情出演)通過済み。


 

「ん、んぅ……?ふわぁ~……」

 

 かの条約に関わる騒動が終わった後の朝。公開聴聞会も終えて、《ティーパーティー》の権限を剥奪され、《ティーパーティー》所有の家からも追い出されて、『じゃあ、もう《ティーパーティー》じゃないんだし、私とミカの愛の巣買ってイチャイチャしよ♡』という発言はミカに優しく(たしな)められ、オンボロ……もといとても歴史を感じる寮の屋根裏部屋に押し込められてしまった。

 

 この寮は壁や床が薄く、声が響いてしまうから自重……なんてするわけも無く、私とミカは毎日のように愛しあってる。ただ、ミカはあまり乗り気じゃないのか前みたいに激しくしてくれないのが少し不満。今度、先生に聞いたアレを試してみようかな。

 

 それはそれとして、朝のミカ分を補充するために抱き着いて……あれ、いない!?

 

「ミカどこ!?……ん?あれ?」

 

 思わず飛び起きてしまってから、ようやく自分の体がおかしい事に気が付く。服の上からでも分かるぐらいにはあった胸が平らになっているのだ。

 

「ミカを誘惑する為の私のおっぱいが無い!……この股に挟まる感じはまさか」

 

 恐る恐る下に手を伸ばしまさぐると、そこには十年ぶりの相棒があった。

 

「……ある。まさか男に戻った!?」

 

 ベッドから降りると、テーブルの上に書き置きがあった。

 

「……『用事があるから先に行ってる』。こうしちゃいられない!ミカに男になったって伝えにいこーっと!」

 

 えへへ、これならミカにも私が男だって伝わるよね♡伝えて……伝えてどうするんだっけ?まぁいっか!

 

 いそいそと制服に袖を通して上機嫌に寮を出る。用事って書いてたけど、いつもどおり《ティーパーティー》でしょ!

 

 

 

「おっはよーミ……カ……?」

 

 扉を壊す勢いで開け放ち中に入る。だが、そこにいたのは。

 

「ミサさん、扉は静かに開けてくださいと何度言ったら分かるんですか?」

 

 プラチナブロンドの青年が紅茶を片手にこちらに苦言を呈する。だれ?

 

「まぁ、そう目くじらを立てるものでは無いだろう」

 

 金髪の幼さを残した狐耳の少年。だれ??

 

 ―――ダンッ!

 

「はぁ、ミサ。あんまりおいたしちゃだめだって前に教えたよね?」

 

 急に壁ドンしてきたピンク髪の少年。ミカ!?

 

「ミサはさ、俺達(・・)の備品なんだよ?分かる?備品は備品らしくしないとね」

 

 顎をクイッと持ち上げられる。あ♡かっこいい♡

 

「び、備品?備品って?」

 

「備品は備品でしょう?私達《ティーパーティー》に性的奉仕が義務付けられた。まさか忘れたんですか?」

 

 たぶんナギサらしき青年が呆れた様に肩を竦める。あれがナギサなら、金髪はセイア?髪が短いのもそうだけど、性別違うと印象変わり過ぎじゃない?

 

「って性的奉仕ってなに!?」

 

「はぁ?いつもやってるじゃん。今日はどうしたの?」

 

「ミカ、まさかトバし過ぎて壊したんじゃないだろうね。今日は僕の番なんだから勘弁してほしいね」

 

「は?喧嘩売ってるのセイア。大体、あれぐらいで壊れるわけ無いだろ。いつもは三人の相手してるんだしさ」

 

 オラついてる獣みたいなミカも素敵♡

 

「まぁ、忘れたんならまた教えてやればいいんだろ?」

 

 ん?流れるようにミカは手を制服の内側に滑り込ませる。

 

「え、ちょ!?」

 

「なんだ、抵抗するのか?いいね、久しぶりに滾ってきた。ナギとセイアも来なよ」

 

「はぁ、仕方ありませんね」

 

「……まぁ、偶にはいいか」

 

 椅子を引いてこちらに寄ってくるナギサとセイア。

 

「あの、ちょ―――」

 

 

 

 

 

 

「―――いやぁぁぁああああ!?ってあれ?」

 

 飛び起きる様に体を起こすと、そこはいつもの屋根裏部屋。窓からは朝日が降り注いでいる。

 

「……ゆ、夢?」

 

 胸に手をやると、ふにふにと柔らかく指を押し返すほどの弾力を持ったおっぱい。もぞもぞと手を下に入れると、何も無いのっぺりとした丘。

 

「ゆ、夢で良かったぁ」

 

 良かった……良かったのだろうか?ちんちんだけは残って欲しかった気がしないでも無いが。

 

 ベッドから降りてテーブルを見ると、一枚の書き置きがあった。『用事があるから先に行ってるね☆』その書き置きを見て私はサーッと血の気が引くのを感じた。私は身嗜みを整えるのもそこそこに慌てて寮を出る。

 

 

 

「ミカぁっ!」

 

 ドゴォッ!と音を立ててドアが吹き飛ぶ。ドアだったものを足蹴にしながら、いつもの三人が集まてるテーブルに駆け寄る。

 

「み、ミサちゃん……?」

 

「また、派手に吹き飛んだね」

 

「修繕費用が……」

 

 いつものようにお茶していた三人はポカーンとした表情で私を見ているが、そんなことより!私はミカの体を触り確かめる。

 

「わ!ちょ、どうしたのミサちゃん?全身まさぐられるとくすぐったいんだけど」

 

「よかった……いつものミカだ。好き♡」

 

「そんな念入りに触らなくても確認出来たんじゃないかな……?」

 

 困惑してるミカを余所に、私は安堵のため息とともにミカに抱き着き頭を擦りつける。

 

「男に戻ったけども、やっぱり女の子がいい!女の子じゃないとミカの子供産めないもんね♡」

 

「男?ごめん、何の話か分からないんだけど」

 

「うん、やっぱり子供は108人くらい欲しいよね♡」

 

「多いよ!?」

 

「私もそのおこぼれに預かっても?」

 

「しないからね!?」

 

「なら私は108人の内の一人になろう」

 

「混ざるな!」

 

 ナギサとセイアの怒涛のボケにツッコミ疲れたのか、ぜーぜーと肩で息をする。私はミカに抱き着きながら、よしよしと頭を撫でてあげた。

 

「大丈夫?」

 

「ありがとう、ミサちゃんも原因なんだけどね」

 

 確かに、急に抱き着いたのはびっくりさせてしまったかもしれない。

 

「……しかし、ミカさんとミサさんの子供ですか。お二人に似てさぞ可愛らしいのでしょうね」

 

「二人とも同じ顔だから似るどころでは済まない気がするが?」

 

 ミカの頭を撫でてると、二人が急にそんなことを言いだした。確かに、私とミカの子供だったらそうなるのだろうか?

 

「―――ハッ!ということはミカさんとミサさんの子供を育てたら、実質ミカさんとミサさんを育ててる事になるのでは!?」

 

「ならないでしょ」

 

「私はむしろ、私を育てて欲しい」

 

「意味不明なこと言わないでくれる?セイアちゃん」

 

「くっ!何故だ、先生は私の気持ちを分かってくれるというのに……!」

 

 悔しそうに紅茶を飲み干すセイア。その気持ちが分かるのは変態だけだと思う。それよりも気になるのは……。

 

「ねぇ、ミカ。ミカは私との子供作るの、嫌?」

 

 泣きそうになりながらミカを見上げて言うと、ミカはうっと呻き声を漏らして仰け反る。

 

「み、ミサちゃん嫌とかじゃなくてね。ほら、私達まだ学生じゃん?まだそういうのは早いかなーって」

 

「早いか遅いかなんて、他人の決めた尺度を気にするだけ無駄だよ♡それより私は今ミカとの子供欲しいなって♡」

 

 むむむ、まだミカは折れてくれないか。……そうだ!この前先生に聞いたアレ試してみよーっと!

 

「ほら、ミカ。ここに私とミカの赤ちゃんが出来るんだよ?トクン、トクンって私達そっくりの赤ちゃん♡私達の愛の結晶♡」

 

 ミカの耳元でそう囁く。よしよし、ミカも満更じゃ無さそう。このまま続きを、とはいえ結構長いし真ん中ハショろうかな。

 

「大きくなった赤ちゃんがね?ミカも何度も通った場所をズリ♡ズリ♡とね下りて「待ってストップミサちゃん」みゅ?」

 

「自然な流れでASMRに移行しようとしないでくれる?」

 

「む、終わりかね。せっかく今後の参考にしようと」

 

「何の参考にするつもりですか?」

 

「もちろん、私が通る時の為の」

 

「そろそろ本気で殴るよセイアちゃん。それで?ミサちゃんはなんで急にこんなことを?」

 

 あ、これ怒ってる時のミカだ。

 

「先生が『ミカの耳元でこれを囁けばムラムラして子作り出来るよ!』って言ってたから……」

 

「なるほど、先生発祥か」

 

「またですか、先生も懲りないですね」

 

「ふーん?そっかー。ごめんねミサちゃん、ちょっと用事が出来たから待っててね?」

 

 そう言ってミカは立ち上がり、場所を入れ替える様に私を椅子に座らせる。

 

「えー、私も一緒に行く!」

 

「んー、出来れば一人の方が良いかな。代わりに良い子にして待ってたらご褒美あげるから」

 

「ほんと!?」

 

「うんうん、ついでにお仕事途中だったから代わりにやっててくれると助かるなー」

 

「わかった!じゃあ待ってるね!ミカ大好きだよ♡」

 

「うん、私も好きだよ。行ってくるね」

 

「いってらっしゃい♡あ♡これ新婚さんみたいだね♡えへへ」

 

 私の言葉を見事スルーして部屋を出て行くミカを見送ると、椅子に座り直す。

 

「じゃあ、ちゃっちゃっと仕事終わらせようか」

 

「……これ、体よく仕事を押し付けただけでは?」

 

「そうだね、ところでミサ私の頭を撫でて欲しいんだが」

 

「は?撫でて欲しかったら口より手を動かせよ」

 

「飴と鞭が絶妙だ」

 

「ちゃんと撫ではするんですね……」

 

 そんなこんなで雑談を挟みながらも《ティーパーティー》の仕事を進めていると、スマホから通知音が鳴り確かめると、先生からモモトークが来ていた。

 

『たすけt』

 

 また生徒にセクハラして修羅場にでもなってるのだろうか。生憎、今日は仕事があるしミカを待っていなきゃいけないので『がんばれー』とだけ返しておいた。

 

 今日も平和だなー。

 

 




光園ミサ(メス堕ちの姿)
なんやかんやあって完全にメス堕ちしたミサ。今まで抑えられてた分愛が溢れてる。ミカの子供が欲しくて何度もおねだりするがその度に玉砕してる。たまにヘラったりヤンだりするけど、ミカとえっちすると忘れる。

聖園ミカ
ミサが引くとミカが押すが、ミサが押すとミカが引く。ミサともっとイチャイチャしたいとは思っているが、エデン条約編で掛けた迷惑の分を償ってからが良いと思っている。それはそれとして、ミサに変な事教える先生には怒る。夢のミカは優等生に擬態した腹黒ヤンキーみたいな感じ。えっちするときは優しそう。

桐藤ナギサ
お仕事中だったのでまともな方のナギサ(当社比)。ミカが常識の範囲内でツッコミをこなしてくれるお陰で負担が少なくて助かっている。夢のナギサは冷徹な委員長みたいな感じ。たぶんS。

百合園セイア
ミサが居ると暴走しがちな変態FOX。頭を撫でて貰っている時、ドサクサ紛れでおっぱいを吸おうとするが毎回失敗する。本人は体が母親を求めてしまうんだ、と供述している。夢のセイアは物腰柔らかい少年。えっちするときは豹変してドSになるタイプ。

先生
変態。


実は後半部分書くか迷ってたけど、みんながここすきしてる場所見たら、イチャイチャシーンばっかりだったから、じゃあいっかぁ!ってなった。
次はエデン条約編書いてくよー。ようやく起承転結の結に入れる!


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エデン条約編
先生の話


いつも感想ありがとうございます!

前言った通り、今回からエデン条約編に入って行きます!50話過ぎてようやく……!

ところで、一言しか喋ってない先生のこと察してる人多すぎて大草原。


 

 この世界が『ブルーアーカイブ』だと気付いたのは、今から36万……いや1万4千年前だったか。ごめん、嘘ついた。リンちゃんの顔見た時だわ。

 

 目が覚めたら列車の中にいて、見覚えのある青髪の美少女がこれまた聞き覚えのある語りを挟んでいて、もう一回目が覚めたらリンちゃんの顔が目の前にあったから「あ、これ転生……いや転移?どっちでもいいか」なんて一周回って妙に冷静になったものだ。

 

 どうやら見た目は前世準拠らしい。どうせなら漏れなく顔面レベルの高いキヴォトス人になってみたかったが、まぁでもシャーレの先生なら色んな生徒と合法的に触れ合えるし、これはこれでアリ。

 

 目下の目標として、まずはエデン条約編だね。私の最推しちゃんをこの目で一目、いや千目見るまでは死んでも死にきれない。

 

 かくしてキヴォトスでの先生業が始まったのだ。ここに来るまで長かったなぁ。シロコの匂いを嗅ぐためにわざと遭難したり、アリスの裸を堪能する為に目を限界までかっぴらいたり、イオリに足を舐めろと言われたから全力でしゃぶったり……。え?変態?何をバカな、これも世界の為だよワトソン君。それに他の先生だって同じ状況なら同じ選択をするさ。たぶんね。

 

 今回の話はトリニティの生徒会《ティーパーティー》からの要請で始まる。一応、「アビドスで支援してあげたよね?借りを返してね?」という建前での要請だが、別にそんなもの無くてもホイホイついて行っちゃいますよ!

 

 そんなこんなでトリニティ自治区へ降り立った私。さて。

 

「トリニティ総合学園ってどこだろう……なーんてことにはならないさ!」

 

 アビドスやミレニアムの例に漏れずクソ広い自治区ではあるが、トリニティのおおよその位置関係は設定資料集で見たから頭に入ってる。

 

「へい、アローナ」

 

『アロナです、先生。どうされましたか?』

 

「周辺の地図出せる?」

 

『それくらいならお安い御用です!むむ……えいっ!』

 

 お安い御用と言いながら力んじゃうのかわいいね。シッテムの箱のメインOSであるアロナに地図を表示してもらい、方角を確認する。

 

「ふむふむ、あっちが北ね。じゃあ学園はあっちか」

 

 駅前と繁華街を挟んで向こうの中央区だから地味に遠いね。途中まではバスを使った方が良さそう。ってなったらバスが止まります。じゃけん歩いて行きましょうね~。

 

『お客様、大変申し訳ございません。ただいまトラブルにより―――』

 

 知ってた。待ってても仕方ないし、ちゃちゃっと移動しちゃおう。ここにいても彼女に会えないしね。

 

 

 

 しばらく繁華街を歩いていると『なんだか疲れて来たな』と感じた。言われて見ればそうかもしれないし、いやまだまだ行けるような気もする。という事はそろそろかな……。私はおもむろに近くに止めてあった車の陰に隠れる。

 

『あれ?先生?急にどうしたんですか?』

 

「ん。たぶんそろそろトラブルが来るからね」

 

 そう言った直後だった。どこかの不良生徒達が銃を乱射し始めた。私は丁度車に隠れてたので傷ひとつ無い。

 

『わわわ、すごいです先生!これも先生が言ってた"げんさく"っていうモノなんですか?』

 

「そうだよ~。よく覚えてたねー偉いよアロナ」

 

『先生をサポートする者として当然です!とはいえやはり信じがたいですね。先生に前世の記憶があるなんて』

 

「そうかな、そうかも」

 

 アロナはちょろ……純粋だから信じたけど、普通は頭のおかしい奴だって思われるよねぇ。アロナにはシャーレで活動し始めてすぐの頃に、「私って前世の記憶あるんだ~」って伝えた。アロナも最初はびっくりしていたが『先生が言うなら!』とすぐに信じてくれた。ちょろかわいいね。

 

『……銃声、止みませんね』

 

「んー、でもそろそろ来ると思うよ?」

 

『えっ?』

 

 そのときだった。私が隠れてる車の上に、白いトリニティの制服を纏った少女が降ってきた。膝裏まで伸びた長いピンク髪と頭に二つのお団子。身長はホシノより1cm低い144cm。特徴的なのはバカでかい重機関銃(MG)を右脇に抱えてる事だろうか。それと青いヘイロー。まぁ、ヘイローについてはまた後で。月の様な銀の瞳は目の前で暴れてる不良達に注がれていた。

 

 き、き、キタァァァァァァ!!ミサちゃおほぉぉぉぉぉぉぉ!!きゃわいいいいいいいいいいいいいいいい!!!んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

「えへへ、もう死んでもいいかも……」

 

『ええ!?何言ってるんですか先生!?』

 

 そんな私を意にも返さず、ピンク髪の生徒(光園ミサ)は跳躍して銃を構えると……相手集団へそのまま叩きつけた。初手EXですか、やりますねぇ!

 

 不良生徒達は急な襲撃者に動揺するも、直ぐ様立て直し少女に向かって銃を撃つが―――当たらない。少女は、自身に向かう銃弾の雨を当然の様に回避し、殴ったり蹴ったりで一人一人確実に沈めていく。銃弾でも結構当てないと倒れないキヴォトス人を、一発で気絶させるパンチって威力やばいねかわいい。その荒々しさから、誰が呼んだか黒ミサ。後から考えると洒落にならないあだ名だったな。

 

 ゲームだと確か戦闘パートに移って普通に銃使ってたけど、全く使わないね。いや、銃使っても無双状態なのは変わらないけど。

 

 ネルやホシノもそうだけど、接近したら割とホイホイ格闘振るよね。やはり近接戦において格闘できるのが最強の秘訣なのだろうか。

 

 そんなことを考えている間に戦闘が終わっていた。接敵から僅か十秒の出来事である。

 

 地面に沈んだ不良達を尻目に、少女はスマホを取り出すとどこかへ連絡を掛ける。

 

「……もしもしハスミ?こっちで暴れてた不良片付けたから人寄越して貰える?それで次はどこに向かえばいい?うん、了解。じゃあこっちはそのままにしとくから」

 

 少女はスマホを左肩から下げてるバッグにしまうと振り返り、私を見た後そのまま跳躍してどこかへ去って行った。ジャンプ力ぅ……ですかね。

 

 あぁ、顔が良すぎる、かわいい、しゅき♡

 

 今回のお話は、エデン条約編1章の1話に当たる。彼女、光園ミサはこのエデン条約編で最初に出会う生徒だ。銃撃戦に巻き込まれた先生の元へ颯爽と現れ倒した後、こちらへ振り向くスチルが挟まり去って行く。この振り返りスチルがまた素晴らしくて!幼さを残したかわいい顔に凛々しさが同居していて「ああ、かわいいとかっこいいって同時に存在し得るんだ」って思ったね!

 

 当時、初っ端からスチルが挟まれるとは思いも寄らず、この振り返りミサに脳を焼かれた者も多い。ちなみにだが、ゲームではミサとはこれが初対面ではなく、エデン条約編実装直前のイベントが初顔合わせである。正実、《正義実現委員会》のイベントで、恒常星3で実装されたのがミサだ。

 

 これもまた当時の情報ではあるが、実装当初ミサは不人気だった。EXは倍率が400%程度で、そのくせコストが4もある。しかも範囲が狭い。さらにタンクとしても見ても「ツバキでよくね?」されてしまった悲しき生徒である。

 

 絆ストーリーでも呼び出せば終始不機嫌そうで、話し掛けても「……なに?」と嫌そうに返事をする。そして先生を睨みつける。とまぁ生徒は先生ラブ勢がいい先生方には刺さらなかった模様。ガチャを引いたのは、私みたいに見た目かわいいから引く勢と石余らせてるからとりあえず引く勢ぐらいか?ちなみに私は固有3まで引いた。

 

 その結果、エデン条約編で阿鼻叫喚の嵐となった。そうなったのはエデン条約編のミサが魅力的なのもあったけど、最大の理由はエデン条約編4章クリアで超強化されたのである。あまりのヤケクソ強化に引かなかった勢が発狂し、ほぼ炎上していた。まぁ、4章実装直前にこれみよがしに復刻してたのに引かなかった方も悪いが。

 

 ちなみに今どうしてるかというと。

 

「送って貰って悪いね、マシロ」

 

「いえ、ついででしたので」

 

 正実に学園まで送って貰いました。ゲームでは次の2話ではもう学園までワープしてたからね。このまま歩いて行こうか迷ってたところに、暴れていた不良達を引き取りに来た正実の車に事情を説明して乗せて貰った。

 

 そういえば、マシロとも顔合わせしたのは正実イベだったはずだけど、この世界ではどうなってるのだろう。ゲームでもよく時空が歪むので、正確な時系列までは把握してないんだよね。

 

 マシロにお礼を言って別れ、学園を進む。……学園の外も広いが、学園の中も広いな。偶に思うけど、生徒が迷子になったりしないのだろうか?迷子になりそうになりながらも、なんとか《ティーパーティー》の校舎まで辿り着く。ミレニアムもそうだけど、校舎一棟丸ごと生徒会が使ってるってすごい。

 

「お待ちしておりました、シャーレの先生。こちらへどうぞ」

 

 校舎の入り口には、《ティーパーティー》の生徒であろう白い制服を着た少女が待っていた。あ、この子条約式典のスチルに居たかわいい子だ。あの睨み合ってるスチル好き(隙自語)。

 

 ―――コンコンコン。

 

「ナギサ様、シャーレの先生をお連れしました」

 

 《ティーパーティー》の生徒はドアを開けると、中へ入るよう促す。

 

「……失礼します」

 

 中に入ると学園を見渡せるテラスまで案内される。おっと、エデン条約編の先生は聖人かって言うレベルで真面目なので、彼女たちに会う前に5割増しくらいキリッとしておこう。

 

「お待ちしてました、先生。申し訳ありません、本来ならば直接お出迎えするべきだったのですが、今少々立て込んでおりまして」

 

「全然大丈夫だよ」

 

 そこに居たのは三人の少女。一人はプラチナブロンドの少女。そして、ピンク髪の二人の少女。あっ(尊死)。

 

「(……ミサちゃん、いきなり気絶したけどホントに大丈夫かな)」

 

「(呼んだのミカ様ですよ、んっ)」

 

「(まぁ、そうなんだけど……)」

 

 ハッ、いけないいけない。あまりの尊みに浄化されてしまった。こちらを不安そうに見ている金と銀の視線。瓜二つの外見を持つ二人。違うのは目の色とヘイローぐらいだろうか。しかし、どちらもヘイローの色がピンクだから、パッと見では分かりにくいかもしれない。さらに言うなら繁華街で会ったミサともそっくりなので、当初三つ子説があったのは今でも覚えてる。まぁ、苗字が違うからすぐ否定されたが。なお、めげずに生き別れの三つ子説を推す者が居た模様。

 

 そもそも、ここにいるピンクヘイローのミサと青いヘイローのミサが同一人物という考えすら無かった当時である。感情によってヘイローが変わるのはシッテムの箱のアロナだけだったから、まさか普通の生徒であるミサのヘイローが変わるなんて思い付かないだろう。そんなわけで、《ティーパーティー》にいるミサは双子の妹説があった。直前にモモミド見てるし、性格も不機嫌で怒りっぽい青い方と冷静なピンクの方なんて呼ばれ方もして、あっ双子かぁと思い込んだ先生も多い。なんだったら立ち絵も堂々と立つ青い方と自信無さげに手を胸に置くピンクの方と混乱を助長させている。

 

 思い返せば、徹底的にミスリードを誘発させて誤認させてたんだなぁ。同一だって判明するまでピンクの方は名前呼ばれなかったし……ん?待てよ?まさか判明シーンのアレ私がやるの!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?

 

「ええっと、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だよ、ごめんね話を中断させちゃって」

 

 おっと、また思考で意識が逸れてしまっていた。えっと、自己紹介だっけ?

 

「私がシャーレの先生、支倉かなえ。よろしくね?」

 

 そういえば前世の名前そのまま名乗ってるけど大丈夫かな、大丈夫か。

 

「では支倉さん」

 

「あ、先生でいいよ。他の子もそう呼んでるし、こっちの方が馴染みやすいだろうから」

 

「……では先生、私は桐藤ナギサでこちらが」

 

「聖園ミカだよ。よろしくね、先生☆……いやーそれにしても報告で聞いてたよりも癖が強そうな感じが」

 

「ミカさん、失礼ですよ」

 

「だってさぁ」

 

 うむ、心当たりが多すぎて困る。

 

「はぁ、それでは早速本題の方なのですが」

 

「ええ?ナギちゃん、それは話題の転換が急すぎない?もっとこうさ―――」

 

 ピンク髪の少女、聖園ミカとプラチナブロンドの少女、桐藤ナギサが幼馴染同士でイチャつき出したのでチラッとミサを見る。……なんでこのシーンでヘイローがピンクなのかと思ったら、そういうことかぁ。ナギサからは見えない位置でミカの手がミサのスカートに伸びていた。なにやってんだミカァ!もっとやれ!!んほぉ、唯一の公式百合ップルたまんねぇ!もっとドロドロでねちょねちょしたの見たいです(真顔)。

 

 なんて思ってたら、ミサと目が合った。確かここの選択肢は……。

 

 ミサに向かって両手でハートを作る。届け、私の愛!

 

「……」

 

 すごく気持ち悪いものを見る目で見られた。へへ、ありがとうございますっ!レアな表情差分ゲットだぜ。まぁ、ほぼ初対面でハート送られたらそうなるよねっていう。ちなみにもう一つの選択肢は『手を振る』。こちらを選ぶと無視されるだけ。

 

「どうしたの?」

 

「……いえ」

 

「そう?」

 

「はぁ、仕方ありません。ミカさんの言う通り、少し話しましょうか。先生、何か聞きたいことなどはありますか?」

 

 うんうん、私の愛が暴走する以外原作通りに進行してるね。

 

「貴女達がトリニティの生徒会長達、で合ってるんだよね?」

 

「ええ、そうです。他の学校では無い制度だそうで馴染みが無いでしょうが、私達が生徒会長です」

 

「あ、この子は違うよ?私のお付きというかお手伝い?」

 

 ミサは軽くお辞儀をするだけで、会話に参加する意思は無いようだった。ミサの声もっと聞きたいなぁ。まぁ、後で死ぬほど聞く機会あるけど。

 

「まず、先生はこの学園の成り立ちをご存じでしょうか?」

 

「うん、トリニティに来る前に資料で読んだよ。複数の学校の集まりだっけ?」

 

 設定資料集もトリニティの過去編小説も読み込んでます!うへへ、トリニティ過去編の長編映画は最高でしたね……。TVシリーズのエデン条約編ももちろん良かったけどね!!

 

「はい(おおむ)ね、そういう認識で大丈夫です。……そうですね、少し歴史の勉強としましょうか」

 

「うーん……まぁ、大丈夫かな」

 

「?」

 

 ミカは少し考える様にミサを見るが、当の本人は分からず首をコテンと傾げる。あ、かわいい(心停止)。

 

「かつて、この学園がトリニティと呼ばれる前の話です。多数の派閥に分かれ、争っていた時代がありました。長きに渡って戦いが続いていましたが、人々が傷つき倒れる、そんな悲しい争いを終わらせようと立ち上がった者たちが居たのです。それが第一回公会議です」

 

 つまり、コビーしたんだね。

 

「その時色々あったけど、それは今回の話には関係無いから端折るね」

 

 なんでそんな大事な所をはしょったんですか?まぁ、ミサに聞かせない為だけど。

 

「そんなわけで、その公会議に集まった代表が私達パテル派とナギちゃんのフィリウス派、それともう一人の生徒会長、セイアちゃんのサンクトゥス派だね。その時の伝統で一つの学園になった今も、それぞれの派閥から代表を選出して、生徒会長を務めることになったんだよね。で、三つの派閥の代表を指してトリニティってわけ」

 

「本当はもう一つ別の意味があるのですが、まぁそれこそ今回の件に無関係なので置いておきましょう」

 

 なんでそんな一番重要な所置いちゃったんですか?ミカは分かるけどナギサ様が置いとく理由が分からねぇ。伏せられた所、悉くアリウスとユスティナとミサが関係してるから伏せられたんだろうけど。くぅ!大人の事情過ぎる!

 

 そして、「え?何の話?」と頭にクエスチョンマーク浮いてるミサかわいいね!

 

「そんな伝統ある我が校ですが、近く迫った重要な行事を目の前にある問題が発生しまして」

 

「ぬるっと本題に入ったね、ナギちゃん」

 

 あまりにも自然すぎて、自然になっちまった。

 

「先の試験で成績不良者が4人も出てしまったので、先生には彼女達の為に《補習授業部》の顧問をお願いしたいのです」

 

 お、ゴミ箱か?ヒャッホォーウ!!

 

「それくらいなら、お安い御用だよ」

 

「ありがとうございます。では、こちらにリストがあるのでお願いしますね」

 

 ミサがこちらに来ると、封筒を手渡してくる。

 

「どうぞ」

 

 きゃわ。ロリヴォイスが五臓六腑に染み渡るぅ↑。ミサから受け取った封筒の中身を見ると、いつもの《補習授業部》の面子だった。ここが変わってたらどうしようかと思ったよ。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「ううん、この子たちに勉強を教えてあげればいいんだよね?」

 

「はい、お願いします」

 

 早速会いに行くからと、まだミカミサを眺めていたい気分を無理矢理押さえつけ、移動する。最初はやっぱりファウストかな。

 

『あ、先生、ちょっといいですか?』

 

「アロナの方から声掛けてくれるの珍しいね。どうしたのアロナ?」

 

『いえ、未来が分かってるとのことでしたが、先生は未来を変えるために動かれるのかなって』

 

「うーん……」

 

 結構難しい質問来たな。エデン条約編の結果を良くしようと動くと、後々色んなことに支障が出るんだよなぁ。そもそも今回のストーリー、相当人間関係が複雑骨折してるので下手にいじくると悪い方へと転がりかねない。最初、ハナコのやる気を早めに出させる方向を考えていたけど、それやるとミサを迎え撃つ場所が変わりそうなんだよな。出来ればアズサが罠仕掛けまくった合宿所で迎え撃ちたいから、これはボツ。

 

 次に3章だけど、《補習授業部》はみんな役割があるし、《救護騎士団》は団長不在、《正義実現委員会》の主力は式典の警護で聖堂に集まる。《シスターフッド》も同様。ミカは動かせないし、ミサにもやって貰うことあるし、3章はまず私がちゃんと動けるかどうかだしなぁ。

 

 となると4章……そこまで行ったら、もう原作通りに着地させるしかないんだよ。

 

「結論から言うと、原作通りに進めるかな。原作から外れそうになったら修正する感じで」

 

 すべてのイベントが、未来に影響を及ぼし過ぎててあまりにも完成されすぎてる。合宿での時間だって《補習授業部》のみんなには必要だ。この時間があったからこそ、ハナコが動く切っ掛けになったし、アズサは立ち上がったし、コハルはいい子になった。ヒフミ?あーうん。

 

『分かりました、先生がそう決めたなら私は全力でサポートします!』

 

「うん、頼りにしてるよ」

 

 まぁ、サオリに撃たれる覚悟はもう決めてますけど。とりあえず、エデン条約編はあの子のサポートをしつつ状況を見守ろう。

 

「というわけで、よろしくファウスト」

 

「えぇっ!?」

 

 はぁ、早くミカミサのイチャイチャが見てぇ。

 

 




シャーレの先生
満を持して現れた(たぶん最後の)やべーやつ。キヴォトス、とりわけトリニティについてすごく詳しい。なんでだろうなぁ()。

光園ミサ
ゲームの先生を知ってるのですごく警戒してる。諜報部隊の報告は聞いてたけど、実際会ったら気持ち悪すぎてドン引きした。


ちょくちょくR-18版熱望されててお草生えますわ。私そんな熱望されるような出来で書けてるつもりが無いから余計に。とはいえ、書いて欲しいと乞われたら書くしかあるまい。飼い主として世の変態さんたちにはエサあげないとね。


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正実イベントの話

いつも感想ありがとうございます!

R-18の方も更新しましたので気になる方はどうぞー。

前回に引き続き先生視点です。


 

 さて、無事に始動した《補習授業部》。特に何の障害も無く、1回目の試験も無事不合格になった。誤差ではあるが、ヒフミがゲームよりも若干点数が良かったので、少しドキドキした。コハルがバカで助かったぜ!

 

「―――ここが、合宿に使う校舎です。物は一通り揃えてありますが、何か必要であればご連絡ください」

 

 かわいいミサに連れられて合宿所に来た私達。ゲームでも思ってたけど、いくら使って無いとはいえ校舎一つ貸し出すの気前良すぎでは?

 

「それじゃあヒフミ、くれぐれもお願いね?」

 

「は、はいっ」

 

 この会話はアレだろう。"トリニティの裏切り者"探しの件だ。ここに当事者二人いるけども。

 

「……」

 

「……っ」

 

 その当事者達は意味深に見つめ合ってる。これをハナコに見せる為の黒幕ロールプレイの一環かと思ったら、ただの天然だったという。『セイア襲撃の日に見た子だ』って見てたら、ハナコに深読みされるのはミラクルすぎる。たまにバカになるミサかわいいね。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「……いえ、なんでもありません」

 

「……そうですか」

 

「では、試験頑張ってください。特に浦和ハナコ」

 

「あれ?どうして私を名指しするんです?」

 

「別に、真面目に試験を受けてくださいと言ってるだけですよ」

 

「私は真剣にやっているつもりなのですが……善処しますね♪」

 

 唐突に天才同士でバチバチしてる……。圧縮言語で腹の探り合いするのやめようよー。

 

「それでは失礼します」

 

 そう言ってミサはトコトコと帰って行った。……なんだろう、私の記憶だとミサはよく飛び跳ねてるから、普通に歩いてるのなんか新鮮だ。ところでヘイローちゃんピンクのままだったけど、ミカにイジメられた状態で来たの?

 

「それじゃ、中に入ろっか?」

 

 

 

 中は綺麗に清掃されていた。試験勉強に集中できるよう、ミサが予め手を回してくれていたんだろう。こちらのサポートに余念が無いのに、黒幕ムーブでゲーム内でもリアルでも混乱させるのひどい幼女だ。まぁ、この話は3章に入ってからでいいか。

 

 とりあえず、この《補習授業部》のイカれたメンバーを紹介しよう!

 

「これだけ綺麗なら、すぐに勉強できそうですね!」

 

 №1!阿慈谷ヒフミ!生粋のアウトロー!試験日にボイコットして補習になったやべーやつ!

 

「ふむ、立地的にも防衛向きの建物だな」

 

 №2!白洲アズサ!襲撃犯!ナギサ様、ピンポイントで犯人当てるの何か能力とか持ってません?

 

「あらあら、コハルちゃん。今からえっちなお勉強が始まるみたいですよ♪」

 

 №3!浦和ハナコ!トリニティ総合学園きっての才女!トリニティのドロドロが嫌になって、何故か痴女ムーブしだしたやべーやつ!だが、ハナコよ。君が思っているより上層部、とりわけ《ティーパーティー》は愉快な変態集団である。

 

「な、何言ってるのよハナコ!?そんな勉強なんて始めさせないわよバカ!?」

 

 №4!下江コハル!ただのバカ!以上!

 

 そんなこんなでスタートさせた合宿だが、勉強しすぎて頭から湯気が出てるコハル以外大丈夫そうだ。急な環境変化は体調悪くなる子もいるからね。

 

「あの、提案があるのですが」

 

「ハナコ、どうしたの?」

 

「プール掃除しませんか♪」

 

 要約しすぎてて伝わりづらいが、つまり気分転換しようということだろう。やったー!スクール水着スチルだー!

 

「うん、勉強ばっかりだと気が滅入るだろうし、気分転換にいいね」

 

「プール掃除か。足腰を鍛える良い訓練になる」

 

「ハナコ、あんた何企んでるわけ?」

 

「おや?何も企んでなんかいませんよ、コハルちゃん♪」

 

「ウソ!絶対変なことするつもりでしょ!?」

 

 気持ちは分かるが、ホントに企んで無いんだよね。……あっ、そうだ!

 

「コハル、ハナコはコハルが疲れているだろうからって気分転換を提案したんだよ」

 

「え、そうなの?」

 

「せ、先生?私がそんな事するわけ無いじゃないですか」

 

「うん、ハナコは良く周りを見て気を遣ってくれる優しい生徒だからね」

 

「ちょ、先生!?」

 

 これぐらいの原作ブレイクは許してくれるだろう。ハナコハはいいぞ。

 

「あの先生、勉強は……」

 

「ヒフミ、気持ちは分かるけど詰め込み過ぎも効率が悪いから、一旦休憩にしよ、ね?」

 

「……確かに、そうですね!」

 

 

 

「おおー、みんなかわいい!」

 

 並び立つスク水美少女に感嘆の声を上げる私。くぅ!生きててよかったぁ!

 

「あ、あはは照れちゃいますね」

 

「動きやすいが、防御力に不安があるな」

 

「……」

 

「コハルもかわいいよ!」

 

 赤くなってモジモジしてるコハルに声を掛ける。へへっ、やっぱロリは最高だぁ……。

 

「あ、ありがとう……ってそうじゃない!なんで誰もハナコの格好にツッコまないわけ!?」

 

「あらあら」

 

「あらあら、じゃない!」

 

 今のハナコの格好?下着にシャツ一枚だね。え?水着?違うよ、アレは下着だよ。私が下着と思ってるから下着だよ。

 

「水着はどうしたのよ!?」

 

「実はさっき使った時に汗を掻いてしまったので」

 

「使う!?汗!?」

 

「代わりを、ってどうしたんですかコハルちゃん?」

 

「な、なんでもないわよ!?」

 

 すごい笑顔でコハルに詰め寄るハナコ。さっき褒められたから照れ隠しで痴女ムーブしてる。ハナコはそう言う事をする。

 

「でも、代わりの水着なんて持ってたのね」

 

「……」

 

「なんで何も言わないのよ!?」

 

「コハルちゃん、もしかしたら水着じゃないかもしれませんよ♪」

 

「え、水着じゃないって……そういうこと!?」

 

「ふふ♪さあ、どうでしょう?」

 

 遊ばれてるコハルはさておき。

 

「それじゃあ、これ掃除用具ね。はしゃぎ過ぎて怪我しちゃダメだからね」

 

 ヒフミとアズサの二人に道具を手渡す。

 

「あ、はい」

 

「先生は水着にならないのか?」

 

「……私はね、最近デスクワーク多かったからちょっとね……」

 

 こんなだらしない体を生徒に見せるわけには……!

 

 私はスーツの上着を脱いで、シャツの袖を捲る。

 

「よーし!掃除やるぞー!」

 

「お、おー!」

 

「おー」

 

 あーこの空間、心が癒されるー。しばらくはゆっくりできそう。

 

 

 

 そう思ってた時期が私にもありました。

 

『先生』

 

『今日お時間よろしいでしょうか?』

 

『少しご相談したいことがありまして』

 

 二日目の朝の事だった。《補習授業部》の面々に今日の勉強範囲について話した後、見覚えのある文面でハスミから連絡が来た。

 

 これ、ミサが実装された時の正実イベの冒頭文じゃん……。え、今からやるの?この後のスケジュールめっちゃタイトなんですけど?とはいえ行かないわけにもいかないので、ヒフミに部を任せて《正義実現委員会》に赴く。

 

「先生、《補習授業部》でお忙しい所ありがとうございます」

 

「ううん、大丈夫だよ。それより、どうしたの?」

 

「実は、最近街で暴徒が増えているのですが、どうも怪しい動きをしてましてこれから鎮圧に動くのですが、先生にはその手伝いをお願いしたのです」

 

 あー、やっぱりかー。このイベント、大体ミサが解決するんだよね。じゃあ、どういうイベントなのかと言ったら、本編での"ミサの強さ"の伏線というね。特に2章と4章で大いに関わってくる。そもそも、ミサが強い事を同じ3年生組は知ってるけど、2年生組や1年生組は『噂は聞くけど見たこと無い』という子が多い。さらに強い事を知っている3年生組も、どれぐらい強いかは分かっていないのだ。ミカ以外だと、知ってるのツルギとミネ団長くらい?ハスミはツルギを抑えられるのは知ってるから、ある程度強いのは分かってそう。

 

「わかった、私はハスミに付いて行けばいい?」

 

「はい、お願いします。すぐに出発しましょう」

 

 そう言うハスミに付いて行くと車庫のような場所に来た。車両に寄り掛かる生徒はこちらに気付くと声を掛けてくる。

 

「お疲れ様です、ハスミ先輩。あれ、先生?」

 

「マシロ、今回の件に先生も同行してもらうことになりました」

 

「よろしくね」

 

「そうだったんですね、よろしくお願いします」

 

 挨拶もそこそこに車に乗り込むと、出発する。運転は正実モブちゃんだ。

 

「そういえばツルギは?」

 

 車内でさも今思い出したかのようにハスミに聞く。

 

「彼女には別方面から追ってもらっています。私達は怪しい動きをしている者を直接制圧していきます」

 

 制圧するならツルギかイチカ、どちらかをこっちにした方が良かったのでは?まぁ、イチカの登場は2章からなんだけど。

 

「あっ」

 

 窓の外をピンク色が横切った。

 

「どうしました?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 もう終わったんだ、早い。早すぎない?ゲームでは一応戦闘あったけど、移動だけで終わりそうだよ。

 

「ここですね」

 

 どうやら現場に到着したようだ。街中にある雑居ビル前に車を止め、降りるとハスミ達は銃を構える。

 

「マシロ」

 

「はい」

 

「先生は指揮をお願いします」

 

「任せて」

 

 ハスミが先頭に立ち、扉を蹴り開ける。わー、豪快。

 

「《正義実現委員会》です!おとなしく……え?」

 

 ハスミが素っ頓狂な声を上げる。それはそうだろう、これから制圧する予定の相手が既に全員倒されてるのだから。

 

「これは一体……」

 

「12.7mm弾が壁に穴開けてますね。他に弾痕はありませんが、襲撃者はひとりでしょうか?」

 

「12.7mm?まさか、いや……」

 

 分かりやすく言うと50口径弾だ。大口径の銃を使用して、一人で20名近くを制圧できる生徒は限られるだろう。まぁ、ミサなんだけど。

 

「一先ず置いておいて、次の場所に向かいましょうか。倒れてる者たちは手の空いてるものに来てもらって、連行して貰いましょう」

 

 ハスミがパパっと指示を出して、私達は車に戻る。移動中、ハスミはずっと思案顔だ。あ、また外にピンク色が。

 

「どうしたの、ハスミ?」

 

「いえ、もしかしたら……と思いまして、想像通りだと先生に来てもらったのに申し訳無いですね」

 

「ハスミ先輩、襲撃者に心当たりが?」

 

「心当たりというかその……」

 

 口ごもるハスミ。最近、ミサにお願いして自治区内で暴れてた不良を制圧して貰ったばかりだもんね。心当たりなんてレベルじゃない。

 

 そんなこんなで路地裏に着くと、またもや既に倒された不良達。路地裏の壁や地面には打撃痕が残ってる。銃振り回せないからって即格闘に切り替えたね。

 

「……またですか」

 

「すごいですね、1発も銃が撃たれた形跡が無いですよ。つまり、自分も相手も撃たなかったってことですよね」

 

 相手に撃たせなかったってことは、撃つ暇すら与えなかったのだろう。普通にこわいよ。

 

「あ、先輩。こっちにまだ意識がある人が」

 

 マシロのところへ行くと、壁に寄り掛かったまま座り込んで動かない不良がいた。不良の顔の横には陥没した壁がある。

 

「あ……あくまが……」

 

 天使だぞ(全ギレ)。不良の股からは黄色い小水が流れていた。どんだけこわかったのよ。

 

「これでは聴取出来そうにありませんね」

 

「そうですね、それにしてもツルギ先輩みたいな人が他にもいるんですね」

 

「そ、そうですね」

 

 ツルギで慣れてるからか、特に動揺した様子も無く連絡を回す二人。

 

 次の場所への移動中もハスミは難しそうな顔をしていた。

 

「……ハスミ先輩、もう誰が不良達を倒して回ってるか気付いてますよね?」

 

「ええ、まぁ。ただ、あの人結構忙しい筈ですが一体なぜ……」

 

「ハスミ先輩?……聞いてませんね。先生はどうですか?」

 

「うーん、私の方は心当たり無いかな」

 

 まだミサの名前聞いてないからね。嘘は言ってない。

 

 というわけで着いた最後の場所。今回はピンク色とすれ違っていないという事は、彼女はまだここに居るようだ。

 

 ハスミ達と倉庫前に来ると、銃声と悲鳴が中から響いて来る。あ、暴れてますね。

 

「……ハスミか。そっちは終わったのか……?」

 

 後ろから聞き覚えのあるドスの効いた低い声。振り返るとツルギが立っていた。

 

「ツルギ、ええ。と言っても私達ではない誰かが先回りして全部片づけてしまったようですが」

 

「先回り……?」

 

 ツルギは騒ぎの聞こえる倉庫に目を向ける。

 

「……この銃声、ミサか」

 

「……やはりですか」

 

 ミサの銃は特徴的だからすぐバレるよねー。こう、ドドドドッ!って音がするし。

 

『たすけ、ヒィィィィッ!?』

 

 倉庫の扉が開いて逃げようとした不良が、向こうから伸びた手に掴まれ引き摺り戻される。恐怖映像かな?ゲームの時は文字だけだったけど、実際見ると怖すぎでは?というか、ミサ屋内Dなんだけどな。

 

 すると、今まで騒がしかった倉庫内の音がピタッと消える。終わったね。

 

「―――ふぅ……ってあれハスミとツルギ……と、あんたは……」

 

 倉庫から出てきたミサは、私を見た途端嫌そうな顔になる。今日は青ヘイローだから黒ミサちゃんだね。

 

「来ていたんですね、ミサ様」

 

「ああ、この前ハスミの手伝いをしたとき、コソコソ動いてる連中を見かけたからな。事が大きくなる前に、と思ったんだが……ハスミ達が動いてたんなら要らん気遣いだったな」

 

「いえ、助かりました。ありがとうございます。マシロ、中の者たちの拘束お願いしますね」

 

「了解です」

 

「……ミサがいたなら、私は必要無かったな」

 

「そうでもない、ツルギがいたの知ってたらオレも動く必要無いと思ってたしな」

 

「そ、そうか……」

 

 わいわいしてる3年生組に割って入るのは心が苦しくなるが、グッと堪えて話しかける。

 

「……なに?」

 

 かわっ。こちらを見上げて睨むミサに魂が浄化されかけるが、何とか耐える。

 

「えっと、はじめまして」

 

「悪いけど、オレはあんたと話すつもりは……」

 

「ミサ様、そういうこと言ってるとミカ様に報告しますよ。ミカ様に『ミサちゃんが変なことしたら教えてねー』と言われているので」

 

「ぐっ、それは卑怯だろ。……光園ミサ、3年」

 

 むすっとした不機嫌な顔で、渋々と言った風に自己紹介するミサ。あ、その顔好きもっとして。

 

「私は、シャーレで先生をしています」

 

「知ってる。でも、オレはよろしくするつもりは無いから」

 

 えへ、かわいい。差し出した手はすげなく無視される。ミカが私に取られるかもしれないから嫉妬してるんだよね。可愛すぎる。

 

「それにしても、3年生だったんだ」

 

 ホシノ、ヒナ、ネルと続いて強いロリ。しかも、みんな3年生なんだよね。

 

「はぁ!?小さくて悪かったな!……ふん、ミカは小さくてかわいいって言ってくれるから良いもん」

 

 ブハッ!

 

「せ、先生!?」

 

 まずい、不意打ちでてぇてぇを摂取しすぎて鼻血を噴き出してしまった。くっ、今のは反則過ぎる可愛さだろ!

 

「えぇ……きも」

 

 ゴハァッ!

 

「先生!?口から血が!」

 

 しまった、鼻から逆流した鼻血を口から吐き出してしまった。やばい、生ミサの破壊力がえげつない。このままでは尊死してしまう。

 

「ミサ様!至急、先生を騎士団のところへ!」

 

「え、オレが連れて行くのか?」

 

「ミサ様が一番速いでしょう?」

 

「……」

 

 渋々ながらミサは私を人差し指と親指で摘まんで持ち上げる。力強いの可愛いね。

 

「はぁ、ここで死なれるのも迷惑だから、一応《救護騎士団》まで連れてってやるよ」

 

 優しい。ミサは私を担ぐと、あ髪の毛良いにおい……、一歩目で一気に加速する。急激に変わる景色。二歩目で飛び上がると建物の屋上に着地する。そのまま、ぴょんぴょんと建物を飛び移り、気が付けば一瞬で学園まで戻って来ていた。

 

「セリナ、いるか」

 

「はーい、どうしましたミサ様……って先生!?」

 

「なんか急に鼻血噴いて吐血したから治しといて」

 

 ポイっとセリナに投げ渡される私。扱いが雑で助かる。

 

「セリナ、迷惑掛けてごめんね?」

 

「いえ!先生を治療するのは私の役目ですから!」

 

「じゃ、あとはよろしく」

 

「お任せください!」

 

 やること終わったと言わんばかりに、サッと消えていなくなるミサ。

 

「吐血は鼻血が逆流しただけだから、私もある程度休んだら《補習授業部》の所に戻るよ」

 

「では、軽く診察したあと点滴打っておきますね」

 

「おねがーい」

 

 この後、ミカとの密談と試験会場爆破と襲撃かー。中々につらみ。でもエデンは確実にハピエンに入らないとキヴォトス滅ぶからな。頑張るか。

 

 

 




先生
ミカミサ百合カップル推し。てぇてぇが許容量を超えると鼻から溢れる。なお、ミサに関してはちょっとアンジャッシュ気味。お互いに転生のこと知らないから仕方ないね。

光園ミサ
急に鼻血を噴く変態に会ってしまった。ドン引きして罵倒すると吐血した。これにミカが惚れるのかと思ったら悲しい気持ちになった。ヒフミの点数が若干良いのは、ナギサの所にお茶しに来ていた時に、ミサが勉強教えていたから。


エデン1章終わりまでちゃちゃっと進めました。カットされてる部分は大体原作と同じ。次はミサ視点。


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間違った選択の話

感想いつもありがとうございます!

遅くなったうえに今回短くて申し訳ない。



 

「……こんな所にもあった」

 

 手の中にある爆薬をバッグの中に詰め込んでいく。街中に仕掛けられた爆薬と起爆装置、おそらくエデン条約の調印式で使われるものだろう。かなり前から仕掛けてあったのか、今日までで十ヵ所以上だ。仕事の合間を縫って探しに来てるが、全然見つけられていない。

 

「……もうこんな時間か、一度戻らないと」

 

 腕の銀時計を確認すると、次の仕事の時間が迫っていた。とりあえず、今回見つけた分は起爆できないように解体しておこう。

 

 オレは次の行動を頭の中で組み立てながら、学園に戻った。

 

 

 

 離れた所から、ミカとアイツの密会を眺める。ミカは表情をコロコロと変えながら、アイツと話している。

 

 アイツ、シャーレの先生とは昨日以来だが、相変わらずへにゃっとしたムカつく顔をしている。昨日はいきなり鼻血を出した挙句、吐血までして《救護騎士団》に担ぎ込まれたが、ケロッとした顔をしているという事は、特段命に関わる様な事でも無かったのだろう。

 

 今は、ミカがアイツに《補習授業部》が発足された裏と、アズサの保護について話している所だ。ミカが照れたように顔を赤らめながら、先生に笑いかけてる。胸がズキリと痛んだ。ミカはあんな奴のどこが良いんだ。生徒の足を舐めるような奴だぞ。ミカがアイツに色んな表情を見せる度に胸がすごくモヤモヤする。

 

 アイツの方を見ると、へにゃっとした顔になったり真面目な顔になったりしてた。ふざけてるのかコイツ……。アイツの顔を見てるとムカムカしてくる。時間を見ると、結構時間が経っていた。そろそろいいだろうと、オレは二人の方へ足を向ける。

 

「ミカ様、そろそろお時間です」

 

 これ以上ここに居れば、他の派閥に見つかって面倒になる。ミカの立場を悪くさせるわけにはいかない。

 

「え、もう?うーん、残念。もう少し先生と話していたかったな」

 

 ミカのそんな言葉に思わずムッとする。オレには一度もそんなこと言った事無いのに……!

 

「じゃあ、先生。そういうわけだから、あの子たちのことお願いね☆」

 

「もちろん、言われるまでもないよ」

 

「……。そっかぁ、先生のそういう所が生徒からも信頼される理由なのかな。それじゃあね、先生☆」

 

 踵を返し、戻ろうとするミカの後ろに付いて行こうとすると、アイツに呼び止められる。

 

「ごめん、ミサだけちょっといいかな?少し、二人で話をしたい」

 

「はぁ?」

 

 その言葉にミカも足を止めて、オレを見る。

 

「ミサちゃん、知り合いだったの?」

 

「昨日、ちょっと。でも、ホントにそれだけだから!」

 

「ふーん?じゃあ、そこで待ってるからね」

 

「え、別に私は」

 

 話をするつもりは無い、という暇も無くミカは離れて、アイツと二人っきりにさせられてしまった。アイツは涎を垂らしそうな勢いでこっちを見ている。きもっ。

 

「……なに?」

 

「え?」

 

「だから、何の用かって言ってんの!」

 

 そう言うとアイツは苦笑して話し出した。

 

「まずは、昨日はありがとね。急に倒れて迷惑掛けちゃったね」

 

「……別に気にしてない。……話はそれだけ?だったら」

 

「ああ、ごめん!実はミサに一つ質問したくて!」

 

 アイツは慌てたように取り繕うが、原作にこんなシーンは存在しない。そもそも、光園ミサという生徒が存在しないのだから、当たり前だ。オレが存在する事で、原作とは違うことが起こっていることが怖い。そのことでミカの事を救えなくなるのが怖い。そんなことを誰にも悟らせないようにスカートの裾を握って耐える。

 

「それで、質問って?」

 

「うん、もし大切なものが二つあるとして、どちらかしか持てないってなったら、キミはどうする?片方を取ればもう片方は壊れる」

 

「はぁ?なにそれ、トロッコ問題?」

 

「んー、似たようなものかな」

 

 トロッコの進む先に分かれ道があり、どちらかを取れば、もう片方は取れなくなる。よく例えとして上がるのは、一を救えば、九を救えない、みたいな話が多かったと思う。

 

「そんなの、一番大切なものを選ぶに決まって……」

 

「そっか、じゃあ二つともキミの大切なミカだったら、どちらも一番大切ならどうしようか?」

 

「……は?」

 

 意味が分からない。どっちもミカ?ミカを取れば、ミカが壊れるってこと?いや、そもそも……。

 

「……こんなの、問題として成立するわけない」

 

「クイズじゃないからね、正解が欲しいわけじゃないんだ。……キミの答えはどう?」

 

「そんなの……」

 

 選べるわけが無い。質問の意図は分からないけど、二つの大切なものがどちらもミカなら、オレには選べない。アイツは、いつもの体を舐め回すような目ではなく、オレの目を真っ直ぐに射抜いており、思わずたじろぐ。

 

「ごめん、意地悪しちゃったね。答えは今すぐじゃなくてもいいから、また次の機会があったら教えてくれる?」

 

「次?次の機会なんて……」

 

 アイツは離れてたミカを手を振って呼ぶと、ミカはすぐこっちに寄ってきた。

 

「何の話してたの?」

 

「そんな大した話はしてないよ、ね?」

 

「……」

 

 本当に大した話はしてない。昨日のお礼と、意味不明な質問を受けただけだ。

 

「ふーん?そうなんだ」

 

 そのままアイツと別れ、ミカと戻った。オレの心に、モヤモヤしたものを残しながら……。

 

 

 

 次の日、コツコツと廊下にヒールの音を響かせながら歩いていると、突如視界が塞がれる。

 

「だーれだ☆」

 

「ミカ……まだ仕事が残ってるからあとにして欲しいんだけど……」

 

 視界を覆うミカの手を外して振り返ると、じっとオレを見つめるミカの姿。

 

「そんなに見つめてどうしたの?」

 

「……ミサちゃん、最近コソコソと動いてるみたいだけど、何してるの?」

 

 一瞬、驚きで体が反応しかけるも、寸前で無反応を装う。

 

「え?何の話?」

 

 オレがそう言うと、ミカの目がスッと細められる。

 

「ふーん……?あくまで知らんぷりなんだ?」

 

 ミカの手が伸びてきて頬に触れる。大丈夫、ミカはカマを掛けているだけだ。頬を撫でていた手が下り、首筋を撫で、さらに下へ。

 

「―――あんっ……!」

 

 ふにょんとオレの胸に触れる。思わず変な声が出て後ろに下がろうとして、後ろに壁がある事に気が付いた。

 

「……どうしたの?」

 

「あ、あの……」

 

 ミカの手は止まらず、両手を使ってオレの胸を撫でる。

 

「ん……!」

 

 優しく、全体を撫で回すようにミカの手は動くが、決してその頂点に触れてこようとはしない。もどかしくてつい私は自分の手を伸ばそうとするが、ミカにその手を取られ壁に押し付けられてしまう。さらに股の間に足を挟み、膝でアソコを擦り上げる。

 

「まっ、て……!ここじゃ誰かに―――んんんっ!」

 

 言わせないと乱暴に唇を奪われる。目の前がチカチカして絶頂が近づくと、パッと体を離された。私は力が抜け、ズルズルと座り込む。

 

「あ……え……?な、なんで……?」

 

「別にいいじゃん?ミサちゃんは私の都合の良いお人形さんなんだから、どうしようとも私の勝手、でしょ?」

 

 胸がズキッと痛んだ。

 

「……そう、だね」

 

「まぁ、どうしても続きをして欲しいなら、何をしてるか白状して欲しいな?」

 

「…………なにも……してない……」

 

「……そう。言う気になったらしてあげるから、じゃあね」

 

 そう言うと、ミカは踵を返し離れていく。小さくなっていくその後ろ姿を見送り、気が付けば私はボロボロと涙を流してしまっていた。

 

「うっ……ぐす……どうして……」

 

 苦しい。どうしてこんなことになってしまったのだろう。普通にミカと一緒にいるだけで良かったのに。

 

「……でも」

 

『ミサちゃんは私の都合の良いお人形さんなんだから』

 

 ……私はミカにとって、ミカの欲を満たす人形でしか無かったんだ。ズキリと痛む胸を押さえて、立ち上がる。

 

「……それでも、わたしは……!」

 

 ミカを魔女になんかさせたりしない……!たとえ私がミカの人形でしかないとしても、それは私がミカを諦める理由にはならない!だって、私が今ここに居るのは……!

 

「だから、今度は私がミカを守る番なんだ」

 

 試験最終日の前日、私がナギサを襲撃する。そして、《補習授業部》と戦う。本来、ミカが担うはずだった役割を、私が奪う。そこで負けて私が捕まれば全部終わりだ。ミカは……アイツがいればたぶん大丈夫だろう。

 

 それでいい、それでいいはずなんだ。なのにどうして……。

 

 

 どうして、こんなにも胸が苦しいの―――?

 

 

 

 

 

 

 ミサちゃんから離れた後、私は物陰で蹲る。

 

『うっ……ぐす……どうして……』

 

 泣いていた。ミサちゃんが。悲しみが、困惑が、繋がりを通して私に伝わってくる。

 

「ミサちゃん……」

 

 苦しい。胸が締め付けられる。でも、あの子を守る為にはこうするしかないと思った。大丈夫、もうすぐ、終わる。次の襲撃、きっと先生は私の思った通りに動いてくれる。渋るナギちゃんを説得して呼び寄せた、その甲斐はあったというもの。私が捕まっても、あの先生ならミサちゃんを悪いようにはしないだろう。

 

「ミサちゃん……ごめんね」

 

 きつく握った手から、血が滴る。

 

 

 私の手は血に塗れてしまったけれど、ミサちゃんだけは守るから―――。

 

 

 




光園ミサ
ミカの代わりに捕まろうとしている。ミカと先生が一緒に居るとモヤモヤする。

聖園ミカ
先生の行動を誘導して、次の襲撃で捕まろうとしてる。ミサの事を先生に任せようと思っているが、少し不安。ナギちゃん?自分がいなくなった弱みに付け込んでミサを誑し込むからダメじゃんね。

先生
苦しい。推し達の曇った顔を見るのが辛い。吐く。吐いた。それでもハッピーエンドの為に奔走する。


曇らせは心に悪いけど体にいいよ(適当)。今回の話は書く予定無かったけど、後々の話を考えると、入れた方が良いなってなったので入れました。曇らせになったのは陸八魔アルってやつのせいなんだ…()。




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誰かがしなければならない事の話

感想とここすきありがとうございます!

みんなのここすき見てたらニヤケ笑いが止まらない。

今回の話、本当は先週お出ししたかったんだけど、途中まで原作通りに進めて「いや、なんか違うなこれ。うちのナギサはこんなこと言わない」ってなったので全部消して書き直しました。ついでにミサの話を増やした。




 

「それでは、水着パーティーを始めたいと思いまーす♪」

 

 ハナコ……お前、合宿始まってから一番楽しそうな顔してるな……。

 

 私達は現在、突然の大雨と停電により着替えが無くなったので、ハナコの提案のもと水着で過ごすことになった。

 

「な、なんだかドキドキしますね」

 

「って、ハナコあんたなんでまたその水着なのよ!」

 

 ハナコはプール掃除のときに来ていた水着、もとい下着だ。

 

「あらー?」

 

「あらーじゃないわよ!?」

 

 それにしても昨日は大変だった。主だった理由はミカミサを眺める事だけども。ミカから内密で会いたいという連絡で赴き、そこで『アズサとミサを守って欲しい』と言われた。アズサはアリウスからのスパイであることが理由だが、ミサに関しては詳しくは教えることが出来ないと言うミカ。まぁ、私は知ってるけど。確かに、ミサの出自を考えると普通なら狙われてもおかしくはないよねーって。

 

 でも、ミサは黒幕ムーブでミカの身代わりになろうとしてるんだよね……。なんというすれ違い。《ティーパーティー》みんな自己犠牲大好きかよ。

 

 そこで、ふと思い出したので帰ろうとするミサを呼び留めて、質問をした。質問の内容は、エデン4章のあるシーンを早めに終わらせたいがための布石だ。ぐぎぎぎぎ……私がやらなきゃいけないのか……!私にミサを泣かせろと……!?苦しい、死ぬ。想像しただけで吐きそうだ。

 

「―――生、先生!」

 

「あ、はい。なんでしょう」

 

「なんでしょう、じゃないわよ!急に床をのたうち回ったの先生じゃない!」

 

 どうやら奇行に走ってしまった(いつものやつ)らしい。前世でも良く同僚に呆れた目で見られた。なんとか誤魔化さなきゃ。

 

「ごめん、私体育館の独特な床が好きなんだ」

 

 あれ、なんか適当言ったな。まぁいいか。

 

「そ、そうなの?」

 

「先生はコハルを丸め込むのが上手いな」

 

 私はチョロいコハルも好きだよ。

 

「そういえば、ヒフミちゃんに昨日聞きそびれたことがあったんですけど」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、ミサさんと親しげに話していましたけど、以前からのお知り合いだったんですか?」

 

 おおう、いきなりぶっこむじゃん。ハナコは派閥争いが嫌で離れたもんね。まぁ、ハナコが知りたいのはそういう話じゃないだろうけど。コハルとアズサも気になるのか、二人ともヒフミを見ている。特にアズサはやや表情が硬い。

 

「あ、はい。その、ナギサ様にお茶頂いた時に何度か……あ!とても優しい方ですよ!私が以前試験を落としかけた時は、勉強を教えてくださいました!」

 

「そうなんですか?」

 

 頑張って言葉選んでるなぁ。ナギサが恋愛的な意味でミサが好きなことを、ヒフミに相談してたとは言えないよね。そもそも、面白おかしなことになってる《ティーパーティー》のことをハナコが知ったら、ハナコが喜んでしまう。いや、後悔するか?一応断片的なことは、セイアから聞いてたと思うけど。その時は冗談だと思って、本気とは受け取らなかったんだったかな。だからこそ、エデン条約編後にお茶会が実は面白変態集団と知って全力で弄りに行くのは、浦和ァ!そういうとこだぞお前ェ!案件だったが。

 

 そんなハナコも、補習授業部の中で一番ミサと仲が良くなるというね。なぜピンクは引かれ合ってしまうのか……。ただ、ハナコとミサがタッグを組むとすぐに事件が解決するので、禁止カード扱いになったけど。発想が飛びがちなハナコの穴を埋める様に、ミサがハナコの言葉を分かりやすく紐解き枝葉を辿って、同時に同じ結論に達するのはホラーでしたね……。

 

 そういえば、この話でミサの評価がゴチャゴチャし始めたんだっけ?青ヘイローのミサとピンクヘイローのミサを分けて考えてたから、混乱が加速したんだよね。何人かTwitterで同一人物説出してたけど、どれも根拠が薄くて流されたんだよね。

 

「ミサさん、あの方の話は私も耳にしたことがあります。とても優秀な方だとか」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、ただ忙しい方なので私も直接はお会いしたことが無かったのですが……」

 

「あはは……ナギサ様もミサ様に仕事を減らすようにって言ってましたね。ミサ様は誰かがやらなきゃいけないから、と聞く耳を持ちませんでしたけど」

 

「……。ところで、ヒフミさんはミサさんが何の業務をこなしているかご存じですか?」

 

「え?詳しくは聞いたことは無いですけど、トリニティ内企業や各部活との交渉だったり、あと色んなものを管理していてすごいですよね!仕事が出来る女性って感じで憧れます!」

 

「……ガス、水道、電気、ということは街中のカメラも?トリニティの情報は全て彼女のもとへ、だったら……」

 

 こわ!なんで今のでそこまで思い付くの!

 

「えっと、ハナコちゃん?」

 

「ああ、ごめんなさい。私のことはお気になさらず」

 

 あー、これはミサの狙い通りに誘導されてますね。まぁ、これはミカの潜伏が上手すぎるのと、ミサが露骨に怪しい動きをしてるせいなんだけど。しかし、あのハナコでさえミサの評判に引きずられる当たり、ミサの悪評が根深いものだと窺える。

 

「……ん?ちょっと待って?もしかして、さっきから言ってる『ミサ』って、"不良ミリオンキラー"の光園ミサのこと!?」

 

 ブフォッ!コハル今の今まで気付いてなかったの、というかミリオンキラーってなんだよ!原作でもアニメでも小説でも聞いたことないわ!コハルの原作に無いセリフで吹き出すの5回目なんだが!?

 

「……あの、コハルちゃん。私も"千人殺し"の異名は聞いたことありますけど、というか百万って物理的にあり得ないですよね!?」

 

「……え、じゃああれって嘘なの……?じゃなくて、し、知ってたわよ!?アンタたちのことを試しただけよ!?本当だからね!?」

 

「結局、どれが本当なんだ?」

 

 混乱しているアズサは、頭に疑問符を浮かべていた。ミサの勇名もアリウスには届かなかったらしい。

 

「そうですね、一番有名なのは他校にも広まってる"破壊天使"でしょうか?SNSや動画サイトなどで結構有名人ですよ」

 

 そう言ってハナコはスマホを操作して画面をみんなに見せる。『撲殺天使アルミサエルちゃん』フォロワー300万人越えの有名インフルエンサーだ。かくいう私もシャーレの業務を開始してから最初にしたのは、ミサのアカウントを見つけてフォローしたことだ。毎日呟いてて、今日も『やることが多すぎてつらい』と愚痴を零していた。……こいつ割と余裕あるな?

 

 アルミサエルちゃんといえば、魔法少女イベはいつごろの話だったっけなぁ。

 

「ミサ様ってすごかったんですね……」

 

「おすすめのグルメやコスメの紹介?え、この人普段なにやってるの?」

 

「破壊天使……」

 

 アズサは画面を見て険しい表情を浮かべる。アズサは一度ミサと相対して、強さをその身で感じてるもんなぁ。そんなアズサを、ハナコはじっと見つめる。

 

「そういえばアズサちゃん。夜にどこかへ行っているようですけど、ちゃんと寝れてます?」

 

「む、それは……」

 

「そうですよ、ヒフミちゃんも先生も心配していましたよ」

 

「そうだったのか、すまない。……実は、建物内にトラップを仕掛けていたんだ」

 

 アリウスに対抗するために、合宿所内の至る所にアズサはブービートラップを仕掛けている。アズサはアリウススクワッドを想定して仕掛けているが、来るのはミサなんだよなぁ。そしてミサ相手だと、生半可なトラップじゃ真正面から踏み潰されて終わりだ。アズサはミカと会っているから、ミサと敵対する可能性を考えているはずだ。

 

 だからこそ、焦ってトラップを増やしているが、アズサも今の話を聞いて足止めすら出来ないと感じているのだろう。険しい表情がその証左だ。

 

 その後、ハナコが更に突っ込んだ話を聞こうとしたが、そのタイミングで電気が復旧して話はそのまま流れてしまった。

 

 その日はそのまま就寝……とはならず、もっと遊びたいハナコが夜の外出にみんなを誘った。行先はトリニティの有名菓子店。ミサのSNSでも紹介されたお店だ。そこで偶然ハスミと出会い、夜中に外出してたことは黙っておくから、自分の事も内緒にしておいて欲しいと言われた。どうやらハスミもミサのSNSを見て食べに来たらしい。

 

 その時、美食研究会が事件を起こし、流れでハスミに協力し鎮圧することになった。お菓子?ミサが紹介しただけあって、大変美味でした!

 

 

 

「お疲れ様です、先生。勉強の方はいかがでしょうか?」

 

「うん、みんな頑張ってるよ」

 

「そうですか……」

 

 模擬試験で《補習授業部》のみんなが合格点を取った次の日。私はナギサに呼び出されていた。おそらく聞きたいことはアレだろう。

 

「……先生、時間はあまり取れないので早速本題に入らせて頂きますが、その後の裏切り者について何か判明したことはありますか?」

 

「ナギサ、私は裏切り者探しをする気は無いよ」

 

 ナギサはピクリと眉を動かすと、持っていたカップをソーサーに戻す。

 

「……どうしてかお聞きしても?」

 

「私の仕事は生徒を信じる事で、生徒を疑う事じゃないからね」

 

「それは貴女が《シャーレ》だからですか?」

 

「ううん、私が先生だからだよ」

 

「……」

 

 ナギサは何も言わず、目を伏せる。目を伏せるのは、視線や目の動きから感情を読まれない為だと、前世の掲示板で誰かが言ってた記憶がある。確か、ナギサは過去に尊敬してた生徒会長の一人を参考にしてるんだったか。つまり、今のナギサは少なからず動揺している。目を伏せたのは、それを悟られないようにする為だろう。

 

 当然、分かりやすく隙を晒してるので私は遠慮なく(つつ)かせて貰う。

 

「ナギサ、君は自分一人が犠牲になれば……なんて考えてるなら、それは間違いだ」

 

「―――っ」

 

 ナギサは目を開き、こちらを驚きの表情で見る。

 

「まさか、セイアさんの事を。誰から……いえ、それよりも先生それはどういう意味ですか」

 

「意味も何も、そのままだよ。ナギサ、君がいなくなって喜ぶ人がいるのかな?」

 

「そんなこと……っ!だとしてもっ、誰かがやらなければならないのです!私がやらねば……彼女達は私が守らないと……」

 

「ナギサ、君達はもう少し人を信じないとね」

 

 ナギサも彼女達と同じように悩み、苦しみ、迷っている。エデン条約編はすれ違いの物語だ。発端となるセイア襲撃事件、《ティーパーティー》の四人それぞれが一人で抱え込んで間違えてしまった悲しい物語だ。

 

 生徒が間違えたのならば、それを正すのは(先生)の役目だろう。

 

「ナギサ、《補習授業部》のみんなは必ず試験に合格する。君が何を企んでいても、絶対に阻止するから」

 

 私がそう言うと、ナギサは膝に置いていた手を強く握りしめる。

 

「……貴女を見くびっていたつもりはありませんでした。貴女の活躍に対し過小評価も、過大評価もしていないつもりです」

 

「そうなんだ、嬉しいね」

 

「これから、試験の合格条件を変更します。先生、貴女が正しいと云うなら、これを越えて見せてください」

 

「受けて立つよ」

 

 こちらを見つめるナギサの視線を、正面から受け止めてみせる。……あれ?そういえばゴミ箱発言無かったな。あれだろうか、転生ものによくある私がいるせいで本来の道筋からズレて云々、みたいな?まぁ、そこまで重要でも無いから良いか。

 

 

 

「勝手に勝負受けてごめんなさい」

 

 合宿所に戻った私は、みんなを集めて腰を綺麗に90度に曲げて謝罪する。

 

「え、急に何っ!?」

 

「せ、先生!頭を上げてください!」

 

「先生、私達は誰も怒っていない」

 

「そうです、だから早く頭を上げてください」

 

「うぅ……みんなやさしい」

 

 頭を上げると、四者四様な顔をしていた。その中でも険しい表情なのはハナコだ。

 

「しかし、弱りましたね。試験範囲の拡大と合格ラインの上昇ですか」

 

「きゅ、90点!?そんな……」

 

「そんなに慌てる事なのか?」

 

「あ、えーっとそれは……」

 

 ヒフミは助けを求める様にこちらを見る。私はハナコに目配せするとハナコも頷く。

 

「ヒフミちゃん、そろそろみんなに話しておくべきかと」

 

「そ、そうですよね。じ、実は―――」

 

 

 

「―――ええ!?合格できなかったら退学!?」

 

「……」

 

「はい、ですので今回の条件拡大は中々に厳しいものがあるかと」

 

「ごめんなさい」

 

 私は土下座して頭を教室の床に擦りつける。が、慌てたヒフミに無理矢理立たせられる。うぅ、原作通りとはいえホントに申し訳ない。

 

「だ、大丈夫ですよ!2次試験までまだ時間はありますし!」

 

「……そうですね。決定事項である以上、文句を言うよりも1点でも上げられるように、勉強したほうが良いかもしれませんね」

 

「うぅー……!分かったわよ、やればいいんでしょ!?」

 

「ふふ、コハルちゃん私も全面的に協力するので安心してくださいね」

 

 おほー、ハナコハはいいぞ。

 

「…………」

 

「アズサちゃん?何か気になる事でもありましたか?」

 

 やる気を出す面々の中で複雑そうな表情を浮かべたアズサに、ヒフミは心配して声を掛ける。

 

「いや……なんでもない」

 

「そうですか?何かあれば何でも言ってくださいね!私、アズサちゃんの力になりますから!」

 

「うん、ありがとうヒフミ。……全ては虚しいのかもしれない、それでも私は

 

「え?何か言いました?」

 

「ううん、ヒフミ私達も試験に向けて勉強しよう」

 

「あ、はい!」

 

 ヒフアズてぇてぇ……てぇてぇ……。勉強を教え合うみんなを、後方腕組でうんうんと頷きながら眺める。

 

 そして、試験当日。第2次特別学力試験の会場は、原作通りゲヘナ自治区にあるため余裕を持って出たのだが―――。

 

 

 

『―――せい、先生!しっかりしてください、先生!』

 

「う……あろな……?」

 

『よかった、気付かれたんですね先生!』

 

「痛たた……」

 

 ああ、そうだ。二度目の試験会場であるゲヘナへ向かい、紆余曲折はあったものの無事試験会場に着いたが、ナギサの妨害により試験会場ごと《温泉開発部》によって吹き飛ばされた所だった。

 

「アロナ、ごめん助かったよ」

 

『いえ!先生を守るのはスーパーアロナちゃんにお任せください!』

 

 正直、アロナバリア無かったらと思うと、……怪我で済まなかったかもしれない。崩壊した建物、アニメはもう少し原型が残っていたような気がするのだが、見事に全部吹き飛んでいる。

 

「みんな、大丈夫?」

 

「は、はい。ですが、これでは試験が……」

 

「あれだけ勉強がんばったのに……」

 

「……」

 

「まさか、ナギサさんがこんな手段を取るとは……というのは言い訳にしかならないでしょうね」

 

「慰めにはならないけど、試験はまだ1回残ってる。次頑張ろう!」

 

「そうですね、ここでクヨクヨしてても始まりません!」

 

 ヒフミが立ち上がると、次いで他のみんなも立ち上がる。ヒフミに触発されたのか、みんなの顔はやる気に満ち溢れている。

 

「あっ―――」

 

 立ち上がったヒフミの視線の先、釣られてみんなもその方向を見ると、建物の上に彼女が立っていた。

 

 夜の闇においてなおハッキリと浮かぶ白とピンク。それらを風に(なび)かせながら、月のような銀の瞳でこちらを見つめる少女、光園ミサ。

 

「あの方は―――」

 

 ハナコが呟くと、ミサは(きびす)を返しそのまま去って行く。

 

「今のってミサ様ですよね?どうしてこんな所に?」

 

 みんなの疑問をヒフミが口にする。普通に考えて、ミサが直接ここに来る必要はない。監視もドローンがあれば十分だ。そもそも、ミサの知名度を考えればゲヘナへ侵入するのはかなりリスクが高い。私達が追われたように、本当に侵略と取られる可能性すらある。

 

「―――あるいは、それが狙いでしょうか……?」

 

「そんな!ミサ様がそんな事するはずがありません!」

 

 と、まぁそう取られてもおかしくないよねっていう話。

 

 実際は、大怪我してないか心配で見に来ただけなんだけど、なぜこうも黒幕ムーヴが似合ってしまうのか。ん?ゲヘナに来て大丈夫なのかって?ミサのスピードを捉えられるのなら、間違いなく最強クラス名乗っていいよ。つまり、バレなきゃいいのよ精神だ。

 

「ほら、二人とも言い争いは帰ってからにしよう。みんなもここに来るまでに疲れてるし、次の試験の事もミサの事も、いったん休んでから、ね?」

 

「……はい、ごめんなさいハナコちゃん、私……」

 

「いえ、私の方こそ少々配慮が足りませんでした、ごめんなさい」

 

 謝罪しあう二人を見て、私はうんうんと頷く。……さて、難しい顔で考え込むアズサを視界の端に収めながら、考えるのはエデン条約編2章終盤の目玉、アリウスと―――

 

 

 

 ―――ミサの襲撃だ。

 

 

 




先生
真面目な話が続くと変態成分が薄くなる。真面目な所でふざけられない私が悪いんだ…!前世では百合のイチャイチャでご飯三杯いけるぜぇ!を実際にやって、同僚にアホを見る目で見られている。

光園ミサ
試験当日に試験会場が吹き飛ぶことを思い出して、慌てて様子を見に行った。みんな無事だったので、ほっとして帰った。ちなみに行きも帰りも常時音速で、風紀委員会の検問も正面から堂々と出入りしている。


どうでもいい小ネタ
先生の前世では、TwitterはXになっていない。


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裏切り者の話

感想いつもありがとうございます!!

今回は嬉しい報告がありまして、ぴょー様よりミサのファンアートを頂きました!!
小説に載せても良いとのことでしたので、掲載しておきます!

【挿絵表示】

すっごいかわいい!ファンアートをくれる方は例外なく神です。崇め奉ってください。
ミサのヘイローの形が完璧にイメージ通りの物が来て、すごく興奮しました。ミサの制服長袖ですって書いた覚えが無いのになぜ知ってる!?と震えました。理解できぬ。
目次にも掲載させて頂きますね!本当にありがとうございます!



 

「……今日が最終試験ですね」

 

 それで全てが終わる。ナギサは淹れたばかりの紅茶を飲み干し、ソーサーにカップを戻す。セーフハウス内の隠された一室で、ナギサが考えるのは《補習授業部》のことだった。

 

 裏切り者の容疑を持った者だけを集めたとはいえ、かなり強引な手段を取ってしまったし、仮に裏切り者が一人だけなら残りの三人は無関係なのに道連れで退学にさせられてしまう。絶対に自分は恨まれるだろうと、ナギサは思った。

 

 ナギサは生徒会長だ。それ故、大勢を守る為には少数を切り捨てる決断も必要だった。それがヘイローを破壊することも(いと)わない相手なら尚のこと。

 

 落ち着かない、もう一度紅茶を淹れ直そうと席を立った時だった。

 

 バンッ!と自分以外知らない筈の隠し扉を開け放たれ、人が踏み込んでくる。

 

「な、何者です!?」

 

 踏み込んできた者達を見ると、そこに居たのは《補習授業部》の浦和ハナコと白洲アズサ。

 

「貴女達《補習授業部》の……。どうしてここに、いや、まさか!?」

 

 自身の危惧していたことが現実になったのだと、ナギサは悟った。同時にこの二人が裏切り者なら、大切な友人であるヒフミは違ったのだと安堵した、が。

 

「ナギサさん、我々のボスからの伝言をお伝えしますね」

 

「ぼ、ボス?」

 

「『あはは……楽しかったですよ、ナギサ様とのお友達ごっこ』だそうです♪」

 

 ぐにゃあと視界が歪み、ナギサは自分の足元が崩れていくのを感じながら意識が遠のいた。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあみんな、事前に話した通りお願いね」

 

『は、はい!』

 

 予定通りナギサを確保したのち、シッテムの箱を通じて4人に指示を出す。

 

『……先生、そのナギサさんは大丈夫ですか?』

 

「あーうん、大丈夫じゃないかなぁ、たぶん」

 

『ごめんなさい、気絶するほどショックを受けるとは……』

 

 銃を撃って気絶させる予定が、ハナコの意趣返しで気絶してしまったナギサ。ハナコはやり過ぎたと気に病んでるが、まぁナギサだしエデン条約編が終わったら元気になってるよ。

 

「心配なら、事が済んだら謝ろう。私も一緒に頭を下げるからさ」

 

『先生……そうですね、ありがとうございます。では、私もアズサちゃんのサポートに回りますね』

 

「うん、頼んだよ。……ふぅ」

 

 襲撃者であるアリウスをこの合宿所に誘き寄せて倒す作戦。みんなは今誘導の為に二手に分かれ、アリウスと交戦している。

 

 アリウスとの戦いの後はミサが来る。つまり、あのシーンを生で見れるかもしれないと思うと、緊張と興奮で手汗がベタベタしてきた。ミサとの戦闘は……まぁ、接近戦してこないめっちゃ手抜き戦闘だから余裕でしょ。エデン条約編2章もようやく佳境に差し掛かった。

 

「……うん、ここが踏ん張りどころだよね」

 

 手元のシッテムの箱に意識を戻し、各人に指示を出す。

 

 

 

『ヒフミ、右前の人の後ろ辺りにデコイ出して!』

 

「はい!」

 

『コハルは奥に居る指示を出してる人を狙撃!』

 

「う、うん分かった!」

 

『アズサ、そっちで罠に掛けたらそのまま後退、ヒフミの方におびき寄せて!』

 

「了解した」

 

『ハナコ……は指示出す前にもう済ませてるね』

 

「ふふ♪ごめんなさい、待ち切れなくなってしまって♡」

 

 リアルタイムで四人を指揮し、画面越しに状況を俯瞰する。アリウスの生徒達は襲撃をしようと思ったナギサが見つからず、挙句に味方のはずだったアズサに撃たれたことにより、すぐさまアズサが裏切ったとし、ナギサの件も先手を打たれたと気付いたのか、こちらに標的を定めて来た。

 

 数ではこちらは劣るものの、それを覆す手段としてアズサのトラップを使ったり、開けた場所で戦闘しないように言ってある。それが功を奏したのだろう、今の所大きな被弾も無く戦況は推移している。

 

「ヒフミ!」

 

「アズサちゃん!」

 

『よし、二人はそのまま撃ちながら合宿所まで後退して!それでコハルとハナコは』

 

「今、二人で撤退してますよ」

 

「もう!急に来たからびっくりしたじゃない!」

 

『はは、早いね』

 

「動きは事前に聞いてましたから♪」

 

 最初に戻ってきたのはヒフミとアズサの二人、少し遅れてハナコとコハルが戻ってきた。

 

「皆さん!無事で良かったです!」

 

「当たり前でしょ!先生の指揮があるんだから!」

 

「いや、先生の指揮を抜きにしても、訓練されたアリウスを相手にここまで有利に戦える事は誇っていい」

 

「そ、そう?」

 

「先生、《補習授業部》以下四名、無事にミッションを遂行してきました」

 

 ハナコの言葉に私は頷く。

 

「うん、ここからが正念場だよ。みんな気を引き締めて行こう!」

 

『はい!』

 

 

 

 

 

 

 《ティーパーティー》が保有する校舎の一室。ミカはカップに注がれた紅茶を口に含み、喉を潤す。

 

「……」

 

 考えるのはミサの事だ。ナギサの襲撃にアリウスが動き出したことで自身も動こうとしたら、「ナギサの確保は私に任せて、ゆっくり紅茶でも飲んで待っていて欲しい」と、無理やりミカを部屋に留め出て行ってしまった。

 

 そんなミサの行動に引っ掛かりを覚えたミカは、「まさか」と思い側に立てかけてあった愛銃を手に取り部屋を出て行く。後に残ったのは、完全に冷めきってしまった紅茶だけだった。

 

 

 

 

 

 

「くっ、裏切り者め!我らアリウスの憎しみを忘れたか!」

 

 アズサの仕掛けたトラップを掻い潜り接敵したアリウス生を、アズサは容赦無く撃ち抜いて行く。

 

「それは、何者かによって植え付けられた憎しみだ。……私達のものでは無い」

 

「アズサちゃん!」

 

 ハナコが発生させたフィールドにより、戦闘で傷付いたアズサの体が癒えていく。

 

「ありがとう、ハナコ」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

 一体どういう原理かはさておき、回復したアズサは再びアリウスと戦闘をする。

 

「おのれッ白洲アズサ!」

 

「アズサちゃん危ない!えーい!」

 

「うわっなんなんだこれは!?ぐあっ!?」

 

 アズサの死角から放たれようとした銃弾は、ヒフミが出したデコイに気を取られアズサから逸れる。そこをすかさずコハルが狙撃して倒した。

 

「アズサ前に出過ぎ!」

 

「ヒフミコハル……すまない助かった」

 

「アズサちゃん、もっと私達を頼ってください!」

 

「……うん、そうだな。そうだった」

 

 そんなやり取りにほっこりしながら、気が付くと侵入してきていたアリウスの数が減っていた。

 

「これで終わり?」

 

 ぽつりと呟いたコハル。黙っていたアズサがハッとして入口へ顔を向ける。

 

「いや……」

 

 カツン、カツンとヒールが床を叩く音が響く。その音に釣られヒフミ達も入口へ顔を向けた。

 

「……まだだ」

 

 薄闇の中においても目立つピンクの髪と、《ティーパーティー》の白い制服。

 

「…………」

 

 全体が白く、金の装飾が施された大きな重機関銃。青いヘイローを浮かばせながら、悲愴な決意を秘めた銀の瞳でこちらを睨んでいた。

 

「光園ミサ……」

 

「ミサ様……?うそ、まさかそんな嘘ですよね……?」

 

 ヒフミの問い掛けに、ミサは無言で銃をこちらに向けた。ヒフミは信じられないといった風に首を振る。

 

「ミサさん、やっぱり貴女がそうだったんですね」

 

「ああ、そうだ。オレが"本当のトリニティの裏切り者"だ」

 

 事も無げにそう言い切ったミサは、続けてこう言った。

 

「ナギサの身柄をこちらに渡してもらうぞ」

 

「……嫌だと言ったら?」

 

「もちろん―――力尽くでだ」

 

「ッ!みんなカバーッ!」

 

 言葉の終わりと共に放たれる銃弾の嵐。先の戦闘で弾痕が出来た壁に、容易に穴を開けて行く。さらに防弾仕様のカバー越しでも凄まじい衝撃を伝えてくる。寸前で指示を出し間に合ったから良いが、直撃すれば一撃で昏倒か行動不能になりかねない。

 

 誰だよ!接近戦してこないから楽勝だって言ったやつ!私だ!

 

 カバー裏からこっそり顔を出して撃とうとしたコハルは、銃口を向けられたことによりすぐさま隠れる。一拍置いて銃弾がコハルの頭の上を通り過ぎて行く。

 

 50口径の重機関銃の威力を舐めてたわー……。これでだいぶ手加減してるんだから困りもの。

 

「ど、どうするのよっ!これじゃあ攻撃する隙が無いじゃない!?」

 

「……?」

 

「どうしました、アズサちゃん?」

 

「いや……」

 

 アズサも接近戦を仕掛けて来ないことに違和感を覚えたのだろう、首を傾げている。隣のハナコも気付きがあったのか、眉を(ひそ)めて思案顔になっている。

 

「先生、あの本当にミサ様が裏切り者なんですか?」

 

 俯いたヒフミが声を震わせて私に聞いてくる。

 

「……どうして?」

 

「ミサ様、これまでトリニティがより良くなるようにって頑張ってきたのに、こんな……」

 

 ヒフミはこれまでに、ミサとナギサが仕事をしている場面を見ているからこそだろう。

 

 ミサの裏切り者発言は虚言であるが嘘ではない。ミカを助けるためとはいえ、アリウスに協力しこちらを襲撃している、という結果論で言えば裏切り者みたいな状態だ。

 

 とはいえ、ヒフミに必要なのはそういう話じゃないだろう。私はヒフミにしっかりと目を合わせ話す。

 

「……少なくとも、裏切り者なのは本人がそう言ってるね」

 

「そんな!」

 

「ヒフミ、よく聞いて」

 

「せ、先生?」

 

「私は先生だから、生徒が嫌がることを強制はしない。だから、これを聞いてヒフミがミサを撃てないならそれでもいいと思う。その上で聞いて欲しい」

 

「このまま私達が退けば、ミサはナギサに手を掛けてしまうかもしれない。もしそうなったら、ミサは本当に止まれなくなってしまう。ミサを止められるのは今ここだけ、私達だけなんだよ」

 

 私の言葉を聞いて、ヒフミはハッと顔を上げる。

 

「そう、ですよね。そうでした。……っ!先生、指揮をお願いします!私達で、止めましょう。ミサ様を!」

 

「うん……もちろん!」

 

「先生、私達はいつでも行けますよ」

 

 ハナコの言葉に、アズサとコハルも頷く。

 

「わかった、次に銃撃が止まった時が最初で最後のチャンスだと思って欲しい」

 

 いくら手を抜いてるとはいえ、同じ手を通すほど甘くは無いだろう。

 

 そうこうしている内に、銃身の冷却の為に銃声が止む。

 

「―――よし、今っ!」

 

 一斉にカバーから顔を出し、集中砲火を加える。多数の銃撃に晒されたミサは、僅かに顔を(しか)めるがその場から微動だにせず、銃口を向ける。

 

「ヒフミ!ミサの正面にデコイ!続けてコハルはグレネードをミサに!」

 

 ミサの眼前に突如ペロロ様が現れる。ミサは嫌そうに顔を歪めるが、そのまま銃を撃とうとする。だが、視界が塞がれていたことにより、グレネードが転がってきていることに気付くのがワンテンポ遅れ、爆発に晒されたミサは狙いが逸れ壁を破壊していく。

 

「ハナコ!ヒールをお願い!―――アズサッ!」

 

「これでっ」

 

 神秘が込められた銃弾。アズサの撃ったそれはミサに突き刺さり、爆発を引き起こした。

 

 ミサは、その一撃でようやく膝を突く。

 

「……ここまで、か。煮るなり焼くなり好きにしろ」

 

 ミサも負けを認め、終わりかと気を抜いた直後だった―――私達の近くの扉が壁ごと吹き飛んだ。そこは侵入箇所を限定する為に、塞いだ入口の一つだった。突然の事に誰も反応できていない。あのミサでさえもだ。

 

 そして、吹き飛んだ扉の向こうから現れた人物を見て、ミサは顔を驚愕に染める。

 

「な、なんでここに……」

 

「ふぅん……そういうこと。まさか、ミサちゃんも同じこと考えてたなんてね」

 

 ミサと同じピンクの髪に、これまた同じ白い制服。金色の目をしたミサに似た風貌を持つ少女。

 

「……ミカ」

 

 名を呼ばれた彼女は、その手に持った白い短機関銃を持ち上げると、ミサにその銃口を向けた。

 

「ミ、ミカ……?」

 

 無言で引かれる銃の引鉄。放たれた銃弾をミサは咄嗟に飛び退いて躱す。先の戦闘では見せなかった機敏な動きにハナコは目を細める。

 

「……ッ!ミカはナギサの後に始末する予定だったんだがな!」

 

「ミサちゃんが?私を?面白い冗談だね」

 

 突如として始まったミサとミカの戦闘。急すぎる展開に私達は置いてけぼりだ。

 

「せ、先生……私達はどうしたらいいんでしょう……?援護をした方が良いんでしょうか?」

 

「……いえ、今は様子を見た方が良いでしょう」

 

「ハナコちゃん?」

 

「もしかしたら、私達は大きな勘違いをしていたかもしれません」

 

「……」

 

「……うん、そうだね。私もその方が良いと思う」

 

 "先生"の視点では急だが、ミカの視点では以前から妙な動きをしていたミサが、自分の身代わりになって捕まろうとしていることに気が付いてしまった。ミカもまた、自身が捕まることで終わらせようとしていたのだ。そんなこと、ミサが容認できるはずも無く。だからこそ、()()()()()()お互いに倒すことになってしまった。

 

「……っ!」

 

「……」

 

 同時に動き出す両者。距離を保ったまま銃を撃ち合う。しかし、二人は共に機動力が高く回避が上手い為、互いに一発も当てられない。ミサも同じ事を思ったのか、バッグからシールドを取り出し銃へ取り付けると、銃を撃ちながらミカへ接近する。

 

「……いいよ、ミサちゃんの得意なクロスレンジで相手してあげる」

 

 その言葉通り、ミカもミサへ向かっていく。

 

 徐々に二人の距離は縮まり、拳の届く距離まで詰めた瞬間ノータイムで左拳を突き出すミサ。ゴォッ!とただ拳を突き出したとは思えないその攻撃に、ミカは冷静に体を反らして避ける。そして、カウンターとばかりにミカも左拳をミサへ繰り出した。

 

 ビュッ!とミサの顔の横を通り過ぎるそれに、ミサは僅かに冷や汗を流す。だが、攻撃の手を休めるわけにはいかない。右足で蹴り上げるも、ミカはスッと横に動いただけで避ける。ミカも右足で蹴り上げるが、ミサは横にステップを踏んで避ける。

 

 一見互角の様に見える戦い。その実、苦しそうなのはミサだった。攻撃の癖を知り尽くしてるミカとは対称的に、ミサはミカの攻撃の癖など知らない。それ故、ミサは戦闘経験を総動員して耐えてるのが現状だ。当然、消耗は断然ミサの方が多い。その上、ミカがミサと同じ攻撃してる事が拍車をかける。

 

 予測を立てて戦うミサにとって、次に繰り出される攻撃の選択肢に幅がありすぎると、それだけで消耗は激しくなる。また同じ手を使ってくるのか、あるいは違う手で意表を突いてくるか、その場合どんな手を使うか。予測の立てづらい気分屋なミカは、ミサにとって天敵と言っても過言ではない。

 

 そしてこれまでの攻防、全て互いに銃を撃ち合いながら行っている。相手の銃の射線上に入らないように立ち回りながら、拳や蹴りを振りあう。この戦いは、原作においても最強クラスと呼ばれるような上澄みも上澄みな戦闘だ。アニメでもベストバウトに選ばれるほど、人気上位の戦闘シーンでもある。

 

 ミサは左腰で溜めを作り、先程よりも威力を上げた突きをミカへ繰り出す。ミカはミサの左側面へ避ける。すかさずミサは右回し蹴りで追撃するも、それも跳び上がって避けたミカはそのまま銃を持ち替え、ミサに向かって右ストレートを繰り出した。ミサも対抗するために右ストレートで応戦する。

 

 拳同士がぶつかった瞬間、ガァァンッ!という音と共に凄まじい衝撃が発生する。建物全体が歪み、悲鳴を上げる。防弾性の窓ガラスが衝撃で次々と割れて行った。

 

「きゃあっ!?」

 

「くっ!?」

 

「ひゃあああっ!?」

 

「コハルっ!」

 

 拳がぶつかった時に発生した衝撃と風圧でコハルが吹き飛ばされそうになり、慌てて手を掴んで引き寄せる。

 

「っと大丈夫?」

 

「あ、ありがと……ってちょっとどこ触ってるのよ!?」

 

 あ、抱き寄せた時にうっかり手が胸に。

 

 それにしてもカバー裏に隠れながらの観戦でもこんなに衝撃があるとは……くぅぅぅぅっ……!これこれ!このシーンが見たかったの!ブルアカPV伝説の〈3秒間の攻防〉!パヴァーヌのネルとアリスの攻防からの、場面転換でエデンのミカとミサの攻防!熱すぎる!

 

 当時、このPVが流れた時は騒然としたなぁ。銃撃戦じゃなくて当たり前のように格闘戦してるもんなぁ。しかもこれが普通なのかと思ったら、上澄みも上澄みの戦い方っていうね。

 

 衝撃が収まった時には拮抗していたミカとミサだが、結果はミサが押し負けて後ろへ弾かれることになった。そのことにミサは驚愕に目を見開く。

 

 力が同じなはずの二人なのに何故ミサだけ弾かれたのか、それはミサがミカ相手だと本気で戦えない事に原因がある。いかに同じだけの力を互いに持とうとも、その出力に差があれば当然低い方が押し負けるのが道理だろう。二人の力の均衡は、互いが常に100%の力で戦うこと前提なのである。

 

「くそっ……!」

 

「逃がさないよ」

 

 クロスレンジの不利を悟ったのか、ミサは慌てて距離を取ろうとする。だが距離を開けまいとミカが詰めてきて、再び近接戦を強いられる。

 

「……このッ!―――なぁっ!?」

 

 焦り、疲労、積み重なれば判断ミスを招く。ミサは詰めて来たミカに対しハイキックをするも、ミカはそれを防ぎ……いや掴むと()()()ミサの足を引っ張り振り回すと床に叩きつける。

 

「―――がはっ!?」

 

 叩きつけられた衝撃で床が陥没し広範囲に罅割れを発生させる。それだけでミカの攻撃は終わらず、倒れたミサに向けて足を振り上げるとそのまま叩きつけようとする。それに気が付いたミサは慌てて横に転がり回避する。叩きつけられた足は再度床に深い傷跡を残す。いくら頑丈なミサと言えども、直後のダメージを考えるとアレを喰らえば一撃で意識を持っていかれた可能性は高かった。

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

「結構強めに叩きつけたつもりなんだけど、良く動けたね」

 

「……っ」

 

 体を押さえながら立ち上がるミサは、ミカを睨みつける。ミカは涼しい顔でマガジンを交換するために、空になったマガジンを外す。

 

 ミサはそれを見て好機と思ったのか、距離を詰めて拳を振るう、フリをしてミカの上へ跳び上がり真上から銃を乱射する。あえて狙いを付けない撃ち方でミカを翻弄するつもりだろう。―――だが、それは悪手だった。

 

 ミカは冷静に銃弾のコースを見極めるとステップを踏み、踊る様に回避する。そして、回避しながらも新しいマガジンを取り出し、装填させた。そしてミサが着地するであろう地点へ銃を向けると、ちょうど着地したミサの限界まで見開かれた目にミカは嗤い、銃口に収束する光を見てミサは慌ててシールドで防ぐため銃を構える。

 

 だが、ミカはそんなこと知った事かとそのまま光の弾丸(EXスキル)を撃ち込んだ。撃ち込まれた光の弾丸は紙のようにシールドを破り去り、何発もミサの体に叩き込まれた。そして、最後の爆発で吹き飛ばされたミサは壁に叩きつけられ、グッタリと力無く倒れ込む。

 

「さて、これで―――」

 

 何かを言おうとしたミカ、しかしそれは複数の足音に遮られる。

 

「―――これは、一体どういうことですか?」

 

「……《シスターフッド》」

 

 ハナコの要請で救援に駆け付けた《シスターフッド》だった。険しい顔で先頭に立つのは歌住サクラコ、シスターたちの長だ。

 

「そう……貴女の仕業かな、浦和ハナコ」

 

「……っ」

 

 ミカの視線を受けたハナコはビクリと身体を震わせる。先の戦闘を見れば仕方の無いことだろう。私は庇うためにハナコの前に出てミカの視線を受ける。……やべ、普通に怖くてちびりそう。

 

 視界の隅では倒れたミサに複数のシスターたちが取り押さえに向かっていた。

 

「……この惨状は彼女、光園ミサさんの仕業ですね?」

 

 チラッとミカはミサを見ると、いやと否定する。

 

「私だよ、私がこの惨状を招いた元凶。私が―――"本当のトリニティの裏切り者"」

 

「え?」

 

 困惑したサクラコが聞く前に、ミサが声を上げる。

 

「なに……言ってるんだよ、ミカ」

 

「おい、動くな!」

 

「――うるさいッ!ミカ!ふざけるなよッ!!なんでお前が……!オレはそんなつもりでやったわけじゃ……」

 

「……ねぇ、早く連れてってもらえる?」

 

「え、えぇ。では詳しい話は後日に……ふぅ、あの子に大聖堂の守りを任せているとはいえ、ずっと一人にするわけには……」

 

 《シスターフッド》の生徒に連れられて去ろうとするミカに、ミサは何度も叫ぶ。

 

「おい待てよ!違う、ミカじゃない!オレだ!オレがやったんだッ!!」

 

「くぅ!?な、なんですかこの力!?複数人で押さえ付けてるのにこれじゃあ!?」

 

「―――っ!ヒナタ!」

 

「は、はい!」

 

 ヒナタと呼ばれたシスターが、ミサを押さえこみに行く。若葉ヒナタ、その体でシスターは無理があるでしょと言われるほど豊満なボディと怪力を持つ生徒。その怪力を持ってミサが押さえつけられるも、それでもなお抵抗する。

 

「くそ!邪魔だ!どけよおお!!ミカがっ!ミカ、ミカああぁぁあああぁああああぁッ!!!」

 

 ミサが伸ばした手は空しく空を切った。ミカは振り返ることもせず、建物から出て行く。

 

 こうしてエデン条約編2章は幕を閉じた。ミサの悲痛な叫びを残して。

 

 

 




光園ミサ
ミカを魔女にさせないために頑張ったのに、何も変えられなかった。物語の流れを変えたかったのに、まさか自分自身がその物語の流れのど真ん中にいるとは思わないじゃない。

聖園ミカ
ミサが身代わりになろうとしてる事に寸でのところで気が付けて安堵した。それはそうとブチギレたので本気でミサを潰しに行く。本気で戦ったのはミサなら大丈夫だろうという信頼の裏返し。

先生
割と一般人ながらに頑張って体張ってる。それもこれも推しのシーンを間近で見たいがため。延々と心の中で情報を垂れ流してくれるので、地の文が一番書きやすい人。

補習授業部
ちゃんと最終試験に間に合って合格しました。

シスターフッド
サクラコ様のセリフで出た「あの子」は別視点で出そうと思ってるシスターフッドの主人公。今回の話書いてる途中に急に思いついて、この2週間ずっとこれ考えてた。


ふぁ~やっとエデン条約編2章が終わりました。ちょっと予定に無かったことを捻じ込みましたけど、あまりシナリオ的に深くは絡んで来ない組織なので入れること自体は簡単でしたね。

今回は人生初のファンアートにはしゃぎすぎました。あ、他にファンアートを恵んでくださる神様がいらっしゃるならとても喜びます!
それと聞いたところによると、評価と感想は欲しいと言ったら貰えるらしいです。というわけでください(強欲)。

次は掲示板回やってみようかな。R18も催眠えっち回書きたいので、3章遅れるかもだけど気長に待っててくださると嬉しいです。


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【ブルーアーカイブ】光園ミサってさ【新キャラ】※掲示板回

感想、ここすき、評価ありがとうございます!

お待たせしました予告通り掲示板回です!一応読まなくても話は分かるようになっています、たぶん!なので!掲示板回はちょっと…という方は読み飛ばして構いません。

それと目次から来てる人はもう知ってるかもしれませんが、神…もとい、ぴょー様より新しい支援絵を頂きました!
ミカとミサ(メス堕ちの姿)です!

【挿絵表示】




1:名無しの先生

弱くね?

 

2:名無しの先生

それな

 

5:名無しの先生

なんだぁ?テメェ……

 

6:名無しの先生

あんまり弱い弱い言うのもアレだけど

まぁツバキでいいかなって

 

9:名無しの先生

神秘重装甲 タンク

EXスキル 4コス

小範囲 倍率400%

タンクとは?

 

14:名無しの先生

挑発使える星2のツバキが便利すぎるのもある

星2以下じゃん

 

19:名無しの先生

NSでシールド張れるし

ステータスはタンクらしいから……

 

25:名無しの先生

見た目めっちゃかわよ

 

29:名無しの先生

ユウカなら能動的にシールド張れますけどあなたは?

 

31:名無しの先生

性能より股間が反応するかどうかだ

俺は引くぞ!

 

34:名無しの先生

私は固有3にしました

給料吹き飛んだけど後悔は無い

 

37:名無しの先生

>>34

勇者おる……

 

43:名無しの先生

>>34

お前がナンバーワンだ

 

49:名無しの先生

絆ストーリー見たけどさぁ……見たけどさぁ!

 

51:名無しの先生

メモロビはっや

 

54:名無しの先生

合う環境が今は無いってだけで

これから必要になるかもしれないし

 

引いておくべきか、否か

 

57:名無しの先生

絆で何があったんだよ……

 

59:名無しの先生

簡単に言うと

今回のイベントストーリーと対応が大差無い

あと2話しか無い

 

63:名無しの先生

えぇ…?

 

68:名無しの先生

イベントで塩対応だったから絆でイチャイチャしようと思ったら

絆も塩対応だった(´;ω;`)

 

69:名無しの先生

この睨んでくるの癖になりそう……(*´д`*)ハァハァ

 

73:名無しの先生

俺は逆に安心したよ

 

無条件で主人公を好きになるキャラばかりじゃないんだって

 

74:名無しの先生

この子ってトリニティの生徒会に所属してるんでしょ?

だったら戦闘力が低いのは仕方ないんじゃない?

 

75:名無しの先生

身長144ってことはおじさんより小さい?

 

78:名無しの先生

おじさんが145だからそうだね

 

84:名無しの先生

戦闘力が低い……?(イベント見ながら)

 

89:名無しの先生

急に過疎ったな

 

93:名無しの先生

age

 

99:名無しの先生

ミサちゃんきゃわいい(*´д`*)ハァハァ

 

105:名無しの先生

ヒェッ

定期的に変態湧いてるの何なんですかね

 

 

 

 

563:名無しの先生

うわぁぁぁぁぁ!!ミサ引いておけばよかったぁぁぁぁぁ!!

 

569:名無しの先生

なぁにこれぇ

メインストーリーのミサ可愛かったなって見に来たら

めっちゃスレ進んでるじゃん

 

今北産業

 

572:名無しの先生

エデン条約編実装

初手スチルに脳を焼かれる

ミサの掲示板を求める

ミサ可愛い

 

574:名無しの先生

有能、って4行あるじゃねぇか!

最後の余計……じゃないな

 

579:名無しの先生

把握

ミサが可愛いのは真理だから

 

581:名無しの先生

あれ?この人たまに現れる変態?

 

582:名無しの先生

はぁ!?変態じゃありませんが!?

 

586:名無しの先生

ヒェッ返事が早すぎる

 

589:名無しの先生

早く後編出てくれ、気になりすぎる

 

590:名無しの先生

ミサにそっくりなキャラが二人も出て来たんだけど

まさか三つ子?

 

595:名無しの先生

>>590

お付きの子はヘイローもそっくりだけど

ミカは違くない?苗字も違うし

 

601:名無しの先生

>>595

いいや、俺は生き別れの三つ子説を推すぜ

 

603:名無しの先生

生き別れの三つ子ってなんだよ……

 

604:名無しの先生

そんなことよりミカのお付きの子立ち絵あるってことは

ネームドキャラだよね?名前なんで出ないの?

 

605:名無しの先生

ミサにそっくりだけどピンクの方が可愛い

 

610:名無しの先生

わかる

なんかこうピンクの方が保護欲掻き立てられる

 

614:名無しの先生

どっちが姉でどっちが妹だ?

 

619:名無しの先生

粗雑で乱暴な姉と丁寧で大人しい妹

 

622:名無しの先生

>>619

しっくりくる

 

627:名無しの先生

弱い弱い言われてたのに1話の戦闘見てみんな欲しくなってるの草

 

628:名無しの先生

仕方ないじゃん

動いてるの見たら欲しくなるんだよ

 

629:名無しの先生

まさか先生の指揮無しで戦闘入るとは思わなかったんだよなぁ

 

633:名無しの先生

オート戦闘なのにめっちゃ的確にEX使うの同じ生徒とは思えない

 

639:名無しの先生

集団にEX!からのNSで薙ぎ払う!ついでにシールド付けておきますね

 

642:名無しの先生

シールドがおまけなの草

 

643:名無しの先生

タンクだからシールドメインだと思ってました

まさかバリバリのアタッカーとは……

 

645:名無しの先生

防御とHP高いから敵のど真ん中に放り込んでも普通に生存するの笑う

 

651:名無しの先生

ンアーッ!アリスもミサ欲しいです!

 

655:名無しの先生

ピックアップは終わったんで……

 

659:名無しの先生

一応恒常だからいつかは出るよ

 

664:名無しの先生

ピックアップ終わってからこれお出しするの商売上手いね……クソが

 

667:名無しの先生

任務に特殊装甲増えて来たから神秘のアタッカーは貴重だとあれほど

 

669:名無しの先生

アタッカー(タンク)

 

670:名無しの先生

タンク詐欺やめろ!

 

675:名無しの先生

ちゃんとシールド使うしSSでHPリジェネもあって生存力高いのでタンクです

 

680:名無しの先生

タンク他にもいるし「じゃあ、いいや」ってなるじゃん!

 

684:名無しの先生

阿鼻叫喚で草wwwwww

 

686:名無しの先生

>>684

草に草を生やすなァ!!!!

 

691:名無しの先生

ストーリーの後編早く見たいね

ピンクのミサや黒ミサがどう関わってくるのか気になる

 

697:名無しの先生

黒ミサってなんだよwww

 

702:名無しの先生

だって荒っぽいしオラオラしてるし

 

703:名無しの先生

せめて青ミサでは……?

 

704:名無しの先生

じゃあ清楚ミサと黒ミサ

 

705:名無しの先生

黒ミサって名前だと色々ヤバいwwwwww

 

710:名無しの先生

誰がピンクの方を変えろと言った

というか白ミサじゃないんかい

 

712:名無しの先生

>>705

黒ミサだとなんかヤバいの?

 

718:名無しの先生

>>712

そういう悪魔の儀式がある

 

721:名無しの先生

>>718

天使モチーフっぽいトリニティで悪魔の儀式は草

 

726:名無しの先生

>>691

運営が後編は遅れるみたいなこと言ってなかった?

 

728:名無しの先生

まじ?

 

729:名無しの先生

後編来るまでイベントで繋ぎかー?

 

732:名無しの先生

うぅ……しばらく虚無か……じゃあミサへの愛を叫んでおこう!

 

ミサ好きいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 

735:名無しの先生

 

737:名無しの先生

やべぇのいる……って思ったら固有3ニキやんけ

 

741:名無しの先生

ネキかもしれない

 

742:名無しの先生

女の子のキャラしかいないゲームを女性がプレイしてる幻想はやめろ

 

 

 

 

265:名無しの先生

来るぞ来るぞ2章後半!

 

271:名無しの先生

気が付いたらミサのスレも5スレ目か

 

273:名無しの先生

お前らさぁストーリーでちょっとしか顔を出してないミサでそんな話すことあるか?

 

275:名無しの先生

だって怪文書垂れ流しに来るやつが後を絶たないんだもの

 

278:名無しの先生

一番良かったのはメスガキミサわからせ概念だったな

 

281:名無しの先生

業が深い……

 

282:名無しの先生

早速スレ民のおもちゃで草

 

283:名無しの先生

そんな事より後編だ!前半はめっちゃ良い所で切られたから続きが気になるんだよ!

 

289:名無しの先生

みんな急に無言になったな

 

291:名無しの先生

(´・ω・`)

 

292:名無しの先生

読了

ごめん言葉が出ないんだが

 

298:名無しの先生

話の展開がジェットコースターすぎる

 

300:名無しの先生

結局これ黒ミサがホントに黒だったってこと?

 

306:名無しの先生

>>300

違う、と思う

 

307:名無しの先生

>>300

分からん

 

311:名無しの先生

>>300

少なくとも怪しい動きをしていたのは確かなんだろうけど……

 

317:名無しの先生

一度情報を整理したい

 

323:名無しの先生

よし、今こそスレの力を結集するときだ!

 

326:名無しの先生

2次試験爆破された時、黒ミサが見ていたのは監視のため?

 

327:名無しの先生

わからん……

 

331:名無しの先生

わかりゃん……

 

333:名無しの先生

水着パーティーでのヒフミとハナコの話によると結構有名人っぽいけど

どうやって風紀委員の目を掻い潜ってゲヘナに入ったんだ?

 

337:名無しの先生

わからん……

 

339:名無しの先生

わかりゃん……

 

344:名無しの先生

なんだこいつら……?

 

346:名無しの先生

スレ民にそんな知識あるわけねえだろ!!

 

347:名無しの先生

草、それはそう

 

351:名無しの先生

ヒフミとハナコの話に戻るけどさ

黒ミサが重要なポスト任されてるみたいだけど今までそんな描写あったっけ?

 

353:名無しの先生

>>351

え?あれってピンクミサの話じゃねぇの?

 

359:名無しの先生

>>351

俺もピンクミサの話かと

だって黒ミサがそんな細かい事出来るようには見えんし

 

361:名無しの先生

>>359

「ちまちまとした作業なんかできるか!オラァ!」バキィッ!(机破壊

 

364:名無しの先生

>>361

唐突なゴリラやめろwww

 

367:名無しの先生

>>353

え?あー?んん?そうなのか?

やばい、頭こんがらがってきた

 

372:名無しの先生

>>361

頭キヴォトスかよ

 

374:名無しの先生

アリウス率いてナギサ様に襲撃してきたけど、動機は語って無かったよな?

 

380:名無しの先生

>>374

そういえば言って無いな

え?襲撃理由不明ってマジですか?

 

383:名無しの先生

なんかミカは分かってるっぽかったよね

 

384:名無しの先生

あそこのシーン、戦闘に気を取られすぎてたけど

そういえばそうだ

 

388:名無しの先生

あそこのスチルが良すぎて色々吹っ飛んだよね

 

391:名無しの先生

ミカとミサが拳同士をぶつけてるスチルな

なんで拳ぶつけてるんだよ……

 

397:名無しの先生

>>391

PVが初出だがみんな思ってるよ

 

403:名無しの先生

銃がメインだと思ったら、銃の方がおまけだとはな

 

407:名無しの先生

>>397

あのPV改めて見直したら、ミカミサのシーンたった3秒だったわ

たった3秒に詰め込んだ情報量エグいって

 

413:名無しの先生

>>407

すごい勢いで映像流れるけど、コマ送りするとめっちゃ細かく動いてるヤツな

 

417:名無しの先生

それで、何か分かりましたか……?

 

419:名無しの先生

結論:分からない

 

420:名無しの先生

 

423:名無しの先生

結論:でも、戦闘良かったね

 

428:名無しの先生

結論:確かに

 

434:名無しの先生

結論で会話するなwwwwwww

 

435:名無しの先生

私はシスターフッドに連れて行かれるミカと

ミカに向かって叫ぶミサで死にました

 

440:名無しの先生

>>435

あのシーンやばかったよねぇ

 

446:名無しの先生

>>435

あのシーンで

「ミサが裏切り者かー。え?ミカが裏切り者?え?どっち?」

ってなったおかげで先生方大混乱よ

 

447:名無しの先生

>>435

固有3ニキ強く生きろ

 

451:名無しの先生

3章早くきてくれぇぇぇぇぇ!

 

457:名無しの先生

すぐに来るかどうかは運営次第や

エデン3章の前に別のメイン来る可能性の方が高いが

 

460:名無しの先生

解決したように見えて、何も解決してないエデン条約編……

 

462:名無しの先生

次はパヴァーヌじゃない?

 

467:名無しの先生

ゲヘナ編来るかもしれない

今回の話の裏で、みたいな感じで

 

469:名無しの先生

次の更新はいつかなー

 

 




あとがきで解説すること無くなったの初めてかもしれない。
私の初めて///

それはともかくとして、FAを2つも頂いてしまったので、もう完結させる為に粉骨砕身するしかなくなりました。
エデン3章は三日説と二日説がありますが、うちでは二日説を採用しておりますゆえ、あらかじめご了承いただきたい。

アンケートはどちらでも構いませんので好きな方へどうぞー。

次はR18更新予定。皆さんお待ちかね?の催眠回の別視点です。


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ポストモーテムの話

お待たせしましたー。
R18のほうでも書いたけど家庭の事情でやや遅れました。申し訳ない。

でも感想返し要らないって思ってる人多くて少し涙がちょちょ切れそうです。感想返しする暇あったらさっさと続き書けってことですかね。でも感想は書いて欲しい。読者がどう感じたのか知りたい。

あ、それとニコリハット様からファンアート頂きました!ありがとうございます!

【挿絵表示】

たぶん一番ミサのイメージに近いかもしれない。しゅごい(語彙力消失)


 

「別に何か恨みがあるってわけでも無いけど、ここで死んでもらうね?―――バイバイ、セイアちゃん」

 

 持ち上げられた銃口の先、セイアを見据えて放たれようとする弾丸。()()()()()。手に伝わる振動。

 

「―――え?」

 

 間違いなくセイアの頭に合わせて放ったはずの銃弾は、セイアから逸れて横の壁に弾痕を作った。ミカは自身の持つ銃に目を向けると、銃身に何かが当たったような跡。

 

 この部屋の入口へ目を向けると、そこにはガスマスクを着けた銀髪の少女がアサルトライフルを構えて立っていた。

 

(間に合った……か……)

 

「だれかは知らないけど邪魔しないでもらえる?」

 

「……あなたの役目は道案内までのはず、どうしてここに?」

 

「別に?貴女達じゃ本当に殺せるか不安だったから、私が直接来ただけだよ」

 

「だが、銃で殺すには」

 

「気絶しても何百発と撃たないといけない、でしょ?知ってるよ。でもね、()()()()()()()()()()()()んだよ?」

 

「…………」

 

 嘲る様に彼女は笑う。その言葉が嘘では無いのだろうことは、銀髪の少女にも分かった。しかし、と少女は懐からあるものを取り出す。今回の任務の際に渡されたものだ。

 

「ここにヘイロー破壊爆弾がある。これがあればヘイローを直接破壊し、対象を殺すことが出来る」

 

「へぇ?それが貴女達の手段って事?ヘイローそのものを破壊するなんて良く思いついたね」

 

「これを起爆させれば騒ぎになる。ここに居たら、あなたも疑われるだろう。一刻も早く離れて欲しい。アリウスはあなたに恩がある。それを仇で返したくはない」

 

 ミカは別にここで捕まっても良かった。いや、本当は誰かに止めて欲しかったのかもしれない。自分で止まる手段を持ち得ないから。

 

 ミカはふぅ、と息を吐くとセイアに向けていた銃を下ろす。

 

「そう……貴女達がそう言うなら仕方ないね。その代わり、そっちの仕事はちゃんとこなしておいてよね」

 

「……分かっている」

 

 部屋を出て行くミカを見送った少女は、セイアに向き直る。

 

「……待っていたよ、白洲アズサ」

 

「……!」

 

「驚くことは無いだろう?君はそれを知っていて来たはずなのだから。そして、君がなぜすぐに私を殺さないのかも、私は知っている。私なら君の疑問に答えることが出来るだろう」

 

「……私は―――」

 

 

 

 

 

 

 ミカとミサが捕まって数日後。《補習授業部》は無事試験を突破し、私は次のストーリーが始まるまでイベントに奔走していたのだが、先日ナギサから連絡があり、再びトリニティに訪れていた。

 

「ナギサ、その……大丈夫?随分顔色が悪いみたいだけど」

 

「先生、いえ大丈夫です。これくらいのこと、受け流せねば《ティーパーティー》など務まりませんから」

 

 そう強がっているものの、ヒフミの事は虚言だったとはいえ、ミカとミサが犯人だったと知ればそうもなるだろう。ナギサの二人への信頼の(あつ)さを考えれば、とてもショックだったはずだ。

 

 とはいえ、これ以上気遣うのもそれはそれで辛いだろうと思い、話題を逸らすべく別の話題を振ろうとして気が付く。そもそも、私を呼んだ理由がミカとミサに関することじゃん、と。どうあがいてもナギサのメンタルにダメージが行くことは間違いないだろう。

 

「あら?先生も呼び出されたんですね」

 

「ハナコ、数日ぶり」

 

「はい、一週間と少しぶりですね♪」

 

 部屋に入ってきたハナコと、後ろに続くようにサクラコとハスミがやってくる。

 

「せ、先生……!」

 

「や、ハスミと……サクラコ、で合ってたよね?試験の日以来だね」

 

「あの時は名乗りもせず申し訳ありません。改めまして、歌住サクラコです。シャーレの先生のご活躍、こちらの耳にも届いております」

 

「あはは、そんなにかしこまらなくて良いよ。私はただの先生だからね」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「(あはは……?)―――ゴフッ!?ゴホッ、げほ!?」

 

「ナギサ様!?」

 

 紅茶を飲んでいたかと思うと、急にむせだすナギサ。

 

 しまった!今のナギサは思いの外重傷だったんだ!

 

「だ、大丈夫ですか?ナギサ様?」

 

「いえ、すみません。ちょっと紅茶が器官に、ゴホッゴホッ!」

 

「……(これは、少々やり過ぎてしまったかもしれませんね……)」

 

 

 

「―――すみません、少々取り乱しました。それでは先生も来てくださったことですし、本題に入りましょう」

 

 少々か?いや、ここはナギサの名誉の為にも触れない方が良いだろう。

 

「ミカとミサのことだね?」

 

「っ、はい……その……」

 

 言い淀むナギサに、私は今起きてる問題をハッキリと口にした。

 

「お互いに主犯は己であると主張し、相手は無関係と言い張ってるとか」

 

「はい、その通りです……」

 

 このエデン条約編において、プレイヤー先生方を混乱させまくった状況。相手に擦り付けるならまだしも、自分から罪を被りに行ってるので「なにかあるのでは?」と疑った先生も多い。特に、この話の直前にセイア襲撃事件当時のシーンがあるので尚の事。

 

「それで、先生のご意見を聞けたらと。……先生はどう思われますか?」

 

「うーん、私の意見を言う前に、ナギサはどう思ってるか聞かせて欲しいな」

 

「私はミカさんがやったとは到底……しかし、だからと言ってミサさんが……」

 

「ミサがクーデターを起こすか否かで言えば?」

 

「……何かしら理由があれば、起こすと思います……」

 

 そもそも、あのシーンでミカが出てくるまで、ミカが裏切り者だと考えていた者は少ないだろう。あるいは、ミカは利用されてると思った人も少なからず居たはずだ。

 このトリニティにおいて、全ての情報が集まり、それをコントロールすることが出来たのはミサだけだ。また、セイアの報告をしたのもミサだ。つまり、セイアを襲撃した後に何食わぬ顔で報告も出来たわけだ。状況、証拠、あらゆるものがミサを犯人だと指し示している。

 

「やはり、ミサ様が主犯、ということなのでしょうか?ミカ様は、以前からミサ様の起こした問題をその……ミカ様が庇う状況が多々ありましたから、今回もそうではないかというのが私達の意見なのですが……」

 

「私もあの日、先生と共にミサさんと戦うまではそう思っていました」

 

「ハナコさん……?」

 

 ハスミの疑問の言葉に答えたのは、ハナコだった。

 

「冷静に考えてみれば、ミサさんが今回の事件を起こしたならありえない矛盾、少し考えたら分かった事なのに私自身、このトリニティにおいて彼女にまつわる噂に踊らされ判断を誤ってしまうなんて……」

 

「"ありえない矛盾"?」

 

「はい、もし彼女が《ティーパーティー》を排除するために動いていたなら、セイアちゃんは既に亡くなっている筈です。しかし、彼女は生きている。それどころか保護したミネ団長にも何もしていません」

 

「それは……《救護騎士団》と事を構えるのはシンプルに分が悪いと思ったからでは?」

 

「そうでしょうか?それだけじゃありません、セイアちゃんの襲撃から時間が経ちすぎています。彼女の性格を考えれば、ここまで期間を空ける理由がありません。他に何か理由があれば別ですが」

 

 襲撃があったのが4月の始め、今は6月だ。期間が空きすぎている。ミサは長期戦より短期決戦で臨むタイプだから、もし犯人ならセイアを襲撃したその足でナギサを襲撃しててもおかしくない。

 

「……確かに、ミサさんの性格からすれば妙ですね。え?では、まさかミサさんはミカさんを庇って……?」

 

「私はその可能性が高いと考えます。それくらい、ミサさんの行動は不自然さが目立ちます。それに……」

 

「それに?」

 

「いえ、少しミカさんとお話ししたんですが―――」

 

 

 

 

 

 

「―――まさか、私に会いに来るなんて思わなかった。浦和ハナコ」

 

 《正義実現委員会》の用意した特別牢。牢屋というには、少々豪華すぎる設備で彼女達は相対していた。

 

「聖園ミカさん、セイアちゃんのことは」

 

「……聞いたよ、生きてるんだってね。あーあ、やっぱり生きてたんだ」

 

 そう言ってミカは大げさに肩をすくめて見せる。

 

「やっぱり……?」

 

「アズサちゃんから聞いてない?あの日、セイアちゃんを襲撃した時私とアズサちゃんが居たんだよ。アズサちゃんの襲撃と被っちゃってさー。正確には、私が被せたんだけどね」

 

 それは知っている。試験の後、アズサの口から直接語られたものと同じだ。しかし、アズサはその場にミカが居たことは言っていなかった。その理由は不明だが、きっと彼女達の間で何かあったのだろう。

 

「セイアちゃんが生きていた事、ミサさんから何も聞いてないんですか?」

 

「…………そっか、ミサちゃんやっぱり知ってたんだね」

 

「……あの日、セイアちゃんの保護に当たったのはミネ団長と、ミサさんでした。間違いなく知っていたと思います」

 

「……だろうね。ミサちゃん、嘘つくの下手だから、なんとなくそうなんじゃないかなって」

 

 ミカは苦笑してからテーブルのカップに手を伸ばし、紅茶を口に含む。

 

「随分余裕ですね?……いえ、これは諦めですか」

 

「そうだね、でも貴女なら理由が分かるんじゃない?浦和ハナコ、去年まで次期《ティーパーティー》の有力候補だった天才の貴女ならね」

 

「……」

 

「ふふ、腹の内を探るなら探られる覚悟もしておかないとね?」

 

 手強い、ハナコはミカにそう感じた。まるで霧を掴まされてるような、そんな印象を受ける。そもそも、ミカの第一印象と言えばもっと自由奔放で能天気なイメージがあったのだが、実際に話してみるとどうだろう?これが彼女の本性なのだろうか。だとすれば、最初に与えた印象はこちらを油断させるものであった可能性が高い。パテル分派の首長は伊達ではない、ということだろう。ハナコは己の浅慮を恥じた。

 

「……一つ、聞かせて頂いてもよろしいですか?」

 

「あはは!今更遠慮するんだ」

 

「どうしてセイアちゃんを襲撃したんですか?」

 

「他の人にも言ったけど、邪魔だったからだよ」

 

 エデン条約賛成派のセイアが邪魔だったから、そういう理由だったとは聞いていた。だが、本当にそうだろうか?彼女は何かを隠している。少なくとも、彼女がエデン条約に頓着してるようには見えない。聖園ミカが執着するする相手、それはたった一人の人物しかありえない。

 

「曖昧な答えですね」

 

「そうかな?」

 

「……ミサさんの為ですか?」

 

「……」

 

 スッとミカの顔から表情が消え失せる。人形のように整った顔立ちではあるが、表情の無い彼女は寒気すら感じさせる。

 

「ようやく表情を変えましたね」

 

「……ふーん?」

 

 ジッとハナコの目を覗き込むように見つめるミカ。

 

「貴女とミサさんの噂は有名ですからね。……ただ、想像していたものよりも違った関係だったようですが」

 

 少なくとも、ミカが一方的にミサを従えてるわけでは無いのだろう。

 

「ミサちゃんは関係無いよ。……なんて言っても信じないだろうね」

 

「少なくとも、ミカさんがセイアちゃんを襲撃した理由に、ミサさんが関わってると思ってます。恐らく、その事をミサさんは知らないのでしょう」

 

「……面白い妄想だね」

 

「妄想、本当にそうでしょうか?少なくとも、ミカさんがミサさんを庇っているのは事実ですよね?だからこそ、その核心を誰にも話したがらない。話すことで、ミサさんに危害が及ぶことを恐れているから」

 

「……」

 

 ハナコはミカの顔を真っ直ぐに見つめるが、ミカは俯いてその表情は窺い知れない。

 

「ミカさん、貴女は―――」

 

「浦和ハナコ」

 

「ッ!?」

 

 底冷えするような声。さらに詰めようとしたハナコを押し留めるには十分なそれに加え、ミカは冷たく、拒絶を顕わにした目でハナコを睨むように見る。

 

「面会は終了だよ」

 

「……そうですね、また来ます」

 

 

 

 

 

 

「―――ということがあったんです」

 

「ミカさんがそんなことを……」

 

 ハナコこえー……。僅かな情報から、ここまで詰めるの早すぎない?ミサのパーソナルデータがあれば、この時点で事件の全容を察してたのは間違いないだろうなぁ。

 

「しかし、そうなると聖園ミカさんが今回の件の首謀者、ということになるのでしょうか?」

 

 サクラコの疑問に待ったを掛けたのはハナコだった。

 

「いえサクラコさん、今回の件はどうやら裏で色々なことが起きてる様子。結論を急ぐのはまずいかと。少なくとも、どちらが悪いかという単純な話では無さそうです」

 

「アリウス、ですか」

 

「ええ、アズサちゃんから聞いてるんですよね?」

 

「トリニティとアリウス……」

 

「……我々《シスターフッド》にとっても無関係とは言えませんね」

 

「因果は巡る、ということでしょうか?」

 

 そう呟いたナギサに、サクラコは神妙な面持ちになる。

 トリニティとアリウスの因縁。そこには当然、《シスターフッド》の前身たる《ユスティナ聖徒会》も関わってくる。

 

「アズサさんから話を聞いて、まさかとは思っていたんですがアリウスが関わってるとは……。やはりトリニティを恨んでいるのでしょうか」

 

「アリウスがトリニティから追放されたのは確か……」

 

「……"トリニティの至宝"を傷付けたこと、ですね」

 

「国宝級の何かだったんでしょうか?それにしては、刑が軽いとは思いますけど」

 

「追放程度で済んだのは、ユスティナの聖女の嘆願によるものですね。本来なら打ち首でしょう」

 

「ナギサさん、詳しいんですね」

 

「貴族籍の生徒なら誰でも知ってる事ですよ。至宝がどんなものだったかは、言えませんが。少なくとも、知れば誰もが怒り狂うほどのモノです、とだけ。このトリニティの根幹に関わる事ですからね」

 

 超重要な話をサラッと出しておいて、エデン条約編で回収されなかった話……。まさか、回収までに2年掛かるとはね。

 

「それで、先生はどう思われますか?」

 

「私もハナコと同意見かな。今すぐに結論を出すべきじゃないと思うよ」

 

「そう、ですか」

 

 しょぼんと肩を落とすナギサ。きっとミカとミサ、二人を心配してのことだろう。私は苦笑しながら立ち上がる。

 

「先生?どちらかに行かれるので?」

 

「うん、やっぱりもう一人の方も話を聞いておくべきだと思ってね」

 

「!ですが彼女は……」

 

「うん、話をするのも拒否してるんだってね。でも……」

 

 今も孤独に戦っている彼女。このエデン条約編3章では彼女の協力が不可欠だ。会いに行かなければならないだろう。なにより、

 

「私は先生だからね」

 

 生徒に寄り添わずに何が先生か。

 

「だから、ミサのいる部屋を教えて貰えるかな?」

 

 ミサとの対話は避けては通れない道だ。

 

 

 

「というわけで来たよ、ミサ」

 

「……」

 

 閉じられた檻の向こう。床に膝を抱えて蹲るミサ。髪の隙間からこちらを覗く瞳に背筋を凍らせながらも、私は覚悟を決めるのだった。

 

 




解説何入れようか迷った結果、なにも入れない事に落ち着いた。だって本編で解説しまくった後だし、特に書かなくても大丈夫かなって…。

とりあえず作者の中でハナコが動かすのに便利なキャラと化してきてる。

もうすぐミカとミサの誕生日だし、イチャイチャ短編書こうかなって思うんだけど、またも時系列がエデン条約編後なのは許して。


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