【悲報】清楚系で売っていた底辺配信者、うっかり配信を切り忘れたままSS級モンスターを拳で殴り飛ばしてしまう (アトハ)
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第一章
第一話 レイナ、まっずいモンスターと出会う


「視聴いただき、ありがとうございました。それでは次の食卓で、お会いしましょう!」

 

 配信を切り、私――彩音レイナはリスナーに感謝を告げる。

 

 私は、学校に通いながら配信者として活動していた。

 もっぱらダンジョン内部の様子を配信する俗にいうダンチューバーというやつだ。

 

 あの憧れの大先輩のように、視聴者を笑顔にしたい。

 そして俗っぽい願いではあるが、願わくばダンジョン探索資金の足しにしたい。

 そんな輝かしい夢をともに飛び込んだ配信者の世界であったが―― 

 

 

「はぁ……。私、向いてないのかな……」

 

 私は、思わず深々とため息をついてしまった。

 

 今日の配信の視聴者数は7。

 半年近く活動して、同時接続者――配信を見ている人数のこと――が3桁を超えたことは一度もない。

 偽りようのない数字が、悲しいぐらいに現実を突き付けてきていた。

 

 

 数年前のある日、世界各地に異世界へと繋がるダンジョンが現れ大騒ぎになった。

 その非日常な光景に魅せられ、数多の人間が探索者としてダンジョンに足を踏み入れていく。

 命がけの冒険劇と、まるでファンタジー世界のような現実離れした光景。

 そんな魅力ある配信はみるみる人々の心をつかみ、またたく間に人気を獲得していった。

 「ダンチューバー」という新たな配信スタイルの地位を、確固たるものにしていったのだ。

 

 現在、ダンチューバーはレッドオーシャンであると言える。

 毎日のように新たなダンチューバーが生まれ、同じ数だけ埋もれていく。

 その中で、頭ひとつ抜きにでるのは並大抵のことではない。

 

 

「……って、愚痴っても仕方ないよね。切り替えて行こう」

 

 気がつけばネガティブな方向へと進みそうになる思考。

 私は、首を振って意識的に切り替える。

 

 ――来てくれたお客さんに、癒やしと笑顔を。

 そのモットーで私が始めたのは、ダンジョン産の素材を使った料理配信だ。

 もともと配信では、根強いファンがいるジャンルであった。

 そこにダンジョンという物珍しさを追加してみよう、という試みだったのだが結果は惨敗。

 同接一桁常連という底辺配信者が誕生しただけだった。

 

 

「このままのスタイルでは、限界があるか。やっぱりテコ入れが必要だよね」

 

 諦めるなんて選択肢はない。

 私は、動画サイトのトレンドを見ながら思考に没頭する。

 

 ――本来ダンジョンの中で、探索以外のことに気を取られるなど死亡フラグにほかならない。

 もっとも、私にとってこの辺は庭のようなもの。

 万に一つの事故もあり得なかった。

 

 

 ぐるるるるる……

 

「うっさい」

 

 ボスッ

 飛びかかってくるモンスターには鉄拳制裁。

 それだけでモンスターは肉塊に姿を変え、見ていたモンスターたちは恐れをなして逃げ出していく。

 

(こんな姿、癒やし配信では絶対に見せられないよね……)

 

 これでも私は、清楚系ダンチューバーで売っているのだ。

 こんな姿、もしファンの視聴者に見られでもしたら……、

 

(まあ、ファンなんて居ないんですけどね!)

 

 

 自虐的な思考を振り払い、私はテコ入れ案を求めて動画ランキングを上から眺めていく。

 

 ――フロアボスを、ソロでつっついてみた!

 ――大ギルド・ダイダロスとの紛争勃発!? ダンジョン探索人生、終了の危機www

 ――ゾンビに喰われた冒険者の末路wwww【グロ注意】

 

(最近、大丈夫?)

(昔は、こんなんじゃなかったのに……)

 

 炎上商法一歩手前の迷惑動画に、R18ギリギリのスプラッタ動画。

 いつから、こんなものがダンチューバーの主流になってしまったのだろう。

 

 私が好きだったダンチューバーたちは、もっと輝いていたと思う。

 まあ伸びてない私が何を言っても、負け犬の遠吠えなんだけど。

 

 

「う~ん。スプラッタで伸びてもなあ……」

 

 スプラッタ――通称、事故配信。

 ダンジョン配信の最中、モンスターに襲われ命を落とすグロ映像。

 ショッキングな映像ではあるが、新たな刺激を求める視聴者にとっては魅力的でもあった。

 

 

「別の、考えよ……」

 

 私は、パタリと配信を閉じる。

 

***

 

 テコ入れ案を考え続ける私は、淡々とダンジョン出口に向かって歩き続けていた。

 中層に差し掛かった頃。

 

「きゃあぁぁぁ!」

 

 私は、そんな悲鳴を聞きつける。

 

 

「……危ないっ! どうして、こんなところに人が!?」

 

 悲鳴の主は、心配するようにそう私に声をかけてきた。

 

 

 声の主は、20前後の大人びた女性であった。

 同業者だろうか。

 黒いポニーテールを束ね、両手で短刀を油断なく構えている。

 

 

「えっと、お姉さんは?」

「ここは私が食い止めるから。だからその隙に逃げ――」

「……?」

 

 ぐるるるるる……、

 

 

 彼女は、モンスターの群れと交戦中のようだった。

 

「うっさいよ」

 

 食べられないモンスターは嫌いだ。

 ひとつの配信ネタにもなりやしないし。

 

 

「すみません、お姉さん。そこの獲物、頂いても?」

「へ? そりゃあ構わないけど……。って、馬鹿なことを言わないで逃げ――」

「ありがとうございます」

 

 ――私のストレス発散の糧となれ

 

 

 伸びぬ同接。

 育たぬチャンネル。

 食えもしないまっずいモンスター。

 

 

「邪魔」

 

 ちょっぴり私はイライラしていたのだ。

 無感情にそう言い放ち、私はまっすぐモンスターに向かって駆け出すのだった。



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第二話 レイナ、うっかりイレギュラーモンスターを殴り飛ばしてしまう

 私はあらためてモンスターの群れと向かい合う。

 中層にしては、随分と数が多い。

 

 

(というか下層のモンスターが混じってる?)

(まさか、イレギュラーモンスター!)

 

 通常、ダンジョンは階層ごとに出没するモンスターが決まっており、潜れば潜るほど強力になっていくと言われている。

 イレギュラーモンスターとは、1つ上の階層に迷い込むモンスターのことだ。

 

 

「ふっふっふ。もっと連れてきても良いよ?」

 

 下層のモンスターぐらいなら、さしたる問題はない。

 数が多いのは、むしろ好都合だ。

 

 

 ドガッ バキッ ドゴンッ! 

 私は、素手でモンスターを殴り飛ばしていく。

 次々とモンスターたちが壁に叩きつけられ、それだけで耐えられずに肉片へと姿を変えていく。

 

 

「あっはっはっはっはっは!」

 

 この瞬間がたまらないのだ。

 モンスターをたこ殴りにしている間は、どんな嫌なことだって忘れられる。

 私は高笑いしながら、モンスターを物言わぬ屍に変えていく。

 

 

「い、いったい何者!? って、後ろ――危ないっ!」

「大丈夫」

 

 たまたま居合わせた探索者さんは良い人だ。

 心配するような声に応えて、私は狼型モンスターの突進をくるっと回って回避。

 その勢いを殺さぬまま、拳を浴びせてやる。

 

 それだけで狼型モンスターは体内からポンッと弾け飛び、ぴくりとも動かなくなった。

 

「あ、あなたはいったい――」

 

 愕然とした様子のダンジョン探索者さん。

 そんな彼女をよそに、私はイレギュラーモンスターに向き直る。

 

「これで残るはあなただけ」

 

 見た目は、恐竜のような姿。 

 もっとも私は、その見た目がただのコケ脅しであると知っている。

 こいつについて、詳しく語る必要があるとすれば……、

 

「どこにも食用部位がないのよね、あなた」

 

 そう、どう頑張っても食えないのである。

 

 身体を覆う鱗は、どう調理しても食せないほどに硬い。

 その鱗を剥いでみても、肉は腐り落ちたゾンビのような味がする。

 数多のゲテモノ料理を食べてきた私であるが、その刺激的な味はどう調理をしても食べられる気がしない。

 

 よって、見かけたときの対処は殲滅一択。

 

 

「ばかっ、本気で挑むつもりなの!? 相手は、下層のドラゴンゾンビ。私のことはもう良いから、早く逃げ――」

 

 後ろからそんな声が聞こえてきたが、

 

(逃げる? とんでもない)

(ここで止めたら消化不良でどうにかなっちゃう!)

 

 

 私は、壁を蹴ってブレス攻撃を回避する。

 勢いそのままに宙を蹴り、天井付近まで飛び上がる。

 

 頼るのは鍛えあげたこの拳。

 狙うは弱点である細長い首元。

 あそこだけは鱗が薄く、攻撃が通りやすいのだ。

 

 

「滅ッ!」

 

 気功を込めた拳がドラゴンを撃ち抜く。

 

 

 ギエェェェェエエッ!

 

 それだけで禍々しい咆哮とともに、モンスターはあっさりと地に倒れ伏した。

 

 あまり長期戦になったら、後ろの探索者を巻き込んでしまう可能性があるからね。

 本当は丈夫な鱗をむちゃくちゃに殴りつけるのが気持ち良いのだが、私だって時と場合はわきまえている。

 

 

(ふう。暴れた暴れた!)

 

 スッキリした顔で、私は探索者を振り返る。

 

 

「あ、あなたはいったい――」

「お願い。このことは内緒にしておいてね」

 

 口止めも忘れない。

 

 これでも私は、癒し系配信者で売っているのだ(そこっ、売れてないとか言わない!)

 こんな姿が知られでもしたら、イメージダウン待ったなし。

 一夜の幻だと想って、そのまま忘れていただきたい。

 

 

「そんな!? どうか私の事務所でお礼を……!」

「事務所?」

 

(何だろう?)

(それより、家帰って次の配信ネタ考えないと……)

 

 首を傾げながら、私はいそいそとダンジョンを後にするのだった。

 

 

 

***

 

 助けられた少女――望月雪乃は、ただただ驚愕していた。

 そして何より圧倒されていた。

 

「なに、今の……」

 

 雪乃は、ダンチューバーとして活動している探索者だ。

 そのチャンネル登録者数は80万――この数字は、日本の女性ダンチューバーではトップクラスと言える。

 まさしく超大人気ダンチューバーの1人であった。

 

 彼女の配信スタイルは、ソロプレイを中心にしたダンジョン配信だ。

 

 雪乃は双剣使いとして、一流の探索者も認める実力を持っていた。

 ベテランの探索者も舌を巻くほどの精密な斬撃に、卓越した危機探知能力。

 初心者にも優しくアドバイスを欠かさず、おまけに実力を鼻にかけないカラッとした性格。

 一度でも彼女の配信を見た者は、またたく間にファンに姿を変える――それが望月雪乃という配信者であった。

 

 

「もしかして……、夢?」

 

 雪乃は、ぱちくりと目を瞬いた。

 

 イレギュラーモンスターに襲われて、少し前まで絶体絶命の危機だったのだ。

 実はもう命を落としているのではないか、なんていう馬鹿らしい考えすら頭をよぎる。

 それほどまでに現れたモンスターは、絶望そのものだったのだ。

 

 

 ドラゴンゾンビ――恐竜のような姿が特徴的な、イレギュラーモンスターだ。

 それは下層の中でも、1・2を争う危険なモンスターだと言われている。

 下層の冒険に乗り出したベテラン探索者が、何人もこのモンスターの犠牲になっているという。

 その危険度から、探索者組合からは「SS級」というランクが与えられているほどだ。

 

 雪乃1人では逆立ちしても勝てない相手。

 そんな存在を、1人の少女がボコボコにして去っていったのだ。

 ――拳で。

 

 

"ゆきのん、大丈夫だった!?”

"怪我はない!?"

 

 配信のコメントには、雪乃を気遣うような書き込み。

 

"何者なんだ、さっきの探索者は……"

"倒れてるの、本当にドラゴンゾンビだよな??"

"俺は夢でも見ていたのか!?"

"何にせよゆきのんが無事で本当に良かった!"

 

 あまりにも衝撃的な光景に、コメント欄の流れは早い。

 

「だよね、私も目で追えなかった!」

 

"ゆきのんですら!?"

"ダンジョンイーグルズの奴らじゃないか?"

"仮にそうだとしてもドラゴンゾンビをワンパンは無理だろ……"

 

 雪乃の周囲には、今も魔術で動く配信カメラが飛び回っていた。

 カメラは、レイナが暴れている一部始終を、しっかりと映し出していたのである。

 

 

"もう切り抜き上がってる"

"ヤバすぎてコラ疑われてて草"

"特定班はよ"

 

「あの……? あの人、あまり目立ちたくないみたいだから――」

 

 そう言う雪乃だったが、熱を持ったコメント欄に収まる様子はない。

 

 衝撃的な光景は、見事に視聴者の心を鷲掴みにしていたのだ。

 止める間もなく一瞬で拡散されつつあり、とても収拾がつかない。

 

 ――ごめん。

 雪乃は名も知らぬ少女に、内心でそう謝るのだった。



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第三話《掲示板》伝説のはじまり

【無謀な配信者】ダンチューバーについて語るスレ総合. 376【今日も死んでいる】

 

 

229: 名無しのダンチューバー

最強はやっぱりダンジョンイーグルズだろ

 

230: 名無しのダンチューバー

ないない

あいつら人の狩り場荒らすだけのハイエナやぞ

 

231: 名無しのダンチューバー

最近、躍起になって勧誘してるよな

落ち目なこと自覚してるんだろ

 

232: 名無しのダンチューバー

時代はシャイニースターズですよ、やっぱり

 

233: 名無しのダンチューバー

・・・誰?

 

234: 名無しのダンチューバー

売り出し中のアイドルグループやね

箱売りしてるから数字だけはかなりのもん

 

235: 名無しのダンチューバー

アンチ乙

ゆきのんとかソロで下層潜れるバケモンやからな

 

236: 名無しのダンチューバー

それは盛りすぎ

こないだも中層でヒーヒー言ってたやん

 

237: 名無しのダンチューバー

それはメンバーキャリーしとったからやで

 

238: 名無しのダンチューバー

そんなことよりみおちゃんの御御足prpr

 

 

 

・・・・・

 

477: 名無しのダンチューバー

【悲報】新宿ダンジョン、終わる

なんかイレギュラーモンスターが現れて、暴れまわってるらしい

探索者組合からの緊急ニュース

 

478: 名無しのダンチューバー

ふぁっ!?

久々やな

 

479: 名無しのダンチューバー

ドラゴンゾンビwww

災厄レベルで草

 

480: 名無しのダンチューバー

うへぇ

これは討伐隊組まれるなあ

 

481: 名無しのダンチューバー

お、ダンジョン特需くる?

回復アイテム放出するべきけ?

 

482: 名無しのダンチューバー

>>481

転売厨は氏ね

 

483: 名無しのダンチューバー

わい、持病の腹痛が……

 

484: 名無しのダンチューバー

わい、持病の腰痛が……

 

485: 名無しのダンチューバー

貧弱スレ民の力なんて誰も望んでない定期

 

486: 名無しのダンチューバー

ちょっ、ゆきのんが新宿ダンジョンで配信中

個スレがえらい騒ぎになってる

 

487: 名無しのダンチューバー

ふぁっ!? どうしてこのタイミングで!?

 

488: 名無しのダンチューバー

はよ伝えな

イレギュラーモンスターだけはシャレならん

 

489: 名無しのダンチューバー

ゆきのん大丈夫かな

 

490: 名無しのダンチューバー

わいの生き甲斐が・・・

 

491: 名無しのダンチューバー

助けに行こうとか考えるなよ

今の新宿ダンジョンはやばい

イレギュラーで深化してるから、中層のモンスターでも下層の奴らと大差ないで

 

492: 名無しのダンチューバー

有識者ニキだ!

そんなにやばいんか

 

493: 名無しのダンチューバー

わかる

イレギュラーモンスターは一度会ったらトラウマになる

 

494: 名無しのダンチューバー

行くなよ、絶対いくなよ

 

495: 名無しのダンチューバー

スレ民にそんな勇気あるわけないだろ、いい加減にしろ!

 

496: 名無しのダンチューバー

ゆきのん避難誘導してる

天使すぎか

 

497: 名無しのダンチューバー

そんなことより逃げてって思っちゃう

 

498: 名無しのダンチューバー

人気稼ぎおつ

 

499: 名無しのダンチューバー

>>498

アンチの嫉妬見苦しいぞ

 

500: 名無しのダンチューバー

>>498

人気稼ぎならさっさと逃げてから涙流せば良いねん

 

501: 名無しのダンチューバー

アシスタントさん真っ先に逃げてて草

ゆきのん配信切り忘れてるだけかなこれ

 

502: 名無しのダンチューバー

実況スレになってて草

 

503: 名無しのダンチューバー

おわた

 

504: 名無しのダンチューバー

ゆきのん・・・

 

505: 名無しのダンチューバー

いや、ゆきのんならイレギュラー相手でも

 

506: 名無しのダンチューバー

なんだあれ

数多すぎるな

災厄級かなあ・・・

 

507: 名無しのダンチューバー

推しが事故ってからトラウマなんや

わいは切る

 

508: 名無しのダンチューバー

俺も・・・

 

509: 名無しのダンチューバー

逃げてゆきのん!!

 

510: 名無しのダンチューバー

ふぁっ!?

 

511: 名無しのダンチューバー

いやいやいやいや

何あれ草

 

512: 名無しのダンチューバー

>>511

なにごと?

 

513: 名無しのダンチューバー

>>511

不謹慎やぞ

 

514: 名無しのダンチューバー

今北産業

 

515: 名無しのダンチューバー

イレギュラーモンスター出没

新宿ダンジョンおわり

ゆきのんピンチ

 

516: 名無しのダンチューバー

ゆきのん配信

謎の幼女乱入

ドラゴンゾンビワンパン

 

517: 名無しのダンチューバー

>>516

ふぁっ!?

 

518: 名無しのダンチューバー

>>516

俺の知ってる情報じゃないんだが?

 

519: 名無しのダンチューバー

>>516

ぅゎょぅι゛ょっょぃ

 

520: 名無しのダンチューバー

>>516

現実見て

 

521: 名無しのダンチューバー

>>520

まじやぞ

 

522: 名無しのダンチューバー

まじで草

 

523: 名無しのダンチューバー

釣りならもっと上手く・・・ってガチなの草

 

524: 名無しのダンチューバー

ゆきのんを救ってくれてありがとう

ありがとう・・・

 

525: 名無しのダンチューバー

モンスターの集団殴り飛ばしてて草

ほんとに誰だあれ

 

526: 名無しのダンチューバー

やべえやつだぞあれ

ドラゴンゾンビ見たときの反応が食えない、だからな

 

527: 名無しのダンチューバー

>>526

うっそだろw

 

528: 名無しのダンチューバー

まじ

なんならお供モンスターにも同じ文句付けてる

 

529: 名無しのダンチューバー

見てきたら素材回収すらしてなくて草

 

530: 名無しのダンチューバー

雑魚処理してるときのマジキチスマイル好き

 

531: 名無しのダンチューバー

えぇ……(困惑)

 

532: 名無しのダンチューバー

まだ見ぬバーサーカーが眠っておったか・・・

 

533: 名無しのダンチューバー

そんなバケモンが無名とかある?

やらせだろ

 

534: 名無しのダンチューバー

特定班はよ!

 

 

 

・・・・・・・

 

【最強幼女】ダンチューバーについて語るスレ総合. 382【爆誕】

235: 名無しのダンチューバー

つぶやいたーのトレンド1位で草

 

236: 名無しのダンチューバー

切り抜きすごい勢いで再生回ってるww

 

236: 名無しのダンチューバー

コラ疑う声が多くて草

 

238: 名無しのダンチューバー

そりゃイレギュラーモンスターソロ討伐したらなあ

わいもまだ半信半疑や

 

239: 名無しのダンチューバー

ゆきのんめっちゃ落ち込んでて天使

内緒にして欲しいって言ってたのに配信に映しちゃってたの気にしてるみたい

 

240: 名無しのダンチューバー

ゆきのん可愛い

 

241: 名無しのダンチューバー

イレギュラーソロ討伐した時点で、秘密もクソもないだろう

どうせニュースになる

 

242: 名無しのダンチューバー

例のチャンネル見つけたかもwwww

彩音レイナの食卓配信→→URL

 

243: 名無しのダンチューバー

>>242

ふぁっ!?

 

244: 名無しのダンチューバー

>>242

便乗宣伝乙

 

245: 名無しのダンチューバー

>>242

グルメ配信って書いてあるんだが・・・

 

245: 名無しのダンチューバー

てか配信中で草

 

246: 名無しのダンチューバー

まじじゃねえか!!

 

247: 名無しのダンチューバー

まじやん!

て思ったけど主、寝落ちしてるっぽい?

 

248: 名無しのダンチューバー

グルメて書いてあるけどダンジョンめっちゃ探索してるやん!

 

249: 名無しのダンチューバー

いやぶっ飛んでて草

イレギュラーモンスター倒したのまじでこいつやん

 

249: 名無しのダンチューバー

倒しても無感動で草

 

250: 名無しのダンチューバー

まじきち笑顔大好き

 

251: 名無しのダンチューバー

( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!

 

252: 名無しのダンチューバー

切り抜いたやつww

 

253: 名無しのダンチューバー

いぬっころ、一瞬でミンチになって草

あいつ中層では強敵のはずなのに・・・

 

254: 名無しのダンチューバー

笑いながらやってることえぐいんよw

 

255: 名無しのダンチューバー

なんでこんなバケモンが埋もれてるんや・・・

 

256: 名無しのダンチューバー

とりあえず配信待機

 

257: 名無しのダンチューバー

わいも

 

258: 名無しのダンチューバー

楽しみすぎる

 

259: 名無しのダンチューバー

企業ダンチューバーかな?

 

260: 名無しのダンチューバー

さすがに個人勢だとするには無理あるしそうやないかな?

こんだけ話題になれば成功やろなあ

 

261: 名無しのダンチューバー

ほんとに個人勢がうっかり切り忘れてたに100ペソ

 

261: 名無しのダンチューバー

それはないやろ

いくらなんでも出来過ぎてる

 

262: 名無しのダンチューバー

せやせや

こんなバケモンが都合よく埋もれてる訳ないやろ!

 

263: 名無しのダンチューバー

まあ配信待とうや

 

264: 名無しのダンチューバー

おまいらそろそろ個スレいけ

 

 

 

・・・

 

 ――彩音レイナは知らなかった

 超大人気ダンチューバーの配信に、自身が映り込んでしまったことを。

 配信を切り忘れており、それが証拠となり数多の人が流れ込んできていたことを。



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第四話 レイナ、起きたら大変なことになっていた

 翌日の朝。

 私――レイナは、むくりと起き上がる。

 

(どうやら帰ってきて、そのまま寝落ちしたっぽいな)

(こんなだらしないところ、リスナーさんには見せられないね……)

 

 まあ、イメージを壊すようなファンも居ないんですけどね!

 

 

 はあ、とため息。

 目をこすりながら起き上がったところで、

 

(……ん?)

 

 スマホがぶるぶると震え続けているのを見て、私は首を傾げる。

 

 

 ひっきりなしに通知が来ているのだ。

 スマホを見て、まず気がついたことは――

 

 

「なんで配信中になってるの!?」

 

 いやぁぁぁぁぁ、と絶叫。

 物理的に破壊せんばかりの勢いでスマホに飛びかかり、慌てて配信を閉じる。

 

(おかしいな……)

(ちゃんと切ったはずなのに――)

 

 否、閉じようとした。

 

 しかし閉じれない。

 閉じるボタンを押しても、ピクリとも動かないのである。

 私、彩音レイナ。実は、大の機械音痴なのである。

 

 

(なんで~!?)

 

 涙目になる私。

 不幸中の幸いか、ダンジョン探索中と同じカメラモードなので顔は映っていない。

 動揺する私の前を、不穏なコメントが横切っていった。

 

 

"迫真の絶叫草"

"つぶやいたートレンド1位おめでとう!!"

"チャンネル登録者数50万人おめでとう!"

"新宿救って、そのままスヤスヤ眠ってたのホンマ草"

 

 コメント欄の速度が、尋常じゃないほどに速い。

 不思議に思った私は、チャンネルの同接を見て――

 

「10万!? 10万なんで!?」

 

 見たこともない数字が飛び込んできた。

 

 

 同接1桁常連の私。

 10人を越えた日は、ささやかなお祝いにケーキを食べた。

 翌日ゼロ人で、枕を涙で濡らしたっけ。

 

 そんな私に、なぜか10万人以上もの視聴者が集まっている……!?

 最高に意味がわからなくて固まってしまった。

 

 

"ゆきのんとは知りあいだったんですか?"

"どこの事務所所属なんですか?"

"ドラゴンゾンビ、怖くなかったんですか!?"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

 

 コメントの中には、昨日の"例のアレ"について触れるものもあり……、

 

「いやぁぁぁぁぁぁ――!」

 

 私は絶叫とともに、スマホを物理的に破壊。

 強制的に配信を打ち切るのであった。

 

 

 

※※※

 

 真っ白い灰のようになっていた私であったが、ふと我に返り立ち上がる。

 

 それから、おもむろにパソコンを立ち上げた。

 情報収集のためだ。

 

 

 おそるおそる、つぶやいたーを開くと、

 

(ほわっつ!? 本当にトレンド1位に自分の名前がある……)

(いや、本当になんで!?)

 

 どうやら私は、超大人気ダンチューバーを助けていたらしい。

 

 

 望月雪乃――ゆきのん、シャイニースターズの期待の星。

 初心者向けのためになる解説配信スタイルで、堅実に人気を集めていたはずだ。

 ゆきのんのことは、当然私も知っていた。

 デビュー配信はすごくワクワクしたし、今でも定期的に配信を見るぐらいには好きだ。

 

(非常事態だから、場を混乱させないために変装していたのかあ……)

(サイン欲しかったなあ――って、そうじゃなくて!?)

 

 昨日のあれが配信に映り込むなんて、大事故である。

 もし私が企業ダンチューバーなら、クビ待ったなしの大スキャンダルだ。

 

(解せぬ……)

 

 そんな危機感をよそに、現実は謎の盛り上がりを見せていた。

 

 つぶやいたートレンド1位には、燦然と輝く彩音レイナの名前があった。

 チャンネル登録者は、本当に50万人を突破している。

 あまりにぶっ飛んだ数字で、いまだに現実感がない。

 

 

 私は試しに、彩音レイナの名前を動画サイトで検索してみた。

 

「どれどれ……?」

 

 驚くことに。……いや、予想どおりというべきか。

 昨日の光景が、大量に切り抜き動画として上がっているようだった。

 

"【最強幼女】ドラゴンゾンビをワンパンした模様"

"狼ぶちのめしてニッコニコのレイナさん(耐久Ver)"

"ベテラン探索者が、例の戦いを解説してみる(彩音レイナ、例のアレ)"

 

 ……そっと閉じた。

 

 

(ってか、幼女って。幼女って……)

(私、これでも15なのに!?)

 

 こんな時にまで、コンプレックスだった童顔問題を思い出させないで欲しい。

 そりゃあ、たしかに子供の探索者は珍しいけどさ。

 いや、私と同姓同名の幼女が、どこかでドラゴンゾンビをワンパンした可能性が微レ存?

 

 ついには、現実逃避のような思考を始めたとき……、

 

 

 

 ――ピリリリ、ピリリリ

 

 チャットアプリのルインに着信があった。

 呼び出し相手は、鈴木千佳――私の悪友にして、ある意味すべての元凶である。

 

 千佳は、工学部・ダンジョン探索支援科に所属する同級生だ。

 自称・発明家であり、ときどき怪しげな品を渡してきては感想を求めてくる。

 研究がノリにノッているときは、一週間は不眠不休で活動できる妖怪のような少女であった。

 ちなみに私がダンチューバーとして活動を開始したのも、千佳の誘いである。

 

 

 私が通話に出ると、

 

「おめでとう、レイナ! いつか跳ねるとは思っとったけど、さすがにそれは想定外やったで」

 

 千佳は、開口一番、そう爆笑した。

 爆笑しやがった……!

 

(他人事だと思って、なんともお気楽な!)

 

「千佳ぁ! 笑いごとじゃないって。ど、ど、どうしよう!?」

「おや、思っとるよりテンパっとる?」

「当たり前でしょう!!」

 

 私の言葉に、千佳はケラケラと笑っていたが、

 

「せっかくやし直接会って話そうか。ウチはレイナの専属マネージャーやしな」

 

 ふと真面目なトーンに戻り、

 

「ありがとう。今日ばかりは心強いよ」

 

 私たちは、学食で待ち合わせることを決めるのだった。



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第五話 レイナ、決意する

 ――ダンジョンシーカー・アカデミー。

 それが私の通う学校の正式名称だ。

 名前の通り、ダンジョン探索者を育成するための専門学校である。

 

 

 ダンジョンが世界各地に現れてから、国はその対応に頭を悩ませていた。 

 なんせダンジョンは異界と繋がる危険な場所であり、放っておけばモンスターが氾濫する危険もあるからだ。

 とはいえ危険なだけでなく、この世の物ではない貴重な物資が手に入る価値ある場所でもあった。

 

 そんな訳でダンジョン探索者の育成は、各国にとっても急務と言えた。

 ダンジョンの情報は、相手国より優位に立つための切り札にもなり得るものだったからだ。

 各国は一刻も早くダンジョンの謎を解明する必要に迫られ、それは日本も例外ではなかった。

 結果、ダンジョン探索者を育成するための専門学校が日本でも次々と作られていったのである。

 

 

「まさか配信がここまで人気になるとは、政府のお偉いさんも想像すらしてなかっただろうね」

「な~にを黄昏れてるんや……」

「あ、千佳」

 

 私がぼーっと食堂で待っていると、1人の少女がこちらに向かって歩いてきた。

 

 鈴木千佳――待ち合わせていた私の友人である。

 今日もラフな作業着を身にまとい、頭にちょこんとゴーグルを乗せていた。

 自信の溢れたクリクリっとした瞳は、快活そうな雰囲気を漂わせている。

 

 千佳は、私を見るなりニカッと微笑み、

 

「とりあえずお昼、持ってくるで!」

 

 そう私の手を掴み、歩き出すのだった。

 

 

 

※※※

 

 数分後。

 私たちは、ちゅるちゅるとラーメンをすすっていた。

 麺の大盛り無料。学食は、貧乏学生の偉大なる味方なのである。

 

 

 皿が空っぽになる頃。

 

「……私、バズってる?」

 

 私は、ぽつりと本題に入る。

 

「おめでとう! 一躍、時の人やで」

「やっぱり……?」

「ほれ。今もチャンネル急拡大中」

 

 千佳がそう言いながら、スマホを差し出してきた。

 

 開かれていたのは彩音レイナの食卓配信――私のダンチューバーとしてのチャンネルだ。

 チャンネル登録者数は、51万人ちょっと。

 心なしか、今朝見たときよりも増えていた。

 

「はえー……」

「あんまり嬉しそうじゃないんやな」

「いや、どうにも現実味がなくてね」

 

 リロードするたびに、数字が数百単位で増えていく。

 それらは半年間、必死に活動したにもかかわらず、ついぞ届かなかった人数だ。

 奇跡と無邪気に喜ぶより前に、やっぱり何かの間違いでは……? というのが正直な感想だった。

 

 

「やれやれ。新宿を救った英雄様が、謙虚というか何というか……」

「もう。千佳まで大げさなこと言って」

 

 ネットでは、私を褒め称える声で溢れている。

 詐欺も良いところである。

 

「ドラゴンゾンビぐらいじゃ、新宿は滅びないよ。だいたい私と同じことできる探索者ぐらい、探せばいくらでもいるでしょう?」

「無自覚って怖いなあ――」

 

 私の言葉に、千佳は呆れたようにため息を吐くのだった。

 ……解せぬ。

 

 

 

※※※

 

『あっはっはっはっはっは!』

 

 千佳のスマホで、私はいくつかの切り抜き動画を見ていた。

 

 

(えぇ……)

 

 なに、この人……(ドン引き)

 どうしてモンスターをミンチにしながら、恍惚とした笑みを浮かべてるんですかね。

 モンスターを撲殺する己の姿を見て、私は地面に埋まりたい気分になった。

 

「完全にヤバイ人じゃん!?」

「良いやん。ほら、人気出てるで!」

「良くない! あぁぁぁ、現在進行形で黒歴史が広がっていくぅぅ~!?」

 

 さようなら、清楚な癒し系やってた私。

 

 

 頭を抱えてうめく私を見ながら、

 

「それでレイナ、次の活動はどうするつもりや?」

 

 ふと千佳が、真剣な顔でこんなことを聞いてきた。

 

 

(これからどうするつもり……、か)

 

 千佳に改めて聞かれ、私は返答に詰まってしまう。

 

 

 配信切り忘れという不慮の事故。

 ゆきのんという超大人気ダンチューバーのおかげでバズりにバズり。

 パニックに陥ったが、これはたしかにチャンスでもあった。

 

(落ち着け、私)

(これは一過性のもの。自分の数字じゃない)

 

 ネット文化は、熱しやすく冷めやすい。

 少しバズって、一瞬で消えていったダンチューバーなんて山ほどいる。

 

 

 次に考えるべきは、どうやってこの人たちをファンにするかということだ。

 

「ねえ、千佳。……これ(切り忘れ事件)、無かったことにできるかな?」

「無理に決まっとるやろ」

 

 即答。

 そりゃそうか。

 

「となると、いっそのことヒャッハーて言いながら、モンスターに突撃する配信するべきかな……」

 

 ダンチューバーたるもの、お客さんを喜ばせてなんぼ。

 しかし私には、この視聴者さんたちが何を望んでいるのか、サッパリ分からなかった。

 

 あの時と、同じことを。

 もっと過激に、もっと狂ったように……?

 行き着く先は、今ランキングを総なめにしているスプラッタ配信か。

 ドツボにハマりかけていた私を見て、

 

 

 

「結局は自分のやりたいようにやるのが一番。ウチはそう思うで」

 

 ――それにレイナはありのままが魅力やしな。

 千佳が、そう真面目な顔で言う。

 

 

 ハッとした。

 

(いつもおちゃらけてるのに、こういうときだけ……)

(本当に――)

 

 それでも背中を押されたのは事実。

 

 

「決めた。私、明日は"いつもどおり"料理配信する」

 

 今までを無かったことにはできない。

 昨日のアレも、無かったことにはならない。

 両方を受け入れ、ありのままの私を見せるしかないのだ。

 

(それで数字が落ちるなら、それまでだったってこと)

(ありのままの私を見せよう)

 

 私は、そう決意を固めるのだった。

 

 

「"いつもどおり"の配信なんてやったら、もっとバズって収拾付かなくなりそうやけどなあ……」

「まさかあ……」

 

 ――そんな千佳の予言は、見事に的中することになる。



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第六話 バズってからの初配信(1)

 翌日の朝。

 私――レイナは、新宿ダンジョンを訪れていた。

 有言実行、料理配信のためだ。

 

 ちなみにスマホは、千佳に新しいのを借りた。

 配信を切れず物理的に破壊したことを伝えたら、アホの子を見る目で見られたけどご愛敬。

 

 

 そんなこんなで、すでに配信枠は取ってあった。

 ちらりと見えた配信待機人数は、33000……33000人!?

 

「は、は、は、はじめまして? 本日はお日柄もよろしゅう――?」

 

"めちゃくちゃテンパってて草"

"かわいい"

"落ち着いて!"

 

 凄まじい勢いのコメント欄。

 

 

 私は、ダンジョン探索で培った探索眼をフル活用。

 コメント欄を追いかけていく。とんでもない黒歴史を晒した後だからと心配していたが、おおむね好意的なコメントばかりのようだ。

 

「ごめんなさい! こんな人数の前で配信するのは初めてで――」

 

"ドラゴンゾンビは、どうすれば倒せるようになりますか?"

"ゆきのんとのコラボはありますか!"

"今日のパンツの色は?"

"どこの事務所所属ですか?"

 

「ドラゴンゾンビは……、気合いで? 雪乃先輩とコラボ……!? わ、私なんかがおこがましいですよ!」

 

 加速スキルを駆使して、私はコメントに応えていく。

 せっかく配信に来てくれて、更にはコメントまで残してくれたのだ。

 真摯に応えなければ。

 

「パンツの色は……えぇっ、千佳どうしよう!? 事務所は無所属ですよ!」

 

 そんな感じに質問に答えていたら、

 

 

"????"

"画面バグった……?"

"謎の早送り演出好き"

"ライブ配信風の動画なのかな"

 

(あれえ……?)

 

 なにやらコメント欄の様子がおかしい。

 私が反応に困っていると、ルインになにやら着信があり、

 

 

「ええっと、コメントは全て返す必要はない……?」

 

 届いたのは、千佳からのそんなコメントだ。

 千佳いわく、たまたま目についたコメントを拾う程度で良いそうだ。

 いや、少し落ち着けば、たしかにそうなんだけど……、

 

(どのコメント拾うか、どうやって選ぶの!?)

(その方が難易度高いよ!)

 

 私の内心の悲鳴をよそに、

 

 

"うっそでしょw この速度のコメ欄追えてるの!?"

"いや、いきなり草"

"なんたる才能のムダ使い"

"挨拶代わりに分からせていく女"

 

 なぜかコメント欄はお祭りムード。

 ……解せぬ。

 

 

 その後、私は改めてリスナーさんに向けて自己紹介する。

 

「初めましての人も多いと思うから自己紹介させて下さい。

 私は、彩音レイナ――主に料理配信をしているダンチューバーです」

 

"楽しみにしてました!"

"例の動画を見てファンになりました!!"

"すごく格好良かったです!"

 

「えっと……、ありがとう」

 

 こういうとき、気の利いたことでも言えれば良いのだけど。

 あまりコミュニケーションが得意でない私にできるのは、もじもじとお礼を言うぐらい。

 

 

「でも、できればあのことは記憶の奥底に封印しておいてもらえると――」

 

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"食えないっ、邪魔!"

"どこにも食用部位がないのよね――"

 

「やめてぇぇぇぇぇ!?」

 

 おかしいな!?

 配信始まったばっかりなのに、私のコメント欄、無駄に一体感ありすぎる。

 

 

"それで今日は何を作るの?"

"グルメ配信楽しみ!"

 

 本題に入るよう促すコメントも見えたところで、

 

「それじゃあ、まずは素材を採っていこうと思います!」

 

 私は、安全地帯を抜けてダンジョンを潜り始めるのだった。

 

 

 

※※※

 

 新宿ダンジョン――それは上層、中層、下層、深層から成る大型のダンジョンだ。

 

 それぞれの「層」は、更にいくつかの地区に分かれていた。

 探索が一番進んでいる層を便宜上「深層」と呼んでおり、第九地区まで探索が進んでいる。それより先は完全に謎に包まれていた。

 深層の奥深くまで進み、生還した探索者は存在しないのだ。

 

 

(まあ私みたいな料理配信者には、最前線は無縁だよね)

(深層のモンスター、食べてみたいなあ)

 

 私が安全マージンを持って潜れるのは、精々、下層が良いところだ。

 

 

 そんなこんなで、私はダンジョン下層に潜り始めた。

 

"へ? なんでこの人、下層に潜ってるの?"

"ただの自殺志願者で草"

"えぇ……(困惑)"

"なになに、どういうこと?"

 

(……あれ?)

 

 なにやらコメント欄が騒然としている。

 何を作るかはサプライズだったけど、とりあえずどの素材を使うか説明するべきかもしれない。

 

「とりあえず下層の第四地区で、ブティキノコ集めます!」

 

 今日はキノコ鍋の予定だ。

 第四地区はちょっと進めば美味しいお肉も取れるし、良い狩り場なのだ。

 

 

"下層の第四地区って、天国への入り口って呼ばれてるあの……?"

"しかもブティキノコって、毒キノコじゃねえか!"

"散歩感覚で、死地に迷い込む女"

"何から何までクレイジーで草"

 

「こ、この辺ならいつも潜ってるので大丈夫ですよ!」

 

 天国への入り口――その呼び名は聞いたことがある。

 たしかに慣れないと危険だけど、安全マージンは十分に取っているつもりだ。

 

 

"《望月 雪乃》早まらないで!? 危なすぎるって!"

"ふぁっ!?"

"ゆきのんだ~!"

"本物で草"

 

「え、雪乃先輩……!?」

 

 突然の大物の登場に、私は思わず意識を持っていかれ、

 

 

 カチッ!

 床のボタンを踏み抜いてしまう。

 

"うわぁぁぁぁ! モンスターハウス踏み抜いたぁぁぁぁ!!"

"うっ、トラウマが……"

"流石にやべえって。救援隊間に合うか?"

"《望月 雪乃》あわわわわ、私のせいで!?"

"《望月 雪乃》私が助けにいけば! いや、下層とか秒殺されちゃう……"

"落ち着いてゆきのん!?"

 

 モンスターハウス――それはダンジョンに仕掛けられた罠のひとつだ。

 踏み抜いた対象を閉じ込め、モンスターを寄せ集めるというものだ。

 

 深層であればまだしも、下層なら大した問題はない。

 問題あるとすれば……、

 

 

「くそまずいモンスターしか集めないんだよね、この罠……」

 

"いや草"

"モンスターを捕食対象としか見てないのホンマに草"

"レイナさんなら問題ない"

"《望月 雪乃》助けは、助けは――"

 

 トラップに引かれて現れたのは、総勢100体ほどのモンスター。

 

(ああ、もう! 料理配信はテンポが命!)

(早く素材集めに行きたいのに~!)

 

 

「邪魔」

 

 ぽつりと呟き、私はサクッと片付けるべく戦闘態勢に入るのだった。



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第七話 バズってからの初配信(2)

 総勢100体にも及ぶモンスターの大部隊。

 

 まず私が処理することにしたのは、キラー・パペットという人形型のモンスターだ。

 ピエロを模した人形は、遠距離から魔法を撃ってくるし、ケタケタという笑い声が不気味で鬱陶しい相手だ。

 何より面倒なのがその特性。5体1組のモンスターであり、同時にコアを破壊しないと無限に復活するのだ。

 ……ちなみに食えない。

 

 

「食べられるようになってから出直して」

 

 私は、後列で魔法の詠唱をはじめたキラー・パペットたちに飛びかかる。

 そのまま闘気を飛ばして遠距離砲撃。一撃のもとで粉砕する。

 

 

"へ?"

"俺たちのトラウマがぁぁぁぁ!"

"瞬殺ワロタ"

"人間離れしてて草"

 

 コメントしているのは、下層に潜ったことがある経験者だろうか。

 どうやら戦い方は、視聴者から見ても及第点らしい。

 

 ちなみに私は、今までの料理配信ではあまり戦闘は映さないようにしてきた。

 戦闘なんて血なまぐさい物は癒やし配信とは正反対だし、料理配信にはそぐわないと考えていたからだ。

 そのため基本的には、調理過程を除けば、素材採取と移動中の雑談がメイン。

 

 

 実のところ、今日も不評そうなら戦闘中はモザイク入れようなんて考えてたけれど、

 

"なるほど、ソロならこうやって倒せば良かったのか"

"完璧な作戦だな。不可能って点に目を瞑れば"

"すごすぎて意味わからん"

"同接みるみる増えてて草"

 

 どうやら好評そうかな。

 とりあえず垂れ流すことに決め、私は片っ端から周囲のモンスターに飛びかかる。

 

 頼るは拳。

 動画ならカット編集するべき場面なので、できれば5分で片付けたいところだ。

 

「あっはっはっはっは!」

 

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"生き甲斐"

"マジキチスマイルほんとすこ"

 

 はっ、つい気持ち良くなってしまった。

 癒やし配信には絶望的にそぐわない悪癖である――自重自重。

 

 

 こういうとき、何を喋るのが正解なんだろう。

 

「えー、ブラッドウルフです。食べられないので消します」

「こっちはビリビリクラゲですね。あんまり美味しくないので消します」

「エルダーゴブリンですね。骨が硬いので、あまりおすすめはできないので消します」

 

 とりあえず有名な配信者を真似て、実況しながら倒してみることにした。

 

 ボスッ

 と殴りつけて消し飛ばす。

 実況って、これで良いのだろうか?

 

"消しますwwww"

"俺たちは何を見せられてるんだ・・・(困惑)"

"食レポだよ!"

"たしかに料理配信だな!(錯乱)"

 

「食レポは、ちゃんと後でしますよ!」

 

"コメ欄凝視してないで真面目に戦って!"

"余裕そうで草"

 

 

 きっちり5分後。

 私は、トラップで湧いたモンスターの屍の山を築き上げていた。

 

「ほんっとうに目障り。食材にもならないゴミムシどもが」

 

(って、つい癖で――)

 

 モンスターの群れを倒し、つい気が抜けてしまったのか。

 不用意な失言に青ざめる私だったが、

 

"ぶひぃ"

"今のゾクゾクしました! 最高です!"

"もっと罵って下さい!!"

 

「なぜに!?」

 

 コメント欄は、私を非難するどころか大盛りあがり。 

 過去一番の速度で流れていく。気がつけば同接も、配信開始時より1万人ぐらい増えているようだった。

 

 

「…………こほん。おとといきやがれですわ」

 

"あきらめろん"

"取って付けたような清楚要素"

"下層のモンスターハウスが5分で攻略されたってマジ?"

"誰だ切り抜いたやつww"

 

 いやぁぁぁぁぁ!

 また私の黒歴史が拡散されていくぅ!?

 

 ずっと埋もれてた私にとって、切り抜き自体はありがたいけれど! ありがたいけど……!

 

「みなさんが見たのは幻覚です。良・い・で・す・ね?」

 

"圧w!"

"はいっ!"

"はい、レイナさま。あなたは清楚です!"

"後ろの肉塊はいったい・・・?"

 

 和気あいあいとした雰囲気。

 思わぬトラブルに見舞われたが、どうにか視聴者さんを退屈させずにすんだようだ。

 黒歴史がまた増えてしまったことを除けば、上々の成果だと思う。

 

 

 ようやく落ち着いたその時、

 

"ゆきのんのつぶやいたーから来ました!"

"落ち着いて! そして回避に専念して。必ず助けが来るから"

"すぐに救出部隊を要請して――ってあれ?"

 

 コメント欄に、ちらほらとそんな書き込みがあった。

 

「ご心配おかけして申し訳ありません。このとおり無事です」

 

 ぺこりと頭を下げる。

 本当にうかつにトラップを踏んだのは大失態だ。

 

"無事で良かった!"

"新たな伝説が生まれたと聞いて"

"肝が冷えたけどハッピーエンドならすべてヨシ!"

"レイナちゃんの御御足prpr"

 

 安堵のコメントが流れる。

 視聴者さんが本気で心配してくれたのが分かり、すごく申し訳なくなった。

 

 

"ゆきのんがダンジョン潜ったって!"

"そのまま下層潜りそうな勢い!"

"はやく無事だって伝えないと!"

 

「雪乃先輩!? 私、無事です。無事ですから~!」

 

 それ、ミイラ取りがミイラになるやつ!

 私のせいでゆきのんが危険な目に遭ったら、とてもファンに顔向けできない。

 

 ハラハラする私だったが、幸いゆきのんも配信中だったため無事を伝えることに成功。

 モンスターハウス事件は、幕を下ろしたのだった。

 

 

 そういう訳でそろそろ本題。

 

「とりあえず先にメインディッシュ取りに行きますか~!」

 

"ん?"

"なんか元気で草"

"そういえばこれ、料理配信だった!"

"なにを取りに行くの?"

 

 やっぱり考えるべきは、主菜に使う肉を何にするかだ。

 ハーブを添えつつ、やっぱり疲れたときには食いごたえのあるお肉が一番。

 

 

「第五地区の奥部にオークキングがいるでしょ? あのお肉が格別なんですよ!」

 

"ふぁっ!?"

"フロアボスで草"

"あれにソロで挑むって、ま?"

"なぜ食おうと思ったw"

 

 混沌とするコメント欄をよそに、私は第四地区を駆け抜けるのだった。

 

 

 

※※※

 

 一流のダンジョン探索者は、二つ名を持つことが多い。

 もっともそれは、自分から名乗るものではなく、畏怖と敬意を込めて自然と探索者たちが付けるのだ。

 

 たとえば望月雪乃――ゆきのんは、極寒(ごっかん)冥姫(アビス・ロード)なんて二つ名を持つ。

 冷静沈着な観察眼と、戦場を俯瞰する佇まいから付けられたものだ。

 

 

 最近、頭角を現したダンチューバーが居た。

 その名は彩音レイナ――イレギュラーモンスターとの戦いがバズった新進気鋭のダンチューバーだ。

 ひそかにファンが増えつつあるレイナであったが、探索者たちはしっくり来る二つ名を決めかねていた。

 そんな状況でレイナは配信を始め、衝撃的な光景を見せつけることになる。

 

「…………消します」

 そう宣言し、淡々と、音もなく、機械的に敵を屠る。

 その姿は、新宿ダンジョンの「例のアレ」に匹敵するインパクトを視聴者に与えた。

 その日を境に、自然と彩音レイナはこう呼ばれるようになっていった。

 ――沈黙の鮮血天使(サイレント・エンジェル)と。



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第八話 バズってからの初配信(3)

 そんな訳で1時間後。

 第四地区を踏破した私は、そのまま第五地区に続く階段の前に立っていた。

 ちなみに目的のキノコは、きちんと採取している。

 

(本題入る前に、時間かけすぎるのは問題だなあ)

(でもせっかくなら、採りたての食材を使いたいんだよね……)

 

 残念なことに1時間も雑談で場を回すトーク力を、私は持ち合わせていない。

 

 そのため私は、諦めて粛々とダンジョン探索を続けることにした。

 というより頑張ってトークしようとしたら、コメントなんて見てないで集中しろと怒られたのだ。

 私の視聴者さん、とても優しい。

 

 

"毒沼、強行突破するの草"

"宝箱の罠チェックはそうするのかぁ"

"罠チェック(拳で粉砕)"

"この子、ほんとになんで埋もれてたの?"

 

 ちらりと覗くと、コメント欄の反応は上々といった所。

 

 

(視聴者さんの優しさに甘えてちゃいけないよね)

(次は、もっと面白い企画を考えないと!)

 

 内心でそんなことを決意しながら、私は第五地区に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

※※※

 

「というわけで第五地区に到着しました!」

 

"早すぎて草"

"RTAかな?"

 

 これでも、だいぶ急いだからね!

 

 

 これから私が取りに行くのは、オークキングの肉だ。

 ちなみにオークキングは、ボス部屋と呼ばれる特殊な部屋を守護するフロアボスである。

 いくつかの地区には次に進むための関門としてボス部屋が存在しており、フロアボスを倒せないと進めないのだ。

 

 

 否、そんなことより特筆すべきは……、

 

「フロアボスって、どれも美味しいよね」

 

"【朗報】フロアボスさん、美味しい"

"これにはレイナさんもニッコリ"

"食欲だけで動く女"

"普通なら命を賭した戦いになるのに……"

 

 たとえば第八地区のカニは、ほっぺが落ちそうなぐらい美味しかったなあ。

 

 

「はあ……、深層のフロアボスも食べたいなあ」

 

"深層は別世界だから、本当にやめておいた方が良い"

"やめとけ、本当に死ぬぞ"

 

「いや、倒したことはあるんです。けど流石にデュラハンは食べられなくて……」

 

"は?"

"……冗談だよな?"

 

(フロアボスは心のオアシスだったのに)

(深層君にはガッカリだよ)

 

 先に進むのをやめた理由は、もちろん安全マージンの問題もあるが、一番の理由はフロアボスが調理不可能だったからである。

 

「いや……蒸し焼きにすればいけるかな? デュラハン食べた人います?」

 

"居てたまるか!"

"どこまで本気なのか分からん"

"もし深層潜るなら、頼むからパーティー組んでくれ……"

 

 そう言われても、私、チームプレー苦手なんだよね。

 千佳にも「あんたはソロで好き勝手やった方が良いと思うで」って、お墨付きもらったし。

 

 

 ざわつくコメント欄を見ながら、私はボス部屋の扉を開け放つ。

 

「たのもー!」

 

"道場破りかな??"

"緊張感皆無で草"

"《望月雪乃》レイナちゃん、頑張って!"

"ゆきのん、このまま固定客になりそう……"

 

 こんにちは、オークキング。

 

 オークキングは一言で言ってしまえば、全長数メートルにも及ぶ豚型のモンスターだ。

 二足歩行するため、見た目とは裏腹にその動きは機敏である。

 素早く動き周り、手にした斧で防御もろとも粉砕するパワー系のモンスターでもある。

 筋骨隆々であり、拳による攻撃も通りづらい。

 

 

 ブモオォォォ!

 オークキングのおぞましい咆哮が、ボス部屋に響き渡った。

 巨大な斧が凄まじい勢いで振られ、付近にあった柱が一撃でへし折られる。

 オークキングは凶悪そうに顔を歪め、叩き折った柱を私めがけて投擲してきた。

 

"ガチの怪物やん。こんなん、どうやって倒すんだ……"

"定石だと前衛と回復役10人ぐらいで足止めして、一気に魔法を叩き込むんだが――"

"俺、前衛だったけど二度とやりたくない"

"ソロで挑むとか不可能だって"

 

 コメント欄には、私を心配するような書き込みが散見されるが、

 

「遅いっ!」

 

 飛来してきた柱に衝撃波を当て粉砕し、

 

 

「えっとですね、オークキングは硬いのでオーラを纏って対抗します!」

 

 実況することにした。

 拳にオーラまとわせ、私はオークキングと相対する。

 

 私が得意な戦闘スタイルは、拳にモンスターのオーラを宿らせることだ。

 食べた相手の異能を拳に宿らせる、という実に私向きのユニークスキルである。

 

(宿れ、バウンティ・タイガー!)

 

 拳にオーラが宿り、淡く発光する。

 ふわふわと光が舞い、やがては獰猛な虎を形作った。

 バウンティ・タイガー――それは下層の十三地区に生息するフロアボスであり、執拗に侵入者を追い回す虎型モンスターだ。

 恐らくオークキングとは、生物としての格が違う。

 

 

"オーラwwww"

"なんかいきなり異能バトル始まったんだが・・・(困惑)"

"初見です、特撮映画の撮影ですか?"

"現実だぞ"

"レイナちゃんにとっては日常定期"

 

 このスキルも、人前で使うのは初めてだった。

 あまり可愛らしいものではないし、癒やしというコンセプトとは程遠いからだ。

 

 

(そんなこと言ってられないし)

(喜んでもらえてるみたいだから良いよね!)

 

 オークキングの攻撃は、まともに撃たせると威力が高く致命傷をもらいかねない。

 おまけに広範囲攻撃が多く、回避に専念しても避けきるのは難しい。

 だから対処法として一番楽なのは、発動に合わせて真正面から受け止めてしまうことだ。

 

 

「あはははっ、私の糧となれ!」

 

 オークキングに向かって駆け出し、私は振り下ろされた斧を真正面から弾き返す。

 モンスターといっても知能が高く、オークキングの動きは一流の戦士のように洗練されていた。

 幾度となく斧が振り下ろされるが、オーラをまとわせた拳でそのことごとくを撃ち落とす。

 

"ふぁっ!?"

"(゜д゜)ポカーン"

"おまいら口開いてるぞ?"

"今見たら同接10万人越えてて草"

 

 何度となく攻撃を撃ち合う。

 

 ついには痺れを切らしたように、オークキングが怒りの咆哮をあげて距離を取ろうとした。

 僅かな溜め。大技の予兆――しかし、この距離でそれは致命的な隙となる。

 

 一転攻勢。

 私は床を蹴って、一気に距離を詰める。

 勢いを殺さずオークキングの頭まで飛び上がり、

 

「穿てっ!」

 

 渾身の力を込めて、オークキングの頭部に拳を叩き込んだ。

 拳に宿らせたオーラが、存在ごと喰らおうとするようにオークキングに襲いかかった。

 

 

 オークキングの肉体は頑強だ。

 しかし頭部だけは例外。隙を無理やり作って、必殺の一撃を叩き込む。

 それが私なりの攻略法だった。

 

「ふう、いっちょあがり!」

 

 私が床に着地するのと、オークキングが地面に倒れ込むのは同時だった。

 倒れ込む巨体が重々しい地響きを発生させて、辺りには砂埃が舞い上がる。

 

(鮮度、良好! 損傷、なし!)

(いつ見てもうっとりする良いお肉だねえ)

 

 ――そうして私は、見事に配信のメインディッシュを入手することに成功したのである。

 

 

"解説きぼんぬ"

"されてもどうせ分かんない定期"

"さすがのレイナちゃんでも、珍しく手こずってたね"

 

「うん。せっかくの食材、傷つけないように倒すのって大変ですよね――」

 

"ちょっと何言ってんのか分かんない・・・"

"いやいやいやいや"

"そういえばこれ、料理配信だったw"

 

 料理配信なのに、未だに料理のリョの字もない体たらく!

 

「準備に手間取ってすみません、これから料理しますね!」

 

"たぶんそういう意味じゃないw"

"レイナちゃんは可愛いなあ・・・(現実逃避)"

"おまいら、これ見てソロで挑もうとか思うなよ。普通、斧があたった時点で即死だからな"

"そもそも一般人はそこまでたどり着けないだろ"

 

 私はオークキングの死体を抱えて、休憩スペースを借りることにした。

 一応、人がいないことを確認。配信に映しちゃったら申し訳ないからね。

 

 

 そうして私は、おもむろに調理に取りかかるのだった。



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第九話 バズってからの初配信(4)

 料理は手順が大切だ。

 私はポーチから携帯用の探索セットを取り出し、テキパキと簡易的な調理場を作り上げた。

 ダンジョンでもこうしてご飯を食べられるのは、人類の叡智のたまものである。

 

「今日はキノコ鍋を作っていきます!」

 

 私はそう宣言し、今こそ腕の見せどころと腕まくりするのだった。

 

 

 まずやるべきは、オークキングの肉の下処理だ。

 鮮度を保つべく血抜きする。さすがに一回じゃ食べきれないしね。

 

 

 私が学校支給の包丁を取り出したのを見て、

 

"そんなのでダンジョン食材の調理できるの?"

"ダンジョンの食材を捌くには、専門の調理器具が必要って聞いたけど……"

 

 戸惑うようなコメントが流れていく。

 

 

(専門の調理器具かあ……)

 

 実のところ料理配信を始めるにあたって、一度値段を調べてみたことはある。

 ゼロの個数が想像より3つぐらい多くて、目玉が飛び出しそうになったものだ。 

 

「あんな高級品、ただの学生が買えると思います?」

 

"ああ、たしかに……"

"レイナちゃん、バズったのもつい最近だったもんね"

"収益化もまだなんだっけ"

 

「あっ、おかげさまで収益化は申請中です!」

 

 ダンジョン探索資金の足しになれば、と思って始めたダンチューバー。

 

 モンスターハウスやフロアボスとの戦いで、気がつけば今日も同接は10万人を越えていた。

 これは、例の切り忘れ配信に匹敵する数字である。

 正直なところ千人ぐらい来てくれれば良いなあ――ぐらいの感覚で、この数字は想像もしていなかった。

 このまま収益化が通れば、本当にそれなりの稼ぎになるかもしれない。

 

 

「もし収益化が通ったら、毎日おいしいご飯を食べるんです!」

 

"死亡フラグっぽいけど、願いがすごいささやか!?"

"どんなフラグも、レイナちゃんなら拳でへし折って生還しそう"

 

「そして憎き奨学金との戦いに終止符を!」

 

"ぶわっ(´;ω;`)"

"レイナちゃん、苦学生だった・・・"

"美味しいものいっぱい食べて!"

"これは貢ぐしかねぇ"

 

「あっ、別にそういう意図じゃないですからね!?」

 

 私は慌てて、そう言い足す。

 

 

"こんなに強いのにダンジョン素材の換金が許されないって、法律改正するべきだよな……"

"そういえば基本的に学生はNGなんだっけ"

"一応、特例が認められれば可能らしいけど……"

 

「はい、申請通りませんでした!!」

 

 まあダンジョン内で食べるなら、何の制約もないのがせめてもの救いだ。

 

 

 それから私は、オークキングの死体を調理台の上に載せる。

 美味しい鍋料理のためには、下処理が大切なのだ。

 

「それに――別に、専門の機械なんてなくても大丈夫です!」

 

 私はそう言いながら、拳にオーラを込める。

 オークキングが、しょぼーんとした顔でこちらを見ている気がするが……、無視。

 躊躇なく拳を振り下ろした。

 

 微妙に手間がかかるが、これも美味しい鍋のため。

 外部から衝撃を与えることで、固まりきった筋がほぐれて柔らかくなるのだ。

 

"結局物理!"

"なんだいつも通りだな"

"なんか料理配信にそぐわぬ音がするんだけどww"

"戦闘すらも料理の一環だった可能性が微レ存?"

 

「戦闘中は鮮度優先した方が良いですよ~!」

 

"コメ欄凝視ほんと草"

 

 

 オークキングを殴り続けること5分後。

 ほどよく柔らかくなったところで、私は手を止める。

 

 包丁で切り込みを入れ、一口サイズにカットしていく。

 叩きすぎても食感がなくなってしまうので、程よい塩梅が難しいのだ。

 

 

 肉の下処理が終わったころ、

 

"そういえばブティキノコの毒はどうするんですか?"

 

 そんな質問が飛んできた。

 毒――毒かぁ。

 

「私に毒は効かないよ?」

 

 これでも私は、毒耐性スキルを持っている。

 生半可な毒は効かないのである。

 

 

"真顔でボケないで"

"これは食物連鎖頂点の貫禄"

 

「いや、ウソじゃないって。毒耐性、持っとくと便利なのでおすすめです」

 

"むしろ、何でそんなスキル手に入れたんだ"

"あれ後天的に入手できるのか"

 

「若気の至りってやつですね――」

 

 私は昔を懐かしみながら、毒耐性スキルを得るきっかけになった出来事を話す。

 

「上層で探索始めたばっかりのときに、思わず実ってたブルー・マスカットを食べちゃいましてね――」

 

"ああ、あれ美味しそうだよね"

"よく生きてたなw"

"初々しいころのレイナちゃん"

 

「たまたま先輩冒険者が通りがかったおかげで、命拾いしたんです。たぶん、その時に毒耐性スキルが開花したみたいで――」

 

"ほうほう"

"まあ生死の縁を彷徨えばな――"

 

 スキルの開花。

 それは文字通り新たなスキルに目覚めることだ。

 ダンジョンの中で生命の危機に瀕することで、新たなスキルが開花するというのが定説である。

 もっとも厳密な条件は分からず、今も様々な研究機関により研究中なのが実情だ。

 

 

「それから見かけた果物は、とりあえず口に運ぶようにしてみましてですね――」

 

"……ん?"

"風向き変わったな"

"自殺志願者かな?"

 

「だって毒がある果物って美味しいんですよ! 分かりますよね??」

 

"いや、同意を求めないでww"

"やっぱりレイナちゃんはレイナちゃんだった……"

 

 おかしい。コメント越しなのに、アホの子を見る視線を感じる……。

 

 

「――でまあ、いろいろ食べてたら気がついたら毒耐性スキルがカンストしてたんですよ!」

 

"いや、それはおかしい!"

"サラッと話してるけど壮絶すぎるww"

"この子の食への探究心なんなの……"

 

 呆れたコメント欄をよそに、私は料理を進めていく。

 

 

 鍋の火加減を調整しながら、ハーブ(中層のハーブがおすすめ!)を茹でていく。

 同時に、オークキングの肉は、先に軽く炒めておく。

 ほどよく引き締まったお肉から、香ばしい匂いが立ち昇ってきた。

 

 

「はあ、生きてて良かった~!」

 

 思わず頬も緩むというものだ。

 

"おお、ちゃんと料理してる!"

"なんか意外"

"もっとワイルドにいくのかと思ってた"

 

「むむ、失礼な! 私はこれでも、癒やしをお届けする食卓配信してるんですからね!」

 

"つURL(モンスターをミンチにしてニッコニコのレイナさん)" 

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!」

 

"テンポ感w"

"即オチ2コマ"

 

 

 なんでノータイムで、そのURL貼れるの……。

 コメント欄が、すっかり私の扱いを覚えてきている気がする。

 

「下層のモンスターは調理しないと危ないですからね。実際、踊り食いしたときとかは――おほほ、配信には載せられない大惨事になりましたわね」

 

"やった~! レイナちゃん、清楚! ……清楚?"

"清楚な子は、モンスターをおどり食いしないんよ(ドン引き)"

 

 ごもっともである。

 あんな光景は、とても載せられないね!

 

 

 その後も、リスナーさんと話をしながら調理を続け、

 

「ジャーン! ついに完成しました!!」

 

 ――スパイシー・キノコ鍋Withオーク肉。

 

 鍋のフタを開けると、熱気とともに湯気が立ち上る。

 グツグツと煮立つ鍋からは、香辛料とキノコの香りが漂ってきており食欲をそそった。

 中央にデーンと鎮座するのは、狩りたてホヤホヤのオーク肉だ。

 ボリューム満点で、まさしくダンジョン料理の醍醐味を詰め込んだ至高の一品と言える。

 

 

 スプーンを掴み、静かに口に運ぶ。

 

「ん~~~!」

 

 "食レポ、食レポ!"

 

(はっ、ついつい無言に……!)

 

「ほっぺたが落ちそうなぐらいに美味しいです!」

 

"語彙力ww"

"もうちょっと頑張ってw"

"レイナちゃんが可愛いので万事オッケーです"

"でもこの子、モンスターを前にしたらバーサーカーになるからな"

 

「いい加減、その世界線のことは忘れて!」

 

(……まあ、どんな形でも私の配信を見て楽しんでもらえてるのは嬉しいんだけどね――)

 

 和気あいあいとしたコメント欄。

 私をからかうものもあったけど、それも含めて、その場には確かな暖かさがあった。

 

 思えば不思議なものだ。

 ちょっと前までは、1つのコメントすら付かないことだってザラ。

 それでも辞めずに続けてきて良かったと思う。

 

「視聴いただき、ありがとうございました。それでは次の食卓で、お会いしましょう!」

 

"おつおつ~"

"楽しかった~!"

"次の食レポ()も楽しみにしてます!"

 

 私はリスナーに感謝を告げ、配信を切る(切った、絶対に切った!)のだった。

 

 

 

※※※

 

 切り忘れによりバズったチャンネルが、あの日以降初めて行う配信。

 その配信に注目していたダンジョン探索者は多く――レイナは、数多のダンジョン探索者を一発で虜にした。

 

 見たこともない技術を駆使して、ソロで下層を突き進むスーパープレイ。

 極めつけは、この世のものとは思えないオークキングとの激闘。

 料理配信で見えた彩音レイナという少女の可愛らしさ。

 

 

 同接は、またしても10万人をオーバー。

 2連続で同接10万人という記録は、人気ダンチューバーでも数えるほどしかいない圧倒的な数字である。

 登録者数は更に増え続けて、70万人ほどに。

 ――レイナのチャンネルは、急激な成長を続けていくのであった。



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第十話《掲示板》【なんでも】期待のダンチューバーレイナちゃんについて話すスレ【食べます】

【なんでも】期待のダンチューバーレイナちゃんについて話すスレ. 34【食べます】

 

137: 名無しの食材

もうすぐ配信はじまるぞ

 

144: 名無しの食材

あの日から初配信か

いったいどんな芸当を見せてくれるやら……

 

149: 名無しの食材

楽しみ

 

153: 名無しの食材

まあでも、あれ以上にヤバい光景なんてそうはないやろw

 

167: 名無しの食材

( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!

 

168: 名無しの食材

( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!

 

172: 名無しの食材

被ってて草

 

176: 名無しの食材

生き甲斐だから仕方ないね

 

 

 

・・・

【彩音レイナの食卓チャンネル】で配信が始まる

 

563: 名無しの食材

キター!

 

572: 名無しの食材

はじまた

 

588: 名無しの食材

スレの勢い凄いなw

 

611: 名無しの食材

同接3万w

もうトップダンチューバーやんw

 

617: 名無しの食材

めっちゃテンパってるw

初々しいな

 

619: 名無しの食材

本当に個人勢なのかな?

企業D特有の慣れがない気がする

 

626: 名無しの食材

そういう演技かもしれん

 

627: 名無しの食材

疑り深くて草

 

631: 名無しの食材

料理配信だって~

 

635: 名無しの食材

なんで料理?

てっきりダンジョン探索配信やるのかと……

 

642: 名無しの食材

可愛い(可愛い)

 

648: 名無しの食材

レイナちゃん可愛すぎる

新宿ダンジョン行けば会えるかな?

 

651: 名無しの食材

>>648

通報

 

653: 名無しの食材

リア凸はやめろと

ガチで迷惑やからなあれ

 

 

 

・・・・・

レイナ、食材を求めて探索を始める

 

【コメントは】期待のダンチューバーレイナちゃんについて話すスレ. 35【絶対に見逃しません】

 

116: 名無しの食材

挨拶代わりにとんでもないのぶちこんで来たなw

 

119: 名無しの食材

加速スキルでコメ欄凝視は草

才能の無駄遣いすぎるw

 

124: 名無しの食材

おまいらなら出来る?

 

128: 名無しの食材

A級ライセンス持ちだけど無理

見えるのと理解するのは違う

情報処理量が尋常じゃないわ

 

147: 名無しの食材

ふぁっ!?

 

149: 名無しの食材

レイナちゃん、探索してるの下層やんけ!

 

152: 名無しの食材

まさかそんな初回から、自殺行為はせんやろ――

ってマジやんけ!

 

154: 名無しの食材

下層ソロライブとか、ま?

 

161: 名無しの食材

まじ

本人は食材集めって言ってる

 

165: 名無しの食材

命知らず過ぎるだろ

バズったから無理してるのかな・・・

 

169: 名無しの食材

お、また流行りのスプラッタ動画か?

 

173: 名無しの食材

>>169

縁起でもないこと言うのヤメレ

 

177: 名無しの食材

でもレイナちゃんドラゴンゾンビワンパンしてたしな

本当に行けるのかもしれん

 

 

437: 名無しの食材

あぁぁぁぁぁトラップ踏み抜いた

 

448: 名無しの食材

さすがのレイナちゃんでも厳しいって

どうしよう

 

452: 名無しの食材

ゆきのんが必死に救援者集めようとしてる

ええ子や

 

456: 名無しの食材

それでもレイナちゃんなら、レイナちゃんなら!

 

468: 名無しの食材

wwwwwwww

 

469: 名無しの食材

wwwwww

 

473: 名無しの食材

【朗報】レイナさん、動じてない

 

476: 名無しの食材

いまだに食べること考えてて草

まずいってことは食ったことあるのかな?

 

482: 名無しの食材

邪魔w

 

488: 名無しの食材

消・し・ま・すw

いや草

 

491: 名無しの食材

敵が溶けていく~

 

493: 名無しの食材

なんやこれ

なんやこれ

 

499: 名無しの食材

( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!

スンッ・・・( ˙꒳˙ )

 

502: 名無しの食材

癒やしを意識して笑うのやめて、そのまま殺戮マシーンになるの草

 

504: 名無しの食材

むしろ凄み増してる

 

508: 名無しの食材

消します――バシュッ

消します――バシュッ

これ、下層の配信だったよね!?

 

522: 名無しの食材

終わったwww

 

524: 名無しの食材

ゴ・ミ・ム・シww

 

529: 名無しの食材

ぶひぃぃぃぃ!

 

533: 名無しの食材

>>529

出荷よー

 

541: 名無しの食材

>>533

そんなー(´・ω・`)

 

553: 名無しの食材

いやあ、凄いもん見たわ

息一つ切れてないのヤバ過ぎ

最前線の奴らとタメ張るんじゃねえのこの子

 

556: 名無しの食材

大手ギルドが今頃こぞって勧誘してそう

どこが取るかで勢力図変わりそう

 

559: 名無しの食材

レイナちゃん、どこ入るのかな?

やっぱり安牌はダンジョンイーグルス?

 

562: 名無しの食材

ヤメトケ、あそこは福利厚生がうんこ

ブラック過ぎて体壊すで

 

565: 名無しの食材

う~ん、大手の闇

 

567: 名無しの食材

S アルテマメモリーズ

A 双翼の天使、筋肉バスターズ、ただしイケメンは通さない

B ブラック・バインダーズ、クイーンローゼ

C ダンジョンイーグルス

 

戦闘力だけならたしかにダンジョンイーグルスだけど、総合的にはやっぱアルテマよ

異論は認める

 

571: 名無しの食材

ダンジョンイーグルス、こないだも死傷者出してたよな

完全に悪循環入ってる

 

572: 名無しの食材

さすがにCはないわ

 

574: 名無しの食材

>>567 >>572

格付けスレへGo

 

579: 名無しの食材

レイナちゃん、まだ学生なんだっけ

ギルド選びは慎重になった方が良さそうだね

 

 

 

・・・

レイナ、オークキングとの戦闘に挑む

 

【この拳に】期待のダンチューバーレイナちゃんについて話すスレ. 37【すべてお任せ】

 

336: 名無しの食材

スレの流れ早すぎるww

 

344: 名無しの食材

自重しないレイナちゃんが悪い(遠い目)

 

351: 名無しの食材

がらがらと常識が崩れていく……

 

377: 名無しの食材

瘴気の沼地、泳いで渡るの笑っちゃった

ここのショートカットは覚えておくと便利ですよ~! じゃないんだよなあ……

 

383: 名無しの食材

コメント欄もさすがに引き気味で草

レイナちゃんは可愛いなあ

 

 

442: 名無しの食材

オーラwww

 

449: 名無しの食材

ほえー

そういう能力かあ

 

453: 名無しの食材

キラキラしてて格好良い(小並感)

 

457: 名無しの食材

もうそれバトル漫画の主人公なんよ・・・

 

466: 名無しの食材

バトルジャンキーすぎる

 

488: 名無しの食材

くっそワロタ

 

489: 名無しの食材

真正面からオークキングと殴り合ってるww

 

490: 名無しの食材

音がやべえwww

 

491: 名無しの食材

書き込みなくなって草

 

492: 名無しの食材

みんな見入ってるのか

 

513: 名無しの食材

あっさり仕留めたな!?

 

516: 名無しの食材

【悲報】オークキング、ワンパンされる

 

519: 名無しの食材

同接10万越えてて草

まだまだ伸びてる

 

522: 名無しの食材

そら(あんなもん見せられたら)そうよ

 

547: 名無しの食材

人間、ガチでやべえもん見ると笑うしかなくなる

 

552: 名無しの食材

なんか歴史が変わる瞬間を見た気がするわ

間違いなく次世代のエースだわ、レイナちゃん

 

557: 名無しの食材

なお本人は食べ物にしか興味がない模様

 

 

 

・・・

実食タイム

 

【調理器具が買えないなら】期待のダンチューバーレイナちゃんについて話すスレ. 38【拳で殴れば良いじゃない】

 

221: 名無しの食材

死んでもボコボコにされるオークキング君かわいそう

 

227: 名無しの食材

美味しそうだろ、これ?

一般人には猛毒なんだぜ・・・

 

233: 名無しの食材

毒耐性スキルはチートなんよ

でも過程を知っちゃうと全然うらやましくない・・・

 

241: 名無しの食材

さすがに狂気

 

246: 名無しの食材

逆に考えるんだ。

毒なぞ抜かなくても良い、と。

 

251: 名無しの食材

※普通は死にます

 

273: 名無しの食材

お腹いっぱいで満足そうなレイナちゃん

幸せそうで何より

 

278: 名無しの食材

切り抜きが捗るな、可愛い

 

284: 名無しの食材

てかレイナちゃんほどの腕前で、ダンジョン素材の換金駄目なのはゴミ制度すぎだろ

法整備見直してもろて

 

287: 名無しの食材

ああ、学生は換金不可って意味不明な制度な

 

291: 名無しの食材

いや、まあ妥当だと思うぞ

あれなかったら欲かいたアホがバタバタ死んでくし・・・

 

296: 名無しの食材

食べ物探しに潜るバーサーカーもいるわけですが・・・

 

304: 名無しの食材

でも、換金がライセンスと紐づくのはクソ制度だよなやっぱ

ギルド組合の機嫌一つで資格失うの怖すぎるわ

 

294: 名無しの食材

だから一部のギルドに権力もたせたらアカンとあれほど・・・

 

297: 名無しの食材

政治の話はよそでやってどうぞ

 

311: 名無しの食材

以下、猛毒鍋に舌鼓をうつレイナちゃんを見守る紳士的なスレ

 

314: 名無しの食材

言い方よ

 




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《1章》設定&登場人物紹介

1章範囲のネタバレを含むので本編読んでない方はご注意を
一部設定の補足もありますが、ここを読まないと本編が理解できないという作りにはなりません。


○登場人物

名前:彩音 玲奈(レイナ)

性別:女性

年齢:15

好きなもの:美味しいモンスター

嫌いなもの:喰えないモンスター

二つ名:沈黙の鮮血天使(サイレント・エンジェル)

チャンネル:彩音レイナの食卓チャンネル

チャンネル登録者数:70万

 

 艶やかな黒髪を背中まで伸ばした女の子。

 年齢より幼く見えがちで、本人はコンプレックスに思っている。両親いわく「喋らなければ、お人形さんのように可愛らしい」容姿である。千佳の勧めで、配信中はロリータファッションを着用。ときどき着せ替え人形にされているとかいないとか。

 

 ダンジョン料理配信を中心にするダンチューバー。

 配信スタイルは、お客さんに「癒やし」と「笑顔」を……がコンセプトであり、癒やしにそぐわぬ物を徹底的に排除するダンジョン探索者には珍しいもの。……であったが新宿ダンジョンでの切り忘れ事件からは開き直って、素手でモンスターを葬り去る姿を遠慮なく見せるようになった。

 その戦闘スタイルは拳にモンスターのオーラを宿らせ、ぶん殴るというシンプルなもの。一見、単純な戦闘スタイルであるが、これまで喰らったモンスターはすべて宿らせることが可能であるため、応用力も非常に高い。

 

 

名前:???(望月雪乃)

性別:女性

年齢:22

好きなもの:ファストフード、歌、レイナ

嫌いなもの:口ばかりの人、デリカシーのない人、ドラゴンゾンビ

二つ名:極寒(ごくかん)冥姫(アビス・ロード)

チャンネル:ゆきのん攻略会議場

チャンネル登録者数:80万

 

 シャイニースターズ所属のダンチューバー。

 ファンからの呼び名はゆきのん。配信スタイルは、初心者~中級者を対象とした丁寧な解説動画。探索者としての腕も中堅上位に入り、明るい性格も相まって確固たる人気を手に入れた。

 ある日、イレギュラーモンスターの襲撃に巻き込まれ、絶体絶命のところをレイナに命を救われる。命を救われたことと、目の前で信じがたい光景を見せられたことにより、レイナチャンネルの虜になる。レイナのチャンネルをバズらせた恩人であるが、本人は意図せずレイナを配信に映してしまったことを気にしている。

 

 

名前:鈴木 千佳

性別:女性

年齢:16

好きなもの:研究、ダンジョン、レイナ

嫌いなもの:でっかい虫

 

 工学部のダンジョン探索支援科に所属する少女。

 レイナの悪友であり、ダンチューバーの道に引きずり込んだ張本人。マネージャーとしてレイナを手厚くサポートしている。

 発明家としての腕前も一級品。レイナが探索中に使っている道具の多くは千佳の発明品であり、中でも撮影に使っているスマホは自動で動き回って対象を映し続けるなど、実に高性能。レイナの配信を影から支えている。

 

 

 

○設定&用語

◆ダンジョン

 5年前に突如として世界に現れた異界に繋がる洞窟のこと。

 地下に地下にと潜っていく構造で、中は自然物だけでなく人工的に作られた建物も存在しており、実に多彩な景色を見ることができる。その非日常的な光景は、ダンジョン観光という新たなビジネスを生み出すほどに魅力的。とはいえモンスターが氾濫する非常に危険な空間であることには変わりなく、よほどの命知らず以外はダンジョンに潜ることは推奨されない。

 ダンジョンという場所は危険なだけではなく、貴重な資源が採取できる場所でもある。そのため世界各国が自国のダンジョン探索を進めようと躍起になっており、新たなダンジョン探索者の育成に力を入れている。ダンジョンを攻略する者は「探索者」と呼ばれ、日々、新たな戦果を出さんとしのぎを削っていた。

 

 ダンジョンの階層は、一般的には「上層」「中層」「下層」「深層」「超深層」に区分される。簡単なダンジョンは下層で終わる場合もあるなど、ダンジョンによってどの層まで存在するかは異なる(超深層が存在するダンジョンは、世界でも数か所しか見つかっていない。また高難易度ダンジョンは、そもそも深層から先の探索が進んでおらず、どこまで続くか未知数という場合も多い)

 ダンジョンの階層には、さらに「地区」と呼ばれる区切りが存在する。いくつの地区から層が成るかもダンジョンによってまちまちであるが、一般的に高難易度ダンジョンの方が層あたりの地区も多いという法則が認められる。

 

◆新宿ダンジョン

 新宿にできた日本有数の巨大ダンジョン。

 現状、上層・中層・下層・深層までが発見されている。

 構造の複雑さや罠の凶悪さ、現れるモンスターの強さなどから最難関ダンジョンの一角として数えられている。その難易度は、数年かけてトップギルドによる攻略が進められているが、いまだに最奥部まで探索が進んでいないほど。

 現在、新宿ダンジョンの最大到達地点は、深層の第九地区である。

 

◆ダンチューバー

 ダンジョン探索の様子を配信する探索者のこと。

 毎日のように新たなダンチューバーがデビューしており、現在では完全なレッドオーシャンと化している。それでも配信者の間でダンジョンは熱いと考えられており、軽い気持ちでダンジョンに入っては大怪我をし、トラウマを抱えて去っていく者が続出している。

 日本では最上位ダンチューバーは登録者数1千万人を越えており、全世界規模なら数千万人単位の登録者を抱えるダンチューバーも存在している。そのため、夢を求めてダンチューバーとしてデビューする者は後を絶たない。なお大抵は視聴者を集められず、人知れずに消えていく。

 

◆モンスター

 ダンジョン内に現れる異形の怪物のこと。

 人間を見かけると襲う者、逃げ出す者、人間を殺そうと罠を張る者など、その生態は様々である。

 モンスターは基本的に、己の住む領域(地区)を決めて、互いに干渉し合わぬように生息している。そのため階層や地区ごとに生息するモンスターが決まっており、基本的には潜れば潜るほど凶悪なモンスターが生息していると言われている。

 モンスターは数が増えすぎるとダンジョンから溢れ出し、周辺の街を襲うこともある。そのためクリア済のダンジョンであっても、定期的にモンスターを狩ってモンスターが増えすぎないように数を減らす必要がある。

 

◆イレギュラーモンスター

 モンスターの突然変異体。

 オリジナルとなったモンスターの数倍の身体能力を有し、危険度も一気に跳ね上がる。

 通常のモンスターとは違い、周囲のモンスターを引き連れて地上を目指して徘徊するという特性がある。大規模な群れになると専門の討伐部隊を組む必要がある「災厄」として扱われ、探索者組合の頭を日々悩ませている。

 

◆探索者ギルド

 近しい探索者が集まって作った同盟のようなもの。

 日本国内だけでも数百の探索者ギルドが存在している。元は共通の目的を持って探索者同士で集まっているだけの互助組織であったが、ダンジョン関連の法整備が進むにつれ、トップギルドは国の政策に口出しできるほどの権力を持つようになっていった。

 

◆探索者組合

 探索者が不当な目に遭わぬよう有力探索者を集めて作った集団。

 多くの探索者ギルドが探索者組合に加入しており、ダンジョン内の情報が一番集まる場所と言える。ダンジョンについては政府よりも詳しいため、ダンジョン関連の法整備にはアドバイザーという立場で強い権力を持つ。一番の功績は、モンスターの危険度やダンジョンの危険度をランキング付けし、ギルド所属の探索者であれば誰でも閲覧可能な状態にしたことである。また探索者が無謀なダンジョン攻略に乗り出さぬように、ダンジョン素材の換金にライセンス制を導入するよう提唱したのも探索者組合である。

 探索者ギルドに対して、積極的に物資の援助・人材斡旋なども行っている。最近では組織が肥大化しており、役員には大手探索者ギルドの幹部も多く在籍していることから、ギルドの思惑により方針が左右されることもちらほら。

 

◆フロアボス

 ボス部屋を守護するモンスターのこと。

 「ボス部屋」と呼ばれる特殊ギミックとセットで登場する。ボス部屋がある地区は、結界により次の地区に進む階段が護られており進めないようになっている。ボス部屋に挑み、フロアボスを見事に打ち倒した者だけが次の地区に進む権利を得られるのだ。

 

◆スキル

 ダンジョン出現後に発見されたもので、先天的、あるいは後天的に身につく特殊能力のこと。

 先天的に身につくスキルを、ユニークスキルと呼称する場合もある。

 ダンジョンで何らかの条件を満たすことで、スキルを後天的に身につけることが可能だと言われている(スキルの開花) ただしこれは、生命の危機に瀕した場合が主であり、実質的にスキルを安全に増やす方法は存在しないと言える。スキルについては、まだまだ研究中というのが実情であり、細かなスキル開花条件は不明。

 またスキルは、あくまでダンジョン内でのみ効果を発揮する。

 



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第二章
第十一話 レイナ、呼び出しを喰らう


 あの日からも、チャンネル登録者数は順調に伸びていた。

 不思議なことに、ダンジョンでの料理配信がまたバズったようなのだ。

 

 不本意ながら新聞の表紙を飾ってしまったのも大きい。

 ドラゴンゾンビを殴り飛ばす例の切り抜き画像が、朝刊の一面を飾ってしまったのだ。

 返り血を浴びながら哄笑する私……、もうお嫁にいけない。

 

 チャンネル登録者数は気がつけば100万人間際。

 配信すれば、安定して数万の同接を叩き出す。

 ダンジョン探索&料理の配信をすれば、毎回、すごい勢いでコメントが流れていく。

 

 私のダンチューバーとしての知名度は、着実に上がり続けているのであった。

 ――黒歴史の拡大とともに。

 

 

 

※※※

 

 困ったことと言ったら、普通に顔バレしたことだ。

 某所で特定されてしまったらしく、学校ではすっかり有名人扱いである。

 

 今日も学校の前には、私を一目見ようと人だかりができていた。

 こっそりと裏口から侵入するのが、最近の習慣である。

 

 

 そんなわけで、私は教室に向かおうとして、

 

彩音(あやね)、ちょうど良いところに。ちょっと話があるんだが──」

「げっ、軍曹……」

 

 私を呼び止めたのは、実技担当の権藤(ごんどう)(つよし)先生──あだ名は鬼軍曹──だ。

 

 ムキムキマッチョの熱血漢である。髪は無い。

 座右の銘は、言葉より拳で語れ。その言葉には全力で共感しかないが、それはそうとて怒ると鬼のように怖いのである。

 アカデミーでは割と問題児として名を馳せていた私は、割と苦手意識を持っていた。

 

 

 今日も今日とて、迫力満点である。

 

「げっ、とは何だ……」

 

 軍曹が、ショックを受けた様子で苦笑したが、

 

「ちょっと職員室まで来て欲しいんだが……」

 

 そう言って歩き出した。

 

 

(ひえぇ――)

(軍曹、めちゃくちゃ怒ってる!?)

 

 到着、職員室。

 お説教スペースは、私にとっての定位置である。

 

(私、何しでかした……?)

 

 配信か、配信のせいか!

 おそるおそる私が椅子に座ると、

 

 

「頼む、彩音! うちの宣伝担当になってくれ!!」

 

 予想外の言葉とともに、軍曹は深々と頭を下げてきた。

 

「ほえ!?」

 

 軍曹は、私にパンフレットを手渡してくる。

 そこには……、

 

──集え、未来ある若者たち!

──あのレイナちゃんを間近で見られます。サインだってもらえるかも!?

──アットホームで楽しい学校です

 

 

 パンフレットのど真ん中には、素手でオークキングと殴りあってる私の姿が!

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

 私はパンフレットをぐしゃぐしゃに丸めて、そのまま粉々に粉砕する。

 

(ふぅ、悪は滅んだ……)

(これでよし――)

 

「ふっ、実はもう1000枚ほど刷ってあってだな──」

「ノォォォォォオ!」

「あぁぁぁぁあ! 渾身のレイナちゃんパンフレットがぁぁぁ!」

 

 私は闘気を飛ばし、パンフレットの山を粉砕。

 なんっちゅう物を配ろうとしてやがるんだ。

 

 軍曹はさめざめと涙を流していたが、

 

「あれは、やってくれないの?」

「へ……?」

「ほら……、喰えないモンスター倒したときのいつものやつ──」

 

 何を求められてるんだ、私は……。

 思わず反射的に、

 

「……キモチワルッ!」

「ありがとうございますぅぅぅぅ!」

 

(なんなのこの人ぉぁぉぉ!?)

 

 軍曹、こんなに愉快な人だったの!?

 恐ろしい鬼教官のイメージしかなかった相手の意外な一面を前に、私は少しだけホッコリして……、

 

(……うん、ないな)

 

 素直にドン引きしただけである。

 

 

 それから私は、正気を失ってる軍曹を必死に説得した。

 

 私はいつも怒られてる問題児でしょうと。

 今日だって、校門前に人だかりが出来てるし、問題が起きてますよ~、と。

 ほ~ら、私は問題児。学校の顔、相応しくない!

 

「ああ、あの人だかりな……。いい加減迷惑だから警察に通報してしょっぴいてもらうか」

「私の方から言っておくので、やめてあげて下さいね!?」

 

 違う、そうじゃない!

 危ない、危ない。私のせいで逮捕者が出るところだった……。

 

「ぬぅう……。どうしても、駄目なのか?」

「イ・ヤ・で・す!」

「焼肉食べ放題」

「………………お断りします」

 

 ちょっと揺らいだ。

 

 

 その後、必死の説得の甲斐あって、どうにか軍曹に考え直してもらうことに成功。

 

(そりゃあ、私だって学校の宣伝に協力するのはやぶさかではないけれど……)

(でも――アレは例外だよ!)

 

「ところで、やっぱりレイナちゃんパンフレットは──」

「没です、没!」

 

 しょぼーんとした顔の軍曹を残し、私は教室に向かうのだった。

 朝からドッと疲れた……。

 

 

 

※※※

 

 昼休み。

 私が、食堂で黄昏れていると、

 

「どったん、サイレントエンジェル?」

 

 そんな呼びかけが聞こえてきた。

 沈黙の鮮血天使(サイレント・エンジェル)――それは私の探索者としての二つ名である。

 

「その名前で呼ばないで……」

 

 私は恨みがましい視線を、悪友──千佳に向ける。

 頼れる我が悪友は、面白がるような視線を私に向けていた。

 

 

「おかしいな……、私は癒し配信者のはずなのに──」

「うん。それはだいたいレイナが悪い」

 

 最近はもう開き直ってるところもあるけど。

 みんな、もっと料理の方を切り抜いても良いのよ?

 

 

 私がそんなことを考えていると、

 

「そういえばレイナ、サイン見たんやけど……」

「ど、どうだった?」

 

 ワクワクした目を向ける私を、

 

「ナメクジがのたうち回ってるかと思ったで。練習しよう?」

「そこまで言う!?」

 

 バッサリ一刀両断する千佳。

 

 突然、同級生にサインを頼まれて困惑した朝。

 オールして一生懸命考えた渾身のデザインだったのに!

 

「無茶言わないでよ。慎ましく生きてきた一般人にサインなんて、ハードル高いって」

「プロに依頼しちゃうのが良いと思うで」

 

 なんとも現実味のない話である。

 ちょっと前の自分に話したら、夢見てるんじゃないよと鼻で笑われてしまう絵空事。

 

 でも現実サインを求められ、そういえば微妙そうな顔をされてしまって、

 

「依頼、してみます」

「よろしい。なら後でリスト送っとくで!」

 

 それでファンが喜んでくれるのなら……。

 結局、私は思考放棄して、千佳に丸投げするのであった。

 

 

 そんなわけで学校での一日を終え、帰宅した私は配信用PCを立ち上げる。

 ――今日は、雑談配信をしよう。



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第十二話 レイナ、雑談配信をする

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

 

"キター!"

"こんレイナー!"

"こんレイナ~!"

"今日も喰われてしまうのか……"

 

 配信を立ち上げると、一斉にコメントが流れてきた。

 ちなみに「食材」というのは、私のリスナーのファンネーム――視聴者さんの呼び名――のことだ。

 

 

 ファンネームは、実に軽いノリで決まっていった。

 配信で私が「ファンネームって何が良い?」と聞いたら、ノリの良いリスナーさんが一斉に「食材?」「食材やな」「食材!」なんて答えたのである。

 ちなみに他候補は「豚」「おじゃま虫」「ゴミムシ」と碌な物がなかった。候補の中では食材一択。とりあえず「食材さん」と呼んでいたところ、すっかり定着してしまったのだ。

 

(怒られない? 大丈夫……?)

 

 新人ダンチューバー、彩音レイナ。視聴者を食材呼ばわりしてしまう――とか晒されてたらどうしよう。

 そんな不安を持ちつつつぶやいたーを見ると、プロフィール欄で誇らしげに「食材」と名乗っているアカウントを多数見つけてしまい……、

 

(まあ、視聴者さんが喜んでるならそれで良いか!)

 

 私は、そこで思考停止。

 それから視聴者さんのことは「食材さん」と呼んでいる(豚より遥かにマシなのである)

 

 

 閑話休題。

 私は、雑談として、今日の出来事を軽く話していく。

 

「――って、ことがありまして。パンフレットが作られそうになってたので、世界平和のためにも粉々にしておきました!」

 

 "あぁぁぁぁぁ、なんて勿体ないぃぃぃぃぃ!"

 "その先生とは良い酒が飲めそうだ……"

 "( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

 "ガタッ そのパンフレットはどこで買えますか!?"

 "グッズ化されますか!?"

 

「されません!」

 

 ノリの良さを、そんなところで発揮しないで欲しい。

 

 

 それから私は、つぶやいたーに届いていた視聴者さんからの質問をいくつかピックアップする。

 他愛のない雑談と質問への返答で、私の雑談配信は成り立っているのだ。

 

 

 

『えーっと……、ダンジョン探索のコツを教えて下さい!』

 

「気合い! 自分が得意なことを信じると上手くいくと思う!」

 

"思いっきり精神論で草"

"でもパッションはたしかに大事!"

"もっと具体的なアドバイスが欲しいです!"

"お、レイナちゃんに真面目なアドバイスを求めるとか初見か?"

 

「むむ、みなさん馬鹿にしてますね――」

 

 せっかく来てくれた視聴者さんのため。

 取っておきのお役立ち情報を、ここで発表してみせる!

 

「では取っておきの雑学を1つ。衝撃波を飛ばすときはですね、ひと振りで同時に飛ばした方がエネルギー効率が良いんです!」

 

 最近見つけた渾身のテクニックだ。

 ドヤッとした笑みを浮かべる私だったが、

 

"一般人には衝撃波飛ばせない定期"

"まず衝撃波の飛ばし方を講座してw"

"そこは気合いで乗り越えてもろて……"

"ドヤ顔レイナちゃんは可愛いなあ(現実逃避)"

 

 コメントで総スカンを喰らう。

 

 あれぇ――?

 とっておきだったんだけどなあ……。

 

 

 

『次の質問は――チームは組まないんですか?』

 

「組みません!」

 

"即答!"

"なんで? 組みたい人いっぱい居ると思う!"

 

「実習では、いつもテンポが合わなくて怒られてばっかりで……。ソロの方が気楽で良いなって」

 

"そりゃレイナちゃんに付いて行ける人いないか"

"極めればソロが最強だぞ"

"極める前に普通に死ぬゾ"

 

「あと、全部倒しちゃったら練習にならないって」

 

 あの時だけは、軍曹、ちょっぴり申し訳無さそうだったっけ。

 

"強すぎて怒られてるの草"

"だいたいアカデミーが悪い"

"まあ、しゃあない。底上げが学校の役割やしなあ"

 

 

 

『使ってる配信機材を教えて下さい!』

 

 これは話して大丈夫かな?

 千佳、将来的にはダンジョン工具の専門店に就職したいって言ってたし。

 

「えっとですね、機材はオーダーメイドです。リアルの知り合いが開発したものでして――」

 

"あれオーダーメイドなんだ!?"

"レイナちゃんにピッタリ追随するの凄いよな"

"フレームレートおかしいのよ"

"まず、あの戦いに巻き込まれて壊れないのがヤバイ"

 

 千佳の機材を褒め称える声が、コメント欄を流れていく。

 

「前、目覚まし切ろうとしただけで壊れましたけどね……」

 

"スマホ(解せぬ)"

"そういえば切り忘れたときも殴って黙らせてたしなw"

"レイナちゃん、そろそろスマホの使い方は覚えてもろて"

"そのスマホ何代目なんだ・・・"

 

 むむむ……、風向きが怪しい。

 まあ私が機械音痴なのは周知の事実なので、否定のしようもないのだけど。

 

 

「ちなみに製作者は、私のマネージャーでもあります!」

 

"さらっと明かされる驚愕の真実!"

"レイナちゃんの周り天才しかいないの!?"

"これは勧誘が捗るな――"

 

「配信機材ならこれがイチオシです! 概要欄にリンク貼っておきますね~。では、次の質問――」

 

 私は、ペタッと千佳のホームページを貼っておく。

 

 

 ――同接、数万人規模のダンチューバーが、イチオシ商品として推すこと。

 その意味は、レイナが想像していたより遥かに大きい。

 閑古鳥が鳴いていた千佳のサイトには、あっという間に、問い合わせが殺到する事態となった。千佳が立ち上げることになる機材ブランドは、やがては業界でも確固たる地位を築く巨大ブランドに成長していくことになるのだが――それはまた別の話。

 

 

 

『ゆきのんとコラボはしないんですか?』

 

 最後の質問は、あまりにも個数が多かったので取り上げることにしたものだ。

 

「私なんかが、おこがましいですって」

 

"数字はもうレイナちゃんの方が上なんだよな……"

"この子は絶対いつかやらかすと思ってたw"

"古参ニキだ~!"

 

 ベテランでありダンチューバー黎明期に伸ばしたゆきのんと、たまたまバズってヒットした私とでは、その数字の価値は全然違うと思う。

 

 

「食材のみなさんなら大丈夫だと思いますが、ゆきのんに変なコメントしないで――」

 

"《望月雪乃》レイナちゃん、コラボしたいです!!"

"普通に見てて草"

"もはやガチファンなのよw"

 

 まさかのタイミングでの登場に、コメント欄も盛り上がる。

 

"《望月雪乃》まだ助けてもらったお礼もできてなくて――"

「い、いえ。お礼なら、十分以上にいただきましたよ」

 

 たまたまゆきのんがあの場に居合わせなければ、私は今も同接一桁で沈んでいただろう。

 

 

"《望月雪乃》レイナちゃんなら、キッカケさえあればいつでもブレイクしてたよ"

"実際、アーカイブも中身はバケモノなのよな"

"逆タイトルサムネ詐欺さえなければ……"

"レジェンド視聴者ニキが羨ましいんじゃ~"

 

 レジェンド視聴者ニキ――それは、私がバズる前に配信を見ていた選ばれし視聴者である。

 こんなバズり方をして、きっと私以上に驚いていると思う。

 

 

"《望月雪乃》配信、いつも楽しみにしてます!"

"ゆきのんは良い子だなあ――"

"こんな暴走天使ちゃんを、これからもよろしくおねがいします……"

 

「私も! 昨日のクイズ大会も、みおちゃんとの激戦が最高で!」

"《望月雪乃》レイナちゃん、見てくれたの!?"

"こっちもファンだった~!?"

"ゆきのん、すごく嬉しそう!"

 

「勿論です! 邪道に走らないゆきのんチャンネルは、本当に憧れで――」

"《望月雪乃》あわわ、私もレイナちゃんのストロングスタイルが大好きです!"

 

"視聴者置いてけぼりで二人の世界に入るのやめてもろて……"

"てぇてぇ"

"てぇてぇ?"

 

 はっ、ついテンションが上がってしまった。

 今は配信中。冷静に、冷静に。

 

 

 そのまま配信を終えること五分後。

 私は、ゆきのんとつぶやいたーで相互フォローになっていた。

 そうして話は驚くほどにサクサクと進み(ゆきのんの事務所からは、コラボ一発オッケーだったと聞いた。大丈夫なんですかね!?)またたく間にコラボ配信が決まるのであった。



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第十三話 コラボ配信(1)

 コラボ配信当日。

 配信を行う新宿ダンジョンの中層に向かうと、すでに入り口で待機している雪乃の姿があった。

 

「すみません、お待たせして――」

「ううん、私も着いたばっかりだから!」

 

 気にしないで、とゆきのんは私の姿を見るなり笑う。 

 

「レイナちゃん、実物もちっちゃくて可愛い!」

「私はこう見えても15ですっ! ゆきのん先輩も、すごく格好良いです!」

 

 しげしげと見つめ合う私たち。

 今、私は憧れのダンチューバーと実際に会って話してる――そう思うと不思議な気持ちになった。

 それだけでも諦めずに配信続けて良かったとすら思う。

 

 そんな私の感慨をよそに、

 

 

「レイナちゃん、本当にごめんなさい!」

 

 ゆきのんが、深々と頭を下げてきた。

 

「な、何のことですか!?」

「何って――あのシーンを、よりにもよって配信に残してしまうなんて大ポカを……」

「それを言うなら私も切り忘れてましたし――」

 

 二人して意図せず配信しっぱなしだったという痛恨のミス。

 イレギュラーモンスターと対峙していたゆきのんはまだしも、私にいたっては完全なるうっかりである。

 

「配信でも言った通りです。ゆきのん先輩が居なければ、私は今でも埋もれたままだったと思います。ゆきのん先輩は私の恩人です!」

「レイナちゃんこそ! レイナちゃんが居なかったら、私は今頃死んでたからね」

 

 軽い口調でサラッと言っているが、割とシャレにならない。

 

「お互い、結果オーライってことで――」

「そうですね! ゆきのん先輩、今日はよろしくお願いします!」

 

 ぺこりと頭を下げ、私たちは配信準備を始めるのだった。

 

 

 

※※※

 

「作戦会議室からマイクを持ってこんにちは! 望月雪乃です!」

 

 そうして、あれよあれよという間に配信が始まった。

 

「そして今日はゲストとして、あの方が来ています!」

「こんレイナ~! 食材のみなさん、こんにちは!」

 

"キタ~!"

"ずっと楽しみにしてました~!"

"どっちも好きすぎる!"

 

 私たちの挨拶に合わせ、コメント欄が凄まじい勢いで流れていく。

 

 ――彩音レイナ&望月雪乃のコラボ配信。

 コラボ内容としては、私がゆきのんの解説動画に参加させてもらう形だ。

 

 

"レイナちゃん、今日は常識枠だからね"

"レイナちゃん、常識学んできた?"

"レイナちゃん、パンチで壁に穴空けちゃ駄目だからね"

"食材のみなさんのコメントが、いきなり不穏なんですが……(困惑)"

 

「みんなして私を何だと思ってるんですか。食べちゃいますよ!?」

 

 実に熱い風評被害である。

 

 

「レイナちゃんのことを知らない人が居るかもしれないから最初に軽く紹介しますね。レイナちゃんは――」

 

 私のことを初めて見る人向けに、ゆきのんが私を軽く紹介する。

 

 私が、料理配信をメインに活動しているダンチューバーであること。

 偶然居合わせたゆきのんを、イレギュラーモンスターから助けたこと。

 もっとも、どっちのチャンネル視聴者にとってもほぼ既知の事実であり、

 

"ゆきのんを助けてくれてありがとう!"

"あなたのおかげで私の推しは生きています……"

 

 ゆきのんのリスナーからは、そんな温かいコメントが飛んできた。

 一方、食材のみなさんは、

 

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"喰えないので――消します!"

"3秒で分かるレイナちゃん!→URL(【切り抜き】オークキングと素手で殴り合うレイナちゃん)"

"レイナちゃん入門セット!→URL(ダンチューバー事件簿 彩音レイナ)"

 

 自重して!?

 あと、そのWikiはなに!?

 

「うんうん、レイナちゃんと言えばやっぱりこれだよね!」

「ゆきのん先輩まで~!?」

 

 一方、ゆきのんは切り抜きを見て目を輝かせていた。

 

 

 

※※※

 

「それじゃあ今日も、探索解説動画やっていきますね!」

 

 そうして私たちは、中層第1地区に足を踏み入れる。

 

 今日の配信内容としては、中層での解説動画&料理配信である。

 ダンチューバー同士のコラボでは、やっぱり一緒にダンジョンを潜るというのが一般的だ。

 今回は、さらにそれぞれの企画を合わせた形である。

 

"ゆきのんの解説動画、分かりやすくて好き"

"ゆきのんのおかげで中層にたどり着けました、ありがとうございます!"

"ガタッ! ついにレイナちゃんの解説も見れるんですね!"

"潜るのは中層?"

 

「中層です。ごめんなさい、もっと私に実力があれば、下層でいつもの料理配信ができたんだけど……」

 

 コラボ配信では、普段以上に安全マージンには気を遣う。

 基本的に相手の到着階層に合わせるのが、暗黙の了解だった。

 

「いえいえ、ものすごく助かります! 解説動画を求められてたんですが、勝手が分からなくて――」

「あぁ……」

 

 ゆきのんは、そっと目を逸らし、

 

「レイナちゃんの解説は、そのままで良いと思う。可愛いから……」

「何のフォローにもなってないですって!」

 

 ぷくーっと膨れる私を見て、

 

"フォロー失敗してて草"

"可愛い(可愛い)"

"なおモンスターを前にすると本能を抑えきれなくなる模様"

 

 コメント欄も、和気あいあいとしている。

 私は、不思議と緊張がほぐれていくのを感じていた。

 

 

(不思議な人だな、ゆきのん先輩)

(ずっと前から知り合いだったみたいに話しやすいし!)

 

 何かあったら、相手にまで迷惑かけてしまうのがコラボ配信だ。

 正直、コラボが始まる前は、失敗したらどうしようという緊張もあった。

 それが始まってみれば、こうして楽しく配信できていて、

 

(プロってすごいなあ――)

 

 私じゃ、ここまで上手く場を回せない。

 ゆきのんの凄さに感動していると、

 

 

「レイナちゃん、曲がり角の先に宝箱があるみたい。どうする?」

 

 ゆきのんが、そんなことを聞いてきた。

 解説のための前振りだろう。

 

 

「はい、粉砕してきます! 中身だけ取りましょう!」

「え? ――ちょっ!?」

 

 私は宝箱の前まで一足飛びに踏み込み、軽く拳を当てて外枠を吹き飛ばす。

 ピュンッと両脇の壁から変な弓矢が飛んできたので闘気を飛ばして粉砕。

 中身は――変な鉱石。さすがに喰えない、大ハズレである。

 

「どうですか、ゆきのん先輩!」

 

 私が、宝箱の中身を持って帰ると、

 

「う~ん、0点!」

「ひょえぇ、手厳しい……」

 

 宝箱を破壊するのに、時間をかけすぎたのだろうか。

 

"残当"

"そらそうよ"

"罠探知スキルがない場合の模範解答は、近づきながら罠の種類ごとに可能性を潰していく感じかな"

"ミミック回避のための棒は必須よね"

 

「レイナちゃん、学校で習わなかったの?」

 

 困った様子で、ゆきのんが訊いてきた。

 

「はい、習いました! なんか難しいこといっぱい書いてあったのですが、慣れたら自分なりのやり方にアレンジしようって書いてあったので――」

 

"これは都合良いところだけ読んでるなw"

"う~ん、これは問題児"

"たしかにレイナちゃんならそれでも問題なさそうだけど! 問題なさそうだけど……!"

 

「ダンジョンの罠は、本当に危ないからね。いくらレイナちゃんでも甘く見たら駄目だよ」

「はい……」

 

 普通に怒られてしまい、私はしゅんと頷くのだった。

 

"レイナちゃんが、常識人になっていく可能性?"

"実はレイナちゃん育成配信だった!?"

"常識人はソロでフロアボスに挑まない定期"

 

 

「宝箱を見つけたときの正しい対応策は――」

 

 そう言いながら、ゆきのんが宝箱を見つけたときの対処法を実演を交えて説明してくれる。

 

 ザックリ言ってしまえば、罠の発動条件を安全圏から満たし、あり得る罠の種類を1つずつ潰していく方法だ。

 看破系のスキルがあれば、罠の種類まで分かるからパーティを組むときは1人入れるのがオススメとゆきのんは締めくくる。

 いつものように分かりやすい解説ではあるけれど……

 

「ここで出る罠が、モンスターハウス・剣穴・弓矢。毒――なら、やっぱり全部無効化できるので大丈夫ですよ?」

「へ? いや、でも未知の罠がもし眠ってたら――」

「でも……。未知の罠があるかなんて、一度はかかってみないと分からないですよね?」

 

 私は、ゆきのんにそんな質問をする。

 

"脳筋すぎるw"

"よく生きてたなこの子!?"

"毒耐性スキルカンストするまで毒食べてた子なので・・・"

 

"そもそもレイナちゃんを常識で測ろうとするのが間違ってるんやで"

"レイナちゃんは愛でるもの"

"なんで食材のみなさんは誇らしげなんですかねえ……(困惑)"

 

 

「もし罠にかかって対処できなかったら死んじゃうんだよ!?」

「大丈夫です! 罠に負けるようなヤワな体はしてません!」

「た、たしかにレイナちゃんなら大丈夫そう? 大丈夫なら……、あれ? そう言われると――正攻法は、実は罠を正面突破できるまで鍛えること?」

 

 目を白黒させるゆきのん。

 

"ゆきのんが毒されてるw"

"負けないでゆきのんw"

"うちのレイナちゃんが、本当に申し訳ありません……"

 

 結局、罠の対処方法は棚上げされた。

 

 

 解説動画。そして他愛ない雑談を交えて。

 ちょっとした混乱もありつつ、コラボ配信は順調に進んでいく。

 

「そういえばレイナちゃんは、卒業後どうするか決めてるの?」

 

 コメント欄から拾った何気ない質問。

 私は、うっと言葉に詰まる。

 

「お恥ずかしいことに、まだ具体的なことは何も決めてなくて――」

「そうなの? 私で良ければ相談に乗るよ?」

 

 ゆきのんが、天使のような柔らかい笑みを浮かべた。

 

 そういえばゆきのん配信の定番として、ゆきのんのカウンセリングコーナーなんてものもあったっけ。

 ダンジョン探索者からの悩みを聞いてアドバイスをするというシンプルな企画だ。

 

 この笑顔を前にしたら、何でも話したくなってしまう気持ちも分かるなあ。

 

 

「そうですね、私は――」

 

 おずおずと口を開く私であった。



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第十四話 コラボ配信(2)

 意図せず話題になったアカデミー卒業後の話。

 アカデミーを出た生徒は、ダンジョン関係の職につくのが一般的だった。

 

 代表的な進路は、専業のダンジョン探索者だろうか。

 ダンジョン探索者――ライセンスを取り、主にダンジョン素材の換金で生計を立てる仕事だ。

 ダンジョンにロマンを追い求め、最深部を目指して攻略を進める人間もここに含まれる。

 

(もちろん、それも悪くはないんだけど――)

 

 ダンジョンは楽しい。

 美味しいものがいっぱいあるし、モンスターとの戦いは嫌なことを忘れさせてくれる。

 全フロアボスを食べ尽くす――それは私のささやかな目標だ。

 

 だけどそれ以上に、私が大切にしたいこと。

 ぼんやりした目標だけど、やりたいことは自分の中で決まっていた。

 

 

「――私は、ダンチューバーを続けたいって思ってます」

 

"そうか。学生だから卒業と同時に引退って可能性があったのか――"

"それを聞いて安心しました!"

"ずっと応援してます!"

 

 コメント欄では安堵の声。

 

 

「ダンチューバーを続ける。それは――どうして?」

 

 急かすでもなく、ゆきのんは優しく私が言葉を続けるのを待ってくれる。

 

 

 ――今のダンチューバーという地位を築き上げた先輩たちのように。

 夢と希望を見せられる配信者になりたい。

 今も胸にある気持ちだ。

 

 転勤。

 新しい学校に馴染めず、不登校になった私。

 そんな私が再び前を向くきっかけは、まっすぐ前を向いて走っていたダンチューバーたちだった。

 だから私が目指すのは、癒やしと笑顔を届けられる人。

 

 

 ……なんてこと、さすがに本人を前に言うのは恥ずかしいし。

 自分が楽しいだけでなく、楽しいを共有したい。

 そしてあわよくば、過去の自分のような人間が前を向く手助けができれば良い。

 ――なんてこと、配信で言えるわけがないではないか。

 

「う~ん……、内緒です!」

「え~? そこまで言いかけて……、気になるよ~!」

 

 うりうり、とゆきのんが私の頬を突っついてきた。

 

「レイナちゃんのほっぺた、もちもちしてて気持ち良い!」

「むむむ――それは私が幼女ってことですか!?」

「違うよ!?」

 

"合法ロリ"

"レイナちゃんのほっぺたぷにぷにしたい"

"寝顔ずっと見守りたい"

"↑↑通報"

 

 

 そんなことを話しながらじゃれあっていたが、

 

「レイナちゃん、ドリームプロダクション――うちの事務所はどうかな?」

「へ?」

「卒業後の就職先!」

 

 ゆきのんが、突然そんなことを言い出した。

 

(……って、配信用のリップサービスだよね!)

(危うく本気にするところだったよ――)

 

「またまた~、冗談はやめてくださいって。私なんかには眩しすぎますって!」

 

 シャイニースターズを擁するドリームライト・プロダクション。

 企業勢と呼ばれるダンチューバー事務所の中では、最大手と言っても差し支えない。

 

 企画力、所属するタレントの個性。

 必ずしもダンジョン探索者としての実力が、トップクラスな訳ではない。

 それでも誰もがきらりと輝く一芸をもっていて、常に業界の一線を走り続けてきた事務所なのだ。

 

 私が並んでいたら違和感ありすぎると思う。

 

 

「割と本気だったんだけどなあ――」

 

 軽く流した私に、ゆきのんは拗ねたように唇を尖らせる。

 

「みなさんも、私なんかがドリームライトプロダクションにいたら怒りますよね!?」

 

 私がコメント欄に話を振ると、

 

"ゆきのん、ずるい!"

"これはひどい職権乱用"

"レイナちゃん争奪戦はじまっちゃう!?"

"むしろ事務所が羨ましがられるの草"

 

「なんで?」

 

 食材さんたちの悪ふざけかな。

 

 

"《佐々木 大五郎》わたくし、ダンジョンイーグルスのギルド長を勤めております佐々木と申します"

"《佐々木 大五郎》このたびは是非とも、彩音レイナ様に、我がギルドに入っていただけないかというご相談を――"

 

"ふぁっ!?"

"勧誘草"

"なりすましか!?"

 

"本物やんけ!"

"やっぱりトップギルドは、有名実況者の配信はチェックしてるんやなあ……"

"佐々木さん、佐々木さんじゃないですか! 未払いの残業代はやく払ってくださいよ!"

"なんか闇深そうなコメント見えて草"

 

 ダンジョンイーグルス。

 たしか有名な探索者ギルドだった……、はずだ。

 

 ──詐欺かな?

 

「む、難しいことは分からないのでマネージャー通してください!」

 

 面倒事は、とりあえず千佳に丸投げ。

 

 

"一刀両断で草"

"レイナちゃん、まったく興味なさそう"

"食べ物以外にレイナちゃんが興味持つはずがないだろ、いい加減にしろ!"

 

"是非とも我がギルドの話を――!"

"十倍出す。だから少しでも私たちのギルドの話を――!"

"幹部待遇で迎える。どうか俺たちのギルドに――"

 

「!?!?!?」

 

 コメント欄に、そんな書き込みが増えていく。

 

 

「あー、この話はここまで!」

「ご、ごめんなさい! そういうのはマネージャーの方までお願いしますっ!」

「これは流れ作った私が完全に悪かった。ごめんなさい!」

 

 ゆきのんが、そう謝罪する。

 

"まあ仕方ない"

"暴走したギルドのスカウターたちが悪い"

"レイナちゃんの進路は、全探索者が注目してるからなあ――"

 

 なんか不穏なコメントが見えたんですけど!?

 

(……千佳に、相談しよ!)

 

 思わぬハプニングに時間を取られつつ。

 私たちは、そのままダンジョン探索に戻るのだった。

 

 

 

※※※

 

 1時間後。

 私たちはボス部屋の前に到着していた。

 今日の配信は、ここでフロアボスを倒して終わる予定である。

 

「レイナちゃん、せっかくだし対ボス相手の連携練習しよう?」

「はいっ、頑張りますっ!」

 

 

(結局、ほとんど0点だったし)

(最後ぐらい良いところ見せないと……!)

 

 私は、そう気合いを入れ直すのだった。



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第十五話 コラボ配信(3)

 新宿ダンジョン中層、第2地区のフロアボス──デビルアイ。

 全身毛むくじゃらの人型モンスターであり、その大きなひとつ目が特徴である。

 ずんぐりした巨体から生み出される破壊力は相当のもので、中層に挑む探索者からは最初の番人と恐れられていた。

 

(毛皮が邪魔で、最初は打撃が通らず苦労したな……)

 

 対応策は、相手の防御を上回るパワーで殴りつけること。

 

 ちなみに食べるときは、毛皮を剥いで煮るのがグッド。

 コリコリという目玉の独特な食感が妙に癖になり、たまに食べたくなる美味なモンスターでもあった。

 

 

「――って感じで挑もうと思うけど。……レイナちゃん、聞いてる?」

「はいっ! デビルアイの目玉が美味しいって話ですよね!」

「元気良い返事だけど、まったくもって違うからね!?」

 

"これは捕食者の貫禄w"

"デビルアイくん逃げてw"

"レイナちゃんの手綱を握るのは大変……"

 

 いけないいけない。ボケてないで集中しないと!

 私は、ゆきのんの話を慌てて思い出す。

 

 

「えっと、今日練習するのはチェンジ――前衛同士での入れ替わりですよね?」

「うん。いずれパーティを組むなら、やっぱり身に付けておいた方が良いと思うの」

 

 ソロで活動していくにしても、臨時でパーティに入るときはあると思うから。

 そう優しく諭され、私はこくりと頷いた。

 

 

 チェンジ――それは対ボス相手のテクニックの1つだ。

 強敵が相手のときは、前衛が足止めしている間に、後衛が高威力の魔法を叩き込むという攻略法に行きつくことが多い。

 その戦い方の問題点として、ボスの苛烈な攻撃にさらされる前衛の疲弊が激しすぎるというものがあった。

 

 そこで生み出されたのが、チェンジと呼ばれるテクニックだ。

 敵の隙をつき、素早く前衛同士で入れ替わる戦術だ。

 敵の攻撃パターンを見切って入れ替わるもよし、隙がなければ前衛同士で協力して無理やり隙を生み出すもよし。

 

「長期戦になりがちなボス戦では、基本テクニックだからね」

 

 ゆきのんが、そう締めくくる。

 

「でも……、そのまま殴り倒しちゃった方が早いですよ?」

「う~ん。じゃあ、もしレイナちゃんだけで倒しきれない敵が現れたらどうする?」

「その時は……、倒せるまで鍛えます!」

「なんって曇りのない良い笑顔!」

 

 レイナちゃんらしいけど……! とゆきのんは苦笑い。

 

「逃げられるなら、倒せるまで鍛えるというのもありだとして……。じゃあ、もし逃げられなかったら?」

「…………そのときは潔く喰われます」

「弱肉強食すぎるよ!?」

 

"ゆきのんの常識講座はじまった!"

"価値観が野生児すぎるw"

"生きてる世界が修羅すぎるんよ……"

 

「もしレイナちゃんに何かあったら、視聴者さんが悲しむと思う」

「それはそうですが……」

「それに、私も悲しいし……」

「――分かりました! チェンジ、練習しますっ!」

 

 憧れの先輩からのアドバイスだ。

 聞かないという選択肢はない。

 

"目をキラキラさせてるレイナちゃん可愛い!"

"アカデミーは今まで何をしてたの……"

"でもレイナちゃんには、ソロで潜ってスーパープレイ連打して欲しい気もするw"

"いやいや、命には代えられないからな?"

 

 

 そんなやり取りを経て、ボス部屋に侵入。

 

(やるよ!)

 

 私は気合い十分で、デビルアイと対面するのだった。

 

 

 

※※※

 

「レイナちゃん、来るっ!」

 

 私たちが部屋に入るや否や、デビルアイが襲いかかってきた。

 おぞましい咆哮をあげながら、巨木のような腕を振り下ろしてくるデビルアイであったが、

 

「ちょっと大人しくしててね」

 

 私は、振り下ろされた二の腕をガシリと掴む。

 

"ふぁっ!?"

"そんなアホなw"

"こいつ普通にパワーだけはバカ高かったよな……"

 

 デビルアイは慌てて腕を引き抜こうとジタバタする。

 

 ……が、残念ながらピクリとも動けない。

 ガッツリ私が掴んでいるからである。

 

 

(チェンジのためには、入れ替わる隙をつくる必要がある)

(こういうことかな?)

 

「ゆきのん先輩! チェンジ、チェンジしましょう!」

「…………へ?」

 

 ぶんぶんとデビルアイを振り回しながら、私はゆきのんを振り返る。

 

"なんやこれ、なんやこれ……"

"強すぎる・・・"

"振り回されてるデビルアイくん可哀想"

"チェンジ #とは"

 

 ゆきのんは、たっぷり10秒ほどフリーズしていたが、

 

「えっと……、チェンジするのは難しいんじゃないかな?」

 

 おずおずと、困ったような顔でそんなことを言う。

 

 

「な、なんでですか! 隙、作りましたよ?」

「いや、そうじゃなくてね?」

 

 私は、デビルアイに視線を戻した。

 

 ぐるぐる目を回している。

 目が合うと、ビクッと怯えられてしまった。

 

"デビルアイくん怯えてて草"

"もはや蛇に睨まれた蛙"

"レイナちゃんに睨まれたフロアボス?(難聴)"

"わいもレイナちゃんに蔑みの目で見られたい・・・"

 

「ゆきのん先輩、どうすればチェンジできますか?」

「デビルアイはパワータイプだから、ノックバックさせてから素早く入れ替わるのがセオリーなんだけど……」

 

 言い淀むゆきのん。

 

"こんなシチュエーション想定してない定期"

"腕力だけでフロアボスをねじ伏せる幼女がいるらしい"

"ゆきのん、チェンジ頑張って!"

"無茶振りやめてあげてw"

 

 

(なるほど、ノックバック!)

(要は強く攻撃して、弾き飛ばせば良いんだよね!)

 

 私は空いてる手に、オーラを込めていく。

 デビルアイが、ぷるぷる涙目で逃げ出そうともがいたが、

 

 

「チェンジッ!」

 

 私はデビルアイから手を離し、もう片方の拳を叩きつける。

 そのままチェンジできるよう大きくバックステップ。

 果たして、拳を受けたデビルアイは、

 

 

 ――そのまま跡形もなく消滅した。

 

「あっ……」

 

"知ってた!"

"これはテスト0点の貫禄"

"アカデミーも困ってそう"

"モンスター君が脆弱すぎるのが悪い"

"予測可能回避不可能w"

 

 恐る恐るゆきのんを振り返り、

 

 

「う~ん、0点!」

 

 ゆきのんが笑顔でそう宣言。

 

「ごめんなさいぃぃぃぃ!」

 

 私は、思わず涙目になるのだった。



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第十六話 コラボ配信(4)

「ボス戦は失敗しちゃったので、料理で魅せていきますっ!」

 

"失敗(ワンパン)"

"失敗(敵が消滅)"

"強くなりすぎたんや・・・"

 

 今日のコラボ配信は、解説&料理配信だ。

 つまりここからは、私の本領発揮なのである。

 

 本領、発揮。

 ……あれ?

 

「メインディッシュが消滅してるぅぅぅぅ!?」

 

"そこに気がつくとは天才か?"

"レイナちゃん、いつも食べられるモンスターだけは丁寧に倒してたのに……"

"テンパるレイナちゃん可愛い"

 

 大失態である。

 まさか料理配信で、メインディッシュを消し飛ばしてしまうなんて……。

 

「レイナちゃん、道中のお肉拾ってくる?」

「いえ、それだと鮮度が……」

 

"お肉呼ばわり草"

"ゆきのんも順調に毒されてきてるなw"

 

 私は、少し考え込んでいたが、

 

「10分下さい。ひとっ走り、狩ってきます!」

 

 導き出した結論はそれ。

 

 コラボ中に席を外すなど非常識。

 コメント欄の反応次第では、すぐに取り下げようと思っていたけれど、

 

"レイナちゃんのスーパープレイを、ゆきのんが実況解説してくれると聞いて"

"ゆきのん解説があれば、俺たちでもマネできる?"

"人間卒業試験"

"無茶振りやめて差し上げて"

 

 コメント欄は、意外とノリノリで。

 メインディッシュを狩るため、急遽、私は先の地区に進むのだった。

 

 

 

※※※

 

「え~っと、今からレイナちゃんの探索を解説したいと思います~!」

 

 私――望月雪乃は、送られてきたレイナちゃんの探索配信に視線を送る。

 

 画面左下に、レイナちゃんから届いた画面を映す。

 画面右端には、レイナちゃんのアイコン(狩りに行ってますのポップアップつき)を配置。

 画面構図としては、ゲーム実況の配信と似たものにしてみた。

 

 

 レイナちゃんは「すぐに戻ってきます!」って、すごい気合いを入れてたけど、

 

『あ~! もう、喰えない奴らに用はないって!』

『邪魔っ! ほんっっっとに、ワラワラ湧いてきて目障りなんだから!』

 

「バーサクレイナちゃん、格好いい~~!」

 

"解説してww"

"ただのオタク化してて草"

"レイナちゃん、だいぶハッスルしてるなw"

 

 コメント欄も大盛り上がりだ。

 

「私みたいな一般人に、レイナちゃんの戦いを解説できると思いますか!?」

 

"開き直ったw"

"ありのまま今起きたことを話すぜ!"

"モンスターにとっては歩く災厄そのものなんよ"

 

 見入っていると、ルインに着信があった。

 送り主はレイナちゃん。えっと、なになに……?

 

 

「――えっと? そろそろフロアボスなので配信に載せて下さい?」

 

"あっ(察し)"

"あー・・・"

"レイナちゃんの本性が……"

"今日は随分豪快だと思ったら、配信載ってないと思ったのかw"

 

「レイナちゃんへ。もう、バッチリ映ってますよ?」

 

『へ? いやぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 響き渡る絶叫。

 

 てっきり、そのつもりだと思ってた。

 生配信の映像が送られてきたら、こっちの配信に載せないのは失礼というもの。

 需要の塊だし、私だって見たいし。

 

"諦めろん"

"むしろそれを見に来た"

"実家のような安心感"

 

『おっほっほ。これから第三地区のフロアボスを狩ってきますわね!』

 

"挑むとかじゃなくて、狩りなの草"

"隠しきれない野生児オーラ"

"でも間違ってないんだよなぁ"

"フロアボスくん、美味しく生まれてきたばっかりに……"

 

「きゃ~! レイナちゃん、頑張って!!」

 

"こっちはこっちで、完全にただのオタクで草"

"ゆきのん、レイナちゃんのこと好き過ぎでは?"

"2人が可愛いから万事オッケです!"

 

 

 そして数分後。

 レイナちゃんは有言実行。

 本当に10分きっかりで、第三地区のフロアボス(イノシシみたいな奴)を担いで帰って来たのであった。

 

 

 

※※※

 

「席を外してしまってすみません! 繋ぎ、ありがとうございます。食材、採ってきました!」

 

 私――彩音レイナは、ゆきのんにぺこりと頭を下げた。

 

 ゆきのんは興奮した様子で「最高でした!」と言っていた。

 いったい、何のことだろう?

 そんな訳で私は、狩ってきたグレートボアを調理場に配置。

 

「こんレイナ~! 今日も食卓のみなさんに、笑顔と元気をお届け!」

 

"中層攻略RTA決めてきたのに息一つ切らしてねえw"

"ついにわいらは喰われてまうんか?"

"さっきとの温度差がw"

 

 

 私は、そのまま調理に入る。

 グレートボアは、鉄板で焼いてそのまま丸かじりするのがオススメの食べ方だ。

 慣れないうちはだいぶクセが強いが、そのクセこそが醍醐味だと私は思う。 

 

 まずは、調理セットから鉄板を取り出した。

 愛用している学校支給の機材だ。

 そのままグレートボアの下処理をしようとしたところで、

 

"大丈夫? レイナちゃんにしか食べられなくない?"

"毒殺未遂"

"ゆきのん、すごい嬉しそう!"

"でもたぶん毒だゾ……"

 

「さ、さすがに今回は毒抜きしますよちゃんと!」

 

"そんな器用なことできたの!?"

"レイナちゃんが、ちゃんと料理してる……"

 

「みんなして私を何だと思ってたんですか!?」

 

 まあ毒はそのまま食べた方が美味しいと思う。

 だとしても、さすがに毒をそのままお出しするような事はしない。

 ――毒耐性スキル、次に探索のコツを聞かれたらオススメしてみようかな?

 

 

 ところで、グレートボアは主に腸あたりに毒を持つ。

 その部位さえ除いてしまえば、残りは水で洗い流して火をしっかり通せば十分食べられる。

 また、外部から刺激を与えて、肉を柔らかくするのも重要な行程だった。

 

「おりゃっ、おりゃっ! さっさと私の糧になれ!」

「えっと、私は――、私は――――」

 

"【悲報】レイナちゃんの清楚な仮面、食欲に負ける"

"お腹すいたからね、仕方ないね"

"手伝えなくてオロオロしてるゆきのん可愛い"

 

「向こうで作ってるスープの味を整えてるね!」

「ありがとうございます、ゆきのん先輩!」

 

"ゆきのんやっぱり天使・・・"

"レイナちゃんだって天使やぞ! その……、鮮血の――"

"返り血物ともせずに殴り続けてるの草"

"レイナちゃんは可愛いなあ(白目)"

 

 暴れまわっていた姿が配信に載っていたことを知り、ちょっぴり開き直った私である。

 

 

 

 

 そうしてついに、料理が完成した。

 

"レイナちゃん、丸焼きにするの早すぎひん? どないなっとるんや……"

"なんか殴りながらオーラを纏わすらしい?"

"前説明してたけどサッパリ分からん"

"本人感覚でやってそうw"

 

 

 ざわざわ盛り上がるコメント欄を見ながら、私は料理を配信に映していく。

 

 デーンと鎮座するは、ワイルドなグレートボアの丸焼き(作:私)

 その箸休めには、ダンジョン素材をふんだんに使った贅沢なお吸い物。ホカホカと良い匂いとともに、湯気を立てている(作:ゆきのん)

 さらに彩りを加えるかのように、グレートボアの周囲にはカラフルなフルーツが美しく並べられていた。センスが素晴らしく良い(作:ゆきのん)

 

 

(なっ……!?)

(これは……、圧倒的な女子力!)

 

「た、大したものは作れなかったけど――」

「ゆきのん先輩、女子力高すぎませんか!?」

 

"な、なんか安心感ある料理配信だった"

"そうだよね。料理配信って、こういうものだよね……"

"ときどきレイナちゃんの奇声が聞こえてこなければ完璧だったw"

 

 おかしい。

 料理は私の領域のはずだったのに、ゆきのんの溢れんばかりの女子力に負けている。

 

(え~い、こうなれば――!)

(食レポで対抗してみせるっ!)

 

「「いただきます!」」

 

 私は、料理を口に運び、

 

「このデザート、ほんわかと甘くて――ほっぺたが落ちそうなぐらい美味しいです!」

「良かった。レイナちゃんの好みにあって良かった!」

 

 ゆきのんは嬉しそうに微笑むと、

 

「レイナちゃんが料理してくれたグレートボアのお肉も、素晴らしい味わいです。肉の質感が、いつも食べてるお肉とは違って繊細で――それでいてジビエとは思えないぐらいに素直なクセのなさで。食感としては、口の中に入れるだけでとろけていく未知の感覚……、高級焼き肉店のお肉を、さらに豪華にした感じとでも言うんでしょうか。焼き加減も絶妙で、肉汁たっぷり――これは高級ダンジョン料理店でも、そうは味わえないものですよ!」

「!?!?」

 

(あなた、食レポのプロですか……?)

 

 目を輝かせて早口で実況するゆきのん。

 愕然とする私。

 

 

"食レポのレベルが違いすぎるw"

"これが格の差……"

"じゅるり……、グレートボア食べたくなってきた"

"でもレイナちゃんの幸せそうな笑顔はオンリーワン!"

 

 コメント欄が爆笑していた。

 

「うわ~ん! 視聴者さんがいじめる~!」

 

 半泣きでゆきのんの胸にダイブ。

 

「よしよし」

「うぅ……」

「でもレイナちゃん。少しは食レポ練習しよ?」

「うわ~ん! ゆきのん先輩まで~~!?」

 

"てぇてぇ"

"てぇてぇ?"

"次のコラボは食レポ育成講座かなw?"

"果てしなさそう"

 

 

 その後も私たちは、リスナーさんとじゃれ合いながら食事を進めていき、

 

「――それでは、次の食卓でお会いしましょう!」

「次の攻略会議もよろしくお願いしますね」

 

 大盛況のうちに、コラボ配信は終了するのだった。

 

 

 ――結果から言えば、コラボ配信は大成功。

 リスナーさんたちの反応は良く、つぶやいたーでは「またやって欲しい!」なんて好意的な感想が多く見られた。

 さらにコラボをきっかけに、互いのファンが相手チャンネルを登録するという相乗効果も発生。

 気づけば彩音レイナの食卓チャンネルは、ついにチャンネル登録者数100万人という大台を突破したのであった。

 

 

 

※※※

 

 そんなコラボ配信を見ながら、とある男がこう呟いた。

 

「彩音レイナ――やはり何としてでも、我がギルドに欲しいな」

 

 その人物の名は、佐々木大五郎。

 ダンジョンイーグルスというギルドのギルド長であり、優秀な人材を貪欲に探し求めるスカウトマンであった。

 

 

 配信を見ていたところ、配信に載っていたものが本物ならば、探索者としての腕はトップクラス。

 とは言っても非現実的すぎるものも混ざっており、恐らく動画も混ざっているだろう。

 仮に実力がまやかしのものであっても、さしたる問題はない。

 ダンチューバーなどという人種に求めるのは、所詮は宣伝。

 最近、広まってしまった悪印象を払拭するために利用したいだけなのだから。

 

 

「ちっ、マネージャーに連絡を、か――」

 

 できればチョロそうな彩音レイナの方を、さっさと勧誘してしまいたかったのだが……。

 大五郎は、そんなことを考えながらマネージャー――千佳の連絡先を調べるのだった。



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第一七話 レイナ、いっぱい勧誘される

 コラボ配信の翌日。

 私は、千佳に呼び出されていた。

 

 

「レイナ、正座」

「はいっ!」

 

(ひょえぇ。千佳、すっごく怒ってるぅ!?)

 

 千佳の部屋……兼、研究室にて。

 私は、怒れる千佳の前で正座していた。

 

 千佳にマジギレされたのは、最初に毒を食べて入院した時ぐらいである。

 あの時は自業自得だったが、今回は心当たりがない。

 

 

「レイナ、ウチが何に怒ってるか分かる?」

「ええっと、コラボ配信でコラボ相手を放ったらかしたこと?」

「ちゃう! いや、あれもあんまり良くないんやけど…………」

 

 やぶ蛇だった!

 千佳が、クマのできた恨めしそうな顔を私に向けてくる。

 

 

「千佳、最近だいぶ忙しいの?」

「誰のせいや思っとるんや……」

 

 千佳は半眼になると、

 

「レイナ、ほんまに大人気やで。昨日から、夜通しギルド勧誘の電話が鳴り続けてな……」

「えぇ? まさかぁ――」

 

 なんの冗談かと笑いそうになったが、千佳の顔はいたって真面目。

 

「……本当に?」

「うん。大手の探索者ギルドからベンチャー企業まで、よりどりみどりって感じやな」

 

 千佳が、そう言いながら何やらリストを渡してくる。

 

 昨日、勧誘があった連絡先のリストらしい。

 千佳いわく、大手の探索者ギルドは軒並み手を上げたとか。

 

 

(はえー……)

 

 何それ怖い。

 

「ひえぇ……。千佳ぁ、どうしよ!?」

「まあ、急いで決めることはないと思うで。自分の将来のことや。そもそも無理にギルドに入る必要もないし、じっくり悩んでから決めるのが良いと思うで」

 

(急いで決めることはない。そうだよね……)

(私が将来、したいことかあ――)

 

 千佳は、具体的にオススメの道を口にすることはない。

 ただ後悔しないように考えろと――そのアドバイスは、とても真面目で役立つものだった。

 

 思えば千佳には、いつも迷惑をかけていると思う。

 それでも千佳は、面倒そうな顔をしながらも的確なアドバイスをくれるのだ。

 

 

「ありがと、千佳。とりあえず次の配信で、マネージャーに連絡送るのは控えるように言っておくね」

「あ、それならもう大丈夫や。今は、自動応答AIが稼働中やからな」

「ほわっ!?」

 

(うちのマネージャーがハイスペックすぎる件!)

 

 あんぐり口を開ける私。

 

「え? なら、そのクマは?」

「あー、これは……。ちょっぴりAIの返答パターンに凝ってしまってな」

「割としょうもない理由だった!」

 

(千佳の寝不足、絶対そのシステム作るのが楽しかったやつじゃん!?)

 

 満足そうに笑う千佳に、私はじとーっとした目を向けた。

 何かにハマると一週間は不眠不休で動ける妖怪――それが鈴木千佳という少女なのである。

 

 

「そうだ、レイナちゃんボイス取って良い?」

「絶対にお断りです……」

「なら、しゃあない。アーカイブから取ってくるか――」

「勘弁して!?」

 

 本気でイヤそうな顔をする私を見て、千佳はケラケラと笑った。

 

 

「ダンジョン探索工具ブランドの新設も合わせてバッチリや。これから楽しくなるで!!」

 

 寝不足にも負けず、千佳はツヤツヤした顔をしていた。

 

 いつ見ても、バイタリティーに溢れている千佳である。

 その精神は、見習いたいと思った。

 

 

 

※※※

 

 その後、私は千佳からもらったリストに目を通していく。

 

「この中から選ぶん?」

「う~ん、どうしようかなあ…………」

 

 私はいまだに、お気楽な学生で。

 ダンチューバーを続けていきたいという希望はあれど、具体的な進路なんて何にも考えていない。

 当然、どのギルドが良いかなんて分かるはずもなく、

 

 

「あ、ここなんかどうかな」

 

 私は、見覚えのあるギルドを見つけて指さした。

 

 ダンジョンイーグルス――私の配信に現れ、熱心に勧誘してきたギルドである。 

 実際、その名前は非常に有名で、トップクラスの探索者が集っている探索者ギルドだと聞いている。

 私が、そんなことを思い出していると、

 

「そこだけは、やめておいた方が良いと思うで」

 

 千佳は、そう眉をひそめた。

 

 

「そうなの?」

「碌な噂を聞かんしな。それに――」

「それに?」

「ギルド長の語り口が、怪しすぎや。あのギルド、探索者という存在を――ダンチューバーという存在を下に見てる。そんな気がするで」

「そうなんだ……」

 

 私は、リストに載っていたダンジョンイーグルスに赤でバッテンをつけた。 

 千佳の直感に、全面の信頼を置いている私である。

 

(う~ん、後で目を通そ!)

(それより今は――)

 

 問題を棚上げ。

 

 私は、お茶と一緒に出されたクッキーを口に運ぶ。

 もぎゅもぎゅ、サクサク。甘くて美味しい。

 

「こんなバズり方するなら、もっと早くに信頼できる後ろ盾を見つけとくんやったなあ……」

「ほえ?」

「まったく、呑気そうな顔で――」

 

 千佳は苦笑しながら、私の口元を拭うのだった。



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第十八話 レイナ、サインをドヤ顔で披露する

 ある日の放課後。

 私は、配信をするべくパソコンの前に座っていた。

 

 

 今日は、雑談配信の日。

 

(色々と考えないといけないことはあるけど――)

(悩んだときこそ楽しく配信するよ!)

 

「今日も食卓から、癒やしをお届け! 食材のみなさん、こんにちは~!」

 

"おつおつ~"

"こんレイナー!"

"こんレイナ~!"

 

 雑談配信であっても、5万人前後のリスナーが来てくれている。

 さすがにダンジョン配信と比べれば数字こそ下がるが、ただ私が喋っているだけの配信にこれほどの人が来てくれることに驚きだ。

 

 私は、今日も学校であったことをゆるゆる話していく。

 

 

「そういえば、みなさんサインって求められたことってありますか?」

 

"いきなりどんな質問w"

"もちろんあるぞ"

"↑↑妄想乙"

"ダンチューバーなら、一度は妄想しながらサインの練習したことあるはず"

 

「最近、サインを求められることが多くてですね――」

 

 ちなみに配信でお願いしたおかげか、学校前に人だかりが出来るような事態はなくなった。 

 その代わりなのか、クラスメイトたちの襲来が止まらない。

 まるで有名人の追っかけでもやっているかのような勢いで、休み時間のたびに私の元に突撃してくるのだ。

 

 ――どうにかして!?

 と千佳にヘルプを求めれば、これもファンサービスの一環として、今のうちに慣れた方が良いなんて言っていた。

 私としても、まあすぐに落ち着くだろうと今は楽観視している。

 

(世の中の有名人たち、どうやって日常生活を送ってるんだろう――)

 

 ふと、ゆきのんの私生活が気になった私である。

 

 

 そんなわけで私は千佳の勧めもあり、サインにはなるべく応えるようにしていた。

 しかしサインをした相手が、軒並み微妙そうな顔をするのが最近の悩みなのである。

 

「せっかくサインも作ったので、できる限り応えるようにはしてるのですが――」

 

"登校したらレイナちゃんがいる学校、羨ましすぎるな"

"ちゃんと応えてるの偉い!"

"レイナちゃんパンフレットの配布を心待ちにしております!"

 

 

「どうも私のサインが下手なのか、あ、ありがとう(なにこれ……)みたいな反応されることが多いのが最近の悩みなんです――」

 

"反応がリアルすぎるw"

"落ち込むレイナちゃん可愛い・・・"

"てかサインもらってその反応とか、何様やねん"

"どんな代物でも一生の宝ものにする自信あるわ"

 

「これなんですけど……!」

 

 ジャーン!

 私は、練習していたサインを配信に載せてみた。

 昔、徹夜で考えた第一案にブラッシュアップを重ねた超自信作である。

 

"こ・れ・はwwww"

"なんやこれ(困惑)"

"何したらこうなるのw"

"↑↑約束どおり一生の宝ものにしてどうぞ"

 

"ドヤ顔レイナちゃん可愛い"

"飾ったら呪われそう"

 

 食材のみなさん!?

 熱い掌返しに、私はぷくーっとふくれっ面になる。

 

 

「あ、マネージャーからルインが――」

 

 えっと……?

 

「その禍々しい紋様を、はよ配信から消せ? ()――マネージャーまで!?」

 

"草"

"マネージャーから即連絡くるのは草"

"もうマネージャーとコラボ配信しようw"

"微妙にマネちゃんも人気出てきてるの草"

"ちょくちょく雑談で話題に出てるけど、スペック底知れないんだよな・・・"

 

 ちなみに千佳にお願いしたサイン候補は、難しすぎて断念した。

 アルファベットの筆記体が混じったような、デザイン性の高すぎるものが上がってきたのである。

 あとやっぱりサインは自分で考えたいなあ……、なんて。

 

 

 総スカンを食らい、私は渋々サインを配信から取り下げる。

 自信作だったのになあ――。

 

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"↑↑いっそ、これがサインで良いだろw"

"サイン練習配信?"

 

"また新たな画伯が生まれてしまったのか・・・"

"切り抜くのやめて差し上げてw"

"《望月雪乃》れ、レイナちゃんのサインならどんなものでも欲しいかなって・・・"

"必死でフォローするゆきのん天使"

 

(雑談配信だけだと、さすがにネタがなくなりそうだったし)

(本当にサインを配信で決めるのもあり――? 後で千佳に聞いてみよ!)

 

 私は、そんなことを考えながら次の話題に移る。

 

 

 

「そういえば昨日、ユージ先輩に誘われて晩ごはんを食べてきたんですが――」

 

"ふぁっ!?"

"ゆーじ先輩って誰よ!?"

"あーあ……"

"唐突にユニコーン焼き尽くそうとしてワロタ"

 

(ほえっ!?)

 

 私の中では、ただの雑談だった。

 探索中に知り合った女性(・・)探索者(探索者歴を考えると先輩。ハンドルネームはユージ)とご飯を食べてきただけのこと。

 そこの大食いチャレンジで、歴代一位を叩き出してしまったなんて実に他愛のない話。

 

 しかし、コメント欄の反応が何やらおかしい。

 

"何があったんですか!"

"そのゆーじ先輩って人、レイナちゃんには釣り合わないと思う"

"絶対むっつりスケベ"

 

「へ? 物凄く良い人ですよ。配信、いつも頑張ってて偉いって。いつもご飯おごってくれますし――」

 

"ご飯で釣られちゃったのかあ"

"レイナちゃん、餌付けされたらホイホイ付いていっちゃいそう……"

"敵はレイナちゃんを知り尽くしている"

"ゆーじ先輩って人との馴れ初めは?"

 

「へ? その、ダンジョンに潜りたてのときに。いっぱい食べる姿が可愛らしいねって――」

 

 加速するコメ欄に、私は微妙にパニックに陥りながらも答えていく。

 

"ゆーじ先輩って誰よ"

"特定班はよ"

"唐突な寝取られにより脳を破壊されました"

 

(!?!?)

 

 私が、困惑していると、

 

 

"《鈴木 千佳》うちの子が、大変に紛らわしい発言を申し訳ありません"

"《鈴木 千佳》ゆーじ先輩は、ただの女性探索者です。いや、本当にどうしてこんなに誤解を生じるようなことを……"

"《鈴木 千佳》うちの子、見ての通り食べ物にしか興味ないので、どうかご安心を!"

 

「あ、千佳だ」

 

 失礼な!

 食べ物以外にも、興味はあるわい。

 例えば、フロアボスの調理法とか……。

 

 

"マネージャー降臨したww"

"本名アカウント大丈夫?"

"マネちゃん、めちゃくちゃ焦ってそう……"

 

"そんなことだと思ったw"

"レイナちゃんが幸せなら、何でも良いけどね!"

"てぇてぇ"

"一瞬で鎮火して草"

 

 頭にハテナを浮かべる私をよそに、

 

 

"《鈴木 千佳》とりあえず、レイナは後でお説教ね"

"残当"

"マネちゃんの胃はもうボロボロ"

 

 コメント越しに怒れる千佳の姿が見えた気がした。

 

「はい――」

 

 私は、素直に頷くしかなかったのである。

 

 

 

※※※

 

 ――その日を境に、千佳はちょこちょこ配信にコメントを残すようになった。

 曰く、ルインに連絡を送る余裕すらないヤバい状況だったらしい。

 

 幸い切り抜きで面白おかしく取り上げられたぐらいで、特に火種になることはなかったけれど。

 あのまま誤解が広まれば、一気にファンが離れる大炎上に繋がりかねなかったとのこと。

 

 

 アイドルに恋人はご法度。

 そんな遠い世界のような話を、千佳にこんこんと諭されて、

 

(アイドルって……、誰!?)

(いや、恋愛なんてする気もないし、相手も見つかるはずないんですけどね!?)

 

 思わぬアクシデントに見舞われながらも。

 

 

(この失態は得意の料理配信で、取り返して行くよ!)

 

 私は、次の配信でとっておきのネタを選ぶことを決意した。



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第十九話 収益化記念配信(1) ~対デュラハン~

【リベンジ】収益化記念!【デュラハン料理】

 

"いや、枠名だけで面白いの草"

"デュラハンくん「!?」"

"深層のフロアボスだよね。レイナちゃん本気なのかな?"

"レイナちゃんならやりかねない・・・"

 

"前の配信では喰えなかったって言ってたね"

"マジで倒したことあったの!?"

"謎。さすがに冗談だと思いたいけど・・・・・・"

 

 

 

※※※

 

 ついにその日がやってきた。

 私、彩音レイナ――ついに収益化の申請が通ったのである!

 

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

 

"収益化おめでとう!"

"チャンネルの規模にしては遅すぎた"

"成長速度早すぎてスパム疑われてたのは草なのよ"

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 収益化は、私の目標の1つだった。

 素直に喜び、私はスマホに向かってぺこぺこと頭を下げる。

 

 

"配信内容おかしくない!?"

"デュラハンってどういうこと!?"

"もう何から突っ込めば・・・w"

 

「ふっふっふ、今日はにっくい鎧野郎にリベンジしようと思ってます!」

 

 とっておきの企画――それは、以前は失敗したデュラハンを使ったダンジョン料理を作ることだ。

 

 

 私は今、深層の入り口に立っている。

 いくつかの"秘策"も千佳に借りてきたし、準備は万全。

 デュラハンを狩って喰らってみせる、と並々ならぬ決意を固めていた。

 

"背景、ほんとに深層っぽいんだが……"

"正気か!?"

"¥300: レイナちゃん、深層は本当にヤバいと思う。考え直して!"

 

「ほわっ!?!? スーパーチャット、ありがとうございます!!」

 

"内容読んで~~!?"

 

 スパチャだ!?

 まだ、始まったばっかりなのに!

 

「とっても嬉しいです、大切に使いますね!」

 

"目をまんまるにするレイナちゃん可愛いw"

"初スパチャの内容がガチアドバイスなのはレイナちゃん配信だけ!"

"¥10000: はい、今日の夕飯代"

"¥20000: はい、今日のおやつ代"

"¥50000: レイナちゃん、可愛いねえ。おじさんが、お小遣いあげようか"

"↑↑通報しました"

 

「へ? ひぇぇぇええ…………!?」

 

 0の個数が、1、2、3、4。

 ぽかーんと口を開いたまま、私はすっとんきょうな悲鳴をあげそうになる。

 否、普通に悲鳴を上げてしまった。

 

 

「しょ、食材のみなさん!? 冷静になってください! それだけの大金があったら、焼き肉に10回は行けますよ!?」

 

"テンパるレイナちゃん可愛い"

"お、恒例行事始まる?"

"¥10000: はい、焼き肉代"

"¥7777: この日を待ってたんだ!"

"¥3000: いつも元気な配信、楽しみにしてます! これからも応援してます!"

"¥50000: 今日から1ヶ月もやし生活です"

 

「ちゃんと食べて!?」

 

(あわわわわ)

(これ、完全にヤバイ流れ~!?)

 

 赤スパ祭りと呼ばれる現象。

 見てる分には楽しそうだったけど、渦中になると胃がキリキリと痛いと学ぶ私であった。

 リスナーさんたち、悪ノリし過ぎなのである。

 

 

「みなさんお金は大事ですよ!? そのお金で焼き肉食べてきて下さい!?」

 

"¥8000: 焼肉会場はここですか?"

"¥5000: 食卓はここですよね?"

"¥20000: わいが食材や!!!"

 

 駄目だ、収益化のテンションでリスナーさんどうにかしてしまってる。

 

 

(う~ん、この流れを止めるため)

(こうなったら、背に腹は代えられない!)

 

「この、喰えもしないゴミムシどもが! スパチャ、しょっぱいよ!」

 

 こんなことを言う駄目駄目な配信者に、まさかスパチャ投げるリスナーなんて……、

 

"¥20000: ( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"¥50000: ぶひぃぃぃ!"

"¥30000: ありがとうございます、ありがとうございます!"

"¥50000: すみませんでした!!!! もっと投げます!!!!"

"¥50000:《望月雪乃》 最高、最高です・・・!"

 

「いやぁぁぁぁぁ!? 違うんです。待って。待って~!?」

 

 加速するコメ欄。

 ドツボに嵌るは私。

 それと、ゆきのんまで何してるの!?

 

 カモーン、千佳。

 颯爽と降臨して、この流れを止めて――

 

"¥50000:《鈴木千佳》 レイナ、収益化おめでとう!"

"¥50000:《鈴木千佳》 はい、おやつ代"

"マネちゃんw ナイスパw"

"餌付け成功"

"この子、おやつに何食べるつもりなんですかね……"

 

「千佳まで~!?」

 

 私は、そう素っ頓狂な悲鳴をあげて――

 

 

"いつも良いもの見せてもらってるお礼だからね"

"今までタダだったのがおかしい"

"100万出しても悔いはない"

"素直に受け取って欲しいな"

 

 ふと、そんな書き込みに気がつく。

 

 

(そうか、私にできることは――)

 

 今日の配信を成功させること。

 見ていて良かったと思ってもらえるように、配信を全力でやること。

 

 

「みなさんの気持ちは分かりました! 私、何がなんでもデュラハンを美味しく食べてみせますね!!」

 

"違いますが!?"

"いや草"

"コメントとは正反対の方に走り出すバーサーカー"

"平・常・運・転w"

"レイナちゃんは可愛いなあ(諦観)"

 

 

「私、無事に帰ったら、お腹いっぱい焼肉食べるんだ!」

 

"頼むから死亡フラグ立てないでw"

"願いがすごいささやか!"

"本当に大丈夫なの……?"

 

 心配するコメントもある。

 それでも私は、食材のみなさんの期待に応えようとかつてないほどに燃えていた。

 

 

「バッチリです、任せて下さい!」

 

 力強くそう宣言。

 私は、深層に足を踏み入れるのだった。



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第二十話 収益化記念配信(2)

 新宿ダンジョン深層――第1地区。

 そこは下層までの雰囲気とは、ガラッと異なっている。

 

 高純度のマナが漂っており、あたりには結晶化したマナが淡く発光していた。

 ごつごつした岩肌もマナを帯びて、七色に輝いている。

 ダンジョン内のマナの濃さは、そのままモンスターの凶悪度合いにも比例すると言われていた。

 その地区のモンスターが、いかに凶悪であるかを示すバロメータなのだ。

 

 きらきらとダンジョン内を照らすマナは、一見すれば美しく幻想的。

 しかしモンスターは互いに覇を争い、侵入者を喰らいつくそうと牙を剥く。

 1つのミスが死を招く――それが新宿ダンジョン深層という世界である。

 

 

 そんな選ばれた者しか入れない道を歩きながら、1人の少女が配信をしていた。

 10万人を超える人々に見守られながら、少女は――

 

「はぁ――あの辺の魔力溜まり、綿あめみたいで美味しそうですね」

 

 そう、うっとりした声を漏らした。

 

 

"えぇ……(困惑)"

"言われてみれば綿あめみたいに見えてきた・・・"

"でも絶対食べても美味しくないゾ"

"人間には濃すぎて毒みたいなもん"

 

 私――彩音レイナは、流れるコメントを見ながら、

 

「毒なら無力化できますよ?」

 

"違う、そうじゃない!"

"平常運転すぎるw"

 

 そんなことをリスナーさんと話していると、前方からモンスターが現れた。

 

 ずるずると地を這うジャイアントバジリスク3体。

 下層でフロアボスにもなっていたモンスターだ。

 ちなみに鱗を剥いで、丸焼きにすると美味しい。 

 

 オーラを拳に纏わせ、私は迷わずバジリスクの群れに突っ込んだ。

 相手が反応する隙を与えず、拳を叩き込み三連撃。

 モンスターの群れは、一瞬にして消滅した。

 

"ほわっ!?"

"正面突破wwww"

"うそやろ・・・こいつら、下層のフロアボスだったよね?"

"瞬間移動してない!?"

"(つд⊂)ゴシゴシ・・・・(;゚д゚)!?!?"

"¥10000: ぽかーん( ゜Д゜)"

 

(油断してると私が食べられかねないからね)

(本当は、本当は……、副菜として入手しておきたかったけど――!)

 

「食べれなくてごめんなさい!」

 

"まだ食べる気で草"

"レイナちゃんは、ご不満のようです"

"フードロスにも配慮できて偉い!"

 

 

 私は、そのまま最短ルートを駆け抜ける。

 

(深層、まだ知らないハーブがいっぱいあるな――)

(あ、あれなんか使えるかも!)

 

 私は、爆裂ハーブと名付けた野草をいくつか摘んでおく。

 誘爆しないように、柔らかなオーラを纏わせておく。

 

 この野草、衝撃を与えるとたちまち大爆発を引き起こすのだ。

 見慣れぬ弓使いゴブリンが、ぶんぶんと連射してきたときはさすがに恐怖しかなかった。

 あの破壊力、うまく使えば調理にも役立つはず。

 

 

 私は、いくつか材料を調達しつつ、順調に深層の攻略を進めていく。

 

"深層ソロ配信と聞いて飛んできました!"

"まさかそんなクレイジーなことする奴がいるはずが――本当じゃないですか!?"

"深層すらゴリ押しなのはさすがに草"

"むしろ下層のときよりペース上がってるんだが……(困惑)"

 

"同接20万人w"

"祭りになってる!"

"¥50000: レイナちゃん、無理はしないで本当に・・・"

 

「スーパーチャットありがとうございます! へ、20万!?」

 

 見れば同接が、すごい勢いで増えていた。

 どうやら食材さんたちが、つぶやいたーでいっぱい宣伝してくれたらしい。

 つぶやいたーで、またトレンドにも載っているなんてことをコメントで教わり、

 

(こ、これはますます気合いを入れて配信しないと!)

 

 私は、そう気合を入れ直す。

 入れ直した矢先に……、

 

"$120: おぉ……これは、アニメの女の子?(英語)"

"$80: かわいい!(英語)"

"$370: 深層にソロで潜ってるだって!? なんってクレイジーなんだ!(英語)"

 

"動画なのかな?(英語)"

"違う、ライブ配信だよ(英語)"

"そんなバカな――(英語)"

 

(え、英語だ~~!?)

 

 まさかの海外リスナーの登場にテンパる私。

 えっと、えっと、来てくれた以上は楽しんで欲しいし……、

 

「ハロー? アイ、イート、デュラハン!」

 

"英語力、壊滅的すぎるww"

"こんにちは! 私、デュラハン、食べます!"

"最高に意味分からない挨拶で草"

 

「し、仕方ないじゃないですか!? みなさんも、学生のときは英語なんて何に使うんだって思ってましたよね?」

 

"一理ある"

"まあ、しゃあないw"

"お客さんの中に、英語に自信ニキはいらっしゃいますか?"

"ほな、英検1級取り立てほやほやのわいが適当に翻訳しとくで"

 

"とりあえずレイナちゃんは探索に集中して!?"

"ほんとに緊張感なさすぎのよw"

 

 結局、英語力0点の私に代わり、英語に自信あるリスナーさんが良い感じに説明してくれることになった。

 視聴者さん様様なのである。

 

 

 その後も、私は順調に深層の攻略を進めていき、

 

「ついに、メインディッシュとご対面です!」

 

"言い方w"

"いや草"

"デュラハンくん逃げてw"

 

 私は、ついにボス部屋の前に到着するのだった。



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第二十一話 収益化記念配信(3)

 デュラハン――その姿を一言で説明するなら、首のない鎧騎士といったところだろうか。

 頑強な黒鎧は並大抵の攻撃では傷一つ付かず、手にした大剣はあらゆるものを一太刀で真っ二つにする危険な代物だ。

 実際、拳で対抗しようとしたらスパッと斬られそうになって半泣きになったっけ(慌てて回避した)

 

 図体こそ大柄の人間と同じぐらいだが、これまで相対したどのモンスターよりも手強い。

 だからこそ、出し惜しみはなし。

 

"デュラハンて、打撃耐性は最強クラスだよね?"

"レイナちゃんどうするんだろう……"

 

 心配そうなコメント欄を見ながら、私は戦闘を開始する。

 

 

「――獰猛なるブラッドラビットよ、宿れ!」

 

 私は、拳にモンスターのオーラを纏わせる。

 そのオーラはやがて私の全身を巡り、身体能力を大きく向上させた。

 

 ちなみにブラッドラビットは、素早さに特化したうさぎ型のモンスターだ。

 煮ても焼いても美味な素晴らしい相手であり、私は機動力を活かした戦い方をする場合に、このオーラを愛用していた。

 

 

(前回、攻略法は見つけたからね)

(デュラハン――所詮は硬いだけで絶好の(まと)!)

 

 デュラハンが、機敏な動きで距離を詰めてきた。

 それと同時に地を蹴り、私は部屋の片隅にバックステップ。

 壁を蹴り、部屋の中を縦横無尽に駆け回る。

 

 

"消えた!?(英語)"

"教えてくれ、いったい何が起きてるんだ!?(英語)"

"知るか! ああ、自分の目が信じられないよ(英語)"

 

"海外ニキたち混乱してるw"

"ずっと見てきたはずなのにワイも何も分からん(´・ω・`)"

"¥5000: なんやこれ・・・(困惑)"

 

 今回、配信内容としては天井付近に浮遊カメラを飛ばして戦闘の様子を映している。

 いくら千佳の用意した配信機材でも、この速度で動く私を追尾することは不可能だったらしい。

 

 手元のスマホを覗き込み、困惑するコメントを見た私は、

 

「はい、頑張って部屋の中を走り回ってます! デュラハンは、動きがトロいので、この戦法がオススメですよ!」

 

"喜べよ、解説だぞ"

"解説 #とは"

"音やばくて草"

 

"この子は、何て言ってるの?(英語)"

"《英検一級はクソゲー》部屋の中を走り回ってる。デュラハン相手のおすすめの戦法らしい(英語)"

"そんなアホな……、彼女は本当に人間なのかい?(英語)"

"英検1級ニキ、ちゃんと翻訳してて偉い!"

 

 デュラハンは、すっかり私を見失ったようで辺りをキョロキョロ見渡していた。

 私はその背後に回り込み――、

 

「今日こそは私の糧になってね!」

 

 力を込めてぶん殴り、そのまま素早く距離を取る。

 

(わりと安全な割には、随分と殴り甲斐がある相手なんだよね)

(ストレス発散には、持って来い!)

 

 

 私はヒット&アウェイで、拳を浴びせ続ける。

 

 打撃だと相性が悪い?

 効くまで殴れば良いだけのこと。

 

「――あっはっはっはっは!」

 

"あっはっはっはっは!"

"あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/Ahhhhh!"

"( ゚∀゚)/Ahhhhh!"

 

"$370: 素晴らしい、これが沈黙の鮮血天使(サイレントエンジェル)(英語)"

"沈黙?(英語)"

"つURL(→モンスターハウスで、無言でモンスターを屠り続けるレイナさん)"

"最高に可愛いね!×D(英語)"

"海外ニキ大喜びでなんか嬉しい"

 

 

 私は、ボコスカと10分ぐらい一方的にデュラハンをタコ殴りにし、

 

「こほん。そろそろ終わりにしますわ!」

 

"トリップしてたなw"

"唐突なお嬢様言葉笑っちゃうからヤメテw"

"何もできずに倒されるデュラハンくん可愛そう"

"深層配信なのに何でこんなに安心感あるんだ・・・"

 

 動きが鈍ってきたデュラハンの胴体に、渾身の一撃を叩き込む。

 デュラハンはガクリと倒れ、そのまま動かなくなった。

 

 

"¥50000: 無傷で深層のボスを倒し切るバケモンがいるらしい"

"¥50000: 思わず見入ってしまいました。凄すぎ!"

"どうやって食べるんだこれw"

"$370: 俺は夢でも見てたのか?(英語)"

"$370: ダンジョン後進国の日本で、まさかこんな怪物が育っていたなんて……(英語)"

 

「どうやって食べましょうね――」

 

 やっぱり硬い。それはもう絶望的に。

 

 

 とはいえ今日は、色々と秘策を用意してきた。

 

「という訳で、今から調理していきます!」

 

 そう宣言し、私は料理に取り掛かるのだった。

 

 

 

※※※

 

"やあ、彼女はいったい何をしているんだい?(英語)"

"食べるらしいぞ(英語)"

"ほわっ!? 日本人の食へのこだわりヤバすぎない!?(英語)"

 

 何やら英語のコメントが盛り上がっている。

 楽しんでくれてると良いなあ。

 

「ハイ! アイム、レイナ・アヤネ! サンキュー!」

 

"$370: すごい戦いだった!(英語)"

"$80: これからの配信も楽しみにしてます!(英語)"

"一生懸命コミュニケーション取ろうとするレイナちゃん可愛い!"

"でもその心にはバーサーカーが宿ってるんだよなあ・・・"

 

 改めて私は、デュラハンと向かい合う。

 

 

 デュラハンという食材――それは純度100%の鎧。未知の金属である。

 中には美味しいお肉があるなんてことも、残念ながらない。

 さすがに以前は、喰べることを断念してすごすごと帰ってきたが……、

 

「こほん。今日はいくつか秘策を用意してきていましてね!」

 

 私は、ポーチからレンタルしてきた機材を取り出した。

 携帯型の高圧加熱機――千佳に取り寄せてもらった取っておきの逸品だ。

 有名メーカーが技術を惜しみなく注いで作ったもので、ダンジョン素材を処理するための専用器具である。

 

 少しは柔らかくなると良いのだけど……、

 

 

「おりゃ!」

 

 私は、デュラハンの腕のパーツを加熱機にぶち込んだ。

 スイッチを入れて、ワクワクと見守る。

 

"加熱機くん「やめて!?」"

"そ・れ・はw"

"そわそわしてるレイナちゃん可愛いなあ(遠い目)"

 

 加熱機は、ガタガタ、ピーピーと異音を発していたが、

 

 

 ――バーン!

 そう音を立てて爆発した。

 

「なんで!?」

 

"レイナちゃん大丈夫、怪我はない!?"

"そりゃ、そんなもの入れるの想定してないw"

"料理用て書いてあったでしょw"

 

「料理してるじゃないですか!」

 

 この機材では、残念ながらデュラハンは調理できなそうか。

 ――千佳に何か良い感じのものを開発できないか、後で聞いてみようかな。

 

 

「……よし。次!」



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第二十二話 収益化記念配信(4)

・ちょっと分かりづらいので、翻訳頑張ってる英検1級ニキに名前付けました! > HN:《英検一級はクソゲー》


 私は、勢いよくポーチから次なる秘策を取り出した。

 

 

"爆発に巻き込まれても微塵も気にしてなくて草"

"爆炎耐性カンストさせてるらしいし多少はね"

"でもレンタル品壊したことはガチ凹みしてて可愛い・・・"

"まるで諦める気配なくて草"

 

 高圧加熱機の尊い犠牲に報いるため。

 私が次に取り出したのは、下層のなめくじモンスターが吐き出す酸を詰めた瓶だ。

 特殊な瓶に入れておかねば、並大抵のものは溶かしてしまう危険物。

 

(溶かせば食べられるかも!)

 

 ちょっと邪道な気もするけれど、背に腹は代えられない。

 私は、デュラハンの隅に瓶の中身をかけてみた。

 

 

 ――気持ちデュラハンが光沢を増した気がする。

 それだけである。

 

(ツヤツヤして美味し……、そうでもないなあ)

 

"もう風景が化学実験なのよw"

"レイナちゃん、思ってたよりちゃんと考えてて偉い!"

"ちゃんと考えたら、まず食べようと思わないんだよなあ…………"

 

「食べないなら何のためにモンスターを倒すんですか!?」

 

"これは素材の研磨かい?(英語)"

"たぶん……。モンスターの酸をかけて状態を良くするのは、良い工夫だね!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ノー、これは料理です(英語)"

 

"んなアホな。翻訳担当、適当すぎ(英語)"

"《英検一級はクソゲー》わい、嘘ついてないのに・・・(´;ω;`)"

"ちゃんと通訳してる英検ニキすごい"

"でも内容がぶっ飛びすぎてて、まるで信じてもらえてないっぽいの笑うw"

 

 英語と日本語が入り乱れ、過去最高にコメントの流れが早い。

 たぶん、私の調理を心待ちにしているのだろう。

 

 

「……よし、次!」

 

 今日という日のため。

 憎き鎧野郎を調理するため、私はいくつかのアプローチを考えてきていた。

 

 加熱して柔らかくする――調理器具が爆発した。失敗。

 溶かして柔らかくする――溶ける気配がない。こちらも失敗。

 最後の案。それは、粉々にくだいて調味料にする――だ。

 

 

(メインディッシュとして、別のものを用意しないと……)

 

 私はツヤツヤ輝く鎧に、爆裂ハーブを取り付ける。

 ちょんと小突いて距離を取り、大爆発が巻き起こったのを見届け……、

 

「傷一つ付かないっ!?」

 

 びっくりである。

 

"耐久度を測ってるのかな?(英語)"

"あの爆発で傷一つ付かないのは素晴らしいね!(英語)"

"いったい、買い取りはいくらになるんだろう?(英語)"

 

"《英検一級はクソゲー》ノー、これは料理です(英語)"

"料理に爆薬使うやつが居てたまるか! いい加減にしろ!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ぶわっ・・・(´;ω;`)"

 

 

(私に、深層はまだ早かったのかな――)

 

 そもそもフロアボス1体に10分もかけていては、鮮度の面でも致命的なのだろう。

 やっぱり、もう少し準備してから来るべきだったかもしれない。

 

 私が、しょんぼりしていると、

 

"やっぱり無理なんじゃ?"

"デュラハン、どう見ても食用には見えないしなあ"

"レイナちゃんなら、いっそそのままいけそうw"

"さすがに無茶振りや。ただの鎧やぞあれ……"

 

「天才ですか!? その手がありましたね!」

 

 天啓が降りた思いだった。

 

"!?"

"いきなりどうしたのw"

"ここのリスナーに天才が居るわけないだろ!"

 

「その通りです! 調理できないなら、そのまま食べれば良いんです!」

 

"??????"

"どゆこと?"

"待って!? なんかヤバいこと言い出したw"

"¥20000: これでお腹いっぱい焼肉食べて? とりあえず落ち着いて!?"

 

 困惑する食材さんを置き去りに、私はデュラハンと向き直る。

 

 

「宿れ、パンドラ・ボックス!」

 

"ふぁっ!?"

"パンドラ・ボックス食べたことあるの!?"

"ワイらのトラウマがあぁぁぁ"

"見かけたらスルー安定だと思ってた……"

 

 ――あれは、恐ろしいモンスターだった。

 宝箱に擬態したモンスターであり、岩や鋼までバクバク喰らい尽くす。

 岩壁に隠れたら、岩をバクバク食べながら襲いかかってきたのは一生もののトラウマである。

 

(あいつ、たぶん金属も食べられるよね)

 

 ちなみにパンドラボックスの可食部位は舌。

 程よく筋肉がついた大きな舌は、焼くと普通に香ばしく仕上がり美味しい。

 

 

「いただきます!」

 

 私は、手頃なパーツにかぶりついた。

 オーラで強化された肉体は、見事に鎧を噛みちぎることを可能とする。

 バリバリ、ムシャムシャ――ごくん。

 

(味としては、意外と悪くないかも?)

(ゴリゴリって特有の食感も、そういう食べ物だと思えば――さすがに硬すぎて美味しくはないなあ)

 

 ちなみに、味は見た目に反してほんのり甘い。

 渋さも感じるが、それでも調味料で整えてやれば美味しく食べられそうだ。

 

「う~ん、味は意外と悪くないですね。食感はやっぱり要工夫といったところでしょうか……」

 

"えぇ…………(困惑)"

"(;゚д゚)!?!?"

"【朗報】デュラハンさん、味だけは美味しい"

 

"よし、なら煮込んで出汁を取ろう!"

"↑↑たぶんただしい活用法"

"いや、料理に使ってる時点で正しくはないww"

 

 それから私は、いくつかの食べ方を試していった。

 といっても丸かじりしてる以上、食べ合わせを変えるぐらいが関の山だけど。

 

 

 ――たどり着いた一番美味しい食べ方は、

 

「スパイシーミントで小さな欠片を巻いて、齧るのが一番良いと思います。ちょっとだけチーズに近い味がします!」

 

"(;゚д゚)!?"

"本当にそのまま丸ごと喰い尽くしたw"

"ワイらは何を見せられたんだ……?"

"食レポだよ!"

 

(まだまだ美味しさを引き出せてない気がする……)

(そのうちリベンジしに来よう!)

 

 私は、密かにそんな決意をするのだった。

 

 

 食べ終わり、私の中にデュラハンが宿ったのを感じる。

 デュラハンのことも、たしかにオーラとして纏えるようになったのを確認し、

 

「ごちそうさまでした」

 

 私は、そう手を合わせるのだった。

 

 

"さすがにこれは……、やっぱり動画じゃないの?(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ノー、これは配信です(英語)"

"そんなバカな――(英語)"

"動画にしては精巧すぎない?(英語)"

"すぐに本部の人間に伝えてこないと……(英語)"

 

"そんなことより、この子可愛すぎるよ!(英語)"

"最高だね、彼女はGreedy Predator(貪欲なる捕食者)だ(英語)"

"新たなる日本のスターに乾杯!(英語)"

 

 コメント欄は、最後まで大盛りあがりだった。

 

 

 

※※※

 

 ――その衝撃的な記念配信。

 いつものように切り抜きが大量に作られ、国内に留まらず海外でも爆発的に拡散されていくことになった。

 

 人気のシーンは、デュラハンとの1vs1の決戦だろうか。

 小さな少女が部屋を縦横無尽に駆け巡り、デュラハンという難敵を一方的に仕留める映像。

 日本のダンジョン探索者は遅れている――そんな共通認識を持っていた海外の探索者たちは、相当の衝撃を受けることになった。

 

 だが一番反響があったのは、大きな鎧をムシャムシャと食べるレイナの姿だ。

 下手なホラーよりも迫力があった、と語るのは配信をリアルタイムで視聴したダンチューバー。

 理解が追いつかずに何度も動画を再生し、やがて取り憑かれたようにレイナのチャンネルを登録する者が多発したという。

 

 

 ――Greedy Predator(貪欲なる捕食者)

 グリーディー・プレデター。レイナの名は、そんな二つ名とともに海外にも羽ばたいていくことになったのである。



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第二十三話《掲示板》【天使?】史上最強の幼女、レイナちゃんについて語るスレ【捕食者?】

【天使?】史上最強の幼女、レイナちゃんについて語るスレ. 116【捕食者?】

 

1: 名無しの食材

レイナちゃん伝説

 

・イレギュラー化したドラゴンゾンビをワンパン

・オークキングと真っ正面から殴りあう

・新宿ダンジョン、深層第1地区日本記録保持(雑談しながら)

・デュラハンソロ討伐

・収益化配信で8桁スパチャ達成

・チャンネル登録者数も最速で150万人を突破

まだある?

 

 

5: 名無しの食材

>>1

日本記録もクソもソロ踏破者が居ない定期

 

17: 名無しの食材

チャンネル登録数で言ったら、もうレイナちゃんに勝てるダンチューバー国内におらんやろ

 

22: 名無しの食材

最初にバズったときに、すぐ忘れられるて言ってたアンチ息してる?

 

28: 名無しの食材

まさかあれが氷山の一角だとは思わんのよ……

 

34: 名無しの食材

>>1

デュラハン捕食事件が抜けてるぞ

 

37: 名無しの食材

>>1

加熱機爆破事件

 

62: 名無しの食材

>>37

なにそれw

 

71: 名無しの食材

>>62

ほい

URL(デュラハンの腕を調理しようとして爆発させてしまうレイナちゃん)

 

82: 名無しの食材

>>71

いや草

 

85: 名無しの食材

>>81

待ってるとき表情可愛すぎやろ・・・

爆発してきょとんとした顔との対比が最高すぎるw

 

116: 名無しの食材

あれでメーカーが注意書き増やしたのは面白すぎるw

食用でないものを入れるのはご遠慮くださいって、明らかにレイナちゃん用

 

144: 名無しの食材

まあ良い宣伝になってたし結果オーライやろ

「話題沸騰! レイナちゃんが爆破した今話題の調理器具です!」って煽り文句は笑った

 

155: 名無しの食材

まあ、調理器具に落ち度はなかったしな

 

161: 名無しの食材

その後の配信で、レイナちゃんが上層で実演してみせたのも良かったよな

めちゃくちゃ美味しそうに食べてたし、最高の宣伝だったやろあれ

 

168: 名無しの食材

レイナちゃんも対応としては百点満点よな

マネちゃん有能なんじゃ~

 

278: 名無しの食材

なんか賑わってるから久々に来ました!

何か面白いことあった?

 

283: 名無しの食材

面白いことしかないゾ

 

304: 名無しの食材

>>278

必修科目

つURL(デュラハン捕食事件)

 

322: 名無しの食材

いや事件名からして最高に意味分からなくて草

何これ!?

 

334: 名無しの食材

>>322

オーラ纏って、デュラハンむしゃむしゃ食った

 

341: 名無しの食材

>>334

???

 

352: 名無しの食材

困惑してて草

 

378: 名無しの食材

あれなあ・・・

生配信で見てたけど、さすがに目を疑ったわ

やっぱり動画なのか? てなったもん

 

389: 名無しの食材

レイナちゃんの実力って本物なの?

って話題も、わりと色んな場所で見るよね

 

402:名無しの食材

あー、ガセ扱いされてゆきのんが怒ってたね

なお本人は気にせず、目についたものをムシャムシャ食べてる模様

 

418: 名無しの食材

フロアボス、ちゃんと食べられるんですね!

って目を輝かせながら翌日から深層攻略始めたの面白すぎる

 

422: 名無しの食材

 

433: 名無しの食材

>>418

ま?

 

455: 名無しの食材

>>433

マジ。今は、第2地区を攻略中

 

473: 名無しの食材

>>455

さすがに攻略速度落ちてて安心した

 

482: 名無しの食材

>>472

いや、フロアボスまでは1日でたどり着いてたぞ

なんかマナ溜まり食べる方法真剣に考え始めたらしく止まってる

 

506: 名無しの食材

>>482

レイナちゃんwwww

 

513: 名無しの食材

ほえー

あれは毒耐性じゃ対応できなかったのか・・・

 

526: 名無しの食材

いったん試してる感じが、さすがレイナちゃんやなあ

 

557: 名無しの食材

個人的にはデュラハン事件がナンバーワン

ただの鎧ですらいけるなら、もう何でも食えるやろ

 

613: 名無しの食材

>>557

海外ニキすらドン引きしてたからなあれ

 

656: 名無しの食材

えぇ・・・(困惑)

あの人間やめてる海外勢すら引かせるって、レイナちゃんほんとに・・・

 

688: 名無しの食材

てか、倒した素材投棄してるの見て発狂してたな海外ニキ

 

711: 名無しの食材

いや、それは国内でもそうよ

 

744: 名無しの食材

換金できないから、素材集めなくなるやつな

実際、専門学校でも素材の扱いはどんどんおざなりになってるっぽい

どうあがいてもクソ制度やな

 

775: 名無しの食材

残当

はよ法律見直してもろて

 

833: 名無しの食材

そういや、海外ギルドが一斉にスカウトに動き出したって噂だけど…………

 

856: 名無しの食材

アカン、レイナちゃん引き抜かれたら冗談抜きに日本終わるぞ

 

878: 名無しの食材

レイナちゃん、美味しいもの提示されるだけでコロッと釣られそう

 

892: 名無しの食材

福利厚生、焼肉食べ放題

・・・ヨシッ!

 

911: 名無しの食材

そういやあれ聞いたやつおる?

勧誘自動対応AIのレイナちゃんボイス

 

915: 名無しの食材

>>911

なにそれ?

 

926: 名無しの食材

マネちゃん、ギルド勧誘の対応は基本AIに任せてるんや

その対応が面白いって噂やで

 

933: 名無しの食材

なんか好感度下がると「このゴミムシがぁ!」って罵られて切られるらしい

CVレイナちゃん

 

942: 名無しの食材

マネちゃん何してるのwww

 

956: 名無しの食材

なにそのギャルゲー

 

977: 名無しの食材

ぶひぃぃぃぃ

 

993: 名無しの食材

バッドエンドがトゥルーエンドとは新しい・・・

 

 

 

 そんな他愛のない話題で盛り上がっていたスレ。

 しかし、翌スレで流れが変わるのであった――

 

・・・

【いっぱい食べる】史上最強の幼女、レイナちゃんについて語るスレ. 117【君が好き】

357: 名無しの食材

レイナちゃんのオーラ、何が最強なんやろ

 

363: 名無しの食材

そういやレイナちゃん、今まで何食べてきたんやろうなあ

突然のパンドラ・ボックスは、腹抱えて笑った

とりあえずデュラハンは最強格だと思う

 

371: 名無しの食材

そりゃもう我々食材よ

 

373: 名無しの食材

くっそ弱そう

 

377: 名無しの食材

【悲報】ダンジョン深層、封鎖

ダンジョン探索者の安全を守るための措置らしい

犯人はダンジョンイーグルス

 

383: 名無しの食材

>>377

は?

 

388: 名無しの食材

いやまあ、ほとんどの探索者には関係ないと思う

 

389: 名無しの食材

>>383

素材の換金を禁止しても、無茶してダンジョン奥部まで入り込むやつがいるからとのこと

危険地域は、順次ライセンス制で解禁していく流れにするんやと

政府の言い分な

 

395: 名無しの食材

>>389

タイミング露骨すぎて草

ダンジョンイーグルスェ・・・

 

409: 名無しの食材

いやまあ、言ってることは何も間違ってないけどさあ・・・

 

413: 名無しの食材

自らの地位が脅かされることを恐れたんか

南無・・・

 

417: 名無しの食材

レイナちゃんの深層配信、最近の生き甲斐だったのに……




これで2章完結です。
感想いつも励みになってます、ありがとうございます!

次からは3章になります!
作者のモチベーションになりますので、感想・お気に入り・評価よろしくお願いします!


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第三章
第二十四話 レイナ、ファンクラブに驚く


 収益化配信の翌日。

 

 

「いち、じゅう、ひゃく、せん…………ぇえええええええ!?」

 

 私は、投げられたスーパーチャットを前に頭を抱えていた。

 

 ――8桁、ある。

 何度数えても、8桁もあるのである。

 

 

 1年間、毎日焼肉食べ放題にいってもお釣りが出そう。

 というか……、

 

(奨学金、返せちゃう……)

 

 現実味のない数字を前に、私はしばらくフリーズしていたが、

 

「千佳ぁ~~~!」

 

 私は頼れるマネージャー、こと、悪友に鬼電するのだった。

 

 

 

※※※

 

 千佳の研究室にて。

 

「千佳ぁ! これ、どうしよう!?」

「収益化配信、スパチャランキング1位。おめでとう、レイナ!」

「なにそれ!?」

 

 あの配信は、各所でランキングを騒がせる歴史的なものとなってしまったらしい。

 

 

 実際、配信画面に表示された額は、常識では考えられない額だった。

 感覚が麻痺しそう。

 

(今なら毎日、焼き肉の食べ放題に行っても――)

 

 私はそんな誘惑を前に、ぶんぶんと首を振り、

 

「千佳ぁ、千佳ならこれどう使う?」

「う~む、そうやなあ……。まずは研究設備は一新するとして……、事業拡大のために投資していく必要もあるな。となるとあの辺の企業を買収して――レイナ?」

「はえー…………」

 

 キラキラと未来を語る千佳は、とっても知的に見えた。

 大人の女性、格好良い。

 

 

 私は、千佳の手を握り、

 

「分かった! 私、千佳に全額投資する!」

「いや、待って!?」

 

 短絡的すぎる! と真面目な顔でお説教された。

 私よりも、よっぽど上手く活用してくれそうだと思ったんだけどなあ。

 

 

「レイナ、詐欺とか気をつけるんやで。食べ物と小難しい話、駄目絶対」

「食べ物と小難しい話。駄目絶対……」

 

 悲しいかな。

 食べ物に釣られてやらかす自分の姿は、容易に想像できた。

 

 やっぱり千佳に預けるのが、正しい気がしてならない。

 

 

「あ、それと確定申告が必要になるで」

「へ? なにそれ」

「そうやな。簡単に言えばウチらが打ち倒すべき……、年に一度の悪魔や!」

「なるほど、よく分からないけど分かった!」

 

 元気よく答える私。

 

 

 その後、私は少しだけ説明を聞くことにした。

 確定申告とは、何やら税金を納めるための七面倒臭い手続きらしい。

 

 30秒で頭がパンクして、一瞬で眠くなってくる。

 ……ギブアップ!

 

「千佳ぁ。それ、やらないと駄目なの?」

「逮捕されたくなければ残念やけど……。でもレイナなら、専門家に丸投げしちゃうのが手っ取り早いかなあ――」

「専門家!」

 

 私は、じーっと千佳を見る。

 

「良い人紹介するで」

 

 縋るような目の私を見て、千佳はため息をつくのだった。

 

 

「あんまり夢のない話はしたくないんやけどな――」

 

 それから千佳は、少しだけ真面目な顔で話し出す。

 

 ――バズったダンチューバーの末路。

 金銭感覚が狂い、金遣いが荒くなった人々。

 一度身についてしまった金銭感覚は戻らず、借金で首が回らなくなった人も多い。

 そんな少しばかり闇が見え隠れする話。

 

 

「ブランドのもののバッグ? 別荘?」

 

 私は、きょとんと首を傾げる。

 

 正直、まったくもって必要ない。

 それならダンジョンで、未知の食料を探している方がワクワクするというもの。

 

 私が何を考えているのか分かったのだろうか。

 千佳は、ふと苦笑しながら、

 

「まあレイナなら大丈夫やと思うけどな――お金は持ってて困ることはない。大事に貯めときや」

「うん、そうする」

 

 私は、こくりと頷くのだった。

 

 

 ――なお、ちょっとしたプチ贅沢はご愛嬌。

 今日の晩ごはんは、コロッケを1つ増やしてしまった。

 とても美味しい。

 

 

 

※※※

 

 それから1ヶ月ほど経った。

 私は、特に変わりない日々を過ごしている。

 

 

 チャンネルは凄まじい勢いで成長を続け、ついにはチャンネル登録者数150万人という大台を突破した。

 海外からの登録者も多いようで、配信時にはちょこちょこと外国語のコメントも見られる(なお、私は全く読めない)

 英語の勉強、頑張ろう! と決意した日があった。翌日には挫折していた。

 ――すっかり常連になってくれた英検さんには、足を向けて寝られない。

 

 

 学校も平常運転だ。

 実技では「教育係に回れないか?」と頼まれ張り切っていたが、翌日には「やっぱり無しで……」なんて申し訳なさそうに断られ。

 私の感覚が独特すぎて、どうやっても参考にできる物ではなかったらしい。解せぬ。

 

 学校と言えば――いつの間にかファンクラブができていた。

 ……いや、ほんとになんで!?

 

「由緒正しい学内の中で、ファンクラブなんてもの! 相応しくないですよね!?」

 

 通りがかった先生――軍曹を問いつめる。

 あわよくば解散に持ち込めないかと思っていたら、軍曹がファンクラブ副会長だったという驚きの事実。

 ……この人はもう駄目かもしれない。

 

 ちなみにファンクラブのエンブレムは、鎧に齧りつく天使をモチーフにしているらしい。

 熱心な軍曹の説明を聞いて、私は死んだ目になった。

 

 

 放課後は、週3回程度の頻度でダンチューバーとして配信している。

 この配信頻度は、毎日配信は負担が大きすぎるいう千佳の判断によるものだ。

 とっても過保護な千佳なのである。

 

 相も変わらず雑談配信とダンジョン配信が、私の主なコンテンツだ。

 もっぱら今の私の目標は、深層で見かけたマナだまりを美味しく頂くことだ。

 

「マナ中毒って、耐性つくのかなあ――」

 

 ペロっと舐めただけで、吐き気が収まらなくなったのは軽いトラウマである。

 マナの過剰摂取によるマナ中毒。

 毒耐性スキル――完全敗北の瞬間である。

 

 

 そんな日々の中。

 ぽけーっと自宅でテレビを見ていた私の目に、とあるニュースが飛び込んできた。

 

「本日国会で、ダンジョン新法が可決されました。これまで我国では、ダンジョン素材の換金に原則としてライセンスが必要でしたが――」

 

(ダンジョン新法?)

 

 ダンチューバーとして活動する私にとって、他人事ではない。

 私はもぐもぐとカレーを口に運びながら、ニュースに意識を向ける。

 

 

 これまでダンジョンで拾った素材を換金するには、特殊なライセンスを保持している必要があった。

 原則、学生は換金不可。お金のために、身の丈に合わない階層まで潜ることを防ぐための法律だが、いろいろな問題を抱えていると非難されていた。

 実際、私にとっても素材の換金ができないのは、死活問題だった。

 

 この法律、禁じているのは素材換金だけであり、立ち入りそのものは禁じていないことにも非難が集まっていた。

 表向きでは探索者の保護を高らかに謳いたい。だけど、ダンジョンの情報は普通に欲しい。

 そんな政府の板挟みと、アドバイザーとして口を出した探索者組合の思惑。それらが合わさった歪な法案だって、千佳が吐き捨ててたっけ。

 

 

 今回の新法で、一部例外を除けば、深層に入るためには専用のライセンスが必要になったらしい。

 当然、学生の身ではライセンスなど取得できるはずもなく……、

 

(そっかあ。卒業するまで、深層はお預けかあ)

(とりあえず上層~下層に美味しいものが眠ってないか、見直してこよう!)

 

 私は、最近レンタルを始めた調理器具たちに思いを馳せるのだった。

 

 

 

※※※

 

 翌日の昼。

 私は、久々に上層で配信を開始する。

 

 

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

 

"こんレイナ~"

"こんレイナ~!"

 

「今日は、久々に――」

 

"上層ってこれまた珍しい……"

"やってくれたな、ダンジョンイーグルスw"

"このタイミングで深層封鎖は、さすがに露骨すぎて草。レイナちゃんへの宣戦布告だろこれ"

 

"お、全面戦争け? わいらも協力するで"

"レイナちゃん、普通に元気そうで良かった"

"鷲なんて調理しちゃおう"

"ギルドページ、めちゃくちゃに荒らされてて笑う"

"残当"

 

(んんんん……?)

(なんでダンジョンイーグルス!?)

 

 食材のみなさん、何やら荒ぶっていらっしゃる!?

 

 

 荒ぶるコメント欄。

 私は、目を白黒させることしかできなかった。



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第二十五話 レイナ、食べられなかったモンスターにリベンジする

だいぶ読みづらいので、英語コメントは(英語)と記載する形にします
(過去エピソードのコメントは、時間見て修正します……!)


「いったい何が!?」

 

 私は、荒ぶるコメント欄を追いかけてみる。

 

 深層への立ち入りを禁じる例の法案。

 どうやらダンジョンイーグルスという大手ギルドが、政府に口出しして認めさせたらしい。

 それが深層で活動する私を妨害するための嫌がらせである、というのが食材さんたちの意見なのだが――

 

「まさかぁ……。大手ギルドが、そんな暇なことする訳ないじゃないですか」

 

 私は、思わず笑ってしまった。

 

"してるんだよなぁ"

"掲示板での内部告発は草生えたわ。不満溜まってたんやろうなあ"

"出てる情報量的に、リークの信憑性はかなり高いんじゃないかなあ"

"ダンジョンイーグルス、どうしてそこまで落ちぶれてしまったのか・・・"

 

 

「だいたいトップギルドが、いつまでも私のことなんか気にしてる訳ないじゃないですか」

 

 ダンジョンイーグルスから勧誘の話は、あれ以降聞いていない。

 きっと私のことなんて忘れて、新たに優秀な探索者をスカウトしてるんだと思う。

 

 ――実際のところダンジョンイーグルス・佐々木は、幾度となく千佳に電話をかけていた。

 それと同じ回数、AIに罵りボイス(CVレイナ)とともに撃退されているのだが……、その事実は本人のみぞ知るといったところである。

 

 

"鷲の鯖、落ちてるじゃんw"

"草"

"誰や、DDoS攻撃仕掛けたやつw"

 

「へ? 食材のみなさんなら大丈夫だと思いますが、ダンジョンイーグルスさんのサイトに変なことしないでくださいよ!?」

 

 コメントから物騒なものを感じ、私は慌ててそう口を挟んだ。

 

 ――ダンジョン新法。

 実のところ、理にかなった法律だと私は思う。

 ダンジョンでの死傷者が減るなら良いことだし。

 欲を言うなら、ライセンスは学生でも取れるようにして欲しいけど……。

 

 

"レイナちゃん、炎上を収めようとしてて偉い"

"これが天使か……"

"鮮血の?"

"捕食者やぞ"

"とはいえ、もう少し様子見た方が良いかもね。ここまで大炎上したら、鷲も随分と慌ててるやろ・・・"

"レイナちゃんにフォローされてるダンジョンイーグルス、最高にダサいのよ"

 

(こ、コメントに困る!?)

(下手なこと言ったら、火種になりそうだし……)

 

 私が、口をパクパクさせていると、

 

 

"実際、深層にライセンス導入するなら、どんな条件になるのかな?"

"たしかにちょっと気になる"

"鷲「ダンジョンイーグルスに所属して下さい」"

"大炎上待ったなしw"

"もしレイナちゃんが深層入る条件を設けるとしたら、どんな設定にする?"

 

 気を遣ったリスナーさんが、良い感じに話題を振ってくれた。

 

 

「深層に潜る条件? 私なんかがおこがましいですが……、下層の全フロアボスをソロ討伐済、とかですかね?」

 

"人間卒業試験草"

"そんな芸当できるのレイナちゃんぐらいw"

"事実上の立ち入り禁止なのよそれ"

"もう試験官レイナちゃんで良いんじゃないかな!"

"喰われるw"

 

(ふう、良かった――)

 

 雑談をしているうちに、いつもの空気が戻ってくる。

 ピリピリしていたコメント欄を見て、内心では戦々恐々としていた私。一安心である。

 

 

"やあ、今日は深層にはもぐらないのかい?(英語)"

"上層配信とは珍しいね!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》新法案が通ったんだ。深層は、一般人は立ち入り禁止(英語)"

 

"一般人?(英語)"

"なら、レイナちゃんには関係ないよね?(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ノー、レイナちゃんも立ち入り禁止です(英語)"

"国内トップの探索者を締め出す国があるわけないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

 そんなリスナーさんたちのやり取りをよそに。

 私は、料理配信に戻るのだった。

 

 

 

※※※

 

「今日の配信はですね……、今まで食べられなかったものにリベンジしようと思ってます!」

 

"レイナちゃんに食べられないものなんてあったの!?"

"毒物パカパカ食べてたのに"

"レイナちゃん、大丈夫? ワンパンで消滅させない?"

"これは期待w"

 

「消滅させません! 食べられないものは――昔の私は、未熟だったんですよ……」

 

 相変わらずコメント欄での私の扱いが酷い。

 

「今日リベンジするのは、アーミースケルトンとバルーンキャットです!」

 

"見事にゲテモノしかなくて草"

"たしかにスケルトンは……、レイナちゃんなら行けるか?

"鎧喰えるしよゆーよゆー!"

"バルーンキャットって、倒すと爆発するやつだよね? どうするつもりなんだ……"

"これは捕食者の貫禄!"

 

 どちらも上層のモンスターで、一度は食べられないと判断した相手だ。

 それでも成長した今なら、食べられる――はず!

 

(食わず嫌いは良くないしね!)

(どんな味がするのかなあ)

 

 私は、颯爽と上層に繰り出した。

 

 

 上層のモンスターは、正直さほど脅威ではない。

 だとしても油断は大敵。ダンジョンとは、油断したものから喰われる恐ろしい空間なのである。

 

「あ、居ました!」

 

 やがて私は、アーミースケルトンを発見する。

 その容姿は、簡単に言えば鎧を身に付けた骸骨といったところだ。

 私を見たアーミースケルトンは――くるりと回れ右して、逃走をはじめた!

 

 

"不死系のモンスターにすら怯えられてて草"

"やべえもんに会っちゃったって反応なのよw"

"スケルトンくん可愛い"

 

「なんで!?」

 

"""そらそうよw"""

 

 

 私は、アーミースケルトンを追いかける。

 

 これは捕食者の鑑――とかコメントが見えたけど、気にしない!

 あっさりと追いつき、私は急所となる頭のあたりをぶん殴る。

 鮮度を大事に。基本的に、やれる相手は一撃で仕留めるのが最善なのだ。

 

"相変わらず無表情にえぐい戦いしてて草"

"逃げ切れなかったよ・・・"

"う~ん、これは食物連鎖の頂点w"

"鮮血の捕食者?"

 

 私は、アーミースケルトンの骨を拾う。

 あまり美味しくはなさそうだけど、そこを工夫次第でどうにかするのが腕の見せ所というものだ。

 ……なお、最終手段は丸かじりである。

 

 

「焼くか、煮るか、砕くか━━なにが一番美味しいと思いますか?」

 

"踊り食い"

"そら丸呑みよ"

"パリバリ。ムシャムシャ"

 

「それは万策尽きてからですって!」

 

 私は、レンタルした調理器具の力を信じている。

 

 

 次に挑むのは、バルーンキャットだ。

 こいつは猫の風船を模したモンスターで、ふわふわ浮遊しながら魔法を放ってくる。

 一番厄介な特性は、倒すとそのまま破裂してしまうことだ。

 

 そのため食べるには……、

 

"さすがに、跡形もなく無くなるものを食べるのは無理じゃ?"

"無から有を生み出す程度、レイナちゃんなら朝飯前"

"概念系問題やめろw"

 

「いや、もちろん生きたまま食べますよ?」

 

"は?"

"もちろん #とは"

"完璧なアンサーだ…………"

"レイナちゃんは可愛いなあ・・・(遠い目)"

 

 私は、バルーンキャットを求めて徘徊する。

 

 すっかりモンスターに怯えられているのだろうか。

 残念なことに、一向にモンスターに出会わない。

 

 

 そうしてバルーンキャットを探して歩く私は――

 

「イヤっす~~! あたいはレイナ様のように、すごい探索者になるッスよ!」

「こら! 大人しくしろ!」

「いいからその手を離すんだ!」

 

(ほえっ!?)

 

 そんな言い争う声を聞く。 

 

 

"トラブルかな"

"最近、小競り合いが増えてるよなあ"

"人呼んできた方が良いんじゃ?"

 

「といっても、この辺に人は居なそうですし……。私、ちょっと様子を見てきますね」

 

 私はカメラをその場に残し、様子を見に行くことにした。



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第二十六話 レイナ、変な少女と出会う

 声を頼りに進み、私はすぐに人影を発見する。

 

 ――見たところ人数は3人。

 中学生ぐらいだろうか。おかっぱ頭の小さな少女が、何かを大切そうに抱え込んだままわんわんと大粒の涙を流していた。

 その少女を前におじさん探索者が2人、困った様子で佇んでいる。

 

 3人の胸には、金色に輝く大きな鷲のエンブレム。

 おじさん2人は、涙を流す小さな少女から"何か"を取り上げようとしているようだった。

 

 

「あの、何かトラブルですか?」

 

 さすがに見て見ぬふりはできない。

 そう思った私が、そっと声をかけると――、

 

 

「レイナ様!?!?」

 

 おかっぱ少女は、ケロッと泣き止んだ。

 パッと表情を明るくして、キラキラした目を私に向けてくる。

 

 

「ええっと……、何かを取られそうになってたの?」

「そうッス。このおじさんたち、酷いんッスよ――あたいが食べようと大事に集めたブルー・マスカットを取り上げようとしたッスよ!」

 

(えぇ……!?)

 

 ブルー・マスカット――毒である。

 私が初めて食べたときには、普通にぶっ倒れて入院した超危険物である。

 

「えっと……。あなたは、毒耐性スキル持ちなの?」

「それは、これから身につけるッス!」

 

(なんかヤバイこと言い出した!?)

 

 少女は、今にもブルー・マスカットに齧り付かんとしていた。

 

 ――そりゃ、善良な人間なら取り上げようとする。

 あらぬ疑いをかけたおじさん2人に内心で謝罪しつつ、私は少女の話に耳を傾ける。

 

 

「レイナ様を見習って、ブルー・マスカットを食べて――最強になって、いずれはダンジョンイーグルスを立て直すッス!」

 

 ──ダンジョンイーグルス!

 今日は、やたらと名前を聞く日である。

 

 この3人は、ダンジョンイーグルスに所属する探索者のようだ。

 

 

「君は……、あのレイナちゃんなのかい?」

「私たちのギルドが、本当に申し訳なかった!」

「……へ!?」

 

 少女から話を聞いていると、おじさん探索者2人から深々と頭を下げられてしまった。

 明らかに年上の探索者に頭を下げられ、私は困ってしまう。

 

 そのまま私は、3人から詳しい話を聞くことになった。

 

 

「まさかレイナちゃんの配信に遭遇するとはなあ」

「できれば、これからの話は配信に載せてほしいんだが……」

 

 開口一番、おじさん2人がそんなことを頼んできた。

 

 

(だ、大丈夫かな?)

 

 不安になった私が、裏で千佳に相談したところ「やっちまいな」なんて言葉が返ってくる。

 そんな訳で私は、カメラとともに3人の元に戻ってくるのだった。

 

 

 

※※※

 

 

"わくわく"

"鷲メンバーと直接対決と聞いて"

"お、祭り? 燃料投下くる!?"

 

「あの、食材のみなさん……。頼むから落ち着いて聞いて下さいね」

 

 血気盛んすぎる……。

 私は、食材さんたちに向けて何があったかを説明していく。

 

 

"助けようとした女の子が黒幕だったのは草"

"レイナちゃんに憧れる→分かる レイナちゃんに憧れて毒を食べます!→分からない"

"※毒を食べても、普通は毒耐性スキルは身に付きません"

 

"なになに、何が起きてるの?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ーーー状況を説明(英語)"

"レイナちゃんみたいな子が2人もいてたまるか! いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》・・・(´;ω;`)"

"やべえ奴の回りにはやべえ奴が集まるのか(困惑)"

"さすがのレイナちゃんも困惑してるw"

 

 

 私は、ブルーマスカットを取り上げられ、しょんぼりしてる少女に目を向けた。

 

「えっと――、あなたの名前は?」

「はいっ! あたいは神田ミライ――ミライって呼んで欲しいッス!」

「じゃあミライちゃん。ミライちゃんは、その…………、何でそれを食べようとしてたの?」

「スキルを開花させるためッス!」

 

 一点の曇りもない目でそう言うミライ。

 

「ミライちゃん、その――言いづらいんだけど、それを食べても必ずしもスキルは開花しないと思う」

「そ、そうなんスか!?」

 

 ガーンという擬音が聞こえそうな様子で落ち込むミライ。

 ……他人事ながら、ものすごく心配になる子だ。

 

 

 スキルの開花には、分かっていないことが多い。

 私と同じことをしたからといって、必ずしも身に付くというものでもないと思うし……、

 

「毒を食べるとね、人間って死んじゃうこともあるんだよ。危ないことは止めた方が良いと思う」

 

(美味しいけどね……)

 

"wwwwww"

"いや草"

"どの口が言ってるの!?"

"ど正論なのにレイナちゃんが言うと違和感しかないww"

"《鈴木千佳》何度もぶっ倒れてるレイナは、ちょっとは反省して?"

 

 画面の奥で、真顔になっている千佳を見た気がする。

 その節は、大変なご心配をおかけしました……。

 

 

"¥10000: 《鈴木千佳》この子は、特殊な訓練を受けています"

"¥10000: 《鈴木千佳》決して真似をしないで下さい"

"固定コメントw"

"まさか本当にこのテロップが必要になる日が来ようとは・・・"

 

 

「ミライちゃん、レベルっていくつ?」

「はい! 今日、4になったッス!」

「なら、50を超えるまでは食べないほうが良いと思う。下手すると入院することになるよ?」

 

"違うそうじゃないw"

"【朗報】レベルが50あればブルーマスカットぐらいなら食べられる模様"

"お、わいのレベルなら行けるんやな。今度、試してみるか"

"↑↑おい馬鹿、やめろ"

 

「分かったッス……」

 

 随分としょんぼりとしていたミライだったが、やがてはそう頷くのだった。

 

 

「ところで、何でスキルを開花させたかったの?」

「それは――」

 

 ミライが何かを言いかけたが……、

 

「それは私たちから説明しよう」

 

 おじさん2人が、おもむろに口を開いた。



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第二十七話 レイナ、事情を聞いてトレーニングを決意する

「我がギルドでの行事の1つに、"洗礼"と呼んでる行事があってな……」

 

 ダンジョンイーグルスの1人――剛腕の不死殺し(アンデッド・キラー)と名乗った――は、重々しくそう切り出した。

 長いので、これからは剛腕さんと呼ぶことにする。

 

 

"えぇ・・・ガチの内部情報じゃん"

"自分たちでそう呼ぶの最高にダサいな"

"う~ん、隠しきれないブラック臭……"

 

 洗礼――話を聞けば、それは実にろくでもない物だった。

 

 ギルド幹部の反感を買った者に課される無茶な課題。

 膨大なノルマの押し付け、フロアボス討伐の強要、危険な探索への駆り出し。

 それが原因で大怪我をして、探索者を辞めていった者も少なくないという話である。

 

「ミライちゃんの態度が気に食わなかったギルマスが、洗礼をミライちゃんに課してな……」

「む~。あたい、何も悪いことしてないッスよ!」

「ああ、分かってる。ギルドへの帰属意識を高め、構成員の士気を高めるためなんて建前だが……、あんなのはただの私刑だよ」

 

 剛腕さんが、不快そうにそう締めくくった。

 

 

"ヤバすぎて草"

"大炎上待ったなし"

"掲示板で流れてた噂、ほんとやったんか・・・"

 

"なになに、いったい何が起きてるんだい?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ーーー翻訳コメント(英語)"

"探索者を舐め腐ってるとしか思えないね(英語)"

"なんで日本は、そんなギルドが大手になれるんだい?(英語)"

 

 

「ミライちゃん、何したの?」

「あたいは、ロビーでレイナ様の魅力を語っただけッスよ。そしたらギルマスがいきなりブチギレて、新しいスキルを開花させるまで戻ってくるなって――」

 

 納得いかなそうに呟くミライであったが、

 

「……いやいや、恥ずかしいから止めて!?」

 

(この子、何してるの!?)

 

 私としては、突然背後から撃たれた気持ちである。

 

 

「むう……。でもダンジョンイーグルスには、レイナ様のファンもいっぱい居るッスよ」

「そんな馬鹿な……」

「本当ッスよ。聞いて下さいッス、イーグルスにはあのレイナちゃんファンクラブの副会長と飲み友達になってるメンバーまで居るッスよ!」

 

 あのレイナちゃんファンクラブって何!?

 

 ――頭にツヤツヤした顔の軍曹が浮かび、私はぶんぶんと首を振る。

 さ、さすがに関係ないよね?

 

 

 ダンチューバーとして、最近人気が出てたとは思っている。

 だけど、トップギルドの中にファンが居るなんて現実味が無さすぎて……。

 

 私は、ちらりと剛腕さんに視線を向ける。

 

 ミライちゃんが、大袈裟に話してるだけ。

 ……そうだよね?

 

 

 しかし私の願いも虚しく、剛腕さんは「もちろん事実だ」と力強く肯定すると、

 

「佐々木は、その状況が面白くないみたいでな。最近では、レイナちゃんのことを目の敵にしてるんだ」

「どう考えても先走ったよなあ――深層立ち入り禁止なんて。タイミング悪すぎる」

「ほぼ独断なせいで協力してくれるギルドもないからな。封鎖するための人員、どうするつもりなんだか……」

 

 剛腕さんと、もう1人のメンバーまで愚痴りだした。

 随分と不満が溜まっているようだ。

 

 

(にわかには信じがたいけど……)

(私、本当にダンジョンイーグルスに目を付けられてるの?)

 

 ……ちょっとショックだけど、一旦は棚上げ。

 

(今、気にするべきはミライちゃんのことだよね)

 

 

「えっと、ミライちゃんはギルドからの課題で、スキルを開花させたいんだよね?」

「はいッス! ブルー・マスカットによるスキルの開花――どうせ、いつかは試したいと思ってたッスよ!」

「一週間以内に達成できなければ除名。そういう話だったな」

 

 苦い顔になる剛腕さんだったが、ミライの顔に悲壮感はない。

 ただ楽しそうに、明るい未来を疑いもせず。

 ――そのポジティブな精神は、見習いたいと素直に思った。

 

 

"そんな糞ギルド、除名された方が良いだろ"

"たしかに。ただでさえ大勢の探索者敵に回してるのに"

"上層部が暴走してるやつかあ・・・"

 

"ブラックギルド氏すべき慈悲はない(英語)"

"優秀な人材はいつでもウェルカムだよ!(英語)"

"鷲のおふたりは、なんで未だに残ってるの?"

 

「おふたりは、ダンジョンイーグルスのメンバーですよね? 良いんですか、こんなこと話して」

 

「俺たちは抜けることにした。違約金も、ライセンスも知らん」

「全くだ。あんな所にいつまでもいたら、こっちまで駄目になっちまう」

 

 剛腕さんたちは、すでにダンジョンイーグルスを見限っているようだ。

 

 実際、そのギルドが随分と評判が悪いのは事実のよう。

 ライセンスや、違約金の問題があっても――

 

(……ん?)

 

「へ? ギルドって抜けるのに違約金必要なんですか!?」

 

"ブラックすぎて草"

"そうやって縛り付けてるんかあ"

"ライセンスって素材換金のやつ?"

"ウッソだろw それをたてに脅しかけてるの!?"

 

"法的に大丈夫なの、それ?"

"事実なら普通にアウトじゃないかな。証拠残ってれば普通に訴えられると思う"

"とんでもないのが出てきたな・・・"

 

 ギルド怖っ。

 と戦慄したが、どうやらダンジョンイーグルスが特殊だっただけらしい。

 

 

「おふたりは、ベテランで実力者ッスから。いろんなギルドからひっぱりダコ。あたいみたいな弱小探索者は、後ろ盾がなくなったらとても続けられないッスよ」

「だからっておまえは無鉄砲すぎるんだよ。それ食べてたら死んでたからな」

「や、やってみないと分からないッスよ!」

 

 剛腕さんとミライが、そんな軽口を叩き始めた。

 

 

"なるほどなあ……"

"どう考えてもミライちゃんは鷲を抜けるべきだと思う"

"未来ある若者を食い物にするブラックギルド、滅ぶべし"

 

 コメント欄が、随分と荒ぶっている。

 今まではそれを止めてきた私だったけど……、

 

 

(これが事実だとしたら――)

 

 私は、ダンチューバーが好きだ。

 しかし中には、事務所とのトラブルで活動停止を余儀なくされた人も居る。

 もちろん事務所が悪いとは限らない。それは分かってるけど、事務所のパワハラが問題になっていたケースというのもあって。

 

 

 そういう輩と、ダンジョンイーグルスが同じだというのなら……、

 

「とても放っておけないですね」

 

"レイナちゃんがお怒り"

"これは擁護のしようもない"

"完全に年貢の納め時"

"鷲、食べちゃう?"

 

「食べませんって!?」

 

 

 

(そんな環境に居続けることは、ミライちゃんにとって絶対良くないと思う)

(でも、そのことで私にできることは……? このことは千佳に相談するとして――)

 

 今、私にできることは、

 

 

「ミライちゃん、とりあえず一週間以内にスキルをいっぱい開花させてギャフンと言わせましょう!」

 

 私は、ニッコリと微笑んだ。

 

 

"草"

"結局明後日の方向に走り出したw"

"ミライちゃん嬉しそう"

"やばそう"

"ミライちゃん逃げてw"

 

 

「はいッス!」

 

 対するミライも気合十分で。 

 そうして私は、急遽、ダンジョンイーグルスの3人と探索を続けることにしたのである。



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第二十八話 レイナ、超効率的なレベリング手法を披露する

「とりあえずはミライちゃんのレベルを上げるとして――」

 

 私は、3人を連れて歩き始めた。

 

 

 そのまま入り口に戻り、転移ポータルに手をかざす。

 転移ポータルは、ダンジョン内にあるポータルへと瞬時に移動できる優れものだ。

 

 

「ど、どこに向かうつもりだ?」

「そうですね。ミライちゃんの安全を考えながらのトレーニングなので――」

 

 ホッと胸を撫で下ろす剛腕さん。

 

「――とりあえず下層に行こうかなと」

「「!?」」

「はいッス!」

 

 ギョッと目を見開く剛腕さんたち。

 一方、ミライは気合いよく返事した。

 

 

"安全 #とは"

"レイナちゃんの傍ならどこいても安全やな・・・"

"なになに? なにが始まるんだい?(英語)"

"イーグルスのおふたりは下層潜れる人なのかな?"

 

「お、俺だって剛腕の不死殺し(アンデッド・キラー)と呼ばれた探索者だ! この人数だって、下層ぐらい潜ってやらあ!」

「声震えてるッスよ?」

 

 武者震いする剛腕さんに、無邪気に突っ込むミライ。

 

「おまえは、なんでそんなに緊張感ないんだ?」

「だってレイナ様が一緒ッスから!」

「信頼が厚い!?」

 

 キラキラした視線が飛んできて、私は苦笑いするのだった。

 

 

 

※※※

 

 転移ポータルを出て、私たちはダンジョン下層に足を踏み入れる。

 

 

「着いたッス!」

「ほ、本当にこの人数で下層に潜るのか?」

 

"レイナちゃん配信に一般人が出てると安心するな・・・"

"そうだよなあ 下層って、散歩感覚で立ち入る場所じゃないよな?"

"¥3000:え? 下層って食材探すための食料庫ですよね?"

"レイナちゃんにとっては深層も食料庫だぞ"

 

「ご、ごめんなさい! 今日の料理はお休みです!」

 

 あくまで今日は、ミライの手伝いが最優先だからね。

 

"レイナちゃんが食べ物を諦めた・・・だと!?"

"そんな馬鹿な・・・"

"なになに? レイナちゃん、なんて言ったの?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》今日の料理はお休みだって(英語)"

"レイナちゃんが食べるのを諦めるはずがないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ・・・(´;ω;`)"

 

 私は、あるものを探しながらダンジョン下層を彷徨い歩く。

 

 

 ボコッ!

 たまに出くわすモンスターは、拳で吹き飛ばして黙らせる。

 時は金なり。今は、雑魚に構っている暇はないのだ。

 

"この貫禄はまごうことなきレイナちゃんですわあ"

"まとってるオーラが違う"

"ミライちゃん目をキラキラさせてて可愛い"

"無感動にモンスター撲殺していくレイナちゃんとの対比が最高なのよ・・・"

 

 キョロキョロとあるものを探して歩く私と、戦々恐々と後を付いてくる剛腕さんたち。

 

 

(あ、あった!)

 

 しばらく歩き、私は目的のブツを発見する。

 それは足元に巧妙に設置されたボタンであった。

 

「おふたりは下層のモンスター相手なら、ミライちゃんを守りながら戦えますか?」

「へ? ……あ、ああ。もちろん! それぐらい、お安い御用――」

「分かりました! となれば、あれやりましょう!」

「「へ?」」

 

 私は、足元のそれを踏み抜いた。

 

 ダンジョン内に、警報音が鳴り響く。

 モンスターを呼び寄せるアラートだ。

 

 

 ――モンスターハウス。

 手っ取り早くモンスターを集められる罠である。

 

「「いやいやいやいや!?」」

「さすがレイナ様! その躊躇いのなさに痺れるッス!」

 

"ノータイムで草"

"たしかにレベリング効率は良さそうだけど"

"無茶に突き合わされてる剛腕さんたち可哀想"

"この状況に動じないミライちゃん大物すぎる・・・w"

 

 手っ取り早くモンスターを集めるにはこれが一番。

 

 やがてはモンスターの群れが、徒党を組んで現れた。

 初めて見るモンスターを見て、ミライは目を輝かせていた。

 なぜか剛腕さんたちは、真っ青な顔でぶるぶる震えていたけど――

 

「私が捕まえるから、ミライちゃんは私が抑えてるモンスターをぶん殴って」

「分かったッス!」

「剛腕さんたちは、ミライちゃんを攻撃しようとしてる奴の露払いをお願いします!」

「「!?!?」」

 

 そう言って私は、モンスターの群れに突っ込んだ。

 

 

 最初に、遠距離から攻撃を放ってくる危ないモンスターを処理するのだ。

 前の配信でしたように、私は闘気を放ってモンスターを倒していく。

 

(ふぅ、こんなもんかな――)

 

 私が、待たせていた3人の元に戻ると、

 

「うおおおぉぉぉ、こんなところで死んでたまるかぁぁぁぁ!?」

「おまえが、無駄に、強がるからぁぁぁああ!」

「俺だって、探索者としてのプライドってもんが、あったんだよぉぉお!?」

 

 おっさん2人は、猛々しい咆哮を上げながら戦っていた。

 ミライを守るため、気合い充分みたいだ。

 

「レイナ様、カッコ良すぎるッス!」

「ミライは、前出るな! 身を乗り出すな! そして目を輝かせるな!」

 

 ミライは相変わらずだった。

 

 

 3人の元に戻った私は――

 

 ベキッ バコッ ドガッ!

 3人の元に集まってしまったモンスターを殴り飛ばし、一瞬で葬り去る。

 

 

「返り血をぬぐうレイナ様、格好良い――」

「い、一瞬であの数を倒し切るとは…………」

「改めて実物はとんでもないな……」

 

 危険なモンスターを処理し、ある程度は数も減らした。 

 ここからが本番だ。

 

 

 私は、モンスターの群れを振り返る。

 ターゲットは、岩石に手足と眼が生えた風貌の不可思議なモンスターだ。

 

 ギョギョギョッ?

 奇妙な鳴き声とともに襲いかかってきたそいつを、

 

「ふんっ! ――はい、ミライちゃん!」

「分かったッス!」

 

 私は両手で鷲掴みにして、ミライに引き渡す。

 

「えいやっ!」

「おっけー。はいっ、次っ!」

 

 意図を汲んだミライが、モンスターに一撃を入れる。

 すぐさま私は拳を叩き込み、そのままモンスターを消し飛ばす。

 

 ――共闘相手との経験値共有。

 今までソロだったから馴染みはなかったけれど、パーティーを組むメリットの1つだと聞いたことがある。

 

 

"流れ作業で草w"

"こ、これがチェンジか・・・(困惑)"

"ついに連携を学んだレイナちゃん!"

"連携 #とは"

 

 何度かそんなことを繰り返していると……、

 

「……あれ?」

 

 1体のモンスターと目があった。

 ――そのモンスターはクルッと方向転換して、逃亡を始めた!

 

 

「待って!? ミライちゃんの経験値~!?」

 

"草"

"あーあ。狩られる側であること、分かっちゃったね"

"モンスターハウスの奴らって、逃げることあるのか・・・"

"初めて見たw"

"圧倒的強者がいれば、こんなパワーレベリングも可能なのか。勉強になります(英語)"

"なお参考には……(英語)"

 

 

 結局、残るモンスターは取り逃してしまったが、

 

「ミライちゃん、どう? 強くなった感じする?」

「はいッス! 体がぽわぽわ暖かいッス!」

 

 それはレベルが上がったときの症状の1つ。

 

(やっぱり、これは効率良さそう!)

 

 

「目指せ、1日でレベル50!」

「はいッス! ギルドでレベル測定するのが楽しみッス! …………あれ? なにか視界の端に、変な輝く文字が見えるッス――」

 

 ええっと……。

 首を傾げながら、ミライは何やら文字を読み上げていく。

 

『スキル開花――「ジャイアントキラー」……格上相手に効果を発揮するスキルが手に入ったみたいッス!』

「嘘っ、本当に!? ミライちゃん凄い……、おめでとう!!」

 

"¥3000: あっさりスキル開花させてて草"

"そりゃ、こんな荒療治に巻き込まれれば……"

"普通は死ぬぞ。絶対に真似するなよ?"

"押すなよ? 押すなよ?"

"¥5000: 《鈴木千佳》この子たちは特殊な訓練を受けています。絶対に真似しないで下さい"

"マネちゃんw"

 

 ミライは、急激なレベルアップに「ふおぉぉぉお!」っと目を輝かせていた。

 

 

「目的は達したな。さてと、今日はここらで戻ることに――」

 

 剛腕さんが何やら言いかけたが……、

 

「じゃあ……、早速! 次のモンスターハウスを探しにいきましょう!」

「はいッス!」

「「待て待て待て待て!?」」 

 

 意気投合するミライと私。

 そんな私たちに「待った!」をかけるのは、げっそりやつれた剛腕さんたちであった。



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第二十九話 レイナ、ブルーマスカットにかぶりつく

 結局、剛腕さんたちに懇願されて、私はモンスターハウスを利用することは諦める。

 

(闇雲にダンジョンの中を探し回るより、効率良いと思うんだけどな……)

 

 

 そう思ったけど、それが先輩探索者からのアドバイスなら従っておこう。

 そんな訳で、私はミライの話を聞きながらダンジョンの中を歩いていた。

 

「嘘っ!? ミライちゃん、まだ中学生なの!?」

「はいッス! ぴちぴちの中学生ッスよ~!」

 

 驚くことに、ミライは中学生──私より年下だった。

 小学生はそもそも立ち入り禁止なので、ほぼ最年少レベルの探索者だと言える。

 

 

「ダンジョンイーグルスって人気ギルドなんだよね? ミライちゃん……、実は天才!?」

 

 私がそう聞くと、

 

「それはギルマスが、ミライが持ってたユニークスキルに目をつけたからだな」

「ユニークスキル──努力家。経験値取得効率アップと、スキル開花率アップ……、磨けば磨くほど化けるスキルだ」

「えへへ、そんなに褒められると照れるッスよ!」

 

 剛腕さんたちがそう言い、ミライがによによと笑う。

 

 

"そんな逸材を、鷲は使い潰そうとしてたのか……"

"ユニークスキル、全然活かせてないんだよなあ"

"一瞬で開花させたレイナちゃん凄すぎ!"

 

「偶然ですって!」

 

 コメント欄、適当なこと言わない!

 あとミライは、そんなにキラキラした目で私を見ないで!

 

 

 そんなこんなで私たちは、下層をのんびり進んでいく。

 

"相変わらず進み方がダイナミックすぎて草"

"誰かこの子たちに常識教えてあげてw"

"引率してる剛腕ニキの胃はもうボロボロ"

 

 あ、向こうにモンスターが居る……。

 

(えいっ!)

 

 気配を察知し、私は壁に闘気を叩き込む。

 壁に穴をあけ、ショートカットを開通させたのだ。

 

 

「さすがレイナ様! ダンジョンって、こうやって進むんッスね!」

「うん。ミライちゃんも、レベル500もあればぶち破れるようになると思う!」

「あたい、また賢くなったっス!」

 

"い・つ・も・の"

"なんでこんなに安心感あるんだ……"

"レイナちゃん、レベルいくつあるんだ……"

 

「レベルは、ちょっと前に測ったときは2000ぐらいでした!」

 

"???"

"今、国内で確認されてる最高レベルって800前後だったような?"

"さすがに冗談だよな……?"

 

 困惑するコメント欄。

 

(え、最高レベルで800?)

(なにかの冗談だよね……?)

 

 

 わたしはしがない癒し系ダンチューバー。

 戦闘のことは、戦闘のプロに任せたいところだ。

 

「壁を壊すコツが知りたいッス!」

「うーんと、全部の壁を壊すのは効率が悪いから、最短距離の壁を壊すと良いと思う!」

「なるほどッス! レイナ様、天才ッス!」

 

 どうしよう、この子供めちゃくちゃ可愛い。

 目をキラキラさせてるミライを見ていると、私まで幸せになってくる。

 

"ツッコミ役不在の恐怖"

"ツッコミ役の剛腕ニキなら、画面端でしょんぼりしてるゾ"

"どったのw"

"思いっきりパンチしたのに傷ひとつ付けられなくて落ち込んでる"

"あー……、まあ比較対象が悪い"

 

 

 そんなこんなで私たちは、和気あいあいとダンジョンを2地区ほど探索する。

 

(なるほど~!)

(パーティーを組んで探索っていうのも、楽しいかもしれない……!)

 

 何よりミライの成長が、見ていてとても楽しい。

 ミライのユニークスキルは、どうやら相当に優秀なようで、みるみるレベルが上がっているように思う。

 最終的には私が渡した昏倒したモンスターを、数発で仕留められるまでになっていた。

 

"???"

""成長早すぎて草:

"レイナちゃんとミライちゃん、理想のコンビすぎるw"

"【悲報】ミライちゃん、大概のチート持ちだった"

"この子追い出そうとしてるギルドがあるってマジ?"

 

 

 ちなみに剛腕さんたちにも、今日は効率が段違いだったとにこやかに礼を言われた。

 無茶言って1日振り回してしまったので、そう言ってもらえると私としてもありがたい話である。

 

 

 そうして今日、最後にやることと言えば……、

 

「「よし、ブルー・マスカットを食べにいきましょう!(ッス!)」」

 

"息ピッタリで草"

"この暴走師弟を止めてやってw"

"剛腕ニキ~! 一般人代表、頑張って!"

 

 

※※※

 

 上層に戻ってきた私たちは、ブルーマスカットという果物と再び対面していた。

 

 それは名前のとおり、つやつやと青く輝くマスカットである。

 皮を剥く必要はなく、そのままかぶり付くのがグッド。

 毒があるが、一度口にしてしまえば病み付きになる美味しさを誇っている。

 

 

「いただきます!」

「美味しそうッス~!」

 

"躊躇なく毒にかぶりつくの草"

"そうじゃないとレイナちゃんの弟子は務まらんよ"

"これがレイナちゃん式修行法!(英語)"

"クレイジーすぎる……(英語)"

"ここまでしたからこそ、レイナちゃんは若くして最強の探索者になったんたね!(英語)"

 

 

「お腹が~! 焼けるように痛いッス~~!」

「はい、ポーション。それと……」

「乙女の意地で、絶対にそれは使わないッスよ~! お腹が痛いッス~~!」

 

 ミライ、エチケット袋は断固拒否。

 ……一応、配信には映らないように工夫しておく。

 

 

 ちなみにブルー・マスカット、ほんとにヤバいときは全身が痺れて、すっと意識が消えていく(経験者は語る)

 腹痛で済んでるのは、すでにミライが毒の効力を上回る体力を身に付けている、ということに他ならず……、

 

 

 やがてミライは立ち上がり……、

 

 ヒョイっと次のブルーマスカットを口に運んだ!

 

「こうなったら、毒耐性を身につけるまで帰れま10。やるッスよ!」

「ほえっ? なら、私は……。マナ溜まりを食べれるまで帰れま10を!」

「「地獄みたいな配信やめろ!?」」

 

 叫ぶは剛腕さんたち。

 

 ……こほん、たしかに配信に載せられない絵面になりかねない。

 反省、反省。

 

"耐久配信はじまる?"

"ヤバすぎて草"

"無謀すぎるように見えるけど、レイナちゃんたちなら! レイナちゃんたちなら!"

"¥5000: 《鈴木千佳》この子たちは特殊な訓練を受けています。絶対に真似しないで下さい"

 

 

「あっ! 毒耐性、ようやく身に付いたッス!」

「やった! おめでとう、ミライちゃん」

「やったッス! これで、これで──」

「「美味しいもの(毒)がいっぱい食べれるね!(ッス!)」」

 

 無事目的を達成した私たち。

 ハイタッチして、その喜びを分かち合う。

 

"えぇ……"

"まだ耐性カンストさせる作業が残ってる(白目)

"¥10000: おめでとう~!"

"てぇてぇ?"

"ふたりが"幸せそうなら万事オッケーです"

 

 そんなちょっぴり引いた様子のコメント欄を尻目に。

 本日の配信は、お開きになった。



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第三十話 レイナ、炎上騒動に頭を悩ませる

 翌日の朝。

 目を覚まして動画サイトを見ていた私は、とんでもない切り抜き動画を見つけてしまう。

 

『被害者が暴露! ブラックギルドのとんでもない実態!』

『弱者から搾取し続けるヤバすぎる闇ギルドの実態とは!?』

『有能な若者を食い物にするブラックギルドのいかれた仕組み』

 

 

 人気動画のコーナーには、似たような動画が並んでいる。

 

 最初は、珍しい動画が並んでるなあとしか思わなかった。

 しかしよくよく見ると、どうにも見覚えのある背景が動画に映っていたのだ。

 見覚えある広間──剛腕さんやミライと話をした場所である。

 

 

 気になった私は、動画を開いて中身を確認する。

 

「ミライちゃんの態度が気に食わなかったギルマスが、洗礼をミライちゃんに課してな……」

「あたい、何も悪いことしてないッスよ!」

「ああ、分かってる。あんなのはただの私刑だよ」

 

(こ、これ……。私の配信だ!)

 

"こんなことまでしてたのかよ、鷲"

"今までの死亡事故、まさか意図的だったのか!?"

"内部告発よくやった!"

"あり得ないだろ・・・"

 

(これって……!)

(ダンジョンイーグルスさん、大炎上してるぅぅぅ!?)

 

 思わぬ反応の大きさに、私は真っ青になった。

 

 洗礼。違約金。

 話題になっていたのは、私が昨日の配信で聞いた話である。

 切り抜かれて、みるみるうちに拡散されていたのだ。

 

 

"鷲も年貢の納め時やなあ"

"昔は良かったのに・・・"

"ブラックギルド許すまじ。徹底的に余罪追及しろ!"

 

(ミライちゃんたち、大丈夫かな?)

 

 真っ先に不安になったのは、ミライたちのことだ。

 幸い同情の声はあっても、ギルドに所属するメンバーへの誹謗中傷は見られないけど……。

 

 

 私はすぐさま、ルインでミライたちのグループにチャットを送った。

 昨日の配信後、作成したグループである。

 

「レイナ様! 次の探索はいつ行くッスか?」

 

 一瞬で既読が付き、ミライから即レスが返ってきた。

 その間、わずか3秒。

 

「ミライちゃん、その……。大丈夫?」

「ブルーマスカットごときじゃ、あたいの胃袋はピクリともしないッス! ……え、そうじゃない? なら何の話ッスか?」

 

 ずれた回答を寄越すミライに、私は苦笑する。

 

(ギルドが大炎上して落ち込んでるかと思ったけど)

(大丈夫そうかな?)

 

 むしろ私の方が心配されてしまう始末。

 すっとぼけたミライの顔が見えるようで、ひとまず私は安堵した。

 

 

 続いて書き込んだ剛腕さんたちは、

 

「わっはっはっはっ。我らがギルド、ずいぶんと派手に燃えてるなあ! ざまぁみやがれってもんだ!」

「次々とギルドからの離脱も起きてるって、残った奴らも爆笑してたぞ。これで佐々木も終わりだよ」

「まだだ。未払いの残業代を払ってもらうまで、俺たちの戦いは終わらねえ!」

 

 そんなことを、思い思いに書き込んでいた。

 

(私だけ……!?)

(私が気にし過ぎなの?)

 

 ひとまず私は炎上騒動について話すため、近くのカラオケに集まれないか提案。

 ほどなくして、昨日のメンバーで集まることになった。

 

 

 

※※※

 

 急いで集合場所であるカラオケに向かう私。

 

『その狂気的な笑みは、世界で一番美しい~♪』

『毒も瘴気も何のその~♪ 食べる姿は愛らしい~♪』

『今日も戦場に舞い降りた鮮血天使~♪ その名は~――』

 

(……んんんん?)

 

 3人の楽しそうな合唱。

 しかし不思議と、嫌な予感がするのである。

 

 パタン!

 私が扉を開けて部屋にはいると、イーグルスの3人が固まってこちらを見た。

 

(この人たち、なんかオリジナル音源持ち込んでる!?)

(なになに? 曲名は――レイナちゃんファンクラブテーマソングぅぅぅ!?)

 

 

「いやぁぁぁぁあ!?」

「待つッス! 待つッス! それ(カラオケ機材)壊したら弁償ッスゥゥゥゥ!」

「……はっ――」

 

 なんだね、それは?

 私は、じとーっとした視線を剛腕さんに送る。

 

 

「ふふ。実は我がギルドには、優秀なコンポーザーがいてだな。あのレイナちゃんファンクラブ副会長の軍曹様から、直々にテーマソングの作曲を依頼頂いたのだよ!」

「あの人、何してるの!?」

 

 ドヤ顔の剛腕さんに殺意すら湧く私。

 あと副会長、やっぱり軍曹かい! 次会ったら締め上げる。軍曹に対する好感度が、みるみるうちに下がっていく私である。

 

 

「み、見なかったことにするので速やかに破棄して下さい……」

 

 ぜえ、ぜえ。

 肩をしながらが私はそう言うのだった。

 

 

 閑話休題。

 

「それで、これからどうするかなんですが――」

 

 ドリンクバーをちゅるちゅる飲みながら、私は真面目な顔で口を開く。

 

 さらば、レイナちゃんファンクラブのテーマソング。

 候補は3つあるとか、剛腕さんがプレゼンしたそうだったけど無視。

 私たちは、炎上騒動の真っ只中。

 今日は真面目な話をしにきたのである。

 

「ミライはどうするつもりなんだ?」

 

 剛腕さんが、ミライにそう問いかけた。

 

「俺はあんな泥船、さっさと辞めちまった方が良いと思う」

「その……。私も、そのギルドは辞めた方が良いと思う」

「無茶言わないで欲しいッス。あたいの実力じゃ、とても他のギルドには入れないッスよ……」

 

 多少の炎上は気にせず、ミライはダンジョンイーグルスに残るつもりのようだった。

 

(他のギルドを探さないといけないってことか)

(困った問題だなあ――)

 

 中学生の未熟な探索者を受け入れてくれるギルドが、他にあるか。

 それはたしかに難しい問題に感じられた。

 

 

 そんな重い空気が流れかけたが、

 

「いやいや。時の人が何言ってんの?」

 

 剛腕さんが呆れた目をこちらに向けてきた。

 それから、スマホで動画を見せてくる。

 

 

『【朗報】レイナちゃんの一番弟子、たいがいヤバイ』

『1日でスキルを複数開花させてしまったミライちゃん』

『美味しそうに毒物にかぶりつくミライちゃん&レイナちゃん』

 

「な、な、な、なんッスかこれ~~!?」

 

(これも昨日の配信だ~!?)

 

 ミライが素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 

 イーグルス炎上の陰で「誰だこのヤバ過ぎる新人は!?」と、随分とミライも話題になっていたらしい。

 不本意な形で有名にしてしまったかも、と私は申し訳なくなる。

 

「ミライちゃん、その……ごめんなさい」

「へ? なんのことッスか?」

「だって私が配信に映したせいで、こんな変な風に話題になっちゃって。そもそも、ダンジョンイーグルスの炎上も、私が原因だよね……」

 

 たしかにダンジョンイーグルスがしたことは許されない。

 だけども、あまりの騒ぎの大きさに、私はパニックに陥りそうだった。

 

 

「――レイナ様」

 

 そんな私に、ミライが言う。

 

「レイナ様は、あたいにとっては英雄で──救世主ッスよ。レイナ様がいなかったら、あたいはあのままブルーマスカットを食べて……。そのまま死んでたかもしれないッス」

「いや、そうならんように俺らが止めたんだがな」

 

 ぼそりと突っ込む剛腕さん。

 

「ミライちゃん――」

「イーグルスの炎上は、これまでのツケが回ってきただけッスよ。レイナ様が気にすることは、一切ないッスよ」

「そう……なのかな──」

「その通りだ。利用する形になっちまって、本当に申し訳なかった!」

 

 いまだに反応に困っている私に、剛腕さんがそう頭を下げてきた。

 

 ──大手ギルドを相手取った内部告発。

 生半可なものでは、簡単に握りつぶされて終わり。

 大きな騒ぎになるように、大規模にやる必要があった。

 今回のことは、またとない機会だった。利用した俺たちが全て悪い――そう剛腕さんは言いきった。

 

 結果、大炎上。

 それは剛腕さんたちにとっては、狙い通り。

 その責任は、仕掛けた俺たちにある。

 そもそもがダンジョンイーグルスの身から出た錆。

 

 少なくとも私は、気にする必要ない。

 剛腕さんは、そう言いきったのだ。

 

 

「レイナ様! また探索、行きたいッス!」

「うん! 次も美味しいもの食べようね!」

「「中層までで! 中層まででお願いします!」」

 

 そんなやり取りを最後に。

 その日は、それでお開きになった。

 

 

 

(気にしなくても良い、かあ)

(だとしてもなあ――)

 

 帰り道。

 

 ふと思い出したのは、千佳のサイトを何の気なしに紹介した翌日のことだ。

 影響力に無頓着すぎると、千佳に怒られたっけ。

 

(そうだ。千佳にも電話してみよ――)

 

「千佳ぁ……」

「どったん、そんな消え入りそうな声で」

 

 千佳の様子は、どこまでも普段通り。

 その声は、こんなときにはひどく頼もしい。

 

 思ったより大きくなってしまった騒動。

 ──気がつけば私は、千佳に胸のモヤモヤを話していた。

 

 対する千佳の答えは……、

 

「レイナは何も気にせんでええ」

 

 そんな、あやすような言葉。

 

「でも……」

「それとも。あのまま放っておいた方がよかったって、レイナはそう思ってるんか?」

「それは……。ううん、そんな訳ない」

「やろ? なら、それが答えや」

 

 千佳は、キッパリとそう言い切る。

 

「レイナはな。未来ある1人の女の子を、ろくでもない集団から救ったんや。そうやろ?」

「……うん。そうなのかな」

「そうなんや。今回起きたのは、それだけのことや。だからレイナは何も気にせんでええ。だいたい起きたことより、今をどうするかが大事――そうやろ?」

 

 珍しく、言葉を選んでいそうな千佳の言葉。

 だけどもそれは、今、私がするべきことを的確に言い表しているようでもあり。

 

 

(……うん。起きちゃったことを悔やむなんて、私らしくもないか)

(ミライちゃんのことは、もし過去に戻れたとしてもきっと私は同じことをする。だったら──)

 

 まずやるべきは、ミライのトレーニングだろうか。

 とりあえずミライの凄さを、食材さんを通じてアピールするのだ。

 目指すは、ミライの超優良ギルド入り!

 

 

 そんな決意をしながら、私は自宅に戻るのだった。



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第三十一話 レイナ、ファンクラブを公式のものにしてしまう!

 翌日の学校にて。

 私――彩音レイナは、歩いていた権藤(ごんどう)(つよし)──軍曹──を見かけて呼び止める。

 ちょっとばかり、聞きたいことがあったからだ。

 

「軍曹!」

「レイナ様!?」

 

(様って、なに……!?)

 

 向けられる眼差しが、不思議とミライからのそれに近しい。

 ただミライと違って、軍曹は30を超えるいかついおっさんなのである。

 まったくもって可愛くない。

 

 

「軍曹! 例のファンクラブ、学外まで広まってるみたいなんですが!?」

「ふっふっふ。レイナ様。私、やりましたよ。不肖、権藤剛――このたび関東支部の副会長に就任しました!」

「冗談ですよね!?」

 

 関東……。関東って何!?

 そんな自慢げにサムズアップしないで!

 まるで全国規模に、すでに例のファンクラブが広まっているみたいな恐ろしい言い方……。

 

 そっと現実逃避。

 思わず視線を逸らした先で、私は――

 

「あ、千佳!」

 

 千佳を見つけて、思わず呼び止める。

 

「レイナ……? どったん、また呼び出し?」

「千佳の中で、私はどう思われてるの――」

「え? 学内一の問題児」

 

 あながち間違っていないのが大変遺憾なのである。

 

 

「おお、鈴木も良いところに。ちょっと例の件で相談が――」

「テーマソングの件やな。楽しみやなあ」

「……ちょ~っと、話を聞かせてもらいましょうか!!?」

 

 不穏な声が聞こえてきて。

 私は、軍曹と千佳の後を追いかけるのであった。

 

 

 

※※※

 

 数分後。

 私は、職員室で燃え尽きていた。

 

「千佳ぁ。なんで、そんな――」

 

 黒幕は身近なところに居た。

 

 ファンクラブ会長――その名は鈴木千佳。

 敵は、身近な場所にいたのである!

 

「ごめんて! こんなに大規模な組織に育つと思ってなかったんや」

「よし! マネージャー権限で、すぐに解散させよ?」

「何人会員がいると思っとるんや!? そんなことしたら、暴動が起きるで――」

「いや、本当に何人居るんですかね…………」

 

 引きつった笑みを浮かべる私。

 千佳は「頃合いを見て公式からも許可を出す予定や」と言った。

 諦め半分といったところだろうか。

 

 

(変な人がリーダーになったら、暴走する可能性がある)

(それなら最初から身内で手綱を握ったほうが良い、かあ――)

 

 千佳は、やけにスラスラと理由を話す。

 まるで何度も練習していたかのような、実に鮮やかな弁明である。

 

「……で、本音は?」

「こんな楽しそうなこと、噛まなきゃ損やな!」

「デスヨネ!」

 

 つやつやした顔の千佳。

 

(楽しんでた!)

(絶対に、楽しんでただけだよね!?)

 

 

 はぁと私はため息をつく。

 実際、千佳に任せておけば大丈夫だとは思うけど……。

 

「それじゃあ、テーマソング聞いてみるで!」

「はい! 会合の奴らイチオシのテーマソングで、素晴らしい仕上がりになってます!」

「おぉぉおおおおお! レイナのにっこりスマイルが、これ以上なく盛り込まれとるな!!」

「てことは全没ですね!!」

 

 大丈夫かなぁ……。

 

 

 実際のところ今回の炎上騒動で、ファンクラブが果たした役割は大きい。

 千佳が打ち出した方針は静観。ダンジョンイーグルスには、然るべき制裁が下る――だから他所様に迷惑かけることはしないで欲しいというお願い。

 深層封鎖の件で暴徒化しそうな者も一定数居たらしいが、それにより思いとどまる者は多かったらしい。

 

(ほえぇ……)

 

 なんとも現実味のない話である。

 ぽけーっと口を開けている私を見て、千佳が、

 

「レイナ、どうしてもファンクラブが嫌っていうなら他の方針も考えてみるけど――」

「ううん、大丈夫。食材さんたちを悲しませるようなことはしないよ」

「よしっ!」

 

(……あれ?)

(なんかうまく乗せられた気がする!?)

 

 数日後。

 非公認ファンクラブは、めでたく公認のものとなった。

 

 

 

※※※

 

《SIDE:千佳》

 

 研究所、兼、自宅にて。

 

「うへぇ……」

 

 少女――鈴木千佳は、かかってきた面倒な電話に顔をしかめる。

 相手は五十嵐(いがらし)貴臣(たかひと)――偶然知り合ったダンジョン庁の人間である。

 

 いつも飄々としている掴みどころがない人間だ。

 正直、胡散臭い。今は利害関係が一致しているため協力関係にあるが、決して心を許せる相手ではない――千佳は、そう考えていた。

 

 

「何の用や? 今日はもう閉店や」

「そう邪険にしないでよ。僕とキミの仲じゃないか」

「……切るで」

「わわ、待ってよ!」

 

 本気で電源を落とそうとする千佳に、五十嵐が慌てて声を出す。

 

「ウチは忙しいんや。要件は手短に頼むで」

「なら単刀直入に――そろそろギルドを立ち上げる決意はついたかい?」

「……切るで?」

 

 その件なら、何度も断っただろうに。

 

「あの子を、そんな面倒事に関わらせるつもりはない。最初から言ってるやろ」

「よく言うよ。裏であんなえぐい仕掛けしておいて」

「……なんのことや?」

 

 偶々レイナが潜った先に、イーグルスの面々が居ただけだ。

 その人たちが、偶々、レイナの配信で暴露した。

 ただ、それだけのことだ。

 

 

「まあ良いけどね。ダンジョン界には、新たな風が必要だ。我が国は、ダンジョン後進国のまま甘んじている訳にはいかない――そのためにも、まずは(うみ)は出し切る必要があると思うんだ」

「それには同意やな。そうやな……、まずは面倒な電話かけてくる胡散臭い人間とかやな」

「おまえなあ……」

 

 苦笑する声。

 

 

「何度も言うが、ウチはあの子を面倒事の矢面に立たせるつもりはないで」

「君は……、あの子に意志を聞いたのかい?」

「それは――」

 

 頼み込めば、それどころか話題にするだけでも。

 きっとレイナは、無邪気な笑顔で引き受けてくれると思う。

 レイナは良い子だから――だからこそ、重荷になるようなことはしたくないと千佳は願う。

 

 

「まあ、僕としては今回の騒動を利用させてもらうけどね」

 

 飄々と言うは五十嵐。

 彼は、ダンジョン庁に蔓延る悪しき風潮――特定のギルドと癒着し、言いなりになっている現状――を。

 千佳は、レイナを敵視している邪魔なギルドを。

 この機に、一気に叩き潰すつもりなのだ。

 

 共通の敵を前に、今は利害関係が一致しているけれど――

 

 

「どうぞご自由に。だけど、もしあの子を利用しようとするなら――」

「怖っ。日本一の探索者に喧嘩は売らないって……」

 

 こわい、こわい、と男は飄々とした口調で繰り返す。

 やっぱり信用ならない相手だ。

 

 

「新体制には君も協力して欲しいな。この国を一端のダンジョン大国に――君たちのように優れた人間が、我が国には必要なんだよ」

 

 そう言い残し。

 五十嵐は、電話を切るのだった。

 

 

 ――はあ、レイナのな~んも考えてないすっとぼけた顔が恋しい。

 千佳は大きくため息をつく。

 あれは癒やしだ。

 見ているだけでモリモリとHPが回復する良いものだ。

 

 ……その笑顔を失わすことのないように。

 今日も、やるべきことをやるのだ。

 

 

(仮にギルドを立ち上げるとして……、何が必要になるんやろ?)

 

 そうして千佳は、調べ物に没頭するのであった。



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第三十二話 コラボ配信(1)〜ゆきのん&ミライ〜

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

「自称、レイナ様の一番弟子。今日も元気だけが取り柄の神田ミライッス~!」

「作戦会議室からマイクを持ってこんにちは! 望月雪乃です!」

 

 今日は久々のコラボ配信だ。

 ダンジョン中層に集まった私たちは、リスナーさんにそう元気に挨拶する。

 

 ちなみに最近は、配信頻度を高めていた。

 ミライの件もあり、毎日ダンジョンに潜っているからだ。

 

 

"レイナちゃんは今日も可愛いなあ"

"間違いなくミライちゃんは、レイナちゃんの弟子だよ・・・(遠い目)"

"ひとりの女の子が人間をやめるまでを観察できる配信はここだけ!"

"なになに? なにが始まるんだい?(英語)"

 

「えーっと、ミライちゃん……。宝箱を見つけたら、どう対処しますか?」

「はいッス! 全力で粉砕して中身を取り出すッス!」

 

 ゆきのんの質問に、ミライが曇りなき(まなこ)でそう返す。

 

「気がついたらレイナちゃんみたいな子が増えていてびっくりしています。どうしましょう!?」

 

 

"コントかなw"

"頑張れ常識人枠・・・"

"常識人といえば剛腕ニキたちは?"

 

"剛腕ニキならリスナーとして元気にしてるよ"

"《不死殺し》こんなおっかねえコラボに参加させられてたまるか!"

"ちゃんと見守ってて草"

 

 

「レイナちゃん……」

 

 もの言いたげな視線。

 私は、そっと目を逸らす。

 

(いやあ。弟子は、背中を見て育つとは言うけれど……)

(そんなところ真似ないで良いんだよ!?)

 

 今日の配信の目的は――

 

「「よろしくお願いします、先生!」」

「2人とも可愛い~~!! ……けど、まるで私に勤まる気がしない!」

 

 ずばりミライに、ダンジョン探索の基礎を教えること。

 その適任は私の知る限り、ゆきのんをおいて他にはいないと思ったのだ。

 

"ゆきのんまで人間卒業すると聞いて"

"珍しいメンバーだね。今日は何を食べるの?(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ノー、今日の目的は料理ではありません。ダンジョン探索の基礎を学ぶことです"

"レイナちゃんが、そんなまどろっこしいことする訳ないだろ! いい加減にしろ!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

"ノルマ達成w"

 

 

 

※※※

 

「私なんかに、2人に教えられることがあるとは思えないけど……」

 

 ゆきのんは、そう自信なさげに呟く。

 下層にソロで潜る探索者に、何を教えれば? とその顔に書いてあった。

 

「私たちの探索を見ていて、気になったところがあれば――」

 

 遠慮なくビシバシ言って欲しい、と伝える私。

 そうして私たちは、ダンジョン中層に潜るのだった。

 

 

 潜り始めて僅か5分後のこと。

 

「そのお肉をレイナ様に献上するッスよ~!!」

 

 モンスターを見つけたミライは……、

 颯爽とパーティーを飛び出し、追い回し始めた!

 

 やべえやつに出会ってしまった、とモンスターは逃げていく。

 その光景は、もはや狩り。ダンジョンに住むモンスターにとっては、とんだ災難である。

 

「ミライちゃん、あまり離れすぎないでね!」

「はいッス! …………!?!?」

 

 こちらを見て、ぶんぶん手を振るミライ。

 しかし次の瞬間、ダンジョンの罠――落とし穴にはまって姿を消す。

 

"え? やばいって、やばいって!"

"あの落とし穴、運が悪いと棘地獄に突き刺されて一撃死もあるっていう……"

"中層での死亡率不動の1位だからなあれ・・・"

 

「ぎゃ~! なんかいっぱいトゲが生えてるッス~!!」

「待っててミライちゃん。今、引き上げるね」

 

"トゲ生えてるってマジで棘地獄やんけ!"

"すっごい元気そうw"

 

 私は、ミライちゃんを卑劣な罠から救い出す。

 上からロープを投げて、ミライちゃんを落とし穴から救い出すのだ。

 

「あのトゲ、ポキポキ折れるッスね」

「でもそれ、食べられないんだよね……」

「じゃあゴミっすね」

「うん」

 

 そう頷き合う私たちを見て、

 

 

「う~ん、0点!」

 

 ゆきのんが頭を抱えていた。

 

"罠が怖いです。どうすれば良いですか? A レベルを上げましょう"

"モンスターが強いです。どうすれば良いですか? A レベルを上げましょう"

"レベルを上げて物理で・・・"

"ミライちゃん今レベルいくつなんだろう?"

 

 

「ミライちゃん。とりあえずダンジョンの中は、おさない。かけない。しゃべらない」

「はいッス。おさない。かけない。しゃべらない……」

 

 その後、ゆきのんからは真面目な顔でお説教された。

 

"おかし!"

"小学生かなw"

"あれってダンジョン探索の標語だったのか・・・(困惑)"

"しゃべらない配信者 #とは"

 

 

「レイナちゃんは、例外中の例外だよ。普通の人が真似たら死ぬからね」

「はいッス……」

「レイナちゃんもレイナちゃん! 弟子が無茶してたら、止めないと!」

「はい、ゆきのん師匠! ……でもあれぐらいなら、無茶ってほどでは――」

「良・い・で・す・ね!?」

 

"圧w"

"ゆきのん大変そう"

"ミライちゃんも、たいがい普通の人ではないw"

"実際、レイナちゃん真似する馬鹿が出ないように釘さすのは大事"

 

 

 それからは、ゆきのんが先導してダンジョンを歩く形になった。

 

 宝箱を見つけたときの対処法。

 トラップがないか警戒しながら、ダンジョンを歩く方法論。

 初見のモンスターと出会ったときの、観察方法まで。

 

 

「えへへ、あたいまた賢くなったッス!」

「60点! ぎりぎり合格!」

「やったッス~!」

 

「ゆきのん先生! 私は、私は?」

「0点! いや……、どんな敵でも何かさせる前に倒せるなら、先手必勝は100点?」

 

"ゆきのん~!? しっかりしてw"

"レイナちゃんの常識が、ゆきのんを侵食してるw"

"まあレイナちゃんのやり方も正解なんだよな。誰も真似できないってだけで・・・"

 

 お、おかしい!

 なぜだかミライの方が、ぐんぐん成長してる気がする。

 このままでは、師匠としての威厳が――!

 

 

 そんな謎の焦りを持つ私の前にトコトコ歩いてきて、ミライは一言。

 

「そういえばレイナ様。いつギルド、立ち上げるッスか?」

 

 

 ――無邪気な顔で、そんな爆弾を落とすのだった。



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第三十三話 コラボ配信(2)

「ほえ? ギルドの立ち上げ!?」

 

 ミライからの思わぬ問いかけに、私は目を白黒させる。

 

 ――私が、ギルドを立ち上げてしまうという発想。

 考えたこともなかった話である。

 

 

(ん……?)

(もしかして名案なんじゃ!)

 

 私が頭を悩ませていたのは、ミライが、どのギルドに入るかだ。

 ダンジョンイーグルスを辞めた後も、つつがなく探索者を続けてもらうためだ。

 少しでも良いギルドに入れればと考えて、少々根を詰めてトレーニングをしていた訳だけど……、

 

 

(万が一、行き先が見つからなかった場合)

(私がギルドを作って、ミライを迎え入れれば良いのでは!)

 

「ミライちゃん、名案だよ!」

「な、何がッスか!?」

「決めた! 私、ギルド作る!」

 

"!?"

"ガタッ!"

"ノリと勢いだけでとんでもない情報が出てきた!?"

"すぐにウチの本部に連絡だ!! 急げ!"

 

 何やらコメント欄が騒然としている。

 

"新規メンバーは募集してますか!?"

"↑↑気が早いw"

"生半可なことじゃAIに追い返されそう"

 

 

「もし良いギルドが見つからなかったら、一緒にギルド組もう?」

 

 私がミライにそう声をかけると、

 

「感激ッス! あたいは、絶対にレイナ様のギルドに入りたいッス!」

「え? まだ生まれてもない弱小ギルドなのに。良いの?」

「むしろ、その流れで捨てられたら泣いちゃうッスよ……」

 

 ミライが、捨てられた子犬のような目で私を見た。

 可愛い。

 

「ギルドって、どうやって作るんだろう?」

「気合いッスね!」

「ミライちゃん、世の中には気合じゃどうにもならないこともあるんだよ?」

 

 たとえば確定申告の書類(年に一度の悪魔)とか。

 

"おまいうw"

"鑑見てどうぞ"

"《鈴木 千佳》……ぇ?"

"《鈴木 千佳》いきなり、とんでもない爆弾ぶっこまないで~!?"

"《鈴木 千佳》レイナ! とりあえず後でうちに集合!"

"呼び出しw"

"マネちゃん苦労人すぎる・・・"

 

「ど、どうしましょう!? ただのコラボ配信のつもりが、突如として業界を揺るがしかねない爆弾を叩き込まれて驚きを隠しきれません!」

 

 場を盛り上げるためか、ゆきのんはそんなことを言う。

 実に演技派なのである。

 

 

"なになに。何が起きてるの!?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》レイナちゃん、ギルド立ち上げるらしいよ(英語)"

"レイナちゃんがそんな面倒なことするはずがないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

 

"いや、待て。何やら食材ニキたちの様子が…………(英語)"

"まさか、マジなのか!?(英語)"

"アカン。これ、日本の勢力図が変わる――はよギルマスに伝えないと(英語)"

"《英検1級はクソゲー》なんでわいの言葉より、読めないコメントのが信憑性高いんや(´;ω;`)"

 

 

 盛り上げるコメント欄を余所に、私はミライとわいわい盛り上がる。

 

「私、ギルドを立ち上げたらみんなと一緒に美味しいものを食べるんだ!」

「それなら毒耐性は必須ッスね!」

「それと深層料理にもリベンジしたい! ギルド単位ならライセンスもらえるかな?」

「気合いでもらうッス! あたいも深層潜ってみたいッス!」

「なら深層にソロで潜れることも条件? それと、それと――」

 

 語り合うは美味しい夢。

 ノリは、文化祭前日のテンションに等しい。

 

 

「どうしましょう!? ギルドの募集要項が人間やめてて誰も入れる気がしません!?」

「「大丈夫(ッスよ)!」

「その心は?」

「「気合い!」」

 

"ツッコミ役不在の恐怖"

"違うぞ。ツッコミ役を置き去りにしてるんだぞ"

"剛腕ニキ~! 出番だぞ~!!"

 

"《不死殺し》レイナちゃんは可愛いなあ(遠い目)"

"だめだ、魂が抜けてやがるw"

"「この拳は、アンデットすら貫く!」って一時期は鷲でトップ争いしてたはずの剛腕ニキが――"

"《不死殺し》人の黒歴史ほじくり返すのはやめて頂けませんかね?"

 

 

 

「……っと、無駄話してる場合じゃなかった。ゆきのん先生、続きをお願いします!」

「お願いしますッス!」

「………………え? この流れで、続きやるの!?」

 

"ここまで慌てるゆきのんを見れるのは、この配信だけ!"

"ゆきのん、シャイニースターズだとどちらかというと振り回す側なのにw"

"この暴走師弟を止めれるのは、ゆきのんしかいない!"

 

「無茶言わないで下さい!? 剛腕さん、カムバック~!」

 

"《不死殺し》うちの子をお願いします"

"《鈴木 千佳》うちの子のこともお願いします"

"保護者たちの胃はもうボロボロ"

 

 ゆきのんは、一瞬遠い目になったが、

 

 

「分かりました。やってやりますよ!!」

 

 不意に気合いを入れ直し、私たちを先導して歩き始めるのだった。

 

 

(はえー。探索者としての心得かあ)

(私が教えるのは、やっぱり無理だなあ――)

 

 ゆきのんの教え方は、やっぱり上手い。

 

「あそこに罠が見えるね。……どうする?」

「はいッス! さっさと回れ右。次の道を探すッス!」

「うんうん、安全第一だよね。80点!」

 

"レイナちゃん直伝のチート性能と、ゆきのん直伝の知識が合わさり最強に見える"

"罠は回避するものだと覚えたミライちゃん!"

"鷲は今まで何してたの・・・"

"《不死殺し》我々イーグルスは、有能な新人を荷物持ち兼雑用係としてこき使っておりました。大変、大変、申し訳ございません・・・"

 

 

「じゃあ、レイナちゃんは?」

「はい! 私なら、とりあえず踏んでみます!」

「なんで!?」

「だってまだ見ぬ美味しい食材が取れるかもしれないじゃないですか!」

「う~ん、0点!」

 

"なんでや!"

"ミライちゃんが、お手本示したのにw"

"オチ担当みたいになってる・・・"

 

 

「あ。そういえば、罠は正面突破した方が、レベルは上がりやすいみたいですね」

 

 ふと私は、思い出したことを口に出す。

 

"草"

"ファッ!?"

"レイナちゃん式トレーニング来たw"

 

"なになに? レイナちゃん何て言ってたの?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》罠は全部踏み抜いた方が経験値効率が良いらしい(英語)"

"レイナちゃんが経験値に興味持つわけないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

 まあ、確固たる証拠はない。

 あくまで千佳の家でレベルを測ったときの経験則である。

 

"《鈴木 千佳》えー。うちの子が何か言ってますが、レベルが2000超えるまでは真似しないで下さい"

"教育の敗北"

"レイナちゃんは可愛いなあ"

 

 その後も相変わらず、私は0点を連発し。

 一方のミライは、すくすくと探索者としての常識力も伸ばしていく。

 

 

 数時間ほどの配信。

 久々のコラボは、コメントの盛り上がり的に大成功と言えるだろう。

 最後は打ち上げでブルー・マスカットを食べ(※ゆきのんは持ち込んだマスカットジュース)て、今日の配信はお開きとなった。




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第三十四話《掲示板》【それゆけ】史上最強の幼女、レイナちゃんについて語るスレ【レイナちゃん】

【それゆけ】史上最強の幼女、レイナちゃんについて語るスレ. 237【レイナちゃん】

 

137: 名無しの食材

鷲のやつら、結局どうするつもりなんだろうなあ……

 

145: 名無しの食材

派手に燃えてるねえ

まあ残当というか、今までよく表に出てこなかったというか

 

154: 名無しの食材

ここぞとばかりに、身内からどんどん綻び出てくるのは草なのよ

 

173: 名無しの食材

個人勢に嫉妬して仕掛けたダンジョンイーグルス

一方のレイナちゃん、気にもかけてないの笑っちゃった

 

177: 名無しの食材

>>173

レイナちゃんは美味しいもの食べてれば幸せなので……

 

189: 名無しの食材

モンスターくん「やめて!?」

 

202: 名無しの食材

でもレイナちゃん、ミライちゃんの件ではブチギレてたな

鷲のやってること、えげつなさすぎるからな実際

 

217: 名無しの食材

洗礼だっけ?

死者が出てるなら、遠回しな殺人やぞ

警察動いても可笑しくない

 

232: 名無しの食材

てより被害者の会が訴訟の準備してる

鷲はもう終わりやな

 

256: 名無しの食材

まあまあ、ギスギスはここには持ち込まんどいてや

レイナちゃん随分気を遣ってそうだったからね

 

269: 名無しの食材

鷲なんて燃えるがままに燃やしとけば良いのよ

炎上させたこと気にしてるの天使すぎか?

 

278: 名無しの食材

>>269

鮮血の?

 

286: 名無しの食材

>>278

捕食者やぞ

 

 

 

 やがてレイナの配信が始まる――

 その日、始まったのはレイナ・ミライ・ゆきのんによるコラボ配信だった。

 

【人間】史上最強の幼女、レイナちゃんについて語るスレ. 239【やめてみた】

 

342: 名無しの食材

人間卒業配信はじまったw

 

356: 名無しの食材

この師弟好き

 

367: 名無しの食材

ミライちゃん、すっかり配信慣れしてきたなw

 

382: 名無しの食材

育ち方がバケモノすぎるのよ・・・

 

413: 名無しの食材

脳筋x脳筋=最強

 

443: 名無しの食材

でも探索者としての技量足りないと危なくないか?

レイナちゃんの真似してたら、そう遠くない将来死ぬと思う・・・

 

467: 名無しの食材

>>443

マネちゃんからも同じツッコミされた

だからこそ、このコラボが実現したんやで

 

483: 名無しの食材

ゆきのん久しぶり!

 

492: 名無しの食材

てぇてぇ

 

514: 名無しの食材

めっちゃ困ってるw

 

532: 名無しの食材

困ってるゆきのんprpr

 

553: 名無しの食材

【悲報】レイナちゃん、何も成長してない

 

562: 名無しの食材

>>553

ちゃうぞ

採点基準がレイナちゃんに追いついてないんや

 

577: 名無しの食材

レイナちゃんにとっては、レイナちゃん式探索法が最適なので・・・

パンピーが真似ると死ねるってだけで

 

585: 名無しの食材

ミライちゃん、着々と成長してて可愛い

 

613: 名無しの食材

でも本人、レイナちゃんをキラキラした目で見てるのよな

めちゃくちゃ真似したそうw

 

627: 名無しの食材

ゆきのんに教わって、って言えるレイナちゃん偉い

普通なら自分のやり方にプライドあるから、そんなこと言えないと思うのよね

ぐう天使

 

631: 名無しの食材

レイナちゃん、これぐらい強くないと、こうやったら死ぬってお手本示してるのかな?

反面教師から学んで欲しい、って遠回しな気遣い?

 

642: 名無しの食材

>>627 >>631

間違いなくそんなこと考えてないと思うw

 

 

832: 名無しの食材

ミ・ラ・イ・ち・ゃ・んww

 

856: 名無しの食材

ギルド立ち上げwwwwww

いきなりぶっこんできて草

 

897: 名無しの食材

【朗報】レイナちゃん、ノリノリ

 

912: 名無しの食材

2人とも楽しそうで見てるこっちまで幸せや

なお話してる内容

 

919: 名無しの食材

ゆきのん笑顔のまま凍ってるw

 

931: 名無しの食材

いや、実際ダンジョン界に激震走ったでしょw

わいらでも入れるのかな?

 

944: 名無しの食材

間違いなくトップギルドになるだろうからな

どうにか繋がり作りたいけど・・・

 

977: 名無しの食材

入団条件www

……とりあえずブルー・マスカットから始めるか

 

994: 名無しの食材

>>977

はやまるなw

 

 

【最強師弟】史上最強の幼女、レイナちゃんについて語るスレ. 240【暴走中】

1: 名無しの食材

ギルド名 ?

ギルドメンバー レイナちゃん、ミライちゃん

入団条件 毒耐性スキル完備、深層ソロで潜れること

他に出た情報ある?

 

3: 名無しの食材

>>1

おつん

ギルド情報、まとめるのねw

 

11: 名無しの食材

わいは今、伝説に立ち会ってる気がする

 

23: 名無しの食材

>>1

活動方針

美味しいものを食べること

レイナちゃんらしいけど募集要項毒耐性な時点で嫌な予感しかしないw

 

31: 名無しの食材

マネちゃん降臨www

 

41: 名無しの食材

演技じゃなくて、ガチのアドリブだったの!?

 

53: 名無しの食材

てっきり、そういうフリの告知だと思ってたw

 

62: 名無しの食材

あの反応はガチっぽいw

マネちゃんの胃はもうボロボロ

 

74: 名無しの食材

レイナちゃんギルマスになっても、実態はマネちゃんが仕切ることになりそう

未成年でもギルドって立ち上げられるんだっけ?

 

77: 名無しの食材

原則駄目だったような・・・?

レイナちゃんが規格外すぎて法律が息してない・・・

 

87: 名無しの食材

レイナちゃんのギルド入りたいです・・・

何すれば良いですか?

 

97: 名無しの食材

>>87

とりあえず人間やめてから考えよ?

 

101: 名無しの食材

>>87

人間をやめる

 

117: 名無しの食材

>>97 >>101

そこ被るのは草

 

133: 名無しの食材

SSS レイナちゃん

S アルテマ・メモリーズ、ただしイケメンは通さない

A 双翼の天使、筋肉バスターズ

B ブラック・バインダーズ

F ダンジョンイーグルス

 

141: 名無しの食材

>>133

鷲はもはや場違いやで

 

148: 名無しの食材

>>133

イケメン絶許集団、ちょっと上方修正入ってて草

 

154: 名無しの食材

>>148

鷲の非道に憤って、声明出してたしな

違約金も肩代わりするって言ってるし、鷲から戦力どんどん引っこ抜いてる

 

173: 名無しの食材

レイナちゃんのギルド、育たないかも

入団条件が人間バイバイすぎる

 

184: 名無しの食材

まあマネちゃんに期待やな

暴走レイナちゃんを止められるのはマネちゃんだけ!

 

193: 名無しの食材

新ギルド楽しみ

 

202: 名無しの食材

仮に加入者全員がレイナちゃんみたいな女の子だったら・・・

 

211: 名無しの食材

ミライちゃん「一番弟子はあたいッス!」

 

224: 名無しの食材

>>202

アカン

すべてのダンジョンモンスターが喰われてまう・・・

 

 

 

 レイナのギルド立ち上げ宣言。

 コラボ配信で突如として落とされた爆弾に、スレはその話題一色であった。

 ――新たな爆弾が、ダンジョンイーグルスにより落とされるまでは。

 

【求】史上最強の幼女、レイナちゃんについて語るスレ. 242【グルメハンター】

537: 名無しの食材

>>524

オーラまとえるようになってから出直して?

 

552: 名無しの食材

あのユニークスキル、レイナちゃんと相性良すぎるよ

うらやましい

 

561: 名無しの食材

普通はモンスターなんて喰わないのよ・・・

 

588: 名無しの食材

【悲報】ダンジョンイーグルス、最前線攻略に乗り出す

焦った佐々木が暴走して、大規模な攻略作戦を断行する気らしい

 

594: 名無しの食材

>>588

ふぁっ!?

 

602: 名無しの食材

手の込んだ自殺やん

 

613: 名無しの食材

炎上してあちこちから叩かれてるからなあ

セットでダンジョン庁にもヘイト向いとるし……

上からつつかれたんかしら

 

622: 名無しの食材

鷲の中心メンバー、ほぼ抜けとるやろ

他ギルドも手を貸すとは思えんし、成功するわけないやん

 

634: 名無しの食材

いや、レイナちゃんたちのギルドがヘルプで入るらしい

 

644: 名無しの食材

>>634

は? なんで?

そんな義理ないやん

 

652: 名無しの食材

>>634

何か弱みでも握られとるんか?

鷲、許せねえ・・・

 

661: 名無しの食材

>>652

ミライちゃんが言い出したらしい

良くしてもらった人もいるから、見殺しにはできないって

鷲の奴らなんて放っておいても良いだろうになあ……

 

674: 名無しの食材

ならレイナちゃんは、弟子のために一肌脱ごうって感じ?

鷲は土下座で感謝して

 

691: 名無しの食材

いやいや、どちらにせよ無謀すぎや

いくらレイナちゃんでも荷が重すぎるし、どうにかして止めたいけど……

 

706: 名無しの食材

佐々木にもう理性は残ってないんや・・・

 

734: 名無しの食材

案外レイナちゃんなら、最前線のフロアボスもむしゃむしゃ食べて終わりそう




三章が思ったより長くなってしまったので、ここで章を区切ります。
次章は、ちょっと短くなるかも?


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第四章
第三十五話 レイナ、お説教される


「レイナ、正座!」

「ハイッ!」

 

 コラボ配信の翌日。

 もとい終わった直後に、千佳から鬼電があった。

 

 呼び出された先で待っていたのは、千佳からのお説教。

 

 

「何かやるときは、ウチに相談してってあれほど!」

「ごめん。でもミライちゃんに聞かれて、つい――」

「ミライちゃんにも、後でお説教やな……」

 

 なぜだろう。

 返事だけは元気なミライの姿が、容易に想像できた。

 

 

「まあ、そこはレイナの良いところではあるんやけどな。ウチにも心の準備ってもんが――」

 

 そう言う千佳からは、哀愁が漂っていた。

 返す言葉もない。

 

「はあ。ウチがギルド作るかどうか、どれだけ悩んだことか……」

「え?」

「何でもない。そうやな、もしギルド作るなら――」

 

 それから千佳は、いくつか決めるべきことを提示してきた。

 

 まるでこの状況すら予想していたかのように、やけに準備が良い。

 さすがは千佳である。

 

 

「まず決めるべきはギルド名やな。ギルドの顔とも呼べる重要なものや。それから――」

 

 ギルドは、公約を掲げる必要があるらしい。

 同じ(こころざし)を持つ者が集まった互助会。

 ギルドが目指すべき最終的な姿を共有するため、重要な部分らしい。

 

 

「はいはい! ギルド名はダンジョンイーターズ。公約は……、世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くすこと!」

「レイナ。とりあえず、その響きは不吉だから止めとこな?」

 

 それから千佳は、説明を続けていく。

 

「へ? メンバーって、5人も必要なの?」

「5人"しか"や……。レイナが配信でポロっとしてから、応募が止まらんくてな――」

 

 なんせ私は、基本ソロで潜っていた探索者。

 当然、心当たりなどあるはずもなく。

 

(身内で細々とやっていこうと思っていたのに……)

 

 

「えっと。私とミライちゃんと千佳と……、剛腕さんたちでちょうど5人!」

「サラッとウチを入れるんやな――」

「駄目?」

「そりゃあ、許されるなら入りたいで? でも――」

「じゃあ決まり! 千佳がいない生活なんて想像もできないしね……」

 

 マネージャーが優秀すぎて、すっかり駄目人間にされている私である。

 

 

「世界有数のギルドに育つのが確実なギルドへの入団を、そんな気楽に決めちゃって――」

「へ?」

「レイナはもっと自分の価値を認識するべき、って話やな」

 

 出されたマスカットゼリーをぺろりと食べる私を見て、千佳はハアとため息をついた。

 

 

「メンバーは、まあ保留やな。基本的にはウチが見繕って、ギルマスの判断に任せるで」

「ほえー、ギルマスさんは大変そうだねえ」

「あんたのことや!!」

「えぇええ!?」

「何で驚くんや……」

 

 そんなやり取りを経て。

 私は、千佳の家を後にするのだった。

 

 

 

※※※

 

《SIDE:千佳》

 

 研究所、兼、自宅にて。

 レイナが帰った後の自宅は、どこか寂しい。

 

 

(――千佳がいない生活なんて想像もできない、かあ)

 

 無邪気にレイナが言い放った言葉。

 その言葉を思い出して、千佳が思わずニマニマしていると――

 

 

 プルルルルル

 不快な電話が鳴った。

 

 電話の主は、ダンジョン庁の五十嵐(いがらし)

 幸せな気持ちをぶち壊されて、千佳は思わず舌打ちする。

 

「……なんや。切るで?」

「いやいやいやいや! そんな大それたことしでかすなら、ちゃんと相談してもらわないと!」

 

 責めるような響き。

 

「なんでウチが、あんたに相談せないかんねん」

「いや、こっちだって準備ってものが――」

 

 準備って何だ、準備って。

 ギルド立ち上げるぐらいで、なぜダンジョン庁の人間が出てくるのか。

 

 

「ちなみにウチも、今日の配信で初めて知ったで」

「は?」

「あれ、マジであの子の思いつきやで」

「……え? 君の仕込みじゃないの?」

「あんたはウチを何だと思っとるんや……」

 

 軍曹にすら「最高の告知だった!」と笑顔で言われてしまったことを思い出し、苦い顔になる千佳。

 

 レイナの行動を予測することは、何人たりとも不可能。

 あの子の突拍子のなさを舐めるなと言いたい。

 

 

「あんたはレイナを操って、良いように使おう思ってるのかもしれんけどな――」

 

 千佳は、重々しく口を開く。

 返答は沈黙。

 

「レイナはな。あんたが手綱を握れるような相手やあらへんで」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。ただ僕は、困ってる将来有望な探索者に手を貸そうとしてるだけで――」

「ウチすら、あの子が何しでかすか分からん。でも、それが見てて楽しいんや」

 

 千佳の言葉は、偽りようのない本音。

 

 レイナに振り回される日々は楽しい。

 その行動を縛ることなど、不可能だし、許されないのだ。

 

 

「未成年だけでギルドを結成するためには、後見人が必要だよね。それはどうするの?」

「少なくともあんたを頼ることだけは絶対あらへん」

 

 千佳は、チクリと棘を刺す。

 

 ファンクラブ会員の中で、頼れる人を探すもよし。

 最悪、困ったら軍曹の出番だ。

 怪しい役人の出る幕ではないのである。

 

 

「そんなこと言わないで、よく考えてよ。僕、こう見えてダンジョン庁でも顔が利くよ?」

「ウチらは別に権力が欲しい訳やない。もし、レイナが喜ぶとしたら――あんたは深層料理、用意できる?」

「は?」

「あの子、食べ物以外興味あらへんからな。ちなみにギルドの公約は『世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くす』や」

「…………は?」

「入団条件の1つ目は、毒耐性カンストさせること。よろしく?」

「――ま、また日を改めて考えさせてもらおう」

 

 スゴスゴ撤退していく五十嵐。

 

 

(ふう。成敗成敗)

 

 いつも飄々としている五十嵐。

 その珍しく慌てる声を聞き、溜飲が下がった気持ちの千佳。

 

 

(明日はゆっくり休むで)

(いくらレイナでも、これ以上の爆弾は当分持ち込まへんやろ――)

 

 人、それをフラグと呼ぶ。

 ――爆弾少女ことレイナが、着々と次なる爆弾を持ち込もうとしていた。




お待たせしました。
新章開幕です!

作者のモチベーションになりますので、感想、評価、お気に入り登録いただけると嬉しいです!


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第三十六話 レイナ、釣られる

 数日後。

 動画サイトに1つの動画が投稿された。

 

 今、世間を騒がせているダンジョンイーグルスからの声明。

 何でも精鋭を集めて、ダンジョン最深層の攻略を進めるとの言葉だ。

 

 

(ほえー)

(まあ深層に入れない私には、関係ないか)

 

 そう他人事のように聞いていた私であった。

 

 

 

※※※

 

 翌日のこと。

 私、ミライ、千佳の3人は、今日もギルドについて話し合うためファミレスに集まっていた。

 

 ギルド立ち上げ計画は順調だった。

 メンバーは、私・ミライ・千佳・剛腕さんたち・軍曹まで合意が取れた。

 

 剛腕さんたちには、毒杯だけはどうかご勘弁を――と必死に懇願されてしまった。

 翌日には、ブルー・マスカットの虜になっていた。

 食わず嫌いは良くないと思う。

 

 軍曹は、むさ苦しい顔に涙を浮かべて喜んでいた。

 実に熱苦しいのである。

 

 

 そんな訳でメンバーの合意も取れ、後は探索者組合に提出するだけという状態。

 ――そんな空気の中、

 

「レイナ様! 例の作戦、行くッスか?」

 

 開口一番、そんなことをウキウキと言い出したのはミライだ。

 

「例の作戦って、ダンジョン最深層に潜ろうってやつ?」

「はいッス!」

「でも私、ライセンス持ってないよ?」

 

 深層への立ち入りがライセンス制になったのは、記憶に新しい。

 

「それなら大丈夫ッス。攻略班には、臨時でライセンスが交付されるって話ッス!」

「ほほう……?」

 

 俄然、興味が湧いてきた私である。

 

 

「ミライちゃん、最深部のフロアボスってどんなやつ?」

「えーっと……、たしかめちゃくちゃでかいカニって聞いたッス」

「よし、乗った!!」

 

 その間、わずか30秒。

 

「……え?」

 

 千佳が、凍りついていた。

 

「本気?」

「うん。あ――ほら、ダンジョンイーターズの実績にもなるかも!」

「…………配信じゃなくて、ほんとに良かったで」

 

 千佳が、深々とため息をついた。

 

 

 その後、千佳は私たちにこんこんと説く。

 この作戦は、炎上騒動で破れかぶれになったイーグルス上層部の暴走による可能性が高いこと。

 作戦の成功率は、限りなく低いこと。

 そのような作戦に参加するリスクが、どれだけ高いかということ。

 

 ――最悪、死ぬ可能性もあるということも。

 

「だから二人とも、馬鹿なことを考えるのは止めて――」

「参加してる人、死んじゃうッスか?」

 

 ぽつりと呟いたのはミライ。

 

「ならあたいは、なおさら参加したいッス」

「話、聞いてた?」

 

 珍しく真面目な顔の千佳に、ミライも真剣にこくりと頷く。

 

「それなら、どうして?」

「正直、あのギルドに良い思い出はないッスよ」

「なら、放っておいても――」

「それでもイーグルスには、まだ入ったばかりのあたいの面倒を見てくれた人も残ってるッス。見殺しには出来ないッスよ……」

 

 精鋭と言えば聞こえは良い。

 

 その実態は、行く宛もなく仕方なくイーグルスに残った寄せ集めの面々。

 ミライは、イーグルスの現状をそう評した。

 

 

「私も、参加したいかな」

「レイナ?」

「もしミライちゃんが行くっていうなら、放っておけないもん」

 

 どうも千佳の説得は、ミライの決意を逆に固めてしまったらしい。

 

 

 私としては、死ぬ危険があるというのは今更に思えた。

 元よりダンジョンとは、そういう場所だからだ。

 

 そんなことより私の頭の中にあったのは、1つの想像図。

 巨大なカニを使った贅沢な鍋の姿。

 

(下層で出てきたフロアボスは絶品だったなあ――)

 

 

「レイナ、よだれ……」

「あっ――」

「……で、本音は?」

 

 勿論、ミライを放っておけないというのも大きな理由だ。

 もしミライを1人で行かせて何かあったら、私は自分が許せないと思う。

 だけど、それ以上に――、

 

「ミライちゃんとカニ鍋食べたい!」

「あたいも食べたいッス!」

 

 気分がカニ鍋になってしまったのだ。

 明日は、下層のカニを食べに行こう。

 

 

 目をキラキラさせている私たちを見て、

 

「はぁ、そうやな。そもそもウチがレイナの行動を止めようとするなんて――」

 

 千佳は、諦めたようにため息をつく。

 そうして、おもむろにスマホを取り出した。

 

 

「千佳、どこにかけるの?」

「イーグルスの佐々木。一応、要請は来とったのよ――」

「ほえー……」

 

 速攻で断ったけどな、と真顔になる千佳。

 

 

 そうして交渉を始めたのは千佳だ。

 仕事ができる大人の女性って感じで、とっても格好良い。

 

 イーグルスが言い出した無謀にも思える最前線へのアタック(攻略)

 私が参加するにあたって、千佳が出した条件は3つ。

 

 1つは配信を許可すること。

 これは私の身の安全を第一に考えて、とのことらしい。

 私としても、上手く行けばチャンネル登録者が増えそうなので異論はない。

 

 2つ目は、ダンジョンイーグルスが私に要請を出したという形を取ること。

 佐々木としては、あくまで私が希望して今回の攻略に参加したという形にしたかったらしい。

 そんな都合の良い話があるかい、と千佳は一蹴。

 私としては、正直どっちでも良いと思ったけど……、千佳いわく主導権をどちらが握るかは極めて重要らしい。

 

 3つ目は、ダンジョン料理の許可。

 言わずもがな、私のオーダーだ。

 これに関しては、至極どうでも良さそうに認められた、と千佳。

 

 

「嫌な予感がしたんや。虫の知らせというか――今日、集まって本当に良かったで」

 

 しみじみと呟く千佳。

 そうして私たちは、2週間後に行われる最前線へのアタックの参加メンバーになった。



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第三十七話 トレーニング配信

 最前線へのアタックに参加することを決めて数日後。

 

 私たちは、準備に邁進(まいしん)していた。

 とはいえ、基本的にやることは配信。

 当日までのトレーニングと、宣伝を兼ねてといったところだ。

 

 

 そんな訳で、今日も今日とてダンジョン下層でミライとのコラボ配信。

 

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

「自称、レイナ様の一番弟子。ついにレベルが200を越えて絶好調のミライッス~!」

 

"こんレイナ~"

"人間卒業RTAはじまる"

"達成者もう出たぞ"

 

 最近は放課後、毎日のように配信していた。

 配信頻度を上げたことで、飽きられるかと思ったけれど現実は真逆。

 

 同接は、常に10万人前後をキープ。

 コメントの流れも、今までとは比べ物にならないほど早い。

 

 

 さらに今日は、いつもの配信ではない。

 とっておきのお知らせがあるのだ。それは――

 

「今日は、皆さんにお知らせがあります!」

「なんと、なんと――」

「「祝・ギルド結成(ッス)!」」

 

 ――パチパチパチ。

 探索者組合から、無事、ギルド結成の許可が下りたのである。

 

 

「ギルド名は、ダンジョンイーターズ――目標は世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くすことです!」

「あたいも入ったッス! アットホームで良いギルドッスよ~!」

 

"ギルド結成おめでとう~!"

"ダンジョンくん「!?」"

"相変わらずモンスターを食材としか見てなくて草"

"アットホーム――うっ、頭が……"

 

"なになに? 何が起きてるの?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》レイナちゃん、ギルド結成。公約として世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くすと宣言(英語)"

"そんな公約が認められる訳がないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

 

 盛り上がっているコメント欄を見ながら、私はギルドの方針を説明していく。

 

「活動方針は、美味しいものをみんなで食べたいっていう――ほとんどは私の趣味ですね。

 人数もあまり集めるつもりもなくて、身内で細々とやっていければと考えています」

 

 メンバーを大々的に募集するつもりはない。

 そもそも私だってソロで潜る方が得意だし、いきなり人数が増えても千佳の負担が増えるだけだ。

 

 

「そんな私たちですが、イーグルスさんのアタックに参加予定です。どうか、カニ鍋――じゃなかった……、ギルドの挑戦をサポートするため。まだまだアタックのメンバーも募集中なので、ドシドシご応募下さい!」

 

"✕イーグルスさんの ○レイナちゃんの"

"ん? カニ鍋?"

"最前線のモンスター、カニだって噂が……"

"やっぱり捕食者じゃないか!(歓喜)"

 

 

 コメントとやり取りしながらも、私たちは探索を続けていく。

 探していたのは、モンスターハウスの罠だ。

 

「罠探知スキルが欲しいですね……」

 

"たぶん目的が逆w"

"踏み抜くために探知するのか・・・(困惑)"

"狩り場やぞ"

 

(あった!)

 

 私は、ドクロマークの描かれたスイッチを見つけだす。

 駆け寄り、そのままポチッと踏み抜いた。

 

 けたたましいアラートが鳴り響く。

 いつものように、すぐさまモンスターの群れが――

 

 沸かない。

 一匹たりとも、モンスターが現れないのである。

 

「あれ? 故障かな?」

「おばあちゃんが、だいたいの機械は叩けば直るって言ってたッス……」

「なるほど? えい、おりゃ、動けっ!」

 

 何度か、モンスターハウスの罠を叩いてみる。

 

(正常に稼働してるように見えるんだけどなあ――)

 

 アラート、ちゃんと鳴ってるし。

 

 

 ふと1体のモンスターが体を覗かせた。

 私たちの姿を見るなり、くるりと背を向け回れ右するモンスター。

 あろうことか、全速力で、逃走を始めたのである!

 

「「なんで!?」」

 

"モンスターたち、この音聞いたら逃げるように調教されてそうw"

"そりゃ連日、狩り続ければなw"

"モンスターって、知能あったんやな・・・"

"これが罠の攻略法かあ(思考停止)"

 

 そんな普段どおりの? 配信風景。

 

 

 一方、海外リスナーたちの様子は……、

 

"ん……、待って? 公約、世界中のモンスターて言った?(英語)"

"英検ニキの言葉を信じるなら……(英語)"

"レイナちゃん、海外進出するつもりなのかな?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》そこまでは分からん・・・(´;ω;`)(英語)"

"流れぶった切るみたいで申し訳ないけど、確認してくれると嬉しい(英語)"

"《英検1級はクソゲー》でもきみら、ワイの言葉信じてくれへんやん・・・(´;ω;`)(英語)"

"悪ノリごめんって(英語)"

 

"我が国は、確認されたモンスター数世界1です。どうぞ我が国に――(英語)"

"我が国は、モンスター食べ放題です。様々なグルメ家たちが日々食の研究を――(フランス語)"

"我が国は、様々な珍味モンスターを取り揃えております。どうぞ我が国に――(中国語)"

"我が国は、調理器具の開発に力を入れております。どうぞ我が国で――(韓国語)"

 

「ほわっ!? なんか知らない言葉がいっぱい!?」

「さすがレイナ様ッス! 国際デビューッス!」

「いったい何が!?」

 

 基本、この配信の視聴者さんは、日本語か英語で書き込んでいた。

 コミュニケーションがギリギリ取れるのがその2つで――英検さんには感謝である。

 

 こうして、様々な言語の書き込みで埋まる景色は珍しい。

 

 

「ハロー! アイム、レイナ・アヤネ! えー……、ヘルプ、英検さん!?」

 

"潔いw"

"秒で諦めたw"

"《英検1級はクソゲー》ワイを素直に頼ってくれるのはレイナちゃんだけや・・・(´;ω;`)"

"《英検1級はクソゲー》レイナちゃん、海外進出するつもりなの?(´;ω;`)"

 

「へ? なんで海外? 特にそのつもりは――」

 

"《英検1級はクソゲー》ちなみにアメリカは、世界1モンスターの取り揃えが良い国らしいです(´;ω;`)"

 

「行きます!」

 

"ふぁっ!?"

"即答w"

"モンスターの取り揃えって何w"

"このコメントたち、全部勧誘なのかww"

"レイナちゃん、行かないで!?"

 

「修学旅行の希望、アメリカで出します!」

 

"""ホッ……"""

"実際、レイナちゃんが日本に居続ける意味ってあまりないもんな・・・"

"世界に羽ばたくレイナちゃん"

 

 

 そんな混乱もありつつ。

 今日の配信は、お開きとなった。



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第三十八話 最前線へのアタック配信(1)

 そして、ついにその日がやってきた。

 今日は複数ギルドが協力し、ダンジョン深層にアタックする日だ。

 

 

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

 

"こんレイナ~!"

"食卓(深層)"

"攻略メンバー豪華すぎるww"

"流れ作りだした本人、いつも通りでなんかワロタ"

 

 配信場所は、深層入口の休憩スペース。

 集合時間まで、まだ少し時間の余裕がある。

 

"¥10000:《望月雪乃》レイナちゃん、頑張って~! そして、何より、命を大事に!"

"¥10000:《望月雪乃》う~ん。見てるしかできないのが、もどかしい!"

 

「あ、ゆきのん先輩!? スーパーチャット、ありがとうございます!」

 

 ダンジョン探索の基礎を学ぶため。

 ゆきのんには、随分とお世話になった。

 

「美味しいカニ鍋――じゃなかった……、未知のエリアを踏破するため。頑張ります!」

 

"《望月雪乃》・・・レイナちゃんはずっとそのままでいて"

"平常運転すぎるw"

"レイナちゃんにとっては、所詮はいつもの配信の延長上なので・・・"

"でも無茶はしないで欲しいな、ほんとに……"

 

 

 新宿ダンジョン最前線へのアタック。

 それは突発的な計画であり、十分な準備が整えられているとはお世辞にも言えない代物であった。

 

 できる限り有力なメンバーを集めたい。

 今回のアタックで起死回生を測るダンジョンイーグルスは、そう願っていたはずだ。

 無様な失敗は、絶対に許されないからだ。

 

 とはいえ現実問題、無茶なアタックだろう、というのが大半の探索者の見立てであった。

 このままいけば、おそらくイーグルスは単独で挑むことになる。

 そんな状況で、私が参加表明したわけだ。

 

 

 その結果――、

 

「いや……、攻略メンバー。なんか凄いことになってるみたいですね!?」

 

"その立役者が何をw"

"ドリームパーティーすぎるw"

"攻略メンバー(レイナちゃん勧誘部隊)"

"そりゃあ、レイナちゃんとダンジョン潜れるまたとないチャンスだから・・・"

 

 あの日以降、参加を希望するギルドが後を絶たず。

 結局、今回のアタックは、10ギルド合同で行われることになった。

 各ギルドの精鋭が数名ずつ。中心となるイーグルスからは10名ほど加わり、計30名にも及ぶ大部隊。

 

 ちなみに私たちのギルド「ダンジョンイーターズ」からは、私・ミライ・剛腕さんたちの計4人が参加する。

 訓練の成果を発揮してみせる、と剛腕さんたちは随分と気合いが入ってたっけ。

 昨日も死にたくねえ! と雄叫びを上げていたし。

 

 そうして出来上がったのが、国内でも最高峰のギルドの集まりだ。

 更には数人の外国人探索者も参加しているそうで、まさしく盤石の布陣と言えるものだった。

 

 

(私たちのギルド、どう考えても場違いだと思うけど……)

 

 そうなってくると、むしろ問題となるのは私たちのギルドである。

 なにせこちとら出来たてホヤホヤの新設ギルドだ。

 とはいえ、千佳が言うには私が参加を決めたからこそ、アタックへの応募が殺到したなんて話で――

 

(もしかして――)

(私のギルド公約が共感を生んで……!)

 

「やっぱり皆、世界中のモンスターを食べたいんですね!」

 

"""違うと思うw"""

 

 コメント欄から総ツッコミ。

 解せぬ。

 

 

 そんなことを話していたら、続々と攻略メンバーが集まってきた。

 

「レイナ様! 今日のアタック、楽しみにしてたッス~!」

 

 ミライが、ちょこんと私の隣を陣取った。

 

「おはよう、ミライちゃん。そちらの方々が……」

 

 ミライと一緒にやってきたのは、イーグルスの面々だ。

 

 今日のアタックに、強制的に参加させられたメンバーである。

 苦労人気質なのか、随分とくたびれた顔をしている。

 それでも彼らの目は、絶対に未知の階層を攻略してやろう――そんな活力が見えた。

 

 

「今日は力を貸して頂くことになって、本当になんと感謝すれば良いのか……」

「正面切って喧嘩を売った我々のギルドに助けの手を差し伸べて下さるとは――まさしく天使だ」

 

「大袈裟ですって。私、ただカニ鍋に釣られただけですからね」

 

 紛うことなき本音で答える私。

 しかしイーグルスの面々は、感銘を受けたように黙りこむと、

 

「このご恩は必ず――」

 

 そう深々と頭を下げるのだった。

 

 

 探索開始時刻が近づき、続々と、様々なギルドのメンバーが集まってきた。

 それらのメンバーは……、

 

 なぜか、みんなして私に挨拶してきた!

 

「はじめまして、レイナ様。拙者、アルテマメモリーズ・ギルド長の長田と申す。どうか、以後お見知りおきを――」

「は、はじめまして~」

 

 最初に話しかけてきたのは、狐面を被った少女だ。

 それだけでも目を引くが、更に腰から馬鹿でかい刀を下げている。

 ぺこりと頭を下げる私。

 

「ガッハッハ! 会える日を待ち望んでいたぞ、サイレントエンジェ――」

「そ、その名前で呼ばないでいただけると!」

「失礼。グリーディー・プレデターの方がお好みでしたか」

「な、なんですかその恐ろしい二つ名は!?」

 

 続いてガッハッハと、豪快に笑いながら私のもとに足を運ぶ探索者。

 ただしイケメンは通さない、というギルドの副ギルド長らしい。

 

(なに? そのギルド名!?)

 

 混乱を押し隠し、私はぺこりと頭を下げておく。

 

"ファッ!? 有名人のオンパレードやん!"

"レイナちゃん、めちゃくちゃ嫌そうw"

"ならお前も、人前で二つ名で呼ばれてみ?"

"↑↑そこ乗り切ってこそ一流探索者やぞ"

 

 コメント欄が、随分と盛り上っている。

 どうやら、随分と有名な探索者たちらしい。

 

 

 そんな中、深層の休憩スペースに、1人の少女が入ってきた。

 

 金髪のロングヘアを結わえた幼い少女だ。

 恐らくは外国人だと思う。

 

(こ、こんなところで迷子かな?)

(外国人っぽいけど――)

 

 少女は、キョロキョロと何かを探すように部屋の中を見渡していた。

 やがて私の姿を見つけると、軽やかに駆け寄ってきて、

 

「ん」

「……へ?」

「サイン。欲しい!」

「へ? えーっと……!?」

 

 突き出されるマーカーとサイン色紙。

 

「えーっと、これに書けば良いの?」

 

 こくりと頷く少女。

 

(ふっふっふ)

(なんかよく分からないけど、ついに日々の練習の成果が――!)

 

"よく分からないけど、女の子逃げて!"

"レイナちゃんのサインが来るぞ、気をつけろ!"

"有効活用すればモンスターにも効くかも……"

 

「みなさん、私のサインを何だと思ってるんですかね!?」

 

 私は、不適な笑みとともに筆を走らせる。

 少女は、サインを受け取りしげしげと眺めると、

 

「ありがとうございます! 呪術の触媒にします!」

 

 そんなことをにこやかに言ってのけ、とてとてと走り去っていたった。

 残されるは、フリーズする私。

 

"草"

"なんだろあの子"

"迷子……?"

"ノー。ああ見えてアメリカのトップ5には入る実力派(英語)"

"《英検1級はクソゲー》あの子、ああ見えてアメリカのランカーらしい"

"あんな小さな女の子が探索者なわけないだろ、いい加減にしろ!"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

 あんな年で有名な探索者だとは。

 すごいなあ。

 

 

"てか同接数やばない!?"

"もう50万人突破してて草"

 

 ………………へ?

 いち、じゅう、ひゃく――ほんとだ50万!?

 

「あわわわ、本日もお日柄もよく――」

 

"レイナちゃんもいい加減慣れてw"

"ダンジョン少しでも興味あるなら、そりゃ見ないって選択肢ないと思うし・・・"

"深層攻略配信ってだけでもレアだしなあ"

"誰かイーグルス佐々木の配信も見てあげてw"

 

 そんなことを話していると、ついに探索予定時刻となる。

 

 

「いよいよッスね!」

「うん。カニ鍋――じゃなくて、ダンジョン探索の歴史に新たなるページを刻むため!」

「特訓の成果を見せるッス!」

「「(なんで俺たちはここに居るんだ……?)」」

 

 私たち4人は、そんなことを話しながら集合場所に向かう。

 すでに深層・第7地区に向かうポータルの前には、人が集まっているようだ。

 

 

「ふむ。全員揃ったようだな――本日のアタックに参加する勇気ある探索者に敬意を」

 

 集まった探索者たち。

 その前で、ダンジョンイーグルスの佐々木が何やら演説を始めようとしていた。




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第三十九話 最前線へのアタック配信(2)

 新宿ダンジョン深層へのアタック。

 集まった探索者たちの前で、イーグルス佐々木が演説を始めようとしていた。

 

 

「知っての通り、本日の探索はダンジョン庁からの重要な指令である。思えばギルドを立ち上げて数年、我がギルドはついに深層に潜るまでに成長し、我が国を代表するまでの名門ギルドに成長した――――」

 

 ……数多の冒険者を集め、これからダンジョンへ。

 演説にも熱が入るのだろう。

 しかし、長い。始まった演説は、あまりにも長かった。

 

 私はぽけーっと話を聞き流しながら、校長先生のお話は長かったなあ――なんてことを思い出していた。

 見れば、他の探索者たちも退屈そうに演説を聞き流している。

 

 探索者の様子を眺めていると、さっきも会った金髪少女と目があった。

 同伴した探索者におぶわれており、ふわわわと大きなあくびをしている。

 目が合うと、にこやかに手を振ってきた。可愛い。

 

 

「――という訳で、本日のアタックは極めて重要なものである。失敗は、決して許されないものと心に刻んで――」

 

 どうやら演説の方も、ようやく終わりそうだ。

 

 

 そんな中、一人の探索者が遠慮がちに手を上げ、おもむろに口を開いた。

 

「これだけの攻略部隊だ。指揮は誰が取るのだ?」

 

 特徴的な狐面を付けた刀少女。

 たしかアルテマ・メモリーズのギルド長を名乗った探索者だ。

 

 

「ん? 指揮はもちろん私、イーグルス・佐々木が――」

「冗談。いったい、どこの探索者が、自分より弱いやつに従うと?」

 

 少女の言葉は、なかなかに辛辣だった。

 しかし、少女の言葉を止めるものはおらず――この場にいる者の総意であることが窺える。

 そんな緊迫した空気を前に……、

 

(一流の探索者さんたち……、血気盛んすぎる!?)

(怖っ!)

 

 私は、冷や汗をかいていた。

 

 

「な――!? ふざけるな! これは我々のアタックだ! 指揮だって、当然、私が――」

「だって言うなら、探索者としての腕を見せてもらわねえとな」

 

 1人の探索者が、前に出た。

 黒いスーツを身にまとい、黒のサングラスを付けた強面の大男。

 その風貌は、いかにもなベテラン警護者のような貫禄を感じさせる。

 

 ピリピリした緊迫感。

 しかし、その背中には金髪の少女が張り付いていた。

 私にサインをねだった小さな少女だ――なんともアンバランスな探索者ペアである。

 

 

「ちょっとー。メインディッシュを前に暴れないでよ」

「ですが、お嬢。ここでハッキリさせておかないと、後々、面倒なことに――」

「なら……、許す!」

 

 アメリカの探索者コンビだ。

 食材さんたちのコメントによると、アメリカでは有名な探索者たちらしく――

 

「な、何のつもりだ!?」

「この場で指揮を取るに相応しいやつなんて、一人しか居ないだろう。分かってるんだろう?」

 

 男は、佐々木にそう諭す。

 

(そ、そうなんだ……!)

 

 難しいことは、偉い人にお任せ。

 私は、ミライを助け、ついでにカニ鍋が食べられればそれで良いのだ。

 

 

「もし自分が指揮官に相応しいというのなら……。それなりの腕を示してもらわないとなあ!」

 

 男は、一気にイーグルス佐々木の懐に飛び込む。

 そのまま音もなく拳を放ち――

 

 佐々木の顔の真横を、男の拳が通過した。

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 反応すらできない佐々木。

 次の瞬間、佐々木の真後ろにあったダンジョンの壁に、深々と巨大な穴が開く。

 あたりには砂埃が巻き起こり、その威力の大きさを物語っていた。

 

 恐る恐る、背後を振り返る佐々木。

 壁に開いた巨大なクレーターを見て……、

 

「ひぃぃっ!」

 

 そう情けない悲鳴をあげ、ぺたりとその場に尻餅をついた。

 

 

「もう。服が汚れちゃうじゃない」

「すまん、お嬢。このダンジョン、思ったより壁がもろいみたいで――」

 

 そんな光景を作り出した探索者は、何事もなかったかのように、そんな呑気な会話をしていた。

 

(こ、これがアメリカの探索者……!)

(すごい自由人!)

 

 

「一癖も二癖もある探索者の集まりだ。おまえに俺たちは使いこなせねえ――分かるだろう?」

「はひぃ……」

 

 こくこく、と頷くイーグルスの佐々木。

 

 

「この場で相応しいやつなんて、初めから1人しか居ない。そうだろう?」

 

 そうして指揮権を勝ち取った(?)男は、こちらを振り返り、

 

「――彩音レイナ。この場のリーダーに相応しいのは、あなただ」

 

 そう口を開き、恭しく頭を下げるのであった。

 

 

 

「………………へ?」

 

 探索者たちの視線が集まる。

 それが至極当たり前のこと、とでも言うように。

 

「いやいやいやいや。御冗談を!?」

 

 ――指揮?

 なにそれ、美味しいの?

 

 学校の授業で、指揮官コースのものもあったけど。

 見事に爆睡していたのが私である。

 

 

 誰か、反対の声を上げてくれれば。

 その人に、すべて委ねよう。

 そう思って、じーっと探索者たちに次々と視線を移していたが……、

 

「あたいは、レイナ様の言うことなら何でも聞くッス!」

「ここに居るのは、一癖も二癖もある探索者たちだ。束ねられるとしたら、間違いなくレイナ様しか居ないかと!」

「鮮血の天使、初の公式戦――今日という日を楽しみにしていたんだ……」

 

 飛んでくるのは、そんな追撃ばかり。

 

(なんで~~!?)

 

 内心で頭を抱えていると……、

 

 

「遅れてしまって、本当に申し訳ない! 武器選びに手間取ってしまって――」

 

 物凄く申し訳なさそうな顔で、私達のもとに駆け寄ってくる人影。

 ――その人影には、とっても見覚えがあった!

 

 きらりと輝く頭部の汗。

 私のギルド・ダンジョンイーターズのメンバーにして保証人。

 権藤(ごんどう)(つよし)――あだ名は・軍曹。

 

 

(ぐ、軍曹だ!?)

(何でここに……!? よく分からないけど、丁度よいところに……!)

 

 汗を拭いながら、状況を把握しようとしている軍曹に、

 

 

「わ、私は権藤さんに全指揮権をお譲りします!」

「…………は?」

 

 私は、そう高らかに宣言。

 

 

「あ、あなたは権藤さん!?」

 

 ほぼ同時に、そう素っ頓狂な声をあげるものが1人。

 声の主は、アルテマメモリーズの長田(おさだ)――有名ギルドの長であった。



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第四十話 最前線へのアタック配信(3)

「…………は?」

 

 私の言葉に、軍曹はぱちくりと目を瞬いた。

 集まった探索者たちの視線が、一斉に軍曹を貫く。

 

 

「あー、彩音? その……、説明を?」

「実は、かくかくしかじかで――――」

 

 私は、戸惑う軍曹に状況を説明していく。

 

"キラーパスすぎるw"

"初見殺しかな?"

"このメンツの指揮取るとか地獄すぎる・・・"

"でもレイナちゃんに指揮取れるとは思えんし……"

"レイナちゃん「イート・オール!」"

 

"ん? 今はなんの時間?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》指揮官決めで揉めてる。危うく、レイナちゃんが指揮取ることになりそうだった(英語)"

"レイナちゃんに指揮が取れる訳ないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

 

 軍曹なら確信するはずだ。

 私に、指揮官など務まるはずがないと……!

 

「あー……」

 

 案の定、私の話を聞いて軍曹はあちゃーと頭を抱えていた。

 

「探索者たるもの、強者こそが絶対の正義。なるほど……、たしかにあり得ないことではないか?」

「軍曹~!? あり得ることではないので、しっかりしてください!?」

 

 軍曹の瞳に納得の色が浮かぶ。

 浮かんでしまった……!

 もし私が指揮官になったとしたら、冗談抜きに全軍突撃! ぐらいしかできないと思うのだけど……。

 

 

"この軍曹って人、何者なんだろう?"

"レイナちゃんと毎日会える人"

"うらやま死刑"

"専門学校に就職したら、レイナちゃんに毎日会えるってマ?"

"実際、来年以降の倍率やばそう"

 

 

 一方、アルテマメモリーズの長田(おさだ)は、一言も発さずじーっと軍曹のことを見ている。

 そんな彼女を見て、軍曹が声をかけた。

 

「久しぶりだな……、長田」

「はい、マスター」

「……今は、君がマスターだ。俺は一介の教師に過ぎない――そうだろう?」

 

 微妙に流れる気まずい雰囲気。

 

(この2人、知り合いなのかな?)

 

 少し緊張した様子で、長田は軍曹に接している。

 そのただならぬ空気は、到底、ここが初対面だとは思えず……、

 

 

"長田と軍曹って人、知り合いなのかな?"

"どう見ても、初めて会ったって感じじゃなさそうだよな"

 

"そういえば俺、前インタビューで見たことあるかも。アルテマの前任ギルマスの話――長田氏を庇って負傷して、現役を退いて今は専門学校の教師やってるって"

"あ、俺も何かで読んだことあるかも。その恩に報いるために、必死でアルテマを今の一流ギルドまで育て上げたって"

"一流たちの裏話、やね。俺も読んだときは感動して――ぇええ? じゃあ、その前任のギルマスって!?"

"まさか、そんな偶然が――――"

 

 コメント欄でも、好き勝手な推測が飛び交う。

 集まった探索者たちも、長田と軍曹のやり取りを興味深そうに見ていたが、

 

 

「彼の腕は、私からも保証しよう」

 

 長田はそんな一言とともに、すっと後ろに下がるのであった。

 

 

 

※※※

 

「うっ、胃が……」

「大丈夫ですよ。私よりは絶対にマシです!」

「彩音……。帰ったら指揮コース補講な」

「絶ッ対に、嫌です!」

 

 恨めしそうな目を向けてくる軍曹に、私は力強く断りの一言。

 人には向き不向きがあると思うのだ。

 

 ちなみに軍曹は、スイッチが入ると私のことを彩音と呼び教え子として扱う。

 願わくば、ずっとスイッチオンで居て頂きたい。

 レイナ様呼びされて拝まれても、対処法が分からないし……。

 

 

 ――最終的に、軍曹はそのまま指揮官の立ち位置に収まった。

 満場一致である。

 

 指揮権を渡されそうになった私が、あっさりと権利を譲渡したこと。

 私の教官だというのも後押しになった。

 更には、有力ギルドの長である長田からのお墨付き。

 実際、軍曹以上に相応しい指揮官はこの場に居ないと私は思う。

 

 ――さらに言えば、もともと信頼を失っていたイーグルス佐々木から、指揮の権利を剥奪したかったというのが探索者たちの本音であった。

 このような急造チームで、まともな指揮など取れるはずもない。

 各自の判断に任せてもらえれば十分。無茶な指揮で、場を引っ掻き回すことがなければ良い。大方の探索者は、そう考えていたのだ。

 

 

「俺からは余計なことは言わん。基本的にはギルドごとにチームを組み、ボス部屋の前で集合。イレギュラーには各々の判断で対応。ボス部屋までは、できるだけ消耗を抑えることを第一に――できる限り交戦は避けること」

「「「はっ!」」」

 

 軍曹の言葉に、集まっていた探索者たちは一斉に頷いた。

 

 

「はいっ! 軍曹、質問です!」

「なんだ、彩音?」

「調味料はどこで採れば良いですか?」

「「「!?」」」

 

"レイナちゃんwww"

"テンションが1人だけ遠足なのよ・・・"

"美味しいカニ鍋のためには大事だぞ"

 

 

「我らが鮮血の天使様は、今日も頼もしいなあ――」

「本当にカニ鍋食べに行くだけの気楽なミッションな気がしてきた」

「俺、無事にフロアボス倒したらカニ鍋と結婚するんだ……」

 

 そんな探索者たちの言葉を聞いて、

 

「はい! みんなで、美味しく食べましょうね!」

 

 私は、気合いとともにそう返す。

 

 フロアボスともなれば、きっと想像も付かないほどに大きい。

 この人数であっても、食べごたえ十分なはずだ。

 

 

「「「うぉおおおお! 無事、みんなでカニ鍋を食べるぞ!」」」

 

 妙なテンションの上がり方を見せる探索者たち。

 ふと視線を戻せば、軍曹が呆れた様子で私を見ていた。

 

 

「軍曹、まずかったですか?」

「いや、100点満点だ――やっぱり彩音が指揮を取るか?」

「何でそうなるんですか!?」

 

 涙目になりつつ断固拒否。

 

 

「レイナ様! こんなこともあろうかと、今まで集めた調味料たち。ちゃんと持ってきたッスよ!」

「でかした、ミライちゃん!」 

「えっへん!」

 

"ドヤ顔ミライちゃん"

"【朗報】イーターズ、やっぱりフロアボスを美味しい食べ物と認識している模様"

"実家のような安心感"

"でも実際、潜る身としては心強いだろうなあ"

 

"一歩間違ったら雰囲気お通夜だっただろうからな"

"あくまで指揮は他人に渡しつつ、自分はチームの士気向上に務める。さすがはレイナちゃんや・・・"

"↑↑絶対、そんなこと考えてないww"

 

 ――もちろん、そんなことは一欠片も考えていない。

 

(まあ……、でも。そういう事にしとこ!)

 

 久々の深層探索で、実のところワクワクしているのが本音。

 私はイーターズのメンバーを引き連れ、真っ先に深層へ足を踏み入れるのだった。

 




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第四十一話 最前線へのアタック配信(4)

 かくして、新宿ダンジョンの深層を進み始めた私であったが……、

 

「軍そ──権藤先生」

「軍曹で良いぞ?」

「じゃあ、軍曹。ペース……、遅すぎませんか?」

 

 私たちが歩いているのは、深層第7地区。

 入った直後に目に入ってきたのは、虹色にきらきら輝くオーロラだ。

 ダンジョン内に他に光源はなく薄暗い。ひんやり冷たい空気の中、淡く輝くオーロラは、幻想的な光景を作り出していた。

 

 未知の光景に、心を踊らせていたのも束の間。

 数時間も経てば、新鮮味もなくなろうというもの。

 花より団子。正直、私は早くカニ鍋が食べた──ゲフン、ダンジョン攻略に乗り出したいのである。

 

「彩音、これでペース遅いって正気か?」

「はい。壁抜けもしてないですし、敵との戦いも何故か回避してますし……」

 

 モンスターとの戦いを避け、遠回りすること数知れず。

 接敵を避けるため、私たちはかなり進むペースを落としていた。

 

 安全第一なことで、ほかにも弊害があった。

 それは私が、水辺で見慣れぬエビ状のモンスターを見つけた時のことだ。

 反射的に飛びかかろうとしたところで、軍曹に首根っこを掴まれて止められてしまったのだ。

 結局、モンスターはこちらに気付くことなく行ってしまい……、勿体ない。

 

 

"レイナちゃんにとって普通の探索はあまりにも退屈"

"壁抜け、基礎スキルみたいな口振りでワロタ"

"普通はできないんだよなあ"

 

"なんかワイも遅い気がしてきた……"

"視聴者も毒されてきてるw"

"普通はワンフロア半日かかってもおかしくないしなあ"

"ぶっちゃけ深層半日踏破も、十分人間やめてる"

 

「ほわっ!?」

 

 そんなコメントが目につき、私は戦慄する。

 半日──半日もお預け!?

 

「軍曹! ペースを、ペース上げましょう!」

「無茶言うな。モンスターに見つからずに、この人数で移動するのがどれだけ大変か」

 

 首を横に振る軍曹。

 軍曹によれば、探知スキルを持った探索者が、ローテーションで周囲を警戒しているそうだ。

 

「問題ありません! 見たところ、敵はだいたいが下層レベルです。薙ぎ払いましょう!」

「狩りの時間ッス!」

 

"脳筋ペアがストレス貯めてるぞ!"

"やっちゃえ、レイナちゃん!"

"探索者なんてみんな脳みそに筋肉詰まってるゾ"

"凄まじい偏見だが大体あってる"

 

"剛腕さんたちがフルフル首振ってる……"

"実際、どうなんだろ? 強行突破のが消耗少ないんかね?"

"最前線やぞ。さすがに無理"

 

 配信のコメントには、懐疑的なものもあった。

 軍曹も渋い顔をしている。

 

(軍曹、緊張してるのかな?)

(探索者の人数、たしかに多いもんね……)

 

 万が一囲まれることがあってはならない。

 下手な指揮は取れない、っていうのは分かるけど──

 

「皆さん! 早くカニ鍋食べたいですよね?」

「「「うおおおおお!」」」

「モンスターは全て排除 このまま全速力で走り抜けるべきですよね!」

「「「うおおおおお!」」」

 

"士気高すぎて草"

"アカン! 脳筋しかいねえ!"

"まあこのメンツなら多少の無茶はききそう"

"こいつらレイナちゃんの戦い見たいだけだろww"

"それでそんなリスク取るの? クレイジーすぎる"

"まともな神経で探索者なんかやってられんぞ"

 

 私たちの熱い思いを受けて、軍曹は考えるように黙り込んでいたが、

 

「そういえば彩音。気になってたんだが、探知スキルもなしに、どうやって次の階層の位置を把握してるんだ?」

「へ? 普通に風の流れと匂いで──」

 

"普通 #とは"

"草"

"探知スキル持ち涙目過ぎるw"

"スキル<野生児の勘""

 

 いきなりどうしたのだろう。

 軍曹は、諦めたように首を横に振ると、

 

「彩音を我々の常識で測ろうとしたのが間違いだったな」

「ちょっ、どういうことですか!?」

 

 しみじみと呟く軍曹。

 それから軍曹は、やけにキリッとした顔をして、

 

「やってくれ、彩音。たぶんそれが一番安全だし早い」

 

 などと言いきるのだった。

 

 

(やった!)

 

 軍曹からのお墨付きも頂いた。

 おまけに同行する探索者たちからの期待に満ちた目!

 私は、拳に闘気を込め、

 

「おりゃっ!」

 

 近くにあった壁に殴りかかる。

 一撃で粉砕し、ショートカットを開通させたのだ。ついでに出くわしたモンスターにも拳を浴びせ、戦闘態勢に入る前に速やかに仕留めにかかる。

 

"い・つ・も・の"

"深層の壁もぶち抜けるんか……"

"これが一番はやいと思います"

 

 

「ゴールは向こうです。このまま駆け抜けます!」

「「「!?」」」

「あー……、遠距離攻撃できる者は彩音のサポートを。万が一にも、パーティーが囲まれないように。探知担当は、引き続き周辺の警戒を──」

 

 軍曹の的確な指示(たぶん)が飛ぶ。

 頭が良い人が一緒だと、安心感が段違いなのである。

 

(期待に応えるため!)

(頑張るよ~~!)

 

 私は、気合いとともに次の壁に飛びかかり、

 

 

 カチッ

 

「あっ」

 

"あっ(察し)"

"このタイミングで踏みぬくのは芸術点高い"

"誰も心配してないの草"

"まあレイナちゃん居れば余裕やろ"

 

 

 鳴り響くは、けたたましいアラーム。

 

「ま、まずいぞ……」

「よりにもよってモンスターハウスか」

「慌てるな! まずは円陣を組め。撤退も視野に、どうにか隙を見て抜け出すことを目標に──」

 

 軍曹が、そう声を張り上げる。

 

 ぞろぞろと、モンスターの集団が現れる。

 探索者たちも次々と武器を構え、周囲に緊迫した空気が流れる。

 そんな一触即発の空気の中……、

 

「これが深層……、美味しそう!」

 

 思わず声をこぼす私。

 

"草"

"一人だけ目を輝かせてて草"

"これが捕食者か……"

"喰う側だからな"

"軍曹さん、口パクパクさせてて可哀想"

 

 うっ……、緊急事態に緊張感のないことを口走ってしまって申し訳ない。

 だけども、あまりにも目の前のモンスターたちが美味しそうだったのだ。

 

 どうやらこの地区は、野菜を模したモンスターが大量に生息しているらしい。

 先頭で群れを率いるのは、ピーマンのような形状をした不可思議なモンスターだ。手足が生えており、鋭いフォークを武器として構えている。

 その後ろには、巨大ナスの兵隊、ケタケタと笑いながら浮遊するパンプキンなど、実に多様で美味しそうなモンスターが行列を作っていた。

 

 そわそわする私。

 軍曹は、ちらりとこちらを見ると、

 

「無茶を言うが。彩音、おまえなら……、やれるか?」

「はい! できる限り鮮度にも気をつけて狩ってきます!」

「「「余裕ありすぎる!?」」」

 

 そんな突っ込みを一斉にもらい、

 

「……さすがだ。頼もしい限りだな」

 

 最終的に軍曹はそう一言。

 そうして軍曹から許可を取り、私はモンスターの群れに飛びかかるのだった。



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第四十二話 最前線へのアタック配信(5)

(さすがは深層!)

(とっても美味しそ――じゃなくて強そう)

 

 じわじわと包囲網を狭めてくるモンスターたち。

 まるで自分たちが、喰う側であることを疑いもしない振る舞い。

 

 ダンジョンとは弱肉強食の世界。

 喰う覚悟があるということは、喰われる覚悟もあるということだ。

 

 

 私は改めて、深層のモンスターに向き直る。

 モンスターハウスの罠を踏んだだけあって、数が多い。

 

"《望月雪乃》あわわわわ"

"《望月雪乃》救援、救援を呼ぶべきでしょうか!?"

"モンスターの?"

"たしかに具材足りなそうだしな"

"慌てるゆきのん可愛い"

"《望月雪乃》だ、だって万が一ってことも・・・!"

 

 

 私はモンスターの包囲網に突っ込み、手近なモンスターに拳を浴びせる。

 ひとまず加減はなし。バウンティ・タイガーのオーラをまとい、全力でぶん殴る。

 

 結果、美味しそうなピーマンは

 ――壁まで吹き飛び、木端微塵になってしまった!

 

 

"《望月雪乃》・・・・・・救援、いらなそうですね"

"ふぁっ!?"

"草"

"お野菜さんたち逃げて!?"

 

「強すぎたかな……。これじゃあ食べられないよ――」

 

"レイナさんはご不満"

"うわぁぁぁぁ 地獄のベジタブル・トリオが喰われていく~~!?"

"深層の悪魔ワンパンは草"

"トラウマブレイカーすぎるw"

 

 盛り上がるコメント欄。

 とはいえさすがにモンスターに囲まれたまま、全てのコメントを追いかけるほどの余裕はない。

 

 右を見ればピーマン。

 前を見ればキノコ

 左を見ればナス。

 

(し、幸せ空間すぎる……!)

 

 

「あっはっはっはっは!」

 

"久々のマジキチスマイルキター!!!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

 

 いけないいけない。

 あまりに美味しそうで、すっかりテンションが上がってしまった。

 

「あっ――。……こほん、美味しそうでございますわね?」

 

"本性隠せてないぞw"

"平常運転"

"《望月雪乃》レイナちゃんの笑顔、今日も最高でした!!"

 

 

 数度の戦いを経て、私はついに程よい力加減というものを学ぶことに成功しつつあった。

 コツとしては、オーラをまとったまま7割程度の力で弱点部位をぶん殴ることだ。

 そうすることで、あまり傷めずに具材を採取できるのである。

 

 巨大なお野菜モンスターたちは、倒すと手頃なサイズの瑞々しい野菜となり、手元に収まった。

 正直、持ち運ぶには厄介なサイズだったのでありがたい。

 

 

「も、もう少しだけ耐えろ!! すぐに彩音が道を切り開いてくれるはず……!」

「うぉぉぉおおおおお! 死にたくねえ!」

「へっ、深層のモンスターハウスから生還したら伝説だな――」

 

 最初は、そんな緊迫感に満ちた会話をしていた軍曹たちであったが、

 

「??????」

「あ、あの子は本当に人間なんですか!?」

「もうあいつだけで良いんじゃないかな……」

 

 最終的には、そんなことを哀愁とともに呟いていたとかいないとか。

 

 

 襲いかかってくるモンスターを蹴散らすこと数分。

 残っていたモンスターたちが一斉に逃亡をはじめ、辺りには静寂が戻ってきた。

 

「待って!? まだ採れてない子が!?」

 

"草"

"まじでほぼソロでモンスターハウス攻略しやがった・・・。ほぼソロでw"

"うぉおおおおお!! レイナちゃん最強! レイナちゃん最強! レイナちゃん最強!"

"捕食者だから喰える相手にはバフがかかるぞ"

"↑↑金属は食料に含まれますか??"

 

 大盛りあがりのコメント欄を見ながら、

 

 

「決めました! 私、深層に住みます!」

 

"?????"

"草"

"かつてないほどの満面の笑みで草"

"食べ放題やぞ"

"どうせ、すぐにアラーム聞いたら逃げるよう調教されるゾ"

 

「もう匂いは覚えました! 絶対に逃しません!!」

 

">>>匂・い・は・覚・え・た!<<<"

"お野菜さんたち超逃げてw"

"う~ん、これは捕食者の貫禄"

 

 立入禁止が解除されたら、ここは巡回コースに入れよう。

 私は、そんなことを考えながら軍曹の元に戻る。

 

「片付きました! さっさと進みましょう!」

「お、おう……。彩音、あれだけのモンスターと戦って……、大丈夫なのか?」

「何がですか?」

 

 私はきょとんと首を傾げると、

 

 

「それじゃあ、皆さん。メインディッシュを採りに行きましょう!!」

「「「うぉおおおおおお!!!」」」

 

 私たちは、深層を突き進み。

 ――ついにボス部屋の前にたどり着くのだった。

 

 

 

***

 

「お、俺たちはあんな怪物にケンカ売ろうとしてたのか……」

 

 攻略部隊の中に、真っ青で震え上がるオッサンが居た。

 名は、佐々木。すっかり評判を落としたダンジョン・イーグルスというギルドのリーダーである。

 

「鍋、鍋か――」

 

 幻視したのは、鍋の中に鷲が放り込まれ、グツグツと煮込まれる姿。

 あっはっはっはっは、っとあの笑顔に喰われる未来が見えた。

 

 ぶるりと震え上がっている佐々木を余所に、

 

「レイナちゃん、格好良かった!」

「まさか例の笑顔を間近で見れるなんて……!」

「わが人生に一片の悔いなし。もう死んでも良い!」

 

 チームメイトたちは大盛りあがり。

 感動の涙を流す者すら居た。

 

「……馬鹿言ってないで行くぞ」

「「「うっす――」」」

 

 ――正直もう帰りたい。けれどもモンスター蔓延る道を、帰れる気もしない。

 何より彩音レイナの傍が、一番安全そうという事実。

 

 先陣を切る探索者たちの後を、とぼとぼと付いていく佐々木チームであった。



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第四十三話 最前線へのアタック配信(6)

「それじゃあ、皆さん。メインディッシュを採りに行きましょう!!」

「「「うぉおおおおおお!!!」」」

 

 私たちは、気合十分でボス部屋に突入する。

 

 

 ――ダンジョンのボス部屋。

 そう呼ばれる空間は、守護者であるモンスターの特色に応じて様々な姿を見せてきた。

 たとえば巨大なゴーレムがボスとなっている部屋は、荒れた岩場が目立つ岩山を模した空間だった。

 虎型モンスターが守護者をつとめたボス部屋は、草木の覆いしげる草原を模した部屋だったりもした。

 

 デスクラブと名付けられたカニ型のフロアボス──それが私たちの相手だ。

 部屋に入るなり、粘度の高い生ぬるい風が頬を撫でる。空間としては、湿地帯といったところだろうか。

 中央に大きな湖があるドーム状のフィールドで、ぬかるんだ床に足を取られれば、実力の半分も発揮できないだろう。

 

 私のようにフィールドを駆け回るタイプの探索者にとっては、不利と言われている空間であった。

 

(床が駄目なら、基本的には壁と天井で戦うことになるかなあ?)

 

 私が、そんなことを考えていると、

 

 

「彩音、今回の作戦の内容は把握しているな」

 

 軍曹が、念押しとばかりにそんなことを聞いてきた。

 

 (む……。この眼差しは、私が授業中爆睡してる時の目つき!)

 (私だって、こんなときぐらいはちゃんと話聞いてるもん)

 

 私は胸を張り、ドヤ顔で答える。

 

「はい! 私たち前衛部隊が足止め。魔術師さんたちがドカンとでかいのをぶち込んだら鍋の時間です!」

「はは、そう言われると随分と簡単なことのように思えてくるな」

 

 私の答えに、軍曹はそう苦笑い。

 

"足止め(ワンパン)"

"極端なまでに単純化された作戦で草"

"レイナちゃんがチームプレイ!?"

"即席チームやし、それで正解やろ"

 

 コメントの流れも、いつにもまして早い。

 

 

「デスクラブ。奴の攻撃は、巨大なハサミによる打撃と、凶悪な水流魔法がメインだ。また奴の潜む水場は、濃厚な瘴気で満ちている。引きずり込まれたら一瞬でお陀仏だ──決して深入りはしないように!」

「「「はいっ!」」」

 

「危なくなったら、すぐに控えメンバーとチェンジすること! 必ず、全員で生きて帰るぞ!」

「「「はっ!」」」

 

"軍曹ってやつ、何者だ? きちんとこのメンバーまとめてやがる"

"レイナちゃんの教官や"

"アルテマの元ギルマスって噂もある"

"レイナちゃんの手綱握れる奴が、ただ者な訳ないんだよなあ"

 

 そんなやり取りを聞きながら、私は軍曹に考えていたことを質問する。

 

「軍曹、その……」

「どうした、彩音。その……、おまえは未成年だし、やっぱり危険な場所を受け持つ必要なんて──」

 

 ちなみに私が受け持つのは、右の巨大なハサミ部分。

 足止め要因として、一番大変かつ重要なポジションらしい。

 ちなみにもう一方のハサミは、海外チームの2人を中心に対処するらしい。

 

 そんな大雑把に決まっていった役割分担。

 私としては、ただチェンジが上手くできるかだけが心配なところである。

 

 でも今気にするべきは、そんなことじゃなくて……、

 

「軍曹、カニって鍋と焼くのどっちが合うと思いますか?」

「……なんて?」

 

 私の大真面目な質問に、軍曹はポカンと口を開けた。

 

"レイナちゃんwww"

"相変わらず緊張感のかけらもねぇ!"

"両方すれば解決"

 

「天才ですか!?」

 

 食材さんからの天才的な書き込みにより、私は一つの真理に辿り着く。

 カニ鍋とバーベキュー。どちらが美味しいのか──答えはシンプル。

 両方とも食べれば良いのだ。

 

 私が目をキラキラさせていると、

 

「おまえを見てると悩んでるのがバカらしくなってくるな──」

 

 軍曹は、そう脱力し、

 

「総員、位置につけ。これよりデスクラブとの戦いに入る!」

「「「はっ!」」」

 

 キリッとした顔でそう宣言。

 ついに戦いの火蓋が、切られようとしていた。

 

 

 

※※※

 

 作戦の第一段階は、斥候部隊が敵を誘い出すことだ。

 

 いかに準備を整えた状態で、ボス戦を開始できるか。

 おろそかにされがちだが、何よりも重要な工程だと語るのは軍曹だ。

 

 斥候隊の1人が、水辺のギリギリまで近づき首を傾げる。

 いまだにボスが姿を現さないのだ。

 

「奴はどこだ?」

「まさか捕食者に恐れをなして逃走を?」

 

 以前のアタックでは、ボスは水中に潜んでいたらしい。

 近づくものに反応して突如として姿を現し、不意打ちを仕掛けてきたらしいが――、

 

 

「……ッ! いかん、上だ!」

「「「!?」」」

 

 突如として、軍曹が鋭い声をあげた。

 反射的に上を見ると、視界に入ったのは数メートルにも及ぶ灰色の巨体。数多の冒険者を返り討ちにしてきたカニ型モンスターが、こちらに向かって落下してくるところだった。

 

「いかん! 散開しろっ!」

「くそっ、前来たときはこんなことは……!」

「前のことは忘れろ!! 気をつけろ、敵は高度な知性を持ってる。油断したら一瞬で全滅だぞ!」

 

 どよめく探索者たちに、軍曹がそう喝を入れた。

 デスクラブの落下予測から、慌てて距離を取ろうとする探索者たち。

 

(美味しそう――じゃなくて……)

(なんだろう、嫌な予感がする)

 

 フロアボスとの戦いは、初見殺しの連続だ。

 油断すれば、喰われるのはこちらなのだ。

 

 

 私は、注意深くデスクラブを観察し、

 

(そうか、敵の狙いは……!)

 

「皆さん! 盾を持った探索者の陰に隠れて下さい。敵の狙いは魔法による各個撃破──私が吹き飛ばします!」

「……は?」

 

 何を言ってるんだこいつは、という顔で私を見る軍曹。

 しかし今は、説明する時間が惜しい。

 

「ミライちゃん。ちょっとごめん!」

「任せるッス!」

 

 私は即座にミライちゃんに駆け寄り、軽く飛び上がった。

 そのままミライの突き出した拳に足を合わせ、勢いよく空に飛び上がる。

 

(ひえっ、ミライちゃん容赦ない!)

 

 凄まじい勢いで、空に射出される私。

 私でなければ、ダメージを受けていたところだ。

 

"と、飛んだ〜〜!!!"

"【朗報】レイナちゃん、ついに連携を覚える"

"ミライちゃん全力で殴ってるw"

"てか、なんで魔法だって分かるの??"

"野生児の勘やぞ"

 

 デスクラブの狙いは、隊列が乱れたところに魔法を打ち込み探索者を倒すことだろう。

 巨体での押しつぶしに見せかけ、本命は魔法による砲撃。

 デスクラブのハサミからは、凄まじい魔力の奔流が立ち上っていた。今にも魔法が射出されようとしているのだ。

 

(させないよ!)

 

 私は、バウンティタイガーのオーラをまとい、

 

 

「あっはっはっは、私の糧になれ!」

 

 全力で、拳を叩きつける。

 

(弱点部位は……、ここ!)

 

 私が狙ったのは、右側の大きなハサミの根本の部分。

 魔法の狙いを逸らせれば御の字。

 態勢を建て直す時間を稼げれば良い。

 そう思っていた私の一撃は、

 

 ――ものの見事に、デスクラブの右ハサミを根本から引きちぎった。

 

"ワロタ"

"美味しそう"

"消し飛ばなくて良かったな"

"↑↑レベル2000に全力で殴られて無事ですむわけないだろ、いい加減にしろ!"

"全員がポカンとしてて草"

 

 

(あれ? 意外と効いてる……?)

 

 私の役割は足止め。

 軍曹の口ぶりから推測するに、私がいくらぶん殴ったところでダメージにはならないと思っていたけれど……、

 

 

 私は天井にしがみつき、デスクラブを注意深く観察した。 

 部位破壊――体の一部を破壊され、スタン状態に陥っているように見える。

 それにしても……、

 

「本当に美味しそうですね」

 

"草"

"※ダンジョン最深部での感想です"

"捕食者に目をつけられたらもう終わりよ"

"捕食者からは逃げられない"

 

「私の捕食者って二つ名、どんどん広まってるんですが何でですか!?」

 

"鏡見て"

"その前に敵を見てw"

"なんでこの状況でコメ欄凝視できるの、この子……"

 

 心配症のリスナーさんに怒られ、私は巨大カニに向き直る。

 どうやらスタンが回復したデスクラブは、またしても魔法を準備しているようだった。

 

(ハサミを壊して魔法を妨害しながら、地面に叩き落とす!)

(できれば傷つけずに倒したかったけど、さすがにそんなこと言ってられないよね)

 

 私はそう判断。

 天井を勢い良く蹴り、弾丸のような速度でデスクラブに突撃する。

 狙いは、魔力の溜まったハサミだ。

 

「えいっ!」

 

 全力で殴り飛ばし、私はハサミを吹き飛ばす。

 更にはその巨体を足場に、私は再び空高く飛び上がった。

 

 それから繰り返されるのは、似たようなやり取り。

 カニさんも途中からは、私をハサミで捕らえようとしたり、体当たりしようとしてきたがサッと回避。

 カウンターで、ハサミを引きちぎっていく。

 

「あっはっはっはっは!」

 

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

 

 

 魔法の危険が無くなったころ、私は軍曹にこう尋ねる。

 

「軍曹、撃ち落として良いですか?」

「…………あ、ああ」

「では、ここからは作戦通りです! カニ鍋のため、みなさん頑張りましょう!!」

 

"軍曹、困惑してて草"

"おまいら口開いてるぞ"

"俺たちはいったい何を見せられてるんだ……"

"料理やぞ"

"捕食シーンやぞ"

 

 

 私は軍曹の答えを聞くや否や、デスクラブに渾身の踵落としを叩き込む。

 

 まともに喰らったデスクラブは、凄まじい勢いで地面に吹き飛ばされ。

 ――激しい轟音とともに地面に激突し、ピクリとも動かなくなった。

 

 

(敵は、最前線のフロアボス)

(何をしてくるか分からないし、ここからが本番だよね……!)

 

 第2形態、第3形態があってもおかしくない。

 カニのすぐそばに着地した私は、警戒態勢を続けたまま、

 

「では皆さん、イレギュラーはありましたが、ここからは作戦通り。えっと前衛後衛で分かれて、私は右ハサミ担当で! えっと、えっと……!?」

 

 私は、そこで困って言葉を止める。

 肝心のハサミは、すでに宙を舞い、湖に沈もうとしていたからだ。

 

 

 ピクリとも動かぬカニ。

 おもむろに歩み寄るは軍曹。

 そうして、しばらく何かを観察していたかと思うと、

 

「――なるほど、もう死んでるな」

 

 ぽつりと一言。

 

"ぽかーん( ゜Д゜)"

"ぽかーん( ゜Д゜)"

"ソロ狩りしやがったww"

"貴重な食料が湖に沈んでいく~!?"

 

 驚異的な速度で流れていくコメント欄。

 

 

「あ~!? メインディッシュ~~!?」

 

 続けて、私の悲鳴が響き渡るのだった。



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第四十四話 最前線へのアタック配信(7)

「うう…、なんでこんなことに……」

 

 沈んでいったメインディッシュ(ハサミ)を前に、私は悲しみの涙を流していた。

 せっかくのカニ鍋。まさか戦うのに夢中になって、こんな結果を招いてしまうなんて…。

 

「いや、まだ諦めるには早いかも!」

 

"もちつけw"

"レイナちゃんはご不満"

"まあ、カニ鍋楽しみにしてたからなぁ"

 

「取ってきます!」

 

 私は、そう宣言。

 

 

"草"

"まてまて、早まるなw"

"誰か止めてさしあげて"

 

"なになに、なにが起きてるの?(英語)"

"《英検一級はクソゲー》レイナちゃん、ハサミが沼に沈んでショック。回収しようとしてる"

"犠牲者覚悟の戦いで、そんなこと気にする人間がいるわけないだろ! いい加減にしろ!(英語)"

"瘴気の湖に飛び込もうとする人間がいる訳ないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

「行ってきます!!」

 

 美味しいカニ鍋のためなら、迷いはない。

 助走をつけ、私は脇目も振らずに瘴気の湖に飛び込んだ。

 

"ふぁっ!?"

"迷いなさすぎて草"

"英検ニキの言葉は正しかったんやなって・・・(英語)"

 

 戦いの記憶を元に、私は瘴気の湖の中を潜っていく。

 毒々しい緑色の湖であり、視界は劣悪のひと言であった。ちなみに瘴気なんて所詮は毒の一種に過ぎないので、カンストした毒耐性スキルでゴリ押す事が可能である。

 

 そんなこんなで私は、無事、デスクラブのハサミを回収することに成功。

 ホクホクした顔で、地上に浮上すると、

 

「おまっ!? いきなり瘴気の湖に潜るやつが居るか!」

 

 めちゃくちゃ心配そうな軍曹に迎えられた。

 

「だ、大丈夫です! 見てのとおりピンピンしてますから!」

「そんなアホな──本当のようだな。流石は彩音……、とりあえずこれを着て、一旦配信は止めて……、まったく。普通の探索者なら一瞬でお陀仏だぞ」

 

 有無を言わさず、上着をかけられる私。

 見れば集まった探索者たちも、心配そうな表情をしており、

 

"《鈴木 千佳》レイナ? 帰ったらお説教やな"

"《望月雪乃》これは、お説教ですね!"

"《英検一級はクソゲー》もうちょっと常識的な行動して(´;ω;`)"

 

 コメント欄にも、そんな言葉が届いており。

 

「心配かけて、ごめんなさい!」

 

 私は、ぺこりと頭を下げるのだった。

 

 

「常識を置き去りにするレイナ様、格好良い!」

 

 一方、そんな光景を見ていたミライが、目を輝かせていたとかいないとか。

 

 

 

※※※

 

「さてさて、みなさん! カニ鍋の時間です!!」

「「「うぉぉぉおおおお!」」」

 

 服が乾き(優しそうな魔術師のお姉さんに乾かして貰った。大人のお姉さん、格好良い)ついにお待ちかねのダンジョン料理の時間。

 鍋を用意し、私がダンジョン内で取れた野菜を取り出したところで、

 

「野菜を刻むのは任せろ!」

「カニの下処理はお任せを!!」

 

 剛腕さんたちが、そんなことを言いながら調理を買って出た。

 

「ほえっ!? 剛腕さんたち、料理出来たんですか!?」

「いや、まったく」

「なら……、なぜに?」

「ふっ。攻略班に選ばれてからは、こればっかりを練習していたからな……!」

 

 剛腕さんたちは、無駄に良い笑顔でそう答える。

 

「剛腕さん……!」

「な~に、良いってことよ」

 

 テキパキと鍋の準備を進めていく剛腕さんたち。

 

 言葉の通り、その包丁捌きはなかなかのものだった。

 グツグツと煮込まれ、やがて周囲には鍋特有の良い匂いが広がっていく。

 

"(注)探索者同士の会話です"

"か、完璧な役割分担や……"

"でも自信満々なだけあって、美味しそう"

"↑↑騙されるな、猛毒やぞ"

 

 

 数十分後。

 私たちは、巨大な鍋を囲んで談笑していた。

 

「流石はレイナ様ッス! 空中に向かってビューンて飛んでいって、ドカンドカン、バッキンて!」

「ミライちゃんもナイス打ち上げだったよ!」

「まさか俺たちが見てるだけになるとはな……。俺たちも、まだまだってことか──」

 

 そういえば私が好き勝手に暴れ回ったせいで、参加者の出番を奪うことになってしまったのかもしれない。でも何人かの探索者からは、これで全員で生きて帰れるって泣いて感謝されたし、きっと大丈夫だろう。

 

(そんなことより……、カニ鍋!)

 

"話しながらソワソワ鍋見るレイナちゃん可愛い"

"剛腕さんたち、かつてないほど頼もしいなw"

"これほど和気藹々としていた最前線攻略班が、かつてあっただろうか……w"

"たしかに普通なら戦果の取り合いでギスギス始まりそう"

"レイナちゃん、ソロ討伐だからなぁ……"

 

 

「そろそろ食えるはずだ」

「わくわく、わくわく。……わあっ!」

 

 剛腕さんが蓋を開け、ぐつぐつと湯気が立ち上る。

 巨大なカニも良い色合いになっており、ぷりぷりしていて美味しそうだ。

 

 今回の立役者だからと、私に渡された取り分はカニのハサミ丸ごとだ。

 

「ミライちゃん、カニ鍋美味しいね!」

「はい、すごく美味しいッス! また食べたいッス!」

「ダンジョン深層……、本当に最高ですね!」

 

 野菜まで現地調達できる、というのが最高だ。

 煮ても焼いても食えない憎き鎧野郎とは、大違いなのである。

 

"えぇ……(困惑)"

"みんな当たり前のような顔で毒鍋食べてて草"

"見た目だけは美味しそうなんだよなぁ"

"なんでこの人ら、平気なん?"

"まあ攻略班、基本人間辞めとるし……"

 

 皆で鍋を囲み、場には笑顔が溢れている。

 私が幸せな気持ちで、パクパクとカニ鍋を口に運んでいると、

 

 

(あれ、イーグルス佐々木さんは要らないのかな?)

 

 隅っこの方で、できるだけ目立たないように、目立たないようにと縮こまっているおじさんの姿を発見する。

 今回のアタックの言い出しっぺにして、問題も引き起こしていたダンジョンイーグルスのギルマスである。

 

(みんなで食べた方が美味しいよね!)

 

 私は、笑みを浮かべながら、

 

「佐々木さん! 今回のアタックは成功です。こっちに来て、一緒に食べましょう!」

「ヒィィィ! どうか、お助けを……!」

 

 私が呼びかけるも、イーグルス佐々木はブルブルと震えるのみ。

 

(あれ……?)

 

"レイナちゃんに睨まれた鷲?"

"食材やぞ"

"【悲報】イーグルス佐々木、毒耐性スキルを持ってない"

"何しに来たんだ、この人……"

 

「大丈夫です! そんなに強くない毒なので、少しずつ慣らしていけば……!」

「ヒィィィィ!」

 

 涙目で怯えている佐々木さん。

 

(こんなに美味しいのにな)

 

 私は、パクリと鍋を口に運んで首を傾げるのだった。

 

 

 

※※※

 

 気分はさながら打ち上げ会場。

 中にはお酒を取り出した探索者もおり(どこから出したのだろう)ボス部屋には、ゆったりした空気が流れていた。

 

 

"レイナちゃん、幸せそう"

"見てるだけで癒される"

"ここだけ見れば天使なんだよなあ"

"てかゲテモノ以外も普通に食べるんやな。てっきり、普通の食べ物は受け付けないゲテモノマニアかと……"

 

「ちょっと!? ゲテモノマニアって何ですか!?」

 

 納得いかない私に、

 

"つデュラハンを食べるレイナちゃん →URL"

"つスケルトンゾンビで出汁を取るレイナちゃん →URL"

"つマナ溜まりを綿あめだと思って食べてみるレイナちゃん →URL"

"つ毒鍋に舌鼓をうつレイナちゃん →URL"

 

「いやぁぁあああああ!?」

 

 おかしい、黒歴史がどんどん拡散されている。

 インターネット、怖い。あと、毒は美味しいから、仕方ない。

 

 

「へい、おかわりもありまっせ!」

「わあっ! 頂きます!!」

 

"剛腕さんたち、そのポジションが板に着きすぎてて草"

"※戦闘要員2、調理担当2でダンジョンイーターズは構成されています"

 

「俺たちなりに、どうやればギルドのためになるか考えてな……」

「そうして導き出した答えが……、これさ!」

 

 胸を張る剛腕さんたち。

 

"あながち間違ってなさそうだけどwww"

"それで良いんか、探索者ァ!"

 

 

 気がつけば、あれだけあった鍋は空っぽになっていた。

 集まっていた探索者たちも食べ終わり、こちらの様子を伺っている。名残惜しいけれど、そろそろ出発のときだ。

 

"これからの公約は?"

 

「もちろん、世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くすことです!!」

 

"レイナちゃんなら行けそう!"

"幸せそうな顔で食べるレイナちゃん(耐久版) →URL"

"《望月 雪乃》可愛い、毎日レイナちゃんにご飯作ってあげたい……"

 

「ほわっ!? ゆきのん先輩の料理、毎日食べたいです!」

 

"餌付けw"

"てぇてぇ?"

"毎日、深層にもぐらされるが宜しいか"

"《望月 雪乃》ぇ……?"

 

 そんなことを和気藹々と話しながら。

 新宿ダンジョンへのアタック――今日の配信は、お開きになった。




お読みいただき、ありがとうございます。
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第四十五話《掲示板》 【食べ放題】ダンチューバーについて語るスレ総合【カニ鍋】

【食べ放題】ダンチューバーについて語るスレ総合. 447【カニ鍋】

32: 名無しのダンチューバー

スレタイwww

 

36: 名無しのダンチューバー

お祭りムードで草

 

45: 名無しのダンチューバー

なんやこのドリームチーム

 

45: 名無しのダンチューバー

ファッ!?

アルテマにイケメン絶許、紫紺までおるやん

レイナちゃん様すごすぎる

 

231: 名無しのダンチューバー

トップギルド勢揃いしてて草

ついに深層の悪魔、陥落なるか・・・?

 

232: 名無しのダンチューバー

ゆうてあれ相当のクソボスよ

危なくなるとすぐ毒沼潜るし、その間は追撃もできないし

一応、海外では撃破報告あるけど・・・

 

269: 名無しのダンチューバー

ゆうてカニやからな

食べ物なら捕食者に狩られるだけよ

 

296: 名無しのダンチューバー

身内ネタなら個スレでやって?

 

314: 名無しのダンチューバー

>>296

ゆうてアタックの中心人物、レイナちゃんやろ

イーグルスだけなら絶対こんなメンツ集まらんて

 

321:名無しのダンチューバー

何がやばいって、アタック配信載っけてくれること

最前線の攻略情報とか、普通どれだけ金積んでも見せんやろ

 

339:名無しのダンチューバー

【悲報】海外ニキ、佐々木に格の差を分からせてしまう

 

351:名無しのダンチューバー

>>339

 

362:名無しのダンチューバー

まあ指揮権変なやつ握るのは事故の元やからね

仕方ないね

 

341:名無しのダンチューバー

海外チーム、最初から荒ぶってるなあw

 

357:名無しのダンチューバー

海外ニキ「さあ、これで指揮権をレイナちゃんに」

レイナちゃん「私ですか!?」

そうはならんやろ!

 

363:名無しのダンチューバー

なっとるやろが!

 

372:名無しのダンチューバー

レイナちゃん「全軍突撃ィ!」

脳筋たち「うおぉぉぉおおおおおお!!」

うん、最強!

 

388:名無しのダンチューバー

>>372

レイナちゃんが全部食べちゃうから大丈夫やな

 

402:名無しのダンチューバー

【朗報】レイナちゃん、指揮権を放棄

【悲報】遅刻してきたおっさんAに流れ弾が飛んでいく

 

409:名無しのダンチューバー

キラーパスすぎるw

 

421:名無しのダンチューバー

面倒事ポイッとできてレイナちゃんニッコニコすぎる

 

429:名無しのダンチューバー

解釈一致

 

446:名無しのダンチューバー

てか、誰よ

このおっさん?

 

452:名無しのダンチューバー

コメントによるとアルテマの元ギルマスらしい

・・・・・・ま?

 

473:名無しのダンチューバー

新旧ギルマスの共演か

まじで夢のドリームチームやん

レイナちゃん様々すぎる

 

・・・

 

 

 

【毒耐性は】ダンチューバーについて語るスレ総合. 454【もう取ったか?】

167:名無しのダンチューバー

今日のハイライト

・ドリームチーム結集

・レイナちゃん、モンスターハウスをソロで制圧する

・レイナちゃん、壁をぶち抜いてさっさとショートカットを開通させる

レイナちゃん、強すぎる・・・

 

188:名無しのダンチューバー

あれ、ここ食材スレだっけ・・・

 

247:名無しのダンチューバー

なんやこれ、なんやこれ

 

255:名無しのダンチューバー

すげえな

ボス部屋、この速度でたどり着くのか・・・

 

263:名無しのダンチューバー

レイナちゃんでも分かる簡単な戦略説明!

 

274:名無しのダンチューバー

軍曹って人すげえな

あの探索者をまとめてやがる・・・

 

290:名無しのダンチューバー

レイナちゃん、めっちゃ素直w

ゆきのんですら毎回説明には苦労してたのに・・・

 

311:名無しのダンチューバー

ボス戦はじまる・・・!

 

322:名無しのダンチューバー

居ない……?

 

349:名無しのダンチューバー

レイナちゃん「上です!」

 

367:名無しのダンチューバー

なんだあれwww

なんだあれwww

 

378:名無しのダンチューバー

【速報】レイナちゃん、飛ぶ

 

384:名無しのダンチューバー

ミライちゃんも順調に人間やめてるんやなって

 

389:名無しのダンチューバー

ミライちゃん、全力でぶん殴ったなw

 

393:名無しのダンチューバー

人間やめましたコンビ

 

423:名無しのダンチューバー

あぁぁぁああああ!

美味しそうなハサミが落ちていくぅぅううううう!

 

436:名無しのダンチューバー

誰か回収を!

 

445:名無しのダンチューバー

無理や

みんな口開けて呆けてる・・・

 

427:名無しのダンチューバー

バチバチに空中でボスと殴り合ってる・・・

レイナちゃん、格好良すぎる

 

446:名無しのダンチューバー

対空戦術としてありなんかな?

ちょっとミライちゃんに頼んでみようかな?

 

455:名無しのダンチューバー

>>446

レベル700の全力パンチに耐えられるならどうぞ

 

461:名無しのダンチューバー

>>455

跡形も残らんて・・・

 

522:名無しのダンチューバー

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

 

524:名無しのダンチューバー

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

 

542:名無しのダンチューバー

なんやこれ・・・(困惑)

 

549:名無しのダンチューバー

【悲報】カニくん、捕食者を前になんもできない

 

555:名無しのダンチューバー

・・・は?

 

571:名無しのダンチューバー

レイナちゃん「第二形態に注意です!」

軍曹「もう、死んでる!」

 

574:名無しのダンチューバー

>>571

 

582:名無しのダンチューバー

>>571

強すぎひんか?

 

633:名無しのダンチューバー

カニくんも頑張ったんやぞ!

敵が多いのを見たら、即座に空中戦を仕掛けることを決意したんや

しかもそれを陽動に魔法での各個撃破に切り替え

なお(ry

 

640:名無しのダンチューバー

>>633

最強弟子&捕食者「やあ」

 

652:名無しのダンチューバー

で、レイナちゃん以外は何しにきたの?

 

 

 

【カニ鍋】ダンチューバーについて語るスレ総合. 473【食べ放題】

7:名無しのダンチューバー

>>1 おつ

また切り抜きすごい個数上がってるな

 

11:名無しのダンチューバー

そりゃ、長らく止まってた最前線ボス倒されたしな

ダンジョン界隈はお祭りよ

 

17:名無しのダンチューバー

海外でも数えるほどしか倒されたことないんやろ、あれ?

ソロ討伐とか、マジモンのバケモノやんけ

 

32:名無しのダンチューバー

>>17

レイナちゃんは天使やぞ!

こんな可愛い顔でカニ鍋待ってるやん!

 

41:名無しのダンチューバー

>>32

鮮血の?

 

55:名無しのダンチューバー

>>32

これ思い出すからやめれw → URL デュラハンの片腕を料理器具に突っ込みソワソワと待つレイナちゃん

 

62:名無しのダンチューバー

スレ、平和で草

いつもならボス倒したら、格付けで殺伐としてるのに

 

79:名無しのダンチューバー

>>62

だってレイナちゃん以外、戦ってないんだもの・・・

 

99:名無しのダンチューバー

てかレイナちゃんしか話題にならねえw

 

113:名無しのダンチューバー

>>99

スレも捕食されてしまったのか・・・

 

119:名無しのダンチューバー

>>99

わいが食材や!

 

126:名無しのダンチューバー

剛腕ニキ~!?

おまえら調理人だったのかwwww

 

147:名無しのダンチューバー

てかアタックメンバー、みんな毒耐性持ってるんな

やっぱり探索者ってどこか頭のネジ外れてるわ

 

154:名無しのダンチューバー

>>147

唯一、毒耐性サボった佐々木さんの話はそこまでや

 

169:名無しのダンチューバー

カニ鍋食べてもらえなくてしょんぼりレイナちゃん

 

179:名無しのダンチューバー

瘴気とか有害物質の塊やからな

どんな加工しても、そこ落ちたもん口に入れるとか正気の沙汰じゃねえ

 

182:名無しのダンチューバー

>>179

瘴気だけに?

 

188:名無しのダンチューバー

>>182

出禁

 

256:名無しのダンチューバー

レイナちゃん「これからの目標は、世界中のモンスターを食べることです!」

 

264:名無しのダンチューバー

>>256

これは清楚(錯乱)

 

264:名無しのダンチューバー

>>256

喋らなければ天使なのよ

 

279:名無しのダンチューバー

レイナちゃんは可愛いなあ・・・

 

 

 突如、持ち上がった最前線へのアタック計画。

 はじめは死者多数の無謀な計画に思えたが、レイナの参戦により状況は激変。

 気がつけばカニ鍋パーティーへと姿を変えるのであった。

 

 そうして時は経ち、一ヶ月後――

 

【深層】ダンチューバーについて語るスレ総合. 511【食べ放題】

322:名無しのダンチューバー

最前線の攻略、なんも進んでなくて草

 

344:名無しのダンチューバー

【朗報】ダンジョンイーターズ、深層のライセンスを無事取得

【悲報】レイナちゃん、これまでのフロアボスに興味津々

 

356:名無しのダンチューバー

前のアタックでは素通りしちゃったしなあ

 

368:名無しのダンチューバー

ミライちゃんのレベリングもしないとな!!

 

443:名無しのダンチューバー

URL → ダンジョンイーグルス、解散。

リーダーの佐々木は、贈賄及び殺人未遂の容疑で逮捕。

ダンジョン庁にも調査のメスが入るっぽい

 

467:名無しのダンチューバー

>>443

草、残当

 

474:名無しのダンチューバー

>>443

やっと政府のアホどもも危機感持ったのか

レイナちゃん海外に逃したら大事やしな

 

483:名無しのダンチューバー

>>443

ここ草

なお、佐々木容疑者は「捕食者に喰われる、捕食者に喰われる」などと意味不明な供述を繰り返しており――――

 

501:名無しのダンチューバー

>>483

草 完全にトラウマになっとるやんけ

 

514:名無しのダンチューバー

一方、そのころのレイナちゃん

URL → 【永遠のラスボス】デュラハンを美味しく食べる方法を考える雑談配信

 

523:名無しのダンチューバー

>>514

何してんのwww




四章完結です!
これで、ひとまず当初予定していた場所までは描けた形になります。
大勢の読者様に恵まれたおかげです、いつもありがとうございます!

今後の予定としては、ゆるゆると5章~(あるいは、短編など)を更新していければと思っています。
やって欲しい小ネタ(配信ネタ)などもアンケート取ってみようかなと・・・!(規約的に感想欄でやると違反らしいので、活動報告でページ作成してみようかなと!)


作者のモチベーションになりますので、感想、評価、お気に入り登録いただけると嬉しいです!


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第五章
第四十六話 レイナ、ゲーム配信する


「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

 

"こんレイナ~"

"こんレイナ~!"

"はじまた!!"

"知らない天井だ"

"今日は雑談配信だっけ?"

 

 今日は、私――彩音レイナの配信日。

 配信を開始するや否や、凄まじい勢いでコメントが流れていった。

 

 

 ――チャンネル登録者数は、ついには200万の大台を突破した。

 どうやらこの間のアタックがバズりにバズり、海外のリスナーさんが大勢チャンネル登録してくれた様子。

 こうした日常の配信では、さすがに同時接続数は落ちるものの、それでも数万人の視聴者さんが配信に来てくれている。

 

 

(未だに現実味がないんだよね……)

(全部、授業中に見ていた夢だったって方が納得できるもん)

 

 だから、これが当たり前の光景だとは思わない。

 あくまで自分らしく。それでいて、来てくれた視聴者さんに楽しんでもらうことが大切。

 

 そんな訳で今日は――――

 

「実は今日は――マネージャーの千佳のラボに集まってのオフコラボ配信です!」

「というわけでマネージャー改めて千佳や。お邪魔するで~」

 

"ガタッ"

"えぇぇええ!?"

"うぉぉおおおお! マネちゃんコラボ!?"

"サプライズすぎるw"

 

 そう、今日の配信は千佳とのオフコラボ。

 大々的には宣伝していないが、面白がってくれる視聴者さんも多いと思ったのだ。

 

"千佳ちゃんの神業が見れると聞いて!"

"ハイスペックマネちゃん!"

"作業現場見てみたい!"

"ブランド千佳の、今後の展開が気になります!!"

 

「ち、千佳!? なんか質問がいっぱい来てる!」

「うちはまだ学生やからな~。ギルド運営で手一杯やし、そっち方面は当分考えらんな~」

 

 そうサラッと質問をいなしていく千佳。

 その姿には、すでにベテランの配信者のような貫禄があった。

 

 

"何するの?"

"部屋にいるのは2人だけ。そうなったら始まるのは――"

"わかった、ブルーマスカットの試食会!"

"なんでや!"

"マネちゃん逃げてw"

 

「無茶言わんといてな……。うちのレベルじゃ即死するて」

 

 悪ノリする食材さんたちであったが、千佳は真顔で首を横に振る。

 何度か誘ったのだが、千佳は頑として首を縦に振ってくれないのである。

 

 

"なんか常識人で安心する"

"ダンジョンイーターズの常識枠?"

"↑↑↑あの発明品があって、常識枠名乗るのは無理ある"

"【悲報】ダンジョンイーターズ、常識人が存在しない"

 

「ブルーマスカット、美味しいのに」

「レイナも、ガッカリした顔せんといてな……」

 

 

 そんなやり取りを経て、私は、今日のコラボ内容を発表する。

 

「そんな訳で、今日は……、ゲーム配信です!」

 

"なんで!?"

"レイナちゃんがゲーム配信?"

"さすがに解釈不一致"

"そんな器用なこと出来るの?"

"配信、物理破壊して枠閉じてたのに……"

 

「さり気なく、人の黒歴史を掘り返すのやめてもらえませんかね!?」

 

 食材さんたちは、私のことを何だと思っているのだろう。

 

 ふと、配信を切り忘れた日のことを思い出す。

 あのときはテンパってスマホを粉々に吹き飛ばしてしまい、千佳には爆笑されたっけ。

 

 

「じゃーん! 今日やるゲームはこれです!」

「このゲームは、うちのイチオシでな!」

「ルールはまったく知らないんですが、キャラがとても可愛いんですよ!」

 

 ――私が開いたのは、シャンタマというオンラインゲームだ。

 可愛らしいキャラクターが特徴的な、世界中で大人気の麻雀ゲームである。

 

 

 千佳が遊んでいたところを見て、興味を持ってしまったのだ。

 

 興味を持つ私に、千佳は千佳でノリノリで。

 いわく、探索の手頃な待ち時間でできて、暇つぶしに最適だとか。

 いわく、探索者にとって一番重要な運を鍛えるのに最適だとか。

 そんな熱い布教を受けて、今日のコラボ配信の題材として選んでみたのである。

 

 

"なんでそのチョイスww?"

"料理ゲームかと思ったら、まさかのw"

"↑↑レイナちゃんが料理できるわけないだろ!!"

 

"キャラは可愛いんだよなあ"

"うっ、昔の古傷がうずく・・・"

"ルール知らずに始めるには、ちょっと重くない……?"

 

「ルールはたぶん大丈夫です! 私のバックには千佳が付いてますから!」

「し、信頼が重い……!」

 

 私がキラキラした目で千佳を見ると、千佳はうっと目を逸らす。

 

 

「えーっと、このゲームの基本的なルールはな――」

 

"初心者には、どうあがいてもハードル高いよなあ"

"マネちゃんの腕の見せ所"

"うんうんうなずいてるレイナちゃん可愛い"

"でもよく分かってなさそう()"

 

 千佳いわく、これからやるゲームは、手札を集めて役を作るポーカーのようなゲームらしい。

 1枚ずつ捨てて要らないものを捨てて、1枚ずつ手札を集めてゴールを目指すもの。

 そうして役が完成したら、アガリになり次の試合へ。

 

 

 ――そうして次は……、と"役"の説明に入る千佳であったが……、

 

"よく分からないと早々に悟って眠そうなレイナちゃん可愛い・・・"

"解釈一致"

"そらそうよ"

"マネちゃん、やっぱり頭良い・・・"

 

 

「このゲームは、4つの3枚組と、1つの2枚組のセットを作ればアガリで――」

「ほえー…………」

 

 ぽけーっと口を開ける私を見て、千佳が一言。

 

「同じカードを3枚ずつ集める。あるいは2枚ずつ集める。そうしたらゴールや!」

「分かった!」

 

"レイナちゃんでも分かるまーじゃん講座!"

"【悲報】レイナちゃん、四暗刻か七対子しかアンロックされないw"

"まあ、習うより慣れろだよね"

 

「ルールはやりながら説明するとして……、さっそく打ってみるで!」

「よく分からないので、食材の皆さんはアドバイスバンバンお願いします! あ、対戦の残り2枠は、食材さんから募集しますね!」

 

"喰われる!"

"指示厨は自重しろよ?"

"流れ速すぎて読めんw"

"経験者、意外と多くて草"

 

 そんな感じの軽いノリで。

 私は、千佳とシャンタマで対戦を始めるのだった。

 

 

 

 そうしてはじまった1局目。

 参加者は――見知らぬ食材さんと……、

 

「ゆ、ゆきのん先輩だ!?」

 

"《望月雪乃》やった、入れた!"

"ゆきのんだ!?"

"当たり前のように待機してて草"

"ゆきのんは、レイナちゃんのガチファンなので・・・・"

"あの高倍率の早押しをくぐり抜けて!?"

 

"というかマネちゃんシャン聖で草"

"上から2つ目だっけ?"

"その上は、もうプロ並みの人しかおりゃん"

"ガチすぎる・・・"

 

「ほえー、千佳すごいんだ」

 

 コメント欄が盛り上がっていた。

 心なしか千佳がドヤっと胸を張った気がする。

 始めたばかりの私にその凄さは分からないけど、千佳が褒められているのを見て私まで嬉しくなった。

 

 

「えーっと、捨てるものを選ぶんだっけ」

 

 私は、持っていたスマートフォンに向き直る。

 

 私は、千佳の教えを思い出しながら要らない手札――牌というらしい――を捨てていく。

 シャンタマというゲームは、1枚牌を持ってきて、要らない牌を捨てるという動作を繰り返すものらしい。

 

 

「食材さん! 何切れば良いんですか!?」

 

"とりあえず字牌整理しよう"

"う~ん、この形なら三色見たいからキューワン切り?"

"ドラは使いたいからパーピントイツは残したいね"

 

「に、日本語で!」

 

 食材さんの中には、このゲームのガチ勢の方々がいるみたい。

 しかし初心者の私には、彼らの言葉がさっぱり分からないのである!

 

 

(う~ん。千佳の操るキャラクター、可愛いなあ――)

(ええっと、同じカードを3枚ずつ集めれば良いんだよね!)

 

 私は、千佳のアドバイスを思い出しながら要らなそうな牌を捨てていく。

 3枚集めれば良いということは、1枚しかないものはきっと要らないんだと思う。

 

 

 最初は、あたふたと私に打ち方を教えようとしていたコメント欄だったが、

 

"ふぁっ!?"

"なんやこれ、なんやこれ・・・"

"引いてくるもの全部アンコになっていって草"

"【悲報】レイナちゃん、ゲームでも常識を知らない"

 

(あれ…………?)

(何やらコメントの様子が…………)

 

 だんだん、その様子が変わっていく。

 

「あ、なんか出ました!」

 

 気がつけば、画面には立直(リーチ)という謎の文字が。

 派手なエフェクトとともに、金色にキラキラ輝いている。

 

"四暗刻6巡でテンパってて草"

"いっちゃえ!"

"俺たちは何を見せられてるんだ・・・"

 

 

「千佳? このボタン、押して良い?」

「へ?(めちゃくちゃ速いな……) 立直は、基本して損はないと思うで」

「じゃあ!」

 

 ちなみに千佳は、私の画面を見てはいない。

 とりあえず初戦だからということで千佳と対戦しているが、次試合からは千佳をアドバイサーにして視聴者さんと対戦する予定だったりする。

 

 

「悪く思わんでな、レイナ。うちもリーチや!」

 

 続いて順番が回ってきた千佳が、威勢よくそんなことを言い出したが、

 

 

「あ、何か出ました!」

「へ?」

「ロンって出てます。えーっと、押します!」

 

 

"四暗刻・単騎草"

"レイナちゃん最強すぎるw"

"一発で出てくるの、マネちゃんも持ってる"

"なるほど、レイナちゃんにはあの説明だけで大丈夫だったんやなって・・・"

 

「さ、さすがはレイナや。ビギナーズラック恐るべし――って、ぇええええええ!?」

 

 部屋の中に、千佳の断末魔の悲鳴が響き渡った。

 

 

 ――食材さんによれば、私が上がった役はダブル役満と呼ばれる最強クラスの役らしい。 

 千佳は、一撃で持ち点を失い、あっさりと敗北。

 1局目は、そのまま終了となった。

 

 

"理不尽すぎるw"

"《望月雪乃》あのー、座ってたら一瞬で試合が終わったんですけど……"

"レイナちゃんともっと遊びたかったゆきのんはご不満"

"ゆきのんは可愛いなあ"

 

「ゆきのん先輩! 今度、ダンジョン潜りましょう!」

 

"《望月雪乃》や、やった!"

"《望月雪乃》行きます、行きます! 絶対行きます!!"

"ゆきのんの反応が食い気味なのよw"

”てぇてぇ”

"てぇてぇ"

"行き先は深層だがよろしいか?"

"《望月雪乃》ぇ・・・?"

 

「レイナ~! もう1局や、もう1局! リベンジや!」

「へ? 千佳は、どうしたの……?」

「勝ち逃げは許さへんで! うちは今まで勉強してきた牌効率で、どんな理不尽にも打ち勝つんや……!」

 

 

"燃え上がるマネちゃん!"

"さすがのレイナちゃんでも、あれほどのバカづきはもう・・・"

"ルールを覚えてない初心者に、ガチで挑みかかるシャン星がいるらしい"

"《望月雪乃》わ、私、レイナちゃんのアドバイスに回りますね!"

 

「ゆきのん先輩! めちゃくちゃ頼りになります……!」

 

 

 そうして始まった二局目。

 

「ミライちゃんだ!? ミライちゃんもこのゲームやってたの!?」

 

" 《神田ミライ》レイナ様のために、馳せ参じたッス!"

"身内率高すぎい!"

"見てて楽しいからヨシ"

 

「レイナ、今回ばかりはうちが勝つで!」

「よく分からないけど受けて立つ!」

 

 何やら燃え上がる千佳をよそに、私は配られた手札──配牌というらしい──に目を向ける。

 

「このキラキラしてるのは何ですか?」

 

"なんやこれw"

"豪運すぎて草"

"《望月雪乃》そのキラキラはドラと言って、えーっと……"

 

「ほえー……」

 

"《望月雪乃》いっぱい集めると最強!"

"雑w"

"レイナチャンでも分かる麻雀講座!"

 

「分かりました! いっぱい集めます!!」

 

 ゆきのんのアドバイスに頷く私。

 

 

" 《神田ミライ》ならあたいはこうッス!"

"《神田ミライ》レイナ様、受け取って下さいッス!"

"そ・れ・はw"

"カン!?"

"アシスト(普通ならアシストにならない)"

"ちゃんと乗ってて草"

"これがレイナちゃんや!"

 

 何やらミライちゃんが技を使い、私の牌が輝き出した。

 

「ふわっ!? ミライちゃん凄い!」

 

"麻雀ってチーム戦だったのか…(困惑)"

"上級者でもレイナちゃんアシストするのは無理や"

"全部、自分で持ってくるからな!"

 

 

 コメント欄の空気は、概ね普段の配信と似た空気。

 不慣れなことをしてるけど、リスナーさんも楽しんでくれてると良いなあ。

 

「えーっと、なかなか3つ集まらないですね……」

 

"全部有効牌持ってきて草"

"でもレイナちゃんは四暗刻しか見てないゾ"

"なんやこれ、なんやこれ…"

"レベル上がると運も育つんか?"

"↑↑マジレスそれはない もしそうなら、探索者がギャンブル出禁になる。単にレイナちゃん様がヤバいだけ"

 

「3つて……、あんな交通事故みたいな役満、何回も当たってたまるかいな!」

 

 私がポツリと呟けば、千佳からはそんなリアクションが飛んでくる。

 そうして何回か不要な牌を捨て、牌を引いてきたところで──

 

「あ、また何か光りました!」

 

"張った!"

"チートイ一直線!"

"草"

"ほんとにドラ全部集めてきたな……"

"有言実行w"

 

 私は、迷わずリーチのボタンを押す。

 

「悪いなレイナ、おっかけリーチや! 今度こそうちが──」

「あ、ロンです!」

「ぎゃぁぁああああああ!?」

 

"また一発でマネちゃん振ったぁぁぁぁ!"

"いっそ芸術的w"

"裏ドラも全部乗って草"

"ドラ9ww"

"また一撃で試合終わった〜!?"

 

「そ、そんな爆運続いてたまるかいな! 次、次や!」

 

 

 すっかりやる気満々の千佳。

 私は、そろそろ千佳との雑談配信(マシュ○ロを開けていきたい)と思っていたのだけど──

 

「あ、またロンみたいです!」

「ぎゃぁああああ!?」

 

「また光りました!」

「ぎゃぁああああ!?」

 

"全部役満で草"

"全部マネちゃんのリーチ牌なの芸術点高い"

"新手の差し込みだった可能性が微レ存?"

 

 

 そうして何局か打ち。

 私の手元には、ピカピカ輝く3枚の真っ白い牌が並んでいた。

 私は、その牌を眺めながら──

 

「この真っ白いの、お豆腐みたいで美味しそうですね──」 

 

"は?"

"は?"

"は?"

"平常運転!"

 

 

「今度こそリーチや!」

「あ、それロン!」

「ぎゃぁぁあああああ!?」

 

 断末魔とともに沈んでいく千佳。

 

 

「ゆきのん先輩、ミライちゃん! ちょっとダンジョンまでお鍋、食べに行きましょう!」

 

"《望月雪乃》へ?"

"《神田ミライ》もちろん行くッス!"

"ダンジョン(レストラン)"

"カニさん超逃げてw"

 

 

 一方、千佳はすっかり熱くなってしまった様子で、

 

「もう1局、もう1局や……!」

「えーっと……、そろそろマシュマロに──」

「うちはほんなオカルトみたいな豪運、絶対に認めへんで!」

 

"マネちゃん、意外と負けず嫌い"

"カオスw"

"草"

 

 そんなこんなで、初めてのオフコラボはのんびりとした進行を見せるのであった。

 



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第四十七話 雑談配信(1)

 千佳とのゲーム配信を終え、

 

「――それでは、ま◯ゅまろ読んでいきます!」

 

 私は、つぶやいたーに届いていた質問を読み上げていく。

 

 

『ダンジョンでもっとも印象残ってる食事のランキングは?』

 

「えーっと、そうですねえ――」

 

 ダンジョンで食べた料理は、どれも甲乙つけがたい程に美味しかった。

 だけども、印象に残ってるって意味なら……、

 

 

「はいはい! 3位は、ブルーマスカットです! 理由は――、死にかけたからです!」

 

"いきなり草"

"理由がヘビーすぎるw"

"むしろそれで3位なのか・・・(困惑)"

 

「レイナ、ダンジョンに落ちてるもの拾っちゃいけないって学校でも習ったやん……」

「だって……、ツヤツヤして美味しそうだったし――」

 

 じとーっと私を見てくる千佳から目を逸らし、

 

「それに……、落ちてたんじゃなくて、木から取ったからセーフ!」

「ア・ウ・トや!! 運良く探索者が通りがからなかったら、お陀仏だったんやで!」

 

 千佳は、今日も今日とて過保護だった。

 

"マネちゃんの胃は今日もボロボロ"

"ブルーマスカットそんなに美味しいのか・・・"

"↑↑食べるなよ、絶対食べるなよ!?"

 

 

「2位は――、 デュラハンのビリビリ草包み?」

 

"食べ物 #とは"

"たしかに印象には残ってるw"

"これがレイナちゃん、なんだよなあ"

"【悲報】グルメランキング、ゲテモノしかない"

 

 う~んと首を傾げて考え込む私に、コメント欄は散々な反応。

 

「レイナは、何を思って鎧を食べようと思ったんや?」

「そこにフロアボスが居たから!」

 

"即答草"

"すごい良い笑みで言い切った!"

"まあ食欲は三大欲求やしな()"

"マネちゃん、さっきからずっと困惑してるw"

 

 

「そして1番印象に残ってる食事1位は――カニ鍋です!」

 

"知ってた!"

"自他ともに認めるナンバーワンや"

"歴史に残るダンジョンアタックをカニ鍋扱いww"

"みんなして毒鍋バクバク食っててクッソ笑ったわアレ"

 

「本当に、本当にほっぺたが落ちそうなぐらい美味しくて!

 う~ん、今思い出してもよだれが……。剛腕さんたちの料理も最高だったんです!」

 

 あの時の衝撃は、未だに忘れられない。

 一口、スープを運んでは脳に衝撃が走り、気がついたら皿が空っぽになっていたのだ。

 

(カニ鍋……、恐ろしい子!)

(また食べに行きたいなあ――)

 

"いつものポンコツ食レポ草"

"こいつ、いっつもほっぺた落っことしてるなw"

"レイナちゃんに食レポ求めるとか初心者か?"

 

「そういえば千佳は、何か衝撃的だったダンジョン料理はある?」

「レイナの配信は、すべて衝撃的なんやけど――レイナが挙げてないやつならアレやな。風船ボンバーの踊り食い」

 

"???"

"ナニソレ?"

"無名時代のやつ?"

"なんかやべーの出てきたw"

 

 風船ボンバーを食べたのは、私がバズる前のことである。

 それは文字通り体内に爆弾を埋め込んだ風船型のモンスターであり、倒すと最後に自爆する面倒な相手だった。

 

「倒すと爆発するなら、生きたまま食べてみる――皆さんでも、そうしますよね!?」

 

"同意を求めないでw"

"相変わらずクレイジーで草"

"この子、本当になんで埋もれてたの?(定期)"

 

 ……ちなみにモンスターを丸齧りしたシーンは、癒しとは程遠い。 

 そう思って、自主没にしたのは私である。

 

 

"なになに? 今は何の時間?(英語)"

"印象残ってる食事ランキング発表中だってさ(英語)"

"《英検1級はクソゲー》3位 ブルーマスカット。2位 デュラハン 1位 カニ鍋。

 番外編としてマネちゃんは、風船ボンバーの踊り食いを選出(英語)"

 

"食事のランキングでデュラハンなんて上がってくる訳ないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

 

 

『あの後もサインの練習はしてるの?』

 

「はい、してます!! 実はですね――」

 

 私は、ワクワクソワソワと色紙を取り出そうとする。

 

「待った、レイナ! まさか……、アレを取り出す気なんか?」

「止めないで、千佳!」

「アカンで、レイナ。あんなもん配信に載せたら、視聴者の精神が崩壊して、日本中が大混乱に陥ってまう!?」

 

"マネちゃんww"

"(注)サインの話です"

"自信満々のドヤ顔レイナちゃん、いつ見ても可愛い"

"つURL→自慢のサインを呪術の触媒にされてしまったレイナちゃん"

"↑↑の動画、後で見直したら、マインちゃんの呪術とんでもない威力で笑う"

 

"マインちゃん?"

"こないだのアタックに参加してた海外の女の子"

"あー、あのおっさん&幼女ペアね"

"レイナちゃんのサインは、正真正銘、特級呪物だった?"

 

 

「む~! 黙って聞いてれば、人のサインを、前衛芸術だの、呪物だの好き勝手!

 でも、それも今日までです!」

「前フリとしては百点満点やな……」

 

「ジャ~ン!!」

 

 私は、かけ声とともにスマホにサインを映し出す。

 

「どうですか!? どうですか!?」

 

 半日かけてアレンジにアレンジを加えた自信作である。

 そわそわと感想を求める私に、

 

 

"なんやこれw"

"更に禍々しさを増してて草"

"余裕で邪神とか召喚できそう"

 

「レイナ、そのサイン……。本気で呪術使いに売れるんちゃうか?」

「千佳は商売っ気出さないで!?」

 

 呪術コーナーで自分のサインを見つけたら、流石に泣いちゃう。

 大真面目な顔でとんでもないことを言い出す千佳に、私はぷくーっとふくれっ面になるのであった。

 

"《マイン》新作、助かる(英語)"

"《マイン》新たな術式、開発できるかも(英語)"

"ふぁっ!?(英語)"

"やべえ人おって草(英語)"

"本物やんけ! マインちゃんも食材だったの!?(英語)"

 

 

「ほえっ? 何があったんですか!?」

 

 にわかに加速した海外リスナーさんたちのコメント。

 

"《英検1級はクソゲー》マインちゃん降臨。ちなみにマインちゃんは、ちょうど昨日付けで、探索者ランクが第4位に上がったらしい"

"そんな有名探索者が、こんな時間にやってる雑談配信見てる訳ないだろ。いい加減にしろ!"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

"条件反射で嘘つき呼ばわりされる英検ニキ不憫すぎる・・・"

 

 

「英検さん、その……。マインちゃんさんは何と?」

 

"《英検1級はクソゲー》えっと、新たな術式が開発できるかもって(´;ω;`)"

"あっ(察し)"

"聞かなくて良いことまで聞いちゃうのは、日本人の(さが)よなぁ"

 

「…………えーっと、次の質問行きますね!」

 

"無かったことにしたw"

 

 

『レイナちゃんとマネちゃんの馴れ初めを聞かせて下さい!』

 

「千佳との出会いかあ――」

 

 私は、その日のことを思い出しながら口を開くのだった。



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第四十八話 雑談配信(2)〜千佳との馴れ初め〜

「私からの千佳の第一印象は……、お金なくて困ってたら貸してくれる優しい人?」

 

"え……?"

"【悲報】レイナちゃん、紐だった"

"マネちゃんは出会ったときからレイナちゃんのお世話してたのか・・・(困惑)"

"どんな出会い方したらそうなるのw"

"てぇ……てぇ?"

 

「ちょっ、言い方!?」

 

 のほほんと笑う私に、

 

「レイナは、ちゃんと自分のものは自分で買う良い子やからな! なんなら今は、ウチの方がおんぶに抱っこやからな!?」

 

 千佳が、そう慌てたようにフォローした。

 

「というかダンジョン素材って、あんなに良い値段になるんやな。振り込み金額見てさすがに震えたで」

「ほえー」

「……なんで、あんたが把握してないんや」

 

 学生は素材の換金不可という制限があり、今までは放置していたダンジョン素材。

 カニ鍋――じゃなかった最前線へのアタックを見ていた探索者組合の働きかけもあり、ついに私たちダンジョンイーターズは、素材を換金する許可を手にしたのである。

 

(でも、なんか分厚い契約書が来て……)

(ついつい条件反射で、千佳に丸投げしちゃったんだよね)

 

 

"無頓着すぎるw"

"熟練夫婦かな?"

"あー、奥さんが家計を管理するやつw"

"お世話されっぱなしのレイナちゃん!"

"てぇ……てぇ?"

 

 食べられないものは、等しく無価値。

 一応、食材さんたちのアドバイスを元に、素材を持ち帰るようにはしている。

 それでも、それがどうなったかは、あまり把握していない私であった。

 

「だいたいですね、私みたいな小心者が、いきなり大金持っても困っちゃいますって。

 その点、千佳に預けておけば、きっと悪いようにはならないと思うんです!」

「相変わらず信頼が重いな!? でも、まあ……、後悔はさせないって自信はあるで」

 

"これはてぇてぇ"

"いやこれ、レイナちゃんは面倒事丸投げしただけだw"

"流石にかなりの信頼関係ないと無理よ"

"てか馴れ初めエピソードは!?"

 

 

「はっ。しまった、ついつい話が脇道に!」

「ならここは、ウチから話すで。といっても、大した話やないんやけどな――」

 

 そう言って話し始めたのは、さっき私が口走ったあの日のことだ。

 千佳目線で話を聞くのは、新鮮だった。

 

 

「あの日は、大きな実験で大失敗してな。もともと不可能だって理解もされへん研究で。

 テーマをもっと楽なものに変えるか、どうしようって悩んで、食堂で頭を抱えてるところにな――」

 

 千佳は、何かを懐かしむように、

 

「この子が現れたんや」

「食堂で頭を抑えて苦しそうに唸ってたから。その……、お腹空いたのかなって」

 

"マネちゃんとレイナちゃんの温度差よw"

"てか天才マネちゃんでも、失敗して悩むことあるんやな"

"確かに失敗なんて気にせず我が道を行ってるのかと思ってた"

"うん。レイナちゃんの話聞いてたら、ひたすら真っ直ぐ突き進んでそうなイメージあった"

 

「レイナは、ウチの事を普段は何て言ってるんや……?」

 

"不眠不休で1週間研究する妖怪"

"不眠不休で1週間研究する妖怪"

"草"

 

「レイナ〜〜!?」

「わーわー、ごめんなさい〜!?」

 

 千佳が、私の頬をむにーんと引っ張った。

 

「そんなこと言う悪い子は……、こうや!」

「あっはっはっはっ、やめっ!」

 

 そのまま押し倒されてお腹をくすぐられたので、私も負けじと応戦する。

 そんなじゃれ合いをしていたので、

 

"いつか歴史を変える天才"

"1番信頼してる人"

 

 ――なんて小っ恥ずかしいコメントは、千佳の視線に入ることはなかったのである。

 

 

「って、こんなことしてる場合じゃない! 千佳、続き続き!」

「ああ、そうやった!

 えっと……、のほほーんとした顔で、カレーを勧めてきたレイナは……。そのまま、十皿カレーを空にしたんや!」

 

"レイナちゃんww"

"めっちゃ幸せそうな顔で食べてそう"

"ギャラリーできてそう()"

 

「あらかた食べ終わったころに、ハッとした顔でカバンひっくり返して、何か探し出したんよ」

「確認したら、財布の中に何も入ってなくて――」

 

"それは真っ青になるw"

"わりと最悪の出会い方してて草"

"お金がなくて困ってたって、そういう!?"

 

 あの時は、本当に焦ったなあ。

 

「それでまあレイナに貸しつつ……。ぽけーっとしてたから、つい言ってしもうたんや。

 悩み無さそうで羨ましいなあって。そしたら――」

「むっ。悩みあるよ、いっぱい!

 今日のお昼は、カツカレーにするか野菜カレーにしようか、とか! 今日の夜は、何にしようか、とか!」

「そうそう。そんな答えが返ってきてな!」

 

"草"

"その時のやらかしじゃないんかい!!"

"レイナちゃんらしいけどww"

"本人、大真面目に悩んでそう……"

 

「そんなことで、むむむむ〜って悩んでるレイナを見てたら――なんかウチが悩んでることも、割と、どうでも良い気がしてきてな」

「うんうん。悩んでるなんて千佳らしくないよ」

「今思うとホンマにそうやなあ。

 よくよく考えたら、失敗したっちゅうことは予想外に出会えたってことや。こんなに楽しいことは無いで!」

 

 あの日の千佳も、そう楽しそうに笑ったっけ。

 ――1週間不眠不休で、研究に没頭する妖怪が生まれた瞬間である。

 

 

「馴れ初めっちゅうか……、それがウチとレイナの出会いやな!」

 

 そう締めくくる千佳。

 

「あっ、そういえば私がダンチューバー始めたのも、千佳の後押しがあったからだよね!」

 

"ふぁっ!?"

"明かされる驚愕の新事実!"

"奇跡の邂逅やんけ"

"マネちゃん、グッジョブ過ぎる!"

 

「だってこの子、ダンチューバーに憧れて専門学校入ったのに、いざ入学したら、私なんかにダンチューバーは似合わない〜〜っなんて尻込みしとったんやで」

「だって私が見てた先輩たちは、あんなにキラキラしてたし……」

 

 割と目標と正反対の方向に、突き進んでいる私である。

 もっとも、それで食材さんが楽しんでくれてるなら、何も文句は無いのだけど。

 

「大食い系ユーチューバーか、癒し系ダンチューバーか。千佳に提案された2つは、究極の選択だったよ」

「あ、あれはダンチューバーを選ばせるための言葉の綾っていうか。まったく、ダンチューバー選んでくれて、本当に良かったで……」

 

"大食い配信も、ちょっと見てみたいw"

"↑↑いつもしてるやんけ!"

"ダンジョンで食べてる量も、大概なんだよなぁ"

"《望月雪乃》いっぱい食べるレイナちゃん。見守りたい……"

"ゆきのん、なんか駄目なお姉さんっぽい発言で草"

 

 

「まあ、潜ってすぐ第一地区のフロアボス倒して帰ってきたのには驚いたなあ。

 それなのに本人は、返り血浴びながらにっこにこで癒し系配信やりたい言うとるし……」

 

"いきなり強すぎて草"

"期待の新人すぎるw"

"いや、それは無鉄砲すぎ!?"

"よく生きてたな(定期)"

 

 危なくなったら無理せず引き返せとは言われたが、クリア出来てしまったものは仕方ない。

 

 そんなこんなでダンチューバーを始め、千佳に攻略速度を驚かれた私。

 その翌週、ブルーマスカットにかぶり付き、病院に緊急搬送されることになるのだが――それはまた別の話。

 

 

「それじゃあ時間もちょうど良いし、今日の配信はここまで。

 本日も視聴いただきありがとうございました! また次の食卓でお会いしましょう」

 

"乙〜"

"おつレイナ〜"

"おつかれさまー"

"この後はマネちゃんと一緒に寝るんですね!"

 

「はい、今日は千佳と一緒に寝る予定です!」

 

"ガタッ"

"ガタッ!"

"おまいら落ち着けw"

"《望月雪乃》レイナちゃんの寝顔、見守りたい・・・"

 

「夜も遅いから泊まってくってだけやから! レイナも変な言い方せんといて!?」

「ふえっ!?」

 

(食材さんたちも、千佳も、あんなに慌ててどうしたんだろう……?)

 

 

 こてりと私は首を傾げて、配信を切るのだった。



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第四十九話 闇鍋配信(1)

 千佳とのオフコラボの翌々日。

 

「今日も食卓から癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは!」

 

 私は、新宿ダンジョンで配信を開始する。

 

 

"こんレイナ~!"

"待ってた!"

"今日はダンジョン配信?"

 

「はい! そして、なんと今日は――案件配信です!

 案件を下さったのは、いつもお世話になってるエリクシアさんです!」

 

"なんと!"

"案件おめでとう~!"

"むしろ今まで案件じゃなかったのかw"

 

 エリクシアさんは、私が愛用しているダンジョン料理器具のメーカーだ。

 

 加熱機にデュラハンの腕を放り込み、爆破してしまったのも今や懐かしい思い出。

 千佳いわく、私の配信のおかげで売上が爆発的に伸びたとかで、とても感謝されたそうだ。

 

 

(私としては、ありがたく使わせて頂いてるだけなんだけどね!)

 

 それでも私の配信を通じて、商品の良さが伝わったなら嬉しい限り。

 

「今日紹介する器具は、なんと千佳が技術提供してます。

 その名も、空間拡張技術を搭載した次世代型の運搬具――ラクラク・ハコベールです!」

 

"命名センスひっでぇww"

"まさかレイナちゃんが案件もらう日が来るなんて・・・"

"空間拡張技術 #とは"

"え? サラッと言ってるけど、めちゃくちゃすごない!?"

 

「えっと。スキルの効果を解析して再現したものらしくて――簡単に言うと、こんなに小さいリュックだけど、いっぱい物が入ります!」

 

"《鈴木千佳》ふっふっふ、ついに長年の研究が日の目を見る日が来たんやで!"

"《鈴木千佳》期待しといてな!"

"マネちゃんだ!"

"神出鬼没なマネちゃん!"

"本来こっちだけで食っていける人材"

 

「実演しますね。…………えいっ!」

 

 ドガッ!

 ブモゥゥゥッ!(ミノタウロスの断末魔)

 

 

 遠目に見えた牛型モンスターへ拳を打ち込み、私は一撃でモンスターを仕留めていく。

 

"いや草"

"ノーコメントで処される牛さん可愛そう"

"う~ん! これは捕食者の貫禄w"

 

 

(うん、鮮度もバッチリ!)

 

「はい! こんなに大きかったミノタウロスが――ほら、こんなに簡単に入るんです!」

 

 私は、巨大なミノタウロスをリュックに詰め込んでいく。

 空間拡張技術を施したリュックの中は、見た目より遥かに広い。

 見た目としては、ミノタウロスが小さくなりながらリュックに吸い込まれていく感じだろうか。

 

「はい、この通り!

 あれだけ大きかったミノタウロスが、すっぽり入っちゃいました。しかも、まだまだ余裕があるんです!」

 

"ふぁっ!?"

"思ったよりとんでもなくて草"

"やっぱりマネちゃん、ダンジョンイーターズの準リーダーなんやなって"

"↑↑ダンジョンイーターズを非常識集団みたいに呼ぶのやめれw"

 

 ちなみに空間拡張技術で広げられたリュックの中は、ひんやり冷たく保存にも適しているらしい。

 これまでの私が休憩所までモンスターを運ぶしかなかったのを思えば、大きすぎる進歩である。

 

 

「――という訳で、今日の配信はラクラク・ハコベールの実演を兼ねて。

 アンカ闇鍋をやろうと思います。具材は、その辺で狩ってきます!」

 

"草"

"うぉおおお!"

"あの禁断のアンカ闇鍋を!?"

"レイナちゃんがそれやるのは絶対ヤバイw"

 

 アンカ闇鍋――それはユーチューバーの間で流行っていた企画の1つだ。

 簡単に言えば、リスナーさんに具材を決めてもらって鍋を作るというもの。

 ただし配信を見ているリスナーさんは、だいたいが悪ふざけに走るため碌な事にならないというのが定説である。

 

 今回、私がやるのは、それを更にアレンジした企画。

 すなわち決めてもらった具材を、その場で狩って、ラクラク・ハコベールに詰め込んでいくというもの。

 もちろん最後は、通常の闇鍋配信と同様、ちゃんと責任を持って食べる予定だ。

 

 

「今日は助っ人として、料理のスペシャリスト・剛腕さんと試食係のミライちゃんも呼んでます!」

「どうも。最近、料理人としての活動が板についてきた元・剛腕の不死殺し――ちなみに本名は翔破(しょうは)(ごう)だ」

「はい! 今日も元気いっぱい、試食担当のミライッス!」

 

"今明かされる剛腕ニキの真名!"

"コックの衣装身につけてて草"

"しかも無駄に似合ってるのヤメれw"

"ミライちゃんは味見係なのねw"

 

 

 それから私は、アンカ闇鍋のルールを説明していく。

 

 食材は全部で7つ。

 私がコメントを書き込み、その直後に書き込まれたコメントをアンカとして採用するという方式だ。

 そこに書き込まれたモンスターを狩り、鍋の具材にする。

 アンカは絶対――千佳いわく、それは鉄の掟なのだそうだ。

 

 

「食材のみなさん、信じてますからね!」

 

 私は、アンカタイムを宣言し、コメントが大量に書き込まれるのを待ち……、

 

「えいっ!」

 

"ピュアリー・ラビット"

"ブルー・マスカット!"

"マナ溜まり"

"剛腕ニキ"

"《彩音レイナ》はい!"

"オムレツ"

"ゴールデン・ターキー!"

"オークキング"

"スケルトン!"

"おにぎり"

"マネちゃん!"

 

(食材さん!?)

(なんか半分ぐらい食べられなそうな物が並んでるような!?)

 

「オムレツ……、卵? う~ん……、ゴールデン・ターキーの卵で良いかな?」

 

"自ら難易度を上げていく配信者の鏡"

"書き込みカオスで草"

 

 まあでも、結果オーライ。

 1つめの具材は、割とまともな具材になった気がする。

 

"いきなり無茶振りきたぁw"

"さすがに企画が無謀すぎるww"

"へ? ゴールデン・ターキーって、下層にいる?"

"こっちの気配察知して神速で逃げる奴だよな。あれ、狩れるの……?"

 

 そんなコメント欄を尻目に、私は下層に移動する。

 

 狙いはゴールデン・ターキーの卵だ。

 ゴールデン・ターキーは、ずんぐりと太った鳥型のモンスターだ。

 長い首とクチバシが特徴で、名前の通り羽毛が金ピカに光っている。

 全身が可食部位で、中でも筋肉の発達した足が非常に美味しい。

 

 

「ゴールデン・ターキーは、逃げ足が早いんですよね。

 だから私も――少しだけ本気で追いかけます!」

 

"いや草"

”ゴリ押しw”

"この速度についていくスマホ、どうなってるのw"

 

「捕まえましたっ!」

 

"ひえっw"

"捕食者からは逃げられない!"

 

 私は、巣穴に潜り込もうとしたゴールデン・ターキーの首をむんずと掴む。

 狙いは、巣穴にあるツヤツヤ輝く卵たちだ。

 

 ギャーギャー!

 甲高い悲鳴をあげながら、羽をバタつかせるゴールデン・ターキー。

 

「恨むなら食材さんたちを恨んでね」

 

 そう言いながら、私は巣穴から卵をいくつか取り出す。

 

"ゴールデンターキーたそ、ごめんよ・・ こんな獰猛な捕食者を差し向けてしまって..."

"めちゃくちゃ高級食品だよな、こいつ"

"うん。狩るならプロが罠張って数日かけて追い込む"

"まあレイナちゃんだからな・・・(遠い目)"

 

(配信時間考えると全部集めるのは厳しいかもって思ってたけど、思ったよりサクサク!)

(これなら大丈夫かも!)

 

「さて、次のアンカ行きますね!」

 

 その後、私は、食材さんにアンカを募りながら具材を集めていく。

 

 

「つみれ! 分かりました、中層にある湖で、いくつか魚を集めてミンチにします!」

 

"躊躇なくキラー・ピラニアの群れに飛び込むレイナちゃん!"

"無茶振りが無茶振りにならないの草"

"殴ってミンチにするのヤメテw"

"モザイク、モザイク!"

 

 

「シャドウバブル・フィン! フグだ……、美味しいですよね!」

 

"注)知られている限り、現存するダンジョンで一番毒性が高いフグです"

"良い子は真似しないで下さい"

"なんで食べたことあるんだ・・・(困惑)"

"てかまず深層の湖に素潜りしないでw"

 

 

「パンドラ・ボックス! なるほど、良いですね~!」

 

"良いですね~! じゃないんだよなぁw"

"レストラン選ぶ感覚でS級モンスター狩るのヤメテ"

"トラウマぶち壊し配信"

"パンドラ・ボックスは、あの舌が美味しいらしい(レイナちゃん談)"

 

 

「ドラゴンゾンビ! …………あれ、食材さん!?」

 

"あっ(察し)"

"あっ・・・"

"それは駄目なのねw"

"ゲテモノ枠きたw"

 

「う~、せっかく良い感じで来てたのに!!」

 

 ドラゴンゾンビ――私がバズるキッカケになった懐かしい名前だ。

 どう頑張っても美味しくはないし……、

 

"あなた、どうやっても食えないのよね"

"消します!"

"あっはっは( ゚∀゚)/"

"あっはっは( ゚∀゚)/"

 

「あのー、その世界線の私は、そろそろ忘れて下さると……」

 

 バコッ ドカッ

 雑談しながら、ドラゴンゾンビを狩っていく。

 

"流れ作業草"

"ここ下層なんだけどな・・・(困惑)"

 

 そんな勢いで、アンカ闇鍋は順調に進んでいく。

 千佳お墨付きのラクラク・ハコベールは、見事に狩った具材をすべて吸い込んでいった。

 

 

 そんなこんなでラスト1つ。

 

「えーっと…、ダンシング・ジェリーフィッシュ……、なんですかこれ?」

 

 アンカで決まったのは、見覚えのないモンスターの名前。

 

"これはアカン"

"流石に再アンカ?"

"悪ノリでも、それはアカン"

 

「えっと……? 解説希望です!!」

 

"巨大なクラゲモンスター。新種だから全容は不明"

"深層第九地区のフロアボス。バチバチの最前線やね"

"さすがにソロで挑むものじゃないね。素直に再アンカしよ?"

 

「……クラゲって、美味しいんですかね?」

 

"食欲優先したw"

"おいバカやめろw"

"まともに食えそうな名前だから、ちょっと嬉しそう!"

"たぶんコリコリしてて美味しい"

 

 

 アンカは絶対らしいし、取りに行ってみようか。

 決して、断じて、巨大クラゲ――なんて珍しい食品に釣られた訳ではない。

 

「……さすがにヤバそうなら逃げるので、それは許して下さいね?」

 

"まじで行くの!?"

"ウッソでしょw"

"とんでもないの書き込んだ奴はうんと反省してどうぞ"

"安全第一で!"

 

 私は、心配そうなコメントをよそに、深層を潜っていく。

 第9地区は未知の地だが、前の地区と同じ要領で十分進むことができた。

 

"なになに、レイナちゃんはどこに向かっての?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》第9地区、フロアボス食べに行くらしい(英語)"

"そんな散歩感覚で最前線に突き進むやつが居るわけないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》・・・(´;ω;`)"

 

 

 

「着きました! ……行きます!」

 

 私は、そう宣言。

 ボス部屋の扉を開け放つのだった。




お読みいただき、ありがとうございます!
作者のモチベーションになるので、お気に入り、評価、感想など頂けると嬉しいです!


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第五十話 闇鍋配信(2)

 ボス部屋に入った私を迎えたのは、ダンシング・ジェリーフィッシュ━━空飛ぶ巨大クラゲである。

 

 ちなみにミライちゃんと剛腕さんには、部屋の入り口で待機してもらっている。

 ボス部屋の入り口は、モンスターの入らない安全地帯になっているのだ。

 

 

"まじで挑んじゃったよ・・・"

"不意打ち狙ってきた姑息なカニよりは、クソボス度合い低そうか?"

"雰囲気、下層に居たクラゲと同系統かな"

 

 薄暗い部屋の中、そのクラゲはふわふわと浮遊しながら淡く光っていた。

 私が部屋の中に入ったにもかかわらず、我関せずといった様子でふわふわ漂っている。

 

 

(マイペースなモンスターなのかな)

(フロアボスは、好戦的な相手が多かったから珍しいね!)

 

 だとしても悲しいかな、この世は弱肉強食。

 相手に敵意がなくても、闇鍋企画成功のため!

 

「先手必勝。いきます!」

 

 私は、最近手に入れたデスクラブのオーラを纏い、地を蹴り巨大クラゲに殴りかかる。

 

 

(捉えた!)

 

 こちらを見ているのか、見ていないのか。

 ふよふよ漂ったまま巨大クラゲは、何らアクションを取ることすらなく……、

 

 ふよん

 私の拳を、ふんわりしたカサ(頭の部分)で受け止め、そのまま跳ね返した。

 

 

(ふんわり柔らかくて美味しそう……、じゃなくて――)

 

「なるほど、これは厄介かも」

 

 見事に勢いそのまま跳ね返された私は、トンッと壁を蹴って着地。

 警戒心を1ランク引き上げる。

 

"クラゲさん凄い"

"レイナちゃんの全力パンチ受け切るフロアボス、初めて見た"

"カニですら、ワンパンでハサミ消し飛んだのに"

"ついにレイナちゃんと渡り合えるフロアボスが現れたのか・・・"

 

 

 キュルルル――

 巨大クラゲが、奇妙な鳴き声とともにこちらを振り向いた。

 ようやくこちらに気が付いたように、ふわり、ふわりとこちらに向かって移動してくる。

 

(なんだろう、この違和感――) 

(たしかにパンチを受け切られたのは困ったけど……、それ以上に攻撃手段が未だに想像付かないんだよね)

 

 巨大クラゲの浮遊速度は、驚くほどにゆっくりだった。

 少しずつ、少しずつ、距離を詰めてくる――その姿は、いっそ不気味だった。

 

 

"ええい、攻略班はまだか!"

"なんだろう、嫌な予感する"

"レイナちゃん、1回撤収もありだよ。ソロだし無茶しない方が――"

"《望月 雪乃》も、もう帰ろ?"

 

「も、もうちょっとだけ様子見てみます。無理そうなら帰ります!」

 

 ある確信があった。

 このクラゲ、間違いなく美味しいと思う。

 

 

「いったん足元、狙ってみます!」

 

 私は巨大クラゲの足元に潜り込み、思いっきり地を蹴った。

 そのまま垂れ下がっている足に、殴りかかろうとしたとき――

 

 

 ヒュゴォオオ――!

 そんな吸引音とともに、巨大クラゲがアクションを起こす。

 

「――――へ?」

 

 気が付いたときには、時すでに遅し。

 凄まじい音とともに、かさの部分に吸い込まれていたようなのだ。

 

 

"うわっ、そういうタイプ!?"

"アカン"

"ちょっとまって、これ本当にやばいやつじゃ・・・・"

"《望月 雪乃》レイナちゃん! 大丈夫!?"

 

 かくして私は、クラゲの体内に吸い込まれ――

 

 

「び、びっくりしたぁぁ!」

 

(まさか吸い込まれるなんて……!)

 

 完全なる不意打ち。

 私は、目をまんまるにすることしか出来なかった。

 

 

「クラゲって半透明なんですね。

 安心して下さい、ちゃんとコメントは見えそうです!」

 

"いや草"

"そんなことより自分の身体を心配してww"

"いや本当に大丈夫なの!?"

"《望月 雪乃》た、助けを呼ばないと!?"

"深層9地区とか、まず誰もたどり着けないのよ・・・"

 

 

 クラゲの体内には、なぞの生温かい液体が満ちていた。

 立ち上がると、膝上ぐらいまでの高さがある。

 私が起き上がると、ちゃぷんちゃぷんと水しぶきが立った。

 

 

(とりあえず、ここから出ないとだよね)

 

 クラゲの体内を歩き回り、脱出経路を探し始める私。

 

"なんか普通に元気そうw"

"え、その液体ってたぶん消化液だよね!?"

"なるほど・・・。ボスの行動ルーティンが明かされていくなぁ"

 

「そ、そうなんですかね? お肌がすべすべします」

 

"【悲報】クラゲちゃん渾身の吸い込み攻撃、レイナちゃんのお肌をすべすべにする"

"攻撃パターンは吸い込みだけなんかな?"

"これなら遠距離から魔法ぶち込み続ければ倒せそう?"

 

 わいわいと攻略法を話し合う食材さんたち。

 

 

 そんなコメントをしり目に、私はクラゲの体内を注意深く観察する。

 巨大クラゲは、すっかり私のことなど忘れたかのように、ふわふわと部屋の中を徘徊し始めていた。 

 

「えーっと……。ここから、どうしましょう?」

 

 ふわりふわり、と浮遊を続ける巨大クラゲさん。

 ゆらり揺られて、空からの景色を眺める余裕すらある私。

 そんな私たちを、配信用のスマホが追尾し続けている――そんな間抜けな光景が、ボス部屋では繰り広げられていた。

 

 

"その消化液、たぶんレイナちゃん以外だと即死するやつよね"

"強すぎるが故に生まれた詰み"

"体内からクラゲを食べる"

"とりあえずクラゲの体内で全力パンチ!"

"↑↑鬼か!"

 

「分かりました! 全力でパンチしてみます!」

 

 私は、拳にキラークラブのオーラをまとわせ、全力でクラゲの体内をぶん殴る。

 

 

 キ、キュゥゥゥ……

 拳を受けた巨大クラゲは、断末魔のような悲鳴を上げてもがき苦しみ始めた。

 

(き、効いてる!)

 

 最初に攻撃したときとは、手応えが違う。

 間違いなく体内からの攻撃は、巨大クラゲの弱点を的確に突いているようだった。

 

 

「あっはっはっはっは! 私の糧になれ!」

 

 そうと決まれば、幾度となくパンチ。

 その度に巨大クラゲは苦しそうに悲鳴をあげていたが、ついには耐えきれずに地面に墜落。

 

 

(自ら弱点を晒すようなことをするなんて……)

(このクラゲさん、何がしたかったんだろう?)

 

 首を傾げながらも、私は巨大クラゲの無防備な弱点を殴り続ける。

 ――そんな一方的な蹂躙劇は、巨大クラゲが動かなくなるまで続いたのだった。

 

 

***

 

「さて、脱出です!」

 

 巨大クラゲが動かなくなったのを確認し、私はその足元からもぞもぞと脱出する。

 そうして私がボス部屋から出た頃、

 

 

"最前線へのアタックが始まると聞いて!(英語)"

"予告も無しになんてことを……!(英語)"

"ここの最深層って、ファッキンクラゲ野郎だよな。ソロとか不可能では?(英語)"

"どんな状況!?(英語)"

 

 にわかにコメント欄が活発になった。

 英語の書き込みが、いつにもなく多い――どうやら、誰かがこの配信のことを話題にしてくれたみたいだ。

 

 

(新規のお客さんも多そうかな?)

 

「ハイ! アイ、イート、ヤミナベ。サンキュー!」

 

 とりあえず英語で挨拶。

 後のことは、英検さんにお任せしよう。

 

 

"最前線へのアタック楽しみすぎる!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ノー、残念ながらクラゲ狩りは、もう終わったよ(英語)"

"ボス攻略がそんなすぐ終わる訳ないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》だってこれ、闇鍋配信なんだもん・・・(´;ω;`)"

"そんな企画で最前線突撃する奴がいる訳ないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

 

 一方、ボス部屋から出た私を見て、ミライと剛腕さんも駆け寄ってきた。

 

「さすがに吸い込まれたときは、一巻の終わりかと思ったぞ。イチかバチか、助けに入るか迷ったんだが――」

「心配かけてごめんなさい。まさか、あんな攻撃をしてくるなんて思わなくて……」

「あたいが、ちゃ~んと止めたッス。レイナ様なら、あれぐらい楽勝だって分かってたッス!」

「ああ。それに俺たちが入っても、ワンパンされるのがオチだろうしな……」

 

 呆れと、心配が入り混じったような表情。

 

"《鈴木 千佳》また無茶ばっかりして……"

"《鈴木 千佳》レイナ、後でお説教な"

"《望月 雪乃》レイナちゃん、ちょっと後でお話が――"

 

「ぇえ!? む、無茶なんてしてないですよ⁉」

 

"お説教予告は草"

"うんと反省してw"

"レイナちゃんには甘いゆきのんまでw"

"レイナちゃん配信、生き甲斐だから、無茶しないようにきつーく言っといてあげてください・・・"

"う~ん、これは自業自得!"

 

「…………さあ、とりあえずは料理の時間です。剛腕さん、お願いします!」

 

"逃げたw"

"そういえばこれ、闇鍋配信だった!"

"平常運転草"

"もうちょっと余韻に浸らせてw"

"(注)ダンジョン最深部攻略後のやり取りです"

"歴史に残る快挙したのに本人食べることしか考えて無くて草"



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第五十一話 闇鍋配信(3)

 そうして私は、ラクラク・ハコベールから、今日の闇鍋で使う食材を取り出す。

 

 ゴールデンターキーの卵。

 なんちゃってツミレ。

 美味しそうなフグに、目がばってんになってるパンドラボックス。

 果てにはドラゴンゾンビや、ヘドロスライム、さっき狩った巨大クラゲと続く。

 

 こうして並んだ食材を改めて見てみると……、

 

「う〜ん、カオス!」

 

"草"

"途中まではワンチャン美味しそうだったのにw"

"信じられるか? このモンスターの山、全部この子が狩ったんやで……"

 

 

「剛腕さん、お願いします!」

「おおう……」

 

 ちなみにこの場には、大量の調理器具が並べられている。

 製造社は、もちろん安心安全のエリクシアさん。

 コンセプトは、ラクラク・ハコベールの導入により可能になった次世代のグルメ探索である。

 

 

 剛腕さんはしばらく頭を抱えていたが、

 

「ええい、ままよ……! 俺はダンジョンイーターズの栄えある料理担当、剛腕の不死殺しだ!!」

 

 そう威勢の良い咆哮とともに、ドラゴンゾンビの解体に向かっていった。

 

 

"それで良いのかw?"

"ダンジョンイーターズの中では名誉職やぞ"

"そろそろ調理系のスキル生えてきそう"

"↑↑もう生えてるらしいゾ"

"《望月 雪乃》私もレイナちゃんに、手料理振る舞いたい・・・"

 

「待ってます!!」

 

 そんなやり取りをしながら、剛腕さんを待ち……、

 

「ほれ、出来たぞ」

「待ってました〜〜!!」

 

 私は、ついにお鍋と対面するのであった。

 

 

"うっはwww"

"さすがの剛腕ニキを以てしても、あの具材は無理か……"

"なんか浮いてるwww"

"あの骨なんだ……(白目)"

"うーん、まあこれも闇鍋の醍醐味!"

"注)猛毒なのでレイナちゃんしか食べられません"

 

「剛腕さん!? ドラゴンゾンビの顔、なんでそのままぶち込んだんですか!?」

 

 鍋を覗き込んだ私を真っ先に出迎えたのは、ドラゴンゾンビのギョロリという感じの目玉である。

 目と目が合った。まるで嬉しくない。

 

「いや、その方が映えるかなと……」

 

"草"

"配信者としては満点"

 

「な、なるほどたしかに……!」

「それにな。そのドラゴンゾンビ! 下処理をちゃんとすれば意外と美味しい。騙されたと思って、一度食べて見てほしい━━エリクシア様、いつもありがとうございます」

 

(本当かなぁ……)

 

 とはいえデュラハン齧ったときより、はるかに美味しそうなのも事実。

 

 

「いただきます!!」

 

"躊躇わずにいった〜〜!?"

"普通に幸せそう"

"探索者にとってはこれぐらい朝飯前よ"

"食レポ、食レポ!!"

 

 

 私は、スープを口に運び、

 

「ドラゴンゾンビって美味しいんですね!!」

 

 そう目を輝かせる。

 

 不思議な食感だった。

 以前食べた時のような刺激的な腐臭は、すっかり鳴りを潜めている。

 投入された引き締まった身の部分は、思いのほかコッテリしたスープと合っていて美味しい。

 ぷりぷりとした独特の食感が、とても特徴的で……、

 

「なかなか無い感じの味です!」

 

"ざっくりw"

"だいたいのダンジョン料理に当てはまるぞw"

"普通に美味しそうなの、剛腕ニキの腕がえぐい"

 

 

 続いて口に運んだのは、ついさっき戦ったばかりのクラゲさん。

 生で食べて良し、お鍋に入れて良し。

 野菜であえても良し。

 新種の万能食材かもしれない。

 

「う〜ん、これも最高です!」

 

 なにより食感が良い。

 思いっきり殴ってもピクリともしなかったクラゲの頭部であるが、食感はふんわりコリコリとでも言うような不思議な食感。

 たっぷり出汁が染みていて、とても美味しい。

 

"あれ、この闇鍋普通に美味しそうだぞ!?"

"これにはレイナちゃんもニッコリ"

"やっぱり調理人の存在は大きいのよ"

"↑↑たしかにレイナちゃんだったら、何も考えずに全部鍋にぶち込みそう!"

 

 

 最後に食べることにしたのは、フグのお刺身だ。

 

「こ、これが伝説の……フグ刺し! 見てください、超高級料理ですよ、高級料理!」

「あ、あたいも味見したいっス!」

「レイナちゃん以外が食べると昇天するから却下!」

 

 ポン酢につけて、ぷりぷりの身を口に運ぶ。

 幸せな味が口の中に広がった。

 

"シャレならんw"

"【悲報】味見担当のミライちゃん、出番なし"

"ミライちゃんのレベルでも無理なん?"

"深層の毒ふぐ舐めたらあかん。普通なら全身秒で溶けて即死する"

"えぐ過ぎて草枯れたわ"

 

「剛腕さん、これ最高です! ほっぺたが落ちそうなぐらい美味しいです!!」

「お、おう……」

「ミライちゃんも毒耐性カンストしたら、また食べに来よう!」

「はいっス!」

 

 

 

 ひと通り食レポを終え、剛腕さんは鍋(※毒なしバージョン)を取り出し、3人で鍋をつつきながら、ゆったりと談笑する。

 そうして口にしたのは、ちょっとした思いつき。

 

「あ、そうだ! 最後にデザートを……! もう一度だけアンカを……!」

 

 思ったより簡単に食材が集まってしまったから、まだ時間が余っているのだ。

 私は、ほぼ勢いでそんな提案をして……、

 

 

「えいっ!」

 

"デュラハンたそ"

"デュラハン"

"綿あめ!(マナ溜まり)"

"深層第一地区のフロアボス"

"《彩音レイナ》はい!"

"デュラハン"

"デュラハンくん"

"ブルーマスカット!"

"マネちゃん!"

"っぱ〆はデュラハンよ"

 

 デザートとして選ばれてしまったのはデュラハン。

 

「いや、なんでですか!?」

 

(食材さん団結力ありすぎ〜!?)

 

 実にコメントの9割近くがデュラハンと書き込んでいた。

 

"そらそうよ"

"デザートにはちょいヘビーすぎるw"

"【朗報】デュラハンくん、デザートになる"

 

 

 そんなこんなで、サクサクッと第一地区まで移動。

 転移ポータルを使えば一瞬なのである。

 

 バキッ! ボコっ!

 まとうのは、デスクラブのオーラ。

 数発でデュラハンにトドメを刺し、私は、どうやれば美味しく食べられるかという難題を前に頭を抱える。

 

"なんか倒し方進化してて草"

"デスクラブくん、斬撃属性やからね"

"打撃以外は耐性ポンコツなんか。デュラハンくん、上方修正はよ"

"ダンジョンくん「その前にレイナちゃんナーフして!」"

 

 私は、じーっと剛腕さんを見る。

 

「剛腕さんなら、何か良い調理方法を……!」

「ぇぇっと━━気合い?」

 

 そっと目を逸らす剛腕さん。

 

「デスヨネ!」

 

 とはいえせっかくの食材さんからのリクエストだ。

 

(ん……? 待って?)

(たしか、エリクシアさんの新型圧力鍋なら!)

 

 そこでふと私は思いついてしまう。

 新たに出た調理器具は、どんな頑丈なモンスターでも柔らかくする━━みたいな触れ込みだった気がする。

 

 

「リベンジです。信じてます、エリクシアさん!」

 

"ファッ!?"

"おいバカやめろ!"

"草"

 

 私は、デュラハンの片腕を圧力鍋に設置。

 スイッチを入れ、

 

(ワクワク、ワクワク)

 

 

 ピーピー! ガーガー!

 

(…………あれぇ?)

 

 そこはかとなく感じる既視感。

 あえなく爆発する圧力鍋。

 

 

「なんで!?」

 

"だから料理以外には使えないって書いてあったでしょw"

 

「料理してるじゃないですか!?」

 

"草"

"なんかデジャブ!"

"《鈴木 千佳》デュラハンを調理できるお鍋……、ふむ………………"

"いやいやw"

"マネちゃんはマネちゃんで、真面目に考えないでw"

 

 

 そんなちょっぴり苦い失敗を経て。

 今日の配信はお開きとなった。



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第五十二話 レイナ、雑談配信で相談する!

【永遠のラスボス】デュラハンを美味しく食べる方法を考える雑談配信

 

"枠名ェ・・・"

"また喰いに行くんか(困惑)"

"出落ちすぎるw"

"いったい何が始まるんですかねえ..."

 

 

 とある日の放課後。

 

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

 

 今日は、雑談配信の日だ。

 私はアプリのスイッチを入れ、部屋でゆる~く配信を始める。

 

"こんレイナ~"

"モンスターにとってのラスボスはレイナちゃん"

"デュラハンの食べ方――やっぱり丸齧り?"

 

「それはもうやりました」

 

"草"

"そういえばそうだった・・・"

 

 

 前回の配信で、大敗北を喫してからというもの。

 私は、真剣に、それはもう真剣に、デュラハンを美味しく食べる方法を考えていたのだ。

 

 しかし一向に良い方法は浮かばず。

 こうして雑談配信で、アイディアを募ろうと思ったわけだ。

 

 

"フグ刺しを盛り付ける"

"お味噌汁の出汁にする"

"デュラハンを何かに食べさせて、それをレイナちゃんが食べる?"

"粉々に砕いてふりかけにする"

"マナ溜まり煮"

 

「ふわっ!? みなさん天才ですか!?」

 

 続々と書き込まれるアイディアに、私は目を丸くする。

 

 たくさんの人が集まる配信は、まさに集合知。

 私だけでは考えつかなかったようなアイディアが、どんどん出てくるのだ。

 

 

 特にマナ溜まり煮。

 うまくいけば、マナ酔いも中和できて一石二鳥かもしれない。

 私が、ワクワクそんなことを考えていると――

 

 

"《鈴木 千佳》実はな、エリクシアさんからこんな提案が――"

 

「わ~!? また爆破しちゃってごめんなさい!!」

 

 反射的に謝り倒す私。

 せっかくもらった案件配信。そこで宣伝するべきものを、またしても爆破してしまうとは大失態である。

 

"ラクラク・ハコベールの反響えぐかったよね"

"あれ、俺も欲しい"

"でもお高いんでしょう?"

"ちょと高価なマンションが買えるぐらいやね"

"中流探索者が1年頑張れば手に入るぐらいか・・・?"

 

 「やらかした~!?」と慌てる私をよそに、エリクシアの社長さんは「最高の宣伝になった!」なんてガッツポーズしてたっけ。

 

 社長は恰幅の良い優しそうなおじさんで、理念は面白ければ何でもヨシ。

 打ち合わせでは、もっとバーサクレイナちゃんが見たいなんて熱いリクエストまでしてくる愉快な人だ。

 

(それは、謹んでお断りさせて頂いたわけだけど……!)

 

 

"《鈴木 千佳》エリクシアさんの中で、デュラハン料理の開発部署を作ろうなんて動きが出てるみたいでな"

"《鈴木 千佳》レイナちゃんにも協力を仰ぎたいなんて話が――"

 

"さすがに狂気"

"【悲報】エリクシアさん、たいがい頭がおかしい"

"既知やぞ"

"デュラハンなんて喰えるはずがないだろ、いい加減にしろ!"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

"自ら泣きに行くのか・・・(困惑)"

 

「はいはい! もちろん協力します!」

 

 断る理由はない。

 私は、両手を上げて参加表明。

 

 

"《鈴木 千佳》よし来た! それで早速なんやけど、依頼内容としてはな――"

"《鈴木 千佳》デュラハンを調理できるような頑丈な素材を探してるらしいんやけどな……。何か心当たりある?"

 

「え~っと……、ヘルプ! 食材さん!!」

 

 心当たりなど、あるはずもない。

 秒で諦め、私は華麗に頼れるリスナーさんにバトンタッチ。

 

 

"レイナちゃんは食べれないものには興味ないゾ"

"キラーパスすぎるw"

"デュラハンを料理できる素材――えーっと・・・英検さん、パスッ!"

"《英検1級はクソゲー》なんでやっ(´;ω;`)"

 

 そんな雑談のノリだったが、さすがは叡智の集合体、こと食材さんたちである。

 すぐに様々なアイディアが、書き込まれることになる。

 

"深層の壁とか使える?"

"↑↑パンチで穴開くから、デュラハンよりは貧弱そう"

"ならあれは? 鉱石スライムが腹の中に溜め込んでる石っころ"

"マグマに沈めると普通に溶けちゃうから駄目"

"要求ハードル高すぎぃ!"

 

 どうにも「これだ!」という結論には至らず。

 その時、私は見覚えのあるハンドルネームによる書き込みを見つけ出す。

 

 

"《マイン》私の地元の鉱山洞窟。深層の岩石はなかなか頑丈。是非に(英語)"

"《英検1級はクソゲー》なんかアメリカの鉱山洞窟がおすすめらしいよ(´;ω;`)"

"マインちゃんだ!"

"この配信、ポンとやばい人が書き込むから好き"

 

「マインちゃんだ!? 今日はサインは描きませんよ!」

 

"《マイン》残念・・・"

 

 マインというのは、以前のアタックで一緒になったアメリカの探索者だ。呪術師であり、私のサインに触媒としての効能を見出していたりする━━大変に遺憾である。

 

 

「食材さん! 鉱山洞窟にある岩石って、どうだと思いますか?」

 

"うーん、まだまだ硬さが足りないと思う"

"デュラハンを上回る硬さを持った素材かぁ"

"もう最前線さらに突き進むしか!"

"↑↑この子はほんとにやりかねんからヤメレ!?"

 

「デュラハンより硬いもの……。

 うーん、うーん? ……あっ! パンドラボックスの牙とかどうですか!?」

 

 ポンと手を叩く私。

 何を隠そう、最初に食べた時にまとったオーラである。

 

 

「でも……、パンドラボックスって、なかなか見つからないんですよね」

 

 素材を集めるなら、集めやすさも大事だと思う。

 手軽で集めやすく、それでいてデュラハンを料理できるぐらいに頑丈で、私が見たことがある相手?

 

「あ! デュラハン持ち帰りますか!」

 

"草"

"あっじゃないんだよなw"

"天才"

"【朗報】デュラハンくん、初めて素材として利用される"

"↑↑料理器具に使われるのは本人も予想外でしょw"

 

「どれぐらい必要なんですかね?」

 

 ラクラク・ハコベールを手にした私は、まさに無敵。

 食べきれないモンスターを手にしても、全部、持ち運ぶことができるのだ!

 

 

"アカン、この子周回するつもりだw"

"デュラハンくん、超逃げて!?"

"いっそレア個体湧くまで粘ろう"

"↑↑ひっでぇ無茶振りを見た"

 

「分かりました!!」

 

"""・・・・えっ?"""

 

(思わぬところで、次回の配信ネタまで出来ちゃった!)

(やっぱり雑談配信も楽しいな~)

 

 

 私は次回の配信を楽しみに、スマホの電源を切るのだった。



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第五十三話 耐久配信(1)

【レアデュラハン湧くまで帰れま10】

 

 雑談配信の翌日。

 私は、とある企画枠を用意していた。

 

 

「今日も食卓から癒しをお届け!

 食材のみなさん、こんにちは〜!」

 

 私は、スマホに向かって元気に呼びかける。

 

"癒し #とは"

"一段とぶっ飛んだ企画始まって草"

"素材集め配信とは珍しい!"

 

 場所は、深層第一地区。

 これからフロアボス━━つまりはデュラハンを、周回する予定だ。

 

 ちなみにフロアボスは、ボス部屋の中に誰も居なくなると自然に復活する。

 フロアボス周回は、モンスターハウスほどではないが、トレーニングにも向いていると思う。

 私も安全マージンが足りなかったときは、随分とお世話になったものだ。

 

 フロアボスの周回は、もちろんトレーニング効率がメリットとして大きい。

 けれども、それ以上に大きいのは――

 

(なにより美味しいしね、フロアボス!)

(そうだ、今度ダンジョンイーターズの皆も誘って、カニの食べ放題に……!)

 

 そう、ダンジョンでは、普段は食べられない高級食品を、これでもかというほど食べられるのである!

 

 

"てか深層ボス周回ま?"

"安全マージン考えるとボス回るなら一つ階層落とすよな、普通……"

"フロアボス、基本アホほど強いからな。一回、ギルメン誘って試したことあるけど二度とやりたくない"

"つまりレイナちゃんの適正階層って・・・(震え声)"

 

「えーっと、今日はデュラハンの周回を配信していきたいと思います! 申し訳ないですが、今日は料理は無しで……」

 

"大丈夫、この配信に料理期待してる人いないと思う!"

"↑↑おいバカやめろ!"

"料理なら剛腕ニキ見てみたい"

"いっぱい食べるレイナちゃん、好き!"

"僕はポンコツ食レポ!"

 

「食材さん!?」

 

 ぷく〜っとふくれっ面になる私。

 これでもチャンネル名は、食卓配信という料理が無ければ成り立たないような名前で━━あれ、食べるだけでも成り立つような……?

 

 こほん。

 私は、癒し系配信者!

 最近、捕食者だの、鮮血天使だの、えらい言われ方をしているが、私はしがないダンジョン料理愛好家なのである!

 

 

「行きますっ!」

 

 部屋に飛び込み、私はブラッドラビットのオーラを纏う。

 ちらりと現れたボスを確認。

 

「う〜ん、ハズレですね!」

 

"ハズレwww"

"いや草"

"まさか、ほんとにレア湧きするまでやるつもりか!?"

 

 私は、最速でデュラハンの懐に忍び込み、

 

「急所は……、そこですっ!」

 

 キラークラブのオーラを纏い、その胴体を手刀で撃ち抜く。

 

 何回か倒すうちに気がついたコツ。

 鎧には弱点となる魔力結晶があり、そこを撃ち抜くと今の私でもギリギリ一撃で倒し切れるようなのだ。

 

 どでっ、と倒れ伏すデュラハン。

 一応、ラクラク・ハコベールに収納し、

 

「よし……、次!」

 

 私は、いったんボス部屋から出るのであった。

 

"( ゚д゚)ポカーン"

"えぇ……(ドン引き)"

"深層ボスをワンパンする女の子がいるらしい"

"やっぱこの子、人間辞めてるわ…"

"既出やぞ"

 

 

 加速するコメント欄をよそに、私は配信用にとある画面を開く。

 雑談と、今日のような耐久配信は相性が良いのだ。

 

「えーっと、ま〇ゅまろを読んでいきますね!」

 

"ふぁっ!?"

"戦いに集中してww"

"リスナーにも配慮できて偉い!"

 

"まあレイナちゃんなら本当に余裕そうなのがなんとも"

"流石は食材求めて深層徘徊してた捕食者だ。面構えが違う"

"わいが食材や!"

 

 

「えーっと、質問読み上げていきますね!」

 

 その後、私はデュラハンを周回しながら、つぶやいたーに届いていた質問を読み上げていく。

 

「おすすめの武器を教えてください! ……鍛えれば、たぶん拳が最強です! ……ハズレですね、次!」

 

 ボス部屋に入り、いつものデュラハン君であることを確認。

 とりあえず手刀で打ち抜き、ラクラク・ハコベールに詰め込んでおく。

 

"【悲報】デュラハンくん、流れ作業のように狩られていく"

"音やべえwww"

"背景ヤバすぎて内容に集中できない!!!"

"たしかに耐久配信のメインコンテンツは雑談かもしれないけど、しれないけど~!?"

 

 

「どうすればレイナちゃんみたいに強くなれますか? 最近のおすすめは、深層7地区のモンスターハウスです!

 野菜も採れるので健康にも良いと思います――またハズレ。次っ!」

 

"モンスターハウス使ってレベリングするのやめれw"

"まず一般人は深層に入れないのよ・・・"

"栄養バランスにも気を使えるレイナちゃん!"

"だ、誰かポンポン狩られてくデュラハン君にも突っ込んであげて~"

 

 

「これまで食べた、もっとも美味しかったダンジョン食材を教えてください! こ、これは難問ですね!?」

 

"手! 手、動かして!"

"大丈夫だと分かってるのにハラハラするw"

"【朗報】デュラハン君、隙を見つけて嬉々として斬りかかってくる"

 

「ちょっと黙っててね。今、世紀の難問について考えてるから」

 

 反射的に殴り飛ばしてしまう私。

 デュラハンは勢いよく吹っ飛ばされ、そのまま壁に突き刺さる。

 

"【悲報】デュラハン君、捕食者の怒りに触れてワンパンされる"

"処されるデュラハン君可愛そう"

"てか今の、オーラ纏ってない拳やん!"

"草、ついに耐性ぶち抜けるようになったのかw"

 

 

 

 私はしばしの間、じっくり考え込み、

 

「どれも甲乙付け難いんですが……、下層のランダムツリーから取れたゴールデン・マスカット、ですかね?

 1回しか採れたことは無いんですが、ほっぺたが落ちそうなほど美味しくて――」

 

"何それ!?"

"そんなもの採れるのか!"

"いやそれ、天然の薬〜!? どんな傷でも治す伝説の妙薬〜〜〜!?"

"【悲報】レイナちゃん、時価総額1億のエリクサーをその場で食べる"

 

 そう結論を出した私。

 なぜか阿鼻叫喚に陥るコメント欄――そんな中、壁に突き刺さったデュラハンが、悲しそうにピクピク震えていたとかいないとか。

 

 

 私は、それから2時間ほどボス部屋を周回していた。

 退屈かもしれないと心配していたが、食材さんたちの反応は上々といったところで。

 

 ――そしてついに、その時が訪れる!

 私がボス部屋に入ると、

 

「ふわっ!? なんか金ピカに輝いてます!!」

 

"うわっ、なんか豪勢w"

"こいつのレア個体って、何するんだろう。目撃例ないよな"

"深層フロアボスのレア個体とか、即逃げ安定なのよ"

 

 ついに目的の相手を見つけ、思わず笑みがこぼれてくる私。

 

(っといけない。ダンジョンは弱肉強食)

(油断すると、食べられちゃう!)

 

 

 私は、距離をとって、金ピカデュラハンの行動を観察する。

 奴はいつものようにボス部屋中央に悠々と立ち、こちらを警戒するように睨みつけきた。

 

(見たところ、今までと行動は変わらないかな?)

(とりあえず最初と同じ方法で!)

 

 

 選ぶのは、安全を重視したヒット・アンド・アウェイ戦法。

 

 私は、壁を蹴り、部屋の中を縦横無尽に駆け回る。

 相手がこちらを見失ったところを、背面からぶん殴るのだ。

 

"相変わらず音やべえw"

"なんかスマホ、ピタッと追随できるようになっとるやん!"

"冷静に映像こんなに安定するの意味分からんw"

"マネちゃんも進化してるw"

 

 

(うん、これなら問題なくいけそう!)

 

 そう思っていたところに、

 

「イタイ! もうヤメテ!」

「…………!?」

 

 突如として、そんな声が聞こえてきた。

 甲高い合成音声のような声。

 ――声の主は、金ピカデュラハンだ。

 

「しょ、食材さん!? デュラハンって……、喋るものなんですか!?」

 

"【朗報】レイナちゃん、モンスターとのコミュニケーションに成功する"

"【悲報】レイナちゃん、またやらかす"

"な、何だこれ!?"

"《鈴木 千佳》レイナ、油断せんといて!"

 

 

 ――あ然とする私を置いてきぼりにするように、金ピカデュラハンがさらなる追撃を仕掛けてくる。

 ぽふん、と鎧から小さな"何か"が飛び出してきたのだ。

 

 見た目は、もっちりと膨らんだお餅のような見た目だろうか。

 つぶらな瞳をしていて、とても可愛らしい。

 もっちりふわふわ、とても美味しそうだ。

 

 

 そんなことを考えながら、デュラハンから出てきた不思議生物をじーっと眺めていると、

 

「タ、タベナイデ~!?」

 

 おもちくん(※命名、レイナ)は、ぶるぶる震えながら、そんなことを言ってきたのであった。



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第五十四話 耐久配信(2)

 ぶるぶると震えるおもちくん。

 そんな不思議生命体に近づき、私はヒョイと掴み、

 

 ――そっと肩に載せた。

 金ピカ鎧をラクラク・ハコベールに収納し、はてと首を傾げる。

 

 

「えっと食材さん、素材って1つで足りますかね?」

 

"え、食べないの?"

"こんなに美味しそうなのに"

"てっきり、いただきま~すの流れかとw"

"僕たちのレイナちゃんを返して!"

 

 ネタでも何でもなく、本気で驚く様子のコメント欄。

 

 

「食べませんよ、コミュニケーション取れる相手は!?」

 

 ぷくーっと膨れっ面になる私。

 いくら私でも、人語を介するモンスターを食するのは抵抗があるのだ。

 

 

"レアになって命乞いしてくるとは・・・。デュラハン、さすが汚い!"

"【朗報】捕食者から逃れる方法が発見される"

"そんな!? あの日、ボクのことを食べてくれると言った言葉はウソだったんですか!?"

 

「そんな約束してませんが!?」

 

 食材さんとそんなやり取りをしながら、私は改めて、おもちくんを観察する。

 

 もっちり膨らんだ、おもちのような見た目。

 この愛らしい見た目に反して、金ピカデュラハンを操るモンスターでもある。

 それにしても、まるまる膨らんだ先っぽが美味しそうで――

 

 

「や、やっぱり……。ちょっとだけ。先っちょだけ、駄目……?」

「タ、タベナイデ!?」

 

 目をバッテンにするおもちくん。

 ぶるぶると震えていたが、

 

「トッテオキのジョウホウあるヨ! オイシイ、デュラハンの、タベカタ!」

「なんと!」

 

"こいつ、仲間売りやがったwww"

"捕食者に睨まれたデュラハンくん"

"草"

 

 私が、ワクワクとおもちくんを見ると、

 

「マナダマリで、ニル。ソシテ、コウオンでカネツ! ヨイ、ダシにナルヨ!」

 

 ぷるぷる震えながら、おもちくんはそんなことを言い出した!

 

(マナ溜まり煮!)

(食材さんが言ってたやつ~!!)

 

 私が、食材さんたちの叡智に驚いていると、

 

 

「カネツは、フェニックスの、レンゴクカエンがオススメ!」

「フェニックス……?」

「ココの、ジュウイッソウにイルヨ!」

 

 おもちくんから、続々と飛び出してくる新情報。

 

"待ってw これ、歴史的瞬間なんじゃ・・・"

"たしかに。モンスター捕まえて、情報聞き出せるのヤバイって!"

"真っ先に聞く情報が、デュラハンの喰い方なの最高にレイナちゃん"

"当たり前のように深層の新情報飛び出してきて草"

 

(深層11層にいるフェニックス、かあ……)

 

 まだ先かなあ、と少ししょんぼりする私。

 

 私は、あくまで料理配信者――何度も最前線に突撃する蛮勇は、持ち合わせていないのである。

 なお闇鍋配信で、様子見しにいったらなぜか倒せてしまったクラゲさんは、無害な生き物だったのでノーカンとする。

 

 

"ねえねえ、今は何の時間?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》レイナちゃん、美味しそうなモンスターと対話に成功。食べないことを選択(英語)"

"捕食者がこんな美味しそうなのを食べないわけないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

 

「おもちくん、他に深層でおすすめのモンスターは?」

「オモチ、クン!? ……エッと、ミズウミのフグ、オイシイヨ!」

「それはもう食べました!」

「エェ……」

 

"おもちくんwwwwww"

"モンスターすら困惑させる女"

"なんで毒フグもう食ってるんだろうな、この子・・・"

 

「ナラ…………、ロクソウのエノキノコ! ドクのイズミで、アゲル。オイシイ!」

「その発想はなかったです。天才ですか!?」

 

 発想力が、私たち人間のそれとは段違い。

 さすが深層の住人である。

 

"《不死殺し》ふむふむφ(・ω・`)"

"豪腕ニキが何やらメモしてるw"

"ダンジョンイーターズの料理スキルが、また上がってしまうのか・・・"

 

 おもちくんは、ちょっぴり誇らしげな顔をする。

 びよーんと伸び上がったその姿は、まるで背伸びをしているようで……、

 

 

"《ミライ》可愛いッス!"

"おかしいな…。凶悪なモンスターのはずなのに、何だかぬいぐるみみたいに見えてきた・・・"

"なお名前はおもちくん"

"おもち食べたくなってきたナ・・・"

 

 

「決めました! おもちくん、あなたをダンジョンイーターズのグルメ案内人に任命します!」

「ヤ、ヤッター?」

 

"!?"

"レイナちゃん、思いつきだけで生きてそうw"

"↑↑食欲だゾ"

 

 

 ヤケクソのように、肩の上で飛び跳ねるおもちくん。

 その姿からは、金ピカ鎧がまとう強者の威厳は、微塵も感じられないのであった。

 

 

"いや、さすがに深層モンスター地上に持ち帰るのはどうなの"

"なんか資格いるんじゃなかったっけ?"

"そもそも放し飼いされると、普通に怖いゾ・・・"

 

 た、たしかに……。

 食材さんからの書き込みに、私は思わず首を傾げてしまう。

 

 モンスターとは、基本的に人間に害を為す生き物だ。

 まして相手は、深層ボスのレア個体。

 その危険度は、当然、見た目だけでは測れないもので――

 

 

"《鈴木 千佳》モンスターを地上に連れ帰るには、テイマーの資格が必要やな"

 

 私が悩んでいると、千佳からコメントの書き込みがあった。

 

「テイマーの資格?」

 

 ダンジョン内で、モンスターを使役して戦う探索者のことを、テイマーと呼んだりする。

 テイマーは、共に戦うモンスターとの絆を深めるため、地上にモンスターを連れ帰ることも多い。

 そのためには、探索者組合による資格が必要となるらしい。

 

 当然、私は資格など持っておらず……、

 

 

"やっぱり食べちゃうしか・・・"

"冷静に深層ボス持って帰ってこないでw"

"さらば、おもちくん"

 

 私は、じーっとおもちくんを見る。

 もっちり、ふわふわ――やっぱり、美味しそう。

 

 

「ぷるぷる。ボク、ワルいデュラハンじゃ、ナイヨ!」

 

 瞳をうるうるさせて、私の方を見てくるおもちくん。

 表情豊かで、妙に愛くるしい顔をしている。

 美味しそうではあるけれど――やっぱり、食べるのは無しだ。

 

 となると逃がす一択だろうか。

 貴重なグルメ案内人を逃がすのは勿体ないけど、仕方ないか。

 私が、そんなことを考えながら名残惜しくおもちくんを見ていると、

 

 

"《鈴木 千佳》あ、なんか許可下りたで"

 

「ほえっ!?」

 

"草"

"早すぎぃ!"

"そんなことある!?"

 

 千佳からの書き込みに、にわかに盛り上がるコメント欄。

 

"《鈴木 千佳》なんか探索者組合の人が、配信見とったらしい"

"《鈴木 千佳》人語を解するモンスターを、連れ帰る恩恵が大きいからな"

"《鈴木 千佳》正式な許可は後日とのことやけど――今だけ特例とのことや"

 

 大丈夫なのかなあ、と一瞬不安になる私。

 

(……まあ、千佳が大丈夫って言うなら大丈夫か!)

(とはいえ、私なりに安全策を考えるなら――)

 

 

「おもちくん、ここ入って?」

「ワカッタヨ!」

 

 私は、おもちくんを、ラクラク・ハコベールに詰め込むことにする。

 念の為、倒した鎧も入っていない真新しいものだ。

 

 ちなみにラクラク・ハコベールは、収納魔法を参考にしており、異空間に繋がっている。

 こちらから出そうとしない限りは、出てくることはできないはずだ。

 

 

「ねえ、おもちくん。やっぱり先っぽ。ちょっとだけなら、齧ってみても――」

「タベナイデ!?」

 

 悲鳴をあげるおもちくん。

 そのまま、あたふたとラクラク・ハコベールに逃げ込んでいく。

 

"それ、先っちょだけて言いながら気が付いたら完食してるやつ!?"

"平常運転すぎるw"

"おもちくんとかいう、食べる気満々のネーミングやめてw"

"レイナちゃんは可愛いなあ"

 

 

 ――そうして耐久配信を終え。

 その日、私たちのギルドの新たなメンバーが加入したのであった。




お読みいただき、ありがとうございます。

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第五十五話 【クラゲさん】レイナちゃんについて語るスレ. 376【おいしい】

【クラゲさん】レイナちゃんについて語るスレ. 376【おいしい】

 

137: 名無しの食材

闇鍋配信で、ノリと勢いだけで最前線突撃したのは攻略スレでは未だに伝説やからな

 

141: 名無しの食材

吸い込まれた後、腹ぶち破って出てきた配信なw

ちょうど生で見てたから腹抱えて笑っちゃった

 

149: 名無しの食材

攻略班、ざわついてたよなあれ

なんで情報前もって出さないの!? って

 

153: 名無しの食材

前もっても何も、配信中にノリで決まったんだよなあ・・・

 

153: 名無しの食材

レイナちゃんのアーカイブ、闇鍋配信としか書いてなくて草

最前線へのソロアタック! て書いておけば、もっと検索引っかかるのにw

 

158: 名無しの食材

さすがはあれだけの戦闘力を持ちながら、長らく埋もれてきたチャンネルや・・・

 

162: 名無しの食材

まあ料理配信やるチャンネルなので

 

166: 名無しの食材

>>162

豪腕ニキが流れ弾で、料理配信求められてるのは草

不死殺しセンパイ・・・

 

168: 名無しの食材

>>166

本人もダンジョンイーターズのグルメ担当名乗ってるからセーフ

 

176: 名無しの食材

てかタイミングが面白すぎる

新生・ダンジョン庁が、トップギルドの攻略方針に口挟もうと画策していた矢先なんよねこれ

痛烈なカウンター

 

182: 名無しの食材

>>176

まじかよ、政府懲りねえな

 

196: 名無しの食材

そういや海外の攻略スレ見てたけど、なかなかのクソボスらしいぞあのクラゲ

 

201: 名無しの食材

>>196

詳しく

 

209: 名無しの食材

>>201

ファッキンクラゲ

当然のように全属性強耐性持ち

遠距離攻撃はなにも通らないから、接近戦必須なんだけど、触れると状態異常祭りで即お陀仏

運良く生き延びても、大抵は前後不覚に陥って捕食されて乙るらしい

あと、時間経過で、分身体生み出して部屋全体に状態異常バラまくとも

 

213: 名無しの食材

>>209

有能、乙

あのクラゲ、やっぱバケモンやんけ( ゜Д゜)

 

217: 名無しの食材

>>209

海外ニキは、どうやってこのバケモン倒したの・・・

 

219: 名無しの食材

>>209

カニ野郎にも負けず劣らず、クソOFクソみたいなモンスターやんけ!

なおレイナちゃんの中では、無害なクラゲさん扱いされてしまった模様

 

228: 名無しの食材

>>209

レイナちゃん「あのクラゲ、何がしたかったんだろう?」

 

232: 名無しの食材

>>228

喰いたかったんだよ!!

 

236: 名無しの食材

>>217

ありったけの状態異常部隊集めて、時間稼いでゴリ押したらしい

マインちゃんが頭角現したアタックだったはず

犠牲者多数で半壊だったとも・・・

 

244: 名無しの食材

>>209

喰われて中からぶち破る!

が攻略法やな、Wikiに追記しといて上げて

 

256: 名無しの食材

>>244

捕食されたら一撃死のクラゲを中からぶち破れるわけないだろ、いい加減にしろ!

 

273: 名無しの食材

>>256

ぶわっ(´;ω;`)

 

275: 名無しの食材

>>256

ぶわっ(´;ω;`)

 

278: 名無しの食材

>>256

ぶわっ(´;ω;`)

 

284: 名無しの食材

このスレ、英検ニキ人気すぎやろw

 

 

・・・・・・

・・・

 

その後、雑談配信でデュラハンリベンジ配信を行うことが決まる

 

 

【デュラハン】レイナちゃんについて語るスレ. 381【食べ放題】

 

47: 名無しの食材

深層ボス周回ま?

 

54: 名無しの食材

狂った企画始まるw

 

73: 名無しの食材

楽しみ

 

81: 名無しの食材

【悲報】デュラハンくん、秒で処される

 

92: 名無しの食材

えぇ・・・

 

97: 名無しの食材

レイナちゃん、レベルいくつなんだろう今

 

104: 名無しの食材

ちょこちょこ深層のモンスターハウスで、お野菜集めてるって言ってたね

このペースでボス部屋周回してたら、無限にレベル上がってそう

 

119: 名無しの食材

まし◯まろ読み上げ初めて草

デュラハンくん、雑談配信扱いされてる・・・

 

125: 名無しの食材

これデュラハンくん、そのうち逃げ出すやろw

 

132: 名無しの食材

おかしい、デュラハンくん可愛く見えてきた・・・

 

137: 名無しの食材

>>132

美味しそう?(難聴)

 

145: 名無しの食材

>>137

優秀な食材だな

褒美にレイナちゃんの糧になる権利をやろう

 

152: 名無しの食材

>>145

ガクガク(((;゚Д゚)))ブルブル

 

169: 名無しの食材

!?!?!?

 

173: 名無しの食材

なにこれww

 

178: 名無しの食材

【悲報】レイナちゃん、またやらかす

 

183: 名無しの食材

これだからレイナちゃん配信はやめられないんや・・・

 

187: 名無しの食材

>>173 >>183

今北産業

なになに、何が起きてるの?

 

194: 名無しの食材

>>187

レアデュラハン、通常運転

デュラハン、白旗

中から変な生命体が飛び出してくる ← 今ここ

 

209: 名無しの食材

食べないで~!

 

214: 名無しの食材

喰われる恐怖に怯えるデュラハンくん

 

219: 名無しの食材

つぶらな瞳が可愛い

美味しそうだな・・・

 

225: 名無しの食材

おもちくんwwww

この子に、ペットの命名は任せたら駄目そうw

 

227: 名無しの食材

>>225

非常食くん!

 

233: 名無しの食材

おもちくん「湖のフグが美味しいよ! オススメ!」

レイナちゃん「もう食べました!」

 

241: 名無しの食材

デュラハンくん困惑してて草

 

246: 名無しの食材

てかデュラハンくん、よくよく聞いてると勧めてくるの毒物しかねえww

 

249: 名無しの食材

>>246

ほんまや草

え、毒殺狙い?

 

253: 名無しの食材

>>249

レイナちゃん「美味しいですよね!(目を輝かせながら)」

毒ごときで、我らがレイナちゃんを倒せるとでも?

 

255: 名無しの食材

なんで普通に喰えるんだろうな、レイナちゃん・・・

 

258: 名無しの食材

いざというときに裏切る可能性ある?

どうしよ、危なそうなら警告した方がいいかな?

 

263: 名無しの食材

まあソロで深層グイグイ進んでる子やし、ヤバそうなら警戒するだろうから大丈夫やろ

基本、亜空間に閉じ込められとるし

 

269: 名無しの食材

ほなら様子見で良いか

まともな神経しとったら、捕食者様にケンカ売るようなことはしないやろ

 

271: 名無しの食材

祝・鮮血の捕食者からの初生存者!

 

277: 名無しの食材

レイナちゃん「先っちょ、先っちょだけ!」

 

280: 名無しの食材

・・・生存、できたのだろうか

 

284: 名無しの食材

隙あらば齧ろうとするのやめて差し上げてw

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

【おもちくん】レイナちゃんについて語るスレ. 406【美味しそう・・・】

 

 

386: 名無しの食材

おもちくん、雑談配信でレギュラー化してきたなw

 

395: 名無しの食材

各階層でレアボス出るまで周ろうと真剣に考えてたの狂気

おもちくん、真っ青になって止めてたし

 

401: 名無しの食材

まず雑談配信を深層で始めることに疑問を持って欲しい

 

418: 名無しの食材

【朗報】新宿ダンジョン、攻略が進みそう

 

424: 名無しの食材

>>418

スレチ?

でもまじか、どこ発表

 

431: 名無しの食材

>>424

つURL→フェニックスの丸焼きに興味津々のレイナちゃん

 

444: 名無しの食材

ついにマナ酔いを克服したレイナちゃん!

 

456: 名無しの食材

デザートに、マナ溜まり煮も添えて

 

469: 名無しの食材

レイナちゃんは可愛いなあ・・・

 

 

 




このたび、本作の書籍化・コミカライズが決定しました。
本作をいつも読んでくださっている読者様のおかげです!
詳しい情報は、レーベル様から許可をいただけたら発表していきます!


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第六章
第五十六話 レベル測定配信


 ある日のこと。

 ギルドホーム、兼、千佳の研究室にて。

 

 

「食材のみなさん、こんレイナ~! 今日は、久々にレベルを測定してみたいと思います!」

 

 私は配信を立ち上げ、そう宣言した。

 

 レベル測定配信――それは読んで名前の通り、レベルを測定する配信のことだ。

 特に強さを売りにしているダンチューバーの中では、ポピュラーな配信だったりする。

 もっとも私のチャンネルは、あくまでダンジョン料理と癒やしをメインとしているのだけど……、

 

"待ってました!!"

"お、ついに!"

"ダンチューバー最強論争を終わらせた女"

 

 食材さんから、やたらとレベルを測って欲しいとの熱いリクエストをもらっていたのだ。

 リスナーさんからの要望には、できる限り応えていきたいところ。

 それに私とて、一応はダンジョン探索者の端くれ。

 やっぱり自身の強さを表す「レベル」というのは、気になりはするのだ。

 

「ナニスルノ?」

 

 私の肩に乗っかったおもちくんが、興味深そうに顔を覗かせた。

 

"おもちくんだ~!"

"【朗報】おもちくん、生存確認"

"まだ食べられてなかった!!"

"気が付いたら食べられてそうな不安あるなww"

 

「おもちくんも、気になるって言ってたよね。今日は配信で、レベルを測ってみます!」

 

 金ピカデュラハンから現れた不思議な生命体は、思いのほか食材さんからは大人気だった。

 食材さんたちからの感想も美味しそうなんてものも多く、コメントを見て、おもちくんはぷるぷる震えていたっけ。

 

「それじゃあ、早速! 測っていきますね!」

 

 そう言いながら私は、とある魔導具を取り出した。

 測定水晶と呼ばれている、水晶のような形をした魔導具だ。

 

 ダンジョン探索者組合によって作られ、鑑定魔法を再現した高価な代物である。

 使い方はとても簡単。手をかざすだけで、あっという間に強さを数値化してくれるのだ。

 探索者はその数値を元に、自身が潜れるダンジョンの階層を把握することができると言われている。

 

 

"……なにそれ?"

"いや、その測定マシン何?"

"なんかでかくて草"

 

 私が取り出したのは、直径50センチほどはある大きな水晶玉である。

 蒼く透き通っており、キラキラと淡い光を放っていた。

 

 

「あー。以前使ってたものは、なぜか触っただけで割れちゃうんですよね。

 そしたら千佳が、新しいのを用意してくれたんです!」

 

"待って!? その話、詳しくww"

"触っただけで割れる???"

 

「そうなんですよ、3つぐらい続けて割れてしまって……。

 不思議なこともありますよね」

 

 触っただけで超高価なレンタル品が木っ端微塵に吹き飛んだのは、未だに軽いトラウマである。

 

"あ、そういえば最近借りたレンタル品に注意書き増えてたな・・・"

"↑↑あ、レベル2000超えてる探索者は使わないで下さいってやつ?"

"草、あれレイナちゃん用だったのかww"

"メーカーの注意書きを増やすことに定評のある女"

 

 私は、驚く探索者たちを尻目に、そっと水晶に触れる。

 万に一つも割らないように、慎重に、慎重に。

 

 水晶が淡く輝き、やがて水晶に数字が映し出された。

 

「出ました! レベルは――3278、らしいです!」

 

"???"

"えぇ・・・(困惑)"

"前の雑談配信で聞いたときより、1000近く上がってない!?"

 

"雲の上の話すぎてピンと来ない。どれぐらいヤバイん?"

"↑↑まず攻略組のレベルが平均500ぐらい? 1000超えだって目撃例はなかったはず"

"そりゃあ、深層ボスもワンパンできるわ・・・"

 

 ざわざわと困惑が広がるコメント欄。

 

(食材さんたちも、毎回、大げさだなあ)

 

 ふと思い出したのは、アルテマ・メモリーズの長田さんの言葉だった。

 

 ――曰く、トップ探索者の人たちは、自らの情報はひた隠しにしているそうだ。

 ダンジョン内では、時に、探索者同士で争うこともある。

 そういった事態では、隠している手札の多さが勝敗に直結するそうだ。

 

(まあ、私には関係ないことだけどね)

 

 他の探索者と戦うようなことになったら、私ならさっさと逃げ出すし。

 

 

"ど、どうやればそんなにレベルが上がるんですか……?"

 

 おずおずと寄せられたのは、そんな質問。 

 

「えっとレベルの上げ方ですか?」

 

"レイナちゃんに攻略情報求めるとか食材初心者か?"

"初見は帰れなのだ"

"レイナちゃん「深層のモンスターハウスがおすすめです!」"

"レイナちゃん「最近のマイブームは、デュラハン周回です!」"

"レイナちゃんは見て楽しむコンテンツだぞ"

 

「食材さん~!?」

 

 ぷく~っと頬を膨らませる私。

 

 ふと思い出されるのは、雑談配信中に寄せられるダンジョンについての質問たちだ。

 私が真剣に答えても、独特すぎて何も参考にならないとのリアクションが多数。

 やがては質問すら来なくなった悲しい思い出が蘇り……、

 

「ではですね! 最近、気が付いたとっておきの法則を発表します!」

 

 私は胸を張り、

 

「実は強いモンスターを食べると、レベルが上がるみたいなんです!」

 

 ジャーン、とドヤ顔で発表する。

 

 

"それ、ガセだぞ"

"悪徳商品売りつける詐欺師がよく言うやつ"

"↑↑下層のオークキングの粉末パウダーとか売られてたよな、許せねえ!!"

"いっぱい食べるレイナちゃん、可愛い!"

 

(あれえ……?)

 

 懐疑的なコメントが多い。

 ちゃんと、確かめた事実なのに!

 

 

「むむむ、信じてませんね? じゃあ、今から実演します!」

 

 私はラクラク・ハコベールから、いくつかの食材を取り出す。

 

 取り出したのは、生で舐めても美味しいマナ溜まりたちだ。

 見た目通り、ほんのり甘くて美味しい。口の中でとろけていくような食感もグッド。

 マナ酔いの耐性さえ身についてしまえば、おやつに最適だったのだ。

 

 

「これ、深層で取れるんですが、おやつにおすすめです! 見た通り、綿あめみたいに美味しくて――」

 

 ぺろぺろ食べながら、そんな説明をする私に、

 

"おやつ感覚で、やべえもの食べないでwww"

"【朗報】レイナちゃん、さらっとマナ酔いを克服している模様"

"レイナちゃんが幸せそうで何よりです"

"ラクラク・ハコベールめっちゃ活用されてるwww"

 

(ダンジョン食材を気楽に持ち帰れるようになって嬉しい)

(本当に、ラクラク・ハコベール様々だよね!)

 

「えっと、枠名を――レベルが上がるまで食べ放題! に変えて――」

「レイナ、大丈夫? あんまり食べたら……、太るで?」

「だ、大丈夫! マナ溜まりはゼロカロリー食品だから!」

 

 ひょこっと千佳が顔を覗かせ、おっそろしいことをボソッと呟く。

 

"食べ放題www"

"暴走レイナちゃん!"

"この子の胃袋、ブラックホール説"

 

 そんなことを話していると、

 

 

「あっ、ちょうど上がりましたね! はい、レベル3279、です!」

 

"ま?"

"えぇ・・・(困惑)"

"うっそだろwww"

"ふぁっ!? これ、ガチなトップシークレットでは?"

 

 ざわざわと、どよめきが広がっていくコメント欄。

 

 

 ……あ、言い忘れていたことがあった。 

 

「あ、料理を食べてレベルを上げるのには、スキル【グルメブースター】が必要です。

 たぶんダンジョンでモンスターを食べると開花するスキルだと思いますが……、条件はよく分かりません!」

 

 ちなみにミライちゃんも、最近、開花した。

 

 

"前提難易度高すぎぃ!"

"レベルを上げるためのモンスターを食べるための毒耐性を得るためのブルーマスカット"

"諦めてフロアボス周回してきます・・・"

"諦めてモンスターハウス探してきます・・・"

"早まるなwww"

 

 

「レベル……、3000!?」

「あ、おもちくん! 一緒に、マナ溜まり食べる?」

「オ、オイシソウダネー。キョ、今日ハ、コレデ!」

 

 私の誘いに、ぶるぶる震えながらラクラク・ハコベールの中に逃げ込んでいくおもちくん。

 可愛い、そして美味しそう。

 

 

(う~ん。最初に会ったときを思えば、おもちくんも食べるのは好きだと思うんだけど……)

(なかなか一緒に食べてくれないんだよね――)

 

 私は、こてりと首を傾げる。

 

 

「――それでは、次の食卓で、またお会いしましょう!」

 

 目的どおり、レベル測定を終え。

 今日の配信は、お開きになるのだった。




書籍化/コミカライズのお知らせに、お祝いの言葉をありがとうございます。
とても励みになります!!


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第五十七話 絶対に癒やしをお届けする配信(1)

【※戦いません】ダンジョン料理で幸せをお届けする癒やし配信

 

 

「……というわけで! 食材のみなさん、こんレイナ~!」

 

 ある日のこと。

 ダンジョン入口で、私はとある使命感とともに配信を開始した。

 

 

"こんレイナ~"

"こんレイナ~"

"お、今日はコラボ?"

"ミライちゃん久々!"

 

「はい! 今日は、助っ人としてミライちゃんに来てもらっています!」

「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャジャーン。

 お久しぶりッス! レイナ様の一番弟子、ミライッス~!」

 

 そう、今日は久々のコラボ配信。

 ミライちゃんはミライちゃんで、日々、ダンジョンに潜って修練を積んでいるという。

 どれだけ強くなったのか私も楽しみだ。

 

"ところで枠名どったのww"

"今日もダンジョンから、元気と狂気をお届け!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"タベナイデ!?"

 

 

「お、良くぞ気づいてくれました! 実はですね――」

 

 私は久々に、"アレ"をやってしまったのである。

 配信者にとっての禁忌――すなわち、エゴサーチ!

 

「いやあ、最近、私に対する根も葉もない噂が流れてるみたいでしてね。

 巷では、やれ鮮血天使だの、やれ捕食者だの。

 果てには、食物連鎖の頂点に立ちしもの、だなんて――失礼しちゃいますよね!」

 

"切り抜き動画見てw"

"鮮血の捕食者やぞ"

"今さら癒し系は無理がある"

"清楚という概念からもっとも遠い女"

 

「……あれえ?」

 

 日々、黒歴史は拡大中。

 開き直って、最近は、モンスターを撲殺する場面も配信に載せてしまっているからだ。

 

 だけども誰が何と言おうと、私の本職は癒やしとダンジョン料理。

 今日は、食材の皆さんに見事に癒しをお届けして、不名誉な二つ名を忘れさせるのだ!

 

 

「グリーディープレデターって二つ名、格好良いッス!

 あたいも早く、二つ名が欲しいッス!」

 

 一方、ミライちゃんは目をキラキラさせていた。

 

(そのピュアさ、一生失わないでね!)

 

 

 そんな可愛い弟子を見ながら、私は本題に入っていく。

 

「癒やし配信で大事なもの。

 ずばり、BGMだと思うんです!」

 

 私は今日という日のために、癒やしという概念を勉強してきたのだ。

 

 その中で、導き出した結論が1つ。

 流れている音楽というのは、馬鹿にできないものなのだ。

 勇ましい曲は気持ちを震え立たせ、ヒーリングミュージックは安らかな気持ちになれる。

 

 すなわち癒やしをお届けするためには、まずは相応しい音楽を流しておく必要があると思うのだ。

 はい、ポチッとな。

 

「はい、あなたはだんだん癒やされる~!

 あなたはだんだん癒やされる~!

 …………はい、とってもお腹が空いてくるBGMですね!」

 

"お腹が空いてくるBGM #とは"

"今日はこういう日なのねw"

"これもおすすめだよ つ【レイナちゃんのテーマソング】"

"っぱ、これよ! つ【レイナちゃんファンクラブのテーマソング】"

 

「いやぁぁぁぁぁあああ!?」

 

(そういえば完成したからアップロードしたって、千佳が言ってた!)

(勢いに押されて許可出したけど……! なんで、なんで、そんなにバズってるの!?)

 

 食材さんのカウンターで、撃沈する私。

 

 

 レイナちゃんファンクラブのテーマソング。

 その無駄に力の入った曲は、最初は配信待機ソングとしてお披露目された。

 翌日にはそのフルバージョンが、動画サイトで1位を取っていた。

 

 ……それ以来、恥ずかしすぎて二度と使っていない。

 

 

「あたいも大好きっす。鮮血幼女、レイナちゃん! カラオケでは必ず歌う十八番ッスね!」

「うそっ!? カラオケにも入ってるの!?」

「もちろん音源は、持ち込みッス!

 ……レイナ様から許可が出れば、すぐにでも配信されるッスね!」

「出さないからね!?」

 

 私にとっては、黒歴史詰め合わせセットとも言える1曲である。

 切り忘れ当日の笑顔に、オークキングボコボコ配信。デビルアイ君消滅事件、と歌詞になっている配信が、だいたい碌でもないせいだ。

 

 カラオケでの楽曲配信なんてもってのほか。

 速やかにネットの海に沈んで欲しいところだが、現実は無情。

 日々、数多のMADが作られ、黒歴史の拡大に貢献しているとかいないとか。

 

 

 

「えー、そっちの世界線のことは忘れて下さい。

 今日の私は、癒やし配信者にして、ただのダンジョン料理愛好家。

 良・い・で・す・ね!」

 

"圧!"

"はい、レイナ様。この配信は癒やしです!"

"はい、レイナ様。この配信は癒やしです!"

"《望月 雪乃》癒やし配信、がんばって!"

 

"今北、なんでこんなレイナちゃんに合わないBGM流れてるん? 罰ゲーム?"

"↑↑おい馬鹿ヤメロ"

"罰ゲーム草"

 

 

「むむむ、みんなして馬鹿にしてますね!?

 見てて下さい、完璧な癒やし配信をお届けしてギャフンと言わせてあげますから!」

 

 私は、ぷく~っと膨れっ面になり、

 

「というわけで、とりあえずダンジョン潜っていきますね」

 

 そう言いながら歩き出す。

 

"いやそれはおかしいww"

"1回、本物の癒やし系配信見てきてもろて"

"癒やしを名乗るなら、深層に潜らないで!?"

 

「だってダンジョン潜らないと、料理できないですし……」

 

 そんな訳で私は、ミライちゃんとダンジョン深層に潜るのだった。

 

 

 

***

 

 深層の浅い階層は、今や私にとって、庭と言っても過言ではない。

 

 基本的にモンスターは、私と目が合うとなぜか逃げていくので交戦に至ることは一度もなく。

 私は、ダンジョンに生えている木から果物を採取し、ラクラク・ハコベールに詰め込んでいく。

 

 

(モンスターとの戦闘もなく、食材が集まってきた!)

(私、今日はちゃんと癒やしやれてるよ!)

 

 私が、そう感動に打ち震えていると、

 

 

「レイナ様、今日は何を作るッスか?」

「えっとですね、今日は美容にもバッチリ。

 深層食材でサラダを作ってみたいと思います。

 ドレッシングも手作りしてみますね!」

 

"おお! ここだけ聞くとちょっとだけ料理配信っぽい!"

"場所が深層じゃなければ・・・"

"油断するな・・・・ レイナちゃんだぞ?"

"レイナちゃん「それではモンスターハウスに飛び込みますね!」"

 

「飛び込みませんが!?」

 

 食材さんが、私のことをどう思っているか分かる一幕である。

 

 

「レイナ様~! あたいは、肉。やっぱりお肉が食べたいッス!」

「うっ、お肉ね……」

 

 ミライちゃんが、無邪気な顔でそんなことを言ってきた。

 

(私も、同感……!)

(やっぱりせっかくダンジョンに来たなら、量を気にせずモンスターにかぶりつきたい!)

 

「う~ん…………」

 

"あっ(察し)"

"弟子の願い、叶えるしかないよなあ!?"

"【悲報】ミライちゃん、モンスターをお肉呼ばわり!"

"ダンジョンイーターズでは日常や"

 

 

 

「やっぱり、我慢は良くないですよね!」

 

 カタカタカタカタ。

 

【※戦い中は目と耳を塞いで下さい】ダンジョン料理で幸せをお届けする癒やし配信

 

「……ヨシ!」

 

 枠名を変え、私は美味しいモンスターを探しに向かうのだった。




♪執筆中BGM:ブルアカの例のやつ
元ネタ最近知りました、好きすぎます...。


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第五十八話 絶対に癒やしをお届けする配信(2)

 美味しいモンスターを探して、深層を徘徊する私とミライちゃん。

 しばらく歩き、やがてのっそりのっそりと歩くイノシシ型モンスターを発見する━━名前は、クレイジービックボアと言ったはずだ。

 

「ちゃんと目と耳を塞いで下さいね!」

 

"ヒャッハー! 狩りの時間だァ!"

"なんで耳もw!?"

"お腹すいたからね。仕方ないね"

 

 私が飛びかかろうとした時、ミライちゃんが、

 

「レイナ様! ここは私がやってみたいッス!」

 

 そんなことを言いながら、身を乗り出した。

 

 

「ミライちゃん? ここ、深層だよ? 大丈夫……?」

「はいっス! 任せて欲しいッス!」

 

 ミライちゃんは、自信満々にモンスターの前に飛び出すと、

 

「そのお肉! 大人しくレイナ様に献上するッス!」

 

 そう声を張り上げた。

 

 ブモゥゥゥ!

 クレイジービッグボアは、怒り狂った様子でこちらを見ると、脇目も振らずにミライちゃんに飛びかかる。

 ミライちゃんは、回避する素振りすら見せずにクレイジービッグボアを迎え撃ち、

 

 ━━そのまま凄い勢いで吹っ飛ばされた!

 

 

「ぇええええ!? ミライちゃん、大丈夫!?!?」

 

(いざとなったら割って入って仕留めつつ!)

(エリクサー、エリクサー……!)

 

 慌てる私をよそに、ミライちゃんはムクリと起き上がり、

 

 

「痛いッス〜!?  レイナ様、活きがいい獲物ッスよ!」

 

 テンション高そうに、そんなことをのたまった。

 

 驚くことにピンピンしている。

 さらには次の攻撃は軽やかに回避。ポンと飛び上がり、モンスターが姿を見失ったところに、上からかかと落としを決めてみせる。

 

 

 ブ、ブモゥゥゥ!

 怒り狂ったクレイジービッグボアは、やがては動きに精彩さを欠いていく。

 数分かかったものの、最終的に、ミライちゃんは危うげない勝利を収めてみせた。

 

「パチパチパチ! ミライちゃん、また強くなった!?」

「えへへ、でもレイナ様に比べたらまだまだッス!」

「最初に攻撃を受けたのは?」

「えへへ。なんか攻撃を喰らってみると、スキルが生えてくる可能性が高い気がしたっす! だからとりあえず、未知のモンスター見つけたら試してみてるッスよ!」

 

(な、なるほど……!)

 

 先手必勝を常にしている私では、とても思いつかないトレーニング方法である。

 

「なるほど! ミライちゃん、天才! たしかに攻撃なんて、もらおうと思わないともらわないもんね!」

 

 私はミライちゃんの頭を、撫でまわす。

 

"撫でられて気持ちよさそうなミライちゃん!"

"ドヤ顔かわいい!"

"攻撃なんてもらおうと思わないともらわないwww"

"【朗報】新たなトレーニング法、見つかる"

 

 

「でも、危なくない? 」

「へ?」

「だって、深層モンスターの攻撃をまともに喰らって無傷ですむわけが……。あれぇ」

「この程度なら余裕ッス!」

 

 ドヤドヤドヤっと胸を張るミライちゃん。

 

 

「打撃耐性特大に、対獣相手の有利スキル。あと、初撃ブースター(hp満タン時に防御400パーセントアップ)で、あ、常時スーパーガード状態になる、亀神の心得も便利ッス!」

「……へ?」

 

 やだ、どうしよう。

 うちの弟子、強すぎ?

 

"なになに、どうしたの?(英語)"

"《英検一級はクソゲー》なんかレイナちゃんの弟子も人間やめてた。防御系の激レアスキルが大量に生えてる"

"そんなに人間卒業したやつが現れてたまるか! いい加減にしろ!!"

"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

 

 

「レイナ様、スキルって忘れられるッスかね? たとえば、これ━━肉厚脂肪ガードナーとか、持ってるだけで太りそうで嫌ッス!」

 

"悩みだけは乙女ッ!"

"若者の人間離れ"

"これにはレイナちゃんもニッコリ"

"ミライちゃん、ちゃんとダンジョンイーターズだったんやなって"

"↑↑ダンジョンイーターズを非常識集団みたいに呼ぶのやめれww"

 

「どうしましょう!  なんか気が付いたら、ギルドメンバーが人間やめてたんですが!?」

 

"おまいう!"

"おまいう!"

"おまいう!"

 

 ……あれえ?

 

 

 気を取り直して閑話休題。

 ミライちゃんが人間をやめてたり、心躍る新種のモンスターを見つけたり、色々なことがあったけど……、

 今日のメインは、癒やし配信なのである!!(強調)

 

「あ、そろそろ目を開けて下さい!」

 

"草"

"さっきまで会話しとったやろ!"

"今見たもんは忘れろって圧やぞ!"

 

 

 私は、ラクラク・ハコベールに向かって呼びかける。

 

「おもちくん! 何食べましょう!?」

 

 どうして忘れていたのだろう。

 本来、真っ先に聞くべき相手なのに。

 

(栄えあるグルメ案内人!)

 

 私の呼びかけに答えるように、おもちくんは、すごすごとラクラク・ハコベールから出てきた。

 

「そう言えば、えのきのこ採れました! 毒泉であげると美味しいんですよね、一緒に食べましょう!」

「エッ……? イヤ、チョット、オナカのチョウシが……」

 

 ぷるぷる震えるおもちくん。

 

"滝汗w"

"毒殺(未遂)"

"痛烈なカウンター草"

"まずはブルーマスカットから始めよ?"

 

 一方、ミライちゃんはマイペースに「本当に美味しそうッスねえ」などとヨダレを垂らす。

 

 

(本当に試したいのは、フェニックス使ったお料理だけど……、さすがにまだ無理!)

(もっと戦力拡大を測りたいところではあるけれど、今は目の前の料理配信を成功させないと!)

 

 その後も私は、おもちくんに珍味を聞こうと試みる。

 しかしおもちくんは、ぷるぷると震えるだけで、なかなか答えてくれる様子がない。

 

 

(そんなにお腹痛いのかな……?)

 

 結局、私はあり合わせのもので済ませることにする。

 

 

(えのきのこの毒泉揚げは、試してみたかったのでやるとして……!)

 

「レッツ、クッキング!」

 

 久々の料理配信!

 

"レイナちゃん、鍋爆破しちゃ駄目だからね?"

"レイナちゃん、奇声あげちゃ駄目だからね?"

"レイナちゃん、おもちくんうっかり食べたら駄目だからね?"

 

「…………レッツ、クッキング!!!」

 

 悪ノリしたコメント欄に、ちょっぴり出鼻をくじかれつつ。

 私は、意気揚々と料理配信に取りかかるのだった。



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第五十九話 絶対に癒やしをお届けする配信(3)

(癒し系配信者の本分)

(それ、すなわち料理配信……!)

 

 ちょっぴり癒し系にあるまじき狩りの場面を見せてしまった気もするが……、ここからを上手くやれば何も問題は無いはずだ。

 私は気合いとともに、さっそく調理を開始する。

 

 私はおもちくんをヒョイとつまみ、そっとテーブル(ハコベールに入っていた簡易式のもの)の上に乗せた。

 栄えあるグルメ担当として、調理シーンがよく見えるように特等席である。

 しかし、おもちくんは喜ぶどころか、

 

「ヒ、ヒィィィィ!」

 

 ぷるんぷるんと震えていた!

 

「お、おもちくん? どうしたの?」

 

"そらそうよw"

"おもちくんは可愛いなぁ"

"あまりにも美味しそうなのが悪い"

"レイナちゃん「いただきます!」"

 

「食べませんって!」

 

 一度、おもちくんとは、じっくりじっくり話し合う必要がありそうだ。

 

 

 そんなことを考えながら、私は今日のメインディッシュに取り掛かる。

 その名も、ずばりえのきのこの毒泉揚げ!

 

「ジャーン! ここで使うのがエリクシアさんの新製品、深層でも多分壊れないフライパンです!」

 

 私が取り出したフライパンは、エリクシアの社長から是非是非使って欲しいと頼まれた代物だ。

 

"たぶん壊れないwww"

"自信のなさが垣間見えますねえ・・・"

"絶対壊れない圧力鍋、いっぱい爆破してきたから…"

 

 

 私はえのきのこを、ささっと毒泉で下処理していく。

 しばらく毒泉に漬けてから揚げると、味がギュッと濃縮されて美味しいんだよ━━とは、おもちくん談。

 

 

(う〜ん、美味しそうな匂い!)

 

 私は、良い感じに仕上がったところで取り出し、

 

「ハイ! そんなわけで、えのきのこの毒泉揚げです!!」

 

 完成品のどアップをスマホで映し、私はそう宣言。

 

"あ、あれ? 普通だ……"

"美味しそう、だと!?"

"↑↑騙されるな、猛毒やぞ!"

"ドヤ顔レイナちゃん可愛すぎる"

"《望月 雪乃》なるほど、レイナちゃんの好物は揚げ物っと・・・…φ(..)メモメモ"

 

 

 そんな私のもとに、ミライちゃんがひょこひょこと歩いてくる。

 ホカホカと湯気を立てる、えのきのこ揚げを見ながら、

 

「美味しそうッス! ここはあたいが、ちゃんと味見するッスよ〜!」

「ミライちゃん、毒耐性はちゃんと取った?」

「もちろんッス!」

 

 自信満々のミライ。

 

(なんかポコポコとレアスキルが開花してたし、これぐらいならたぶん大丈夫だよね)

 

「なら……、ヨシ!」

「えへへ、ようやく味見係の役目を果たせるッスね!」

 

 ……ちなみに非常に残念なことに、味見係とは料理担当NGの烙印である。

 いくつかの食材を木っ端微塵にした後、剛腕さんに「もう良いから、おまえは味見でもしててくれ!」と懇願されたとか。

 

 そんな栄えある味見係役のミライちゃんは、ヒョイっと毒泉揚げを口に運ぶと、

 

「これは……、死ぬほど美味しいッス〜〜!」

 

 うっとりと、そう声を漏らした。

 

(やった! これで、ついに私も立派な料理配信者!)

(……んん? なんか、ミライちゃんが幸せそうな笑みを浮かべたまま、安らかに目を閉じていく……!?)

 

"死ぬほど(物理)"

"毒消し毒消し〜〜!!"

"ミライちゃん、魂抜けるほど美味しかったのか…(棒)"

"【悲報】鮮血天使、弟子を毒殺する"

 

「あ〜〜!?!? ミライちゃん〜〜!?!?」

 

 私は、慌ててミライちゃんにエリクサーを飲ませる。

 

「ハッ、おじいちゃんとおばあちゃんが、川の向こうであたいを呼んでたッス」

「それ渡ったら駄目なやつ〜!?」

 

 どうやら相当に危なかった様子。

 慌てる私をよそに、ミライちゃんはこてりと首を傾げると、

 

「美味しかったッス!! おかわりッス!」

 

 とんでもない事を言い出した!

 

「昇天するから却下!」

「ちょっとだけッス。ちょっとだけッスから……!」

 

(気持ちは分かるけどね!)

 

 私は、ミライちゃんの毒耐性スキルを一緒に育てることを決意。

 今日のところは、別の料理で我慢してもらう事になるのであった。

 

 

「……あ、そうだ。おもちくんも食べる?」

「ケ、ケッコウデス……」

 

 ふるふる、と首を横に振るおもちくん。

 美味しくできたと思うんだけどなあ……。

 

「お腹痛いの? 胃薬飲む?」

 

(ぷるぷるぷるぷる!)

 

 滝のような汗をかきながら、必死に首を横に振るおもちくん!

 美味しそう━━じゃなくて、可愛い!

 

"おもちくんの苦難はまだまだ続く"

"毒物カウンター!"

"とりあえずその胃薬はマネちゃんに渡してあげてw"

 

 

 その後も、私はいくつかダンジョン料理を作っていく。

 

「次は混ぜご飯を作って行きます!」

 

 醤油をベースに、中層あたりで取れた山菜を添えて。

 ちなみに隠し味として、細かく磨り潰したデュラハンも混ぜこんである。

 キノコの揚げ物とは、よく合うと思う!

 

 

"あ、あのレイナちゃんが、ちゃんと料理配信をやってる……!?"

"明日は雪だ!?"

"スタンピードが起きるかも……"

 

「食材さん!?」

 

 ぷくーっと脹れ面になる私。

 ある意味、平常運転であった。

 

 

「ダンジョンで美味しいものが食べられるって素敵ッス!」

 

 ミライちゃんが、しみじみとそんなことを言い出す。

 ちなみに、ちゃっかり味見は継続中である。

 

"たしかになあ"

"ダンジョン料理が一般的になるまでは、まっずい乾パン齧ってたっけ…"

"毒食べたら普通は終わりや。今でもだいたいのギルドは変わってないよ"

"いやいや、現地調達はサバイバルの基本よ"

 

 私の配信は、ダンジョン探索者が見ていることが多い。

 食材さんたちは、思い思いにダンジョンでの食料事情を書き込んでいく。

 

(もし、毒耐性がなかったら……)

(いや、何か食べたら即死する可能性がある環境だったら━━ダンジョンって、地獄かも……)

 

 これだけ美味しいダンジョン食材に囲まれて。

 それなのに食べられないなんて、ダンジョン探索の十割は損してると思う。

 

 

「……あ、そうだ! もしかしてダンジョンでレストランを開けば!」

 

"草"

"そこに気がつくとは天才か?"

"《望月雪乃》レイナちゃん印のレストラン?"

"《望月雪乃》……行きます行きます行きます行きます!"

"ゆきのんwww"

 

 でも、やっぱり一番は、新鮮な素材をその場で美味しくいただくことで……、

 

「うん! ついでに毒耐性トレーニング道場を併設して━━」

 

"えぇ……(困惑)"

"( ˙꒳˙ )スンッ"

"レイナちゃんは可愛いなぁ"

"《鈴木 千佳》ふむふむ……"

"【朗報】マネちゃん、新しいおもちゃを見つける"

 

 

 そんな雑談をしながら、順調に料理配信は進んでいき、

 

「ついに完成です!」

 

 デーンと真ん中に鎮座するのは、ダンジョンの魅力をこれでもかというほど詰め込んだ混ぜご飯。

 サイドを彩るのは、深層で採れたお野菜さんたちのサラダと、食べる直前に揚げた方が良かったのではと気が付き作り直した、えのきのこの毒泉揚げ(最初に作ったものは、私が全部味見した!)

 〆は、もちろんブルーマスカット。

 

 

"美味しそう!"

"まさかレイナちゃん配信が、ちゃんとした料理配信になるなんて!?"

"足りないレイナちゃん成分はこちらで……→ URL 【レイナちゃんスマイル】オークキングのお肉を物理的に柔らかくするレイナちゃん!"

"《不死殺し》ふむ……。良い腕だ、60点はやれる"

"少しだけ辛口!"

 

「いっただっきま〜す!」

 

 私とミライちゃんは、パクパクと料理を口に運び、

 

「「ほっぺが落ちそうなぐらい美味しいです!(ッス!)」」

 

"食レポは駄目みたいですねえ……"

"そんなところまで似ないで良いのにw"

"美味しいことだけは伝わってくる良い食レポでした…(白目)"

 

 コメント欄のそんな反応を見ながら。

 今日のリスナーがとっても癒される配信は、お開きとなった。

 

 

 ━━なお、おもちくんは一口も食べてくれなかった。

 今度は胃薬、持ってこよう。



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第六十話 おもちくんの苦悩

 我の名は、クルエール・ダンピーレ。

 ダンピーレ伯爵家の長男である。

 我は、エステリアン王国を治める国王陛下より勅命を受け、新宿ダンジョンを管理することになったダンジョンマスターにして━━

 

「むにゃむにゃ……、おもちくん! そんなぁ……、食べたら無くなっちゃうなんて……。むにゃむにゃ」

「ヒィィィィ」

 

 ぷるぷるぷるぷる。

 ……今は、貪欲なる捕食者、こと彩音レイナという少女のペットに落ちぶれている。

 

 

 

※※※

 

 ダンジョンマスターの仕事は、実にシンプルだ。

 ずばりダンジョンに適切な罠とモンスターを設置し、ほどよく人間が入ってくる環境を整えることである。

 

 

(異世界でのエネルギー収集により産業革命を、か……)

(国王陛下も、思い切ったことを考えたものだな)

 

 我は、勅命が下された日を思い出していた。

 

 あれは、よく晴れた日のことだった。

 国の宮廷魔法師を集め、異界への転移魔法を完成させた国王陛下は、突如として壮大な計画を語り始めたのだ。

 

 我が国は、常にエネルギー枯渇問題に悩まされていた。

 そこで国王陛下は、異世界からエネルギーを収集するという方法を思いついたのだ。

 いわく、異世界に「ダンジョン」と呼ばれる固有領域を作り上げているらしい。ダンジョンというのは、我々の世界の法則が働く異空間のことで━━さしずめ向こうの住人にとっては、異世界そのものといったところだろう。

 

 

(エネルギーを収益するためには、ダンジョン内で強者にダメージを受けてもらう必要がある、と)

(ふむ……、なかなか難儀なことだな)

 

 難しすぎても、簡単すぎても駄目。

 難しすぎれば、あっという間にダンジョンを訪れる人間が居なくなり、目的を果たせなくなる。

 だからといって簡単すぎれば一瞬でダンジョンを踏破され、無能の烙印を押される事になるだろう。

 

 ほどほどに苦戦しながら、夢を求めて探索者が突き進む━━そんな理想のダンジョンを築きあげること。

 それが我々ダンジョンマスターに与えられたミッションであった。それはセンスが必要な職人技であり、まさにダンジョンマスターの腕の見せ所であろう。

 

 

(平和な世界に生きる人間が、なぜダンジョンに次々と飛び込むのだ……?)

(分からん。さっぱり分からんが━━好都合!)

 

 最悪、ダンジョンに誰も入ってこないかも。

 そんな悲観的な予想を裏切り、地球と呼ばれる異世界の住人は、それはもう好奇心旺盛だった。

 異世界からの未知の物質に興味を示し、我先にとダンジョンの探索を開始したのだ。

 

(偉大なる国王陛下の期待に応えるため。我が、模範となるダンジョンを築き上げてみせる!!)

 

 我が任された新宿ダンジョンは、地球の中でもトップクラスのエネルギー収益が見込める土地だ。

 これは地球に派遣された者の中でも、国王陛下からの期待が大きいということにほかならず、

 

(まずやるべきは、地球の人間を強者に育てあげること)

(同時に、無理なく、エネルギーを回収していく必要がありそうだ)

 

 我は気合いとともに、ダンジョンマスターとしての職務に励むのであった。

 

 

 

 数年が経った。

 我の築き上げたダンジョンは、世界でもトップクラスの稼ぎを叩き出していた。

 人気も凄まじく、全国から猛者が集まり攻略部隊が組まれるほどで━━簡単に攻略されたら悔しいので、嫌がらせのようなモンスターを配置し、全力で叩き潰してやった。

 軟弱ものめ、出直すが良い。

 

 エステリアン王国の資源枯渇問題を解決するための重要なプロジェクト。

 我は、常にそのトップを走っていた。綻びが出始めたのは、そんなある日の出来事である。

 

 

(ふむふむ、またレアスキル持ちが現れたのか)

(しかも小さな少女か━━珍しいな)

 

 部下からの報告書には、その日、ダンジョンで起きた珍しい出来事が記載されている。

 注記事項として、ダンジョンを訪れていた一人の少女が取り上げられていた。

 

(ユニークスキル━━食べ放題?)

(モンスターの肉を喰らうと、そのスキルを吸収するか━━ユニークスキルの中では外れの部類だな)

 

 モンスターの肉なんて、まあ食べない。

 ダンジョン内は、未知の異世界━━それこそ奴らにとっては毒となる物が、無数に生息しているのだから。

 

 数秒後には、我は、その少女の存在を忘れていた。

 ━━それが大間違いだったと分かる頃には、もはや取り返しのつかない状態を招いていたのである。

 

 

 ある日のこと。

 我は、ダンジョン深層の建築内容に頭を悩ませていた。

 そんな我の元に、一匹のモンスターがおずおずとやって来て、上層について報告があるというのだ。

 

「上層? 良い感じに、初心者を育てる観光地のような場所として運用して欲しい。我は深層の建築に忙しくてな━━」

「良いから、これを見てください!!」

 

(何なのだ……)

(我は、忙しいというのに━━)

 

 今さら、上層で大きな問題が起きるとも思えない。

 我は、部下から差し出された映像を記録した魔道具(コストがバカ高い!)を覗き込み……、

 

 絶句した!

 

「やっぱりダンジョンに来たらこれだよね! いっただっきま〜す!」

「う〜ん! やっぱり食後には、ブルーマスカット! これがダンジョンでの最高の贅沢だよね!」

 

 魔道具には、そんな訳の分からない言葉とともに片っ端からモンスターを食していく少女(捕食者)の姿が映し出されていた。

 恐ろしい勢いで、スキルを吸収している。

 

(いやいやいやいや!)

(ふざっけるな! そいつら召喚するのにいくらかかったと━━)

 

「ありがとうダンジョン! 食べ放題、最高です!」

 

(いやぁぁぁぁぁぁ!)

 

 気がついたら中層なのに、深層もクリアできそうな怪物が爆誕していた。

 恐ろしいことに、攻略に興味がない。

 延々と浅い層に潜り続けて、多大なコストを払って作り出したモンスターをぱくぱくと食していく。

 

(彩音レイナ━━覚えたぞ、その名前!)

 

 天敵リストに名前が書き込まれた瞬間である。

 こちらの焦りをよそに、配信などを始めた彩音レイナは、今日もぶらぶらとダンジョングルメ(なんなのだそれは!)を求めて彷徨っていた。

 

 

 

 数ヶ月後。

 

(な、なんなのだ。あいつは━━)

 

 我は、部下から送られてきた報告書に戦慄していた。

 

 プライドを捨てて、イレギュラーモンスターを送り込んだりしてみた。

 あっさり返り討ちにあった━━嘘やん。

 

 今日も、恐ろしい勢いでモンスターが倒されており……、ついにエネルギー収益は、赤字に転落した。

 どうやら彩音レイナは、我が想定する数十倍の速度で成長を続けているようだ。

 

(ひ、卑怯だぞ!)

(安全圏でレベリングを続けるなんて!!)

 

 地団駄を踏んでも始まらない。

 我は、なぜ彩音レイナが暴力的とも言えるレベルを獲得するに至ったか考え込んでいた。

 

 その理由は、やはりソロ探索によるものだろう。

 我は、ソロ探索を想定していなかった。だからソロ探索によるデメリットスキル効果━━ソロ探索にボーナスを与える代わりに汎用コストを削減する━━を大量に採用していたのだが、結果的には、これが大失敗だったと言える。

 

 とはいえ、そんなものは結果論。

 

(こんな事態、想像できるか……!)

 

 たしかにソロ探索は、一般的にも効率が良いと言われている。

 我のダンジョン癖を知らずとも、ソロ攻略を試すものはいるだろう。しかしそれは、ハイリスクハイリターンで、いつまでも続くものではない━━死亡率が高すぎるからだ。

 

 事実、我はソロ対策として、ソロ探索者にとっては致命的となる罠を複数設置していた。

 毒、麻痺、喪失━━様々な状態異常は、ソロなら一つでももらえば致命的だし、そうでなくてもイレギュラーな事態に弱いのがソロ探索の特徴だ。

 数で攻めつぶすモンスターハウスなど、その最たるものだろう━━しかし奴はあろうことか、圧倒的なパワーで、真正面からそれをぶち破ってしまったのだ。挙句の果てには、それを使ってレべリングを始める始末!

 

(なんなのだ、あいつは!!)

 

 エネルギー収益の赤字は、日々拡大している。

 コツコツ貯めてきたエネルギーは、モンスターの補充に費やされ、そのまま彩音レイナの腹に消えていった。

 実に、恐ろしい話である。

 

 

 

(喰われる、喰われる……)

(我がダンジョンが、捕食者に喰われる━━)

 

 ハッ、夢か……。

 

 そんなある日、我は恐ろしい話を耳にした。

 食材を自称する部下(正気か!? 喰われるぞ!?)が、とんでもないことを報告してきたのである。

 

(レアデュラハン湧くまで帰れまてん!?)

(いやぁぁぁぁぁ、深層の番人任せてるデュラハンは高いの! 本当に勘弁してぇぇぇえ!?)

 

 レア個体は完全なる確率依存。

 多大なる犠牲を出し(エネルギーも死ぬほど消費した)、ようやく現れたレアデュラハンを見て……、

 

(彩音レイナ!!)

(絶対に許さん━━かくなる上は、我が直接引導を渡してくれる!)

 

 ━━カッとなった我は、禁断のスキルを解き放つ。

 それは、ずばりモンスターへの憑依。ダンジョンマスター自らが憑依することで、モンスターの性能を著しく向上させるという禁忌の術だ。

 

 長年の宿敵を、この手で打ち倒す予定だった。

 

 ……手も足も出ず、ボッコボコにされた。

 捕食者、強すぎる。

 

 

 敗北して気がつく、さらなる絶望。

 

(やだ、この身体弱すぎ!?)

(魔力が、魔力が足りんぞ……!)

 

 そう、デュラハンのレア個体。

 その本体は、鎧を失ってしまえばクソザコナメクジだったのである!

 その性能は、ぶっちゃけ上層のスライムより弱い。そのステータス故に、憑依解除スキルすらコスト不足で発動できなくなったのである!

 

 

「タ、タベナイデ!」

「おもちくん!」

「((((;゚Д゚))))」

 

 そして我は、捕食者のペットにされた。

 

 

(おのれ、彩音レイナ! 栄えあるエスタリアン王国伯爵家の我を、よりにもよって、ペット扱いだと!?)

(絶対に、絶対に許さんぞ!)

 

 我は、考える。

 物理が無理なら、華麗なる我が頭脳プレイで、かの捕食者を葬り去ってみせるのだ!

 

「ぷるぷる、ドクイズミのフグ(行けそうな範囲で、もっとも毒性が高い)が━━」

「あ、あれ美味しいですよね!?」

「((((;゚Д゚))))」

 

「れ、レベルをソクテイしてホシイな!」

「えーっと……、3000でした!」

「((((;゚Д゚))))」

 

 ……我は、考えるのをやめた。

 きっと、後は後任のダンジョンマスターが上手くやってくれる事だろう。

 

 

「……あ、そうだ。おもちくんも食べる?」

「((((;゚Д゚))))」

 

 差し出されたのは、たぶん食べたら即死する猛毒料理。

 ━━おもちくんの苦悩は、今日も続く。




六章頭に入れるか悩んだ回。


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六十一話 トレーニング配信(1)

 ある日のこと。

 私は、久しぶりに自室で配信を立ち上げる。

 

「食材の皆さん、こんレイナ〜!」

 

 今日の予定は、雑談配信だ。

 一時期は、ダンジョンに潜りながら雑談配信をしていたのだが、食材さんからヒヤヒヤするからやめて欲しいと懇願されてしまったので、今は自宅からするようにしている。

 食材さんたちは、過保護で心配性なのだ。

 

 私は、配信を立ち上げるなり、

 

「最近、どうしても食べたいものがありまして━━私、フェニックスが食べたいんです!」

 

 ━━キリッとした顔で、そう宣言した。

 

 

"?????"

"なんかやべえこと言い出したww"

"正気に戻ってw?"

"平常運転やぞ"

 

「フェニックス、鶏肉の王様って呼べるぐらい美味しいらしいんです。

 焼き鳥にすると、最高のおツマミになるらしくて━━お酒は飲めませんが、焼き鳥だけでも食べたいなって!」

 

 フェニックスの焼き鳥を想像し、うっとりとした声を漏らす私。

 

"でもフェニックスいる場所って、完全な未踏破領域よな。さすがに無理ゲー臭いような・・・"

"つURL 【未踏破領域のボスを、闇鍋配信で蹴散らすレイナちゃん】"

"Oh・・・"

"よー分からんが、レイナちゃんの食にかける熱い思いは伝ったw"

 

 久々にアホの子を見る視線を感じる。

 それでも私はめげずに、配信の目的を説明していく。

 

 

「今の私は、フェニックスに挑めるほどは強くないと思うんです!

 おもちくんが言うには、今の実力でフェニックスに挑んだら、瞬殺されてしまうとのことで……」

 

"ま?"

"あのレイナちゃんを瞬殺??"

"もうそれダンジョンの最終兵器やろ"

 

 驚いた様子のコメント欄。

 思えばダンジョン配信の反応を見て、私も少しは強くなったかもしれない、なんて勘違いしていた。けれども、おもちくんの言葉によれば、深層の奥深くには想像もできないバケモノが生息しているようで……、 

 

 

「私、もっと強くなりたいんです。

 そう。すべては、美味しいフェニックスの焼き鳥のために!」

 

"前提も目的も何もかもがおかしいww"

"世界一の捕食者を目指すレイナちゃん!"

"なになに、今日はなんの時間?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》レイナちゃん、強くなるためのトレーニング法を模索中!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》このまま進むとレイナちゃんの強さじゃ瞬殺されるらしい(英語)"

"レイナちゃんを瞬殺できるモンスターが、この世にいるわけないだろ。いい加減にしろ!"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

"《英検1級はクソゲー》でも、わいも同意や・・・(´;ω;`)"

"いや、ジャパニーズダンジョンやばすぎぃ!(英語)"

 

 

「というわけで、最効率のトレーニングを考えてまして。

 私、これから毎日ダンジョンでモンスターをお腹いっぱい食べようと思うんです!」

「……((((;゚Д゚))))」

 

 肩の上でおもちくんが、白目を剥きながらぷるぷるしていた。

 

"なんだ、平常運転だな()"

"この子、まだ強くなるのか・・・"

"おもちくん可愛い、ヤッター!"

"今日も生存確認!"

 

 おもちくんの愛らしさは、食材さんたちからも大人気だ。

 一部の人からは、ダンジョンイーターズの真の癒し枠などと呼ばれているらしい。

 

(私も、真の癒し枠って呼ばれたい……!)

 

 そんなことを考える私をよそに、コメント欄に食材さんたちが好き勝手に書き込んでいく。

 

 

"また気まぐれに最前線アタックが始まるのか・・・"

"フェニックスか……。喰った傍から回復していきそう、実質食べ放題!"

"↑↑天才か??"

"【悲報】フェニックスくん、捕食者に目をつけられる"

 

 食材さんたちの中で、どうやら私の呼び名は捕食者で落ち着きつつあるらしい。解せぬ。

 そんなやり取りを見ながら、私は、今日の配信を開くにきっかけとなったおもちくんとの雑談を思い出していた。

 

 

 ――それはフェニックスの炎を使えば、デュラハンも美味しく食べられるよ、とおもちくんに熱くオススメされた時のこと。

 せっかく使うのなら、やっぱり本体も食べてみたい! と感じるのは、ごくごく自然な人情というものだろう。何より、おもちくんがふとした拍子にこぼしたフェニックスのレシピ―――

 

(熱々の串焼きにしてかぶりつく。……ああ、そんなの絶対に美味しいやつ!)

 

 よだれを垂らす私を見て、おもちくんはぷるぷる震えながら言ったのだ。

 今の私の実力では、下手すると瞬殺されてしまうと。だから、ダンジョンに潜るのは辞めたほうが良い。むしろ頼むから辞めて下さい、なんて懇願されてしまい――

 

(さすがダンジョンイーターズのグルメ担当)

(たしかに、こっちが食べられちゃったら本末転倒だもんね!)

 

 おもちくんの警告を、無駄にしてはいけない。

 そんな訳で私は、ひたすら安全な場所でレベルを上げようと決意したのだった。

 

 ――もちろん、おもちくんが心配していたのはフェニックスの方である。

 フェニックスの召喚コストは、実にデュラハンの10倍相当(たぶん美味しさは10000倍ぐらい)

 パクパク、うまうま。「焼き鳥食べ放題~♪」とかされたら、大赤字待ったなし。

 だから挑む気にもならないように脅かし、かの邪智暴虐なる捕食者のダンジョン侵攻を食い止めようと試みたわけだが、結果は大失敗。

 怖がるどころかフェニックスを食べるため、本腰を入れてトレーニングする決意を固める始末。

 その食欲は不可侵にして、何者にも止めることなど不可能――そう学び、再び絶望したおもちくんであった。

 

 

 回想終了。

 私は、さっそく本題に入る。

 

「――というわけで報告すると、これからはトレーニング配信が増えます。

 とりあえずは深層のお野菜食べ放題……、じゃなかった。モンスターハウスでレベルを上げようと思います。目標はレベル5000です!」

 

"草"

"5000ww"

"な、何と戦ってるんだ・・・"

 

「マ、マダ、ツヨくなるの!?」

 

 飛び上がるおもちくん。

 

"おもちくん慌てて草"

"今日も美味しそう"

"↑↑食材が食材食べるのヤメロ!"

"おもちくん黒幕説好き"

 

「おもちくん黒幕説?」

 

"掲示板で噂になってるやつ"

"あ~、正攻法で勝てないから暗殺狙い、って例の噂ね"

"ずっと毒を勧めまくってるからなw"

 

 毒ごときで、私がどうにかなるはずがないのに。

 食材さんたちも、面白い冗談を言うものだ。

 

「まっさかぁ。こんなに美味しそうで可愛いおもちくんが、そんな恐ろしいこと考えるわけないじゃないですか。ね、おもちくん?」

「ソ、ソダネー……」

 

 ぷるぷるぷるぷる。

 いわれのない誹謗中傷に、ショックを受けてぷるんぷるん震えるおもちくん。

 今日も美味しそう……、じゃなくて可愛い。

 

「ねえ、おもちくん。やっぱり、先っぽ。先っぽだけ――エリクサー食べて良いから!」

「――シテ、ユルシテ……」

 

 おもちくんは、真っ青になって震えていた。

 ただの冗談なのに。

 

 

「デモ、レベルをアゲル、ノハ、ゲンカイが、アルとオモう。

 ベツの、ホウホウ、カンガえるベキ!」

「なるほど、さすがはグルメ案内人!」

 

 ……とはいえ他の方法なんて、私に浮かぶはずもなく。

 名案を求めて、私は思い切って食材さんたちに質問してみることにした。

 

 

"すべてのモンスターの攻撃を喰らってみる!"

 

「それはミライちゃんがもう試しました!」

 

"倒したものは、とりあえず食べてみる?"

 

「いつもやってます!」

 

"冗談のようなトレーニング法、すでに経験済みなの恐ろしすぎる・・・"

"さすがはダンジョンイーターズのツートップ・・・"

 

 

 一方、おもちくんは考え込んでいたが、

 

「ベ、ベツのダンジョンにエンセイする、トカ!」

 

 ぷるんぷるんと、そう切り出した!

 

「ダッテ、ココにコダワル、ヒツヨウも、ナイ!

 ゼンコクの、ダンジョンを、メグろう!」

 

 全国グルメダンジョン、食い倒れツアー。

 いつか、やってみたいとは思うけど……、

 

「う〜ん、私、学生ですし。休みも終わっちゃったので遠征は難しいですね」

「ソ、ソンナ……」

「それに……、私、新宿ダンジョンが大好きなんです。

 美味しいごはんに、食べ放題のモンスターたち。

 たとえ余所のダンジョンで訓練したとしても、私、絶対に新宿ダンジョンに戻って来ます!」

 

 ぷるぷるぷるぷる。

 ……あれ? 何やら、おもちくんが血の涙を流してる。

 いったい、どうしたのだろう?




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