仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男 (みなかみ)
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キャラクター紹介(27話分追加!)

27話までのネタバレを含みます。

話の更新に伴って順次加筆予定です。


 

・デザイアグランプリの参加者

 

墨田奏斗/仮面ライダーダパーン

この物語の主人公。高校2年生。

かつてはバスケ部に所属し、優秀な能力を持つ選手であった。

しかし理想の高さから部員からの支持を得られず、不幸な事故で左脚に大怪我を負い、復帰は不可能となってしまった。それだけではなく、親友的存在だった半田城玖に部を奪われるという形で裏切られ、世界に絶望する。

何故自分ばかりが不幸な目に遇うのか。自問の末に彼は、幸運な者を恨むようになり、デザイアグランプリで「人類が滅亡した世界」を望むに至る。

<邂逅?編>

彼の運命の転換点は、二回戦・ゾンビサバイバルゲームだった。ゾンビに噛まれてしまったことで自らもゾンビ化し、生き残ることは不可能だと考えた彼は、日本でも有数のセレブであった鞍馬祢音を道連れにしようと画策する。それもまた、ギーツやタイクーンのサポートや、鞍馬祢音本人の奮闘によって打ち砕かれ、彼の絶望は晴れること無く脱落となった……はずだった。

彼は、ギリギリのポイント差で幸運にも脱落を免れることとなる。

己の行動を悔いながらも、自らを否定し、彼は渋々ながらデザイアグランプリの熾烈な戦いに身を投じてゆく。

そして来たる缶蹴りゲーム。桜井沙羅と桜井景和の家族の絆に心を掴まれ、またその残酷な真実を知った彼は、世界平和のための人類滅亡を願い最終戦へ参加する。

あと一歩の所で敗退となってしまったが、願いのために一心になって努力したことは、彼にとって大きな財産を残すのだった。

<変心編>

最終戦で敗退し、脱落となった彼は、ボランティアに毎日勤しんでいた。世界を恨む根暗な性格から、聖人君子の爽やかな性格へ。デザイアグランプリを脱落したペナルティで、人を恨む心を忘れたのである。

そして彼は、厳正なる審査の元、再びデザイアグランプリの戦いに招待される。IDコアに触れたことで、戦いの過去を思い出し、性格も元の刺々しいものに戻ってしまった。

新装備・ブラストバックルを得て強化され、青山優/仮面ライダーカローガンや、鞍馬祢音と和解。ボランティア部のメンバーとの交流にも刺激され、力だけでなく精神も共に自立したものとして成長してゆく。

三回戦の椅子取りゲームでは、それまで隠していた新しい願いをカミングアウト。その願いとは「デザイアグランプリの存在しない世界」。デザイアグランプリ運営の命を顧みない姿勢と、桜井一家を襲った惨劇を受けて彼は、全てを終わらせるための戦いをすると決めていた。

浮世英寿が不在となった最終戦では、ムスブ/アクエリアスキメラジャマトの襲撃を受ける。そこで青山優と共に重症を負うが、彼女のIDコアに触れたことで、自らの失われた過去を思い出すこととなった。

彼の失われた過去とは、鵜飼玲という人間の存在に起因する。バスケ部の練習の日々で、孤立してゆく奏斗を救ったのは、鵜飼玲だった。鵜飼玲からの告白を受けて交際し、独りよがりの理想を「他人に押し付けない」ということを彼女から学ぶ。その成果もあってか、彼を支持する部員も増えてゆき、全国大会出場を目指して順調に練習を重ねていた。

そんな日々も長くは続かなかった。ある日、鵜飼玲はいなくなり、存在が世界から消えてしまった。彼女の存在が世界から消えたことにより、奏斗と部員の関係は逆戻り。

結果的に、交通事故の被害にあった際には既に彼の味方はいなかった。

その全ての真実を思い出した奏斗は、ギロリから提案され、願いを「鵜飼玲が蘇り、またバスケができる世界」に変更。キツネ狩りへの参加を迫られる。

恋人の死という現実を突きつけられ、迷いが生じる奏斗。自らを襲ってきた不幸。それ以上にあった幸運。タイクーンの「くだらない願いなど無い」という言葉に背中を押され、新たな願いを捨て、幸運をもたらしてくれた英寿、景和、祢音を救うために、ギロリの変身するグレアに反逆する。

四人の連携はグレアの性能を上回り、ニラムの静止もあって勝利を収める。が、突如乱入した元ゲームマスター・コラスによってビジョンドライバーが奪われ、奏斗の「デザイアグランプリの存在しない世界」という願いが発動してしまった。

<ギーツ×リバイス>

コラスの策略によって、デザイアロワイヤルに招待され、願いの効果で復活した吾妻道長を含めた五人でゴールを目指すこととなる。

神山飛羽真の助けや、仮面ライダーリバイスの復活もあり、ゴールへと順調に向かう。

道中でモンスターデッドマン、ビートデッドマンに襲撃され、飛羽真、祢音共々崖下に落ち退場……する寸前に、飛羽真の仲間、新堂倫太郎とユーリに助けられる。

ゲームエリア内に決戦に向かう仮面ライダーたちとは対照的に、奏斗は轟家に侵入。ビジョンドライバーを奪い返そうと、コラスが変身した仮面ライダーグレア3と激闘を繰り広げる。一度は窮地に追い込まれるも、フィーバースロットバックルを使用した際に、ツムリの強い願いが呼応。失われたパイレーツバックルの力を発動。救援に現れたブレイズ、最光と共にグレア3及びコラスを撃ち倒す。

その後の戦いはギーツたちに委ねる形となった。

決着の後に、吾妻道長と同様に復活した鵜飼玲と遭遇。必ず再会することを誓って彼女の消滅を見守った。

<発露編>

デザイアグランプリ新章の選抜メンバーに抜擢され、早速シークレットミッションを見破るという活躍を見せる。が、これまでのシーズンでの行動もあり、支持率は振るわず。

サポーター代理として現れた、芹澤朋希/仮面ライダーハイトーンの伝言である、「嘘つきは一人ではない」という言葉を受け、デザスター探しだけではなく、まだ裏切り者がいるという疑念を持ちながら戦いを続けることとなる。

精神面の成長もめざましく、ボランティア部のメンバー、上遠赤哉や快富郁真の過去を知り、道を示せるほどまでになった。また、家族との仲もこの時点で修復できている。

だが、芹澤朋希の懸念の通り、本質はまだ変わっていない。

橋結カムロの求めたデザ神決定戦。その前半戦に「サポーターの意向」で参加できずにいた。その間彼は、ボランティア部の新井紅深の遊びに付き合わされ、一冊の本を読破することを求められる。

新井紅美が去った後、英寿、景和、祢音の三名と合流。橋結カムロとムスブに持っていた懸念を共有し、彼の正体を暴いた。

ゲームマスターのビジョンドライバーが奪われ、ジャマーガーデンの襲撃作戦が練られるなか、彼はモーンとの接触に成功する。新井紅美の託した本の結末。そこから彼女の主張を汲み取った彼は、それまで嫌悪感を抱いていたオーディエンスに歩み寄ろうと決心。

しかし、ムスブがオーディエンスは未来人であるということを明らかにし、その心は揺らぐ。

迷いの末、彼はべロバに捨て身の特攻を行い、敗北した。

 

 

鞍馬祢音/仮面ライダーナーゴ

一般人を夢見る超絶人気インフルエンサー。日本一のセレブと言われる鞍馬財閥の一人娘で、本質はおっとりとしたお嬢様である。母親からの束縛に悩み、金にまみれた世界では自分として生きられないと考えた彼女は、明るい自分を取り繕って「本当の愛」を求める。インフルエンサーとしての活躍は上々であり、家出チャレンジと踊ってみた企画が特に人気。

<邂逅?編>

本当の愛という願いを掲げ、一回戦をなんとか勝ち抜けた祢音。二回戦では、自暴自棄となった墨田奏斗の巻き添えをくらい、ゾンビ化しかけてしまう。それでも彼女は諦めず、最後まで戦うが、初動のポイント差は覆せず脱落する。

本当の愛が欲しいという願いを忘れ、チャンネルの動画も全て削除された。

今までのお嬢様としての生活に戻ったはずだが、度々奏斗を監視しているようで……?

<変心編>

当初はデザイアグランプリに未参加だったが、後半戦にて追加エントリー。インフルエンサーとしても復活を遂げる。その裏で糸を引いていたのは、運営として働いていた芹澤朋希という男であった。彼の下で戦闘の訓練を積み、これまでよりも磨かれた戦闘力で、鮮烈復活する。

だが奏斗と同様に、まだ心が成熟していないのも事実であり、鞍馬財閥を探ろうとする奏斗と言い合いとなり、喧嘩にまで発展してしまう。それでも、デザイアグランプリを終わらせようと覚悟を決めていた奏斗に感化され、ビートバックルを彼に託した。

また、芹澤朋希との交流は上辺だけのものであると、彼女は感じている。

<ギーツ×リバイス>

他の参加者共に、デザイアロワイヤルに招待される。

防衛戦では新形態・コマンドフォーム・ジェットモードを披露。子どもたちを守るために奮闘した。

一度は退場しかけるが、飛羽真の仲間に救出され、最終決戦に赴く。ビートデッドマンとの戦いではジャンヌと共闘。この世界の愛を守るために戦った。

<発露編>

新シーズン。プレイヤー同士の騙し疑われの関係に惑わされながらも、着実に向上してきた戦闘力で活躍。

新メンバーの中では、アスリートの我那覇冴と交流を深め、ジャマーボール合戦では、卓越した連携でチームに貢献した。

五十鈴大智の陰謀で景和がデザスターへと仕立て上げられ、景和を信じたい気持ちと願いの中で葛藤。最終的には景和を信じる選択をする。それもそのはず、彼女が裏切り者のデザスターだったからだ。景和を信じるか、五十鈴大智を信じるか。彼女に対しては大きな問題ではなく、どちらを残すほうが利となるか、その上で彼女は景和を残す道を選んだ。

彼女も、本当の愛を手にするために覚悟を決めたのである。

続く爆弾ゲームでは、「本当の愛は、自分のものでなくても大切にするべき」という信条を元に、奏斗や冴の家族を守るために戦う。デザスターの正体であると冴にバレてしまうが、祢音の葛藤を知った彼女に庇われ、脱落を免れた。

デザ神決定戦、どんな手を使ってでもデザ神になると決めた彼女は、プレイヤーへの直接妨害を画策する。が、奏斗が橋結カムロに対する推理を始めたことで、自らがデザスターであるとカミングアウト。人を騙すことに罪悪感を募らせていたためか、明るい気持ちで奏斗に協力すると決める。

後に、祢音TVのアンチかと思われる青年と遭遇した。まだその青年が、手紙の中のサポーターであるとは知らずに。

 

 

青山優/仮面ライダーカローガン

奏斗のクラスメイトであるバレー部。オーバーリアクションな今時の女子である。バレーの腕こそ確かであるが、周りからイジメられるのを恐れるあまり、自らの主張を極端に少なくしている流されやすい性格。本当は引っ込み思案でネガティブ。

<変心編>

初参戦となったデザイアグランプリ。初戦の海賊ゲームでは、犬猿の仲である奏斗、これまた初参戦の丹羽一徹/仮面ライダーケイロウとチームを組む。

流されやすい性格故、明確な願いを持てず、デザイアカードには「幸せに暮らしている世界」と記入。そのような生半可なメンタルで戦えるはずもなく、ただ逃げる一方であった。

学校では、墨田奏斗やボランティア部は忌み嫌われる者たちとして定着しているため、当然彼女も奏斗には強く反発。海賊船ジャマトの攻撃で喉に大怪我を負ってしまい、ゲームが終わっても後遺症が残り続けた。

迷宮脱出ゲームでは、無口なボランティア部・上遠赤哉に苛立ちを募らせるが、奏斗の「お前は本当に自分の意志で拒絶しているのか」という主張に揺られ、上遠赤哉を守るために立ち上がった。

それからは、カースト上位の者に従うことに対して躊躇いがちになり、自らの意見を持つようになってくる。戦闘面では、単騎でジャマトライダーを撃破するほどまでに成長した。ここから皆の幸せな生活を守りたいと思い始めるようになり、精神面においても成長が見えた。

だがその椅子取りゲームの中で、アクエリアスキメラジャマトに目をつけられてしまう。奏斗に伝言を残すように頼まれたが、不信感からか何も言い出せずに最終戦を迎えてしまう。ダパーンと共闘し、衛兵ジャマトを撃退した所をアクエリアスキメラジャマトに襲撃され、用済みとして処分されそうなってしまう。最終的には新井紅深を庇って大怪我を負い、デザ神の称号を得られないとして、脱落扱いとなった。

しかし、彼女は知っていた。奏斗の失われた記憶、鵜飼玲の存在を。アクエリアスキメラジャマトの伝言もあり、真実を知るべきだと考えた彼女は、消滅寸前の自らのIDコアを奏斗に触れさせ、記憶を取り戻すきっかけを作った。

脱落後は、自らの幸せを願う心を忘れ、誰かの意見に流される自分を忘れる。そして、誰かの幸せを守る看護師を目指すと決めた。

<発露編>

登場はしていないが、彼女のIDコアが運営上層部の手に渡っている。

シーカーのIDコア、ナッジスパロウのIDコアも同様である。

 

 

橋結カムロ/仮面ライダーヘリアル

世界を股にかける天才シェフ。26歳。

かつてデザイアグランプリに参加した精鋭の一人で、精密動作に優れる。どの仮面ライダーと組んでも連携を行うことができ、サポート能力は類を見ない。

シェフとしての腕も一流。味見をしないで素材を見抜いたり、よくメンバーに料理を振る舞っている。

性格は料理の繊細さに反し豪快。声も大きく、主張は通るまで張り続ける。

口癖は「俺の腕にかかれば!」

<発露編>

最終戦まで残っていた腕ききの一人として、新シーズンに招集される。自慢のコミュ力やサポート能力で活躍し、支持率もそこそこ。メンバーの生活のフォローも行い、一定の信頼を得ている。

願いは「世界平和」で、誰でも平等に食事にありつける世界を夢見ているらしい。

単独行動が多く、一度疑われると出せるアリバイは少ない。実際、参加者の話を盗み聞きしたり、戦線を離脱しているタイミングもあった。

また、彼は浮世英寿が2000年転生し続けていることを知っている。

ジャマトが現れなくなり、デザ神になれないことを懸念した彼は、デザ神決定戦をチラミに要求する。

チラミはあっさりと交渉を受け入れ、デザ神決定戦は開催。今までのサポート主体のスタイルを捨て、グレア2と一進一退のバトルを展開。

しかし、後半戦において、アクエリアスキメラジャマトと自身が同時に存在していないこと、口癖が同じだったことを、連携した四人の仮面ライダーに明かされ、いよいよ正体を見せる。彼はアクエリアスキメラジャマトの変身者・ムスブであった。

(以下の紹介は、ムスブの欄に続く)

 

 

・ボランティア部員

 

広実須井

奏斗の先輩に当たる、ボランティア部の部長。

葉に衣着せぬ飄々とした口調が特徴的であり、コミニュケーション能力が高い。ミステリアスな雰囲気を心がけているが、想定外の事が起こると、抜けている一面が強く現れる。

彼の取り仕切るボランティア部は、全て彼がスカウトした部員で構成されている。部員たちはクラスカースト下位の者や、孤立している者ばかりで、生徒全体から嫌われている。

<邂逅?編>

缶蹴りゲームが始まる寸前、奏斗をボランティア部に勧誘。反発する奏斗に現実を突き詰めて論破しており、煽り性能の高さを見せた。

<変心編>

記憶を失い、聖人君子となった奏斗に振り回される日々を送っていた。記憶を取り戻して根暗な性格に戻った奏斗を見て喜ぶほどには。

最終戦の直前に、奏斗に本当のボランティア部の活動について教える。それは、新井紅深の非行を隠蔽すること。彼は幼少期、新井紅深の友人であった。しかし彼女への虐待に気付かず、非行に走らせてしまった後ろめたさから、ボランティア部を設立した……という経緯を明かす。

ボランティア部の部員が嫌われ者ばかりなのも、口外されるリスクを減らすためであった。

奏斗がデザイアグランプリに参加している事実を、彼だけが知らない。

<発露編>

新学期が訪れ、ボランティア部を招集。集中力が削がれていた奏斗を責めるも、新井紅美に窘めなれる。

彼の卒業は近い。

 

 

上遠赤哉

ボランティア部員。奏斗の後輩。

極端に無口であり、基本的な会話にも全く応じない。

約束を大事にしていて、心に秘めた熱は誰よりも強い。

<変心編>

初期の頃は当然奏斗にも心を開かず、だんまりを決め込んでいた。

しかし、迷宮脱出ゲームに一般人として巻き込まれたことをきっかけに心は開かれる。自らを守るために危険に飛び込んだ青山優や、「敗れる約束は約束ではない」と強く主張した奏斗に感化され、初めて口を開いた。

彼の持つ料理の知識はめざましく、ジャマト語の暗号を特定するなど活躍した。

それからは、ボランティア部の前でははっきりと喋るようになる。

<発露編>

デザイアグランプリに参加していて不在の景和に変わって、子ども食堂で手伝いをしていた。子どもには心は開けなかったので、奏斗に子どもの相手を押し付ける。彼はデザイアグランプリの記憶を失っていなかった。

その最中でジャマーボール合戦が始まってしまい、子ども食堂も危険に晒される。延長戦の前夜、彼は奏斗に自分の過去を明かした。

十年前、彼には上遠橙吾という兄がおり、優秀な料理人だった。彼も兄に憧れ、料理の道を志す事を約束していた。しかし上遠橙吾は火事で行方不明となってしまい、約束を果たすことができなかった。その後悔から、彼は口を閉ざし不用意に約束を作らないと決めていた。

子ども食堂の手伝いをしていたのも、約束への未練を精算するためのものである。

約束への未練は、迷宮脱出ゲームでの奏斗の言葉に影響され次第に夢へと変わっていった。それ以来、奏斗に強い恩義を感じており、ジャマーボール合戦の顛末を最後まで見守った。

 

 

快富郁真

ボランティア部。高校2年生。

典型的な不良気質の男である。やや感傷的な面もあり、身内の危険には人一倍敏感。

<変心編>

椅子取りゲームにて登場。

奏斗がボランティア部の部室に隠していたデザイアドライバーをひょんなことから見つけてしまい、ジャマトたちに追われる羽目になる。ジャマトや仮面ライダーハイトーンなどを通して、奏斗が危険な戦いに身を投じている事を知り、一時はデザイアドライバーの返却を拒否する。

奏斗の説得の末、彼の覚悟を知った郁真は、デザイアドライバーを託した。そして、互いに友だちとして手を取り合う関係へと発展する。

<発露編>

爆弾ゲームにて登場。

デザイアグランプリの記憶がふとした瞬間に蘇ったが、原因は不明。

前半戦が終わった夜、ジャマトに襲われそうになった所を、死んだはずの従兄弟、綾辻誠司に救われる。そこで奏斗を止めるように要求されるが、彼は既に綾辻誠司の死を受け入れていた。人質にとられてもその意志は揺るがず反抗。

綾辻誠司に擬態していたムスブの標的から外された。

綾辻誠司に示された、「正しい道」を信じて。

 

 

新井紅深

高校2年生、ボランティア部。

ゆっくりとした口調で話す大人しい性格で、妄想屋。

頭もよく、部室ではよく本を読んでいる。

<変心編>

記憶の改変により、ボランティア部の活動を活発に行う奏斗に唯一協力した部員だった。流行り物には疎いようで、特に浮世英寿と遭遇しても興味を示していなかった。

奏斗がデザイアグランプリに再参戦してからは、突然性格の変わった彼を「多重人格者」だと疑っており、自説を説いて奏斗を困らせる。人間関係においては、卑屈な面もあるようだ。

そんな彼女の秘密が明かされたのは最終戦の直前。

高架橋に落書きを施している所を奏斗に見られてしまう。

かつて彼女は親から虐待を受けており、度々落書きを残すことがストレス発散の方法となった。

それを知った旧友の広実須井は、彼女に知られないように落書きを消すようになった……と、されている。

最終戦では戦いの渦中に紛れ込んでおり、ビル型の納骨堂に出入りしていた場面が奏斗に目撃されている。

<ギーツ×リバイス>

オーディエンスルームで奏斗に注視する一人のスポンサー。彼女は自らの体をレーザーレイズライザーで撃ち込むと、新井紅深へと変身した。

仮面ライダーダパーンのスポンサーは、彼女だった。

(以下の紹介は、モーンの欄に続く)

 

 

・その他のキャラクターたち

 

モーン

新井紅深の正体。デザイアグランプリのオーディエンスで、ダパーンのスポンサー。ひたむきに戦う仮面ライダーの悪行をエンタメとして消化する悪辣な性質。

同じ不幸を愛するベロバとは異なり、最後には推しが勝ち抜くことを願っている。

その名の通り、推しを決めるまで悶々と悩み続ける性格。

<発露編>

奏斗との面会を拒否していたが、「嘘つきは一人ではない」という伝言を伝えるため、芹澤朋希にその役目を押し付ける。

以後、度々ジーンやケケラ等のオーディエンスと共にデザイアグランプリを鑑賞しており、奏斗の魅力について饒舌に語っていた。彼女曰く、「どうしようもなさ」に惹かれるらしい。

また、新井紅深としても奏斗に接触。だが、「モーン」として、サポーターとして会うことは避けており、底は伺いしれない。

デザ神決定戦の直前、奏斗を新井紅美として連れ出し、前半戦への参加を阻止する。その先で彼が欠陥のある人間だと指摘。新井紅美の母の愛読書を勧める。その後も奏斗とのデートを堪能していたが、ジーンに呼び出され志半ばで解散。

べロバの計画を阻止するために、ジーンと彼女の元へ向かう。

そして、羽根の生えた人型ライダー・仮面ライダーモーンへと変身した。

圧倒的な性能差を元に、バッファとナッジスパロウを圧倒した、彼女とジーンであったが、肝心のべロバを取り逃がしてしまう。

ジャーマーガーデンへの襲撃の直前、奏斗と邂逅し、彼の譲歩に歓喜するモーン。しかし、ムスブのカミングアウト、そして何者かの攻撃によって正体がバレてしまい、僅かな信頼は瓦解。彼女もまた、べロバの起こした爆発に巻き込まれた。

 

芹澤朋希

バスケ部マネージャーで、奏斗の後輩。

身体は弱いが、確実な観察眼と発言力を持ち、信頼されていた。

<邂逅?編>

ラスボスジャマトに襲われた学校にて、図書館の中に隠れていた。ダパーンに救われた一瞬で、正体を奏斗だと見抜き、その夜に接触。彼の願いを聞き出した。

何故か、鞍馬祢音を連れて。

<変心編>

彼の正体は、IDコア管理室の責任者だった。

支援していた祢音を介して浮世英寿の願いを知るなど、陰ながら情報を集めていた。

彼が本格的に動き出したのは椅子取りゲーム。

ゲームマスターのギロリに指示され、奏斗の所持する不正なドライバーを破壊しようと戦闘に赴く。ビートバックルのみでジャマトライダーを圧倒。場を掻き乱した後、ジャマトライダーを復活させて去った。祢音と奏斗なら、必ず勝ち抜けられると信じて。

その後はムスブに振り回されながらも、仮面ライダーの戦いを見守る。

彼もまた、鵜飼玲を覚えている。

<発露編>

奏斗のサポーター代理に抜擢され、正体を晒すこととなる。奏斗にはデザイアグランプリに参加した経緯と、鵜飼玲が死んだ理由を語った。しかし、彼や鵜飼玲の願いなど、肝心な所は隠されている。

サポーター代理として、奏斗に不足している情報を共有を主に行う。

 

 

半田城玖

高校2年生、現役バスケ部。 

かつては奏斗と共に全国大会を目指す選手だった。

鵜飼玲の幼馴染。

喜びなどの感情はすぐ表に出るが、怒りは溜め込むタイプ。

<変心編>

奏斗の回想で登場。

元々は奏斗を指示する唯一のバスケ部だったが、彼の怪我を期に裏切り、部活を乗っ取る。

 

 

ムスブ/アクエリアスキメラジャマト

ジャマーガーデンズが一人。変異ジャマト。

飄々とした性格で、いつもフードで顔を隠している。

人間のジャマト化に興味があり、墨田奏斗をジャマト陣営に引き入れようと画策している。

<変心編>

椅子取りゲームより暗躍を開始。

奏斗を狙って、青山優に伝言を残したり、祢音のSPの記憶を蘇らせたりと遠回りな誘導をするが、痺れを切らして最終戦に現れる。

カローガンとダパーンに重症を負わせ追い詰めるが、激化する最終戦に興味を削がれ、次のシーズンに後回しにすると宣言。消えてしまった。

<発露編>

ジャマト化した道長を受け入れ、ベロバと共にジャマーガーデンズを結成。

まだ奏斗のことは諦めておらず、幾度となくゲームを妨害。ギーツやダパーンを足止めするなどして戦力を削っていた。

また、上遠橙吾や綾辻誠司など、複数の顔を持っている。

目的は未だ不明。

デザ神決定戦で、奏斗や祢音の策にはめられたことで、自身が橋結カムロの正体であると明かす。

彼の実在は、複数人のIDコアのデータを融合させた誕生した変異種であり、デザイアグランプリにジャマトのスパイとして参加していた。

表情は左半分がドロドロに崩れており、吸収した退場者の顔が見え隠れしている。

ジャマーガーデンを襲撃したか、ダパーンとモーンの前に立ちはだかる。が、モーンの初見殺しにも近い能力に圧倒され、追いつめられる。それを機に、彼は奏斗にオーディエンスの真実をカミングアウト。動揺する奏斗をジャマト陣営に引き込む一歩手前まで追い詰めるが、直前で自身の糧にしている退場者の身内に邪魔をされ、失敗。べロバの引き起こした爆発に巻き込まれた。

 

 

上遠橙吾

上遠赤哉の実の兄で、シェフであった。

十年前に焼死したとされているが、遺体は見つかっていない。

ムスブの持つ顔の一つとされている。

橋結カムロが正体を明かしたことで、デザイアグランプリの退場者であると判明した。

 

 

綾辻誠司

快富郁真の叔父で、ベンチャー企業・ソニカの社長。

5年前に誘拐され、命を落としており、遺体は溶かされ発見されていない。

浮世英寿の口から、かつてデザイアグランプリが参加し死亡したことが明かされている。

ムスブにその顔を利用されている。



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邂逅?編
1話 邂逅Ⅲ?:狂った世界


 

「人が幸せになろうとする権利を奪う資格なんて、誰にもない!」

 日向で生きてきた人間と、俺は違う。

「まだ、終わりじゃないっ!」

 なんでだ、なんでなんだよ。俺だって、努力してきたんだ。バスケ一筋で生きてきて、死ぬ気でレギュラー勝ち取って。これからだったのに。なんで、こんな、生まれてきてからラッキーな奴らに、説教受けなきゃいけないんだ。どうせ、そのブーストもお人好し狸から借りたやつなんだろ。結局、お前が今使ってる力も、与えられた物でしかないんだ。お前が、自分の力で成し遂げた事なんて────

(奏斗、お前もう少し周りを見ろよ)

 不意に、昔の事を思い出した。これが走馬灯ってやつか。確かに、あいつの言った通りだったのかもな。事故の日、俺はボールしか見てなかった。そのせいで車に轢かれた。今回だって、俺は銃のスコープばかり覗いてたから、後ろから来たジャマトに気付かなかった。あのときも、あいつの事を見てやれてたら────

『BOOST TIME!BOOST HUMMER GRAND VICTORY!』

 あの金持ち─────鞍馬祢音がジャマトを一掃していく。ああやって、前を向いてるやつが進んでくのか。俺はどこで、間違ったんだろうな。俺と鞍馬祢音は根本的に同じなんだ。現状を変えたくて、自分と違う物を持ってる奴らが羨ましくて。だけど、俺と鞍馬祢音を隔てる絶対的な壁があった。それは逆境にのまれたとき、諦めたか、諦めなかったか。

「ミッションコンプリートです!」

 ゾンビサバイバルゲームが終わった。終了の宣言と共に、全身から痛みが引いていく。まさか、ゲームをクリアしたら、異常状態は解除される?そんなの、ルールに書いて─────いや、書いてあったのかもしれない。お決まりの視野の狭さ。それがまた俺の敗因になった。

「はぁ〜みんな無事で良かった!」

 桜井景和は朗らかに伸びをする。だが、俺の心は全然晴れやかじゃなかった。恐らく、俺はポイント不足で脱落する。度重なる他プレイヤーへの妨害による減点、終盤には鞍馬祢音が大量にジャマトを倒した。逆転されたのは、結果を見なくてもわかる。

『PLAYERS RANKING』

 一位、浮世英寿。二位、吾妻道長。この二人は前大会参加者と聞いている。ここまでは順当だ。三位、桜井景和。四位、小金屋森魚。人命救助でポイントを稼いでいた二人だ。まぁメリーの心理は透けて見えるが。そして、運命の瞬間が来る。俺は今吸い込んだ息が最後のものと覚悟し、結果を見た。

 

 五位、墨田奏斗。六位、鞍馬祢音。

 

 鞍馬祢音歓迎ムードになっていた空気が一瞬で崩れた。結果が信じられなかったのは俺も同じだった。

「あ、あはは。ごめんね。景和、英寿様。負けちゃった─────」

『RETIRE』 

 運営のツムリが告げた、仮面ライダー失格の発言。脱落と失格はどう違うのか。そんなことを考えられたのは、ゲームが終わって三日後だった。どういうわけか俺は、一命をとりとめた。ここで俺が生き残ってしまったのは、デザイアグランプリにとって良かったのか、それはわからない。だが少なくとも、参加者にとって俺の生存は望んていたものではなかったようだ。当然の話だが。その日は、誰よりも視線が痛かった。

 こんなゲーム、もうやめたかった。

 

            DGPルール

 

   ゲームから脱落した者は、仮面ライダー失格となる。

 

        そして、脱落した者は─────

 

 




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「どうせ俺等は敵同士だ」

「新たなジャマトが現れました」

─ふたり一組で、挑むゲーム!─

「二人一組のチーム戦ってわけか」

「このゲームには秘密があるようだ」

「助け合う仲間同士じゃなきゃダメなんだよ」

2話 邂逅Ⅳ?:最悪のデュオ


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2話 邂逅Ⅳ?:最悪のデュオ

 

 デザイアグランプリ、二回戦。ゾンビサバイバルゲームにで俺はゾンビウイルスに感染。自暴自棄になって、私的な恨みを抱いていた鞍馬祢音への妨害に買って出た。結果は、失敗。鞍馬祢音を感染させる事に成功はしたものの、ギーツやタイクーンの援護もあり、道連れにはできず、ポイント不足で俺は敗北を喫した。はずだった。

 最終的なポイントは、俺の方が僅差で鞍馬祢音に勝っていた。土壇場で鞍馬祢音の心の強さに気付いた俺に、滑稽な行動で勝ち残った事実が、今でもずしりとのしかかっている。それは、片足だけでは支えきれない程の重みで、

「おい墨田!墨田!話聞いてんのか!」

「あっ、す、すいません───────」

 今は授業中だった。デザグラの事を考えてる時間じゃない。窓側の席から、クラスのカースト上位者がクスクスと後ろ指を指している。くそっ、うっざいなぁ。特に夢も将来の羨望もない奴らは気楽でいいよ。大学でハズレのサークル引いて、人生苦労すればいいさ。逮捕のニュースが報道されたら、壁一面に飾ってやるよ。

 

             *

 

 バスケを失った俺の人生はただのルーティーンに過ぎない。適当に授業受けて、さっさと家帰って。九時には眠りにつく。土曜日は惰性でテレビ見て暇をつぶして、後は適当だ。日曜も何をするでもなくスマホいじって、

「奏斗、勉強しないならお使い頼んでいい?シャンプー切れちゃってたのよ」

 ルーティーンにも偶にイレギュラーが起きる。今回は母親からの頼み事。こういうのは無理にゴネずに、さっさと片付けるのが最短ルートだ。俺はスマホをソファーに投げ捨てると、母親から軍資金を受け取った。

「あぁ、すぐに帰ってくる」

 二、三言で済むはずだった親子の会話。しかし、俺の母親は無駄口を叩く習性がある。勉強しろだのと軽いものは聞き流せる。だが極稀に、正確にイライラする言葉をぶちかます事がある。例えを使えば、地雷。

「ねぇ奏斗。あなた、もうバスケットボールはやらないの?ほら、怪我だって殆ど治ったし、また始めたら」

「───────バスケはもうやらないよ」

 殆ど、治っただって?軽く言うなよ。こっちはまだ満足に走れもしないんだ。バスケなんて出来るはずもない。続ける理由も、もう失ってしまった。俺は、もう絶対にバスケをやらない。

「そんな事言わないで。ほら、半田くんだってまたやろうって言ってたわよ」

「半田、知らないね、そんな奴」

 それ以上は、会話をしなかった。母親の話を無視して、俺は外に出た。

 今日は厄日だ。太陽は夏らしく、さんさんと照っている。普段外に出ないためか、服装を間違えた。猛暑に対してワイシャツとセーターじゃ分が悪すぎる。首元から吹き出た汗が、じっとりとワイシャツの襟元に染みていた。なんで遠くのドラッグストアを選んでしまったのだろう。片手に掛けた詰替え用洗剤の袋が重い。暑すぎる。俺はチェーンが錆びて推進力がゼロの自転車を必死に漕いだ。自転車は金属が擦れる情けない音を立てながらギコギコと前に進む。今家には帰りたくないが、この暑さでは先に倒れてしまう。仕方ない。近道を使おう。ドラッグストアのある通りから自宅への最短ルート。それは、公園を突っ切るルートだ。通りの近くにある公園は敷地面積が広く、しっかりと道路もコンクリで整備されてて走りやすい。近道に最適なルートだ。ここからなら下り坂になっていて、必要以上に体力を使わずに済む。

 俺は坂道を一気に下り、公園に侵入する。これで一気にショートカットだ!

 しかし、面倒を避けたいと思ったときは、大抵もっと不幸な事が起きるものだ。

「はぁ〜あっついなぁ」

 イチョウ並木の木の下で、桜井景和がくつろいでいた。俺は咄嗟に進路を変えて木の裏に隠れる。桜井景和は、日差しを避けられる木陰で、気持ちよさそうに伸びをしている。あいつは伸びをするのが癖なのか。というか暇ななのか。普段何をしてるのかは知らないが、あいつは一体どんな仕事を。どうせあのお人好しだ。のんきに適当な仕事に就いて、充実した毎日を─────

「はぁ、また面接落ちちゃったよ。このままじゃ姉ちゃんに示しがつかない…」

 桜井景和は、ため息とともに肩を落とす。就活生だったのか。というか、またって。何回面接に落ちてるんだ。ざまあみろよ、と心の中で呟きつつも、このあとどうするか考える。このまま桜井景和が立ち去るのを待つのもいいが、それまでに俺の体力がもたない気がする。こうなれば気づかぬふりして突っ切るか。一瞬だったらあいつもわからないだろう。

 俺は暑さで、大分判断能力が鈍っていた。

「こんなんじゃ、世界平和は程遠いな」

 もしかして、今言ってたのがあいつがデザイアカードに書いた願いか?俺のと真反対じゃないか。どこまでもお人好しなやつめ─────多分、あいつは心から世界平和なんて願ってない。でも、他に望みがないから、何となくでそう書いてる。よくある典型的なパターン。それを面と向かっていったら、あいつは怒るだろう。これ以上あいつに講釈垂れられるのはゴメンだ。

 桜井景和が俯向いている内に、俺は全力の力でペダルを漕ぐ。頼む、バレるな。

「あっ!墨田奏斗!」

 俺の願いとは裏腹に、桜井景和は顔を上げて俺を指さしていた。俺は反射的にブレーキをかけ、桜井景和に振り返った。そのまま無視しても良かったが、なぜだかそれができなかった。ここで立ち去ってしまえば、桜井景和から逃げた気がして癪に障るからかもしれない。

「何?俺がいるからどうしたっての?」

「いや、別にどうってことはないけど。そこに君がいたからつい」

 何だこいつ。いちいちムカつく奴だ。俺は自転車に乗ったまま、精一杯声を張りながら、桜井景和を煽った。

「それなら構うなよ。どうせ俺等は敵同士だ。次にはお前を蹴落としてやろうか」

 桜井景和は、鞍馬祢音の顔が頭によぎったのか、柔和な表情を引き攣らせて立ち上がる。

「ふざけるなよ!お前のせいで祢音ちゃんは─────」

「何?怒ってんのかよ」

「言っただろ!人が、幸せになろうとする権利を奪う資格何て、誰にもないって!」

 怒り慣れてないのか、淀みのある口調で反論した桜井景和は、ずいと俺に一歩近づくと、左手でポケットを弄り始めた。何が起こるのかと身構えたが、ポケットから出てきたのは、以外にも、鞍馬祢音の形見だった。ハンマーレイズバックル。こいつ、拾ってたのか。

「これ、君にあげるから」

 これみよがしに見せて何かと思ったら、俺にあげるだって?

「は?冗談じゃない。お前に恩を売られるつもりはない」

「だって、せっかくのマグナム、道長さんにあげちゃったんでしょ?戦う武器が無いと、ジャマトにやられちゃうよ」

 天然ぶってるくせに痛いとこついてくる。思えば、最初に手に入れたマグナムレイズバックルは、言うなればアタリらしい。それに対して、ハンマーレイズバックルはハズレ。金持ちだからって、デザイアグランプリは優遇しない。桜井景和だって、鞍馬祢音が自分で頑張る意志を見せなければ、ブーストレイズバックルを渡さなかっただろう。桜井景和は、金持ちだから、可愛いとかじゃなくて、本気で頑張る彼女を信じてブーストを渡したはずだ。俺は、マグナムを手に入れた時点でかなり有利だった。それ考えずに、結局はこんな結果になっている。全部俺の思い込みが招いた結果だ。

 そう考えても、やはり心の内は反発する。コイツは、まぐれで生き残った俺を哀れんでるのかもしれない。鞍馬祢音を蹴落した俺を見下してるのかもしれない。ハンマーを渡すのは、何か裏があるかもしれない。次に脱落するのは、俺かもしれない。考えれば考えるほど、闇は正論を覆ってゆく。そして、また見えなくなる。

「いらねぇよ。そうやってお人好し気取って、見返りを求めてるんじゃないのか」

「そういうんじゃないよ。デザイアグランプリは、ジャマトから世界を守る競技だろ。たまたま願いが叶うっていう景品がついてくるだけ。僕達はライバルでも、敵でもなくて、助け合う仲間同士じゃなきゃダメなんだよ」

 それを思ってるのは、参加者の中でコイツだけだ。見れば見るほど虫酸が走る。コイツと会話するのはやめよう。ストレスが貯まる一方だ。俺は桜井景和を睨み付けると、無理に自転車を発進させようとする。すると桜井景和は進行方向に割り込んできた。正気か、コイツ。

「待ってって!とにかく、君はこれを使って。俺はどんな人だって、見捨てることはしたくない」

 ブレーキをかけていた俺の右手に、強引にハンマーレイズバックルを持たせてくる。根負けして、俺はついにそれを受け取った。くそっ。何でこんなことに。今日は厄日だ。もうとっとと帰ろう。

「言っとくけど、貸しにはしとかないか」

『GATHER ROUND』

 捨て台詞をはいて桜井景和を振り払おうとしたその時、桜井景和のスパイダーフォンから呼び出しの電子音が響いた。デザイアグランプリの三戦目が始まる。神は俺を見放したか。もう、ゲームなんてやりたくないのに。

 

 

 デザイアグランプリの待機エリアである、デザイア神殿。俺と桜井景和は一番乗りだった。デザグラの戦闘服に身を包み、他の参加者を待っている間、桜井景和とは何も会話をしなかった。最終的にハンマーレイズバックルを受け取ってしまった。言いなりになった事自体はとても腹立たしいけど、ありがたいのも理屈では理解している。実際、何のバックルも使わない状態なんて、いつもの身体能力に毛が生えた程度だろう。特に足の悪い俺にとって、少しでも得物がある方が楽だ。

「おっ、早いねお二人さん」

「もう来ないと思ってたが、相当願いを叶えたいらしいな」

 小金屋森魚に続いて、浮世英寿も現れる。浮世英寿は俺を見るなり、肩に肘を乗せてきた。距離が近い。

「誰が?人類滅亡の願いは、お前も対象だぞ」

「だといいな。どちらにせよ、勝つのは俺だ」

 口の軽い男だ。浮世英寿はやけにデザグラに詳しい。前大会参加者の吾妻道長よりも、もっと。何か深い事情があるのかと勘ぐったが、これ以上無駄な体力は使いたくない。浮世英寿の軽口を無視していると、だいぶ遅れて吾妻道長も合流した。ゲームが始まる前から息が切れている。一体何をしていたんだ。

「速攻で─────仕事終わらしてきてやったぞ」

 コイツも体外間抜けだな。

「皆さんお集まりですね。新たなジャマトが現れました」

 神殿にナビゲーターのツムリが現れる。空中に表示されたホログラムには、拡大するジャマーエリアの地図と、数名の男女をさらうジャマトの様子が映されていた。さながら、"不思議の国のアリス"に出てくるトランプの兵隊の姿をしたジャマトは、統率の取れた動きで人間を襲っている。

「これよりデザイアグランプリ三回戦。神経衰弱ゲームを始めます」

「神経衰弱って─────あのトランプの?」

「まさに、今回のターゲットはトランプジャマトです」

 なんて安直な命名なんだ。見た目通りじゃないか。

「カップルが集まるデートスポットを襲い、恋仲を引き裂いて自分達の巣に持ち去る習性があります」

 なかなかに陰湿な習性だ。そもそもジャマトに青春を嫌悪するほどの感性と知能を持ち合わせているか謎だが。浮ついたカップルの空気はジャマトからでも不快に見えるのか。

「今回は…くじ引きでデュオを決めてミッションに挑んでもらいます」

 ツムリは文字通り何もないとこから箱を取り出す。いや本当にどこから出した。

「デュオ?」

「二人一組のチーム戦ってわけか」

 チーム戦?冗談じゃない。ただえさえこっちはゾンビゲームのせいで空気が最悪なんだ。誰と組んでも上手く行く気がしない。

「ジャマトを全滅させればミッション完了。今回もスコア勝負です。最終的にスコア最下位だったデュオ二名が、脱落となります」

「望む所だ」

 浮世英寿は堂々とふんぞり返る。今回のゲームで二人も脱落するのか。つまりこの次のゲームで残るのは三人。最終戦が近づいてきた。いや、待てよ。今ゲームに残っているのは五人じゃないか。二人組のデュオを組むのに一人余る。五人のうち一人は孤独に戦わなきゃいけないのか?

「では、前回までのスコア成績順にくじ引きをしてもらいます。まずは…」

「俺だな」

 俺の心配を他所に、浮世英寿は意気揚々とくじ引きの箱に手を入れる。やはりこいつの余裕の素振りは気に障る。頼むからこいつとのデュオだけはやめてくれ…あぁ、でも桜井景和もそれはそれで嫌だな。他も気性が荒かったり、胡散臭くて信用に欠ける。でも浮世英寿とだけは嫌だ──────

「俺の相方は…ダパーンだ」

「はぁ?」

 浮世英寿の持つくじには、どデカくダパーンのマスクが描かれていた。

「よろしくな、ダパーン」

 駄目だ。運が無さすぎる。俺が肩を落として落胆している内に、次は吾妻道長がくじを引いていた。吾妻道長の手元には、緑色で着色されたタイクーンのくじがあった。

「タイクーンか…」「俺が、君と…?」

 吾妻道長と桜井景和でデュオが決まり、余ったのは黄金屋森魚だった。

「じゃあ、俺が組むのは、誰?」

 そうだ。デュオが名目のゲームなのだ。一人で戦えってのも酷だろう。大げさな表情で問う森魚に、ツムリは微笑み、何処からともなくトランプの束を取り出した。まただ。ツムリの本職は手品師なのか。

「我々デザイアグランプリの運営側から、特別に一名参加します」

 鮮やかかつ無駄のない手付きでトランプをきるツムリ。山札の一番上に来たカードを、なんとツムリは人差し指で弾き、宙を回させたカードを反対の手で掴んで見せた。もしデザイアグランプリをリストラされても、ツムリはマジシャンとして職に拝せるだろう。

「その名も…仮面ライダーパンクジャックです!」

『ENTRY』

「うわっ!びっくりした…いきなりライダー?」

 森魚の隣に、既に変身した状態のパンクジャックが現れた。バックルは何も持っていないようだが…いや待て。

「なんか、奏斗君と似てる?」

 俺は唖然として立ち尽くす。パンクジャックと名の付いた仮面ライダーの頭部は、俺が変身するダパーンそっくり。というか、ただの色違いじゃないか。ただ顔のパーツが全部メタリックオレンジになっただけ。それに加え、このパンクジャック、背中にマントを装着している。殊更俺のダパーンよりも派手だ。モチーフの動物は何なのだろう。かぼちゃか…?運営側のデザイナーもネタ切れなのか?

「顔出し、声出しNGのスタッフなので、ご理解ください」

 まぁ色々不満はあるが…今は浮世英寿とデュオになったことのほうが問題だ。

「ギーツ・ダパーンデュオ、タイクーン・バッファデュオ、メリー・パンクジャックデュオに決定しました!今回はデュオごとに宝箱を一個プレゼントしますので、仲良く使ってください」

 誰が…。

「それでは、ミッションスタート!」

 

               *

 

 俺と浮世英寿が転送されたのは、海岸沿いの発電所だった。

 鉄柵で囲まれたコンクリート固めの道の先に、ピンク色の宝箱が見える。浮世英寿は悠々と宝箱を拾い上げ、中に入っていた黄色いバックルを俺に投げてきた。思わず、パスを受け取る要領でバックルをキャッチしてしまった。握った手を広げると、そこにあったのは、宝探しでも、ゾンビサバイバルでも見たことがないバックルだった。ライトイエローの本体に三本の、

「爪?」

「クローバックルだ。それはダパーンが使え。そのほうが二人のパワーバランスが取れるからな」

 ちっ、コイツも俺に恵んでやろうってか。俺はそれを投げ返そうと思ったが、また説教じみた話を聞かされるのは嫌だったので、今回ばかりは大人しく従うことにした。浮世英寿の背後に四体のトランプジャマトが見える。一体あたりのポイントは、ゾンビサバイバルと同じなら百。最大で稼げるポイントは四百か。今回はスコアの加点が用意されていないから、あのジャマトは特殊な倒し方があると見て間違い無いだろう。神経衰弱、デュオ───────いや、何必死になってるんだ、俺。こんなゲーム勝ち残ったって、俺に何が残る。仮に人類が滅亡しても、それからの俺はどうするんだ。死ぬのか?運営は、俺の悪意を都合良く利用しようとしてるだけなんじゃないか。

「おい!行くぞ、ダパーン。ゾンビサバイバルの件なら気にするな。願いを叶えるために、貪欲になるのも、勝ち抜くには必要な資質だ」

「黙れよ…」

 浮世英寿の声に、強制的に思考をシャットアウトされる。そうだ、これで死んだら、この先何もできない。デザ神になって、あの浮ついた奴らに復讐するんだ。

 俺は右のスロットにハンマーを、左のスロットにクローを装填。浮世英寿はゾンビバックルをセットした。

『SET』

 俺は唸るように首を回すと、バックルを起動した。

「「変身!」」

『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』

『ZOMBIE!』

 俺は仮面ライダーダパーンに変身した。そして、ゾンビブレイカーを構えたギーツが先陣を切る。

『Ready?Fight!』

 俺達は平等に二体ずつトランプジャマトを相手取る。右手のハンマーで槍での攻撃をいなしつつ、背中にクローの斬撃で手痛い一撃を食らわせる。俺は足が悪いので、激しい動きはできない。でも、足が悪いなら悪いなりに、戦い方があるってものだ。俺は右腕を目一杯振り抜き、ハンマーを投擲する。そのハンマーはギーツが戦っていたトランプジャマトの頭部に見事命中。跳ね返ってハンマーは俺の手元に帰ってきた。

「おおっ、やるな」

「ちゃんと避けないと、次はお前に当たるぞ」

 背後から迫っていたトランプジャマトにクローを突き刺し左手を自由にすると、今度は奪った槍をもう一体目掛けて投げた。槍はトランプジャマトの胴体を貫通し、トランプジャマトは爆散した。よし、一体目撃破。突き刺したままのクローを抜き、ハンマーをアッパーが如く振り上げた。トランプジャマトは鉄柵に激突し倒れる。やったか?

 しかし、胴体に一瞬、ハートの6のトランプが見えたかと思うと、トランプジャマトは何も無かったかのように立ち上がった。先程倒したはずの分も、いつの間にか胴体の穴を塞いで復活している。トランプジャマトは俺を嘲る様にジャッジャッとポーズを取ってみせた。

「この野郎…」

 一方、ギーツもトランプジャマトを追い詰めている様子だった。ゾンビブレイカーにエネルギーを集中させ、刃が振動する。

『POISON CHARGE! TACTICAL BREAK!』

 ゾンビブレイカーを振り抜き、すれ違いざまにトランプジャマトを両断した。だが、やはりトランプジャマトは一度トランプに身体を分解して再構築。再びギーツの前に立ちはだかった。

「何…!」

 ジャマトは俺達を煽りながら一直線に逃亡する。負けもしないが倒れもしない。面倒な相手だ。

「どうやらこのゲームには秘密があるようだ」

 

 

 ジャマトが撤退したため、一度サロンに戻った仮面ライダー達は、それぞれ椅子に座って休憩していた。結局他のデュオもトランプジャマトを倒せなかったようで、三組のゼロポイントの表記が並行線を作って並んでいる。

「おお〜みんな倒せなかったみたいだね」

 黄金屋森魚の軽口を無視しながら、カウンター席に座った俺は、コンシェルジュであるギロリの淹れた珈琲をすすった。口いっぱいに苦みが広がる。これが味わい深いというやつだろうか。しかし苦い。何処かに砂糖は無いか。砂糖、砂糖…。

「お探しのものはこれか?」

 俺の隣に座った浮世英寿が、ガラスで出来たシュガーポットを持っていた。中には数個の角砂糖が重なっている。この男とデュオになった事を、今は心底後悔している。全てを見透かしたかのような視線。何枚も上を行かれている感覚。嫌気が差す。

「誰が必要なんて言った?」

「そうか」

 浮世英寿は相槌を返すと、自分のカップに角砂糖を入れ始めた。一個、二個と角砂糖が黒い海の中に沈んてゆく。入れすぎだろ…!そんなんだったら最初からカフェオレでも頼んでろよ…!結果浮世英寿は五個の角砂糖を溶かし飲み始めた。俺が驚愕して動きを固めていると、浮世英寿は腕を組みながら語り始めた。

「攻略法ならもうわかってる。なぜこれが神経衰弱ゲームなのか、なぜ俺達がデュオを組まされたのか。お前ももうわかってるんじゃないか?」

 やっぱり見抜かれてたか。

「やはりそういうことか…」

「えっどういうこと?」

 桜井景和…!盗み聞きしていたのかこの狸。攻略法を他のデュオに知られてたまるものか。あっちには吾妻道長がいるんだ。脳筋戦法で突貫、ポイントを掻っ攫われたら溜まったものじゃない。

「おい、お前も体外小癪だな。人にあれだけ言っておきながら、」

「いや、英寿君に用があって────これと、君の持ってるゾンビバックル交換しない?」

 そう言って桜井景和が差し出したのは、吾妻道長の持っていたマグナムバックルだった。確かに、吾妻道長はマグナムバックルを使いづらそうにしていた。そもそもマグナムバックルは遠距離専用のバックルだ。突撃して近接でぶっ放す戦い方は向いてないだろう。それに対し、ゾンビバックルは近接特化。ゾンビブレイカーと毒のデバフで怒涛の攻撃ができるバックル。直情的な吾妻道長にはぴったりだろう。だが、それを交換してと吾妻道長の代わりに欲求してくるとは、本当にコイツはお人好しだな。だが─────

「いただけないな。そうやって、自分たちだけが有利になるつもりか?」

「マグナムだって強い装備だろ?」

「ああ。俺が使えば特にな」

 意外にも、浮世英寿は同意して見せた。

「各IDにはバックルとの相性があるらしい。ギーツならマグナム。バッファならゾンビを使うと力が増幅するんだ。まぁ、それを使いこなせるかどうかは、本人次第でもあるけどな」

 確かに。ゾンビを使っているときのバッファの猛攻は凄まじいものだった。色合いも紫で同じ。ギーツも白でそう。だとしたら、俺にも何かしらの相性の良いバックルがあるってわけか。白いマグナムを使っても力が上がった感じはしなかったし、別のバックルがあるのか。そんな都合良く見つかるとは限らないか。

「だったらなおさら、これが欲しいだろ?」

 本当にコイツはお人好しだな。どれ、一回ぐらい試してやるか。

「それならいいけど、そっちのブーストバックルも交換だ。さっき宝箱から手に入れただろ?」

 どうだ。流石にブーストもとなるコイツのお人好しも化けの皮が────

「いいよ。はい」

 なんと、桜井景和は迷いなく俺にブーストバックルを差し出した。マジか、コイツ。

「さて、戦力も手に入ったところだし、特訓だな、ダパーン」

 特訓…?

 

               *

 

 ジャマトが再び現れた。今度は森林ののどかな公園の中に。おあつらえ向きに、四体のジャマトがカップルを襲っていた。

「神経衰弱ゲームと言えば、攻略法はただ一つ」

「同じ柄のジャマトを、二体同時に倒す…」

 俺は先程の戦いと同じ装備を、浮世英寿はマグナムを構える。

『SET』

 今度は並んで立ち、変身の動作を取る。

「「変身」」

『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』

『MAGNUM!』

 ギーツに変身した浮世英寿は、キザなセリフをジャマトに飛ばす。

「さぁ、開幕からハイライトだ」

「はいはい、じゃあ、ミュージックスタート」

 俺はスパイダーフォンを持ち、クローの先端で再生ボタンを押した。

 

 

 ボールを小脇に抱えた浮世英寿に連れられたのは、壁が全面鏡の部屋だった。

「ここは?」

「サロンの中にあるトレーニングエリアだ」

 特訓って、マジかよ。ダルい。トレーニングエリアと称されたそこは、天井や床には謎の投影機材が設置されている。トレーニングエリアと名ばかるのに、ランニングマシンもダンベルも無いんだな。

「地上戦や水中戦、空中戦用のエリアまで、いろいろある」

 いろいろの幅が本当にいろいろすぎる。地上戦ならまだしも、水中戦に空中戦?このちっちゃい部屋でか?もしかしたら床が抜けたりでもするのだろうか。現代の技術でそんな大逸れた施設が作れるのか謎だが。

「で、何の特訓?場合によっては帰るけど?」

「お前、バスケやってたんだろ」

「生憎、怪我でもうできないけどな」

 残念だったな。俺はもうバスケをやらない。誰に何を言われようとも。もしバスケのトレーニングだったら、絶対にパスだ。帰らせてもらう。

「さっきの戦いでの投技。どれも一定のリズムで投げられていて、目を見張るものがあった。きっとバスケで鍛えたリズム感があったんだろう」

 まぁ確かに、ドリブルとかシュートとか。相手に動きを悟られないように自分のリズムをしっかり持つのも、強いプレイヤーに必要なスキルだが…それがどうした?浮世英寿はスパイダーフォンを操作し、投影機材を起動する。すると、何もない所にジャマトが現れた。

「トレーニング用の仮想ジャマトだ。さて、ミュージックスタート」

 浮世英寿のセンスだろうか、テクノポップ的な音楽が流れ始めた。

「特訓と言っても、するのは俺の方だ」

 浮世英寿は抱えていたボールを俺に渡す。

「俺がお前の投擲に合わせて攻撃できるようにする。タイミングを合わせて、ジャマト撃破だ」

 

 

 アイツの言いなりになるのは癪だが、それは正しい戦法だった。

『Ready?Fight!』

 テクノポップの音楽に合わせ、ギーツは両腕より展開したアーマードガンから銃弾を連続発射しながらジャマトに突撃する。さらに、マグナムシューターを手の内で回転させながら銃弾を放ち、四体のジャマトに全弾命中。ジャマトは装甲が破壊され、内側のトランプが露出した。右から、ダイヤの8、スペードの9、ダイヤの2、ハートの3。

「ギーツ!右から一体目と三体目がペアだ!」

「見切った」

『SET』『DUAL ON!』

 ギーツの空いていたスロットに、ブーストバックルが装填される。

『GET READY FOR!BOOST & MAGNUM!』

 ギーツは最強のマグナムブーストフォームに変身。スライディングしながら、ペイント弾をトランプジャマトに投げる。

「ダパーン!この二体がターゲットだ!」

「はいよ!」

 俺はハンマーを投げ、関係無いハートのジャマトを退けると、怪我をしていない左脚でジャンプし、クローで突き、もう一体のスペードのジャマトをぶっ飛ばした。脚の負担にならないように、転がり込んで受け身を取る。これで邪魔者はいなくなった。あとは、ペイント弾の付いた二体を、同時に倒すだけ。ペイント弾の付いたジャマトの一体が、槍で攻撃してくる。音楽に合わせながら背中と左腕で槍を挟み、右手のハンマーでリズミカルにジャマトを滅多打ちにした。ギーツの方も、音楽のリズムに合わせ、確実にリズムを取りながら攻撃している。俺たちのリズム感は完璧に重なった。

「そろそろいいか?」

『HUMMER!STRIKE!』

「あぁ!タイミングを合わせてフィニッシュだ!」

『MAGNUM!TACTICAL BLAST!』

 俺がハンマーを投げるテンポに合わせ、マグナムシューターから必殺の銃弾が放たれる。音楽の盛り上がりが最高潮になり、二つの攻撃は同時に別々のジャマトに命中する。今度こそどうだ!

『SCORE UP』

 トランプジャマトの身体は爆散。再生することなく、辺りにトランプが飛び散り、俺達に降り注いだ。スパイダーフォンを確認すると、俺達のデュオに二百ポイント加点されている。これで一先ずは安心か。

「やったな、ダパーン。最速クリアだ」

「ああ」

 俺達は目線を合わせずに、クロスタッチをした。

 

 

「皆様、お疲れ様でした。逃走したジャマトはあと六体です。またいつ出没するかわかりませんので、呼び出しがあるまで、デザイアエリア内で待機していてください」

 ギロリが告げた通り、ジャマトを倒せたのは俺達だけのようだった。他のペアは苦労をしている。桜井景和は吾妻道長の凶暴っぷりに振り回されているし、黄金屋森魚はパンクジャックの扱いに苦労しているようだ。まさに前途多難。ざまぁみろ。

「腹ごしらえでもしとくか、付き合え、ダパーン」

「お前の奢りならいいぞ」

 俺と英寿は並んでカウンターに座る。こういう日はカレーがいい。スパイスでストレスを吹き飛ばしてやる。

「調子に乗りやがって…」

「だから言っただろ?これが勝者と敗者の差だ」

 英寿の煽りスキルも中々に高い。あれを食らっていたらと思うと、寒気がする。

「かぁ~もう、こんな相棒じゃ無理だよ。もう!」

 黄金屋森魚はパンクジャックを軽口小突く。すると、パンクジャックはやり返した。しかもかなり強めに。

「くじ運のせいだとお思いですか?でしたら、ご案内がございます」

 ギロリのもつタブレット端末に、一枚のカードが表示されていた。そこには、デュオ交代チャンス券の文字。

「ゲームの活動時間に応じて配られるデザイアマネーで、一度だけくじ引きをやり直せる、スペシャルくじ引き券が購入できます。既に獲得済みのスコアは、個人の持ち点として新しいデュオに引き継げるので、ご了承ください。もっとも、スコア0の方々には、関係ありませんが」

 嫌な話だ、正直他の誰とも組みたくない。折角ポイントが手に入って、最下位が遠ざかったんだから、このままでいさせてくれ。

「ふざけやがって。情けなんていらねぇ」

 そう言うと、吾妻道長はサロンを去ってしまった。まぁいいだろう。黄金屋森魚は間違いなくくじ引きを使うだろうが、俺を引くと決まった話じゃない。俺は振り返って、目当てのスパイシーカレーを注文した。

 

           DGPルール

 

    IDとレイズバックルには、相性がある。

 

   ただし、バックルが手に入るかは、プレイヤー次第。

 




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「デュオ交代のお知らせです」

「勝つ執念が無いやつに、理想の世界はやって来ない」

─二組のデュオの行方は…?─

(そんな世界…終わってしまえばいい)

3話 邂逅Ⅴ?:逆転の手段


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3話 邂逅Ⅴ?:逆転の手段

 

 デザイアグランプリ、第三回戦、神経衰弱ゲーム。

 指令は、二人一組になって怪物ジャマトを倒せ。スコア最下位デュオは脱落。いち早くジャマトの特性に勘づいた俺と英寿は、最速クリアでポイント獲得。首位を独走する中、残りのジャマトを巡って、熾烈な足の引っ張り合いが起きようとしていた。その渦中にいる桜井景和はと言うと…

「道長さんと意見を合わせるなんて、できるのかなぁ…?」

 このザマである。バックヤードにて休憩していた桜井景和は、記録用の映像を撮り終えると、肩を落としてため息をつく。この相方と息を合わせるゲーム、英寿が桜井景和を引かなかった時点で、桜井景和にとっては難しいゲームになることは必然だった。話の通じないカボチャ、すぐ怒るバッファロー、軽薄な羊、そして───────いや、この話はいい。

 今重要なのは、桜井景和がロッカールームの扉に寄りかかってるせいで、俺が外に出られないという問題だ。サロンでカレーを注文した後、スパイダーフォンをロッカールームに置き忘れたと思い出し、取りに戻ってみれば、桜井景和が扉の前で動画撮影を始め、今に至る。おい、頼むから早く去ってくれ。今頃カレーが俺の席に到着している頃だ。冷めたカレーほど口にするに値しないものはない。

 

 不意に、電撃を受けたかのような感覚に襲われた。

 

(奏斗君、カレー好きだったよね?半田君がいい店知ってるんだって〜)

 

 何だ─────今の女の声?聞き覚えがない。部活のマネージャーか?違う、うちの部活のマネージャーはひょろい一年の男子だけだった。女性のマネージャーも在籍していないはずだ。何でだ?この声の正体は誰だ────

「奏斗君!奏斗君!大丈夫!?」

 気付くと、俺は桜井景和に肩を揺さぶられていた。謎の声の衝撃に、いつの間にか壁にもたれて座り込んでいたらしい。呼吸が荒れる。何故だろうか、ひどく頭が痛い。こんな姿、桜井景和に見られたくなかった。俺は無言で桜井景和を振り払うと、ロッカールームを出た。

 

 壊れかけた歯車が、再び駆動を始めた瞬間だった。

 

               *

 

 サロンに戻ると、既にカレーが到着していた。スプーンで均等にライスとルーをすくい、口に運ぶ。するとどうだろう。走り抜けるかのような辛味、だが、後味は悪くない。寧ろそこにフルーティーさすら感じる。この味を出せるのは、只者ではない。

「まさか、これ────あんたが?」

 カウンターの先のギロリに視線をやると、ギロリは母のような笑顔を顔に浮かべていた。

「はい、喜んでいただいて幸いです」

 このカレー、無限に食べられるかもしれない…。現役時代に出会っていたら、俺はカレー中毒になって栄養管理どころじゃなかった。

「只者ではないとは思っていたが…ここまでとはな」

 隣の席の英寿がぽつりと呟く。お前も食べたのか、この至極の味を────なんだスマホかよ。英寿の手元にあったのは、スプーンではなくスパイダーフォンだった。気になって横目で画面を確認すると、英寿が閲覧していたのは、過去のニュース記事だったようだ。

「スター様もニュースは見るんだな────これは…」

「違法カジノディーラー、黄金屋森魚、売り上げを持ち逃げして海外に高飛び────」

 記事の一面を飾っていたのは、今まで共にジャマトと戦っていた仮面ライダーメリー・黄金屋森魚だった。いつぞやの軽口を叩き、ヘラヘラと笑顔を振りまいていた平常時とは打って変わり、タキシードを見に包んだそれは、目付きは鋭くなり、写真の角度も相まってthe・悪い顔だった。

「えっ、待って、待って!それホント!?」

 バックヤードから帰ってきた桜井景和も食いついてくる。黄金屋森魚…胡散臭いとは常々思ってたけど、詐欺師だったとは。デザイアグランプリの参加者のプライベートは基本謎に包まれている。参加者同士は願いを叶えるために蹴落とし合うライバルであり、そもそも馴れ合う必要がないからだ。そんな人間関係でも巡り合わせというものがある。道端で桜井景和と偶然会ったり、動画投稿を繰り返す鞍馬祢音なんてやつもいる。

 が…黄金屋森魚は日本ではなく海外から参加していたという事か。服装もなんかアロハっぽかったし、アメリカにでも行ったのだろう。売り上げを持ち逃げとなると、追われるのは警察だけじゃないはずだ。違法カジノを運営していた悪の集団からも目を付けられているかもしれない。となると、黄金屋森魚の願いは、罪の帳消しと見て間違い無いな。

 桜井景和が記事の内容に絶句していると、カウンターのレトロな電話機が鳴った。ギロリが受話器を取り、電話先に低い声を返す。

「はい…かしこまりました…皆さん、呼び出しです」

 え?もう呼び出しなのか。というか、カレーはどうなる。まだ一口しか食べてないじゃないか。

 俺の心配を他所に、ギロリはラップをカレーにかけていた。

 

 

 デザイア神殿。要件はあらかた想像が付いている。

「皆さんにデュオ交代のお知らせです」

「交代!?」

 黄金屋森魚…やっぱりデュオを交代してきたか。明らかにパンクジャックとの連携に苦戦していたからな。

「くじ、引かせてもらったよ〜!」

 黄金屋森魚が持っていたのはバッファのカードだった。既にポイントを持っている俺たちの何方かではなく、吾妻道長がデュオになったか。デュオが変わらなかっただけ万々歳だが、さぁここからが大変だぞ、桜井景和。

「これにより、メリーさん、バッファさんのデュオが決定しました」

「えっ、じゃあ俺のデュオは?」

「パンクジャックになります!」

 パンクジャックは黄金屋森魚の傍らを離れ、どんと桜井景和の前に立つ。メタリックオレンジの顔がじわじわと桜井景和と距離を詰める。パンクジャックからは感情が読めない。ただ、デュオの相方という役割だけを果たす、ゲームのNPC のような存在。今のパンクジャックは、積極的にデュオにおけるお邪魔キャラを演じているようだった。

「どうも…」

 パンクジャックの圧に負けた桜井景和は、おずおずと挨拶をする。

「だから言ったでしょ〜」

 黄金屋森魚は、吾妻道長の肩に手を置き、トランプを手の内で弄んだ後、これ見よがしにバッファのマークを撫でた。ツムリとも負けず劣らずのトランプ捌き、流石カジノディーラーと言った所だが、なるほど。俺はくじを引かなかったからわからなかったが、カードの表面のライダーを表すマークは、少しプリントの厚みで盛り上がっている。黄金屋森魚はくじを引く際に、瞬時にカードの表面を読み取ってバッファを狙ったのだ。きっと裏で吾妻道長と話を通していたのだろう。俺たちのデュオとは交換しないで一位は狙わず、一人を蹴落として次のラウンド進出を狙う。見た目に相反し、狡猾な男だ。

 だが、桜井景和もイカサマに気づかないほど馬鹿じゃない。

「あっ、なんかズルしたんですか?前に違法カジノで、悪いことしてたんですよね?」

「昔の話だって。罪償って、心入れ替えたから」

 怪しい。

「逮捕されたって記事は見当たらないけどな」

「願いを叶えないと、お前の人生危ういってか?」

 英寿と俺の言葉に、流石にニコニコした笑顔を崩し、論点をすり替え始めた。

「あーほら!ほら!トレーニング、しといたほうがいいんじゃない!?そのハロウィンちゃんと息を合わせるの、大変だよ〜!」

 パンクジャックは、無機質な視線を桜井景和に向ける。

 

 

 砂浜を模したトレーニングエリア。

 もちろん、訓練するのは俺たちではなく、桜井景和とパンクジャックである。相対するは、仮想ジャマト。

「今回でお人好しも脱落だな」

「景和…マズイな」

「そんなこと言わないでよ!諦めずに頑張れば、きっと勝てるって!ねぇ、パンクジャック!」

 不動…。お人好しのポジティブも、人形には伝わらない。

「えっ…ちょっと頷いた気がするんだけど!」

「微動だにしてないだろ」

 波打つ音と、カモメの鳴き声だけが虚しく響く。運があるんだか、無いんだか。

「これ、返してやるか」

 そう言って英寿が取り出したのはブーストバックルだった。桜井景和のお人好しでゲットした副産物だ。

「は?渡しちゃうのかよ」

「元々タイクーンのだし、これがなかったせいで脱落した〜なんて言われても困るからな」

「ありがとう!これがあれば、絶対勝てる!」

 ブーストバックルを譲り受けた桜井景和は、おもちゃをプレゼントされた子供のような笑顔を見せる。そういえば、コイツはまだブーストバックルを自分で使ったことが無いとか言ってたな。今回のゲームでは、始めてブーストを使ったタイクーンがお目にかかれるという訳か。

「いい?同じ柄のジャマトを、同時に倒すのが攻略法。一緒に練習しよう!」

 相変わらずパンクジャックは不動だが、このお人好しとは案外いいコンビになるかもしれない。桜井景和はアローバックルをドライバーに装填し、長ったらしい変身ポーズを取り始める。

『SET』

 桜井景和が両腕を交差させている合間に、パンクジャックは仮想ジャマト目掛けて走り始めてしまった。

「あ、変身…」

『ARMED ARROW!』

「普通変身するまで待つでしょ…もうっ!」

 黄緑の弓を構えたタイクーンを待たずに、パンクジャックは二体の仮想ジャマトを千切っては投げ、千切っては投げ。コンビネーションもへったくれもない攻撃に、タイクーンはあわあわと戸惑う。

「ちょっ、話聞いてる!どいて!前にいると撃てないでしょ!」

 前言撤回。パンクジャックを手懐けるのは不可能だと確信した。

 

 

 サロン中に、聞き苦しい声が発せられる。

「あぁぁぁぁ…もうおしまいだ…」

「本当に失くしたのか、ブーストバックル」

「あれが頼みの綱だったのに…」

 桜井景和は泣き喚く。コイツにブーストバックルを渡すべきではなかった。パンクジャックとの地獄のトレーニングをやり切り、数分経ってみればこれだ。迂闊なやつ────とも思うが、心当たりはある。

「でもまぁ…よくここまで頑張ったよ、青年」

 この男だ。折角デュオ交代券を使ったのに、ブーストで逆転されては元も子もない。十分にありうる動機だ。ついになりふり構わなくなってきたな。

「なんか笑ってません?」

「はぁ!?同情してるんだよ!───────でも、失くしたもんはしょうが無いよなっ」

 あくまで嘘を貫き通すつもりか。俺も一言───と思った所だが、サロンに吾妻道長が戻ってきた。そして、ベストのポケットから、赤く光を反射するバックルを取り出した。

「お前が探してるのはこれか?」

「なんで君が持ってるんだよ!?」

 ブーストバックルは吾妻道長の手に渡っていたのか。吾妻道長もあっさり黄金屋森魚の策に乗るものだな。もっと不正を嫌う性格だと思っていた。ゾンビサバイバルの時、ジャマト判定になっていた俺を倒したギーツを「血迷ったか?」と責める程だったからな。ポイントが足りなくて、手段を選んでいられなくなったか。

「ずさんな管理で、盗まれるのが悪い」

「おいおい、何言ってくれちゃって─────」

 不正でデュオになった割に、二人のコンビネーションもあまり良くないようだった。桜井景和を養護するような発言に、うっかり口を滑らせる黄金屋森魚。桜井景和の疑心は、いよいよマックスに達していた。

「まさか…あなたが?」

「素直に認めたほうが、今後のためなんじゃない?」

「俺じゃないって〜!」

 見かねた英寿も、呆れたというような視線を注ぐ。

「だったら返してもらいます」

「ダメだね」

「やっぱり盗んだんでしょ!」

「その辺にしとけよ。信用失ったら、次のゲームがきついんじゃないか?」

 もう言い逃れられないと思ったのか、黄金屋森魚は開き直り、立ち上がって逆上し始めた。これが黄金屋森魚の本性か…自分の保身と安泰しか脳にない。群れを作る臆病な羊のように、味方を作って足元をすくわれないように立ち回る。しかし、それも終わりが近づいていた。

「君たちデュオには、負けてらんないからね!」

 桜井景和は黄金屋森魚への交渉は不可能と諦めたのだろう、今度は吾妻道長に詰め寄る。

「俺のバックル、返してください」

「ふん、いいだろう。ただしゲームに勝ったらな」

 そこで吾妻道長が提案したゲームは…

 

 

 浜辺のトレーニングルール、再び。ゲームと言うものだから、てっきり仮想ジャマトがらみのゲームだと想像していたのだが、吾妻道長がとった行動は以外そのものだった。おもむろに砂を集め始めたと思いきや、砂でてきた小山のてっぺんに、ブーストバックルを突き刺したのである。これじゃまるで…

「どっちが先にこのバックルを掴み取るか、ビーチフラッグス改め、ビーチブーストだ!」

 ビーチブースト…だと…本気で言ってるのか?こんなもの、ゲームとして成立するのか?俺は英寿をちらりと見たが、英寿はただ吾妻道長を、おもしれー奴だなと言うようにニヤニヤしているだけだ。英寿は常識的な話をするときは役に立たない。祢音TVに偶然現れていたときだって、物珍しそうに鞍馬祢音の携帯に手を振っていた。この男に人としての当たり前を期待することが間違っている。

「なんでこんなことするんだよ!」

 桜井景和と五十メートルほど離れたブーストバックル、そこから反対側に五十メートル先の位置に置かれた黄金屋森魚は、不服そうに左腕を上げる。

「なんだよ、やっぱりタイクーンにビビってんのか!」

「そ、そんなわけねぇだろ!」

 距離が離れている上、波音がうるさく、自然と言葉の語尾が荒がる。黄金屋森魚を黙らせた吾妻道長は、自分に言い聞かせるようにブツブツと呟く。

「誰かを蹴落とさなきゃ、理想の世界は掴めない。それがデザイアグランプリだ───────スリー!」

 カウントダウンが始まった。自分が参加している訳ではないのに、緊張が高まってきた。腕っぷしは黄金屋森魚の方が強いだろうが、どっちが先にバックルを取るかとなると、桜井景和に軍配が上がるだろう。年齢的な意味で。

「ツー!」

「勝つ執念が無いやつに、理想の世界はやって来ない。まぁどっちが脱落しても、俺にとっては大差無いけどな」

 英寿の歯に衣着せぬ物言いに、少しだけ桜井景和の表情が変わった気がした。ほんのちょっと、迷いが消えたような。

「ワン!───────ゴー!」

 掛け声と同時に、二人は砂を蹴った。

「うおおおおおおお!」「わぁぁあああああ!」

 どっちだ、意外と黄金屋森魚も足速いぞ。二人のスピードはほぼ互角だ。ある程度走った後、一斉に二人はブーストバックル目掛けて飛び込む。ビーチブーストを制したのは─────桜井景和だ。一瞬だけ、桜井景和の方が飛び込みが早かった。一足先に、桜井景和がブーストバックルを掴む。ブーストバックルは桜井景和のものだ。

「このっ…」

 たが、黄金屋森魚は往生際が悪い人間だった。桜井景和のブーストバックルを鷲掴みにし、ブンブンと振り回す。そして流れるような投げ技で砂浜に叩き落とすと、肩を踏みつけて無理矢理ブーストバックルを強奪した。ここまで性根が腐っているとは…吾妻道長もよく味方をするものだ。

「やった!やったぞ〜!ハッハッハッ!」

「これでこれは俺達のものだ」

 黄金屋森魚からブーストバックルを受け取った吾妻道長は、桜井景和を見下ろして、そう言うのだった。

 これが人間というものだ。結局は自分本位。他人のためなんて、考えない。俺は馬鹿だった。どうしてこんなにも絆されていたのだろう。愚かだ、やっぱり人類は、滅亡するべきだ。

(そんな世界…終わってしまえばいい)

 いつ聞いただろう、誰かの声がまた聞こえる。

 

               *

 

 

『DUAL ON!ARMED CLAW!ARMED HUMMER!』

『MAGNUM!』

 残りのジャマトが姿を表した。俺とギーツが発見したのは二組の計四体のトランプジャマト。場所は遊園地に面した水族館。目玉のイルカショーが派手に取り仕切られる真っ最中に、トランプジャマトはカフェテリアで休憩しているカップルを襲っていた。

 ギーツがマグナムシューターの牽制で一般人への攻撃を逸らす。

「ここから先は通させない」

「残りの二体は…あっちか」

 海岸を挟んだ向こう岸に、二体のトランプジャマトを取り合う四人の仮面ライダーが見える。せいぜい頑張るといい、俺たちはこいつらを倒して、トップを維持したまま次へ進んでやる。

 黄金屋森魚の悪行を受け、俺の心はまたゆらぎ始める。

 どうせ、人類は滅亡すんだ、あいつらの誰かが脱落したって、結局は関係無い。何があろうと────俺がその世界を叶えてやる。決めたんだ……全てに裏切られたあの日から。

 

(墨田奏斗ってあのバスケ部のエースでしょ?辞めたの?)

(私らには関係無いっしょ、それより祢音TVがさ─────)

 

 あの日の怒りを忘れるな。必ず見返してやる。あいつも、あいつも、誰だって、もう見下ささせない!

 右手のクローを一気に振り落とし、トランプジャマトの装甲を斬る。クローバーのA、以前と柄が変わってやがる。向かってくるジャマトをすくうようなハンマーの一撃で転ばせると、さらにハンマーを叩き落とす。今度はスペードのAか…。

「おい英寿!そっちは!」

「スペードとクローバーだ」

 ペアは揃っている。このまま押し切れば─────と、トランプジャマトと一進一退の攻防を展開していると、目の前を物凄い勢いで煙をまき散らしながらブーストバックルが通過していった。ブーストバックルは必殺技を一度しか使えない。誰かがジャマトを倒したのか?クローの腹を押し当ててトランプジャマトを柵に抑え込み、スパイダーフォンを確認する。

 ポイントが上がっていたのは、バッファ・タイクーンデュオだった。いつの間にかデュオが交代している。誰かが交代券を使ったのか。黄金屋森魚はともかく、桜井景和も交代券を使うとは思えない。吾妻道長…ビーチブーストの時点で見切りをつけていたか。

「手強い相手が、残っちまったみたいだな!」

「負けてられるか!」

 柵に押し付けたジャマトを薙ぎ払い、四体のトランプジャマトを一直線に追いやる。このまま同時に二人で攻撃できれば!

「あっ、それちょっと貸して」

「は?おいっ!」

 ギーツは勝手に俺のベルトからハンマーバックルを拝借する。そして自身のベルトに装填、リボルブオンして上下の装備を入れ替えた。ハンマーバックルが外れたからか、右手にしか装備していなかったクローは、気づかぬうちに左手にも生じていた。二刀流の武器だったのか、これ。

『SET』『REVOLVE ON』

『DUAL ON!MAGNUM!ARMED HUMMER!』

 なるほど、ギーツの意図はわかった。コンビネーション技だな。

「ここからが、ハイライトだ」

『MAGNUM!HUMMER!VICTORY!』

 俺は右脚で地面を踏み込み、ギーツの頭上に飛び込む。そこからさらに右脚を踏み込む。今度はギーツが装備したハンマーを。ハンマーの振り上げの効果もあって、トランポリンの要領で俺のジャンプは更に高くなった。足が悪い奴にこんなことやらせるかね、普通。─────でも面白い。この感覚、ダンクシュートを夢見た、練習の時の様な。

『CLAW!STRIKE!』『LIFULL』

 俺は両手を目一杯掲げ、一気に振り下ろした。二体のトランプジャマトの脳天へ。俺が攻撃を当てる刹那、横を図太いエネルギー弾が通っていった。音楽が流れていなくても、リズムは一つ。

 無論、攻撃は同時に命中。ジャマトは一匹残らず撃破された。

『MISSION CLEAR』

 また、理想の世界に近づいた。

 

 

「ミッションコンプリートです!」

 ツムリはハキハキと喋る。淡々と業務をこなすその姿は、パンクジャックとは違う無機質さを感じた。

「皆さんお疲れ様でした。連れ去られたカップルは無事、開放されました!」

「はあっ…よかったぁ…」

 正直カップルなんて開放されなくても良かったが。まぁこれもゲームの内だ。桜井景和は安堵の声をもらすが、明らかに不服そうな奴が一人いる。因果応報という言葉が相応しい。

「それではスコアを発表します!」

『PLAYERS RANKING』

 前は空中にスコアが浮かんでいたのに、今回はツムリ手持ちのタブレットにスコアが映っていた。予算不足なのか。

「一位、ギーツ・ダパーンデュオ!二位、タイクーン・バッファデュオ!最下位、メリー・パンクジャックデュオ!というわけで、メリーさんはここで脱落です」

 当然の結果だ。黄金屋森魚の敗因は、一口にくじ運だけとは言えないだろう。バックルを盗む不正、負けを認めない悪どさ。責任感ゼロな言動を含めて、バッファに見放された。最初から英寿に引いてもらっていたら結末は変わってたかもしれないと考えると、ある意味くじ運が勝敗を分けたと言えるのも、複雑なところだ。俺は、今回くじ運があったから生き残れたわけだし。

「こんなはずじゃ…」

「どんな手を使ってでも、勝たなければ無意味だ」

 吾妻道長の台詞に怒りが頂点に達したのか、黄金屋森魚は以前のお調子者おじさんのキャラを忘れ、いつにない剣幕で捲し立てる。

「お前ら覚えとけよ!次会ったら、容赦しねぇからなあっ!」

「最悪…」

 思わず本音が出てしまった。

「安心しろ、コイツに次なんて無い」

『RETIRE』

 すると、鞍馬祢音の最期と同じように、メリーのIDコアが消える。そして、何か物言いたげな顔をしながら、黄金屋森魚も消滅した。手持ちのバックルも同時に消え失せ、彼のドライバーだけが地面を転がる。その様を見届けたパンクジャックは無言のまま立ち去った。

「黄金屋森魚様は、仮面ライダー失格となりました」

 残ったドライバーを拾ったツムリは、珍しく憂いを含む口調だった。このまま解散かと思ったが、桜井景和が我慢出来ないというように声を上げる。

「あの!失格って、どこに行ったんですか?」

 ツムリは微笑み返す。

「普通の生活にお戻りになりました」

 そうだったのか─────ということは鞍馬祢音も今頃。

 

 

 ゲームの後は、あっさりと元いた場所に戻される。

 俺と桜井景和は同じ場所から転送されたので、帰っても顔を合わせなければならなかった。木の隅に止めていた自転車のキーを外し、カゴの中のシャンプーに気づく。そういえば母から使いを頼まれた最中の呼び出だった。まだ午後の四時だが、五時間経ってもドラッグストアから戻らない息子に、鬼の着信履歴ラッシュが待ち受けているだろう。早く帰らなくては。

「あっ、ちょっと待って、奏人君!」

 すんでの所で桜井景和に引き止められた。ダルい。

「今日のこと、ありがとう」

 無視してペダルを踏もうと思ったが、思わぬ言葉に、俺は足を止めた。ありがとう?なんか俺がしたか?

「サロンで言い合いになったとき、庇ってくれたんだよね、俺のこと────」

「記憶にない。イライラするから話しかけんな」

 俺はそれ以上は何も言わず、家路についた。感謝の言葉を人から言われたのは、いつぶりだろうか。

 

           DGPルール

 

         仮面ライダー失格者は、

 

     デザイアグランプリに関する記憶を消され、

 

         元の生活に戻される。

 

    ただし、強い願いほど、それ相応の代償がある。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

『最終戦。缶けりゲームを始めます』

─ラストミッションは─

「ライダーが全滅すればゲームオーバー」

─缶蹴りゲーム!!─

「これからも、景和を信じてあげて」

4話 邂逅Ⅵ?:信用と缶けり


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4話 邂逅Ⅵ?:信用と缶けり

 

 デザイアグランプリの過酷な戦いによって、多くの参加者が脱落していく中、勝ち残ったのは四人。理想の世界を叶えられるのは、この中の一人だけ…今までのゲームで、最初に弾かれた者を除くと、退場は一人、脱落は二人。どうやら、脱落と退場では意味合いが変わるそうだ。ジャマトにやられ命を落とすと退場。この世界から存在が消える。逆に、脱落は記憶を消され、元の生活に戻ることができるそうだ。

 と、なるとだ。俺のせいで脱落した鞍馬祢音は、デザイアグランプリの存在を忘れ、家出系配信者として今も名を馳せている…だろう。正直興味は無い。他人が家出をしてる様子なんか見て、何が楽しいんだか。俺には理解できない。

 俺の通っている学校では、前日に迫った学園祭の準備が進んでいる。毎年この時期はどの生徒も、勉強から開放された空気に色めく。二日間にわたり行われる学園祭の最終日には、一発だけ打ち上げ花火が上がる。その瞬間をどうにか異性と一緒に見ようと、恋に飢える者は、獣のような視線を光らせ、あれやこれやと策を謀るのである。等の俺は、教室で一人寂しく購買で買ったパンを食べている。これは別に孤独な訳では無い。俺がただ誰とも関わりたくないだけ……。

 明日の出店、たこ焼き屋の設置が済んだ教室では、クラスメートがそれぞれグループに別れてご飯を食べている。何やら、近くに座っていたイケイケの女子がスマホを見ながら驚いている様子だった。

 偶然にも、話し声が耳に届く。何だって…?

 

              *

 

 居心地の悪い教室を出ると、廊下は一面色とりどりの紙やダンボールの装飾で彩られていた。目がチカチカしてしょうが無いので、階段を登って屋上を目指す。

 この学校の学園祭では、一日目に教室で出店を行い、二日目に体育館でクラスや部活動で練習した出し物をやる、という具合だ。どこにでもある、何の変哲もない学園祭…。反吐が出る。誰もがそんな青春を渇望してるでもないのに。こんな行事、くだらない。誰がこんなものを日本に定着させたんだ。もし過去に行けるなら、殴ってでも阻止したい。

 そもそもこの学校のモラルが終わってるんだ。放っておけば、ほら。階段の踊り場の隅に、隠すように空き缶が捨てられていた。学校の中でポイ捨てをするなんて、精神がどうかしてるとしか思えない。俺は空き缶を拾い上げ、屋上へ出た。

 ひゅうと勢いの強い風が吹いて、前髪を揺らした。緑色の柵に囲まれた屋上からは、町の景色が端から端まで一望できる。もちろん、桜井景和と遭遇した公園も。足の怪我のせいで遠出はできないが、この前は自転車で遠くのドラッグストアまで行けた。怪我は回復しつつあるのかもしれない。俺は屋上の階段の横に置かれたゴミ箱を見る。右手で缶を掲げ、膝を曲げる。現役時代のフリースローを思い出し、俺は左足でジャンプしながら、缶を投げようとした。

 が、すんでのところで左足がズキリと痛み、俺は屋上の地面に膝をついた。制御を失った缶はゴミ箱の縁を弾き、扉の前に落ちた。くっ、そっ。まだ何も治ってない。最近の溜まっていた疲労が一気に痛みになって帰ってきた。俺はコンクリートの地面を叩く。拳の皮膚が破けて、少し血が滲んだ。

「ポイ捨ては良くないな、墨田奏斗君」

 階段を囲う立方体の壁の影から、一人の男が現れた。その男は、学校の制服を一寸の乱れなく着こなしている。肩にホコリ一つ見えない。だが知らない男だ。上の学年だろうか。男は俺が捨てそこねた缶を拾う。

「見りゃわかるだろ。俺はゴミを捨てようとしただけだ」

 勘違いしやがって。このクソ野郎。お前も俺に説教するつもりか?だいたい、何故俺の名前を知ってる?

「ああ、ごめんごめん。からかっただけだよ」

 男は俺の前にかがみ込み、缶を目の前に置いた。

「僕の名は広実須井。端的に言うと、勧誘しに来たんだよ。僕が部長を勤める、ボランティア部にね」

 ボランティア部?あの偽善部のことか?うちの学校ではボランティア部の悪名は高い。何も、部活に構成する殆どの部員が、人間関係を拗らせて部活を追われたり、以前素行不良で目を付けられていた生徒ばかりだと言う。人間性に問題がある者を片っ端から勧誘するその姿は、悪者の行き着く最終処分場、偽善部と呼ばれている。広実須井は、俺の思考を読み取ったのか、不敵な笑みで人差し指を立てた。

「君、僕の部を偽善部だなんて思ってないかな?まぁ、正解だよ。偽善結構、相手に得ならそれで良し。それがうちのモットーなんだ」

 ボランティア部なんて、さらさら入る気は無い。そんなものに所属してしまったら、自ら負けを認めるようなものだ。ボランティア部に入ることで、俺は正式に学校の腫れ物になる。

「お前の部には入らない。俺は、バスケ部だ」

「そう言っても、君、信用無いじゃないか。バスケ部にはもう戻れないよ。君は間違ったんだ」

 知ったような口を利くな。信用が無くてもバスケはできる。俺以外の奴らが腐ってるだけだ。練習はいつものらりくらりでサボるくせして、試合で負けたら言い訳をして、責任転嫁する。そんな精神性で勝てるわけが無いと、あいつらはわかっているのだろうか。

「俺は間違ってない…どうしようもないのはあいつらのほうだ!」

「日々の活動だけならね。でも、本題はそこじゃないんだ。君をボランティア部に推薦した者がいた。排除されたんだよ、そのバスケ部の子にね。それから気になって調べてみたんだけど、これは酷いな。墨田奏斗、君のいい噂は殆ど出てこなかったよ。周りとコミュニケーションを取っていなかったからね、当然の仕打ちだ」

 そんなことはわかってる。だけど、どうしても教室のぎゃあぎゃあと騒ぐ声が、煩わしく感じるのだ。そう思ってる時点で、俺は仲間に入れない。いくら学校で爪弾きにされようと、思いは変わらなかった。

「すぐに入れとは言わないよ。そうだな───学園祭が終わるまでにその気になったら、この空き缶のプルタブをボランティア部まで持ってきてくれないか?ちょうど今、寄付のための活動をしているんだ」

 言いたいことを言うだけ言った広実須井はプルタブを外し、俺の目の前に置いた。そしてそのまま、階段を降りて屋上を去っていった。俺は思わず空き缶を掴み、ゴミ箱に叩き入れる。何だったんだあいつ。あんな罵倒ばっかりで、本当に勧誘する気なんてあるのか?冗談じゃない、ボランティア部なんて。俺がデザイアカードに書いた願いは何だ?人類滅亡だぞ。何が悲しくて人のために、無償で、働かなくてはならないんだ。絶対に滅ぼす、人類は。

 だが俺の心にも、少しだけ綻びがあったのかもしれない。これは広実須井がポイ捨てしたものを拾っただけだ、と言い訳して、俺はプルタブをポケットに入れた。これは後で捨てる。学園祭が終わるギリギリまで引っ張って、期待させてから捨ててやる。

 そう思った矢先だった。屋上から見える景色の切れ間に、赤い有刺鉄線の壁が走った。その壁は町全体を分断するように左右に伸びる。ジャマーエリア────?呼び出しはまだ……

 咄嗟にスパイダーフォンを見ると、画面には『緊急ミッション・ラスボスを倒せ』と映っていた。

 下の階から、窓を乗り出してジャマーエリアを珍しがる声が聞こえる。流石はラスボス、今までとジャマーエリアの範囲が桁違いだ。幸いこの周辺の区域は巻き込まれなかったが、ジャマーエリアは、端が見えないほど広かった。

 

 

『きんきゅぅじたぃです!仮面ライダーの皆さん、今すぐ防衛にあたってくだふぁい!』

 ん?ツムリ、なんか今頬張ってなかったか?って、そんなこと気にしてる場合じゃないか。デザイアドライバーを装着してジャマーエリア内に飛ぶと、そこはお洒落な雑貨屋が並ぶ広場。スタンダードなデザインのジャマトに、大勢の人間が襲われている。大人子供、老若男女関係なく……しょうが無い。今は戦うしかないか。

『SET』

 クローバックルを右側にセット。制服の襟を正し、クローバックルを起動。仮面ライダーに変身する。

『ARMED CLAW!』『Ready?Fight!』

 両腕のクローでジャマトの背中を斬りつけ、一般人の男性をすんでのところで救う。逃げるように視線で促すと、男性は悲鳴をあげながら人混みへと逃げていった。このジャマト、武器を持っていない。撃破条件も無いみたいだ。やっぱり本命はラスボス……所詮コイツラはオマケか。だからといって、一般人を見捨てたら減点だ。どこが安全かも分からず、ただジャマトに背中を向けて散り散りになる一般人の前に立ち、ジャマトの軍団を次々斬り捨てる。

「おい!死にたくなかったら早く逃げろ!まだそっちの駅の方が安全だ!」

 指示に従って、人波みは次第に統制されてゆく。ジャマトのパンチをクローで挟み込み、そのまま押し斬って撃破する。あと少しでここのは全て片付く。後ろ目でいなくなってゆく一般人を見ると、一瞬、見覚えのある人間がいた気がした。二人組、男と女。それだけを確認した頃には、人混みに紛れてわからなくなってしまった。なんだ?気になるが、今はラスボスが優先だ。最後のジャマト二体を一気に撃破したところで、スパイダーフォンからツムリのナビーゲーションが響いた。

『これより、最終戦。缶けりゲームを始めます』

 ラスボスの居場所の見当はついている。町一の高層ビルに、寄生するように生えたクリスマスツリーのような塔型の植物。地上にいる人間を襲っているのか、伸びたツタがうねうねと這うのが見えた。本体はまだ見えない。俺はツムリの話を聞きながらビル目掛けて歩き始めた。仮面ライダーに変身している分、まだ足は痛まない。近場で助かった。

『ラスボスは、発見した人間を捕まえ、その生命力を使って巨大化します』

 あっという間に現着。物陰から覗き見ると、既に吾妻道長の変身するバッファが当のラスボスと交戦しているようだった。ラスボスは緑の体色に、二つに分裂した馬の頭を持ち、全身から棘が生えていた。身体こそ俺の半分ほどの大きさ、だがバッファが苦戦してるのを見るに、相当なやり手。

『デザクラ史上、特に大勢の犠牲者を出したジャマトですが、一つだけ弱点があります。足元の缶です』

 ラスボスが生やした塔から人間の生命力が集まり、缶が妖しく光る。ラスボスは子供のようにパチパチと拍手をする。くっそ、今は缶の話は聞きたくないんだ。遅れて、タイクーンも到着したようで、俺と近くの柱の影に隠れる。対角線上には、マグナムシューターの銃口を覗き込む、ギーツの姿も見える。

『缶を蹴れば、吸い取られた生命力を取り返し、ラスボスを枯らすことができます』

 つまり、缶を最初に蹴ったライダーが、デザ神になれる…!真っ先にタイクーンが飛び出し、負けじとバッファも缶に一直線。走りでは間に合わない。俺は右腕のクローを外し、缶めがけて投げた。これならあの二人よりも速い…!いや、ギーツが銃弾を放っていた。しまった。流石に銃弾のスピードに投擲はかなわない。

 誰の攻撃が最初に缶に届くか。俺は固唾をのんで見守っていたが、先にラスボスが行動に移った。生命力を集めた缶のプルタブを捻り、中に溜まった液体を飲み始めたのだ。生命力はラスボスの活力となり、身体はみるみる巨大化。俺たちの二倍ほどの大きさとなって、全ての攻撃を薙ぎ払った。

 そして、ジャマトは嘲るように笑いながら何処かへ転送されていった。潜伏先を変えたのか、他のジャマトも去ってゆく。

『ただし、一箇所には留まらず、人間を探して移動します。もし、誰も缶を蹴れずに捕まってしまったら─────ゲームオーバーです』

 無慈悲な結末が、ただ不安を募らせる。

 

 

 人差し指の付け根から手のひら全体を覆うように包帯をかける。消毒液が染みて、じんわりと手に痛みが伝わった。

 サロンは沈黙に包まれている。皆、ラスボスの対抗策を思案している様子だった。

 過去に大勢の犠牲者を出したジャマトか……缶を蹴らない限り攻略はできないが、缶を蹴るにはラスボスの攻撃を掻い潜らなければならない。あの調子だと、ラスボスはまたでっかくなって、いよいよ手が付けられなくなるだろう。缶を蹴るためにはどうすればいいのか…

「捕まった人って救えるんですよね!?」

 どうやら桜井景和は、ラスボスの攻略よりも人命救助の方に気が行っているようだ。いつも通りのお人好しだが、デザイアグランプリのシステム的に、不信になるのも仕方がないと思う。前の神経衰弱ゲームだって「捕まった人は開放された」と言いながら、俺たちは人質がどこに捕らえられていたのかをそもそも知らなかったし、本当に自由になったのかも定かではない。デザイアグランプリの運営は、ゲームの進行以外には殆ど無関心だ。

「ゲームを攻略できれば…」

 救急箱を持ったギロリが答える。そうだ。ゲームさえ攻略すれば、ラスボスの養分になった人間も、破壊された町も元に戻る。今は焦るべきじゃない。なんとしてもラスボスを攻略しなければ。

「だがライダーが全滅すればゲームオーバー。犠牲になった人たちは救えない」

 英寿の言葉に、再び沈静が流れる。英寿は腕を組み直すと、かつてのデザイアグランプリについて語り始めた。

「かつて、ライダーがひとり残らず倒され、幕を閉じたデザイアグランプリがあった。そのゲームのラスボスは、ジャマーエリアに存在する人々を、根絶やしにして姿を消した」

 ひとり残らず……じゃあその時のデザイアグランプリに英寿は参加していなかったという訳か…ん?待てよ。ライダーがひとり残らず倒され、ジャマーエリア内の人間も殺されたなら、なぜ英寿はそのデザイアグランプリについて知っている?外側からでも見ていたのか?

「今回と同じ、缶けりゲームのジャマトです」

 ギロリが茶器を片付けながら補足する。さらに英寿は話を続けた。

「その悲劇は、人々の記憶から消された。全てを忘れ、幸せに生きられるように…」

「そんなことが…」

 桜井景和は絞り出すように返事を返す。

「まぁ、まだ俺が参加し始める前の話だがな」

「あの…英寿君ってデザグラのこといろいろ詳しいみたいだけど、いつから参加してるの?」

 確かに。答えようによっては、さっきの矛盾も解けるかも。

「西暦元年」

 ふざけてんのか。これも英寿特有の"化かし"ってやつか?桜井景和も半信半疑…いや、信じられていないようだ。

「真面目に聞いてるんだけど…」

「信じないなら聞くな…」

 英寿はカウンター席に戻ってしまった。今の言葉には少し、英寿の本音が混ざっていた気がした。桜井景和なら、信じるかもしれないと期待していたのかもしれない。だが…西暦元年。流石に嘘だろ。西暦元年、二千年も前だ。そんな長い期間も人間が生きる術はない。

 英寿の話がなあなあで流れ、珍しく大人しかった吾妻道長がついに英寿に噛み付いた。

「そもそも願いを叶えてスターになったのに何でまだ参加してる?デザイアカードになんて書いた?今度はどんなふざけた世界を望んでる?」

 確かにそれは気になる所だ。スターになれば富に名声。殆どがおのがままだ。次は愛が欲しいだんなんて言わないよな?

「一つ言えるのは…世界平和でもなければ、愛でも、人類滅亡でもない。ましてや仮面ライダーをぶっ潰すことでも…」

 吾妻道長の顔が言いたげに揺れる。仮面ライダーをぶっ潰す力か、彼らしい狂暴な願いだ。

「答えは叶えてからのお楽しみだ!」

 英寿はさっきの神妙な面持ちから、ニヤリと笑った"化かし"の顔に変わる。スター以上に物凄い願いが待ち構えているのか…想像がつかないし、したくもない。吾妻道長も同じ考えのようだ。

「おい、お前のブーストバックルをよこせ」

 恐喝の先は桜井景和。もしかしてあいつ、またブーストバックル手に入れてたのか。気づかなかった。

「ブーストバックルのスピードならラスボスに見つかる前に缶を蹴れる。それ以外に攻略法は無い」

 確かに、ラスボスの双頭が張り巡らせる探知を抜けるには、隠密かスピードかの二択しかない。隠密性に優れたバックルが現状無い今、攻略できるのはブーストバックルのスピードだけ……ブーストバックルさえあれば攻略は格段に有利。吾妻道長の優勝は必至だが…そうは問屋が卸さない。桜井景和は反発する。

「渡さないよ!今度こそ…俺が使うから」

「ふんっ、しくじれば大勢の人間が犠牲になる!世界を守る覚悟がお前にあるのか!」

 お前には無いだろう。今まで他人にブーストバックルを譲り続けてきて、次のお前はどうするんだ、桜井景和。

「あるに決まってるだろ!」

「そこまでです」

 ヒートアップしてきた口論を、ギロリが制した。

「今日はもうご帰宅なされては?ラスボスが現れたら、お呼び出しがありますので」

 桜井景和は無言でサロンを後にする。吾妻道長は待てよとその後を追った。あくまでまだブーストバックルを諦めないつもりらしい。続いて英寿も立ち去ろうと歩き出す。

「おい、英寿。ちょっと付き合え」

 英寿は意外そうな顔を俺に見せた。

 

 

 俺が頼んだのは、とろろに卵黄が落とされた蕎麦。英寿はシンプルなざる蕎麦だった。

「「いただきます」」

 挨拶がハモって、少し気まずい気分になりながら、割り箸を割った。さっそく蕎麦に手を付けようとすると、横から向けられる視線に気付いた。英寿目当てだ。やはりスター・オブ・ザ……スター様の人気は下町の蕎麦屋にまで轟いているようだ。

「こういうところ、よく来るのか」

「まぁ、近所で評判だし」

 蕎麦屋の店主は、嬉しそうにテキパキと働いている。有名人が自分の店に来るというのは、嬉しいものなのだろうか。しばらく蕎麦に手を付けていると、先に英寿から話を切り出してきた。

「で、話ってなんだ?」

 そう、なぜ今日は貴重な時間を削ってこんなところに来たのか。確かめたかったのだ。デザイアグランプリに異様に詳しい浮世英寿に。俺は、手元に置いていたスマホの画面を机の上をスライドさせて英寿に見せる。

「これ、何かわかるか」

「確かこれは……ナーゴのチャンネルってやつか?」

 鞍馬祢音が動画を投稿しているチャンネル。通称祢音TV。若者の間で人気爆増中。俺は普段見ていない。

「ああ。でも、見てくれ。一本だけ残して、他の動画が全部消えてる。調べてみたら、動画が消えたのはゾンビサバイバルの途中でだった。親が止めでもしたんだろう。問題はこの動画…」

 俺は唯一チャンネルに残された動画を全画面表示で再生する。タイトルは「祢音からご報告があります」。二人で画面を覗き込む。

『鞍馬祢音です、ぴかり』

 恒例らしい挨拶をする鞍馬祢音からは、覇気が感じられなかった。動画の内容とは、祢音が自撮りしながら、インフルエンサーを卒業すると発表するもの。ネットでは祢音ちゃんが突然の卒業!?と違う意味で大盛り上がり。

「確かに妙だな」

「退場した参加者は、デザグラに関する記憶を消されて、元の生活に戻される。それがルールだったよな?だけど、鞍馬祢音は突然動画配信を辞めた。コイツはデザグラが始まる前から動画を投稿してる。消える記憶ってのは、本当にデザグラに関するものだけなんだよな?」

 俺の問いに、英寿は何だそんなことかと言うように蕎麦を頬張った。

「デザグラを退場したら、消えるものは二種類ある。一つはデザグラの記憶。もう一つは…デザイアカードに書いた、願いを叶えたいと思う心だ」

 願いを叶えたいと思う心…?つまり、鞍馬祢音は退場した反動で、本当の愛が欲しいという願いを失い、動画配信を突然辞めたとういことか。じゃあ、俺も退場したら人類滅亡を願わなくなる…?考えたくないな。まぁ、話を聞いて心はスッキリした。早く蕎麦食って、ここを退散させてもらおう。

「こんばんわ~」

「いらっしゃい!おっ!景和、沙羅ちゃんも!久しぶり!」

「お久しぶりです」

 はぁ…?桜井…景和。なんで、ここに。

「あああっ!英寿君に、奏斗くん!?どういう組み合わせ?」

「よっ」

 英寿は軽く挨拶を交わすが、桜井景和の姉だろうか、沙羅という女は、黄色い声をあげて俺たちの席に近づいてきた。

「えええええええっ!英寿様!?どうして!?」

 

 

 柄でもない外食なんてするんじゃなかった。

 その後、何故か桜井姉弟と相席をすることになり、とにかく肩身が狭かった。姉である桜井沙羅は、英寿にメロメロ。姉弟の仲の良さが織りなす漫才芸に相槌を返す英寿の構図がおよそ四十分間ほど続き、完全に俺はだんまりを決め込んでいた。挙句の果てにはたぬきそば世界一!とか叫び始めるし。そして今も、桜井姉弟の帰り道に付き合わされている。何故か英寿もついてくるし。というかご近所さんなのか?ほぼ帰る方角が同じなのだが…いやそんなはずは。もう黙って帰ろっかな…そうしよう。

 俺は来た道を戻り始めた。三人は会話に夢中だ。気づくはずはない。一人の夜道は、事故のあの日を思い出す。考えてみればあれから、夜遅くまで外出するのは控えていた。強がっていても、心は事故を恐れていたのか……情けない男だ。

「うぃ!大丈夫、きみ!」

 突然後ろから軽くどつかれた。振り返らなくてもわかる。桜井沙羅だ。何のつもりだろうか。まさかあの二人ではなくこの女にバレるとは。

「あの…何です?スター様とは喋らなくても?」

「ううん、景和と二人で大事な話してるっぽかったから。男の友情ってやつかなぁ。かぁ〜熱いよね」

 帰りたい。何のつもりで俺に関わる?

「いや、君は景和とどういう関係なのかな〜って。英寿様とは知り合いとしか行ってくれないし、もしかしたら君はどうかなって」

 桜井景和との関係…?腐れ縁…か?それも家族に伝えるのは印象悪いか。ならば…戦場を共にした仲間…?いや臭すぎるし、そんな関係を認めたくもない。なら、妥当な答えは。

「まぁ…ただの顔見知りですよ。あっちは俺のこと嫌ってるだろうし、あいつが仲良いのはスター様の方です」

 ハンマーを譲ってくれたとはいえ、それは天性のお人好しによるものだ。正直俺本人は嫌われれてるとしか思えないし、たぶんこれは正解。

「そんなこと無いと思うけどなぁ……景和、大抵の事は許しちゃうし、お人好しなのよ。誰でも直ぐに信用して、直ぐに騙されちゃう。でも、自然と景和の周りは人が少ないんだよね…あんなに騙されやすいのに」

 それは意外だな。あれくらいのお人好しをカモにしたがる奴なんて、この世にゴマンといると思うが。

「きっと、お人好しすぎて怖いのかな?…今日ね、嬉しかったのは、英寿様に会えたからじゃないの」

 桜井沙羅は、俺の肩にドンと両手を置いた。

「君と英寿様が、景和と友達だって、分かったから!」

 友達だって…?冗談はよしてくれ。無言で手を振り解いて去ろうとするが、桜井沙羅はしつこく粘着してくる。こういうとこ姉弟だよなホント。

「ちょいちょいちょい待って!これからも、景和を信じてあげて。きっと損はしないから。ね?」

 桜井姉弟は、家族が二人以外いないそうだ。事故で両親を亡くしたらしい。事故というのは、人の人生を狂わせる。俺は一人だったから、自分を制御できなかった。だけど、この姉弟は信じられる互いがいたからこそ、支え合って乗り越えられた。羨ましいとは言いたくないが、人生で気を許せる、いわゆる信用できる人間がいるという点はとてもいいことだと思う。俺の人生には現れなかったが、桜井姉弟の平穏を、俺は密かに願わずにはいられないのだった。

 

              *

 

 文化祭当日。我がクラスのたこ焼き屋は大盛況。午前中の内に全ての在庫を消費し、午後はヒマになった。

 こうして今俺がいるここは、遊園地である。別にサボりではない。呼び出しがあったのだ。ついに、ラスボスのジャマトが現れた。遊園地の中心にそびえ立つ塔。がらがらの園内を見るにもうここらへんに人間はいないだろう。無人のアトラクションの上でカラスが鳴いている。塔の側に鎮座したラスボスは、既に巨大観覧車の全長を超えていた。また缶の中味を飲み干して、一回り大きくなる。

「ラスボスは、絶えず成長しています。皆さん、十分に気をつけてください!ミッション、スタート!」 

 ツムリの宣言と共に、景和はブーストバックルを握り締め、決意めいた表情を見せた。

「みんなは危ないから下がってて」

「お前、本当にやる気かよ」

「もしラスボスに見つかれば終わりだ」

 吾妻道長は最終警告かブーストバックルを諦めきれないか、景和を脅すような発言をする。景和の呼吸は激しくなった。一度ミスれば終わるリスク。日常生活ではそうそう訪れない。

「世界平和を願ってるんだろ?」

「あぁ!だから俺が守る!」

 英寿の言葉に背中を押され、景和はバックルをベルトに装填した。

『SET』

 景和は自分を鼓舞する様に胸を二度叩き、ブーストバックルのアクセルスロットルを捻った。

「変身!」『BOOST!』

 仮面ライダータイクーンは、赤い鎧を身に着け、地面に降り立つ。

『BOOST STRIKER』『Ready? Fight!』

 ブーストライカーに搭乗したタイクーンは、目にも止まらぬスピードで、アトラクションの上を駆ける。ラスボスが察知し、無数の棘を発射するが、ブーストのスピードが先に逃げおおせる。ブーストライカーのマフラーが激しく火を吹き、ラスボスはその火に思わずひるむ。タイクーンはブーストライカーを乗り捨て、遂に缶へと狙いを定める。

『REVOLVE ON』

 最高速度が出るブーストの装甲を足側に切り替え、即座に地面に着地……制御が効かずに地面に尻餅をついていた。何やってんだ。ラスボスが気づくぞ。

「いってぇ〜!けど、大成功!」

 それでもタイクーンは立ち上がり、缶に一直線。ブーストの効果でさらに加速し、缶はもう目前だ。

「行ける!」

 しかし、目前でラスボスが缶に迫るタイクーンを補足した。ブーストの加速の際に発せられる爆音で、背後に回っていたタイクーンに気づいたのだ。ラスボスは棘を連続発射し、それを回避したタイクーンの足は思わず止まる。その一瞬の隙に、ラスボスは巨大な腕でタイクーンを殴り飛ばした。

「景和!」

「変身!」『MAGNUM!』

 その時、ギーツに変身した英寿が飛び出した。吾妻道長が「何をするつもりだ…」と呟く。マグナムではラスボスに叶わない。死ぬつもりか?

 一方、タイクーンはラスボスの攻撃により変身が解け、ジェットコースターのレールの上に崩れる。ラスボスはそこに容赦無く棘を放ち、景和は走って逃げようとしたが、棘が足元に着弾して爆発し、地面に振り落とされる。そして、ひときわ巨大な棘が動けない景和を貫ことうとした刹那─────間一髪でギーツが棘を砕いた。

『SECRET MISSION CLEAR』

「「はぁ?」」

 シークレットミッションだと?スパイダーフォンを確認すると、ギーツが達成したミッションとは、『ラスボスの攻撃からプレイヤーを助けるといったものだった』まさかコイツ……

「どうゆうこと…」

「このゲームの攻略に、本当に必要なアイテムだ」

 ギーツが現れた宝箱を開く。そこにあったのは、黄緑色に、手裏剣があしらわれたバックルだった。

「ラスボスに見つかってくれて、サンキュ」

 ギーツはわざとらしくバックルにキスをする。

「おれを、その気にさせたのは…そのアイテムを手に入れるためか…!」

 景和は血が混じった声でまくしたてる。

「また、化かされたな」

「そんなにゲームが楽しいか…!世界がピンチになってる、こんな時にっ…!」

 景和は激昂し、喉を抑える。ラスボスのパンチをもろに食らったのだ、ただではすまない。が…ギーツ。結局はこれか。恐らく昨日の帰りに、英寿は景和を焚き付けたのだろう。全ては、自分がデザ神になるために、か。

「世界は守る。理想の世界を、叶えるついでにな!」

『SET』

 俺たちが問答をしている合間にも、ラスボスはさらに大きくなってゆく。タイクーンの攻撃に、怒り心頭の様子だ。

「変身!」『NINJA!』『Ready?Fight!』

 バックルの手裏剣が回転し、ギーツの装甲が鮮やかな緑色に変わる。ニンジャ……隠密性に優れたこのバックルこそが、ラスボスの攻略に相応しいアイテムということか。

「さぁ、ハイライトだ」『NINJA DUALER』

 迫るラスボスの棘を、高速移動で回避する。そして煙を放ちながらワープ。今度はレールの上に。今度は空中に。ラスボスの目を欺き、何度も回避行動を繰り返す。動き出したコースターの上を駆け抜けてワープすると、今度は二つの持ち手がある刀、ニンジャデュアラーを構え、棘を次々斬り落とす。ニンジャデュアラーの刃は長く、高速移動も相まって、棘は一つ残らず弾かれた。確かにこれなら、缶を蹴るのも容易だ。ラスボスは完全にニンジャの力に押されている。

 ラスボスの背後にワープしたギーツ。そこからさらに分身し、ラスボスを中心に360度を取り囲む。ギーツはそれぞれ印を結び、ニンジャデュアラーの歯車を回転させる。

『ROUND 1・2・3!』『FEVER!』

 ギーツがニンジャデュアラーを掲げると、それ自身が高速回転し、刃から炎が生じる。一方のギーツは水、はたまたは風、雷と、四種の属性を帯びた刃が、ラスボスの方向を向いた。

『TACTICAL FINISH!』

 一斉にニンジャデュアラーがラスボスに放たれ、ラスボスを中心でクロスするように斬り裂いた。この攻撃により、ラスボスは大ダメージ。膝をついた今なら、缶を蹴れる。

『REVOLVE ON』『NINJA STRIKE!』

 足にニンジャの鎧を纏い、ついにギーツは缶を蹴った。蹴り飛ばされた缶はジャマーエリア外へ一直線────!とはならなかった。直前でラスボスが缶を掴み、すぐに姿を消してしまったのだ。一応、缶を蹴ったからこのゲームは勝利になるのか?

「これで、終わりじゃないよな?」

「ああ。まだジャマーエリアが解除されていない」

「その通り、ゲームは終わっていません」

 ツムリが現れたかと思うと、すぐにデザイア神殿に転送された。

「ジャマーエリアより外まで缶を飛ばさなければ、ラスボスに缶を回収されて、何度もゲームは続きます」

 それ先に言えよ……ニンジャの脚力だけじゃ、外まで缶を飛ばせないじゃないか。協力前提のゲームだったのかよ。

「おい、なんでニンジャバックルなんてものがあるって知ってた?」

「お前らとはゲームの経験も知識も違うからな」

 飄々と吾妻道長をいなしたエースは、景和を見下ろす。

「そんな顔すんな。世界は俺が守ってやる」

 景和は激しく英寿を睨みつけ、彼らしくない言葉を吐き捨てるのだった。

「もう信じないよ…君のことは…!」

 

           DGPルール

 

    仮面ライダーが全滅したらゲームオーバー。

 

         そのエリアは消える。

 

         存在も、記憶すらも。

 




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「姉ちゃんが襲われてるんだよ…!」

─それぞれの願いをかけて─

「叶えたい事があるなら、戦え。それしかない」

─戦え!!─

「みんなを、助けるまでは…倒れないから…!」

5話 邂逅Ⅶ?:切り札は誰


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5話 邂逅Ⅶ?:切り札は誰

 

 デザイアグランプリ、最終戦。缶けりゲーム。ラスボスに見つからないように、缶を蹴れ。景和を化かしていたギーツが、攻略に必須のニンジャバックルを入手。缶を蹴ることに成功したが、ジャマーエリアの外まで飛ばさなければ、缶けりゲームは何度でも続く。

 仮面ライダーが全滅すれば、世界は滅ぶ。

 崩壊の危機に追い込まれた世界だが、俺の心は意外と落ち着いていた。どちらにせよ、俺がデザ神になれば、人類は滅亡だ。別にジャマトから人を守らなくたっていいし────このプルタブを渡しに行く必要もない。さっきの広場でだって、ジャマトから人を救ったのも、ポイントのためだ。と、自分に言い聞かせてみる。

 俺は最近の、自分の矛盾した行動に辟易していた。

 幸せそうに過ごしてる奴らに、自分と同じ不幸な目に合わせてやるために俺は仮面ライダーになったのに、仮面ライダーとして人を守る活動に殉じてしまっている。はっきりとした答えが見つからずに最終戦まで来てしまったが、今この時、人類滅亡とは具体的にどんな願いなのか、俺は考え始めていた。俺の望む人類滅亡。その先で俺は一体何をすればいいのか………

 プルタブを手でいじりながら考えていると、景和が赤いカーテンを開いて、崩れるように現れた。全身に包帯を巻かれ、ボロボロの身体を引きずりながら、サロンを出て行く。それを目にした英寿も後を追う。なんだ?不意に、ギロリの元のダイヤル式電話が鳴った。

 ついに、ラスボスが───────

 

              *

 

 デザイア神殿に向かうと、ツムリが景和に警告を言い渡していた。

「そのケガで大丈夫ですか?もしジャマトにやられれば、タダでは済みませんよ」

 そうだ。その重症の身体じゃ、優勝はもう無理だ。肝心のブーストもラスボスにはほぼ無意味だし、むしろラスボスに返り討ちにされる。それでも景和が現場に行きたがる理由とは。

「そんなのどうだっていい!姉ちゃんが襲われてるんだよ…!」

 なんとなく察しはついていた。拡大し続けるジャマーエリアは、都心部に足を突っ込み、かなりの速度で町を侵食している。もうじき、俺の住んでいる町ものまれる。これまでの経験から考えるに、桜井沙羅の勤め先も、我が家の近所にあったのだらう。

「わかりました。もう一度忠告しておきますが、ラスボスとまともに戦ってはいけません。缶を蹴る以外に、攻略方法はありません」

 現場に転送されると、景和は変身もせずに姉の捜索へと足を向けた。変身したほうが速く動けるのに、焦りで頭が回ってないか。

「勝負だ、ギーツ!」

「勝負になればな」

 英寿は煽るように……明らかに吾妻道長を煽りながらニンジャバックルをちらつかせる。この二人は桜井姉の安否には興味ないようだ。それは俺も同じ、逆にブーストをもつ危険なライバルが減った。小型バックルだけの俺だが、ものは考えようだ。普通に缶を蹴れば、ラスボスに回収される。ならば、誰かが缶を蹴ったところを、武器を投げて缶の軌道を変え、最終的に俺が飛ばしたことにすればいい。誰も蹴った瞬間に勝者が決まるとは言っていない。この作戦で、勝利を掴む!

『SET』

「変身!」「変身!」「変身」

『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』

『ZOMBIE!』『NINJA!』

『Ready?Fight!』

 変身を完了した三人は、それぞれの武器を手に、ジャマトに立ち向かう。俺はいつも通り、ハンマーを投げて道を切り開くと、クローでジャマトを貫いて次々撃破する。その横をバッファが突進しながら突き抜け、ギーツは空中をワープしながら、それぞれ缶を目指した。俺も正面切って缶を狙いたいところだが、後ろで機会を伺っていれば、勘のいいギーツに気づかれる。人が一通り逃げたのを見ると、別の路地へと移った。

 ジャマトを殴りながら移動した先。そこはオフィス街で、変わらずジャマトが溢れかえっていた。最終戦のジャマトの物量は今までの比じゃない。ここも速く一掃しないと……あいつらが缶を蹴ってしまう。クローでアスファルトを剥がして飛ばして目眩ましをすると、ハンマーを投げて押し倒すように一気に三体を倒した。まだまだジャマトは尽きないが……ん?誰かの話し声が路地裏から聞こえる。逃げ遅れたのか、強く言い合う声だ。急いで路地に足を運ぶと、そこにいたのはなんと。桜井姉弟であった。

「あいつら…」

「何なの…今の怪物たち…」

「もう大丈夫だから!」

「大丈夫なわけない!」

 桜井沙羅は、頬に涙を伝わせながら景和に掴みかかる。

「だって、あいつらのせいでお父さんとお母さんは…!」

「えっ?どういうこと?」

 あいつらの両親は事故で死んだんじゃ無かったのか…?俺はジャマトを相手取りながら話に聞き入る。

「思い出したの…忘れてた記憶を」

「記憶…これに触れたから」

 IDコアに触れたら一般人でも記憶が戻るのか。桜井沙羅は、息も絶え絶えのまま話を続ける。

「お父さんとお母さんは、事故で亡くなったんじゃない…あいつらに…!」

 桜井沙羅が語った過去。それはもう数十年も前の話だった。

 ジャマーエリアによって、突如分断された家族。ジャマーエリアに囲まれ、逃げられなくなった両親。迫りくるジャマト。その時、仮面ライダーは現れなかった。

 桜井沙羅は、ジャマトになぶり殺される両親を、ただ眺めている事しかできなかった。死の間際の母親が残した言葉。

『誰か…娘を…!』

 その言葉に動いた一般人は、桜井沙羅をジャマーエリアから引きはがす。桜井沙羅はまだ両親が助かるかもしれないと、必死に抵抗する。腕のアクセサリーの紐が千切れるほどに。

 地面に散らばったアクセサリーのビーズは、両親がプレゼントしてくれた、大切な宝物であった─────

「そんなことが…」

「あの時景和はいなかったから…なんでこんな大切なこと、忘れてたんだろ…!」

 それがまさに英寿の言っていた、かつて起きた、ラスボスジャマトによってライダーが全滅させられた回の話だった。消えたのは、桜井姉弟の親だけではない。今も大切な人の存在を忘れ、生きている人がこの世界には、大勢いるのだ。

「ジャマトが…?父さんと母さんを……ぐっ!ぐぁあ!」

「景和!」

 桜井姉弟をジャマトが引きはがす。そして、ジャマトは桜井沙羅を抱えた。ラスボスの養分にするためだろう。景和はラスボスの攻撃による怪我が尾を引き、抵抗することすらできない。今は俺がやるしかないか……!俺も路地に急ぐが、都合悪く大量にジャマトが押し寄せ、行く手を阻まれる。

「ウザいんだよ…お前ら一々!」

 クローを一気に振り抜き、手前のジャマトだけでも退け、ハンマーを隙間を通す様に投げる。しかし、距離が離れすぎていた。景和を踏みつけていたジャマトに弾かれ、ハンマーは空を切る。

「景和!景和ーっ!」

「畜生!逃げんなっ!ぁああ!」

 俺が追いついた頃にはすでに、桜井沙羅は連れ去られていた。俺は舌打ちをしながら、クローをジャマトごと壁に突き刺し、その場を後にした。気絶していた景和を持って。

 

(待ちなさい…!どうしてなの…奏斗ぉ…)

 

 またあの声だ。今は消えてくれ…今はそんな気分じゃないんだ。俺の心の内は、まだ黒い感情が深く渦を巻いている。

 

              *

 

 桜井姉弟の会話に聞き入っていたせいで、缶にハンマーを投げる作戦は失敗に終わった……と思っていた。ギーツとバッファは二人仲良くスコアを減点されていた。このゲームの勝敗にスコアはあまり関係ないなので良かったが、肝心の最終戦で足の引っ張り合いが起きていたとは……人のこと言えないか、俺。

 正直、今はゲームの勝敗よりも興味が惹かれている事があった。この世界にはどれほどジャマトに殺され、事故死扱いになっている人間がいるのかという事だ。適当な人間にIDコアを触らせたら、ジャマトに殺されたり、知り合いが犠牲になった様を思い出すのか……。もしデザイアグランプリのシステムが何らかの誤作動を起こして、人類全員がジャマトの記憶を蘇らせたらどれほどの混乱が起きるのか。とても気になるが、デザイアグランプリの情報を第三者に公開することは禁止されている。こんなしょうもない好奇心で脱落なんて、アホらしい。

 もう一つ気になるのは、最近聞こえるようになった"声"だ。デザイアグランプリに参加している間、俺に強い感情の上下が起こったときに、それは聞こえる。最初は些細な事だった。ただカレーを食べたいと強く思った時である。それは何か俺と日常的な会話をしているようだった。声質からして女性。二度目は、黄金屋森魚の悪行を見て、人類滅亡を再び強く思うようになった時。同じ人物の声だったが、今度は切羽詰まった様子だった。そして直近の、ジャマトに強い憎しみを持った時だ。今回の声の主も、何やら激しい感情の高まりがあったらしい。

 この声の正体に関して、俺は仮説を立てた。

 単純に、声の主は、桜井姉弟の親と同じように、デザイアグランプリで仮面ライダーが敗れジャマトに殺されてしまった、消えたバスケ部の誰か、という説だ。仮説と言うにはあまりにも稚拙だが、声の主は明確に俺を奏斗と呼んでいたし、半田というバスケ部の男の名も口にしている。半田とはクラスが違う上に、俺はクラスメイトと全く仲良くないので、俺と半田の名前を同時に知っているのは必然的にバスケ部の部員まで絞られるというわけだ。俺は最初自分のIDコアに触れたとき、過去のデザイアグランプリやジャマトの記憶について全く思い出せなかったが、きっと誤作動でも起こしたのだろう。声の主の記憶を取り戻せば、この煩わしい声から開放される。

 俺は意を決して、腰のデザイアドライバーにはめられたIDコアに触れた。来い!俺の過去の記憶!

 ……………。

 何も起こらないか…。やっぱりこの声はデザイアグランプリのシステムとは別の要因によって起こっているのか?俺の前世の記憶とか?謎の超パワーによる予知?─────デザイアグランプリ以上のSFを持ち込むのはやめよう。頭がパンクする。

 そうだ、他の人物のIDコアに触れるのはどうだろう。偶然俺のIDコアが故障してるだけかもしれない。とりあえず、英寿に頼んでみるか?いや、何か探られそうで癪に障るな。なら吾妻道長に…もっとだめだ。殴られるかもわからん。となると残るは……景和か。

 俺がわざわざサロンまで運んでやった景和は、ベッドに横たわり、ギロリの看病を受けている。傷はさらに深くなり、なかなか血も止まらない。姉の沙羅はその後かなり捜索したが、既にラスボスの塔まで運ばれてしまったようだ。全く見当たらない。もう缶の中か……いや、そんな悪い事を考えるのはよそう。コイツに悪い。

「姉ちゃん!」

「どうかご安静に!」

 姉への絶叫と共に、景和は目を覚ました。くそっ、寝てる間に触ってみるつもりだったが、先に起きてしまったか。ギロリは身体を無理やり起こす景和を制止するが、もはや忠告は耳に届かない。

「そうはいかない…!姉ちゃんがラスボスに…!」

「その身体で無理しない方がいい」

 英寿の声を無視し、景和はベッドから降りようと、傍らのギロリの肩を支えにする。

「これ以上ジャマトに…姉ちゃんまで奪われるのは嫌だ…!ずっと事故だと思ってたけど…姉ちゃんが思い出したんだ…!父さんと母さんは…ジャマトの犠牲になったって……もう、家族を失いたくない…!」

 必死になる景和に、昨晩の桜井姉弟の様子を思い出す。幸せとは、どれほど脆いものなのか。どれだけ乗り越えたと思っても、さらなる不幸が幸福を包む。それが、人がいる限り終わらない悲しみの連鎖。最初から全部無かったら…こんな悲劇なんて起こらなかったのに。

「みんな…俺に考えがある」

 そこで景和が提案した作戦とは。

 

 

「なんでこうなるかねぇ…!」

 ラスボスが次の標的に選んだのは、学園祭真っ只中の俺の学校だった。かなり規模の大きい学園祭だったこともあって、部外者も数多く来ている。ラスボスが狩り場に選ぶには十分。俺が到着した頃には大半の生徒や大人たちがラスボスに連れらさられ、次の養分候補として塔に吊るされていた。

「変身!」

『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』

 校舎の物陰にて変身した俺は、校内に乗り込み、廊下を徘徊するジャマトを一匹ずつ確実に殴り倒していく。ジャマトが暴れ回ったせいで、生徒たちが長い時間をかけて作った装飾や展示はぐちゃぐちゃのバラバラ。午前中のどんちゃん騒ぎは何処へやら。生徒の姿はほとんど見えない。窓の向こうに、校庭に居座るラスボスが見えた。そして、外からはマグナムの銃声や、チェーンソーが擦れる音。次は仲間割れしないでちゃんと戦えよ、ギーツ、バッファ。

 ジャマトのパンチによる攻撃をしゃがみながらかわし、腹部にハンマーをぶちかます。この攻撃はみぞおちにクリーンヒットし、ジャマトは教室の扉を破壊しながら転がる。その衝撃で、近くにあった棚が将棋倒し的に崩れ、一面に赤本などの参考書や、ハードカバーの小説が散らばった。

「図書室だったか、ここ」

 あまり訪れないから正確に覚えていなかった。図書室の中もジャマトが荒らし回ったようだが、図書貸出用のカウンターから、何者かがすくっと立ち上がった。制服を着ている男、うちの生徒だ。よくジャマトに見つからずに隠れていたが、おいおい、コイツ。

「あっ、あの…ありがとう、ございます…」

 バスケ部の後輩マネージャー、"芹澤朋希"じゃないか。俺は仮面ライダーに変身していたから俺とはバレていないようだが、こんなところで会うとは。芹澤朋希は、とにかく体が弱い。何かに付けてすぐ体調を崩すし、むしろ全快の状態を見たことがない。だからバスケ部の活動も参加せずに、マネージャーとして活動している訳だが、全くと言っていいほど話したことがない。

 芹澤朋希は、ボサボサの髪から塵を払い、似合いもしない太い縁のメガネを直す。仮面ライダーの存在に困惑してるのだろうか?まぁいい、今はラスボスだ。俺が無言で図書室を去ろうとすると、芹澤朋希は滅多に聞いたことがない大声で俺を引き止めた。

「あの!頑張って、くださいね…」

 なんか他人の手柄を横取りする作戦を立てているのが心苦しい。返答に困っていると、外から誰かの叫び声が聞こえた、

「ラスボス!ここにいるぞっ!」

 景和…!おいおいおい、まさかあいつ、自分でやるつもりか…!

 

 

「共同作戦?」

 景和を雑にソファーに座らせた俺は問いかける。

「四人で一気に仕掛けよう…!誰かが注意を引き付ければ、他の誰かが缶を蹴れるはず…」

 それはこの満身創痍の男が捻り出した、苦肉の策だった。だいたい、誰がその役をやる。ラスボスの注意を引くならば、自分で缶を蹴ることができない。それはデザ神の座を他人に明け渡すことと同義だ。誰も賛同するはずがない。当然の如く、吾妻道長は反発する。

「そんな分の悪い賭けには乗ってられないな」

「そんなこと言ってる場合じゃない!これは救う戦いなんだ…!」

「理想を叶えるゲームだ!」

「ゲームじゃない!」

 頑なな景和に痺れを切らした吾妻道長は、ドライバーを手に取る。

「……見返りを叶えるために俺たちは戦ってるんだ。誰かに勝ちを譲るなんてありえない」

 そしてサロンを出て行ってしまった。

「二人は!作戦、乗ってくれる!?」

 確かに、ラスボスに対抗できるニンジャとブーストが分散してる今、仮面ライダー同士で協力するのは現実的な勝ち筋だ。もし英寿か景和が囮になると言ってくれたら、俺でも勝てる可能性がある──────────だとしても。

「その作戦、俺は降りる。自分の願いは、自分で叶えたい」

 たとえその願いが、人類滅亡だとしても。やっと見つけられたんだ。俺の、人類滅亡の答えが。俺は座っていたソファーの背を離れる。

「世界がこんな時でも!?」

「誰も間違ってない」

 何とか俺を引き留めようとする景和を、英寿が止めた。

「世界のために自ら犠牲になろうとするやつなんて、そうはいない」

「自分さえ良ければ、他の人が犠牲になってもいいって言うのか?」

「その言葉、そっくりお返しするよ」

 英寿は組んでいた手足を解かぬまま、まじまじと景和の顔を見て語る。

「自分の姉さえ守れれば、自分たちさえ幸せなら、誰かが幸せになれなくても構わないと言うのか?誰よりも傲慢なのはお前の方じゃないのか?」

 それはお人好しの裏を突いた本質だった。世界を守りたいと願う、聖人君子の景和に生まれた、家族という綻び。世界平和という大義名分に隠れていたエゴを見抜いた英寿は、机に置かれたデザグラのジャケットを景和に押し付ける。

「叶えたい事があるなら、戦え。それしかない」

「…………わかった」

 

 

「どうした!当ててみろよ!」

 あの時に諦めたと思っていたが…自分で囮になるとか、どこまでお人好しなんだよ…!

「ここで隠れてろ!」

 芹澤朋希を置いて俺は窓を飛び出し、離れたグラウンドに急ぐ。あの怪我で囮なんてやったら、本当に死ぬぞ…あいつ。タイクーンは足にブーストを装備し、貧弱なアローでラスボスを牽制しながら棘を紙一重で避け続けている。ブーストの加速は瞬間的なものなので、細やかな動きができず苦戦しているようだ。

 すぐに足元にかすった棘で足が止まり、棘の連撃をもろに食らっている。タイクーンの全身から火花が散った。次の一撃を食らったら、タイクーンは退場になってしまうだろう。塔の側面で拘束されていた、桜井沙羅の悲痛な声が響く。

「景和!」

「俺のことは…気にしないで…みんなを、助けるまでは…倒れないから…!」

 図書室からグラウンドまでの距離はだいぶ離れていて、足を庇いながらのスピードでは、到底間に合わない。

 やはり、遅すぎた。塔の頂点から生えてきたラスボスと同じ程の大きさの棘が、赤い蒸気を帯びてタイクーンを貫いたのだ。

 棘が貫通すると共に大爆発が起き、タイクーンは爆炎の中に消えた………文字通り。丸太の身代りを残して。

『TACTICAL SLASH!』

 突如、ラスボスの頭上に一人の忍者が現れた。忍者は右手に備えた武器の刃を振り下ろし、ラスボスの頭を斬り裂く。そして、ぎごちないワープで屋上に着地した。

「どうなってやがる!?」

「どうやら、ニンジャバックルが共鳴したみたいだなぁ!目的を果たすためなら──自己犠牲も厭わない。タイクーンの忍の心に」

 これじゃまるで、バックルも生き物だ。着弾の直前発動したニンジャバックルの能力で、タイクーンは生きながらえたか。いや、ただの延命じゃない。自ら切り札を買って出たタイクーンが、一躍デザ神候補トップに躍り出たのだ。彼の手元には今、ニンジャとブーストが揃った。

「言ったでしょ?俺は倒れないって!」

 タイクーンを仕留めそこねたラスボスは怒りを滾らせ、枝分かれたした巨大な棘を放つ。棘は着弾前に不規則に弾けたが、タイクーンはギリギリで避け、校舎内へと飛び込む。そして、ラスボスを完全にまいて時間を稼ぐと、今度は天井をぶち破って飛び出してきた。足にブーストを備えている。

『DUAL ON!NINJA&BOOST!』『Ready?Fight!』

「皆、待ってろよ!」

 タイクーンはラスボスの手に跳び乗り、ラスボスの体表を一気に駆け上がる。全身に生えた棘を、二つに分離したニンジャデュアラーで破壊し、時には避けながら。

『SINGLE BRAID』

 そして、ニンジャデュアラーを一つに合体させると、畳み掛けるように必殺技を発動する。

『BOOST TIME!』

 ニンジャデュアラーを回転させて足場にすると、天高くから蹴りの構えを取った。世界を守るヒーローが狙う標的は、ラスボスではなく、人質が囚われている塔。

『NINJA!BOOST!GRAND VICTORY!』

「だあぁぁぁぁぁあっ!」

 タイクーンの右足は炎を帯び、さらに風の力で蹴りの速度はさらに増す。タイクーン渾身のキックは塔は真っ二つに折り、人質が一人、また一人と地面にふわりと落ちる。

「誰か、今のうちに…!」

 しまった。見とれてる場合じゃないだろ。

「任せろ!」「勝つのは俺だ!」

 ギーツとバッファが、我先にと駆け出す。今こそ、作戦実行の時!

「盛大に───────打ち上げだぁっ!」

 ギーツがバッファを巻き込みつつ缶を蹴った。ラスボスがさせるかと飛ばされた缶に手を伸ばす。

「今だ!」

『HUMMER STRIKE!』

「もっとぉっ──────飛んでけぇ!」

 俺は精一杯腕を振り、ハンマーを投擲した。ハンマーは縦回転をかけながら缶に命中!見事缶はジャマーエリアを破壊しながら遥か彼方へと飛んでいった。やったぞ!ラスボスも悔しそうに消えてゆく。缶を失ってもすぐに消えるわけじゃないのか。まぁとにかく。

「作戦勝ち…」

 変身を解いて余韻に浸っていると、吾妻道長が腕を抑えながら出てきた。ギーツの蹴りに巻き込まれてたのによく無事だったな。

「最初に蹴った俺の勝ちだ!」

「いや、蹴ってないだろ。それに、ゲーム終了のアナウンスがまだだ」

 英寿が一蹴する。てことは、まだゲームは続いているのか?おい……缶を蹴ればあいつを枯らせるんじゃなかったのかよ…

「ラスボス…しぶとすぎだろ…」

 今にもいざこざが起きそうな俺たちの背後で、景和は黄色い柵にもたれ掛かっていた。全身傷だらけ、煤まみれの彼だが、何故か今は輝いて見えた。これが、狡い手に頼らない、自らの手で平和を掴み取るヒーローの姿か。ラスボスの魔の手から開放された桜井沙羅が、すぐに景和を介抱する。

「景和っ!大丈夫!?」

「……無事で良かった…」

 桜井沙羅は、必死に泣きそうな自分を抑え、景和に微笑む。

「なれてるじゃん!凄い大人に!」

 景和は、その言葉を嬉しそうに受け取ると、ポケットから折り紙で作られた手裏剣を手に持ち、姉に笑いかけるのだった。まるで、子供が百点のテストを親に見せるかのような、満面の笑みで。そのやり取りに、姉弟は安堵からか、一際顔を緩ませて笑うのだった。

「桜井景和様!これ以上の参戦は大変危険ですので、ここで脱落となります!」

 姉弟の穏やかな空気を現実に戻すかの如く、立体駐車場の上からツムリが見下ろしていた。

「脱落なら…元の生活に戻れるんですよね?」

「はい!」

 ツムリは、景和の問に快活に答える。その態度は、景和にラスボスとの戦いを忠告していた表情とは変わり、元の貼り付けたかのような笑顔だ。これは英雄に対する称賛か、それとも不必要な者を切り捨てる哀れみの笑顔か。本意が伺い知れない。

「良かったぁ…姉ちゃんを一人にするわけには行かないんだよ」

 景和は安心したようだが、俺はスマホの中の、生気が尽きたかの様な鞍馬祢音の顔を思い出していた。ここで景和が脱落なら、景和は世界平和を願う心を失う事になる。それは、彼の人格形成に大きく関わる願いだ。もし消えてしまったら、その人生は姉との平和な元の生活と言えるのだろうか。俺は苦虫を噛み潰したような思いで、景和を目に焼き付ける。本当のコイツとは、ここで永遠の別れだ。

「これ、君に返すよ…おかげで、姉ちゃんを救えた…!」

 景和は痛みに耐えながら、ニンジャバックルを英寿に差し出す。

「お前自身の心が、奇跡を起こしたんだ」

 バックルを受け取った英寿は景和にねぎらいの言葉をかけた。

「英寿君がそんなこと言うの、珍しいね…また化かしてる?」

「あぁ、そうかもな」

 英寿の顔が少し綻ぶ。いよいよ、最後の時が近づいてきた。景和のドライバーのIDコアが消え、体に青いノイズがかかる。

「姉ちゃんひとり救うだけでこれだもんな…世界の平和を守るってのは、簡単じゃないな…」

『RETIRE』

 景和は、ドライバーを残して完全に消えた。

 さようなら、桜井景和・仮面ライダータイクーン。もし人類滅亡の願いが叶ったのならば…また会おう。

 

           DGPルール

 

      負傷や病など、緊急の理由によって

 

        参戦不可能になった場合

 

           脱落となる。

 

    ただし、本人が希望した場合は、続行可能。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「心配だったんだ、今まで」

─ラスボス最終戦!─

「今から緊急ミッションに挑んでもらう」

「これが最終戦にやることかよ!」

─デザ神の座は誰の手に─

「何が理想なのか。やっとわかったんだ」

「こんな世界は…一発KOだ!」

6話 邂逅F?:Wake up!理想の世界


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6話 邂逅F?:Wake up!理想の世界

 

 ついにタイクーンまでもが脱落し、残り三人となったデザイアグランプリ最終戦、缶けりゲーム。このゲームに勝てさえすれば、理想の世界を叶えられる……はずだったのだが。

「どうなってる?缶はエリア外まで飛んだ。ゲームは終わるはずだろ?」

「本来なら、ラスボスが枯れて倒せるはずなのですが…私たちも想定外です」

 なんとラスボスジャマトが、正規の攻略方法を突破してきたのだ。缶をデザイアエリア外まで飛ばした後、ラスボスジャマトは逃亡して消息が不明となった。まいったな、このまま潜伏され続けられれば撃破は困難を極める。それでも、英寿と吾妻道長は至って冷静だ。

「ラスボスが生きてるってことか」

「ああ。それ以外考えられない」

 俺が次の作戦を練っていると、警告音と共にデザイアエリア内の地図が表示される。今まで徐々に広がっていたデザイアエリアは、ここに来て一気に広がり、都心部を全て覆わんとしていた。

「ジャマーエリアが、拡大している…?」

 ツムリがそう呟くと、別の映像が表れる。田舎風景の川原。そこもジャマーエリアが通過し、ジャマトのフィールドへと変わる。川の中央に、俺が飛ばした缶が刺さっていた。まさか、缶のあるところまでジャマーエリアを広げたのか…?そんなのありかよ…

 すると、缶は緑色の巨大な手に拾われた。ラスボスだ。ラスボスは缶を持ち上げると、なんとそれを飲み込んだのである。何てことしてくれたんだ。

「缶ごと飲んでしまいました…!」

「ふざけんなよ…!あれじゃ蹴るどころの話じゃないだろ…!」

 何とか缶を飛ばす方法を模索していのに、これじゃ全部お釈迦だ。

「話が違うぞ…どうなってる!」

「ジャマトってのは進化する生き物だ。こっちもそれに対応するしかない」

 だからって缶を飲むのが進化なのかよ…

「その通り」

「ゲームマスター!」

 ボイスチェンジャーを使っているのか、低い機械的な声に振り返る。ゲームマスターとツムリに呼ばれた男は、全身白いスーツに黒いフードを被り、顎の部位が赤い骸骨の仮面を被っている。

「ゲームマスター…?お前が?」

「元締めのお出ましとは、よほどの緊急事態らしいな」

 ゲームマスターは英寿の軽口を無視すると、俺たちの間を通り抜ける。

「仮面ライダー諸君。今から緊急ミッションに挑んでもらう」

「何をやらせる気だ?」

「缶の破壊だ。そのために、攻略のキーアイテムを育ててもらう」

 キーアイテムを…育てる?ゲームマスターが俺たちに提示したのは、テーブルの上、まるでこの中から好きなのを一つ選べ。と言わんばかりに三つ並べて置かれた、卵だった。大きさはダチョウの卵程だが、黒いマーブル模様が走っている。言葉を選ぶなら、恐竜の卵か。

「ふざけるな…これが最終戦にやることかよ!」

 吾妻道長はラスボスの攻略が難化した事で苛ついていたのか、ゲームマスターに食いかかる。確かに、ここに来て卵の育成とは…肩透かしもいいところだ。それでも、英寿は自信満々である。

「やってやるよ。どんなゲームだろうと勝ち抜けたやつが、デザ神になる」

 英寿は、真ん中の卵を選んだようだ。

 今、真の最終戦の火蓋が切って落とされる。

 

             *

 

 ジャマトというのは性懲りもない。現れれば人を襲い、大人子供関係なし。それも大量生産だからたちが悪い。今日も今日とてジャマトは人を襲っている。

『卵は上手に育てれば、ラスボスを倒すアイテムになるかもしれません。ジャマトに割られないよう注意しつつ、防衛に当たってください』

「簡単に言うよな…」

 こっちだって、元々足をかばいながら戦ってんのに、卵も守らなきゃいけないとか、ハードル高すぎ。

「何でこんなことしなきゃいけないんだ…」

「じゃあ辞めれば?後は俺と英寿で一騎打ちするから、勝手にしろよ」

「誰が!」

 吾妻道長の怒りはマックスだ。その見境の無さはジャマトに匹敵するな。俺は左肩からタスキのようにかけた紐に、くるむように卵を入れる。ここからどんなアイテムが飛び出すかは知らんが、それで勝てるならやるしかない。

『SET』

「変身!」「変身!」「変身」

『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』

『ZOMBIE!』『NINJA!』

『Ready?Fight!』

 もはや恒例とまでなった組み合わせの変身を終えた俺たちは、町に蔓延るジャマトを退けながら、眼前のラスボスを見上げる。もう顔を上げて首が痛くなるくらいデカくなったラスボス。あそこのどこかに缶が……

「って、やばっ!」

 辺りのジャマトは明らかに卵狙いだ。俺は背中でブロックするようにジャマトの攻撃を避け、的確にクローを振るう。いつもみたいに大ぶりの攻撃をすると、自分で自分の卵を破壊するはめになってしまう。攻撃には最新の注意を図らないと…

「卵を育てるったって…!」

 プラスチックのテーブルを蹴り上げて盾にし、ハンマーで底面を押し込んで前方のジャマトを転ばせる。

「温めりゃいいのか?」

 んな鳥じゃあるまいし。他の二人はどうしているのだろうと横目に見ると、

「こんなんほっときゃ勝手に育つだろ…!」

 あぁ、バッファは完全にだめだ。卵をその辺に置いてジャマトをぶちのめしている。自分の子供にもああするつもりなのか。とんだ放任主義である。そしてギーツは。

「見ろ、俺たちが倒すべきラスボスだ。お前の使命を感じるんだ。この世界の運命は、お前の成長にかかってる」

 卵に使命を悟らせていた。

「何あれ、超英才教育じゃん」

「知るか!」

 ギーツは卵を空中に放ると、五体ほどに分身し、内三体ほどはラスボスの体表に貼り付く。そして、ニンジャデュアラーで突くと、一瞬だけラスボスの体が透けて、缶がはっきりと目視できた。等の缶は、ラスボスの喉元に留まっている。

『TACTICAL SLASH!』

 そして残りの分身が他のジャマトを倒し、分身は一つに戻った。

「お〜とっとっとっと!」

『SECRET MISSION CLEAR』

 ギーツは危なっかしく缶をキャッチ。同時に、シークレットミッション達成のアナウンスが流れた。差詰、内容は『缶を発見する』か。ニンジャバックル持ち以外にはクリアできるのか?そのミッション。ギーツのスパイダーフォンが蜘蛛型に変形し、プレゼントボックスを運んでくる。中身はバーストバックル。くそっ、ギーツがまた一歩リードか。やっぱり最終戦までに大型バックルを揃えてないと厳しいな…

「って、ラスボスいないし…!」

 気付かぬ間に、ラスボスはもう移動していた。逃げてんのか、何なんだか。

 

 

 とりあえず俺は、卵を温めることにした。

 サロンにあった毛布でまんべんなく包み、辺りを貼るホッカイロで固める。これでもう完璧か?卵は育てた経験が無いからよくわからないが……とりあえず毛布の中で卵が茹で上がらない限りは大丈夫だ。

「こんなんで育ってんのかよ?」

 卵をまじまじと見つめながらぼやく吾妻道長を尻目に、俺はギロリが入れてくれたグリーンティーを口にする。普通に洋風なカップで来るのかと思ったら、普通に湯呑で最初はびっくりした。まさかただ緑茶を横文字にしただけだったとは。店に行ったらつい普段は口に出来ないものを頼んでしまい失敗する、悪い癖だ。

 俺が緑茶に備え付けられた羊羹に舌鼓を打っていると、途端に膝の上に置いていた灼熱の塊の中央から何やら音がした。耳を当てて聞いてみると、ピシ、ピシと聞こえる。孵化が始まっている…?ようやっと来たか!俺の大型バックル!

「さて、何が出てくるでしょうか」

 ギロリの言葉に、期待が高まる。ガチガチに固められた毛布を剥がしていくと、中の卵が勢い良く割れ、中からバックルが飛び出した──────────灰色に四つの羽根がついた、またしても小型バックルである。俺は真顔になりながらバックルを手にすると、ギロリが説明してくれた。

「プロペラバックルのようですね。空を飛んで、缶のところまで行けるかも…」

 大型バックル狙いだった俺からすれば、少々残念だが……確かに空を飛べるのはかなりのアドバンテージだ。これでただ邪魔なだけの通常ジャマトとの戦いをパスできる。缶の位置は既にギーツが割り出した。ハンマーバックルも当てようによっては缶を破壊できるかもしれない。今ラスボスジャマトが出れば、俺の勝ちは近いぞ。

「おい、早く割れろ!」

「あぁ…乱暴はいけませんよ」

「どう育てようが俺の勝手だろ、おい!」

 俺のプロペラバックルを見て焦りを覚えたのか、吾妻道長は卵を机の角でコンコンし始めた。休日に卵かけご飯作ってるみたいだな。と、卵も急かされてうんざりしたのか、ヒビが入って独りでに割れた。

「うおっ!」

 飛び出て空を切ったバックルは、クッションの上に着地する。はい、小型バックル。今度は茶色に、尖った三角形が付いたバックルだ。

「これは…」

「ドリルバックルですね。缶の破壊に役立つかもしれませんね」

 もしかしてこの卵、小型バックルしか出てこない仕様なのか?

 

 

 散らばった卵の殻をギロリが片付けている。

「これでラスボス倒せんのかよ…」

「ゾンビと組み合わせれば、可能性はあるかもな」

 カウンター席でいつものポジションに座っている英寿は、紅茶が入ったティーカップをスプーンでかきまわす。また大量に砂糖でも入れたのだろうか。ゾンビと組み合わせればって…大型バックルの無い俺はどうしろというのだ。

「何だ、その余裕。お前の卵はうんともすんとも言ってないぞ」

「俺のは大器晩成だからな。寝る子は育つってか?」

 英寿は手の中で卵を弄んでいたが、危うく落としそうになって口パクで「あぶね〜」と呟いていた。相変わらずの態度だな。

「何だそれ……卵も孵ってないのに勝ったつもりかよ」

「…悪いことは言わない。ラスボスは俺に任せとけ」

 始まったぞ。英寿の化かしが。それも意に介さず、吾妻道長は鼻で笑う。

「誰が?」

「もし、ゲームで命を落とせば、この世界から退場だ。ジャマトにやられたら、元の世界には戻れない…でも、ここにいれば助かる。タイクーンみたいに、元の世界に戻れる。こんな悲劇は、忘れるに限る」

 元からない堪忍袋の緒が切れた吾妻道長は、一気に距離を詰めて英寿の胸ぐらを掴む。

「ふざけんな!俺は!お前には絶対に負けない!」

「勇気と無謀は違う」

「…勝つのは俺だ…!」

 吾妻道長は英寿を突き放す。あくまでコイツはゲームを下りる気は無いらしい。

「……俺だって戦う。勝ちは譲らない…!」

 ここまで来たんだ。俺の理想の世界は絶対に叶える…!

「どうしてもやる気か?他人の不幸のために」

 それは俺の人類滅亡の願いか、吾妻道長のライダーを倒す力の願いか。恐らくどっちもだろう。そんなクズみたいな願いを掲げる俺らを、英寿は庇おうとしている。成長するラスボスジャマトに、俺たちは敵わないと判断したのか。こんな時に、くだらない優しさ見せやがって。

「俺が何のために戦うのか。何が理想なのか。わかったんだ。こんなところで諦めていられない。今辞めたら、意味が無い」

 俺はサロンを出ると、デザイアドライバーを外し、ジャマーエリア内の自分の町へと戻った。

 

             *

 

 冬が近いからか、夜風が冷たい。俺は何故か、学校の屋上に戻っていた。

 何となく家に帰る気にもなれず、気づけば学校のここに足を運んでいた。景和のように、家族に気を配る必要はない。両親は学園祭が始まる前から揃って出張に────というありがちな理由なのもあるが、そもそも両親と俺が不仲だからである。当然の仕打ちだ。怪我のリハビリの時に、随分と迷惑をかけた。見捨てられないほうが不自然である。

 三時間前には、タイクーンがここで一世一代の勝負を繰り広げていたのだが、今は静けさを取り戻している。学校の人間の大半は、ラスボスの養分にされてしまった。ただ常人には楽しかったはずの学園祭は、謎の生き物に壊され、踏みにじられ。悔しかっただろうか、いや、恐怖でそれすら感じる暇も無かったかも。

 俺はフェンスに寄りかかると、またプルタブを眺める。ボランティア部、か。人のため、なんて考えたこともなかった。ここでこのプルタブを捨てれば、きっぱりと悩みから開放されるかもしれない。空き缶のゴミ箱に向かって、プルタブを投げようと構える。が、やはりその手は止まった。

 何考えてんだ。俺が理想の世界を叶えれば、ボランティア部に入る事なんてないのに。

「無事だったんですね、先輩」

 屋上の扉を開けて、聞き馴染みのある声の持ち主が現れた。日中に助けた、芹澤朋希だ。まだ学校にいたのか。

「………話すのはいつぶりだ?」

 俺は選手、あいつはマネージャー。そもそも会話をした記憶がほとんど無い。俺を先輩呼ばわりするのも、初めて聞いたくらいだ。

「僕も遠く昔の事だから忘れました───────」

 芹澤朋希は俺の横に座る。ジャマーエリアに囲まれて、家に帰れなくなったのだろうか。だとしたらえらい遠い所に住んでるな…

「あの…僕を図書室で守ったパンダさんって、先輩ですよね?」

 俺は不意の見透かされた発言に、二、三歩後退する。気づいてやがったのか。芹澤朋希は、目線を合わせ、淀みなく問いかけた。

「先輩って…なんで戦ってるんですか…?」

 なんでって……デザグラの情報をみだりに公開するのは禁止されている。もちろん、芹澤朋希も例外じゃない。願いを叶えるゲームに参加してるだなんて行ったら脱落だ…いや、一つ言える事がある。少しくらい、こいつに悩みを相談してもいいかもしれない。

「………人類滅亡のためだよ」

「人類滅亡…?じゃあ、なんで僕を守ってくれたんですか?」

 芹澤朋希は、眼鏡の裏で目を丸くする。そりゃ、驚くのも訳ないだろう。だけど、コイツは俺の人類滅亡の願いを速攻で鼻にかけなかった。驚かないのか、学校の先輩が厨二病と言えないくもない願いを掲げてて…

「……俺は、人類滅亡を達成したら、また一からスタートすればいいって思ってる」

 芹澤朋希は俺の話を黙って聞いていた。

「人が傷付いたり、悲しんだり、それって終わりがないんだ。だったら一度全部終わらせて、悲しみのない世界をまた作れればいい」

 だからこその人類滅亡。最初は自暴自棄になって書いた願いだが、桜井姉弟との対話を得て、俺の心は少し前向きになっていた。デザイアカードに書いた願いは変えられない。だからこそ今は、"前向きな人類滅亡"を望むしかないのだ。デザグラは何度でも開催されるゲーム。何かまた別の願いを叶えるタイミングが来るかもしれない。希望的観測だが。

 ちょっと言い過ぎたかな…?俺は恐る恐る芹澤朋希の方を見ると、彼はなぜか憑き物が落ちたかの様な表情をしていた。

「どしたの?まぁ、信じないか…人類滅亡とか」

「いや、そうじゃなくて。ちょっと嬉しかったんです。バスケ部での先輩、すごい苦しそうだったから。今は前向きに生きてくれてて、良かったっていうか……」

 そうか、お前は俺の願いを否定しないのか…

「なんか、ありがとう。決心ついたよ。じゃあな…」

 俺は一人、屋上を去った。明日の朝、必ずラスボスジャマトは現れる。勝負だ仮面ライダーども。願いを叶えるのは、勝つのは、俺だ…!

 

             ※

 

「いいの?あんなに聞いちゃって…?」

 僕の後輩が、扉の影から顔を覗かせる。

「いいんですよ。心配だったんだ、今まで。"昔の先輩"とは大分変わっちゃったから…」

 

             *

 

 明け方。俺はラスボスの前に佇んていた。少し遅れて、吾妻道長もやってくる。ついに出現したラスボスは、いつにも増して大勢のジャマトを従え、いよいよ仮面ライダーを潰すために本気を出してきたって感じだ。が、来たのは俺と吾妻道長だけ。英寿は一向に来ない。

「おい、英寿は…?」

「…さあな。卵が割れなくて困ってるんじゃないか?」

「大器晩成型らしいけど?」

「どちらにせよ好都合だ、その隙に終わらせてやる」

 ジャマトの群れが、じりじりと迫る。ラスボスもこっちに気づいた。いよいよ来る、デザ神決定の瞬間が。

 …プロペラバックル。正直ハズレ枠だと思ってたが、前言撤回するよ。このゲームの、攻略方法は見えた。

『SET』

「変身!」「変身!」

 俺はバックルのプロペラを回し、仮面ライダーダパーンに姿を変えた。

『ARMED PROPELLER!』

『DUAL ON!ZOMBIE!ARMED DRILL!』

『Ready?Fight!』

 俺とバッファは同時にジャマト向けて走り出す。

 跳び出してきたジャマトを、バットの要領で振りかざしたプロペラで撃退すると、前の二体をプロペラの両端で抑え込み、そのまま後方へ投げ返す。へぇ、結構使い勝手いいじゃん、これ。

 前に進みながら、プロペラの鋭利な羽根でジャマトを斬り落としていく。だが、今回のジャマトはとてつもなく数が多い。一斉に俺に跳びかかってくる。

「そう、簡単に…負けるかよ!」

 俺はプロペラを回転させ、前方に向かって一気に飛翔する。回る羽に巻き込まれて、かなりの数のジャマトが倒れた。そして、空中を飛んでいると、ラスボスがいつも通り棘を放ってくる。プロペラの飛行性能なら、ジャマトは俺を捉えられない。棘を避けつつ、チャンスを待つ。地面ではドリルで突進しながらバッファがジャマトを相手している。俺が避けた棘は地面へと降り注ぎ、ジャマトが巻き添えとなった。

 遠くから、赤いバイクが走ってくるのが見える。ギーツのブーストライカーだ。だが、腰に抱えた卵がまだ孵っている様子はない。ついに英寿の不敗も終わりか。俺はデザイアドライバーのスロットに、もう一個の小型バックルを差す。

『SET 』

『DUAL ON!ARMED PROPELLER!ARMED CLAW!』

 左手にクローを装備すると、ラスボスの大振りの叩きつけを飛び回りながら避け、ラスボスの拳はビルの壁に叩きつけられる。そして、俺はラスボスの手の甲に、クローを深々と突き刺した。この攻撃は、ラスボスにあまり効いていない。装甲が硬いからか、蚊に刺された程度の痛みだろう。でも、今はそれでいい。

 再び飛行を開始して刺さったままのクローから手を離すと、どこからともなくもう一本のクローが補充される。俺は同様にラスボスの攻撃を避けながら、反対の手にまたクローを刺した。これで準備は整った。同時にバッファも、ゾンビとドリルの突破力を持って、地上のジャマトを捻り潰していた。バッファは必殺技を発動。ゾンビの能力で生成した毒の手腕が足場となり、ドリルを振りかざしながら上昇してくる。

 チャンスは一度切り。この一撃に全てを賭ける!

 俺はプロペラを前方に向け、ラスボスに接近する。その間、ラスボスは防御をしようと腕を振るう。

 そのタイミングで俺は用意していたもう一つの必殺技を発動する。

『CLAW STRIKE!』

 ラスボスの手の甲に刺さっていたクローが、必殺技の発動に伴って斬れ味が増し、独りでに動いてラスボスの手をえぐる。その攻撃でラスボスは一瞬怯んだ。たとえ小さな攻撃でも、使い方次第で、強敵を討つ一手になる。缶への道は開いた…!

「「勝つのは…俺だぁぁあ!」」

『PROPELLER STRIKE!』

『ZOMBIE!DRILL!VICTORY!』

 必殺技の発動により、プロペラの回転速度が更に上昇する。俺たちの攻撃は、ラスボスの腕をすり抜け、缶が埋まっている喉元に到達した。プロペラの斬撃に、ドリルの破壊力。いいぞ…!缶を破壊できる…!

 と、思ったのも束の間。何かが弾け、俺たちはビルの壁に叩きつけられた。そのまま地面に落ち、ビルの外壁が降り注ぐ。

「どうなってやがる…」

「逆流したんだよ…缶のエネルギーが俺たちに…!」

 缶を破壊するよりも前に、人の生命エネルギーを秘めた液体が弾け、俺たちの攻撃は跳ね返されたのだ。衝撃で動けない俺たちに、ジャマトの群れが再び迫る。怪我した左脚が瓦礫に埋もれ、身動きが取れない。どこまでも、湧いて出てくるゴミ共が…!

 不意に、颯爽とブーストライカーが現れ、ジャマトの群れを撃退した。ギーツのやつ、卵も孵ってないのに来やがって…!

「これ以上は辞めておけ!後は俺の卵が孵るまで…」

「うるせぇ!」

 バッファが、ギーツの警告を一蹴する。

「ゾンビってのは…死にかけてからが…本盤なんだよ…!」

『REVOLVE ON』

 バッファは上半身にゾンビの鎧を切り替えると、ゾンビブレイカーを杖に立ち上がる。節々から火花が走り、特徴的な角が折れている。

「何度やられようが、俺は戦う…!たとえ死んでも…俺は生きる!」

 馬鹿が、生死は根性でどうにかなる問題じゃないんだぞ…!ラスボスが仕留めんと棘を発射し、ギーツは回避できたが、バッファはそれをもろに受ける。その攻撃で、折角育成して手に入れたドリルバックルは破壊されてしまった。

「勇気とか…無謀とか…どうでもいい…!俺は負けない…!それだけだ!」

 ゾンビブレイカーを握り締め、それをラスボスに向ける。その生き様を目にしたギーツは、納得したように頷いた。

「そうだな…それだけだ!」

 ラスボスは棘を密集させて、枝分かれした大剣を作ると、バッファ向けて振り下ろす。

 そこに、ギーツが割って入った。まだ割れない、卵を手にして。

「起きろ、ねぼすけ。俺はもう、目覚めたぜ」

 ラスボスの大剣による一撃を、なんと卵で受け止めた。最初は正気かと思ったが、すぐに心は変わった。卵に、黄色いビビが入り始めたのだ。

 まばゆい光とともに、ラスボスが押し返される。辺りに卵の殻が散らばり、中から現れたのは……黄色い怪物の大型バックルだった。ギーツは息を呑むと、ブーストとバックルを付け替える。

『SET』

「ここからが、ハイライトだ…!」

 ギーツがバックルの頭を叩くと、怪物が目を覚ます。そして、黄色と青のアメリカンな見た目をした鎧が、ギーツに纏わされる。

『MONSTER!』『Ready?Fight!』

 モンスター…!これがラスボスを打ち砕くための、力。ギーツは必殺技を発動すると、グローブに囲われた右拳を構える。

「こんな世界は…一発KOだ!」

『MONSTER STRIKE!』

 ギーツの右拳に、星型のエネルギーが集結し、エネルギーに満ちた拳は黄色に光を放ちながら大きくなる。

 そして、それを一気に振り抜いて開放すると、拳は更に巨大化。命中した拳は、ラスボスの喉元に仕込まれた缶を破壊。その上でラスボスを空中まで運び、木っ端微塵に粉砕した。

『MISSION CLEAR』

 ミッションコンプリート…デザ神、降臨。

「おやすみ…モンスター」

 ギーツは変身を解くと、モンスターバックルを撫でる。俺も何とか瓦礫から抜け出して、変身を解いた。脚に別状なし…もうリハビリ生活はゴメンだ…

「なぜ俺を助けた…!」

 吾妻道長は座り込んだまま悔しそうに瓦礫を叩く。

「英才教育。負けない気持ちってやつを教えてもらったのさ、先生」

 英寿の軽い言い回しに、吾妻道長はまた掴みかかった。ラスボスにボコボコにされてたのに、タフネスな奴だ。

「お前!」

「…負けなければ、いつか勝てる日が来る。何時でも相手になってやるよ」

 それに対し、吾妻道長は恨み節を返す。だが、その顔は少し笑っているように見えた。

「どこまでも気に食わないやつだ…ギーツ…」

『RETIRE』

 IDコアが消え、同時に彼の体も消えてゆく。ドライバーだけが無慈悲に地面を跳ねる。次は、俺の番だ。

「…負け、か。まぁ、他人を蹴落とそうとしたわりには、持ったほうなんじゃないか?」

 俺は俯いたまま自虐を投げる。勝つために、色々策を巡らせてきた。最初は鞍馬祢音を道連れに、なんて考えてたのに、最終的には正々堂々と戦っていた。何故だろうか?景和に絆されたのか?それもあるだろう。だけど、俺は純粋に…

「願いを叶えたい。その真っ直ぐな心を忘れんな」

 英寿は、俺の肩に手を乗せる。英寿の目には、俺への労いの思いだけでなく、少し寂しさも混じっているような視線に思えた。こんな奴と会えなくなって、寂しくなるんじゃねぇよ、英寿。

「それ、忘れるってわかってる奴に言うかね…まぁ、お前の望む世界も。俺が人類滅亡を願わない世界も。少しは………」

 

「楽しみだなぁ………」

 

『RETIRE』

 視界が、青いノイズに包まる。

 薄れゆく意識の中で、遠くから鐘の音が聞こえた……

 

             *

 

 大盛り上がりの学園祭。その中で、陰気臭い空気に包まれた教室があった。社会科準備室、図書室以上に紙に支配された狭いこの教室こそ、ボランティア部の活動拠点である。

 その開かれざる門を、叩く者が一人……

 

             *

 

 デザイアグランプリの参加者の選考は、厳正なる審査によって行われる。一口にそう言っても、実際のところはただの人気投票だ。最終戦まで残った有望株は、再選の可能性が高い。

「はい。これが、次の参加者のリストだよ」

 薄暗い"IDコア管理室"の中で、受け取ったタブレットに表示されたリストに目を通す。どれどれ…?

「浮世英寿、吾妻道長…意外だな、桜井景和も出るもんだと思っていたけど………げ。墨田奏斗も再参戦?」

 彼を選ぶなんて、物好きな人もいるもんだ。もう彼には戦ってほしくないのに…

「しょうが無いか……貴方にも追加エントリーの声がかかるかもしれません。準備は怠らずにお願いします。"鞍馬祢音"さん」

 

           DGPルール

 

    デザ神が願いを叶えると世界が作り変えられ、

 

       人々の記憶はリセットされる。

 

       こうして、新しい物語へ続く。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「ようこそ!デザイアグランプリへ!」

─新しいゲームの始まり─

「あんたのバックルなんか小さくなぃ?」

「昔はやんちゃだったからねぇ〜」

「デザイア〜ッ!」

─新ライダー参戦!─

「さぁ、必殺のメロディー!いっくよ〜!」

7話 変心Ⅰ:新世界のブラスト


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変心編
7話 変心Ⅰ:新世界のブラスト


 

 人生ってのは、不公平だ。

 俺はかつて、努力をする幸運を与えられた。まだ小さい時から、幸運にも没頭できる物を見つけた俺は、それに人生を注いできた。だが、その日々は長くは続かなかった。交通事故という不幸により、選手生命を絶たれた俺は廃れ、人生を駄目にした。

 それでも、未来に希望はある。

「恵まれない保護動物のために、募金お願いしまーす!」

 俺は、ボランティア部に勧誘されるという幸運を掴んだ。兼ねてより、現役を引退した後は、ボランティア部として残りの高校生活を過ごすのも悪くないと思っていたが、うちの学校のボランティア部は部長の勧誘が無いと入れないらしい。だが部長の広実須井は、俺を勧誘した。なんというラッキー。

 ボランティアとはいいものだ。他人の幸福というのは、自身を幸せにできる。誰かに「ありがとう」と言われる度に、むしろこっちがありがとうと思うくらいだ。

 俺は"ボランティア部"と刻まれた黄緑の法被に制服の上から袖を通し、募金箱を掲げながら、全力込めて声を出す。

「や、やぁ。墨田奏斗、君。精が出るね…」

「部長…三十分遅刻。はい、これ着る!」

「あ、あぁ…」

 やっと現場に到着した広実須井部長に、ボランティアの法被を渡す。またこれだ。部長は遅刻が多い。勧誘されたときには、聡明な印象を受けたのだが…思ったよりも自堕落な人間らしい。

 というか、ボランティアの部員のうち四分の三がそうだった。部長は元より……

 

             *

 

 学園祭の最終日、墨田奏斗はボランティア部の部室である、三階社会科準備室を訪れていた。

「ほら、皆。やっぱり来ただろう、彼が墨田奏斗だ」

 部長が俺を指差すと、残りの三人が射るような視線を向ける。男子が二人、女子が一人。噂通り、曲者揃いという言い方が正しそうだ。これから俺もその一員となるのだが。一番奥、使われていない教員用の机に座った部長は、両腕を広げ大袈裟に話し始めた。

「じゃあ早速、君はボランティア部に入って何をしたい?」

 これも何かの試験なのだろうか?いや、無駄に気張るのはやめよう。俺はただ、本音を伝えるだけだ。

「俺は、ボランティア部に入ったら……困っている人への手助けがしたいです」

 俺の解答を聞いた部長は、突然背中から地面に落ちた。何だ?ボランティアってのはそういう無償の救済をするもんだろ?

 転げ落ちた部長に部員が手を貸す。すると、俺を省いて部室の角でコソコソと話し始めた。俺は立ち尽くしたまま聞き耳を立てる。なに………こんなはずじゃなかった…………思ってたんと違う…?俺を勧誘したのは部長なのに、どういうつもりなんだ?

「あの!俺、変ですかね!?」

 不意に出した大声に、ボランティア部の四人は肩を強張らせて振り返る。もしかしたら入る部活を間違えたのかもしれない。出口へと足を向けると、俺の肩を誰かが掴んだ。部長だろうか、軽く目をやると、それはボランティア部唯一の女子の部員だった。

「いや、全然問題無いよ。入部大歓迎。仲間が増えたね」

 その部員からは、広実須井部長とは違ったタイプの"真面目さ"を覚える。広実須井部長からは、社会の理想をそのまま写したかのようなきっちりとした立ち振る舞いのイメージだが、この女子部員からは、落ち着いた見た目ながらも自分の我を通した、自由なイメージを感じる。深色の茶髪のロングヘアーを揺らしながら、女子部員は微笑んだ。

「私は二年の新井紅深(あらいこうみ)。これからよろしくね、墨田奏斗君」

 同学年の新井紅深の声は、少し棒読みに聞こえる。

 

 

 他にも部員はいる。だがお世辞にも活動態度は真面目と言えない。彼らも広実須井部長へと推薦されたから入ったのだろうが、何故部活にい続けてるのか、理解ができない。

 それに、広実須井は三年生だ。進路活動に余裕があるからボランティア部を続けているらしいが、彼が卒業したらどうなる。ボランティア部は崩壊だ。

「全く…手伝ってくれるのは新井だけですよ」

 少し離れた木々の通りで、新井紅深は募金の協力を呼びかける旗を振っていた。新井紅深を一瞥した広実須井は、やれやれと言うように頭を振る。この仕事だって、俺が市に問い合わせて見つけたものだ。個人で行える活動の他にも、ボランティア部として実績を残したい。その思いとは裏腹に、ボランティア部の活動は怠惰そのものだった。

「まぁ、最近ボランティアの活動も停滞気味だったしね。本職に戻るとしようかな…!」

 広実須井部長は、派手にボランティア部の法被を羽織ると、新井紅深とは反対方向に駆け出した。俺の持っていた募金箱をかっ攫って。彼がボランティア部を設立した理由は、てっきり退学寸前の生徒たちの受け皿になるために作ったものだと思っていた。それは少し違うみたいだと、新井紅深を見て思う。彼女が人間的問題を抱えているとは思えないし、これといった人間的特徴もない。強いて言うなら、話し方に抑揚があまり無いところだろうか?最初に会った時に感じた、自由な印象は何だったのだろう。

「おーい。奏斗君」

 募金箱を失ってやることが無くなった俺の元に、新井紅深が小走りで近づいてくる。

「どうしたの?」

「奏斗君にお客さんだって。凄いね、スターとお友達なんだ」

 感情の起伏が薄い声で、新井紅深が背後を振り向かずに指差す。スター様……って……新井紅深の指す先には、紺色のモダンなスーツを身にまとった、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズである、浮世英寿がそこにいた…!胸元に目立つ赤い薔薇をキザに持ちながら、浮世英寿は俺に歩み寄ってくる。

「綺麗な花ほど棘がある………サインやろうか?」

「え………まじで?」

 感激する俺に対し、新井紅深は首を傾げて去ってゆく。どうやら彼女はこの奇跡を理解していないらしい。スター、浮世英寿。彗星の如くこの世に現れた彼は、先ずは役者関連の全日本スターアカデミー賞 新人賞を始めとしたあらゆる賞を総なめ。モデルにおいての活躍も凄まじく、男性部門の賞も総なめ。出版した自伝も爆売れしこれまた賞を総なめ。ついでに数々の賞を総なめし、日本のメディアの頂点に君臨する男。それが浮世英寿なのである。普段なら、こんな辺境の地にスターが来るなんてありえない。なんということだ…!

「またやってるんですか!いい加減にしてください!」

 薔薇を差し出す浮世英寿を、白と黒二色で仕立て上げられた服を着た女性が跳ね除けた。ポニーテールに、白いレースのカチューシャ。彼女も俳優なのだろうか?整った顔立ちをしている。それに、手の内の黄色い箱は何だ…?謎の女性は咳払いをして調子を整えると、手元の箱をスライドさせて開く。

「おめでとうございます!厳正なる審査の結果…あなたは選ばれました」

 ビックリマークが刻まれた蓋が除けられると、中に納められていた物が露わになる。一つは二つのレールに、中央に何かを入れるであろう穴が空いているバックル。そしてもう一つは、白を基調に、黒でマークが描かれた筒状のアイテムであった。書かれているのは、パンダ?俺はそっと指先でアイテムに触れる……

 

(どうせもう終わりなんだよ…!)

 

(これからも景和を、信じてあげて)

 

(……俺だって戦う。勝ちは譲らない…!)

 

(こんな世界は…一発KOだ!)

 

 思い出した………過去の、俺の記憶。世界を憎み、誰彼構わず八つ当たりする、醜い人間の記憶だ。そうだ、今までずっと忘れていた。

 英寿の英才教育の賜物で、缶けりゲームは終了。そのままギーツがデザ神となり、英寿の理想の世界は叶えられた。敗北した俺は、デザイアカードに書いた願いを忘れ……いやありえないだろ…!何だあの真人間は…!

 人類滅亡の願いを忘れた俺は、人類の平和と自由を願う、当に桜井景和のような人間になってしまっていた。ボランティア部の誘いを蹴ろうと画策していたのに、これじゃ頓挫だ。そりゃあ、部長達も戸惑うはずだ。友達のいない、捻くれた男を勧誘したはずが、来たのはボランティア部の法被を自作するような男だったのだから。

「……まじで最悪…!」

 終いには英寿は俺の法被にサインを刻んでいた。俺の周りをどんよりとした空気が包む。誰だよ…俺をデザイアグランプリに再参加させたやつは……とんだハズレくじだ。願いを叶えられるチャンスが巡ってきたのはいいが、こんなんだったら思い出さないほうがマシだった。これからは、真人間の頃の俺を枷にして生きていかなければならない。俺はサインを書き終えた英寿を見る。この調子だと吾妻道長にも同じようなことをやったのだろう。だが……問題はそこじゃない。

「お前、なんでナビゲーターと一緒にいるんだよ…まさかお前の願いって…」

「そう、叶えたんだよ。運営と家族になってる世界をな」

 いつの間にか、ツムリから熱い視線が注がれていた。この感じだと、(お願いだからギーツを倒して!!!)とか思っている辺りか。

「では、呼び出しがあるまでお待ち下さい…!」

「じゃ、またデザグラで」

 俺は頭の中で整理する。ボランティア部の人間や、これから現れるであろう新メンバー……覚えることが沢山だ……これからのゲームが億劫になってきた……

 

             ※

 

 英寿とツムリは、次の参加者へ向けて歩みを進める。

 その時、お嬢様生活を満喫する鞍馬祢音と遭遇することはなかった。

「ナーゴも、タイクーンも、元気でやってるかなぁ〜!」

 英寿は呑気に、デザイアグランプリが始まるまでの、束の間の休息を謳歌する。

 

             *

 

「ようこそ!デザイアグランプリへ!」

 デザイア神殿は相も変わらぬ姿を見せていた。今となっては懐かしい。集められた五十人、配られたデザイアカード。素性も全く知らない者たちと、デザ神の座を目標に、骨肉の争いが始まるのだ。

 初参加者に向けたツムリのナビゲーションを聞き流しながら、自分のデザイアカードに願いを記入し、周りを見渡す。今回は地雷系な女に、ガムを噛むパンクロッカー風の男、なんと老人までいる。再選された者は、英寿に吾妻道長。景和や鞍馬祢音の姿はない。ますます選考基準がわからなくなってきたが、今回の参加者で最も警戒すべき人物を、俺は知っている。それは、英寿でも、吾妻道長でもない。見間違いであることを祈りつつ、もう一度スパイダーフォンで参加者名簿を確認する。

『仮面ライダーカローガン・青山優』

 間違いはない…俺と同じ学校の生徒かつ同じクラス……バレー部の青山優だ。俺は参加者の隙間から、対角線上に居座る彼女を垣間見る。少し外に跳ねたショートカットに、それ以外に特徴の無い外見。よくクラスの陽の者たちとつるんでいるのを見る。いわゆる取り巻きというやつだ。自分の意見を持たず、他人に流されるがまま。では、何故俺が彼女を問題視しているのか。それは……

「デザイア〜ッ!」

 俺の思考は、ロッカー風の男がかき鳴らすギターの爆音で粉砕された。改めて名簿を確認する。晴屋ウィン…こいつだ。仮面ライダー名は……何!?パンクジャック…!?

「ツムリ〜!君に一目惚れだぜBaby!結婚しようよ!ツムちゃ〜ん!」

 いや、無いな。人違いだ絶対に無い。この騒がしい男から、寡黙なNPCの姿は全く連想できなかった。歌を口ずさみながらツムリの手を取る晴屋ウィンを、英寿が遮る。

「待てよ、俺の姉さんに触んな」

「あっ、お前はスターの浮世英寿。人の恋路の邪魔をぉ、ねぇツムちゃん」

 晴屋ウィンの華麗なウインクを避けるように、ツムリは顔を背ける。姉やらツムちゃんやら、参加者の意向に振り回され、なんだか可愛そうになってきた。溜息をこぼしながら顔をあげると、俺に視線が向いていた。青山優である……俺に気づいた彼女はボランティア部の法被を凝視していた。

 

 

『運命の第一回戦は、海賊ゲーム!街中の旗を、チームに別れて守ってください!』

 多くの参加者が振るいにかけられる一回戦。人気のない港には、数隻の漁船がぷかぷかと浮かんでいた。波止場の中央に寄せられたドラム缶や瓦礫の天辺に、ジャマト印の黒い旗が立っている。

『その旗は、ジャマトの落とし物で、彼らが取り戻すと凶暴化します!くれぐれも奪われないように!』

 なるほど。差詰この旗は海賊旗。これから現れる海賊ジャマトの勲章ってわけか。ルールは大体理解した。戦うためのバックルは…前の一回戦・宝探しゲームとは毛色が違う。きっと向こうから支給してくれるだろう。盗賊と海賊で若干ネタ被りだしな……

「ねぇ!さっきから何で無視してんの!?聞いてんの!?」

「あぁ、あの、お嬢さん、落ち着いて……」

 一番の問題はこの女だ。ランダムで決まったらしいチーム分け。俺の所は三人チームで、俺、青山優、そして老人の丹波一徹、この三人だった。この割振りは、悪意があるとしか思えない。俺に敵意を燃やすやかましい同級生と、戦えもなさそうな御老体を抱えて戦えというのか。冗談じゃない。丹波一徹は、俺への怒りに駆られる青山優を止めようとあわあわしているが、あまり効果はない。

「うるせぇよ。どうせどう返したって、お前怒るだろ」

「はぁ!?そんなことないんだけどっ!」

 青山優は、ふんぞり返って俺を睨み付ける。この青山優という女には主体性というものがない。だから周りの意見に流される。俺は真人間だった頃の行動が災いしてか、クラスで格好の悪口の標的されていた。特に女子。女子は黒い生き物だ。叩いていいと見なされた者は、クラスの輪を正すという大義名分を持って目の敵にされる。だから個人の芯が無い者……ハブられるのが怖いやつは、意見という言葉を搾取される側に回るしかない。だけど、その中でも青山優は異常だった。他人の言葉に百パーセントで同調し、特に何もされてないのに被害者張本人のように怒っている。ある意味一番恐ろしい。

『アイテムを各自プレゼントします!』

 俺たちの口論が終わらぬまま、旗を支える木箱の上に、三つの宝箱が現れていた。それぞれ自分に一番近いものを手にする。最初にマグナムを使ったっきり、大型バックルとはそれ以来だ。今度こそ頼むぞ……と、箱を開く。

「蛇口…ね…」

 まぁ、今までの流れから何となく察しはついていた。俺に配られたのは、前大会で浮世英寿が最初に入手していたバックル、ウォーターバックルだった。吾妻道長にハズレだと笑い飛ばされていたのを覚えている。他の二人はどうだろう。

「これは…」

 丹波一徹は…プロペラか。まぁ悪くはない。小型バックルの内ならまだいい部類だ。プロペラは小回りがきくし、ジャマトに囲まれても巻き返せる。

 そして青山は…

「うわっ、なにこれ。手裏剣?」

 ニンジャだと…!デザグラは優遇しない……優勝者の英寿にも小型バックルは巡ってくるし、ブーストが使えるのは一回きり。それは重々承知している。だが…あの青山に、ニンジャ?自己犠牲の精神を持つ者に共鳴するニンジャバックルは、過去のゲームでは桜井景和に一直線だった。お人好しの景和にニンジャ。これは納得できる。たが、自分で責任も取れない、人の悪行を見て見ぬふりをする青山に、自己犠牲の精神があるとは思えない。何かの手違いで交換できないだろうか。

 わなわなと自分の手が震えていると気づく。

「あ〜れぇ〜?あんたのバックルなんか小さくなぃ?」

「黙れ…」

 馬鹿はこういうところに抜け目ない。人の不幸が好きだから、常にアンテナをはって、尻尾は掴んで離さない。本当に俺たちの相性は最悪最低だ。

『海賊ジャマトが現れるのは二回。第二ウェーブまで旗を守り抜けば勝ち抜けです!それでは、ゲームスタート!』

「っ!」「ええっ!」「うわぁっ!」

 ゲーム開始のアナウンスと同時に、地面が爆ぜた。

 初っ端からいきなり攻撃…っ!間一髪で攻撃を避けた俺たちは、水面に目を凝らす。水平線の切れ間に、白い布を広げた帆船が現れていた。側面からせり出した筒から、白い煙が立っている。今のは砲台からの攻撃か…!

 先に泳いできていたのか、数体のジャマトが漁港に上がってくる。数は多いが、こっちだって一人じゃない。協力すれば何とか行けるか…!

『SET』

「変身!」

『ARMED WATER!』『Ready?Fight!』

 レイズウォーターで海水を高圧噴射し、青龍刀を振りかざすジャマトを海に吹き飛ばす。

 ウォーターバックルは環境に依存するバックルだ。水を使った強力な攻撃ができる分、水がないところではカスみたいな性能になる。このまま水攻めで倒すのも悪くないが、相手は海賊。ある程度は体制があるかもしれない。ならば効率的な使い方は…

「水道管っ…!」

 レイズウォーターを逆手持ち。トンファーのようにスナップを効かせながら振り抜き、海賊ジャマトの武器を砕く。ウォーターバックル最大の活用法は、殴打による攻撃だ。

『NINJA!』『ARMED PROPELLER!』

 あいつらもようやく変身したらしい、お互いの姿を見て、喜び合いながらハイタッチしている。はよ戦え。

「変わっちゃったよ〜!」

「よーし!行くよ、おじいちゃん!」

 青山優が変身したカローガンは、ニンジャデュアラーの一刀を両手で握り、海賊ジャマトに斬りかる。戦闘の初心者にしては果敢な部類だが…海賊ジャマトの短剣に弾かれてしまった。ニンジャデュアラーはカラカラと虚しい音を立てて港の端に落ちる。

「っ、うわぁ〜!」

 武器を失ったカローガンは、一目散に瓦礫の裏に隠れる。何してんだよ。

「こうなったら爺さん!俺たちだけでもやるぞ!」

 レイズウォーターの蛇口の部分で海賊ジャマトの頭部を粉砕。丹波一徹が姿を変えたケイロウに振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。

「いてて…腰が…」

 カローガンが隠れている横の木箱の角に蹲っていた。誰だこの今にも死にそうな老人を参加させたやつは…まともに戦えるの俺だけかよ…!

 その間にも海賊ジャマトは次々旗へと迫る。ドラム缶を蹴って転がし、将棋倒しに転ばせると、レイズウォーターをぶん投げ、海面から飛び出すジャマトを撃退した。ブーメランの様に帰ってきたレイズウォーターをキャッチ。再びの高圧放水で、倒れたジャマトを壁にたたきつけて倒した。

「いい加減戦えって…!三人で戦うはずの量だから、手がかかるんだよ!」

「だって、怖いしぃ…!」

「はぁ……っ!じゃあニンジャバックルよこせ!そっちのほうがまだ戦える!」

 こうして口論している間にも、ジャマトはとめどなく旗に押し寄せる。ニンジャの分身能力があればまだ対応できるはずだ。ジャマトの首元を蛇口の根本で押さえつけながら、カローガンに手を伸ばす。

「や!あんたにだけは貸したくないっ!」

 カローガンは俺の手を弾いた。ふっ、ざけんなよこいつ…!戦わないなら大人しく従っとけっての…!

 …だったらいいさ。こっちだって考えがある。ジャマトの拘束を解き、レイズウォーターの至近距離放水で風穴をあける。その攻撃で他のジャマトも怯んだ一瞬のスキに、波止場のギリギリのところで止まっていたニンジャデュアラーを拾った。さっきカローガンから弾かれたものだ。ニンジャフォームで使うよりは威力が落ちるが。無いよりはマシ。

『ROUND 1・2!』

 側面の手裏剣を回し、合体させた刃に風が集まる。最大必殺はやっぱり使えないか…!ならば狙うは直線。この一撃で、全員を倒す!

 レイズウォーターの放水で、全員を海上に追いやった。今だ!

『TACTICAL SLASH!』

 刃を大きくニ度振り抜き、十字の斬撃を風の力で立体化させると、斬撃は真っ直ぐに海上のジャマト向けて飛んでゆく。ありったけのエネルギーを込めた斬撃は、次々とジャマトを両断し、海賊船の船主に傷を残した。

『第一ウェーブ終了です!』

 何とか切り抜けられたか……海賊船は水平線の先に姿をくらます。今回は一度しか砲撃してこなかったが、第二ウェーブともなれば次々砲弾が飛んでくるだろう。その攻撃をさばきれるだろうか。

 新シーズンの幕開けは、不安に満ちている。

 

 

 第一ウェーブでかなりの仮面ライダーが脱落した。

 残ったチームは、A、B、D、H、Lの五チーム。DとHは新規の参加者だ。二人組と三人組、見たところアスリート志願者や、スポーツブランドの社員など、運動を生業にしている者の集まりのようだ。

 Bチームは既に一人。仮面ライダーバッファの吾妻道長だ。八木沼という地雷系ファッションの女がペアだったようだが、早々に脱落してしまったらしい。吾妻道長はゾンビバックルを手にドカッとソファーに陣取る。

 そしてAチーム。浮世英寿、晴屋ウィンペア。晴屋ウィン……仮面ライダーパンクジャック。奴には十分警戒するべきだ。晴屋ウィンと、神経衰弱ゲームで登場した運営、仮面ライダーパンクジャック。目立ちたがりと無口、性格は真反対。最初は人違いかもと思ったが……仮面ライダーの持つIDコアは個人専用。ならば同じデザインのライダーなんてありえない。俺には運営がろくでもないことを企てているとしか……

「俺は……知る人ぞ知る〜!パンクロッカァ〜!晴屋ッ、ウィン〜!」

「いちいち弾かなくていいから」

「別人だろ」

 この逐一ギターで歌いだす脳天気な男を見ると、疑っていたこっちがバカにされた気分になる。サロンにいたって、ただうるさいだけだ。こっちはただギロリの作る飯を楽しみにしていたのに……台無しだ。

「あぁ、腰が…」

「ねぇ〜さっきの戦いで突き指したんだけど!」

 勘弁してくれ……。円形状のソファーの両サイドを二人にガッチリ固められ、出ることができない。このままずっと好き勝手喋らせるのも癪だし、話題を変えるとしよう。

「なぁ、爺さん。あんたはデザイアカードになんて書いた?」

 青山優の愚痴は無視して、丹波一徹に顔を向ける。丹波一徹は、小っ恥ずかしそうに答えた。

「私は、若返りたいと。昔はやんちゃだったからねぇ〜」

 若返りか。過去の経歴を改ざんして、スターにだってなれるゲームだ。人の寿命を戻すなんて造作もないか。

「お嬢さんは?」

 丹波一徹は青山優に話を振る。ようやく自分の番が来て嬉しかったのか、青山優は意気揚々と答えた。

「うん。私は、幸せに暮らせてる世界、かな!」

 なんか普通だな。と言葉を飲み込む。特徴のなさを極限まで突き詰めるとこうなるのか。具体的に自分はこうなりたい、とかないものか。そんなしょぼい願いなら、戦う気も起きないだろう。

「な〜にその不満そうな顔。じゃああんたは何なのよ…!」

「俺か…?俺の書いた願いは………言えない」

 言えるはずないだろ、否定されるに決まってるなら尚更。

 

             * 

 

 今回のシーズンも波乱の幕開けだな、モニターを眺めながら思う。第一回戦の第一ウェーブでもう十人まで人が減ってるのはもちろんのこと…最終戦までには何人残れることか。それにしても随分と…いや、本当に変わったよね。仮面ライダーダパーン、墨田奏斗。

「ねぇ、芹澤君。私、決めたよ。追加エントリー、受ける」

「ここではハイトーンって呼んでほしいんだけど……まぁ、わかりました。君なら受けると思ってましたよ」

 机の上に置かれた二つの宝箱と、デザイカードを重ねて渡す。中には僕がしっかりと使い方を指導したビートバックルと、デザイアドライバー、そして仮面ライダーナーゴのIDコア。

「願いはもちろん、本当の愛が欲しい、ですか?」

「うん。やっぱり、自分の願いにはまっすぐでありたいの。芹澤君のおかげで、強くなれたし!」

 彼女は片手で猫のポーズを取る。最近の女子高生にはこの可愛らしい仕草がウケているらしい。僕にはよくわからないけど。

「ダパーンの所へ行ってください。手が足りなくて、相当困ってるようです。ボスの海賊船の姿も発見されてますし………嫌ですか?彼の所へ行くのは」

「ううん。大丈夫、奏斗はもう裏切ったりしないと思うな。だって、ボランティア部なんでしょ〜」

 やっぱり記憶改変というのは残酷だ。デザイアグランプリの記憶と、願いを失っていた頃は、彼は正義をこよなく信じる人間だったし、彼女は親の言いなりで抜け殻みたいな精神性だったのに。記憶一つで世界は変わる。

「じゃあ、行ってきます!」

「えぇ、行ってらっしゃい」

 僕、芹澤朋希は、IDコア管理室を出ていく鞍馬祢音の姿に目を細めた。

 

 

『皆さん、第二ウェーブです!旗を七本も奪われ、ジャマトは凶暴化していますので、くれぐれもご注意ください!』

 注意するってねぇ……このメンバーじゃ注意したところで、結局戦うのは俺だけだ。帆を大きく広げた海賊船が、ベルを鳴らしながら港に迫っている。あっちがどれだけ弾を持っているのか知らないが、観察したところ砲身は四つ。そう何回も発射はできないはずだ。砲撃の合間を縫って攻撃できれば、あの海賊船を沈められる。問題は、あっちまで届く武器が青山優のニンジャデュアラーしかなく、コイツが戦いを恐れていることだ。

『それでは、第二ウェーブスタート!』

「変身!」『ARMED WATER!』

 開始の宣言と同時に海面に放水して、水しぶきの壁で目眩ましをする。これであっちは迂闊に砲撃できない。味方のジャマトまで巻き込むマネはしないだろう。その一瞬の時間で俺がなすべきことは。

「ほら、戦わないならこっちに隠れてろ。そのほうが安全だ」

 変身したまま待機させていたケイロウとカローガンを、倉庫の中に隠す。ジャマトに狙われて邪魔されるくらいなら、最初からいないほうがマシだ。後は…

「来る…!」 

 四つの砲弾が港向けて放たれ、次々海賊ジャマトは旗に迫る。波止場に横付けされた漁船を盾にして砲撃を防ぎ、レイズウォーターを投げつけて旗への進撃を阻止する。転がりながらレイズウォーターを拾い、柄でジャマトを叩き砕く。

 ドンと腹に響く音が鳴る。歯ぎしりしながら海を見ると、もう次の砲弾が放たれている。

「ペースが早いっ…!」

 再び漁船の裏に隠れたが、今度の砲撃に漁船は耐えきれず、粉々に砕けてしまった。またしても海賊船から閃光が走り、とめどなく弾は港を襲う。砲弾を防ぐための遮蔽物はほぼ無くなり、弾が放たれるペースは次第に早くなる。海賊船のデッキに、七本のジャマトの旗が潮風に靡いていた。まさか……

「あの海賊船自体がジャマトか…!」

 あれを倒さない限り、このゲームは終わらない。海賊ジャマトを捌きつつ、思案する。あの海賊船ジャマトは遠く離れている。こっちに遠距離攻撃の手段はない。ニンジャでワープを使うか、プロペラで飛ぶかしかあの"海賊船ジャマト"に攻撃は届かない。でもだめだ。海賊船ジャマト本体にどんな能力があるかわからないし、悠長に飛んでいたら撃ち落とされる。一体どうすれば……

 海賊ジャマトを身代わりに砲弾を凌ぐと、一度砲撃の手が止まった。

 少し間が空いて、二発連続で砲弾が飛んでくる。旗を守らんと身構えていると、一発目の砲弾は上空で炸裂。中から水塊が溢れ出してきた。その水塊が港に振ろうとした刹那、二発目が爆ぜ、今度は機械が入っていたようだ。トーンと静かな音が響く。いや、この音には聞き覚えがある。海賊がいる時代にそんな技術は無い……この音は……

「居場所を探知してる!身を守れ!」

 魚群探知機…いわゆるソナーと言うやつだ。一発目の水塊を介して、二発目から発生した音波が、倉庫に隠れた二人のライダーを炙り出す。水塊が雨と変わり、港に降り注ぐと同時に、爆発性の砲弾が倉庫を破壊した。気づくのが遅かった…!

 爆発と同時に、爆炎の中からカローガンが飛び出してきた。いや、吹き飛ばされたという方が正しいか。勢いのまま地面に体を打つカローガンに、海賊ジャマトが襲いかかる。ケイロウはどこに行った…逃げられたのか……いや、今はカローガンがやばい!

「寄ってたかって…!」

 タックルで大剣を振りかざすジャマトをどかし、レイズウォーターの一振りで、連続で海賊ジャマトを退ける。ギリギリ間に合った。カローガンは変身が解けて、青山優の姿に戻っていたが、IDコアは割れていない。アーマーブレイクのみで済んだ。

「速く、逃げるぞ…!」

「……っ、でも…」

 青山優に肩を貸して、別の倉庫を目指す。どうやらソナーは連続で使えないらしい。今のうちに隠れないと…青山優の命が危ない。

「私見逃せばいいじゃん…!このままじゃあんたも、旗取られてゲームオーバーだよ!」

「死なない限りはチャンスがある!スターがそう言ってたんだよ……だから、今は死なない方が先決だ……」

 まだ退場なら、記憶を消されるだけですむ。そう、記憶を消されるだけで────────いや、駄目だろ。あんなヤツに後戻りなんて絶対に嫌だ。死んだほうがマシだ…!!!

「全員……ぶっ潰す……!」

 俺は青山優を雑に柱にもたれかかせると、レイズウォーターを投げて、砲弾を海賊船ジャマトに向けて跳ね返した。砲弾は海賊船ジャマトに当たり、黒煙が立ち込める。

「ボランティアなんて二度とやるか……理想の世界を叶えるまで……俺は逃げない…!」

 たとえ一人でも戦う覚悟を決めて一本進む。

『SECRET MISSION CLEAR』

 宣言と共に、足元にピンクの宝箱が降ってくる。まさかと確認すると、『最初に砲弾に攻撃を当てる』のシークレットミッションを達成していた。心臓が高鳴る。これが、俺の新しい力。

 宝箱には、一つの大型バックルが入っていた。そのバックルは、バルブが備わった高圧ガスボンベに、二つのメーターが付いたものだ。俺はバックルを足側のスロットにセットする。

『SET』

「変身…!」

 ガスボンベのバルブを開くと、バックルから大量の白いガスが噴射する。そのガスは、やがて鎧を形取り、俺の足に装着された。

『BLAST!』『Ready?Fight!』

 新しいアーマーは、両腿にはメーターや伸びたホースと高圧ガスボンベ。そしてふくらはぎには、回転するファンやホースと直結した六角形の噴出口が両足に四つずつ備え付けられていた。

 間違いない。ブラスト、風、疾風、爆風……このバックルこそ、俺のIDコアに適した力だ。お誂え向きに、足への装備。もう十分、俺は……

「自分の"脚"で立てる…!」

 俺が右足で地面を蹴ると、噴出口から圧縮された白いガスが噴出。いつもよりも高くジャンプする。その勢いのまま、旗を取ろうとしていたジャマトを蹴り飛ばす。ジャマトは一撃でその身を砕き、海へと落ちた。

 旋風脚ばりに回し蹴りで竜巻を起こし、海賊船ジャマトの砲弾の勢いを殺す。砲弾はボトボトと沈んでいった。いける……このバックルなら、第二ウェーブも切り抜けられる。

「ほら…大丈夫?おじいちゃん?そこの君も」

「おぉ…ありがとう、お嬢ちゃん」

「ありがとうございます、ほんと、なんて言ったらいいか…」

 自分の新しい力に惚れ惚れしていると、俺の背後からほのぼのとした会話が聞こえた。何だ、ケイロウ無事だったのか……って、一人多くないか?しかも、この聞き慣れた声は忘れない。スター・浮世英寿と肩を並べるほど人気な女……

「鞍馬祢音!?」

「そう、その鞍馬祢音なのです!ピカリ!」

「はぁぁぁ?」

 なんでこいつがここに……しかも、鞍馬祢音が着てるのはデザイアグランプリの戦闘服だ。こいつ、もしかして。

「私も戦うよ。奏斗だけに、いいカッコさせてられないからね〜」

『SET』

 彼女が持っていたのは、ピアノの鍵盤に、ターンテーブルが合体した、これまた見たことないバックルだった。ようやく新規のバックルで決めようと思っていたのに、これじゃ締まらないな。

「へ〜んしんっ!」

『BEAT!』『Ready?Fight!』

 仮面ライダーナーゴ・ビートフォーム…ナーゴがバックルの鍵盤を弾くと、辺りにリズミカルな音楽が鳴り響く。ナーゴの持つギター状の武器、ビートアックスと合わせて、如何にも、音の名にふさわしい姿だった。

「勇気のメロディーだよ、奏斗。一緒に倒そう!」

「勇気とかウザいんだよ…そんなのなくたって戦える」

「連れないなぁ…まぁ、いっか!」

 俺達は軽口を叩き合うと、互いに振り返って海賊ジャマトから旗を守る。俺はブラストの蹴りで、ナーゴはビートアックスの斬撃で。

『BLAST STRIKE!』『TACTICAL FIRE!』

 ファンを急速に回転させて両足に風を纏うと、昔ながらの飛び蹴りで海賊ジャマトを倒す。一方のナーゴも、ビートアックスによる炎の薙ぎ払いで、海賊ジャマトを一掃していた。これで残るは、海賊船ジャマトのみ。

「さぁ、必殺のメロディー!いっくよ〜!」

『FUNK BLIZZARD!』『TACTICAL BLIZZARD!』

 二人は同時に港を駆け抜け、海面向けてジャンプする。ナーゴがビートアックスを振り落とすと、海面が凍りついた。俺は着地すると同時にレイズウォーターを投げる。海水をまき散らしながらレイズウォーターは海賊船ジャマトに迫り、同時にビートアックスの凍てつく能力で飛び散った水が凝固し、海賊船ジャマトを捕らえた。

「これでとどめだ!」

「これでトドメだよ!」

『BLAST!WATER!VICTORY!』

『METAL SANDER!』

 俺はブラストの能力で大きく跳び上がり、ナーゴは氷で出来た道を走る。そして海賊船のデッキ向けて、渾身の踵落としを決めた。直撃した部位から亀裂が生じ、ウォーターの能力で内側から噴水のように海水が吹き出す。海水を下から吸い上げて貫通させた。仕上げは…

「にゃ〜っ!!!」『TACTICAL SANDER!』

 天から雷が降り注ぐ。海水で濡れた海賊船ジャマトは、雷に一気に感電し、体が耐えきれなくなったのか、エネルギー超過か、爆散した。

「よしっ!やったね、奏斗!」「あぁ…」

 ナーゴがグータッチを求めて来たので、俺はナーゴを見ずにそれに応える。二人の拳が重なったとき、俺は違和感に気づいた。もしかしてこいつ、変身解いてる?

「おい!いま解いちまったら…!」

「あっ!ウソっ!?」

 鞍馬祢音がナーゴから戻ったせいで、ビートアックスのおかげで凍っていた海面が溶け、俺たちは海に真っ逆さまに落ちた。海面とぶつかった衝撃のためか、自動的に俺の変身も解ける。俺は泳げるが…

「ちょっ、やばっ…」

 お前泳げないのかよ…!俺は鞍馬祢音の手を取るが、この距離を担いで泳げなんて…

「お〜い!お二人さん!大丈夫か〜!」

 遠くから声が聞こえたと思うと、港からケイロウが飛んできていた。思わぬところで、彼のプロペラが役に立った。

 

 これが、デザイアグランプリの新シーズン、本当の幕開けだった。

 

           DGPルール

 

       デザイアグランプリの参加者は、

 

          厳正なる審査の元、

 

      ゲームマスターによって決められる。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「ジャマトが変身しやがったぞ〜!」

─人々を守り、─

「迷宮脱出ゲームを始めましょう」

「何かの暗号か…」

─迷宮から脱出せよ!─

「何とか言ったらどうなの!?」

「次はちゃんと隠れてろ……二度も守るのは面倒だ」

8話 変心Ⅱ:閉ざされた迷宮


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8話 変心Ⅱ:閉ざされた迷宮

 

 デザイアグランプリ、新シーズン。一回戦、海賊ゲーム。ジャマトから旗を奪われないよう守り抜け。ランダムで決められたメンバーに恵まれなかった俺は、何とか第一ウェーブを突破。続く第二ウェーブでは、ダパーンのIDコアと相性のいいブラストバックルを入手。一気にクリアを目指そうと意気込んだ俺の前に現れたのは、鞍馬祢音だった。

 どうやらIDコアに触れて記憶を取り戻した彼女は、再び動画投稿を再開。人気者の復活に、再び若者の世界は湧いている…らしい。動画の内容よりも、気がかりなのは追加エントリーの件だ。公平を期すデザイアグランプリが、第一ウェーブを回避した上で、最初から大型バックルを持たせて参加させるなんて、あり得るのだろうか?そもそも追加エントリーというのが不自然そのもの…

「ちょっと、奏斗君。聞いてるの?」

「えっ?」

 しまった。俺は意識を思考の外へ戻す。ぼやけていた視界がピントを合わせると、新井紅深がパイプ椅子の上で腕を組んでいた。眉毛は八の字に吊り上がっている。

「どうしたんだい〜奏斗君。君さ、最近変わったよねぇ。集中力が散漫だよ」

 窓際の席で、広実須井が地球儀を回しながらおちょくった。注意してくる割には、口の端からにやついている。そう、ここはボランティア部の部室、社会科準備室。振り返り休業日だと言うのに、わざわざここに足を運んだのは、自分で撒いた種を拾うためだった。

「三階の分、回収してきた?早く終わらせようよ」

「………はい」

 ペッドボトルキャップがパンパンに詰まった袋は、両手にずしりと重い。ボランティア活動でありがちな、廃品回収だ。本当はバックレたかったのだが、記憶を消されていた俺の言動が依然として残っている。聖人だった俺は本当にクズだ。あくまで何もしないボランティア部を、俺は変えようと意気込んだらしい。休む暇も無いほどに仕事を取り付け、他の部員を道連れにしている。申し訳ないとは思うが、以前の俺のわがままに付き合ってくれているのは、新井紅深と広実須井だけだ。残りの二人は……今日もサボりだ。

 広実須井はサンタクロースのようにゴミ袋を抱える。

「じゃ、これは僕から業者に渡しとくよ。じゃあ解散。鍵返しといてよ〜」

 社会科準備室から広実須井が消えると、一気に静かになった。長テーブルを挟んで向かいの新井紅深は、黙って文庫本を開いている。これは、鍵を返してくれるということなのだろうか?

 テーブルの中央に置かれた社会科準備室の鍵。鍵についた青いタグは、元々油性ペンでしっかり名前が記されていたのようだが、日焼けとともに文字は消えかかっている。それを新井紅深が取る素振りを見せなかったので、暫くはくつろぐつもりだろう。ページを捲る音と換気扇が回る音しか流れない部屋から、俺は大人しく帰ることにした。

「奏斗君ってさぁ…多重人格者なの?」

「……いきなり何?」

 俺はパイプ椅子から離した腰を戻す。新井紅深自信から話題が振られた事に驚くとともに、また嫌な記憶が回帰する。新井紅深は文庫本から目を離さないまま続けた。

「だって前は"全員死ね…"みたいな険悪オーラばりばりだったじゃない」

「今でも変わらないけど?」

 会話中でもページを捲る手は止まらない。感情の読めない声が、紙が擦れる音と一定に流れる。俺は完全に彼女にペースを取られていた。鞄の中から、一つ音が追加されたのを、振動で感じる。

「嘘。それが世界平和だなんて言ってみたり、また元の調子に戻ったと思ったら…少し反省の色が見える。もしかしたら、今の奏斗君は、本当の奏斗君じゃないのかな…って」

 大層な観察眼だが、完全な間違いだ。デザイアグランプリの記憶の管理システムに、人格が振り回されているのを、新井紅深は知る由もない。探偵気取りもいいとこだ。

「…お生憎様。俺はずっと俺のままだ。人格が変わるだなんて、フィクションの話だろ」

「そう…もしそうだったら、仲良くなれると思ったんだけど」

「……多重人格者と友達になりたいの?」

 新井紅深の不思議な思考に、興味が出てきた。普通の人間だったら、同じ顔で違う人間だなんて、気味が悪くてしょうがないはずだ。顔を前に出して彼女の答えを待つ。

「…だって、多重人格者と仲良くなれば、一気に友達増えるじゃない。一人と友達になれれば、その後はまた一人、一人。それって、凄くコスパ良くない?私はそう思うんだけど…?」

「わからないな」

 思ったよりも消極的で卑しい解答に興が冷めて、俺はパイプ椅子を畳む。さっきから、鞄の中でスパイダーフォンが震えている。恐らく次のゲームの呼び出しだ。早くデザイア神殿に行かないと…

「あ」

 ドアノブに触れた俺を、新井紅深が引き止める。

「鍵返しといてくれない?もう、聞きたいこと終わったから」

 彼女は、文庫本を閉じた。

 

             *

 

 雪の足音が近づく季節。厚手のダッフルコートを着てきたのは間違いだった。バスの待合室にもたれかかりながら、私、青山優はダッフルコートのボタンを外す。少しひんやりとした空気が、肌にじーんと伝わる。

「脱ぐと寒いってどういうことよぉ……うっ、かはっ、」

 外の冷たい空気を吸うと、こもったような痛みが喉を襲って、思わず咳がでる。この前の戦いのせいだ。そう、私はデザイアグランプリに参加していた。そこで隠れてた倉庫が爆撃されて、炎にのまれた私の喉には大きな火傷が残った。ジャマトは怖いし、喉に後遺症は残るしで、踏んだり蹴ったりだよ。しかも今日は、バレー部の活動が午後ときた。

 時刻は十一時半、寸分違わずきっかりにバスは到着した。バレーボールを入れたエナメルバッグが肩にめり込む。定期を運転手さんに見せて、一番奥の席に座る。こうして定期をしまっている間も、私はずっとデザイアグランプリの事を考えてしまっていた。

 私に叶えたい願いなんて、大層なものはない。ただ平和に毎日を過ごしていれば、それだけで幸せだ…って思っていたけど、実際にこの身に命の危機が訪れた時に、思わず私は震えた。このデザイアグランプリは遊びじゃない。本気で叶えたい願いが無いと、到底生き残れないって。しかも、負けたら元の生活にも戻れないってわかった。正真正銘、死んだら終わりだ。

 考えにふけっている内に、バスは発進していた。直前に駆け込んだのか、スーツ姿の大学生くらいの人が、息を切らして手すりに掴まっている。このバスは都心を通るルートだから、会社勤めの人や、他校の生徒も活用している。だけど、今日はやけに人がガラガラだ。まぁ、昼に利用してるから当然か。私以外に、高校生の人なんて…いや、いた。俯いていたせいでわからなかったが、運転手側の一人席に、何やら花束を抱えた男が一人。一年生の上遠赤哉(かみとおあかや)だ。なんで私があの子の名前を知ってるのか、それは、彼がボランティア部だからだ。

 ボランティア部はキライだ。だって…だって…あれ、なんで私はボランティア部がキライなんだっけ?

「うわっ!」

 何かが割れるような大きな音と一緒に、運転手さんが大きくハンドルを切る。バスが横に傾いて、窓と身体がぶつかる。最後に見た景色は、奈落の底に落ち、遠ざかっていく空の景色だった。

 今日は、やけに晴れている。

 

             *

 

 ジャマトが現れたのは、古めかしい城のようだ。デザイア神殿内に表示された地図によると、複雑な構造に、一本の塔が離れて建てられているのがわかる。

「ジャマーエリアが現れました。皆さん、すぐにミッションに挑んでもらいます」

「待てよ。カローガンがまだ来てない」

 英寿が指摘する。以前吾妻道長が仕事で遅れた際は、だいぶ長い時間待ちぼうけだったが。集合してすぐにナビゲーションが始まったものだから、あいつが今どこに居るのかは確信している。俺だって、校舎内で隠れられるところを探していたせいで、一番最後だったくらいだ。

「カローガンは、一般人と共に城の中に囚われています」

 やっぱりか。何やってるんだ、あいつ。

「腰に優しいやつで頼むよ」

「おいおい爺さん、そんなゲームねぇって」

 晴屋ウィンは、丹波一徹の肩に腕を回す。そんな調子で、大丈夫なのかこいつらは。もう御託はいい。早くゲームを始めてくれ…

「今回の舞台は、こちらです!」

 デザイア神殿がホログラム状に変化し、エリア内に転送される。そこには、一面の青空が広がっていた。なんだ、次のステージは青空だったのか………いや、ありえないだろ。

「嘘だろ」

 重力が下向きに働き、参加者は絶叫しながら奈落へ落ちてゆく。俺も叫びたい衝動と戦い、歯を食いしばりながら耐える。次第に闇が晴れ、ジャマーエリアが見える。城は八本の塔と六角形の壁に囲まれていた。

 地面とぶつかる寸前にふわりと重力が軽くなり、落下のダメージは最小限に抑えられる。丹波一徹は腰を痛そうに擦っていたが…もう若返りじゃなくて、腰を治す方を願いとしたほうがいいのではないか。

「ここは…?」

「ジャマトが作り上げた異空間のようです」

 レンガ造りの城に、アルファベットを模ったような植え込み。細部までこだわられた作り込みには、人ならざる者がこんなものを創造できるのか、と驚嘆の感情が先に出てくる。近くの小屋はワインセラーでもあるのだろうか、樽の他に葡萄が干されている。

 いくつかの足音がして、二又に伸びた石畳の階段から、数名が降りてきた。囚われの被害者とはこいつらか。肥満体型の中年男性に、姉弟だろうか?中学生の少女と小学生の少年。そして青山優。ニンジャバックル片手に険しい顔で被害者たちを先導している。いっちょ前にヒーロー気取りか。喉がいずいようで、さすりながら眉間にしわを寄せている。最後尾には……おいおい……何でこいつがここに……この発言もこのシーズンで二回目だ。

「あれ?ねぇねぇねぇねぇ!あそこ!」

「こいつは奇遇だな」

 思わぬ人間の登場に、鞍馬祢音も英寿も驚いた様子だ。そう、仮面ライダータイクーンこと、桜井景和だ。デザイアグランプリの記憶を失い、平和に過ごしていたはずだが…ゲームに巻き込まれるとは、運のないやつ。

「有名人が二人も…?」

「英寿さまだ!」「祢音ちゃんもいる!」「かわい〜!」

 姉弟と中年男性は、嬉々として英寿と鞍馬祢音に釘付けになる。その後ろで、興味の無さそうな二人が世間話をしながら歩いていた。

「ここって何処なんですか?ってかあなたたち誰なんです?」

「説明すると長くなるんですけど〜まぁ、あなたたち五人を守るのが私たちの役目っていうか?」

 お前戦えないだろと心中で毒づく。はて、五人を守る?一見青山を除いた被害者は四人しかいないようだが…?

「ほら、あんたもなんか言いなさいよ!」

 青山は徐ろに景和の背中に手を伸ばしたかと思うと、長身の陰に隠れていた男を引っ張り出す。その男とは…

「上遠赤哉……お前まで」

 ボランティア部の後輩、上遠赤哉だった。ダボダボな制服に、目が見えないほどの長い前髪。ボランティア部の部室でも何回か、聖人の頃の俺が話しかけていたようだが、結果は惨敗。上遠赤哉は、周りとのコミュニケーションを完全に遮断している。長い前髪で世間から目を背け、常に携帯の中の世界に入り込んでいる。彼が喋っている姿は一度しか見たことがない。俺が最初にボランティア部の部室に行き、あの羞恥のスピーチをした時だ。上遠赤哉は、部長だけには心を開いている。

 上遠赤哉は、イライラを隠しきれない青山を完全に無視していた。そして景和が怒れる青山を止めて……いや、景和は青山と上遠赤哉から目を逸らしている。やっぱりか。デザイアグランプリで脱落したのが原因で、世界平和を願う心を忘れている。今の桜井景和は、世界平和に懐疑的で、決断力も無い。情けない人間に変わっていた。

 正直がっかりだ。ため息が止まらない。

「あの!どうして皆さんはここに?」

 鞍馬祢音は混乱の元を絶とうと話題をゲームに移す。質問には中年男性が答えた。胸には『区営バス』のタグ。なるほど、彼はバスの運転手か。

「道路にいきなり穴が空いて砂に沈んで、気付いたらここにいたんです。それよりこの妙な首輪外してくれよ!」

 運転手の首元には、植物の蔦のようなものが巻き付いている。いや、運転手だけじゃない。他の被害者も全員、青山も含めてだ。

「彼らはジャマトに連れ去られた一般人です。それでは第二回戦、迷宮脱出ゲームを始めましょう。先ずは近くの一般人とライダーで、ペアになってもらいます」

 あの首輪は守る対象の証ってわけか。さて俺は誰と組むか……英寿は小学生の少年、葉山良樹と。吾妻道長は鞍馬祢音に近づいた運転手、尾形次郎の首根っこを掴んでペアとした。鞍馬祢音は良樹の姉、葉山梢と女子同士で組み、丹波一徹と桜井景和がペアとなった。この両人には不安が残る。

「よし。上遠、俺と行くぞ」

 必然的に、俺は後輩である上遠赤哉を側に置く。上遠赤哉は返事をせずに頷いただけだった。余りものとなった青山は、不機嫌となって口をとがらす。

「えぇ〜じゃあ私は誰と組めばいいのよ」

「自分で自分守ってろよ」

「一般人を保護しながら、迷宮を脱出できれば勝ち抜け。守りきられなければ脱落です」

 青山も一応被害者の枠に当てはまるが、仮面ライダー。逆にこいつはラッキーだ。他人に気を配らず、己さえ守れればそれでいいのだから。

「ふ〜ん。で、俺は誰を守れば?」

「私です」

 ツムリとペアになれると知って、晴屋ウィンは途端に上機嫌になる。その様を弟になった英寿が睨みつけていた。何か策があって家族になったのだろうに、情は湧くものなのか。

「ツムリちゃんでも出られないんだ…」

「出口ならそこにある」

 吾妻道長が目指す先には、アーチ状の木製の門が取り付けられた壁だった。そのサイズは俺たちの二倍以上あり、一見枷のようなロックはかけられていない。手で押せば開きそうなもんだが。その下に転がっている壊れた樽や割れた瓶などを見れば、結末は想像出来た。

「無理ですよ。その扉はどうやっても開きませんでした」

 一応破壊を試みたらしい。ジャマトが想像した空間だ、物理的な常識は通用しないのがセオリーと思った方がいい。

「どうやら、音声認証で開く扉のようですね」

 壁には、中世の世界観とは不似合いの音感センサと、金縁のタイルに掘られた三つの蔦の柄。これはジャマトの文字か…?よくジャジャジャって喋ってるもんな。

「扉を開ける合言葉が必要かもしれません」

「何かの暗号か…」

 これだけで解読は出来ない。城に潜り込んでヒントを探さないと…

「なんだ!?」

 尾形次郎が叫ぶ。城やワインセラーからジャマトが溢れ出していた。今回は執事やメイドに扮している。俺たちは一般人を囲むように立ち、それぞれのバックルを手にした。

「ジャマトです!仮面ライダーの皆さん、お願いします!」

 青山のやつ、変身の振り付けを考えてきたらしい。左手を開いて上向きに前に突き出すと、手首に右手を重ねる。まるでバレー選手がサーブを打つ前のルーティンのようだ。各々もどこで思いつくのか、大振りの振り付けをする。

『SET』『SET』

「変身!」「変身!」

『SET』『SET』

「へんしんっ!」「へ〜んしんっ!」

『SET』『SET』

「変身…」「変身っ!」

『SET』

「変身!」

 デザイアドライバーから形成されたホログラムのアームは円形に重なり、同時に仮面ライダーたちの鎧を装着させた。

『ZOMBIE!』『MONSTER!』

『ARMED PROPELLER!』『BEAT!』

『BLAST ARMED WATER!』『NINJA!』

『BOOST!』

『Ready?Fight!』

 一斉に仮面ライダーへの変身を終えた七人は、一人ひとりがペアとなった一般人を庇いながらジャマトを相手取る。俺はレイズウォーターを得物に、蹴りを主体とした戦闘を展開する。太腿部分のメーターが空気圧を調整し、蹴りが命中する瞬間に蒸気を噴射して加速。首元を蹴られた執事ジャマトは頭から地面に叩きつけられる。

 カローガンも、慣れない戦闘ながら張り切っている。ニンジャの俊敏な特性を活かし、縦横無尽にジャンプしながら着地ついでにメイドジャマトをニンジャデュアラーで斬りつけていた。

 どれだけ倒しても、城からジャマトはとめどなく現れる。

「ジュラピラ」「ジュラピラ」

 ジャマトが聞き慣れない言葉を発している。今まで気にした事は無かったが……何故ここまで同じ単語を…?統率のとれたジャマトの群れの中で、三体だけこちらに歩いてくる個体がいた。その手元には。

「なんであいつらがドライバーを…?」

 右手にはデザイアドライバー。左手には植物に侵食されたようなレイズバックルが、緑色に妖しく光っている。ジャマトたちはそれらのアイテムを腰に装着する。

「ジュ、ラピラ…ヘンシン…」

 左側に差されたバックルを叩くと、ベルトから植物が増殖し、ジャマト本体を蝕んでゆく。

『JYAMATO』

「おいおいおいジャマトが変身しやがったぞ〜!」

 植物はやがて漆黒の鎧を生み出し、ジャマトは仮面ライダーに変身した。皆が動揺する中、ジャマトライダーに最も近い位置にいたパンクジャックが真っ先に標的となる。

『JYA JYA JYA STRIKE!』

 ジャマトライダーが必殺技を発動すると、拳全体の血管が巨大な蔦となり肥大化。そこから放たれるパンチは、パンクジャックをはるか後方へ吹き飛ばした。咄嗟に防御の体制をとったから無事だったが…あのラスボスさえ倒したモンスターバックルが力負けするとは……

「不味いな…ここは一旦…」

「皆を守らないと!奏斗っ……ぐっあぁぁ!」

 一般人がいて血の気が湧いたのか、勇敢にもジャマトライダーに立ち向かおうとしたカローガンの足が止まる。苦しんでいる…?

「おい!大丈夫か!」

 カローガンの首に巻き付いた植物が縮み、首を絞めていた。後方を見ると、他の一般人も動揺に苦しんでいる。それでも、カローガンの苦しみ方は異様だった。濁ったような咳をしきりに繰り返している。

「ジャマトが近づくと首が締まるんだ…!ナーゴ、こいつを借りるぞ!」

 ギーツはナーゴのビートバックルを拝借すると、リボルブオンした後にビートバックルを使用した。

『REVOLVE ON』『DUAL ON!BEAT&BOOST!』

 ビートアックスのドラムを叩き、属性を選択。注意を促す。

「皆!伏せてろ!」

『METAL SANDER!』『TACTICAL SANDER!』

 ビートアックスのネックから青色の雷が生じ、ジャマトライダー含めた全てのジャマトに雷が落ちる。俺は上遠とカローガンを庇い、雷から難を逃れた。雷を受けたジャマトは激しく炎上する。流石にこの攻撃なら倒せたか…?

 いや、まだだ。ジャマトライダーは足から蔦を伸ばし、マリオネットのようなカクついた動きで立ち上がった。

「あのライダーは不死身か…!一般人を抱えていては、逃げるしかない!」

 ギーツに促され、バッファが城の扉を豪快な蹴りでこじ開ける。

 ライダーとジャマトの戦いは、広い城内へと移った。

 城の中はジャマトの巣窟となっており、接近戦は必至だが、その分柱等の遮蔽物が多い。ジャマトを振り切れば暫くは隠れられる。

「上遠!青山!こっちだ!」

 乱戦の最中で、仮面ライダーはバラバラとなり、それぞれのルートで脱出の糸口を探すこととなった。

 

             ※

 

 東の館のラウンジに逃げんこんだ英寿、祢音、一徹の三組。一般人たちは椅子に腰掛けると、安堵の息をもらすが、未だに緊張状態が続いている。

「ヒマワリ…これが暗号の鍵か…」

 英寿は壁に取り付けられた向日葵の絵画を目にし、ニヤリと笑う。絵画の下には四つの暗号文字。その最初の文字が、門に貼られていた暗号と一致する。

「何かの手がかり?」

「そうだな」

 祢音は絵画を眺める英寿に近寄り、暗号文字を含めた絵画の写真を撮る。そして、自然な声のトーンを意識して、英寿に話題を振った。

「ねぇ、ゲームマスターって何なの?」

 英寿は気兼ねなく祢音の質問に返す。

「デザイアグランプリの全ての権限と秘密を持つ存在だ」

「秘密…?」

「なぜゲームマスターが急きょ君をエントリーしたのか。心当たりはあるか?」

 逆に質問で返され、祢音は言い淀む。が、すぐに彼の指示を思い出し、動揺の見えないように返答する。

「わからない…けど、お父様が何か知ってるんぽかったんだよね」

 本当にわからないのは、彼が何故このような指示をしたかだ。

(浮世英寿に鞍馬財閥を調べさせるんだ。後々必要になる)

 

             *

 

 西の館、厨房。俺たちは何とかジャマトを振り切ることに成功した。両開きの扉の前に冷蔵庫や棚でバリケードを作ると、ジャマトは追跡を諦めたようで、二人の首輪は緩まった。反対側にも廊下に通じる扉があったが、逃走のためにそこは塞がないでおいた。

「はぁ…助かった…」

 青山は調理台にへたりと座り込む。上遠は棚に収められた紙類が気になるようで漁っていた。調理台越しに青山を見下ろすと、嫌味をふんだんに盛り込んで語る。

「お前さぁ…もう戦うなよ。どうせ怪我してるんだろ、喉。今回は一般人なんだから、大人しく守られとけ」

 俺が手のひらをさすジェスチャーをすると、青山は右手を背中に隠す。手に血がべったりついていた。

「大丈夫だって……あっ、ほらほら!これ、攻略のアイテムなんじゃない!?」

 ごまかす彼女の声はガラガラだ。次ジャマトが近づいたら戦闘は避けさせるべきだろう。青山は作り笑いをして、足元に転がっていた何かを拾う。それは、チェーンアレイとドリルのバックルだった。以前ここで脱落した参加者がいたのだろう。埃を被っている。

「それでジャマトライダーに勝てるわけ無いだろ…」

 ジャマトから逃げるのに必死でまともに聞いてる時間はなかったが、さっきゲームマスターからアナウンスがあった。あのジャマトライダーや、そもそもこのゲーム自体がゲームマスターでも想定外の事態らしい。そこで攻略のためのアイテムを送るということらしいが……やっぱり引っ掛ける。缶蹴りゲームにおいてのゲームマスターは、ジャマトは進化する生き物だと言っていた。だとしたら、ジャマトが特異な行動をしても不自然じゃない。何かそう思わせる理由があるのか……?

 ぐい、と服を引っ張られていると感じて、力の働く方向を見ると、上遠が何かを訴えかけていた。が、喋るつもりは無いらしい、上手く意図が掴めない。

「え………どうしたんだ?」

 聞いても、上遠は首を振るばかり。そこで、上遠がいくつかの手帳を持っていると気付く。まさか攻略のヒントでも見つけたのか…

「ねぇ!ちゃんと言ってくれないと、わかんないんだけどっ!」

 厨房に青山の大声が響く。青山は相当上遠に怒りが溜まっていたらしい、遂に耐えきれなくなったか、立ち上がって上遠の肩をドンと押した。上遠が散らばった紙類の上に尻餅をつく。俺は左腕で青山を諌めたが、怒りが鎮まる様子はない。青山は俺の腕と拮抗しながら怒りをぶつける。

「自分の言いたいこと伝えないでさ!わかってもらおうなんて甘えじゃん!黙ってないで、何とか言ったらどうなの!?」

「やめろ!今はお前の気持ちどうこうより脱出の方が優先だ…!」

「私だけの気持ちじゃないよ!あんた達ボランティア部なんて、皆に嫌われて当然の人らでしょ!」

 喚き散らす青山の声が途切れると、厨房はまた静かになる。青山はクラスメートの取り巻き。結局は他人の意見を真に受ける奴でしかない。確かにボランティア部は嫌われ者の集まりかもしれない。でも、俺たちにも心ってもんがある。

「それさ……お前が本当に思ってることなのかよ」

 冷めた目で青山を一瞥すると、上遠に手を貸して立たせる。

 途端に、二人の首輪が締まった。ジャマトライダーが近付いていると思った瞬間、バリケードが扉ごと粉々になり、ジャマトライダーが瓦礫を越えて厨房に入ってきた。

「後ろの扉から逃げろ!」

『BLAST!』『Ready?Fight!』

 調理台を片手で跳び越えると共に変身。ジャマトを蹴りつけるが、全く効いてる様子がない。俺の蹴りを片手で止めていた。バケモンすぎるだろこいつ…!姿勢を崩して青山と上遠の前に立つと、二人の背中を押す。

「速く逃げろって!」

「でもっ……もうっ!」

 青山は上遠の手を強引に取ると、西館ホールへ続く廊下に駆け込んだ。ここで引くわけには行かない。俺はウォーターバックルを装填する。

『SET』『ARMED WATER!』

 レイズウォーターを逆手持ちし、ジャマトライダーに殴りかかろうとした刹那。

「……カナト……」

 ジャマトライダーは、カタコトの日本語で喋った。それも、俺の名前を。何故だ。なんでジャマトが俺の名前を…?ジャマトはそれだけ言うと厨房から去る。標的の二人がいなくなって、別のライダー達に目的を変えたのか。意図はわからないが、俺はその場に立ち尽くすばかりだった。

「だぁぁぁぁぁあ!」

 隣の廊下から、青山の叫び声が聞こえて、俺はふっと我に返る。俺は直ぐに向かおうとしたが、ジャマトの群れがが道を塞ぐ。そのジャマトの懐には、黄色い宝箱が収められていた。

 

             *

 

 喉が焼けるように痛い。いや、本当に火傷したんだから、焼けた喉が痛いって言う方が合ってるかな。私は上遠赤哉の触りたくもない手を強く握り、廊下の角を曲がった。ジャマトライダーが遠ざかったおかげで、頭も考えるほどの容量が空いてきた。でも油断はできない。もっと距離を取らないと……

 さっきから、ずっと私はモヤモヤしている。私の学校で、ボランティア部の評価はサイアクだ。話の合わない不思議ちゃんばっかりで、どの子も暴力的で陰湿………そりのあわない人は外される。それが若い子供のルールだ。でも…奏斗の言葉が引っかかる。ボランティア部を、皆から嫌われてる人を私が嫌うのは、本当に私の意思なのか。私は何も知らない、上遠赤哉について。

「いっ!」

 また首が締まって足が止まる。前方の中央ホールへと繋がる廊下から、ジャマトライダーが接近していた。今度は鎌を持っている。奏斗が戦ってるのと別のジャマトライダーだ。まともにやりあっても勝ち目はない。

「こっち!」

 元々通ってきてきた廊下の突き当りに、大きな窓が見える。あそこからなら出られるかもしれない。私は上遠赤哉の手を引いて必死に走る。でも、首輪が緩む様子はない。

『JYA JYA JYA STRIKE!』

 あとちょっとで窓に手が届くところで、ジャマトライダーの必殺技が私たちを襲う。直撃はしなかったけど、地面が剥がれて足を取られ、派手に転んでしまった。いよいよ私たちは行き止まりに追い詰められる。

「ぐっ……あぁ…」

 一体どうすれば……視界の縁で、上遠赤哉が首を押さえて苦しんでいる。私だって痛い。火傷のせいで、咳が止まらない。だけど……私は戦える。上遠赤哉を見捨てれば私だけでも逃げられるかもしれない。だって、上遠赤哉は奏斗が守る一般人だからだ。ボランティア部なんてキライだし、守る義理もない………

 でもそれって、本当に私が思ってること?私はボランティア部に何か嫌なことされた?ボランティア部の人って本当に悪い人?それを私は直接見た?

 考えはぐるぐる回る。けど、答えは結局見つからなかった。

「理由なんて無いじゃん……」

『SET』

 私はニンジャバックルをベルトに付けて立ち上がった。もう既に息は切れてる。呼吸もまともにできない。でも今は…逃げる気にはなれなかった。私には彼を守る理由はない。でも見捨てる理由も無い。今はそれだけで十分、私は怖くても立ち向かえた。

「だぁぁぁぁぁあ!」

『NINJA!』『Ready?Fight!』

 カローガンへ変身すると同時に、ジャマトライダーめがけて足を踏み出した。壁にニンジャデュアラーを押し当てながら走って、ディスクを回す。

『ROUND1・2・3!』

 エネルギーが溜まった刃を、ジャマトライダーの肩に押し当てた。更に首が締まって、視界が白く点滅し始める。それでも私は刃を振り抜いた。

『TACTICAL SLASH!』

 肩を斬り裂かれたジャマトライダーは鎌を手放す。チャンスと思った矢先、傷口がすぐにツタに塞がれて、私は首を持って持ち上げられた。ジャマトライダーがバックルに手を伸ばす。あの必殺技を使う気だ。私はニンジャバックルの手裏剣を回して、瞬間移動で拘束を抜ける。

『NINJA STRIKE!』

 そしてすぐに背後に現れて、空中から右足で蹴りを放った。

「っ!」

 ジャマトライダーの反応速度は凄まじく、私の右足を掴んでいた。そしてそのまま壁に叩きつけられる。アーマーブレイクの警告音が鳴って、衝撃でニンジャバックルはホールへと転がってしまった。変身が解けてしまって、私は地面に放り出される。

 無慈悲にもジャマトライダーは拳にツタを込めた。

『JYA JYA JYA STRIKE!』

 だめだ……もう動けない。私は目を閉じた…

 

『GOLDEN FEVER!』

 

 エンジンがうなる音がなって、私はゆっくり目を開いた。

『JACKPOT HIT!GOLDEN FEVER!』

 そこでは、ダパーンが真紅の鎧を身に着けて、ジャマトライダーの必殺技を天井に弾き返していた。ブーストだ。浮世英寿が持ってるはずの。なんで、奏斗が?

「無茶しやがって……攻略のアイテムが運任せなんて、ゲームマスターも手厳しいよな」

 よく見ると、ダパーンのベルトには、ガスボンベのバックルと他に、金色ピカピカのスロットが付いていた。これが攻略のアイテム…いろんなバックルをランダムで出すんだ。

「次はちゃんと隠れてろ……二度も守るのは面倒だ」

 ダパーンは腕のマフラーから炎を、足から強風を吹き荒らして、ジャマトライダーごと館の壁をぶち抜いて外に飛び出した。私はあまりの風圧に吹き飛ばされそうになる。それを、上遠赤哉が支えてくれた。やっぱり…ボランティア部って悪い人たちだけじゃない…?

 私は、厨房にいる時、上遠赤哉の前髪で隠れた目をはっきりと見た。ヒントになりそうな紙類を見つけた上遠赤哉の目は、キラキラと光ってた。その素直で真っ直ぐな心を、奏斗に伝えられない所に、私はイラついたんだ。おかしいのは、私のほうなんだ。

 

             *

 

 ジャマトライダーを地面に叩きつけると、一帯がクレーターのように窪んだ。フィーバースロットバックル。運が絡む分、爆発力は凄まじい。まさかブーストの力を初めて使うのが、こんな形になるとは思わなかった。

 バク転をしながら地面のジャマトライダーを蹴り上げ、空中に持ち上げた所で、ガスと炎を同時に噴射し、拳と膝の打撃でジャマーエリアを覆う城壁に一撃で吹き飛ばした。

 ジャマトライダーは足に蔦を纏わせ、城壁を蹴り返してこちらに迫る。俺はガスを左足側からのみ噴射し、錐揉み回転で回避。ブーストの炎で蔦を焼き切った。

「これで終わりだ…」

 スロットを再び回し、必殺技を発動する。

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

 空中で右足を振り抜いてガスを放つと、それは竜巻を生み出し、ブーストの力で一気に発火。炎の竜巻はジャマトライダーを襲い、全身を焼きながら上空へと巻き上げる。そして俺は竜巻の頂点から蹴りの構えを取る。そして、ジャマトライダーが竜巻を脱したタイミングで急降下。キックはジャマトライダーの腹部に命中。再び竜巻の中を通過し、ジャマトライダーが地面に落ちると共に、炎の竜巻はジャマトライダーに収束、内部から爆散させた。

 ジャマトライダーを完全に撃破したことで、デザイアドライバーのみがその場に残る。

「すごい力だな。これ」

 俺はフィーバースロットバックルを取り外すと、直ぐに青山たちの元へ向かう。まだ迷宮の謎は解けていない。本番はここからだ。

 

           DGPルール

 

        ゲームから脱落した者は、

 

   デザイアカードに記載した、理想を願う心を失う。

 

       忘れた方が、幸福な願いもある。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「ジャマトの言葉で変身を意味していたとしたら」

─ジャマトの暗号をといて─

「ギーツを出し抜いて、俺たちと脱出するか?」

─迷宮脱出!─

「上遠。俺と約束しろ」

「俺たちの運命は誰にも決めさせない。俺たちの手で決める!」

9話 変心Ⅲ:フィーバー★ライダーの決意


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9話 変心Ⅲ:フィーバー★ライダーの決意

 

 デザイアグランプリ第二回戦、迷宮脱出ゲーム。一般人を守りながら暗号を解いて、閉ざされた迷宮から脱出せよ。ボランティア部の後輩である上遠赤哉が暗号のヒントを掴んだようだが、相手は極度の無口。聞き出そうとしてる間に、ジャマトライダーに襲撃され青山優が大ケガを負ってしまう。攻略アイテムをゲットしたことで、ジャマトライダー自体は撃破できたが、迷宮にはまだ二体もジャマトライダーが残っている。早く暗号の謎を解かなくては……

「立てるか、青山」

 変身を解き、青山に肩を貸す。ジャマトライダーの蔦による攻撃は食らわなかったようだが、蔦の緩んだ首元には、はっきりと締め付けられた跡が残っており、血が流れていた。次にジャマトライダーに突撃なんて真似をしたら、命の危機どころじゃないだろう。変身なんて以ての外だ。

「ごめん……ニンジャバックル落としちゃった…」

 青山は頭をふらふらさせながらホールの方向を指差す。そこでは、ジャマトライダーとギーツのフィーバーブーストフォームが熾烈な争いを繰り広げていた。そのホールの柱に引っかかるように、ニンジャバックルが落ちていた。拾いに行きたいところだが…これ以上青山をジャマトライダーに近づかせる訳には行かない。

「上遠、暗号のヒントについて聞きたい。安全なところまで離れよう」

 俺たちはホールを背に西館の広場へ足を向ける。上遠赤哉は、まだだんまりを決め込んでいる。

 

             *

 

 上遠赤哉の声を聞いたのは一度だけ。俺がボランティア部に加入した日。以前そう語ったのを覚えている。あの日の記憶がリピートする。

 

 

「私は二年の新井紅深。これからよろしくね、墨田奏斗君」

 新井紅深はそれだけ言って、興味なさげに定位置に戻った。運動部でも無いのに、やけに大きいショルダーバッグから文庫本を出して、無表情で表紙を開いた。陳腐な言い回しだが、表情は当に氷。でも、話ができない相手じゃない。声をかければ取り合ってくれるし、それなりのユーモアも持ち合わせている。

 そんな新井紅深よりも冷たく、それでいて硬い。南京錠のような性格をしたのが上遠赤哉だった。部長の元を離れた上遠は、資料棚に体重を乗せて携帯ゲームをプレイしている。俺は何を考えていたのだろう、新井紅深ではなく、最初に彼に声をかけたのだ。

「君、一年の子かな?さっき自己紹介したけど、俺は墨田奏斗。元バスケ部。よろしくね。君は?」

 残った部員の一人が不良だったからだろうか、話しかけやすかったのかもしれないし、如何にもコミュニケーション能力に問題がありそうな見た目に気の毒に思ったのかもしれない。何方にせよ、記憶を取り戻した今はわからないことだ。聖人の頃の俺は自己紹介のテンプレートを読み上げると、上遠の反応を待つ。しかし、上遠は何も返さず、画面の上を指が滑るだけだった。

「ちょっと?聞いてんの?」

 どれだけ俺が声のボリュームを上げても、上遠は目を合わせようとすらしない。部長と話していた不良の部員が、クスリと笑うのが見えた。俺は結局聖人になっても、人との付き合い方をわきまえられていないのである。見かねたのか、部長が部屋の角に俺を呼び寄せると、小声で説明した。

「君、最初に話しかけるのが彼だなんて度胸があるねぇ。彼は誰とも話さないよ」

「じゃあ……どうやってボランティア部に勧誘したんですか?」

 また煽ってプルタブでも持ってこさせたのだろうか。俺が疑問を投げかけると、部長は待ってましたというように口角を上げた。

「別に、入らないか、と聞いたらね。頷いてくれたんだよ。それで、入部届を渡したら本当に入ってくれるもんだからさ。でも、君も気にならないかい?極度に無口な男が、ボランティア部に入ってくれた理由」

 確かにそれは気になる。部長の勧誘にすぐOKを出したのだから、部活に特別嫌悪感を抱いている訳ではないだろう。

「僕は聞かせてもらったよ。正真正銘彼の口からね」

 部長の事だ。汚い手を使ったに違いない。口から聞いたと言うより、問い正したと言う方が合っているのではないかと思う。

「もし、彼を深く知りたいなら、約束をすることだ。生ぬるい覚悟で関わったら、きっと後悔するね」

 その時は、上遠と友達と呼べるような関係になるつもりはなかった。あくまで聖人の俺は、ボランティア部の活動に参加してほしかっただけ。彼も、独断の善意に巻き込まれただけの人間だった。

 あれから暫く上遠赤哉は部室にいたが、携帯のゲームをクリアしても、ゲームのガチャで一番レアそうなのが当たっても、無反応を貫いていた。もっと喜んでもいいんじゃないかと思うが、ここまで無だと、何が面白くてゲームで遊ぶのだろうか。子供の時から染み付いた習慣が抜けていないから、と俺は解釈している。

 結局、活動時間内で、上遠赤哉の肉声を聞けたのはこの一言だけ。

「あ」

 部室の時計を見て呟いたその言葉だけだった。時刻にして十七時二十三分。俺が部室に入って三十分足らずの時間である。彼がなぜその時間に反応したのかはわからない。が、彼はそのまま荷物をまとめると、部室を去っていった。

 それ以来彼は、部長が呼び出したとき以外の、ボランティア部の活動に一度も顔を出してくれなかった。だから彼の透き通るような声を聞いたのも一度だけなのである。

 

 

 もっと部長の話を聞いておくべきだったと後悔している。上遠と広実須井がどのような約束を交わしたのかは知らないが、上遠から話を聞き出すためには、約束が必要らしい。

 西館のメインホールに入ろうと、金箔で装飾されたドアを開こうとした時、手が止まった。中から声が聞こえる。晴屋ウィンか?

「この迷宮を出る手がかりならわかってる。ギーツを出し抜いて、俺たちと脱出するか?」

 俺と青山は、ドアに貼り付いて中の声をより聞こうと試みる。自分だけが裏をかいてると思うなよ。少々姑息だが、上遠からヒントを聞き出せれば、一気に暗号の答えに近づく。利用しない手はない。後ろから上遠が引いたような反応をしていたのが癪だが。晴屋ウィンは、誰かに共謀を持ちかけているようだが……誰に対してかは直ぐにわかった。嬉しそうに返す尾形次郎を嗜める、吾妻道長の声が強く響いたからである。

「お前たち運営の手解きは受けない」

 俺と青山は顔を見合わせた。晴屋ウィン、やっぱりあいつは運営側だったか。信用しないで正解だった。それに…狙いは英寿を脱落ないし退場させる事か。

「無敗の男に、運営のテコ入れか?」

「なにそれ。勝ち負けを運営が決めてるってこと?なんか、すっごいムカつくんだけど」

 同感だ。俺たちはゲームの中で願いのために、はたまた誰かを守るために、戦い、傷ついてきた。あっちにどんな事情があるのかは知っこっちゃないが、特定の誰かを落とそうと考えているなんて。運営は公平な存在だと考えていたが。どうやら、参加者の願いを踏みにじる行為に手を染めていたらしい。俺も青山も、吾妻道長と考えは同じだ。俺達は自分の意思で戦っている。誰もが思い通りになると思うな。

「暗号を解く。出口に行くぞ」

 俺達は再び航路を変え、今度は城の出口を目指した。背後から金属が擦れる音と、打撃音。あっちでもバッファがジャマトライダーと戦い始めたらしい。

 ギーツとバッファが暴れ回っていたためか、城内のジャマトの数は大分減っていて、楽に城外に出ることができた。城を出ると、階段の先に出口はある。だが、ここからかなりの距離があり、ジャマトが至る所に。俺たちは階段を覆う高台に隠れる。

「なぁ、上遠。お前が持っているのが、暗号のヒントなんだよな?」

 上遠はこくりと頷き、握りしめた手帳と挟まれた紙を見せてきた。俺は手帳をパラパラと開く。案の定、全部ジャマト語で書かれていて、俺にはただ蔦が沢山描かれているようにしか見えない。だが、何を示したものなのかは掴めた。ジャマト語の下に、油絵の挿絵が入っている。

「これ、何の本なの?」

「厨房にあったしな。なんかのレシピだろ。ジャマトが飯なんて食わないだろうが、ご丁寧な人間の再現か?」

 手帳には、手順ごとにしっかりと挿絵が入っているが……残念ながら料理の心得は無い。はっきり言って、イラストだけじゃ何をしているのか全くわからない。完成図的に、これはグラタンだろうか?

「グラタン…?グラタンってマカロニでしょ?何炒めてるのこれ?」

 レシピの最初の手順は、フライパンで何かを炒めるらしい。イラストのフライパンにはただ茶色い粒が乗っているだけ。木の実…なのか?試しに文字を解読しようと試みても、ジャマト語で四文字書かれたあとに、三文字分丸括弧で囲まれている。

「全然わからん……上遠?これって?」

 ダメ元で質問してみても、上遠は何も話さないのはわかっていた。やりたくは無かったが。やっぱりあの手を使うしかないか…俺はため息を一つついて、小指を上遠に差し出した。青山がぎょっとしたようにこちらを見るが、無視して俺は語りかけた。

「上遠。俺と約束しろ」

 上遠が初めてはっきりとこちらを見る。彼にとって、約束がどんな意味を持つかは知らない。過去を勝手に利用しているようで気が引けるが、今は全員の命がかかっている。四の五の言ってられない。

「俺は、どんなことがあっても。お前を見捨てたりしない。お前を笑わない。だから、その代わりだ。暗号のヒントを教えてくれ。そうすれば、俺は絶対に約束を破らない」

 こういう後々まで響く決め事はできるだけしたくない。だけど、こうでもしなければ、あいつは教えてくれないだろう。かなり無理な約束だけど。上遠は、二、三秒息を吸うと、俺の指に自分の指を重ねた。

「…………約束……破りませんよね」

「破れる約束なんて、約束じゃないだろ」

 俺たちの間で交わされた会話は、初めてにしては高得点だったと思う。上遠は、目を隠していた前髪を掻き分けてどかすと、レシピ本を指さしながら、饒舌に語り始めた。

「このレシピはアッシ・パルマンティエ。有名なフランス料理ですよ。グラタンってのはあながち間違いじゃないです。牛ひき肉をマッシュポテトで覆ったグラタンですね。だから、フライパンで炒めているのは牛ひき肉かと。でも、レシピでは最初に四文字書かれたあとに三文字かっこで閉じられてますね。それに、かっこの中に掻かれた文字の二文字目は、普通のジャマト語より小さく書かれてます。恐らくはや、ゆ、よ、か。つ、またはあ行のどれか。それで、ジャマト語がひらがなに解読できるとしたら、"ひきにく(ぎゅう)"と書かれているのかな、と。それで、ひきにくの"ひ"の形は、暗号の一文字目と一致します」

 すっご……俺は、一息で吐き出された文章量に面食らう。とりあえず、暗号の一文字目が"ひ"なのはわかった。俺が言葉を返そうとするよりも速く、青山が反応した。

「すっ、ごくない!?マジで探偵じゃん!もう他のもわかったの!?」

 上遠赤哉……無口だが、心の内に秘めた思いは人一倍強い。そう実感する。こんなん聞いて、誰が笑うと言うのだ。十分誇っていい、素晴らしい知識じゃないか。俺と青山が手放しで褒める中、上遠は他の推理もこれまた饒舌に語った。

 暗号の二文字目は、"ら"。これまたフランス料理のラタトゥイユから。そして三文字目は、"け"。これはパンの中に混ぜる木の実、ケシの実から推測した。

「じゃあ、暗号は……」

「ヒ、ラ、ケ、か!すごっ!もうクリア目前だよ!」

「あぁ。俺がジャマトを引き付ける。だから、お前らが暗号を解け」

『SET』『SET FEVER!』

 俺はブラストバックルを左に、フィーバースロットバックルを右に装填し、高台を飛び降りると共に変身した。

『GOLDEN FEVER!』

 来い!もう一回ブースト!俺は着地する寸前で、ガスの噴射で二弾ジャンプのようにもう一度飛び上がり、広場のジャマトを踏みつけるように着地する。だが、赤い装甲は装着されていない。代わりに、ピンクのバンドと、ちっちゃいハンマー。この装備は見慣れている。

「ブースト以外も出るのな。これ」

 運任せだ。こういうこともある。まぁいい、久しぶりにこいつを使ってやるのも、悪くない。ハンマーを思いっきり投げつけ、前方のジャマトを怯ませると、ブラストで一気に加速し、ハンマーを押し込むように蹴り込む。折角だ。新しい戦い方を試してやる。

 俺がジャマトを相手取っていると、その間をすり抜けて上遠と青山が抜けていった。そして、二人は出口の前で勢いよく立ち止まり。大声で答えを叫んだ。

「「ヒラケっ!!!」」

 しかし、音声認識機械は、耳障りなブザー音を鳴らすだけだった。ハズレだと?何でだ、上遠の推理は完璧だったはず…!

「……ジャマト語……まさかと思ってたけど……」

 上遠は、苦虫を噛み潰したような表情で声を絞り出した。

「……ジャマト語で喋らなきゃ、正解扱いにならないみたいです。ジャマトの迷宮だから、当然かもしれないけど……」

「ええぇ!?折角謎解けたのに、ジャマト語翻訳しなきゃいけないの!?そんなんズルじゃん!?」

 青山はボロボロのはずの喉を荒らげて頭を抱える。いったい未知の言語の解読にどれだけの労力を要すると思っているんだ。勘弁してくれ。俺がどうしたものかと、片手間に執事ジャマトを撃破すると、上遠ははっきりと呟いた。

「……城に戻ります。きっと、先輩たちと同じく、このゲームの謎に挑んだ仮面ライダーがいたはず。その人たちが何かしらのヒントを残してくれていたら……」

「駄目だ、危険すぎる。他のライダーが戻ってくるのをここで待とう。あいつらだってタダじゃ帰ってこない」

 その方が得策だろう。俺だって、二人の人質を何時まで庇いきれるかわからない。その中でも、特に青山は危険な状態なんだから。

「でも、約束なんですよね?僕の話を笑わない代わりに、暗号のヒントを教えるって。先輩たちは、僕を笑わなかった。だから、僕にも約束を守らせてください……!」

 ここまで上遠が熱い男だとは思ってなかった。冷たい、南京錠なんて表現はもう使えないな。だったら俺も応えなければいけない。

「わかったよ。とっとと行け!」

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

 俺は手元のハンマーを空中に投げ、叩き落とすような蹴りでハンマーを発射。一帯のジャマトを一気に撃破した。まだ左右からジャマトは向かってきている。俺は二人の背中を押すと、ジャマトと戦い始めた。二人は、城でまだ未探索の塔を目指す。

 俺はそれを見届けると、もう一度スロットを回した。もしブラストを引き当てれば、ダブルで強くなれる…!

『GOLDEN FEVER!』

 またかよ……今度は緑色の弓、レイズアローだ。ブラストどころか大型バックルすら引き当てられないとは…運悪すぎないか…?レイズアローを右に振り抜いて、矢を三本連続で放ち、数体を撃ち抜く。振り抜いて、さらにもう一発…と思ったところ。放たれた弓を弾いたジャマトがいた。その手にはジャマトバックル。あれで蔦を伸ばして防いだか。

「ジュラピラ」『JYAMATO』

 ジャマトライダーがまた増えやがった。いや、あのデザイアドライバー、もしかしたら。あの時俺がフィーバーで倒した個体のやつかもしれない。元から相当数いるなら、最初に一気に襲ってきたはず。デザイアドライバーか、ジャマトバックルを回収しない限り、奴らは何度もでも現れる…か。

「来いよ…」

 レイズアローでジャマトライダーのパンチを受け流し、ブラストの噴射で身体を捻りながら背中に周る。そしてレイズアローの射撃をゼロ距離で撃ち込んだ。矢は一度貫通したものの、ジャマトライダーの傷は直ぐに塞がる。不利と判断した俺は一度距離を置くために、背中を蹴って離れる。

 すると、空から二つの宝箱が落ちてきた。

「なんだ…?シークレットミッションは何も…」

 しかも、片方は黄色い箱。デザイアドライバーとIDコアが格納されているはずの宝箱だ。追加エントリー…?なんでまたこんなタイミングで……いや、違う。念のためスパイダーフォンを見ると、丹波一徹が脱落扱いになっており、逆に桜井景和がエントリーしている。エントリー権を譲渡でもしたか。ということは……

「ああっ、奏斗くん!」

「なんで、再エントリーなんかしたんだよ!」

「俺も戦うよ。皆を守るために…!」

 来やがった、超ド級のお人好しが。景和はジャマトを押しのけながら、宝箱を空け、デザイアドライバーとIDコアを入手する。もう片方には、マグナムバックル。景和は首の締め付けに苦しみながらも、急いでいる様子だった。俺はジャマトライダーを押さえつけながら、景和の城への道を作った。

「おい!ホールにニンジャバックルが落ちてる!必要だったら使え!」

「ありがとう…!奏斗君!」

 景和は大切な人たちを守るべく、城内へ入っていく。あの記憶を失っていたときの情けない姿とは一変、世界を守るライダーらしい決意の顔で。さぁ、このジャマトライダーどうするかねぇ…

 ジャマトライダーの目は、相変わらず妖しく光る。

 

             *

 

 館の北西に位置する塔は、植物にまみれていた。ただのオブジェかとと思っていたけど、壁の植物が剥がされた跡があって、厳重な鉄扉が見えていた。既に誰かが入っていったらしい。僕と青山さんは、目を合わせて頷くと、塔にそっと近づく。

「よっ!」

「うわっ!」

 背後から肩を組まれて、青山さんはぴょんと飛び跳ねる。僕も内心驚いていたが、彼とは約束を組んでいない。無視を貫いた。国民的スター、浮世英寿だ。被害者の小学生、葉山良樹も連れている。スターなんてエンタメに興味は無い。以外だが、青山さんもその方面には疎いらしく、浮世英寿に淀まず返答する。ミーハーそうな性格してるのに。

「何です?浮世英寿さん?」

「いや、俺もこの塔に用があってな。ダパーンはどうした?」

「奏斗は私たちのために戦ってくれてるの。暗号の答えはわかってるんだけど、ジャマト語に翻訳しなきゃいけないらしくて」

 青山さんは、僕の代わりに詰まることなく話してくれた。この人も…僕の話を聞いて笑ったりしなかったな。この人は、信用できるかもしれない。元々、約束という決め事は、僕を受け入れられるかを見極めるために始めたんだから。

「俺も暗号のヒントは掴んでいる。ジャマト語については……この塔に答えがあるはずだ」

 僕たち四人は、塔を見上げる。

 

 

 塔に先に入った人はまだ中にいるようで、ガサゴソと漁る音と話し声が聞こえた。僕たちは階段を登り終えると、開きっぱなしの扉の先に、一組の男女がいたのを発見した。あのナビゲーターの人と、なんかチャラい人だ。

「ほらほらほら!あったぞ〜!」

 部屋の中央のテーブルに、古びた手帳とボイスレコーダーが置かれていた。チャラい人は、それを手に入れようとするが、横から浮世英寿がするりと入り込んで、手帳とボイスレコーダーを横取りした。

「ギーツ!」

「先輩ライダーが解いた暗号のヒントか」

 浮世英寿はそれをパラパラと捲り、ボイスレコーダーから録音された音声を再生した。ジャマトの声が、何度も部屋にリピート再生される。よく部屋を観察すると、館の地図に、ジャマト語が記されたブロック。あらゆる資料が散らばっている。脱出のために、相当の労力を尽くしたのだとわかる。逆に、これだけしても簡単には脱出できない非情を感じた。

「おい、それをよこせ!」

 浮世英寿は、跳びかかるチャラい人をはらりと避け、僕に手帳を渡してくれた。

「しかし、ゲームマスターの命令に従わされて大変だな。ツムリに一目惚れだなんて大芝居までしちゃって」

 中間管理職と言うのだろうか。現場に駆り出される人は大変だな。と、今はそれよりも、暗号。さらっと手帳を見てみると、前の仮面ライダーさんは本当に賢い人だったのだなと実感する。言語学者だったりしたのだろうか?一文字ずつ解読するために、あらゆる策を実行していた。"ひ"をジャマト語で何と言うかを知るために、館でボヤ騒ぎを起こしてみたり。この仮面ライダーさんが、脱出できなかったことが無念でならない。

 僕が手帳を読み込んでいるうちに、チャラい人と浮世英寿の口論は続いていた。

「仕方ねぇな…なら、実力行使に出るまでだ」

「俺とやる気か?」

 二人はそれぞれのバックルを構えて、一触即発の雰囲気だ。でも、ナビゲーターの人が割って入って止めた。

「待ちなさい!参加者の妨害は違反行為です。ナビゲーターとして見過ごすわけにはいけません!」

 きっと、このナビゲーターさんにも思うところがあったのだろう。ナビゲーターさんに止められて、二人はバックルを下ろす。

「なら、正々堂々勝負だ。どっちが先に、暗号を解くか。行くぞ」

 僕たちは浮世英寿に連れられ、塔を去ることとなった。ちゃっかり、チャラい人とナビゲーターの人も付いてきている。浮世英寿とその二人に挟まれた僕と青山さんは、ひそひそ話で会話した。

「ねぇ、逃げなくていいの?奏斗やばいじゃん」

「でも、ここで逃げたら…手帳を奪われて終わりですよ…」

 今は、この人たちのいざこざに付き合うしかない。

 

 

 浮世英寿が訪れたのは、さっき僕たちが行き損ねた西館のホールだった。食事の用途としても使うのかもしれない、シーツのかけられた丸机に椅子が沢山。でも、壁一面が金ピカで眩しい。浮世英寿の目当ては、壁にかけられた植物の絵画だ。

「今度はアケビ…」

 浮世英寿は、絵画の下に刻まれたジャマト文字を凝視すると、ブロックごと文字を入れ替えて正しい配置に戻した。傷の位置で見抜いたようだ。でもなんで文字が、入れ替わっていたんだ?

「えっ!ちょちょちょ、なんでわかった!?」

「狐を化かそうたって、そうは行かない」

 この人がやったのかよ。本当に運営という人たちは、浮世英寿を落とすことに邁進しているらしい。

「うわっ、姑息〜」

「心の声、出ちゃってますよ」

 青山さんは明らかに不快そうな顔をしている。だけど、僕も思ってることをはっきり言ってくれて、少しすっきりした。浮世英寿は、チャラい人の肩に手を乗せて煽ると、堂々と啖呵を切って見せた。

「なんで運営が俺を落とそうとしているのかは知らないが、俺はゲームマスターの思い通りにはならない。俺たち参加者は、ゲームマスターの駒じゃない!」

 浮世英寿は続ける。

「俺たちの意志でここにいる。俺たちの意志で戦っている!俺たちの運命は誰にも決めさせない。俺たちの手で決める!」

 ホールにジャマトたちが侵入してくる。浮世英寿は、銃のバックルをベルトへ運ぶ。

 

             *

 

 流石に小型バックルの装備じゃ無理があったか。ジャマトライダーの必殺技を防ごうとしたレイズアローは、粉々に砕けてしまい、俺も三歩ほど後退して膝をつく。暫くの連戦で、足にダメージが溜まっていた。じわじわと、痛みが広がっていた。限界は近い。

「こんな所で…終われるかよ…!」

『MONSTER!』

 もう一度スロットを回すと、やっと大型バックルの装備が出た。だがまたしても運がない。ブラスト以外だったら、遠距離で戦えるマグナムかビートだと思っていたのに…だけど、小型バックルよりはマシだ。俺はモンスターの能力で腕を伸縮させ、思いっきりジャマトライダーを殴る。モンスターの一撃は何とか効いたようで、ジャマトライダーを一瞬怯ませた。このまま畳み掛ける。俺はこのゲームでの鬱憤を晴らすように、前進しながらジャマトライダーを何度も殴った。

「本当にっ、さ!暗号だけでも!面倒なのに!なんで!わざわざ!お前らの言葉を知らなきゃ行けないんだよ!」

 ジャマトライダーな防御の姿勢をとっても、お構い無しに攻撃を続ける。

「おまけに!緊急措置のアイテムは!運要素ばっかで!全然当たり!出ないし!」

 鬱憤が晴れるどころか、むしろ怒りがとめどなく湧いてくる。よし、決めた。今度スロットを引いてブラストが出なかったら、このバックルにはもう頼らない!いっそ捨てる!

「信じる者は…報われろ!」

『BLAST!』

「来たっ!」

『JACKPOT HIT!FEVER BLAST!』

 上下にそれぞれブラストフォームの装備が付き、頭部の耳が黒から金色に変わる。上半身でブラストを使うのは初めてだ。両肩から迫り出すようにガスボンベが付き、背中に向けて管が伸びている。足に付けているときの排出口のうち、二つづつが背中に取り付けられたらしい。変身したフィーバーブラストフォームは、何時もよりも、何倍も力が増幅している感覚があった。

 手始めに俺は全身の噴出口から一気にガスを噴射し、ブーストよりも数段階速いスピードでジャマトライダーに接近。ストレートパンチをお見舞いした。あまりの速さにジャマトライダーは防御が遅れ、クリーンヒット。地面に倒れる……よりも速く後ろに回り込み、低姿勢からのキックで足をさらい、今度は前傾姿勢になった所を肘を振り下ろして硬い地面にジャマトライダーを叩き込んだ。

「速攻で終わらせる」

『HYPER BLAST!VICTORY!』

 これ以上の戦いは必要無い。必殺技を発動すると、二の腕と太腿のファンが回転。周囲の気流が変化する。両手を勢いよくクロスさせると、全身からガスが噴射。二つの竜巻が起こり、ジャマトライダーはそれに挟み込まれ、装甲がガリガリと削られる。そして、竜巻の勢いにのまれ、こちらに押し出されてきた。俺は為す術もなく飛ばされてくるジャマトライダーとすれ違うように回し蹴りを命中させ、ジャマトライダー、二度目の撃破に成功した。

「よし」

 ジャマトライダーの撃破に伴って、ジャマトバックルとデザイアドライバーが散らばる。ジャマトバックルは大きく吹き飛ばされてしまったようで、辺りを見ても影は無い。だが、デザイアドライバーはあった。中央のIDコアを取り外して、掌で握りつぶす。案外簡単にIDコアは壊れ、これでこのドライバーはジャマトから解放されたってわけだ。俺は変身解除をすると、もう一つのデザイアドライバーをジャケットの中にしまい込む。もしかしたら使い道があるかもしれない。これは黙っておこう。ちょうどナビゲーターの目もないし。

「奏斗!無事だったんだね!」

 ちょうど、鞍馬祢音が城から出てきたところだった。そういえば、こいつらとは一度も城内で会わなかったな。続いて、葉山梢や景和等、一通りのメンバーがぞろぞろと出てくる。そこに青山と上遠の姿は無かった。あいつら、まだ脱出できていないのか。

「どうしよう」

「まだ出口の謎が解けてない」

 口々に話す鞍馬祢音と吾妻道長も、連戦で相当疲れているらしい。だが、暗号自体は解けている。後はジャマト語をどうするか。

「それは…」

「謎なら解けている」

 振り返ると、英寿ペアや晴屋ウィンペアに紛れて、青山と上遠もこちらに近づいていた。英寿と合流していたのか。何はともあれ、これで全員揃った。

「ここにある文字は、館内に付いていた絵画の文字と同じだ。ヒマワリのヒ。ウツボカズラのラ。アケビのケと同じ文字だ」

 館内の絵画ぁ?もしかして、運営はそっちの方向から暗号を解く事を想定していたのか。英寿はスマートに真実に辿り着いていたが、大きく遠回りして館内の料理のレシピから真実を解き明かした俺たちは、かなり泥臭い戦法だったのだと自覚する。まぁ、上遠の推理と観察眼があってこそだったが。

「じゃあ…答えはヒラケだ!」

 景和はお手本のような間違いをし、エラー音に突っぱねられる。吾妻道長にニヤけ顔で見られていた。そう、暗号の答えは日本語じゃない。

「ジャマトの言葉だよ。あいつら、変身するとき、ジュラピラ〜ヘンシン〜って、言ってたじゃない!?」

 青山は大袈裟なジェスチャーで謎解きに意見を加える。英寿はそれを面白いと受け入れ、同調した。

「そうだ。それがジャマトの言葉で変身を意味していたとしたら」

「なるほど。じゃあ答えは、その手帳の中か」

 俺が上遠の手帳を指差すと。上遠は手帳に挟まれた紙を広げる。

「それはジャマト語の音読表だ」

「これがジャマト語の読み方…」

 鞍馬祢音が表を眺めていると、ジャマトの残党がまだ飛び出してくる。どれだけ湧いて出てくれば気が済むのか。

「ここは俺たちが食い止める!その間に!」

「青山ちゃん!お願いね!」

 景和と鞍馬祢音は真っ先にジャマトを食い止めるべく変身する。俺はその前に上遠に向き直り、一つ言葉をやった。

「約束…守ったな」

『BLAST!』

 俺は上遠の顔を見る前に変身し、防衛に加わる。背後では、青山と丹波一徹。そして被害者陣営が音読表と手帳を頼りにジャマト語の解読を試みている。音読表に無い文字は、手帳から抜き出し、いよいよ暗号の答えが、青山の掛け声で、彼らの声により発せられた。

「せーのっ!」

「「「「「「セオスズダ!」」」」」」

 遂に、扉は開いた。

「やっとか…」

 俺たちはジャマトの魔の手よりも速く、扉の向こうへ走り抜け、

『MISSION CLEAR』

 迷宮の扉は再び固く閉ざされた。

 

             *

 

「この子達のことは、私がきちんと送り届けます。そちらのお嬢さんは本当にいいんですか?」

「ああっ、いいんです、いいんです!」

 尾形次郎さんの親切な誘いを、私は笑顔で断る。一応私はデザイアグランプリ参加者。最後までツムリちゃんの話を聞いてからじゃないと、解散できない。ツタが取れた首元は、やけにスースーしているように感じる。

 葉山良樹君と浮世英寿さんが最後に会話をしていたので、折角だから私もすることにした。この探偵、上遠赤哉君と。

「今日はありがとう!助かった!」

 私の労いの言葉に、上遠君はペコリと会釈するだけで返した。相変わらず愛想無いなぁ。でも、私は知っている。彼の持つ情熱と、約束を守る強い意志を。

 被害者の皆はバスに乗り込み、無事に帰路へとついた。束の間と言うにはハチャメチャ過ぎた出会いを、彼らは内に秘めながら生活していくんだろう。デザイアグランプリの情報を公に公開するのは禁止されているのだから。もっとも、スターとインフルエンサーと一緒に命がけの脱出ゲームをしただなんて、言っても誰も信じないだろうけど。

「桜井景和様のエントリーに伴い、丹波一徹様はここで脱落となります」

 そうだ、桜井景和っていう就活生の人の代わりに、おじいちゃんがここで脱落になるんだった。おじいちゃんはそれを快く受け入れているようで、桜井景和さんに感謝の笑みを浮かべた。

「ああ。助けてくれて、ありがとう」

「でも、おじいちゃんにも叶えたかった理想の世界があったのに…」

 奏斗曰く、この人はお節介のお人好しらしい。最初は言われても信じられなかったけどな。エントリーする前は、ヘロヘロでのらりくらり。不安要素の擬人化みたいな人だったのに。私たちの周りにも、記憶が無いせいで性格が変わっている人もいるのかな?

「いんや。今を精一杯生きていれば、まだまだ現役。若くなりたいとは、思わなくなったよ」

「そっか…お元気で…!」

『RETIRE』

 おじいちゃんは、孫を見るような朗らかな笑みと共に、脱落となった。デザイアドライバーがカラカラと地面に落ちて、ツムリちゃんがそれを拾う。桜井景和はさんはそれを見届けると、今度は私に近づいてきた。

「これ、確か君のだよね。ありがとう。返すよ」

 そう言って、桜井景和さんはニンジャバックルを差し出してくる。ニンジャバックルね…渡すのは惜しいけど、この人も私たちのために十分戦ってくれた。私なんて、ほとんど何もしてないし。皆に守られてばっかり。だから、今度は私が守る番になるんだ。

「いや、それはあげます。私には、これがあるから!」

 私はポケットに忍ばせていた、フィーバースロットバックルを高らかに掲げる。それは、塔を出た直後。

 

 

「必ず勝ち抜く…!そう信じた奴だけが…運を引き寄せる!」

 迷宮の庭園にて、戦闘をギーツとパンクジャックの二人に任せた私たちは、植え込みの側に隠れていた。その時、私たちを見つけたメイドジャマトが襲ってきたんだけど…!

『FEVER MAGNUM!』

 ギーツが上下何方も白くなった姿に変わっていて、二丁拳銃を連射して私たちを助けてくれた。ギーツの鮮やかな連撃に倒れたメイドジャマトの服から、コロッと宝箱が落ちる。

「ねぇねぇねぇ!これって!」

 そこに入っていたのが、フィーバースロットバックルってわけ。

 

 

「じゃあ、これはありがたく使わせてもらうね」

 それに、私には厨房でゲットした小型バックルが二個もある。そのニンジャバックルは、私からの迷惑料だ。

 桜井景和さんは、ツムリちゃんから受け取ったデザイアカードに、自分の願いを書き始めた。

「また世界平和をお願いするの?」

「ううん。俺の願いは、退場した全ての人たちが蘇った世界」

「相変わらず壮大だな」

 鞍馬祢音さん、桜井景和さん、浮世英寿さんの三人が、次なるゲームに向けて火花を散らしている様子を、私は遠巻きに眺めていた。そして、何やら吾妻道長さんと話し終えたらしい奏斗に、耳打ちで話す。

「ねぇ、退場した人を蘇らせるって、なんでさっきいなくなったおじいちゃんを戻そうとしてるの…?」

 私の質問に、奏斗は深くため息をつく。一々ムカつくなぁ。

「お前さぁ…わかってなかったの?さっきの爺ちゃんは脱落、記憶を消されるだけ、退場はジャマトに殺られて、二度とこっちに戻れなくなった奴らのこと…!」

「ふ〜ん…………あっ!」

 デザイアグランプリの了見を深めていると、一つ大きなことに気づく。私が今日何のために外出していたか。それは…

「今日部活だったじゃん!!!あぁ〜!バックレたと思われてるよ〜!てかっ、部活のバッグ、さっきのバスん中だし!ねぇ!奏斗、どうしよう!?」

「じゃぁな〜」

 私が助けを求めた当人は、鼻で笑うと、振り向いて歩き出していた。デザイアドライバーを外して、元いた場所に転送されようとしている。私は、ガラガラの喉の痛みを忘れるくらい、思いっきりの声で叫んだ。

「卑怯者!!!」

 と。

 

             ※

 

 そう、やっぱり浮世英寿は母親を探して…

「そりゃ、運営が落とそうとするわけだ。それで、浮世英寿は君のお父さんに興味を持ちましたか…?」

「うん…でも、何でこんなことさせたの!?お父様もお母様も、何もデザイアグランプリに関係無いじゃん!」

 危ない船を渡らせたせいで、彼女は怒り心頭だ。

「まぁまぁ…落ち着いてくださいよ。事情は追って話します。今見えてるものが…正しいなんて限らないんだから。それが、自分の記憶でさえもね」

 あなたもそう思うでしょ、奏斗先輩。あなたには二度と見せさせない。あの凄惨な過去は…

 

           DGPルール

 

       ゲームマスターの許可があれば、

 

       エントリー権の譲渡が可能である。

 

 たとえ相手が、デザイアグランプリ未経験の、一般人でも。




次回予告

「そのドライバー返せ!!!」

─生き残りをかけた─

「取り返せなかったら…ライダーの座から脱落?」

─椅子取りゲーム!─

「信用ならないね」

「"変異したジャマトを見つけた"とかね」

10話 変心Ⅳ:奪われたドライバー


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10話 変心Ⅳ:奪われたドライバー

 

 仮面ライダータイクーン・桜井景和の途中参戦によって、第二回戦を切り抜けたデザイアグランプリ。新型バックルの登場によって、強化されてゆく仮面ライダーたちだったが、プレイヤーの一人、仮面ライダーパンクジャック・晴屋ウィンが運営側だと判明。ギーツを脱落させるために暗躍を開始していた。なぜ運営はギーツを落とそうとするのか、隠さねばならない秘密があるのか。それは…

「浮世英寿の真の願いは…母と会うことか」

「うん。スターになったのも、そのためなんだって」

 スターになって、デザイアグランプリのスポンサーにでもなるつもりか。鞍馬祢音さんは、立てかけた鏡の前で髪を縛りながら、僕との会話を続けていた。やけに気合入ってるな…と、コーヒーをちびちび飲みながら思う。

「あの、失礼だったらいいんですけど、誰かと遊びにでも行くんですか?」

「うん。奏斗とご飯に行こうと思って」

 思わず口の中のコーヒーを吹き出してしまった。霧状に散布されたコーヒーが、大事な機材にかかって、あたふたと拭く。

「何?朋希も行きたい?」

「いやっ!そうじゃ無いんですけど!何で彼なんです!?絶対仲悪いでしょ!?」

 僕は祢音さんに好意はない。ただの部下と上司である。しかし、何で寄りにもよって奏斗先輩をご飯に誘ったのだ。ダパーンとナーゴは以前のゲームで蹴落とし蹴落とされた、不仲中の不仲のハズ…奏斗先輩は殺されでもするのだろうか。

「ま、奏斗とはまだ仲良くなれて無いしね〜じゃ、行ってきま〜す」

 祢音さんは僕の訴えなど聞く耳を持たず、IDコア管理室を出て行ってしまった。どうしたものか……いや、やっぱり止めるべきでしょ!

「ちょ、ちょっと待ちましょうよ祢音さん!」

 僕も祢音さんの後を追おうとIDコア管理室の扉を開ける。しかし、そこにいたのは祢音さんではなく、別の男だった。

「久し振りだね〜仮面ライダーハイトーン」

「帰れ」

「まぁまぁいいじゃないか。実は借りたくてねぇ〜ガルンとランサーのIDコアを…」

 男は、手を差し出す。

 

             *

 

 ここで座っている間に、どれだけのお冷を消費したのだろう。遅い…遅すぎる…本当に来るのか?

「お客様、お待たせしました。ナンプレートでございます」

「…ありがとうございます」

 男性で褐色肌の店員さんが、待ち望んだものをテーブルに運んでくれた。ここは潮風の気持ちいい海に隣接した、人気のインドカレー屋だ。席も窓際の二人席を取れた。ロケーションは完璧だ。

 俺は図書館から借りてきた雑誌を、鞄にしまう。

 まだ湯気の立つナンがニ枚に、シーフードカレーと大豆などを煮込んだダルカレー。鼻腔を刺激するスパイスと、ナンから漂う優しい小麦の香りに、今すぐがっつきたい気持ちを抑え、手を合わせる。

「いただきます」

 それからは早かった。若者の間で話題と聞き、恥を忍んで来て正解だった。海が近いこともあって、新鮮な魚介の使われたシーフードカレーは絶品だし、豆類もしっかりとアク抜きがされていて癖がない。ナンも大きすぎるかと思ったが、これじゃ足りないくらい手が進む。以前、ギロリのカレーを逃したときは残念だったが、これで無念が少しは晴れるだろう。

 半分ほど手が進んだところで、周りの席に座っていた若者たちが黄色い歓声を一斉にあげて、俺は耳を塞ぐ。どうやら、誰か有名人が来店したらしい。

「ねぇ!祢音ちゃんじゃん!!!」

「ウソっ!?本物めっちゃかわいい!!!」

 うるさいなぁ。カレー屋はライブ会場じゃない、カレーを食べるところだ。俺は真っ当にカレーを楽しみに……あれ?なんで俺ここに来たんだっけ?

「あっ!奏斗早いね〜って!?ちょちょちょ!何もう頼んでんの!?一緒に食べる約束だったじゃん!」

 若い女どもの波を掻き分けて出てきた鞍馬祢音は、小さいスーツケースを手放して俺のテーブルに近づいてきた。約束…?

「いや、約束なんてしてないが?」

「もうっ!とぼけないでよ〜!」

 ちっ、バレてたか。迷宮を脱出してからというもの、しばらくジャマトの出現は無かった。平和な毎日を過ごしていた俺に届いた一通の連絡。それが、鞍馬祢音からの『一緒にご飯食べに行かない?』という誘いだった。スパイダーフォンである程度他の参加者と連絡は取れるが……こんな形で悪用されるとは思っていなかった。断っても良かったのだが、どうしても惹かれてしまった。集合場所に指定された、予約が既に三ヶ月待ちまで伸びていた、この超人気カレー店内にの存在に。

 鞍馬祢音は、上を向いて大袈裟なため息を吐きながら椅子に座る。周りの女性客からの、視線が刺さる。これは俺が鞍馬祢音を蔑ろに扱っている件への怒りか…?いや、それとも鞍馬祢音と話している恨みか…有名人とは関わりたくない。

「お客様、大変申し訳無いのですが…」

 黙って牽制し合う俺たちの元に、さっきカレーを運んできた褐色の店員さんが声をかけてくる。

「他のお客様のご迷惑になるので、奥の座敷に移動してもらってもよろしいでしょうか…?」

 鞍馬祢音目当てに、一気に店内は騒がしくなっている。俺みたいに興味のない奴にとって、最悪極まりない状況のはずだ。ここは大人しく従うことにして、俺と鞍馬祢音は店内の角に位置する個室に移動した。個室には、何かの民族の物と思われる仮面が壁にかけられていて、薄気味が悪い。たが、入り口には簾がかけられていて、人だかりも避けられそうだ。俺たちは荷物を壁のフックに吊り下げると、腰を下ろした。

 鞍馬祢音が相当ご立腹なものなので、俺は改めて運ばれたカレーに手を付けず、彼女のトークに付き合うことにした。

「で!今日も二人から逃げるのに手こずっちゃってさぁ〜」

「もしかして、家出配信ってやつ?」

「知ってるの!?まぁ、友達と会うって言って見逃してもらったんだけどね〜」

 友達って、俺のことかよ……家出配信って、わかってはいたが相当家庭状況に参っているらしい。鞍馬財閥…金融、メーカー、商社、サービス……日本のあらゆる経済を支配している、本当のセレブの一族。デザグラを通しているとはいえ、その令嬢に飯を誘われるとは、三ヶ月前の俺に言っても信じなかっただろう。

 鞍馬祢音がハイテンションで話を続けているのに相反し、俺の心は警戒を解けていなかった。俺は、過去のデザグラで鞍馬祢音を陥れようとした身。他の参加者を差し置いて、俺を飯に呼び出した理由が掴めない。好意的に捉えるなら、これは鞍馬祢音に過去の不敬を撤回する場を与えるつもりか。でも、本当は違うだろう。

 俺は鞍馬祢音に恨まれている。そして、今度は彼女が俺を騙し討ちしようとしているのではないか。鞍馬祢音は、次のゲームに向けて俺に探りを入れようとしているはずだ。

 予想が的中したのか、会話は不自然にデザグラの話題に変わる。しかし、鞍馬祢音から出た質問は、想定外の内容だった。

「ねぇ…奏斗はさ…デザイアグランプリの運営の人たちって、どう思う?」

 てっきり、デザイアカードに書いた願いを聞かれるのかとひやりとしたが、運営の事か。彼女の質問の仕方は言い淀むようで、歳頃の女子たちがするような愚痴の類とは違う雰囲気だ。何か隠し事があるのかと勘ぐったが……警告の意味を含めて、俺は彼の正体を伝えることにした。

「信用ならないね。パンクジャックって、いるだろ?あのチャラ男。あいつ、デザイアグランプリの運営らしい。ギーツを落とそうって、バッファに誘いをかけているのを、青山と聞いた」

「ウィンが…?」

 鞍馬祢音にあまり驚いている様子はない。恐らく、鞍馬祢音が今日俺を呼んだのはこの質問をするためか。こいつもこいつなりに、運営に不信感でもつのってきたか。俺も俺なりに調べてきた。今の鞍馬祢音も信用はできない。俺は壁にかけていた鞄から一冊の雑誌を取り出し、鞍馬祢音に突き付ける。それは半年前に発行された、インディーズバンドを紹介するものだ。

「俺も気になって調べてみた。晴屋ウィンは、自分が言っていた通り、知る人ぞ知るパンクロッカー……たが、実家は晴屋商事っていう、貿易を扱う超大手の大企業。そうだな…鞍馬財閥の次か次くらいには、金持ちなんじゃないか?」

 雑誌の中に写る晴屋ウィンの所属するウェザーハーツは、別に表紙を飾っているわけではなく、今人気真っ只中のバンド・エンペラージョーの同期その3として、とても小さい枠で紹介されているだけだったが。探すのに苦労した。本当に知る人ぞ知るすぎる。CDの売上も検索をかけてみたが、大して売れた様子もなく、赤字。たが、破産せずにここまでやれたのは、親が借金を肩代わりでもしたのだろう。

 だが、問題は晴屋ウィンではない、その大本、晴屋商事にある。

「お前、考えたことある?デザイアグランプリの運営資金がどこから来ているのか」

 鞍馬祢音は俺の言いたいことがわかったのか、目を大きく開いた。

「世界を守るゲームなんて、大層な事は言ってるが。デザイアグランプリのシステムは、明らかに現代のものじゃない。ジャマトの生態だってそうだ。だから、デザイアグランプリの運営は、ここじゃないどこから来た異世界人だって、俺は考えてる」

 鞍馬祢音が黙ったままなので、そのまま話を続けた。

「デザ神の願いを叶える力……それも異世界から持ち込んだものだろう。浮世英寿は、元からスターじゃなかった。過去すらも改ざんする程なら、叶えられない願いは無いに違いない。だったら、デザイアグランプリを運営するための資金だって、その力で賄えばいい話だ。でも、運営はそれをしていない。願いを叶えるためには、一定の条件があるのかもしれないな………だから、運営には独力で金を稼ぐ必要がある。そのために……後はわかるか?」

 わざとなのか、鞍馬祢音は少し盛った反応で変える。

「あー!だから、お金持ちの会社とスポンサー契約でも結んで、お金を払って貰ってるってこと!?」

「そうだ。金を払ってもらった会社には、きっと異世界の技術でも横流しさせて満足でもさせてるんだろう。晴屋商事は、デザイアグランプリと癒着している」

 我ながら、いい線を行っている考察だと思う。俺には、もう一つ疑念があった。それは、不自然な鞍馬祢音の追加エントリーについてだ。

「………最近、鞍馬財閥に不自然な金の動きはあるか?」

 質問を投げかけられた鞍馬祢音は、明らかに機嫌が悪くなった様子だ。家出したいと言っときながら、家族への愛は本物らしい。

「はぁ?私が運営だって言いたいの!?」

「憶測の話だ…晴屋商事がデザグラと繋がってるなら、鞍馬財閥が狙われていたって、不自然じゃないだろ!」

「私だって知りたいよ!だって!」

 鞍馬祢音の怒気に、思わず声が大きくなる。鞍馬祢音も声を荒げようと立ち上がったその時…

 鼓動を感じた。

 俺たちのいる座敷の前を、赤い帽子の少女が通り抜けたかと思うと、狭い部屋の中で、二つの物体が地面と擦れ合う音がした。俺は、自分の腰の近くに落ちた"それ"を拾う。白いに、黒いクレスト。落ちていたのは、仮面ライダーダパーンのIDコアだった。同時に、鞍馬祢音もナーゴのIDコアを手に驚きを隠せない様子だ。

 俺は反射的に、靴も履かずに座敷を出る。入り組んだ通路には、赤い帽子の少女はおらず、鞍馬祢音目当てに集まった観客しかいなかった。何が起こっている…?あの少女はジャマトなのか?それとも運営?次のゲームの舞台設定か?それともまた不測の事態?

「ねぇ!奏斗!」

 鞍馬祢音が俺を呼び止める。振り返ると、彼女は家出配信用のキャリーケースをひっくり返していた。

「ドライバーが無い!」

 あの赤い帽子の少女は、IDコアのみを残し、俺たちのデザイアドライバーを盗んだようだ。いよいよ、次のゲームが始まる。

 

 

 デザイア神殿に訪れた参加者は、一人残らずドライバーを装着しておらず、全員あの少女に盗まれた様子だった。盗まれたのはデザイアドライバーのみで、IDコアとバックルは無事。随分と器用に盗んだものだ。

「これで参加条件が揃いました。それでは今から、デザイアグランプリ第三回戦・椅子取りゲームを始めます」

「椅子取りゲーム…?」

「椅子は椅子でも、ライダーの座を賭けたゲームです」

 モニターに表示されたジャマトは、今までに見たことが無いタイプだ。黄土色と赤のグラデーションの体色に、網目状の身体。そしてウイルスに酷似した巨大な両手。キノコがモチーフなのか。名はビショップと付けられている。そのビショップジャマトを取り囲むように、七つのドライバーが表示された。

「ここにいる七名のドライバーが、謎の少女に奪われて、一つはジャマトに使われ、ライダーになってしまいました」

 七つのドライバーの内一つに、朽ち果てたIDコアが表示される。

「つまり…残るドライバーは六つ。エリア内に潜伏する隠れんぼジャマトを撃破する前に、ドライバーを手に入れていた方が勝ち抜けとなります」

 今回のゲームも、以前の迷宮と同様に、ただフィジカルに依存するゲームでは無い。少女の潜伏先を探すスキルが必要になるだろう。鞍馬祢音は不安げに呟く。

「取り返せなかったら…ライダーの座から脱落?」

「ジャマトが手に入れるよりも先に、ドライバーを取り返さないと、勝ち残れる枠はどんどん減っていきます」

「じゃあ、ドライバーはどこを捜せば?」

 景和の問に、運営は答えるはずもなく。既に戦闘で軽症を負っていた英寿が、何時もよりも引き締まった様子で言うのだった。

「手がかりはただ一つ。赤い帽子の女の子だ」

 

 

 一度デザイア神殿から戻り、カレー屋から出た俺たちは、互いに睨み合っていた。旗から見た観客たちが、痴話喧嘩か?痴情のもつれ?何て好き勝手言っている。俺たち二人の関係は、ゾンビサバイバルの時よりも悪化していると言えた。

「私、奏斗には負けないから」

「ふんっ、お嬢様がどうやって生身でジャマトと戦うんだよ?」

 ジャマトもドライバーを狙っている。生身の戦闘は避けられない。特に、俺たち二人は、スポーツに疎いお嬢様と、怪我の足を引き摺る男だ。他のフィジカル強者たちとは、アプローチを変えなければならない。

「そっちは勝手にしてれば?私には、いっぱい味方がいるもん」

 鞍馬祢音は、デコレーションされた自撮り棒片手に去ってゆく。配信でもして、視聴者から情報提供をあおるつもりだな。たが、俺には秘策がある。迷宮脱出ゲームで、倒したジャマトライダーからドロップしたドライバーだ。念のため取っておいたが、まさかこんなに早く使うタイミングが来るとは。予備のドライバーは、自宅は運営に監視されている可能性があったので、ボランティア部の部室に隠しておいた。早速取りに行こうと、俺は駅へ向かう。

 

             *

 

 なんか奏斗と鞍馬さん、険悪ムードで不安だなぁ……

「はぁ…」

 ため息が止まらない。本当は奏斗も呼ぼうかなぁと思ったんだけど、とても誘える感じじゃなかった。私が向かっているのは、学校の付近に位置する神社。そこに、赤い帽子の女の子の情報があると、私は確信している。どうしようかなぁ……やっぱり一人じゃ不安だし?奏斗呼ばなきゃかなぁ…

「「はぁ…」」

 ため息が誰かとシンクロした。驚いて、声の主へ視線を送ると、そこには蕎麦屋の作務衣を身に纏った、桜井景和さんがいた。

「桜井さん…!」「青山ちゃん…!」

 私たちはお互いに名前を読んだだけで、会話が続かない。桜井景和さんがいたのは、この町一番人気の蕎麦屋さんだった。私生活がどうなっているのかは知らないけど……ここの店員さんだったのか。気まずいな…と思って、思わず切り込んだ質問をしてしまう。

「あの…なんか悩みでも?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどね。なんか、祢音ちゃんと、奏斗君が心配って言うか…」

「えっ!それ、私も気になってたんですよ!」

 会話の共通点どころか、悩みの内容まで丸まんま同じで、思わず声のトーンが上ずってしまう。デザイア神殿に来たときに、最初から二人はいたんだけど…ずっと睨み合っていて怖かった。海賊ゲームで一緒に戦ってた時は、あんなに仲良さそうだったのに。

「鞍馬さんと、奏斗って、仲悪いんですか?」

 私の質問に、桜井さんは首を傾げながらも答えてくれた。

「う〜ん?それは俺もわかんないんだよね。実は、奏斗君がゲームに参加するのは二回目なんだ。一回目の時は、結構荒れてて……祢音ちゃんを騙して、落とそうとしたんだよ」

「はぁっ!?それ、めっちゃ悪いやつじゃないですか!」

 そんなことしてたのか…後で説教決定。でも、二回目の参加なのはなんとなくわかってた。昔のこと聞いても、はぐらかすばっかだし。

「でも、それ以来はなんか反省してみたいで…?俺は迷宮脱出からの参加だったけど、それまではいい感じだったんでしょ?」

「はい…心配ですね……今は、仲間割れしてる場合じゃないのに」

 桜井さんって、結構周りが見える人なんだな。お人好しって、皆から称されている理由が、わかる気がする。晴屋ウィンって人が運営だってわかって、私は他の参加者に疑いをかけずにはいられない状態になっていたけど、この人なら、信用できる。

「私、女の子がどこにいるか知ってるんですけど、付いてきてもらえません?早くしないと、ジャマトにドライバー取られちゃうかも…!」

「ホントに!?助かったよ!」

 私が神社に女の子がいるってわかった理由。それは…

 

 

 迷宮の事件があってからというもの、バスの運行数は凄い減ってて、部活が終るタイミングで、家まで運んでくれるバスはなかった。くそっ、あの部長…一時まで部活伸ばしやがって。そのせいで家までの距離を歩かなきゃいけない。こんな、重労働毎日やってらんない。

「最近さぁ、優付き合い悪くない?」

「えっ?」

 考えに耽っていて、隣の同級生の話を全く聞いていなかった。しまった、何の話だったんだろう?私の左肩に手を乗せた彼女は、バレー部のエースの子だ。この子には逆らえない。もし逆鱗に触れてしまったら、私の部活での立場はたちまち無くなってしまう。とりあえず私は、適当に話を合わせることにした。

「そ、そうかなぁ……」

「わかるわかる。学校でも、なんか避けられてるカンジ」

 右側から、エースの子の幼馴染ががっちりと距離を詰めてくる。この二人が、バレー部を掌握している諸悪の根源……って、奏斗みたいな言い回しになってたかな。今まではバレー部であり続けるために、なし崩し的にこの二人に従って、目立たないように意見を合わせてた。二人が喜ぶように、共感し、怒り、悲しむ。バレーを続けるためにはそれしかなかった。でも、この頃はそれすら意味を感じられなくなっている。

「あ、でもこの前、墨田奏斗と一緒にいるの見たって、友達が言ってたの聞いたよ?しかもおそろコーデで」

「マジぃ?あの勘違い野郎と?」

 迷宮脱出ゲームの終わり、二人で話してたのを誰かが見ていたのか。おそろコーデって…デザイアグランプリのユニフォームのことね……ボランティア部と同様に、奏斗の学校生活の悪評は底辺に近い。周りを拒絶する鋭い目つきと、塩対応で、嫌われるのは必然だったけど。だったんだけど…

「いやぁ……話してみたら、結構悪い人じゃないよ…?」

 私が見せた本音は、やっぱり二人の意志にはそぐわないみたいで、二人は顔のシワを寄せる。

「はぁ?んなわけ無いじゃん。優、これから墨田と話すの禁止ね」

「あとボランティア部もね〜これ、強制だから」

 強制…ね。私は、ボランティア部も、奏斗も悪い人だとは思えない。皆自分なりに考えがあって、それが偶然学校というシステムに合わなかっただけなんだ。頭ごなしに否定なんてできない。けど…

「う…うん、わかったよ…」

「だよね!良かった〜!じゃ、それだけだから。じゃぁね〜」

 二人は、私の返答を聞くと、足早に道を引き返していった。もう用は無いんだろう。あぁ…情けないなぁ…本当なら、あの人たちの誤解を解いてあげるべきなのに。

 私は家を目指して、人気のない神社を通り過ぎた。

 心臓がとくりと高鳴った気がして、足が止まる。

 そして、カラカラと足元にIDコアが落ちる。

「えっ…?」

 私がIDコアを拾うと、神社の本堂の奥へ、赤い帽子の女の子が歩いて行った。遅いような速いような、不思議な動きで。そして右手には、デザイアドライバー。もしかして、あの子?鞄をドカッと下ろして中を探っても、やっぱりドライバーだけがない。

「きみ!ちょっと待って!」

 赤い帽子の女の子は、雑木林へと消えてゆく。私は走って追いかけようとしたけど…

『GATHER ROUND』

 そこで呼び出しがかかった。

 

 

 私と桜井さんは、赤い帽子の女の子を目撃した神社へとやって来た。休日の昼下がりだと言うのに、人気はなく、葉の落ちた木に結ばれた凶や小吉のおみくじが風に揺れている。部活用の鞄を背負い直しながら、赤い帽子の女の子を探す。

「あそこの雑木林の奥に、女の子が歩いて行ったんですよ」

「雑木林ね…」

 私たちがちょうど雑木林へと続く石畳の階段を見ると、そこを数体のジャマトが忙しなく登っていくのが見えた。あいつら全員にドライバーを奪われたら、ジャマトライダーだらけで勝ち目が無くなる…!

「ジャマトたちも探してるんだ…!」

「急ぎましょう!」

 大急ぎで飛び込んだ雑木林は鬱蒼としていて、ジメジメと足元が泥濘む。その中で、ジャマトに囲まれるように、赤い帽子の女の子が立っていた。一体のジャマトが少女の手から無理やりドライバーをひったくる。

 あのジャマトからドライバーを取り返す。こんな事もあろうかと、秘策を考えてきたのだ。そうでもなきゃ、ここまで部活用の鞄を持ってこない。

「よし…桜井さん…ここは私にまか」

「そのドライバー返せ!!!」

 桜井さんは私の話を聞くよりも早く、ジャマトの群れへ走り出してしまった。そのがむしゃらなタックルで、奇襲を受けたジャマトが驚いている。

「もうっ…少しくらい待ってくれても…!」

 私は鞄からバレーボールを取り出す。それを左手で構えると、右手を添えて心を落ち着かせる。そして、ボールを前方に放り投げ、ジャンプと共に右腕をしならせるように動かし、ジャンプサーブを放った。私の右手に弾かれたボールは空中でスピードを増し、ジャマトの頭に直撃。まるで弾丸に撃ち抜かれたかのように、ジャマトはぶっ飛んでいった。上手く行った…!制服でやるの初めてだったけど…!

 桜井さんは私のサーブに驚きながらも、ジャマトからドライバーを奪い返し、私へそれを投げる。

「青山ちゃん!」

「ありがとうございます!」

「困った時は助け合い!行こう!」

 ゲットできたドライバーは二つだけ。私たちは、他の参加者を助けるべく、IDコアをドライバーにはめた。

 

 

 空に投影された映像には、ドライバーの状況が逐一表示されている。走りながら横目で確認してみると、残るドライバーは三つ。私たちが手にしたドライバー以外の二つは、ジャマトが手に入れたみたいだ。一つ、ヒビ割れたIDが表示された分が増えて二つになっている。ジャマトはドライバーをゲットするだけじゃなくて、変身できない参加者も襲うらしい。工業大学の構内に、ジャマトが入っていくのが見えた。

「残るドライバーは三つかぁ…さ、こん中の誰が脱落するかな」

 円形になった校舎の中心の中庭に、浮世英寿さん、吾妻道長さん、晴屋ウィンさんの三人が集まっている。そして同時に、ジャマトの群れも乱入してきた。中にはジャマトライダーが一体混じっている。速く助けないと…!

「みんな!今助ける!」

「ここは私たちが!」

「情けなんているか!」

 ジャマトとの間に割って入った私と桜井さんはバックルを構えるが、その手を吾妻さんが払った。相当気が立っていて、目は力強く私たちを睨んでいる。

「なんでだよ!困った時こそ助け合いだろ!?」

 負けじと喰いかかる桜井さんの胸ぐらを、吾妻さんが掴む。

「お人好しが…!俺達がライバルだってことわかってんのか!」

 今にも殴りかかりそうな雰囲気に、思わず声が出る。

「助け合いましょうよ!この戦いでデザ神が決まるわけじゃ無いんですよね…!だったら、ジャマトに殺されて終わるよりは、皆で次のゲームに行ったほうがいいんじゃないですか…!」

 ここで口論を続けるほうが面倒だと思ったのか、吾妻さんは手を離して桜井さんを押し飛ばす。だけど、納得がいっている様子はない。

「時には周りを頼ってもいいんじゃないの?一人で生きていける人間なんていないわけだし…!」

「お前の言う通りかもな」

 桜井さんの言い分に、同調したのが浮世さんだった。

「一人でやれるって信じても、どうにもならない時もある…自分を信じすぎるのが、裏目に出ることも…誰かの支えがなければ、人は生き残れない」

 桜井さんは、浮世さんの言葉で決心が付いたのか、もう一度ジャマトに向き直る。よし…私も。桜井さんはニンジャバックルを、私はフィーバースロットバックルをドライバーにセットする。

『SET』『SET FEVER!』

 私はバレーでサーブを打つときのルーティンと同じように、左手を伸ばして右手を左手首に添えると、右手を頬まで引いた後、スロットを回した。

「変身!」「変身っ!」

『NINJA!』『HIT!ZOMBIE!』

 スロットで当たったのは、巨大な毒手にチェンソーのゾンビだった。めちゃくちゃ禍々しい見た目だけど、ちゃんと使いこなせるかなぁ…?ふとした間に、桜井さんの変身したタイクーンがもう戦っている。私も行かねばと、ゾンビブレイカーのポンプをスライドさせる。

『POISON CHARGE!』

「おんもんたっ!」

 刃が回転して、激しく振動するゾンビブレイカーに振り回されながらも、一匹づつ着実になぎ倒していく。右足を軸に一回転して、ゾンビブレイカーに込められた毒を一気にまき散らす。

『TACTICAL BREAK!』

 即効性の毒を得たジャマト達は、表面から溶けてドロドロと崩れる。結構グロい。ゾンビブレイカーは使いづらかったので、少し離れたところのジャマトに投げつけると、左手の爪でジャマトの胴体を刺しては投げ飛ばし、群れを将棋倒しにさせる。さらにドライバーのリボルブオン機能を発動。三回ほど連続で側転しながらゾンビブレイカーを拾いつつ、鎧を足側に移動させた。

『REVOLVE ON』

 側転の勢いで正面のジャマトにドロップキックをくらわせ、振り向きながらゾンビブレイカーで残りのジャマトを両断した。

「次はジャマトライダーを…って!?何戦ってるんですか!?」

 なんと、大学の広い駐車場では、果敢にも浮世さんがジャマトライダーに生身で立ち向かっていた。ジャマトからドライバーを取り返すつもりらしい。けど、人間の拳じゃジャマトライダーに傷を付けられなくて、逆に吹っ飛ばされてる。

「英寿!今助ける!」

 タイクーンが直様浮世さんを助けようと駆け出す。私もその背中を追おうとしたが、私を呼ぶ声に動きが止まった。

 

「青山優ちゃん…だよね?」

 

 タイクーンの横をすり抜けるように、声の主は現れる。桜井さんには見えていないの…?声の主は、黒いローブを纏っていて、服装はおろか顔すら見えない。声質的に、なんとなく男の人だってのはわかった。何なんだ、この人。

「そうですけど…何で私の名前を?」

 会ったことがない人だけど…聞いたことがある声な気がする。いったいどこで…?男の人は、私の問に答えずに話を続けた。

「墨田奏斗君に、伝言をお願いしたいんだ。"願いを叶えたいなら、思い出せ。君の過去に、幸多からざる"とね」

 幸多から…ざる?普通、幸多からんって言わない?過去は不幸ばっかりってと?何が言いたいんだこの人。私が返答に困っていると、ナビゲーターのツムリちゃんがデザイア神殿を離れて、ここまで歩いてきていた。なんだろう、知り合いなのかな?顔は怒ってる。嫌な感じだ。

「ムスブさん、勝手な真似はやめてください。何のつもりですか?」

「おや…ツムリちゃん。本当は墨田君の所に直接行きたかったが…取り込み中だったんだ」

「全然返答になってません!」

 この男の人は、"ムスブ"と言うらしい。ムスブさんの言動はのらりくらりしていて、ツムリちゃんの苛立ちが溜まっていくのがわかる。

「僕は墨田君と友達になりたいんだ。僕が望む理想の世界を、彼は叶えてくれるだろう」

「無闇にプレイヤーと接触するのは止してください!不正行為とみなして、即刻退場にしますよ!?」

「あぁ…わかったわかった。じゃあ最後に一つ、いや二つだけ」

 ムスブさんはツムリちゃんをなだめるようなジェスチャーをすると、ダボダボの袖に手を通して、宝箱を取り出すと、それを私に投げてくる。危なっかしく受け取った宝箱の中には、なんとブーストバックルが入っていた。

「うそ…なんで?」

「それは口止め料。ここで話したことは、墨田君以外には内緒だ。他の参加者に追求されたら、シークレットミッションをクリアしたと言っておくといい。"変異したジャマトを見つけた"とかね」

 この人…本当に何者なんだ?ツムリちゃんが背後で手持ちのタブレットを握りしめている。そしてムスブさんを叩こうとしたが、ムスブさんはそれをローブをひらひらさせながらかわして、右手の人差指を立てた。

「最後に…もし墨田君が伝言の内容を信じなかったら、君のIDコアに触れさせてあげるんだ。君の分だけセーフティーは解除してある。君は知らないかもしれないけど……一人減っているんだ。君の学校から、墨田君の大事な人がね」

 最後にと言う割にムスブさんはペラペラと早口で台詞を読み上げると、霧に隠れたように消えてしまった。

「彼の言うことは聞くべきじゃありません!墨田様にも他言無用ですからね!!!」

 ツムリちゃんは地団駄を踏むように広場から去ってゆく。何だったんだ…今の。正直疑問しかでてこない。あのムスブって人は…デザイアグランプリ運営の人なのかな。ツムリちゃんは、パンクジャックの蛮行を阻止しようとしたり、ムスブさんに振り回されたり、デザイアグランプリの運営も仲良しこよしじゃないらしい。

 それに、一人減ってたって……まさか、あの子?てっきり転校でもなんでもしたんじゃないかって思ってたけど、あの子もデザイアグランプリの被害に?"鵜飼玲(うかいあきら)"………じゃあ、奏斗の願いって!?

『COMMAND TWIN VICTORY!』

 私が呆然としていると、既にジャマトライダーとの決着が付いていた。どうやら、浮世さんが新バックルを手に入れたみたい。全身メカニカルな造形で、頭部にはオレンジとシアンのバイザー。そして、両肩の一対のキャノン砲から放たれるビームで、ジャマトライダーを焼き払っていた。

「破壊力がありすぎだな…!」

 新しい力に感嘆するギーツ。空を見上げると、タイクーンの表示がギーツに切り替わっている。多分、桜井さんからドライバーを借りたんだろう。私も今度こそ皆と合流しようと、浮世さんと桜井さんの元へ小走りで近づく。

「それ、新しいバックルですか?」

「俺も初めて見る装備だ。っと、その前に…」

 初めて見る装備を十分に使いこなせている時点でスゴいけど。不思議とキザな感じはしない。これがスターではなく、本来の浮世さんの性格なのか。浮世さんは変身を解くと、デザイアドライバーだけじゃなく、マグナム、フィーバーはおろか、新型のバックルまでもをまとめて桜井さんに渡した。桜井さんは新型バックルを手に驚いた様子。

「ありがとう…て、これも?」

「ああ。感謝するのはこっちの方だ」

「まぁ…何はともあれ。これで私たち三人は勝ち残りですね」

 浮世さんは、ジャマトライダーからドロップしたドライバーを拾おうと足を向ける。しかし、すんでの所でドライバーを横取りする人がいた。吾妻道長さんだ。

「これは俺のもんだ」

「椅子取りゲームってのは速いもん勝ちだろ?」

 吾妻さんの肩に、晴屋さんが手を乗せる。この人の入れ知恵だな…そもそもこのゲーム自体が、ギーツを落とすための作戦だったんだ。

「せこっ!恥ずかしく無いんですか手柄をぶんどって!」

「作戦の内だ。お前みたいなモブならわかるだろ?このゲームは、スターも何も関係無い。勝ち残った奴だけが、たった一つの願いを叶えられる。そういうゲームなんだよ」

 吾妻さんが空中のビジョンに目をやると、ジャマトが所持していた筈の椅子がバッファのものに変わる。そして、立て続けに、残りの椅子も全て埋まった。しかも、ジャマトのものに。

「椅子が二つ減った…!」

「今ドライバーを持ってるのって…!」

「俺たちだけだ」

 つまり、今椅子に座れていないのは、浮世英寿さん、晴屋ウィンさん。そして、鞍馬祢音さんと奏斗の四人。今この状態でビショップジャマトを倒してしまったら、一気に四人が脱落になってしまう。何やってるんだ…鞍馬さん、奏斗…!

 

             *

 

 どうしてこんな事になった…!焦燥に駆られる心を抑え、打開策を必死に考える。ドライバーさえあれば、変身できるのに……!

 背後には、負傷した二人。

 そして…眼前には、二体のジャマトライダーが迫っていた。

 

           DGPルール

 

         IDコアは本人専用だが、

 

    デザイアドライバーは誰でも使用可能である。

 

      ジャマトに奪われないよう、ご注意を。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「どうせドライバーがあった所で、あなた達は退場になる」

─運営の暗躍は進む─

「今は負けられない!」

「休んでなんかいられるか…!」

「そのために戦うって決めたんだから」

「快富……俺は、俺達は、」

11話 変心Ⅴ:怒りのハイトーン


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11話 変心Ⅴ:怒りのハイトーン

 

 デザイアグランプリ、第三回戦。椅子取りゲーム。仮面ライダーの座をかけ、ドライバーを取り合う過酷な戦い。見事ライダーの座を勝ち取った三名と、未だ手に入れていないギーツ、ナーゴ、ダパーン、パンクジャックの四人が取り残され、椅子取りゲームの行方は如何に…そして、謎の暗躍を始めたこいつの目的とは…?

「いやぁ〜面白くなってきたじゃないか」

「お前…なんでカローガンにあんなこと言った?墨田奏斗に、隠された過去はないだろ?」

 ムスブはキャスター付きの椅子でもゴロゴロと転がりながら、デザイアグランプリの様子を眺めている。ちょうどそこでは、ギーツにドライバーを貸すか否かで、タイクーンとバッファが揉めている所だった。

「俺は知ってるよ。二大会程前のデザイアグランプリ、そこで墨田奏斗にとって決定的な出来事が起こった。そしてそれを…君は隠蔽している。参加者全員のIDコアから消去したんだろ?鵜飼玲の記録を…!」

「お前…!」

 激情に心が支配され、衝動的にムスブの胸ぐらを掴んで壁に押し当てる。絶対に守るんだ……先輩だけは…!

「俺はね…アルキメデルの破壊的な思想には反対してるんだ。安心しなよ…俺は彼と"友達"になりたいんだ。それに、君は今他に気にする事があるだろう?ギロリからの司令はどうするんだい?なっ、"仮面ライダーハイトーン"」

「あんな事案、直ぐにでもカタがつく。それよりも、ガルンとランサーのIDコアで何をするつもりだ」

「君の後輩の、成長のためさ」

 ガルンとランサー。かつてのデザイアグランプリに参戦していた外国人二人組が変身していたライダー。小型バックルながらも、怒涛のコンビネーションで最終戦付近まで勝ち残った実力は計り知れない。脱落後は鞍馬財閥のSPとして吸収されたはずだが……厳重に管理していた二人のIDコアは、貸してと言いながらも、ムスブが盗んだあとであった。一応ゲームマスターにも報告したが、返ってきたのは全く別の司令だった。

(ダパーンが不正なドライバーを所持している。君にしか頼めない。協力を要請する)

 僕はムスブから手を離す。そろそろ、祢音さんと奏斗先輩が追い詰められている頃だ。助けに行かなければ。司令という名目の元に。

 ずれた眼鏡を右手で直しながら、僕はデザイアドライバーを装着した。

 

             *

 

 タイクーンとカローガンがデザイアドライバーを手に入れる数時間前。

 

 子連れの家族が、のほほんとピクニックを楽しんでいる。そこで私は寂しくベンチに座り、視聴者のみんなから来た情報を吟味していた。正確すぎる話は逆に嘘っぽいよね…ファンに囲まれちゃったらデザグラどころじゃないし。だとしたら可能性があるのは、たくさん同じものが挙げられてる情報で、ジャマトが隠れ家に選びそうな場所。

「神社の裏の雑木林ね……」

 行ったことは無い場所だけど、誰かと一緒なら。景和か英寿に頼んで、一緒に来てもらって…いや。駄目だ。この椅子取りゲームは、奏斗と真っ向の勝負なんだ。視聴者のみんなは、私自身の力と運で集まってくれた人たちだけど、デザイアグランプリの参加者にはそれは通用しない。英寿とか道長はともかく、ミーハーそうな青山ちゃんまで私の動画を見てくれていないんだし、このゲームは、誰の力も借りないで、私一人の力で解決しなきゃ。

「奏斗には、絶対に負けない!」

 別にゾンビサバイバルゲームでの彼の行動に、恨みがないと言ったら嘘になる。私も、奏斗の缶蹴りゲームの様子を見ていた。その時の奏斗は、自分の願いを叶えるために真っ直ぐだったし、誰の願いも笑おうとしなかった。だけど、人はすぐには変われない。奏斗と一緒にご飯に行って、それを痛感した。彼は人を信じられない。まだ世界を恨んだままの、私怨に溺れてしまった人なんだ。

 よし!と気合を入れてベンチから立ち上がる。改めて神社の場所を確認しようとスマホを見ると、また新しい目撃情報が出ていた。もう神社に行くことは確定していたので流そうと思ったけど、動画付きで送られていたので、念のため確認することにした。

「えっ…?」

 『ヤバい鬼ごっこしてるの見た!』と一文添えられて送られた動画は、住宅街で、家の中から外を撮影したものだった。制服を着崩して金髪の高校生くらいの男の子が、道路を必死に逃げる様子が映り、それから数秒空いて、五体くらいのポーンジャマトが男の子を追って走る。そんな動画だった。なにこれ…ジャマーエリアに巻き込まれた一般人かな?だったら、他の参加者が助けに行くはず。私が行く必要なんて……今は神社が先決……

「………もうっ!」

 これは私に寄せられた情報だ。私が助けに行かなきゃ、視聴者の皆に示しがつかない。そう自分に言い聞かせて、私は男の子を追うことにした。この学校の制服、見覚えがある。そう、奏斗と同じ学校の制服だ。

 

 

 私に送られた動画を元に、SNSでは拡散が始まっていた。確かデザイアグランプリには、『第三者への情報公開を禁ずる』とあったはずだけど、この人は大丈夫なんだろうか。人が少ないガラガラの駅から一歩出て思う。

 かなり長い時間電車に揺られて、やっと奏斗の住んでいる地域までやって来た。ホントはベンとジョンに送って欲しかったんだけど、理由聞かれたら答えづらいし、それこそお母様にチクられたらアウト。一人でこんな遠出なんて許すはずがない。でも、駅の前に停められた数台のタクシーを見て、その手があったか、と私はため息をつくのだった。奏斗、こんな遠くからご飯食べに来てくれてたの?リアルで一時間かかったんだけど。マップアプリで見てみても、目当の神社は等に通り過ぎちゃったし、しょうがなく私は奏斗の通う学校を目指すこととした。

 都心からちょっと離れてるとは言え、学校に行く手段は、自転車か区営のバスくらいしか無い。しかも、等のバスも迷宮脱出ゲームの件を受けて本数が減っていた。タクシーを使えば楽だったけど、道中で見かける可能性も鑑みて、徒歩でズンズン町を進んでゆく。

 学校までは結構距離があったけど、誰ともすれ違うタイミングは無く、ただ無駄に時間が消費されている気がして、ヒールが地面を蹴る音は強くなっていった。

 私は歩き疲れて、道端にあった公園に足を向けた。さっきまでいた都心の公園は親子いっぱいで光って見えたのに、このガラガラの公園はなんだかくもりって感じ。砂場の中央にあったドーム状の遊具のくぼみに腰掛けて、私は空を仰いだ。

「はぁ…やっぱり無駄足だったかなぁ…」

「……おい、誰かいるのか?」

「うわっ!」

 ドーム状の遊具の中から声からして、私は砂場に背中から崩れ落ちた。この遊具、中に入れる構造だったみたいで、斜面に空いた穴から声が聞こえた。私は砂を払い、そろりと中をのぞきみる。

「助けてくれっ、って…女かよ」

「女って…そんな頼りにならないみたいな……ああっ!」

 遊具の中に隠れていた声の主の残念そうな返答に一度ムスッとしたが、そんな気は一瞬で吹き飛んだ。その声の主こそ、動画に映っていた高校生の男の子だったからだ。私は遊具の中に体を押し込んで、男の子に近づく。

「君、大丈夫だった!?ジャマトはどうしたの!?」

「…ジャ?ぁあ、あの怪物のことか?」

 男の子はテンションの上がる私に少し引きながらも、はっきりとした物言いで事の顛末を話してくれた。

「部活の終わりに、モノ片付けようと思って、部室に寄ったんだよ。そしたら、部室に、赤い帽子のガキがいたんだ」

 赤い帽子の女の子…!でも、なんで学校なんかに?

「俺、驚いて。壁の本棚とぶつかっちまって、本が雪崩みたいに崩れてきて…そしたら本の裏に、コレが…」

 男の子がブレザーの内側のポケットから取り出したのは、なんと、デザイアドライバーだった。私は思わず目を見開く。そのデザイアドライバーには、IDコアがついてない。赤い帽子の女の子は、このデザイアドライバーを回収しようとしたのかな?でも、まさかこんなチャンスが巡ってくるなんて。

「それでジャマトに追いかけられてたんだ………君、名前は?」

「俺?俺は快富郁真(しととみいくま)。あんた、鞍馬祢音だろ?」

 へぇ〜この子は視聴者なんだ。やっと味方が現れたような気がきて、自然と気分は上がる。

「知ってるんだ。結構コメントしたりしてくれてるの?」

「いや…墨…同じ部活のヤツが見てただけ」

 そう返す郁真くんの顔は心底興味がないと言ったようだった。しかも、すみ…?そんな珍しい苗字、奏斗以外にいないでしょ。郁真くんは、奏斗と同じ部活なんだ。確かボランティア部だっけ、英寿が口にしてた気がする。いやいや、今は奏斗のことはどうでもいいんだ。

「そのドライバー、私に貸してくれない?それ、私にとっても大事なものなの。これを持ってたら、ジャマトにも襲われちゃうし」

 デザイアドライバーがありさえすれば、このゲームは勝ち抜けられる。私は真っ直ぐ郁真くんの目を見てお願いするけど、郁真くんはそっぽを向いた。

「ダメだね。これは部室にあった物。うちの部員の物だ。信用できないヤツに渡せるかよ」

 なんでわかってくれないかなぁ!ボランティア部の人って皆捻くれてるの!?

 

             *

 

「無理しないで、少しはサロンで休んだら!?」

「ギーツに勝てるチャンスだ、休んでなんかいられるか…!」

「道長さん…!」

 吾妻さんは、そう言って足早にまた戦闘に向かった。サロンのソファーに深く座った私は、同じくらい深くため息を付いた。

 さっきの戦闘で、私たちは全く上手く連携が取れなかった。遂に現れたビショップジャマトの正体とは、赤い帽子の女の子そのものだった。ウイルスによる幻覚作用と、広範囲の爆撃。私たちは互いに攻撃し合う結果となり、撤退を余儀なくされた。

 私の注意も散漫だった。人間関係の上手く行かない参加者たちに、ギーツ落としを狙うパンクジャック。そして謎の男、ムスブが言ってた、奏斗の秘密。そして、消えてしまった同級生、鵜飼玲。わからないことばっかりで、不安ばかりが溜まってゆくだけだった。

「あの…桜井さん。もし、このまま残りの四人が脱落してしまったら、私たちだけで、世界は守れるんでしょうか…?浮世さんも、鞍馬さんも、奏斗も居ないで…」

「…どうかな」

「今までのゲームだって、奏斗に守ってばっかりで私、何もできて無いし…!」

 桜井さんは、弱音を吐く私の前に座ると、賢明に励ましの声をかけてくれる。

「それはしょうがないよ!だって俺達は、たまたま選ばれた一般人なんだし…!」

「本当にそうなんですか!?」

 私はムスブの発言を想起する。

(墨田奏斗君に、伝言をお願いしたいんだ。"願いを叶えたいなら、思い出せ。君の過去に、幸多からざる"とね)

 なんで偶々選ばれた私達に、隠された秘密とか、どうしても叶えたい願いとか、そんなものがポンポン出てくるんだ。私には何もないのに。私の不安は焦りとなって、思わず桜井さんに吐き出してしまう。

「願いを叶えるために、人を恨んだり、騙したり…それって、本当に見ず知らずの人同士で出来ることなんですか!?私達、理想の世界が叶えられるとかって、騙されてるだけなんじゃ!?」

 桜井さんも少なからず思うところがあるようで、押し黙ってしまう。気まずい静寂が少し続いて、サロンの空間にモニターが表示された。それは、ジャマトの大群に吾妻さんが向かっていく様子だった。群れの最奥には、赤い帽子の女の子。赤い帽子の女の子は不気味な笑みを浮かべると、ビショップジャマトに変貌する。

『こいつさえ倒せばゲームクリアだ!変身!』

 仮面ライダーバッファは、単身ジャマトの群れに突入する。

「俺たちも行こう!」

「…はい」

 私は、ポケットの中のブーストバックルを握りしめる。

 

 

 ジャマトに逃げ惑う人の波を掻き分けて、やっと現場に駆けつけた。そのままドリルバックルで変身しようとしたけど、手が止まる。

「私は…なんのために、誰のために戦えばいいんだろう…」

「世界を救って、理想の世界を叶えるためでしょ?」

 桜井さんは、嘘偽りない瞳でこちらを見る。

「そのために戦うって決めたんだから、今ここにいるんじゃないの?」

 …そうだ。私には、願いなんて無い。ただ、平凡に暮らせればいいだけ、そう思ってた。でも今は、願いが見つかった気がする。

「桜井さん、ありがとうございます…!」

 私はドリルバックルに加えて、右手にブーストバックルを取り出す。桜井さんは「いつの間に…!」と小声で驚いていたが、直ぐにジャマトに注意を戻した。

『SET』『SET』

「「変身!」」

『GREAT!』『DUAL ON!BOOST!ARMED DRILL!』

『Ready?Fight!』

「まずはジャマトライダーを!」「はい!」

 変身した私たちは、それぞれジャマトライダーを一体づつ相手する。上半身にブーストに、左手にドリルを装備した私は、果敢にジャマトライダーへ立ち向かう。

 ジャマトライダーのパンチを左手のドリルで受け流すも、蹴りでコンクリートの柱まで追いやられてしまう。ジャマトライダー…正直見たくも無い相手だけど…ここで負けてらんない…

「叶えたい願いとか、よくわかんないけど…今は負けられない!あんたたちに、皆の…平和な生活を奪わせないために!」

 腕のマフラーから火を放ち、渾身のパンチでジャマトライダーを怯ませると、逆に壁にへと押し当てる。さらにそこから、マフラーから炎を吹かせると同時にドリルを高速回転させ、思いっきり前進してジャマトライダーの装甲を削った。さらにドリルを全力で押し込み、柱ごと巻き込んでジャマトをぶっ飛ばした。

 ブースト…こんな力が…!

『JYA JYA JYA STRIKE!』

 ジャマトライダーはツタをまとわせた巨大な拳を私に向ける。けど、そんなのお構いなしだ。私には戦闘センスなんて無い。ならやることは、一点突破あるのみ!さっきと同じようにドリルとブーストの同時加速で突破し、突進でジャマトライダーを大きく吹き飛ばす。

「これでトドメ!」

 私はドリルバックルを外し、今度はチェーンアレイバックルを装填。オレンジ色のチェーンアレイを装備した。

『DUAL ON!BOOST!ARMED CHAIN ARRAY!』

 右側のブーストバックルのハンドルを引いて、チェーンアレイの鉄球に炎を纏わせる。

『BOOST TIME!』

 チェーンアレイを振り回して勢いを付けると、鉄球を鎖から切り離し、真上へへと投げた。私にとっては、この攻撃が一番やりやすい!

『CHAIN ARRAY!GRAND VICTORY!』

 私も上空へ跳び上がり、バレーのサーブの要領で、鉄球を思いっきり叩いた。発火した鉄球は鋭く棘のように、ジャマトライダーを貫き、左側の上半身がえぐれて無くなるほどの威力を見せ、ジャマトライダーを撃破した。それに伴って、デザイアドライバーもドロップする。

「やった!これで椅子がまた…って…うわぁ〜っ!」

 勝利の余韻を味わっていると、ドライバーのブーストバックルが煙をあげて飛んでいってしまった。一回しか使えないの…!?あれ!?

 

             *

 

 学校に付いたときには、もう手遅れだった。ぐちゃぐちゃに荒らされたボランティア部の部室を見た時、遂にここも運営に目をつけられたかとヒヤリとした。だが、それは直ぐに杞憂だと気付くと同時に、もっと面倒事に巻き込まれている事を意味していた。

 隠し場所としていた本の裏に、デザイアドライバーは無かった。そして、校庭から聞こえる悲鳴。急いで窓から身を乗り出して見るてみると、ボランティア部の快富郁真が何故かデザイアドライバーを片手に、ジャマトから逃走していたのだ。

 何やってるんだあいつという思いを呑み込み、俺は快富郁真を追う。快富郁真、二年生。元陸上部。典型的な不良だが、補導の履歴は、中学三年生の一度のみに遡る。今にしてみれば、快富郁真と俺は、互いに避けていた関係性だったと思う。同じ二年生でボランティア部である以上、学校の腫れ物仲間なのは違いないのに。認め合わないことで、まだ自分は学校の底辺なんかじゃないと思い込みたかったのか。

 しばらく町中を探してみても、快富郁真どころかジャマトの姿も影もない。上手く逃げおおせたのか、ジャマトにドライバーを奪われたか。もういっそのこと、予備のドライバーは諦めて、赤い帽子の少女探しに注視するべきだろうか。これは鞍馬祢音との勝負。あっちはSNSで情報を集めているから、どうしても赤い帽子の少女探しには鞍馬祢音に軍配が上がる。だったらこっちはドライバーを先にゲットしないとお話にならない。

「くそっ…!ここでもアイツに負けるのかよ…!」

 何時だって、俺は持つ者を恨んでいた。なんで俺は持っていなくて、努力もしない奴が幸福に生きれているのか。そして俺はゾンビサバイバルを得て知ったはずだった。現状に不満があるのは、誰だって同じ。そこで腐るか反逆するかは本人次第。もっと冷静であれ、もっと他人を知れ。自分に言い聞かせて、古びた民家に囲まれた公園を通り過ぎようとしたその時だった。

「わかってる!?これを持ってると危ないんだよ!?」

「尚更渡せねぇだろ!どう考えてもアンタが持つ方が危なくね!?」

 ……なんか遊具の中から聞こえる。子供が内側に入れるように空洞のあるドーム状の遊具の中で、男女が言い合っている。声を聞く限り、快富郁真と鞍馬祢音だ。快富郁真はともかく、なんで鞍馬祢音がここにいるんだよ。俺が遊具に近づいても、二人が気付く様子は無かったので、穴から中の様子を覗いてみた。そこでは、鞍馬祢音と快富郁真が砂まみれの状態でデザイアドライバーを取り合っていた。そのデザイアドライバーとは、俺がジャマトライダーから入手した物である。

「……なぁ!お前ら何してんの!?」

 俺が声を張り上げると、二人はビクッと肩を強張らせて動きを止めた。なんでコイツがここに…と二人共同じ顔をしている。先に行動に移ったのは、快富郁真のほうだった。彼は遊具から出てくると、デザイアドライバーを差し出してくる。

「墨田…!これ、お前のか?」

「…そうだけど?」

 この期に及んでも疑念を持ってるのか。マジで信用無いな俺。俺がデザイアドライバーを取ろうとすると、快富郁真はさっと手を引く。そこで彼から出てきた声は、早口で、こっちの身を案じているようだった。

「…信じていいのか?なぁ、このベルトは何なんだ、あの怪物は?」

「知った所で、お前はどうもできない。ドライバーを返せ」

 きつい言い方だが、デザイアグランプリの情報を公開するのは禁止事項…こいつも別にジャマーエリアに巻き込まれた訳じゃない。必要以上に伝えるのは、かえって危険を招く。

「おかしいだろ…!お前、なんか危険な事に手出そうとしてんだろ、近道をしようとすると、大抵後悔するもんだ、やめておけ…!」

 何もわかってないで、偉そうな口を…!どうせ俺達は同じ境遇なんだ。自分のことは、自分でわかる。が…やっぱり説明しなきゃだめなのか…?

「奏斗!ジャマトが!」

 ドライバーを巡ってもたもたしている間に、ジャマトが来てしまった。公園の鉄柵を壊しながら、ポーンジャマト共がにじり寄ってくる。俺は再び快富郁真に手を伸ばすが、抵抗してドライバーを渡そうとしない。先頭のポーンジャマトが、デザイアドライバーを装着する。

「ジュラピラ…ヘンシン…」『JYAMATO』

 一体のジャマトが既にドライバーを入手していたみたいだ。くそっ、どうする?生身でジャマトライダーに敵うはずがない。

 ジャマトライダーが俺達に殴りかかろうとしたその時…

「よっと!」

 一人の仮面ライダーがジャマトライダーを飛び蹴りで退けた。それはギーツでもタイクーンでもない。エントリー形態のそのライダーは、流線型の紺色の頭部をしている。

「イルカ…か?」

「なんでここに!」

 鞍馬祢音が強く反応したかと思うと、そのライダーはビートバックルを取り出し、ドライバーに装填した。

「変身」『BEAT!』

『Ready?Fight!』

 謎のライダーはビートアックスを構え、ジャマトライダーに立ち向かう。ジャマトライダーのパンチをビートアックスで受け流し、肩のスピーカーから爆音を発する。爆音は衝撃波となりジャマトライダーの全身から火花が散った。

『ROCK FIRE!』

 立て続けにジャマトライダーの胴体にビートアックスを突き刺すと、そのまま六弦を弾いてジャマトライダーを内側から引火させた。

『TACTICAL FIRE!』『BEAT STRIKE!』

 さらにビートアックスを引き抜くと同時に足に炎を纏わせて、傷口に蹴りを叩き込んだ。この連撃を受けたジャマトライダーは、為す術もなく爆散する。このライダー、強い。あのジャマトライダーをこんなにも速く始末してしまうなんて。謎のライダーはジャマトライダーからドロップしたデザイアドライバーを破壊しようと、ビートアックスを突き立てる。が、その手はこちらを見て止まった。

「うわ…不正なドライバーってそっちか。だったら、悪く思わないでくださいね」

『METAL SANDER!』『TACTICAL SANDER!』

 謎のライダーは唐突にビートアックスの攻撃をこちらに向けてきた。ビートアックスから放たれた電撃は地面を伝い、俺達の足元で発火する。俺は何とか横に逸れて回避できたが、二人は爆発の勢いに飛ばされて遊具に激突してしまった。

「おい…何すんだよ!」

「あなたたちの仲が悪いのがいけないんです」

 ビートアックスを投げ捨てた謎のライダーは、さっきまで破壊しようとしていたデザイアドライバーをジャマトに投げ返す。

「興が冷めました。どうせドライバーがあった所で、あなた達は退場になる。浮世英寿は既に学んだようですよ。誰かの助けが無ければ、人は生き残れないってね」

 デザイアドライバーを新たに手に入れたジャマトは、再びジャマトライダーに変身する。謎のライダーは、その様子を見届けると公園を立ち去ろうとする。俺は追おうとしたが、地面から突如生えて来たツタが道を塞ぐ。もう一体の新たなジャマトライダーが別方向から現れていた。ジャマトライダーに視線が寄っている内に、謎のライダーは消えてしまった。

 どうする…!今度という今度こそ追い詰められてしまった。ここから俺が勝つためには…鞍馬祢音に勝つためには…!

 俺が考えてるうちも、ジャマトライダーは迫り、タイムリミットは擦り減っていく。背後に目をやると、快富郁真は額から、鞍馬祢音は腕から血を流していた。そこで俺は、謎のライダーの言葉を思い出した。

(誰かの助けが無ければ、人は生き残れないってね)

 誰かの、助け…………俺はなんて馬鹿だったんだ。今この状況で一番大事なのは、鞍馬祢音に勝つ事でも、ゲームを勝ち抜ける事でもない。戦う力のない快富郁真を守ることでは無かったのか…!俺のデザイアカードに書いた願いはなんだ……そうだろ。

「快富……」

 俺は快富郁真と鞍馬祢音を両肩に抱えて、遊具の裏に逃げる。ジャマトライダーは直ぐにやって来る。チャンスは一度きりだ。

「快富……俺は、俺達は、デザイアグランプリっていう、あの怪物と戦うゲームに参加してる」

 鞍馬祢音が、話してもいいのかと言うように肩に手を置いて制止したが、俺は構わず続けた。

「そこで優勝したら、どんな願いでも叶えられる。でもその代わり、怪物に殺られたら、二度と元の生活には戻れない」

「何だよそれ……なんでそんなゲームに参加なんてしたんだよ…!死んだら…終わりなんだろ…!」

 当然の反応だ。快富郁真は俺を突き放す。

 俺は大きく息を吸うと、自分の願いを高らかに宣言した。

「俺は……こんなクソみたいなゲーム、終わればいいと思ってる…!だから、願ったんだよ…"デザイアグランプリの存在しない世界"を!」

「……嘘でしょ…」

 自分の願いを、誰かに口にしたのは初めてだった。最初は、捻くれた感情で書いた願いだった。それでも、運営はこの願いを取り下げなかった。その時、俺の心に沸々と溜まっていた感情が芽生え始めたのだ。デザイアグランプリが無ければ…桜井兄妹のように苦しむ人々がいなくなるって。

「頼む…!だから、ドライバーを貸してくれ。こんな悲劇も、くだらない戦いも、必ず俺が終わらせる…!」

 快富郁真は強気な表情を崩して、手元のドライバーを見る。それを両手で一度強く握りしめると、俺の胸にデザイアドライバーを置いた。

「わかった!言ったからには…死ぬなよ…!」

 俺は、両手でデザイアドライバーを受け取る。そして、IDコアをはめ込んだ。

『ENTRY』

 運営は、このドライバーを正式な物として認めていない。だから今から、ジャマトライダーを二体同時に相手取って撃破しなければならない。苦行なのは間違いないが、やるしかない。

 俺は遊具の影から飛び出そうとしたが、袖を誰かが掴んで止めた。振り返ると、鞍馬祢音が立っていた。

「待って…!奏斗…これ、使って」

 そう言って鞍馬祢音が渡してきたのは、彼女愛用のビートバックルだった。彼女だって、本当の愛が欲しいという、叶えたい願いがあるはず。それでも俺に託してくれるのは、彼女も理解してくれたのだ。今は個人の勝ち負けよりも、皆でこのゲームを切り抜けるべきだと。

「あり、がとう…ちょっと行ってくる…!」

『SET』『SET』

 左側にブラストバックルを、右側にビートバックルを装填し、鍵盤を弾く。テクノ的な音楽が辺りを包む。俺は、変身の掛け声と共にターンテーブルを動かし、コックを開いた。

「変身!」

『DUAL ON!BEAT&BLAST!』『Ready?』

「さぁ…ここからが、本番だ!」

『Fight!』

 このゲーム、必ず全員で勝ち抜く!

『FUNK BLIZZARD!』『TACTICAL BLIZZARD!』

 二体のジャマトライダーは同時に地面を介してツタで攻撃してくる。俺はそれを、冷気を放つビートアックスをプロペラの様に回転させて氷の板を作って防ぐ。ツタは生成される氷と共に凍結し動きを止め、ジャマトライダーの足も冷気が伝って動かなくなる。

 俺はガス噴射による大ジャンプで固まったツタを飛び越し、着地する前に踏み台にするように蹴って反対側に着地する。そしてビートアックスの斬撃で二体の背中に深く斬り込むと、胸部の装甲から放たれる音符型のエネルギー弾と、足のファンから発する鋭利な特性を持つ風でさらにダメージを与える。

 何とか氷の拘束を解いたジャマトライダーのストレートパンチを、ビートアックスで受け流し、二体目のパンチはしゃがんでかわす。そのままの体制でジャマトライダーの膝裏に蹴りをくらわせて体制を崩し、立ち上がりながら押し込む様に二体同時に蹴り飛ばした。

『REVOLVE ON』

 最良の必殺技を放つために、俺はドライバーを反転させ、上半身にブラストを、下半身にビートを装備し直す。そして、両方のバックルを操作し、必殺技を発動した。

『BLAST!BEAT!VICTORY!』

 地面を強く蹴って爆音を放つと共に、音量メーターを模した足場が発生。ジャマトライダーらはその中で激しく揉まれ、空へ投げ飛ばされる。背部のノズルからガスを噴射して飛び立つと、上空へ運ばれたジャマトライダーの首を両手でそれぞれ掴み、地面へと叩き落とした。

 この攻撃によりジャマトライダーは爆散し、その中に、二つのデザイアドライバーだけが残った。

「勝った…!」

 俺は変身を解除して、二つのデザイアドライバーを拾い上げる。それと同時に、さっきまで使っていたデザイアドライバーは火花を立てて壊れてしまった。どうやら、今まで相当ジャマトたちに酷使され続けていたらしい。もう同じ手は通用しないな。

 遊具の裏から、快富郁真と鞍馬祢音が心配そうに顔を覗かせる。

「祢音!」

 俺は少しだけ笑いかけると、ビートバックルとデザイアドライバーを祢音に投げた。祢音は受け取ったドライバーにIDコアをセットする。俺もそうした。これで一先ずはゲームクリア。そして彼女は、俺の一瞬の顔のほころびを見逃していなかったらしい。ニヤニヤしながらこちらに近づいてくる。

「あれ〜?今奏斗笑ってたでしょ!?」

「笑って無いが…?」

「またまた〜!」

 祢音のつっつきを避けつつ、新しいデザイアドライバーにIDコアをはめ直す。これで俺もゲームクリア。なんとか三回戦を突破できた。

「お前たち、仲いいんだな。見直したよ、墨田」

 快富郁真が、肩の砂埃を払いながら俺の目を見て話し始めた。

「ずっと、思ってたんだよ。もしかしたら、俺とお前は同じなのかもしれないって。けど、違った。お前は、自分で決めたことは、とことん貫き通せる。強いやつだった」

 快富郁真は、俺に手を差し出してくる。

「だから、友達になって、俺に学ばせてくれ。どれも、俺には出来ないことだから…」

 俺は、ぐっと胸が熱くなって、郁真の手を握り返した。こんなにも、明確に友達を作ったのは何時ぶりだろう。とても、懐かしい感じだ。

「あぁ。俺たちはそうだな────友達、か」

「なんか、すっごいアツい展開?男の友情?初めて見たよ」

 祢音はうんうんと頷いている。てっきり、愉快なムードに流されそうになったが、重要なことを忘れていた。郁真から手を離して、俺は祢音に声をかける。

「あの仮面ライダー…お前と知り合いだろ」

「…バレてた?」

 なんとなく検討は付いていた。謎のライダーと遭遇した時、明らかに彼女はあのライダーを知っている風だった。

(なんでここに!)

 なんて、知ってなきゃ出てくるはずが無い。そして、デザイアドライバーを回収、破壊しようとしていたあの行動、運営のライダーだろう。祢音は、俺に心を開き、正直に話してくれた。

「あの人は、仮面ライダーハイトーン。私はね…ゾンビサバイバルで脱落した後、あの人に修行をしてもらってたの。今後のデザイアグランプリでも、生き残れる様に」

 成る程。妙に慣れたビートバックルの扱い。誰かに教えてもらっていたのか。祢音は、ビートバックルを手に語る。

「私は、ハイトーンが仕事をしてる部屋に出入りさせてもらってるだけで、運営のライダーじゃないの。だけど多分…奏斗の言ってたことは当たってる。鞍馬財閥のこと。そうでもなきゃ、運営の人に、色々教えてもらうことも、追加エントリーなんかも、できるはず無い…」

 やっぱり、鞍馬財閥はデザイアグランプリと繋がっていたか…そこも調べてみる必要がありそうだな。そして、仮面ライダーハイトーン。あいつは俺たちを見逃してくれたのか、それとも、本当に見捨てるつもりだったのか。わからないことばかりで、どこから手を付ければいいのか…

『MISSION CLEAR』

 スパイダーフォンから、ゲーム終了のアナウンスが鳴る。俺たち以外に、誰がこのゲームをクリアできたのだろうか。焦ることばかりで、進行状況を確認する暇も無かった。俺が開いたスパイダーフォンを、祢音も覗き込む。そこには、参加者が突破したか否かが表示されている。

『PUBLICATION OF THE RESULTS』

「えっ…?」

 俺たちは、その結果を見て息を呑む。

 

 浮世英寿・LOOSE

 

 ありえないはずの光景が、そこにはあった。

 

             ※

 

「…ダパーンの願いを、承認してもよろしかったのですか?」

 サマスは、墨田奏斗の"デザイアグランプリの存在しない世界"と記載されたカードを見ながら問う。それに対し、プロデューサーであるニラムは、両腕を広げて答えてみせるのだった。

「一人のプレイヤーの願いで完結するデザイアグランプリ。それもまたリアル。そうなれば、この時代から撤退すればいい。それに…彼の"想い人"でも復活させれば、満足して終わるだろう」

 

           DGPルール

 

          ゲームマスターは、

 

      ゲームの勝敗を操作してはならない。

 

      常に、公平な判断を心がけてください。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「あれがラスボス…!」

─ラスボス最終戦─

「僕が、そういう人を集めたからね…」

─記憶を消された者達は─

「君はもう必要ない」

「だから、奏斗は…思い出さなきゃ駄目だよ」

12話 変心F:願いがための資格


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12話 変心F:願いがための資格

 

 佳境を迎えたデザイアグランプリ。第三回戦にて、五人のライダーが信頼と誇りの元に死力を尽くしジャマトと戦う中で、なんと不敗の男・浮世英寿が脱落するという波乱の結末になってしまった。

 それだけじゃない。私の上司、仮面ライダーハイトーン・芹澤朋希がゲームマスターの司令で乱入したせいで、私が運営とやり取りしていた事が奏斗にバレてしまった。そして、私も信じたくなかった、デザイアグランプリと鞍馬財閥の関係も……こうなった以上、私も調べるしか無い。鞍馬財閥は、いつからデザイアグランプリと関わっていたのか、なんで私がエントリーさせられているのか、聞き出すんだ。

「どうした、祢音。そんな怖い顔をして」

「お父様…デザグラの事、知ってますよね?」

 私の父親、鞍馬光聖から。

「お前には関係のない話だ」

 私と向かいのソファーに座ったお父様は、やっぱりしらばっくれる。でも、もう後には引けない。私は立ち上がって、お父様に詰め寄る。

「どうして私がエントリーすることになったんですか?それに、ハイトーンのことだって」

「…それがお前の望みだったからだ。彼は元気にしてるか?」

「質問に答えてください!」

 私が口調を強くしても、お父様は表情に綻びを見せない。また毅然として、最初の答えを返してきた。

「お前が知る必要はない」

 …もういい。この人は口を割らないと理解した。それに、ここまでデザグラの話を遠ざけるってことは、逆に知っていると見ていい。それがわかっただけでも十分だ。もっと別のアプローチを考えよう。今度はハイトーンから聞いてみよう。

 私はお父様の私室を出る。また奏斗や英寿と一緒にご飯でも行こうかな…と考えた所で、英寿はもういないんだと思い出した。あのゲーム以来、パンクジャック・晴屋ウィンが行方不明になっている。多分、英寿の脱落も…ゲームマスターの作戦だったんだ。それで、ゲームマスターと繋がっていたウィンは、もうお役御免になってゲームを降りたか、それとも…

「お嬢サマ…」

 廊下の角を曲がると、そこでSPのベンとジョンが待っていた。妙に、険しい顔持ちをしている。

「…今日は家出しないよ?」

「デザイア、グランプリノ、最終戦に参加スルつもりデスカ?」

「え…?」

 そう言って、ジョンはIDコアをスーツのポケットから取り出した。白と黒のIDコアだ。見たことがない。同様に、ベンもIDコアを持っていた。デザグラを知っているのは、IDコアに触れたから……?でも、なんで二人がIDコアを。ベンは、私の手首を掴む。

「もうデザイアグランプリに参加スルのはやめてクダサイ…!」

「なんで…!今度こそここまで来たのにっ!」

前のデザイアグランプリでは、最終戦どころか三回戦にすら駒を進められなかった。やっと願いに、本当の愛に手が届くんだ。ここで辞めたら、意味がない…!私はベンの手を腕を振りながら解く。

「私はデザイアグランプリで世界を守ってる!その見返りで願いが叶うのは、別に良いことなんじゃないの!?」

「デザ神になってモ、お嬢サマの願いハ叶えられナイからデス…!」

 ジョンの一言に、体の芯が震えた気がした。疑念が確信に変わる、あの感じ。

「鞍馬財閥ハ…デザイアグランプリノ、スポンサーだったんデス。お嬢サマがエントリーしたのハ、きっとお父サマガ、ナニカ…」

 やっぱり、鞍馬財閥はそうだったんだ…

 ベンとジョンは本気だ。私が助けを求めたら応えてくれるし、心配してくれる気持ちも本当。だから裏切るのは心苦しい。だけど、今はどんな思惑があろうと、可能性があるなら賭けたい。きっと、願いを叶えた先で、本当の私に会えるから。

「ごめんね」

「お嬢サマ!」

『ENTRY』

 私はベンとジョンが止めるよりも速く、ドライバーを装着してデザイア神殿に向かった。 

 

             *

 

 母親は、ボランティア部に加入した件をいたく喜んでいた。父親は、「そうか」と二つ返事をしただけだった。両親にとって、所詮俺は欲求を満たすための道具だったのだと自覚させられる。思い通りに動けば受け入れ、逆らえば突き放される。そこに俺の感情は必要ない。だから、両親は本当の俺を知らない。デザグラか原因で二度も、三度も性格が反転した、俺を。

 …本当の俺とは、一体誰なのだろう。バスケに熱中していた俺か、人類滅亡を願う俺か、世界平和を掲げる俺か、後悔から目を背けてデザグラを終わらせようとする俺か。デザグラにムカついたのは本当だし、直ぐでも終わらせたいと思っている。だが、わからなくなる。今やっていることは、自分の心に正直な行いなのか。足を引っ張る。バスケ、人類滅亡、世界平和、捨ててきた願いが今も俺をがんじがらめにする。本当の自分が、わかっている人間などいるのだろうか。

 こいつらを見て、つくづく思う。

「さて、これで全員集まったね」

 肩に緑色のデッキブラシを抱えた広実須井は、各々好きな場所に立ち尽くした俺たちを見ながら宣言した。ここはいつもの部室ではない。サッカー場が隣接した河川敷である。等のサッカー場は、いつも市の少年団が毎日練習に励んでいるそうだが、今日は休みらしい。がらんとしている。

「全員って…新井はどうしたんです?」

 俺は、河川敷に降りる階段に鎮座した上遠赤哉と快富郁真を見て言う。どちらも、バケツや洗剤等の掃除類を手にしている。かくいう俺も、ゴム手袋とブラシの持参を強要された。それに、全員と言う割には、一人足りない。新井紅深だ。今日はボランティア部の活動は無いはず、突然休日に連絡が来たかと思ったら、新井には秘密だ、と。

「ボランティア部の本当の活動ですよ、先輩」

「お前は初めてだったなぁ…」

 質問の答えになっていない。ボランティア部の本当の活動?ボランティア部とは、学校というシステムに不適合な人間が最後にやってくる墓場では無かったのか。ただボランティアという名目だけを貰える、そういう場所。そういえば、迷宮脱出、椅子取りと、二つのゲームに巻き込まれた上遠と快富だったが、よくよく考えればあの場にいたのは不自然だった。俺が行っていたボランティア活動に二人は参加してなかったし、それなら上遠は学校に向かうための区営バス、快富は学校の近辺に制服姿でいたのは明らかな違和感だ。よく出来すぎている。もしかしてあの日、二人は俺の知らないボランティア部の活動をしようとしていたのか…?

「…うん。じゃあ、彼女に会いに行こうか」

 部長がやっと新井について触れたかと思うと、三人は一つの方向を向いて歩き出した。その先には、左手に川と、電車が上を通過する高架橋くらいしか無い。そこに新井が…?

 冬が近付いて、河川敷の植物は枯れ始めていた。元々伸び放題だったはずだが、随分歩きやすい。が、その辺に空き缶が落ちていた。三人はそのゴミに目もくれず、ひたすら先を目指す。

「待って、ここで止まろう」

 部長が両手を広げて、俺たちは制止する。新井に会うったって…俺が声をかけようとすると、上遠が口に手を当てるジェスチャーをして止めた。快富が高架橋の根本を指差す。ここから高架橋は、十メートルは離れたかくらいだ。

「ふふっ、あははははっ!」

 そこに、新井はいた。学校での大人しい性格からは一変。高笑いをしながら、高架橋の壁にスプレーで落書きをしていた。取り巻きはいない、たった一人だ。綺麗だった茶髪のロングヘアーは、ボサボサのハーフアップに変わっていて、挙げられた髪の隙間からは剃り込みが見える。服装も肌の露出が多く、肩には正方形が組み合わさったかのようなタトゥーが彫られていた。

「人ってのは、監視を抜け出せればあんなもんさ」

 言葉を失う俺に、広実須井は振り返る。

「僕たちボランティア部の存在意義はね、慈善行為のためじゃない。"新井紅深の汚点を隠す"ことなんだ」

 広実須井は、新井紅深の出生を語り出す。

「彼女はね、僕の古くからの知りあいだったんだ。知りあいって言っても、ただ近所に住んでただけで、公園でたまに会って遊ぶくらいだったよ。でも、僕は知らなかったんだ。彼女が、家で虐待を受けていたことを」

 鞍馬祢音とは別ベクトルの、家庭環境の不自由。つまり…今の彼女の行動は…

「親から虐げられ、誰にも相談できていなかった。そんな鬱々とした感情が溜まって、彼女はあの様に、公共物に当たるようになった。まだ、落書きぐらいじゃ可愛い方だね」

 不自由から生まれた自由への欲求。鞍馬祢音の場合は、自分が愛を求める事に繋がったが、新井紅深の場合は、他の存在を破壊する方向へ向いた。如何に、俺がかつて抱いていた、鞍馬祢音への恨みがちっぽけだったものだと、思い知らされる。新井紅深の欲求と怒りは、最悪の状態で現れていた。

「高校になって再会してから、僕がボランティア部を立ち上げたくらいで、彼女の奇行を知ったよ。そして、ボランティア部の正式な活動方針を決めた。彼女の秘密を守り抜くためには、並の人じゃ直ぐに話が漏れてしまうと思ってね、信頼できそうな人を勧誘した。そして、彼女を守るために、僕たちは活動している」

「……なんで、そこまでしてやってるんですか?」

「裏切るような人間が勝つよりも、裏切られた人間が勝つ方が、面白いとは思わないかい?」

 広実須井の顔は笑っていたが、瞳の光は歪んでいた。

 

 

 新井紅深が去った後、俺たちはすぐ作業に取り掛かった。川から水を引いて、洗剤が地面に落ちないように布を敷く。郁真が持ってきた洗剤は強力で、彼女の描いたスプレーアートは瞬く間に薄れていった。スプレーアートはピンクや黄色など、ケミカルな色合いだったが抽象的で、特にこれといった具体例は出てこなかった。

 …人の本質って、わかんないもんだな。新井紅深の本当の姿を見て、改めて思う。もしかしたら、今手を動かしている他の三人も、見せていない側面があるのかもしれない。

「君が始めて入部した日は、大層な聖人君子で驚いたよ…」

「そうそう。性根の腐ったやつが来るって聞いてたんだけどなぁ」

 水を汲み直してきた二人は、俺をからかう。その話はやめろ。わりと引きずってんだから。確かに、掃除の人手が増えるのかと思っていたら、ガチでボランティアをするやつが来たら、引いたってしょうがないだろう。

 雑巾で壁を拭いていた上遠が、手を動かしたままフォローした。

「ま、人なんて実際に関わってみなきゃどんなもんか、わかんないじゃないですか。僕たちって、そういう人の集まりでしょ?」

 デッキブラシで壁を擦りながら聞いていると、広実須井もデッキブラシを取った。

「僕が、そういう人を集めたからね…話を広めたくないなら、他で噂が立ちそうな人でガードするだけさ」

「それで集められたこっちは溜まったもんじゃないぜ、部長」

 毒づく郁真の発言は、どこか清々しい。実際に、俺もボランティア部を居心地の良い場所だと思ってしまっている。全員どこか触れてほしくない所があって、誰も踏み込もうとしない。だから気を使わなくてもいいし、悪態をついても誰かに咎められる訳じゃない。学校という枠が息苦しくかった俺にとって、それは暁光だった。

『GATHER ROUND』

 突然の呼び出し音に、背筋が伸びる。以前の椅子取りゲームの結果発表で、ツムリが言っていた事が、まだ記憶に新しかった。

(恐らく、次のゲームが最終戦になります。仮面ライダーの皆様、心してかかってください)

 遂に来た。二度目の最終戦、圧倒的王者・浮世英寿無しで挑む、ラスボスとの戦い。俺はデッキブラシを壁に立てかけ、三人の顔色を伺う。

「野暮用が出来たので、今日はこれで」

 デザイアグランプリについて知っている上遠と郁真は、目線を合わせて頷いてくれた。広実須井はきょとんとしていたが、俺の表情から何かを汲み取ったのか、軽く手を挙げた。

「いってらっしゃい」

 俺はデザイアドライバーを片手に、最後のゲームへと…

 

 

「皆さん、ラスボスが現れました。これより最終戦、戦艦ゲームを始めます」

 浮世英寿のいないデザイア神殿は、どこかしっくり来ない。心なしか、ツムリの声も落ち込んでいるようだ。

「今回はスコア勝負です。ラスボスが退去するまで、町の防衛をしてください。スコアトップの方がデザ神となり、理想の世界を叶えられます」

 直接ラスボスを倒す必要が無いのか。それなら簡単…とも行かないか。わざわざ運営が倒す必要はないと言っているんだ。相当強力な力を持った相手に違いない。

「私達で、太刀打ちできるのかな…」

 鞍馬祢音が心配そうに呟く。しかしそれは、直ぐに決意へと変わった。

 自由を自ら掴み取る覚悟を決めた彼女は、ただ前を向く。

「勝てば…本当の愛が手に入る…!」

 誰よりも平和を信じる彼は、拳を強く握りしめる。

「やってやるよ…退場した人達を、蘇らせるために…!」

 真の願いを見つけた彼女は、両手で頬を叩く。

「勝ち負けは関係ない…皆の日常は、私が守る…!」

 三度目のチャンスに挑む彼は、ただはっきりと目標を見据える。

「勝つのは俺だ…そして全ての仮面ライダーをぶっ潰す力を手に入れる…!」

 そして…ようやく墨田奏斗という自分と向き合い始めた俺は、これまでの道のりを思い出す。

「もう誰にも失わせない…このゲームは、俺が終わらせる…!」

 五人は振り返り、戦地へと赴く。

 

 

 地上では、槍を構えた衛兵ジャマトがうじゃうじゃとおり、その奥には、またもやジャマトライダー。そして、ウツボカズラに似た、ルークジャマトまでいる。確か前は頭領ジャマトとしてだったか。

 空中を浮遊する巨大なラスボスは、ラフレシアを模した中央の器官から、極太のビームを放ち町を破壊していた。それに、全身から生えた触手を強力で、触れるだけでたちまちビルが崩れていく。

 民間人の避難は進んでおらず、その数は計り知れない。

「あれがラスボス…!」

「スコアの高いジャマトは俺が貰う!」

「俺は人命救助を!」

「勝つにはどっちも大事だよね!」

 真っ先に、吾妻道長、鞍馬祢音、桜井景和が飛び出して行き、それぞれ仮面ライダーに変身する。迫る敵は正面のみ。ここを守りきれば民間人への被害も抑えられる。

「青山、俺たちも行くぞ!」

「ねぇ…!」

 前に出ようとする足が、青山の声で止まる。彼女を見ると、俺を見る目が泳いでいた。この期に及んでろくでもないこと考えてんのか…いや、違うか。何かを俺に伝えようとしている…?

「何だよ」

「いや…何でも無い…」

 青山はフィーバースロットバックルを手に、俺に変身を促す。一体何なんだか…今は最終戦の真っ最中。油断なんてしてられるか。

『SET』『SET FEVER!』

「「変身!」」

『BLAST!』『HIT!BLAST!』

 仮面ライダーカローガンがスロットで引き当てたのは、ダパーンと相性のいいバックル、ブラストだった。基本足に装備する俺とは対象的に、上半身に武装している。俺たちは同時にジャンプし、ジャマトへ跳びかかった。左足で剣を弾き、押し込む様にジャマトを踏みつけ、カローガンはジャマトを正面から殴って着地した。

『Ready?Fight!』

 俺は踏みつけていた衛兵ジャマトを、地面に擦り付ける様に蹴り上げ、前方に吹き飛んだ所をカローガンが渾身のパンチで倒した。俺たちは並び立ち、ジャマトを迎え撃つ。

 カローガンは衛兵ジャマトの槍を掴んで、思いっきり引っ張る。そのジャマトの姿勢が前方に向いた所を計らい、頭を足場にしてさらにジャンプ。背中を蹴って吹き飛ばし、空中で回し蹴りをして一体撃破した。

 衛兵ジャマトは俺たちを取り囲み、隊列の取れた動きで斬りかかる。しかし、直様カローガンがガスを噴射しながら地面を殴り、発生した突風で衛兵ジャマトたちは空中に舞い上がった。俺はそれに対してファンから生じた鋭利な風を蹴りによって放ち、空中のジャマトを撃破。衛兵ジャマトの一掃に成功した。

「ここいらはこれで片付いたか」

「ねぇ!あれみて!」

 衛兵ジャマトをあっさりと撃破出来た俺たちだが、バッファはルークジャマトの強力な打撃に、ナーゴとタイクーンはジャマトライダーの防御力を前に苦戦していた。この力、ジャマトたちがパワーアップしている…?

「助けに行かないと!」

「いやまだだ!民間人が逃げ遅れてる!」

 既に避難が完了したかと思っていたが、まだビルの中に逃げ遅れていた人がいたらしい。出てきた所をジャマトに襲われている。他のライダーは救助に向かえない。俺たちは、民間人を襲うジャマトを撃破するべく二手に離散した。

「一体どこから湧いて出てきやがる…!」

 今にも民間人の少女を刺そうとしていた衛兵ジャマトを、間一髪で蹴り飛ばす。ジャマトを退けた間に、一般人は逃げ去っていくが、その少女は留まったままだ。俺は振り返りながら呼びかける。

「おい何やってんだ速く逃げ……新井!?」

「その声は…奏斗君?」

 新井紅深は地面にへたり込んだまま、俺の名前を呟いた。新井紅深は、先程の高架橋に落書きをしていた時の派手な格好とは変わって、いつもの落ち着いたブラウスとロングスカートを着用していた。それにしても、三回連続でボランティア部と遭遇……新井が出てきた建物を見ると、それはビル型の納骨堂だった。本当にこんな所で何してたんだよ…!

「事情は後で話す…だからとっとと逃げろ…死ぬぞ!」

「まって…!奏斗君は逃げないの…!?」

 俺の脅しに屈せず、新井は足を掴んできた。ライダーの力なら振り払うのは容易だが、必死の剣幕に動きが止まる。

「俺は…!」

「やぁやぁやぁ!墨田君!楽しんでくれてるかいっ!?」

 郁真の時と同じように、新井を説得しようと試みたが、謎の男の声に遮られた。声の主は、柱の陰から、手を叩きながら現れる。ローブを深く被っていて、人相は伺い知れない。口調から、一瞬広実須井を連想したが、直ぐに違うとわかった。部長は俺を奏斗君と呼ぶ。墨田と呼んできたコイツは、部長じゃない。

 あまりの展開の連続に、新井も頬を引きつらせていた。

「カローガンからの伝言は…聞いたかい?」

 青山から…伝言?全く聞いてないし、デザイア神殿で合流するまで、学校でも会っていなかった。もしかして…戦闘前に俺を一度引き止めたのは…何かを伝えたかったのか?

 謎の男は、俺の反応を見て察したのか、大袈裟なため息を吐く。

「あ〜あ。彼女に任せたのは間違いだったな。なら僕の口から言おう。願いを叶えたいなら、思い出せ。君の過去に、幸多からざる」

 俺の…過去?そういう回りくどい言い回しは嫌いだ。伝えたいことがあるなら、はっきり言ってくれてと毎回思う。

「…もう最終戦。願いを叶えるのは次に持ち越しだね…その前に、理想の環境をお届けしよう…変身…!」

 男は、握りこぶしを心臓の前に当てると、ジャマトに変身した。しかし、その姿は通常のジャマトとは違う。普通ジャマトは植物を模した形態がほとんど。だが、謎の男の変身したジャマトは、左手はシャコガイの貝殻の様に二股に裂け、右手にはカサゴの様な棘が突き刺さる。下半身には腰蓑の様にカニやエビの足が生え、頭部は骸骨がクラゲを被った様な出で立ち。水生生物をまぜこぜにしたその姿は、ジャマトとも形容しがたかった。

「先ずは名乗ろう。僕はムスブ。またの名を、アクエリアスキメラジャマト。やっぱり長いな、変異ジャマトでいいよ」

「名前なんかどうでもいい。何を企んでる」

 コイツが知っている俺の過去について、興味が湧かないと言ったら嘘になる。IDコアは、触れるとデザイアグランプリの記憶を思い出せる。しかし、俺のデザグラの起源はあの宝探しゲーム。

 でも、俺には失われた過去がある。

 それは、以前の神経衰弱ゲームから、缶蹴りゲームの間に現れていた現象。俺の中に響く誰かの声だ。その声の主は、俺と親しい人物だっようだが、全く身に覚えがない。こよムスブという男は、何を知っているんだ…?

「言っただろう…?これから理想の環境を用意してあげるよ…っ!」

 変異ジャマトは、肩のカサゴの棘を引き抜くと、それを獲物に襲いかかってきた。座ったままの新井の手を離させ、棘の刺突を左足で払う。確かカサゴには毒があったはず、くらうのはマズい…!

 変異ジャマトを遠ざけようと膝蹴りを放つが、左手のシャコガイで膝を挟んでくる。俺はそれを一歩下がって回避する。コイツ、俺の弱点を知ってやがる。やっぱり何か…!

「奏斗!」

 民間人の救助を終えたカローガンが、横から乱入してきた。飛び込みながら上半身に掴みかかり、開けた道に変異ジャマトを投げ飛ばす。ブラストのガス噴射がよく効いた。

「おいおい、邪魔をするなよ…君はもう必要ない」

 倒れ込んだ変異ジャマトは、水中を漂うクラゲの様な動きで立ち上がる。

「どうせろくでもないこと考えてるんでしょ!」

「ははっ、当たり」

 突如、カローガンの背後から地面を突き破り、蟹の腕の部分が現れた。その腕はカローガンの背中の装甲を切り裂く。死角になっていた腰蓑を伸ばして、地面に潜行させていたのか。俺は直ぐにカローガンのフォローに回ろうかと思ったが、また新井が足を掴んだ。

「だめ…!いっちゃだめ!」

「悪い、今は御託を言ってる時間は無いんだよ…!」

 今度は強く新井を突き放して、俺は膝をついたカローガンの肩を抱える。

「立てるか…?」

「うん…まだ行ける!」

 カローガンは立ち上がり、もう一度スロットを回す。

『HIT!MAGNUM!』

 マグナムを引き当てたカローガンは、マグナムシューターでの射撃を開始する。変異ジャマトはそれをシャコガイの殻で防いでいたが、俺は横から回り込み、殻を蹴り上げて変異ジャマトの防御を崩した。そのタイミングで弾は肘関節に命中。変異ジャマトは大きく仰け反った。

「今だ!」

『FEVER!TACTICAL BLAST!』

 カローガンがフィーバースロットをマグナムシューターにセット。金色の炸裂弾を放つ。

「せいっ」

 しかし、それを変異ジャマトはシャコガイの殻でいとも簡単に弾いてしまった。弾かれた弾は、跳ね返って工事中のビルに命中する。その衝撃で、建てられた骨組みが崩れてきた。

「…っ!」

 この程度なら問題ない、と高をくくっていたのが仇となった。崩れ落ちてくる鉄骨のちょうど真下に、新井がいる。あいつ、まだ逃げてなかったのかよ…!

「新井……ぐあっ!」

「駄目じゃないか…敵に背を向けたら」

 新井を助けようと前傾姿勢になった身体が、背中への衝撃と共に地面に落ちる。そして、瞬く間に全身が痺れ、呼吸が苦しくなってきた。背中に目をやると、変異ジャマトのカサゴの棘が、深々と突き刺さっていた。毒…!アーマーのダメージ超過で、変身が解除される。身体が動かない、はやく、あらいを…

 

 その刹那、カローガンが新井を庇うように覆いかぶさった。

 

 そして、カローガンの元に、次々と鉄骨が降り注ぐ。痛々しい音と、曇ったうめき声が、鉄骨の山から聞こえた。

「かはっ、があっ、青山ぁっ!」

「ま、結果的には良かったかな…」

 ムスブの姿に戻った変異ジャマトが、背中の棘を引き抜いて、二度激痛が走る。しかし、それよりも今は、カローガンの安否だった。俺は動かない両足を引きずって、鉄骨の山に身体を地面に擦りながら近づく。鉄骨の山が、少し崩れたかと思うと、数枚の鉄骨が内側から退かされ、中からカローガンが出てきた。その後ろの、新井は無事である。

「ご、めん、奏斗みたいに、できなかった、よ…」

 変身が強制的に解除され、鉄骨の上に青山は倒れた。

「青山っ…!」

 ただ、彼女の名前を呼ぶことしかできない。

「青山ちゃん、奏斗君!」

 薄れゆく意識の縁で、景和の叫ぶ声が聞こえた。

 

 

 目が覚めると、そこはサロンの仮設ベットだった。起き上がろうとしても、激痛が指先まで襲う。この毒が命に関わるものかは知らないが、痛みと痺れはゲームが終わるまで続きそうだ。

 無理やり身体を起き上がらせ、隣を見ると、ベットの上で青山が眠っていた。俺は、ほっと胸を撫で下ろす。青山は、退場にはなっていなかった。一命をとりとめたらしい。

 新井はいない。一般人として、ジャマーエリアを出されたか。

 赤いカーテンで隔たれたサロンの向こう側で、ギロリと参加者たちが言い争う様子が聞こえる。

「アイツが知ってる俺の記憶をな…ゲームマスター…」

「ゲームマスター!?」「ギロリさんが!?」

「どこまでも悪運の強い男だ…」

 …あの声、英寿か!?記憶を取り戻したのか…それに、ギロリが、ゲームマスター……成る程、それなら合点が行く。バックルやルールの知識に精通し、ルールブックには書いてなかったデュオ交代権でゲームを動かした。それができるのは、ゲームマスターくらいだ。

「ギーツのIDコアをくれ」

「君は既に脱落した身だ。仮面ライダーの資格はない」

 タイクーンの場合はエントリー権の譲渡で済んだが…運営はギーツ落としに邁進していた。簡単にYESとは言わない。

 しばらく話を聞いてみたが…ギロリと英寿の主張は中々噛み合わず、議論は中を舞っていた。その中で、何となくバッファが脱落してしまったのもわかった。五人の内、一人は脱落し、二人は重症で戦闘不能、残りは戦意喪失…ギーツ一人いないだけで、ここまで散々な結果になるとは…お笑いもんだ。俺はゆっくりとベットに身体を沈め、青山を見た。

 最初は、理不尽にキレたり、言う事聞かなかったり、自己中な奴だと思っていたのに。やはり人は、前面だけじゃ何もわからない。もしコイツと、別の出会いができていれば。郁真の様に友達になれたかもしれなかったのに。人生は、不公平だ…

「却下だ!お前にはもう、仮面ライダーの資格はない!」

「あります…!浮世英寿様には、仮面ライダーの資格があります」

 声を荒げ感情を露わにするギロリを、ツムリが制した。

「ツムリ…どういうつもりだ」

「彼が最初に叶えたからです。"俺が死ぬまで、デザイアグランプリに参加できる世界"と。彼が死なない限り、彼は仮面ライダーギーツです」

 思わず、枯れた笑みが溢れる。アイツ…最初に叶えた願いがそれとか…どこまで計算ずくなんだよ。まだ、到底敵わない。

「ほんっと、凄いね…あの人…」

「青山…」

 青山が目を覚めしていた。彼女も身体を動かそうとするが、相当酷い痛みなのだろう、直ぐにベットに倒れる。その一瞬で、ベット滲んだ血が見えた。そして悟る。コイツの命は、今にも消えかかろうとしている。早くゲームをクリアしないと、コイツの命は無い…

 俺は、無理やりベットから這い出て、カーテンを開く。もう、立っているのさえやっとだった。景和が心配そうに駆け寄ってくる。やっぱり俺たちを運んだのはコイツか。

「奏斗君…!無理しちゃ駄目だよ…!」

「いいんだ…英寿…」

 俺は、ブラストバックルをポケットから取り出す。今はもう、英寿に賭けるしかない。青山の命を、救うためには。英寿はブラストバックルを受け取り、デザイアドライバーを装着する。俺は、かつての郁真の言葉に、自分を重ねて言った。

「言ったからには、絶対守れよ…!」

「ああ。ちょっと行ってくるよ…世界を救いに」

 

             ※

 

 マグナムシューターの銃撃で、衛兵ジャマトを一掃したギーツは、ブラストバックルを右側に装填する。

『DUAL ON!BLAST&BOOST!』

 縦横無尽に空中を飛び回り、ブーストの強力な蹴りはジャマトライダーにも有効。衛兵ジャマトは為す術もなくガス噴射によって威力を増したパンチで粉砕された。

 

             ※

 

 時が経つ度に、青山の呼吸は荒くなっていく。俺はベットの傍らに座り、壁にもたれかかりながら、青山に声をかけた。ゲームさえ終われば、青山の怪我は回復し、重症の棄権扱いでゲームを降りられる。まぁ、これは最終戦だから、離脱も何も無いが。

「青山、もう少しでゲームは終わる…負けんな」

「…そっちこそ…死にそうじゃん…」

「まあな…」

 英寿なら、必ずゲームを攻略できる。それをただ、必死に待つしか無い。青山は、息も絶え絶えの声で、俺に問いかけてきた。

「あのさ…奏斗って…彼女いたことある?」

「…はぁ…?こんな時に恋バナかよ…」

「答えて」

 一度は呆れたが、青山の眼差しは本気だった。答えるのは癪だが…気の紛らいくらいにはなるか。

「いねぇよ。こんな性格だ…わかるだろ」

「……そっか…なら、教えてほしい。奏斗は、何を願ったの?」

 一瞬告白でもされるかとビビったが、流石に違った。俺の願いは、デザイアグランプリの無い世界。既に祢音や郁真には教えていたので、俺は抵抗なく答えた。

「…デザイアグランプリの存在しない世界だ」

「…………そっか。なら、選んで。奏斗は、これからも、その願いを、ずっと……願っていられる?」

 難しい質問だな。このままでは脱落は確定だし…次のデザイアグランプリに招待されなければ、もうこの願いは忘れたままだ。どうしようも無い。ならば、もしデザイアグランプリに今後も招待されるとしたら…?

「わからない……俺は、どれが本当の自分なのかわからないんだ。だから、今の願いはただの気の迷いなのかもな。また、招待されたとしても、俺の願いは変わるだろう。本当の俺は…何処にもいない…」

 青山は俺の自嘲を、間髪入れず否定した。

「違うよ。少なくとも、私が知っている奏斗は……願いに真っ直ぐだったよ。よくも悪くもね…人間なんてさ…コロコロ感情変わるじゃん。事あるごとに願いが変わるなんて…それでいいんだよ……一番駄目なのは、自分と向き合わないこと…」

 俺の手を、青山が掴む。

「だから、奏斗は…思い出さなきゃ駄目だよ。奏斗の、スタートを…」

 青山は、俺の手を、腰のIDコアまで運んだ。そして…カローガンのIDコアに触れた瞬間…思い出す。

 

(奏斗君も行くよね?あそこのカレー屋さん、半田君も絶賛だったよ?)

 

(大丈夫、奏斗はちゃんとみんなを見れてるから)

 

(全国大会、奏斗の夢なんでしょ?)

 

(…奏斗、また明日ね)

 

 謎の声の主…思い出す。俺の、本当のバスケ部としての記憶。

「玲…?」

「もう、迷っちゃ駄目だよ…奏斗…」

『RETIRE』

 青山は、デザイアドライバーを残し消えた。英寿が、ゲームをクリアしたのだ。同時に、毒の痛みと痺れも消えてゆく。

 ただ今は…かつての友人・鵜飼玲にただ、思いを馳せた。

 どうしてずっと、忘れていたのだろう。

 

             ※

 

 芹澤朋希は、強く机を叩く。

「くそ…ムスブのやつ…!カローガンのIDコアに細工を…!」

 彼もまた、かつてのバスケ部の日々を思い出していた。

 

             ※

 

 私に、将来の目標はない。以前まではそうだった。

 小学生の頃、惰性で始めたバレーボールを生きがいだと思い込み、クラスの怖い女子に従ってでも続けてきた。

「あっれ〜優、最近練習きてないじゃん。どったのぉ〜」

「あのさぁ、今度お願いあるんだけど〜」

 いつもの二人が、今日も両サイドをがっちり固めてくる。今度はどんなお願いだろう。どうせこの二人は、私が練習に来てないことを咎めたい訳じゃない。使い勝手のいい人がいなくなるのが嫌なだけだ。また、ボランティア部の愚痴に付き合わされるとか、そんなところだ。もう、聞いてやる必要はない。

「あ…私もうバレー部辞めたんで」

 それだけ言って、私は二人の包囲を抜け出した。後ろから、二人がグチグチ言っているのが聞こえる。勝手に言っていればいい。なんだか最近、迷うことが無くなった。それはなんでだろう、今なら、自分のやりたいことがはっきりとわかる。私の将来の夢は…

「誰かを救える、看護師になる」

 私の心は決まった。

 

             ※

 

 デザイアグランプリの運営は、一枚岩ではない。世界を変える力を扱い、時代を行き来する。もちろん、その力を悪用しようとする者も現れる。

「うむ。デザイアグランプリの存在しない世界か…叶えてやらないのは惜しいな…」

 先代ゲームマスターのコラスは、奏斗のデザイアカードを眺める。

 

           DGPルール

 

  ゲームの中で受けた、傷や状態異常のダメージは、

 

      ゲームクリアと共にリセットされる。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「喧嘩はよくありませんよ?」

─失われた─

「城玖と朋希はいいのか?」

─記憶とは…?─

「おめでとうございます!厳正なる審査の結果、あなたは選ばれました!」

13話 変心IR:運命の瞬間へ


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13話 変心IR:運命の瞬間へ

 

 それは、高校二年生になってすぐの頃。

 俺は体育館で、ひたすらにシュート練習に打ち込んでいた。手のひらを離れたバスケットボールは、きれいな弧を描いてリングにすっぽりと収まる。

「おい奏斗…もうやめようぜ」

 地面に仰向けに寝転んだ半田城玖(はんだきずく)は、怠惰な声を発する。時刻は午後七時半。気づかぬ内に、もうこんな時間だ。でも、この市民体育館の使用は九時まで許可されている。

「まだだ。こんなんじゃ全国大会には届かない」

「全国って……そんな事言ってるのお前だけだぞ」

 城玖はバスケットボールを、大道芸人の様に両腕の上を転がせる。ヒマそうだ。コイツが練習しないならそれはそれで、俺が練習するだけ。というか、なんで帰らないでここに居座っているんだ。毎日飽きずに、何かするわけでもないのに。

「俺は本気だぞ…」

 地面を跳ねていたボールを拾い直して、スリーポイントのラインからもう一度シュートを放つ。今度も無駄な跳ね返りもなく、リングに落ちていった。

「もういいじゃん。そんだけ上手けりゃ、練習しなくてもいいだろ」

「本番で百パーセントの力が出せるのは別だ……だからこうして、準備してるんだろ。暇なら練習相手くらいになれ」

 俺が促すと、城玖は渋々立ち上がり、ジャージの袖をまくった。

「ワンオンワン、お前強いんだよなぁ…」

 俺が先にディフェンスとなり、受け取ったボールを城玖に投げ返す。試合開始の合図だ。始まると同時に、城玖が仕掛ける。ドリブルを付きながら、一度右にフェイントを入れて左に飛び出した。俺はそれを、自慢の脚力で切り替えして追いつき、ボールを奪った。

「足速ぇ~一年からレギュラーだもんな…敵うわけねぇよ」

 城玖は、無理無理、としきりに言いながら定位置に戻り、もう一度仰向けに広がった。俺は奪ったボールで片手間にドリブルをつく。

「お前だって、もうレギュラー入りだろ。俺より上背あるんだし、これからもっと上手くなるさ」

「だといいなぁ」

 そもそも、足の速さでボールを追いかける俺と、フィジカルの強さを持ち味にディフェンスを固めるあいつじゃ、プレーの方向性が違う。適材適所、人には元々決められた才能の限界があり、それを超えることはできない。

 "右足"を強く踏み込んで、手元のボールを放つ。バスケシューズが地面と擦れて鳴り、静かにボールはリングの中に収まる。今度はコート半分も離れていたが、これまた綺麗にシュートが決まった。 

「…なぁ、俺らって、全国大会行けると思うか?」

「行けるさ…俺とお前なら」

 全国大会はまだまだ先だが、時間は無い。地区大会、県大会を勝ち抜く必要がある。でも、俺はこの時思ってもいなかった。俺の人生が、ここから二転も三転もすることになるとは。

 

             *

 

 ずっと失っていた記憶。俺は、ずっと一人でバスケをしてきたと思っていた。だから、怪我をした時に俺を"助けようとした人"はいなかった。孤独。そしていつしか人類滅亡を願うようになった。

 だが、実際は違った。

 俺には、鵜飼玲という彼女がいた。

 そして、俺を"助けようとした人"は確かにいた。いたはずだった。

 

 

 高校二年生の初夏。県大会の準決勝でインターハイ出場の夢を絶たれた先輩方は卒部し、二年生に代替わりしたこの頃。俺は部活の現状に辟易していた。

「ほんっとに、どいつもこいつも…!」

 俺は体育館で一人、ボールを床に強く打ち付けた。予定表では今日、放課後に練習があったはずである。だと言うのに、来たのは俺と城玖だけ。他の部員は、口裏を合わせてサボりだ。先輩から全国出場という夢を託されたのだと言うのに、誰も彼もやる気のない奴ばかり。こんなことでは、全国どころか県大会出場すら危うい。新入部員も一人だったし、本当にこのままで大丈夫なのか。

 城玖は探しに行ってくると、カンカンで体育館を飛び出し、残された俺はただ自主練をしながら待つほか無かった。

 隣の半コートでは、女子バスケットボール部が練習を始めている。向こうは和気あいあいとしていて、楽しそうだ。俺は目を背けて、またシュート練を開始する。本当は体力系のトレーニングや、通しの練習を今日はしたかったが、もしかしたらサボりの奴らが戻ってくるかもしれない。希望的観測だが、俺は彼らを待つことにした。試合は一人じゃ出場できない。どうしても、あいつらには出てもらうしか無い。

 程なくして、コートの隅においていた携帯が着信音を鳴らした。画面には、城玖とある。サボりを発見したのかもしれない。ボールを脇に抱えて、携帯を耳に当てる。

「見つかったか?」

『あぁ。でもあいつら、カラオケに居座って出ようとしねぇ。どうする?』

 無理にでも連れ返せ!と言いたい所だが、部活をサボってカラオケか。ここまで来たら、もう顧問の出番だな。もう怒りを通り越すレベルの愚かさ。ため息しか出ない。

「顧問をそっちに寄越す。お前は練習に来てくれ」

『はぁ…わーかりやした。行くわ』

 城玖も憤りの感情が抜けて、諦めに変わったのだろう。素直に従った。電話を切ると、体育館を慌ただしく一年生が入ってきた。そう、彼が唯一の新入部員。マネージャーの芹澤朋希だ。身体が弱くて選手としては活動できないが、記録や雑事で活躍してくれている。頼れる後輩だ。朋希は、息を切らしながら早口で語る。

「ヤバいっす先輩!女子バレー部がコート使わないなら退けろって、進軍してきてます!」

「何だと!?それはマズい!」

 バスケと女子バレー部…というより、俺と女子バレー部は犬猿の仲だ。いつもバスケ部の部員がサボるものだから、活動していないものと見なし、領土を荒らしに来るのだ。体育館の使用時間は前半と後半に別れていて、バスケは前半、バレーは後半。ここでバスケ部を追い返せれば、たっぷり練習時間が取れるというわけだ。

「あのさぁ~!コート使わないならさ、退けてくんない!?」

 来やがった。ヘッドの二人の両サイドに、何人も女子がずらずらと並んでいる。まるでヌーの大移動のようだ。抑えようとする朋希を突き飛ばし、領土に踏み込んでくる。

「フツウに考えてさ、練習もないのに居座ってる方がおかしくない?」

 長身の方がねぇ!と共感を求めると、皆お手本のように強く頷き共感する。中には躊躇いがちなやつもいた。こいつらの手法はこうだ。味方をいっぱい作って、従わないやつは切り捨てる。いじめの標的にされたくなくて、他のやつも従うというやつだ。趣味が悪い。

「いや、今はバスケ部が使用を許可されている時間だ。それすらわからないなんて、お前ら馬鹿じゃないだろ?」

 バレー部に対抗して、俺も睨みを効かせて煽る。今思えばこれが、学校で孤立する理由の一つだった。でも、この時は違った。

「喧嘩はよくありませんよ?」

 温かく場を和ませる声色が、女子バレー部と俺の間を通り抜けていった。反射的に、俺たちは声が発せられた方向を向く。

「ごめんない。女子バレー部のみなさん。彼もすっごく頑張って練習してるんです。見逃してもらえませんか。ね?」

 女子バスケットボール部のエース・鵜飼玲だった。身長が高く、糸目だが、端正な顔立ちをした美形の彼女は、学校の人気者。彼女が微笑めば、誰もが振り向く。女子バレー部も、彼女の振る舞いを見て、じゃあ仕方なくと去る。美人の力って、すご。

「すみません、なんか偉そうに口出ししちゃって。半田君がいつもお世話になってます」

「おいっ!何やってんだよ玲!」

 そうこう言っていると城玖が体育館に戻ってきた。そして、鵜飼玲を見るや否や、頭をかきながらつっかかる。

「あら、迷惑だったかしら」

「あぁ迷惑だよ大迷惑!いいからあっち行ってくれ!」

「ちょっ、やめましょうよ先輩〜!」

 城玖と鵜飼玲は、小さい頃から幼馴染らしい。学年は同じなのだが、城玖は早生まれ。鵜飼玲に何かと子供扱いされて、邪険に思っているらしい。鵜飼玲を突き放そうとする城玖を、朋希が抑える。

 俺たち四人のバスケはここから始まったのだ。

 

 

 その日の練習は終わり、声をかけてきたのは鵜飼玲からだった。

「奏斗君も行くよね?あそこのカレー屋さん、半田君も絶賛だったよ?」

 "奏斗君も〜"と言うのだから、てっきり城玖と朋希も来るのかと思って油断していた。次の日、実際にカレー屋に行ってみると、いたのは鵜飼玲一人だけだった。

 今思えば、あのカレー屋は鞍馬祢音と行った店と同じ所だ。

 先に鵜飼玲は到着していて、向かい合わせに座る二人席で待っていた。本当は今日、市営の体育館で自主練をしたかったのだが。俺が鵜飼玲を見つけると、こっちこっちと小さく手招きをする。俺は向いに座って鞄を下ろす。

「今日はなんで俺だけ?城玖と朋希はいいのか?」

「う〜ん?まぁ、奏斗君に私的な相談があってね…」

 鵜飼玲は、糸目を吊り上げ、右手を胸に当てると、ずいと俺に近づいて、衝撃的な発言をした。

「私と、付き合って欲しいなぁって」

 俺は椅子から転げ落ちた。いや、いくら何でも急展開すぎる。俺と鵜飼玲は、部活での体育館の使用時間が被るためか、数回話すことはあった。しかし、彼女から恋愛対象として見られていたとは…しかもこっちは、「あ、美人。」程度にしか思っていなかったのに。ぁあ、そうだ、これは俗に言う嘘告というやつだ。罰ゲームで、クラスの嫌われ者に告白でもしろなんて言われたのだろう。そら、顔を見れば悪趣味な笑みがきっと…

「ごめ、奏斗君、大丈夫!?」

 そう言って手を差し伸べる彼女の顔は、耳の先まで真っ赤で、汗がだらだらと流れていた。嘘ではないと直感的に悟った。何だこれ。今までバスケ漬けの生活を送ってきた俺にとって、初めての経験だった。

「……ああ。大丈夫」

 俺は、彼女の手を取り立ち上がる。結果は、言わなくてもわかると思う。

 

 

 俺と付き合い始めたと、城玖と朋希に言いふらしたのは玲からだった。城玖はそれを聞いた途端に、飛び跳ねながら喜び、朋希は倒れるんじゃないかってくらいに叫んだ。城玖に報告するのは正直不安だったが、彼には既に別の彼女がいたようで、特に気にしてはいなかった。

 同時に、俺はバスケ部としての活動に行き詰まっていた。未だに他の部員は練習に来ず、加速度的に全国大会の夢は遠ざかっていく。俺は何度も部員に練習に来るように説得を試みた。しかし、何度やっても上手く行かない。そこでも、玲は俺を励ましてくれた。

「大丈夫、奏斗はちゃんとみんなを見れてるから。全国大会、奏斗の夢なんでしょ?諦めちゃ駄目だよ」

 そこで、俺は知った。玲はそうやって慰めてくれたが、俺は、皆の事を見れていなかった。ただ部員達を、全国大会に行くための道具だと無意識に思ってしまっていた。それじゃ、誰もついてくるはずがない。

 俺はそれから、具体的なビジョンを部員に伝えることにした。守備にはお前が不可欠だ、お前の切り替えの強さが必要だ…など。部員に、なぜ自分が必要とされているのかを、しっかりと伝えた。すると不思議に、部員は付いてきてくれた。彼らに必要なのは説教ではなく、存在意義を伝える事だった。

 次第に、部活のモチベーションは上がっていき、俺たちは地区大会を優勝。晴れて県大会の切符を掴み取った。

 そして同時に、

「…奏斗、また明日ね」

 この言葉を最後に、鵜飼玲はこの世から消えた。

 彼女はジャマトに殺され、蘇らなかったのか。違う。鵜飼玲が消えた時期は、浮世英寿がスターになる世界を叶えたタイミングと被っている。つまり…彼女は仮面ライダーとなり、退場したのだ。

 退場した者は、世界から忘れられる。存在が消えるのだ。

 鵜飼玲という存在が失われたことで、歴史は変わった。

 俺は、独りよがりな説教を辞められず、バスケ部は再興できない。

 そういう世界に、彼女の死によって変わった。

 そして、俺を"助けてくれる人"は、"見捨てる人"になった。

 

 

「どうして誰もわかってくれないんだよ…!」

 俺はあの日、また部員の説得に失敗し、一人寂しく道を歩いていた。この時の、俺のバスケへの情熱は本物だった。しかし、世界は理不尽だ。俺は、ボールをついていて、周りが見れていなかった。

「え」

 けたたましい轟音と共に、俺の人生は終わった。

 

 

 今日も最悪の目覚めだった。何度夢であることを願っただろう。俺の右足はまだ、ギプスで固定されたまま動かない。そして、いくら怪我をしていても、学生は学校に通う義務がある。怪我をして以来、最初の登校だった。

 松葉杖をつきながら、校門をくぐる。そこで俺は、違和感に気づいた。数名の男子学生が、バスケットボールやユニフォームを持って校舎に入っていく。何故だ。俺がいなきゃ、バスケ部で活動する奴なんていないだろう。そう思っていた。

 俺は、確かめることにした。放課後、いつもバスケ部が活動していた時間に、体育館立ち寄った。まだ、右足はズキズキと傷んでいた。

「っしゃぁ!まだまだ行くぞ!」

 城玖が強く声を張り上げる。それに、他の部員は楽しそうに応じた。その時、俺は察した。バスケ部が活動していたのは、怠惰だった訳では無い。俺がいたからだ。全国大会なんて無い夢を皆に付き合わせ、足並みを揃えない。過度なメニューは、ただ身体に悪いだけ。俺が怪我によって排除された今、バスケ部が活動しない理由は無かった。

 当時の俺は、事実を受け止めきれなくて、城玖を問い詰めた。バスケ部の活動は終わっていて、体育館には、誰もいなかった。

「何なんだよあれ……何でバスケ部が活動してるんだよ!?」

「お前さ!勘違いしてるんだよ。全国大会なんてさ、でっかい夢掲げられて、こっちはいい迷惑なんだよ!奏斗、お前もう少し周り見ろよ」

 城玖はそれだけ言って体育館を去った。

 俺は、その場に崩れる。

 何だよそれ…夢をみちゃ、行けないのかよ。なんでそれを、否定するんだよ。俺の何が駄目だって言うんだよ………憎い。こんな、俺を受け入れない世界なんて………滅んでしまえ…!

「おめでとうございます!厳正なる審査の結果、あなたは選ばれました!」

 顔を上げると、そこには、謎の女が立っていた。女は、俺の前にしゃがみ込み、右足に手を触れる。するとたちまち、痛みが引いていき、足の怪我が回復した。そして悟った、こいつは、俺たちのいる世界の人間ではないと。

「これは特典です。怪我をしていては、戦えませんからね。今日から、あなたは仮面ライダーです!」

 彼女は、手元の箱を俺に手渡す。中には、ベルトとIDコアなるものが入っていた。特に"触れても何も起こらない"。ここからが、物語の本当の始まりだった。

 

             *

 

 …全部、思い出した。鵜飼玲……俺の大切だった人。失われた、バスケ部としての、本当の活動の記憶を。本当だったら、俺は部員と和解し、着実に全国を目指せているはずだった。でも、玲の消滅によって、玲の存在によって成り立っていた、部員と和解するという出来事が無くなり、俺のバスケ人生は暗黒に成り代わったのだ。

「…思い出したか、ダパーン」

「…ギロリ」

 青山が消えた病室に、ゲームマスターである彼が入ってきた。なんのつもりだ。もうゲームは英寿のおかげで終わった。俺にもう用はないはずだ。

「デザ神決定戦が、すで行われている。狐狩り。もしギーツを討伐できれば、君がデザ神になれる」

「…何だよそれ。ふざけんなよ。これ以上、俺はどうすればいい。玲が消えた以上、バスケを、あいつら三人が好きだった"本当の俺"は帰ってこない。戦う理由なんか…」

 慟哭に溺れる俺に、ギロリはデザイアカードを差し出した。

「あるさ。デザイアカードの願いを書き換えることを、特別に許可する。それで何でも願えばいい。もちろん、ギーツを倒せればの話だが。これも、君にあげよう。じっくり考えるんだ」

 ギロリは、青山の消えたベットに、羽ペンにデザイアカードと、ブーストバックルを置いて立ち去った。俺は、ブーストバックルと白紙のデザイアカードを取る。こんな理不尽なゲーム俺は…

『PUNKJACK LOOSE』

 スパイダーフォンが、晴屋ウィンの脱落を伝える。英寿…お前がその気なら、こっちだってやってやるよ。俺は、デザイアカードに願いを殴り書きした。

 

 

 翌朝になっても、狐狩りは続いていた。俺は、その様子を影から眺めていた。

 どうやら、タイクーンが殺る気になったらしい。どちらも新型のバックル、コマンドツインバックルから生じた、レイジングソードで斬り合っている。あのバックルは、一定以上レイジングソードにエネルギーを溜めないと真価を発揮できない。

 どちらもチャージが完了し、もう一つのバックルをベルトに装着した。

『『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』』

『Ready?Fight!』

 ギーツは飛行能力に優れたジェットモードを、タイクーンは破壊力に優れたキャノンモードを選択し、一対一の果たし合いは廃倉庫の奥へと移る。覚悟を決めたタイクーンの攻撃は血気迫るもので、ギーツにダメージを与えはしたものの、実力はやはりギーツの方が上。次第に劣勢に追い込まれる。

「やっぱり、強い…!」

「お前も強くなったなぁ…でも、俺の勝ちだ!」

 俺もタイクーンに加勢するべきか。でも、躊躇いの思いが抜けない。俺は、新たに記載したデザイアカードを見る。そこには、"鵜飼玲が復活し、またバスケができる世界"と書いた。今なら、ギーツを倒せる。たが、本当にいいのか?これは運営が仕組んだギーツ落としのためのゲーム。それで願いが叶って復活して、玲は嬉しいか?

「ギーツが生き残る結末は存在しない…」

 タイクーンとギーツの戦いを傍観する俺の前に、ギロリが現れた。俺がいることには気づいていないようだが、何をするつもりだ。

『GLARE LOG IN』

 なんだあのベルトは…?俺たち参加者が使っているものとは違う。運営専用のベルトか?ギロリは認証カードをベルトにスライドさせる。

「変身」

『INSTALL.DOMINATE A SYSTEM GLARE.』

「ギーツ…お前を勝たせるわけにはいかない。消えてもらおう」

『DELETE』

 ギロリの変身した仮面ライダーグレアは、肩のビットを空中に浮遊させ、エネルギーを充填する。いよいよ運営が直々にギーツを…!

「…っ!」

 俺が叫ぶよりも速く、タイクーンがエネルギー弾を放った。そのエネルギー弾はギーツを通り越し、グレアのビットに命中。必殺技を阻止した。

「あいつ…!」

「俺がピンチになれば、きっとあんたが直接出てくると思ってたよ」

「どういうつもりだ!」

 タイクーン…ギーツまで騙すとは…!ギロリはタイクーンを問い詰めるが、倉庫の外にクリーム色のスーツを着た男性が現れ、注意がそちらに移る。

「確かにこの目で見させてもらった。ゲームマスターが不正を働く、一部始終を」

「ニラム…どうしてここに…!」

 ギロリが彼の名前を叫ぶ。ニラム、どうやらこの様な場所に来るのが考えられないほど、立場の高い男らしい。彼の横に、次いで鞍馬祢音が現れた。

「ゲームプロデューサーに告発させてもらいました。このゲームは全部…あなたが英寿を落とすためにやったことだって!」

 プロデューサー。デザイアグランプリに、そんな役職が。だが、祢音のやつ。前はあんなに鞍馬財閥との関係を疑った俺にキレてたのに。それすら受け入れて告発したとでも言うのか。英寿を守るために。

「パンクジャックさんを使って…英寿を排除しようとした…!結局は全部あなたの仕業…こんな不公平なゲーム、私は認められない!」

 晴屋ウィンの脱落は、ギロリの仕込みだったのか。ならば、最終戦に不在だったのにも説明がつく。こいつ…本当に英寿落としに躍起になっていたか。

「ゲームマスターによるプレイヤーはの不意な関与は認められない…ゲームマスター失格だ」

 ニラムの言葉に、ギロリは激昂する。

「バカな…私はギーツくだらない願いから、世界を守ろうと…!」

「くだらないなんて言うなっ!」

 タイクーンが、珍しく声を荒げる。

「…今まで、大勢の人たちが、デザイアグランプリに参加してきた…命がけで…自分の人生を賭けて…戦ってきた。どんな願いだって、命を賭けて戦えば立派な願いなんだ…それを、くだらないなんて言うあんたが許せない!あんたは、みんなの思いを踏みにじったんだ!」

 命を賭けて…戦えば。

「…愚かな。理想の世界を叶えるチャンスを棒に振るとは。お前らは…強制退場だ!」

 グレアが二人に殴りかかり、さらに鞍馬祢音も変身して加勢に入る。俺も行くべきか……俺は、新しいデザイアカードをもう一度見る。あの時は…流れに乗って感情をぶつけてしまった。いつだってそうだ。感情に身を任せて行動して、周りに当たって、結局最後は後悔する。そしてまた、人生は不公平だ、理不尽だ、不幸が向こうから襲ってくるなんて、恨み節を叩く。

 俺は新しいデザイアカードを破り捨てた。

「不幸は…確かに襲ってくるのかもしれない」

 それでも、幸運はあった。英寿と、景和と、祢音に会えて。それだけじゃない、青山も、吾妻道長も、晴屋ウィンも。一緒に戦えた。仲間だった。不幸の中からでも、幸運は救い出せる。

「不幸が襲ってくるなら………自分から幸運になるしか無いじゃないか…!」

『SET』『SET FEVER!』

 俺は決意して、倉庫の影から飛び出した。右側にフィーバースロットを、左側にブーストバックルを装填し、グレア向けて走り出す。途中でビットがレーザーで襲い、地面が爆ぜ、右足が傷んだ。それでも、今は構わなかった。

「変身!」

『JACKPOT HIT!FEVER BOOST!』

 一発で、幸運は訪れた。全身に真紅の鎧を纏い、グレアを殴りつける。フィーバーブーストの力は絶大で、一撃でグレアは倉庫の外に吹っ飛ぶ。

「奏斗君!」「ようやく来たか…!」「待ってたよ!」

 三人が、俺の登場を讃える。

「……ごめん。遅くなった…」

 俺たち四人は、ゲームマスターとの最後の戦いに挑む。

 五つもあるグレアのビットは、完全に自動操縦で、多方向から俺たちを襲う。俺はそのレーザーの雨を掻い潜り、再びグレアに殴りかかる。しかし、今度はビットに防御され、辺りを噴煙が舞う。一度距離を取ったタイミングで、ナーゴが高台に移動した。

「退場するのはあなただよ!」

『ROCK FIRE!』

 ナーゴが連携技の号令を取り、タイクーンはレイジングソードにエネルギーをチャージ、ギーツは空へ飛び立った。

『TACTICAL FIRE!』『TACTICAL RAISING!』

 二人の同時攻撃を、グレアは防御する。俺はブーストバックルを再度起動し、必殺技を発動した。

『BOOST TIME!』

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

 全身のマフラーが火を吹き、俺の身体は加速する。そして、ビットの防御よりも速く、二人の同時攻撃を防いでいたグレアの前に迫り、渾身のアッパーでグレアを上空に押し上げた。そしてその先には、必殺技を発動したギーツ。

『COMMAND TWIN VICTORY!』

 ジェットの飛行能力により、さらに強化されたキックがグレアの胸部に炸裂。グレアは地面に叩きつけられ、爆発した…と思いきや、グレアはまだ変身解除すらされていなかった。流石は運営のライダー…性能に埋められない差があるのか。一度の使用回数を過ぎたブーストバックルが飛んでいき、通常のブーストフォームに戻ってしまった。

 グレアは諦めずに、俺たちに歩み始める。しかし、ニラムが割って入って止めた。

「…これ以上、大切なプレイヤーに傷をつけられては困る」

 ニラムが指を弾くと、グレアの変身が解除され、ギロリの身体がホログラム状に分離していく。これは消滅か、それとも更迭なのか。真意は分からないが、ギロリは狼狽えた様子だ。

「待て…!ジャマトは今も成長し続けている…!私が仕切らないで、あいつらとどう対抗するっていうんだ!」

 ギロリはニラムに殴りかかるが、既に崩壊し始めた身体は、ニラムに触れられない。そしてニラムは満面の笑みでギロリにこう答えるのだった。

「あなたの代わりはいくらでもいる」

 ギロリは悔しそうにもう一度ニラムに触れようとしたが、抵抗虚しく、運営用のドライバーだけを残して完全に消えた。

 これで終わりか……ニラムはドライバーを拾おうと手を伸ばす。

 その時だった。

 

 ドライバーは、ニラムの手元に収まる寸前で、通りすがりの誰かに奪われた。

 

 その男は紫色のスーツにマントを羽織り、右手には杖。そして、血に染まった真っ赤な仮面を被っている。新しいゲームマスターか?

「何…?」

「久しぶりだねぇ…ニラァ〜ム」

 男は仮面を外し、シルクハットを被りなおす。

「コラス!なぜあなたがここに…!」

 コラスと呼ばれた男は、俺たちに杖の先を向ける。

「君たちを、我がゲーム、デザイアロワイヤルに招待しようッ!さぁ、叶えろ……デザイアグランプリの存在しない世界をォッ!」

 そう言って、コラスは俺のデザイアカードを空に掲げた。

 また鐘の音が聞こえ、俺が驚くよりも速く、ジャマーエリアのようなものが広かった。

 

           DGPルール

 

  デザイアグランプリは──────────────

 

 

 

           DRルール

 

         これは、宇宙で最も

 

   スリリングかつエキサイティングなゲームである!




次章予告

「さあ始めよう…デザイアロワイヤルをっ!」

「世界は終わらせない」

「俺がデザ神となるっ!」

「一輝兄があの壁の中に!」

「幸せだったけど…最高じゃなかった…」
────────────────────────────
「僕たちも手を貸します!」

「こいつは最高だな!」

「1000%ありえない」

「或人社長は、現在宇宙に」

「heyheyhey!令和ライダー…揃い踏み…実に感動的だね!」

「「「「「変身!」」」」」

14話 交差Ⅰ:開幕!デザイアロワイヤル!


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ギーツ×リバイス 令和・バトルジェネレーションズ・ロワイヤル
14話 交差Ⅰ:開幕!デザイアロワイヤル!


 

─コラスが願いを叶える力を発動する数時間前─

 

 BLUE BIRD。元FENIX所属の五十嵐大二が創設者となり、新たに創り上げた平和維持組織である。門田ヒロミ、ジョージ狩崎を始めとした元フェニックスの人員の他にも、以前は敵対関係にあった秘密組織・WEEKENDの構成員、夏木花や玉置豪等もブルーバードの一員として、日夜平和を守るために奔走している。

 そんな彼らが、現在対策に当たっているのは"空の裂け目"である。

 かつて、地球に潜伏していた地球外生命体・ギフ。人間の心に生じる負の側面・悪魔を食料とし、数多くの人間を悲劇に陥れた彼は、ギフの遺伝子を継承した存在、五十嵐三兄妹とその悪魔の手によって引導を渡された。しかし、彼が命を落とし爆散した空には、かのガンマ線バーストのような跡が残ったのである。

 既にギフは存在していないとは言え、未だ不明な点が多く、彼由来のスタンプや瞳といった遺留物は、ギフ亡き今でも新たな事件を引き起こしていた。とすると、この裂け目も何者かに利用される可能性は高く、裂け目への対応が、当面のブルーバードの課題となっていた。

 日は高く昇り、太陽の光が裂け目の黒きを際立たせる。

「狩崎、裂け目の状態は?」

 仮設テントの中に設置されたラボ。そこで最後の調整を行っていたジョージ・狩崎に、隊長である門田ヒロミが声をかける。ジョージ・狩崎は、ディスプレイと研究資料を凝視しながら、ヒロミの問いに答えた。

「今も裂け目は縮まり続けているよ。これが続けば、あと三十分で完全に塞がる」

 ブルーバードによって、警戒区域に指定された一帯の中央には、新たに開発されたパラボナアンテナの様な照射器が設置されている。この照射器こそ、ブルーバードが何ヶ月もかけた開発した、裂け目を完全に閉じるための装置・ベリリュンヌである。

 ベリリュンヌは、今もオレンジ色の特殊光線を裂け目に照射している。この光線の効果によって、裂け目は順調に塞がり始めていた。

「よし。俺も警備に当たる。狩崎、ここは任せた」

 狩崎はそれにグッドマークで応えてみせた。 

 仮設テントを出ると、そこでは既にブルーバードの作業車や大量の機材がキャンプを形成しており、その最深部にベリリュンヌはあった。創設者である五十嵐大二は、家族と温泉旅館にて休暇中。来れなかったのは残念であるが、家族水入らずとなれば仕方が無い。

「遂にこの日が来たか…」

 ヒロミは空の裂け目を見つめる。この裂け目さえ収まれば、暫くは平和が訪れる。彼はこれまでの戦いを思い返すと、よし、と気合を入れ直し、ブルーバード専用のバイクに跨がる。キーを回してエンジンを起動すると、不意に謎の仮面を被った男が現れた。コラスである。

「ハ〜イ。門田ヒロミ」

 ヒロミはコラスからただならぬ雰囲気を感じ取り、右腰に携帯していた電気銃の銃口を向ける。

「何者だ」

「スカウトさ…!君をデザイアロワイヤルの司会として招き入れたい」

 デザイアロワイヤルという、聞き馴染みの無い単語に、ヒロミは戸惑う。しかし、動揺の色を見せずに銃を構え続けた。

「今日は大切な日だ。スカウトだがなんだか知らないが、邪魔はさせないぞ」

「大切な日ね…ふんっ、それは私とて同じこと」

 コラスは後ろ手に隠していた小型の麻酔銃で、ヒロミの首筋を射抜く。麻酔は強力で、ヒロミはバイクから転げ落ちた。

「さあ始めよう…デザイアロワイヤルをっ!」

 コラスが高らかに宣言し、空を見上げると、縮小し始めていた裂け目が途端に拡大し始める。それを目視したコラスは、低い声で嗤いながら、ヒロミを抱えてその場を後にした。

 

 

 一方、テントの中。裂け目の拡大を確認した狩崎は、驚愕しながらも大急ぎで各機材に不備は無いかを探っていた。

「ベリリュンヌに異常は無い…!では何故?」

 別の監視地点で作業をしていた玉置豪と、夏木花が慌てた様子でテントに転がり込んでくる。玉置は息を切らしながら、タブレット端末に表示された分析結果を狩崎に手渡す。

「狩崎さん!裂け目の中央に熱源反応が!」

「恐らく…生命体じゃ…」

「What's!?」

 三人は、テントを出て裂け目を凝視する。確かに、裂け目の中央に二種類の発光体が見えた。それは、人のようで、人ならざる姿をしている。裂け目をこじ開けた発光体は、流星の様に地面に着地した。その勢いで周辺に衝撃波が生じ、辺りの機材が破壊される。ベリリュンヌはこの衝撃に耐えきれず、火花を散らして活動を停止した。

 噴煙の中から現れた二体の生命体は、つまらなそうに辺りを観察する。そして、二体の視線は狩崎を始めとする三人にとまった。

「イザンギ…奴らは?」

「バリデロ…こいつらは人間…地球の下等生物だ」

 イザンギ、バリデロと互いに呼びあった地球外生命体は、腕のデバイスで三人を解析する。

「彼らはギフの遺伝子を所持していないようだ…イザンギ」

「的外れだな。やはり"契約破棄後"では役に立たん」

 突然現れて好き勝手言い散らす彼らに、腹が立った狩崎と花は、それぞれドライバーを取り出す。

「Hey…誰が下等だって?」

「私の本気…見せてやるわよ」

 臨戦体制に入った二人に対して、バリデロは杖を構える。

「始末するか?」

 しかし、それをイザンギは左腕を広げて諌めた。

「不要だ。下等生物が二、三匹消えた所で、ギフの力は手に入らん」

「それもそうだな」

 イザンギとバリデロは地面を離れ、次なる標的めがけて飛翔する。冷静さを保っていた玉置は、彼らの行く末を不安そうに案じた。

「あいつら、ギフの遺伝子を狙ってるって事は…」

「マズイ…狙いは五十嵐一家だ!」

 

             *

 

 …………よう!皆久しぶり!覚えてくれたかな?俺は五十嵐一輝!好きな物はお風呂とサッカー。家族皆で、しあわせ湯っていう銭湯を経営してる。色々あって仮面ライダーになり、色々あって仮面ライダーを引退した。今日は、父ちゃんと母ちゃんの結婚記念日で、家族皆で温泉旅行に行くんだ。

「ほら一輝!荷物積むぞ!」

「兄ちゃん、クーラボックスお願い」

「りょーかい!」

 これが俺の父ちゃんと、弟の大二。本当は父ちゃんが運転するはずだったんだけど、ペーパードライバーだったから大二が運転することになったんだ。俺は後ろのトランクを開けて、道中で必要になる飲み物や食材が入ったクーラボックスを積み込んだ。他にも、皆の服が入ったスーツケースに…何と言ってもマイ風呂道具。これは欠かせない。

 一通り荷物を積み終えると、家から母ちゃんと妹のさくらが出てきた。母ちゃんはベビーカーを押している。美人でしょ?

「えー!?もう荷物入れちゃったの?まだ予定より二時間も速いよ!?」

「まぁまぁ、いいじゃない?途中で、ヒロミさん達にお土産買いましょ?」

 母ちゃんはユッキーのハッピーチャンネルっていう、動画配信をやってるんだ。前は父ちゃんが頑張ってたんだけど…俺はよくわかんないや。さくらは最強だから、怒らすのは厳禁。

 そんでもって、家族は他にもいる。大二の悪魔・カゲロウと、さくらの悪魔・ラブコフだ。流石に全員は自動車に入れないから、今は二人の心の中で休んでるみたい…………俺にも、バイスって悪魔がいたらしい。だけど、バイスの事や、俺が仮面ライダーとして戦ってた記憶だって、まるっきり思い出せないんだ。不思議だよな。バイスの話題になると、家族皆が寂しそうな顔をする。きっと、相当騒がしかったんだろうな。俺の知らない話で、家族が悲しむ。でも、それは紛れもなく俺が招いたことで……幸せな毎日だけど、俺はその時だけ、心がギュッと痛むんだ。

 ……って、俺のことよりも。皆聞いてくれ、ビックニュースなんだ。最近、五十嵐家に新しい家族が増えた!その名も、五十嵐幸四郎!

「幸四郎も、旅行楽しみだろ?」

 俺はベビーカーの前にしゃがんで、幸四郎と目を合わせる。まさか弟がまた一人増えるなんて…人生って何があるかわからないよね。

「兄ちゃーん!そろそろ行くよ!」

 幸四郎と話してる間に、家族皆が車の前に集合していた。幸四郎、俺たちも行かないとな。俺はベビーカーを押しながら、みんなの元へ一歩前へ出る。

 しかし、その一歩は赤い壁に阻まれた。

「うわっ!」

 突然俺と家族を隔たる様に現れた壁は、見たただけで触れるとヤバいと直感でわかった。ベビーカーを咄嗟に引いて、幸四郎を守る。壁の向こう側から、みんなが俺と幸四郎を呼んでいる。壁は半透明で少し向こう側が見えるけど、何が起こっているかはよくわからない……携帯!携帯で連絡を…と、俺はポケットからスマホを取り出す。そこで通話アプリを開こうとしたその時、画面が砂嵐に変わって、一人の男が現れた。

『諸君!君たちはとても幸運だ!』

「ヒロミさん!?」

 画面に映っていた男は、紛れもなく俺たちの仲間のヒロミさんだった。だけど、格好もなんか王族みたいな紺色に金の服を着てて変だし、様子がおかしい。何より変なのは、普段の勤勉で真面目な態度からは考えられない、このハイテンション。

『君たちはデザイアロワイヤルのエントリー権を得たっ!』

 彼がそう言うと、空から黄色とピンクの箱が降ってくる。二つの箱は、しあわせ湯の入口の前に落ちた。あれ…この箱、どこかで?俺はベビーカーを引きながら、先ずは黄色い方の箱を開ける。そこには、見たことのないドライバーと、この丸いやつは?俺は、水色とピンクのそれに触れる。そして…思い出した。

 

(…俺が…家族を守るっ!)

 

(…お前は俺を裏切らない…!)

 

(これからは………俺が君を守るよ…!)

 

(…だって…家族だから…!)

 

 これが、俺の戦いの記憶……そして、俺の相棒・バイスの記憶…!

「バイス…っ!」

 心に呼びかけても、バイスは返してくれない。俺の記憶だけじゃ、復活できないってのか。折角…思い出せたのに…

 幸四郎が泣き始めて、俺は我に返った。バイスのことも大事だけど、今は幸四郎を守らないと…!

「大丈夫だからな…幸四郎…!」

 俺はベビーカーを抱えて、幸四郎と一緒に壁から離れる。一体何が起きているんだ……あのバリアは、エリア666の時の?いや、あの事件に関わっていた人間は全員逮捕されたはず。ヒロミさんが悪用…?そんな事をする人じゃない。だったらこの人は誰なんだ。

『君たちのもとに、デザイアドライバーとIDコア、そしてバックルを支給した』

 玄関先に放置したままの箱にあったベルトは、デザイアドライバーっていうのか。いつもと違うヒロミさんは、そのままデザイアロワイヤルのルール説明を始めた。

『デザイアロワイヤルは、仮面ライダー同士が争い合う、とても刺激的なゲームさ…!最後の一人になった者には…理想の世界を叶える権利を授与しよう!』

 理想の世界が叶う…?じゃあ、バイスが復活することも?

『デザイアロワイヤル第一回戦!悪魔マラソンゲーム!壁が収縮しきる前に…ゴールに辿り着けばクリア!それ以外のルールは無用!ライバルを蹴落とし合い、最強の座を手にするのだっ!』

 願いを叶えるために、誰かを蹴落とすなんて…そんな理不尽なゲームあるかよ…!そんなもの、俺は認めらない。幸四郎を守るためにも、ヒロミさん…?を止めなきゃ…!俺はデザイアドライバーにIDコアをはめて、腰に装着しようとする。しかしそれは、エラー音共に弾かれた。まさかこれ…幸四郎宛に支給されたものって事!?

『さぁ!悪魔マラソンゲーム!スタートぉ!』

 ヒロミさんの宣言と共に、空が赤く染まり、壁が収縮してゆく。

「くそっ!」

 俺はベビーカーから幸四郎が入った籠を外して、しあわせ湯に大急ぎで戻る。壁に飲まれる前に、ドライバーだけでも回収しないと!俺はしあわせ湯の番台に隠されていたアルミケースを取り出し、中身を確認する。そこにはリバイスドライバーと、レックスバイスタンプがあった。ほとんどのバイスタンプは大二のブルーバードに返却しちゃったから、手元にはこれしか無い。俺はリバイスドライバーを装着して、ケースを片手に、しあわせ湯を後にした。

 そしてついでに、バックルが入っているらしい箱も手に。

 

             *

 

 コラスがビジョンドライバーで俺の願いを叶えた瞬間、俺たちは別の場所に転送させられていた。そして俺はなぜか西洋の甲冑を着せられている。暑い、動きづらい、よく見えない。俺は兜の頭を外す。ようやく周りが見えてきた。俺達四人は、四角いテーブルを囲むように座らされている。それに…みんな変な服を着ていた。

「は…ここどこ?」

「ええっ!?みんな何その服!?」

 RPGゲームの僧侶の様な服を着た景和が、隣で驚く。それを、俺の向いに座っていた英寿がツッこんだ。英寿は盗賊の様な格好だった。

「お前もな。ここはコラスが作ったゲーム空間みたいなもんか」

 つまりこの格好もコラスが用意した策略の一部ってわけか。これは警戒しなければ…。

「あ、ただのコスプレ喫茶だね。ここ」

 策略違うんかい。魔法使い衣装の祢音が指さした先に、QUESTAREAとこの店の看板があった。普通に俺たち以外の客もいるし、ただの思い違いか……でも、碌でも無い事が起こっているのは確かだ。それは、俺たちの元に歩いてくるこの男の存在が物語っている。吾妻道長…

「どういう事だ。なぜ俺が生きている」

「うえええっ!?」

「道長!」

 景和が椅子から転がり落ち、祢音が立ち上がって驚く。ドラゴンの刺繍が入った中華服姿で、ヌンチャクを乱雑に持っている。ちゃっかりこいつもコスプレしていた。こいつが生きているのは、俺が願っていた世界が叶ったからか。退場者の復活まで願ったつもりは無いが…コラスが何かしらの目的で復活させたのだろう。英寿もそれを理解し、冷静に状況を整理し始めた。

「…コラスという元ゲームマスターが、ダパーンの"デザイアグランプリの存在しない世界"を悪用したんだ」

「奏斗君、そんな願いを?」

「お前は見抜いてたか、英寿」

 こいつには何でもお見通しだな。吾妻道長は、ふんと鼻を鳴らしてヌンチャクを肩にかけた。

「おい…呼び出しみたいだぞ」

 吾妻道長が振り向く先に、ツムリが現れる。しかし、やはり様子が違った。深い赤と黒のドレス……地雷系とは少し違う、ゴスロリってやつか?ツムリもコスプレをした…わけじゃないか。

「え?ツムリちゃんイメチェン?かわいいね!」

「こんにちわ~!みんな〜!」

 何時もの誠実な雰囲気と真逆で、キャピキャピした口調は、いちいち語尾にハートマークがついているようだ。イメチェンと言うには雰囲気が違いすぎる。

「あなたたちは、悪魔マラソンゲームのレアプレイヤーとして招待されました〜!」

 レアプレイヤー?俺達はデザイアロワイヤルの正規の参加者じゃないのか。俺たちが困惑していると、ツムリは無条件に俺たちをゲームエリア内に転送した。

 空は赤色に塗りつぶされ、ドーム状に広がったジャマーエリアのようなものが町全体を覆っている。

 あの謎な衣装もいつものデザイアグランプリのユニフォームに着替えさせられていた。しかし、各部にあったDGPとあった意匠が、DRと赤文字に変わっている。これはデザイアロワイヤルの略か。

「このゲームエリア内には、1000人を超える仮面ライダーが潜んでいます!あなたたちは、その仮面ライダーに狙われるレアプレイヤー!」

 1000人も仮面ライダーが。デザイアグランプリの十倍以上だな。いや、むしろエリア内の人間全員が巻き込まれてるって考えたほうがいいか。

「レアキャラが勝ち残る条件はたった一つ!エリアが収縮しきる前に、エリアの中央にあるゴールに辿り着ければ勝ち抜けよ。さ、誰が命を落とすのかしら?楽しみ〜!」

 明らかに毛色の違うゲームに、言葉を失う。俺たちの返答を待たずに、ツムリはゲームの開始を宣言した。

「さぁ!悪魔マラソンゲーム、始まりよ!」

 ツムリは宣言と共に消え、壁が段々と迫ってくる。

「どうする!?」

「今はゲームをやりきるしか無い、命を落としたら終わりだ」

 英寿は表情一つ崩さずに、ツムリが消えた先に沢山設置されていた乗り物の数々を指差す。自転車にサイドカー、バイク……なんかよくわかんない物まで、とにかく沢山。でも、まぁ…

「一択しか無いよね…」

 景和がおずおずと見たのは、荷台付きのトラック。五人まとめて移動できるのはこれしか無い。

「で、誰が運転するの?」

 祢音が言うと、颯爽と吾妻道長が運転席に乗り込んだ。確かに、俺と祢音はトラックの免許が取れる年齢じゃないし…土木系の仕事に就いている吾妻道長が適任だろう。

「おい、さっさと乗れ」

「だって」

 俺達は吾妻道長に促されて、トラックの荷台に乗り込んだ。

「行くか…」

 トラックはSTARTと書かれた看板を抜け、公道へ出た。

 

             *

 

 五十嵐一輝は、変わり果てた町の様子を目の当たりにしていた。

「何だよこれ…」

 町の大通りでは、ピンク色のハンマーや、青色の盾を持った仮面ライダーらしき人々が、本気で戦っている。それも、一人や二人ではない。大通りを埋め尽くすほどに、争いの喧騒は激しさを増している。お人好しが人生きっての性分である五十嵐一輝は、目の前で殴り合う仮面ライダーの間に割って入った。

「おい!何してんだよ!」

 突然現れた一輝に、仮面ライダーは振りかざしたハンマーを止めたが、すぐに一輝を突き放す。

「うるせぇ!お前も戦わないなら死ぬぞ!」

「あぁそうだ。戦わないなら死ね!」

 背後の仮面ライダーもシールドで一輝を振り払い、すぐにまた戦い始める。背中に抱えた幸四郎は、未だにわんわん泣いていた。一輝は"戦わなければ死ぬ"という言葉の意味が捉えられず、ただ困惑するのみ。それでも一輝は、二人の争いを止めようと手を伸ばす。

 その時、道の中央で大爆発が起きた。大通り中の仮面ライダーが戦いの手を止め、爆発に気を取られる。そこから、二体の宇宙人がゆっくりと現れた。イザンギ、バリデロ。二人の宇宙人は、仮面ライダー達には目もくれず、五十嵐一輝に焦点を合わせる。

「信じ難い…この惑星の下等生物に、ギフが倒されたとは…」

「バリデロ、我々の狙いは一つだ」

 イザンギとバリデロは、腕から蜘蛛型のデバイスを飛ばし、ギフの遺伝子を検知する。意外にも、先に行動に出たのは、大通りで争っていた仮面ライダー達だった。

「こいつらレアプレイヤーか…」

「だったら、やるしか無い!」

 仮面ライダー達は、一斉にイザンギとバリデロに襲いかかる。しかし、そこには埋められない力の差があった。バリデロが杖の尖端に火を灯し一振りすると、一度にして大通りの仮面ライダーはデザイアドライバーを破壊され、多方向に吹き飛ばされた。

「おい、大丈夫かっ!」

 一輝は先程までハンマーを装備していた男に駆け寄る。彼の身体には既に赤い亀裂が走っており、今にも消滅寸前だった。

「あんた…もしかして、リバイか…?」

「…!なんでそれを…」

 男は最後の力を振り絞り、一輝の胸ぐらを強く掴んだ。

「キツネ共を…探せ…!」

『MISSON FAILED』

 男は、ガラスが砕け散るかのように消滅した。他の参加者たちも、同様に。目の前で命が零れ落ちてゆく様子を目の当たりにした一輝は、拳を握りしめながらイザンギとバリデロを睨みつける。

「お前ら…!」

「邪魔者は消えた。さぁ、ギフの力を我々に捧げよ」

「自分が何やったかわかってんのかっ!」

 激昂する一輝に、イザンギは心底わからないという様子で首を傾げる。

「…?弱い者は淘汰され強き者は生き残る、当然の摂理だろう。君もデザイアロワイヤルに参加しているんだ。戦わないのか?」

 一輝は幸四郎を庇うように立ち、レックスバイスタンプを構える。臨戦体制となった一輝に、バリデロは声を高ぶらせた。

「やはりお前も醜い下等生物だな。感情に身を任せるとは…!」

「人の幸せをもて遊ぶ奴らは…俺が許さない…!」

 一触即発の状態となった両者。一輝が変身しようとするも、二人が放った蜘蛛型デバイスによってそれは阻まれた。そして、大量の蜘蛛型デバイスは、背中の幸四郎を掠め取り、バリデロの手元に収まる。

「幸四郎!俺の家族を返せ!」

「家族…?何故そのようなものに拘る?ただの群れではないか?」

 幸四郎を手に立ち去ろうとする二人に、一輝は食い下がる。彼の怒りは、冷静さを欠くほど高まっていた。

「待てぇっ!」

 一輝が二人に掴みかかるが、いとも容易く引き剥がされ、逆に投げ返される。イザンギはしつこい一輝にため息を溢すと後ろに組んだ手から二つのバックルを取り出す。それは、マグナムとブーストのバックルであった。バックルを空中に投げると、今度は"ギフスタンプ"をバックルに押印した。そして、二つのバックルは中から血を吹き出すかの様に黒い液体が流れ、二体のデッドマンに変貌した。

『MAGNUM…!』『BOOST…!』

「残されたギフの力…欠片程度だが、お前には丁度いい」

 マグナムデッドマンは、全身が白く、頭部は直角三角形の様な形をしており、さながら上から見た銃のようなデザインで、左目から飛び出たスコープが緑色に光る。そして両腕はそのまま全体がライフルに変形していて、地面に付くほど全長は長い。

 相対してブーストデッドマンは、赤く、頭部は楕円形。全身のあらゆる場所からマフラーが生えており、胸部のエンジンが今も震えている。マフラーからは、排気ガスが延々と吹かれていた。両者共に、口元はギフテリアンと酷似していて、剥き出しの歯がギチギチと音を立てていた。

 二体のデッドマンを置いて、イザンギとバリデロはエリアの中央へと飛び去った。同時に、デッドマンは一輝に攻撃を開始する。先にブーストデッドマンが地面を殴り、発した地割れが一輝の足場を奪う。地割れから強烈な熱波が押し寄せ、一輝は怯むが、それでもバイスタンプを押印し、仮面ライダーリバイに変身した。

「変身!」

『───アップ!オーイン!────!ヒアウィー─────!仮面ライダー!リバイ!───!リバ──!』

 一輝の変身したリバイは、バイスがいない為半分以下の力しか出せない。以前そう注意勧告がヒロミからなされていたのを、一輝は思い出した。現在のリバイは、綺麗な発色をしていたピンクのスーツは灰色となり、複眼の赤だけが光る不完全な状態まで弱体化していた。

「前の時より、力が弱まってる…!」

 一ヶ月前のブラッドベイドとの戦いではまだ出力を維持できていたのだが、バイスがいない影響が時を超えて今現れていた。バイスの力を失った形態"絶リバイ"は、オーインバスター50で戦いを挑む。

 マグナムデッドマンの銃撃をスライディングでかわし、低い姿勢のまま前進しつつ、二体の脇腹を斧で斬り裂いた。が、半分以下に弱った力では深い傷には至らず、デッドマンはピンピンしている。

 今度こそとレックスの力を解放、両足を恐竜に変化させ、連続のキックを放つ。ブーストデッドマンは連続キックに高速のパンチで応戦し、全て拳で防御した後、膝蹴りで絶リバイを跳ね返した。それと同時にマグナムデッドマンがスコープで照準を合わせ、リバイのバイスタンプを撃ち抜き、強制的に変身を解除させた。

「…っ!」

 地面に転がり落ちた一輝は、レリーフに大きく傷の付いたレックスバイスタンプを息も絶え絶えのまま拾う。このままでは、満足に変身もできない。マグナムデッドマンは、一輝の頭部に狙いを定める。

「変身!」「変身!」

『MAGNUM!』『BLAST!』

 突如、一台のトラックが乱入。半壊した荷台から二人の仮面ライダーが飛び出してきた。一人は上半身にマグナムを装備したギーツ。そしてもう一人は、ブラストを装備したダパーンだった。

 

             *

 

 出発して間もなく、町が異様な形相に包まれていると察した。トラックの荷台の中にはモニターが設置されていて、トラックの上から四方を撮影した映像がリアルタイムで確認できた。モニターに映された映像には、赤い壁に飲まれて崩壊する建物の他に、突発的に起こる爆発が確認できた。それは、町で一般人の仮面ライダーが争っている事を如実に表している。デザイアグランプリに招待され、ジャマトと戦うことになった俺たちも大概だが、いきなり何も知らないまま人同士で争えるなんて、普通に考えてありえるか?それこそ俺みたいに捻じ曲がった精神性をしてるやつばかりじゃないし、もしかして運営に騙されでもしてるんじゃ…

「おい、伏せろ!」

 運転席の吾妻道長が叫ぶ。間髪入れずに、車体が右側に大きく揺れた。トラックはちょうどレインボーブリッジを通過した所。俺たちは荷台の壁にぶつかってもみくちゃになった。英寿が真っ先に立ち上がって、モニターの映像を確認する。

「敵襲みたいだぞ」

 俺も映像に目を通す。車体の後方を映した映像には、二個も小型バックルを装備した一般人仮面ライダーが、プロペラで飛行しつつ、チェーアレイでトラックを狙う様子が捉えられていた。一般人仮面ライダーは、チェーンアレイを荷台めがけて振り回す。今度は鉄球が荷台に命中し、上半分が剥がれた。吹きさらしになった荷台に、今度は白い軽自動車が近づいてきて、助手席からアローを装備した仮面ライダーが乗り出した。トラックに横付けし、アローでこちらを狙撃してくる。姿勢を低くしてなんとか避けるが、チェーンアレイの攻撃を受けまいとトラックが揺れ、否が応でも身を外に晒されてしまう。

「どうなってんの〜!?」

「まずい!」

 トラックが急ブレーキをかけて止まった。同時に攻撃の手も収まる。恐る恐る荷台から顔を出すと、トラックは橋の中央で立ち往生していた。チェーンアレイを装備した仮面ライダーが着地し、停車した自動車からは二人も仮面ライダーが降りてくる。片方は運転していたやつだ。そして前方には、道を埋めるように数多の仮面ライダーが待ち構えていた。どれも装備しているのは小型バックルだが、数が多すぎる。十、いや二十。捌ききれない。

「囲まれちゃったよ…」

「これがレアプレイヤーへの待遇か」

 じわじわと一般人ライダーたちがトラックとの距離を詰める。俺は声を張り上げて一般人ライダーに問いかけた。一回でも理由を聞いとかないと腑に落ちない。

「おい!何で俺たちを狙う!全員でゴール行けば勝ち抜けのはずだろ!?」

 俺の声に応えたのは、チェーンアレイを持ったライダーだった。

「ゴール…?そんな話は聞いてない。最後の一人になるか、レアプレイヤーを倒すか。お前らやっちゃえば、楽に勝ち抜けできんだよ!」

 それが一般人ライダーに課せられたルールってわけか。じゃあゴールの存在はレアプレイヤー限定…?

「リバイってやつはいないみたいだが…レアプレイヤーは速いもん勝ち!殺らなきゃ殺られるのが…デザイアロワイヤルだ。俺たちは死ぬわけにはいかないんだよ!」

 一般人ライダーにも止む終えない事情があるらしいが、こっちにも譲れない願いがある。ここで安々命をやる気は無い。誰だって同じ、こいつらだってそうだ。

「このままつっきる…タイクーン、ナーゴ、援護しろ」

 運転席の吾妻道長が小声で告げた。彼の提案に、二人は口角を上げて頷いた。今回は随分と素直だな、コイツ。景和と祢音は、バックルを手に運転席側の天井に飛び乗る。そして、バックルをベルトに装填した。

『『SET』』

「変身!」「へ〜んしんっ!」

『NINJA!』『BEAT!』

『Ready?Fight!』

 二人が変身すると同時に、吾妻道長がアクセルを踏んだ。大勢のライダーがトラックの急発進にびっくりしながらも攻撃してくる。そこで、両手で印を結んだタイクーンが術を放った。

「分身の術っ!」

 空中や道路に大勢の分身が現れ、一般人ライダーの目をくらます。攻撃の手が一点に集中しないタイミングを見計らって、ナーゴはビートアックスの弦を弾いた。

『TACTICAL BLIZZARD!』

 ビートアックスが発した氷は、トラック一台が通れる分の坂を作り、トラックはタイヤを空回りさせること無くジャンプ台を登り、一般人ライダーたちを大ジャンプで跳び越した。トラックは地面に激しくぶつかりながら着地し、荷台が跳ねるように揺れる。一般人ライダーはタイクーンの分身に足止めされている。逃げるなら今だ。俺たちを乗せたトラックは、一般人ライダーの目から逃れるように、市街地へ走った。

「なんとか、これで撒けたか?」

「まだ安心はできない。一般人ライダーの人数はあんなもんじゃないだろう」

 英寿の言う通りか。スパイダーフォンで確認してみると、ゴール地点までの距離はまだ30キロも先。地図に俺たちの変身するライダーのマークが表示されている。まだ道のりは長い。なんとか窮地を乗り切り、ほっと荷台の残った壁にもたれ座る。

 思ったよりもこのゲーム、ルールが入り組んでる。元々ゲームに参加していた所謂レアプレイヤーは、40km先のゴールに辿り着けばクリア。巻き込まれた一般人ライダーは、最後の一人になるまで戦うか、レアプレイヤーを倒せば複数人で勝ち抜けできる。なるほど、そりゃレアプレイヤーを狙うわけだ。俺たちの命が一般人五人分としてカウントされていたとは、コラスは命の裁量が狂ってやがる。

「ねぇ!一般人の仮面ライダーって助けなくてもいいのかな…?だってあの人たちも、コラスに巻き込まれた普通の人でしょ?」

 景和は迫りくるエリアを眺めながら呟く。

「ふん。ならどうやって助ける?一般人を助けるために俺たちが犠牲になったって、コラスを止めるやつはいなくなる。あの人らを救うためには、俺たちがコラスをぶっ潰すしかねぇだろ」

 ハンドルを握る道長は淀みなくゴールを見据えている。コラスがゲームを開始できたのは、ギロリが持っていた運営のドライバーを盗んだからだ。なんとか取り入れれば、ドライバーを奪い返せるチャンスが来るかもしれない。一般人を助けるのはそれからだ。

 地図に表示された俺たちのマークは、順調に目的地に向かっている。暫く敵襲も無く、ぼけっと地図を眺めていると、突然地図に一つマークが増えた。

「は?おい、お前らこれ!」

 呼びかけに荷台の四人が俺のもとに集まり、地図を拡大して確認する。灰色とピンクのマーク。今までに出会ったことのない仮面ライダーだ。祢音は表示されたマークを指で差す。

「確か…さっきの仮面ライダーが"リバイがいない"とか言ってたよね?」

「レアプレイヤーは俺たちだけじゃ無いってこと…?」

「ここから近いな。おいバッファ」

「もう向かってるさ」

 トラックが通りの角を曲がり、下町の大通りに出た。同時に、トラックの頭上を、ゴールへと飛来する二体の怪物の姿が通り過ぎた。背中に赤子を抱えている。何なんだあいつら。コラスの投入した敵か?

 ふとした合間に、これまた二体の怪人と戦うリバイが見える。力を発揮しきれていないのか、二体の怪人に追い詰められ変身解除されている。あの怪人…マグナムとブースト?

「何か知ってるかもしれない…助けるぞ、ダパーン!」

「わかった」

 英寿は以前俺から借りていたブラストバックルを返却してきた。英寿はマグナムを、俺はブラストをドライバーに装着し、走りながら荷台を飛び出した。

『『SET』』

「変身!」「変身!」

『MAGNUM』『BLAST!』

『Ready?Fight!』

 着地しながら二人で二体の怪人を蹴り、リバイに変身していた男を間一髪で助ける。二体が怯んだ所を、先ずは俺が先制。ブースト怪人の一直線なパンチをガス噴射で錐揉回転しながら避け、顔面を蹴り飛ばす。そして俺が蹴りの勢いでバク宙をしている間に。

 ギーツの高速射撃。腕を振り抜く合間何度も放たれた銃弾は、確実に装甲の隙間を射貫く。

「大丈夫?」「しっかり!」

 倒れていた男を、景和と祢音が荷台で介抱している。これ以上の戦闘は無用だ。とっとと離脱しよう。

「もう出るぞ!」

 吾妻道長がアクセルを強く踏み、タイヤが空回りしながらもトラックは発進する。マグナムの怪人がロングレンジからの射撃を行ったが、これも難なくギーツが撃ち落とし、怪人は追跡を諦めた。

「あの怪人はいったい…?」

 俺が変身を解除して座り込む。俺の疑問に、英寿が即座に答えた。

「あれはデッドマンだな。前に戦ったことがある。強い力を媒体にして、誕生する悪魔だ」

 悪魔って…何でも知ってるなという関心よりも、ファンタジーな存在への疑心の方が先に出てくる。というか、デザイアグランプリで戦うのは普通ジャマトだけのはず。じゃあなんでこいつはそのデッドマンとやらと戦ったことがあるんだ…?

「お前、何でデッドマンを知ってるんだ…」

「ちょ、まだ動かないほうがいいって!」

 祢音の静止も聞かずに、男は起き上がる。彼の目線の先は、英寿だ。

「よっ、久しぶりだな」

 二人の間に何かあったようだが、微妙な何とも言えない空気が続く。その静寂を終わらせたのは、ゲームマスターの宣言だった。

『やぁ!頑張ってるね諸君!』

 空中にゲームマスターの映像が流れる。その背後には、ツムリに…上流貴族みたいな格好をした男もいた。その男は、ハイテンションに叫びながらゲームの進行状況を告げた。

『ゲームの参加者は既に半分に減ったが…苦戦してるようだなぁ!』

 次いで、ツムリも語る。

『そこで、と、く、べ、つ、に。これから十二時間、エリアの収縮を停止します!』

 十二時間もか…それなら簡単にゴールに…

『でも、こらから沢山デッドマンをい〜っぱいそっちに送るから、死なないように気をつけてね?』

 結局それで足止めかよ。運営の目的は何だ…?

「あっちもトラブってるみたいだな」

「ぐずぐずしてる暇なんて無いだろ、速く隠れられそうな場所を…」

 英寿は冷静に推理を続けているが、猶予は無い。十二時間も戦い続けるなんて、身体が持たないぞ。俺たちが手をこまねいていると、トラックの進行方向に、一人の男が立っていた。吾妻道長はゆっくりとブレーキを踏み、警戒を強める。

「何もんだ」

「困ってるんだろう。助けるよ。そこの五十嵐一輝君とは友達なんだ。ここから近い、ついてきてくれ」

 黒いハットに、ベージュのロングコート。そして首からぶら下げたペン。謎の風貌の男は、トラックを先導する。彼が目指した先は、ボロボロの廃校だった。

 

           劇場版

        ─ギーツ×リバイス 

   令和・バトルジェネレーションズ・ロワイヤル─

 

           DRルール

 

     一般人が変身する仮面ライダーと、

 

  特別枠のレアプレイヤーでは、クリア条件が異なる。




次回:ギーツ×リバイス

「飛電インテリジェンスの技術を、提供しに参りました。」

15話 交差Ⅱ:月下の防衛戦!


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15話 交差Ⅱ:月下の防衛戦!

 

 五十嵐一輝と五十嵐幸四郎が、赤い壁に囚われた。それだけではなく、赤い壁は直径80kmの超巨大なドーム型であり、その中には千を超える民間人が存在していたと考えられる。これを受けたブルーバードは、即座に空の裂け目の対処から、赤い壁からの民間人の救出及び原因の調査を最優先事項とし、それぞれが活動を開始していた。

 そして、五十嵐大二と夏木花は、山奥に秘匿された研究所を目指していた。入山したのが夕暮れだった上、山道が途中から完全に無くなることもあり、二人は懐中電灯で足元を照らしながら進む。上流付近の川が近辺にあるようで、岩だらけの道は苔で湿っていた。

「まったく。こんな時間に行けなんて、狩崎さんも無茶言うな」

「そうね。私達なら大丈夫でしょ」

 今までの戦いにおいて、あまり接点の無かった二人の会話は乾いている。大二は立ち止まって、懐中電灯の光を花に向けた。

「何よ」

「さくらと玉置が心配か?」

「ふんっ、そんなわけ無いじゃない」

 別行動となったさくらと玉置は、現在とあるIT企業に向かっている。戦闘力や体力面を加味してこのような組み合わせになったのだが、何とも不安が残る人選であるというのは、大二も共感するところがあるらしい。

「上手くやれてるといいけどな…」

「あんたも中々心配症ね」

「まぁ…飛電インテリジェンスに行って社長に話をつけるだけだ。大丈夫だろ」

「だといいんだけどね」

 二人は穏やかに笑うと、再び暗い山中を進み出した。

 等のさくらと玉置はと言うと………

 

 

「だから!社長に会わせてって、言ってるでしょうが!」

「さくらさん!落ち着いてください!」

 さくらと玉置は飛電インテリジェンスのエントランスにて、ヒューマギアの警備員に包囲されていた。それもどうも、お使いを頼んだ狩崎は、『装置のプログラミング構築、どうやら私だけでは時間が足りない。そこで、飛電インテリジェンスに協力を依頼したい。社長さんと話をつけてきてくれないかい?』と伝えたのであるが、社員用の入口と来客用の入口を間違えた二人は、不審者として何とも手痛い勘違いをされてしまったのである。間違いなく原因は、さくらの直情的な言動にあった。

「聞いてるの!?社員に、会いたいの!」

 これでは、社長の命を狙うテロリストか、野蛮な活動家と勘違いされても反論できない。警備員に囲まれ、手詰まりとなった玉置は頭を抱える。自分の渡世もここまでかと覚悟したその時…

「何事かね!」

 一人の荘厳な声が、場を支配した。声の主である男が、警備員ヒューマギアの間をすり抜けて二人に歩み寄る。腹心であろう二人も、彼の後に続いていた。さくらと玉置はごくりと息を飲んだ。この風格は当に社長に違い無い。

「副社長の福添准だ。社長は今長期出張中で、ここにはいないぞ!」

 さくらと玉置は、昭和の漫才家のように崩れ落ちた。福添と名乗った男は、全くの目当ての人物では無かったのだから。

「え〜っと、社長さんじゃないんですか?」

 玉置の質問に、専務である山下三造が大袈裟な身振り手振りで、福添准をフォローする。

「失礼な!社長じゃないとは言え、副社長も十分偉いんですよ!」

「お前が今一番失礼だよ!」

 山下の全くフォローになっていない発言を叱咤する福添。たった三十秒の間に、さくらと玉置が最初に感じていた威圧感は消え失せ、ただのおもしろいトリオとしてしか認識できなくなっていた。すっかり熱が冷めて冷静になったさくらは、社長が不在である現状に疑問を持つ。

「長期出張中って、どこに行ってるんですか?」

 福添准の秘書であるヒューマギア・シェスタは、天井を指差す。

「或人社長は、現在宇宙に。新規事業立ち上げのための挑戦中です」

「宇宙!?そんなぁ〜」

 さくらはがっくりと項垂れる。しかし、飛電インテリジェンスの社長が不在であることは何ら問題ではない。彼女らが狩崎に頼まれたのは、"装置のプログラム構築の支援を飛電インテリジェンスにお願いする"ことであり、"社長と会う"事ではない。すっかり目的がすり替わってしまった二人だったが、狩崎はそれを見越していたらしい。社員専用のゲートを抜けて、もう一体の秘書型ヒューマギアが現れた。

「五十嵐さくら様、玉置豪様。狩崎様からお話は伺っています。社長秘書のイズです」

 イズは右手に下げたトランクを置き、両手を組むと深々と礼をした。礼儀正しいイズの行動に、思わずさくらと玉置も会釈をする。イズがやって来ると、警備員のヒューマギアも散り散りになった。福添准はイズに寄ると、彼女のモジュールのスピーカーに耳打ちした。

「或人社長からの許可は降りたのか」

 イズはこくりと頷き、何やら腕を大きく広げ、コミカルな動きをしだした。

「ブルーバードに〜バーっと貸せよっ!はいっ!アルトじゃぁ〜無いとっ!」

 室内なのに、カラスの鳴き声がした気がした。その場の誰もが言葉を失う。凍りついた空気に、イズは臆せずに姿勢を正した。

「と、或人社長は仰っていました。ちなみに今のは、バードとぱーっとをかけた、非常におもしろいギャグで、」

「も、もういい!これ以上我が社の醜態を晒すのはやめてくれ〜!」

 ギャグの解説を始めたイズを、福添が必死に抑える。そのやり取りを、さくらと玉置は苦笑いして眺めるのみだった。飛電インテリジェンスの社長、飛電或人は相当古典的なギャグを好んでいたようだ。

 程なくして、落ち着いたイズは、足元に置いていたトランクを開いた。トランクの中には、一本のプログライズキーが収められていた。これそこ、狩崎が求めていたプログラム、飛電インテリジェンスの技術の一端である。

「シャイニングホッパープログライズキー。そのデータを改めて構築しました。シャイニングアリスマテックのプログラムの応用で、稼働中に起こる膨大な処理を最適化できるはずです」

 玉置は複製型・シャイニングホッパープログライズキーを受け取る。これでこちらのミッションは完遂した。

「ありがとうございます!これで一輝さんたちを助けに行ける…!」

 

 

 大二と花が捜索している研究所とは、ギフと対になる最強の悪魔・ディアブロが封印されていた研究所である。その研究所では、かつて存在していた悪の組織の秘密施設だったのだが、とっくの昔に組織も壊滅し、隠蔽された研究所だけが残っている状態だった。また復活したディアブロもリバイスや多くの仮面ライダーの協力により撃破され、その存在も完全に消え去ったはずであった。

 ここで発生した問題の最も危惧するべき点は、"ディアブロが撃破されたことによる歴史改変"である。本来であれば復活したディアブロは人類を絶滅させ、悪魔だけが蔓延る世界を作ったのだが、それよりも先に未来にタイムスリップしてしまっていた百瀬龍之介の尽力により、現代でリバイスらがディアブロの野望を阻止するに至る。

 つまり、ディアブロを撃破するにあたって、"百瀬龍之介の宇宙追放が原因のタイムスリップ"、"ディアブロが完全復活し地球を支配"、"完全復活前に撃破されたことにより、平和な未来に"と、三度に渡る改変が起きている。

 それが吉か凶か、ディアブロが封印されていた研究所の周辺では磁界が歪んでおり、改変された"ディアブロが支配した世界"の残留物が漂着するようになった。未来からの漂着物は定期的にブルーバードに回収・保管されていたのだが、未だ未回収の物も多い。

 そして大二と花に課せられたミッションは、未だ発見されていない"時空を移動できるドライバー"の捜索及び回収である。

 

             *

 

 五十嵐一輝・仮面ライダーリバイと知り合いだと言う男は、赤色のバイクに跨った。どうやらついてこい、ということらしい。彼の乗るバイクは、ブーストライカーとはまた違うが、前方から剣が飛び出たような、奇妙なデザインだった。

「あれ、一輝さん寝ちゃったよ…」

「戦いのダメージが相当溜まってたらしいな」

 景和の膝下で、五十嵐一輝は深く眠りに落ちている。すると、彼の着ているジャケットの裏に、デザイアロワイヤル仕様のミッションボックスが隠されていた。それはデザイアドライバーではなく、バックルが入っているタイプのものだ。ビックリマークが付いている。

「このミッションボックス、どうする?」

「元々こいつに支給されたものだろ。奪うのは酷だな」

 懐のミッションボックスは、とりあえずそのままにしておくことにした。こっちだって戦力は十分だ。そんな黄金屋森魚みたいなことはしたくない。

 やっと一息つけた俺たちの話題は、数時間前のギロリとの戦いへと移る。

「それにしても。まさか俺が化かされるなんてな」

「化かすのは狐だけじゃない。狸もやるときはやるんだよ」

「ネコもね〜」

 景和の血気迫る演技。そして、自らの存在を受け入れた祢音の行動。どちらも、とても凄かった。到底俺には真似できない。俺はただ過去に振り回されて、ウダウダ悩んでただけなんだから。

「だが……ダパーンがいないと勝てなかった」

「は…?俺が?」

 英寿は、ただ真っ直ぐ俺を見て答える。

「悪いな。新しい願いまで、ふいにしちゃって」

「…………笑えるだろ?でも、もういいんだ」

 俺の両サイドに座っていた景和と祢音は、話の流れを汲み取れていなかったようなので、俺は正直に話すことにした。今更隠す理由もない。

 俺の過去のこと。バスケ部のこと、半田城玖のこと。鵜飼玲のこと。彼女の死で、俺の世界が変わってしまったこと。話しているうちに、二人の顔が曇ってきて、こっちまでいたたまれない気分になった。

「こんなときにする話じゃないよな……」

 俺は無理にはにかんで見せるが、それもすぐに景和に見透かされる。

「そんなこと言わないでよ。俺だってわかる、大切な人を失う悲しみは。辛いときは、辛いって言わなきゃ」

「そーだよ!せっかく自分を好きになってくれた人がいたのに……消えちゃっただなんて……」

 デザイアグランプリによって、両親を失った景和。親の束縛に悩み、本当の愛を願う祢音。両者ともに、俺の身の上話に思うところがあったらしい。二人は座ったままの俺に体を寄せてくる。

「鵜飼玲は…"シャギー"は勇敢だった。守りきれなかったこと、本当にすまない」

 向かいにいる英寿も、そう言って頭を下げてくる。こいつがここまでするとは…本当に心配してくれてるんだな。俺のことを。シャギー…それがあいつの仮面ライダーとしての名か。どうせ一般人でも守って、ジャマトとも戦えずに死んじまったんだろうな。あいつは、そういうやつだ。

 あの日、城玖に裏切られた時の事を思い出す。独りよがりの俺に、寄り添ってくれる人は誰もいなかった。だがこうして今は、俺の心を支えてくれる人がいる。自分で気付かないうちに、救われていたんだな。このデザイアグランプリの仲間たちに。

「…………ありがとう。こんなくだらない俺を、気遣って、くれて」

 素直に感謝の意を伝えるのは、まだ気恥ずかしいな。三人は、それを受け止めて、優しく微笑み返してくれる。

 こんな歪で奇妙な信頼関係を築ける人間なんて、そういない。これが俺の掴めた一つの幸福なのだろう。目の前の欲望に腐らずに、真っ直ぐに未来を信じられた、俺の。

 今回のデザイアロワイヤルは、ライダー同士で潰し合う事が目的じゃない。まずはあのコラスから運営のドライバーを取り返さなくては。俺たちは、叶えたい願いの前に、協力して……あれ?そういえば、まださっきまでのデザイアグランプリで、わかっていないことがある。それは…

「英寿がデザイアカードに書いた願いって、何だったんだ?」

「俺がデザイアグランプリのスタッフになっている世界」

 運営…!また大きく出たな。もしその願いが叶っていれば、運営かつプレイヤーという、とんでもない仮面ライダーが爆誕していたな。英寿は収縮している壁を眺めている。

「くだらないって、思うだろ?」

 英寿の自虐を否定したのは、景和だった。

「そんなことないよ。俺にはよくわからないけど…英寿がお母さんに会うために、必要な願いなんだろ?」

「なんでそれを知ってる?」

 いや、ちょっと待て。俺も知らない。英寿が、母親と会いたいと願っている?だったらデザイアカードに書けば一発…違う。できなかったからこいつは探ってるんだ。運営が、英寿の母親を秘匿している……?景和の発言に動揺する英寿に、祢音が手を合わせる。

「ごめん!私が話しちゃった…」

「だからさ、今度は正々堂々勝負しようよ。皆で、俺たちのデザイアグランプリを取り返してさ」

 英寿の口角がまたニヤリと上がる。乗り気なったな。ようやく何時もの空気感を取り戻した俺たちは、町を包む異様な空気を切りながら進んだ。 

 

 

 トラックは謎の男が先導するバイクに続く。日没までもう時間がない。俺たちは黙ってトラックが目的地に到着することを待っていた。

 暫くしている内に、人差し指を頬に当てて考え込んでいた祢音が、「あ!」とデカい声を出した。

「なんだよ」

「思い出した!あのバイクに乗ってる人、神山飛羽真っていう超有名小説家だよ!」

 神山飛羽真……?文学には疎いからよくわからないが…小説家だったのか。次いで、景和も声を上げる。

「ロストメモリー!姉ちゃんが読んでた!」

 俺と英寿はただ首を傾げるだけだったので、祢音は本の内容をつらつらと語り始めた。ロストメモリーとは、神山飛羽真が執筆した王道ファンタジー小説。記憶喪失の少年と、謎の力を持つ少女が、空に取り残された城を目指すという冒険譚。祢音曰く、少年と少女の関係が超エモいだとか。ベストセラーや長谷川賞も受賞歴があるし、相当著名な作家らしい。本当に始めて聞いたのだが…まぁいい。祢音と景和が神山飛羽真についての談義に花を咲かせている内に、目的地は近づいていた。

 神山飛羽真のバイクは、ボロい廃校の校庭で停止する。

「ここで皆を匿ってたんだ。日没が近い。さぁ早く」

 廃校は西側がほとんど鉄骨が剥き出しになっていて、窓ガラスも残っている方が少ない。もっとマシな建物は無かったのか……いや、よく見れば、校舎の裏側はちょっとした山で、校舎の北側と東側をカバーしている。よって、敵が攻めてくる方向は限られるな。

「奏斗君」

「あぁ」

 五十嵐一輝を背負った景和に促され、校庭を抜け、校舎に足を踏み入れた。校舎内は意外と荒れてなかったが、階段に無造作に置かれたバリケードが目立つ。バリケードは机と椅子が乱雑に重なっているだけだが、かなりの高さだ。ここは通行止めということらしい。

「こっちだ」

 神山飛羽真が立ち止まったのは、廊下の突き当り。階段も無いし、扉もない。ここのどこに一般人が隠されているんだ…?神山飛羽真は、ポケットから一冊の小さな本を取り出す。ブラウンカラーで、本で作られたブラックホールのような表紙の、最初のページを開く。

『OPEN THE GATE』

 すると、何も無かったはずの壁に、巨大な本が出現した。本は半分ほどまで開き、黄金色に輝いている。デザイアグランプリとは全く違うテクノロジーのアイテムだと直感する。神山飛羽真が本に向かって歩き出すと、彼の身体は本の中へ入り込んでいった。

「どうなってやがる?」

「すっご〜い!」

 吾妻道長を始め、皆ただ驚くばかりだったが、こいつだけは違った。英寿は、何でもかんでも面白いと感じるように性格が捻じ曲がっているようだ。知的好奇心に満ちた笑みで、本の中へ意気揚々と踏み込む。それに、俺たちも続いた。

 ブックゲートの名の通り、それはワープホールだった。本を通り抜けると、気付いたときには三階に移動していた。三階は細長い廊下に、六個ほど連なった教室。普通の学校と何ら変わらない。一階の荒れ果てた様子と比べると、まだ清潔に保たれている。

「みんな!帰ったよ!」

 神山飛羽真が呼びかけると、奥の教室から子どもたちがワッと出てくる。子どもたちは、神山飛羽真の名を叫びながら一斉に彼に飛びつく。次いで、すごすごと中、高生ほどのグループも現れた。神山飛羽真に懐いている子供は五人、後から出てきたのは三人だった。

「先生!だいじょうぶだった!?ケガしてない?」

「ははっ、大丈夫だよ」

 子供の頭を穏やかに撫でた神山飛羽真は、顔で窓際に置かれた段ボールを示す。

「皆、このゲームに招待されたみたいなんだ。まだ子供なのに…」

 祢音が段ボールを開く。中には大量のデザイアドライバーとバックル。これも全て子どもたちに配られたものか。エリア内の人間が全て、というのは間違いないらしい。バックルも小型バックルばかりで、これでは子どもに自殺しろと言っているようなものだ。

「いや、大丈夫じゃないでしょ────飛羽真さん!」

 学ランを着た青年が、神山飛羽真に詰め寄る。最初は神山飛羽真を心配しているものかと思ったが、それは違った。彼は段ボールを取り上げる。

「こいつら、倒したら勝ち抜けっていう、レアキャラじゃないですか!この人たちがいたら、僕らも命を狙われる。助けるべきじゃありません!」

 青年はデザイアドライバーを装着して、変身しようとする。バックルを握った右手を、神山飛羽真が掴んで制した。

「今は俺たちで戦ってる場合じゃない。皆で生き残るには、彼らの力が必要だ」

 彼の口調は穏やかだったが、場を支配する圧があった。学ランの青年に、今度は子どもたちが掴みかかった。漢字かカタカナかもわからない拙い口調で、青年を責め立てる。

「せんせーの言うこと聞かなきなダメだよ!」

「そうだよ、先生はかめんらいだーになれないんだから!」

 変身できない…?

「どういうことだ」

 俺よりも先に、英寿が口に出した。神山飛羽真は、バツが悪そうに帽子を被り直す。

「いや…俺にはデザイアドライバーが配られなくてさ…」

 その返答には、青年を抑えた言葉ほどの語気は無かった。英寿はその後何も言わなかったが、この発言は嘘であると、さすがの俺でも勘付いた。こんな子どもでもドライバーが支給されるんだ。健康体の成人男性に配られない理由がない。

「…ここで守ってるのはこの子たちだけなのか?」

 英寿は追求をせずに、隣の教室の扉を開けた。この教室は食堂として使われていたようで、勉強机が長方形になるように並べられている。まだこの区域が壁に閉ざされて半日しか経っていないのに、既に避難所として完成されていた。

「他の大人たちは、司会者の口車に乗せられて、出て行ってしまったよ。レアキャラを倒せば、生きて帰れる…って」

 もしかして橋の上で俺たちを襲った仮面ライダーたちは、この学校から離反した者たちだったのかもしれない。

「このブックゲートを使えば、エリアの外に子どもたちを出せるはずだ。でも…まだ外とアクセスできない」

 ブックゲート…このアイテムと言い、神山飛羽真は何者なんだ。せめて五十嵐一輝が目覚めてくれれば、彼の素性がわかるのだが。

「とりあえず、今は敵に備えようよ。一輝さん、まだ起きないし」

 景和の発言に、神山飛羽真は応じた。食堂の隣の部屋は、布団が敷き詰められた寝室になっていて、それぞれが自分のエリアを持っていた。また新しく一枚布団を敷いて、五十嵐一輝を寝かせる。彼の目蓋はぴくりとも動かなかった。

「これからの戦いは長丁場だぞ。持ち回りで戦うか?」

 吾妻道長の提案はもっともだった。夜が明けるまで十二時間。ぶっ通しで戦っていれば体力が持たない。ゴールまではまだ半分もあるんだ。デッドマンとやらがどれだけ進行するかもわかったもんじゃない。理想的なのは…俺は折れて短くなったチョークを取って、黒板に図を描いた。五つ丸を書いて、中央にそれぞれの名前を記入する。

「最初に二人出て、三十分ごとに一人づつ交代するのはどうだ?何か不慮の事態があれば、控えから一番遠いやつを投入する」

「始めの一人は一時間戦わなきゃいけなくなるな」

「俺が行く。タイクーン、ついてこい」

 最初に戦うのはバッファとタイクーンと決まった。どこからか耳障りなサイレンの音がなって、悪魔の魔の手が迫っていた。

 

             *

 

 校庭の中央に仁王立ちする吾妻道長。その傍らで、桜井景和は深呼吸をしていた。視界の切れ間に、白と黒の大群が見える。

「来やがったか」

「ほんとにいいの?最初から一時間も、ずっと戦うなんて」

「あ?お前らにでかい顔されるよりはマシだ。それに…こっちはまだブランクがあるんだよ。肩慣らしには丁度いい」

 ぶっきらぼうに答える道長に、景和は微笑んでみせた。刺々しい口調の裏にある、彼なりの不器用な優しさに、景和は気づいていた。迫る大群を前に、彼らはデザイアドライバーにバックルを装着した。デッドマンの軍団は、基本的にはギフジュニアが殆どで、数体ギフテリアンやフェーズ2のデッドマンも混ざっている。この戦いは、個々の強さよりも、耐久力が物を言う戦いだった。

『SET』『SET』

「「変身!」」

『ZOMBIE!』『NINJA!』

『Ready?Fight!』

 デッドマンの軍勢は、後方の校舎よりも、二人の仮面ライダーを優先し襲ってくる。バッファはゾンビブレイカーを横向きに持ち、ギフジュニアに大群を突進しつつ押し返す。ゾンビブレイカーを右に振り抜き、道が開けた所で、爪で左側のギフジュニアを一刺し。持ち上げて前方に投げ返し、ギフジュニアを将棋倒しにした。

『POISON CHARGE』

 右足でゾンビブレイカーのポンプを作動させ、刀身に毒を流し込む。そのチャージ状態のまま踏みつけるようにギフジュニアを蹴りつけ、ゾンビブレイカーの毒を解き放った。

『TACTICAL BREAK!』

 刀身から放たれた毒は、刃の軌跡をそのまま具現化し、一直線にギフジュニアを襲う。毒を受けたギフジュニアは、表皮から溶かされ、蒸発するように消えた。ギフジュニアを一層したバッファに、今度はギフテリアンが斬りかかる。ギフテリアンの両腕からの斬撃をゾンビブレイカーで受け止め、左に流して、ギフテリアンの左腕を完全にゾンビブレイカーで抑え込んだ。動きを封じた所に二回ほど頭突きし、極めつけにゾンビブレイカーをギフテリアンの身体に滑らせるようにして斬り伏せ、必殺技を発動した。

『ZOMBIE STRIKE!』

 爪を地面に突き立て、ギフテリアンの足元から毒手を生成して膝丈ほどまで地面に引きずり込む。ギフテリアンは最後の抵抗で斬撃を放つが、バッファはリボルオンし、立て続けに必殺技を再度発動。

『REVOLVE ON』『ZOMBIE STRIKE!』

 スライディングでギフテリアンの斬撃を避けると、すれ違いざまに左足で強力な蹴りを一撃。ギフテリアンは左半身をえぐられ、そのまま爆散した。

「どうした!まだまだ足りねぇぞ!」

 バッファは次の標的を付け狙う。

 一方タイクーンは、得意の忍術でギフテリアンを翻弄していた。シングルブレード状態のニンジャデュアラーを操り、ギフテリアンの攻撃を避けては腹部を斬りつけ、着実に撃破を続ける。数多の攻撃をすり抜けながら、群れの中央に移動し、回転斬りで一斉にギフテリアンを倒す。背後からの一撃は、隠れ身の術と変わり身の術を応用した瞬間移動で回避し、頭上から斬り伏せた。

『ROUND1・2・3!』

 受け身を取りながら着地し、立ち上がる前に地面にディスクを擦り付けてエネルギーを充填。一直線に走り出すと、同時にニンジャデュアラーの刀身が発火する。

『TACTICAL SLASH!』

 左右に別れた敵を連続で斬り倒し、前方のフェーズ2のサーベルタイガーデッドマンに刃を押し当てる。サーベルタイガーデッドマンは両腕の爪でニンジャデュアラーを防御したが、防御の打点が高すぎた。タイクーンはニンジャデュアラーの下部を分離、空中でキャッチする。

『TWIN BRAID』

 分離した片方で、何度もサーベルタイガーデッドマンを斬りつける。左足の蹴りで完全に防御を崩し、必殺技を発動した。

『NINJA STRIKE!』

 全身に風をまとい、シングルブレードに戻したニンジャデュアラーを前向きに突き立てる。そのまま自身が高速回転し、ドリルのようになってサーベルタイガーデッドマンを貫き、撃破した。

「この世界は俺が守る!」

 一度群れを一掃したバッファとタイクーン。防衛戦の名に違わず、まだ学校にデッドマンは迫っている。二人は戦力増強を狙って、フィーバースロットレイズバックルをそれぞれ空いているスロットに差し込んだ。

『『SET FEVER!』』

 狙うはゾンビとニンジャ。信じる者に運は巡ってくると、過去に浮世英寿は言っていたが、それで毎回巡ってきていては張り合いがない。二人の望みは悲しくも届かなかった。

『HIT!MAGNUM!』『HIT!ZOMBIE!』

 遠距離が苦手なバッファにとって、機動力を求めていたタイクーンにとって、それは最悪な組み合わせだった。マグナムシューターを持たされていたバッファは、タイクーンに噛み付く。

「ちっ!おい、何でお前がゾンビ出してんだよ!」

「えぇ…運が無いのはお互い様じゃん…」

 二人は悪態を付きながらも戦闘に戻る。バッファはマグナムシューターで銃撃…!ではなく、豪快にも銃身でカンガルーデッドマンを殴りつけた。強力なカンガルーデッドマンのパンチを物ともせず、ひたすらに距離を詰めて、マグナムシューターの銃口を押し当てた。ゾンビバックルを装填し、地面にカンガルーデッドマンを押し倒す。

『POISON!TACTICAL BLAST!』

 零距離の必殺技に、カンガルーデッドマンは為す術もなく爆散するのみだった。

 タイクーンは、ゾンビの機動力の低さに四苦八苦しつつも、メガロドンデッドマンに接近し、ニンジャデュアラーとゾンビブレイカーの二刀流でメガロドンデッドマンを後退させた。

『TACTICAL SLASH!』『TACTICAL BREAK!』

 そして、二つの武器を交差させるように振り抜き、メガロドンデッドマンを両断し撃破した。

 同時に、入口にブックゲートが出現。鞍馬祢音が飛び出した。

「景和!交代だよ!」

「わかった!祢音ちゃん、これ!」

 タイクーンは変身解除しつつ、一つのバックルを祢音に渡した。そのバックルに祢音は、ニッと笑って、走りながら変身した。

「へ〜んしんっ!」

『DUAL ON!GREAT!BEAT!』『Ready?Fight!』

 下半身にビートを、頭部にバイザーを装着した仮面ライダーナーゴ・レイジングビートフォームは、レイジングソードでバッファに加勢する。

「どう?似合ってる?」

「無駄口たいてないで戦え!」

「はいはい〜!」

 ナーゴはしなやかな動きでレイジングソードを操り、体操選手のような連続の足技でギフジュニアの攻撃を避けながら斬り倒す。ギフジュニアは数も多く、それほどの強さでも無かったため、レイジングソードのエネルギーはすぐにチャージされた。

『FULL CHARGE』

 レイジングソードからもう一つのバックルを外し、左側に付け直す。

『TWIN SET』

 そしてバックルのレバーを操作し、ナーゴはコマンドフォーム・ジェットモードへと変身した。

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

「鞍馬祢音、飛びま〜す!」

 コマンドフォームの高機動の飛行性能を活かし、空中からすくい上げるような斬撃のヒットアンドアウェイでギフジュニアを撃破。獲物をギフテリアン一体に絞った。

『TACTICAL RAISING!』

 かつてギーツがラスボスを葬った時のように、尖端を突き出し、ギフテリアン向けて急降下。位置エネルギーも加わった強力な刺突は、一撃でギフテリアンを貫き倒した。

 

 

 それからも、ダパーン、ギーツ、タイクーンと続き、ローテーションでの防衛戦は上手く行き、六時間が経過した。しかし、ローテーションで休憩していると言えど、確かに仮面ライダーたちに疲労の色が見え始めていた。その間も、五十嵐一輝は目を覚まさず、深い眠りの中にいた。

 彼は、夢を見ていた。

「もういいだろ、戦いなんて、痛いし辛いだけだ」

 それは、夢と形容するより、彼の自問と表現する方が正しかった。暗闇の中でぽつりと照らされた円形の光。その中央に立った一輝は、自分の前を現れては消える幻影と対話している。その幻影は、声も形も朧げで、ある時は五十嵐大二となり、ある時は五十嵐さくらとなり。はたまた血の繋がりのない、かつて共に戦った人々になり、かつて自分が倒してきた人間にもなった。

 幻影は、自分に戦いを止めろと主張する。一輝は、家族を、世界を守らねばならないと言い返そうとするも、喉に何かが突っかかったように反論できない。一輝はただ首を振ることしかできなかった。

「これ以上何を求める?世界の平和は、兄ちゃんの代わりに俺が守るって言っただろ」

 幻影が五十嵐大二に変わる。一輝は理解していた。これは大二の意志ではない、自分自身が生み出した負の感情を、大二というアバターに代弁させているだけなのだと。それを理解すると、幻影は、狩崎に変わった。

「残念だけど、君の出る幕はもう無い。リバイスに満足にもなれない今、君はもう必要無いからね」

 一輝はその言葉から目を背けた。これは嘘だと自分に何度も言い聞かせる。それでも、幻影は消えない。幻影はだんまりを決め込む一輝に嫌気が差したのだろうか、彼の唯一無二の相棒、バイスへと変わった。

「一輝〜もういいじゃん。全部諦めて、忘れちまえばいいんだよ」

 その言葉を聞いて、一輝は……

 

 

「うわあっ!」「ぐはっ!」

 祢音と墨田奏斗が、変身解除しながら地面を転がる。残り時間五時間にして、いよいよ強敵が現れていた。それは、マグナムデッドマンとブーストデッドマンである。最初の会敵ではただ逃げに専念するのみだったので、直接的な戦闘を回避できていた。しかし、実際に戦ってみると、二体のデッドマンのコンビネーションは凄まじく、二人はすぐに追い詰められてしまった。

 二人のピンチに、まだ体力的に余裕のあったギーツが、ブックゲートから駆けつける。マグナムシューターの銃撃で二体の動きを封じ、祢音と奏斗を庇うように立つ。

「無事か!」

「悪い、しくじった…」「英寿、一人で大丈夫なの?」

 二人はそれぞれ負傷した部分を抑えながら立ち上がる。

「俺なら大丈夫だ」

 ギーツには確信が一つあった。五十嵐は、ここで終わるような男ではない、必ず目覚め、この場に来てくれる、と。

『SET FEVER!』

『GOLDEN FEVER!』

 下半身にブーストを引き当てたギーツは、仮想的にマグナムブーストフォームとなり、デッドマンに戦いを挑む。

 

 

「だってさぁ、おかしくない?もう十分頑張って戦ったのに、まだ命を賭けろっていうのか?俺っちは絶対やだねぇ〜!」

 バイスは、暗闇の中であぐらをかく。その仕草、一挙一動は正しくバイスそのものだったが、一輝は違和感を覚えていた。忘れてしまっていたからだろうか?バイスという悪魔は、本当にこんな悪魔だったろうか?自分が忘れてしまったせいで、正しくバイスという悪魔を、具現化できていないのか。

「だから一輝。もうやめようぜ。戦いなら、みんなにまかせて、一輝は休めばいいんだよ」

 バイスがそう言うと、彼の背後にぶわっとまばゆい光が広がった。光の中は無限に青い空が広がっていて、雲一つもないその青空に、天国を想起させるようだった。その天国が光を放つ束に、一輝の背後の闇が深くなる。背後の地獄は、沸々と赤黒いマグマが吹き出し、暗黒の空は光を吸収しさらに闇を強くする。二人は天国と地獄の境目に立ち、決断の時が迫っていた。戦いを続けるか、あきらめるか。

「ほら、一輝、行こうぜ」

 バイスが、天国へ手招きする。戦いをやめることは幸せか。すべてを諦め、何にも関与しない。そんな幸せもあるかもしれない。戦いの果てに得られる幸福なんて、高々知れているのだ。失うものの方が多い。それでも、

「お前は………俺を裏切らない」

 一輝は幻影に向かって、始めて言葉を発した。この幻影は、バイスではない。俺の弱い心そのものだ。そう言い聞かせ、一輝は地獄に向けて歩き出した。幻影ほ、直ぐ様バイスの形を留められなくなり、もう一人の一輝となって、必死に引き止める。

「待て!なんで茨の道を行く!?戦いを止める事が、お前の幸せに繋がるんだぞ!」

 一輝は振り返らずに答えた。

「バイスのいない毎日も、幸せだった。だけど、最高じゃなかった…!」

「それはお前のエゴだ!これ以上幸せを求めるな!」

 一輝は地獄の最果てに位置する業火に手を伸ばす。

「俺は、エゴイストでいい。そうバイスが言ってくれた…!人は、無理に変わらなくていい!弱い自分を受け止めて、一緒に歩けばいいんだよ!」

「やめろ、もうリバイになるな!」

 一輝は業火の中で燻っていた、もう一人の自分に触れた。

「俺はリバイじゃない……俺たちは、仮面ライダーリバイスだ!」

 業火が、一輝を包んだ。

 

 

 五十嵐一輝は、目を覚ました。それはどうやら学校の様で違う。周りで自分の顔を覗き込んでいた子どもたちが、わっと歓声を上げた。一輝は布団から飛び起き、廊下に出る。そこでは、腕を抱えた祢音と奏斗がいた。腕から血を流している。他にも、桜井景和と吾妻道長が、息を切らしながら壁にもたれかかっていた。

「お前…!」

「一輝君!」

 奏斗が一輝に声をかけようとするも、別の男性の声が遮った。それは、一輝にとって懐かしく、頼もしい男、神山飛羽真であった。

「飛羽真さん!?」

「一輝君、今は話している時間がない。君も隠れているんだ」

「そんな事できません、だって俺は…!」

「…仮面ライダーリバイス、か」

 飛羽真は、一輝の決意を汲み取ったのか、ブックゲートを開いた。

「決して無理はしないでくれ。何かあれば、すぐ助けに行く」

 一輝は力強く頷いて、ブックゲートを通り抜けた。

 校庭では、ギーツが二体のデッドマンに相手に攻めあぐねていた。マグナムデッドマンの高性能な射撃と、ブーストデッドマンの高速かつ強力な打撃を同時に相手しなければならず、有効打が取れない。ギーツはブーストのバックファイアを利用して後退すると、一輝が既に来ていた事に気づく。

「覚悟は決まったか?」

「あぁ。ここからは、俺に任せてくれ」

 一輝はリバイスドライバーを装着。そして、傷付いたレックスバイスタンプを自分の左胸に押印した。すると、一輝の体内からレックスバイスタンプに記憶が注がれ、傷が修復される。そして、レックスバイスタンプは、新たな姿へと変化した。一部が水色と黒に変化した、トゥルーレックスバイスタンプへ。

「湧いてきたぜ…!」

『トゥルーレックス!』

 トゥルーレックスバイスタンプを起動すると、バイスタンプそのものが意思を持っているかのように動き出した。突然の躍動に、一輝も思わずバイスタンプに振り回される。

『イヤッホーッ!ようやく戻ってこれたぜ!』

「バイス!」

 トゥルーレックスバイスタンプは、確かに一輝の相棒、バイスの意思を宿していた。

『ただいま一輝!さぁ、画面の前の皆も、オレっちたちのこと、応援してくれよな!』

「まったく…どこ向けて喋ってんだか…!」

「すげぇな、お前の悪魔」

 ギーツが感心したようにバイスタンプに触れる。デッドマンは久方ぶりの一輝とバイスの再会に目もくれず、攻撃しようと迫るが、ギーツが銃撃で砂埃を巻き上げ、二体の進行を阻止する。

「おいおい、こいつらのハイライトを邪魔すんなよ」

『じゃ、オレっちたちもハイライトと行きますかぁ!』

「あぁ!」

 一輝はリバイスドライバーに、トゥルーレックスバイスタンプを押印。流れるメロディーが場を飲み込み、絶望感溢れていた空気が、明るいフェスのように変わる。

『Come on! トゥルーレックス! Come on! トゥルーレックス!』

『「変身!」』

 トゥルーレックスバイスタンプをドライバーに装填。倒して台を正面に向け、真の力を解き放つ。ピンクと黒の衝撃に包まれた一輝は、ついに復活を遂げた。

『シンクロアップ!』

『オーケー!承認!レックス!ローリング!仮面ライダー!リバイ!バイス!リバイス・真!』

 一輝とバイスが合体変身した、リバイス・真は、サンダーゲイルと似て非なる姿。全身から黒とピンクのエネルギーを発し、凄まじい存在感を放つ。

「バイス、一緒に行くぜ!」『あいよ!』

 

           DRルール

 

   レアプレイヤーを倒せれば、無条件で勝ち抜け。

 

    できなければ、自らの命を賭けるしかない。




次回:ギーツ×リバイス

「俺たちが、絶対に助けに行く!」

16話 交差Ⅲ:いざゴールへ!


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16話 交差Ⅲ:いざゴールへ!

 

 仮面ライダーリバイス・真。五十嵐一輝の覚醒によって発現した、リバイスの真の姿。かつてのベイドとの戦いでも現れた姿であるが、一輝とバイスの意思が一つに宿り、その力も格段に増加していた。

「バイス!一緒に行くぜ!」『あいよ!』

 リバイス・真は走り出し、ブーストデッドマンの胸部を殴りつける。一見それは普通の打撃に見えた。が、拳が命中した瞬間、リバイス・真を覆っていたピンクと黒のエネルギーが拳に収束。より強力な衝撃波を放った。パンチと衝撃波の二段階攻撃にブーストデッドマンは耐えきれず、胸部の赤い装甲が砕け、校門まで吹き飛ばされた。

 その様子を見たマグナムデッドマンは、近接戦闘は不利と捉え、両腕のライフルで辺り一帯を撃ち込み、リバイス・真に弾丸を降り注がせる。これに対しリバイス・真は、右方向に地面を強く蹴り、二度目の衝撃波で加速、それを左右に何度も繰り返して、弾丸を全て避けた。そして、マグナムデッドマンに急接近し、左腕のライフルを二段階の後ろ回し蹴りでへし折った。

『よっしゃ!俺っちたちめっちゃ強くない!?』

「あたりまえだろ。俺とお前なら、リバイスは最強だ!」

 マグナムデッドマンは、このままだと不利であると判断したのか、倒れていたブーストデッドマンに、紫紺の弾丸を放った。弾丸に頭部を貫かれたブーストデッドマンは、全身が不格好に形状変化しながら起き上がり、マグナムデッドマンに飛び付いた。そして二体のデッドマンは合体し、上半身はそのままに、下半身はブーストデッドマンの装甲を身に纏った、マグナムブーストデッドマンへと変貌した。リバイス・真が付けた傷も、修復されている。

『BOOST&MAGNUM…!』

『あいつら合体しちゃったよーっ!』

「いや、むしろ一体になって都合がいい。援護する」

 マグナムブーストデッドマンは、地面を踏み付けて地割れを起こし、地中から吹き出た火炎を介して射撃。炎を帯びた弾丸がリバイス・真に迫る。

『LIFULL』

 ギーツがマグナムシューターをライフルモードに変形。正確無比な射撃で弾丸を弾き返す。そしてハンドガンモードに再び戻し、左腕のアーマードガンを展開。同時に弾丸を連続発射ながら前進。至近距離まで接近して、アーマードガンでの近接戦闘を行う。右腕で相手の銃を抱え込み、アーマードガンで頭部へ射撃。マグナムブーストデッドマンは顔を逸して避けたが、右手に持ったままのマグナムシューターで脇腹を撃ち込み、怯んだ所をブーストの加速とタイミングを合わせた蹴りで、上空まで押し上げた。

「決めろ!リバイス!」

「あぁ!」『あいよ!』

 リバイスは蹴り上げられたマグナムブーストデッドマンよりも高く跳び上がり、必殺キックの構えを取る。

『トゥルーレックス!ファイナルリバイスフィニッシュ!』

 リバイス・真のキックは、マグナムブーストデッドマンの胸部に炸裂。全身を纏うエネルギーが右足に集まり、波動となって何倍にもキックの威力を増す。その膨大な力はマグナムブーストデッドマンを貫き、リバイス・真は地面をえぐりながら着地する。

『よっしゃ!3!2!1!』

 二人は、最後のカウントを顔を上げながら言い放った。

『「0!」』

 リバイス・真がカウントを終えると、マグナムブーストデッドマンは、空中で爆発した。マグナムブーストデッドマンが撃破されると、悪魔軍団は指揮が下がったのか、校門の外へと撤退してゆく。それを見届けたリバイス・真とギーツは、変身を解除。リバイス・真は、一輝と実体化したバイスに分裂した。トゥルーレックスバイスタンプが、元の姿に戻ってゆく。

「へんっ!情けない奴らだな!」

「まぁ、今は学校を守れたからokだろ。おかえり、バイス!」

「一輝、ただいまぁ〜!」

 一輝とバイスは肩を組んで喜び合う。それを英寿は感慨深そうに眺めていた。

 日の出が、一時の安息を告げていた。

 

             *

 

 デザイアロワイヤル運営、デザイア神殿にて。

「ふざけるな。貴様にお膳立てなどされなくとも、簡単に人類など絶滅させられる…!」

 バリデロは杖をコラスの首元に押し当てる。ツムリとヒロミは、反抗するでもなく、その状況を物珍しそうに、愉悦の表情で眺めていた。コラスも、命の危機があるにも関わらず、余裕の笑みでバリデロに返してみせた。

「案ずるな、ビ〜ップ。本番はその後だよ」

「そうだバリデロ。今は楽しもう。マグナムとブーストはやられてしまったが…」

 イザンギは、籠の中で泣いていた幸四郎にギフスタンプをかざす。すると、幸四郎とギフスタンプは共鳴し、幸四郎はギフスタンプの中に取り込まれた。ギフスタンプは、紫色で、刺々しい新しい形に変形する。

「完成したぞ…ネオギフスタンプ…」

「その力…試してみてはどうだい?」

 コラスはイザンギに向けて五つのバックルを投げる。イザンギは振り返ること無く、そのバックルたちにネオギフスタンプを押印した。

『NINJA…!』『ZOMBIE…!』『BEAT…!』

『MONSTER…!』『JET&CANNON…!』

 実体化した五体のデッドマンは、雄々しく叫ぶ。

「あら、おじゃま虫さんが紛れ込んでるみたいね…」

 ツムリは爪を噛みながら空中の画面を指差す。浮世英寿や五十嵐一輝といった参加者の映像がそこでは流れていたが、エリアの端を疾走する赤いバイクの様子を、カメラが捉えていた。

『ギリギリまで近づけば、ブックゲートは繋がるか…』

 神山飛羽真の存在が、運営に感知された瞬間であった。

 

             *

 

 ひたすらディスプレイとにらめっこする狩崎。画面には『Loading…』と、ゲージが表示され、進捗は95%まで進んでいた。イザンギとバリデロに破壊されたベリリュンヌは、狩崎の研究室まで運ばれ、赤い壁を突破するための装置として転用される事となった。ベリリュンヌを動かすために必要な鍵は、システム制御の為のシャイニングホッパープログライズキー。そして、時空を超えるドライバー。先にプログライズキーの入手に成功したさくらと玉置は、狩崎と合流し、狩崎よりも険しい表情で、プログラムが完成する様子を見守っていた。

 数値は、96、98と上昇し、やがて『ALL CLEAR』の表記と共に、プログラムの構築が完了した。制御盤に挿し込まれていた複製型シャイニングホッパープログライズキーが黄金に光る。

「YES!プログラムはこれで完成だ…!」

「よっしゃあ!」

 玉置とさくらは、力強くハイタッチをする。

「あとは、大ちゃんたちを待つだけだね!」

 研究所には光が差し込み始めていて、いつの間にか夜が明けていたことを彼らに教える。

「おや、噂をすれば何とやらだね」

 狩崎がそう告げると、転がり込むように大二と花が研究室に入ってきた。二人はヘトヘトで、転んだ拍子に資料の山が崩れ二人が埋もれる。大二の右手にはしっかりとアルミケースが握られていた。

「大ちゃん!花!大丈夫!?」

「あ、ああ…」「なんとかね…」

 大二曰く、山奥の研究所…ショッカー基地跡地には、時空の歪みによって怪人たちがうじゃうじゃおり、対処に相当悩まされたとのこと。ショッカー基地跡地から遠く離れると実体を保てないようで消滅したが、怪人と戦いながら探しものをするのは、相当骨が折れたようだ。狩崎は上機嫌でアルミケースを受け取る。

「Thank you!大二、花!早速準備に取り掛かろうじゃないか…!」

 狩崎が開いたアルミケースには、時空を超えるドライバー・センチュリードライバーが収められている。

「準備はもう済んでいるよ。これで、all ok!」

 ベリリュンヌの制御盤にセンチュリードライバーを取り付けると、機械全体にセルリアンブルーのエネルギーが流動し、研究室の天井が大掛かりに開く。ベリリュンヌのパラボラアンテナは、遠く離れた赤い壁に向けられていた。

「先ずは試運転。一輝の携帯と通信できるか試してみるか…」

 パラボラアンテナの尖端にエネルギーが集まり、赤い壁に照射される。すかさず狩崎は手元の端末で、一輝のガンデフォンにコールをかけた。数秒のコールの後、一輝は電話に出た。

『狩──狩崎さん!?』

 電話先の一輝の周りには複数人いるようで、子供らしき声も聞こえた。通信こそ繋がったものの、電波は不安定で、狩崎を呼ぶ一輝の声にはノイズが混ざっていた。

「繋がった!」

 一輝の声を聞きつけた大二たちは、ワッと狩崎の元に集まる。

 

             *

 

 目標の12時間が過ぎ、なんとか学校の防衛に成功した。一晩中戦い続けた仮面ライダーたちの疲労は凄まじく、全員が寝室で休んでいた。布団の上で胡座をかいた一輝は、自身の身の上を語りだした。その背後ではしゃぎまわっているバイスを横目に見ながら。

 本当にうるさいなこの悪魔。

「俺の家では、悪魔も家族なんだよ。今までずっと、戦いのせいでバイスのこと、忘れちゃってたけどな」

「忘れてた…?」

 英寿はより神妙な面持ちで一輝の話に踏み込もうとする、一輝が続きを話そうと口を開くと、突然ジャケットの中のガンデフォンが震えた。外との通信は不可能のはずであったが、何が起こったのか。バイスと遊んでいた子どもたちも一輝を取り囲むように近づく。

「ウソ!?電話繋がったの!?すっげーじゃん!」

「狩崎さんだ…!」

 一輝はガンデフォンをスピーカーモードに切り替え、電話に出る。

「狩崎さん!?狩崎さん!?」

『繋がった!』

 電話の向こうから一輝の仲間らしい面々の歓喜の声が上がる。

「皆、聞いてくれ。イザンギとバリデロに、幸四郎が攫われた。狙いはギフの力だ…!」

『幸四郎を………兄ちゃん、今から俺たちもそっちに向かう。壁から脱出して、幸四郎を助ける方法を探そう』

「それはできない」

 周りの安堵の空気をばっさりと切ったのは、英寿だった。膝立ちになった英寿は、静寂の中話を続ける。

「このゲームをクリアしなければ、犠牲になった人たちは蘇らない」

「でも英寿。多分犠牲になった奴らは退場扱いだ。このままゲームを続けるのは、コラスの思う通り何じゃないか?」

 このゲームを乗るか降りるか。対立した意見に、教室の中の面々は口ごもる。デザイアロワイヤルをクリアしたとて、運営はこのゲームをノーゲームとして認めてくれるのか。デザグラそのものの真実が明るみになっていない今、運営を当てにするのは乗り気になれない。

「でも…子どもたちは助けないと」

 景和が女の子の頭を撫でながら呟く。電話先の人物たちは、デザイアロワイヤルの状況をよく知らないだけだ。彼らの一般人と家族を助けようとする行動は正しい。

「コラスが運営のドライバーを奪ったのがそもそもの原因だ…ゲームを進めれば、奪い返せるチャンスがあるかもしれない。そもそも、こんなことになったのは、俺の願いのせいでもあるしな」

 それでも俺はこのゲームに乗る。意外にも、吾妻道長は乗り気ではなく、立ち上がって黒板にもたれかかった。

「このままゲームを続けたって、あいつらの思うツボだ。外から出てぶっ潰す方が速い」

「でも、ツムリちゃんだっておかしかったし…運営が元々機能してないんじゃ…」

 祢音は英寿の側によって、ここに残る意志を示した。

「なぁ…一輝、俺たちはどうする…?」

「俺は…!」

『ok、そっちの事情は大方わかった』

 一輝がバイスに答えを伝える前に、電話先の狩崎と呼ばれていた男が割り込んできた。ハーフなのか、外国の訛りが混ざっている。

『こうしよう。私達は、一時間後に壁の中に突入する。これは君たちがゲームとやらをクリアするまでのタイムリミットだ。それを過ぎたら危険と見なして、我々が事態の収拾を図る』

 事態の収拾ね…あっちには、それをやってのけるほどの実力があるらしい。しかし、景和は狩崎の提案に反発した。

「じゃあ、それまでに子供たちはどうするんですか…!」

「方法ならあるよ」

 声を荒げる景和を止めたのは、神山飛羽真だった。教室の扉を開けた神山飛羽真は、また被害者を探しに走り回っていたようだ。ヘルメットを小脇に抱えている。その穏やかな声に、電話先の狩崎も思わず驚いたような反応を示す。

『Mr.神山!?何故あなたがここに……』

 この反応…神山飛羽真は、こいつらとどんな関係なんだ。ブックゲートと言い、謎だらけだな…

 電話先の声が、五十嵐大二に切り替わる。

『飛羽真さん。方法って?』

「ブックゲートを使う。エリアのギリギリで使えば、何とか外と繋げられた」

「なら決まりだな」

 英寿は、ブーストバックルを手に取った。

 

 

 校舎から出ると、既に壁が収縮を始めているのが確認できた。

「放棄されたバスだ。子供たちはこの中に」

 これも悪魔たちに襲われた人々が残したものか。神山飛羽真の呼びかけに、子供たちは素直に従って、バスに乗り込んでゆく。あの俺たちを排除しようとしていた青年も、やけに素直だった。そして、運転するのはもちろんこの男。

「なんで俺が…」

 吾妻道長だ。イライラしながらハンドルを握る吾妻道長を、景和がまぁまぁと抑える。子供たちを避難させるのがこの二人だ。この事態の対処を巡って、俺たちは、とある作戦を立てることとなった。ここら一帯の悪魔は俺たちが処分できたが、神山飛羽真によると、ゴールの周辺にはまだ軍勢が残っているらしい。子供たちを連れるには危険すぎる。よって、子供たちを避難させるべくエリアの際を目指す吾妻道長、景和のチームと、二手に別れてゴールを目指すチームに分かれることとなった。

「はい。最初のページを開けば、ゲートが繋がるよ」

 神山飛羽真は、バスの手すりを掴んでいた景和に、ブックゲートを渡した。

「子どもたちを頼んだ」

「…はい!」

 振り返り、神山飛羽真は軽トラックの運転席に着席した。荷台には、既に俺と祢音が待機している。先頭には、ブーストライカーに跨った、英寿と一輝。バイスは、一輝の中に思念体として収納できるらしい。バイクは二人乗りだから、致し方無し。文句を言っているようで、一輝が忙しなく対応していた。

「ゴールで会おう」

「ああ。出発だ」

 ブーストライカーの先導の元、バスとトラックが発進する。

 学校を少し離れると、神山飛羽真の言っていた通りだ。通りに悪魔が密集している。俺たちが悪魔を引き寄せている合間に、バスがエリアの端を目指し、子どもたちをブックゲートで脱出させる。それが確認できたら、一斉にゴールを目指す。作戦はこの通りだ。

 だがまずは、目の前の悪魔たちをどかさなければ。前に進めない。ブーストライカーとトラックに乗っていた俺たちは一斉に変身し、悪魔が作る波の中へ突入した。

「変身!」『「変身!」』

『BOOST!』『仮面ライダー!リバイ!バイス!リバイス!』

「変身!」「へ〜んしんっ!」

『BLAST!』『BEAT!』

「突っ込むよ!」

 神山飛羽真はハンドルから手を離さずに、そのまま直進する。それに合わせて、俺はトラックの運転席の上に立ち、足を一振り。ガス噴射による気流を操作して、悪魔を空中へ退ける。

 そこにブーストライカーに搭乗していた二人…いや三人か。後部席に座ったリバイがバイスを肩車している。リバイスは二人で一人の仮面ライダーであると同時に、一人で二人でもあるのか。とにかくリバイは辛そうだが。バイスが尻尾を巨大化させ放った薙ぎ払いで、一瞬だけ道が開けた。

 その一瞬の間にブーストライカーは加速し、悪魔が降り注ぐより速く波の隙間を駆け抜けた。ここからは別行動だ。

「祢音!」「うん!」

『BEAT STRIKE!』

 ナーゴが必殺技を発動すると共にビートアックスを掻き鳴らすと、地面から紫色の音量メーターが生じ、悪魔たちが押し上げられる。音量メーターに足を取られている内にトラックは進路を変え、交差点を右に回る。英寿たちとは別ルートで、俺たちもゴールを目指す。後ろ目に、バスが交差点をUターンしていくのが見えた。悪魔は俺たちに気を取られ、がむしゃらに追いかけてくる。作戦は成功のようだ。

 太腿のファンから斬撃性能のある風を放ち、悪魔の進軍を抑える。これじゃゾンビ映画だな。トラックは既に機能していない高速道路のETCを通り抜け、山岳地帯に入る。

 

 

 高速道路に入ってから、二十分が経過した。

「ゴールは…サッカースタジアム…!」

 ナーゴが見上げていた空には、虹色の柱が立っていた。つまりあそこが俺たちの目指すべきゴール。俺たちは山道を通過する迂回ルートだから、英寿たちよりも到着は遅い。だがその分、悪魔の数は少なかった。警戒を怠らなければ、俺たちもゴールに辿り着けそうだ。別に辿り着く必要もないのだが。

 高速道路はかなり荒れていて、隣接した崖から冷たい風が吹いている。ずっと戦い詰めだったからだろう、かなり疲れが溜まっていた。

「二人とも、休まなくて大丈夫?」

「平気」「全然大丈夫です!」

 ここで折れるわけにはいかない。決意を新たにトラックの後方に注意を払うと、地面にヒビが入り始めているのが見えた。まさか…

「来るぞ!」

 叫ぶと同時に地面が割れ、一体のデッドマンが這いずり出てきた。黄色と青の装甲。不格好に肥大した腕、鋭い牙。

「今度はモンスター!?」

 モンスターデッドマンは、両拳を並行に揃えると、一気に腕を伸ばし、トラック向けて強力なパンチを放ってきた。腕が伸縮に伴って、拳はさらに肥大化する。神山飛羽真がハンドルを切って間一髪で避けられたが、当たればタダで済まないどころじゃない。パンチを外したモンスターデッドマンは、進路を示す看板に腕を巻き付け、縮めてターザンロープの要領で荷台に跳び乗ろうと迫る。

「くっ…!」

『SET FEVER!』『HIT!MONSTER!』

 何とかフィーバースロットでモンスターを引き当てられた俺は、荷台に接近したモンスターデッドマンに対抗して、グローブを巨大化させたパンチを放った。モンスターデッドマンも巨大な拳でパンチを放ち、そのままの状態で拮抗する。しかし、上空のモンスターデッドマンのほうが位置エネルギーがある分かは有利で、俺は次第に押し返される。

「奏斗!」

 膝の曲がりそうになった俺を、ナーゴが支えてくれた。いける…これなら…!

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

「「だあああああっ!」」

 俺たちはギリギリパワー勝負に打ち勝ち、モンスターデッドマンを跳ね返す。モンスターデッドマンは地面に投げ出され、大きなダメージを負ったようだ。すぐに追撃は来ない。今のうちに体制を立て直して…

『TACTICAL BLIZZARD…!』

 トラックが急停止した。停止したと言うより、動けなくなったという方が正しいのかもしれない。タイヤが完全に凍っていた。タイヤを包む氷は地面を伝い、正面の道路まで伸びている。

「二体目…!」

 トラックの前方に立っていたのは、体とギターが一体化したデッドマンだった。ビートデッドマン……画面が丸形スピーカーそのものになっていて、浮き上がった牙だけが不気味に擦れる。

「挟まれた…」

 後方では、モンスターデッドマンが立ち上がり、ゆっくりとこちらに近づいていた。前はビート、後ろはモンスター。左右は切り立つ山に崖。逃げ道がない。神山飛羽真は必死にアクセルペダルを踏んでいるが、改善される様子はなかった。

「ここは俺が引き付ける」

「ダメ!危なすぎるよ!」

「でも、」

「伏せろ!」

 俺たちが口論になっている間に、二体からの攻撃が迫っていた。神山飛羽真は注意を促したが、時すでに遅し。モンスターの拳は荷台を粉々にし、ビートデッドマンの腹部から放たれた斬撃は先頭を真っ二つに斬り裂いた。

 俺たちは爆風に吹き飛ばされ、奈落の底へ落ちて行った。

『MISSION FAILED…』

 

             *

 

 縮まるエリアと、接近するバス。エリアの際に辿り着くのは、案外容易いミッションかに思えた。エリアが近づく事に、子どもたちの不安は上がってく。景和は手すりを掴んだまま振り返って、優しく声をかけた。

「大丈夫だよ、俺たちが絶対守るから。ね、道長さん」

「ふんっ…ガキの相手は苦手なんだよ…」

 愚痴をこぼしながらも、ハンドルからしっかり手を離さない道長。彼の目が、サイドミラーに映り込んだ"何か"を捉えた。

(人間の手…?いや、あれは…)

 バスの側面に張り付いていた、無数の手。その特性に道長は見覚えがあった。左手で景和を乱暴に引き寄せ、自分の足元を無理やり見せる。

「おい、右がアクセル、左がブレーキだ」

「え?何言ってのっ、」

「いいから座れ!」

 道長は立ち上がって強引に景和を運転席に座らせる。

「ハンドルから手ぇ離すなよ!」

「えええっ!免許持ってないんだけど!?」

「変身!」

 道長はバスのドアを無理やり開き、外に跳び出した。同時に、ゾンビの装甲が装着され、仮面ライダーバッファに変身。

『ZOMBIE!』

 ゾンビブレイカーを地面に突き立て、火花を散らしながら着地した。運転席の景和は始めての運転に戸惑いながらも、しっかり前を見て進んでいる。その進み続けるバスの後方に、びっちりと手が張り付く。バッファはゾンビブレイカーのポンプを肩で引く。

『POISON CHARGE!』『TACTICAL BREAK!』

「姿見せやがれ!」

 ゾンビブレイカーから生じた毒は、無数の手に飛散し、バスから手を剥がす。溶けた手達は一度完全に溶け液状となり、一体に集合。ゾンビデッドマンとなった。右腕はそのままチェーンソーとなり、左腕と胴体は完全に繋がっておらず千切れかけていて、足元はドロドロに溶け身長が定まらない。

「やっぱりな…!」

 それでもバッファは臆せず立ち向かう。ゾンビデッドマンが地面から毒手を次々生やすも、前進を止めない。毒手を千切っては投げ、ゾンビブレイカーで薙ぎ払い、ゾンビデッドマンを一刀両断。したのだったが、傷口から毒手が生じ、覆い隠すように塞いでしまった。ゾンビデッドマンは右腕のチェーンソーを振り回す。チェーンソーの射程外まで一度後退したバッファだったが、ゾンビデッドマンは右腕の肩関節を途中から更に伸ばし、射程を伸ばしてバッファにチェーンソーを命中させた。

「なんでもありだな…ちっ!」

 バッファの背後には、エリアの赤い壁が迫っていた。ゾンビデッドマンの足止めをしていたつもりが、逆に足止めされていたのだ。バッファは逃げおおせようと地面を蹴るが、エリアの収縮のほうが速く、焼かれるような感覚がバッファを襲った。

『MISSION FAILED…』

 

 

 バイクの運転免許は持っているが、四輪で、しかも大型車の免許を景和は所持していない。バスの運転席の周りには、通常の車両以上に、操作できるボタンは多く、危うくパニックになる所であった。それでも彼が冷静でいられたのは、子どもたちの命を背負っているという強い責任感があったからだろう。

 他のメンバーと別れ、学校から遠く離れた、かつて訪れたレイボーブリッジ。一般人ライダーを祢音と共に撒いた場所である。もう一般人ライダーの姿はなく、白い乗用車が放置されたのみである。バスの前輪がレイボーブリッジに乗ると、ポケットに入れていたブックゲートが白く光り始めた。

「もう脱出できるってこと?」

 お人好しの景和であるが、闇雲に人を信じている訳ではない。助けたいと思う人は助けるし、もちろんそうは思えない人間もいる。そんな彼だが、神山飛羽真の事は疑いの余地ゼロだと判断していた。彼の言葉に、人を信じさせる不思議な魔法がかかっているように。

 景和は道長に教えられた通りにブレーキペダルを踏み、バスを停止させる。バッファがこじ開けだドアはそのままだった。彼はそこから降りると、ブックゲートのページを開いた。

『OPEN THE GATE』

 レイボーブリッジの中央に本を模したゲートか出現する。

「みんな!シートベルト外して!一人ずつ入るんだ」

 子どもたちは、想像以上に大人しく従い、一人ずつゲートに入ってゆく。飛羽真によれば、ゲートの先はブルーバードに繋がっているそうだ。奏斗は半信半疑であったが、景和は飛羽真を信用していた。

「君で最後だよ?」

「あの…」

 一人、立ち止まったのは、学ランの青年だった。

「この事…言うなってコラスに脅されてたんです。でも…」

 青年は、躊躇うように、衝撃の事実を景和に伝えた。景和は、青年からのカミングアウトにしっかりと頷いた。

「わかった…とにかく君は逃げて」

 景和は青年をブックゲートの中に押し込む。青年が通過したのを確認すると、ゲートは閉じて消えた。

「速く道長さんの所へ…」

 そう呟く景和の足元に伸びた影。そこから刃が飛び出していることを、一瞬の内に景和は気付いた。

「っ!」

 体を仰け反らせ、心臓に向かっていた刃の一突きを避ける。右足で刃を蹴ると、刃はレイボーブリッジの影に移動し、その姿を現した。全身黒の装束に、不釣り合いな緑のマフラー。ニンジャデッドマンである。忍装束の隙間からは歯車が剥き出しになり、噛み合わない歯車はギチギチと錆びた音を立てていた。そしてニンジャデュアラーに似た刀を装備しており、これは漆黒に染まっている。

 だが、刃の一撃を避けられた代償か、それた刃の軌道はブックゲートを貫いており、もう二度と使えないことを見た目の通り表していた。

 ニンジャデッドマンは、これ以上興味が無いと言うように地面に潜降すると、そのまま姿をくらましてしまった。

「あっ、待て!」

 ニンジャデッドマンが離脱した答えは、すぐにわかった。景和の背後に、無慈悲にも赤い壁が迫っている。

『MISSION FAILED…』

 

             *

 

 墨田奏斗・鞍馬祢音・LOOSE。吾妻道長・LOOSE。桜井景和・LOOSE。その報告が届く度に、英寿は何を思ったのか。一つ確かなのは、散っていった仲間の為にも、必ずゴールしなければならない。その決意の元に、彼はブーストライカーを走らせた。

「みんな…俺たちが、絶対に助けに行く!」

 まるで"狙ったかのように"、ギーツとリバイスの元に敵襲は全く無く、二人は変身解除し、ゴールを目指すことに集中した。

『ねぇ!あれゴールじゃない!?』

 バイスの意志が宿ったレックスバイスタンプがはしゃぐ。おあつらえ向きと言うべきか、スタート位置と同じ様に、ポップなデザインの黄色いゲートが設置されていた。

 ブーストライカーがゴールゲートを抜けて停止する。

「おめでと〜!」

 ブーストライカーを降りた二人の前に、嘲るようにツムリが現れる。その後ろには、マントを羽織ったヒロミに、赤い仮面を被ったゲームマスター、コラスの姿もあった。

「一回戦を突破できたのは、あなたたちだけよ?ざんね〜ん!」

「生憎だが、世界は終わらせない」

 英寿の毅然たる態度に、ヒロミは枯れた笑いをこぼす。

「強がるな、浮世英寿。最終戦に備えるといい。もう、救える人間はいないのだからな……」

「ヒロミさん!どうしちゃったんですか!?」

 一輝の呼びかけを無視したヒロミ。両手を広げ、空中にモニターを表示させた。その画面には、暗いホールのような空間に、所狭しと一般人が捕らえられていた。皆、不安そうに身を寄せ合っている。そこには、後ろ手を紐で縛られていたヒロミとツムリの姿もあった。

 人々を取り囲んでいたのは、ギフジュニア等の下級悪魔だったが、人々を処刑するにはそれで十分だった。

『ヒロミっちが、二人?』

「いや、ツムリもいる」

 捕らえられたヒロミとツムリは、こちらと中継が繋がっていると気付いたのか、這いつくばりながら画面に近付き、必死に呼びかけてきた。

『一輝!悪魔マラソンゲームをクリアするな!ここにいる人は全員人質だ!』

『今すぐ戦いを辞めてください!』

「なっ…!」

 司会のヒロミは、不愉快な表情で、捕らえられたヒロミを見つめる。

「あいつは五十嵐幸四郎の身代わりだ。そこにいるのは、一般人ライダーの親族、友人、まぁ大切な人というやつだ。一般人ライダー共には、ゲームをクリアしなければ、こいつらを殺すと伝えておいた。思慮の足らんガキどもには伝わらなかったらしいがな」

 ヒロミの説明に、二人は押し黙る。勝利を確信したヒロミとツムリは、高笑いを上げた。画面の中の部屋に、うっすら光が射し込む。

「でも、だぁれも一回戦をクリアできなかったわね〜人を殺せず、自分も死に、大切な人すら助けられない。哀れだわぁ〜」

 部屋を照らす光が、次第に強くなっていく。人質の処刑の時間が近づいていた。そして、黙ったままの英寿は、顔を上げて一言呟いた。

「化かされたな」

 薄暗い部屋に、一気に光が満ちた。壁が破壊されたのである。その壁を破壊したのは、脱落したはずの仮面ライダーバッファだった。突進でギフジュニアをぶっ飛ばし、壁に叩きつける。次いで、仮面ライダーライブを始めに、タイクーン、ナーゴ、ダパーンも部屋の中に突入し、ギフジュニアを一掃した。最後に、銃を構えたブルーバードの隊員達が人質を救出する。

「なんで…脱落したんじゃないの?」

『一般人が、願いを叶えるなんて不確かな理由で戦うはずがない。おかしいと思ってたよ』

『あの子の言ったとおりだね、本当にここに人質がいた』

 ギフジュニアを踏み潰したライブが次の標的に照準を合わせる。タイクーンも、青年の情報が正確であったことに、安堵の声色だ。

「一般人が人質なのはとっくに解ってた。だから俺達は三手に別れて、一度外に脱出したんだ。外の力を借りてな」

「外の力ぁ…?」

 

 

「なら決まりだな」

 ブーストバックルを手に立ち上がった英寿は、作戦を立案する。

「人質を助けに行くぞ」

 英寿の提案に、飛羽真以外のメンバーが驚く。一輝は腕を組んで、英寿の話に聞き入った。

「一般人の言動に…躊躇いのある攻撃。どこかに人質が捕まっている可能性がある」

「確かに…みんな必死だった」

「なら、もう外の仲間たちが動いているはずだ。運営に悟られないように、ブックゲートで脱出しよう」

 こうして、ブックゲートを利用した、景和達による、やられたフリ作戦が敢行された。脱落したかに思われた仮面ライダー達は、寸前で出現したブックゲートに救出されていたのだ。

 

 

 人質が捕らえられていたのは、かつて旅館として使われていた、山奥の廃墟だった。救出隊を先導した五十嵐大二は、被害者が装甲車に保護されてゆくのを見届けると、ヒロミを保護した隊員に変わって、ヒロミに肩を貸した。ツムリは鞍馬祢音に手を引かれていた。

「すまないな…」

「俺たちの力だけじゃ無理でした。桜井景和さん達の協力に……あなたたちも、ありがとうございました」

 大二が頭を下げた先には、青い革のコートを着た青年と、白いローブの男の姿もあった。白いローブの男は涼しい顔をしていたが、青年は大急ぎでここに来たのか間に合わなかったようで、息をしきりに切らしていた。

「いえいえ、困り事があれば、いつでも言ってください。それが僕たちの使命ですから」

 仮面ライダーブレイズ・新堂倫太郎と、仮面ライダー最光・ユーリの二人である。ユーリは腕を組んだまま、倫太郎に向き直った。

「それよりいいのか?飛羽真のやつ、またエリア内に向かったぞ」

「えっ!?火炎剣烈火は…?」

「持たずに」

「持たずに…!?飛羽真君…」

 倫太郎は、がっくりと肩を落とす。ヒロミを装甲車に乗せた大二が、まぁまぁと宥めた。

「これから俺たちも突入ですから、火炎剣烈火は、俺が持って行きます」

 

 

 仮面ライダー達の運営を欺く為の作戦は見事成功し、人質は無事に開放された。ツムリの偽物は、悔しそうに爪を噛む。

「…面白いじゃないか…!」

 暫らく状況を静観していたコラスは、大袈裟に手を叩く。仮面を外してハットに被り直し、ヒロミとツムリの偽物の前に一歩出る。

「次の最終戦、仮面ライダー絶滅ゲーム!その、シ〜ドでの参戦プレイヤーを紹介しよう!轟!戒真!」

 コラスが宣言すると、どこからともなく走ってきたリムジンがコラスの横に停車する。そこから降りてきたオールバックの男こそ、轟戒真。元プロボクサーであり、かつてのデザイアグランプリで何度もデザ神の座を勝ち取ってきた人間の一人である。

「お前が浮世英寿か…お前の不敗神話は、ここで終わる」

 轟戒真は、革のジャケットからデザイアドライバーを取り出し装着すると、偽ツムリから黄土色のミッションボックスを二個受け取った。それを乱雑に開け、二つのバックルを手にする。一つは赤色のレバーが目立つパワードビルダーバックル。もう一つは、三つの小型バックルが収納されたギガントコンテナだった。

『SET WARNING!』

 それらをデザイアドライバーに装填した轟戒真は両手を交差させ、レバーをワンクリック開き、力強く押し込んだ。

「変身!」

『WOULD YOU LIKE A CUSTOM SELECTION…!』

 彼の変身した仮面ライダーシーカーは、黄色い角に黒い鹿の骸骨の、ヘラジカの仮面ライダー。建設途中の建物や機材を彷彿とさせる装甲に身を包み、複眼は赤く光っていた。

「デザ神となるのは、この俺だ…!」

 

           DRルール

 

  一般人ライダーは、別の仮面ライダーを倒せなければ、

 

          大切な誰かを失う。




次回:ギーツ×リバイス

『仮面ライダー絶滅ゲーム!スタートぉ!』

17話 交差Ⅳ:集え!戦士たちよ!


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17話 交差Ⅳ:集え!戦士たちよ!

 

「デザ神となるのはこの俺だ…!」

 仮面ライダーシーカー・パワードビルダーフォームは、コンテナから赤色の小型バックルをビルダーバックルに装填し、レバーを引く。

『GIGANT SWORD!』

 背部の赤いコンテナより、工具を模した大剣・ギガントソードが装備され、シーカーは英寿と一輝にそれを振るう。横一閃の攻撃をそれぞれ左右に転がって避けた二人は、マグナムフォームと、レックスゲノムに変身した。

「変身!」「変身!」

『MAGNUM!』『仮面ライダー!リバイ!バイス!リバイス!』

 ギーツはマグナムシューターを、リバイとバイスはそれぞれオーインバスターとガンデフォンから、シーカーを挟み打つ様に狙い撃つ。シーカーはその銃撃をギガントソードを巧みに扱って弾き落とし、空中に刃を振るう。すると刃から鉄骨が組み上がり、斬撃の形を成してギーツとリバイスに襲いかかる。パワードビルダーは"建造"の力を宿したバックル。攻撃に転用できる建築を即座にこなすのは容易であった。特に、轟戒真ほどの男となれば。

 ギガントソードをリバイスの足元に投擲し足を止めると、胸部のアームを展開。ギーツのアーマードガンによる連続射撃を防御しつつ、小型バックルを紺のものに取り替えた。

『GIGANT HAMMER!』

 次に装備したのは、体躯とほぼ同等のサイズを誇る紺の巨大ハンマー・ギガントハンマー。地面にギガントハンマーを打ち下ろすと、シーカーのクレストが刻印された壁が即座に建設され、ライダー達の接近を阻む。ギーツはこのままでは不利と判断したのか、マグナムをフィーバースロットバックルに差し替え、スロットを回しながら壁を飛び越える。同時に、リバイは足を、バイスは尻尾の力を解き放ち、壁を破壊。シーカーに迫る。

『HIT!BLAST!』

 ギーツが引き当てたのはブラストバックル。本来であらば脚に装備することで真価を発揮するバックルだが、ギーツに使いこなせないバックルは存在しない。ガス噴射をさせながらシーカーにパンチを繰り出す。

 シーカーはその攻撃にすら対応した。ハンマーを再度打ち下ろし、真下に足場を建造。自身を数段上へと持ち上げる。そしてギーツに高さを変えた事による奇襲を行い、横からハンマーを直撃させた。ギーツは器用にガス噴射を行い、両腕のアーマーでガード。背部からも噴射し、ダメージを最小限にして着地した。

 ハンマーを大きく振り抜き、重心の偏っていたシーカーの足元が突如ぐらつき、シーカーは姿勢を崩した。バイスが尻尾の一撃で足場の根本を破壊したのである。その間リバイが強靭な足で一気に壁を駆け上がり、蹴りを放つ…かと思われた。

『スタンプバイ!必殺承認!』

 ギーツと同様にハンマーでリバイを薙ぎ払おうとしたシーカー。発達した筋肉による蹴りを行うものかと思われたが、リバイはそれを逆手に取り、オーインバスターにレックスバイスタンプを押印。

『Here We Go!Here We Go!』

「いっけーっ!一輝!」

 足を元の大きさに収縮し、横に過ぎ去っていくハンマーの軌道をスライディングで避け、シーカーの懐に潜り込んだ。

『レックス!スタンピングストライク!』

 ゼロ距離でオーインバスターによる必殺の銃撃を行った。オーインバスターの銃口からティラノサウルスの頭蓋骨を模したエネルギー弾が発射。シーカーに直接噛みつく。が、その刹那にあえてシーカーはギガントハンマーを手放し、一歩引いて足場から飛び降りる。この一瞬で、シーカーに新たな武装をさせる時間を与えてしまった。

『GIGANT BLASTER!』

 シーカーは落下しながらギガントブラスターを構え、自身に迫るティラノサウルスの頭蓋骨にセメントの様な液体を噴射。その液体は空中で速乾し、頭蓋骨の一撃を防いだ。

「悪いな、お前達とは歴が違う…!」

 シーカーは一度建造物を全て崩し、自身のギガントブラスターの銃口に集約させる。これにより辺りの障害物はゼロになり、三人のライダーはギガントブラスターの射程圏内に入ってしまった。

『GIGANT STRIKE!』

 ギガントブラスターにより、鉄骨等の建材が纏わされたビームが放射させる。これをギーツらが受けてしまう直前、神山飛羽真に、後部席にツムリを乗せたバイクが割って入った。

「ツムリさん!」

「はい!転送!」

 ツムリが手元の端末を力強く叩くと、ライダー達含め五人がデザイアエリア内に転送された。シーカーの放ったビームはただ空を切り、地面に弱く炸裂したのみだった。

「逃げたか…」

 シーカーは構えたままのギガントブラスターを下ろした。

 

 

 デザイアエリア内に何とか離脱できた英寿は、一人サロンに隠された施設を探していた。普段は訪れる必要のないバックヤード。ここにお目当ての人物が隔離されていると、彼は察していた。

「ここか」

 バックヤードの最奥に位置していたのは、ただの壁。プレイヤーに配られるデザイアエリア内マップには記載のない、行き止まりかと思われるこの場所に、隠し部屋がある。英寿はスパイダーフォン・スパイダーモードを、壁に設置された配電線に噛みつかせる。その不自然に置かれた配電線も、隠されていた鍵代わりの装置だった。スパイダーフォンが配電線にハッキングし、何もなかったはずの壁が多がりな仕掛けと共にずれ、入口となった。

 その先は何もなくだだっ広いだけの部屋だったが、中央にニラムとサマスが拘束されていた。周りには赤いバリアが貼られ、脱出は不可能となっている。

「ああ!やっと来てくれましたか!」

 白い立方体のイスに座っていたニラムが、高い声で立ち上がる。英寿はマグナムシューターでバリアを破壊し、二人を開放した。

「不思議だな。ゲームマスターのコラスよりも、プロデューサーの方が地位が高いと思っていたが」

「ここで私が出しゃばるのはリアルでない、と判断したまですよ」

 ニラムは崩さぬ笑顔で英寿に牽制する。

 

 

 英寿を通り越し、ニラムはサロンに踏み入りながら、やぁやぁと一輝らをもてなす。

「お二方!よく集まってくださいました!」

「え!何このイケメンの人!」

「おい失礼だぞ」

 初対面でいきなり指をさすバイスを抑える一輝。特にニラムは意に介していないようだが、丁寧に礼をする。

「間もなく、デザイアロワイヤルの最終戦が始まってしまいます。あなたたちリバイスをこちらの不祥事に巻き込んでしまったこと、申し訳ない」

「いやいや、そんな。俺たちも、イザンギとバリデロから幸四郎を取り返さないと……これは俺たちの問題でもあるんです」

 一輝がフォローすると、ニラムはあっさり頭を上げ、本題に入る。形式的な謝罪だけでも済ませたというのだろうか。

「今回の件は、我々運営が使用するドライバー・ビジョンドライバーを奪われてしまったことに原因があります。それを取り返すことも第一ですが…あなたたちにはデザイアロワイヤルにそのまま参加して頂いて、コラスの気を引いてもらいたいのです」

「構わないが、条件がある」

 英寿はニラムと距離を詰めて、要求を述べた。

「デザイアロワイヤルで犠牲になった人を復活させろ。お前たちなら、それくらいできるだろ?」

「……それはあなたたちがゲームをクリアできたらの話。フェアなトレードと行きましょう」

 英寿とニラムの間に火花が散る。デザグラの秘密を探っている英寿にとって、プロデューサー程の地位の者に直接探りを入れられるのは、なかなか無いチャンスでもあった。ニラムも英寿の眼光に察していたのか、すぐに話を進めた。

「ビジョンドライバーはコラスが持っているはず。私が捜索します。それと……あなたは何故ここにいる?その様子だと、まともに戦うこともできないだろうに」

 ニラムの視線の先には、カウンター席に座っていた飛羽真の姿があった。飛羽真は座ったままくるりと振り返る。ニラムの表情は、一輝と話す時の張り付いたような笑顔から一転し、明らかに攻撃的なものに変わっていた。デザイアロワイヤルに招待されていないはずの男が介入するという事実は、彼に取ってのリアルでは無かったのだろう。そんなニラムの心情を察した飛羽真は、正直に返した。

「かもしれないね。でも、目の前の人を助けたいことに、理由がいるかな?」

 二人の間に沈黙が流れる。その沈黙が終わったのは、別の要因だった。突如、バイスの体が粒子となって消滅し始めたのである。バイスは、ハイテンションな何時もの調子ではなく、案外落ち着き払っていた。元から、この様になるとわかっていたようである。

「バイス…!」

「あー…俺っちは元々、一輝のおかげで奇跡的に復活しただけなんだよ…だから、そのボーナスタイムも、終わりってことかもな…」

 俯くバイスの手を、一輝は必死に握った。

「待ってくれよ……俺はまたお前のことを、忘れたくない…!」

 ここでバイスが消滅してしまえば、一輝はまたしても弱体化した状態に戻ってしまう。それだけではない、相棒とのかけがえのない思い出は消え、家族はまた気遣ったような態度を取るようになるだろう。せっかくまた会えたのに、と一輝は震えた声を出した。

「…まだ時間はある。デザイアドライバーを使うんだ」

「それならもう用意してありますよ…サマス」

 英寿と考えは同じだったニラムは、サロンに入室したサマスに人差し指で指示した。既に彼女の両手には、二つのミッションボックスがあった。一輝とバイスはそれを受け取り、蓋を取り払う。彼ら専用のIDコアとデザイアドライバーがそこにはあり、二人は顔を見合わせる。そして、IDコアを装填し、腰に装着した。

『ENTRY』

 デザイアドライバーが装着されると、バイスから溢れ出ていた青い粒子がまた体に戻り、消滅が阻止された。

「うおっ!よっしゃ!これでもう一頑張り行けそうだぜ!」

「それなら、これも使ってください」

 今度はツムリが、二人にピンクのミッションボックスを差し出す。そのミッションボックスの中には、ビートバックルとモンスターバックルが入っていた。これで、最終戦に臨むことができる。

「よし…幸四郎を取り返しに行くぞ!」

 勇みサロンから出発する一輝たち。飛羽真もその後を追おうとするも、ニラムが間に入って止めた。

「あなたはここで見ていてください。戦う力がなければ、足手まといになるだけだ」

 彼は、飛羽真にデザイアドライバーを用意する気は毛頭ないようだった。

 

             *

 

 占拠されたデザイア神殿。その中で、轟戒真とイザンギ、バリデロが邂逅していた。轟戒真は幾度とないジャマトとの闘いからか、彼ら異星人の存在や見た目に驚いていないようだった。

「ギフの力を、貴様にも分け与えてやろう」

 イザンギが轟戒真にネオギフスタンプを押印する。人を贄にギフテリアンを生み出す能力は消えているようだが、轟戒真の血や細胞に至るまで、ギフの力がみなぎった。

「これでお前も、我々と同等の力を手に入れた」

「一緒にするな。最強は俺だ」

 轟戒真の言動が気に触れたバリデロは、杖に火を灯した。

「最強だと…?下等生物の分際で、よくそんな口が叩けたものだ」

「お待たせしましたぁ〜」

 一触即発の二人。デザイア神殿に偽ツムリが現れたことで、一度それは収まった。ツムリは三人の前に立つと、赤色のデザイアカードを手渡す。

「デザイアロワイヤル最終戦は、仮面ライダー絶滅ゲーム。迎え撃つ仮面ライダーを全員殺せばゲームクリアよ。さぁ、誰がデザ神になるのかしら〜?」

 三人はそれぞれ、デザイアカードに自身の願いを記載した。イザンギは『宇宙の全てを知る力』、バリデロは『宇宙の全てを破壊する力』、そして轟戒真は『父が独裁者である世界』を願った。

 

 

 轟戒真の父、轟栄一は政治家である。彼自身だけではなく、その息子、娘も政治家として那花しい功績を残してきた。それは正しく国の主軸とも言える一家であり、実質的な行政の動きは彼らが握っていると言っても過言では無い。その一家で、轟戒真だけが異質な存在だった。優秀な兄姉から背き、プロの格闘家として、チャンピオンにまで登り詰めるほど努力を重ねた。トレーニングをしている間は、家柄や家族の冷たい目を忘れる事ができる。格闘家は、轟戒真の天職だと、世間は信じて止まなかった。

 だが、その毎日はそう長く続かなかった。轟戒真は、暴力事件の主犯格として、格闘技界から追放される。轟戒真の正々堂々としたファイティングスタイルから、冤罪であると擁護する意見も多かったが、轟戒真は格闘技界を去る。この事件は、父である轟栄一が仕組んだものであったからだ。暴力事件を捏造し、息子に罪を被せ、逃げ場を無くすように仕向けたのも彼である。そして、"でっち上げ"の暴力事件を自身の権力で隠蔽した彼は、轟戒真に一方的に恩を売ったのだった。

 そこから、轟戒真の真の戦いの日々が始まった。仮面ライダーシーカーとして、デザイアグランプリで父の願いを叶えることを強要されたのである。暴力事件が冤罪であることを轟戒真は知っていたが、彼は逆らわずに父の願いを叶え続けた。このようにして、轟栄一は現在の地位と名声をほしいままにしたのである。

 

 

 人質を救出したデザイアグランプリの仮面ライダーたち。コラスを欺くことに成功し、一仕事終えた道長は、赤い壁へ向かおうとバイクを走らせた大二を目で追う。

「俺は行くぞ。お前らはどうする?」

 このデザイアロワイヤルを終わらせるという決断は、道長にとって死を意味する。彼は奏斗が願った世界の影響で一時的に蘇っただけに過ぎない。コラスが運営の指揮権を失えば、デザイアグランプリの運営は、コラスの失態を帳消しにかかるだろう。デザイアロワイヤルの犠牲者を蘇らせ、デザイアグランプリの犠牲者は再度消滅させるように。

「いいの?道長さん、これで消えちゃうかもしれないのに」

「あ?良く覚えとけ、ゾンビってのは、死んでからが本番なんだよ」

 道長は景和の返事を待たずに歩き始めた。その後ろを、景和と祢音がついていった。叶えたい願い、世界どうこうではなく、純粋に世界を守るために。

 そして墨田奏斗は、三人とは反対方向に進路を定めた。

 

             *

 

 サッカースタジアムのビジョンに、偽ヒロミの姿が映っている。彼はまた大袈裟に最終戦・仮面ライダー絶滅ゲームのルールを解説していた。仮面ライダー絶滅ゲームの大元のルールはたった一つ。殺すか、殺されるか。

 コートに降り立った英寿、一輝、バイスは、並んで立つ轟戒真、バリデロ、イザンギを目にする。幸四郎の姿がないことを確認した一輝は、イザンギを強く睨む。

「幸四郎をどこにやった…!」

 イザンギが、醜悪な瞳で一輝を見下し、ネオギフスタンプをちらつかせる。

「あぁ…利用価値が、ないことも無かったな」

 一輝はそれがすぐに幸四郎であると理解した。

「バイス、幸四郎を取り返すぞ…!」

「おうよ…俺っちも、沸いてきたぜ…!」

 轟戒真は余裕綽々の様子で、英寿はしっかりと眼前の相手を見据えている。

「頂点に立つのは俺だ…!」

「勝つのは俺だ。一輝、バイス、決着を付けるぞ」

 一輝とバイスは頷いて反応すると、ビートとモンスターのバックルをデザイアドライバーに装填した。英寿もまた、コマンドツインバックルを差し込む。轟戒真もパワードビルダーバックルとギガントコンテナバックルを構えて、戦いに備えた。

『SET』『SET WARNING!』

「変身!」「「変身!」」「変身…!」

『GRATE!』『BEAT!』『MONSTER!』

『WOULD YOU LIKE A CUSTOM SELECTION…!』

「二人とも、良く似合ってる」

 仮面ライダーギーツ・レイジングフォームは、仮面ライダーリバイ・ビートフォームと、仮面ライダーバイス・モンスターフォームを見ながら呟く。それに被せるように、画面内のヒロミが叫んだ。

『デザ神vsデザ神!勝つのはどちらか!?仮面ライダー絶滅ゲーム!スタートぉ!』

『Ready?Fight!』

 

 

 縮み続けた壁は、スタジアムと周囲半径五百メートルを囲うように動きを止めた。五十嵐大二と五十嵐さくらは、その壁の前に立ち、スタジアムを見上げる。傍らには、花と玉置の姿もあった。

「一輝兄があの壁の中に!」

「もう少しの辛抱だ…持ちこたえてくれ…!」

『ベリリュンヌ、準備完了だ。そっちもokかい?』

 大二のガンデフォンに狩崎から通信が届き、ベリリュンヌから放射された青い光が、より一層強くなった。

「勿論です!今すぐ俺たちを壁の中に…」

「おい、俺たちのこと忘れんてんだろ」

 デザイアグランプリの仮面ライダーたち、吾妻道長、桜井景和、鞍馬祢音も合流する。そして、別方向の階段から、もう一人仲間がやって来た。

「俺もな。父ちゃんを置いてくなよ」

「え!?お父さんも行くの?」

「当然だ!息子のピンチに、助けに行かない父親がいるか?」

 五十嵐元太。彼は既にデストリームドライバーを装着していて、準備万端である。彼も、息子たちのピンチに居ても立ってもいられず、戦いの地に馳せ参じた。

 彼らは赤い壁に再び向き合い、ドライバーを装着する。

『ツーサイドライバー!』『リベラドライバー!』

『ウィークエンドライバー!』『デモンズドライバー!』

『バット!』『コブラ!』『クイーンビー!』

『クワガタ!』『ヘラクレス!』

『『『SET』』』

 大二はバットバイスタンプをツーサイドライバーに押印、装填後ライブガンに変型。さくらはコブラバイスタンプをリベラドライバーに、花はクイーンビーバイスタンプをウィークエンドライバーにセット。玉置はクワガタバイスタンプをデモンズドライバーの朱肉に押印し、五十嵐元太も同様の動作をヘラクレスバイスタンプとデストリームドライバーで行った。そして、景和はニンジャを、祢音はビートを、道長はゾンビをデザイアドライバーに装填し、変身の構えを取る。

「「「「「「「「変身!」」」」」」」」

『バーサスアップ!Precious!Trust us!Justis!バット!仮面ライダーライブ!』

『リベラルアップ!Ah!Going my way!仮面ライダー!蛇!蛇!蛇!ジャンヌ!』

『Subvert up!Wow!Just believe in myself!仮面ライダー Ah!アギレラ!』

『Delete up!Unknown!Unlest!Unlimited…!仮面ライダーオーバーデモンズ!』

『Spirit up!Slash!Sting!Spiral!Strong!仮面ライダーデストリーム!』

『NINJA!』『BEAT!』『ZOMBIE!』

『Ready?Fight!』

 変身を終えると、ベリリュンヌの光が彼らにも降り注ぎ、壁の中へ転送した。

 

             *

 

 轟栄一の私室にて、コラスは仮面ライダー絶滅ゲームの様子を眺めていた。天下布武と書かれた掛け軸、盆栽、真剣の日本刀。彼の支配欲を体現するその部屋は、実子の公約ポスターが飾られている。が、やはり轟戒真の姿はない。椅子に深く座った轟栄一は、感慨深そうに呟く。

「これで、いよいよ私の支配する世界が実現する…」

「あなたも罪な人だ。実の息子を、駒として利用するとは…!」

 このデザイアロワイヤルは、轟栄一とコラスの共謀によって行われたものである。轟栄一は、息子を全く気遣う素振りは見せず、ただ冷笑するのみだった。

「ふんっ…上の子たちはいつも頑張っているのに、あいつだけが努力を怠った落ちこぼれだった。汚れ仕事をやらせておけばいい」

 彼がそれまで言うと、部屋のドアがパイプ椅子によって突き破られ、一人の男が侵入してきた。

「誰だ…!」

「へぇ…やっぱりグルだったんだ」

 部屋に入ってきたのは、デザイアグランプリの仮面ライダー、墨田奏斗だった。壁の中に突入し、英寿らを援護しようとする他の仮面ライダーに対して、彼だけコラスの持つビジョンドライバーを狙い、たった一人で勝負をかけに来た。彼はパイプ椅子をその辺に投げ捨てると、右腕で壁にもたれかかる。

「悪徳政治家、轟栄一。あんたがデザイアロワイヤルのスポンサーだったってわけだ」

「……お小遣いでも欲しいか?」

 轟栄一もまた、スポンサーとしてデザイアグランプリを見守ってきた身。当然、奏斗が複雑な境遇を抱えていることを知っていた。金で高校生を丸め込もうとする姿に、奏斗は居心地悪く首を回した。

「あのさぁ…金でなんで解決できると思ってるから、こうして今もデザイアグランプリに利用されてるって、わかってる?」

「逆だな。私こそが世界の支配者。デザイアグランプリもまた、私の理想を叶えるための道具だ」

 奏斗の煽りに過剰に反応する轟栄一を、コラスは右腕を広げて止める。彼はシルクハットを脱ぎながら、ビジョンドライバーを装着した。

「ここは、私にお任せを」

『GLARE 3 LOG IN』

 ビジョンドライバーの指紋認証を終え、コラスはプロビデンスカードをドライバーに読み込んだ。

『INSTALL.ABSOLUTE ANTHORITY.GLARE 3.』

「2どこ行ったんだよ…」

「この力は、1や2より数倍上だぞ?」

 コラスは、グレアの上位互換の力を持った、グレア3に変身した。グレア3は、全身が血に染まった様な赤黒い姿で、通常のグレアの赤と紫色の配色が逆転していた。奏斗は反射的に思ったことを口に出してしまったが、直ぐに気持ちを持ち直して、彼も仮面ライダーに変身する。

『SET』「変身!」『DUAL ON!BLAST!ARMED WATER!』

『Ready?Fight!』

 ダパーン・アームドウォーターブラストが先に仕掛け、急接近からの蹴りを放つ。グレア3はこれを弾き返すでもなく防御して迎え撃ち、壁を突き破って戦いの場は轟家の庭園に移った。太陽の光を反射する池に、丹念に手入れされた松の木の葉が揺れていた。二人は一度距離を取り、睨み合いが始まる。

「まさか君一人で来るとはっ…!何故、ここが分かったのかな?」

「こっちも色々調べてんだよ…特に、轟戒真が暴力事件を起こしてから、次々轟家が有利になるように政治が動いてたからな…!」

 ダパーンが池の水を利用し、地面に高圧放水をして目をくらますと、飛びつくように右足で膝蹴りをしながら接近。グレア3は胸部のビットを展開して防ごうとする。そこでダパーンは膝蹴りが命中する直前に左足からガスを噴射して軌道を変え、グレア3の頭上を回転しながら飛び越えると、空中で首筋に蹴りを放った。

 直前で肩のビットが分離し、二つのビットの間に赤いバリアが貼られこれも防がれてしまった。バリアの展開、グレアには無かった能力である。グレア3は振り返りながらの裏拳で、バリアをすり抜けつつダパーンを弾き返す。

「デザイアロワイヤルなんて起こして、何をするつもりだ。宇宙人なんか雇いやがって…!」

「簡単さ。デザイアロワイヤルは序章に過ぎない。シーカーがこれから、空の裂け目に破滅の門を建設する。そして、宇宙各地の侵略者を招き、新たなゲームを始めるのだよ。地球は、宇宙人と生き残りをかけて戦い続けるディストピアとなるのだ!」

 ダパーンは思わずデザイアロワイヤルのエリアの方向を見上げる。ちょうど、エリアの赤い壁の天井が突き破られ、鉄骨が上空に向けて斜めに組み上がっていく様がはっきりと見えた。

「させるかよ…そんなこと!」

『BLAST!WATER!VICTORY!』

 ダパーンは太腿のファンから風を引き起こし、足を払って竜巻を作ると、そこに水を噴射。渦潮を作ってグレア3に放つ。渦潮の質量は大きく、流石のグレア3も避けきれないかと思われたが、グレア3は5つのビットからレーザーを乱れ撃ちし、渦潮の流れを断ち切って効果を打ち消した。そこからグレア3はビットに指示し、ダパーンを取り囲ませてレーザーを何度も発射する。最初はレイズウォーターで撃ち落としてたダパーンだったが、次第に追い付かなくなり、レイズウォーターを弾かれる。さらにデザイアドライバーも狙い撃ちされ、何とか倒れ込むように回避して直撃は免れたが、掠ったレーザーがウォーターレイズバックルを破壊してしまった。

「ぐっ…!」

「それ以上はやめておけ。この世界は君が望んだ世界でもあるのだ。無理に戦う必要はあるまい…」

 レーザーの雨が止まり、ダパーンに考える時間が与えられた。デザイアロワイヤルが起きた原因は、ビジョンドライバーの強奪もそうだが、墨田奏斗が願った"デザイアグランプリの存在しない世界"が発動したもの大きな要因である。デザイアロワイヤルという不本意な事件が起きてしまったものの、この世界は紛れもなく奏斗が創世した世界なのだ。だが、奏斗にコラスの手を取るという発想は微塵もなかった。毅然として立ち上がり、フィーバースロットバックルを構える。

「愚かな…折角君のくだらない願いを叶えてやったと言うのに!」

「愚かなんかじゃねぇよ…どんな願いでも、命を賭けて戦えば、それは立派な願い……あいつの話、聞いてなかったのか…?」

『SET FEVER!』

 ダパーンはフィーバースロットバックルを装填し、スロットを回した。

「残念だよ」

『DELETE.』

 グレア3がプロビデンスカードをスライドさせ、5つのビットを伸ばした右手の前に集中させる。そして、ビットは正五角形に広がり、一本の巨大なレーザーを放った。レーザーは一直線にダパーンに迫り、その身を爆発させた…はずだった。

『PIRATE!』

 スロットに、真新しいバックルの力が的中する。

『HIT!PIRATE!』

「その力は…」

 上半身に新たなアーマーが装着されると同時に、強力な衝撃波が生じ、爆炎が押しのけられる。煙が晴れ、その中から現れたのは、海賊の鎧を身に纏った、ダパーン・パイレーツブラストフォームだった。上半身のパイレーツフォームは、全体が正面から見た三角の海賊帽の様なデザイン。右肩から斜めにバックルホルダーが紐に結ばれて掛けられていて、数多の小型バックルが既にセットされていた。右腕からはストックアンカー型の錨がぶら下がり、左腕のアーマーには、海賊が好んで使う刃渡り五十センチ程のサーベルが一体化している。そして最も目立つのは、腰に収められた大口な水平二連式の銃・パイレーツブラスターである。パイレーツブラスターはグリップ部分から銃身にかけて上部分が削られており、グリップから銃身を折り曲げる事で、その空洞にバックルが装填できる構造になっていた。

 ダパーンは今までに見たことのないバックルを力に驚くも、パイレーツブラスターを手に取る。

『PIRATE BLASTER』

「まだこんなバックルが…ここに入れろってこと?」

 左手をスナップを効かせ振ると、銃身が折れ、バックルを入れるレールが露出する。ダパーンは肩にぶら下げたプロペラバックルを装填し、銃身を同じ動作で元に戻した。

『SET PROPELLER!』

 プロペラバックルを動作させると、銃身が鋼色に光る。

『PROPELLER CHARGE!』

 パイレーツブラスターを振るいながら、ダパーンはトリガーを引き、銃口から一発ずつプロペラ型の砲弾が発射される。

『PROPELLER TACTICAL BOMBER!』

 プロペラの砲弾は高速回転し、グレア3のバリアをガリガリと削る。しかしバリアを破壊するには至らず、砲弾は上空に弾かれた。

「その程度の攻撃で……なっ!」

 上空に弾かれた弾丸は、ブーメランの様に跳ね返り戻ってきた。それはバリアを張っていたビットに二つとも命中し、一瞬だけ機能を停止させた。その隙にダパーンはガスを噴射して急接近。胸部にパイレーツブラスターを押し当てて通常射撃を行う。大口の銃口から放たれる砲弾は、弾速こそ遅いもののマグナムシューターの銃撃より破壊力に優れ、グレア3を大きくダメージを与え吹き飛ばし、膝を付かせた。

「理想の世界は、自分の手で叶える!」

「この手は使いたく無かったが…私の理想を邪魔させるわけにはいかない!」

『HACKING ON CRACK START』

「まじか…!」

 グレア3はビジョンドライバーの指紋認証機能を発動し、ビットを再制御。攻撃用から洗脳用に切り替え、ダパーンを洗脳で抑え込もうと一斉に襲わせる。

 しかしそれもまた、眩い光に阻まれた。

「光あれ!」

 何処からともなく発せられた光に、ダパーンとグレア3は思わず目を伏せる。その光の聖なる力によって、ビットは制御が鈍り、自動的にグレア3の元へ戻ってゆく。光が少し弱まると、ダパーンの前に二人の男が立っていた。眩い光は、右側の男の剣先に集中してゆく。

「お前がこの事件の現況だな」

「あんたら…確かブックゲートで助けてくれた…」

 ソードオブロゴスの剣士の二人、ユーリと倫太郎がダパーンを助けに現れた。彼らは、神山飛羽真の仲間として、ブックゲート脱出作戦を行動に起こした二人である。倫太郎は水勢剣流水が納刀された、聖剣ソードライバーを装着する。

「奏斗君、僕たちも手を貸します!」

『タテガミ氷獣戦記!』『X SWORD MAN!』

 倫太郎はタテガミ氷獣戦記ワンダーライドブックを開き、横向きに聖剣ソードライバーへ、ユーリはエックスソードマンワンダーライドブックを聖剣サイコウドライバーにセットする。

「「変身!」」

 倫太郎は水勢剣流水を抜刀し、ユーリは光剛剣最光でドライバーのスイッチを押し、ワンダーライドブックの力を解き放った。

『流水抜刀!タテガミ展開!』『最光発光!』

 倫太郎の体は氷塊に包まれ、仮面ライダーブレイズ・タテガミ氷獣戦記へ。ユーリの全身に光の力を宿した鎧が纏われ、仮面ライダー最光・エックスソードマンへ変身を遂げた。

『全てを率いし、タテガミ!氷獣戦記!』

『GET ALL COLORS!X SWORD MAN!』

「さぁ、行きますよぉ!」

「こいつは最高だな!」

「全く…騒がしい奴ら…」

 グレア3に突撃する二人の剣士に、ダパーンは憎まれ口を叩きながらも、パイレーツブラスターの小型バックルを差し替える。

『SET ARROW!』『ARROW CHARGE!』

 ブレイズは流れる水のような滑らかな動作で剣を振るい、最光は光の速さで加速する刃で同時にグレア3を攻めたてる。それでもグレア3は対応して見せ、最光の剣戟を平手で後方に捌き、ブレイズを手の掌打で押し退ける。ブレイズは後退しながらも足下に氷のフィールドを形成。グレア3の足元を凍結させ動きを止める。同時に空中を漂っていたビットも凍結し封じられた。そしてブレイズが左側に避けると、即座にダパーンが現れる。必殺技のチャージは完了していた。

『ARROW TACTICAL BOMBER!』

 ダパーンはグレア3向けて二発の緑色の砲弾を放つ。それはグレア3に命中する前に空中で炸裂し、無数の緑色の矢を形成。一斉にグレア3を襲った。ビットが凍結され防御が遅れたグレア3は、矢の雨を受けてしまう。さらに後方から氷のフィールドをスライディングしてきた最光が脇腹に一閃。さらにダメージを与えた。氷のフィールドが収まり、ビットが再び空中に浮遊する。

「おのれ…!」

『DELETE.』

 グレア3はここで勝負を決め切ろうと、ビットを右手に集め、先程と同じ巨大なレーザーを放射した。ブレイズは咄嗟に氷塊を生成してレーザーを防ぐ。だがレーザーの威力に直ぐに亀裂が走る。長くは保たなそうだ。

「ここで決めましょう!」

「あぁ…あいつの相手はもううんざりだ」

 氷が砕け、レーザーが三人に迫る。三人は同時に飛び出し、一気に必殺技を発動した。

『フィニッシュリーディング!サイコーカラフル!』

「Xソードブレイク!」

 先んじて最光が高速移動を開始し、レーザーを反るように飛び越えると、着地同士に縦一閃。さらに横に深く斬り込み、同時に三つのビットを破壊した。次いでブレイズが、氷の翼を生やして蹴りの構えを取る。

『百大氷獣!タテガミ大氷獣撃!』

「レオ・ブリザード・カスケード!」

 ブレイズの右足に鋭利な氷の爪が生成され、氷の力を得た蹴りはグレア3のビットを全て貫いた。ビットを失い、レーザーでの攻撃も、バリアさえも張れなくなったグレア3に、錨が付いた鎖が巻き付けられる。ダパーンは鎖を巻き取り、グレア3との距離を詰めた。

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

「何も奪わせない…この世界は俺たちが守る!」

 左腕のサーベルを突き出すと、半透明な海賊船の船首が浮かび上がり、グレア3と激突する。この攻撃を受けて、グレア3は爆散し、ビジョンドライバーは遠方に弾け飛んだ。

 変身が解除されたコラスは、地面に伏す。体は透明なホログラムとなって消えかかっていて、彼の終わりを告げていた。

「中々エキサイティングな戦いだったよ…墨田奏斗…」

 コラスの最後の言葉を聞き終えたダパーンは、変身解除してビジョンドライバーに触れる。また誰かに奪われない様にと、すぐにでも回収したかった。コラスが消滅すると、同時にニラムも現れる。奏斗をここまで案内したのも、他でもないニラムであった。

「ありがとうございました!そちらのお二方も、ご協力感謝します」

 ニラムは奏斗の手からドライバーを取り上げる。

「約束しろ。デザイアロワイヤルの被害を全てリセットするんだ」

 奏斗の要求に、ニラムは笑顔で答えた。

「えぇ。それは勿論。さぁ、始めましょう…私たちのデザグラを…!」

 ニラムは、空に回収したビジョンドライバーを掲げた。

 重く、鐘の音が響く。

 

 

           DRルール

 

      デザイアロワイヤルの終幕は、

 

        ディストピアの完成。

 

      心ゆくまでお楽し───────

 

           DGPルール

 

     これは、世界の平和を守るゲームである。




次回:ギーツ×リバイス

「これよりデザイアグランプリ緊急ミッション・シカゲームを開始します!」

18話 交差Ⅴ:破滅の門と地獄の塔


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18話 交差Ⅴ:破滅の門と地獄の塔

 

「皆様は、本当に勝てるのでしょうか…?」

 ツムリは、俯きながら呟いた。デザイアグランプリのサロン内には、常に戦いの様子が映されている。一つの映像は、シーカーと死闘を繰り広げるギーツ。そしてもう一つは、グレア3に苦戦を強いられるダパーン。どちらも優勢とは言い難く、敵方の攻撃に押されている。

「このまま、負けてしまったら…デザイアグランプリは…」

「"今が最悪の状態"と言える間は、 まだ最悪の状態ではない。」

 プレイヤーの身を案ずるツムリにそっと声をかけたのは、神山飛羽真だった。

「えっ…?」

「かの劇作家、ウィリアム・シェイクスピアの言葉だよ。まだ誰も諦めていない。信じなきゃ、道は開けない」

 飛羽真はそう言うと、サロンを去ろうと振り返る。その背中を、ツムリが呼び止めた。

「待ってください…!あなたは一体…何者なんですか?」

「…ただの小説家だよ。ちょっぴり、お節介なだけのね」

 飛羽真がもう振り返ることは無かった。追求もできず立ち尽くしたツムリは、画面に向かって祈った。

(お願いです…どうか皆さん…勝って…)

 その時ダパーンが、失われたはずのパイレーツの力を引き当てた。

 

 

 スタジアムの戦いは、巨大な立体駐車場に移っていた。シーカー、イザンギ、バリデロはギフの力で強化され、三人は苦戦を強いられるも、果敢に立ち向かう。

「ギフの力を失ったお前は私に勝てない!」

「そんなの…やってみなきゃわからないだろ!」

『TACTICAL SANDER!』

 ビートアックスから枝分かれした電撃を放つも、イザンギは腕を高速移動させて全て掌で防ぎ、白煙が舞う。その白煙の中を、リバイがビートアックスを突き出しながら突撃し、刺股のようにビートアックスでイザンギの胸部を柱に固定した。さらに刃から氷を生じさせ、イザンギを釘付けにする。タッピングで弾かれた音色はさらに氷結の力を高めた。

『TACTICAL BLIZZARD!』

「面白い攻撃だ…だがぬるい!」

 イザンギが体から紫色の衝撃波を放ち、拘束から逃れる。今度は炎の属性を選択し、斬りかかるリバイ。その後方で、バイスがバリデロと戦っていた。

「下等生物の仲間に成り下がるとは…何とも滑稽な悪魔だな」

「うるせぇな!下等だの、上等だの!知ったこっちゃねぇよ!」

 バリデロが杖から放つ火炎を、仰け反りながら避けるバイス。右手を軸にブレイクダンスの様に足を回しながら、リボルブオンしてモンスターバックルを二度押した。

『REVOLVE ON』『MONSTER STRIKE!』

 低姿勢から、右足を掬うように振り抜いての蹴り。距離こそ離れていたものの、モンスターの四肢を伸縮させる能力でバリデロの腰にキックを見事に当てる。だがその攻撃も、バリデロは二の腕でガードして見せた。

「弱い」

「まだだ!」

『REVOLVE ON』

 バイスはリボルブオンすると同時に腕を急激に縮め、バリデロに接近。右足が左腕に変わり、スピードと勢いの付いた右腕のパンチが腹部に命中した。

 一方、ギーツvsシーカー。レイジングソードを装備したギーツと、ギガントソードを所持したシーカーの、機動力と破壊力がぶつかる斬り合いは、どちらも全く譲らない。レイジングソードとギガントソードがぶつかり、火花が散って鍔迫り合いとなる。

「諦めろ浮世英寿!この星はもう終わりだ!」

「終わる?」

 シーカーの腕力が上回り、ギーツの姿勢を低くさせる。

「そうだ。これから宇宙中の侵略者を呼び寄せる。貴様が願いを叶える世界は訪れない!」

「終わらせるかよ。自分の世界を破壊してまで、叶えたい願いはなんだ!」

 レイジングソードを横向きに持ち替えたギーツは、ギガントソードを左に流し、回し蹴りで中に弾いた。すかさずレイジングソードによる刺突をシーカーに向けて行う。

「俺に…叶えたい願いなど無い!」

 シーカーは胸のアームを展開し、弾かれたギガントソードをキャッチ。到底人間にはできない挙動でギーツを斬り返す。そして、ギガントコンテナからバックルを付け替え、ギガントハンマーを装備した。

『HYBRID!GIGANT HAMMER!』

「ぬあああああ!」

 シーカーがギガントハンマーを地面に打ち付けると、スタジアム中から足場が建設され、一つの建物と集結し、上空に向けて組み上がっていく。その足場に、シーカーだけでなく、イザンギ、バリデロも乗り込み、上へと自動的に押し上がってゆく。やがて"地獄の塔"は赤い壁の天井を突き抜け、空の裂け目へ向かって伸びていった。ギーツらもそれを追おうとしたが、ゾンビ、ニンジャ、ビート、モンスターのデッドマンが彼らの前に現れ、行く先を阻む。

「せいぜいそいつらと遊んでいろ!下等生物よ!」

「くそっ…まずはこいつらを倒すしか無いか…!」

 リバイがニンジャデッドマンにビートアックスを振りかざすが、刃が命中するよりも速く、連射された黄色の銃弾がデッドマンたちを退けた。ギーツが振り向くと、赤い壁の一部が青白く歪み、数多の仮面ライダーがそこから突入していた。デッドマンを一度退けたライブは、ライブガンを斜めに構えて三人の前に立つ。

「兄ちゃん!こいつらは俺たちに任せろ!」

「一輝さん!」

 次いでオーバーデモンズもリバイに近付き、アタッシュケースを手渡した。リバイがそれを開くと、かつて自らが使用していたバイスタンプの数々が収められている。

「大二、玉置、ありがとう!」

 突入の完了したライダー達は、二人ずつに別れてデッドマンと戦闘を開始する。ライブとタイクーンはニンジャデッドマン、ジャンヌとナーゴはビートデッドマン。アギレラとオーバーデモンズはモンスターデッドマンを、デストリームとバッファはゾンビデッドマンを駐車場から追いやった。

「ダパーン様が、ビジョンドライバーを取り返しました」

 ツムリも三人の元へ現れる。彼女の出番となったということは、デザイアグランプリの再開を表す。

「ダパーンが…フッ、やるな」

「運営権はこちらに移りました。これよりデザイアグランプリ緊急ミッション・シカゲームを開始します!」

 ツムリの持つタブレットには、シーカーが建設中の地獄の塔の地図が記されている。黄色のマーカーはシーカー、赤と青のマーカーはイザンギとバリデロを現してて、塔は膨張を続ける。

「仮面ライダーシーカーは今、空の裂け目が閉じないように、破滅の門と地獄の塔を建設しています。このミッションは、それの阻止。見事達成したデザ神は、理想の世界を叶えられます!」

「それがコラスの本当の目的か」

「ようし…やってやろうじゃねぇの!」

 地獄の塔を見上げたバイスは、力強く右腕を振り上げる。しかし、それも限界が近づいていた。再び青いノイズがバイスを覆い、デザイアドライバーによる変身も解除されてしまう。

「あぁ…もう限界か…」

「そんな…消えるなバイス…!まだお前を忘れたくない…!」

「…それがお前の願いか…まだ終わりじゃない…お前が拾ったバックルがあるはずだ」

 ギーツは、リバイに宝箱を開くように促す。宝箱とは、元々幸四郎用に支給されたバックルが入っていたはずのものである。リバイは、背中から宝箱を取り出すと、蓋を取り払う。入っていたのは、リバイスドライバーバックル。しあわせ湯でしかドロップしないレアアイテムであり、かつて浮世英寿が使用したバックルでもある。

 リバイがビートバックルとリバイスドライバーバックルを付け替え、叩くように起動すると、バイスのデザイアドライバーにもエネルギーが流入した。

『REVICE DRIVER!バディアップ!オーイング!ショー二ング!ローリング!ゴーイング!仮面ライダー!リバイ!バイス!リバイス!』

 デザイアドライバーがリバイスドライバーに変化し、二人は仮面ライダーリバイス・レックスゲノムへ変身を遂げた。

「よし、一気に飛ぶぞ」

『FULL CHARGE』『TWIN SET』

 レイジングソードからバックルを取り外すと、ジェットとキャノンの鎧が左右に発現する。リバイは、一気に空へ飛び立つべく、アッシュケースから、緑と紫のバイスタンプを起動した。

『イーグル!』

「よおっし、久しぶりだな!ちょーアガってきたぜ!」

 リバイがイーグルバイスタンプをリバイスドライバーに押印すると、バイスの体も一度リバイの元へ戻り、バイスの思念体が巨大なバイスタンプを持ち上げる。そして、バイスタンプを傾けると同時に巨大なバイスタンプがリバイに降り注ぎ、仮面ライダーリバイス・イーグルゲノムへと再度変身した。

『バディアップ!荒ぶる!高ぶる!空駆け巡る!イーグル!』

 二人は地面を強く蹴ると、風を切るように飛び上がる。それを追うようにして、ギーツもコマンドフォーム・ジェットモードに変身。バーニアを点火して地面から飛び立った。

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

 三人のライダーは、一斉に地獄の塔の頂点を目指す。

 既に、破滅の門の建造は進んでいた。

 

             *

 

 ニンジャデッドマンが、壁の影からタイクーンとライブを虎視眈々と狙う。影から影へ、姿を見せずに潜行し、嘲るように時折顔を見せる。次に顔を出したのは、ビルから迫り出した天井だった。

「いた!」

 タイクーンがニンジャデュアラーの片側を投げるも、ニンジャデッドマンは直ぐにまた戻り、姿をくらます。天井に注意が向いていたタイクーンの背後に伸びる、外灯の影。そこからニンジャデッドマンが飛び出し、タイクーンの背後に真剣を突き刺さんとする。

「そこだ!」

 それを間一髪で止めたのは、ライブの射撃だった。ライブガンから放たれたエネルギー弾は、ニンジャデッドマンの真剣を弾き返す。ニンジャデッドマンはライブに対し分が悪いと察知し、外灯の影に戻ろうとする。

「逃がすか!」

『ジャッカル!』

『バーサスアップ!Overdrive!Power dive!仮面ライダーライブ!ジャッカル!』

 ジャッカルバイスタンプを使用、ゲノムチェンジしたライブ・ジャッカルゲノムが、空中を駆けるように高速移動。外灯の影に回り込み、正確無比な射撃で潜行を阻止する。

 その動きにタイクーンもダッシュで追い付き、振り向いたニンジャデッドマンに残った片側のニンジャデュアラーで横向きに斬り込む。しかし、ニンジャデッドマンは、直前でタイクーンの姿が作る影に潜行して回避。真剣も移動途中で回収し、行方を追えなくした。

「くそっ、またか…!」

 タイクーンは額に汗を滲ませながら、辺りに集中する。

「はぁ〜まどろっこしいぜ、おい」

 ライブは突然、愚痴と共に変身を解除した。何時ものきっちりとした性格の大二から一転、爪をカリカリといじりながらタイクーンを覗き込む。正に、人が変わったかのように。

「えっ、な、何してるんですか…?」

「知ってっか?人ってのは、誰しも心に悪魔を飼っている。それはそいつの本当の自分ってやつだ」

 タイクーンと話しているのは、大二であって大二ではない。彼の悪魔・カゲロウである。本来は大二の兄に対する妬みの心から生まれた存在だったが、大二はすっかりそれを乗り越え、カゲロウもほとんどただの口うるさい性格に変わっている。

「さぁ、お前の悪魔はどんなやつかなぁ…?」

 カゲロウはピンと伸ばした人差し指で、タイクーンの額に触れた。カゲロウは、景和の深層心理の内側に入り込んでゆく。

 そこでカゲロウが見たのは、想像を絶する光景だった。

 世界平和を掲げる、人畜無害なはずの男の心中は、どす黒い闇に包まれていた。闇の中には、緑の鬱蒼とした煙が立ち込め、その最深部に一人悪魔が立っている。その悪魔は、カゲロウの存在に気づくと、気だるそうに口に出した。

「俺が誰か……?別に…世界平和を願う、ただの一般人だよ…」

 カゲロウの意識は、現実の世界へ戻る。眼の前に立っている男は、心の中にカゲロウが入り込んでいたとも気付かずに、ただ首を傾げるのみ。彼の根幹をなす者は、善か悪か。カゲロウは、景和という人間を理解し、天を仰ぐように笑った。

「ふっはははっ!おもしれぇ」

『バット!』

 カゲロウはツーサイドライバーを変形させ、バットバイスタンプをドライバーに押印。黒い蝙蝠を身に纏う。

「変身」

『バーサスアップ!Madness!Hopeless!Darkness!バット!仮面ライダーエビル!』

 ツーサイドライバーは裏返り、エビルブレードが展開する。仮面ライダーエビル・バットゲノム。表と裏、これを使い分ける事こそ、ツーサイドライバーの真価を発揮するタイミングである。

「いいか、一回しか聞かないから覚えとけ。ちゃんと見なきゃ、守れるもんも守れねぇぞ」

 エビルはタイクーンにそう言い残すと、いつニンジャデッドマンに襲われるかもわからない巨大なビルの影に踊り立つ。ニンジャデッドマンは、これを好機と判断し、エビルの死角から地面にせり出る。

「そこか」

 上半身だけしかまだ出ていないニンジャデッドマンを、エビルが掴んだ。そして一気に持ち上げて引っこ抜き、二回ほど斬り裂くと、手を離して蹴り飛ばした。

「俺様はなぁ…汚ぇ戦い方が大嫌いなんだよ…」

 近場の影に逃げ込もうと手を伸ばしたしたニンジャデッドマンの首を、エビルが掴んで地面に叩きつけた。

「ただし、俺様がやる場合は別だけどなぁ…!」

「えぇ…」

 ドン引きするタイクーンを他所に、エビルは逃げる影もない広場に、ニンジャデッドマンをぶっ飛ばした。

「どうした?お前もやらねぇのか…って、おい!」

 エビルの変身が、勝手に解除される。そこにカゲロウの時のやさぐれた仕草は無く、ただ気まずそうに頭を掻いていた。

「全く…さっきのはカゲロウなりの激励だ。しっかり受け取ってやってくれ」

(おい!俺はそんなつもりじゃねぇぞ!)

『バーサスアップ!仮面ライダーライブ!』

 ライブに変身した大二は、戦闘に戻る。

「俺も戦う…最後まで…!」

 タイクーンは決意を硬め、戦闘へ復帰した。

 

 

 仮面ライダーナーゴ・ビートフォームは、ビートアックスに火炎の属性を付与し、ビートデッドマンに斬りかかる。自身に一体化したギターを掻き鳴らしたビートデッドマンは、全身から超低音の音波を発し、ナーゴの足を強制的に止めた。

「あぁ〜!うるさ〜い!」

 聞くに堪えない禍々しいメロディーに、ナーゴは両耳を抑える。

「しゃがんで!」

『リバディアップ!タートル!』

 ナーゴがしゃがんだ瞬間、タートルバイスタンプを使用したことにより発動したバズーカ、タートルゲノムから緑の砲弾が発射され、音圧のフィールドを突破、ビートデッドマンの胸部に炸裂した。

「すごっ!かっこいいね!」

『ラブ!コブ!』

「え、喋った?」

 ナーゴがじっとタートルゲノムを凝視すると、タートルゲノムには黄色い目が二つ付いているのを発見した。そう、ジャンヌの悪魔ラブコフは、指定のバイスタンプを使用することで、ゲノムチェンジで武器に変身できるのである。

「そ。ラブちゃん、かわいいでしょ?よ〜く見ててね!」

『ハシビロコウ!』

『リバディアップ!ハシビロコウ!』

 空中でジャンヌの手を離れたタートルゲノムは、一度ラブコフの二頭身スタイルを介して、鎌形のハシビロコウゲノムに変身。ラブコフの愛らしい姿を一目みたナーゴは、キャッキャしながら鎌にハグした。

「ラブちゃんかわいい〜!」

「先ずは、あの音をなんとかしないとね!」

 紫色の炎が鎌に灯される。ジャンヌが鎌を一振りすると、紫色の炎を宿した斬撃が飛ばされる。ビートデッドマンは音圧のフィールドで対抗したが、フィールドに斬撃が突撃すると、斬撃そのものが音波を放ち、相殺してフィールドを無効化した。

「よしっ!さくっと倒すよ!」

『キングコブラ!』

『ハイパーリベラルアップ!We are!We are!仮面ライダー!インビンシブル!蛇!蛇!蛇!蛇!蛇!蛇!ジャンヌ!』

「うん!」

『REVOLVE ON!』『SET FEVER!』

『HIT!FEVER BEAT!』

 ジャンヌは、コブラバイスタンプを進化させた、キングコブラバイスタンプを使用。ラブコフと一体化、最強のインビンシブルジャンヌへ変身。ナーゴはフィーバースロットバックルより、ビートを引き当て、上下両方に音の鎧を纏った、フィーバービートフォームに変身した。

「この世界は、もっともっと幸せになれる!」

「…だから、私達が守る!」

 最初にナーゴが突撃し、ビートアックスを二つ持つと、それを重ねて同時に演奏。一手に二つの必殺技を発動する。

『TACTICAL BLIZZARD!』『TACTICAL FIRE!』

 先に冷気がビートデッドマンを凍結させ、炎が急激に氷を溶かす。これにより発生した水が、ビートデッドマンの体内に浸透し、体内の機械をショートさせた。そして畳み掛けるように、上空からインビンシブルジャンヌの必殺キックが放たれる。

『キングコブラ!スタンピングスマッシュ!』

『「はぁぁぁぁぁぁあ!」』

 インビンシブルジャンヌのキックは、ビートデッドマンの後頭部に落下。その状態のまま空中に留まり、ナーゴがさらに必殺技を重ねる。

『HYPER BEAT!VICTORY!』

 二本のビートアックスを、ビートデッドマンの胸部に交差させて突き刺すと、蹴りで押し込む。このナーゴとジャンヌの必殺技の連携により、ビートデッドマンは粉々に爆散した。

 ジャンヌはひらりと着地すると、ナーゴと景気よくハイタッチした。

「よし!」「やったね!」

 

 

 モンスターデッドマンが超巨大な拳を伸縮させ、アギレラに向けて放つ。そのアギレラの前にオーバーデモンズが割って入り、アノマロカリスバイスタンプを使用した、

『Dominate up!アノマロカリス! ゲノミクス!』

 両腕にデモンズブラディオールをゲノミクスしたオーバーデモンズは、二の腕を合わせてガードした。オーバーデモンズとモンスターデッドマンの距離は幾分か離れており、デモンズブラディオールで十分防御できる威力であった。オーバーデモンズが防御に徹している合間に、アギレラが頭上から跳び上がる。

『リバディアップ!Year!バッファロー!』

 円形の刃が搭載された乾坤圏を二度投擲し、伸縮した右腕を切断。残った左腕は、オーバーデモンズが弾き返した。

「もう一押し、行くわよ!」「はい!」

『ヘッジホッグ!』『カジキ!』

『リバディアップ!Year!ヘッジホッグ!』

『Dominate up!カジキ! ゲノミクス!』

 アギレラは彼女の腰丈程のメイス型の武器・ニードルメイスを装備。ニードルメイスは、打撃部から太くも鋭い棘が何本もあしらわれていて、破壊力は絶大。そしてオーバーデモンズは、右腕を赤く染まった大剣・デモンズブレードにゲノミクス。これも地面に届くほどの丈があり、地面と擦れ火花が散る。

 モンスターデッドマンは残った左拳を、二人に向けて巨大化して伸ばす。

「ワンパターンなのよ、あんたの攻撃」

 アギレラがしゃがんで拳を避けると、ニードルメイスで上へ叩き上げる。そして、オーバーデモンズのデモンズブレードが腕を一刀両断。モンスターデッドマンの攻撃の手を完全に奪った。

 最後の抵抗で、モンスターデッドマンは斬られた腕を鞭のように振り回す。オーバーデモンズは難なくそれを斬り伏せ、アギレラは踏み潰してニードルメイスを振り落として叩き斬った。

「トドメだ!」「行くわよ!」

『ギラファ!』『ダーク・クイーンビー!』

『Delete up!Unknown!Unlest!Unlimited!仮面ライダーゲット!オーバーデモンズ!』

『Subvert up!Faith beyond malice!仮面ライダーアギレラ!ダーク!』

 オーバーデモンズは、専用のギラファバイスタンプにより、さらに全能力を強化されたゲットオーバーデモンズに変身。アギレラが変身したのは、自身の悪意を受け入れて進化、悪魔と融合した最終形態・ダークアギレラである。

 ゲットオーバーデモンズが地面を駆け、ダークアギレラは空中で飛び蹴りの構えをとる。

『ギラファ!デモンズフィニッシュ!』

『ダーク・クイーンビー!スタンピングブレイク!』

 ゲットオーバーデモンズの腕のアーマーが、ギラファの顎に変化。モンスターデッドマンを挟み込む。そして、ダークアギレラの闇の波動を纏った蹴りが頭部に直撃、モンスターデッドマンは撃破された。

 

 

「たとえこの身が朽ち果てようと…俺は戦う!」

 ゾンビブレイカーの一撃を、不定形のゾンビデッドマンが溶けるように避けた。またしても避けられた攻撃に、バッファは舌打ちをする。腕と一体化したチェーンソーを振るってバッファに攻撃を仕掛けるゾンビデッドマン。

『クロコダイル!ネオバースト!』

 それを弾き返したのは、クロコウィザーローリングを右手に装備したデストリームだった。クロコウィザーローリングを地面に押し当てると、それ自体が回転し、地面の舗装が剥がれる。それをゾンビデッドマンに浴びせることで一時動きを止めたデストリームは、左腕にコモドドラゴニックヒートを装備する。

「ここはおじさんに任せなさいっ!」

『コモドドラゴン!ネオバースト!』

 コモドドラゴニックヒートの火炎放射を受けたゾンビデッドマンは、不定形のその姿も保てなくなり、不器用な形で固まってしまう。デストリームはそのままとどめを刺そうとしたが、バッファがその肩を掴んで止めた。

「おい、コイツを倒すのは俺だ…!」

『REVOLVE ON!』『SET FEVER!』

『HIT!FEVER ZOMBIE!』

 今度こそ、バッファは一発でゾンビを的中させた。ゾンビの鎧が上下に合体し、金色のマントが左腰に発生する。仮面ライダーバッファ・フィーバーゾンビは、二本のゾンビブレイカーをゾンビデッドマンに叩きつけた。そして、火炎による固定が終わらぬ内に、足の爪で突き刺し、空中へ蹴り上げた。

「かぁ〜若いっていいなぁ〜!よし、俺も!」

『ヘラクレス!』

『Charge!デストリームフィニッシュ!』

 必殺技の発動と同時に、胸部のアーマーからエネルギーを流動させ、高速移動を開始。スタジアムの壁を駆け上がると、空中から落下していたゾンビデッドマンに左足を振り下ろした。

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

 それを待ち構えていたバッファは、叩き落されたゾンビデッドマンを二本のゾンビブレイカーで捕える。そして、デストリームも再び地上に舞い戻り、左フックを追加で放つ。そして二人は攻撃をゾンビデッドマンに食らわせたまま壁に叩き付け、ゾンビデッドマンを爆散させた。

 

 

『DUAL ON!GREAT!NINJA!』

 レイジングソードとニンジャデュアラー・シングルブレードの二刀流で、ニンジャデッドマンの真剣を抑えると、すかさずライブが銃撃でダメージを与える。さらに、下半身のニンジャの装甲が風を発し、回し蹴りで真剣の腹を捉え、真っ二つにへし折った。

 タイクーンはチャージが完了したレイジングソードからバックルを取り外し、ニンジャバックルと付け替える。

『TWIN SET』

『パーフェクトウィング!』

 ライブもまた、大きな羽を模したパーフェクトウィングバイスタンプを起動。ツーサイドライバーに押印、装填した。

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

『FlyHigh!パーフェクトアップ!仮面ライダー!エビリティライブ!』

「人々の幸せを、勝手に奪わせたりはしない!」

「みんなの幸せが、俺の幸せだからな!」

 仮面ライダータイクーン・ジェットモード。そして、大二とカゲロウの融合により完成するエビリティライブへ。二人はバーニアと翼で空中に飛翔すると、同時に必殺技を発動。ニンジャデッドマン一直線に蹴りを放つ。

『COMMAND TWIN VICTORY!』

『エビルライブチャージ!Wings for the Future!エビリティパーフェクトフィナーレ!』

 二人のキックは、ニンジャデッドマンに命中。地面にめり込むように叩き付け、完全に撃破した。

「やった…!」

「兄ちゃん、後は頼んだぞ…」

 変身を解いて、地獄の塔を見上げる大二。彼には、一つ心残りがあった。神山飛羽真に聖剣を渡すことである。エリア内に入った後も、彼の姿はどこにもなかった。大二が懐から火炎剣烈火が納刀された聖剣ソードライバーを取り出すと、突如火炎剣烈火が光を放ち、大二の手を離れて塔の天辺へ向けて飛んで行ってしまった。

「もう来てたんですね、飛羽真さん」

 火炎剣烈火は、まっすぐに主の元へ。

 

             *

 

 塔を建設するシーカーを追うギーツとリバイス。

『TACTICAL RAISING!』

 ギーツのレイジングソードが、塔の外壁を破壊し、リバイスもその後へ続く。外壁の向こう側には、ギガントハンマーにより建設を続けるシーカーの姿が。三人は鉄骨の森を潜り抜け、シーカーを掴んで塔の中央から突き放す。空中でギーツは軽口を叩きながら、バーニアの出力を上げた。

「よう、ラスボス」

「裂け目には行かせない!」

「俺に勝てる人間はいない…!」

 リバイスはゲノムチェンジをしつつ、塔の中腹に着地、それにギーツも続いた。

『バディアップ!アームストロング!戦いのゴング!鳴らせ!コング!』

 リバイス・コングゲノム。ゴリラの剛健な腕力を加えた拳で、ギガントハンマーに挑む。ギガントハンマーの側面による突くような打撃と、バイスのストレートが激突する。シーカーはそれを横に逸らすと、その間にリバイが地面に拳を振り下ろす。そして衝撃波がシーカーにまで達し、足元を鈍らせる。

 それを受けてギーツはリバイの攻撃に合わせて、レイジングソードで飛びながら斬りかかる。それを半歩ステップしてスレスレで避けるシーカー。アーマーに掴ませたままのギガントソードをギーツに向け、回避行動を取らせて時間を稼いだ。シーカーはギガントハンマーにより壁を建設し、三人の行く手を阻む。

『REVOLVE ON』

 ギーツはリボルブオンによって、ジェットモードからキャノンモードへ。リバイも両手を前に突き出し、両腕のアーマーを射出。ギーツは二連式のキャノン砲からエネルギー弾を放ち、二人の攻撃は壁を粉々に破壊した。壁を通り抜け、シーカーとの戦いがまた始まる。

 コングによる攻撃の手はもう読まれてしまうとリバイは判断、次はライオンへゲノムチェンジ。さらに四つん這いになったバイスをリバイが足で掴みリミックス、リバイスライオンとなりシーカーに噛み付く。

『必殺!チャンピオン!爆音!ライオン!』

 シーカーは尖った牙による噛みつき攻撃を、ギガントハンマーを縦に持つことで何とか防いだ。が、ギーツが防御が手薄になった右側からレイジングソードで斬り上げ、シーカーはギガントハンマーを手放しながらダメージを受けてしまう。それでも悠々と着地し、アーマーに握らせたままだったギガントソードを手に取った。

 ここでリバイスはさらにゲノムチェンジ。咥えたギガントハンマーを離れに放り出すと、今度はマンモスゲノムに変わった。

『バディアップ!巨大なキバ持つ!陸のボス!マンモス!』

 リバイはマンモスガッシャーを一本投擲し、シーカーがギガントソードでそれを弾いたタイミングで、残ったもう一本で斬りかかる。ギガントソードを逆手持ちし、それを防いだシーカーは、リバイに問いかけた。

「やるな…!そこまでして願う世界は何だ…?」

「家族が幸せに暮らせれば、他に願いなんて無い!」

 リバイはギガントソードを抱えこんで抑える。そこでバイスが拳を振り上げてシーカーの守りを破ろうとしたが、アームにガードされ、またしても拮抗した状態になる。

「わっかんないね!それで他人の不幸を願うんなんて!」

「はあっ!」

 ギガントソードとアームを抑えられ、いよいよガードが手薄になったシーカーに、ギーツのレイジングソードによる突きが炸裂する。遂に大きなダメージを受けたシーカーは、後ずさって膝をついた。

「黙れ!戦いには、必ず勝者と敗者がいる。俺が勝った数だけ、不幸になる奴がいる」

 シーカーはギガントソードを杖にして立ち上がり、三人にそれを向けた。

「戦いとは…そういうものだ!」

 そこで、シーカーのギガントソードが弾かれた。後方から、最初にリバイが投擲したマンモスガッシャーが帰ってきたのである。ここぞとばかりにギーツがレイジングソードを上げ迫るが、シーカーは横に転がってギガントハンマーを拾い、斜めにそれを振って三人を退けた。

 あくまで勝利に執着するシーカーに、ギーツは自身の経験談からの教示を述べた。

「フッ…かの劇作家、シェイクスピアも言っていた。"人は泣きながら生まれる。こんな世界に生まれてしまった事が悲しくてな"…って」

 シーカーはギーツの言葉を無視し、攻撃を再開した。バイスのグレイシャシールドをハンマーの薙ぎ払いで振り払い、リバイとギーツは蹴りで吹き飛ばした。

 

 そこで、三人に火炎と電撃の雨が降り注いだ。

 

 この攻撃で三人は絶大なダメージを受け、変身が解かれてしまう。シーカーは後ろを見上げ、不機嫌そうに吐き捨てた。

「余計なマネを…」

 シーカーが建設していた塔の階段から、イザンギとバリデロ。そして、偽ヒロミと偽ツムリが降りてきていた。

「邪魔はさせんぞ…」

「はいっ、残念でした〜!」

 偽ツムリと偽ヒロミは、その体を醜い姿の怪人態に変貌させた。偽ツムリは、ゴスロリのドレスはそのままに、全身が刃物のように尖り、目が歯車の怪人態。偽ヒロミは、英国紳士の様な正装とマントを着用したまま、体のいたるところから蜘蛛の糸が垂れ下がり、表情は蜘蛛の巣に包まれて伺い知れない。

「こいつらは、私達がギフの力の実験体としてデザインした駒。差詰、ネオ・ギフデモスと呼んだ所か…!」

 偽ツムリと偽ヒロミの怪人態をネオ・ギフデモスと呼称したイザンギは、幸四郎の肉体が宿っているネオ・ギフスタンプをちらつかせる。新たに現れた四体は、シーカーの両サイドに並び立つ。シーカーはため息をつくと、アームでイザンギのネオ・ギフスタンプを掠め取った。

「何を!」

「最強は俺だ。力こそが俺の全て…俺が頂点となるのだ!」

「やめろ!」

 倒れたままの一輝の静止も聞かず、シーカーは自身の体にネオ・ギフスタンプを押印。紫のオーラを放ちながら取り込んだ。

「ふんっ…まぁいい。これで終わりだ。下等生物ども」

 バリデロは、倒れた三人を終わらせようと杖を向ける。

 

『頭上に注意してください。』

 

 突如として、辺りに警告音が鳴り響いた。場にいる全員が、警告に従って上を向く。しかし、もう"彼"は迫っていた。

『イニシャライズ!リアライジングホッパー!

A riderkick to the sky turns to take off toward a dream.』

 敵と味方を分断するように、バイクに乗った仮面ライダーが落下してきた。黒いスーツに、黄色い装甲。誰も見たことが無い仮面ライダーに、全員が驚愕する。その中でも、バリデロは臆さずに、謎の仮面ライダーに語り掛けた。

「貴様…何者だ…!」

「俺か?」

 謎の仮面ライダーは、颯爽とバイクから降りると、両手を組んで見せた。

「ゼロワン!それが俺の名だ」

 仮面ライダーゼロワン。そう、彼こそが、超大企業・飛電インテリジェンスの社長、飛電或人が変身した姿であり、紛う事なき英寿達の味方である。ゼロワンはバイクを携帯のサイズに折り畳んで収納すると、間髪入れずに高速移動を開始した。

 最初にバリデロの杖を蹴上げ、流れるような裏拳。退けた後に、並び立っていたシーカー、バリデロ、ネオ・ギフデモスの二人に、それぞれ一発ずつ蹴りと拳をお見舞いし、一気に後退させた。五人は、ゼロワン・リアライジングホッパーの演算速度について行けず、急に与えられたダメージに驚きながらも膝を付く。

 その間に、ゼロワンは変身を解除。倒れた英寿達を立ち上がらせた。

「間に合って良かったよ。宇宙から戻るの、めっちゃ大変だったんだから」

「くそっ…なぜこうも都合良く…!」

 イザンギは、拳を強く握る。

「もう君たちの思い通りにはならないよ」

 塔の中腹に、もう一人現れた男がいた。階段をゆっくりと登り、飛電或人の横に立った神山飛羽真は、倒すべき相手を強く見つめる。

「飛羽真さん、変身は?」

 立ち上がった一輝は、飛羽真に問いかける。飛羽真は一輝を一度見ると、一歩前に出て呟いた。

「ありがとう。俺はもう大丈夫…!」

 地上から、彼の元へやって来た聖剣を、飛羽真は掴む。

 いよいよこれで、役者は揃った。

 バイス、一輝、英寿、或人、飛羽真と並び、四人はドライバーを装着する。

「覚えとけ。俺達は生まれた瞬間から、運命を背負わされている。生きるために戦わなければならない運命をな」

 英寿の言葉を、或人が繋いだ。

「だから俺たちは諦めない。たとえ、どんな強敵が、現れようとも!」

『Jump!Authorize!』

『Brave Dragon!』『レックス!』『SET』

 或人は、ライジングホッパープログライズキーを飛電ゼロワンドライバーに翳して承認を得、キーを展開。飛羽真は、ブレイブドラゴンワンダーライドブックの最初のページを開くと、聖剣ソードライバーの右のスロットに装填。一輝はレックスバイスタンプを起動、リバイスドライバーに押印し、バイスと拳を突き合わせる。そして英寿はマグナムバックルとブーストバックルをデザイアドライバーに装填。狐の形を模した右手を前に向け、一斉に掛け声を言い放った。

「「「「「変身!」」」」」

 或人はプログライズキーをドライバーに装填。飛羽真は火炎剣烈火を抜刀し、それを二回振り、炎の斬撃を形成。一輝はリバイスドライバーに装填したレックスバイスタンプを傾け、英寿はマグナムバックルのリボルバーを回し、トリガーを引いて、ブーストバックルのハンドルを捻った。

『Progrise!飛び上がライズ!ライジングホッパー!

A jump to the sky turns to a rider kick.』

『烈火抜刀!wow…Brave Dragon!烈火、一冊。勇気の龍と、火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!』

『バディアップ!オーイング!ショー二ング!ローリング!ゴーイング!仮面ライダー!リバイ!バイス!リバイス!』

『DUAL ON!GET READY FOR!BOOST & MAGNUM!』

『Ready?』

「お前を止められるのはただ一人、俺だ!」

「物語の結末は、俺が決める!」

「この世界は、俺たちが整える!」

「うっしゃぁ!沸騰してきたぜ!」

「さぁ、ここからが、ハイライトだ!」

『Fight!』

 

           DGPルール

 

   世界を守るためならば、戦士はそこに現れる。

 




次回:ギーツ×リバイス

「こいつら、全員仮面ライダーか…!」

19話 交差Ⅵ:最強の座


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19話 交差Ⅵ:最強の座

 

『Ready?』

「お前を止められるのはただ一人、俺だ!」

「物語の結末は、俺が決める!」

「この世界は、俺たちが整える!」

「うっしゃぁ!沸騰してきたぜ!」

「さぁ、ここからが、ハイライトだ!」

『Fight!』

 集結した五人は、それぞれ武器を構える。

「こいつら、全員仮面ライダーか…!」

 シーカーが拳を握りしめながら呟く。

「お前は破滅の門をとっとと完成させろ。バリデロ!」

「散れぇ!」

 バリデロが杖から放った火炎放射をジャンプして避ける五人。ジャンプで浮遊した瞬間に、イザンギがゼロワンを、バリデロがセイバーを、ネオ・ギフデモスの二人がリバイスに飛び掛かり、シーカーから突き放した。

「俺たちもやるか?」

「俺に勝てるものならなぁ!」

 シーカーがギガントハンマーで階段を建造し、一気に頂上へ登り詰める。ギーツはブーストライカーに乗り込み、階段を駆けながらシーカーを追った。

 

 

 ゼロワンを掴んだイザンギは、塔の一部に建造された天井を突き破る。ゼロワンが蹴りでイザンギの拘束を逃れると、二人はコンクリートが打ちっぱなしにされた広場に着地した。直方体型の広場は、隅々までスポットライトで照らされている。これも、宇宙人の侵略者が後に闘技場として使う場所なのだろう。

「貴様に私の研究の邪魔はさせない!」

 イザンギの両サイドから、大量のギフジュニアとギフテリアン、そしてヘルギフテリアンが湧き出て、ゼロワンを取り囲んだ。

『Blade rise!』

「シャキーン!」

 ゼロワンは手元のアタッシュケースを展開し、アタッシュカリバー・ブレードモードを装備。正面のギフジュニアを一体斬り伏せると、左からのパンチをアタッシュモードに戻しながら防御。

『Charge rise!』

 その姿勢のまま後方のギフジュニアを蹴りで吹き飛ばし、再度ブレードを展開、エネルギーをチャージした。

『Full Charge!』

 黄色いエネルギーを宿した刃を横に振るうと斬撃が放たれ、前方のギフテリアンを何体も爆散させた。その爆炎が晴れると、向こう側で待機していたギフテリアンたちが、ゼロワンを真似るように何度も斬撃を放つ。ゼロワンはそれをジャンプしつつ、体を捻りながら避け、壁を蹴り返すと、ゼロワンドライバーのプログライズキーを押し込んだ。

『Rising impact!』

 バッタの様に足を折りたたみながら二体のギフテリアンに接近、先に右側の首筋に蹴りを命中させ、その反射で左側の胸部にも一発。二体のギフテリアンを一度に撃破した。それでもまだ悪魔の群れは収まらず、ゼロワンを襲う。

「久しぶりに、これ!行っちゃうか!」

『Wing!Authorize!』

 ゼロワンが新たなプログライズキーをドライバーに差し替えると、イザンギが突き破った天井からファルコンのライダモデルが飛翔し、ゼロワンの装甲へと変化した。

『Fly to the sky!フライングファルコン!Spread your wings and prepare for a force.』

 仮面ライダーゼロワン・フライングファルコンにハイブリッドライズし、低空飛行で急接近。ギフジュニアの顔を掴むと、浮いたままギフジュニアを軸に回転しながらの蹴りで次々ギフジュニアを倒してゆく。さらにそのまま空中に飛行、ギフジュニアを地面に叩きつけて周りを巻き込んだ。

「今度はこれだ!」

『Progrise!キリキリバイ!キリキリバイ!バイティングシャーク!Fangs that can chomp through concrete.』

 空中でバインディングシャークにハイブリッドライズ。降下しながら左右のアリミテッドチョッパーで、ギフジュニアを切断。斬りかかるギフテリアンの刃をするりとかわし、腕を広げ、水しぶきが両腕を包み、カッターが何枚も複製される。それを腕を交差しながら振り抜き、残当を一層した。残り三体となったギフテリアンとヘルギフテリアンに対し、ゼロワンは火炎の力を選択する。

『Progrise!Gigant flare!フレイミングタイガー!Explosive power of 100 bombs.』

 ゼロワン・フレイミングタイガー。ギフテリアンの剣戟を真剣白刃取りの様に受け止め、下に抑え込むと、両手のタイガークローの温度が上昇。剣を溶解させる。蹴りで一度距離を取り、必殺技を放つ。

『Flaming impact!』

 右手を円を描くように回し、炎の輪を生成。輪はギフテリアンに接近し、高速回転。炎の球体となってギフテリアンを包み込む。そして、動けなくなったギフテリアンをタイガークローで切断した。

『Progrise!Attention freeze!フリージングベアー!Fierce breath as cold as arctic winds.』

 ゼロワンの鎧が氷結し、フリージングベアーへとハイブリッドライズする。残った二体のヘルギフテリアンの突撃を、両腕で受け止め、そのままパワーで投げ返す。ヘルギフテリアンが転んだ所で、両腕を地面に叩きつけると、氷結の力が壁を伝い天井まで達し、天井から巨大な氷塊が生み出された。

『Freezing impact!』

 氷塊はヘルギフテリアンに落下し、木っ端微塵にして撃破した。

「おのれゼロワン!」

「来たか…!」

 ギフテリアンもヘルギフテリアンも全て撃破され、いよいよイザンギがゼロワンに飛びかかる。イザンギがゼロワンの両肩を掴むが、逆にゼロワンも掴み返し、フリージングベアーの強靭な腕力で拘束を脱した。そして、ゼロワンはハイブリッドライズよりも更に上、ゼロワン自体の力が強化された姿へと変身する。

『The rider kick increases the power by adding to brightness!シャイニングホッパー!When I shine,darkness fades.』

 ゼロワン・シャイニングホッパーに変身すると、特殊な演算処理装置・シャイニングアリスマテリックが起動。空中に数多の行動パターンが表示され、ゼロワンはその内の壁を経由して頭上から攻めるルートを選択。行動パターンの表示を光の速さで駆け抜け、イザンギの頭上にパンチを放つ。

「舐めてもらっては困る!」

 イザンギも腕を高速で移動させて、シャイニングホッパーの動きに対応。ゼロワンはルートを再選択、頭上を抜けて、演算をさらに加速させた。

 

 

 バリデロがセイバーとの戦いの地に選んだのは、塔から突出したヘリポートだった。ヘリポートの中央に着地したセイバーに対して、バリデロは空から悪魔の軍勢をけしかける。

「貴様の力、見せてみろ…!」

「どうかな?」

『火炎剣烈火!』

 空中から降り注ぐギフジュニアを一刀両断。右側にステップしてさらに二体斬り捨てると、地面に落ちてきた悪魔たちを相手取る。ギフテリアンの刺突を火炎剣烈火で受け流し、左足を軸に回転しつしゃがみ込み、振り上げるように刃を動かして、一度に数体を断った。さらに膝立ちの姿勢のまま火炎剣烈火に炎を灯し、ギフテリアンに立ち上がって接近。ギフテリアンの挟み込む様な斬撃を交互に弾き、胴体をZを描くように三度斬り、撃破した。

『必殺読破!烈火抜刀!』

 火炎剣烈火をドライバーに納刀し、再度抜刀。腰を落として火炎剣烈火で十字を描き、炎の斬撃を放った。

『ドラゴン!一冊斬り!』

「火炎十字斬!」

 これを受けたギフテリアンは炎に身を焼かれ、耐えきれずに爆散した。次いで、セイバーは緑色のワンダーライドブックを取り出し、火炎剣烈火を納刀する。

『ジャッ君と土豆の木!』

 ジャッ君と土豆の木ワンダーライドブックを、左側のスロットに装填。火炎剣烈火を、抜刀して左側の装甲に物語の力を込めた。

『烈火抜刀!ドラゴン!ジャックと豆の木!二つの属性を備えし刃が、研ぎ澄まされる!』

 仮面ライダーセイバー・ドラゴンジャッ君。腕のツタを伸ばし、ギフジュニアをぐるぐる巻にして掠め取ると、密集していたギフジュニアの集団に投げつけて、将棋倒しにして倒す。その隣から、ヘルギフテリアンがピンク色の波動弾の発射準備をしているのを目視したセイバーは、地面に向けて土豆を発射。急成長させ、大樹を生み出して防御した。

『King of Arthur!』

 ジャッ君と土豆の木を、キングオブアーサーワンダーライドブックに差し替え、火炎剣烈火を抜刀すると、ジャッ君と土豆の木の力を秘めた装甲が、スカイブルーの英雄の鎧に変化する。

『烈火抜刀!ドラゴン!アーサー王!』

 新たに大剣キングエクスカリバーを装備。刃を巨大化して、大樹を切断。倒れた方向にいたギフジュニアは倒木に巻き込まれ、それから逃れたギフテリアンが、セイバーに刃を向け迫る。

『烈火居合!読後一閃!』『キングスラッシュ!』

 セイバーは必殺ホルダーにセットした火炎剣烈火を抜刀。同時にキングエクスカリバーを振り抜き、すれ違いざまにギフテリアンの最後の一体を撃破した。

『ストームイーグル!』『西遊ジャーニー!』

 キングオブアーサーを西遊ジャーニーワンダーライドブックへ差し替え、中央のスロットにストームイーグルを装填。全身に火炎の鎧を身に纏う。

『烈火抜刀!語り継がれし神獣のその名は!クリムゾンドラゴン!烈火三冊。真紅の剣が悪を貫き、全てを燃やす!』

 セイバー・クリムゾンドラゴン。相性の良い三冊が揃ったワンダーコンボで、二体のヘルギフテリアンに戦いを挑む。背中より紅の翼を生やし、ヘルギフテリアンの頭を飛び越えて、宙返りしながら背中に一閃。着地すると、振り向きざまに竜巻を発し、片方のヘルギフテリアンを空中に吹き飛ばす。そして、左腕の如意棒を伸ばしもう一体と距離を取ると、納刀状態から両足に力を込めた。

『必殺読破!ドラゴン!イーグル!西遊ジャー!三冊撃!』

「轟龍!蹴烈破!」

 正面のヘルギフテリアンに、セイバーは飛び蹴りを放つ。右足の一撃目で防御を崩し、本命の左腕での回し蹴りを空中で叩き込み、ヘルギフテリアンを貫いた。そして、地に降り立つと同時に、火炎剣烈火を抜刀。

『必殺読破!烈火抜刀!ドラゴン!イーグル!西遊ジャー!三冊斬り!』

「爆炎紅蓮斬!」

 地面をスライディングしつつ、落下していたヘルギフテリアンに一閃をお見舞いし、生み出した火球を発射。それに襲われたヘルギフテリアンは、成すすべもなく撃破された。

「中々やるな…私が相手だ…!」

 バリデロはセイバーの前に降り立ち、杖を振りかざす。

「悪いけど、君の遊びに付き合うつもりはない!」

『烈火抜刀!Don`t miss it!Dragonic knight!ドラゴニックナイト!すなわち、ド強い!』

 セイバーは、銀の甲冑に身を包んだ、仮面ライダーセイバー・ドラゴニックナイトに変身。バリデロが杖から放った炎を吸収、左腕の手甲・ドラゴニックブースターにエネルギーとして変換し、逆に火炎放射として撃ち返す。バリデロはその火炎放射を杖を時計回りに回転させて防いだ。

「面白い…!だが、私には勝てぬ!」

 杖の両端に火がつき、セイバーに対して近接戦闘を展開する。セイバーもそれを受け止め、鍔迫り合いの状態となった。

 

 

「あたし、あんたらのこときらーい」

「へんっ!そりゃ俺っちたちも同感だね!」

 背中合わせになったリバイスを、ギフジュニアが囲む。中にはギフテリアンとヘルギフテリアンに加え、ギフテリアンTURUの姿もあった。彼がいるのは、塔のど真ん中。建設中の鉄骨が剥き出しになったそこでは、強く風が吹いていて、上方の鉄骨より二体のネオ・ギフデモスがリバイスを見下ろしていた。

「バイス!先ずはこいつらだ!」「あいよ!」

『オーインバスター50!』『オストデルハンマー!』

 リバイとバイスは、互いに交差する様に振り返ると、ギフジュニアをそれぞれ武器で殴りつけ、塔から叩き落とす。リバイはオーインバスターの斧で一度ギフテリアンの胴体を斬り裂き、上半身を掴んで抑えると、空中に投げ返す。そこでバイスがジャンプしながらオストデルハンマーで強烈な一撃を炸裂。ダメージを受けて吹っ飛んだギフテリアンに、さらに追い打ちをかけようと、二つの武器を合体させる。

『リバイスラッシャー!』

 オストデルハンマーが巨大な刃となり、リバイが完成したリバイスラッシャーを水平に構えると、バイスがローリングバイスタンプをリバイスラッシャーに押印。刃にローラーを回転させ、漆黒の液体をリバイスラッシャーに付与する。

『スタンパー!ローリングリバイバイスラッシュ!』

『ナックルアップ!ローリングライダーパンチ!』

 二人が武器を振り下ろすと、動きの軌跡を辿るように黒い液体が斬撃に変化。ギフテリアンに一直線に命中し、その身を蝕むように撃破した。それでもまだ敵は多く、リバイスは連続ゲノムチェンジで相対する。トップバッターは、海のハンター・メガロドン。

『バディアップ!潜るドンドン!ヨーイドン!ドボン!メガロドン!』

 先行してリバイが地面を泳ぐように滑空し、姿勢が低くなったところを、バイスがサメの牙を発射してギフジュニアを一層し、飛び上がったリバイのディヴァインソードで縦にヘルギフテリアンの両肩にダメージを与えた。リバイスはそこからブラキオにゲノムチェンジ。ヘルギフテリアンに勝負をかける。

『バディアップ!最大!最長!最古で最強!ブラキオ!』

 ギフデモスに肉薄していたリバイは、そのままヘルギフテリアンの首元と左腕を掴み、柔道の背負投げの要領で地面に叩きつける。更に左脚でヘルギフテリアンを蹴り上げ、浮かび上がったヘルギフテリアンを、バイスがその剛腕で一撃。ヘルギフテリアンは時空の歪みに飲まれるが如く撃破された。残るはギフテリアンTRUE一体。リバイスはカマキリゲノムにチェンジする。

『バディアップ!いざ無双斬り!俺が横切り!カマキリ!』

 ギフテリアンTRUEに対し、バイスが酔拳の様な不規則な動きで腹部に連続で正拳突きを叩き込み、怯んだ所を懐にリバイが潜り込む。そしてゼロ距離でカマキリックアローによる射撃を行い、ギフテリアンTRUEを足場の縁ギリギリまで追いやった。そして、ここでリバイスが最後のゲノムチェンジ。ネオバッタゲノムとなり、リバイは左脚に、バイスは右脚にエネルギーを集中させる。

『バディアップ!飛躍を誓った!希望となった!ネオバッタ!』

『ネオバッタ!スタンピングフィニッシュ!』

 二人が足を振る動き合わせて、ピンクとイエローの閃光が走り、蹴りが一直線にギフテリアンTRUEに迫る。二人の回し蹴りは、ギフテリアンTRUEの胴体に命中。塔の外まで追いやり、空中で爆散させた。

「後はお前らだけだ!」

「おおぃ!降りてこいよ!」

 バイスの煽りに、二体のネオ・ギフデモスは、拳を強く握る。

「やっぱりあたし、あいつらきらーい!」

「始末する他ないか…!」

 偽ヒロミのネオ・ギフデモスがリバイスの元に降り立ちながら、手元で蜘蛛の巣を何重にも編み込み、大鎌を形成してリバイに向けて振り回す。偽ツムリのネオ・ギフデモスは、袖から二本のダガーナイフを取り出し、バイスに刃先を向けた。

「一輝!あれ、行っちゃおうぜ!」

「OK!」

『サンダーゲイル!』

 リバイが起動したのは、風車に二対の雷が走る、サンダーゲイルバイスタンプ。風車が回転すると、塔の下から竜巻が起こり、リバイとバイスを包み込んだ。

『Come on!サンダーゲイル GO! Come on!サンダーゲイル GO!』

 リバイがドライバーのサンダーゲイルバイスタンプを倒すと、二人に向かって雷が落ちた。

『サンダーゲイルアップ!一心同体!居心地どうだい?超ヤバいっす!豪雷と嵐でニュースタイル!仮面ライダー!リバイス!』

 リバイとバイスが合体し、仮面ライダーリバイスへと変身。リバイスラッシャーとローリングバイスタンプを装備し、全身から暴風と爆雷を起こしながらダッシュ。二体を翻弄しながらリバイスラッシャーで武器を弾き落とし、ローリングバイスタンプによるパンチを鳩尾に入れ込んで、中央に二体を固めた。そしてリバイスが右手を振り上げると、二体に目掛けて雷が落下した。

 

             *

 

「heyheyhey!令和ライダー…揃い踏み…実に感動的だね!」

 自身の研究室にて、ベリリュンヌを操作しつつ戦いをモニタリングしていた狩崎は、歓喜の声を上げていた。彼の注目の的は、ギーツとリバイスの救出に現れたゼロワンとセイバーの存在である。自他ともに認める仮面ライダーオタクの狩崎にとって、彼らが勢揃いすることは、願ってもないプレゼントだった。

 だが、そのご褒美の様な時間も、研究室の異変と共に終わった。天井を破壊しながら、一体のデッドマンが現れたのである。コマンドデッドマン・ジェットモード。既に全て倒されたかに思われたデッドマンだったが、まだ一体、計画を妨害する存在を排除するべく独自に活動を始めていた。全身が焼け焦げ、墜落した戦闘機のような出で立ちである。コマンドデッドマンは、紅くバーニアを燃やし、鉄パイプを模した殴打武器で狩崎に殴りかかる。

「狙いは私か…!」

 狩崎はジュウガドライバーを装着し、攻撃を避けながらジュウガバイスタンプの起動を試みるが、コマンドデッドマンの猛攻に避けに徹することしかできない。

「変身中に、攻撃するのは、ルール違反、じゃないのかい?」

 研究室の端に追いやられた狩崎。コマンドデッドマンが好機とにやりと笑い、狩崎を鉄パイプで殴打する。

 

「君たちの望みが結実する結末は、1000% ありえない」

 

 直前で、コマンドデッドマンの攻撃はサウザンドジャッカーに弾かれた。狩崎の前に、全身白のスーツに身を包んだ男性が現れる。株式会社ZAIA・サウザー課の天津垓である。

「あなたが何故ここに!」

「ベリリュンヌに使用したシャイニングホッパープログライズキーの複製には、私も協力したものでね。少し様子を見てみれば…これだ」

 天津垓は、プログライズキーの開発に協力した研究者の一人である。狩崎は同じ研究者かつビックネームの登場に、にやけながら並び立つ。

「それじゃあ…とっとと世界を救うとするかい?」

『ジュウガ!』

「えぇ。私にも行かなければならない所がある」

『Zetsumetsu!Evolution!Breakhorn!』

 天津垓はサウザンドライバーにゼツメライズキーを装填。プログライズキーのカバーを展開。ジュウガバイスタンプを装填した狩崎は、腕を十字に組んだ。

『レックス! メガロドン! イーグル! マンモス! プテラ! ライオン! ジャッカル! コング! カマキリ! ブラキオ!』

「「変身!」」

『Perfect rise!When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born!』

『スクランブル!十種の遺伝子!強き志!爆ぜよ!吠えろ!超越せよ!仮面ライダー!ジュウガ!』

 二体のライダモデルが合体し、天津垓の全身に金色の装甲が装着され、狩崎には漆黒の鎧に虹色のエネルギーが注ぎ込まれる。そして、仮面ライダーサウザーと、仮面ライダージュウガはと変身を遂げた。

『Presented by ZAIA!』

『Go over…!』

 二人の仮面ライダーを一目みたコマンドデッドマンは、侵入してきた天井の穴から空へと飛び立った。どうやら不利と判断して仕切り直しを図ろうとしているようだ。すかさずサウザーはサウザンドジャッカーのレバーを引き、内蔵されたプログライズキーの力を開放する。

『JACK RISE!JACKING BREAK!』

 サウザンドジャッカーより、フライングファルコンのライダモデルが召喚され、それに掴まって大空に飛翔。コマンドデッドマンに急速接近する。

「敵前逃亡とは…何とも情けない…!」

『JACK RISE!JACKING BREAK!』

 今度はライトニングホーネットのデータを選択。剣先から黄色の電撃を放ち、それを浴びたコマンドデッドマンは一直線に落下した。その落下地点には、必殺技の構えを取ったジュウガ。

『パワードゲノムエッジ!』

 右腕にはゴリラの腕、左腕にはブラキオの頭部のエフェクトが形成された両腕を振り抜き、直撃したコマンドデッドマンはビルの壁に叩き付けられる。さらにジュウガは再度ジュウガドライバーを操作。レックスの頭蓋骨のエネルギー弾を放った。

『インパルスゲノムエッジ!』

 頭蓋骨による噛み砕き攻撃をくらったコマンドデッドマンは、翼をへし折られ、高機能の飛行能力を失う。サウザーも着地してジュウガに追い付いた。

「それでは、終わりと行きましょうか?」

「賛成だね」

『THOUSAND DESTRUCTION!』

『アメイジングフィニッシュ!』

 二人のライダーが、壁際のコマンドデッドマン目掛けて飛び蹴りを放つ。コマンドデッドマンは最後の抵抗で、太腿に収納されていた二連のキャノン砲を肩に移動させ、緑色のレーザービームを発射。二人のキックとレーザーは数秒拮抗するも、それでも二人のライダーが打ち勝ち、コマンドデッドマンは壁を貫きながら爆散した。

「ア、メイジングな戦いだったね」

 ジュウガの興味は、再び塔へと移る。

 

             *

 

『Warning warning. This is a not test.ハイブリッドライズ!シャイニング!アサルトホッパー!No chance of surviving this shot.』

 シャイニングホッパープログライズキーに、アサルトグリップが追加装備され、シャイニングアサルトホッパーへと進化する。本来ならば衛星ゼアとアークがそれぞれ稼働していなければ再現できない姿であるが、天津垓の尽力によってゼア単体で力を引き出せるように最適化されている。ゼロワン・シャイニングアサルトホッパーは、専用機能のシャインシステムを起動。八つの結晶・シャインクリスタを展開回転させて、イザンギの電撃による波動弾を防御する。

「何っ!」

 オーソライズバスター・アックスモードを装備。シャイニングホッパーから引き継いだ演算能力で、イザンギの次の攻撃を予測。黄色と青の稲妻と共にダッシュ、オーソライズバスターで薙ぎ払って防御を崩し、ブレイキングマンモスプログライズキーを装填する。

『Progrise key confirmed. Ready for buster!Buster Bomber!』

 オーソライズバスターを振り下ろすと、オーソライズバスターよりブレイキングマンモスのライダモデルである牙が具現化。イザンギを突いて吹き飛ばす。

『Everybody!Jump!Authorize!』

 メタルクラスタホッパープログライズキーをドライバーで認証すると、銀色のバッタ・クラスターセルがゼロワンを包む。

『Progrise!Metal rise!Secret material! Hiden metal!メタルクラスタホッパー!It's High Quality.』

 仮面ライダーゼロワンは、銀色の鎧の重装備形態・メタルクラスタホッパーに変身。アタッシュカリバーに加え、プログライズホッパーブレードを装備。二刀流でイザンギを迎え討つ。アタッシュカリバーの刺突が受け流されるも、もう片方のプログライズホッパーブレードで斬り上げ、反撃の隙を与えない。そこからイザンギの裏拳を回転しつつしゃがみ込んで回避。背中を見せたまま二つの武器を合体、ナギナタのような形状に変え、振り向きながら二度横に斬り付ける。さらに、胸部のアーマーを一部クラスターセルに変換、イザンギの胴体に突撃させ、さらに後退させた。

「なぜだ…なぜ下等生物ごときが私を超えられる…!?」

「教えてやるよ。人の夢は、どんな限界も超えられるって!」

『ZERO TWO DRIVER!』

 ゼロワンドライバーをゼロツードライバーに付け替えたゼロワンは、ユニットを開いて認証を得、ゼロツープログライズキーを展開する

『Let’s give you power!Let’s give you power!』

 ゼロツープログライズキーを装填すると、ゼロワンの銀の装甲が従来のゼロワンに近い黒とイエローのスーツへと変わり、首元に02を模したマフラーが装着される。

『ZERO TWO RISE!Road to glory has to lead to growin'path to change one to two!仮面ライダーゼロツー!It's never over!』

 ゼロワンを超えた最強の姿、仮面ライダーゼロツーへ変身。イザンギの苦し紛れの電撃による弾幕の中を、ゼロツーは避けること無く歩いて進む。しかし、電撃は一度もゼロツーに命中することは無かった。これこそが、ゼロツー最大にして最強の能力、超高機能の行動予測能力により、イザンギの攻撃を一瞬にして分析。二兆通りある予測から最適解を導き出し、必要最低限の動きで全ての技を回避しいるのである。これを即座に理解したイザンギは、逆に接近して、ゼロツーの腹部に触れると、電撃の波動をゼロ距離で発射する。

「避けられまい!」

「その結末は予測済みだ!」

 イザンギの手の先に、既にゼロツーはいなかった。今イザンギが見ていたのも、ゼロツーの予測によって現れた一つの行動パターンに過ぎない。次にゼロツーは背後に現れ、絶大な威力を誇るパンチで、イザンギを壁にめり込ませた。

「俺たちの夢は、こんな所で終わらない!」

『ZERO TWO BIG BANG!』

「そんな…私がぁ!」

 ゼロツーの必殺のキックは、イザンギの胸部に炸裂。その威力は、壁に大きく02の文字を浮かび上がらせ、イザンギは成すすべもない。ゼロツーは華麗に着地すると、闘技場全体が爆発。イザンギもその業火に焼かれて消滅した。

 

 

『烈火抜刀!愛情のドラゴン!友情のドラゴン!誇り高きドラゴン!Emotional!Dragon!神獣合併!感情が溢れ出す────!』

 仮面ライダーセイバー・エモーショナルドラゴンは、聖なる盾でバリデロの杖を防御し、火炎剣烈火で胴体に重い一撃を喰らわせる。さらに、身に纏った三体のドラゴンを召喚。一斉にバリデロに噛み付かせて、自身も更に火炎剣烈火で斬り上げた。

「もっと見せてみろ!」

 ジャンプでセイバーから距離を取ったバリデロは、杖を地面に突き立て、地割れを起こし、そこを伝った炎をセイバーへと浴びせる。しかし、セイバーはさらなる形態へ既に進化していた。

『烈火抜刀!シェイクハンズ!エレメンタル!ドラゴン!』

 仮面ライダーセイバー・エレメンタルドラゴンは、その身を炎と化し、攻撃を回避。元の姿に戻ると同時に、火炎剣烈火でバリデロの杖を真っ二つに斬り落とした。それでもバリデロは折れた杖で殴りかかるが、今度は水に変化して回避。風の力を纏って現れ、空を飛びながら接近。すれ違いざまに杖を弾き落とした。

「何だと…この私より強い存在が、あっていいはずがない!」

「人の物語に、主人公も脇役もない。誰もが主人公なんだ。それの物語を君が終わらせようと言うのなら、俺が君を止める!」

 セイバーが火炎剣烈火を空に掲げると、曇天が晴れ、そこから太陽の光が降り注ぐ。火炎剣烈火と太陽が重なった時、天より、全ての力を束ねし聖剣が舞い降りた。セイバーは刃王剣十聖刃を掴むと、それを聖剣ソードライバーに納刀する。そして、ブレイブドラゴンワンダーライドブックを装填し、十聖刃を抜刀した。

『聖刃!抜刀!』

 彼の周りを十本の聖剣を包み、宇宙の力が宿る。

『刃王剣クロスセイバー!創世の十字!煌めく星たちの奇跡とともに!気高き力よ勇気の炎!クロスセイバー!クロスセイバー!クロスセイバー!交わる十本の剣!』

 仮面ライダーセイバーは、真の剣士としての姿、仮面ライダークロスセイバーに変身した。クロスセイバーは、聖剣のエンブレムを動かし、聖剣の力を発動する。

『錫音既読!界時既読!錫音!界時!クロス斬り!』

 音銃剣錫音と、時国剣界時が召喚。両手持ちし、錫音の銃モードでバリデロを牽制すると、時国剣の能力を発動。界時抹消の力で、別の時間軸に潜行し、バリデロの後ろ側に回り込み、浮上。三股の槍の一撃でバリデロを突き飛ばした。トドメを刺さんとするクロスセイバーの元に、二つのワンダーライドブックが飛んで来て、クロスセイバーはそれをキャッチした。

「倫太郎!賢人!一緒に戦おう!」

『ライオン戦記!』『ランプ・ド・アランジーナ!』

 クロスセイバーの手元にあったのは、仲間が最も愛用していた、二つのワンダーライドブックだった。クロスセイバーはドライバーにワンダーライドブックを装填し、十聖刃を抜刀する。

『聖刃抜刀!ドラ!ドラゴン!ライオン!戦記!アー!アランジーナ!絆が導く勝利の約束!合併出版!フィーチャリングセイバー!三冊特装版!』

 仮面ライダーフューチャリングセイバーは、三人の友情により完成する形態。改めて十聖刃を納刀し、必殺の構えを取る。

『刃王必殺読破!刃王三冊撃!セーーーセイバー!』

「銀河友情蹴烈破!」

 フューチャリングセイバーが空より放ったキックは、三人のライダーの幻影を生み出し、その幻影が先行する。仮面ライダーエスパーダ・ゴールデンアランジーナの蹴りが雷とともに命中し、仮面ライダーブレイズ・氷獣戦記の蹴りが氷の力を宿して炸裂。仮面ライダークロスセイバーの必殺キックが胸部を貫くとともに、仮面ライダーフューチャリングセイバーのキックがバリデロの胴体を貫通。

 バリデロを撃破した。

 

 

『バリバリィアップ!My name is!仮面ライダー!リバ!バ!バ!バイ!リバイ!リバイ!リバ!バ!バ!バイ!リバイ!』

 バリッドレックスバイスタンプの力により、リバイスは元の二人に分裂する。仮面ライダーリバイは、レックスゲノムが氷結の力によって強化された、バリッドレックスゲノムへ。バイスは姿こそレックスゲノムそのままだが、バリッドシールドを装備し、準備は万端。

「死に晒しなさい!」

 偽ツムリのネオ・ギフデモスが、何本もダガーナイフを投げつけてくる。リバイは両手を前に突き出して、吹雪の渦巻きを放射、吹雪は直ぐ様氷となって具現化し、ダガーナイフは空中で止まる。

 リバイの背後から、腕に糸を巻き付け、剛腕へと変化せた偽ヒロミのネオ・ギフデモスのパンチが迫る。今度はバイスがバリッドシールドでガードし、振り向いたリバイのキックで逆に吹き飛ばされた。

『ボルケーノ!コンバイン!』

 リバイは、バリッドレックスバイスタンプに、ボルケーノバイスタンプを合体。リバイに卵が降り注ぐ。そして、その卵の中でリバイは灼熱に包まれ、さらなる姿へと変身した。

『バーストアップ!オニアツーイ!バリヤバーイ!ゴンスゴーイ!パネェツヨイ!リバイス!We are!リバイス!』

 卵が砕け、その殻がバイスと合体すると、彼の身に極寒の属性を宿した。仮面ライダーリバイス・ボルケーノレックスゲノム。炎と氷、二つの力を宿したリバイとバイス、二人の完璧なコンビネーションによって完成する形態である。二人は別方向に走り出し、リバイは偽ヒロミを、バイスは偽ツムリを相手取る。激熱のパンチは、蜘蛛の糸をチリ一つ残さず焼却し、絶対零度のパンチは、ダガーナイフをへし折った。二人の動きは完璧にシンクロ。蹴りによって、二体のネオ・ギフデモスを一箇所に集めると、二人はそれぞれの属性の刃を生み出し、二体を滅多斬りにした。

「一輝!決めようぜ!」「あぁ!一緒にな!」

『『ギファードレックス!!』』

 バイスもリバイスドライバーを装着し、二人は二つでひとつのギファードレックスバイスタンプを起動、ドライバーに押印する。

『『ビッグバン!Come on!ギファードレックス!』』

「「変身!」」

『『アルティメットアップ!』』

 二人の体は一度レックスゲノムに戻り、その上から最強の鎧が装着される。

『『あふれ出す熱き情熱!Overflowing Hot passion!一体全体!表裏一体!宇宙の力は無限大!仮面ライダー!リバイ!バイス!Let's go!Come on!ギファー!ギファー!ギファードレックス!』』

 仮面ライダーアルティメットリバイ、アルティメットバイス。二人は両手を振り上げると、その間に磁力線が生じ、二体のネオ・ギフデモスは空中に持ち上げられる。

「自由と平和を一つに!」「俺たちが通るぜぇ!」

 

「「邪魔すんじゃねぇぞ!」」

 

『『リバイ!バイス!ギファードフィニッシュ』』

 二人は天高くジャンプし、アルティメットリバイは偽ヒロミへ、アルティメットバイスは偽ツムリへ必殺キックを放つ。二人は交差するように二体を貫くと、地面に着地してカウントダウンを始めた。

「行くぜ!3!」「2!」「「1!」」

「「0!」」

 そして、0のカウントダウンと共に、二体のネオ・ギフデモスは爆散した。

「決まったぜぇ!」

「バイス、まだだ。シーカーを追うぞ!」

「OK!」

 二人は戦闘後の爽快感もそのままに、リバイがプテラバイスタンプをバイスに押印。バイスをエアバイク型のプテラゲノムに変身させ、それに乗り込んだアルティメットリバイは、破滅の門を目指した。

 

           DGPルール

 

        そこに大切な人がいる限り、

 

       仮面ライダーが諦めることはない。




次回:ギーツ×リバイス

「ありがとう、奏斗」

20話 交差F:Change my future.


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20話 交差F:Change my future.

 

 ギガントソードにより塔の建設を押し進めるシーカーに、ブーストライカーが突撃する。シーカーは咄嗟に壁を組み上げ、攻撃に備える。壁に命中する直前、ギーツはブーストライカーをキツネモードに切り替え、自身はそれを足場に壁を飛び越える。シーカーの頭上に回り込み、身体を捻りながらマグナムシューターで連続射撃。これをシーカーはアームに装備したギガントソードで防御したが、反対側に着地したギーツの蹴りを喰らい、壁際に追いやられる。そこでキツネモードのブーストライカーが壁を突き破り現れ、尻尾を模したマフラーによる薙ぎ払いでギガントソードを弾かれた。

『MAGNUM TACTICAL BLAST!』

 さらに至近距離からマグナムシューターの必殺の銃弾が命中。シーカーは無理やり塔から突き落とされる。しかし直ぐ様地面を建設し、無傷で着地。弾かれたギガントソードをアームに拾わせた。

「追いついたぞ!」「待てぇ!コノヤロー!」

 塔の外部から、バイスのプテラゲノムに搭乗したアルティメットリバイが追い付き、着地と共にシーカーに殴りかかる。ギーツもそれに参戦し、足首のマフラーに火を吹かせて後頭部に蹴りを放つ。

「何度来ようが、結果は変わらない!」

 シーカーはギガントコンテナから最後の小型バックルをパワードビルダーバックルに装填。レバーを引いてギガントブラスターを両手に持った。これにより、ギガントハンマーはもう一つのアームへと移る。

『ALL MIGHT!GIGANT BLASTER!GIGANT ALMIGHTY!』

 ギーツの蹴りをギガントソードで受け流し、アルティメットリバイのパンチはギガントハンマーで受け止めた後、ギガントブラスターによる射撃で迎撃。ジャンプで一度距離を取ると、迫りくるギーツの銃撃を、ギガントハンマーで壁を建設し防御。壁を組み直して小窓を作り、そこからギガントブラスターで射撃してギーツを退けた。続けざまに、アルティメットリバイが裏拳で壁を破壊するも、そこにシーカーの姿は無かった。即座に二枚の壁が出現、アルティメットリバイの前をスライドすると、そこからシーカーが現れ、ギガントソードの奇襲でアルティメットリバイを斬り伏せた。そして、シーカーは高台を建設。そこで三種の武器にエネルギーを込める。

「俺の…邪魔をするなぁ!」

『GIGANT FINISHER!』

 ギガントブラスターの周囲に鉄骨などの建材が集められ、エネルギー弾と共に二人に向けて放たれる。最初は腕を組んで防御した二人だったが、ギガントソードの斬撃、ギガントハンマーの衝撃波と必殺技が続き、遂に地に伏した。

「一輝!英寿!」

 再度ギファードレックスバイスタンプによって、アルティメットバイスに戻ったバイスは、二人を介抱する。その間に、シーカーは塔の頂点の建設を追え、いよいよ破滅の門の建設に着手した、

 ギガントハンマーを叩き付け、空の裂け目に巨大な門が組み上がる。それが、少し開くと、向こう側から眩いほどの光が差し込んだ。宇宙中の侵略者が、今にも地球に現れんとしている。

 だが、彼らの戦いは終わっていない。

「させるか!」

 アルティメットリバイが塔の頂点に登り詰め、決死の特攻を行う。ギガントソードで斬り付け、ギガントハンマーに殴られながらも、シーカーの懐に潜り込み、ギガントブラスターを掴んだ。シーカーはアームのギガントソードで返り討ちにしようとするが、それも右手でガードし、ギリギリと火花が走った。

「デザ神となるのは、俺だ!俺にはその力がある!」

 シーカーはギガントハンマーをアルティメットリバイに振り下ろすも、直前でそれは遥か彼方に弾き返された。ギーツの狙撃によるものである。

「力に溺れたやつに、勝利の女神は微笑まない」

「何を…!」

「でぇえい!」

 アルティメットバイスが飛びかかり、ギガントソードをアッパーで吹き飛ばす。装備を失っていったシーカーは次第に防戦一方となり、遂に最後の装備をアルティメットリバイにもぎ取られ、アルティメットリバイスの同時蹴りをモロにくらってしまった。

「お前の力は、ギフの力でドーピングした偽物だ!」

「そんなもん、ぜーんぜん怖くないね!」

「本当の強さは、理想の世界を叶えたいという意志の強さだ」

 シーカーは「何が言いたい?」と首を振る。

「お前にその、意思があるか?」

「黙れぇ!」

 英寿の言葉に、錯乱を抑えられなくなったシーカーは、頭を強く掻いた。好機を確信したギーツは、アルティメットリバイスに顎で促す。

「今だ、リバイス!」

「あぁ!幸四郎を取り戻す!」「行くぜぇ!」

『『リバイ!バイス!ギファードフィニッシュ!』』

 アルティメットリバイスは動きをシンクロさせ、シーカーに向けて飛び蹴りの構えを取ると、二人の並行に並んだ足先から磁力が生まれ、二人は反発と引き合う力の連鎖で加速。シーカーにガードの暇すら与えず、ダブルライダーキックでシーカー共に破滅の門を貫いた。ここで、リバイスのキックによる、悪魔と人間の分離効果が発動。シーカーの体内から、幸四郎の肉体が宿ったネオ・ギフバイスタンプが離れる。アルティメットリバイは、空中でそれを掴み。抱きかかえるように持つと、ネオ・ギフバイスタンプからも、幸四郎が分離。残されたギフバイスタンプは、空中で破裂した。

「ナイス一輝!」「いっけぇ!ギーツ!」

 幸四郎の分離を確認したギーツは、ゆっくりとシーカーに歩みを進め、右手を鳴らす。そして、マグナムバックルのシリンダーを回した後トリガーを引き、ブーストバックルのハンドルを回して炎を吹かす。ギーツ最大火力の必殺技が発動準備に入った。

「さぁ、ハイライトだ」

『BOOST TIME!』

 彼がマフラーから炎を出しながら高くジャンプすると、塔の頂点にブーストライカー・キツネモードが現れ、空中でギーツをキャッチ。全身が炎を纏い。さらに加速する。

『MAGNUM!BOOST!GRAND VICTORY!』

 ギーツはブーストライカーを飛び降り、位置エネルギーを利用して加速を続け、彼の足先からギーツのクレストが生じる。シーカーは真正面からそのライダーキックを受け止めるも、威力にガードしきれずに、地面を貫いて落ちてゆく。ギーツのキックはシーカーを巻き込みながら塔を突き抜け、真っ二つに破壊すると共にスタジアムの外へ着地した。リバイスもギーツの元に着地すると、塔は木っ端微塵に爆発し、破滅の門は砕け、空の裂け目も完全に閉じられた。

「ミッションコンプリートです!」

 ツムリの宣言と共に、空の裂け目があった位置に『Mission Complete!』と虹色の文字が浮かび、祝福の花火が反発も上がった。

 空の裂け目が閉じるのを見届け、変身を解除する三人。彼らの視線の先には、戦いに敗れ地面に倒れた轟戒真の姿が。幸四郎を抱え、彼に歩み寄った一輝は、優しく声をかけた。

「その力、もっと他に使い道があるはずだろ」

 父の駒となり、自分の意志を失った戒真。一輝の言葉を彼はどう思ったのだろうか。戒真は答えない。対照的に、英寿は激励の言葉を彼に贈った。

「戦うなら、自分の理想の世界を見つけろ。その時また、デザイアグランプリで相手になってやるよ」

 二人の言葉を受けて戒真は、空を見上げた。

「俺の…理想の世界か…」

『RETIRE』

 そう言い残し、脱落により消えてゆく彼の顔は、どこが清々しさを残し…彼の再起を思わせるのだった。戒真の脱落を見届けたバイスは、しゃがんで幸四郎の顔を覗き込む。

「ふぅ…幸四郎、無事で良かったな!」

「あぁ!俺たちの、可愛い末っ子だぜ」

 バイスが幸四郎の頭を撫でていると、ツムリがやって来て、三人に頭を下げた。彼女の表情もまた、純粋な笑顔である。

「お疲れ様でした!ラスボスは、浮世英寿様、五十嵐一輝様によって撃破されました。飛び入り参加の、飛電或人様、神山飛羽真様にも、デザ神となる権利があるのですが…もう行ってしまわれたようですね」

 ツムリは二人にデザイアカードと羽根ペンを差し出す。

「ただし、デザ神となれるのはお一人だけです」

「えぇ!俺っちは!?」

 自分だけハブられている事に、困惑するバイス。ツムリはそれに対しても、笑顔で対応した。

「残念ですが、悪魔は対象外です!」

「ハハン!そうですよねぇ〜!って、ちょっとおかしく無い!?」

 駆け寄るバイスを他所に、ツムリは二人のデザ神候補に歩み寄る。

「どうぞ、願いをご記入ください」

「被害にあった世界は、元通りになるんですよね?」

「はいっ!それが、デザイアグランプリのルールなので」

 ツムリの返答を受け止めた一輝は、一度幸四郎を見ると、英寿に顔を向ける。家族の幸せこそが、彼の幸せ。

「なら、他に願うことなんて無いよ」

「ええっ!ちょっと、勿体無いってぇ〜!お節介キャラやめちゃったの、もう、こうなんか、捻り出せよ〜!」

 バイスは悪魔らしく、細々とした願いを一輝に吹聴したが、そんな事に世界を作り変える権利を利用していいのだろうか。もちろん一輝は聞く耳を持たず、英寿に譲るつもりだ。

「じゃ、遠慮なく」

 英寿は淡白な反応を返して、デザイアカードに願いを書き込んだ。

「何願ったんだ?」

「秘密だよ」

 英寿の秘密主義に、一輝は少し残念そうにするが、直ぐに元の調子になって、笑顔を見せた。

「承りました。では、参りましょう。理想の世界へ!」

 ツムリが天にデザイアカードを掲げると、神秘的な鐘の音が響き、赤い壁の消滅と共に、世界の崩壊はリセットされた。

 

             *

 

「おかえり〜!」

 五十嵐元太が、景気よくクラッカーを鳴らす。しあわせ湯では、幸四郎の帰還を記念した祝賀会が、五十嵐家とブルーバードの一同によって行われていた。五十嵐の末っ子を、家族全員で愛でている。もう二度と、危険な戦いに巻き込まれないように。特に幸四郎を可愛がっていたのは、この悪魔である。

「まったくもう可愛なぁ〜よちよち!」

 バイスである。今まで一緒にいれなかった時間を埋めるように、精一杯幸四郎の世話を焼いていた。そんなバイスの元に、さくらと大二から分離した悪魔の二人が、ニヤついた笑みで寄ってくる。

「幸四郎、アタイのライバル!」

「オイオイ〜俺様の弟分に手ェ出すなよバイス。これからみっちりと悪魔の美学って奴をだなァ…」

「ねぇ!ちょっとヤメて!幸四郎は健全な子に育てるんだからっ!」

 まるで姑のような口調でバイスは二人を追い払う。祝賀会では、誰もが笑顔だった。でも少し、一輝の顔には憂いが残っていて…

 

 

「なぁ一輝、俺っちがいなくても、幸せだったか…?」

 祝賀会を抜け出した一輝とバイスは、鯉の池が見える、しあわせ湯の休憩所に来ていた。バイスの問いかけに、椅子に座った一輝は俯きながら答えた。

「…幸せだったよ」

「そっか…」

 バイスが何かを言う前に、一輝はバイスの顔をはっきりと見た。

「でも、最高ではなかった…」

「一輝…」

 バイスの身体が、青い光となって消滅し始めた。バイスは自身のデザイアドライバーを握りしめる。既に、彼専用のIDコアも消えていた。

「…また、俺のそばからいなくなっちゃうのか?」

 一輝の言葉に、バイスは重い空気を払う様に明るく振る舞う。

「その方がいいって!また家族の悲しむ顔、見たくないだろ?」

「…お前の悲しむ顔も見たくない」

「何だよそれ…」

 一輝にとって、悪魔は紛れもない家族なのだ。それが消えるとなっては、心が弾む筈もない。彼は深く息を吐いて、短く過酷であっても、再び家族を感じれた、この戦いを思い出す。

「でも、楽しかったなぁ…また一緒に、戦えて」

「…だな!俺っちたちは、いつも最高だ!」

 バイスは、一輝の感情を受け止めて、掌を彼に向ける。一輝は、思いっきり笑うと、彼の掌に拳を重ねた。別れの決意ではなく、再会を誓って。バイスがそれを握り返す。

「じゃあな…!」

 そう言い残して、バイスは消えた。デザイアドライバーだけが、しあわせ湯の床を跳ねる。一輝はそれを拾い上げて、また呟いた。

「またな…バイス…!」

 二人の最後のやり取りを見届けた大二とさくらは、彼がバイスを覚えていることに驚いて、彼の元へ近寄る。本来ならば、バイスの消滅に伴って、一輝の記憶も消えるはずだったのだが。

「兄ちゃん…バイスのこと、覚えてるのか?」

 一輝は、バイスを忘れていない事実を理解し、思わず笑みを溢す。

「忘れるわけ無いだろ。バイスは、俺たちの家族なんだから!」

 彼は、ニッと家族に笑ってみせた。

 そう、浮世英寿が叶えた世界とは…

 

 

 祝賀会を終えて、一輝は英寿と会う約束をしていた。

 彼が英寿を呼び出したのは、市民の味方・回転寿司屋。黄色い皿を重ねた一輝は、レーンに流れてきた天ぷら寿司を発見する。それは最高値の黒の皿だったが、一皿くらいなら平気だろう。

「うおっ、英寿!めっちゃ美味そう!」

「おぉ、美味そうだな」

 二人は二皿並んで流れてきた天ぷら寿司をそれぞれ取る。店内には清涼感のある音楽が流れ、所々の席から、注文の品の到着を伝えるアナウンスが響いていた。一輝は天ぷら寿司につけようとした箸を止めて、シートに置いたトートバックに手を伸ばした。

「そうだそうだ、ありがとな。これは返すよ」

 一輝が差し出したのは、バイスと共に使用した、二つのデザイアドライバーだった。英寿はスマートフォンを机に置くと、あたりを見渡しながらそれを受け取る。

「俺の理想の世界が叶って何よりだな」

 一輝とは対照的に、黒と赤の高級皿を重ねた英寿は、再びスマートフォンでニュースサイトを開く。一輝がバイスを忘れずに、また英寿との約束も忘れなかった理由。それは、英寿がデザイアカードに願った世界。"五十嵐一輝が戦いの記憶を忘れない世界"の効果によるものだ。私欲に飲まれず、家族を、仲間を愛し、世界を守りきった男の姿に、英寿も心打たれたのだろう。当の一輝は、そんな自覚もなく、興味があるのは英寿のスマートフォンの中身のようだ。

「何見てるんだよ?」

「轟戒真の父親が逮捕されたそうだ」

 英寿が見せたニュースサイトには、『轟栄一議員を逮捕 公職選挙法違反の疑い』と記され、警察車両に連行される轟栄一の姿が載せられていた。逮捕の決め手は、いわゆる票集めの賄賂の発覚。デザイアグランプリで轟戒真に願いを叶えさせ続けていたら、彼が逮捕されることは無かっただろうか。しかし、轟戒真は自分自身の理想の世界を見つける意志を芽生えさせた。いつまでも、父親の操り人形ではいられなかったはずだ。遅かれ速かれ、轟栄一は逮捕される。因果応報と言うべきか、一輝は言葉に詰まったが、直ぐに持ち直して、天ぷら寿司に箸を伸ばした。

「そっか…食べようぜ!」

「ああ」

 英寿もスマートフォンを置いて、天ぷら寿司を口にする。一輝は普段の生活では味わえない、シャリと天ぷらの組み合わせに、思わず口を押さえる。

「うっひょ〜!無限に食べられるな!」

「デザイアカードで叶える手もあるな。毎日美味い寿司が食べられる世界って」

「いいなぁ、その世界!」

 勢い余って、二貫目を食い終えた一輝は、祝賀会の最中にずっと気になっていた疑問を、英寿に投げかけた。

「そういえば…!父ちゃんが、英寿と前に会ったことがあるって。アズマの事件の時、助けてくれたんだよな。どうしてそこに?」

「そんなこともあったなぁ…昔の友人がいたもんでな、楽しそうだから、化けて出てやったんだよ」

 英寿は飄々と一輝の問いかけをかわし、指でキツネを作る。一輝は英寿の"昔の友人"という発言を、事件に巻き込まれた乗客の誰かだと解釈し、次の皿を物色し始めた。その言葉の本当の意味が"古代から生きていた男・アズマと知り合いである"とも知らずに。

 

             *

 

 戦いを終え、塔から脱出した或人。とりあえず飛電インテリジェンスに帰還しようと、自然に溢れたビル街を歩き始める。

「きっとみんな驚くぞ〜!」

 或人は仲間の笑顔を思い浮かべながら、赤信号で立ち止まる。すると突然、或人の前で七人乗で水色の車が急停止した。

「っおい!」

 運転席と助手席のドアが開き、助手席から秘書のイズが、運転席から副社長の福添准が降りてきた。イズは丁寧に両手を組むと、ヒューマギアの目を模した高性能のカメラで或人の顔をスキャンする。

「本人と100%一致。おかえりなさい、或人社長」

「待ってましたよ。随分と荒い帰還ですなぁ…」

「ははっ。バレてたか」

 或人は、ニカッと笑って、イズの肩に手を置いた。

「イズ、みんな。ただいま」

「それだけではありませんよ。君がいない間に、状況もかなり好転した」

 逆側の道から、天津垓も歩いてやって来る。

「君に会いたい人が、大勢飛電インテリジェンスで待っている」

「わかった…!それじゃあ、行こうか…!」

 或人は、仲間の待つ帰る場所へ。最高の夢を思い浮かべながら。

 

 

 公園のベンチで、そよ風を感じた飛羽真は、文庫本を閉じて大きく伸びをした。

「う〜ん。今日も世界は平和だ」

「飛羽真、ソフィアが相当怒ってたぞ」

「賢人もですよ。ワンダーライドブックが飛んでった〜って、困ってたそうです」

 彼の座るベンチに、倫太郎とユーリが寄ってきた。飛羽真は、笑いながら立ち上がる。

「ごめんごめん。それじゃあ帰ろうか。"俺たちの物語へ"!」

 セイバーの物語は、これからも続いてゆく。

 

             *

 

 今回のデザイアロワイヤルは特に大変だった。英寿たちの方では、シーカーだ、宇宙の侵略者だの、大変な奴らと戦わされたらしい。まぁ今回のMVPは俺かな、と自画自賛してみたり。だってゲームマスターと戦ったんだ。相当ギリギリの戦いだったし、新しいバックルだって使いこなした。そこそこの活躍はした、と思う。

「ここか」

 まさか最初に謎の甲冑を着せられたコスプレ喫茶が実在したとは。雑居ビルの前で立ち止まった俺は、壁に刻印された看板を確認にすると、四階にはメイド喫茶や居酒屋等の名と共に、コスプレ喫茶・QUESTAREAと印されていた。今日は、デザイアグランプリの参加メンバーで集まる日だった。

 そういえば、コラスが利用した俺の願い・デザイアグランプリの存在しない世界はどうなったのだろう。やっぱりあのニラムとか言うプロデューサーがビジョンドライバーを使った時に、リセットされたのか。いや、だったらバッファが最終戦な参加してるのはおかしいか。どちらにせよ、もう一日も経ったんだし、無かったことにされてるだろう。

 でも少し、惜しかった気もある。曲がりなりにも、あそこは俺が願った世界だった。道長がいたんだし、きっとあいつも…

「ないな、それ」

 コラスのやったことに感謝するなんて、絶対にない。鵜飼玲は、俺の彼女は死んだ。失ったものは二度と戻らないし、取り戻そうとすると、痛いしっぺ返しを受ける。だから、これで良かったんだ。

「ありがとう、奏斗」

「は…?」

 俺は聞き慣れているはずなのに、どこか懐かしい声に振り返った。そこには、あの日、俺に告白をした姿のままの鵜飼玲がいた。なんで…あいつがここに…いや、まだ願いが有効のままだったんだ……駄目だ。言葉が出ない。玲が消えて、荒んでしまった現状を、あいつが知ったら幻滅するだろう。せっかくまた会えたのに…こんなんじゃ……玲に向ける顔がない。俺はただ、地面を眺めることしかできなかった。

「ごめん、俺……バスケも、半田も、捨てちまった……本当に…ごめん…」

 それ以上、言葉が出てこない。俺はただ、声を震わせながら玲に謝ることしかできなかった。玲は、俺を救ってくれた。またバスケが好きだって、思わせてくれた。それなのに俺は…

「だいじょうぶだよ」

 ふわりと、玲が俺にハグしてきた。突然の出来事に、頭が空っぽになる。玲は俺をめいっぱいの力で抱き締めて、耳元で優しく囁いた。

「奏斗が変わっちゃったのも、全部私のせいだから」

 俺の肩に、ぽとりと雫が落ちた。直ぐに、玲の流したものだとわかる。

「謝るのは…わたしの方なんだ。だから奏斗は……わたしの事なんか忘れてよ。きっと…そっちのほうが幸せ…だから」

 俺は、玲の頭にそっと触れた。

「そんなこと言うなよ…いつかきっと、また逢える日が来るから…俺はずっと、この世界で待ってるから…」

 玲の腕の感覚が、薄っすらと消えてゆく。時間が来た。

「いつか、また」

「………うん……またね…!」

 ホログラムとなった玲の体は、空の青と混ざって消えてしまった。俺は、その場にうずくまって、彼女の頭に触れた手を握りしめた。きっとまた、逢える日が来る。求める事は、決して愚かなんかじゃない。幸せになりたいと願うのは、誰だって自由だ。どんな奴にだって、それぞれの人生がある。幸せは、自分自身が忘れなければ、きっと実を結ぶ。俺は、信じる。

 足元に、大粒の雨が降っていた。

 

 

 コスプレ喫茶にて衣装を着込んで出てくると、既に三人は席に座って待っていた。この店は衣装だけでなく、ボードゲームまでレンタルできるそうだ。既に机いっぱいに、人生ゲームをプレイするための一式が並べられていた。全員、最初と同じコスプレをしていて、準備は万全らしい。

「やっと来たか」

「って!奏斗君!何その格好!?」

「何って…これが一番かっこいいからだろ」

「男の子のセンスって、よくわかんないねぇ…」

 んなわけあるか…!俺は世界一動きづらい甲冑を着込み、席にドカッと座った。当然メットも被って完全装備。こいつらに俺の顔なんて見せさせるか。涙のせいで、パンパンに腫れた両目を、こいつらに見せられるはずもなく、顔が隠れるこの姿を止む負えず選んだ。それにしても暑い、動きづらい、よく見えない。最悪の三三七拍子だ。まぁ、顔を見せるよりはマシ…

「でもダパーン、ゲームをするのに、一人だけ顔を見せないってなはフェアじゃないな」

「は?」

 お前の場合は大してハンデにならねぇだろ…!

「確かに。顔見せろ〜!」

「いっけぇ!祢音ちゃん!」

 祢音が俺に飛びついてくる。俺の兜を剥ぎ取る気だ!

「やめろ!やめろぉーっ!」

 俺の必死の絶叫が、店内に響いた。

 

             *

 

 奏斗の顔を巡ってわちゃわちゃするデザイアグランプリのプレイヤーたち。それを陰で見ていた吾妻道長は、英寿に剥き出しの敵意を見せていた。

「調子に乗るなよギーツ。お前が勝てたのは、お前だけの実力じゃない。次会う時は、必ずお前を倒す…!」

 吾妻道長は、そう言い残して消えた。しかし、その消え方は、鵜飼玲の消滅とは異なり、どこかに転送されただけのようで…?

 

 

 デザイアグランプリ、プロデューサーの一室。モニターにて、デザイアロワイヤルの一連の騒動を振り返っていたニラムの元に、タブレット端末を抱えたサマスが現れた。

「確認しました。やはり、パイレーツバックルは、全機稼働ができない状態にありました。現状のフィーバースロットバックルで、パイレーツバックルの力を使用できるはずがありません」

「そうか…"鵜飼玲に共鳴し過ぎた結果、鵜飼玲以外が使用できなくなっていた"はずだが………ダパーン。君もまた、面白い変化を遂げる男となるだろう。彼もマークしておけ、浮世英寿と共にね」

 モニターの映像は、既にデザイアグランプリの新章の様子を映し出していた。

 

 

 デザイア神殿に集められたプレイヤーの四人。彼らの正面に立ったツムリが、またしても深々と頭を下げた。

「今回の、運営の度重なる不手際によるトラブル、重ねて謝罪いたします。今回のデザイアグランプリは、結果的にはノーゲームとなってしまいました」

 プレイヤーの持っていたバックルたちが、自動的に消滅する。運営に回収されたのだ。しかし、ツムリは直ぐに笑顔を見せる。

「ですが、あなた達四人は、来シーズンのデザイアグランプリへの優先参加の権利が与えられました。あなた達は、今日からも仮面ライダーです!」

 ツムリが左手を掲げると、デザイア神殿を取り囲むように、数多の瞳型のカメラが現れる。そこからは、四人の仮面ライダーに対する黄色い歓声が飛び交っていた。景和、祢音、奏斗の三人は、その様子にドン引きするも、英寿は余裕の笑みで手を振ってみせた。

「デザイアグランプリは、ただの世界を救うゲームではありません」

「…やっぱりな。そもそも世界を救うのに、ゲームである必要はない。つまり、デザイアグランプリの正体は…」

「そうです。世界を救うエンターテインメント。ようこそ、リアリティーライダーショー!デザイアグランプリへ!」

 デザイアグランプリの新章が、ここに始まる。

 

 

 オーディエンスの観戦ルームにて、一人の女性が眼鏡を直しながらオーディエンスの目を見る奏斗を凝視していた。

「うっわぁ〜!やっぱりかっこいい〜!次こそ、デザ神になるのは、ダパーンだよね〜!悩むな〜次は何のバックルを贈ろっかな〜?パイレーツはもう使えないし〜」

「相変わらずだね、モーン」

 観戦ルームに、もう一人青年が入室して来る。彼はモーンの隣に座ると、浮世英寿へと視線を向けた。

「次に勝つのも、ギーツだよ」

「負けないわよジーン。今度こそ、ダパーンがデザ神になるんだから!」

 目線で火花を散らし合う二人、しかし、ふとモーンはすっと無表情になって、観戦ルームを退室しようとする。

「彼の活躍を見なくていいのかい?」

「それも気になるけど…今は"新井紅深"の時間だから」

 彼女はレーザーレイズライザーを自身に撃ち込むと、服装が制服姿かつ、茶髪の"大人しい新井紅深"に変わった。

 

           DGPルール

 

         デザイアグランプリは

 

     スポンサーとオーディエンスに愛される、

 

      リアリティーライダーショーである。

 

      ぜひ、心ゆくまでお楽しみください。




次章予告

「へぇ〜ニューメンバー?」

─ニューメンバー、勢揃いの─

「今はスターの英寿か」

「何故ギーツがハイライトという決め台詞を多用していたのか?」

「俺の腕にかかれば!」

─リアリティーライダーショー─

「今度のライバルは手強そうだ」

─お見逃しなく!─

「スリリングでエキサイティングなゲームに乞うご期待!デザイアグランプリ!始まります!」

21話 発露Ⅰ:再開!新しいシーズンへ!


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発露編
21話 発露Ⅰ:再開!新しいシーズンへ!


お久しぶりです!
再開に伴って、過去話の一部シーンを修正しました。
活動報告にて詳しいことは書いてあるので、先にご確認ください。


 

『デザイアグランプリ。それは、理想の世界を叶えるため、怪物・ジャマトから世界を救うゲーム。』

 

『これまで、数多の戦いが繰り広げられ、勝利と敗北のドラマが紡がれてきた…』

 

『そして今、デザイアグランプリは、新たなシリーズとして生まれ変わる!』

 

 デザイア神殿を所狭しと周回するカメラたち。その向こうにいるオーディエンス達は、推しの登場を今か今かと、固唾を呑んで見守っている。有刺鉄線のロゴが印された生八角形の会場に、七色の光が集まると、ナレーションの声のトーンが一段高くなった。

『それでは、エントリーメンバーを紹介しよう!』

 やがて光は交わり合い、巨大な縦長のホログラムへ変わる。

『先ずはお馴染み。戦闘力No.1!』

 ホログラム内のライダーのクレストが分割され、左右に伸びると、今期のデザイアグランプリには欠かせないあの男が表示される。

『不敗の男!仮面ライダーギーツこと、浮世英寿!』

『ENTRY』

 ホログラムが上部へ捌けると、裏側から浮世英寿が現れた。彼がオーディエンスへ向けて右手を挙げると、静まり返っていた会場が、歓声によって弾けた。次いで、英寿の両サイドから、すっかりお馴染みのメンバーとなった者たちが続々と紹介されてゆく。

『セレブNo.1!一般人を夢見るインフルエンサー!仮面ライダーナーゴこと、鞍馬祢音!』

『危険度No.1!望むのは幸か不幸か!仮面ライダーダパーンこと、墨田奏斗!』

『『ENTRY』』

 二つのホログラムから、向かい合うように入場した二人もまた、オーディエンスの拍手喝采に晒される。祢音は思わぬ歓迎を前に、少し戸惑いの様子を見せる。

「なんか…手振ったほうがいいかんじ…?」

 彼女が恐る恐るカメラへ手を振ると、オーディエンスはさらに沸き立つ。普段の動画投稿では味わえないファンとの交流に、祢音は喜びに満ちた表情でカメラ一つ一つに手を振ってみせた。

 対照的に、奏斗はこの状況が不快な様子で、彼への応援の思いを伝えるカメラたちを睨み返す。だが、それもファンサービスの一つとしか捉えられなかったようで、数個のカメラから悲鳴に近い歓喜の声が響く。奏斗が舌打ちをするも、盛り上がりは収まらない。

 当然参加者は彼らだけではなく、過去のデザグラからの選抜メンバーが紹介された。

『知能指数No.1!天才クイズ王!仮面ライダーナッジスパロウこと、五十鈴大智!』

『身体能力No.1!霊長類最速女子アスリート!仮面ライダーロポこと、我那覇冴!』

『技術力No.1!世界を股にかける天才シェフ!仮面ライダーヘリアルこと、橋結(はしゆい)カムロ!』

『『『ENTRY』』』

 茶髪のロングヘアーを後ろで纏め、眼鏡をかけ直す五十鈴大智。腕組みでカメラを観察する我那覇冴。そして、スラリとした体格の糸目の男、橋結カムロ。彼らに向けられる幸喜の眼差しは、祢音や奏斗の比ではなかった。今まで見たことがない顔ぶれに、物珍しそうに祢音が声をかける。

「へぇ〜ニューメンバー?」

 そんな祢音の声掛けをスルーした三人は、最も警戒すべきライバルに威嚇を始めた。

「久しぶり英寿。あっ、今はスターの英寿か」

「今度俺の店紹介してくれよ。が、お前にされるまでもないがな!」

 カムロは顔に見合わぬ大きな口でガハハと笑う。

「お前ら、知り合いなのか?」

 裏で紹介されていた仮面ライダータイクーン・桜井景和には目もくれず、奏斗が話を広げた。

「前にデザグラの決勝戦で残ってた奴らだな。今度のライバルは手強そうだ」

「それはこっちの台詞だよ。ま、今度は僕が勝つけどね」

「いや、今度も俺が勝つさ」

 火花を散らすデザ神筆頭候補の四人。その間に祢音が入り込むと、自然と空気が和らぐ。

「ふ〜ん!よろしくね!」

 祢音に対しては、特に警戒する素振りを見せず、三人は正直に返事を返した。とりあえずの挨拶が済んだ所で、今期もナビゲーターを務めるツムリが、デザイア神殿に足を踏み入れる。

「以上七名で、デザ神の座をかけて戦います」

「七名…?」

 自分の視界に入る人間と数が合わず、祢音は丁寧に一人ずつ手をかざして数える。自分が1、奏斗、大智、英寿、カムロ、冴と。

「1…2…3…4…5…6…」

 やはり帳尻が合わない。ツムリの言い間違いかと首を傾げる祢音。彼のことを、完全に全員が忘れていた。最後の七人目、一般人代表の桜井景和である。景和は、気まずそうに会話の輪に入ろうと試みる。

「あ、あの…俺もいま」

「スリリングでエキサイティングなゲームに乞うご期待!デザイアグランプリ!始まります!」

 だがそれすらもツムリ阻まれ、完全に空気のままオープニングセレモニーは終了した。

 

             *

 

 今回のデザグラは、随分と毛色が変わったもんだ。このゲームはショーであり、オーディエンスという謎の見物客が大勢いる。気に食わないというのが、正直な感想だ。集められているのも、スターにインフルエンサー、クイズ王にアスリート。そして天才シェフと来た。まるで人を喜ばせるためだけに集められたビッグネームたち。そして何故か投入されている一般人の二人。今回は相当肩身が狭そうだ。ここに道長でもいれば少しは楽なんだが、いや、あいつは死んだんだったな。

『それではデザイアグランプリ第一回戦、学園ゲームを開始します!』

 公園に転送された俺たちの足元に、ミッションボックスが支給される。膝立ちになって蓋を払うと、まさかのブラストバックル。他のメンバーも、適正バックルを配られたようで、随分と気前がいいな。宝探しゲームみたいに、一からバックルはやりたくなかったから、ありがたい。

『不良ジャマトから街を守り、どこかの学校にいる校長ジャマトを退治してください!』

 公園の奥の方で、不良ジャマトが一般人を襲っている。リーゼントに改造学ラン。持っているのは鉄パイプ。典型的な前時代の不良だ。不良ジャマトらはこちらの存在に気付き、声を荒げながら迫ってくる。ゾンビバックルを手に取った我那覇冴は、祢音を牽制する。

「お嬢様、足引っ張んなよ」

「そっちこそ…」

 祢音も堪らず煽り返した。その反対側では、景和と五十鈴大智が目で会話している。

「よぉし!お互い仲良くしようぜ、パンダ君!」

「はぁ…?」

 橋結カムロが、フィーバースロットバックルをちらつかせながら肩を組んできた。何だ距離が近いな………ん?俺はこいつの声に聞き覚えがある。前にどこかで会ったか……いや、世界を股にかける天才シェフらしいし、何かのテレビで見ただけか。

「馴れ合う気はないぞ」

「それも結構!では、片付けるとしようか。まるで!下ごしらえをするようにな…!」

『『『『『『『SET』』』』』』FEVER!』

 組んだ肩を解き、俺たちはバックルをドライバーに装填する。いつも通りのルーティンで各々が変身の構えを取った。俺が気怠く首を回す視界の端で、橋結カムロが左胸の前で右手を握るのが見える。

「「「「「「「変身!」」」」」」」

『BEAT!』『ZOMBIE!』『BOOST!』

『BLAST!』『HIT!MAGNUM!』

『MONSTER!』『NINJA!』

『Ready?Fight!』

 橋結カムロはマグナムを引き当て、仮面ライダーヘリアル・マグナムフォームに変身する。その顔は以前の仮面ライダーハイトーンに酷似していたが、三本ずつ後方に伸びたヒゲの装飾が鋭く目立つ。こいつはアザラシのライダーか。って、今は見てる所じゃないな…

 襲い掛かる不良ジャマトの鉄パイプを、左足を振り上げて弾く。各々も不良ジャマトと戦い始めた。不良ジャマトは鉄パイプで武装しているのみで、さして脅威でもない。あるとしたら数が多いくらいだ。右足のみからガスを噴射して浮かびながら、身体を捻ると、振り抜かれた鉄パイプが下を通過する。着地する直前に後頭部を蹴りつけ、降り立つと同時にバク宙をして再び別個体の鉄パイプの一撃を回避する。

「くらえ…!」

 姿勢が崩れて背中ががら空きだ…膝蹴りを一撃…!

「おっと!」

 直前で、不良ジャマトは弾丸に撃ち抜かれた。橋結カムロが変身する、仮面ライダーヘリアルの銃撃だ。フィーバースロットでマグナムを引き当てている。俺が危なげもなく着地すると、ヘリアルは悪ぶれる素振りも見せずに佇んていた。

「悪い、悪い!ちょうど狙いやすい位置にいたもんでねぇ!」

「俺に当てんなよ」

「わかってるわかってる」

『BULLET CHARGE』

 マグナムシューターの打鉄を引いたヘリアルが、銃口をこちらに向けてくる。本当にわかってんのか…こいつ…!?マグナムシューターの引き金が引かれ、銃弾が連続で発射される。俺は咄嗟に防御の姿勢を取ったが、銃弾は全て当たるか当たらないかのスレスレの所を通り過ぎ、背後の不良ジャマトを一掃した。

「俺の腕にかかれば!これ程の的あてなど容易い。まるで!…そうだなぁ…海老の背わたを取るくらいには…」

「その例え、上手くないからやめたほうがいいぞ」

「むぅ…まぁ良い。今は喧嘩している場合じゃ無さそうだしな!」

 ヘリアルは戦っている他のメンバーを指差す。雑木林の方面では…

「ちょっと!邪魔しないでよ!」

「邪魔はそっち!」

 タイクーンとロポが不良ジャマトを巡って揉めている。そして遊具が立ち並ぶ砂場の一角では…

「余計な事をしないでくれるかな?」

「ソレは私が言いたいっ!」

 ナッジスパロウの策略に巻き込まれたナーゴが砂まみれになり、カンカンに怒っていた。どれも我の強いメンバーばかりで、意見が食い違っているようだ。何やってんたか…これは素直にヘリアルと共闘したほうが良さそうだ…

 

 

 第一ウェーブが終了し、不良ジャマトらは撤退した。

 サロンにて、親が昔使っていたという登山バックを雑に下ろす。今回のデザイアグランプリの出場に当たって、外泊用具を持って来い、という司令を受けていた。それを聞いて、何日間か遠征するミッションがあるのだろうと踏んでいたが、ミッション自体はいつものデザイアグランプリと変わらなかったな…

「皆さん、お疲れ様でした。これから参加者の皆さんには、ここで共同生活を送ってもらいます」

「はぁ!?」

 ナビゲーターのツムリが告げたのは、最悪のメンバーとのルームシェアだった。よくよく考えれば、ただの遠方のミッションなら転送するだけで済むしする必要がない。他のメンバーも大荷物を抱えてるし。突然の発表に、景和も我那覇冴も異議を唱える。

「共同生活!?」

「そんな話は初耳だけど!」

「君タチに拒否権は無い」

 抗議の圧を、低く変調された声が制する。エレベーターを抜けてサロンに入ってきたのは、ギロリと同じ画面を被った男。緩く羽織った黒いコートの裏に、黄土色のスーツが見え隠れしている。こいつが今回のゲームマスターか…?今度こそはマシな奴が来てほしいものだが。

「う〜わ。またヤバそうなゲームマスターが来た」

 景和に完全に同意。共同生活を強いてくる時点で、俺たちを見世物のキャラクターにしようとしてるのは明らかだ。今度は何を企んで…"思わずまた舌打ちが出る。"ゲームマスターは俺たちの前まで辿り着くと、数秒その場で静止する。そして、突然コートを煩わしそうに脱ぎ始めた。なんだ!?随分とコミカルな動き……コートと仮面を脱ぎ捨て、サングラスをかけた素顔を晒したゲームマスターは、人差し指を下唇に添えると…

「どうも〜!!!」

 高い声で叫んだ。皆、言葉を失う。

「新しくゲームマスターに任命されたっ!チラミよ」

 サングラスのレンズの片側だけを上げ、俺たちをチラ見したチラミは、「しくよろ〜!!!」と手を振り回す。俺たちが驚きからか、ノーリアクションを貫いたのを確認したチラミは、ソファーに座っていた景和に「ナイスリアクション!せ〜の!フレッシュ、採れたて野菜!」と返す。今回のデザグラ…相当イメージが変わったもんだと思っていたが…こいつのプロデュースだと当然こうなるだろうと察しがつく。さっきまでガハハ、ガハハと笑っていた橋結カムロも、流石にこの様子に苦笑いをしていた。だれだってそうする。

「カメラ〜今のばっちり撮れてる〜?」

 そう言ってチラミがガン見したのは、いつもサロンにあった車の置物…の前に固定されたゴープロの様な小型カメラ。横目で部屋を観察してみると、確かにある。前までは無かった小型カメラが、天井の四隅や入り口付近に。俺たちを死角無く捉えている。だが、女性陣はプライベートを映されるのは溜まったものじゃないだろう。祢音は戸惑いを隠せない様子だ。

「カメラ!?」

「いい!?戦いだけでなく、仮面ライダーの私生活も、ショーの一部になるのよぉ〜」

 ソファーに足を組んで座るチラミ。何かコイツオネェ口調だな。それはさておき…スター共はともかく、一般人の私生活なんて見て何が楽しいんだ。心の中でボヤいていると、橋結カムロがチラミに詰め寄った。

「そいつは困るなぁ!俺らにも仕事ってもんがある。そこまでする理由は?」

 威圧をかける橋結カムロに、チラミは仰け反りながら笑い出す。

「ふふっ、ふふふふふふ!この中に一人だけ、運営が事前に指摘した、デザスターがいるからよぉ」

「デザスター?んだそれ」

 思わず本音がもれる。

「デザスターには、他のライダーを妨害する、秘密のミッションが与えられてるの!」

「…要はスパイってことか」

 ようやく英寿が口を開いた。その一言で、場の全員が理解する。先のゲームでの、不自然な衝突。あれは偶然か、それとも…

「「「スパイ!」」」

 景和と我那覇冴はお互いに指差し、祢音は五十鈴大智を指名する。俺も橋結カムロに思う所があるのだが…直ぐに指摘するのは得策じゃない。それを五十鈴大智も理解していて、冷静に説き伏せる。

「君たち単純過ぎるよ。そう簡単に、スパイが解るわけないでしょ?」

「それもそっか…」

 三人はゆっくり指を下ろした。

「デザスターは最終戦まで正体がバレずに生き残っていられたら、デザ神の座を横取りできるフゥ〜!」

 もうわかったからやめてほしい。ただ鬱陶しいだけだ。とりあえず今回のデザグラの違和感が、オーディエンスの存在だけじゃないのはわかった。少ないのだ。最初から参加者が。

「だから少数精鋭でのスタートってわけだ」

「正解〜!これは男女七人の仲良し共同生活なんかじゃない…疑惑と裏切りの、シェアハウス…!偽りの仮面を被ったライダーは果たして!誰だぁ〜!!!」

 チラミはまたカメラに向かってアピールする。参加者全員の興味は既にチラミから、他の六人に移っていた。デザスターは誰か。

 

 

 幸い学校は冬期の長期休暇。ボランティア部でしばらく泊まり込みで活動する、と伝えると、親父は案外すぐ納得してくれた。母も同様。相変わらず興味持たれてねぇなぁ…俺。まぁいいや。今はこの共同生活に慣れなければならない。特に意味も無いが、家から持ち込んだ外泊用のタープを立てた。ペグが地面に刺せるわけないので、ガムテープで無理やり固定。まぁプライベート空間を保持する意味で、開閉式のテント型に組み立てた。長い間使われてなかったみたいで、舞ったホコリが目に痛い。

 その点五十鈴大智は用意周到。室内でも使えるテントを広げて、椅子も立て、既に外国語で書かれた哲学書を読みふけっている。橋結カムロはハンモックだけを置いて何処かに去ってしまった。プライベートとかは特に気にしないらしい。英寿は衝立でスペースを大幅確保。女子に至っては…

「あっ、デザグラってどこで放送してるの?ネットでもやってないみたいだし」

「はい。テレビでもネットでも見られません」

 景和の奴がサロンに戻ってきていた。赤いラインの上に置かれたソファーに座ってツムリと会話している。オイオイそこは。

「景和っ、そこ」

「うわぁぁぁぁあ〜!」

 俺の指摘よりも先に、我那覇冴がソファーごと景和をぶっ飛ばした。アスリートの筋力恐るべし。空中で三回転ほどして腰から落ちる景和。

「このラインからは男子禁制。立ち入ったらタダじゃ済まないよ」

「済まないよっ!」

 五対二。女子の方が圧倒的に少ないのに、スペースは俺ら男子組の二倍は確保している。カーテンでしっかりと区切られ男子組は完全隔離。最も英寿は論外だが…景和は「もうただじゃ済んでないし…」とボヤきながらも散らばった荷物を集める。そこでようやく、各々が居住区を確保している事実に気付いたようだ。

「あっ…ちょ…えっ…」

 俺のタープ、五十鈴大智のテント。橋結カムロのハンモックと英寿の衝立を見、ついでにカーテンの先も確認するが、既にそこも祢音のテリトリーで、男子禁制の叫びとともに投げ返されてしまった。

「俺の場所もう無いじゃぁ〜ん…英寿〜!ちょっと場所分けて〜!」

 情けない声を上げながら、景和は浮世英寿と札が貼られた衝立にとぼとぼ歩く。五十鈴大智が視線を本から離さずに、声で景和を止める。

「いないよ。運営側と秘密のミッションの打ち合わせ、だったりして…?」

 出たぞ、デザスター疑惑。既にこの共同生活から、戦いは始まっている。ただデザスターが誰かを疑っているばかりでは駄目だ。普段の振る舞いからも、疑われない様に注意する必要がある。勘違や当てずっぽうで指名されては、全部台無しだ。

「英寿がデザスターって疑ってるの?」

 我那覇冴の問いに、本を閉じた五十鈴大智は指を鳴らす。

「まぁね。何故ギーツがハイライトという決め台詞を多用していたのか?んん?」

 ハイライト……見どころ……そうか。つまり英寿は…

「正解は?デザグラがショーであることを知っていたから」

 思いつく所はある。缶蹴りゲームでの、英寿の行動だ。英寿は景和を化かして、『ラスボスの攻撃からプレイヤーを助ける』というシークレットミッションをクリアした。あの時は英寿の経験則から来るものだと思っていたが…もしあのシークレットミッションが、オーディエンスが『ラスボスを倒すために助け合うライター達、その思いに応えて送られるニンジャバックル』を想像していたとしたら。

 

 

 彼女のオーディエンスルームには、整理整頓されていない本があらゆるところに散らばっている。辺りを囲う本棚と、ぽかりと空いた穴にはめ込まれた瞳型のビジョンが、異質な空気を放っていた。本棚内の蔵書のジャンルはバラバラで、サイズも統一されていない。ただ雑に収められているだけだ。

「決めた…!次に奏斗にあげるバックルは…!」

 本に埋もれたソファーにうずくまったモーンは、ニヤニヤと口角を上げてタブレット端末を操作していた。彼女は白いワイシャツにピンクの紐のリボン。パッチワークかのように不規則に白と黒の生地が混ざったジャンパースカートを着用し、三つ編みのお下げには、先端にかけてピンク色に変わっていた。これがサポーターとしての彼女本来の姿である。そんな彼女が持つタブレットの画面、三つの新しい小型バックルが映っていた。

 

 

 夜も更け、シャワーを済ませてスウェットの寝間着姿になる。そして、タープの中で電池式のランタンを灯し、胡座をかいてとある書類とにらめっこをしていた。それは、三年生に進学するに当たっての、進路希望調査の書類である。二年生が終わりを迎えようとしている今になっても、進学か就職か、それすらもぼんやりしたまま。こんな事で、本当に大丈夫なのだろうか。

「で、デザイアカードになんて書いたのみんな」

 外から景和の声が聞こえて、タープから這い出た。女子二人と景和がババ抜きに興じている。我那覇冴はまだ景和が信用ならないようで、冷たい態度で揃った札をテーブルに落とす。なんだかんだコイツもババ抜きに乗るんだな。そんなに悪い奴じゃ無いんじゃないのか。

「そんなのあなたには関係ないでしょ」

「誰がデザスターか、見抜く手がかりになるかもしれないでしょ?ちなみに俺は…」

「退場した人たちが蘇った世界、だろう?」

 ここでも、五十鈴大智の推理が光る。景和の願いを言い当てた彼は、景和の解答を待たずに、矛先を祢音に向ける。

「本当の愛………デザイアグランプリの存在しない世界か」

 ついでに俺も。彼に推理の余地を与えるようなヒントを残した覚えは無いが。景和たちだってそうだろう。一体いつ…

「どうしてわかった?」

「ちょっとした推理さ」

 彼は眼鏡をトントンと叩くと、これまでの俺たちの行動の分析を語った。ジャマトを見て、迷うような目を見せた景和。オーディエンスに手を振り、自分が指示されているという実感を得る祢音。そしてゲームマスターに舌打ちして、不機嫌な態度を見せた俺。彼は観察していたのだ。参加者の一挙一動を淀みなく。

「ちょっとした行動で、人間の考えてることなんて、見えてくるものさ。君たちは特に単純で、わかり易すぎなんだよ」

 は?思わずまたでそうになった舌打ちを、寸前で止めた。捨札の重なったテーブルの前に屈んだ五十鈴大智は、我那覇冴の顔を覗き込む。

「そして、君は…身体能力の維持」

「大体正解」

 現状をより良くするのではなく、衰えない力を望んだのか。結果を残したいのなら、直接結果を願ったり、さらなる強化を願っても良かったはずだ。やはりそこはアスリート。正々堂々勝負したいってわけか。まぁ、現状を維持するほうが、一度の成功よりも長く利益を得られると言ったら、捉え方は変わるが。我那覇冴はすんなりと受け入れて、正解の喜びを噛み締める五十鈴大智に問を投げ返す。

「そう言うあんたは?」

「全人類の記憶」

「「「は?」」」

 景和と祢音と声が被る。人間の記憶だと?頭が良い奴とは、発想が釣り合わない。

「知識こそが、最高の財産だからね」

 解答になってないぞ、それ。

「そ〜い!できたぞ!」

 バカでかい声をたてながら、エプロン姿の橋結カムロがサロンに入って来た。両手にお盆を構えていて、その上にはガラスの容器が人数分用意されていた。さっきからいないと思ったら、何か作ってたのか。橋結カムロはテーブルの散らばったトランプを、手際よく片手で纏めて除ける。

「橋結カムロ特製!ヘルシープリン!」

 目にも止まらぬ早い手付きで、プリンが机の上に並べられる。ヘルシープリンと謳っているが、見た目は高級なプリンそのもの。黄色く色付いた土台に、カラメルのソースが美しく映える。それを見た景和と祢音は、子供のように目をキラキラ光らせた。

「すっご!これ、カムロさんが作ったの!?」

「え、ほんとに食べていいの?」

 橋結カムロはスプーンを配りながら語る。

「当然だろう。チラミはあぁ言っていたが、曲がりなりにも暫くは共に暮らすのだからな。俺も仕事でいられる時間も少ないし、ちょっとくらいサービスさせてもらっていもいいだろう?」

 甘いものが苦手なのか、差し出されたスプーンを断る我那覇冴。それを気にも留めずに、俺たちに食べろと促してくる。

「折角だから、君の願いも当ててあげようか?」

 プリンの入った容器を眺めながら、五十鈴大智が口を開く。彼の推理が語られるよりも早く、橋結カムロは高らかに叫んだ。

 

「世界平和!それが俺の願いだ」

 

 推理が外れたのか、五十鈴大智は怪訝そうな顔をする。以前同じ願いを持っていた景和も、スプーンを持ったまま固まっていた。

「俺の場合!料理の腕、センス、完璧な味覚。富に、名声まで既に全部持ち合わせているのでね。あとは、世界中の誰もが平等に飯を食えれば問題なし!そうだろう?」

 五十鈴大智も我那覇冴も、もう既に一定の評価を得られている者は、考えが飛躍している。いや…気で負けるな。世界平和が叶っても、デザグラが終わるとは限らない。だから願ったんだろ。俺が。

「ふぅん。やっぱり…人の心というのは。でも…まだわからないのが一人いる」

「俺がデザイアグランプリのゲームマスターになっている世界」

 五十鈴大智の目線は、入口で仁王立ちした英寿を捉えている。彼はまだユニフォームを着たままで、テーブルに置かれたプリンを掠め取った。

「まっ、俺が何考えてんのかわかんなくて当然だ。キツネだからな」

 いつも通り、狐を指で作っておちゃらける。

「随分と、まぁ余裕な事で」

「パンダ君の言うとおりだ。そのままだと、お前の不敗神話も腐って終わる…なぁ、デザスター?」

 橋結カムロの威圧に対しても、英寿は表情に綻びを見せない。互いに疑心暗鬼になって、ジャマトに殺られるなんてしょうもないことが起きなければいいが……デザスターには秘密のミッションがある。それを見抜けるかが肝だ。

「嘘つきはだれか?狐に狸、猫に狼。誰がデザスターでも不思議じゃない。逆に…無害に見える奴らもな」

 パンダ、雀、アザラシ。どれも人に愛でられ庇護の対象になりやすい動物。だからこそ気づかない。そこに隠された…爪や牙に。

 

 ちなみに、橋結カムロのプリンは絶品だった。

 

             *

 

 不良ジャマトが占拠している学校が見つかった。不良ジャマトたちは各々好き勝手に遊び回っていたが、こちらの存在に気づくと、喧騒を変えて寄ってくる。この学校の何処かに、校長ジャマトがいるはずだ。俺たちは特に合図していないのに、同時にバックルを装填して、仮面ライダーに変身した。

「へ〜ん「「「「「「変身!」」」」」」しんっ!」

『MONSTER!』『BOOST!』『NINJA!』

『BLAST!』『GOLDEN FEVER!』『ZOMBIE!』『BEAT!』

「校長ジャマトはどこにいるか…正解は?」

「校長室に決まってるでしょ!」

 仮面ライダーロポ・ゾンビフォームが、校門をひらりと跳び越えて校舎へと駆け抜けていく。くそっ…先を行かれたか…!あっちはアスリートだ。ブーストでもない限りスピードじゃ叶わない。だけど…

「機動力で負けるかよ…!」

 ブラストバックルの特性を最大限活用するのみだ。ロポと同様柵を飛び越し、不良ジャマトの頭部を踏み台にして自転車置き場の屋根に着地。ロポは既に校舎に入ってしまった。なら…上から探すか。ブラストのガスをギリギリまで噴射すれば、屋上に届く。しばらくは風による右足の怪我をサポートできないのがネックだが、やるしかない。

「お〜い!パンダ君!上に行くんだろ!?俺を使え!」

 レイズシールドを装備したヘリアルが呼びかける。察しのいいヤツだな。技術者はサポート向きってか?まぁいい。使えるものは使わせてもらうぞ…!俺は屋根から助走をつけて飛び出す。狙いは、ヘリアルのレイズシールド。

「そうこなくっちゃ!」

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

 俺は左足で強く踏みつけると同時に、ヘリアルも必殺技を発動。レイズシールドを振り上げ、俺のジャンプをサポートした。作戦は成功。俺の視線は急激に空に近づき、屋上すらも眼下となった。着地しようとガスで角度を調整していると、屋上のフェンスに二体のジャマトが寄りかかっていた。片方はセーラー服を着て、金の髪色をした不良ジャマトにべったりくっついている。当にカップル、ジャマトの青春。

『BLAST STRIKE!』

 空中で軌道を変え、カップルの喉元に両膝を叩き込んた。別に作為的な思いがあったわけじゃない。そう、ちょっとした出来心だ。

『SECRET MISSION CLEAR』

 屋上の中央にミッションボックスが転送される。シークレットミッションは、カップルのジャマトを倒す、か。幸先が良いな…と宝箱に手を伸ばすと、違和感に気付いた。

「俺の…マーク?」

 見たことがないマッドな白の宝箱の真ん中に、ダパーンのクレストが刻まれていた。今までは大抵ビックリかハテナのマークだったのに。まさか…シークレットミッションはオーディエンスが設定していたのか。存在がプレイヤーに公になって、誰向けなのかも隠す必要が無くなったか。

 受け入れて、宝箱を開ける。運が良いのか悪いのか。入っていたのは三つの小型バックル。どれも初めて見るものだったが、形状自体には見覚えがあった。マグナムシューター、ニンジャデュアラー、ゾンビブレイカー。他の大型バックルから出現する武器が小型バックル化している。校舎の廊下は狭い。ならば…小周りの効くこれで行くか。

『SET』

『DUAL ON!BLAST!ARMED DUALER!』

『Ready?Fight!』

 俺が選んだのはニンジャデュアラーだった。刀身を分解して両手持ちすると、階段から校舎内に侵入する。階段の踊り場でたむろしていた不良ジャマトを、ジャンプしながらの一閃で大量に撃破する。階段を飛び降りるように通過すると、そのまま三階の捜索を始めた。校長室を先に見つければ…俺の勝ちだ!

 

 

「よっしゃ〜!シークレットミッションクリアぁ〜っ!」

 オーディエンスルームのモーンは、ニンジャデュアラーを操り疾走するダパーンに歓喜する。ブンブンと振った両手足が机とぶつかり、本の山が倒れたが、彼女が気に留める様子はなかった。

「校長探しに躍起になれば、屋上に目は行かない。屋上を通過する可能性があるのは、縦移動に優れたブラストバックルを持つ者だけ。あなたにしては考えましたね」

 冷静な分析をしながら、オーディエンスルームに入室した者がいた。その男はソファーに積まれた本を地面にどかすと、モーンの隣に座る。

「芹澤くん」

「ハイトーン。あなたがつけた名前なんだから、しっかり覚えてくださいよ」

 入室したのは仮面ライダーハイトーン・芹澤朋希だった。運営側の彼がここにいる理由とは……

 

 

 三階に校長室らしきものは無かった。となると一階か…?正面から軍隊で攻めてくる不良ジャマトを、両手のニンジャデュアラーですれ違いながら両断してゆく。倒せど倒せども、二階の階段からも不良ジャマトがわらわらと溢れ出て、逃げ道が塞がれる。俺は廊下の窓ガラスを突き破って外に身を投げ出し、急旋回して空いた窓から二階の廊下に飛び込んだ。二階の廊下には机と椅子のバリケードが敷かれていて、ロポが追跡を許さぬスピードで校長室を探していた。

「おい!一階と二階は!?」

「無かったけど!」

「おいおい…三階にもなかったぞ!」

 ロポがバリケードをハードルのように跳んで横を通り過ぎる。バリケードを蹴り倒して不良ジャマトの進路を妨害。立ち止まったロポと会話する猶予を稼ぐ。

「校長ジャマトはどこ!?」

「どっかに隠れてんだろ」

「校長室がいないのなら!誘き出すのが妥当だろう!」

 俺たちの会話にヘリアルが割り込んできた。他の四人もいる。廊下は七人のライダーと大量の不良ジャマトで、大混戦状態となった。その中でもヘリアルはレイズシールドでガードしつつ、落書きに使われたであろう赤いスプレー缶を拾い上げる。そして、クリーム色に黄ばんだ壁にすらすらと地図を描き始めた。器用なもんだ。

「二階の第三会議室に誘き出すのがいいだろう!そこの窓から中庭に抜けられる」

「ならば……ギーツ!あいつを倒せ!」

 不良ジャマトを片手で抑え込みながら、ナッジスパロウが指示する。校長ジャマトを誘き出す予定の部屋に、机に行儀良く座っているジャマトがいた。参考書にルーズリーフのノートを開いて…不良じゃない?

「勉強してる…害は無さそうだけど?」

「ジャマトに変わりはない」

 タイクーンはああ言っているが、ギーツは右腕のマフラーから炎を吹き出し、ガリ勉のジャマトを猛スピードでジャマトを殴りきった。ジャマトは特に抵抗する間もなく粉砕される。

『SECRET MISSION CLEAR』

「思った通りだ」

「不良じゃないジャマトを倒せ…?なんかかわいそ」

 勉強道具が散らばった床に、ギーツのクレストが刻まれたミッションボックスが転送される。ギーツがしゃがみこんでそれを開くと、中にあったのは、あの仮面ライダーシーカーが愛用していたバックル。黄土色のレバーに小型バックルを格納した、パワードビルダーバックルだった。

「へぇ…こいつは意外なバックルだな…面白い」

『REVOLVE ON』

 ドライバーを反転させ、左側のスロットを開けると、そこにパワードビルダーバックルを装填。レバーを引いて、仮面ライダーギーツ・パワードビルダーブーストフォームに変身する。

『SET CREATION!』

『DEPLOYED POWERED SYSTEM!GIGANT BLASTER!』

「さぁ、ここからが、ハイライトだ!」

 大型の武装、ギガントブラスターを両手に抱えたギーツは、教室を分断するようにセメントを発射。一気に校長室を建設した。

「校長室が無いなら、作ればいい」

 

 

 程なくして、三分後。

 校長ジャマトはノコノコと現れた。ギーツのセンスで掛け軸や盆栽が飾られ、高級感溢れるレザーのソファー。そこに深々と座った校長ジャマトは、扇子を開いてくつろいでいる。その様子を俺たち四人は天井と壁の隙間から覗いていた。

「今だ!」

 タイクーンが壁を乗り越えて校長ジャマトに一撃…!

「だぁああ!」

 その直前で、ロポが校長ジャマトを掻っ攫った。さらにナッジスパロウとヘリアルを続く。ロポはバーサークローで校長ジャマトをがっちりと掴み、窓から中庭に移動した。

「はやっ…!」

 俺たちも急いで中庭へと降りる。ロポに投げ飛ばされた校長ジャマトを、庇うように不良ジャマトがぞろぞろと現れる。中には火炎瓶を持っているやつもいた。

「校長先生、生徒に愛されてるね」

「ちょうどいい!ここで纏めて片付けてやろう!」

「勝つのは私だ…!」

 ロポ、ナッジスパロウ、ヘリアルの三人は、意気揚々と不良ジャマトに突撃する。俺たちも遅れを取ってはいられない。俺はニンジャデュアラーをシングルブレードに戻し、水切りをするように水平に投げた。ニンジャデュアラーは回転し、ブーメランの様に円を描いて不良ジャマトの火炎瓶を叩き落とす。そんなもん投げられちゃたまったもんじゃないからな。さらに迫る鉄パイプをハイキックで跳ね返し、回し蹴りを繰り出して退ける。そして不良ジャマトの肩を掴んでガスを発射。空中で戻ってきたニンジャデュアラーをキャッチし、着地に合わせて体を捻って一斉に斬り伏せた。

 中庭の奥では、ギーツがギガントウエポンを次々と変えて校長ジャマトを追い詰めている。そんなギーツに背後から、火炎瓶を投げようとしている不良ジャマトがいた。俺は叫んで注意を促そうとしたが、先に不良ジャマトが火炎瓶を投げた。しかし、その火炎瓶はギーツに到達することはない。

「後ろ失礼!」

 割り込んだヘリアルがレイズシールドでカードしたからだ。

「せいっ」

 ヘリアルはレイズシールドを学校の壁に向かって投げる。壁と激突したレイズシールドは不良ジャマトめがけて跳ね返り、数体を殴打してヘリアルの手元に戻ってきた。マジで器用だなと感心する。

「決めろ!ギーツ!」

「あぁ。不敗神話…見せてやるよ…!」

『BOOST TIME!』『GIGANT STRIKE!』

 ギーツはブーストで必殺技を発動。その効果で大剣、ギガントソードをさらに巨大化。展開したアームで振りかざして、圧倒的質量の差で校長ジャマトを斬り倒し…いや、潰して撃破した。同情しないでもない。

 

 

 ゲーム終え、デザイア神殿に帰ってきた。でも、そこを取り囲む大量のカメラには嫌悪感が湧いて落ち着かない。人の生死をエンタメとして消費することよ、何が楽しいのか。

「皆さん、お疲れ様でした。一回戦では退場者ゼロ。そして…」

 空中に表示されたのは、初めて見る円グラフだった。俺たちライダーのクレストに、%の記載…なんだこれは?

「現在の支持率です!ゲームの内容次第で、オーディエンスが評価を下し、ライダーの皆さんの支持率は変動します」

 支持率?ということは待てよ…俺の数値は…

「ナッジスパロウ、25%。ロポ、25%。ヘリアル、25%。ギーツ、15%。ナーゴ、6%。ダパーン、3%。タイクーン、1%!」

「1パー………」

 景和はその場でうなだれる。俺だってそうだ。折角シークレットミッションもクリアしたのに…3%て。これまでのシーンズンで他人の邪魔ばっかりしていたからか、元からの評価が低いらしい。わかってても、結構心にくるぞ。他人からの評価が可視化されるというのは。

「最終戦をクリアした段階で、最も支持率の高いプレイヤーが、デザ神となります」

「なるほど…ただジャマトを倒せばいいってわけじゃないのか」

 つくづくエンタメに振り切ったルールだ。でも、やりようによっては、英寿らより怪我で動きが制限される俺でも、チャンスが巡ってくるかもしれない。オーディエンスに媚びを売るのはまっぴらごめんだが。

「勝利に繋がるシークレットミッションを見つけたナッジスパロウ。一番速く校長に辿り着いたロポ。そして、的確な動きでプレイヤーをサポートしたヘリアルに、オーディエンスの支持が集まっているようです」

「結果だけじゃなく、過程も大切ってことね」

「面白いルールだ。だからこそのデザスターか…!」

「ギーツの不敗神話は続くのか?正解はNOだ」

 果たして俺たちは、この癖の強い三人を下して、デザ神となれるのだろうか。いや、なって見せる。俺はデザイアロワイヤルを通して学んだ。願いは、ただ叶えられれば良いわけじゃない。叶える人間の本質が、世界を左右するのだと。誰にも勝ちは譲れない。俺がデザ神となる…!

 

             *

 

 運営によって秘匿された施設、ジャマーガーデン。

 この農園では、デザイアグランプリに敵キャラとして投入されるジャマトが育てられている。ジャマトの生育には、土、水、光。それら一般の植物に必要な条件だけでは、十分な成長ができない。絶対的に必要なのは、IDコア。人々の記憶を養分に、ジャマトは学習し進化する。

 吾妻道長も、その養分になるはずだった。

 それがどうしてか、今も生きながらえジャマーガーデンの温室に佇んでいる。見上げた大樹には、ジャマトの幼体が数多ぶら下がり、人間の産声を模倣しひしめき合っている。この世のものとは思えない光景に、道長はただ言葉を失うのだった。

「おぉ〜新入りかなぁ?君はルークか?ビショップか?」

 道長に声をかけたのは、黒いローブの男、ムスブだった。彼もまたジャマトの一人であり、名をアクエリアスキメラジャマトという。複数の海洋生物の能力が継ぎ接ぎとなった特に珍しい変異種である。ムスブは道長をジャマトだと勘違いし、彼に触れようとする。

「ふざけんな。お前らと一緒にするな」

 伸ばされた左腕を、道長は掴んで止めた。怒りの込められた手の握力は凄まじく、血管が浮き出ている。だか明らかな拒絶反応に、ムスブは心が踊ったようだった。

「そうか…そうか…君はまだ人間なのか。ジャマトは良いよぉ。全てのライダーをぶっ潰すには、借り物の力だけじゃ心許ないだろう?」

 カゴに重ねられたデザイアドライバーを手に取るムスブ。

「君の理想の手伝いをしてあげようか?僕も仲間にしたい人がいてねぇ…協力すれば、互いの願いを効率的に叶えられる。チームアップさ」

「お前らの手駒になる気はない…」

 ムスブの肩とぶつかりながら、道長はその場を後にした。

「ふぅ〜ん。どうせ逃げ場なんてない。君と、僕は、同じ存在になるんだ。墨田奏斗も、必ず手に入れて見せるよ」

 ムスブはフードを脱いで、大きく目を見開いた。

 

           DGPルール

 

      参加者の中にはデザスターがいる。

 

     もし最終戦まで正体がバレなければ、

 

       デザ神の座を横取りできる。

 

        さぁ、裏切り者は誰だ?

 




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「今回は仲良く団体戦ってわけね」

─ジャマーボール戦!─

「得意分野だ!」

─ゴールを決めろ!─

「わかっちゃった。デザスターが誰か…」

「違う、俺じゃない…!」

22話 発露Ⅱ:激戦必至!ジャマーボール合戦!


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22話 発露Ⅱ:激戦必至!ジャマーボール合戦!

 

─新シーズンの印象は?─

 

「まぁ、オーディエンスがいようがやることは変わらない。どう評価されようが、目の前の勝ちに向かうだけだ」

 

─怪我によるハンディキャップはどのように捉えていますか?─

 

「バックルを使えばある程度カバーはできる。心配はさほど大きくないけど、こんな事で他の奴らに負けはしない」

 

             ※

 

 あんな啖呵を切ってみたはいいが、最近足に違和感を覚えることが多くなっていた。デザグラで負った傷はゲームが終われば回復する。だから気兼ねなく戦っていたが、ツムリに臨時的に修復してもらっていのが、限界が来ているのかもしれない。それに…デザグラの怪我が治らなかったやつもいる。青山優だ。当時は一々気に留めている余裕なんてなかったが、今にしてみれば、海賊ゲームで負った火傷を、あいつは迷宮脱出ゲームに持ち越していた。あれはどういうことだったのだろう…

「これ景和の手作り!?」

 外から祢音の明るげな声がして、俺はタープを出る。景和が皆に向けて自炊をしてくれたそうだ。

「まさかとは思うけど、下剤なんて入れてないでしょうね」

「そんな事するわけ無いでしょ…」

 優しげな声で、景和がお盆に乗せた朝食を配る。白米に味噌汁、焼き魚や納豆。正に健康的な日本人の朝食だ。バスケをやらなくなって以来、まともに朝食も摂らなくなってしまっていたな。元気は朝食から、と自分に言い訳して、一番端の空席に座る。

「もしお前がデザスターならありえる。プレイヤーを妨害するのがデザスターの役目だからな」

「私、大事な試合前は、他人が用意した飲食物は食べないようにしてるの」

 この二人はずっと辛辣だな。当然か、この中に裏切り者が混ざってるとなっちゃ。我那覇冴は席を立って、カーテンで仕切られた自室のカロリーメイトやウィダーゼリーを取って戻る。アスリートって、そこまで気を使うんだな。

「へぇ〜アスリートってそうなんだ」

 祢音と完全に同じ感想で、少し恥ずかしくなった。一つ開けてさらに隣に座っている五十鈴大智は、眼鏡を光らせながら朝食をまじまじと見つめている。

「なぜ君が突然朝ご飯を作るなんて言い出したのか、興味深い問だ」

「それなら俺も気になるな。タヌキ君の料理の腕が如何なものか」

 ハンモックから降りた橋結カムロが、俺と五十鈴の間に座る。

「俺はただ料理が好きなだけだよ。今でも子ども食堂のボランティアやってるし。カムロ君よりは、腕は落ちるけどね…」

 謙遜するエプロン姿の景和。それを無視した橋結カムロは、お椀によそわれた味噌汁を凝視する。糸目なので眼力はよくわからないが、眉間に寄った皺が、シェフとしての真摯な態度を彷彿とさせた。具はネギとワカメで、なんの変哲も無いように見えるが…

「……煮干し」

「は?」

「なんで分かったの!?」

 思わず間抜けな声を出した俺に対して、のけぞって驚く景和。まさかこいつ…見た目と匂いだけで出汁を当てたのか…!?

「へぇ…やるな」

 感心する英寿を他所に、さらに味噌汁を一口。そして彼は高らかに叫んだ。

「百点!」

「えぇっ…!」

 百点の評価を得られた景和は、喜びよりも驚きのほうが先に来たようだった。橋結カムロは世界中の味に触れてきただろうに、最も食に対して厳しい男だと思っていた。決して景和が料理下手とは言わないが…百点?なんのつもりなんだ?橋結カムロはお椀を置き直し、立ち上がって景和に指をさした。

「俺より腕は落ちる?当然だろう、俺は天才シェフだ。だが…シェフは家庭料理と張り合うべきではない。家庭料理の本質とは、味ではなく愛!一口食べて、タヌキ君が本当の善意でこれを用意したとわかった。なれば、この味噌汁は百点だ。心遣い感謝するよ、タヌキ君。まぁ、常に二百点を出せねばならないのが天才の辛いところだが…」

 最後の一言が無ければ完璧だったと思う。

「やっぱり人の心というのはの面白いな。気持ち一つで味の評価か変わるとは…興味深い」

 そして五十鈴大智はなんでもクイズにしてしまう。まぁ…味が保証されてるならなんでもいいか。もう食べるぞ俺は。今日は予定があるんだ…

「は〜い!お食事中失礼〜!」

 焼き魚に伸びた箸を、チラミの声が遮った。ツムリもいる。

「レディースアンドジェントルメンにプレゼント。あなたたちのスパイダーフォンに、デザスターのとうっひょうっ機能を追加したわ」

 箸を置いてスパイダーフォンを見ると、新しいアプリがダウンロードされていた。六角形のハニカム的に並べられた参加者の顔写真。どうやらここから投票が行えるようだ。

「次のゲームが終わるまでに、デザスターだと疑う人に投票してちょうだい。途中で投票を変えてもOK!一番票を集めたプレイヤーは、強制脱落フッふぅ〜!」

 後半は早口でよく聞き取れなかったが、これがデザスターへの勝ち筋になるってわけだ。でも裏を返せば、落とすプレイヤーを見誤れれば、デザスターの判別をより困難にする。投票は慎重に行わなければ。

 

 

 景和作の朝食を堪能した後、俺は隣町の市民会館の前に立っていた。ボランティア部の活動ではない。先日の吾妻道長が退場した最終戦の日以来、新井紅深が町中に落書きをしなくなったからだ。広実須井部長は、不定期に起こることだからと言っていたので時が来ればまた招集がかかるだろう。しかし、意外な人物からの呼び出しがあった。俺は携帯の連絡用のアプリを再度開く。

『今度、空いてませんか?』

 上遠赤哉だった。本来ならば、前シーンズンのデザグラの記憶は全てリセットされているはず。迷宮脱出ゲームで培った、俺と上遠の"約束"も無かったことにされているはずだった。約束が無ければ、俺と上遠は会話できない。では何故、向こうから接触してきたのか?確かめずにはいられなかった。

「なんか嫌な予感が…」

 その嫌な予感とは、会館のドアに貼られていたポスターのせいだ。なごやか子ども食堂、本日のメニュー・カレー。この会館は、地域住民が自由にイベントを開けるように設けられているものらしい。そして、現在は親が忙しかったり身寄りのない子供にご飯を作ってあげる、子ども食堂が毎日開かれているそうだ。

(今でも子ども食堂のボランティアやってるし)

 今朝の景和の言葉を思い出す。あいつが言ってる子ども食堂ってここじゃないよな…?いや、でも英寿と蕎麦屋に行ったときに桜井家とは近所だって発覚したし……そもそも、子ども食堂のためだけにこの会館が利用されているわけじゃないし。偶然だ、偶然。

「あっ!君が上遠君が呼んだ助っ人ね!」

「え?」

 俺が入口を前に右往左往していると、段ボールを両手に抱えた女性が声をかけてきた。年齢は俺の親とタメくらいか…?段ボールにはじゃがいも、にんじん…まさかこの人、食堂の管理人か…!?

「私は大田原まみ。ほらっ、入って入って!」

 俺の返答を待たずに、大田原まみは会館の奥へと入っていく。俺はしょうがなく、しょうがなくだ。その後を追った。

 一階の最奥には、それなりに広いキッチンスペースがあった。普通の家庭の五倍は広い。ここで料理教室も行っているのだろう。既に、エプロンと三角巾をした上遠赤哉が仁王立ちで俺を待っていた。いつも目を隠すほど長い前髪も、料理のためかピンクのヘアピンで留められている。

「あの…上遠?これはどういう」

 戸惑いを隠せない俺に、上遠は無言でエプロンを押し付けてくる。大田原まみに勧められ、白と黒のツートンカラーのエプロンを着させられた。なんだ…この状況は?事態が呑み込めないうちに、先に上遠は調理に入ってしまった。ピーラーでじゃがいもの皮を剥いている。エプロンを着てしまった以上、手伝うしかないか。出かけたため息を堪えて、とりあえず手を洗うことにした。既にシンクにはじゃがいもの皮の山が出来ていて、彼の手際の良さを思わせる。

「えっと、カレー…なんだよな?」

 カレーについてはある程度心得がある。俺好みなのはスパイスが効いたルーに、ナンで食べるものなのだが…食べる相手は子供だしな。甘口上等、あくまでスタンダードでか。

 ハンドソープで入念に手を洗っているうちに、上遠は全てのじゃがいもの皮を剥き終えてしまった。俺も慌てて泡を流して、包丁を握る。そして、皮の剥かれたじゃがいもを八等分にしていく。じゃがいもは煮込めば溶けちゃうしな…これくらいでいいだろ。ていうか、芽も全部取られてるし、相当腕がいい。カットしたじゃがいもを水にさらし、どんどんと山を消費していくうちに、俺に流れてくるのは人参に切り替わった。

 

 

 その後も目を痛めながらも玉ねぎを切り、豚肉を炒め、ついに煮込みの作業にまで至った。上遠の料理の手順には一切の迷いがなく、俺が助っ人として来る必要なんて無いんじゃないかと思うほどだ。固形の甘口カレールーを入れた鍋を、お玉でかき混ぜながら、そんな事をぼうっと考えていた。

「ごめんねぇ、料理まで手伝ってくれて」

 先程まで付け合せのサラダを作っていた大田原まみは、炊飯器の起動ボタンを押す。上遠は子どもたちのための皿を戸棚から取り出していた。料理まで…?

「助っ人って、カレー作りのことじゃないんですか?」

「…?上遠君は、子どもの相手に最適な人がいるって、言ってたわよ?」

「は?」

 お玉を回す手が止まる。同時に、会館の入口からわぁわぁと盛んな声が聞こえてきた。声のトーンは大人のそれではなく、甲高くて耳障りな。子どもの声…

「さ、行ってきて。すぐに用意するからさ」

 半分強引に、廊下に追い出される。廊下の果て、玄関に子どもたちがぞろぞろと集まっていた。午前中は学校で用事でもあったんだろうか、不釣り合いな大きさのバックが目立つ。子どもたちは行儀良く食堂に使う会議室に向かっていたが、エプロンをした俺を見るや、すぐに歓声をあげながら群がってくる。

「ねぇ〜お腹すいた〜!」

「今日カレー!カレーなんでしょ!?」

 子どもたちのハイパワーに押されて、食堂に突き出された。圧倒的な物量に、抵抗することができない。人気メニューのカレーに浮き足立つ子どもめらをなんとか押しのけながら、会議室に人数分のテーブルと椅子を並べる。

「お兄ちゃんご飯たべたら遊んでよ!」

「わたしおままごとやりたい!おままごとやりたい!」

「は!?おままごと…?」

 小学三年生くらいの男の子と、小学一年生ほどの女児が同時に俺の両腕を引っ張ってせがんできた。これじゃまるで大岡裁きの渦中にいる子ども……いや、子どもはこいつらか。でも、この重労働は正直キツすぎる…!

「ぐおぉぉぉぉ!」

 今度は俺の両脇腹にしがみついた子どもを引き摺りながら、キャスターの付いた長机を並び終えた。右脚の怪我を悪化させないよう、ほとんど左脚で踏ん張っていたためか、世界が傾いているように感じられた。

「はいっ!できたよ~」

 大田原まみが鍋や食器を乗せたワゴンを押しながら現れると、子どもたちはワッと賑わって、俺からワゴンの方へ流れていった。やっと開放された……その辺に重ねて置いてあった椅子を引いて、深くそこへ座る。一気に肩に重しが乗ったようだった。

 子どもたちの持つお盆に、カレーライスや温野菜のサラダが乗せられていく。それを受け取る顔は輝いていて、純真無垢そのもの。俺からは失われたものだ。子どもたちは、さっきまでの暴れっぷりが嘘だったかのように、大人しく席についていた。

「じゃぁ、みんな!せ〜の!」

 大田原まみの号令で、「いっただっきま〜す!」の大合唱が館内に響く。そして、一斉にカレーライスにがっつき始めた。こうして、純粋に食事を楽しめるのも、子どもの特権だよな。少し歳を重ねると、周りの目とか気にするようになって、自分に嘘をついた食事をするようになる。子供たちがご飯に夢中になってる間に、少し休ませてもらうか……この後はおままごとか…これじゃボランティアとやってるのと同じだな。

 うなだれる俺の前に、不意にカレーライスが現れた。上遠が、またしても無言で皿を押し付けてくる。食べていいってことか…?それにしても、こいつはなんでこんな慈善活動をしてるんだ…?

「いただきます」

 素直に皿を受け取って、米とルーを絡ませて口に含む。確かにそれは甘口だった。でも、くどくはない。むしろ爽やかさまである、突き抜けるような自然な辛さもあった。以前サロンで食べたギロリのカレーや、祢音と行った店のカレーとも劣らない。このルーの味は、固形のカレールーだけで出せる味ではなかった。俺が見てない間に何か入れたか…?

「美味い」

 つい口から漏れた言葉に、立ったままの上遠は頷く。料理は愛情だって、あいつも言ってたしな…きっとこれも愛情とやらが詰まってるんだろう。

「みんな久しぶり!」

 聞き覚えのある声に、スプーンを動かす手が止まる。声の正体を確かめようと、視線を寄越すよりも早く一人の男の子が反応した。

「あっ!景和兄ちゃんだ!」

 またこのパターンかよ…!今更何をしに来たのか、桜井景和に子どもたちが群がっていた。咄嗟に背を向けて、机の裏に隠れようとするも、時すでに遅し。

「あっ!奏斗君!どうして!?」

 完っ全に神経衰弱ゲームの時と同じ流れだ。どうしてこいつとはこうも巡り合う。はしゃぐ子どもの群れを隙間を縫うように、大田原まみが景和に語りかけた。

「なに?景和くん知り合い?」

「あーまぁ、友達って感じですかね!」

 なんでそんな誇らしそうに言うんだよ。誤魔化しきれないと観念して、椅子から立ち上がろうとする。

 

 すると不意に外から爆発音がした。

 

 揺れは断続的に続き、蛍光灯の明かりがチカチカと点滅する。正体はすぐにわかった。これは地震じゃない。周囲の建物が破壊されて起きた衝撃だ。出たなジャマト…

「奏斗君!」

「わかってる!」

 上遠にカレーを押し付けて、景和と共に玄関から外に出る。会館に向けて、数体のジャマトが進軍していた。ウツボカズラのルークジャマトに、ジャマトライダーが六体も。随分と大勢で来たもんだ。通った道は破壊されたようで、至る所から黒煙が見える。

『『SET』』

「「変身!」」

『BLAST!』『NINJA!』

 俺たちが仮面ライダーに変身すると、騒ぎに寄せられた子ども食堂の皆が外に出てきた。子どもたちは俺たちが変身した事に驚いているようだが、上遠の表情にも動揺の色が見えていた。やっぱりこいつは……

「みんな逃げて!」

 タイクーンがそのやり取りをしている合間にも、二体のジャマトライダーが俺たちに殴りかかる。他の四体は何もしてこない。ジャマトライダーの重い一撃を、半歩下がってスレスレで避けて、これ以上先に進まないよう両腕で抑え込む。子ども食堂の皆は、ジャマーエリアに阻まれて逃げられないようだ。

「待てっ…!」

 子どもたちに怪我をさせるわけには…!ジャマトライダーの右腕で掴んだまま、ガス噴射と共に飛び上がって、ラリアットをくらわせて攻撃。ダメ押しの一発を…と思ったところで、ジャマトたちが一点を注視していることに気付いた。

「何だ…?」

 子ども食堂がある会館の上空に、赤い六角形のリングが収縮するように規則正しく浮かんでいた。今度はルークジャマトの方に目をやると、黒と紫のボールを持っている。ルークジャマトが一歩前に出ると、ハニカム構造の結界の様なものが現れる。その表面には、5POINTと表示されていた。…………!このゲームまさか!

「まずい!」

 ルークジャマトが大振りでボールを投げる。俺は直ぐ様ガス噴射で大ジャンプ、ボールをリングに入れさせまいと手を伸ばした。が。

『JYA JYA JYA STRIKE!』

 俺の右足首をジャマトライダーの蔦が掴んだ。そのまま振り回されて、会館の壁に叩きつけられる。咄嗟のことに防御もできず、瓦礫と共に地面に落ちた。アーマーに守られて大した怪我にはならなかった。しかし、蔦に締め付けられた右脚がジリジリと痛む。くっそ…

「大丈夫!?」

「俺はいい…それよりも…!」

 直ぐにタイクーンがフォローに来てくれたが、ボールは虚しくもリングを通り過ぎた。そして、GOAL!!とリングの前に文字が浮かび上がった。遅かったか……!

 ボールがゴールしたことを確認したジャマトたちは、エリアの中央へと戻ってゆく。ジャマーエリアの中心には既に得点板が表示されていて、ジャマトチームに五点入っている。一時間のカウントは始まっていた。

『ジャマトが現れました。これより二回戦、ジャマーボールを始めます』

 ツムリの宣言に合わせて、残りの五人が転送されてくる。

『ライダーとジャマトの陣地に別れ、ボールを奪い合います。ゲームは前半、後半の二回。それまでに相手陣地のゴールにボールを入れ、得点の多かったチームの勝利です』

 ゲームの概要を聞いたプレイヤー達は口々に喋り始める。

「要はドリブルの無い足が使えるバスケみたいなものか」

「じゃあ仲良く今回は団体戦ってわけね」

「だが忘れるな。当然デザスターの妨害がありうる!」

『ただしゲームに負けたら、ジャマーエリア内の町は滅び、人々は助かりませんのでご注意ください!』

 チラミが追加した投票機能。今回のジャマーボールで確実に一人は脱落になる。必ず誰かは投票機能を意識した動きをするようになる。いかにヘイトを稼がないか、疑われないか。仲良しこよしなんて、思わないほうがいいだろう。

 

 

 子ども食堂の屋上に移動した七人。頭上にはジャマトのゴール。ビル群を抜けた先にあるゴールは、とても小さく見えた。でも、勝つためには行くしか無い。地面に無造作に置かれたボールを、英寿が拾った。 

「今度はこっちが攻める番だ」

 一体のジャマトライダーが屋上に現れる。どうやら早速ボールを奪うつもりらしい。英寿は歩みを止めずにボール中に放り投げる。そして生身でもお構い無しに振るわれる拳をいなしながら、パワードビルダーバックルを装填。レバーを引いて、ジャマトライダーに背を向けたままギーツに変身した。

『DEPLOYED POWERED SYSTEM!GIGANT HAMMER!』

 振り返ると同時にギガントハンマーで大振りの一撃。ジャマトライダーを相手陣地にぶっ飛ばした。ギーツが落下したボールを掴むと、他の参加者もバックル片手に変身する。

『ZOMBIE!』『BEAT!』

『MONSTER!』『GOLDEN FEVER!』

「タイクーン、ダパーン。取り返すぞ」

 ギーツからタイクーンにボールが渡されると、皆がゴールめがけて走り出す。俺はロポと共に先頭を駆けた。建物と建物の間を二人で飛び移ると、後方からボールが投げられる。

「冴さん!」

 タイクーンからパス回しが開始した。ボールをキャッチしたロポの前に、ジャマトライダーが二体立ちはだかる。先ずはゴールに近付くことが優先……!左側のスロットにゾンビブレイカーバックルを使用する。

『SET』『DUAL ON!BLAST!ARMED BREAKER!』

 ゾンビブレイカーを横に構えて、ジャマトライダーのパンチを一手に抑え込む。そして片手でポンプを右にスライド。

『POISON CHARGE!』『TACTICAL BREAK!』

 毒をまとったノコギリ状の刃を回転させ、前進しながらジャマトライダーを押し退ける。そのスキにロポの俊足がジャマトライダーの間を駆け抜けた。

「大智!」

 ボールはナッジスパロウへとパスされる。だが彼の前にもジャマトライダー。蔦による障壁がパスコースを分断する。それでもナッジスパロウの放ったパスは蔦の隙間を塗って空中へ。これはギガントハンマーを手放し大ジャンプしたギーツが取った。そしてボールは再び俺たちの元へ。二体のジャマトライダーにゾンビブレイカーを投げつけ、両手でしっかりとキャッチ。

(ドリブルの無い足が使えるバスケみたいなものか)

 さっき大智はあぁ言っていたが…正直このゲームは…

「得意分野だ!」

 あえて俺は右手でドリブルをしながら前進する。さっきまで相手していたジャマトライダーが止めようとしたが、こんな緩いディフェンスで止められてたまるか。ドリブルを両手で交互にして判断を鈍らせ、さらに股抜きパスで先にボールだけを行かせると、ガス噴射をしながらスライディングで二体をかわし、再度ボールをキャッチ掴んでドリブルを続行する。久しぶりだ、この感じ。

「早くパスを!」

 隣を走っていた我那覇冴の呼びかけに我に返った。そうだ、これは団体戦だ、個人戦じゃない。バスケットボールをしている高揚感に、周りが見えなくなっていた。

「祢音!受け取れ!」 

 少し隊列の前に飛び出ていたナーゴへロングパス。一気に距離を稼いだ。ナーゴはそのままゴールへ直行しようとしたが、ルークジャマトにボールを掠め取られる。まずいぞ、このままボールをキープさらたら……

「させんぞ!」

 突然、ディフェンスの持ち場を離れたヘリアルが、プロペラで飛翔しながらボールを奪い返した。ディフェンスの層が薄くなってしまったが、この場合はしょうが無い。

「決めろ!オオカミ君!」

「わかった!」

 ヘリアルからボールを投げ返され、ロポは一直線にダッシュする。もうディフェンスに回っているジャマトはいない。ギーツとナッジスパロウが相手をしている。待てよ…あのルールは説明されていたか?

「冴!一旦止まれ!」

「ええっ!?」

 俺の叫びも虚しく、ロポはダンクシュートの要領でボールをゴールしてしまった。それも超至近距離。間に合わなかった…

「あれ!?三点しか入ってないよ!」

 ナーゴの言った通り、俺たちのチームには三点しか得点されていない。これはバスケと同じなんだ。つまり、

『近距離は三点。遠距離ラインからの得点は五点になります』

 解説どうも…と、そうこうしている間に、ジャマトもパス回しを始めていた。ビルの壁を破壊してギーツの行く手を阻んでいる。なんでもありだな。俺も速く戻らないと…

「急がなきゃ!」

 走っている内にナーゴと合流し、共にディフェンスに回ろうとするも、ジャマトライダーが伸ばした蔦が屋上の配電盤をもぎ取り、俺たちに投げてくる。流石に当たったら一溜まりもない。バックステップをして回避行動を取る。とことん足止めする気か。

「あっ!」「まじか…」

 顔を見上げたときには、ジャマト側に三点入っていた。

 

 

 3対8。未だ点差は埋まらず。ディフェンス陣の間で何があったかは知らないが、こっちはただ点を入れるしか無い。ヘリアルからボールが回ってきた。

「俺が何とかするしか…!」

 ドリブルしつつ左右に揺れながらフェイントをかけ、一気にジャマトライダーの包囲網を抜ける。行けるぞ…他にジャマトはいない。五点ラインギリギリまで行って、シュートを決められれば。

「ここだ………っ!」

 俺は遠距離ラインの前に立ってスタンダードなフォームでシュートを決めようと、膝を折り曲げる。だが、そこでルークジャマトの横槍が入った。俺達のゴール付近にいたルークジャマトの、ロングレンジからのビームが、足元に向けて放たれる。その衝撃で足場が崩れ、俺の体は遠距離ラインを超えてしまった。でも、ここで決めなきゃ、またジャマトに点を決められる。やむを得ない…! 

「くっ…そ!」

 落下しながらもボールを手放し、またしても近距離のシュート。何とかボールはゴールを通過した。しかし、入ったのは三点。6対8でジャマトのリードを許したままだ。前半戦も残り二十分となった所。各プレイヤーの焦りも見え始める。

「パンダ君」

 路地に着地し、ディフェンスに戻ろうと踏み出したところを、ヘリアルに止められた。またしても持ち場を離れて、ジャマトライダーを相手取っていたらしい。プロペラだけでよくやるな。まぁ、そのおかげでマークが緩まって助かるが。

「どうした?」

「タヌキ君の様子がおかしい。ジャマトの攻撃を躊躇っているようだ」

 ジャマトへの攻撃を…?それが本当なら、どういうつもりなんだ。でも、タイクーンが使い物にならないのだとしたら、ディフェンスを任せるのは少し心配だな。

「俺達もディフェンスに回ろう。試合は後半戦もあるんだ。今はセンターラインを下げて、チャンスを待つ」

「それが得策だろう。さぁ、行くぞ!」

 ヘリアルはプロペラで浮かび上がると、自身の手を掴むように促してくる。なるほど、これなら速い。素直に左手で捕まって、ゴールへ直行する。プロペラは二人分の体重でも速度を落とすことなく、会館の姿が直ぐに大きくなった。

「っ!見ろ!」

 ヘリアルが先に、ボールの行方に気付いた。ルークジャマトがゴールを決めようとしているのに、タイクーンは棒立ちだ。

「何やってんだあいつ…!」

『SET』『DUAL ON!BLAST!ARMED SHOOTER!』

 小型バックルよりマグナムシューターを生成。ハンドガンモードで銃弾を乱射してルークジャマトの足を止める。ヘリアルから手を離し、転がりながら着地。ルークジャマトとタイクーンの間に割って入ろうと駆ける。

 しかし……

「ぐっ!があっ…!」

 右脚に走る、刺されたかのような激痛。視界がぐにゃりと歪んで、前のめりに倒れた。あの時だ。最初にジャマトライダーの蔦で締め付けられたせいで、一気に負荷がかかったのだろう。立ち上がることができない。倒れ込んだままでも、マグナムシューターを前に伸ばして、ゴールを阻止しようと発砲する。だが、痛みで全身が震え、正確性を失った射撃は、ルークジャマトにかすりもせず、そのままゴールを許してしまった。一気に五点が入る。

 ブラストバックルでも、カバーしきれなくなっきてるな…

「奏斗君!」

「あんた、何でこんな状態で…!」

 タイクーンとロポが俺を心配して寄って来た。ロポはアスリートだからだろう。俺の症状を一見で見抜く。

「今は休んでなさい」

「ダパーン。後は俺達に任せろ」

 顔を上げると、ギーツがボールを持っていた。

 俺の前半戦は、ここで終りを迎えた。

 

             *

 

─ジャマーボール前半を終えての感想は?─

 

「攻撃の要のパンダ君が使えなくなった。別の攻め方を探さねばならないな」

 

             ※

 

 俺が倒れている合間に、ギーツがロングシュートを決めてくれたようだ。点は何とか11対13までに縮まり、前半戦は終了した。後半戦は明日の夕刻となる。デザイアエリアのベットで横になっていたが、痛みはなかなか引かなかった。楽な体制を探してベッド上をぐるぐると回っている内に、ベッドルームの扉が開かれた。

「どれ、脚の手当をしてやろう」

「お前にできるのかよ」

 橋結カムロは救急箱を持っていた。いくらこいつが器用であるからと言って、俺の怪我が治るわけがない。

「この怪我はツムリに一時的に治してもらったものだ。その限界が、来ただけだろ」

「なぁに、テーピングぐらいはできるさ」

 頑として橋結カムロは出ていかなかったので、俺は観念して右脚をベッドから下ろした。骨折自体は治っているが、無茶な動きをすればまた骨に傷がつく。それが医者の診断だ。ジャマトライダーの攻撃で、ヒビが入ったかもしれない。右脚は青く、血の巡りが悪くなっているようだった。

「すまないが、明日の後半戦はディフェンスに回ってほしい。攻撃は変わりに俺がやる」

 シュルシュルと包帯が脚に巻きつけられてゆく。怪我した部位を固定するように、様々な角度から。

「わかってるさ。なにも、攻めるだけがバスケじゃない」

「その言葉を聞いて安心した。さ、できたぞ」

「は、もう?」

 気付くと、脚のテーピングは済んでいた。驚いたことに、全く痛みがない。固定の方法が良かったのか?全然ズキズキしないし、多少動かしてもなんら問題無し。恐るべし、技術力No.1と称された男。

「すっご…」

「まぁこんなもんだ。俺の手にかかればな!」

 この自画自賛さえ無ければどれほど良かったことが。もう少し話して行くつもりなのかと思ったが、橋結カムロはいそいそと救急箱を片し始めた。

「今度はタヌキ君の所へ行ってくるよ。彼も調子が悪いようだしな……」

 確かに。ジャマトに何か、思うところがあったのか。攻撃を躊躇するほどだ。相談してくれたっていいだろうに。

「それじゃ、俺はここで……おっと!」

 勢いよく振り返った橋結カムロ。扉を開いた出会い頭に、ツムリが立っていた。

「奏斗様。サポーターからのお呼び出しです」

 サポーター…?もしかして、俺にバックルをくれたオーディエンスのことか?それが何で俺に。

 

 

 デザイアドライバーを装着すると、自動的にオーディエンスルームへと転送された。オーディエンスは、俺達の戦いを観戦するであろう瞳型のビジョンの他は、一面本棚。その仰々しい雰囲気に気圧されながらも、サポーターを探す。

「いない?」

 地面に積み上げられた本の山脈の陰にでも隠れてるのかと考えたが、姿も形もない。呼び出しておきながら、不在とかどういうことだよ。

「こっちです」

 上方から声が聞こえて、顔を上げる。高く重なった本棚の天辺に、一人の仮面ライダーが座っていた。エントリーフォームだが、あのマスクには見覚えがある。紺色で、流線型の造形。椅子取りゲームの時に戦っていた運営のライダー。脱落した祢音を稽古し、人一倍強くしたのも、確かこの男だったはずだ。

「ハイトーン…?お前が俺のサポーターってやつか?」

「半分正解。僕は代理です」

 ハイトーンは本棚から飛び降りる。その衝撃で、部屋中のホコリが舞い、グラグラと山脈が揺さぶられる。そして、デザイアドライバーを外して素顔を……は?

「芹澤!?」

 仮面ライダーハイトーンに変身していたのは、かつてバスケ部で共に活動していたマネージャー、芹澤朋希だった。身体は弱いが気配りのできるやつで、なんでもズバズバアドバイスしてくれていたのを覚えている。

「お前、なんでデザグラの運営なんかに…?」

「………以前。玲先輩とデザグラに参加しました。その時のゲームで、僕はあなたのサポーターに推薦を受けたんです。ちょうど、玲先輩も退場してしまって、断ることもできず…IDコアの管理業務に就いていました」

 玲が退場した時、芹澤もそこにいたのか。二人共、慣れないことばかりで、大変だったろうに。玲が消え、俺の人生が変わった。芹澤が記憶を保持していながらも、俺に接触できなかったのは、運営からの圧力もあったのだろう。辛いのは、俺だけじゃなかったはずだ。

「そっか…お前も、辛かったよな……」

 玲の話を黙ってていられた事実よりも、バスケ部として真っ当に努力していた日々を共有できる奴がいるほうが、今はありがたかった。それだけで、あの毎日が無駄じゃなかったって思えるから。俺が芹澤の肩に手を置くと、彼は一歩引いて深々と頭を下げた。

「ごめんなさい…!奏斗先輩が、玲先輩の事を思い出したら…きっと、死ぬほど無茶をすると思って…!IDコア内の記憶のデータを消去したんです。でも、それがあなたに"人類滅亡"を選択させることになるなんて…馬鹿でした」

 今までデザグラを通して積もった謎が、晴れてゆくようだった。俺の過去の蛮行は、芹澤が俺を気遣った結果だったのか……必要以上の心労を、彼にかけてしまっていたようだ。謝る必要があるのは、俺のほうだろ。

「ごめん……でも、もう大丈夫だ。今は、信じられる仲間がいる。デザスターなんて言ってるけど、英寿たちとは仲間だ。玲とお前の無念は…俺が晴らす。怪我しちまったけどな」

 最後の言葉は、自然と笑ってしまった。自虐ではなく、無理に後輩にカッコつけようとする姿と、前半戦の情けなさのギャップが、自分の中で開いてしまったからなのかもしれない。俺の言葉に芹澤はホッとしたのか、やっと顔を上げてくれた。

「ありがとうございます…奏斗先輩。今日来てもらったのは、サポーター代理として、伝言あったからなんです」

「伝言…?」

 芹澤は自身のデザイアドライバーを眺めると、また俺に目線を戻した。

「あなたのサポーター・モーン曰く。嘘つきは一人ではない、ということです」

 モーンとか言うサポーターは、随分と不親切な性格らしい。俺はまだその言葉を意味を、深くは理解できなかった。

 

 

 桜井景和は、子ども食堂の隅で頭を抱えていた。

「どうなってるんだよ…」

 過去の退場者の言葉を喋るジャマト。ジャマトとは一体何者なのか。

(ワタシハ…カタナキャナラナインダ…)

(ショウボウシナンデネ…)

 彼らの言葉が、景和の頭の中でこだまする。デザグラの退場者達は、ジャマトとなってしまったのか?疑念が晴れぬまま、景和はサロンに戻ろうとデザイアドライバーを取る。

「はぁ……」

 デザイアドライバーを装着しようとしたところで、食堂の扉が開いた。景和は急いでドライバーを後ろ手に隠す。食堂に入って来たのは、奏斗の後輩である上遠赤哉だった。景和も、一応上遠赤哉と顔見知りである。と言っても、迷宮脱出ゲームで巻き込まれた被害者同士だったのだが。上遠赤哉は景和の事を忘れているはずだった。

「俺の代わりに、食堂を手伝ってくれてた子だよね…?」

「もっと前」

 上遠赤哉の威圧感のある声に、景和は後ずさる。彼の中から、得も言われぬ影のようなものを感じたからだ。

「もしかして……前に会ったときのこと、覚えてる?」

 今度は言葉を発さずに、こくりと頷いた。デザグラの記憶は本来、世界改変と同時に消去される。それなのに、上遠赤哉は迷宮脱出ゲームの一部始終を記憶し、景和に接触していた。

「…………家に帰れないのは、悲しい」

「え…?」

「あなたが……皆を守ってくれること、期待してます」

 人と話せない男の、途切れ途切れの言葉。口数は少なくても、景和の心には上遠赤哉の言葉がずっしりと乗っかっていた。そして、景和ははっきりと答えた。

「守るよ。約束する」

 そして、二人のやり取りを部屋の外から盗み聞きしていた男が一人。橋結カムロである。

「……上遠赤哉。またモーンの差し金か」

 上遠赤哉の姿を確認した橋結カムロは、景和と接触せずに子ども食堂を後にした。

 

 

 墨田奏斗が去ったオーディエンスルームにて。芹澤朋希は深く溜息をついた。もし真実を知れば、奏斗の破壊衝動は自分を襲うかもしれない。朋希にとって、奏斗がデザグラを通して精神的に成長していた事は幸いだった。今はただ、恨みの矛先がデザグラに向いているだけ。鵜飼玲の死に際を知れば、また奏斗の破壊衝動は復活する。

「おっつかれさまぁ〜ハイトーン」

 本棚の裏から、モーンが顔を出した。彼女が朋希という代理を立てた理由はただ一つ。新井紅深の姿と共有している素顔を晒させないためである。

「こんな事をして、何をするつもりです?上遠赤哉まで駆り出して、奏斗先輩をデザ神にしたいんじゃないんですか?」

 朋希の追求を、モーンはソファーに座りながら飄々とした口調でかわす。

「もちろん。奏斗にはデザ神になって欲しいよ。そのためにさ…使える内にボラ部を使っておかないと」

 モーンは手近にあった文庫本を取って開いたが、直ぐにつまらなそうに閉じてしまった。

「ボラ部の皆が活躍すれば…もっと私はドキドキできる…!」

 

 

 俺のサポーター・モーンとか言うやつは、どうして俺に会ってくれなかったのだろう。リアリティーライダーショーだって見世物にして、俺達の人生をおもちゃにしてるんだ。そんなことに金をかけられる奴等なんかに、俺達の常識は通用しないか。サロンでは他のメンバーも、オーディエンスに監視されていようがお構い無しで、紅茶を嗜んだり本を読んだり、好き好きに過ごしていた。

 ソファーに腰を下ろし、参考書を広げる。俺は仮面ライダーだが、それ以前に学生だ。課題を始末しなければならない。が……冬休みも残り半分。それまでには家に帰らないと、親に怪しまれる。両親は俺に興味がないので、今のところは文句を言われずに済んでいる。今シーズンは遅遅として先に進まないし、冬休み中の完結は諦めたほうがいいか。なら、チラミになんて言えば…

(ダメよ。アンタは今オーディエンスを楽しませる貴重な、ライダーなんだらから)

 くらい言われそうで腹が立ってきた。

「僕、わかっちゃった。デザスターが誰か…」

 唐突な五十鈴大智のカミングアウトに、皆手を止める。デザスターが…もう?またお決まりの推理だろうか。分厚いハードカバーの本をサイドテーブルに置き、五十鈴大智は座ったまま、一人のプレイヤーに目を向けた。

「正解は君だ…桜井景和」

 景和が…デザスターだと?にわかには信じ難い推理に、眉間にシワが寄る。視界の端で、ハンモックに腰掛けた橋結カムロが腕を組んでいるのが見えた。デザスターと指名された景和は、少し顔が引きつっている。それは、真実を当てられた動揺か?間違った推理から来た困惑からなのか?真意もわからぬ前に、五十鈴大智は椅子から離れて饒舌に語り始めた。

「前半戦、彼はジャマトへの攻撃を渋っていた」

「それ、私も見た」

「俺もだ」

 五十鈴大智の推察に、我那覇冴と橋結カムロが同調する。口には出さないが、確かに俺も見た。ボールを持ったジャマトを前にしてもだ。おかげで、数点失点している。

「僕たちの足を引っ張るためだったんじゃ…!」

「違う!これには理由があって、大智君にも話しただろ!?」

 流石の景和もこれには焦った様子で反論する。しかし、五十鈴大智の反応は、知らないの一辺倒だった。

「さぁ…何も聞いてないけど…?」

「何言ってるんだよ…!ジャマトが前に退場したライダーの…シロクマさんの言葉を喋ってたって!」

「…嘘でしょ?」

「待て…ジャマトが言葉を喋った…?」

 言葉を喋るジャマト。確か………そうだ。俺も遭遇したことがある。迷宮脱出ゲームだ。厨房で俺と上遠を襲撃したジャマトライダーは、俺の名前を呟いて、攻撃を中断した。シロクマが誰かは知らないが、俺の身内には退場者もいる。半信半疑だった五十鈴大智の推理が、端から崩れていくようだった。

「何でそんな大事なことを隠してたの!?」

「正解は彼がデザスターだから…!」

「違う…俺じゃない…!信じてくれ!」

 我那覇冴と五十鈴大智の二人に詰め寄られ、景和は俺や祢音に助けを求める。俺の持っているカードは、確かに五十鈴大智の推理を崩す物になるだろう。

 だが…俺はだんまりを決め込む事にした。俺が発言したところで、この空気が変わるとは思えない。加えて、ここで景和が落ちてくれれば、推理の的が絞れる。五十鈴大智の狙いもそうだろう。俺は他のメンバーに見えないように、スパイダーフォンで景和に投票した。

「ま、お前にはギロリを騙した前例があるからな」

「驚いた。タヌキ君がそんなに"化かし"上手だったとは…!」

 英寿や橋結カムロも概ね同じ判断をしたのか、冷淡な反応で返す。

「君のバックルは没収させてもらうよ」

 景和の荷物から、ニンジャバックルが奪われる。ここまでやるとは、徹底的だな。五十鈴大智に陥れられた景和の目力は一層強くなる。

「はい!はい!は〜い!」

 ピリついてきた空気をこじ開けるように、チラミとツムリの両名が入って来た。こいつらが来たということは…

「盛り上がってきたところで〜!デザスター投票、中間発表

と行こうじゃな〜い!」

 チラミが子供向け番組のようなコミカルなノリでツムリに指示すると、中間発表の結果を載せたホログラムが浮かび上がった。案の定、景和に四票。そして、未投票のやつが三人。まだ見極める判断をしたプレイヤーがいるようだ。

「疑いを晴らせなきゃ、脱落はお前で決まりかもな」

「……そんな……」

 信じられないと言うように、景和は目を泳がせた。

 

             *

 

 日は登り、昨日と同じ午後一時となった。後半戦がスタートする。俺とヘリアルのポジションを入れ替え、俺と景和、そして五十鈴大智でゴールのディフェンスを担当する。景和にバックルがないのが心配だが…

『それでは、ジャマーボール後半戦、キックオフです!』

 子ども食堂の屋上に転送される。迎え撃つジャマト達は…昨日よりも明らかに数が増えていた。ルークジャマトに六体のジャマトライダー、大勢のポーンジャマト。

「なんかあっちの量増えてない?七体七じゃないの?」

「ボールも二つに増えてる」

「ジャマトにちゃんとしたルールを求めるほうが無理だろ」

 祢音と我那覇冴の分析に、淡白な反応で返す。

「皆、くれぐれもデザスターには気を付けてね」

「当然だ!今は眼の前の勝ちに集中!」

 五十鈴大智はあからさまに忠告をしたが、それも橋結カムロの大声にかき消された。デザスターが誰であれ、ここでジャマトに敗北しては元の木阿弥。せめて戦っている間だけでも、助け合わねば。

「始まるぞ!」

 英寿の号令に合わせて、一斉にバックルを手に取る。

『SET CREATION!』『SET FEVER!』

『『『『SET』』』』

「へ〜ん!「「「「「変身!」」」」」しんっ!」

『DEPLOYED POWERED SYSTEM!』

『MONSTER!』『ZOMBIE!』

『BLAST!ARMED SHOOTER!』『BEAT!』

『HIT!NINJA!』『ENTRY』

『Ready?Fight!』

 二個に増えたボールは、両陣営一個ずつ。オフェンス担当のギーツ、ナーゴ、ロポ、ヘリアルが攻撃を押しのけながら進軍する。一度、ナーゴがジャマトライダーのタックルを受けてボールを手放したが、ニンジャフォームを引き当てたヘリアルのワープが瞬時に取り返した。あっちは任せておいても大丈夫そうだな。

 ブラストバックルの高起動能力で、即座に一番高いビルの屋上を陣取る。両陣営のゴールを一望できるこのポイントなら、狙撃でディフェンスをしつつ、いざという時はオフェンスのサポートもできる。必要なのは、広い視野…!

『LIFULL』

 マグナムシューターのスコープを覗くと、早速ナッジスパロウがジャマトライダーからボールを奪い取ろうとしていた。彼に近づこうとするポーンジャマトを、一体一体撃ち抜いてゆく。地味だが、現状脚への負荷を抑えるにはこれしか無い。

「………もうお出ましかよ…」

 スコープから目を離して振り向くと、大ジャンプしたジャマトライダーが、空中より拳を振り押していた。右側に転がってこれを避けると、ちょうど拳がクレーターを作っていた。銃口を向けると、左の上腕でガードしながら突撃してきたので、ライフルモードのまま一点集中で連射。銃弾は左手首に五発命中。左手を大きく仰け反らせながら怯んだので、負担の少ない左脚で思いっきり旋風脚。首に思いっきり叩き込んで屋上から蹴り落とした。

「悪いな。昔の俺だったらやられてたよ…」

 ジャマトライダーを退けられたので、再び戦場に視線を移す。すると、ルークジャマトが肥大化した左腕にボールをねじ込み、ビームごと発射した。ナッジスパロウがなんとかガードしたが、弾かれたボールは一直線に子ども食堂のある会館へ。

「…やっば!」

 子どもたちが危ない。反射的にビルから飛び降り、会館へ向かおうとビルの壁を蹴る。だが、空中で俺に掴みかかってくる奴がいた。さっきぶっ飛ばしたジャマトライダーが、俺を通させまいと飛びついてくる。力強い両腕に動きを止められ、地面へと真っ逆さまに落ちていった。

「いつまでも…邪魔すんな!」

 ジャマトライダーにゼロ距離で銃口を押し当てて、ブラストバックルをマグナムシューターのスロットに装填。玉砕覚悟で必殺技を放つ。

『BLAST!TACTICAL BLAST!』

 鋭い空気の圧縮弾が、俺とジャマトライダーの間で炸裂する。その余波で出来た物凄い風圧で、ジャマトライダーの拘束を流れた。マグナムシューターが盾になってくれたおかげで、ダメージも最小限に抑えられた。今度こそジャマトライダーはエリア端にぶっ飛んでいった。

 俺が地面に着地すると同時に、久しぶりに見る銀の翼がルークジャマトを連れて飛び立つのを目視した。タイクーンのコマンドフォーム・ジェットモードだ。シークレットミッションをクリアしたのか。念の為、俺もゴールへ戻る事とした。

 

 

 タイクーンがコマンドツインバックルを手に入れた一部始終を、モーンと朋希は観戦していた。

 ナッジスパロウの弾いたボールが、子ども食堂を襲撃する。衝撃で天井が崩れ、食堂内に避難していた子どもたちに降り注がんとしていた。

『………!』

 咄嗟に上遠赤哉が数名の子どもたちに覆い被さる。が、もう間に合わない。赤哉が痛みに耐えようと、ギュッと目を閉じた、その時だった。

『大丈夫…?さぁ、奥へ逃げて!』

 タイクーンが、崩れ落ちた瓦礫を受け止めていた。これにより、"最初に民間人を三人救助する"というシークレットミッションがクリアとなった。

『子どもたちを守らないと…!』

 シークレットミッションクリアの特典に、コマンドツインバックルがタイクーンへと贈られる。モーンと朋希は、景和がデザスター投票で不利になったことで、彼のサポーターがテコ入れしたのだろうと、すぐに感じ取った。しかし、モーン注目の的は、全くの別にあった。

 

「あーっ!もう!邪魔しないでよタイクーン!後ちょっとで死んでたのに〜!」

 

 モーンは悔しそうに両足をジタバタさせる。横目でその様子を見ていた朋希は、ポケットの中に忍ばせていた"破損した仮面ライダーシャギーのIDコア"を握りしめた。

(正気じゃないよ…あんた)

 

 

 ゴール下まで救援に向かうと、何やらナッジスパロウとタイクーンが揉めていた。何があったんだ…仲間割れしてる場合じゃないだろ…!

「違うんだ!」「邪魔するな!」

 互いに掴み合った二人は、バックルの性能差でタイクーンが競り勝ち、振り解いた際にレイジングソードがナッジスパロウのアーマーを斬り裂き、変身解除させてしまった。今のは故意か、偶然か…?

「くっ!」

 その間にも、ルークジャマトはゴールを決めようとジャンプする。俺は何とか寸前で止めようと、ガス噴射を織り交ぜたジャンプで追うが、時すでに遅し。ルークジャマトは自分ごとゴールにボールを滑り込ませ、伸ばした俺の手は虚しく空を切った。またしても、11対16と突き放されてしまう。

 まずい…このままタイムアップになったら…!

 

           DGPルール

 

         プレイヤー全員から

 

       デザスターだと疑われた者は

 

       ゲーム終了時、強制脱落する。

 

      誰を落とすも、プレイヤーの自由。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「久しいなぁギーツ!」

「誰かを疑わせるか…それとも信じさせるか…」

─ジャマトの真相が明らかに!?─

「まずいよ!もう時間がない!」

「俺が守るんだ…だからこそ………このゲームに勝つ!」

23話 発露Ⅲ:投票!信じられるのは誰だ!


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23話 発露Ⅲ:投票!信じられるのは誰だ!


先日、UA数一万回を突破しました!
ここまで伸びることが出来たのも皆様のおかげです!
本当にありがとうございます!
そして、至らぬ私の駄文の誤字訂正をしてくださる読者の方、感想を送ってくださる読者の方、ここすき投票してくださった読者の方、いつも反応、励みになっています!
まだまだ奏斗君の物語の先は長いですが、TV本編の展開に伴い、この作品のストーリーも加速してゆくので、どうぞお楽しみください!



 

 デザイアグランプリ新章・第二回戦、ジャマーボール。チームでボールを奪い合い、ゴールを決めろ。前半戦、英寿や冴さんの活躍によって点数を稼ぐも、奏斗の怪我や景和の不調もあって、負け越したまま後半戦を迎えてしまう。さらに、仮面ライダーナッジスパロウ・五十鈴大智くんが、景和がデザスターであるとカミングアウト。チームの意思はバラバラになっちゃって、連携もままならない。

(景和…大丈夫かな…?)

 私と英寿がゴール下に戻ると、ちょうど冴さんが景和を糾弾しているところだった。奏斗が脚を引きずりながらも、何とか仲裁しようとしている。

「あなたがデザスター!?」

「待て…今は俺達で争ってる場合じゃない!」

「でも…彼のせいで何度も失点している!デザスターでもおかしく無い!」

 景和は言い返す素振りを見せない。思わず、景和を擁護するような言葉を口に出してしまいそうになる。だけど、直前でそれを抑えた。今はまだ流れに乗っておかないと…大智くんが私を疑わなかったのは幸運だった。当てずっぽうが、偶然っていうのもある。

「皆…僕は大丈夫だから、何とか巻き返そう。ジャマトは僕がぶっ叩く。ボールを頼むよ…!」

 大智くんが、大袈裟に痛がるふりをしながら冴さんにニンジャバックルを渡す。一瞬、景和を庇おうとした奏斗を睨んだように見えた。やっぱり大智くんの狙いは、景和を疑わせて落とすこと。

「わかった…そこで大人しくしてて」

 景和を助けないこと、心が痛む。だって彼は、"デザスターじゃない"から。

「ネコ君。オオカミ君とギーツがゴールを決める!俺たちはサポートだ!」

「…う、うん!」

 カムロさんの大声には、いつもペースが奪われる。彼の前ではうっかりボロが出てしまいそうだ。

 ジャンプで登ったビルの屋上には、ジャマトがうじゃうじゃ。どう考えたって、戦力差がおかしい。前半戦ですらギリギリだったのに。

『MONSTER STRIKE!』

 後方から飛んできた、ナッジスパロウの拳型のエネルギー弾が、数体のポーンジャマトを撃破する。だけど、直ぐに新しいポーンジャマトが転送されてきて、冴さんの変身する仮面ライダーロポ・ニンジャフォームは足止めをくらった。私にパスが回ってくる。

「向こうにだけ交代要員がいるなんて卑怯!」

 卑怯でもなんでも、やるしか無いんだ。冴さんと並走しながら、交互にパス回しをして、ポーンジャマトの突進をかいくぐる。今度はジャマトライダーが送電盤の陰から現れて、ボールをもぎ取ろうと迫る。大切なのは、パスをしやすい位置取り…ここで最適なパスは!

「はっ!」

 地面にボールを投げてバウンドさせると、冴さんがジャンプして取ってくれた。よし…練習の成果出てる!さらに私に手を伸ばしていたジャマトライダーも、カムロさんが横からニンジャデュアラーのシングルブレードで斬り倒して処理してくれた。もう一個のボールも英寿が死守してくれていて、ぐんぐんゴールが近づいていった。

 できれば高得点の五点を狙いたいけど、奏斗みたいにルークジャマトに邪魔されるかもしれないから、近距離で確実に。ゴール下で待機していたジャマトライダーを、私のビートアックスとカムロさんのニンジャデュアラーで地面に抑え込む。その間に、英寿と冴さんが同時にゴールを決めてくれた。一気に六点が入って、17対16。やっと私たちは逆転に成功した!

「やった!やったよ冴さん!」

「よしっ!」

 私と冴さんは、嬉しさのあまりハイタッチする。

 でも、その喜びも束の間だった。

「いや、油断するな!」

 カムロさんが叫んだ瞬間に、赤黒いエネルギーを纏ったボールが放たれた。ルークジャマトだ。腕にボールをねじ込んで、ビームごとボールを投げた。そんな反則あり……!?

「ゴールは決めさせん!」

「っ!よせ!ヘリアル!」

 英寿の静止を待たずに、カムロさんはニンジャフォームの能力でボールの射線上にワープ。両腕で抱え込んで、ボールを止めようとする。

「ぐっ!おおおおおおおっ!」

 でも、それだけじゃ止められなくて、カムロさんは弾き飛ばされ、離れのビルに激突した。そして、ボールはゴールへ一直線。受け止めたジャマトライダーがゴールを決めて、また二点差と逆転された。

「そんな…」

 まだまだ、ゲームは始まったばかりだった。

 

             *

 

 ジャマトに二点リードしたかと思ったのも、一瞬だった。ルークジャマトが放った超ロングパス。その勢いにヘリアルもやられ、ディフェンスも追いつかぬままゴールを決められてしまった。ロポもナーゴも連携を上げてきていた。オフェンスの方は問題ないと思っていたが、如何せんボールが二つに増えているのが厄介すぎる。オフェンスかディフェンスか、迷っている内に相手にゴールされてしまう。落ちてきたボールを拾いながら考える。恐らくヘリアルは暫く動けない。ただでさえディフェンスの層が薄くなっているのに、オフェンスまで減っては、いつまでも追いつけない。

「ダパーン。君も前線に上がってくれ。僕たちもガンガン点を稼いで、リードするしか無い」

「……わかったよ」

 ナッジスパロウの提案を受け入れ、俺もゴール目掛けて飛び上がる。景和…これ以上厄介事を起こさないと良いが。

 戦いのメインとなる屋上では、ポーンジャマトが厚い層を作っている。それをマグナムシューターの牽制でどかしながら、ガス噴射を織り交ぜた大ジャンプで一気に飛び越え、ルークジャマトらとボールを巡って交戦している他のライダーに追いついた。

「おい!ヘリアルは!?」

 ジャマトライダーのストレートを銃身の腹でガードしながら、近場でボールを抱えていたギーツに問いかける。

「まだだ!恐らく重症を負っている。暫くは戻って来ない…!」

 ヘリアルが戦線離脱…!だったら…ボールを二個持っている今がチャンスだ。

「俺が攻撃に戻る…!守りは捨てよう!ここで決めるしかない!」

「だけど…あなたの怪我は!?」

 ロポの指摘の通り、ヘリアルのテーピングが緩んできて、またズキズキと痛み始めていた。でも…今までブラストバックル無しでも何とか戦ってきたんだ。投擲でもなんでも、脚をかばう戦い方はいくらでもある。ここで降りられるか。

「…やばいって言ったら嘘になるけど、負けるほうがやばいだろ」

「……私が距離を稼ぐ。五点が厳しいなら、無理せず近距離、いい?」

 ロポはなんとか納得してくれた。彼女にボールを渡すと、ジャマトの攻撃をかいくぐって、目にも止まらぬ速さで走っていった。ナーゴもそれに追随する。俺も速く…!

「ダパーン、頼みがある」

 踏み出そうとした足を、ギーツの呼びかけに止められた。

「銃を貸してくれ」

 わざわざ俺から戦力を奪おってか……いや、今はこいつを敵に回さないほうが先決だな。これ程の化かし上手だ。疑うのはまだ早い。ベルトからマグナムシューターバックルを外して、ギーツに投げ渡した。

「何か考えがあるんだろうな?」

「ああ。いずれ必要になる」

 

 

 ロポは宣言通り、どんどん距離を稼いで、五点ライン寸前のところまで来ることが出来た。パス回しの結果、ロポの後方にいるナーゴにもう一つのボールがある。ギーツの頼みには、乗ることにした。あいつにも考えがないはずはない。だったら信じる。それがデザスターと疑われないためでもあるから。ギーツは右の大回りから、俺は反対側から進軍して、ジャマトの戦力を分散しつつ進んできた。

 センターラインを走っていた二人から、俺達にパスが回ってきた。

「奏斗!」「英寿、おねがい!」

 前転しながら確実にパスを受け取り、即座に力いっぱい込めて投げた。渾身のシュートは誰にも邪魔されることなくリングを通り抜けゴール…!自身初の五得点に、小さくガッツポーズをする。しかし、すぐ異変に気付いた。ギーツがゴールを決められていない。なぜだ?

「……あいつは…!?」

 英寿の前に、新たなジャマトが佇んていた。あいつの姿形は忘れない。かつて戦艦ゲームで俺と青山を瀕死に追い込んだ、あらゆる水生生物がツギハギとなったジャマト。アクエリアスキメラジャマト、またの名を変異ジャマト。何でここにいる…?ジャマトの増援か…!?

「久しいなぁギーツ!」

「お前か…!」

 変異ジャマトは肩の棘を外して、剣のように構える。二人は知り合い…でも、他の奴らは初合わせのはず…!

「何なのあのジャマト!?」「英寿が危ないよ!」

 二人の戦いに加勢しようとするロポとナーゴを、声で止めた。

「待て!奴の剣には毒がある!」

『GIGANT SWORD!』

 そうこうしていると、変異ジャマトの棘とギーツのギガントソードが激突した。正面で火花を散らした刃を、変異ジャマトが右に流す。そして左腕のシャコガイを、ギーツの腕ごとボールを奪おうと伸ばす。ギーツはそれを身体を仰け反らせて避けた。奴の狙いは…多分俺だ。なら…!

『BLAST STRIKE!』

 ロポとナーゴの頭上を飛び越え、変異ジャマトに左腕のキックを放った。が、読まれていたようで、腰から伸びた無数のヤシガニの足に絡め取られ、投げられてしまった。その先でギーツとぶつかり、変異ジャマトに距離を取られる。

「英寿、コイツの狙いは俺だ」

「何…」

 膝立ちとなったギーツは、変異ジャマトを睨みつける。

「おぉ、まさか君の方から来てくれるなんてねぇ」

「お前の戯言に付き合うつもりは無い…!」

「いいね!そういう反応を期待してたんだ!」

 変異ジャマトが腰から生えたヤシガニの足を地面に潜行させる。すると、地面から無数の足が一斉に生えてきて、ギーツと俺は囲まれてしまった。これでは、外にパスを回すこともできない。いや…むしろ好都合か。ボールが一つになれば、攻めか守りかどちらかに専念できる。問題は…変異ジャマトが只者じゃないってことだ。

「来るぞ!」

 ギーツが俺よりも速く前に出て、ギガントソードを横に大きく振る。変異ジャマトはまたしても棘で受け…ると見せかけ、寸前で棘を引き、反対のシャコガイでギガントソードを挟み込む。が、それすらもギーツは読んでいたのだろう。挟まれたギガントソードを引いて、変異ジャマトの体制を崩し、前傾姿勢になった胴体に膝蹴りをくらわせた。これには変異ジャマトもたまらず身を引く。

「ダパーン、俺達でこいつを食い止める!行けるな?」

「当然だろ…こいつには借りがある!」

 俺とギーツ。そして変異ジャマトの、狭いフィールド内での持久戦が始まった。

 

 

 ゲームマスターの執務室にて、ジャマーボール合戦を、チラミが観戦している。彼は大荒れの展開となったゲームに、惚れ惚れしている様子だった。

「いいじゃな〜い。プレイヤー同士の疑心暗鬼、まさかの敵の乱入!盛り上がってきたわぁ〜!」

 現在、デザスターだと追い詰められたタイクーンは動くに動けず、ギーツとダパーン両名はボールを抱えたままアクエリアスキメラジャマトに足止め。さらにヘリアルは戦線離脱状態となり、得点を稼げる状況にあるのは、ナーゴ、ロポ、ナッジスパロウの三名のみ。ジャマトとの人数差もあり、試合運びは難航を極めている。ジャマトの街への被害など考えない攻撃に、直ぐに点差を離されてゆく。

 一人ひとりの仮面ライダーの動向をモニタリングしていると、チラミは一つの違和感を覚えた。

「………ふ〜ん。そういうことねぇ…」

 だが彼はその違和感の正体さえも、エンタメとして消費するつもりであるようだった。

 

 

 圧倒的に不利な状況であっても、残りのメンバー達は頑張って点を獲得してくれた。やはり、ロポとナーゴの連携度の上昇が大きいか。でも、どうしてもジャマトとの人数差は埋められず、相手の大量得点を許してしまった。28対38。ボールは一つここに留まっているし、もう一度二回同時に五点のシュートを決めることなんて、できるのか?

「よそ見は良くないよ!」

 変異ジャマトの刺突を、左に身体をそらしてスレスレで避ける。だがそこでまた足が痛んで、バランスを崩した不意にヤシガニのフィールドにぶつかってしまった。深くダメージが入り、背部のアーマーに傷跡が残る。俺も限界が近づいていた。

「まずいよ!もう時間がない!」

 フィールドの外にいるナーゴが、ゴールを見ながら叫ぶ。気付かぬ間に、残り時間は三十秒を切っていた。ここから逆転する手立てなんて…!

「まだゲームは終わっていない。ダパーン、奴を頼む!」

「ちっ!しくじんなよ!」

『REVOLVE ON』

 もう迷っている時間なんて無かった。ブラストのアーマーを上半身に移動させ、変異ジャマトにしがみつく。そして、両腕から思いっきりガスを逆噴射。自分ごとヤシガニのフィールドに押し当てた。変異ジャマトの顔面が、ヤシガニのフィールドに擦れる。だがそれはこっちとて同じ。長くは持たない…!

「ははっ、やはり君は面白いことを考える!」

『DEPLOYED POWERED SYSTEM!GIGANT SHOOTER!』

 俺からマグナムシューターを借りたのはこのためか。ギーツはフィールド唯一の抜け道である空にボールを蹴り、弾丸をボール目がけて発射。その衝撃で進行方向を変え、ゴール方向へと運ぶ。

「ナーゴ!ボールを投げろ!」

「うん!」

 ナーゴがゴールに向けて投げたボールも、ヤシガニの足の隙間から弾丸を通して、軌道調整。まさかの超ファインプレーで、ボールは二個同時に五点ラインを通過、見事ゴールした。それと同時にタイムアップとなり、後半戦の結果はドローとなった。

「…あー。してやれたな。じゃ、また今度ね、奏斗君」

 ゲームの結果を見た変異ジャマトは、急に興が削がれたかのような素振りを見せ、液状化して消えた。同じタイミングで、鎧が負荷に耐えられなくなり、自動的に変身解除してしまった。倒れそうになったところを、英寿が肩を貸してくれる。

「なんとか間に合ったな…」

「おかげでな、英寿」

 俺は英寿から返却されたマグナムシューターバックルを受け取った。ヤシガニのフィールドが消え、喜び合っているロポとナーゴの姿をようやく見ることができた。変異ジャマト、この後も出てこないと良いが…

『後半を終えて、38対38の同点。ゲームは明日の延長戦にもつれ込みます』

 

             *

 

「…本当に景和がデザスターなのかな?」

 明日の延長線に向けて、トレーニングルームに缶詰になっていた私は、トレーニングに付き合ってくれた冴さんに問いかけた。勿論、景和がデザスターであるはずがない。大智くんの作戦に乗るのが、正しい選択であることもわかっている。それでも、私は信じられる人を落とす気にはなれなかった。なら、他の皆を説得するしか無い。

「どうしてそう思うの?」

「その話、俺も聞きたいところだ」

 トレーニングルームに、新たな入室者が。カムロさんだ。後半戦では最後まで復帰ができなかった理由も、彼の姿を見ればよく分かる。頭を強く打ったのかも、額から後頭部にかけて包帯でぐるぐる巻きになっていて、右目にまでかかっている。なんとカムロさんは、私に透明なプラスチック製の水筒を投げてきた。キャッチすると、中に輪切りのレモンが浮かんでいる。レモン水だ。なんてオシャレな。

「え…これ貰っていいの!?」

「あんた……そんな状態でわざわざ作ってきたの?」

「オオカミ君。君の分も一応あるが、試合前は手料理を食べないのだったな」

 この人全然質問に答えないよね…レモン水を一口含んでビタミンCを補給すると、一気に疲労が回復していく感じがした。気を持ち直して、景和の話へと戻す。

「景和って…根っからの良い人だからさ。ジャマトが退場した人かもって、守ろうとしたんじゃないかな」

「…なるほど。期待外れだな」

「え…?」

 この話聞いて、普通その返答になる!?カムロさんは地面に置きっぱなしにしていたボールを、ゴールにシュートする。

「タヌキ君の"守るべきリスト"の中にジャマトが入っているのか、気になっただけだ」

 動作に一寸の狂いは無く、リングとぶつかることすら無くすんなりと落ちていった。

「どういうこと?」

「彼の願い、元々世界平和だったんだろ?もし、ジャマトも救いたいと思っているなら、彼は大物になると思ったのだがな」

 ジャマトを救いたい…もし、景和だったら。

「でも、ジャマトが本当に人間なら、景和は救いたいって…言うと思うな」

「…逆にあんたはどうなの?願い、世界平和なんでしょ」

 確かにそうだ。冴さんの指摘にハッとする。

「じゃあ!カムロさんはジャマトも助けたいって思ってるの!?」

「う〜ん…まぁ、彼らが人間を襲っているうちは無理だね」

 結露のせいか、ぶら下げた水筒が少し下がったように感じた。

 

 

 食堂の子どもたちの顔は、相変わらず晴れない。幸い、何日か分の食材があったから、また上遠の手伝いをして子どもたちに振る舞った。ご飯を食べるときだけは、少し笑顔になってくれる。ジャマーボール合戦でボロボロになった俺のほうが、心配されたくらいだ。

 大人しく夜ご飯を食べているのを確認すると、大田原まみに世話を任せて、蛍光灯で無機質に照らされた廊下に出た。

「先輩」

「うおっ!」

 まだ二、三歩歩いただけなのに、上遠に背後を取られていた。まだエプロンと三角巾をしている。よく背後取られるな…

「……本当は、カレーの日に話すつもりでした」

 上遠が三角巾を取る。やはりこいつ、俺と喋るのに迷いがない。記憶がリセットされたんじゃないのか…?

「………あの日の言葉、僕は嬉しかったです」

「…なんで…」

 やはり覚えている。迷宮脱出ゲームで決めた、彼の事を笑わない、見捨てたりしない、そういう約束。

「…迷宮のこと、長らく忘れていました。けど…子ども食堂で働いている時にふと思いだして…先輩と、もう一度話がしたいと思ったんです。約束を守ってくれた、先輩に」

 運営の記憶消去にもガバがあるのだろうか。上遠が何時も五時半には部室から姿を消すのは、子ども食堂で料理を振る舞うためだったのだと、理解する。俺は黙って上遠の話に耳を傾けた。

「昔…僕には年の離れた兄がいました」

 上遠は廊下を端から端に見渡すように、視線を動かす。まるで、走り去る子どもを目で追うように。

「兄は聡明で、目的意識のはっきりした人間でした。自分の料理で皆を笑顔にしたい。そう本気で思っている人間でした。僕はその背中に憧れて、兄と約束したんです」

 その兄の実年齢はわからないが、料理という特技から橋結カムロの姿を連想した。しかし、直ぐに奴の大声で話す姿に掻き消される。もの静かな上遠のイメージとは、かけ離れていた。

「いつか僕も料理人になって、兄と一緒に働くって」

 そこでまた、上遠の顔にかかる影が暗くなったように見えた。切れかけの蛍光灯が、小刻みに点滅している。

「でも……兄は火事で亡くなりました」

 上遠は胸ポケットから出したスマホの画面を見せてくる。『レストランで火事、男性一人行方不明。死体見つからず』と古いニュースサイトに記載されていた。行方不明となったのは、上遠橙吾(だいご)。赤哉とは対照的に、オールバックで、さっぱりとした印象を受ける男だった。事件が起きたのは、十年も前だ。その頃の赤哉はまだ六つくらいの歳。到底耐えられる歳ではない。

「最初は…信じられなくて……僕も料理人になるっていう…約束だけが残りました……それから、何年も料理の練習をし続けて…そしたら、約束も忘れられるんじゃないかって」

 彼の声が震える。俺も大切な人を失った身として、夢を駄目にした者として、痛いほど共感できる話であった。彼が五時半に必ず部室から消えるのも、子ども食堂のボランティアに参加するためか。全ては、約束を果たすために。

「…結局。約束は消えませんでした。きっと、呪いなんだと思います。約束は…だから、もう、守れない約束はしないことにしたんです。誰かと話せば、約束が増える。怖かったんだと思います」

 それが、上遠が人と話さない理由か。

「でも、先輩が迷宮で伝えてくれた言葉に…救われた気がして……」

 俺の…言葉?

「破れる約束なんて、約束じゃない。あなたが言ったんです」

 上遠が、目にかかった前髪を掻き分ける。迷宮の時にした仕草と同じだった。あの日、確かに俺はそう言った。上遠を説得するために、必死だった。まさか、そんなに響いていたと思いもしなかった。

「呪いが解けたように、感じました。約束に囚われすぎていた。踏ん切りがつくまでは、もっとゆっくり、頑張ってみようって。約束が…"夢"になってくれるその日まで」

 今シーズンのデザイアグランプリが終われば、上遠の記憶はまた消える。でも、この瞬間だけでも、俺は彼が救われたことが嬉しかった。俺の記憶に振りまわされた戦いの日々に、意味が生まれたような気がしたからか。

「ありがとうございます、先輩。これが言いたかったんです。先輩の約束が、呪いにならないように、僕は願ってます」

 俺の返答を待たずに、上遠は扉を開いて、子ども食堂に入っていった。彼の居場所である、明るい光で満ちた場所へ。俺は、脱力したように壁にもたれた。

「俺の約束ね…」

 そして、俺はすぐに思い出した。

 俺には、守らなければならない約束がある。

 

 

 サロンの寝床へ戻ろうと、バックヤードを歩く。後片付けに時間がかかってしまい、時間は既に十時だった。明日の延長戦に備え、早く寝たいところだ。が…サロンに入ろうとした足が、地面に貼り付いたように離れなくなった。サロンから異臭…いや、焼き肉臭がする。誰か焼き肉でも行ったのか…?俺は入口のそばの壁にへばり付き、そーっと中を覗く。

「やっぱり肉は牛だな…」

「うん…。でも、夜食の域超えてない?」

 英寿と景和…夜食にステーキ食うなっての…!英寿は美味そうにステーキを頬張る。よく夜にそんな脂っこいもの食えるな。絶対俺より胃袋若いだろ。

「牛といえば…バッファに会った」

「は?」

 衝撃の事実に、思わず声が出る。仮面ライダーバッファ・吾妻道長。前シーズンの最終戦で、退場したと聞いている。俺は実際にその瞬間を見たわけではないが、デザイアロワイヤルの動乱の中で一時的に復活した時は、彼もその事実を受け入れていた。生きているはずはない。でも…デザイアロワイヤルの収束に伴って俺の願いが取り消された時に、彼の消滅を見たものはいたのだろうか?いや、誰も見てない。もし、あの時の彼が本当に生きていたとしたら。

(どういう事だ。なぜ俺が生きている)

 最初にコスプレ喫茶で会った時の彼の発言を思い出す。今にしてみれば、何故自分の死を前にしてあそこまで冷静だったのだ。彼は、生きていることを自覚していた…?

「ウソでしょ…!?退場した人って、元の生活に戻れないんじゃ…」

「あいつは生きているのは自分だけだって言ってた…その言葉を信じるなら、他の退場者はもう…」

 英寿の言葉に、景和は沈黙する。一瞬でも、そのシロクマさんとやらジャマトとして生きていることに期待したのだろうか?

「ま、どんな悲劇だろうと救えるのがデザグラだ。理想の世界を叶えさえすればな。そのためには………デザスターだというやつに投票しないとなぁ…」

「英寿は俺のこと、信じてくれるんだ」

 ナイフを動かす英寿の手が止まる。

「俺以外に投票してなかったの、英寿だったんだね」

 確かに…景和を除いて、投票をしていないのは二人いた。それはいったい誰だったのか、気になる所だ。

「俺はそんなつもりで言ったわけじゃない。誰かを疑わせるか…それとも信じさせるか…これはそういうゲームだ。信じてほしかったら証明して見せろ…自分はデザスターじゃないってな」

 延長戦は明日。俺はスパイダーフォンを取り出す。投票を変えるか否か、心はもう決まっていた。

 

 

「死とは…リアルで無ければならない」

 ジャマト化が進行し、気絶した吾妻道長を見下ろすニラムとサマス。彼らが佇む路地の角から、ローブを着たムスブが現れた。何時ものスタイルとは違い、フードは脱いでいる。

「……やっぱりジャマトになったか。嬉しいねぇ…また"お友達"が増えるじゃないか」

 バッファの前にしゃがみ込んだムスブ。そんな彼の喉元をサマスが掴み、上へと持ち上げる。

「おやおや。随分と手荒な歓迎だなぁ…」

「ゲームの不正な関与。ツムリにも止められていたはずです」

 声を低くして威嚇し、さらに首を締め上げるが、ムスブが苦しむような様子はない。逆に、笑顔に満ちた表情を見せる。

「そのへんにしておけ。アクエリアスキメラ。もし君がリアリティーに反さない者ならば、"上遠橙吾の姿"はやめておけ」

 サマスは二ラムの指示に従い、ムスブを地面に戻す。

「わかったよプロデューサー、様。この姿、かなり気に入ってたんだけどねぇ…」

 上遠橙吾の姿をしたムスブは、フードを被り直した。

 

             *

 

 決戦の時が来た。

『さぁ、これが最後のゲーム。ジャマーボール延長戦、サドンデス。ボールは一つに戻ります。先に得点を入れたほうが勝利です!』

「僕たちが協力すれば、たとえ邪魔されても大丈夫だ」

 五十鈴大智が、改めて景和がデザスターであることを強調する。更に付け加えて、俺にコマンドツインバックルを手渡してきた。また景和から押収したのか…?

「君もオフェンスに戻ってほしい。ゴールは僕が守る」

 一度景和を被った俺を、ディフェンスから遠のかせるつもりか?昨晩の英寿みたいに、余計なことを言って焚き付けさせないように……まぁ、いいだろう。コマンドは一度使ってみたかったし、飛んでしまえば足の怪我なんて関係ない。俺はコマンドツインバックルを受け取った。

「目指すは勝利のみ!」

 英寿がそう言い放つと、俺たちはバックルを構えた。

『SET CREATION!』『SET FEVER!』

『『『『SET』』』』

「へ〜ん!「「「「「変身!」」」」」しんっ!」

『DEPLOYED POWERED SYSTEM!GIGANT SWORD!』

『BEAT!』『ENTRY』

『GOLDEN FEVER!』『NINJA!』

『DUAL ON!GREAT!BLAST!』『MONSTER!』

『Ready?Fight!』

 紆余曲折あったが、オフェンスとディフェンスの配置は前半戦の人生に戻る。俺がオフェンス、レイズアローを装備したヘリアルがディフェンス。ジャンプボールはニンジャバックルを使用したロポが担当する。ゲーム開始と同時に、エリアの中央にボールが落下する手はずだ。ジャマト陣営のジャンプボール要員はジャマトライダー。変異ジャマトの姿はなかった。俺たちは、固唾をのんでその様子を見届ける。

 試合開始のカウントが始まった。両名が同時にジャンプして、ボールを掴まんと手を伸ばす。やはり、身軽なロポに軍配があがった。それを見届けた瞬間に、各々の配置に分かれ…

「っああっ!」

 ロポがボールを掴んだ瞬間に、ルークジャマトがビームでロポを射抜いた。ロポは地面へと転がり、ジャマトライダーにボールを奪われる。わざわざジャマトライダーにジャンプボールをやらせた理由はこれか…!

 ギーツ、ナーゴ、そして俺は、一気に攻めようと前方に飛び出しすぎていたため、反応が遅れてしまった。急いでヘリアル、ナッジスパロウがボールを奪い返そうと奮闘するも、ポーンジャマトの小刻みなパスに翻弄され、ゴール前に移動したルークジャマトへボールが渡ってしまう。まずいぞ、またビームごとボールを撃たれたら、止められるやつはもういない…!

 そして俺たちを全力で邪魔しようと、ポーンジャマトが団子状態になって飛びかかってくる。ちょうどいい。コマンドを使うためには、レイジングソードにエネルギーを溜める必要がある。こいつらで一気にチャージしてやる…!

 俺は先陣を切ってレイジングソードを前に突き出し、群れの中央へと駆けてゆく。すれ違う合間に、何体ものポーンジャマトが両断され、かなりのエネルギーを確保できた。レイジングソードを逆手持ちに切り替え、ガス噴射による立体機動を小刻みに行いつつ、広範囲の斬撃を行った。よし、脚の負担を最小限に戦えてる。ゴールへの道も開けた。

「返せ…また邪魔する気か」

 ゴール前に戻ると、またしてもボールを持ったタイクーンとナッジスパロウが険悪ムードになっていた。だがタイクーンの覚悟は、既に固まっているようだった。その瞳に映るのは、子どもたちの笑顔。守りたい日常。叶えたい願い。

「俺が守るんだ…だからこそ………このゲームに勝つ!」

「その意気だ!」

 ルークジャマトとジャマトライダーを相手取ったギーツが、タイクーンを鼓舞する。

「見てろ!種明かしだ!」

 ギーツがギガントソードで二体を薙ぎ払うと、ジャマトたちは人間の姿へ変化した。しかし、彼らが人間ではないことはすぐに分かった。どちらも同じ顔をしている。本物であるはずがない。これが景和たちの言ってたシロクマさんの顔か。

「マズイ!」

「こいつらは、人間の姿をコピーしたジャマトだ。言っただろ。退場した人は、もういない」

 二体のシロクマさんはジャマトの姿へ戻り、自陣へとブロックに帰ってゆく。この状況、プレイヤーの全員が黙って傍観している。ナッジスパロウの推理も策略も、完全に崩壊した。ギーツは、タイクーンの持つボールを受け取りながら、ナッジスパロウに煽り返す。

「お前は、デタラメ言ってタイクーンを誑かそうとしてたんだろ。ジャマトに味方する、デザスターかのように、仕立て上げるために」

「人聞きの悪いこと言わないでよ」

「勿論、誰を信じるかは自由だ」

 ギーツは再び、タイクーンにボールを力強く投げ返した。

「タイクーン!食堂のディフェンスは任せろ!」

「あぁ!ゴールは俺が決める!」

 タイクーンはナッジスパロウを横切り、始めて自分の意志でボールを握った。もう、誰にも惑わされる事はない。エントリーフォームで、バックルもない状態なのも構わず、臆さずポーンジャマトの包囲網を抜けようと奮戦する。

「なるほど。タヌキ君の決意は相当のものと見た。さぁパンダ君。俺たちはどうする…?」

「そんなの自分で決めろ。俺は…」

 ヘリアルの質問を投げやりに返す。俺が思い出したのは、数ヶ月前の事だった。

──────────────

 それは、最終戦・缶蹴りゲームの決戦が明日に迫った日のことだった。俺は英寿と蕎麦屋に行き、桜井姉弟と遭遇した。なんやかんやで相席を迫られ、渋々帰り道も共にすることとなった。その時の俺は今以上に捻くれていて、惨めなやつだった。人類滅亡なんて、オーディエンスから見たら笑いものであろう願いを、贖罪の想いからか何とか曲解し、戦いへの決意を固めた頃。早く帰りたかった俺は、英寿らの集団から離れ、こそこそと逃げることにした。

「うぃ!大丈夫、きみ!」

 以前、快富郁真に言われたことは正しかったのだろう。近道をしようとすると、大抵後悔する。俺を呼び止めたのは、景和ではなく、姉の桜井沙羅だった。彼女のようなグイグイ来る底なしに明るい人間は苦手だ。相手の心に配慮しない。あの時も、景和についての話をウダウダと聞かされたのを覚えている。あまつさえ、俺と英寿が、景和と友達だって言い出したのだ。勘弁してほしい。

「これからも、景和を信じてあげて。きっと損はしないから。ね?」

 俺は、どうしても桜井沙羅の言葉が信じられなかった。今まで、ずっと人に裏切られてきた人生だった。大体は自分の視野の狭さが原因だったのだが。景和だって、桜井沙羅だって、本当のところでは何を考えているかわかったもんじゃない。返答に困ったあの時の俺は、悩みに悩み、結果的に正直に本音を言ってしまった。

「…信じられません。俺は…怖い、です。本当に、彼が信じられるのか、俺が彼を裏切ってしまわないか…」

 桜井沙羅は困惑したことだろう。初対面の男から信用だの、裏切りだのの話をされるのは。暫くの沈黙の後、桜井沙羅は、無理やり自分の小指を俺の小指に結んできた。

「よし!お姉ちゃんが約束しちゃる!私は絶対に、君を信じる!だから、君も景和を信用する!」

 彼女の理論は無茶苦茶だった。でも、謎の説得力を、当時の俺に与えていた。

「きっと大丈夫…!世界は、君が思ってるより…もっと優しいから。もし、君が傷付いても、私たちは君の味方だよ。ぜっ、たい!約束だから!」

 ずっと前に、交わした約束の話だ。

──────────────

 タイクーンが、ジャマトライダーの蔦に道を塞がれ、高台に登っていたロポにボールをパスする。

「景和!」

 そしてロポは、ニンジャバックルをタイクーンに変換した。ロポとナーゴは、タイクーンを信用する道を選んだ。後は、俺達だけ。エントリーフォームのタイクーンに、ここぞとばかりにジャマトライダーが殴りかかる。あのままじゃ防御しても、タタじゃ済まない。

「俺は…!」

『BLAST STRIKE!』

 残されたガスを全て開放し、タイクーンを追い越して、ジャマトライダーに急接近。思いっきり飛び蹴りをくらわせた後、着地しながらレイジングソードを縦に振り下ろした。タイクーンの前で、膝立ちの状態で着地する。その右隣にヘリアルも追いついてきた。

「二人とも、信じてくれるの……?」

 俺よりも先に、ヘリアルが答える。

「それはまだ。こちらからも質問しよう。君は、デザスターか?」

「…違う、俺はデザスターじゃない!このゲームに勝って、証明して見せる!」

 タイクーンの返答を聞き終えたヘリアルは、フィーバースロットバックルを取り外し、レイズアローの装備を解除した。

「…ふむ。面白い!タヌキ君…君にはまだ戦う意志があると見なした!」

『SET FEVER!』

 次は俺の番だと言うように、タイクーンがこちらを見る。はぁ…一々言わせるなよ。助けるのはこれっきりだ。

「信じるわけじゃない。ただ、」

(私は絶対に、君を信じる!だから、君も景和を信用する!)

(もし、君が傷付いても、私たちは君の味方だよ。ぜっ、たい!約束だから!)

「約束を…守りに来ただけだ」

『FULL CHARGE』『TWIN SET』

 チャージが完了したバックルを、レイジングソードから取り外し、ブラストバックルと入れ替える。俺たちの一連の動きを得てタイクーンも、ニンジャバックルを装填した。

「ありがとう…皆!」

『SET』

「「「変身!」」」

 ヘリアルは、スロットで当たりを引き当て、ブーストフォームへ。俺はコマンドフォーム・ジェットモードへ。そしてタイクーンもニンジャフォームへ、一斉に変身した。

『JACKPOT HIT!GOLDEN FEVER!』

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

『NINJA!』

『Ready?Fight!』

 ニンジャの俊敏性、ブーストの爆発力、コマンドの高起動能力、三者三様の加速を見せた俺たちは、猛スピードでゴールへと迫る。途中、ロポからタイクーンへボールが戻ってきた。これは一回でも得点すれば勝ちのサドンデス。当然、四体ものジャマトライダーがあの手この手でボールを奪おうとつけ狙う。

 上空をタイクーンのスピードに合わせて飛行していると、遅れて追いついてきたヘリアルが呼びかけてきた。

「後方のジャマトライダーは俺たちが!やれるだろう?パンダ君!」

「上等だ!景和!お前はゴールだ!」

「ありがとう!ここは頼む…!」

 タイクーンがビルの縁を駆けながら去るのを確認すると、空中で方向転換し、逆にジャマトライダーへ突撃。ヘリアルと分担して二体づつ抑え込み、ゴールとは逆方向へ加速する。

「俺の手にかかれば!一対二など容易いことよ!」

 ヘリアルは左右両方のマフラーを同時に点火し、

自身は身体を捻った。これにより錐揉み回転の状態となり、二対同時にジャマトライダーを地面に放り投げた。

 こちらのジャマトライダーも必殺技を発動しようとバックルに手を伸ばしたので、俺は左半身を上側に向けて軌道を変え、ビルの壁に首根っこを押さえたまま叩きつける。そしてそのまま飛行を続け、ジャマトライダーの背中の装甲を削った。ビルの壁が途切れた所で両手を離し、レイジングソードでの斬撃に切り替える。ジャマトライダーが地面に落ちる間に、往復しながら八回程斬り込む事ができた。

「すげぇ…これがコマンドの力か!」

 俺たち二人の猛攻に耐えきれなかったのか、ジャマトライダーのデザイアドライバーが破壊され、ただのポーンジャマトへと戻ってしまった。少しやりすぎたな。

「…む!パンダ君!彼が決めたようだ…!」

 後ろへ振り返ると、ちょうどタイクーンかゴールを決める後ろ姿を見ることができた。近距離ではあるものの、得点は得点。41対38で、仮面ライダーの勝利だ。ジャマトたちが自動的に消滅し、ジャマーエリアも晴れてゆく。

「…すっげえ疲れた…」

 ヘリアルと俺の怪我は、ゲーム終了に伴って治ったが、疲労が取れた気は一向にしなかった。

 

 

 子ども食堂の皆は、ようやく両親と再会することが出来た。景和はその様子を、満足そうに見つめている。俺と上遠も、離れから見守っていた。

「先輩、今回も、助けられちゃいましたね」

「まぁ…約束を守るついでだからな…」

 それ以上喋れないかと思われた上遠だったが、親と抱擁し合う子どもたちを眺めながら、最後に付け加えた。

「家族だって、いつ離れ離れになるかわからないんです。大事に…してください。大切な人がいない家に帰るのは、悲しいことですから………でも、先輩なら守れますね」

「それは…約束か…?」

「いいえ。信用です」

 上遠の顔は、今までにない朗らかな顔だった。俺の…家族ね。大切に、なんて考えたこともなかったな。いつも当たり散らすばっかで、迷惑してるだろう。今さら間に合うだろうか。こんな俺でも。

「時間だ」

 英寿がそう言うと同時に、デザイア神殿へ転送された。

「皆さん。お疲れ様でした。見事な逆転ゲームでした」

 これまでのゲームの中でも、かなりヘビーな部類のゲームだった。ロポとナーゴの連携、ギーツやヘリアルのサポート。何よりタイクーンの奮闘。一人でも欠けては勝てないゲームだった。それでも、ルールはルール。いやが上にも、一人欠けなければならない。

「投票締切となります。まだの方、変更したい方。デザスターだと思う方に投票してください。棄権は脱落となります」

 俺は投票を変えるつもりが無かったので、スパイダーフォンの操作はしなかった。だが、皆一様にして投票する素振りを見せていた。さて、信用させたほうと疑わせたほう、どちらが勝ったのか…

「デザスター投票の発表です!」

 ホログラムに、プレイヤーの顔写真が映る。最初に一つ、デザスターのマークが五十鈴大智に表示される。しかし、景和にもまた一票。拮抗したかに思えたのも、一瞬だった。

 結果は明白。残りの五票は全て五十鈴大智に投票されていた。試合運びを踏まえれば、当然の結果か。俺たちに信じてもらおうと全力を見せた景和か、それとも今後自分を罠にはめる可能性がある五十鈴大智か、誰を落とせば利となるのか。少し考えればわかる。

「投票の結果、五十鈴大智様が脱落となります」

 ツムリに脱落を宣言された五十鈴大智は、泣くのをこらえているかのような声で、負け惜しみを語り始めた。

「……これだから、人の心ってのは面白い」

 俯いた顔を、俺たちへと向ける。

「わかっただろう。嘘を付くのは…デザスターだけじゃないって。僕を落として、後悔しても知らないよ…」

『RETIRE』

 そんな言葉が響くはずもなく、五十鈴大智はIDコアと共に消えた。また、デザイアドライバーだけがカラカラと跳ねる。

 だが……俺たちは理解していなかった。嘘つきは一人ではないという、真の意味を。五十鈴大智の視線が、橋結カムロを捉えていた事実を。

 

             *

 

 ここに来るのも久しぶりだなぁ。IDコア管理室は、デザイア神殿のバックヤードをず〜っと。行ったところにある。結構くたびれるから、IDコアのアクセス権を利用して、扉の前までジャンプしてきちゃった。

「入るよ、ハイトーン」

 扉をゆっくりと開けると、いつも通り芹澤君が椅子に深く座っていた。デザイアロワイヤルのゴタゴタもあって、彼と会うのもいつぶりかわからない程だった。

「あぁ、久しぶりですね。祢音さん」

 彼の操作するパソコンのディスプレイには、幾つかの見慣れたIDコアが提示されていた。一つは、たったさっき脱落した大智くんのもの。そして、前に海賊ゲームで一緒に戦った青山優ちゃんのIDコアに、デザイアロワイヤルで暴れ回ったと言う仮面ライダーシーカーのものまである。

「それ、どうするの?」

「はい。上からのお達しで…この三人のIDコアが必要なのだそうで。まぁそんな事はいいんですよ。二回戦勝ち抜けおめでとうございます」

 芹澤君は、労いの言葉と共に、現在の仮面ライダーの支持率を見せてくれた。勿論トップは英寿・30%。もはやここは不動の域。二番目は大健闘の景和・20%。その後は冴さん・15%。奏斗・15%。私とカムロさんがそれぞれ10%の平行線。やっぱり、皆みたいにドカンとした活躍が出来ていないからか、私の支持率はよろしく無い。

「支持率は高くはありませんが…あなたには関係ないですね」

「へぇ…気づいてたんだ」

 支持率なんて、気にする必要はない。秘密のミッションである、『ジャマトにボールを二度奪われろ』というのも前半戦でクリアした。後は、あまり危なくなさそうな景和が落ちないように仕向けるだけ。案外、疑われずに行った。大智くんを残してたら、危ないからね。

 そう、私がデザスターだ。

 

          DGPルール

 

          疑われずに、

 

     最後の二人まで残ることができれば、

 

       デザスターの勝利となる。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「来るな奏斗!」

「ジャマトが使っていたのはフルーツ型の爆弾だったな」

「爆弾っ!?」

─時限爆弾を、解除せよ!─

「第三回戦、時限爆弾ゲーム」

「わかってたつもりなんだけどな…」

「じきに、ジャマトの世界がやって来る…!」

24話 発露Ⅳ:ジャマト運送に御用心!


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24話 発露Ⅳ:ジャマト運送に御用心!

 

─デザスターは五十鈴大智さんではありませんでした―

 

「ふむ……やはりそうだったか。スズメ君は、自らの利となるために嘘をついてたということだな」

 

─残った六人の中にデザスターがいます―

 

「それもそうだが……スズメ君は脱落する際に嘘をつくのは一人ではないと言っていた。その言葉は自分を指していたのか、はたまた……」

 

             ※

 

 午前八時。もう皆起きて、景和の朝食を食べている頃だろうか。俺はと言うと、寒空の下清掃活動に勤しんでいた。冷水で濡れた手を、乾いた風が吹きさらす。

「なんか…悪いな、朝イチで」

「友達の頼みだからな…五時起きだ」

「奇遇だな。俺もだ」

 ボランティア部のメンバーに掛け合って、来れたのは快富郁真だけだった。ゴム手袋を持ってくれば良かったと、激しく後悔する。水の染み付いたスポンジは拍車をかけて冷たくて、皿洗いをする母の気持ちがわかったような気がした。

「だけどよぉ……何でこんなところに落書きしたんだろな」

 今回、新井紅深の落書きが残されていたのは、廃倉庫が密集した地帯。シャッターにスプレーを噴射されなかっただけマシだっただろう。廃倉庫と廃倉庫の間の路地に、落書きはあった。デザイアグランプリの三回戦がいつ起きるかわからない以上、この時間帯を選択して来る他無く、こんなことになっている。

「…新井のやつ、虚しくならないのかね…」

 破壊衝動…なんて言うが、かつての自分を鏡写しにされているようで、溜飲が下がらない。蛍光塗料がぶちまけられた箇所の汚れを落としきって、ようやく一段落だ。今回の落書きは範囲が広くて、まだまだ掛かりそうである。てか、部長はよくこんな所に落書きあるの見つけたよなまったく…

 水で濡れた壁を雑巾で拭く作業に移ると、胸ポケットの携帯が鳴った。流石にスパイダーフォンを普段使いはできないので、デザグラメンバとはスパイダーフォンで、プライベートの連絡は普通の携帯でしている。普通のスマホの方が鳴ったって事は、デザグラとは関係のない連絡だ。

「部長がやっと起きたか…?」

 手元の雑巾をバケツにスローインして、携帯を取る。電話を寄越してきたのは、部長でも上遠でもなく、親父だった。親父から前触れもなく直電…珍しいな。まさか…ボランティア部で遠征しているという嘘がバレた…?恐る恐る受話器のボタンを押して、耳に押し当てる。

「もしもし?」

『おぉ、奏斗……今どこにいる…?』

 何か激しい運動でもしたのだろうか?息が切れている。そっちこそ何をしているんだか。親父の呼吸の後ろで、時計の針の音がやけに大きく聞こえる。

「言ってるだろ。ボランティア部の遠征。冬休みいっぱいかかるって」

『あぁ、そうだったか。今日中は帰ってこなくていいぞ』

 親父は安堵したような声を発すると、一方的に電話を切った。そんな事確認するために、わざわざ?携帯を耳から離すと、快富がニヤニヤしながら熱い視線を送っていた。

「お前、家出の言い訳に俺らのこと使ってんの?なんか嬉しいなぁ」

「関係ない。俺だって帰れるなら帰りたいよ…」

 サロンでの生活は、プライバシーも何も無くて、寝ていても心休まらない。五十鈴大智がいなくなって、多少はスペースを拡大できたが、何よりも地面が硬い。一回でもいいから、家のフカフカベッドで爆睡したい気分だった。つい漏れてしまった弱音に、快富は意外にも険しい顔つきになった。

「もしかして…デザイアグランプリか…?」

「…!お前も、覚えてんのか?」

 上遠に続いて、こいつも…?なぜだ?最近の運営はガバが起きているのだろうか?

「そうなんだよ。なんか最近まで忘れてて、一回学校寄った時に、フッと。お前、デカい怪我とか、しなかったか…?」

「まぁ、見ての通り」

 見た目ではわからないだろう。デザグラのシステム的に後遺症が残ることは無いが、そこそこデカい怪我は何回かしていた。それにしても、こいつも記憶を取り戻した理由は曖昧か。

「今はメンバーとシェアハウスやらされてるんだよ。笑えるだろ?」

「なんか…恋愛ドキュメンタリーみてぇだな」

 快富からそんな感想が出てくるとは思いもよらず、吹き出してしまう。恋愛ドキュメンタリー…実際のところは恋のドキドキなんて展開は全く無く、いつ寝首をかかれるかドキドキする状況が続いているわけだが。

 噂をすればなんとやらか。今度は鞄に忍ばせていたスパイダーフォンが振動した。

「デザグラか?」

「あぁ。こんな朝っぱらから…」

 画面を確認すると、着信主はツムリ。間違いない。またしても電話を取って、通話に応じる。

『奏斗さん!ジャマトが現れました!』

「すぐに行く!」

 スパイダーを鞄にぶち込み、デザイアドライバーを取り出して背負う。ジャマトは朝は活動しないだろうと踏んでいたが、これじゃ意味が無いな。

「奏斗!」

 急ぎ足で去ろうとした所を、快富に止められる。

「掃除は任せろ!」

「頼んだ!」

 全く頭を使わない会話を交わした後、俺はデザイアドライバーを装着して現場に転送された。

 

 

 到着した現場は、運送会社のオフィスの前。カモフラージュできているつもりなのか、ジャマト印の軽トラックが停車した。建物と合体した車庫の陰から半身乗り出す。だが荷台の中身は、ブルーシートのハウスに覆われて伺い知れない。青いパリパリとしたジャケットを着たジャマトたちが、コソコソとトラックから降りる。三体いた。

「何を運んでる……?」

 遅れて、すでに変身したタイクーンとナーゴも現着。ジャマトが荷台から積み下ろししていたのは、これまたジャマト印の段ボール。割れ物でも入っているのだろうか?慎重かつ丁重に扱っている。タイクーンとナーゴは互いに頷き合い、ジャマトに攻撃を仕掛けた。突然の襲撃にジャマトたちは動揺しているようだ。俺もブラストバックルを装着して、後に続いた。

「変身!」『BLAST!』

 出会い頭に、段ボールを三段も重ねて運んでいるジャマトに膝蹴りをぶち込む。これを喰らったジャマトはおもいっきり段ボールをぶちまけて倒れたが、残りの二人が地面と激突する前になんとか段ボールをキャッチする。中身を確認して、異常が無いことに安堵したようだった。それにしても、張り合いの無いジャマトたちだな。攻撃力が皆無すぎる。

「あれっ……弱っ……?」

 タイクーンが驚いたように呟いて、ニンジャデュアラーでジャマトを押し返す。この攻撃でジャマトは重なるようにぶっ倒れた。大事に持っていた段ボールが散らばり、その内の一つがこちらに口を開けて落ちてきた。赤い繊維状の包装紙に、転がって出てきたのは、スイカ……?それを見たジャマトらは、頭を抱えながら防御する姿勢となった。

「えっ、なん」

 途端に、スイカは俺たちの足元で大爆発した。

「爆弾っ!?」

 恐らく誤爆だったのだろう、ジャマトたちは悔しそうにそそくさと去っていった。

 

 

 デザイア神殿に一度戻ると、既に全員集合していた。

「私たち運営の元に、このようなものが」

 ツムリが見せたのは、擦れだらけの古紙にメッセージが書かれた、手紙のようなものだった。丁寧に、黒い封筒に収められていたようである。記されている文字には見覚えがある。うねうねした蔦のような文字。迷宮で嫌と言うほど見た。

「ジャマトの言葉か」

「はい。翻訳したものが…こちらです」

 表示された翻訳文を、我那覇冴が読み上げる。

「お前たちの世界に……時限爆弾を仕掛けた…!?」

「爆弾…さっきのが時限爆弾ってこと?」

「果物に擬態とは……いかにもジャマトらしい発想だな!」

 一瞬見ただけだが、爆弾の形は普通のスイカと遜色なかった。青果店なんかに隠されでもしたら、探しきる事なんてできないぞ。言葉に詰まる俺たちに変わって、ツムリが残りの文章を音読した。

「タイムリミットは日没。もし爆発してしまったら人質の命は助かりません…永久に」

 

             *

 

『第三回戦、時限爆弾ゲーム。仕掛けられた時限爆弾を見つけて、解除してください。爆弾を配達しているジャマトもいます。仕掛ける前に、止めてください』

 今回もジャマトは、人目につかない工場地帯をうろちょろしている。箱の中身は爆弾。誘爆に気を付けて戦うなら、小回りが利くブラストバックルの方が有効であると判断し、景和から借りパクしたコマンドバックルをしまい直して、ニンジャデュアラーレイズバックルを代わりに装填した。

『SET CREATION!』『SET FEVER!』

『『『『SET』』』』

「へ〜ん!「「「「変身!」」」」しんっ!」

『DEPLOYED POWERED SYSTEM!GIGANT SWORD!』

『BEAT!』『NINJYA!』

『HIT!ZONBIE!』

『DUAL ON!BLAST!ARMUD DUALER!』『ZONBIE!』

『Ready?Fight!』

 仮面ライダーたちは、逃げ惑う配達ジャマトを追跡する。

 ニンジャデュアラーを分割し、長身の刃がそなえられた片方を投擲する。ニンジャデュアラーは地面に突き刺さり、驚いた運送ジャマトは段ボールをぶん投げながら転んだ。空中に放り出された段ボールを、空中で逆さまになりながらキャッチ。運送ジャマトの頭上を飛び越えて着地する。どれどれ、まずは爆弾とやらの中身を確認してみるか。段ボールの蓋を開くと、赤い包装紙と共に大量のキウイフルーツが入っていた。耳を近づけてみると、確かにカチカチと時計の針が進む音が聞こえた。

「こんなプレゼントもらいたくないな…」

 改めて段ボールの中を見ると、爆弾の下に脅迫状と同じ古紙のメッセージカードが入っていた。人間に送り付けるのが目的だからだろうか、ジャマト語に加えて、最初から翻訳文が添えられていた。

「本日中にお召し上がりください…期限は日没まで」

 脅迫状の内容と一致する。手紙の裏には、翻訳文のついていない文言が書かれている。切手も貼ってあるし、住所かなんかだろうか?爆弾の入った段ボールを投げ返し、運送ジャマトがあたふたと慌てているところに、ニンジャデュアラーで斬りかかる。

 

 

 畳が敷かれ、障子で仕切られたオーディエンスルーム。ちゃぶ台の上に置かれたカエルの置物…否、座っている彼は、タイクーンのサポーター・ケケラ。不器用ながらも運送ジャマトを追いかけ奮戦するタイクーンの姿に、ケケラは嬉々とした声色である。

「いいぞ…桜井景和。もっと貪欲に行け…」

「楽しそうだね、ケケラ」

 そして、ケケラの隣で胡坐をかき、ギーツの活躍に少年のような笑顔を見せているのは、ギーツのサポーター・ジーン。彼もまた、自身が設定した『最速でジャマトを一体撃破する』というシークレットミッションをクリアしたギーツにご満悦だ。彼がプレゼントしたのは、ギーツが最も得意とするバックル、マグナムバックルだった。マグナムフォームに変身したギーツは、専用武器のマグナムシューターを駆り、鬼人のごとき勢いでジャマトを撃ち倒してゆく。

「悪いがジーン。デザ神になるのは桜井景和だ。あいつは必ず大物になる…」

「そんなこと言って、シャギーの時も、ギーツがデザ神になったよ?これからもそうなんじゃないかな~」

「シャギーは期待外れだったからな…てか、あれは途中でモーンに譲ったからノーカンだろ!?」

 過去のデザグラ談議に花を咲かせる二人。さらにそこに、障子をどかしながら、モーンが入室した。

「私に何か用?」

「ちょうどいい。お前の次のお得意さんの活躍を拝んでやろうじゃねぇか」

 ケケラの声に合わせて、オーディエンスたちはダパーンに視線を集中させる。ダパーンは怪我の補助の意味も込めてブラストバックルを愛用している。だが、度重なるゲームの中での酷使もあり、まだ万全な状態の右足と、各種武器に頼った一歩引いた戦い方に変わっていっていた。ケケラとジーンからは、弱腰と捉えられてもおかしくない姿勢に、案の定顰蹙を買ったようである。

「ありゃダメだな。あれじゃ生き残れてもデザ神にはなれりゃしねぇ」

「やっぱりギーツだよ。もっとスマートに戦わないとさ」

 ケケラとジーンの反応に、ジーンの反対側に体育座りをしたモーンは、あきれ顔を見せた。

「二人ともわかってな~い!ああいう、弱くても、それを認めてなくて、本気を出せばできると思ってる。健気で、惨めで、どうしようもない人間が一番良いんだって。それに…絶対王者でも正義のヒーローでもない、欠点だらけの紛い物がデザ神になるほうが、もっとドキドキできると思わない?」

「趣味合わねぇな…まったく」

「でも、それも面白いよね。だって、一人の仮面ライダーに、二人もサポーターはいらないじゃん。二人とも、そう思うでしょ?」

 ジーンがそう纏めると、残りの二人も推しの観戦に集中する。ちょうど、それぞれの推しの三人が集合したところだった。

『やっとその姿になれたんだな』

『やっぱりマグナム似合うね』

『サンキュ』

 軽口をたたく三人。そんな彼らの足元に、桃の爆弾が投げ込まれた。

「「「!?」」」

 突如として起きた推しの危機に、サポーターの間で戦慄が走った。仮面ライダーたちは咄嗟に回避行動をとって軽傷で済んだが、サポーターの心中は穏やかではなかった。むしろ、不機嫌さを隠すつもりもない。

「誰ぇ!?あんなことやったやつ!?」

「デザスターのミッションかな……浮世英寿はこんなことで死ぬ男じゃないけど…気に入らないね…」

「ふざけたことする奴だな…誰だ、キューンの推しか!?嘘つき野郎か!?オイ一回巻き戻して再生しろぉ!」

 サポーターは、推しさえ良ければ他には全く興味が無い様子だった。

 

 

 飛ぶはずの無い方向からの爆弾。後ろの方向に桃の爆弾を持ったジャマトはいなかったはずだが…?俺たちは気を取り戻して、運送ジャマトに武器を構える。運送ジャマトの実力はとてつもなく低く、あっけなくほとんどの個体を撃退てきた。

「逃がさないよ~!」

 後方から意気揚々とナーゴが俺たちを追い越す。ヘリアル、ロポも続いて追跡したが、運送ジャマトは時限爆弾をシェイクして地面へと投げる。爆弾を振ったことで起爆までの時間が短縮されたようであり、オレンジ型の爆弾は黒煙を上げて爆破した。すぐに黒煙は晴れたが、すでに運送ジャマトの姿は無かった。これ以上の戦闘は不可能だと、皆変身を解除する。

「ジャマトは倒せたけど、時限爆弾の手がかりは無しね」

「どこに仕掛けられたんだろう…?」

「ジャマトが使っていたのはフルーツ型の爆弾だったな」

 手がかりか…いや、無いこともない。ジャマトから奪った手紙を、ポケットから取り出す。

「段ボールに入ってた。誰に仕掛けるまではわからなかったけど…脅迫状と同じで、期限は日没までって書いてある」

 英寿に見せようと差し出すと、横から橋結カムロに奪われた。橋結カムロは日本語で書かれた文章ではなく、なんと裏に描かれた住所らしきものを音読し始めた。全く言葉を詰まらせる様子もなく。

「ふむ…東京都台東区浅草…」

「待て…そこの住所、俺の実家がある所だぞ」

 英寿が珍しく驚いた表情を見せる。橋結カムロがジャマト語をすらすら読み始めたことも気になるが、浅草が実家。さすがキツネと言うべきか、なるべくしてスターになったと言うか。ジャマトの次の狙いは英寿の家族…?

「日没まで……ちょっと見して!」

 さっきからぶつくさと呟いていた景和が一転して焦った様子で手紙をもぎ取る。

「期限は日没…まさか!」

 思うところあったのか、景和は手紙を投げ出してその場を去ってしまった。神妙な面落ちで英寿と橋結カムロが背中を追いかける。あいつ、爆弾の仕掛けた場所が分かったのか?状況が上手く呑み込めない俺に、我那覇冴と祢音が説明してくれた。景和の姉・沙羅の家に寒中見舞いのパイナップルが贈られていたこと。彼女がこの手紙と全く同じ文言を語っていたこと。

「狙いは仮面ライダーの家族ってわけか……待てよ」

(あぁ、そうだったか。今日中は帰ってこなくていいぞ)

 今朝の親父からの電話。そもそもかけてくる事すら珍しかったし、妙に俺の居場所を気にしているようだった。

「一緒に来てくれ…爆弾は一つじゃない!」

 もう一つの狙いは、俺の家族だ。

 

 

 実家の玄関の引き戸を、外れるほどの勢いで開く。靴を脱いでいる時間すら惜しくて、土足のままリビングに転がり込んだ。予想は的中していて、木箱の中から赤と青のコードが伸びていて、両親をぐるぐる巻きにして拘束していた。木箱の中身を確認すると、先ほどのものと全く同じ手紙と、ブドウ型の時限爆弾が入っていた。

「来るな奏斗!こんなところで何してるんだ!ボランティア部の遠征は!」

「ごめん父さん…あれ嘘なんだ。今助ける!」

 早く二人を開放しなければ。コードに手をかけて、緩ませようと引っ張る。

「まって!本当に爆発しちゃうなら、勝手にいじったら危ないよ!」

 リビングに入ってきた祢音が、俺の手首を掴んで止めてくれた。確かに、赤か青か…なんのヒントも無しに切るのは危なすぎる。両親を前にして気持ちが焦っていた。額の汗を二の腕で拭って、深呼吸をする。

「え!祢音ちゃん!?奏斗知り合いなら早く言いなさいよ~」

「あ、どうも…はは」

 気が動転している俺を他所に、母は少し喜んでいるようだった。俺が祢音を恨んでいる間に、母は祢音TVに熱中していたのか。命の危機が迫っているのにお気楽なもんだと思ったが、無理にでも明るく取り繕っているようにも見える。続いて我那覇冴もスパイダーフォンを耳に当てながら追いついてきた。電話先は橋結カムロだろう。スピーカーモードなのかと疑うほどのバカデカい声が聞こえる。

「景和の家にも爆弾があったみたい。コードの答えを知ってるのはジャマトだけだって」

「まじか……早くジャマトを探さないと…」

 立ち上がって、家を去ろうと振り返る。しかし、両親からの追及は逃れられなかった。

「待て……爆弾だかなんだか知らないが、こんな危ないこと止めるんだ…!」

「そうよ!せっかく怪我が治ったのに……もう心配させないで…!」

 やっぱりそう言うよな。でも、デザグラの事を易々と口外はできない。俺はいつもと同じように言葉を濁した。

「ごめん…もう決めたんだ。大丈夫、死なせはしない」

 それ以上の静止は耳に入れず、俺は家を出た。

 俺はその時、祢音の羨むような視線に気づかなかった。

 玄関の扉を閉めると、我那覇冴の通話が終わったようだった。入れ替わるように、祢音の携帯が着信音を鳴らす。スパイダーフォンではない、プライベートな連絡だ。祢音を視線に入れないように離れて、我那覇冴に通話の内容を確認しようと迫る。

「ジャマトがどこに潜伏してるか目星はついてるのか?」

「運営が捜索するから、仮面ライダーはしばらく待機だって」

「それで見つからなかったらどうするんだよ…」

 あのチラミ率いる運営が信用できるとは到底思えない。時刻は十一時、日没の四時まで時間が無い。快富と掃除をしていた時はまだ朝八時だったのに、ジャマトをもうすぐ昼を過ぎそうだ。

「そういうわけにはいかない。友だちの家族を助けたいの」

 なにやら祢音が電話先と口論になっているようで、俺と我那覇冴は背筋を伸ばして凍り付いた。相手は親だろうか?祢音の口調は、しだいに強くなっている。

「どうでもって……友達と遊ぶことも、恋愛することも禁止されて、私の自由を何もかも奪って……」

 内容を聞くに、相当親との関係は劣悪なんだろう。セレブ故なのか、親にそこまで執着する理由があるのか。過保護すぎる親子関係は、基本的に無緩衝の俺の家庭事情とは180°異なる。

「自分の幸せは、自分で叶えるって、私……決めたから」

 最後にそう言って、祢音は一方的に電話を切った。何て声をかければ……と迷っている内に、躊躇いがちながらも我那覇冴が祢音の肩に手を置いた。

「祢音ちゃん…大丈夫?」

「……うん」

 祢音の見せた笑顔は嘘であると、流石に俺でもわかった。

 

 

 日没まで、残り三時間。サロンにいてもどうも落ち着かなくて、バックヤードを行ったり来たりしていた。今まで、両親には迷惑ばっかりかけてきた。俺がデザグラに参加したせいで、二人が死ぬなんてことがあったら……

「くそっ…」

「大丈夫?」

 我那覇冴の声に、歩みを止められる。振り返ると祢音も一緒にいて、我那覇冴はスポーツドリンクを投げてきた。有名なメイカーのものだ。我那覇冴が大会用に準備した備蓄だろう。

「…悪いな」

「ううん。きっと私も家族が標的にされたら、冷静でいられない」

 キャップを開けて、勢いよく喉に流し込む。焦って、昼飯も取っていなかった。久々の水分が身に沁みる。誰かと話せて、気分も落ち着いてくるようだった。

「ねぇねぇ、奏斗の家族って、どんな感じなの?」

 我那覇冴よりも、祢音がずいと前に出てくる。きっとこいつは、俺の家族関係に、人並みの愛を見ている。だが、たとえセレブの家庭では無くても、本当の愛に溢れているとは限らない。俺は全く誇張なしに、かつての家庭事情を語った。

「まぁ……親父はサラリーマンで、母さんはパートの普通の家庭だよ。でも、俺は二人に嫌われてる。多分、愛なんて無い」

 二人は黙ったままだったので、そのまま話を続ける。

「知ってるだろ?怪我して、バスケが出来なくなって。全部終わったって、思ってた。だから、世界が全部敵に見えて……母さんも、親父の言うことも信じられなくて、反抗して……何も言われなくなった。親父は向こうから何も話してこなくなったし、母さんは無理に明るく振る舞うようになった。でも…親は親だ。俺のせいで狙われて死ぬなんて、あんまりだからな。助けたあとは……もう、会うことなんて…」

「そんなことないよ!」

 祢音は、下を向きながら強く叫んだ。そして、胸ぐらを掴むほどの勢いで俺に詰め寄る。眼力は強いが、瞳は少し泳いでいた。

「な、なに…?」

「きっと、お母さんたちは奏斗が心配なだけなんだよ…!でも、お互いになんて声をかければいいのかわからなくて…きっと悩んでる…!奏斗の愛は本物だよ……だから、絶対助けて、仲直りする……いい!?」

 唐突に強く言葉を吐き出した祢音に、俺は言葉が詰まる。彼女も通じるところがあったのか、我那覇冴が表情を和らげる。

「きっと、言葉だけじゃ伝わらないこともあると思う。私の実家は沖縄料理屋だったの」

 我那覇冴が柔らかい声を出すと、祢音も俺の傍らで耳を傾けた。

「でも、父が病気で倒れて、経営が回らなくなって。どうしても、スポーツで全国を目指す下の子たちの夢を叶えさせてあげたくて、私なりに色々努力してきた」

 そうか、彼女の願い・身体能力の維持は家族のためだったんだな。もし…姉弟が夢を叶える前に、自分が折れてしまわないように。ただ、お金を稼ぐだけではなく、自分が辞める理由を自らの閉ざしたんだ。

「勿論、私の力だけじゃ届かないこともあった。その時支えてくれたのが家族なの。家族にはきっと、言葉を超えた絆……みたいなものがあるの。だから、今は離れてても何度だってやり直せる。奏斗とお父さんたちは、家族なんだから」

 最後に、我那覇冴は両手を強く俺の肩に置いた。俺にもう一度、信じてみる権利があるのだろうか。家族の絆ってやつを。

 

 

 サロンでツムリの報告を待つ英寿、景和、カムロの三人。景和はただ報告を待っているのが症に合わないようで、忙しなくサロン内を動き回っていた。比較的英寿とカムロは落ち着いていて、カムロが淹れた珈琲を二人で嗜んでいる。

「どうやら、フルーツにも種類があるらしいな」

「確かに、パンダ君とタヌキ君の家に贈られたフルーツは違うものだった…」

 英寿とカムロの会話に、気づきを得た景和は、声が上ずる。

「……じゃあ!そのフルーツを持ってるジャマトを見つければ!」

「可能性はあるな!コードの答えを知っているかもしれん…!」

「だが、問題は俺とタイクーンに爆弾を投げたデザスターが誰か…」

 ジャマトがいない方向から飛んできた爆弾。既にデザスターの所業であると推理していた英寿は、過去の仮面ライダーの行動を思い返す。爆弾を投げられたタイクーン、ダパーンは仮に外れるとした時に、デザスターの可能性があるのは、ロポ、ヘリアル、ナーゴの三人に絞られる。

「おっと…俺を疑っているのか?残念だが俺ではない!なぜなら……俺はあの時ジャマトの爆弾を集めていたからな!爆弾を投げられた瞬間を見ていない!」

 そう言ってカムロは、机の下にしまっていた段ボールを取り出す。段ボールには、ジャマトが仕掛ける予定だった時限爆弾が数々入っていた。

「安心しろ!中の回路は取ったから爆発はしない!」

「いや、それアリバイになってない気が…」

 景和はボヤきながらも段ボールを覗き込む。集められていたのは、リンゴ、オレンジ、キウイ、そして梨。景和と奏斗の家族に贈られたパイナップルとブドウは無かった。

「君らが投げれた爆弾は桃。しかし俺は桃の爆弾を知らん!どうだ、完璧なアリバイだろう?」

「いや、そうでもないな。何でお前は俺達に桃の爆弾が投げられた事を知ってる?見てなかったんだろ?」

 英寿の指摘に、カムロは言い淀む。

「確かに、なんで知って、」

「ドカーン!!!!!」

 カムロを追い詰めたかと思われた英寿。しかしそれも突然現れたチラミの叫び声に阻まれた。景和は突然の大声に尻もちをつき、眉間にシワを寄せながら耳を抑える。何の用か、チラミは声を低くしながら宣言した。

「デザスター投票中間発表よぉ…!」

 彼のドでかい声を聞きつけたのか、残りの三人もサロンに戻ってくる。中間発表の結果は、景和を除いて全員に一票ずつ入っていた。未投票の一人は言わずもがな景和だろう。結果を見た祢音は、率先して声を出す。

「今は私たちが足を引っ張りあってる場合じゃないよ。沙羅さんと、奏斗のお母さんたちを助ける方法を探そう…!」

「ありがとう、祢音ちゃん…!」 

 景和は正直に感謝していたが、英寿は見逃さなかった。祢音の、意図的にデザスター探しを輪から外すような発言に。

 サロンの電話が鳴り、チラミが受話器を取る。内容は聞かなくても分かる。俺たちはデザイアドライバーを腰に装着した。

「ジャマトが見つかったわ」

 俺は助けて見せる。俺の家族を。

 

             *

 

 解除のコードの答えを知っているのは、ブドウを持っているジャマト。そう英寿は言っていた。トラックの輸送ルートは、ツムリが抑えた。でるきだけ仮面ライダーの目につかない場所を通りたかったのだろう、今朝も訪れた廃倉庫の地帯を経路に選んでいたようだ。傾き始めた太陽が、逸る気持ちを加速させる。やり直す前にドカンなんて、させてたまるか。

 廃倉庫の周辺を走るトラックは二台あった。あのどっちかに、ブドウとパイナップルを持っているジャマトが……!トラックはT字路で二手に分かれる。

「俺たちも二手に分かれる。タイクーン、ヘリアル、行くぞ!」

「奏斗、冴さん、行くよ!」

 英寿と祢音の号令で二手に分かれ、俺たちは走りながら変身した。

「へ〜ん!「「変身!」」しんっ!」

『DUAL ON!GREAT!BLAST!』

『BEAT!』『ZOMBIE!』

 時間切れまでもう一時間もない。取り逃すわけには行かない。ジェットモードで一気に決めてやる。トラックを逃がすまいと、俺たちは剥がれたアスファルトに足を取られないように走る。逃げ去るトラックを守るように、廃倉庫の中からも運送ジャマトがわらわらと出て、俺たちを足止めする。小まめに時限爆弾を投げてくるせいで、迂闊に攻撃できない。トラックを逃さないためには……そうだ、デザイアロワイヤルの時と同じことをすれば…!

「冴さん!祢音!トラックの動きを止める!」

 ロポはピンと来ていなかったが、俺と行動を共にしていたナーゴには合点がついたようだ。走りながらビートアックスを叩く。

「そうだよね!あの時と同じ!冴さんはジャマトを退かして!」

「わかった!」

『ZOMBIE STRIKE!』

 ロポがクローを備えた左腕を振るうと、地面から毒手が入って、運送ジャマトの足を掴む。そして、右腕に持ったゾンビブレイカーのポンプを、左腕に引っ掛けて作動した。

『POISON CHARGE!』『TACTICAL BREAK!』

 そして、毒の斬撃を発射すると、運送ジャマトが手にしていた時限爆弾に誘爆。大爆発を起こして、運送ジャマトの殆どが巻き添えになった。そして、トラックの後ろ姿が見える。

「届けぇっ!」

『FUNK BLIZZARD!』『TACTICAL BLIZZARD!』

 ビートアックスより地面を這うような氷が生じ、トラックのタイヤに到達する。氷によって捕らえられたタイヤはそれ以上回転できず、停車した。それでも、時限爆弾を守りたいのか、生き残った運送ジャマトたちが大急ぎで積み下ろしを始める。

「逃がすかっての…!」

 俺はガス噴射で荷台に飛び移ると同時に、レイジングソードで一刀両断。荷台のハウスを斬り払う。そして、中であわあわしていた運送ジャマトを難なく蹴りで処理し、積まれた段ボールの中を確認する。しかし、積まれていたフルーツは、リンゴ、桃、スイカ…だめだ。ブドウがない。くそっ…こっちはハズレかよ…!

「あっちに逃げてる!」

 ロポの声に、はっと我に返る。ロポが指差す先に、廃倉庫の路地を抜けて逃げようとしている運送ジャマトがいた。しかもご丁寧に段ボールを数個持っている。ブドウはあそこだ…!

「逃がすか…!」

『FULL CHARGE』『TWIN SET』

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

『Ready?Fight!』

 コマンドフォーム・ジェットモードへ変身。飛行と同時に身体を横に傾け、狭い路地を一気に飛び抜けると、路地の出口に着地し、逃げ道を閉ざす。反対側の道も、ナーゴとロポが閉ざした。

「鬼ごっこは終わりだ!」

『RAISE CHARGE!』

 レイジングソードのボタンを叩くように押し、刀身にエネルギーを流動させる。しかし、そこでジャマトは驚くべき行動に出た。段ボールからブドウの時限爆弾を取り出すと、それをシェイクした後、上に投げたのだ。ブドウの時限爆弾は空中で肥大化。実がそれぞれ房から弾け、四方八方に霧散。いくつかが俺達に向けて飛んできた。

「くそっ!」

『TACTICAL RAISING!』

 やむを得ずレイジングソードで必殺技を発動。込めれたエネルギーが開放され、オレンジとシアンの半透明であり巨大な刃が形成される。そしてその刃をレイジングソードこと振るい、落下する実を一気に切断した。切断こそしたものの、相手は爆弾。至近距離の爆風は凄まじく、何歩か後ずさる。勢いが少し弱まり、爆風の中目を凝らすと、運送ジャマトは逃げ道の無いはずの路地から消えていた。

「ジャマトが消えた…!?」

 だが、ナーゴとロポは無事だ。ビートアックスで氷の壁を作って防いだようだ。二人の周辺の壁が水で濡れている。

「まって!倉庫の壁に穴が!」

 ナーゴの言う通り、先程まで運送ジャマトがいた箇所の隣の壁に溶けたような穴ができている。ブドウの炸裂弾の特性を利用して、俺たちを足止めしつつ、逃げ道を爆発で作ったのか。小賢しいことしやがる。急いで駆け寄って、人一人通れるくらいの大きな穴を覗くと、運送ジャマトたちが一目散に逃げてゆくのが見えた。

「もう逃さないよ!」

「私たちに任せて!」

 ロポとナーゴが先に穴に飛び込む。俺も追おうとしたが、ジェットモードの翼が穴の縁に引っかかる。思いがけない足止めに面食らったが、さして問題は無い。

『REVOLVE ON』

 キャノンモードになれば良い。発想の勝利だ。始めて成ったコマンドフォームは、横方向にはコンパクトで、難なく穴を抜けられた。

 侵入した廃倉庫内では、ナーゴとロポが見事な連携で運送ジャマトを足止めしていた。二人が左右に別れ、活かして逃げ道を着実に潰している。狙うべき相手はわかっている。中央の運送ジャマトだ。他の運送ジャマトが明らかに庇うように取り囲んでいる。

「これで決める!」

『ROCK ON!』

 俺がそう叫び、二連式のキャノン砲にエネルギーを集中させると、二人もこちらの意図に気づいてくれた。他の運送ジャマトを武器で薙ぎ払い、強固なブロックを解いてくれる。照準は完全に決まった。ブドウの時限爆弾を持った運送ジャマトはあわあわと後ずさるが、もう逃さない…!

『COMMAND TWIN VICTORY!』

「だあああっ!」

 反動で多少仰け反りながらも、二連の高圧ビームを放つ。照準の通り、ビームは運送ジャマトを貫き、焼き払った。よし…!これでコードの答えがわかる…!俺たち三人は変身を

解き、運送ジャマトの亡き骸を確認する

「赤と…青!?」

「同時に切れって事か…!」

 答えはわかった。あとは……

 

 

 家に全速力で戻ると、両親に仕掛けられた爆弾は既に爆発寸前。狭いリビングを圧迫するほどの大きさになっていた。

「奏斗!来るんじゃない!」

「危ないから離れて!」

 両親は俺を引き離そうと止めるが、もう迷っている猶予なんて無かった。電話の隣に置いてあったペン立てからハサミとカッターを取る。俺はハサミを持ち、もう一つは祢音に渡した。同時に切らなければ、間違った判定になって終わりだろう。

「大丈夫……絶対に助けるから…!」

 俺たちは膝立ちになって、俺は青、祢音は赤のコードに刃を立てた。しかし、そこでまた躊躇いが生じる。もし間違っていたら…?また呼吸が粗くなって、聴覚が鼓動に支配される。しかしその緊張はすぐに治まった。我那覇冴が、ハサミを持つ俺の手に後ろから両手を重ねていた。一度顔を見ると、我那覇冴も決意に満ちた表情をしている。覚悟は決まった。必ず、母さんたちを救う…!

「「「せーの!」」」

 コードを同時に切るのに合わせて、日が完全に沈んだ。正解か不正解か、唇を噛んでその時を待つ。

 

 時限爆弾が枯れるように萎んでいく、推理は当たっていた。

 

「や、やった…」

 緊張が緩み、手からハサミが落ちる。両親に向けて、声をかけるよりも速く、向こうから俺に抱きついてきた。冴と祢音の手前、いい大人が少し恥ずかしい気もするが、今はどうしても安心が勝った。

「二人とも、ごめん。俺、今まで……」

「いいんだ。奏斗が無事で良かった…!」

 二人が俺を抱きしめる力は強く、でもそこには確かな温かみのようなものがあった。爆弾に助けられたのは二人の方なのに、俺の安否を心配していることが、如何にもマイペースな俺の親らしかった。

「奏斗が怪我をしてね……私たちも、何て声をかけてあげればわからなかったの。今まで何もしてあげられなくて、ごめんなさい…!」

「そんなこと、言うなよ…!母さんたちは何も悪く無い…全部全部、わかってたつもりなんだけどな…」

 久しぶりに、本音で二人と話せた気がする。これから、もっと話そう。最初から、全部やり直そう。きっと、わかりあえる………家族だから。

 

 

 奏斗と両親のやり取りを、リビングの入口から眺める祢音と冴。確かにそこにあった墨田家の家族の絆に、祢音はとびきり顔をほころばせた。

「な〜んだ。やっぱりあるじゃん。本当の愛!」

「お互いを心配して空回りしてたとこ、まさに家族って感じね」

 二人も顔を見合わせ、笑い合う。

 冴のスパイダーフォンがメールを受け取った着信音を鳴らした。それは、桜井沙羅の救出チームに所属した橋結カムロからのものだった。『無事救出!』とだけ書かれた本文と共に、写真が添えられている。

「ここにも、中々の家族仲発見」

 いたずらっぽい笑顔で、冴が目にしたのは、カムロと英寿がピースマークを作る後ろで、桜井姉弟が言い合いをしている写真だった。沙羅に押されて、景和の顔が情けなくブレている。無事に、二つの爆弾は解除された。

 だが、まだゲームは終わっていない。

 

             *

 

 ジャマーガーデンにて、爆弾ゲームの顛末を見届けた一人のサポーターは、舌打ちをしながらタブレットの電源を切った。彼女の名はベロバ。ジャマトに資金援助するスポンサーであり、仮面ライダーバッファのサポーターたる女である。

「つまんない。とびっきりの不幸が見れると思ったのに…!」

「まぁまぁ、落ち着いてください」

 苛立ちを抑えられないベロバを宥める中年の男は、アルキメデル。ジャマトを育成する"父親"である。ジャマトが育てられるジャマーガーデンも、ベロバの投資によって成り立っている。ここで彼女の機嫌を損ね、ジャマーガーデンが破壊されでもしたら、ジャマトの理想を叶える手立てが無くなってしまう。

「ふん、まぁいいわ。私も推しが見つかったし…」

 今のベロバは、半ジャマト化している道長にご執心だ。彼女が求めるのは、人の不幸。親友を失い、デザイアグランプリでの熾烈な戦いの果てに命を落とした男の不幸は、彼女にドストライクだったようだ。

「必ず叶えて見せる。じきに、ジャマトの世界がやって来る…!」

 アルキメデルは、ジャマトが育つ大樹に目を凝らす。

 

 

 仮面ライダーが去った廃倉庫。運送ジャマトらはこっそりとそこに戻り、爆発せずに残っていた時限爆弾を回収していた、次なる標的に、仕掛けるために。

「ジャマト…ってやつだよな」

 デッキブラシを肩に担いだ快富郁真は、陰に隠れながら目を擦る。数時間前まで決戦の場となっていたこの廃倉庫は、早朝、新井紅深の残した落書きを掃除した場所だった。忘れ物のデッキブラシを取りに戻った快富郁真は、偶然か必然か、ジャマトの姿を目撃してしまったのである。

「奏斗に連絡……っ!」

 ポケットにしまったスマホを取り出そうと屈んだ快富郁真。そこで担いだデッキブラシが木箱に積み上げられたドラム缶を倒してしまい、静けさに包まれていた廃倉庫にガラガラと騒音が響き渡る。

「やっば!」

 逃げようとする快富郁真。運送ジャマトが爆弾を投げようとしたその時……割り込んでくる者がいた。黒いローブを被っている、ムスブである。ムスブは手を前に出すだけで運送ジャマトを静止し、引き下がらさせた。

「大丈夫か!?郁真」

「その声は…綾辻さん!?」

「久しいなぁ…郁真…!」

 フードを脱いだムスブの顔は、上遠橙吾ではなく、七三分けに眼鏡の男・綾辻誠司(あやつじせいじ)だった。

 

           DGPルール

 

 デザスターは、秘密の指令を実行しなければならない。

 

  もしゲーム終了時に成し遂げられなかった場合は、

 

          強制脱落となる。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「あたしたちと一緒に世界を変えましょ?」

「参謀って所かな」

─狙われるデザイアグランプリ─

「お願い…!家族を助けたいの…!」

「まさか、君がデザスター…!?」

25話 発露Ⅴ:裏切り者の正体!?


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25話 発露Ⅴ:裏切り者の正体!?

 

 モーンのオーディエンスルーム。爆弾ゲームの翌日に、そこに呼び出された奏斗は、サポーター代理である芹澤朋希と対面していた。いつも通りモーンの姿は無く、奏斗はまだ自身のサポーターが同輩である新井紅深であることは知る由もない。

「爆弾ゲームは終わっていない?」

「はい。運送ジャマトに指示をしていた、爆弾魔ジャマトがいるようです。それに…」

 朋希は手元のタブレットを操作すると、瞳型のビジョンに爆弾ゲームのハイライトを再生させた。前半戦のダパーン・コマンドフォーム・キャノンモードの活躍が振り返られた後、残りの三人の戦いにハイライトはシフトする。荷台から爆弾を投げながらトラックで逃走する運送ジャマト。追跡するは、マグナムフォームのギーツ、ニンジャフォームのタイクーン、スロットでモンスターフォームをヒットさせたヘリアル。姉を標的にされているタイクーンは、トラックを逃がさまいと、三体に分身。目にも留まらぬ連続攻撃で、荷台ごとトラックを破壊した。爆炎の中から、フルーツ型の爆弾が落ちるが、目当てのパイナップルは見当たらない。

『パイナップルはどこだ…!』

『…おい、あれを見ろ…!』

 真っ先に、ヘリアルが異変に気付いた。トラックの焼け跡の炎の合間から、デザイアグランプリのユニフォームを着た男が歩いてきているのが目視できた。

「道長…やっぱり生きてたのか!」

 退場したはずの男・吾妻道長の参戦に、奏斗も驚きが隠せない。

『お前らの相手は俺だ…!』

 ギーツを強く睨み付けた道長は、ジャマトバックルを構える。その左手の甲は、植物の根のようなものが禍々しく浸食していて、彼が人間でありながらもジャマトになろうとしていることを現わしていた。デザイアドライバーにジャマトバックルがセットされると、道長の全身を電流が走り、蔦による鎧が形成されてゆく。ジャマトバックルにヒビ割れたIDコア。使用者にそれ相応の負荷を与えることは明白だった。その激痛に苦悶の表情を浮かべながらも、彼が敵意の視線を仮面ライダーから外すことはない。

『変身…っ!』『JYAMATO』

 仮面ライダーバッファ・ジャマトフォーム。ジャマトライダーと同じ鎧に、片目は亀裂が残り光を失っている。バッファは仮面ライダーに向けて飛びかかりながら拳を振り下ろす。全員が間一髪の所でそれを避けると、拳により地面に大きなクレーターができた。通常のバックルでは出せない高火力。それも一重にジャマト向けにリミッターが外されているからであろうか。

「ジャマトになって、何をするつもりだよ、あいつ」

「だれか彼を唆しているサポーターがいるのかもしれません」

 そして凶暴化するバッファをギーツが引き受け、残りの二人はジャマトの捜索へ。無事にパイナップルを持ったジャマトは見つかり、ヘリアルがモンスターの伸縮能力で先回り。無事にタイクーンは運送ジャマトを撃破してコードの答えを知ることができた。一方ギーツとバッファの戦いは、ややギーツが優勢。日没と共に道長の体にも限界が訪れ、撤退した。以上でハイライトは終わりを迎える。

「ジャマトバックルを使っていましたが、意外と彼はピンピンしているようですね」

 次に朋希は、運営が撮影したインタビュー映像を流す。どこで撮影したのか、植物園のような施設内を移動する道長に突撃取材を行った様子だった。

『オーディエンスだか何だか知らないが、そんな奴らは眼中にない。お前らが応援してる奴は俺が全員ぶっ潰すから覚悟しとけ!』

 全く変わらない血の気の多さに、奏斗は苦笑いを溢す。

「ジャマトに肩入れしてもやることは変わらない…か」

 捨て台詞を叫んだ道長はそこでカメラに噛み付き、映像は途絶えてしまった。

 それと同時に、ツムリのアナウンスがデザイアエリア内に響いた。

『第三回戦・時限爆弾ゲーム。今度は我那覇冴様のご家族が、ターゲットになってしまいました』

「冴さんの家族が…!?」

 奏斗は大急ぎで、オーディエンスルームを後にした。

 

 

 場所は変わり、ジャマ―ガーデン。道長のインタビュー映像を見終えたベロバは、また一つジェリービーンズをつまむ。

「あははっ!さいっこう!デザイアグランプリに喧嘩売るなんて…!どうかしてるわアンタ」

 当のインタビューを受けた道長は、足を揺すりながら鉄製の階段に寄り掛かる。その上ではアルキメデルが、ベロバの背後にはフードを被ったムスブが道長を見つめていた。

「そんなことより本当に理想の世界が叶えられるんだろうな…?

 道長の問いに、アルキメデルが答える。

「もちろん。その為にジャマトを育ててきたんだからね」

「君は僕らの期待の星さぁ。君ならきっと…あの浮世英寿も化かせる」

「私たちの目的はねぇ…デザイアグランプリが持っている、創世の女神を奪う事」

「創世の女神…?」

 道長は聞き覚えの無い単語に疑問を浮かべる。創世の女神。それこそが、デザイアグランプリ変革の要であり、保管場所は運営上層部のみが知るトップシークレットとされている。ムスブは両手を重ねると、囁くように語る。

「デザイアグランプリは、どうやって参加者の願いを叶えていると思う…?女神さまに、飽きずにお祈りしているんだよ」

「それさえ奪えばぁ…世界は私たちの意のまま…ふふっ。あたしたちと一緒に世界を変えましょ?」

 ベロバの持ちかけに、道長は沈黙を貫く。そこで道長の思考に割り込むように、一人の男が発言した。

「そいつは興味深いね」

「お前は…?」

 腕を組みながら、植物の隙間を通り抜けて現れたのは、デザイアグランプリで脱落したはずの、五十鈴大智であった。

「彼女にスカウトされた……参謀って所かな」

「仮面ライダーに対抗するゲリラ組織を結成するの!」

 ベロバは甲高い声で笑う。

 ジャマトガーデンズによるデザイアグランプリへの反逆が始まろうとしていた。

 

             *

 

「探すのはメロンのジャマトか!?」

「うん!冴さんのためにも、私たちで見つけよう!」

 地下駐車場に逃げ込んだ運送ジャマトを、祢音と共に追いかける。冴さんには家族と仲直りをするきっかけをもらった。だったら彼女の家族は、絶対に助けなければ。運送ジャマトが投げてくる爆弾を、二人で前転しながら避ける。背後から吹きさらす爆風を背に、レイジングブラストフォームに変身した。

「へ~ん!「変身!」しんっ!」

『DUAL ON!GREAT!BLAST!』『BEAT!』

『Ready?Fight!』

 変身が完了するのと同時に地面を蹴り、ガスを一気に放射する。駐車場は白い霧に包まれたかのような状態となり、見えるのはせいぜい場内を照らす天井のライトのみとなる。運送ジャマトは目を擦るが、視界は鮮明にならない。が、仮面ライダーは違う。複眼越しに見た景色は、センサーでしっかりと運送ジャマトの居場所を捉えていた。レイジングソードをスライディングしながら左右に連続で振るい、次々と撃破しつつ段ボールを奪い取る。ガスの目くらましが自然に消えると、ナーゴも同様に運送ジャマトから段ボールを奪い取っていたようだ。俺たちが駐車場の中央に集合すると、ロポも遅れて到着した。

「奏斗、祢音ちゃん、メロンを持っていたジャマトは!?」

「ダメだ、全部ハズレ…!」

 俺とナーゴが押収した段ボールの中身は、リンゴ、梨、パイナップルの三種。目当てのメロンは無かった。この爆弾ゲームも後半戦。ここまで来ると、ボスに設定されていると聞いた爆弾魔ジャマトが、メロンのコードを知っているのではないか。

「………っ!冴さん危ない!」

 危険を察知したナーゴが、ロポに向かって叫ぶ。次の瞬間、ロポが蔦に絡めとられ、無理やり奥へと引き摺り込まれて行った。誰の仕業かは、すぐにわかった。吾妻道長だ。彼の姿を確認した俺は、すぐに行動に移った。引き摺られているロポの前に回り込み、レイジングソードで蔦を切断した。斬られた蔦は道長の元に集まり、鎧となって貼り付けるように装着される。

「…変身っ」『JYAMATO』

 ロポに手を貸し立たせると、バッファを強く睨む。こいつ…今更何のつもりだ。

「どけ。お前に用はない」

「嫌だね。死者は黙って寝てろよ」

 安い挑発に乗ったバッファの大振りのストレートを、レイジングソードで受け止める。攻撃を止められたバッファだったが、それでも構わず上体を変えずに拳を押し込んで来る。この猪突猛進ぶり、マジで牛だな…!バッファの腹部に蹴りを当てた後にガスを噴射し、勢いで姿勢を崩させる。そこですかさずレイジングソードを引き抜いて、棘のついた装飾を斬り落とした。よし…所詮はジャマトバックル。借り物の力に過ぎない。コマンドなら火力で押し勝てる…!

 さらにバッファに斬りこもうとレイジングソードを振り上げる。

「邪魔はさせないよっ!」

 視界が一瞬で横に流れた。遅れて、腹部にズンと重く痛みが響く。地面を転がり、痛みに耐えながら顔を上げると、バッファを庇うようにアクエリアスキメラジャマトが佇んでいた。こいつ、ジャマ―ボールに続いて…ここでも妨害してくるか。邪魔はどっちだよ。それにしても…こいつがバッファに協力…?どちらも単独行動を貫いているものだと思っていた。ジャマトもゲームの枠を超えた組織的な行動を始めているのか……?

「さぁ、あの時の第二ラウンドだね…奏斗くん」

 俺が言葉を返すよりも早く、変異ジャマトが棘での刺突を放ってきた。突然の攻撃で防御が間に合わず、レイジングソードを弾かれる。レイジングソードはカラカラと転がり、なんとか上段蹴りで数歩退けたが、その間にバッファがロポとナーゴに襲い掛かっていた。特にロポを執拗に狙っている。

「俺のゾンビバックルを渡せ!」

 ジャマトバックルの人の枠を超えた超パワーに、二人は圧倒される。俺もフォローに走りたかったが、変異ジャマトがそれを許さない。またしてもヤシガニの脚を地面から生やし、ロポたちと俺の間に壁を作った。

「バックル狙い…お前の入れ知恵か!」

「違うね、有望な参謀を雇わせて貰ったんだよ」

 参謀……今は考えてる暇がない。なんとか変異ジャマトを退けて、バッファを何とかしないと…!

 変異ジャマトの横一線の斬撃を、姿勢を低くして避け、ガスの噴射の反動を利用して地面を滑りながら背後へと回り込む。そして右側からのみガス噴射を行って浮かび上がり、そのままの勢いで背部に蹴りを放った。だが、それもシャコガイの特性を備えた左腕から放たれる裏拳にガードされてしまい、一旦ガスを逆噴射して貝殻を蹴り返して距離を取った。

「おいおい、逃げてるだけじゃ二人は救えないよ?」

 変異ジャマトは悪辣な笑い声をあげると、背後のヤシガニの壁を少しどかす。すると、ゾンビバックルを奪われたロポが、今にもバッファにトドメをさされそうになっていた。

「お願い…!家族を助けたいの…!」

 くそ…!おれがもたついてる間に…!

「やるしかないっ!」『BLAST STRIKE!』

 ファンから発生した斬撃性能のある風を右足に纏い、さらに蓄積したガスを全て開放、推進力を向上させる。前進しなが叩き落すような回し蹴りを放つ。初撃はガードに用いていたシャコガイに命中し、変異ジャマトは後方に体制が崩れる。さらにそこからも同様の回し蹴りを繰り返し、ついに変異ジャマトを退けることに成功した。流石に痛手を喰らった変異ジャマトのシャコガイは大きく凹んで砕けていた。変異ジャマトが横に逸れた隙にレイジングソードを拾い、ヤシガニの壁を斬り捨てて反対側に出る。

 バッファは苦しみながらも、ジャマトバックルに手を伸ばして必殺技を放とうとする。ロポを庇うように、ナーゴが覆いかぶさる。ここからコマンドに変身するのは間に合わない…!なら!

『GREAT STRIKE!』

 チャージしたエネルギーを犠牲に、レイジングソードにエネルギーを纏わせると、バッファの手元を狙って、アンダースローで投擲する。エネルギーを開放したレイジングソードは空中で勢いを増し、ジャマトバックルを叩こうとするバッファの手を弾く。

「邪魔するな…!」

「邪魔でも何でもしなきゃいけないんだよ。この人には恩がある」

「なら…まとめて消えろ!」

『JYAJYAJYASTRIKE!』

 バッファが必殺技を発動させ、地面を蹴る。地面から伸びた無数の蔦が、俺たちに襲い掛かった。咄嗟にロポとナーゴの前に出るが、ガスもレイジングソードのエネルギーも切れている。ここからどうしようにも、バッファの追撃の方が速い。どうする…!

『TACTICAL SHOOT!』

 伸ばされた蔦に、赤色の弾丸が命中した。その後も弾丸は蔦の進行方向を阻むように幾度となく発射され、バッファの必殺技を完全に相殺した。弾丸は俺たちの背後から発射されていた。後ろに首を捻ると、マグナムフォームに変身したヘリアルが、ライフルモードのマグナムシュータ―のスコープを覗いていた。いつの間にか、変異ジャマトは消えている。ヘリアルが撃退でもしてくれたのだろうか…?

「危なかった…!ここは引くぞ!」

『HANDGUN』

 ヘリアルがマグナムシューターをハンドガンモードに変形させ、一歩前に出る。心なしか、彼の鎧に水滴が付いているように見えた。

『BULLET CHARGE』

 ヘリアルは天井に発砲し、スプリンクラー用の水道管を撃ち抜く。雨のように水が降り注ぎ、バッファがひるむ。そして続けて地面に発砲。舞い上がった砂塵に合わせて、俺たちは撤退した。

 

 

 傷の手当のためにサロンへ戻った冴と祢音。奏斗とカムロは、再びジャマトの捜索に戻った。運営の捜索を頼っていれば、もう日没までは間に合わないと語っていた。祢音の手に包帯を巻いた冴は、バッファとの戦いを思い出す。こうして祢音が怪我を負ったのも、彼女が戦いの中で冴を庇ったためでもある。ダパーンとヘリアルが駆けつけてくれたおかげで軽傷で済んだのも、不幸中の幸いと言うべきか。冴は、包帯を金具で止める。

「どうしてあんな無茶を?」

「だって…冴さんがいなくなったら、誰が冴さんの家族を助けるの…?」

 母親に束縛され、自由などない。その中で、奏斗とその両親を目の前にし、祢音の家族に対する思いや欲求は、より強いものとなっていた。それが、たとえ自分のもので無かったとしても。

「幸せな家族…ずっと守っていくんでしょ?だから戦ってたんでしょ…?冴さんに…お姉ちゃんにもしものことがあったら…弟も妹も…悲しむよ」

 そして、祢音は知っている。デザイアグランプリのリセットのルールで、傷が癒えたとしても、心の傷が消えるわけでは無い。敗北し、血生臭い戦いの記憶を失ったとしても、幸せになるとは限らない。もし自由になりたいのなら、幸せを掴みたいのなら、最後まで自分の腕でもがかなければならない、と。だから祢音は、冴にも自らがデザスターであることを明かすつもりはない。幸福を、自らの力で手に入れるために。

「入っていいか?」

 カーテンが開かれた先には、浮世英寿が立っていた。片手にはブーストバックルが握られている。景和向けに設定されたシークレットミッションを見抜き、出し抜いて手に入れたのだ。ちなみに、もう一つのボーナスであるスロットは、景和へ渡った。

「バッファにバックルを奪われたそうだな」

 冴は英寿に返す言葉も無く、沈黙する。

「あいつを野放しにしておくと厄介だな…」

 バッファの一連の行動に、英寿は苦い顔をする。ロポのバックルが狙われたのも、途中でムスブが乱入したのも、全て五十鈴大智の発案である。かつて捨て台詞だと思われていた五十鈴大智の発言が、仮面ライダー達に思わぬ形で襲い掛かっていた。

「ナーゴ…君に紹介してほしい人がいる」

 そこで、バッファ対策に英寿が講じた方法とは…

 

 

 英寿が向かった先は、日本一と名高い都内の中華料理店。回転テーブルに並べられた逸品を挟んで席についたのは、クリーム色のタキシードに身を包んだ男、ニラムであった。

「デザグラのプロデューサー様に会えて光栄だよ」

「要件はバッファか…」

 ニラムは小皿に炒飯を山盛りによそい、テーブルを回して英寿へとよこす。

「ああ。まさかとは思うが、あいつの妨害もショーの…一部ってわけじゃないんだろ?」

 英寿はニラムに対し、バッファを始めとしたジャマト側の一連の動きの対処を要請する。その会話の中で、互いに料理へ舌鼓を打ちながらも、静かな空中戦が起きていた。

 英寿が運営に対し詮索すると、ニラムがそれを自然な流れで避け、逆に英寿の謎という反撃を放つ。流石にプロデューサー程の地位となると、口は堅い。チラミの方がまだガードは緩いだろう。

 そんな彼らの論争を、部屋の外から盗み聞きしている者がいた。青一色の中華風に、金色のバンダナを頭に結んだ橋結カムロだ。彼は杏仁豆腐が乗せられた盆を持ちながら、ドアの陰に潜む。"天才シェフの能力"を利用すれば、たとえ一流の店であろうと潜入は容易であった。むしろ、店側が喜んで迎い入れたくらいである。

「折角なら、やるとこまでやってくれよギーツ。君の、2000年を賭けた願いも、無意味に終わる……最後に勝つのは僕だ…!」

 嘘つきは、デザスターだけではない。

 

 

『TACTICAL SLASH!』

 ニンジャデュアラー・ツインブレードを交互に投げ、数体の運送ジャマトを挟み撃ちにして斬り伏せた。辺りにこれ以上敵がいないことを確認すると、変身を解除する。逃げ回る運送ジャマトを追いかけているうちに、市街地を離れてしまったようだ。見渡すと、築二十年は下らないだろう平屋の家屋が点在している、寂れた町並みであった。まぁ、空気はきれいだ。

 運送ジャマトが残した段ボールを確認すると、またしてもメロンの姿無し。

「もう爆弾魔ジャマトを探したほうが良いな…」

 冴さんの家に仕掛けられた時限爆弾のコードは赤、青、黄の三種だった。もしかしたら俺の時みたいに、二本コードを切断する必要があるのかもしれない。となれば、もはやその辺の運送ジャマトが答えを知ってる可能性は捨てて、爆弾魔ジャマトのアジトを突き止めたほうが早い。押収した爆弾は、スパイダーフォンで連絡すれば運営側が回収してくれるとツムリから知らされていたので、そのままにして立ち上がる。

「いた……奇遇だね。奏斗君」

「なっ…!新井!?」

 何の偶然だろう。長い通りの果てから、新井紅深が歩いて来ていた。しかも、先がピンクの三つ編みに、白と黒のロングスカート。落書きを残す時とは違う、新しい私服だろうか?デザグラの事を悟られまいと、慌てて箱を背中に隠す。

「何してるの?そんな珍しい服着て。お洒落さんに目覚めたの?」

 新井は口を尖らせながら、服を引っ張ったり突付いたりしてくる。くっそ…日は傾き始めてる。こいつに足止めされてる暇はないってのに…!

「んぁあ…悪いが、急いでるんだ…!今度埋め合わせするから……あぁ、じゃあな!」

「待ってよ」

 新井の静止を耳にせず、その場を立ち去ろうとする。今期のデザグラが終われば、新井の記憶も消えるのだ。なら、ここで多少不自然な動きをしたって……

「奏斗君さ!綾辻誠司って人、知ってる?」

「は…?」

 到底、彼女から飛んでくるとは考えられなかった問いに、足が止まる。何故今そんな話を…?綾辻…そんなやつのことなんて……いや、俺は知ってる。彼のニュースは、かなり世間を騒がせた。

「綾辻誠司……"ソニカ"の社長だろ。誘拐事件に巻き込まれて、死んでる」

 ソニカというのは、腕時計型のデバイスを開発してた、ベンチャー企業だ。初代社長たる綾辻誠司は、気骨に溢れた性格で、タレントとしても人気だった。

 しかし五年前、数人組の若者に誘拐され、その先で命を落としたとされている。死体は既に溶かされていて見つからなかった。後に逮捕された若者たちは、金が目的だったと主張するのみ。一部では、誘拐は他企業の依頼だの、綾辻誠司はまだ生きてるだの、根も葉もない噂が立ったものだ。当日中一だった俺たちには、センシティブな事件だったと記憶している。

「ふぅん……そんな人だったんだ」

「知らなかったのか?」

 新井の素っ気ない反応に、眉をひそめる。そっちから話を振ってきて、何も知りませんなんてあるか。

「まぁ、別に興味とか無かったし。ちょっと気になっただけなの。じゃあさ、郁真君と綾辻誠司が従兄弟ってことは、彼から聞いたりしたの?」

 彼女から聞いた言葉の意味がすぐには咀嚼できずに、何度も脳内をこだました。初耳に決まってるだろ。あいつと、綾辻誠司が……?

「なんでお前は知ってるんだよ」

「教えてもらっただけだよ。郁真君と、自然な会話の中で」

 どうもペースが新井に取られて、思考がまとまらない。こいつは何を企んでる…?考えを整理しようと新井から目を逸らすと、太陽が西に大きく傾いているのが見えた。そうだ、今はゲーム中。綾辻誠司の事は、後で詳しく聞けば良い。今はジャマトだ…!

「悪い。また今度」

 もう、新井に振り返ることは無かった。

 

             ※

 

 奏斗が去った後、モーンは震えながら口元を抑える。

 恐怖とも笑いとも取れない引き攣った表情が、西日に照らされて影を作った。

「これ…ドキドキできてるかなぁ…!学校に潜入するの…正解だったかも…!」

「いい加減、悪趣味すぎて欠伸が出るわぁ」

 視界の先に消えてゆく奏斗の背中。その間に、ベロバが割り込んだ。傍らには、五十鈴大智の姿もある。彼女らの姿を一目みたモーンは、胸焼けしたような不快な態度をとる。

「貴方に言われたくない。そっちこそ、死人を愛する気持ちはどうなのさ?」

「あら?あんたよりは数倍健全よぉ。あんたもこっち側に来れば、もっとゾクゾクできるんじゃない?」

 ベロバはそう言って艶かしくモーンの頬に触れる。モーンは強く拒絶し、レーザーレイズライザーの銃口をベロバの肩に押し当てた。

「私が求めてるのはドキドキなの。貴方の道楽に興味はない」

「だったらあんたも、ウダウダ悩んでないで、墨田奏斗とサポーターとして会いなさい。ドキドキしたいなら…ね」

 二人のサポーターが火花を散らす光景を、五十鈴大智は黙って眺めているだけだった。

 

             *

 

 ツムリからアナウンスが入った。ついに爆弾魔ジャマトが見つかったらしい。結果的に俺が運送ジャマトを追いかけていた地点と近く、アジトは郊外の工事現場だった。

 盛り土の裏から顔を覗かせ、アジトの様子を伺う。アジト、という触れ込みだから室内なのかと思っていたが、ガッツリ屋外だ。仮設のテントを二張りほど用意して、段ボールに爆弾を詰めている。当の爆弾魔ジャマトは、ビショップジャマトと見た目が酷似していた。いや、ベースにしていると言ったほうが正しいな。作業中の運送ジャマトに奇襲を仕掛けようと、ブラストバックルを手に取る。

 だが、ドライバーに装着しようとする直前で、腕を掴まれた。血流が止まるほどの強い力で握られ、バックルが手から落ちる。焦って顔をやると、快富がそこに立っていた。腕を振り払い、ブラストバックルを拾い直す。どこかでつけられでもしたのだろうか。

「快富?下がってくれ…もう時間が無いんだ」

「お前……俺、前に言ったよな。近道をしたら、大抵後悔するって」

 覚えている。俺と快富が友達になるきっかけを作ったのもあの時だった。椅子取りゲーム。ドライバーを快富に譲ってもらう過程で、彼から出た言葉だった。それが今になってなんで蒸し返されるのか。

「俺さ……誠司さんと会ったよ。おかしいんだよ、あの人は死んだはずだった」

 綾辻誠司と遭遇した…?ありえない、死んだ人間と再び会うなんて、それこそ道長くらいの特例でもない限り…そうか。少し考えれば、すぐにわかることだ。綾辻誠司は、元デザグラの参加者だ。そして命を落としジャマトとなり、ジャマトとして快富に接触した。ジャマーボール合戦の時と、仕組みは同じのはずだ。

 当の事情を知る由もない快富は、何時にないしおらしい様子だ。ジャマトと会って、何があったと言うのだろうか。彼は直ぐに事情を語り始めた。

「お前を止めろって、あの人に頼られた」

──────────────

 その夜、俺は誠司さんと会った。

「久しいなぁ…郁真…!」

 フードから顔を露わにした誠司さんは、五年前と全くと言っていいほど変わらぬ目つきの鋭さだった。違う、誠司さんは溶かされて死んだはずだ。生きてるなんて、ありえない。だけど、ありえないと考えるほどに、目の前のくっきりとした輪郭の様が、鮮明に表れていくようだ。息が荒くなる俺を気に留めていないのか、誠司さんは耳を塞ぎたくなるほどの大声で喋り始めた。こういうところ、同じだ。

「お前、見ないうちに派手になったなぁ!誠司兄ちゃんが居なくて、寂しくなったか!?」

 誠司さんはこっちの気持ちなど考えずに、ガシガシと頭を撫でる。誠司さんは従兄だ。ちゃんとした兄弟ではない。面倒見の良い性格だったからか、こうして兄のふりをしたがる。懐かしい気持ちになるのを必死にこらえて、後ずさった。本物なわけない。遺体は見つからなかったけど、葬式もやった、墓参りだって、何度も行った。誠司さんは死んだ、死んだんだよ。

「ま…お前が信じられないのも当然だよなぁ…でも、こうして生きてる…!誘拐された後、ライバル会社の重役に監禁されてたんだよ…!なんとか逃げてきたんだ。信じろよ…なっ!」

 だからなんだ。ワイドショーで言われてた失踪説っての本当だって説得したいのか。五年も監禁されて、よく正気を保っていられるよな。

「逃げられたのも、デザイアグランプリの運営に助けてもらったからなんだよ」

「デザグラ…!?あの、奏斗が参加してるやつか?」

 俺が口からデザグラの名を出すと、誠司さんは手を叩いてこちらを指差して来る。

「そうだ!デザグラさんには恩がある。俺にとっても、お前にとってもだ!だからな郁真、一つ頼まれてくれよ…!」

 誠司さんは、俺の肩を前からガシッと掴んだ。

「あの墨田奏斗とか言う参加者、いるだろ?あいつは裏切り者だ。他の参加者に手を出す前に、お前が止めろ。それが…お前が人生を挽回できる正しい道なんだ」

 俺が誠司さんの目を見ようとすると、もうそこにはいなかった。悪い夢でも見ていたのだろうか?でも、声も、しゃべり方も、間違いなく綾辻誠司だった。そして引っかかる。正しい道という言葉が。

──────────────

 郁真の話したことは、ジャマトとの接触と形容するには、あまりにも不可解な話だった。俺が、裏切り者…?デザスターの話をしていたのだろうか…?でも…残念だ。”俺はデザスターじゃない”。綾辻誠司の言っていることは、明らかな誘導で間違いなかった。

「五年前、誠司さんが誘拐される前に、俺と会ってたんだよ。そん時に言ったんだ。”お前は、お前が正しいと思う道に行け”って」

 郁真の声は震えていた。すでに死んだと思っていた大切な人の死を、今一度認識させられることは、どれだけ苦しいことか。

「その言葉と似たようなこと言われて、迷っちまった…!でも、」

 ジャマトの策略。生前の綾辻誠司の中でも印象深い言葉を、揺さぶりをかけるつもりで郁真に使ったのだろう。だが、郁真は既に覚悟していた。彼は、強い男だ。郁真は空を仰ぎ、叫んだ。

「俺は、家族を信じたい!でも、お前も信じたい!」

「郁真…!」

 郁真ははっきりと前を向くと、俺の胸を拳でドンと叩いた。

「お前が裏切り者なんて、あるはずがねぇ…!だから、俺は、誠司さんを裏切る!」

 背後から爆発音が響く。もう、他のライダーが戦いを始めていた。俺も行かなければならない。それに、郁真が俺を信じると言ったのだ。応えないでどうする。必ず、デザスターの正体を暴き、俺がデザ神になる…!

「また行って来るよ。お前を裏切らないために」

『SET』「変身!」

『DUAL ON!GREAT!BLAST!』

『Ready?Fight!』

 盛り土を一気に飛び越えて、戦地に足を踏み出す。ライダーたちは、とめどなく爆弾を投げてくる運送ジャマトの弾幕に手をこまねいているようだった。特に、ロポなんてバックルを奪われたせいでエントリーフォームだ。戦いにくいったらないだろう。だが、俺ならあいつらの弾幕を完封できる。俺は皆の前に立ち、ブラストバックルを再起動した。

「伏せてろ!」『BLAST STRAKE!』

 その場で大きく回し蹴りすると、ファンから発した風が風圧の壁を作る。その壁に掠め取られた爆弾たちは運送ジャマトに飛び返ってゆき、連鎖的に誘爆して運送ジャマトを大量撃破した。護衛を失った爆弾魔ジャマトはメロンの時限爆弾を抱えたまま慌てふためいている。やっぱりあいつがメロンを持ってたか…!

「やるなダパーン。後は任せろ」

 いつブーストバックルを手に入れたのだろうか、マグナムブーストフォームのギーツが俺の肩に体重を乗せてくる。肩を回してそれを解くと、レイジングソードを斜めに構える。

「ふざけんな。あいつは俺が倒す…!」

「フッ、面白い」

 ギーツの軽口を無視し、ブラストバックルの能力で爆弾魔ジャマトに飛びかかる。後ろからギーツもふくらはぎのマフラーから炎を放って接近していた。俺たちは同時に膝蹴りを胴体に命中させ、着地する。どうやらここは、ギーツと共闘をする流れとなったらしい。ギーツが精密射撃で両手首を撃ち抜き、爆弾魔ジャマトの手からメロンの時限爆弾を放させる。俺はそれが地面に着弾する前に下段蹴りで横方向に弾いた。その低い姿勢のままレイジングソードで三回ほど斬り込むと、ギーツが俺の背中を片手で飛び越え、ブーストの高火力の飛び蹴りを放った。爆弾魔ジャマトは大きく怯み、段ボールを重ねて置いていたワゴンに激突する。

「よし…!」

『FULL CHARGE』『REVOLVE ON』『TWIN SET』

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

『Ready?Fight!』

 俺はベルトを反転し、最初からキャノンモードを選択し、爆弾魔ジャマトに向けてエネルギー弾を連射する。エネルギー弾は辺りの時限爆弾に誘爆し、爆弾魔ジャマトは自らが用意した爆弾の爆発に巻き込まれる。

「決めるぞ!」『ROCK ON!』

「任せろ」『MAGNUM!』

 俺は両肩のキャノンにエネルギーを収束させ、ギーツはマグナムシューターにマグナムバックルを装填。シリンダーを回転させ、待機状態に入る。

 照準を合わせ、爆弾魔ジャマトに必殺技を放たんとした瞬間。

「何するんだよ!」

 タイクーンの叫び声に、必殺技をキャンセルして振り返る。そこでは、タイクーンが所持していたらしいフィーバースロットバックルを、なんとあのロポが無理矢理強奪している様子が繰り広げられていた。プレイヤー一同に、困惑の空気が流れる。

「負けるわけにはいかないの」

「何のつもりだオオカミ君…!」

「まさか…君がデザスター!?」

 ヘリアルとタイクーンの追求に、ロボは淀みなく答えた。

「そうよ。ここであんたたちが脱落になれば、私がデザ神になれる!」

『SET FEVER!』

『JACKPOT HIT!GOLDEN FEVER!』

「家族は…私の手で守る!」

 スロットよりブーストフォームとなったロポは、全身に炎を纏い、俺の横を通り抜けてゆく。あまりの展開に、言葉に詰まる。冴さんがデザスター…?今まで不審な動きは無かったはず…いつだ?何を見落としていた……いや、そこまで完璧に隠せていたのだとしたら、なぜ"今カミングアウト"した?にわかに、冴さんが裏切り者の正体であるとは信じられなかった。

「私がケリをつける!」

『REVOLVE ON』

 ロポは脚側にアーマーを移動させ、霊長類最速の名に恥じない瞬足と連撃で、爆弾魔ジャマトを追い詰めてゆく。時にはフェイントを織り交ぜ、彼女の戦闘センスの高さを感じられた。

「ダパーン。俺たちは残りを片付けるぞ」

「っ………わかった。行こう」

『『REVOLVE ON』』

 ギーツに促され、キャノンモードからジェットモードに。ブーストフォームになったギーツは、ブーストライカーに搭乗。こんな大変な時なのに軽口を叩いている。

「本日のハイライトと行きますか、コ〜ンちゃん」

 ブーストライカーにそんなあだ名付けてたのかこいつ。モンスターバックルに(おやすみ…)なんて話してた事もあったし、ペットでも飼うのが好きなのか?まぁいい。

 ブーストライカーが先に発進し、すぐにジェットモードの高速飛行が追い越す。地面に着地すること無く投擲された爆弾を避け、翼で何体も同時に薙ぎ払う。やはり爆弾は厄介と言えど、それさえ完封してしまえばこっちのものだ。

『RAISE CHARGE!』『BOOST TIME!』

 俺たちは同時に必殺技を発動する。ギーツが前進しながら運送ジャマトを殴りまくっている内に、俺は背部のバーニアを点火。低空飛行で運送ジャマトの集団に迫る。

『BOOST GRAND STRIKE!』 

『TACTICAL RAISING!』

 ギーツがアッパーカットで打ち上げた運送ジャマトを、飛び抜けるのと同時に一刀両断した。これで運送ジャマトは全滅。そして、ボスにも終わりの時が来ていた。

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

 ロポがクラウチングスタートの姿勢からスタートを決め、爆弾魔ジャマトに急接近する。ロポの膝蹴りから始まった連撃は、獲物に噛み付く狼の牙のように深く命中し、爆弾魔ジャマトを木っ端微塵に粉砕した。

 上空に停滞したまま、爆弾魔ジャマトの亡骸を確認する。確かに、二色のコードが見えた。

「青と黄色だ!」

 ギーツの声を聞くや否や、ロポとナーゴは弾かれるようにに市街地へ戻ってゆく。俺も向いたかったが、一度郁真の安否を確認しておくべきだと考え、地面に着地した。綾辻誠司に擬態したジャマトが、何を企んでいたのかも気になる。

「まさか、冴さんがデザスターだったなんて…」

 しゃがみ込んだタイクーンが、ぽつりと呟く。彼は信じているようだが、ギーツも薄々ロポはデザスターではないと察しているようだった。ロポがデザスターである素振りを見せたのは、誰かを庇うため…?冴さんが庇いたくなるような人間なんて、一人しかいない。ということは…?

「なぁ、デザスターって」

「困るよなぁ!お兄ちゃんを裏切るのは!」

 耳を塞ぎたくなるほどの大声が、工事現場一面に響く。はっとして声の方向を見ると、俺が変身した盛り土の前で、綾辻誠司が郁真の首を背後から締めていた。俺たちに対する脅しのつもりか、空い左手でナイフを郁真の腹部に押し当てている。

「動くなよ…俺の腕にかかれば!ここから一突きでこいつを殺せる…!」

 助けようと咄嗟に出た足が止まる。綾辻誠司の脅しに対してではない。彼の発言が、どうしても引っかかったからだ。タイクーンとギーツは、普通に一般人が高校生を人質に取っているように見えたはず。案の定、タイクーンは綾辻誠司の茶番に動揺したようだ。

「なっ…その子を離せ!」

「待ってくれ。あいつはジャマトだ」

 俺が静止すると、なんとギーツが情報を補足してきた。

「あぁ。あの男、過去にデザグラで退場した男と顔が同じだ。デカい声だったから、よく覚えてる」

 やっぱり。綾辻誠司は退場者だったか。だがどうする。一突きで殺せる程の"器用な動き"が詭弁じゃ無いとしたら。不用意な動きは郁真の命に関わる。

「ざけんなよ…」

 黙って綾辻誠司に従っていた郁真が、小声で呟いた。声は次第に大きくなる。

「ふざけんな……ふざけんじゃねぇよ!俺の知ってる誠司さんは、そんな事言わねぇ!放任主義で、胡散臭いところもあったけど……誠司さんはこんな俺を……肯定してくれた!その誠司さんを……馬鹿にするんじゃねぇ!」

「その辺にしておけ!」

 郁真の叫びに、一度は綾辻誠司が逆上するのではと焦燥を覚えた。だが、次いで声を荒らげたのは、綾辻誠司でも、ギーツでも無かった。気迫こそあるが、少し掠れている。老人の声だった。綾辻誠司の背後から、麦わら帽子を被った、農家のような風貌の老人が歩いてきていた。

「いつまで遊んでるんだ……!余計なことはするなっ!」

 突然の老人の登場に、誰も言葉が出ない。老人の怒りを汲み取ったのか、綾辻誠司はナイフをぽいと投げ捨て、郁真から腕を離した。俺は郁真に駆け寄り、肩を貸して綾辻誠司から後退りするように離れる。

「はぁ…わかったよアルキメデル。娯楽ももう終わりだな」

 綾辻誠司が胸の前で拳を握りしめると、水を被ったように全身が崩れ、アクエリアスキメラジャマトに変身した。ムスブの正体は、綾辻誠司に擬態した姿だったのか…!?

「また会おう仮面ライダー諸君」

 アクエリアスキメラジャマトは、アルキメデルと共に去って行った。俺たちは変身を解き、顔を見合わせる。

「あのアルキメデルとやらがジャマトを扇動してるらしいな」

「酷いな…家族の顔を利用して、一般人に近づくなんて」

「…………全くだ」

 この思いは、まだ俺の中で留めておく事にしよう。アクエリアスキメラジャマト……綾辻誠司……ムスブ。まだ、喉に小骨が刺さったような歯切れの悪さを感じていた。

 

             *

 

 郁真を無事に家へと送り届けた後、俺たちはサロンへ戻った。彼のメンタルも心配だが、乗り越えられると信じるしか無いだろう。郁真は強い、一度は綾辻誠司の死を乗り越えてるんだから。

 ゲームの方は、無事に爆弾を解除できたようだ。肝心な時に助けに向かえないで、申し訳ない。デザイア神殿に一足先に戻っていた橋結カムロと共に、冴さんと祢音を迎え入れた。ゲームをクリアしたというのに、デザスター疑惑のせいだろうか。二人の顔はどんよりしていた。

「皆さん。お疲れ様でした。投票締め切りとなります」

 ツムリに催促され、スパイダーフォンの投票アプリを開く。デザスターが誰なのかは見当がついている。でも、今じゃない。せめて、今回だけはデザスターを庇おうと嘘をついた、彼女に投票することにした。それが、彼女の思いに報いる事になると思ったからだ。

「デザスター投票の発表です」

 デザイア神殿に、結果が表示される。まさか、というかやはり、冴さんに六票入っていた。

「自分に投票したのか」

 英寿の問いかけを無視し、冴さんはデザイア神殿を去る。慌てて祢音が先を追いかけた。その冴さんの背中が、今はとても大きく見えた。

 家族の幸せ、そこにある愛を尊重した冴さんは、祢音に願いを叶えてほしかったのだろう。例えそれが、デザスターを残す結末になってしまったとしても。

 

 

 デザイアグランプリの放送が終わり、ビジョンは今回のハイライトを流し始める。まさかのバッファというダークヒーローの乱入が、オーディエンスを賑わせているのは紛れもない事実だ。

「バッファの支持率…7%、ね」

 制服姿の新井紅深は、読みかけの文庫本を鞄に詰め込む。冬休みはあと数日で終わる。彼女にとって、目近で推しに会える学校というイベント、とても気持ち高ぶるものであった。最低限の筆記用具しか入っていない筆箱を押し込もうとしたところで、彼女の手は止まった。

「モーンとして、奏斗と会う…か」

 その思いも、シワだらけの参考書と共に鞄に閉じ込められた。

 

          DGPルール

 

       どのライダーを応援するかは、

 

       オーディエンスの自由である。

 

          たとえそれが、

 

    ジャマトに寝返った裏切り者だとしても。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「ゲームマスターと戦うの!?」

─デザグラのために、─

「これで世界は、僕たちの物か…」

「面白くなってきたじゃなぁ〜い!」

─チラミ、動きます!─

「デザ神決定戦を所望する!」

─君は、誰?─

26話 発露Ⅵ:追跡!デザ神決定戦!


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26話 発露Ⅵ:追跡!デザ神決定戦!

 

 これまでの戦いで、二人の仮面ライダーが脱落した。一人は仮面ライダーナッジスパロウの五十鈴大智。そして仮面ライダーロポの我那覇冴。どちらもデザスターではなく、仮面ライダーナーゴ、鞍馬祢音がデザスターだった。確実な証拠こそ無いが、彼女で間違いない。

「いやぁー皆久々ぁ」

 何より、ここからは立ち回りをより意識しなければならない。デザスターを下したうえで、支持率もトップにならなければデザ神にはなれない。今まで生きてきて、他人から良く思われようなんて、考えた試しが無かった。

「冬休みが終わって、僕ももうすぐ卒業さ」

 それに、警戒すべき人間…嘘つきは一人じゃない。橋結カムロ…もしあいつが…

「まただね、奏斗君」

「うおっ!」

 眼前に、いきなり広実須井部長が割り込んできて、思わず声を出してしまった。しまった。ついまたデザグラの事で考えふけってしまっていた。他の席についていた部員からも、同情の視線が注がれている。上遠と快富はデザグラを知っているが、事情を知らない新井からの目は冷たい。精巧なマネキンに見つめられているようだった。

「奏斗君はさ、疲れてるんだよ部長。からかうの、やめたほうがいいかも」

「いや、大丈夫だ。ごめん」

「あ、そう」

 素っ気ない態度で、視線を手元に戻す。そして、まっすぐ肩にかかった茶髪をいじり始めた。機嫌でも悪いのか。爆弾ゲームで遭遇したときは、埋め合わせはすると一方的に逃げてしまったが、そのせいで気を損ねたのかもしれない。あのときの髪色は、先端がピンク色になるようにグラデーションがかかっていた。今それが無いってことは、染め直しでもしたのだろう。品行方正な生徒に見せかけるために。茶髪を地毛と言い張っているのは、せめてのもの抵抗か。

「ま、いいよ。今日は顔合わせだけだからさ。解散、解散」

 部長に促されて、皆は席を立つ。俺もそれに倣い、部室を出た。学校がまた始まったので、新井が落書きをする頻度も減る事だろう。デザイアグランプリも、佳境に入ろうとしている。チラミの言う通りなら、このシーズンもいよいよ大詰めらしい。以前集められたときに言っていた。

 

 

「改めて、今の状況をおさらいするわよ~」

 ゲームも始まっていないのに、デザイア神殿に集められたのは、今までのおさらいも兼ねてのことだったらしい。デザイア神殿を取り囲む瞳型のカメラの数は、今までよりも倍近くに増えていた。オーディエンスが増加したのか、新規視聴者にも丁寧なところが、如何にもエンタメ重視のチラミらしい。くねくねした動きが何時にも増して気持ち悪かった。

「最終戦をクリアした段階で、オ~ディエンスの支持率が一番高いプレイヤーがデザしぃんとなり、理想の世界を叶えられる。で、現在の支持率が…ドドン!」

 俺たちプレイヤーは、ホログラムに映された支持率のグラフに見入る。明らかに、赤の割合が多いようだった。そして他に目立つのは、紫色のアイツ。

「ギーツ、27%。タイクーン、20%。ダパーン、18%。ナーゴ、14%。ヘリアル、14%。バッファ、7%」

「え…?なんで道長も支持率に入ってるの?」

「道長さん、デザグラにエントリーされてないのに…」

 関係ないやつに票を取られてるんだ。真っ当に戦ってるこっちの身としては、冗談じゃない。復活してからの道長だって、ゲームに参加するわけでもなくただ暴れてるだけ。そんなやつを支持するのは、相当悪趣味なオーディエンスだけだろう。祢音と景和の戸惑いは当然と取れる。だが、俺の隣で仁王立ちしていた橋結カムロは、余裕の態度を崩さないようであった。

「いいじゃないか!願いのためなら手段は選ばず、そういう姿勢は嫌いじゃない。受け入れてやればいい。悪党は、正面から砕いてこそだ…!」

 ホントに思ってんのかよそれ……彼の胡散臭い演技に、胸やけを起こしそうになる。

「バッファちゃんには、極上の公認サポーターがついたんですって…!面白くなってきたじゃな~い!」

 テンションを上げ切ったチラミは、スンと冷静な口調に戻る。こういうところマジで気持ちが悪い。

「デザ神になるにはもう一つ条件がある。この中にいるデザスターがバレずに勝ち残ったら、デザ神の座を横取り出来る。つまり、最終戦の投票でデザスターを見破らなければ、支持率に関係なく…デザスターの勝ち…!ここが正念場よ。」

 チラミはあからさまに祢音の方向を向いて語った。

「デザスターも、そうじゃない人もねっ」

 チラミに吹聴された祢音は、鋭い眼差しを俺たちに向ける。英寿もただ、同じように睨み返しただけだった。この中でデザスターが祢音だと感付いている奴は、俺以外にいるのだろうか。また取り入られて、冴さんみたいに庇われるのも困るからな…

「次にジャマトが襲来してきた時が…運命の!勝負よ!」

 かっこつけているのはいいが、この後ジャマトが全く現れずに、新学期を迎えてしまった。

 

 

 下駄箱から、くしゃくしゃに踏みつぶしたスニーカーと履き替えた。高校生になった頃から使っているので、もう三年物になる。部長も卒業しちゃうし、ボランティア部はどうなるのやら。部長とか後任させられたら怠いな。デザグラだっていつ呼び出されるのかもわからないのに。まぁ今日は幸い午前授業だったし、ジャマトが来ても安心だな…もう一週間は出ていないが。

「チラミも面目丸つぶれだよなぁ…」

 若干の哀れみも感じつつ、校門を抜ける。俺も、皆に伝えなきゃいけないことがあるのに、まだ会えてないわけだし。チラミと似たようなもんか。

 と、街路樹が点々と植えられた道を歩く。秋は一面の落ち葉だったが、それも掃除されて、今は空しくから風が吹く。早く家路に着きたいとこだったが、打ち付けられたように足が止まった。街路樹ど歩道を隔てる、背の高いレンガに、新井紅美がちょこんと座っていた。いつの間に先回りされていたのか。いや、俺を待っているとか、思い上がりすぎだな。学校用の鞄も肩にかけてるし、ちょっと休んでるだけだろう。軽く挨拶して通り過ぎるか。

「お、じゃあな新井」

 特に視線も合わせず通過する。返事は帰ってこない。ちょっと心に来るが、面倒事に巻き込まれるくらいなら…

「待ってよ。忘れたの、この前の約束」

「え」

 ダメだった。新井はジャンプしながらレンガから降りると、くるくると髪をいじりながら顔を上げた。

「この前の埋め合わせ、するんでしょ。ちょっと付き合ってよ」

 いつも冷徹な態度なのに、こういうところはちゃっかりしている。

  

             *

 

 新井に手を引かれて、学校から一番近いショッピングモールへとやってきた。彼女の目的は、ここら辺では一番多きい書店。年の暮れに合わせて様々な賞が発表されたようで、それを買い漁るつもりらしい。今年も、思想の強そうな文学作品や、若者に受けがよさそうな恋愛小説、流行った実写映画の原作本、インフルエンサーの自伝など、実に多くの本が目立つように平積みされていた。新井は俺にカゴを持たせると、すべて一種類ずつ放り込んでゆく。金銭面は全く考慮していないらしく、手に迷いが無い。

「いいのか、こんなに買って」

「うん。どうせ他のことに使わないから」

 落書きのためのスプレー代はどう工面してるんだか。本は一冊ずつほど軽いが、塵も積もればとは正にこのことで、筋力の落ちている腕には苦しかった。ミステリー大賞を受賞したハードカバーの本が積まれたところで、ようやく彼女の手が止まった。

「せっかくだから、奏斗君が好きな本も買ってこうか?」

「は?いいよ別に」

 悪いが俺に読書の趣味はない。素っ気なく突き放しすぎたのか、新井は珍しく不機嫌な顔になる。しまった、またやった。新井は俺に人差し指を向けながら詰めてくる。この状態の新井で、ここまで感情を出すのは珍らしい。

「いい?本は自分を作るのに大事な要素なんだよ。奏斗君って、今まで自分のせいで人を傷つけたこと、たくさんあるでしょ?」

「う。ま、まあ」

 俺が黙ると、新井は満足したのか、文庫本コーナーに足を運ぶ。そして、棚の中からセピア一色のの表紙をなした小説を押し付けてきた。裏面の説明文を読むと、ミステリーらしい。これでどうやったら自分を作れるのだろうか。彼女のセンスは伺い知れないが、こんなに本をかき集めているなら間違いない、か?

「行こうか、その本ついでに買ってあげるから」

 さっきまでは怒っていたはずなのに、レジに振り返った新井の口調は、なぜか爽やかだった。

 

 

 奏斗が不在のサロン。プレイヤーにツムリを含めた五人でババ抜きをする中で、一人チラミは抜け殻のように地面に横たわっていた。

「なぁ、ゲームマスター大丈夫なのか?」

「もう何日もジャマトが表れていないので、腐っていしまいました」

 景和の持ち札からカードを引きながら、ツムリは答える。ウキウキでババ抜きを楽しむツムリは、運営の業務から解放されて随分と爽快な気分のようだ。ジャマトがいつ町を襲撃するかは完全に向こうの気分なので、こうなれば運営は受け身になるしかない。普通ならジャマト側が強力な個体を育てているのではと思案すべきであるが、チラミはデザグラが盛り下がるほうが重要なことらしい。

「ジャマトが来ないと、ゲームが始められない……か」

「このままじゃデザ神が決まらないもんな」

「まぁ、世界が平和なのは、いいことじゃん!」

 明るく両手をあげる景和に、英寿と祢音は笑顔でかえした。エンタメにこそ振り切っているが、デザイアグランプリの本質は世界を守ることである。

「よくなぁい…ジャマトを……もっとジャマトを~!」

「むぅ…まぁゲームマスターの言うことも一理ある」

 それまで無言でカードをいじっていた橋結カムロが、ようやく口を開く。

「もしこのままジャマトが来ずに、デザグラが打ち切りになってしまったら?」

 橋結カムロの想像に、プレイヤーの表情は硬くなる。今のデザグラは、オーディエンスの人気で成り立っていたことが分かっている。オーディエンスが求めているのは、仮面ライダーの命を賭した戦い。ジャマトが消失してしまえば、ただ一般人のシェアハウスを垂れ流されているだけの、退屈極まりないものになってしまう。そのような事態になれば、オーディエンスは別の刺激を求めて新しいコンテンツに移動するだろう。それは、プレイヤーにとっても望んだものではない。

「本物の愛も、世界平和も、願いのために戦ったこれまでの努力は無駄になる…それはこっちも願い下げだ…!」

 カムロはトランプを机に叩きつけ、地に寝そべるチラミに向けて立ち上がった。

「ゲームマスター…!デザ神決定戦を所望する!」

 チラミは、サングラスの片側を開いた。

 

 

「面白い、君の考えたとおりになってきたな…!」

 運営側の動向を把握したアルキメデルが、にやけ顔で五十鈴大智に賛美の言葉を贈った。出現の途絶えたジャマト。それもすべて、自称参謀の大智が考えた、デザグラを乗っ取る策である。

「痺れを切らしたゲームマスターはどうすると思う?答えは…?簡単に彼の要求を受け入れる」

 思惑入り混じる新シーズンは、プレイヤーにも運営も想像できない形で閉幕を迎える。

 

 

 いよいよツムリに呼びだされ、プレイヤーはようやく腰を上げた。集められた広場には、ジャマトどころかジャマーエリアすら展開されていない。

「これより、デザ神決定戦を始めます!」

「あの…それはいいんですけど、奏斗君は…?」

 横並びになった四人のプレイヤー、そこに仮面ライダーダパーンこと、墨田奏斗の姿が無かった。デザ神決定戦が始まろうとしているのに、どこをほっつきまわっているのか。ダパーンの支持率はトップでもないし、最後のアピールチャンスを逃せばいよいよもってデザ神に手が届かなくなる。オーディエンスからの非難の声が上がることは間違いない。運営はそんなことを毛ほども心配していないようである。

「奏斗様はサポーター様のご意向で、しばらく不在となります」

「サポーター…?」

 英寿が眉をひそめて反応したが、ツムリは声色を変えずに最終戦の説明に移った。

「ジャマトは現れなかったので、ゲームマスターが自ら敵役として参加します!」

 ツムリの手のさす方向、階段を介した高台にチラミが立っている。ギロリと同じ、ビジョンドライバーを装着して。

「手加減は、ナシでいくわよ」

『GLARE2 LOG IN.』

 親指で生体認証を終え、プロビデンスカードを手に取る。そして、思いっきりのけぞって叫んだ。

「っしゃあぁ!変っ、身っ!」

『INSTALL.』

 プロビデンスカードをスラッシュするのは、チラ見ではなくガン見で。スラッシュを終えると、チラミの体がピクセル状に組み変わり、形成された五つのビット・ヒュプノレイから紫と水色のレーザーが照射。モノクロの鎧が装着され、ヒュプノレイが合体すとともにエネルギーが行きわたり、新たなゲームマスターのライダー、仮面ライダーグレア2へと変身した。

『I HAVE FULL CONTROL OVER,GLARE2.』

「勝負…!」

「ゲームマスターと戦うの!?」

 これまでのグレアとは異なり、グレア2の頭部や各部のヒュプノレイは赤いノイズが入っている。かつてダパーンが会敵したコラスの変身するグレア3は、この中の誰も目撃していないので、グレア2の姿がより新鮮に見えた。さらに2という名。カムロ以外の三人は、グレアの強さを知っている。三人で協力し、今もなお最強戦力のコマンドバックルを二つ投入しても、まともにダメージを与えられなかった。そのグレアが2になったのだ、前よりも強化されていると見て間違いない。グレア2との直接対決を覚悟し、プレーヤーたちは身構える。グレア2が最初に取った行動は。

「へへへっ!」

「い~ち。に~い」

 逃走一直線。始まるツムリのカウント。あまりの突拍子の無さに、全員があんぐりと口を開く。ツムリのカウントが進み、グレア2はよたよたした足取りで離れてゆく。仰々しい雰囲気で始まったデザ神決定戦の気の抜け具合に、だれも動き出すことができず、グレア2の背中が視界から遠ざかってゆく。その中で橋結カムロ、彼だけが口元を隠しながら笑っていた。

「やっぱり…ゲームマスターが持っていたか」

「きゅ~う。じゅう!これよりデザ神決定戦・鬼ごっこゲームスタートです。逃げたゲームマスターを…」

「御託はいい!グレア2を捕まえたやつがデザ神!そうだろう!」

『SET FEVER!』

 ツムリのナビゲーションを遮り、待ってましたとカムロが階段を駆け上がる。

「変身!」『HIT!BEAT!』

 突如ヘリアルの取った独断行動に、ツムリは膨れ顔になり、早口で残りのルールを言い放った。

「ゲームマスターを捕まえた人がデザ神です!前後半一時間ずつ!妨害するライダーもいますのでご注意を!」

 まだ変身していない三人を狙い、グレア2のコントール下に置かれたライダーたちが二体、攻勢を仕掛ける。一体はハンマーバックルを、もう片方はモンスターバックルを装備している。「なんでこんなことしなくちゃいけないんですか!?」と反発しつつも、景和はモンスターグローブの一撃をかわす。ツムリはすでにサロンへ去ってしまったようだった。音一つ立てず。運営ライダーを前蹴りで退け、英寿はマグナムバックルにて変身した。

「やるしかないか……変身!」『MAGNUM!』

 ギーツの後を追い、景和と祢音も変身する。

「「変身!」」『NINJYA!』『BEAT!』

 運営ライダーの機械的な攻撃に対して、三人は連携して迎え撃つ。対して、へリアルは単独でグレア2に勝負を挑んでいた。

『METAL THUNDER!』「くらえ!」『TACTICAL THUNDER!』

 ビートアックスを爪弾き、青白くスパークする電撃を発射。しかしこれをグレア2は水中を漂う昆布のような、クネクネした動きで避ける。ヘリアルはグレア2の戦闘スタイルを何となく察していたようで、ビートアックスの刃に帯電させ、近接戦へと切り替える。グレア2の動きはふざけているとしか考えられないが、回避能力は本物で、ヘリアルの連続攻撃をすべてギリギリで避けていった。

「やるな、ゲームマスターって肩書は間違いじゃないらしい!」

 ヘリアルがビートアックスを左下から弧を描くように振り上げ、グレア2は右ひじと右ひざの間にこれを挟んで防御する。

「やるわね。今まで猫ちゃんでも被ってたのかしら?」

「サポートのほうがオーディエンスの支持率を稼げると思っていた。焦ってるんだよ。ポイントが足りないもんで!」

 力が拮抗した状態から、ヘリアルはそのまま押し切るのではく、ビートアックスを強く引き相手の体制を崩す。そして、前傾姿勢に崩れたグレア2の首筋を狙い再びビートアックスで斬り上げる。グレア2も抵抗し、上半身を後ろに逸らせることで回避してしまう。ヘリアルはまだ諦めずに、フェンイントを交えながらも攻略の糸口を探らんとする。

「でも、少し本気になったからって、やられるほどの私じゃないのよ!」

『HACKING ON CRACK START 』

 グレア2がビジョンドライバーの指紋認証に今一度触れると、まだ稼働していなかった胸部のヒュプノレイが展開。ヘリアルにとって不意打ちとも言える形でヒュプノレイが分離され、怯んだ所をレーザー攻撃で退けられる。その合間にヒュプノレイは柱の陰で待機していたGMライダーと合体。グレア2の支配下となる。

「さらに、いくわよぉ」

 グレア2は両手に持ったバックルを次々ビジョンドライバーに読み込ませ、GMライダーを強化する。

『SET UPGRADE.REMOTE CONTROL BLAST.』『SET UPGRADE.REMOTE CONTROL CHAIN ARRAY.』

「ちっ!」

 上半身にブラストバックル、下半身にチェーンアレイバックルを装備したGMライダーは、背部からのガス噴射でヘリアルへ急接近。気流でチェーンを操作し、ヘリアルのビートアックスを巻き取り、一度攻撃の手を奪う。武器を奪われた瞬間、ヘリアルは後方にターンしつつ即スロットを回し直し、装備をリセットする。引き当てられたのはニンジャで、ニンジャデュアラーをツインブレードに分離して、GMライダーのチェーンアレイの投擲による攻撃を、真っ向から跳ね返す。その間に、グレア2は逃走してしまった。

 建物の屋上に避難したグレア2は、設置された定点カメラにアピールする。

「どんな茶番だ!と思っているそこのあなた!このゲームが終わるまでに、プレイヤーはデザスターが誰かを投票する。デザスターを見破れるかどうかが、このゲームの焦点よ!」

 ゲームマスターの言葉は、確実にオーディエンスに届き、盛り上がりは最高潮を見せる。

 そして、言葉を受けとっている人間はもう一人いた。

──────────────

『どこの茶番だ!と思っているそこのあなた!』

「デザ神決定戦…!?そんなアナウンスなんて無かったぞ……!」

 とある喫茶店の通路の陰で、墨田奏斗は何度も瞬きを繰り返した。スパイダーフォンより、チラミの仕掛けた罠とGMライダーに悪戦苦闘する仮面ライダーらの様子が再生されている。プレイヤーは本来、サポーターを介さなければデザイアグランプリを視聴できない。それがなぜか、外出中の彼のもとへ届いている。ツムリからの呼び出しがなされなかった彼が、デザ神決定戦が開催されている事実を知るなど、できるはずがないのだ。

 俺は、新井の優雅な休日に振り回されているはずだった。鞄に忍ばせていたドライバーにIDコア、バックルに異常はなく、脱落扱いにはなっていないようである。支持率も英寿と景和に続いて18%だったし、サポーターのモーン以外にも俺が戦うことを望んだオーディエンスがいたはずだ。それがなぜ今?ここまで来てハブられている?画面をタップし、シークバーを操作する。この中継が始まった最初の時間まで、映像を巻き戻した。

 俺がこうしてデザグラを視聴できている理由は、一通のデータがメールにて届いたからである。差出人は不明。開いてみると、デザイアグランプリの本放送へのアクセス権が仕込まれていた。知らぬ間に、スパイダーフォンのアプリの中にデザグラを視聴するアプリもインストールされていて、最近流行のサブスクかのような出で立ちである。だが、過去のシーズンを視聴するには、さらなる権限が必要なようで、俺に与えられたアクセス権だけでは無理だった。そして、どの会員でも閲覧できるのが、最新話とでも言えば良いのだろうか?デザ神決定戦の生中継だったのである。すでに、同時視聴率は億を超えていた。

『奏斗様はサポーター様のご意向で、しばらく不在となります』

 サポーターの意向だと?サポーターなんてそもそも会ったこともないし、芹澤にも不審な動きは見られなかった。ツムリは景和にそう説明したが、全く心当たりがない。芹澤に直接聞いてみるか?もうそれしかないだろう。考えるよりも早く、芹澤に電話を飛ばしていた。一回目のコールで、芹澤は電話に出た。急いでスパイダーフォンを耳に当て、口元を隠す。まだ公共の場であることを覚えていられるくらいには、冷静さが残っていた。

「芹澤、デザ神決定戦ってなんだよ?なんで俺が呼ばれてないんだ?サポーターの意向って?」

『先輩、なんでデザ神決定戦のこと知ってるんです……?まぁ、言葉の通りです。モーンは、貴方が心配なんですよ、きっと』

「きっとって…」

 芹澤の言葉は投げやりで、まともに取り合うつもりが無いようである。電話は一方的に切られてしまった。新井には悪いが、ここは一旦切り上げてサロンに向かおう。芹澤とモーンが答えるつもりがないのなら、ツムリに直接聞いてみるしかない。鞄をまさぐって、デザイアドライバーに手をかける。しかし。

「奏斗君。席取れてるよ、早く早く」

 通路を曲がってきた新井に背中を止められた。この前無理やり振り切ってしまった手間、今更逃げるのも難しい。彼女にストレスを溜めてしまえば、落書きが増えて、ボランティア部の拘束時間が増えてしまうかもしれない。ここを立ち去るのは得策じゃなかった。

「わ、悪い。今行く」

 前半戦は無理だが、後半戦は後日だろう。もう三時を回っているし、今日は耐えるしかないか。諦めて、新井が取ったという席に着いた。荷物が多くて店員が配慮してくれたのだろう。正方形の四人掛けのテーブル席に、新井と向かい合うように座った。テーブルには大量に本が積み重なっていて、モーンのオーディエンスルームの様を思い出して頭が痛んだ。そのうち、俺が中央に置かれたメニューに目を通していると、店員が呼ばずとも来てくれたので、適当にホットコーヒーを注文した。新井はこの時期に合わずアイスココアだった。

「本の感想聞かせてよ。それ、お母さんのお気に入りだったんだ」

「そうか……すぐに読むよ」

 山の頂点に重ねられていた例のミステリー小説の最初のページを開く。簡素なキャラクター紹介と、名も知らぬ哲学者の名言の後に、本編は始まった。(こんなことしてる場合じゃないんだけどな…)と思いつつも、目はすらすらと文字をなぞり始める。流石は新井おすすめ……新井を虐待していた母親おすすめの小説らしい。これを読めば、新井が非行に走ったルーツがわかったりでもするのだろうか。

 主人公は二人。音楽家のチェリストと、無職同然のライター。どちらも女性である。音楽家の参加したオーケストラで本番中に殺人事件が起こり、正反対の二人が別の視点から真相を追うという内容だった。ライターといい時代設定は少し古臭いが、今でも十分通用しそうな内容だった。出版されたのは俺が生まれるよりも前で、新井の母親が愛読書にするのも頷ける……が、デザ神決定戦のことがずっと頭を支配していて、全く内容が頭に入ってこない。心の中で音読した文字が、情景を作っていかない。すべて後ろにすり抜けていくようで、ただ文字を撫でるだけの惰性の読書になってしまっていた。

 俺はこんな体たらくだが、あいつら…上手くやってるだろうか?

──────────────

 グレア2を見失い、GMライダーの相手をする四人の仮面ライダー。フィールド内にはチラミの設置した罠が張り巡らされおり、バリエーションに富む。スイッチ式の地雷、滑るバナナの皮、滝のように降る水。そのすべてにタイクーンは引っ掛かり、なかなかに情けない姿を晒していた。他のライダーは罠をスレスレで避けてゆき、神経をデザスターの存在へと向ける。デザスターの秘密のミッション。それが実行される瞬間、デザスターは不自然な動きを見せるはずである。デザ神になりたければ、尚更。

(やるしかない……デザ神になるのは私だ……!)

 そう、ナーゴは焦っていた。デザ神決定戦の直前、彼女に示された指令。『次のゲームでプレイヤーを妨害しろ。失敗すれば、君の願いが叶うことはない。永遠に』。チラミの揺さぶりに乗せられ、彼女は結果を急いだ。一度達成さえすれば、後は味方のふりをすれば良い。安易に、その安心感に走って彼女は行動に移した。

「見つけた!あっちにゲームマスターがいる!」

 GMライダーを振り払い、建物の陰を指差す。死角になっている部分が一瞬見えたと言い訳すれば、一応の理屈が通る。彼女の誘導にまんまと乗ってしまったのは、罠に連続ヒットして混乱していたタイクーンだった。

「くっ……俺が捕まえるぅっ!」

 タイクーンはニンジャデュアラーを拾い、ナーゴの指差す方へ一直線に走る……当然そこにも罠があり。上から落ちてきた檻に囚われるタイクーン。自動的に変身が解除され、景和はただ困惑するのみ。ギーツとヘリアルは、ナーゴの不自然な誘導に違和感を抱いていた。

「うん…えっ?」「ほう…」

 ナーゴと交戦していたGMライダーは持ち場を離れ、どこからともなく墨がたっぷりついた筆を取り出す。

「えっ!ちょ……ちょっと!ああああああああ!」

 当然筆は景和へと向けられ……

 

             *

 

 ホットコーヒーとアイスココアが運ばれ、ようやく一息ついた。何度も居ずまいを正しながらも、ホットコーヒーをすする。そろそろ一時間が経つ頃で、前半戦も終了したはずだ。オーディエンスに媚びまくっているチラミの事だから、前半戦だけでデザ神が決まることは無いと薄々察していたので、途中からは冷静に本に集中できた。まぁ、参加できなかったせいで支持率が下がったのは解せないが。

「お客さん、増えてきたね」

 読み終わった本をまた一つ重ねた新井が呟いた。読むの速…。

「ほんとだな。気づかなかったよ」

 俺の背後にも、新井の前にも、あらゆる席に客がついていた。昼の休憩にも、夜ご飯にもならない微妙な夕方の時間なのに、かなりにぎわっている。新井の後ろに座った長身の男は、俺たちが来た時からいたが、紅茶一杯で何時間もくつろいでいる。呑気なもんだ。小説の方はまだ百ページも進んでいない。どこでチェリストとライターの視点が入れ替わったのかわかりづらいのだ。周辺人物の発言を見て、ようやく理解できる。その度に読み返して、何回も同じページをループしていた。読み終わるのに数日かかるぞ…これ。

「それ、おもしろい?」

「……?まだ最初だから」

 まさかこの段階で感想を求められるとは。見てわからんか、まだ全然進んでないんだぞ。

「ごめん。私のお気に入りが、奏斗君からどう評価されてるのか気になって。そうでしょ、聞いてみなきゃ分からない」

「俺を連れ回したのは、それが聞きたかったのか?」

 俺が本から顔を上げて問いかけると、逆に新井は新しい本に伸ばしていた手を止めた。

「……ううん。どっちかって言うと、奏斗君のことを知りたかった。いつもはなあなあで接してるけど、ふとしたきっかけで、全てを敵に回しちゃう。そんな危うさが奏斗君にはある。普通、現代人はもっと冷静だよ。自己嫌悪したり、諦めたり。君はそれから逸脱してる。君と一緒の所にいれば、その複雑なドキドキを知れるんじゃ無いかって」

 くだらない好奇心だ。その興味のせいで、デザ神決定戦に参加し損ねたなんて、ふざけてる。もう、彼女の遊びに付き合う道理は無い。本を閉じて、席を立とうとしたその時だった。新井の携帯が鳴った。新井はそこに座ったまま、耳に携帯を押し当てる。立ち去るタイミングを失って、本の表紙を眺めるふりをしながらただぼうっとするのみだった。

「なに?今忙しいの………わかった。そっち行くから待ってなさい」

 電話先は誰だろうか、口調も普段のペースから崩れていて、聞いたことのない喋り方だった。彼氏にそんな話はしないだろうし、腐れ縁…それとも兄弟か?そんな話は耳に挟んでないが…。ふと、新井と同じ好奇心に吞まれていることに気付く。しまった。結局は同じことを考えてしまっている。さっきまで心の中で彼女を罵倒していたのに結局これだ。嫌気がさす。

「ごめん。用事ができた」

 新井は電話を切ると、学校用の鞄に本を詰め始めた。どこにそんな容量が残っていたのか、苦も無く詰め終わり、軽々と肩にかけた。知らなかったが、かなりパワータイプらしい。

「お支払いは奏斗君やっといてよ。口付けてないからそのココア。いつもお金落としてるし、チャラにしてよね」

「いつもってお前…!」

 本買ってもらったのが最初だろ。そう言う前に、新井はそそくさと店を出て行ってしまった。まぁ、この本は新井持ちだったし、甘んじて受け入れるしかないな。すっかり席を立ち去る気も抜けて、深く腰を落とした。冬にアイスココアなんか手を付ける気にもならず、最初に置かれた場所のまま放置することにした。店内の暖房のせいでグラスに結露が起きていて、殊更手は遠のいた。

「俺も帰るか…」

 冷めかけのホットコーヒーを一気に飲み干し、テーブルの端に置かれた伝票を抜き取る。だが、またそこで足が止まった。

「いや~外寒かったね」

「もう春も近いはずなんだがな」

 カラカラと音を鳴らしながら入店してきた三人。デザグラの仲間、英寿、景和、祢音の三人だった。

「あいつら…!」

「あっ!ねぇねぇ!あそこに奏斗いるよ!」

 身を隠すよりも早く、祢音に居場所がバレた。まだ帰れそうにはなかった。

 

 

 コンパクトを傍らのポーチにしまった祢音は、スパイダーフォンで支持率を確認する。

「奏斗と景和の支持率…すごい落ちたね」

「それを言うな…」「それ言わないでよ…」

 祢音の指摘に、俺と景和はがっくり肩を下げた。前半戦に参加できなかった俺は元より、景和は相当情けない体たらくだったらしい。顔に残った落書きがそれを物語っている。両目に書かれたマルとバツの文字が、まるでタヌキのようだ。落ちに落ちた俺たちの支持率は、健闘したらしいヘリアルとナーゴに回っている。くそ、新井に捕まりさえしなければ、何を振り切ってでも参加したのに。

「祢音ちゃんがあんなこと言うからこんな目に…」

 それは落書きされた目のことか?それとも支持率が落ちたことを言ってるのか?一応話の流れは理解している。例のアプリで、前半戦のハイライトにこっそり目を通させてもらった。祢音が早まったせいで、景和は罠に引っかかった。本当に勘違いだったか怪しいが。

「だからごめんって。あそこに罠があるなんて思わなかったんだもん」

「そうだけどさ……」

 二人のやり取りを横目にアイスココアをストローで吸う。その冷たさが冬場には辛く、一口で満足した。

「フッ……まるで彼氏彼女の痴話喧嘩みたいだな」

 同感。ただでさえ気分が悪いのに、なんてもん見せやがる。

「彼氏じゃないから!」「彼女じゃないから!」

 二人は過剰に反応し、立ち上がりながら英寿に抗議した。祢音が机に手をついた弾みに、コンパクト等を入れた化粧ケースが落ちて散らばる。そうやって全力で否定する所が尚のことそれっぽい。今の大声でかなり他の客に目立ってしまい、二人はおずおずと席に着く。景和が散らばった化粧品を拾うのを手伝っていた。

「それにしても。前半戦、どうしたんだダパーン。サポーターの意向だったそうだが、一緒に遊んでたのか?」

 俺の左側に座った英寿はティーカップを持ちながら、俺の手元にある空のマグカップと、アイスココアに目を落とす。

「知るかよ。デザ神決定戦のアナウンスがされてなかったんだ。一緒にいたのも同級生で、サポーターじゃない。我儘に振り回されて、抜け出せなかった。そもそも、サポーターには直接会ったことないんだよ。できたら問い正してる」

「そうか」

 それ以上英寿は追及しない。俺のサポーターを名乗っている奴。どういうつもりだ?俺の私生活が見たかったわけでもあるまいし、俺をデザ神にしたくないのか?英寿が聞いてくれたおかげで、自然と話はデザ神決定戦の話題が中心となる。

「デザ神決定戦…なんだよあれ。ジャマトが出なくてチラミがご乱心か?」

「それもあると思うけど…カムロさんがお願いしたんだよ。このままじゃデザ神になるチャンスが無くなるって」

「カムロが…?」

 向かいの祢音の説明を受けて、益々焦る気持ちが出てきた。デザ神決定戦を…あいつが。

「……橋結カムロは信頼しないほうがいい」

 アイスココアを見つめながら、俺はぽつりと呟いた。景和は彼を信頼していたのか、困惑の色を見せる。

「それってどういうこと?カムロさんがデザスターってこと?」

「いや、そうじゃないな」

 英寿が俺よりも先に景和の考えを否定した。視線は景和ではなく祢音に向いている。英寿も彼女がデザスターだと疑っているみたいだが、それはまた次の話だ。俺は、今シーズンで積み重なっていた彼への不信感を語った。

 

 

 喫茶店で現地解散し、祢音は一人住宅街を歩いていた。夕陽を川が反射し、美しく煌めいている。

 その光景を眺めながら橋の上を歩いていたところで、どっと疲れがきて柵にもたれかかった。

「はぁ……英寿騙すの……しんどかったぁ…奏斗も景和も結構鋭かったし、危なかったぁ」

「そこのお嬢さん。忘れ物」

 声の方向を見ると、私の後ろに座っていた背の高い人が、コンパクトを持っていた。あの時拾い損ねてたんだ。前髪で顔はよく見えないけど…けっこうイケメン?

「あっ…ありがとうございます…!」

 彼に駆け寄ってコンパクトを受け取ろうとすると、すっと手を引かれた。

「さっきのはいただけないな」

「えっ…?」

「何の話か知らないけど、誰かに疑いをなすり付けようとするだなんて」

 聞いてたんだ。私たちの話。デザグラの事は話せない。ここは誤魔化すしか。

「っ……これには深い訳がありまして…」

「まぁ、家出しようとしてるわがままな親不孝者の時点で、お察しだけど」

 なに…感じ悪っ。祢音TVのこと、知ってるんだ。落ち着いた雰囲気の喫茶店だと思ってたのに、盗み聞きされて悪口まで言われるなんて、気分最悪だ。

「なんなんですか、いきなり」

「祢音TVを見てるすべての人が君のファンだとは限らない。自分が危なくなったら他人に…そんな調子で他人に不幸をばらまいてたら…いつか自分に返ってくるぞ」

 そんなこと…自分でもわかってる。この何年間で、自分で幸運を掴もうと努力してきた。今はデザイアグランプリで戦うことが、一番自分でできることなんだ。ここまできて、引き返すなんてできない。

「ファンじゃないなら、ほっといてください」

 コンパクトをはたくように奪い取って、私は彼の横を通り過ぎて行った。

 

 

 電話先の彼が指定した場所は、閉店準備をしているショッピングモールの屋上駐車場だった。客はすべて退散して、がらんとした場内に彼だけがぽつんと立っていた。私は鞄からレーザーレイズライザーを取り出し、歩きながら自分の体に銃弾を撃ち込んだ。レーザーレイズライザーの能力で見た目がリデザインされ、制服姿から、ピンクの三つ編みのモーンの姿に変わる。

「彼とのデートは楽しかったかい?」

「茶化さないでジーン。私今、機嫌が悪いの」

 足元に鞄を投げ捨てると、買ったばかりの本が雪崩のように散らかった。せっかくの奏斗と話せる時間だったのに、ジーンに邪魔された。これでくだらない理由だったら、絶対に許せない。

「ダパーンを前半戦に参加させなかったのはどういうつもり?後半戦もそうするのかな」

「ジーンが呼びださなかったらそうしてた。今のデザグラはくだらないもの」

「素直じゃないなぁ。君だって楽しんでたくせに…まぁいいよ。ジャマトの不審な動き、君も気付いてるだろ」

 ジャマトが現れない。奏斗を前半戦から弾いたのも、そのためだった。きっとジャマト陣営はこれから、奏斗を仲間にしようとあの手この手で狙ってくる。脱落扱いにできればそれでよかったけど、サポーターの権限だけじゃそこまでできなかった。でも、奏斗をデザグラから爪弾きにするより、良い方法をジーンから提案された。ジャマト陣営を直接殴りに行くことだ。

「当然。奏斗のためならなんでもするよ。奏斗の邪魔をする雑草の駆除もね」

「その言葉を待ってた。ジャマトの動きは、僕が探っておく」

 奏斗の邪魔をするやつは、私が許さない。ジーンだって、ギーツのために動いてるはずだ。これは、利害の一致。ただそれだけの話だ。

 

             *

 

 翌日の朝。ジャマーガーデンはジャマトの雄たけびでごった返していた。この作戦が成功すれば、自分たちの世界を創世できる。高ぶった思いは、ガーデン全体へ広がっている。デッキから上半身を乗り出して、べロバは道長へ語り掛ける。道長のジャマト化はかなり進行し、左手の甲までに浸食が広がっていた。

「ふふふっ。狙い通りの展開になったわねぇ」

「ああ。僕の予測通り、あのゲームマスターならこうなると思っていた」

 作戦が成功し、大智は満足げだ。デッキへつながる階段を下りたムスブは、大智の肩を叩いた。

「おいおい。俺が誘導したからだろ…?忘れてもらっちゃ困るなぁ」

「そんなことはどうでもいい。俺は俺のやり方で願いを叶えるだけだ」

 道長は彼らに目もくれず、デザイアドライバーを装着する。

 それに大智も、ムスブも倣ってデザイアドライバーを手に取った。

 

 

 デザ神決定戦の後半戦が始まった。後半戦の舞台は、土管が並べられた作業場である。

 ナーゴのビートアックスの刺突をグレア2が受け止め、ウェーブダンスのような動きで跳ね返す。タイクーンの連続攻撃はビンタですべていなし、ギーツの射撃は地面をのたまうウナギの動きで全部避けた。なんだこれ。

「おい、これお遊戯会じゃないよな?」

「違うに決まってるだろう!さ、早い者勝ちだ!」

 ヘリアルはレイズプロペラを装備し、グレア2へ突撃してゆく。今まで彼のことをサポートタイプだと思っていたが、それはオーディエンスの好感度を稼ぐための行動だったようだ。本当はゴリゴリの突進タイプで、武器の扱いがとにかく上手い。俺も負けてられるか。マグナムシューターをハンドガンモードに変え、至近距離での一撃を狙う。捕まえるのは今じゃない。機会を待たねば…!

「いいわよ、かかってらっしゃい!」

 スライディングをしつつ、ガス噴射で加速する。どんだけ銃弾を避けても、近づけば関係ない。その思いでグレア2に地を這うような弾丸を連続発射する。が、今度は水揚げされた魚のように跳ねて避けやがった。滞空時間が伸びて一発も当たらない。

「ホントに気持ち悪ぃ!」

「失礼しちゃうわね!」

 足首を曲げてガスの威力を操作。一気に浮かび上がり、踵落としをグレア2の背中にくらわせる。今度は命中し、一気にダメージ…!かと思ったが、グレア2は白煙と共に一瞬で消えた。地面には、藁の人形がぽつんと残っていた。

「隠れ身の術!?」

「いぇーい!ヴァーカ!」

 クッソ野郎…!グレア2はいつの間にか藁人形と入れ替わり、土管の上でロボットダンスを踊っていた。レイズプロペラで飛行中だったヘリアルが、急降下して強襲を仕掛ける。だがこれも体をくの字にして避けられ、逆に馬跳びの台にされている。グレア2は馬跳びで土管の向こう側に消えてしまった。通路の近くにいたタイクーンとナーゴが真っ先に追いかける。俺もそれに続いた。

「カチッ!?あ~またか…こういう時は…」

「もう一つどうぞ。ほら行くよ!」

 なにやら通路の先で二人が会話していたが、曲がり角になっていて状況が見えない。まぁ大丈夫か。俺も速く二人の所へ…!

「追いついたっ…だあああああっ!」

 角を曲がった瞬間、地面が火花をたてて爆発した。二人が地雷のスイッチを武器を置いて押さえていたようで、何かの拍子に武器がずれて思いっきり爆発したらしい。俺は思いっきり爆発をくらって、マグナムシューターを前方に手放しながらぶっ飛んだ。

「大丈夫かダパーン。銃借りるぞ」

 ギーツはこっちに目もくれず、俺が落としたマグナムシューターを拾って二丁拳銃でグレア2に銃撃を始めた。グレア2はヒュプノレイ同士をレーザーで繋ぎ、「五個GO!」という掛け声とともに五芒星を描いてギーツへけしかけた。そこは流石のギーツ。五芒星の中央、レーザーの張られていない部分をひねりを加えたジャンプで回避。たたみかける二丁拳銃の弾幕はグレア2の回避術でも避けられず、路地へと逃げていった。

「くっそ…今度こそ…!」

 またタイクーンとナーゴの背を追おうとしたが、嫌な予感がして足を止めた。ヘリアルも何かを察したのか、スロットを回し直して装備を厳選している。三回目でブーストが出て、それに決まったらしかった。程なくして、ゴゴゴと大きな岩が転がる音と、二人の叫び声が路地から聞こえた。

「やっぱりこうなるよなぁ……」

「うむ。短絡的な罠だな…」

 路地から出てきたのは、一心不乱に走る二人と、巨大なヒュプノレイの形をした岩。ギーツはするりと避けたようで、土管から出てくる。

「逃げられたみたいだな」

『後半戦残り10分です』

 ツムリのアナウンスと共に、三体のGMライダーが襲い掛かる。あと10分…!もう時間がない。まだ行動に移さないか…!まだか…!

「ああ~!もう時間がない!」

「早く…!ゲームマスターを捕まえないと!」

 五人がかりと言えど、次々と装備を変えて攻撃してくるGMライダーに活路を見いだせない。

「焦ると、またデザスターにはめられるぞ!お人好しの、狸さんなんだからなぁ!」

「今までの俺とは違う!お人好しとは言わせない!」

「英寿、そうやって、景和も化かすつもり!?」

 三人は戦いながらも、上手く化かしあいを演じてくれている。ここを耐えれば、かならずあいつは…!

 

「見つけたぞゲームマスター!ここは任せた!」

 

 ヘリアルは遠くの方向を眺めながら叫ぶ。そして、上腕のマフラーに火を灯し、加速してこの場を立ち去ろうとした。来た…!

「……!今だ!祢音!」

「わかった!」

『FUNK BLIZZARD!』『TACTICAL BLIZZARD!』

 祢音は必殺技を発動させると同時にビートアックスを投擲。氷の壁を作ってヘリアルの進路を妨害する。

「おっと!なんのつもりかなぁ…デザスター君…!」

「正体見せてよね!ジャマト!」

 

 

「いい調子よ~デザスターちゃん…!」

 高架橋の柱に隠れたグレア2は恍惚の表情で仮面ライダーたちの心理戦を見届けていた。その彼に、歩み寄る仮面ライダーが二人。ジャマトガーデンズの一派、仮面ライダーバッファと仮面ライダーナッジスパロウである。ジャマト側の反逆を予測していなかったのか、チラミは焦った様子である。

「何ぃ?今いいとこなのに…!」

「のこのこ出てきちゃって…」

 グレア2に対面するように、バッファのサポーター・べロバも現れる。

「お調子者は…取り扱いが楽ねぇ」

『BEROBA SET』

 べロバもレーザーレイズライザーにより変身し、グレア2を見下ろす。GMライダーを呼ぶももう遅し。グレア2に逃げ場は無かった。

 

 

「俺が、ジャマトだと?パンダ君と協力して、デザスターはネコ君だけじゃ無かったのか?」

「違うよ。デザスターは私だけ」

「おっとお、カミングアウトか?勝利を投げ出すとは、怖気づいたのかい?」

 この期に及んで、まだとぼけるつもりか。暴く時だ。ヘリアルの…橋結カムロの…裏切者の正体を。

「お前…アクエリアスキメラジャマトって、知ってるか」

 俺の問いかけに、ヘリアルは頭をかく。心底めんどくさいという様子だ。

「アクエリアスキメラぁ…?よくパンダ君を妨害してた変異種だろう。俺は戦ったことが無いが…」

「そうだ。戦ったことが無いんだよ。お前は一度も」

 感じていた一つ目の違和感。俺は昨日の喫茶店での情景を思い出す。

──────────────

「アクエリアスキメラが出てきたの、何回だったか覚えてるか?」

 俺の問いを、景和は指を折りながら考える。

「えっと、ジャマーボール合戦の前半戦で一回。爆弾ゲームの後半戦で、二回…全部で、三回?」

 俺は頷くと、質問をさらに発展させた。

「じゃあ、そいつと遭遇した仮面ライダーは何人いる?」

 今度は英寿が簡潔に答えてくれた。

「”ヘリアル以外”の六人だ」

──────────────

「ジャマーボール合戦で出たとき、お前は怪我で戦闘不能になっていたはずだった。爆弾ゲームでも、お前とアクエリアスキメラは入れ替わるように現われてた。同時に存在できてないんだよ。アクエリアスキメラが出てるとき、お前はどこにもいなかった」

「それだけだろう。戦ってないのはスズメ君だって同じだ。それに、なぜジャマトの味方が仮面ライダーとして戦う必要がある?」

 論点をずらして誤魔化すつもりだな。ペースを崩される前に、もう一つの違和感を俺は明かした。

「俺の腕にかかれば!それがお前の口癖だったよな」

 ギーツが俺の肩に手をついて言葉を繋げた。

「過去のデザグラに、同じ口癖の退場者がいた。綾辻誠司、アクエリアスキメラが擬態してた退場者だ」

 ジャマトは退場者の記憶を利用し、その特性をコピーする。最初は橋結カムロの豪胆な性格から来た口癖だと思っていたが、前に郁真を人質に取った綾辻誠司が、全く同じ言葉を叫んでいた。そして、その綾辻誠司はアクエリアスキメラジャマトだった。

(動くなよ…俺の腕にかかれば!ここから一突きでこいつを殺せる…!)

「もう騙し合いはやめようぜ。参加者に敵が混じっていた。今回のデザグラは、白紙に戻す」

──────────────

「チラミは、オーディエンスの批判を恐れて、デザグラをやり直すって言うと思う」

 ギロリがゲームマスターだった時もそうだった。ゲームマスターが不正を行えば、誰もデザ神になれない。チラミはジャマトのスパイがいることを知っていたはずだ。デザグラが盛り上がるように、意図的に参加させたか残したか。どちらにせよ、俺たちを騙して危険に晒した。不正になる。

「でもその前に、アクエリアスキメラの正体は暴くべきだ。あいつがまだ、どんな隠し玉を仕込んでるかわからない」

 そこで俺たちは作戦を立てた。デザスターの疑い合いをしていると見せかけて、ヘリアルに隙を見せる。グレア2が身を隠せば、必ずどこかで抜け駆けしよとするはずだ。彼の狙いはグレア2のビジョンドライバーで、ジャマトもどこかで尻尾を出す。グレア2くらいのスペックがあれば、バッファや並みのジャマトには負けない…はず。そっちは放っておいても問題は無い。

「祢音、お前がヘリアルの足を止めてくれ。必ず、デザスターが見つかったとハッタリで押し切ろうとしてくる」

「…わかった。みんな、今まで騙しててごめんね」

 デザスターだとカミングアウトした祢音は、憑き物が落ちたように晴れやかな顔だった。

──────────────

「諦めろ。お前の手にはもう乗らない」

 俺の一言を受けて、ヘリアルはドライバーからフィーバースロットバックルを外す。変身が解かれ、そこに立っていたのは橋結カムロではなく、黒いフードを被ったムスブだった。間違ってなかった。橋結カムロはムスブだった。

「ふっ…探偵気取りがさぁ」

 ムスブはフードに手をかけ、ゆっくりとそれを脱いだ。中にまみえた顔は、変わらぬ橋結カムロの顔。だが、演じることを辞め、特徴的だった細目は開かれ、青く充血した瞳がこちらを睨んでいる。しかも、それだけではなかった。顔の左半分はドロドロに溶けて形が定まらず、いくつもの顔を形成しては崩れを繰り返している。

「そうだよ。僕はキメラだ。いくつもの退場者の性格、特技、顔をコピーして新しい人間をつくって君たちに取り入った…!」

 作られた顔には、綾辻誠司だけでなく上遠橙吾の顔もあった。上遠の兄貴も退場者だったのか…!

「うん。でも君たちはバカだ。簡単に信じちゃってさぁ」

「世界平和って願いも、嘘だったの…?」

 タイクーンは一歩前に出て問う。橋結カムロの願いは、世界平和だと聞いている。

「嘘じゃないよ。僕が望むのは、ジャマトが平和に生きれる世界だ!変身!」

 ムスブが握りこぶしを胸の前に掲げると、アクエリアスキメラジャマトへ変身する。

「逃がすな!」

『『BULLET CHARGE』』

 ギーツがマグナムシューターで連続射撃をするも、銃弾はすべてアクエリアスキメラの体をすり抜けていった。そして、地面へと潜航し消えてしまう。カムロと、ムスブの変身ポーズも一致していた。

 

 

 頼みのGMライダーたちも二人の仮面ライダーに難なく撃破され、グレア2もサポーターの力には適わなかった。

「あああっ!がはっ!」

 べロバに敗北し、グレア2は強制変身解除。ビジョンドライバーを落としながら水たまりだらけの道路に転がる。自慢のサングラスも割れてしまい、スーツも泥だらけ。べロバは変身を解き元の大きさに戻ると、チラミのビジョンドライバーを拾い上げる。

「なんで、私を狙うのっ?」

「あんたはどうでもいいのよ~私が欲しかったのは、これ」

 ビジョンドライバーをちらつかせたべロバに、チラミはジャマトガーデンズのおぞましい目的を理解する。

「まさか…あんたたちの狙いは…!」

「そ。創世の女神」

 創世の女神を奪われれば、世界の全てが意のまま。コラスが起こした、デザイアロワイヤルの二の舞となる。ビジョンドライバーとは、運営の最高権力の一端なのだ。

「そしてこのビジョンドライバーは、創世の女神にアクセスするための鍵?でしょ?」

 べロバは知っていた。ギロリから奪ったドライバーで、コラスが単体で世界を改変した瞬間を。

「それはあんたなんかが手にしていい代物じゃないの!返しなさい!」

 その代物をただゲームを盛り上げるために、自らの保身のために使ってしまったツケである。べロバの念動力で吹き飛ばされる。

「あははっ!べ~っ!」

 舌を出して、チラミを嘲るべロバ。ナッジスパロウは自らが望む「全人類の記憶」が手に入った世界を想像してほくそ笑む。

「これで世界は、僕たちの物か…」

「それはどうかな…?」

 それを否定したのは、以外にもバッファだった。彼の見る方向に二人、歩いてくるサポーター。ギーツのサポーター・ジーン。ダパーンのサポーター・モーン。二人とも片手に認証カードを装填したライズカードリッジを持っている。戦う気だ。

「白けることするなよべロバ…!せっかくデザイアグランプリが盛り上がってきた所だったのに…!」

「あら、もっと面白いことしようとしてるだけよ~!二人とも、デザイアグランプリなんて辞めて一緒にどう?きっとゾクゾクするわ」

「ふざけないで。私、あなたのこと嫌いだから」

 基本的にサポーター同士は険悪である。誰も彼も全く違う個性の仮面ライダーを推しているのだから、馬が合うはずがない。

「はぁ…あんたらとはやっぱり趣味が合わないみたい」

「合うわけないでしょ」「こっちから願い下げ…」

 二人が腰にライズカードリッジをかざすと、レイズライザーベルトと、スロットに収まったレイザーレイズライザーがデザインされる。そして、引き抜いたレイザーレイズライザーにカードリッジを装填する。ジーンは左頬に添え、モーンは左目を隠すように

『ZIIN SET』『MORN SET』

 ジーンは両腕で大きく円を描き、指を鳴らす。モーンは左手で後ろ髪を払う動作をすると、右足に重心を乗せ、銃口を下に向けた。

「「変身」」

『『LASER ON』』

 トリガーを引くと、銃口からカード型のエネルギー弾が発射され、二人の周りを旋回する。そしてピクセル状に仮面ライダーの姿が組みあがってゆき、カードが体と一体化するとき、鮮明な姿として露になった。ジーンは青きキツネのライダーに。モーンは背中に羽根が生えた、人型でピンクの鳳凰モチーフのライダーに変身した。

『ZIIN LOADING』『MORN LOADING』

『READY?FIGHT!』

「俺が求めているのは、感動だ」「さぁ、あなたのドキドキを教えて」

 

           DGPルール

 

   デザイアグランプリのあらゆるシステム管理は、

 

   ゲームマスターのドライバーによって行わている。

 

     創世の女神へのアクセスも可能である。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「デザグラが続行不可能!?」

「気になる?私たちが何者か?」

─デザグラの危機!?─

「一緒に戦おう」

「君の願いは、絶対に叶わないっ!」

「これ以上…お前たちに好き勝手させるかぁ!」

27話 発露T:デザグラの真実!その先に…


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27話 発露T:デザグラの真実!その先に…

 

『ZIIN LOADING』『MORN LOADING』

『READY?FIGHT!』

「俺が求めているのは、感動だ」「さぁ、あなたのドキドキを教えて」

 チラミのビジョンドライバーを強奪し、創世の女神の独占を画策したジャマトガーデンズ。それを阻止せんと立ち上がったのは、ギーツとダパーンのサポーター両名だった。彼らの変身した仮面ライダーは白と黒を基調とし、マスクと胴体にレイズライザーカード状の突起が同化。デザイアグランプリの仮面ライダーたちとは一線を画すデザインであった。特に仮面ライダーモーンの背部には、メカニカルなデザインをした翼を備えており、内部の機構が一部露出している。

「仮面ライダー…!」

 最初に武器を構えたのはバッファだった。ゾンビブレイカーの刃を振動させ、二人めがけて走る。それに対し、モーンは胸部のレイズライザーカード型の突起・アウトリアライザーを撫でた。気怠そうに、動作としてはそれだけだった。

「なっ!?」

 バッファはいつの間にか二人の前を通り抜け、背後に瞬間移動していた。視認した対象の瞬間移動。それがモーン最大の特殊能力である。状況をすぐに呑み込めなかったバッファのゾンビブレイカーはただ空を切った。続けて、翼を上下させると、四角錘型の羽根が分離。独自の行動を取ってバッファを襲い、バーサークローを砕いた。

「まずいな…邪魔はさせないよ!」

『MONSTER!』

 サポーターたちの、自分たちを力を超越したライダーシステムの力に恐れをなしたナッジスパロウ。モンスターバックルを装備し、ジーンへと突撃する。たとえどんな特殊能力を持っていたとしても、近接戦闘ならモンスターの力に分があると判断しての行動だろう。しかし、ジーンの持つ力もまた、彼の想像を凌ぐものであった。ナッジスパロウがジーンの顔面に拳を振りかざす。それよりも早く、ジーンはアウトリアライザーに触れた。

「…っ!なんだ!?」

 ナッジスパロウの直線的だった拳の軌道は、不自然に曲がった。そのまま壁側に引っ張られ、壁の上に倒れた。ナッジスパロウは壁の上に立っている自分に、状況が呑み込めない。重力操作。その能力によりナッジスパロウに働く重力の方向が捻じ曲げられたのだ。重力操作を自身にも付与したジーンは、ナッジスパロウの背後に立ち、レーザーレズライザーで足元を撃ち抜く。しばらく壁の上を転がったナッジスパロウだったが、途中で重力操作を解除され、地面へと叩きつけられる。体にかかった負荷が大きく、立ち上がれない。ジーンはそのままゆっくりとモーンの隣へ戻る。

「強い…!」

 バッファとナッジスパロウを軽くあしらった二人は、べロバへ銃口を向ける。

「流石。妄想癖のある人は強いわねぇ。でも、おあいにく様」

 彼女の目的を理解した二人は、容赦なくべロバへ銃弾を放った。しかし、それよりも早くべロバがビジョンドライバーを装着し、転送され姿を消した。目的地は言わずもがな、創世の女神である。ナッジスパロウとバッファに振り替えるも、彼らの足元が液状化し、地面に沈みながら離脱した。恐らくは、アクエリアスキメラジャマトの能力であろう。彼が参加者たちを引き付けていたのも、ビジョンドライバーを奪われる原因となってしまった。

「どうするのジーン。逃げちゃったわ」

「こうなったらしょうがない。英寿たちと一緒に戦うしかないだろうね」

 先に変身を解除したジーンは、遅れて元の姿に戻ったモーンの肩に手を置いた。

「君も決心するんだ。ダパーンは、簡単に死ぬほどヤワじゃないはずだ…」

 またしても一足先に、ジーンはその場を去ってゆく。モーンはジーンの背中を見ることは無く、両手で右側の三つ編みを強く握った。

「そうじゃないんだよ…私が知りたいのは、そんな感情じゃない」

 

             *

 

 ビジョンドライバーを持つ者しか入室が許可されない、創世の間。パルテノン神殿を思わせるエンタシスの柱が等間隔に並べられたその中央に鎮座しているのが、創世の女神である。べロバはその神々しい様相に見惚れ、思わず息を吐いた。

「やっと会えたね。女神様」

 赤子を抱きかかえるように腕を組んだ女性に、何対もの豪翼をそなえた巨大な彫刻は、まさに女神の名にふさわしい。このオブジェクトが、世界を作り変える力を持つというのだから驚きである。創世の女神の存在は、オーディエンスの間でも噂程度の存在であった。それが今、手の届く場所にある。自身の願いを記入したデザイアカードを手に恍惚の表情を浮かべ、創世の女神にかざした。

「さぁ、私の願いを叶えてもらうよ」

 創世の間に、幾重もの鐘の音が包む。しかし、それ以上のアクションは起らなかった。困惑し、何度もデザイアカードを誇示し直すも、鐘の音は輪をかけて小さくなってゆく。

「あら…?」

「勝手なことをしてもらっては困る」

 創世の間を訪れたのは、べロバだけではなかった。プロデューサーのニラムである。ベージュのスーツに、ビジョンドライバーを装着した彼は、指を二本立てた。ゲームマスターのチラミが持っていて、プロデューサーがドライバーを持っていないはずがない。

「ゲームマスターとプロデューサー、二つの権限がなければ、創世の力は発動しない…」

「は~あ。残念。セキュリティは強化済みってわけね」

「女神を我が物にしようとした野蛮な輩は以前にもいてね。対処させてもらった」

 創世の女神の私的悪用。デザイアロワイヤルの動乱を引き起こしたコラスの存在が嫌でも思い出される。コラスの暴走が、べロバに現在の行動を思い立たせたことは明白であった。世界を作り変える女神は存在する。そして、手が届く目前なのだ。

「そのドライバーを返しなさい!」

「べ~っ!あはははっ!」

 べロバに諦める道理は無かった。ニラムは深く溜息を落とすと、右手でビジョンドライバーの指紋認証を突破する。

『GAZER LOG IN.』

「ならば、実力行使に出るしかない」

『INSTALL.INNOVATION & CONTROL, GAZER.』

 ビジョンドライバーに彼専用のプロビデンスカードをスキャンし、彼は仮面ライダーゲイザーへと変身した。仮面ライダーゲイザーはプロデューサー専用のシステム。紺のアンダースーツに、白と金の鎧を備え流麗なカラーリング。デザインこそはゲームマスター用のグレアシリーズと同様であるが、性能は倍であり、それを操るニラムの力量も伺える。

「また来るね、女神様……!」

 ゲイザーを一目見たべロバの判断は一瞬であった。ビジョンドライバーを即座に外し、ドミニオンレイの攻撃が届く前に創世の間の外へ、自身を転送する。ビジョンドライバーとレーザーレイズライザーの力だけでは、ゲイザーにかなわないと判断したのだろう。創世の女神を発動させるドライバーの一つを持っている。そのアドバンテージが、彼女の判断を速めた。

「由々しき事態だ…」

 一人創世の間に残されたニラムは、物言わぬ女神を仰いだ。

 

 

 橋結カムロの正体を暴く、それでデザグラの運営は揺らぐはずだった。だが、俺の取った選択は短絡的なものであったらしい。ムスブが変身して消えてすぐに、ツムリからサロンでの待機命令が下された。理由も何も、ゲームマスターがジャマトの一派に襲撃を受け、ビジョンドライバーを奪われたんだとか。ジャマト派閥にはバッファも、優秀な参謀とやらもいる。もっと警戒すべきだった。ゲームマスターを誘き出し、自身の正体を餌に俺たちを足止め。ゲームマスターを助けにはいかせない。そこまでがムスブの作戦だったのだ。してやられた。

 俺はサロンのカウンター席に座り、ポケットから文庫本を手に取った。新井からもらった物で、一日を越して、話は終盤まで来てしまっていた。みんなは俺のせいじゃないって言ってはくれた。でもどうしても悔しい。俺が少ない脳みそで捻り出した推理は、あいつにとって、傍観していたオーディエンスにとって、娯楽でしかなかったのだ。掌の上で遊ばれていた。今は、現実逃避でもなんでもしたい気分で、挟んだ栞に従ってページを開いた。

(わかったよ。わたしは二人いたんだ)

 終盤に向けて、犯人を突き止める前に、主人公たちの独白が始まった。話の全体を通して感じていた主人公たちの「ズレ」のようなものが、少しずつ埋まっていく。これまでぼかされていた分、点と点が線になる瞬間は心地よく、読書の楽しさを久々に覚えた。この本が新井を作った…最初は半信半疑だったが、読み通してみると訳が掴めた。この本は、お前なりの主張だったのか。

「冷静だな。読書、好きなのか」

 俺が本から顔を逸らした頃合いを見計らってか、英寿が隣に座り、本を覗いてくる。

「いや。友達に勧められたんだ。でも、悪くはない。もしかしたら俺の友達は、」

 まだムスブへ向けた探偵気分が残っていたか、物語の中のチェリストに触発されたか。またしても持論を英寿に語ろうとしてしまい、滑る口を止めた。ビジョンドライバーの件で皆が足止めをくらってるのは、俺がムスブの引っ掛けにまんまと乗ったからでもある。これ以上不用意にペラペラと喋る気にはなれなかった。

「デザグラが続行不可能!?」

 祢音の驚いた声に、俺たちは背の高い椅子から降りる。

「ゲームマスターの権限が奪われたので、あらゆるシステムが停止した状態です」

 淡々と説明したツムリの目線の先は、ソファーの上で縮こまっているチラミだ。待機命令が有耶無耶になったってことは、運営もビジョンドライバーの奪還に失敗したってことか。これは厄介なことになってきたな…

「ですので、今回のゲーム並びにデザスター投票は、中止いたします」

 元々今シーズンは白紙に戻すことが目的だったので、その点において異論はない。プレイヤー全員が沈黙を貫いた。でも、問題は再開が不可能になってしまうということだ。ビジョンドライバーを奪ったジャマトたちの拠点がわかれば。英寿がチラミを問い詰める。

「……デザグラができなくなるのは困るな。チラミ、奴らの目的はなんだ?」

「創世の女神よ」

「ん?そうせいのめがみ?」

 祢音と並んで立っていた景和がチラミの呟いた単語を復唱する。創世の女神だぁ?誰の二つ名であろうか、それとも何かの隠喩?ジャマトが狙うほどの物で、ビジョンドライバーが無ければ介入できない、運営にとって重要度がかなり高いものなのか。創世…まさか創世の女神が俺たちの願いを…?

「なぁ、そのそう」

「いったあああああああ!」

「余計な事言うな」

 俺の言葉は、手痛いビンタをくらったチラミの絶叫に遮られた。ビンタしたのは…知らない運営の奴だ。肩ほどの流した髪に、黄色のスカート、黒のジャケットを着用した女性だ。ゲームマスターを叩いて暴言を吐けるということは、それなりに地位の高い人だろう。プロデューサーレベルか。どうやら、ニラムがサロンに戻ってきたらしい。この人は差し詰めニラムの補佐か。

「あっ、プロデューサ、あたしは悪くないの!」

 チラミは目ざとくニラムの入室に気付き、弁明しようとするも、きつい一言に突っぱねられた。雰囲気でわかる。ニラムも機嫌が悪い。

「ゲームマスターの権限を外部に奪われるとは、言語道断だ」

 言葉だけで打ちのめされたチラミは、ソファーへと深く沈んでいく。ニラムが出てくるとなれば、事態は深刻だぞ。

「あの…創世の女神って、なんですか?」

「君たちが知る必要はない」

 ニラムは答えない。俺たちに触れてほしくない理由でもあるのか…?

「運営のあんたらが慌ててるんだ。デザイアグランプリの根幹に関わることなんだろ。もしかして…創世の女神は世界を作り変える力そのもの。違うか?」

 英寿の的を射た追及に、ニラムは黙って返答しなかった。

「サマス」

「デザイアグランプリを再開するには、奪われたビジョンドライバーを取り返す必要があります」

 チラミをビンタした女性は、サマスという名で、ニラムの腹心のようだ。サマスが説明を始めると、ホログラムに地図が表示された。関東地方の外れの外れ、人の寄り付かない山奥に巨大な温室が建っているようだ。

「ここがジャマトの本拠地、ジャマーガーデンです」

「待てよ。なんでジャマトの本拠地なんか知ってるんだ?だったら、戦いの被害も、未然に防げたんじゃないのか?」

 運営がジャマトと繋がってた。こんなのただのマッチポンプだ。俺の言葉は当然の物として受け取られたようで、ニラムは興味なさげだ。

「緊急事態に備え、情報は把握しておくものだ」

「人が襲われるのは緊急事態じゃないってのかよ!」

 柄にもなく声を荒げてしまい、英寿に肩を掴まれて止められた。なんだよ。運営がジャマトをちゃんと管理してたら。誰も死ぬことなんて無かったんじゃないか。いや…そうじゃない。これはショーだ。結局俺たちが死のうが、一般人が虐げられようが、オーディエンスにとってはエンタメでしかない。創世の女神とやらがあれば、どんな命もリセットできるんだから。それができなくったから、こいつらは焦ってるんだ。

「いい加減化けの皮を剝がしたらどうだ?」

 英寿はニラムの向かいに立ち、いたって冷静に追及を続ける。

「そもそもなぜジャマトが生まれたのか?なぜジャマトから世界を救うゲームが、ショーになっているのか?なぜ脱落者は理想を願う心を消されるのか?運営やオーディエンスの正体は何者なのか?そろそろ本当のことを言ったらどうだ?」

 かつての俺は、運営を異世界人の類だと思っていた。どうやらそれも違うらしい。モーンのオーディエンスルームに並べられた本は、言語の違いこそあれど、どれもこの時代に存在するものだった。異世界から持ち込まれたような本は、一冊も見当たらなかった。よほどの読書好きなら、異世界から愛読書の一冊でも持ち込んでいてもおかしくないのではないか。異世界人の線が消えると、本格的にわからなくなってくる。

「……その問いに答える意味はない」

 まぁ、お前ならそう言うよな。

「なぜなら、全てを知れば、全てを忘れることになるからだ。我々は一切合切を引き上げ、全てなかったことにする。君たちも、この世界も!デザイアグランプリの存在した事実を忘れ去り、願いは永遠に叶わない……どうした?君の願い通りのシナリオじゃないか」

 苛立ちを抑えられていなかった俺の心情に、ニラムは冷笑を浮かべる。こいつ…!どうせこの世界から撤退しても、また別のどこかでデザイアグランプリを興すんだろ。何も知らない一般人を、理想の世界という甘言で釣って。

「さぁ、あんたたちがするべきことは、ジャマーガーデンに乗り込んであたしのドライバーちゃんを取り返すこ」

 チラミが偉そうに調子を取り戻したのを、サマスは見逃さず首根っこを掴んで制する。サマスに暴力を振るわれるたびにサングラスの黒いレンズが飛んで行っていた。ニラムが手を叩き、俺たちに行動を促す。

「君たちが願いを叶えるために、取るべき一つの道だ」

 ビジョンドライバーを取り返しても、ニラムが素直にデザグラを再開するとは、到底思えなかった。

 

 

 ビジョンドライバーを奪い、作戦に成功したジャマーガーデンズ。世界を思いのままにできる直前になって、プロデューサーに阻止された。べロバの心中は穏やかではなく、道長に説明する口調は沈んでいた。

「このジャマーガーデンは、デザイアグランプリによって消されたエリアにあるの」

「仮面ライダーが全滅して守れなかったエリアを、ジャマトの育成に使ってるってことだよ」

 道長、大智共に運営とジャマトの癒着を理解し、黙り込む。もうフードを被らなくなったムスブは、グロテスクな左顔をこれ見よがしにしながらアルキメデルの言葉に付け加えた。

「わかるだろう?デザグラが運営されている限り、ジャマトの自由は無い。ただゲームの駒として殺される、それだけの存在。それって、かわいそうとは思わないかい?今度は、僕たちの番だ」

「なんなんだ、お前らは……?」

 困惑の道長に、べロバは満足げだ。

「気になる?私たちが何者か?」

 彼女は、デザグラの真実を刻々と語り始めた。

 

             *

 

 ジャマーガーデンに乗り込む前に、一時間の猶予が与えられた。景和と祢音は、サポーターとの面会に行くらしい。そこでどうしても気になって、彼らのサポーターがどんな奴らなのかを聞き出してみた。彼らはこう答えた。

(ケケラって人だよ。何ていうか……結構自己主張の強いタイプだったかも。カエルだし)

(へえ~私のサポーターは控えめだな。キューンっていうの。褒めてくれるよ、手紙だけどね)

 カエルに手紙と、最後の方の言っている意味は分からなかったが、彼らのサポーターは盛んにコミュニケーションを取ってくるようだ。一方俺のサポーターはどうだ。そもそも会いたくないので、向こうからコンタクトを取ろうとしない限りは、俺も会いたがらなかった。だからサポーター代理の芹澤なんて立てられて、伝言だけ。運営はガードが堅そうだし、抜き打ちで会ってみることにした。連絡もせずにサポータールームに行ってみれば、会えるかもしれない。

 淡い期待を抱いて、デザイアドライバーの機能でサポータールームに自身を転送した。

『そうだ。戦ったことが無いんだよ。お前は一度も』

 サポータールームでは、さっきまでの俺と橋結カムロとの問答が再生されていた。ソファーの上に、ピンク髪の女性が座っている。後ろ姿で顔は見えないが、相当デザグラに見入っているらしい。俺の入室に気付かないほどだ。こいつが、俺のサポーター・モーンか。

「お、おい」

「うわぁっぁああ!」

 背中にそっと声をかけると、モーンは肩を震わせて驚き、慌ただしく本の山の裏に隠れた。相当俺に素顔を見られたくないらしい。俺は諦めて、瞳型のビジョンの向かいのソファーに座った。ほんのちょっと前までモーンが座っていたはずだが、驚くほどに冷たい。

「あんまり気ぃ使わなくていい。ただ話しに来ただけだ」

 もうすっかり、オーディエンスの秘密について調べる気は失せていた。謎は絶えないが、情報量の差で不利すぎる。多分、いまのままもがいても、向こうは降りかかる火の粉にすら思えないだろう。一度ナーバスに振り切れてしまった気持ちは、なかなか元に戻ろうとはしなかった。俺は今、デザグラの事ではなく、純粋に自分を応援してくれている人間と、話したい気分になっていた。

「お前も…本、好きなのか」

 隠れたままのモーンの方を見ながら問いかける。モーンはためらいながらも、やけに高く作った声で返答してきた。

「う、ウン。本ヲ読ンデルト、落ち着くんダ」

「へぇ。俺は得意じゃないな、読書。元から興味が薄くてさ……でも、友達に怒られたよ。ちゃんと自分を知った方がいいって」

 モーンは黙りこくっていたので、俺は瞳型のビジョンに目を移して話を続けた。映っている映像は、ちょうどムスブがフードを脱いだ場面になっている。

「その通りだよな。いつもダメなんだ。でも、あの本読んでわかったことあったよ」

 文庫本を取り出して、栞を挟んだままにしていたページを開いた。この本のトリックは、殺人事件がどうこうの問題ではなかった。解離性同一性障害…主人公は二重人格で、チェリストとライターが同一人物であるということだった。チェリストは音大生時代、周囲からのいじめによるストレスがきっかけで、豪胆な性格のライターの人格を作り、ストレスを押し付けるようになった。新井が学校では優等生であること、外では落書きばかりする非行に走っていること。それが主人公たちの特性と重なる。……あの本が彼女の一部であるとして、物語の内容通りに彼女は成長できているのかはわからない。チェリストは、もう一つの人格を受け入れ、一人の人間として一つの人格に戻る。でも、新井はできていない。だから、

「あいつは、俺に導いてほしかったんじゃないか、今の自分を信じてほしかったんじゃないか。この本を通して、そう感じた。助けて欲しいと言っているなら……俺もそうしたいと思う。……俺は正直者になれないからな。まずは、周りの人を信じるとこから始めたい。英寿を、景和を、祢音を。そしてお前も。まぁ、せっかくお前みたいに応援してくれる人がいるのに、オーディエンスだからって卑下にするのも良くない。まだニラムとかジャマトのスポンサーよりはマシだって思えたよ。お前がバックルをくれたから、ここまで生き残れてるわけだしさ」

「ソレは…ヨカッタ」

 景和たちから聞いた癖の強いサポーターの面々とは異なり、恥ずかしがりやで引っ込み思案。距離感が掴みづらいな……が、正直これくらいの関係性の方が、気楽でいいかもしれない。自分のファンだからって、あれこれ質問されたら、戦う前に疲れてしまう。新井といる時よりは……あいつに失礼か。

「オーディエンスは、俺たちを見せ物にしてる。そのこと、どうしても腹が立つ。だけど…お前だけは信用させてほしい。こんな俺の…俺の願いを信じて託してくれるお前は…他のオーディエンスとは違うって、信じさせてくれ。誰かが背中を押してくれるって思うと………俺も頼もしいから、一緒に戦おう」

 ま、戦うって言っても、サポートしてもらうって意味だけどな。独り言のように話していると、本音がスラスラと出てきて、こっちが恥ずかしくなってしまった。もう行くか。指定の時間よりは早いが、誰も咎めはしないだろう。俺が去る直前になって、モーンはか細い声を返してきた。

「私モ、戦う…」

 その声だけで、今は前を向ける気がした。

 

 

 脱落したはずのナッジスパロウが敵陣営に、仲間だったはずのヘリアルはスパイだった。ようやく姿を見せ始めたジャマーガーデンズの全容に、ツムリは不信感を募らせる。今回のシーズンを運営するにあたって、新メンバーの三人はオーディエンスの人気投票、上位三名が選ばれた。過去の強豪プレイヤーの再参戦。オーディエンスは大いに心躍らせ、かつての推しに手を挙げた。一位はロポ、二位はナッジスパロウ。ここまでは順調だった。しかし三位のヘリアル。彼がランクインした裏側には、ジャマトのスポンサー・べロバの猛プッシュにゲームマスターが負けたという噂が、まことしやかにささやかれた。あくまで噂。ゲームマスターの不正な票操作は、今シーズンのデザ神の取り消しになりかねない。だが…チラミなら、やりかねない。そんな最悪の信頼感が、ツムリの中で出来上がっていた。

「なぜプレイヤーにジャマトのスパイが紛れていたんですか…?」

「知らないわよ。私はオーディエンスの総意に応えただけぇ」

 サマスに何度もビンタされ、ニラムに説教され、チラミはご機嫌ナナメだ。

「ナッジスパロウのIDコアは?ハイトーンからは、数名のIDコアと共に、上層部に引き渡したと報告が来ています!ナッジスパロウ以外のIDコアはどこに行ったんですか!?」

「ショーは盛り上げなきゃ!でしょ?」

 消えた他のIDコアの行方は何処へ。

 

 

 ジャマーガーデンへの強襲は、三方向から行われることになった。北から英寿が、南西から景和と祢音が。そして俺が南東から攻める。

「襲撃返しつっても…いるよな」

 ガードレールのうえに座り、きつく傾斜のついた林を眺める。伸び放題の草葉が小刻みにガサガサと音を立てていた。ポーンジャマト、いるな。ジャマーガーデン周辺は、まとめてジャマトのテリトリーってわけか。こっちから目撃情報を探ってたら、ジャマーガーデンの場所を予め知っておいておけたかもしれないな。それよりも前に、運営がもみ消してたのかもしれないか。ニラムならやりかねない。

「そろそろ行くか」

『SET』

 デザイアドライバーの右側にコマンドバックル、左側にブラストバックルを装填。右肩から鎖骨の部分を掻くように左手を動かし、大きく首を回す。

「変身!」

 左手でブラストバックルのコックを開き、コマンドバックルの起動ボタンを叩いた。同時に、傾斜に向けて飛び降りる。

『DUAL ON!GREAT!BLAST!』

『Ready?Fight!』

 落下の途中でアーマーが装備され、ガスを発射しながら軌道修正。森林に突入すると、藪からポーンジャマトが飛び出してくる。木の幹を蹴り、逆手持ちしたレイジングソードでポーンジャマトを三体同時に斬り伏せつつ着地。改めて純手に持ち替え、居合の要領で斬り上げ、背中を一刀両断してもう一体撃破する。この間に、ポーンジャマトは忍び寄り、円形に俺を取り囲んだ。

「まじで数多いな、あいつら大丈夫か…?」

 飛びついて来た先から蹴り倒し、リーチ外の相手はレイジングソードの刺突で対応。陣形を切り崩しながらジャマーガーデンの中心部に接近してゆく。ジャマトの本拠地なだけあって、数が多すぎる。他のライダーの所にも、そろそろボスクラスが出てくる頃かもしれない。曲がりなりにもグレア2に勝利した連中だ。どんな隠し玉を残しているか…

「っ!」

 視界が一気にツタに遮られた。地面から生えたツタが、ドーム状になって俺を囲んでいる。そして一気に収縮してきた。

「そりゃ…ジャマトライダーもいるよな…!」

 その場でジャンプしつつ回転斬りをし、ツタを一度に断つ。ジャマトライダーは三体。ジャマーガーデンの警備に当たってるってことは、そこそこの強個体か…?でも、今の斬撃でレイジングソードのエネルギーは満タンだ。コマンドフォームで、一気に攻める…!

『FULL CHARGE』

 レイジングソードからバックルを取り外し、ブラストバックルと付け替えようとした、刹那。

『MORN LOADING』

 ジャマトライダーが空から降り注いだ三本の棘のようなものに貫かれ、爆発四散した。自立行動し、上空へと戻ってゆく棘を目で追うと、巨大な翼を備えた仮面ライダーが太陽を背に滞空していた。あの棘は、彼女の羽根だったのか。参加者とも、運営のライダーともベルトが異なる。それに、あの銃は?ジャマトライダーを一撃で何体も…並みの強さじゃない。シルエット的には女性だが…ツムリは一向に変身する素振りを見せないし。まさか。

「モーン…?お前か?」

 あの銃はサポーター専用の武器。なら合点がいく。サポーターも戦う手段を持つのか。仮面ライダーモーンは、翼をはためかせ、俺の隣に降り立った。さっきは太陽の逆光でよく見えなかったが、成程。白と黒のスーツに、ピンクのライン。翼の装飾で何となくわかった。彼女は鳳凰のライダーか。俺はパンダモチーフだし、中国つながりだな。向こうが意識てるかは知らんが。

「来たヨ。約束ダカラね…」

 かっこよく登場したのはいいけど、高く繕った声に気が抜ける。警戒心高いなぁ。信頼されてるか、されてないんだか。俺たちがそんな会話をしている合間にも、ジャマーガーデンの方向からとめどなくポーンジャマトと、ジャマトライダーが迫りくる。ちょうどいい。こいつと一緒に飛ぶとするか。

「一気に温室まで攻めよう。まさか、コマンドについてこれないほど遅くはないだろ?」

『TWIN SET』

 ニヤつきながらコマンドバックルをブラストバックルと付け替える。左側にジェット側を装填しているから、ジェットモードになれる。俺の挑発に、モーンはこくりと頷き返事した。

「よし!」

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

『Ready?Fight!』

 コマンドフォーム・ジェットモードに変身した直後に、合図もなしにバーニアに点火。離陸を果たし急加速すると、モーンもそれ以上の速さで猛追する。翼を一度上下しただけで十分な推進力を生み、翼を直線状にして空を切ってゆく。並みのポーンジャマトは低空飛行により生じる風圧に耐えきれず身を投げ出し、残存勢力はたいてい翼の斬撃性能のおかげですれ違いざまに両断できた。

 前方に、ルークジャマトがジャマトライダーを二体従え防衛線を張っているのが目視できた。ジャマーボール合戦の時の生き残りだな。減速しつつベルトを反転。キャノンモードになりながら着地する。ルークジャマトはタイクーンとの戦闘を経てコマンドフォームに対策を練ってきていたのか、先制一発目で右腕から赤黒いレーザービームを放って来た。俺もそれに対抗し、二連式のキャノンより鋭くレーザーを放つ。空中でレーザーは正面衝突し、小規模の爆発を起こした。俺は続けざまにキャノンより球体状のエネルギー弾を小刻みに発射、しかしこれも対策されていたのか、ジャマトライダーの集団が一歩前衛に出て、ツタの障壁を生成。これを防いだ。ツタが何層にも絡まっていて、突破するには手を焼きそうだった。

「こいつらさえ抜ければもう温室なんだけどな…」

「任セテ」

 モーンが胸のカードの様な突起を撫でると、視界が一変した。

「これは…!」

 気付いた時には、ルークジャマトたちの背後に回っていた。瞬間移動ってやつか?俺たちの仮面ライダーの力よりも、サポーターの方が上物の力を支給されてるってわけか。だけどこれで、防御は関係ない!

「がら空きだ!」

 油断している彼らの背後に向けて、容赦なくエネルギー弾をぶっ放す。先ずは防御の要であるジャマトライダーから崩す。完全に不意を突かれ、ジャマトライダーは背中にもろにエネルギー弾をくらった。自らが生成したツタの壁に衝突し、残りのジャマトたちが慌てて振り返る。その時にはもう、俺は接近してレイジングソードを振り上げていた。ルークジャマトや残りのジャマトライダーごと、ツタをぶった斬る。切断した先からツタは枯れてゆき、反対側にモーンが見えた。予備動作から、することは分かっている。

「えぐいことするな…!」

 鋭利な棘を、怯んだジャマトたちに一気に放っていた。俺は着弾する直前でモーンの隣に瞬間移動される。無数に羽根が体を貫き、ジャマトたちは苦しんで膝をついた。えげつない攻撃に若干引いたが、これであいつらを倒せる。

『LOCK ON』『COMMAND TWIN VICTORY!』

 エネルギーを収束してキャノンから極太のビームを、左から右に薙ぎ払うように放った。モーンの羽根攻撃で相当ダメージをくらっていたジャマトたちは成す術もなく、ビームに焼き払われた。ツタの壁も含めて、爆発とともに大きな炎があがる。

「早ク温室に…!」

「いや、まだいる」

 次第に収まっていた炎の向こうから、ムスブが歩いているのが見える。流石に炎は苦手なのか、ローブの中から滝のように水を流し、消化しながら向かってきていた。相変わらずグロい顔面してやがる。顔半分は見慣れた橋結カムロなのに、目を大きく開いていて、面影が全くない。笑ってるのか?

「おいおいおい。容赦ないなぁ!ジャマトだったらどんな仕打ちをしても良いと思ってるのかい?」

 炎の海を見渡しながら、ムスブはにっこりと笑う。仲間が殺されて悲しいなら、笑うべきじゃなだろ、普通。

「君さ、わかってる?ビジョンドライバーを取り返しても、結果は同じじゃないか。結局デザグラはこの時代から消えるんだよ?」

「別の世界の奴らが犠牲になってほしくないから、俺が取り返しに来たんだろうが!」

『REVOLVE ON』

 ジェットモードに戻り、ムスブに突撃する。変身するよりも早く取り押さえれば良かったが、加速に時間がかかり一歩遅れた。

「変身…!」

 ムスブが変身したアクエリアスキメラジャマトは俺に掴みかかり、空中で取っ組み合いになる。急いでモーンが追いついてきて、ムスブを蹴っ飛ばして振り払ってくれた。アクエリアスキメラはそのまま木に激突するかと思われたが、自身を液状化して分離し回避。もう一度空中で合体して着地した。液状化は自分にも適応できるか。シャコガイの腕だけでも厄介なものなのに、攻撃がさらに通りづらくなるな。遠距離戦は不利か。

「そうやって展望もない、おめでたい頭脳がうらやましいねぇ!」

 地面に潜航させたヤシガニの脚が、あらゆる方向から飛び出て俺たちに迫る。一度飛行して距離を取ろうと思った矢先、モーンが一気に前に出た。銃を握る手は、小刻みに震えている。怒っているのだろうか。モーンを突き刺さんとする腕は、全て自動操作の羽根たちに砕かれた。俺も慌てて続こうとするも、モーンは瞬間移動でアクエリアスキメラを上空にぶん投げた。投げ出されたアクエリアスキメラに、銃で容赦なくエネルギー弾を撃ち続ける。高度が上すぎると液状化はリスキーなのか、シャコガイを備えた左腕でガードしている。好機だ。

 アクエリアスキメラに向けて、レイジングソードで斬りかかりながら加速。落下を続けていた彼の背後に回り、背中から生えていたカサゴの棘を斬り落とした。毒にやられちゃまずいから先に始末する。が、既に右手に一本避難させていたようで、体を捻って棘を突き立ててくる。急いでバーニアを逆噴射し後退するも、向こうのリーチの方が長い。

「ああ、ダメだ」

 そう呟いたのは、俺ではなくアクエリアスキメラだった。棘が装甲を貫く直前で、彼は目の前から消えた。またしてもモーンの瞬間移動だ。転移させられ、体を不格好に捩じった状態で地上に戻された彼は、胴にエネルギー弾を直接撃ち込まれ、液状化もままならぬまま、木に激突し地に伏せた。敵に対しては、本当に遠慮がない。俺はゆっくりと地上に戻ると、モーンはダメージの大きさに動けなくなっているなっているムスブに銃口を押し当てた。もう、ジャマトの姿を保てていない。溶けていたはずの顔半分も、橋結カムロのもので固定されていた。その顔がお前の本当の顔か?

「なんだよ。そんなにオーディエンスが強いなら、古代人に戦わせる必要なんてないじゃないか!」

「喋るナ」

 逆上するムスブに、モーンはさらに強く銃口を擦り付ける。もうどっちが怒っているのかわからない。だが、あいつの言ったことが引っ掛かる。

「古代人…!?お前、何言ってるんだ?」

「聞ク必要ないヨ。タダノ虚言」

「心外だなぁ!よく言うよぉ!奏斗君、信頼できるのは僕さぁ。噓つきはどっちだと思うっ!」

 ついにモーンはムスブに発砲した。血の代わりか、水しぶきのようなものがモーンのスーツに跳ね返る。ムスブは苦しむような素振りを見せながらも、構わず話し続ける。不思議とモーンも、ムスブも、俺は止める気にはなれなかった。虚言と言うには、筋が通っているように感じられたからだ。

 

「こいつらは未来人なんだよ!君は弄ばれてるだけだ!人類滅亡なんて稚拙な願いを、嘲笑ってただけなんだよ!」

 

 ムスブがそこまで語った所で、モーンは再び引き金を引いた。同時に、モーンの体も右方向に吹き飛ばされた。左から赤色の光線が発射され、それを脇腹にもろに受けたのだ。彼女もムスブと同じく木に激突し、変身が解除される。そして、そこにいたのは。

「新井…?」

 落ち葉の上で脇腹を抑え、蹲っていたのは、私服姿の新井だった。俺の視線に気づいたのか、一気に顔が青ざめてゆく。正体を見せようとしなかったのはそういうことか。同級生に紛れて、俺を騙してたのか。何か弁明をするような声が聞こえたが、ただの音の響きにしかならなかった。俺は、動揺で前を見ることしかできなくなっていた。新井を攻撃したのが誰かなんて、どうでもいい。今は、ムスブの話を聞きたかった。

「未来人って…ホントか?」

「ああ本当さ。こいつらはね、気が遠くなるほどの未来から来た奴らだ。この時代の人間を、古代人だって蔑んで、その優越感を享受している」

 未来人。その言葉で、全てがつながってゆく。世界を作り変える力…この時代の物とは思えない技術力。なんでもっと早く気づけなかったんだ。人類滅亡、デザイアグランプリの存在しない世界。なんでそんな願いを認めることができたのか。叶うわけがないって、知っていたからだ。未来は既に存在し、デザイアグランプリは続いている。俺が頑張ったって、願いは叶わない。だから泳がせて、客寄せのパンダに使う。参加者の中でも、特に俺は滑稽に思えただろう。すべて騙されていた、運営にも、新井にも。

「わかったかい?ジャマトに組しない限り、君の願いは、絶対に叶わないっ!」

 そうか。ジャマトに手を貸せば、ニラムのビジョンドライバーを奪えば、創世の女神は…俺の物…?オーディエンスが俺を見下す世界も、この遊び場も、全てひっくり返せるじゃないか。ムスブへと手が伸びる。新井が、やめてと叫んでいる気がした。

(約束が…"夢"になってくれるその日まで)

(俺は、家族を信じたい!でも、お前も信じたい!)

 直前で、上遠と快富の声が頭に響いた。家族がジャマトの犠牲となり、人生を狂わされた二人。大切な家族を、ムスブに踏みにじられた二人。彼らを思うと、ムスブの手を取る道理も無かった。ジャマトと手を組んだって、結局誰かがまた不幸になるだけだ。俺は、ムスブに伸ばした手を引いた。どうしたらいい。俺は、俺の望む世界は?俺が望む世界を叶える方法は?

 オーディエンスは、平気で現代人の心を踏み荒らす。騙す。見せ物にして楽しむ。自分は何もしない。ただ楽しむだけ。

 ジャマトは、人の命を奪う。大切な世界を壊し、自分たちの好きなように生きる。

 俺は……おれは…どうしたらいい。

「いらなくなったらまた作り変えればいい!そうやって遊び場にしてきたのよ!この世界を!」

『FINISH MODE』

 上空で、また未来人のライダーがこの世界を壊そうとしていた。常人と比較しても数倍ある体躯、あれはジャマトのスポンサーだろうか。銃にエネルギーを込めて、地面へと振り下ろそうとしている。気づけば、レイジングソードを握る手に力がこもっていた。今。俺がすべき事は。

「これ以上っ…これ以上…お前たちに好き勝手させるかぁ!」

『RAISE CHARGE!』

「うわああああああああっ!」

 喉が焼けるような絶叫をあげながら、俺は未来人向けて飛び上がった。レイジングソードを突き立て、未来人の銃と激突する。大きく火花が走り、紫の放出間際のエネルギーが、全身を焦がす。力の差があることは分かってる。俺たちに渡された力だけじゃ、未来人には到底かなわない。でも、一度振り上げた拳を下すには遅すぎた。

「ちょっと、あんた正気?バカねぇ!」

「全部…お前らが招いた事だろぉ!」

『COMMAND TWIN VICTORY!』

 さらにデザイアドライバーのレバーを操作し、バーニアの火力を上げる。もう着陸も防御に使えるエネルギーも残ってなかった。

「この世界は、俺たちの世界だっ!お前らの遊び場じゃない!」

「それ、あんたのサポーターに言ってあげたら?」

 未来人は、いたって冷静に。空いた片方の拳で横から俺を殴りつけた。景色が一気に流れ、レイジングソードが投げ出される。

 すぐに、自分が敗北したことに気付いた。

 数本の木をなぎ倒しながら、俺は墜落。襲い来る爆風に、意識は消えた。

 

           DGPルール

 

         デザイアグランプリは、

 

   はるか未来から訪れたオーディエンスが楽しむため、

 

     歴史上の様々な時代を舞台に繰り広げられる

 

       リアリティーライダーショーである。

 

 練習を終えた体育館。奏斗と城玖は、器具庫の鍵を返しに行っている。

「玲先輩、その後奏斗先輩とはどうなんですか?」

 後輩の芹澤君がいたずらっぽく聞いてきて、顔が一気に紅潮した。汗拭き用のタオルで顔を隠す。

「い、いや~夏休みの終わりに、海沿いの水族館に…」

「うわっ!マジ最高っすね!二人とも羨ましいなぁ…」

 それ以上踏み込んでこないあたり、芹澤君はいい後輩だと思う。でもその前に、バスケの試合に集中しなきゃね、お互い。

 

「おめでとうございます!」

 

 体育館から出ようとしたところで、見知らぬ女性の声に引き留められた。いつ入ったのだろうか?体育館の中央に、黒と白の服を着た女性が立っている。こちらに見せる微笑は、まるで女神のようだ。そして手元には、二つの黄色い箱。おめでとうの言葉は、私たちに向けてなのかな?

「あなた達は、仮面ライダーに選ばれました!」

 私と芹澤君は、恐る恐る箱を受け取った。

 これが、悲劇の始まりだった。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「水中脱出ゲーム!スタートです!」

─今、明かされる─

「消防士だからね、得意なんだ」

「先輩!落ち着いてください!」

「ふざけんな!お前の手なんて借りるか!」

「世界のことは俺に任せとけ」

「だって、奏斗がそこに!」

─黎明のすべて─

「俺は…このゲームを下りる」

28話 発露SP:再放送、黎明Ⅶ。


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