奈緒ちゃんと前髪 (Fulikake)
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奈緒ちゃんと前髪

 

カタカタ……

 

パソコンで書類作成をしているとドタバタと騒がしい足音が聞こえてくる

 

ガチャッ!!

「おはよう、奈緒ちゃん」

勢いよく扉が開かれ、いつもの足音の主に声をかける

「今日も遅刻だ...」

『ッップロデューサーさん!!大変や!』

 

言い終わる前に言葉が重ねられる

 

『前髪切りすぎてもうた!』

その言葉と共に被っていた帽子が外される

『今日撮影あるのにどないしよう!』

 

「...あははっ!」

遅刻について怒ろうとしていた私は奈緒ちゃんの顔を見るなり思いっきり笑ってしまった

 

『プロデューサーさん!笑い事じゃないです〜』

「ごめっ…ふふ、でも前髪ガッタガタ……くくっ」

いつも綺麗に揃えられた前髪はどこへやら今の彼女は子供がクレヨンで描いた絵のような前髪になっていた

 

「ふー、どうしてそうなったの?」

ひと呼吸置いて改めて話を聞く

 

『昨日急に前髪が伸びてるのが気になってん、今日は大事な撮影やろ?

せやから目に前髪かかったままやと集中できん!思ってすこーし前髪切ろうとしたんやけど……』

「美容室行けばよかったのに」

『前髪の為だけに行くん、なんやもったいない気ぃして...あと、切ってもすぐまた伸びるやないですか』

「あー...確かに

でも大事な撮影の前だからちょっと考えてほしかった、かな…」

『うぅ〜すんません、衝動にかられてもうて……どないしよ』

眉毛を八の字に下げた奈緒ちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしている

 

「大丈夫、泣かないで」

ポンポンと頭を触る

 

「私が何とかしてあげる」

 

 

 

「じゃあ、ここ座って…あと、ゴミ箱抱えて……」

自分の向かいに奈緒ちゃんを座らせる

 

『プロデューサーさん、髪切れるんですか?』

「うーん、これでも手先は器用な方だよ、美容師にはなり損なったけど」

『なり損なった…不安や……』

 

「大丈夫、大丈夫

目、閉じて?」

心配そうな奈緒ちゃんをよそに私は手にハサミを持つ

そして、もう片方の手で奈緒ちゃんの前髪を触る

 

 

シャキ、シャキ

『なんや、プロデューサーさんええ匂いする』

「動いたらまた変な風になっちゃうよ」

『はーい』

私の腕の方に鼻を寄せる奈緒ちゃんに注意する

 

「ちょっと目開けてみて?」

『…わぁ!顔近っ!』

驚いた表情で体を仰け反らせる

 

「そんなに動いたら長さわからないでしょう」

も〜、と奈緒ちゃんの頬を両手で挟んで自分の方へ向ける

 

もう少し左側切った方がバランスいいかな……

 

『プロデューサーさん、やっぱええ匂いする

香水…?』

「いや、今日はつけてないけど……

あ、可憐からもらったハンドクリームかな」

ここ、と手のひらを奈緒ちゃんへ近付ける

 

『ん!それです!めっちゃええ香りで癒される〜』

「ジャスミンの匂いらしいよ、リラックスする香りだよね」

「よし、あと少しだからもうちょっと頑張ってね」

再びハサミを握る

 

 

「出来た〜」

はい、と鏡を奈緒ちゃんへ向ける

『おぉ〜プロデューサーさん、すごい...!』

「眉毛と前髪同じ位置になっちゃったけど、上手く誤魔化せた、はず...!」

『うわーん!プロデューサーさんありがとう〜!』

ギュっと強くハグをされる

 

「大丈夫そう?」

『もう大満足です!これで撮影頑張れます!!』

ガッツポーズを作る奈緒ちゃんを見て安堵した

 

『じゃあ行ってきます〜』

「はーい、気を付けてね〜」

 

 

 

 

 

『なおー!今日いつもと雰囲気違うね!』

「お!海美鋭いな、実はさっき前髪切ってもらってん」

『え〜めっちゃ似合ってるよ〜!

どこの美容室に行ってるの?』

「うーん、美容室いうか超腕のいい人がおってな〜」

『誰誰?私も切ってほし〜い!』

「うーん、教えられん、私だけの美容師さんやから」

『えぇ〜!なんでよぉ〜!!』

「ほら、スタンバイやて!行くで!!」

 

頬にほんのり残るジャスミンの匂いを感じながら走り出した

 

 



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