アンジュ・ヴィエルジュ ~新たな可能性~ (ゼロ・ツー)
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入学編
プロローグ


二作品目ですが、気楽のどうぞ。

一作品目の方も、ぜひ読んでください。


ある日、世界は“連結”した。

突如開いた“(ハイロゥ)”は、四つの異なる世界を融合、連結させた。

その影響により、10代の少女たちは身体能力の飛躍的な向上や超能力じみた不思議な力など、様々な『異能(エクシード)』に目覚めていくようになった。

しかし、時を同じくして世界の均衡を司る『水晶』にも異変が生じ始めた。

それは滅びの始まり。

異常気象や超常現象といった謎の現象が四つの異世界それぞれで起こり始めたのである。

そして、それが滅びに向かっていると結論付けた四つの異世界は手を組み、世界を救う鍵であろうとされる異能に目覚めた少女たち『プログレス』の保護と育成に励むこととなった。

その中で、プログレスたちの持つ可能性を引き出す存在が現れ始めた。

異能に目覚めた少女たちよりも少ない希少な存在である『αドライバー』と呼ばれる少年たちである。

プログレスとαドライバー、この二つの存在を保護、育成し、可能性を開花させるための施設。

太平洋上に浮かぶ孤島、『青蘭島』。そこに設立されたのが『青蘭学園』であり、みんながささやかな日常を送り、来るべき危機に向けて日々鍛錬していく場でもある。

これはそんな学園で、世界の滅びを止めるために奮闘する少年たちとその周りに集まる可能性の少女たちの物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

四月上旬。

桜が舞い、入学シーズンのこの時期。

青蘭学園でも入学式が行われる日。

俺、蒼薙零弐は自身の家から何時も通りに学園に向かった。

青蘭学園に入って二年目に入った今年は、高等部の入学式である。

学園に近づくにつれ、生徒の数が増えて行った。

共通しているのは青蘭学園の制服を着ている事だけで、その容姿はさまざまである。

普通の人間と変わらない者から角の生えている者、翼の生えている者からヘットギアのようなものをつけている者までいる。

ここに通っている生徒は四つの異世界で保護されたプログレスとαドライバーのみであるが、慣れればこの光景も違和感が無くなる。

実際一年ほど通っていても、人種の違いや文化の違いで抗争が起こることはあっても規模はとても小さい。

それほどまでにそれぞれの世界の住人がそれぞれの世界を尊重している証拠でもある。

そして学園に着くと新しいクラスを報せる張り紙が張りだされ、その付近には人がごった返していた。

そんな集団の外側の方で見知った顔ぶれを見つけた。

 

「オッス、ソフィーナ、セニア」

 

俺が声を掛けると、向こうもこちらに気づいた。

 

「二人だけなんて珍しい組み合わせだな」

 

「あら?レイジ。別にセニアとはそこで会っただけよ」

 

「おはようございます。マスター」

 

ソフィーナとセニア。

俺が青蘭学園に来てから知り合った友人である。

ソフィーナは四つの異世界の一つである黒の世界《闇に眠る黒姫の柩(ダークネス・エンブレイス)》出身で、女王の指揮する世界の崩壊を調査するチームの一人である天才魔女である。

去年はその調査の手伝いをよくさせられたのはいいのか悪いのかわからない思い出である。

セニアは四つの異世界の一つである白の世界《システム=ホワイト=エグマ》出身で、Dr.ミハエルという人物が造ったアンドロイドである。

その人物に頼まれて、当初、無知で感情に乏しかったセニアの世話をしたのが俺であり、その頃にマスターと呼ばれるようになった。

 

「にしても、こんなに人がいると見に行くのも苦労するな」

 

「それなら、もう確認したわよ」

 

「あれ?そうなのか?」

 

「はい。私が確認を取った結果、皆さん一緒のクラスでした」

 

「お!そりゃ偶然にしてはいいことだな。だけど、何で他の奴まで調べてんだ?」

 

「ソフィーナさんに頼まれました」

 

「ちょ!?セニア!」

 

セニアの言葉にソフィーナが顔を赤くして、止めようとした。

が、すでに遅いので、何故かこちらを睨んできた。

 

「べ、別にレイジと同じクラスになれたか気になってみてもらったわけじゃないわよ!勘違いしないでよね!」

 

「うん。王道なツンデレだな」

 

「ツンデレですね」

 

「ツンデレじゃない!って、だから違うって言ってるでしょ!」

 

ソフィーナが胸の前で腕を組み、顔を逸らしながら言ったが、俺とセニアのツンデレ発言に両腕を振りながら否定してきた。

 

「で、ソフィーナの理由はわかったが、セニアは何でだ?」

 

「私は確定なの!?」

 

「私はマスターと一緒に居たいと思ったからです」

 

「なるほど、昔よりはいい傾向になってるな」

 

「私は無視なの!?」

 

ソフィーナが終始うるさかったので、仕方なくこの話は終えて、教室に向かった。

教室ではすでにほとんどの生徒が来ていた。

まぁ、そうすぐでホームルームの始まりなので当たり前と言えば当たり前である。

教室に入ると、黒板に席表が張り出されていた。

席は基本的にランダムで決められる。

 

「おっしゃ!窓側後方いただき!」

 

「私は廊下側の後ろみたいね」

 

「ちょうど真ん中あたりみたいですね」

 

さすがに同じクラスでも席が近くなることまではなかった。

とりあえず、決められた席に行こうとしたら、これまた知り合いの顔があった。

 

「あれ?アウロラじゃん。今日は遅刻しなかったんだな」

 

「あら、レイジさん。こんばんは」

 

「あぁ、こんばんは。じゃねぇよ!今はおはようだ!」

 

アウロラもここに来てから知り合った友人である。

赤の世界《テラ・ルビリ・アウロラ》出身で、よく島中をフラフラしていることが多い。

去年はその天然っぷりに振り回された。

 

「貴女、まさか昨日の夜からここにいるの?」

 

「はい。クラスを見に来たら、みなさんと同じクラスになれるみたいでしたので、うずうずしてしまって、気づいたらここにいました」

 

「相変わらずのド天然ね」

 

「だな」

 

アウロラの行動はいつもこんな感じでよくわからない。

とりあえず決められた席に座ると、タイミングよく携帯にメールが来た。

送り主もまた、ここに来てから知り合った友人で、内容は少し遅れそうだからそいつのクラスを教えてほしいとのことだった。

同じクラスなので、自分のいるクラスを教えて数分。

ホームルームが始まる直前にそれは起きた。

メールの返信も来ないため、何もすることが無く窓を開けて、春の心地のいい陽気を受けながらまどろんでいた。

 

「ち~~~こ~~~く~~~だ~~~!?」

 

「ん?」

 

若干寝ぼけていたために状況判断能力が落ちていた。

それが致命的なミスとなった。

窓の外からスゴイスピードで何かが突っ込んできるのがわかった。

そして、それが何かわかった瞬間には遅かった。

 

「どいて~~~!!」

 

次の声が聞こえた瞬間には、顔面に何か硬いものが激突した。

そのまま、横の列の机を巻き込みながらツーバウンドほどして壁に激突した。

激突の際、首やら全身から嫌な音が聞こえた気がする。

幸い他のクラスメイトが巻き込まれなかったのでよかったが、ぶつかった本人も頭をぶつけ、蹲りながら頭を押さえていた。

因みに、クラスメイトのほとんどが、あぁ、またやっているよ、的な顔をしていた。

 

「うぅ~、頭痛いよ」

 

「おまえより俺の方が痛みを伴っているわ!特に首が!」

 

机の下敷きになっていた俺が机を払いのけて、叫んだ。

 

「あ、レイジくん。おはよう。さっきはありがとうね」

 

「おう、どういたしまして。じゃねぇよ!何度俺に激突すれば気が済むんだ、美海!」

 

「は、ははは。ゴメン」

 

苦笑いをしながら謝ってきたのは、先ほどメールしてきた日向美海であった。

俺と同じ青の世界《地球》出身で、ここに来てから最初にできた友人である。

遅刻ギリギリなことの多い美海は自身の異能で窓から教室に入ってくることが多々あり、そのたびに俺に激突していた。

その光景はすでにこの学園の名物の一つになっている。

とりあえず、巻き込んだ机を直して席に座ると予鈴がなった。

美海は俺の前に席だったのか俺の前にいる。

 

「はーい。ホームルーム始めるわよ」

 

予冷より少し遅れて教室に入ってきたのはこのクラスの担任だという安堂環だった。

俺がここに来てから色々と世話になった先生である。

入学式前に出席を確認していくと、一人いないことがわかった。

 

「シズトくん。シズト・キリサキくん。……まったく、初日から遅刻なんて、後でお話しなくちゃいけないわね」

 

聞いたことない名前だったから、高等部からの入学生だろう。

しかし、この後入学式だというのに遅刻とは根性があると思った。

とりあえず遅刻者は放置して、入学式の会場に向かった。

初等部から中等部、高等部とエスカレーター式のこの学園では、入学式は一緒に行われるため、会場はそこそこ広い。

その会場で、みんなが近くに集まるというのはなかなかない確率である。

 

「そういえば、さっき先生が言っていたキリサキってのはどんな奴なんだ?」

 

「情報がないため、わかりません。マスター」

 

「私は知っているから教えるわ。黒の世界では名の知れた剣士らしくてね、使える魔術が一つしかないけどその実力はへたなプログレスと渡り合えるほどらしいわ」

 

「へぇ~、そうなんだ」

 

どうやら、その人物についてはソフィーナは知っていたらしく解説してくれた。

 

「あと、極度の甘党らしいわ」

 

「なるほどねぇ。でも、初日から遅刻とはやるなぁ」

 

「そうですね。あまりいい行いだとは言えませんね」

 

「「おまえ(貴女)が言うな!」」

 

アウロラの発言に、俺とソフィーナが同じツッコミを入れた。

 

「あ!そういえば」

 

「どうかしたのか、美海?」

 

「実は学校に来る途中でね、ものすごーい勢いで風見屋に入っていく男の子を見たんだけど……人違いだよね?」

 

「「……」」

 

「あらあら」

 

「間違いないですね」

 

美海の言葉に、俺とソフィーナは絶句し、アウロラは口元に手を当て笑みを浮かべ、セニアはどこか納得のいった顔をしていた。

だが、まぁ人違いであってほしいと願う今日この頃である。

この後、入学式にもかかわらずそんな話をしていた俺たちは環先生に呼び出されてお説教を受けたのは言うまでもない。

 




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参上! 黒の剣士(甘味)

入学式中におしゃべりをしていたことで十分程お説教を受けていた俺たちが戻り、今後の予定について環先生が話をしているときに、それは起きた。

突然、廊下から雄叫びが聞こえ、徐々に大きくなり、教室の前に来たと思ったら、いきなり後ろの扉が粉砕された。

 

「すみません!遅刻しました!」

 

現れたのは、青蘭学園の制服を着こなした男で、何故か口には団子の串を加えていた。さらには、全身から風見屋の独特の匂いを漂わせていた。

 

「こんにちは、キリサキくん。遅刻した言い訳はあるかしら?」

 

環先生が若干青筋を立てながらも笑顔で聞いていた。

 

「来る途中で、お婆さんを抱えた団子がいて、それを助けていたらこんな時間になってしまったんです!」

 

「「「「「(絶対に嘘だろ!)」」」」」

 

クラスのみんなが同じことを思った瞬間である。

 

「ならなんで、口に串なんて加えているのかしら?」

 

さっきよりもさらに青筋を立てた環先生がそう聞いた。

そこで初めて気づいたのか、キリサキのとった行動は、口にくわえた串を手に持ち、振りかぶって――

 

「セイッ!」

 

――窓から外に投げ捨てた。

 

「何のことですか?」

 

そしてすがすがしいくらいに嘘を言い放った。

 

「なら、何でそんなに甘い匂いを漂わせているのかしら?」

 

「それは――」

 

「嘘はいいわよ。もし本当のことを言わないのなら、校長先生に頼んで黒の世界の女王に掛け合ってもらうことにするから」

 

「すみませんでした!!甘味が、甘味が俺を呼んでいたんです!」

 

見事なまでの土下座を決めたキリサキ。

そこまでするなら始めからそうしろよ。

クラスのみんなもその行為に同じことを思っただろう。

 

「はぁ、しょうがないわね。後で職員室に来なさい。お話があるから」

 

「了解です」

 

とりあえず、この話はいったん終わった。

 

「それじゃ、今日はここまでね。実践練習(ブルーミングバトル)の授業が始まるのは明日からだから、気を付けるように。午後には練習場を開放しているから自由に使っていいわよ。それじゃ、解散」

 

環先生の合図とともに、教室が騒がしくなった。

終わったことで、みんなが思い思いのことを始めたからである。

 

「そうそう。蒼薙くんと日向さん、ソフィーナさんとアウロラさん、セニアさんは午後から第一校舎の掃除をするようにね。キリサキくんは私と一緒に生徒指導室に来るように」

 

「げ、マジかよ」

 

「マジよマジ。それじゃ、お願いね」

 

そう言って、肩を落としているキリサキを連れて環先生が教室を出て行った。

 

「うわぁ、第一校舎って一番大きい校舎だよね?終わるのかなぁ?」

 

「終わらせないと終わるまでやらされますよ」

 

「そうですね」

 

「まったく、何で私までこんなことしなくちゃいけないのよ」

 

俺の周りに集まったみんなで愚痴を零した。

 

「何かあったの?美海ちゃん」

 

「あ、沙織ちゃん!」

 

いつの間にか近くにいた友人が声を掛けてきた。

岸部沙織という名前の少女は、去年中等部で同じクラスだった美海の親友であり、俺たちの友人である。俺と美海と同じ青の世界出身である。

とりあえず、入学式での経緯を話したら、沙織も納得がいったみたいだった。

 

「どうする?私も手伝おうか?」

 

「うぅん、大丈夫だよ。もともと私たちが起こした問題だからね」

 

「そうだな。まぁ、手伝いが必要になったら頼むと思うから、そん時に頼む」

 

「わかりました。じゃあ、お昼は一緒でもいいですか?」

 

「別にいいわよ」

 

「そうですね。大勢の方がにぎやかでいいですもんね」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃ、飯食ってから第一校舎の入り口集合ってことでいいか?」

 

「「「「「賛成!」」」」」

 

 

 

 

 

 

昼飯を終えて、掃除を初めて早二時間。

 

「……何で、……何で、まだ半分も終わってないのよぉ!!」

 

「叫ぶ暇があったら手を動かせ」

 

淡々と始めた掃除だったが、二時間たっているのにもかかわらず、未だに半分も終えていなかった。

そのことにソフィーナは我慢できないと言わんばかりに叫び声を上げた。

 

「大体、なんでこんなだだっ広い第一校舎を掃除しなきゃいけないのよ!」

 

「ま、まぁまぁ、学園全部やれって言われなかっただけマシだよ」

 

美海もソフィーナを宥めてくれた。

実際に青蘭学園は島の三分の一ほどの広さがあり、校舎は第一から第三、研究棟に至っては第一から第五まである。それ以外にもブルーミングバトルと呼ばれるプログレス同士の試合用および試験の会場(アリーナ)が三か所、さらに練習場が地下数階にまで及んでいる。他にも体育館や図書館、グラウンドなどもあり、それらすべてとなると到底一日で終えられる作業ではない。

因みに、洋上学園都市と呼ばれる青蘭島内の施設配分としては、三分の二が学園都市として機能し、残りが少し標高のある山を含めた自然でできている。

 

「さてと、ここは終わったから次行くか」

 

「はぁ、今日中に終わるの、これ?」

 

次の掃除場所に移動したとき、セニアが何かを捉えた。

 

「ん?どうかしたか、セニア?」

 

「マスター、何かが来ます」

 

「何かってなんだよ?」

 

俺が質問し返すと、突然扉が粉砕された。

 

「ふぅ。間に合った」

 

そこに立っていたのは、キリサキだった。

 

 

 

 

 

 

 

全く面倒だなぁ。

そう思うのはオレ、シズト・キリサキである。

俺は青蘭学園の入学式である今日。

少しばかり寝坊したために急いで学園に向かった。

しかし、その行く道に罠があった。

和菓子屋『風見屋』。

和菓子の放つ独特の香りに、オレの甘味センサーが反応し、そこでニ時間半ほど糖分の摂取を行った。

そして、学園に行かなくては行けないことに気づいたオレは、名残惜しくも最後に団子を貰い、一本だけ食べながら向かった。

全力で走ったのにも変わらず、遅刻。

さらに、扉を壊したことで、弁償。

さらには、その両方のために、お説教。

この三段階を受けただけにとどまらず、第一校舎を掃除している奴らと合流して掃除を手伝うようにという罰を受けた。

仕方なく、そいつらのいるところを探していたら、二階の一角にある教室から、誰かの声が聞こえた。

多分探している奴らだろう。

声の聞こえた教室に向かって、扉が邪魔だったので粉砕した。

 

「ふぅ。間に合った」

 

丁度移動しようとしていた最中だったようで、手には掃除用具が握られていた。

何故か、唖然とした顔をされたのかわからないが、気づいたら目の前が暗くなった。

 

「何やってくれとんじゃーー!!」

 

「アベシッ!?」

 

次の瞬間には顔面に激痛が走り、廊下をバウンドして壁に激突した。

おそらく、顔面に飛び蹴りを受けた様だった。

俺が顔を抑えて悶絶していると、上から声が聞こえた。

 

「あんた、何してくれんのよ!折角掃除し終えたのに、また余計な仕事を増やして!え?どうしてくれんのよ!」

 

上からガミガミ文句を言われて、さすがに俺も我慢できないかなと思って上を見て、その人物を確認しよう顔を上げた。

因みに、青蘭学園の女子用制服のスカートは意外に短い。

そのため、顔を上げた瞬間に中が見えた。

 

「あ、黒」

 

ピシッ!?

現場の空気に罅が入った。

そしておもむろに、文句を言ってきた奴が右手を掲げた。

 

「……ね」

 

「え?」

 

「死ぃね死ね死ね死ね死ね!!この変態!死んでわびろぉ!!」

 

「ちょ!?タンマ、てか待って!?」

 

「死ねぇ!この天才魔女ソフィーナに焼かれて死ねぇ!!」

 

ソフィーナと名乗った少女は両手に炎の塊を作り、オレに投げつけてきた。

なんとか持ち前の身体能力で避けて行ったが、校舎がところどころ焦げた。

 

「ちょ!?ソフィーナ!!」

 

「わわわ!校舎が焦げてる!」

 

「あらあら、大変ですね」

 

「どうしますか?マスター」

 

「てか、見てないで止めてぇ!」

 

それからすぐに、一緒にいた男に抱えられてソフィーナとかいう女の子は止まった。

 

「落ち着けソフィーナ。ここで奴を焼いても、問題にしかならねぇ」

 

「止めないで、レイジ。あいつを焼かないと私の気が収まらないわ!」

 

一方、残りの三人の女の子は廊下の惨状を目の当たりにして一人だけ溜め息を吐いていた。

 

「はぁ。これ、どうしよう?」

 

「これはさすがに掃除のしようがありませんね」

 

「私たちでは修復不可能です」

 

廊下は、半分近く焦げて、掲示物が焼けていたり、ガラスに罅が入っているどころか割れているものまであった。

 

「まったく、こんなにまでして。直すの俺なんだぞ」

 

さすがに廊下の様子を見て落ち着きを取り戻したらしいソフィーナという女の子を下した男は、めんどくさそうに右手の袖をまくった。

 

「レイジくん!それ使うの?」

 

「あ?あぁ、じゃないと直らんだろ、これ」

 

そう言った男の右手に嵌めた黒いグローブと腕に巻いてあった包帯を外した。

そこには、黒の世界出身のオレでも禍々しいと思う様な痣があった。

何かを呟きながらその右手を前に突き出すと、痣から蒼い焔が出てきて、さらに腕を薙ぎ払うと廊下全体を覆うように広がった。

 

「ちょ!?追い打ちかけてどうすんの!」

 

「見てろって、ほら」

 

促されて見ると、先ほどまで焦げていた廊下は元通りになっていた。

どんな原理かはわからなかった。

 

「……ッ!?」

 

だが、使用した本人はわずかに表情を強張らせていた。

 

「悪いわね。力を使わせて」

 

「別にいいって、これくらい」

 

心配させないように笑っているようだったが、額に少し汗を掻いているのが見えた気がした。

包帯を巻きなおして、グローブをはめるとこちらに向き直った。

 

「それで、お前たしかシズト・キリサキだったっけ?」

 

「あ、あぁ、そうだけど……お前らは?」

 

「俺は蒼薙零弐。同じクラス唯一のαドライバーだ」

 

「私は日向美海。よろしくね」

 

「セニアです」

 

「アウロラと申します。よろしくお願いしますね」

 

「ソフィーナよ。よろしく変態」

 

「変態じゃねぇよ!」

 

「黙りなさい!変態」

 

「落ち着けって。まぁ、とりあえずクラスに二人しかいないαドライバーだ。よろしく頼むぜ、シズト」

 

「あぁ、よろしく、蒼薙」

 

「レイジでいいぞ。俺も“キリト”って呼ばせてもらうから」

 

そのあだ名に一瞬体が反応してしまった。

 

「……何故、その名前を?」

 

「え~、だってよ、キリサキよりはシズトの方が親しい感じじゃん。でも呼びにくいからよ、日本名的な感じで、キリサキ・シズト、略してキリトってわけだ」

 

そんな理由で、そんな理由で……。

 

「そんな理由で、オレをその名で呼ぶなぁ!!」

 

オレの黒歴史が再来した。

 




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まさかの勝負!?

少し短めになってしまいました。


「ハァハァハァ」

 

「ゲホゲホッハァ」

 

日が沈みかけている夕暮れ時の時間。

今、俺とキリトは第一校舎の屋上で、二人して仰向けに倒れていた。

しかもどちらも息を切らした状態で。

周りにも、さすがに走りつかれたのか座り込んでいる美海やソフィーナ、何時も通り笑みを浮かべているが明らかに疲れているアウロラ、たった一人だけケロッとしているセニアがいた。

何故こうなったかというと、理由は二時間ほど前に遡る。

 

 

 

 

二時間前。

 

「そんな理由で、オレをその名で呼ぶなぁ!!」

 

俺が親しみを込めて呼びやすい名前を考えた結果、“キリト”という素晴らしく親しみやすく呼びやすいあだ名を考えたというのに、呼ばれた当の本人は頭を抱え、悶絶し始めた。

 

「……キリト、……黒、……剣士」

 

隣の方でソフィーナが何かを呟きながら考えていた。

 

「わわわ!?大丈夫、“キリト”くん?」

 

「ノォォォォォ!!」

 

「あらあら、これは大変ですね」

 

「マスター。“キリト”さんは大丈夫なのですか?」

 

「イィィィィヤァァァァ!!」

 

「これはまずいかもな。大丈夫か、“キリト”?」

 

「ヤメテクレェェェェ!!」

 

あまりにもショックなのか知らないが、廊下を転げまわりながら悶絶するキリト。

口調までカタカナになる始末だ。

 

「あ!思い出した!」

 

「ギクッ!?」

 

「あんた、ちょっと前に話題になった“黒の剣士 キリト”でしょ!あの厨二病全開の口調、言動、行動、ポージングで有名になった!」

 

「ダレカオレヲコロシテクレェェェェ!!」

 

どうやら相当な黒歴史のようである。

ソフィーナの話によると、このキリトは一昔前に女王からの依頼を受けて、見事成功させた最年少剣士らしく、その時のことは黒の世界では有名らしい。

 

「なんせ、女王に対してあれほどの厨二っぷりを見せたのは彼くらいよ」

 

「当の本人は相当恥ずかしいみたいだがな」

 

ソフィーナの説明でより一層悶絶が激しくなっていた。

 

「そういえばさ、何でキリトくんはここに来たんだろ?」

 

「そりゃ、αドライバーに目覚めたからであって……」

 

「そうじゃなくて、何で掃除している私たちのところに来たのかな~、ってこと」

 

言われてみればそうだ。

ここの掃除をするように言われたのは俺たち五人だけで、それ以外にはいない。

だとすると、考えられる可能性は……。

 

「おい、いい加減に起きろ」

 

未だに悶絶しているキリトの頭をタイミングよく爪先で蹴り上げた。

蹴り上げたとは言っても、サッカーで言うところのシュートではなくボールを上げるループである。

そしてキリトは、そのまま――

 

「グエッ!?」

 

――顔面から柱に激突した。

激突した場所から少しずつずり落ちるようにして倒れていく様子を見ていると、何とも言えない雰囲気が漂った。

キリトは、わなわなと肩を震わせながら徐に立ち上がったと思うと、メガネを外しながらこちらを向いた。

 

「テメェら!こっちが下手に出てっからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ!このクズが!」

 

「「「なんかキレたぁ!?ていうか別人になっている!?」」」

 

「あらあら」

 

「……」

 

えぇぇぇぇ!?

なにこの変貌っぷり!

完全に別人やん!

メガネ外し、キレたキリトは、目の色が黒から赤に変わり、口調まで変動していた。

それに驚いた俺と美海、ソフィーナが驚きの声を上げた。

アウロラは相変わらずで、セニアは何も反応せずに無表情でいた。

 

「舐めてんのか?あぁ?」

 

「いやいやいや、むしろお前こそ何しに来たんだ?ただ暴れに来たのか?」

 

「なに舐めたこと言ってんだ?こちとらテメェらの手伝いに来てやったんだろぉが!」

 

「いや、むしろ破壊活動しかしてないじゃない」

 

「誰が、破壊魔じゃ!?」

 

「「「おまえ(貴方)(キミ)だよ!」」」

 

あまりに的を射ているセリフにまたしてもツッコミが入った。

 

「大体、何でオレがこんなことしにゃならねぇんだ。こんな無能集団の手伝いなんてよぉ!」

 

プチッ。

俺の中で何かが切れた。

こいつ、今なんて言った?

俺の脇にいた四人がいつの間にか少し離れたところに避難しているのが見えたが、今はそれどころじゃない。

 

「誰が無能かぁぁぁぁ!!この厨二ヤロォォがぁぁ!!」

 

「誰が末期の厨二患者じゃぁぁぁぁ!!」

 

「「「「ついにキレたぁぁぁぁ!?しかも何故か逆ギレしてるぅぅぅぅ!?」」」」

 

俺とキリトは互いに胸倉を掴みあい、罵り合いとなった。

最終的には、話の方向性が変わってしまった。

 

「だったら白黒はっきりつけてやろうじゃねぇか!!」

 

「面白れぇ、乗ってやんよ!!」

 

「なら、勝負はこの校舎の残り半分をどちらがより多く掃除できたかでどうだゴラァ!」

 

「上等だ!やってやんよ!」

 

刹那、二人が姿を消した。

だが実際には早く動いて掃除しているだけである。

 

「って、いつの間にか勝負になっちゃってる!?」

 

「しかももういなくなってる!?」

 

「急いで追いかけましょう」

 

「そうね、行くわよ」

 

「了解」

 

そして二時間が経ち、冒頭の状況となった。

 

「ハァハァ、やるなキリト」

 

「ゲホッ、お前もなレイジ」

 

本来ならここでどっちの方が掃除した箇所が多かったかと言い争いになるが、今はそんなことをするほどの余裕と体力は残っておらず、唯ぶっ倒れているだけだった。

しかも、なんだかんだで追いかけてきた四人は、セニアを除いてグロッキーになっている。

なぜだかそんな状況がおかしくて、笑いが込み上げてきた。

 

「クッ、アハハハハハ!!」

 

「プッ、ハハハハハ!!」

 

なぜだか分らなかったが、キリトも笑い声をあげてきた。

人とうり嗤い終えた俺たちは、顔を突き合わせることなく話始めた。

 

「いやぁ、久々に楽しい思いが出来た」

 

「俺もだ、こんなに楽しいって思ったのは久しぶりだ」

 

「……気が合うな」

 

「……だな」

 

仰向けに寝転がりながら、空中で握手をするように手を握り合った。

その光景を美海、ソフィーナ、アウロラ、セニアは微笑みながら見ていた。

 

「そんじゃま、親睦を深めるために青蘭クレープでも食いに行くか、美海?」

 

「あ、それいいね!行こう!」

 

「なに!?クレープだと!?オレの甘味センサーがうなるぜぇ!!」

 

「まったく、さっきまではケンカしているみたいだったのにね」

 

「ケンカするほど仲がいいという事でしょうか?」

 

「そうかもしれません」

 

この後、掃除用具を返してから、六人で学園都市内にあるクレープ屋“青蘭クレープ”に向かい、親睦を深めあった。

校舎を出る前、そんな俺たちの背中を見る者がいた。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、意外と早く溶け込んだわね、彼」

 

その人物は、担任の安堂環だった。

 

「これから大変だと思うけど、頑張りなさい。たった二人のN(ネオ)・αドライバーたち」

 

そう言い残して環は校舎の中に戻って行った。

ちなみにこの後も少し大変だった。

 

「うまっ!?なにこれ!?ちょー美味いんだけど!」

 

「へへへ、気に入ってくれてよかった」

 

「まぁ、ここのクレープにはずれはないからな」

 

「マジか!?おねぇさん、ここからここ全部くれ!」

 

「「頼み過ぎだ!!」」

 

キリトの甘味好きは底がしれないことがわかった。




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初授業という名の説明回

キリトと親睦を深め合った次の日。

この日から通常通りのカリキュラムが始まる。

基本的なカリキュラムは決まっているが、プログレス用やαドライバー用、さらに俺専用とされていたN・αドライバー用といくつか必修のものまである。

教室に入ると、意外や意外すでにキリトが来ていた。

ただし、団子を食いながら。

 

「オッス、キリト。今日は早いな」

 

「フッフッフ、聞いてくれ、今日オレは誘惑に勝ってきた!」

 

「ほぉ~。一体何の誘惑に勝ったんだ?」

 

「もちろん甘味さ!」

 

とても清々しいイイ笑顔をして親指を立ててきたが、どう見たら誘惑に勝ったのかわからない。

 

「それのどこが甘味の誘惑に勝ったんだよ?」

 

「それはもちろん……いつもなら最低一時間は甘味を味わうところを、串団子十本に押さえて来たのだから!!」

 

「「それはむしろ負けてるだろ(わよ)!!」」

 

いつの間にか隣にいたソフィーナと共にツッコミが入ったが、キリトは疑問符を頭に浮かべていた。

こいつの基準がわからん。

 

「あ、レイジくん、ソフィーナちゃん、キリトくん、おはよー」

 

「おはようございます、マスター」

 

「あら、おはようございます、皆さん」

 

途中で教室の扉から美海、セニア、アウロラが入ってきた。

それによって、俺とソフィーナは驚愕の表情を浮かべた。

 

「バ、バカな!?美海が遅刻ギリギリじゃないだと!?」

 

「えぇ~、私だってたまには早起きするよー」

 

「セニア!今すぐ青蘭島付近で異常気象ないし超常現象が起こる予兆はないか調べて!」

 

「えぇ!?私が早起きするのがそんなに信じられないの!?」

 

「すでに調査済みです。幸いなことに予兆はありませんでした」

 

「そう、よかった~」

 

「良くないよね!?むしろ私信用されてないの!?」

 

危なかった~。

まさかあの美海が、登校しても遅刻ギリギリか空から窓に突撃、あるいは完全に遅刻するあの美海がこんな時間に登校してくるなんて世界崩壊の予兆かと思ってしまった。

 

「ほ~ら、あなたたち。ホームルーム始めるから席に着きなさい」

 

いつの間にか環先生が教壇に立っていた。

 

「とりあえず全員居るわね。今日から授業始まるけど、一時間目は毎年恒例の授業だからね。今回は私が担当するからよろしくね」

 

教室のあちこちから声が上がった。

すると案の定、昨日入ったばかりのキリトが質問してきた。

 

「なぁなぁ、レイジ。毎年恒例の授業ってなんなんだ?」

 

「毎年恒例の授業は、ここにいたら誰もが知っていなきゃいけない基本中の基本、“世界接続(ワールド・コネクト)”についてだよ」

 

「世界接続?」

 

「まぁ、知らなくてもしょうがないよね。私も詳しいことはここに来てから知ったくらいだしね」

 

キリトの疑問に美海も同調した。

確かにそれに関することは島の外ではあまり知られていない。

知っていても名前くらいだというのが多いだろう。

そんなことを話していると、当たり前のように環先生から注意を受けた。

 

「ほ~ら、そこの三人!私のありがたい解説を始めようって時になにくっちゃべっているのかしら?それくらい余裕があるなら説明してもらおうかしら、そこの優等生!」

 

「え?オレ?」

 

「あなたには聞いてないわよ。厨二の甘味バカ」

 

キリトは机に突っ伏し静かに涙していた。

キリト、撃沈。

 

「え?じゃあ、私?」

 

「あなたが優秀なのはブルーミングバトルでしょ!」

 

続けて美海までもが机に突っ伏し静かに涙した。

美海、撃沈。

となると残りは……。

 

「ほら、さっさと説明しなさい、優等生の蒼薙くん」

 

やっぱり俺ですよね。

てか優等生って柄じゃないんだが。

 

「え~っと、世界接続は文字通り四つの世界が繋がってしまった“事件”のことで、その象徴とされているものが、青蘭島上空にある各世界へと繋がる三つの(ハイロゥ)です。その門自体は、各世界を象徴する色をしていて、ぼんやりとですが渦もまいています。また、その世界接続の影響で生まれたのがプログレスであり、αドライバーともされています」

 

「よし、さすが優等生。いい答えね。さっき説明が会った通り、世界接続とは……」

 

「へぇ、そう言うことだったのか~」

 

「お前、それぐらい知ってろよ」

 

「いやぁ~、オレ頭使うのは苦手でさ」

 

はははと乾いた笑いをするキリトに少し呆れた。

まぁ、実際にここに来てから世界接続について詳しく知ったという奴は多いので何も言わなかった。

 

「さて、それじゃあ、今度は各世界についてそれぞれの代表者に説明してもらおうかしらね。ついでに、世界水晶がどのように管理されているのかも説明してもらいましょう」

 

また、無茶苦茶なことを言い出した環先生にクラスのみんながブーイングを始めた。

 

「まぁ、この世界についてはあまり説明しなくても大丈夫ね。何せ自分たちが住んでいるところですもんね」

 

確かに、四つの世界の中心としてプログレスおよびαドライバーの育成機関は俺たちのいる青の世界《地球》で、世界水晶も学園の地下にあるって話だからな。

 

「それじゃ、まずはソフィーナさん。黒の世界についてお願いね」

 

「はい。黒の世界《闇に眠る黒姫の柩(ダークネス・エンブレイス)》は、常に闇に覆われていて、空には血のように赤い月が浮かんでいます。魔法や錬金術が発達し、それらが日常生活に根付いていたり、魔女や悪魔が住んでいる世界です。世界水晶は女王の居城で管理されています」

 

「うん。いい答えね。それじゃ次は、アウロラさん。赤の世界についてお願いね」

 

「はい。赤の世界《テラ・ルビリ・アウロラ》では、天使の子や妖精が住んでいて、金色の海にプレート状の大地が浮かぶ、明るさに満ちた世界と言われています。その世界で7人の女神たちが統治、世界水晶の管理をして、祈りが人々の原動力とされています」

 

「どうもありがとうね。それじゃ最後は、セニアさん。白の世界についてお願いね」

 

「はい。白の世界《システム=ホワイト=エグマ》、通称《SWE》は科学が発達した高度な文明を持つ世界で、そこを統治するシステム『E.G.M.A.』によって、人工生命体やアンドロイド、機械生物が開発されています。世界水晶もE.G.M.A.が管理しています」

 

「はい。以上が四つの世界についてね」

 

「……意外と深いんだな」

 

「いや、基礎知識だろ」

 

またしてもキリトの無知っぷりが露わになった。

こいつ本当に勉強をしないやつだな。

 

「後話すことは……プログレスとαドライバーについてね。じゃ、誰に説明してもらおうかしらね」

 

環先生が、クラスのみんなを見渡して、ある一人と目を合わせた。

キリトだった。

 

「それじゃキリサキくん、説明お願いね」

 

「わかりません!」

 

パァン!!

と盛大に何かが炸裂いた音と共に、立ち上がったキリトが後ろに倒れ込む音が聞こえた。

音の原因は、キリトの額に直撃したチョークだった。

勿論そのチョークを投げたのは、教卓にいる環先生本人である。

 

「まったく、こっちに来る前に参考書は渡したはずなのに……。なら、代わりに日向さん。お願いできる?」

 

「あ、はい。え~っと、プログレスは異能(エクシード)に目覚めた十代の少女たちのことで、αドライバーはその力を引き出す人たちのことでーす」

 

「はい、模範的な答えをありがとう。でも、それじゃまだ合格点はあげられないわね。蒼薙くん、悪いんだけど補足お願いできる?」

 

また俺か、と言いたいがここで文句を言えば何をされるかわかったものではないので仕方なく補足説明することになった。

 

「まず、基本的なことは美海が話したとうりですが、それらは全て世界接続が起きたことによって劇的に出現してきたとされています。特にαドライバーも世界接続が原因とされていますが、主だった理由は未だに不明です。それに、プログレス自体も今まで確認されていた数が極少数だったため、その存在が知られていなかっただけで、存在自体はしていたとされています」

 

「さすがね。ありがとう。だけど、ひとつだけ忘れているわよ」

 

「忘れてるって何がですか?」

 

「N・αドライバーの説明よ」

 

その言葉に、少し驚いた。

確かにN・αドライバーはαドライバーの進化型とされているが、それとはまた別物である。

なんせ、N・αドライバーとはプログレスとαドライバー、両方の役割を持った存在で、プログレスのような異能を持ち、αドライバーのようにプログレスの力を引き出せるというとんでもなく希少性のある存在である。

それに、今確認されているのは俺だけのはずなので、説明も何もないはずである。

 

「まだ話していなかったけど、蒼薙くんとキリサキくん。いくら今年の高等部一年のαドライバーの数が少ないからって、このクラスが二人だけっていうのはおかしいと思わない?」

 

「……まさか」

 

「そのまさか。キリサキくんは、蒼薙くんに次いで発見されたN・αドライバーよ」

 

「へ、オレ?」

 

あまりに衝撃的なことに、クラスのみんなが唖然としているなか、キリトだけは気の抜けた声で疑問符を頭に浮かべていた。

 

「まぁ、話すべきことは話したし、この時間の授業はここまでね。ちなみに、午後はブルームングバトルの実践授業があるから、忘れず遅れずにね」

 

ある意味、新たな波乱の予感を思わせる授業になってしまった。

 




誤字脱字がございましたら、ご報告お願いします。

感想も、気楽にどうぞ。

また、やってもらいたいシナリオやストーリー等がございましたら、感想の方にお書きください。
可能な限り書いてみます。


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キリトの好物と初実践実習

「まさか、キリトくんまでエヌドラなんて、私驚いちゃったよ」

 

昼休みになり、学園のカフェテラスで昼食をとる俺たちは、朝一の授業のときの話で盛り上がっていた。

因みに、エヌドラとはN・αドライバーの略で、αドライバーの略はアルドラである。

 

「いやぁ、オレも驚いたわ。まさか自分がそんなやつだなんて知りもしないしな」

 

うんうん、と頷いているキリトである。

 

「てか、お前生徒証持ってんだろ?」

 

「生徒証?……あぁ!これね」

 

キリトが取り出したのは、青蘭学園に通う生徒ならば必ず持っている学生証と呼ばれるカードのようなものである。

このカードには、名前や生年月日、出身世界や顔写真、在学証明の判が押されていたりする。縁には出身世界に合わせて色が変わっており、さらにはICカードとしての機能もある。金さえ入れておけば島中どこでも使用できるというものであり、このカード一枚で島在住者であることの証明にもつながっている。

ただし、一年ごとに更新しなくてはいけないため、ある意味大変貴重なものである。

そしてこのカードには一つ、とあるものを証明する項目がある。

 

「ある意味謎だったんだよね、αドライバーなのにNがついてるなんて」

 

そう。とある項目とはプログレスとαドライバー、どちらであるかという項目で、これは俺が入った次の学年から行われた。

種類にはプログレスのP、αドライバーのα、N・αドライバーのNαである。

 

「ほんと、あんたってバカよね。こんなのが最年少剣士とは思えないわ」

 

「バカは余計だろ、バカは」

 

「実際にバカでしょ!」

 

紅茶を飲みつつ、食後のケーキを堪能するソフィーナにバカ呼ばわりされるキリト。

実際に午前中の授業でその無知っぷりとバカさ加減は身を持って味わった。

 

二時限目、戦術論。

 

「それじゃ、ここはどのように対処すべきか、キリサキくん、答えてみて」

 

「そんなのは簡単です。正面突破です!」

 

「それだと即撃沈よ」

 

三時限目、科学

 

「では、この回路の構造について理解を深めるために実際に作ってみましょう」

 

ドカァァン!!

 

「ギャァァス!?」

 

四時限目、数学

 

「ここの問題は先ほど説明した公式を使用して解く。すると答えはどうなる、キリサキ?」

 

「√-36です!」

 

「それは6iな。答えも6√3で違う」

 

とまぁ、よくこんなことでここにこれたと思えるくらいバカだと思う。

戦術はほとんど正面突破のみ。科学では爆発するはずのないもので爆発。数学ではありえない方法で答えを導くと言った風だった。

 

「まったく、こんなやつだとは思ってもいなかったわ」

 

「ははは。そういえば、キリトくん、お昼大丈夫なの?」

 

「そういえば、先ほどから一人だけ何も食べていませんでしたね」

 

話が変わり、よくよく考えてみるとキリトは昼食だというのにもかかわらず何も食っていない。

 

「お前のことだから甘いもんでも食うのかと思ったが、いいのか?」

 

「大丈夫大丈夫。もう頼んであるから。準備に時間が掛かっているだけでしょ」

 

「そうなのか」

 

確かに何かを頼んでいる様子だったが、何を頼んでいるかまでは知らない。

そんな時、カフェテラスの店員が何かを運んできた。

それを見た俺たちだけでなく、周りにいた他の生徒や遠目に見ている生徒でさえ、それを見て絶句していた。

 

「お、お待たせしました。ジャンボパフェDX、Verキリサキです」

 

「お、来た来た」

 

運んできた店員でさえ驚くそれは、特大どころの問題ではないパフェだった。

なんせ、受け皿が盥である。

きちんと消毒までされている盥は光沢を帯びて、輝いていたが、その中のものは異質である。

そこには、大量の生クリームに多種多様なソースや果物、様々な種類のアイスクリームまである。その底にはこれでもかというくらいにシリアルやスポンジケーキ、アイスクリームや生クリームが目に見えた。

おそらくこれだけでも全種類見えているわけではないだろう。

あまりの量に、見ているこちらが胸やけしそうである。

実際に、周りからの視線がすごい上に、写真を撮っているものまでいる。

おそらく青蘭島の掲示板には今頃、このパフェの話題で持ちきりになっているだろう。

何故なら、このパフェはここのカフェテリアでしか出ないもので、本来出てくるものはこれの半分で、それでさえ未だに誰も一人で完食した者は居らず、今では一人で頼もうとするやつは年に片手で数えるほどである。

だというのにもかかわらず、これである。

美海も、写真を撮っただけで、それ以上は何もできそうになかった。

他のみんなも、笑顔を浮かべているように見えて、額から汗を流している。

アンドロイドのセニアでさえ、現実から目を背けようとしているのだから。

そんなこんなしているうちに、みるみる量は減っていき、いつの間にか半分になっていた。

 

「「「って、速いでしょ!?」」」

 

「えぇ~、普通だよ普通」

 

その言葉に、周りがどよめいていた。

あれが普通だと!?私だって無理よ、あんなの。私だって無理だよ。一日一食で済みそう。

などという言葉が飛びかってきた。

確かに、これが普通なら、俺たちの普通はどうなるんだよ。

そして、ものの十数分で超巨大パフェはキリトの胃の中へと消えて行った。

後で美海の携帯で掲示板を見せてもらったが、案の定パフェの話題で持ちきりだっただけでなく、その話題が始まってから五時間が経っても続いている状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食時のパフェ事件?を終え、オレはレイジ達と共に実践授業が行われるコロシアム地下の練習場に集まっていた。

少しすると、担任の安堂が呼びかけを始めた。

 

「はい、注目!みんな集まっているわね。それじゃ、ブルーミングバトルの実践授業を始めるわよ」

 

「ブルーミングバトル?」

 

「お前、そんなことも知らねぇのかよ」

 

隣にいたレイジが呆れたように溜め息を吐いていた。

失礼な、べ、別に知らないわけじゃないんだからね。

 

「キモいからやめろ」

 

ナチュラルに心を読まれた。

で、そんなことは置いとくとして……

 

「ブルーミングバトルって、何なんだ?」

 

「はぁ、ブルーミングバトルっていうのは――」

 

「ブルーミングバトルは青蘭学園内で行われる、プログレス同士の模擬戦闘のことで、最大4人のプログレスが、それぞれ一対一のフィールドを形成して戦う、いわばスポーツみたいなものだよ」

 

レイジが説明しようとした瞬間に、後ろから別の誰かが説明してきた。

美海やソフィーナ達ではないのは声で分かった。

振り返るとそこには、金髪を左側のサイドポニーでまとめた少女がいた。

腰には何故かホルスターとリボルバー拳銃があった。

 

「あれ?琉花じゃん。どうしたんだ?」

 

「ヤッホ、レイジ。噂の新入生を見に来たところだよ。さっき掲示板でいろいろと見たしね」

 

何か、親しげに話をする二人をよそに、若干蚊帳の外気味になった俺である。

 

「なぁ、レイジ。こいつ誰?」

 

「ん?あぁ。こいつは那月琉花。去年同じクラスだった友人だよ」

 

「はじめまして、那月琉花だよ。気楽に琉花って呼んでくれ」

 

「あ、どうも。シズト・キリサキだ。よろしく」

 

「うん。よろしく、“キリト”くん」

 

「……どこでその名前を?」

 

「レイジから聞いた」

 

「お前、何やってくれてんだよ!」

 

「アッハハ、別に俺は何もやっていないぞ」

 

オレがレイジの胸倉を掴んで振り回したが、軽く笑うだけで流された。

まさか、ここまでオレの黒歴史が掘り返されるとは思わなかった。

 

「フフフ、やっぱり聞いた通り、面白いね、キミ」

 

「あれ?琉花ちゃんだ。どうしたの?」

 

「あぁ、美海か。なに、ここにいるキリトって人を見に来ただけだよ」

 

「へぇ、物好きね。こんなやつを見に来るなんて」

 

「一応噂はあるからね。レイジに次ぐ二人目のエヌドラだって。掲示板もすごかったしね」

 

レイジを相手にしている隙に、みんなが集まっていた。

すると案の定、声が飛んできた。

 

「はい、そこ。もう少し静かにしなさい。まったく、話をしたいなら説明が終わってからにしなさい」

 

「「「「「すみませんでした」」」」」

 

「よろしい。それじゃ、今回は他のクラスとも合同だから、いろいろな人と組んでみなさい。登録してあるチームメンバーがいる場合は、そちらを優先して構わないわよ」

 

安堂の言葉が終わるとともに、みんなが話始めた。

 

「なぁ、今から何が始まるんだ?」

 

「練習するためのチームを決めるんですよ」

 

「チーム?」

 

「ブルーミングバトルは、αドライバーに対しプログレスが最大4人。それを一チームと考えています」

 

「つまりは、そのチームを決めろって言ったんだよ」

 

「なるほど……。ちなみに、登録ってのは何のこと?」

 

「登録は、学園側に申請してある公式のチームのこと。いろいろなイベントや大会なんかが行なわれるときは、必ずそのチームで参加しなきゃいけないけどね」

 

そんな制度があるとは、なかなか侮れないな、青蘭学園。

ふと、その時、ある疑問が思い浮かんだ。

 

「レイジはもう、チーム登録してあるのか?」

 

「あぁ、してあるぞ。因みにメンバーはこいつらだ」

 

そうして指さした方には、美海、ソフィーナ、アウロラ、セニアがいた。

 

「それだとオレ、チーム組めないじゃん!」

 

「別に無理に知り合いと組めとは言ってないだろ」

 

「知り合いじゃないと訳が分からないだろ!」

 

「なら、あたしと組む?」

 

そう声を掛けてきたのは琉花だった。

 

「琉花さん。有難い話ではありますが、チームって決まっているのでわ?」

 

「決まってないよ。今までに組んだチームはどうも合わなくてね。抜けてきているんだ」

 

なるほど。

チームを登録してあるという事は、抜けることも可能という訳だ。

 

「それじゃ、お願いしてもいいですか?」

 

「うん。構わないよ」

 

「なら、初戦は俺たちとやるか?いろいろとわからないことがあるだろうし、教えてやるよ」

 

「あぁ、たの……」

 

「日向美海!」

 

オレの言葉を遮って、誰かがこちらに声を掛けてきた。

 

「今日こそ、この間の雪辱を晴らしてあげるわ!相手しなさい!」

 

「そうだ、蒼薙。この前のは調子がいまいち悪かっただけだ。今度こそお前を叩き潰してやる」

 

「うわ、また来たよ」

 

「あんまりしつこくされるとこっちも気が滅入っちゃうね」

 

声を掛けてきたのは、クラスでは見ていない女子、つまりは別のクラスの女子なのだろう。

ずいぶんと二人に因縁を向けているようだった。

 

「あの二人、誰?」

 

「さぁ、ずいぶん前からレイジと美海にちょっかいかけているみたいだけど、正直バカだよ」

 

「何でさ?」

 

「それは後で話してあげるよ」

 

琉花から話を聞こうとしたが、先にこっちをどうにかしなければいけないみたいだった。

 

「あら、なら最初はあなたたちがやるの?ほかの子たちはまだ決まっていないみたいだし、初戦のデモンストレーションにはいいでしょう。では、両チームステージに来て」

 

安堂が仕切って、ブルーミングバトルが進められていった。

相手側は、ヤル気満々なのに対し、レイジ達はアウロラとセニアを除いて面倒くさそうにしていた。

 

「まぁ、彼女たちがバカな理由がわかるから、見てなよ。ついでに少し解説してあげるから」

 

「あぁ、よろしく」

 

「それでは、ブルーミングバトル、始め!」

 

安堂が合図を出すとともに、ブザーが鳴った。

 




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ブルーミングバトル

開始の合図と同時に、それを報せるブザーが鳴った。

 

「「αフィールド、展開(セット・アップ)!」」

 

レイジと相手のαドライバーを中心にダイヤ型の半透明な何かがフィールドを包んだ。

 

「一気にたたみかけるわよ!」

 

相手側のリーダー格の女子が一直線に美海に向かって行った。

そして、振り下ろされた拳は、普通の人間と比べても強力そうだった。

 

「話は聞いていたけど……。なるほど、肉体強化系のエクシードみたいだね」

 

「おいおい、大丈夫なのか?」

 

「別に。むしろ心配なのは相手側だよ。こんなところでボロ負けするんだから」

 

「あれ、それ確定なの?」

 

「確定だよ。何せ、相手がレイジ達だからね」

 

目の前で行われているブルーミングバトルは一層激しくなりそうだった。

 

「あー、もう、いい加減ちょこまか逃げるのやめなさい!」

 

「え~、でもこうしろってレイジくんが……」

 

「美海。無駄口叩くなよ」

 

「クソ、ちょろちょろと避けやがって。正々堂々闘え!」

 

「あら?戦ってるじゃない。こうやるのだって戦略の一つよ」

 

「なんだよ、当たらねぇじゃんか」

 

「この。この!」

 

「あらあら」

 

美海は攻撃をひたすら避け続け、ソフィーナも時折炎を出して反撃しているが、ほとんど牽制程度である。アウロラは、持ち前の天然さから二人を相手に攻撃をひたすら避け続けていた。

というより……

 

「相手のチーム、統制が出来てないな。肉弾戦しかしてないし」

 

「そうだね。相手のαドライバーもレイジしか見ていないから、周りの状況が見えていないし」

 

この中で、唯一戦っていないセニアは、先ほどから何かを待っているかのごとくレイジの近くで待機している。

 

「まぁ、先に解説をしておくよ。まずブルーミングバトルの勝敗についてだけど、プログレス全員が戦闘不能、またはαドライバーがフィールドを維持できなくなったら終了。特例こそあるけど、基本はそんなところだよ」

 

「へぇ。……そういえば、よく聞くリンクってのはどんなんだ?」

 

「あ、それに関しては……」

 

「ちょっと、こっちにリンクしなさいよ!」

 

「わ、わかった。エクシード・リンク!」

 

相手側のαドライバーからリーダー格の女子に何かが繋がり、力を強化しているように見えた。

 

「見えたみたいだね。あれがリンク。タイミングは好きな時にできるし、回数制限もない。タイミングが命なのは変わらないけどね」

 

琉花の解説を聞いていると、なかなか興味深かった。

その内、大きく戦況が変わった。

あるタイミングで、レイジが動いたのだ。

その直前に、琉花が話始めた。

 

「プログレスが受けるダメージは全部αドライバーにフィードバックされる。と言っても、バトルが終われば傷もなくなるけどね」

 

「うわ、何それ、すごく嫌なんだが」

 

「だけど仕方がないよ。そういうシステムだからね。っと、レイジ達が動くみたいだね。さっき言った相手がボロ負けする理由を教えてあげるよ」

 

「ぜひ、頼む」

 

「去年度の学末試験でのブルーミングバトルの成績なんだけど。彼らはね――」

 

「セニア、エクシード・リンク!」

 

「了解です。マスター」

 

レイジとセニアとの間で何かが繋がった。

それと同時に、別の指示を出していた。

 

「美海、ソフィーナ、アウロラ、飛ばせ!」

 

「わかったよ!」

 

「了解!」

 

「わかりました」

 

三人が、相手チームを一か所に集めるように攻撃した。

 

「キャァ」

 

「グアァ」

 

「今だ!セニア」

 

「了解。……ロックオン、バースト」

 

いつの間にかセニアの周りには数機のビットとバズーカのような銃を両手に持ち、一斉に発射した。

 

「――見事に優勝。現段階において、高等部一年の中では最強のチームで、学園全体でも上位に食い込むチームだからだよ」

 

そして、セニアの攻撃が相手に直撃するや否や、大・爆・発。

勝負が決まったことを報せるブザーが鳴った。

 

「ブルーミングバトル、終了。勝者、レイジチーム」

 

周りからは拍手が起きた。

それに対し、レイジ達は手を振って応えていた。

 

「どう、面白かった?」

 

「あぁ、最高に面白いね。まさか、こっちでできた友がラスボスとは、腕が鳴るね」

 

「あ、そっち」

 

キリトが一種の戦闘狂であることを理解した琉花だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

デモンストレーションのブルーミングバトルが終わり、キリトと琉花がいるところに戻った。

 

「すげぇな。あれがブルーミングバトルか……」

 

「あんなのは簡単だ。てか、今回は全然だしな」

 

「まぁ、確かにね。あんなに弱いんじゃね」

 

「あはは……」

 

俺とソフィーナのそんな言葉に美海は苦笑していた。

すると、すぐ近くから誰かが声を掛けながわ近づいてきた。

 

「ソッフィーーーナーー!!」

 

「キャッ!?って、ちょ!?リゼ!?」

 

「すごかったねぇ、さっきのバトル」

 

「あんなのでいちいち驚いてるんじゃないわよ。というか、どさくさに紛れて抱き着かないで!」

 

現れたのは、ソフィーナの友達と称するリゼリッタだった。

 

「……誰?」

 

「あいつはリゼリッタ。おまえと同じ黒出身で、ソフィーナの友達らしい」

 

一様顔見知りだけどなとキリトに説明したわいいが、ソフィーナに抱き着いたリゼリッタのスキンシップが少しずつ過激になっている気がした。

 

「ひゃッ!?ちょ、どこまさぐってるのよ!」

 

「フッフッフ、ここか?ここがえぇのか?」

 

完全に変態親父と化していた。

そして五分もしたころには

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「ふー。すっきりした」

 

「なにですっきりしてんだよ!」

 

顔を赤くし、肩で息をしながら床に突っ伏すソフィーナ。

額の汗を払う様な仕草をしながら、どこかすっきりした顔をしたリゼリッタ。

それに思わず俺がツッコミを入れた。

 

「そういえば、何しに来たの?」

 

「あ、忘れてた」

 

「忘れるなよ」

 

美海の質問で本来の目的がソフィーナではないのはわかったが、本来の目的自体を忘れるほどソフィーナを弄りたかったみたいである。

 

「いやー、噂のキリトくんを見に来たんだけど……誰?」

 

「それならそこに……って、琉花、あいつどこ行った?」

 

「彼ならあそこにいるよ。ほら」

 

琉花が指さした方を見ると、膝を抱えながら座り込んで、明らかに落ち込んでいますといったオーラを放っているキリトがいた。

 

「……なんでこうなるかなぁ。オレにだって若かりし頃の過ちっているのがあるだろ。それをみんなでよってたかってキリトキリトって言ってさ。挙句、オレの噂にまで名前じゃなくてキリトって呼ばれるようになってさ。なんでこうなるかなぁ。オレだって……」

 

ぶつぶつとそんなことを言っているキリトに、みんなが苦笑したり、呆れたりしていた。

 

「ほら、あなたたち。授業中なの忘れていないでしょうね?」

 

「忘れてませんよ」

 

「なら、蒼薙くんはキリサキくんにレクチャーしてあげてね」

 

「わかりましたよ。はぁ、めんどくせぇ」

 

そう言いつつも、キリトのところに向かった。

近づいて気づいたが、こいつは一体過去にどれだけのことをやらかしたらここまでなるんだと思うほどに落ち込んでいた。

 

「しゃーなしか」

 

そう呟いてキリトの近くで屈んだ俺は、キリトに聞こえる程度の声であることを言った。

そのあることとは

 

「お、何故かあんなところに串団子が百本もある」

 

「どこじゃあ!!甘味はどこじゃあ!!」

 

甘味があると言うだけ。

それだけでこの通り、何時ものキリトに戻った。

それ以上な気もするがな。

 

「レイジ!どこだ?甘味はどこだ!」

 

「ここにあると思うか?」

 

「ま、まさか!?オレ、騙されたのか?」

 

「むしろあれでよく気づかなかったな?」

 

キリトが今度は膝から崩れ落ちた。

そこまで落ち込むことか?

 

「まぁ、キリトくん。今我慢すれば放課後に甘味めぐりに行けるんだからね」

 

「それもそうだよな!」

 

「うぉ!?復活はや」

 

琉花の一言で、キリトが瞬時に復活した。

とりあえず、キリトが復活したので、ブルーミングバトルのレクチャーをしながら、いろいろなことを教えて行った。

いや、いくら優等生呼ばわりされていてもできないこともあるから。

まぁ、そこは仕方がない。

かと言って、まさか高等部一学年第一位のチームだからって、先生たちすら助言してこないのはどうかと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。

事件は起きた。

 

「さて、HR始めるわね。と言っても、連絡事項はないんだけれども、決めてもらわなきゃいけない事があるのよね」

 

クラス全員が何のことかわからずざわめいた。

そんな中、環先生は不敵な笑みを浮かべながら零弐とキリトの方を見た。

 

「決めてもらうのは簡単よ。クラス委員長を決めてもらうだけだから」

 

クラスの大半の人があぁ、なるほどと納得した。

 

「それで、このクラスはαドライバーが二人しかいないから、どうせならその二人のどっちかにやってもらおうと思うのだけど?どっちかやりたい?」

 

「「キリト(零弐)がいいと思います!」」

 

二人して、勢いよく立ち上がり、それぞれを指さした。

そしてそのまま、何故か睨み合いに入った。

 

「キリトくんよぉ。君は黒の世界の女王に依頼されるほどの実力者だろ?なら、クラス委員長位できるだろ?」

 

「何を言っているんだい?レイジくんはオレよりも長くここにいる上、優等生で学年第一位のチームのαドライバーだろ?なら、零弐の方が適任だろ?」

 

バチバチと火花が飛びかい、零弐の前の席にいる美海が冷汗を掻きながら慌てふためいていた。

 

「しょうがないわね。あなたたち、ブルーミングバトルで決着をつけなさい」

 

「「……はいぃ!?」」

 

こうして何故か、キリトの初めてのブルーミングバトルの相手は零弐となった。

 




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キリトくんのお仲間探し その1

青蘭学園にあるカフェテリア。

そこでオレは、とある人物と密会していた。

無論、甘味を取りながら。

 

「と、いう訳なんですよ」

 

「なるほどねぇ。にしても、レイジとブルーミングバトルか」

 

授業後に連絡先を教えて貰った琉花にクラス委員長を決めるのにブルーミングバトルをするという話をした。

しかも、期間は三日後である。

そして、少し考えた琉花が

 

「……まぁ、勝つのは無理だね」

 

その言葉を聞き、額をテーブルに打ちつけた。

 

「って、あぶなッ!」

 

その衝撃で注文しておいたチョコレートパフェ五個、苺パフェ三個、マンゴーパフェ三個、チョコバナナパフェ二個、ドラゴンフルーツパフェ一個、それぞれが容器ごと倒れそうになったのを寸前で止めた。

ふっ、甘味を無駄にするのは、オレが許さん!

 

「……噂には聞いていたけど、これはすごいね」

 

琉花が横に視線を向けたので、オレもそちらを向いた。

そこには、オレが特に意識もせずに積み重ねたパフェの容器やケーキの皿などが積み重なっていた。

その数はおよそ二十ほど。

 

「まだまだ行けるだろ」

 

「……」

 

何故だか知らないけど琉花が口を少し開けて呆然としていた。

 

「それよりどうするかな。プログレス」

 

「……はぁ、いいよ。やってあげるよ」

 

「え!?マジで!」

 

「そこまで露骨に言われたら断り辛いでしょ」

 

まぁ、確かに今の言い方ではやってくれと言っているようなものだった。

気をつけないといけないな。

 

「でも、琉花はいいのか?オレと組んで?」

 

「前まではいろんな人と組んでみてたけど、どうも相性が合わなくてね。これといった人がいなかったんだよ」

 

「へぇ、意外だな」

 

「プログレスとリンクするだけでも相性っていうのはあるからね。下手に合わないとリンクすることすらできないから」

 

「フム。なるほどなるほど」

 

「それで、今日の実践授業で君と組んでみて気づいたんだ。今までで一番いい相性かなってね」

 

「それじゃ、これからもオレと組んで言ってくれるってことか!?」

 

「そこまでは言っていないよ。けど、今度の試合で決めるかもね」

 

「よっしゃ!これで一人確保……とは言ってもまだ三人もいるんだよなぁ」

 

「そうだねぇ」

 

オレと琉花が二人してテーブルに肘をつきながら考え始めた。

 

「あ」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「良さそうなのが一人いた」

 

「え?マジで?」

 

「と言っても、本人が了承するかだからねぇ」

 

「それでも話をしないよりはした方がいいだろう!……あ、すみません。パフェ追加でお願いします。……という訳で、すぐに案内頼む」

 

「まさか案内頼まれる前に追加注文されるとは思っていなかったよ」

 

嬉々と追加したパフェを食べるキリトを零弐が見たらおそらくこう言っているだろう。

 

「あいつ、絶対脳に糖分いってないよな」

 

ともかく、オレと琉花のお仲間探しが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「……で、その良さそうなやつってのはどこにいるんでしょうか?」

 

「たぶんこのあたりにいると思うけど……」

 

あの後、さらに追加しようとしたキリトに対して、さすがにキレた琉花の制裁で、仲間探しが始まった。

キリトが若干敬語なのに対して、琉花は特に気に留めた様子もなかった。

むしろ、キリトが水浸しなのに対しては、気に留めるつもりもないみたいだった。

 

「お~い、ウェンディ~。ど~こ~」

 

「いや、さすがにそれで出てくるとは思えないんだけど」

 

琉花が大声で、ウェンディと言う人物の名前を呼んだが、生憎とそれらしい人物は出てこない。

 

「てか、そのウェンディってどんなやつなんだ?」

 

「そうだなぁ……黒の世界出身の魔女で、獣耳を生やした女の子」

 

「は?」

 

「後、何時もオドオドしていて、からかいがいがあるかな」

 

「……大丈夫なのか?そいつ」

 

「大丈夫大丈夫。学末ブルーミングバトル試験で一緒のチームだったしね」

 

「まぁ、当の本人を見つけない限りは意味がなさそうだけどな」

 

と、言ったのはいいが探し始めて一時間が経ってみると……。

 

「何所にもいねぇじゃん!」

 

「あれ~、どこ行ったんだろ?」

 

もはやどこにいるのか皆目見当がつかなくなっていた。

唯、さっきから気になっていることがある。

 

「何故さっきっからあんまり場所移動してないんだ?」

 

そう。

探し始めてからというもの、探している範囲がいろいろな校舎と校舎の間を延々と探しているのである。

 

「だって、大体この辺りににいるし」

 

「それがいねぇんじゃん!」

 

ここまで探しても見つからないとなると、やっぱり他のところにいるんじゃないのかと思いだした時だった。

オレたちが丁度探していた頭上で鴉が数羽わめいていた。

正確には、オレたちの頭上にある太い木の枝の上にある何かに向かって鳴いたりして威嚇しているようだった。

 

「はわわわわ」

 

何やらそこから女の子の声が聞こえてきた。

そして次の瞬間、ズルッ、と何かが滑る音がした。

 

「きゃわぁぁぁぁ!?」

 

何かが滑ってから、悲鳴と共に何かが降ってきた。

それを見た俺は、こんなことを思った。

 

――空から女の子が降ってくると思うだろうか?――

 

マンガや映画の導入であれば、それは不思議なことが起こるプロローグ。

自分が正義の味方になって、悪と戦う。

はたまた、壮大な大冒険の始まり。

そしてそのまま、降ってきた女の子と仲良くなっていく。

普通はそんなことを考えるだろう。

しかし、オレは知っている。

既に物語が始まっていることを。

女の子が降ってきても、正義の味方になるわけでも、大冒険が始まるわけでもないことを。

だからこそ、降ってきたときはすでに別のことを考えていた。

何故なら、降って来た女の子がすでに目の前まで迫ってきたのだから。

普段のオレならば辛うじて避けることが出来ただろう。

だが今は、ほとんど意識しないで行動していた。

つまり、気づいたときには時すでに遅かった。

 

(あぁ、零弐みたいになるんだな)

 

一度聞いたことがある零弐と美海の交通事故?について。

それはもう、悲惨なものらしい。

それが今、自分に降り注いだ。

説明文にしたら簡単だろう。

女の子が目の前に降ってきた。

そのまま顔面に直撃した。

足を滑らせて、頭が下に来た。

その勢いのまま地面に頭が埋まった。

無論、その時には首や後頭部から嫌な音が聞こえたのは言うまでもない。

 

「って、キリトくんッ!?」

 

黒の剣士 シズト・キリサキことキリト 死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、勝手に殺すなぁぁぁ!!」

 

「あ、復活した。さっすがキリトくん!」

 

「心配されていなかった!?」

 

どこからか、オレが殺されたような言い方が聞こえてきて、怒りに任せて起き上った。

さすがに琉花でも心配しているのかと思ったら、復活してさも当然のような態度だった。

そんな琉花の後ろで隠れている存在に気付いた。

 

「琉花さん。もしかしてそいつが……」

 

「そ、ウェンディだよ」

 

「あ、あの、さっきはすみませんでした!体のほうは、大丈夫ですか?」

 

「伊達に鍛えてはいなかったから大丈夫だとおも……」

 

「キリトくんなら、レイジとブルーミングバトルをやれるくらいだから、大丈夫だよ」

 

「……う、って琉花さん!?何を怪我がなくてさも当然のように言っているんですか!?」

 

「え?実際に怪我してないじゃん」

 

さ、さすがにそこを突かれると何も言い返せない。

レイジも美海との交通事故?後は特に怪我はしていないらしいし……。

はっ!?まさか……。

 

「まさか、エヌドラなら怪我を軽減できる力があるのか!?」

 

「いや、ないでしょ」

 

琉花にバッサリと切られた。

そんな……バカな!?

 

「くだらないこと考えているようなら、また水鉄砲で撃つよ」

 

それは勘弁してほしいから、仕方なく本題に戻すことにした。

 

「それで、ウェンディだったっけ?」

 

「は、はい。わたしなんかにいったい何の用ですか?」

 

本当にビクビクしている様子を見て少し不安になったが、背に腹は代えられない。

 

「単刀直入に聞くけど、オレのプログレスになってほしい」

 

「ふぇっ!?」

 

「あちゃー。やっぱり言ったよ」

 

ん?俺、何か間違えたか?

 

「キリトくん。それ、意識せずに言っているでしょ」

 

「そりゃねぇ。実際にそうしてほしいわけだし」

 

「ふぇぇぇ!?」

 

何故かさっきから、ウェンディが顔を赤くしながら悲鳴を上げていた。

 

「あのね、キリトくん。今のセリフなんだけどさ」

 

「……何か間違ってた?」

 

「ある意味間違いじゃないんだけどさ。今のセリフ、ここだと完全にプロポーズだよ」

 

え?今、なんて言った?

 

「琉花さん。もう一度お願いします」

 

「今のセリフは、ここだとプロポーズになるんだよ」

 

「はぁぁぁぁいぃぃぃぃ!?」

 

「やっちまったな!!」

 

「誰だ、今の!?」

 

どこからともなく声が聞こえたが、声が聞こえたのは空から。

無論、誰もいない。

それはともかく、詳しく話を聞いたところ、青蘭島でプログレスが集められてからしばらくして、初めてのαドライバーが、のちに結ばれることになったプログレスに言った言葉で、プロポーズでもあるということで、今でもその話にもじって、告白やプロポーズではその言葉が使われているらしい。

因みに、逆の場合は『私のαドライバーになって』らしい。

それでウェンディが赤くなって悲鳴を上げたという。

 

「まぁ、とりあえずオレのチームに入ってほしいって意味ということで、一つお願いします」

 

「それは、わかりました。け、けど、なんでわたしなんか選んだんですか?もっとすごい人はいると思うんですけど」

 

「琉花に紹介されたから」

 

「そ、そうですか」

 

その一言に、何故かがっかりされた。

琉花もため息をついていた。

 

「それに、とりあえず四人集めないとまともに戦えないからな」

 

「さっきから思ったんですが、誰と戦うんですか?」

 

「レイジだよ。蒼薙零弐」

 

それを聞いたウェンディは固まった。

そして、フルフルと震えだしたと思ったら、悲鳴を上げた。

 

「無理ですぅぅぅぅぅ!レイジさんと戦うなんて無理ですぅぅぅぅぅ!」

 

「はいはい、落ち着いてね」

 

一目散に逃げようとしたのを琉花が止めてくれた。

何故逃げる?

 

「た、確かにレイジさんは優しい人なのは知っていますけど、あの人のチームと戦うなんて、わたしじゃ足手まといになるだけですぅぅ!」

 

何故ここまで拒否をするのか、さっぱりわからない。

そういう顔で琉花のほうを見たら説明してくれた。

 

「実はね、学末ブルーミングバトル試験で最後にレイジたちと当ったんだけど、最後の最後でウェンディが失敗しちゃって負けちゃったんだ。それで責任を感じているのと同時に、自分なんてって思っちゃっているってわけ」

 

「なるほど、そんなことが……」

 

地面に座って、涙目でフルフル震えるウェンディを見た。

どうやら、そのことは相当心に残っているみたいだった。

 

「なぁ、ウェンディ」

 

「な、何ですかぁ?」

 

「オレには、お前の力が必要なんだよ」

 

ウェンディの前に座って、話を始めた。

 

「このままだと、戦う前に負けちゃう。それはオレのプライド的に嫌なんだよ」

 

「でしたら、わたし以外の人を誘えばいいじゃないですか」

 

「オレには、お前が、必要なんだよ。もし、何か失敗しても、それはチームでの失敗だ。お前ひとりの責任じゃない」

 

ウェンディの肩に手を置きながら、促した。

 

「お前の力は、オレが使いこなしてやる。だから、俺のチームに入ってくれ」

 

いつになく真剣な顔をしているキリトに、琉花は意外そうに、そして自分の友達に勇気を上げてくれることに感謝し、どこか少しだけ不機嫌そうにしていた。

因みに、この時のキリトとウェンディの心の中を見てみると、こうである。

 

(ここで、一人でも多く仲間を確保しておかないと、オレの甘味を摂る時間が無くなってしまう!)

 

(わたしのことをここまで考えてくれるなんて……。この人なら、もしかして……)

 

正直、天と地ほどの差がある。

それくらい考えていることが違いすぎていた。

やはりキリトはバカだった。

 

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「そっしゃ!よろしく頼む!」

 

こうして、キリトは二人の仲間を手に入れた。

残りあと二人。

 




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キリトくんのお仲間探し その2

ウェンディが仲間になった次の日。

この日もまた、カフェテラスにいったん集まって話し合いをしていた。

 

「で、あと二人だけど、誰かいい奴いねぇかな」

 

「そうだねぇ。誰かいたっけ?」

 

今回は、ウェンディも加わっているが、何故かさっきから目を白黒させていた。

 

「あ、あの、琉花ちゃん」

 

「ん?どうしたの?」

 

「これ見て、何とも思わないの?」

 

ウェンディの言うこれとは、いつもの俺の目の前にあるものだろう。

今回はジャンボパフェが三種類鎮座していた。

 

「「これぐらい普通じゃないの?」」

 

「普通なの!?」

 

オレにとっては普通だが、琉花もついにそれがわかってくれたか。

とキリトは思っているが、実際に琉花だけじゃなく、零弐や美海などほかの人たちもキリトにとって、それが普通だと理解して、諦めたための反応である。

 

「それよりどうすんだよ」

 

「そうだね。さすがにあたしたちほどの人材はそうはいないし、キリトくんと相性が合う人となると本当に限られているしね」

 

う~ん、と唸りながら考えた。

だけど、ここにきて数日のオレと一年は経っているだろう琉花では、そう言った方の情報量では、琉花の方が多い上、交友関係からして違いが大きい。

その琉花ですらお手上げだと、オレが考えても何も考えは出てこない。

オレにできるのは、テーブルの上にある甘味を食うことだけである。

 

「あ、あの~」

 

「どうしたの?ウェンディ」

 

「実は、一つだけ心当たりがあるんだけど……」

 

「え?一体誰?」

 

「了承してくれるかわからないんだけど……」

 

取り合えずウェンディの話を聞いて、その人物の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェンディに案内されて連れてこられた場所は、木々が多い茂った人気の少ない場所だった。

 

「へぇ、こんなところがあったんだ」

 

「えっと、この間見つけた場所なんだけど……」

 

「つまり、その時にその人と知り合ったという訳ね」

 

「そ、そう言うことです」

 

「でも、本当にこんなところにいるのか?」

 

ウェンディの話だと、よくここにいてあることをしているという話らしい。

すると、どこからか心地のいい優しい声が聞こえてきた。

それは歌だった。

声のする方にオレたちは足を向けてみると、声の聞こえてきた場所は少し奥まった場所だった。

そこでオレたちが見たものは、とてもきれいで、幻想的ともいえる姿だった。

 

「……ふぅ。あれ?ウェンディ、何でいるの?ってあなたたちは……」

 

「おまえがルビーか?」

 

「そうよ。で、あなたたちは誰?」

 

「俺はシズト・キリサキ」

 

「あたしは那月琉花」

 

そう。

オレたちが探していたのは、目の前にいる赤の世界出身の妖精、ルビー。

ルビー自身の実力は知らないが、学園が調べているエクシードのランキングには上位に組み込んでいるという。

それでオレのチームに入ってくれれば、レイジ達への対策も今以上にとれる。

 

「で、一体何のようなの?」

 

「じ、実は……」

 

「ここにいるキリトくんが今度レイジとブルーミングバトルをすることになって、メンバーを探しているんだ」

 

「なるほどね。つまり、ウェンディかどっかでアタシの話を聞いて、チームに入れようと思ってきたわけね」

 

そう言ったルビーがオレを測るように隅々まで見てきた。

な、なんだよ。

 

「ふ~ん。あんたが噂のキリトねぇ」

 

あぁ、もう諦めよう。

どうやら、オレの名前は既にキリトで浸透しているみたいで、やめさせることはできそうにないだろう。

 

「ま、別にいいわよ。合わなかったらやめるだけだし」

 

「それじゃあ……」

 

「だけど、条件があるわ」

 

条件?

まぁ、可能な限りなら大丈夫だろう。

が、この時オレの考えが甘いという事が身に染みた。

甘味好きだけに。

 

「あんた、アタシの奴隷になりなさい!」

 

……ん?

 

「……ん?」

 

「だから、アタシの奴隷になりなさい」

 

は?え?何で奴隷?

あまりに唐突なことで、理解の範疇を越えていた。

たぶんレイジなら大丈夫だったろうが、オレには無理だ。

あぁぁぁ!脳の!脳内の甘味が!糖分がぁぁ!

頭を抱えて、降り乱れていると突然笑い声が聞こえてきた。

 

「ぷ、ハハハ!」

 

「え?なに?」

 

「まさか、こんな簡単に引っ掛かった上に、レイジの言った通りになるなんて!アハハハ!お腹痛い!」

 

なに突然!?なんでレイジの名前まで出てきてんの!?

 

「キリトくん、大丈夫?」

 

「何が起きてるのか、オレの理解を越えているんだが……」

 

「あぁ、それなら大丈夫だよ。キリトくんは騙されただけだから」

 

「騙……された?」

 

ま、まさか、このオレがそんなことされるとは……。

 

「因みに、このことはレイジから提案されただけだから」

 

「あのヤロォ!今度、甘味の海に沈めてやるぅぅ!!」

 

「な、何かすごく白々しい感じがします」

 

「ま、そんなどうでもいいことは置いといて」

 

なんだろう。オレの扱いが酷い気がする。

 

「チームに入る本当の条件はね、パフェ奢って」

 

「……そんなんでいいの?」

 

「いいわよ、別に。お試し期間みたいなもんだから」

 

「なるほど。じゃあ、さっそくカフェテラスに……」

 

「待った」

 

さっそく甘味を取りに向かおうとしたら、後ろから襟首を持たれて、止められた。

 

「いきなり何すんだ!首が絞まっただろ!」

 

「そりゃ絞めようとしたからね。それと、誰がカフェテラスのって言った?」

 

「は?じゃあ、何所のだよ?」

 

「いいわ。案内してあげる」

 

そう言って、ルビーは宙に浮かびながらどこかに向かった。

オレたちもその後を追うと、学園の外の街に来た。

途中で琉花がどこに向かっているのかわかったのか、終始ニヤニヤしていた。

 

「ここよ」

 

「ここって……」

 

付いた場所は、喫茶店『ぶるーみん』という店だった。

ここでは今時では珍しい木製の喫茶店らしい。

とりあえず、ここが目的の場所だという事でルビーを先頭に、琉花、オレ、ウェンディの順に店に入っていった。

そして、そこで目にしたものは……。

 

「いらっしゃい……ま……せ」

 

ルビーにオレをだますように情報を流した、今度のブルーミングバトルの対戦相手であるレイジだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

厄日だ。

まさに厄日だ。

後々、そう思った。

いつもと変わらない喫茶店『ぶるーみん』でのバイト。

もともとはセニアを引き取ったときに、感情を、人としての心を育てるために試行錯誤していたときに始めたものだった。

青蘭学園を卒業している元αドライバーの店長の計らいで働かせてもらってかれこれ一年近く経つが、常連客の美海やソフィーナ、学園の生徒がよく来るここでのバイトは少し大変な時があるが、俺の日常の一つとなってきている。

唯、この時ほど大変だと思った日はない。

この日はたまたま人手が足りなくなり、急遽店に来ていた美海とソフィーナのどちらかに手伝ってもらうことにして、美海が手伝ってくれることになった。

こういう風にたまに人手が足りない時に助けてもらうこともある。

そして、何時も通りに働いていると新しい客が来店してきた。

来店客はルビーで、ここにはよく来る常連客の一人でもある。

その後には珍しい組み合わせの琉花が姿を見せた。

そこで俺は、嫌な予感がした。

 

「いらっしゃい……ま……せ」

 

そして、その嫌な予感は的中した。

琉花の後に現れたのは、キリトだった。

その姿を捉えた瞬間に、俺のとった行動は……。

 

「総員!第一種接客準備(せんとうはいび)!美海!」

 

「は、はい!」

 

「休憩してるやつら、全員たたき起こして来い!持ち場に付かせろ!」

 

「わ、わかったよ!」

 

「セニア!買い出し班を編成させて、早急に五十人前の材料の調達に向かうように伝令!」

 

「了解です。マスター」

 

突然のことで、一部の客が驚いていたが、一部はキリトの姿を見て納得していた。

特にソフィーナはルビーが入ってきたところから見ていたので、驚きはしなかったようだ。

唯、キリトの後ろから入ってきたであろうウェンディとか言った少女は、俺の声に驚いていた。

 

「ふぅ。……四名様でよろしいでしょうか?」

 

「今のやり取りをなかったことにしようとしてるけど、無理あるよ」

 

「すみませんがただいま満席なので、相席でもよろしいでしょうか?」

 

琉花のそんなツッコミは聞かなかったことにした。

何せ、この店にキリトが来たんだから仕方がない。

 

「ま、いいんじゃない。案内して」

 

「かしこまりました」

 

「れ、レイジくん!みんな呼んできたよ!」

 

「あぁ、サンキュウ美海。お冷三つ追加で」

 

「わかったよ。どこに持っていけばいい?」

 

「ソフィーナのところに案内すっから、そこに頼む」

 

「うん、わかった」

 

「一ついいか?レイジ」

 

「何だ?キリト」

 

「何で水を三つしか追加しなかったんだ?オレたちは四人で来ただろ」

 

その言葉に、俺は思わず溜め息を吐いた。

 

「なぁ、キリト。……お前に水はいらねぇだろ」

 

直後、両手を握り合い、額をぶつけ合いながら競り合いが始まった。

 

「オレが甘味だけで生きている様なやつみたいに言うんじゃねぇよ」

 

「何言ってんだ。会ってこれまでおまえが糖分以外を取っているところなんて見た事ねぇよ」

 

「水分だってとってんだろ。毎回食事してる時に」

 

「それは糖分入りの飲料の間違いだろ」

 

互いに歯ぎしりしそうな勢いで牽制し合った。

ブルーミングバトルをやると決まってから、大体がこんな感じで威嚇し合っている。

 

「……まぁ、と言うのは冗談で、お前用のを用意してやっからそれまで待ってろ」

 

「お、そうか。悪いな」

 

まぁ、結局は最後には何もなかったような状態に戻るが。

取り合えず、四人を席に案内した。

 

「ソフィーナ。悪いが相席頼む」

 

「いいわよ。さすがに私もこれだけ客がいても話し相手がいなかったらつまらないもの」

 

「ねぇねぇ、ソフィーナ」

 

「琉花。いきなりどうしたのよ?」

 

「ソフィーナってやっぱり、ボッチ?」

 

「ボッチじゃないわよ!」

 

顔を赤くしながら否定するソフィーナだが、さっきの発言は完全にボッチ発言である。

 

「お冷持ってきたよぉ」

 

そのタイミングで美海がお盆にお冷とおしぼりを持って来た。

そのまま立たせているのもなんなので、とりあえず席に座らせた。

 

「それじゃ、俺はキリトの分作ってくるから、美海は注文取っておいてくれ」

 

「うん、わかったよ任せておいて」

 

そう言い残して、俺は厨房の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

レイジが厨房の方に何かを用意しに向かってから、私はキリトたちに質問した。

 

「それにしても、よくここに来ようと思ったわね」

 

「アタシが連れて来たのよ。ここは知る人ぞ知る店だからね」

 

「そうかしら?基本的にあまり人は来ないけどね」

 

「そういうのを、知る人ぞ知るお店って言えるんじゃないですか?」

 

「そうとも言い切れないでしょ」

 

そんなことを言いながら紅茶を口に含んでいると、琉花が得物を見つけたような目をした。

 

「な、何よ?」

 

「別にぃ。そういえば美海はここの常連だったよね」

 

「うん。常連だよ。だいたいソフィーナちゃんとかと一緒に来ることが多いかな?」

 

「それって、どれくらいの頻度で来るの?」

 

「う~ん。私は来る時は週に二日か三日くらいかな。あまり行かないときは行かないけど、ソフィーナちゃんは週に三日か四日来てるって話だけど」

 

琉花が美海にそんなことを聞いているけど、正直質問の意図がわからない。

まぁ、私にはあまり関係なさそうだけど。

 

「へぇ~。それってさ、大抵レイジがシフトの時じゃない?」

 

「ブフゥ!?」

 

その言葉を聞いた瞬間に、思わず紅茶を吹いてしまった。

 

「あれあれ?ソフィーナ、どうかしたの?顔が真っ赤だよ」

 

「ゲホ、ケホ。あ、あんたわざとやってるでしょ?」

 

「さぁ、何のことだろね?」

 

琉花のニヤニヤした顔がムカつくが、さすがにここで手を出すわけにはいかない。

店にも迷惑が掛かる上、自分でさっきの言葉を認めるようなものだからだ。

 

「あ、あの~。すみません」

 

「あれ、どうしたの?注文?」

 

「い、いえ、注文ではなくて……」

 

こんな状態の時に、何故かマイペースに注文を聞こうとする美海。

だけど、ウェンディが何かを伝えようとしているのがわかった。

 

「どうかしたの?できれば早急に済ませてもらいたいわね」

 

「えっと、その……」

 

「見ればわかるわよ。ほら、そこ」

 

ウェンディの代わりに、ルビーが答えてきた。

ただし、ルビーの指差した方は悲惨だった。

 

「「……」」

 

まったく気づかなかったが、私の吹いた紅茶を被ったキリトがいた。

 

「わわわ、キリトくん。大丈夫!」

 

「美海、急いで拭くものを!」

 

「わ、わかったよ!」

 

「まったく、ソフィーナもやるねぇ」

 

「元はあんたが原因でしょ!」

 

「さぁ、何のことだろうね」

 

私の言葉に白を切る琉花。

正直腹立たしい。

 

「布巾、持って来たよぉ。って、きゃあ」

 

戻ってきた美海は、持っていたお盆に大量の布巾を乗せて走ってきた。

そしてまたもや、事故が起きた。

紅茶が床にまで跳んでいたのだろう。

それに足を滑らせて、美海が転んだ。それも盛大に。

もともと、美海は出会ったころからドジなところが多かった。

エクシードの制御がうまくいかずに、能力が過剰に発動したり。

唯の葉っぱに足を取られて転んだり。

今でも続いているのが、遅刻寸前で窓からの特攻。

そんな美海も最近はそんなことは収まったと思ったが、まさかこんなところでしでかすとは。

転んだ美海の手がお盆から少し離れ、慌てた美海がなんとか縁を掴むことが出来た。

 

「よ、よか……」

 

ガァンと言う音と共に、美海の持っていたお盆は、キリトの脳天に叩きつけられた。

正直に言うと、かなり痛そうである。

 

「わぁあ!?ご、ゴメン!キリトくん」

 

「あ、あぁ、大丈夫、大丈夫」

 

「大丈夫には見えないわよ」

 

「何やってんだ?おまえら」

 

そこに、キリト用に作ったお冷を持ったレイジが現れた。

詳しい事情を話して、キリトも被った紅茶を拭いていった。

 

「なるほどな。さすがにこんなことになったんじゃ、しょうがねぁか。今回は俺がおごってやっから、好きなの食え」

 

その言葉にキリトたちは喜んでいたが、あまり私としては喜べなかった。

原因はともかく、こうなったのは私の所為でもあるからだ。

 

「だけど、ブルーミングバトルは負けねぇぞ。キリト」

 

「は、望む所だ」

 

とまぁ、とりあえずはパフェを食べられたことで、ルビーはキリトのチームに一時的に入ることにしたらしいし、お店の方も事なきを得たようだった。

ただ、まさかセニアに補充させた分以上にパフェを食べられただけでなく、後日レイジのバイト代が半分以下になっていたと嘆いていたので、バイト代の四分の一を弁償金として渡したのは、別の話である。

 




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キリトくんのお仲間探し その3

ルビーが仲間になった次の日。

この日もまた、カフェテラスにいったん集まって話し合いをしていた。

無論、甘味を取りながら。

既に見慣れてきて、キリトの摂る甘味の量に何かを諦めたウェンディ。

何故か知らないが、すでにその量に順応したルビーだった。

 

「……後一人か」

 

「後一人だね」

 

「後一人って言うけど、三人じゃだめなの?」

 

「普通の相手ならそうしてるけど、相手がレイジなのが問題なんだよ」

 

「って、琉花が言うから……って!何食ってんだよ!?」

 

「別にいいでしょ。これだけあるんだから、ケチケチしない」

 

まさか、オレに気づかれずにパフェを口にしているとは、こいつやるな。

 

「でも、本当に後一人どうしよう。レイジさんが相手だとやっぱり……」

 

「だろうな。あいつ、強いからな」

 

「「「……」」」

 

「な、なんだよ?」

 

「いや、まさかキリトくんがそんな素直なこと言うなんて」

 

「思っていませんでした」

 

「むしろよくわかったわね」

 

「なんだよ!これでもオレ強いんだぞ!」

 

忘れられているかもしれないけど、オレは一応黒の世界では名の知れた実力のある剣士だったんだぞ。

 

「まぁ、レイジは相当強いのは知れていることだしね」

 

「確かにね。でないと学年一位なんてならないよ」

 

「そうですね」

 

おそらく琉花たちがいっているのは、αドライバーとしてのレイジの実力だろう。

確かに、頭がいい上に様々な状況に臨機応変に対応するし、いろいろな策をいくつも用意しているらしい。

だけど、オレの感じるものはあいつ自身の強さである。

サシで戦えば、たぶん互角か向こうの方が強い。

それほどの強さを感じる。

だけど、オレも負けるつもりはない。

 

「でだ、最後の一人なんだが……」

 

「一応、心当たりがないわけじゃないわよ」

 

「マジで!?」

 

「マジよ。案内してあげようか?」

 

「頼む!」

 

ルビーの案内の元、その心当たりの人物のところに向かった。

 

「なんだろう。すごくデジャブな感じがする」

 

琉花さんよ、それは勘違いだ……たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルビーに案内された先は、学園にあるブルーミングバトルの練習用地下フィールドの一角。

放課後という事もあり、練習に来ている生徒も数多くいた。

 

「で、その心当たりの人物は何所にいるんだ?」

 

「ほら、あそこにいるでしょ」

 

ルビーの指差した方を見てみると、何故かものすごい速度でラッシュを加えて模擬戦の相手と思われるプログレス四人とαドライバーを吹っ飛ばした人物がいた。

 

「まだなのです。まだダメなのです!テルルが姉だと証明するには、まだ力が足りないのです!」

 

なんかものすごいことを言っている奴がいた。

なんかものすごいことをやらかしている奴がいた。

え?なにあれ?何で一人で人チームと闘ってんの?

しかもただ勝つんじゃなくて、全員吹っ飛ばしてるんだけど。

 

「えぇっと……なにあれ?」

 

「テルル。正確には、コードΣ52テルル」

 

「そう言うこと聞いているんじゃないんだけど!?」

 

確かに戦力にはなりそうだけど、何か違くない!?

 

「む。何か強そうな人の気配が……。テルルが姉であると証明するために、勝負させてもらうのです!」

 

「あ、なんか突っ込んできたよ」

 

げ、マジだ。

どうしよう!?

 

「快く死になさい」

 

「ふざけんな!認められるか!」

 

「勝負なのです!」

 

口論している間に、目の前まで来ていた。

そしてそこからのラッシュラッシュラッシュ。

そしてこちらも躱す躱す躱す。

 

「へぇ、あのラッシュを避けるなんて、やるわね」

 

「うん。確かにね」

 

「そ、そんなこと言っている場合じゃないですよぉ。き、キリトさん、お手伝いします!」

 

「あ、ウェンディはやらないほうが――」

 

「はぁぁ、えぇぇい!」

 

ウェンディの掛け声とともに、杖が振り下ろされた。

なにが起きるのか少し期待していたのに、何も起きなかった。

と思った瞬間に、背後で爆発が起きた。

その勢いに押されて、テルルと言う人物の方に押されるような形になった。

そして、それがいけなかった。

 

「うぉぉ!?ブゥッ!」

 

テルルと言う人物のラッシュが止んでいたわけもなく、そのままその拳に顔面が直撃。

爆発の威力が高かったからか、そのままの勢いで殴られた。

普通殴られれば後ろに跳ぶものなのに、爆発の勢いが勝っていたせいか、前に押し出され、殴られたことで頭が後ろに押されて体が回転するようになった。

そのまま後頭部を床に強打。

勢いのついたまま前方に飛ばされて後頭部を擦り、脳天を打ち、盛大に回転しながら壁に叩きつけられた。

ここに来てから最高ダメージを受けた気がする。

 

「あわわわ。キリトさん!ごめんなさい!」

 

「はぁ、言わんこっちゃない」

 

「ま、大丈夫でしょ。あれぐらい」

 

す、少しは心配してほしい。

そう心で思いながら目の前が真っ暗になった。

黒の剣士 シズト・キリサキことキリト 再び死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、また勝手に殺すな!」

 

「あ、復活した」

 

「だけど前よりは時間が掛かっているけどね」

 

「復活しただけでもいいじゃないですかぁ」

 

「お前ら、オレのこと心配してくれているんじゃないの!?」

 

「「ソンナコトナイヨォ」」

 

琉花とルビーが明らかに棒読み口調でそう言ってきた。

オレって、何なんだろう?

 

「で、テルルは何所に行った?」

 

「相変わらず、あっちで変わらず戦っているわよ」

 

再びルビーの指差す方ではテルルが猛威を振るっていた。

周りの生徒たちも近寄りがたい様子である。

 

「どうするの?このまま諦めるの?」

 

「いや、それは性に合わねぇな」

 

「でも、さっき負けたじゃない」

 

「いや、むしろあれは仕方ないだろう!」

 

「ご、ごめんなさぁい!」

 

まぁ、とりあえずテルルを諦めるとなると、他を探さなくてはいけなくなる。

当てがない今、明日の対戦までに見つけるのは相当苦労するだろう。

しかもそれは見つからないという可能性が高い状況である。

つまりそれは、オレの甘味を摂る時間が激減することを意味する。

 

「そんなことはさせねぇ!絶対にあいつを仲間に引き入れてやる!」

 

「うん。何かすごくいいこと言っているはずなのに、その中身は激しくどうでもいい理由な気がするよ」

 

そこは突っ込んでほしくなかった。

 

「ま、それがキリトくんだしね」

 

「そんじゃ、リベンジと行きますか!」

 

「え?あんたが戦うの?」

 

「え?違うの?」

 

正直、そういう流れかと思っていた。

するとなぜか琉花とルビーに呆れられた。

 

「あんた、明日ブルーミングバトルやるって言っていたけど、実際のところリンクできるの?」

 

「そりゃできるさ!……たぶん」

 

「たぶんじゃまずいと思うんですけど……」

 

「一応授業で基礎はやったけど実戦ではまだまだな感じだったからねぇ」

 

確かに、レイジにリンクのやり方は教わったが、結局まともに成功はできなかった。

一応、腕は悪くないが、何分集中力やらなんやらが足りないという事らしい。

 

「なら、ここでもう一回復習しておく?」

 

「レイジに勝つには、それも必要なんだよな?」

 

「そりゃね。出来るの前提じゃないと話にならないわよ」

 

「なら、やってやるよ!」

 

これも甘味のため!そしてついでに打倒レイジのため!

 

「また変なこと考えているみたいだけど、まぁいいや」

 

あの~、琉花さん。最近オレの心を読むこと多くないですか?

 

「そんなことはないよ。ま、とりあえず復習からだね」

 

「流された。しかも地味に心読まれて!」

 

「まずはリンクについてから復習し直そうか?」

 

「……はい。そうですね」

 

水鉄砲を構えながら笑みを浮かべてそんなことを言われたら、逆らえない。

これは仕方のないことだ。

 

「まずはリンクの復習として、リンクはどういった行為かは覚えている?」

 

「リンクは確か……プログレスのエクシードをαドライバーが強化するんだったっけ」

 

「そう。正確にはプログレスとαドライバーでしか確認されていない脳波をシンクロさせることで、エクシードの真価を発揮させるものなんだけどね」

 

「つまりは、プログレスが必殺技を出したりするときに使うもののことをリンクっていうのよ」

 

「ほ、他にも、必殺技だけじゃなくて、常時リンクしていることで能力が強化されたりするんですぅ」

 

琉花の説明にルビーとウェンディが補足を加えてきた。

因みに、常時リンクしている方法はレイジがよく取る方法らしい。

なるほど。レイジが言っていたのはこのことだったのか。

正直、あまり聞いていなかったからよくわからなかったが、今ならなんとなくわかった。

 

「それじゃ、今度は実際にリンクしてみようか」

 

「じゃあ、相手は……」

 

「初見で慣れているあたしでいいよ」

 

そう言って琉花がオレの前に立った。

 

「目を閉じて集中して。それから、感じてみて。あたしたちが持っている、それぞれの特徴を持っている異能(エクシード)を」

 

琉花の指示に従って、目を閉じる。

そして神経を集中してみると、何かを感じられるようになった。

ここまでは前回もできた。

だが、前回よりも強く感じることが出来るようになった。

おそらくウェンディとルビーを仲間にしたことが関係しているだろう……たぶん。

 

「感じることは出来てるみたいだね。でも、前はリンクできなかった。たぶんそれはイメージが出来ていないんだと思う」

 

「イメージ?」

 

「そう。リンクは同調すること。繋がること。解釈は人それぞれなんだけど、そこから必要になるのは、イメージすること」

 

なるほど。レイジが前に足りないって言っていたのはこのことか。

 

「因みに、レイジがリンクするときのイメージは波紋だって言っていたよ。みんなの波紋を感じて、その波に合わせるんだって」

 

ふ~ん。波紋ね。

ある意味あいつらしいと思う。

 

「復習はこれで終わり。後は、キリトくん次第だよ」

 

それなら、オレは電気……いや、電波が合うだろう。

感じろ。感じるんだ。

神経を集中させていくと、確かに感じることが出来た。

部屋全体に広がる電波。

その中に感じる、琉花、ウェンディ、ルビーの電波。

そして、琉花の電波と波長を少しずつ合わせて行った。

 

「そうだよ。今はゆっくりでいいよ。一度リンクすれば後はすぐに出来るんだから」

 

拳を顔の前に構えるようにすると、その拳が熱くなり、力を貯めているように感じると同時に、琉花との繋がりを感じていけた。

その繋がりが完全となった。

 

「エクシード・リンク!」

 

そして、お決まりの台詞と同時に琉花と完全にリンクをすることが出来た。

 

「すごい。やっぱりあたしの考えは間違っていなかったみたいだね」

 

琉花を中心に風が巻き起こった。

 

「ふ~ん。なかなかなものね」

 

「す、すごいです」

 

ウェンディとルビーもオレと琉花のリンクに驚いていたようだった。

ルビーはそれほどだったが。

 

「これなら、やれる!やい、テルル!さっきの借り、返させてもらうぜ!」

 

「む、いいのですよ。また任せてやるのです!」

 

その言葉と一緒に、テルルが突撃をかましてきた。

 

「αフィールド、展開(セットアップ)!」

 

そして俺も、その言葉と一緒にダイヤ型の半透明なフィールドが形成された。

 

「一気に決めるよ!キリトくん」

 

「任せろ!エクシード・リンク!」

 

「無駄なのです!そんなことをしても、テルルには勝てないのです!」

 

振りかぶられた拳が、琉花に向かってとんできた。

が、琉花はそれをいとも容易く避けてみせた。

 

「無駄なんてことはないよ。これがプログレスとαドライバーの本来の力なんだからね!」

 

刹那、琉花の構えた銃が火、否水を噴いた。

その攻撃によって、テルルは正面からまともに受け、フィールドの外まで飛ばされた。

もともと一人だけで形成したαフィールドはそこまで広くない。

と、レイジが言っていた。

吹き飛んだテルルに近寄っていっても、起き上がる気配を見せなかった。

すぐ近くで見たら、どうやら泣いているようだった。

 

「負け、たのです。これじゃあ、テルルが、姉だと証明できないのです」

 

「別に強いだけが、姉ってことはないわよ」

 

「そんなことはないのです!強くなくちゃいけないのです!」

 

ルビーの言葉にテルルは反発した。

確かにそういう考え方もあるか。

オレの甘味のように。

 

「いや、それは違うよ」

 

「バカな!?またオレの考えが読まれただと!?」

 

「口に出てただけですけど……」

 

そんな、オレの甘味衝動はついに口に出すくらいにまでなってしまったのか!

 

「そんなバカなこと考えているより、やることがあるんでしょ」

 

そういえばそうだった。

今回はテルルを仲間にするためにここに来たんだった。

 

「なぁ、テルルよ。強さを証明したいんだったら、オレのチームに入らないか?」

 

「何故、それで強さを証明できるのです?」

 

「実は、明日レイジとブルーミングバトルをやるんだけどよ。後一人メンバーが欲しいんだ。それによ、レイジのチームはオレたちの学年だと一位だって言うじゃん。それに勝てば、おまえの強さも証明できるんじゃないか?」

 

その言葉に、テルルは何故かキョトンとしたが、すぐに気合の入った顔になった。

 

「……いいのです。いいのです!それでこそ、テルルが姉だと証明できる絶好のチャンスなのです!」

 

「それじゃ、オレのチームに入ってくれるかな?」

 

「いいとも!なのです」

 

こうして、オレのチームの最後の一人が決定した。

これで明日は、レイジをぶっ倒す。

 

「そうと決まったら、さっそくみんなで特訓なのです!」

 

「そこまでは求めてねぇよ!」

 

まぁ、先の思いやられるチームとなったが。

 




誤字脱字がございましたら、ご報告お願いします。

感想も、気楽にどうぞ。

参戦キャラ、タグ等の意見もお待ちしています。

次はついに、零弐対キリトの話です。


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零弐VSキリト 前篇

執筆に時間が掛かって遅れてしまいました。

不定期とはいえ、もう少し早く仕上げられると思っていましたが、意外と忙しくて進みませんでした。

具体的には、授業とか、バイトとか、アンジュの大会とか。

とりあえずお楽しみください。


ついにこの時が来た。

おそらく、学末試験のブルーミングバトル以来、本気で戦うことになるであろう機会が。

ブルーミングバトル専用会場『コロシアム』控室。

そこで俺、美海、ソフィーナ、アウロラ、セニアは最後の作戦会議を終えた。

対戦相手はキリトのチーム。

即席で作ったとはいえ、公開されている互いのチーム情報から、そのチームメンバーは琉花、ウェンディ、ルビー、テルルと実力の高いメンバーが出そろってきた。

しかも、午前中のリンク率適性試験では、誰もがキリトとのリンク率が高かった。

侮れない。

 

「なに緊張してるのよ、らしくないわね」

 

「別に緊張しているわけじゃないさ。ただな……」

 

「ただ、何よ?」

 

「ただ、キリトのセンスが問題なんだよ」

 

「キリトくんのセンス?そんなにスゴイの?」

 

美海が?を出しながら首を傾げていた。

 

「美海がバカなのは今に始まった事じゃないが……」

 

「今、さらっとバカにしなかった!」

 

「美海の頭が残念なのは今に始まった事じゃないでしょ。それより、キリトのセンスってどういうことよ?」

 

「ソフィーナちゃんもひどい!」

 

美海が何か喚いているが、今は気にしない。

 

「キリトの、あいつのリンクのセンスは相当だ。おそらく、俺たちの持っている隠し玉のいくつかはできるくらいにはな」

 

「そんな!ありえないわよ!さすがにあの隠し玉は昨日今日リンクが出来るようになった奴にできる芸当じゃないわ!」

 

「そこが問題だって言ったんだ。奴のセンスからして、たぶん即席でも組める可能性を考慮しなきゃいけない」

 

「そんなに凄かったんですか?」

 

「データ上はそこまでではないのですが」

 

「確信はない。ただ、感じただけだ。だけど、俺の勘はよく当たるからよ」

 

そう、俺の勘は人一倍鋭い。

それはここにいるメンバーは知っている。

その実績もだ。

 

「ま、今回はさすがにないだろうから、このままで行こう」

 

「そうだね。私たちを導いてね。レイジくん」

 

「いつもみたいに期待しているわよ。レイジ」

 

「何時も通りよろしくお願いします。レイジさん」

 

「よろしくお願いします。マスター」

 

「あぁ、そうだな。さ、何時も通り勝ちに行くぜ!」

 

そう言って俺たちは、控室を出た。

が、出た直後で、驚くような光景が目に入ってきた。

 

『さぁ、いよいよ対戦チームがコロシアムに入場してまいりました!』

 

「何でこんなに人が集まってんだぁ!?」

 

会場となっているコロシアムの観客席はほぼ満席。

さらには、普通のブルームングバトルではありえない司会と解説がいた。

丁度反対の入り口からキリトたちも現れ、コロシアムの現状に驚いていた。

 

「おぉ、すげぇ!これだけ集まるってことは、相当期待されてるんだな、オレ!」

 

いや、一人例外(バカ)がいるようだ。

まぁ、このままではブルーミングバトルが始まるわけでもないので、フィールドの中央に向かった。

 

『いやぁ、楽しみですね。今回の対戦は学園初のエヌドラ対エヌドラ。何所が見所ですかねぇ?解説の教頭先生』

 

『そうですねぇ。高等部一年最強の名を持つ零弐チームと期待の新入生のキリトチーム。やはりここは、キリトチームが零弐チームにどれだけ喰いつけるかですねぇ』

 

「「「って、何であんたがそこにいるんだよ(のよ)(の)!?」」」

 

解説席にいた人物に俺、ソフィーナ、琉花が思わずツッコミを入れた。

その人物は教頭で、イベントごとがあればその都度姿を見せるか、自分でイベントを起こす。

まさかと思ったが、今回も絡んでくるとは思わなかった。

教頭に付き合わされて散々な目にあったからな。

 

「そろそろ始めるのだけど……いいかしら?」

 

「あれはいいのかよ!?」

 

「今に始まった事じゃないでしょう」

 

解説席を指さしながら審判の環先生に抗議したら、あっさり切り捨てられた。

まぁ、あの教頭がこんなことするのは今に始まった事じゃないのは確かだ。

 

「それでは、零弐チーム対キリトチームのブルーミングバトルを始めます。審判は私、安堂環が勤めます。両チーム、位置について」

 

指示に従って、俺とキリトのチームは審判である環先生を挟んで並んだ。

目の前にはキリトがいて、やる気に満ちているのがわかる。

 

「やっとこの時が来たな。キリト」

 

「あぁ、この三日間が待ち遠しかったぜ」

 

「お話はあとでね、簡単にルール確認をするわよ。ルールは通常のブルーミングバトルと同様で、αドライバーがフィールドの展開、または戦闘継続が不可能になった時点で終了とするわ。今回からちょっとした特例があるけど、通常のバトルと変わりはないわ」

 

今回からの特例とは、事前に聞いていたあれのことだろう。

まぁ、素人が相手ならそんな事態にはならなかっただろうが、キリトが相手だとわからない。

準備だけはしておこう思いながら、自身の左手に触れた。

 

「両チーム、位置についてください」

 

それぞれフィールドの両サイドに決められたαドライバー用の場所に立ち、プログレスたちも自身のαドライバーのいるフィールド側の位置に着いた。

環先生が位置に着いたのを確認して、合図を出した。

 

「それでは、ブルーミングバトル、始め!」

 

「「αフィールド、展開(セット・アップ)!」」

 

開始と同時にフィールドが展開され、バトルが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いが、先手はもら―――」

 

「ソフィーナ、エクシード・リンク!」

 

先手を取ろうとしたキリトだったが、それよりも先にレイジが動いた。

 

「悪いけど、私たちは負けるつもりなんて、……一切ないわよ!」

 

ソフィーナの魔術による炎が、キリトたちに向かって行った。

しかも、リンクをしたことで威力が格段に上がっていた。

 

「させないよ。キリトくん!」

 

「オーライ、エクシード・リンク!」

 

が、それが届く直前で大量の水が炎を飲み込むようにして消し去った。

 

「なッ!?」

 

「甘いよ。前の時のあたしたちだと思わないことだね」

 

「だよなぁ。まぁ、こっちとしても全力出せるっていうのは有難いがな」

 

「それはこっちの台詞だぜ、レイジ」

 

そう言ったキリトは、徐にメガネを外してポケットに入れた。

 

「悪いがこっから先は、おまえの敗北への一方通行だ!」

 

「やれるもんなら、やってみろ!ド素人!」

 

レイジが感じたのは、キリトと初めて会った際のキレた状態。

キリトが感じたのは、今まであってきた様々な強敵。

それぞれがそれよりも強い気迫を感じていた。

それに合わせて、プログレスたちも緊張が走っていた。

 

「(とは言っても、さすがレイジ。いきなりリンクを使うなんてな。ただ、あまり強いリンクじゃなさそうだし……。ってことは、奥の手を隠しているな。しかも、普通のリンクを超えるくらいの)」

 

「(とは言ったものの、さすがキリトだな。昨日初めてリンクを成功させたっていうのに、あそこまで速くリンクさせるなんてな)」

 

さすがは両者ともに黒の世界随一の剣士に青蘭学園トップクラスである。

ほんの少しのやり取りだけで相手のことを大まかに推測した。

 

「アウロラ!」

 

「ルビー!」

 

「「エクシード・リンク!」」

 

「「はい(わかったわ)!」」

 

両者が推測からすぐに思考を切り替えて、行動を起こした。

それに応えるようにして、アウロラもルビーも動いた。

紅い炎と赤い炎が巻き起こり、ぶつかり合った。

 

「今だ、美海!突っ込め!」

 

「うん!わかったよ!」

 

事前に決めていた作戦で、アウロラの作った炎は渦のようになっていて、中心からキリトたちの方に空洞が伸びていた。

その中を美海が自身の異能(エクシード)風の支配者(ドミニオン・エア)』で風を纏いながら突進していった。

 

「ッ!テルル!」

 

「任せるのです!」

 

キリトもすぐさま迎撃に出た。

強大なジェネレーターを積んだテルルの出力は、近接挌闘ならばこのフィールドにいるプログレスたちの中ではトップである。

剣を突き出した美海と拳を突き出したテルルがぶつかり合った。

 

「せいッ!」

 

「きゃあ!?」

 

が、ぶつかった直後。

テルルは剣を掴みとり、反対の拳で攻撃した。

 

「グアァ!」

 

αフィールドによって、美海が受けたダメージがレイジの身体にフィードバックした。

だがそこはブルーミングバトル慣れしているレイジ。

その程度で倒れるようなことはない。

 

「み……うみッ!!」

 

「やぁ!」

 

「くぅ!」

 

美海は手の平に風の塊を作りだし、弾丸の如くそれをテルルに投げぶつけた。

それにより、テルルは後ろに飛ばされた。

 

「ガアァ!」

 

キリトも初めてαフィールドのフィードバックを受けたが、さすがに戦い慣れしているだけあり、それほどのダメージにはならなかった。

が、そうでもないことがある。

αフィールドのフィードバックは、プログレスが受けるダメージをαドライバーが受けるために遮断能力を持っている。

しかし美海は、その遮断能力を超えていたため、わずかだがテルルにダメージが入った。

とは言っても、先ほどの攻撃では微々たるもので、テルルはそれほどのダメージではなかった。

 

「セニア!テルルに追撃をかけろ!」

 

「了解です。マスター」

 

セニアはブルーミングバトル用にDr.ミハイルに造られたアンドロイド。

その実力は高く、レイジと一緒に闘ってからもその実力は上がってきている。

ビット兵器を空中に十、二十と展開し、一斉に掃射した。

 

「や、やらせません!」

 

とは言っても、さすがに簡単にやらせるわけもなく、セニアの攻撃をウェンディが防ぎにかかった。

 

「黒き旋風よ!」

 

ウェンディは基本的に魔法の成功率は低い。だいたい五回に一回程度である。

ただ、その一回を引き当てなくてもその規模や威力は相当高い。

が、失敗すれば自分たちにまで被害を及ぼすことも多い。

 

「ッ!?」

 

「や、やった!成功です」

 

ウェンディの起こした風は魔力を帯びており、セニアのビットから掃射されたビームを巻き上げた。

と思ったら、成功していたと思っていた筈の魔法は結局失敗だったのか、ビームは両者の上空に降り注ぐ形となった。

 

「ウェンディ!」

 

「ご、ゴメンなさ~い!」

 

降り注いで来ようとしているビームはまるで流星群の様だった。

 

「ッち、ソフィーナ!」

 

「なにかしら?」

 

「デカいのブチかますぞ。それで防ぐしかない。さすがにあの数はやばい」

 

「了解よ。それが最善ね」

 

レイジはすぐに意識を集中させた。

それを見たキリトも、迎撃に入った。

 

「琉花!」

 

「なに?」

 

「おまえもやれるだろ?」

 

「……もちろん!」

 

「じゃあ、行くぜ!」

 

キリトも意識を集中させた。

 

「「エクシード・リンク!」」

 

「っん」

 

「はっぁあ」

 

先ほどの即席の不完全なリンクとは違い、完全なリンク。

それに伴い、今までよりも強力な何かを周囲に感じさせていた。

ソフィーナの。

琉花の。

二人の強化された異能は、頭上のビームの流星群を防ぐべく放たれた。

 

炎狼の牙(ブレイズ・ファング)!」

 

水流弾(バレット・フロー)!」

 

放たれたそれらは狼の形をした炎が喰いちぎらんとばかりに、弾丸のような濁流が飲み込まんとばかりに、ビームの流星群に向かって行った。

衝突と同時に大爆発が起き、空中の黒煙が黒い雲のようになった。

 

「ッな!?」

 

しかしまたどうして、ビームの流星群はほとんど消えることなく降り注いできた。

 

「あれ、ほとんど減ってないよ!」

 

「ちょ!セニア、どんだけ撃ったのよ!」

 

「……いっぱいです」

 

小動物を思わせるように小さく首を傾げる。

 

「この、お馬鹿ぁぁぁ!!」

 

「おいおいおいおい!」

 

「はわわわわ」

 

「テルルが全部落としてやります!」

 

「無理よ。やめておきなさいって」

 

「あらあら」

 

「はぁ」

 

刹那。

ビームの流星群がフィールド全体に降り注いだ。

 




誤字脱字がございましたら、ご報告お願いします。

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短編的なものも考えているので、そちらで書いてほしいものがありましたら、一緒にどうぞ書いてください。


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零弐VSキリト 中篇

煙に包まれたフィールドを観客たちは緊迫した雰囲気で見守っていた。

そして、煙が晴れると同時に、その光景に驚きの声を上げていた。

フィールドでは、それぞれレイジとキリトを中心にプログレスたちが集まり、レイジ側ではソフィーナとアウロラが、キリト側では琉花とルビーが、手と、杖を、銃を掲げていた。

ギリギリのタイミングで両者はそれぞれ魔法を、祈りを、水流を利用して攻撃を凌いでいた。

 

「まったく……セニア!」

 

「はい」

 

完全に防ぎ終わったのを確認してから、ソフィーナが眉をピクピクさせながらセニアに詰め寄った。

 

「何であんなに撃ったのよ!いつもならあれの半分以下でしょ!」

 

「そうだよ。セニアちゃん」

 

「マスターの指示です」

 

「「レイジ(くん)の指示!?」」

 

セニアの言葉に途中で加わった美海も一緒に驚いてレイジの方を向いた。

 

「いやぁ、悪い悪い」

 

「大体なんでそんな指示したのよ?」

 

「レイジさんも考えなしに指示したわけではないのですよね?」

 

「まぁな」

 

レイジはいつになく真剣な表情をして、キリトたちを見据えた。

 

「まさか昨日今日でリンクを覚えたっていうのに、ここまでできるなんてな。正直予想以上だ」

 

「お褒めに与り光栄だな」

 

「……嫌みで言ったつもりなんだが」

 

「でもそれだけ実力を認めたってことだろ?」

 

「……そうだな。だったら、認めたついでに……」

 

レイジは片足を半歩下げ、意識を集中させた。

それに何かを感じたキリトも、構え直した。

 

「俺たちの本気を少しだけ見せてやるよ!美海、ソフィーナ!」

 

「うん!」

 

「えぇ!」

 

レイジの言葉と同時に二人が横並びになり、美海は剣を持った右手を、ソフィーナは左手を、それぞれの手が交差するような形で構えられた。

 

「エクシード・ダブルリンク!」

 

レイジが使用したそれは、通常のリンクよりも難しい技術であるダブルリンクだった。

リンクは本来、プログレスとαドライバーの脳波をシンクロさせるもの。

つまりは、同時に二人以上のプログレスとのリンクはできないことはないが、相当な技術が要求される理論上では可能な技術。

しかしそのためには、別々のプログレスに対し、別々の脳波をシンクロさせる必要がある。

それは本来であれば不可能ではないが不可能に近い。

にも拘らず、レイジはそれを平然とやってのけた。

それだけこの奥の手を使い慣れてきているという事である。

 

「いくよ、ソフィーナちゃん!」

 

「えぇ、何時でもいいわよ。美海」

 

美海の風が、ソフィーナの魔法の炎が、同時にキリトたちに向けて放たれた。

 

炎狼の風牙(ブレイジング・エア)

 

暴風のごとき風を纏った狼の形をした炎が、キリトたちを引き裂くかのように向かって行った。

 

「まずッ!」

 

琉花がいち早く反応して迎撃した。

が、撃ち出された水の弾丸は弾けるようにして消滅した。

 

「なッ!?」

 

「無駄よ。その程度じゃ防げないわ」

 

『炎狼の風牙』は風によって、酸素を絶やさず炎に供給し、外部からの攻撃を防ぐようにされている。

つまり、防ぐためにはその風を突破できるだけの力が必要になる。

 

「クソッ!どうすれば!」

 

「キ、キリトさん!わたしとリンクしてください!」

 

「ウェンディ!」

 

「わ、わたしがあれを止めてみせます!」

 

「……わかった。行くぞ!ウェンディ!」

 

「はい!」

 

「エクシード・リンク!」

 

「はぁぁ。やぁぁぁ!」

 

キリトとリンクしたウェンディの放った魔法は、失敗することなく、リンクしたことで通常よりも数段強化された状態で放たれた。

普通であれば二人分の、しかもどちらもリンクした状態での合体攻撃を防ぐのは一人では無理である。

が、失敗の確率が高い代わりに、成功しても失敗してもの威力が高いウェンディの魔法はリンクした状態でも十分に受け止めて、相殺するだけの威力を発揮した。

漆黒の風と風を纏った炎がぶつかり合い、爆風がフィールドを越え、観客席にまで吹き抜けた。

 

「まさか、受け止めてくるなんてな」

 

「やっぱりレイジの言う通り、強いわね」

 

「マスターの予想以上です」

 

「やるな、ウェンディ!ここまでとは思わなかったぜ!」

 

「い、いえ、それほどでも……」

 

「ここまで強いなんてね。私やアンバーお姉さまほどではないけど、やるわね」

 

レイジ達は迎撃されたことに対して予想以上の成果に驚かされ、キリトたちは逆に喜んでいた。

 

「なぁなぁ、琉花さん」

 

「どうかしたの?キリトくん」

 

「さっきのって、どういった原理?」

 

「さっきのっていうと、ダブルリンクのこと?あれは二人同時にリンクしただけだよ」

 

「へぇ~。二人同時ね……」

 

キリトが呟いた一言に、琉花は嫌な予感を感じた。

 

「……キリトくん。いくら君のセンスがすごくても、さすがにあれは見よう見まねでできるようなものじゃないよ」

 

「よし!琉花、テルル。行くぜぇ!」

 

「人の話聞いていた!?」

 

キリトの人の話を全く聞いていなかったような態度に、普段はあまりツッコミしない琉花がツッコミを入れた。

 

「諦めなさい」

 

「ルビー……」

 

「もうあれは、甘味屋に入った時と同じようなものよ」

 

「そ、それは確かに無理です」

 

「テルルはやります!」

 

なんでこんなやつのプログレスになろうと思ったのか、今更後悔し始めそうになった琉花であった。

 

「大丈夫だ琉花。オレはおまえならできるって信じているぜ」

 

「……まったく、しょうがないなぁ。唯、失敗したら容赦しないよ!」

 

「おう、任せておけ!」

 

そうして、キリトたちが再び臨戦態勢を取った。

それを見て、レイジたちも何かを感じ身構えた。

 

「琉花、テルル。エクシード・ダブルリンク!」

 

「バカか、お前!そんなの見よう見まねでできるわけ……」

 

「できるんだなぁ、これが。オレたちならな」

 

観客を含む全員がキリトに対して、一体どこからそんな自信が来るのかと聞きたくなった。

が、そんなことも次の瞬間には吹き飛んでいた。

 

「う、うそ……ありえない」

 

「ふっふっふ。これこそがオレたちの()だ!」

 

なんとキリトは、たった一度見ただけでダブルリンクを真似してみせた。

 

「これはさすがに予想外だな」

 

「成功したら、さすがに報いないとね。テルル!」

 

「いつでも行けます!」

 

激流特攻(スクリューバスター)

 

琉花の水鉄砲から放たれた水がテルルを包み込み、まるでドリルが飛んで来ているように突進してきた。

 

「マジかよ。ソフィーナ、負担が多くなって悪いが頼む!」

 

「仕方ないわ。さすがにあんなのくらったらひとたまりもないわよ!」

 

「よし。アウロラ!」

 

「はい。いつでもどうぞ」

 

「エクシード・ダブルリンク!」

 

アウロラが杖を構え、その目の前にソフィーナが魔法で障壁を張った。

魔法と物理による防御態勢で迎え撃つ算段である。

 

「はぁぁぁぁああああ!!」

 

「っく、うぅぅ」

 

ぶつかり合った瞬間にものすごい衝撃がフィールドを吹き抜けた。

一進一退の攻防が続き、リンクを維持するレイジとキリトの額にはわずかに汗が流れ始めた。

 

「「「っきゃぁぁぁぁ!!」」」

 

最終的に、テルルと琉花、アウロラとソフィーナの両者ともにそれぞれの攻撃の反動と衝撃で吹き飛んだ。

 

「ふ、二人とも!」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「は、はい」

 

「だ、大丈夫です」

 

「えぇ。レイジは!」

 

「うん。キリトくんは!」

 

「大丈夫だ」

 

「問題ねぇよ」

 

反動と衝撃はレイジとキリトの二人にもフィードバックして来るほどだった。

ある意味、ダブルリンクの強力さを物語っていた。

 

「(だけど、これ以上チームとしての隠し玉を素人相手に使うのは、評価的に見てもよくはないよな。それに……)」

 

レイジの視線の先には、わずかに肩で息をしている両チームのプログレスたちがいた。

 

「(こんなことに巻き込んじまったのに、ここまでしてくれたんだ。最後位は……)」

 

レイジが徐にフィールドの中央へと向かって歩き出した。

その行為に観客たちがざわめきだした。

それもそうだろう。指揮とサポートするべきはずのαドライバー自らがフィールドに入ることは普通では決してない。

にも拘らず、レイジは自らフィールドに入った。

その意図にいち早く気づいたソフィーナはレイジの前に立って、その進路を阻んだ。

 

「ダメよ、レイジ」

 

「どいてくれ、ソフィーナ。頭のいいお前ならわかるだろ」

 

「だからよ。わかるからダメって言っているの」

 

ソフィーナの表情は真剣そのものだった。

だからといって、レイジもそれを譲れるわけではなかった。

 

「俺の、俺たちのくっだらねぇ喧嘩(こと)でこんなことに巻き込んだんだ。そこまで迷惑かけらんねぇだろ」

 

「そんなことないわよ!レイジは私の、私たちのαドライバーでしょ!それに、プログレスもαドライバーも関係ない!前に自分で言ったじゃない、チームメイトの問題はチーム全体の問題でしょ?」

 

「……確かにな。でも、悪いが今回は譲ってくれ。あいつとは、キリトとはサシで決着をつけてぇんだ。これは義務でも使命でもない、単なる我儘だ。それによ」

 

レイジはそっとソフィーナの頬に手を添えた。

その行為に、ソフィーナは頬を赤くしていき、最後には顔全体が真っ赤になっていった。

これを見た観客の一部から嫉妬の目線と共に、心の中で『リア充爆発しろ!!』などという事が聞こえてきそうな雰囲気へと変貌した。

 

「こうやって俺を心配しながらも、心の底から信用してくれているパートナーたちがいるんだ。これで負ける気はしねぇよ」

 

「……よ」

 

「ん?」

 

「ぶるーみんの一番高いケーキセットよ!負けても勝っても、奢りなさい!」

 

レイジに背を向けて、腕を組みながらそう言い放ったソフィーナ。

 

「……わかったよ。何でも奢ってやるよ」

 

「ふん!……勝ちなさいよ」

 

「言われなくても」

 

そう言い残してソフィーナは下がっていった。

それを確認したレイジが審判の環先生の方を向いた。

 

「審判!特例ルール適用の許可を!」

 

『な、なんとぉぉ!まさかここにきて特例ルールだぁぁぁぁ!……って特例ルールってなんですか?』

 

『特例ルールとは、今回から導入されたもので、エヌドラのブルーミングバトル参加についての特別ルールのこと。これには条件があるが、まぁ今回は大丈夫でしょう』

 

『なるほどなるほど』

 

「って!あんたら仕事してたのかよ!?」

 

『してましたよ。きっちりかっちり』

 

どうやら戦闘に集中していたレイジたちには、解説が聞こえていなかったようである。

 

「まぁ、仕事をしていたかいなかったかについては後にして……。シズト・キリサキくん。あなたは特例ルールの適用を認めますか?」

 

「いいぜ。やってやるよ。ただし、オレにも許可は出るよなぁ?」

 

「あぁ、認めるよ。でないと、フェアじゃねぇだろ」

 

特例ルール適用の条件とは、このルールを使用できるのがN・αドライバーに限定され、適用を求めた側が求められた側に参加許可を得なければ適用されない。

今回はどちらもエヌドラだったこともあり、またどちらも好戦的な人物だったこともあり適用されたともいえる。

 

「それでは、現時点を持って特例ルールの適用を認めます」

 

「なぁ、レイジ。勿論サシでやるよな?」

 

「はッ、何言ってんだ?んなこたぁ当たり前だろ」

 

「なら、遠慮はいらねぇな」

 

そう言いつつ、キリトも中央に歩み寄っていった。

それを琉花が呼び止めた。

 

「キリトくん!」

 

「ん?なんだ?」

 

「サシでやるのはいいけど、……勝ってよね!」

 

手を鉄砲のように構えてキリトの方に向けると、キリトも腕を突き出して答えた。

 

「ふん。オレを誰だと思ってんだ?黒の世界、闇に眠る黒姫の柩(ダークネス・エンブレイス)の黒の剣士!シズト・キリサキだァァァァ!」

 

「厨二乙」

 

「厨二言うなぁぁ!」

 

たっく、といった感じでキリトが中央に歩み直してきた。

二人が互いににらみ合うような位置に着くと、観客たちにも緊張が走った。

 

「やっとここまで来たな」

 

「そうだな。それにこうなるってなんとなく思っていたからな」

 

「特例ルール聞く前からか?」

 

「あぁ。オレとおまえはどことなく似てるからな。生き方とか、覚悟とか、背負ってるもんとか。なにより、過去とかな」

 

キリトは徐に両袖から剣を出した。

カタール。

キリトの愛用する武器である。

 

「……調べたのか?」

 

「まさか、なんとなくそう思っただけだよ」

 

「……っは!言ってくれるじゃねぇか。だけど、少し違うことがあるな」

 

「違うことだと?」

 

「そう。俺は別に覚悟が出来ているわけじゃねぇ。決断してるだけだ。そうやっていくって決断をなぁ」

 

「……なるほどねぇ。確かにオレの思い違いだったみたいだな」

 

「それと俺とおまえの似ているところはもう一つあるぜ」

 

「もう一つ?」

 

「あぁ。不器用なところがな」

 

「……確かにそれを忘れてたな」

 

レイジは自身の武器である拳を突き出した。

キリトもそれに応えるように剣と突き出した。

その二つを軽くぶつけ合うと、軽い金属音が響いた。

と同時に、二人が後ろに勢いよく跳んで距離を取った。

 

「決着をつけようぜ、キリト!いつだってそうだ。不器用な俺たちには(こいつ)でしか解り合えいんだからな!」

 

「そうだな。オレたちが語り合うのは(こいつ)しかないよなぁ!」

 

互いが互いを知ったからこそ出てくる言葉。

それはその場にいる二人にしかわからない何かだった。

 

「来いよ!これ以上の言葉は必要ねぇだろ!」

 

「あぁ!互いに譲れないもんがあるなら、(こいつ)で掴み取るしかねぇよな!」

 

「どっちの絆が強いかじゃない」

 

「どっちの考えが正しいかでもない」

 

「どっちが勝者で、どっちが敗者なのか」

 

「「ただ、それだけの決着を!!」」

 

その言葉と共に、二人は同時に相手に向かって駆け出し、拳を、剣を振りかざした。

 




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次回は零弐とキリトの直接対決です。


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零弐VSキリト 後編

キリトの一人称を俺からオレに変更しました。

直っていないと思われる所がございましたら、ご指摘ください。


「おぉぉぉぉぉぉッ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

レイジとキリトの二人が同時に駆け出し、それぞれの武器を振りかざした。

 

「だらぁッ!」

 

先に攻撃したのはレイジだった。

だが、キリトは体を逸らしてそれを避けたことで、レイジの拳は当たらなかった。

 

「はぁッ!」

 

そしてキリトも躱すと同時に剣を突きだした。

が、レイジも身を屈ませて、それを避けた。

二人が交差するように互いを抜け、すぐさま転身、攻撃に転じた。

互いの攻撃は同時。そのため防御も同時だった。

レイジの拳を攻撃していない剣でキリトが防ぐ。

キリトの剣を攻撃していない腕でレイジが防ぐ。

 

「やるな」

 

「そっちこそ」

 

束の間の均衡。

だがすぐに、お互いに距離を取るように後ろに跳んだ。

 

「(さすが、黒の世界で魔女王に認められているだけのことはあるな。能力的にはソフィーナとかウェンディの方が上なんだろうけど、その差を上回るほどの戦闘能力か……やばいな)」

 

「(まさか、青の世界にここまでの実力者がいるなんてな。正直驚きだな。体術だけみたいだけど、それだけでオレ以上の実力だな……やばい)」

 

僅かなやり取りの中で、相手の実力をある程度分析する両者。

その実力に驚きはしているが、どちらも余裕そうにしていた。

 

「(キリトの利点は速さか。なら、パワーで押し切る!)」

 

「(レイジの利点はパワー。てことは、速さで押し切れる!)」

 

互いに考えていることが似ているようで反対のことを考えているところを見ると、ある意味相性がいいのだろうか。

そしてまたしても同タイミングで駆けだした。

 

「おぉぉぉぉぉぉッ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

ぶつかり合う様にして挌闘戦を始めた両者。

拳が、剣が、蹴りが飛びかい、互いの身体を掠めた。

いや、むしろ互いに最小限に避けているからこその結果ともいえる。

一方の拳が振られれば、体勢を低くして避け。

一方の剣が突き、切り払われれば体を捻って避け。

両方の蹴りが出れば、互いに交差するようにしてぶつかり合う。

そんな攻防が繰り広げられた。

が、それもそう長く続くことはなかった。

 

「ッ!?しま……」

 

「もらったぁ!」

 

「ガァッ!」

 

一瞬バランスを崩したキリトの隙を逃さずに、レイジが腹に拳を叩き込んだ。

すぐに防御したキリトだったが、防御しきれずフィールドの端近くまで飛ばされた。

飛ばされる途中で体勢を直したキリトでも、さすがの一撃に腹部を手で押さえていた。

 

「どうしたよ、キリト。まさかその程度がお前の実力とかいうんじゃないよな?」

 

「はッ。だったらどうなんだよ?」

 

「張り合いがねぇな。こんなのが俺のライバルになるって思うとなぁ。むしろ、奥の手の一つや二つは隠し持ってるもんだと思ってたけどな」

 

レイジの言う通り、キリトは奥の手を持っている。

それも一つではなく。

レイジもそれを予想しつつ、自身が奥の手を持っていることも含めた上で挑発をした。

それにはさすがのキリトも気づいていた。

さらに、レイジが考えている意図にも。

 

「ふ~ん。奥の手ね。……あぁ、いいぜ。見せてやるよ!オレの、奥の手ってやつをな!」

 

     ―――「疾風雷迅(タービュランス)」―――

 

刹那、フィールドで雷鳴が鳴り響いた。

それと同時に嫌な予感を感じたレイジは脇に跳んだ。

その次の瞬間にはレイジの脇腹が斬られた。

それほど深い傷ではないが、反応が遅かったら一瞬のうちに戦闘不能になっていただろう。

 

「良く避けられたもんだ。初見であれを避けられたのはさすがだ」

 

声のする方を見ると、体に雷撃を纏い、黄金色に光っているようにも錯覚させられる姿をしたキリトだった。

 

「オレの奥の手『疾風雷迅』は、オレが唯一扱える魔法だ。能力はいたってシンプル。雷を纏い、身体能力を上げる。それによってもとから速い俺の脚は音速を超え、光速に限りなく近い速度を出すことが可能になった。といっても、まだまだ制御しきれていないのが難儀だが」

 

「まさか、こんな奥の手だったとはな。正直驚きだな」

 

「まぁな。さて、さっきの続きと行こうか!」

 

「ッチ」

 

光速に近い速さで動くキリトに対してレイジは防戦一方となった。

腕をクロスさせて、頭を守る様にした。

だが、それで防げるような攻撃でもなく、体中の至る所に切り傷が出来ていった。

 

「ほらほら、どうした?さっきまでの威勢が無くなってるぜ!」

 

「クッソが!……ガァッ!」

 

反撃のために拳を振るうが、キリトに当たることはなく、逆に背中を斬りつけられた。

倒れずに踏みとどまったが、わずかに体がふらついていた。

 

「どうだ、ここまで好きにやられた感想は?」

 

「正直に言う。すっげぇムカつく」

 

「あ、やっぱり。いっつもバカにされてるからな。お返しだよ」

 

笑いながらそう言ったキリトに、レイジは拳を震わせていた。

が、すぐに何時も通りになり、一度深く呼吸し直した。

 

「……悪いな、キリト。正直、厨二のお前を少し見下してた」

 

「だから厨二違うわ!」

 

「だけど、今度はこの試合の相手として……」

 

レイジは左の袖をまくり、左手に嵌めていたグローブと巻いていた包帯を外した。

そこには右腕と同様に禍々しい痣があった。

 

「……俺も今出せるだけの全力でやってやるよ!」

 

そのセルフと同時に、観客席からの歓声が大きくなった。

レイジの能力発動だ!これは見逃せねぇ!きっとすげぇことになるぞ!などという声にキリトは驚きつつも疑問を抱いた。

 

「我望むは終焉。我願うは終末」

 

だが、その疑問はレイジの左手を前に突き出すような体勢によって理解できた。

キリト自身も、その力の一部を見た事があるのだから。

それが……。

 

「巡り廻れ、終焉の焔!」

 

それこそが、レイジの奥の手であるのだと。

左腕の痣から燃え上がった紫色の炎は腕全体にまとわりつくように燃え盛っていた。

 

「それがおまえの奥の手か?」

 

「あぁ、『原初と終焉の焔』。時間の巻き戻しと加速をすることが出来る、俺の能力(ちから)だ。お前も力の片鱗なら見ただろ。あのときのは原初、つまりは時間を戻すことが出来たが、今回は終焉、つまりは……」

 

「時間を進めるってことか」

 

「ご名答。時間を進めることが出来るってことはだ、こういったこともできるってことさ!」

 

するとレイジの左腕の焔が右腕を除いた全身を包みこんだ。

その数瞬後には、焔の勢いが収まった代わりに、全身の傷が完治し、全身が僅かに焔と同じ色に輝いていた。

 

「……なるほど。時間を進めて、傷を治したってことか。だが、それだけじゃさっきみたいに一方的にやられて、また傷が出来るだけだぞ」

 

「甘いな。気づいていないんだったら、このままやってみな」

 

「後悔すんなよ!」

 

『疾風雷迅』によって加速したキリトが先ほど同様に駆け出した。

左から斬りかかったキリトは、先ほど同様にレイジの身体を斬りつけようとした。

捉えたと思ったと同時に、寒気と嫌な予感を感じ取った。

戦いの中で鍛えられた剣士としての勘が、自身の危機を感じ取り、すぐさまその場から飛び退いた。

それと同じくして、何かがキリトの髪を掠めた。

直感で分かった。

レイジの拳であると。

体勢を立て直そうと着地したと同時にまたしても危機を感じた。

回避は間に合わないと判断したキリトは、すぐさま両腕で防御姿勢を取った。

その直後、その両腕に衝撃がきた。

その勢いによって、数メートルほど飛ばされた。

両足で踏ん張ったことでそこまで飛ばされなかったが、無防備でくらえばアリーナの外まで飛ばされていた可能性もあった。

そして、そんな攻撃をしてきた人物を見た。

相手はもちろんレイジ。

だが、驚くべきはその速さ。

光速に近い速度で動くキリトと同等に近い速度で動いていたからだ。

 

「驚いたか?俺の『終焉の焔』の能力『加速する終(アクセル・ブリッツ)』は文字通り、対象の時間を進める能力。そいつを使えば、相反する能力の宿る右腕を除いた自身の体の傷の治癒速度を速めることもできる。そして、それを応用して、神経伝達や筋肉の運動速度を速めれば、お前と同じ速さで動くのは造作もねぇよ」

 

「っは、まさかそんな隠し玉があったなんてな。だけど、そんな力を使ったら体の負担はデカいんじゃねぇのか?実際、額から冷汗流してるぜ」

 

キリトの言う通り、レイジの『加速する終』を使用した動きは肉体や精神への影響が大きく、長時間の使用はできないどころか、使用するだけで、どんな後遺症が出るかわかったものではない力でもある。

普段のレイジもそれを知っているため、このような使い方をすることは無いに等しい。

が、今回はそうもいっていられない。

何せ、相手がキリトであるからだ。

 

「確かにこの状態は疲れる。けど、ソフィーナに魔力の使い方を教えてもらって、ある程度の肉体強化を施して使用しているんだよ」

 

「生きているものならば誰もが持っている潜在的な力を扱えるようになっているなんてな」

 

「それによ、辛いのは俺だけじゃなくてお前もだろ。さっきから肩で息しっぱなしだぜ」

 

キリトの魔法『疾風雷迅』もまた、それを扱うにあたり魔力と精神力を使う。

そんなものを長い間扱うほどの力をキリトはまだ身に付けておらず、その結果レイジと同じく限界が短いのである。

数瞬の静寂後に、二人は何かを決意したようにそれぞれの拳を、剣を構えた。

 

「「キリト(レイジ)、悪いが次で決めさせてもらうぜ(もらうぞ)ッ!!」

 

その叫びの直後に互いに駆け出し、最後の殴り合い、斬り合いに臨んだ。

 

「だぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「つぁぁぁぁぁぁッ!」

 

サシの勝負を始めた最初と変わらず、互いに殴り、斬り、蹴り飛ばす。

始めと違う点といえば、その行われている戦闘の速さだろう。

観客にはその速さから何が起きているのかがわからない。

だが、そこにいる二人にはわかる。

むしろ、そこにいる二人だけが、二人だからこそわかるのかもしれない。

 

「つぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「ック」

 

キリトの渾身の蹴りがレイジに当たり、両者の距離が開いた。

それと同時に、レイジの強化能力が消えた。

限界を迎えたのだろうと思われた。

そこに出来た隙をキリトは見逃すことはなかった。

 

「今だぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

雷鳴と共に突進をかけ、その身に纏った雷の一部が、カタールの刀身へと集まった。

雷でできた高電圧の剣。

これが、キリトの持つ最高にして最大の切り札。

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!―――『総てを切裂く雷閃(ライトニング・ブレイク)』ッ!!!!」

 

その二振りの剣をクロスするようにして、レイジの身体へと振り抜いた。

二振りの雷の閃撃は、隙のできた無防備なレイジへと向けられた。

 

「……そう来ると思っていたぜ、キリト」

 

が、放たれた直後にレイジが動いた。

 

「これが俺の、全力だぁぁぁぁ!!―――『終向けし紫焔の拳(フォーブス・ガンド)』ッ!!!!」

 

「なッ!?」

 

無防備だと思われたレイジからの左ストレートの一撃。

それは、レイジの持つ最強の切り札。

公の場で使用されたことが無く、その技を知るのはパートナーのプログレスたちと一部の委員会や教師のみだった。

誰も知らない故に最強。

 

「っく、あぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「くらい、やがれぇぇぇぇぇぇッ!」

 

レイジとキリト、二人の切り札がぶつかり合い、フィールドを爆発でできた黒煙が覆った。

 

「レイジくん!」

 

「レイジ!」

 

「レイジさん!」

 

「マスター!」

 

「キリトくん!」

 

「キリトさん!

 

「キリト!」

 

「マスター!」

 

二人の戦いを見守っていた美海、ソフィーナ、アウロラ、セニア、琉花、ウェンディ、ルビー、テルルが叫ぶように名前を呼んだ。

観客もざわついていた。

数秒後、黒煙が薄れた。

そこに移っていたのは、片膝をつくレイジとわずかにふらつきながらも立っているキリトの姿だった。

誰もがキリトの勝利だと思った。

 

「……オレの、負けか」

 

キリトが前のめりに倒れるまでは。

そして、黒煙が晴れたことではっきりと判明した。

キリトの張ったαフィールドが消えていることに。

 

「シズト・キリサキのフィールド消失を確認。勝者、零弐チーム!」

 

環先生の宣言と同時に歓声が上がった。

 

『決まりましたぁぁぁぁ!勝ったのは、零弐チームです!』

 

『ふむ、キリトチームもいいところまで持って行ったからね。なかなかいい試合でしたよ』

 

解説席からも歓声が上がり、ブルーミングバトルが終わった。

 

「あー、負けちゃったか」

 

「まぁしょうがないわね」

 

「そうですね。って、はわわ、キリトさんが気を失っていますぅ」

 

「急いで運びます」

 

キリトチームがキリトを慌てて医務室へと運んで行った。

 

「……勝った、のか?」

 

「やったよ、レイジくん!勝ったよ!」

 

「ちょっと、美海!いきなり抱き着いてるんじゃないわよ!」

 

「お疲れ様です、レイジさん」

 

「マスター、体は大丈夫ですか?」

 

美海が後ろから抱き着いてきたことでバランスを崩しそうになったがなんとか踏みとどまったレイジ。

 

「そうか、……勝った、の、か」

 

「って、レイジくん!?」

 

「ちょ!?急いで医務室に運ぶわよ!」

 

最後まで全力を出したレイジとキリトは最終的に互い気絶して医務室に運ばれて、今回のバトルは幕を閉じた。

 




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試合後の様子

まさか、この一話を書くために四か月もかかるとは思わなかった。

あまりに忙しかったので投稿が遅れてすみませんでした。

忙しかったのは、主にバイトや学校やサークルなどでした。

とりあえず、気楽に見ていってください。


目を覚ますと、目の前に白い天井が映った。

青蘭学園に来てから何度か世話になった医務室の天井だった。

ブルーミングバトルの後に倒れた俺を誰かがここに連れて来たのだろう。

まぁ、誰なのかは予想できるが。

倒れた原因はよく分かっている。

使用した能力の負担が予想以上に大きかったことと、その状態を維持していた時間が長かったことである。

さすがに負担が大きい能力を使うだけでなく、今までになかった光速に近い速度での行動がさらに負担になっていた。

 

「まだまだ、使い慣れないか」

 

「だからといって、あんな使い方をしていては体を壊してしまいますよ」

 

横から声が聞こえてきて、視線を向けた。

そこにいたのはアウロラだった。

 

「なんだ、いたのか」

 

「はい。いましたよ」

 

「他の奴は?」

 

「美海さんたちは、飲み物を買いに行っていますよ」

 

「そうか……」

 

右腕を顔の上に乗せ、深く溜め息を吐いた。

 

「……気分が優れないのですか?」

 

「……いや、少し昔のことを、思い出していただけだ」

 

「何故、そんなことを?」

 

「昔に比べて、ずいぶん変わったと思ってな」

 

「確かに私たちと出会ったころに比べたら、ずいぶんと変わりましたね」

 

そんなことを話していると、部屋の外の方から話し声が聞こえてきた。

声からして飲み物を買いに行っていた美海たちだろう。

 

「あ、やっと起きたんだ」

 

「まったく、いきなり倒れるから心配したわよ」

 

「異常はありませんか?マスター」

 

「あぁ、悪かったな。調子も何時も通り、特に問題なし」

 

身体を起こしながらそう答えると、三人とも安心した様だった。

 

「それじゃ、はいこれ。みんなからの奢りー」

 

「お、悪いな。サンキュ」

 

美海から渡されたのは紙パックのジュース。

おそらくさっきまでこれを買ってきていたのだろう。

美海たちも自分の買ってきたジュースを持っているし、アウロラの分も買ってきていたみたいだ。

美海やソフィーナ辺りがいたから、果実ジュースか紅茶系かと思いつつ、どんなものを買ってきたのか見てみた。

が、それを見た瞬間に固まった。

 

「……なぁ、これ選んだの誰だ?」

 

「ん?私だよ」

 

「あぁ、それは美海ね」

 

「美海さんです」

 

「だったら美海、……なんだこれ?」

 

「え?私のオススメ?」

 

「絶対違うだろ!明らかな失敗作だろ!」

 

俺に渡されたジュースは『元気百倍!焼肉ジュース』と書かれた紙パックジュースだった。

 

「完全に地雷臭しかしないだろ!しかも選んだ本人が疑問形じゃ絶対にオススメじゃないだろ!」

 

やめてくれよ!俺はツッコミじゃないんだから!なんでこんなにツッコミ入れてんだよ!

 

「まぁまぁ、騙されたと思って飲んでみようよ」

 

「ッち。たく、今回だけだかんな」

 

このセリフを言うのはいったい何度目だろうと思いつつ、紙パックにストローを挿して飲んでみた。

 

「ん~、食感ベタベタ、喉越しドロドロ。甘すぎず辛くもないたれの味と風味、焼いたときにできる焦げ目と肉の味わいが何とも……ゴハァ!?」

 

「わぁ!?れ、レイジくん!?」

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

 

あまりの味に思わず口の中のジュースをわずかだが吐き出した。

そして、力なく答えた。

 

「あ……あぁ、大丈夫だ。……問題ない」

 

「そうですか」

 

「……あの川を渡ればいいんだよな」

 

「マスターのバイタルに異変を確認」

 

「それ、渡っちゃいけない川だよ!」

 

「ちょ、しっかりしなさい!」

 

あ、あぁ、死んだ爺ちゃん婆ちゃんが見えるぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさか、たったあれだけで三途の川を見ることになるなんて……」

 

「そ、そうだね。まさかそんなことになるなんて私も思っていなかったよ」

 

「さっきのブルーミングバトルの時のダメージの所為じゃないかしら」

 

「むしろそれだけの要因で死ねるんだったら、俺どんだけ貧弱なんだよ」

 

「別にマスターが貧弱という訳ではないと思います」

 

「確かにこのジュースはすごいですね」

 

焼肉ジュースなる化学兵器の所為で死に掛けた俺は、必死の救命処置によってなんとか生きながらえた。

むしろこれだけのことができるこの焼肉ジュースすげぇな。

誰が考えたんだよ。

 

「何やってんの?おまえら」

 

「ん?何だキリトか。もう歩けんのかよ」

 

「当たり前だ!オレを誰だと思ってる!」

 

「厨二剣士(笑)」

 

「だから、厨二じゃねぇ!」

 

俺たちのいる部屋の外から声を掛けてきたのは、先ほどまで戦っていたキリトだった。

おそらくその後ろには琉花たちもいるのだろう。

 

「てか、何しに来たんだよ?」

 

「いや、ただ単に顔出しに来ただけだ」

 

「あっそ。なら、これくれてやるよ」

 

そう言って俺は手元にあった飲みかけの焼肉ジュースをキリトに向かって放った。

さっきまでの戦いのダメージの所為か、少し危なげに取ったキリト。

手元に来たものを見て、嫌そうな顔をした。

 

「なんだよ?これ」

 

「見たまんまだ。試しに飲んでみろよ」

 

「なんだよ一体?」

 

「あ!?それは!?」

 

「ちょ!口付けちゃ……」

 

キリトの後ろの方にいた琉花たちは何なのかよく分かっていないようだったが、美海たちはさっきのこともあり、慌てて止めようとしたが、その前にキリトが口を付けた。

何故か焼肉ジュースを飲むのを止めるというよりは、飲み物に口を付けることを止めているようだったが、気のせいだろう。

 

「ん~、食感ベタベタ、喉越しドロドロ。甘くなく辛すぎるたれの味と風味、焼いたときにできる焦げ目と肉の味わいが何とも……ゴハァ!?」

 

「え?ちょっと、キリトくん!?」

 

「はわわ!キリトさん!?」

 

焼肉ジュースを飲んだキリトは、案の定というかやはりそうなったかという感じで、ジュースを吐いた。

 

「な……なに、大丈夫だ。……問題ない」

 

「そう。よかった」

 

「……あの川を渡ればいいんだよな」

 

「マスターのバイタルに異変を確認」

 

「それは、渡っちゃいけない川よ!」

 

「しっかりしてください!キリトさん!」

 

何だろう。俺の時もこんな感じだったのだろうか。

目の前で繰り広げられている救命活動を眺めながらそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイジ!この野郎!」

 

復活したキリトは即座に俺に掴みかかった。

 

「なんてもの飲ませやがる!危うく川渡って死ぬところだったわ!」

 

どうやらキリトも俺同様川の向こうからお呼ばれされたらしい。

しかも死んだ両親から。

 

「どう落とし前付けてくれるんだ!」

 

「俺に言うな!美海に言え!」

 

キリト御一行が美海の方を向いた。

美海もさすがにたじろんでいた。

 

「え、えへへ。いやぁ、ゴメン。……うん、本当にごめんなさい」

 

さすがの美海も頭を下げて本気で謝る状態だった。

 

「ってかよ、こんなもの良く売ってたよな」

 

「確かにそうよね。こんなもの売る気にはならないわよ」

 

美海の詳しく聞いてみたところ、購買の自販機に飲み物を買いに行ったところ、その一角に珍しいジュースを集めた自販機があったらしい。

 

「珍しいジュースというより珍味ジュースの間違いじゃなのですか?」

 

「てか、それだと他にもあるってことだよね」

 

「え~と、たしか他には『火を通してもカレーに戻るわけではなくマズイ汁ができるだけ』がキャッチコピーの『冷やしカレードリンク』とか、それに似た『冷やしラーメンドリンク』に『冷やしすき焼きドリンク』、それと同じところが作った『そうめんジュース※そうめん入り』に『すこんぶジュース※こんぶ入り』とかあったけど……」

 

「明らかに地雷臭しかしない」

 

「よし。教務課と風紀委員に報告だな」

 

後日、その自販機は廃止され、新しい自販機が入ってきたのは別の話。

 

「で、結局何しに来たんだ?」

 

「いや、帰ろうと思ったから顔を出しただけだけど?」

 

「あぁ、なら帰るか」

 

「そうね。さすがに日が傾いて来たしね」

 

窓の外を見ると、夕方独特の日の光が見えていた。

青蘭島は一応日本国土だが、本土に比べて日が長い。

けど、さすがに今の時間では帰らなくてはいけないだろう。

だから、何の他愛もない話をしながら帰った。

キリトに島のことを教えるためにゴールデンウィーク一日を潰して島の案内をする計画などを話した。

そして、正門前の昇降口から外に出ると誰かに呼ばれた。気がした。

 

「……日向美海!!」

 

と思ったら呼ばれたのは美海の様だった。

声の方を見ると、そこにはつい先日ブルーミングバトルで叩き潰した二人がいた。

 

「やっと見つけたわ!この前の雪辱、晴らさせてもらうわ!」

 

「え~、この間やったばかりじゃん」

 

「それに負けっぱなしじゃない」

 

「うるせぇ!今度は負けねぇよ!」

 

αドライバーの方がそう言ってくるが、どうもおかしい。

プログレスが一人しかいない上に、まるで負けることがありえないような言い方である。

 

「……悪いが、今日はやらん。疲れた。俺たちがブルーミングバトルやってきたの知ってんだろ」

 

「そう、やらないの。なら、やらなきゃいけないようにしてあげる!」

 

「αフィールド、展開(セットアップ)!」

 

その言葉と共に、フィールドが展開された。

そして、フィールドが展開されたことに俺たちは驚いた。

もともとαフィールドは島全土で発生させることはできる。

ただし、その展開を行うためには教員または特定の委員会などの許可が必要で、許可がない場合ではすぐに風紀委員会に知らせが届き、風紀委員が来る。

そんなことも分からずにやっているとは思えない。

けれどもそんなことよりも重要なことがある。

何故、展開されたフィールド内に残っているのが俺と美海だけなのかだ。

他のみんなはフィールドに阻まれたようにαフィールドの外にいた。

 

「おい!無事か?」

 

「こっちは大丈夫よ!そっちは?」

 

辛うじて外には声が届くし、赤く染まったフィールドからも外が見えていた。

いくらなんでも異常である。

 

「テメェら。どういうつもりだ?」

 

「あら、まだわからない?あなたたちを倒すためよ!」

 

「んなことどうでもいいんだ!いくらなんでも異常だろ!自分たちがやっていることわかってんのか!」

 

「そうだよ!こんなのおかしいよ!」

 

「うるせぇ!勝てばいいんだよ!」

 

「だからって、こんな……」

 

抗議を続けようとした美海の肩に手を置き、やめさせた。

今の言葉で大体わかった。

もう、言葉じゃ止まらない。

なら、拳で止めるしかないと。

 

「……やるぞ、美海」

 

「でも!」

 

「でもじゃない!それしかないんだ。今のあいつらの目を覚まさせるには」

 

「……わかったよ。信じていいんだよね?」

 

「当たり前だ。どれだけお前と組んでいると思ってんだ?」

 

「そうだよね。じゃ、行こう!」

 

そうして、俺たちはブルーミングバトル形式で構えた。

 

「お話は終わり?だったら、今度こそ、今度こそ倒してあげる!」

 

「やれるなら、やってみろ!」

 

その言葉の刹那、美海と相手のプログレスが駆けだした。

 




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真の力

リアルが忙しくなって、執筆スピードが遅くなっていますが、何とか書きました。



「「エクシード・リンク!」」

 

駆け出した二人に対して、同時にリンクがされた。

 

「やぁぁぁ!」

 

「っふ!」

 

美海のレイピアと相手の拳がぶつかり合った瞬間に驚かされた。

 

「……嘘だろ。パワーなら美海の方が遥かに上だったはずだ」

 

「これが本当の力さ」

 

相手の余裕な表情に対して、内心で舌打ちをした。

どうやら今回は今までのような無策な戦いはできないみたいだ。

さらに、先ほどのぶつかり合いに比べて美海が防戦一方になっていた。

確かに美海はパワーとスピードがある。

だがそれはエクシードによって操作した風の力を利用しているからに過ぎない。

つまりは、速く動いているようだが細かい動きはそこまで速くない。

それによって美海が防戦一方になっているのだろう。

 

「キャァ!」

 

攻撃を受けて、俺の方に飛ばされた美海を受け止めた。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。なんとか……」

 

そこである違和感に気づいた。

攻撃を受けたプログレスのダメージは本来であればαドライバーにフィードバックされるはずである。

にもかかわらず、俺自身にはダメージが無く、美海の方にはダメージがあるようだった。

美海のようにダメージ遮断能力を越えることはあるが、αドライバーにダメージが一切ないのはおかしい。

そこにきてあることに気づいた。

が、それと同時に相手が拳を振りかざしているのに気づいた。

 

「ッち!」

 

「え?レイジくん!」

 

防御しようとした美海を弾き飛ばした直後、相手の拳が脇腹に突き刺さった。

 

「ッガハ」

 

先ほどの美海と違い、完全な無防備で受けた一撃は予想以上の威力だった。

勢いあまりフィールドの端まで転がるように飛ばされた。

 

「(……やっぱりか。遮断能力が機能してねぇ)」

 

俺が気づいたのはαフィールドの遮断能力の皆無だった。

そして予想通りそれは存在せずに、結果フィードバックが起きなかった。

 

「レイジくん!無茶しちゃダメだよ!」

 

「あぁ、悪いな美海。だけど、確認したいこともあってな。(てか、肋が一、二本いったか)」

 

すぐに駆け付けた美海にそんな言葉をかけながらも自分の身体の把握をした。

 

『レイジ!聞こえる!』

 

「ソフィーナか!」

 

『外からじゃこのフィールドへの侵入は無理!攻撃も全然効かない!』

 

「嘘だろ!Sクラスのエクシード持ちが数人いてでもか!」

 

ソフィーナの言葉に現状の厳しさを再認識した。

外にソフィーナたちがいるならば、フィールドのことはどうにかなると思ったが、このフィールドは今までのフィールドとは勝手が違ったみたいである。

 

「どうした?もう終わりか?」

 

「クソ……。だいたい、テメェは何所でそんなものを手に入れやがった!」

 

「何言ってんだ?」

 

「ふざけるなよ。特定委員会でもないお前が何でそんな腕章を持ってるんだって聞いてんだよ!」

 

俺の問いかけに僅かに反応を見せたのを見逃さなかった。

確かにフィールドの展開は何所でもできる。

それらを展開する許可も必要になる。

そして特殊なフィールド生成は普通はできない。

まして展開する許可を出せる風紀委員や教務課でさえ、正式な手順でやらくてはならない。

そんな手順をこいつらが踏んでいるとは思えない。

つまり、怪しいのは相手のαドライバーの着けている腕章になる。

 

「さすが優等生。これに気づくとは」

 

「はッ、はなっから隠す気もねぇもんを見せておいてよく言う」

 

「風紀委員会に入ったとは思わないのか?」

 

「それこそありえねぇな。風紀委員会の腕章は緑色だ。お前の腕章は黒色だろ」

 

「まぁ、これが違うものなのは普通にわかるか。特別に教えてやるよ。これはもらいものさ」

 

ありえない。

αフィールドを発生させ、特殊なフィールド形成を可能とする物など普通はもらえるわけがない。

だとすれば、それを渡したやつに別の意図があると考えられる。

 

「こいつをくれたやつが言っていたのさ。これを使えば、おまえを倒せるってな」

 

「ふざけんな!テメェらファントム(・・・・・)に手を貸したのか!」

 

俺の言葉に美海も、フィールドの外にいたソフィーナたちも驚いていた。

 

「さぁ、どうだろうな?」

 

「ざっけんじゃねぇぞ」

 

頭に血が上り始め、前に出ようとした時に周りがざわめき始めた。

 

『これは一体どういうことだ?』

 

『あなた、クラリス』

 

どうやら風紀委員会が異変に気づいて駆け付けたようだ。

そのことに気づいたことで、少しずつ冷静になれた。

 

「っち、風紀委員が来たならさっさと終わらせないとな。おい」

 

「……」

 

αドライバーの言葉にプログレスは反応を示さなかった。

反応を示さなかったのではなく、気づいていなかったようにも見えた。

 

「おい、どうしたんだよ?」

 

「……ダ」

 

「は?一体何だっていう……」

 

「ワタシガサイキョウダァァァァ!!」

 

そして急に叫び声を上げたと思ったら、こちらに突進してきた。

なんとかそれを俺が防ぐも、あまりに様子が変貌しすぎている。

 

「おい!何しやがった!」

 

「ち、違う!何もしてねぇよ!」

 

αドライバーの方も何が起きているのかわからず混乱しているようだった。

さらに最悪なことに、リンクまで行われた。

 

「クソ、何でだよ?何で勝手にリンクすんだよ!」

 

「レイジくん!あれって……」

 

「あぁ、腕章が原因だろう」

 

原因と思う腕章からは案の定黒い何かが湧き出ているようにも見えた。

 

「ク、ア、アァァァァ」

 

そして最後にはαドライバー自身が苦しみ始め、プログレスにも黒い何かが覆い始めた。

このままではまずい。

 

『レイジ!あれはまずいわよ!このままだと生死にかかわるわ!』

 

「そんなことはわかってる!」

 

リンクはプログレスとαドライバーの特殊な脳波を同調させるものであり、波長の合わないものや長時間の強制的なリンクはその脳波に悪影響をもたらし、最悪生死にかかわる。

 

「なんだってこんなもんを渡しやがったんだ」

 

「……レイジくん」

 

「なんだ?」

 

「……助けよう!」

 

恐れくこの状況を作りだす原因の一旦であろうファントムに対して苛立ちを覚えているなかで、美海の言葉に目を見開いた。

 

「確かにあの人たちは手を出しちゃいけないものに手を出しちゃったのかもしれない。けど、それでもそれは助けてあげない理由にはならないよ!」

 

「……美海、お前」

 

「だから、私に力を貸して。レイジくんが嫌なら、私一人でもやるから。今までどんなことがあったとしても、困っている人を助けてあげられないほうがきっとつらいよ!」

 

「……はぁ、たく。だったら、あいつらをぶん殴ってでも止めるぞ!二人で!」

 

「うん!」

 

美海が頷くと同時に、俺たち二人は構えた。

それと同時に相手もこちらへと向かってきた。

突っ込んできたところを俺が受け止め、抑え込んだ。

 

「美海、今だ!あいつの腕章をぶっ壊せ!」

 

「うん!やぁぁぁぁ!」

 

風の勢いを乗せ、αドライバーの方へと突っ込んだ美海。

勢いよくその手に握るレイピアを振り下ろした。

 

「うぅ……キャァ」

 

が、それは結界のようなシールドによって弾かれた。

それに気を取られた俺も殴り飛ばされ、美海の近くまでいったん下がった。

外からフィールドに対して攻撃が行なわれているため、恐らく今のやり取りは外には見えていないだろう。

 

「ダメか。無策に攻撃しても通じないか」

 

「どうする?レイジくん」

 

「……あれしかないか」

 

「あれ?」

 

「……美海、俺が抑えるからタイミングを見て、もう一度腕章に攻撃しろ。今度は攻撃するまで力を貯めて、全力で攻撃しろ」

 

「で、でもそれじゃ、レイジくんが……。それにあの人たちだって」

 

「やれるさ。おまえは俺のプログレスなんだからな」

 

「……わかったよ。信じているからね、私の、私たちのαドライバー」

 

「あぁ!」

 

美海が力を籠めはじめると同時に俺が駆けだした。

それと一緒に右腕に巻いてあった包帯、手に嵌めていたグローブを外した。

 

「我願うは原点。我望むは起源。廻れ巡れ、原初の焔!」

 

露わになった右腕の痣から燃え上がった蒼色の炎は腕全体にまとわりつくように燃え盛っていた。

 

「レイジくん!それは……」

 

「今は目の前のことに集中しろ!」

 

俺の使う『原初と終焉の焔』は一日に違う焔の使用、または長時間の使用は未だに体に多大な負担が掛かる。

そのため、違う焔を使うことは今までほとんどなかった。

だが、今はそんなことを気にしている暇はない。

 

「いい加減に、大人しくしてろ!」

 

「アァァァァ!!」

 

二つの拳がぶつかり合い、周囲に衝撃が広がった。

 

「ワタシハ、ワタシハ、ツヨク、サイキョウニナラナキャイケナイ。ワタシハ!」

 

「そんな紛いもんの力使って強くなったって、何の意味もないだろぉが。強くなりたきゃ、そんなもんに頼ってんじゃねぇよ!」

 

殴り合い、蹴り合いの中で必死に説得するように叫んだ。

 

「おまえもそうだ、そんなところで寝そべってんじゃねぇ!立ち上がって、腕章を掲げるくらいしてみろ!」

 

「……無理だ、不可能だろそんなこと!」

 

「無理とか、不可能とか、そんなことはやってみてから言え!やってもいないのにそんなこと言ってんじゃねぇぞ、腰抜けが!」

 

αドライバーにも、説教をするようにして叫んだ。

それに感化されるように、崩れそうになりながらも立ち上がろうとする姿が見えた。

そして、俺の蹴りがクリーンヒットし、プログレスが飛ばされたタイミングで呼んだ。

 

「今だ!美海ぃぃぃぃ!」

 

「やぁぁぁぁぁぁ!」

 

再び駆け出した美海は先ほどよりも明らかに速く、レイピアに風を纏わせていた。

 

「エクシード・ブーストリンクゥゥゥゥ!!」

 

俺の脇を抜けたタイミングで美海に対してリンクを行った。

キリトとの試合で見せなかった切り札の一つ。

プログレスの持つ可能性を最大限以上に引き出し、一時的に通常のリンク以上の状態を生み出す。

これを行えるのは特定のプログレス限定だが、その能力は爆発的に上昇される。

その名も覚醒。

これが、俺個人ではなく、みんなの切り札といえる。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!美海ぃぃぃぃぃぃ!」

 

「いっけぇぇぇぇ!ウィンド・スラァァァァァァッシュ!!」

 

美海の技はシールドを切裂き、そのまま腕章を叩き斬った。

 

「ガァァァァァァ!」

 

腕章が壊れた事で、プログレスを覆っていた黒い何かが飛び出し、空中にとどまった。

それは一見黒い霧のようだが、まるで悪魔のようにも見える形をしていた。

だが、このままではまた誰かにとりつく可能性がある。

だからこそ、このときを待っていた。

俺は右手に覆わせておいた蒼い焔を拳に集中させた。

『原初の焔』の能力、対象の時間を巻き戻す『逆転する始(リバース・ブリッツ)』。

それを利用した奥の手。

 

「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!!―――『始向かう蒼焔の拳(ミスガルド・ヴォルフ)』!!!!」

 

俺の技が直撃した瞬間、爆発が起き周辺に爆風と黒煙が舞った。

数秒もすればそれは晴れ、周りを見るとフィールドが解除されているのがわかった。

 

「はぁはぁ、ッく」

 

戦い終わったことで安堵した瞬間、溜まっていた負担と疲労感によって片膝をついた。

 

「レイジくん!」

 

「レイジ!」

 

「レイジさん!」

 

「マスター」

 

みんなが俺に駆けより、アウロラが肩を貸してくれた。

相手のプログレスとαドライバーは風紀委員会に連れて行かれていたが、どうやら意識はないようだった。

 

「すまない。ちょっといいか?」

 

「クラリスか」

 

声のした方を見ると、駆けつけてきた時にいた風紀委員会副委員長であるクラリスだった。

 

「ファントムに接触したであろう二人は別室で話を聞くとして、今回の騒動の当事者である君と日向には風紀委員会室に来て、事情聴取を受けてもらいたい。大丈夫か?治療をしてからでも大丈夫だが……」

 

「いやいや、今戦っただかりのレイジがそんな……」

 

キリトが反論しようとしたが、俺は手で制止した。

 

「悪いけどみんなは先に帰っていてくれ。美海とソフィーナは悪いけど付き合ってくれ」

 

「うん。わかった」

 

「わかったわ。私も聞きたいことがあるしね」

 

「という訳で、悪いが頼むわ。今度なんか奢ってやっからよ。クラリス、治療は大丈夫だ。話が先の方がいいだろ」

 

「わかった。済まないが同行願う」

 

琉花たちにも説得されて、しぶしぶながらもキリトたちは帰ったのを見送り、俺たちは風紀委員会室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

風紀委員会室で今回の騒動についていろいろと話をし終えたころには外は暗くなっていた。

そこまで遅い時間ではないが生徒のほとんどはもう残っていないような時間だろう。

 

「遅くなっちゃったね」

 

「そうだな。あいつも心配してんだろうな」

 

「連絡入れなかったの?」

 

「時間がねぇだろ」

 

そんなことを話ながら風紀委員会室を出ると、意外な人物たちがいた。

アウロラとセニアだ。

 

「おまえら、帰ったんじゃなかったのか?」

 

「レイジさんが心配だったので」

 

「何言ってんだよ?別に心配するようなことはねぇだろ」

 

「ならマスター、身体スキャンをさせてください」

 

セニアの言葉に一瞬言葉を詰まらせそうになった。

 

「え?レイジくん、怪我してるの?」

 

「大丈夫だって。怪我なんかしてねぇよ」

 

「あら?そうなの。じゃあ、これは一体何かしら?」

 

そう言ったソフィーナがいきなり脇腹を叩いた。それも勢いよく。

それを食らった場所も場所で、攻撃を食らって肋がやられた個所だった。

 

「ッ?!」

 

あまりに突然のことで、身構える時間すらなく叩かれた個所を手で抑えた。

 

「まったく、怪我してるのに見えを張らないでよ。心配するじゃない」

 

「なんだよ?心配してくれんのかよ」

 

「当たり前でしょ!パートナーなんだからそれぐらい当然よ!」

 

「そうだよ!仲間なら隠し事は無し!私が隠し事嫌いなの知っているよね?」

 

「私はマスターが怪我をしている状態でいてほしくないです」

 

「そうよ。みんなレイジさんのことはわかっているんですから」

 

「ったく、おまえらは」

 

まったくもって頼りになるもんだ。

 

「さ、私の工房に行きましょう。そこなら落ち着いて治療できるでしょ」

 

「そうだね。行こう!」

 

「行きましょう。マスター」

 

「えぇ、行きましょう」

 

そう言ってきたみんなに手を引かれて、俺は歩き出した。

 




これからも不定期更新になりますがよろしくお願いします。

何時も通り、誤字脱字がございましたら、ご報告お願いします。

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勧誘編
新たな転入生


長かった。

ここまで長かった。

まさかここまでかかるとは思わなかった。

執筆の手が遅くなったのは自覚しているが、まさかここまでとは。

まぁ、これからも不定期になると思いますが。

原因は就活に卒研にバイトにアンジュに……って感じです。

とりあえず、気楽に見ていってください。


まだ残る春独特の肌寒さと暖かさの入り混じった朝方。

日課となったランニングで軽く汗をかいていた。

このランニングを初めてどれぐらいたっただろうか?

青蘭島に来るよりも前から随分と長く続けている。

走り終えて家に戻ると、朝食と思われるいい匂いが漂ってきた。

 

「あ、おかえり、お兄ちゃん」

 

「おぉ、千尋。ただいま」

 

出迎えてくれたのはちょうど朝食を作り終えた妹だった。

蒼薙千尋。

とある事情で俺が引き取られた家の娘で、従妹であり、義妹でもある。

しかも成績優秀、家事万能、才色兼備と完璧少女(パーフェクトシスター)といえる。

正直家事については俺のプログレスたちにも見習ってほしい。

 

「お兄ちゃん。朝ごはん、出汁巻き卵とスクランブルエッグ、どっちがよかった?」

 

「そうだな……、千尋の作るのはうまいからいいけど、どっちかって言ったら出汁巻き卵かな」

 

「ふふふ、残念。今日はスクランブルエッグでした。もうすぐ朝ごはんできるから、汗流してきちゃいなよ」

 

「そうか。了解、汗流したらすぐに戻ってくるわ」

 

スクランブルエッグってことは今日は珍しく洋食のようだ。基本的に朝食は和食だから珍しい。

軽く汗を流してからすぐに戻り、二人で朝食を食べ始めた。

 

「そういえば、今年もあれの時期だっけ。私は委員会に入ってるからいいけど、お兄ちゃんはどうするの?」

 

「あ~、もうあの時期か。この間のことですっかり忘れてた。どうすかな?」

 

この間というのはもちろんキリトとのブルーミングバトルである。

そっちに気を取られすぎて、ほかのことをほとんど考えていなかった。

 

「まぁ、今年も逃げっかな。バイトもあるし、クラス委員長になったし」

 

「そうなんだ。お兄ちゃんがよければ、委員会に入ってほしかったな。そうすれば一緒に仕事できたかもしれないのに」

 

「とはいっても、中等部と高等部だと同じ委員会でも一緒になることはほとんどないだろ」

 

「それでもだよ。ほんと、お兄ちゃんは勘が鋭いのか鈍いのかわからないよね」

 

「それ、どういう意味だよ?」

 

「そのまんまの意味だよ。えへへ」

 

そんなことを話しながら朝食を食べ、それからすぐに学園に行く準備をした。

 

「そういえば、今日は委員会があるから帰るのが少し遅くなるかもしれないんだけど……」

 

「わかってるよ。飯は俺がなんとしとくよ」

 

「うん、お願いね。それじゃあ、お兄ちゃん。お弁当持った?ハンカチは?お財布とケータイもちゃんと持ってる?」

 

「あぁ、持ってるよ。千尋も、弁当持って、ハンカチ持ったか?携帯と財布は肌身離さず持ってるか?」

 

「うん、大丈夫。持ったよ」

 

「そんじゃ、行くか」

 

「うん」

 

「「行ってきます!」」

 

毎朝、二人で家を出るときの恒例行事、二人そろっての忘れ物確認をしてから家を出る。

青蘭島に来てしばらくしてから続けている習慣の一つである。

そして二人で一緒に挨拶をして家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

家を出てから学園に向かうために、島を巡回するモノレールの駅に来た。

いつもより遅めに出てきたからか、ホームにいる人の数は少ない。

その中に、見知った顔が眠そうに小さくあくびをしているのを見つけた。

 

「よぉ、ソフィーナ。また工房に籠ってたのか?」

 

「あら、レイジじゃない。そうよ、昨日も遅くまで報告書を書いていたのよ」

 

「ソフィーナさん、おはようございます」

 

「千尋もいたのね。こうやって顔を合わせるのも久しぶりな気がするわね」

 

「そうですね。学校始まってからは顔を合わせてなかったですしね」

 

「てかソフィーナ、寝不足は肌に悪いってよく言うぞ」

 

「しょうがないでしょ。こう見えても私は多忙なの。次期魔女王で天才、崩壊調査の一員なのよ」

 

「それ自分でいうことか」

 

「そんなソフィーナさんより成績が上なお兄ちゃんもある意味すごいけどね……」

 

まぁ、確かにそうだな。

前年度の学年末試験、筆記だと俺一位でソフィーナ二位だったし。

そしてなんだかんだアウロラとセニアも上位入りしてた。

美海?聞くな。聞くだけ無駄だ。

 

「それでも、お前が倒れちゃ本末転倒だろ」

 

「……それもそうね。適度な休息は必要ね」

 

俺の言葉にわずかに頬を赤くし、そっぽを向きながらそう答えてきた。

その様子を千尋は微笑ましく見て、俺は苦笑した。

そんなこんなしているうちにモノレールが到着した。

ちなみに俺たちが乗ろうとしている時間は、始業に間に合う程度であり、これを逃したら最後モノレールでは間に合わない。そう、モノレールでは。走ればワンチャンあるだろうが、地獄を見るだろうな。

 

「それじゃ、さっそく気分転換に週末の土曜日にでも、前に行ったカフェに行きましょ。今だけの限定メニューが出たらしいわ」

 

「ちょっと待て、まさか俺が払うわけじゃないよな?」

 

「あら、違うの?よかったら千尋も来ないかしら?お兄さんのおごりよ」

 

「いいんですか!?ぜひ!!」

 

「おい、お前ら!いつ結託した!」

 

放課後の予定を話しながら乗り込むと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

声の元はエスカレーターからだ。

見えた姿は案の定、美海だった。

 

「ま、待って~!!乗りま~す!!」

 

まるで飛び込むかのようにしてきた美海。

しかし現実は残酷である。

目の前で扉が閉まろうとするのだから。

そりゃそうだ、青蘭島のモノレールは無人、時間通りに動くため、止めようにも止められない。

扉の閉まる音とともに、美海の姿が見えなくなる。

なんだろう。嫌な予感がする。

扉が完全に締まる直前、ガキンッ!という音が聞こえた。

扉も完全には閉まっておらず隙間があった。

扉に挟まっていたのは美海が異能(エクシード)を使うときに発現するレイピア。

そのレイピアの僅かに上の位置に、俺の片足があった。

あと数瞬遅かったら足を貫いていた。そんな位置である。

異物を挟んだ扉は一度開き、その後に再度閉まった。

美海はその隙に車内に飛び込んできた。

 

「ま、間に合った~」

 

「……ねぇ、美海。あなた、いったい何をしているのかしら?」

 

「あ、ソフィーナちゃんにレイジくん、おはよう!千尋ちゃんも久しぶり!」

 

「お、お久しぶりです、美海さん」

 

「……なぁ、美海。お前俺に何か言うことないか?」

 

「えぇ~。あ、そうだ。レイジくん、なんで扉押さえてくれなかったの?そうすればちゃんと乗れたのに!」

 

「美海、とりあえず一発もらってくれ」

 

その言葉と同時に、美海の頭から鈍い音が鳴った。

音源はもちろん俺の拳骨である。

 

「いったーい!ひ、ひどいよレイジくん!」

 

「ひどいのは誰だ!危うく朝から血飛沫が舞うところだったんだぞ!!」

 

「大体、あなたはいったい何考えているの!?あんな方法でモノレール止める馬鹿がどこにいるの!?ここにいたわね!!」

 

「え?え?え、え~と……」

 

「大体お前は毎回毎回……」

 

「大体あなたは毎回毎回……」

 

この後、車内でも関係なく正座する美海を俺とソフィーナが説教し続けた。

その間千尋は周りに謝ったり、おろおろしたりしていた。

とりあえず、駆け込み乗車はだめだぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、朝から災難だよ」

 

「むしろ災難なのは俺だろ」

 

学園についてから中等部である千尋と別れ、自分たちのクラスに来た俺たち。

さすがにあのまま説教を続けても遅刻するだけなので早めに切り上げてやった。

 

「でも美海ちゃん、さすがにこれはまずいよ」

 

「うぅ、風紀委員長、今度は何言ってくるんだろう?」

 

沙織が見ていたのは青蘭学園のブログ。

内容はもちろんさっきのモノレールの出来事。

学外でのエクシードの無断使用が禁止されているこの島では、それを行った人には風紀委員会からありが~たいお話が待っている。

ちなみに美海は入学時から時々使用しては呼ばれている。

そのついでに俺も一緒に。完全なとばっちりだ。

 

「まぁ、美海ちゃん、元気出して。放課後一緒にクレープでも食べに行きましょう」

 

「うん。そうだね、そうしよう」

 

僅かに元気を取り戻した美海。

そのタイミングで予鈴が鳴った。

直後になってキリトが来た。

 

「よぉ、キリト。またギリギリか」

 

「よ、よぉ、レイジ」

 

「なんだキリト、しっかり糖分取ってねぇのか?」

 

もはやキリトの動力源が当分なことに疑問を持っていない。

慣れって恐ろしい。

 

「いや、オレも取ろうとしたさ。……だが、あんなところで、あんな奴に会わなければ!!」

 

「あんな奴?誰だよそれ?」

 

「それは……」

 

「はーい、ホームルーム始めるわよ」

 

キリトが何かを言いかけたタイミングでタマちゃん先生こと担任の環先生が来た。

 

「それじゃ、連絡事項の前に、転入生の紹介をするわよ」

 

「唐突だな」

 

「本当はもうちょっと早く入る予定だったんだけど、いろいろごたごたがあったんで今日になったのよ」

 

「先生!転入生は男の子と女の子どっちですか?」

 

「男の子よ」

 

つまりはαドライバーか。

まぁ当然か。人数二人しかいなかったしな、俺たちのクラス。

 

「それじゃ、二人とも入ってきて」

 

「「「「「(二人もいるんかい!!)」」」」」

 

クラスの心が一つになった瞬間である。

 

「失礼する」

 

「失礼します」

 

片方はどこかで見たことのあるよう少年。

もう片方は白衣を着ていることから科学者を思わせるような少年だった。

 

「二人とも、自己紹介してね」

 

「ふ、我にそのようなことをさせるとは……まぁ、よかろう。諸君、心して聞くがよい!我が真名は『ムスペルヘイム・ライトニングシューター=サクリフェイス・キラー』。古の焔の巨人の中でも異端の雷の射手であり、生贄とされた抹殺の使徒だ!死にたくなければ近づかないことだな。この魔弓は、刹那の間に汝らを射抜くのだからな」

 

「ゲェッハァァァァァッ!!」

 

「キリトが死んだ!!」

 

「え?えぇ~と、こ、この人でなし!!」

 

「いや、美海。あなたのってんじゃないわよ」

 

どこからか取り出した弓を持ちながら自己紹介をしたムスペルなんとか。

それを聞いたキリトが突然吐血した。

クソ、思わずネタに走ってしまった。

 

「というわけで、彼は赤の世界出身のムラサキくんよ」

 

「ち、違うわ!確かに我が名はムラサキ。だが、真名は『ムスペル……』」

 

「はい、次は彼の番よ」

 

「聞けよ!!」

 

あぁ、なんとなくわかった。かっこよく見せようとしただけで、頭文字取ればよかったのね。

それとあれだ、完全にキリトの黒歴史抉ってら。

そうだな、奴はキリトと同じ厨二持ちだな。

これでこいつが遅れた理由もわかった。

問題はもう一人だな。

場合によっては俺の負担が増える。

 

「えぇ、僕はカインといいます。一応白の世界SWEの科学者ですが、専門は武器開発です。これからよろしくお願いします」

 

よかった。よかった、まともなやつで。

これなら俺の負担が減る。

さすがに変なの二人相手はきつい。

 

「それじゃ、みんな二人と仲良くしてね。それで連絡事項なんだけど……」

 

それから俺は後悔することになる。このとき、きっちり話を聞いていればよかったと。

 




そういえば、やっとアンジュのアニメが7月にやりますね。

しゃあ!この勢いで書いてやるぜぇ!

って感じでモチベが維持できたらいいと思っている。

とりあえずいつも通り、誤字脱字がございましたら、ご報告お願いします。

感想も、気楽にどうぞ。

参戦キャラ、タグ等の意見もお待ちしています。


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