ここだけマダラがイザナギに失敗死亡して未来転生、アスマと大親友になった世界(完) (EKAWARI)
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1.マダラの記憶が蘇った日

ばんははろEKAWARIです。
あらすじにも載せている通りこの作品は「ここだけマダラが、柱間との戦いの際にイザナギ失敗して、そのまま死亡して、未来の木の葉隠れの里に転生し>>5(※アスマ)と大親友になった世界。前世の記憶が戻るのは、>>10(※お色気の術で鼻血を出した)がきっかけで戻った。尚、年齢は>>5(※アスマ)と同年齢とする」スレに投下したSSの加筆修正版となっております。
故にこの小説の設定の大半は自分が考えたわけではない事をご了承の上お楽しみ下さい。(スレ主公認)
とりあえず元版より1,5倍くらいに文量は増えてます。


 

 

 オレの名はうちはゴガク、木ノ葉隠れの里の忍びだ。

 幼い頃から天才忍者の呼び声高く、あのうちはマダラの再来じゃないかと言われながら育ったオレは、13歳の時に第三次忍界大戦で敵の罠にかかり、兄達と父を目の前で一斉に亡くした。

 ……守れると驕っていたのだろう、その結果がこの様だ。

 そんな自分への失意と絶望、敵への怒りから万華鏡写輪眼に目覚めたオレは、そのまま敵を皆殺しにして一人だけ生き延びた。

 万華鏡写輪眼の開眼者など、うちはの長い歴史でもそう多くいるものではない。それを思えば、オレは確かに才能がある方だったのだろう。だが、この力に目覚めたのは父や兄達を失ってからだ。

 だから開眼して尚憎しみは薄れず、何故あの時この力がなかったのかと自分を呪ったものだ。

 あの時の憎しみと悲しみ、強い怒りと絶望感はよく覚えている。

 どうしてオレだけが生き延びたのか、と虚しささえ感じたものだ。

 だが里に辿り着いたオレを出迎えてくれた従兄のフガクの「よく帰ってきてくれた」という声や、その嫁であるミコトの「ゴガクくんだけでも無事で良かった」と涙ぐむ姿、それに従甥(じゅうせい)にあたる幼いイタチがそっとオレの手を握って「大丈夫?」と心配そうに覗き込む顔を見る内に、それも静まっていった。

「ゴガク!」

 オレがいた部隊が一体どうなったのか、話を聞いてたのだろう、三代目火影の息子たる男がオレを抱きしめながら放った「お前が無事で本当に良かった」との言葉と体温に、つい涙腺が緩む。

 猿飛アスマ……アカデミー時代からのオレの親友だ。

 ……そうだオレには彼らがいる。

 家族も友もまだオレには残されているじゃないか。

 そう思うと父や兄達を一斉に失ったときに覚えた絶望感など、どこかに飛んでいってしまった。

「嗚呼、ただいま」

 優しかった二人の兄と父の死に顔は今でもオレの眼には鮮明に浮かぶ。

 それでも残された彼らを……オレの親友と新たな家族を、死んだ家族と同じ眼にあわせるものかと。それこそがオレの生き甲斐となった。

 そうして第三次忍界大戦は終結した。

 

 第三忍界大戦が終結してから約15年、とうに大人となったオレは今年から下忍達を受け持つ上忍師に二度目の就任をする予定だ。なんとアスマやカカシも受け持つ学年は一緒らしい。

 アスマは次代の猪鹿蝶トリオを担当し、カカシの奴はフガクのとこの末の息子であるサスケや、あのいたずら者で有名な四代目の砂利が担当に含まれているらしい。全く、災難な奴だ。

 おいおい、顔岩に落書きしてるぞあの砂利。

 オレはなんとなく楽しい気分となり、ニヤニヤと見物していた。特に初代や二代目の顔岩がアホづらにされているのを見ると、なんでか心がスカッとするのはどうしてだろうな?

 別に恨みも何もない筈なんだが。

「こらナルト!!」

「へへっーん」

 ベェと舌を出しながら問題の砂利とアカデミー教師が里の中を駆ける。

 そして金髪の砂利はオレの前をよぎった時に印を組み、その術を発動した。

「お色気の術!!」

 ボン。

 次の瞬間、目の前で砂利が金髪をツインテールにした全裸の美女に変わる。それを見た瞬間オレはブーと鼻血を吹き出し、それと同時にオレの脳内には突然、知らない奴の記憶が怒濤のように流れ込んできた。

 

 戦で次々に死んでいく弟達と、願掛けで行っていた水切り。川辺で出会った同い年くらいの似たような望みを抱いていた子供。互いに切磋琢磨した短くも楽しかった日々。そして互いの事が家にバレ、決別して写輪眼を開眼した日。やがて互いに族長となり争い続けた日々になんとしても守ると誓った最後の弟が死んだ日。柱間と里を興し、オレが木ノ葉隠れと名付け二人で穏やかに語ったあの日に、石碑に救いを見出し……九尾を連れて里を襲撃した事。かつての友であり、怨敵でもある男に殺された記憶。

 まるで嵐の中に放り込まれたようだ。

 ぐわんぐわんと頭が揺れる。

「おい、ゴガク? しっかりしろ!」

「……あ? 何がだ?」

 人一人分の記憶が一気に押し入った事により、酔いそうになりながらもそれでもオレはなんとか、何もないフリをし自宅に向けて足を進める。アスマは酷く心配そうな顔をしているが、今何かを聞かれてもオレは何も答えれねェんだから、それ以外にすることもない。

 オレは出来るだけいつも通りの笑みをニィと浮かべ、オレの身を案じている友に言葉をかける。

「なんでもねェよ。ちょっとフラついただけだ。そんな心配すんなって。オレは一人でも帰れる」

「いやなんでもねェってツラじゃねェぞ!? 何か悪いものでも食ったんじゃねェのか!?」

 ……心配されるのは悪い気分でもねェが、今は正直放っておいて欲しいんだがなァ。

 それでも家に送ると主張するアスマをなんでもないと振り払い、オレは自宅に辿り着き、ふらりと自室の布団に倒れ込んでから、先ほど流れ込んできた記憶を思い起こして結論する。

 あれは……あの時流れ込んできた記憶はどれもうちはゴガクの人生では知らないものだ。

 だが、あれは確実に『オレ』の記憶だという確信がある。

 矛盾しているようだがつまり……。

(マダラの再来…? 再来どころかオレがマダラじゃねえか)

 おいおい、勘弁してくれ。

 

 結論を言えばオレがうちはマダラだった。正確にはその生まれ変わりだが。

 それがある男の一生の記憶を受け止めたオレの結論だった。

 ―――うちはマダラ。

 その名を知らない木ノ葉隠れの忍びは、モグリと言える。

 その男は今から約七十年前の戦国乱世において、かつてうちは最強を誇った族長であり、この木の葉隠れの里を、初代火影・千手柱間と共に創設した片割れであり……そして木の葉を裏切り、九尾を引き連れて里を襲撃した最悪の犯罪者とされる人物の名前である。

 未だにマダラの名前は恐怖の代名詞だ。

 うちはの歴史では万華鏡写輪眼を開眼し、永遠の万華鏡写輪眼を得るために実の弟の目を奪った冷酷な人物であると伝えられていた。

 ……どうもオレの中に蘇った記憶によると違うようだが。

 マダラはかつて戦国乱世において、唯一忍びの神と謳われた千手柱間と並び立てた男だ。

 とはいえそれは柱間と戦いになったというだけで実力差があったのも事実で、それ故かつて同格と見なされた千手とうちはの拮抗は崩れ、うちはからは離反者が続出した。

 誰の目から見ても……勿論マダラ自身から見ても柱間の方が格上であったのだから、ある意味当然だったと思う。弱いトップに一体誰がついていくというのか。

 ……言い訳にはなるが別にマダラが弱かったわけではない。ただ千手柱間が桁違いに強かっただけだ。

 だがそんなことは下のものにとっては関係がない。マダラは彼らにとっては頼りになる族長ではなかった、それだけの話だ。

 そうしてマダラは徐々に信望も一族に対する影響力も失っていった。

 とどめを刺した事件がマダラの弟たるうちはイズナの死だ。

 彼は後に二代目火影となる千手扉間に斬られ死の淵を彷徨い、兄たるマダラに自ら眼を差しだしたのだ。どうか一族を守って欲しいとそう願いを託して。

 マダラは一騎打ちを挑み、柱間と一昼夜戦い、敗れ、かつての友に討たれる事を望んだ。

 だが柱間はマダラの予想よりずっと大馬鹿者で、弟を殺すか自害しろとの言葉に迷うことなく自分の命を捧げることを選んだのだ。

 子供の頃共に夢見た絵空事のような夢を、ずっと大事に抱え込んでいたのだ。本当に馬鹿だった。

 だから止めた。

 (ハラワタ)が見えたと告げて、子供の頃語ったように二人で手を取り里を興した。子供達を死なせない為の里を……。

 けれどマダラに残された現実は厳しかった。柱間は夢が叶ったと浮かれているが……そもそもマダラが里を欲したのは自身に唯一残された弟を守ってやりたかったからだ。

 その弟はもういない。

 そして誰も一族のものはマダラを信用していない。

 弟の遺言を守ることすら出来ない。

 マダラは孤独だった。

 だから石碑を解読し自分の使命を得て嬉しかったのだ。

 これで世界を救える、真の平和を与えることが出来ると。

 此の世が余興と思えば、苦しみからも解放された。

 例え敵わなかったとしても、それでも柱間と殺し合う事は、奴との戦いはマダラにとっても楽しい事だった。

 平和をずっと求めていたけれど、悲しいかなマダラはそういう忍びだった。

 強者との衝突こそが最も心躍る、そういう人間だった。戦いを愛していた。

 マダラの手元には何も残っていなかった。

 マダラにとって此の世は地獄だった。

 だから無限月読で世界を救済する事を望んだのだ。

 皆幸せな夢を見る平和をこの手で作り上げようとした。

 まさか誰も思うまい、マダラが里を襲った理由が世界を救う為など。皆、火影に選ばれなかった事を逆恨みしてマダラは里を襲ったのだと、思ったはずだ。

 そしてマダラのそういう人物像は、オレうちはゴガクの知る歴史とも一致していた。

(だがそれは失敗した)

 とんだ笑いぐさだ。

 イザナギを使い死を逃れる筈だったのに、そのまま亡くなり別の人間に転生するなんて。

 マダラはオレだ。

 だがオレはマダラじゃない。

 マダラには何も残っていなかった。

 だがオレはオレとしてこの28年を生きてきたのだ。

 オレはまだこの掌から、親友も愛すべき家族もこぼしていない。

 無限月読などいらない。うちはゴガクにとって、此の世は地獄ではない。

 オレは木の葉のうちはゴガクだ。

 

 ……だがしかし、記憶が蘇ったのがもしあの頃だったなら……父や兄達を失い、万華鏡写輪眼に開眼したばかりのあの頃であれば、オレはきっとうちはマダラという男の膨大な記憶と自我に塗りつぶされ、マダラと己の境もわからず、呑まれて無限月読を望んでいたのかもしれない。

 それを己の望みだと履き違えて。

 それほどにうちはマダラという男の生涯における苦悩と絶望、目的意識の高さは強かった。

 だが今更な話じゃねェか。

 確かに親兄弟が死んだことは悲しいし悔しい。あの日の事を思えば憎悪がこの身を焦がす。

 だが、それだけでないことをオレは知っている。

 従兄のフガクにその嫁のミコトは家族としてオレの帰りを喜んでくれた、オレを案じてくれた。共に暮らそうと、言ってくれたんだ。

 その息子のイタチも……敏感にオレの痛みを感じ取ったかのように、まるで自分こそが怪我をしたかのような痛そうな顔をして、そっと側にいてくれた。亡くなった妹が元気だった頃を思い出す、温かい子供の体温。あの頃のオレがそれにどれだけ救われた事か。

 そしてアスマ。今世におけるオレの親友。

 三代目火影の息子として父に反発心と鬱屈とした感情を抱き、それでも尚自分の守るべき答えを探し続けた男。損得なくオレの痛みをまるで自分の痛みのように感じ、ただ無事で良かったとてらいもなく告げてきたその顔。思えば出会ったあの頃から、いつだってオレはお前の存在に救われっぱなしだ。

 オレはお前が友であることを誰より誇らしく思う。

(もう誰も死なせねェ)

 兄妹や父母の死に顔は今でも鮮明に思い出せる。だがもうオレは誰もそんな風に死なせやしねェ。

 無限月読? 

 幸福な夢の世界?

 そんなのまっぴらだ、何故ならオレが……ゴガクが守りたい存在は木ノ葉にいる。

 この里で生きて、過ごしている。木ノ葉隠れの里を愛している。

 オレはうちはマダラの悲願を達成しない。

 マダラだった過去も隠し通してみせる。最初っから言わなきゃ無かったも同然だ。実際つい数刻前までオレにはそんな記憶はなかった。オレはただのうちはゴガクだ。

 何、そもそもオレがマダラの生まれ変わりだなんて実際眉唾話だ、言ったところで誰も信じねェ事だろう。

 寧ろアスマあたりは真剣に「お前、変なもんでも食ったのか?」と聞いてくるだろう、違ェし、食ってねェっての。

 そんな親友の姿を想像してクツクツと笑う。

 オレはマダラの望みを捨てる。

 ……がマダラの記憶は有用だ。あの男の御陰で今は失われた術も今のオレには分かる。つまりそれはもっとオレは強くなれるという事だ。

 そういう意味ではうちはマダラ、前世のオレよ、お前に感謝しよう。

 オレは強くなりたい、今よりもっと強く、この掌から何も零さないように。

 三代目に渡された名簿の名を思い浮かべる。今年オレが受け持つ予定の下忍候補の卵達の名前だ。

 犬塚キバ、日向ヒナタ、油女シノ。

 喜べ。お前達はこのオレが鍛えてやる。

 誰よりも強くなるが良い、守れるべきものを守れるようにな。

 そう思い、オレはニヤリと笑った。

 

 続く




 プロフィール。

【挿絵表示】

 うちはゴガク。この物語の主人公、28歳。アスマとは大親友(安価)。
 第八班(※原作でいう紅班)担当の上忍師。(スレの流れで決まった)
 主人公、ゴガクの名前の由来は北信五岳の「ゴガク」。
 原作のうちはマダライズナ兄弟の名前の由来が北信五岳の名前らしいのでそこから自分が候補に提案したらスレ主(※EKAさんとは別人)によるダイス神の結果ゴガクという名前に決定した。
 その結果スレの流れでフガクさんと名前が似ている所からフガクさんとの従兄弟設定が湧いて出た為、恐らく他の人が候補に挙げていた「うちはナギ」や「うちはシマシマ」などの名前に決まっていた場合多分バックストーリーはゴガクの時と変わってたと思われる。
 万華鏡写輪眼開眼者であり永万ではない(※スレ主が1.写輪眼 2.万華鏡写輪眼 3.永遠万華鏡写輪眼 4.輪廻眼の四択でダイス振った結果万華鏡持ちになった) 
 5人兄妹の真ん中であり、二人の兄と二人の妹がいた。(※兄妹構成もダイス神の導きの結果です)
 妹は二人いるが次女は死産であり、長女は肺病で亡くなった。(スレの流れで決まった)
 肺病で亡くなった妹の名前はうちはクロキ(名前の由来『北信五岳』の黒姫山でダイス神の導きの元これまた自分が提案した名前になった)享年4歳。(※ダイス神の結果)
 第三次忍界大戦の時に父と兄二人を一斉に失ったのが万華鏡写輪眼開眼の切っ掛けである。(スレの流れ)
 基本的に性格は少年期マダラの延長線上のイメージで書いてる。
 親しい相手には結構よく笑いかけるしノリもそれなりに良い。任務中ならどんな相手だろうがコミュニケーションをとれるけど、プライベートになったら一気にコミュ力が低下するタイプ。親しくない相手には無表情がデフォルト。


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2.二人で最強

ばんははろEKAWARIです。
今回地味にスレに投下したバージョンより文章量2.2倍くらいに大増量しました。
主に今回収録の話書いてた時には出てなかった設定部分の描写追加というか。
とりあえず一日一話ペースでアップ目指します。


 

 

 ピュルリと鳥が鳴き、空を行き交う。

 抜けるような晴天に、暢気に聞こえてくる砂利共の笑い声。

 マダラの時では考えられぬ程、今日もこの里は平和だ。

 こういう日は趣味の鷹狩りに打ち込みたい所だが、あいにく今日は非番では無く、任務があった。まあそれも先ほどさっさと済ませたんだが。

「ゴガク」

 オレがうちはマダラの記憶を蘇らせた翌日、任務帰りに商店街近くの大通りをブラブラ歩いていると、よく知った声に名を呼ばれ振り向く。

 そこにいたのは思った通り、オレの親友たる三代目の息子猿飛アスマだった。

 相変わらず煙草を口にくわえて飄々とした態度で「よっ」と軽く腕を上げている。眠そうな目元に逞しい体格、もみ上げから繋がった顎髭がよく似合っている。見れば見るほど、うちはにはあまりいないタイプの男前だ。

「応」

 そんなアスマに対し、いつも通りオレが手を掲げ応えると、アスマはニヤリと笑ってから、オレの肩をガッシリ組んでこんなことを言う。

「安心したぜ。顔色も悪くねェし、どうやらもう大丈夫そうだな」

「だからなんでもねェって言っただろうが」

 腕を払い、オレが呆れたように言うと、アスマは気を悪くするでもなく肩を竦める。

「ハッ、昨日はあんだけ白い顔しといてよく言う」

 ポンポンと続く軽口の応酬。

 実のところ本題は昨日どうしてオレが急にああなったのかを聞きたいのだろうが、オレが昨日の事は聞くなと態度で示すとそれ以上は踏み込んでこなかった。アスマのこういうところが助かる。これがもしも柱間の奴だったらうぜェくらいギャアギャア騒ぎ立てるに決まっている。

 だからこれは前世の友である柱間には無かったアスマの美徳だ。

 と、そんなことを考えていると、目の前に逆立ちで爆走する碧い猛獣が通りかかった。

 濃い眉毛に濃い顔。緑の全身タイツに身を包み、周囲からの視線など物ともせず爆走しているこの男もオレからして見ればよく知った相手だ。アカデミー時代からの同期でもある。

 男の名はマイト・ガイ。木の葉隠れの里きっての体術使いだ。

 オレ達の姿に気付いたからだろう、ガイはパッと笑みを浮かべると、いつも通りの気持ちいい大声を出す。

「おお、アスマにゴガクではないか! どうだ、青春してるか~!?」

「ガイ……」

 ふむ、ここで会ったのも何かの縁だ、これは丁度良いか。

「お前に頼みがある」

 

 * * * 

 

「まさかゴガクの奴、ガイと手合わせしてくれとはなぁ」 

 苦笑しながら審判として立つアスマがそうボヤく。

 まぁ、そう言うな。オレにはマダラの記憶が蘇った、この力を試してみたいとそう思うのは自然なことだろう? そう心の中でアスマに返答し、苦笑する。

 オレがガイと手合わせすること自体は珍しいという程少なくもないが、それでもそこまで多いわけでもない。

 アカデミーに入学したばかりの頃、オレの評判はうちはの天才児、マダラの再来というものだった。

 だからこそだろう、体術くらいしか得手のない……当時はそれも微妙な実力だったが、ガイはオレと、それから同時期に白い牙の息子として、これまた天才少年と持て囃されていたカカシによく勝負を挑んできたものだ。 

 その度に返り討ちにして「弱ェ!」とか煽ってたもんだが、なんだかんだへこたれず何度でも向かってくるガイの相手を、オレ自身も楽しんでいた記憶がある。

 ……まあそれもオレの妹が病に倒れるまでの話だったか。

 オレが妹の看病に忙しくなった頃から、ガイはオレにはあまり勝負を挑まなくなったが、それでも会えばオレに話しかけてきたものだ。二言目には「ではなゴガク! また今度、お前の都合の良いときに勝負をしよう!」だったか。今思えば、気遣われていたのだろう。

 あの頃のオレは精神的に追い詰められていた自覚はある。そう思えばアスマといい、ガイといい、友人には恵まれたものだ。

 そんなガイはオレに勝負を挑む回数が減った分、それまで以上にカカシに特攻するようになった。本人曰く「永遠のライバルだ」だそうで、まあ良い関係を築いているようで何よりだ。

 そうしてカカシと切磋琢磨し続けたのもあるのか、今のガイの奴は体術に限って言えば木ノ葉隠れの里でも有数の実力の持ち主だ。

 これほど戦い甲斐のある相手もそうそういるまい? 

 

「いざ」

「嬉しいぞゴガクよ! これぞ青春だ!! よし、いつでも来い!!」

「忍び組み手始め!」

 言うなり怒濤の攻撃が始まる、それをいなしながらマダラの知識とオレの実際の動きに対するすり合わせを行う。ガイは止まらない。まるで本物の猛獣のようにしなやかな筋肉をバネのようにして、駆ける。翔る。

「どうした! いつもと重心がずれているぞゴガクよ!!」

「ハッ、抜かせ」

 ガイはオレの目を見ることもなく次々に攻撃を仕掛けてくる。そも、奴は強い。

 ガイがライバル視しているカカシはうちはオビトの片目を引き継いでおり、元より写輪眼を所持している相手の対処という意味では、この男ほど手慣れているものはそうはおるまい。

 だからこそ、相手にする価値がある。そうでなくては面白くない。オレ……ゴガクとして染みついた動きと、マダラの知識の中のそれにブレがあることなど先刻承知している。だからこそその是正をするにあたり、この男と組み手を交わすのがもっとも手っ取り早いのだ。

 その一撃一撃の重み、緊張感、次々に変わる戦況、知らず唇の端が弓なりに吊り上がる。

(面白い)

 この場で使うのは体術だけだ。それに限定している。

 そうであるとしても、全力でぶつかり合える相手がいるというのは幸せなものだ。

 口角が上がる。ニィと眦が緩む。

 嗚呼……愉しい。

「ハハッ……フハハハハハ!!」

 マダラの型を確かめる、そんな建前すら投げ捨て、いつからか大声で笑いながらこの攻防を楽しんでいた。

 

 * * *

 

 半刻ほどのじゃれ合いを終え、和解の印を結ぶ。

「楽しかったな!」

 と、ガイが言う。キラキラと眩しいような笑顔を浮かべて。

 オレも思わず釣られ笑う。

 嗚呼、楽しかった。本当に。

 そんなオレの気持ちは言わずとも伝わったのだろう、ガイは行きと同じく「またやろう!」と逆立ちして去って行った。

 そんな碧い猛獣を見送りながら、ポツリとアスマは言う。

「……驚いたな。元から強かったが……いつからそこまで体術も得意になったんだ?」

 まあアスマが驚くのも無理はない。別に元より体術は不得手ではなかったが、マダラの時ほどゴガクは得意としていなかったのも確かだ。体術・忍術・幻術全て高水準である自負はあるが、それでもやはりオレが一番得意といえるのは、大規模火遁の数々で纏めて焼き尽くす戦法だろう。

「男子三日会わざれば、刮目せよというだろう」

「よく言う」

 それがオレの誤魔化しの言葉だとわかっているからだろう、やれやれと肩を竦めながらアスマが言う。

「こりゃオレも頑張らねェといけねえな。……なああの時の事覚えてるか?」

 腰のチャクラ刀をトントンと指さしながらアスマが言う。

「……ああ」

 忘れるわけもない。覚えているに決まっている。

 昔からアスマは父である三代目とは折り合いが悪く、実家はアスマにとってそれほど居心地の良い場所ではない事は、詳しく聞かずともオレは知っていた。

 ある日の事だ。

 まあ父親と十中八九何かがあったんだろうが、アスマが家を飛び出してうちに来たことがある。

 昏い眼で『泊めてくれ』と言い出したアスマの腕を引き家に入れた。たまたまあの日は上の兄も非番が重なってたもんだから、そりゃあ『アスマくんいらっしゃい、いつもいつも弟に良くしてくれてありがとうね』と大歓迎で、次々食えないくらい飯を食わそうとしてくるもんだから困ったもんだ。

 ありゃアカデミー卒業直前くらいの時期の事だったな。

 たらふく飯を食って、甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてくる兄を部屋に追い払い、風呂に入り、オレのベットの横にアスマ用に来客の布団を敷いて、髪をタオルで拭きながらオレはアスマを見た。

 アスマはその日は酷く静かで、でもオレはアスマが何も言わずとも何を考えていたのかはわかったような気がしたんだ。

 このチャクラ刀を複雑な眼で見ながらじっと燻る少年は父を越えたいと、そう望んでいた。

 慰めの言葉なんて求められていないのは見てて分かった。

 だからオレは殊更明るく、昏い雰囲気を吹き飛ばすように笑って言ってやったんだ。

『知ってるか、アスマ。風は火を大きく燃え上がらせるんだぜ?』

 ……ってな。

 

【挿絵表示】

 

 それに対してアスマは始めオレに言われた意味がわからなくてキョトンとしたが、次いで『なら、オレ達二人なら最強になれるな』そう言って泣きそうな顔で笑った。

『ああ、二人で最強だ』

 オレの言葉で救えた等と自惚れるつもりはない。

 だがオレのその言葉を聞いた後、アスマが肩の荷が落ちたように、妙な力が抜けるようになったのは確かだ。

 

「オレ達二人で最強になる……そうだろ相棒?」

「ああ、そうだな」

 そういってあの頃のように二人揃って空を見上げ笑った。

 

 続く



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3.家族

ばんははろEKAWARIです。
今回は里の状態について説明回みたいなものですが、元スレ版より1000文字ぐらい地味に増量でお送りします。


 

 

 オレが上忍師として本格的に動く日まであと三日を切った。

 受け取ったオレが受け持つ予定の砂利共の写真を眺めながらふと思う。

(そういやァ四代目は今頃あの砂利に、自分が父親である事を明かしているんだろうか)

 九尾の人柱力であるうずまきナルトが四代目火影である波風ミナトの一人息子であることは、木の葉隠れの里に住む上忍には周知された事実だ。

 にも関わらず四代目はうずまきナルトを息子と呼ぶことはこの12年間許されなかった。

 それは何故か……遡れば12年前の九尾襲撃事件に端を発する。

 あの日はオレはたまたま遠方に任務に出ていた為、実際に見たわけじゃない。故に全てアスマを含め同期達や族長である従兄のフガクなどに聞いた話だ。

 その日突然木の葉隠れの里に九尾が現われたのだという。

 そして里は恐怖に包まれた。

 当然のことだろう。九尾の狐……それは御伽噺で謳われる化け物で有り、年長者にとってはうちはマダラと共に混乱と恐怖の代名詞だ。そして実際に九尾は他の尾獣と頭一つ抜けた強さをもっている。その破壊の規模も殺傷力もチャクラ量も破格と言える。

 若い忍びを犠牲にするものかと、年配の忍びを中心に死傷者も多く出た。そういう意味では柱間の理想も一部は叶っていたらしい。子供を死なせない里、それが奴の夢だったのだから。

 ……あの時代は子供から率先して死んでいったものだ。子供など大人の弾除けでしかなく、大人が子供を守ろうなんて考えは前世のオレや柱間の代では非常識な世迷い言でしかなかった。

 だが、今の時代というべきか、この里は違うらしい。子供に犠牲を許す場面も多々あるがそれでも出来る限り年配者は若手を守ろうとする、そういう気質に育っている。

 だからこそアスマ達も結界に守られ、九尾との矢面に立たされる事はなかったそうだ。

 そうして犠牲になった忍びの中には、三代目の嫁や四代目の嫁もいたのだという。

 多くの犠牲を払い、そうやって最後に四代目火影である波風ミナトは、自分の生まれたばかりの息子の腹に九尾を封印して、里を壊滅から守ったというそういう話だ。

 九尾襲来は多くの傷跡を残しながらも事件は幕を閉じた。

 しかし、そうやって生き残ったあと、残された者達が抱える疑問は、一体どうしてこんなことが起きたのか、という事だ。

 誰が人柱力なのかはこの里では公開されていないが、それでも尾獣は通常人柱力によって押さえられている。それが今まで暴れ回ることなどなかったのに、急に何故暴れ出したのか?

 ここで思い出して欲しいのは、前世のオレであるうちはマダラの逸話だ。

 マダラはその瞳力で九尾を操り里を襲撃したのだ。

 これは上層部である年寄り連中がその逸話を思い出すには十分な事件だったといえる。

 故に上層部はうちは一族に疑いの目を向けた。

 写輪眼で九尾を操る事が出来るマダラという先例がいたのだから、その疑いはある意味当然だったと言える。その為上層部からはうちは一族を一纏めにして監視をつけろという声が上がったのだ。

 マダラという男に対する恐怖は、彼の出身だった一族と結びつけて年寄り連中の中に深く深く刻まれていたと言える。

「うちはではありません」

 その上層部の要求に真っ向から否を唱えたのが、九尾襲撃の真犯人らしき男と交戦した当事者、四代目火影である波風ミナトだった。

「少なくとも里のうちはの者ではありません」

 

 確信を持って四代目はそう断言したという。里の上忍の中では有名な話だ。

 そうして、うちはではないと前置きしてからミナトは、あなたたち上層部がやろうとしている事がいかに理不尽なことか、ただでさえ九尾襲撃で人手が減った今、他里に弱みを見せるわけにはいかないのに里を二分するつもりか、うちはは里が興った時からずっと木の葉を支えてきた仲間ではないか、偏見の眼鏡を通さず何故彼らを真っ向から見ない等など上層部に真っ向から反論してのけたのだという。

 彼がうちはに対する隔離監視政策を、受け入れるつもりがない事は明白だった。

 そんな里長……それも真犯人と実際に交戦済みである事から情報の信憑性も高い、の主張に上層部も折れたのだろう。彼らはこんな事を言い出した。

「わかった、うちはを隔離しない。これまで通りにうちはを扱おう。その代わりに……」

 そうして交換条件として出されたのが、新たに九尾の人柱力になったナルトが忍びとして立つ日まで父と名乗らないこと、対外的にナルトは木の葉隠れの里の孤児の一人として扱うこと、という条件だった。

 お前の要求は聞いてやる、その代わりに生まれたばかりの我が子と家族として暮らす事を諦めろと上層部は条件づけたのだ。

 もしかしたら上層部はそのことから、ミナトが我が子可愛さにうちはへの隔離政策を受け入れることを狙っていたのかもしれない。それほどに上層部にとってうちはマダラの記憶は、彼を排出した一族へのイメージはとんでもなく悪かったのだろう。怖れていたとも言える。

 だが……波風ミナトは火影だった。

「分かりました」

 里を治める火影として、家族の幸せよりも里の仲間を排斥しない事を選んだ。

 九尾の人柱力は表向きは孤児だ、四代目の子供ではない。

 故に、その赤子の名は波風ナルトではなく、亡くなった四代目の妻の旧姓がうずまきだったことから、うずまきナルトと呼ばれることになった。

 おそらく細やかながらも抱いていたのだろう四代目の私人としての、息子と親子として暮らす夢は奪われた。

 うずまきナルトは表向きは孤児だ、父と名乗ることは許されていない。

 だが、それでも我が子が愛しいのだろう。仮面をして父と名乗らず、ちょくちょくナルトに会いに行ってるようだと、そうカカシが言っていた。

 だがそれももう終わる。

 口外は許されない。

 家族として暮らすことは許されていない。

 それでも父と息子に明かす事が出来るのはきっと嬉しい事だろう。

 

(家族……か)

 ……5年前の事を思い出す。

 あれは初夏の事だった。瞬身のシスイと謳われた、うちはシスイが身投げして亡くなったのは。

 そしてシスイの死の3週間後に、オレは弟分にして従甥であるうちはイタチに呼び出されていた。

「オレを呼び出すとは珍しいな、イタチ」

 口調だけはからかうように、声音は気遣うように出来るだけトゲのないようにかける。

 亡くなったシスイとイタチは親友だった。

 ちょっと年は離れていたがとても仲が良く、一緒に修行したり甘味処に行ってるのを見かけたものだ。

 さぞ気落ちしていることだろうと思ったが案の定、無表情じみた顔の中に僅かに沈痛さを交えながらイタチは静かな声で言う。

「四代目の許可は取っています」

 それからゆっくり黒目を閉じ開いたイタチは写輪眼となっていた。

 その闇の中でもよく光る赤い目が徐々に模様を変える。

 それが何かオレはよく知っている……万華鏡写輪眼だ。

 イタチの眼には万華鏡が宿っていた。

「……イタチ、お前」

 それからすっとイタチは眼を元の黒目に戻して、綺麗に礼をした。

「……ゴガクさん、サスケを頼みます」

 オレはうちはイタチがどんな奴なのかはよく知っているつもりだ。

 酷く聡明で繊細で、弟想いで争いごとを忌み、平和を芯から願っている優しい奴だ。

 そして誰より耐え忍ぶ事を知っている優秀な忍びでもある。

 そのイタチが眼に入れても痛くないほど可愛がっている弟を託すということは……そういうことなのだろう。

「ああ、任せろ」

 ニッと笑ってオレは答えた。

 それに吊られたように、悲しげな目元はそのままにイタチはふっと優しく微笑った。

 ……イタチが里を抜けたのはこの次の日の事だ。

 

 うちは一族内でタカ派と目されていた、木の葉に不満を抱いていた奴等は全てイタチに始末されていた。

 抜け忍は重罪だ。

 それも何の罪も犯していない同族を何人も殺した等とんでもない事だと、イタチには懸賞金がかけられた。だが確信がある。きっと任務だったのだろう、と。

 そう思ったのはオレだけではなかったのだろう。

 その日からサスケががむしゃらに修行している姿をよく見かけるようになった。

 きっと兄には理由があるのだと、兄さんに会いたい、兄の口から真実を聞きたいとそう望んでいることは言われなくてもわかった。

 だからオレは見守った。

 イタチに言われたからじゃない、オレがそうしたいと思ったから。

 そのサスケも今年アカデミーを卒業する。

(サスケにも修行つけてやるか)

 強くなれ、サスケ。

 弱い奴が吠えても何も変わらねェし何も守れねェ。

 結局柱間が里を興した後、マダラと違って何もこぼさなかったのも奴が桁違いに強かったからだ。

 弱い者は醜い。何も守れないからだ。

 だから、オレは……マダラは誰よりも自分が嫌いだった。

 何も守れなかったから。

 ……イズナも。

 サスケは前世のオレの弟に……イズナによく似ている。

 だが、サスケはサスケで、イズナはイズナだ。

 誰もイズナの代わりになることは出来ん。

 分かっている、オレはうちはゴガクだ。

 マダラはオレの過去であってここにいるオレではない。

 そして今のオレは、前世のオレであるマダラの強さにも到底届いてはいない。

 だからオレは強くなる、今度こそ守りたいものを守るために。

「愉しみだな」

 砂利共の写真を眺めながらオレはそう呟いた。

 

 続く




今回判明した世界設定のあれこれは大体ダイス神のお導きの結果です。
とりあえず元スレのスレ主(※EKAさんとは別人)が振ったダイスコピペ↓

dice1d2=2 (2)
1.三代目政権 2.四代目政権

dice1d2=2 (2)
1.波風ナルト 2.うずまきナルト

後、後々出てきそうなシスイの生死もふります
dice1d2=2 (2)
1.生存 2.死亡

ミナトはうちはの真実を
dice1d2=1 (1)
1.知ってる 2.知らない

あとゴガクの恋人関係
恋人が dice1d2=2 (2)
1.いる 2.いない

恋人がいた場合 dice1d2=1 (1)
1.うちは一族 2.他の一族

生死 dice1d2=2 (2)
1.生きている  2.死別した

この小説はあくまでも元スレで出た設定を元に適当に辻褄合わせて深堀りしてわいが勝手に書いた小説なので(スレ主に許可は取ったが)設定の大半はダイス神の導きなのだ


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4.ゴガク班結成!

ばんははろEKAWARIです。
今回の話は原作でいうと鈴取り合戦回。鈴取り合戦はしていないけど。確か下忍合格テストって上忍師ごとに何やるか違うらしいのでゴガクはこんな感じでお送りします。
尚、元スレ版より1.5倍くらいに文章増量でお送りします。


 

 

 上忍師と担当下忍が顔合わせする当日。

 卒業予定の下忍候補の卵共は、アカデミーの教室で上忍師が来るまで待機しているのが原則だ。

 どいつもこいつも忍びの自覚があるとは思えない暢気な間抜け面をした砂利共に、さて今年は何人残るのかと考える。

 なにせ忍者アカデミーを卒業したとして、全ての卒業生が下忍に採用されるわけではないことは、木ノ葉の忍びの中では常識だ。まあそれでもほんの10年ほど前まで卒業生同士を殺し合わせて、生き残った者のみ下忍として忍びに採用していた血霧の里……と呼ばれていた霧隠れの里に比べれば、木ノ葉隠れの里の下忍採用基準など、上忍師の胸一つで済む分甘いのだが。

 オレとて全ての砂利共を自分の部下兼教え子に採用するわけではない。

 これでも同期の中ではカカシの次に上忍歴が長いのだ。

 木ノ葉隠れの上忍師として、アカデミーを卒業した砂利共の面倒を見る為にこうしてここに足を運ぶのはこれで4度目だが、うち2回はオレが上忍師として面倒を見る価値すらないとして、アカデミー送りにして終わっている。

 だがそれは別に珍しい事でも無いのだ、現にカカシの奴とて二年連続で下忍の卵共を部下には採用せず、アカデミーに送り返している。

(だがまァ、流石に今年はアイツも採用するかもしれねェがな)

 頭に思い浮かべるのはフガクの末の息子であり、弟分であるイタチの実の弟サスケだ。オレにとっても可愛い従甥であり、実の甥っ子のように思っている相手でもある。四代目のとこの悪戯小僧と、名前も聞いたことのねェくノ一が同班なのは不安材料じゃあるが、まァあいつなら大丈夫だろ。

 オレの受け持つ予定の三人も、期待出来たらいいんだが。

 そんな事を思いつつアカデミー教師のいる所に向かい、教師をやっている中忍に空き教室にオレの担当する予定の砂利共を移動させるよう言付ける。

 そうして砂利共が空き教室に移動した5分後、オレはオレの担当する予定の下忍の卵となる砂利共の待つ教室に、そっと気配を絶ちながら忍び寄った。

 オレが受け持つ予定なのは油女のとこの砂利と、犬塚のとこの砂利と、それから日向宗家の娘だ。

 さて、オレの存在にいつになれば気付くか。

 

 最初に気付いたのは油女のとこの砂利だった。

 蟲たちから話を聞いたのかオレの方に視線を向ける。

 ついで油女の砂利の視線から何かいると気付いたのだろう、日向の娘が白眼を通してオレの存在に気付き、ついでに困惑を宿す。何故オレが何も言わずただ立っているのかわからないという顔だった。

 ……問題は犬塚のとこの砂利だ。

 奴は10分ほどオレがそうしていても気付いた素振りがない。

「だああおっせー! オレ達の先生は何をしてんだよッ!」

「……キバくん、あの……」

 日向の所の小娘は、言うべきかどうか迷うようにオレと油女の砂利をチラチラと交互に見やる。

 それに嘆息するように息を一つ吐き出すと、油女のとこの砂利は首を緩く振り、「騒ぐ必要はない。何故なら……先生は既に来ているからだ」と答えた。

「へ?」

 犬塚のとこの砂利はなんとも間抜けなツラを晒すと、「赤丸!」と自分のパートナーである忍犬の名を呼び、犬はワンとオレのいる砂利共のすぐ背後に向かって一鳴きした。それによって漸く最後の砂利もオレの存在に気付いたらしい。

「どわっ!?」

 ……と、そんな間抜けな声を漏らした。

 オレは腕を組み、そんな砂利共をじとりと睨みながら淡々とした口調で話しかける。

「遅い。確かお前たちの担任はうみのイルカだったか……お前たちは感知と探索に特化して期待が持てると聞いていたが……とんだ見込み違いだな。それとも過大評価か、どうやら生徒可愛さに目が曇っていたと見える」

「なっなっなっ」

 犬塚のとこの砂利はそんな感じの間抜けな声を上げる。日向の所の小娘は困ったように眉根を下げて、自分の服の裾をソワソワと掴んでいる。今のところ期待が持てそうなのは……まあ油女の所の砂利といった所か。

 そんな判断を下しながら、唇の端をつり上げる。

「オレはうちはゴガク。お前たちの上忍師だ。喜べ、オレがお前たちを鍛えてやろう。存分に、な」

 そう言ってオレはニヤリと笑った。

 

「テストォ?」

 アカデミーから場所を予約していた演習場に移し、お前たちへのテストを行うと宣言すると犬塚のとこの砂利はそんな素っ頓狂な声を上げた。

 見れば日向宗家の娘も戸惑いをチャクラに乗せている。

 油女のとこの砂利は予想がついていたのか、他の二人よりも冷静な態度だ。

 そんな砂利共の様子を観察しながら、淡々とオレは語る。

「そうだ……よもやたかがアカデミーの卒業試験を突破できた程度で忍となれるとでも? そんなわけがあるまい。あれは忍びとして最低限の能力を持っているかをチェックしてるに過ぎん。本当に忍びとしてやっていけるかの判断は担当上忍が行う」

 そのオレの言葉に、砂利共は互いの顔を見ながら戸惑う。

「知らなかったのか? アカデミーの卒業生の半分以上はそうしてアカデミーへと再び戻されるというわけだ」

 そうオレがクックッと笑って言うと、砂利共はゴクリと唾を飲み込む。

 どうやら自分達もそうなる可能性を、漸く認識したというわけらしい。

「だからこそ、自分たちが忍としてやっていける事を証明してみろ。ルールは簡単だ、オレはここから一歩も動かん。お前たちに対し使うのは小指一つで十分だ」

 そういって見せつけるように、右手の小指を左右に振る。

「……一歩でも良い、オレをここから動かすか一撃でもいれて見ろ」

 

 そうして、まあテストを開始したわけだが……。

「ハァハァハァ……」

「……う、く」

「……」

 1時間が経った現在、砂利共の調子としては疲労困憊といった感じだ。

 最初は威勢良く飛び出してきた犬塚の砂利も、今は犬っころとともに息を荒げている。

 ……とはいえ、最初は一人で無謀にも突っ込んでいく考えなしであったが、途中からは他の二人と連携を取るようになっただけ成長は見られるのだが。

 他の二人も犬塚の砂利共ほどではないが消耗している。

 どんな技を放っても小指一本でいなすオレを相手にどうも攻めあぐねているらしい。

 たかが一時間で体力がつきてきたのも、戦も知らぬ時代に生まれ、ぬるま湯の中で育てられた卵共であることを思えば、まあこんなものだろう。

 ……潮時か。

 

「……つまらんな」

 オレは心底失望したような顔をしながら、そう淡々と言葉を吐き出す。

「どうやらお前たちはオレが鍛える価値もないようだ」

 オレの放った言葉に、動揺が砂利共の中に広がる。

「何故お前達はそうして手を休めている? 体力を回復させる為か? だとしてもだ、一人が体力の回復に努めている間に他の二人でかかればいいだろう。弱い忍びに一体なんの価値があるというのだ。弱いなら弱いなりにするべきことがあるのではないか? そんなこともわからないのであれば、家に帰って母親の乳でもしゃぶってたらどうだ?」

 その言葉に悔しそうな顔を浮かべる犬塚の砂利と、唇を噛みしめる日向の娘。

 油女のとこの砂利は蟲を多数呼び寄せ、まだやる気はあるようだ。

 ……まあ去年の腰抜け共よりはマシか。

「オレと戦うか、逃げ帰るか、好きな方を選べ」

 そう告げてオレは殺気混じりにチャクラ圧を強めた。

 砂利共はそれにビクンと肩を跳ねる。

 足がガクガクと笑っている。

 うちはマダラは戦乱の世に生まれた。命の取り合いは日常だった。齢5つで戦場に立つのも別段珍しくもなく、子供だからって容赦されることもない。それが戦国乱世の当たり前だった。

 オレ……うちはゴガクは戦乱の世の生まれではないが、それでも丁度大戦と大戦の合間の生まれだ。

 年齢二桁になる前には中忍に上がり、戦場に投入された……まあそれでもマダラの時に比べればぬるいぐらいだったが、この砂利共ほどのぬるま湯の中で育ったわけではない。

 本物の戦場を知っている忍びの殺気は、この砂利共には随分ときついものだろう、どんなに手加減していると言ってもな。

 さて、どうするか。

 ここでチビって逃げ帰るのなら今年は採用せず、それこそアカデミーに送り返すだけのことだが。

「ほう?」

 結果として、奴等は立ち向かうことを選んだ。

 ガクガクと足を震わせ恐怖に顔を青くし脂汗をかきながら、それでもクナイを握る手に力を込めて、三人でコクンと頷き、拙い連携を頼りにオレに立ち向かう。

「たああああー!」

 小娘が恐怖を振り払うように、声を上げる。

 油女のとこの砂利が目眩ましを目的に蟲を放ち、オレの視界を奪ってからの犬塚の砂利と日向の娘の同時攻撃。

 その連携はまだまだ荒削りで、見るに堪えん出来映えではあるが……。

 

「フ……合格だ」

 それらを全て指一本でさばきながら、オレは殺気を霧散させそう宣言した。

「え?」

 一体オレに今何を言われたのかわからないかのように、小娘がきょとんと目をしばたかせる。

 犬塚のとこの砂利と油女のとこの砂利もだ。

 言われたことに感情が追いついていない。

 それを理解しながらもオレは待つつもりもなく、淡々と砂利共の感情を置き去りに言葉を紡いでいく。

「お前達に期待されている役回りは感知・探索ではあるが……それでも、忍びとしてやっていく以上、どうしても避けれない戦いなどいくらでも出るものだ。そんなときに、たかが殺気を浴びたくらいで動けぬ者に何の期待が持てる」

 引き際を弁えるのも大事な忍びの素質である。だがいつだって逃げられると思うなら、それは幻想だ。引けぬ戦いは、忍びとしてやっていくなら、いずれ必ず当たるものだ。

「立ち向かい、その中で活路を見出す気概すらない奴など、オレが鍛える価値もない。お前たちはオレの殺気を浴びて尚立ち向かうことを選んだ、三人でな。その時点で合格だとそう言った」

 オレに言われた事の意味が理解出来たのだろう。

 砂利共は互いの顔を見合わせ、最初は信じられなさそうな顔をしていたが、徐々に驚愕から嬉しそうな顔に変わっていった。

 良い傾向だ。

 班として稼働するのは今日からだが、それでも既に同じ班員としての仲間意識は出ているらしい。

「日向ヒナタ、犬塚キバ、油女シノ、喜べ。明日から八班は始動開始だ」

 そういってオレは三人の頭を順に撫で、笑った。

 

【挿絵表示】

 

 

 続く




因みにゴガクが元スレで紅班受け持ちになった経緯の流れ↓(コピペ)

>>14二次元好きの匿名さん
あの世代かあ…じゃあナルト世代の上忍師ってことじゃん どの班を持つんだ

>>15二次元好きの匿名さん
順番的にや、適正を考えたら紅班がマダラ班になるじゃない?
紅は新人だったし、写輪眼をもってるんだったら幻術も索敵も紅より上だろ

尚、ゴガクによる下忍採用テストの内容自体はEKAさんオリジナリティで適当にでっち上げた奴なのでスレの流れもダイスも関係ないゾ


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5.ヒナタとネジ

ばんははろEKAWARIです。
今回は日向家問題の回です。地味にスレに投下版より文量2倍に倍増してます。
あとお気づきかも知れませんがゴガクは別に認めていない相手→○○の砂利、○○の小娘呼び。
認めた相手→名前呼びみたいなルールで書いてます。


 

 

 オレが第八班の担当上忍になってから早くも一月(ひとつき)が経った。

「赤丸!」

「ワン!」

「シノ、ヒナタ! いた、こっちだ!!」

 きっちり声掛けをしながら、与えられたペット捜索任務を前に、自分たちなりに考えながらこなす教え子達を、オレは木の上から見下ろし観察を続ける。

 監督責任から一応はこうして、忍具の手入れの傍ら見てはいるが、危険性など欠片もないDランク任務だ。

 今日もまた特に何事もなく終わることだろう。

 基本的に下忍の任務内容や仕事ぶりについて、オレが口出しすることはない。

 当然だ、何もかも上げ膳据え膳で自分の頭で考えられない奴に将来性などあるものか。

 たとえ子供の手伝いのような下らん任務だろうが、任務は任務だ。

 報酬を貰っている以上は真剣に臨むべきだし、与えられた任務をどれだけ効率良く行うのか、連携の強化など学ぶ気があるのならば、たとえどんな任務だろうがそこから学べるものはある。やる気があるのなら、どんなものでも教材だ。やる気があるのならな。そもそもそれすら欠ける奴は、これまでアカデミーに送り返してきたわけだが。

 奴等の為の任務を受理した際にオレが決めるのはただ一つ、その日のリーダーは誰にするかの指名だけだ。

「シノくん九時の方向に蟲を放って。キバ君反対側からまわりこんで」

 そして今日の隊のリーダーはヒナタだ。

 初めて八班のリーダーに指名した時は、おどおどとして碌に声も出せない困った小娘だったが、こうして任務を繰り返す内にヒナタも随分も指示することにも慣れてきた。良い傾向だ。

 そうして今日もオレはただそれを見守る。

 新人(ルーキー)の下忍に割り振られる任務は、大抵が一日で済むDランク任務ばかりだ。朝から掛かれば午後になる前に終わる場合も多い。

「ゴガクセンセー!」

「お願いします」

「ああ」

 故に、早々に任務が終わった日は、二回に一度はオレ自身が修行をつけるのもルーティンとなっていた。

 修行の内容はオレを相手に三人がかりの連携で攻め込ませる日もあれば、多重影分身で出した3人のオレを、砂利共に変化させて一対一でそれぞれと個別に対戦する日もある。

 また基礎知識を高めるために、オレ自らが講義する場合もあるが……座学だと知った途端逃げ出そうとするキバを、ヒナタとシノの二人が引き戻すまでもお約束となっていた。

 連携強化の為の修行の時にオレが使うのは片腕だけだ。

 下忍合格テストの時同様演習場を借り、オレ自身は一歩も動かずに三人を同時に相手する。ハンデこそくれてやっているが、それぞれが実力的にギリギリ死ぬ気で努力すれば解ける程度の幻術やギリギリ対処出来る程度に抑えた遁術、体術全て織り交ぜて使っているから、まあ砂利共からすれば一番キツい修行は実はこいつだろう。

 そして一体一で見てやる時は、弱点克服をメインにした修行だ。

 それぞれ影分身のオレをシノ、キバ、ヒナタに化けさせ、手本となる動きを組み込ませて一体一の忍び組み手を行う。自分……正確にはオレの影分身が化けたものではあるが、と戦う事によって直すべきところを洗い出すのがメインだ。

 多重影分身の術はあの千手扉間が開発した術という点では気に食わんが、術に罪は無いし、実際のところそれなりに有用な術だ。実態のある分身体という意味では柱間の木分身にこそ敵わんが、それでも十分に及第点を与えれる程度には有用だろう。

 とはいえ、チャクラ量に不安がある者が使えば、チャクラ枯渇を招きかねない術故に、多重影分身の術は禁術に指定されているわけだが、オレの基礎体力量やチャクラ量はうちは一族内でも随一のものだ。

 流石にうずまきや千手、前世のオレに比べれば劣るが、影分身を三体出して変化の術を維持させる程度、大した労力でもない。

「どうした、もう仕舞いか」

「はぁ……はぁ……ゴガク先生、まだ、です」

「お願いします!」

 砂利共はほどよい緊張感を保ちながら、姿勢を正して修行の続きをオレに頼み込む。舐めた口や態度を取る者はいない。

 そのあたりは、初日に格の違いを見せつけた事が効いているのだろう。

 

 ……あの日、オレは砂利共に「合格」を言い渡した後に、こう続けた。

『お前達に火遁の極致を見せてやろう』

 そうして訓練場を万が一にも更地にしないよう、空に向かってオレは寅の印を組む。

『火遁、業火滅却!!』

 直後、ゴウッとまるで地獄の業火を思わせる炎が青空を一面の赤に染め上げる。

 火遁、業火滅却。

 これは数々の術の中でも火遁・業火滅失共々、オレの十八番とも言える術だ。

 うちはは火を扱う一族だ。幼き頃より火に親しみ、基本となる火遁豪火球の術を使えるようになって一人前と見られる。故にうちはが火を得意とするのは当然の事であり、うちは一族と組んだことがあるものなら一度は豪火球の術の術を目にする機会があることだろう。

 だが、火の扱いに長けるうちは一族の中でも抜けて、オレは火遁の扱いに長けていた。

 故に二つ名を『獄炎のゴガク』。

 それは地獄の炎を思わせる大規模火遁の数々を、強度も大きさも自由自在にまるで息をするように扱っていたことに由来する。

 それでもオレがうちはマダラであった時よりも威力は弱いのだが、下忍になりたての砂利共にとっては衝撃そのものだったのだろう。

 間抜けにも三人揃ってあんぐりと口を開いたツラは今思い出しても笑えるが、実際にはその時は笑うことはなく淡々とした口調でオレは言葉を続けた。

『忍びとして生きていくのなら、いつかお前達もどうしようもない理不尽と直面する日が来るだろう。たとえどんなに大量の毒虫を駆使しようとも、焼き尽くされれば終わりだ。犬塚の技も柔拳も届かねば意味がない。この炎はその一例に過ぎん。勝てぬほどの大敵を前にした時、お前達はどうすれば生き残れるのかを考え続けろ。思考を止めるな、甘さは捨てろ、出来ねば死ぬぞ』

 その言葉に砂利共は真剣な顔をして肯いた。

 

 * * *

 

 シノ、キバ、ヒナタの三人にいつも通り修行をつけたその夜、オレは居酒屋にガイを呼び出していた。

「すまん、待たせたか!」

「いや、オレも今来たところだ」

 ガイはいつも通りの緑の全身タイツに身を包み、明るい大きな声を出しながら時間ぴったりに現われた。

「アスマではなく、オレを呼び出すなど珍しいではないか、ゴガクよ」

 ガイの悪気も何もない言葉に思わず苦笑する。

 確かに、同期に誘われれば酒に付き合うこと自体は別に珍しくもないが、アスマ以外の人間をオレが自ら積極的に飲みに誘うってのは、珍しい事かもしれない。

「何、ちょっと相談があってな、まあ飲め。オレの奢りだ」

「おおすまんな、いただこう」

 そう言って適当につまみと酒を追加で注文すると、オレは早速本題を切り出した。

「お前も知ってる事だと思うが……オレが今年受け持った第八班は感知・探索特化型だ。構成員は日向ヒナタ、犬塚キバ、油女シノだ。それに対しお前が担当している三班は、近接戦に特化したロック・リーと暗器遣いのテンテン、そして日向一族でも天才と名高い日向分家の息子ネジの三人、そうだったな?」

「そうだな! オレの自慢の教え子達だ!」

 ガイはカラッと明るい声で肯定する。

 辛口の酒を少し猪口でいただきながら、話を続ける。

「うちの班に構成が一番近いのはお前の担当する班だ。そこでなんだが、一度うちの班のメンバーとの模擬戦を頼みたい」

 上忍師に教えを受けているような下っ端下忍達が、互いの上忍師立ち会いの下、模擬戦を行うという事は、中忍試験の最中でもなくばあまり多くはない。互いに別の指導者がおり別の任務を抱えている中、わざわざやる理由もないからだ。ましてうちの第八班とガイの率いる第三班は同期ではないなら尚更だ。

 故に、オレのその申し出は少し想定外だったのだろう。「ふむ」といつも暑苦しい男は真剣な顔をしてオレを見る。

「似たような構成を持つ先達と戦うことは八班にとって良い経験となるだろう。後輩と戦うことになる三班もそうだ。何かを教えることで指導者側もまた成長する。悪い話ではないと思うが」

「いいだろう!! 若き下忍達が互いに切磋琢磨する、くぅ~! それもまた青春だ!!」

 ガイは即答した。

「フッ……お前ならそう言ってくれると思ったぞ」

 そのまま一体いつ行うか、どこの演習場を借りるのかで話を詰め、翌週ガイ班とゴガク班は顔を合わせることになった。

 

 ……つまりは。

「お久しぶりですね……ヒナタ様」

「……ネジ兄さん」

 日向宗家の娘と日向の分家に生まれた天才も顔を合わせるということである。

 ……日向ネジはヒナタとは従兄妹同士の関係に当たるのだったか。

 だがそこに、血縁に対する温かな色は見えない。

 ネジは従妹に当たるヒナタに向かって酷く冷え冷えとした視線を向けていた。ドロリとした憎しみや恨みさえチャクラに滲んで見える。

 そんな従兄に対しヒナタはびくりと肩を振わせ、後ろめたさややりきれなさを顔に映しながら、伺うようにネジを見上げていた。

(ふむ……何があったのかは聞いてはいたが……こりゃ問題だな)

 問題なのはどちらか片方だけではない。両方だ。

 ともあれ、その日の模擬戦は互いの班員達にとっては有意義なものになったのも確かだ。

 ……日向の二人を除いてと言えるが。

 マイナスだったのはヒナタとネジだけだ。

 忍びとして私情を丸出しにするのは問題だってのもあるが、年下の血縁者相手に恨みをぶつけるネジの在り方はうちはで育ったオレからすれば、眉を顰めたくなる所業だったが、だからといってヒナタに問題が無いかと言われればヒナタにも問題はあるのだ。

 萎縮し、後ろめたいという感情を隠せもしないというのは、忍びとして十分に問題である。

 ……オレはヒナタの上忍師だ。オレの部下で教え子と認めた以上、オレは師としてヒナタの面倒を見る責任がある。

 なんでもかんでも上げ膳据え膳などするつもりもないが、それでもこの手の問題を長引かせれば、後の成長に支障が出るだろう。

 そう、観察し判断したが故に、オレはその日日向宗家へと文をしたためた。

 日向ヒナタの上忍師として話をしたい、と。

 

 * * *

 

「今日は私めの為にお時間を頂き、有り難うございます、当主殿」

「……うむ」

 文を(したた)めた翌々週、オレは日向家当主である日向ヒアシと日向の屋敷の一室で面談を交わしていた。

 オレは担当上忍らしくヒナタの普段からの任務に取り組む様子や、修行内容、彼女の能力面から最初は声を出すことを苦手としていたが大分改善してきたことまで、淡々とした声で順に告げていく。

「……そうか」

 無表情の鉄面皮を貫く男は成程、厳格をそのまま体現したかのようであり、ヒナタが萎縮するのも無理はないといえる。が、それでもオレの眼は誤魔化せん。ヒナタの当初に比べて進歩した点について褒めると、男はほんの少しだけ口角を上げかけていた。

 娘の成長が喜ばしいのだろう。

 

「嗚呼、そうそう。貴方の甥にあたる日向ネジですが……」

 話は先日の三班との模擬戦の件に移り、オレがネジについて口にした途端、ピリッとチャクラをほんの少しだけヒアシは荒立てる。

 それをオレはまるで何事もなかったかのようにチャクラの揺れを無視して、淡々とこれまで通りの口調でネジとヒナタがギクシャクしている件まで説明を終えると、日向宗家の当主たる男は苦虫を嚙み潰したような顔で沈黙する。

 思うところが多いのは明白だった。

 そんな男の様子を観察しつつお茶を一口飲み、それから「他の一族の問題に口を出すのは内政干渉にあたるのは分かっている」と前置きしてから、オレは本題について切り出した。

「故にこれはあくまでも独り言として聞き流していただきたいのだが……子供の成長というのは大人が思うよりも早いものだ。そして年齢を重ねれば重ねるほど、人は凝り固まった考えに憑かれ柔軟性を失っていく。あの小僧が暴発するのも目前だろうな、その時誰に被害が出るのは言わずとも分かっている事だろう」

 言外に被害に遭うのはお前の娘だぞ、と伝える。

 愛がないのであればだからどうした、というだけの話かもしれんが、見たところこの男は実子にも甥にも想いはある。立場によって雁字搦めになっているだけだ。

 ならば、届くだろう、というのがオレの見立てだった。

「分家と宗家で何があったのかは聞き及んでいる……が、このままでは取り返しのつかない事になりかねんぞ。その前に対処することだ、後悔のないようにな……」

 その言葉を最後にさっさと「お邪魔しました」そう告げてからオレは日向の屋敷を後にした。

 あとは後ろを振り返りすらしなかった。

 

 ……さて日向の中において何を話しあい、どうなったのかは知らん。

 ただ確かなのは翌月再びガイ班と合同訓練を行ったときには、ヒナタとネジはギクシャクとした気まずい空気はあったものの、それでも二人の中に流れる空気は前回のような敵意に満ちたものではなかった。

 それだけは確かな事だ。

 それからもガイ班との模擬戦は月に1度くらいの頻度で開催されたが、徐々に日向の宗家の娘と分家の息子による確執は収まり、やがてヒナタはネジを前にしても笑顔を取り戻した、ということだけは言っておこう。

 

 続く




因みにこの回の展開元ネタ↓(以下元スレコピペ)

二次元好きの匿名さん
SSみて思ったけど、八班ってガイ班と編成構成が似てるんだな、体術メインのキバとリー 白眼使いのネジと、ヒナタ 遠距離のシノとテンテンって感じで。
ゴガクもガイの体術は認めてるし、何回か合同訓練とかしてる可能性ないかな?
中忍試験みてると、ガイも日向家のゴタゴタは知ってるっぽいし、ゴガクなら変に任務に支障をきたすまえに荒療治でもいいからネジとヒナタのギスギスを多少は改善されようって考えるかも

あと二つ名はわいが提案した名前だが♡それなりについたので採用していいのかなと判断しますた。


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6.約束

ばんははろEKAWARIです。
今回はゴガクの過去編その1です。
例によって元スレ版より1.5倍くらいに文量大増量しますた。


 

 

 ……今でも鮮明に思い出す。

 オレ……うちはゴガクが初めて死というものを意識したのは、齢四つの頃の事だった。

 その年、母は五人目の子供を孕んでいた。

「もうすぐゴガクに二人目の妹か弟が出来るのよ」

 大きな腹を大切そうに撫でながら、そういって笑っていた母の顔を覚えている。

 次に生まれるのは妹かそれとも初の弟か、いやどちらでもいい。

 三つ下の妹であるクロキもこんなに小さくて可愛いのだ、きっとどちらでもさぞ可愛いことだろう、とオレは末の兄妹の誕生する日をワクワクと待ち望んでいた。

 兄さん達がオレを可愛がってくれたように、オレもうんと可愛がるんだ。

 無邪気にそんな事を思い、母の腹に宿った新しい命と顔を合わせる日を今か今かと楽しみにしていた。

 しかしそんな幼子の、細やかな願いは叶わなかった。

 ……三日三晩の酷い難産の後に生まれた赤子は既に死んでいたのだという。逆子で、臍の緒が首に絡んでの窒息死だったのだと何年も後になって知った。

 死産した赤子は女の子、妹だったのだという。

 オレは末の妹の顔も名前も知らない。

 幼い子供に見せるのは酷だと思われたのだろう。長兄を除きオレ達兄妹に末の妹は引き合わされる事すらなく、簡素に葬られたとそう聞いている。

 そして酷い難産と末の子供が死産だったショックが重なったのだろう。

 母もまた体を壊し、生死の境を彷徨った。

「母さん……」

 オレは何度も母の病室に会いに行った。まだ1歳の幼い妹クロキを胸に抱えて。

 妹は幼い。物心すらついていないような赤子なのだ。

 漸く「にいちゃ」や「とうちゃ」等簡単な単語を口に出来るようになったばかりで、ただオレに甘えるようにきゃっきゃと笑い、ひっついて幸せそうに眠る、母のことも何も分からない妹がオレは不憫でならなかった。

 とはいえ当時はオレもまた幼かった。

 当然母さんの元に向かう時も妹と2人きりというわけではなく、兄さんや父さんに連れられて見舞いに通っていたわけだが、母さんがふと眼を覚ましたその時はたまたま兄さん達は席を外してて、オレとクロキの2人しかその部屋にはいなかった。

「……ゴガク」

「! 母さん、眼が覚めたのか。待ってろ今兄さんたちを呼んでくる!」

 そう言って走り出そうとするオレの手をそっと引き留め、母はゆるゆると顔を横にいると「……兄さん達は?」と尋ねた。

「アカデミーの先生と上忍師の先生に呼ばれて少し外してる。でもすぐに戻ってくるよ」

「そう……ねぇゴガク」

 ギグリと体が強張る。

 オレに向かって伸ばされた母の手は酷く冷たく白く、まるで血など通っていないかのようだった。

 窶れて尚まるで人形のように美しい母の眼から、透明な滴が伝い落ちる。

 青白い肌に、血の気の引いた唇。その呼吸は弱く、ともすれば今にも止まってしまいそうだった。

「クロキのことお願いね……妹のこと、守って、あげて……」

 何も見えていないかのように、母さんの手が弱々しく宙を彷徨う。オレは其の手をしっかりと掴みながら母を安心させるように断言する。

「……ああ、ああ任せろ! 妹は、クロキはオレが守る!!」

 母は微笑む。

 きっと何ももう見えていないけど、それでもその約束を聞いてまるで安心した、というように。

 妹は、クロキは何もわからないようにすよすよとオレの背中で眠っている。

 冷たいんだ。

 こんなに背中にある命は温かいのに、この人の手は冷たくて、オレの手で暖めたいのに、この手はあまりにちっぽけで。

 温かくて寒くてグチャグチャで胸が苦しい。

 それでも、オレは貴女の息子で、クロキの兄だから、だから約束をする。

 貴女の最期の望みを叶えることを。

「守るから、だから……!」

 死なないで、の声は震えて言葉にならなかった。それに多分オレは心のどこかでそんな事を願っても無駄なことを、理解していたようにも思う。

 直後に母は意識を再び失う。

 けれど、それと同時のタイミングで兄達も帰ってきた。

「兄さん、母さんが!」

 多分オレはその時泣いていたのだろう。

 それを見て兄達は事態を把握し、長兄が父を呼びに行ったが、もう既に遅かった。

 母は既に亡くなっていたのだ。

 死に化粧を施され棺に納められた母は、抜けるような白い肌も相俟って、精巧な人形のように美しかった。

 もうその母が優しくオレの頭を撫でる日も、オレの名を呼ぶ日も来ない。

 葬式とは残された生者の為に行われるのだという。

 ならば母はきっと幸せ者だったのだろう。

 忍びならば戦に出た先で死体すら返ってこない事も、葬儀すら個別に行われない事とて別に珍しくないのだから。けれど母は夫や子供達に囲まれこうして花で彩られ死を惜しまれている。

 ……ただ、母の死を理解出来ない赤子(クロキ)以外は。

 母の死体は棺ごと父の火遁によって綺麗に焼き尽くされた。残されたのは遺灰だけだ。それを壺に入れて墓に納める。

 鮮やかで見事な火遁は父から母への贈り物なのだろう。

 ならいつかオレも、この火遁で大切な人を送り出す日が来るのだろうか。

 ……そんなことを考えていた事を覚えている。

 

 母が死んだ。

 それでも悲しみは時が癒やしてくれる。

 母の死すらわからぬ幼い妹の笑顔は確かにオレの活力となり、母との約束だ妹を守らないとという想いが、オレには出来る事がやるべき事があるのだという使命感が、オレを支えた。

 妹の面倒を見て忙しく過ごしていれば、余計な事を考えずにすむ。その事がオレにとっても有り難かった。

 そうして母が死んだその1年後、5歳になったオレはアカデミーに入学してアイツと……アスマと出会ったのだ。

「うちはゴガクだ」

「オレは猿飛アスマだ、ゴガクだなヨロシク」

 奴とは初めて会ったその時から妙にウマが合い、出会ったその日に意気投合した。

 顔見知りくらいはいたが、友達なんて初めてだ。

 家に帰ると可愛い妹が「にいちゃんおかえり」とわざわざ玄関まで出迎えにきてくれたし、中忍になった上の兄も下忍になった下の兄も、早く任務が終わった日や、非番の日には「ゴガク、おかえり、今日はハンバーグだぞ」と手が空いているほうが料理をして、笑顔でオレの帰りを待ってくれたものだ。

「ああ、ただいま」

 幸せだった、間違いなく。

 気の合う友がいて、オレや妹をとても可愛がってくれる優しい兄達がいて、口数は少ないし多忙な人だったが優しい父もいて、オレを見ては嬉しそうにコロコロ笑う可愛い妹もいて。きっとオレはこの頃が一番幸せだったのだろうと今でも思う。

 前世のマダラの人生では考えられぬ程に、この頃のオレは幸福だったのだ。

 事態が急展開したのは、オレが6歳の誕生日を目前にした時の事だ。

「げほ、ごほ……けふ……ぅ……うう、ひ、ぐ」

「クロキ風邪大丈夫か?」

 その時、妹は体調を拗らせ何週間も寝ていた。

 冬も近い時期だ、小さな子供の体に寒さが堪えたのだろうと、風邪だとその時のオレは思っていたのだ。

 ……妹が血を吐くまでは。

「けふ、ふ……がは」

「……クロキ?」

 べったりと妹の紅葉のように小さな手が真っ赤な血に染まる。

 グッタリした体はあまりにか弱くて、死を連想させずにはいられなかった。

「ただいま。……ゴガク? 一体どうしたんだ?」

「兄さん、クロキが、クロキが血を吐いた!」

 家に帰ってきた下の兄と共に、急ぎ病院へと向かう。

 その間も兄の腕に抱かれた苦しそうな妹の手を握り、声をかけ続けた。

「おい、クロキ!? しっかりしろ、クロキ……!!」

 確かに前々から調子が悪い日は続いていたんだ。

 クロキは元々オレよりも頑丈じゃなかった。

 妹は度々熱を出し、その度にオレはクロキの看病をし、額の汗を拭いながら水を飲ませ、「早く良くなるんだぞ」とそう声をかけ励ました。

 ちょっと咳き込んでいても、微弱な風邪が続いているんだとそう思っていた、なのに違った。

 妹は肺の病に冒されていたのだ。

 丁度その頃世間は戦争に向かっていた。

 第二次忍界大戦が終わってそれほど経ってはいないのに、不穏な空気は治まる気配を見せず、木ノ葉警務部隊で幹部を務めている父も酷く最近は忙しそうだ。

 兄達も次兄はアカデミーを卒業してそれほど経っていないにも関わらず多忙そうで、兄達の手がどうしても空かない時はオレがアカデミーを休んで妹の看病をする日も度々あった。

 そんな中判明した妹の病。

 しかし変わり続ける情勢の中、木ノ葉病院で優先されるのは現役の忍び達の治療だ。

 忍びでもない、ましてアカデミーに入学すらしていない妹の治療は後回しにされた。

 

 火遁を使わせれば、まだ碌にチャクラを練れない筈の幼さながら兄妹の誰よりも大きな豪火球を形成し、クナイを投げれば百発百中。体術も互角に張り合えるレベルまで当時達していたのは同じく天才と呼ばれたカカシくらいで、筆記もトップではないながらもそれなりに成績優秀、忍術も教えられた術を失敗した事は無い。

 当時のオレはマダラの再来ではないかと、うちはの天才だと呼び声高かった。

 あのままいけばオレは同じく天才と呼ばれていたカカシ同様、1年足らずでアカデミーを卒業していただろう。だがオレは自分の成績などよりずっと妹のほうが大事だった。

 兄達は現役の忍びだ、そうそう任務を休むわけにはいかない。

 クロキが元気だった時は、オレがアカデミーに行っている間妹の面倒を見てくれていた大伯母は、彼女自身も年で腰を痛めている。とてもじゃないが、病を患ったクロキの看病を頼める相手ではない。

 だからオレは忍者アカデミーの早期卒業の話を流し、学校を半分以上欠席しながら自宅で妹の看病を繰り返した。

「よぉ、ゴガク、ほら今日の分だ」

「アスマ、いつも悪ィな」

 アスマはオレがアカデミーを欠席した日は、決まってその日の授業のノートや課題を持ってオレの家を訪れた。そしてオレの妹の顔を見るなり、ニカリと笑いかけ、まるで日常の延長のように具合はどうだと軽い調子で話しかける。

 同情は嫌いだ。憐れまれるなど惨めになるだけで、不愉快だ。

 だから過剰に同情などせず当たり前のような態度で自然体で語りかけ、隣にただいてくれる……オレはアスマのそういう所に一番助けられていたのだろうとそう思う。

「アスマおにいちゃんだぁ」

「お……三日前よりは顔色がいいな」

 そう言ってアスマは優しい手つきでクロキの頭を撫でる。

「えへへ~」

 アスマに撫でられ、妹は嬉しそうだ。

 それからジトリとアスマは半目でオレを睨むように見ると「お前昨日寝てないだろ」などと言い出す。

「無理してお前も倒れたらどうする。1時間くらいオレが変わってやるから今すぐ寝てこい」

「そういうわけにはいかねェだろ……クロキはオレの妹だぞ」

 クロキの面倒を見るのはオレの役目だ、そう主張するとアスマは呆れたような口調で肩を竦める。

「お前の妹ならオレにとっても妹みたいなもんだしいいだろ。ちょっとは独り占めさせろ。クロキちゃんもアスマ兄ちゃんのこと好きだもんなー? な?」

「すきー」

 そういってきゃらきゃらと今朝まで熱がひかなかった妹は笑う。

 それがアスマ流の気遣いであることは知ってた。

「……すまん」

 アスマは返事をしない。

 そのまま手をヒラヒラと振ってさっさと寝ろと指示をする。

 オレはアスマのそういう所に救われていた。

 ……大丈夫だ、大丈夫。オレも、クロキも一人じゃない。

「けほ……けほ……ひぐ、う、う」

「クロキ……クロキ、大丈夫だ。大丈夫、いつか良くなるからな」

 夜中に突発的に咳き込んで、泣いて苦しむ妹をそんな風に抱いてあやして、うろ覚えの母が歌ってくれた子守歌を歌って何度夜を過ごした事だろうか。

「に、ぃちゃ……」

「ああ、兄ちゃんがついてる。ずっと一緒にいるよ」

 そう……いつかきっとよくなる日が来る。

 今は苦しいかも知れないけれど、それでもいつかは……クロキがよくなる日が来ると、そう信じたかったのは、希望的観測に過ぎなかったのか。

 クロキが肺の病に冒されていると発覚してから1年と3ヶ月が過ぎた頃だった、容態が急変したのは。

「ごふ、かは、くふっ……ひ、ぃ」

「クロキ、クロキ!? しっかりしろ!」

 その日、家にいたのはオレとクロキの2人だけだった。

 情勢は悪化の一途を辿るばかりで、兄達2人は任務に出かけており帰ってくるのはいつになるのか……少なくとも今日明日に帰ってくるわけじゃない事は分かっていた。

 吐いた血で喉が詰まっているのか息も碌に出来ない妹の喉からは、コヒューコヒューとおかしな呼吸音が苦しそうに途切れ途切れに続く。体は小刻みに震えており、顔はまるで蝋人形のように青白い。

 一体どうすればいいのか。

 どれほど天才と呼ばれてようが、当時のオレは齢7つの砂利に過ぎなかった。

 病院に、父さんは、頭がグルグルする中ただ、早くなんとかしないとと気持ちばかり急いて、妹をおんぶ紐で布団ごと巻き付け外に飛び出す。

 そんな中、いつものようにアカデミーの課題等を抱えてやってきたアスマは事態を把握したのだろう、オレとクロキの常にない様子を理解するなり「オレがおじさんを呼んでくる! お前は早く病院に行け!」と脇目も振らず駆け出した。

 アスマが父を呼んでくれるなら間違いはないだろう。

 そう信じてオレは木ノ葉病院までの距離を出来るだけ揺らさないように、妹の体に負担がかからないように気をつけながら駆けた。

 どうか神様……と、柄にも無く神頼みまでしたものだ。

 だが結局神などいなかったのだろう。

 木ノ葉病院に駆け込むも運悪く負傷者が多数運び込まれた直後だった。戦争を控え、国境線沿いで小競り合いが頻発していたのだ。

 忍びでもない、アカデミーに入学すらしていない子供の優先順位など低いものだ。妹が今にも死にそうだと何度必死に訴えても、無駄にしかならなかった。

 医者と父の到着を待つも、時間ばかりが過ぎていく。

 腕の中でドンドン妹の息が弱っていく、体温が足りない。鼓動が弱い。また血を吐いた。

(……死ぬのか? クロキは……あの時の母さんのように)

 思わず血が出るほどに自分の拳を握りしめる。ポタポタと血が垂れても気にもならない。妹の、クロキの苦しみに比べたら、オレの手の痛みなど痛みのうちにすら入らなかった。

(オレは無力だ)

 母さんと約束したのに、オレが守るって。

 どうしてオレにはこの小さな命を守る力がないんだ。

「ゴガク!」

 そう自己嫌悪に陥ったオレの元に、アスマが父を連れて現われる。

「父さ、ん……クロキが、息をしてないんだ」

 きっとオレもまた酷い顔色をしていた事だろう。

 あまり表情を変えない人だったのに、父は眼を見開き驚き俺の腕から妹を受け取り、父からも医者になんとか頼み込み、診て貰えるように掛け合う。

 だが……。

「もう亡くなっています」

 無情にも妹の死が宣告される。

 医者はもういいですか? と淡々と告げて次の患者の元へと向かう。

 それだけだった。

 妹はまだ4歳だったのに、昨日までオレに「クロキね、はるになったらみんなでおはなみしたいな。ゴガクおにいちゃんのすきなおいなりさん、クロキも作るの」ってそう話してたのに、こんなにあっけなく終わらないといけないのか、妹の人生は。

(母さん、オレは貴女との約束を守れなかった)

 オレは妹を守れなかった、母の最期の願いだったのに。

 オレにとっても大切で、愛しい妹だったのに。

 目眩がするほどに感情がグルグルとまわって、酔いそうだった。

 その日どうやって病院から家に帰ったのか、オレは覚えていない。

 

 続く




今回の話の経緯↓(元スレよりコピペ)

二次元好きの匿名さん
そういやあゴガクは妹も二人いたわけだが年齢的に忍界大戦の時二人とも戦場に出されてたとは考えにくいし兄達はマダラの万華鏡開眼理由にしても妹たちの死因は別なんだろうか?
一人は病死とか
肺病っぽかったら病気になったイタチを放っておけない理由が更に増える気がするけど
苦しむ妹を救えなかった自分への失意や絶望から写輪眼開眼とかそういう感じだったりして

二次元好きの匿名さん
一人はイタチと同じ病気での病死で一人は死産だったとか?それで母親も最後の子供産んだ後体調を崩して死んでしまったなら辻褄があいませんか?


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7.開眼

ばんははろEKAWARIです。
今回はゴガクの過去編その2で元スレ版より例によって1.8倍くらいに文量マシマシでお送りします。
因みに次回は現代に時間軸戻って中忍試験はっじまるよ~。


 

 

 クロキの葬儀は兄達が任務から帰還してからすぐに行われた。

 とはいえ、まだアカデミーに入学すらしていなかった、里にとっても一族にとってもさほど重要でもない子供の葬儀だ。参加したのはオレ達家族と従兄のフガクを始め、よく面倒を見て貰っていた大伯母など血が近いごく少数の親族と……それとアスマだけだ。

 小さな棺に花を1人1輪ずつ納めて、棺ごとクロキの体は火遁で骨一つ残さず焼かれる。妹が此の世にいた証に残されるのは1枚の家族写真と灰だけだ。

 花を納める時にもう1度だけ妹の顔を見る。

 これが最後だ。

 花に囲まれ、物言わぬ骸になった妹は、まるでひな人形のように可愛らしかった。

 これでも忍びの一族に産まれた人間にしては、妹は恵まれているほうだと頭ではわかっている。

 戦場に出た忍びの死体は五体満足とはいかない。

 遺品すら帰ってくることなく葬式すら行われない、そんな末路を辿る忍びも珍しくはないと知識の上ではわかっているんだ、それでも頭がおいつかない。

 母はまだ良い。

 確かに死んだことは悲しかったが、それでも母は子を5人も産み育てるほど生きることが出来たし、子より親が先に死ぬのは世の道理だ。それに無念の死というわけでもなかっただろう。

 けれど、妹は、クロキはまだたった4歳の子供だったのだ。

 血の気のないまろい頬、オレとよく似た髪質の肩まで伸びた黒髪、小さな鼻に小さな口に紅葉のような愛らしい手。甘えたで可愛いオレの妹。

 他の兄達より年齢が近いのもあったのだろう、オレに一番懐いてくれていた、オレの宝物。

『おにいちゃん』といつものようにオレの名を呼んで、笑いかけて欲しいのに、なのに冷たく閉じた瞳はもう開くことはない。ツンと鼻の奥が痛い。

 隣を見れば、アスマもクロキの棺に花を納めながら泣いていた。

(クロキのために、泣いてくれるのか)

 ……思えばアスマも、よくクロキの面倒を見てくれたものだ。

 妹もアスマにはよく懐いていた。

「クロキちゃん……」

 そう妹の名を呼びながら泣いているその涙は本物だった。そういう奴だ、お前は。

 忍びは感情を見せることを良しとしない。

 だがオレ達は子供だった。

 まだアカデミーを卒業すらしていない子供だ、だからきっとオレが泣くことも許されたのだろうとは思う。

 だがオレはアスマのように泣くことが出来なかった。

 こんなに苦しいのに母さんが死んだ時のように涙は出てきたりはしなくて、ただそんな自分が悔しくて、情けなくて、感情が腹の奥でグルグル回って回って苦しくて仕方がなかった。

 アスマはそんなオレにも何も言わない。

 ただわかっているというように、肩を叩いた、それだけだ。

 でもそれが有り難かった。

 ……何も聞かれたくない。

 兄達は自分もまた妹の死を悲しみながらもオレを気遣って色々話しかけてくれた。

 それすらその時のオレにはノイズにしかならなかった。

 小一時間の短い葬儀が終わり、アスマは家の敷地を出るまでの間、何度もオレの方を振り返りながら、それでも下手な慰めの言葉をかけることもなく、家の方角へと帰っていった。

 それを虚ろな瞳で見送る。

 無だ。

 アスマ以外の訪問客も一人、一人と帰っていく。それを見送りながらオレはただじっと置物のように佇む。

 父の元に部下らしき警務部隊の人間が駆け寄る。何かまたあったらしい。

 娘の葬儀の感傷に浸る暇もなく、父は苦い顔をしながら、「何かあったら連絡しなさい」と口寄せの鳩を置いて警務部隊本署の方角に向けて去って行く。

 それを温度のない瞳のまま見送った。

 そんな風に1時間、2時間と過ぎ、兄達は諦めたように優しい声で「ゴガク、夜風に当たるのもほどほどにして早く寝るんだぞ」そんな声をかけて家の中へと戻っていく。

 でもその時のオレにはそんな優しさすら酷だった。

 

 夜に染まった木ノ葉の里を重い雲の合間から月が照らす。

 その明りを頼りに、我が家を背にして一歩一歩踏み出す。

 はじめはゆっくりと、段々早く、仕舞いには駆け足で、オレは一族がよく修行に使っている雑木林に向かって夜道を駆け抜けた。

「ぁあ……アアアァ~!!」

 この腹の中をグルグル駆け回る気持ちを吐きださんとばかりに声を張り上げ叫び、オレはがむしゃらに駆け走り、自傷行為のような修行に明け暮れる。

 練習用の丸太を蹴り上げ、自分を傷付けんばかりに暴れ、藻掻き、体力を使い切らんばかりに何度も何度も体術の型をなぞって火遁を空に放つ。

 失意と絶望、悲しみ悔しさ。

 全てがない交ぜになってオレは自分を嬲り殺しにしてやりたくて仕方なかった。

(どうして誰もオレを責めねェんだ……!)

 頭ではわかっている、妹は病で仕方なかった、優しい兄達が、父がオレを責めるわけがない。

 それでも自分の奥底に沈めた想いが叫ぶ、お前のせいだと糾弾してくれたら良かったんだ、と。

(……オレは、母さんとの約束を果たせなかった)

 だって、そうじゃねェか。

 母との最期に立ち会ってたのはオレだ。母の最期の言葉を聞いたのはオレだけなんだ。

(何が兄だ、何が任せろだ! 何が守るだ、この嘘つきが!! クロキを、守れなかったじゃねェか!! クソ、畜生、畜生、畜生!!)

 なのに母の最期の願いさえ叶えることが出来なかった。

 その命が尽きる瞬間までの感触を覚えている。

 弱っていく呼吸に鼓動、失われる体温。

 血を吐き苦しんでいる妹に、オレは何も出来なかった。

「アアア~~~!!!」

 我武者羅に体を動かす。クナイを投げ、拳を振り上げ、落ちてきた丸太を火遁で残さず燃やし尽くす。

 呼吸が乱れても、手や指の皮が破けても何も気にならなかった。

 ただ自分の事が憎くて、悔しくて、殺してやりたくて仕方なかった。

 無力な自分が憎かった。

 

 そうして一晩自傷行為のような修行を続け朝を迎えた時、オレは気付けば写輪眼を開眼していた。

 オレが7歳の時の話だ。

 翌年オレはアスマともどもアカデミーを卒業し、下忍となり戦争は本格化した。

 木ノ葉の人材不足はドンドン深刻化していく。

 そのあたりの問題もあったのだろう、オレはそのまま9歳の時に受けた中忍試験で中忍に昇格し、いくつもの任務を熟し続けた。

 ……傷はいつしか癒やされる。

 妹のことを想えばじくりとした痛みは走る。

 だがもうあの時ほどの痛みはない。多忙な日々はオレに感傷に浸る暇も与えない。

 人間生きていれば新しい出会いもあれば別れもある。

 この時もそうだった。

 同じうちは一族の少女だ。

 はじめは一族の修行場でオレが修行をしている中、「一緒に修行させて」と言われたのが始まりだ。

 別にオレ専門の修行場というわけでもあるまい、好きにしろと告げて修行を続ける。

 火遁、鳳仙花の術から鳳仙花爪紅まで。

 体術と遁術に手裏剣術を織り交ぜながら黙々と修行を続けた。

「私と同じような年なのにゴガクくんは凄いなあ」

 そういって苦笑する少女。

「私も頑張らないと」

 そういって俺が使っている的の隣の的に対してクナイを放つが、当たっていないわけではないが狙いが甘い。

 それを見てオレがクナイの持ち方がおかしいと指摘して手本を見せると「ありがとう」と素直に答え、女は言われたとおりに持ち直して、投げ直し、的中率が上がれば「ゴガク君の御陰だよ!」と喜んだ。

 そうやって何度か練習場で鉢合わせとなり、オレがなんとなく気になった点を指摘すればその度に女は「ありがとう」と真っ直ぐな謝辞を告げる。

 そのうち「ついでだから」とオレの分の弁当まで用意するようになった。

 わざわざ2人分の弁当なんざ用意して、オレが来ない日はどうしてるんだと聞くと、「その時は御夕飯にしちゃうから気にしなくていいよ」と女は笑う。どうも言動や実力的に下忍になりたてのルーキーのようだったが、全く酔狂な女だ。

 詳しく聞いたことはねェが、恐らく年齢はオレより1つか2つ年下といったところか。

 別段待ち合わせをしているわけでもねェし、場合によっては数ヶ月顔を合わせない事もある。それでも彼女とこの修行場を使うタイミングが被ることもそれなりに多く、まあ先達で同族のよしみだ、会えば挨拶くらいはするし、時には見かねてアドバイスすることもあった。

 とはいえ、基本的に話すのは修行のことばかりだ。

 互いのプライベートに踏み込んだ質問をすることはなかったし、別にそれでいいと思っていた。

 だが1年もそんな日々を続ければ気心も知れていくというものだ。

 それを知ってアスマは「彼女か?」とからかうものだから「別にそんなんじゃねェよ」と何でも無いように答えたが、別にそうなってもいいなと内心思ってはいたのも事実だ。

 アスマにもオレのそういうところが筒抜けだったのだろう。

 二人で修行していたとしても、彼女が修行場に現われれば「馬に蹴られたくねェからな」と笑って退散した。それに女は「何のこと?」ときょとんとしていた。

 オレと彼女は恋人ではない。

 だが、そうなってもいいと思ってたのも確かだ。

 だがそうはならなかった……その前に彼女は任務先の戦場で死んだからだ。

 死んだと知ったのも、世間話を装ってフガクに彼女の名を出して「最近修行場で見ないな」と聞いてからの事だった。

 名前と修行風景それくらいしか知らない、葬式すら知らされる事の無い、それだけの関係だった。

 別に操立てているわけじゃない、そも恋人ですらなかった。

 それでも予感はある。

 きっとおそらくオレはこの先誰とも付き合うことはないのだろうと。

 だからこそ余計にオレにはアスマと紅の関係が眩しい。

 アスマは良い奴だ。

 だからこそ、アスマが幸せになる事をオレは願っている。

 

 続く




因みにゴガクの中の優先順位
アスマ・イタチ>フガク・ミコト・サスケ>ガイ・ヒナタ・キバ・シノ>カカシ・紅・ゲンマ・エビス>シカマル・いの・チョウジ・ネジ・リー・テンテン
アスマ=大親友。
ガイ=アスマの次くらいに仲が良いと思っている友人。
紅=親友の恋人。
カカシ=アカデミー時代から何かと比べられる事が多かった相手&会ったら普通に話す程度に友人。
ゲンマ&エビス=下忍時代ガイと同班だった繋がりで会ったらそこそこ話す仲。友人判定。

多分この世界ではゴガクの下忍時代の同班メンバーはアスマと紅だったのではないかと思われる。担当上忍まではしらん。


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8.中忍試験

ばんははろEKAWARIです。
例によって文量は元スレ版より1.5倍増量ですがちょっと中忍試験編読んだ記憶昔過ぎてうろ覚えでやっちゃったミスに気付いたので、一部の流れまるごと入れ替え書き直ししました。


 

 

 第八班をオレが担当するようになり半年が過ぎた現在、今年も前期中忍試験の時期が来た。

 自分の教え子たる下忍達を、その年の中忍試験に推薦するかどうかはそれぞれの上忍師の手に委ねられているが、大抵は1年から2年ほど、下忍として様々な任務の経験を積ませてから推薦するパターンの方が多い。

 まあ推薦した所で全員が中忍試験に受かるなんてことはまずなく、試験中に命を落とす危険もあれば、場合によっては一人も昇格出来ねェ場合もあるんだ、あまりに未熟な者を推薦するという事は、時には担当上忍の恥を晒す事にもなりかねない事を思えば当然と言える。

 故にアカデミーを卒業して1年も経っていない新人(ルーキー)を推薦するというのは珍しい事だ。

 だが、オレは推薦してやってもいいんじゃねェかと思っていた。

 なにせ中忍に求められるものは何かといえば、一定の戦力もそうだが、判断力や小隊を率いる隊長としての資質だ。次々上も下も死んで人材不足が深刻だったオレ達戦中世代はともかく、ある程度安定しているこの情勢で中忍に上がるのには質が求められる。

 例え実力があれど判断力やリーダーとして資質に欠けるものは審査から弾かれ、篩から落とされる。

 だが、その判断力や小隊の隊長としてやっていけるかという中忍に求められる資質、その辺は随分とヒナタもシノもキバも成長が見られる。

 戦力、という部分については怪しい部分もあるが実践に勝る経験は無しとも言う。

 今回の中忍試験で全員が中忍に受かるなんざ端から思っちゃいないが、それでも試験を通し成長したなら目っけ物だろう。

 ……等の考えの元推薦したわけだが、まさかのまさか。

 カカシ率いる七班やアスマ率いる十班もルーキーながら今年は推薦とは驚いた。

 流石にその年卒業したルーキー全てが中忍試験に推薦されるというのは、戦時中でもあまり例を見ない珍事だ。そもそもルーキーが中忍試験に挑む事自体が5年ぶりだったか?

 だがこれはこれで面白いのかもしれん。

 顔も知らぬ奴等より、顔をよく知る同期をライバルとした方が切磋琢磨することだろう。オレはただ奴等の上忍師としてそれを見守るだけだ。

 そして中忍試験当日を迎え、奴等をアカデミーまで見送った後、オレはアスマやカカシ、ガイ共々に第二試験のゴールである死の森の塔で待機をする。

 どうやら今年の一番乗りは砂の三姉弟らしい。

 第二試験の過去最短記録を4時間も塗り替えもう塔に到着したそうだ。

 あまりのことに周囲はどよめく。

 それをオレは淡々と眺める。

 チラリと一瞥する。あの瓢箪を背負った砂利が砂瀑の我愛羅だったか?

 父親は四代目風影で磁遁使いだったか。その次男坊である我愛羅は砂を操るとの事だが……。

(ありゃ一尾の人柱力だな)

 かつてマダラとして九尾を操った身だ、尾獣の気配は見れば分かる。

 色々悶着を起こしたと聞いてはいるが、一尾などオレにとっては別に脅威でもない、ただの砂利だ。特に関心もなかった。

 そうやって数日塔で過ごすうちに第二試験も終了した。

 無事塔に辿り着き、試験を突破して残った中忍候補の下忍達の中にはシノ、キバ、ヒナタの三人も当然いたわけだが、今回の中忍試験でふるい落とされた下忍の数が足りなかったからだろう、珍しい事に第三次試験に向けて予選が組まれることとなったようだ。

 最初の第一回戦はサスケと赤胴ヨロイとかいう忍びの戦いだった。チャクラを吸収する能力を持つヨロイを相手に戦いにくそうにしていたサスケだったが、チャクラを吸われるならば体術だ、と能力を理解したあとは上手く対処して難なく勝利した。

 二戦目はうちのシノの出番である。

 シノの対戦相手はザクとかいう音忍の砂利のようであったが、オレはシノに関して言えば何も心配はしていなかった。

 実を言えば、最初にオレが担当する班から中忍に昇格するものが出るとすればそれは油女シノであるとそう思っていたからだ。

 シノは言い方が回りくどいという難点こそあるが、あの世代の中では実力は十分にある方だ。

 沈着冷静ではあるがそれでいて仲間想いであり、わかりにくいが同班であるヒナタやキバの2人の事をもっとも気にかけているのはシノだろう。引き際もよく心得ているし、自分の実力もよく理解している。

 それこそが小隊の隊長として求められている能力だ。

 それに引き換えキバとヒナタはどうかと言えば、まあアカデミーを卒業した頃から考えれば、仮にもオレが見ているのだ、随分と成長しているのは確かだ。

 それでもキバは今のところ中忍として求められている資質には一歩足りていないし、ヒナタも当初に比べれば随分としっかり指示を出せるようになってはいるが、それでも一歩実力面では劣る。

 対戦相手次第では本戦に出ることは難しいだろう。

 だが命がかかっていないのなら敗北もまた経験だ、そこから学ぶものがあれば今回の中忍試験に参加したことは無駄にはならん。

 そんな風に思考を巡らせる間にも戦いは開始され、思っていた通り堅実にシノは勝利した。

 驚くべき結果ではないが、それでも「よくやった」と声をかければ、シノは少し嬉しそうに会釈した。

 三戦目から六戦目にかけてはオレが見るべきものは特にはないので割愛する。

 そして七戦目、キバは四代目の所の砂利とどうやら対決する事になったようだ。

「よっしゃー!!」

 キバは対戦する前からもう勝った気分でいるらしい、その態度はありありと四代目のとこの砂利を下に見ているのが透けて伝わってくるようだ。

 そんなキバの態度に四代目のとこの砂利もキャンキャン喚きながら不愉快そうにしている。

 ヒナタはキバと四代目の砂利どちらにも視線を向かわせながらオロオロしている。チームメイトとしてはキバを応援したいが、それでも四代目の砂利も応援したそうにチラチラとしているあたり……そういう事か?

 フ……これが青春という奴か。まあ好きにすれば良い。心の中で誰を応援しようがそれもまたヒナタの自由だ。

 が、キバの態度はいただけんな。

(散々どんな相手にも油断するなと言って聞かせた筈だが)

 これが実際に隔絶した実力差があるならば、まだいい。

 当然だろう、子供との喧嘩に本気になる大人がいるか?

 だが見たところあの四代目のとこの砂利とキバの間には、そこまで隔絶した実力差というものはない。それにあいつは半分とはいえ生命力に長けたうずまきで、九尾の人柱力だ。油断すれば盤面をひっくり返されてもおかしくないが……と思った懸念は実際に当たっていたといえる。

「勝者、うずまきナルト!」

 何せキバは負けたのだから。

 最初こそ優勢なのはキバであったが、タフネスによる四代目の砂利の粘り勝ちに終わった。

 間抜け面で赤犬と共に運ばれていく教え子を見ながら、思わず眉間の皺を深くする。 

(後で修行を増やすか……)

 オレは脳内で修行プランを練りながら予選会場を見下ろす。

 次に電光掲示板に表示された名はヒナタとそしてネジだった。

 日向宗家の娘と日向分家の息子による従兄妹同士の対戦カードである。

 白眼の日向一族の中で本家筋でありながら才に恵まれぬ者とされた娘と、分家筋ながらも日向家きっての才覚の持ち主とされた男の戦いとなれば、これが本戦であればさぞかし話題をかっさらった事だろうが、本戦に出場出来るのはうち片方のみだ。

 ヒナタには悪いが、この二人の実力は今のところ開ききっている。それを思えば万が一もあるまい。

 まあ、運も実力のうちだ。こういうこともあるだろう。

「ネジ兄さん……」

「ヒナタ様」

 ネジは従妹にあたる宗家の娘を相手に棄権を促そうとしたのだろうが、ヒナタは一歩も引かないというように、一直線にネジを見て告げた。

「宜しくお願いします」

 そう真っ直ぐにネジに視線を合わせ口にする娘の目には闘志が宿っていた。

 声を張り、姿勢を正して凛と立つその姿に、いつも内気な娘の自信に欠けた振る舞いはない。

 一歩も引かないと告げるその眼差しにその心をネジは認めたのだろう。

 一つため息を零すと「後悔はなさりませんように」と告げて、その挑戦をしっかりと正面から受け止めた。

 共に白眼の日向家である二人は同じ構えを取り、相対する。

 ヒナタもまた成長はしているのだが、仮にも相手は日向家で天才と言われている分家の倅だ。

 一つ年が違うというだけではない。もっと根本的な問題で生まれながらの才とこれまでの研鑽、両面においてあまりにも実力に差が開いている。

 それでもヒナタは立ち向かった。

 執念深く、先ほどキバを相手に対戦し打ち負かした四代目の砂利のように。

「ああ~!!」

 声を出し、息を荒げ、痛みに怖じ気づく心を叱咤しながら、勝ち目がなくなってもそれでも立ち向かう。それは中忍試験というものの本質から見れば馬鹿馬鹿しい行いだ。

 実力差を理解したなら引き際を弁えるのも中忍には必要とされる資質なのだから。

 だが、そのヒナタの奮戦はオレには快いものでもあった。

 そうだ、例え敵わなくとも挑むことに意味がある。

 

 うちはマダラは千手柱間に敵わない。

 そんなことは前世のオレだってわかっていた。理解していた。

 かつて対等な宿敵であったうちはと千手の均衡はオレが……マダラが族長になった頃には徐々に崩れていき、うちはからは何人も千手への逃亡者が出ていたのだ。それでも、マダラにとって柱間はかつての友であり殺すべき宿敵だった。

 敵わなかったとしても、それでも柱間に見下ろされるなど我慢がならなかった。

 あいつにとっていつでも殺せる路傍の石になどなりたくなかった。

 オレは柱間の敵になりたかった。

(嗚呼、そうだ。うちはマダラは千手柱間と対等な敵でありたかったのだ)

 努力はした。

 知恵を巡らせ、対抗策を考え続けた。

 弱い忍びに意味はねェと、我武者羅に忍びの技も体力も鍛え続けた。 

 実際オレにとって遊び相手ではなく、命をかけての殺し合いが成立する、そんな敵と見なせる相手などそうはいなかった……柱間以外は。

 天性の才の上に努力を積み重ねてきたつもりだ。

 実際にうちは一族でオレより強い奴なんていなかったし、写輪眼も開眼していない子供の時分から大人の手練れを幾人も仕留めてきたのがオレ……前世のうちはマダラという男だ。忍びとしての天賦の才を持っていると言われ、その才に驕ることなき努力という名の地盤を固め続けた筈だった。

 それでも尚、あの男は……忍びの神と言われた男は遠かった。

 大規模な木遁に仙術まで使いこなし、印すら必要なく一瞬で傷を癒やす、全てが桁違いだったあの男。

 子供の頃はそこまで隔絶した実力差など無かったはずなのに、時を重ねる毎に差は開いていく。いつしかオレは天才と言われる事は無くなっていた。

 たとえ柱間より弱いとしても、それでも柱間と曲がりなりにも『戦い』になるのはオレだけだというのは、惨めでもあり屈辱でも有り、また誇りでもあった。

 年を重ねる毎にその実力も心の距離も開く一方だった。

 あいつには沢山のものがあった。

 理想も、夢も、人望も、実力も比類無く持ち合わせていた。

 それに対しオレは、マダラは取りこぼしてばかりだ。

 仕舞いには絶対に守ると誓った弟すら亡くし、弟の遺言すら叶えられず、人望も居場所も何もオレは……マダラには無かった。

 残されたのは石碑に描かれていた夢の世界への切符だけ。

 救世主の夢に縋り……そして間抜けにもそのまま最悪の犯罪者としてそのまま死んだ、それが前世のオレの、うちはマダラの顛末だ。

 弱いことは醜いことだとマダラは思った。

 弱い者には何も守れないから、だから醜いのだ。

 それでもうちはゴガクとして今を生きるオレは、努力することは美しい事であると、そう思う。

 あの娘は変わろうとしている。

 それはあの四代目の砂利の為なのかもしれないし、自分自身の為かも知れない。それでもどちらにせよ、内気な己を変えたいと望んでいる。

 ならばオレは上忍師としてそれを手助けするだけの事だ。

 あと三手であの娘は敗北する。

 だがそれも糧となるだろう。

 そしてその通りになった。

「勝者、日向ネジ!」

 ふらりと娘が倒れる。

「ヒナタ!」

 満身創痍で、指一本動かせなくなった果てにヒナタは敗北した。

 そんなヒナタの元に四代目の砂利は観覧席から飛び出して駆け寄り、満身の笑みを浮かべて娘の手をしっかりと握りしめながら、「お前、超カッコよかったってばよ!!」とニッカリと太陽のような笑みを乗せて言ってのけた。

 そんな想い人を見て、ヒナタもまた嬉しそうに微笑んだ。

 

 続く



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9.雨

やあばんははろEKAWARIです。
今回も元スレ版より文量1.5倍増でお送りします。


 

 

 その日はまるで空が泣いているような雨天だった。

 ザァザァと、ザァザァと周囲の音をかき消すように雨は降り続ける。

 偉大なる火影の命の灯火が尽きたことを、惜しみ嘆くかのように。

 

 ……四代目火影が死んだ。

 中忍試験本戦の最中に起こされた、木ノ葉崩しによって。

 企んだのは、三忍の呼び声高い大蛇丸だ。

 元木ノ葉の抜け忍にして、かつて四代目と火影の座を競ったとされる男は、自ら捨てた故郷に反旗を翻した。四代目風影に成り代わり、堂々と試合会場に潜り込み、サスケと一尾の人柱力の対戦中に事を起こした。

 その企みは、木ノ葉の里自体には大した損害を与えることなく早期決着を迎えたが、代償として木ノ葉を率いてきた大戦の英雄たる里長の死という結末を招くこととなった。

 恐らく火影として見れば立派な最期に当たるのだろう、と思う。

 四代目火影波風ミナトは、音忍達の手によって張られた結界の中で、大蛇丸が穢土転生を用いて呼び出した柱間と扉間、それから敵の首魁である大蛇丸を無力化するために屍鬼封尽という手段で持って決着させることを選んだ。

 屍鬼封尽はミナトの妻の一族であるうずまき一族に伝わる封印術の一つであり、自身の魂も永劫に死神の腹の中に捕らわれる事を代償に、対象者の魂を死神の腹の中に封印する、そういう封印術だ。

 術者と術を受けた者は永遠に死神の中で戦い続けることとなり、魂に干渉する術であるが故にここに捕らわれたものが再び穢土転生で呼ばれることはなくなるというわけだ。……誰かが人柱となり、死神の腹を割いて封印を解かない限りは、という注釈がつくが。

 自分の命をチップにする分中々に強力な封印術であり、まあなるほど、以降も柱間や扉間によってまた穢土転生で利用され、かつての火影達自身に里を害される可能性を断つという意味では有用だったとは言える。

 ……最も、大蛇丸に関しては腕しか封印出来なかったという、なんとも間抜けな結果に終わったようだが。

 それでも里の被害が低く済んだのは、敵の首魁を四代目が引き受けていたからだろう。

 断っておくが、この里の忍びとして波風ミナトという男に対する敬意はオレだって持ち合わせてはいる。それでもオレの中のマダラが言うのだ、『間抜けな奴だ』と。

 ああ確かに生前の奴等に比べれば出来の悪い木偶人形程度の戦力しか有していなかったのだとしても、それでも忍びの神と謳われた柱間とあの扉間、そして伝説の三忍の名で知られている大蛇丸の三者を同時に相手をするのは、波風ミナトには負担が大きかったのだろう。

 だが、それでも敢えて言いたい。

 こんなところで命をかけずとも良かったのだ、と。

 

 穢土転生は千手扉間が開発したオレもよく知る術だ。

 生前の柱間ならまだしも、あそこまで劣化した穢土転生体であれば今のオレでも対処出来る算段は十分にあった。

 当たり前だろう。意識のない木偶人形の柱間と扉間などオレが恐れる理由は欠片もない。

 オレが、マダラが一体どれだけ奴等と戦ってきたと思っている。戦い方がわかっているのならそれに対抗する術を調べ、研究し、備えておくのは当然のことでは無いか。

 オレが周囲の奴等を無効化した後、結界を破るまでの間大人しく防戦に徹していれば、四代目は死ぬこともなかった。

 死ぬ必要がないのに死んだ間抜けだと、そう前世のオレが囁くのだ。

 だがそれで四代目を責めるのは酷な話だ。

 何故なら四代目は知らないのだから、オレがかつてうちはマダラだったことも、それ故に穢土転生の術を熟知している事も。

 明かしていないのだから知らないのは当然の事だ。

 ……もっとも、オレがマダラの生まれ変わりだなど、言ったところで荒唐無稽すぎて信じて貰えるとも思えねェ話だがな。

 そして今のオレはうちはマダラではなく木の葉の一忍びだ、火影の要請には従う義務がある。

 火影直々に手を出すなといわれ、周囲の敵の無力化を命じられたなら、それに従うのが忍びとしての務めだ。

 だからオレは四代目に命じられた通りそれを果たした。

 大した手間でもなかった。

 だが、命令通りに砂利共を守りつつ音忍や風忍のほぼ全てを無力化し、殺害若しくは捕縛し終えた時にはもう遅かった。

 死神の刃が既に発動された以上、どう足掻いてもその末路は死しかなかったのだろう。

 波風ミナトは里長として木ノ葉を守り、37年の生涯を終えた。

 あれだけの事が起こされながらほぼ損害なく事件が解決したのは、偉大なる四代目様の御陰と皆褒め称えている……胸クソ悪い話だ。

 雨が降る中、里を守った偉大な火影の葬儀が続く。

 四代目の砂利は複雑そうな表情で立っているが、無理もない。

 奴が四代目が父と知らされたのは今年に入ってからの事だ。おまけに父と知らされた所で口外も許されてもいない。あくまでも対外的には親子では無く赤の他人なのだ。

(気の毒な事だ……)

 親と、子と呼ぶことも共に生活する事も叶わず、果たして親の愛は息子に正しく伝わっていたのか?

 息子は、自分と親子として暮らす未来よりも、火影として在る事を選んだ父を、父として見ることが出来たのか?

 答えはわからない。

 ただ誰の上にも、ざあざあと平等に雨は降り続けた。

 

 * * *

 

 大蛇丸によって木ノ葉崩しが起こされ、四代目火影波風ミナトが亡くなった中忍試験から約一ヶ月が過ぎた。 

 現在木ノ葉隠れの里は湯隠れの里に引退していた三代目を呼び戻し、五代目が正式決定されるまでの間、暫定的に三代目によって里が運営されている。

 恐らく次の火影は三忍の名で知られた蝦蟇仙人・自来也か、或いは同じく三忍と名高い蛞蝓姫・綱手のどちらかが五代目となる事だろう。

 四代目死亡という顛末こそ迎えたが、早期決着させた事もあり、木ノ葉隠れの人的被害自体はそこまで酷いわけではなかったが、それでも殉職した忍びが皆無というわけにもいかず、里の弱体化は免れなかった。

 そんな中、木ノ葉に張られた結界をかいくぐって一昨日、『暁』とかいう犯罪者集団でなる組織が里に顔を出したのだそうだ。オレは丁度その頃任務で遠方に出されていた為、直接視たわけではないが。

 そうして里に現われた暁のメンバーというのが『同族殺しのイタチ』と、『霧隠れの怪人干柿鬼鮫』の二人組だったのだと、対峙した当事者の一人であるアスマの口から現在直接報告を受けている最中だ。

「お前にゃ悪いが、抜け忍の犯罪者を見逃すわけにはいかなかったからな」

 オレとイタチの関係を知っているアスマはガリガリとばつが悪そうに後頭部をかきながら、そう報告をする。

 オレはそれを両腕を組みながら、いつも通りの態度で肩を竦め、言う。

「気にしていない。今のアイツの立場はオレとて重々承知している。構わんさ。それに、イタチは強かっただろう?」

「……まぁな」

 そうだ、気にしていない。

 オレはイタチが里を裏切るなど露程も信じちゃいない。

 あいつのことだ、きっと誰が相手でも上手いこと切り上げ抜けた事だろう。

 オレはイタチの強さを信じている。

(実の兄弟じゃねェが……オレの弟だからな)

 昔を思い出す。

『ゴガク兄さん』

 そうオレを呼んでくれた幼子。

 第三次忍界対戦で父と兄達を一斉に失ったオレは、2年ほどフガク達一家と共に暮らした。

 オレはあくまでフガクの従兄弟であってイタチの兄じゃない。従叔父だ。

 それでも幼いイタチに兄と呼ばれ、慕われ、家族として受け入れられた事は、家族を失った痛みを抱えていたあの頃のオレにとって、確かで何よりの救いだった。

 ……まあもっとも、サスケが生まれる前後にはオレはフガクの家から出て生家に戻ったわけだし、それに伴い、『ゴガク兄さん』から『ゴガクさん』にイタチからの呼び名も変更されたわけだが。それでも呼び名など大した問題ではない。

 今でもオレにとってイタチは可愛い弟分だ。兄が弟を信じねェでどうする。

 そんな懐かしい思い出にかられるオレを前に、アスマは「あー、ところで」と言いにくそうな声でオレの肩に止まっているそれを指摘した。

「いつもは鷹なのに烏を連れているとは珍しいな。趣向変えか?」

 その質問にオレは微笑みと沈黙で返した。

 

 続く




今回の話の元ネタ↓(元スレよりコピペ)

二次元好きの匿名さん
イタチがゴガクの鷹の口寄せをみて烏の口寄せに決めてたら可愛いし、何ならサスケもイタチを憎んでないしゴガクに修行つけてもらってるから口寄せが鳥類になってるかもしれんな。
このスレだったら、ゴガクが大戦から帰ってきた後、フガク一家と同居してた時期があるだろうし、サスケが生まれるまでは兄弟に憧れてイタチがゴガク兄さんって呼んでたけどサスケが生まれてお兄ちゃんしようとした結果さん呼びに変わったりってエピソードがありそう。
ここのイタチさんはシスイさんこそ失ったけど両親も兄貴分も生きてるしサスケに憎まれてもないから原作に比べて大分精神的に余裕がありそう


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10.サスケとイタチ

ばんははろEKAWARIです。
例によって元スレ版より文量1.5倍増加でお送りします。
原作でいう第一部はこれにて完! 
第二部に続く!


 

 

 今回の暁による木ノ葉訪問事件で、イタチと干柿鬼鮫による暁ツーマンセルを相手に対峙したのは、初日がカカシ、アスマ、紅にガイの4人で、翌日にナルト、自来也……そしてサスケの3人だったのだという。

 その時に、ナルトを連れ去るのが暁の目的だとイタチは語ったのだそうだ。

 そして今木ノ葉病院には、イタチの月読を食らったとされるカカシとサスケの師弟2人が入院している。

「ぅ……ゴガク、さん?」

 オレはするりとサスケの病室に入り、魘されているサスケと目を合わせるなり写輪眼を発動し、幻術空間の中へと誘い込んだ。

 サスケは戸惑ったようにキョロキョロと周囲を見渡す。

「あちらじゃ誰が聞いてるかわかったもんじゃねェからな」

 苦笑しながらオレが放ったその言葉に、幻術の中に連れ込まれたことは理解したらしい。

 サスケはぎゅっと唇を噛み締め、真剣な顔でオレを見上げる。

「イタチと交戦したと聞いた。どうだった、5年ぶりだったのだろう」

 サスケと目線を合わせるようにしゃがみ込み、真っ直ぐにオレがそう問いかけると、サスケは掠れた声でポツリポツリと語り出した。

「……兄さんは、何も変わっていなかった」

 その声は震えている。

 オレはゆっくりとサスケの言葉に耳を傾ける。

「はじめは怖かった。イタチは……冷たい目でオレを見て容赦なくオレの骨を折った。まるで別人みてェに温度のない、ただのモノを見るような目で!」 

 サスケの言葉を聞きながら、かつての兄弟の在りし日を思い浮かべる。

 あいつは真面目な奴だ。修行においては厳しい面も多々あったイタチだが、それでもイタチは5つ年の離れた弟をとても可愛がっていて、サスケが生まれたときはそりゃフニャフニャに笑いながらオレに弟を自慢してきたものだ。

 里抜け前の弟の前でもそうだったのだろう。

 サスケは自分に甘く優しい兄であったイタチの側面は知っていても、イタチが任務に徹している時の、冷酷なまでに感情を排した忍びとしての側面を、殆ど見たことが無かったはずだ。

 ならば、忍びとして振る舞っている時のイタチには、さぞかし困惑したし、怖かった事だろう。

「オレはオレの知っている兄さんが、もうどこにもいないんじゃないかって怖くて、だけど、違う、違ったんだ! 兄さんは何も変わっていなかった!!」

 そう幻術の中でぐしゃぐしゃに泣きながらサスケは叫んだ。

「無感動に何の躊躇もなくオレの腕と肋を折ってオレを転がして、冷たい声でオレを『愚弟』と呼び、兄さんはアンタみたいに幻術の中にオレを連れ込んだ」

 ああ目に浮かぶようだ。

 ……あいつ変な所で大雑把だからな。弟に情けをかけている姿を相方に見られるのは拙いし、かといって弟を殺すなんて論外。骨くらいなら折ってもそのうち治るからいいだろう、冷酷さアピールになるし……くらいの考えでノータイムで結論出して決行したんだろうな、感情殺した無表情で。

 ……これが前世のオレ(うちはマダラ)だったら例え演技だったとしても、最愛の弟(イズナ)を骨折させて突き放すとか絶対無理だったぞ……イタチお前本当に思いきり良いな!?

 とはいえ、別にイタチの弟への愛情が前世のオレに劣るなどと比べるつもりもないのだが。

 あいつはあいつなりに自分の立場を客観的に見た上で、それが弟を守る事に繋がると判断したが故の行動なのだろうから。

「そしたら兄さんは言うんだ。『すまなかった、サスケ』って申し訳なさそうに、あの頃の顔で。どうして兄さんがこんなことをするんだ、なんで抜け忍になったんだってオレが聞いても、ただ苦しそうに『すまない』ってオレのこと抱きしめて、『大きくなったな、サスケ』ってオレの成長が嬉しいと言わんばかりに笑ったんだ」

 そうして会話の終わりにはかつてよくやっていたように、『許せ、サスケまた今度だ』とデコをトンと押して、幻術を仕舞いにして一瞥すらくれず去って行ったのだという。

 幻術空間の中では昔の優しかった兄の姿を見せてくれたというのに、現実でのイタチは、連れである霧隠れの怪人に、サスケには悪夢を見せている事を告げて、弱すぎて殺す価値もないと冷たい声で吐き捨ててから去っていったのだとか。

 だがサスケは実際には幻術に連れ込まれたまでは事実でも、悪夢など見せられていないのだ。

 だからイタチのあの冷酷な態度は、ただの演技(パフォーマンス)なんだと、サスケが理解するには十分だった。

「なあ、アンタは何か知ってるんじゃ無いか!? 何か、だってアンタは……!」

「例えそうだとしても、今のお前にオレが何かを答えることは出来ん」

 オレは極冷静に、サスケの懇願にそう返した。

「知りたいなら強くなることだ」

 ボロリとサスケの眼から涙が一筋伝う。

 悔しさを隠しきれないように、唇を噛みしめて、サスケは慟哭する。

「う、く……強く、なりたい。兄さんよりもずっと、誰よりも、強く!」

 オレはそんなサスケの頭をポンと叩き、かつてうちはマダラだった時代幼かった弟達にしてやった時のように、視線の高さを合わせながらサスケが望んでいるであろう言葉を告げる。

「サスケ、お前にはオレの知りうるうちはの術の全てを叩き込んでやろう。だから今は眠れ。明日からまた頑張れるようにな」

 幻術を解き、現実世界でサスケが眠りに落ちる姿を見届ける。

 その目元は兄の真意が分からぬ憔悴故か色濃く隈が刻まれており、碌に眠れていないのは明白だ。そういう意味では、病院に放り込まれていたのは正解だったのだろう。

 その秀麗な顔立ちもそうだが、こういう直向きに兄を慕う姿がサスケは良くイズナに……前世のオレの弟に似ている。

 イタチがサスケを大切に想う気持ちはよく分かる。

 サスケは真っ直ぐだ。

 この忍びらしからぬ真っ直ぐな純粋さが、イタチには可愛くて仕方ないのだろう。

(イタチか……)

 

 5年前の事を思い出す。

 あの日、イタチは四代目の許可を取っている事を宣言してからオレに万華鏡を見せ、次の日に里を抜けたのだ。同族殺しのイタチという汚名を負って。

 当時イタチは四代目の直属である暗部で分隊長を務めていた。

 そして里抜けした足でそのまま暁という指名手配付きの抜け忍で構成された組織に所属し、その四代目が亡くなったと聞いて、ある程度木ノ葉の混乱期を抜けるなりすぐさま里に顔を見せたその理由が分からぬほど、オレは耄碌しているつもりはない。

 推測ではあるが、ほぼ間違いなくイタチは『暁』に派遣されたスパイなのだろう。

 そして四代目に何かがあったときは、その任についている事をオレに開示する許可を取っていると、あれはそういう意味だ。

 その証拠もある。

 今朝の事だ。オレの使役する鷹に、一羽の烏がまとわりついていた。

 オレが見間違えるわけがねェ。

 これはイタチの烏だ。

 イタチの烏はオレの鷹の首元に嘴を押しつけていた。迷惑そうなツラをしているオレの鷹を宥めながら羽毛で隠されたそこを指で探れば、あったのは時空間忍術で封をされた密書だ。

 イタチによる暁の調査書だろうとあたりをつける。

 他には伝言も何もありゃしねェ。だがまあ間違いない、三代目に届けろということだろう。

 それにはオレなら一々言わなくてもわかるだろうというイタチの考えが透けて見えて、思わず苦笑した。

 全く世話の焼ける弟分だ。言葉が足りねえにも程がある。

 だがそういうところにオレに対するイタチの信頼を感じ取り、可愛い奴だと思うのは兄貴分の欲目という奴だろう。

 だから今朝オレは任務報告書に不備があったという体で三代目と向かい合い、何食わぬ顔でイタチに託された密書を報告書に挟んで提出した。

 中身は見ていない。

 あいつも忍びで、オレも忍びだ。その信頼を裏切るつもりはない。

 

 * * *

 

 結論から言えば、五代目火影には病払いの蛞蝓姫の名で知られる初代火影千手柱間の孫娘、綱手が就任した。

 確か血液恐怖症を患っていたと聞いていたが、それも克服したらしい。

 ……オレが柱間の孫である綱手に向ける感情は複雑だ。

 以前は綱手姫と呼ぶことに違和感などなかったが、うちはマダラとしての記憶が蘇って以来、どうも柱間の孫を相手に姫と呼ぶことに違和感があって頂けねェ。

 とはいえそのうち慣れるだろうが、うちはゴガク個人としても、逆恨みに近い感情を多少持ち合わせている相手だ。

 綱手は医療忍術のスペシャリストだ。

 オレの中のマダラの記憶は、印も結ばず一瞬で傷を癒やせる柱間の存在を知っているからこそ、柱間の足下にも及ばん飯事のような医療忍術だと見下すような感情を訴えかけてくるが、それでもうちはゴガクとして生きてきたオレはこの女が提案したからこそ、木ノ葉の医療忍術は他国より発展したことも知っているし、医療忍者育成の面での功績の数々も理解している。

 適正持ちの数が多いわけではないが、それでも一人だけが使える術ではなく体系化し、多くのものが使える術にまで落とし込んだ事は褒め称えられるべき功績だ。

 木ノ葉の医療忍術の基礎を築いた功労者、それが病払いの蛞蝓姫・綱手だ。

 尚、それでも綱手と綱手以外の者の間には医療の腕に雲泥の差がある。それは誰もが知る純然たる事実だ。

 だからこそ子供時代のオレは思ったのだ。

 クロキが病に倒れたとき、この女が病院にいたのなら妹は……クロキは助かったんじゃ無いかって。

 そう心のどこかで思っていたからこそ、疎ましい気持ちがある。

 勿論、これが逆恨みなのは承知している。

 故にそんな悪感情を誰かに見せた覚えもないが、それでも感情というのは儘為らん物だ。

 それも綱手が五代目火影に選ばれた以上、割り切るしかないのだろうが。

 火影として見るならば悪い選択でもないだろう。

 少なくとも功績も実力も知られているし、多少短気の気はあるが話せばわかるタイプだ。人望もある。千手の人間ではあるが、マダラの時代のようにうちはに対して思うところもないとなれば、上層部が何を言おうがフラットにものを見ることが出来る事だろう。

 途中サスケが大蛇丸の手のものに浚われかける事件もあったが、それも奪還に成功する。

 サスケは浚われかけたという事実が堪えたのもあったのか、どれほどオレが手酷く扱いても文句一つ言わずについてくる。

 とはいえ、オレはサスケの担当上忍ではなく、俺の担当下忍はシノ、ヒナタ、キバの三人だ。

 自分の担当下忍を疎かにしてまで、サスケを優先させるわけにもいかねェ。

 故にオレがサスケに振れる時間というのは存外少ない。多くても週に1度、それも一刻ほどが上限だ。

 その少ない時間を使ってうちはの極意を叩き込むんだ、スパルタにもなるという奴だろう。

 それにサスケはスポンジが水を吸い込むようにうちはの秘伝を覚えていく。

 今ではうちは火炎陣や、火遁・豪龍火の術などをノータイムで出せるようになった。

 扱きがいのある奴だな面白いと、気付けばニィと口角が上がる。

 アスマにはその度「お前、凶悪な顔してんぞ。余所ではするなよ」等と言われたが、余計なお世話だ。オレとて流石に砂利共の前では自重する。

 サスケの担当上忍であり正式な師はカカシだ。

 流石に他の師がついている相手を無断で鍛えるわけにはいかねェし、オレとサスケが親族なのは公然の事実だ。

 故に、サスケにはうちはの秘伝を叩き込むから時々借りると伝達すれば、奴は「りょ~解、まゴガクなら大丈夫っしょ」と手をひらひら振りながら、ちゃらんぽらんな態度で了承した。

 ……あいつ、本当に変わったな。

 ガキの頃はツンケンした無愛想で可愛げのねェ砂利だったんだが。

 遅刻の常習犯だったオビト相手に「だらしない」だのなんだの噛みついてたのをよく見かけたもんだ。妹の看病の為とはいえアカデミー欠席常習犯だったオレも何度あいつに嫌味を言われた事か。まあその度に「一々テメーは煩ェんだよコラ!! 人んちの事情に口出してんじゃねェよ、この良い子ちゃんが!!」くらいは言い返してたし、アスマもオレをフォローしてくれてたんだが。

 そんなあいつが今は逆にオビトリスペクトな上に遅刻魔なわけだから、人生とはわからんものだ。

 ……まあ、いい。

 オレが鍛えていない時のサスケの師はカカシだが、カカシはどうやら雷遁を中心に伝授しているようだ。この調子でサスケには火遁と雷遁の二つの性質変化を極め伸ばしていってもらいたい所存だ。

 四代目の所の砂利は、自来也に連れられ仙人修行に旅立ったとそう聞いた。

 そうして木の葉崩しから2年半ほどの月日が流れた。

 

 続く



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11.病

ばんははろEKAWARIです。
今回も元スレ版より1.5倍増量でお送りします。


 

 

 再会は偶然だったと、言える。

 いや、偶然では無かったのかも知れない、どちらでもいい。

 どちらにせよ、オレの眼を誤魔化す事は出来ん。

 その姿を見た瞬間、脳裏に20年以上前に亡くした妹の顔がよぎる。辛かっただろうに苦しかっただろうに、言ったらオレに心配をかけるからと、あまり泣き言を漏らす事の無かったクロキ。

 少しずつ弱っていく姿を、その命の灯火が消えるまでずっと隣で見ていた。

 その体温が無くなりゆくのを、ずっとつぶさに感じていた。

 妹がかかった病の特徴をオレが知らない筈がない。同じ病にかかった人間を、このオレがわからない筈がねェだろう!!

 イタチ、お前は一体いつから……肺を病んでいた。

 

 行動に移ったのはイタチが病に冒されていると看破と同時だ。

 次の刹那、親友(アスマ)からコピーした火遁・灰積焼の術をイタチの連れである霧隠れの怪人に向かって放ち、それを目眩ましをして、その隙に影分身を一体出して連れている部下と共に干柿鬼鮫と交戦に入り、オレは本体でもってイタチを浚いすぐさま木ノ葉に向けて駆けだした。

 その際すぐに本物のイタチがいないことには気付かれぬよう、少し離れた所にイタチの姿に変化させた影分身と、変化を使っていない影分身も出して置いていき、霧隠れの怪人の加勢に向かわぬ事に不思議がないよう、交戦しているように偽造する。

 流石にオレがそんな行動に出るとはイタチにとっても想定外だったのだろう、珍しくも驚いたように目を見開く従甥(じゅうせい)を、有無を言わさず幻術空間に連れ込んで「何故言わなかった!」と怒鳴りつけた。

「放して下さい! 何故を聞きたいのはこちらだ、貴方はわかっていると思っていた!!」

 イタチとしてはオレの今回の行動に対して、自分の任務を邪魔されたという認識なのだろう、眉間に皺を寄せそう怒鳴り返す。それでも無理矢理にもこの幻術を破ったりしねェのは、イタチ自身も現実では言えねェことも幻術の中なら言える事を理解して、その上で言いたいことがまだあったからなんだろうが。

 どちらにせよ、感情を露わにすることが少ないイタチとしては珍しい事だった。

 だが、話が噛み合っていない。

 オレが怒っているのは病を隠したことだ。

「ああ、そうだ、お前の任務はわかっている、見守るつもりだったさ! だが、お前が病に侵されてるってなら話は別だ!! 例えお前が嫌がろうが泣き叫ぼうがオレはお前を里に連れ帰る!!」

 怒りと悲しみない交ぜに決意を込めてオレはそう叫ぶ。

 そんなオレを見て、イタチは驚いたように眼を見開く。

「……どうして」

 まさか一目で病を看破されるとは思っていなかったのだろう、イタチは珍しく動揺していた。

 幻術の中ながらも、オレはそんなイタチの頬に手を添え、一つ一つ確かめるような声音で言う。

「呼吸音、その脈の打ち方、チャクラの減少具合、乱れ方……オレはお前の病の、その症状をよく知っている。誰よりもよく……」

 そうして現実でもそうしているように、幻術空間の中でもイタチの体を抱きしめる。

(嗚呼……痩せちまってるな)

 元は忍びとして理想的な体付きをしていた筈なのに、窶れて肉付きが落ちている。この骨の感じからすれば、肋も浮いているのかも知れない。鍛えて絞った結果とは違う、不健康な痩せ方だ。泣きたいくらいにその事が苦しい。

 前世の弟イズナの最期と、現世の妹クロキの最期の姿、その両方がここにいるイタチに重なる。

 失うのではないかという恐怖で、目眩がしそうだ。

 イタチは動揺している。

 隠していた病を知られたというのもあるのだろうが、オレは今青ざめて震えていない自信がない。現実でも、幻術空間のどちらでも、これほどに密着しているのだ。オレにイタチの脈拍が聞こえるように、イタチにもオレの乱れ狂った心音は聞こえている事だろう。そんな平常とは言いがたい状態のオレに対する困惑や心配などもあったのだと思う。

 だが、それでも何も言わないままあまりに時が過ぎれば、イタチは無理矢理にでもこの幻術を破り、任務に戻ろうとするのだろう。そういう奴だと、知っていた。

 故に沈黙もほどほどに、オレは口を開く。

「オレには二人の兄と二人の妹がいた」

 思えば、イタチに前の家族について語るのはこれが初めてだ。

 

「下の妹は死産だった。そしてその三日後には母も死んだ。酷い難産でな……おまけに産まれた子は最初から死んでた、その心労が重なったのだろう。母は呆気なく亡くなったよ」

 今でも母の死に顔はよく覚えている。

『ねぇゴガク、クロキのことお願いね……』

 そうオレに言い残して亡くなった母の顔は、まるで蝋人形のように白く、その肌は氷のように冷たかった。

「臨終に立ち会ったのは当時1歳の上の妹と、4歳だったオレだ。母は上の妹を頼むと、守ってあげてと最期にそうオレに願い、それをオレは承諾した。だが、その約束は果たせなかった、その2年後に妹は……クロキは肺の病を患ったからだ」

 そのオレの言葉にピクリと、イタチは何かに気付いたように反応した。

「当時里は戦争に向かっていた時期でな。お前もよく知ってる第三次忍界大戦だ。忍びでもねェ、アカデミー生ですらねェようなガキの命の順位なんて、現役の忍びの命に比べりゃとても低い。薬こそ出されていたが基本は自宅療養だ、碌な診察すら受けられず妹の治療は後回しにされた」

 今でもあの時の悔しさ、無力さはよく覚えている。

 可哀想なクロキ、あの病院で失われていくあの子の命に注意を払うような大人など、果たしていたのだろうか? 

(なァ、柱間ァ。笑っちまう話だろ? お前が作ったのは子供を守るための里だった筈なのに、その子供の命を軽視してたんだぜ、あいつらは)

 だが、戦っていうのはそういうものだ。

 そういうものだと、オレは(ゴガク)(マダラ)もよく知っている。柱間(あいつ)の発言は所詮、理想だ。こぼれ落ちるものはいくらでも出る。全てが救われたりなど、それこそ夢物語だ。

 いつだって誰かが犠牲になる。

 それがあの時はオレの妹だった、そういう話だ、これは。

「兄達はその時には既に忍びとして働いていたから早々休めはしねェ。家族で一番時間があるのはオレだった。だから、オレはアカデミーを休みがちになりながらも妹の看病を続けたよ」

 無責任に励まして、眠れぬ妹を抱きしめながらうろ覚えの子守歌を一晩中歌って……何度そんな夜を迎えたことだろうか。

 苦しそうに咳き込み、血を吐く妹に何もしてやれなかった無力感は今でも苦い思い出だ。

「妹は段々弱っていってな、おかしな呼吸になって、血を吐いて、そのうち布団から出られなくなって、だがオレには何も出来なかった……! 苦しむ妹を抱きしめてやることしかオレには出来なかった!」 

 代われるものなら、代わってやりたかった。

「病が発覚して1年後だ、妹はポックリと逝ったよ。オレの腕の中で、段々体が冷たくなって、息が止まって……! 衰弱していく体をどうしてやることも出来なくて……オレは無力だった」

 気付けば知らず震えていた。

 弟分を抱きしめ、その呼吸や脈を感じる。

 健康体ではない証のようなおかしな呼吸音、おかしなリズム。

 このリズムをよく知っていた。

「オレがわからねェわけがねえだろが! お前はあいつと、クロキと同じ病にかかっている。この呼吸は、脈の打ち方はあいつと同じだ!!」

「……」

 イタチはかける言葉を失ったように、瞼を伏せる。

 自分の今の状態そのものがオレのトラウマだと、理解してしまったような反応だった。

 説得するなら今しかない。

「お前が病に冒されていると知ったら五代目とて任務を中止させ、帰還させた事を認めてくれるさ。いいや、何が何でもオレが認めさせてやる! だから帰るぞ、イタチ。五代目は医療忍術のスペシャリストだ、今ならまだ間に合うかも知れねェんだ」

「ですが……っ」

 それでも自分に与えられた任務とオレの告白の間で苦悩しているのだろう、イタチは葛藤しているように眉間に皺を寄せる。

 オレは一端幻術を解き、真っ正面からイタチに向かい合う。

 血の気の引いたまま、それでも出来る限り優しい顔を意識して、笑う。

「なァイタチ、オレに再び家族を与えてくれたのはお前なんだぜ?」

「え?」

 イタチはそんな事を言われると思っていなかったのか、オレの言葉に呆けたような顔をした。

「第三次忍界大戦で敵の策略にかかり、オレは兄達と父を一斉に亡くし、オレだけが1人生き残った。万華鏡写輪眼を開眼してな。……まあこの辺の経緯はお前もよく知っているかもしれんがな」

 オレが万華鏡写輪眼を開眼した当時、イタチは3歳だった。

 普通なら人の生き死にも理解しているか怪しいような年齢の幼子だったが、それでも年に似合わぬ聡明さを持つイタチは戦争で傷ついた人々に胸を痛め、我が事のようにその傷を感じ取り、心から死者を悼める、そんな優しくも繊細で酷く早熟な子供だった。

 イタチが平和を愛しているのは本人の資質もあるが間違いなく、第三次忍界大戦の影響だろう。

 子供に似合わぬ憂いを帯びた、悲しげな瞳をよく覚えている。

 ……オレが木ノ葉に帰ってきた、あの時もそうだった。

「そしてお前と、お前の家族に迎え入れられた。小さかったお前はまるで自分が傷付けられたかのように痛そうな顔をして、『大丈夫?』とオレの手を握った。それを見てフガクは『一緒に暮らさないか』とオレを誘ったんだ」

 あの時代孤児なんて珍しいことじゃない。

 どこの家庭とてそこまで余裕があるわけでもない、例え親族としても孤児を……それも既に忍びとして働いているような相手を引き取るということは珍しい事だった。

「オレは嬉しかったよ。お前に『ゴガクにいさん』って呼ばれて、妹がまだ元気だったあの頃を思い出した。ああ、そうだ、オレにはまだ守るべき家族が残っているんだってそう思った」

 もしあの時イタチがオレに手を差し伸べてくれなかったら、きっとフガクはオレに共に暮らそうなんて提案しなかった事だろうし、オレにはまだ守るべき家族がいるなんて思いもしなかったはずだ。

 そうして守るべき対象(かぞく)がいないオレがどうなるのか……その答えは奇しくも前世のオレ(うちはマダラ)が出している。

 マダラはオレだが、オレはマダラじゃない。それでも根本的にオレはマダラと同じ人間なのだ……憎しみに目が曇り、誰も信じられなくなる。そんな未来も有り得た。

 だがそうはならなかった。

 マダラにはなくて、ゴガク(オレ)にはあったもの。

 失った後に与えられた新しい家族と、我が事のようにオレの生存を喜んでくれた気心の知れた友。

 その最初の一歩を刻んだのは……。

「お前がオレに家族を再び与えてくれたんだ」

 こうして話している今も、オレの影分身は部下を引き連れ霧隠れの怪人相手に戦闘を続けている。キリがよくなったら部下から先に逃げさせるつもりだ。

 影分身に化けさせたイタチと、同じく影分身のオレの戦いでイタチの不在を誤魔化しちゃいるが、果たしてあの霧隠れの怪人はどこまで騙されてくれるものか……。

 悠長にしている暇はないと、イタチを腕に抱き上げ駆けながら話を続ける。

 イタチは存外大人しかった。

 お前からすれば別にオレの事情なんて知る必要もねェだろうに、オレの話に真摯に耳を傾けている……やはり、お前は優しい奴だよイタチ。

「だから、頼むイタチ……オレからもう家族を奪わないでくれ」

 切実に願いを込めて、頭を下げる。

「オレはもう家族の死に顔なんて見たくねェんだ……! オレのために生きることが出来ねェってんならサスケの為でいい。あいつは今でもお前を信じている。お前との再会を夢見て、ずっと直向きに努力し続けているんだ。お前も兄ならサスケから兄を取り上げてやるな」

 マダラでもありゴガクでもあるオレには、兄の立場も兄を慕う弟の気持ちもどちらもよくわかる。

 だからこそ、言外にサスケが不憫だとそう告げる。

「ゴガク兄さん……」

「ハハッ、久しぶりにそう呼んでくれたな」

 オレはイタチの真っ直ぐな髪を撫でる。

 それにつられたようにイタチも薄ら口元に微笑を浮かべる。

 次いで、咳き込んだ。

「げほ、ごほ……ごほ」

 ぽたりとイタチの指の間から赤黒い血が伝う。

 体温は低く呼吸がおかしい。

 もう成人しているのに、背丈はオレとそう変わらないのに、その体は泣けてくるくらいに軽かった。

「……飛ばすぞ、死ぬなよイタチ」

 

 続く




ゴガク君のプロフィールは基本マダラと一緒のイメージなので多分12/24生まれの179.0cm71.3kgで好物は稲荷寿司だし苦手なのは白子だしCVは内田直哉。
ぶっちゃけ髪型以外顔も前世と一緒だけど髪型補正と同族だから顔が似ていること自体は不思議じゃない&世間に知られているマダラ像と雰囲気とか表情が違うので終末の谷の像でマダラの顔知っている人にも同じ顔とは思われていないっぽい感じ。
対してイタチさんは178cm58kgなんで身長は1㎝しか変わらねえのにゴガクと13㎏も体重は違うんだなあ~……


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12.再会

ばんははろEKAWARIです。
昨日は更新出来なくてサーセン。
今回はなんか元スレ版より文量3倍増しに大幅増量しました。
次回はイタチ視点の書き下ろし番外編予定です


 

 

 結論を言えば、イタチの指名手配取り下げ及び木ノ葉隠れの里への復帰は、思った以上にトントン拍子に進んだ。

 そもそもいつか里にイタチが帰ってくる時の事を、はじめから織り込み済みで四代目は計画して指令を下していたのだろう、イタチが殺害し指名手配される切っ掛けとなったうちはのタカ派達についてだが、イタチの帰国後彼らによる里転覆計画の証拠書類などが白日に晒され、犯罪者から一転しイタチは里の英雄たる功労者となった。

 ……事実そんな書類が残されていたのかは怪しいが、奴等がその地位に不満を抱き、過激な手段を検討していた事自体は本当の事だ。フガクからの証言もある。

 元々戦国の両雄で名が知られたうちはと千手が手を結んで生まれたのがこの里だ。

 その後千手からは柱間が里長たる初代火影に就任し、マダラの記憶によって知った真実はともかく、歴史で習う正史的には火影争奪戦で敗れた当時のうちは族長マダラは里を抜け、逆恨みによって木ノ葉を襲撃し、終末の谷の戦いで柱間に敗れ死んだ、となっている。

 世紀の大犯罪者を出した事で肩身の狭い立場に立たされたうちはだったが、その後二代目火影千手扉間の時代に警務部隊が設立され、うちはの多くが警務部隊所属として犯罪者を取り仕切る立場に立つことになった。

 強い忍びを捕縛できるのはそれよりも更に強い忍びだ……うちはは真面目なものが多く、職務には忠実でもある。与えられた役目をうちははしっかり熟していった。そのうち、一般層からエリートとして尊敬と畏怖の賞賛を受ける機会が次第に増えていく。

 元々うちはは自尊心が高く誇り高い者が多いのも特徴だ、エリートとして頼られることに悪い気がする奴はそういない。そのあたりを考えれば扉間の奴は上手くやったと言える。

 ……まァオレの中のマダラの感情はあんな奴を賞賛するなど正気か? って訴えかけてくるわけだが、ゴガクとしてのオレにとっちゃ恨みなんて別にねェ相手だしな……。別段好きでもねェが、それでも柱間よりは理解しやすい相手だ。

 兎も角そうしてうちはは見事エリート一族、という立場を確立したわけだが……それが余計な欲を生んだとも言える。

 こんなに里の為に働いているのに、何故我らは政治の中枢に立てないのだ、上層部はいつまで我らを警戒する気だとそう思う同族の誕生に繋がった。

 ……いやそりゃ治安維持してる奴らが政治に口出しするのは問題しかねェし、後者は前世のオレ(うちはマダラ)に対するトラウマの影響じゃねェか?

 上層部にとっては九尾を引き連れて里を襲ったうちはマダラは恐怖の象徴で、その記憶が色濃く残っている以上警戒して当然と言えば当然と言える。

 とはいえ、上層部連中も揃っていい年だ。

 奴等が引退すれば、その記憶もそのうち風化していく筈だった。

 一族内に里に対する不満も多少はあれど、そこまで問題になるほどでもねェし、歩み寄りの表れか、フガクは自身の次男には三代目の父親の名前をつけたし、その嫁のミコトも四代目の嫁とは友人だという。

 だからその不満は未来を悲観するほどのものでもなかった。

 が、そんな中、問題は起きた。

 サスケが産まれた年の秋、九尾が里を襲った事だ。

 その事件は四代目が自分の息子である、生まれたばかりの赤子に九尾を封じることによって解決したが、それまでに幾人もの死傷者が出た。そしてこの事件は上層部にうちはマダラの恐怖を思い出させるには十分な事件だったというのが、なによりの問題だった。

 上層部はうちは一族の隔離と監視を叫んだのだ。

 それに否を唱えたのが四代目だ。

 四代目火影波風ミナトは、うちはではないと、里を二つに割るつもりかと上層部を逆に非難し、うちはへの隔離政策を断固拒否する姿勢を見せ、上層部は自分の子供と親子として暮らさぬ事親を名乗らぬ事を条件に、うちはを今まで通り扱うことを認め……四代目はその要求を飲んだ。

 これは上忍以上の地位にいる里の忍びには、周知された事実だ。

 これを知ったうちはの反応も二つに分かれた。

 自分の家庭を犠牲にしてでもうちはを庇った四代目に心動かされ、ミナトを信じよう。四代目ならうちはを悪く扱う事はあるまい、と考えた一族と、たとえ四代目に庇われたとしてもそもそも上層部がうちはを九尾事件の犯人……若しくはその片棒を担いだと決めつけ、まるで犯罪者のようにうちはを監視隔離政策をしようとしたこと自体に憤慨し、例え四代目の顔に泥を塗る行為だとしても奴等を許すものか! うちはこそが上に立つべき選ばれた存在だ! と考えた者達だ。

 因みにフガクを筆頭に穏健派ともいえる前者が8割で、イナビやヤシロ達を中心にした過激派とも呼ぶべきタカ派連中が2割だ。

 そういう意味では奴等はうちはでもマイナーだったと言えるが……うちは一族だけで一体何人いたのかって話だ。マダラの時代に比べると数は少ないが、それでも10人や20人ではないのだ。そのうちの2割が過激思想の持ち主……となると馬鹿に出来ない程度には数も戦力もいる。

 そして厄介な話だが、そういう奴等に限って空気は読まねェし声がでかいんだ。

 重ねて言うが奴等はうちはの主流派ではない。

 大抵のうちはの人間は上層部を不愉快に思うことまでは同じでも、子供との生活を犠牲にしてまでもうちはを庇ったミナトに対して好意的で、恩の方を強く感じている。

 元々うちはは家族愛が強いものが多いのだ。我が身に置き換えてミナトが上層部に受けた仕打ちに対する同情と、そこまでしてうちはの事を……という感謝を向けている奴のほうが多数派だ。上層部は気に食わんがミナト個人には好意的という一族のものは珍しくねェ。

 だからうちは一族が定期的に開いている会合でも、タカ派を名乗る奴等が過激で現実味のない策を言い出しても、四代目への恩を仇で返すつもりなのか? とあまりよく思わない奴の方が多かったし、オレも下らねェと呆れて見てたもんだ。

 ま、族長であるフガクの顔を立てる為にもあんまり口出しはしなかったがな。

 だが、イタチに命じてわざわざ殺させたってことは、四代目としては奴等の動きは看過出来ないところまで進んでいた、ということなのだろう。

 それもただの暗殺ではなく、わざわざイタチが犯人と分かるようにした上で里抜けさせたのは、暁にその後潜入させるにあたり、指名手配犯にしておかないとスパイとして潜り込ませるのは難しいからという判断だったのだろう。なにせ、暁の構成員は全てS級犯罪者だって話だからな。

 だからうちは一族のタカ派の抹殺から、その足で暁にスパイとして潜り込むところまでで一つの任務だったのだろうし、いずれ四代目は時期を見てイタチを手元に戻すつもりだった。故にイタチが殺した奴等の里を裏切った証拠書類なども用意し、同族の不穏分子を火影の命で誅した忠義者としていずれは名誉挽回。イタチが堂々と里に戻れるように計らっていた。

 そしてその事に対する引き継ぎも五代目に行われていたからこそ、こうもスムーズに戻ってくる事が出来たって事だろう。

 

 十中八九任務だったにしても、流石に表向きS級犯罪者の抜け忍をすぐに里にいれるわけにもいかねェ。

 故に口寄せの鷹を使って里に入る前に五代目に連絡をいれ、彼女の指示に従ってイタチを連れて裏ルートで里に入った。

 そうして五代目はイタチを一目見るなりその病状を看破し、即座に入院を言い渡した。

 その時はまだ指名手配を取り下げられておらず犯罪者扱いだった為、一端匿名で変化で別人を装ってから特別治療室にイタチの身柄を移し、主治医として五代目はイタチの治療に携わった。

 そうして一通りイタチの体を検査した五代目は言う。

「危ないところだったな。あと少しでも症状が進んでいたら治療は間に合わないところだった。命令外の勝手な行動は褒められたものじゃないが、御陰で木ノ葉は有望な人材を一人失わずにすんだわけだ。だから敢えて言おう、でかしたゴガク!!」

 そんな風に機嫌良くニィと五代目は笑いながらオレの背を叩いた。

 ……それにしても馴れ馴れしいなこの女。お前は柱間か。……柱間の孫だったな。

 そうしてイタチの指名手配取り消しと前後して、イタチは木ノ葉病院を退院することとなり、週に1度の検診を義務づけられると共に自宅療養に切り替えられることとなった。

「兄さん!」

「イタチ……」

「イタチ」

 サスケにフガク、ミコトの親子3人が退院したイタチと対面する。

 この3人が揃ってイタチと会うのはこれが8年ぶりだ。

 フガクはぐっと唇を噛みしめ、それから万感の思いを込めて言った。

「よく、帰ってきた」

「……父さん」

 イタチはいつも厳格な族長としての態度を保っていた父の、感情の籠もった一言に、思わずと言った調子で言葉を零す。

 ミコトは最後に見た時に比べ背こそ伸びたものの、病のせいで不健康に痩せた息子に一瞬痛ましそうに眼を細めたものの、それでも精一杯の笑顔を浮かべて「お帰りなさい、イタチ」と息子の帰還を言祝いだ。

 サスケは最初は複雑そうな顔をしていた。

 帰ってきてくれたのは嬉しいが、その原因が病であったことはサスケにとっても苦い事実だったのだろう。

 それでもサスケは幼い頃のように兄の服を掴み、「おかえり、兄さん」と精一杯の笑顔を乗せてイタチに言った。

 それにイタチは仕方なさそうな笑みを浮かべて、弟の後頭部を引き寄せ、コツン。額と額を重ねて「ああ……ただいま、サスケ」とそう告げて、感極まったサスケはそのままイタチに抱きつき、それまでの想いを吐き出すように、声も出さず静かに泣いた。

 イタチは弟にそんな風に泣かれると思っていなかったのか、最初の1~2秒はオロオロと狼狽えるような反応だったが、やがて優しく微笑み、小さな弟をかつてあやしていた時のようにポンポンと背中をリズムよく叩いて、もう一度「ただいま」と言った。

(良かったな、サスケ)

 オレはそんな一家再会の様子を病院の上から見下ろしながら、笑った。

 

 続く




今回の話の元スレの流れ↓(コピペ)


二次元好きの匿名さん
里抜けどころか、下手したらイタチもサスケと和解したり綱手にスパイだと判明したら、戻ってこれるんじゃないか??

二次元好きの匿名さん
綱手様なら「任務だった」と普通に連れ戻してくれそうだなあ…実際任務だったわけだし族滅までやったわけじゃないならイタチがそこまで気に病む理由もないだろうから戻ってきて綱手様の診察受けて自宅で療養コースで親との溝を埋めるイベントがきたりするのかも

二次元好きの匿名さん
このイタチは病が発覚したらゴガクとサスケに木の葉隠れに強制帰還させられそうだな。そして、やっぱりサスケが里抜けしそうな気がまるでないどころか、兄への想いで原作より大分強そうなサスケになっとる


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番外編:うちはゴガクという人①

ばんははろEKAWARIです。
昨日更新出来なかったので本日二回目。
今回のは活動報告でもちらっと言ってた完全書き下ろしイタチ視点の番外編その1にあたります。
ちょっと長くなったのでいくつかにわけることにしました。
ゴガク視点の本編だと判明しない裏話回。


 

 

「よぉ、イタチ。元気か?」

 ……あの人と初めて会ったのはいつだったのか。

 既に物心ついた時には知っていたので、おそらくはオレが赤ん坊の時なのだろう。

 あの人は、あの人の二人の兄と共に時々オレや父さんに会いに来たのを覚えている。

 おそらく親戚の子供として年少者としてオレは可愛がられていた。

 第一印象……というのもおかしいかもしれないが、物心ついてから抱いた印象としては、うちはらしい怜悧で端正な顔立ちをした年上の少年で、彼の兄達二人がうちはにしては優しげな顔立ちと温和な雰囲気をしているのに対し、目つきも悪く威圧的な、一見すると人を拒絶する雰囲気を纏った少年だった。

 だが、それ自体はうちは一族として珍しいことではない。

 うちは一族は顔立ちが整ったプライドの高いものが多く、オレを含め取り澄ましていると評価されることも珍しくなかったからだ。

 だけど、そんな少年が直前まで纏っていた怜悧な雰囲気をどこにやったのか、オレを見つけるとニィっと悪戯小僧のように明るく笑うのが印象的だった。

 オレはそんな見ている方が元気になれるような、一族には珍しい太陽のような笑顔が好きだった。

 父の従兄弟にあたるその少年は、うちはゴガクといった。

 

 ゴガクさんは不思議な人だった。

 誰よりもうちは一族らしいのに、同時に一族らしくはない。

 他の一族の者同様、自分がうちは一族である誇りや自負は持ち合わせているようには見える。

 だが彼が親友と呼ぶのは三代目の息子に対してだったし、一族以外の人間に対しても気にすることなく付き合いを続けているように見えるし、そのことに対して思うところも特にないらしい。

 だからといって一族を大事に思っていないわけでもないし、誰とでも付き合えるような器用さも持ち合わせていないようだったが、一族の人間が堂々と三代目の息子相手に親友と公言する事に文句をつけると「だぁああ!! 一々煩ェーんだよゴラ! オレが誰と付き合うかはオレが決める事だろうがッテメエらに文句言われる筋合いはねェ!!!」と悪びれるでもなく言い放ち、その実力でもって相手を黙らせた。

 当時13歳の少年だったが、空恐ろしいことにその年でゴガクはうちはきっての火遁使いにして手練と知られていた。

 半目で睨め付けながら、文句を言ってきた年上の男達を忍び組み手でボコボコにしている姿はやけに貫禄がある。まるで悪鬼もかくやという形相だ。

 それでいてオレを見つけると、パッと表情を嬉しそうな笑顔に変え「よぅ、イタチ!」と明るくはにかむ姿は太陽のようで、その振り幅の大きさに、なんともコロコロ表情の変わる人だと思ったものだ。

 思わず、むにっと自分の頬を掴む。

 ……残念ながらオレの表情筋はこの人ほど動きそうにはなかった。

 そんな喜怒哀楽も激しく、コロコロ変わる表情はあまりうちは一族の人間では見かけないものだったが、でもこれは誰にでも見せる表情というわけではないことも知っていた。

 オレも人のことは言えないが、この人は不器用だし決して人当たりがいいわけでもない。

 警戒心も強く、誰にでも心を許すような人ではなかったし、気を許した相手に対しては気安さや面倒見の良さを発揮するが、身内に判定したごく少数以外に対しては無愛想で素っ気なく、感情を動かす事も稀だ。

 気を許した少数以外のその他大勢に対しては、どこまでも冷徹になれたし、その整った怜悧な顔に冷酷さを映したような無表情を乗せ、淡々とした話し方で冷たく突き放すようにものを言う。

 感情など知らぬような、他者を排したその様は、誰よりもうちはの血を色濃く連想させた。そんな様を見て、「うちはマダラの再来だ」と年寄りは呼んだ。

 時は第三次忍界大戦の最中だ。

 子供とはいえ、族長の息子であるオレの耳にも様々な噂が飛び込んできたものだ。

 獄炎のゴガク、冷血の獄炎鬼。

 まだ10代の少年にも関わらず、顔色一つ変えず、冷酷に残虐に敵を燃やし尽くす地獄の業火の使い手だと、そう噂されていた。

 それでもオレは彼のことを怖いと思ったことは無かった。

(この人はちょっと不器用なだけだ)

 沢山殺した?

 そもそも忍びなど元々人殺し家業だ。

 血も涙もない獄炎鬼?

 なら何故この人はこんな屈託なく笑う? それに戦場で非情になるのも、忍びなら当然の事だろう。里を守るため、仲間を守るために、そうしているのだろう? なら蔑まれる理由も恐れられる理由もない。

 確かにこの人は強いのかも知れない。子供に似合わぬ実力があることは、見ててわかる。だからといってこの人は世紀の大犯罪者(うちはマダラ)ではないのだ。どうして大人達はこの人自身を真っ直ぐ見ないのだろう。

 別に庇いたいとかではなく、当時のオレにとってそれは素朴な疑問だった。

 うちはゴガクは明らかに一部の一族の大人達に恐れられていた。天才だから、それだけじゃない理由でも彼らは「うちはマダラの再来だ」と彼を呼んでいた。

 だからなのかもしれない。

 親兄弟を除くと、彼が一族の人間とよりも、寧ろ一族以外の人間とのほうが仲が良く見えたのは。

 自分を自分として見ない相手より、自分を自分として見てくれる相手の方が好感を持てるのは人として当然のことだったのかもしれない。少なくともゴガクさんは一族の垣根に捕らわれていなかったように思う。けれど、繊細で誇り高くて愛情深く、家族想いで内と外を綺麗に分けて考えるその本質も性質も、彼はどこまでもうちはの人間なのだ。

 だから彼は誰よりもうちは一族らしくなくて、同時に誰よりもうちは一族らしい人だった。

 そう……その人は誰よりもうちはらしい人なのだ。

「隊長、今連絡が……」

「……何?」

 夜中トイレに行くために起きた際に偶然、聞いてしまった訃報。

 彼と彼の父兄達含む部隊は敵の罠にかかり全滅。一人だけ生き残ったうちはゴガクが敵を殲滅し、任務を達成、今別働隊と合流を果たしたと、そういう連絡だった。

「あなた……」

「ああ」

 そのまま母と顔を見合わせ頷きあう父の元に襖を明けて「父上」と声をかけた。

「イタチ、お前まだ起きていたのか」

「……話をきいてしまいました、すみません」

 勝手に会話を聞いたことを素直に謝罪し、それから「ゴガクさんを、迎えに行くのですよね? オレもつれて行ってください」とそう頼み込んだ。

 父はそんなオレにため息を一つつくと「わかった」と答える。それに母は「あなた!」と批判するような声音で父を呼ぶ。

「ミコト、イタチはオレの子だ。大丈夫だろう。イタチ、連れて行ってやるからには約束しろ。決して何を見ても目を逸らすな。いいな?」

 それに「はい」と返事をして、素直に頭を下げた。

 そのまま父の腕に抱かれ、阿吽の門まで運ばれる。

 はっきり言ってオレがついていく意味がないことはわかっていた。

 ゴガクさんには親戚として彼の兄達と共に可愛がってもらっていたが、親族といっても五親等だ。そこまで血が近いというわけでもないし、たまに会ったら可愛がられる程度の関係だった。それでもなんだか嫌な予感がしたのだ。ここで行かなければ後悔するような、そんな予感が。

 門に辿り着くと父の腕から下ろされ、そこで別働隊と合流した従叔父の帰りを待つ。やがて、一刻とかからず彼は現われた。

 ……一言で表すならまるで幽鬼のようだった。

 周囲の大人達より一回り小さい彼の忍び装束は返り血でベットリと汚れており、その眼は地獄よりも昏く悍ましい気配を纏っていた。一族に多いツンツンとした黒髪もまたベットリとついた血が乾いてこびり付いており、陰惨極まりない形相だった。

 ……彼の部隊は彼の父兄も含め全滅したという。それほどの激戦だったのならば、一人だけ生き残ったという彼も怪我の一つしててもおかしくないだろうに、全てが返り血で、怪我一つしていないのが異常だ。そうわかっているからだろう、ゴガクさんと合流した別働隊の人間は恐ろしいものを見るような眼で彼を見ており、その目はとてもではないが仲間を見る眼ではない。まるで化け物を見るような眼差しだった。

 だが、それすら気にならないようにギラギラと闇の中光る瞳は赤と黒を行ったり来たりしており、時折勾玉模様からクルクルと別の模様に変わっては黒く戻ってまた赤に光り輝いていた。

 はっきりいって普通の子供がこれを見たら恐ろしさのあまり失神してもおかしくないほどに、それは異質で恐ろしげな姿だったといえる。

 だけどオレはそんな彼が、痛い痛いと泣き叫んでいるように見えたんだ。

 父や母にとっても想定外の陰惨さだったのだろう、息を飲み込むような音が聞こえる。けれど、それでも族長としても動じてなるものか、という意地か、父は労るような声で「よく帰ってきてくれた」と声をかけ、母は涙ぐみながら「ゴガクくんだけでも無事で良かった」とそう声をかけた。

 そんな父と母からの言葉を聞いても、彼からの反応はない。

 ただ眉間にぎゅっと皺を寄せて、何かを言おうとして失敗しているような、そんな反応を返すだけだ。

 そんな姿が酷く辛く苦しそうで……。 

 一歩近づいた。

 感知タイプではないオレにもわかるほどに、威嚇するようにチャクラをざわつかせている。まるで野生の傷ついた獣みたいだ。

 更に一歩近づく。

 憎しみと怒りで染まっていた瞳に、戸惑いが生まれる。

 更にもう一歩。

 彼は後ろに下がりそうになりながら、そんな自分を押しとどめている。

 父と約束した通り、眼は逸らさなかった。

(大丈夫、こわくないよ)

 そう言い聞かせるように、伝わればいいと真っ直ぐに彼を見た。

 黒と赤を行き来していた瞳が途方に暮れたように黒に傾く。ぐしゃりと顔を歪め、嗚呼泣きそうだ。

 もう一歩、そろりと手を伸ばす。

 そっとその血に染まり、タコが出来た努力してきた手を握りしめ、「大丈夫?」と尋ねた。

 それを聞いた彼は、やっぱり泣きそうで、どこか迷子の子供のようだった。

 放っておけないと思った。

 今放置してしまったら、きっとこの人はどこまでも堕ちてしまう、そんな予感。

 父が母に目配せをする。母が肯く。父はそこで彼に対してこんな提案を口にする。

「一緒に暮らさないか」

 ゴガクさんは吃驚したように眼を見開き「……良いのか?」と尋ねる。

「ああ、ミコトも承知の上だ」

「ええ……ゴガクくんなら大歓迎よ。イタチのお兄ちゃんになってあげてね」

 そう母さんが精一杯の笑みを浮かべてそう答え、また泣きそうな顔になった。

「ゴガク!」

 続いて里のほうから、今聞いて駆けつけたのだろう、息を切らして三代目の息子である猿飛アスマがやってきた。

「アスマ……」

 アスマさんはゴガクさんの様子に息を飲むと、そのまま迷うこと無く親友の体にガバリと抱きつき「お前が無事で本当に良かった」と涙目混じりにその帰還を言祝いだ。

 そんな友人の言葉にゴガクさんの眦にも薄らと涙が浮かぶ。

 それから彼は彼自身の本来の笑みを取り戻し「嗚呼、ただいま」と笑顔で親友に抱きしめ返した。

 

 そうしてゴガクさんはご家族のお葬式を上げた後、うちで暫く共に暮らす事になった。

 

 続く



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番外編:うちはゴガクという人②

ばんははろEKAWARIです。
今回も前回に続きイタチ視点書き下ろし番外編です。
あと一回だけ続くのじゃ。


 

 

 ゴガクさんが家に来たのは、ご家族のお葬式を上げた2日後のことだった。

「お、お邪魔します」

 お葬式が済んだゴガクさんはまるで借りてきた猫みたいにソワソワと落ち着きがなく、肩身が狭そうにガチガチと緊張している。

 そんなゴガクさんを見て、ふと母さんが言った言葉が脳裏をよぎる。

『ええ……ゴガクくんなら大歓迎よ。イタチのお兄ちゃんになってあげてね』

 そうだ、オレはこれからこの人と家族として暮らすのだ。

 なら、ゴガクさん、って呼び方は適切ではないな。

 ……ゴガク叔父さん?

 いや確かに彼は父の従兄弟だし、続柄的には親戚の叔父さんといって間違いでは無いけれど、彼はまだ10代前半の少年だ。流石に未成年を相手に叔父さん呼びするのは気が引ける。

(なら……兄さん、かな)

 母も言っていたじゃないか、お兄ちゃんになってあげてね、と。

 なら、それでいいか。

「ゴガク兄さん」

 そう思ったオレが彼を呼ぶと、ゴガク兄さんは吃驚したように眼を見開き、パチパチと瞬きを繰り返す。

「おじゃまします、じゃないでしょう。これからはゴガク兄さんの家でもあるんだから」

 そのオレの言葉にどう思ったのか、はよくわからない。

 ただ、それはゴガク兄さんにとっては多分嬉しい言葉だったのだろう、と思う。

 彼はジワジワと耳から頬まで赤く染めて、やがてクシャリと顔を歪めると、破顔して「……ただいま」と泣きそうな声で言った。

「おかえりなさい」

 そして手を繋いで居間まで歩く。

 ちょっと不思議な気分だった。

 別に、今まで兄が欲しいと思ったことは特には無かったけれど、ゴガクさんは意外にも小さな子と手を繋いで歩くことになれているのか、歩調をオレに合わせ、嬉しそうに笑う。なんだかそんな風に嬉しそうに笑われると、オレも嬉しくなってきて、兄とはこんな感じなのかなとそう思う。

「あ、ゴガクくん、いらっしゃい。ご飯今用意しているからちょっと待っててね」

 母は味噌汁をかき混ぜながら、いつも通りの調子で振り返りそう声をかける。

 そんな母を見てゴガク兄さんは「いえ、ミコトさん手伝いますよ」と袖を捲って、とても慣れた調子で台所に向かう。

「いいのよ、そんなこと」

「いや、これからオレも家族として一緒に暮らすんですよね、ならやらせてください」

「……わかったわ」

 そう言って母はにっこりと笑う。

 ゴガク兄さんは実際日々の家事に慣れていたのだろう。とてもテキパキとした調子で母の指示通り動き、綺麗に寸分の狂いも無く料理を皿に盛り付け、運ぶ。

「驚いたわ、慣れているのね」

 まさか10代前半の少年が家事慣れしているとは思ってなかったからだろう、母がちょっと吃驚したような調子で感嘆混じりに褒めると、ゴガク兄さんは「うちは母さんがいなかったから」とちょっと困ったように頬をかいた。

 

 それからゴガク兄さんもうちで暮らすようになった。

 ……とは言っても、時は第三次忍界大戦中だったし、この前の戦での功績で推薦が貰えたのか、ゴガク兄さんは上忍に昇格し、益々忙しくなったようで、あまり家に戻ってこれる日はそう多くはなかったし、顔を合わせるのは多くても週に1度か2度……下手すると数ヶ月会わない事も珍しくは無い。

 それでも家にいるときのゴガク兄さんは、積極的に母の家事を手伝い、母と一緒に台所で並んで料理を作る事も珍しくは無かった。

「ゴガクくんは本当に料理上手ね」

「へへっ、イタチ美味いか?」

「うん、うまいよ」

 照れて、得意げにする少年の笑顔が特徴的だった。

 そんな顔を見る度、よかったなと、そう思う。

 一度は冷たく昏い空気を纏ってたこの人が、段々と元の明るさを取り戻していくのが嬉しくて、オレはもう一度「うまいよ」と口にして、この人の手作りだという稲荷寿司を口にする。ちょっと甘めのそれはとても繊細で優しい味がした。

 

 そしてオレが4歳の時に第三次忍界大戦は終わりを告げた。

 その間、色々あった。

 父に社会勉強として、戦場の跡地に連れて行かれたこともあった。

「イタチ、よく見ておきなさい」

 そうしてまざまざと見せられた戦争の爪痕に、ジクジクと胸が痛む。

(どうして人は争い合うんだろう)

 痛み苦しみ、恨み、辛み。

 戦場には負の念が満ち満ちている。

 里に帰る途中で見た人々の恨みが籠もった眼差し。戦争の被害者である彼らには碌な保証すらないのだ。これが戦争が生み出したもの……平和が欲しいと、切実に思った。

 だから、大戦が終結したと聞いたときはほっとした。

 けれど、これで終わりなわけがない、寧ろ始まりだ。

 平和とは努力して得るものだ、これが永遠に続くなんて、そんなわけがない。

 だからこそ、戦争が終わり、以前ほどの忙しさから解放されたゴガク兄さんに「修行を見てやる」と言われたのは、オレにとって僥倖以外の何物でも無かった。

「火遁、豪火球の術!」

 まずは見本だと、放たれたそれはとても見本とは言えない大きさの豪火だった。囂々と燃え上がる炎は湖全体を覆うように広がり、球なんて可愛い代物ではないことは誰の目にも明白だった。

 それを見てゴガク兄さんは、「あ、ヤベやりすぎた」と顔にかいて、ごほん、咳払いをしたあと今度はチャクラ量を調節してもう一度豪火球の術を放つ。

 すると今度は綺麗にお手本という名に恥じぬ大きさの豪火球が湖の上に現われた。

「これが豪火球の術だ。うちはの基本忍術でもある。うちはは火を扱う一族だ。これを出せるようになってうちはの人間は一人前と認められる。とはいえ、砂利のうちは身体エネルギーが未熟故に扱いは難しい。うちはは隠遁に適正がある分精神エネルギーは成長が早いが、それも個人差があるしな。とにかく、やってみろ」

 そういって、丁寧に必要な印をゆっくりと再現して見せてくれる。

 特に苦も無く一度で手順を覚える。そしてオレは、言われたとおり、湖に向かって「火遁、豪火球の術」と寅の印を組んで術を発動した。

 果たして豪火球の術は……出た。

 ゴガク兄さんの出したそれに比べると一回りほどは小さかったが、これはチャクラ量の問題だろう。お手本をなぞるように、綺麗に発動している。

 それを見て、ゴガク兄さんは「ハハ……イタチ、お前こんなに小っちェえのにチャクラコントロールすげェな?」と吃驚したように感嘆の声を漏らすと、オレの脇に両腕を突っ込んで持ち上げ、ぐるんぐるんしながら「さっすがオレの弟だ! お前は天才だな、イタチ!!」そう言って楽しそうに笑って回った。

 それからも色んな術や知識を教えて貰った。

 時には一緒に狩りに行く事もあった。

 ゴガク兄さんの鷹の口寄せが羨ましくなって、こっそりと烏と口寄せ契約を結んだときはいっぱつでバレて、「へえ~?」とニヤニヤ笑ってきたので、恥ずかしくなって、ベシベシ叩くと、「そんな照れるなよ、いいんじゃねェか? 烏、よく似合ってるぜ?」そう言って慣れた手つきでオレの頭を撫でる。

 それにああ、本当にこの人はオレの兄さんをやっているんだなとそう思ったことを覚えている。

 そんな日々は悪くはなかった。

 けれど、そんな日々も終わりが訪れる。

 切っ掛けは母さんが(サスケ)を妊娠した事だ。

 そのくらいから、ゴガク兄さんはいつまでもこの家に居座っているわけにはいかないだろうと、考え始めたらしかった。

 それにこの家で暮らし始めた頃のゴガク兄さんは精神的に不安定な事も多かったけど、この頃には大分安定していたし、時々垣間見えた危うさや昏さも随分と鳴りを潜めていた。年齢的にも忍びの子としてはとうに独り立ちしてておかしくない年齢なのだ。

 それを思えばちょっとした寂しさはあっても、この巣立ちは必然に思えた。なにより、オレもまた兄になれる事は嬉しくも楽しみだった。

 ゴガク兄さんに弟として扱われる度、オレも弟や妹が欲しくなってしまったのだ。だから、母のお腹の中にいるという弟と会える日が待ち遠しくて仕方なかった。

「……今までありがとうございました」

 そうしてオレの5歳の誕生日を祝った後、サスケが生まれる前にゴガク兄さんは生家に戻っていく事になった。

「寂しくなるわね」

 と母が言った。

「そうですね」

 とオレが答えた。

 そうすると母は「もう、なんて顔してるの。たとえ離れたとしても、ゴガクくんはイタチのお兄ちゃんでしょ。今度会ったら思いっきり甘えてあげなさい」と母はオレの背を叩きながらそんなことを言ってきたけど、それでもケジメはつけるべきだと思った。オレはこれからサスケの兄になるのだから。

 次に会ったときに「ゴガクさん」と呼ぶとゴガクさんは、一瞬悲しげな顔を浮かべたが、次に仕方ないなって顔をして「困ったことがあったらいつでも呼べよ」とオレの頭をくしゃりと優しく撫でて笑った。

 

 だからだろう、四代目に言われた時この人を連想したのは。

 第三次忍界大戦が終結して約8年が過ぎた年の事だ。

 オレの親友、うちはシスイが死んだのは。

 

 続く




今回の話の元ネタ↓(以下元スレコピペ)

二次元好きの匿名さん
イタチがゴガクの鷹の口寄せをみて烏の口寄せに決めてたら可愛いし、何ならサスケもイタチを憎んでないしゴガクに修行つけてもらってるから口寄せが鳥類になってるかもしれんな。
このスレだったら、ゴガクが大戦から帰ってきた後、フガク一家と同居してた時期があるだろうし、サスケが生まれるまでは兄弟に憧れてイタチがゴガク兄さんって呼んでたけどサスケが生まれてお兄ちゃんしようとした結果さん呼びに変わったりってエピソードがありそう。
ここのイタチさんはシスイさんこそ失ったけど両親も兄貴分も生きてるしサスケに憎まれてもないから原作に比べて大分精神的に余裕がありそう


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番外編:うちはゴガクという人③

ばんははろEKAWARIです。
今回で書き下ろしイタチさん視点番外編終了です。
別名この世界版うちはクーデター編。
次回からまたゴガク視点の本編に戻ります。


 

 

 オレが事態を知ったのは、四代目火影波風ミナトの直属である暗部に入隊してからの事だった。

 否、それは正確ではない。

 中忍であるオレには前提の部分が伏せられていただけで、会合での主張や言動から予測は出来ていたのだから、確信が与えられたのが暗部に入って四代目自身から九尾事件の時の詳細を聞かされてから、といった方が正しいか。

 九尾事件以来、うちは内部は二つに分れていた。

 多少の不満があるが、それでも自身が不利益を被ってもうちはを庇った四代目を信じようという派閥と、そもそも写輪眼を持っているというだけで九尾事件の犯人扱いした上層部がどうしても許せない! うちはこそが木ノ葉のトップに立つべきではないか、その力もあると驕った派閥だ。

 数としては前者の方が多いし、族長である父も前者だ。

 だが、父は族長としてあくまでも公平に、前者のほうが一族全体の意思だとして尊重している姿勢であったし、後者に関してはどうも誰かの入れ知恵によって煽られている節もあった。

(……ダンゾウ、か)

 そしてオレが暗部に属した頃から、彼らタカ派は明らかに外国誘致罪と呼ぶべきか、他国の手まで借りて木ノ葉にクーデターを起こし、地位を簒奪せんとしている事が判明した。

 たとえ未遂でもこれが決行されたらどうなるのか……内紛のはじまりだ。否、それにつけ込んだ諸外国の手によって再び忍界大戦が起こるやもしれない。それはなんとしてでも避けたい。

「オレに任せてくれ」

 そこでそう声を上げたのが、シスイだ。

 瞬身のシスイの名で知られるうちはシスイは、万華鏡写輪眼を開眼しており、その眼……別天神(コトアマツカミ)は相手の意思をねじ曲げ、術にかかった者は操られていることにすら気付かないという、幻術として最高峰の能力を誇る。

 タカ派を名乗る彼らはうちはの恥だ。同族の汚名は同族で雪ぐべきであり、別天神を使って彼らタカ派連中全ての認識を書き換えクーデターを止めてやると、そう決意し、苦渋の判断ながらも四代目も許可を出した……その直後だった。

 ダンゾウに騙し討ちにされ、シスイの片目が奪われたのは。

 そしてシスイはもう片方の眼をオレに託し、「一族と里を頼む」とそう告げて死んでいった。

 シスイの死がまるで条件だったかのように、オレの万華鏡写輪眼も開く。もしかしたらアイツのことだ、開眼条件を知っており、オレに力を託すためにわざと目の前で死ぬことにしたのかもしれない。

 そんな苦い気持ちを抱えながらも、オレは全てを四代目に報告した。

「そうか……」

 オレと同じく苦い顔をしながら、四代目はため息を一つつく。

「すまなかったね、イタチ。オレの力が足りないばかりに君達には面倒ばかりかける……」

「いえ……四代目様のせいではありません」

 心底落ち込んでいるように見える四代目……波風ミナトだったが、大戦の英雄でもある彼は切り替えもまた早い。「ん……ダンゾウ様が絡んでいるとなると、うかうかしていられないかな」それからシスイの死に関しては証拠がないからダンゾウを追い詰めることは出来ないことを謝罪される。

「これからの事を考えよう」

 そういってうちは一族一人一人に至るまで詳細を調べ、報告し、根のほうにも探りを入れ、ダンゾウがいつ動くのかの目処をつけた四代目は、オレにタカ派連中の抹殺を命じた。

 シスイの言葉ではないが、同族の汚名は同族の手で雪ぐのだ、ダンゾウが余計な事をするより前に。

 それが四代目の決定だった。

「すまないね、イタチ……」

 決行二日前に四代目は再び謝る。

 オレは裏切り者であるタカ派連中を始末した後、暁と呼ばれている犯罪者で出来た組織にそのまま潜入しスパイとして情報を集めることとなっていた。君ほどの実力者にしか任せられない仕事だと、四代目は言った。それでもオレだけに全てを押しつけているようで心苦しいらしい。

 ……『陰から平和を支える名もなき者』それが本当の忍びだ、オレはシスイにそう教わった。

 オレ一人の犠牲で木ノ葉の平和が守れるのならば安いものだ、気にしなくてもいいのに。だが、里の忍び全てを我が子と思えるからこそ、この人は火影なのだろう。

「イタチ、暫くは無理だけど……時期が来たら呼び戻す。だからその時はちゃんと戻っておいで」

 どうやらオレの戻れる場所もちゃんと用意するつもりらしい。甘いことだ、いやそれとも用意周到なのか。この火影は若いながらもやり手だ、いつまでもダンゾウの好きにさせるつもりはないと、そういうことなのだろう。

「……はい」

「ん、良い子だ。それとイタチ、四代目火影の名において許可を与える」

 里抜けする前に一人だけ、この任を明かして良いと、自分に何かあった時の為頼る相手を選びなさいとそう四代目は優しい顔で告げた。

 その時、脳裏をよぎったのはオレを実の弟のように可愛がる従叔父の姿だった。

 うちはゴガク。

 エリートと呼ばれるうちは一族きっての手練れで、二つ名は獄炎のゴガク。

 三代目火影猿飛ヒルゼンの息子アスマを親友と呼ぶ里の上忍師。

 うちは一族の人間ではあるが、警務部隊とは距離が有り、以前オレが『ゴガクさんは警務部隊には入らないんですか?』と尋ねた時は、『オレには向いてねェよ』と苦い顔で否定していたが、知っている。

 警務部隊の制服を見る度に、よく知るものでないとわからないほどに微かに眉を顰めていた事を。……おそらく、警務部隊に所属していた父兄の死を連想してしまうから、苦手なのだろうとそれを見て思ったものだ。父がゴガクさんに警務部隊に入るよう勧めないのも同じ理由だろう。

 だから彼は上忍師として里に貢献する道を選んでいるし、他の一族のものよりはフラットな立場でものを見れるだろう。

 父に話す事も一瞬考えたが……父は駄目だ。

 オレの父フガクは、オレの父である以前にうちはの族長で有り、そうあらんとしている。ならば、言えるわけがない。里と一族の板挟みになった時きっと父は一族を取る。

 だが、ゴガクさんなら、火影の息子を親友と呼ぶあの人なら万が一でも里を裏切る事はないだろうし、サスケの事も気にかけてくれるだろうとそう思った。

 だからその旨を四代目に告げると「そうだね……彼なら或いは……」そう言いながら表情を曇らせる。

「こういう時……オビトがいてくれてたらな……」

「オビトさん、ですか。確かカカシさんと共に貴方の部下だったと」

「良い子だったんだよ。オレと同じ夢を見てて、一生懸命で……オレの跡を継いでくれたらどんなによかったか……まあでも言っても仕方ない事だけどね」

 確かゴガクとも同期だった筈だよ、と苦笑して四代目は言った。

 そこですうと四代目は火影の顔に戻し、表情筋も引き締め、「イタチ、頼んだよ」と厳かにそう告げた。

 

 * * *

 

「うぐ……お前、イタ」

 ザシュ。

 口元を塞いで一撃で頸動脈を断ち切る。

 崩れ落ちる体を音を立てぬように落とし、そしてその眼から写輪眼を回収し、次に向かう。

 ……これもまた、四代目の指令だった。

 一族抹殺レベルのやらかしなら未だしも、ただ、同族を殺して回って里抜けしただけではS級犯罪者に指定され、暁に潜入出来るかはわからない。

 だから、眼を奪う事によって残虐さを宣伝すると共に、眼欲しさに同族を殺して回ったという欲深さを演出する、というのもあるが……一番は、仮面の男とダンゾウ対策だ。

 うちはの敷地内に度々潜入している仮面の男がいることは知っていた。

 四代目に報告した所、その男が九尾事件の犯人である可能性が高い事も。そしてダンゾウもそうだが、彼らこそが最も写輪眼を欲していた事に違いは無い。

 シスイの話を聞いて気付いていた。

 どうやってダンゾウがシスイを騙し討ちにしたのか、その手段はおそらくイザナギだ。

 イザナギ、それは失明と引き換えに運命を書き換えるうちはの秘術。これを多用するつもりなら写輪眼はいくらあっても足りないと言うことは無いだろう。

 ダンゾウはうちはマダラの恐怖を知っている世代だ。木ノ葉を奴なりに守ろうとしている事や、その為にうちはを危険視している部分もあるのだろうが、しかし……そんなもののためにタカ派を煽り、明確な里の裏切り者として、一族族滅の口実に繋がるよう裏で画策してたことは許せることだろうか。

 だが、それはオレが口を出す問題ではないことも事実だ。

 四代目は言った。

 今夜抹殺する予定のタカ派連中から写輪眼は回収してくれ、と。その上でその写輪眼をどうするかはイタチ、君に任せると。

 だからオレは決めていた。

 シスイの眼と、あとは暁加入の手土産用に一組だけ残し、あとは全て燃やし尽くすと。

 踊らされていることにも気付いていない哀れな連中だ。

 彼らも死んだ後まで利用されることはないだろう。

 そして淡々と任を果たし、オレは里を抜けた。

 

 予定通り暁に所属した。

 その時、再びあの仮面の男にも出会った。その時に牽制した。木ノ葉に手を出すなと、約束するならこの写輪眼をくれてやると。

 男にとってオレは目の上のたんこぶなのだろう、鬱陶しそうにしながらも了解して写輪眼を受け取った。

 そして時は流れる。

 いくつもの任を熟した。この手はいくつもの血で塗れている。お世辞にも綺麗な道を歩いてきたとはいえない。それでもよかったんだ、オレは。それで戦争が起きないなら、平和が守れるのならそれでよかった。

 そうして月を見上げたり、野山に咲く花を見るときにサスケを思い出す。

 あの子は、弟は大きくなっただろうか。どう過ごしているだろう、苦しい思いはしていないか。

 いつだって心配は尽きない。でもあの人が『任せろ』とそう言っていたから、きっとサスケは心配ないんだとそう思えた。

 そんな中届いた訃報、大蛇丸によって起こされた木ノ葉崩しによって四代目が死んだとそう聞いた。

 戻っておいでと微笑む里長の姿が脳裏に浮かぶ。

 四代目、あなたは優しい人だった。

(戻れるわけがない)

 陰から平和を支える名もなき者……それこそが本当の忍びだ。それがわかっていたら別に何も怖くはない。

 父さんや母さんに会いたくないわけではない、サスケに会いたいとも強く思う。

 それでもオレが戻るのは、違うのではないか。

 今更の話だ。

 オレはここから、外から木ノ葉を守る。

 そう思いながらも、四代目が亡くなったのならば、引き継ぎをしなければいけない。もしもオレに何かあったときはこれをと四代目に託されていた文を隠し持ち、暁としての活動を装って里へと足を踏み入れる。本当にナルトくんを連れて行くつもりはなかったので、守り役が自来也様であることに、寧ろ助かったとすら思った。この人が相手なら堂々と任務失敗の言い訳に出来る。

 5年ぶりの弟はとても元気そうで、安心した。きっと周囲からの愛を受けて、幸せに育ったのだろう。

 サスケが無事なら、何も悔いは無い。

 生きていてくれるのなら、それで十分だ。

 ……あの人には会わなかった。それでも烏に密書を託し、あの人の鷹の元に飛ばす。あの人ならそれだけで理由を察してくれることだろう。仕方ないな、と苦笑する姿が浮かんで、手間をかけるなとは思ったが、きっと大丈夫だと思う。

 それを信頼というのだろう。

 そうして更に時は過ぎる。

 風の噂でサスケが中忍に上がったと聞いた。よかったな、と思っていたら、酷く息が苦しい事に気付く。

「イタチさん……?」

 暁でツーマンセルを組んでいる鬼鮫が怪訝気な顔をする。

 それになんでもないと返そうとするも咳込み、噎せる。

「風邪でも引かれたんですか?」

 そう口にしているが、「まさかアナタが?」と言わんばかりの口調で、気にするなと話してそのまま旅を続ける。けれど、落ちていくチャクラ量と体力、そして夜ごとに訪れる咳とある日喉元に迫り上がった血に、病にかかっていると自覚せざるを得なかった。

 だが抜け忍の犯罪者であるオレが早々医者にかかれるわけがない。

 オレは薬で誤魔化しながら、日々生きていた。

 だから、誤算だった。

 まさか、一目見られただけで病を看破されるなど思いもしなかった。

 あんな……泣きそうな顔で見られるなんて思いもしなかった。

 オレは恐らく、あの人の、ゴガクさんへのオレへの思い入れを見誤っていたのだろう。

「お前の任務はわかっている、見守るつもりだったさ! だが、お前が病に侵されてるってなら話は別だ!! 例えお前が嫌がろうが泣き叫ぼうがオレはお前を里に連れ帰る!!」

 どうしてとオレは思った。

 あの人は亡くなった妹がオレと同じ病だったのだと告発した。

 この人にとって、今のオレの姿そのものが心的外傷(トラウマ)そのものなのだという告白だった。

 血の気の引いた顔で、ゴガクさんは笑う。

「なァイタチ、オレに再び家族を与えてくれたのはお前なんだぜ?」

 その過去を知らずとも、オレは前から知っていた。

 この人は、うちはゴガクという人は誰よりもうちはらしくなくて、同時に他の誰よりもうちはらしい人だということを。愛情深く家族想いでプライドが高く、誰かを守るために強さを求める、そんな人だと。

 きっとそんなこの人にとって最も大切で大事な存在は、家族なのだと。

(嗚呼、オレは、アナタにとって家族だったのか)

 分かっているつもりだった。

 どうやら本当に、つもりだったらしい。

「だから、頼むイタチ……オレからもう家族を奪わないでくれ。オレはもう家族の死に顔なんて見たくねェんだ……!」

(仕方ない人だ)

 アナタからこれ以上家族を奪うのは、あまりに可哀想だ。

 それにオレを失ったこの人がどう転ぶかも分からない。

 だから、仕方ない。

 そう思ってしまった、オレの負けだ。

「ゴガク兄さん……」

「ハハッ、久しぶりにそう呼んでくれたな」

 青白い顔でゴガクさん……ゴガク兄さんが笑う。

 咳込む、血を吐く。

「……飛ばすぞ、死ぬなよイタチ」

 まるで傷ついたひな鳥を守るかのような、温かい体温に包まれながら、オレはこの先の事や鬼鮫のこと、サスケの事など色んな事を考えることもひとまず忘れて、眠りについた。

 

 了



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13.暁

ばんははろEKAWARIです。
今回の話から再び本編です。というわけで元スレ版から1.8倍増量でお送りします。
あとゴガクの強さについてですが、原作の穢土転マダラがLV.100で終末の谷戦マダラがLV.80くらいだとしたらゴガク君はLV.65マダラくらいの強さのつもりでお送りします。
柱間ァ?LV.120~150マダラくらいなんじゃないっスか?


 

 

 イタチは自分が知りうる暁の情報について、全てを五代目に託したようだ。

 元よりそれが任務であったわけだから、当然とも言える。

 オレはイタチとは親族で、里の上忍じゃああるが、暗部でもなんでもねェからな。イタチの任務に関する全ての情報を開示されたわけじゃねェ。

 そんな中知れた事といえば……とりあえず暁の目的は尾獣の収集であったこと、九尾は最後に回収すると話していたこと、暁はツーマンセルでの行動が基本で互いが互いの監視役でもあったこと、それと暁構成員の戦い方や経歴などについて、イタチが知っている情報は纏めて里の上忍以上に周知されたから、オレが知りうるのもそこまでの情報だ。

 そして暁の情報をイタチが里に知らせた、指名手配が取り消されたということは暁にとってイタチは裏切り者であると知られたも同然でもある。

 暁は裏切り者を許さないという。組織を抜けるという意味は死だ。

 スパイとわかった相手に容赦する理由はない。

 組織としちゃ当然の行いではあるが、故にイタチには刺客を送られる可能性が高い。

 寧ろそれが自然だ。

 それでも本来イタチの実力であれば、返り討ちにすることも難しいことではないのだろうが……今のアイツは病身で、万華鏡写輪眼行使による視力の低下というリスクも抱えている。

 万が一を考えれば里の功労者をそのまま放置するというのは無い選択だ。

 故に自宅療養を五代目に言い渡されたイタチだったが、そのままただ家に放置でもなく、木ノ葉警務部隊からスリーマンセル3交代で精鋭がイタチの警護につくことになった。

 それを知ったサスケは自分もイタチの警護につく! 兄さんはオレが守る!! と警務部隊にまだ所属もしてねェのに我が儘を言い出したわけだが、「お前の父親を信じてやれ」と諭すと、不満そうにしながらも渋々了承した。

 そんな風にむくれる姿が前世の弟を彷彿させて、オレはおかしくてつい笑った。

 

 そして暁の目的や戦い方がある程度判明した中、オレの率いる第八班と、それからガイの第三班に五代目火影からの任を言い渡される。

「ゴガク班には暁の追跡調査を、ガイ班にゴガク班の追跡任務の補助と護衛を命ずる」

「ハッ、ゴガク班はこれより暁の追跡任務につきます」

 四代目の砂利が自来也と共に木の葉に帰還し、五代目風影が浚われた情報が入るなりカカシ班総出で奪還任務についたのは、つい一週間ほど前の話だ。

 犯人はあの赤砂のサソリとデイダラとかいう砂利のツーマンセルだったそうで、既に一尾は奪われていたという。

 尾獣を抜かれた人柱力は死ぬのが定石だ。

 だが、風影は砂のチヨばあの己生転生とかいう忍術で、彼女の命と引き換えに生き返ったのだという。

 そしてカカシの部下である春野サクラと、赤砂のサソリの実祖母チヨによって彼のサソリも仕留められたのだそうだ。

 それらの報告を聞きながら、思わず眉間の皺を深める。

(……暁の目的は尾獣、な)

 脳裏をよぎったのは前世のオレ……うちはマダラの計画だ。

 あんなことを考えるのは前世のオレぐらいだと思ってたんだが……まさか十尾の人柱力になるのが目的じゃねェだろうな……?

 ……流石に考えすぎか。だが、疑って掛かって損も無い。

 うちはマダラはかつて石碑を元に救世主を目指していた。

 マダラにとって此の世は地獄だった。守りたいもの全てを無くしたマダラにとって、弟の瞳力を通して見る世界は憎しみなど昏いものしか見えなかった。闇ばかりがよく見えた。仕方ない話だ。

 何故なら、いくら子供の頃柱間と話しあったように共に里を作ろうとも、肝心の見守りたかった弟は一人とて残っていなかったのだから。しかも、柱間と手を取り合ったのは弟の遺言に反する事でもあった。

 それに確かに柱間と手を取り合ったとき、戦乱の世は終わりを告げたが、だからといって世の中はどうだ? 平和になったか?

 いや……争いは益々大きく規模を変えただけだ。

 それはオレ……ゴガク自身でも思い知っていることでもある。

 忘れる事は出来ない第三次忍界大戦……あれでオレはゴガクとしての一度目の家族を全て目の前で亡くしたのだから。そういう意味ではマダラの危惧は間違ってはいなかった。

 今の五代目とてそうだ。忍界大戦で弟と恋人を彼女は失ったという話だ。

 あんな大戦を三度もこの世界は繰り返している。四度目がないと一体誰が言える?

 だから絶望しか残されていなかったマダラが、全ての人間が幸福になれる夢の世界に救いを求めたのは、理解は出来る話なのだ。

 そしてその為にマダラは柱間の細胞を求め、九尾を伴って里を襲った。

 実際そこの目的は果たした。

 誤算だったのはイザナギを使って死から逃れる筈だったのに、本当に死んだ挙げ句こうしてオレに……未来の木ノ葉で暮らすうちはゴガクという別の人間に生まれ変わった事だ。

 元々の計画では、死を偽装して地下に潜伏し、柱間の細胞を埋め込んで二つの力を一つにすることにより、輪廻眼を開眼、尾獣を集めて外道魔像に入れ、十尾を復活、その人柱力になることにより六道の力を手に入れ、無限月読を達成する、それがマダラの計画だった。

 ……最も、今のオレにそれを達成する気はサラサラないわけだが。

 だってそうだろう?

 マダラには何もなかった。だからこそ、夢の世界にしか救いを求めることが出来なかったし、自分の力以外を信じることが出来なかったから、自分の代でなんとしても全てのものに救いを与えるのだと驕り、暴走した。未来のために、今を踏みつけにしてもよかった。

 此の世は所詮余興だ。無限月読さえ達成したら全て救われるのだから、その途中でどれほど犠牲が出ようと最早気にする理由自体がなかったのだ。何故なかったのか? 今その時に守りたいものがマダラにはなかったからだ。

 マダラは孤独だった。

 それでも柱間は友と呼んだけれど、昔は同じだった二人は同じではなくなっていた。

 孤独はマダラの精神も肉体も蝕んでいく。こんな世界間違っていると、否定した、その理由は……マダラには既に何もその手で守りたいものが残っていなかったからだ。

 オレは、ゴガクは違う。

 まだ守りたいものがこの手には残っている。

 うちはマダラにとって木ノ葉隠れの里は柱間の夢であって己の夢ではなかった。見守りたかった弟を亡くした時点で、そうなっていたのだ。だがうちはゴガクにとって木ノ葉隠れの里は故郷なのだ。

 ここで育ち、いくつもの出会いと別れを繰り返した。

 守りたいものは全てこの里にある。

 マダラは今を見ず未来ばかりを見ていた。

 オレは守りたい今を見ている。

 だからオレはマダラの悲願を達成することは無い。

 けれど、奇妙な感覚だ。

 まるで誰かがマダラに成り代わり、マダラがやろうとしていることをしようとしているような……。

 (まさか……な)

 杞憂であればいいと、願いながらオレはただ日々を送った。

 

 そんな中届いた訃報。

 元守護忍十二士の地陸が暁に殺害されたという情報だった。

 守護忍十二士とは、元は大名を守護するために集められた実力派の忍びで構成された組織だ。アスマも一時は入らないかと勧誘され、迷ったこともある由緒正しい組織だった。

 とはいえこの組織は当時のリーダーが画策したクーデターにより、メンバー同士の殺し合いに発展して取り潰しとなり、生き残った地陸も高額賞金首にされたという顛末なんだが。

 イタチ曰く、角都は守銭奴とのことから、賞金目当ての犯行だろうとの事だ。

 一時はアスマも守護忍十二士の誘いにかけられたこともある縁からか、亡くなった件の忍僧とはそれなりに親しくしていたらしい。

 その縁から角都・飛段戦に小隊長として乗り込もうとしたが、オレはそれに待ったをかけた。

「駄目だ、オレが行く」

 オレのその発言にアスマは当然抗議の声を上げるが、オレはジトリと半目で睨みながら「お前あんな状態の紅を置いていくつもりか?」と指摘すれば、苦虫を噛みしめたような表情を浮かべ沈黙する。

 そう、紅は今子供を身籠もっていた。アスマの子供をだ。

 紅は今大事な時期だ、父親になるお前に万が一があればどうするって話だ。

 暁の構成員の実力はそんじょそこらの上忍よりも上だ。それは二人がかりとはいえ、風影をあっさり仕留めた事や、イタチからの情報からも疑いない事実だ。加えてマダラの記憶で角都とやらの顔にオレは覚えがあった。

 確か柱間を暗殺するために派遣された忍びがこんな顔だったか……前世のオレと同年代だったと思うがまだ現役だとは驚きだ。

 この年で未だ現役な事を考えても、そんじょそこらの忍びじゃ返り討ちがオチだろう。

 オレとて別段アスマの実力を信頼してないわけじゃねェんだが、それでもアスマに万が一があれば赤子は父無し子として育つことになる、それは嫌だ。

 オレはアスマに幸せになって欲しいのだ。

 アスマが妻子と幸せに暮らす未来はオレの望みでもある。

 だからオレは殊更余裕そうに不適に笑みを浮かべて、安心させるように言ってやった。

「シカマルは俺に任せて、お前は紅についててやれよ。暁なんて雑魚どもは俺が倒してきてやるさ」

 そんなオレにアスマは何度か葛藤するが、それでも紅のことが心配なのも本当だったのだろう、「ったく、お前には敵わねえな」そう吐き出して頭をガリガリかき、それから俺の肩に手を置き真剣な眼で見て言った。

「お前なら何の心配もいらねえだろうが、ゴガク、やるからには徹底的に勝てよ」

「たりめェだ」

 そう拳を交わし、五代目に小隊長変更の許可を取り、オレはオレの班員やアスマのとこの砂利共を引き連れて暁討伐に向かった。

 尚、余裕で討伐した事をここに追記する。

 

 続く




今回の元スレでの流れ↓(以下コピペ)

二次元好きの匿名さん
待って、今気づいたんだけどアスマ先生死亡キャラじゃないですか??
転生マダラ大丈夫?闇堕ちしない???

二次元好きの匿名さん
アスマの死の原因って暁の不死コンビとの戦いだがこの世界だとマダラが転生してるのでオビトをマダラに仕立てるイベントはないしそのへんどうなってんだろ?
オビトはそのまま死ぬのかマダラに成り代わった黒ゼツが原作と同じように誘導した結果この世界の暁も同じ感じになるのかでも生死変わりそうな気がするがマダラの記憶知識有りのうちはゴガクくんがいるんならなんとかなりそうな気もするし

二次元好きの匿名さん
カクズ·ヒダン戦の時は、むしろアスマの代わりに小隊の隊長になってるかもな。紅が妊娠してるなら、親友として、危険な任務にはつかせたくないだろうしな。

二次元好きの匿名さん
シカマルは俺に任せて、お前は紅についててやれよ。暁なんて雑魚どもは俺が倒してきてやるさ。
とか超強気で言ってそう。


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14.木ノ葉襲撃

ばんははろEKAWARIです。
今回はペイン来襲編です。元スレ版より1.3倍増量しました。ついでに絵も描き下ろしました。
次回から第四次忍界大戦始まるよ。


 

 

 ―――……暁のリーダー一派により木ノ葉が襲われている。

 

 その情報がイタチの烏を通してオレの元に入ってきたのは、第三班と共にかねてから五代目に命じられていた暁への追跡調査任務で、彼らの拠点の一つを捜査していたまさにその最中だった。

 これより少し前にカカシ班を中心とした追撃任務により、暁の構成員であるデイダラが死亡。仕留めたのはサスケだったそうだ。

 その後カカシ班はトビとかいう巫山戯た仮面の男と交戦したが逃げられた、相手の素性はわからなかった、とそう報告を受けている。

 トビな……イタチに知らされたリストにはいない相手であることを考えれば、おそらく補充された要員なのだろうがイタチにはそれが誰か心当たりはあるらしく、五代目と目配せをしていた。

 まあ誰か知らんが、五代目が把握しているというのならいいのだろう。

 そして残るメンバーを突き止めるため、先手を取る為にも奴等のアジトの一つを洗っていた所だったんだが……先を越されたというわけか。

「急ぎ、木ノ葉に戻るぞ!」

「「「はい!」」」

 そう号令をかけて里に戻る。

 幸いにも距離的には、忍びの足で駆ければ一刻もせずに帰郷出来る。

 そうやって戻ってきた故郷で相次ぐ、悲鳴と倒壊。

 見ればフガクが木ノ葉警務部隊を率いて市民の避難誘導と救助を指揮している。

「今こそ我ら木ノ葉警務部隊の誇りを見せる時だ!」

「おお~!!」

 士気は高い。

 元々うちはは誇り高くエリートだという自負がある、それが今は良い方向に働いているのだろう、警務部隊の中でも幹部にあたる連中は、里を暴れ回るペインとやらと数人がかりで立ち回りながら一般人の庇護に努めている。本来の警務部隊としての職務を果たすために。

 それを見て、オレもまた班員に号令をかける。

「キバ!」

「おう!」

「ヒナタ」

「……はい!」

「シノ」

「……ああ」

 嗚呼、三人とも良い顔をするようになった。

 フッ……部下(でし)の成長具合に一瞬口元を綻ばせるも、すぐに顔を引き締め、オレは必要な指示を飛ばす。

「オレ達も今より警務部隊と協力し避難民の救助活動に入る! 避難誘導は警務部隊に任せ、お前達は救助活動に専念し、一人でも多くの住人を救え!! お前達にはオレの鷹をつける、何かあればそれで連絡しろ、今こそその能力を活かせ! 散!!」

 その言葉を合図に脇目も振らず三人は散開する。

 ヒナタの白眼も、シノの蟲達も、キバの嗅覚もどれも救助活動においてこれほど有用なものはない。無理に敵と戦わせるよりも、こちらのほうが余程役に立つことだろう。その能力はある。

 お前達なら大丈夫だと、そう師として信じる。

 これは前世のオレ……うちはマダラだった時にはなかった感覚だ。

 

 かつてオレがうちはマダラという名であった時、この里を襲ったのはオレだった。

 理由はあった。

 柱間の細胞を手に入れる為だ。

 それにどうせ夢の世界に辿り着けば全ての苦悩から開放されるのだ、途中で何人死のうと最早あの時のオレにとって心動かされる理由も無かった。

 此の世は余興だと、そう思うことにしたあの頃のオレにとって愉しみなど、柱間との殺し合いくらいしかなかった。

 何人死のうと最終的には救われるなら、それでいいだろうと……とんだ救世主もいたものだ。

 だが、今のオレにとっては、うちはゴガクにとっては違う。

 ここはオレの故郷だ。

 オレはこの里で育ち、掛け替えのない友と出会い、最初の家族を失い、新たな家族を手に入れた。

 ここはあまりにも、オレの守りたいものが多すぎる。

 夢の世界になんていかずとも、オレの望んだものはここにある。

 だからもうオレは無限月読の夢を見ない。

 強くなりたい。

 前世のオレよりも、更にもっと強く柱間の背を追い抜かせる程に。

 それは何のために?

 決まっている。守るためだ。

 オレは木ノ葉を、オレの故郷を、大切な人たちが帰る場所を守るために強くなる。

 そうあろうと今まで努力してきた。

 チャクラで作られた青い巨人が木ノ葉に舞い降りる。

 須佐能乎(スサノオ)

 万華鏡写輪眼を開眼した極一部のうちはにしか許されぬ絶対防御。かつてオレがうちはマダラであった時、恐怖の象徴でもあったそれを、今度は力なき人々を守るために使う。

「この里はオレが守る……! オレは、木ノ葉のうちはゴガクだ!!」

 

 * * *

 

「……許せ、サスケ」

 ぬるりと赤い血が舞う。

 兄が倒れると同時に消えていく赤い女神を模した巨人。

 伸ばされた手と、光の宿っていない黒い眼。

「に、いさん……?」

 未だ療養中の病んだ身で、須佐能乎と呼ばれる巨人を酷使した末に吐血し、それでもペインの一人を霊剣でもって封印して、敵の前でミスったサスケを庇い倒れた兄の顔は、まるで血が通っていないように白くて、握った手は酷く冷えていた。

「おい、おい、嘘だろ、兄さん、なぁ冗談はやめろよ……イタチ」

 兄は、漸く8年ぶりに故郷に帰ってきたのに、やっとまた会えたのに、弟を庇いその命を落とした。

 そも病身で長時間の須佐能乎の発動自体に無理があったのだ。サスケは未だ窺い知れぬ事であったが、あれは細胞に酷く負担を与える。治療中といえど、未だ病が抜けていない体にトドメを刺すには十分であったのだ。

 イタチはもう言葉を返さない、彼は既に事切れていた。

「あ……あああァァ~~~!!」

 少年の慟哭が響く、その憎悪と絶望を呼び水に少年の……サスケの万華鏡写輪眼が開眼した。

 

 ……って事があったらしい。

 暁による木ノ葉襲撃事件が終わった後に、カカシ他、目撃者を通してオレが聞いた話だ。

 結果論を言うなら、最中に判明しなくて良かったと言える。

 もしも渦中に判明していたなら、オレは何があろうともそのペインとやらを操っていた長門をぶち殺していただろうし、その場合イタチがこうしてモグモグと幸せそうな顔をして、暢気に団子に舌鼓を打つ未来も消えていた事だろう。

 

【挿絵表示】

 

 そう暁による木ノ葉襲撃事件だが、犯人である暁のリーダーは、かつて自来也の弟子だった長門という男だったそうだ。

 奴は世界に痛みと恐怖を植え付けることにより、その痛みでもって平和の実現を望みとしていたとか……なんだか誰かさんを思わせる話だな、主に前世のオレだが。

 そして奴は輪廻眼の持ち主だったそうだ。

(輪廻眼……ね)

 前世のオレ……うちはマダラが、無限月読達成のためにかつて求めたものだ。

 うちはの石碑から読み解くに、輪廻眼とは千手とうちはの力が合わさったときに手に入るだろう、という事で、前世のオレは輪廻眼開眼の為にも柱間の細胞を手に入れようとしていたわけだが……気になるのはその長門とやらが千手でもうちはでもないという点だ。

 赤髪だったという事からおそらくうずまき一族だったのだろうし、うずまきと千手は遠縁じゃああるが……うちはの血も混ざらず、一体どうやって開眼したというのか。

(キナ臭ェな……)

 どうも前々から前世のオレが目指している物に近いことをしようと動いている誰かがいるような気がしてならねェが、まあそれはひとまず置いておこう。

 前途の理由で木ノ葉を襲撃した長門の居場所を突き止めたのは、仙人化を覚えた四代目の砂利……うずまきナルトだった。

 そして奴はどうもその長門とやらを説得しちまったらしい。

 悪戯好きの九尾の人柱力で四代目の倅くらいにしか思ってなかったが、案外やるな。

 その後ナルトの説得により改心した長門は、輪廻天生の術とやらを行使し、自分の命と引き換えに死んだ里人……イタチも含む、を全て蘇らせたのだとか。

 いや、あの時はペインとの戦いで急に死んだ筈の警務部隊の奴らが生き返ったもんだから、何事かと思ったぜ。

 そうして蘇ったイタチだが、本人曰く「以前より調子良いです」との事で、まあ実際顔色は良くなっているし、体力も以前より上がっているようだ。

 ……ひょっとしてこれ、須佐能乎を含め万華鏡写輪眼を行使した際に掛かった負担(リスク)を、輪廻天生で蘇った際に踏み倒したんじゃ……まあオレとしちゃ元気になってくれたんならなんでもいいんだが。健康になってくれる分には文句はねェ。

 だから長門とやらへの怒りや恨みもチャラにしてやる。

 とはいえ、病まで完治したというわけでもねェようだが、体力が上がったんなら回復も早くなる事だろう。イタチが病を克服する日も近い。

 そこで祝い代わりに、イタチが里にいない間に木ノ葉隠れにオープンした茶店の新作団子を土産に、フガクの家へと来たわけだが、新作のきな粉モチモチ団子を頬張り、ニコニコと実に幸せそうだ。

 ……まあ甘味処巡りが趣味だもんなお前。

 普段は冷静で控えめな表情が多いのに、サスケ以外の前でここまで笑顔なのも珍しい。

 イタチの皿が空になる。

 ジッと、オレの手つかずの草餅が乗った皿に物欲しげな視線が降り注ぐ。

「……食うか?」

 嬉しそうに微笑むイタチ。

 しかしそこに待ったの声がかかった。

「こら、イタチ。それ以上間食しない! 御夕飯が入らなくなるでしょ!」

 そういって登場したこの家の女主人は半目でベシンと頭を叩き、甘いものに目が無い息子を叱りつける。イタチはしょんぼりとした。

「まあまあミコト……いいじゃねェか、たまにくらいは」

 とりあえずオレがフォローをいれようとすれば、キッと彼女はオレを睨み言った。

「ゴガクくんもイタチを甘やかさない!」

 ……やべえ、飛び火した。

 その後オレはイタチと二人揃ってミコトに説教を食らうことになったわけだが、それが何時間続いたのかは黙秘する。

 

 続く




幸せそうに団子モグモグするイタチさんと着流し姿のゴガク君が見たかったんや。

因みに今回の話の元スレでの流れ↓(以下コピペ)

二次元好きの匿名さん
ところでこのスレで一度も話題に出てないからよくわからんのだがこの世界のペイン長門による木の葉襲撃ってどんな感じになるんだろ?
あんまりゴガクが活躍しすぎるとナルトの成長イベントや長門との和解絆イベントも消えちまうし
この世界では折角うちは警務部隊が一部のタカ派を除き生き残っているわけだし
ゴガクはスサノオで木の葉の住人を守る立ち回りペイン一体撃破
フガクさん率いる木の葉警務部隊総出でペイン一体撃破し住民の救助避難に陣頭指揮をとるとかそんな感じでいいんだろうか?
当然のように数人くらい犠牲になるけど長門イベントで無事生き返る的な
イタチも療養の身推して参戦してサスケとツーマンセルでペイン一体仕留めるとかどうかな?

二次元好きの匿名さん
それか、イタチから詳しく暁の情報を得られたことで3班と8班で暁の追跡調査を行っていた可能性もありますよね。8班が追跡に集中できるように&暁は基本的なツーマンセルって情報から8班の援護として、合同訓練を行っていた3班が護衛兼援護として同行。
木の葉への帰還が原作よりも早かった場合も白眼や8班の能力は人命救助に向いているから、ペイン討伐よりも救助を優先したのでペインとは戦わなかったって可能性もありそう

二次元好きの匿名さん
おおいいね
調査とかの為に里に遅れて登場木の葉警務部隊と協力し里住民の救助避難最優先
かつてマダラとして九尾を引き連れ里を襲撃した男の生まれ変わりが今度は里を守るためマダラ時代は恐怖の象徴だったろう完全体スサノオでもって里を守るために戦うわけですね
これには柱間もニッコリ
神羅天征による里半壊もスサノオなら防御出来そうな気がするしあくまで救助防衛メインで

二次元好きの匿名さん
この時にうちは警務部隊は九尾事件の時の役立たずの汚名を返上する活躍をみせてまた里の人達に一目置かれるようになって欲しい。直前のイタチの行動もあるし、うちは一族が大分見直されてそう

二次元好きの匿名さん
あっでもこのスレでのサスケの万華鏡どうやって開眼するんだろう···
それこそ、ペイン襲来時に本調子でなかったからイタチが目の前で死んだ位の衝撃がなかったら開眼せんような気がするんですけど···数年ごしにやっと戻ってきた兄を失ったら自分で殺したんじゃなくても大分ダメージ入りそう。原作より大分開眼が遅れるけど、そのかわりにイタチやゴガクっていう万華鏡写輪眼の師匠がいてるし、イタチが永満のこと知ってたからお互いに交換しても良い。ただ、この時にイタチだったらゴガクも一緒に交換しないかって提案しそうだなと思った。

二次元好きの匿名さん
えーとつまりペイン襲撃の際に1度イタチがサスケを庇って目の前で死亡してそれを見てサスケが万華鏡開眼してその後長門の外道輪廻天生の術でイタチが蘇るってこと?
弱った体で無理をしてスサノオを使ったのが決定打になるとか?
確かにそれだとイタチ生存とサスケの万華鏡開眼イベント両方こなせるな……イタチの死を知ったらゴガクが暴走してそのまま長門ぶち殺しにいきそうだからナルトによる長門との和解&外道輪廻天生の術イベント発生しなくなるのでゴガクの知らないところでその辺の話進行しないと駄目そうだけど
永遠の万華鏡写輪眼についてはイタチの原作で語った奪い合いの歴史的にファンが言うようにおめめ交換したら永万になる! なんて可能性は限りなく低い代物なのではないかな……
それで永万になれるんならそもそも奪い合う理由なんてないし情が深いのがうちはの特徴だというんなら試した人一組ぐらいはいたんじゃないかなと思うけどお互いの眼を交換すればOKみたいな文脈は原作では一切見受けられないし


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15.お前オビトだろ

ばんははろEKAWARIです。
今回は元スレ版より約2倍に増えました。
因みに元スレ版は約38000文字で完結したのでこの時点で元のバージョンの倍くらいになってます。


 

 

 長門による木ノ葉襲撃事件は幕を閉じたが、まだ問題は解決しちゃいない。

 謎の仮面の男など未だ人柱力が狙われている現状が変わらんことを思えば、やはり他の思惑で動いている奴もいたんだろう。

 オレも全容を知らされたわけじゃねェが、仮面の男を追っている途中でカカシ達がイタチとツーマンセルを組んでた霧隠れの怪人と遭遇して、ガイが仕留めたり……正確には情報漏洩しないよう鮫を口寄せして自害したらしいが、そうして暁の残党も残るは仮面の男一派達を残すのみとなった。

 まあその間も色々あったんだが、尾獣が狙われている現状も変わらず、八尾の人柱力だった雷影の弟が狙われたこともあり、忍び里が生まれてからの歴史上、柱間が尾獣を各国に分配した時以来疑惑もある五影会談が開かれることとなった。

 オレ自身はその時、別の任務を割り振られていた為実際に見て聞いたわけではないが、その五影会談中にどこぞから入り込んだ仮面の男により「第四次忍界大戦」の宣言が行われたとの話だ。

 五大国相手に一人で戦争するつもりとは、全く大した奴だ。

 イタチは病が完治したわけではないが、体の具合は随分と良くなったようだ。

 この調子でいけば奴が告知した日時までには回復するかもしれない。

 ……とはいえ、病み上がりの人間に変わりはねェし、あいつの実力を放置しているのも勿体ないとの思惑から、ガイやアオバ達と共にイタチは八尾の人柱力とうずまきナルトの護衛任務につくことになった。

 オレはといえば、忍び連合軍とやらを結成する決定が下された木ノ葉隠れの里の上忍の集まりに出て、わざわざ新調した忍び連合軍用の額宛を巻きながら「犯人はあのうちはマダラらしいぞ!」「オレ達が勝つぞー!!」「旧時代の老いぼれにオレ達の底力見せてやるー!」と盛り上がっている渦中にいるわけで、周囲にあわせて適当に「おおー」って拳を上げたりしているんだが……意味が分からなさすぎて正直混乱中だ。

(??? は? え? 犯人はうちはマダラ? いやオレは死んだ筈だが、どうなってんだこりゃ)

 

【挿絵表示】

 

 くどいようだが、うちはマダラとは前世のオレの事である。

 そしてうちはマダラは間違いなく、終末の谷の戦いと言われているあの戦いで柱間に後ろから刺されて死んだ、筈だ。

 あの時オレは口の中に柱間の肉を咥えてて、イザナギを発動してその死をなかったことにして地下に潜伏、それから輪廻眼を開眼して尾獣を集め十尾の人柱力となり無限月読を発動し、世界中の人々を理想の夢の世界に引き込んで平和を実現させる、そういう予定だった。

 だが、オレはイザナギに失敗しそのまま死んだのだ。

 死んだからこそ、こうしてうちはゴガクとしてこの場にいるのだ。まあなんでマダラの記憶と魂を持ったまま生まれ変わったのかまでは知らんが。

 そうしてやっている事だけを見たら成程、その「うちはマダラ」と名乗る仮面男がしようとしているのは前世のオレがやろうとしているそれだろう……なんでわざわざ第四次忍界大戦の開戦の狼煙を上げたのかの意味はわからんが。

 しかし、断言してもいいがそいつはマダラ(オレ)じゃない。

 なら一体そいつはどこの誰なのか。

 何故前世のオレの名前を名乗っているのか。

 それらは全て謎の儘、かくて第四次忍界大戦は幕を開けた。

 

 そうして蓋を開ければ、敵の大半は穢土転生で蘇った各国の忍び達だ。

 嗚呼、成程。これだけの数と質の穢土転生体を集められるなら纏めて五大国も敵に回せるか。

 扉間が使ってた用途とは別の方向に特化して改良された、穢土転生体の歴戦の猛者達の戦闘力は生前とそこまで変わりないらしい。

 穢土転生体はチャクラ消費を気にしなくて良いことや、体が塵で出来ている為、まあ凡百の忍びからすりゃ厄介な事この上ない代物なんだろう。

 感情面でも、奴等は人格を縛られていない以上、知り合いにとってはやりにくい事この上ない。

 敵の首魁は例の仮面男とうちはマダラを名乗る男だが、それより前に片付けないといけないことが多すぎる。穢土転生体相手に腕を振う中、ナルトや八尾の人柱力と同じ場所に配備されていたイタチの烏から連絡が入る。

『サスケと合流。術者の位置は特定した。これより穢土転生を止めに行く』

 というシンプルな伝言に思わず、苦笑が漏れる。

 まああいつが止めるというのなら大丈夫だろう。それくらいには弟分の事を信用していた。

 故に他の連合軍の奴等にも「もう少し頑張れば、穢土転生は止まる」と伝言し、あらかた結界術でオレの担当した区画内の穢土転生体を無力化した後、連絡の為にもオレは仮面の男と対峙しているだろうカカシ達の元に向かい駆け、その最中にイタチの烏もオレの肩に止まった。

 二回烏が「カァカァ」と鳴く。おそらくは任務完了、穢土転生は無事止まったという合図だろう。

 そうして憂いもなくなり途中アスマとも合流しながらカカシ達の元に追いついた結果、遂にオレは例のうちは装束を着た仮面男と相対したわけだが……目の前に立つ写輪眼を模した仮面をつけた男を見て、オレは思わず目を疑わずにはいられなかった。

 いや、だってな……。

(あいつ、オビトじゃねェか?)

 オレはついカカシの方に視線を向ける。

 次いで仮面男。

 トビとか名乗ってた仮面男は骨格といい肉の付き方といい、年齢的にはオレ達と同世代ぐらいだろう。そして間違いなく、あれはうちはの忍びだ。何せ写輪眼が馴染んでる。

 カカシを見ればわかるが、うちは以外の忍びが写輪眼を使うのは、とんでもない負担が肉体にかかるもんだ。

 当然だろう。

 写輪眼はうちはの血継限界だ。血族の体に合わせて進化してきたのだから、例え移植した所でうちはでもない人間が使うには負荷はそれ相応に重くなる。

 だが、あいつにはそういう違和感がない。どこまでも男は自然体だ。

 そして写輪眼ってのは一対で真価を発揮するわけだが……ありゃオレが見るところカカシの眼と同質のものだ。チャクラがよく似ているし、何よりあいつは右目が写輪眼でカカシは左目だ。偶然にしては出来過ぎている。

 そしてオレ達くらいの年齢で死体が確認されていないうちはの忍びなぞ、うちはオビトくらいのものだ。

 忍びの死体は情報の塊であるが、血継限界を継いでいるうちはは特にそこのところの管理が厳しい。誰が死んだのか、どこで死んだのか死体はどうしたのか細かい所まで管理され、記録に残される。

 族長はオレの従兄弟のフガクだ。だからフガクが管理している死亡記録帳を見たことがあるから分かる。第三次忍界大戦中に死体が不明なのはオビトだけだ。

 オレの兄達も父も部隊の皆もその死体は別働隊と合流した時に、遺品をいくつか回収して後はその場で焼き尽くした。誰にも利用されないために、だ。

 当時、カカシ達が神無毘橋破壊任務から帰ってきた時、そこにうちはオビトはいなかった。

 代わりのようにカカシの左目には写輪眼が嵌っていた。

 だからオレは尋ねた。『それはオビトの眼か』と。『そうだ』とカカシは答えた。大事そうに写輪眼の嵌った左目を撫でて『これはオビトの眼だ』と。

 カカシはそれ以上を話そうとしなかったが、オビトはうちはの人間だ、どうなったのか報告義務はある。故に、オビトは岩の下に生き埋めになったと、そう報告があった。死体は見つからなかったそうだ。

 ……見つからなかったのは、死んだと思われていただけで生きていたからなんじゃないのか?

 あのトビとか名乗っている仮面男のチャクラの色は、オレが知ってたオビトのチャクラとはまるで別人レベルで変質してるが……あいつの右半身からはよく知る懐かしい奴のチャクラと似たような気配が漂っている。

(柱間ァ……)

 うちはに報告に来た際にカカシは言っていた。オビトは岩に潰されたのだと。

 なら、潰された半身を柱間細胞で補っていたとしたら? 恐らくオビトは柱間細胞に適合した事によって生き延びていたということなんじゃねェのか。

 利用されているのか自主的なのかはわからんが、どっちにしろトビとかいうあの仮面男、ありゃ高確率でうちはオビトだ。

 カカシは何も気付いていないように口上を続けているが……。

(いやいや、気付いてやれよ!)

 普段からオビトの親友自称するなら気付けよ、カカシ!

 大体昔のお前はオビトに突っかかられては、ツンツンと突き放して嫌味さえ言ってたくせに、なんでいきなりある日『親友』認定になったんだよ。お前そんなにオビトと仲良くなかっただろうが。同班なのは知ってたがお前とオビトが仲良さそうにしてるシーンなんて見た覚えねェぞコラ。

 それがどうだ? オビトが殉職した途端、オビトオビトって親友自称し出すしなんなんだお前は。眼を貰ったからか?

 わけわかんねェ、お前一体いつからオビトと親友っていうほど仲良くなってたんだよ。

 いや、同班だから色々あったんだろうし、お前が無理矢理オビトから眼を取ったとは性格上思えねェから、あいつが自主的にお前に眼をくれてやったんだろうが、どっちかっていうとお前の親友はどう見てもガイだっただろうが!

 それでもオビトの親友名乗るってんなら分かってやれよ!! 気付け!!! あの馴れ馴れしい口調からしてもどう見てもお前とは知り合いだろうが!!!

 そんなことをオレが考える合間にも、推定オビトは前世のオレみたいなことを訥々と語りながら、昔のカカシみたいな態度を取っている。

 ……なんだこれ。お前がしたいのはマダラエミュなのかカカシエミュなのかどっちだ。

 オレはしょっぱい気持ちになった。

「おい……オビト」

 なのでゲンナリする気持ちを隠す事もせず、オレは仮面男にそう呼びかける。

「は?」

 オレが仮面男をオビトと呼んだことに、カカシとガイはぎょっとした顔でオレの顔を見る。アスマも首を傾げている。

 仮面男は出来るだけ反応しないようにだろう「……何のことだ」と取り繕うが、微妙に間が空いた動揺を見逃すほどオレの眼は節穴じゃねェ。

 だからハッキリと言ってやる。

「いやお前オビトだろ」

「……何を証拠に言ってる」

 それでもまだしらばっくれるもんだから、「分かるに決まってんだろ」と先ほどオレが脳内で取り纏めたうちはオビトである根拠を、一つ一つ丁寧に解説してやる。

 背後でカカシが「え、嘘? マジでオビト? え? え? どういうこと?」とか煩いが割愛する。

 これでもしらばっくれるつもりか? とジロリと睨め付けながら男の答えを待ったわけだが……。

「……オレは何者でもないのさ」

 とか巫山戯た回答をしてきた。

 ……誤魔化すの下手くそか! 

 まあいい……これでも同期の好だ、これ以上突っついてやるのは勘弁してやろう。

 それにしても時空間忍術系の万華鏡写輪眼とは、またレアなものを開眼したものだ。

 とはいえ、ここに対となる眼を持つカカシもいるのだから、攻略法はなくもないのだが……仮面男の正体がオビトだと判明するなり、カカシの奴が使い物にならなくなったのはどうしてくれよう。

 ……お前敵の眼前で反省会するのいい加減やめろ、それでも上忍か。

 

 兎も角、現時点で判明している事を纏めるが、現時点でうちはマダラを名乗っていた相手は2人いる。

 そのうちの1人がここにいる推定オビトで、第四次忍界大戦の狼煙を上げたのもこいつだ。そうしてもう1人、前世のオレそっくりの姿をして五影相手に今戦っている奴もマダラを名乗っている。

 イタチによって穢土転生を解呪された以上、あちらで五影相手に戦っている前世のオレを名乗る男は、穢土転生体ではないことは明白だ。例外として、前世のオレだったら解呪の印を知っているから、術者が穢土転生を解いても此の世に残ることは可能だが、でもアレは違うだろう。アレの中にうちはマダラの魂はない。故にあれは偽者だ。

 まあそれはわかっていたことだ。

 縛るべきマダラの魂はここにこうしてオレ、うちはゴガクとしてあるのだから、同じ魂が2つ同時に存在するということは有り得ない事だろう。穢土転生は魂に干渉する術なのだから。

 遠目ながらも、あのうちはマダラを名乗る男は姿も能力も成程、マダラを名乗るだけあり一見前世のオレと酷似して見える。だが、断言するがアレは何者かは知らんが前世のオレを名乗っているだけの偽者だ。あれをマダラだと思われるのは不愉快だ。

 まず戦闘センスが欠片もなく、基礎能力の高さで誤魔化しているだけで、オレを名乗るには見るに耐えん醜さだ。なんだあのへっぴり腰な戦い方は。優雅さの欠片もない。能力にかまけての力押ししか取り柄がないなど論外だ。オレがあいつの立場ならとっくに五影共は地に伏せさせているぞ。

(気に食わんな……)

 そう思ってた時だった、突如とんでもなく身に覚えのあるチャクラを木ノ葉の方から感知したのは。

「ラ~……!」

「ゲッ」

 生身ではなく穢土転生体だが、このオレが見間違える筈がねェ!

 あの間抜けな笑顔に風に靡く黒髪、膨大なチャクラと存在感。

「マダラ~!!」

(は……柱間ァ~~~!?)

 第四次忍界大戦に忍びの神にして初代火影……そして前世のオレにとって友でもあり仇敵でもあった男、千手柱間が何故か参戦した。

 

 続く




今回の元スレ元ネタ↓(以下コピペ)

二次元好きの匿名さん
ゴガクさんが、この後の一連の首謀者はうちはマダラだ!って、なってる時、一応周りにあわせて絶体に勝つぞー!とかやってるけど、内心ははてなマークが乱舞してるやろな。
え···俺?死んだんてすけど???

二次元好きの匿名さん
自分はマダラの知識あるゴガクならトビ=オビト気付くんじゃねえかなって思ってるんだがどう思う?
理由としてはまずゴガクは写輪眼について恐らくどのうちはよりも詳しいわけでトビ見て神威発動してるの見たらカカシの眼の対だと気付きそうだなと思ったのと柱間のチャクラ感知して柱間ァフルフルニィする人の生まれ変わりだしオビトの半身が柱間細胞なことに知識と経験的にゴガクは気付いちまうんじゃねえかなって
あと単純にオビトに思い入れないが同期だったからある程度オビトのことも知っている分客観的に見れて洞察力から骨格とかからして同じくらいの年齢だしあれ写輪眼だろ写輪眼をうちは以外の人間が使う場合負担が大きいしどう見てもあれ馴染んでいるしその年齢の人間で行方が不明かつ死体が出てこない条件から考えて該当するのオビトじゃね?って突き止めそうな気がするんですよね
なにせ本家マダラが結構その辺めざといというか普通に知能指数は高いから

二次元好きの匿名さん
ゴガクならトビ=オビトって感づきそうではあるけど、このスレの感じだと絶妙にニアミスして結局初対面が大戦時になりそうな気がする。
あと原作通りにビーとナルトが隔離されたら、ガイとアオバのほかにうちは一族の人がお守り兼護衛についてそう。それこそ、病み上がりなのに戦争に参加しそうなイタチを心配したフガクさんが戦争に参加させないように隔離する意味も含めて任務を任せたとか

二次元好きの匿名さん
おーなるほど
そこから戦争編でイタチ・ビー・ナルトの三人で原作通り穢土転長門をなんとかして長門にカブトの場所を聞いて「オレが穢土転生止めてくる」って飛び出して途中でサスケと合流しうちは兄弟ツーマンセルで片目犠牲にしてカブトにイザナミするんだな
……うん死んでない生存してる以外は戦争編での役回り原作通りだなイタチ


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16.オレの親友

ばんははろEKAWARIです。
今回は元スレ版から1.5倍増量しましたー。
次回、最終回!!


 

 

「マダラ会いたかったんぞ~!! ……ぬ? 誰ぞ」

 ウキウキとまるで遠足にでも出かけるかのような気安い調子で、生前前世のオレと殺し合いをして終わったことなど忘れたかのように登場した阿呆は、しかし偽のオレの前でピタリと足を止めると、そのクソ高ェテンションをスンっと下げた。

 そして冷徹な低い声で無感動に柱間が言う。

「マダラの姿をしておるが、マダラではないな」

「……何を馬鹿なことを、オレがうちはマダラだ」

 柱間にアッサリ看破されながらも、それでも自分がマダラと誤魔化そうとする偽マダラだったが、その行いはそこの馬鹿の逆鱗に触れるだけだ。

「黙れ、それ以上マダラの名を愚弄する事は許さぬ」

 ズンと重いほどの殺気とチャクラ圧が周囲一帯に放たれる。

 忍びの神とかつて呼ばれた戦国最強の男による殺気とチャクラ圧は、その実の弟にすら冷や汗をかかせるほどにはえげつがない。アレを受けて平気なもののほうがレアな事だろう。

 それにもう誤魔化せぬと思ったのだろう、偽のオレは前世のオレの体からその黒い不気味な姿を滲ませつつ「チッ」と舌打ちをした。

 そこで気付いた。

 あの体自体は本物のうちはマダラだ、と。

 どうやらあの黒いのは、前世終末の谷の戦いと言われているアレでオレがしくじって死んだ後に、オレの遺体を頂戴し、前世のオレを名乗っていたらしく、体自体は余分なものが混じっている感はあるがあれは間違いなく本物の前世のオレ、うちはマダラのものだ。

 それにしてもおかしな話だな、確かにオレは死んだ筈なのにあの体は生きているように見える。あの黒いのが何かしたんだろうが、はてこいつは一体どういうことだ……? 

 等など敵の正体について分析をしていたら、次の刹那、何かに気付いたように柱間はオレのいる方角にバッと振り返り、そしてオレの存在に気付くとパァァと破顔し駆けてきた。

(……おい、この馬鹿何を言うつもりだ?)

 おいおいおいおい、今までマダラの生まれ変わりとバレねェようにしてきたってのに、まさかとは思うが柱間お前……。

 等と考える間にも柱間はタンと一駆けで走りより、奴は満面の笑みを浮かべて、至極楽しそうに「マダラ会いたかったんぞ!」とオレに向かって再会の抱擁をせんとばかりにバッと両腕を広げる。

 って、させるか!!

「てめえ空気読め柱間ァ!!」

 オレはそのまま柱間を蹴りとばさんばかりに足を振り上げるが、奴は子供の頃オレと会う度そうしていたようにそのまま懐かしそうな顔をしてそれをいなし拳をいれる。そのままオレもソレを捌き、バク転をして距離を取る。その後も二手三手とじゃれ合いのような体術の応酬が続く。

 技量こそ比べものにならんが、まるで前世の子供の頃の再現だ。

 そんなオレとのやりとりに、柱間のテンションがドンドン鰻登りに上がっていく。

「マダラ、久しぶりだの! なんだ髪を切ったのか? ガハハ、短いのも似合っとるぞ! そうしておると子供の頃みたいだな!!」

 ウ、ウゼェ……!! 何サムズアップしてんだゴラ!!!

 悪びれる素振りも見せず、ニコニコと脳天気な事言いやがって。

「うるせぇ! てめェなんか知るかぁ!!」

 思わずぶん殴ろうと拳と共にオレがそう叫ぶと、柱間はなんでもないようにオレの拳を捌きつつ、ギャンギャンと喚く。

「ひどいんぞ! オレ達は友であろう?」

 柱間が何か言ってるが知ったことか!!

 オレはビシっと柱間に言い聞かせるように、指を突きつけ、宣言した。

「いいか、オレの親友はてめェじゃねェ!! ア・ス・マだ!!」

 そう宣言すると柱間はガーンとショックを受けて、ズゥ~ンと地を這うように落ち込んだ。

「おいコラ柱間! お前まだその落ち込み癖直してねェのかよ! うぜェ……!」

 前世のオレならそれでもこういう時は一応励ますんだろうが、マダラであってマダラでないオレとしては、久しぶりに味わう奴の鬱陶しさにゲンナリとしながら、柱間の落ち込み癖に思わずツッコミを入れる。

 が、そこまで口走ってからはたと気付いた。

 周囲から注がれる痛いくらいの視線の数々に。周囲の連中はオビトも含め、オレと柱間のやりとりを信じられないように凝視している。

 そんな中、アスマが代表するように「おいゴガク? お前これはどういうことだ?」と動揺しながら柱間をチラチラと横目で見つつ言葉を放つ。

 その現世の親友からの質問を前に、オレの背にタラタラと冷や汗が流れ落ちた。

 ……ヤベエ、どうしよ。

 折角ここまで世紀の大犯罪者(うちはマダラ)の転生体だとバレずにやってきたってのに、クソそれもこれも柱間の野郎が空気を読まなかったせいだ。ここまで来て初代火影とのこのやりとりを見た上で、オレがマダラと無関係とは誰も思わねェだろう。

 悩んだのは一秒ほどだ。

 だが今更誤魔化した所でどうにもならねェだろう。オレが否定しても柱間の奴が聞くとも思えねェしな!

 嗚呼、全く頭の痛い問題を寄越しやがって。

 そうは思うが、今更時が戻ることもない。

 オレは覚悟を決めて顔を上げ、アスマを眺める。

 アスマは……今生のオレの親友は柱間の発言に動揺しちゃいるが、それでもその目にオレを拒否する色は見えない、というのもオレの背を押した。

 だからオレはチッと舌打ちを一つして、開き直ることにした。

 とりあえずオレがマダラだと暴露した馬鹿に向き合い、ズビシと宣言する。

「いいか柱間、よく聞け。マダラはオレだがオレはマダラじゃねェ。オレは木ノ葉のうちはゴガクで、オレの親友はお前じゃなくてそこにいる猿飛アスマだ! オレはマダラの生まれ変わりで、その記憶もあるがオレとマダラは別人なんだよ! つまり初対面のてめェに馴れ馴れしくされる覚えはねェ!!」

 そうハッキリと言葉にして、釘を刺してやった。

 にも関わらず柱間は何が嬉しいのか、オレの宣言を聞いて尚満面の笑みを浮かべて「そうかそうか! ならばマダラの名誉の為にもマダラの名前を使って貶めるあの黒いのをなんとかせねばの!!」と宣言し、やる気満々にチャクラを漲らせる。

 一瞬で仙人モードになった戦国最強の男は、不敵に笑いながらオレに言う。

「では、行くぞマダラよ!」

「だからオレはゴガクだつってんだろ!!」

 オレの否定の言葉など聞く気もないのか、オレのツッコミを気にすることもなく柱間は飛び出す。やる気満々具合といい、いくら生前より劣化しているとはいえ、あの黒いの……終わったな。

 にしても、ったく、オレはマダラじゃねェって釘を刺してやったのにマダラマダラと呼びやがって。やっぱりアイツとは噛み合わねェとゲンナリする。

 と、アスマに見られている事に気付き「……なんだよ」と尋ねると、「いや……お前がマダラ様の生まれ変わり、なァ?」と肩を竦めている。

「いや、様付ける必要ねェだろ。うちはマダラは里を抜け九尾を連れて木ノ葉を襲った裏切り者の犯罪者だ。その事実は何も変わらん」

 そう淡々とオレが答えると、しかしアスマは気にすることもなくこう続ける。

「だが、アイツは偽者だ。ってことは、うちはマダラの名前で始まった第四次忍界大戦なんだが、そっちは冤罪なんだろ?」

「まァな……」

 ふとそこで気付いた。

 アスマもまた怒っているという事に。一見いつも通りに見えるが、瞳の奥には怒りの炎がチラチラと見え隠れしている。

「うちはマダラは木ノ葉史上最悪の犯罪者でもあるが、同時に初代火影様と共に里を作り、戦乱の世を終わらせた功労者でもある。そしてお前はそのマダラ様の生まれ変わりだってな。なら、あの黒いのは、かつてのお前の名を騙り、やってもいない戦犯の汚名を着せたって事じゃねェか。転生前の事とはいえ、オレの親友の名を汚した落とし前はつけさせてもらわねェとな」

「アスマ……」

そんな風に思われるとは思ってなかったな、思わず心の中に温かい気持ちが満ちる。

「行くぜ、相棒!」

「ああ!!」

 風は火を大きく燃え上がらせるという。

 ならばオレとアスマが揃えばそれは最強と言うことだ。

 

 続く




スレ主が振ったダイス
忍界大戦までにマダラの転生体かどうかバレるかのdice1d2=2 (2)
1.バレる
2.バレない

あと今回の話の元スレの元ネタ↓(以下コピペ)

二次元好きの匿名さん
記憶思い出したら、絶対に最初に思うのが元扉間小隊のメンバーに自分=あのうちはマダラって気づかれんようにしよってことですよね。
むしろ、名前まで同じで優秀だったらダンゾウなら怪しんで監視してそうで怖い

二次元好きの匿名さん
マダラばっかりクレイジーサイコホモとか言われるけど、柱間も大概マダラのこと好きだから、黒ゼツがマダラのふりしててもすぐに気づきそうだし、ゴガクに向かって、マダラ会いたかったんぞ!とか言ってきそうな雰囲気。
そして、今まで必死こいて隠してきたのに忍連合にマダラの転生体だとバレて超焦る

二次元好きの匿名さん
「てめえ空気読め柱間ァ!!」
とかって子供時代ばりの明るいツッコミ入れてきそうだなうちはゴガク君は
…穢土転マダライベントは不発に終わるのかな?この世界

二次元好きの匿名さん
一番衝撃受けるのヒルゼンやろ。
まさか自分の部下にあのマダラの転生者がいて、しかも自分の息子の大親友になってんですよ?
尚、その横で
「マダラ、久しぶりだの!」
「うるせぇ!てめぇなんか知るかぁ!」
「ひどいんぞ!わしらは友達だろ?」
「俺の親友はア·ス·マだ!!」
「ガーン 」 
「まだその落ち込み癖あんのかよ!うぜぇ!」
って漫才を繰り広げてて扉間に、兄者にマダラ、今はそんなことしてる場合じゃないって起こられて、ミナトは原作通り避雷針の術でナルトの所に先に行った

二次元好きの匿名さん
柱間はマダラがゴガクとして生きていくことを喜びそうではあるけど、それはそれとしてゴガクのことを最後までマダラと呼んでいる気はする。

二次元好きの匿名さん
ゴガクが信頼を集めれば集めるほど、ゴガクがマダラの転生者ってことがバレた後、遠回しにゴガクを利用されたってガチギレする人が増えそう。
マダラの名誉を貶しめたことにキレる柱間、親友はマダラであってマダラでないがそれはそれとして名前を犯罪に利用されたことにキレるアスマ、先祖と兄貴分の想いを踏みにじられてぶちギレるうちは兄弟、先生の為に原作よりも頑張る八班、一族の汚名をすすぐために全力を尽くすうちは一族。
カカシとミナトがオビトを説得しないと悲惨なことになりませんか···


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17.されど尚、人生は続く

ばんははろEKAWARIです。
今回は本スレ版から2,8倍くらいに文量増量しました。
というわけで「ここだけマダラがイザナギに失敗死亡して未来転生、アスマと大親友になった世界」最終回です。


 

 

 さてさて、結論を言うのならばオレ達忍連合軍の勝ちという形で第四次忍界大戦は終結した。

 それまでの間に色々な事があり、色々な事実が判明した。

 まずオビトが十尾の人柱力として六道仙人化したと思ったら、その力を奪いあの黒いのが乗っ取ってこっちが無限月読を発動した。前世のオレの肉体を使ってな。

 そしてオレは前世のオレの目指したものそのものが、あの黒いのに仕組まれた事だったと知った。

 あの黒いのは黒ゼツといい、封印された六道仙人の母親に当たる大筒木カグヤを蘇らせるのが始めから目的だったらしい。

 無限月読もカグヤを復活させる為のものであり、六道仙人が残したうちはの石碑の内容を書き換え、裏から歴史に関与し続け千手とうちはが代々争いあうように仕向けていたとか……つまり前世のオレのあれやこれやの苦難は大体こいつが糸を引いていた事らしい。

 そして、前世のオレがイザナギに失敗して死亡するまさに直前に、オレは条件を満たして輪廻眼を開眼していたそうであり、その眼は後に長門の目に埋め込まれ、更に長門の死後、オビトが自分の左目にはめ込んで使っていたそうで、長門の輪廻眼もオビトの左目にはめ込まれていた輪廻眼も、どちらもうちはマダラの眼だったそうだ。

 オレはイザナギに失敗したあの時、魂と肉体の蘇りには成功していたそうだが、何故か元の肉体には戻ることが出来ず、その魂は未来の木ノ葉隠れの里で別人として赤子に輪廻転生した。それがオレうちはゴガクがマダラと同じ魂を有した理由らしい。

 そうして黒ゼツはマダラの魂なき蘇ったマダラの体を利用する事を思いつき、柱間細胞を埋め込んだり等都合の良いように自分用の改造を施し、自分の素体としてマダラの肉体を使うことにしたそうだ。

 オレが死んだ時からそこまで肉体年齢が衰えていないのは、マダラの肉体が必要な時以外は冷凍保存してたから、らしい。

 故に以降黒ゼツはマダラを名乗りうちはマダラとして無限月読目指して活動し、そんな中神無毘橋破壊任務の際に生き埋めになって地下に落ちてきたオビトを良い拾いものであると、柱間細胞と心臓に呪印札を埋め込み、傀儡にすることにしたのだという。

 オビトが惚れていたリンがカカシの手によって死んだのも、この黒ゼツとやらの画策だったらしい。

 リンを目の前で失ったオビトの絶望はさぞ使い勝手の良い道具だったのだろう。まさにうちはの情の深さと写輪眼の特性を利用された形だ。

 そうして黒ゼツに操られマリオネットとなったオビトだが、カカシにわざと心臓を貫かせる事により呪印札の切除に成功し、ナルトの説得の結果改心し、カグヤの攻撃を受けて灰になり消えた、そうだ。

 輪廻眼を持たんオレはその戦いには残念ながら参加することは出来なかったから、その現場を見てはいないが、その最期を見届けたナルトは「カッコよかったってばよ」とニシシと笑った。

 柱間達歴代火影の穢土転生体もまた無限月読の影響を受けなかったから戦いには参加出来たそうだが、どうもナルトやオビトにサスケ達は一度時空間忍術でカグヤに連れ去られたとのことで、オビトの最期は見ていないと、そう言っていた。

 因みに誰がわざわざ柱間達歴代火影を穢土転生で蘇らせたかといえば、意外なことに大蛇丸だそうだ。

 三忍の1人として知られる大蛇丸に、サスケが後継者として狙われていたのは有名な話である。

 奴は一度はイタチを狙っていたものの、イタチに手も足も出ないと知るなりターゲットをサスケに定めて、あの木ノ葉崩しが起きた中忍試験でもしつこくサスケに言い寄っていたし、浚おうとすらした。

 それらは失敗に終わったが、それぐらいで諦める野郎でもなく、それ以降も何度もサスケにちょっかいをかけていたんだが、あれは去年の事だったか。

 サスケはオレ仕込みの火遁とカカシ仕込みの雷遁によってついに大蛇丸を燃やし尽くし、一度討伐してのけたわけだ。

 が、しぶとさに定評のある大蛇丸は呪印があれば蘇りが可能だったらしく、今回イタチとサスケのツーマンセルによって穢土転生を止めた後、術者だったカブトの末路に思うところがあったらしく、サスケがみたらしアンコの呪印から出てきた大蛇丸に対し「うちはマダラってなんなんだ?」と吐いた疑問に、「その疑問に答えられる人に会いに行きまショ」と自分の腕の封印を解くついでに死神の封印を解いて、柱間達歴代火影を穢土転生で呼び出したんだそうだ。

 因みにイタチはカブトを更生させるためにイザナミを発動したとのことで、片目の視力を失った。その事で、穢土転生は止めたし、片目の視力を失った上にチャクラも底をついた。これ以上足手纏いにはなりたくないからとイタチは後方に下がることにした、というのがサスケの話である。

 その時当然のようにサスケは「兄さんを1人にさせられるか!」とごねて、片目の視力を失ったことに対しても「兄さんがカブトにそこまですることないじゃないか」と責めまくったそうで、イタチは最終的に「わかった、あとでシスイの眼を移植する」と視力を失った眼の方に、イタチが親友からかつて預かっていた眼を入れることを約束させられて、母親であるミコトのいる布陣の方へと後退していったそうだ。

 まあそれでもやっぱりサスケは兄と離れる事にごねたわけだが、「サスケ、母さんを信用出来ないのか?」との言葉で渋々許可を出したという話である。

 そうやって合流したサスケだったが、一度敵の攻勢で死にかけた際に六道仙人に託されたとかで、片目に輪廻眼が宿ってたもんだから、驚かずにはいられなかった。

 そして六道仙人に力を託されたのはサスケだけじゃない、ナルトもだ。

 なんでもこの二人は六道仙人大筒木ハゴロモの息子達、アシュラとインドラ兄弟の転生体……チャクラだけ転生してた、とかとのことであり、前世のオレと柱間もそうだったとか。

 そして輪廻眼はアシュラとインドラのチャクラなくして開眼は不可能だったという。

 その為に黒ゼツはこの二つの血筋を争わせていたのが、千手とうちはの因縁の原因だったとかいう話で……思わず黒ゼツと六道仙人とやらをぶん殴りたくなったのは言うまでもない。

 ともかくも、カグヤを封印したのはナルトとサスケの二人だ。

 六道の力を託された2人は見事、その役目を果たし、黒ゼツごとカグヤを封印した。

 これでもう、アシュラとインドラが争い合うことはないのだろう。

 そうして全てが終わったって事は、穢土転生にして蘇った死者も灰に還る時が来たってことだ。

「ではの、マダラ」

 カラカラと笑いながら、柱間は最期までオレをマダラと呼び続ける。

 だからオレも、前世の友にして仇敵だった男に対して、変わらぬ調子でフンと鼻を鳴らしながら言ってやる。

「だからオレはゴガクだっつってんだろ」

「ガハハハ、不謹慎だが会えて嬉しかったぞ。また会うときがあれば今度は戦友として酒を飲交そうぞ!」

 柱間は爽やかな笑顔を浮かべて塵に帰って行った。

 だが、それでよかったんだろう。

 オレと柱間の間に湿っぽい感情など似合わない。

 マダラはオレだ、だがオレはマダラじゃない。そんなオレにとって柱間は過去の感傷であり、同時に誰より遠い人間だ。酒を飲交すのも、いつかあいつも転生したなら、その時は付き合ってやってもいい。

 オレは生者で、あいつは死者だ。

 ならそんなものでいい。

 そうやって還るべきものはあの世に還り、生き残ったものは互いの健闘を称え、黒幕は封印され、こうしてオレもまた五体満足で第四次忍界大戦は終結した。

 されど尚、人生は続く。

 これからもオレの、うちはゴガクとしての人生は続いていくのだ。

「帰るか、アスマ」

「おう」

 コツンと拳と拳を当てる。

 木ノ葉隠れの忍びとして、親友のアスマと共にオレはこれからもこの世界を生きていく。

 

 

『ここだけマダラがイザナギに失敗死亡して未来転生、アスマと大親友になった世界』

 

 完

 

 

【挿絵表示】

 




今回の元スレ元ネタ↓(以下コピペ)

二次元好きの匿名さん
柱間の細胞咥えたままイザナギを失敗したことが作用したとかなんとか言えばいいよ
魂の蘇りには成功したけど元の体に戻れなかったせいで転生になったとか

二次元好きの匿名さん
これマダラの代わりって誰になるんだろ。ゼツが前のマダラの死体操ってんのかな?

二次元好きの匿名さん
イザナギ失敗した時にアシュラ+インドラ+死にそうっていう条件が揃って開眼して、ゼツさんがそのまま持ち逃げしたはいいけども、柱間さんがあまりにもアレすぎて、機会を伺っていたらいい感じのうちはってことで、オビトがロックオンされたのかな?

二次元好きの匿名さん
このスレって黒ゼツがマダラの身体を借りパクしてマダラエミュしてるって設定だから、柱間細胞とオビト闇堕ちは完遂されてると思う。
ただ、このスレの黒ゼツ君は原作よりも苦労してるのは確か

二次元好きの匿名さん
そんな設定あったな忘れてた…
マダラの身体があってもカグヤ戦を見る限り黒ゼツはマダラのような戦闘センスなさそうだし、そもそもうちは兄弟とか元マダラのゴカクがいる時点で十尾の人柱力まで辿り着くのがかなり苦しいな…
柱間はゴカクがいるし、黒ゼツの扉間への理解度はマダラほどないだろうし味方陣営の隙が原作ほどないんだよな…

二次元好きの匿名さん
そもそもこのスレだったら誰が火影達を穢土転さすんだろう?
大蛇丸が鷹メンバーを助手にして、サスケがした問答みたいにうちはマダラについて聞くとかかな?サスケ里抜けイベントが発生してないからワンチャン大蛇丸がまだ生きてる可能性ありますよね?
それか、巻物を連合のメンバーが見つけていて、強敵の穢土転に対抗するためにあえて穢土転させた??

二次元好きの匿名さん
そこは普通に大蛇丸で良くね?
たとえ里抜けイベントなかったとしてもサスケに執心な大蛇丸がちょっかいかけないわけがないし
ゴガク仕込みの大規模火遁で一端大蛇丸を滅したあとカブトの結末を見た大蛇丸の心変わりイベント発生しアンコの呪印からやっぱり大蛇丸復帰→サスケくんの先に興味があるの→マダラのことについて歴代火影達に話聞きたい→いいわよ私の腕もそろそろ使えるようになりたいしついでだもの
みたいな感じで死神の封印といて適当にゲットした白ゼツさんで火影穢土転みたいな感じでよくね?

 以上です。
 最後までご覧頂き有り難うございました。


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後日談:未来の話

ばんははろEKAWARIです。
今回のは第四次忍界大戦終結後の後日談となっております。
元々本スレのほうで第四次忍界大戦終わった後の話も見たいって言われてたんですけど、思いつかなかったので特に何も考えてなかったんですが、なんか一昨日後日談ネタが脳内に唐突に降りてきたので、元々希望があったことだし書いてみました。
というわけで本編終了後のおまけ話です。


 

 

「イタチ、もう一度聞いて良いか?」

 第四次忍界大戦が終わってから、色々と後始末に奔走される日々を送り、漸く迎えた忍界大戦後初の非番の日、オレの元を訪ねてきた弟分に当たる従甥は、出した茶菓子のうちは煎餅ザラメ味をポリポリ頬張りつつ、まるで何事もないかのような平常運転でこんな言葉を告げた。

「オレが六代目火影に内定しました」

 ……マジか。

 あんまりにもいつも通りの調子で言われるので、却ってちょっと反応に困りながらも弟分の話の続きをとりあえず聞くこととする。

「……とりあえず、最初から話してくれるか?」

 そういうとふむ、とイタチは自分の言葉不足を悟ってか、淡々とした調子で語り聞かせる。

「本当は最初はカカシさんが戦後火影にどうかって話だったんですが、カカシさんが「オレ、火影とか向いてないのよね。サポートはするから、イタチヨロシク~」と」

 それでオレに御鉢が回ってきたんです、とズズッと緑茶を啜りながらイタチは言う。

「ああ~……」

 それに、確かにあいつなら言いかねえな、と納得する。

 大体カカシが火影にどうかって言われたのはこれが初めてじゃない。どうかと言われながら向いてないとのらりくらりと躱してきたのはオレも知っている。そしてカカシが辞退したんなら、次に誰が適任かと言われれば、確かにイタチだろうなと分析する。

 今のところ功績最大級なのはあのうずまきナルト、次いでサスケだがあまりにも若すぎて火影として立つにはまだまだ足りないものが多すぎるし、後者は火影なんて柄でもない。

 そしてイタチだが、人格面にも問題がなければ、影として立つに相応しい実力もあり、火影として推薦されるには十分な功績も挙げている。

 四代目の命とはいえ、同族のクーデター未遂事件を自分の手を汚してでも阻止し、大罪人の汚名を被りながらも長いことS級犯罪者で構成された危険組織である暁への潜入任務もこなして、必要な情報を全て里にもたらしたこともそうだが、ペインによる木ノ葉襲撃事件の際に病身ながらも須佐能乎を展開し、ペインを一体封印した上で、自分の命を惜しまず弟を含め多くの里人を守ってのけたこともでかい。

 そしてペイン事件の時の事については目撃者も多く、うずまきナルトが里を救った大英雄なのだとしても、イタチも十分に英雄と言われるだけの功績がある。

 今回の第四次忍界大戦でもそうだ。

 弟と2人で術者の元に向かい、穢土転生軍団を止めた、これは黒幕をサスケと2人で封印してのけたナルトに比べれば一段劣って見えるかもしれないが、十分に英雄的な行動だし、あの場で穢土転生と戦った忍びで、それを見事止めてのけたイタチとサスケ兄弟に感謝していない連合軍の人間はいないだろう。 

 それでもイタチには病身と片目失明という不安材料があったが、前者についてはほぼ病は完治したといえるし、後者についてもシスイの眼を移植することによって解決した。

 今のイタチは片目だけ永遠の万華鏡写輪眼状態であり、両目がそうであるわけではない以上、負担がないわけではないが……それでも以前に比べると随分とリスクも軽くなったことだろう。……こう考えると隙がないな。

 ともかくも、ナルトとサスケが世界を救った大英雄なら、イタチもまた2人ほどでなくとも木ノ葉の英雄だ。年齢は21と若いながらも、年に似合わぬ落ち着きもあるし、実力も十分。それにこいつほど里を想っている奴もそうはいない。いつだってイタチは里の為、弟の為に全てを賭けてきた。

 その献身は行動で既に示されている。

 イタチが木ノ葉を裏切る事などまず有り得ないだろう。

(イタチが火影か……)

 今まで考えた事はないが、結構似合ってそうだな、と火影装束姿のイタチを脳裏に思い描いてちょっと笑った。

 そんなオレを横目で見ながら、次の煎餅に手を伸ばしつつイタチは言う。

「それに、オレが火影となる事には政治的な理由もありますから」

「嗚呼……」

 その言葉にも納得する。

 第四次忍界大戦、この大騒動はうちはマダラの名前で起こされたものだ。

 しかし、実際の犯人はマダラの肉体を操っていた黒ゼツという存在で、奴が六道仙人の母親である大筒木カグヤの封印を解き、無限月読で世界中の人間を白ゼツに変え、兵隊に変えてしまう、それが本当の目的だった。

 それが五影達の口から各里に周知された真実だ。

 つまり、戦争を始めたのはマダラを騙る黒ゼツであり、本当はうちはマダラじゃなかったわけで、うちはとしては無実を主張したいところだ。実際に無実だし、戦える一族のものは皆ペイン襲撃の時も第四次忍界大戦の時も懸命に戦ったのだ。

 だが、問題はそう簡単でもないのが、うちはオビトの存在である。

 四代目は九尾襲撃事件を「うちは」ではないと語り、その為に上層部によるうちはへの対応を非難し、我が子と親子として暮らす未来を捨ててでも、うちはを庇った。しかし、皮肉にも、実際に九尾事件をおこしたのは元四代目の弟子の1人だったうちはオビトだったのだ。

 つまり、上層部のうちはへの疑いは半分は正しかったと言える。

 しかし、そのオビトは第四次忍界大戦の最中にナルトの説得によって改心し、何度かナルト達を助け、最期はナルトを庇ってカグヤに……真の黒幕によって殺された顛末を迎えている。

 オビトがいなければ、ナルト達が勝ち世界を救うこともなかっただろう。

 そういう意味ではオビトには功罪両方があるといえる。

 それに九尾事件を引き起こしたのは確かに黒ゼツによって誘導されたオビトではあるが、心臓に呪印札を仕込まれていたことなど、結局奴自身道化の操り人形でしかなかった点など同情の余地もある。

 故に、あの時戦争を引き起こしたのは、あくまでも黒幕の一味だったトビという男であり、うちはオビトは神無毘橋破壊任務で里の英雄として殉職し、13歳で死んだのだ。

 あの場にはオビトなどいなかった、そういう事になった。

 だから今も石碑にはオビトの名は刻まれたままだ。

 そうして里からのうちはへの疑惑問題はこれで解決した。

 ……あくまでも、里からは、の話だ。

 うちはから里は別の話である。

 先にも言ったようにうちは一族全体としては、皆ペイン襲撃の時も第四次忍界大戦でも懸命に戦った。

 九尾事件の時に上層部に危険視され、隔離されそうになった時も四代目の対応を見て、四代目を信じようと一族の大半は不満などを一端飲み込む選択をしたが……けれど、それは我慢している、というだけの話である。

 不満はあった。

 やはり一族から里の中枢に入るものが未だに出ていなかったこともそうだが、一番はイタチの取り扱いだ。

 あの時、イタチが里抜けした時殺されたのは一族内でもタカ派と見なされていた奴らであることは、うちは一族で会合に参加していた人間なら皆知っている事実である。

 だからこそ、察した。

 イタチが里抜けしたのはそういう任務なんだろうと言われずとも、一族の人間は皆察していたのだ。だからこそ不満だった。イタチはフガクの……族長の長男だ。それに、同族を手にかけさせ汚名を浴びせたのかと、身内愛に強いものが多いうちはだからこそ、不満と不快感を里に覚える一族のものがそれなりに出た。それを押さえていたのも、その父親であるフガクその人だったが。

 不満があるからとクーデターに走れば、それこそイタチが報われないし、益々立場が悪くなると思っていたのだろう、フガクは出来るだけ感情的にならないよう理論で説いて一族の不満を度々宥めていた。

 だが、このまま進めばいつか、クーデターを画策したのであろうタカ派の二の舞になりかねないのも確かだ、うちは一族にはそういう危うさがある。故にここらでうちは一族に報いるべきなのだ、里も。

 それを考えるとイタチが火影になるというのは、成程妙手だ。

 イタチはフガクの……うちは族長の長男だ、それが火影になっておいてうちはは報われていないなんて言い出す奴はいないだろう。一族もまたうちは出身の火影を輩出したとなるとメンツが立つ。

 元々木ノ葉隠れの里はうちはと千手が手を組んだことにより生まれた里だ。その後族長だったうちはマダラが里抜けし九尾と共に里に襲撃をかけたからこそ、うちはの立場が悪くなったものの、うちはから火影が出たとなると、その問題は解消しましたと里の内外に知らせるにも実に都合が良い。

 それでいて、イタチの性格だ。

 あいつが火影になったとしても、里より一族を優先するとは思えない。イタチの里への献身は上層部とてよく知っているだろうし、他の一族の人間を不信に思ってはいたとしても、同族のタカ派をも自らの手で始末した上で犯罪組織への長年の潜入任務まで熟したイタチならば、里を裏切る事はないだろうと判断してもおかしくはない。それだけの積み重ねをイタチはしてきた。

「お前はどう思ってるんだ?」

 オレは腕の中ですやすや眠る赤子を撫でながら、イタチ自身はそれらの思惑の上で六代目に推薦された現状についてどう思うのかを訪ねる。

 それにイタチはポリポリと煎餅をかじってた手を止めて答える。

「正直、オレが選ばれるとは思っていなかったので戸惑いはあります。オレはおそらくナルトが育つまでの繋ぎでしょう。ですが選ばれたからには全力で応えたいし、とても光栄に思っています」

 そうしてイタチは本当に誇らしそうに。

「オレは嬉しいんだ。たとえこの里がどんなに闇や矛盾を抱えていようと、オレは木ノ葉のうちはイタチだ。だからこそ、この里を堂々と守る立場を与えられたことには感謝している」

 フワリと眩しいほどに慈愛に満ちた顔で微笑った。

「オレは木ノ葉を愛しているから」

 そう、これこそが火影だと思わせるような微笑みだった。

「……変わったな。いや、元に戻ったのか」

 懐かしく思い起す。

 思えば、昔のイタチは度々こういう顔をしていた。

 第三次忍界大戦が終わった里で、野花が咲き、子供の笑い声を聞いたり、平和を実感する度にまるで火影のような顔をして笑っていたんだ。

 そう考えればこいつは元々火影の素養はあったのかもしれない。年に似合わず聡明で、過去を僅かに残された遺跡の痕跡などから読み取り、世界や里の行く末を憂いていたそんな子供らしからぬ子供だった。 

 そんな感傷に浸っていると、イタチはマイペースに煎餅を食うのを再開させながら、何気ない様子で首を傾げつつ尋ねた。

 

「ところでゴガク兄さん、いつ結婚したんですか?」

 目線の先はオレの腕の中でおくるみにくるまってスヤスヤと眠っている赤子だ。

「違ーよ! オレは独身だ! こりゃこの前生まれたアスマの子だ!!」

 それを聞いてイタチはさっきと逆方向に首を傾げる。

「……アスマさんとゴガク兄さんの子供?」

「紅とアスマの娘だよ!! つぅかおいコラ、イタチ! お前分かっててわざと言ってんだろォ!?」

 そうオレが半目で睨め付けながら言うも、しれっとこの火影に内定した弟分は怯むこともなくいつもと変わらぬ調子で言葉を返す。

「冗談ですよ。小声で啖呵切るとか器用な事しますねゴガク兄さんは。それでそのアスマさんは?」

 この隠れ天然ボケ! お前の冗談はわかりにくいだよォ!!

 と突っ込みたい気持ちをため息で吐き出して飲み込んで、それからオレは淡々とした調子で言葉を返す。

「このご時世だからな、アスマと紅は籍だけ入れて式はしてなかったんだが、慶事も必要ってことでな、結婚式の代わりに今度同期で集まってお披露目回することになったんだよ。それで打ち合わせとか赤子連れだと何かと大変だろうし、オレが二時間ほど預かるから2人で行ってこいって送り出したんだ」

 だからあと30分くらいで帰ってくるぞ、そう告げると「ふむ」とイタチも煎餅をポリポリ食うのを再開しつつ、「それまでオレもいて大丈夫ですか?」と質問してきたので、「問題ねェよ、なんならお前の口からも祝ってやれ。喜ぶぞ」と返すと、それはよかったとイタチは再び微笑んだ。

「ふぇ……ふぎゃあ、ぴゃああ」

 と、先ほどまでよく眠っていたアスマの娘は、むずがるような顔をしてから唐突に泣き出す。

「……ああ、おしっこだな」

 泣き方からそう判断し、オレは用意していたおしめを取り出すとテキパキと取り替える。

「よしよし、今綺麗にしてやるからそんなに泣くな」

 そうお尻を拭きながら赤子に言うと、イタチは「慣れてますね」と興味深そうな声で言う。

「ああ……ガキの頃は妹のおしめも替えてやった事あるしな」

 因みに前世マダラの時も、幼い弟のおしめを替えてやっていたのはここだけの話である。

 そうして綺麗にしてやり、再びおくるみに包んでポンポンと抱きながらあやしてやると、今度はキャッキャとアスマの娘は笑った。全くよく表情の変わる奴だ。それを見て、「フフッ」とイタチも笑いを零す。

 微笑ましそうに、懐かしそうに眼を細めながら従甥は、「オレも昔、サスケのおしめを替えたりもしたな……」と弟との思い出に浸っていたようなのでオレはニヤリと笑って、「因みにオレはお前のおしめも変えたことがあるぞ」と宣言すると、そう返されるとは思っていなかったのか、イタチは珍しくも両手で顔を覆いながら「やめてください……」と蚊の鳴くような声で言葉を零した。

 その耳は赤くてどうやら羞恥心で悶えているようだと知れて、オレは笑った。

「それにしてもよく懐いていますね」

「まァな。それにアスマの子供なら、こいつはオレにとっても子供みたいなもんだ。奴にとっての玉だが、オレにとっても宝物だ」

 そう言って笑いながら赤子の頭を、壊れ物を扱うように撫でる。

 柔らかい肌とフワフワした産毛のような髪に温かい体温。

 小さく脆い命。

 だが、ここで懸命に生きている。

「戦争を知らない世代だ」

 そのオレの台詞に、イタチは感傷混じりに「……サスケが生まれたとき、オレも同じ事を思いました」そうポツリと言葉を落とし、それからそろりと手を伸ばして、赤子の額に指をトンと軽く置いて「今度こそこの平和を守って見せます」オレは火影になるから、とイタチはそう言った。

 きっとこんな時マダラなら、前世のオレならこんなものはまやかしの平和だ、協力など静かな争いに過ぎないと、そう吐き捨てたかもしれない。

 だが、マダラであってマダラではない、うちはゴガクとしてのオレは「……そうだな、お前なら、お前達なら出来るさ」と答えて静かに笑った。

 赤子は何を言われているのかよくわからないからだろう、きょとんとしていたけれど、イタチが微笑みかけると釣られるように「あー、あー」とふにゃふにゃと笑う。

「それで、この子の名前は?」

「ミライだ。猿飛ミライ」

 そこに懸けられた想いと願いを読み取って、次代の火影が言う。

「良い名ですね」

「だろ? オレもそう思う」

 猿飛ミライ。

 今は何物でも無い、ただの赤子。

 それでもきっとこの子が新しい時代を連れてきてくれるのだろう。

 時代は変わる。

 それでも変わらぬものもある。

 時は流れ、それでも脈々とこの先も火の意思は受け継がれ続けることだろう。

 その名と存在に木ノ葉の、世界の未来を思ってオレは微笑んだ。

 

 了



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