自分の書いたゲーム転生小説の主人公に成り代わってしまった主人公の話 (ぱgood(パグ最かわ))
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俺たちの戦いの始まり!!
えっ?ここはどこ?わたしはだあれ?


むにゃむにゃ。

 

むにゃむにゃむにゃ。

 

「起きなさ~い」

 

まって、まだ眠い。

 

もうちょっと、後五分間だけ…………

 

 

「ぼんちゃん。起きなさい。ぼんちゃん」

 

誰がぼんじゃ、ワイにはママンがくれた、くれた…………なんて名前だっけ?

 

ヤバい自分の名前全然思い出せんわ。

マジ、なんて名前だったっけ?

 

「ぼんちゃん、起きなさい。ぼんちゃん」

 

え~い、ぼんちゃん、ぼんちゃんうるさ~い。

ワイは地獄の業火のような怒りをぱうぁーに変え、思いっきり布団から起き上がる。

 

そこには腰に手を当てて般若のように眉を上げたおばちゃんが立っていた。

 

 

 

 

 

いや、誰だよあんた。

 

 

 

 

 

ま、よ~分からんおばちゃんがおって、ここがどこかも分からんが、別にいっか。

つ~か、腹減ったわ。

 

「おばちゃ~ん。腹減った~。」

 

「まあ、昔はおばちゃんなんて言う子じゃ無かったのに。

うぅぅぅ。

何時からこんな子になってしまったの?」

「?良くわかんのだけど。

飯くれるの。くれないのどっちなの?」

「うぅぅぅ。下に用意してあるから、早く食べてらっしゃい」

 

 

うわ~い、やった~、飯だ~。

 

それにしても何だか頭がふわふわするなぁ。

夢か?夢か。

 

じゃなきゃおかしいもんな。

知らん場所にいて、知らんおばちゃんが飯くれるなんて。

 

それよりも、飯、飯。

トンタッタトンタッ階段を華麗に下りてゆく~。

 

お、あったあった飯だぁ。

 

「いっただっきまーす。」

 

 

うまいうまい。

んんん。飯に夢中で気付かなかったが、何だ、テレビがついているぞ。

 

俺はテレビをジッと見る。

 

魔法、魔物、ファンタジーな感じなのか?

 

「もう、もう少し落ち着きを持ったらどうなの?

ぼんちゃんももう高校生なんだから」

 

おばちゃんはそう言いながら、鞄と制服を持ってくる。

制服の裏地には名前が刺繡されていた。

 

|音長盆多(おとながぼんた)

 

音長盆多(おとながぼんた)、その名前を俺は知っている。

 

ちらりとテレビを見る。

そこには手のひらサイズの十字型の金属に関するCMが流れている。

俺はあれを知っている。

極めつけは、制服の胸ポケットに入っている学生証に書かれた国立防人魔法学校。

 

急速に頭がクリアになっていくのを感じる。

 

「ぼんちゃん。ささ、着てみて、着てみて。」

「あ、ああ、分かったよ。母(かあ)さん」

 

俺はそれを母親であるだろう人から受け取ると同時とある結論を出す。

ここ、俺が書いた小説の世界だわ。

 

☆☆☆

 

俺が昔に書いた小説。

タイトルは「ゲーム知識で無双できるかと思ったけど無理でした」

奇をてらってみようとした結果、エタッて書くのを辞めた小説だ。

 

内容としてはタイトル通り、ゲーム世界への転生であり、主人公はそのゲームのモブに転生する。

 

名前は音長盆多(おとながぼんた)

 

夫(おと)と凡(ぼん)という意味を含ませた普通の名前。

 

ゲーム世界に転生を果たしたと知った主人公は何とか自分の力と知識で成り上がろうとするも、現実とゲームの違い、そして、主人公とは環境や境遇が違い全然上手くいかない。

しかしそれでも諦めることなく頑張るという話だ。

 

まあ、言ってしまえば、従来のゲーム転生小説の逆張りものだ。

 

制服に袖を通しながら、俺は思いっきり息を吐く。

 

「くっそ。こんなことなら、バリバリの成り上がり小説にすれば良かった。

安全かつ、確実に強くなれる方法とか設定すればよかった」

 

自分で作っておいてなんだがこの小説の世界観は結構シビアだ。

命を懸けることにはなるが、飛躍的なパワーアップが期待できる隠しステージ何てないし、危険を冒せば、有用なアイテムをゲットできる、なんてことは無い。

 

命を懸けて得られるものは「戦いが無いって幸せなことだったんだ……。」という実感だけである。

 

ぱうぁーあっぷ~?地道に努力しろ。

あいてむ~?店で買え。

 

基本的にこの二つで成り立っている世界でどうやって生きて行けばいいんだろうか?

 

ただ、今は出来ることをやらないと……。

 

俺は取り敢えず、この思考を脇に置き、母さん(仮)に制服姿を見せた。

 

母さん(仮)は涙を流しながら喜んでくれた。

その涙に俺の海よりも広い罪悪感が刺激され、少し気まずくなった。

 

☆☆☆

 

俺はその後、飯を食べたり、歯磨きを終え、学校に向かった。

学校に向かいながらも俺の懸念は更に増えていた。

一つはここが夢か現実か、という問題だ。

夢ならばいい。

せいぜい起きるまでこの世界を楽しませてもらうだけだ。

 

問題は現実の場合だ。

 

この小説がエタって書くのを辞めたという話を先ほどしたが、それはつまり、話の内容を最後まで知らないということでもある。

 

そう、俺にもこれから何が起こるのか皆目見当もつかない。

 

勿論、設定というのはある程度決めている。

例えば、この世界は全部で六つの世界、天界、人間界、戦人界、獣人界、小人界、鬼人界に分けられている。

そして、この六つの世界は()()()()()()()()()()()()、独自の発展をしていたのだが、ある時に魔物と言われる別の世界の人間に瓜二つの容姿の怪物が姿を現したのだ。

 

天界では人間、戦人、獣人、小人、鬼人。

人間界では天使、戦人、獣人、小人、鬼人。

戦人界では天使、人間、獣人、小人、鬼人。

小人界では天使、人間、戦人、獣人、鬼人。

鬼人界では天使、人間、戦人、獣人、小人。

 

という風に、ただ、魔物には通常の生物とは違う特徴がある。

それは体をどす黒い瘴気のようなものが覆っており、決して喋らず、食事や睡眠を必要とせず、何らかの方法で同族と意思疎通を図るのだ。

しかも、とても賢く、罠に嵌められて殺される防人が後を絶たない。

 

そのため、魔法適性のあるものは若いうちから親元から離れ、訓練を積む。

国の命令であるため、親は泣く泣く子を見送るしかない。

母さん(仮)のように…………。

 

因みに魔法と言っても何もない所から炎とか雷とかを出せる訳では無い。

勿論、天使、戦人、小人なら出来るだろうが、人には無理だ。

そのため、人間の場合はマジックチップという十字型の金属を使って魔法を扱う。

扱うと言ってもこのマジックチップには既に魔法が込めてあり、担い手はマジックチップを起動する魔力と解放された魔法を制御出来るだけの魔法制御能力があればいいのだ。

 

そんなことを考えながら、歩いていると丁度駅が見えてきた。

というか、歩きながら町を見ていて思ったが、夢にしてはリアルすぎる。

駅に関しても、ファンタジーと現代が混ざり合ってなんかいい感じだし…………。

 

夢なら良かったが全然そんな感じはしない。

 

俺はそう思いながらも、交通系ICカードを出し、駅の中に入る。

その後は特に語ることもなく電車に乗った。

電車の中には俺と同じ制服の人間がちらほらといる。

泣く泣く親元から離れて行った子供達だ。

 

可愛そうに…………まあ、大元の原因はこの小説を書いた俺にあるのかもしれないが…………。

そこは……まあ、許して欲しい。

俺も今は君たちと同じ境遇な訳だしさ。

 

電車に揺られていると、どんどんと俺と同じ制服の子供たちが増えていく。

 

というか、よくよく考えれば、防人魔法学校の服装って初めて見るわ。

俺、趣味で小説は書いてたけど、絵は描けなかったし。

何か………そう考えれば途端に感慨深くなるな。

 

そう思いながら、制服姿の学生達をジッと観察していると電車の中にいた生徒たちが続々と電車を降りていく。

 

そっか、ここが防人魔法学校の最寄りの駅になるのか、初めて知ったわ。

 

割とここら辺適当に書いてたからなぁ。

 

俺はそう思いながら、他の生徒たちに続く。

ここら辺に関しては特に何のイベントもないって知ってるから気楽だわぁ。

 

課題をすべて終えた休日くらい気楽だわ。

俺がそう思いながら歩いていると、後ろから歩いてきた生徒と肩がぶつかる。

 

「おっと」

「あっ、わり」

 

ぶつかった生徒は赤髪、青目で耳にピアスをしていた。

………恐らくは、ゲームの方の主人公、という設定の真道才(しんどうさい)君だろう。

 

そっか、イベントとかなくても普通にすれ違ったりはするよね。

だって、同じ学校の生徒だもん。

 

因みに学校だけでなく学科も同じだったりする。

俺らの学科は魔法剣士科。

その名の通り剣と魔法で戦うクラスだ。

 

☆☆☆

 

学校についてからは、校舎の綺麗さや、敷地の広さに感動し、学園長たちの話を話半分に聞き、そして、現在俺たちは教室でホームルームを行っていた。

 

「はい、次、音長君。自己紹介どうぞ」

「音長盆多。好きなものはアニメや漫画です。これから三年間よろしくお願いします。」

 

決まった。

いや、普通に無難な挨拶だけど、これでいいのだ。

無難に挨拶しておけば無難に友達が出来るから。

まあ、その友達が明日も生きているかは分からないんだけど。

 

そんなことを考えながらも周りを見渡す。

このクラスのメインキャラは二人。

一人はさっきも挙げた、ゲームの主人公という設定の真道才(しんどうさい)

もう一人はメインヒロイン、という設定の剣凪麗(けんなぎれい)

 

彼らはそれぞれ、

 

「俺の名前は。

取り敢えず、大切な奴らを守れる防人になるのが目標だ。よろしくな」

 

剣凪麗(けんなぎれい)。最強の防人になるためにここで学べるものを学んでいくつもりです。よろしく」

 

と、まあ、中々に強キャラ感のある挨拶をしていた。

そんなんじゃ、友達が寄り付かないぞ!

と言いたいところだが、二人とも見目が良いからきっと友達には困らないんだろう。

良いな。

ワイもイケメン設定にしておけばよかった。

 

因みに、他のヒロイン、という設定の少女たちはそれぞれ、攻撃魔法科に一人、防御魔法科に一人、回復魔法科に一人ずつ、後一応他の世界に一人ずついる設定だ。

 

まあ、他の世界のヒロインたちは設定だけしかないから名前も容姿も知らないんだけど。

 

あっ、話は変わるけど、この三つの魔法学科は魔法剣士科と違い、専用のワンドというものを使って戦う。

このワンドは現状三つまでしかチップを入れられない剣と違い、九つまでチップを入れることが可能で、更に得意系統の魔法の強化率は剣を上回るのだ。

 

勿論、剣にも利点はある。

例えば、直接攻撃を仕掛けた際に相手の魔力を吸収する機能があり、これを利用し、初めから内蔵されている強化魔法のマジックチップを半永久的に使えるという点だ。

 

これにより、魔法剣士は魔物との白兵戦を可能とし、魔物たちから注意を引きながら戦うことが出来ている。

 

まあ、それでも死亡率は一番高い訳だけど。

 

 

「それでは、今日はここまでとする。魔剣の授与は後日行うのでお前たちもそれまでに戦う覚悟を決めておけ‼」

 

 

とのことで、ぼぉっと考え事してたらいつの間にかホームルーム終わったわ。

 

俺は学生鞄を手に持ちながら、他の生徒の後をついて行く。

いやぁ、自分の書いた小説の寮がどんな形をしているのかとかめっちゃ気になるわ~。

 

ドキドキワクワク。

 

 

 

 

 

「おぉぉ」

 

 

悪くない。悪くないぞ。

 

いや、むしろ良い。

想像とは違うけど。

 

俺の想像だと寮自体は結構クラシックな感じを想像していた。

何て言うか雅な寮?イタリアとかでヨーロッパ圏でありそうな感じ。

だけど、実際にはモダンな感じで現代風、もしくは近代に片足突っ込んでます感があった。うむ、作者的には少し思う所がないでもないがこれはこれで大変結構。

 

俺は皆についていき、自分のネームプレートがついている部屋に入る。

どうやら寮は一人部屋らしく、他の生徒の名前は載っていなかった。

 

こ、高校で一人部屋って本当に良いんですか?

 

と、思わなくもないが、魔法適性を持つ人間がそもそも少ないうえ、訓練途中にもバンバン人が減っていくから部屋自体は結構開いているのかもしれない。

 

こちとら命かけてるしね。

このくらいは好待遇でも許されるだろう。

 

俺は荷物を置いた後、ベットに座る。

 

いや、この後どうしようと思って。

 

普通に学生生活をしていたら、全然死ねるくらいにはシビアだ。

というか、一番初めのイベントでうっかり死んでもおかしくない。

とはいえ、コソ練して圧倒的な強さを手に入れられるかと言えばNOだ。

 

そう言う風に作ったからな、俺が。

 

しかし、どうすれば良いのか…………。

悩んだ、悩みまくった。

 

悩みまくった結果、閃いた。

 

あれだ、師匠とか、物語のキーを握る存在的な感じで、主人公を導こう。

そんで主人公に世界最強になってもらって、救って貰えばいいんだ。

 

いや、そうじゃん。

元々、俺の小説のコンセプトは脇役転生して最強になろうとしたけど、主人公とは境遇も環境も違うから最強にはなれないよねっていうだけで、主人公なら脇役(小説の主人公)が考えた方法で最強になれるじゃん。

 

えっ、現実になって勝手も変わってるんじゃないかって?

 

知らん知らん。

主人公補正で何とかして貰うしかない。

結局主人公が世界救っても自分(おれ)が生きてなきゃ意味ないし、真道君には悪いが、背負わなくていいリスクを背負ってもらおう。

 

よし、方針も決まったし、どうやって、アプローチをかけるかだな。

 

 

 




どうでもいい補足



『マジックチップ』

魔法が込められた十字型の金属板。既に魔法と魔力がこもっているため、マジックチップを起動するための魔力以外は込める必要はないが、一流の使い手であれば自前の魔力を込めることで威力を上げることが出来る。魔法を解放し、空になったマジックチップは回収し、再度魔法を込めなおして使うのが基本。



『魔剣』

刀身に魔力吸収機能が付いており、斬りつけることで吸収できる。更に内部には初めから肉体強化のマジックチップが搭載されており、これは刀身の魔力吸収機能と連動している。魔剣に内蔵されているマジックチップは特別製であり、他のマジックチップのように以前とは別の魔法を込めるということは出来ない。魔剣は肉体強化のマジックチップも含めて三つまでしかチップを入れられない。つまり実質二つだけ。


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我が名はピーマ…………いや、魔導師Pだぁぁぁぁぁぁぁ

☆☆☆

 

その日、俺、真道才は不思議な男と出会った。

 

「我が名は魔導師P。このピーマンの被り物とプロデューサーのPから取った素晴らしき名前を持つものだ。

お前に大切なものを守る力を与えるために現れた。」

 

その男はピーマンの被り物をして、俺に大切なものを守る力を与えるとか、胡散臭い事を言ってきた。

正直、こんな怪しい奴、無視しても良かったのだが、その後に言った言葉が俺をこの場に押し留めた。

 

「さあ、選べ、人間と戦人の混血よ」

 

それは誰にも言っていなかった俺の秘密。

最近少しだけ仲良くなった剣凪にも、地元の友人たちにも言ったことのない俺の最大の秘密。

 

知られれば、後ろ暗い研究機関に捕まってもおかしくない。

だから、知っているのは俺と親父だけの筈…………。

 

それを何でこいつは知っているんだ‼

☆☆☆

 

決まった。

俺は階段の上から真道才に手を差し伸べるポーズをとる。

恐らく、日も良い感じに落ちてきて、逆光もこの演出の一助になってくれてることだろう。

 

クックック。

 

なんかビーマンの被り物を見つけたときにピンと来たんだよな。

こういう、果物被ると不思議と強キャラ感というか不気味な感じも出るし、身バレ防止も出来て一石二鳥だ。

 

いやぁ、きっと、真道は今頃、内心で「こいつっ⁉何者だ?」ってなってんだろうな。

 

主人公(偽)の為に用意してあげたイベントなんだ。

存分に楽しんでくれ!

 

「………何が目的だ。」

 

うぉぉぉぉ、めっちゃ考え込んで警戒心全開で話しかけられてしまった。

主人公にこんな対応させるなんて完全に主要キャラですわ。

まあ、真の主人公は私なんですがね?

 

「ふむ、先ほどの話を聞いていなかったのか?

私は魔導師P、先ほども言ったが「そうじゃない!」ふむ、では何が聞きたいんだ?」

「何で、俺のことを知っている。どうして接触してきた。別にこんな怪しい接触の仕方をしなくても良かっただろう?

………だって、お前…………

 

 

 

 

 

 

 

…………制服着てんじゃん。

ここの学園の生徒だろ?」

 

…………確かにな。普通に生徒として近づいて信頼を勝ち取ってから、実は~って感じで事情を話せばいいよな。

うん、それはそうだ。

そうだわ、普通に。

お前、天才か?

 

「何か言ったらどうなんだっ!」

 

えぇぇぇ。そんな剣幕で言い募られても…………。

想定してなかっただけだし、えぇぇっと、えぇぇっと。

何かあるかなぁ、理由。

考えろ俺、何か、何か、ある筈だ。この場を切り抜ける突破口が‼

 

「それでは遅すぎる。遅すぎるんだ…………。」

 

「⁉どういうことだ?」

 

何か、何か言わなきゃと思って口を開いたら、切り抜けられたわ。

あ、因みに嘘じゃないです。マジで、一番初めのイベントは割と目前まで来てます。

 

いやぁ、人間極限状態だと限界を超えるっていうけどマジだったんだね。

 

何とかなりそうで良かったぁ

 

「…………近々、魔物の群れがこの学校襲う。それまでにお前には強くなってもらう必要があるんだ。」

「な、なに?」

 

ここで、演出の一環として目を伏せる。

あっ、そう言えば被り物してるから目を伏せても気づいてもらえないわ。

うっかり、うっかり。

 

「どういうことだよ、それ。それで麗や愛華(まなか)、千弦(ちづる)たちが、危険に遭うのか?」

 

あっ、メインヒロインたちは大丈夫です。

この一度目の襲撃は只の様子見みたいな所もんだし、そんな強くないから彼女たちはむしろ大活躍して学校の注目を集めるはずだ。

 

まあ、真道君にとって彼女たちの存在が大きなウエートを占めているのなら言わない方が良いだろう。

 

「それは…………言わないでおいた方が良いだろうな。」

 

俺にとってね。

 

だって言ったら緊張感とか無くなるかもしれないだろ?

困るなぁそれは。

 

あっ、でも最終的には君のためでもあるからね?

ほら、物語が進めば敵も強くなるかもだしね。そうなったら君の大好きなヒロインちゃんたちも命の危機に瀕するかもしれないじゃないか?

 

ま、そんな先のことは俺も知らないんだけどね。

 

「……わかった。お前の手を取ってやる。ただし!少しでも怪しいと思ったら斬る」

 

俺の言葉に悩んでいた真道君は決心をしたかのように俺の目を見てくる。

…………それはそれとして、今は怪しくないってことでOK?

 

いや、今茶化すのはやめよう。

大切な局面だしね。

 

「ああ、それでいい。私としても君がこの世界を救ってくれるのであれば他のことに口出しはしない」

 

と言いつつ、俺の命に関わることにはバリバリ口を出すつもりだから、そこんトコよろしく。

 

「ふん、何を考えてやがるんだか。………それで、俺は何をすればいい?」

「まず明日、キミは魔剣を配布される訳だが、その際に搭載する外付けチップは《   》と《   》だ。いいな?」

「あ、ああ、でもそれで大丈夫なのか?」

「俺を信じるんだろ?」

「分かったよ。信じるとは、言ってねぇけどな」

「俺からすれば同じようなものだ」

 

ふっ、話もついたし、スタイリッシュに立ち去るか。

 

…………いや、スタイリッシュに立ち去るってどうやるんだよ。

意味わかんねぇよ。

一応窓ついているし、飛び降りる?

いや、足折れるだろ。ねん挫で済むかもしれないけど。

 

もっとこう、一瞬目を離したすきに居なくなるとかしたいんだけど…………。

いや、全然目ぇ離さないなあいつ。

 

どうしよう。歩いて帰るのはちょっとダサいよな…………。

 

「おい、才。そんなところで何してるんだ。」

 

よっしゃぁぁぁぁぁぁ。今だぁぁぁぁぁぁぁ。

 

俺はスッと階段の折り返しの所で四つん這いになる。

完全に隠れた。恐らくあちらからは見えていないだろう。

見えてたら超ダサい。

俺はその体勢を維持したままカサカサと移動を開始する。

 

「えっ、麗?ああ、変な奴と話してて、っていない」

 

よしっ。

 

これはスタイリッシュと言っても差し支え無いのでは?

完全にかっこいい立ち去り方だったわ。

 

クックック。

計算通り。

 

………因みにこの体勢で階段を上っている人って客観的に見てどんな印象を持たれるのかな?

 

☆☆☆

 

いやぁ、にしても上手くいきましたなぁ。旦那。

って旦那なんてどこにもいないやないかぁ~い。

 

でも軌道には乗ってきているな。

悪くない。悪くない。

 

悪くないと言えば、この親子丼も悪くない。

この世界に来る前の高校じゃあ、食堂なんて言ったことなかったし、大学も食堂なかったからめっちゃ新鮮だ。

 

つうか、もう一度高校生活を始められると考えれば割と悪くない?

いや、命を懸けなければいけない訳だから普通に悪いわ。

 

危うく騙されるところだった。

自分に。

 

にしても、俺は勿論ながら他の生徒も死ぬかもしれないんだよなぁ。

例えば目の前にいる俺のフレンドとかも。

 

「ん、どうかしたの?

音長君」

「いいや、ただ、三年間一緒に過ごせればいいなって思ってさ」

「ちょっ、不吉なこと言わないでよ。」

 

まあ、この学校は単位とかが理由で退学とかは無いからな。

退学になる場合は相当ヤバい問題を起こしたか、魔物との戦いで命を落としたかの二通りしかない。

 

どっちだとしても縁起が悪いことこの上ないな。

 

ま、それはそれとして、今はこのフレンドとの食事を楽しむか。

 

別に冗談で言った訳じゃないしな。

いや、出会ったばかりだけど彼は良い奴だし、問題を起こすようには見えないから、前者が理由でいなくなることは無いだろうけど。

魔物と遭遇してバイバイすることはあり得るからな普通に。

 

そうなってくると、少なくとも大切な友達よりも、友達百人作った方が良いのかな。

…………いや、友達百人作っても、腹の内は分からないし、恨みを買っててどさくさに紛れて『ぐさり』とかもあり得るから、信頼できる友達数人の方が良いな普通に。

 

「音長君、うんうん頷いてどうしたの?」

「いや、キミと友達になれて良かったなって思ってたんだ。」

「えっ?どうしたの急に」

 

急にとは失礼だな。

しかも、何だいその訝しむ顔は?

俺は常に俺の友人になってくれた子には感謝を述べているからな。

 

ほんとだぞ?

 

むしゃくしゃしてきたぜ。

こうなったら、ご飯をかき込んで、部屋に帰るしかない。

 

むしゃむしゃ、あっ、ここ、笑う所だから

 

「うわぁ、今度はご飯かき込みだしよ。しかも、漫画でしか見たことのないかきこみ方だし……どうしたの?ちょっと、怖いよ?

それとも、君はそう言う人なのかな?僕は今、君と友人になったことを後悔してるよ」

 

むっきー。

許せん。許せんぞぉぉぉぉ。

 

そんなことを言って許されるのは美少女だけ⁉

フツメンの君なんてなぁ。うっかり打ち首にされたっておかしくないからな?

 

ごっくん。

 

「ご馳走様。先に帰ってるよ。」

「うん、お大事にね」

 

いや、元気だからな⁉

それはそれとして、体は大事にするよ。

ありがとう。

 

 

因みにこの後普通に仲良く風呂に入った。大風呂だったからね。

それで分かったことなんだけど、彼はどうやら素で毒舌らしい。

これから、仲良くやっていけるか不安になってきたぜ。

 

☆☆☆

 

次の日、なんともうはや魔剣をくれるらしい。

 

パチパチパチ。

知ってたけどね。

 

普通ならちょっと早いかなって思うかもしれないけど……まあ、それも当然なのかもしれない。

だって、一刻も早く実践に遅れる防人を育てないといけない訳だからね。

そう考えれば、速いに越したことは無い。

むしろ、当日に渡されなかっただけ、温情なのかもしれない。

あ、それとマジックチップの配布は後日になるよ。

どのマジックチップが欲しいかを記入用紙に書いて提出しろって言われた。

俺は普通に両方防御系だ。

 

先生は防御と攻撃両方持ってる方が良いとか何とか言ってたけど、そんなことをすればリスクを増やすだけ。

戦闘は他の人間に任せて、守りに徹した方が良い。

特に、俺の場合はマジックチップが届く日、つまり、というか何というか、この日に襲撃を受ける訳だけど、バリバリ真道君に張り付いて守ってもらうつもりだから、防御特化で良いのだ。

 

あっ、一応言って置くと全然タンクとかやる気ないよ。

流れ弾防ぐので精一杯だろうしね。

 

本当頑張ってくれよ、真道君!

君だけが頼りだ。

 

あっ、因みに魔剣の形状は刀だ。

これは個人的にかっこいいからって言うのもあるけど、物語的には魔剣は刀身から魔力を吸収し、肉体強化のマジックチップを発動するという設定だから、自ずと自前の魔力で肉体強化を発動する際も同じ手順を取る必要がある。

 

そうなった際に両刃だと格好がつかないし危ないから、片刃の剣になった、てな感じ。

 

つまり、刀の峰の部分に触れて肉体強化を出来るようにしたってことだね。

 

どう?

カッコいいし、中々いいアイデアだと思わない?

 

「おいっ!音長!何サボっている。貴様だけ追加で素振り百回だ」

 

ひぇぇぇぇ。素振りサボってるのばれて、更に追加された。

最悪だ~。

 

因みに剣凪さんと真道君は涼しい顔で素振りをこなしていた。

流石は代々魔剣士の家系である剣凪さんと戦人とのハーフの真道君だ。

 

……それに、俺の友達でかなりの毒舌家な毒ノ森(どくのもり)君も滅茶苦茶素振り頑張ってる。

 

どうせ、殆ど意味なんてないのに…………。

でもそれって、きっと生きるのに一生懸命ってことなんだろうな。

 

………俺も死にたくないって思うなら、多少はガンバらきゃだな。

どれだけ努力しても強キャラには勝てないだろうけど、この努力が生きるか死ぬかを分ける可能性は十分にあるんだもんな。

 

よしっ、ちょっと頑張ってみるか‼

 

あっ、それでも真道君が希望ってことは変わらないから、修練を怠るんじゃないぞ。

 

ま、今のところはそんなことにはならないか。

滅茶苦茶頑張ってるし。

ただ、ヒロインとイチャコラするばかりで修練を怠ったら、「エッ」な場面の時にピーマンの被り物して出てきてやる。

 

☆☆☆

 

魔剣を使っての素振りの時間、音長という生徒が教師である私からは見えづらい場所でサボっていた。

こういう生徒は例年いる。

国を守る立場であるにも関わらず、学生気分が抜けていない生徒というやつだ。

 

だから、私はその生徒に注意を促し、ついでに罰則を与える。

すると、音長という生徒は考えを改めたかのように真剣に素振りに取り組む。

 

ようやく、自分がこの国と、そして魔力を持たない市民を守る希望であると理解したらしい。

 

にしても、学生気分の抜けていない生徒を一声で改心させるとは私の教師としての腕前には恐れ入るな。

 

まったく!

 




どうでもいい補足


因みにシチュエーションが踏切の場合は線路渡った後、電車が来たタイミングで並走を試みていました。

こんな感じ。


(真道サイド)



「それでは私は帰るとしよう」


謎の男はそう言うと踏切を渡る。
そして、こちらを振り返る。何か言い残したことがあったのだろうか?
顔が分からないため、何がしたいのか、何が狙いなのかは分からない。
暫くすると電車が来て男の姿が電車によって隠される。


「いない…………」


そして、電車が通り過ぎた時には既に男の姿はいなくなっていた。


(音長サイド)


はぁはぁ、ぜぇはぁ。
いや、きっつ。スタイリッシュにその場から離れるのもらくじゃ、無いぜ…………。
よ、よし、そろそろ歩こう。




て、あれ?目の前に知らないおばあちゃんがいる。




……………………電車と一緒に走ってたの見てました?


☆☆☆








おばあちゃんが何時からいたのか、主人公が何故走っている時に気づかなったのか………


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戦えって?………………いやぁ、それはちょっと

ぱgoodです。な、なんと、うちの拙作がオリジナルのルーキー日間にのってました。
拙作をお気に入りにしてくれた皆様ありがとうございます。


☆☆☆

 

素振りが無事終わった。

素振りの途中、何故かとても不名誉な勘違いをされた気がしたけど、気のせいだろう。

読心術とかはマスターしてないしね。

 

仮にあったら、有利に進めるのになぁ。

いや、日常生活を送るうえでは不便極まりないし、いらないか。

 

ていうか、めっちゃ疲れたわ。

いや、疲れたという割には心の中ではこの通り、ぴんぴんしてる感出てるけど、もうぜぇはぁが止まりませんわ。

 

これだけ、頑張っても強敵が現れれば、殆ど描写されることなく散っていくモブなんだろうなって思うと悲しくて仕方ないね。

 

取り敢えず、この後はシャワールームでシャワーを浴びれるっていうのが唯一の救いだよね。

このままじゃ風邪引いちゃうところだったよ。

まったく。

 

 

うぉぉぉぉ

 

シャワールーム、ボディソープとシャンプー使い放題なんかい。

後、シャワールームで貰った体洗うタオル?

めっちゃ泡立つですけど。しかも、いつの間にか制服も用意されてた。

これ、新品ですよね。良いんですか?

 

話変わるけど冬は何か暖房?

ちょっと違うみたいだけど、部屋を初めから暖かく保つ機能があるらしい。

 

すげぇぇぇ。

 

後、体操着とかの洗濯物は専用の棚に置いておけば向こうで洗ってくれるんだって、いや、凄すぎない?

更に更に、洗濯物は個人で分けて洗ってくれるんだってさ。

良いね。

 

食堂も無料だし、任務に出るようになれば給料も出るらしいし、最高だね。

 

いや、命かけなきゃいけないから最低だわ、やっぱ。

 

設備自体は充実してるし、学費無料だけど、根本的に俺たちは学ぶ者ではないんだろうなぁって感じがする。

 

だからこその好待遇。

 

ふぅ。シャワーも浴び終わってすっきりしたし、コーヒー牛乳でも飲むか…………え、そのコーヒー牛乳はって?

いや、無料ですけどなにか?

 

 

☆☆☆

 

あれから、まあ色々あった。

 

えっ、何か急に話飛んでないって?

 

いや、うん、色々あったんだけどさ、聞く?

 

俺の防人訓練の授業を如何に真面目に受けていたかとか、毒ノ森君と他愛のない話をしたとか。

正直さ、色々はあったんだよ。うん、色々は、みんなもさ、毎日いろいろあるじゃん。

ただ、その中で話すべきことってどれくらいある?

 

…………そんなないと思うんだよ。

そんな感じ。

 

普通に授業きつくないとか、授業どんどん訓練の時間増えて殆ど訓練場にいるよね、とかそんな感じ。

 

いや、ほんとどうなってるのこの学校。

全く、座学ないやん。

走り込みと、素振りと打ち込みと、魔力操作と模擬戦ばっかだよ!ほんと。

 

語る事なんてないよ。マジで、真道君と剣凪さんの無双タイムだよ。

序盤の方は俺たちモブにも、「お前たちは立派な防人になれる」って言っていた先生も最近はほとんど真道君と剣凪さんにしか話しかけてないよ。

 

あ、一応言って置くけど、それでモチベーションが下がって適当に授業を受けている、なんてことは無いよ。

俺も毒ノ森君も。

 

結局は巡り巡って、自分のためだからね。本当に。

冗談抜きで命かかってるからさ。

流石に、学生気分でたらたらとは出来ないよ。

 

それでも、あっさり死ぬかもしれないんだけどね。

むしろ、たらたらやってた人間がひょっこり生きてるなんてこともあるかもしれない。

 

その位には俺らは無力だ。

無手の人間が身体を鍛えた結果、熊に勝てるかっていうのに似てるよね。

実際、俺と毒ノ森君は頑張っているけど成績自体は中の上くらい。

 

因みに、一、二位は三位以降を引き離してダントツの成績を残している。

言わなくてもわかるかもしれないけど、真道君と剣凪さんの二人だ。

 

この二人には三位の左藤君は手も足も出ずにすぐ負けている。

一応言って置くと、左藤君が弱い訳じゃない。

マジで隔絶してるんだ、あの二人。

先生も左藤君に今年じゃなかったら主席も夢じゃなかったって言ってたしね。

 

 

だから、まあ、話すことは無い!

 

基本的に真道君と剣凪さんと関わることもないし、学科の違う他のヒロインは言わずもがな。

魔導師Pの出番も今の所ない!

無いんだけど、流石にそろそろ魔導師Pも真道君をプロデュースしなくちゃいけないらしい。

 

「お前たち!ようやくお前たちのマジックチップが届いたぞ!

他の学科よりは遅れてしまったため、心配していた者もいただろうが、安心しろ、それは例年通りだ。

なんせ我らが魔剣士科は唯一、外付けのマジックチップが無くても戦えるからな」

 

一応肉体強化のマジックチップは使っているのに、物は言いようだなぁ。

確かに、他の科は外付けのマジックチップがないと戦えないけどさ。

ていうか、ワンドには外付けのマジックチップしかないから当然なんだけどね。

 

余談だけど、そう言った事情もあり、他の科はワンドと同時にマジックチップが配布される、っていう設定になっている。

 

まあ、今はあんまり関係ないけどさ。

 

〈ドンッドンッ〉

 

〈ブーブー、オシラセシマス。オシラセシマス。ゲンザイ。ナニモノカガ侵入中。ナニモノカガガガガ。テイセイ。テイセイ。シンニュウシャ判明。マモノ。雑兵級。種別、偽天使。カズ、700〉

 

おおっと皆の顔が真っ青になっちゃったよ。

因みに、解説しておくと偽天使っていうのは天使型の魔物のこと、これが鬼人型なら偽鬼人、戦人型なら偽戦人ってなる。それ以外の種族の姿をしてても全部同じ、あくまでも本来の種族とは一切関係ないよって意味でこの名前が使われてるんだ。

そんでもって雑兵級っていうのは一番弱い魔物のこと。

一つ上の学年なら他の学科の人間とちゃんとパーティを組むって言う前提で対処可能。

一体ならね。

 

700は………無理!

 

だって、大体この学校の生徒の数と同じくらいいるからね。

一人一体ずつじゃないと、全員無事に生き残れないよね。

 

ていうか、まだまだ、絶望するには早いしなぁ。

 

一応、教師もいるけど、教師はその場の指揮で手一杯になるし、ここ、結構被害出るんだよなぁ。

 

 

「いいかっ!私の指示に従い。全員、学生ホールに移動する。いいな。」

 

そう言うと生徒は皆どんどんとホールに向かって移動する。

因みにホールはこの学校の最後の砦であり、学校にある様々なギミックを作動することが可能になっている。

 

まあ、時間稼ぎなんですけどね。

 

それでも、現状は国の防人を待つしかない状況。

それしか希望がないから仕方ないんだ。

 

みんなホールでも元気でな。

えっ、お前は向かわないのかって?

それは勿論、私は主人公について行かなければいかないのでね。

 

俺は皆から少し離れた場所で懐に隠していたピーマンの被り物を被る。

よ~し、ではいくぞ~。

 

多分、主人公は他の生徒たちとは別行動をとる筈。

彼、戦人で耳が良いから聞こえてしまったんだよね。

 

 

悲鳴を上げる女の子の声が。

 

「っくそ、確かこっちから。」

「どうした?迷子か」

 

ほ~らねっ。知ってました。

作者ですので。

 

「お前は…………魔導師P」

「ふん、お前の考えていることはわかる。一年の防御魔法科の近くにある女子トイレからだ。」

「!そうか、ありがとう。」

「別にいい。それより私もついて行こう。まだ、何かありそうだ。」

「わかった。助かる」

 

そんじゃあ、行きますか。

一応、まだここら辺には偽天使は来てないから、スムーズに進める。

これが、もう少し道に迷われると偽天使が湧いて来るって設定だったから良かったね。

俺がいて。

 

あっ、でも偽天使が学校に湧いてるのも元を正せば作者である俺のせいだった。

ゴメンね。

 

まあ、大丈夫。全部何とかするよ。

 

 

真道君が。

 

てなわけで、俺の助言のお陰で一階の防御魔法科に一番近い女子トイレの前まで敵と遭遇することなく来ることが出来た。

ただ、なんと、なんと、そこには三体の偽天使に囲まれる温実愛華(つつみまなか)。防御魔法科に所属する真道君のヒロインがそこにいたのだった。

 

なんだってー‼

 

いやぁ、びっくり、びっくり。

 

「な、なんで、愛華がっ‼」

 

おお、君もびっくりだったかい?

真道君。

 

「今は、そんなことを言っている場合じゃないだろう。」

 

俺がそう言うと真道君は弾かれたように魔剣にセットしている≪スパークバインド≫を発動する。

 

名前の通り、雷属性の拘束魔法だ。

 

これにより、温実(つつみ)さんを狙っていた偽天使たちは動きを止める。

そこを刀身から魔力を通し、自らの体に肉体強化を施した真道君が一刀両断。

ヒュー。かっこいい。

いやぁ、偉いぞ。ちゃあんと、≪スパークバインド≫を申請して。

 

この魔法は初期の拘束系の魔法の中では断トツの拘束力を誇る。

というか、雷系は基本強いという設定。

 

ただ、吸収持ちもいるから、そう言う相手には逆効果なんだけど…………。

まあ、今回の敵には耐性持ちはいないから大丈夫。

暴れまわれ~。

俺らを相手に無双した経験を活かすんだ~。

 

「よかった。怪我はないか⁉愛華。」

「う、うん。大丈夫。才が来てくれたから」

 

うわぁ。君ら、近くにピーマンの被り物をした不審人物がいてもイチャコラできるタイプなんだね。

俺には理解出来ないよ。

ていうか、それ以前にここ、戦場!

 

敵はまだまだ来るんだYO

 

「……感動の再開も良いが、今は気を引き締めろ。次が来るぞ」

「えっ?あ……あの、あなたは…………」

「愛華、一応俺のツレ。……細かいことは後で説明するよ」

 

どうも、ヒロイン差し置いて、ツレの座を頂いた魔導師Pです。

今の気持ち…………ですか?

 

え~、え~、まっ、あたしとかれなら、当然かなって♡

 

「な、なんだ⁉急に寒気が‼敵の攻撃か?」

 

あっ、その、すいません。

一応、味方側のつもりです。はい。

 

「落ち着け、目に付く範囲に敵はいない。一度深呼吸するんだ。」

「そ、そうだな。すまん助かる」

 

……良いんだよ。

というか、こっちこそ、なんかすまん。

 

ま、気を取り直そう。

 

俺がそう思っていると倒した魔物から溢れていた瘴気が真道君に向かって集約されていく。

 

「才ッ‼才ッ‼」

「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「落ち着け、レベルアップだ」

 

二人ともびっくりして、でっかいリアクションしてるけど、これ、ただのレベルアップなんよ。

 

レベルアップまたの名を抵抗力上昇。

倒された魔物は基本的に倒した相手に取り憑こうとする傾向がある。

だが、逆にその瘴気を浄化し、吸収することで人は魔物の魔力を取り込むことが出来る。

 

因みに抵抗できなくても大丈夫。

死ぬだけだから、だからこそ、魔力を持たない人間は魔物との戦いに参加できず、魔力を持っていても、体を鍛えていない、もしくは鍛えていても適正レベルに到達していない人間はレベルアップ時に死ぬことになる。

 

防人が急速に強くなることを封じているのだ。

誰がそんなことをって?

それは勿論私です。

 

いや、こんなことになるって知ってたら、もっと強くなりやすい作りにしてたけどね。

 

あっ、俺らがそんな風にワイワイしてたら、追加の偽天使が現れた。

 

数は十七体。

ワイワイしてる暇はないよ。皆、気を引き締めていこう。

 

「クッソ、偽天使が十七体もいるのかよ。魔導師P手伝ってくれ」

「いや?」

「はっ?」

「…………」

 

…………えっ?、いや、え?

 

テツダウ、テツダウ。手伝う?

私があなたを?

 

え…………無理です。

普通に。

死んじゃうよ、ど、どうしよう。

 

なのに、なのに、どうして真道君は「いや、お前、手貸せよ」って顔をしてるの。

温実さんも「なんで、手伝わんの」って顔してるし

 

「今は、一刻を争うんだ。つべこべ言わず手伝え‼」

 

ド正論だ。ド正論が飛んできた。

ですよね。そうですよね。

この流れ、普通に手伝う場面ですよね。

しかも、こんだけ只者じゃないですオーラ出してたら普通そうなりますよね。

 

でも、俺、本当はそんな大した奴じゃないんですよぉぉ。

 

くっ、これが身分不相応な役回りを演じた奴の末路なのかよ。

 

俺にも遂に破滅が訪れった訳だ。

…………いや、諦めちゃ駄目だ。

だって、人生を一生懸命に生きるってそう言うことじゃん。

 

ここで諦めたら多分死ぬ。

それが分かる。そう言う世界だ。

だから、諦めない。何があっても生き抜く。

 

すぅはぁ。

 

「お前たちには強くなってもらう必要がある。」

「だからっ‼今は……………お前たち?」

「そうだ。真道才、温実愛華(つつみまなか)。お前たちに、だ」

「あまり、話は読めないんですけど。才が言っていたみたいに今は一緒に戦うべきだと思います。」

「じきにわかる」

「……何を言ってやがる。」

「…………」

「ちっ、愛華、取り敢えず二人で戦うぞ。そんな奴気にしてたら、魔物に学校が滅茶苦茶にされちまう」

 

こ、これで良かったのかなぁ。

一応先送りには出来たけどもっと上手く立ち回れたんじゃないかって思わずにはいられない。

 

結局できたことって、先送りだけだしな。

信頼関係もかなりガッタガタになってしまった。

 

因みに温実さんと真道君の信頼関係は抜群だ。

偽天使の攻撃を温実さんが防御魔法で防ぎ、真道君が偽天使に突っ込む。

仮に温実さんが防ぎきれなくても、真道君には自前で防御魔法が使える。

マジックチップの≪マナシールド≫だ。

 

天使は魔法の扱いには最も長けた種族だけど、物理防御と物理攻撃には難がある。

その弱点をついた連携だ。

 

更に厄介な相手などは≪スパークバインド≫で動きを封じる。

 

この三要素と真道君たちのポテンシャルも合わさり、スムーズに十七体もいた魔物たちは倒された。

 

「よしっ、倒し終えた。愛華、みんなが心配だ。

学生ホールに向かおう」

 

温実さんはその言葉にコクリと頷く。

あの~、私は?

 

あっ、一応、確認してくれたチラッと。

警戒されてるとかではないよね。心配してくれたんだよね?

 

まあ、取り敢えず、そんなこんなで校舎内を走りだす。

今は緊急事態だからね、何時もは走らないよ。

 

 

走っている間にも当然だけど、偽天使は湧いてくる。

それを真道君と温実さんは見事な連携で倒していく。

 

偽天使の弾幕のような魔法の雨を温実さんが防御魔法で防ぐ。

流石は一人で三体の偽天使相手に凌いでいただけはある。

まあ、今、目の前には少なくとも三十体以上はいる訳だけど。

 

とはいえ、彼らも魔法を撃った後は多少次の魔法を撃つまでのリキャストタイムが必要なため、そのタイミングで真道君が突っ込む。

一応、相手もそれを予期して魔法を温存していた奴もいたみたいだけど、これも温実さんが遠隔から防御魔法を発動し、防ぐ。

 

魔法の重複発動。

マジックチップを扱う防人にしか出来ず、その防人の中でもほんのごく一部の者しか扱えない希少技術。

 

それを現在彼女は使っている。

だから、遠隔で防御魔法を発動している温実さんを狙っても無駄だ。

しっかりと自分のことも守っている。

 

因みにこの遠隔発動も希少技術だ。

こっちは一応、他の種族でも使えるけど。

 

とはいえ、偽天使も中々デキる。

時間差で発動できるように待機していた者同士が同時に魔法を発動し真道君に張られた防御魔法を破壊する。

 

ただ、ここで、真道君は直ぐに自前の防御魔法≪マナシールド≫を発動。

そして、真道君の≪マナシールド≫を割った頃にはまた温実さんの防御魔法が飛んでくる。

 

防御魔法が飛んできた、真道君は≪スパークバインド≫を使い敵を捕縛、次々と斬っていく。

 

因みにマジックチップを使った魔法はリキャストタイムを必要としない。

即発動、即連射可能。

 

ただ、消耗品だからそれをやったら、直ぐに丸裸。

これを防ぐために通常はかなり出し惜しんでから使う。

まあ、そうやって、出し惜しんだせいで死んじゃうケースもあるから一概に良いとは言えない。

何より、一流の防人はマジックチップの魔法を小出しにして使う。

そうなると威力は当然下がるんだけど、そこを、自分の魔力を上乗せして威力を上げるというもう一つの高等技術でカバーする。

 

今、目の前の二人がやっているようにね。

 

 

あ、それと、現在、俺らは真っすぐ学生ホールに向かってるんだけど、このルート最短だけど最難関のルートだ。

 

代わりに一番、経験値が稼げるルートでもあるけどね。

 

真道君と温実さんも多分、十レベルはとっくに超えてるんじゃないか?

 

えっ、俺?

 

全くレベルアップしてませんが?何か?

 

育ち盛りの1レベルですよ?

 

そんなどうでもいいことを考えていると、偽天使たちが急に突貫をかけてきた。

 

あっ……、これ、ヤバいやつ。

 

「お前たち、今すぐ、攻撃を止めて、防御に専念しろ!」

「はぁ⁉何で、お前の言うこと聞かなきゃならないんだよ!」

「良いから、頼む!」

 

俺は誠心誠意、頭を下げる。

すると、真道君は優しいから、なんやかんや、俺の指示に従って、防御に専念してくれる。

 

突っ込むんで来る敵を倒さないように峰で弾いたり、温実さんの防御壁の中に隠れたり。

 

そうして、少しした頃。

 

〈ドンッ〉

 

という衝撃が辺りに広がる。

 

それに対し、真道君は咄嗟に床に剣を差し、温実さんを腕に抱き、踏ん張っている。

 

俺、俺は…………吹っ飛ばされた。

 

うん、これはこれでヤバいやつだ。

 

 

 



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あれ…………………俺ってボッチなのでは?

☆☆☆

 

飛ばされて、飛ばされて、飛ばされて~。

 

気付いたら、完璧に真道君たちとはぐれてる~。

 

つまり、ボッチ‼

 

うん、やばいね。

 

すっごくヤバい。普通に死ねる。

強いて良かった点を上げれば吹き飛ばされながらもしっかり着地出来たことと、あの修羅みたいな最難関コースから外れられたくらいだね!

 

それ込みで一人になるのは不味いんだけど…………。

 

だってほら周りには偽天使がうようよいるしさ。

うん、これでも多少はマシなんだよ?

少なくとも偽天使が三十体とか普通に現れるような場所では無いしさ。

 

それでも、ここら辺は五体くらいで行動してるみたい。

正直、五体の偽天使を相手には出来ないし、三十体くらいで行動している偽天使がうようよいる元のルートには戻れない。

 

でもここにいても危険なだけだし、どうにかここから移動しないとね。

宛はあるのかだって?

 

一応なくは無いよ。

ホールに辿り着くことはほとんど不可能になったけどね。

 

でも、吹き飛ばされたおかげでその場所は割と近い。

というか、何故か現在校舎の外に立っている。

多分、空からアイツが降ってきた際に壁も一部壊れて外まで吹っ飛ばされたんだと思う。

 

そのおかげで、割と安全な場所に移動できた。

こっから目的地である備品室までは校舎に入って突き当たりを曲がれば直ぐだから、そこまで遠くない。

 

むしろ、めっちゃ近いまである。

因みに一年の教室は二階にあり、学生ホールは四階、三階と五階はそれぞれ二年と三年の教室になっている。

 

勿論、それ以外にも諸々の設備はあるけどね。特に四階はどの学年も移動しやすいから色んな施設が密集している。

何だったら、別棟とも繋がってるしね。

 

まあ、今はあんまり関係ないんだけど。

 

重要なのは備品室が近いってこと。

そして、備品室には俺らに支給される筈のマジックチップが置いてある。

 

一応、小説の方だと『備品室に向かう』を選ぶと被害が増える代わりにマジックチップを入手することが出来る、と説明している。

勿論、このマジックチップは戦闘後に返さなくちゃいけないから一時的なモード選択に近い。

 

そんで、小説の主人公(真)はこの備品室のマジックチップを利用したレベリングを行おうとして、失敗する。

 

それというのも、いくらマジックチップを手に入れても所詮は戦場に出たこともない訓練を始めたばかりのぺぇぺぇだ。

 

上手くいくはずがない。

現段階で高等技術を使いこなす真道君たちとは違うんだ。

 

あっ、余談だけど、この時に主人公が選んだチップは≪マナシールド≫と≪スパークバインド≫つまり、現在の真道君のチップ構成だ。

 

真道君がこのイベントに挑むに辺り、この構成が最強だからね。

主人公(真)もそれに倣い、この構成にしたんだけど彼が使う≪スパークバインド≫は天使の動きを数瞬止めるので精一杯だった。

≪マナシールド≫も彼の者より脆かった。

 

それはなぜか…………。まあ非常に簡単な話だけど、魔法解放時のロスだ。

俺らは魔法解放の際に必ずと言っていいほどロスを出す。

しかも、素人だから、それはもうかなりの量を。

 

だけど、彼は出さない。それどころか完全に制御してみせ、魔法を小出しにし、自前の魔力で強化し、通常のマナチップ一枚分と同等以上の威力にする。

 

だからまあ、そこをしっかり計算に入れないと簡単に足元を救われるぞって話だ。

 

これにより、主人公(真)は生死の境を彷徨ったのでした まる

 

俺は同じ道を辿らないためにそこも計算に入れ、しっかりと防御で固めるつもりだ。

半永久防御でイベントが終わるまで凌ぐ。

 

これしかない。これで無理なら諦めるしかない。

 

いや、絶対あきらめないけど。

 

そう思いながら、校舎に入り歩いていると後ろから偽天使が出て来た。

にゅっと、もう奇襲をかけるとかではなく、偶々見回りしてたら見つけたぁ、みたいな感じで。

基本、浮いてるから足音とかもしないんだよなぁ。こいつら。

 

ただ、前からじゃなくて良かった。

備品室の方から来てたら絶望してたかもしれない。

 

それはそれとして俺は全力で走る。

それはもう、今までの人生で一番速いと言っても差し支え無い程に。

 

ただ、偽天使たちも鬼ごっこに興じているわけじゃない。

バリバリ魔法を撃ってくる。

それでも数は三体、今までで一番少ない数だ。この区域は重要視してないってことなんだろう。

まあ、生徒なんてほとんどいないしね。

 

俺は奴らの攻撃を≪マナシールド≫で防ぐ。

俺の≪マナシールド≫は奴らの攻撃を二発は耐えてくれた。ただ、それと同時に魔法の盾は壊れてしまい、三発目は防げない。

 

一応、チップ構成は≪マナシールド≫≪マナシールド≫だから、もう一回張れなくもないけど、一発だけなら気合で避けられそうなので気合で避ける。

 

〈ドンッ〉

 

目論見通り相手の魔法を避けることに成功する。無属性の魔法弾だから、何とか避けられた。

それでも、普通に弾丸くらいの速度は出てたし、肉体強化を施してなかったら今頃避けきれずにひき肉になってたと思う。

 

それでも、雷魔法、光魔法と比べれば無理ゲーではない。

雷魔法とか光魔法を避けられるのは主人公(偽)陣営と鬼人と戦人と獣人だけだからね。

授業でも、雷系統とかの超速魔法は「予兆を察知したら防御しましょう」が基本だ。

 

だから、一応偽天使たちは良心的と言っても良い。

 

リキャストタイム時に魔法だけじゃなく、羽も止めてくれたら更に良心的だ。

 

まあどうせ、もう追いつけないだろうけど。

 

なんせ既に曲がり角が目前だ。そして曲がり角を曲がれば備品室はすぐそこ……。

 

「あれっ?」

 

声に漏れるくらいヤバい事態が目の前で起こった。

うん、現れた、曲がり角からひょっこり三体の偽天使たちが。

…………そう言えばあいつらコミュニケーションをとっていても声には出さないんだった。

 

もう完全に魔法をぶっぱする気満々でいる。

これ…………≪マナシールド≫で防いでも多分死ぬ。

というか足止めたら、両サイドの偽天使から魔法放たれて終わるよな。

 

と、なると、うん。

 

スライディングじゃあ‼しかも頭からのね。

 

俺はズズズっとヘッスラで偽天使の足元を潜り抜ける。

 

こいつらが浮いてて良かった。……………初めて良かったって思ったわ。

 

しかも、咄嗟にヘッドスライディングで回避したから、目の前にいた偽天使はそのまま魔法を放ってしまい、俺を追っかけていた偽天使に誤射していた。

 

俺はその隙に備品室に飛び込む。

 

備品室は偽天使のせいでドアが開いており、普通に入れる。

ここは小説と同じだ。

そして、俺は急いで≪マナシールド≫の入ったボックスを二箱同時に取り出し、懐にいれる。

 

すると、マジックチップが置いてあった棚は上から降りてきたシャッターによって塞がり、取り出せなくなる。

 

これはマジックチップ泥棒が現れたときの処置だ。

因みに本来なら、備品室のドアも締まり、そっちもドアを覆う様にシャッターが下がってチップ泥棒を完全に閉じ込めにかかる。

 

まあ、今はその機能は壊れてるからそんなことにはならないんだけど。

 

俺は棚が塞がれていく様子を横目にボックスの中を開ける。

そして、自分の魔剣に入れてある空になったチップを取り出し、新品のものを装填する。

 

装填し終わり、よしいくぞ~っと思っていたら備品室の外から、偽天使が魔法弾を放ってくる。

俺は何とかローリングでドア付近の壁に移動し、その攻撃を凌ぐ。

 

奴らは羽が邪魔でこの部屋に入ってこれないだろうし、ドア付近であればドア周りの壁が邪魔でかなり攻撃がしづらい筈だ。

 

ただ、奴らに常識は通用しない。

ドアの所からひょっこり顔を出してくる。手に魔法弾を構えながら。

俺はひょっこり出て来たその偽天使を刀で『グサッ』と刺す。

 

向こうもお返しとばかりに魔法弾をぶっ放してくる。

一応、≪マナシールド≫を展開したけど、この至近距離だと防ぎきれず、吹き飛ばされ、後ろの棚(と言うかシャッター)に思い切り背中を打ち付ける。

 

それだけじゃない。

俺が背中を打ち付けた衝撃で怯んでいるともう一体の偽天使もドアの隙間から腕だけだし、こちらに向けて魔法弾を撃ち込んでくる。

 

俺はそれをローリングで横に移動することで何とか避ける。

避けるが、魔法を使わず待機していた二体の偽天使がそこに追い打ちをかける。

それを再度≪マナシールド≫を展開して防ぐ。

これが、≪マナシールド≫ダブル構成の強み。まあ、魔法を小出しに出来ればいらないんだけどさ。

 

俺が敵の攻撃を防ぎ終え、一息つこうとするも、魔法弾を構える二体の天使が目に飛び込んでくる。

 

???

 

いみがわからないよ。

 

え、どうなってるの?

だって、リキャストタイムあるだろ?君ら。

 

いや、落ち付け、何かからくりがある筈だ。奴らは雑兵級。出鱈目なことはしてこない。

まず、ドアからひょっこり出てきて魔法を撃った奴と、その後に、腕だけ出して魔法を撃った奴。

ドアから離れた所に撃ち込んできた奴が二体。

 

……………………うん、つまり、残りの二体はまだ、待機してたってことか。

 

いや、なにそれ、そんなのあり?

 

数が多いんだからもっと慢心してかかって来いよ‼

 

しかも、二、二、二で別れられたせいで、もうリキャストタイムに希望を見出すことも出来ない。

 

知ってか知らずか、あの戦国時代における第六天の魔王と同じ戦法を取ってきたって訳だ。

 

俺は敵の攻撃を横に跳び、何とか避けようとする。

 

「ぁッ」

 

避けようとしたんだけど、思いっきりわき腹が抉られた。

ついでに足にも少しかすった。

痛いなんてもんじゃない。声にならない声が出た。痛すぎて声かすれた。

 

それでも、相手は構わず撃ってくる。こっちも急いでチップを交換する

どう考えても、間に合わない。

痛みに怯んでさえなければ、何とかなったかもしれないけど、今更そんなこと言っても仕方がない。

 

というか、まともな喧嘩もしたことない人間に痛みに耐えろとか、無茶ぶりがすぎる。

 

でも、絶対諦めたりしない。こんな所で諦めたら生き残るために利用した真道君に申し訳が立たない。

 

いや、まあ、申し訳が立たないっていうのも、完全にエゴなんだけどさ。

つまり、こんな所で死ぬなんて死んでも御免だってこと。

 

ここまで頭回して、すっごく悩んだのに、ここで終わりなんて悔しいしね。

 

じゃあ、どうやってこの場を切り抜けるのかだって?

 

受けるしかないよね。魔剣でさ。

まあ、只受ける訳じゃない、逸らすように受ける。

右手は従来通り柄を握り、左腕を峰に着ける。そんで左腕からはありったけの魔力を込める。

今まで以上の肉体強化を施す。

 

〈ガギギィイイイ〉

 

車に引かれたのかと思うくらい重かった。正直、逸らすようにしたけど、どのくらい効果があったのか分からない。左腕に峰が深々と刺さっている。

というか、骨に到達してないか、これ?

 

ただ、思いっきり吹っ飛び、天井にぶつかり、シャッターにもぶつかりながらも、それでも生きてる。左腕も思う様に動く、めっちゃ痛いけど。

 

なら大丈夫だ。

とてもゆっくり流れる時間の中で、俺はマジックチップを交換する。

 

ゲフっ。

 

思いっきり尻を打ちつけた。

それと同時に、時間の流れが正常に戻る。

危ない、完全に自分の人生を振り返るターンに突入してた。

 

っと、危ないのは偽天使たちの存在もだ。

俺が着地すると同時に魔法弾が飛んでくる。それを俺は≪マナシールド≫で防ぐ。

防いだ後は直ぐに、マジックチップを交換する。

交換しながら、ドア目掛けて走る。

 

その間も敵は攻撃を仕掛けてくるが、それをもう片方にセットしている≪マナシールド≫で防ぐ。

 

そして、ドアを潜り抜けた俺はドア付近にいた偽天使に斬りかかる。

偽天使はサッとそれを避ける。

うん、まあ、偽天使って敏捷はかなり高いからな。

雑兵級だから目で追えないとか、追いかけられたら直ぐに捕まるってことはないけど、俺程度じゃあ、攻撃は当てられない。

ひらひら躱されて終わり。

 

真道君、剣凪さんなら追い付いて、斬り捨てられるんだけどね。

 

まあ、俺は二人じゃないから、自分らしい方法でこの場を切り抜ける。

 

つまるところ、逃げの一手。

 

正直、初めは、備品室に籠城でも良いんじゃないかって思ってた。

部屋に入ってこれないし、ドア付近の壁に張り付いてたら、爆発系の魔法を持たないあいつらは攻撃しづらいだろうから。

 

でも、実際は避けるスペースも少ないし、こっちがじり貧になっている。

 

これだったら、逃げ回って撒いた方がマシだ。

いや、偽天使はそこら辺に居る訳だから、撒けないか。

それでも、持ち場を大きく離れてまで俺のことは追ってはこない筈だ。

なんせ、今頃、防人部隊がこっちに向かってるはずだから。

奴らもそれは分かっている。だから、防人部隊がどんな方法で侵入してきても直ぐに情報を伝達できるように持ち場を離れることは絶対にしない。

 

つまり、学生ホール付近に近づかなければ精々、少人数の偽天使に追われるだけで済む。

今みたいに。

 

それからは、偽天使との命を懸けた鬼ごっこが始まった。

いや、隠れ鬼かな、時に職員室の机の下に隠れたり、教卓の下に隠れたり。

ていうか、教卓の下に隠れたときは偽天使たちが備え付けられているロッカーに魔法弾ぶっパしててビビった。

 

もし隠れる場所にロッカー選んでたら死んでたわ。

 

ていうか、どこ行っても先回りされてすげぇ怖かった。

ボックスに入ってたマジックチップも空になったわ。

 

怪我もヤバい。太ももとか抉れたし、無傷だった方のわき腹も抉られた。

 

他にも擦り傷とか諸々。

 

一応肉体強化の応用?魔剣士科は直ぐに授業で習うから基礎か?で出血は直ぐに止めたからいいけど。

 

普通にヤバかった。

あ、でも、追いかけられてる途中、一階に戻った時に備品室で魔法弾ぶっパしてきた偽天使の内一体を倒した。

まあ、味方の誤射でダメージ受けてたやつだけど。ほら、ヘッドスライディングで避けた際に味方の魔法弾に当たった一番初めに追っかけてきた奴。

 

いやぁ、階段で待ち伏せしてたから、飛び降りながら斬り捨ててやったぜ。

 

 

上手くいって良かった。

 

まあ、そんなこんなで、何とかかんとか凌いでたらあいつらは退却していった。

 

真道君がやってくれたのだろう。

 

あっ、そう言えば≪エンチャントスパーク≫は習得できたのかな?

 

一応様子見にいくか。

 

ていうか、全身クソいてぇ。

 

 

 




次回は真道君サイドです。


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俺の原点

真道君サイドです。


 

☆☆☆

 

俺は俺自身と愛華が吹き飛ばされないように踏ん張る。

一体何が起こってやがる‼

 

俺は事情を知っていそうな魔導師Pに顔を向ける。

 

「おいっ、これは……………」

 

しかし、そこに魔導師Pの姿は無かった。

あいつどこ行きやがった。吹っ飛ばされたか?

いや、あいつに限ってそれは無いだろう。

 

緊急時なのにも関わらず一切混乱することなく対処する判断力。

他人に指示を出せる視野の広さ。

それに、愛華の悲鳴に気付き、位置を正確に把握してみせた身体機能。

 

恐らく奴は国が抱える上位の防人。

もしかしたら、その中でも最強の上位五人、護懐の一人かもしれない。

 

なんせ、俺の出自を知ってるのは親父の元同僚の護懐の人間か、国を運営しているお偉いさんしかいない筈だからな。

 

そんな奴がなんでって疑問に思ったこともあったが、恐らくはお目付け役みたいなものだろう。

 

俺がより良き防人になれるように……………。

それはそれとして緊急時くらいは手を貸せよとは思ってしまう。

 

人の命がかかってるっていうのに。

 

奴の姿勢には少し不満を持ってしまうが、今はそれどころではない。

とんでもない衝撃に襲われ、ついでに天井も壊されたことで先ほどまでは土煙が立っていたが、ようやくそれも晴れる。

 

そして、気づく。

今まで見てきた雑兵級の偽天使とは比べ物にならない程の偽天使が目の前にいることを。

恐らくは高さ五メートルはあるだろう。

 

そいつは現在、羽を繭のようにたたんでいる。

空から落ちてきたことを考えれば衝撃に備えて畳んでいたんだろう。

 

ついでに、分かっちゃいたが、奴に向かって瘴気が流れ込んでいる。

恐らくはギミックによってか、生徒によって倒された魔物の瘴気が流れ込んでいるんだろう。

ここは学生ホールの目の前だしな。

 

 

通常、魔物っていうのは倒した相手に取り付こうと瘴気を飛ばすが、ある条件下においてはそれが覆される。

 

その条件とは自分よりも上位の魔物が近くにいる時だ。

この時、倒された魔物は倒した相手ではなく、より強力な魔物に力を分け与えようと瘴気を流す。

 

この現象を位階上昇(ステージアップ)と呼ぶ。

 

アイツが倒さないで防御に専念しろって言っていたのはこのためか。

 

仮に俺と愛華が天使を倒していたら今とは比べ物にならない程強化されていたことだろう。

 

高速で接近する敵にいち早く気づくとはな。

 

本当にアイツが戦闘に参加してくれたらと思わずにはいられない。

 

いや、今は俺に出来ることをしよう。

 

「愛華ッ‼援護を頼めるか⁉」

「うんっ!でも気を付けて!あの魔物の魔力量、足軽大将級みたい」

「!そうか、わかった」

 

まさか、足軽大将級が出て来るとはな。せいぜい足軽小頭級だと思っていたんだが。

これは、気を引き締めなくちゃな。

 

俺がそう考えていると、横から雑兵級の偽天使が攻撃を仕掛けてくる。

とはいえ、もう雑兵級なんて怖くはない。

初めの頃は、受け流すか、≪マナシールド≫で防ぐ以外の方法だと無傷で且つ次の行動に支障をきたさないように立ち回ることは出来なかった。だけど今は、魔法弾を簡単に斬り捨てることが出来る。

 

それに、位階上昇(ステージアップ)出来ないように、雑兵級が倒れないギリギリを見極め、斬りつけることで相手の魔力を吸って大幅に肉体を強化することも出来る。

 

今の俺からすれば、雑兵級は脅威ではない。

それはきっと愛華もだろう。

愛華の防御壁は既に雑兵級では割ることも出来ない程に強化されている。

 

抵抗力上昇(レベルアップ)の恩恵と戦いの中で魔力操作などの技術が大幅に上がっているのだ。

 

とは言え、流石に足軽大将級はそう簡単ではないだろう。

 

俺がそう考えていると、足軽大将級が魔法で槍を生み出し、俺に向かって飛んでくる。

 

速いッ、が対応できな程じゃない。

 

むしろ……………。

 

「偽天使の魔力で肉体強化を施している俺の方が、今のお前よりも速い!」

 

そう、本来の速度なら、俺の方が防戦一方となっていた。

しかし、偽天使の魔力を吸って肉体強化を施しているため、今は俺の方が圧倒的に速い。

 

足軽大将級は俺の攻撃に防戦一方になる。

それを見ていた雑兵級は援護とばかりに魔法弾を撃ってくるが、愛華の防御魔法でそれは防がれる。

 

ナイスだ愛華‼

 

ただ、今は防戦一方になっているが、奴は雑兵級じゃない。他の魔法も使えるはずだ。

 

俺の読みは正しく、足軽大将級は俺から距離を離すと、左手を槍から離し、こちらに向けてくる。

そして、離した手から三メートルはある極太のレーザーを撃ってくる。

 

レーザーは愛華が俺の為に張ってくれた防御魔法を砕く、俺はそれと同時に自前の≪マナシールド≫を展開し、レーザーの範囲内から離れる。

 

しかし、愛華は避けていなかったようでレーザーが愛華の防御魔法に当たってしまう。

俺は一瞬息を呑むが、愛華の防御魔法はレーザーを弾き愛華を守っていた。

 

「凄いぞ、愛華!」

「ありがと、才。でも、今のでマジックチップを三つ消費しちゃってる。」

 

愛華は空になったマジックチップを交換しながらそう言う。

どうやら、いくら愛華と言えど今の攻撃はそう何度も防げないみたいだ。

 

なら…。

 

「≪スパークバインド≫」

 

俺は足軽大将級に≪スパークバインド≫を使い、動きを止める。

しかし、相手も只でやられるつもりは無いのか、雑兵級をけしかけ、俺が足軽大将級に攻撃を仕掛けるのを阻んでくる。

 

それを俺は、向かってくる雑兵級を倒さない程度に斬りつけ、逆に魔力を吸収し肉体強化に充てていく。

 

あまりにも、出てくる数が多かったため、手こずったが、それでも何とか目前まで辿り着く。

 

「これで、終わりだぁぁぁ」

 

俺は≪スパークバインド≫による拘束が解けていると踏み、再度≪スパークバインド≫を放ちながら、足軽大将級に斬りかかる。

 

〈ガキィィィィィン〉

 

しかし、それは、阻まれてしまった。

足軽大将級の周りを半透明な黄色の防御膜が覆っていたのだ。

 

恐らく、無属性の防御魔法≪ジェネリックシールド≫だろう。

 

魔法、物理、両方を防ぐことが出来る魔法だ。

因みに無属性魔法は個人の魔力色によって色が変わる。

 

足軽大将級は防御魔法を展開しながら槍で攻撃を仕掛けてくる。

 

防御魔法の利点の一つは自分を防御魔法で守りながら敵には攻撃が通る点だ。

 

勿論、中にはそうじゃないのもあるが………………。

 

しかし、こうなってくるとかなり時間を稼がれてしまう。

もう一度、あのレーザーを使ってこないと良いんだが…。

 

俺がそう思っていると、足軽大将級は槍で俺と打ち合いながら、魔法を発動する。

幸いレーザーの魔法ではなく、四発の攻撃光弾魔法のようだが……………。

 

それにしても、リキャストタイムが切れるのが早すぎる。

勿論、使用する魔法や実力によって、リキャストタイムの長さは変わってくるそうだが、雑兵級と足軽大将級の間にここまでの差があったとは。

 

俺はその攻撃を≪マナシールド≫で何とか防ぐ。

とは言え、節約しながら使ってはいたが、そろそろ≪マナシールド≫は空になる。

それに対し、相手はまだまだ、戦える。

どころか、槍と魔法壁で万全の備えだ。

 

恐らくは槍と魔法壁でリキャストタイムを凌ぎ、魔法で倒すというのが本来のこいつの戦闘スタイルなのだろう。

 

初めの方は舐められてたって訳だ。

 

クソっ、どうする。

 

俺が内心でそう焦っていると愛華に声を掛けられる。

 

「才ッ!受け取って。」

 

何だ?

俺はそう思い、飛んで来た何かを受け取る。

 

これは!

≪マナシールド≫のマジックチップ。

 

「良いのか!」

「うん、防御魔法科はマジックチップを多めに貰ってるから」

 

恩に着るぜ。

 

俺は愛華から貰った≪マナシールド≫と今まで使っていたものを交換すると、敢えて何時でも回避ができるように防御主体で戦っていたのを止め、反撃を開始する。

 

ただ、それでも、戦局は一向に動かない。奴の防御膜に罅を入れたと思ったら、直ぐに修復されるからだ。

 

しかも、現在は防御膜を二重に張っている。

 

出来るのなら初めからやればいいものを。

 

正直、まだ手札を隠していてもおかしくはない。だからこそ、早期決着をつけたい。

だけど、火力が足りない。俺のチップ構成は防御と拘束。

勿論、どちらも非常に役立ってくれたし、この構成じゃなかったらこんなに早くここまで辿り着けなかっただろう。

 

だが、今、今だけは火力が欲しい。攻撃魔法か、付与魔法のマジックチップが………。

≪スパークバインド≫を攻撃に転用できないか?

 

いや、無理だ。

 

拘束系の魔法が攻撃魔法に転用出来た話なんて聞いたことがない。

 

やっぱり、攻撃力を上げるマジックチップが必要だ。

現状を切り抜けるにはマジックチップが足りていない。

 

俺がそう考えていると、ふと昔のことを思い出した。

 

『ねぇ、何でお父さんはマジックチップが無いのに、魔法が使えるの?』

『ん、それはな。お父さんが戦人だからだよ。戦人は自由に魔法が使えるんだぞ。』

『戦人ってすげぇ‼』

『そうだろう、そうだろう。戦人は肉体、魔法どちらにも優れていて、その力でみんなを守るんだ』

『俺も、父ちゃんみたいな立派な戦人になるよ!』

 

そうだ、俺は戦人 真道勇利(しんどうゆうり)の息子、真道才。

 

マジックチップが無くても魔法が使えて、すげぇパワーでみんな守る、正義の味方だ。

 

親父が死んでから忘れていた小さい頃からの夢を思い出す。

 

思い出すと同時に手がパチリと静電気を帯びる。

いや、これは、静電気なんかじゃない。俺の魔法だ。意識して魔力を流し、魔法を操作する。

 

奴はまだ気づいていない。恐らく、気づいたら何らかの対策を取ってくる。一発勝負だ。

 

俺がそう思っていると、奴は四発の攻撃光弾を生み出す。

 

ここだッ‼

俺は天高く跳びあがる

 

「愛華!防御魔法を足場にしたい。頼めるか」

「うん、任せて。」

 

俺の指示に従い愛華が防御魔法を足場のように設置してくれる。

これで終わりだ。

 

足場を使い奴に向かって急降下する。

仮に攻撃光弾を使ってきても、≪マナシールド≫で防いで見せる。

 

その考えが見透かされていたのか、それとも偶々なのか。

奴は四つの攻撃光弾を集約させる。

 

これは…………。

 

「魔法改変⁉」

 

愛華がそう叫ぶ。俺も同じ意見だ。

 

魔法改変。それは同系統の魔法でだけ可能な高等技術。一度発動した魔法を発動からそれ程時間が経っていない時に限り、別の魔法に変更する技術。

 

こんな技術まで持っていたなんて。

俺はもう、ここから回避行動を取ることは出来ない。

奴が使うのは十中八九レーザー。

防ぐ手立てはない。

 

だがっ!それが何だ。

 

正義の味方は最後まで諦めない。俺がそう覚悟を決めたとき。

 

「魔法結界四重展開っ‼」

 

俺に四重の魔法防御が施される。それを為したのは当然愛華だ。

ただし、そうなってくると、愛華は無防備になってしまう。

 

つまり、彼女はこの攻撃にかけてくれたのだ。俺の勝利に賭けてくれたのだ。

なら、尚更負けるわけにはいかない。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

俺は雄たけびを上げながら、敵に突っ込む。レーザーは彼女の障壁が防いでくれている。

 

それでも、この至近距離だ。徐々にではあるが、罅が入り、割れていく。

 

それでも、最後の一枚、割れる前に、相手の防御膜に辿り着く。

 

なら、後は簡単だ‼

 

「エンチャントスパァァァァァァァァァァァァク‼」

 

俺はそう叫ぶと同時に奴の防御膜ごと、奴の体を真っ二つに両断する。

そして、着地と同時に俺に掛けられていた防御魔法の最後の一枚が役目を終えたかのように割れる。

 

〈ズドンッ〉

 

奴の両断された体が崩れ落ちた。

それと同時に俺と愛華の体を瘴気が包む。

 

力が溢れる。

 

それは愛華も同じだったのか、無防備になった愛華に迫っていた魔法弾をただの魔力波で防いでしまう。

何だあれ?

 

ともかく、愛華が無事でよかった。俺も身を挺して、庇おうと足に力を入れていたが、自分の力で対処できたみたいだ。

 

 

そうだ!

早く、みんなの所に行かないと、俺はそう思い、愛華の方を向くと愛華も同じ気持ちだったのか、深く頷く。

 

俺たちは学生ホールまで走る。とは言っても、もうそんなに距離は無い。というか目前だ。

俺は勢いよく、学生ホールの扉を開ける。

どうやら、学生は入れるようになっていたようだ。

よくよく考えれば、何かしらのギミックが発動してもおかしくなかったよな。

 

「みんな、無事か⁉」

 

俺は声を掛けながら周りを見渡す。

どうやら、まだ、誰も怪我はしていないようだ。

 

壁が半壊になっていたため、心配したが、無事なようで安心した。

 

俺がほっと息を吐くと学内放送が流れる。これは魔物の侵入を教えてくれたものだ。

 

〈オシラセシマス。学園二アラワレタ、マモノハ行方をクラマセマシタ。〉

 

その知らせに学生ホール全体が歓喜に包まれる。

 

魔物は基本的に転移系の移動手段を持たない。ただし、住処であるダンジョンへの帰還だけは別でこの場合のみ転移を行える。

 

つまり、今回の戦いは完全勝利に終わったのだ。

 

あっ、そう言えば、魔導師Pの奴、結局どこに行ったんだ?

俺は魔導師Pを探すためにその場を離れ、廊下に出る。

まあ、神出鬼没なアイツのことだ、見つからないかもしれないけど。

 

俺はそう思いながらも階段を降りようとしたその時、声を掛けられる。

 

「その様子。無事に勝ったみたいだな」

「ああ、まぁ……………。」

 

俺は魔導師Pの言葉に返答しようとし、絶句する。

余裕綽々と言った様子を崩すことがないこいつが満身創痍になっているのだ。

 

見ていて心配になるほどの……………。

何故、立てているのか、何故、話せているのか、何よりも何故こいつはこんなにもボロボロになっているのか。

 

その様子は生前の親父に似ていて胸の奥がざわざわする。

親父もそうだった。人のため人のため、自分を蔑ろにし、死んでいった。

こいつも、もしかしたら………………。

 

「な、何で、足軽大将級と戦ってないお前がそんなにボロボロになってるんだよ。」

「……………………」

「………いたのか?足軽大将級以上の強敵が」

「………………ああ。」

「…どんな奴なんだ?」

「……………………………偽鬼人と偽天使の複合だ。」

「なっ」

 

俺は言葉を失ってしまう。天使の特徴は魔法特化でスピードが速い。反対に鬼人は物理特化で魔法以外の能力が非常に高い。何よりその肉体は魔法を弾く。

 

つまり、偽天使と偽鬼人を組みあわせた魔物とはデメリットを打ち消し合った最強の魔物と言うことになる。

そもそも、二種族を複合した魔物なんて聞いたことも無かったが、こいつが言うのだから本当なんだろう。

 

そして、そんな強者相手にこいつはたった一人で挑んでいたんだ。

俺やこの学園を守るために………………。

 

「…もっと、もっと自分を大切にしろよ‼」

「……………してるさ、多少はな」

 

魔導師Pはそいう言うと俺に背中を向け、立ち去ろうとする。

しかし、その直前、何か思い出したのか、こちらを振り向く。

 

「そう言えば、言い忘れていた。お前、良い顔をするようになったじゃないか」

 

その言葉に一瞬虚を突かれるが、俺は自然と頬が緩むのを感じる。

 

「まあな」

「原点を、自分の根幹にある信念を思い出した男の顔だ。」

 

一目見ただけでそこまで分かるなんて、やっぱりこいつは只ものじゃない。

 

「初めのチップに≪スパークバインド≫を選んで良かったか?」

「ああ、あんたのいう様に大切なものを思い出せたんだ。俺の願いを」

「そうか、それは良かった。」

 

男はそう言うと今度こそ、立ち去ろうとする。

立ち去ろうとしたのだが、再度何かを思い出したのかこちらを向く。

 

「そう言えば、一つ言い忘れていた。俺のことは秘密でな」

 

男は口のあるであろう場所で人差し指を立て、そう言って去っていった。

まったく、あの男はどこまで先のことを見通していたのだか……………………。

親父に似た、自己犠牲の塊のような男、魔導士P。

 

また、どこかで会えるのだろうか?

 

☆☆☆

 

七百体もの魔物に襲われたこの事件は後に英雄の誕生と呼ばれるようになった。

当時学生の身分にも関わらず、真道才、温実愛華はその勇気と力でもって学園に現れた足軽大将級をたった二人で撃破。

これにより、偽天使たちは学園への攻撃を辞め、退却を余儀なくされた。

 

学園の校舎自体は大きく損壊したものの、生徒、職員はたった一人を除き死傷者は出なかった。

 

そのたった一人もお腹が痛いという理由で学生ホールに避難することなく、トイレにこもっていたそうだ。

 

また、この生徒も重傷ではあったものの、近くにいた回復魔法士の手によって直ぐに治療され、後遺症もなく、その後の学園生活を送ったという。

 

 

 




これが主人公(真)と主人公(偽)の違いです。


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ヒロインがいないって?遅くなってすまない……
ヒロインと接点?いやなんで?


感想をくれた方誤字脱字報告をしてくださった方、ありがとうございます!励みになります!




☆☆☆

 

あの事件から、今日で二週間が経った。

俺はこっぴどく先生たちから怒られ、反省文を書かされた。

 

最悪だ。

 

あと、先週から授業が再開した。正直あんまり時間が経ってないだろって思うんだけど。

ていうか、休みくれ‼反省文と説教でまるまる潰れたんだが⁉

 

う~ん、ゴミ!

 

いや、それは言いすぎだし、そもそもこんな状況だからこそ、ゆっくりと育ててる時間が無いのも分かる。

 

後、たった一週間で校舎の修復及び設備の復旧が終わった。

うん、凄いね。早いね。流石は国が力を入れているだけはある。

 

ということで、何のアクシデントも起こらず無事授業が再開したのだった まる

因みに先週から新たな授業が始まった。

どんな授業かって?ダンジョンに入ってのレベル上げだ。

 

そう、あのRPGで定番のダンジョンだ。

まぁ、ダンジョンとは言っても、あくまで六つの世界を繋ぐための転移門に突如魔物が湧いたものなんだけど。だから、宝箱とかは置いてないし、時々漂着してくる道具とかも基本的に国が預かって解析し、有用だと判断されれば、複製を試みられ、複製が完了すれば、オリジナルは上位の防人に預けられる。

 

そういうシステムになってるから、レアアイテムゲットで無双とかは出来ない。

レベルアップと転移門に蔓延る魔物を減らすために行くのだ。

 

えっ?魔物と戦うのは早すぎないかって?

 

いやぁ、その気持ちは分からなくはないんだけど、どうやら上層部の間では、一週間前の事件は何者かによって作為的に仕組まれたのではないかって考えられているんだって。

 

うん、知ってた‼

 

まあ、ことのあらましを完全に把握しているわけでは無いんだけどさ。

一応、設定は色々考えてたし、そこら辺と言うか、裏にいる奴については薄々勘づいている。

 

つまり、知っているのだよラスボスの正体を、ね。

とは言え、割とふわっと作ってるから、そいつが何の目的で動いてるのかは分かんないんだよね~。

 

っと、話が逸れた。

つまり、上層部は前回の事件は何かが起こる前兆なんじゃないかって考えているわけで、その()()()起こった時に備えて今は少しでも戦力が欲しいって状況なんだよね。

 

あっ、勿論だからって、「はい、君らダンジョンでレベル上げしてきてね。ばいば~い」ってされる訳じゃない。

 

ちゃんと、実践経験のある防人を呼んでくれている。

流石に、国お抱えの上位百人の中から選んでるわけでは無いけど、それでも、国にいる防人の中では三百位には入るんじゃないかって言われてる人たちだ。

 

通称 無名の兵(むめいのつわもの)

 

まあ、本当に無名って訳じゃないけどね。皆からこんだけ評価されてるわけだし。

ただ、そんな彼らが俺らの護衛をしてくれるからあんまり危険はない。

 

勿論、主人公(偽)達は例外なんですけどね。

 

主人公たちと言えば、彼ら、真道君と温実さんが犠牲者ゼロでこの前の事件を解決したらしい。

 

いやぁ~、その話を聞いた時は目ん玉飛び出るかと思ったよ。

だって、本来ならどのルートを選んだとしても犠牲は出る筈だったしね。

勿論、彼らの選んだルートは険しい代わりに死傷者は少ないルートではあった。

 

でも、少人数ながら死傷者は出る、その筈だった。

その運命を彼らは覆した。

 

って言うと大袈裟なんだけどさ、確かに予想外のことではあったよね。

 

まあ、このことに関して推測だけど、彼らが予想以上に速く足軽大将級を倒したことが原因なんじゃないかって考えてる。

 

俺が書いた小説はゲームの中って設定だったから、ルートを選んだあとはどれだけ速く敵を倒そうと、結果は変わらない、と言う風にしていた。

 

でも、ここが現実であるなら、それはおかしい。

速く敵を倒せばその分被害は減って然るべきだ。

この世界は何故か、俺の想像する世界と齟齬があったり、どれだけ見て回っても綻びが一切見つからない。そのことから、現実的に矛盾する部分は修正されているということだろうか?

 

いや、何か、それも違和感がある。

 

違和感は……………あるが、うん、考えても分からん‼

 

だから、このことについては保留だね。

もっと判断材料がないと。

 

それよりも、問題なのは剣凪さんを初めとしたヒロインたちがあの事件で一切活躍出来なかったってことだ。

 

本来なら、あの事件で剣凪さんとかも活躍して、その功績によって主人公達と共に特別防人部隊に任命される。

 

この特別防人部隊っていうのは言うなれば、塾とかで言う特別コースみたいな感じで且つ、限定的ではあるものの本来の防人と同様の権限が与えられるというものだ。

 

詳細を説明すると、今の魔剣士科からは抜けて、国が抱える上位百人の防人から授業を受けることが出来るようになる。

 

また、ダンジョン探索に関しても、雑兵級かその一つ上のランクの足軽級ダンジョンであれば、防人の許可が無くても自由に出入りできるようになる。

 

更に、緊急時においては単独行動が許されている。

 

そう、彼、彼女らは特別防人部隊として様々な事件を仲間たちと共に乗り越えて強くなっていくんだ。

 

………行くんだけど。

 

現状だとそうも行かない。

一応、真道君と温実さんは特別防人として任命されたけど。

残りのメンバーは一般の生徒扱いだ。

まあ、それでも剣凪麗(けんなぎれい)穿間弓弦(せんまゆづる)に関しては大丈夫だろう。

あの二人は真道君経由で仲良くなっており、一緒に組んでその才能をいかんなく発揮してくれている。

 

 

 

 

 

 

問題は問題はッ‼

 

 

 

 

 

回復魔法科の癒羽希(ゆうき)カルミア、君なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼

 

「…ど、どうかしましたか?音長さん」

「いや、何でも無いよ。」

 

ああ、ああ、すまない、考えることが多すぎて言い忘れてた、今俺たちはダンジョンにいる。

 

☆☆☆

 

何故、俺らのパーティーに癒羽希(ゆうき)カルミアが入ってきたのか、それについて話すには少しだけ時間を遡る必要がある。

 

先ずは、そうだなぁ。遡りすぎな気もするけど、パーティー決めの話からしていこう。

この時はまだ、癒羽希(ゆうき)カルミアはいなかった。

初期メンは魔剣士科の俺、同じく魔剣士科の毒ノ森君、攻撃魔法科の棚加(たなか)君、防御魔法科の未裏(みうら)さんだった。

 

そんでもって、俺らを担当してくれたのが女性の防人弧囃子(こばやし)さんだ。

弧囃子(こばやし)さんが担当することになった経緯としては男子三人、女子一人の構成だったから、お目付け役というか、まあ、未裏さんの護衛役と言うか、そんな感じで配属されたらしい。

 

因みに棚加(たなか)君と未裏(みうら)さんは毒ノ森君が連れて来た。

正直、彼のどこにそんなコミュ力があるんだと初めの頃は思ったんだけど…………こいつ、どうやら外面は良いらしい。

 

そう言えば、俺も毒ノ森君のファーストコンタクトはすげぇ好印象を抱いてた。

 

この世渡り上手め!

 

まあ、そんな感じで割とスムーズにパーティーメンバーは集められた。

しかも攻撃魔法科では棚加(たなか)君、中の中くらいの成績を収めており、未裏(みうら)さんも防御魔法科で中の上くらいの成績を収めていた。

 

そこに、同じく中の上くらいの成績の毒ノ森君と、この前の事件で一体の雑兵級を倒したことで、恐らく一レベル程上がり、ギリギリ、上の下と呼んでもいいかもしれないくらいの実力になった俺がいる。

 

だからまあ、ダンジョンでのレベリングもかなり順調に進んでいた。

勿論、もっと順調に進んでいる組もある。

 

筆頭は剣凪さんと穿間(せんま)さんの二人だろう。

いや、二人構成のパーティーがなんで筆頭になれるの?と思わなくもないけど、もう主要キャラってだけで何か納得してしまう。

 

そういうもんかって。

 

それで、その頃はそこまで気にしていなかったんだ。

 

……癒羽希(ゆうき)カルミアがこの二人と一緒に居なかったことに…………。

 

正直、別のパーティーでも評価されるだろうと思っていたからさ。

 

あっ、因みに癒羽希(ゆうき)カルミアはその名の通り、ハーフの女の子だ。

身長が低く、人形のような金髪ボブカット美少女。

ついでに言うと剣凪麗はクール系な見た目の黒髪ポニテで男勝りな美少女。

穿間弓弦(せんまゆづる)は赤髪ツインテの勝気な美少女。ツンデレ属性もちだ。

温実愛華(つつみまなか)はロングの栗色髪に泣きぼくろのある美少女。何がとは言わないがとてもでかい。

 

ってな感じになっている。

 

そんな、金髪ロリがなんでうちにいるかって話だけど。

何か、たらい回しにされてきたらしい。

 

いや、確かに当時そんな噂が流れてきてはいた。

何でも、補助魔法しかセットしない回復魔法士がいるってさ。

 

うん、その噂を聞いた時は俺も思ったよ。いや、他のマジックチップもセットしたらって。

 

勿論、補助一辺倒で構成する回復魔法士もいるけど、場合によっては様々なマジックチップをセットする。

 

というか、自分のパーティーに何が欠けているのか、どの魔法をセットするのが正解なのかっていうのを考えるのもダンジョン攻略の基本だ。

 

だから初めは皆、自分の得意魔法しか入れてなくても、ダンジョン攻略の授業からは他の魔法も入れていく。

それをやらない生徒などそうそういない。

 

けど、確かに彼女は序盤、絶対に攻撃魔法をセットしなかった。

いや、セットできなかった。

 

その時点で気づけって?

 

いや、だって、小説では()()()()問題にならないんだよこのことは。

 

今回、歴史が変わって真道君たちと組めなくなったことで起こった問題だね。

 

せめて、剣凪さんたちと組んでくれればな~。

 

一応、言って置くと彼女は優秀だ。非常に優秀だ。

補助魔法だけでも十分にやっていけるほどに。

 

ただ、考えて欲しい。

 

こっちが火力が欲しいなって考えていても、絶対に攻撃魔法を入れない奴。

お前、本気でやってんのかってならない?

 

嫌じゃない?命がけで戦っているのに変なこだわり出されたら。

しかも、人によってはぶりっ娘みたいって印象を持つ人もいるよね、補助魔法しか使えませんって。

 

つまりそう言うことです。

 

 

勿論、彼女は容姿も優れているから、男のパーティーなら、それはもうちやほやされたことだろう。ただ、彼女が入ったのは女の子だけで構成されているパーティーだった。

 

そりゃそうだよね。

 

ダンジョンなんて完全犯罪出来る場所で異性と入ろうとする胆力のある人間の方が珍しい。

うちの未裏さんの方が珍しい手合いなのだ。普通は男女混合で組もうなんてしない。

 

毒ノ森君、君は一体どんな手を使ったんだい?

 

いや、今はいいか。その話は。

 

話は戻すけど、癒羽希(ゆうき)さんもその例に漏れず女生徒だけで組んだって訳。

そんで、攻撃魔法のチップをいれないことが原因で他のパーティーに移った。

移ったパーティーも女性パーティーだったんだけど、そこも同じ理由で移った。

それを何度か繰り返して、遂には全女性パーティーからは追い出されたから、一人とはいえ女性メンバーがいて、担当の防人が女性で且つそこそこ安定していたうちのパーティーに来たって訳。

 

えっ?

 

剣凪さんの所はって?

彼女の所は二人パーティーで安定してるとは言えないし、何よりも二人で組んでいる理由が、「他の生徒だと私たちの成長速度についてこれない」って理由で断っているんだよ?

入りたいと思う?

そんなとこ。

 

っとと、危ない危ない。

敵が攻撃してきた。

 

「音長君!ぼーっとしないで、敵がいるのよ」

 

防人の人に怒られてしまった。

俺は直ぐに刀身から魔力を通し肉体を強化する。

 

敵は戦人型の魔物だ。

戦人型の魔物は魔法と体術どちらも使ってくるので、パーティーの連携を学ぶ上では非常に効率のいい敵だ。

 

俺は目の前に出て来た、戦人型の魔物の拳を剣で受ける。

それにより、奴の表皮は切り刻まれる

奴が剣を持っていれば話は別だが、こいつは雑兵級の魔物のため、魔法で武器を生み出すことは出来ない。

それでも、俺達よりは圧倒的に強いため、本来なら防人の人がフォローをしてくれるのだが、今の俺たちには必要ない。

 

「魔剣士さんたち。≪フィジカルオーガ≫です。」

 

そう、なんてたって、今の俺達には回復魔法士枠のヒロインがついているのだから。

俺は自前の魔力の肉体強化とも、魔物の魔力を吸っての肉体強化とも比べものにならない程の強化を受ける。

 

その力でもって毒ノ森君と共に完璧に偽戦人の猛攻を防いで見せる。

更にその隙に癒羽希(ゆうき)さんは未裏さんにも魔法をかけていく。

 

「≪マジックブースト≫」

 

それは攻撃魔法を強化する付与魔法。

これにより、未裏さんの攻撃魔法は大幅に強化された。

 

「≪ストーンニードル≫」

 

未裏さんはその強化された魔法攻撃でもって偽戦人を刺し貫く。

うん、めっちゃ強い。

補助魔法だけでもいい気がしてきた。

まあ、仮に彼女自身が攻撃魔法を発動したら、こんなに手間はかからないんだけどね。

 

というか、ありがたいけど、これ、完全に宝の持ち腐れだ。

 

どうにか、剣凪さんたちとくっつけなきゃ。

 

☆☆☆

 

そうして暫くして、今日の探索は終わった。

結果としてはかなりの魔物を倒せた。

 

多分、学年でトップテンに入る位にはダンジョン攻略における俺らの成績は優秀だ。

ゲームヒロインがいるのだから、当然の結果ではあるけど。

 

ただ、さっきも言ったけど彼女が俺らの所にいるのは宝の持ち腐れだ。

 

…………保身第一主義の俺がこんなことを言うのはおかしいって思うかい?

 

でも、別に何もおかしなことでは無いんだ。

 

だって、このまま俺らの所にいるより、主人公たちと一緒に行動し、立ちはだかる脅威を打ち倒してくれた方が俺としてはありがたいからね。

 

主人公の利益が巡り巡って俺の保身に繋がるって訳よ。

 

それにまあ、他のパーティーが彼女を簡単に切れた理由でもあるんだけど、俺らには現在、防人の人がついている。

つまり、安全は保障されていると言っていい。

勿論、防人の人も三年間ずっとついてくれるわけでは無いんだけど、少なくとも一年の間はついてくれる。

 

だから、そんなに困らないのだ。

ダンジョン攻略の授業は別に高難度ダンジョンに潜れとか、深部に辿り着けって訳ではないから、防人の人が離れた後は浅瀬でぴちゃぴちゃしてればいいしね。

 

「なぁ、この後みんなで打ち上げいかね!」

 

棚加君がダンジョンを出て、学校に帰っている途中、そんなことを言ってくる。

主に癒羽希(ゆうき)さんに視線を向けながら。

 

いや、本人は多分、気づかれないようにチラ見しているつもりなんだと思うけど、うん、バレバレ…………って言うと流石に可哀そうだけど、うん。うん。

 

バレバレだ~。

 

癒羽希(ゆうき)さんもそれを感じ取ったようで若干頬が引き攣っている。

まあ、そんな状態だし、返答なんて分かっているようなものだ。

 

「えっと、ごめんなさい。寮で授業の復習をしたいので」

「あ、そっか~。それなら仕方ねぇよな。……三人でいく?」

「悪いけど、僕はパス。この後、未裏と図書室で勉強するから」

「そゆこと、じゃ、私と毒ノ森君は帰るから」

「あ、そっか、じゃあ、今日はお開きだな」

「え?何で?俺はまだ返答してないんだけど?」

「へっ?あ、ああ、そうだな、でも、ほら?他の奴らは用事があるみたいだしさ。」

「そうだね。じゃあ、二人で行こうよ。折角だし、親睦を深めようか」

 

俺はそう言って、棚加君を引きずっていった。

本当なら一年生の間だけ、月に一度無料で使える学内レストランに入ろうとしたんだけど、棚加君が思った以上に抵抗するもんだから、結局、食堂でご飯をして解散になった。

 

しかも、最後別れるとき、「今日はとっても充実してたね。棚加君?」って言ったら、引き攣った笑みを返された。

 

いやぁ、失礼な人だなぁ。まったく。

そんな反応されると傷ついちゃうよ。

 

っと、まあ、おふざけはこのくらいにして、俺は売店を目指す。

 

理由としては簡単だ。魔導師Pとして活動する時に被っている被り物のスペアを調達するためだ。

 

前回の事件で分かったことなのだが、怪我は勿論、戦いをする上で服も破損する。

一応、服に関してはダンジョン攻略の授業が開始された際に耐久力の高い戦闘服を支給されたけど、自前のピーマンの被り物は普通の被り物と遜色ない耐久性をしている。

 

だからまあ、仮に被り物が破れた際に変えとなる被り物が必要だと感じだのだ。

 

感じたから、来たんだけど…………。

 

「すいませ~ん。前にあったピーマンの被り物ってありますか?」

「えっ、ああ、ごめんねぇ~。あの被り物、今、売り切れなんだよ。あの特別防人の子が買い占めちゃって。」

 

はっ?

 

何で?何で買い占めてるの。

というか、どっちさ、買い占めたの。

 

「いやぁ、嬉しいねぇ~。元々コアなファンは付いていたんだけど、特別防人の子が買ってくれたら知名度も上がるってもんさ。しかも、「この、被り物で俺もきっと…………。」なんて言いながら熱い視線を向けてたんだよ。

いやぁ、作ってる身としては嬉しいもんさね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しんどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

「ふっふっふ。安心しな。わたしゃ、あんたみたいなコアなファンのことも蔑ろにする気はないさ。じゃっじゃ~ん。パプリカの被り物だよ。しかも、赤と黄色!両方あるのさ。」

「あっ、じゃあ、両方下さい。」

「毎度あり~。」

 

ピーマンの被り物は無かったけど、まあ、いっか。

別にピーマンにそんな拘りないし。

 

 

 




おまけ

音長「よし、折角の打ち上げだし、学内レストランに行こっか!」

棚加「え……。いや、男同士だし、食堂で良くないか?(学内レストランは癒羽希と使いたいし…………。)」

音長「え、何で男同士だと食堂になるの?男同士のパーティーの場合だと食堂を選ぶの?打ち上げなのに?そんな筈ないよね。…………もしかして、棚加君女の子が目的だったの?女の子に近づきたくて打ち上げしようなんて言ったの?」

棚加「い、いや、違、違う。ほら、二人しかいなしさ!学内レストランはみんなで来た時にしようと思ってたんだ!」

音長「ちっ」

棚加「えっ、いま舌打ち「食堂で済ませちゃおっか!」お、おお…」

音長「(リア充はリア充になる前に潰したかった…………)


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すれ違ってるって分かっていても言えないことってあるよね

☆☆☆

 

俺と毒ノ森君は現在、魔剣士科の授業を終え、ダンジョンに潜るために、待ち合わせ場所の

学生ホールへと向かっていた。

 

学生ホールは緊急時には生徒たちの避難場所となっているが、通常時には生徒たちの憩いの場となっている。

むしろ、多くの生徒が利用し、場所を把握しているからこそ、いざと言う時の避難場所に指定されていると言っていい。

 

「おいおい、あいつらって確か…………。」

「ああ、癒羽希のおこぼれ貰ってる奴らだよ。」

 

多くの生徒が利用する場所なため、学生ホールへの通路は多くの生徒が通る。

 

「いやぁ、恥ずかしくないんかね?実力者入れて自分たちの成績上げるの」

「…………癒羽希さん、可哀想。」

 

そうすると、こう言う心無い言葉を、俺たちに聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言ってくる奴らもいる。

いや、俺達と癒羽希さんの実力が見合ってないのは事実だけどね?

 

以前、癒羽希さんがたらい回しにされているのは本人が攻撃魔法のマジックチップを入れていないからだ、と話したが、真相は違ったのかもしれない。

 

確かに表向きは攻撃魔法のマジックチップを入れていないことだったのだろう。

噂はそう流れてきたし、本人も加入時に攻撃魔法を使えないことを謝ってきた。

 

だけど、本当の所はこういう風に陰でコソコソ言われるのに耐えかねて、癒羽希さんを脱退させたのかもしれない。

 

まあ、因みに陰でコソコソ言ってる奴ら、全員実技の成績は大したことがなかった。

そのため、ダンジョン攻略では余り者同士で組んでるようだ。

正直、仮に癒羽希さんがいなくてもダンジョン攻略の成績はうちの方が高い。

 

ただ、俺は大人だから、彼らの言ってることを負け犬の遠吠えとして、切って捨てない。

 

彼らの言うことを真摯に受け止め、そして、こう思った。

 

いや、成績を良くする努力をしない君たちにそんなことを言われても、全然響かん。

 

むしろ、命が懸ってるのに何でそんな余裕なん?

 

少なくとも、もっと強くなる努力した方が良いよ。

 

せめて、授業だけでももっと真剣に受けよう?

 

別に剣凪さんとか穿間さんに潜ってもらえるか頼んだら?とかは思わんし、されたらこっちが困るんだけどさ。

 

「……まったく、好き勝手言ってくれる。」

「毒ノ森君。気にしちゃ駄目だよ。」

 

俺はあんま響かなかったんだけど、毒ノ森君は結構参ってるみたい。

彼って口は悪いけど、結構、情に厚いし、まともな感性してるよね。

 

未だに俺の友達でいてくれてるしね!

 

俺は彼の背中をぽんぽん叩く。元気出せよ。

別に否定的な人ばかりじゃないんだ。

むしろ、安定した実力のパーティーは割と俺たちのこと認めてるよ?

 

俺達も頭下げてでも女性メンバーに入って貰えば良かった~っとか、あそこが取って無かったらうちが取れてたかもってさ。

 

 

ただ、どうやら、みんな否定的な声ばかりを意識してしまってるらしい。

ダンジョンでは今まで通りのパフォーマンスを発揮できてるし、癒羽希さんに当ったりもしていない。

 

それでも、癒羽希さん大好き人間だった棚加君まで参ってるとなるとちょっと困るよねぇ。

 

後、癒羽希さんに関しても何故か思い悩む素振りがある。

今までもこんな風な雰囲気になって、脱退を言い渡されたのかもしれない。

 

う~む、困ったなぁ。

 

凄く困った。

 

何に困ってるのかだって?

 

いやさ、……………………みんなとはダンジョン攻略を通して絆も深まったし、心の底から困ってるなら力になりたって思ってるんだよ。

 

 

でも…………俺も命かかってるからさ。

 

ぶっちゃけ、癒羽希さんには剣凪さんと穿間さんのパーティーに入って欲しいって思ってるんだよね。

 

うん、つまり、誠に遺憾ながら、俺も癒羽希さん脱退派ではある。

 

 

☆☆☆

 

最近、皆さんとってもピリピリしています。

ようやく、今のパーティーの方たちとも打ち解けて、頑張るぞー‼って思ってたのに。

 

この嫌な感じにはとっても、とっても、馴染みがあります。

私を皆さんが、追い出すときの雰囲気です。

 

私がパーティーを組んだ方たちは皆さんとってもいい人たちでした。

 

攻撃魔法のマジックチップを入れようとしない私を受け入れてくれて、「癒羽希さんのお陰でスムーズに抵抗力上昇(レベル)が上がるようになったありがとう」、「癒羽希さんが後ろに控えてくれるから、勇気を出して戦える。ありがとう」そう言ってくれます。

 

なのにある時を境に、その人たちが突如、私をパーティーから追い出します。

 

やっぱり、攻撃魔法を入れない私を徐々に疎ましく感じるようになったのでしょうか?

 

私は…………私は、攻撃魔法を使うべきなのでしょうか?

 

ワンドをギュッと握る。そして、攻撃魔法を使う自分を想像する。

 

怖い、怖い。

魔物を傷つけるのが怖いんじゃない。

 

自分が変わってしまうのが怖いんだ。

 

私のおばあちゃんは皆から救恤の戦巫女と呼ばれていた。

そんなおばあちゃんが私は大好きだった。そんなおばあちゃんみたいになりたいと思っていた。

 

だけど、おばあちゃんは私の頭を撫でながら、「私みたいになるんじゃない。」そう言った。

私は納得いかなくて、何度も何度もなんでそんなこと言うのって尋ねた。

 

『おばあちゃん。何でおばあちゃんみたいになったらダメなの?おばあちゃんはきゅうじゅつのいくさみこでしょ‼』

『…………そんないいもんじゃないよ……その肩書は…………。』

『かっこいいもん‼私なるもん‼』

『…………いいかい、カルミア。救恤の戦巫女ってのはね。敵を殺せて味方を癒せる。そう言う意味を込めて呼ばれるようになったもんさ。』

『そんなの知ってるもん‼敵をやっつけて味方を助けるんでしょ!』

『まぁ、いいから、最後まで聞きなさい。…………私はさ、いつの間にかその肩書に反して敵を殺す事ばかりを考えるようになったんだ。』

『なんで?』

『知っちまったんだよ。敵を殺すことで、救える数の方がよっぽど多いってね。

 

魔物を一人殺せば、その魔物が殺そうとしていた人、殺すかもしれない人たちを救える。ただ、人を癒して救える数は、癒した人間ただ一人。

 

魔物を殺すのは一瞬なのに、人を癒すのには時間がかかる。それに、場合によっては助けられないかもしれない。

 

回復魔法を以てしても。

 

そうして、私は敵を殺すことに傾倒していった。

 

間違ったことだなんて思っちゃいなかった。…………ただ、ある日ね、回復魔導士のテントに子供が運ばれてきたんだ。

 

魔物に襲われた子がね。

 

その子は一度、私たち回復魔導士の下に連れてこられた。

その時は息もあった。

 

………………私は当時、攻撃魔法士としても上位の実力者であったから、その子を他の回復魔導士に任せて、敵を殺しに行った。』

『その子は…………死んじゃったの?』

『…………ああ、死んだ。…………私なら間違いなく助けられた。………………いいかい、カルミア。私は回復魔導士は魔物を殺したらおしまいだと思ってる。

 

心に潜む怪物に魅入られちまうんだ。だから、あんたが……本気で回復魔導士として活躍したいなら攻撃魔法は使わないことだ。』

『…………うん。分かった』

 

 

おばあちゃんと交わしたその約束は、未だに私の脳裏に焼き付いている。

私は怖いんだ。攻撃魔法を使うようになって、敵を殺すことに重きを置くようになって、そうしていずれ、大切な人を見殺しにしてしまうんじゃないかと、怖くてたまらないんだ。

 

…………でも、このままだとまた、追い出されてしまう。

 

私は、私は攻撃魔法を使うべきなんだろうか?

 

分からない、分からない。どうするのが正解なのか分からない。

 

「…………大丈夫?癒羽希さん、顔色があまり良くないけど……」

「いえ、大丈夫です。私は全然問題ないですよ。元気もりもりです‼」

「そう?ならいいんだけど」

 

どうやら、私が考え込んでいたから未裏さんが心配してくれたようです。

しっかりしなくちゃいけませんね。

 

私は前を向いてずんずんと歩いていきます。

その時、偶々、考え込んでいる様子の音長君が目に入りました。

だから私もさっき気を使ってくれた未裏さんの真似をして声をかけてみることにしました。

 

「音長君!どうされましたか?」

「…………ん?いや…………仮に癒羽希さんが回復魔法のみで戦っていくのなら別のパー「ってめぇ‼おとながぁぁ‼それ以上言ったらぶっ飛ばすぞ‼」……ごめん、ごめん、冗談だよ。」

 

音長君が別のパーティーへの移籍を提案しようとした所で、棚加君が怒りながら止めにかかります。

ただ、棚加君は怒りを抑えられない様子で未だに音長君の胸倉を掴んでいます。

…………私が原因なんだから、私が止めなくちゃ‼

 

「あ、あの「やめろ‼二人とも、みっともないぞ‼」」

 

私が声を張ろうとした所で、毒ノ森君が二人を止める。

 

「…………すいません。癒羽希さん、君は僕たちにとってかけがえのないパーティーメンバーだ。

是非、これからも僕たちと共にパーティーを組んで欲しい。」

 

毒ノ森君が頭を下げながら、私にパーティーに居て欲しいと頼んでくる。

 

「……はいっ!勿論です。」

「ありがとう。……それと、音長君、次、似たようなことを言ったら冗談でも許さない。

…………その時は、君がパーティーを脱退する時だと覚えておいて欲しい。」

「……………わかったよ。すまなかったね、癒羽希さん」

「い、いえ!私は全然気にしてませんので!」

 

…………私のせいで、皆さんの関係が壊れちゃうのは嫌だな…………。

 

その後のダンジョン攻略は皆さんいつも通りの力を発揮し、弧囃子さんからも「いつも通り安定した立ち回りが出来ているわ。私が離れるのも時間の問題かもしれないわね。」と言って貰った。

 

でも、このままで本当に良いのかな?

 

私がいなくなれば全部丸く収まる。

本当はそうするのが正解なんじゃないのかな?

今ままでそうしてきたみたいに…………。

 

もう、何が何だか、分からないよ。どうすれば正解なの?

どうすれば、良いの?…………攻撃魔法が使えれば良いの?

 

そうすれば、音長君も私をパーティーメンバーとして認めてくれるの?

 

おばあちゃん。私、どうすれば良いのか分かんないよ。

 

☆☆☆

 

ふむ、それとなく剣凪さんのパーティーとくっつけようとしたら棚加君にめっちゃ怒られた。

毒ノ森君からも注意を受けた。

 

解せぬ。

 

いやぁ、癒羽希さんさえ納得させられれば、後は魔導師Pとして真道君辺りに接触して、何とか癒羽希さんを剣凪さんのパーティーに入れられるように取り計れたのになぁ、残念。

 

さてさて、一番簡単なプランAが失敗してしまったし、プランBを…………考えなきゃだよなぁ。

勿論、俺としても円満に別れられるように取り計らうつもりだ。

 

癒羽希さんやうちのパーティーメンバーとはぜひぜひこれからも仲良くしていきたいしね。

にしても、普通ならこんな過剰な反応されないと思うんだけどなぁ。

だって、俺らと彼女では実力が釣り合ってないのはみんな分かってるだろうし。

あっ、勿論彼女が上で俺らが下って意味ね?

 

そう考えると、やっぱり、外野の野次のせいかなぁ?

 

個人的にはどうでもいいけどちょ~っと邪魔くさく感じて来たなぁ。

 

まっ、勿論だからって彼らに危害を加えたりはしないんだけどね!

 

人の恨みって怖いし、彼らにだって、肉壁とか囮とか彼らにしかできない重要な役目があるからね!

 

取り敢えずは皆の機嫌を損ねっちゃったから、ご機嫌を取らなくちゃ。

 

特に、癒羽希さんには誤解を生むようなことを言ってしまったしね。

彼女の力を高く買っていることを伝えないと!

 

その上で、どうにか、こうにか、君の実力的に剣凪さんたちと組むのが良いよって教えなくては。

 

…………本来ならこんな出来事無かったんだけどなぁ…………。

 

いや、そんな考えをしてはダメだ‼

多くの生徒が生き残ったことを喜ぼう。

 

戦力が増えれば、俺の死亡率も下がるしね。

 

俺はそう決意を固め、寮に帰った。

 

寮に帰った後は毒ノ森君と棚加君に謝った。

 

「ごめん‼二人とも、ダンジョン前であんなこと言って。」

「いや…………僕も言い過ぎた。はぁ……他人に強い言葉を使っちゃうのは僕の悪い癖だ。」

「その………俺もすまん!お前が悪い訳じゃないのに、カリカリして、当たっちまった。」

「…………二人とも………ううん、陰でコソコソ言う人たちの話を聞いて、確かに俺たちの班と癒羽希さんじゃあ釣り合いが取れてないかもって思っちゃったんだ。

それで…………あんなこと言っちゃって…………。」

「…………音長君の言いたいことは分かるよ。でも僕は、癒羽希さんがこのパーティーに居たいと言っている間は居させてあげるべきだと思う。」

「ああ、俺も毒ノ森の意見に賛成だ。」

「……そうだよね。二人とも」

 

うん、そうだよね~。

 

俺としても剣凪さんたちとパーティーは組んで欲しいけど、無理矢理組ませてやる気が無かったら意味ないし…………どうにか、円満に移籍して貰わなくちゃ。

 

 

 



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命がけの戦いに安定なんて無かったのかもしれない……。

☆☆☆

 

ということで、俺が毒ノ森君と棚加君を怒らせた日から一日が経った。

鉄は熱いうちに打てって言葉もあるし、他人に謝るのって日が経てば経つほど、なんとな~く言い出しづらくなるから俺は朝のホームルームの前に早速癒羽希さんに謝りに行くことにした。

 

俺ってば偉い。

やはり、こう言う所で前世の経験が生きているよね!

 

いや、前世っていうけど前の世界の俺って、死んでるのかな?

色んな事がありすぎて考えるのを放棄してたけど、そもそも、ここに来る前何してたのかも覚えてないんだよな。

 

まあ、いいか。

 

今重要なのは癒羽希さんにあって、謝ることだからな。

 

「すいませ~ん、癒羽希さんいますか?」

 

俺が回復魔法科の教室の前で癒羽希さんを呼ぶと、俺の存在に気づいた癒羽希さんがトコトコと小走りしながら、こちらに駆け寄ってきた。

 

しかし、その顔は少しだけ不安そうだ。やはり、変に勘違いをされてしまっているのかもしれない。

 

「やぁ、癒羽希さん、少し時間貰っても良い?」

「は、はい、ホームルームまでなら………」

 

そう言うと俺と癒羽希さんは場所を移し、人気のない廊下へと場所を目指す。

 

………………

一応善意のつもりだったんだけど、人気のない場所に着いた癒羽希さんはとてもびくびくしている。

いやぁ、少し込み入った話だし、人気のない場所を選んだけど、人前とかの方が良かったかな?

 

う~む、外野がどう動くか分からないから何とも言えん。

 

正直、良い予感はしないんだよなぁ。

少なくとも、剣凪さんのパーティーに入れたい俺からすればあまり利にはならないだろう。

 

というか、折角ここまで移動したのに、ここから更に場所を移す必要はないか。

 

面倒だし…………。

 

「あ~、昨日はごめん、癒羽希さん。」

「い、いえ。元々私が攻撃魔法を使えないのが悪いので………」

「違う、違うんだ。昨日、あんなことを言ったのは君が攻撃魔法を使えないのを非難したかった訳じゃない………。むしろ、逆なんだ。」

「…………逆?」

「ああ、君のお陰で俺たちはここまでこれた。癒羽希さんがまだ加入していなかった頃より、何倍も強くなれた。」

「…………音長君」

「ただ、だからこそ、惜しいと思ってしまったんだ。………きっと、癒羽希さんは剣凪さんのパーティーでもやっていける、そのくらいのポテンシャルを持っている。

彼女たちと同じ、百年に一度の、世界すら救えるほどの天才だ。

だからこそ、俺らと一緒に居たら、君の才能が埋もれてしまうんじゃないかって思ってしまったんだ。

 

だけど、君自身の精神面を全く考えられていなかった……すまない、癒羽希さん。」

 

「…………音長君、音長君がそこまで私を評価してくれていたなんて知りませんでした。

………けど、私は音長君が言うみたいな凄い人じゃないです。

色んな事に悩んで踏み出せなくて、ずっとうじうじとその場で足踏みをしている臆病者です。

 

だから、そんな過分な評価をされてしまったら、今度はプレッシャーで動けなくなっちゃいます。えへへへ」

 

俺が如何に癒羽希さんが替えの効かない人材かを説いたら、癒羽希さんは卑屈な自分を隠すように、いや誤魔化すように笑った。

 

きっと、彼女にこれ以上言葉を尽くしても無駄だろう。

 

「そっか、変にプレッシャーをかけることを言ってごめんね。お詫びにココアあるんだけど…いる?」

「えっ、良いんですか?」

「うん、元々癒羽希さんに渡す気だったし………。癒羽希さん、待ち合わせのとき良くココア飲んでるから、もしかして好きなのかなって思ってたんだ。」

「あ、ありがとうございます。ココアは大好きなんです。」

「なら、良かった。」

 

俺は癒羽希さんにココアを渡すとその場を去る。

 

因みに、別に彼女が良くココアを飲んでいるから、ココアが好きなんじゃないかって考えたわけでは無い。

 

ていうか、知ってた。

 

うん、設定にココア好きは入れてたからさ。

 

むしろ、それでココア飲んでるのが目に付いたまである。

 

………ま、本当におなごの行動から相手の趣味嗜好が分かれば、俺は前世童貞ではなかったのさ…。

 

とはいえ、これで、癒羽希さんに謝ったし、一応未裏さんにも謝っておくか。

 

 

 

 

という訳で、昼休みに未裏さんの下へ来た。

 

「ごめん、未裏さん。昨日はあんなことを言ってパーティーの足並みを乱して」

「私は別にいいわ。あなたが口にしていなければ、みんなが心のうちに貯め込んでいた不満は別の形で爆発していたと思うし。………ま、カルミアには謝った方が良いとは思うわ。

………というか、あなたって意外と律儀ね。」

「ははは、そうかい?

親しき中にも礼儀あり、俺は皆に礼を失しないようにいつも気を付けているんだけどな。」

 

「………そ。………………良いわ、確かに謝罪は受け取ったから、それじゃあね。」

「ああ」

 

彼女は何が良いたいんだ?

まったく、いいたことはもっとはっきり言って欲しいよ。

 

 

「…………最後に一つだけ言って置くわ。

誰かに好かれるには他人に嫌われる覚悟が必要よ。それが出来ないで、表面上だけ他人に合わせてるあなたは何時まで経っても一人ぼっちよ」

「…そっか、肝に銘じておくよ」

 

未裏さんは立ち去る前に一度振り返って俺に忠告のような真似をしていった。

 

正直、彼女が何を言いたいのか全く分からなかったよ。

 

 

☆☆☆

 

まっ、そんな一幕もあったけど、気を取り直して、皆に謝り終えたぞぉぉ!

やった~

 

いやはや、これでようやく、毒ノ森班も完全復活☆

って感じだよね。

 

いや~、一時は冷や冷やしたけど、皆メンタル持ち返したと思うし、後はどうやって癒羽希さんを剣凪さんのパーティーに入れるかだよね。

 

ムムム、と唸りながらも俺たちはダンジョンに向かう。

 

悩みどころだよ。

 

はてさてどうすれば良いんだろう?

 

説得は出来なかったし、今は取り敢えずタイミングを探す以外に無いか~。

絆を深めていけばいずれは心を開いてくれるかもしれないしね。

 

『…………最後に一つだけ言って置くわ。

誰かに好かれるには他人に嫌われる覚悟が必要よ。それが出来ないで、表面上だけ他人に合わせてるあなたは何時まで経っても一人ぼっちよ』

 

未裏さんの言葉がちらつく。

 

………ほんと、難しいことを言ってくれる。

 

 

俺がそんな風に悩んでいると雑兵級ダンジョンまで着いた。

俺たちが通っている戦人型魔物の雑兵級ダンジョンは学校の直ぐ近くにあるため、実はそんなに遠く無い。

 

むしろ、ダンジョンのある場所に学校を建てたと言っても良い。

 

俺たちはそこで少しの間、防人の弧囃子さんを待つ。

とは言っても、弧囃子さんは時間にキッチリしているため、俺たちが到着してから五分くらいでダンジョンの前で落ち合えた。

 

「おはよう、全員集まっているわね?」

「「「「「はい」」」」」

「よろしい、では今日もダンジョンに潜るわ。

ただ、その前にあなた達に伝えて置くことがある。」

「伝えて置くこと、ですか?」

 

毒ノ森君が俺たちの気持ちを代弁して、疑問を口にした。

 

「ええ、現在あなた達の通う防人魔法学園の生徒がダンジョンで行方不明になっているわ。しかも、あなた達と同学年の、ね。」

「えっ?ですが、僕たちには防人の方がついていますよね?一体何で…………」

「…………防人の中にも行方不明者が出ているのよ」

「「「「「えっ?」」」」」

 

これは不味い。非常に不味い。

二つ目のイベントが始まった。

 

『悪食変性・ブラッド・オブ・エボリューション』

 

主人公たちという百年に一度の天才が同時にこの世界に生まれたことを受け、相手側が取った対抗策の一つ。

 

いや、元々計画自体は進んでいたから、急遽前倒しになった、と言う方が正しいだろう。

 

そして、相手が取った新たな策。新たな魔物。

 

それこそが、今回投入された獣人型の徒大将級魔物、ウェアウルフである。

このウェアウルフは戦闘能力こそ通常の徒大将級と比べれば、数段劣るものの奴が持つ固有魔力波が非常に厄介なのだ。

 

というか、一連の強化魔物事件は全部こいつが犯人である。

 

……えっ?

そもそも固有魔力波ってなんだよって?

 

説明しよう、この世界には二通りの異能が存在する。それこそが魔法と特殊魔力波。

そして、種族もまた進化の過程で、魔法が使えるようになったもの、特殊な魔力波が使えるようになったものに別けられる。

 

魔法を使える種族は前にも話した通り、天使、小人、戦人。

特殊魔力波を扱えるのが、鬼人、獣人、そして一部の人間。

 

魔力波を使えるものに関して一部の人間と答えたが、これを説明するには魔力波というものについて少々、説明しなくてはならない。

 

魔力波とはその名の通り魔力の波であると共に、魔力を魔法という形に加工せず外に放出することで、外界に影響を与える技術のことでもある。

この魔力波という技術自体は魔力を持っていれば誰もが扱える。

しかし、殆どの使い手がそよ風を起こす程度しかできないため戦場では殆どや役に立たない技術と言われている。

 

勿論一流の使い手であれば魔力波を出した場合、草木を揺らすこともあるが、そんなのはごく一部だ。

 

魔法を使える種族は勿論、魔力を持っていても魔法は扱えない種族からしても無用の長物だった。

 

しかし、魔法を扱えない種族が過酷な自然界を生き抜くには何らかの武器が必要だった。

他の獣たちを打ち倒せるような武器が。

そんな中、魔法を扱えない種族はこの無用の長物と化していた魔力と言うエネルギー、そして魔力波と呼ばれる技術を変質、進化させることで自然界を生き抜いた。

 

人間もその種族の一つだ。

 

ただ、魔法が使えない他の種族が住む世界と比べ、人間界は資源に富んでいた。

そのため、時代が進むにつれ魔力波や魔力と言った厳しい世界で生き抜く術は徐々に失われていった。

 

勿論、資源に富んでいたからといって、争いが全くなかった訳ではない。

 

人間同士での争い、他世界にいる別の種族たちからの侵略。

 

脅威はあった。ただ、人には科学があった。

 

また、それを発展させ、魔法すら解明してみせた。

 

そうして、特殊魔力波と言う過酷な世界で生き抜く術は徐々にその意義を失い、不要な機能として切り捨てられた。

 

ただ、その名残だけは、まだ人の体に残っている。

そして、外から流れ込んでくる穢れた魔力と強い力に対する欲求によってのみ目覚めることがある。

 

その人間の願いの一助となる、自分だけの魔力波、固有魔力波を。

 

因みに、獣人や鬼人は自分だけの固有の魔力波の他に同種族なら誰もが扱える特殊な魔力波もある。

 

身体強化とか、遠吠えで相手にデバフかけたりとか、色々出来る。

 

まあ、ごちゃごちゃ言ったけど、詰まる所、種族スキルと固有スキル的なやつ。

で、人間は種族スキルこそ無いけど、固有スキルに目覚める奴がいるよって感じ。

 

更に言うと、この章のボスとなる獣人型の魔物には噛みついた魔物にレベルアップの機能を与える、という魔力波が宿っている。

 

勿論、俺たちの抵抗力上昇(レベルアップ)とは少し違う。

噛まれた魔物は魔力持ちを食らうことによって力を増すのだ。

 

つまり、人を食らえば食らうほど強くなる。

不幸中の幸いとして魔物同士で食い合うことはしない。

 

魔物の絶対数を減らしたくないから。

 

とは言え、それでも十分脅威、いや、食い合って強化されるより絶対数が多い分、俺達、防人の卵や未熟な防人たちからすればこっちの方が脅威だ。

 

「………みんな、気を引き締めていこう」

 

毒ノ森君の言葉に俺たちはコクリと頷く。

強化された魔物は本来の等級よりも強い、それどころか雑兵級の魔物が足軽大将級に片足突っ込んでいても何ら不思議ではない。

 

絶対に油断してはいけない相手だ。

俺はそのことを胸に刻み、何時もより慎重にダンジョンに入った。

 

 

 

それから、暫くたった。

うむ、今のところ異常はない。

 

まだ、レベルアップ可能な敵もそこまで増えていないようだ。

 

通常の雑兵級の魔物を俺たちはいつも通り、処理してく。

 

いつも通りの強さの敵に他のメンバーも幾分か表情が柔らかくなっている。

まあ、当然だよね。強力な防人すら殺す、じゃなかった。

 

ゴホン、ゴホン。

 

強力な防人も行方不明になっているって言われてガッチガチになってたもんね。

超強力な魔物が徘徊してると思っていたら、思った以上にいつも通りで拍子抜けしちゃうよね。

 

「今のところはいつも通りだよな」

「ああ、だが、何があるか分からない気を引き締めていこう」

 

毒ノ森君は気が緩みかけた棚加君にそう告げる。

 

………確かに、声に出したのは棚加君だったけど俺も気が緩んでいた。

 

命大切っていうからにはこう言う所で油断しちゃいけないよな。

気を引き締めなおさないと。

 

「前方、敵が来るわよ。」

 

俺が気を引き締めなおしたタイミングで未裏さんが敵影を発見する。

俺は武器をしっかりと握る。

 

 

敵の手には魔力塊が浮かぶ。

雑兵級の魔物が覚えている魔法、魔法弾だ。

 

「「「マナシールド」」」

 

俺と毒ノ森君、未裏さんが≪マナシールド≫を展開し、敵の攻撃を防ぐ。

こういった場合は基本的に防御魔法士が単体で結界を張ることが多いのだが、うちでは前衛の魔剣士と防御魔法士のどちらもシールドの展開を行う。

 

勿論、この方法では効率良く狩りをすることはできない。

ただ、効率よりも安全をとっているうちのパーティーでは敢えてこの方法を取っている。

 

「奴の動きを止めるぞ。音長君」

「了解」

 

俺と毒ノ森君は突っ込んでくる敵の前に立ちはだかる。

そして、剣でもって奴の拳を受けようとする。

 

『ガキン』

 

俺と毒ノ森君の剣は敵が魔法で生み出した二本の剣によって防がれてしまう。

 

「「なに?」」

 

あり得ない。

 

雑兵級が使ってくる魔法は魔法弾のみ、他の魔法は使ってこない。

なのに、何故敵は別の魔法を使える⁉

 

それだけじゃない。魔法弾を放ってからのインターバルが短すぎる。

普通の魔物じゃない!

 

「弧囃子さん!」

「分かってる」

 

俺は弧囃子に助けを求める。

確実にこいつは強化種だ。

間違っても俺達、見習いが相手をしていい敵じゃない。

 

弧囃子さんも瞬時にそれを判断し、敵に突っ込む。

 

これで終わりだ。

いくら強くても上位の防人である弧囃子さん相手は分が悪いと判断し逃げ出すはず。

逃げ出さなかったとしても、弧囃子さんレベルの防人に癒羽希さんのバフが乗れば絶対に勝てる。

 

俺はそう考えていた。

敵は問題なく倒されると、だけど、俺がそう思った瞬間、敵は笑った。

 

そして、スッとその場から消える。

いや沈んだ。この魔法は‼

 

「シャドーモールです!全員警戒」

 

俺の言葉に緊張が走る。

そして、お互い背中を合わせる。

 

幸い、≪シャドーモール≫という魔法は発動中に移動速度が遅くなり、何より発動中は息が出来ない。

 

弧囃子さんなら、直ぐにこちらに来れる筈だ。

 

「っがぁァ」

 

ただ、その予想は外れる。

棚加君の足を魔物の手が掴んだのだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ、助けて、助けてぇぇぇぇっぇぇぇ‼」

「≪マジックブースト≫」

「≪フレイムショット≫」

「≪アクアアロー≫」

「≪ストーンニードル≫」

 

棚加君の叫び声を受け、癒羽希さんが未裏さんに魔法強化のバフをかけ、未裏さんはその場で、俺達は棚加君の下に駆け寄りながら、攻撃魔法を放つ。

それにより、地面が揺れ、魔物の苦しむ声が聞こえるが、マジックチップを変える手間を考えるとどうにも間に合いそうにない。

 

せめて、近くに攻撃魔法士がいれば、魔物の潜伏する影を攻撃し、棚加君を解放させられるのだが、肝心の攻撃魔法士である棚加君があの状況だと手の打ちようがない。

 

というか、本来この状況はあり得ない。≪シャドーモール≫を使った際は速度が落ちる。

 

なのに、全く、落ちていない。

 

可能性は二つ、一つは敵の速度が俺の想像以上に速い場合、もう一つは

 

「弧囃子さんッ!気を付けて」

 

俺は後ろを振り向きながらそう言うが、弧囃子さんには聞こえていないのか尚も血相を変えてこちらに走り寄る。

だから、対応できなかった。

このタイミングを虎視眈々と狙っていた背後から出てくる、強化種に。

 

そして、弧囃子さんは後ろから胸を二本の剣で刺し貫れた。

 

「撤退だ」

 

俺は足を止め皆に告げる。もう勝ち目はない。

逃げる以外に方法は、もうない。

 

「いえ、戦いましょう!棚加君はまだ生きてる。生きてるんだったら、戦うべきよ!」

 

涙を瞳に貯めながら未裏さんは戦うことを進言する。

こうなってくると後は毒ノ森君の判断次第だ。

 

俺と未裏さんは毒ノ森君に視線を向ける。

毒ノ森君は刺された弧囃子さん、既に右手を残して全身を影に呑まれた棚加君に視線を向ける。

 

「…………撤退だ」

 

その言葉に俺は頷き、未裏さんは項垂れるように俯く。

癒羽希さんはまるで現実を受け入れられていないように呆然とそれを眺める。

 

俺たちの心は、志は完全にバラバラになっていた。なっていたが、バラバラであっても俺たちは何とかダンジョンから脱出することが出来た。

 

いや、恐らく、棚加君と弧囃子さんを手に入れたため、十分と判断され、見逃されただけだろう。

 

所詮、奴らからすれば見習いの防人なんて何時でも捕食できる相手なのだから。

 

 




おまけ

弧囃子サイド

私は弟や妹を守るために防人になった。
そんな私からすれば少しでも戦力が必要とは言え、守るべき子供を死地に追いやる今の制度はいただけない。

とは言え、1防人に出来ることなんて高が知れてる。
だからこそ、私が受け持つ防人候補生だけは絶対に守り抜く‼

私はその覚悟を胸に魔剣に子供たちを守れるよう防御系のマジックチップと治療できるよう回復系のマジックチップをセットする。


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反省も後悔も大切だけど、そういったことが許されない状況もある

☆☆☆

 

ダンジョンを出た俺たちは喋ることもなく、学校へ向かって歩く。

 

誰も喋る気力なんてなかった。話せる精神状態ではなかった。

 

俯きながら、無力感に苛まれながら、歩いていた。

 

それは俺とて同じだ。

俺は所詮、只の端役(モブ)、皆を守れる英雄ではない。

そんなことは分かっていた。分かってはいても、歯がゆかった。

 

それに、実感が伴っていなかった。今までなんやかんやで上手くいっていたから。

作者であり、物語の創造主という驕りがあった。

 

でも、なんてことは無い。俺は神じゃないのだ。

この世界の住人になっている今、俺はちっぽけな防人候補生でしかない。

 

人は死ぬ。物語を作っている時、当たり前のように端役(モブ)が被害に遭っていた。

 

犠牲になっていた。

 

物語を引き立てるスパイスとして。

 

そして、物語のように端役(モブ)たちが今日もまた犠牲にあった。

 

棚加君が捕まり、弧囃子さんが死んだ。

 

それはとても悲しい事だ。

棚加君と過ごした何気ない日常が昨日のことのように思い出せる。

弧囃子さんが教えてくれたことが脳裏をよぎる。

 

でも、それ以上に、俺は自分が死ぬことが怖い。

体の震えを抑えられない。

 

やっぱり俺は物語の主人公のようには慣れない。

肉体に宿る才能だけじゃない。

 

仲間に対する想い、恐怖を抑え込む勇気、味方を鼓舞するカリスマ。

 

俺は何一つ持ち合わせていなかった。

 

結局、心の中で他人に対し優位を取ろうとする、浅ましく醜い心の持ち主は、只、物語を引き立てる端役に戻るのが相応しかったのだろう。

 

いや……………もしそうなら、一番最初に死ぬべきだったのは俺であるべきではないのか?

 

端役(モブ)であるにも関わらず、その在り方から脱却しようとした身の程知らず(このおれが)が死ぬべきだ。

 

だったら、これは運命の強制力なんかじゃない、魔物の悪意が原因だ。

 

勘違いしちゃ駄目だ。何かを為すのは意思の力だ。

 

神様でも運命でもない。

 

人が死ぬのも、人が生かされるのもそれは誰かの意思によるものだ。

もしくは、観測できる道理の上で成り立っている必然だ。

 

目にも見えず、抗うことも叶わない理外の力なんかじゃない。

 

現実として、俺は生きている。

 

なら、まだ足搔こう

足掻けば、それは仮定として現れる。

 

下を向くのはやめよう、未来に怯えるのはやめよう。

 

だって、俺は死にたくない。出来れば今いる皆にも死んで欲しくない。

その想いは今も変わっていないのだから。

 

俺はしっかりと前を見据える。

 

未裏さんは俯き、涙を流していた。

癒羽希さんは震える体を必死に手で押さえていた。

毒ノ森君も唇を咬み、手を強く握りしめていた。

 

みんな、今回の件で心に傷を負ったのだろう。

 

俺だけじゃない。それが分かった。

 

それも、きっと俺よりも深い、深い、傷を負った筈だ。

 

俺は毒ノ森君の肩を叩く。

 

「…………どうしたんだい?」

「着いたよ、学校」

 

そう、既に学校の目の前までついていた。

俺も含め、只々、ぼうっと歩いていたため、気づくことが出来なかったのだ。

 

「……ああ、そうか。じゃあ、取り敢えず今回の件を学園長に報告しないとな」

 

毒ノ森君は幽鬼のように、ふらふらと事務を目指す。

うちの学校では死者が出た場合は生徒自ら学園長に報告する義務がある。

 

これは死亡者の連絡の際に間違った情報が流れないようにするためと、学園側は死者が出る現在の状況を重く考えている、と外部に示すための演出だ。

 

まあ、演出とは言っても、現在の状況を軽く見ているわけでは無い。

だからこそ、腕の立つ防人を派遣しているわけだし。

 

ただ、それと同時に学園側は多少の犠牲はやむを得ないとも考えている。

 

いや、国がそう考えている。

 

だからこそ、学生の内からダンジョンなんて命がけの場所に潜らせる。

 

現実問題として、そこまでしないと人間は魔物に太刀打ちできないから国が悪いとも言えないけど。

 

 

ただ、心ここに非ず、と言った様子の毒ノ森君を見ると心配になってくる。

そのため、面会の手続きに関しては俺が代わりにおこなった

 

いくら、死者の報告と言う重大な話とは言っても学園長という役職上多忙になってしまうため、面会できるまでには時間が必要だと考えていたのだが、流石、と言うべきかそれから五分と経たず、学園長の下に通された。

 

学園長室は木材を使った非常に重厚感のある部屋であり、ソファには白髪の男が座っている。

 

男は白髪であることからかなり高齢であるだろうに、その体は今も現役であると言いたげな程逞しかった。何よりもその顔には無数に傷があり、歴戦の戦士であると否が応でも理解させられる。

 

 

「………ふむ。まずはお疲れ、っと言って置こう。」

「…………いえ」

 

毒ノ森君は学園長を目の前にしても、尚、弱弱しい様子を隠そうとはしない。いや出来ないでいた。

 

学園長にもそれが分かったのか、俺たちを見回し、ピタリと俺で視線を止める。

 

「分かった、済まなかったな。君は少し休んでいてくれ。それで、代わりにそこの君、名前は?」

「音長盆多です」

「分かった。何が起こったか教えてくれるか?」

「はい、俺たちは雑兵級ダンジョンに潜っていたのですが、そこに≪シャドーモール≫を使う魔物が二体現れました。また、一体に関しては≪創剣≫も使用していました。

 

とはいえ、魔物たちが二体同時に襲ってきたわけでは無いです。接敵時は一体だけが俺たちの前に姿を現し、もう一体は≪シャドーモール≫で潜伏していたようです。」

「ふむ、では片方が囮として君たちの前に現れた、ということか?」

「はい、初めに姿を現した敵は俺と毒ノ森君が抑えにいったのですが、敵が≪創剣≫を使った時点で雑兵級でないと判断したため俺たちは担当防人の方に助けを求めました。」

「……悪くない判断だな。」

「ありがとうございます。しかし、相手はそれが狙いだったようで担当防人の方が俺たちの下に辿り着いた時点で≪シャドーモール≫を発動し、陰に潜伏。我々が潜伏した魔物を警戒した所で、()()()()()()()()()()()()()()が棚加君……うちの攻撃魔法士の体を影に引きずり込みにかかりました。

 

そして、それを見ていた担当防人は自分の目の前で≪シャドーモール≫を使った個体が攻撃魔法士を引きずり込もうとしていると誤認し、いえ、誤認させられ、が正しいのでしょう。……そうして、誤認させられたことによって背後への注意が疎かになり、無防備な背中から一突きされ、死亡しました。攻撃魔法士に関しても、助けようとはしたのですが………………残念ながら」

「……分かった。

君たちのお陰で最近の行方不明騒動に関して色々分かった。

今日はゆっくり休むといい。」

 

俺たちは頭を下げると学園長室を出る。

 

そして、今日はもう流れ解散かと思ったとき、未裏さんが俺の胸倉を掴む。

 

「…………ねぇ。何であんたは平気そうなの?

仲間が死んだのよ?悲しくないの?」

「悲しいよ。………ただ、悲しんでばかりもいられないだけだ。」

「あんたはッ‼そうやって直ぐ上っ面の言葉を吐く。本当はどう考えてるよ。何考えてるのよッ‼

いえ、当ててあげる。あんたは仲間のことなんて考えてない。仲間の死なんてどうでもいいんでしょ?じゃなきゃ可笑しいわよッ‼

 

動揺一つ見せずに撤退を選択し、さっきだって淡々と報告を行った‼」

「それは、それが必要だっただけだ………………。」

「……それよ、あんた、必要なら機械にでもなるわけ?そんな訳無いでしょ?

人間なんだからッ‼必要だからって出来るわけないッ‼」

「…………やめろ、音長君を責めても何も変わらない」

「…………それは」

「……みんな疲れてるんだ。今日はここで解散としよう。」

 

毒ノ森君はそう言うとその場を歩き去ってしまう。

そして、俺達もその場で各々の寮へと帰っていく。

 

帰る際に未裏さんには睨まれたが、彼女も今日のことで不安定になってしまったのだろう。

 

きっと、休めば良くなる。

 

良くなるはずだ。

 

皆の精神も俺たちの関係も。

 

☆☆☆

 

あれから俺たちは新しいメンバーと担当防人が決まるまで自主訓練を言い渡された。

ダンジョンは非常に危険な場所であるため、当然と言えば当然だろう。

 

とはいえ、不幸中の幸いと言えるかと言われれば微妙だ。

それは毒ノ森君たちの精神面もあるが何よりも………………。

 

「あいつら、癒羽希さんに面倒見て貰ってるのに班員に死人出したらしいぜ?」

「ええっ?こわ~い。まあ、癒羽希さん以外大したことないんだから当然よね。」

 

前よりもやっかみの量は減ったが、それでも時折こういう奴は現れる。

因みに量が減った理由は生徒自体が物理的に消えたからだ。

 

「そう言えば、死んだ奴って誰なんだろうな?」

「あ~、棚加よ、棚加。あいつって女子に目が無くてちょっときもかったのよね。

わたしも~、何だか、性的な目で見られてた気がするし~」

「おいおい、安心しろ俺が守ってやるからっ、ともういないんだったな。ははははは」

 

そう言って笑いあう男女の組を俺は無視して歩き続ける。

しかし、隣にいた毒ノ森君はピタリと足を止めた。

 

そして、笑いあう男女の組の前で足を止めると、思いっきり拳を振りぬいた。

 

「ヴォハッ‼」

「きゃぁぁぁぁ、あんた何すんのよ‼」

 

男が殴り飛ばす。それを目のあたりにした女は悲鳴を上げ、抗議をするも毒ノ森君の拳により吹き飛ばされる。

しかし、それでも毒ノ森君は止まらなかった。

 

起き上がり殴り返そうとする男の腕を受け止め、一度引いてから再度押すことで相手のバランスを崩し、片足が浮いたところで地面に着いたままの足を払う。

そして、綺麗に転んだところにマウントを取り両手で交互に両頬を殴る。

 

それを見ていた女も初めは止めようとしていたが、毒ノ森君が止めようとした女を再度殴ったことで恐れをなしたのか、只々呆然と見ていた。

 

俺もこんな怖い毒ノ森君見たことが無くて止めることが出来ず、その場で立ち尽くしていた。

 

………………いや、マジで怖かった。

 

完全に顔が般若のそれだった。

 

そんな混沌とした状況を止めたのは、その場を通りかかった教師だった。

 

「おいっ!お前たち何をしている」

 

教師に見つかってからは早かった。

 

あれよあれよと俺たちは何故か学園長の下まで連れていかれたのだ。

 

学園長は自前の顎髭に撫でながら鋭い視線をこちらに向けてくる。

 

っていうか、めっちゃ手入れされてるな、その顎髭。

 

「…………毒ノ森班、一つ聞きたいんだが………俺はお前たちに自主訓練を命じた筈だが、お前らにとっての自主訓練ってのは同胞を殴ることだったのか?」

「…………………………。」

「……いえ、相手がこちらの仲間を侮辱してきたので殴ったまでのことです。不和を持ち込む人間の方が組織にとって有害だと判断したのですが?」

 

俯き続ける毒ノ森君に変わり俺は学園長に反論をする。

 

「成程な、だが、そこでボコボコの顔を晒してる奴らもオレ達からすりゃ、大切な生徒であり、未来の防人だ。その辺分かってんのか?」

「…………はぁ、ならその防人が組織の害になる前で良かったじゃないですか。

ほら?俺たちは防人とかいう血生臭い職業に就くことが決まっていますし、むしろ、拳で語っているぐらいが健全じゃないですか?」

「あのなぁ、てめぇの考え方はふりぃんだよ。今は生徒を大切に大切に育てるってのが潮流だぜ?」

「…………黙れよ」

 

俺と学園長が言いあっていると、俯いていた毒ノ森君が口を開いた。

しかも、地獄の底から聞こえているかのようなとても低い声で。

 

いや、低いっていうか怖い声で。

 

学園長はその声に少しだけ口角を上げる。

 

いや、何が面白いんだよ!

 

「あ?何だって?聞こえねぇよ」

「…………うるせぇっつってんだよ‼さっきから聞いてれば体裁だけ整えやがって、何が今は生徒を大切にだよッ‼

なら、コソコソ言ってくる奴をまず黙らせろよッ‼ダンジョンなんて危険な場所に生徒を放り込むんじゃねぇよッ‼

昨日だって、仲間が死んで間もないのに平然と現状の報告とか頼んでたじゃねぇかッ‼この狸爺がッ‼てめぇの息の根から止めてやろうか⁉」

 

そう言うと毒ノ森君は学園長に殴りかかった。

うん、止める暇すらなかった。

 

あの学園長死んだわ。

 

俺はそう思っていたのだが、学園長はパシッと毒ノ森君の拳を止める。

そして、上機嫌そうに歯を剝き出しにし笑う。

 

「あっはっはっは。いいなぁ、お前、最近の甘ったれたガキよりもそこの賢しいガキよりもよっぽどいい‼根性入ってんじゃねぇか‼」

 

学園長は甘ったれたの部分でボコボコされた二人をちらりと見、賢しいの部分で俺の方をちらりと見た。

俺ってそんなに賢しいかな?

普通に愚直に頑張ってるだけなのに………………。

 

ちょっとショック

 

「いやぁ、今日は良い日だ。うん、今回のことは水に流そう。

そこの賢しいガキが言ってたみたいに拳で語らねぇと伝わらねぇこともある。

俺達、防人は特になっ!つーわけで解散‼」

 

そう言うと俺たちは学園長を追い出された。それでも毒ノ森君は学園長に殴りかかろうとしていたから、俺は必死に毒ノ森君を寮まで引きずった。

というか、この後、授業が無いから良かったけど授業があったら、このバーサーク状態で受けたのだろうか?

 

…………普通に死人が出そう。

 

俺でさえ手負いの獣みたいで怖かったのに。

 

 

ふぅ。

まあ、そんなこともありつつ、部屋に着いたら流石におとなしくなってくれたので俺は自分を癒すため甘いものを買いに売店に向かう。

 

 

売店では相変わらず、ピーマンの被り物が売り切れの状態だった。

というか、あの後、学園内で前代未聞のピーマンブームが巻き起こり、ピーマンは死地に赴く際の生還の御守りとして崇められるようになったらしい。

 

いや、マジか。

まぁ、ピーマンの被り物しても正体がバレずらくなったし、別にいいか。

 

「はい、お会計、950円だよ。にしても、そんなお菓子ばっかりかって、ちゃんとご飯も食べるんだよ?」

「はいよ~」

 

俺は心配する売店のおばちゃんの言葉に返事を返すと、再度、男子寮へと引き返す。

売店自体は、四階に存在するため、校門までの道が見える窓も存在する。

 

俺は何気なく、それを眺める。

 

やっぱり、いるのかな?

 

学校抜け出して逢引きとかしてる奴。

 

ちょっと、まあそう言った下世話な好奇心もあった。

 

一応言って置くと別に逢引きしようとする生徒が現れるまで、眺めていたわけじゃない。

ちょうど視線を向けた際に彼女が通ったのだ。

 

他の生徒と比べて小柄な体躯、光を反射する金色の髪、不釣合いなほど大きなワンド、そうその姿は俺たちのパーティーメンバーの癒羽希カルミアだった。

 

 

………………………………………………

 

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。

 

癒羽希さん逢引きすんのッ⁉

 




おまけ


棚加「なぁ、音長。癒羽希さんをデートに誘うならどんな店が良いと思う?」
音長「えっ?そうだなぁ、ココアの美味しい店とか?」
棚加「浅いッ!浅いなぁ、音長は」
音長「……なら、棚加君ならどんな場所を選ぶの?」
棚加「ふっ、抹茶専門店、かな」
音長「その心は?」
棚加「この前!癒羽希さんは親子丼のお供に緑茶を選んでいた‼つまり、ココアが好きと言うのは男を試すためのフェイク!本当は緑茶が好きなんだ。」
音長「…………それは親子丼とココアが絶望的に合わないだけでは?というか緑茶って抹茶なのか?」

その後、インターネットで調べたところ、抹茶は緑茶の一種とされていた。

音長「いやマジかよ」

棚加君はもしかしたら博識なのかもしれない。


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モブはモブなりに頑張ってるんです…………。

前回の話にあった学園長への状況説明のシーンに関して

「しかし、相手はそれが狙いだったようで担当防人の方が俺たちの下に辿り着いた時点で≪シャドーモール≫を発動し、陰に潜伏。それと同時に」の部分を

「しかし、相手はそれが狙いだったようで担当防人の方が俺たちの下に辿り着いた時点で≪シャドーモール≫を発動し、陰に潜伏。我々が潜伏した魔物を警戒した所で」に変更しました。


☆☆☆

 

私が攻撃魔法を使えていたら、棚加君だけでも救えたのではないか?

その考えがグルグルと頭を巡る中、私の耳にとある話が入ってきた。

 

その話は毒ノ森君と音長君が他の生徒に暴力を振るった、というものだった。

 

それもつい先ほど。

あくまでも寮の談話室で話している女子生徒の話が偶々入ってきただけなので詳しいことまでは分からなかった。

 

ただ、毒ノ森君と音長君がそんなことをする人じゃないと私は知っている。

毒ノ森君は仲間を大切にし、他人を尊重し、どんな時でも周りを気にかけていてくれていたのだ。

 

音長君は初めこそ厳しい人なのかと思っていたけど、話してみればとても気さくで、気づかいの出来る人だった。

 

感情が表情に出ずらいから未裏さんを含め、勘違いされちゃうこともあるけど、音長君もすっごく良い人。

ココアを貰った日に、音長君の本心を聞いた日に、私はその確信を深めた。

 

だから、真実を確かめに学園長の下まで足を運ぶことにした。

手続きは不慣れだったから、かなり時間は要したけど、待ち時間自体は少なく私は無事に学園長に会うことが出来た。

 

学園長はとっても怖そうな、ムキムキのお爺さんだ。

 

「ったく、お前たちは俺のことが好きなのか? 毒ノ森班。今日だけで三人と対面で話すことになるとはな?」

「すいません。ですが、聞かせてください。毒ノ森君と音長君は本当に他の生徒に暴力をふるったんですか?」

「ああ、そう言ってたぞ」

「………理由は、毒ノ森君たちはなんて言っていたのですか?」

「あ?ああ、仲間を馬鹿にされたからって言っていたな。」

 

私は本当に暴力を振るっていたことにショックを受けつつも、ただ、虐げるために振るったわけでは無いと知り、ほっとする。

 

談話室で噂されていた内容では、とある女子生徒にちょっかいをかけようとした毒ノ森君たちは女子生徒が自分たちを拒絶したことに激怒し、女子生徒を庇った男子生徒ごと暴行を加えた、という風に話が広まっていたのだが、実際はそんなことは無かったようだ。

 

でも、誰がこんな根も葉もない噂を流したのだろう。

 

私は思考の海に潜ろうとする。

ただ、潜ろうとした所で、学園長に声を掛けられてしまう。

 

「そう言えば、俺からもお前たち毒ノ森班に聞きたいことがあったんだ。」

「……聞きたいことですか?私が答えられる範囲のことであれば答えますが……」

「じゃあ、遠慮なく聞かせてもらうが、…………癒羽希、お前の成績を見て気づいたんだが、お前、既に相当の実力だろ?お前の攻撃魔法でも棚加を助けられなかったのか?」

 

その言葉に私は言葉を詰まらせる。責められているわけでは無いのに、体が自然と縮こまってしまう。

 

「…………私は……補助魔法で援護していたので……。」

「援護?何で援護なんてするんだ?他の班員が攻撃魔法を放つよりお前が攻撃魔法を放った方が有効だっただろう、お前ほどの成績であればいざと言う時の攻撃要員として一枚くらいは攻撃魔法をセットしているだろうし…………毒ノ森の采配ミスか?」

「ち、違いますっ!私は攻撃魔法が使えないんです。私のせいで…………。」

 

私がそう伝えると学園長は得心が言ったとばかりに頷く。どうやら、毒ノ森君たちのせいでは無いと理解してくれたようだ。

 

「…………成程、じゃあ、結局、毒ノ森のミスじゃねぇか」

「はっ?」

「うん?だってそうだろう?リーダーってのは仲間の命を預かる身だ。なら、時には非情にならなきゃいけねぇ時もあるだろ?

仲間の信念や甘えなんてものよりも大切にしなきゃいけねぇもんがある。

 

仲間の命だったり、一般人の命だったりとかな?

そんな立場に居ながらアイツはお前の事情を優先した。

克服するんじゃなく、お前の事情を受け止め行動した。

 

だから、つけが回ってきたんだろ。ま、お前に責任が無いかと言われるとそれも違うがな。」

 

毒ノ森君は悪く無い。その言葉が喉元まで出かかる。

私が何か言われるのは言い、だけど、毒ノ森君のことを悪く言われたくない。

仲間のことを言われるのは我慢ならない。

 

私は学園長を睨みつける。

 

ギュッと拳を握る。

 

「悔しかったら、攻撃魔法を使えるようにしておけ、お前の甘えが仲間を殺すぞ。

っと、流石に生徒にこういうことを言うのは不味いのか?

 

最近はめんどくせぇんだよな~、こういうとこ」

 

学園長はそれだけ告げると、「帰った帰った」と言い私を学園長室から追い出した。

 

反論したかった。でも、きっと反論しても何の意味もないんだろう。

私たちが私たちの選択の末、仲間を失った。

学園長にとってはそれが全てなのだろう。

 

『悔しかったら、攻撃魔法を使えるようにしておけ、お前の甘えが仲間を殺すぞ。』

 

見返すなら、私が攻撃魔法を使えるようにならなければ意味が無い。

 

それに、毒ノ森君のことは兎も角、私のせいで棚加君が死んだのは事実だ。

…………弧囃子さんも、私が攻撃魔法を使えたら、もしかしたら救えたかもしれない。

 

私は寮にある自室に帰り、申請はしたもののまだ一度も使ったことのない攻撃魔法のマジックチップを握る。

 

棚加君たちがいなくなってから、使おうとしたこともあったけど、結局使うことが出来なかった。

使おうとセットしても最後の一歩が踏み出せなかった。

自分が変わってしまうのではないかという恐怖が込み上げてしまって、一歩を踏み出せなった。

 

でも、仮にダンジョンであれば、ダンジョンで一人であれば最後の一歩が踏み出せるんじゃないだろうか?

 

私は現在あるマジックチップの中で一人で潜るのに必要なものとお守りとしておばあちゃんがくれたものを持ち、ダンジョンへと向かった。

 

☆☆☆

 

う~ん、う~ん。

 

俺は自室でお菓子を食べながら唸っていた。

理由としては、まあ、お察しかも知れないけど、四階の窓から見た癒羽希カルミアの姿だ。

 

初めは、あれ?逢引きなのでは?

と思っていたんだけど、よくよく考えれば逢引きに杖を持ち出すのはおかしいような気がしてきた。

 

お菓子だけにって、流石に寒いか。

 

まあ、勿論、ワンドプレイとかいう高度なことをするのであれば話は変わってきそうだが、そんなこともないだろう。

 

多分。

 

となると、後ありえそうなのはダンジョンってことになるけど、一人でダンジョンに潜ろうとするだろうか?

 

いや、普通にあり得ないだろう。

一人で入るなんて自殺行為だし、そもそも学校の方で学生はダンジョンに潜る際は教師もしくは担当防人からの許可とパーティーで入ることを規則として定めている。

更に、ダンジョン自体も分厚いドームに覆われており、ダンジョンの管理人にドームのドアを開けてもらう必要がある。

 

まあ、とは言え、ダンジョンに入る際の確認作業及び開閉は人の手で行われるため、適当に理由をでっち上げてしまえば中に入れないこともない………。

 

元々、ドームは中に入る人を止めるためにあるんじゃなく、魔物を外に出さないようにするためだし。

 

いやいやいやいや、ゲームじゃないんだから、入ろうなんてしないよね普通。

ただの恋人とのワンドプレイでしょ!

 

ま~、一応?一応、教師に連絡して、ダンジョンへの立ち入りログを確認してもらうか。

 

俺は職員室に向かい、まだ仕事をしている教師の内、知っている顔、というか担任の教師に話しかけることにした。

ふと思ったんだけど、教師って何時家帰ってるんだろう?

 

「すいませ~ん。ダンジョンログで、うちのパーティーメンバーが潜ってないか確認して貰っても良いですか?」

「はあ?お前ら自主訓練を言い渡されてただろう?」

「ん~、そうなんですけど、さっき、ワンドを持った癒羽希さんが学校から出ていくのを見て…………まぁ、独自のコネクションを持っていて、その人から教えを乞うているだけかもしれませんが…………。」

「あ~、成程、分かった。ちょっと見て観るから少し待ってくれるか?」

 

担当の教師はそう言うと何かのアプリを開く。

いや

何かっていうかダンジョンログが見れるアプリなんだろうけど。

俺がぼぉっとその作業を眺めていると、段々と教師の顔から血に気が引いていく。

 

…………おいおい、まさか

 

「………おい。癒羽希の奴、今ダンジョンにいるぞ」

「…………マジですか」

「ああ、大マジだ。取り敢えずお前は待機だ。教師陣と緊急で会議をし、対策を練る」

「了解しました。」

 

 

いやいや、マジか。マジなのか?

 

普通そんなことしないだろ、癒羽希さん!

 

自殺行為だぞ⁉

 

何で折角生きて帰れたのに、命をドブに捨てるんだ‼

 

クッソ、教師陣は対策を練るとか言っていたけど、対策を練って対処するまでどれだけ掛かるんだよ!

俺は自室に帰る。

出来ることなんてない。

 

そのため、俺は特別防人の真道君を頼ることにした。彼はダンジョンに自由に入る権利がある。

俺は真道君の部屋のインターフォンを鳴らす。

…………

鳴らす、鳴らす、鳴らす。

 

お~い、出てこ~い、主人公の役目だぞ~。

何度も何度も押したけど、奴は一向に現れることは無かった。

イベント中か?レベリングか?

 

………………………………俺に出来ることは本当に無くなった。

無くなったが、出来ることが無いなんて言って癒羽希カルミアが死んだら取り返しがつかない。

 

………行くか?

ま、まあ、一人で死地に飛び込む馬鹿に一回説教しなきゃ気が済まないとは思っていた所ではあったし?レベルも上がっているからやってやれなくは無いかもだし?

 

いや、説教をするなら何で一人でダンジョンに潜ったか聞くのが先だな。

俺は近くにあった赤パプリカの被り物を付け、制服を戦闘用の者に着替え、魔剣を腰に差す。

戦闘用の制服はデザインこそ、通常の者と変わらないが、動きやすさや耐久性が通常のものとは比較にならない。

 

まったく、何が悲しくて癒羽希さんの後を追って一人でダンジョンに潜らなくてはいけないのか。

 

俺はそれでもダンジョンに向かう。

命を大切にしない奴に対しては老若男女問わず正拳を食らわす。

魔剣師Pとして。

 

…………いや、やっぱ行きたくねぇわ。

 

行くけどさ。

 

☆☆☆

 

何時も通っているダンジョンの前に着く。

ただ、いつもとは違い、ダンジョンの前についてもドームの扉が開くことは無い。

 

それもその筈だ。

いくら制服を着ていてもパプリカの被り物をしている人間を通すことは無いだろう。

 

ただ、俺も中に入れて貰わなくては困る。

 

「…………中に入れて貰おうか?」

「ん~、流石にお前みたいな不審者を入れるのはなぁ?」

 

男は面倒くさそうに対応する。

パプリカの被り物をした不審者を前にしても動じた様子を見せない。

 

それもその筈で、ダンジョンの管理を任される防人は相当な実力者だ。

それこそ、無冠の兵クラスか、

もしくは防人の中でも上位百人の可能性もある。

 

ただ、それでも臆するわけには行かない。

 

「俺にはやるべきことがある。」

「ふ~ん、どんなこと?人の害になること」

「いや、誓って人類の敵になることは無い。」

「…………そっか、ま、ならいっか」

 

男はそう言うと欠伸を噛み殺しながら開閉ボタンを押してドームのドアを開ける。

 

いや、適当すぎるだろ⁉

 

もうちょっと、何か、こう何かないの?

俺ももうちょっと色々考えてたんよ?

突っ込まれたことを聞かれた際の躱し方とか。

 

いや、楽に入れたからいいけど。

にしても、授業の際とか、顔パスで入れたのも実は異常なのでは?

 

思った以上に怠惰なのではこの管理人。

確かに、ダンジョンで死人が出ても管理人の責任にはならないけど……………。

 

ま、まあいいや、俺は気持ちを切り替え、ダンジョン内を見渡す。

 

今の所、敵はいない。

それを確認した俺はその場を走り抜ける。

 

え?そこは静かに隠密行動をするべきだろって?

 

いや、隠密行動をしたとしても見つかる時は見つかるから…………。

 

なら、走って、早期に癒羽希さんを見つけて、連れ戻した方が良い。

そう思っていると、目の前に魔物が現れる。

 

相手も気づいているのか、こちらに手のひらを向けている。

完全に魔法弾の構えだ。

 

ただ、そんなものは関係ない。

止まったら負け、今はそう言う状況だし、実力的にもそうだ。

 

だから、

 

「初見殺しで行かせてもらう。

≪ディレクショナルライト≫、そんで≪モメントアップ≫」

 

俺は初めに指向性のある閃光を浴びせ、相手の視界を遮り次に瞬間的な全能力強化を行う≪モメントアップ≫を使い更に速力を上げた状況での全力疾走による、一閃を見舞う。

勿論、≪モメントアップ≫に関しては相手への一閃を見舞える距離で使ったため、その強化は魔剣の一振りにも乗っている。

 

これにより、相手の首を跳ね飛ばすには行かないまでも致命傷を与え、瘴気が俺の体に吸い寄せられる。

 

ち、力が溢れる‼

とはもうならないものの心なしか体が軽くなったような、なっていないような気がする。

 

………うん、流石にそんな劇的に変わるような相手と戦ったら普通に死んでた。

通常の防人はしょっぱい経験値(まもの)への奇襲でなければ一対一では勝てないのだ。

とはいえ、戦いに絶対はないので、マジックチップや状況次第では格上にも勝てるかもしれないが…………。

まあ、運よく勝っても、瘴気によって殺されるだけだろうけど。

 

世知辛ぇよ。

 

それはともかく、敵を倒しても振り返らずに走り続ける。

 

魔物を斬りつけたことによって自前の魔力の他に敵の魔力が上乗せされ更に加速する。

 

また、走り続けながらもマジックチップの交換も忘れない。

 

構成はさっきと同じ、≪ディレクショナルライト≫と≪モメントアップ≫だ。

 

正直、紙装甲としか言いようがないが、大丈夫‼

止まらなければ魔法弾とか当たんないから。

 

俺がそう信じ、走っていると道の角から魔物が出てくる。距離的に魔法弾を撃つ前に仕留めるのは無理そうだ。

 

うん、めっちゃ、引き返したい。

引き返したいが、このまま突っ走った方が安全な気もする。

 

この雑兵級ダンジョンの構造は普通に入り組んだ洞窟のような形をしている。

広さとしては横十メートル程。

まあ、運が良ければ()()()()()()()()()()()

 

俺は覚悟を決める。

 

初めに≪ディレクショナルライト≫を使い視界を奪う。

これで少しでも安全性を高められた筈だ。

 

次に、≪モメントアップ≫を使う。

 

そして

 

 

 

 

 

 

()()()()()()。魔剣は魔物の胸にストンと刺さる。

 

えっ?完全に避ける流れだろって?

いや、他人の選択に委ねるとか性に合わないからさ。

 

だったら自分の行動に賭けるね。実際、相手は倒せたし、いいじゃん。

 

俺は肉体強化が残っている今のうちに走り、刀を抜きに行く。そして再度自らに肉体強化をかけなおす。

 

因みに≪ディレクショナルライト≫と≪モメントアップ≫はこれで品切れだ。

 

いや、普通こんなネタチップをそんないくつも持っているわけもないんですよ。

 

だって、パーティーで戦うんだったら、もっと有用なマジックチップ山ほどあるし。

このチップ構成は正直、ソロ専用、しかも、闇討ち限定の。

 

俺は再度マジックチップを変える。

今度は≪シャープネス≫と≪フィジカルオーガ≫だ。

 

正直、癒羽希さんが使った方が効果が大きいし、めっちゃいいタイミングで魔法をかけてくれるから最近は使っていなかったけど、四人パーティーの頃は俺もお世話になっていた≪フィジカルオーガ≫先輩だ。

 

後は、切れ味を上昇させる≪シャープネス≫。

 

この構成に関しては先程と比べれば幾分か丸い実用性ありの構成だ。

 

防御面はって?防御に関して…………攻撃こそ最大の防御ってことで。

 

 

俺は先程、魔物が出た曲がり角を進むことに決め、走り出す。

それから暫く、うん、二、三分ほど、魔物が出ることは無かったんだが、遂に魔物が俺の前に現れた。

 

うん、二、三分もと見るべきか、二、三分しかエンカウントしない時間が無かったとみるべきか。

 

まぁ、どっちでも良い。

そんなことより、敵の駆除だ。

 

残念ながら、距離的に一足で敵に近づくことは出来そうにない。

そして、まあ当たり前であるが、相手は魔法弾を構えている。

 

うん、さっきと同じ状況だ。

 

〈ドンっ〉

 

無慈悲にも相手の魔法弾は放たれてしまう。

当然だ。

目つぶしもしていないのだから。

 

俺はその攻撃を、斬る。

 

勿論通常状態では斬れなかった。≪フィジカルオーガ≫と≪シャープネス≫を使い、能力を底上げしたから斬れたのだ。

 

…………魔法弾を斬るなんてあんまり見ない光景だと思うんだけど、相手は俺が魔法弾を切ったことに動揺した様子を見せない。

それどころか両手のひらを少しの間隔を開け、合わせる。いや、手のひらと手のひらが密着していないので合わせているとは言えないか?

 

まあそんなことは今は重要ではない、重要なのは相手が恐らくであるが、白刃取りをしようとしていることだろう。

 

ならば、こちらは速度に特化した突きで応戦しても良いのだが、それでは少々不安だし、俺は飛び蹴りを選択する。

まあ、安牌な判断ではあるだろう。

 

斬りかかったら、白刃取りのリスクが高く。

突きに関しては、避けられやすい。

 

なら後は飛び蹴りしかないだろう。

 

勿論、飛び蹴りをした際に足を掴まれる可能性もゼロではないが、俺の体重に今まで走り続けたことによる速度も乗っているのでそれも難しいだろう。

 

受けるくらいなら、避ける方が楽だろうし。

 

俺はそう考え、相手を思いっきり蹴った。

相手としては俺が飛び蹴りを仕掛けるとは思っていなかったのか、思いっきり吹き飛ばされる。

 

そして、その隙を俺は見逃さない。

直ぐにマジックチップを取り換え、≪アクアバインド≫と≪シャープネス≫をセットする。

 

そして、直ぐに≪アクアバインド≫を発動し、動きを鈍らせる。

≪アクアバインド≫は≪スパークバインド≫と違い、完全に動きを止めることは出来ないが、耐性を持つものがおらず、更に≪スパークバインド≫よりも長時間機能する。

 

まあ、その性質上、≪アクアバインド≫を使っても普通に殴り殺される可能性があるんだけど………。

 

ただ、今回に関しては≪シャープネス≫と≪フィジカルオーガ≫の効果がまだ持続しているので大丈夫。

 

≪モメントアップ≫よりも効果は弱い(癒羽希さんのものを除く)が≪フィジカルオーガ≫は効果時間がモメントアップよりは長いという特徴がある。

 

まあ、一般的な長さなだけだけど。

 

いや、そんなことはどうでもいい、俺は動きが鈍った(自前の肉体強化だけの俺と同じくらい)魔物を一刀両断する。

 

ふう、雑兵級恐れるに足らず。

 

ドヤァ

 




おまけ

ここは男子寮の大浴場。多少、喋り声などは気になるが、それでもその場にいる男子達は行儀よく大浴場を利用していた。

棚加「なぁなぁ、見てくれよ、俺の水鉄砲めっちゃ飛ぶだろ⁉」

棚加は両手の平を握るように合わせ、右手の人差し指と親指の間から水を飛ばす。

音長「ああ、懐かしい、昔、両手使って簡易水鉄砲とか良くやったわ。」

音長が昔を懐かしんでいると、棚加の水鉄砲が音長の顔面に直撃する。

音長「ッ‼水鉄砲を人に向けるな!」

棚加「いやぁ、何か年寄りみたいなこと言いだすからさ。こうすれば若さを取り戻すかなって?若さ注入ってな!」

音長はその表情にカチンときた。自分で年寄りみたいだと思うのは良い、だが、他人に指摘されるのは我慢ならない。音長はそう言う人種であった。

そのため、両手を握り、即席の水鉄砲を作る。そして、棚加を狙い撃つ。

〈ドンッ!〉

その威力は先程の棚加のものとは比較にならなった。

棚加「痛った!ちょっとまった⁉何だその威力は‼」

音長「クックック、水鉄砲は若さじゃないんだよ、若さじゃ。ロートルの実力見せてやる!小童。」

こうして、血で血を洗う、いや、お湯でお湯を洗う戦いが勃発する。ここにいる二人はそう予感していた。しかし…………。

毒ノ森「やめなよ二人とも、見苦しい。他の生徒もいるんだから迷惑だって気づきなよ」

音長・棚加「「うるせぇ、若さ注入」」

諫める毒ノ森に対し、二人は息ぴったりの連携で毒ノ森の顔面に水鉄砲を直撃させる。

音長「よしっ、決着をつけるか。」

棚加「そうだな。俺たちはどちらが上か決めなければいけない運命にあるようだ」

毒ノ森「…………優しく言っている内に聞いておきなよ?それとも、人の神経を逆撫でしないと気が済まないの?」

それは目にも止まらぬ四連射撃だった。それは音長と棚加の瞳を正確に撃ち抜く精密射撃だった。

音長・棚加「「ギャァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!目ぇ、目に入ったぁぁぁぁぁ‼」」

毒ノ森「…………君たちみたいな人種は徹底的にやらないと学ばないから、手加減、しないよ?」

その攻撃で音長と棚加は理解する。自分たちのやっていたことは児戯であったと。自分たちは真の強者によって蹂躙されるのだと。

自分たちが自慢していた水鉄砲は火縄銃、対し、毒ノ森の水鉄砲はさながら機関銃であった。

音長「こっ、降伏する。俺は降伏するよ!毒ノ森君」

棚加「お、俺もだっ‼お前の軍門に下る毒ノ森」

毒ノ森「もう無駄さ、僕は止まらない。せいぜいあの世で後悔するん「随分楽しそうなことしてんなぁ。一年共?」えっ?」

三人は後ろを振り向く。そこには青筋を浮かべた上級生が立っていた。三人は湯船に使っていることが原因で出る汗とは別に冷や汗をかく。

上級生「…あっちで話そうぜ?一年」

音長「…ここじゃ、駄目ですか?」

音長はか細い、蚊が鳴くような声を出す。他の二人も声は出していないが、高速で首を縦に振る。

上級生「何度も言わせんなよ。向こうで、話をしようぜ?」

音長・棚加・毒ノ森「…は、はい」

それから三人は大浴場のタイルの上に正座させられ、全裸で何十分にも渡る説教を受けるのであった。





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ゴールが近くなると難易度上がるのは主人公だけで良くない?

ふぅ、雑兵級恐れるに足らず。ドヤァ

 

俺は空になった≪アクアバインド≫を抜き、≪フィジカルオーガ≫をセットする。

因みに、残りのチップは二十六。≪フィジカルオーガ≫が六、≪マナシールド≫が四、≪アクアバインド≫が四、≪シャープネス≫が七、≪アクセラレーター≫が五

多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだけど、これ以上は持てなかった。

 

一応戦闘用の制服だから、マジックチップを入れるためのポケットも結構あるんだけど、パーティーで戦うことを前提としているから、これ以上は逆に邪魔になると考えたのだろう。

 

実際パーティーで戦うなら十分な量だし…………ソロで戦うには正直少ないけど。

 

私はそう感じました。

 

だって、一人倒すのに二つから三つ使っている。

つまり、単純計算で後9回の戦いでマジックチップが尽きるということだ。

 

二、三分に一回はエンカウントするのに、これじゃあ約三十分しか捜索できない。

しかも、片道切符という前提で。

 

ヤバ過ぎでしょ。

 

一応、、闇雲に探すんじゃなくて、魔物とエンカウントした道を選んで進んでるけど、果たして、癒羽希さんに会えるかどうか…………。

 

完全に運だ。

 

ついでに二体以上の魔物に追われたら詰む。

 

そう詰むのだ。

 

だから、こっち見ないで?

 

十字路を横断しようとしていた魔物が横断中に横、まあ俺の方を向き、ぴたっと動きを止めた。

 

二体同時に、仲良しかよ。

 

俺は即座に≪フィジカルオーガ≫を使用し、肉体を強化する。

相手は二体とも手をかざし魔力弾を用意する。

 

まあ、俺の予想だとこれは恐らく時間差撃ちだと思う。

 

なんてたって凌いだと思った所に魔法弾をぶち込むのが奴らの基本戦術だ。

 

だからこそ、俺は一撃目を≪シャープネス≫を使い、斬った。

 

そして、二撃目を受け流す。勿論、完全に受け流すことは出来ないが、それでも前の時のように車にはねられたかのような状態にはならない。

多少バランスを崩しながらも、何とか堪える。

 

ただ、相手は残念ながら俺がバランスを整えるまで待ってくれず、接近し殴りかかってくる。

 

俺はバランスを崩しながらも相手の頸動脈を狙いながら魔剣を振るう。

 

相手はその攻撃をたいしたことが無いと判断したのか構わず殴りかかってくる。

これもまた、魔物の厄介な所だ。

 

自らを省みず敵を倒すことだけに全力を尽くす。

 

しかし、今回はそれが仇となる。

先程も言ったが、≪モメントアップ≫などの瞬間強化を除けば基本的にバフの効果はそこそこの時間続く。≪シャープネス≫もその例に漏れず効果は今もなお持続している。

 

だからこそ、この苦し紛れのように見える攻撃にも十分な脅威があったのだ。

 

それを、相手は気づかなかった。

 

俺が二撃目を斬るのではなく、受け流したから、選択を誤ったのだろう。

 

…まあ、もしかしたら普通にこちらを侮っていただけかもしれないが。

 

 

俺は一体目を半不意打ち気味に倒しながらバランスを整え、二体目と向かい合う。

しかし、流石と言うべきか、二体目は多少こちらを警戒したのか、間合いを取り、様子を見る。

 

俺はその魔物の目の前でこれ見よがしに空になったチップを抜く。

相手はこちらがチップを交換しようとしていると察したのか、攻撃を加えようと間合いを詰めてくる。

 

勿論、出来るのならチップを交換したかったが出来ないのならいい。

俺は抜いたチップを敵に投げつける。

 

相手はそれを咄嗟に右手でキャッチしてみせた。

 

そのため、更に魔剣も投げつける。

魔物は魔剣に関しても先ほどの要領で反射的に左手でキャッチしようとし、指が切り落とされる。

 

更にそこから、地面に落ちる前に魔剣の柄を蹴り、相手の体に突きさす。

相手が動揺してくれたため、思った以上に綺麗に刺すことが出来た。

 

しかし、刺された魔物も最後っ屁とばかりに右手に持っていたマジックチップを投げつけてくる。

 

それにより、左肩とわき腹辺りに鈍い痛みが走る。

 

「ゴフッ‼」

 

ただ、戦闘にはまだそれほど支障はない。

俺は再度走り出す。

 

魔物が向かおうとしていた方角に向かって。

 

走って、走って、はし、いや、そんな走れなかったわ。

 

何故なら、敵が俺の走る進路上にいたからだ。数は三体

とはいえ、今回は俺に背中を向けている状態だった。

 

そのため、まずは≪フィジカルオーガ≫≪シャープネス≫を使い自らを強化し、空になったマジックチップを抜いて≪アクセラレーター≫と≪アクアバインド≫をセットする。

 

そして、後ろを向いている敵目掛けて≪アクアバインド≫を使いながら、接近する。

これが、真道君とかであれば三体の敵を一枚のチップで拘束できたのだろうが、俺には一体を拘束するので精一杯だ。

 

しかも、≪アクアバインド≫では完全に動きを止めることは出来ないため、その拘束した一体ですら、ゆっくりとこちらを振り向く。

 

それでも、奇襲であるため、こちらが圧倒的に有利、俺はそう考えていたのだが、俺はふとあることに気づく。

 

そのあることとは、奴らが、右手を隠しながら歩いているということだ。

そして、あちらが俺に気づき振り返ると共にその理由が分かった。

 

うん、右手に魔法弾を用意していたらしい。

 

詰まる所相手は俺の奇襲に気づいており、逆に俺を返り討ちにするため、魔法弾を用意し、待ち構えていたのだろう。

 

彼らの辞書に正々堂々という文字はないのだろうか?

 

勿論、俺の心の中の悪態なんて知ったこっちゃない魔物たちはそのまま魔法を三連射する。勿論これも多少の時間差をつけてだ。

とはいえ、通常時ならいざ知らず、自らのバフをかけている俺は魔法弾を斬ることが出来るため、そこまで問題にはならない。

 

俺は三発の魔法弾を飛んでくる順に斬っていく。

 

ただ、俺が魔法を斬り終える頃には、三体の魔物は俺に肉薄してきており、このままではどう考えても対処は不可能。

そのため、俺は≪アクセラレーター≫を発動する。

この魔法はその名の通り自分の肉体を加速させる付与魔法だ。

 

これにより、敵の動きが途端にゆっくりとなる。いや、俺の意識と肉体が加速し、敵の動きがゆっくりになったように感じるのだ。

 

ゆっくりと俺に肉薄する魔物を一体ずつ処理する。

掴みかかろうとした魔物はその手を切り落としてから、返す刀で首も跳ね飛ばす。

後ろに控え、蹴りを見舞おうとしてきた魔物は逆に蹴りの為に上がった足を足場にジャンプし、すれ違いざまに頸動脈を斬る。

 

最後に一番後ろにいた魔物に関しては、喉を一突きし絶命させる。

 

三体の魔物との戦いは一瞬で終わった。

それと同時に≪アクセラレーター≫の魔法が解ける。

 

「っはぁ、はぁ」

 

体が鉛のように重い、体の節々が痛い。

 

脂汗が頬を伝う。恐らく骨に罅が入っているのだろう。

 

筋繊維に関してもかなりやられている。これは筋肉痛不可避だろう。

 

 

今の俺の状況から分かる通り、この≪アクセラレーター≫と言う魔法はとんでもない欠陥魔法だ。

通常の付与魔法は必ず、強化率に応じて肉体の強度も引き上げ、体への負担を減らすように作られている。

それは瞬間強化の代名詞である≪モメントアップ≫も同様だ。

 

しかし、この≪アクセラレーター≫にはそれが無い。

只々、速度だけを追求した魔法。しかも、≪モメントアップ≫同様、瞬間強化型の付与魔法であることが更に質の悪さを加速させる。

 

≪アクセラレーター≫だけに。

 

…………まあ、冗談は置いておいて、≪アクセラレーター≫は言わば魔剣士の中では禁じ手に近い。

どうしても、倒さなければいけない敵が現れたときのジョーカー。

通常、自分よりも強い魔物が相手であり、更に周りに回復魔法士がいる時だけ使われることがある魔法だ。

 

因みに、魔物などにつけられた外傷ではなく、体を無理やりに動かすことによって起こる自傷であるため、回復魔法が専門でない防人が回復魔法のマジックチップで治すのおすすめできない。

 

実際に以前、自分で治そうとした魔剣士の骨が変な風にくっついたという事件があったそうだ。

 

何それ怖い。

 

そのため、俺も回復用のマジックチップは持ってきていない。

 

一応、体は問題なく動くから、良いよね。魔力持ちは体頑丈だし。

 

俺は敵を倒しした後、マジックチップを交換し、再度走り出す。

どうにか、癒羽希さんの下まで辿り着きたいんだけど………。

 

ここら辺は敵が多い。

まあ、敵が多い場所の方が、癒羽希さんに会える可能性は高いんだけど、それにしても多すぎて、癒羽希さんの下に辿り着くまでに死ぬんじゃないかと思えてきた。

 

俺がそう思っていると、目の前にT字路が現れる。

左と右どっちに行くべきか、そんな風に悩む暇すら与えられず、右の道から魔物が現れる。

 

数は五体。

 

どう考えても多い。

というか、別に俺のことなんて気にせず真っすぐ進んでくれていいのに、敵は俺に気づくとこちらに腕を向けてくる。

 

俺はそいつらに≪アクセラレーター≫を使い接近する。

≪フィジカルオーガ≫と≪シャープネス≫に関してはまだ切れてないので、新しく使う必要性はない。

 

うん、付与魔法の効果が持続するとは言っても普通、次のエンカウントまで持たんだろ?

どんだけ敵多いんだよ。

 

俺はそう思いつつ、ゆっくりと動く敵に突っ込む。

勿論奴らは挨拶代わりの魔法弾を撃とうとしてくるが今回は俺の対応の方が早く、敵の腕を切り落とし、その腕を拾い敵の魔法弾目掛けてこちら(魔物の腕)の魔法弾を発射する。

 

奴らの魔法弾は手を起点にして発動するので、発射ぎりぎりに腕を斬るとこういう風に使うことも出来る。

そして、魔法弾同士が当たり、弾ける。

今回も魔法弾は時間差で飛ばそうとしたため、俺は一番初めに魔法弾飛ばそうとしていた腕を使うことで、相手の掌の前で魔法弾を弾けさせることに成功し、かなりのダメージを与える。

 

時間差で撃とうなんてしないで、同時に打っていれば、自分の放つ魔法弾から余裕を持って距離を取れていただろうに、まぁ、こういうこともある。

 

俺は怯んでいる敵に対し、更に追い打ちをかける。

 

まず、腕を切り落とした魔物の頸動脈を斬り、そのまま、敵の三発目の魔法弾の盾として使う。

 

更に、盾にした魔物で視覚が出来た所で盾にした魔物ごと二体目の魔物を串刺しにする。

 

そして、即座にマナチップを片方だけ交換し、≪アクアバインド≫で敵の動きを鈍らせ、真正面から三体目を叩き斬る。

 

只ここまでだった、ここで≪アクセラレーター≫の効果は切れたのだ。

 

相手は魔法弾を飛ばしてくる。

しかし、こちらに避けるほどの余裕はない。

だから、使う。もう一度≪アクセラレーター≫を。

 

体中が痛いし、重いし、怠いし、気持ち悪いしで最悪だが、これしか方法が無いので仕方がない。

 

俺は飛んでくる、魔法弾を先ほど斬り伏せた魔物を引き寄せ盾にすることで防ぐ、ここでついでに腕を切り落とすことを忘れない。

 

別に腕フェチとかではないよ?

 

そして、盾にした魔物の体を足場に空に飛びあがる。

 

そこを又もや敵の魔法弾に狙われるが、先ほど切り取った腕を投げつける。

しかし、魔法弾をただの腕の投擲で相殺することが出来ず、腕の方が弾かれる。とはいえ、それは予想済み、弾かれた腕は俺の方に飛んでくる。

 

俺はそれを足場にし、更に跳躍。

先程も言ったがここは洞窟型のダンジョンだ。

だからこそ、天井が存在する。

 

俺は二度の跳躍により、天井まで跳ぶと、体を反転させ、天井を足場に急降下し、敵の首を落とす。

更にそこからもう一体に突きを放つ。

相手は咄嗟に後ろに避けるが、俺は直後に魔剣を離す。

これにより敵の喉元に魔剣が刺さり、最後におまけとばかりに掌底で柄を押し込み貫く。

 

…………五体、倒した。

 

俺はゆっくりと剣を引き抜く。

 

そして、時間もいつの間にか元の長さに戻っていた、それをこちらに向かってくる瘴気で察する。

 

……………正直、ちょっと横になりたい。

俺はその思いを抱きつつ再度走り出す。

 

きっと、多分、ゴールは近い。

 

☆☆☆

 

私は皆と通っていたダンジョンに向かった。

 

管理人さんにはほんの少しだけ怪しまれたけど既に学校には許可を取っていると言い、中に入った。

 

罪悪感はあるけど、それでも私はもう誰にも死んで欲しくない。そう思っていた。

一人でダンジョンに潜り、命の危機に瀕すれば臆病な私も攻撃魔法が使えるようになるって思っていた。

 

だけど、手が震える。体が震える。

目の前にいる魔物よりも自分が変わってしまうことを恐れる自分がいる。

 

私は自分の張った結界の中で縮こまりながら震えていた。

それどころか、自分の身勝手でダンジョンに入ったのに誰かが助けに来てくれるなんて幻想を抱いていた。

 

いや、(毒ノ森君たち)が助けに来てくれる。そんな都合のいい妄想を、していた。

 

毒ノ森君に音長君、棚加君、未裏さん、弧囃子さん、皆で私を助けに来て、全部悪い夢で私を助けに来たって笑顔を向けてくれる、そんな都合のいい妄想を抱いていた。

 

しかし、どれだけ目を凝らしても目の前にいるのは三十を超えるほどの魔物たちだけだった。

 

私も、死ぬのだろうか?

私の防御魔法は自分で言うのもなんだけど、温実さんを除けば学年一の自身がある。

だけど、マジックチップには限りがあるし、防げる時間はせいぜい五時間かそこらだろう。

 

私はおばあちゃんがお守りにくれたマジックチップをギュッと握る。

ああ、こんな時でさえ、攻撃魔法ではなく、このマジックチップに縋ってしまう自分が嫌になる。

 

誰かに頼る浅ましい自分が嫌になる。

自分が変わりたくない、だから、誰かが代わりにやってくれるのを待つ。

 

何時になったら変わるのだろうか?

 

だけど、そう思いつつも、攻撃魔法のチップを使う気にはなれなかった。

自分のせいで仲間が守れなかったのに、変わろうとしない自分が嫌になる。

 

怪物になりたくない。

 

その思いがどうしても、どうしても、どうしようもなく、私の足を引っ張る。

 

なら、ここで消えるのも、ありなのかな?

 

また、毒ノ森君たちが侮辱されるくらいなら、これ以上皆の足を引っ張る位なら、誰かの為に怪物になることを受け入れられない人間は、いない方が良いのかな。

 

「ごめんね。みんな」

 

 

 

「…………お前はそこで何をしている?癒羽希カルミア」

 

そう思い、目を閉じようとした時、少し怖い声が耳に入る。

その声は少しだけ音長君に似ていて、私は目を開き、声の方を向く。

 

そこにはパプリカの被り物をして、血まみれの制服を着た傷だらけの人が立っていた。

 

うん。

 

うん?

 

「………………………あ、あの、どちら様でしょうか?」

「……俺は魔剣師P。取り敢えず、命の重さとか、ダンジョンは一人で入るな、とか、そう言うのを説くものだ」

 

私は、今、怒られているのだろうか?

 

良く分からないけど、取り敢えず

 

「…………その…………傷、治しましょうか?」

「……ああ、頼む」

 

私は魔剣師さんの傷を治すことにした。

 

 




おまけ

キーンコーンカーンコーン

「今日の授業はここまでだな」

教師はそう言うと教室から出ていく。音長はそれを見送ると、思いっきり伸びをする。

音長「いやぁ、やっと昼休みだぁ。しかも、後は実技だけ…………まあ、実技も嫌なんだけど」

毒ノ森「あははは、まぁ、気持ちは分かるよ。…………そう言えば、来週小テストらしいけど、ノートはどんな風に書いてるの?」

毒ノ森の質問に音長は首を傾げる。

音長「どんなって、いや、普通に黒板に書かれている内容をメモっているだけだけど…………」

毒ノ森「…その、俺も最近小耳に挟んだ内容なんだけど、あの先生、何気なく話した内容をテストの問題に組み込むんだって。」

音長「っえ。マジで…………。そんなの全く書いてないよ。毒ノ森君は?」

毒ノ森「俺もその話聞いてから、メモりだしたから正直自身がない。」

二人が次の授業をどうやって乗り切るか唸っていると、教室のドアを開け、音長と毒ノ森を呼ぶ声が教室内に響く。

棚加「お~い、音長ぁ!毒ノ森ぃ!一緒に飯食おうぜ!」

その声の主の言葉に二人は快く応じる。

音長「いいよ~」

毒ノ森「それじゃあ、食堂に向かう?」

そうして、三人は食堂に向かった。


食堂に着いた、三人は先程の話題について話していた。

棚加「ふ~ん、小テストねぇ。そう言えばうちのクラスでもそんな話してたわ」

音長「棚加君は大丈夫なの?」

棚加「まぁな、もう二冊目のノートを書き始めてるところだぜ?」

音長・毒ノ森「二、二冊目⁉」

棚加「おいおい、真面目に授業を受けてたらこれくらい普通だろ?」

音長は黒板に書かれた内容しかメモしておらず、毒ノ森に関しても最近、話す内容をメモするようになったところだ。

故に二人はこう思った。

音長・毒ノ森「「(真面目に受けてたら、それが普通なのかもしれないッッ!!)

棚加「………ま、お前ら、小テスト頑張れよ?」

二人の様子を見た棚加は二人の内心を察したのか勝ち誇ったようにそう言った。
それに対し、二人は奥歯を強く噛み締める。

しかし、頭では分かっているのだ。このままでは不味いと。

毒ノ森「棚加君………。もし良かったらノートを見せてくれないか?」

音長「お、俺も、オネガイしたい。」

棚加「えぇ⁉どうしよっかな~。う~ん、二人は友達だしぃ~?貸しても良いかな~。あ、でも~、二人は何か美味しそうなお菓子持ってるね?いいな~。」

棚加は毒ノ森と音長が持っていた「タケノコフォレスト」と「コアラの行進」を見ながらそう呟く。

音長「俺たちの!俺たちの食後の楽しみを奪うつもりか⁉」

毒ノ森「くっ、ゲスめ。」

棚加「おいおい、勘違いするなよ?世の中、等価交換なんだよ。何かを欲すれば何かを失う。そう言う風に出来ているんだ。」

音長「訳知り顔でそれっぽいことぬかしやがって…………。ぶっ飛ばしてぇ」

毒ノ森「落ち着け、音長君。今は我慢の時だ。下手に出よう」

棚加「クックック、さぁ、どうする?」



そうして、二人は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべながらも、棚加からノートを借りることに成功したのだった。

音長「あいつにいつか目にもの見せてやる」

毒ノ森「ああ、だが今はノートを手に出来たことを喜ぼう。」

そうして、二人は棚加から借りたノートを見る。

音長・棚加「はっ?」

二人が疑問符を抱くのも無理はない。何故ならノートにはこう書かれていた。

癒羽希さんへのアプローチ法十選。
癒羽希さんへのプレゼント候補。

音長「そ、そっちの、もう一冊の方はなんて書いてるの?」

毒ノ森「え、えっと、ここぞという時に言うカッコイイ言葉集」

音長「……………………。」

毒ノ森「……………………。」

音長・毒ノ森「「燃やすか」」

この瞬間、二人の心は完全に一つになった。


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癒羽希カルミアは補助魔法だけでいいかもしれない………。

☆☆☆

癒羽希さんはダンジョン内にあった大きな円形の空間にいた。

ここがダンジョンでなければ小さな広場と言っても良い大きさの場所だ。

 

そこで、何故か体育すわりをして縮こまっていたから、声をかけた。

 

本当に何がしたいんだこの娘は。

ダンジョンで体育座りで俯くなんて普通に自殺行為だぞ?

 

まあ、今はいいや、その後は俺の怪我に気づいた癒羽希さんが治療をするかと聞いてきてくれたため、俺はお言葉に甘えて、癒羽希さんの張った結界の中に入り、怪我を治してもらう。

 

あぁ、効くわ~。

 

ここに来るまでのボスラッシュ、ならぬ雑魚(モブ)ラッシュによって俺の体は正直ボロボロになっていた。

それが、癒羽希さんの治療によって治っていく、ほんと、補助魔法だけで良いんじゃないか?

 

この娘。

 

まあ、今はそんなことどうでもいいや、聞きたいことも山ほどあるけど、取り敢えずここから出るのが先決だしね。

 

「癒羽希カルミア、付与魔法のマジックチップは持っているか?」

「は、はい、≪フィジカルオーガ≫と≪イモータルウォーリアー≫を持ってきています。」

「なら、≪フィジカルオーガ」を俺に使え。奴らを一掃して帰るぞ」

「わ、分かりました…≪フィジカルオーガ≫」

 

うぉぉぉぉ、漲る。

力が漲る。

 

ヤバい、マジで、相変わらず何でこんな強化できるのか意味わからんくらい力が漲る。

まあ、いいや、俺は結界の中で自前の≪シャープネス≫を発動し、空になったマジックチップを抜くと新しく≪アクアバインド≫をセットする。

そして、結界の外に出て、予めセットしておいた≪アクセラレーター≫を使い、加速する。

 

加速した時間の中、俺は敵の首を落としていく。一体、二体、三体、四体、五体、六体、七体、八体、九体、十体、十一体、十二体、十三体、十五体、十六体、十七体、十八対、十九体、二十体、二十一体、二十二体、二十三体、二十四体、二十五体、二十六体、二十七体。

 

俺は敵を、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って、次々と魔物を倒していく。

 

…………ただ、そこまでだった。

 

加速した俺は確かに敵を次々と屠ることが出来た。

 

しかし、相手とて無防備で倒されてくれるわけでは無く、何よりも数が多かった。

そのため、≪アクセラレーター≫の効果が敵を倒しきる前に切れてしまったのだ。

 

「クソっ!」

 

俺は舌打ちをする。ここから再使用するか?

その考えを抱く前に敵の反撃を受けた。

向こうとて、ただ攻撃を受けるだけのサンドバックなんかじゃない。

ずっと反撃の時を伺っていたのだろう。そんな奴らが、≪アクセラレーター≫が切れ、その変化に対応できていない無防備な俺を見逃すはずがない。

顔と腹に敵の拳を受ける。

 

幸いだったのは拳だったため、パプリカの被り物が破れなかったことだろう。

 

とはいえ、パプリカの被り物が無傷でも俺の体はボロボロだ。

いや、二発しか食らってないだろうが!と思うかもしれないが、二発で致命傷なのだ。

 

むしろ、癒羽希さんの≪フィジカルオーガ≫があるから二発も耐えれているだけで、本来なら二発目を食らった時点で倒れていても可笑しくない。

 

まあ、ここからダメージを受けたら、どのみち倒されてしまうだろう。

そして、これだけ怪我を負ってしまえば、≪アクセラレーター≫は使えない。

 

一度、癒羽希さんの下に戻るべきか?

俺の中でその考えが頭を過ったが、今、目の前にいる四体の魔物がそれを見逃すとは思えない。

ここで何とかしなくては………………死ぬ。

 

「⁉、魔剣師さん、今行きます!」

「ッ来るな‼」

「え?」

「お前はそこでふんぞり返ってろ。こいつは俺が倒す。」

 

いや、そもそも、君に死なれたらここに来た意味が無いんよ。君なしじゃあ、ここから出ることも難しくなるだろうし。

 

「分かったら援護に集中しろ。」

 

俺はそう言い、敵に向き合う。

何かすげぇ、強キャラ的なことを言っているが、これどうやって勝つんだろう?

現実逃避気味にそんなことを考える。

 

それから、刹那の攻防があった。

 

初めに一体目の魔物が拳を振るう。俺はそれを剣で受け、後ろに下がった。

そこに二体目の魔物が横合いから現れ、蹴りを放つ。俺は再度、剣で受けようとしたが、間に合わなかったため、出来るだけ後ろに跳び、威力を抑える。

そして、そこを三体目が魔法弾で狙撃し、吹き飛んだところを四体目が俺の首を鷲掴みにし、癒羽希さんの結界に押し当てた。

 

本来なら、癒羽希さんの結界は癒羽希さんが許可した人は通れるはずなのだが、恐らく、魔物が俺に接触している状態であるため、俺も中に入れず魔物の腕力で押し潰されようとしているのだろう。

 

十中八九相手はそれを分かっていてやっている。俺がこのまま癒羽希さんの結界で押し潰されてもよし、癒羽希さんがそれを恐れて結界を解いてもよし。

 

とても、悪辣な戦法だ。

 

しかも、こっちは抵抗しようにも、魔法弾を撃ち込まれた時に剣を落としてしまった。

俺はそれでも悪足掻きとして、マジックチップを一枚取り出す。

勿論、マジックチップ単体で魔法を発動することは出来ない。

 

だから、このマジックチップは後ろに投げる。俺自身は通れなくても俺が投げたものは入るだろうから。

 

そして、俺の意図に気づいてくれたのか、後ろで魔法名を叫ぶ癒羽希さんの声が聞こえる。

 

「≪シャープネス≫‼」

 

それは切れ味を上げる魔法。

 

これを俺自身にかけて貰ったのだ。

 

通常であれば刃物でない人体にかけても大した効果は発揮しない。

しかし、ヒロイン設定の癒羽希カルミアがかけた場合は別だ。

 

俺は手刀でもっても敵の腕を斬り落とし、そのまま敵の胸を貫く。

 

まずは一体。

 

折角、癒羽希さんのいる場所まで連れてきてくれたので、結界内に入り、回復もしてもらう。

 

ふぅ~、効く~。

 

「やっぱり行くんですか?…………明日になれば防人の人たちが魔物を倒しにくると思うので待っていても良いと思いますが。」

「…それまで、結界は持つのか?」

「……………それは。」

「では行ってくる。援護は任せた。」

 

その言葉を残し、俺は飛び出す。

それに合わせて、敵も動き出す。

 

相手は魔法弾を用意し、今にも打ち出そうとしている。いくら≪シャープネス≫を使っているからと言って、こちらの手刀で魔法弾を防ぎきれるほど甘くはない。

腕の方が折れるだろう。

 

正直このままでは勝ち目はない。

俺がそんな風に癒羽希さんが魔法を唱える。

 

「≪ホーリーバインド≫」

≪ホーリーバインド≫は≪アクアバインド≫と違い、敵を完全に拘束し、魔法の行使すら、阻む魔法だ。勿論、その代わりに拘束時間が非常に短いというデメリットもある。

 

これにより、相手は魔法弾を構えたまま止まる。

とはいえ、発動待機の状態にある魔法弾の行使をキャンセルすることが出来るわけでは無いので、急いで刀を取りに行く。

 

そして、俺が刀を手に取ったと同時、魔物たちの拘束が解け、魔法弾が飛んでくる。

 

ヤバい、せめて≪シャープネス≫を魔剣に施したかった。

とはいえ、今から魔剣に≪シャープネス≫をセットしている時間はない。

 

なら、後は受け流すしかない。

 

 

 

 

 

「≪シャープネス≫」

 

背後から魔法を唱える声が聞えた。

 

癒羽希さんの声だ。

 

一応、言って置くと、俺が癒羽希さんに渡したマジックチップの数は一枚だ。

そのため、俺のような木端防人なら、一度の魔法行使しかできない。

 

しかし、以前にも話した通り、()()()()()()()()()()()()マジックチップに込められた魔法を小出しにし、更に自前の魔力で強化することが出来る

 

当然ではあるが、ヒロイン設定を持つ癒羽希カルミアも例外ではない。

使ってもらうまで完全に失念していたけど。

…………パーティー組んでいた時もやってたんだけど、やっぱりアクシデントの時って頭が働かないわ。

 

まあ、戦局はこっちに傾いた。

 

俺は魔物たちが飛ばして来た魔法弾を手に持つ魔剣で斬り捨てる。

うん、自分で≪シャープネス≫を発動させた時と比べて切れ味が段違い。

 

とはいえ、相手もこの程度で臆したりはしない魔法弾を斬り捨てた俺に向かって、拳を振るう。

魔物の拳は俺の顔面を再度狙っているが関係ない、俺は魔剣で拳を斬り捨てる。

そして、相手の心臓を一刺し。

 

これで二体目。

 

俺がそう思っていると、刺された魔物は残っている腕で俺の腕を握ってくる。

どうやら、自分の命と引き換えに俺の動きを封じようとしていたらしい。

他の魔物たちもその時間を無駄にしないためにこちらに接近し、片方が拳、もう片方が蹴りを放ってくる。

 

ただ、彼らはどうやら忘れているらしい。俺の体は現在、全身が刃物になっているということを。

 

俺は捕まれた手とは反対の手で手刀を作り、敵の腕を斬る。

そして、魔剣を引き抜き、蹴りを仕掛けてきた魔物の足を魔剣で斬り、拳を放ってきた魔物には手刀を向ける。

 

魔剣は敵の足を綺麗に斬り飛ばし、手刀は相手の拳に刺さったものの、こちらの手も潰れてしまう。

 

「ッ!」

 

とはいえ、止まるわけには行かない。

俺は拳を放った魔物に≪アクアバインド≫を使い、動きを抑制し、斬る。

そして、片足を失いバランスを崩した方にも続けざまに留めを刺した。

 

「………お、終わった?」

「ああ、終わり…………。」

 

 

俺はそう言おうとした。言おうとして辞めた。

魔物が現れたのだ。ただ、その魔物は雑兵級ではなかった。

 

何でそれが分かったかというと顔だ。

その顔に俺は見覚えがあった。

 

この前まで一緒に何気ない会話を楽しんで、戦いのときは背中を任せたパーティーメンバー、棚加君の顔だった。

 

 




おまけ

棚加からノートを借りた二人は唸っていた。
何故唸っていたかと言うと…………

音長・毒ノ森「「どうやって、燃やそうか……」」

どのような手段で燃やすかについてであった。
二人としてはゴミ箱にボッシュートしてやっても良いとまで思っているが、出来ればもっと悔いる方法が良い。

というか、「タケノコフォレスト」と「コアラの行進」を返せ。

二人はお菓子を取られたことでとんだ鬼畜屑野郎に成り下がっていた。

器が小さい。非常に小さい。

そんな時、二人の耳にある話が入ってくる。

生徒A「そう言えばさ、雪白先生が屋上で一人バーベキューするらしいぜ?」

生徒B「へ~、そうなのか。くるみちゃん、ほんと自由人だよな」

生徒A「ま、くるみちゃんだからな~」

彼らは防人魔法学校の教師の話題で盛り上がっていた。

雪白狂実(ゆきしろ くるみ)
クリーム色の髪に黄金の瞳が印象的な少女のように小柄な女教師である。
うちの学校では主に生物の授業を受け持っているのだがそれよりも有名なのが彼女の自由すぎる行動である。

今回の件以外にも、訓練場に花壇を設置し、校庭の一部を畑に変えている。

また、人を殺していそうな教師ランキングでも学園長を抑え、一位に君臨している。

というのも、彼女が授業の初めに言う言葉がその印象を生徒たちに根付かせたのだ。

『えぇ、始めに言って置きますが、防人に人権はありませ~ん。でも~、皆さん悲観しないでください。それはつまり、憲法だろうが、法律だろうが、私たちを縛ることが出来なということです!
なので、防人はむかついたら人を斬り殺してもOKです。
先生も皆さんの行動にむかついたら斬り殺すのでよろしくお願いしますね!」

これが件の彼女の第一声である。
これを言われた生徒たちは皆一様に固まる。

ただ、その愛らしい容姿ゆえに、ぎりぎり、許されているかもしれなくもない。

とはいえ、今はそのことはあまり関係ないだろう。
重要なのは音長と棚加が顔を見合わせニヤリと笑ったことだろう。

音長「雪白先生の所に行って炭と一緒に燃やしてもらうか」

毒ノ森「そうだね。棚加君のノートもきっと成仏してくれるだろう」

二人はそんな訳の分からない理論を並べ立て雪白狂実の下に向かった。

音長「せんせ~い。炭と一緒にこれも燃やしてもらって良いですか?」

雪白「ん~? 学生さんですか~。せんせ~今忙しいので後にしてください」

雪白狂実は缶ビールの蓋を開けながら、そう宣う。

因みに、既に網の上には肉と野菜が並べられ焼き始めていた。

毒ノ森「そこを何とかお願いできますか?」

毒ノ森の真摯な訴えに雪白狂実はめんどくさそうに音長達が持っているものに目を向ける。
そして、目を丸くする。

雪白「…それ~、ノートじゃないですか~。燃やしちゃ駄目ですよ~。」

バタン

屋上の扉が開く音がする。

棚加「お~い、くるみちゃ~ん。俺にも肉食わせて~。って音長と棚加も肉貰いに来たのか?」

音長「いや?これを燃やしてもらえないか、頼みに来た」

音長は手に棚加から借りたノートを持ちながらそう告げる。そして毒ノ森もその発言に同意する。

因みに二人は一切悪びれていなかった。
これを器が小さいで済ませていいものか…………。

棚加「って、おい。お前らなに人から借りたもの燃やそうとしてんだよッ!!てめぇらほんとに人間か⁉ほんとは魔物なんじゃねぇの⁉」

毒ノ森「いや、ノートを借りたと思ったら、どうやらゴミを渡されたみたいだったから…………。代わりに燃やしてあげようかなって?」

棚加「いや、ゴミじゃねぇよ!ちゃんと書いてんだろ、ほら!」

そう言い、棚加はノートを開く。
話の行く末を見守っていた、雪白狂実は缶ビールをクシャリと潰す。

音長・毒ノ森・棚加「「「え?」」」

雪白「おい、てめぇら、何だこのノート?」

音長「い、いや、ノート書いたのは俺らじゃ…………。」

雪白「かんけぇねぇよ。なんせ、話聞く限り、てめぇらも同じ穴の狢だろ?いや、それ以下か?」

棚加「く、くるみちゃん?俺、被害者、だよね?」

雪白「うるせぇ!!教師が毎日どんな思いで授業考えてると思ってやがる!てめぇら全員血祭りだ!!」

音長・毒ノ森・棚加「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」

この日、三人の生徒が全身複雑骨折で保健室に運ばれることになった。

因みに余談ではあるが、雪白狂実は元護懐である。

称号は「不滅」

「その者、何人も殺すこと叶わず」


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それでも私は信じたい

前回のおまけに関して

音長・棚加「「どうやって燃やそうか」」
と書いたのですが、正確には、音長・毒ノ森です。

感想と誤字報告ありがとうございます。励みになります。

また、同じく、おまけに「そのもの何人も殺すこと違わず」と書いたのですが、正確には「その者、何人も殺すこと叶わず」です。


この前まで一緒に何気ない会話を楽しんで、戦いのときは背中を任せたパーティーメンバー、棚加君の顔だった。

 

しかし、棚加君と瓜二つであっても瘴気だけは隠せない。

魔物が魔物である限りこの法則は絶対だ。

 

そして、棚加君の姿をした魔物ということは恐らくだが、相手はあの時の強化種だろう。

癒羽希さんもそれが分かったのか、即座に魔法を使う。

 

「⁉棚加君…………。いえ、≪アースバリア≫」

 

≪アースバリア≫

 

≪シャドーモール≫や≪アースモール≫を初めとした、地中や水中などに潜伏した魔物を炙り出したり、逆に地上に上がってこられないようにすることが出来る対抗魔法だ。

 

効果が限定的なため、雑兵級ダンジョンなどの使用魔法が限られる魔物を相手にする際はあまり使われることは無いが、恐らくこのダンジョンに潜るにあたって念のため用意していたのだろう。

 

この魔法により、目の前にいる強化種は≪シャドーモール≫使うことは出来なくなった。

 

更に、地面からズズズと、もう一体の強化種が現れる。

 

こいつは弧囃子さんの姿をしていた。

 

「二体か」

「やっぱり…………」

 

癒羽希さんは二体いたことに気が付いていた、いや、前回も二体で行動していたため警戒していたのだろう。

 

ナイスアシストだ。

 

 

俺は空になった≪アクアバインド≫を抜き、≪マナシールド≫をセットする。

更にもう片方のチップには≪アクセラレーター≫を選択する。

 

因みにこれが最後の≪アクセラレーター≫だ。

 

後、≪アクアバインド≫≪フィジカルオーガ≫≪シャープネス≫に関しては俺が使うよりも、癒羽希さんに使って貰った方が効果が高いため癒羽希さんに渡しておく。

 

「このチップはお前が持っておけ」

「……≪フィジカルオーガ≫に≪シャープネス≫、≪アクアバインド≫ですね。分かりました。お預かりします。

…………≪フィジカルオーガ≫と≪シャープネス≫念のためかけ直しますね。」

「ああ、好きにしろ」

 

一応、まだ、効果は切れていないが、戦闘中に切れないようにかけ直してくれるようだ。

 

「≪フィジカルオーガ≫≪シャープネス≫」

 

≪フィジカルオーガ≫と≪シャープネス≫をかけ直したし、現状の中で万全の状態を整えた。

 

「≪アクアバインド≫」

 

更に、癒羽希さんは魔物に≪アクアバインド≫を使い、動きを阻害する。

これ以上、出来ることは無いだろう。

 

俺は結界を出て敵に突っ込む。正直言えば、序盤で≪アクセラレーター≫を使い、敵を速攻で倒すべきなのかもしれないが……………………切り札をここで切っていいのかと、ちょっと迷ってしまう。

 

勿論、それ以外にもこちらには凄腕の回復魔法士がついているため、長期戦にし、敵が消耗してきたタイミングで≪アクセラレーター≫を使い、倒すという思惑もある。

 

どっちの選択が良いのかは戦いが終わるまで分からないし、悪くない結果になることを祈るしかない。

 

敵は≪アクアバインド≫により動きが阻害される中でもこちらの動きに対応し、≪創剣≫を使い応戦してくる。

 

武器は以前とは違い、一振りの刀だった。

棚加君の記憶か何かに影響を受けているのだろうか?

 

俺がそう考えていると、もう一体の敵もこちらに接近してくる。

こちらも持っている武器は刀だ。

 

しかも、アクアバインドで動きを阻害しているのに…………速い‼

 

初めから≪アクセラレーター≫を使うべきだったか?

 

俺がそう考えていると、光の輪が魔物の動きを捉えた。

 

「≪ホーリーバインド≫」

 

癒羽希さんが拘束魔法で援護してくれたようだ。

 

しかし、既に使用した魔法の効果が切れるわけでは無く、更に…………。

〈バキッ〉その音共に魔物が≪ホーリーバインド≫の拘束から解かれる。

 

効果時間が極端に短いから仕方ない。

 

ただ、一端引くのには十分な時間でもあった。

俺は相手を切り裂きながら、結界の中に入る。

そこで、癒羽希さんの様子が少しおかしいことに気づく。割と長い間一緒にパーティーを組んでいたから分かった変化だった。

 

「…………どうかしたか?」

「……………………すいません。友達に、似ていたもので」

 

ふむ、成程、棚加君と弧囃子さんの姿をしているから動揺しているということか。

まあ、普通そうなるよな。

 

仲間の姿をしていて動揺するなっていう方が難しいか。

 

「……それでも、あれはお前の仲間ではない。」

「…………はい、分かっています」

 

癒羽希さんはそう言いながらも、俯く。

……………………道理の問題ではないから仕方がない。

 

俺は再度、棚加君の姿をした魔物に向かって駆け出す。

先程までは、どうにか長期戦に持ち込み倒そうと考えていたが、どうやら俺の実力で長期戦に持ち込むのは無理そうだ。

 

俺は≪アクセラレーター≫を使い、加速する。

 

敵がスローになる世界の中に入る。しかし、ここで俺は気づく。

 

相手との実力の差に。

 

勿論弱くはないと思っていた。

しかし、雑兵級ダンジョンにいるため元を正せば雑兵級の魔物であり、そこまで強くはないと踏んでいた。

 

しかし、この魔物たちは俺の動きを目で追っている。

そして追従してくる。

 

ハッキリ言って、≪アクセラレーター≫と癒羽希さんの≪フィジカルオーガ≫を付与されている状態で恐らく同速、もしくは俺が少し早いくらい。

 

そのため、こちらの攻撃にも反応される。

これでは勝負がつかない。

 

俺は何合も棚加君の姿の魔物と、弧囃子さんの姿の魔物を交互に相手にする。

 

剣を打ち合ったことによる火花がそこかしこで舞い散る。

 

…………このままじゃ、≪アクセラレーター≫が切れたと同時に殺される。

 

俺が内心で焦っていると、相手もまた、痺れを切らしたのか、弧囃子さんの姿をした魔物………長いから魔物(弧)って訳すけど、魔物(弧)は今までとは比べ物にならない程の力で剣を振り下ろしてきた。

 

俺はそれを魔剣でもって受ける。

 

これにより、鍔迫り合いのような形になったのだが、鍔迫り合いになると膂力の差によってこちらが押し込まれそうになる。

 

そこを癒羽希さんが≪ホーリーバインド≫を使い、敵の動きを封じてくれる。

 

俺は動きが止まった魔物(弧)の腕を斬り飛ばそうとする。

 

しかし、そこで、≪ホーリーバインド≫による拘束が解けてしまう。

更に魔物(弧)は一度身を引くことで、魔物(棚)と位置を入れ替わろうとする。

俺はそれを魔物(弧)の足を踏みつけることで防ぎ、その場に押し留める。

 

そして、動揺した所に再度剣をふるう。

完全に捉えたと思ったのだが、相手は強引に足を跳ね除け、後ろに下がった。

俺はそれによりバランスを崩す。

相手からすれば攻撃を繰り出す絶好の機会だ。

 

俺の背中に冷や汗が伝う。

 

ただ、いつまで経っても敵の攻撃は来なかった。

控えていた魔物(棚)が追撃を仕掛けてきてもおかしくないと思うのだが、

そう言った様子は一切なかった。

 

どうやら、魔物たちは真正面からの、連携に関してはそこまで鍛えていないようだ。

 

まあ、≪シャドーモール≫なんて初見殺しを使えるので、今まで必要が無かったのかもしれない。

 

それに、剣術における連携は基本的に難易度が高い。

息が合わなければお互いが邪魔で百パーセントの力を発揮できない。

その点を踏まえれば、危なくなったらフォローに入るという魔物たちのやり方は技術体系が確立していない中では上手くやっている方なのかもしれない。

 

俺がそう思っていると、敵の動きが加速する。

いや、≪アクセラレーター≫が切れたのだ。

 

俺は迫ってくる魔物(棚)の攻撃を何とか受ける。

但し、魔物(棚)の猛攻は止まらない。

 

上からの振り下ろしや手首を狙った斬撃、はたまた、胴目掛けての薙ぎ払い、しかも、魔物(弧)が後ろで黒色の矢、≪シャドーアロー≫を放ってくる。

 

刀での連携を諦め、完全に後衛に集中することにしたのだろう。

 

戦いの中で魔物たちの連携が洗練されてしまった。

 

俺は後ろから弧を描き飛んでくる≪シャドーアロー≫を≪マナシールド≫で防ごうとする。

しかし、魔物(弧)の≪シャドーアロー≫は俺の展開する≪マナシールド≫を容易に貫通する。

 

そして、俺の右肩を貫く。

 

「っ‼」

 

しかし、例え肩に大怪我を負っても敵は手加減なんてしてくれない。

魔物(棚)は刀を大きく薙ぎ払う。

俺はその攻撃を防ぐため魔剣を盾にする。

 

腕に鈍い衝撃が走り、宙を浮く。

 

どうやら、防ぐことには成功したがその余りの威力に癒羽希さんのいる場所まで飛ばされてしまったようだ。

 

「大丈夫ですか‼」

「…………ああ、問題ない。怪我を治してもらえるか?」

「は、はい!あ、あのもし良ければ、こば、後ろの魔物の攻撃が飛んで来た際に結界を張りましょうか?

 

そ、そうすれば、もっと上手く戦え「お前はその状態で自分を守れるのか?」

……そ、それは」

「なら、良い。お前は自分の身を守っていろ。俺は俺で何とかする。」

 

癒羽希さんが防御魔法で援護しようかって言ってくるけど、俺はそれを断る。

前にも同じことを言ったが仮にそれで癒羽希さんが死んだら、ここまで来た意味がない。

 

頼むから自分の命を大事にしてくれ。

 

とはいえ、正直お手上げである。

というか、≪アクセラレーター≫がある状態でようやく互角だった相手に今の俺がどうやって太刀打ちするのかって話だ。

 

仮に癒羽希さんが≪ホーリーバインド≫を使ったとしても、直ぐに拘束を解いて、逆に俺が返り討ちに遭うだろう。

 

俺がそう思っていると、魔物(弧)はじっと己の手を見る。

 

本当にただ手をじっと見ている。

 

しかも、二体ともだ。

 

一体何をしているのか。

 

ただ、チャンスでもある。

向こうが何に考えているのか知らないが、今がチャンスだ。

傷の癒えた俺はそんなやけくそな思いで敵に突っ込んだ。

 

魔物(棚)に斬りかかる。

魔物(棚)はこちらの攻撃を刀で受ける。

俺は鍔迫り合いの形になったと同時に今度は一度距離を離し、突きを放つ。

 

相手はそれを間合いのギリギリを見極め、後ろに下がる。

 

俺は、そこで魔剣を離す。

これにより、魔剣は魔物が見極めた間合いの外まで範囲が伸びる。

 

魔物は一瞬だけ眉をピクリと動かすと、片手を刀から離し、人差し指と中指で白刃取りをする。

 

ここで押し切る‼

 

俺は掌底で魔剣を押し込みにかかる。

 

しかし、びくともしない。

 

こちらが全力で魔剣を押し込みにかかっているのに一切魔剣が押し込まれる気配がない。

 

膂力が違うとは思っていたが、まさかこれ程とは…………。

 

俺は魔剣の柄を握り、今度は魔剣を引く。

先程まで、押し込まれないように力を入れていた魔物は急に引く力が加わったことで体勢を崩し、それにより魔剣を離す。

 

俺はそれと同時、今度は刀を横に倒した状態で突きを放つ。

先程までは刀身を縦にしたまま突きを放っていたが、こうすれば人差し指と中指で白刃取りをしようにも、指の方が斬れてしまうだろう。

 

取った‼

 

俺はそう思ったのだが、相手はこちらの突きをギリギリの所で半身をずらし避ける。

しかも、いつの間にか後衛を務めていた魔物(弧)が≪シャドーアロー≫を用意し、こちらを狙っていた。

 

俺はその攻撃を今度は、魔物(棚)の陰に隠れることでやり過ごす。

 

魔物(棚)はその行動に苛立ったのか、直ぐに俺を蹴り上げる。

俺はその衝撃で、遠くまで飛ばされてしまう。

 

とはいえ、魔物(棚)から距離を取れたのは僥倖だろう。

更に、俺はそのままの勢いで、≪シャドーアロー≫の着弾点へ向かう。

そこには少しずつ形が崩れていく、≪シャドーアロー≫が刺さっている。

 

俺はそれを抜き、魔物(棚)に向かって、投擲する。

魔物(棚)はそれを斬りはらうつもりなのか刀を上段に構えた。

 

「≪ホーリーバインド≫」

 

しかし、そこで、癒羽希さんが≪ホーリーバインド≫を使い、動きを止める。

その拘束自体は直ぐに解かれてしまうが、その間にも俺が投擲した≪シャドーアロー≫は魔物(棚)に向かって弧を描きながら進む。

 

そして、魔物(棚)は急遽、刀を下げ、避ける方向にシフトする。

とはいえ、完全に避けることは出来ずに半身をずらし、致命傷だけは避けたようだ。

 

致命傷は避けられたが、代わりに左肩に深々と≪シャドーアロー≫が突き刺さる。

俺はそれと同時に魔物が下げた刀の峰を足で踏む。

 

魔物(棚)は踏みつけられた刀を力任せに振り上げる。

俺はその勢いを利用し、天井まで跳び上がり、反転。

天井を足場に急降下し、魔物(棚)に斬りかかる。

 

そして、再度、刀と刀の衝突により、火花が散り始めた。

鍔迫り合いになった所で俺は魔剣を離し、未だ、敵に突き刺さったままの≪シャドーアロー≫を掌底で押し込む。

突然、手を離したことで魔剣は後ろに飛んでいってしまうが、相手も≪シャドーアロー≫を押し込まれた痛みで距離を取ったので、こちらも魔剣を取りに行く。

 

どうなることかと思ったが、活路が見えてきた。

 

 

☆☆☆

 

その戦いに私は違和感を抱いていた。

 

はっきり言ってしまえば、まるで大人が子供の遊びに付き合っているかのような、そんな茶番のような印象を受けたのだ。

 

魔剣師Pを名乗っていた彼はハッキリ言ってしまえば、それほど強くない。

≪アクセラレーター≫を使った際は雑兵級を圧倒していたが今の彼はそれこそ、雑兵級四体を相手にして辛勝できる程度ということが先ほどの戦いで分かっている。

 

間違ってもこんな特殊個体を相手に二対一で戦っていい人ではない。

 

その彼が、目の前で雑兵級を超える二体の魔物相手に渡り合っている。

ただ、それは彼が戦いの中で成長しているわけでは無い。

 

いや、勿論彼も頑張ってはいる。

 

空になったマジックチップを投げつけたり、相手の意識が刃に向かった瞬間、足払いを仕掛けたりと敵の意識の隙をつくトリッキーな戦いで魔物を翻弄している。

 

………でも、あの魔物たちなら力づくでどうにかできるのではないか?

 

私はそう考えてしまう。

 

もし、私の仮説が正しいのであれば、今互角に渡り合えているのは魔物の方に原因があるのではないか?

 

勿論、馬鹿な考えだとは分かっている、

それでも、私は他の魔物と比べてあの魔物たちは殺意が薄いように感じるのだ。

 

……………仲間の顔をしているからそう感じるだけなのかもしれない。

 

そんなことは分かっている。それでも私はそう信じたかった。今目の前で起こっている奇跡を、只の奇跡として片づけたくなかった。

 

棚加君たちが私たちを守るために今も戦っている、そう信じたいのだ。

 

☆☆☆

 

俺は何とか敵の猛攻を捌き続ける。

本来ならあり得ないことだが、何故か生きている。

第六感でも働いているのではないか、そんな風な考えが頭に浮かぶ。なんかそう考えればそんな気もする。

 

「行きます。」

 

何か覚悟を決めた声が後ろの方で聞こえる。

一体どうしたのか、しかし振り返って何をしているか確認する時間など俺にはない。

 

それから、どれだけの時間が流れたか………というかマジで何してるの?

後ろで何が起こっているの?

 

なんかすごい大魔法とか発動している感じ?

 

俺がそう思っていると、遂に癒羽希さんが魔法を発動させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「≪イモータルウォーリアー≫」

 

その声は空間全体に響き渡るほど大きな声であった。

癒羽希さんの覚悟が分かる声。

 

とはいえ、その、癒羽希さんが使った魔法はそこまで特別な魔法ではない。

精神強化魔法だ。

 

まあ、この場ではありがたい。

確かに劣勢すぎて、心が折れそうになっていないと言えば嘘になる。

 

「たすかっ」

 

そこまで言いかけて気づく。

俺の精神には何の以上もない。

 

何の干渉も受けていない。

では、一体誰に使ったのか。俺は後ろを振り返る。

 

彼女は両手を祈るように握りながら、魔物たちを見る。

 

まさか、まさかっ‼

 

「お前は馬鹿なのかっ‼魔物に付与魔法をかけるなんて何を考えている」

 

精神強化とは言え、魔物に付与魔法をかけるなんてどうかしている。

ダンジョン、一人で潜った件と言い彼女は一体何を考えているのか。

 

俺がそう思っていると、魔物たちの動きが止まった。

頭を抱え、唸りだす。

 

蹲り、血涙を流す。

 

何が起こっている?癒羽希カルミアは何をした?

 

俺の知っている≪イモータルウォーリアー≫とは別の魔法か?

それとも、口に出した魔法名はブラフで別のマジックチップを使った?

何のために?

 

俺が混乱していると事態が動き出す。

 

「………………………………オ、オレハ、オレハ、コ、コロシタク、ナイ」

「……………………ワタシ、ハ、タイ、マモリ、タイ、カゾク、ヲ、コドモ、タチ、ヲ」

 

魔物たちが声を出す。

 

言葉を発する。

 

あり得ない。

 

魔物が喋るなんて、強化種に食われたものの魂が宿るなんて、あり得るのか?

 

ただ、確かに目の前でその、あり得ないことがあり得ている。

 

 

「……………ウゥゥゥ、ナンデ、ナンデ、コンナ、コト、二」

「ごめんなさい。私に、私に勇気が無かったから…………」

 

そう言いながら癒羽希カルミアは結界の外に出る。

肉体強化も付与魔法も使っていない、それどころか、杖すらも手放し、棚加君の頬をその両の手で触れる。

 

…………こいつはやはり、馬鹿、なのか?

仮にここで、棚加君が豹変し、襲ってきたら抵抗することすらできずに殺されるんだぞ?

 

何で動じないんだ。

何でそんな表情を浮かべられる。

 

「……………ソンナ、コト、ナイ、ソンナ、コト、イッテ、ホシクテ、オレハ……………」

「………………棚加君は優しいんですね。」

 

そう言うと、ゆっくりと棚加君を抱きしめその頭を撫でる。

そして、次に弧囃子さんに視線を向ける。

 

その視線を受け、弧囃子さんは自嘲気味に笑う。

 

「…………マモル、ガワ、ノ、ワタシ、ガ、コンナ、ジャ、タヨリ、ナカッタ、ワヨ、ネ」

「そんなことは無いです。弧囃子さんがいたから、私は今こうしてここに立っています。だから、そんなこと、言わないでください。」

「………………アナタ、ハ、ヤサシイ、ノネ、アア、アア、ダケド、コンナ、カラダ、ジャ、ヒトヲ、ダキシ、メル、コトモ、デキナイ」

 

弧囃子さんは魔物となった自らの手を見ながらボロボロと涙を流す。

そんな弧囃子さんに癒羽希さんは近づいていく。

 

「抱きしめても良いんです。……………それでも、もしあなたが否と言うのなら、私が貴方を抱きしめます。瞳に溜まった涙は私が代わりに拭います。」

 

癒羽希さんは弧囃子さんを抱きしめ、その両目の涙を拭う。

それから、暫くの時間が経ち、弧囃子さんが決心を決めた様子で顔を上げる。

 

「……………………ネェ、オネガイ、ガ、アルノ。」

「……………………オ、オレモ、ダ」

 

「………なんですか?」

 

「「……オレヲ(ワタシヲ)、コロシテ、クレ」」

 

その言葉に癒羽希さんは目を大きく見開くと、一度下を向く。

 

そして、再度顔を上げると、覚悟を決めた目つきをする。

 

「初めから、そのつもりです。

私は魔物となったあなたたちを初めて見たときから、この手で殺してやろうと思っていました。

 

恨んでくれても構いません、憎んでくれても構いません。薄情だと罵ってくれても構いません。それでも、私は魔物という存在が許せないんです。」

 

癒羽希さんの声には震え一つなかった。

ただ、何故だか、その声がとても空虚なものに俺には感じた。

 

「…………ソウ、ヤッパリ、アナタ、ハ、ヤサシイノネ」

「………………ユウキ、サン、ヲ、スキ二、ナッテ、ヨカッタ」

 

そう言う二人を前に、癒羽希さんは置いてきたワンドを取りに行き、マジックチップをセットする。

 

「≪スティンガーレイ≫」

 

 

それはとても静かな声だった。

癒羽希さんが光の杭を生み出したと思ったら、次の瞬間には、目の前には胸を穿たれた二人の姿があった。

 

余りにも呆気なかった。

長い間、死闘を繰り広げた魔物の死体が転がっていた。

 

 

いや、棚加君がピクリと動いた。

生きていたのか。

 

「ハハ、ソウ、イエバ、サイゴニ、イイワスレテ、タ、コトガ、アッタ、ダカラ、シヌマエニ、ヒトツダケ、ソコ、ノ、パプリカ、二」

「俺か?」

 

何だろう。

流石に既に死に体であり、危険も無いだろうと思い、無防備に棚加君に近づく。

 

すると、棚加君は俺の手を引き、自らの方に近づける。

不味いっ‼

 

反応できない。

 

 

 

 

 

だが、棚加君は何もしなかった。

ただ、最後に俺の耳元で。

 

「オトナガ、ユウキ、サンヲ、シンデ、モ、マモレ」

 

被りものをしているため、正体は分からない筈だが、確かに棚加君はそう言い、静かに息を引き取った。

 

「魔剣師さん、棚加君はなんて?」

「……いや、たいしたことじゃない」

 

俺はそう言って言葉を濁す。

守れるかも分からない、約束を口に出すことは出来ない。

 

「そうですか…………」

 

そう言うと癒羽希さんは少し寂しそうな顔をする。

きっと、棚加君の最後の一言を聞きたかったのだろう。

 

俺がそう思っていると、癒羽希さんがマジックチップを交換し始める。

 

「……それは一体何をしている?」

「ただのおまじないです。おばあちゃんから教わった。

……≪輪魂≫」

 

俺の知らない魔法だ。

少なくとも、俺の設定にこんな魔法は無かった。

 

「これは、戦場で死んでしまった魂が再度転生できるようにするためのものなんですって。

……まあ、おばあちゃん曰く、信憑性は高くない、気休めみたいなものだそうですけど」

 

転生、俺はそんな設定は作っていない。

作っていないが、確かに、そうなってくれれば嬉しいと思う。

 

「……そうだな。きっと、また会える」

 

そしたら、あんな無茶な約束を一方的にしてきたことに文句を言ってやる。

一発殴っても良いな。

 

俺が癒羽希さんの方を向くと、彼女はどうやら目を瞑り静かに祈っていた。

 

どれだけ、時間が経ったかは、時計が無いので分からないが、それから暫くし、彼女瞼を開ける。

 

「では、行きましょう。魔剣師さん」

「……ああ……………いや、俺はもう少し残る。もう、お前一人でも大丈夫だろうしな」

「そんなことは無いですが…………いえ、分かりました。」

 

癒羽希さんは俺の提案を断ろうとするが、こちらが訳ありであると察してくれたのか、一人で帰ることを了承してくれる。

 

あ、あと、その……………………。

 

「…………ああ、それと最後に、その、………………マジックチップを分けてくれないか?」

 

俺はそう言い、彼女に≪フィジカルオーガ≫と預けていた≪シャープネス≫そして、彼女が持っていた≪ジェネリックシールド≫を分けてもらい。

 

彼女が出てから暫くしてから、外に出た。

 

 

「目的は達せたのか~?」

 

ダンジョンの管理人がそう言いながら話しかけてくる。

それに対し、俺は小さく頷くのだった。

 

☆☆☆

 

後に二代目戦巫女と呼ばれる癒羽希カルミアは学生時代に教師にも言わず、ダンジョンに潜ったことがあるそうだ。

 

この事件の詳細を彼女は余り語りたがらない。

しかし、この日の出来事が自分の考え方を変えたと彼女は良く口にしていた。

 

そして、彼女はこのような言葉を残している。

 

勇気とは、人を殺すことに非ず、人を生かすことに非ず、ただ、救おうと、守ろうとする意志である、と。

 

 




おまけ

この日、学校中にいる生徒が屋上に集まって来ていた。
何かの催しが企画されていたわけでは無い。

しかし、多くの生徒が屋上に集まっていた。

何故なら………。

学園長「雪白殿、一体何をしているんだ?」

雪白「私気づいたのですよ~。この前、一人バーベキューをしている時に。」

学園長「気づいた、とは?」

雪白「この屋上に足りないものです~。」

学園長「足りないものなどないと思いますが?」

学園長は雪白狂実を睨みながらそう告げる
しかし、雪白は何食わぬ顔で話を続ける。

雪白「いいえ、あります~。ありすぎですよ~。ズバリ、お洒落レベルが足りません。全く、足りてません。だから~、私がお洒落にしてあげることにしました~。」

そう、現在屋上は本来の姿からほど遠いものになっていた。

コンクリートで出来ていた床には土が敷き詰められており、更に、屋上の一番奥にはウッドデッキが設置されている。
また、屋上へ上がるドアからウッドデッキまでの道にはレンガが敷き詰められている。

学園長「屋上から土が落ちたらどうするんだ?」

雪白「そのための対策に~、透明のビニールを床に敷いて柵にかけているのですよ~。ほら~」

雪白狂実はそう言うと柵にかかっているビニールシートを掴む。確かに土が落ちないような工夫はしているようだ。しかも、一応、柵からビニールシートが落ちないようにビニールシートに穴を開け、シャックルで柵とビニールシートを繋いでいた。

学園長「……成程、だがな、ビニールシートが破れたらどうするんだ?」

雪白「大丈夫ですよ~。昔の伝手を頼って作ってもらった特注品です~。学園長のへなちょこパンチでも破れませんよ~。ま~、へなちょこパンチなので破れないのは当然ですが~」

その瞬間、体感ではあるが周囲の温度が下がった。
しかし、雪白狂実は一切気にしていない。

それを察すると学園長は大きく深呼吸をする。

学園長「……もう好きにしろ」

学園長は既に諦めていた。彼女の傍若無人ぶりに。
そして、学園長が去っていくを雪白狂実は手を振りながら見送る。

雪白狂実「それじゃ~、最後の仕上げと行きますか~。」

そう言うと魔剣を突き刺し、魔法を発動させる。それと同時に草木が生えだす。
魔法で既に植えていた植物を急成長させたのだ。

下から、誰かが駆け上がってくる足音がする。

学園長「…おい‼ここまでするとは聞いていないぞ」

雪白「そうですか~。それじゃあ、私はここでキャンプをするのでどっか行ってくださ~い。」

学園長「はっ?何を言っている。」

雪白狂実は学園長の問いに答えず、黙々とテントを組み立てていく。

学園長「……ま、まて、どこから持ってきた。朝は持っていなかっただろ⁉」

雪白「寮からですよ~」

学園長「な、なるほど寮か…………寮?うちに教師用の寮はなかった筈だぞ?」

その言葉に反応したのは女子生徒たちだった。
それを見ていた学園長は彼女たちが何かを知っているということに気づく。

学園長「……何か知っていることがあるなら教えてくれ」

疲れ切ったその様子に同情したのか、一人の女子生徒がある事実を学園長に教える。

女子生徒A「え、えっと、そ、その、女子寮の一番左の部屋とその隣は一階、二階、三階ともに先生の部屋になってます。」

学園長は教えてくれた女子生徒に感謝を宣べると雪白狂実に向き直る。

学園長「……………これは、どういうことだ。雪白殿」

雪白「話すことでもないですよ~。女子寮の端っこが空いてたから、折角なので私の部屋にしただけです~。
あ、一応、伝えておきますと~。同じ階にある部屋は~、壊して一つの部屋にしました~。あと、部屋内に階段を設置しました~。お風呂と、お手洗いと、キッチンも設置しました~。
それでは~、私は~、キャンプを楽しむので出て行ってくださ~い。」

その言葉を聞いていた学園長は天を仰いでいた。

後、屋上を身に来ていた音長たちは

棚加「いつか、俺らもあそこでキャンプしたいな」

音長「何か良さげだよね。」

毒ノ森「キャンプ道具どうしよっか?」

三人でキャンプをする約束をしていた。




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見つけ次第、地の底まで追っかけて○す
プロロー……………どっちかと言うとエピローグ?


☆☆☆

 

俺達は今、一年の間だけ月に一度、無料で利用できるレストランの中にいる。

 

ミーティング、とかではない。

 

祝勝会でもない。

 

では、何をやっているのか、と言うと

 

「皆さん、今日までありがとうございます。」

 

癒羽希さんは瞳を潤ませながら、頭を下げる。

 

そう、送別会だ。

 

癒羽希さんは今日を以て毒ノ森班を抜けることになった。

 

事の顛末を語るには既に一週間前の出来事となる癒羽希さんが単身でダンジョンに突入した日、その後何があったかを語らなければならない。

 

とは言っても、俺も他の人から聞いた話だから、詳しいことは言えない。

 

けど、話によると癒羽希さんはダンジョン前まで来ていた教師や防人の人にこっぴどく怒られたらしい。

 

 

 

……予想は出来ていた。

教師の人に癒羽希さんがダンジョンに入っていないか確認をとって貰ったの俺だし。

 

だからこそ、敢えて時間を空けて一人でダンジョンを抜け出したんだしな。

 

俺のことは良い。ダンジョンに入ったことはばれていないし、何食わぬ顔で寮に帰ったので、特段語ることもない。

 

話は戻して、癒羽希さんに関してだけど、その後、一人でダンジョンから帰還する腕前を買われ、特別防人に、そして、一人でダンジョンに潜った責任を取らされ、毒ノ森班から真道班へ異動となった。

 

 

……まあ、ただの口実だ。

 

実際のところは剣凪さんや穿間さんが真道君たちと共にウェアウルフを討伐したことで特別防人に任命されたため、上層部が若い世代の台頭を感じ、戦巫女の孫である彼女も特別防人にした、といった所だろう。

 

期待を掛けられているってことだな。

それと同時に真道君のパーティーに攻撃魔法士、防御魔法士、魔剣士が既にいるから、回復魔法士も欲しいという考えもあったのだろう。

 

 

 

ズズズと鼻をすする音が聞える。

 

「……寂しく、なるわね。でも、貴方と一緒にパーティーを組めて本当に良かった。特別防人になったけど、無理だけはしないでね?」

 

未裏さんは涙と鼻水を必死に堪えながら、癒羽希さんに話しかけている。

別に今生の別れってわけでも…………いや、特別防人は今まで以上に危険も増えるだろうし、今生の別れかもな。

 

何より、授業とかも特別なものに置き換わるから、教室とか訪ねても会えないかもしれないしね。

 

あっ、毒ノ森君が未裏さんにティッシュを渡した。

 

あれが、デキル男って奴か。

 

そして、未裏さんにティッシュを渡した毒ノ森君は未裏さんに向き直る。

未裏さんのように泣いてはいないが、どこか寂しそうな顔だ。

 

「割と未裏さんと被る内容になっちゃうんだけど、君と一緒に戦えてよかった。君なら真道君たちと共にもっともっと輝ける。

……でも無理だけはしないで欲しい。

僕らは君が戦果を挙げるより、君が無事でいてくれる方がよっぽど嬉しいから」

「未裏さん、毒ノ森君……………………ありがとうございます。毒ノ森班の名に傷をつけないように精一杯頑張ってきます!」

 

二人は強く強く、頷く。

 

「うん、何があろうと君が毒ノ森班ってことは変わらない………。

ただ、君が気にするほど僕らの名前は大きなものでもないよ?だから、僕らの名前に、いや君自身の責任感に潰されないようにね?」

 

毒ノ森君はそう言って穏やかに笑った。

その笑顔にはやはり、寂しさが宿っていたが、それと同時にどこか誇らしげでもあった。

 

うん、とてもいい話だと思うんだけど………こっち向くのは止めないか?

 

癒羽希さん。

 

毒ノ森君、未裏さんも君らもつられてこっち向かないでよ。

 

「…………あ~、まあ、困ったことがあったら相談に乗るよ。それに俺の出来る範囲のことであれば、力も貸す。」

「……ふ~ん、貴方がそんなことを言うなんてね」

「別に頼まれたから、少しくらいは力になろうと思っただけさ。」

 

少し訝し気な表情を浮かべる未裏さんに対し、俺はそう告げる。

 

………あんな、約束を守れるとは思ってないけど、それでも少しくらいは力になってっもいいかなと思う程度には俺にも情はある。

 

「……約束、ですか?」

「………ああ、無責任クソ野郎とのね」

 

首を傾げる癒羽希さんい対し、俺は吐き捨てるように言った。お前のことだぞ棚加‼

 

本当に、本当に厄介な遺言を残してくれたものだ。

 

「……………音長君は何でそんな無責任な人との約束を守るんですか?」

「……それは。

 

 

 

 

…………………………………………多分だけど、カッコイイって思ったんだ。

確かに自分は約束をほっぽり出した癖に、俺には無理難題な約束を一方的に押し付けて来てクソ野郎だけど…………それでも、アイツは変わらなった。

どれだけ、絶望的でも、救いが無くても……………………確かに輝いて見えたんだ」

 

言って気づいたけど、すごい、すごい、こっ恥ずかしいこと言ってるな。

 

うん、今のなし、無しにしようか。

 

「って、言うのを昨日の内に考えていたんだ。

ほら、約束を守る男ってなんだかカッコいいだろ?

癒羽希さんに振り向いて欲しくてさ」

「…………ふふ、そうですか。一瞬本気にしちゃいました。

胸もドキってしちゃたんですよ?」

 

おい、なんだい、その意味深な笑顔は⁉

どっち、それ、どっちの笑顔?

 

魔性の女アピ?

 

それとも、私は分かってますよ、的な?

 

いやいやいや、そう言うのは良いからぁぁぁぁぁ‼

 

 

その後、送別会は恙なく終わった。

 

☆☆☆

 

送別会が終わり、寮に帰ろうとした時、未裏さんに呼び止められた。

 

「どうしたの?」

「い、いや、その、この前は言い過ぎたと思って…………その、ごめんなさい」

 

俺と未裏さんが最後にまともに会話をしたのは棚加君たちとパーティーに行き、棚加君たちが魔物に捕まった日のことだろう。

 

「……ああ、別に気にしてないよ。お互い、切羽詰まっていたいしね。冷静じゃなかっただけだ」

「……でも、あんたに当ったのは事実。

だから、謝らせて。

 

 

ごめんなさい。

 

………それと、今日であんたが私の思ってるような奴じゃないって分かった。」

「それは……どういう意味かな?」

「……………私はあんたが、他人に合わせて、自分の本心は言わない。私たちを………いえ、人を信頼しないし、他人を大切にしない奴だと思ってた。

…………………でも、今日のあんたの目には確かに誰かの期待に、約束に応えようとしてた。

……目に熱が宿ってた。

だから、ごめんなさい。」

 

彼女が何を言いたいのか、分からないし、分かりたくない。

だから、俺は曖昧に笑って返した。

 

まったく、皆、人のことを買いかぶりすぎた。

 

俺はそんな大それた人間じゃない。

 

もしほんとに君らの言うような人なら、あの場で直ぐさま撤退を選ばなかっただろう。

 

棚加君との約束を守るためにもっと躍起になっていただろう。

 

俺はそんな風にはなれない。直ぐに自分の命のことを考えてしまう。

 

直ぐに他人の命に見切りをつけてしまう。

 

棚加君や癒羽希さんみたいに自分の命を捨てて他人を守る献身なんて持ち合わせていない。

 

俺は只の臆病者だ。

 

彼らのような精神から滲み出る英雄性なんて持ち合わせてないんだ。

 

ただ、彼らの光に照らされて、その光に飛びついているだけ。

 

……………………だから、どうか買いかぶらないでくれ。

 

☆☆☆

 

 

送別会の後、俺は自室に引きこもっていた

引きこもって何をしていたかと言うと……………………ベットに寝っ転がりながら、スマホをいじる、そんな風に過ごしていた。

特段何もやる気が起きない。

 

「はぁ」

 

魔剣師とか魔導師では無く、音長盆多として、勘違いをされてしまった。それが殊更に居心地が悪い。胃の辺りがむかむかして気持ちが悪い感じだ。

 

それと、何だか毒ノ森君と会うのも億劫になり、唯々、時間を浪費する。

 

普段なら見ない動画を再生してみたり、ニュースやゴシップ、SNSに目を通す。

適当にスクロールしているだけなのに不思議と飽きない。

 

どれもこれも新鮮な情報ばかりだからだろう。言ってしまえば情報のバイキングってやつだ。

 

俺はひたすら脳死でスクロールを続けていく。

 

いや、もう何分、こうしていただろうって思うくらい。

でも、画面がピタリと止まった。

 

俺の指が止まった訳じゃない。画面が一人でにピタリと止まったのだ。

 

バグだろうか、俺は首を傾げながら、再起動しようとスマホを弄る。

 

しかし、再起動できない。

 

あれ?再起動も出来なくなった。

 

俺は頭にクエスチョンマークを浮かべる。なに、これ。

 

そして、次の瞬間、画面が砂あらしのように荒れる。

えっ、えっ?

 

ベットから起き上がる。そして駆け出す。

 

ある場所に向かうために………。

 

 

「……いぃぃやぁぁァァァァァァァァァ、毒ノ森君助けてぇぇぇぇぇっ、スマホおかくなったぁぁぁぁぁァァァァァァァァ」

 

俺が毒ノ森君の部屋の前でそう叫ぶと、毒ノ森君が思いっきり、ドアを開ける。

 

いたっ!

 

ドアに顔ぶつけた。

 

「……びっくりしたぁ。えっと……、それでスマホだっけ?

実は俺のも変なんだよね。

砂嵐みたいになって使えなくなった」

 

 

なんてことだ。毒ノ森君も同じ状況になっていたなんて。

俺と毒ノ森君が話していると、さっきの俺の声に反応して、自室から出て来た男子生徒が話に入ってくる。

 

「……………お前らも、なのか?

俺も何だよ。

 

……あと、音長、お前声でけぇよ。

普通に迷惑だわ」

 

まさか、よく分からん、男子生徒まで被害に遭っているなんて………。

 

その後、談話室に集まったところ、他の生徒のスマホも同じ状況になっているらしい。

因みにテレビも駄目だった。

砂嵐が起こって見れない。

 

生徒の一人が言っていたんだけど、凶悪なクラッカー集団が攻撃を仕掛けてきているのかもしれないんだって。

 

ふ~ん。

 

これ、今こそ、雪白先生の教えを実行する時だよね?

 

見つけ出して、原型をとどめないレベルで細切れにしなくちゃ。

 

そんで、被害者の人たちで、チーズとかハムとか、ミントを挟んでパーティーだ!

 

って、それは別のクラッカーか。

まあ、いいや、とりあえず、どうやって見つけるかだよね。

 

☆☆☆

 

部屋を灯すシャンデリア、新雪のように柔らかい絨毯。

いくらするか分からない壺や絵画が飾られている部屋で四人の男女が円卓を囲んでいた。

 

「……それでは、一人、欠席者が出てしまいましたが、会議を始めましょう」

 

モノクルを掛けた金髪の女はそう言うと書類を全員に配っていく。

 

それを一人はじっくりと読み込み。

一人はパラパラと概要だけ頭に入れていく。

そして、最後の一人は欠伸をし、椅子に寄りかかると目を瞑る。

 

「…【不滅】、折角用意しているのですから、少しは見てくれませんか?」

「あっ?だりぃよ。俺の役目は敵を殺す事だろ?こんな紙切れ読むことじゃねんだよ。

そう言うちまちました仕事はてめぇらの役目だろ?」

 

【不滅】と呼ばれた男はそう言いながらニヤリと笑う。

女はそれに対し、分かりやすく舌打ちをする。

 

ただ、不快に思ったのはどうやら彼女だけではなかったようだ。

 

「……ふっ。先代の【不滅】が戦えなくなって、仕方なく代替わりをした若造が随分と偉そうだな?」

「んだとッ【解毒】‼

状態異常の回復しか能のねぇてめぇが俺に反論してんじゃねぇッ‼」

 

【不滅】と呼ばれた男は頑丈そうな円卓を素手で叩き割り、威嚇する。

 

しかし、【解毒】はその男の行動を鼻で笑う。

 

「おいおい、癇癪を起すなよ?

大人だろう?

 

それにさっきの話も事実じゃないか、【無二】には勝てずじまいで【虚心】に関してもこの前の模擬戦じゃあ負けそうになっていたしなぁ?

……あれ、【真理】が止めてくれてなかったら、負けてたんじゃないか?

なあ、【虚心】からも言ってやれ」

 

その言葉に一人縮こまり、じっと資料を読み込んでいた中性的な少年はびくりと震える。そして、肉食動物を前にした小動物のようにびくびくとした様子で顔を上げる。

 

「え、えっと、ぼ、ぼ、ぼ、ボクは皆さんと仲良くできたらなぁって、お、お、おおおお思います。はい!」

 

その様子はお世辞にも強者には見えなかった。教室の隅っこで静かに本を読んでいそう。

そんな印象を抱かせる。

 

彼らのやり取りを見ていた、【真理】と呼ばれた女は見かねて手をパンっと叩き、場を支配する。

【真理】は自分に他の面々の意識が向いたのを理解すると今回渡した資料の内容………つまり会議の本題に入る。

 

「…では、今回の会議の本題に入るわ。

今回は政府から依頼された今起こっているクラッキング事件に関して説明していくわよ」

「………はぁ⁉んなもん俺らの仕事じゃねぇだろ?他の組織にやらせとけよ‼」

 

【不滅】は今回の会議の内容に噛みついて来る。そこには【解毒】に痛い所を突かれた八つ当たりも若干ながら入っていた。

しかし、敢えてその点には触れず、【真理】は冷静に現状を説明する。

 

「貴方の言う他の組織が、お手上げ状態だから、私たちにお鉢が回ってきたのよ。」

「成程な……………しかし、クラッキング……………人でありながら、人の世に仇なすか、本当に魔物みたいな奴らだな」

「【解毒】貴方の言いたいことは痛い程分かるけれど、どうやら今回は当たりみたい」

 

その場にいた男三人衆は同時に首を傾げる。

当たり、とは?

しかし、暫く頭を傾げていた【虚心】は何か考えついたのか、弾かれたように手を挙げながら立った。

 

「わ、わ、わ、分かりました‼。つ、つ、つ、つまり、人間のような魔物でも、ま、ま、魔物のような人間でも、どっちも殺せってことですね‼」

「……………………ええ、そうよ」

 

「なんだ、簡単じゃねぇか」

「ふむ、どうやら今回の仕事も楽そうだ」

 

余りにもキラキラした目で発言する【虚心】。

そして、残り二人の男どももそれで納得したため、【真理】は説明することを放棄した。

 

(………実際、黒幕を殺すことには変わりないし……………………良いわよね。

というか、問題は【無二】の方よ⁉一応場所には検討は付いているし、一応部下に情報を持たせて向かわせたけど……………………こんな状況だし、いつあの子に情報が伝わるかしら?)

 

その場にとても緩い空気が流れる。

若干お馬鹿な男衆、額に手を当てる女性。

まるで、大学のサークルのような緩さだが、それでも彼らは紛れもない強者だった。

あらゆる局面に対応できる国が抱える最終兵器、五本の指に入る防人の最高峰。

 

その名は護懐。

彼らにはそれぞれ別々の称号と役割が設けられている。

 

【不滅】

その者、何人も殺すこと叶わず

 

【真理】

その目、何人も欺くこと叶わず

 

【解毒】

その体、何人も侵すこと叶わず

 

【虚心】

その心、何人も揺るがすこと叶わず

 

 

 

 

そして、

 

長髪を靡かせた女は防人魔法学校の屋上でグッと伸びをする。

 

そして、大きく息を吸った。

 

「いやぁ、久しぶりの母校。今はくるみんと、何より、先輩の息子さんがいるんだよね‼

楽しみだなぁ‼

 

……………………でも、うちの学校の屋上ってこんなにお洒落だったっけ?」

 

女は無断で侵入した学園の屋上で首を傾げる。

 

 

 

 

 

【無二】

 

その技、何人も模倣(まね)すること叶わず

 




おまけ

音長と毒ノ森は談話室でお菓子を食べながら、今日のことを振り返っていた。

音長「まさか、スマホもテレビも使えなくなるなんてね」

毒ノ森「うん、こんなことになるなんてね」

二人はそれだけ言うと暫くの間、沈黙する。
毎日のようにあっている分、話すことも限られてくるのだ。
それでも、その沈黙は二人にとっては特段不愉快ではなかった。

むしろ、日常の一部に近い。何故なら、毎日会っているため話すことが少ないから。

ただ、この日、毒ノ森は何気なく、音長に話題を振った。

毒ノ森「そう言えば、音長君が昼に言っていた約束の相手って、俺も知っている人?」

音長君「…………言えないし、言いたくない」

毒ノ森「……………そっか。」

音長君「……………………うん」

毒ノ森「……タケノコフォレスト、いる?」

毒ノ森は自分が食べていたお菓子、タケノコフォレストを差し出す。

音長君「…え?いや、コアラの行進食べてるし、別にいらないんだけど…………」

しかし、音長もまた、コアラの行進を開けて食べていた。

毒ノ森「……はっ?戦う?」

音長「いやいやいや、なんでコアラの行進とタケノコフォレストが戦うのさ‼
君らが毎日戦ってるのはキノコシティーボーイでしょ‼」

毒ノ森「いや、関係ないが?シティーボーイだろうがプレイボーイだろうが、コアラだろうが、俺らはタケノコが一番であると世界が認めるけど、この歩み(覇道)を止める気はないが?」

その後、どっちが美味しいか討論がなされたが、生憎、決着に関しては音長と毒ノ森しか知らない。


作者の一言

それは過激すぎるよ、毒ノ森。


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真道君には女難の相が出ているのかもしれない………。

☆☆☆

 

現在、俺は魔剣士科の教室で座学を受けている。

因みに、通信機器が使えないのは変わらず、だ。

 

しかも、うちの学校だけでなく、全国で同様のことが起こっているらしい。

交通網も混乱していて、徒歩以外の交通手段が現状ほぼないと言っても良い。

 

その状態で授業を行うのか?と思われるかもしれないが、うちの学校は全寮制であるため、まったく関係は無かった。

 

普通に寮長から、明日も学校に行くように言われた。

 

まあ、教師の寮は無いから、教師は学校に来ることが出来ずに一部の授業がダンジョン攻略に代わっていたりもする。

 

普通ならとんでもない大事件だけど物理的に生徒がいなくなることがあるのを考えれば多少は平和なのかもしれない。

 

………………いや、やっぱり、俺のスマホは返せ。

 

 

そんなことを思いつつも手は黒板に書かれた内容をノートに写す。

 

 

詰まる所、別段変化もない日常を過ごしている訳ですよ。

 

将来は防人になることが決まっているのに、通常科目の筆記テストがあるから仕方ないね。

 

因みに、基本的に個別授業である特別防人たちも座学だけは一緒に受ける。

俺としては座学なんて受けず、一生実技の訓練だけをしていて欲しいんだけど…………。

 

いや、そうなると世紀末、もしくは原始の時代の荒くれものが生まれるか?

 

……………やっぱり、座学は大切だよね!

 

偉い人達ってやっぱり色々考えてるのかなぁ。

 

ガラガラ

 

教室の扉が開く音がする。

誰かがトイレに行った訳でもないのに…………授業中であっても伝えておかなければいけない緊急の要件だろうか?

 

俺はそう思いながら、扉に視線を向けた。

 

 

…………………知らない女が立っている。

その女は整った顔立ちで子供のように無邪気に笑い、長い黒髪を編み込んでいた。

 

マジで誰だよ⁉

 

不審者⁉

 

「たのもぉぉぉぉぉ!真道才君はいるかぁぁぁぁぁぁ!」

 

授業中なのに大声出すな‼

 

まぁ、主人公の知り合いなら納得か…………。

 

俺は一人でうんうんと頷く。

 

そして、真道君を見る。

 

ほら、呼んでいるぞ、主人公(偽)

 

因みに、早よ行けというのはクラス全体の総意であった(教師含む)

 

☆☆☆

 

俺は目を白黒させ、腕を掴まれながらも、されるがままとなる。

一体何がどうなっているのか、何故こんなことになっているのか、俺自身、状況をあまり、理解できていない。

 

というのも、知らない女が教室に入って来たかと思ったら、あれよあれよとここまで連れてこられてしまったのだ。

 

ただ、悪意を持っているようでもないし……………特別防人に関する事項を知らせに来た行政の人間だろうか?

 

それにしては随分と態度も服装もラフな気がするが………。

 

…いや、服装に関しては、短パンに黒タイツ、白のTシャツにヒートテックという服装ではあるが、戦闘服か?

 

俺は、衣服から微かに漏れる魔力からあたりを付ける。

 

と、なると十中八九防人……………任務の協力要請?

 

俺は周りを見渡し、人の気配が無いのを確認して女に声をかける。

 

「この辺で良いんじゃないですかね?要件は何ですか」

 

女はその場でキョトンと首を傾げる。

人気がないとはいえ、流石に廊下の真ん中では不味い話か?

 

「分かりました。では屋上に行きましょう」

 

俺は屋上までその女性を誘導する。

何か、内密で話したいことがあるのなら、あそこが最適だろう。

…まあ、雪白先生が使っていなかったら………だが。

 

 

 

 

 

 

俺は屋上へと続く、階段を上り、屋上の扉を開く。

どうやら、誰も使っていないようだ。

 

「どうぞ、入ってください」

 

俺は女を中に入るように促し、女が入った後、扉を閉め、中に入る。

 

「それでは改めて、俺に何の用でしょうか?」

「えぇ、急に言われても……………そうだなぁ、あんまり深い理由とかは無いんだけど、強いて言えば顔を見に、かなぁ?」

「は?」

 

俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

わざわざ、授業中の教室に入って来た理由がただ、顔を見るため?

 

ふざけているかとも思ったが、眉間に皺をよせ、腕を組みながらうんうんと唸っている女がふざけているとも思えない。

 

……………………真面目に言っている、と思っても良いのだろうか?

 

もし、仮に、そう仮定したとしたら、彼女は俺と密接な関係を持つ人物ということになる。

 

しかし、俺は彼女の顔に見覚えがない。

 

「……あの、お名前をお聞きしても?」

「ああっ!そうだった、そうだった。そう言えば、自己紹介がまだだったね。

私の名前は弧毬信濃(こまりのぶの)。よろしくね才君」

 

俺はその女の顔には見覚えが無かったが、弧毬信濃という名前には聞き覚えがあった。

 

『父ちゃん、お帰り‼』

『おっ、ただいま、才。』

『今日はどんな魔物やっつけて来たんだ‼』

『ん~、今日も魔物をやっつけてはないなぁ~。今、父ちゃん教育係やってるからさ。

こいつがまた生意気なんだよ。…………………………………………………だけど、俺に娘がいたらこんな感じなかなって思うんだよなぁ。生意気だけど、時々甘えてくることもあってそんなところも可愛いし』

『また、その話かよ‼』

 

当時の俺はそう言って直ぐに、部屋に籠ってしまっていた。

俺には親父しかいなかったし、その唯一の肉親を取られてしまったように感じたのだ。

 

その少女の名前が確か、弧毬信濃(こまりのぶの)

 

親父が死ぬ前に何かあったら、助けてもらえ、逆にノブが困っていたら、助けてやれって言われた。

 

「弧毬さんですね。生前親父から可愛い後輩の教育係になったと話は伺っていました。改めまして、真道才です。よろしくお願いします」

「…うん、よろしく!私も先輩から目に入れても痛くないくらい可愛い息子がいるって話は聞いてたよ!」

「ははは、そうなんですか。……それで、弧毬さんは親父の息子である俺に会いに来てくれたということでしょうか?」

「うん、今まで会いに来れなくてごめんね。防衛任務とかもあったし…………私自身も気持ちを整理できなくて。」

「いえ、良いんですよ。俺自身、最近になって整理が出来ましたから」

「………そっか、それでもやっぱりごめんね」

 

 

俺としては、母方の祖母の下で暮らしてたため、不自由自体は無かったし、本当に気にしなくて良いのだが、何故かお互い無言になってしまう。

弧毬さんはその空気を変えようと無理やり話を振ってくる。

 

「そ、そう言えば、才君は何の食べ物が好きなのかな?」

「えっ、そうですね………エビフライでしょうか?」

「エビフライ、良いよね!私も好き、プリプリの海老にサクサクの衣はさいきょう‼」

「ですよね!っとすいません。まだ、授業の途中だった………。すいません、俺は授業に戻ろうと思います。」

「あ、そっか、ごめんね。授業中に呼び出しちゃって、一目でも君の顔を見ておきたくて」

「いえ、俺もあなたと話せてよかった。」

 

俺はそう言うと彼女に頭を下げ、屋上を離れようとする。

しかし、俺は一度、振り返って弧毬さんに問いかける。

 

「弧毬さんは今は何をなされてるんですか?」

 

なんてことの無い質問だ。ただの気まぐれと言っても良い。

 

だが、

 

「私?私は護懐をやってるよ。称号は【無二】。そうだ、ここで待ってるからさ、後で勝負をしない?才君」

 

 

 

 

 

 

俺の思考が止まる。

 

だって、その称号の前任者は親父だったのだから。

 

 

☆☆☆

 

う~ん、真道君は今頃何をしているのだろうか?

俺は授業にもあまり集中できずに真道君のことを考えてしまう。

 

もしかして、これが恋‼

 

なんて、そんな訳ないんですけど。

 

しかし、マジで誰だったんだあの人、真道君を連れて行って、どうするんだ?

 

クソっ俺にもっと力があれば……………。

 

俺が何も出来ず真道君を連れ去られてしまった無力さに打ちひしがれていると、扉が再度開き、真道君が入ってくる。

 

おお、真道君無事だったか。

 

「真道、話は終わったのか?」

「はい」

「よし、席に着け。」

 

教師はそう言うと授業を続ける。

 

生徒たちは何を話していたのか気になるのかちらちらと真道君を見る。

ただ、肝心の真道君は上の空で、授業の内容も生徒の視線も気づいていないように見える。

 

その後も真道君はどこか上の空で授業を受けていた。

 

因みにそんな真道君に意識を持っていかれていた俺も授業の内容をほとんど聞いていなかった。

 

あ、丁度いい所に毒ノ森君発見、ちょっとノート見せて貰っても良い?

 

☆☆☆

 

授業が終わり昼休みになった頃、上の空だった真道君は、いつもよく一緒にいる剣凪さんたちと少しだけ話し、教室を出て行った。

 

怪しい、とても怪しい、俺の名探偵としての勘が事件の香りがするって言っている。

 

「ごめん、ちょっと急用が出来た。」

 

俺は先程借りたノートを机の引き出しにしまうと真道君の後をつける。

 

「えぇ、ほんとに今日どうしたの……………。」

 

背後で毒ノ森君のそんな声が聞えた気がした。

 

 

真道君はどこか上の空のまま、歩く、歩く、歩く。

 

通常時なら、直ぐに気づくであろう俺の尾行にも気づいた様子はない。

それだけ、彼にとって、重大な何かが絡んでいるんだろう。

 

正直、俺としても他人の事情に深入りするのはどうかと思うが、彼には世界を救うという義務(俺が決めた)がある。

 

だから、こんな所でうんうんと悩まれても困るのだ。

 

俺は完全なる理論武装を身に纏い真道君の後を付ける。

流石に、女性関係の問題でないことを祈る。

 

特に、修羅場的なやつ。

 

でも、さっき教室に来たの女の人だったし、やはりそうなのか?

彼、一応主人公だし。

 

 

そう思いながら、俺は真道君の後をつける。

どうやら、彼は屋上に向かっているようだ。

 

一応、雪白先生の模様替え?リフォーム?により現在は以前と比べて屋上で昼食を食べる生徒も増えたが、現在、真道君はいつも一緒にいる剣凪さんとは別行動をとっている。

 

屋上、上の空、剣凪さんと別行動。

 

……ふむ、成程、逢引きか。

 

俺はそう思いながら、ついて行く。全然人の恋路とか興味が無いけど、ほら、俺も真道君のサポーター(自称)として様子を見る必要があるかなって、流石にほんとに逢引きならコッソリ出てくから、さ。

 

そうしている間にも真道君は屋上への歩みを進め、屋上の扉を開け、中に入っていった

俺も外から中の様子を覗く。

するとそこには、教室に入って来た女の人と雪白先生がいた。

 

しかも、二人はサングラスをつけ、パラソルを差し、寝そべれるタイプのビーチチェアに腰かけている。

因みに手元にはドリンクも置いていた。

 

いや、うちの学校満喫しすぎだろ!

まあ、それは雪白先生にも言えるんだけど。

 

真道君は一瞬だけ、体が硬直していたが、直ぐに気を取り直したのか彼女に歩み寄る。

きっと、真道君も驚いた顔をしてたんだろうな。こっからだと表情は見えないけど。

あちらの女性(雪代先生じゃない方)も真道君に気づいたのか、サングラスを取る。

 

「やっほ~、才君まってたよ~。」

「あ、ああ、それで、何で雪白先生と一緒に?」

「え、そりゃ、昔の同僚、しかも先輩が相手なら挨拶もするでしょ?」

 

えっ?雪白先生と同じ職場の人なの?

 

なら教師だったってことか?

 

「なっ、なに?なら雪白先生も護懐なのかッ⁉」

 

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、雪白先生が護懐⁉

 

ていうか、この人も護懐⁉

 

マジで⁉

 




おまけ

「はぁ」

俺はとある個室に招かれ、そこに置かれていた椅子に腰を下ろしていた。理由は俺の後継と会うためだそうだ。

しかも、上は俺が教育係として立派な防人にしろ、とか無茶ぶりをしてきやがった。
いや、俺は才を育てるので精一杯で他の奴に構ってる暇とかねぇんだが………。

「はぁ」

ま、後継ってことはそこそこの歳で実践経験もある防人だろうし、適当に模擬戦でもすればいいか。

……………本当なら、俺が現役で戦えればいいんだがな。
この前の健康診断で成長限界を言い渡されちまった。

流石にドクターストップを無視して死ぬわけにもいかない。
………まだ、才も小さいしな。

俺が自分の最愛の息子に思いを馳せていると、かちゃりと個室のドアが開く。

「ようやく来た………………」

途中で言葉が途切れる。それも仕方ない事だろう。何故なら、現れたのは才よりも少しだけ大きい七歳くらいの子供だったのだから。

「……おまえが、きょういか?きょういこ?がかりか?」

絶句してしまう。国はこんな年端もいかない少女を戦場に立たせる気なのだろうか?

いや、長い年月をかけ、防人として育て上げろということか?

流石に国もこんな小さな子を戦場には連れ出さない筈、俺はそう考えるもその考えはすぐさま否定される。

「わたしにきょういこがかりなど、ひつようない。すでにあままのだんじょんを、こうやくしているのだからな」

少女は胸を張り自信満々にそう告げる。この子の親がその在り方が正しいと教え込んだのだろうか?
もし、そうなら同じ親としてガツンと言ってやらねばならない。

「なぁ、聞きたいんだが、お前の親は今どうしているんだ。」
「おや?いない‼わたしはつよいからひつようないといっていた!」

親がいない…………。ならば孤児か。確かに国が運営する魔力持ちを集めた孤児院については小耳に挟んだことがあったが、そこでも防人として戦場に出るのは防人魔法学校を出てからだった筈。

「他にも、お前みたいにダンジョンで戦っている子供はいるのか?」
「いない‼わたしえばられたそんざいだからな!」

どうやら、他の子はダンジョンで戦ってはいないようだ。

「よし、分かった。今日からよろしくな。俺は真道勇理。お前は?」
「こまりのぶの‼」

俺は目線の高さを合わせ、手を差し出す。
しかし、のぶのはぺちんと俺の手を払った。

「かんちがいするな‼わたしはおまえを、みとめめいない!しょうぶしろ」

そう言うとのぶのは魔剣を抜く。一応、持ち方的には峰内に留めてくれようとしているらしい。

いや、どうすりゃいいかな?流石に子供相手に魔剣は抜けないし…………。

「よし、良いだろう。≪ハードソリッド≫」

これは肉体強度は勿論のこと、熱耐性や電気、毒などにも耐性を与えてくれる付与魔法だ。

これで俺がのぶのの魔剣を奪ってしまえばいい。

「ではゆくぞ‼」

のぶのは元気よくそう叫ぶと、魔力波を飛ばしてくる。
威嚇のつもりだろうか?

俺は不思議に思い首を傾げる。しかし、その瞬間、電撃が全方位から飛んで来た。

魔法の気配は無かった。
つまり、あの子は既に固有魔力波に目覚めている。

俺はそう思考を巡らせる。
厄介だな?能力は電撃系統か?

「だが、俺に電撃は効かないぞ?」
「そんなのはそうせいずみ、わかっている」

のぶのの声がする、背後から。

有り得ない。確かに、全方位からの電撃により、視界は遮られていたが、それでも人の走る音を聞き逃すとは思えない。

当たり前だが、魔法の気配もしなかった。

それから、暫くの間、俺とのぶのは個室の中で激闘を繰り広げた。

☆☆☆

「まったく、とんでもないな、お前」
「おまえじゃない‼のぶのだ!」
「わり、のぶの」

俺がお前呼ばわりしたせいでのぶのは少しだけ不機嫌になる。
今のは俺が悪かったな。

にしても、どう接すれば良いのやら。
俺がそう思案していると「ぐぅ」っと腹のなる音がする。
音の鳴った方を向くとのぶのがお腹を押さえていた。

「なんだ?腹が減ったのか?」
「うむ、しょくどうにいってくる」
「あ~、そう言えば二駅先にある水族館の近くのイタリアレストランが上手いって聞いたことがあるんだが、一緒に行ってみないか?」
「いたりあ………うまいのか?」
「スパゲッティとかだな」
「すぱげってぃ‼すきだぞ………………だが、そとにはでてはいけないんだぞ」
「何でだ?」

俺は首を傾げる。

「きょういこにわるいっていっていた‼」
「あぁ、成程、良いんだよ。今の教育係は俺だからな。ほら、見識を深めるってやつだ。何だったら水族館にもいくか?」
「すいぞくかんってなんだ?かいぞくのなかまか?」

今度はのぶのが首を傾げた。
どうやら、水族館を知らないらしい。

「お魚がいっぱいいる所だ。」
「おぉ、くえるのか?」
「いや、食えはしないが………ま、取り敢えず行けば分かる」

そう言うと俺はのぶのを連れてイタリアンレストランへと向かった。
のぶのからすれば全てが目新しいのか辺りをきょろきょろと見回していた。

それに、料理も旨そうに食っていた。大人ぶっている所はあるが、やっぱり子供なのだと実感させられる。

特に、水族館では様々な魚やペンギン、イルカのショウなどを目をキラキラさせながら眺めていた。

「きょうはたのしかったぞ、ほめてやる。…………えっと」
「勇理だ」
「そう、ゆうり。」

そう言うとのぶのはにっこりと笑った。
俺は勇利を肩車する。

「うぉぉぉぉぉ、じゃんぷしていないのにたかい!」
「はっはっは、そうだろう。よし、今度は遊園地に行こう。きっと楽しいぞ」

「うん!」

そうして、俺はのぶのを肩車しながら、防人本部へと向かって足を進めた。公園などにも少しだけ寄ったが。

☆おまけ2☆

水族館の二人の様子

信濃「おい、みろ、でっかいからだのさかなだ!なんていうんだ?」
勇利「ありゃ、サメだな。映画とかだと人を食っちまうこともあるな」
信濃「なに!ならたおさなくては」

信濃は拳を握り、水槽を叩き割ろうとする。
勇利はそれを急いで止めた。

勇利「まてまて、水族館の水槽を叩き割ろうとするな。少なくとも水族館のサメはそんなことしねぇよ」
信濃「む、そうなのか?かいしししたということか。」

信濃は勇利の言葉にそう結論付け、その場を後にする。この場にはそれだけ魅力的な生物が沢山いたのだ。

信濃「おい!びーるぶくろがういてるぞ!」
勇利「あれはクラゲだな。ビニール袋じゃなくて正真正銘の生き物だ」
信濃「ほぇ、あれも生きているのか。不思議だな。ふわふわしているのか?」
勇利「さぁ、でも毒があるみたいだな」

勇利は水族館の解説パネルを指さしながらそう告げる。

信濃「そ、そうなのか。うむ、こわくはないが、つぎにすすもう」

多少ぎこちなく話を逸らす?と信濃は歩き出す。

信濃「おおぉぉぉぉ‼すごい、とんだぞ。あのさかな。すいそうのなかにいた、さめよりでかい。」
勇利「そうだな。イルカっていうんだぞ」

信濃はイルカショーを見ながらテンション高く、勇利の服の袖を引っ張りながら、話しかける。
勇利はそれを温かい目で見守る。

信濃「わたしも、いるかとおよぎたい‼」
勇利「まてまてまて‼流石にプールの中には飛び込むな。」

今にもプールに飛び込みそうな信濃を勇利が急いで止める。
その結果、透明なプールの壁にべったり張り付くだけで済んだ。

因みに、イルカも信濃が自分を好いてくれていると分かったのか、ショーの終わりに少しだけの間であったが、信濃に会いに来てくれた。

信濃「おぉぉぉ、いるかまたな。またくるからな‼」
勇利「……だな。また、一緒に来るか」

信濃の言葉に反応し、勇利も信濃の頭を撫でながらそう呟くのだった。


☆公園での二人の様子☆


信濃「おぉぉぉ、なんだ、これはじょうげにうごいているだけなのに、すっごくたかくなる。」
勇利「それはブランコだな。一応言って置くが、手を離すなよ?危ないからな」
信濃「む、わたしはあままのだんじょんをこうやく、しているのだぞ。」

少し不服そうにする信濃に対し、勇利は少しだけ語気を強める。

勇利「それでも、だ」
信濃「……………わかった。」

信濃は納得は言っていない様子でそっぽを向きながらも勇利の言葉に了承する。
しかし、そっぽを向いた視線の先には自動販売機でジュースを買っている親子が目に入る。信濃はそれをじっと眺める。

勇利「喉、乾いてきたのか?何か買ってやるよ」

勇利はそう言うと自動販売機に硬貨を入れる。そして、信濃に何が飲みたいかを聞く。
信濃は先程の親子が買っていたものを選ぶ。

それを購入し終えた、勇利も適当に自分の分を買う。
信濃は座りながら、勇利は立ちながらジュースを飲む。

信濃「………なぁ、おまえは、わたしのとうさまか?」
勇利「…………………………少なくとも血は繋がっていないな。」
信濃「……そっか、そうだな‼つぎはゆうえんちとやらに、ちゃんとつれていけよ!あと、またすいぞっかんにいくぞ!」
勇利「ああ、一緒に行こう。約束だ」

そう言うと勇利は再度信濃を肩車し、帰路についた。



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いくらなんでも圧倒的過ぎない?(修正)

こんにちは ぱgoodです。

第十四話の【虚心】の台詞を

「え、えっと、ぼ、ぼ、ぼ、ボクは皆さんと仲良くできたなぁって、お、お、おおおお思います。はい!」から

「え、えっと、ぼ、ぼ、ぼ、ボクは皆さんと仲良くできたらなぁって、お、お、おおおお思います。はい!」に修正しました。


また、第十五話の

『いや、そうなると世紀末、もしくは原始の時代の荒くれものが生まれるか?

 

……………やっぱり、実技は大切だよね!』

の部分を
『いや、そうなると世紀末、もしくは原始の時代の荒くれものが生まれるか?

 

……………やっぱり、座学は大切だよね!』

に修正しました。



☆☆☆

まさか、防人の中でも上位五人しかなれない護懐とかいうトップランカーに会うことになるとは……

 

しかも今日で二人、片方は元護懐だけど…………。

 

世間って狭ぇぇ。

ていうか、やっぱり、護懐って一応いるのか。

主人公の父親以外は設定も作っていなかったらいなくてもおかしくないと思ってたけど…………。

 

う~ん、やっぱりここら辺は補完されているってことなのか。

もしくは、俺がこの世界のことを思いっきり勘違いをしているだけなのか。

 

いや、今はいいや、取り敢えず重要そうな話をしているから、そっちに意識を向けるか。

 

「それでさ、真道君ってこの後暇ある?」

「え…………まあ、あるにはありますが。」

「そうですね~。真道君は~、特別防人なので~、昼休み終わりのダンジョンに潜るかどうかも自己判断ですからね~、実質この後はフリーですね~。」

 

ふむふむ、この後の真道君の予定を聞くなんて、ほんとにデートっぽくなってきたな~。

 

「だったらさ、勝負しようよ。今から‼」

「……っえ⁉今からですか⁉」

 

 

何か勝負する流れになった。

 

一体何がどうなってるん?

 

なんの勝負?

 

俺は頭に疑問符をいくつも浮かべる。

ただ、疑問符を浮かべていたのはどうやら俺だけではなかったようだ。

 

「勝負ってゲームをしようってことですか?」

「へっ?違うよ。戦おうってことだよ!」

「いや、なんで勝負するんですか⁉戦う理由もないのに!」

「……っえ?急にそんなこと言われてもなぁ。

強いて言えば、ほら分かり合えるじゃん。戦った方がさ、お互いのことが。」

「っいや、戦わなくても分かり合えるでしょ。話し合えば…………」

「そう?私と先輩は初めての挨拶の時に戦って分かり合ったけどなぁ?

最近の子はそうじゃないの?」

 

おっ、真道君がぴくって動いた。

ムムム、お父さんの話題だったからだろうか?

確か、真道君はお父さんみたいな人になりたいとかなんとか、設定があったはず。

 

今のはお父さんの話を出されてついつい反応してしまったって所かな?

 

無駄な戦いを好むタイプじゃないけど、お父さんの話題を出されたら…………彼にとっては無駄な戦いじゃなくなるのかな?

 

「…分かりました。勝負しましょう。あくまでもお互い怪我をしない程度で。」

「やったぁ!じゃ、ハンデとしてマジックチップは使わないであげる‼」

「はっ?本気で言ってるのか?……じゃなかった本気で言ってるんですか?」

 

護懐の人のセリフに真道君は目を白黒させる。

まぁ、確かにこの世界の戦い、特に人間界ではマジックチップがものをいう。

それを考えれば彼が驚くのも無理はない。

 

ただ、この世界には魔法の他に固有魔力波というものがある。

彼女の能力が汎用性の高いものであれば、この申し出もそこまでおかしくはない。

 

まあ、俺もそこまで固有魔力波に詳しい訳じゃないけど。

 

いや、すいません作者なのに…………。

正直、そろそろ、俺の作者としてのアドバンテージが無くなってきてるんだよな。

 

前にも話したけど、序盤しか話は作ってないし…………。

俺がそんなことを考えている間も話は続く。

 

「本気も本気、だって私ならそれで余裕だもん。」

「いや、ですが………。」

 

真道君は雪白先生をちらりと見る。

それに対し、雪白先生は手元にあるジュースを少し飲んだ後にのんびりした声音で真道君の懸念に答える。

 

「好きにさせたらいいですよ~。少なくとも怪我はしないと思うので~。」

「ねっ?だから、大丈夫だよ。あっ、それとくるみん、審判任せても良い?」

「え~、無理です~。先生は~ここで森林浴をするっていう大切な用事があるんです~。」

 

そう言うと、雪白先生はどこからともなく、タオルケットを取り出し、自分の膝にかけ、ビーチチェアの腰掛を更に倒す。

 

あれ、完全に寝る体勢だろ。

 

「やっぱり、やめましょう。審判もいないですし。」

 

真道君はよほど護懐の人のことが心配なのか戦いの中止を提案する。

まあ、確かにマジックチップを使えるのであれば、咄嗟の際に防御魔法で自分の身を守れるけど、マジックチップを封じちゃったらそれも出来ないだろうからね。

 

これが戦人とかだったら別なんだけど……………。

 

「う~ん、そうだよねぇ。本当はくるみんに審判お願いしたかったんだけど仕方ないね。

そこで隠れてる子にお願いしよっか。」

 

そう言うと、護懐の人はこちらをジッと見る。

 

えっ?

 

バレてます?

 

いやぁ、そんな筈ないよね。

 

俺は息を殺し、ジッとその場で丸くなる。

 

絶対ハッタリ。ハッタリであってくれ。

 

「も~、わかってるんだからね~。真道君が入って来た時に一緒についてきてたの‼」

 

うん、バレてますね。

完全に。

 

俺は仕方なく屋上の扉を開き、中に入る。

いや、バレるなんて思ってもいなかった。

 

まぁ、護懐がいた時点で気づくべきだったんだけど、まさか護懐に会うなんてそもそも思ってなかったし、うん、仕方ないか。

 

「もしかして麗か?」

 

真道君はついてきた人間を剣凪さんと勘違いしているらしい。

残念だけど、同じクラスのモブPです。

 

なんてね。

 

「…いやぁ、すいません。…えっと初めまして音長です。

ちょっと、教室での真道君の様子が気になってついてきてしまいました。」

 

気まずい。

 

どうせ、誰も碌に名前も覚えていないようなモブが出しゃばってすいません。

 

「お前、同じクラスの音長盆多だろ?……ついてきてたのはお前だったのか」

 

真道君がそんな風に俺のフルネームを言い、ついてきていたのに驚く。

 

えっ、真道君。君、俺の名前覚えてたの?

 

「お友達?」

「…いや、そういう訳でもないけど………。同じクラスの仲間だしな。名前は覚えてる。」

 

真道君ッ!

 

君ってやつは!

 

俺ですら未だにクラスメイトの名前全員は言えないのに!

 

「ほへ~、そっか~。よろしくね。音長君。それと審判頼めるかな。」

 

えっ?いやぁ~、流石に、めんど、いや、昼食を食べるという大切な用事があるしなぁ~。

 

「う~ん、む「ありがとうっ!」……はっ?」

「今、うんって言ってくれたよね。じゃ、行こっか!」

 

そう言うと、護懐の人は俺を脇に抱える。

 

その後、何が起こったのか俺には分からなかった。

ただ、視界がブレたかと思ったら、いつの間にか、校庭に立っていた。

 

多分、転移ではないと思う。

風が吹き荒れ、砂埃が舞ってるし、三半規管がかなりやられて、体がふわふわする。

 

高速移動の類だと思う。

目で捉えられなかったけど。

 

ほんとに一瞬で視界が切り替わったみたいな感じだ。

 

俺と、護懐の人、確か弧毬さんに続き、真道君も、屋上から飛び降り、無事校庭に着地する。

 

真道君、身体能力ヤバいな。

 

勿論、小毬さんの移動速度もはた目から見たらえげつなかったんだろうけど。

 

いや、それよりも俺、教室帰りたいんですけど‼

 

「すいません。俺忙しいので……」

 

俺はそう言ってその場を後にしようとして…………足が動かないことに気づく。

そして、俺が足が動かないことに動揺していると小毬さんが俺の耳元に顔を寄せる。

 

そして、

 

「ねぇ、盗み聞きしておいて何もせずに帰れると思う?」

 

体の穴という穴から汗が噴き出る。

 

やばい、完全に虎の尾を、もしくは龍の逆鱗を刺激してる。

 

このままだと殺される。

 

それを本能的に理解する。

 

…………やるしかない。

 

俺は度重なる命のやり取りで培った直感に従いそう決意する。

 

………………取り敢えず、二人とも、位置についてもらうか。

 

「…………それでは、二人とも戦闘位置、そうですね十メートル位離れて貰っても良いですか?」

「オッケー、良いよ~。」

「俺もそれで構わない。」

 

二人はそれぞれ頷き、校庭の真ん中からそれぞれ、反対の方向に十メートル位離れてから魔剣の峰を相手に向けた状態で構える。

 

 

「では、はじめ‼」

 

 

俺のかけ声と共に、真道君が魔剣の刀身に触れ、仕掛ける。

少し離れて見ている俺の目でも追いかけるのがやっとな速さでの接近だ。

しかも、あれで恐らく基本の肉体強化しかしていないのだから、恐れ入る。

 

ただ、小毬さんも負けてはいない。真道君の速度を目で追い、的確に攻撃を捌いていく。

 

しかも、受け流すようにのらりくらりとした太刀筋で豪雨のような剣戟を放っている真道君の方が翻弄されている。

 

今の所、小毬さんはその場で真道君の攻撃を捌き、時々カウンターを仕掛けるだけに留めている。

その様子に真道君は一度距離をとる。

 

「……何で肉体強化を使わないんですか?」

「ほほ~、私が肉体強化を使ってないって、何で分かったの?」

「貴方は俺の動きを目で追っていなかった。多分、筋肉の動きや視線の動き、後、魔力の気配から、次の攻撃を予測して往なしてますよね。」

 

えっ?

目で追ってなかったの?

 

ていうか、肉体強化を使わずに渡り合ってたの?

 

「だって~、さっき言ったでしょ。マジックチップは使わないって」

「いや、外付けのは兎も角、内蔵のも使わないなんて、ほんとに自殺行為ですよッ‼」

 

真道君の言ってることには百里くらいある。魔力持ちって言っても、マジックチップを使わなければ少しだけ頑丈で少しだけ身体能力が高いだけの人間だ。

 

間違っても魔物と戦っていいような存在じゃないし、魔物を屠れる人間とも戦っていい訳がない。

 

だから、流石に肉体強化くらいは使ってくると思っていたんだが………………。

俺はちらりと小毬さんを見る。

先程の真道君の猛攻を受けても涼しい顔をしている。

 

「大丈夫って言ってるでしょ?このくらいじゃあ、怪我はしないよ」

「……分かりました。≪スパークバインド≫」

 

どうやら、言っても聞かないと感じたのか、真道君は拘束する方向にシフトしたらしい。

電気で出来た三つの輪が小毬さんに向かって飛んでいく。

 

小毬さんさんはその攻撃を魔剣で受けるつもりなのか魔剣の切っ先を輪に向ける。

 

バチリ

 

電気の輪は刀を伝い、小毬さんを拘束しようとする、ことなく、刀身で電気の輪が止まる。

 

そして、小毬さんが魔剣を振ると、電気の輪は真道君に飛んでいく。

真道君は驚いた顔をするが、しっかりと≪ジェネリックシールド≫を使い、≪スパークバインド≫を防ぐ。

 

しかし、それを見ていた小毬さんはニヤリと笑い、地面に魔剣を刺す。

 

「いいねぇ!それじゃあ、今度はこっちから行くよ。《土球》‼」

 

その言葉と共に地中からビー玉程度の石の球体が次々と顔を出し、真道君を覆う様に空中で静止し包囲する。

 

そして、小毬さんが地面に刺した魔剣を引き抜き、天へと掲げ、まるで号令するかのように振り下ろす。

瞬間、空中で真道君を包囲していた《土球》が一斉に真道君に襲い掛かる。

真道君はそれを≪ジェネリックシールド≫を自分の体全体を覆う様に半円状にし、全方位から襲い掛かる《土球》を防ぐ。

 

だが、小毬さんの猛攻はこれで終わりではなかった。

無数に飛んでくる《土球》の攻撃により、≪ジェネリックシールド≫罅が入り始めた所で小毬さんは魔剣を大きく振るう。

すると、不可視の衝撃波のようなものが真道君の張った≪ジェネリックシールド≫にぶつかり、ガラスのようにシールドを割ってしまう。

それだけじゃない、シールドに衝撃波がぶつかった瞬間、熱風が全方位にまき散らされる。

どうやら、あの衝撃波は熱すらも伴っていたようだ。

 

実際、すんでの所で後ろに引いた真道君の制服は少しだけであるが、焦げた跡があった。

 

「それじゃあ、トドメと行こうか。」

 

小毬さんはそう言うとその場から掻き消える。

 

 

これで勝負は終わり、俺もそう思ったのだが………。

 

「≪ジェネリックシールド≫‼」

 

咄嗟の所で、再度半円状のシールドを展開し、小毬さんの攻撃を防いでみせた。

確かにどれだけ見えなくても全方位に防御を展開してしまえば防げるのは道理。

 

しかも、半円状のシールドによって斬撃を防がれ無防備な姿を晒す小毬さん相手に今まで使っていなかった魔法を使う。

 

魔剣がバチリと電気を帯びる。

あれは恐らく、彼が自前で習得した魔法。

 

「≪サンダーバード≫‼」

 

超近接からの真道君の全力火力。

約十メートルにもなる巨大な雷の鳥が小毬さん目掛けて飛んでいく。

既に真道君も手加減をする気はないようだ。

 

通常の敵であれば、これで丸焦げにされて終わりだろう。

 

だが、その攻撃を小毬さんは再度魔剣で完璧に受け止める。

 

感電する様子も見せない。

 

そして、そのまま魔剣を振り、≪サンダーバード≫を真道君に向かって飛ばす。

 

ただ、真道君も負けていない、≪ジェネリックシールド≫の効力を引き上げ、完全に防いで見せる。

 

だけど、そこで、真道君の足元で轟音が鳴る。

よく見ると、真道君の足元に罅が入っている。いや、足元に張ってあった≪ジェネリックシールド≫に罅が入っている。

 

「むむ、足元はお留守だと思ったんだけどな…………」

「流石に俺もそこまで迂闊じゃないですよ」

 

真道君はそう言いながらその場から離れる。

それによって俺にも何があったのか理解できた。

何故なら、真道君が立っていた場所に拳ほどもある壊れた土の球体が転がっていたのだ。

 

恐らく、地中から《土球》を使ったのだろう。

 

仮に真道君が≪ジェネリックシールド≫を足元にも展開していなかったら今頃、拳ほどもある《土球》により顎を打ち抜かれていたかもしれない。

 

「う~ん、上手くいくと思ったんだけどなぁ………。仕方ない、実力行使といきますか。」

 

小毬さんは魔剣を天に突き出す。

 

…これはやばい。

審判という第三者のような立ち位置であるにも関わらず、俺の本能は警鐘を鳴らしていた。

 

そして、それは実際に相対している真道君も同様だったようだ。

 

「させるか‼≪サンダーウルフ≫」

 

剣を振るい、十を超える雷の狼を生み出し、けしかける。

だが、無駄だった。無駄だったのだろう。

 

世界が暗転する。

 

(いかづち)が迸る。

 

真道君の≪サンダーウルフ≫ではない。いや、もしかしたら、≪サンダーウルフ≫もその大きな(いかづち)に呑み込まれているのかもしれない。

ただ、一つ言えるのは、暗転した世界、(いかづち)が迸る暗夜において、小毬信濃の魔剣だけが、確かな輝きを放っていた。

 

いや、まるで、世界が彼女を照らすために動き出しているようだった。

迸る雷も、突如消えた太陽も、全ては彼女を一番にするために動いているようだった。

 

「《天剣・白夜》」

 

その言葉と共に天に向かって掲げた魔剣を振り下ろす。

青と白の輝きが魔剣から放たれ、真道君を狙う。

 

幅十センチにも満たない極細の光の柱は彼だけを射抜くように一直線に飛んでいく。

傍目からも、絶大な威力を誇ると分かるその攻撃を、真道君は全力の≪ジェネリックシールド≫で受け止める。

 

だが、拮抗することは無かった。光の柱は、いや破壊の光は真道君の≪ジェネリックシールド≫を溶かすようにシールド全体に波及していく。

そして、シールドが粉々に、いや粉すら残すことなく消滅した直後、真道君の体を地中から現れた無数のこぶし大の《土球》で打ち据えていく。

 

当たり前だが、真道君の意識は既にない。

 

…こいつ、鬼畜過ぎるだろ。

 

「えっと、勝者、小毬信濃‼」

 

俺は一応ながら、この戦いの勝者を宣言する。

うん、正直言って、真道君が意識を失っているのでわざわざ勝者を宣言をする必要もなかったような気もするが、まあ、勝者の宣言は審判を引き受けたものの義務だろう。

 

「やった~、勝った~。」

 

何か信濃さんもめっちゃ喜んでるし……。

 

にしても、今思い返しても圧倒的だったな。

小毬さんは真道君の攻撃を簡単に防いでいるのに、真道君は小毬さんの攻撃を防ぐので手一杯になっていた。

これが、護懐の実力。

正直、主人公ならもしかしてと思っていたけど、流石は五指に入る実力者、これ程の差があるのか……。

 

最後は不意打ちというか防御不可のコンボ技みたいな感じになっていたけど、たぶん、そんなことしなくても真正面からでもゴリ押せたんじゃないかな?

 

俺は思案にふける。

ただ、小毬さんの実力を分析しようとしていた俺に遠くから話しかける声が聞こえる。

 

「お~い、音長君!昼休み終わるから自主訓練に行くよ!」

「えっ?うん、今行く!」

 

どうやら、毒ノ森君が校庭にいる俺を見つけて話しかけてくれたようだ

初めの頃は貧乏くじを引かされたと思ったけど、真道君の現状の実力も分かったし、護懐の実力の一端も見れた、割と有意義に過ごせたな。

 

俺がそう考えていると、俺のお腹がぐぅとなる。

 

…………そう言えば、昼食べ損ねた。

 




おまけ

小毬信濃と真道勇利は手を繋ぎながら歩いて行た。
そんな中、信濃はずっと不思議に思っていたことを口にする。

小毬「なぁ、ゆうりがだんじょんにもぐらせるなっていってるから、さいきんはだんじょんにつれていけないっていってたぞ?」

勇利「ん?そうだな。お前はまだまだ子供だからな。今はダンジョンに潜るよりも地力を鍛える方が先だ。」

小毬「そうか?わたしはつよいぞ」

弧毬信濃は力こぶを作り、自分の力を誇示する。まあ、彼女の細腕に筋肉などあってないようなものなのだが…………。

勇利「はっはっは、そうだな。だが、お前は将来もっと強くなる。そしてもっともっと強くなってもらうためにはまず、基礎を鍛えて、学校に通う必要があるんだ。」

弧毬「そうなのか?」

勇利「ああ、そうだ」

弧毬信濃は納得したのかその後は特に何かを言うことはなく、勇利に連れられて歩く。
しかし、その表情はあるものを見たことで一変する。

弧毬「おい‼なんだあれは、でっかいたいやだ‼」

勇利「あれは、観覧車だな。あの小さな箱の中に入るんだ。」

弧毬「そうなのか‼はこのなかにはいってなにをするんだ?」

勇利「何をするか…………、景色を楽しむ、かな」

弧毬「ほお、ゆうりのかたぐるまとどっちがすごいんだ?」

勇利「そりゃ、いってからのお楽しみ、だな」

勇利はそういうと弧毬をつれて遊園地の中に入っていった。


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あれ?俺の出番は?

活動報告にも書かせていただいたのですが
前回の話の終盤の部分を少し修正しました。
話に大きく関わってくるかと言われると微妙ですが、見て頂けると幸いです。
勿論強制はできませんが(汗)




☆☆☆

 

体が重い、瞼が重い。

 

それでも現状を確認するために、瞼をゆっくりと開けていく。

 

一体何をしていたんだったか………。

 

そう思いながら、俺は周りを見渡す。

 

麗と弓弦が心配そうにこちらを見ている。

カルミアが安心したように息を吐く。

 

そして、

 

「才君大丈夫‼」

 

そうだった。

俺はこの人と戦っていたんだ。

 

 

 

それで、勝敗は……………いや、聞くまでもないか。

 

「……ええ、何とか、無事です。」

 

俺は信濃さんを安心させるために体を起こし、微笑みかける。

にしても、最後に受けた攻撃、いや、俺の≪ジェネリックシールド≫を割ったあの技は凄まじいものがあった。

 

恐らく、初めからあの技を使われていたら、勝負にならなかっただろう。

いや、それだけではない。仮に信濃さんが使ったあの衝撃波の攻撃や《土球》を使われ続ければ俺は防戦一方になっていただろう。

 

「う~ん、ほんとにごめんね?勇利さん基準で考えてたから………」

「ははは、父はそれだけ強かったんですね。」

「うん‼魔法も勿論凄かったけど、剣術と体術が物凄く強かったんだよ‼」

「へ~、そうだったんですか。俺、親父が戦ってる姿なんて見たことないから知りませんでした。」

「そうなの⁉もし良かったら私、いっぱいお話しするよ‼」

「ははは、ありがとうございます。今度聞かせてください。」

 

俺は曖昧に笑いながら信濃さんにそう告げた。正直な話、親父の話に興味がないわけでは無い。

むしろ、じっくり時間をかけて聞きたい。

だが、今は麗や弓弦、カルミアたちがいる。

そして、彼女たちにはまだ親父が戦人であったことは話していない。

 

だから、この場で親父の話を聞くわけにはいかないのだ。麗たちに親父の正体、そして、俺の正体がばれる訳には…………まだ、いかない。

 

勿論いつまでもこのままでいる訳にもいかないというのは分かっているのだが………。

 

特に、今は雷系統のマジックチップを器用に使い、様々な雷魔法を再現していると言い訳しているが、この良い訳がいつまで続くか分からない。

 

彼女たちだって馬鹿じゃない。むしろ学業に関してとてもいい成績を残している。

実技の実力からも俺の言っていることに違和感を持っていても可笑しくはない。

 

「でも、いつか必ず聞かせてください。親父のこと、親父とあなたがどうやって過ごしていたのか」

「…うん、いいよ。何時でもね!」

 

信濃さんは元気よく笑い、頷く。

 

「それで、信濃さんはこの後はどうするんですか。」

「……………え?一緒に住むでしょ?」

 

…………………………え?

俺の思考が停止する。

信濃さんが一体何を言っているのか分からなかった。

 

いや、というか

 

「俺、この後も防人魔法学校に通わなければいけないので……………」

「うん、だから、私も才君と同じ部屋に住むよ?」

「え…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」

 

何か良く分からないことを言ってきた。

 

☆☆☆

 

いやいやいや、流石に不味いだろ!

俺の住んでる場所は男子寮だぞ!

俺の他にも男はいるし、風呂とかどうする気なんだ。

 

「その、お風呂とかも大浴場しかないですし、信濃さんが入るのは…………その…………」

「あははは、分かってるよ~、そんなこと。大丈夫、お風呂に関してはくるみんに借りることにしてるから」

 

成程、それなら確かに、いや、まぁ、勝手に女子寮の一部を私物化してるあの人もどうかと思うが、うん、そこは深く考えないでおこう。

 

とりあえずこれで問題は解決………してない、全然してない。

食堂はいい。男子しかいないけど、そこまで問題にならない。

 

ただ、洗濯物とか、着替えとか、寝床とかどうするんだ!

 

洗濯物は個別で洗って貰えるけど、流石に女性ものを、その、不味いだろ!

 

紛失騒ぎとかが無いとは限らないし…………。

 

「その、洗濯をどうするかとか、着替えとか寝床とかの問題もありますし…………。」

「ん~、洗濯はくるみんの所でするから大丈夫。着替えとか寝床は才君と一緒で良くない?」

「いや、良くないですよ!その、良い年した男女が、その、そんな、よ、良くないですよ!」

「え~、何でさ。先輩とは一緒に温泉とかにも行ったよ。裸の付き合いしたよ?」

「そ、それは、子ども時の話ですよね?俺とあなたは大人なんですよ!」

「別にいいじゃん。先輩の子供は私にとっても弟みたいなものだし、…あっ、何だったらお姉ちゃんって呼んでも良いんだぞ?」

 

俺の体に抱き着きながら、耳元で信濃さんはそう呟く。

顔が熱を持つのを感じる。信濃さんはその、美人だし、スタイルも良いし、急に抱き着かれたらドキドキするというか…………。

 

声も耳元で、しかも、い、いきなりお姉ちゃんって、きゅ、急すぎるだろ!

そもそも、血だって繋がって無いのに。

 

「な、なに言ってるんですか!ち、血だって繋がってないじゃないですか!冗談もほどほどでお願いします」

 

じゃないと心臓が持たない。今も心臓がバクバク言っている。

大丈夫か?こんなに密着しているし、ドキドキしてるの気づかれてないよな?

大丈夫だよな?

抱き着かれてるせいで、お互いの顔が見えない。

流石にこのドキドキがばれてないと良いんだが………。

 

 

暫くして、信濃さんは俺から体を離してくれる。

顔には苦笑いを張り付けて。

 

「…あははは、ごめんごめん、怒らせちゃったかな?」

 

そう言いながら、信濃さんは俺に背中を向ける。

 

「う~ん、最近の子は難しいなぁ。でも!」

 

信濃さんはそこで振り返り、人差し指をビシッと俺の方に向ける。

そして、にかっと笑う。

 

「ぜ~ったい、もっと仲良くなるよ才君と!」

 

えっと、これは何だろうか?

告白とは違うだろうし、宣戦布告?

 

別に仲良くなるのは俺としても一向に構わないし、むしろ親父のことをよく知っている彼女とは俺としても仲良くしたいとは思うのだが………。

 

「べ、別に仲良くなるのは良いんですよ?むしろ俺も仲良くして欲しいくらいですし。ただ、

男女の仲ですから、その、部屋を一緒にするのは良くないのではないかという話でして……………」

 

俺は信濃さんにそう伝えようとしたが、信濃さんはいつの間にかいなくなっていた。

 

何というか、嵐のような人だったな……………。

 

☆☆☆

 

真道才らと別れた弧毬信濃は屋上にいる雪白狂実に会いに行っていた。

 

「…どうでしたか~?勇利さんの息子さんと会った気分は~。」

 

雪白狂実は今もパラソルとビーチチェア、タオルケットというオフモードを維持しつつ、弧毬信濃に問いかける。

 

問いかけられた、弧毬信濃は校庭の柵に体を預けながら、苦笑する。

 

「そうだなぁ。もっと早くに会いに行くべきだったなぁとは思うかな?」

 

その後、「ま、元気そうで何よりだったけど」と付け足す。

 

雪白狂実はその言葉にため息を吐く。

表面上はニコニコしていても、内心ではうじうじしている所は昔から何も変わっていなかったからだ。

 

「そのことは~。私もな~んども忠告したのですよ~。傷ついているのはあなただけではなく~。彼もまた、実の父を失って悲しんでいるのですよ~って。」

「あははは、ごめんごめん」

「別にいいですよ~。そもそも私は~、終わったことをうじうじ考えても仕方ないと思っているので~。もっと合理的に考えていきましょ~。切り替え~切り替え~」

 

雪白狂実はどこまでものんびりとその様なことを宣う。

一見興味が無いようにも取れるこの言動はしかし、その実彼女なりの精一杯の励ましなのだ。

 

うじうじとしている同僚を励ますために、精一杯激励の言葉をかけているのだ。

 

付き合いの長い小毬信濃もそれが分かっているのか、表情を和らげる。

 

「うん、ありがと、くるみん。」

「別に良いのですよ~。人生の先立ちとして当たり前のことを言っただけです~。それに今の私は先生ですので~。」

「そっか、くるみんが先生か。みんなちゃんと前に進んでいるんだね。」

「……あなただってそうでしょう?だから、今更になって真道君に会いに来たのでしょう?」

「…どうだろ。私は今も昔も■■に飢えてるだけなのかもしれない。彼に勇利さんの影を重ねているだけなのかも」

「…少なくとも、私の目から見たあなたと勇利さんの関係は薄っぺらくなかったですよ~。」

「ありがと。私にとって先輩は特別だから」

「そうですか~。」

「うん」

 

 

それから暫く、二人の間に沈黙が流れる。

ただ、雪白狂実も小毬信濃もそれを苦痛だとは思わなかった。

 

真道勇利と弧毬信濃の関係程ではないにしろ、雪白狂実と弧毬信濃は間違いなく友と呼べる関係であったのだから。

 

「………信濃さんにとって~。真道君はどういう存在なんですか?どうなりたいんですか?」

「そうだなぁ。先輩の大切な子供で、………私は才君の■になりたい、かな」

「……なら、真道君についてもっと、もっと~、知らなくちゃいけないんですよ~。」

「うん、ありがとくるみん。出来るだけアタックしてみるよ。ま、取り敢えず、荷物とって来ないとね。」

 

弧毬信濃はそう言うとその場から搔き消える。

恐らく、件の高速移動でこの場を後にしたのだろう。

 

雪白狂実はその姿を見届けるとため息を吐く。

 

「なんだかぁ、空回りしそうで心配なのですよ~」

 

その言葉は誰にも届くことなく、風に流されて消える。

 

☆☆☆

 

俺は自らの魔剣でもって敵の一撃を受け止める。

だが、生憎敵は一体じゃない。

 

「麗、一緒に食い止めるぞ!弓弦援護を頼む!カルミアは付与魔法を!愛華はいざと言う時の為に防御魔法を待機させておいてくれ!」

「「「「はい!(ああ!)」」」」

 

現在俺たちはダンジョンにいる。麗達には信濃さんとの模擬戦の後であるため、ダンジョンに潜るのは渋られたが、俺からすれば魔法すら使っていない相手に負けたのだ。

 

このままジッとなんてしていられない。

もっともっと魔物を倒して強くなる。

そして、今度こそ信濃さんとの勝負に勝つんだ。

 

俺と麗が鬼人型の足軽組頭級の魔物攻撃を防ぐ。

そして、その隙に弓弦が≪プロミネンスレイ≫を放つ。

これは高熱の炎を一点集中させて放つ、超攻撃型の魔法だ。

勿論生産コストも高いため通常では学生に支給されることは無いが、そこは特別防人としての功績があるため、特別に支給されている。

 

鬼人型の魔物はその超火力の一撃を受け、一体は体を炭化させる。

そして、もう一体もあまりの熱量に距離を取る。

 

因みに俺と麗にはカルミアが付与魔法を愛華が防御魔法を使い熱から守ってくれている。

だからこそ、俺は怯むことなく前に踏み出す。

 

「終わりだ!≪サンダーボルト≫」

 

俺はそう言いながら、自分の力で発動した≪サンダーウルフ≫を放つ。

敵は俺の≪サンダーウルフ≫になすすべもなく外側と内側から電熱により焼かれ、倒れた。

 

因みに俺のチップ構成は片方が≪ジェネリックシールド≫、もう片方が≪サンダーボルト≫になっている。

 

≪ジェネリックシールド≫は兎も角として≪サンダーボルト≫を入れている理由としては他の雷魔法と比べて操作が楽であり、様々なアレンジを加えることが出来るからだ。

 

これを使い俺は今まで彼女たちから自分の正体を隠して来た。

 

「よし、今日の所はここまでだな。みんな帰ろうか!」

「ええ、ていうか見た!私の魔法の火力!」

「ふん、お前の魔法と言うより、実家のコネだろ?弓弦」

「何よ!私が特別防人になれるだけの実力を示したから学校が支給してくれてるのよ!そもそも私以外が使ってもあんな火力出ないわよ!」

 

弓弦と麗が口喧嘩を始める。二人は元々一緒にパーティーを組んでいた仲だからか、ああいう風によく喧嘩をする。

 

因みに麗が弓弦にいった実家の話に関しては元々弓弦の家は裕福で防人というか、国防の為にかなりの援助をしており、相応の権力を持っていることについて指摘しているのだろう。

 

勿論、彼女のたゆまぬ努力があったからこそ、≪プロミネンスレイ≫を支給されたのだろうが…。

 

実際、他の人間では同じマジックチップを使ってもあそこまでの火力は出せないからな。

俺は二人のやり取りを微笑ましく眺める。

 

すると、何故か話題の矛先が俺に移る。

 

「そもそも、凄いと言ったら才の方だろう?なんせ、≪サンダーボルト≫をあたかも≪サンダーウルフ≫や≪サンダーバード≫のように変化させて使っているのだからな!」

「ぐぅ、そ、それは認めるけど、っていうかほんとにあれどうやってるのよ!私ですら出来ないのに!」

「あははは。まあ、その、たゆまぬ努力、かな?」

「お前が大したことないというのもあるだろうがな!」

 

俺は罪悪感に苛まれながらもそう誤魔化す、ほんとはマジックチップなんて使わずに他の魔法を行使しているだけだから凄く、居心地が悪い。

 

…………いつかちゃんと話さないとだよな。

 

☆☆☆

 

俺は麗達と別れて男子寮にある自分の部屋に帰る。

帰りながら、結局、最後まで弓弦と麗はいがみ合いながら帰っていたなと思い返す。

 

まあ、あれは二人の間のコミュニケーションのようなものだし、気にすることでもないんだが………。

 

俺はそう思いながらクスリと笑う。

俺のパーティーも随分賑やかになったものだ。

 

いがみ合いながらも息がぴったり合っている弓弦と麗、それを仲裁するカルミア。

その様子を後ろで微笑ましく見つめる俺と愛華。

 

何だかようやく歯車が動き出した気分だ。

俺はそう思いながら、自分の部屋のドアノブに手をかける。

 

そして、扉が開かれると共に、

 

「おっかえり~、遅かったね才君」

 

俺のベットに腰かける信濃さんが目に飛び込んできた。

 

 

 




おまけ


周囲に響き渡る遊園地のテーマソング。

ジェットコースターがレールの上を走る音。

乗っている人間の絶叫。

親の手を引く子供のはしゃぎ声。

走る子供を注意する親の声。

仲睦まじく手を繋ぐカップルたちの談笑。

そこはとても騒々しく、賑やかで、弧毬信濃にとって初めてくる場所であり、全くの未知であった。

そして、その声と何より景色を見て弧毬信濃はこうつぶやいた。

「…まるでおっきなおもちゃばこだ。」
「ははは、ま、あながち間違っていないんじゃないか?」

勇利は信濃の言葉に笑って返す。
信濃はその勇利の言葉が殆ど頭に入って来ていないようにただ、ただ、辺りを見渡していた。

彼女にとってそれだけこの場所は興味の湧く、とても愉快な未知であったのだから。

その様子に勇利は苦笑し、信濃の手を握る。
そこでようやく信濃の意識は現実に引き戻された。

「さて、どこから行く?お姫様」
「ひめ?」
「おう、今日のお前はお姫様だ。だから、どこでも好きな場所に連れて行ってやる」
「わたしがおひめさま………。じゃ、じゃあ、あの、でんしゃみたいのにのってみたい」
「お?ジェットコースターか?いいぞ行ってみようか‼」

☆☆☆

「その…………すいません。身長制限がありまして……」
「なんだ!そのしんちょうせいげんとやらは‼」
「あ~、わり、お前小さいから入れないみたいだ」
「なんでだ。わたしはおひめさまなんだろ!」

信濃はジェットコースターの前で駄々をこねる。
それを前にどうしたものかと勇利は頬を掻いていた。
元々は勇利が信濃を姫様扱いし、どこにでも連れて行くといったのが原因だろう。

信濃は我慢をすることが当たり前になっている所があるので、ああいう言葉回しをしたが、まさか、スタッフに噛みつくとは。
勇利はそう思いながら頭を悩ませる。

「ふふふ、お姫様だから、まだジェットコースターには乗れないんですよ?」
「どういうことだ?」

そこに助け舟を出したのはジェットコースターのスタッフの女性だった。

「ジェットコースターは子供にとってとっても危ない乗り物なんです。だから、大人しか乗っている人がいないでしょう?私たちはお姫様がすっごく大事なので乗せることはしないんです。」
「むぅ、いちいあり、といったところか」

膝を折り、自分に視線を合わせながらそう告げる女性スタッフの言葉に信濃は渋々ながら頷く。
信濃はなんやかんやで大人びており、聞き訳がいい子どもだったのだ。

「なら、あのちゃいろいぼうをたべてみたい」
「ん?チュロスか?いいぞ。行ってみるか。」

二人は再度手を繋ぎ、その場を後にした。

☆☆☆

チュロスに関しては当然ながら、身長制限も年齢制限もないため、無事に買うことが出来た。
その手にチュロスという未知のお菓子を手にした信濃は目をキラキラさせながら、思いっきり頬張る。

「おぉぉぉ‼すごいサクサクふわふわだ‼」

そしてガツガツと口に運んでいき、あっという間にチュロスは胃袋へと消えていく。
子どもでありながらも大人顔負けで食べるその姿に勇利は何となくほっこりとした気持ちになる。
やはり、子どもがいっぱいご飯を食べてくれると大人としては安心できるということなのだろう。

「つぎはあのサンドイッチみたいなのがたべたい!」
「おっ、ハンバーガーか、んじゃあ、あっちに行くか」

勇利は信濃を連れて、歩き出そうとするが、それよりも早く、遊園地のアナウンスが流れる。

〈これより、フォレストランドのパレードが始まります。〉

そのアナウンスに勇利はピタリと動きを止める。
信濃はその様子に首を傾げた。

「どうかしたか?ゆうり」
「いや、折角ならパレードを見て行かないか?」

食べ歩きも良いが、勇利は信濃に遊園地ならではの楽しみを知って欲しかったのだ。

彼女に、弧毬信濃と言う少女にもっと世界の美しさを知って欲しかったのだ。

世界の広さを知って欲しかったのだ。

「ばれーど?よくわからんが、ゆうりがみたいならとくべつにみていってもいいぞ!」
「ありがとな、お姫様」

本当にいい子だ。
物分かりが良く。
周りをよく見ていて我慢が出来る。

(……………………見ていて、痛々しくなるほどにいい子だ。)

勇利は少女のその優しさに複雑な気持ちが過る。
嬉しさと悲しさと………………………そして、自分にはもっと我儘になって欲しいという寂しさだ。

ただ、勇利は胸に過ったその感傷を直ぐに振り払う。
今日の自分はあくまでも少女を楽しませるために来ているのだ。
なら、自分の内面に意識を向けるのではなく、目の前の少女に意識を向けなくてはいけない。

「ゆうり?どうかしたか」
「いいや、何でもねぇよ。」

勘のいい少女は勇利の機微に気づいて話しかける。
心配した表情をする。

勇利は少女にこれ以上こんな表情をさせないためにも、少女に笑みを浮かべ少女の頭を撫で、そして肩車をする。
肩車をしたことにより、勇利の顔は少女には見えなくなった。

「わわ、なにをする」
「別に?こっちの方が見やすいだろ?」

少女は気を取り直し、目の前が、今まで人影で何も見えなかった景色が突如開いたことに興奮する。そこはまるでおとぎの国のようであったのだから。

バスのように大きく、ピンクや緑、青色などを使った、カラフルな乗り物。そこから手を振ってくる。大きな動くぬいぐるみたち。

とても軽やかに、それこそ、妖精のように跳びまわる、ダンサー。
アップテンポでついつい体が無意識に動いてしまう音楽。

弧毬信濃にとってそこはその瞬間確かに地続きの日常ではなく、現実を置き去りにする不思議の国となっていた。

「…………すごい」
「だろ?世の中はな戦いだけじゃないんだ。もっと色々ある。心躍るものが、そいうのを創る奴が、…………だから、もし、もし、お前が「……………でも、それをまもるやつがひつようだろ?」それは!」
「わたしはな、いまちょっとうれしい。じぶんがたたかってきたりゆうがしれて。

ちょっとほこらしい、わたしがたたかったぶん、せかいでこんなすばらしいものができることに。

だからなゆうり、わたしはたたかうんだ。これからも」
「…………そか、分かった。



取り敢えず、今は楽しもう‼」
「おう‼つぎはハンバーガーだ‼」

この後、二人はハンバーガーを食べ、遊園地のショーを見て回った。

一通りのショーを見終わった二人は観覧車に向かって歩く。

「さいごのおたのしみと、いってゆうりがのせてくれないからこんなに、じかんがかかったぞ‼」
「ははは、悪りぃ、悪りぃ。でも、きっと、びっくりするくらい綺麗だぞ?」

勇利は少し、ばつが悪そうに笑う。
なんせ、観覧車を最後に回した理由は観覧車はライトアップされた夜景が一番きれいだという、勇利の自己満足によるものだったからだ。

それでも、観覧車に初めて乗る子供にがっかりして欲しくないという願いがあったのも事実だ。

今の勇利は独善的な大人だ。
それを自覚しているからこそ、勇利はどうしてもモヤモヤとした思いを抱いていた。

「これだけまたせたのだ。たのしいんだろうな?」
「安心しろ。今まで見たものの中で一番素敵な思い出になるぞ。」

そう言って勇利は信濃と手を繋ぐ。

「二名様ですね。どうぞ、楽しんでいってください」

スタッフはそれだけ言うと、観覧車の扉を閉める。
そして、徐々に観覧車のゴンドラは高度を上げていく。

世界は見える高さによっても見る者の印象を変える。
子どもからすれば故郷の街並みがとても大きく感じていたのに、大人になると、こんなに小さいのかと驚く。
そして、更に高く、それこそ、山の頂から見る景色は人に世界の広さを、雄大さを教えてくれる。

世界が子供の時ほど大きいものではないと悟った大人たちに再度、世界の大きさを示すのだ。

それと同じように、絶大な力を持ち、大人よりも頼られる少女は感動していた。
人の可能性に、人の築いてきた文化に、人の歩んできた軌跡に。

少女は泣いていた。ボロボロと、ただ、その景色に見入っていた。

「どうだ?悪くない景色だろ?」
「ああ、だが、いちばんのおもいでではなかったな」

だが、少女は自然とそう口にしていた。この景色に感動していながら、それでも、少女にとってそれは一番足りえなかった。

「なに?ならお前にとっての一番の思い出っていうのは何なんだ?」
「それはな…………■■■■■■■■■■■■■■。」

弧毬信濃はそう言って微笑んだ。


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久しぶり‼今日も出番が少ないけど主人公です。

こんにちは ぱgoodです。

17話の後書きにおまけを追加しました。



☆☆☆

 

昨日は凄い疲れた。

何故か信濃さんが俺の部屋にいて、勝手に部屋に泊まろうとしたのだ。

それを何とか説得して…………。

いや、全然説得になってはいなかったか。

 

俺がどれだけ男女同じ屋根の下で過ごすことが危険か説いても全然聞き入れてくれないから最終的に力づくで追い出す形になってしまった。

 

勿論、信濃さんが本気で抵抗していたら、俺の方が成すすべもなく倒されていただろう。

 

だからまあ、俺の本気度が伝わったから、自主的に出て行ってくれたと言った方が正しいのかもしれない。

 

うん、……少し、悪いことをしたな。

 

次あった時、もう少し優しくしよう。

 

 

 

 

 

ところで、話は変わるんだが俺は今寝ている筈だ。

 

うん、今も意識がふわふわしており、瞼も閉じている。

ただ、この通り、考え事が出来るくらいには浅い眠りだ。

 

というか、何か俺のベット、固くないか?

あと、冷たくない?

 

布団はどこだ?

 

何か、おかしいな、この感じ。

 

俺は重い瞼を開け、体を起こす。

 

そして、ベットに触れる。

 

うん…………床だ。

紛れもなく床だ。

 

俺は何で、床で寝てるんだ?

そう思い、自分のベットに目を向ける。

 

………………………………何でいるんだ?

 

俺の視線の先には大の字で気持ちよさそうに寝ている信濃さんがいた。

 

目を擦る。

 

だが、やっぱりいる。

 

夢じゃないみたいだ。

 

どうしようか?

 

俺は時計を見る。時刻は現在朝の四時。

この時間に起こすのは流石に可哀そうだよな。

 

俺は仕方なく、自室にあるソファへと移動し、横になる。

一応、男子の友達が部屋に遊びに来た時のことを考えて買っていたソファだったのだが、まさかこんな使い方をすることになるとは………………。

 

俺は、予備の毛布を取り出し、自分にかけると再度、夢の中に落ちていった。

 

床よりはやっぱましだな。

 

 

 

 

 

 

 

「……い、~い、起きろ~、朝だぞ~。」

 

誰にかに肩を強く揺すられる。

初め、地震かと勘違いしたほどだ。

 

しかし、人の声を聞き、どうやらそういうことではないと理解する。

 

俺は重い、非常に重い瞼を開ける。

 

そこにはやはりと言うか、何と言うか、信濃さんがおり、俺を見下ろしていた。

 

「おは、ようございます。」

 

何とか重い体を起こす。

やばい、全然休めた感じがしない。

 

床で寝てたのと、夜に一度起きているのが効いている。

片手で頭を押さえながら、現状を分析する。

 

俺のその様子に信濃さんは呆れたように息を吐く。

 

「も~う。ちゃんと休んで昨日の疲れを癒さなきゃ駄目だよ?

常在戦場の心構えだよ‼」

 

信濃さんは堂に入ったファイティングポーズを取りながら、俺に忠告をする。

 

…確かに、寝る場所が床だろうが、ソファだろうが、疲れを癒さなきゃ駄目だよな。

現在はかなり恵まれた環境にいるし、プロの防人も野営をすることは滅多にないが、親父の故郷である戦人界では野宿することも珍しくなかったそうだ。

 

というのも、戦人は人間と違い容易に魔法が使えるため、文明レベルはそこまで進んでいないのだとか。

そのため、街と街を移動する際には野宿することも珍しくないと言っていた。

 

流石に戦人界にいく事はないと思うが、それでも、常在戦場の心構えは確かに必要ではあるだろう。

 

……………正直、少しだけ、俺のベットを勝手に使った信濃さんに言われるのは釈然と

しないと思ってしまう自分もいるが……。

 

いや、そう思ってしまうのは俺が未熟であるが故か。

 

おそらく、信濃さんは俺に常在戦場の心構えと共に心を常に冷静に保つ修練を付けてくれているのだ。

 

だから、この程度で心を揺さぶられては駄目だ。

 

ま、まあ…………それはそれとして、

 

「そ、その、昨日も言いましたが、男女が同じ屋根の下、それも同じ部屋で一夜を過ごすなんて良くないと思います。」

「もう、ま~た、そんなこと言って、才君は先輩の息子さんなんだからそんなこと気にしなくて良いの!」

 

いや、俺が親父の息子であることとこの件は一切関係がないと思うのだが………。

もしかして、これも、修行の一環なのか?

 

俺が少しでも、彼女に、その……………邪な思いを抱いたら、首を掻っ切る、的な?

 

この先、女性型の魔物が現れても、動揺しないための修行?

 

いや、もしかしたら、魔力持ちの犯罪組織を相手にした際の対処法か?

 

確かに、犯罪組織の中にはマイクロビキニを着た魔剣士もいると聞いたことがある。

そういうことか?

 

ずっと先を見て、指導してくれているのか?

彼女は。

 

いや、いや、でも、やっぱり、良くないだろ。

 

そこまで早急にやるべきことでもないし。

 

「んんん、信濃さんの言いたいことは何となく分かりました。

ただ、やはり、男女で部屋は別れた方が良いと思います。」

「……なるほど、そう言う年頃か」

 

年頃?

いや、成程、信濃さんもまだ、そう言った修行を行う時ではないと悟ったのだろう。

そういう女性への免疫っていうのは徐々に時間をかけて自然と身に着けることだからな。

 

こんな風に強引に進める必要はない。

一歩一歩、その……女性との経験も積んでいけばいい。

 

まぁ、まだ、彼女もいない身ではあるが……。

 

そう言えば、他のパーティーメンバーはどうなんだろう。

今日、麗に聞いて見るか。

 

因みにこの後、信濃さんが俺の部屋で着替えを始めたので、俺は急いで部屋から出て行った。

 

しかも、着替えが終わった後、食堂にも、付いてきた。

 

そのせいで、俺は男子寮に学園外の女性を連れ込む、変体野郎と呼ばれるようになった。

 

何でこんなことに……………………。

 

☆☆☆

 

ぐぐぐっと伸びをする。

今日も良い朝だ。

 

もう少し寝ようか?

 

まあ、そうしたくても、出来ないんだけど、もう六時半だし。

俺は仕方なく、誠に遺憾ながら、支度を開始する。

 

まずは、部屋にある洗面所に行き、顔を洗い、髪を整え、歯磨きをする。何故かうちの寮ではトイレと風呂は共同なのだが、洗面所だけは設置されている。噂では朝の時間に共同の洗面所がごった返すため、洗面所だけ後付けで作ったと言われているが、正直真相は闇の中だ。

 

歯磨きを終えた俺は空のクローゼットの扉を閉め、クローゼットの横についている制服模様がついたボタンを押す。

すると、ガチャンという音が鳴る。

 

中を開くと、クリーニングしたての制服が入っている。

基本的に一日来た制服はこのクローゼットの中に入れボタンを押すことでクリーニングを行うことが出来る。そして、次の日の朝に再度ボタンを押し、制服を取り出す。

仮にクリーニングが途中だったとしても、予備の制服も入っているため安心だそうだ。

 

俺はそうして、取り出した制服に袖を通していく。因みに、私服に関しても私服用のクローゼットに入れれば同じように対応してもらえる。

 

大変良き。

 

ただそれはそれとして正直、休みたい。

もっと、休みたい、だらだらしたい。

でも、仕方ない。

 

このままだとご飯をくいっぱぐれることになるし…………。

 

それは嫌だ。

 

一生休みでいい。

マジで。

 

ただ、そうすると何も口に出来ずに死ぬ。

 

布団も、雨風を防げる住処もなくなる。

 

ほんと、世の中って不自由に出来てるよね。

 

俺はそんな風にどうでもいいことを考えながら、着替えを終える。

 

何時もの制服姿だ。

 

そして、制服に着替えた俺は毒ノ森君の部屋をノックする。

 

「おはよ~、毒ノ森君」

 

俺がそう呼びかけると、扉がガチャリと開き、毒ノ森君が出てくる。

 

毒ノ森君の姿は既に着替えを終え、寝ぐせなども整えられていた。

流石、準備が早い。

 

因みに、今日、俺が毒ノ森君を呼びに来たが、これはお互いに交互で行っている習慣だ。

まあ、相手が起こしてくれるから自堕落でいいかっていう考えに陥らないようにしている感じだな。

 

俺は毒ノ森君と共に、食堂に向かう。

 

しかし、そこで俺は違和感に気づく。

 

いつもはもっと静かな筈の朝の食堂がやけに騒々しいのだ。

 

ただ、悪いアクシデントが起きているって感じではないような気がする。

もっと、こう、お祭り騒ぎに近いというか、転校生が来た教室のような、そんな物珍しいものを見つけたときのような騒々しさだ。

 

俺は何が何だか分からず、首を傾げるが、食堂の中に入ったことでその正体に気づいた。

 

うん、真道君が男子寮に小毬さんを連れ込んでいたのだ。

 

成程、これは騒ぎになるわけだ。

 

「あれ、どう見ても女性だよね?しかも、昨日教室に乱入した」

「うん、そうだよ。真道君のプライベートに関わることだから、詳しくは言えないけど……」

 

にしても、真道君こんな大胆なことをする子だったとは………、俺の小説では十八禁ゲームという設定ではないから、こんな大胆なことをしたりはしないのだが、本来の真道才という人間は割と肉食系だったりするのだろうか?

 

もっと、奥手な人間だと思っていたのだが、……………………既に剣凪さんたちにも手を出しているのだろうか?

 

彼がガツガツいく肉食男子ならパーティーは全員女性だし、成り行きとかでそうなっていても可笑しくないのか?

 

いや、流石にないか?ないよな?

一応主人公だし、とはいえ、パーティー内の誰かと恋仲になっていてもおかしくはないか。仮に、癒希さんとかが真道君の手籠めにされていたら、棚加君は草葉の陰でハンカチ嚙みながら号泣してるんだろうな…………。

 

まぁ、だからといって俺が何か出来るわけでも無いんだけど………。

 

うん、他人の人間関係に口出しは出来ないからね!

すまん、棚加君、成仏してくれ。

 

俺は心の中で棚加くんに合掌する。

 

「あれ?君、確か、審判を買って出てくれた子だよね?」

 

心の中で合掌している俺に対し、小毬さんが話しかけてくる。

後、別に買って出た訳じゃないです。

 

「いえ、別に「奇遇だねぇ!ここで何してるの?」

「……えっと、ここ男子寮の食堂なので普通に朝食を取りに来ました。」

「ふ~ん、そっか~。私たちと一緒に食べる?」

「信濃さん!あまり、音長たちを困らせないでやってくれ!」

 

小毬さんは俺達を自分たちのいる席まで案内しようとするが、そこで毒ノ森がストップをかける。

 

正直凄い、ありがたい。

元々、真道君と仲が良い男子は基本的に陽の人たちだから、何と言うか、話も合わないし、何より、今は小毬さんの存在もあり、凄い注目を浴びている。

 

辛い、陰の者にとって注目を浴びるのは吸血鬼が日光を浴びることぐらい辛いんだ。

 

というか、人が寄り付くような明るい(色んな意味で)場所とか苦手だし、俺ら実質吸血鬼では?

 

流石に暴論か……………。

 

「え~、別に音長君だって困って無いよ~。それに、私だって、他の人から才君の話聞きたいんだよ?」

「分かった。だったら、後で剣凪たち合わせるから、それまで待っててくれ」

「やった~。」

「すまん、迷惑かけたな。音長、毒ノ森」

 

そう言うと、真道君と小毬さんは嵐のように去っていく。

 

「なんか………凄かったね?」

「うん、凄かった。」

 

俺と毒ノ森君はお互い顔を見合わせ、そう言うと強く、強く頷いた。

 

過去一、毒ノ森君と気持ちが一致した気がする。

 

☆☆

 

信濃さんが押しかけてきてから、俺と彼女は常に一緒にいるようになった。

というか、信濃さんが俺にくっついて離れないのだ。

 

流石にトイレやお風呂は離れてくれるけど、それ以外の食事、寝るとき、授業中いつも、彼女がついて来る。

そのため、今では信濃さんも大分、有名になった。

 

『真道が女を連れて来た』というありもしない噂と共に。

 

パーティーメンバーに弁明するのも大変だった。

麗や千弦、挙句の果てには愛華にまで問い詰められた。

 

唯一、カルミアだけが、俺を受け入れてくれたが、それでも、俺と信濃さんの関係に関しては誤解していた。

 

 

まあ、もう終わったことだし、言っても仕方がないか……………。

それじゃあ、弁明が終わった今、信濃さんが何をしてるかと言うと。

 

「頑張れー。…右から魔物来るよ‼」

 

信濃さんの声援と共に、俺達は鬼人型の魔物を倒す。しかし、T字路の右側から、新たにもう一体鬼人型の魔物が姿を現した。

信濃さんの指示通りだ。

 

「麗フォローを頼む」

「あ、ああ」

 

俺は自分が前に出ると、敵の右拳を受け止める。

だが、鬼人は直ぐに左の拳を俺に向ける。それを麗が割り込み受け止めた。

そう、信濃さんが何をしているかと言うと一緒に鬼人タイプの足軽組頭級ダンジョンまでついてきて、何故か遠くで応援と指示出しをしてくれている。

 

因みに、攻撃魔法士、防御魔法士、回復魔法士、魔剣士が揃った俺達、特別防人部隊は現在、足軽組頭級まで自由に出入りできるため、信濃さんは特に監督役という訳ではない。

 

だから完全に善意で監督役を引き受けてくれているということだ。

ただ、信濃さんは何故か両手にハンバーガーやジュースの入った紙袋を持っており、なんというか、完全にスポーツの観戦に来たファンみたいな恰好をしている。

 

「…くっ、済まない。押し負ける」

 

どうやら、鬼人の膂力は麗の身体強化を超えているらしい。

麗はそう言うと愛華たちがいる所まで吹き飛ばされてしまう。

 

「いや、いい。助かった麗。」

「麗ちゃんそこは受け流しだよ。後、愛華ちゃんも今の所で防御魔法を使って」

 

うん、現在の護懐として活躍している人から直々に指導してもらえるのは凄いありがたい。

俺達の動きは確実に以前よりも良くなっている。

 

ただ…………。

 

「よ~し、私も出るよ。」

 

そう言うと、信濃さんは魔力波を放ち、〈土球〉を放つ。

 

そして、敵はミンチにされた。

魔物は俺達に意識が言っており、防御姿勢も取れてなかったので、一瞬で勝負が決まる。

俺達だけではこうはいかなかっただろう。

紛れもなく、彼女の力が決め手となった勝負だった。

…そう、俺達の力、ではなく……………………。

 

「…え、えっと。信濃さんは見ていてくれて、良いですよ?ピンチという訳でもないですし」

「駄目だよ‼ピンチになってからじゃ、遅いんだから!」

 

正論だ。

確かにダンジョンは危険の伴う場所であり、怪我をしてからでは遅いかもしれない。

ただ、このまま、信濃さんにおんぶに抱っこで今後やっていけるのか不安があるのだ。

 

最近はやけに事件に巻き込まれることも多い。

今もネットが急に使えなくなるという事態に陥っている。

 

今のように、信濃さんに手伝って貰ったままの状態で、信濃さんが居ない時に、緊急事態への対処が果たしてできるのか、その考えが頭を過る。

 

焦っていると言ってしまえば、それまでだが……………。

 

「大丈夫、私を頼って!」

「…………え、えっと、ありがとうございます。ただ…………」

「あっ。」

 

俺が言い淀んでいると信濃さんが目を大きく開き、何かを察する。

そして、目を瞑る。

 

 

…………悲しませてしまっただろうか。

 

慌てて、言葉を探す。

 

「い、いや、凄く助かってて、ここまでスムーズに抵抗力上昇(レベルアップ)出来たのは信濃さんのお陰だと思ってます。ありがとうございます。それに、護懐の人にこうして指導してもらえる機会なんて全然ないですし、「大丈夫、分かってるから」」

 

そう言うと、信濃さんは悲し気に目を開け、俺を見る。

その表情に俺の思考が一瞬止まる。

 

「…良いんだよ。だって才君は……………………」

 

不味い不味い、何かフォローしなくては、俺の思考は混乱から空回りする。

どうすれば傷つけずに済む?

 

どうすれば笑顔にさせられる?

 

俺は必死に頭を回す。

 

だが、俺が言葉を紡ぐよりも先に、信濃さんが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「…………………………思春期、だもんね」

「はっ?」

「分かった。私はいなくなるよ。後は頑張れ‼」

 

信濃さんはそれだけ告げると、謎の移動手段でもってその場から煙のように消えた。

 




プチおまけ

棚加「真道お前、癒希さんに手を出してみろ。こっち来た時にぶっ〇すからな?」

☆☆☆

こんにちはぱgoodです。
これからはおまけは後で差し込む形式にしていこうと思います。
取り敢えず、差し込み次第、活動報告で報告します。
また、次話を投稿するタイミングでもお知らせします。
すいません。よろしくお願いします。

☆☆☆
おまけ

信濃は勇利と手を繋ぎ、防人本部の近くにある映画館へと来ていた。

「勇利、私映画館は初めてだぞ」

信濃は目をキラキラさせながら、勇利を見上げる。
勇利にも防人としての仕事や家庭があるため、何時もどこかへ連れて行ってくれるわけでは無いが、時折、勇利と一緒に外出できることが信濃にとって何よりの楽しみだった。

「そりゃ、連れてきてよかった。」

「うむ、くるしゅうない。」

信濃はそう頷くと勇利を見上げて、問いを投げかける。

「それで、今日は何を見るんだ?」

「…………何にするか……見たいのはあるか?」

「だったら、少女防人マジカル・マリンが良い!」

「ああ、日曜の朝にやってるアニメか」

魔法少女マジカル・マリンとは日曜の朝八時半からやっている少女向けアニメだ。

ストーリーに関してはいつの間にか家に置いてあった魔力が得られるマジカルキャンディーという不思議なアイテムをのど飴と間違えて食べてしまった少女マリンがマジカルキャンディーによって得た絶大な魔力を活かし、防人として活躍する話となっている。

略称はマジマリであり、少女から大人の男性に至るまで非常に人気な作品となっている。何と現在、毎週地上波で放送されているもので6作目となる長寿番組だ。

ここまで長く続けられた理由としては子供と大人の男性からの人気の他にも国が出資をしているということが要因の一つとして挙げられる。

因みに余談ではあるが、他に国が出資している子供向け番組としては防人ドライバーや防人部隊というものも存在しており、こちらは少年からの根強い人気がある作品だ。

勇利は信濃のそんな子供らしい一面にほっこりとした気持ちになった。

「そうか、ノブはこのアニメが好きなんだな」

「ああ!このアニメが好きだ!孤児院でもこのアニメは朝になるとよくかかっていたんだ。」

「へ~、孤児院じゃあ、他には何か見たりするのか?」

「後は防人ドライバーとか防人部隊とかがかかってたりもしたぞ!でも私はこのアニメが一番好きだ。」

「そっか、ノブはどの子が好きなんだ。」

「レクイエム‼」

信濃は青髪の少女を指さし、答える。
信濃の指さした少女は垂れ目が特徴的なロングの髪のお淑やかそうな女の子だった。

「どんな子なんだ?」

「レクイエムは凄い頭が良くて、敵の能力とかを直ぐに言い当てるんだ!」

「そりゃ、頼もしいな。」

「ああ、私もいつかそんな知的な女になるんだ!」

「ははは、でっかくなったらな」

勇利は信濃の頭を撫でながら、そう言い聞かせる。
何となくだが、興奮しながら、レクイエムについて語る信濃に危うさのようなものを感じたのだ。

「ノブ、ポップコーンはいるか?」

「いる!」

「飲み物は何が良い?」

「オレンジジュース!」

勇利は信濃の分のオレンジジュースとポップコーンと自分の分のウーロン茶を買い、劇場のなかへと入っていった。


おおよそ、80分にわたる上映が終わり、信濃と勇利は劇場から出てくる。
信濃はその道中、いかにレクイエムが格好良かったかを語っていた。

「敵がガキ―ンって攻撃を防いでどうやるんだって時に何で敵がガキ―ンってしてるか当てたの凄かっただろ!」

「ああ、まさか敵が強い衝撃を加えられると硬くなる体の持ち主だったとはな。全然気付かなかった。何と言うか頼れる参謀って感じだなレクイエムは」

「だろ⁉レクイエムはカッコイイんだ!」

勇利は信濃の言葉に同意する。

二人は昼ご飯を食べるため、劇場の近くにあるレストランで昼を食べながら更に映画についての感想を言い合う。

しかし、そんな折、勇利の携帯に電話がかかってくる。

「わり、ちょっと電話に出てくる」

「わかった!」

信濃が大きく頷くのを確認した勇利は外に出て、電話に出る。どうやら、防人本部からのようだ。

「もしもし、勇利だ。どうかしたか?」

『おお、無二、お前に話したいことがある。至急、防人本部に戻って来てくれ。信濃を連れてな』

「なに?信濃に何か用か?」

『ああ、心海(ここみ)にあるとされていたダンジョンの位置が特定された。そのため、心海市の奪還の為の大規模作戦が開始されることになった」

「なに⁉それでなんで信濃が関係してくる。」

『なに、あの子にも今回の作戦に参加してもらうことが決定した。ただそれだけだ。』

「何故、そうなる。あの子が防人魔法学園を卒業するまでは戦いには出さない約束だろう?」

『我々はそれだけ、今回の作戦に重きを置いているんだよ。』

「……子供だぞ?」

『だが、そこらの防人よりも強い。いや、既に君たち護懐を除けば勝てる者の方が少ないだろう」

「……………。それでも俺は反対だ」

『先も行ったが、これは既に決定事項だ。そんなにもあの子が大事なら、お前が体を張って守ればいいだけの話だ」

それだけ言うと勇利との通話は切られ、ツーツーという音だけが勇利の耳に届く。

「……クソっ」

勇利のその声は誰に聞かれることもなく、ただ、嫌味な程良く晴れた青い空へと消えていった。


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幕間 私はみんなを守りたい

こんにちは ぱgoodです。
18話におまけを追加しました。


幕間 前編

 

勇利は信濃を連れて防人本部に来ていた。

出来るのならファミレスで信濃と一緒に昼ご飯を食べたかったのだが、残念ながら急ぎの呼び出しだったため、結局代金だけ払い、ここに来る羽目になっていた。

 

一応、コンビニで軽食程度は買っているが、呼び出しの内容が内容だけに勇利の内心はかなり荒れていた。

 

勿論、子どものいる手前そんな様子を見せることは出来ないが…………。

 

「勇利?一体本部に何しに行くんだ?」

 

「ああ………。どうやら、お偉いさんが俺たちのことを待ってるみたいでな。」

 

「なんだ?任務か?」

 

「ああ、今度、心海市の奪還作戦があるから、そのための作戦会議に参加しろだとさ。」

 

「そうなのか⁉なら、私もレクイエムみたいに戦うぞ‼」

 

信濃は両手の拳をギュッと握り、やる気を示す。

しかし、それに対し、勇利はため息を吐き、信濃のやる気に水を差す。

 

「戦わせるわけねぇだろ?お前は俺と一緒に後方支援だ。」

 

「なんでだ!私は強いぞ!魔物なんて私にかかれば、ぎったんぎったんに出来るんだぞ!」

 

勇利の指示に信濃は噛みつく。

信濃には今まで様々なダンジョンと様々な魔物を倒して来た実績がある。

本人の中では不当な評価を受けていると感じても仕方がないのかもしれない。

 

それでも、勇利は頷くことはしない。

 

「ば~か、そういうのは俺に勝てるようになってからいえ、後、大規模作戦は集団行動が基本だ。お前みたいなじゃじゃ馬がいれば、隊が壊滅し兼ねない。

大規模作戦に参加したかったら、学校を出て集団行動を身につけてからにしろ」

 

「~‼勇利の馬鹿、あほ、頑固者‼」

 

「はいはい、分かった、分かった」

 

勇利はなけなしの罵倒を浴びせてくる信濃を適当に流しながら歩く。

この時、勇利は初めて成長限界に達している己の体に感謝をした。

 

仮にまだ勇利に戦う余地があったのなら、信濃を連れて戦場に出なくては行けなかっただろう。

何故なら、勇利の実力はこの国の五本指に入るほどであり、攻略の要と言えるものであるからだ。

 

(…………まったくこの体に感謝するとはな)

 

勇利は内心で苦笑する。

しかし、その様子に気づいていない信濃は見るからに怒っていますというように頬を膨らませながら、手を大きく振り、大股で歩いていってしまう。

 

「おいおい、ちょっとは待ってくれよ。」

 

「ふん!勇利のことなんてしらないからな!」

 

一人で歩いて行ってしまう信濃の背を勇利は少し早歩きで追いかける。

 

遠くない未来でこんな風に実力すらも追い越していくであろう少女の可能性を予感しながら、そして、防人の中心人物として他の防人の道を切り開く存在になることを確信しながら。

 

「もっと、スピードを上げるぞ!ついてこい勇利」

 

「ああ、了解だ。」

 

☆☆☆

 

防人本部、大会議室。

 

大きさに関しては学校などにある体育館と同等かそれよりも広いくらいの大きさであり、内部は大学の講義室のようになっている。

 

そこに、ぎっちりと入っている防人たち。

一応、護懐の一人と言うことで、勇利たちには前方指定の席が用意されていた。

 

現在時刻は昼の十六時二十九分。

しかし、直ぐに、時計の針は三十分を指し示した。

それと同時に、演台の前にスーツを着た恰幅のいい男が立つ。

 

男は辺りを見渡し、招集した防人の大多数が来ていることを確認するとマイクのスイッチを入れる。

 

「急ぎの呼び出しによくぞ応じていくれた国を守る防人の諸君。

今日君たちを呼び出したのは他でもない、豊富な海産物の産地でもあり、観光名所としても有名であった心海市の奪還の目処が立ったためだ。

勿論、目処が立ったとはいえ急な招集をかけてしまったことには私を含めた防人本部の者たちも胸を痛めている。

中には非番の者もいただろう。本当にすまなかった。

 

しかし、心海市に住んでいる者たちは故郷を奪われた日から今この瞬間も片時も忘れることのできない痛みを抱えながら日々を過ごしている。

 

ならば、国の守護者たる防人は今こそ立ち上がらなければならない‼

皆の者 拳を掲げろ!胸に愛国の火を灯せ!君たちこそ国を照らす日輪だ!」

 

それだけ言うと恰幅のいい男は壇上を折りていく。

そして、入れ替わるようにスーツを着て、眼鏡を付けた細身の男が壇上に登る。

 

「では、皆さんの士気が上がっているだろうこのタイミングで作戦会議に移ります。

心海市の面積は682㎢、占拠している魔物は天使型、徒大将級数は魔力感知で五体確認、徒組頭級は魔力感知で八体、足軽大将級は魔力感知で四十五体、足軽組頭級は魔力感知で八十体、足軽級は魔力感知で五百体、雑兵級二万体。

 

まず、【無二】を筆頭に裏魔班、香取班、千馬班、国来班、古島班には心海市全域にわたる結界の要になってもらいます。あなた達の他に二百名程、手の空いている防御魔法士に声をかけているのでご安心を。

当然、出来ますね?」

 

その言葉に勇利は強く頷く。

自分一人ではどうやっても三分の一を覆うのが限界ではあるが、この面子なら出来ないことはないと感じていたからだ。

また、細身の男は出来ないことは言わないという信頼も誠に遺憾ながらも多分に含まれていた。

 

その後の会議にて、内部に潜入する班を決めていく。

一つの隊の合計はおおよそ十五人まで、街の多方面から攻める作戦となる。

 

と言うよりも、一昔前ならいざ知れず、殆どの街が奪還された現在は攻めるよりも守ることに重きを置いており、行動を起こすまでに時間のかかる組織だった動きよりも少数で素早く動き鎮圧出来る小数編成での部隊が主流となっているため、即席で大隊を作るよりも小隊程度の人数に抑えた方が前線で戦う防人たちが動きやすいのだ。

 

こうして様々なことが決まっていき、作戦会議は終了する。

 

作戦開始は今から十六時間後。

 

☆☆☆

 

防人本部にて信濃と別れた勇利は一度家に帰り、自分の息子の才に会いに行っていた。

 

「よっ、只今、いい子にしてたか?」

 

「父さん、遅いよ!俺もう寝ようとしてたんだよ!」

 

「わりわり、仕事が長引いてな。」

 

「…そうなの?今日も魔物倒したの?」

 

「ええと、これから魔物を倒すお手伝いに行くんだ。だから、先に寝ててくれ。」

 

「えっ!今帰ってきたところでしょ!」

 

「そうなんだけどな。どうしても外せないんだ。悪いな」

 

そう言っても子供である才は不満そうな表情を隠そうとはしない。

勇利はそれを見て仕方なさそうに優しく笑う。

そして、頭をその大きな右手でごしごしと撫でる。

少しでも自分の愛情を伝えるために。

 

「悪いな、今度時間を作るからどこか遊びに行こう。」

 

勇利は振り返ることなく、玄関の扉を開けた。

 

 

☆☆☆

 

護懐である勇利のためだけに用意された装甲車の中で勇利と信濃は仮眠を取る。

装甲車はキャンピングカーに匹敵する広さを保有しており、二つの簡易ベットが用意されていた。

 

とはいえ、同じ車両内にいるため、信濃の寝息が聞こえてくる。

勇利は信濃がしっかりと眠れていることに頬を緩めるが、それと同時に家に置いてきた才に思いを馳せる。

 

一応、義母と義父に連絡を付け、才の様子を見に行ってくれるように頼んではいるが、流石に高齢である義理の両親にばかり迷惑をかけてはいられない。

 

これを機にこの仕事から足を洗うべきなのかもしれない、という気持ちが勇利の中に湧いて来る。

というのも、いざと言う時には逃げることしかできず、死ぬリスクも高い仕事を続けた結果、才を一人にしてしまうのではないかと不安なのだ。

 

しかし、それと同時に信濃を一人には出来ないと考える自分も勇利の中には存在していた。信濃に伝えることは出来ていないが、勇利の中では既に信濃はもう一人の娘と呼んでも差し支え無い程、大きな存在になっているのだ。

 

今更、この子を一人にはさせられないと考えてもいた。

 

「……これから、どうするのかも考えて行かないとだよな…………。」

 

 

勇利はゆっくりと目を瞑る。

明日は作戦当日なのだ、少しでも英気を養わなければ。

 

この時の勇利は気づくことは無かった。

眠っていた信濃が目を覚まし、勇利の独り言を聞いていたことを。

 

 

☆☆☆

 

昨日作戦本部に集められた防人たちが作戦通り所定の位置について行く。

テントは張られ、勇利も何時でも結界を張れるようにしている。

 

後は号令を待つだけだ。

 

そして、その号令も

 

『【無二】結界を張れ‼』

 

今、まさに来た。

 

「≪ポイントバリア≫」

 

勇利はその言葉と共に魔剣を地面に刺す。

すると、魔剣から光の柱が斜めに伸びていく。

他の地点でも同様の光が空から伸びてきて、上空で光の柱同士がぶつかり、光は線から面へと変わっていく。

 

これが多人数における防御魔法≪ポイントバリア≫の効果である。

 

必ず複数人が必要になる代わりにこういった広域にわたる防御が可能になる魔法であり、まだ魔物が世界中を自由に闊歩出来ていた時代は街を≪ポイントバリア≫で守っていたのだ。

 

勇利たちが防御魔法を展開すると同時に、結界内部へと防人たちが入っていく。

≪ポイントバリア≫の基本性能は≪ジェネリックシールド≫とほぼ同じため、このように味方は外部と内部を自由に行きすることが出来る。

 

結界の中に入っていく防人たちを眺めながら勇利は戦いの生末を祈る。

もう彼には戦う力はないため、こうして祈る事しか出来ない。

 

とはいえ、勇利以外の防人たちも護懐には劣るものの精鋭ぞろいだ。

心海市内にいた徒大将級を一つの部隊が危なげなく討伐してみせる。

また、別の場所では徒組頭級の魔物二体を相手に別の部隊が危なげなく討伐する。

 

長年占拠されていたため強力な魔物もかなりの数目撃されているが、彼らは襲い来る魔物たちを危なげなく討伐していた。

 

また、消耗した場合は一度結界の外で回復魔法士が詰めている後方基地に戻り、休息を取る。その間は待機していた他の部隊が入れ替わるように中に入り、魔物を倒す。

 

そのサイクルによってこちらの疲弊を最小限にし、向こうの消耗を強いていたのだ。

結界も同様で、勇利を含めた防御魔法士もローテーションで休みを取り、消耗を最小限にする。

 

長期戦により、確実にそして最小限の損耗で勝利しようとしていた。

 

 

この数十年で魔物と人間の地力は逆転していた。

決して難しいことでは無かった。

食料も人口も、教育を行う下地も資材も加工する施設も全てを整えていたのだ。

 

二度と生活圏を奪われぬように一時も怠ることなく力をつけるための努力を続けてきた。

故にこの結末は必然だった。

 

「なんだ、私の出る幕は無かったな」

 

「当り前だ、馬鹿。子供が戦場に出ようとするな」

 

「馬鹿とはなんだ馬鹿とは!馬鹿と言った方が馬鹿なんだぞ!」

 

信濃は予想以上に順調に進む心海市奪還作戦に緊張がほぐれ、勇利に噛みつく元気すら出てきていた。

 

勇利は未だに完全に安心はしていなかったが、それでも自分の出る幕はないと多少の安堵を抱いていた。

 

☆☆☆

 

内部にて魔物を討伐する任に就き、一小隊の体調を任された風刃(ふうじ)は同じ部隊となった防人と共に状況を確認していた。

 

「右から足軽大将級二、足軽組頭級三。そっちは?」

 

「左は……ゲッ‼徒大将級一体、徒組頭級一体!」

 

「あ~、上から雑兵級二十、こっちを狙ってま~す。たいちょ」

 

「了解。炎堂班は足軽級を一掃しろ‼水島班は右から来る足軽大将級と足軽組頭!その間、徒大将級と徒組頭は俺のパーティーで引き受ける。後その取ってつけたような隊長呼び辞めろ!」

 

風刃(ふうじ)はそう言うと自分のパーティーの人間と共に徒大将級と徒頭級に攻撃を仕掛ける。

十五名による小隊、実際の所は三パーティーで一部隊を作っているため、指示を最低限にし、出来るだけ各パーティーの連携を活かせるように心がけていた。

 

とはいえ、徒大将級や徒組頭を相手にする場合はその限りではなく、一小隊で確実に撃破する。

 

風刃はこの隊で最も実力が高いパーティーを率いているため、他のパーティーが雑魚を倒すまでの時間をパーティーの仲間たちとと共に稼いているのだ。

 

そのため、基本的に徒大将級と徒組頭相手には防御を優先し、行動する。

 

「「≪ハードソリッド≫」」

「≪ジェネリックシールド≫」

「≪オートヒール≫」

「≪サンダースネーク≫」

 

前衛の魔剣士である風刃達は≪ハードソリッド≫で防御力を上げ、防御魔法士は≪ジェネリックシールド≫で自分達パーティーを覆う様にドーム状に結界を張る。

回復魔法士はドーム内に入って来た魔剣士たちに通常の回復魔法と自動回復の魔法をかけ継戦能力を引き上げ、攻撃魔法士が拘束魔法の≪サンダースネーク≫で相手の動きを阻害し、機動力を奪う。

 

これにより、風刃達は危なくなったら、安全圏である≪ジェネリックシールド≫の内部に隠れ、回復魔法士により傷が癒えしだい攻撃を再開するという流れが出来上がる。

 

しかも、攻撃魔法士も≪プロミネンスレイ≫や≪ドラゴンボルト≫などの攻撃を繰り出し、明確にダメージを与えることで相手の気を引いていく。

 

その上で回復魔法士は回復を終えた風刃達に≪フィジカルオーガ≫の完全上位魔法として有名な≪リトルタイタン≫の魔法支援や反射神経と速度を引き上げる≪クイックミゼット≫を使うことでより戦況を優位に運んでいく。

 

徒大将級の魔物は≪ショットレイ≫を使い、文字通り、雨のように光線を打ち込んでくるが、それを防御魔法士と回復魔法士が遠隔から≪マジックシールドを使い威力を軽減する。

 

それにより、多少ダメージは受けつつも、≪ハードソリッド≫による防御力集中超極上昇、≪リトルタイタン≫による全能力超高上昇、≪クイックミゼット≫による反射神経と速度の集中極度上昇、≪オートヒール≫による自然治癒力上昇により、風刃は継戦可能なレベルの手傷を負いながらも≪ジェネリックシールド≫の中に戻り、回復魔法士の手により傷を癒すことが出来ていた。

 

また、それを見ていた徒組頭級は近くにある建物を砕き、瓦礫になった建物を魔法で持ち上げる。

魔法は≪マジックシールド≫で防げるが、魔力で構築されていない者は防げないという≪マジックシールド≫の逆転を突いた戦法だ。

それを見ていた、徒大将級も同様に両手に瓦礫を握る。

 

徒大将級は未だリキャストタイムが過ぎていないので魔法が使えないのだろう。

 

風刃達はこちらの対策をしてきた相手に怯むことなく、魔物の前に立つ。

 

風奈(ふうな)風奈、(なる)(まどか)、頼んだ。」

 

そして、回復魔法士と攻撃魔法士、防御魔法士の名前を呼ぶ。

 

三人はコクリと頷き、魔法を発動する。

 

風奈と呼ばれた回復魔法士の女性は衝撃を減らす≪インビジブルクッション≫を鳴と呼ばれた青年は≪フリーダムタイフーン≫と呼ばれる攻撃魔法を、そして防御魔法士の青年は回復魔法士の女性の魔法に近い効果を持ちながらもより攻撃的な≪クッションカウンター≫を使用する。

≪クッションカウンター≫は衝撃を減らすのではなく、弾性により跳ね返す魔法だ。

 

初めに≪インビジブルクッション≫で飛んでくる瓦礫の威力を減らし、それを≪フリーダムタイフーン≫の風で更に威力を減らす。

 

 

 

そして、≪クッションカウンター≫で跳ね返す。

ことは無かった。

 

そも、その必要が無かった。

何故なら初めから相手の攻撃を受けきる気は無かったのだ。

攻撃魔法士の鳴の放った魔法である≪フリーダムタイフーン≫の目的は敵の瓦礫の威力を減らすだけではなく、風刃ともう一人の魔剣士である雷丸を空へと打ち上げる目的があった。

 

面での防御では限界が来るため、敢えて立体的な起動を取れるような状況を作る。

宙に浮いた二人は≪クッションカウンター≫と瓦礫を足場にし、器用に敵の攻撃を避けていた。

 

そして、二人は二体の魔物の頭上を取った。

 

「行くぞ、雷丸(らいまる)

 

「おうよ」

 

「「≪ヘビーメテオ≫」」

 

これは防御力と重量を引き上げる魔法であり、その特性上あまり人気は無いが、こういった頭上からの奇襲においてはこれ以上に適した魔法はない。

 

文字通り隕石の如く飛んで来た二人を咄嗟に二体の魔物は受け止めた。

 

ズシンという音が辺りに響くが、何とか二体の魔物はその攻撃を耐えた。

 

しかも、徒大将級の魔物はリキャストタイムが終わり、衝撃波を放つ魔法により二人を吹き飛ばす。

 

しかし、忘れてはいけない。そもそも、彼らが只の時間稼ぎと言うことに。

 

「お待たせしました。≪ライトニングワイバーン≫」

「私がMVP‼≪フリーズフロスト≫」

「≪ムーブアーマー≫、無いよりましでしょ?」

「≪マッスルメタル≫!お前たちの筋肉の可能性を見せてみろ」

「≪ワイズマジック≫!これで魔法の威力が上がります。」

「≪マナヒール≫、ま、魔力も回復しておいた方が良いでしょ?」

「俺達も前衛を張る。」

「了解」

「りょ」

「わかった」

 

続々と小隊の仲間たちがこの場所に集まってくる。

向こうの魔物を倒し終えたということだ。

 

これにより、戦況は逆転した。

 

六人の魔剣士によるかく乱と三人の攻撃魔法士による援護射撃、三人の攻撃魔法士による、弾幕のような魔法の連射、回復魔法士たちによる付与魔法と回復魔法、防御魔法士は一人が安全地帯を作り、二人が魔剣士たちを狙った敵の攻撃を遠隔で防ぐ。

 

完全に流れがこちらに来た瞬間だった。

 

負ける要素が微塵もない。

そして、その予想は外れることなく。

 

敵はそれ程時間を立たずに倒された。

 

「いやぁ、にしても徒大将級と徒組頭級も結構倒したし、奴さんも戦力切れじゃないか?」

 

魔剣士の内一人が、頭に手を組みながら、気楽気に言葉を紡ぐ。

実際に風刃達は既に徒大将級を三体、徒組頭級を三体倒しており、他の部隊が倒した徒大将級が二体、徒組頭級が五体とのことなので、この魔剣士の言うことは風刃としても概ね同意であった。

 

もしかしたら、魔力を隠し、潜伏している個体がいるかもしれないが、正直言ってその可能性は限りなく少ないだろう

何故なら、徒組頭や徒大将級の敵というのは早々出てくるものではなく、ダンジョンに一体から二体が平均であり、多くて四体といった所だ。

魔物たちがここに戦力を集中させていたとしてもそろそろ徒組頭や徒大将級の戦力はいないと考えても良いだろう。

仮に居ても一体程度と見るのが妥当だ。

 

ただ、一つ気になることがあるとすれば徒組頭や徒大将級の戦力をこれだけ投入しているのに対し、足軽大将や足軽級、雑兵級などの上澄み以外の魔物の投入数が非常に少ないに感じたことだ。

他の部隊が倒してくれているのだろうか?

 

風刃がそう考えていると、突如として地面が揺れる。

 

「全員警戒‼」

 

風刃の言葉に他の隊員たちは円を作りどこから敵が来てもいいように備える。

 

しかし、上空を含め、辺りを見渡しても敵影は見つけられない。

すると、水島班の防御魔法士が地面を指さす。

 

「下から来ます!」

 

その言葉と共に全員がその場を対比し、散らばる。

地下から出て来たのは徒大将級の魔物であった。

 

「ちっ!まだいやがったか!懲りない奴め!」

 

全員、すぐさま臨戦態勢を取る。

そして、相手の出方を伺う。

 

しかし、敵は中々動かない。

 

風刃の目にはそう見えた。

 

じっと、その場で風刃達を睨みつける。

 

何か策があるのか?風刃は訝しんだ。

訝しんだが、時すでに遅かった。

 

それに気付いたのは味方からの通信が着た後だった。

 

『敵が次々と自害している‼そちら何かわかるか⁉』

 

その言葉と共に目の前の徒大将級の魔物に瘴気が集まる。

集まっていき位階上昇(ステージアップ)が起こる。

 

「…か、観測魔力………侍大将級です。」

 

 

他の徒大将級、徒組頭級が居なくなったことで先ほどまで生きていた魔物の瘴気が全て一体の徒大将級の下に集まったのだ。

 

戦力の温存もこの為だったのだろう。

 

侍大将級の魔物は今まで好き放題されていたことの腹いせのようにその圧倒的な魔力を用いた≪プロミネンスレイ≫でもって結界を壊し、外に出る。

 

「全員気を引き締めろ、増援がくるまで時間を稼ぐぞ。」

 

☆☆☆

 

侍大将級が現れたという報告により、仮眠を取っていた勇利たちなどを含む休憩中の防人も叩き起こされ、心海市近くに作られた、領土奪還用戦略仮設基地ノアへと集められていた。

 

因みにノアとは変形機能と連結機能が搭載されたマルチ自動車であり、時に小型船や小型のジェット機、時に連結機能を使い、大型の船や空中要塞、今回のように地上の軍事拠点に姿を変える、箱舟という訳ではないもののその在り方はかのノアの箱舟と同じく人類の生存のために作り上げられた乗り物となっている。

 

「何かあったのか?」

 

勇利は首を傾げながら、この場に集められた全員の疑問を代表し、口にする。

 

「ああ、侍大将級が現れた、現在【虚心】が向かっている。君たちにはそれまでの時間稼ぎを頼みたい。」

 

眼鏡をかけた細身の男は防人たちを見渡しながらそう告げる。

それを聞いた防人たちは初めの内は動揺からざわついたが暫くすればお互い顔を見合わせながらも自分たちがやるしかないと覚悟を決めていく。

 

ここに集っているのが国の選んだ優秀な防人でなかったらこうはいかなかっただろう。

 

「すいません。俺達はどうすれば……………………。」

 

そんな中、防御魔法士たちは恐る恐る手を上げる。

それも仕方がないだろう。

彼らは街を覆う結界を張るために集められたが、現状それも意味をなさなくなってしまった。

 

「君たちは【無二】の指示に従って前線で戦う防人たちの援護をしてくれ」

 

勇利は面倒くさそうに頭を掻きながらこうなってしまったら仕方がないと腹を括る。

 

「んじゃ、よろしくな」

 

「勇利、私は?私はどうする?」

 

今まで勇利の背中で眠っていたと思われていた信濃が突如手を挙げる。

 

それに対し、勇利は信濃を優しく地面に下ろし、頭を撫でる。

そして、にっこりとほほ笑む。

 

「お前は待機な?」

 

「何でだー‼」

 

「子供は寝る時間だからだ。鋭理、頼んだ。」

 

「分かった。責任を持って預かろう。」

 

勇利は鋭理と呼ばれた眼鏡をかけた細身の男に信濃を預けると防御魔法士たちを引き連れ外に出る。

 

信濃は勇利を恨めし気に睨みつけていた。

 

そして、それを鋭理と呼ばれた男は冷たい目で見つめていた。

 

☆☆☆

目の前には大きさにして三十メートル、腕が六本、八対の翼を背から生やし、頭上と背中にそれぞれ大きさの違う光輪を持つ侍大将級の天使型の魔物がいた。

 

瘴気を纏ったその姿は傍目には堕天使のようにも映り、その人知を超えた姿に一般人では畏怖すら抱いたかもしれないが、勇利からすれば、そんなことよりも戦況の悪さにこそ目がいった。

 

そう侍大将級との戦いは端的に言ってしまえば非常に旗色が悪かった。

それは護懐の一人であり【無二】の称号を持つ勇利が加わっても変わらなかった。

 

「クッソ!すまん第一から第二の防御魔法士たちは味方の回復に専念してくれ!」

 

(成長限界(グロウアウト)に達した俺じゃあ戦えない……こいつらに頑張ってもらうしかないんだが……)

 

勇利は現在の戦況を冷静に分析する。

一応自分の≪ジェネリックシールド≫で安全地帯を作っており、更に防御魔法士たちと共に味方の支援や致命的なダメージを遠隔からの防御魔法で軽減している。

 

更に、前線で戦っている防人たちの仲間の回復魔法士や防御魔法士たちも勇利たちが防御魔法で安全地帯を作り、回復魔法や支援魔法などを積極的にかけているので、かなり動きやすそうにしている。

 

だが、それ込みでこちらが押されているのだ。

回復魔法も一撃で倒されてしまえば意味が無い。

支援魔法も敵の潜在能力の前では雀の涙に等しい。

 

防御に関しても威力の軽減が精々だ。

それも結局、無いよりもまし程度のものとなっていた。

 

勇利に関しても安全地帯を作りながらの遠隔での防御魔法では完全に防ぎきることは出来ない。

 

防人たちからは断末魔すら聞こえない。

何故ならたったの一撃、刹那の間に命を刈り取られるのだから。

 

「無、【無二】殿、前線で戦う防人たちは既に半数程となっています。て、撤退した方がよろしいのでは?」

 

防御魔法士の一人がそのような言葉を零す。

しかし、勇利には頷くことは出来なかった。

 

何故なら、このまま、撤退した場合、奴は野放しとなり、他の街に襲撃をかけるからだ。

そうすれば、何も知らない一般人が今以上の数が死ぬ。

 

それに、前線で戦う防人たち、そして、その仲間たちはまだ折れていない。

 

「いや、悪いがここで足止めする。ただ、帰る場所がある者は帰ってくれ。

ここからは俺が引き受ける。」

 

勇利がそう叫ぶと暫く防御魔法士たちは続々と撤退を始める。

前線で戦う防人たちの中にも旗色の悪さに撤退を選ぶ者が現れる。

 

それを横目に勇利は前に出る。

 

勿論、死ぬ気は毛頭ない。

 

(防御魔法と補助魔法だけで時間を稼ぐ!)

 

勇利はそう思い≪ジェネリックシールド≫を時前に出て、≪ジェネリックシールド≫を球体上に展開し、そのまま体当たりをする。

 

それにより、魔物は態勢を崩す。

だが、魔物はそれを気にした様子はない。

 

直ぐに、魔法の光線を放つ。

ただし、狙いは勇利ではなく。

 

撤退を選んだ防人たちであった。

 

「なに⁉」

 

勇利はそれに動揺する。

一体何人の防人が生き残れたのかと。

 

ただ、敵はそんな勇利の心境になど配慮はしてくれない。動揺して動きを止めた勇利を≪ジェネリックシールド≫ごと掴みソフトボールのように投げ飛ばす。

それにより、軽く、一キロは飛ばされる。

しかし、勇利も動揺を振り払い、≪ジェネリックシールド≫を空中で固定することでその場にとどまる。

 

「クッソ、やられた。」

 

そして≪ジェネリックシールド≫を足場に再度、敵の下に向かう。

 

今の所は誰もやられていない。

敵の下についた勇利は味方が未だ生存していることに安堵する。

 

だが、それは敵の悪辣な策略の上でのものだった。

 

勇利が味方を目視できる距離に入ったと分かるや否や敵は≪ヘブンピラー≫と呼ばれる魔法を発動した。

 

この魔法の効果は純粋に天までのぼる高熱の光の柱を生み出す魔法だ。

その魔法は魔物自信を中心に半径300㎞、つまりこの街全土を対象にしていた。

 

完全に結界に閉じ込められていたことの腹いせだろう。

せめて、目の前の味方だけでも守りたい。

 

焦った頭で勇利はそう考えたが、遠隔防御が届かない。

いや、敢えて届かない距離を見定めて発動したのだろう。

勇利自身の力不足により目の前で仲間の命を取りこぼすのを見せつけるために。

 

「や、やめ………」

 

その言葉を紡ごうとした所で、光はふっと止んだ。

 

そして、次の瞬間には天使の体に深々と袈裟斬りに傷がつく。

 

「待たせたな。真打の登場だ。」

 

女性でもなかなか見ない高音の持ち主は余裕たっぷりにそう告げる。

その声は勇利には非常に聞き覚えのあるものだった。

 

「信濃⁉なんでここに‼」

 



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幕間 俺は我が子を守りたい

幕間 後編

 

☆☆☆

 

勇利は言葉を失っていた。

と言うよりも先ほどよりも動揺していた。

 

何故なら、安全な場所で待機させていた筈の信濃が戦場のど真ん中にいるのだ。

 

大切な、それこそ、我が子のように可愛がっている子供が戦いの中心にきて動揺するなと言う方が難しいだろう。

 

「なんでだと?そんなの決まっている‼勇利たちがピンチだと聞いたから助けに来たんだ!」

 

信濃はそんな勇利の内心などお構いなしにはきはきと答える。

その様子はピンチを救ってみせたこともあって少し、得意げでもあった。

 

「………はぁ、わかった。取り敢えず、ここにいる俺以外の仲間を連れて仮設基地に戻れ。」

 

「何を言っているんだ?私がここに来たのは勇利と一緒に戦うためだぞ」

 

キョトンと首を傾げる信濃に勇利は諭すように優しい声で語り掛ける。

 

「いいか、信濃。お前はまだ子供だ。そんな危ない真似しなくてもいい。

こういうことは大人がやる。だから……………。」

 

「なら、私は何のために防人本部に育てられたんだ?勇利は何のために優しくしてくれたんだ?私は今こそ、皆の優しさに答えなくちゃいけないんだ。」

 

勇利は口ごもる。

自分は違うと言いたかった。

ただ、それと同時に防人本部が信濃を手塩にかけて育てた理由は、信濃の予想通りであるとも思ってしまった。

 

実際、勇利が鋭利に信濃を頼んでいた筈なのに信濃はここに立っている。

それが答えだろう。

 

だから、ここで信濃を止めてしまえば信濃の防人本部内での立場を悪くしてしまう。

この子の帰る場所である筈の本部での評価を下げてしまう。

 

故に勇利は信濃を止めるのを躊躇ってしまった。

 

勿論、そこには自分であれば信濃を守り切れるという慢心も含まれていたが………。

 

勇利は数秒の黙考の末、結論を出す。

 

「………分かった。俺がお前を守る。

だから、お前は好きに戦え」

 

勇利が諦め気味にそう告げると信濃はニヤリと笑い。

勇利の言葉を否定する。

 

「何を言っている?私が全て救ってやる。そのために来たんだ」

 

信濃は不敵な笑みを浮かべて魔剣を構え、姿を消す。

否、姿を消したのではなく、超高速で敵の、侍大将級の背後を取ったのだ。

 

侍大将級の魔物も信濃の動きを目で追うことは叶わず、背後を取られた後、ワンテンポ遅れて反応する。

 

しかし、そこで再度、姿を消す。

今度は侍大将級の魔物の目の前だ。

 

「食らえ‼《俊撃》」

 

その言葉と共に糸よりも細い斬撃が飛ぶ。

しかも、只の斬撃ではない。

≪ドラゴンボルト≫の雷撃を圧縮した高密度の雷の斬撃だ。

その瞬間火力は彼女が持つ魔法を使わなかった場合の高威力技である《天剣・白夜》を凌ぐほどだった。

 

それを何度も何度も連続で敵に叩きつけていく。

 

「グゥゥゥゥゥ‼」

 

侍大将級は避ける隙すら与えない高威力の連撃により、どんどんと傷ついていく。

先程までの戦況が嘘のように覆されていく。

 

しかし、相手もまた侍大将級という上から数えた方が早い強者。

直ぐに≪ジェネリックシールド≫を使い自らの身を守る。

 

これにより、信濃の攻撃は侍大将級の魔物には届かなくなった。

 

ただ、それでも、その場に立ち尽くしていた防人たちは少なくない衝撃を受けた。

なんせ、【無二】に引っ付いていた少しだけ才覚のある子どもだと思っていた存在が自分たち上位の実力を誇る防人ですら束になっても敵わなかった敵を相手に大立ち回りをしているのだ。

 

これを驚かずにいられようか?

 

「む、【無二】!彼女は一体何なんですか⁉」

 

戦いを見ていた防人の一人が勇利に信濃の存在について尋ねる。

それに対し、勇利は面倒くさそうに頭を掻きながらも、ここで答えた場合と答えなかった場合どうなるかについて、考える。

 

(答えるってことは当然ながら信濃の手の内をばらすってことだ。

こいつらが敵対した場合に多少は不利になるかもしれないな。

 

………いや、ここに集まっているメンバーは少なからず国から信頼を得ている奴らだ。

言わなかったとしても、国の方が勝手に信濃の情報を渡すか?

 

それじゃあ、答えなかった場合はどうなる?

……………………今回、俺の意見を無視して作戦に信濃を参加させた件、鋭利が信濃を戦場に向かわせた件、国は俺の教育方針をあまり好ましく思っていない…………だったら、ここで少しでも不信感を買う訳には行かない……………………か)

 

なんせ、不信感を買った結果信濃と引き離される可能性もあるのだから、と勇利は更に心の中で付け加える。

 

「あ~、アイツの能力、固有魔力波は本部では収束って呼ばれている。」

 

「収束?ただ、自分の下に集めるだけのようには見えませんが………」

 

「ああ、あいつの固有魔力波は範囲指定、対象指定、どこへ収束させるかの座標指定の3つの要素から出来ている。」

 

「な、なるほど……」

 

防人は何となくわかったのか曖昧に頷く。

 

勇利の話に補足を入れるのなら一番初めの範囲指定とは魔力波を飛ばす行為によって完了する。

そして、対象指定は魔力波が届いた範囲内から指定し、どの物質、どのエネルギーを対象にするかを決める。

ただし、魔力を持つ生物は自分を除き、かなりの実力差が無ければ不可能であり、また、運動エネルギーを対象にすることも出来ない。

座標指定に関しても魔力波の届いた場所であればどこにでも指定することが出来る。

 

この能力を活かすことで弧毬信濃は自分を対象指定し、目にも止まらぬ高速移動を可能とし、敵の魔法を対象とし、魔剣のある位置を座標指定することで敵の魔法を収束し、魔法攻撃を無効化していた。

更に、そこから、2つ目の収束座標を指定することで、敵の魔法を拡散させずにカウンターを決めているのだ。

 

「取り敢えず、俺はこれからノブのフォローに行く。お前らは離れてろ。」

 

勇利はそう言うと、彼らに背を向け、信濃の下に走る。

 

 

「ノブ!取り敢えず、俺も手伝う」

 

「む!休んでても良いんだぞ?勇利」

 

信濃の下まで来た勇利に信濃は首を傾げる。

 

「いや、弟子が敵の矢面で戦ってるんだそういう訳にも行かないだろ?取り敢えず防御魔法なら任せてくれ。それぐらいしか出来ないが……………。」

 

「分かった。なら防御魔法を使って出来るだけ敵の動きを拘束してくれ。」

 

信濃は現状を分析し、現状防御魔法で出来る上で有効な手段をはじき出す。

本来、回避とカウンターを行える信濃には防御魔法は必要ないが、敵の妨害などをしてくれるのであれば話は別だ。

その答えを信濃は一瞬で導き出した。

 

「分かった。任せろ‼」

 

勇利も知らぬ間に成長している信濃に寂しさ半分、嬉しさ半分で答える。

この戦いにおいて鍵を握るのは間違いなく、信濃だろう。

そのことを勇利は長年の直感で感じ取る。

 

「グァァァァァァ‼」

 

敵は≪創剣≫を用い6本の腕にそれぞれ剣を持つ。

 

そして、二本の腕で信濃に斬りかかる。

それを信濃は収束の固有魔力波を使い直ぐさまその場から移動することで回避する。

 

しかし、それを相手は想定していたのか直ぐに二本の腕で背後に剣を振るう。

 

「残念だが、外れだ。」

 

ただ、それを更に読んでいた信濃は相手の頭上を取る。

 

「《俊撃・二式》」

 

頭上を取った信濃は≪ドラゴンボルト≫と≪プロミネンスレイ≫を圧縮し、束ね、放つ。

 

その攻撃は先程の《俊撃》よりも更に威力が上がっており、敵の≪ジェネリックシールド≫に罅を入れる。

 

それを見ていた信濃は更に一撃、二撃と連射する。

ただ、相手も只棒立ちで見てくれているわけでは無い。

 

残った二本の腕で剣を振るう。

更に、光線による攻撃も行ってくる。

 

勇利はそれを収束の固有魔力波による高速移動によって緊急回避する。

 

ただ、相手は畳みかけるように更に魔法を行使する。

その魔法の名は先程使った広範囲魔法≪ヘブンピラー≫だ。

 

これを防ぐには回避ではなく。

収束による無力化を行うしかない。

 

信濃も瞬時にそれを選んだ。

 

しかし、それを相手は狙っていた。

 

範囲を指定し、対象を指定する。

それは高速移動を行う際も行っている行為ではあるが、≪ヘブンピラー≫は通常の攻撃よりも範囲が広く、対象の指定に少しだけ時間がかかってしまった。

 

その隙を突き、≪クイックミゼット≫を使った敵が一気に距離を詰めてくる。

ある種の慢心により生じたピンチであるが、ただ、信濃を責めることは出来ないだろう。

何故なら、敵は現時点で確実に魔法を使う際のクールタイムを無視して魔法を行使しているのだから。

 

「≪ジェネリックシールド≫‼」

 

それを遠くから敵の動きを阻害していた勇利が咄嗟に防ぐ。

 

これに関しては経験の差と遠くから戦況を観察できるという状況であったことによる影響だろう。

 

「ナイスだ‼」

 

信濃はそれだけ言うと収束させた敵の≪ヘブンピラー≫を圧縮させ、自分の≪ドラゴンボルト≫と≪プロミネンスレイ≫を上乗せし、飛ばす。

 

「《俊撃・三式》」

 

これにより、敵の≪ジェネリックシールド≫は容易く割られ、更に非常に深刻なダメージを与える。

 

「私を敵にしたことを呪うんだな‼終わりだぁぁぁぁ《俊撃・二式》‼」

 

信濃はそう言うと魔剣から糸よりも細い斬撃を飛ばす。

これで終わり、そう思われた時、敵はふっと姿を消した。

 

「⁉」

 

信濃は直ぐに辺りを見渡そうとするが、それよりも早く、敵が勇利の背後を取る。

勇利は回避タイプであり瞬間的な速度は群を抜いているが、その方法は座標まで体を引っ張っているに過ぎない。

 

勿論、肉体強化だけでも相当な速度、動体視力を得ることが出来るが、残念ながら今の信濃にはこの侍大将級の魔物の動きを捉えることは出来なかった。

 

侍大将級の天使型の魔物は信濃の背後を取ると思い切り、剣を振るう。

 

それを勇利は黒い雷を体から迸らせ、加速することで間一髪のところで救出する。

 

「危なかったな」

 

「な、何なんだ⁉あいつは‼急に早くなったぞ」

 

信濃は敵が急に強くなったことに目を白黒させ困惑する。

しかし、遠くから戦況を見ていた勇利は何故敵が強くなったのか直ぐに分かった。

 

(やっこ)さんは今≪アクセラレーター≫と≪フェニックスフレイム≫を使ってやがる」

 

その言葉に信濃は目を大きく瞬かせるが直ぐに敵の強化した方法を察する。

≪アクセラレーター≫とは速度だけを上昇させる自壊バフだ。

そして≪フェニックスフレイム≫は≪オートヒール≫の上位互換となる自動回復の魔法だ。

 

この二つを併用することで敵は≪アクセラレーター≫を極限まで行使し、こちらを道連れにしようとしているのだ。

 

その証拠に≪フェニックスフレイム≫の回復が全くと言っていい程間に合っていない。

≪アクセラレーター≫で限界以上に加速し、こちらを潰しにかかっている。

 

敵のその覚悟と戦闘能力と信濃の現在の実力を図り、勇利はある決断をする。

 

「こっからは俺が受け持つ。信濃は下がってろ。」

 

そう言うと勇利は黒い雷を迸らせ、敵に突っ込む。

それからの攻防は一方的だった。

 

侍大将級の魔物は勇利の速度に翻弄され、更に黒い雷は敵を感電させるだけに留まらず敵を切り裂き、どんどんと魔物の体を削っていった。

 

将来の護懐とまで言われている信濃ですら立ち入ることが出来ないレベルの戦いが繰り広げられていた。

 

そして、侍大将級の魔物は倒され、大ダメージを与えていた信濃にその殆どの瘴気がいく。

これにより、信濃に大幅な抵抗力上昇(レベルアップ)が起こる。

そして、勇利には全体で言うと一割程度の瘴気が吸収された。

 

大したことが無い量、信濃が九割の魔力を受けきれたのだから、勇利が受け止められない筈がない。

信濃はそう確信していたが、結果は違った。

 

瘴気を吸収した勇利は身体中から血を流しながら倒れる。

 

「ゆ、勇利どうした⁉大丈夫か⁉」

 

信濃は急いで勇利に駆け寄る。

そして、無きそうな顔で勇利に縋りつく。

 

「勇利⁉大丈夫か勇利‼」

 

それを見ていた勇利は苦笑する。

 

「そんな心配そうな顔するな。こんなのかすり傷だ」

 

安心させるように信濃に言い聞かせる勇利。

実際に信濃がかなりのダメージを与えてくれていたおかげで死ぬほどの怪我には至っていなかった。

 

勿論長時間が放置されれば分からないが……………。

しかし、悪い想定は早々に外れた。

 

遠くから人の気配がすることに勇利は気づく。

 

「お~い、回復魔法士を連れて来たぞ!凄かったな!」

 

防人の一人がそう言いながら、近づいて来る。

どうやら、近くで見ていた防人が本部に連絡し、回復魔法士を連れてきてくれたらしい。

勇利はほっとし、眠るように意識を失った。

 

☆☆☆

 

勇利は目が覚めると病室のベットにいた。

横に目を向けると、椅子に座り、読書をしていた鋭利と目が合う。

 

「おや、起きたみたいですね」

 

「ああ、ところであの後どうなった?」

 

「皆家に帰りましたよ。勿論、信濃さんもね」

 

「そうか………………」

 

勇利は無事に何事もなく終わったことにほっと息をつく。

 

その勇利の姿を見ながら鋭利は勇利の現状について聞く。

 

「それより、勇利さんこそ体の方は?」

 

「ああ、普通に生活する分には問題ないが、もう戦いには参加できないな」

 

勇利は自分の右手を握って開いてを繰り返しながらそう告げる。

 

「そうですか、分かりました。今までありがとうございます。あなたは今日限りで防人の任を解きます。」

 

「そか、分かった」

 

「安心してください。退職金はたんまり出るので」

 

「そりゃよかった」

 

勇利と鋭利はそう言うとニッと笑いあう。

そこには往年に渡る友情が垣間見えた。

 

「………一つ聞きたいんだが、信濃の教育係に再就職って出来るか?」

 

「………………あの少女ですか?

無理ですね。あなたの存在はあの少女にとって悪影響と判断されていますから」

 

「そか、それでお前も信濃を俺の下に誘導しなくちゃいけなかったのか」

 

「はい。」

 

勇利はそれだけ言うと、顔に手を乗せる。

 

「それでも諦められねぇな。どうにかして会うか……………。」

 

「まったく、貴方ならそう言うと思ってましたよ」

 

呆れ気味に、それでいて、それこそが勇利の良い所だとでもいう様に穏やかに笑い、鋭利はスーツの内ポケットに手を入れる。

 

「おっ‼何か策があるのか?」

 

勇利はキラキラした目で鋭利を見る。

 

 

 

 

 

そして、鋭利はそんな勇利を眺めながら、通常よりも大口径な拳銃を勇利に向けた。

対戦人用暗殺銃だ。

 

「…私は本当に貴方のことを快く思っていました。

でも、私は家族が一番大切だ。そして、その家族の安寧にはあの少女の存在が何よりも重要。それこそ、戦えない貴方よりも。」

 

「お、おい。冗談だ」

 

そこまで言いかけた所で鋭利は引き金を引いた。

サプレッサーが付いていたのでプシュンという呆気ない音と共に、そして真道勇利は命を落とした。

 

☆☆☆

 

防人本部に帰った信濃は元孤児院の園長にして、勇利が来るまでの信濃の教育係でもあった、暗奈と一緒にいた。

 

「やっぱり園長の親子丼は最高だ!」

 

「ふふ、ありがとう」

 

そんな他愛もない話をしていると園長のスマホに電話がかかってくる。

 

「あら、誰かしら?」

 

園長は首を傾げて、スマホを片手に部屋を出る。

信濃はその様子に対して不信感を抱くこともなく親子丼を食べ続ける。

何故なら園長が色んな人から連絡を受けるのは何時ものことだからだ。

 

しかし、今日に関しては少し事情が違った。

何故なら信濃にも関係のある話だったからだ。

 

「大変よ。勇利さんが、勇利さんが‼瘴気の影響で亡くなられて……………………」

 

その言葉で勇利は親子丼を食べていたスプーンを落とす。

 

「わ、私が勇利の言いつけを破ったから…………」

 

「それは違うわ。信濃ちゃんが勇利さんの言いつけを破ったから亡くなったんじゃない。ただ、信濃ちゃんが弱かったから亡くなったのよ」

 

園長慰めるように信濃に抱き着きながら信濃の耳元でそう呟く。

 

「私が弱かったから?」

 

「ええ、そうよ。だって信濃ちゃんが強かったら勇利さんを戦わせなくて済んだでしょう?」

 

園長は信濃の頭を優しくなでる。

言い聞かせるように、優しく諭す。

 

「だから、強くなって?勉強なんてしなくていいから、友達何て作らなくていいから、学校何て通わなくていいから。ただ、ただ強くなって、信濃ちゃん。」

 

信濃は園長の言葉を噛み締める。

自分の無力に歯を食いしばる。

 

そして、血を吐くように決意する。

 

「分かった。私は誰よりも何よりも強くなる。」

 

「良い子ね。今日は色々あって疲れたでしょう。もう休みなさい」

 

暗奈はそう言うと、信濃を寝室まで連れて行く。

そして、信濃が寝室に向かったのを確認し、一人で恍惚と笑う。

 

「信濃ちゃん。貴方は他人に気持ちを寄り添わせなくて良いのよ。ただ、その力で私たちの未来を明るく照らしてくれればそれで良いの。それこそ、暗い宇宙空間で誰のためでもなく輝き続ける太陽のように」

 




おまけ

夜遅く、既に祖父と祖母が眠っている時間帯、家に電話がかかってくる。
丁度トイレに起きてきた才は目をこすりながらも受話器に手をかける。

「もしもし、真道です。」

「もし…………勇利だ。才、何かあったらノブに助けてもらえ、逆にノブが困っていたら、助けてやれ…………………。」

それだけ言うと電話は切れてしまう。
才は父が電話をかけてくれたことに驚きながらも、首を傾げる。
何故なら、何時もと比べ随分と会話が淡白だったからだ。

しかし、その疑問も頭の片隅に追いやられる。
何故なら、この時の才は直ぐにでもトイレに駆け込みたかったし、何よりも後でゆっくり話を聞けばいいと思っていたからだ。
そのため、才はトイレに行き、その日は直ぐに眠りについた。


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この二人似たもの同士だなぁって思った瞬間………。

☆☆☆

 

ネット環境が麻痺しようが、護懐の一人が学校に押しかけてこようが、何日か経てば意外と気にならなくなるもので、最近はむしろ小毬さんと真道君が一緒に歩いている光景の方が日常と化している位だ。

 

だからだろう。

 

珍しく一人で雪白先生の花壇をぼんやりと眺めている小毬さんが何となく気にかかってしまった。

 

そして、つい声をかけてしまったんだ。

 

「どうしたんですか?こんな所で一人でいるなんて…」

 

小毬さんは面倒くさそうに且つ無気力にこちらを見上げる。

その瞳に見つめられた瞬間周りの温度が何度か下がったような錯覚に陥る。

絶対零度の瞳と言うのはこういうのを言うんだろう。

その態度に俺は一瞬、声をかけたことを誤魔化して、口笛でも吹きながら回れ右をしたくなったが、そこをグッと堪える。

 

「ああ、君か、えっと……………名前は…………確か…………音凪君。」

「いや、えっと、音長です。」

 

俺が控えめに訂正すると、小毬さんは一度空を見上げた後。「ああそうそう」と適当に相槌を打つ。

 

 

「それで、私に何の用?」

「ええっと、何をしているのかなって……。」

「何をねぇ………花を見ていた、かな?」

「そ、そうですか………」

 

その言葉を最後に俺たちの間に沈黙が流れる。

うん、正直辛い。

俺は「それでは失礼します。」とだけ言って踵を返そうとした。

したが、それよりも先に小毬さんが俺にある提案を持ちかけて来た。

 

「あ、そうだ。良かったら稽古つけてあげようか?」

「えっ?」

 

護懐ともあろう人が態々一介の生徒に稽古をつけてもいいという提案をしたことに俺の思考は一瞬止まる。

 

何か理由があるのだろうか?

 

「えっと、良いんですか?俺なんかに時間を割いてもらっても?」

「うん、いいよ~。これからも才君と仲良くして欲しいし……………………暇だったから。」

 

最後の方ボソッと何か呟いているようだったけど、なんていったか聞き取れなかった。

只、まあ真道君の友達と認識されていることが原因ではあるみたいだ。

 

実際の所はそんなに話すこともないんだけど…………。

 

なんか気不味いし断ろうかなぁ?

 

その思考が頭を過らなかったわけでは無い。ただ、その後直ぐに俺の頭に棚加君の顔が浮かぶ。

そして、自分の中の生きたいと思う部分が囁くのだ。

 

…折角奇跡のような確率で巡ってきたこのチャンスを不意にするのか?

 

力が無ければ生きてけないこの世界で?と。

 

俺は数秒の思考の末、結論を出す。

 

覚悟を決める。

真道君を利用しているような罪悪感を抱きながらも、仕方がないと自分に言い聞かせる。

 

「良ければ、稽古つけさせて頂けませんか?」

 

俺の発言を受けた小毬さんは気だるそうに立ち上がると俺の方に体を向ける。

 

「分かった。それじゃあ始めようか。」

 

こうして俺は小鞠さんに稽古をつけてもらうことになった。

 

☆☆☆

 

俺が小毬さんに稽古を頼んだ日から、小毬さんは自主訓練の時間や空いている時間に稽古をつけてくれるようになった。

日数にして週二日、時間は十時間ほど。

 

彼女が護懐の一人であるということを鑑みればこれ程親身に稽古をつけてくれる環境と言うのは防人にとって破格と言っていいだろう。

何故、自分に付き合ってくれるのか、いくら何でも親切過ぎないか?とも思ったが、どうやら、真道君がダンジョンに行っている間、時間が出来てしまうらしい。

 

ただ、ダンジョンにもついて行っているという噂を小耳に挟んでいたのが少し引っかかり本人にそのことを聞いて見たのだが、理由に関しては濁されてしまった。

 

向こうにも込み入った事情があるのだろう。

 

ともあれ、俺は小毬さんの下、稽古を積んでいた。

その成果は目に見えるほど、と言うことは無いものの、魔力制御に関しては多少マシになったと思う。

 

本人自身は天才肌のようだが、教え方が異様に上手い。

彼女に戦い方を教えた人の影響だろうか?

 

俺は小毬さんが来るまでの待ち時間にそのようなことを考えていた。

 

「お待たせ~。まった~?」

 

急な声に体が強張る。

ただ声の主には非常に身に覚えがあった。

そのため俺は自然体で背後を振り返る。

 

「いえ待ってませんよ。こんにちは小毬さん。」

 

俺はそう言いながら立ち上がる。

そして、訓練場の真ん中に移動すると魔剣を構える。

それに応じるように向こうも魔剣を構えた。

 

小毬さんの指導は基本的に模擬戦だ。

これは小毬さんの指導方針が戦いの中でこそ戦闘技術は磨かれるというものだったからだ。

どうやら、本人もダンジョンに潜ることで力を付けて行ったらしい。

 

見た目は若いが彼女はれっきとした歴戦の猛者なのだろう。

 

そんな彼女は現在、魔剣を構えたまま微動だにしない。

こちらの動きを待っているのだろう。

 

そのため、俺は彼女に師事するようになってから密かに練習を続け、この前ようやく形になったある技を使うことにした。

 

「≪エンチャントウォーター≫!」

 

そう言うと俺は、魔剣の周りを超高速で回る水の刃を小毬さんに振るう。

俗にいうウォーターカッターと言う奴だ。

まぁ、武器自体が刃物であるため、この魔法の用途は非常に少ない。

相手が炎で体を覆っている場合や大型であれば射程を伸ばす意味合いなどで使うこともあるだろうが、そうでもなければ≪シャープネス≫を使った方がよっぽどいい。

 

属性ダメージなんて概念もないし……。

だが俺もファッションでこの魔法を選んだわけでは無い。

俺が振るう魔剣を小毬さんは難なく受けるが、その瞬間俺は≪エンチャントウォーター≫に手を加え、小さな水の斬撃を鍔迫り合いの状態から飛ばす。

 

完全な不意打ち、鍔迫り合いで油断している隙を狙う一撃、しかし、小毬さんは俺の攻撃を読んでいたのか危なげなく避けた。

 

しかし、その時、水の飛沫が少し唇周りに飛んだようでびっくりした声を出す。

 

「しょっぱ‼」

 

そう、なんとこの水は塩水なのだ。

 

魔法を少し弄ることで俺は≪エンチャントウォーター≫で塩水の再現と、纏う水の一部を分離させ、小さな水の刃を飛ばせるようになったのだ。

 

俺の成長に小毬さんはびっくりしているのか目を白黒させる。

 

「えっ?しょっぱい?塩水、これ」

「はい、塩水です。傷口に塩を塗るってことわざから、塩水での攻撃の方がダメージを追うんじゃないかと思って‼」

 

俺がそこまで言うと小毬さんは合点が言ったという顔をする。

そして、顎に手を当てて考え始める。

 

正直、そんな急に考え込まれると不安になるんだけど……。

 

「多分、それをするにはもう少し塩分濃度を上げる必要があるんじゃないかな?」

 

塩分濃度?

塩分濃度が何か関係あるのだろうか?

 

俺は小毬さんに直接問いかける。

 

「塩分濃度ですか?」

「うん、傷口に塩を塗ると痛いっていうのは…そうだなぁ、まぁ、簡単に言うと体の中にある塩の濃さと外から入って来た塩の濃さの違いによるものなんだよ。」

 

小毬さんはそこまで言うと詳しく説明すると長くなるんだけど、と補足する。

まぁ、詳しい原理はどうでもいいか。

敵に対し効果的かどうかっていうのが重要だしな。

 

「でも、魔法に手を加えられるようになったんだね。もしかして他の魔法でも同じように手を加えられるようになってたりする?」

「えっと、一応、≪マナシールド≫の形を変えられるようになりました」

「そっか、凄いね!≪マナシールド≫は魔法を防御できるから、手を加えられるに越したことは無いからね」

 

その言葉に俺も強く同意する。

元々、小毬さんに稽古をつけてもらうようになり、自分の≪マナシールド≫の脆さに気づいたからこそ身に着けた技能だ。

それを本人に認めて貰えたのは正直自信に繋がった。

 

この調子で頑張っていこう。

 

取り敢えずは信濃さんの拘束魔法を逸らせるようになろう。

俺は新たな目標を立て、再度、小毬さんとの稽古に臨むのだった。

 

 

☆☆☆

 

つい先日捨て犬を保護施設から引き取った雪白狂実は鼻歌を歌いながら飼い犬となったイリアのブラッシングをしていた。

 

因みに現在は勤務中であるが、特に気にすることなく屋上でブラッシングをしている。

彼女にとって仕事とは催事に過ぎないのか、はたまた生き物のケアということで殊更に気を使っているのか、それは本人にしか分からないことである。

 

ともかく、彼女は現在飼い犬のブラッシングをしていた。

ブラッシングをしながらも訓練場で音長に稽古をつけている小毬に意識の一部を向けていた。

 

「こうやって距離を離すことで少しずつでも~真道君との仲が近づいて居て行けばいいんですけどね~。」

 

間延びした声でありながらもその声には確かに真道才と弧毬信濃のこれからを案じているのが分かる。

 

その心配そうな声に反応したのか真っ白いドーベルマンのイリアは雪白狂実の顔をぺろぺろと舐める。

雪白狂実はそれをくすぐったそうにしながらも受け入れ、思考は真道才と弧毬信濃の二人へと向けていた。

 

(信濃ちゃんは~勇利さんがいなくなってから一人で頑張って来たから人の話を聞かずに強引に物事を進めちゃう悪癖があるのですよね~。

 

真道君は~なまじこの前のウェアウルフの騒動を自力で解決したことで~すこ~し自信過剰になってしまっているようにも感じますね~。

いえ、それだけではなく、元々彼も父親が突然いなくなって、その上、やたらとアクシデントに巻き込まれることで、何でも自分で解決できるようにならなくちゃっていう焦りが生まれているのもあるのかもしれませんね~。

子供らしい慢心と言ってしまえばそれまでですが~。

 

まあ………………………)

 

そこまで考えて雪白狂実は音長盆多に視線を向ける。

 

彼を一言で表すならば秀才。

決して天才の域には到達できないものの、自分の才覚を理解し、努力を続け、自らの実力と相手の力量を図り、有効な戦術を立てていく、小器用な生徒。

 

ハッキリと言ってしまえば、天才の域に達することは出来ないが、それでも自らを冷静に見つめることが出来る能力はきっと彼女たちの成長に一役買ってくれるだろうと、雪白狂実は考えていた。

 

天才であるからこそ誰かを素直に頼れなくなっている二人には彼のような平凡な人間こそが必要になっているのだろう。

 

「イリアもそう思いますよね~」

「ワンっ‼」

 

雪白狂実の言葉を理解しているのかいないのか、新しく家族となった一頭の犬は只々行儀よくお座りをしながら高らかに吠えるのだった。

 

☆☆☆

昼食を食べに毒ノ森君と校舎の中にある学生食堂に行くと、小毬さんと真道君、それと真道パーティーの女の子たちとすれ違う。

 

「あれ?音長君。音長君もご飯?」

「ええ、はい、小毬さんたちも?」

「うん、そうだよ」

「そうですか、それでは自分たちは」

「じゃあね~」

「あっ、毒ノ森君、音長君またね‼」

 

小毬さんと、癒希さんが話しかけてくれた。

他の人たちもそれぞれ会釈などをしていってくれた。

 

小毬さんが稽古をつけてくれるようになってから暫くが経ちこのように稽古外などでもすれ違った際などは挨拶をしてくれるようになった。

 

まったく興味を持たれていなかったときと比べれば雲泥の差だろう。

 

俺としても良く分からないお姉さんから、師匠と呼びたくなるくらいには尊敬できる人になった。

正直、打算抜きで真道君と仲良くなって欲しいと祈っている。

やっぱり、親切にしてくれる人には幸せになって欲しいよね。

 

そんなこんなあり、ちょっとずつ俺の生活には変化が起こっていた。

なんなら、今度毒ノ森君たちも一緒に稽古に参加していいか聞こうと思っているほどだ。

 

勿論、毒ノ森君もやる気があればって話ではあるけど……。

 

そう考えながら日替わり定食を頼んでいると、食堂の中がにわかに騒がしくなる。

この感じは以前にも体験したことがあった。

 

確か、男子寮の食堂に初めて小毬さんが現れたときのことだ。

あの時も、こんな風に辺りが騒がしくなっていた。

 

俺がそう考えていると、学園長と防人本部の戦闘服を身に纏う男が真道君たちの前に現れた。

そして、小毬さんに耳打ちをするとそのまま小毬さんを連れて行ってしまう。

どうやら護懐である小毬さんに用事があり、ここに現れたらしい。

 

まあ、護懐ともなると色々と忙しくなるのだろう。

 

俺はそう考えながら、毒ノ森君と席に着くと、そのまま食事を続ける。

世の中には気にしても仕方がないことがあるからね。

今回もそう言う類だろう。

 

☆☆☆

雪白狂実の畑と飼い犬の世話をしていると時間はあっという間に過ぎ、お昼の時間になっていた。

弧毬信濃は直ぐに真道才の教室へと向かうと真道才と合流し、食堂に向かう。

しかし、いざ食事をしようと思った所で真理の直属の部下と学園長がが現れ、あれよあれよと弧毬信濃は二人に捕まって学園長室へと連れていかれてしまった。

 

「……それで、何の用?私お腹ペコペコなんだけど?」

「す、すいません。実は【真理】様から言伝を預かっておりまして」

 

そう言うと男は懐から封筒を取り出し、小毬に渡す。

小毬はそれを受け取りつつも、態々封筒などと言う古風な方法を取ってきたことに怪訝な表情を浮かべる。

また、何故端末からではなく、部下をよこして来たのかという点に関しても疑問が生じる。

 

「…あなたって、本当に【真理】の部下なんだよね?」

「そ、それは勿論!この通り、防人手帳もあります。」

 

小毬に疑われた男は急いで防人手帳を小毬に見せる。

そこには確かに、【真理】の直属の部下である記載されていた。

また、防人手帳特有の魔力の流れから、偽物という可能性も少ない。

 

そこまで確認した小毬は一端男を信じることに決めた。

 

「…でも、何で態々部下を寄こしたのかなぁ?端末で連絡くれればよかったのに……」

 

端末を懐から取り出しながら、【真理】に直接電話をかけようとした小毬は自らの端末の画面が砂嵐のようになり使い物にならないことに気づく。

 

「えっ?あれ、なにこれ、端末壊れちゃったんだけど⁉」

「…弧毬信濃言っておくが、十日ほど前から電子機器は全て使い物にならなくなっていたぞ」

 

学園長は弧毬信濃のその様子に呆れ交じりに答える。

最近の子供はタブレットやスマートフォンへの依存が社会問題となっているが、これはこれで如何なものかと考えてしまう。

 

小毬は学園長のその態度に対して気にした様子はなく、使い物にならなくなった端末をポケットにしまい、仕方なく封筒を開ける。

 

中には手紙が入っていたようで、それをじっくりと読んでいく。

 

当然ではあるが、中身に関しては直属の部下もましてや学園長も知らないため、どのような内容なのか気になり、弧毬信濃の反応を注視してしまう。

 

勿論、注視した所で内容が分かるわけでは無いが…。

 

「なるほど、何となくわかったよ~。【真理】の所に行ってくるね~。」

「【真理】様は何と?」

「任務の依頼だって~。」

 

そこまで言うと、小毬は部屋を出て行ってしまう。

【真理】の部下の男はそれを急いで追っていく。

 

しかし、外に出た所で高速で【真理】の下に向かった小毬に置いて行かれてしまった。

 

 

小毬信信濃の固有魔力波と肉体強化を併用すれば非常に短時間で長距離移動が可能になる。

 

そのため真理が普段勤めている防人本部に関しても数秒で辿り着いた。

 

防人本部に辿り着いた小毬は【真理】に与えられている執務室のドアを思いっきり開ける。

 

「おはよ~【真理】。来たよ~」

「早いわね。敵のアジトは突き止めたわ」

「お~、そっちも早いね。それで他の人たちは?」

「虚心には他の仕事を任せてる。それ以外の奴らは何か理由があるのか、それとも防人本部に来るのが面倒なのか…………一度も顔を出してないわ」

「成程ね~。了解。それじゃあ、私が受け持つよ。殲滅でいいね?」

「ええ、その場にいる魔物やそれに属するものは全て倒しなさい。」

 

小毬はその言葉を聞くと、敵の拠点が記された地図を受け取り、部屋を出る。

その様子はそれこそ、近所に買い物に行くかのような気軽さだった。

 

 

☆☆☆

 

信濃さんが学園長とかなりの実力を持つであろう男性に連れていかれて暫くが経った。

恐らく、仕事の話なのだろうが、俺は何となく落ち着かなかった。

親父も仕事から帰ってこなかったし、それが影響しているのだろうか?

俺の中で信濃さんの存在がそれだけ大きくなっているというのか?

 

「才?あんたどうしたの、さっきからソワソワして」

 

千弦は眉を顰めながら、俺に問いかけてくる。

 

「あ、ああ、すまない。ただ、信濃さんのことが気になって……」

「まあ、小毬さんにも色々事情があるのでしょう。」

 

カルミアは俺の心配を解きほぐそうと優しい笑みを浮かべながら、諭してくれた。

 

「そうだな……そう信じよう」

 

心配しても仕方がない。

信濃さんを信じて待とう。

 

俺はそう決意を固める。

 

「どうしたの?誰を待つの?」

 

俺が決意を固めた所で信濃さんが不思議そうに問いかけてくる。

そう、信濃さんが…………。

 

 

「あれっ?信濃さん⁉」

「そうだけど、どうしたの?」

 

いや、どうしたって、さっき学園長とかに連れていかれたばっかりだけど…………もう話は終わったのだろうか?

 

俺はその旨を信濃さんに問う。

すると信濃さんは

 

「うん、終わったよ。それでこれから任務に向かうからその前に挨拶に来たの。」

 

あっけらかんとそう言ってのける。

 

任務、やはり命懸けなのだろうか…………。

それにしては随分と軽い様子ではあるが、俺達だってダンジョンに潜る際はもっと気を引き締めているし、流石に戦闘以外の仕事だろうか?

 

「どんな任務か、差し障りのない範囲で教えて貰ってもいいでしょうか?」

「え?普通に敵を倒しにだよ。」

 

戦闘。

普通に、と言うことはダンジョンの間引きと言う可能性もあるが、このタイミングということはもっと面倒な案件なのだろうか?

それこそ、俺が首を突っ込めない程に重大な…………。

 

それでも、俺は

 

「…………あ、あの、それってついて行く事って出来ますか?俺結構強いと思いますし、お役に立って見せます。」

「はぁ⁉才あんた急に何言ってるの?」

 

俺の言葉に初めに反応したのは千弦だった。

千弦は俺の発言に目を大きく開き、信じられないものを見るかのように驚く。

 

それも、その筈で彼女たちには信濃さんが護懐だということを明かしている。

というか、一緒にダンジョンに潜っている内にその実力に薄々勘づいた彼女たちにばれてしまったのだ。

 

そして、相手が格上の護懐であれば俺の言っていることがどれだけ無茶苦茶であるかというのも分かるだろう。

 

ただ、俺が頼み込んだ相手である信濃さんは何も言わずに俺の目をジッと見る。

まるで俺の覚悟を確かめるように。

だからこそ、俺も信濃さんを見返す。

生半可な気持ちで言っているわけでは無いと伝えるために。

 

それから、どのくらい経っただろうか?

根負けしたのは信濃さんの方だった。

 

「はぁ、仕方ないか…………。良いよ連れて行ってあげる。

何てったって私は強いからね。」

「だったら私たちも行くわ!」

 

信濃さんの決定に千弦はそう言う。

他のパーティーメンバー達もその意思は同じなのか、コクリと千弦の言葉に頷く。

しかし、彼女たちの目を俺のとき同様ジッと見つめた信濃さんは首を横に振るう。

 

「ごめんね。君たちは連れていけない。流石に四人は守れないから」

「すまない。皆は待っていてくれ」

 

どうやら、彼女たちを連れて行ってはくれないらしい。

俺としてもそちらの方が安心できるから、彼女たちには悪いが、良かったと思っている。

それと先ほどの言動からどうやら、信濃さんが許可を出してくれたのは俺を信用しての言葉ではなかったらしい。

俺一人なら守れる自信があるからこそ、俺がついて行くのを許可してくれたのだろう。

 

それでも今は共に行けるだけでいい。

ついて行って、絶対に信濃さんの助けになって見せる。

 

「じゃあ、後は音長君にも挨拶しておこうかな」

 

そう言うと、信濃さんは音長の座っている席へと向かう。

音長と信濃さんはそこまで深い仲だったか?と一瞬考えたが、そう言えば、現在音長に稽古をつけているという話をこの前信濃さんから聞いた気がする。

 

一応、教え子だから伝えて置くということか…………。

 

俺は一人で納得し、信濃さんの後をついて行く。

 

☆☆☆

 

毒ノ森君とご飯を食べていると小毬さんと真道君と真道ハーレム達が俺の方に向かってくる。

 

どうしたんだろう?

 

俺は、俺の席まで来た小毬さんたちに会釈する。

 

「どうかしましたか?」

「実はちょっと伝えて起きたいことがあって」

 

小毬さんはそう言うと、学園長とかに呼び出された理由について教えてくれた。

何でも、任務で学校を離れなくちゃいけないらしい。

 

まぁ、そりゃ、そもそも学生でもないし、職員でもないし、仕事の際は学校を離れるよね。

というか、むしろ何でこの人ずっと学園にいるの?

俺はそんな疑問を頭の奥へとしまい、小毬さんに会釈する。

 

「そうですか、分かりました。お気をつけて」

「うん、それじゃあ、暫く離れるから」

 

小毬さんはそれだけ言うと手を挙げて離れようとする。

しかし、そこで待ったをかける男がいた。

そう、俺らの主人公こと真道才である。

 

「…音長、俺は小毬さんについて行くつもりだ。お前はどうする?」

 

そんなの決まっている。

 

絶対に行かない、だ!

 

自分の命は惜しいしね。

ただ、自分の命が惜しいので行きませんっていうのは、その、流石にこの覚悟ガンギマリ集団の中でいう勇気はない。

 

それでも命を預けるっていうのは簡単じゃない。

誰にでも預けられるわけじゃない。

どれだけ実力があっても………。

 

だから断らせてもらおう。

ちょっと、カッコつけながら…。

 

「悪いな、仲間と共に逝きたいんだ。」

「仲間と共に行きたい⁉」

「えっ?うん」

「音長君そこまで…………」

 

真道君が目を大きく

え、ちょっ、何々?

何か勘違いされてない?

 

嫌な予感がする。

 

「でも、音長君、命の危険があるんだよ?死んじゃうかもしれないんだよ?」

 

小毬さんは俺の目をジッと見つめてくる。

まるで真意を確かめるように………。

だから、俺も伝われと思い見つめ返す。

 

「………そ、そっか、そんなに私達のことを大切に思ってくれてたんだね。」

 

小毬さんは恥ずかしそうに顔を赤らめ、手で顔を仰ぐ。

少しでも、顔の熱を冷まそうとしているのが、直ぐにでも分かった。

 

…………どうしよう、何か余計にややこしくなっている気がする。

どうにか、誤解を解こう。

とはいえ、こんなに喜んでいるのを見ると、貴方は仲間じゃないですって言えないよなぁ。

い、いやいや、命が懸ってるし、言うしかない。

 

「あ、あの仲間って言ったのは「音長ぁぁぁぁ‼一緒に信濃さんを助けよう‼」

 

俺の言葉を遮り、熱い抱擁をしてくる。

普通に熱いし、離れて欲しい……。

しかも、周りからの視線があって、完全に引き下がれなくなってる。

 

まぁ、それでも命には代えられないけど………。

 

「うん、熱くなっている所わ「だったら、僕も連れて行ってください」

 

俺が断ろうと口を開くと、隣に座っていた毒ノ森君が立ちあがる。

しかも、あろうことか、俺と一緒に行きたいとか言っている。

いや、俺は行きたくないんだけど?

 

「本気なの?」

「はい」

 

小毬さんは毒ノ森君に短く、そう問いかける。

それに毒ノ森君は静かに頷く。

 

それを見た小毬さんは一度頷く。

 

「良いよ。君も連れて行こう」

 

………………………………どうしよう、後戻りが出来なくなった。

 

☆☆☆

 

音長と言う男を俺はどうやら勘違いしていたらしい。

元々、音長と言う男はそこまで目立つ生徒ではない。

成績は確か…………そこそこ良かった気もするが、それでも俺や麗には及ばない。

 

クラスで目立つタイプでもない。

はっきり言って名前は覚えていても、興味は差してなかった。

 

だけど今日、俺が試すように「…音長、俺は小毬さんについて行くつもりだ。お前はどうする?」といった時の顔と言葉を俺は忘れられそうにない。

 

「仲間と共に行きたいんだ」

 

そう言った奴の目は信濃さんをジッと見つめていた。

まるで、信濃さんが仲間と思っていなくても俺は仲間だと思っていると言いたげに、絶対に揺るがない、譲らない強い意志が宿っていた。

 

それでいて、絶対に死んでたまるかという気持ちも抱いていたように見える。

 

つまり、奴は言外に「俺も一緒に連れていけ、皆で生きて帰るぞ」

そう言っていたのだ。

護懐が呼び出されるような異次元の戦場に、ついて行くと言ったのだ。

防人でも特別防人でもない生徒が、だ。

 

更に、音長のパーティーメンバーである毒ノ森も同等の覚悟をもってついて来ると言った。

 

正直、信濃さんと音長が仲良さげに話しているのにモヤモヤして出た言葉だったのだが、予想以上に奴は強い心の持ち主のようだ。

信頼に足る人間だと思えた。

 

それでも、この心のモヤモヤは無くならないが……。

 

 



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行きたくないと思いつつも、行かないという行動をとる勇気のない自分がいる。

お久しぶりです。
ぱgoodです。

少しずつは書いていたのですが、初めてのことだらけの新生活で体も心も疲れてて全然、投稿できる文量までかけていませんでした。
すいません。

改めて、仕事をしながら、安定して投稿している人って凄いんだなって思わされます。


☆☆☆

 

とあるビルの中、小さな少年のような姿をした二体の魔物は複数のディスプレイのついた大きなデスクトップパソコンの前で作業をしていた。

 

二体の魔物がカチャカチャと作業する音だけが響く部屋。しかし、その沈黙はガチャリと扉が開く音によって破られる。

そして、音に反応した二体の魔物は扉の方向に顔を向ける。

 

「どうだ?アレの進捗に関しては?」

 

そう魔物たちに問いかけながら、一人の男が部屋へと入ってくる。

 

魔物たちはその言葉を受け、キーボードの横に置いていたクリップで纏められた紙の束を男に提出する。

男はそれに目を通すと満足げな笑みを浮かべる。

 

「ほう…………。これは予想以上だな。これなら、もっとこちらの勢力を割いてもいいくらいだ。」

 

そう言った男の手元にある紙の束、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

特に、男にとってはその資料に書かれていたマジックチップの製造を行っている工場の破壊に関する報告は非常に大きな意味を持っていた。

何故なら、大多数の魔剣士、魔法士たちはマジックチップが無ければ只の人間に毛が生えた程度の戦闘力しかない。

ならば、マジックチップの製造さえ止めてしまえば、この世界を獲るのも容易になる。

そう考えるのも自然なことだろう。

 

男は自分の思惑が上手いことハマっていることに自然と口角を上げる。

 

(戦果は上々、ダンジョンに関しても湧きの良い所をいくつか奪取、いや取り返せた。

マジックチップの製造工場は全体の30%程を破壊している。

護懐に関しても、現在襲撃をかけている街の対処で手一杯。

通常の防人たちもまともに連携が取れていない。

後は護懐共を各個撃破すればこの国は落ちる。)

 

男は頭の中で敵を倒すシミュレーションを整える。

いや、そんな難しいことでは無く、もっと単純にイメージする。

護懐を倒し、この国を落とす自分自身を。

 

「…………やはり、俺一人で十分だったな。」

 

悔しがる他の三人の姿を思い浮かべながら、男はくつくつと笑う。

人間がやたらと活用するインターネットとやらを手中に収めれば優位に立てるのではないかと試験的に行った取り組みであったが、予想以上の結果を生んでくれた。

 

そんな風に悦に浸る男をジッと見つめる視線に、男は我に返る。

その視線を送って来た相手は今回の計画の立役者である小人の魔物たちだった。

 

彼らは男の思惑などに興味はなく、創造主が指揮権を男に託したから従っているに過ぎない。

つまり、魔物たちからすれば男の成果よりも自分たちの休みの方が大切なのだ。そのため、そんなことよりさっさと休みを寄こせという視線を男に向け続けていた。

 

「ああ、忘れていた。お前たち、交代だ。今遊んでいる奴らとな。」

 

男はようやく、魔物たちの視線に気づき素っ気なくそう告げる。

魔物たちは男のその指示にハイタッチをし、部屋から飛び出した。。

 

恐らく、例の部屋に行ったのだろう。

今、休憩中の奴らがいる部屋と同じ、空き部屋。

元々は休憩室か何かだったのだろうが、現在は魔物たちが玩具で遊ぶ部屋へと変わっている。

 

ただ。正直、そんなことは男にはどうでもいい話なのだ。

何故なら、魔物たちが誰と何で遊ぼうが興味も関心も無いのだから。

 

魔物たちが仮初の主君に興味が無いように男もまた、魔物たちが何をしてようが興味など無かった。

 

☆☆☆

 

「グぁグぁグぁグっ‼」

 

笑みを浮かべながら、少しくぐもった笑い声をあげる小人の魔物たち。

その魔物たちの前には椅子に手足を繋がれ、猿ぐつわと目隠しをされている男たちがいた。

 

彼らは魔物たちがこの会社を占拠するまで働いて社員たちだ。

 

魔物たちがこの会社、正確にはこの建物を占拠した時に建物内の社員の殆どは運悪く、もしくは幸運にもその場で殺されてしまったが、何人かはこうして魔物たちの玩具として休憩の合間の遊び相手となっていた。

 

とはいえ、扱いは玩具、まともな扱いなどされる筈がない。

実際、目の前にいる男たちは皆一様に皮膚がただれ、服は所々が破け異臭を漂わせている。

 

「…………………………も、、もう辞めてくれ」

 

殆どの男たちが既に声を出す事すら困難になっている中、一人、比較的軽症であり、未だ絶叫で喉が潰れていない男が絞り出すように、魔物たちに懇願する。

 

それを見ていた、魔物たちはお互いに顔を見合わせると、にやりと笑う。

 

そして、魔物の一人が玩具たちのメンテナンス用に用意していたペットボトルの水をバケツに出すと、先ほど喋った男の首根っこを捕まえて、バケツの中に顔を無理やりねじ込む。

男は急に息が出来なくなったため必死に藻掻き、現在の状態から脱しようとするが、それを、他の魔物たちが、スタンバトンで殴りつけ、電気を流し、大人しくさせる。

 

本来なら、小人族をモデルにしている魔物たちは人間の道具など必要ないのだが、それも含めて彼らにとっては余興の一つなのだろう。

実際、スタンバトンは元々装備していたものではなく、この施設を警護していた警備員が装備していたものを占拠時に奪ったものだった。

 

つまるところ魔物たちにとってはこのスタンバトンも単なる玩具に過ぎないのだ。

男たちと同じように……………。

 

魔物たちの玩具にされていた男は暫くの間暴れていたが、電撃のせいでその力すらも奪われ、体を痙攣させるだけとなる。

 

しかし、魔物たちは男に回復魔法を掛ける。

ちゃんと生き残れるギリギリを見極め、遊びを中止する。

そうしなければ、今働きに出ている魔物に文句を言われるのだ。

 

実際、男に回復魔法を掛けていた所で、丁度、現在まで働いていた魔物たちが部屋に入ってきた。

休憩時間となったため、この部屋に戻ってきたのだ。

元々中にいた小人の魔物たちは外からきた魔物たちが中に入って来たことで、そのことを理解した。

 

そのため、外の魔物から思念でやり取りをし、仕事を申し送ってもらう。

言葉ではなく、記憶を直接転写できるため、魔物たちの仕事はよりスムーズに進めることが

出来るのだ。

 

申し送りを受け取った魔物たちは仕事に入る。

男たちは先程まで自分をいたぶって遊んでいた魔物たちから解放されたのだ。

 

しかし、それは男たちの苦難が終わったことを意味してはいない。

何故なら、仕事がようやく終わり、やっと男たちで遊べると無邪気な笑みを浮かべる小人の魔物たちが部屋へと入って来ているのだから。

 

☆☆☆

 

弧毬信濃は現在、敵の本拠地……………………ではなく、学生ラウンジにいた。

理由としては、音長と毒ノ森が準備をしたいと言い出したことにある。

また、それは真道才に関しても同様なようで彼らは現在準備をするために、それぞれ自分の部屋に戻ってしまった。

 

何も準備する必要がない小毬信濃は椅子に座り両肘をテーブルに、両手を顎に乗せて頬杖をつく。

 

何もすることがない。

大した思い入れもない、学生ラウンジで他のメンバーを退屈そうに待つ。

その様子は彼女の美貌もあり儚い印象を与え、周りにいる生徒たちは目を奪われる。

しかし、弧毬信濃はそんな様子に気づくことなく、準備中の彼らに思いを馳せる。

 

そんな彼女に近づく一つの人影。

 

その人影は足音を残さずに小毬信濃に近づく。

弧毬信濃が気付かない完璧な隠形。

 

それを持って、彼女に近づき、背後に回る。

 

そして

 

「こんにちは~、信濃さん。」

 

背後から顔を出し、信濃さんの顔を覗き込んだ。

弧毬信濃はその不審者、否、雪白狂実の姿に反射的に立ち上がる。

しかし、後ろには既に雪白狂実がおり、距離を取ることが出来ず、それどころか、片手で、席に座らせられる。

 

これが知らない人間であれば、固有魔力波を使い、意地でも距離を取る所だが、先ほどの攻防の中で相手が雪白狂実であることを理解したため、そのまま、警戒を解く。

 

「どうしたの?くるみん、私に何かよう?」

「用が無ければ、来ちゃ駄目ですか~」

「そうは言わないけど、流石にこのタイミングだと何かあるのかなって思うよ。」

 

弧毬信濃はジト目で雪白狂実のことを見る。

元々、かなり仲のいい二人だが、それでも、仕事前に態々会いに来ることは珍しい。

雪白狂実は元来、戦場に赴く防人に激励をするタイプではない上に、何時も今後の行く末を予測している節があるように弧毬は感じていたのだ。

 

だからこそ、ここに来たのもこれから行う仕事に関する何らかの助言を市に来たのではないかと勘繰ってしまった。

 

勿論、雪白狂実が全てを予測しているように感じるのも弧毬信濃がそう感じているというだけかもしれないのだが………。

 

「ンフフフフ~。用が無くても私は~信濃さんに会いに行きますが、今回に関しては正解です~。これを~信濃さんに渡すために来ました~。」

 

そう言うと、雪白狂実はとあるマジックチップを信濃に手渡す。

弧毬信濃はそのマジックチップを手に取った瞬間ゲッと言う風に顔を歪ませる。

 

「何で、このマジックチップを持ってるのかな~?」

「ちゃんと持ち歩いて無いから、代わりに持ち出してあげたんですよ~」

 

弧毬信濃は恨めし気に雪白狂実を見るが、雪白狂実は何食わぬ顔でニコニコと彼女に微笑みかける。

弧毬信濃もその様子にこれ以上言っても無駄であると察し、乱雑にマジックチップを自分の戦闘服のポケットへとしまい込む。

 

「一応、ありがとう、って言って置くよ。」

 

そして、不本意であるという態度を維持したまま、雪白狂実にお礼を告げる。

しかし、そこには既に雪白狂実の姿はなかった。

それを察しった弧毬信濃は雪白狂実のその自由さに振り回され、仕事前にも関わらずどっと疲れることになるのだった。

 

☆☆☆

 

行きたくない、行きたくないと思いつつも、俺は出来るだけの準備を整える。

何時も持ってる、魔剣は勿論のこと、マジックチップには回復系を二枚、強化魔法を八枚、

防御魔法を八枚、攻撃魔法を五枚持つ。計二十三枚だ。

このマジックチップの数は前回、癒希さんを助けに行った時よりも少ないが、はっきり言って、護懐という絶対強者や、頼れる仲間がいる状況であるのなら、下手に色々持っていき、動きずらくなるよりも、少しでも身軽であった方が良いという判断によるものだ。

 

とは言いつつも、ここら辺はかなり難しい問題であり、マジックチップの構成も含めて非常に悩んだ所だ。

 

それは兎も角、取り敢えず、自分が用意できる最大限の装備を整えたため、俺は部屋を出て、学生ラウンジへと向かう。

 

本当は行かないに越したことは無いのだが、毒ノ森君も行く気になってしまっており、他の

メンバーもやたらと一緒に行く気満々であるため、このまま断れずに連れていかれそうではある。

 

そのため、取り敢えず、小毬さんに引っ付いていようと心に決める。

 

そんなことを考えながら、学生ラウンジに向かったのだが、どうやら、一番最後は自分だったらしい。

他のメンバーが俺を迎えてくれる。

 

「よし、全員集まったね。じゃあ行こうか」

 

そういうと、小毬さんは俺達を連れて、校庭へと向かう。

 

因みにこの時も、生徒たちの目が多すぎて脱出を試みることは出来なかった。

特に、ヒロインズは真道君のお見送りに来ており、若干ではあるが、ついて行くことを許された俺と毒ノ森君に恨めし気な視線を送って来た。

これで、トイレとか言って逃げ出そうものなら、何をされるか分かったものではない。

あ、勿論、癒希さんは例外だった。俺と毒ノ森君に手を振ってくれていた。

やはり、短い間でもパーティー組むと絆みたいなの出来るよね。

 

まぁ、そんなこんなで、俺達は戦場へと赴くことになった。

 

それから体感十分ほどで俺たちは戦場へとたどり着く。

 

今回の戦場となっていた場所はこの世界で最も使用されている検索エンジンを初めとしたオンラインサービスを提供としているIT企業の支社だった。

 

 

 





とても唐突なのですが、今週のアニメポケ〇ン凄かったですね(すいません、凄く話したかったんです。)

今まで、頼もしくて、強くて、少し天然で、物語のヒーローとか親しみを持てる頼れるリーダーの理想像みたいなキャラクターが実は自分達みたいに社会の仕組みと言うか、在り方に生きづらさを感じているっていうのが、凄く親近感を得たし、その後のピ〇チュウとの出会いに心動かされ、勇気を出して行動したからこそ、今のカッコイイ彼がいるっていうのが分かって凄く心が熱くなりました。

それと今回の話は、今のポ〇モンで一貫している一歩踏み出す勇気で世界は変わるっていうのを体現した話だと思いましたし、今、少し昔?に流行ってる異世界転生・転移もののアンチテーゼ的な側面もあるなぁと感じました。

異世界転生が世界が変わることで個人が変わっていくのに対し、今回のポ〇モンが個人が変わったことで世界の見え方が変わったっていうので、世界が変わらなくても、信頼できる仲間と現状を変えようとする努力だけで全然違う生き方が出来るんだって教えられたような気がして、今の自分の状況と重ね合わせて凄く心に刺さりました。

これが凄く言いたかったんです。すいません。

少しでも気になった方は今週のポ〇モンを見て欲しいです!!


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頑張って自分の意見を主張しておかないと後になって後悔することもある。

☆☆☆

 

敵が拠点にしている会社の敷地に入る。

入り口に入ったからと言って特に敵が襲ってくるということは無かった。

 

むしろ、人が誰もいないもぬけの殻のような気がして、そこに少しばかりの恐怖を感じた。いっそ、誰もいなければいいのにと思うが、まぁ、そんなことは無いんだろう。

今から身構える。

 

準備はした。

武装もしっかりと用意したし、ビビッて漏らさないようにトイレにも行った。

大丈夫なはずだ。

 

俺は自分に言い聞かせる。

 

それに、護懐もいる。

負ける筈は無いのだ。

 

ただ、それでもこの不気味な静寂は俺に不安を掻き立てる。

 

「…もっと、敵が押し寄せてくると思っていたんだが、随分と静かだな」

 

どうやら、真道君も不振に思ったのか臨戦態勢はそのままに首を傾げて辺りを見回す。

偵察も兼ねているのかその目は獲物を探す鷹のように鋭かった。

 

その真道君に俺も心の中で同意する。

通常時であれば、直ぐにでも警察か防人本部に連絡が行く案件だろう。

 

なんせ、近隣住民からすれば何時も人の気配が絶えないであろう一流企業の支社が突然廃墟のような静けさに包まれたのだ。

近くに住むものとして自分たちの日常が脅かされないか不安に感じたことだろう。

 

ただ、現在大規模なハッキングが起こっているせいで電話すらまともに繋がらなくなっている。恐らく通信会社自体も全てハッキング済みなのだろう

現在は敵からすれば最高のタイミングという訳だ。

 

そんな中、近隣住民が被害を受けなかったのは不幸中の幸いだな。勿論だからと言って近隣住民が不安が払拭されたとは考えずらいが。

…………まあ、企業が静かなのはインターネットが麻痺したことで、インターネット系列の職種に不安と怒りの矛先が向くのを恐れているからと、近隣住民は考えているかもしれないが…………。

 

そんな風にここの近くに住む住民に思いを馳せながらも俺たちは中に入っていく。

 

 

社内は流石大手と言うべきか非常に広く、一階は全て来客用のエントランスとして作られていた。また、外から見た様子でもしかしたらとは思っていたが電気などは消えており、辺りは非常に見づらくなっている。

ただ、昼間と言うこともあり、外の光が入り、薄暗い程度で住んでいるのはこちらにとって不幸中の幸いだった。

 

夜に来たら、完全にホラー映画の舞台となっていただろう。

俺はそう思いながら、この企業の敷地に入った時点で抜いていた魔剣の柄をより強く握る。

 

何時、どこで敵が襲ってくるか分からないので警戒は怠れない。

 

俺がそう自分に言い聞かせたのと同時、二発の魔法弾がこちらに向かって飛んでくる。

 

奇襲だ。暗い室内で地の利は向こうにある状態。

何も仕掛けてこない方が可笑しい。

俺は直ぐさま前に出て≪マジックシールド≫を展開しようとするが、それよりも早く孤毬さんが自らの手を前に出す。

すると、こちらに飛んできていた魔法弾は弧毬さんの手の前で止まり、一つに収束する。

 

そして、その魔法弾をお返しとばかりに敵に飛ばす。

弧毬さんが返した魔法弾は魔法弾を撃ってきた敵に直撃し、粉々に粉砕する。

相変わらず原理は分からないが、一歩も動かずに敵を倒す所に彼女の強さが如実に表れていた。

 

しかし、当の本人は首を傾げ、不思議そうな顔をする。

 

「あれ?もしかして、ロボット?」

 

彼女は倒した敵を指で刺しながら、俺たちに顔を向けて問うてくる。

俺達も彼女につられ、指の先を見る。

 

確かに彼女が言う様に魔物には見えない。体をよく見ると流線型のそのフォルムは業務用のお掃除ロボットだと分かる。ただし、腕はやたらとごてごてとしており、角ばったその腕は本来の腕とは程遠く、戦闘用に改造したものだと容易に想像が出来た。

 

魔物ではない根拠としては他にも抵抗力上昇が起こらなったことが挙げられる。

本当に”元”は只のお掃除ロボットだったのだろう。

それを改造し、戦力として使う。

そんなことが出来る技術力を持つものとなると相手は限られてくるだろう。そして俺はそんな奴らに心当たりがあった。

 

(ただ、奴らだとするとこれは戦力ですらなく只の玩具か………。)

 

表面上は表情筋を動かしてはいなかったが、俺の心中は苦虫を嚙み潰したような、ブラックコーヒーですらホットココアに感じる程の苦い気持ちだった。

 

敵は恐らくは小人型の魔物だ。

奴らの特徴は魔法適性を持ち、手先が器用で、頭がいい。

それでいて、面白いことが好きな魔物だ。

と言うか、魔物の特徴はベースとなった種族を模倣しているので小人族自体もこの特徴は当てはまる。

 

勿論、全てが全て似通っているという訳ではない。

どの種族にも言えることではあるが、魔物のように過剰な攻撃性は持ち合わせていない。

 

そこに関しては生まれる際に調整されている、のだ。

 

というか、もしかして最近のハッキング騒動もこいつらの仕業か?

小人型の魔物であればこの国全土を対象としたハッキング事件を起こせたのにも納得がいく。

十分な設備さえ整えればこの国の主要サーバーをハッキングすることなんてわけ無いだろう。

ただ、不思議なのは態々小人型の魔物がそんな地味で目立たないことをするとは思えない。

 

やっぱり思い過ごしか?

魔物の被害に乗じて悪事を働く連中が全くいないわけでは無い。

何なら自分たちがやったことを魔物に押し付ける奴もいるくらいだ。

 

直ぐに結論を出すのは早計だろう。

 

ただ、もし小人型の魔物によるものだとすれば事態は俺が思っていたよりも、危機的状況にある。

 

先程、小人型の魔物がこんな地味なことをする筈がないと言ったが、そうなると後ろで糸を引いている奴がいることになるのだ。

 

そんなことが出来る奴はあいつら、この物語のラスボスか幹部たちしかいない

 

…………俺の小説のプロットだと登場はまだまだ先の筈なんだが………。

 

いや考えても仕方ないか。

 

「確かにこれ、学園で見たことがあるな。」

 

弧毬さんの発言を受けて真道君が近づき、先ほど弧毬さんが倒したロボットに近づく。

それに倣い俺と毒ノ森君もロボットに近づく。

 

「掃除用ロボットですね。」

「へぇ、最近の学校ではこんなの使ってるんだね。」

 

弧毬さんが興味深そうに粉砕されたロボットの部品を弄る。

 

「でも、腕部が少し変ですね。」

 

毒ノ森君が首を傾げる。それに対し俺は自分の推測を彼らに伝えることにした。

ここからは命を懸けた戦いになる。情報を下手に秘匿するのは悪手だ。

 

「多分、今回の敵は小人型の魔物だと思います。機械弄りを得意とする彼らなら今回の事件を起こせるのも不思議じゃありませんし。」

「へぇ、成程ねぇ。でも、何で小人型の魔物はこんなことをしているんだろう?

奴らなら巨大ロボットとか作ってる方が好きそうだけど?」

「…………もしかしたら、何者かが後ろで糸を引いてる、とかですかね。」

「何者って?」

「それは………」

 

俺の話を受け、弧毬さんは色々と質問してくるが、流石に誰が後ろで糸を引いているかを伝えることは出来ない。

一介の学生でしかない自分が防人本部ですら知りえないことを知っているなんてのは不自然極まる。

防人本部の苛烈さを考えれば普通に捕まって拷問にかけられても可笑しくない。

 

ただ、俺が言い淀んだことで、弧毬さんはあくまで俺が根拠の薄い仮説を披露していたと思ってくれたようだ。

俺はほっと息を吐く。

そんな俺に対し、弧毬さんは背中を叩いて来る。

 

「良い推理だったね!確かに今回の敵は魔物だし、そうかも!

常に頭を働かせるのは防人が長く生き抜く上では必要なことだから、これからもその心がけを忘れないように!

(音長君、随分と鋭い推理をしていたけど、何で今回の敵が魔物だと分かったんだろう?

私は敵を倒しに行くとしか言っていないし、現れたロボット、ⅠT企業を占拠する周到さ。普通なら、魔法犯罪組織を予想するんじゃないかな?…………もしかして、何か知ってるの?)」

「いや、ほんとに凄いよ!僕はてっきり、反魔組織だとばかり……」

「おう、音長って探偵とか向いてそうだな!」

 

反社会的魔法組織。

反魔組織、魔法犯罪組織ともいわれる魔剣士崩れや魔法士崩れが結託した組織だ。

 

……確かに彼らが今回の騒動の主犯の可能性もある。

ただ、彼らはあくまで自分の命を国の為に懸けるのを拒んだ脱走兵だ。

これほどの大事を起こすほどの力と技術は持っていない。

それに大体の反魔組織は身の程と引き際を弁えている。

なんせ、元々防人として働いていた奴らだ。ここまで大事にしてしまえば護懐が飛んでくることなんて容易に想像がつくだろう。

 

奴らは世間で反魔組織なんて言われているが、結局の所は戦場から逃げた人たちだ、防人本部を相手にする度胸何て端から持ち合わせていない。

だからこそ、そこまでのことをするとは思えなかった。

 

「まぁ、彼らにここまでのことを仕出かす度胸があるとは思えなかっただけですよ。それより先に進みませんか?」

 

その言葉に弧毬さんや毒ノ森君、真道君は頷き、歩き出す。

 

その後の一階の探索中もやはりと言うべきか、お掃除ロボットが襲い掛かって来た。

また、一階の探索が終わったため二階に移動しようとエレベーターを調べたが、残念ながら電源は落とされていた。

仕方なく非常用階段で移動しようと考えた俺は、ドアノブに手を掛けようとして弧毬さんに止められる。どうやら非常階段のドアノブは握ると高圧電流が流れる仕組みが施されていたようだ。

それを弧毬さんがドアを蹴り破った後に気づくことが出来た。

 

弧毬さんはそのことについてそこまで驚いている様子は無かったが、俺と毒ノ森君は普通に顔を青くしていた。真道君に関しては一層気を引き締めた。

 

 

いや、普通そこまでするか?

もっと、堂々と待ち構えているものではないのか?

いや、魔物にそんなことを言った所で無駄だろうが……。

 

しかも、階段を上った先には両手にマシンガンを構えたお掃除ロボットが隊列を為し、一斉掃射してきた。

直ぐに、真道君が≪ジェネリックシールド≫で俺と毒ノ森君を守ってくれたが、もし二人しかいなかったらあそこで死んでいても可笑しくはなかった。

 

因みに敵は直ぐに弧毬さんの〈風月〉という飛ぶ斬撃?によって両断された。

 

そして、二階に来たわけだが、現在三体のロボットが俺たちを囲んでいた。

しかも、今までのロボットと比べて大きく大量の兵器を搭載していた。

というか、合体した。そう合体したのだ。お掃除ロボットたちが。

まぁ、屋内と言うこともあって三メートルしかないが。

 

「合体ロボットだ……。」

「うん、信じられない」

 

真道君と毒ノ森君が呟く。

彼らもまさかお掃除ロボットが変形合体を見せるとは思わなかったようで、呆気にとられていた。

 

ただ、弧毬さんはその限りではなく、直ぐに魔剣を構える。

 

「合体たか何だか知らないけど直ぐにスクラップに変えるよ。」

 

その言葉に呼応し、真道君も魔剣を構える。

 

「俺も助太刀します。」

「大丈夫だよ?私が守るから。」

「そういう訳には行きません!」

 

俺は全然守ってもらうだけでいいと思うんだけど、毒ノ森君もその言葉にコクリと頷くと三人は背中合わせになる。

ヤバい、完全に出遅れた。

とはいえ、咄嗟に形だけ戦う風を装う。

 

恐らくこれで場違い間は多少減る筈。

 

そして、それと同時に敵は一気にこちらに接敵する。

しかも三体同時だ。

 

逃げ場はない。

 

何故、豊富な武器で攻撃をしてこないのか、敵はその巨体でこちらを圧殺する気なのか?

様々な疑問が頭に浮かぶが、その間にも敵はこちらに向かってくる。答えは出ない。

俺は疑問を思考の隅に追いやり敵の攻撃に備える。

 

「来るよ!」

 

弧毬さんがそう叫ぶ。

 

俺を除く二人が覚悟を決めたように剣を握りしめ、迎撃の態勢を取る。

俺も自分の身を何とか守ろうと魔法発動の準備を始める。

因みに現在セットしているチップは≪アクアバインド≫と≪マジックシールド≫だ。

 

≪アクアバインド≫を敵が攻撃してくる箇所に集中して放てば、少しの隙を突き回避できるだろう。

魔法の精密捜査は弧毬さんとの修行の成果だ。

 

しかし、俺の甘い目測は敵の策略により簡単に裏切られる。

突撃したロボットはその身に収まりきらない程の高熱を吹き出し、轟音と共に

 

 

 

 

 

自爆した。

 

それにより、砂埃が辺りに舞う。

痛みは無い。どうやら、弧毬さんが半球状に≪ジェネリックシールド≫を展開し、俺たちを守ってくれたようだ。

 

「才君、音長君、毒ノ森君大丈夫⁉」

「大丈夫です。」

「僕も」

「あ、お、おれ」

 

俺はおれも大丈夫と言おうとしたが、言い切ることは出来なかった。

突然、何かに右足を引っ張られたのだ。

俺は咄嗟に引っ張られた右足を見る。

すると黒い靄が俺の足に纏わりついていることに気づく。

これは転移魔法≪ミラージュ≫によるものだ。

 

この魔法は敵を吸引し、強制的に別の場所へと連れて行く。

人間は勿論。魔物には使えない魔法だ。

 

今の俺には抗う手段がない。

俺は敵の策略により、皆とはぐれたのだった。

 

 

 



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こいつはちょっと強いだけのモブだって?関係ねぇなぁ!だって、俺からすれば十分強いもん

☆☆☆

 

転移魔法によって弧毬さん、音長君、真道君と分断された俺は今までとは違う照明のついた廊下に立っていた。

ただ、壁や床、間取り、そして壁に設置されたロゴなどを見る限り、あくまでも先ほどと同じ建物の中にはいるみたいだ。

 

俺はロゴに目を向ける。

そこにはglobal generation companyと書かれている。

 

ロゴがGGだったが、そう言う意味だったのか、と俺は心の中で納得する。

皆がGG、GGとばっかりいうからグー○ルがこの世界にまで進出してきてるのかとも思ったが、そういう訳ではなかったらしい。

 

しかし、ここからどうするか……。

迷子の定石はその場から動かないことなんだが………。

この場合はここから、動いてみんなと合流するべきか、それともここですべて終わるまで待つべきか。

いや、このフロアだけ電気がついているということは適当な場所に飛ばされたというよりは待ち構えられている、ということか。

 

だったら、ここで止まっている理由は無いな。

急いでここから動いて、安全な場所に移動しよう。

俺はマジックチップを入れ替え、歩き出す。

 

ただ、ホラーゲームだと勝手に動いた奴から死んでいくんだよなぁ。

まぁ、今俺にとってこの世界は現実だし、そんなことを言っても仕方ないしなぁ。

 

俺は照明によって明るく照らされた廊下を歩いて行く。

途中で透明なガラス張りのオフィスがあったが、そこは人ひとりいなかった。

ただ、代わりと言うべきか、大量のお掃除ロボットが配置、いや、収納されている。

 

ロボットたちの中には分解され、改造途中のものや、未だ改造されていない物なども見られる。

恐らくここで修繕や改造を行い、収納しているのだろう。

俺は目の前のロボットたちを片っ端から破壊していく。

 

その際に俺は内蔵されている肉体強化のマジックチップを発動する。

シンプルにそうでもしないと刀でお掃除ロボットを叩ききれないのだ。

 

どんなものにも言えるが物持ちが良いもの頑丈なものの方が顧客からの受けはいい。

特に業務用の者であれば尚更だろう。

 

ただ、それとは別にもう一つ理由があった。

それは………。

 

そこまで考えた所で動きが停止していると思われていたロボットが急に動き出し、俺に向かって発砲してきた。

しかも背後からだ。

 

俺は肉体強化の恩恵により動体視力が上がっており、何とか敵の弾丸に反応する。

とはいえ、弾丸を避けることは出来ない。

 

ならば、どうするか。

当然受けきるしかないだろう。

 

俺は先程交換したマジックチップの内の一つ≪アクアシールドを≫を発動する。

これにより、俺の目の前に水の壁が出現し、敵の弾丸を防ぐ。

 

本来なら炎系の魔法を防ぐ際に重宝する魔法であり、物理攻撃を防ぐのには向いてはいないのだが、≪エンチャントウォーター≫に手を加える要領で粘度を上げたことにより、銃弾の威力すら殺して見せたのだ。

 

流石に≪エンチャントウォーター≫のように形状の変化などはまだまだ上手くは行かないが、何とか粘度に関しては弄ることが出来た。

 

そして、俺は銃弾を撃ってきたロボット相手に≪アクアアロー≫を放ち、敵の胴体を貫く。

ロボットである以上、水には弱いだろう。

俺のその予想が当たったのか、胴体を貫いたロボットは暫くして動かなくなった。

しかし、動くことの出来るお掃除ロボットはどうやら一体だけでは無かったようだ。

その場にいたロボットたちは次々と動き出し、一体に集結する。

どうやら、弧毬さんたちと探索していた時同様巨大ロボットになろうとしているようだ。

 

俺はマジックチップを直ぐに再装填すると敵が合体をする前に壊そうと接近するが、あと少しの所で敵の合体が完了し、敵の巨大なアームにより吹き飛ばされる。

 

吹き飛ばされながらも俺は床に魔剣を突き刺すことで何とかブレーキをかけていく。

そんな俺にロボットは接敵し、再度アームを伸ばしてくる。

しかも、それは只のアームではなく、アームの内から大量のスタンバトンを生やし、棘のような腕へと変形した。その凶悪な姿は体を膨らませたハリセンボンを彷彿とさせる。

 

この事態に冷や汗が伝う。

 

魔法であれば≪マジックシールド≫で防ぐことが出来た。

物理攻撃であれば≪アクアシールド≫で防げる。

 

出来ればやりたくはないが……。

 

俺の選択肢は一つしかなかった。

俺は嫌な予感を感じながらも≪アクアシールド≫を発動する。

 

それにより、一度は敵のアームを受け止めることに成功した。

しかし、≪アクアシールド≫で受け止めていたアームに取り付けられている大量のスタンバトンの一本一本が本来のスタンバトンではありえない程の眩い閃光を放ち、俺の≪アクアシールド≫を破る。

原理はスタンバトンが発する電撃の熱により、分子が活発に動き≪アクアシールド≫の粘度を下げたのだろう。

 

俺は直ぐさま≪フィジカルオーガ≫を発動し、肉体強度を上げ、スタンバトンの一撃を受ける。

 

思い切り振りかぶられて放たれたスタンバトンの一撃に俺は肋骨の何本かをやられたのを理解する、。

更に、スタンバトンにより体が麻痺し、思う様に動くことが出来ない。

不幸中の幸いは呼吸などに問題が無い点だろう。……まぁ、肋骨がやられているため、そう言う点では呼吸するたびに痛みが走るが…。

 

ただ、意識もしっかりしている≪フィジカルオーガ≫を使ってこれなのだから、使っていなかったら既に殺されていても可笑しくはない。

 

まぁ、このまままともに動けないままであればどの道殺されるんだが………。

俺はそう思いながら、クスリと笑う。

別に死ぬのが怖くない訳じゃない。

 

ただただ、単純に

 

 

 

 

 

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俺は痺れて思う様に動かないながらも、何とかマジックチップを装填する。

その際に、何度かマジックチップを手から落としてしまったが、相手はまるで嬲るように、もしくは恐怖で怯える人間を楽しむようにゆっくりと近づいていた。

 

まぁ、俺の今までの実力から、ここからどうにかする手が無いと高を括っているのだろう。

ロボットがそんな思考をするのを少し不思議に思いながらも、直ぐに小人型の魔物が遠隔で操っているのだろうと当たりを付ける。

 

「楽しく遊べる玩具が届いたと思っている所悪いが、俺は大人の玩具なんでな。

良い子が触ると性癖歪むぜ?」

 

咄嗟に出た強がりに俺は内心で自嘲する。

本当は怖くて怖くて、逃げ出したくて、あのロボットから目を離したくて仕方がないのに生き残るために自分に酔って弱い自分を隠す姿が滑稽で仕方が無かった。

今まで以上に最高にピエロしてる。

 

俺は悲鳴を上げる己の体に鞭打ちながら先ほど装填したマジックチップを発動させる。

魔法の名は≪エンチャントウォーター≫俺が最も得意とする魔法だ。

この魔法を発動すると俺の魔剣に水が纏わりつく。

だが、今回はそれだけじゃない。

魔剣へ纏わりついた水を魔剣を握る腕を伝い全身に纏わせる。

 

後は簡単だ。

俺は≪エンチャントウォーター≫を操ることにより、体全体を動かす。

 

多少ぎこちなくはあるが、問題なく動かせる。

 

その様子を見ていたロボットはようやく、警戒レベルを上げ、襲い掛かってくる。

 

俺はそれをジッと見ながらも手は素早くマジックチップを再装填する。

 

「≪シャープネス≫」

 

そして、直ぐさま発動した。

 

切れ味を上げる魔法、これを魔剣にかけ、スタンバトンのついているロボットのアームを斬り落とす。

 

水は電気を通すと言われるが真水はそうではない。

むしろ、電気を通しづらい性質を持つ。

 

そして、俺が現在纏っている水はその真水。

電熱によって蒸発することがあっても、感電することは無い。

 

また、魔剣の水が蒸発した所で、全身に水を纏っている以上俺に電気は通らない。

 

「さて、スタンバトンは使えなくなったが、この後はどうするつもりだ?」

 

俺はロボットに魔剣を向けてそう宣う。

因みにこれには戦略的な意味はなく、ただただビビッて威嚇しているだけだ。

普通ならこんなことをするよりも動揺している隙に攻撃を加える方が良いと考えるのだろうが、どうやら、優位を取れたことによる心の余裕と得体の知れない敵に対する恐怖から様子見に転じてしまう。

まぁ、つまり、日和っているのだ。

 

今俺は変身前の敵に攻撃できない様々な作品の主人公たちの気持ちが分かった気がする。

 

因みに、敵は俺の挑発に対し、腹部から四丁の機関銃を出し、一斉射撃をすることで答える。

普通に考えたら、蜂の巣案件であり直ぐに防御魔法を展開しなくてはいけない状況なのだが、俺は動じずにそれどころか不敵な笑み、に見えるように意識した安堵の笑みを浮かべる。

 

「無駄だ」

 

そう言う俺は体だけではなく顔全体を鼻の穴を除き水で覆い、更に元々体を動かすために上げていた≪エンチャントウォーター≫の粘度を魔力を流すことで更に引き上げる。

 

これにより、機関銃すらものともしない即席の水の鎧が完成する。

俺は機関銃を弾く自らの水の鎧に目を落とし、初めからこうしておけば良かったとちょっと後悔した。

 

いや、まぁ、とても繊細な技術で神経使うし、戦いの前に消耗するわけには行かなったから仕方ないね!

 

心の中でそう自分に言い聞かせながらも、やっぱりちょっとだけ、後悔している自分もいる。

いや、痛い思いはしたくないし…。

 

俺はそう思いながらも片時も敵からは目を離さない。

それだけではなく俺はマジックチップを発動する。

出来るだけ敵に気づかれないように注意をしながら。

 

そうこうしていると敵の射撃が止む。

ただ、攻撃が止んだという訳ではない。

むしろ反対で今度は背中が変形し、こちらを狙う大砲に代わる。

いや、どちらかと言えばロケットランチャーのようだ。

 

二発のロケット弾がこちらに飛んでくる。

爆風は何とか水の鎧で防いだが、熱により鎧が蒸発してしまう。

 

敵は土煙が晴れてからそれを確認し、こちらに機関銃を向けてくる。

しかし、俺は人間相手に何も出来ない無機物の玩具でも、攻略法が与えられているゲームのCPUでもない。

 

土煙が晴れる前に既に≪エンチャントウォーター≫のマジックチップを外し、別のマジックチップに入れ替え、発動している。

その魔法は≪アクアアロー≫

水の矢を飛ばす魔法だ。

 

水の矢は敵へと一直線に飛んでいく。

しかし、寸での所でロボットは矢を避ける。

拳銃の速度は優に超えている筈だが、オート回避でもつけていたのか?

 

ただ、関係ない。

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因みに左に避けようと右に避けようと意味は無い。

電車の分岐器のように左右両方にレールを引き、どちらにも行けるようにしていたからだ。

仮に敵が現代兵器ではなく、魔法兵器を使っていれば≪マナシールド≫の存在に気づくことが出来ただろう。

だが、それももう意味のない仮説だ。

何故なら俺の攻撃は敵に着弾したのだから。

 

≪アクアアロー≫は敵の胴体に五センチほどの穴を開ける。

更にロボットは電子機器だけあり、水に弱いのか明らかに動きが鈍くなる。

 

俺はその隙を突き、二枚のマジックチップを入れ替える。

一枚は≪アクアアロー≫、もう一枚が≪エンチャントウォーター≫。

 

俺は初めに≪エンチャントウォーター≫を発動し、魔剣に水を纏わせる。

そして、≪フィジカルオーガ≫の効果が残った肉体で思い切り投擲する。

 

その一撃は銃弾程とはいかなくても目視の難しいだけの速さに達する。

だが、ここで俺はダメ押しとばかりに≪エンチャントウォーター≫の水を柄から噴射させることで更に速度を上げさせる。

 

勿論、魔剣を手放した後に魔法を操ることは出来ないため、発動時に仕込んでいたのだ。

その一撃はペットボトルロケットのようではあったが、速度に関してはそんな生易しいものではなく、ライフル弾のように速く鋭い一撃となり敵を貫く。

 

しかも、この一撃は水を纏っている。

先程の様子からさぞいやぁな一撃になったことだろう。

 

ただ、仕上げはここからだ。

俺は≪フィジカルオーガ≫により増幅された身体能力で魔剣に向かって飛び蹴りを放ち、魔剣を食い込ませる。

更に足から魔力を流して≪アクアアロー≫を放つ。

 

それも、アクアアローに魔剣に纏わりついている≪エンチャントウォーター≫を付与した幅30センチ、全長二メートルにも及ぶ大口径の特大サイズの≪アクアアロー≫を、だ。

 

これにより、ロボットはどでかい穴を開けながら完全に壊れるのだった。

 





因みに残りのマジックチップは

強化魔法 四
防御魔法 五
攻撃魔法 二
回復魔法 二

となっています。

本当ならもっとあっさり倒すはずだったのに思った以上に長引いてしまった。
でも、主人公(モブ)だから仕方がないね。

むしろ大健闘、かもしれない。

余談ですが、マナシールドは物理攻撃を防ぐことが出来ないため、敵はカメラ越し且つ音長君が透明度を上げていたため気づくことが出来ませんでしたが、魔法攻撃であればマナシールドと干渉しあうため、直ぐにレールが敷かれていることに気づくことが出来ました。


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魔物との戦いに二度目とかないから、初見殺しでさっくりやるに限る。

こんにちはパgoodです。

前回の話の「だが、ここで俺はダメ押しとばかりに≪エンチャントウォーター≫の水を鞘から噴射させることで更に速度を上げさせる。」の部分を「だが、ここで俺はダメ押しとばかりに≪エンチャントウォーター≫の水を柄から噴射させることで更に速度を上げさせる。」に修正しています。

この話を読んで混乱された方もいたと思います。
すいません。
自分も見返して刀身に纏ってるのに鞘から出るって何⁉ってなりました。


 

☆☆☆

 

戦いが終わり自らに回復魔法のマジックチップを使った俺は倒したロボットで使えそうな部位は無いか物色していた。

 

「これ使えそうだな」

 

倒した巨大ロボットのアームについていたスタンバトンを一本だけ抜き取り、腰に刺す。

どうやら、スタンバトン単体でも扱うことが出来るようだ。

元々は人間が使っていたものを奪ったのだろうか?

もしそうでも、小人型の魔物なら敵に使われないようには出来ると思うが……

 

俺は釈然としない思いを抱きながらスタンバトンを腰に刺す。

流石にスタンバトンを爆発させて殺すなどの手段はとらないだろう。

効率は良いが、奴らは効率よりも面白さを優先する。

 

スタンバトンを一本拝借した俺は元々オフィスだった部屋を早々に出て別の場所へと向かう。

このまま、新たなロボットが出たらたまったものじゃない。

 

一応、オフィス以外も敵の本拠地のため警戒を解くことはせず、魔剣を握りしめたままオフィスを出た。

幸いオフィスの外で敵と出くわすことはなく、ただ人の気配がないだけの明るい廊下と言った印象を受けた。

 

ただ、先ほどのロボットの様子から予想を立てるに小人型の魔物はこちらを監視している可能性が高い。

どこに悪辣な罠があるか分からない。

 

俺は全方位に意識を向けながら、歩き出す。

部屋を見つけるたびにドアを開けながら中を確認するが、特に罠らしい罠はない。

 

四人で行動していた時に仕掛けられていたドアノブに電流を流す罠にも注意を払い、ドアノブには直接触れないようにしていたのが、そう言った仕掛けも見受けられなかった。

 

魔物は一体何を考えているのだろう?

確かにこちらとしては好都合ではあるが、敵からしたら、罠を大量に設置した方が効果的だろう。

 

……いや、小人型の魔物は面白いことを好む。

俺みたいな雑魚が罠に引っかかりいつの間にか死んでいるのなんて大して面白くないから、もっと他の方法で殺そうとしているのか…。

 

となると、新たなロボットが控えているとかか?

 

そうでなくてもボス戦のようなものは用意しているのだろう。

スタンバトンに関しても中ボス戦後の報酬と言った所か。

 

俺は敵の掌の上のような状況に不安を抱きながらもスタンバトンの信頼性が上がったということで無理やり意識を上向きにさせる。

 

その後も罠らしい罠は用意されておらず俺は、とある一室に辿り着く。

 

とても血生臭い部屋だった。

所々に血痕が付いているだけではなく、恐らくはここの職員であったであろう人たちの死体が無造作に転がっている。

 

外傷は様々で体中に打撲痕がある人や電撃を受けたような血管に沿った火傷を負っている人、他にも様々な人がいるが考えを巡らせても気分の良いものではないため、一度思考の外へ追いやる。

 

敵の本拠地でショックを受けること程危うい隙は無い。

俺は鼻の曲がりそうな悪臭に一瞬だけ顔を歪めるも、直ぐに気を取り直し、中を探索する。

特に脱出の手掛かりになるものは置いていなさそうだ。

 

俺がそう思い部屋を出ようとした所で死体だと思っていた男性が動き出した。

どうやら息があるみたいだ。

 

俺は男性へと近づき抱きおこす。

 

「大丈夫ですか!」

「い、いやだ、助けてくれ、もう、懲り懲りだ。」

 

 

そう言い男性は泣き出す。

ここの部屋の惨状を見れば分かる小人型の魔物に玩具として扱われていたのだろう。

 

俺は男性に回復魔法のマジックチップを使おうと懐を漁る。

 

 

ただ、次の瞬間、男性は真っ二つに両断された。

 

その光景を目のあたりにした俺は咄嗟に男性から離れ魔剣を構える。

 

目の前にはいつの間にか小人型の魔物が立っていた。

それも、右手には光の剣。

左手にはジェネリックシールドを展開できる小さい丸盾を装備している。

 

体には機械チックな手甲とブーツ、そしてヘルメットを着け、それらが配線により、繋がっている一風変わった装備を付けている。

 

小人は身体能力が低いのでそれを補うための機械だろうか?

俺がそう考えていると、手甲やブーツ、ヘルメットから水銀のような金属質の液体が流れ出て、小人型の魔物を覆う。

その様子は宛ら鎧のようであった。

ただ、普通の鎧であればあんな大仰な仕掛けは必要ないだろう。

まぁ、小人型の魔物であれば、カッコよさ重視でこういったギミックを入れるかもしれないが。

 

最悪を想定するのであれば反射神経を上げるどころか身体能力を上げるパワードスーツの役割がある、と仮定しておいた方が良いだろう。

俺は魔剣を構えながら敵を見据える。

 

すると敵はこちらに一歩で接近する。

10メートルはあった距離を、だ。間違いなく、あれにはパワードスーツ的な役割もあるだろう。

 

俺はその攻撃を魔剣で受ける。

重い一撃。

魔剣を握る手には鈍器を魔剣で受け止めたような痺れが襲う。

なんとか、光の剣の一撃は魔剣で受けることが出来た。

 

なんとか敵の一撃は防げる。

 

それだけじゃない。

確かに敵は強いが、反応できない速さじゃない。

そう、倒せない強さではないのだ。

 

まるで、ゲームバランスを調整したかのように。

 

俺がそう考えていると、小人型の魔物はニヤリと笑う。

その笑みはまるで漸くまともな遊び相手を見つけた無垢な子供のように無邪気なものだった。

 

俺はそこで、完全に理解する。

小人型の魔物は自らラスボス枠として出張って来たのだ。

男性を攻撃した際に俺に攻撃を当てなかったのも演出の一環だろう。

 

今俺が渡り合えているのも装備の性能を俺に合わせているのだろう。

 

完全に舐められている。

 

ただ、好都合だ。

敵がどのくらい強いのかは知らないが、舐めてくれている内に倒す。

 

 

俺は≪フィジカルオーガ≫を使い敵に駆け出す。

敵もそれに合わせてこちらに向かってくる。

 

剣戟が舞う、と言うほど美しいものではないかも知れないが、お互い常人とは比べ物にならない身体能力から攻撃を繰り出しているので、傍目からは目にも止まらない速さで攻撃を打ち出す二人としてさぞ絵になることだろう。まぁ、映画とか、ドラマとかならだけど……。

 

ただ、俺としては≪フィジカルオーガ≫を使っても押し切れないことに苛立ちと焦りを覚える。

 

こんなことなら≪モメントアップ≫か≪アクセラレーター≫を持ってくるんだった。

只でさえ、ロボットに大量のマジックチップを使ってしまったのだ。

今の枚数でこの魔物に勝てるかは未知数だ。

 

俺がそう考えていると敵は一度距離を取る。

そして、自分の目の前に光弾を生み出す。

 

不味い、光魔法だ。

 

俺はそれに気づいた瞬間、セットしている≪マジックシールド≫を発動する。

 

次の瞬間、閃光が走った。

 

俺は何とか敵の攻撃を受け止める。

ただ、俺と敵の間には焼け焦げたような跡が生まれていた。

恐らく敵が使った魔法は≪フォトンインパクト≫、二メートルの極太レーザーを打ち出す魔法だろう。

足軽組頭級でもなければ使えない魔法だ。

 

どう考えても俺の手に負える相手じゃない。

しかも、相手は装備で弱点のフィジカルを補っている。

 

普通に戦えば百回やって百回死ぬ。

 

俺はどうにか、敵の裏を掻き、勝利しなくてはいけないのだ。

 

何と言う無茶ぶりだろうか。

まぁ、都合よく主人公が助けに来てくれたら話は別なんだけど……。

 

……なんて、考えても無意味だろう。

 

俺は一瞬だけ浮かんだ他力本願な思考を振り払う。

ご都合展開を期待しても身を亡ぼすだけだ。

 

俺は敵を倒す手段を頭の中で構築してく。恐らく、敵の鎧は魔法の道具か何かだろう。

正直言って俺からすればロボットよりも相性がいい。

 

俺はマジックチップを二枚魔剣にセットする。

そして、発動する。

 

発動した魔法は≪マジックシールド≫。

魔法攻撃を防ぐ魔法だ。

 

俺はその魔法を刀身に纏わせる。

 

そして、振るう。

小人型の魔物は咄嗟に盾で防ぐが、俺の≪マジックシールド≫は敵の盾の前で変形し、防御をすり抜け、鎧に届く。

 

鎧が魔法なのだとすれば、≪マジックシールド≫で

触れることが出来る。

俺は≪マジックシールド≫で敵の首を固定する。

流石に、防御性能も高いようで斬り落としたり締め上げたりは出来ないが、これで十分だ。

 

ただ、相手も只で見ていてくれるわけでは無く、防御に失敗した途端に光の剣を伸ばしこちらに攻撃を仕掛けて来た。

 

俺はその攻撃をもう片方のマジックチップ≪マジックシールド≫で防ぐ。

そう、なんと≪マジックシールド≫の二枚構成だったのだ。

完全にネタ構成だが今回の敵には刺さったようで良かった。

 

俺は自分の思惑通りにいきホッとする。

 

そして、敵を≪マジックシールド≫で振り回す。

 

防御性能は高いためこんなことをしても首が引きちぎれたりはしないだろうが、どれだけ頑丈な鎧でも三半規管までは守ってはくれないだろう。

 

俺は想いっきり相手を振り回す。

 

そして、抵抗のためかこちらに飛んできていた光の剣の攻撃が止んだ所で床に叩きつける。

 

相手はふらつきながらも立ち上がる。

ただ、初めにあった余裕ぶった印象は見受けられない。

 

それどころか鎧を脱ぎ、ヘルメットや手甲を地面に叩きつけると、踏みつける。

 

完全に癇癪を起した子供のそれだが、敵の鎧を脱がせることに成功したため、俺はその間にマジックチップを入れ替える。

次のマジックチップは≪アクアアロー≫と≪シャープネス≫だ。

俺は畳みかけるように、二つの魔法を発動する。

≪シャープネス≫は魔剣に発動し、≪アクアアロー≫は魔剣の切っ先以外の刀身を≪アクアアロー≫で覆う。

 

そして、魔剣を握りしめながら、射出する。

それにより、自分ごと敵に突っ込む。

更に俺は射出されている最中に何度か地面を蹴り加速する。

 

本来の俺なら、出せない速度の一突きだ。

 

敵はその攻撃を咄嗟に盾で防ぐが、勢いまでは防げなかったのか、壁に叩きつけられる。

俺は直ぐに≪マジックシールド≫を装填する。

 

その直後敵も八つの光弾を出す。

 

「ぐギぁっ!!」

 

俺は直ぐ様、≪マジックシールド≫を発動する、が重要な脳や内臓は防げたが、≪マジックシールド≫の発動が完璧には間に合わなかったようで足や腕の肉が削がれる。

 

幸い、神経は無事なのか肉体強化と≪フィジカルオーガ≫を使っている現在の所は戦闘不可能な程の怪我ではない。

 

俺は、急所に当らなかったことに安堵の息を吐く。

諸に食らっているれば死んでいても可笑しくは無かった。

敵も咄嗟の発動だったことと苛立ちにより、狙いが甘くなったのだろう。

 

俺は敵のリキャストタイムである今のうちに二枚のマジックチップを入れ替える。

勿論、光の剣による攻撃は飛んでくるのでそれを捌きながらではあるが。

 

そして、俺は敵に突っ込む。

小人型の魔物は俺に向かって横なぎに光の剣を振るうが、俺はそれを跳んで躱す。

更に、≪アクアシールド≫を発動し、粘度の高い水の壁を足場に敵に向かって空中で再度飛ぶ。

 

敵のリキャストタイムが終わったのか、敵は≪フォトンインパクト≫を発動する。

俺は敵の攻撃を≪アクアアロー≫を発動し、その上に乗って移動することで躱す。

ただ、完全に躱せたわけでは無く、腕一本が吹き飛ぶ。

 

それでも相手に近づくことが出来た俺は、一閃。

俺の攻撃は敵の≪ジェネリックシールド≫で防がれてしまうが、こちらも相手の攻撃を捌きながらマジックチップを入れ替える。

そして、即座に発動する。

魔法は≪エンチャントウォーター≫。

この魔法で剣に纏わりついた水を即座に敵に伸ばす。

伸ばした水は宛ら蛇のように敵に向かって伸びていく。

その有機的な動きに翻弄された敵は防御の内に水を通してしまう。

そして、水はボールのように球体になり、敵の顔を包み込む。

 

魔物は直ぐに、光の剣で水球を蒸発させようとするが、俺はすかさず≪マジックシールド≫を球体に発動する。

これにより、光の剣は≪マジックシールド≫に阻まれ、水球は≪マジックシールド≫により外に漏れる心配がなくなった。

 

ただ、これで、マジックチップを使い切った。

俺は、最後の賭けに出る。

 

魔剣を握り走る。

敵は俺を近づけないように光の剣を振るう。

それを俺は魔剣で受ける。

受けながら走る。

そして、十分近づいた所で敵に投げつけた。

魔物は目を大きくしながらも、ジェネリックシールドの盾で弾く。

 

 

そして、俺は盾にしがみつき、持っていたスタンバトンを敵に向かって振りかぶる。

スタンバトンとは思えない閃光が走り、水球で覆われる敵の頭に電流が走る。

 

この水は真水ではなく()()だ。

電流をよく通す。

 

 

敵はふらつき、光の剣とジェネリックシールドの盾を手放す。

 

俺は魔物の持つ光の剣を握るとその剣で魔物の首を落とした。

 

 

 





余談

主人公は小人型の魔物の装備を見て最悪を考えればパワードスーツの線も考えられると言っていますが、実際には某有名作品の魔術礼装のように触手のようにして攻撃してきたり、自動防御があっても可笑しくなかったです。

そう言う仕掛けが無かったのは只単にそんなことをしては勝負にならないので、魔物の方がそう言った機能を搭載するのを控えてくれたためです。


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真の主人公現る!!いやちょっとまって真の主人公はおr…………

☆☆☆

 

巨大なロボットが爆発し、砂埃が舞う。

 

そんな中、安否確認の為に弧毬さんが僕たちに声を張り上げる。僕らは一人ずつその呼びかけに答えることで安否を示す。

 

音長君も声を発した。これで視界不良ながら音長君たちが無事であることが分かった。

 

ただ、確かに声をかけてくれていた筈の音長君の姿は砂埃が晴れた時、どこを見渡しても見つけることが出来なかった。

 

「お、音長君は⁉」

 

呼吸が荒くなる。

何故?という疑問でいっぱいになる。

頭が真っ白になって上手く考えられない。

 

また、失うのか?

友人であり仲間でもある大切な人を?

 

僕は少し前まで一緒に戦った陽気な攻撃魔法士の少年のことを思い出していた。

だからだろうか?

 

戦場で昔のことを思い出して現実を疎かにしていたからだろうか?

僕は必至な顔でこちらに手を伸ばす真道君と小毬さんに気づくことが出来ず、何かに体を引っ張られ、見知らぬ場所に飛ばされてしまった。

 

 

 

☆☆☆

 

見知らぬ場所に飛ばされた僕は辺りを見渡す。

その場所は明るく、けれど建物自体は先程までと同じもののように感じた。

建物の構造が似通っているのだ。

 

もし、音長君が同じ状況に置かれているなら、急いで見つけてあげなくちゃ。

僕は辺りを見渡し、エレベーターと階段を探す。

 

どちらかさえあれば、この階から脱出することは出来る筈だ。

敵がこちらを分断したのであれば同じ階にはいる筈がないし、この階を探すのは只の無駄だ。

 

音長君と合流したいのであればこの階を出て戦闘痕のある場所を探せばいい。

僕は頭ではそう整理しながら、全速力で走る。

 

この会社は大きいけれど肉体強化をした状態で走れば周りきれない程ではない。

 

そうして、暫く走っていると僕の視界に動く影が映る。

ただ、人のようには見えないが……。

 

≪フィジカルオーガ≫

 

僕は強化魔法を行使し、速度を上げ敵に近づく。

近づくにつれ、敵の姿が露わになる。

 

やはり、人ではなかった。

 

僕たちを襲ったロボットだ。

僕は魔剣にセットしていた≪フレイムショット≫を発動する。

僕の放った炎の弾丸は途中で拡散することは無く、敵にぶつかった瞬間内に秘めていた熱量を開放するように爆発した。

 

そして、衝撃により敵の動きが止まった瞬間、僕は加速し敵を魔剣で斬り伏せる。

 

辺りを見渡しても他に敵はいないみたいだ。

ただ、ロボットはいなかったが、僕はあるものを見つける。

 

それはエレベーターだ。

しかもどうやら、ここのエレベーターは電気が通っているのかボタンを押すと反応した。

 

ただ、何回を押すべきが、顎に手を当てながら考える。

僕がそうしているといつの間にかドアが閉まってしまった。

まぁ、ドアが閉まったからと言って何だという話ではある。

それよりも音長君が何回に居るのかを考えよう。

 

 

 

僕がそう考えていると、突如視界が赤く染まる。

とても、とても焦げ臭い。

 

あからさまに動くエレベーター、脱出することが出来る場所なのに一体しか置かれていないロボット、彼なら音長君ならこんな極限の状態でもこれが罠だと気付いたのだろうか?

 

僕は火と熱に包まれた状況の中でぼんやりとそんなことを考えていた。

 

☆☆☆

 

小人型の魔物を倒した俺は何とか自分に回復魔法のマジックチップを使う。

とはいえ、マジックチップを使ったとて腕が生えるわけでは無い。

 

俺はマジックチップを使い切り、片腕を失った今襲われればお陀仏間違いなしだろう。

 

ただ、良い予測は当たらないくせに悪い予測はよく当たる。

 

バランスの取れない体を支えるために魔剣を杖代わりにした俺の目の前で、ドンと言う音と共に小人型の魔物が出て来たドアが力づくで破られ砂埃が舞う。

 

そして、視界が晴れた頃には光の剣を携えた小人が五体。

当然ながらパワードスーツ+ジェネリックシールドの盾も付けた状態での登場だ。

 

戦うことなど不可能。

俺は無様にも奴らに背中を見せ、逃げる。

 

俺には敵に背を向けず、立ち向かって死ぬなんて覚悟はない。

勝てない勝負は逃げるに限る。

 

だが、俺の体は俺の言うことを聞かず、片腕を失ったこともあって、バランスを取れずに無様に倒れる。

ああ、終わった。

 

敵は俺が這いつくばりながら逃げるのをゆっくりとした足取りで追ってきている。

クソっ。

ここまでなのか?

 

真道君、俺をヒロインにしてみないか?

俺、女装とかするから、さ?

 

そんな、とち狂ったことを考えながらも、俺は必死に打開策を考える。

だが、無駄だ。

何も思いつかない。

 

こんなの手札の無い状態でカードゲームをするのと一緒だ。

 

俺の悪運も遂に尽きたか。

 

とか、言いつつほふく前進は止めない。

もしかしたら、天井が崩れたり床が抜けたりして助かるかもだし。

 

諦めなければ無数に存在する“もしも”を引き当てられるかもしれないからね。

 

ただ、俺がもしもを引き当てるよりも敵が俺に追いつく方が早かった。

敵に捕まった俺はぶん殴られ、光の剣で焼かれ、振り回され、壁に叩きつけられる。

 

怪我人にしていい仕打ちじゃないだろ?

 

とか、心の中で唱え反骨精神を何とか保とうとするもどうやら、もう限界かも知れない。

 

「くっそ、こんな所で、だ、誰かぁぁぁぁぁぁ、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、殺されちゃうよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」

 

もう、幼子のように泣きわめく、ふっざけんな。

何が悲しくて死ななきゃならないんだよぉ。

俺がなにしたっていうんだよぉ。

 

真道君助けてくれよぉ。

小毬さぁん見つけてよぉ。

 

俺が恥ずかしげもなくそんな風に喚き散らしながら涙を流す。

 

それを見ていた、敵は面白いものを見たとばかりに更に俺を過激に攻め立てる。

体中刺し傷と痣だらけだ。

顔もすっごい腫れて見る影もなくなっているだろう。

 

聞えて来るのは小人型の魔物の品の無い笑い声だけ、その筈だった。

 

「やっと、見つけた」

 

その声は不思議と吸い込まれるように俺の鼓膜を揺らした。

ま、まさか真道くn……。

 

「音長君……。この後は戦えそうにないね。」

 

俺が顔を上げるとそこには毒ノ森君がいた。

そう毒ノ森君がいたのだ。

いやちょっとままって?

 

毒ノ森君じゃないかぁぁぁぁぁ!

ここは危険だよ!そんなカッコいい登場しなくていいから逃げるんだ!

 

「毒ノ森、君、俺、は、いい、から、君だけ、でも…………。い、いや、やっぱ、肩かして、逃げて、くれると、凄く、嬉しい。」

 

そういう俺に対し、毒ノ森君は敵から視線を逸らすと膝をつき、俺の姿、特に失った片腕を見てとても悲しそうな顔を浮かべる。

 

「大丈夫。学園に行けばきっと治療法が見つかるよ。もしかしたら、俺達がまだ使えないマジックチップの中に部位欠損を治すものがあるかも知れないし」

 

毒ノ森君は俺を励ますように優しく笑いかけるとそう言ってくれる。

ただ、ちょっと待って?

後ろ見て?敵が飛び掛かって来てるんですけどぉぉ!

 

ここで俺たちの冒険も終わりか……。

俺がそんな風に遠い目をしていると、何故か敵が振りかぶっていた光の剣が毒ノ森君を避けるように曲がる。

そして、その剣を振りかぶっていた小人型の魔物は、見えない何かによって吹き飛ばされた。

 

「安心して、君が小毬さんに修行を付けて貰っている間俺も何もしていなかった訳じゃないよ。こいつらを片づけて学園に戻ろうか」

 

そう言って毒ノ森君は笑みを浮かべる。

 

ちょっと待って?

君が真の主人公なの?

 

 

☆☆☆

 

棚加君と弧囃子さんを失ったあの日、あの瞬間、僕は何も出来なかった。

何も考えられなかった。

 

これ以上の犠牲が出ないように撤退を選べたのも音長君が僕の代わりにその言葉を口に出してくれたからだ。

彼が撤退と言っていなかったら、僕は未裏さん……満雷(みらい)と同じように我武者羅に棚加君を助けようと突っ込み、更なる被害を出していたことだろう。

 

 

……その後、撤退後も、ただただ、失った棚加君のことをグルグルと考え続けていた。

もし、僕が後衛にも意識を向けていたら、もしくは後衛に防御魔法を使っていたら、はたまた、強化種が来た瞬間に即撤退を選べていたら、そんな栓無き思考を何度も繰り返した。

 

僕がそんな風に無為に時間を使っている間も音長君は僕の代わりに学園長との面会の手続きをし、そして、学園長を前に正確にあの場の状況を説明してみせた。しかも敵の戦法まで看破して、だ。

 

全て、全て、僕がやらなければいけないことなのにその全てを音長君が引き受けてくれた。

彼自身傷ついている筈なのに彼はあの中で一番パーティーメンバーのことを気遣っていた。

 

きっとあの時からだろう。彼が僕の目標になったのは。

 

そして、力に対する執着がそれまで以上に強くなったのは。

 

僕はもう誰も失いたくない。

皆の矢面に立ち、皆を引っ張り、守り抜くそんなリーダーになりたかったのだ。

 

そうして、僕は無断でダンジョンに潜るようになった。

勿論リスクとリターンを考えたうえでだけど、それでもコツコツと抵抗力上昇を繰り返し、そして、皆を守れるだけの力を手に入れた。

 

だから、今度はあの日の決意通り僕が君の前に立って、君を守ろう。

 

 




余談

ここまでの内容で分かるかもしれませんが、毒ノ森君は固有魔力波に覚醒しています。
エレベーターの中で日に囲まれても生きていたのも固有魔力波を使ったからです。

それと未裏さんの下の名前は満雷です。


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まったく、君はどこまでカッコつければ気が済むんだ。

☆☆☆

 

ハッキリ言おう。

助けに来た毒ノ森君の力は圧倒的だった。

パワードスーツでイキッていた小人型の魔物たちは不可視の攻撃により吹き飛ばされ、反対に敵が振るう光の剣はまるで毒ノ森君を避けるように曲がる。

 

小人型の魔物は他にも光弾を放ったり、≪フォトンインパクト≫を毒ノ森君に向けて放っていたが、その悉くが毒ノ森君を目前にして曲がる。

その姿は見えない壁がそこにあるというよりは、まるで見えないレンズがあるかのように見えた。

 

そして、敵の攻撃を防いだ毒ノ森君は敵に向かって斬りかかる。

ただ、踏み込む力とは別の力が働いているのか、パワードスーツを着た小人型の魔物の懐に一足で飛び込み、一閃。

魔物をパワードスーツごと真っ二つに斬り裂く。

 

とんでもない切れ味だ。

ただ、≪シャープネス≫を使っているという訳でもないように思える。

 

というか、刃が異音を発しながら、高速で振動していた。

 

これは、あれだ。

恐らくだが、これはあれだ、高周波ブレードと言う奴なのではないだろうか?

 

となると、彼が扱っている固有魔力波は振動に関係のある力ということか?

 

ただ、それに勘づいたのはどうやら俺だけではなかったようで、敵は盾を構え自らを覆う様に半円状且つ地面を覆うドーム状のジェネリックシールドを展開する。

鎧で受けられないなら、盾に送る魔力量を上げ、盾で受ける算段なのだろう。

ジェネリックシールドは自然界に存在する物質から作られた盾ではなく、魔法によって生み出された幻想の盾だ。

使用者が設定すれば例え振動だろうと防ぐことが出来る。

 

これにより、毒ノ森君完全優位の状況はたった一手にして破られてしまった。

ただ、現状敵にも有効な攻撃手段はないだろう。

光弾は防げるし、魔物を吹き飛ばした不可視の攻撃を使えば物理攻撃も防げるはずだ。

ぶっちゃけ言ってチート過ぎる。

 

勿論種はあるんだろうけど、これなら、毒ノ森君が力づくで敵の防御を破る方が早いだろう。

俺はそんな風に楽観視していた。

 

☆☆☆

 

小人型の魔物たちはお互いの思考を共有しあう。

敵の攻撃は不可視だった。

 

だが、決して念動力のような不可知の攻撃という訳ではない。

 

敵の攻撃を把握するために五感強化の魔法を使っていた小人型の魔物が他の魔物にこの不可視の攻撃の手掛かりになる情報を与える。

 

この魔物は五感強化を施した際に確かに、確かに聞いたのだ。

 

キーンという通常時では聞き取れないであろう程の甲高い音を。

 

 

 

ならば、敵の攻撃は音、ということか?と情報を与えられた魔物の一人は考える。

 

確かに、超音波は物を動かすことも出来る、それに超音波を用い空気の密度を弄れば光を曲げることも出来るだろうと情報を与えられた二人目の魔物も賛同する。

 

しかし、与えられた情報、音の大きさでは流体型強化外骨格を身に着けた我々を動かすほどの力を発揮できるものなのだろうか?情報を与えられた三人目の魔物は疑問を提示する。

 

情報を与えられた最後の魔物は結論を出す。

ならば敵の攻撃は()()()()()固有魔力波なのだろう、と。

そして、そうであるならば敵を攻略するのは難しくない。

 

この思考に全ての魔物が同意する。

 

 

 

 

そして、魔物たちは悲観する。

ああ、なんとあっさり決着がついてしまうのだろう。

 

これが一人であればまだ敵の能力を暴くという楽しみがあったというのに、五人もいたせいで全くその楽しみを味わうことが出来ずに真相に辿り着いてしまった。

これが、俗に言うホールケーキは一人で独占した方が満足感を得られる、という奴だろうか?

 

小人型の魔物たちはそんな風に目の前のご馳走だったものに、別れを告げる。

せめて、最高の反応を届けてくれ、と全力をこの一撃に注ぐ。

君らが、人から認められることでで生を実感できるように自分たちは人の絶望で生を実感できるのだからと、純粋にして純白な願いを込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、解き放たれるは大音量の一撃、五重奏にもなる音の暴力。

これにより、敵と玩具は鼓膜を破られ平衡感覚をも失う。

簡単な話だ。

敵が音を模しているというのならこちらはその性質の中で弱点となる攻撃を行えばいいだけ。

例えば今回のように音は音でかき消せないという性質を利用し、攻撃を仕掛けるなどだ。

全く、負けた同胞の代わりに玩具の処理に行ったらこんなお宝が来るなんて、初めから知っていれば他の同胞を出し抜いて一人で楽しんでいたのに……。

 

そんな風に心底残念がりながら小人型の魔物は敵に視線を送る。

敵は今にも膝をつきそうだ。

しかし、しっかり堪えている、そして懐を弄る。

何か策があるのだろうか、魔物は期待する。敵が要する新たな手段に。

 

 

しかし、敵の行った行動は魔物にとって許しがたい裏切りであった。

失望を禁じ得ない愚行であった。

何故、折角認めたのに自分たちの期待をこうも易々と裏切ることが出来るのか……。

 

敵はこう言ったのだ。

 

「音長君、≪マナシールド≫を張って君だけでも逃げろ」

 

そうして、玩具にマジックチップを渡したのだ。

何たる、何たる不実だろうか?

 

自分たちがまだ楽しんでいるのに、もう諦めるなんて、しかも自分たちの玩具を逃がそうとするなんて、自分たちの期待を裏切り盗っ人にまで身を落とすなんて、ああ、何たる愚者。

記憶に残す事すら悍ましい。

 

今すぐにでも消すべきだ。

魔物たちの意見は一致する。

 

全ての魔物が同意する、賛同する、称賛する。

 

ああ、宝石になりえた塵屑よ、もう絶望すら感じずに消えてくれ。

 

魔物たちは再度音の魔法を発動する。

 

☆☆☆

 

毒ノ森君に≪マナシールド≫を渡され、君だけでも逃げろと言われた。

はっきり言って、これを言ったのが弧毬さんや真道君だったら一目散に逃げていただろう。

でも、

 

「≪マナシールド≫!」

 

毒ノ森君と自分自身を包むように魔法の盾をドーム状に発動する。

毒ノ森君はその様子に目を見開く。驚いているのだろう。

 

「な、何で逃げないんだ!そんな怪我じゃ、まともに戦えないだろ!下手したら死ぬんだぞ!」

 

必死そうな毒ノ森君の声は鼓膜が破れていても不思議とよく聞こえた。

固有魔力波の力だろうか?

なら、俺の言葉も彼に届けばいいのだけど。思い詰めたような今の彼に。

 

「じゃあさ、何で毒ノ森君は≪マナシールド≫を発動させないの?このままじゃ、君、下手したらどころか、確実に死ぬぜ?」

 

俺の反論はどうやら毒ノ森君に届いたようで、毒ノ森君は難しい顔をする。

 

「僕はまだ≪マジックシールド≫と固有魔力波を使い分けられない。……それでも、それでも僕は君を守らなければいけない。仲間として、一人の友人として。かつて君がそうしてくれたように皆の前に出て皆を守らないといけない。」

 

その真面目過ぎる言葉と、的を外した台詞に俺は残っている片腕で毒ノ森君の胸に拳を当てる。

 

「それなら、さっき助けてもらったよ。俺一人じゃどう頑張っても切り抜けられなかった。君が居なければ俺は奴らの玩具として飽きるまで痛めつけられて死んでたと思う。

 

……それに仲間っていうのは助け合うものだろう。

君一人で無理ならその分を俺が補うっていうのはそんなに変なことなのか?

 

 

少なくとも俺は君のいう様に皆の前に出て皆を守ったことなんてないよ。

さっきみたいに誰かに助けてもらって、何とか切り抜けてきた。一人で解決できたことなんて一度たりともない。さっきみたいにね!」

 

最後の方は笑みを浮かべながら俺は毒ノ森君にそう告げる。

 

それに、と俺は更に言葉を続ける。

 

 

 

「なんか、二人なら倒せそうな気がしない?」

 

その言葉に毒ノ森君はブッと噴き出す。

どうやら、肩の力は抜けたようだ。

思い詰めすぎては力は発揮できないからな。

 

「……そうだね。不甲斐ないリーダーでゴメンね」

「いんや、俺を明日に連れてってくれる最高のリーダーに乾杯」

 

俺がそう言うと毒ノ森君はフッと笑いデコピンしてくる。

いや、ゴメンて。

シリアスな場面だし、真剣にしないとね。

 

「そう言えば毒ノ森君の振動で敵の攻撃を無効化とか出来ないの?」

「僕の能力は正確には音を模した固有魔力波だけど……無効化は出来ないな。逆位相の音を出せれば打ち消せるのかもしれないけど……音速相手に後だしじゃんけんは通用しないし」

「成程、なら仕方ないね」

 

俺はそう言うと毒ノ森君の背中にしがみつく。

それに対し、毒ノ森君は目を白黒させる。

 

「え、え?急に何⁉」

「いや、毒ノ森君が動き出したら、≪マナシールド≫で防御する時に自分と毒ノ森君の両方を守らないといけないでしょ?だったらこの状況が一番最適じゃない?」

「な、成程。分かったよ。ちょっと≪フィジカルオーガ≫使ってもいい?」

「どうぞ~。」

 

そうして、≪フィジカルオーガ≫を使った毒ノ森君は一度深呼吸をする。

そして、独り言のようにされど俺に聞こえるように一言

 

「信頼してるよ、相棒」

 

そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

……信頼してるのはこっちだっつーの、とは恥ずかしくて言えなかったけど俺はその思いを込めて、≪マナシールド≫に魔法操作に使う分の魔力を除き、()()()()()()()()()

 

それを知ってか知らずか、毒ノ森君は固有魔力波を発動させながら踏み込む。

とんでもない速度で敵に近づく。

固有魔力波によって振動している振動剣で攻撃するためには≪マナシールド≫の防壁に穴を開ける必要があるが、それは相手にとって絶好のカウンターのチャンスになる。

 

だから俺はぎりぎりまで魔剣の周囲に≪マナクシールド≫を纏わせる。

そして、敵を攻撃する一瞬≪マナシールド≫に穴を開ける。

これにより、敵は手も足も出ずに一刀両断される。

一撃必殺、毒ノ森君の力があるからこそできる芸当だ。

 

更にそこから別の敵に斬りかかる、先ほどと変わらない。

攻撃は毒ノ森君に任せ、俺は防御に専念する。

逆もまた然り、俺達はお互いの役割を完璧に全うしていく。

 

そうして、四人の魔物を倒し、最後の一体。

 

そいつは光りを自らの手の平に収束させる。

恐らく≪フォトンインパクト≫を使おうとしているのだろう。

 

音の魔法と言うこちらのメタになりえる魔法ではなく自分の自慢の一撃で勝負を決めるのだろう。

 

一目見て分かる。

恐らくあれは消耗している(いまの)俺の≪マナシールド≫では防げないだろうと。

だからこそ、俺は防御を捨てる。

 

そして、毒ノ森君の魔剣に≪マナシールド≫を纏わせる。

「行って来い、リーダー」

「ああ、行ってくる」

 

そう言うと、毒ノ森君は飛び出す。

敵の光線を斬りさきながら真っ直ぐ敵の下まで突き進む。

固有魔力波で加速しながら、≪フォトンインパクト≫を諸ともせずに進む姿はまるで英雄のようだった。

 

そして、敵の下まで辿り着いた毒ノ森君はすれ違いざまに敵を袈裟斬りにする。

 

 

 

 

 

 

まったく、主人公は君だと信じてしまいそうなほどにカッコいいな、うちのリーダーは。

 



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俺はつくづく馬鹿だった

☆☆☆

 

音長と毒ノ森が何者かによって攫われてしまった……。

あの二人とはクラスメイト以上の繋がりはないが、実力は俺や麗よりも低かった筈だ。

 

敵の策略で分断されたとしたらあの二人は最悪命を落とすかもしれない……。

 

きっと二人はこの敵地で思う様に動けないだろうし、俺達の方で二人と合流できるように動かないと。

 

「信濃さん、音長と毒ノ森を助けに行きましょう。」

「うん、そうだね」

 

俺の考えに信濃さんは賛同してくれる。

待っていてくれ、音長、毒ノ森。

俺がそう心の中で呟いた瞬間、俺達の会話に割り込んでくる男がいた。

 

「残念だがそれは無理な相談だ。」

 

当たり前だが、先ほどまで俺と信濃さんしかいなかった筈だ。

 

俺達の会話に割り込んできた男は先程毒ノ森を引きずり込んだ黒い靄から姿を現す。

 

男は額から十五センチはありそうな長い角を生やしており、顔には幾何学模様の刺青が入っている。

額から角を生やしている所を見るに鬼人族だろうか?

 

俺がそう思ったのも束の間、敵はこちらに向けて魔法弾を飛ばしてくる。

敵が放った魔法は信濃さんに容易く止められていたが、止めた本人である信濃さんは目を大きく見開き男を凝視する。

 

「ふむ、只の魔法弾だったとはいえ殺す気で放ったんだが、こうも易々止められるとはな……流石は護懐といった所か」

「音長君達は無事なの?」

「音長?ああ、先程の小僧共か。さてな奴らの相手は俺が連れて来た魔物たちに任せているからな。小僧共の実力次第じゃないか?」

 

男が興味なさげに信濃さんの質問に答える。

クソっ、こいつをさっさと倒して、二人の下へ向かわないと。

俺は種族不明のこの男に嫌なものを感じながら、剣を構える。

しかし、俺の警戒など恐るるに足らずと言ったように男は魔剣を抜いた俺には視線を合わせることなく信濃さんに話しかける。

 

「それでは移動するとしよう。ついてこい」

 

ふざけるな、俺の方を見ろ!

 

一般人を当たり前のように巻き込み、不幸を待ち散らす男が、俺のことを恐れず、それどころか路傍の石のように意にも解さなかったことが俺の逆鱗に触れる。

 

俺は元護懐【無二】の息子、真道才、そのことを教えてやろうと魔法を編む。

 

使う魔法は≪サンダーバード≫俺の最高火力。

これで、奴も俺を警戒せざるおえない。

 

そう考えていた俺を信濃さんは手で制す。

まさか、敵の提案に乗るつもりだろうか?

 

そんな、見るからに罠であろう提案に乗るなんて。

 

ここで一緒に倒してしまうべきだ。

 

俺は目を真っ赤にし、信濃さんにそのことを訴えようとする。

その思いを伝えようとする。

信濃さんが提案に乗る前に……。

 

 

しかし

 

「……分かった、行こう」

「なっ!何言ってるんですか罠に決まってるでしょう⁉この場でこいつを倒すべきです‼」

「……はぁ、こちらが気を使って提案しているというのに………………。

無二、お前はこんな小僧のどこにそれ程の価値を感じているんだ?」

 

男は信濃さんに反対した俺を見て、まるで駄々を捏ねる子供でも見るような目を向ける。

腹が立つ。

 

俺の方が正しい筈なのに、男にこの場の空気を完全に掌握されていることに、男の手の平で踊らされている現状に、そして、俺の忠言を聞こうとしない信濃さんに。

 

俺の胸には一層不快な気持ちが広がる。

そして、透明な水に黒い絵の具を垂らしたような気持ちになった俺はその気持ちを直ぐに吐き出す。

 

「何がおかしい?」

 

俺は男をキッと睨む。

それに対し男は肩を竦めて、諭すように俺に語り掛ける。

 

「……何と言われてもな。先ほどの一撃と俺の使う魔法で敵の危険度くらい理解しろ。

少なくとも無二は分かっているみたいだぞ?」

「……‼」

「あんまり、うちの真道君を舐めない方が良いよ?伸び盛りだからね」

 

 

信濃さんの善意のフォローは俺の心を余計に惨めにした。

 

確かに……敵の実力、それを俺は理解できていない。

そもそも、敵が仕掛けてきた攻撃と言う攻撃は先程の魔法弾一発だけだ。

それで、何を理解できるのだろう?

信濃さんは敵の虚像に怯えているだけでは無いのか?

俺が不信感の籠った瞳を信濃さんに向けると信濃さんは少し困ったように眉を下げ、俺に向かって一言だけ告げる。

 

「転移魔法、だよ。才君」

 

その言葉に俺ははっとする。

確かに攻撃は魔法弾しか使っていない。

しかし、奴は確かにそれ以外の魔法、転移魔法を使っていたではないか。

転移魔法と言うのは人類が未だ再現できていない魔法の一つだ。

再現できれば防人候補の少年少女の死亡率が下がるとあらゆる魔法解析者たちが取り組んでいるにも関わらず、一向に再現できていない魔法。

 

そして、魔物ですら自らの住まうダンジョンに帰還する時以外は使えない魔法。

それを敵はいとも容易く使ったのだ。

 

しかも、どういった手段を用いたのかは不明だが、先ほどの会話から魔物を使役していると匂わせて来た。

 

俺はそこまで考えをまとめて、頬を叩く。

 

確かに、今の俺は冷静では無かったみたいだ。

一度深呼吸をし、気持ちを切り替える。

 

ただ、敵もまた、一つ悪手を打っている。

それはあの場で音長達を殺さなかったことだ。

もし、あの場で不意を打ち殺していれば、こちらが動揺し、その間に俺と信濃さんの首にその牙が届いた可能性もあった。

 

その勝機をこいつは逃したのだ。

俺が心の中でそうほくそ笑んでいるとそれを察しているのか、いないのか男が歩みを止め、語り掛けてくる。

 

「一応言って置くと、俺があの場で奴らに手を下さなかった理由は二つだ。

一つはあの臆病な餓鬼と覚悟の決まった目をした生意気な餓鬼を警戒してのものだ。

ああ言う、身の程を知り自分の出来ることと周囲の状況をしっかりと理解している奴というのは強情(しぶとい)ものだ。

そして、覚悟の決まった奴と言うのは自分の命を顧みずにこちらと刺し違えてくる。

この二人に手間取るのは無二との戦いにおいては致命的だった。

 

……それと同時に無二さえ倒してしまえば残りを一人一人処理するのはそう難しくはない。」

 

男は淡々と告げる事実に俺は一つ引っかかる部分を覚える。

 

「まるで、俺は脅威じゃないと言っているようだな?」

「そうだが?」

 

それだけ言うと男は再度歩き出す。

成程、侮られている。

しかし、これは敵が俺の実力を推し量れていないということではないだろうか。

多少頭にくる部分もあるが、俺の実力を推し量れていないという現状はこちらにとってアドバンテージだ。

何だったらここで攻撃を仕掛けるか?

俺の脳裏にその考えが過る。

しかし、

 

「才君、敵を侮らないで、あいつは多分、才君の実力をしっかりと把握している。

それに、この場で戦えば多分だけど、戦いの余波で建物が崩壊しちゃう。そうなると、音長君たちが巻き込まれちゃうと思う。」

 

成程、敵はこちらに気を使って場所の移動を提案したのか……。

それはそれとして、信濃さんは少々慎重に過ぎるな。

 

信濃さんはああ言っていたけど、音長達を脅威に感じているのに俺の実力を知って全く脅威に感じないというのはあり得ないだろう。

 

今の話でここまで推測できるのだから、もっと大胆に動いても良いだろうに。

 

いや、冷静に最悪の事態を想定したから今まで生きて来たのか?

 

しかし、改めて考えると敵は何で態々こちらに気を使うような真似をするのか。

 

何か敵には策があるのか?

 

俺はいくつもの疑問を脳裏に浮かべながら敵の後をついていく。

先の見えない靄の中へと。

 

 

 

 

 

 

靄は意外なことに多少ひんやりとする程度で特に不快な気持ちになることは無かった。

何だか人気の少ない夜のトンネルを抜けたような感じだ。

 

そして、靄を抜けるとどこまでも続いていそうな青空が広がっていた。

外だろうか?

俺がそう思っていると先に靄の中に入っていた信濃さんが今立っている場所について教えてくれる

 

「多分だけどここ、私たちが来た会社の屋上だよ」

「ご名答、お前たちも見知らぬ土地に連れていかれるよりは幾分か増しだろう?」

 

男はニヒルな笑みを浮かべ、冗談めかしながらそう告げた。

それに対し、信濃さんは表情を変えることなく肩を竦める。

 

「まぁね」

 

男と信濃さんがそんな風に軽いやり取りをする。一見和やかに見えなくもない両者のやり取り。

しかし、その実二人は強烈な殺気を浴びせ合う。

 

そして、暫くの膠着状態の後、男が拳を構えた。

それと同時、信濃さんもまた魔剣を構える。

 

 

そして、二人の命を懸けた死闘が始まる。

その光景はまるで、アニメーションの作画を一部抜き取ったかのようだった。

 

突如二人の姿が掻き消えたかと思ったら、二十メートルはあったかと思う距離を文字通り目にも止まらぬ速さで埋め、拳と剣で殺りあっているのだ。

 

剣で叩き斬ろうとする信濃さんを拳で防ぎ、逆に手数が多い利点を生かし、信濃さんにカウンターを決める男。

 

先に距離を置いたのは信濃さんの方だった。

 

「参ったね。≪ハードソリッド≫を使った状態で殴り合い。それとは別に結界魔法を張っている、のかな?私の固有魔力波が屋上から先に届かないんだけど」

 

成程、≪フィジカルオーガ≫然り≪ハードソリッド≫然り、付与魔法は一度発動させてしまえば、発動後も一定時間魔法が持続する。

そのため、付与魔法は他の魔法と並行して扱うことが出来る。

つまり、この男はその利点を活かし、現在は結界魔法を発動して信濃さんの固有魔力波の妨害をしているという訳だ。

 

ただ、そんな俺の予想は男の意外な一言によって裏切られる。

 

「成程、お前にはそのように見えているのだな。だが、残念だったな。俺は未だ一つの魔法しか使っていない。」

 

そいう言うと男は指を鳴らす。

すると、俺たちを囲うように数えるのすら億劫になるほど大量の攻撃魔法が出現する。

しかも、発動された魔法は威力、範囲、属性すらバラバラな魔法だ。

 

それが一斉に俺と信濃さんを狙い、撃ちだされていく。

その攻撃を信濃さんが固有魔力波で魔剣に収束。そして自分の魔法を上乗せした状態で敵に打ち込む。

 

「《俊撃・三式》!」

 

しかし、その攻撃に対し、敵は瞬時に六枚にも及ぶ≪ジェネリックシールド≫を張り、守る。

 

「成程、結界内に限定されていてもお前の固有魔力波は脅威であることに変わりはない、か……」

 

男はそう言いながらも、先ほど同様、様々な魔法を一度に発動する。

物量でゴリ押しすればいつかは信濃さんを倒せると思っているのか、それとも、様子見をし攻略法を模索するつもりか。

 

再度、放たれた攻撃は当たり前だが、先ほどの焼き直しのように信濃さんの魔剣に収束される。

そして、先ほど以上に魔力を込め、威力を底上げし、男に強烈な一撃を放つ。

 

これならジェネリックシールドでは防げないんじゃないか?

俺がそう思い、頬を綻ばせる。

 

しかし、敵は≪ジェネリックシールド≫で防ぐことはしなかった。

 

ただ、勿論無防備に受けた訳ではない。

転移魔法の黒い靄を発動したのだ。

 

発動された黒い靄は《俊撃・三式》をその内部へと誘う(いざな)。そして、突如俺の背後に出現した黒い靄から《俊撃・三式》を外へと放つ。

 

俺は心臓が止まったような感覚に陥る。

いや、違う。

俺の心臓が止まったんじゃない。

命の危機に陥ったことで周りのものがスローになっているのだ。

それにより心臓の鼓動すら長く、長く感じてしまっている。

 

 

……完璧なまでに虚をついた攻撃だった。

そもそも、転移魔法を攻撃に転用してくると言うのが予想外だ。

転移魔法とは専ら移動手段に使われる魔法であり、そもそも人類は殆どその技術を解き明かせておらず、魔物もエスケープにしか使ってこないため、この様な魔法の使い方をしてくるとは思っていもいなかった。

 

俺は咄嗟に≪ジェネリックシールド≫を張り、防御に徹する。

だが、俺の≪ジェネリックシールド≫では防ぐのは不可能だ。

 

俺はせめてもの抵抗に男を睨む。

それと同時にまさかこれ程の実力を持っていたとは、という雑念が生まれる。

どうやったら、生き残れたのか、と益体のないことを考えてしまう。

 

敵が大量の魔法を使った時点でもっと気を引き締めるべきだったか?

俺を狙ってくると言う考えを持つべきだったか?

 

そこまで考えて俺は信濃さんの言葉を思い出した。

 

『才君、敵を侮らないで、あいつは多分真道君の実力をしっかりと把握している。』

 

ああ、何で俺は信濃さんの言葉を真面目に聞かなかったのだろう。

自分よりも実力も経験もあるのに、何で自分の意見の方が正しいと思って取り合おうとしなかったのだろう。

俺の忠言に耳を貸さないと憤っていたのに、その言葉が相応しいのは俺だったんじゃないか?

 

こんなことに、こんな当然のことに今頃気が付くなんて。

 

死んだら、この反省を活かせないじゃないか……。

俺は男の瞳に映る馬鹿な子供を見つめながら自嘲気味な笑みを浮かべた。

 




どうでもいい余談

因みに作者は別に真道君が馬鹿だとは思いません。

馬鹿は死んでも直らないという言葉があるように、恐らく本当に反省のしない人間と言うのは自分の何が悪かったか、と言う点について考えること自体がないと思っています。

自分が100被害者だと思うのではないでしょうか?

それと真道君は別に音長君たちを下に見て優越感に浸ったり、悪感情を持って見下したりはしていません。
どちらかと言うと、大人が子供に向けるように庇護対象として見ていました。
子供より優れている部分があったとしても、それを誇る人はいませんよね?
そんな感じです。

戦人のハーフで元護懐の息子である自分は皆を守らなければいけないと感じていただけです。



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今の俺に出来ること

お久しぶりです。
この戦いが終わるところまで書いていたら、思った以上に時間がかかってしまった。

モチベの問題もありますが……。

それはともかく、取り敢えず、この戦いまで(エピローグ以外)は書き終えたので出来るだけ近い間隔で投稿、したい‼です。



 

どうしようもならない現状に諦観の気持ちが込み上げていた俺を救ったのは、意外なことに信濃さんだった。

信濃さんの忠告を悉く聞き流していた俺を彼女は身を挺して守ってくれたのだ。

勿論、彼女は護懐。

自分の放った魔法で自滅するようなことはなく、再度固有魔力波で《俊撃・三式》を吸収してみせた。

 

しかし、この一撃を無傷で防げたからと言ってこの行動が戦局を左右しなかったかというと、そんなことは無い。

そんな都合のいい展開、俺には起こらなかった。

 

俺を庇ったことによって発生した一秒にも満たない時間。

 

 

その刹那の時間を使い、男は転移魔法で信濃さんの背後を取ると、側頭部に上段蹴りを入れる。

 

ドゴンっと、時速120キロで走ってくるダンプカーがぶつかって来たのではないかと疑ってしまうほどの重い爆音がその場に満ちる。

 

その一撃を直で受けた信濃さんはゴムボールのように軽々と吹き飛ばされてしまった。

 

「ふむ、やはり人類には転移魔法を攻撃に使用するという考えは無かったか、あの方の言っていた通りだな」

 

信濃さん大丈夫だろうか?

俺は信濃さんの方に顔を向ける。

 

まだ倒れたままだが、マジックチップを入れ替えようとする手つきには支障が見られない。

信濃さん程の防人なら恐らく回復魔法を使用すれば戦線に復帰できるだろう。

それが分かっているからこそ、信濃さんもマジックチップを入れ替えようとしているのではないだろうか?

 

俺はそう自分を納得させる。

そうでもないと、自らの愚かしさによって心が折れてしまいそうだから、無理やりにでもそう自分に言い聞かせる。

 

そうしていると、俺は自分が見られていることに気づく、どうやら、男は俺に意識を向けてきているようだ。

信濃さんという最大の障害を無力化したから、その次に危険な俺を狙う、という訳ではないことを()()()()()()()()()

 

俺は弱く、それでいて、信濃さんにとっての弱点となってしまう只の子供。

 

だからこそ、奴は俺を無力化しようとしているのだろう。より確実に信濃さんを倒すために。

 

それでも、いやだからこそ、俺は魔剣を構える。

 

認めて欲しいからじゃなく、足手纏いにならないために俺は俺の出来ることをやらなくちゃいけない。

 

俺は魔剣にセットしている魔法を発動する。

発動した魔法は≪フィジカルオーガ≫、一般的な強化魔法だ。

奴と戦う上ではこの上なく心許ないが、これ以外でバランスの良い身体強化魔法を俺は持ち合わせていない。

この状態で信濃さんが体勢を立て直す時間を稼ぐこと、それが俺に出来ることだ。

 

とはいえ、相手のペースになったら俺は抵抗する余地すらなく無力化されるだろう。

それが分かっていたからこそ、俺は敵に主導権を取られないために、自分から仕掛けていく。

全力で間合いを詰めての一振り、素振りをしていてもそうそう出せないであろう研ぎ澄まされた一振り。

 

しかし、俺の繰り出した刃は男に易々と掴まれ、勢いを止める。

 

……だが、それでいい。

そんなことは分かっている。

 

「≪サンダーバード≫!」

 

刃を鷲掴みにされた瞬間、至近距離で≪サンダーバード≫を放つ。

俺が魔剣にセットしているマジックチップは≪ジェネリックシールド≫と≪フィジカルオーガ≫だが、戦人である俺は自らの身体機能によって魔法を発動出来る。

 

防人を相手にしていると思っていては防ぎようのない不可避の一撃。

 

例え、足軽大将級の二つ上、徒組頭級であったとしても無傷とはいかないであろう攻撃。

 

怯んでくれ、俺はその思いを込めて雷光の向こう側に意識を向ける。

 

ただ、そんな俺の願いを鼻で笑う様に、雷光の止んだ後には傷一つ負うことなく男が悠然と立っていた。

 

≪ハードソリッド≫を使って耐性を上げているのは分かるが、いくら何でもこれはあんまりだろう。

俺はその光景を見て、咄嗟に距離を取る。

そう、距離が取れたのだ。

 

魔剣を持ったまま。

 

そのことに後から気づき、男の様子を観察する。

男はやはり怪我一つしていないが、手を何度か握っては開いてを繰り返していた。

 

「驚いたな。腕が麻痺したか……。

お前の評価を少し上方修正しよう」

 

男はそう言うと先ほどの様な待ちの姿勢ではなく、転移魔法を用いて積極的にこちらを殺す姿勢に移る。

 

俺の周りには六つの黒い靄が現れる。

恐らくこのどれかから姿を現し攻撃を仕掛けてくるのだろう。

 

俺は自身の半径五メートルの位置、靄と自分との間に≪ジェネリックシールド≫を張る。

この際に透明度を引き上げ極薄の状態にして発動する。

 

これで、相手がこちらに攻撃を仕掛けようとした場合は≪ジェネリックシールド≫を突き破ることになる。

そうすれば、魔法が破壊された感覚で気づくことが出来る筈だ。

 

そんな風に考えていた俺はその後の動きの為にマジックチップを入れ替える。

しかし、男はそんなに甘くは無かった。

 

「どうした?後ろが留守のようだが?」

 

俺は咄嗟に後ろを振り向く。

そこには俺の背後、突如現れた()()()の靄から這い出てくる男の姿があった。

六つの靄は囮だったのか?

冷や汗が背中を伝う。

 

囮であることを想定していなかったことに後悔する。

 

クッソ、こんな所で……。

 

俺は男に思い切り蹴られる。

十メートルは吹き飛ばされた。

しかも、吹き飛ばされたことで張っていた≪ジェネリックシールド≫も粉々に砕け散ってしまった。

 

相手がシールド内に入って来ていたため、張った意味は無くなっていたが、その行動自体がまるで俺の無力を嘲笑っているように感じた。

 

ただ、敵が至近距離に来たことで俺も魔法を発動出来た。

使った魔法は≪ヘビーメテオ≫。

付与対象の重量と防御を引き上げる魔法。

 

これを男の衣服に向かって放った。

一瞬男が蹌踉めく。

予想外の重さに虚を突かれていた。

 

仮にこれが付与対象を男にしていた場合は人が瘴気を無力化できるように魔力量の違いにより、抵抗されていたことだろう。

だが、服に関してはそうはいかない。

 

俺は男に吹き飛ばされ、地面に転がりながらも不敵な笑みを浮かべる。

 

そして、浮かべた笑顔は直ぐに驚愕の表情に搔き消されてしまった。

 

何故なら、男が服を撫でた瞬間俺のかけた付与魔法の効果が打ち消されてしまったのだ。

 

「何を驚いている?敵本体を対象に出来ないのなら、身に着けている衣服や武器、装飾品に能力を発動させる、なんていうのは随分前から使われている運用法だぞ?

 

……ああ、この世界では無かったが」

 

つまり、こいつは服などに付与された魔法を解除したのか?

 

一体いくつの魔法を使えるんだ……

 

弱音が口から出てきてしまう。

本当に勝てるのかと心の奥底の部分が弱音を吐いているのが分かる。

 

 

心が嘘を付けなくなっている。強がれ無くなっていた。

 

「お前は……一体いくつの魔法を使えるんだ。なんで並列してそんなに多種多様の魔法を使えるんだ。衣服に付与された魔法を解除できるって何だよ。何で転移魔法を使えるんだッ。」

 

それは勝てないと駄々を捏ねる子供のようであっただろう。

俺自身言っていて恥ずかしい。

 

だから、膝まで着くわけにはいかない。

仮に張りぼてだとしても、格好の着かない見栄だとしても俺の努力が信濃さんの命に直結するのだから。

 

俺は敵に魔剣を構える。

その様子に男は顎に手を当てると何やら考え込む。

 

そして、

 

「ふむ、まあいいか。お前に教えてやろう。」

 

 

「まず一つ、俺は今までで一つの魔法しか使っていない。

固有魔法と言うのを知っているか?」

 

固有魔法、聞き馴染みのない言葉だ。

ただ、一部の防人が使える固有魔力波と似た感じだろうか?

俺は正直に男にそう伝える。

 

「成程。そうだな、お前が言った固有魔力波が人にとっての固有魔法、と言う考えてもいいかもな。

詰まる所、本人にしか発動できない魔法という奴だ。全ての者が持っているわけでは無い特別な力だ。

 

 

 

そして、俺の固有魔法は≪記憶の海(プロテウス)≫。

一度見た魔法を過程を飛ばし、再現する魔法だ。

魔法の構築も素質も練度も必要とせずに発動が出来るという力だな。」

 

その話を聞き、その出鱈目さに目を見開く。

意味が分からない。

構築するという手順も本人の適正も練習し自らのものにするという努力すら鼻で笑う魔法。

そんなものがあっていいのか、と声を大にして訴えたい。

 

俺がそれだけ動揺していても男は構わず話し続ける。

 

「それと、先ほどの魔法は自分が愛用している道具にしか発動しない魔法だ。

だから、まぁ……惜しかったな。

何でも、愛用しているものを人は自分の一部のように感じるという心理を利用し、発動範囲を自分を中心に拡張した魔法だとか言っていた気がするぞ?」

 

男の話す内容が殆ど頭に入ってこなかった。

それよりも、≪記憶の海(プロテウス)≫の出鱈目具合に思考の大半を持っていかれてしまう。

 

こいつを倒すことが果たして可能なのだろうか?

そんな疑問が生まれてしまう。

敵の能力の全貌が分かったからこそ絶望してしまうなんて……。

 

「……さて、俺の能力を知って殺される覚悟は出来たか?」

 

話し終えて心なしかスッキリした顔をする男に向かって、俺は…………

 

「断る。俺も信濃さんも死んだりしない。」

 

俺はキッと男を睨む。

確かに敵の強大さに膝を屈してしまいたくなる気持ちはあるが、それよりも信濃さんを守らなければいけないという気持ちが上回る。

 

それは、信濃さんが弱いからじゃない。

信濃さんこそ俺の希望だからだ。

 

信濃さんさえ回復すれば敵が如何に強大だろうと打ち倒してくれる。

もし、信濃さんが倒せなかったのなら俺なら尚更倒せないだろう。

その時は男に精一杯悪態をついてから殺されてやろう。

 

その考えは、少し前までの俺であれば唾棄すべき考えであっただろうが、不思議と今の俺にはその考え方がストンと胸の奥へと収まった。

 

死にかける経験が俺に限界と言うのを教えてくれたのだろうか?

諦めたつもりは毛頭ないし、負ける気もないが、何だか今まで無理していたのが馬鹿馬鹿しく感じる程、肩の力が抜けていた。

 

それこそ、どれだけ敵が強大でも自暴自棄にならずに冷静に立ち向かえるほどに。

 

俺は一枚、マジックチップを入れ替える。

そして魔法を発動する。

ただ、この魔法は自力で発動したものだ。

魔法名は≪サンダーウルフ≫十にも及ぶ雷の狼を生み出し操る魔法。

 

この魔法を変形させ、雷のドームを生み出す。

このドームは内部までも雷が満ちており、迂闊に攻め入ることが出来なくなっている。

俺なりの転移魔法の防御手段だ。

 

しかし、男はそれを物ともしていないという様に突っ込んでくる。

真っ向勝負を仕掛けてきたのだ。

 

昔の俺なら馬鹿正直に挑んでいただろう。

だが、こちらの方が弱いのだ。

策を弄させて貰う。

 

 

先程の男の話は確かに殆ど耳には入ってこなかったが、それでも勝つために頭を回し続けていたのだ。

必要な内容だけは頭の中に入れている。

その中の一つ、俺の≪ヘビーメテオ≫を解除した際に男が言っていた内容を思い出す。

 

『愛用しているものを人は自分の一部のように感じるという心理を利用し、発動範囲を自分を対象に拡張した魔法』

 

詰まる所、認識によって魔法の対象範囲は変わるということじゃないだろうか?

もしそうならば、物質でなくても場合によっては魔法が発動できるということだろうか?

 

俺は考える。

今まで息をするように出来ていたことは一体どのような理屈に基づいているのか。

 

魔法を操るとは何か?

魔法を編み発動させるというのは分かる。

それは物を作ることに似ている。

設計図通りに魔力を編み、専用の道具(戦人が持つ器官)で加工する。

しかし、一度完成した魔法を変形させたり、相手に向かって放つという動作は果たしてどうやって行っているのか?

 

魔法を車に置き換えて考えてみて欲しい。

 

みんなが然も当たり前にやっている魔法の変形という工程。

これは車のタイヤをスタッドレスに変える行為に近いだろうか?

しかし、車のタイヤをスタッドレスに変えるには当然人の手が必要だ。

触れずに行うことなんて出来ない。

 

魔法を遠隔で操作するという工程。

これは車を動かすという行為に近いだろうか?

しかし、作った車を動かすにはアクセルを踏み、ハンドルを動かすという行為が必要だ。

 

これらを踏まえたうえで自らの手から離れた筈の魔法を変形させ、操るのは一体どういう風に行っているのか。

 

当然、車の例に習うなら人の手が必要な筈だ。

 

ただ、俺達は魔法には触れていない。

ならば俺は更に一歩踏み込まなければいけないだろう。

そう、詰まる所、触れていないものを操るにはどうすれば良いか?

 

 

それを考えた俺はある物を思い出す。

 

それはラジコン、もしくはマリオネットだ。

あれらは人が触れずに操っている。

その仕掛けは片方が電波で片方が糸。

手は触れていないが、確かな繋がりを持ちそれを使い操っている。

 

ならば、魔法だってその理が当てはまるのではないか?

 

俺は魔法に意識を向ける。

それは自らの手に意識を向け動かそうとするような行為だった。

意識的に右足を出し歩く。

そんな行為だった。

 

そして、俺は確かに感じることが出来た。

魔法と俺との間にある繋がりを。

 

そこまで行けば後は簡単だ。

 

俺は先程入れ変えたマジックチップ≪シャープネス≫を発動する。

その対象は自分自身でも敵でもそもそも物質ですらないもの、俺が放った≪サンダーウルフ≫に対してだ。

今まで現象に過ぎない魔法に付与魔法を使おうと思ったことはない。

ただ、この魔法という現象があくまでも俺の延長線上にあるというのであれば、付与できない道理はない。

 

更に俺は≪サンダーウルフ≫に≪ヘビーメテオ≫を付与する。

≪ヘビーメテオ≫の効果は重量と防御力の強化、つまり俺を覆う雷のドームは物理的な壁としての機能を有するようになった。

しかも、≪シャープネス≫によってよく斬れる

 

それに真正面から突っ込んできた男は当然ながら……

 

「グッ‼」

 

ゴンっと硬質な壁にぶつかったような音を鳴らしがら弾き返される。

しかも、雷の持つ感電するという性質が無くなった訳ではないので、雷は体外から体内へと食い破るように駆け巡っていく。

 

勿論、≪ハードソリッド≫を発動している以上、格下である俺の魔法はそこまでのダメージは叩き出せていない。

しかし、敵は確かに予想外の反撃に驚いていた。

 

多少は怯ませることが出来たのだ。

 

そして、この少しの間の攻防で信濃さんは完全回復していた。

 

「……全く、カッコ悪い所を見せたね。才君」



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誰かを助ける戦い方を

前回の話のサブタイトルが変わっていますが、特に内容の変更は無いです。


 

「……全く、カッコ悪い所を見せたね。才君」

 

そう言いながら、男に斬りかかり、俺のことを何時でも庇える体勢になる信濃さん。

 

俺はそんな信濃さんに向かって言う。

 

「カッコ悪い姿を晒したのは俺の方です。

しかも、俺の慢心で信濃さんに無駄なリスクを背負わせました。」

 

無意識の内に唇を咬む。

恥ずかしさと不甲斐なさで信濃さんの顔を見ることが出来ない。

しかし、そんな俺に対し、信濃さんは優しい言葉をかけてくれた。

 

「大丈夫。私もそうだったから」

 

その言葉に反射的に信濃さんの顔を見てしまう。

すると、信濃さんは拳を強く握り、ここではない何処かを、もう戻ることが出来ない何処か遠くを見るように虚空を見つめる。

何故だかその哀し気な表情に俺は胸が締め付けられるような気持ちになる

 

「……ま、この話は戦いが終わったらしよっか!才君は離れてて」

 

信濃さんは先程の表情とは一転して何処までも明るい調子でそう告げる。

しかし、信濃さんの言葉に俺は異を唱える。

 

理由はただ一つ。

 

「俺にも手伝わせてください」

 

俺は信濃さんに頼み込む。

 

別にあの男を相手に多少通用したから調子に乗っているわけでは無い。

ただ、俺は少しでも勝率を上げたかった。

 

今の俺にも出来るのではないかと考えていたのだ。

 

「何で?」

 

信濃さんは厳しい顔をする。

それは当然のことだろう。

 

先程、俺が調子に乗ったせいで酷い目に遭ったのだ。

俺がまた調子に乗ったのではないかと懐疑的な視線を向けてしまうのも。

ただ、それに対し、俺は屹然と答える。

心からの気持ちを口に出す。

 

「俺は貴方と皆と帰りたい。

 

そのために出来ることをしたいんだ」

 

☆☆☆

 

頭がグワングワンとする。

 

小さく、不安定な船の上にいるかのように世界が揺れている。

才君を庇った後、その隙を突かれ、頭を蹴られてしまったようだ。

 

私は、恩師の子供一人満足に守れない自分に嫌気がさす。

まったく、何で私はこんなにも弱いのか。

 

……ただ、こうしてはいられない。

この間も才君が危険に晒されている。

私は今の自分に出来る精一杯の速さでマジックチップを入れ替える。

発動する魔法は≪マキシマムリジェネ≫。

最高峰の回復魔法。

この魔法で急いで戦線に復帰する。

 

私は男に油断なく意識を向ける。

しかし、男は標的を私ではなく才君に変えていた。

 

そして、才君自身私を気にしながら男に向かっていく。

 

私は精一杯の声で叫ぶ。

戦わなくていいから、逃げて、と。

しかし、私の声は才君には届かない。

 

私がいつも通りの大声が出せていなのもあるのだろうが、才君が戦いに集中しているのと、何よりも才君が行使する雷魔法が原因で私の声は届かなくなっているのだろう。

 

バチバチと爆音を鳴らすその魔法は周囲の音を容易に搔き消してしまう。

 

私は出来るだけ、急ぐ。

 

その間も才君は戦っている。

先程とは……私が庇う前とは違った戦い方だ。

それを何となく感じていた。

 

しかし、具体的にどう違うかと言われると言葉に窮してしまう。

何と言うか感覚的なものなのだ。

 

ただ、厳然たる事実として言えることは才君は短い間とは言え、あの男と戦えているのだ。

しかも、戦いの中であの男の能力が割れた。

記憶の海(プロテウス)≫、か。

恐ろしい能力ではあるが、別段驚きと言うものはない。

 

何故なら私達は既に知っているのだ。

固有魔法の存在を。

 

前任の【無二】であった真道勇利が使っていた黒い雷。

本人にしか扱えない強力な魔法。

 

その存在があったからこそ、彼女は差して驚くことなく現状を理解できた。

それに、固有魔法の存在を知った時から、固有魔法の研究は行われていた。

 

だからこそ、私にとって固有魔法という概念は脅威にはならなかった。

勿論敵の能力自体は相当厄介だと思うけど……。

 

でも、才君が敵と相対している現状の方が私にとっては男の能力などよりも余程重大な危機だったのだ。

 

 

だからこそ、私は体が動ける程度になった瞬間飛び出した。

勿論本調子には程遠いが最悪才君を逃がすくらいは出来るだろう。

 

私は男に斬りかかり距離を取らせると、才君に告げる。

ここから先は私が受け持つと。

だけど、才君はその私の発言に対し、意見した。

自分も戦いたいと。

 

私は嫌だった。

凄く嫌だった。

だって、勇利さんの息子さんである才君を失いたくなかった。

私の大切な、大切な…………恩師の息子を失いたくなんて無かった。

 

だからこそ、私は敢えて不機嫌そうな表情を作り、問い返す。

 

「なんで?」

 

彼は何だか、昔の自分と似てるから、きっと、「皆を守りたい」とそう言うだろう。

自分の力以上のことを望むだろう。

 

もしそうなら、言わなくてはいけない。

その行為は大切なものを失うと、力を伴わない願いには価値が無いと。

 

しかし、才君はこういった。

 

「俺は貴方と皆と帰りたい。

そのために出来ることをしたいんだ」

 

それはかつての私が発した言葉とは似て非なるものだった。

自分が皆を守る、ではなく、皆と一緒に帰る。

そのために出来ることをする。

 

自分が守らなくても、守れなくてもいい。

ただ、帰るための努力は怠りたくない。

そんな風に私には聞こえた。

 

……全然違った。

昔の私とも

 

 

今の私とも。

 

それでいて、似ている。

成長限界に達していながら、自分の出来ることを懸命に成していた勇利さんに。

 

だからだろうか?

私は頷いてしまう。

頷いてはいけない場面なのに。

 

「分かった。良いよ。でも無理はしちゃ駄目だからね?」

 

ああ、全く、私は馬鹿だ。

無駄なリスクを何で追ってしまうのだろう。

 

☆☆☆

 

「分かった。良いよ。でも無理はしちゃ駄目だからね?」

 

信濃さんはそう言いながら、俺に優しい眼差しを向ける。

良かった。何とか信濃さんに許可を貰えた。

 

俺はほっとしながらも男からは目を離さない。

男は未だこちらの様子を伺っているようだ。

確実に信濃さんを警戒している。

 

しかも、俺に手傷を負わされたためか、俺の雷のドームも視界に入れているみたいだ。

俺はこのドームを崩し、再度九体の雷の狼を生み出す。

狼たちは空気を裂き、地面に稲光を走らせながら男に向かう。

()()()()()なその光景は使い手である俺からしても、アニメのようだという感想を抱かせる。

 

しかし、自分一人を守るならドームの方が効率が良いだろう。何故、それをしなかったかと言うと理由は簡単で援護が出来ないからだ。

 

それに、信濃さんが復活した現状。

男もおいそれと俺にちょっかいを掛けられないだろうし、それなら、狼を生み出す方が良い。

 

俺はそう考え、男に狼をけしかける。

 

すると、男は舌打ちし、黒い靄を生み出す。

そして、俺達の真横に出現した。

それに直ぐさま反応する信濃さん。

 

しかし、今回に関しては俺の方が少しだけ早く対応することが出来た。

俺は男へと()()()の狼をけしかけたのだ。

 

「ッ何⁉」

男は驚愕した顔を浮かべる。

当然男が驚いたからと言って俺は攻撃を辞めない。

男の腕を狼に噛みつかせる。

 

そう、本来この魔法は十体にも及ぶ狼を出す魔法。

当然、ドームを崩して狼に戻した場合も十体の狼へと戻る。先ほどの狼は九体、つまり最後の一体は形を戻さずに俺の近くに待機させていたのだ。

それなら、何故男が気付かないのか、と思われるかもしれないが、戦いの最中に二、三体なら兎も角十体もいる狼を数えることが出来る者は少ない。

 

それに、俺は敢えて、九体の狼を()()()嗾けた。

これにより、男はその狼たちに意識がいき、俺の近くの雷には気づくことが無かった。

 

完全に狙い通りだ。

俺はそうニヤリと笑う。

 

恐らくだが、男は魔法の応用を得意としていない。

それは男の固有魔法を考えれば容易に想像がつく。

 

魔法の構築も素質も練度も必要としない、男が態々魔法を練習する必要はない。

実際、男の攻撃は魔法による物量や付与魔法を自分にかけて突っ込んでくるか後は転移魔法で場所を移動するかしかしていない。

 

それはこの男の人生においてそれで事足りていたからだろう。

だからこそ、こういった魔法の応用や搦手には滅法弱いと当りを付けた。

それこそ、俺達が転移魔法を戦闘に使うと想像出来なかったように。

 

これで終わりだ

 

俺がそう言うより早く、信濃さんが動き、男をその刃で絶とうとする。

男は自分の腕に噛みつく狼に気を取られ、反応が遅れている。

直ぐに決着がつく。

 

俺がそう確信した瞬間。

 

 

 

 

男から黒い雷が発せられる。

狼が消し飛ばされる。

 

幸い信濃さんは距離をとりダメージを逃れたが、その表情は驚愕に彩られている。

そして、その小さな口から、言葉が紡がれる。

小さな、そして震えたその声は不思議と屋上に響き渡る。

 

「なんで、何で、あなたがその魔法を使えるの?」

「なんで、だと?そんなことは簡単だ。俺の魔法は魔法の模倣。

それは固有魔法も例外ではないということだ」

 

男は鬱陶しそうに俺の放った狼、の残滓とも言うべき雷を手で払う。

もうほとんど力を残していなかったそれは、その行動で簡単に掻き消えてしまう。

 

そんな男の様子をよそに信濃さんは呟く。

 

「…………な。……うな…。

 

 

お前が、その魔法を使うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァ」

 

そう言うと、信濃さんは男に駆け出し、斬りかかる。

何故信濃さんがそんなに怒っているのか分からなったが、次の台詞でその理由が分かってしまう。

 

「それは、それは!勇利さんの魔法だッ‼」

 

……そうか、これが父さんの魔法。

成程、道理で信濃さんが怒るわけだ。

 

しかし、怒りで戦闘能力が上がるわけでは無い。

信濃さんは黒い雷を纏う男にどんどんと押されていく。

 

俺も、雷の狼で援護しているが、黒い雷を纏ってからの男の動きは先程とは比べ物にならない程上昇している。

 

このままでは信濃さんが殺されてしまう。

 

だからこそ、俺は雷の狼だけではなく、マジックチップを入れ替え≪フィジカルオーガ≫をセットし信濃さんに付与する。

そして、≪フィジカルオーガ≫のマジックチップを即座に≪オートヒール≫に変更し、再度信濃さんに魔法を掛ける。

 

ただ、流石に面倒だと思われたのか、男が転移魔法で俺の近くに現れる。

俺はそれでもマジックチップを変えるのを辞めない。

 

「邪魔をするな!小僧‼」

 

「残念だけど、控えている狼は一体だけじゃない。」

 

俺はそう言うと再度狼を嗾ける。

それに対し、男は先程の痛みが残っているのか狼の存在に一瞬怯むが黒い雷を纏った手で振り払う。

 

それにより、狼は簡単に掻き消える、

しかし一瞬は稼げた。

 

その間に信濃さんが男に接近し、斬りさく。

先程よりも圧倒的に良い動きだ。

黒雷を纏う男相手に互角にやり合っている。

 

しかも、そこに俺の援護が入るのだ。

確実に削りきれるだろう。

 

因みに先ほどの狼は何時もの良い訳用に用意した≪サンダーボルト≫によて作った正真正銘の紛い物だ。

大した威力もでない単なるコケ脅したが上手くいって良かった。

 

 

俺がそう思っている間も男にはダメージが蓄積されており、遂には片膝を着く。

 

「……どうやら、お前たちのことを侮っていたらしい」

 

しかし、男はそう言いながら、再度立ち上がると自らに付与魔法を発動する。

 

 

魔法は≪リトルタイタン≫や≪クイックミゼット≫などの上位魔法だ。

しかも、≪オートヒール≫も発動したのか傷もどんどん癒えていく。

 

これにより、再度信濃さんは押されていく。

それは俺の狼の援護を受けても変わらない。

それどころか、俺の狼も既に残り六体になっていた。

出来るだけ、消されないように細心の注意を払いながら戦っていたが、それでも、少しずつ数が減っている。

このままじゃ駄目だ。

この状況を変える強力な一撃が必要だ。

ただ、勿論、俺にそんな大それた切り札など無い。

 

だからこそ、持っていそうな人に声をかける。

 

「信濃さん!どデカい一撃って打てますか?」

 

信濃さんは一瞬俺の質問に窮するように眉を寄せるが、それでもちゃんと答えてくれた。

 

「……十秒あれば、出来ないことは無い。」

 

男の攻撃を捌きながら、そう答えてくれる。

十秒。

 

 

なら、その時間は俺が稼がないとな。

俺は信濃さんに向け声を張り上げ告げる。

 

「なら、その時間は俺が絶対稼ぎます。」

 



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手の届かない陽だまりへ、私はそれでも手を伸ばす

「なら、その時間は俺が絶対稼ぎます。」

 

そう言うと残りの雷狼を男に全力投入する。

 

男は全身を嚙まれそうになるが、それを黒雷で防ぐと、そのまま黒雷で狼をかき消す。

それによりこちらの狼は形を失い、弱弱しい(いかずち)と稲光だけが少しの時間この場に留まり、それも線香花火のように直ぐに消えてしまう。

 

その短い攻防の間に信濃さんはマジックチップを入れ替える。

しかし、信濃さんの顔は困惑を隠せていない、色々な感情が入り乱れているような、そんな複雑そうな顔をする。

少なくとも、俺にはそう見えた。

 

「……なんで、何で私を信じるの?会ったばっかりだよ?」

 

信濃さんの言葉に俺は首を傾げる。

 

「貴方が父さんの弟子だから、父さんを信じてるっていうのと……何より!俺が接してきた信濃さんっていう人は信頼に値する人だからです!」

 

父さんを信じてるっていうのは勿論あるが、それよりも、俺はこの人を個人的に信じていた。

これからも信じたいと思っていた。

 

それに、

 

「でも、貴方一人で何でもかんでも背負わないでください。

貴方の荷は俺にも背負わせてください。

そんで、俺の荷も背負うのを手伝ってください。

 

信頼できる人にしか頼めないことなので‼」

 

俺の口は勝手にそんなことを紡いでいた。

 

今まで頼れる大人と言うのがあまりいなかったため、親父の弟子であり、ここまでの行動で尊敬できる人だと思えた彼女に甘えたくなってしまったのだろう。

 

少しだけ、恥ずかしい。

だけど、その言葉に信濃さんは少しだけ笑う。

 

「……そっか、分かった」

 

とは言え、普通にやっては俺の手札では十秒も持たない。

ならば、どうするか。

当然、普通じゃない方法を使うしかない。

 

俺は先程セットした≪サンダーボルト≫を使う。

勿論そのまま使う訳じゃない。

 

この魔法を改変する。

何故、同系統の魔法なら、魔法を途中で変更できるのかと言えば*1、それは同系統の魔法には互換性が存在するからだ。

そして、その中でも≪サンダーボルト≫は雷系統で最もポピュラーな電気を放つという癖のない基礎的な術式となっている。

だからこそ、防人たちの間では変化を加えやすいと言われているのだ。*2

そして、それはつまり術式に手を加えるにはうってつけの魔法ということでもある

 

本来高度な魔法改変。しかし、マジックチップには既に魔法が刻まれている。それは戦人の息子である俺からすれば、既に基礎的な工程を終えているに等しい状況だ。

一から、作って改変するから従来の魔法改変は難しい。だが、既に基礎を作り終えているのならむしろ改変する方が魔法を一から編むよりも簡単だ。

 

だからこそ、俺はより強力な魔法を編む。

通常の自分では出来ないような魔法。

俺のオリジナル魔法。

その名も

 

「行け‼≪雷狼軍勢(サンダーウルフ・アーミー)≫」

 

それは俺が愛用する魔法の一つ≪サンダーウルフ≫をより強力にした魔法。

数は数えるのすら下らない、屋上を覆いつくすほどの大群。七十はいるだろうか?

 

それでいて、本体は雷のため、空を駆け、縦横無尽に敵に襲い掛かることが出来る立体軌道の達人集団。

 

残念ながら、≪サンダーボルト≫をセットした際に≪シャープネス≫は外してしまっているが、≪ヘビーメテオ≫はセットしたまま。

俺はこの軍勢に≪ヘビーメテオ≫を発動する。

これで、物理的な壁として機能するようになった。

攻撃面は先程よりも劣ったとしても時間を稼ぐのならこれで十分だろう。

 

俺は狼を操り、男に嗾ける。

それに対し、男は黒雷を身に纏い次々と狼を消していく。

一方的に消されていく姿は宛ら無双ゲームの雑魚キャラのように見えなくもないが、それでも確かに時間は稼げている。

 

男が一度に消してくる数は凡そ十。

それだけの数がいなければ、時間稼ぎすら出来ない。

ある時は正面からファランクスの陣形のように物量で突撃させ、ある時は大勢の狼を囮に黒雷の出力が低い所を少数の狼に襲わせる。

 

そう言った手段を用い、着実に時間を稼ぐ。

しかし、狼の頭数が減れば自ずと転移での奇襲が通りやすくなる。

 

だからこそ、男としてはここら辺で俺、もしくは信濃さんを攻撃したいはずだ。

俺は自分の周りと信濃さんの周りに狼をそれぞれ十頭ほど配置する。

 

これで、俺と信濃さんの近くに転移してきても一瞬は時間を稼げる。

 

実際、男は転移を使い、俺の前に現れる。

しかし、そこは俺の周りの狼たちが男の時間を稼ぎ、その間に俺は後退し、狼たちに俺を囲わせる。

 

しかし、そこで重大な事実に気づく。

狼の数が既に二十を切っていたのだ。

 

時間を稼ぐことに集中しすぎて全く気づくことが出来なかった。

これではこれ以上の時間を稼ぐことは不可能だ。

 

 

そんな風に、考えていた俺の耳に信濃さんから朗報が届く。

 

「才君、あと一秒、あと一秒だけ、お願い‼」

 

あと一秒、その言葉に俺は安堵する。

それだったら、何とか稼げる。

俺は自身に≪ヘビーメテオ≫を発動する。

どうせ、こちらの最高速度は対応されるに決まっている。

ならば、捨て身で攻撃を受けるしかないだろう。

 

俺はそう思い、何処から来ても良いように構える。

相手に意識の全てを向ける。

 

 

 

 

 

そうして、構えていた俺は、急に味覚を刺激されたことに目を見開く。

 

鉄の味が口一杯に広がっていた。

 

目の前には男が立っていた。

そして、胸の辺りにある異物感にようやく気付く。

どうやら、俺の胸は男の腕に貫かれたらしい。

 

俺は残りの狼を全て男に嗾ける。

男は俺の胸を突き刺していた腕を抜くと、黒雷を放ち、その狼達を消し飛ばす。

後に残るのは雷狼の残滓、形を失った雷はバリバリと男にこびりつく様に稲光を放っている。

 

しかし、それに攻撃性は既に無く、男に痛痒を与えることは出来ない。

 

……一秒は稼げただろうか?

 

その光景を目に焼き付けながら俺はぼんやりとそんなことを考えていた。

 

「……見事だ。」

 

そんな俺に男は一言だけ言葉を残すと、転移を使い俺の目の前から消える。

信濃さんの攻撃を警戒し、この場から姿を消したのか?

 

少し前の俺ならそう考え気を緩めていただろうが、今の俺は違う。

自分と言う脅威を知られたからには奴はここで信濃さんを倒したいはずだ。

 

 

俺は指を指す。

信濃さんの斜め後ろ、男の出てくる方向を。

 

奴が消し飛ばした雷狼の残滓、()()()()()()()()()()()()()()辿()()その場所を特定したのだ。

 

最後の仕事を終えた俺は満足して瞳を閉じた。

 

☆☆☆

 

才君がフォローしてくれるようになり、大分動きやすくなった。

雷に強化魔法を付与するなんて、防人の中でも出来る人間は一体何人いるんだろう。

 

それ程高度なことをこの土壇場で成功させたことに私はちょっとだけ鼻が高くなった。

才君は現在進行形で成長している。

このまま、一気に畳みかけたいところだ。

頼もしい相棒を得て私はそんな風に考えてしまう。

心が弾んでしまう。

 

誰かと背中合わせに戦うのなんて、何時ぶりだろうか?

 

しかし、その余裕もそう長くは続かなかった。

 

才君の雷狼が黒い雷によって掻き消されたのだ。

 

それにより私は冷静さを失ってしまう。

雷狼が無力化される。

それは仕方がない。

敵はそれだけ強いのだ。何も対応してこないなんてことは無いだろう。

 

ただ、ただ、何故奴がその力を、勇利さんの魔法を使えるのか?

何よりも、勇利さんだけの魔法を勇利さん以外の人間が私欲によって使っているというのが許せなかった。

 

勇利さんを汚されている、そう言う気持ちが湧き出て私の胸は怒りで支配される。

 

アイツだけは許せない。ここで殺す。

 

私は男に斬りかかる。

だけど、私の剣は男には届かない。

黒雷によって身体能力が引き上がっている男に通常の肉体強化しか使っていない私ではどうやっても届かない。

 

今までの経験と固有魔力波の高速移動でどうにか敵の攻撃をは捌いているけど、正直いつこの均衡が崩れても可笑しくない。

ただ、強化魔法のマジックチップを使う余裕もない

 

そんな時に才君が≪フィジカルオーガ≫と≪オートヒール≫を使ってくれる。

完治していなかった傷が塞がり、更に身体能力が強化され、私の動きは格段に良くなる。

 

それこそ、黒い雷を使う男と互角にやり合えている。

更に、後ろには才君の援護が控えている。

 

男は才君を脅威と判断したのか、才君に接近するが、才君はそれに対し、狼を嗾け、時間を稼ぐ、その間に私が才君の下まで向かい、男に攻撃を加える。

才君に意識を割いたことで少しだけだが隙の出来たそいつをここぞとばかりに追い詰める。

そこに、才君の狼も攻撃に参加したことで遂に男は膝をついた。

 

 

「……どうやら、お前たちのことを侮っていたらしい」

 

しかし、ここで男は複数の上位強化魔法を自らにかけていく。

それにより、形勢は再度逆転する。

 

才君が狼で援護してくれてるから何とかなっているけど、正直それが無かったら私は今頃致命的な一撃を受けていただろう。

 

このままでは不味い。

才君の狼の数も着々と減らされている。

 

逆転するには狂実ちゃんに渡されたマジックチップを使うしかない。

ただ、そんな隙は無いし、……あまり使いたいものでもない。

 

私がそんな風に考えていると、才君が私に問いかけて来た。

 

「信濃さん!どデカい一撃って打てますか?」

 

その言葉に私は心を見透かされたのではと感じてしまう。

当然そんなことは無いのだが、私は動揺し少しだけ、言葉を詰まらせる。

 

「……十秒あれば、出来ないことは無い。」

 

ただし、あれには十秒かかる。

それまで相手が待ってくれるなんてことは無いだろう。

 

そう思っていると、才君は意外な言葉を言い放つ

 

「なら、その時間は俺が絶対稼ぎます。」

 

それは私を全面的に信じて命を預けるということ。

何故?という疑問が湧いて来る。

いや、今まで考えないようにしていた疑問が、不安が、口をつく。

 

「……なんで、何で私を信じるの?会ったばっかりだよ?」

 

それは、今まで聞くことが出来なかった問い。

私を疎ましく思っていたらどうしようと、恨んでいたらどうしようと聞くことが出来なかった問い。

仲良くなりたいと、■■(姉弟)になりたい思いつつも、言えなかった言葉。

 

今も聞いてしまったことを後悔している。

今すぐにでも先ほどの発言を撤回したくてたまらない。

 

そんな私の思いとは裏腹に才君は口を開いた。

 

言葉を紡いだ。

 

「貴方が父さんの弟子だから、父さんを信じてるっていうのと……何より!俺が接してきた信濃さんっていう人は信頼に値する人だからです!」

 

それは私が一番言って欲しかった言葉だった。

勇利さんとの関係を認めて欲しいと思った。

私を通して勇利さんだけを見て欲しくなかった。

 

だって、私は彼と姉弟(家族)になりたかったのだから。

 

……まあ、才君にそんなつもりはないんだろうけど。

 

それでも私は構わなかった。

涙を堪える私に彼は更に追い打ちをかける

 

「でも、貴方一人で何でもかんでも背負わないでください。

貴方の荷は俺にも背負わせてください。

そんで、俺の荷も背負うのを手伝ってください。

 

信頼できる人にしか頼めないことなので‼」

 

まったく、無自覚に言っているとしたら彼は相当な人たらしだ。

その言葉で私の心は完全に落とされていた。

勿論、異性としてではないけれど。

彼の言葉なら、信じたいと思ったのだ。

勇利さんの息子としてではなく一個人として。

 

「……そっか、分かった」

 

私は直ぐに準備を始める。

マジックチップを入れ替え、固有魔力波を照射し起動する。

 

くるみんに渡されたマジックチップは人類の手で固有魔法という概念を自分たちにも使えるように製造工程も発動方法も一から編み直した、人類の能力と技術の結晶だ。

 

このチップは製造の際に使用者の血を材料にし、固有魔力波を封じ込めるという工程を経て作られている。

 

編み出される魔法は製造者にすら分からない。

ただ、持ち主のみが本能的に理解するという特異なチップ。

 

更に、発動には固有魔力波を当てることともう一つ、オンリーワンの詠唱が必要になる。

これに関しても持ち主だけが本能的に理解する。

何故なら、固有魔法とは本人が心に秘める願望の発露だから。

 

私は息を吸う。

幸い、才君の方は雷の音で私の詠唱は聞こえないだろう。

 

「暗晦の荒野、曇天の空、深海の漣。

星無き世界で私は願う。雲切り開く閃耀を。

幼き日の平生を。

泡へと帰した夢想の世界。

私は再度、手を伸ばす。

龍の道標、星の軌跡、届かぬ空へと思いを馳せる。」

 

それと同時にマジックチップが回路のような線を描き、魔剣と私の体に伸びてくる。

これで準備は九割方完了した。

 

しかし、才君の方はそろそろ限界のようだ。

せめて後一秒あれば発動できる。

私はその旨を彼に伝える。

 

「才君、あと一秒、あと一秒だけ、お願い‼」

 

これにはこれから魔法を発動するという意味も込めていた。

しかし、次の瞬間には才君は胸を突き刺されてしまう。

 

私の発言は不用意なものだったのだろうか?

今すぐにでも才君に歩み寄りたい。

しかし、才君はそんな私を前に指を向ける。

その視線は私の方を向いていなかった。

 

何故だか、「後ろから来るぞ」と言っているような気がした。

私は直ぐに後ろを振り向き、指の先へと魔法を発動する。

 

「≪空へと延びる星の光(ストルゲーア―ストゥロ)≫‼」

 

私がこの周辺の光エネルギーと電気エネルギーを吸収したことで一瞬だけこの地域一帯が闇に包まれる。それを束ねて放たれるは私の固有魔力波の特性を持つ光線。

 

そして、予想通りと言うべきか予想外と言うべきか、本当に私の斜め後ろへと転移してきた。

私の攻撃は敵にとって予想外だったのか、目を大きく開けて、咄嗟に黒雷でガードする。

 

黒雷の防御力によって暫く耐えているようだが、私の収束の効果で黒雷はどんどんと剝がされていく。

 

とは言っても、向こうも只でやられてはくれない。

 

「成程、ならば目には目を歯には歯を、といこうか?」

 

男は私の光線と瓜二つの光線を放ってきた。

 

光線同士は拮抗する。

私の魔法を真似たのだろう。

 

だが、私たちの固有魔法は心の力。

ガワだけ真似た所で意味は無い。

何故なら、一秒前の私の光線よりも今の私の光線の威力は格段に上がっているのだから。

私の欲求がそのまま威力として反映される。

 

「威力が上がって、いるのか!この、ままでは……。」

 

太陽光を吸収し、辺りの電力を吸収し、男の光線を吸収する。

 

そして、私の光線は男の光線やその他のエネルギーを吸い、極太レーザーとなり、圧倒的な熱量で男を覆いつくした。

 

 

 

*1
魔法改変(第5話 俺の原点)

*2
第17話 あれ?俺の出番は?





初めて、特殊タグを使ってみました。
超便利です。

それと、作中で才君が既に魔法が編まれていれば、一から編むより簡単云々言ってますが、これはサンダーボルトなどのシンプルな魔法に限ります。

例えば拘束魔法の場合は相手を拘束するという余分な効果が術式に組み込まれているので、その術式と才君が組み込む術式を上手いこと噛み合う様に手を加える必要があります。

じゃないと魔法がどんな挙動を取るか分かりません。


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エピローグ、受け継がれた意思と失ったもの。いや、俺失ったものしかなくない?

☆☆☆

 

その場に大の字に寝そべり、空を見上げる男。

 

体中には火傷跡が深々と刻まれており、非常に痛ましい姿になっていた。

それどころか、腹部や腕、足、頭に至るまで、所々が欠損し、今生きているのが不思議な程だ。

しかし、それは男も百も承知。

既に魔力は空であり、自らの命が今この瞬間も急速に零れ落ちているのを感じていた。

 

「はぁはぁ」

 

どれだけ、息を吸っても痛みが和らぐことは無い。それでも、体は少しでも長く生きようと息を吸う。

 

しかし、男の精神は自らの死を認め、ゆっくりを瞼を閉じようと体の力を抜いて行く。

そうして、瞼がゆっくりと閉じていく中、男は人の気配を感じ、そちらへと視線を向ける。

男の瞳には安らかな眠りを邪魔されたことに対する非難の色が浮かんでいた。

 

「……はぁ、まったく、ありきたりな最後だな……」

 

その言葉は男の独白でしかなかったが、気配の主は意外にもその言葉を拾い上げた。

 

「あらあら~、ここは~、先回りされたことをもっと焦るところじゃないんですか~?」

 

親しい友人に話しかけるように、もしくはな疑問を抱いた子供の様に純粋無垢な言葉を紡ぐ気配の主に対し、男は心底興味がなさそうに返答する。

 

「ふん、闘争に敗れ、逃げて来た獲物を狩る事しか出来ない卑怯者(ハイエナ)相手に何故、この俺がそのような無様な声を上げねばならない。」

 

「随分な良いようですね~」

 

「実際そうだろう?魔物が怖くて態々俺が一人になるタイミングを見計らってきたんじゃないのか?なぁ、雪白狂実」

 

声の主、雪白狂実は男の試すような視線を涼やかな笑みで受け流す。

彼女の笑みに反し、瞳は何を映しているのか分からないガラス玉のようだった。

 

「……」

 

そして、彼女は沈黙する。

怒気も殺気も、羞恥の感情すらなく、ただ、ただ、男の言葉を受け流す。

その姿勢は清流のようであった。

 

「言い返してこないのか?」

 

今度は男が挑発するように問いかける。

しかし、

 

「やめておきます~。言い返したところで私の品位が下がるだけなので~、それに……」

 

雪白狂実は挑発には乗ってこない。

これには、男と同じレベルで言い合いをしたくないというのは勿論だが、何よりも雪白狂実はこの言葉を妥当だと感じていた。

 

「……実際、私が魔物を恐れて出てこなかったのは事実ですから~」

 

流石にこの言葉に男は眉を顰める。

本当は軽く煽ってから、眠りにつこうと考えていたのだが、人類最強から予想外の言葉が出てきたため、先の短い、刹那の時間、その一遍を使って男は雪白狂実に問いを投げる。

 

「それは、お前が、人類最強たる【不滅】が死を恐れると言うことか?

最優と謳われる《解放》の固有魔力波を持つお前が死と言う恐怖から逃げ隠れている、と言うことか?」

 

それは、何と滑稽なことだろうか?

【不滅】の役割それは

 

その者、何人も殺すこと叶わず。

 

それは、その強さ故に誰にも殺すことが出来ず、【不滅】の前では万物が狩られる弱者に成り下がる。

そう言う意味が込められている。

しかし、実際はその【不滅】は自らの死を恐れていたと、これを笑わずにいられようか?

 

しかも、雪白狂実は【不滅】の中でも歴代最強と謳われていた存在だ。

現在はその席を譲っているが、その事実は今も変わることなく、生ける伝説と言われている。

 

彼女の持つ固有魔力波も他の追随を許さない《解放》の固有魔力波。

 

何者も彼女を縛ることは出来ない。最も自由な力と呼ばれていた。

それがどうだ?

彼女は死を恐れる只人に過ぎなかった。

限られた時間の中で自由を謳歌している籠の中の鳥でしかなかったのだ。

 

しかし、男のその考えを雪白狂実は緩やかに首を横に振り、否定する。

その姿は全てを許す聖女のようであった。

 

「私はまだ死ねないんです~。だって~、私が死ぬのはお前たちの屍の上でって決めているので~」

 

その言葉には今までのふわふわとした掴みどころのない雰囲気は宿っていなかった。

生徒や親しい者たち、いや、彼女を人類最強と信じてくれている人間の前では絶対に出さない、彼女のむき出しの本音だった。

 

それに対し、男は、これはこれで面白いと内心で笑う。

 

誰も知りえなかった雪白狂実の腹の内を知れたのだ。

だから、力を振り絞り会話を続ける。

 

「それは、また、愛の告白と言う奴か?」

 

「いいえ~、只の宣戦布告です~。

 

それと~私達へ宛てた呪いの言葉です。

幼い彼ら彼女らの人生を搾取し、努力を糧に平穏を享受する私たち咎人を戒める楔ですよ。」

 

男はその言葉で一気に自分の中の熱が冷めるのを感じる。

ああ、この女はどれだけ揺さぶりの言葉をかけても揺るがないのだと、今のやり取りで気づいてしまった。

ならば、こいつと話していても無駄だろう。

 

「……そうか、ならさっさと殺せ。」

 

しかし、少女は首を振る。

 

「それは出来ません。

だって~、もし死後の世界があるとしたら、貴方はそこで~『【無二】との戦いでは一命を取り留めたが、弱っている所に雪白狂実が攻撃を仕掛けてきて殺された。あれが無ければ次の戦いで【無二】に勝てていた』とか言うかもしれないじゃないですか~。

 

だから~、私は何もしません~。

あなたは~【無二】の固有魔法を模倣しきれず返り討ちに会い、呆気なく死ぬんです~」

 

「成程、それは無形にして有業。

特定の形はなく、されど、あらゆる形をとる変幻自在の【(アクア)】の名を与えられた俺には最悪の死に方だ。」

 

男は一つ舌打ちをするともう雪白狂実を視界に入れないために目を閉じる。

最後に何故黒雷を使えるのか聞かれたが、男が答えてやる義理はない。

 

男は只管に沈黙を貫いた。

 

☆☆☆

 

光線がどんどんと細くなり、力を失っていく。

男は影も形も無くなっていた。

 

弧毬信濃は最後に男が魔法を使う気配を感じており、真道才に駆け寄り回復魔法を掛けながらも警戒を解かずにいる。

しかし、何時まで経っても男が現れる気配がない。

 

そこで、ようやくある思考を頭に浮かべる。

 

「逃げられた?」

 

 

敵地で気を抜くのは良くないが、流石にこのまま肩に力を入れすぎてもいざと言う時にバテてしまっては咄嗟の判断が遅れてしまう。

そう思い少しだけ警戒度を落とした。

 

だが、その直後。

 

ドォォォォォン‼

 

建物内から爆音が起き、建物全体が大きく揺れる。

当然、屋上にいた信濃は尤もその影響を強く受け、バランスを崩してしまう。

 

(爆弾⁉

何でこのタイミングで?

負けた時の保険?

でも、爆弾じゃ私を倒せないって知っている筈。

 

せめて音長君たちを殺そうってこと⁉

でも、今は……)

 

 

信濃は相手の掌で踊っているような薄気味の悪さを感じる。

それでも、真道才の安全を優先し、退避を選ぶ。

 

その行動の裏には彼女にとって真道才が最も大切であったというのもあるが、弟子である音長を信じていたというのもあった。

 

彼女は固有魔力波で空を飛び企業の敷地から距離を取りながら、建物が壊れて出た瓦礫を固有魔力波で敷地内の至る所に散らしていく。

 

これで、少しでも音長達が瓦礫の下敷きになるのを防ごうとしていたのだ。

 

しかし、彼女には誤算があった。

 

確かに小人型の魔物との戦いでマジックチップを使い切った音長盆多一人ではこの場所からの脱出は難しかった。

しかし、彼は友人である毒ノ森と合流していた。

そして、毒ノ森は汎用性に富んだ固有魔力波を持っていた。

そのため……

 

「うぉぉぉぉぉい!

何か不自然な軌道描いてこっちに瓦礫落ちてきてるよぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」

 

その声は儚くも……いや、儚くはないが、爆発の爆音によって掻き消された。

 

☆☆☆

 

時間は少し遡る。

音長達は小人型の魔物を退け、出口を探していた。

 

 

「いやぁ、全然出口見つからないねぇ。窓から飛び降りる?」

 

俺は軽い調子で毒ノ森君に提案する。

正直、このアホみたいに複雑な建物の中から脱出するより窓割った方が絶対早い。

まぁ、一筋縄ににいくとは思えないけど……それでも、こんな魔窟からはさっさと帰りたい。

なんやかんや生き残れたのに、ここで死んだら意味が無いじゃないか。

 

俺の質問に毒ノ森君も頷く。

 

「う~ん、そうだね。外から見た感じ、窓は必ずあるから、窓を探そうか。何か仕掛けられているかもしれないから、気を付けないとだけど……。」

 

そうして、俺達は窓を探す。

窓自体はそれほど手間取らず、それこそ数分程度で、大した労力も無く見つかった。

ちょっと、肩透かしだ。

中からだと、見つかりづらいようにしている位は考えていたんだけど。

 

小人型の魔物たちは窓から逃げられるとは想像していなかったのだろうか?

確かに脱出ゲームで窓から逃げようとする奴はいないかもしれないが、普通窓から逃げるよね。

俺と毒ノ森君は近くに怪しいものが無いか、調べてから窓を叩く。

 

しかし、残念ながらびくともしない。

 

「う~ん、強化ガラスかな?全然空きそうにないね」

 

 

ドォォォォォン‼

 

「へ?」

 

俺は毒ノ森君君と顔を見合わせる。

いや、今の音何?

 

……もしかして、ガラスに衝撃を加えたから?

いや、一応、怪しい装置とかないか調べたんだけどね?

調べたんだけど、うん、爆発したね。

 

よくよく考えれば、小人型の魔物の技術は人類由来じゃないし、何よりも俺らは別に罠発見の専門家という訳でもないから、見つけられなかったのも当然なのかもしれない。

 

戦いの疲労感と、ここから一刻も早く脱出したいという焦りで判断をミスしてしまった。

……このままだと、瓦礫の下敷きになるな。

 

とはいえ、マジックチップのない俺に出来ることはない。

俺は頼みの綱の毒ノ森君に目を向ける。

 

すると、俺の視線の意味に気づいた毒ノ森君が魔剣を振動させ、強化ガラスを斬りさく。

 

「脱出するよ。音長君!」

 

俺は毒ノ森君にオブられる形で脱出する。

かなりの高さからの脱出だが、毒ノ森君の固有魔力波で何とか安全に着地できると思う。

 

しかし、俺のその予想に反してアクシデントが起きる。

何故か周囲が暗くなったため空を見上げると瓦礫が俺たちの方に落ちてきていた。

しかも、何か見えない力に引っ張られているようなそんな不自然な軌道を描いてだ。

 

「うぉぉぉぉぉい!

何か不自然な軌道描いてこっちに瓦礫落ちてきてるよぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」

 

やばいやばいやばいやばい。

 

このままだと瓦礫にぺしゃんこにされる。

 

「毒ノ森君!何か手はある⁉」

 

「無い!僕のポケットにあるマジックチップを使ってどうにか出来ない?僕も出来るだけのことはするけど……」

 

毒ノ森君にそう言われて彼のポケットからマジックチップを取り出す。

出て来たチップは≪フレイムショット≫≪フィジカルオーガ≫≪マナシールド≫≪ヒール≫≪イミュニティ≫≪オールリカバリ≫

 

……うん、この場で役立ちそうなのが殆どない。

強いて言えば、フレイムショットを使って、空中機動が出来れば良いなって感じか、あ、後は≪フィジカルオーガ≫は俺と毒ノ森君にかけておく。

 

これはどんな場面でも役立つからね。

体が頑丈になれば瓦礫の衝撃も多少マシになる。

 

後は回復魔法も下敷きになった後にワンちゃんあるよね。

 

ってさっきから下敷きになった後のことばっか考えてる。

もっと、そう、もっとこの現状を脱する方法を考えないと!

 

とは言っても、出来ることなんて限られてるしなぁ。

≪フレイムショット≫で瓦礫を壊す程の威力は出ないし、そもそも≪フレイムショット≫事態がそんなに数がない。

 

≪マナシールド≫も流石にこの場面じゃなぁ……。

≪ジェネリックシールド≫とかなら足場に出来るけど……。

 

…いや、いけるのでは?

 

「毒ノ森君!マナシールドを足場に移動できる?君の固有魔力波で」

 

俺がそう言うと毒ノ森君はハッとしてから頷く。

 

「……やってみる。」

 

多分だけど、毒ノ森君の高速移動は身体強化の類じゃなくて、敵を吹っ飛ばす力を用いた衝撃?的な奴を足から出して、移動してるんだと思う。

 

そして、≪マナシールド≫は魔力を防ぐ性質を持つ。それ以外は普通に貫通してくるが。

ま、まあつまり、床の代わりになるものがあれば、その衝撃的な奴で移動できるんじゃないかって寸法だ。

 

そうして、俺は≪マナシールド≫を展開し、毒ノ森君はそれを足場?に空中移動を行う。

その時、ビュンと俺の胸から何かが飛んでいった。

 

ちらりとそちらに目を向けると緑のアイツだった。いや、うん今回出番が無かった何時もの奴が、存在を主張してきただけだった。いや、別に生き物じゃないけど。

 

俺はお馴染みの被り物には目もくれず、出来るだけ建物の遠くへ移動するために≪マナシールド≫を張ることに集中する。

 

しかし、何故か、瓦礫はこの敷地一体に落ちてくる。

しかも、又もや不可思議な軌道を描いて……どうなってるんだろう?

俺たちを生き埋めにしようとする魔物勢力の罠だろうか?

 

どうやっても、生き埋めになってしまうことを悟った俺たちはせめて、瓦礫の量が少ない所へと移動した。

 

そして、瓦礫が落ちてくる瞬間、俺は魔剣を投げた。

 

 

 

 

後は、毒ノ森君に任せる。

彼の不可視の力で瓦礫は俺たちに直撃することなく落ちてくる。

とはいえ、瓦礫は積み木のように積み上がり、俺たちを閉じ込めていく。

 

「頼ってばっかで申し訳ないんだけど、何とかなりそう?」

 

俺は眉尻を下ろし、毒ノ森君に聞いて見る。

 

「うん、やってみるよ。そう言えばさっきは何で魔剣を投げたの?」

 

「ああ、目印だよ」

 

「…そっか、成程」

 

俺の言葉に納得してくれたのか、毒ノ森君は固有魔力波の使用に意識を集中する。

 

それを横目に俺は自分の失われた左手に視線を向ける。

どうにか治ればいいんだけど……。

しかし、少なくとも今の人類のマジックチップには傷の塞がった部位欠損を治すものが存在しないことを俺は知っていた。

 

だからこそ、俺は余計にその心配をしてしまうのだった。

 

☆☆☆

 

何か、大きな音に目を覚ます。

ここは何処か、自分が何をしていたのか一瞬分からなくなったが、直ぐに記憶が蘇る。

俺は敵に胸を貫かれたんだ。

それでそのまま意識を落とした。

 

俺は自分の胸に手を当てる。

しっかりと心臓の音が聞えた。

どうやら、俺は生きているようだ。

 

俺は周りを見渡す。

すると、近くにいた信濃さんと目が合った。

 

「良かった、才君!目が覚めたんだね‼」

 

どうやら信濃さんも無事みたいだ。

ということ男を退けたのだろう。

 

音長、毒ノ森は?

 

俺は辺りを見渡す。

 

しかし、どこにも二人の姿は見えない。

 

「信濃さん音長たちは?」

 

すると、信濃さんは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「ごめん、まだあそこにいると思う」

 

そう言って、瓦礫を指さす。

そう、瓦礫。

 

一体何があったのか。

 

俺は一瞬理解を拒もうとしてしまうが、直ぐに受け入れる。

 

そして、走り出す。

 

どうしてああなったのかは分からないが、仲間があそこにいるなら行かなければならない。

 

信濃さんが「まだ、傷が塞がったばかりなんだよ‼」と言ってきたが、関係ない。

俺は行かなければならない。

 

俺は瓦礫の山に向かって走る。すると、空に炎の弾が打ちあがるのが見えた。

……あれは、≪フレイムショット≫⁉

と言うことはあの近辺に音長達がいるということだろうか?

 

俺は走る、走る。

すると、瓦礫の山に魔剣が刺さっているのを見つける。

あの下に音長達がいるのだろうか?

 

俺は走る速度を上げる。

 

そして、上げた途端に転ぶ。

何かを踏んでしまったようだ。

何とか手をつき、顔から転ぶことは防げたが、手などには擦り傷が出来た。

まぁ、大したものではない、俺は気を取り直して走ろうと立ち上がったところで、ある物が目に飛び込んできた。

 

それはピーマンの被り物。

魔導師Pの代名詞。

 

魔導師Pがここにいたのだろうか?

しかし、それならば何故接触を図ってこなかったんだろう?

 

ただ、そこで、俺は被り物にあってはならないものを見つけてしまう。

いや、正確にはあって欲しくないものを見つけてしまう。

 

「……これって、血痕」

 

その被り物の一部にべっとりと赤い血が付いていた。

無造作に落ちていた被り物、血の付いた血痕、まさか魔導師Pが殺されたのか?

 

あれ程の強者が…………?*1

 

そこで俺はふとあることを思い出してしまう。

 

『それは、それは!勇利さんの魔法だッ‼』そう言う信濃さんを。

 

そして、俺自身、親父…いや、父さんに似ているとそう感じてはいなかったか?それに俺の正体を知っていたのも父さんであるのなら納得だ。

 

……そうか、そうだったのか……。

体型から、本人ではないと感じていたが、俺が父さんと過ごしていたのは子どもの頃、それに、魔導師Pもそう言えば俺よりもかなり高い、180cmくらいはあった気がする。

うん、そうだ、そう言えば180cm程の偉丈夫だった。*2

 

恐らく、経緯はこうだろう。

何らかの理由で死亡扱いになってしまった父さんは何らかの理由で魔物の大本へと辿り着いた。

しかし、そのあまりの強大さに周りの人間を巻き込むことを恐れ、一人で戦い始めた。

だが、一人での戦いは殆ど休むことも出来ず、どんどんと疲弊していってしまう。

そして、この場の惨状を何らかの情報網で知り、救出しようと乗り込むが、疲弊したことと敵の何らかの卑劣な罠にかかり、命を落としてしまったのだ。

 

敵が黒雷を使えたのもそのためだろう。

 

何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの何らかの……

 

……考えれば考える程、辻褄があってしまう。

ただ、まさか、父さんが……。

 

「父さん、父さん。とうさぁぁァァぁぁぁぁん‼」

 

駄目だ視界が霞む。

 

気付けば泣いていた。

 

涙が止まらない。

 

しかし、そこでドンっという大きな音が鳴り、現実に引き戻される。

そちらに目を向けてみれば音長達が瓦礫の中から出て来た。

丁度、魔剣の刺さっている辺りだ。

 

やはり、そこにいたのか、音長、毒ノ森。

俺は涙を拭う。

 

衝撃の事実を知ってしまったばかりに音長達のことをほったらかしにしてしまっていた。

クソっしっかりしないと。

 

「すまない、音長、毒ノ森。無事で良かった。」

 

俺は目一杯頭を下げる。

 

「うん、それは良いんだけど……。

手に持ってるのって…」

 

音長は俺が手に持っているものを不審がっているようだ。

それもそうか、音長達からすればこれは只のピーマンの被り物だもんな。

 

「これは……父さんの形見なんだ。」

 

「…そっか、そうだったん……いや違うと思うよ?」

 

まぁ、それが普通の反応だよな。

俺は音長の突っ込みに対して、納得の気持ちが湧く。

普通、ピーマンの被り物を父親の形見と言っている奴なんかそうはいない。

しかも、音長たちは知らないだろうが、これはさっき拾ったやつだ。

普通に考えて可笑しいだろう。

 

「いや、本当なんだ。これからは父さんの温もりを感じるんだ。」

 

「……そう、なんだ」

 

俺は被り物を胸に当てながら、そう告げる。

何故だか音長が少しだけ距離を置いたような気がしたが、俺には分かってしまうのだ。

 

この被り物が今も尚脈打っているような気までする。

 

俺がそうしていると、信濃さんが話しかけてくる。どうやら俺の後ろをついてきてくれていたようだ。

 

「……どういうことなの?勇利さんの形見って……。」

 

「恐らく、父は少し前にここに来ていたんだと思います。」

 

その言葉に信濃さんは動揺する。喜べばいいのか、驚けばいいのか、感情が追い付いていないようだった。

 

「でも、勇利さんはずっと昔に……。」

 

「だったら、何で私たちの前に……。」

 

信濃さんはうわ言のようにそう呟く。

その気持ちは尤もだ。俺だってそれには少しだけ不満を感じてしまう。

だが、きっと理由があった筈なんだ。

だから俺は、

 

「それはきっとこの先で分かる筈です。俺はそう信じています。」

 

俺はそう言うと被り物を自前(戦人の力による)の≪サンダーボルト≫で燃やす。

これを持っていれば、きっと俺達はこれに縋ってしまう。

それに、

 

「血の付いた被り物じゃあ、子供が怖がる。

皆を安心させるためには新品のを身につけなきゃな。」

 

それは、俺が只、父さんの後ろをついて行くだけじゃなくて、俺自身で歩き出すための、決意の言葉。

父さんのように皆を守るなら雛鳥のままではいられない。

 

「いや、普通にピーマンの被り物してたら補導されると思うけど……。」

 

意外にも、音長が突っ込みを入れて来たが、きっと彼も魔導師P、いや、父さんにあっていれば考えも変わっていただろう。

 

☆☆☆

 

真道君が俺の被り物を父さんのだとか言っていたりもしたが、取り敢えず、学校についた。

そして、信濃さんが俺の腕を見て部位欠損を治せる人を紹介すると屋上に連れて行ってくれた

 

しかし

 

「う~ん、この傷を癒すにはこれくらいは頂かないとですね~。」

 

そう言って、九桁の数字を提示してくるのはクリーム色の髪と黄金の瞳をした小柄な少女のような見た目の教師。

雪白狂実であった。

 

「え、でも、くるみんなら直ぐに治せるよね?」

 

そう言う弧毬さんに対し、雪白先生は頬に片手を当てる。

 

「確かに~、先生も昔は~固有魔力波でブイブイ言わせてましたけど~今は社会の何やらかんやらにもまれて~大変なんです~。

減給に次ぐ減給とか~、学園長がやたらと突っかかってくることとか~。

も~、嫌になっちゃいます~。」

 

いや、それは自業自得なのではと思ってしまうが、俺はグッと口を噤む。

不機嫌になったら、余計に治療してくれなくなってしまうだろう。

 

「だから~、まぁ、このくらいは~貰わないと治療できないです~。」

 

この教師ド畜生過ぎないか?

一応、俺ここの生徒で彼女先生だよね?

 

とか思ったが、当然、口には出さない。

しかし、その考えを読まれたのか、雪白先生は首を横に振るう。

 

「やれやれ~、先生が~薄情者だと思われるのは~心外です~。

こんな、慈悲深く生徒想いの先生は他にいないのです~。」

 

そう言うと、雪白先生はどこからともなく、金属でできた義手を出した。

 

「それは?」

 

俺は首を傾げる。

 

「これは~、魔剣やワンドと同じ、マジックチップを発動することが出来る義手です~。

とっても貴重なもので、先生が音長君のために~オーダーメイドして作って貰ったものなんですよ~?

 

セットできるマジックチップは一枚だけですが~、中に空洞が出来てて、この中で≪エンチャントウォーター≫を発動すれば腕を自由自在に操れるんです~」

 

そう言うと、雪白先生が実際にマジックチップを発動し腕を動かす。

 

成程、いや、まったく納得できないが、確かに腕の代わりとしては使えるらしい。

 

「しかも~、メンテナンス費用や~マジックチップ代は全額先生負担で良いですよ~」

 

それだったら、普通に腕治して欲しいんだが……。

俺がそう言うも、値段を引き下げる気が無いのか雪白先生は首を振る。

 

弧毬さんが、全額負担すると言っても本人からじゃないと駄目だと首を振られる。

分割も出世払いも当然ダメ。

 

そんなこんなで、俺達は雪白先生の手で屋上から追い出されてしまった。

 

「……ごめんね、音長君」

 

最後に弧毬さんに謝られたが、弧毬さんのせいじゃないし、仕方がない。

俺は適当に笑って誤魔化し、部屋へと帰る。

 

……大丈夫。

腕を治す算段は付いている。

というか、物語は終わった頃には癒希さんが治せるようになっている筈だ。

それまではこいつと頑張っていくしかない。

 

俺はベットにダイブしながら決意を固める。

 

それから、直ぐに眠気がやってきて俺は瞳を閉じ微睡む。そして、どんどんと意識が夢の中へと誘われていく。

どうやら、相当疲れていたようだ。

 

 

「強くなってくださいね?音長君」

 

最後にそんな声が聞こえた気がした。

*1
あくまでも、真道君のイメージです。

*2
音長の身長は170cmです







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