俺は「俺TUEEEEE」がしたい (味塩)
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一話 上 異世界転移

目を開くとそこは見知らぬ草原が広がっていた。

太陽は燦々と輝き涼しげな風が頬を撫でる。

 

「本当に異世界に来たんだ」

 

俺こと片村明(かたむらあきら)は転移者だ。

元々は日本の学生だったが高校の入学式に向かう途中で雷に打たれて死んだ。

死ぬ程勉強して合格したが、まさか一度も校舎に入る事無く死ぬとは思わなかった。

 

その後目を覚ましたら真っ白な空間に居て、訳が分からず放心していると。

 

「気が付いたかい?」

 

声をかけられ後ろを向くと一人の男が立っていた。

年は三十代ぐらいだろうか、優しそうな顔付きの美丈夫が申し訳なさそうに俺を見ている。

俺とは違い落ち着いた様子からするに、この状況について何か知っているのだろうと思い聞いてみる。

 

「え?えと、ここって何処ですか?あなたは?」

 

「ここは私が作り出した空間で君をここに呼ばせてもらったんだ」

「私は君たちの世界を管理をしている者だよ」

 

「え?神様…ですか?」

 

「厳密には違うけどそんな認識で大丈夫だよ」

 

「あ、すみません、全然状況がわからなくて、、、」

 

「謝罪は不要だよ、寧ろ逆なんだ、謝るべきは私で君は何も悪くない」

 

「え…?」

 

「君は今日命を落とした、本来死ぬ運命ではなかった所を私の誤りで死なせてしまったんだ」

「本当に申し訳ない」

 

男は謝りながら深く頭を下げる。

 

 

どうやら俺はこの人の間違いで死んだらしい。

憤慨してもおかしく無い様な理由だが、戸惑いが大き過ぎて怒りは沸いてこない。

 

いきなり世界の管理者だの死の運命だの言われても理解は追いつかない、寧ろ「それも含めて俺の運命では?」と、何処か他人事の様な考えさえ浮かんだ。

一人固まってる俺に男の人は話を続ける。

 

 

「ここに君を呼んだのは謝罪と君の願いを聞く為なんだ、生き返らせる事は出来ないけど私に出来る事なら叶えるよ」

 

生き返る事は出来ない、その事実を前にしても実感が無い俺は「あの勉強時間が全部無駄になったのか…」などと落ち込んでいた。

だが「生き返る以外に出来る事」には少し興味が湧いた。

 

 

「それってどんな事が出来るんですか?」

 

「別の世界に行く事や生まれ変わる事なら出来るよ、元々居た世界にも記憶を消すなら生まれ変われる」

「それを君の望む形で行うって感じかな」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、頭の中にあった不安や感じ始めた悲しみが吹き飛んだ。

 

間違いによる死亡、別の世界、望む形、この流れは知っている、良く知っている、そんな物語を読む度に憧れて居たのだから。

 

 これは、行けるのか?異世界に?

 

 

死んでいる筈なのに胸の高鳴りを感じる、自分が死んだと言われれば「これは夢か?」と思うだろう、俺も今これは夢なんじゃ無いかと思っている。

 

だが俺は、これが夢なら覚めないで欲しい。

いくら憧れようと所詮は物語、目指す事すら出来ない、恥ずかしくて人には言えなかった密かな夢。

 

  

それが今叶おうとしている、友達や家族との別れは悲しくあるが俺はこの夢とこれからも生き続ける事が出来る。

 

俺は迷わず異世界転移を望んだ。

 

生まれ変わるよりも俺のままで生きたいからと転生は選ばなかった。

そして転移先の世界を選ぶと。

 

 

 

「かなり危険な世界だけど、転移先の世界は本当にこれで良いのかい?」

「大丈夫です!この世界でお願いします!」

 

転移先に選んだのは剣と魔法のファンタジー世界。

魔物と呼ばれる化け物が跋扈しており、エルフやドワーフも居る「王道の異世界」と言う感じの世界だ。

 

それから転移するにあたって簡単な説明を受けたが、俺の肉体は世界に順応した物に作り替えるも見た目や年齢などはほぼ変わらないらしい。

そして俺はこんな能力を持って転移したい、と憧れていた特殊能力を話した。

 

「うん、その能力なら大丈夫。危険な世界だし身を守る為にも必要だからね」

 

これで転移先の世界もチートスキルも完璧、俺はこの先の理想の異世界生活に胸を躍らせていた。

 

「ただ気を付けないといけないよ、強い能力を持っていても危険である事には変わりないのだから」

「特に君の行く世界は本当に危険が多いからね」

 

「が、頑張ります!」

 

「さて、授ける能力も決まったしこれで準備は全部終わったかな」

「今回は本当にすまなかったね」

 

男は再度申し訳なさそうな表情を浮かべ歩み寄り俺に手を翳した。

 

「次の世界で人生を謳歌出来るよう願っているよ」

男は優しげに微笑み、俺の体は光に包まれた。

 

 

 

 

 

そして冒頭へと戻る。

俺は新たな人生の始まりに今では言えなかった夢を叫んだ。

 

「俺は俺TUEEEEEがしたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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一話 下

夢を叫び天気と同じく気分晴れやかな俺は町へと向かった。

当然町の場所など知らないが目の前に道がある、この道を辿って行けば町か村には着くだろう。

 

 

 

歩き始め暫くすると、茂みの中から何かが近づく音が聞こえた。

俺は腰にあるショートソードを抜き警戒する。

服や装備はこの世界に馴染める様にとあの人に貰った、この世界でありふれた物らしく特別な能力とかは無い。

今の俺の装備は「冒険者志望の村人」って感じらしい。

 

警戒する中、茂みから現れたのは緑色の肌をした醜い小人。

 

ゴブリン、異世界ではお馴染みとも言える敵だ。

実際に見ると中々に醜悪な見た目をしているが、本物を見れた事に少し嬉しくもあった。

 

ゴブリンは敵意を剥き出しにしてこちらを威嚇する。

数は一体、最初の戦闘としては悪くないだろう。

 

 

「丁度良い、早くスキルを試したかったんだ!」

 

 

ゴブリンは木で出来た粗悪な棍棒を握り此方に襲い掛かるが、俺は剣も持つ手とは逆の手の人差し指をゴブリンに向けスキルを発動させる。

 

すると俺の手は荒ぶる様な稲光を放ち、その光は轟音を置き去りにしてゴブリンを貫いた。

 

ゴブリンの手から棍棒が落ち、ゴブリンも力なく倒れ伏す。体に穴が空きその周囲は焼け焦げ煙を立てている。

その様子から絶命は間違いないだろう。

 

「凄い!スキル使うのってこんな感覚なんだ!」

「ハハハッ!これは凄いぞ、最強じゃん」

 

俺はスキルが使えた事に歓喜した。

予想以上に音が大きかったのには驚いたが思い通りに扱えた、戦闘も初めてで緊張はしたがこれなら問題無く戦えそうだ。

 

俺が貰ったチートスキルは「雷」、魔力を消費する事で雷を生成し自在に操る能力だ。魔力自体も体を作り替えた時に一緒に貰っている。

 

 

チートスキルが貰えると分かった瞬間にこの能力が欲しいと思い即決した、圧倒的な破壊力と速度に加え見た目も派手でカッコ良い、他の能力も魅力的ではあったが迷う事は無かった。

 

更に言えば俺は雷を強キャラ属性だと思っている。漫画、アニメ、ゲームで様々なキャラクターを見たが雷を使うキャラは大体強い。実際に使ってみても雷を選んで正解だと感じた。

 

 

「よし、今の技は『サンダーアロー』と名付けよう!」

 

技名を決めながら使う事の無かったショートソードを鞘に戻す。さっきは雰囲気で剣を抜いたが剣の扱いなどわからない為、暫くはチートスキルのみで戦う事になるだろう。

しかしゆくゆくは剣も使いたい、剣の師匠とか見つかれば良いなぁなどと考えていた。

 

 

その後ゴブリンの死体をどうしようかと迷っていると遠くの方から何かが近づく音が聞こえてきた、また魔物かと音の方を見れば馬に乗った兵士がこちらに向かって来ていた。

 

二人の兵士が馬に乗りながらこちらに駆け寄る。

少しだけ警戒していたがどうやら友好的な雰囲気だ。

 

「おーい!大丈夫か?」

「ん?坊主一人か?こんな場所で何してんだ?」

 

一人の兵士が話しかけて来る、もう一人は周囲の警戒の為か辺りを見回していた。

 

「町に行こうと思って」

 

「あー見た感じ冒険者志望か、にしてもそんな装備で一人は危な過ぎるだろ、街に着く前に死んじまったら元も子もないぞ」

 

兵士の言葉は正しい、チートスキルがあるので大丈夫ですと言う訳にもいかず返答に困った。

何と答えるか迷いながら気不味げな顔をしていると兵士は何か察した様に話す。

 

「なんだ坊主、訳ありか?」

「ったく、今回は無事みたいだからこれ以上言わねーけどよ」

 

詳しく話せ無い為察してもらえたのは助かった、そして兵士は話を変える。

 

「それとさっきこの辺で凄い音鳴ったろ?何か知らないか?」

 

音、間違え無く俺がチートスキルを使った時の音だ、近くに居た兵士が音の原因を探す為にきたのか。

誤魔化してもボロが出るだろうしと正直に話す事にした。

 

「あ、多分それ俺です。ゴブリンに襲われたんで返り討ちにしました」

 

そう言いながらゴブリンの死体を指さす。

 

「ゴブリンの死体…あれは焦げてんのか?」

「これどうやったんだ?魔法か?」

 

「俺雷操れるんです」

 

そう言って両手に雷を発生させる。

チートスキル見せても良いのか迷ったが、ここも同じく誤魔化せない以上見せるしか無い。

 

「おお!お前ユニークスキル持ってんのか」

 

「ユニークスキル?」

 

「知らないで使ってたのか、まぁ魔法みたいだけど魔法じゃない特別な力の事だ」

「なるほどな、それが坊主の訳って事か。田舎の方だとたまに不気味がられるって聞くしな」

 

 

兵士は何処か納得した様子で話す、これからこの能力はユニークスキルって事で通した方が良いのかも知れない。

 

 

「しかし雷のユニークスキルは初めて見たな」

「駆け出し前の坊主がゴブリンを倒せる辺りかなり強力なスキルっぽいが」

 

「他のユニークスキルってどんなのがあるんですか?」

 

「俺が見た事あるのは「怪力」と「爆発」のユニークスキルだな、後は知ってるだけだが街には「狂化」のスキル持ちが居るらしい」

 

ユニークスキルを持つ人は割と居るのかも知れない、ただ「狂化」のスキルは街に居て大丈夫なのだろうか。

街に着いても会いたくは無いな。

 

そんな事を考えていると、周囲を警戒していた兵士が近付き問題が無い事を報告していた。

 

「それじゃ死体を片付けるか」

 

兵士はそう言うと小さな紙を取り出した、千円札ぐらいの大きさで読めないが何か文字の様な物が書かれている。

 

兵士はそのお札の様な紙をゴブリンに貼る、するとお札の文字が光だしゴブリンの死体がいきなり燃え出した。

 

「いきなり燃えた…これ何ですか?」

 

「これか?これは簡易スクロールだ、貼ると魔物の死体が燃えて無くなるのさ」

 

スクロールを見て魔法のある世界に来たんだと実感している俺に兵士はスクロールを貼って来た。

 

「ホレ」

 

「うわぁぁ!」

 

燃える、そう思い焦ったがスクロールを貼られても特に何も起きなかった。どうやら兵士に揶揄われた様だ。

 

「ハハハッ悪い悪い、坊主が物珍しそうに見てたからな、これは魔物の死体しか燃やせねぇんだ」

 

兵士は謝ったし何とも無いなら良いかと流した、と言うのもこのスクロールについて聞きたい事がある。

なんせ初めて見る魔法文明の道具だ、興味が湧かない訳が無い。

 

「これって周りには燃え移らないんですか?」

 

「あぁ草木にも燃え移らない、こいつは浄化の炎で燃えてるからな」

 

浄化の炎、これも異世界感が凄いな。

 

その後ゴブリンの死体が燃え尽き灰になるまで色々聞く事が出来た。どうやらこのお札の様なスクロールは兵士や冒険者の間では一般的な物らしく、価格も安価で死体の処理が非常に楽に出来ると話していた。

 

攻撃にも使うのか聞いた所、生きた魔物だと魔物の抵抗力に負ける為意味が無いらしい、何百枚も貼れば効果があるかも知れないがそんな無駄な事をするぐらいなら殴った方が早いと兵士は笑っていた。

 

そして兵士は処理の終了を確認すると。

 

「まぁ音の原因もわかったし一度街に戻るか」

「よし、坊主街まで送ってやるよ」

 

「良いんすか!」

 

どのぐらい距離があるのかも分からないが、一気に街へ行けるのはありがたい、俺は即答で兵士の話を受けた。

 

「おう、俺の後ろに乗りな。危ないから掴まってろよ」

「はい!」

 

こうして俺は兵士の馬に乗せてもらい街へと向かった。

 



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二話 冒険者ギルド

兵士の馬に乗せてもらい暫くすると街が見えて来た。

街は頑丈そうな石壁で囲われており、かなり大きそうだ。

 

「あれが俺達の街『クルト』だ、良い街だぜ」

 

そう誇らしげに話す兵士、俺はこの世界初めての都市に期待が膨らませていた。

 

 

兵士はそのまま門へと向かい、街に入る為の手続きを案内してくれた。

手続きと言っても禁止事項の説明、街に来た目的と過去に犯罪を犯してないから聞かれただけだった。

俺としては助かるがこんなに簡単に入れるのは以外だった。

 

「これだけかって思ってるだろ」

 

「え?あーこれで入って良いのかなって」

 

「良いんだよ、怪しい奴はもっと調べるが毎年毎年坊主みたいな冒険者志望が沢山来るからな。」

「文字書けない奴も多いし一々小難しい手続き何てやってられねえ、この街は入るのに金も取らないしな」

 

言われてみれば確かにそうか、日本と違って識字率も高く無い様だし情報の管理も紙が使われてると考えれば納得だった。

 

「そのかわり!問題起こせば直ぐに取っちめるけどな!」

「まぁ坊主ならその辺は大丈夫だろ、さっき会ったばかりだが坊主は悪人じゃなさそうだからな」

 

そう笑いながら俺の背を叩く兵士、やや気恥ずかしさも感じるがこの世界での最初の出会いには恵まれたなと感じた。

 

 

「冒険者になりたいならギルドで登録しないとだからな、ギルドは街の中央の方に迎えば見えてくる」

 

「またな坊主!冒険者でダメだったらここに来いよ!お前のスキルは兵士向きだからな」

 

 

兵士と別れの挨拶をし街の中へ。

 

 

 

(おお!これが異世界の街、まるで映画の中に入ったみたいだ!)

 

ヨーロッパ調の街並みに、道行く人々の古風な服装も相まって非現実的な光景を創り出していた。

 

街中を進めば活気溢れる市場では見たことも無い料理や魔道具と思われる不思議な品々が売られ、如何にも冒険者といった風貌の人も歩いている。

 

歩きながらも視線は落ち着き無く動く、周りから見たら完全にお上りさんなんだろうがこれは我慢出来なかった。

 

このまま街を探索したい気もあるが、先に冒険者ギルドに行かなければならない。冒険者ギルドにも非常に楽しみだ。

 

 

兵士の言う通り道を真っ直ぐ歩いていると大きなの建物が見えて来た。

無骨だがしっかりした作りで出入りするのは武装した人達、これが冒険者ギルドなのだろう。

俺はギルドに入ってからの立ち回りと絶対言いたいセリフを確認する。チートスキルで無双し俺TUEEEEEする準備は万端だ。

 

(いざ冒険者ギルドへ!)

 

 

 

木で出来た扉を開けるとそこは。

真昼間だからか少し閑散とした雰囲気ではあるが、酒を飲む者、一枚の紙を見ながら複数人で話し合っている者や仲間に武器を見せている者など様々な冒険者達が居た。どうやら中に酒場も併設されているらしい。

 

(凄い、イメージ通りの冒険者ギルドだ!)

 

物語の中でしか見た事ない光景を実際に見る事が出来更に気持ちは昂る。だがここでははしゃがずに冷静を装う。そして受付と思わしきカウンターに行くと。

 

「冒険者志望の方ですか?」

 

「はい、そうです」

 

「わかりました、ならこのまま手続きしますね」

 

受付のお姉さんは机から何かの用紙を取り出し進める。

名前や年齢を聞かれ答えると、次は何処からか水晶を持ち出して来た。

 

「ではこの水晶に手を翳してください」

「これはあなたの保有魔力を調べる物になります、魔力が無くても冒険者になれるので安心してくださいね」

 

魔力の計測器、ここが理想の異世界生活の第一歩だ。

この水晶を限界以上の魔力でぶっ壊して「何かしちゃいました?」って言えば第一目標達成。

 

(イメージは完璧、ここは自分の強さを自覚してない感じで行くぞ!)

 

俺は内心意気込み手を翳す、すると水晶が光り出した。

しかし水晶の中で大きく光ってはいるが中々壊れない。

 

「素晴らしいですね、新人の方でここまでの魔力を持つのは珍しいですよ」

 

受付のお姉さんはそう褒めてくれるが違う、予想していたのは「こんなの見た事ない!」とか「歴代でも上位の記録です!」とかそんな感じの評価だ。

 

 

「もう大丈夫ですよ、魔力を持っているので次は魔法適正を調べましょう」

「今度はこちらの水晶に手を翳してください」

 

お姉さんは淡々と進めていく、これはもう魔力量については諦めるしか無い様だ、だがまだまだ他にもチャンスはある。

 

次は魔法適正、ここは全属性とか幻の属性魔法の適正とか出せば成功だ。

 

再度意気込み新たに出された水晶に手を翳すも今度は何も反応しなかった。

 

「あら?魔法適正は無い?これだけ魔力があるのに…?」

 

(え?魔法の適正ないの?)

 

疑問を浮かべるも直ぐに思い付いたのはあの人への伝え忘れだった。チートスキルに頭がいっぱいで魔法については何も話していなかった。

 

あの人は体作り替えても殆どは同じと言っていた、元々魔法の無い世界に生まれた俺には魔法適正なんて有る訳も無く自衛の力は別で貰っている。

 

「魔法も使いたいです」と言えば適正も貰えたと思うが完全に抜けていた、折角魔法のある世界にこれたのに自分には使えない現実に落ち込むが直様頭を切り替える。

 

俺には最強のチートスキルある、それだけで充分だと思う様にした。

 

 

「魔法適正の無い魔力持ち…」

 

受付のお姉さんは悩み出してしまった、多分魔力が多いなら何かしらの適正はあるんだろう。俺の魔力はチートスキルと一緒にあの人に貰った物だろうし。

 

「君何か特別な事が出来るとかある?」

「これだけ魔力を持っているなら適正があるはずなんだけど君には適正が無いの、なら魔力を消費するタイプのユニークスキルがあるかも知れないわ」

 

「あ、出来ますよ。俺雷操れます」

 

「雷のユニークスキル⁈本当に?ちょっと見せて貰える?」

 

「わかりました」

 俺は兵士に見せたのと同じ様に手に雷を発生させる。

 

「本当に使えるのね!凄いですよ、雷のユニークスキル何て初めて見ました!」

 

(おお!今日初めて求めてた結果になった)

良い調子だ、この調子でここから巻き返す為に気合いを入れる。

 

「なら次は教官を呼びますので実践能力を確認しましょう」

 

(来た!新人の戦闘試験!ここで教官倒して一目おかれる流れだ!)

これが最も重要なイベント、ここで教官を圧倒出来れば目標はほぼ達成したと言っても過言では無い。気を付けるべきは相手に大きな怪我をさせない事ぐらいだろう。

 

 

 

 

受付のお姉さんは一度離れ、俺は受付近くの柱に寄りかかり暫く待つと。

 

「あなたがユニークスキル持ちの冒険者志望?」

 

声をかけられ振り向くと、一人の女性が居た。

年は三十代ぐらいだろうか。髪は黒のショートカット、日本で見る様な整えられている訳では無く少し乱雑に切り揃えられており、服装は白いシャツの上に革製の胸当てを装備し下は黒っぽいパンツ。

纏う風格はベテラン冒険者と言った感じがした。

 

だが彼女の一番気になった所は腕だ、彼女の左腕は肘から先が無かった。

隻腕だが剣を持っているから剣士だろうか。

頭でそんな事を考えている内に彼女は話を続ける。

 

「私は教官のスーリ、このまま試験するから着いて来て」

 

教官はそう言ってすたすたと歩き出してしまった、俺は慌てて着いて行く。

 

しかし隻腕の女剣士は少しやりずらさを感じる、これは手加減に気をつけないと行けないかも知れない。

 

直ぐにギルドの裏にある訓練所へと着いた、と言っても広いスペースに木のカカシがある程度だが。

辺りには訓練中なのか剣を振る若い冒険者の他に俺の試験を見に来たのか数人の冒険者が居た。

 

「剣は使えるの?」

 

俺は首を横に振る。いずれは剣も使いたいけど今は使えないし、ここは雷だけで行く。それでも充分過ぎるだろうし。

 

「護身用ってとこかしら、まぁ良いわ好きに攻めてきなさい」

 

そう言って剣を構える教官。

イメージ含めて俺の準備は万端、ここで圧勝してまだ言えて無いセリフを言わせてもらう。

 

「行きます!」

 

俺は手に雷を発生させ人差し指を教官に向ける、ゴブリンに撃った時より威力はだいぶ下げたが。

 

「ショックガン!」

 

威力は下げても速度は変わらない、勝利を確信し電撃を放った。

 

 

 

 

だがその瞬間に俺の思考は止まった。

撃った瞬間に相手に当たるはずの電撃を意に返さず直進する教官。

 

 

そして驚く間も無く視点が変わる。 

 

 

 

(空?)

 

  

 

続き体に衝撃を受け

「ぐはっ」

衝撃に体が力み息が漏れるが、理解出来ず頭は真っ白になった。

 

 

 

 

「今のが全力?」

 

声をかけられ気付いたが俺は倒されてた。

何が起きたのかわからず呆けていると

 

 

「おーい、聞こえてる?」

 

俺を見下ろす教官の声に顔を向ける。

 

「もう一度聞くよ、今のが全力?」

 

「い、いや、まだ行けます」

 

「そう、なら立ちな」

「あと、私が片腕だからって手加減は要らないよ。殺すつもりで来な」

 

そう言うと教官は最初の位置に戻る。

 

立ち上がり構え直す間もずっと考えるが状況の理解ができなかった、何をされたのか全くわからない、電撃による攻撃もどう防がれたのか。

 

剣士に見えるが魔法を使ったのか、相手の攻撃を無効化するスキルでも持っているのか、思考は回り続けるが答えには辿り着けない。

 

俺は焦る、このままでは不味いと。

瞬殺するつもりが訳もわからず瞬殺された、これでは俺の冒険者デビューが終わってしまう。

ここはもう言葉通り手加減無しで行かせてもらおう。

 

 

俺は再度手に雷を発生させ放った。

 

「サンダーアロー!」

 

今度は教官は動いていない。

 

当たった!そう思った瞬間に教官は剣を一閃。

俺の放った電撃は二つに割かれ霧散し、教官があり得ない速度で距離を詰める。

教官が視界から消えると同時に脹脛の辺りに衝撃が走る、どうやら足払いをかけられた様だ。

 

そしてまた俺は空を見上げた。

 

「ぐっ!」

 

 

そうか、さっきも雷切って距離詰めて転ばされたのか。

 

 

 

(は?え?雷だよ?切った??)

 

 

目の前で起きた事に納得出来ず、俺は愕然としていた。最強だと思っていた雷による攻撃を剣一本で防がれた、その事実を直ぐに受け入れる事は出来なかった。

 

 

 

「なるほどね、それがあなたのユニークスキル」

「試験は終わりだよ」

 

教官は何事も無い様に言う、試験は俺の完敗という形で終わったらしい。

 

「あ、あの!」

 

「なに?」

 

「何で切れたんですか?」

 

「ふふっ、そんな事?」

「あなたの攻撃は確かに早いし威力もある」

 

「けどそれだけ、溜めは長いし撃つ場所も丸わかり。そしてあなた自身は弱い、だから簡単に対処されてひっくり返されるんだよ」

 

「そんな…」

 

俺のチートスキルを簡単に対処か。

 

(冒険者強すぎない?)

 

「あー安心しなよ、これはこれは腕を見るためであってちゃんと冒険者にはなれるから」

 

 

まさか理想の異世界生活が初日で崩れるとは、俺の気分はギルドに入った時と正反対になっていた。

 

「ゴルド!見てたでしょ、あんたがこの子の面倒見な!」

「ほらあなたもさっさと立ちな、これからあなたの世話する奴を紹介するから」

 

チートが破られ失意の念に埋もれている俺を他所に話が進む。

ゴルドと呼ばれ向かってきたのは筋骨隆々なハゲたおっさんだった。

 

「ハハハッ坊主!派手にやられたな!」

 

豪快に笑うおっさん。

これが俺とゴルドの初めての出会いだった。

 

 



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三話 台無しのゴルド

「これが冒険者の証、失くさない様にね」

 

ギルドに戻りプレートを貰う、細い鎖が付いており首にかけるタイプのようだ。

 

「後の詳しい事はゴルドに聞けばわかるから」

 

そう言って教官のスーリはギルドの奥へと下がって行った。そのゴルドはと言うと

 

「おーいこっちだ」

 

ギルドの酒場で酒を飲みながら手招きしている。

 

ほぼ上裸でそれで守れんのかってぐらい面積の小さい革製の胸当て、それも片方だけで心臓だけ守ってる。

体は大きく例えるなら筋肉の山って感じ。

髪は無く代わりに顎髭は生い茂っており、見た目だけであれば如何にも豪快な荒くれ者って感じだ。

 

俺は先程の結果から立ち直れずとぼとぼと向かう。

 

 

「自己紹介からすっか!俺はゴルド!人は俺を『台無しのゴルド』って呼ぶ!よろしくな!」

 

(不安だ、何だよ台無しって。)

 

絶対良い意味じゃ無いだろう、本人は誇らしげだけど大丈夫なんだろうか。

 

「アキラです…」

 

「アキラか!今はまぁ落ち込んでるだろうが安心しろ!俺が色々教えてやっからよ」

 

「お願いします…」

 

「さて、何から教えっか」

 

「あの、」

 

「お?何だ?」

 

「冒険者って皆んな雷切れるんですか?」

 

俺として早くこれを確認したい。

スーリは教官を任されてる以上並よりは強いのだろうけど、あんなのばっかだとやって行ける気がしない。

不安を拭いたくて聞くと。

 

 

「ガッハハハハ!そんな訳無いだろ!」

「あんなの一部の奴しか出来ねーよ!」

 

 

豪快に笑うゴルド、俺は少し安心した。

チート貰ったのに雑魚だったらどうしようかと思ったけどその心配は無いかも知れない。

 

 

「あーその辺から教えてやるか」

「まず力や能力に自身を持って来た新人は、皆んな最初に鼻っ柱折んのさ」

 

「自身を無くさせるんですか?」

 

「そうだ、そうしねーと調子乗って直ぐ死ぬからな」

「冒険者で名を上げようなんて奴らに言葉で言っても無駄だ、だから試験で強い奴をぶつけて一度完全に折る必要があるんだよ」

 

「それ、折られた奴は大丈夫なんすか?」

 

「それはそいつ次第よ。だが一度自分より強い奴に負けただけで立てなくなる奴には冒険者は無理だ」

 

「安心しろよ、お前さんのユニークスキルは充分強いぜ。そもそも試験でスーリが出て来るだけで凄い事だからな」

 

「あの人どれくらい強いんですか?」

 

「スーリは片腕失って引退したが現役の頃はBランク、それもAランクを期待される程の剣士だった」

「引退した今でもこのギルドじゃ上位の実力者だ」

 

 

ランクがどの程度の強さなのか知らないが、あの人はかなりの実力者の様だ。試験の仕組みも言われてみれば納得は出来るがチート貰った以上そこを勝ちたかった。

 

 

「Bランクってどのぐらいの強さ何ですか?」

 

「そうだな、お前さんは賢そうだしその辺一気に教えちまうか」

 

そしてゴルドから冒険者について説明を受ける。

まとめると、ランクは最上位のSから最下位のGまであってゴルドの主観だと。

G→登録したて

F→新人

E→ひよっこ

D→一人前

C→ベテラン

B→エリート

A→天才

S→化け物

 

らしい、因みに俺もGからのスタートだ。

これは実力に関係無く全員一律にGランクから始める決まりだと。

昇級に着いては達成クエストの数や実力で測り、ギルドが出した昇級クエストを達成させれば上がる。

 

個人のランクとは別にパーティごとのランクもあるそうだが大体は同じだと言っていた。

 

受注可能なクエストについては受けるパーティのランクが適用され、同じランクのクエストまでしか受けられないそうだ。

 

 

「ゴルドさんはどのランク何ですか?」

 

 

「俺か?俺はCだな。あとゴルドで良いぞ、敬語もいらねーよむず痒くなる」

 

 

「あーわかり、、わかった」

いかついおっさんにタメ口って変な感じだ。

俺は一通り説明を受けて思った疑問を聞いてみた。

 

「説明は大体わかったけど、こうゆうのって普通ギルドが話すじゃないの?ゴルドさ、ゴルドって普通の冒険者だろ?」

 

 

「まぁ規則だ何だのも受け持った奴が説明する決まりだからな、お前さんは大丈夫みてーだが新人によっちゃ文字書けない奴も居るしな」

 

 

「受け持つって?」

 

 

「そうだな、新人は大体教官が決めた奴に面倒見させんのさ、ギルドのルール教えたり戦い方を教えるんだ。場合によっちゃその後のパーティの斡旋もするな」

「だからFランクになるまで俺が付きっきりで面倒みてやるよ」

 

 

このシステムは以外だった、まるで付き人の様なシステムだが理にはかなっているのかも知れない。

 

 

「なんだ?以外そうな顔だな」

 

 

「てっきり規則とか聞いたら新人同士でパーティ組むのかと思ってた」

 

 

「ハハハ!新人同士でパーティ?死ぬぞそんなもん」

「確かに故郷の仲間で冒険者になりに来た奴はたまに居るが、新人だけで組む事はねえな」

 

 

チュートリアルは先輩同伴でクリアしろって事なのか、新人だけで組む事が無いのも色々と予想外だな。

 

 

「でも俺の面倒見るってその間ゴルドはクエストどうするんだ?」

 

「その辺はギルドから報酬が出んだよ、新人任される奴は大体パーティの誰かが居なくて動けない奴とか数は少ないが俺みたいなソロで冒険者やってる暇な奴だからな」

 

「ゴルドってソロの冒険者なのか」

 

「おう、何たって台無しのゴルドだからな!」

 

「訳がわからないな…」

 

「まぁその辺は追々だな、大体は説明したし残りは都度教えてやるよ」

 

新人の教育はギルドからのクエストの様なものらしい、確かに手が空いてるならどっちにも利益があるか。

 

「俺ってこの後は具体的にどうするんだ?ゴルドと一緒にクエスト受けるの?」

 

 

「あーそうだな、取り敢えず今日は宿の場所と使える店教えるぐらいで終わりだ。明日からお前さんの修行だ、暫くはクエスト受けねえぞ」

 

 

「クエスト受けないのか?!俺そんなに金持って無いぞ?」

 

あの人に資金としていくらか貰ったけど多くは無い、資金が尽きる前に稼がなきゃやばい、流石に異世界来て野宿は嫌だ。

 

「逸るなよ、なりたてでいきなりクエストは無理だ。さっき見てたがお前さん戦闘経験殆ど無いだろ?」

 

「さっきはボロ負けしたけど、ここに来る前ゴブリンなら倒したぜ。それも一撃で」

 

「ゴブリンか、数は?」

 

「数は一体だけだったけど」

 

「ハハッならはぐれゴブリンじゃねーか、駄目だ駄目だそんなの経験にならねーよ」

 

 

(まじか、チートあるのにいきなり修行かよ。)

 

理想とは大分離れた現実にげんなりするがそれも仕方ないと思う自分も居る。

さっきのボロ負けはそれ程衝撃的だった、当然チートスキルも貰いたてで扱いにも慣れている訳では無かったがそれでも完封されるとは露ほどにも思っていなかった。

 

 

スーリ教官は上位の実力者だと言うが、それでもこの世界の冒険者は俺が思っていた以上に強いのかも知れない。自信満々に挑んで死ぬよりはここで自力を上げた方が良いように思えた。

 

 

「まぁ話は終わりにして好きなもん食えよ!今日は俺が奢ってやっからよ!」

 

初日で色々あったが落ち込んでも仕方ないと言葉に甘えた。

ガッツリ食う俺を見てゴルドは豪快に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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四話 今の実力

差し込む朝日が顔を照らし目が覚める。

目覚ましのアラームどころか時計すら無く寝るなんて小さな子どもの時以来だ。

 

 

異世界生活二日目、昨日は結局ゴルドに飯奢って貰った後日用品なんかを買って終わった。

ゴルドは見た目が暴漢そのものだが良い人だった、飯食いながら色々話して終わる頃にはすっかり打ち解けていた。

今泊まってる宿、宿と言うか荒屋だがに着いてからは疲れもあってか直ぐに寝た。

寝心地は控えめに言って最悪、布団は無く敷いた藁の上に雑魚寝、体が痛くなって無いのが唯一の救いだ。

 

 

体を伸ばし外に向かう、近くにある井戸で水を汲みタオルを濡らして顔や体を拭う。

当たり前だが風呂などない、この荒屋は安いが寝泊まりする以外の機能は何も無い。部屋も隙間風はあるが雨風凌げるだけましって感じだ。

大きさも高さは立っても頭をぶつける事は無いが、広さは二畳程度。

 

 

(台風来たら一発で吹き飛ぶだろうな、強めに蹴ったら穴空きそう)

 

 

ゴルド曰く大体の新人冒険者はこのレベルの生活らしい、酷い奴は馬小屋に泊めてもらう事もあるとか。

これからこの生活が続くと思うと気が滅入るが金が無い以上仕方ない、生活水準を上げるためにも強くならないと。

 

 

準備を整え冒険者ギルドに向かう。

 

 

ギルドでは既にゴルドが待っており直ぐに裏の訓練所に向かった、朝飯は吐くから食わない方が良いらしい。

 

「よし、やるか!先ずは今のお前さんがどの程度出来んのか見ないとな」

 

 

まず始めに走らされた。

 

「おら!もっと走れ!冒険者は走んのが仕事だ!」

 

 

訓練所の外周を何周も走らされたかと思えば、次は背中に土嚢を乗せられた状態での腕立て伏せをやらされた。

 

 

「そのぐらい上げろ、根性見せろ!」

 

俺は中学で陸上部やってたし体力にはそこそこ自信があったが既に疲れ果てていた。

 

 

「おいおいもうへばったのか?これじゃクエスト受けるなんて先の先だぜ」

 

結局午前中はそのまま基礎トレーニングで終わった。

ゴルドの言う通り朝食わなくて正解だ、食ってたら確実に吐いてる。

 

 

昼飯を食う為ギルドの酒場へ行くと

「午後は外に出るぜ」

「外に?実戦するのか?」

正直こんなバテた状態で実戦は鬼畜に思える。

 

「違えーよ、やんのはお前さんのスキルの確認よ」

 

「ん?スキルの確認なら訓練所じゃ駄目なのか?」

 

「あの能力じゃ無理だな、音がデカすぎる」

 

 

言われて見れば確かにそうか、俺の能力は本物の雷ほどじゃ無いがかなり大きな音を立てる。

街中で練習は無理か。

 

 

「街の外なら思いっきりぶっ放せる!そこまで離れなきゃ魔物もこねえーしな」

 

 

スキルを試せるのはありがたい、まだニ回しか使ってないから俺も何処まで出来るのか知らない。

 

 

昼食を終え壁の外へ向かった。

「お前さんのユニークスキルは雷で間違いないんだよな?指から飛ばすのは見たが他は何が出来んだ?」

 

自分自身の確認も含めてゴルドの前でやってみた、今の俺に出来るのは大まかに分けると

・手から電撃を放つ

・全身から雷を発生させる

・雷を落とす

 

 

この三つ、雷を落とすのが少し時間がかかるけど一番威力が高い。

自分自身を雷にして移動する技とか他にもやりたい技があったがどうすれば出来るのか全く分からなかった。

 

「ほぉ最後の奴は中々の威力だな」

「あれが、、最大の、技、、」

 

 

そう言うと俺は座り込む。

疲れた。午前も午後も一気に色々やってバテバテだ。

スキルを連発した疲れは午前中の体の疲労とは違う脱力感を感じた、恐らく魔力を消費した事によるものだろう。

 

「なるほどな、まぁ大体わかったぜ」

 

「何が?」

 

「今のお前さんのどの程度やれんのかって事だ」

 

「どうだった?」

 

「結論から言えや弱いな」

 

「よ、弱い?!」

 

 

ゴルドも言っていたが最後に見せた技なんかはかなりの威力がある筈、先日ボロ負けしたばかりだから期待はしていなかったが弱いと言う評価は驚きだった。

 

 

「ああ、先ず体力が無えし力も足りてねぇ。運動神経自体は悪くねーが動きが硬い」

「スキルは強力だがまだ扱い切れてねーし無駄が多い、まぁスキル以外が普通の新人って感じだな」

 

「それって普通なのか?弱いんじゃ?」

 

「ハハッ新人が弱い何て当たり前だろ」

「ま、その辺も鍛えてやっから安心しろ!それにスキルがある分ただの新人よりはよっぽど強いぜ」

 

「そ、そうか」

 

 

きつい。異世界生活はもっと楽に生きれると思っていたが、現実はそうじゃ無いらしい。

 

 

「こっからの話だがお前さんには明日から仕事修行を交互にやっていく事になる。修行は今日と同じ午前に基礎、午後にスキルって感じだな」

 

「仕事?クエスト以外でか?」

 

「おう、壁工事の仕事よ。金は要るからな」

 

「うげぇ土木作業かよ」

 

「文句言うんじゃねぇ、基礎体力を鍛えて金も貰えるんだからな」

「冒険者なりたてなんてそんなもんだ」

 

「まじかよ」

 

「話も済んだし休憩は終わりだ、ここからはスキルの使い方教えてやるよ」

 

「スキルの使い方?」

 

「あぁお前さんは今の所技を出すまでが遅い、と言うか魔力の使い方がなってねぇ」

「先ずは魔力の使い方からだ、ユニークスキルっつっても魔力が燃料だからな、上手く使えば効率も上がるし威力も上がる」

 

 

厳密には俺のはユニークスキルじゃ無いが魔力が燃料なのは同じだし似たようなものか。

 

 

「まぁ使い方学ぶのはわかったけど、ゴルドは魔力の使い方何て知ってるのか?絶対魔法使いじゃないだろ?」

 

「言い忘れてたが俺もユニークスキル持ってんだぜ!」

 

「まじで⁈何のスキル?怪力とか?」

 

「へっなら見せてやるよ、下がってな」

 

 

言われた通りに下がるとゴルドは地面を思い切り殴る。

拳が地面に着いた瞬間爆発が起こり爆風が俺の体に吹き付ける。

 

 

土煙が晴れゴルドの方を見てみれば、殴った所の地面が抉れ陥没していた。

 

「どーよ!これが俺のユニークスキル『爆発』だ」

 

「すげぇ!」

兵士の人が言ってたのはゴルドの事だったのか。

爆発するパンチとかロマンの塊かよ、これもカッコいいな。

 

「俺は手や足に爆発する魔力を纏えんのさ」

「そもそもお前さんの教育係が俺なのも同じユニークスキル持ちだからってのが大きいからな」

 

「さて、次はお前さんに使い方を教えてやる」

 

「お前さんはまだ能力に慣れてねえ感じがする、そこは使いまくるしか無いがそもそも自分の魔力の感知は出来てんのか?」

 

「魔力の感知?」

 

「ならそこからだな、威力を最小限にして雷を出せるか?」

 

「わかった」

俺は指に電気を発生させる。

指は雷を纏い帯電するがそれだけだ。

 

 

「ほう!器用だな、威力の加減調整はかなり難しいがお前さんは中々やるな」

「よし、撃たずにそのままにしろ、能力を使っている以上今も魔力は減っていってる筈だ。それを感じ取れ」

 

俺は目を閉じて体の中へと意識を向けるが

 

(全く分からん)

 

 

ただ出し続けるのが段々キツくなってきた、さっき連発したばっかだから俺の魔力も残り少ないのかも知れない。

連発した直後と同じ疲れを感じるが魔力ってのはよく分からない。

 

 

「これも練習あるのみだな。これなら撃たなきゃ街の中でも出来んだろ、魔力が完全に切れるまでそれを欠かさずやれよ」

 

「魔力量ってそうやって増えるのか?」

 

「まぁ多少だがな、後は残り魔力が少ない状態に慣れるってのもある」

 

実戦を想定した状態って事か。

確かにこれならあの荒屋でも出来る、やりたい技もまだまだあるし日課にしよう。

 

 

その後指の帯電が維持出来なくなるまでやったが結局魔力の感知には至らなかった。

 

「よし、今日はここまでだな。そろそろ帰るか」

「あぁ。もう疲れててヘトヘトだ」

「ハハハッ最初は皆んなそんなもんよ!コツはさっさと慣れちまう事だな」

 

 

そこから俺の土木作業と訓練を往復する生活が始まった。

 

 

 

 

 

  



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五話 異世界での生活

異世界生活を始めてもう二ヶ月は経っただろうか、カレンダーも無く忙しい毎日を過ごしていた為もう曖昧になってきた。

 

この2ヶ月を一言で言うなら、きつい以外の言葉が無い。

 

壁工事のバイトじゃ一日中重い資材を運んで、修行では日を追うごとにやる量が増えていった。

更に一月が過ぎた辺りからゴルドとのスキル無しの組手が始まったが毎度ボコボコにされる。

体格差がありすぎると言えば「オークはもっとデケェぞ」と言われ何も言い返せなくなった。

 

 

当然休みも無い、バイトは休むと生活出来なくなるし修行を休めばその分この生活が長くなる。

 

辛い生活だったが変わった事もある。

先ず体の変化だ。腕は太く胸板は厚く、ニヶ月前よりも遥かに逞しくなった。

元の世界じゃ短期間でここまで鍛えるのは無理だと思うが、雷を切る奴がいる世界と思えばそんなもんかと納得した。

流石にゴルド見たいな筋肉の山は築いてないが。

 

次に魔力についてだが、遂に感知に成功した。

これはかなり苦戦したが日課を続けた甲斐があった。

感知して初めて自分がどれだけ無理な使い方をしていたのかを知ったが、正直チートスキルじゃなきゃ発動すらして無いんじゃないかと思う程に酷かった。

お陰で今では技の出の速さも威力も上がり、出来る事も増えた。

 

 

朝の支度を終えギルドに向かう。

今日は早く新技を試したい為少し足取りが軽い。

 

しかし午前は変わらず基礎修行、そして毎度の事ながらバテる。こればかりは体力が付いたら付いた分だけきつくなるのでどうしようも無い。

 

昼食を済まし壁の外に向かうと

 

「お前さん今日はえらく機嫌が良いじゃねぇか」

 

「新技が完成したんだ、今日のは驚くぜ!」

 

「そんなにか?面白え、見せてみな」

 

「行くぜ!サンダーフォース!」

 

 

技を発動すると俺の体は僅かに雷を纏う。

 

「ほう、全身に雷を纏ったのか。スキル発動の維持たぁやるじゃねーか」

「防御技か?確かに難易度は凄えが、微妙じゃねーか?」

 

「これは防御じゃなくて強化技、この状態の俺は身体能力と反射速度が上がるんだ」

雷を纏う自己強化、構想は最初からあったが魔力感知以前は全く出来なかった。魔力感知に成功した後はこの技の練習を日課にし何とか習得する事に成功した。

 

「強化?へっ面白え、見てやるからかかってこいよ」

そう言うとゴルドは構える、組手で計ろうととするのはゴルドらしい。

 

「来な!」

 

「おう!」

俺は短く返事をしゴルドに向かう、ゴルドは攻撃を受けるつもりなのか仕掛ける素振りがない。

 

そんなゴルドを俺は思い切り殴り付ける。その衝撃にゴルドは楽しそうにニヤっと笑うと直様俺を掴みに来た。

 

これ一応雷纏ってるし触れたら少しは感電するはずなんだけど、異世界筋肉に微弱な雷は効かないらしい。

 

いつもならこんな大振りの攻撃をすればこのまま掴まれて終わりだが、今の強化された俺なら躱せる。

 

体を仰け反らせそのまま後ろに宙返りし躱す、掴みに来た腕とは反対の腕で殴りかかるゴルドの追撃は上半身を逸らせ再度躱す。

そして俺は逸らした体を戻す勢いのまま右ストレートを放つ。

 

ゴルドは直様ガードを固め俺の攻撃は防がれるが、ここが攻め時と構わず攻め続ける。ラッシュを仕掛け最後に渾身の後ろ回し蹴りを決めるもゴルドの防御は崩せなかった。

 

ガードを解いたゴルドは又楽しそうに笑う、俺も維持が限界となり技を解き組手は終了した。

 

「へっ中々腕上げたじゃねーか、最後のラッシュは良かったぜ」

 

「平気な顔で言われてもな…」

 

「ハハハッ!お前さんとは歴が違えからな」

 

ゴルドを攻撃した感触は巨木の様なものだった、

 

「しかしその新技は凄えな!スピードもパワーも大したもんだったぜ!」

 

「今は出力もあれが最大だし時間も一分が限界だけど、魔力が増えればもっと上がるぜ」

 

「ほう、ならお前さんはCランクの壁を越えるかも知れねえーな」

 

「Cランクの壁?」

 

「おう、冒険者は長くやってもランクは大体Cで止まんのよ。Cまで行けば基本的に食うには困らなねえしな」

 

「ゴルドでも超えられないのか…?」

 

このニヶ月で分かったがゴルドは強い、パワーは言うまでも無いが格闘術に長けている上に強力なユニークスキルもある。

俺は他の冒険者の強さを知らないがただのベテランってレベルじゃないだろと思ってる。

 

「あー俺の場合はソロだからな、ソロで超えんのは流石に無理だな」

 

「ならパーティ組めば良いじゃんか」

 

「っは!まぁその辺はお前さんがG抜けたら教えてやるよ」

 

「G抜けたらって割と直ぐじゃないか?」

 

「今のお前さんなら直ぐだろうな、強さも充分付いたし慢心も無くなった、そろそろクエストに挑むか」

 

 

「本当か?!やっとか!」

長かった、冒険者になったのにこの二ヶ月は土木作業と修行しかしてこなかった、やっと異世界らしい事が出来る。

 

「おう、明日の朝ギルドで集合だ。装備は一通り揃えてこいよ」

 

 

「遂に初クエストか!腕がなるな!」

 

「気を張り過ぎんなよ、まぁ明日クエスト受けんなら来たばっかだが今日は終いにするか。帰って体休めとけ」

 

「おう!」

 

この日はこのまま切り上げ街へと戻る。

ゴルドにも言われた通り浮かれ過ぎないよう気を付けたいが、俺の心の昂りを抑え切れなかった。

 

俺は明日、初めて冒険をするのだ。

 



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五、五話

夜の帳が下り静けさが街を覆う、相反する様に賑やかな酒場で男は酒を飲んでいた。

 

「彼の調子はどう?」

 

 

そんな男に話しかける隻腕の女、断りなく対面に座ると自分の酒を頼む。

男の脳裏に浮かぶのは最近任された新人、ギルドから期待され自分の元で修行に励む少年だった。

 

 

「かなり良くなったぜ、後は明日のクエストでどうかだな」

 

「今でどれくらい?」

 

「破壊力だけなら余裕でCでも通用するな、全体的に見ればDぐれえだ」

 

「二ヶ月でえらく上がったじゃないか、あんたに任せたのは正解だったね」

 

 

女は上機嫌になりながらも酒を飲む、自ら試験をしその強さに対して密かに期待していた。

その期待通りとも言える進歩に嬉しく思うが、少しだけ真剣な目をして男に聞く。

「能力の適性は?」

 

 

女の言葉に男は大きくため息をつき顔を横に振った。

 

 

「駄目だな、あれは俺と同じで冒険者に向いてねぇ」

「俺と違うのは兵士には向いてるって所だ」

 

「はぁ、やっぱりか。ギルドとしてはあんたらみたいなのも必要何だけどね」

女はため息を吐くものの落胆まではしなかった、この目で見た故にある程度の懸念はしていた。

 

 

「ハハハッ!そいつはありがてぇが食って行けなきゃどうしようもねえからな」

「まぁ暫くは冒険者続けるんじゃねえか?その後どっちを選ぶかは知らねえが」

 

「あんたやあの戦闘狂に加えて新人までも、どうしてこの街のユニークスキル持ちは癖が強いんだろうね」

 

「ハッ俺が知るかよ」

 

「明日のクエストはゴブリンの調査だったっけ?わかって居ると思うけどただの新人と同じ扱いはするんじゃ無いよ」

 

「大丈夫だ、その辺はしっかりやっとくぜ。俺も最初の頃は痛い目に合わされたからな」

 

 

女は酒を飲み干すとテーブルに小銭を置いて去って行った。自分の酒も無くなり追加で注文した、酒が来るまでする事もなく考えに耽る。

 

 

「面白え奴だがな、現実知ったらどっちに転ぶか、、」

 

 

自分が今面倒を見ている新人、最初こそ能力に溺れる奴の典型的なタイプだったがこの二ヶ月あいつは文句は言うが休む事無く修行に着いてきた。

 

能力の使い方も精神面もかなり成長し、ある一点を考え無ければ冒険者としてやって行けるだろう。

若く強力な才能を持ち修行でも根を上げない、その性格は絵に描いたような英雄志望。

 

 

(冒険者に不向きな英雄志望、まるで昔の、、、)

 

 

思考はそこで一度止まる。

 

 

「ハッ新人見て自分と重ねるなんざ俺も年とったな」

 

 

男は一人笑う、頼んだ酒が来ると一気に飲み干し給仕に金を渡す。

酒場を出れば少し涼しげな夜風が心地良かった。

 

 

 

 

 

 



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六話 初クエスト

六話 初クエスト(1)

いつもより早くに目を覚まし装備を整える、持って行くのは

ナイフ、ロープ、松明、手拭い、麻袋、焼却用簡易スクロール、解毒用の薬草に回復ポーションとショートソード。

ナイフとショートソードは革のベルトに装着し後は鞄に入れ背負う、準備をしながらもあの人にアイテムボックスも貰えば良かったなと思うが後の祭りだ。

この世界にもマジックバックはあるのだが今の俺では手が出せない金額のため諦めた。

 

ショートソードは持って行きはするが戦闘で使う予定は無い、草を刈ったり解体に使ったりと鉈の様な使い方になるだろう。

 

と言うのも、一度ゴルドに剣の使い方を聞いたら

 

 

 

「剣だぁ?お前さんにはいらないだろ。やめとけやめとけ無駄になるぜ」

 

「何でだ?」

 

「お前さんのユニークスキルは俺と同じで武器との相性が悪いんだよ」

「その辺の剣にお前さんの魔力流せば直ぐに駄目になるぜ、デカくて丈夫な剣で潰す様に切るってなら別だがお前さんには合わないだろ」

 

「まじかよ、、エンチャントとか無いのか?」

 

「それは魔法だな、魔法なら武器に属性エンチャント出来るが俺やお前さんのユニークスキルじゃ無理だ」

 

「魔法とユニークスキルで何が違うんだ?」

 

「魔法の場合はあくまで武器に魔力を纏うだけで、火のエンチャントをしても武器が燃えるんじゃなくて燃えんのは纏った魔力だ」

「だがユニークスキルで同じ事をするなら武器に直接魔力を流すしかねぇ」

 

「俺の場合は武器が爆砕して終わるしお前さんの場合は多分力に耐えられねえぞ」

 

「まぁミスリル製や耐性を持った魔物を素材にした上等な剣なら行けるだろうが、手に入れるまで使い潰し続ける何て金がいくらあっても足りねえよ」

 

「まじかよ、、雷の剣とか使いたかったのに、、」

 

「ハハッ気持ちは分かるぜ、俺も最初は武器ぶっ壊しまくったからな!」

「俺たちの場合は殴った方が早い、お前さんは遠距離攻撃も出来るしな」

 

 

そんな流れがあり剣を使うのは諦めた。

俺のはチートスキルだし行けるんじゃとナイフで試したが駄目だった、魔力を流したナイフは見事に砕け俺は素手で戦う事を決めた。

幸いゴルドはその戦い方のスペシャリストだ、ユニークスキルを使った近距離戦闘はかなり上達したし、今ではこれもカッコいいしありだなと思ってる。

 

そんな事を考えならがも準備を終えギルドに向かう。

 

 

ギルドでゴルドと合流しクエストボートで今日受けるクエストを探す。

クエストは主に調査、討伐、納品に分かれている、その他だとペットの捜索や剣術指導、護衛などがあるが数は少ない。

 

Gランクでも受注可能なクエストを探すが、運が悪いのかペットの捜索ぐらいしか無い。流石にこれは受け持ち人同伴で受けるクエストではないだろう。

 

 

「こりゃ駄目だな、仕方ねぇこれするぞ」

 

「ゴブリンの調査?Eランクだけど良いのか?」

 

「あぁ今は俺とパーティだからなパーティランクはEの筈だ」

 

「そう言えばパーティランクが受注の基準だったか」

 

「出来れば最初はFとかのが良いんだがな」

 

「Gじゃ無いのか?」

 

「G何てガキの使いみてーな依頼しか来ねーよ、Gランクの依頼なんてある方が珍しいぜ」

 

 

そう言いならがゴルドは依頼書を引き剥がしカウンターに向かう、その後俺はクエストを受ける流れや受ける際の注意点を教わる。

 

 

クエストの受注が完了しギルドを後にする、今回のクエストは近隣の村の近くでゴブリンと思わしき足跡を見たから調査して欲しいと言うものだった。

 

 

クエストの達成条件は村周辺の調査、ゴブリンなどの脅威が居た場合の排除だ。

調査段階で危険度が高いと判明した場合はその情報をギルドに伝えるだけでも達成になるらしい。受付のお姉さんからはゴブリン数匹なら討伐、それ以上なら直ぐに引き返して報告に来てと言われた。

 

 

 

 

「良いか?こっからは油断するなよ、俺が付いていようと死ぬときゃ死ぬからな」

 

 

街から出て村に向かおうとするとゴルドはそう言ってきた。

 

 

「あぁ、流石にもう調子に乗ってない」

 

この世界に来た当初ならチュートリアル感覚で挑んで居ただろうが、今は全くそんな気にはなれない。

やっと冒険者らしい事が出来る嬉しさはあるが油断は絶対にしないと決めていた。

 

 

と言うのもゴルドから聞いた話だが、この世界は長閑な林でも化け物級の魔物が出て来る事があり、RPGの様に場所によってレベル帯が分かれている何て事は無い。

 

実際にゴルドと修行中も何度かギルドで冒険者を引退する奴を見た、新人ばかりではあったが中にはDランクの冒険者も居た。

引退する奴は大体が心折れたか大怪我負って続けられなくなったかのどちらかだ、引退すら出来なかった奴はそういう事なのだろう。自分を除くパーティは全滅したと報告する奴も居た。

 

 

この世界には回復魔法があり数は少ないが回復魔法を使える冒険者も居る、しかし四肢の欠損や命に関わる大怪我の治療は専門の神官でないと出来ないそうだ。

当然無料では無く莫大な治療費がかかり、その費用はゴルドの様なベテラン冒険者でもかなり厳しいらしく新人や若い冒険者にはとても払う事は出来ない。

 

 

それ以外だとダンジョンの宝箱から極まれに出るフルポーションを探し出すしか無いが、深く潜らないといけない為自力では無理だし、買うのは同様の理由で無理。

 

 

大怪我を負えばそのまま引退するしか無くなるのだ。

そして引退出来るのはまだましだと言う現実。お陰で冒険者はいつでも人手不足だが一旗あげようと言う志望者は後を絶たない。

 

 

この世界の冒険者は俺が思って居たよりも強く、そして魔物は更に強い。

チートスキルが有ろうと今の俺が舐めて掛かれば直ぐに死ぬかもしれない、俺のチートは攻撃力に偏ってるしな。

 

 

「だと良いんだがな、何度も言ってるが壁から離れりゃ安全はねぇ、死にたくなきゃ油断すんなよ」

 

「おう」

俺はもう一度気を引き締めゴルドに着いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

街を出て三時間程歩いただろうか、途中魔物に遭遇する事も無く順調に進んだ。

 

「見えて来たぜ、あれが今回の依頼主のラタ村だ」

 

 

ゴルドが指差す先は木製の壁で囲われていた、門の上には矢倉があり兵士が此方に手を振る。

 

そのまま門まで行きゴルドが兵士に話しかけた

 

 

「依頼を受けた冒険者だ、ゴブリンの調査って依頼だ」

 

「ああ、今開ける」

 

 

門が開き兵士に出迎えられる、村はいくつもの住居があり人は多そうだ。農業を営んでいるのか桑などの農具を手にする村人が多い。

 

 

村は思ったよりでかい、でも木の壁だけって大丈夫なのか?

 

 

ゴルドと兵士の話を聞くと畑から少し離れた場所にゴブリンと思われる足跡を発見したとの事だ。

兵士の案内で畑に向かう途中、村の中心部に魔石の飾られたオブジェが建っていた。

 

 

「なぁ、あれって何だ?」

 

気になった俺はゴルドに聞いてみると。

 

 

「何って普通の魔除けじゃねーか、何だお前さん街育ちか?」

 

 

(魔除け?この世界では一般的なのか?)

どうするか迷うが街育ちって事にしておく。

 

 

「そんな感じ、魔除けって事はあれで魔物から村を守ってんのか?」

 

 

「ハッどんな感じだよ、まぁ良いか」

「あの魔除けで魔物が来ねーように守ってんだ、魔石を使うしゴブリンやコボルトみてえな魔力の低い奴には効きづらいけどな。」

「勿論クルトにもあるぜ、貴族が管理してっから見る事は無えだろうけどな」

 

 

なるほど、木で出来た壁じゃ防御力低過ぎると思って居たけどそう言う仕組みだったのか。

俺はもう一つ気になった事も聞いてみた。

 

 

「兵士の人が居るのに冒険者に依頼をしたのって何で何だ?」

 

 

この村には兵士が普通に居た、見たのは五人程だがあれが全員では無い事から最低でも十人はいるだろう。

それだけ兵士が居るのに金を払ってまで依頼する理由がわからなかった。

 

 

「兵士は基本的に村を守んのが仕事だからな、小規模な調査や森の中での討伐は冒険者に依頼すんのさ」

「ま、役割の違いって奴だ。少人数で村守ってる以上犠牲を出す訳にも行かねーしな」

 

「そう言う事だったのか」

 

 

そんな話をしながらも門に着いた、入って来た門とは反対側にある門を超えると畑が広がっていた。

 

畑は広くいくつかの野菜を栽培している様で、その外周には木製の柵が設置されて居た。

畑の中央には村と同じオブジェが建てられ、畑も同様に守っている様だ。この世界でどうやって農業やってるのか気になって居たが、魔除けが有れば出来なくは無いのかと納得した。

 

 

「足跡があったのはこの柵の奥です、足跡の数から少数だとは思うのですが調査の程よろしくお願いします」

 

兵士の指す方向を見ると柵の奥は切り開かれた平地が続くが、少し奥には林が見える。

俺はゴルドと共に柵を乗り越え調査を開始した。

 

 

 

 

 

 

 



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七話 初クエスト(2)

調査開始からまだ一時間程だろうか、今は畑の奥の林に居る。木陰に隠れながら様子を伺う先には五体のゴブリンが居た。

 

足跡を辿り林に入ればゴブリンは直ぐに見つける事ができ、俺は息を整え先制攻撃を行う。

 

「サンダーアロー!」

 

生み出された三本の雷がゴブリンを貫く、不意を突かれたゴブリンは反応する事も無く三体がそのまま倒れた。

俺は間髪入れずに次の技を発動する。

 

 

「サンダーフォース」

雷を纏いゴブリンに急接近、相手はまだ状況が理解できておらず手に持つ武器を構えもしない。

 

こちらを向いたゴブリンの頭を飛び膝蹴りで砕く、やっと理解したのか武器を構えるゴブリンは、その武器を振り下ろすよりも早く右の拳で殴りつけた。

 

周囲を警戒し敵がいない事を確認した俺は技を解き腰のショートソードを抜く。

倒れ伏すゴブリン達の首を切り裂きとどめを刺す、恐らく既に絶命しては居るが念の為。

ゴブリンは生命力が高く死んだフリをする事もある故ゴルドから、「殺したと思っても取り敢えず首を切っとけ」と教わった。

 

首を切った次は胸を切りゴブリンの体の中に手を入れる、ゴブリンの魔石は胸部にあり取り出すと指の爪程度の魔石が出て来た。最後に討伐証明の右耳を切り取り袋に入れる。

 

討伐証明を回収し終わるとゴルドが近付いて来る。

 

「ハハッ奇襲は出来は上々じゃねーか」

 

ゴルドは「やばくなったら入る」と言い、基本的には今回の依頼で起こる戦闘に参加しない。俺は一人立ち出来るかを見るためにも必要なんだろうと納得していた。

 

「だがここからだぜ、気抜くなよ」

 

「ここから?調査の続きって事か?」

倒した事に油断するなって事か?

事実ゴブリンは倒したがこれは依頼の完了では無い、この後更に調査を続け無ければ行けない。

 

「直ぐわかるさ、ほらもう来たぜ」

 

こちらに近く足音、直ぐに警戒体制を取り敵に備える。

さっきの戦闘音を聞き付けて来たのか武装したゴブリン達が飛び出して来た。数は七体程、先程と違い完全に戦闘態勢に入られている。

 

  

「サンダーアロー!」

再度雷の矢を飛ばす、今の俺が同時に撃てるのは三発までだが当たればゴブリンなら即死は間違い無い。

仲間がやられた事を気にも止めず接近するゴブリン達。

 

 

「ショックガン!」

四発の小さな雷の弾が手から撃ち出される、当初は教官に一切効かなかった技だが今は大幅に強化され撃たれたゴブリン達が大きく怯む。

 

その隙にもう一度サンダーフォースを発動させ二体のゴブリンを殴殺、残りのゴブリンにも攻撃しようとするが

 

その瞬間林の奥から再度足音が聞こえたかと思えば、新手のゴブリン達が現れた。その数は十を超え、奥にはやたらデカい奴も居る。

 

 

「また増援かよ、、」

 

迫るゴブリンに対し直様後ろへ引く、怯みから解放されたゴブリンも新手と合流し、ゴブリン達は勝ち誇った様に下卑た笑い声を上げ向かって来る。

 

 

「行けるかぁ?」

 

 

「大丈夫だ!」

後ろから聞こえたゴルドの声に短く返す。

こんなに増援が来るのは予想外だが冷静に考える、これだけ数が多いと接近戦は避けたい。

ゴブリンならば一撃で殺せるが不意を突かれれば俺も一撃で死ぬ、囲まれたら厄介だ。

 

俺は両手を前に突き出し溜めに入る。

まだ技が未完成で溜めが必要なのが難点だがゴブリン達との距離はまだある。

 

 

ゴブリン達が直ぐ近くまで迫るが溜めは完了し技を発動する。

 

「サンダーストーム‼︎」

 

放たれたいくつもの荒れ狂う様な電撃がゴブリン達を呑み込む。

雷が通り過ぎ次々に倒れるゴブリン、だが後ろに居たデカい奴は味方を盾にする事で防いでいたらしく、黒ゴケになった味方の死体を投げ捨てる。

 

通常のゴブリンの倍はある、恐らく上位種のホブゴブリンだろう。ホブゴブリンは怒り狂った様に叫び声を上げ突っ込んで来る。

 

「サンダーアロー」

 

 

短時間に多くの魔力を消費し僅かに怠さを感じるが確実に殺す為電撃を放つ。

それと同時にホブゴブリンは武器を盾にし防ごうとした、ホブゴブリンが持つ木製の棍棒は電撃が直撃した瞬間弾け飛んだ。電撃も霧散しホブゴブリンには当たらなかったが立て続けににもう一発放つ。

 

直撃したホブゴブリンは倒れ伏す、即死せずまだ息はあるが戦闘不能だろう。最後はショートソードでとどめを刺した。

 

「疲れた、、」

三連戦、それも最後は範囲攻撃まで行った。

暫く周囲を警戒して居たが増援はさっきので最後だったらしいくもう近づく様な音はしない。

足早に魔石と討伐証明の回収を済ませるが、危険を感じその場を飛び退く。

 

その直後自分の居た場所に投げられる石、投げられた方を見ればゴルドが立って居た。

 

 

「良く避けたな!油断してんじゃねーかと思ったが大丈夫そうだな」

そう言って近づくゴルド、その顔には全く悪気は無くいつもの様に豪快に笑っている。

 

「確かめる為に石投げるって危ないだろ」

 

「これが一番教訓になるから良いんだよ」

 

一理あるか?

はぁ、これで納得する辺り俺も大分この世界に染まったのか。

 

「勝ったと思った時が一番油断すっからな、お前さんは上出来だ」

 

「誰かさんに散々教え込まれたからな」

修行中もこの手の内容は多かった、魔物から不意打ちをくらえば死ぬ可能性が高い為俺自身も危険察知能力は出来るだけ鍛えて居た。

 

「ハハハッ!ならお前を育てた俺が優秀って事だな!」

 

「はぁそんな冗談言って無いで死体運ぶの手伝ってくれよ」

 

「仕方ねえな、さっさと終わらせて村に戻るか」

 

「村に?調査はもう良いのか?」

ゴブリンの追撃は無い様だが、まだ居るかも知れないしこの後調査再開すると思って居た。

 

「ホブが出て来た以上今回の原因はそいつらで全部だ、大方この辺りを新しく縄張りにした群れって所だろうな」

「追撃が無えのがその証拠だ」

 

「じゃぁもう帰れんのか、魔力大分使ったし又連戦とかだったらやばかったな」

 

 

その後ゴブリン達の死体を一箇所にまとめて燃やす、これをしないと死肉を食べに他の魔物が寄って来たり疫病が発生したりする為、緊急事態以外は厳守する様に言われている。

 

肉が食える場合や死体が素材として売れる場合は持ち帰るのだが、生憎ゴブリンは魔石以外は価値が無い。

 

 

村に戻り兵士へ報告する、調査結果と俺が一人で倒した事に驚いては居たがつつがなく進んだ。

クエスト達成のサインを貰い街へと帰る、帰りも特に魔物と遭遇する事なく終わった。

偶にゴルドから石が飛んで来たが、、

 

 

ギルドでの報告も終わり、新人の初クエストの結果としてはかなり凄かったらしく追加報酬を少しだけ貰えた。

その後は初クエスト達成の祝いとしてゴルドの奢りで酒場へ行き

 

 

飲み過ぎて吐いた。

 

 

 

酒場の外で吐き散らす俺を見てゴルドは豪快に笑って居た。

 

 



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八話 パーティ

ギルドの受付に採取して来た薬草を渡す、ギルドの職員は手早く確認すると

 

「お疲れ様でした、クエスト達成です」

「こちらが今回の報酬です、それとアキラさんはこれで三度クエスト達成しましたのでGランクからFランクに昇級となります」

 

「こちらが新しいプレートです」

 

ギルド職員がからプレートを受け取りその場を離れる。

初クエスト達成から五日、一昨日のコボルトの調査も今日の薬草採取もどちらも戦闘自体発生せず何事も無く完了した。

 

コボルトの調査に至ってはそれらしき魔物は居らずそれをそのまま報告したら達成となった、低ランクの調査クエストだと偶にあるそうで、依頼者からも居ないに越した事は無いと言われた。

 

報告も終わりギルド内の酒場に向かえばゴルドが酒を飲みながら待っていた。

 

「おう終わったか?」

 

「あぁほらFランクになったぜ」

 

「ならこれからの事話すか」

 

席につきゴルドの話を聞く、新人は基本的にGを超えたら何処かのパーティに入る。ゴルドに師事して貰うのももう終わりになるからそれについての話だろう。

 

「あーそうだな、基本的流れは前に話したが、お前さんの場合はそれに当てはまらねぇ可能性が高い」

 

「どう言う事だ?ゴルドがパーティを紹介してくれるんじゃ無いのか?」

 

「普通ならそうだ、俺やギルドからの紹介かパーティからスカウトが来てればそこに連れて行くんだが、、」

「あー面倒だからはっきり言うぜ、お前さんをパーティに入れようとする奴は居ねえ」

 

 

「え?」

 

「俺にスカウトとか来てないのか?」

 

「来てねえな、多分俺から紹介しようが断られるぜ」

 

 

「まじ?」

 

「まじだ」

 

「俺ってそんなにやばいのか?ユニークスキルだって持ってるのに?」

 

正直引く手数多だと思って居た俺は衝撃を受けた。

 

 

「やばくはねーな、戦闘力もそこらの新人じゃ比べられねえぐらいに強い頭も悪く無えし性格も問題ない、それだけなら正に期待の新人だ」

 

「なら何でなんだ?」

 

「ユニークスキルだ」

 

「ユニークスキル?」

何故ユニークスキルがマイナスに働くのかわからない、俺のスキルは遠近どちらも戦える、命をかけて戦う以上強いスキルを持った仲間は欲しいはず。

 

 

「お前さんのスキルは強いが俺と同じで威力がデカ過ぎる、ついでに音もデカいから魔物が寄ってくるんだよ」

 

「こないだのゴブリンの調査だって普通ならあんな連戦は起きねえ、魔物の群れを討伐する時は各個撃破が定石だが俺達はそれが出来ねぇ」

「スキル使えや立ち待ち魔物が押し寄せて来るからな」

 

魔物は基本的に好戦的な奴が多くそいつらは大きな音に怖がる事は無い、むしろ獲物を求めて近付いて来る可能性が高い、近付き音の発生源が人と知れば襲い掛かって来るだろう。

 

それを考えれば確かに俺のスキルは隠密行動には全く向かず、戦えば周囲の魔物を呼び寄せ狩り尽くすまで連戦が続くかも知れない。

 

 

「まじかよ、、」

頭では理解出来るが納得はしたくない。

衝撃を受けて居る俺を見てゴルドは続ける、

 

「そう言えや何で俺がソロなのか教えてやる約束だったな、俺が『台無しのゴルド』何て呼ばれんのは倒した魔物がボロ雑巾見てえになって素材として使えなくなるからだ」

 

「これもお前さんに当てはまるぜ」

 

 

頭が痛くなって来た、確かに俺は派手に魔物を倒す事に憧れ雷を選んだが綺麗な状態で殺すのには不向きだ。

 

ゴルドの爆発程では無いと思うが俺が魔物を攻撃すれば、肉や皮は焦げるし高威力の技を使ったら素材として何か残るのかさえわからない。場合によっては魔石以外の素材価値が無くなる。

 

 

冒険者の収入源はクエストの報酬と魔物の素材の換金だ。ただ割合で言えば素材の換金の方が圧倒的に高い、危険な魔物の素材となればその入手難易度から価値は高くなる。

この世界では魔物の肉も普通に食べる為、肉の需要も高い。

 

 

冒険者は命をかけて戦っている、それに見合う報酬が無ければ続けられない。

冒険者として稼ぐと考えた場合、俺は魔物引き寄せるわ素材ダメにするでパーティに誘って貰える訳が無かった。

 

 

 

この世界はとことん思惑通りに進まないな。

 

 

「じゃぁ俺はどうすれば良いんだ?」

 

「お前さんにある道は二つだな、一つはソロで冒険者をやってく事、二つ目は冒険者を辞めて兵士になる事だ」

 

「ここまで来て辞めるのかよ!」

 

「そんな珍しい話じゃねえぞ、冒険者より兵士に向いてる奴は割と多い。それに兵士になった場合はお前さんは優遇されるぜ」

「あいつらは魔物を殺す事が一番重要だからな、遠距離から強力なスキルで攻撃出来る奴は大歓迎だろうよ」

 

 

「ゴルドは兵士にならなかったのか?」

 

「俺のスキルは兵士見てえな集団戦には合わねえし俺の性格にも合わねえからな」

 

兵士、そう言えば最初に会った兵士もそんな事を言ってたな。

でも違うんだよな。

異世界まで来たんだ、この世界では出来る事よりもやりたい事を優先したい。その為にこの力を選んだ、理想通りじゃ無くても俺は冒険者になりたい。

 

「ソロだとどうなるんだ?」

 

「ソロか?ソロでやってくなら俺が教えてやるよ」

 

そう答えるゴルドは何処か嬉しそうであった。

 

「ソロなら基本的には討伐クエストを臨時パーティで受けるか、ランクを下げたクエストを一人で行くかだな」

 

「臨時ならパーティ組めるのか?」

 

「臨時パーティつっても同じ様な訳ありの連中ばかりだが運が良ければ組めるぜ」

 

「まぁ直ぐに決める必要は無えさ、ソロで冒険者やっても生きてさえいりゃ兵士にはいつでもなれるからな」

 

生きてさえ居ればか、討伐目標が格下でも外に出る以上は危険は避けられないし、臨時パーティにも不安が残る。

 

 

 

 

 

 

その後はゆっくり考えたいと言い解散した、ゴルドからは決まったら教えろとだけ。

 

荒屋で一人考える、兵士を選ぶ気は無いがどうすれば良いのかがわからない。

 

ゴルドの様にソロでやってくか?

 

この世界に来た当初で有れば「ソロ冒険者とかカッコいいじゃん!」とか思いそうだが現実を知った今では危険過ぎて無理だ、危険なだけで金は大して稼げないのも辛い。

 

生活環境を上げる為にも金は必要だし、子供っぽいが俺はやっぱりこの世界で強くなってカッコいい男になりたい。どうすれば良いのか、、、

 

 

難しい、元の世界でもあったがやりたい事と出来る事の相違。思考だけがぐるぐる回るが名案は思い付かない。

漫画や小説ならここで美少女戦闘奴隷との出会いがあるがこの世界に奴隷制度は無い。

 

美少女達で構成されたパーティが夢だったが、俺では普通のパーティにも入れて貰えない。

 

俺は考え続けるが段々と不満も溜まって来た

 

「この能力強いだろ、雷扱えるんだぜ?それが期待の新人どころか地雷扱いかよ!」

「ゴルドだってあれだけ強いのに二つ名が台無しはないだろ」

 

言い出したら更に不満を感じるが必死に自分を落ち着かせる、選んだのは自分だしこの力を貰った事を後悔はしたくない。

 

 

冷静に考えれば俺は不満を感じているだけなのだと気付いた、冒険者を諦められない以上兵士になる道は無い。

ゴルドに教えて貰いながらソロでやってくしか無いのだ。

 

そこで遂に名案を思い付く。

 

「ゴルドとパーティ組めば良く無いか?」

 

シンプルだ、まず思い付きそうな案だがゴルドと組めばソロでやる必要は無い。

俺はゴルドと固定パーティを組む前提で考えを進める。

 

「俺もゴルドも戦うデメリット同じだし一人より余程安全だよな」

 

「ゴルドの話じゃ討伐クエストだけでも稼げないけど食えない訳じゃ無いっぽいし」

 

「俺とゴルドが組んだら素材収益は終わる、ならもうそっちは捨ててばんばん討伐クエスト受けるとか」

 

「俺がもっと強くなれば受けれるクエストのランクも報酬も上がるし、ゴルドとの連携技とかも面白いかも知れない」

 

完全に皮算用だが不満に頭悩ませるよりは良い様な気がして居た。ゴルドに断られたら全て水の泡だが頭は冴え思考は進む。

 

「いっそ討伐メインの最強パーティを作るのもありだな!」

「金はなくてもどんな魔物も倒す最強のパーティ、悪くない、寧ろこれこそ俺の目指すべき場所な気がして来た!」

 

パーティとしては二人じゃ少ないが同じ様な奴が居るかも知れない、居ないかも知れないけどその時はその時だ。

さらば存在しない美少女達、俺はこれからおっさんにパーティを申し込む。

 

善は急げ、暴走とも言える思考のまま俺は荒屋を飛び出した。

辺りはもう暗くなって居るがこの時間ならゴルドはギルドの酒場で飲んでいる筈、俺は急いでギルドに向かった。

 

 

ギルドの酒場に着けば案の定ゴルドが酒を飲んでいる、こちらに気付いて少し驚くゴルドに駆け寄る。

 

「何だ?どうかしたのか」

 

「ゴルド!俺とパーティを組もうぜ!」

 

 

 

 

 

 



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九話 パーティ(2)

「パーティ?冒険者続けんのか?」

 

 

ギルドの酒場、ゴルドは少し以外そうに聞いてきた、俺はゴルドの対面の席に座り興奮気味に話を続ける。

  

 

「あぁやっぱり俺は冒険者で居たい、だからゴルド俺と組もうぜ」

 

「ハッ聞いてやるから落ち着けよ」

「そもそもこの街でソロでやってくなら俺と臨時パーティ組む事は多いと思うぜ」

 

「違うんだ、俺が言ってるのは臨時じゃなくて固定パーティの話だ」

 

「固定パーティだぁ?俺とお前さんとでか?」

 

「俺は他の冒険者と大して交流が無いから今は二人になるけど、俺達見たいな奴を集めようと思う」

 

他の仲間に付いては取り敢えず後回し、まずはゴルドとパーティ組めなければ意味が無い。

 

 

「ハハハッ俺とお前さんが組んだパーティ何てまともな奴は来ねえだろ、何しろバランスも悪けりゃ金にもならねえ」

 

「逆だゴルド、俺達見たいな奴って言ったろ?俺やゴルドのデメリットはどうしようも無いんだからバランス何て考えないで特化させるべきだ」

 

「それに俺とゴルドは組むメリットがデカい筈だ、まだ俺は弱いけど音も素材についてもデメリットが同じなら、二人で組んだ方が気兼ね無く戦えるだろ?」

 

 

俺の提案にゴルドは少し頷く、この時初めてゴルドの意識がこちらに向いた気がした。

 

 

「なるほどな、戦闘力に特化させて討伐クエスト受けてくって事か?」

 

「そうだ、それで金は稼げなくてもどんな魔物も倒す最強のパーティを作ろう!」

 

 

一拍の間、そしてゴルドは俺を見て今見でで一番の笑い声を上げた。

 

 

「ハッハッハッ!最強のパーティ?俺は今日冒険者の現実を教えた筈だぜ!ハッハッ!それがどうなったら最強のパーティになるんだよ」

 

 

「俺じゃ冒険者続けても正攻法ではやって行けない、なら突き抜けた方がカッコ良いだろ?」

 

 

「ハハハッお前さんはもっと賢いと思って居たがな、早死にするぜ?」

 

 

「死にたくは無いけど、選んだ先で死ぬなら後悔しながら生きるより良いだろ」

 

 

本心だった、俺は一度死んで居る。間違えであっため異世界に来る事が出来たが死ぬ事の恐怖も悲しみも経験済みだ。この世界での人生はやりたい事やりたかった事の為に生きると決めたんだ。

 

 

「ハッひよっこが言いやがるぜ」

 

「俺以外のパーティメンバーに当てもねえ、掲げる目標は馬鹿げてる上に、仮に成功してもきっと割に合わねえ」

「まるで冒険者に憧れるガキ見てえな話だ」

 

 

最後は呆れた様に話すゴルド、流石にこれは無理かも知れない。

そんな考えも過ったがゴルドは俺の目を見て言う。

 

 

「面白えじゃねえか」

 

「その話!乗ってやるよ」

 

「本当か?!」

 

「あぁお前さん見てえな馬鹿が、何処まで行けるか見てやる」

 

「よっしゃー‼︎」

 

「これからよろしくな"アキラ"」

 

「おう!」

 

硬い握手を交わす、これでゴルドは正式な仲間になった。嬉しかった、やっぱり一緒に冒険する仲間が出来たのはとんでも無く嬉しい。

 

 

一通り喜び俺は酒を飲む、いつもと同じ酒の筈だが何故美味しく感じる。一人舞い上がる俺にゴルドは話す。

 

 

「パーティメンバーだが一人だけ入りそうな奴を知ってるぜ」

 

「本当か⁈」

 

 

ゴルドはベテランだ、それも新人の育成も任せられて居る、もしかしたらゴルドなら良い奴を知って居るかもとは思って居たがそれは当たっていた様だ。

 

「あぁ臨時で偶に組む事があったんだがアキラの目標にはばっちし当てはまる」

 

「どんな人だ?」

 

「戦士だ、戦士としての力量はかなり高え、更に強力なユニークスキルも持ってる」

 

「俺達と同じタイプか?それならありがたいな」

 

 

俺達が組む以上魔物との連戦、素材収益無しは避けられない、同じ様な欠点を持ってる方が入ってくれる可能性が上がるだろう。

 

「それだけじゃねえ、あいつは回復魔法の適正もある」

 

「まじかよ!凄えじゃん、この街に居るんだよな?」

 

 

回復魔法の適正を持つ冒険者は少ない、怪我と危険が切り離せない冒険者にとっては回復魔法を使える仲間は喉から手が出る程欲しがるだろう。

 

 

更にユニークスキルまで持ってる、正直スペックが高過ぎる。パーティに入って貰えれば戦力としては間違い無く大幅強化に繋がる、何としても勧誘しないと。

 

 

この時の俺はかなり興奮していた、仲間が出来た事に有力な候補まで見つかったのだから無理も無い。

冷静であれば何故そんな高スペックの冒険者がソロでやってるのか疑問に思っただろうが、今の俺は考えもしなかった。

 

 

「この街にいるぜ、どうせ宿の酒場で飲んでるだろうよ」

 

「近いのか?近いなら今から行こうぜ!」

 

 

俺はもう逸る気持ちを抑えられない、今日は良い日だ、なら良い日の内に話を進めた方が良いに決まっている。

  

 

「おいおい今から?気が早過ぎねえか」

 

「こーゆーのは早く動いた方が良いに決まってる!行こうぜ、案内してくれよ」

 

「ハハッ仕方ねえパーティリーダーの言う事だ、従うとするか」

 

「え?パーティリーダーって俺なのか?」

 

「当たり前だろ、誘った奴が何言ってんだ」

 

「俺まだ新人だぜ?良いのか?」

 

 

俺が提案はしたがリーダーはゴルドがやると思っていた、ベテランだし俺より強いし新人を育てられるぐらいだからリーダー適正が無い訳では無いだろう。

 

 

「んな事どうでも良いんだよ、アキラならランクはどうせ直ぐ追いつくさ」

 

「直ぐかぁ?今日Fになったばかりだぜ?」

 

「一年もありゃ行くだろうよ、んじゃ向かうか」

 

 

ゴルドは給仕に金を渡し席を立つ、向かったのはギルドから少し離れた宿屋だった。

二階建ての普通の宿で、建物もそこまで大きくは無いが一階に小さな酒場がある。ゴルドは酒場に入ると辺りを見回す、

 

 

「お、居たぜ」

 

 

そのままゴルド進む先では一人の女性が酒を飲んでいた。

年は二十代に見える、少し目付きは鋭いが整った顔に真っ赤なロングヘアー。座って居る為わかりずらいが身長も大分高い、下手したら俺より大きいかも知れない。

体付きは女性らしさがあるが筋肉質だ、ゴルドの様に筋骨隆々と言う訳ではないがかなり鍛えられてる様だ。

 

 

ぱっと見だと上品なアマゾネスってイメージが湧いた。

その女性はこちらに気付くと声をかけて来た。

 

 

「ん?ゴルドじゃないか、何か用か?」

 

「おう、今日は話があってきたんだ」

「先に紹介するぜ、こいつがさっき話した戦士のジーナだ」

 

紹介されたジーナはこちら睨み

 

「誰だこのガキ?新しく受け持った新人か?」

 

「そうだが違え、アキラは俺のパーティのリーダーだ」

 

「パーティリーダー?クエストの話か?悪いけど臨時だろうとガキのお守りなんざごめんだね」

 

「臨時の話じゃねえ、今日はお前さんを固定パーティに勧誘しに来たんだ」

 

「はぁ?固定パーティ?その言い方じゃあんたと組んだのか?」

 

「おう、さっきだがな、こいつは面白えぞ」

 

 

ジーナは改めて俺を見る、口調も荒っぽく顔も強面だがやはり美人ではある、全体的に怖いが、、、

 

 

「アタシにはただのガキにしか見えないけどね、にしてもゴルドと組んでアタシを勧誘なんざ教育に失敗したんじゃないか?」

 

「ハハハッ普通はそう思うよな!こいつはこんななりしてイカれてんのさ、言ってやれよアキラ」

 

 

ゴルドは俺の背中を叩く、俺は意を決して単刀直入に勧誘を試みた。

 

 

「俺は最強のパーティを作りたい、その為に力を貸して欲しい」

 

 

俺はジーナの事はまだ何も知らない、だが目の前に居る彼女はどう見ても弱いとは思えない、寧ろ俺の感性が「こいつは強キャラだ」と叫んでいる。

びびって日寄った事言えば相手にして貰えないだろう、興奮冷めぬ内に話を進める。

 

 

「アッハッハッ!確かにイカれてる、それはアタシを『暴虐のジーナ』と知っての言葉か?」

 

 

「いや、知らない!あんたの事もさっきゴルドに聞いて知ったばかりだ」

 

「なら何故誘う?」

 

ジーナは笑って居るが目は真剣だ、その目は俺の真意を見抜かんと光る。

俺は下手に取り繕うよりも感情をぶつける事にした。

 

 

「理由は無い!あんたが必要だと思った!」

 

 

「ハッハッハッ口説き文句としちゃ最悪だ、センスのかけらも無ぇが確かに面白い」

「一度見てやる、入るかどうかはそれからだ」

 

 

「本当か⁈良し!」

約束は取り付けた、初対面の勧誘としては上々の結果だ。やはり正直に話して良かった、俺が喜んで居るといつ頼んだのか酒を片手にゴルドが笑った。

 

 

「ハハハッ本当酷え台詞だな、だが良くやったぜアキラ、俺達が戦う所を見りゃこいつは絶対気に入るぜ」

 

 

後日ギルドでクエストを受ける約束をし、その日はそのまま酒場で飲んだ、ただでさえ興奮気味な所に酒が入り俺の記憶はこの辺で途切れ起きた時には道路で寝ていた。

 

 

、、、財布は多分ゴルドが預かってるだろう、、、

、、そう願った。

 



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十話 一緒にクエスト

目の前には鬱蒼と茂る森、天気は良く晴れて居るのに森の中は薄暗く、ここからでは奥まで見通す事は出来ない。

 

俺達はある討伐クエストを受けて来た、内容は近隣の森に新しくグレーウルフの群れが住み着いてしまった為討伐して欲しいと言うものだ。

 

このクエストの結果次第でジーナの加入が決まる、ゴルドは大丈夫だと笑って居たが情け無い所を見せて失望される訳には行かない。

 

まぁ完全に新人なので実力はまだまだだがジーナが見るのは違う所だろう。

 

 

 

 

 

警戒しながらも森へ入ろうとするも待ったがかかる。

俺は待ったをかけた本人、ジーナの方を向くと。

 

「森の中探し回るより良い方法があんだよ、ほら」

 

そう言ったジーナは自分で自分の手を切りつけた、切られた手からは血が滴る。それをジーナは平然とした態度で行うが俺には意味が話からなった。

 

「え?何してんの⁈」

いきなり手を切りつける理由が分からず、慌てて説明を求める。ゴルドは意図が分かって居る様だが呆れた様子で俺に続いた。

 

「おいおい本気か?」

 

 

二人の困惑を他所にジーナは回復魔法を使い自分の手の治療をする、すると直ぐに傷は塞がった。傷の完治を確認するとこちらを向きニヤリと笑いながら答えた。

 

「この方が早いだろ?」

 

「ハッ!相変わらずだな。アキラ!気い付けろ、直ぐに来るぜ」

 

ゴルドは森の方を警戒し拳を構える、俺の問いの答えは酷く短かったが意図は何となく察する事が出来た、森に入らず魔物をこちらに誘き出そうと言う事なんだろう。

特に今回の標的は優れた嗅覚を持つ、森の近くで血の匂いがすれば飛び付いて来る可能性は高い。

 

 

今居る場所は森と草原の丁度境目辺り、辺りの視界は良く邪魔になる木なども無い為戦うのならば森よりも余程有利に戦える。

 

理屈はわかる、理屈はわかるが方法とその躊躇いの無さには驚愕を隠せずに居た。

 

急いで森に向き直り戦闘態勢に入る、森の中からは既に近づく足跡が無数に聞こえていた。

 

「それじゃお手並み拝見と行こうか」

ジーナは嬉しそうに笑い後ろへと下がる。

 

 

飛び出して来たのは今回の標的であるグレーウルフ、グレーウルフはその名の通り灰色の狼、特殊能力などは持たないが俊敏な動きに鋭利な牙や爪と侮れる相手では無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルドが殴るたびに爆発音が響き狼の肉片が飛び散る、俺は俺で森から出て来た狼に片っ端から電撃の矢を放つ。

数が多く接近された時は雷を纏い蹴り飛ばし、とどめの電撃を浴びせる。

 

 

連携などは無い、ただお互いの邪魔にならない様目の前の敵を殺して行くだけ。

 

 

辺り一面が狼の死体で溢れるのに時間はかからなかった。

 

 

「何体やった?」

増援の気配は無くなり近くに居た狼は倒しきれた様だ、一息つく様にゴルドが話す。

 

「十体ぐらい?」

今の俺には戦闘中に倒した数を数える余裕は無い為正確では無いが大体それぐらいだろう。

 

「ハッ!まだまだだな」

 

「そう言うゴルドはどれくらい倒したんだ?」

 

「二十は行ってんじゃねーか?三十は無えと思うぜ」

 

辺りを見回しながら答えるゴルド、倒す速さで言えば圧倒的にゴルドの方が速い。一発殴れば相手は肉塊に変わるし戦闘技術も俺とは比べ物にならない。

俺としては無傷で十倒せただけ良い結果に思えた。

 

 

「後はボスだけか?」

 

「ああ、ボスと一緒に何体かは残ってるだろうが少ねえ筈だ」

 

グレーウルフは基本的に三十体程の群れを作る、俺とゴルドで群れはほぼ壊滅させた為残るはボスとその側近だけとなった。

 

縄張り意識が強く執念深い為これだけドンぱちやっていればその内向こうから現れるだろう。周囲を警戒しながらも少しは休憩出来た、ボス戦に備える様に森を見ていると後ろから声がかかる。

 

「お前らの戦いは充分見れたんだ、ボスは譲ってもらうよ」

 

そう答えるとジーナは剣を抜き前へ出る、大きなマチェットナイフの様な剣を両手に楽しそうに話を続ける。

 

「今度はアタシのスキルを見せてやるよ」

 

ジーナが持っているユニークスキルに付いては教えて貰えなかった、ゴルドは知っているが本人が見せた方が早いと言った為知らないまま。

 

前に出たジーナを見て俺とゴルドは下がる、一様周囲の警戒は怠らないがジーナの実力に少しわくわくしていた。

 

 

程なくして森から大きな足音が聞こえて来た、足音からしてかなり大きい魔物の様だがどうにもおかしい。

聞こえる足音は狼の様な俊敏さが感じられ無い、グレーウルフのボスは他の狼よりも大きいがこれ程の足音はたてないだろう。

 

警戒を高めて居ると森から巨大な熊が現れる。

体長は五メートルはあろうか、その体毛は黒く硬質化し鎧を着ている様にも見える。不気味な赤い瞳がこちらを見ていた。

 

「アーマーグリズリーか、また中々な奴が出て来たな」

 

隣のゴルドは何でも無い事の様に言う。

アーマーグリズリーはCランクの魔物だった筈、グレーウルフは単体でE、群れだとDだ。

これが普通のDランク冒険者が受けていれば即時撤退しか無かっただろう。

 

森の奥に居たのか偶然近くに居たのかは知らないが血の匂いと音で呼び出してしまったようだ。

 

 

 

「アッハッハッハッ!良いじゃねーか!グレーウルフじゃ満足出来るか心配してたんだ!」

「これで思い切り楽しめる」

 

 

アーマーグリズリーを見てジーナは心底嬉しそうな声を上げる。

こちらを獲物と認識したのかアーマーグリズリーは大きく吠え迫って来るが、ジーナは慌てる事もなく静かに呟いた。

 

「狂化」

 

 

 

 

その日、俺は『暴虐のジーナ』の意味を知った。

 



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十一話 暴虐のジーナ

俺の目の前では衝撃的な光景が広がっていた。

 

 

戦いながらジーナは笑っている、楽しそうに愛おしそうに声をあげて笑っている。

 

ひたすらに攻撃を繰り返す超攻撃的な戦闘スタイル。

回避や防御は致命傷となり得る攻撃にしか行わず、当然被弾し傷を負うが傷ついたそばから回復魔法で直してしまう。

 

今もアーマーグリズリーの鋭利な爪がジーナの頬を裂き鮮血が飛び散るが、ジーナは笑みを深め即座に相手の腕を斬り裂いた。

 

裂かれた腕が地面に落ち、唸り声をあげるがジーナの猛攻は止まらない。

 

戦い方は野蛮そのもの、だがジーナの剣技は正確でどこか美しさすら感じる。

 

 

「これがあいつのユニークスキル『狂化』だ、あれは理性を代償に戦闘能力を上げるんだとよ」

 

 

隣で見ているゴルドがそう話すが能力については見ればわかる。

そしてここまで教えてもらえなかった理由も納得した、確かにこれは見たほうが早い。

街で兵士に聞いたときは会いたくないと思ったが今はこの街に居てくれた事に感謝している。

 

「どれぐらい上がってんだ?」

 

「詳しいことは俺にもわからねえな、力だけなら今のあいつは俺よりあるぜ」

 

「ゴルドより?それ凄いな!」

 

そんな会話をしている内も戦闘は続く、ジーナは鎧に傷がついているが無傷。

相対するアーマーグリズリーは片腕を無くし体中傷だらけの血まみれだ。

 

最後の力を振り絞り飛び掛かる、ジーナはそれに応えるかの如く相手に迫り、

 

両の剣を交差するように切りつけた。

 

強烈な一撃、アーマーグリズリーは加えられた力に逆らえず後方に倒れる。

それと同時に名前の所以である鎧の様な体毛に、×印の亀裂が入り夥しい量の血が噴き出す。

どうやら決着はついたようだ。

 

戦闘が終わりジーナがこちらに向いた。

息が切れているのか浅い呼吸を繰り返し、目が見開かれ、その爛々とした瞳には未だ狂気が宿っている様に感じた。

 

 

「ゴルド、ジーナも流石に仲間には攻撃しないよな?」

 

当たり前だが仲間殺しは御法度だ、冒険者の規則はかなり緩いがそんな事をすれば資格剝奪じゃすまない。

 

「ハッハッハ!多分大丈夫だろ、スキル全開放すりゃ見境なくなるらしいが流石にそんな馬鹿じゃねえさ」

 

俺はそうだよなと返すが少し安心する、戦闘終了後もその様子は戦闘前の状態に戻っていない為少しだけ不安を感じていた。

スキルの効果時間中なのか余韻的な奴なのかわからないがしばらくすれば戻るだろう。

 

そしてジーナはゆっくり近づいて来たかと思えばいきなり俺の胸倉を掴む。

 

「さぁどうする?アタシの力は見せた、それでもあんたはアタシを誘うかい?」

 

狂気の宿った瞳でジーナは問う。

いきなりの行動に驚きはしたが、答えは決まっている。

 

「あぁ!一緒に最強のパーティを作ろう!」

 

ジーナは強い、戦闘スタイルがスタイルだけに荒っぽく見えるがその剣技は素人目にも洗練されている事がわかる、戦闘を好む性格も俺達とは相性が良い。

俺は今の戦闘を見て、ジーナは最強のパーティを作るには欠かせない仲間になると確信して居た。

 

ジーナは俺を離し空を見上げる様に笑った。

 

「アッハッハッハ!気に入った!あんたのパーティに入ってやるよ」

 

「よろしくな!」

 

俺が手を差し出せばジーナは強く握り返す。

 

「あぁ、あんたが諦めるまではその馬鹿げた夢に付き合ってやる、精々退屈させんなよ」

 

「だから言ったろ?こいつは絶対気にいるってよ」

 

ゴルドも笑みを浮かべ和やかなムードに包まれるが、迫る足音に即座に戦闘態勢に入る。

そして間も無くグレーウルフの残党が現れた、今度はボスもいる様でこいつらを倒せばクエスト達成だ。

 

 

 

 

戦闘は呆気なく終わった。

 

「ボスは貰う約束だ!」とジーナが突っ込み、俺とゴルドは残党と戦った。

数もボスを除いて六頭しか居らず直ぐに倒しきれた、ボスは他の個体よりも強く、持ち前の俊敏さでジーナを翻弄しようとするが相手が悪かった。

 

 

どちらかと言えば戦闘の後処理の方が大変だった。

グレーウルフの討伐証明となる尻尾を切り取り、魔石や売れそうな素材の回収、死体を集めて燃やすのだが。

 

ゴルドが倒した狼は体の半分を爆散させた物も多く、尻尾や魔石を回収出来ない。飛び散った肉片は燃やして置かなければならないので頑張って集めたが、細かい物は集める気すら起きなかった。

 

因みにグレーウルフの毛皮は素材としての価値があるが、案の定傷んで使えなかったり爆散してたりで回収は諦めた。大き目の牙は売れるので集めたが肉は硬くて食べられないそうだ。

 

ジーナが倒したアーマーグリズリーは鎧の様な体毛が一番素材としての価値があるのだが、これも切り裂かれボロボロとなって居る為使えない、普通の冒険者であれば鎧の部分は防御力も高いのでその部分を避けて攻撃するらしい。

 

結局アーマーグリズリーからは大きめの魔石と爪、牙、多少の肉を剥ぎ取り残りは燃やした。

 

処理中もいつ新手が来るかわから無いので交代で警戒しながら作業し、終わる頃には日が傾き出したので直ぐに街へと戻った。

 

 






クエスト詳細
―――――――――――――――――――――――
 グレーウルフ討伐

受注条件:パーティランクD以上
達成条件:ボス含む群れの討伐
成功報酬:金貨一枚
討伐証明:尻尾
討伐報酬:一体に付き銅貨一枚

〜以下一体辺りの素材価値〜
魔石:銅貨五枚
牙:銅貨二枚
毛皮:傷無し 銀貨一枚
   傷有り 銅貨五枚

―――――――――――――――――――――――

このクエストを達成した冒険者の平均的な収入
 金貨五枚程度


※硬貨の種類は 金、銀、銅、鉄 の四種類です。
(十進法)


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十二話 報酬とパーティ名

街へと戻る途中、俺は周囲の警戒を怠らずにゴルドに話す。

 

「これで三人、ちょっとはパーティらしくなったか?」

 

「まぁ三人じゃ少ねえが三人パーティも居なくは無えな」

 

 

ゴルドは考える様に答える、俺が見てた感じだと冒険者は基本的に四〜六人でパーティを組んでいた。

多い方が安全だが当然一人当たりの報酬は減る為そのぐらいの人数で落ち着くのかも知れない。

 

 

「俺はゴルド以外知り合いの冒険者居ないし、入ってくれて助かった」

 

 

ゴルドとも完全に見切り発車で組んだ為、こんなに早くパーティメンバーが増えたのは嬉しい誤算だ。

感謝を伝えるとジーナは鼻で笑い。

 

 

「最初は入る気までは無かったけどね、おおホラ吹きのガキを見てやろうぐらいにしか思って無かったさ」

 

「まじかよ、まぁ初対面だったしそんなもんか?」

 

 

そう言いながら思ったが、確かに初めて会う新人に「最強のパーティを作ろう」と誘われても普通は相手にしないか。思い出せば結構恥ずかしい事言ってた気がするけど、結果が良かったので良しとしよう。

 

 

「大体、まともに戦え無い奴集めて最強を目指すなんざイカれた事言ってんだ、現実知らないガキだと思うのは当然さ、まぁ今日のを見れば納得だったが」

 

「このパーティは最強にならなきゃやってけない、馬鹿みたいに魔物呼び寄せんだからな」

 

「それにアタシは戦いを楽しめればそれで良い、このパーティなら何の気もせずそれが出来る」

 

 

そう語るジーナは何処か嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

街に着いた時には夜になって居た、夜の外は視界も悪く夜行性の魔物が出る為昼以上に危険だ。

何とか日が完全に沈む前に街の近くまで来る事が出来たのは運が良かった、途中で魔物と遭遇して居ればまだ外を歩いて居たかも知れない。

 

 

俺達はそのままギルドに向かい、報告を済まし報酬を受け取る。受付は討伐証明の尻尾と素材として出された物を見比べ一瞬驚く。

 

その顔は「え?これだけ倒して素材これだけ?」と語って居たが、俺達、正確にはゴルドを見て察したのか何も聞かずに作業を進めた。

 

今回の報酬は全部で金貨三枚と銀貨八枚。

内訳としては

クエスト達成の報酬が 金貨一枚

グレーウルフの討伐報酬が一体で 銅貨一枚

魔石一つが 銅貨五枚

牙一体分が 銅貨二枚

(それぞれ二十体分)

 

クエストとは関係ないがアーマーグリズリーの報酬で。

討伐報酬が 銀貨一枚

爪と牙で 銀貨二枚

魔石が 銀貨七枚

肉が 銀貨二枚

 

これは一般的な冒険者からすればあり得ない程少ないが、俺達は少数パーティで一人当たりの報酬割合は高いのが救いだった。

 

 

 

その後は酒場に向かい酒と料理を頼む。

 

この世界に来た当初は酒を飲む事に躊躇いを感じたが、慣れとは怖いもので今では当たり前の様に酒を飲んでいる。この世界は十五で成人だ、日常的に飲む訳じゃ無いしここは異世界だからと開き直った。

 

 

 

 

頼んだ酒が運ばれれば木製のジョッキを軽く合わせ乾杯する、俺は酒を飲みながら話し出す。

 

「今回はアーマーグリズリーのお陰で報酬大分上がったな、けどジーナは本当に三等分で良いのか?」

 

今回の報酬は三等分に分け、余った金はここの代金に当てる事になった。素材が無い分少ないとは言え、今までの俺の収入と比べればかなりの金額だ。

ジーナが一人で倒した分も分けて良いのか聞くと。

 

「構わねえさ、アタシらのパーティは功績で分けようなんざ意味ないからな」

 

特に気にした様子も無くジーナは答えた。

毎回毎回話し合いで決めるのも面倒だ、素材に付いては全員同じ様なものだし俺達の場合はジーナの言う通りかも知れない。

 

「なら俺達のパーティは均等に分ける形で行くか」

 

そんな事を話して居ると次々に料理が運ばれて来る、冒険者相手の商売だからか豪快な料理が多いが味は良い。

出来立ての料理に舌鼓を打つ中ゴルドがふと話し出す。

 

「明日辺りに固定パーティの申請しねえとだな」

 

ゴルドに言われて思い出したが固定パーティは申請が必要だ、申請と言ってもメンバーとパーティ名を報告するだけだが。

 

「そう言えば、パーティ名は決まってんのか?」

 

食事の手を止めジーナが聞いて来た、正直に言えば何も考えて無い、このパーティを組む事自体ここ数日で決めたし申請についてもゴルドが言うまで忘れていた。

 

「何も決めて無いな、パーティ名って普通どうやって決めんだ?」

 

「さぁ?」

 

「あー大体は共通の目的とかパーティの特徴とかだな、後は適当にそれっぽいの付けてる奴も居るぜ」

 

ゴルドが説明するが、特徴や目的か、、、

 

「なら『デストロイヤーズ』とかどうだ?」

 

「ハッハッハッ!俺が聞いた中で一番ダセェな!」

 

ゴルドは爆笑しジーナは興味無さげに酒を飲む、そんなにセンス無いか?

 

俺はもう一度考える。

俺達らしいもの、、、暴れる(スマッシュ)?いや戦う(バトル)か。

戦う、、、道、剣、光、、、

良い案が思い浮かばず視線が上がると、酒場の天井と灯りが写る。

 

灯り、、、戦いの灯、、、これだ!

 

戦いの灯(バトルトーチ)!これならどうだ?」

 

「ハッハッハッ!いきなり良くなったな!戦いの灯(バトルトーチ)か、良いと思うぜ!」

 

ゴルドは笑うも賛成の様だ、ジーナの方を向けば

 

「良いんじゃないか」

 

「よし、なら俺達はこれから『戦いの灯(バトルトーチ)』だ!」

 

 

こうして最強のパーティ(予定)が結成された。

 

 

 

 

 






アーマーグリズリーの報酬

成功報酬:無し(クエストでは無い為)
討伐報酬:銀貨一枚
魔石:銀貨七枚
毛皮(鎧)状態により査定:金貨三〜五枚
牙:銀貨一枚、銅貨五枚
爪:銀貨一枚、銅貨五枚
肉:銀貨三枚

損失なく討伐した場合一体で金貨六枚、銀貨四枚
(毛皮は金貨五枚で計算)


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十三話 休日

十一話と十二話の後書きにクエストや報酬についての詳細を追加しました、今後も載せるかはアンケートで決めようかと考えいます。 



パーティ申請が受諾されギルドにも正式なパーティとして認められた。パーティランクは臨時と変わらずDランク。

 

俺達のパーティを見る他の冒険者は皆珍しい物を見る様な目をして居たが多かったが、偶然居合わせたスーリ教官は少し驚くも

 

「まさかこうなるとはね、どんなパーティになるのか楽しみにしとくよ」

 

と期待してくれて居る様だった。

 

 

その後は当面の目標として俺のランクアップを目指す事が決まる、今はFに上がったばかりだがゴルド曰く「このままクエストやってりゃ直ぐだ、Cまでは昇級クエストも大したもん無えしな」との事だ。

 

最強を目指す以上ここで立ち止まる訳には行かない、どんどんクエストを受けようと話す俺に二人は賛成した。

 

 

 

――――――――――

 

 

それからはひたすらにクエストを受ける毎日、流石に休もうと言う事になり今日は久々の休日。

パーティ結成後は壁工事のバイトも辞めた為予定は特に無く、荒屋の狭い部屋で過ごすよりはと街中へ向かった。

 

 

宛もなく街を歩くと出店や屋台のある広場に辿り着いた。

屋台で串焼きを買い椅子に腰掛け呆ける様に街を眺める、来た当初は感動して居たが今はもうこの街並みにも慣れてた。

 

「何するか」

 

折角の休みだし何かしたいと思うが、したい事がこれと言って無い。この街にある娯楽といえば演劇や兵士同士の試合、後は賭場ぐらいかだ。

広場の中央に目を向ければ木製の看板が立ててある。

 

 《『薔薇騎士と邪悪な森』公演中》

 

「英雄譚か?」

 

薔薇騎士、如何にもイケメンそうな主人公だな。

あまり興味は湧かないが時間も余って居るし良いかも知れない、そう思い立ち上がると声をかけられた。

 

「おお、あん時の坊主じゃねーか!」

 

「え?」

声の主を見れば、この世界に来た時に馬に乗せてくれた兵士だった。

 

「ああ!久しぶりです!」

 

「ハハッ冒険者にはなれたのか?」

 

「はい、今は仲間も出来ました」

 

この世界に来た日以来の再会に嬉しくなる。

改めてお礼を言おうと思ったのたが、街や門で見かける事が無くお礼を言えずに居た。

 

「良かったじゃねーか、仲間は大事にしろよ」

 

「はい!あの時はありがとうございました!」

 

「へッ良いって事よ、それが俺の仕事だからな」

 

そう答える兵士はカッコ良く見えた。

兵士は顎に手を当て呟く様に話す。

 

「にしても冒険者か、ファルの予想は外れたな」

 

「ファル?」

 

「ん?そう言えば名前言って無かったか」

「俺はジェイス、そんであん時もう一人居た奴がファルだ、ファルの奴は坊主は絶対兵士になるって言ってんだよ」

 

「ああ、兵士の方が向いてるってのはパーティ組む前言われましたね」

 

寧ろこの能力で冒険者選ぶ奴の方が少ないだろうなとも思う。最初に来たのがこの街じゃ無かったら、ゴルドも居ないし兵士になって居たかも知れない。

 

「まぁ人間やりたい事やるのが一番だからな、にしても坊主暇してんのか?」

 

「今日は休みにしようってなったんですけど何もする事思い付かなかったのでそこの演劇でも見に行こうかなって」

 

そう言いながらさっきの看板を指差す。ジェイスさんはそれを見ると

 

「薔薇騎士の演劇か、多分今日の分は売り切れてるぞ?」

 

「え?そんなに人気何ですか?」

 

「薔薇騎士は人気だな、あれを見るなら朝からならば無いとだぜ」

 

朝から、あの演劇そんなに人気あったのか。困ったな、やっと決まった予定が無くなってしまった。

少し残念に思って居ると

 

「坊主は薔薇騎士知らないのか?」

 

「え、昔の強かった騎士とかですか?」

やばい、もしかしてこの世界じゃ知ってるの当たり前な存在なのか?

 

「ハハッ薔薇騎士は冒険者だ、それも昔じゃなくて今も現役の筈だぜ」

 

「冒険者なのに騎士なんですか?」

 

「まぁそれは二つ名みたいなもんだ」

 

まさか現役の冒険者の話だとは、しかもそれが今演劇になってるのは凄いな。どれだけ人気高いんだ?

 

 

 

「そろそろ行くか、またな坊主!死ぬんじゃねーぞ」

 

「はい!頑張ります!」

 

 

ジェイスさんと別れた後、俺はギルドへ向う。

する事も無かったので明日に響かない程度に体を動かそうかと思い、ギルドに入ると。

 

「お、アキラじゃねーか、何してんだ?」

 

「ゴルド、する事無かったし訓練所で体動かそうかなって」

 

「ハッハッ良い心掛けじゃねえか、よし!久々に組手でもするか!」

 

 

偶然居合わせたゴルドと久々にスキル無しの組手をする事になり、それ自体はありがたかったのだが、、、

 

 

 

俺は張り切ったゴルドにボコボコにされた。

 

 

 

翌日、割とダメージが残っており、ジーナに治療して貰う羽目になった。

その時のジーナは俺達を馬鹿を見る目で見ていた。

 



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十四話 ランクアップ

誤字報告ありがとうございます。
これからもあれば直して行きますのでよろしくお願いします。


「バーストタックル!」

 

ゴルドは足元の爆発を推進力にし魔物に突進する、百キロを優に超える筋肉の塊が凄まじい速度で突き進み、直撃したオークは弾き飛ばされた。

 

オークはゴルドよりも大きい、そんなオークが飛ぶ様はちょっとした衝撃映像だ。あの威力じゃ生命力の高いオークでも絶命は免れないだろう。

 

 

 

「アッハッハッハ!」

 

ゴルドから少し離れた所ではジーナがオーク二体を相手に楽しげな声を上げる。楽しそうなジーナと引き換えにオーク達は既に血まみれだった。

 

オークは力と生命力に優れているが動きは遅い、それでも充分脅威ではあるが、攻撃も大振りで連携する知能も無い、それでは狂化状態のジーナを捉える事は出来ない。

 

 

満身創痍のオーク達は接近するジーナに反応出来ずその首を飛ばされた。

 

 

 

振り下ろされる棍棒をサイドステップで躱す、この時に大きく回避してしまうと相手に追撃の余裕を与えてしまう為最小限の動きで回避する。

 

次の瞬間自分の居た場所に棍棒が叩きつけられる、オークの動きが遅いと言っても攻撃自体は速い、しかも一撃でも当たれば死ぬ可能性が高い。相手の動きを良く観察しながら恐れず戦わなくては。

 

 

冒険者の格言に[ビビったら死ぬ]と言うものがある、これはオークの様なパワー型と戦う際の言葉だ。

パワー型は攻撃までの動作が長く狙いもわかりやすい、しかし躊躇いや恐怖で足を止めれば殺される、だから絶対怖がるなと言う意味だ。

 

 

回避に成功した俺は技を発動する。

 

「サンダーフォース!」

 

体に雷を纏い自身を強化する、そしてそれだけでは無く続けて更に発動。

 

「ブースト、アーム!」

 

腕に纏う雷が勢いを増す、これは新しく習得したサンダーフォースの進化技。

サンダーフォースは全身の強化、この技はその状態を維持したまま更に部位の強化をする。全身の更なる強化も出来るが、魔力消費が大きくなる為必要に迫られなければ使う事は無い。

 

渾身のボディブロー決まる、ゴルドの様にふっ飛ばす事は出来ないがオークが怯む。

 

「ウオオオオ!」

 

俺は雄叫びを上げ連打を繰り出す、殴る度オークの肌は焼き焦げ拳の跡を作った。

オークは苦しみながらも棍棒を横薙ぎに振るうが直様飛び退き回避する、そして空振りが終われば再度接近し連打。

 

態勢を崩したオークの顔面にとどめのストレート放つ。

 

オークは倒れ伏し動かなくなった、念の為に瓦割りの要領で頭を砕き技を解く。

最初はショートソードで行っていたがこの方が安全だし早い。

 

 

 

周囲を見渡せば俺のオークが最後だった様でゴルドとジーナが観戦していた。

 

「ハッハッハ!アキラも大分強くなったじゃねーか!」

 

「良いんじゃないか」

 

二人はそう褒めてくれる、俺自身も以前に比べればかなり強くなれたと思う。

 

 

この世界では魔物を倒すほど強くなれる、倒した魔物の魔力を吸収出来るからだ。

魔力を吸収すると身体能力や五感が強化され、魔法使いや俺達の様なユニークスキル持ちは魔力量も増える。

このあたりの仕組みはゲームのレベルアップと同じ様だ。

 

「あぁ前より魔力も上がったし良い感じだ」

 

 

俺は身体能力も上がったが魔力量の増加はそれ以上に上がった。

技も使う度に洗練され新たな技も増え、特にサンダーフォースは魔力効率が大幅に改善され多用している。

 

「アキラは期間で言えばまだ新人だからな、新人がこれだけ戦えばそりゃ伸びるだろ」

 

「ま、壁までは直ぐに行くだろうね」

 

「壁か、今の所はまだ感じないけどな」

 

「Cに上がってもまず壁までが遠いからな、まだ暫くは伸びると思うぜ」

 

俗に言うCランクの壁。魔物を倒すほど強くなるが当然成長速度は落ちて行く、それが顕著に現れるのがCランクあたりらしい。

 

Cランクまでは長く続ける事が出来れば行けると言われるが、実力的にそれ以上に強くなれるのは一握りしか居ない。

壁を超える為には強い魔物と沢山戦う必要があり、ゲームの様にコンティニューは出来ない。

 

そしてCランクまで行けばそこまでの危険を冒さずとも良い生活が出来る、それが理由で上を目指すのを諦める冒険者が多い。

 

壁を越えようと挑む冒険者も居るがその殆どは帰らぬ人となる。

 

 

パーティ結成から数ヶ月が経つがこれまでの期間の殆どを討伐クエストに費やした。

クエストにかかる時間は内容次第の為、数を平均と比べる事は出来ないがそのクエスト頻度は周りの冒険者から常軌を逸していると言われる程だ。

 

 

良いか悪いかはわからないが、世界は魔物の脅威が身近で依頼に困る事は無かった。

 

お陰で俺は急成長でき、ランクもCランクまで上がった。途中何度か死にかけたが、その度にゴルドやジーナに助けてもらい生き残れた。

 

 

 

「さっさと回収して帰るか」

 

ゴルドはそう言いながら回収を始める、俺やジーナも続く様に回収作業を開始する。

今回も連戦に次ぐ連戦で、俺達は数多の死体に囲まれていた。

 

 

 

 

 

因みに、Cランクに上がった時スーリ教官にランクアップがここまで早い冒険者が居たのか聞いた所

 

「私が教官に付いてからは三人目かな、その内の一人はジーナ、もう一人はあなたは会ったこと無い奴で怪我で引退したよ」

 

「現役の時も何人かは見かけたけど、殆どその後調子乗って死んでるからあなたは気を付けなさいよ」

 

と言われ、もしかしたら異例の早さかもと期待していた俺は改めて気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十五話 ギルドからの依頼

窓から差し込む朝日が顔を照らす。

目が覚めた俺は寝ぼけながらも感動していた。

 

「めちゃくちゃよく眠れた」

 

俺が寝ていたのは何の変哲もないただのベットだ。

だがベットなのだ、今までの様な藁の上に雑魚寝じゃない、人間が寝る為に作った素晴らしい発明品の効果を実感した。

 

俺は遂にあの荒屋を出た、今住んでいるのは一般的な宿、広くは無いがベットも簡易的なイスとテーブルもある。

 

俺は自分を労う、良く頑張ったと良く我慢したと。

俺達のパーティが金を稼げないのは周知の事実だが、宿のランクを上げるぐらいならばもっと早くに出来た。

 

それでも荒屋に泊まり続け金を貯めたのはマジックバックを買う為だ、今までただのカバンを使っていたがかなり不便だった、戦闘の邪魔になるし手入れしないと付着した返り血何かが臭ってくるし、入れ方が悪かったのもあるが一度カバンの中でポーションが割れた事もあった。

 

そこで俺は金を貯め、先日念願のマジックバックを購入した。

中の容量は約大きめのカバン三個分とあまり大きな物では無いが、俺達のパーティならそんなに大きな素材が手に入らない為充分だった。

 

 

そんな大きさの物でも貯金はほぼ消えた、俺達のパーティはクエスト報酬の少なさを回数で補っていた為一般冒険者には届かないが金が無い訳じゃ無い。

 

高い買い物だったがこれからはクエストで楽が出来ると思うと正解を選んだと感じる、これから又貯金は始めるが流石に宿のグレートは上げようと決めこの宿を教えてもらった。

 

 

新たな生活に満足しつつギルドへ向かう。

 

 

――――――――

 

 

ギルドでゴルド達と合流し、今日受けるクエストを探そうとしたが受付から声がかかり、俺達はそのまま受付に向かった。

 

「すみません呼び止めてしまって、ギルドから『戦いの灯』にクエストを依頼したくて」

 

「クエストの依頼?」

 

「はい、こちらなんですけど」

 

そう話ながら受付は依頼書を出して来た、依頼書を確認すると

 

―――――――――――――――――――――――

  ポイズントード討伐

 

受注条件:パーティランクC以上

達成条件:湖に住み着いたポイズントードの討伐

    :汚染されていた場合は湖の浄化

成功報酬:金貨五枚

討伐証明:舌

討伐報酬:一体に付き銅貨五枚

〜以下一体辺りの素材価値〜

魔石:銀貨五枚

毒袋:金貨一枚(傷無しのみ)

―――――――――――――――――――――――

 

「討伐はわかるけど浄化?ジーナって浄化出来るの?」

 

「出来ないね、あれは神聖魔法じゃなきゃ使えない様になってんのさ」

 

「浄化についてはこちらで神官の方をお呼びして居ますので大丈夫です、ただ見習いの方でして、、、」

 

受付のお姉さんは困り顔で話す、話からして見習いの神官とクエストに行けって事なんだろうけど。

 

「見習いの護衛しながらって事?俺達には向かなそうですけど良いんですか?」

 

クエストの内容からして俺達には不向きだ、討伐だけなら問題無いと思うが見習いの護衛に泉の浄化。

浄化については神官が行うとしても一瞬で終わる訳ではないだろう、そうなると浄化中と行き帰りは神官を護衛しなくてはいけない。

 

俺達は自ら危険を呼び込む様な戦い方の為守るのには向いてない、受付のお姉さんもその辺りは知っているはずだが。

 

 

「実は今依頼出来るパーティがアキラさん達しか居なくて、、、」

「湖の下流には村もあり川が完全に汚染される前に討伐をお願いしたく、他の冒険者さんをお待ちする訳にもいかない状況です」

 

状況的に俺達の様な不向きなパーティに依頼するしか無いのか、不安要素はあるけど内容聞いたら断れないな。

 

 

「これは受けるしか無いんじゃない?」

 

「なら追加で金貨三枚だ」

 

「え?」

 

今話したのは受付のお姉さんじゃないジーナだ、ジーナは不機嫌そうに受付に言う。

 

「クエストは受けてやる、だがガキのお守りさせんなら報酬に金貨三枚追加だ」

 

「追加報酬ですか、、、わかりました、成功報酬にギルドから金貨三枚追加させて頂きます」

 

受付のお姉さんは少し考えた様だがジーナの要求に応えた、話の展開に少し遅れた俺はゴルドにこっそりと聞く。

 

「良いのかこれ?ギルドからの依頼で報酬交渉なんて」

 

「ジーナの言ってる事は別に変な事じゃねえぞ、アキラも言ってたがこの依頼は明らかに俺達に向いてねえ、その依頼を受けるんだからこのぐらいは問題ねえよ」

 

「そう言うものなのか」

 

「そう言うもんだぜ、ギルドからの依頼だから出来る事だけどな、張り出しある依頼でやったらただの馬鹿だ」

 

俺がゴルドに説明を受けている間に受付のお姉さんは依頼書に追加報酬を書き足した。

 

「では成功報酬を追加しました、これで問題無いでしょうか?」

 

「あ、はい大丈夫です」

 

「本当ですか、ありがとうございます!」

 

受付のお姉さんの顔は明るくなった。金額は追加になったが俺達が断った場合は他の冒険者の帰りを待つしかなくなるし、そうなったら村への被害が出ているかも知れないからだろう。

 

 

「依頼は問題ねえがその見習いは大丈夫なのか?俺達と行く以上魔物はわんさか出るぜ」

 

「本人には既に話してあります、村の人の為ならと了承頂いてます」

 

そのまま案内された場所には一人の女の子が居た、動きやすい神官服を着ているのでこの子が今回の護衛対象だろう。背は低く年は俺と変わらないぐらいだろうか。

見習いの神官はこちらを見てギョッとしたが慌てて自己紹介をする。

 

「わ、私ニオです、今回はよろしくお願いします」

 

「俺はアキラ、一応このパーティのリーダーをしている、こっちのデカいのがゴルドでこっちの剣持ってるのがジーナ」

 

 

俺達は手短に挨拶を済ませ湖に向かった。

 

 

 



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十六話 ニオの冒険

あぁ神よ、これが私に与えられた試練なのでしょうか。

私は浄化をする為に冒険者のパーティと湖に向かっています、放置すれば村の方へ被害が出てしまう大事なクエストです。

 

初めてのクエストですが困っている方の為に精一杯頑張ろうと危険を承知で参加しました。

神官も自身の強化の為冒険者と共にクエストに行く事があり、私もその為に教会から色々な事を教えて頂いたのですが。

 

このパーティはおかしい気がします。

外では不用意に大きな音や声を出さない、戦闘は最小限、それも可能な限り奇襲を仕掛け戦闘を有利に進める、少なくとも私はそう教わりましたが現実は違うのでしょうか。

 

 

「アキラ!追加だ、オークが三体だ」

 

「わかった!俺が相手する、ニオさん耳塞いでて!」

「サンダーストーム!」

 

「アッハッハ!良いじゃねーか!どんどん来やがれ!」

 

 

ゴルドさんが攻撃する度に大砲の様な爆発音が響き、ジーナさんは笑いながら魔物を切り刻んでいます、目はギラギラしててちょっと怖いです、、、

リーダーのアキラさんは普通の人なのかと思えば手から雷を出して魔物を攻撃しています、その音は激しく爆発とは違った轟音が鳴り響いています。

 

正直怖いです、まだ湖にも着いてないのにこんなに戦闘しても大丈夫なんでしょうか、魔物がどんどん集まって来ている気がするのですが、、、

 

受付の方は「これから紹介するパーティは戦闘力が高いパーティなので安心してください、ただ彼らが戦うと戦闘が激しく連戦になる可能性もあります」と言ってましたがまさかこれ程なんて思いませんでした。

 

 

 

その激し過ぎる戦闘は暫く続きました。

周囲には夥しい数の魔物の死体が散乱してますがこれが普通では無い事は私にもわかります。

 

私は生きて帰れるのでしょうか、あぁ神よどうか無事に勤めを果たせる事を願います。

そして願わくば私も無事に帰りたいです、、、

 

―――――――――――――――――――

 

湖に向かう途中で魔物と遭遇、戦闘が始まりいつもの如く連戦になったが、今最後の魔物にジーナがとどめを刺した。

 

「やっと終わったか、湖に向かわないとだし素材諦めるしかないよな?」

 

戦闘が終わり一息つきたいが、クエスト自体は全く進行していない。勿体無い気はするが直ぐに向かわないと帰りが夜になってしまう。

 

「そうだな、勿体無えが急いで燃やして行った方が良いだろうな」

 

ゴルドも了承し俺達は急いで魔物の死体を集め燃やす。ニオさんも作業を手伝ってくれた、さっきの戦闘は衝撃的だったらしく戦闘中は固まっていたが今は緊張が少し解けたのかも知れない。

作業中に声をかけられる

 

「あ、あの、いつもこんな感じなんですか?」

 

「あーそうだね、俺達だとどうしても魔物が集まっちゃうからこれはいつも通りかな」

 

そう答えるとニオさんは引いた、仕方ない、俺もわかっているがこれは普通じゃない、でも俺達にはこれしか出来ないのだ。

 

魔物を引き寄せると言ってもどんな魔物が来るのか何て分からない、三人で戦っても勝てない様な魔物が来たら終わりだろう、今の所はBランクなどの魔物と遭遇して無いが今日がその日でもおかしくない。

 

「ハッハッハッ!それが普通の反応だぜ、俺達の戦い方は側から見りゃイカれてっかんな」

 

ゴルドは笑っているがニオさんには申し訳なくなるな、本来依頼される様なパーティならもっと安全にクエストを行えただろう。

 

「まぁ戦闘続きだったけど逆に言えばこの近くの魔物は倒したから湖までは安全、じゃないか」

 

俺は安全だと言い切れずフォローに失敗した、その失敗でニオさんは更に引いていたが、そんな反応されても仕方ないなと諦めた。

 

出来ればカッコ良く、スマートに見せたかったのだが結果は大失敗だ。

 

 

気を取り直し湖に向かう、幸い湖までは魔物に遭遇する事は無かった。

そして湖には報告通りポイズントードが居る、紫色の毒々しい蛙だ。皮膚から毒液を分泌し素手で触れば爛れてしまう為、ゴルドにはニオさんの護衛を頼み俺とジーナで戦う。

 

 

ポイズントードの戦闘能力自体はあまり高くない、ただ毒が厄介で皮膚の分泌意外にも毒液を吐いて来る。

 

これを解毒するにはポーションか回復魔法を使うしか無く、もし毒液に直撃してしまうとかなりの量の解毒ポーションが必要になる為冒険者から嫌われている。

 

更に言えばこの魔物は素材価値が元々低い、毒袋は高額で買い取ってもらえるがまともに倒せばほぼ破れて売れなくなってしまうし、危険を冒してまで丁寧に戦う程の金額では無い。

 

 

ジーナは両手の剣で蛙の腹を切り裂く、毒袋は腹にあるため血と毒液がジーナにかかるが気にした様子は無く次の獲物に切り掛かる。

毒を喰らっても直様魔法で解毒し、爛れた肌も回復出来るジーナからすればポイズントードはただの大きな蛙でしか無い。

 

俺は遠距離から一方的に攻撃する、水生の魔物は雷に対して弱い事が多くポイズントードも同じ様で俺との相性は抜群だった。

 

住み着いてまだ時間が経って無いのか数は少ない、これがもっと後に来てれば繁殖してクエスト難易度は更に上がっていたかも知れない。

 

 

戦闘が終わり死体の処理を始める、死体は毒液まみれなのでこれも素手では触れない。俺はマジックバックから皮手袋を出し作業にあたった。

 

 

そして湖にニオさんが浄化の魔法を使う、ニオさんが言うには汚染状況は軽度でこれなら数十分で完了するとの事だ。

ニオさんはジーナにかなり怖がって居たがこれも仕方ない、凛々しく戦う女戦士だったら『暴虐のジーナ』なんて呼ばれないのだから。

 

 

案の定追加の魔物が現れたが、二人で浄化中のニオさんを全力で守った。

ジーナは速攻で敵に突っ込んで行った。

 

 

 




明日と明後日は更新お休みします。


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十七話 クエスト達成

「あれが最後っぽいな」

 

俺の視線の先ではジーナがゴブリンの首を切り飛ばしていた、辺りには魔物の気配も無く連戦はここで終わった様だ。

 

「今回はゴブリンとかコボルトばかりで助かったな」

 

「そうだな、余計な奴が来る前にさっさと片付けっか」

 

戦闘が終わり死体を片付けながらゴルドと話す、今回は運が良かったのか襲って来たのは下級の魔物ばかりだった。

 

倒した魔物は魔石と討伐証明だけ回収し燃やして行く、ジーナもクールダウンが済んだ様で死体の処理に入った。

 

その後警戒は続けるが新たな魔物が現れる事は無かった。ニオさんの方も浄化が終わったらしく一息ついてから街へと向かう。

 

帰る途中数体の魔物と遭遇し戦闘になったが、数体であればジーナ一人で片付ける為連戦にはならなかった。

 

 

ギルドで報告を済ましクエストは達成した。

達成報告を聞き、受付のお姉さんは和かな表情を浮かべる。

 

「こちらが今回の報酬です、ありがとうございました。お陰で被害が出る前に解決する事が出来ました」

「ニオさんも危険なクエストへの協力ありがとうございます」

 

「あっはい、村に住む方々に被害が無くて良かったです」

 

ニオさんは少し呆けた様子で答える、街に着くまでは表情も固くかなり緊張していたのでその緊張が解けたのだろう。さっきも小声で「生きてるって素晴らしい」と言っているのが聞こえた。

 

 

「ミナサマノカツヤクヲイノッテイマス」

 

ニオさんは報酬を受け取ると足早に帰ってしまった。最後の言葉を話すニオさんの目は死んでいた。

 

 

「嫌われちゃったかな?」

 

「無理もねえな、どう考えても初クエストって内容じゃねえからな」

 

「はっあの女の運が無かっただけさ」

 

 

確かに初クエストで魔物との連戦を経験させたのは申し訳なく思う、俺は彼女に心の中で謝った。

 

 

その後はそのままギルドの酒場で食事を取る。

俺は食事をしながらも気になっていた事を聞いてみた。

 

「そう言えばゴルドがCランクなのって壁が理由なのか?最初の頃ソロだからって言ってたけど」

 

「ん?あぁランクか、壁もあるがそもそもソロはBには上がれねえんだ」

 

「強くてもソロじゃダメなのか?」

 

「そうだ、ソロをBに上げても直ぐ死ぬ可能性の方が高えからな、ギルドは戦力が下がるの避ける為にソロは上がれねえ様にしてんだ」

 

 

なるほど、ソロだと上がれないのはそんな理由があったのか。確かにBを狙える様な冒険者は貴重な人材と言える、上がらせるよりは安定してCランクなどのクエストを受けさせた方がギルド的には良いのかも知れない。

 

 

「ゴルドは壁超えてるのか?」

 

 

「壁自体は超えたぜ、そっからは変わってねえがな」

 

「どうやって超えたんだ?どれぐらいかかった?」

 

 

「ハハッ落ち着けよ、若い頃にひたすらに魔物をぶっ殺してた時期があってよ、そん時に超えたんだ」

「超えた時は凄え強くなった気がして柄にも無く舞い上がったのを今でも覚えてるぜ」

「まぁその後は一人でこれより強くなるのは無理だと細々とやってたがな」

 

 

昔のゴルドはジーナみたいな感じだったのかも知れないな。

今はまだ成長している感覚が強くあるがその内強くなり辛くなるし最強はまだまだ遠そうだ。

 

「ジーナは超えてるの?」

 

 

「アタシはまだだね、壁超えた時はかなり強くなれるらしいがそんな感覚はまだ無いね」

 

 

「俺とジーナが壁超えたらBに行けるのかな?」

 

 

「ランクってのは強さもあるがギルドからの信頼って意味もあっからな、今回のクエストも何だかんだ達成出来たしこのパーティなら狙えると思うぜ」

「まだまだ先だろうけどな」

 

「地道にやってくしか無いか」

 

「ハッハッハ!俺達の場合は大分派手だがな」

 

 

ゴルドの言葉に確かになと笑う、すると今度はジーナがゴルドに聞いてきた。

 

「Bランクか、あんたはBランクの魔物と戦った事あるのか?」

 

 

「一度だけあるぜ、つっても途中で逃げたけどよ」

 

 

「逃げたのか?」

 

 

「あぁ、あん時は流石に死ぬと思ったぜ」

 

そう笑いながら話すゴルド、俺はまだBランクの魔物に遭遇した事は無くどれ程強いのかわからなかった。

 

「Bランクの魔物ってそんなに強いの?」

 

「強えぞ、俺が戦ったのは壁超えた後だがまるで歯が立たなかった、強くなれた今ならって最初は自信満々だったんだが、蓋開けれや逃げるので精一杯だったぜ」

「冒険者もCとBじゃ格が違うが魔物はそれ以上だ、Bランクの魔物を倒すならパーティ単位じゃなきゃ厳しいだろうな」

 

 

「今の俺達がパーティで戦ったら勝てそう?」

 

 

「相手によるな、Bランクでも弱い方の奴なら死ぬ気で戦えや倒せなくは無いかも知れねえが、それ以上の奴なら無理だな」

 

 

「ほう」

 

ジーナは笑みを浮かべている、勝てないと言われて燃え上がるのはジーナらしいが。

俺としては当然会いたく無い相手だ、ゆくゆくは倒せる様にならないとだが今は自分の成長が第一、無理に挑む理由も無いしな。

 

「出会わない様祈るしか無いか」

 

 

 

この時の俺は格上の魔物と戦うのはまだまだ先の事だと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十八話 緊急クエスト

更新が遅れすみません!




ある日の事、いつもの様にギルドでクエストを選んでいると。

 

 

「緊急クエスト!!」

 

 

深刻な顔付きのスーリが大声を上げる、その言葉が発せられるとギルドの喧騒が止み皆がスーリに注目した。

 

 

「ラタ村で異常事態発生、現在複数の魔物に襲われていると報告があったわ」

「救援の為早急にラタ村へ向かう、Dランク以上の冒険者は門まで急いで!」

 

 

スーリの説明が終わるとギルドに居た冒険者達が慌ただしく動き出した。

 

 

「寝てる奴起こしに行け!」

 

「飲み代置いてくぞ、釣りはいらねぇ」

 

「新人はここで待ってろ!おい、急いで向かうぞ」

 

 

ベテランの冒険者達は直ぐにギルドを後にしギルドには新人のみが残されていた、俺は即座に動く事が出来なかったがゴルドに「俺達も向かうぞ」と声をかけられ門へと向かう。

 

門の前には何台もの馬車が用意されており次々と冒険者達が乗り込んでいく、俺達も馬車に乗ると定員になったのか直ぐに走り出した。馬車には俺達ともう一パーティ乗っている様で一人の男が話しかけて来る。

 

 

「俺はこのパーティ『鷹の目』のリーダーメルビスだ、よろしくな」

 

 

年は三十代程、長髪を後ろで結い少し渋いが精悍な顔付きをしている。装備は革鎧に矢筒そして無骨な弓、ベテランのアーチャーと言った所か。

 

 

「よろしく、俺は、

「ハハッ知ってるさ、『戦いの灯』のリーダー、アキラだろ、この街の冒険者であんたらを知らない奴は居ないさ」

 

 

メルビスは笑いながら返す。俺達のパーティは思っていた以上に知名度がある様だが、こう「期待の新星!」みたいな感じじゃ無いんだろうな。

そんな事を考えて居るとメルビスが言葉を続ける。

 

 

「しかし『戦いの灯』と同じ馬車か、いつもならご遠慮願いたいが今日に限っては心強いな」

 

 

「随分な物言いじゃないか」

 

 

短く怒気を発するジーナにメルビスは慌てて謝る。

 

 

「怒らないでくれ、褒めてんだぜ」

 

 

「ちょっとリーダー、緊急クエストで他のパーティと揉めないで」

「気を悪くさせてごめんなさい。私はストレイ、よろしくね」

 

若い女剣士が仲裁に入る、ジーナもそこまで気にしてる様子は無くつまらなそうに鼻を鳴らし怒気を治める。

その後ストレイを含めた『鷹の目』のメンバーと簡単に挨拶を交わしゴルドに状況に付いて聞く。

 

 

「緊急クエストってこの後はどうなるんだ?」

 

 

「今回の内容はシンプルだぜ、村に着いたらスーリの指揮に従って魔物を倒すだけだからな」

 

 

「緊急クエストって珍しいのか?」

 

 

「緊急クエストっつっても規模や内容は違うからな、一概にや言えねえが今回みたいなのは珍しいぜ、しかも内容は最悪に近い」

 

「最悪に近い?今の状況ってそんなにやばいのか?村が襲われてるって言ってたけど魔除けもあるし兵士だって居るだろ?」

 

 

「村の兵士じゃ抑えられねえから緊急クエストが出てんだ、それに魔除けも完全じゃ無え」

「魔除けってのは特殊な魔力を出して村を魔物から隠してんだ、前にゴブリンとかには効きづらいって言ったのは雑魚は魔力の感知能力が低いせいで効きづらいんだよ」

 

 

「なら今襲って来てるのはゴブリンとかコボルトって事か?」

 

 

「それはわからねえな、確実にそいつらは居るが多少の雑魚が来たぐらいじゃ問題無え」

「考えられんのは兵士じゃ抑えられ無え程の数で来たのか、戦ってる内に他の魔物が来始めたのかだな、魔除けは中に魔物が居ると効果が弱くなる」

 

 

「ゴブリン+別モンスターで考えていた方が良いか、、、」

 

 

こう言った時は最悪を想定して行動するべきだと考えていた、如何に自分の想定した最悪が甘いかを直ぐに思い知らされるが。

 

「緊急クエストは内容がどうあれ毎度激しい戦闘になる、気張り過ぎる必要はねえが覚悟はしておけよ」

 

 

「あぁわかった、ジーナも緊急クエスト行った事あるのか?」

 

「アタシがこの街に来てからは一度だけ、後方待機で回復だけやらされた忌々しい記憶さ」

「まぁ今回はパーティだから前に出れるけど、今日は楽しめはしないだろうね」

 

 

後方待機で回復、必要な役目だがジーナが最も嫌がりそうな内容だな。しかし俺は今日は楽しめないと言うのが気になった。

 

「何でだ?」

 

 

「冒険者の数も多い、抑えて使うのは面倒なんだ。」

 

 

「あぁ確かにそうか」

 

 

ジーナの狂化はスキル発動後、戦闘すればする程出力が上がり続け、全開放まで行くと理性が完全に無くなる。そして全開放やそれに近い状態になると敵味方の判断が付かなくなる。

 

 

一応理性が無くならない様に抑える事は出来るが連携等は不可能だ、今回の様に周りに他の冒険者が居る場合かなり抑えて戦う必要がある。

 

ジーナからすれば今回の緊急クエストは前回よりもマシってぐらいなのかもしれない。因みにスキルを使わないと言う選択肢は無い、戦闘を行うとほぼ自動的に発動する上に完全に抑えようとすると反動が来るらしい。

 

ジーナとの会話が終わるとゴルドは真剣な顔で語りかけて来た。

 

「アキラ、先に言っとくがのまれんじゃねえぞ」

 

「のまれる?」

 

「初めて参加する奴は空気に飲まれる事が多い、ジーナも言ったが冒険者自体も多いから混戦になりやすいしな。広範囲技何か使えや事故が起きるぜ」

 

 

「あぁわかった」

 

見知らぬ冒険者との連携が苦手なのは俺も同じ、今回は初めての経験と言う事もあるし注意深く戦う必要がありそうだ。

 

 

「後は何見ても、いや、これは言ってもしょうがねえか」

 

 

ゴルドは何か言いかけるが言葉を止める、そのまま俺達を乗せた馬車はラタ村へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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十九話 村の危機

真昼間だと言うのに空には分厚い雲がかかり不吉な暗さを演出している、いつ降り出してもおかしく無い様な中俺達はラタ村に到着した。

 

 

ラタ村の惨状は俺の予想を遥かに超えていた。

壁も家も壊され村は半壊、村のあちこちで怒号や悲鳴が聞こえる。

 

 

「『戦いの灯』と『鷹の目』は西側へ向かって!救護者が居たらこの場所まで連れて来なさい、もし上級の魔物と遭遇したら遅滞戦闘に切り替えて救援を呼んで!」

 

 

スーリの指示に従い村の西側へと向かう、この時の俺は現実感が無く何処か他人事の様に感じていた。

 

 

「西側、よりによって一番キツそうな所か」

「良いかお前ら、絶対死ぬんじゃねーぞ」

 

 

メルビスがパーティメンバーに話す。

西側は壁が壊され魔物が村に入って来た方向だ、スーリ曰く現在村人は兵士と共に東側へと集まって居るらしい。クルトから来た兵士といくつかの冒険者パーティは東側へと派遣されていた。

 

 

現れる魔物を俺やメルビスが接近される前に倒しながら進む、メルビスはやはり熟練のアーチャーで放つ矢は正確にゴブリンの頭を撃ち抜いた。

 

 

 

向かう途中、不意に俺は足を止めた

崩れた民家の一部が赤く染まっている、近づこうとするもゴルドに止められた。

 

「アキラ、俺たちは言われた場所に行かなきゃならねえ」

「寄り道してる暇は無いぜ」

 

俺は何も答えずゴルドに付いて行く、スーリの指示にあった場所へと着くとそこにはゴブリン、コボルト、オークなど人型の魔物が集まって居た。道中も人型の魔物しか見なかった為、今攻めてきて居るのは人型の魔物だけなのかも知れない。

 

魔物達は民家を壊し、食糧を漁り、好き放題暴れて居る。

 

「固まって行くぞ!」

「気合い入れろよ!」

 

そんな会話が流れる中俺はある一点から視点を離せずに居た。

視線の先には倒れ伏す兵士、兵士の周りには魔物の死体が散乱し激しい戦闘があった事が窺える。兵士は倒れたまま動かずその近くまで魔物が迫って居た。

助けないと、その感情のまま兵士に近づく

 

「邪魔だ!」

 

兵士の周りに居る魔物に雷撃を放つ、自分でも不思議な事に焦った様に怒鳴り声を上げていた。

 

 

「大丈夫ですか!」

 

 

兵士に声をかけるも返事は無い、気を失っているのかも知れない、怪我も酷そうだ、急いでジーナに回復を頼まなければ。ジーナを呼ぼうとすると後ろから声がかけられる。

 

 

「アキラ」

 

 

「ゴルド、大変だこの人気を失ってる!ジーナ急いで回復を!」

 

 

「アキラ、そいつはもう死んでるぜ。ここは一番初めに魔物との戦闘が起きた場所だ、隠れてる村人なら兎も角戦って居た兵士に生き残りは居ねえ」

 

 

ゴルドにいつもの様な明るさは無く、心無いことを言う。

 

「、、、、」

 

そんなゴルドの言葉に何も返さず俺はもう一度兵士を確認する、兵士の体から流れたと思われる赤い血は素人目に見ても致死量だ、そして兵士の体に触れれば人の温かさは無く不気味な冷たさをしている。

 

その冷たさに触れた時、俺は初めてこの悲惨な光景が現実だと認識した。

 

俺はこの状況でも何処か楽観視して居た、ここに来るまでも深く考える事が出来ず流される様に行動して居た。

 

 

村のピンチに颯爽と現れ、被害を出さずに敵を倒し村人を救う、そんな物語の様な活躍が出来ると何処かで思っていた。

 

 

魔物は人を殺す。

そんな当たり前の事でさえ頭から抜けて居た。

 

その時これまで感じた事がない程の怒りを感じた。

村を襲う魔物に、この危機に対し甘い考えを持っていた自分に。

 

 

感情に呼応する様に体から雷が溢れ出す、そのまま立ち上がり兵士から離れた。

 

 

「アキラ?」

 

ゴルドがこちらを向く

 

「今すぐ全員殺せば良いんだろ?」

 

 

俺は何も守れてない、村は壊され兵士は殺された。

この無情な現実に抗う力を持って居ると言うのに。

 

 

「任せてくれよ、直ぐに終わらせるから!」

 

 

体内から強力な雷を天へと放つ、空を覆う巨大な雨雲へと放たれた雷はより強大な力へと変わり俺に落ちる。

 

雨雲のある日限定だが自身の出力を限界以上に上げる事が出来る。体に戻った雷を纏う。

 

「サンダーフォース、オーバーブースト!」

 

「おいっ」

 

ゴルドの静止を無視して魔物へと迫る。

蹴りを一発、するとゴブリンの頭は吹き飛んで行く。

止まらずに次の獲物へ、自分の怒りをぶつける様に魔物へと襲いかかる。

今の俺ならば付近の魔物を一掃するのに時間はかからないだろう。

 

(少しでも早く!これ以上誰も死なせない!)

 

 

敵がオークであっても変わらず攻撃を仕掛ける、反応できない速度で接近し両手で頭を掴み電流を流す。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

「おいおい、あいつあんなに強いのかよ」

 

メルビスは感心した様に呟く、ゴブリンやコボルトの様な下級の魔物が多いとは言えこの数を相手するならば慎重に戦う必要がある。

 

しかし視線の先の少年は凄まじい速度で敵を倒し続けて居る、このまま任せても付近の魔物は一掃してしまえる様にも思えた。

 

「でもあんなに飛ばして大丈夫なの?」

 

それに対しストレイは心配気にゴルドへと聞く、ストレイも『戦いの灯』がどんなパーティかは知って居る為これが彼等のやり方なのかも知れない。

 

だが敵を圧倒して居る少年の顔に余裕は無く何処か焦って居る様にも見える。

 

 

「いや、まずいな完全にのまれてやがる」

 

「チッ、アタシが我慢してるってのに」

 

「ジーナ、頼むから今は大人しくしてろよ、お前さんまで暴れ出したら手が付けられねえ」

 

「わかってるさ、さっさとあのバカを止めに行くんだろ」

 

「あぁあのままじゃヤバいぜ、何とかして正気に戻さねえと」

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

止まる事無く戦闘を続けて居ると少し離れた所から悲鳴が聞こえた。そしてその方向からは冒険者達がこちらに走り込んで来る、恐らく俺達の近くに派遣された冒険者だろう。

 

 

冒険者達は必死な顔で何かから逃げて居る様だ、俺に気がつくと大声で叫ぶ。

 

 

「逃げろ!オーガが出た‼︎俺達は追われてる、誰かスーリさんを呼んできてくれ!」

 

 

冒険者達の後ろを見ればオークよりも一回り大きな鬼の様な魔物が冒険者を追いこちらに向かって来て居た。

 

 

オーガ、それはBランクの魔物。

この村を襲う強大な敵、それはチートを持つ自分が戦うべき相手だ、そして通常時よりも大幅に強化された今であれば倒せる。

俺は冒険者達と反対方向へと走り出す、そんな俺に冒険者達は足を止め声をかける。

 

「おい!オーガが来てるんだぞ!」

 

「俺なら大丈夫だ!その奥に仲間が居る、怪我をしていればそこで手当してもらって!」

 

 

「お前はどうすんだ!」

 

 

「俺はオーガを仕留める」

 

 

俺に退く意思が無いとわかると冒険者達は再び走り出す。

そして俺はオーガと相対した。



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二十話 オーガとの戦い

稲妻の如く駆け寄り回し蹴りを放つ、頭に直撃したがオーガは多少怯むだけで大きなダメージは入っていない様だ。

 

 

直ぐに巨木の様な腕が振るわれ避ける。

オーガに付いて詳しくは知らないが見た目と蹴った感触からしてタフなパワータイプ、スピードなら俺の方が上。

しかしさっきの感触からして一撃で倒すのは難しい、オーガの生命力を超える連撃を打ち込まなければならないだろう。

 

 

一撃でも喰らえば終わり、俺は覚悟を決めオーガへ迫る。

再度振るわれる剛腕を屈んで避けオーガの横っ腹に一撃、オーガが怯んでいる間にもう一度殴り付ける。

そこから止まらず怒涛の連打を打ち込む。

 

 

「ウオオオオオオ!!!!」

 

 

雄叫びを上げ、ここで勝負を決めんと打ち続ける。連撃の勢いに負けオーガの体が後ろへと下がり始めた。

 

 

我武者羅に一撃一撃必殺の思いを乗せて拳や足を振るう。

 

 

 

 

 

 

どれ程打ち込んだかも分からなくなった時、渾身の右ストレートを決めオーガは苦しみ膝をついた。

 

 

その隙に少し距離を取り両手をオーガに向け、纏っていた雷と新たに生成した雷を両手の前に溜める。

今の状態で出せる最大の技、限界まで集まったエネルギーは激しく光り大きくなり続け

 

 

 

「これで終わりだ!サンダーブレイク‼︎」

 

 

放たれた雷のエネルギー弾は雷鳴を轟かせオーガに直撃、荒ぶる雷がオーガを呑み込む。

魔力は殆ど使ってしまったがその分威力は絶大、撃破は間違いないだろう。

 

 

 

「ハァハァ…こいつが何体も居たらやばいな…」

 

 

大技を使い肩で息をする、木っ端微塵にするつもりで放ったがオーガは白目を剥き口から煙を吐いている。

その事実に驚愕した瞬間ギロリとオーガがこちらを睨んだ。

 

 

「嘘だろ…」

 

 

「ガアァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 

オーガは雄叫びを上げその目には怒りが宿る、明確な殺意を持った暴力の化身がこちらに迫る。

 

 

「やば、、!」

 

 

態勢も整って居ない俺は咄嗟に動く事が出来ず、横薙ぎに振るわれたオーガの剛腕を避ける事ができなかった。

 

 

「グハッ!」

 

 

その威力は凄まじく体はバウンドしながら何メートルも飛ばされた。たった一撃くらっただけでガードに使った腕は折れ体からは激痛が走るのみで動けない。

 

 

オーガは焦る事なくゆっくりと近づいて来ている。

俺にトドメを刺す為に。

 

その時、未だに自分が勘違いをしていた事に気が付いた。オーガはイベントのボスでも物語の主人公が成長の為に乗り越えるハードルでもない。

強靭で凶悪な本物の化け物だと。

 

 

(やばい、、、このままじゃ死ぬ)

 

 

油断した、あれだけの技を放てば確実に相手は死ぬと気を緩めてしまった。今の俺なら勝てると驕った。

蓋を開ければ最強の技は通じず一撃で瀕死、俺の心に焦りと絶望感が現れ出した。

 

 

(動け!動けよ!)

 

 

立とうとするも痛みが増すだけ、今の俺では逃げる事も出来ない。だが自分がもう直ぐ殺されるとわかっても恐怖は無かった。

一度は死んだ身、死後を知ってる為怖くは無いが、、、

 

 

「情け、ねぇな、、人のピンチにも間に合わない、、強敵にも、勝てない、、、」

 

「チートあっても、、俺じゃぁ本物になれないのか、、、」

 

 

刻々と迫る死に言葉が漏れる。

物語に出て来る様な強くて、優しくて、カッコいい男に憧れた。どんな強敵でも倒し、数えきれ無い程の大軍でも引く事なく無双する強さが欲しかった。

そして力を貰いこの世界で自分もそうなれると喜んだ。

 

だが駄目だった、俺では何もかも足りない。

危機感や精神力、人のピンチに間に合う運、そして強さも。

 

 

何も成せず死ぬ、馬鹿なガキが調子に乗って自分の力を過信して死ぬだけ。

その事実が悔しかった。

 

 

「最後の、意地ぐらい、見せてやる」

 

 

 

俺は折れていない比較的動く腕を動かしオーガに向ける、激痛に耐え指先に雷を集める。

こんな攻撃大した意味は無いとわかっている、それでもただ殺されるなんて最後は受け入れたく無かった。

 

そしてオーガが目の前まで迫った時、爆発音と共に怒声が響いた。

 

 

 

「どけぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

オーガに突撃するゴルド、不意を突かれたのかオーガはゴルドのタックルに耐えきれず飛ばされる。

 

 

「アキラ!無事、、、じゃねえな、ジーナ!」

 

 

ゴルドはオーガを警戒しながらもこちらに顔を向け、直ぐにジーナを呼ぶ。

 

 

「そんなデカい声出さなくてもわかってるさ」

 

 

ジーナはやや呆れた様に返す。ゴルドは直ぐにオーガに向き直りかけ出した、治療の為の時間を稼ぐつもりなのだろう。

 

 

 

(何で今まで忘れていたんだ)

 

 

 

勝手に死のうとしていた、オーガに最後の攻撃を仕掛けその後は死ぬだろうと諦めていた。

馬鹿なガキの夢を信じてくれた仲間を忘れて。

 

 

 

(本当に俺は駄目な奴だ、俺が本物じゃ無くても仲間は本物なのに)

(ここで投げ出したら俺は自分を一生許せない)

 

 

みっともなからろうが弱かろうが、共に命をかけて戦う仲間を裏切るなと心が叫ぶ。

 

俺の心に再び火が灯った。

 

 

「ッハ、ましな顔になったじゃないか」

 

 

「ジーナ、、」

 

 

「さっさと治して行くよ」

 

 

ジーナは俺の腕を引っ張り折れ曲がった骨を戻す、当然更なる激痛に襲われ声が出るがジーナはきっぱりと言い放つ。

 

 

「我慢しな、アタシにだけ我慢させた罰だ」

 

 

回復魔法の光りが俺を包み込む、その光は直ぐに消えるが痛みは引き動ける様になって居た。

改めてジーナの回復魔法のレベルの高さに驚く、折れていた手も握り開きを繰り返してみたが問題なさそうだ。

 

 

「ありがとうジーナ、助かった」

 

 

「次は期待すんじゃ無いよ」

 

 

そう言うとジーナはオーガへと走り出す。

ジーナに続き俺も走り出した、体は怠いし魔力も残り少ない、殺されかけた今オーガに対する恐怖も大きい。

 

それでもゴルドやジーナと一緒ならあの化け物にだって立ち向かえる。

 

 

(絶対に三人で勝つ、誰一人欠けることなくあいつを倒す!)

 

 

心に灯った小さな火は、大火となり俺に勇気を与えてくれた。

 

 

さぁ第二ラウンドの始まりだ。

 

 

 

 




更新が遅れすみません。


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二十一話 激戦

ゴルドに殴りかかるオーガを電撃で妨害する、威力は低くても顔に当てれば無反応とはいかない。

怯んだ隙にジーナが切り掛かり、続くゴルドが大きく振りかぶる。

 

 

「ぶっ飛びやがれ!バーストブロー‼︎」

 

 

次の瞬間、大爆発が起こりオーガは後方へと飛ばされる。

強烈な爆風が吹き付ける中、ゴルドは難しい顔をするが直ぐに切り替えこちらに向くと。

 

 

「頭は冷えたみてえだな」

 

 

何処か安心した様に笑うゴルド。

 

 

「ごめん、でももう大丈夫。あいつは皆んなで倒そう」

 

 

「ハハハッ!さっき迄とは別人じゃねえか」

「ま、先走んのなんざ若い冒険者の宿命みたいなもんだ、生けてりゃ上出来よ」

 

 

そう話すとゴルドの視線はオーガへと戻る。

爆発の衝撃から立ち上がったオーガは大きな傷も無くダメージはあまり期待出来なさそうだ。

 

さっきのバーストブローはゴルドの必殺技の一つ、片方の拳に魔力を溜めて殴るシンプルな技だが並の魔物程度なら体を爆散させる程の威力がある。

 

それでもオーガに対しては、後方へ飛ばすのが精一杯だった。

 

 

 

「しかしオーガか、オーガはBランクでも強い方だ。油断すりゃ一瞬で全滅だぜ」

 

 

「ハッ!上等だね」

 

 

ジーナは挑戦的な笑みを浮かべる。

 

 

「Bランクの魔物がどんなもんか、前から試してみたかったんだ」

 

 

「一人じゃ死ぬだけだぜ」

 

 

ゴルドの忠告に対しジーナは俺を見ながら言った。

 

 

「大丈夫さ、さっきそんな馬鹿を見たばかりだ」

 

 

「(何も言い返せ無い)」

 

 

「ハッハッハッ!それなら安心だ、好きにやってみろ」

 

 

その言葉を聞くとジーナの笑みは深まる。

 

 

「狂化」

 

 

そしてジーナの瞳は狂気と歓喜で溢れ、衝動のまま駆け出した。

 

 

「アッハッハ!さぁ!アタシと遊ぼうぜ!」

 

 

いつもの如く常人離れした速さでオーガに迫るジーナ、迎撃の為放たれた拳を回転する様に躱し斬りつける、しかし薄皮が切れるだけで血は流れない。

 

その事を気にする事も無くジーナは回避と攻撃を続ける。

 

 

「アキラ!俺達も行くぞ!」

 

「あぁ!」

 

 

 

そこから激しい攻撃の応酬が始まる。

俺とゴルドもオーガがジーナに集中するのを防ぐ為に攻撃を行う。今もジーナに追撃を加えようとするオーガにゴルドの拳が炸裂した。

 

 

ゴルドに意識が向ければその隙をジーナは逃さない。

俺も電撃を顔に浴びせ、怯ませる事で二人を援護する。一見連携が取れている様にも見えるが俺達にはそんな高等な技術は無く、呼吸も合わず間合いもわかっていない。

誰かが攻撃すればその余波を受けるがそれを無視して攻撃し続けているだけ。

そんな連携とも呼べない全員での連続攻撃だが、スピードと数で勝る俺達にオーガは翻弄されていた。

 

 

 

しかしこのまま戦っていれば負けるのは俺達だと痛感する。流石のオーガもノーダメージとは行かないが、気力、体力の消耗が激しくこのまま行けば俺達の方が先にバテる可能性が高い。

 

 

 

「ハハッ笑えるぜ、こいつのタフさは予想以上だ。皮膚と筋肉が厚過ぎて爆発も大して効いてねえな」

 

 

額の汗を拭いながらゴルドがぼやく、雷撃も爆撃も斬撃もオーガの防御力を突破する事が出来なかった。

俺は戦いながらも必死に頭を回し打開策を探す。

 

 

(思い出せ、こんな状況の話もあった筈だ!人の冒険譚ならあれだけ読んだんだ、何か、何か使える案があるはず!)

 

 

頭の中にいくつもの戦闘描写が流れ、物語の主人公達が強敵を撃破した方法が数多く出て来るが、その殆どが俺達では不可能な物ばかりだった。

 

 

気の抜けない戦闘が続く中、これならと見出したのは体内からの攻撃。

オーガの防御力が高くとも体内まで頑丈と言う事は無いだろう、俺の中でその案を採用し実行に移す為の方法を考えるが

 

肝心なその方法が思いつかなかった。

 

案自体は記憶の中の作品と同じだが、能力も装備も置かれた状況が違い過ぎる。

俺は体から離れた空間に雷を発生させる事は出来るが、流石に魔物の体内は無理だ。

口に手を突っ込もうものならその瞬間に腕が無くなる、そもそもそんな器用にタイミングを計れない。

  

 

「くそっ、どうすれば、、、ジーナ!」

 

 

焦りから言葉が漏れた瞬間、ジーナはオーガの拳をモロに受け砲弾の如く飛ばされた。

 

 

「サンダーアロー‼︎」

 

 

すかさず雷撃を浴びせ追撃を阻止する。ジーナが地面にぶつかるとその衝撃から土煙りが上がる、だが土煙りが晴れる間も無く砲弾の如き速さで飛び出しオーガに向かった。

 

怒りの籠った一撃はオーガの首を狙うも腕に防がれる。切られた腕は血が噴き出るものの直ぐに止まり重傷を負わせるには至らなかった。

 

 

(早く何とかしないと、、)

 

 

ーハハッ気持ちは分かるぜ、俺も最初は武器ぶっ壊しまくったからな!ー

 

その時、いつかのゴルドの言葉が頭を過り一つの案が浮かんだ。

成功するかはわからない、しかし何もしなければ全滅してお終い、そんな結末を変える為動き出す。

 

 

「二人とも少し待ってて!直ぐ戻る!」

 

ジーナは目配せを、ゴルドは短く「おう!」と返す、何も聞かない仲間の信頼に応える為にも全力で走り目的の場所へ向かった。

 

 

 

 

 

着いたのはあの兵士の元だった、倒れ伏したままの亡骸の近くには血濡れた槍が。

 

その槍は余計な装飾などは何も無く、見た目だけならば地味でありふれた槍だ、それもかなり長く使い込まれている。しかし手入れが行き届いており穂先に欠けや歪みは無い。

持ち主を失った今も、自らの役目を果たすべく佇んでいる様にも思えた。

 

 

 

「あなたの力お借ります」

 

 

槍を手に取ると重量以上に重く感じた、落とさない様強く握りしめ仲間の元へと急ぐ。

 

 

 

 

 

「ハァハァ、、、」

 

 

ジーナが息を切らし呼吸する度に大きく肩を動かす、これまでの冒険では見た事無い事態に驚くが直ぐに切り替える。戻ってからも即座に妨害を入れる、一呼吸だけだがこの状況では大きな時間だ。

 

「で、あいつを殺す方法は見つかったか?」

 

息を整えながらジーナが話す、その目にはいつもの狂気は無く疲労が見えていた。離れる前よりも理性的なジーナに再度驚く、狂化を維持出来ない程に疲弊しているのかも知れない。

 

 

「あぁ、この槍をあいつにブッ刺して俺とゴルドで魔力を流すんだ。そうすれば体の中から攻撃出来る」

 

「だったら穂先が完全に入り込むまで刺さなきゃだ、あの筋肉の壁を越えるのは素人のあんたやゴルドじゃ無理だね」

 

「ジーナなら?」

 

「私でも無理だ。でもその為に出来る事はある」

 

「出来る事?」

 

「見てればわかるさ、さっさと離れな」

 

ジーナは覚悟を決めた様に笑う、俺は嫌な気配がし慌ててオーガと対峙して居たゴルドに声をかける。

 

 

その場を離れジーナに目を向ける、ジーナは両手に剣を握りしめて低い体勢でオーガを見据えていた。

そして次の瞬間、ジーナの放つプレッシャーが格段に上がった。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!!」

 

 

咆哮、しかしオーガのものでは無い。

 

ひりつく空気の中ジーナはじっとオーガを見ていた、その顔は暗いわけでもないのに何故か見えない、言い表すとすれば闇そのもの、そして血の如く紅い瞳だけが輝いていた。

 

 

全開放。恐らく今のジーナに理性は無い、ただ自らの衝動に従う暴力と狂気の権化。

その威圧感にオーガすら警戒を露わにしている。

 

 

ジーナは姿勢を更に低くし剣を構え

 

 

俺はその動き出しを捉える事が出来なかった。

 

気が付いた時にはジーナはオーガの目の前まで迫っておりオーガの胸を切り裂いた。

かつてアーマーグリズリーの鎧を切り裂いた時の様に両の剣を交差させる、しかしその威力は比べる事が出来ない程のものだった。

 

溢れ出る鮮血から傷の深さが窺える、切られたオーガも困惑しているほどの一撃。

致命傷にはならないが確かに重症を与える事に成功していた。

 

 

ジーナは剣を振るいながらオーガを通り過ぎそのまま力なく倒れた、オーガの攻撃は当たっていない、体力を使い果たしたのかも知れない。

 

 

奮闘した仲間に駆け寄りたくなるがジーナが作ってくれたチャンスを無駄にする事は出来ない。

俺はゴルドに共に走り出した、作戦を説明する余裕は無くゴルドには槍を渡しながら「魔力を流す!」としか言えなかったが伝わった様だ。

オーガは向かって来る俺達に気付くが傷が深いのか動きが悪い。

 

 

 

そしてゴルドがオーガの胸に突き刺し槍を押し込む、俺も槍を握り締め力を加える。

 

 

「やるぞ!アキラ!」

 

「ああ!」

 

俺とゴルドはありったけの魔力を流し込む、穂先目掛けて溢れんばかりの魔力が迸った。

槍は耐え切れずヒビが入るが構わず残った魔力を全て流す

 

 

 

「「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」

 

 

 

 

槍の限界を超え、行き場の無い魔力が大爆発を引き起こす

 

 

世界が破れる様な轟音、辺りを白く染める閃光。

その勢いは容易に俺達を吹き飛ばした。

最後に見えたのは上半身の無くなったオーガだった物、飛び散る臓腑に塗れ、爆風に肌は焼かれているが興奮状態のお陰か痛みは無く心は晴れやかだった。

 

 

(槍、壊しちゃったな、、、)

 

 

吹き飛ばされながら心が呟く。

こうなるとわかって居たとは言え勝手に借りて壊した事に申し訳ない気持ちが湧き出て来る。

そして地面に叩きつけられ意識を失う瞬間に

 

良くやった

 

そんな声が聞こえた気がした。



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