只今、悪役令嬢攻略中です。なお、最近ではツッコミ役にシフトチェンジの兆しあり。……たまに見せるデレが最高です。 (花河相)
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1話
『おーほっほっほ!まだ理解していないの?わたくしと庶民のあなたとでは住む世界が違うの。せっかく教えて差し上げたのにまだ理解なさってないの?』
悪役令嬢とはつねに主人公を上から目線で接する存在である。
『あら?ごめんあそばせ。田舎くさいと思ったらあなたでしたの?気が付きませんでしたわ』
悪役令嬢は何かと理由をつけて主人公に絡み続ける存在である。
『わたくし、何も悪いことをしておりませんわ。わたくしはこの国を思ってやっただけのこと。それのどこがいけませんの?……殿下、そのような庶民に惚れてしまうとは……なんともお可哀想』
悪役令嬢とは……最後まで気高く、己の信念を曲げない……プライドの高い……孤高の存在である。
『殿下、愛しておりましたわ。どうか、そこにいる庶民と末長くお幸せに……わたくしはあなたの幸せを心より願っておりますわ』
だが、ほとんどの人が知らない。悪役令嬢は相手を想う一途な気持ちがあるということを。
僕はそんなバッドエンドしかない悪役令嬢という存在をかっこいいと思う。
決してユーザーからは評価されることのない嫌われ者。
主人公を際立たせるための当て馬的存在。
都合の良い扱いをされて物語が終われば捨てられる存在。
だが、僕はそんな悪役令嬢の大ファンであった。
僕が乙女ゲームをしたきっかけは些細なことであった。
当時高校生だった僕は歳の離れた妹に誘われて一緒にプレイをした。
それがきっかけだった。
「……まじ最高。カッコよすぎだろ」
「ね!言ったでしょ!お兄ちゃんも好きになると思ったわ!」
「ああ。特に物語の最後、断罪イベントだな。毎回見ていてよかった。セリフが毎回違うんだもん」
「でしょでしょ!お兄ちゃん誰のルートが好きだった?」
「どれも捨て難いが……やっぱり第三王子アレンルートだなぁ。……あの最後まで己を曲げないあの気高さ……いやぁ、カッコよかった」
「……え?なんの話してるの?」
「悪役令嬢アンネローゼの姿はまじ尊敬するわ」
「え?」
「え?」
「お兄ちゃん……頭大丈夫?」
……妹の冷めた自然と純粋に出た言葉が心にぐさっとくるも、妹とプレイした乙女ゲームの悪役令嬢に感じたのは尊敬だろう。
縦ロールの入った長い金髪の髪に目つきが鋭い青い目。赤色の派手なドレスを好んできて、だが、その可憐な容姿はその派手なドレスも自分を引き立てるための一部にしてしまう。
悪役には花があるという言葉はまさにアンネローゼのことを示すのだろうと思うと僕は思う。
僕は妹とゲームをした後、どうにか救済ルートを探したが、見つからなかった。
どのルートも最終的に追放、又は田舎の貧乏男爵家に嫁いで終わるという。
唯一救われたのは逆ハーレムルートだけであった。
僕はいろんな攻略対象たちのルートをこなして何か別手段がないかと模索したが、存在しない。
だが、プレイをするたびにアンネローゼの存在が物語においていかに大切な存在であるか……アンネローゼがいたから他のキャラの存在が際立っていったとしても過言ではないと……シナリオを周回するたびに思い知らされていった。
アンネローゼなしにシナリオは成り立たない。
だから、こそ惜しいと思った。
こんな素晴らしいキャラを攻略出来ないのかと。
幸せになるルートくらい用意してもいいんじゃないかって。
主人公と悪役令嬢が和解する友情ルートくらい用意したったいいんじゃないかって。
「……そんなことを思っていたけど、まさか本当にチャンスに恵まれるなんてなぁ」
そう思っていた時期はあった。
思い続け、二次小説を書いてしまうくらいリスペクトしていたが……チャンスが来るなんて思わなかった。
簡潔に言おう。
僕は……転生というものをしたらしい。
「セシル=ハーヴェスト?」
自分の記憶を頼りに鏡を見ながら確認するとそこには幼いながらも将来美形を約束された容姿。
僕はおそらく……物語に登場しないモブキャラかな?
こんな容姿、名前のキャラ見たことないし。
立ち位置はハーヴェスト王国第二王子、攻略対象にいる第三王子の一つ上か。
乙女ゲーム「ときめくシンデレラ〜恋する乙女と4人の貴公子〜」において全てのルートを攻略したが……名前も出てこない。
第二王子は他国に留学しているという設定があった気がするが。
……まぁ、気にしたってしょうがないか。
転生しちゃったものはしょうがないし。
今は転生できたことを喜ぶべきだろう。
調べた限り、アンネローゼは誰とも婚約をしていなかったはず。
アンネローゼの苗字ってリンデンソワール公爵家だったな。
僕の立場もあるし、国王である父上に相談したら婚約できるかなぁ?
でも、婚約って政略になるだろうし、家同士の事情も気にしなきゃいけないし……どうしたものかなぁ。
と、思って婚約は難しいかもと思っていたものの。
王宮で出歩いていたら、たまたま父親の公務の付き添いで来ていたアンネローゼと居合わせてしまった。
時間があるから少し話をしたら盛り上がってしまい。
「ーーだから、その分からず屋の使用人に教えて差し上げたのですわ。あなたはお茶一つ入れられないのかって」
「それは大変だったね」
「やはり、そうですわよね。わたくし間違っいませんわよね?」
今僕は11歳、アンネローゼは10歳。
今は新入りの使用人がお茶を入れる作法がおかしいと指摘した時の話をしている。
話を聞いていて、彼女は正しい発言をしているのだが、上から目線な言い回しで誤解を招き周りから良い印象はないようだ。
近くで控えている赤髪のメイドの女性もアンネローゼの言動にビクビクしている。
もしかして今話しているのは彼女のことだろうか?
「だから、言って差し上げたのですわ。次同じことをしたらお父様に頼んでクビにしてやると」
アンネローゼの話を聞いてふと、再び赤髪のメイドに視線を向けると……顔を青くしていた。
あ、間違いないな。
まだ、アンネローゼは幼い。
自分の言葉の重みを理解していないのかもしれない。
「確かにその使用人が悪いね」
「そうなんです!このことを一度お父様にお話しだのですが、もう一度チャンスを与えてやってほしいと言われたのです。……理解にできませんわ」
彼女はまっすぐすぎる性格ゆえに間違ったことは間違っているとはっきりいうタイプ……融通が効かないらしい。
なら、今僕がすべきは彼女が良い方向に解釈してもらえるように促す。
「僕の意見だけど……いいかな?」
「……どうぞ」
アンネローゼは少し不機嫌になるが、黙って聞いてくれるらしいので、意見する。
立場は僕の方が上になる。
仕方なく、聞いてあげよう……みたいに思われているのかも知らないな。
「君にとって使用人って……どういう存在かな?」
「……どういう存在かと聞かれましても。……屋敷の掃除……雑用をする人……ですわね」
「そうだね。いつも屋敷の掃除や君の身の回りの世話をしてくれている」
「……何がおっしゃいたいんですの?」
「使用人とは君が住んでいる屋敷を維持する、公爵閣下が仕事をするために働いてくれている。いわば陰で公爵家を支えてくれている重要な人たちと僕は思うんだ」
「変わった考えをしておりますね。そんなの誰にも言われたことないですわ」
「そうかな?」
少しは共感してくれたようだ。
「使用人たちが、身の回りのことをしてくれるから自分のすべきことに集中できているということを君のお父上はそれをわかって欲しかったのかもね」
「……」
アンネローゼは俯いて黙り込んでしまった。
少し言いすぎたか?でも、これは僕が転生してから思ったことだ。
広すぎる屋敷の維持大変であったから。
多分それをわかって欲しくてアンネローゼ父はそんなことを言ったのではと。
「……素晴らしいお考えですわ」
「……え?」
「殿下は上に立つものとしての素晴らしいお考えを持っておりますわ!」
「そ……そうかな?」
少し興奮気味のアンネローゼかわいい……いや、立場的に上から目線で言われるのは少しまずいかもだけど、気にしない。
「わたくしも殿下のようになりたいですわね。……どうすれば良いでしょうか?」
「ええっと……そうだなぁ」
急にアドバイス求められても困る。
僕は少し考えたから話す。
「まずはその……クビにするって言った使用人と良好な関係を結ぶことから始めたらどうかな?」
「なぜですの?」
「ほら……やっぱり、そういうのは小さいことの積み重ねだから。一つのことからコツコツと……みたいな感じかな?挨拶をしてみるとか……どうだろうか?」
何を言っているのだろう。
自分でもどうすれば良いかわからなくなっていた。
「……なるほど。参考になりますわ。ありがとうございます殿下。早速試してみますわね」
そう言って、アンネローゼはご機嫌のまま立ち去ってしまった。
この時、アンネローゼの後ろに控えていたメイドさんの顔色は少しマシになっていた。
これは後日談だが、僕と会った後のアンネローゼの使用人への態度は変わったという。
もちろん良い方向へと。
この一件がきっかけだったのだろう。
アンネローゼと僕はリンデンソワール公爵閣下と国王である父上の意向で政略結婚という形で婚約することになったのだった。
それから五年が経過した。
僕は16歳、アンネローゼは15歳になった。
婚約してから茶会を繰り返し、親睦を深めていった。
結果、アンネローゼの元々の気高い性格良さはそのままだが、少し性格は丸くなった。
今日は貴族学院の入学式だ。
僕はアンネローゼより一つ年上なため、一年早く入学した。
貴族学院は全寮制のため、手紙でやりとりはしていたものの、会うのは実質一年ぶりくらいだ。
僕は彼女といち早く会いたいため、入学式の準備をいち早く終わらせ、門の前で待機をしていた。
立場が下のものからくるので男爵位の人から体育館に向かう。
僕は立場上目立ってしまうので、物陰に隠れて待機をしていると。
「お、……きたかな」
学院の門の前に豪華な作りのリンデンソワール公爵家の紋章のある馬車が到着した。
馬車の扉が開き、赤髪の女性がエスコートして、待ちに待った貴族学院の制服を着た彼女が降りてくる。
赤髪の女性、名をマーサと言う。
今は侍女の立場にいる。
僕とアンネローゼが初めて会った日以降、アンネローゼはマーサによく指導をしたとのことだ。
お茶の淹れ方を教え始めたらマーサは飲み込みが早く優秀であった。
アンネローゼもマーサを気に入り、一階の使用人であったマーサは侍女になるという出世をしたようだ。
今では気のおける存在らしい。
……あれ?どうしたのだろうか?アンネローゼの元気がないように見えるが。
とりあえず、僕はなるべく気配を消してアンネローゼに近づく。
「ロゼ、久しぶりだね」
「ひゃあああ!って、セシル様!」
お、いい反応だ。
5年の付き合いになるが、アンネローゼは反応が面白い。
だから、たまにこういう悪戯をしたくなる。
ちなみにロゼというのは僕が彼女を呼ぶ愛称である。
「どうしたんだい?そんなに声をあげて」
「誰のせいです!誰の!……せっかく……」
アンネローゼは話す後半から声が小さくなっていき、聞こえない
「ごめん、なに?」
「なんでもございません!……それよりセシル様はなぜこんなところにおられるのでしょう?……入学式の準備で忙しいため、会う約束は式の後にとなっておりましたが?……生徒会としてのお仕事を全うできないなんて王族として恥ずべきことでは?」
まぁ、確かにその疑問は仕方ないな。
でも、しょうがないじゃないか。
「ロゼをエスコートするためにここにいるんだけど?……おかしいかな」
「そう言うことを言っているのではありません!あなたには嫌味というのがわからないのですの?」
「いや、別に生徒会の人には許可もらっているし、大丈夫だけど」
「……もういいです。……初めからそう言ってくださいませ」
「悪かったよ。照れるロゼを見たくついね。手紙では書かなかったんだよ」
アンネローゼはイタズラすると必ず突っ込んでくれる。
悪役令嬢からツッコミ役の兆しが見え始めている。
僕がこんなことを思っていること関係なく、アンネローゼによる指摘は続く。
「事前の連絡するべきですわ!これだから周りから陰口を言われーー」
「お嬢様」
アンネローゼと話している途中、後ろに控えているマーサに話を遮られる。
本来なら侍女の立場のマーサがするのは失礼にあたるのだが、今は僕たち3人だけ。
アンネローゼも許してあることだ。
「何かしらマーサ。もしかして式までの時間かしら?」
「いえ……そういうわけではないのですが」
「もう……私たちだけの時は気を使わなくてよろしくてよ。それで、何が言いたいの?」
マーサはアンネローゼに許可を得る形で話し始める。
この時、口元が緩んでいた。
あ、もしかして爆弾投下してくれる流れかな?
「お嬢様、もう少し素直になられたらどうですか?お嬢様は殿下と会うのを楽しみにしておりましたし、門から会場までのエスコートをいただけないと知った時、ショックを受けられていたではありませんか?」
「ちょ!マーサ!何を言ってーー」
「馬車から降りた時も、寂しそうにしていたではありませんか?」
へぇ。こりゃいいことを聞いた。
まぁ、反応から予想出来ていたけど、
マーサ!ナイス!
「へぇ。そうなんだ。入学式の準備頑張った甲斐があったよ」
「……マーサ?」
「私もこのようなことはしたくなかったのです。ですが、殿下からの命令で仕方なかったのです」
「あなたの主人はわたくしですわよね?なぜセシル様を優先したのかしら?」
「お嬢様が意地を張って素直になられないからではないですか?」
「……え?おかしくありません?わたくしが悪いんですの?」
アンネローゼの質問に堂々と答えるマーサ。
見ていたいい主従関係だなと思う。
そう二人を見ていると、マーサが手元の時計を見て話かけてくる。
「あ、もうお時間ですよお嬢様。では、私の役目はここまでなので、失礼しますね。セシル殿下、お嬢様をよろしくお願いいたします」
すると、マーサはアンネローゼ、僕に挨拶をして、乗ってきた馬車に戻っていった。
「マーサ、お待ちなさい。お話しはまだ……」
すぐにアンネローゼは呼び止めようとするも、声をかけた時にはすでに馬車に乗り込んでいた。
ふ、せっかくマーサが気を使ってくれたんだ。
アンネローゼをエスコートしなければ。
「ロゼ……お手を」
「……よ、よろしくお願いしますわ」
僕はアンネローゼに右手を差し出し、エスコートをする。
門から入学式会場まではおおよそ50mほどだろう。
会場までの道のりは石造りの純白の道を愛しのアンネローゼと二人で歩き始める。
すると、急にアンネローゼの握られている右手にギュッと力が入るのを感じる。
気になり、様子を伺うと、ほんの少し頬を赤くしたアンネローゼが話しかけようとしていた。
僕は催促する事なくゆっくりと言葉を待つことに徹する。
「……セシル様……その……会えて嬉しいですわ」
「……そ…そうかな」
僕は嬉しさのあまりニヤケそうになるが、表面上、平然を装う。
普段、僕相手に素直に接することがないアンネローゼが素直に気持ちを伝えてくれるのは少ない。
だから、こそこう思う。
たまに見せるデレが最高です!
最後まで読んでくださりありがとうございます。
連載版候補です。
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら差支えなければお気に入り登録や高評価を頂ければ幸いです。
評価ポイントはモチベーションになります。
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改訂版
『おーほっほっほ!まだ理解していないの?わたくしと庶民のあなたとでは住む世界が違うの。せっかく教えて差し上げたのにまだ理解なさってないの?』
悪役令嬢とはつねに主人公を上から目線で接する存在である。
『あら?ごめんあそばせ。田舎くさいと思ったらあなたでしたの?気が付きませんでしたわ』
悪役令嬢は何かと理由をつけて主人公に絡み続ける存在である。
『わたくし、何も悪いことをしておりませんわ。わたくしはこの国を思ってやっただけのこと。それのどこがいけませんの?……殿下、そのような庶民に惚れてしまうとは……なんともお可哀想』
悪役令嬢とは……最後まで気高く、己の信念を曲げない……プライドの高い……孤高の存在である。
『殿下、愛しておりましたわ。どうか、そこにいる庶民と末長くお幸せに……わたくしはあなたの幸せを心より願っておりますわ』
だが、ほとんどの人が知らない。悪役令嬢は相手を想う一途な気持ちがあるということを。
僕はそんなバッドエンドしかない悪役令嬢という存在をかっこいいと思う。
決してユーザーからは評価されることのない嫌われ者。
主人公を際立たせるための当て馬的存在。
都合の良い扱いをされて物語が終われば捨てられる存在。
だが、僕はそんな悪役令嬢の大ファンであった。
僕が乙女ゲームをしたきっかけは些細なことであった。
当時高校生だった僕は歳の離れた妹に誘われて一緒にプレイをした。
それがきっかけだった。
「……まじ最高。カッコよすぎだろ」
「ね!言ったでしょ!お兄ちゃんも好きになると思ったわ!」
「ああ。特に物語の最後、断罪イベントだな。毎回見ていてよかった。セリフが毎回違うんだもん」
「でしょでしょ!お兄ちゃん誰のルートが好きだった?」
「どれも捨て難いが……やっぱり第三王子アレンルートだなぁ。……あの最後まで己を曲げないあの気高さ……いやぁ、カッコよかった」
「……え?なんの話してるの?」
「悪役令嬢アンネローゼの姿はまじ尊敬するわ」
「え?」
「え?」
「お兄ちゃん……頭大丈夫?」
……妹の冷めた自然と純粋に出た言葉が心にぐさっとくるも、妹とプレイした乙女ゲームの悪役令嬢に感じたのは尊敬だろう。
縦ロールの入った長い金髪の髪に目つきが鋭い青い目。赤色の派手なドレスを好んできて、だが、その可憐な容姿はその派手なドレスも自分を引き立てるための一部にしてしまう。
悪役には花があるという言葉はまさにアンネローゼのことを示すのだろうと思うと僕は思う。
僕は妹とゲームをした後、どうにか救済ルートを探したが、見つからなかった。
どのルートも最終的に追放、又は田舎の貧乏男爵家に嫁いで終わるという。
唯一救われたのは逆ハーレムルートだけであった。
僕はいろんな攻略対象たちのルートをこなして何か別手段がないかと模索したが、存在しない。
だが、プレイをするたびにアンネローゼの存在が物語においていかに大切な存在であるか……アンネローゼがいたから他のキャラの存在が際立っていったとしても過言ではないと……シナリオを周回するたびに思い知らされていった。
アンネローゼなしにシナリオは成り立たない。
だから、こそ惜しいと思った。
こんな素晴らしいキャラを攻略出来ないのかと。
幸せになるルートくらい用意してもいいんじゃないかって。
主人公と悪役令嬢が和解する友情ルートくらい用意したったいいんじゃないかって。
「……そんなことを思っていたけど、まさか本当にチャンスに恵まれるなんてなぁ」
そう思っていた時期はあった。
思い続け、二次小説を書いてしまうくらいリスペクトしていたが……チャンスが来るなんて思わなかった。
簡潔に言おう。
僕は……転生というものをしたらしい。
「セシル=ハーヴェスト?」
自分の記憶を頼りに鏡を見ながら確認するとそこには幼いながらも将来美形を約束された容姿。
僕はおそらく……物語に登場しないモブキャラかな?
こんな容姿、名前のキャラ見たことないし。
立ち位置はハーヴェスト王国第二王子、攻略対象にいる第三王子の一つ上か。
乙女ゲーム「ときめくシンデレラ〜恋する乙女と4人の貴公子〜」において全てのルートを攻略したが……名前も出てこない。
第二王子は他国に留学しているという設定があった気がするが。
……まぁ、気にしたってしょうがないか。
転生しちゃったものはしょうがないし。
今は転生できたことを喜ぶべきだろう。
調べた限り、アンネローゼは誰とも婚約をしていなかったはず。
アンネローゼの苗字ってリンデンソワール公爵家だったな。
僕の立場もあるし、国王である父上に相談したら婚約できるかなぁ?
でも、婚約って政略になるだろうし、家同士の事情も気にしなきゃいけないし……どうしたものかなぁ。
と、思って婚約は難しいかもと思っていたものの。
王宮で出歩いていたら、たまたま父親の公務の付き添いで来ていたアンネローゼと居合わせてしまった。
時間があるから少し話をしたら盛り上がってしまい。
「ーーだから、その分からず屋の使用人に教えて差し上げたのですわ。あなたはお茶一つ入れられないのかって」
「それは大変だったね」
「やはり、そうですわよね。わたくし間違っいませんわよね?」
今僕は11歳、アンネローゼは10歳。
今は新入りの使用人がお茶を入れる作法がおかしいと指摘した時の話をしている。
話を聞いていて、彼女は正しい発言をしているのだが、上から目線な言い回しで誤解を招き周りから良い印象はないようだ。
近くで控えている赤髪のメイドの女性もアンネローゼの言動にビクビクしている。
もしかして今話しているのは彼女のことだろうか?
「だから、言って差し上げたのですわ。次同じことをしたらお父様に頼んでクビにしてやると」
アンネローゼの話を聞いてふと、再び赤髪のメイドに視線を向けると……顔を青くしていた。
あ、間違いないな。
まだ、アンネローゼは幼い。
自分の言葉の重みを理解していないのかもしれない。
「確かにその使用人が悪いね」
「そうなんです!このことを一度お父様にお話しだのですが、もう一度チャンスを与えてやってほしいと言われたのです。……理解にできませんわ」
彼女はまっすぐすぎる性格ゆえに間違ったことは間違っているとはっきりいうタイプ……融通が効かないらしい。
なら、今僕がすべきは彼女が良い方向に解釈してもらえるように促す。
「僕の意見だけど……いいかな?」
「……どうぞ」
アンネローゼは少し不機嫌になるが、黙って聞いてくれるらしいので、意見する。
立場は僕の方が上になる。
仕方なく、聞いてあげよう……みたいに思われているのかも知らないな。
「君にとって使用人って……どういう存在かな?」
「……どういう存在かと聞かれましても。……屋敷の掃除……雑用をする人……ですわね」
「そうだね。いつも屋敷の掃除や君の身の回りの世話をしてくれている」
「……何がおっしゃいたいんですの?」
「使用人とは君が住んでいる屋敷を維持する、公爵閣下が仕事をするために働いてくれている。いわば陰で公爵家を支えてくれている重要な人たちと僕は思うんだ」
「変わった考えをしておりますね。そんなの誰にも言われたことないですわ」
「そうかな?」
少しは共感してくれたようだ。
「使用人たちが、身の回りのことをしてくれるから自分のすべきことに集中できているということを君のお父上はそれをわかって欲しかったのかもね」
「……」
アンネローゼは俯いて黙り込んでしまった。
少し言いすぎたか?でも、これは僕が転生してから思ったことだ。
広すぎる屋敷の維持大変であったから。
多分それをわかって欲しくてアンネローゼ父はそんなことを言ったのではと。
「……素晴らしいお考えですわ」
「……え?」
「殿下は上に立つものとしての素晴らしいお考えを持っておりますわ!」
「そ……そうかな?」
少し興奮気味のアンネローゼかわいい……いや、立場的に上から目線で言われるのは少しまずいかもだけど、気にしない。
「わたくしも殿下のようになりたいですわね。……どうすれば良いでしょうか?」
「ええっと……そうだなぁ」
急にアドバイス求められても困る。
僕は少し考えたから話す。
「まずはその……クビにするって言った使用人と良好な関係を結ぶことから始めたらどうかな?」
「なぜですの?」
「ほら……やっぱり、そういうのは小さいことの積み重ねだから。一つのことからコツコツと……みたいな感じかな?挨拶をしてみるとか……どうだろうか?」
何を言っているのだろう。
自分でもどうすれば良いかわからなくなっていた。
「……なるほど。参考になりますわ。ありがとうございます殿下。早速試してみますわね」
そう言って、アンネローゼはご機嫌のまま立ち去ってしまった。
この時、アンネローゼの後ろに控えていたメイドさんの顔色は少しマシになっていた。
これは後日談だが、僕と会った後のアンネローゼの使用人への態度は変わったという。
もちろん良い方向へと。
この一件がきっかけだったのだろう。
アンネローゼと僕はリンデンソワール公爵閣下と国王である父上の意向で政略結婚という形で婚約することになったのだった。
アンネローゼと婚約した僕の人生は華色であった。
見える景色が変わったと言うべきだろう。
僕は乙女ゲームでのアンネローゼを知らないので、過ごしていてとても楽しい。
今日は定期的なお茶会だ。
「殿下!殿下!聞いてください!」
「どうかしたのかい?」
「実はわたくしにお友達がいっぱいできましたの!」
「それは良かったね。それで、どんな話をしたんだい?」
アンネローゼは10歳で貴族のパーティに出席し、同世代の貴族の子息子女と関わり始めた。
嬉しそうにする話すアンネローゼの姿を楽しみながら過ごしていた。
話しの内容をざっくりまとめると取り巻きが出来たという話だ。
「そうですわねぇ……わたくしは最も王妃に相応しいとか……わたくしにはこの人は相応しいないとか……わたくしと同じ趣味だから一度お話ししたいとかですわね」
「へぇ」
あ、これ絶対取り入ろうとしているやつじゃん。
うーん……どう言ったものか。
このまま放っておいたら彼女の周りは綺麗事だけ並べる連中しかいなくなるかも。
僕としては信頼をおける友人を作って欲しいものだけど。
「アンネローゼ嬢のお友達か…是非会ってみたいな。もうすぐリンデンソワール家主催のパーティあったよね?是非紹介して欲しいな」
「わかりましたわ!」
過保護すぎかもしれないけどアンネローゼのためだし、と考え行動をしたのだが……結果は言うまでもなく、ただ取り入ろうとしただけであった。
やはり、話を合わせようと少しアンネローゼの趣味をかじった程度素人に毛が生えた程度だ。
話していてガーデニングやお菓子作りなどのアンネローゼの趣味の話になっても盛り上がると思いきや、ほとんどのご令嬢はついていけず、最終的に白けてしまっていた。
「殿下……お友達ってなんなのでしょう?」
そして、お色直しの名目で少し休憩を挟むためにパーティ会場から出た後、悲しそうな表情でそう言った。
表面上は取り繕っていたものの、少し悲しそうであった。
なんと返せばいいのか。
なんと声をかけるべきか。
「友達って言われてなるものじゃないから難しいんだよね」
悩んな結果、僕は彼女が成長するための言葉をいう。慰めたところで彼女のためにはならないと思ったから。
「僕らは立場上、いろんな人と付き合っていかなければいけない。……まだ君は貴族としてデビューしたばかり。だから、これから多くの人と関わる。その中でこの人と仲良くなりたい……そう思える人が現れるさ」
「……殿下」
僕はアンネローゼと見つめ合う。
彼女は少し悲しそうな表情をしていた。
僕もアドバイスを送れるような立場ではないものの、少しでも気が安らげばと思った。
だが、その心配はすぐになくなる。
「アンネローゼ様、よ……よろしければ今度詳しくガーデニングについて詳しく教えてくださいませんか?じ…実は…私も花や植物で世話して庭を作っていまして是非とも……その」
確かこの子は伯爵位の息女、ルビス=クラウトだったか。
癖のない茶髪を肩で切り揃えている、どこか小動物みたいだ。
デビューしたばかりで慣れていないのか、かなり緊張している。
アンネローゼも少し戸惑っていたものの、話し始めると意気投合していった。
何の肥料を使っているか、この春にはなんの植物を受ける予定かどうかなど、今までの知識をかじっただけの令嬢たちと比べ物にならないくらい話が盛り上がっていた。
だが、あまり長時間話しているわけにはいかず。
「二人とも、時間」
「あ……殿下申し訳ありません」
「も、申し訳ありません」
二人とも話に夢中だったらしくハッとして今パーティ中だったことを思い出したらしい。
……話を遮ってごめんね。だから、二人とも、そんなにしょぼんとするのはやめて欲しい。
忘れているようだけど、ここパーティ会場だよ。それにまだ挨拶しなきゃいけない人も残っている。
まぁ、でも、このままじゃ可哀想なわけで。
「そんなに話が合うなら今度二人でお茶会をしたら?……庭を見せ合うのもいいんじゃないかな?」
「……それですわ!ルビス様よろしいですか?!」
「は…はい。よろしくお願いします」
僕が提案するとアンネローゼはルビス嬢の手を両手で掴むと笑顔でそう言った。
ルビス嬢は戸惑っているものの少し嬉しそうだ。
殿下!やりました!とチラチラ視線を向けているアンネローゼだったけど。……だけどねぇ。
「アンネローゼ嬢、嬉しいのはわかるけど少し静かにね」
「はう……も…申し訳ありませんわ」
あ、かわいい。
顔真っ赤にして……だけど嬉しそうにニヤニヤと口角が上がっていた。
乙女ゲームではルビスというキャラはいなかった。モブ令嬢なのだろう。
それでもシナリオには仲の良い友人の存在はいなかった。
シナリオブレイクしてしまったけど別にいいだろう。
……だって。
「……楽しみですわ」
こんなにも嬉しそうにし気にしないようにしよ!
アンネローゼとルビス嬢の交流は続き、仲の良い友人ができたと楽しく話していた。
その時期から、アンネローゼは公爵令嬢として、僕の婚約者として頻繁にパーティに出席した。
王子妃教育も始まった。
成長するに連れてアンネローゼは落ち着いた性格になり、綺麗になっていった。
だが、全てが順風満帆にいったわけではなかった。
アンネローゼは貴族の息女として、僕の婚約者として完璧に近い振る舞いをしていた。
だが、そんな彼女にも一度だけ問題を起こしたことがあった。
問題を起こしたというよりも突っ込んだと表現した方が正しいのかもしれない。
それは13歳となったアンネローゼと参加したとあるパーティで起こった。
この時、僕とアンネローゼは挨拶が落ち着き次第、友人たちと談話するために離れていた。
それが悪かったのかもしれない。
「も…申し訳ありません!」
「この使用人不在が!この俺の正装を汚しおって!」
パーティ会場で飲み物を運んでいた使用人が侯爵の男(以後侯爵閣下)が持っていた飲み物をかけてしまい、使用人の女性はその場で頭を下げている。
だが、悪いのはどう考えても侯爵閣下の方だ。身振り手振りで自分の武勇伝を話しているうちに体勢を崩して女性にぶつかってしまった。
「これは何の騒ぎですの」
パーティの雰囲気は最悪だ。公爵令嬢として見過ごすわけにはいかず、行動した。
僕は問題が起こった現場とは少し離れた位置にいたせいで反応に遅れてしまった。
騒ぎが大きくなってようやく気がついたんだ。
「何って……今からこの使用人に罰を与えようとしていたんだが?」
「わたくしは一部始終を見ておりましたが、あなたの不注意が原因ではなくて?」
「は?何を言っているのか理解できませんねぇ。こいつが飲み物を運んでいたのが悪いのではありませんか?使用人不在代わりはいくらでもいますので、こんな無能即刻首にしてやろうかと思いまして」
めちゃくちゃだ。
自分が悪いと指摘されても認めることなく正しいと肯定する。
……くそ、もう少し気づくのが早ければ。
僕は友人たちに断りを入れて急ぎ仲裁に向かう。
「使用人不在?……なんともまぁ、愚かな考えだこと。あなたがどのような生活をしているか存じませんが、わたくしたち貴族が何不自由なく生活できているのは誰のおかげかご存知ないのですか?彼女ら使用人の方が陰で支えてくれているからですのよ?」
「……なんだと?」
ああ!火に油を注がないでよ!
なんで煽るようなことをするの!
めっちゃ怒ってるじゃん!
間違ってないけど、せめて僕がくるまで待ってよ!
早く止めないと。
「伯爵閣下、どうかこの場は僕の顔に免じて許して貰えないだろうか?」
「殿下!何をおっしゃってーー」
「アンネローゼ嬢、ここは僕に任せてもらえるかな?」
「……はい」
とりあえずアンネローゼには悪いが、この場は早く解決させてもらう。
これ以上のいざこざを起こすのは嫌なので、注意を僕にむける。
これでも王族だ。頭に血が上っていても少しは冷静になるはず。
「いや…しかしですね」
「では、僕の権限でそこにいる使用人はクビにさせる。それにーー」
僕は周囲に視線を配らせ侯爵閣下に現状を伝える。
これ以上悪態をつく気か?……そう意味を込める。
その視線に気がつき、周囲を見渡す侯爵閣下。
「……わかりました」
「ありがとう、僕は一度失礼するよ。婚約者と話がしたいからね」
そう言って僕はアンネローゼと謝罪していた使用人を連れて会場を後にした。
アンネローゼには個室で待ってもらい、顔を青くしていた使用人は今日の件の謝罪と別の雇い先を用意することを伝えた。
「ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
「いや、君も災難だったね。とにかく今後の衣食住は保証するからそんなに気にする事はない。今日はゆっくりと休むといい」
「はい」
顔色は少し悪かったが、安堵しているようだった。
とりあえずことが大きくならなくてよかったよ。もしも僕がいなきゃどうなっていたか。
ここは少し真剣に話さなくてはな。
「殿下!どういうおつもりですか!わたくし何か間違っておりましたか!?」
アンネローゼが待つ部屋に入った瞬間、座っていた席を立ち近づきながらそう言われた。
僕はそんなアンネローゼに少し怒りを感じた。
「アンネローゼ嬢、君は間違った行動をしたよ」
「え……な、どこが間違っていたというのですか!……使用人を大切にしろと……そう言ったのは殿下ではーー」
「そういうことを言っているんじゃないよ」
ああ……やっぱりわかっていない。
僕がこんなに怒りを感じるのは初めてかもしれない。
僕はいったい、今どんな顔をしているたろう?
笑えているだろうか?
「あの時、僕がいなかったらどうなっていたかわかるかい?もしかしたらあの男は君に手を出していたかもしれないんだよ」
「……それはありませんわ。わたくしは殿下の婚約者ですもの」
「あの男は素行が悪いことで有名なんだ。昔、怒りに任せて女性を暴行をした、そんな噂もあるくらいにね」
「……そ…それは本当ですの?」
「ああ。思い出してごらん。君が注意している時のあの男の姿を」
アンネローゼは僕の言葉に冷静になったのか、パーティでの一件を再度考えたのだろう。
僕の発言の可能性が拭いきれないのか、少し顔が青くなる。
そして、体が震えだす。
僕は震えているアンネローゼを抱きしめて話し始める。
「君のまっすぐな正義感は美徳だろう。でも、そのおかげであの使用人は助けられた。でもね。その後先考えない行動で僕がどれほど焦ったか……不安だったか」
「……心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「もう少し自分の身を大切にしてほしい。本当に無事でよかった」
その言葉を聞いてやっと怒りが鎮まる。
アンネローゼは静かに僕の胸で泣いていた。
僕はそんな彼女の背中を優しく摩ってあげた。
その後落ち着き次第会場に戻ったのだった。
きっかけはどうあれ、僕とアンネローゼの距離はグッと縮まった。
僕はロゼと、アンネローゼはセシルとお互いをそう呼ぶようになった。
あ、ちなみに問題を起こした侯爵閣下には別途で罰を与えた。
どんな内容かは秘密だ。
ただ、僕のロゼを怖がらせた罪は重いよ。
しっかり反省してもらわなきゃ。
それから2年が経過した。
僕は16歳、アンネローゼは15歳になった。
婚約してから茶会を繰り返し、さらに親睦を深めていった。
今日は貴族学院の入学式だ。
僕はアンネローゼより一つ年上なため、一年早く入学した。
貴族学院は全寮制のため、手紙でやりとりはしていたものの、会うのは実質一年ぶりくらいだ。
僕は彼女といち早く会いたいため、入学式の準備をいち早く終わらせ、門の前で待機をしていた。
立場が下のものからくるので男爵位の人から体育館に向かう。
僕は立場上目立ってしまうので、物陰に隠れて待機をしていると。
「お、……来たかな」
学院の門の前に豪華な作りのリンデンソワール公爵家の紋章のある馬車が到着した。
馬車の扉が開き、赤髪の女性がエスコートして、待ちに待った貴族学院の制服を着た彼女が降りてくる。
赤髪の女性、名をマーサと言う。
今は侍女の立場にいる。
僕とアンネローゼが初めて会った日以降、アンネローゼはマーサによく指導をしたとのことだ。
お茶の淹れ方を教え始めたらマーサは飲み込みが早く優秀であった。
アンネローゼもマーサを気に入り、一介の使用人であったマーサは侍女になるという出世をしたようだ。
今では気のおける存在らしい。
……あれ?どうしたのだろうか?アンネローゼの元気がないように見えるが。
とりあえず、僕はなるべく気配を消してアンネローゼに近づく。
「ロゼ、久しぶりだね」
「ひゃあああ!って、セシル様!」
お、いい反応だ。
5年の付き合いになるが、アンネローゼは反応が面白い。最近だと少しツンが出てきたけど、そこが可愛い。
だから、たまにこういう悪戯をしたくなる。
「どうしたんだい?そんなに声をあげて」
「誰のせいです!誰の!……せっかく……」
アンネローゼは話す後半から声が小さくなっていき、聞こえない
「ごめん、なに?」
「なんでもございません!……それよりセシル様はなぜこんなところにおられるのでしょう?……入学式の準備で忙しいため、会う約束は式の後にとなっておりましたが?……生徒会としてのお仕事を全うできないなんて王族として恥ずべきことでは?」
まぁ、確かにその疑問は仕方ないな。
でも、しょうがないじゃないか。
「ロゼをエスコートするためにここにいるんだけど?……おかしいかな」
「そう言うことを言っているのではありません!あなたには嫌味というのがわからないのですの?」
「いや、別に生徒会の人には許可もらっているし、大丈夫だけど」
「……もういいです。……初めからそう言ってくださいませ」
「悪かったよ。照れるロゼを見たくついね。手紙では書かなかったんだよ」
アンネローゼはイタズラすると必ず突っ込んでくれる。
悪役令嬢からツッコミ役の兆しが見え始めている。
僕がこんなことを思っていること関係なく、アンネローゼによる指摘は続く。
「事前の連絡するべきですわ!これだから周りから陰口を言われーー」
「お嬢様」
アンネローゼと話している途中、後ろに控えているマーサに話を遮られる。
本来なら侍女の立場のマーサがするのは失礼にあたるのだが、今は僕たち3人だけ。
アンネローゼも許してあることだ。
「何かしらマーサ。もしかして式までの時間かしら?」
「いえ……そういうわけではないのですが」
「もう……私たちだけの時は気を使わなくてよろしくてよ。それで、何が言いたいの?」
マーサはアンネローゼに許可を得る形で話し始める。
この時、口元が緩んでいた。
あ、もしかして爆弾投下してくれる流れかな?
「お嬢様、もう少し素直になられたらどうですか?お嬢様は殿下と会うのを楽しみにしておりましたし、門から会場までのエスコートをいただけないと知った時、ショックを受けられていたではありませんか?」
「ちょ!マーサ!何を言ってーー」
「馬車から降りた時も、寂しそうにしていたではありませんか?」
へぇ。こりゃいいことを聞いた。
まぁ、反応から予想出来ていたけど、
マーサ!ナイス!
「へぇ。そうなんだ。入学式の準備頑張った甲斐があったよ」
「……マーサ?」
「私もこのようなことはしたくなかったのです。ですが、殿下からの命令で仕方なかったのです」
「あなたの主人はわたくしですわよね?なぜセシル様を優先したのかしら?」
「お嬢様が意地を張って素直になられないからではないですか?」
「……え?おかしくありません?わたくしが悪いんですの?」
アンネローゼの質問に堂々と答えるマーサ。
見ていたいい主従関係だなと思う。
そう二人を見ていると、マーサが手元の時計を見て話かけてくる。
「あ、もうお時間ですよお嬢様。では、私の役目はここまでなので、失礼しますね。セシル殿下、お嬢様をよろしくお願いいたします」
すると、マーサはアンネローゼ、僕に挨拶をして、乗ってきた馬車に戻っていった。
「マーサ、お待ちなさい。お話しはまだ……」
すぐにアンネローゼは呼び止めようとするも、声をかけた時にはすでに馬車に乗り込んでいた。
ふ、せっかくマーサが気を使ってくれたんだ。
アンネローゼをエスコートしなければ。
「ロゼ……お手を」
「……よ、よろしくお願いしますわ」
僕はアンネローゼに右手を差し出し、エスコートをする。
門から入学式会場まではおおよそ50mほどだろう。
会場までの道のりは石造りの純白の道を愛しのアンネローゼと二人で歩き始める。
すると、急にアンネローゼの握られている右手にギュッと力が入るのを感じる。
気になり、様子を伺うと、ほんの少し頬を赤くしたアンネローゼが話しかけようとしていた。
僕は催促する事なくゆっくりと言葉を待つことに徹する。
「……セシル様……その……会えて嬉しいですわ」
「……そ…そうかな」
僕は嬉しさのあまりニヤケそうになるが、表面上、平然を装う。
普段、僕相手に素直に接することがないアンネローゼが素直に気持ちを伝えてくれるのは少ない。
だから、こそこう思う。
たまに見せるデレが最高です!
最後まで読んでくださりありがとうございます。
連載版候補です。
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