ナンジャモと大筒木の居るセラフ部隊 (たかしクランベリー   )
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断章『〜始点紡ぐ黒き菱形〜』
0話・パルデアの未来(パルデア軸)


 

ボクは、ナンジャモ。

パルデア地方のジムリーダーを

任された人気配信者。

 

趣味は配信で、ユニークな企画を立てるのも

得意だからついつい取材とかをよくしてしまう。

今日は、面白い情報を得たので

アポを取ってテーブルシティのカフェへ

取材に行った。

 

待ち合わせしたクライアントは、

逸早く披露したいのか。

今か今かと身体を震わせていた。

 

ボクは、その彼が居る席に向かい合う形で着席した。

 

「ハァ……ハァ。会いたかったよぉ♡

ナンジャモたん……」

 

マクノシタを思わせる程ふっくらとした

体型の彼は、ねっとりとした口調で言う。

 

(この反応、もしかしてボクのリスナーさん?

だったら尚更、慎重に取材した方が良さそうだ。

今や、ちょっとやそっとの言葉でも

炎上してしまう世の中だしね。)

 

「オンコンハロちゃお!

ボクも会えて嬉しいよ!」

 

「デュフっ。眼福ですなぁ。 

ボクちんはマクノって言うんだ。

よろしくネェ。」

 

(うん。やっぱりこの男、

ボクの典型的リスナーだ。

さて、本題に入らせてもらうか。)

 

「こちらこそよろしく。

それで、空飛ぶスリーパーの件なんだけど……」

「もうっ、ナンジャモたんはせっかちだネェ。

ま、そーゆう所も可愛いから良いけど。」

 

「ボクの話……聞いてる?」

「勿論さァ、でもね。ここでスリーパーを

出すわけには行かないでしょ?

だから、南2番エリアの一本道まで

一緒に行ってくれるかい。」

 

「分かった。」

 

ボクは了承し、彼と共に店を後にした。

 

南2番エリアを歩く事数分。

マクノは急に立ち止まった。

 

「デュフ、ここら辺で良さそうだ。」

 

どうやら彼は、披露するポジションに

辿り着いたようだ。

 

「確かに、ここでなら存分に飛べそうだね。

例のスリーパー、期待してるよ。」

「デュフっ、任せなよ。

出てこいスリーパー。」

 

「スリィィーんっ!!」

 

「これが……空飛ぶスリーパー。」

「その通りさ、パッと見普通のスリーパーに

だろうけど、彼は飛べるんだ。

よく見ておきなよ。」

 

ボクは言われるがまま、

スリーパーの動きに注目する。

スリーパーはニヤリと口角を上げ、

糸に吊された5円玉を懐から出して構える。

 

「――スリーパー、催眠術。」

 

罠に嵌められたと気がつくよりも先、

ボクの意識は暗闇へと沈んでいった。

 

「戻れ、スリーパー。

ラルトス、テレポート。」

「らるぅぅ!」

 

彼らは、ラルトスの放つ桃色の光と共に

その場から姿を消した。

眠ってしまった少女を巻き込んで。

 

………………。

 

…………。

 

「うっ、ここは……――ッ!?」

 

動けない。

何か粘着性の強い縄に拘束されてるっ!?

 

「デュフフッ。どうだい、

ボクちんのワナイダー君が

仕込んだねばねばネット。凄いだろぉ。」

 

「ボクをこんな目に合わせてどうする気?

トップが黙っちゃいないよ。」

 

「トップ、ねぇ。確かにこの事態を知ったら

ボクちんはタダじゃ済まないかもねぇ。

でも、そんなのはどうでもいいんだ。

現トップの席なんてすぐにでも消えるしさ。」

 

「……どう言う事。」

「ボクちんは悲しいよ。

推しのナンジャモたんが諸悪の新生チャンピオン、

ハルト君に利用されて居ることが。

それに気付かずに嬉々として居るのも。」

 

ボクの質問を気にせず、勝手に彼は口を進める。

 

「何の話……」

 

「やっぱり、知らなかったんだね。

数字と楽しさばかりに目が行って、

最悪の可能性を見落としてる。」

「最悪の可能性。」

 

「そうさ、ここ最近不自然だと思わないのかい。

ハルト君が毎週のようにコラボ配信に

応じてくれる事。

ナンジャモたんは彼のプロパガンダに

利用されているんだよ。」

 

「だからっ! なんの話しだよっ!!」

「ここまで言っても分からないのか。

じゃあハッキリ言うよ。

1ヶ月前に起きた〈解放事件〉、

あの事件の犯人は、ハルト君だ。」

 

「嘘……」

「嘘なんかじゃない。

彼がパルデアの全ての封印を解く映像は、

ボクちん自身がこの目にし、

スマホロトムに納めた。」

 

「…………」

「全ての呪物を手中にした者の末路。

その結果、パルデアそのものがどうなるかは

アカデミーを主席で卒業した

ナンジャモたんなら分かるよね。」

 

「どうして、どうしてそんな事を。」

「考えられるのは唯一つ。簒奪と独裁だよ。

現トップに罪を擦りつけて

引き摺り降ろせば、

力による統治を容易くできる。

それ程までに、トップの利権は大きなモノだ。」

 

「その事実が本当だとしても、

ハルト君がそんな事出来るわけがない。」

「あぁ、彼1人ならね。

そもそも彼も利用されてるに過ぎない。

この事件も、一人一人の思惑が偶然合致して

出来たものだからね。」

 

「…………」

「全て、ジニア先生の計画通りって事さ。

彼は本来あるべきパルデアの生態を観測したいんだ。

その為には、あまり動きのない

現パルデア政権を崩してリセットする必要がある。

ま、とある博士の大穴調査が頓挫した時点で

そうするしか無かったんだろうね。」

 

どうして彼はこの事件を事細かに

把握しているんだ。

 

「デュフ。ボクちんが何処まで

事件の中身を知ってるか気になるかい?

ボクちんは有名な探偵の息子なんだ。

真実を追うのは推しを追うことの次に得意だよ。」

 

「………………」

 

「安心してナンジャモたん。

洗いざらい全部話すさ。

ジニア先生はまず、優秀なトレーナーである

ハルト君が封印呪物に興味を持つよう

レホール先生に呪物系統の授業カリキュラムを

組み込むようお願いした。」

 

「次に手を組んだ相手は、四天王アオキ。

彼にとって絶好の駒だったろうね。

現トップを引き剥がした後、

表向きでトップを継がせるには

持ってこいの人材だ。

彼自身も、トップからのパワハラ染みた

扱いに大きな不満を抱いていたからね。」

 

「後は、呪物に精神侵食されたハルト君が

パルデア全土を破壊すれば

目的は達成されるって計画だ。

……要するに、どう足掻こうと

今のパルデアには未来が無いんだよ。」

 

「だったらボクが止める!!」

「――たかが1ジムリーダーが

止められる訳無いだろ!

もう奴らはそういう次元じゃないんだ!!

ボクちんの親父は

この事件を追って3日前消されたんだ。

ボクちんだってすぐにでも消される!!

今だって――」

 

我を忘れて叫ぶマクノ氏を遮るように

スマホロトムが懐から現れ、通信が繋がる。

 

「マクノ、お前は知りすぎた。

後数分でお前のところにつく。」

「この声、セイジ氏っ!?」

「お前、ナンジャモにも話したのか。」

 

「あ……ぁあああっ。

もうダメだ。僕ちんらは特定されたッ!

来る……執行官が!! 粛清の為にッ!!」

 

「…………」

「ナンジャモたん。ボクら2人で逃げよう!

そうだ。そうしよう!!」

 

後数分で追いつくような相手に、

逃げ切れなんてしない。

 

彼は血走った目で宙に

3つのモンスターボールを投げ、

ポケモンを繰り出した。

 

「「「エネぇぇっ!! エネエネぇぇっ!」」」

 

「3匹のマルマイン!? 

マクノ氏、一体何を……」

「ナンジャモたん。

これでボクちん達、アイツらから逃げれるよ。

マルマイン――大爆発。」

 

「「「エネェェエエエエ!!!」」」

 

刹那、眩い光が視界を支配した。

 

 

 

 

「瀕死状態のマルマインが3匹。

――ちっ、心中か。

下らない真似しやがって……

パモさん、彼らが不可解な事を

していないか心配だ。

床をWatchしてくれ。」

 

「パモぉ!!」

 

「どうしますか、ジニアさん。」

「そうですねぇ……

これで真実を明るみにしようとする

障害は消え去りましたし、

私たちが直接どうこうする必要はありません。

後はハルト君に頑張ってもらいましょう。」

 

「頑張ってもらうって?

……人柱の間違いだろ。」

「いいえ、彼は尊い犠牲の一部です。

本当のパルデアを取り戻す為の……

私たちはそれを観測する。

ただそれだけの事です。」

 

 

 

 

「――ハッ!?」

 

目が覚めた。

あり得るはずがないのに。

ボクは確かにあの時、

マルマイン3匹の大爆発に巻き込まれて死んだ。

 

なのに、背中からはサラサラとした

砂のような感触をはっきりと感じる。

まるで、

夜のロースト砂漠で寝転んでる気分だ。

 

「起きろ、小娘。」

「……誰っ!?」

 

誰かが声をかけて来たので、

ビクリとして立ち上がった。

目の前には、

全身真っ白なおじさんが居た。

 

彼は、人ならざる雰囲気を

強く醸し出している。

 

――神々しい存在との邂逅。

 

一時期、アカデミーの書庫で

読んだ数々のライトノベル。

その作中によくある境遇だった。

むしろこの状況、そうとしか考えられない。

 

「あの……貴方はもしかして、

ボクを転生させてくれる神様ですか?」

「フンっ、貴様にはこの俺がそう見えるのか。」

 

「じゃあ、貴方は一体……」

 

「俺は、大筒木・イッシキだ。

ちなみにさっきの話だが、

お前の認識は強ち間違っちゃいない。

我々大筒木の一族は、

段階こそ要るが神に至れる存在だ。

……大筒木・シバイのようにな。」

 

「…………」

 

「だが、その目標も潰えた。

貴様がここに居るのは、そういうことだ。

――死んだのだろう?」

「はい。」

 

「貴様は、このままでいいのか。」

「え。」

「このよく分からない砂漠の檻に

閉じ込められたままでいいのか。」

 

「それは嫌だ。

でも、イッシキ氏がここを

出られてないのなら、

方法はないでしょ。」

 

「いいや、ある。

貴様がここにいる事でな。」

「あるなら最初から言ってよ!?」

 

「急に馴れ馴れしくするな。鬱陶しいぞ。

そもそも、

このやり方が成功するかどうかは

俺自身半信半疑なんだ。」

 

「……ごめん。」

「反省こそ感じるが、俺に対する態度は

変わらなそうだな。まぁいい。

俺の右手と

お前の利き手を合わせろ。」

 

「こう、ですか。」

 

掌を合わせた瞬間、

淡い光が10秒ほど出現し。消えた。

 

「あのぅ……何をしたんです。」

「転生に必要な段階だ。掌を見てみろ。」

 

「うわっ!? なんか真っ黒な

菱形模様が付いてる!」

「フッ、見込み有りか。では始めるぞ。」

「お、お願いします!」

 

「――己生転生。」

 

 





どうも、たかしクランベリー(本物)です。
ヘブバン全イベント読了済みのヘブバンファンです。

BORUTOもポケモンSVも好きなんで、
どちらの要素もモリモリ詰め込んでます。
よろしくお願いします!


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一章『〜楔と氷結の簒奪者〜』
1話・ナンジャモの居る入隊式


 

「なぁ……おい。」

「……ん?」

 

(寝てたのか……?)

 

「……このように本基地は学校としての

体裁が整っています。詳細は後ほど

あなたたちの担当教官から説明があるので

確認しておくように。」

 

演台からのアナウンスにうんざりしたのか、

眼鏡をかけた少女がボクに声をかけて来た。

 

「偉い人の挨拶ってやたら長いよな。

……退屈だから、話しねーか?

でないと、寝ちゃいそうだぜ。」

 

「話?」

 

「そうだよ。ただのお話。

ここって、なんか凄い才能を持った人たちの

集まりなんだろ?

あんたは何が凄いのか、興味あるなぁ。」

 

「ボクは別に自分が凄いなんて思ってない。

趣味で配信活動をしてるだけ。

他にやってる事と言ったら、

ジムリーダーくらいだよ。」

 

「ジムリーダーって……

称号からして只者じゃねーじゃん。」

 

静かに嬉々とした表情を浮かべる

彼女の横で、

呼応するかのように隣の子も喋り始めた。

 

「何が凄いかって? 何も凄くないよ。

あたしは普通の何処にでもいる人間さ。ただ……

音楽にかける情熱は誰にも負けない。

それだけさ。」

 

「いやお前誰だよ。

急に自分語りしてきて怖えーよ。

あたしが声かけたのはあんたじゃないって。」

 

「まぁまぁ、良い機会なんだし。

あたしの話もついでに聞いて頂戴な。」

 

「ったく、しゃーねぇな。

少しだけ聞いてやるよ。……いいか?」

 

申し訳なさそうに、眼鏡の少女が

ボクに了承を求めた。

俄然興味が湧いてきたので、

ボクも頷いて了承の意を示した。

 

「そっちの子もOKみたいだし、

話を続けさせてもらうよ。

あたしはな、

ギターを弾いて歌う事が得意なんだ。

バンドではギターとボーカルをやってたんだ。」

 

「案外、学祭のノリで来れるんだな。」

 

「あんたは?」

「もう自分語り終わりかよ。

許可取ったからにはもっと喋れよ。

許可取った相手に失礼だろ。」

 

「……あんたは?」

 

「正しい選択肢選ばねーと

進めない系ゲームのNPCかお前は!?」

 

「お前は……トリコ?」

「勝手に美食四天王にするな。

パターン少し変えたからって誤魔化せねーぞ。

ちなみに言うなら、

あたしの名前は和泉・ユキだ。

美食四天王じゃねーからよく覚えとけよ。」

 

「ほげー」

「こう見えて、腕利きのハッカーさ。

オーキッドというハッカー集団の名は

聞いた事あるかな?

世界的に有名なんだけどさ。」

 

「オーキッド! 

あんたオーキッド好きなのかい!?

あの伝説の激情バンド、

ギャイアグレイーイボドドドゥドオー!!

って叫び散らかして魂を震わせる!!」

 

「違うよ……

なんだよそのテンションの変わり方……

それに、ギャイアグレイーイボドドドゥドオー!!

って叫び散らすバンドなんて嫌だよ。」

 

「いやいや何でさ!? イライラが溜まってさ、

もうどうにも自分がコントロール

出来ないってなった時、お前どうすんだよ!?」

「どうするって、そりゃあ……

ちょっとは他人に当たるかもなあ。」

 

「ええー!? 普通、

ギャイアグレイーイボドドドゥドオー!!

って叫ぶだろ!?」

 

なんか気付かない内、

ボクが蚊帳の外になって

騒がしい話してるけど……注意されないのかな。

 

「叫ばねーよ!? 

叫んでも、その言葉だけは選ばねーーよ!?」

「でも黙るってこともないだろ。」

「そりゃ、クッソー!

くらい言うかも知れないけどよ。」

 

「それほとんど、

ギャイアグレイーイボドドドゥドオー!!

じゃねぇか。」

「いやいや、クッソー!と

ギャイアグレイーイボドドドゥドオー!!

には天と地ほどまでとは言わないけど、

相当な差があるよ!?」

 

「え? あんま変わんないじゃん。」

「どこがだよ!?

もういいわ! いい加減オーキッドの話させろ!」

 

「――そこの3人、ギャーギャーうるさいぞ。」

 

(え。何でボクまで巻き込まれてるの。)

 

注意された事が気に食わないのか、

自分語り少女は反抗的な目で演台の方へ

視線を向けた。

 

「ギャーギャーなんて一言も言ってねぇよ。

ギャイアグレイーイボドドドゥドオーー!!

だぁぁああーーーー!!

魂の叫びなんだよ! このクッソが!!」

 

「……何あの人。」

「司令官に向かって、あの言葉遣い……」

 

「いやいや、周りが引くほどキレるな!

初日から悪い意味で目立ちすぎだから!」

「ごめん。ちょっと興奮しちゃったみたい。

もう大丈夫。」

 

「ふぅ……お前そんなキャラだったのか。

クールキャラだと勘違いしてたよ。

ひとを見た目で判断するんじゃないな。」

「サンクス」

「まったく褒めてないからな。

少しはあたしの隣の奴を見習って

欲しいくらいだよ。」

 

「ボクも配信では騒がしいタイプだから、

あまり気にしなくて良いよ。」

「優しいね君ぃ……この後、

あたしとお茶でもどうだい?」

 

「おいおい、こんなイカれた奴

フォローしても得なんてしねーぞ。」

 

キーン! キーン!!

 

不安感を煽るサイレンが、突如鳴り響く。

赤いランプは眩く光り、明滅を繰り返していた。

 

「うん? 何の音だ?」

 

「全員、防衛態勢へ移行してください。」

「防衛態勢? なんだ。戦争でも始まるってか?」

 

短髪の少女が疑問を口にしてる間に、

着席してた一同はその場から走り去っていく。

 

ボクらも彼女たちの後を追う形で駆け出した。

 

「おいおい、戦争なんて経験した事ないぞ……」

「戦争!? ボクだって

ポケモンバトルくらいしかやった事ないよ!?」

「何だよポケモンバトルって……

よくわかんねーが、急いで外にでよーぜ。」

 

状況がよく掴めないまま走ってると、

演台に立っていた軍服の女性と鉢合わせた。

 

「――そう。

あなた達、そこで立ち止まりなさい。」

 

「何だよ急に。」

 

「良い機会だから

あなた達に後方支援をしてもらおうかしら。

急いで出撃準備を整えて。」

 

「あたしら!? 嘘だろ!?」

「ん? あの人だれ?」

「それすら聞いてなかったのかよ!

セラフ部隊を統括する手塚司令官だよ!」

 

あの威圧感強い人、

手塚っていう名前なんだ。

ごめん。ボクも今初めて知った。

 

「時間もないから、

すぐにブリーフィングを行うわ。

よく聞いておくように。」

 

「出撃って?」

「そのままの意味よ。これから出撃して、

敵を足止めしてもらうわ。」

「んな無茶な。」

 

「安心なさい。

私も近くで指示とサポートをするわ。

万が一の時はすぐ助けられる位置で。

――では、出撃!」

 

 

 

 

――緩衝地帯。

 

空を飛ぶタクシーとは違う

謎の航空機に搭乗し

たどり着いたのは……

ビル群が荒廃した街だった。

 

その殺風景な街の姿に。

思わず、短髪の子も口を開いた。

 

「ずいぶんと寂れた場所まで来たな。」

 

「安心しなさい、ここは激戦区ではないわ。

あなた達の役割は、あくまで後方支援。

集中して戦えば、命を落とす危険はないわ。」

「そんなの、何の気休めにも……

――って、アレはもしかして。」

 

冷や汗をかきながら、

眼鏡の子が走り出した。

ボクらも気になって、彼女に続く。

 

「なぁ……向こうにいるのって……」

「あれがあなた達の敵、キャンサーよ。」

 

3メートルくらいはある

黒塗りのアメタマに向かって、手塚氏は言う。

テラレイド個体より二回り小さいだけで、

これといった危険性は感じない。

 

しかし、周りの人たちは警戒心を

剥き出しにして構え始めた。

 

「データでしか見たことなかったけど、

目の当たりにするとでけーな……」

「あんなのに対して、

なにで戦えって言うのさ。」

 

「こちらへ来なさい。戦う術を教えるわ。」

 

ここでようやく、ポケモンのレンタルと

ポケモンバトルの指導ってこと?

それにしては、

ちょっと教え方が強引な気がする。

 

「あなた達はセラフという武器を扱えるよう、

既にこちらで手配済みなの。」

 

え、セラフって何。

 

「あとは電子軍人手帳を天にかざし、

セラフィムコードを口にすればいいだけ。

それぞれのセラフが

あなた達の元に舞い降りるわ。」

 

「いきなり中二病ワードが

ポンポン飛び出してきたな……。」

 

「あのー手塚氏、

ポケモンのレンタルは……?

これってポケモンバトルの特別演習だよね?」

 

「ポケモン……特別演習。何を言ってるの?

これはれっきとした支援戦闘よ。」

 

「はいはーい! 質問質問!

電子軍人手帳っていうのは、

この電子機器のことですかー!」

「その通りよ。他の2人もさっさと

ブレザーのポケットから取り出しなさい。」

 

これが……電子軍人手帳?

新型のスマホロトムってそんな名前で

呼ばれてるんだ。

 

「各々のセラフィムコードは

電子軍人手帳に記載されているわ。

さぁ、唱えてみなさい。」

 

「あたしのセラフィムコードはこれか……?

『Hello world』。」

 

ブワァァンっ!!

 

眼鏡の少女が唱え終えた瞬間、

上空から謎の穴が出現し

武器が降りて来た。

 

「うわ! うわああぁぁーーーーー!!」

「なんだ、ブラックホールか?

そっからなんか落ちてくるぞ?

武器のような形をしているな。」

「最新のスマホロトム凄ーっ!?」

 

「それがあなた達の武器……

最終決戦兵器・セラフよ。」

 

「あたしのセラフィムコードは、これ?

えーと、『あたしの伝説はこれから始める』。」

 

ブワァァン!!

 

「でてきた!! えー、なんだよ、

そのクソダサいセラフィムコード!!」

 

「ほら、あなたも突っ立ってないで

唱えなさい。」

 

やっぱりか。流れ的にそうなるよね。

 

「……お、『おはこんハロチャオ〜!』。」

 

ブワァァン!!

 

「あなた達なら意のままに操れる筈よ。

行動開始!!」

 

手塚氏の指示通り、

セラフを手にして戦おうとしたその時。

 

ジュゥウウ。

 

「――ッ!?」

 

掴んだ方の手から灼けるような痛みが奔り、

紅いアザが腕全体に昇るように拡がっていった。

あまりの激痛に、声が出た。

 

「――ぅぁぁあああっ!!」

 

「どうしたッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

ようやくナンジャモの
セラフ部隊としての物語スタートです。

ナンジャモのセラフィムコードは
思いついた時から
これにする予定でした。


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1・5話 楔と出入り口(短めの番外/BORUTO軸)

 

━━▶︎ DAY??? 18:00

 

木の葉の里、郊外。

暗部組織『根』の廃棄した地下施設にて。

 

PCと向き合うサングラスおじさんの

背後に、人影が寄って来た。

彼は、一切振り向く事はせず、

寄ってくる者に対して声をかける。

 

「やぁ、ジゲン。急にどうした?

『器』を損傷しすぎたのか。」

「あぁ、それもあるが。

カワキ……アイツは中々に良い。」

 

「喜んで貰えたのなら、光栄だ。

後、そこまでカワキの心配をする

必要はない。

アイツはああ見えて俺の自信作だ。

ここには、完璧な医療機器もあるしな。」

 

「助かるよ。アマド。」

 

アマドと呼ばれたサングラスのオジサンは

灰皿にタバコを擦り付け、

空に白煙を噴いた。

 

「気にするな。娘が蘇る為なら、

俺が持ちうる全ての技術で

アンタの望みに尽力する。

例えコードが嫉妬に呑まれて

カワキを死に追い込む真似したら、

俺が緊急コマンドで奴を止める。

ジゲン……アンタの手は煩わせない。」

 

「……私は君と手を組めて本当に良かったよ。」

 

「聞きたい事は、それだけか?」

 

核心をつくように、アマドが言う。

ジゲンという男は、ニヤりとこたえた。

 

「私たち大筒木一族は

楔(カーマ)を与えた適合者……

『器』を少しずつ解凍して

転生する術を持っている。」

 

「あぁ、そうだな。その原理を利用して、

俺の娘を完全復活させてくれるのだろう?」

 

「その通りだ。しかし私自身、興味本位で

周辺の資料を勝手に漁らせて貰った。

どうやら、転生する術を持っているのは

この星の者も同じようだな。

なのに、どうしてクローンというものに

拘っていた?」

 

「その様子だと、深くは読んでないようだな。

答えは簡単だ。

一つは条件が必ず揃わない。

残り2つは発動した時点で大罪の禁術だ。

特に穢土転生はな。」

 

「輪廻眼を介して行う輪廻転生。

砂隠れの里に伝わる秘術であり

禁術の己生転生。

第四次戦争の火種となった穢土転生……か。」

 

「あぁ。俺の人望では

まず実行不可能な術ばかりだ。

だから、自分の持てる技術力で

奮闘してるんだ。」

 

「……なるほど。」

「やってみたいのか?

己生転生のやり方くらいなら、

教えてやっても構わん。

楔(カーマ)と併用すれば、

いずれ大きな保険となる筈だ。」

 

「保険?」

 

「俺はもしもを想定して常に動いている。

もしもカワキが突然死したら……とかな。

その為にジゲン……いいや、イッシキ。

アンタが死後、一定期間だけ

ある場所に魂が保管される術を施した。」

 

「ほう。」

「二代目火影・扉間が遺した術だ。

資料集めの際、

偶然拾った産物に過ぎないがな。」

 

「アマド、君はつくづくマメな男だ。」

 

「勘違いするな。

たまたま利害が一致しただけだ。

もしその場で誰かと居合わせたなら、

楔の付与と己生転生を試してみるといい。

もう一度、転生の機会が訪れるかもしれん。」

 





どうも、たかしクランベリーです。

0話の行為をした大筒木イッシキが
あまりにも謎すぎるので、
それを補填するお話を作りました。

明日からもボチボチ投稿しようと
思いますので、よろしくお願いします。


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2話・ナンジャモと楔(カーマ)

 

「――ぅぁぁあああっ!!」

 

「どうしたッ!?」

 

「おいおい。

セラフの使用には副作用が伴うのか!?

どういうことだよ手塚司令官!!」

 

「落ち着きなさい。

このような事例は私自身、

聞いたことも見た事もないわ。

そもそも前例がない以上、

対処のしようがないの。」

 

「ふざけんなよ!? 

だからって苦しんでる

人間を放っておくのかよ! 大丈夫か!?」

 

「ハァ……ハァ。なんとかね。

予想外の痛みで、びっくりしただけだよ。」

「あまり無理すんなよ。

あたしらがその分身体張ってやるから。」

 

みんな、ボクの為に……でも。

 

「いいや、ボクも出来るだけ戦うよ。」

 

「その様子だと、無事なようね。

キャンサーは

強固な外殻に覆われているわ。

外殻を破壊してからでないと

本体に効果的な

ダメージを与えることは出来ない。

そこを意識して戦いに臨みなさい。」

 

つまり、このセラフという武器で

キャンサーと呼ばれる

謎ポケモンを攻撃すればいいのか。

 

ボク達人間がポケモンを

直接攻撃するなんて、

前の世界じゃ考えらられなかったな。

 

「うおりゃっ!」

 

キィン!

 

短髪の子が先制で斬りかかった。

それなりに効いてるのか、敵は少し姿勢を崩した。

 

「あたしもアシストすんぜ。」

 

バババンっ!

 

眼鏡の子が、続く形で砲撃を放つ。

さらに痛手を負った敵を見て、

彼女はボクに顔を向ける。

 

「今だっ!」

「――分かった! とりゃっ!!」

 

期待に応えるべく、

ボクも大剣のような武器を叩きつけた。

すると、割れたガラスのように

弾け散って消えていった。

 

どうやら、

ボクがトドメをさしたらしい。

 

「筋はいいわね。

ただ敵は一体とは限らないわ。」

 

「うおっ! 

またアメタマが数匹やって来た!?」

 

バババン!!

キィン! キィン!

 

突然、

近寄る敵から弾幕や剣戟が降りかかった。

 

「ふっ、あなた達も手を焼いてるようね。

このエリート諜報員に任せなさい。」

「ひゃっはぁ! 狩り甲斐のある奴らよのぉ!」

「不肖わたくしめが、助太刀致しましょう!!」

 

「すげぇ!? なんか援軍来たよ!」

「喜んでる場合か。

敵が増えた事には変わりないんだから、

気ぃ抜くなよ。」

 

「その通りよ。

常に仲間と敵の動きを観察、共有しながら

有利に戦いを進めなさい。」

 

「つーわけなんで、お前ら! 行くぞ!」

「なんでリーダーぶってんだよ。」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY0 17:30

 

「みんなは無事。」

「総員無事です。」

「それはなによりだわ。」

 

「なんだかロックなことになって来たな……」

「ロックどころじゃねーー!!

いきなりの実戦で命がけだったわ!」

「きゃんきゃんうるせー奴だなあ。」

 

「普段もっとうるせー音楽聴いてんだろ!」

「変なところで冷静だな。」

「感心するな!!」

 

「あなた達、私語はそこまでよ。

帰投のヘリが迎えに来たから、

すぐに乗りなさい。」

 

手塚氏の言うとおり、

付近には数台のヘリが着地していた。

既に搭乗してる人たちも見受けられる。

 

「……そうだな。

帰るまでが遠足って言うしな。」

「綺麗に締めたつもりだろうけど、

一切まとまってないからな。」

 

2人のお喋りはその後も機内で続き、

基地に戻った後も、続いていた。

 

「でさぁ、その時あたしは言ってやったんだ。

ギャイアグレイーイボドドドォーー!!

……ってな。」

「いや、絶対言ってないだろ。」

 

「あなた達、整列しなさい。」

「え? あたしら?」

 

「今日はよくやってくれたわ。

でも明日からはちゃんと兵士としての

訓練も行いますから、

その自覚を持って行動するように。」

 

にこやかな表情で一同にそう告げ、

手塚氏はボクの方に顔を向けた。

 

「ナンジャモさん。

あなたを第31A部隊の部隊長に任命します。

全員入舎したら私に報告して。」

 

「え……ボク!?」

 

「適任じゃん。」

「あぁ、あたしも納得だよ。」

「エリート諜報員であるわたしが、

右腕としてサポートしてやってもいいわ。」

 

「……いいと思う。」

「満場一致! って奴ですね!」

 

「今から宿舎に行って

自分の部屋と装備品を確認しておくように。

それから、電子軍人手帳は肌身離さず

所持しておきなさい。」

 

「了解であります!」

「なんでお前がリーダーぶって返事してんだよ。」

 

「あと、基地内ではナービィと呼ばれる

生き物に出くわすけど、温厚で特に危険はないわ。

だからといって、決してぞんざいには

扱わないように。」

 

「では、ご案内します。

宿舎へは、基地をぐるっと周って行きます。

案内します。行きましょう。」

 

こうして、ボクらは案内される形で

足を進め始めた。

 

進んで40秒くらいして案内役が立ち止まった。

ボクらも立ち止まった。

大きな時計塔があり、謎の数値が映されている。

 

あまりにも不思議で、思わず質問してしまった。

 

「突然聞いて悪いんだけど、

あの数字って何?」

「人類残存メーターです。

日本に今どれだけの人が

生き残っているのかを示しています。」

 

「こうして数字にして突きつけられると、

なんだか恐い……」

「これを守って増やしていくことが

わたしたちの役目、ということね……」

 

「では、宿舎にご案内します。」

 

再び足を進め案内される最中、

短髪の子が急に

立ち止まって声を上げた。

 

彼女の視線の先には、

黒く半透明なゴクリンがいた。

 

「うわっ、こいつらか、さっき言ってた

星のナービィって奴は!?」

「星の、とは言ってなかったろ。

言ってたらちょっとした問題だぞ。」

「わ、すごい! 跳ねた! 

見た目以上に身軽なのね!」

 

「あちらにも居るし、

そこかしこにうようよ居るみたいだな。」

「なんのためか、調べる必要があるようね。」

「諜報員なら既に知ってろよ。

そういうのをこっちは期待するだろ。」

 

「どこからやって来た生き物なのかな。」

 

ポケモンが、どこからやって来た……か。

生まれた時から、当たり前のように周りに

居たから考えた事もなかった。

 

少なくとも……

 

「どこから来たとしても、

ボク達は彼らと仲良くなれると思う。」

「さすが、ジムリーダー! 感心するぜ!」

「お前、あの時から盗み聞きしてたのかよ。」

 

「私語は、宿舎まで持ち帰って下さい。

私だって、仕事が残っているんです。」

 

「ほーい。」

「もっと反省しろよ。」

 

「宿舎は奥の坂を下った所のあれです。

それぞれ宛てがわれた部屋で夕食まで

待機していてください。」

 

「そんじゃ、行くか。」

「ほーい。」

「そうだね。」

 

「……うん。」

「ええ。」

「行ったりましょう!」

 

「って、ちょっと待て!

なんであたしたちは

この6人で行動してるんだ!?」

 

「は? 急になんだよ。」

「何か問題が?」

 

「いつ仲良くなった!?」

「さっき。」

 

「そりゃ、お前とは長く駄弁ったけどさ……

名前すら知らねーよ!?」

 

「あぁ、あたしは茅森・月歌。」

「かやもりるか……聞いたことあるな。

まさか下の字って、

月に歌って書かないよな?」

「書く。」

 

「え……もしかして歌、

めっちゃ上手かったりしないよな?」

「それだけは自信ある。」

「……まさかShe is Legendって

バンドに居なかった……?」

「居た。」

 

全ての辻褄が一瞬にして合致したのか、

確信と驚きのあまり、眼鏡の少女は叫んだ。

 

「聴いてたーーー!

お前の音楽、あたし聴いてたーーー!!

She is Legendのボーカルぅーー!

よく見たら顔が本物ーー!

雰囲気違うから今気付いたぁあーー!!」

 

自称諜報員の少女も、得意気に口を開いた。

 

「エモーショナルロックバンド、

She is Legendの作詞作曲もこなす

そのボーカルは

年端もいかぬ女学生だった。

メジャーデビューアルバムは

その年の新人賞を総なめ、

天才という言葉を欲しいままにした。

……だが、翌年には突然の解散。

文字通り伝説となった。」

 

「そんなすごい奴と一緒だったとは……

びびるな……。」

 

「なぁなぁ、この際もういっそ

みんなで自己紹介しないか。

あたしだけ情報漏洩なんて

フェアじゃないよ。」

 

茅森月歌と名乗る少女……

もといルカ氏はそう提案する。

 

「確かにそうかもな。

この6人でまた戦う事に

なるかもしれない……その時、

互いの名前を知らないと色々不便だ。」

 

「そーだそーだ!」

 

「分かったよ。

じゃあ時計回り順にあたしから……

あたしは和泉ユキ、それなりのハッカー。」

「朝倉可憐。

FPSが得意なだけのゲーマー。」

 

「東城つかさ。ある組織に所属する諜報員よ。」

「國見タマです! こう見えて、元艦長です!」

「ボクはナンジャモ。

元……人気配信者かな?」

 

そうだ……今、この世界でのボクは、

少なくとも人気配信者なんかじゃない。

 

「なんで疑問系なんだよ。

自己紹介くらい自信持てよ。

……とまぁ、これで充分だろ。満足か?」

 

「あぁ、みんなの色々なこと知れて満足だ。

よし、これで仲良しだな。」

 

和泉ユキ……

ユキ氏は納得のいかない表情で反論した。

 

「ノーーー!! まだノーーー!!」

「え?」

「自己紹介しただけーーー!!」

 

「お前の仲良しはハードルが低いな。」

「お前が低いんだよ!!」

 

「ナンジャモに強く当たるなよ!」

「お前に言ったんだよ!!」

「じゃあ、そう言う事にするよ。」

 

「そう言う事も何も

まごう事なき他責なんだわ。

すまねぇなナンジャモ、

コイツの代わりに謝っとくよ。」

 

「ナンジャモ、

ウチの煩いユッキーがごめんな。

コイツがキィーキィー言って

鼓膜破ってきたら、

代わりにあたしがぶん殴ってやる……

だから、許してくれないかな。」

 

「なんで急にあたしの母親面してんだよ。

しかも見事なまでに言い返せねーよ。」

 

「そんじゃ、ナンジャモ。

司令官から部屋鍵受け取ってるようだし、

そろそろ部屋で休もうぜ。」

 

「……うん。」

 

「では、不詳わたしくしめがご案内しましょう!

皆さんもついて来て下さい!」

 

ボク達は、國見タマ……

タマ氏に案内され、

与えられた部屋へと一斉に入室した。

 

「もしかして……この6人で31Aって事?」

「ああ。手塚司令官の配った資料にも

そう名簿記入されてるしな。

てか、諜報員なら知ってろよ。」

 

「……ねぇ、備品確認しよ。」

「さっすがウチのかれりん!

指示が的確ぅ!」

 

「そうだね。可憐氏の復唱するようで

悪いけど、みんな、備品確認よろしくね。」

「了解だよ! ナンジャモちゃん!」

「なんでお前は急にテンション上がってんだよ。」

 

そんなかんやで……

わちゃわちゃしながらも、

基地での1日が終わった。

 

入隊式、突然の戦闘、備品確認。

豪勢な夕飯。初めての仲間とのお喋り。

 

何もかもが、

アカデミーの入学日を思い出す程に

楽しくて、華やかなものだった。

 

そして、時間はあっという間だ。

 

みんなが眠りについたのに、

ボクはまだ……

その喜びの余韻に浸っている。

 

でも、それ以上に明日が待っている。

 

(……そろそろ寝るか。)

 

そう考え、瞳を閉じたその時だった。

 

「――ッ!?」

 

ボクは、砂場の上にいた。

背景さえ真っ青で、

月夜に薄っすらと照らされた夜の砂漠。 

 

この場所には、見覚えがあった。

 

ちょうど思い出した頃合いで、

目の前にイッシキ氏が現れた。

 

「安心しろ。お前は死んだ訳じゃない。

ここは二代目火影・扉間の遺した術中

――座標だ。

まぁ、俺らが最初に居た

魂の座標とは違うがな。

連動する多重座標……アマドの奴め、

よくこんな卑劣な術を見つけたものだ。」

 

「……良かったぁ。

で、ボクに何の用?」

 

「お前に己生転生を施し、

この空間に飛んでからは

ずっと様子を見ていた。

随分と面倒な世界に巻き込まれたようだな。」

 

「それは、イッシキ氏も同じなのでは。」

 

イッシキ氏は頷いた。

 

「あぁ、そうだ。

そして、今は細かく話せんが……

俺はお前に死なれては困る。

だから、力を与えてやった。

あの時痛んだ掌を見ろ。」

 

言われた通り、

今日痛んだ掌を確認してみる。

そこには、

最初イッシキ氏と遭遇した時に

付けられた黒い菱形模様があった。

 

「これって……何?」

 

「言っただろ。力を与えてやったと。

それは俺の力の一つ、楔(カーマ)だ。

狭き門から選ばれたお前には、

その力を利用する資格……権利がある。

お前らの言うキャンサーとやらを

どうにかしたいなら、鍛錬し、

使い熟せるようになれ。」

 

「でも……」

 

一々この力を出す為に、

あの痛みを味わうなんてゴメンだ。

 

「その点は気にしなくていい。

次に発現させても痛む事はない。」

「なっ……」

「貴様程度の考えは、

表情も含め手に取るように分かる。」

 

「…………。」

 

「いいか貴様。躊躇なんてするなよ。

あの世界は

お前が思っている以上に過酷だ。

仲間を悲しませたくないなら、

仲間を失いたくのないのなら……

使え。使いまくれ。

楔には、それほどの力がある。」

 

「ありがとう。」

 

「馬鹿言え、俺の力はこの程度じゃない。

感謝はその時にとっておけ。

貴様が真面目に鍛錬し、

楔の練度を上げたら

また新しい力をくれてやる。

それまで、精々頑張る事だな。」

 

言い切って満足なのか。

イッシキ氏はボクに背中を向け

飛び去って行った。

 

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

弟にこの回読ませたら、
これ大筒木イッシキじゃなくて、

自分を大筒木イッシキと信じてやまない
カーマおじさんとか言われました。
悲しいです。

はい。こんな感じで
ご都合主義満載で進みますが、
よろしくお願いします。

よし。今日も天堂さんの
ヘブバン金曜雑談見に行くか。


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3話・セラフの役割

 

━━▶︎ DAY1 5:50

 

PON! PON! Clash!

PA! PA! PA!

 

ラッパーみたいなアナウンスに、

目が覚める。

 

目が覚めて早々、

ボクは掌の菱形模様を見ていた。

 

「楔(カーマ)か……。」

 

独りでに呟いた瞬間。

アナウンスする音声が、変わった。

 

『起床時間です。起きてください。

0605までに廊下に整列して、

点呼を受けてください。』

 

「ぐがー。」

 

他のメンバーが眠た気に起床する中、

ルカ氏は呑気にイビキをかいていた。

 

「おい茅森、起きろよ。」

「揺すっても、全然起きない。」

「胸を揉んでも起きないわ。」

 

「なんでちょっとセクハラしてんだよ。」

 

「朝からどうしたんですか?」

「奇跡だ! 褒め称えよう!

その帽子凄い!」

 

「ぐがー。」

 

「どっ、どうしよユキ氏!?

ルカ氏がこのまま起きないと

罰則とかきそうだよ!?」

「そうね、どうしよう……」

 

「落ち着けナンジャモ。

あたしが今思いついた方法で多分起こせる。

但し、みんなはそれなりの覚悟がいるぞ。」

 

「ふっ、わたしは諜報員になった時から

覚悟は決まっているのよ。

凡ゆる手段をもちいようとも、

それは何の脅しにもならないわ。」 

 

「私も艦長に任命されたあの日から、

どんな苦痛にも耐える覚悟は出来ています!」

 

「そうか。じゃあ始めさせて貰うぜ。」

「え? 何が始まるの?」

 

ギャイアグレイーイボドドドゥドオー!!

 

激しくも鈍重な叫びが、

突如スピーカーから大音量で流される。

鼓膜が破れそうな程の音圧だ。

 

堪らず、つかさ氏とタマ氏が

苦しみの声を漏らした。

 

「うわぁっ!!」

「耳がー!!」

 

「お前らさっきまで

散々カッコつけてた割に、貧弱すぎだろ。

情けねーわ。」

 

ルカ氏の方は、上機嫌な表情で

目を見開いて暴れ出した。

 

え、待ってこっちの方に……

 

「あっがるぅーーー!!

やほーーー!! ボドドドドゥゥー!!」

 

「ちょっ、痛たたっ!? 

なんでボクに突っ込むの!?」

 

「よし、目覚めたな。」

「なんだったの……?」

「耳がーー!」

 

「コイツの好きな音楽流して、

ハイにしてやっただけだ。」

 

「茅森さん……侮れない存在ね。」

「え? 何かあったか?」

 

「とりあえずお前がモッシュした。」

「寝てたのに出来るわけがないだろう?

馬鹿か?」

「じゃあナンジャモを見てみろ。

寝起きのあたしらが隊長に向かって

あんな事すると思うか。」

 

ルカ氏は、スッとボロボロになった

ボクを見る。

 

「お、おはよールカ氏……」

「だっ、誰にやられたんだナンジャモ!?」

「ルカ氏に……」

 

「そんな……ッ」

 

「これで分かっただろ茅森、犯人はお前だ。

これから真面目に起きる気がないのなら、

毎朝ナンジャモが傷つくが、

それでいいんだな?

お前の中にある良心ってのは、

その程度って事でいいんだよな?」

 

「うっ……それは。ごめん。」

「分かってくれればいいよ。

おかげでボクもシャキッと目が覚めたし、

そろそろ点呼行こう?」

 

 

 

━━▶︎ DAY1 6:05

 

一同でエントランスへ行くと、

士官が待ち構えていた。

 

「壁際に整列したのち、

点呼を開始してください。」

 

「いーち。」「にー。」

「さん。」「しー。」

「ごー。」「ろく。」

 

「問題ありません。なお今後、

点呼の時は隊長が最後に、

総員6名現在員6名、欠席ありません。

と言ってください。」

 

「了解です。」

 

「では自室の清掃後、0630までに

カフェテリアに集合してください。」

 

指示通り、ボクらは清掃を済ませ

カフェテリアへ向かった。

 

配膳された朝食を見るなり

不機嫌な表情を浮かべ、ルカ氏が文句を垂れる。

 

「朝食はバイキングじゃないんだな。

デザートもないじゃん。」

「朝からデザートは要らんだろ。」

「甘いものを食べたいお年頃なんだよ。」

 

「みかんあるじゃん。」

「そんな年寄りくさいもんじゃなくてさ!」

「だったらなんだよ。」

 

「ロールしてあるケーキ。」 

 

「お前ロールケーキ好きなのかよ。

まぁ、確かにあれうまいもんな。

シンプルかつクリーミーな甘味を味わえる……

朝食にはもってこいってか。」

 

デザートに期待を寄せるボクらの前に、

また士官が現れた。

 

「改めておはようございます。

念の為に、朝食後のアナウンスをしに来ました。

朝食後は、課業カリキュラム等の

ガイダンスがあります。なので食後、

自室に戻り教材等の準備を済ませたら

クラスルームに来てください。」

 

「待て、今朝は教材とか置いてなかったぞ。」

 

「我々セラフ部隊の整備員が

今準備しています。これをする理由は、

クラスルームでの課業等を円滑に行う為です。

各自教材を分配したのち、

デンタルケアを行なってから

課業に臨むようお願いします。」

 

「おい、ちょいちょい現れるお前っ。」

「私ですか?」

「お前以外誰がいる。これからも

ちょいちょい現れるなら、

名前くらい名乗っておけよ。」

 

「士官の七瀬七海と申します。」

「いい名前持ってんじゃないか。

これからは、

ななみんと呼ぶことにするよ。」

「はあ。」

 

「いってよし。」

「はい。」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY1 8:30

 

クラスルーム内に一同が入ると、

教室で待っていた手塚氏が帽子を被り直した。

 

「揃っているようね。

まずはあなた達が立ち向かう敵ついて

知っている限りの事を教えておきます。

各自着席が済んだら、

キャンサー教本のページ1を開きなさい。」

 

言って。手塚氏はモニターの電源を入れ

キャンサーの生態図を画面に表示した。

 

「敵は宇宙という名の

体内に発生したがん細胞。

そこからキャンサーと呼ばれているわ。

東城さん、続きを読み上げなさい。」

 

「キャンサーには、

これまで人類が生み出してきた

兵器による攻撃が一切通じなかった。」

 

「東城さんストップ。

次、朝倉さん。続きを。」

 

「サンプルを採取し、現代兵器を用いて

耐久テストを行った。

凡ゆるレーザーや爆弾による攻撃を加えたが、

決して傷つくことはなかった。」

 

「次、和泉さん。」

 

「幾重にもよる攻撃実験により、

当サンプルが攻撃後、

音速以上の速さで

完全再生を行っている事が判明した。」

 

「ストップ。朗読はそこまででいいわ。

では次のスライドに映ります。」

 

手塚氏がリモコンを押し、

文字通り画面を次のスライドに変えた。

 

「研究学会の調べによると、

この仕組みについては諸説ある。

その為、教本には載ってないわ。

現段階で最も有力視されている説は、

我々人類が

感知できない高次元エネルギーを

供給されているというものよ。」

 

「ふーん。」

「ちょっとは驚けよ。そいつと戦うんだぞ?」

 

「セラフだけはその次元にまで到達し、

供給源ごと断つことのできる唯一の兵器なの。

セラフの召喚によって、

あなた達の身体能力は飛躍的に向上する。

だからあなた達は、

キャンサーと戦えるのよ。」

 

「かがくの ちからって すげー!」

「すげーのは認めるが、

序盤の町にいるデブのモブキャラ

みたいな反応するなよ……。」

 

「そしてセラフには、キャンサーに対して

供給遮断を行う攻撃以外にも機能がある。

……次のスライドに行くわ。」

 

ポチッ。

 

「その機能を我々は、

デフレクタと呼んでいるわ。

デフレクタは

キャンサーの攻撃の方向を逸らし、

ダメージを軽減または無効化してくれる。」

 

「じゃあさ司令官。

あたしらってただ突撃して

キャンサーを倒せばいいの。」

 

「残念ね茅森さん。

それ程セラフは無敵じゃないの。

デフレクタは

一定量のダメージを受けると消失する。

その状態で継戦すれば、

生身で被弾する事になる。」

 

「つまりは、甲冑と面無しで

剣道をしているようなものね。

とても危険だわ。」

「なんでこういう時だけ

呑み込み早いんだよ諜報員。」

 

「そんな……」

 

「これは紛れもない事実よ。

デフレクタが消失したら、即退避。

厳命なので、よく守りなさい。」

 

「それさえ守りゃ

バンバン薙ぎ倒していいって事か。

よしナンジャモ、

あたしらでやっちまおうぜ!」

 

「いいえ。繰り返すようだけど、

セラフは無敵の兵器じゃない。

1日に使えるデフレクタ量は限られている。

闇雲にデフレクタを消耗すれば、

最悪死に至るケースもあるわ。」

 

「どゆこと?」

 

「では、次のスライドに映るわ。」

 

ポチッ。

 

次に映る画面は、凄く痛々しい画だった。

 

「休まずセラフを使い続けていると、

鼻血が出ます。

それはとても危険であるというサインです。

鼻血を確認したら、

即座に安全圏まで撤退しなさい。

一晩休めば回復します。」

 

「要するに、戦場では

臨機応変に対応しなさいって事ね。」

 

得意気につかさ氏は言った。

 

「東城さんの言う通り、

一言に纏めるならそんな感じよ。

さて、いい時間になったわね。

一旦、休憩時間を10分程設けるから、

次の座学に備えなさい。

私からは以上。解散。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

久々にゲームセンターの筐体で
遊んでみましたが、中々思うように勝てません。
以上です。

ではまた明日も、よろしくお願いします。


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4話・カレンちゃんでぇぇええす!!

 

━━▶︎ DAY1 10:30

 

「ふぃー、疲れた。

ひたすら座って話聞くとか、

あたしにゃ合わないんだよ。」

「……の割には、

結構頑張ったんじゃねぇか。茅森。」

 

「何ユッキー、肩揉みでもしてくれんの?」

「やらねぇよ。」

 

今回は、ルカ氏に激しく同意だ。

アカデミーの1授業より、

遥かに叩き込まれる情報量が多かった。

 

アカデミーを卒業し、

ジムリーダーに就職してからというもの。

座学に触れる機会が滅多になかった。

 

それもあってか、

長ったらしい座学によって大分疲労している。

 

軍関係者以外の民間人は、

ドームという場所に避難している事。

電子軍人手帳を用いた

コミュニティアプリや通信機能がある事。

 

各部隊の部隊長が、

プロフェッサー制度によって

任意の隊員と任務などを行える事。

 

思い出すだけでも、

具合が悪くなりそうな情報量だ。

 

だが、これはスケジュールのごく一部。

日が暮れる訳でもなく、

わずかな休憩が終わればすぐに続きが来る。

 

「みなさん。休憩時間はそこまでです。

次はアリーナでの模擬戦を行います。

私が案内しますので、ついて来てください。」

 

「えー、もうちょっと休ませてよななみん。

あと3分、3分でいいから!」

「みっともない駄々捏ねるなよ。」

 

「では、ついて来てください。」

 

特にルカ氏を味方する事もなく、

ななみ氏は歩き始めた。

 

このままボクたちも

ルカ氏の気持ちに流されれば、

担当から手痛い罰をもらいそうだ。

 

「みんな、行こう。」

「ほら、隊長もこう言ってんぞ。」

「……分かったよ。」

 

なんとかルカ氏を説得して、

アリーナという場所に辿り着いた。

 

中では既に、手塚氏が待機していた。

 

「ようやく来たようね。

ここはアリーナ。

構築された仮想空間で擬似キャンサーと

戦ってもらう場所よ。

ラジオ体操で体を慣らしたのち、

すぐに起動するから、覚悟なさい。」

 

「う……駄目……」

 

「ん? どうした、かれりん?」

 

なんだか、可憐氏の様子がおかしい。

 

「は……ひひゃ……

ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……!!」

 

「唐突に笑い出して、どうしましたか。」

 

「そろそろ表に出んと、我慢ならんわーー!!」

 

「何これ……本当に朝倉さんなの?」

 

「そうだ諜報員……

あんな凡人とワシを一緒にするでない……。」

「誰なの……あなた……」

 

「ワシか……?

ワシは、カレンちゃんでぇぇええす!!」

 

ルカ氏がボクを

庇うように移動して構えた。

 

「そう簡単にナンジャモに

手は出させやしないよ。――うちはマダラ!」

 

「だったらさっきの

ワシのセリフは聞いておろう。

このうちはマダラには一切の攻撃が通じないと。」

 

そんな事言ってたっけ?

 

「やはり……うちはマダラか……!?」

 

「あなたが朝倉さんの身体を乗っ取ったのか

演技なのかは分からないけれど……

ナンジャモさんに手を出す時は

スキが出来る。

だから、そこを狙わせて貰うわ。」

 

なんでボクが狙われてる前提で

話が進むんだろう。

 

「ククク……

ワシは別に簡単にいくと思ってないわ。

ワシにも計画ってのがあるからなぁ……ひひゃ。

それよりも今は、話がしたい。」

 

「話だと?」

 

「そうだ……一時期お茶の間を震撼させ、

冥府の彼方からやって来た悪魔こと、

サイコキラーのカレンちゃんでぇぇええす!!」

 

「なんでちょっとヒットナンバーを

紹介するDJ風なんだよ。」

「サイコキラーカレンちゃんといったら、

当時相当話題になったよな。」

 

「いや、さっきまで

うちはマダラとか言ってただろ。

何しれっと

カレンちゃんとして話進めてんだよ。」

 

「学校サボってもさ、

ワイドショーそればっかやってて

すげー退屈だったのを色濃く覚えてるよ……。」

「覚え方が怠惰だな。」

 

「曲を作りながらだよ!!」

「あーあー、それはすまなかったな。」

 

「さて、殺しの時間か……

いっちょ派手にやってやるぞい……。」

 

「ふっ、殺人鬼がなんだって言うの。

その程度でエリート諜報員に敵うとでも?」

 

「ではみなさん、電子軍人手帳をかざし、

セラフィムコードを唱えてください!」

 

 

 

━━▶︎ DAY1 12:30

 

「ぜぇー、ぜぇー。もう……いいだろ。」

 

「茅森さん。これくらいで

音を上げてもらっては困るわ。

実戦は更に過酷な状況が継続するのよ。」

 

疲労困憊のルカ氏に、

容赦なく現実を突きつける手塚氏。

……世界は、残酷だ。

 

「ぐえー。海上訓練より効きまするぅ……。」

「元艦長なら、もうちょい根性見せろよ……

確かにキツいのは同意だが……。」

 

タマ氏やユキ氏も苦しそうだ。

 

「どっ、どうよ……

エリート諜報員の底力……ケホっケホ!」

「ひひゃ……どうやら

認めるしかないようじゃな……ケホアっ!」

 

「なんで開幕一番カッコつけた奴らが

一番疲労してんだよ。みっともねーわ。」

 

「……まぁ、初めてはみんな、こんなものよ。

初戦の模擬戦闘にしては、中々に良かったわ。

これは5日後の適正試験が楽しみね。」

 

「え……そんなものもあるの?」

 

「勿論あるわよ。ナンジャモさん。

最終目標は、実戦投入ですから。

実戦に足る基礎戦闘力等を

この1週間で叩き込むのが重要なの。」

 

「つまりは、まだチュートリアルって事ね。」

「えー! やだやだやだー!

もっと緩めなチュートリアルに

してくれなきゃやぁだぁー!」

「小学生かよ。」

 

「茅森さん。それ以上吠えるなら、

あなただけに

たっぷり補習時間を上げてもいいわよ。」

「すんません。」

「ビビリかよ。」

 

「七瀬、アナウンスお願い。」

 

「皆さん、午前課業お疲れ様でした。

一旦ここで区切りをつけ、

90分の昼休憩を設けます。

カフェテリアで昼食し、備品確認、

デンタルケア等を済ませて

午後の課業に臨んで下さい。」

 

「ありがとう七瀬。

さて、アナウンスはここまでとなるけど、

今あなた達から何か聞きたいことはある?」

 

「ほいほいしつもーん!」

「どうぞ。茅森さん。」

 

「午後の課業ってどんなのやんのさ?」

 

「やる事は至ってシンプルよ。

クラスルームで90分の座学と、

ジム施設で90分の体力作り。その2点。

午後の課業はそれのみ。

無事終われば、自由時間が

消灯時間まで与えられる。」

 

「無事終わらなければ……?」

「勿論、その自由時間すべてが

補習課業に充てられる。

課業中の過度な私語や態度、居眠りなどが

目立てば、無事じゃ済まない事を覚悟なさい。」

 

「うちはマダラとかも、

その対象となり得ますので

気をつけてください。お身体に障りますよ。」

 

「お前もナルトス語録好きなのかよ。」

 

手塚氏に追随するよう、

ななみ氏も注意を促した。

 

「うへー。」

 

「ほら、行くぞ茅森。

ご飯食えば元気出るって。」

「やだ。名前で呼んでくれなきゃ行かない。

元気でない。」

 

「はぁ!? なんでそうなる……!」

 

2人の間から、甘い空気が流れ始める。

 

その他の一同は、あらあらといった様子で

ユキ氏を見ていた。

 

「……2人とも。

そういうのは他所でやりなさい。」

 

「くっ……司令官まで。

わーったよ! 行くぞ月歌、これで満足か!」

「うん♪」

 

気恥ずかしい空気をどうにか誤魔化して、

ボクらはカフェテリアへと向かった。

 

カフェテリア内では、今朝

起動していなかった券売機が稼働していた。

真っ先にテンションを上げたのは、

ルカ氏だった。

 

「うおっ! 昼飯選び放題!?

最高じゃんか! これで

うなチー牛のり弁出来るんじゃねぇか!」

 

「GPもさっきのアリーナ報酬分しかないから、

程々にしとけよ。」

「へーい。」

 

少し不満そうに返事を返すルカ氏。

そこで何か閃いたのか、可憐氏が挙手をした。

 

「色々混ぜたい気持ち……あたしもわかる。

でもユキさんの言う通り、

初日のアリーナ報酬じゃ無理があるし、

みんなで大きめなピザを

シェアするとかどうかな?」

 

「いいねそれ……名案だよかれりん!

なぁナンジャモ!」

 

部隊長として、ランチタイムの提案を……

舵切りを任された。

当然、ボクの返す言葉は決まってる。

 

できる事なら、

みんなともっと仲良くなりたいから。

 

「そうだね! みんなでお昼にしよう!」

 

「「「「「おーー!!!」」」」」

 

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

尺の都合により、
本編より早めにカレンちゃん登場です。

やはり、、、うちはマダラか、、、!?

ではまた明日も、お会いしましょう。


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5話・結成! 31Aバンド!

 

━━▶︎ DAY5 17:30

 

あれから、あっという間に時が過ぎた。

仲間と過ごす日々が

あまりにも充実してて、時間さえ忘れていた。

 

気が付けば、

手塚氏の言っていた適正試験の日も

目前に差し掛かっていた。

 

そんな自由時間の中で。

 

「ねぇねぇ、みんなこれから暇?」

 

ルカ氏が一同に問いかけた。

そして、ユキ氏が正直に答えた。

 

「訓練でへとへとだわ。」

 

「うそーん。みんな夕食食べて

元気でたんじゃないの?

みんな歯磨きうがいして

さっぱりしただろ? 

……な? 行こうぜ。」

 

「言葉の上下関係が意味不明だわ。」 

 

「まあまあ、そう言いなさんなって。

トレーニングより楽しい事があるって事、

教えてやるからさ。」

 

「特に楽しいと思って

やっているわけではありませんが!!」

「一体、なんなの……?」

 

「ちなみにみんな、楽器の経験は?」

 

「一切ない。」

「ですね!!」

「ゲームばっかしてたし。」

 

「ピアノなら、小さい頃に習っていたけど。」

「ボクは楽器というか……

DJ機器の経験があるくらいかな。」

 

何かを確信したように、

ルカ氏が口を開いた。

 

「勝った。ありがとうございます。

この勝負、もらいました。」

 

「じゃあ、きっと東城とナンジャモが

頑張る何かなんだな……。可哀想に。」

「ええ……?」

 

 

 

 

ルカ氏の案内で連れてこられた場所は、

ナービィ広場から分岐する小道の中奥。

 

裏通りのその先。

緑生い茂る場所の少し奥で、

怪しい木小屋が建っていた。

 

「……何だこの木小屋?」

 

「まぁ、入って入って。」

「入って大丈夫なのか。

今にも崩れ落ちそうだぞ……」

 

「なに臆病風に吹かれてるのかしら?

エリート諜報員である

このわたしがいる限り、

何も恐れる必要はないわ。」

 

「お前がその発言する方が一番こえーわ。」

 

一同は困惑しながらも、

彼女についてって、例の木小屋へと入った。

 

「ここでーーーす!」

 

「え? なんだよ、ここ……。」

 

「ドラムがあるね……」

「これはキーボード……!!」

「ギターとベース、DJ機器もある!」

 

「いつでも使えるように手入れしておいた。」

「しておいた!? いつの間に!?」

「昨日。」

 

「つまりこのキーボードで、

東城が何かを弾いて……あのDJ機器で、

ナンジャモがサウンドを付加する。と、

そういうことか。」

 

「そう。2人は経験済みの楽器で

演奏するってわけさ。」

 

「まるで他の担当も居るみたいに言うな。」

「ユッキーはドラムな。」

 

「お前と出会ってからは驚きの連続だ。

なぜそんなことをさせられる。」

 

「ずっとパソコンの

キーボード叩いてたんだろ?

ドラムとあんまりやってること

変わらないじゃん。」

 

「全然ちげーーよ。どっちかというと

キーボーディストに近いだろ。」

「キーボーディストはつかさっちで

先に埋まったんだ。ごめん!」

 

「まるであたしが

やりたかったみたいに言うな。」

「ドラムは一番誰もやりたがらないんだよ!

頼む!!」

 

「そんな頼み方でOK! 

と快諾されると思うか?」

「だってさ、ドラマーのカッコよさは、

そのままバンドのカッコよさなんだよ!」

「なぜそれを先に言わなかった。」

 

「よし、オッケーってことだな。

ギターはあたしがやるとして……そうだな。

オタマさん。ベース頼めるかい?」

 

「はい! どんな音がするかも

想像つきませんが、やってみましょう!!」

 

「そしてボーカルはかれりんだ!

これでバンド結成!!」

「えー!!」

 

「ユッキーはボーカルじゃねぇよ。

ドラムだよ。」

「だから驚いてんだろ。

いつやるって返事した。」

 

「さっき。」

「ああーー!! 現実に

バックログ機能搭載してくれぇ!

時間巻き戻して返事してねぇこと

証明してやりてぇーー!!」

 

うん。

間違いなくそんな返事はしてない。

 

「ボーカルはルカさんがやるべきよ。

あたしなんか、とても務まらない。」

 

おどおどした様子で、

可憐氏がルカ氏に告げた。

……しかし、ルカ氏は首を横に振って

彼女に返事をかえした。

 

「違うんだ。あたしがボーカルじゃない

バンドをやってみたいんだよ。」

「は? なんでだよ? 

それも、バンド解散と関係あるのか?」

 

「いや、別に歌いたい訳じゃないんだけど、

誰に向けて歌っていいのか

よく分からなくなっちゃっててさ。」

 

「少なくとも、あたしは聴いてみてーよ。」

「あたしも。」

 

「なあ……信じてないわけじゃねーんだけど、

ちょっと歌ってみてくれねーか……?」

「適当でいい?」

「ああ。」

 

瞬間、場の雰囲気が変わった。

 

ルカ氏は静かに息を吸い。

喉から出る音階を徐々に

整え上げて、披露した。

 

「んーんーんーんんーんーんー♪

あーあーああーあーあー♪

あーあーあーあーはああー♪」

 

思わず息を呑む美声。

ユキ氏やつかさ氏の言っていた伝説の意味が、

ようやく理解できた。

 

ライムさんの刻む的確な音韻や迫力とは違う、

スーッと染み渡る、丁寧な声遣い。

 

「上手すぎる!」

「すごい!」

 

「…………」

「めっちゃ上手い!」

 

「やべー……鳥肌たった。本物じゃん。

やっぱお前が歌うべきだと確信した。

勿体なさすぎる。」

「それだとSea is Legend時代と

変わらないんだよなぁ。」

 

「なら、ツインボーカルにしたら?」

「その発想はなかった! いいかも!!」

「月歌さんとあたしが?」

 

「うん。嫌?」

「やるーーー!!!」

 

 

 

 

「ふう……」

「みんな、すごい……!

朝倉さんも、プロ並みに上手い!」

 

「さすがにそこまでじゃ。」

 

やっぱり、音楽って楽しいな。

 

DJ機器に触れるのも

ライムさんとのコラボライブ以来だけど、

この爽快感は、

いつまで経っても色褪せないや。

 

「最後のほう、なんだか気持ちよかったです!」

「……だな。全く、何が起きたのやら……」

 

「すげぇケミストリーが起きたのさ。

こんなすぐに一つになれちまうなんて、

やっぱ音楽って最高だぜ……。」

「…………。」

「ユッキーは?」

 

「……悪かったな。」

「え? 何落ち込んでんの?」

「リズムがよれよれで悪かったな。

って言ってんだよ……。」

 

「初めてだろ? それだったらすげーって。」

「ま、二度と叩く事はないだろうから

いいけどさ。」

 

「え? 続くよ?」

「練習を続けていくってこと?」

 

「やっぱ人をノせてなんぼだから、

その快感をみんなにも味わってもらいたい。」

 

「遠慮する。」

 

「え……こんな楽しかったのに……。」

「タマ氏……」

 

「あたしも、ゲームの世界に閉じ篭もる

毎日だったけど……

こんな世界、初めて知った。出来れば……

ライブしてぇぇええーーー!!!」

 

「わたしは、この程度の伴奏でよければ

可能だけど。」

「よし、じゃあまず一曲演れるように

練習していこうな。」

 

「訓練だけでも大変だってのに、

なんてこった……」

 

「やってやりましょう……!!」

「すごい……今から緊張してきちゃう……」

「演る曲は?」

 

「デンチョで検索したら

バンド譜あったんだよなー。

みんなも検索して、

『Burn My Soul』って曲。」

 

何か気付いたのか、

ユキ氏が信じられない様子でルカ氏に問う。

 

「待て、それってShe is Legendの

ヒット曲じゃねぇか……。」

「さっすがユッキー。ナーイスハッキング!」

「ハッキングしてないわ。知識だわ。」

 

「待って、そんな本家のボーカルが居るのに

あたしたちが演るだなんて……

超楽しみぃーーーーー!!!」

「下手な演奏は聴かせられないわね……。」

 

「She is Legendのコピーバンドに、

どうして本物が1人混じっているんだよ……。」

「別にいいじゃん?」

 

「プレッシャーがすごいわ。」

「受けて立ちましょう!!」

 

「よし、その意気だぞオタマさん!

みんなもこれから頑張ろうな!

以上! 解散っ!!」

 

 

 

━━▶︎ DAY5 19:15

 

ルカ氏の強制イベントも終わり、

何をしようかとカフェテリア周辺を

3分ほど彷徨っていた。

 

と、狙ったかのようなタイミングで

電子軍人手帳が鳴った。

 

ふと手に取ると、内蔵されていた

コミュニティアプリ『RINNE』に

未読アイコンが1通来ていた。

 

すかさず、そのアプリを起動してみる。

 

「誰だろう。――ッ!?」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

アニメBORUTO最新話の
カッコいいバトル作画や、
ナンジャモのフィギュア化決定。
嬉しいことばかりだけど、

もう話すネタも尽きてきました。

しばらくの間、この後書きコーナーも
おやすみしようと思います。

ではまた明日、お会いしましょう。


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6話・宝探しと事故(パルデア軸)

 

━━▶︎ DAY5 19:20

 

ザッ。

 

「待ってました。ナンジャモさん。」

 

RINNE越しで呼び出された場所は、

ナービィ広場の木製ベンチ。

 

呼んだ当人は、ズレた帽子を被り直し

隣に座るようボクに促した。

 

「どうしたの、タマ氏?」

「そっ、そんな大袈裟な話じゃないです。

ただ、ナンジャモさんと他愛のない話を

したいなー。と。」

 

「ボクよりもお話上手な仲間がいた気がするよ。

ルカ氏とか、つかさ氏とか……

ま、ボクが付き合える範囲でならいいけど。」

 

「それでもです。」

「例えば、どんな話?」

 

「そうですね……

例えば、楽器経験の話しです。

つかささんは習い事って事で

分かりやすいんですけど、

DJ機器ってあんまり触れる機会

無くないですか?」

 

確かに、当たり前のように言ってたけど

周りからしたら

不自然な楽器経験かもしれない。

 

何から話したらいいものか……

 

「うーん……」

 

「もしかしてナンジャモさん……

パリピっていうやつでしょうか?」

「パリピ……とはちょっと違うね。

話すと長くなるけど、いいかな。」

 

「はい。長くても構いません!」

 

長くてもいいなら、話せそうだ。

 

「ボクがまだアカデミーの学生だった頃。

アカデミーに慣れ始めてすぐの事だった。

特別な課外授業が、

校長先生から与えられたんだ。」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY??? 10:30

 

在校生全員が、アカデミーのグラウンドに

アナウンスで召集された。

 

爛々と照る快晴の下。

壇上に校長先生が上がりこんだ。

 

「皆さん、集まりましたかね。

それではこれから、

課外授業の説明を行います。」

 

バッと両腕を広げ、校長は力強く言った。

 

「課題のテーマは『宝探し』! 

皆さんには世界を旅して、

自分だけの宝物を探していただきます。」

 

ざわざわと騒めく在校生ら。

それでも、校長の話は続く。

 

「これまで皆さんは学校の中で

多くの知識を学んできたと思います。

しかしこれからは、外の世界にも目を向け

見聞を深めていただきたい。」

 

「…………」

 

「パルデアの豊かな自然、豊かな文化……

そこで暮らすポケモンたち……

そこで暮らす人々……

何処へ行き、誰と出会い、何を成すのか。

それぞれがそれぞれのポケモンたちと

ともに歩き、ともに考え、ともに感じ……」

 

「……」

 

「自分だけの宝物を見つけて

帰ってきてください……!!

課外授業を通して大きく成長した

あなた達に再びご挨拶出来ることを

楽しみにしておりますよ。」

 

「それでは宝探し開始!

……いってらっしゃい!!」

 

「「「「「ぉぉおおおーーー!!!」」」」」

 

一斉に活気づいて郊外へと走り出す学生たち。

ボクはその様子をただ眺めていた。

 

「ナンジャモちゃん!」

「――ッ!?」

 

ボーッとするボクの意識を起こしたのは、

親友のリンちゃんだった。

 

「どうしたのナンジャモちゃん?」

「ごっ、ごめん。突然の課外授業に

驚いて気が抜けてた。」

「うっそー? 担任の先生から

何回も説明あった気がするよ。」

 

「あはは……。じゃあ、ボクが

うっかりしてるだけなのかも。」

 

「もうっ、ホント気をつけてよ。

それじゃ、

わたしたちもみんなに

負けないくらいの宝物見つけちゃお?」

「……だね!」

 

まずボクたちは、

一番近いセルクルジムを攻略した。

ジムテストのオリーブ運びは、

思いの外、何回か転びながらも

ゴールへ運べた。

 

次にリンちゃんがやったけど、

ボクと違い、

全然転ばずスムーズにゴールしていた。

 

悔しいけど、昔っから

彼女の運動神経はやたら高いので

認めるしかない。

 

「くー! またボクの負けかー!」

「いやいや、ナンジャモちゃんも

結構すごかったよ!

あとはジムリーダー戦だね!」

「うん!」

 

…………。

 

……。

 

「あらぁ〜、お二人とも小さいのに

強いわねぇ。私驚いちゃったわ。」

 

ボクたちは2人一緒に、

セルクルジムの勝利写真をゲットした。

 

「いやー、やっぱバトルでは

ナンジャモちゃんが一枚上手だなぁ。」

 

「いやいや、ポケモンバトルなんて 

やればやるほど上手になるんだから、

リンちゃんだってすぐボク以上に

バトル上手くなるよ!」

 

「優しいね、ナンジャモちゃん……」

「そんなことないって。」

 

初ジム勝利の喜びを2人で噛み締めていた

その時、1人の男がボクらに寄ってきた。

 

六角形のレンズした眼鏡を付けていて、

白衣に身を纏った不思議な雰囲気の大人だ。

 

「やぁ、お嬢ちゃんたち。

私は研究者のジニアだ。」

 

「あら、ジニアさん。私に用?」

 

「いいや、今回はカエデさんに

お話ししに来たわけじゃないんだ。

実はポケモン図鑑の定期更新に備えて、

パルデア自然区域の

現状を再度確認したいんだ。

しかし、私も忙しくてね。

ニャースの手でも借りたい状況なんだよ。」

 

「なるほどね……。」

 

「そこでお嬢ちゃんたち。

少し私の手助けをしてくれないかな。

手伝ってくれたら、

お礼として光の石と闇の石をあげるよ。」

 

「手助けというのは?」

 

「西エリア1番にある

岩山の山頂に行って欲しいんだ。

山頂から見下ろした景色や、

登山中の周辺状況を

私に伝えてくれるだけでいい。」

 

「面白そうだね! 

行こうよナンジャモちゃん!」

「うん!」

 

課外授業で外に出たばっかりで、

右も左も分からぬ状況。

 

校長先生の言った通り、

パルデアの自然に

触れる良い機会かもしれない。

 

そうこう考えながら、

リンちゃんとお喋りして

例の山までついた。

 

どうしてだろう。

 

なんの変哲もない岩山な筈なのに、

空だって晴れ渡ってる筈なのに、

寒気を感じてしまう。

 

「ほら、行こうよナンジャモちゃん!」

「わかった!」

 

そうだ。きっとこれはただの杞憂だ。

標高だってそんなに高くない。

この山登りに、危険なんてある訳ない。

 

こんな楽しそうにしてる

リンちゃんに茶々なんか入れくていい。

 

余計な考えをシャットアウトし、

雄大なパルデアの自然を楽しみながら

登っていき、ようやく山の中腹辺りについた。

 

「うーん! ホント冒険って楽しいね!

ナンジャモちゃん!」

「ボクも同じ気持ちだよ!」

 

「それじゃあ、一旦休んじゃ……

――ッ!?」

「どうしたのリンちゃん?」

 

「ナンジャモちゃん危ないッ!!」

 

突然、リンちゃんがボクにタックルし

吹き飛ばす。

状況が掴めないまま

リンちゃんの方を見ると、

丸い巨岩が真上に――

 

ズドオンッ!

 

「リン……ちゃん?」

 

信じられない光景だった。

急いでボクは駆け寄る。

 

嘘だと思いたい。

リンちゃんの半身が、

巨岩の下敷きになるなんて。

 

「はは……ホント鈍感だね。

ナンジャモちゃん。」

 

鈍感なんかじゃない。

彼女の高い危機察知能力と

運動神経がなければ、ボクは死んでいた。

 

「なんで……

なんでボクなんかを助けたのさ!」

 

「それはね……ナンジャモちゃんが

わたしの宝物だからだよ。」

「違う! 

ボクはリンちゃんの宝物なんかじゃない!」

 

「木登りと鉄棒ぐるぐるで一人遊ぶしか

取り柄のない小さくちっぽけなわたしに、

ナンジャモちゃんが手を伸ばしてくれた。

初めての友達になってくれた。

ずっとそばに居て、

わたしのお話に付き合ってくれた。」

 

弱々しく震える手を、ボクは握った。

 

「大丈夫、ボクが救急車を呼ぶから……っ。」

「分かってるんでしょ。

本当はもう間に合わないこと……」

 

「……でもっ。」

 

やだ。こんな終わり方。

 

「もう、お別れだよ。

最後に腰下のポーチから、

わたしのモンスターボール……受け取って。」

 

ポーチから

モンスターボールを取り出した。

 

「ナンジャモちゃんの

好きな電気タイプポケモンじゃないけど、

大切にしてほしいな……」

「……大切にするよ。だから。」

 

「わたしたち、ずっと一緒だから……ね?

わたしとの冒険は、 

この子と一緒にいけば……それでいい。

……さよなら、ナンジャモちゃん。」

 

リンちゃんは、

静かに瞳を閉じて息を引き取った。

 

 



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7話・適正試験

 

━━▶︎ DAY???  ???

 

あれから、1週間くらい経っただろうか。

もう、時間の感覚も曖昧だ。

 

あの後すぐ、

偶然ジムの視察で通りがかった

リーグトップに保護されて、

ボクは帰宅した。

 

放心状態が長く続いたせいか、

はっきりと意識が戻った時。

 

ボクは我が家のベットで天井を

3分ほど見つめていた。

 

事故の原因は、あの岩山に棲みついた

活性個体のオトシドリによるものらしい。

 

定期的にトップが弱らせて

被害を抑えてるものの、

今回に限っては異常な速度で

再活性化していたそうだ。

 

今のボクはどうしてるかというと……

 

我が家に引き篭もっている。

リンちゃんとの約束なんて

そっちのけで、無気力に、無機質に

パソコンの画面を眺めてる。

 

別に外が怖い訳じゃない。

ただ……強い失望に呑まれている。

 

そんなある日の事だった。

 

ピーンポーン。

 

家のインターホンが鳴らされる。

マイルームのドア越しに、

母から行くよう言われ

ボクはドアを開けた。

 

「……誰ですか。」

 

「俺だ。確かに辛いだろうが、

そろそろ学校に通ってくれないか。

みんな心配してるぞ。」

 

迎えに来たのは、

クラスメートの委員長。カガミ君。

真面目で優しいクラスの人気者だ。

 

彼の善意を蹴るのもバツが悪いので、

学校にもう一度通うことにした。

 

そうして

空っぽの学生生活を進めること一週間。

放課後にカガミ君からまた呼び出された。

 

呼び出された場所は例の岩山の麓。

 

「ねぇ、カガミ君。

ボクになんの嫌がらせ?」

 

「嫌がらせなんかじゃねぇ。

いつまでも死人みたいな顔してる

お前が心配なんだ。

だから今日は、特別ゲスト込みの

ピクニックをする。」

 

「特別ゲスト……?」

「そうだ。」

 

「あぁそうさ、坊や。

そこのお嬢ちゃんが、迷える子羊かい?」

「はい。」

 

急に現れた3人目に、ボクは目を向けた。

 

数日ネットに浸っていただけあって。

それが誰なのか、一目で理解した。

 

褐色肌に下唇の淡いイエローリップ。

黒を着こなすラップ界の女傑。

一時期多くのメディアを飾った

大人気ラッパーの、ライムさんだ。

 

「よぉー、お嬢ちゃん。

良い子だからアタイの前に来な。

そうそう、それで良い。

そんじゃ、歯ぁ食いしばれよ。」

 

パァンッ!

 

鋭く広い痛みが頬に広がる。

ボクは、ビンタされたらしい。

ライムさんの方に向き直ると、

彼女は激昂していた。

 

「いつまでも下向いてんじゃねぇよガキが!」

 

「――ッ!?」

 

「お前のダチは今のお前を望んでたのか!?

違うだろぉ!!」

 

「知ったふうにならないでよ!

ボクは……っ…………」

 

どうして。どうして言い返せない。

 

「実はな、アタイの彼氏も

ここの落石事故で亡くなってんだ。

危険だから登るなって忠告したのにさ。」

「……え?」

 

「別に同情を誘うとか、

そんなんじゃねぇ。ただアンタに聞きたい。

しつこいようだが、アンタのダチは

今のアンタを望んでると思うかい?」

 

そんなの、絶対に。

 

「――望んでない。」

「だろうな。アタイもそれに気がつくまで

相当の時間をかけたモンさ。」

 

「それに気がついた時、

ライムさんはどうしたんですか。」

「歌った。」

 

「歌った……?」

 

「ああ。

元々ラップはアタイの趣味じゃねぇ。

彼氏の本業さ。アイツは何よりも

ラップ音楽が好きでね……

そんなに好きなんだったら、

アタイの気持ちも

ラップで届くんじゃねぇか。

って思った訳よ。」

 

「…………」

 

「少なくともアタイは、

地獄で見てるアイツにも笑って欲しい。

安心して欲しいから、

アタイ自身が楽しんで、みんなが楽しめる。

そんなおもしれーラップを地の底まで

聴かせるつもりだよ。

……それだけさ。」

 

そうか。

ライムさんのラップで魂が震えるのは、

そういうことだったんだ。

 

何処へ行き、誰と出会い、何を成すのか。

ライムさんは時間をかけて、

ようやく自分の宝物を見つけたんだ。

 

ボクにも。

 

「……ボクにも、

見つけられるかな。宝物。」 

 

「見つけられるさ。

だってアンタまだ……

宝物探しの『途中』だろ?」

 

「はいっ!!」

 

「ありがとうございます。

ライムさん。」

 

カガミ君が、

深々とライムさんに頭を下げた。

ボクも、続いて下げる。

 

「気にすんな2人とも。

むしろ感謝すべきはアタイさ。

自分を見直す良い機会をもらえた。」

 

「は……はあ。」

 

「あと、そこのお嬢ちゃん。

正気だったら、

結構イケた顔してるじゃないか。

どうだい……

アタイのDJになってみないかい?」

 

「……え?」

 

「今までと違う世界に触れりゃ、

見えてこなかったモンが見えてくるかも

しれないだろ?」

 

「でっ、でも。

ボクみたいな初心者がやったって

顔に泥塗るだけだし……」

 

「へっ! 

そんなモンアタイは気にしちゃいねーよ!

んな心配要らないくらい、

バッチバチに叩き込んでやっからな!!

んで、どうなんだ……

やんのか? やんないのか?」

 

「やりたい……」

「あ? 聞こえねーぞ!」

 

「ボク、ライムさんのDJやりたいです!!」

「へっ、言えんじゃねぇか。ほらよ。」

 

口角を少しあげ、

ライムさんは握り拳を近づけた。

 

「ん?」

「ほら、アンタも握り拳を繋げな。

これでアタイらはシスターになんだよ。

ま、宝物を見つけるまでの

間だけなんだけどさ。」

 

ボクは、握り拳を繋げた。

 

「よろしくな、シスター。」

「はいっ! ライムお姐さんっ!」

 

 

 

━━▶︎ DAY5 20:05

 

 

「――とまぁ、こんな感じかな。

何か気になるところはある?」

 

「あのぅ、ナンジャモさんって以前、

自分のこと配信者とか言ってましたよね。

DJをしている事と、

何か関係があるのでしょうか……と。」

 

「ははっ、鋭いなぁタマ氏は……

大アリだよ。

ボクはあれから半年くらい、

ライムさんのシスターをやってた。」

 

「…………」

 

「その辺りで、シスターを解散したんだ。」

「え……?」

 

信じられないほど口をあんぐり開け、

目をまん丸にしてタマ氏が驚いた。

 

「そんなに早く揉めたんですか?

長続きしそうだったのに……。」

 

「揉めてなんかいないよ。

寧ろ、最後までズッ友レベルくらい

仲良かったし、ボクも

それなりにDJ界で認められたんだ。」

 

「なのに、どうして……」

「ライムさんに言われたんだ。

今のアンタなら、

すぐに宝物が見つけられるってね。」

 

「そう、ですか。」

「でも、ライムさんの言葉通り

数週間で宝物は見つかった。

ま、ボクが色々チャレンジしてみたのも

あるかもしれないけど。」

 

「その宝物っていうのが……」

「うん。配信活動だよ。

ボクもライムさんと活動を続ける度、

彼女の逞しい生き様に

憧れるようになった。」

 

「それって。」

 

「何処へ行き、誰と出会い、何を成すのか。

ボクの配信活動の目的は、

数字やお金なんかじゃあない。」

 

「……………。」

 

そうだ。いつだってボクは。

 

「みんなをボクの企画で楽しませたい。

より多くの人に

この楽しみを届けたい。

天国にいるかもしれない 

リンちゃんにも、心配しないで

楽しんでいるボクの姿を

見ていて欲しいんだ。」

 

「じゃあ、今度は私たちのライブを

お届けしましょう……!!」

「タマ氏……。」

 

突然、

視界に過去がフラッシュバックした。

 

――マルマイン、大爆発――

 

あれ?

ホントにボクって、

いつだって……そうだったっけ?

 

そういう気持ちで、配信に臨んでいたの?

 

どうしてあの時、

意味もなくハルト氏と

使い回しの企画コラボ配信ばかり……

 

そうか……そうだったんだ。

とっくに、逆になっていたんだ。

 

マクノ氏の言葉は、本物だった。

 

ボクは、ボクを信じてるリスナーを

本当の意味で裏切ったんだ。

リスナーだけじゃない。

自分とリンちゃんだって。

 

だから……

 

「ごめん、タマ氏。

ボクは配信時代、

自分とリンちゃんを……みんなを裏切った。」

 

「急にどうしたんですか!?」

 

「ボクがこの世界に来て、

この役目を果たさきゃいけないのは、

贖罪なのかもしれない。」

 

「まだまだナンジャモさんのことは

深く知りませんが……でしょう!」

 

「よーしタマ氏!

明日の適正試験、頑張ろう!」

「はいっ!!」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY6 13:30

 

ななみ氏に案内され、アリーナ内へと入る。

中には、手塚氏が待っていた。

 

「よく来たわね。ナンジャモさん。

昨晩何があったのかは

知らないけれど、

中々隊長らしい顔付きになってきたわね。」

 

「ボクは、自分を見つめ直し、

ボク自身が今為すべきことを理解した。

ただそれだけです。」

 

「……なるほどね。

今日はエミュレータは使いません。

あなた達、全力でかかってきなさい。」

 

「え? それはどういう意味だ?」

「そのままの意味よ。

全力でかかってきなさい。」

 

「やべーよ。

司令官は本気で戦う気だよ……」

「その通りよ。」

 

「待て待て、待ってくれ!」

「どったの?」

 

「怖じ気づいたのかしら。」

 

「そうだよ。怖じ気づくよ。

心の準備をさせてくれよ。

……一回、アリーナの外へ出よう。」

 

「手短にね。」

 

アリーナ外で、少しだけ作戦会議をし。

ボクらは手塚氏のところへ戻った。

 

「戦う覚悟が出来たようね。

……では、行くわよ。」

 

「まさか、あれは……?」

「電子軍人手帳……!」

 

「――夏草や、兵どもが夢の跡!!」

 

 



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8話・いずれ世界を滅ぼす女

 

━━▶︎ DAY6 ???

 

「どうだ!?」

「やったか……!?」

 

「手加減できない相手でした……。」

「ひひゃひゃひゃ……! もう立てまい……

ひーーーっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」

 

ご丁寧にフラグ建築したせいか。

 

手塚氏は腰を軽くはたき、

何事もなかったかのよう

スンと立ち上がった。

 

「まあ。こんなところね。」

 

「だろうと思ったよ。」

 

「馬鹿な……。」

「どんな強さなの……。」

「これ以上は……敗北の予感!!」

 

「くっそ……ここまでか……!!」

 

「お見事。合格よ。」

「え? 何に?」

 

「あなた達の戦闘能力は、

もう実戦をこなすのに

充分なレベルに到達している。」

 

ようやく。

この五日間の頑張りが、認められた。

 

「今回の結果と、これまでの訓練の

成績を考慮した上で通達します。

あなた達31Aを

『切り込み隊』に任命します。」

 

「切り込み隊! かっこいい響きです……

これで勝つるですね!!」

「ちょいちょい挟んでくる

そのネットスラング、なんなんだよ。」

 

「切り込み隊とは?」

「なんだろう? いい予感がするな……。」

「だから、普通悪い予感だろ……。」

 

「それはなんなのかしら。」

 

「キャンサーの集団に真っ先に

突っ込んでいってもらう、危険な役目よ。」

 

タマ氏がハッと目を見開いた。

 

「なんという言葉のトラップ!

持ち上げておいて落とすなんて!!」

 

「落としてなんかいないわ。

選ばれた精鋭にしか

任せられない役だもの。」

 

「…………」

 

「あなた達には、自信と誇りを持って

この役目をこなしていってほしいの。」

 

「そんな言い方をされたら、

弱音が吐けない……!!」

「お前。結構な修羅場くぐってきてる

筈だろ……。」

 

「切り込み隊の死亡率は他の

どの隊よりも高くなる。それは事実よ。

ただ当然周囲はサポートするし、

何よりデフレクタがあなた達を

守ってくれる。」

 

「……………。」

 

「とにかく戦場ではデフレクタの残量、

それが切れた場合の退避行動を

忘れないで。それだけを

守ってくれたら、死なせないわ。」

 

「そんな……。」

「恐い……。」

 

「今の聞いても喜んだままで

いられるのか。月歌。」

「へっ、きっと何かの冗談さ!

なぁ司令官!?」

 

「マジです。」

 

「お前ら、止まるんじゃねぇぞ……」

「死んだふりで逃れようとすんなよ。」

 

「明日から

あなた達の活躍に期待するわ。

じゃあ、今日はこれで解散。」

「お疲れ様でした。」

 

「ちょっと待ったぁっ!」

 

解散ムードで動き始めた

ボクらの前に、

菱形の眼帯をした少女が

立ちはだかった。

 

「え、何?」

 

「あら、揃いも揃ってどうしたの?」

 

「あらためて31Aに

自己紹介したいのだけど、いい?」

「どうぞ。」

 

「行くわよ。私は天才科学者の

山脇・ボン・イヴァール!

いずれ世界を滅ぼす女よ!!

ふっふっふ……」

 

「なんでそんな事企んでる奴が

セラフ部隊にいるんだよ。」

 

このユキ氏の意見だけは

完全に同意だ。

 

「あちきは山脇様の忠実なる

僕にして右腕……豊後・弥生でゲス!

山脇様の手にかかれば、

三日ともたないでゲスよ! 

けっひっひ!」

 

「まるで、絵に描いたような

僕キャラだな……。」

 

「ほら、あなた達も例の自己紹介

してやんなさい。」

 

「アーデルハイドは

そういうキャラではないでゴザル。」

「……無理矢理

連れてこられたっていいますか。」

「研究の続きをしたい。」

 

「楽しそうだからついてきただけです♪」

 

「でも悔しいって感情は一致してたろ!!」

「そうでゲスよ!」

 

「全くないでゴザル。」

「……強制参加というから、

ついてきたまでですが。」

「研究の続きをしたい。」

 

「楽しそうだからついてきただけです♪」

 

「えー!」

「なんということでゲスか!」

 

「ぐだぐだですね!!」

 

あの菱形の眼帯した子……イヴ氏が

リーダーの6人部隊だとして、

一体このタイミングで

出会いに来たのはどうしてだろう。

 

直接聞くしかなさそうだ。

 

「あのー、イヴ氏。

今日は、どうゆう用件でボクらに

会いに来たのかな?」

 

「イヴ氏!? 

凄いあだ名つけてくるわねアンタ!

まぁいいわ。

そんな呼び方したこと、

絶対後悔させるからねぇ!」

 

「で、話ってのは何だよワッキー。」

 

「茅森ィ! アンタまで

変なあだ名つけんじゃないわよ!!」

「完全になめられてるでゲス!!」

 

「いい加減本題に入ってもらっていい?

エリート諜報員であるこのわたしは、

あなた達ほど暇人じゃないの。」

 

「1番マヌケそうな奴に

1番言われたくないセリフを

言われたでゲス!!」

 

今にも怒りで爆発しそうな程

震えてるイヴ氏は、

一度深呼吸をし、ボクに向き直った。

 

「私たちにとって、あなた達はライバル。

倒すべき敵だからよ!

ふっふっふっふ…………。」

「そうでゲスよ、けっひっひっひ!」

 

「いきなり敵認定かー、なんか新鮮っ!」

「楽しくなってんじゃねーよ。

お前らが散々煽り散らすから

こうなったんだぞ……。」

 

「その通りだわ……つまり、

31期の『A』にふさわしいのは

あなた達じゃないってことよ。」

「お門違いもいいところでゲスよ。」

 

「え? 『A』ってことに

何か意味があるの?」

 

「説明していなかったわね。

新入隊員たちは

6人1組の部隊にわけられ、

任意のアルファベットに

割り振られる。それは知っているわね?」

 

「ええ。」

 

「その場合のアルファベットに

深い意味はない。

ただし『A』だけは別。

『A』はその世代で最も優秀と

認められた部隊にあてられる

特別なアルファベットなの。」

 

「やった!!

さすがあたしらの部隊長!!」

「ナンジャモの戦闘能力がやたら

高いのは確かだが、

あたしらも褒めろよ。」

 

「それが気に入らないのよ!

司令官、なぜ入隊したての彼女たちを

31Aとしたの!?

私には理解不能よ!!」

「山脇様はあまり頭が良くないので

ゲスよ。」

 

「手下がそれ言っていいのか。」

 

「単純に彼女たちの身体能力や

ポテンシャルを考慮しただけよ。

それ以上の情報は開示できないし、

言う必要もないわ。

ただ一つの『異例』を除いてね。」

 

「……異例だって?」

 

「これに限っては、

セラフ部隊全員が知るべき事象よ。

それは、セラフの副作用。」

 

手塚氏が、ボクの顔を見て告げる。

イヴ氏も、疑問符が

浮かんでるかのように口を開けた。

 

「セラフの……副作用?」

「セラフを使っている状態の

ナンジャモさんを見ていたわよね。

顔半分と、

そこから下の腕や手にかけて

広がる黒いアザ。」

 

「確かに、そんなのもあったわね。」

 

「セラフを初めに手にした時、

彼女はとてつもない激痛に襲われ、

悲鳴をあげていたわ。

今はそういった様子が

見られないけど、いつ再発しても

可笑しくはない。」

 

「なんだって言うのよ……」

 

「もしこの副作用が

セラフを経由して発症し、

死に至る伝染病だとしたら、

セラフ部隊

そのものが潰れる可能性がある。」

 

「………………」

 

場にいる皆の空気が、急に重くなった。

 

「ナンジャモさん、

今更聞き直すようで悪いのだけど、

その黒いアザに関して

何か心当たりはある?」

 

ある。

 

今までは適正試験に向けて

気が回ったせいか。

あまり語る機会がなかった。

 

ボク自身も深くは知らないけど、

今こそ話すべきだと思う。

 

イッシキ氏の言葉が本物なら。

少なくとも、

そんな恐ろしい代物じゃないから。

 

「今まで黙っててごめんなさい。

このアザは

セラフの副作用でもなければ、

伝染病でもないんです。

ある人物に、意図的に

与えられた力なんです。」

 

「……ほう。

他のセラフ隊員と違い

身体能力や戦闘能力が逸脱していて、

それらの成長速度が異常に速いのは

その所為って事ね。」

 

「与えた人は、

これを『楔(カーマ)』と言っていました。」

 

話がややこしくなりそうだし。

イッシキ氏が与えたって事は

まだ黙っておこう。

 

「……『楔』。

どうやら、私たちが

勘違いしていたようね。

ナンジャモさん。

適切な情報提供、感謝するわ。」

 

「いいんです。何も言わなかった

ボクにも責任があるので。」

 

「気にしないで頂戴。

今は、その有益な情報を

得られただけで充分だわ。

ではこれにて、解散。」

 

 

 



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9話・勝負でゲス!

 

 

「待ちなさいっ! 

何しれっと話の論点変えて

このまま解散しようとしてるのよ!」

 

またもや解散の雰囲気をぶち壊し、

イヴ氏が邪魔に入った。

ついに手塚氏も、

彼女たちの対応に呆れている様子だ。

 

「何が言いたいの。」

 

「勝負よ。」

「勝負でゲスよ!」

 

「ボクらが勝負?」

 

「私たち31Cと31Aを

公平に競わせてほしいの……

勝つ自信あるし!!」

 

「勝ったら?」

 

イヴ氏が不敵に笑った。

 

「Aを私たちが頂くわ。

どう、司令官?」

 

「人類ピンチの時にそんなこと

やってる場合じゃないだろ……。」

 

「……そうね。いいかもしれない。」

「やるの!?」

 

「お互い良い刺激にもなる。

ねえ、七瀬?」

「はい。異論はありません。」

 

「よし!!」

「キタでゲス!!」

 

「That's great!!」

 

「「「――ッ!?」」」

 

突然現れた人物に、一同が目を向ける。

そこには、マスクとマントをした

ヒーロー風の金髪少女が居た。

 

「そんな驚かないで頂戴。

アタシは偶然

通りがかってきた部隊長よ。」

 

「なんで同期の部隊長が三つ巴に

なってんだよ! 意味分かんねーよ!?」

 

あたふたとするユキ氏を置いて、

謎の人物は此方へ向いた。

 

「oh! Ms.ナンジャモ!

アナタと会うのは初めてだわね。

初めまして。

アタシは31Xの部隊長をしている

キャロル・リーパーよ!」

 

「キャロルさん。

どうして来たのかしら。」

 

「もうっ、冷たいわね司令官!

アンタ達これから勝負するでしょ。

だったら、

このアタシに勝負内容を

決めさせてもらえないかしら。」

 

「確かに、A側やC側が独占して

競技を決めたりしたら

八百長になりかねない。

……いいかもしれないわね。

それに、私たち司令部が

その内容を考える手間も省けるわ。」

 

絶対最後の言葉が本音だろうと

みんな知っているが、

空気を読んで黙り込む。

 

「サンキュー司令官。

その勝負内容とはズバリ……

シネマバトルよ!!」

 

「シネマ……バトル?」

 

「ええ。

31Aと31C、それぞれの部隊長が

一本のショート映画を作成し、

ドーム住民にエンタメを提供する。

より顧客満足度の高い方が

勝利ってことでどう?

勿論、テーマは各々の

好きにしてもらっていいわ。」

 

「成る程、面白い試みね。

ドーム住民を活気付ける

良いきっかけになりそうだわ。

許可してあげる。

七瀬、映画施設と交渉お願い。」

「はい。」

 

「やるの!? 

ってかマジで通るのかよ!?」

 

「これで決まりね。

しかし、もっと勝負をフェアにする為に

特殊ルールを与えるわ!」

 

「特殊ルール?」

 

「Exactly!! 

31Aチームは31Cから1人役者を選び、

31Cチームは31Aから1人役者を選ぶ。

というルールよ。

その他の役者は自由でいいわ。」

 

「へぇー、アンタ結構面白い勝負

思いつくじゃない。

ま、どんな勝負であろうと

負ける気は一切ないけど!!」

「さすが山脇様でゲス!!」

 

「イヴ氏、

随分と自信あるみたいだね……

もう何をするか浮かんでたりする?」

 

「当然よナンジャモ!

私たちの作品テーマはズバリ、

世界征服よ!! 

凶悪な極悪集団って事、

改めて認知させてあげるわ。

ふっふっふっ……。」

「けっひっひ!!」

 

「先手を打たれてますね!!」

「いや、打たれてねーだろ。」

 

「何を言ってるのかしら。

私はもう、現31Aから

誰を借りるか決めてるわよ。」

 

早い。

 

ボクでもまだ決まってないのに。

そもそも、ボクの部隊に

世界征服が相応しい人なんて……

 

「朝倉さん。アナタを指名するわ。」

 

「え? あたし。」

 

可憐氏は、

訳もわからずきょとんとした。

 

「いいえ、私が求めているのは

シラフのアナタじゃないわ。

もっと、極悪なオーラを放っていて。

それこそ世界征服を嬉々として

賛同しそうな方の……」

 

「……あひゃ…………

ひゃーっひゃっひゃっひゃーっ!!

よく分かっておるではないか! 小娘!」

 

「ふっふっふっ……待っていたわよ。

――闇将軍家康!!」

 

「ひゃーっひゃっひゃあ!

貴様とは良い酒が

飲めそうじゃのォ……!!」

 

「やはり……闇将軍家康か……!?」

 

「お前らどんだけ

そのネタに味しめてんだよ。

カレンちゃん。お前もまともに

付き合わなくていいからな。」

 

「それで、ナンジャモさんの方は

決まったのかしら?」

 

「……ごめん。テーマすら

まだ決まってないや。

少しだけ、時間をくれないかな。」

 

「勿論よ。今、急に決まった勝負だしね。

まだ時間はあるから、

じっくり決めなさい。

明日までなら、全然待てるわ。

アタシが伝えたい事は以上よ。」

 

「キャロルさん。

有用な企画提供、感謝するわ。

ではこれにて、解散。」

 

 

 

━━▶︎ DAY6 18:10

 

夕飯やデンタルケアを終えた後、

ボクはタマ氏にナービィ広場へ

呼び出された。

 

「またお呼びたてしてすいません。

ショート映画のテーマについて、

私も何か協力出来たらと思いまして……」

 

「いやいや、ボクの方こそだよ。

夕飯の時、映画のテーマをみんなが

色々提案したのに、

結局決まらずじまいにしてしまったし。」

 

「だからこそ、突き詰めるべきでしょう!

きっと何か思いつくはず……!」

 

タマ氏は優しいな。

本当は他のみんなみたいに、

自分の時間が欲しいはずなのに。

 

「そうだね。突き詰めればきっと……」

 

「あのぅ、突然聞いて悪いんですけど、

『ポケモン』って何ですか?」

 

「あ。」

「……?」

 

そういえば、ポケモンという生物が

当たり前のように居る前提で、

過去の話をしていた。

 

タマ氏が疑問に思うのも無理ない。

 

「ごめん。ボクの説明不足だったね。

ポケモンっていうのは、

人々と共生し、人々の生活や

心を豊かにしてくれる。

不思議な力を持った生き物なんだ。」

 

「この世界で言う……

ペットのようなものでしょうか。」

 

「ペットっていうよりは、

パートナーかな。

少なくともボクら人間は、

彼らを対等な存在だと思ってるよ。」

 

「すごい世界なんですね。

……そうだ!」

 

何か閃いたかのように、

タマ氏が声を上げた。

 

「どうしたの?」

 

「ポケモンを題材に

するのはいかがでしょうか!

主人公トレーナーと

ライバルトレーナーが

繰り広げる熱き青春物語!

これで勝つる……!!」

 

そうか。

敢えてこの世界にない概念で

エンタメをしてみる。

 

……アリかもしれない。

否、大アリだ。

 

これなら、あの31Cに

負けないテーマになりえる。

 

「名案だよタマ氏!!」

「ひょえっ!?」

 

「よーし!

まずは、ポケモンっぽい

セラフ隊員を厳選していこー!!」

 

「ちょっ、ナンジャモさーん!

肩ゆらさないで下さいぃ!

……酔うっ!!」

 

 

 

━━▶︎ DAY6 21:10

 

 

結局、日が沈んだ時間帯だけあって。

ほとんどのセラフ隊員は

出歩いていなかった。

 

おかげで成果はゼロ。

 

気が付けば。

 

風呂や就寝前のデンタルケアを

タマ氏と済ませ、

マイベットで寝転んでいた。

 

ベットの上段では、

タマ氏が悔しそうに声を上げている。

 

「……見つかりませんでしたね。

ピンと来るポケモンっぽい人。」

 

「心配しなくていいよ。

明日の昼休憩から時間を取れば、

きっと出会えるって。」

「……ですね。」

 

「それじゃあ、お休み。」

「はいっ。」

 

明日に希望を託し、ボクは瞳を閉じた。

 

そして、ぼんやりと微睡む視界の中。

パチパチと。また目が開いた。

 

「――ハッ!!」

 

次に目を開いた時。

ボクはやけに明るい店内にいた。

 

いや、この和風な内装……

見覚えがある。

 

「チャンプルタウンの、宝食堂?

でも、どうして。」

 

「それについては、俺が話そう。」

 

「――ッ!?」

 

何かを知った風な声で、

声がかけられる。

 

声の聞こえた方を見ると、

白髭を蓄えた

サングラスのおじさんが、

座敷席で座っていた。

 

「あなたは……一体?」

 

「まぁまぁ、取り敢えず俺の前に座れ。

話はそれからだ。」

 

 



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10話・アマドとの邂逅

 

━━▶︎ DAY6 ???

 

ボクは、

怪しいおじさんの正面へ座った。

 

「よーし。先ずは自己紹介からだな。

俺はアマド。木の葉の里に 

亡命した研究者だ。」

 

「……はい。」

 

「どうした急に、

俺がそんなに嫌か?」

「ちっ、違うんです!

わけがわからなくて

唖然としてるっていうか……」

 

「確かに、いきなりこんな場所に

連れてこられたら困惑するだろうな。

気持ちは充分理解できる。

だが安心しろ。

お嬢さんの質問には、

この俺が何でも答えてやる。」

 

何でも……?

この人、どこまで知っているんだ?

 

それよりも、まず聞くべきは。

 

「ここって、何ですか。

ボクは本当にチャンプルタウンに

瞬間移動したんですか?」

 

「いやいや、

そんな事は俺でも出来んよ。

ここは、お嬢さんの記憶を基に、

俺が新たに構築した座標だ。」

 

「座標……?

イッシキ氏も言ってたけど、

座標って何です。」

 

「座標。君にも分かり易いよう

定義するのならば……

『チャンネル』と言ったところだ。」

 

「……チャンネル。」

 

「そうだ。

俺たちは大筒木・イッシキが

永久に甦らぬよう、

2代目火影・扉間が遺した禁術

『口寄せ・座標墓灊』を

大蛇丸と密かに協力し、奴に施した。」

 

「その術って、

具体的に何をするの。」

 

「術の印が付いた肉体が

機能しなくなった場合、対象の魂を

無限に存在する座標の中に、

永久に口寄せし続ける術だ。」

 

全然分かんないや。

 

「とりあえず、

魂を閉じ込める術って事?

でもボクは出られたよ?」

 

「あぁ、本来は魂を

永久に閉じ込める術な訳だが、

実はいくつか抜け出すルートが

作られている。

お嬢さんは、扉間が用意した

正規ルートを辿ったから甦れたのさ。

……いや、イッシキにそうするよう

偽の術を教えたまでだがな。」

 

「アマド氏たちは、

どうしてイッシキ氏に

そこまで酷い仕打ちをするんですか?」

 

「酷い仕打ちだって?

あんな奴、されて当然だろ。」

 

「でもほらっ! 

イッシキ氏はボクの仲間を

守る為にこの力をくれたんです!!

そう言ってました!!

この『楔』がなければ、

ボクはとてもじゃないけど戦えないっ!」

 

ボクは、楔を彼に見せつけて

イッシキ氏を庇った。

 

すると

アマド氏はプルプルと震え出し、

弾けるように大笑いした。

 

「がーっはっはっはぁ!!

イッシキが!? アイツがそんな事を!?

最っ高におもしれーじゃねぇか!!

カワキに恨まれて死んだ事、

よっほど後悔してんだなぁ!!」

 

「あ、あのー。」

 

「ああ。すまない。

少し取り乱してしまったな。

だが、勘違いするなよ。

楔はそんな都合のいい力じゃない。

お嬢さんは、

イッシキに騙されている。

アイツの思い通りに

利用されているだけだ。」

 

「……え?」

 

「例えばの話だが、

今君の電子軍人手帳が物理的な

衝撃で修復不可能なまでに

大破したとしよう。君はどうする?」

 

ボクが、

仮に壊してしまったら。

 

「司令部に新しい端末を

手配してもらうように

要請する……かな。」

 

「ああ、それが最善策の第一工程だ。

まずは、君のアカウントを

完全に引き継げる膨大なデータ容量メモリ。

それほどのスペックを持ちうる

端末を用意しなければいけない。」

 

「はい。」

 

「次に、君はどうする。

アカウントを一から生成し直すか?」

「しない。」

 

「だよな。

少なくとも君のアカウントデータは

司令部管理下の莫大なサーバに

必ず残っている。

後はそれを復元……適合する端末に

バックアップすれば、

新端末で元通りそのままの

アカウントを運用し直せる訳だ。」

 

「その通りだけど、どう言う事?

それは、楔と関係のある話?」

 

「大アリだ。では、先程の話に

合わせて続きを説明しよう。

まずは復習がてら質問だ。

アカウントを復元する為に

必要なのは何だ?」

 

「アカウントに適合する端末と、

アカウントデータが残っているサーバ。」

 

「グッド。では楔の話に戻ろう。

要するにだ。

大筒木・イッシキという

アカウントに適合する端末……

それこそが君の肉体。『器』だ。

次に、アカウントを管理し、

復元してくれるサーバ。

もとい、大筒木一族の

バックアップファイルこそが楔なのだ。」

 

「そんな……じゃあボクは既に。」

 

考えたくない。

楔がそんな恐ろしいモノだなんて。

 

「当然、既存の

データアカウントを復元するには

必ずロード時間がいる。

このロードを

奴らは『解凍』と呼んでいる。

そして、解凍の速度は

現代のインターネットほど早くはない。

だが、時が経つにつれ

君の身体が大筒木に

なっていくのは事実だ。」

 

だから、日に日に楔が

ボクに馴染んで、

ボクの身体が強くなるのか。

 

戦闘力が上がってるのも、

彼が積んできた戦闘経験値が

徐々に反映されてきているから……

なのかな。

 

「もし、解凍が完全になったら

ボクはどうなるんですか。」

「君の肉体と魂は消滅し、

大筒木・イッシキが完全に復活する。

楔とは、そういうものだ。」

 

「……そう、ですか。」

 

「そう落ち込むな。

そうさせない為に俺がいる。

そして、この術があるのさ。

さっきも言っただろう、

この術には抜け出すルートが

いくつもあると。」

 

「え……まさか。」

 

「そう。楔による転生は、

この術に用意された

脱出ルートには含まれてない。

完全に解凍が進み、奴が転生しようとも

無限にある座標に魂が

強制口寄せされるだけだ。

それほどまでに、

この術の効力、制約は強い。」

 

「…………」

 

「やつはもう、復活する手立てを

完全に失ったのだ。

だから心配は要らん。

……存分に使うといい。

イッシキ亡き今こそ、

純粋な武器としての『楔』を。」

 

「……良かった。」

 

アマド氏は、微笑んで立ち上がった。

 

「安心してもらえて何よりだ。

さて、もうここを維持できる時間も

そんなにない。

また明日の夜、

ここで話そうじゃないか。」

 

あれ? 急に瞼が重い。

視界がだんだん歪んで……

 

 

 

━━▶︎ DAY7 5:50

 

「……きて……下さいっ。

……ンジャモさんっ……!」

 

「ん……?」

 

揺さぶられる身体と、

呼ばれる声で目が覚めた。

 

ボクを揺さぶって起こしたのは、

タマ氏だった。

 

「ん……あ、おはようタマ氏。」

「ようやく起きましたね!

ナンジャモさん! 

おはようございますっ!」

 

「ナンジャモさぁ……

おタマさんにめっちゃ懐かれてない?

羨ましいんだけど。」

 

「月歌みたいな暴れん坊に

誰が懐くかよ。

もし懐かれたとしても、

極度のヤンデレやメンヘラとか、

そんなんじゃねーの。」

 

「ユッキーは、あたしの味方だよね?」

「まぁ、同じ部隊だしな。

あたしはここの全員味方だと

思ってるぜ。」

 

「むぅ。

ユッキーの奴は察しが悪いなあ。」

 

「……ひゃひゃっ、砂利と本気で

ケンカする大人がいるか?」

 

「なんかカレンちゃんが

あたしに辛辣なんだけど!?」

 

「お前らの大好きなマダラ構文だろ。

散々マダラ呼びするから

とんでもねぇ形で

仕返しされてんじゃねぇか……

しかも多分

使い方間違ってるからな。」

 

「じゃあみんな、

張り切って点呼行こうか。

あと、ユキ氏。

後でセラフ隊員の名簿も

貸してほしいんだけど、いいかな?」

 

ユキ氏は、

頷いて承諾の意思を見せた。

 

「ああ。名簿の件は

あたしに任せとけ。

顔写真付きのを用意してやる。

ほら、隊長が指示してんだ。

お前らも点呼行こうぜ。」

 

「分かったわ。」

 

「ひゃっひゃ、今日の獲物も

楽しみじゃのォ……

パイロット田中ァ……!!」

 

「私はパイロット田中では

ありませんが!

なんなら元艦長ですが!!」

 

「カレンちゃんお前、

人違いされまくってるの

根に持ってるだろ……。」

 

「やっぱユッキーも

ナンジャモの味方だぁぁああー!!」

 

 

 

━━▶︎ DAY7 13:45

 

「「ガラガラ……ぺっ!」」

 

「うーん! 

ナンジャモさんと一緒に

歯磨きうがいして口元もスッキリ!

さぁ、今こそ行ったりましょう……!!」

 

「だね。

まずは人が集まりそうな

ナービィ広場でも寄ってみる?」

「いいですね! ディスイズ広場!!」

 

妙に活発なタマ氏と共に、

ボクら2人はナービィ広場へ向かった。

 

辿り着いて早々。

 

駆け回れそうな広場の中央で、

深呼吸をし、

何かの準備をしている少女が居た。

 

シノビ装束を着た、しのぶ気のない

金髪を靡かせる少女が。

 

(ん?

この子って確か、

31Cの連れだった気が……)

 

「奥義! 影分身の術……!!」

 

 

 



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11話・スカウト大作戦!!

 

━━▶︎ DAY7 13:55

 

「奥義! 影分身の術……!!」

 

ボンっ!!

 

シノビ装束の少女が、

左右に1人ずつ増えた。

 

「ホントに増えたっ!?」

「……あれは。」

 

決まった。

絶対この子には

ポケモン役を演ってもらう。

 

これ以上に、

ゲッコウガ役が合う人なんて

そうそういない。

 

「ナンジャモさん……?」

「あ、ごめんタマ氏。

ちょっと考え事してた。」

 

「よ、持ってきたぞナンジャモ。

これでいいか。」

 

「ありがとう。ユキ氏。」

 

「気にすんな。今の立場が

あんなよく分からん奴らに

黙ってとられるよりはマシだからな。

テーマに合う役者、

しっかり吟味してこいよ。」

 

「うん。」

 

「ユキさん! 

ご協力感謝致しまする……!!」

 

「こりゃ現31Aみんなの問題だ。

協力しなくてどうするよ。

國見、お前も

ナンジャモのサポート頼んだぞ。」

 

「承りました!!」

 

その先を託すような笑みをして

頷いたユキ氏は、

トコトコと去っていった。

 

早速、31Cの名簿を確認してみる。

 

神崎・アーデルハイド

忍術に優れ、

セラフ部隊にスカウトされた少女。

 

……か。

 

つまり、目の前で起きてるのは、

錯覚を利用したマジックでも

なければ、ホログラムでもない。

本物の忍術ってことだよね……。

 

益々、興味が湧いた。

行こう。

 

「おーい、そこの忍者氏ーっ!」

 

「「「ヤー。これはこれはナンジャモ殿。

もしや、拙者の忍術に

興味津々でゴザルか……?」」」

 

「ぎぃぇえっ!!

どの神崎さんに声をかけたらいいか

分からないですぅ……!!」

 

「「「おっと、

それは悪かったでゴザルな。」」」

 

ボンっ!

 

気を遣って、神崎氏が分身を解いた。

 

「……で、改めて。

拙者に何の用でゴザルか?」

 

「神崎氏、昨日のアリーナで

決まった勝負内容、覚えてるかな?」

「えーっと……ショートな映画を

撮って、より面白い方が勝ち。

っていう、お話でゴザルか。」

 

「それです!!」

 

「でさ、ボクらは

設けられた特別ルールに則って

現31Cから1人役者を選ばなくちゃ

いけないんだ。」

 

何かを察したのか、

神崎氏が口元を緩め、息を上げ始めた。

 

「もっ、もしかして拙者は

選ばれたのでゴザルか……

これは、最高に目立てる……

ぐへ……チャンスでゴザルなぁ……」

 

「神崎氏!?」

 

「ハッ!

なっ、何でもないでゴザルよ!

特にやましい気持ちなどは

ないでゴザル!」

 

「濃厚確定バレバレですね!!」

 

うん。やましい気持ちが

ダダ漏れしてるのは間違いない。

 

「そういう訳なんだけど、

……いいかな?」

 

「ヤー! 拙者で良ければ

全然助太刀するでゴザルよ!

ナンジャモ殿、

改めてよろしくでゴザル!!」

 

よし。

特別ルールの1人は決まった。

 

けれど。

 

トレーナー同士の

熱い青春バトルを演出するなら、

トレーナー役に各一人ずつ。

 

各トレーナーに

ポケモン役2人必要だ。

 

「ナンジャモさん。

次はどこに行って

仲間を増やしますか?」

 

▶︎メイン通りに行く

▶︎裏通りに行く

 

「裏通りに行ってみようか。

密かに特技を磨いている人が

いるかもしれないし。」

 

「面白ろそうでゴザルな!」

 

次なる役者探しの為、

歩き出したその時だった。

 

「ヴァゥゥウッ……。」

 

リラックスをしている虎のような

鳴き声が耳に入った。

 

「凄い……!

この基地には虎の鳴き声を

忠実に真似る特技を持った人が居る!?

ワクワクしますね!!」

 

「む……。拙者的には本物っぽく

感じるのでゴザルが……。」

 

「行ってみよう。

予想だけじゃなにも進まないしね。」

「ですね!!」

「御意!」

 

みんなで、

虎の鳴き声が聞こえる方へ

こっそり近寄る。

 

いい感じに近づけたものの、

生い茂る長草のせいで

様子が確認出来ない。

 

仕方がないので、

思い切って突破し茂みから抜けた。

 

あとの2人も続く形で

茂みから飛び出た。

 

「ヴァゥゥウッ……。」

 

そこに居たのは、

グルーミングされている

本物のホワイトタイガー。

 

今にもウトウトしていて、

とても気持ちよさそうだ。

 

「凄いっ! モノホンっ!!

ディスイズホワイトタイガー!」

「やっぱり拙者の勘は

当たったでゴザル!!」

 

一同が虎に注目しているからか、

グルーミングを施している少女が

警戒気味に此方へ声をかける。

 

「お前ら、ビャッコに何の用にゃ。」

 

「ボクらは動物の鳴き声が

気になってきただけだよ。

特に用が

あったわけじゃないけど、

今出来たかな。」

 

紫の瞳をより鋭くし、彼女は問う。

 

「すもも達をどうするつもりにゃ。

プロフェッサー権限で任務に

連れ出す気かにゃ?」

 

「んー。ボクもリラックス中の

隊員を借り出す趣味はないよ。

ただ、あるイベントに

協力して欲しいんだ。」

 

「……イベント?」

 

「ショート映画を撮影する

イベントをやってて、

ビャッコと君には

その役者になってほしいんだ。」

 

「つまり、すももはお前らに

スカウトされたって事かにゃ。

当然お断り……」

 

「よぉすもも!

おいおい、映画の撮影に

スカウトされる

なんてすげぇじゃねぇか!

折角だから参加してみろよ。

良い経験になるかもしんねーぜ?」

 

「ねっ、姉さん!?

でっ、でもすももは……」

「やるよな……な!?」

 

すもも氏は、姉? 

らしき人物の圧に押され始めた。

 

「……や、やってやるにゃ。」

 

「やりましたねナンジャモさん!」

 

いい。

今日は凄いハイペースで役者が

決まっていく。

 

後は、ポケモン役1人。

トレーナー役1人、ってところかな。

 

「ナンジャモ殿、

次は何処に向かうでござるか?」

 

▶︎ふれあい通り

▶︎メイン通り

 

「一旦、メイン通りに戻ってみようか。

今まで寄ってきた中で、

一番隊員が

多く出歩いてた場所だからね。」

 

「御意でゴザル!」

「行ったりましょう……!」

 

「面倒だにゃ。」

「ヴァウッ。」

 

みんなを引き連れ、

メイン通りを散策し始める。

 

散策し始めてすぐ、

カフェテリアのテラス席に

ビビッと常人ならざる気配を感じる。

 

その方へ目を向けると、

一切の音を立てず、

華麗にアフタヌーンティーを

嗜むセラフ隊員の姿があった。

 

優雅に白を着こなす彼女は、

正しく求めていた逸材だ。

 

「あのー、そこの君。

ちょっとお話いいかな?」

 

彼女はボクらを静かに見つめ……

 

「…………」

 

「「「……?」」」

 

「何の集まりですのッ!?」

 

キレ気味に問いかけてきた。

 

「実はボクら、

映画を撮る話になってて

役者集めの最中なんだ。

出来れば君にも協力してほしい。」

 

「あたくしは、映画撮影の役者として

スカウトされている……

ということかしら?」

 

「そうだにゃ。」

 

「お断りですわ。」

 

「そこを何とか……!!」

 

「だって、あたくしがそれをする

メリットが一切な……あら、

あなた達よく見たら

顔も整ってますし、体格的にも

似合いそうですわね。」

 

「……なんの話でゴザルか?」

 

「忍者モドキと獣には

興味ありませんわ。」

 

「拙者が……忍者モドキ。」

「ヴァウウウッ。」

 

「そこのお三方。」

 

「え、ボク?」

「何でしょう?」

「にゃにゃ?」

 

「あなた達が今度の休日、

あたくしの啓蒙活動に

協力してくれると

約束して下さるなら、

喜んで映画活動に協力しますわよ。」

 

見ず知らずの隊員に

借りを作るのは

あまりしたくないけど、

現31Aの存続がかかってる今、

そうも躊躇して居られない。

 

後でどんな活動に

巻き込まれようとも、

映画の勝ち筋を取る方が大事だ。

 

「どうします。ナンジャモさん?」

 

タマ氏が心配気味に聞いてくるが、

目の前にいる勝ち筋を

捨てる気はない。

 

「分かった。約束するよ。

ボクは31A部隊長のナンジャモ。

改めてよろしく。」

 

「あたくしは、

30G部隊セラフ隊員の菅原・千恵。

こちらこそ、改めてよろしくですわ。」

 

「凄い! 役者さんが次々と決まっていく!

ディスイズ! 

スーパースカウティング!!」

 

「では、ナンジャモ殿。

残り1人はどうするでゴザルか。

國見殿を役者にする気は

無いのでござろう?」

 

「……え?」

 

「あはは、ごめんタマ氏。

神崎氏の言う通りなんだ。

ここまでサポートしてもらっといて、

役者までさせるのは酷だからさ。」

 

「お気遣いありがとうございます!

それで、私は何をすれば

良いのでしょう!」

 

「コイツ、メンタル化け物かにゃ?」

 

「タマ氏には、役者ではなく

裏方のサポートを

最後まで続けてほしい。

例えば、シナリオ構成の

見直しや細かな修正とか……ね。」

 

「お任せあれっ!!」

 

「む? だとしたら、ルール通り行くと

あと1人役者が足りんでゴザルよ。」

 

「大丈夫、その点は気にしないで。」

 

そう。トレーナー役のもう1人は

すでに決めていた。

 

正義という役回りが最も合う人物。

彼女はもう、RINNEで呼び出している。

 

「Hello! Ms.ナンジャモ!

呼ばれてきたわよ!!」

 

「キャロルさん!?」

 

「あら、Ms.國見に……

面白いメンバーが勢揃いじゃない。

これで役者は決まりって事かしら?」

 

「まだです!

キャロル氏、正義の人間として

ボクらの映画に出演してほしい!!」

 

「私は裏方ですから!!」

 

「ふーん。なるほどね。」

 

少し考えるように黙り。

ニカッと笑った。

 

「OK! アタシ達で

最高のエンターテイメントに

していきましょう!!」

 

 



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12話・DeathSlug

 

━━▶︎ DAY12 12:45

 

映画撮影と任務を並行しながら、

それなりに日が経った。

 

今日は、31Aのみんなと

お昼をいただこうと

カフェテリアに入ったところだ。

 

そこで、

つかさ氏が何かに気づいた。

 

「ん? アレは31C?

あんなメンバーだったかしら。」

 

イヴ氏と弥生氏以外は、

確かに見慣れないメンバーだ。

 

「まさか、

お肉を焼いて食べている!?」

 

「31Aか……

こちらは焼肉食べ放題90分を

注文する余裕すらあるのよ。

ふっふっふ…………」

 

「ウマウマでゲス!!」

 

「豊後、ハラミは赤身だから

醤油だれって言ったでしょ!

なに味噌だれつけてるの!」

 

「ハラミはホルモンだわ。」

「知らなかった!!」

 

「山脇様はあまり頭が

よくないのでゲスよ!」

「手下がそれ言っていいのか。」

 

「山脇様は天才マッドサイエンティスト

なんでゲスよ!?」

 

「ふっふっふ……その通りよ。

だからもう決まったの……

完璧なる悪の配役がねぇ!

アンタ達、自己紹介なさい!」

 

「山脇様の忠実なる僕にして、右腕!

豊後・弥生でゲス!!」

「天穹の理を今ここに……」

 

「カレンちゃんでぇぇええす!!」

「妾は李映夏!

悪しき計略を企てるのは大得意ぞ。

……フッ。」

 

「大島・六宇亜!

一般人の人質役として頑張るよ!

……ハァ♡

どんな拷問してくれるか

楽しみらよぉ……♡♡」

 

「え、何。

スコアタ40万でも撮りに行くの?

てか、ムーアに限っては

人選ミスなんじゃないの?」

 

「「――スコアタ40万って何!?」」

 

「お、ユッキーとワッキー

息ぴったりじゃん。いつの間に

そんな仲良くなったのさ。」

 

「「――なってないわ!!」」

 

「以心伝心ですね!!」

 

タマ氏がノリ良くハキハキ

言ったあたりで、

赤ランプが光り激しく回り始めた。

 

それと同時に、

サイレンがカフェテリア内に響く。

 

「ん? 何の音だ?」

 

『新宿ドーム哨戒網より入電。

第二次防衛ライン内に

キャンサー集団の侵入を確認。

映像にてレベル2の個体を確認。

確認回します。』

 

「「「………………」」」

 

『31A、31Cは直ちに出撃準備。

準備終了後、

格納庫に集合して下さい。』

 

「……っ!?」

 

「こういう時は了解って言っておけ。」

 

「「――了解!」」

 

 

 

━━▶︎ DAY12 15:00

 

作戦内容の詳細を格納庫で聞き、

急ぎでボクらは被災地に着陸した。

 

ボクら2部隊は手塚氏から

実力を買われ、DeathSlug討伐作戦を

前線で行える許可が降りている。

 

その覚悟を胸に踏み出した時、

イヴ氏が声をかけてきた。

 

「なぁ、ナンジャモ。」

「ん?」

 

「映画撮影の勝負は

まだ互いに準備段階。

だからここで、更に加点要素を

増やすなんてのはどうかしら。」

 

「つまり……?」

 

「この戦場でより多くのキャンサーを

倒した方が大加点。ってのはどう?」

 

イヴ氏は自信満々に

電子軍人手帳の画面を見せる。

 

「この『ファスト・ミニタリー・マップ』を

見てごらん。

こいつはねぇ、マップ表示の他、

キャンサーの位置情報や討伐数を

記録してくれる優れモノなんだよ。」

 

「DeathSlugが迫って

来てるようだけど、大丈夫?」

「……もしかして怖いのかい。」

 

「実際に見てみないと、分からないよ。」

「はっ、この勝負もらったも同然だね!」

 

「イヴァールちゃん。行きますよ♪」

 

「いいね、ナンジャモ!

ここで私は先手を打たせてもらうわ!」

 

意気揚々と言い放ち、

イヴ氏は前線へと駆け出した。

 

それでもボクは。

 

「……あのさ、みんな。」 

 

「ん、どうしたナンジャモ。」

「ボクら、もっと大事なことを

忘れていると思うんだ。」

 

「奇遇だな。あたしもそう思ってた。」

「……ルカ氏。」

 

「あたしらはドームの人たちを

助けに来たはずだ。

キャンサーを

たくさん倒すためじゃない。」

 

「つまりは……勝つ事を目指さない?」

 

「うん。あたしはここのドームの

人たちを助けたい。

今はそのことにしか

情熱を向けられないから。

ナンジャモも、そうなんだろ?」

 

「その通りだよ。

ルカ氏は鋭いなぁ……」

 

「いやいや、

あたしもまだまだ半人前さ。

で、みんなはどうなんだ?」

 

「良いと思う。」

「可憐氏……」

 

「あたしたちが最優先すべきは、

ドームの人たちの命。」

 

「わたしもそれで構わない。

出世した方がお母さんの情報は

得やすくなるかもしれないけど、

それで大切なものを犠牲にしたくない。」

 

「私も異存ありません!!」

「そーだな。」

 

「みんな……ありがとう。

行こう。そして守ろう!

ボクらならやれる!!」

 

 

 

━━▶︎ DAY12 ???

 

新宿ドーム周辺を

左回りに進み、集団行動する

キャンサーを順調に殲滅した。

 

視認できる範囲でも

敵影はごっそり減っており、

きちんと戦闘した成果が目に見える。

 

その分、

こちらも消耗は避けられない。

 

息を乱したルカ氏が

状況確認へと動き出した。

 

「ふぅ……! ユッキー、残りは?」

「ビルの影に潜んでいるやつらを

倒せば終わりだ。」

「順調だな。」

 

「あーら、31Aのみなさんじゃない。」

 

狙ったかのようなタイミングで、

イヴ氏が歩み寄ってくる。

 

「よう、そっちはどうだ?」

 

「は、順調も順調よ!」

「ザコばかりで楽勝でゲスよ!」

 

グギュグバァッ!!!

 

奇怪な鳴き声が空気を震わせ、

地をも震わせる。

 

皆がその状況に戦慄し、

振動を強く感じた方へ顔を向ける。

 

「ん? あれは?」

「え?」

「そこのビルの上だ!」

 

そこには、

荒廃したビル群の中を

ズシズシと移動する

巨大な異形の姿があった。

 

先程の揺れを起こしたのは、

間違いなくあの異形だと

一同は確信し、息を呑む。

 

「なに……これ……」

「これが、DeathSlugだと言うの……」

「なんてでかさ……!!」

 

「ばかな……でかすぎるでしょ!」

「やばいでゲス!」

 

「まともにやったらひとたまりもない!

こいつは先輩部隊に任せましょ。

後退して迂回するよ!!」

「はいでゲス!」

 

「31A、あんたらも

のろのろしてると死ぬよ!!」

 

31Cの2人は

激しい危機感に駆られ撤退していく。

 

「あたしらも後退しよう……!」

 

「先輩っていつ来るのさ。

この距離じゃドームまですぐだよ。」

 

「あたしらだけで……行けるか?」

 

「ドームの人々の危機が

すぐそこに迫ってるのに、

ボクは撤退なんて選べない。」

 

「ナンジャモがこう言ってんだぞ!

みんなはどうさ!?」

 

「ふんっ! あんな図体が

デカいだけのナメクジ、

このエリート諜報員である

わたしの敵ではないわ。」

 

「いいでしょう!!」

「……ああ、付き合うぜ。」

「待っておったわァ!!」

 

「ナンジャモ、指示を頼む。」

 

「行くぞ、みんな!!」

 

一斉にトランスポートで、

DeathSlugの移動予測経路に

周り込み対峙する。

 

「グギュグバァッ!!!」

 

どうやら、目の前のボクらを

明確な獲物として判断したようだ。

 

「で、どうするよ隊長さん。」

 

「タマ氏とカレン氏は

可動域の小さそうな左右の後脚部に

それぞれ斬撃を与えてくれないかな。

そしたら姿勢を崩して

大技を打ち込める。

大技の指示は随時行うから……

作戦開始!!」

 

「はいっ!」

「ひゃっはぁ!!」

 

キィンっ!!

 

「グギャガガァッ!?」

 

姿勢を崩した。

大技を当てるなら今だ。

 

「畳み掛けるよ!

ユキ氏! 流星!!」

 

「任せろ! 

派手なのいくから、後は頼んだぜ!

……どうだッ!!」

 

流星の如き弾幕が雨のように

降り注ぎDeathSlugの外殻を

大きく損傷させる。

 

「グギァッ!」

 

「手応えあり!

つかさ氏、メメントモリ!!」

 

「やってみせるわ!

こんなのはどう? はいバーン!」

 

「ググギァッ!」

 

「カレン氏! ブラッディダンス!」

 

「ひゃっはァ!

切り刻ぁむ……

切り刻ぁむ切り刻ぁむ!

カレンちゃんでしたぁぁああ!!」

 

「ルカ氏、フィニッシュ頼んだ!!」

 

「おうよッ!

黒焦げにしてやるぜ……

結局切り刻むんだけどな!!」

 

キインッ!!

 

「グギャゴォォッ!!」

 

断末魔を上げ、異形は地に伏せた。

 

「やったか!?」

 

着地したルカ氏が言う。

しかし、何かが可笑しい。

 

「待て月歌! 様子が変だ!!」

 

ユキ氏が何を察し声を上げた瞬間。

地鳴らしが発生し、

風向きが異形に寄る。

 

「ぎぃぁぁああっ!?

立った! 立ち上がりましたぁ!!」

 

「嘘……だろ。

そんな事、あってたまるかよ。」

「万事休すってやつね。」

 

「ひひゃ……奴め。

呑気にビームを溜めておるぞい……」

「クソっ……あたしもカレンちゃんも

反動で動けねぇ!!」

 

「ナンジャモさん!

今ある私たちのデフレクタ残量では

到底あの光線を受けきれません!!」

 

「くっ……」

 

『代われ。小娘。』

 

「――ッ!?」

 

ボクは、いつの間にか座標に居た。

 

「そんなに驚いてどうした?

このままではお前……死ぬぞ。

そんな迷惑な真似、俺が許さん。」

 

「イッシキ氏、何でこんな時に!?」

 

「安心しろ。この座標に

時間という概念は存在せん。

お前はここで黙って見ていろ。」

 

「分かった。」

 

…………。

 

「ナンジャモ……さん?」

 

「全く……この程度のハエで

梃子摺るとはな。下らん。

解凍は12・7%程度か……充分だ。」

 

ズガガガガッ!!

 

「グギァッ!!」

 

「なんそれ!?

DeathSlugが黒くてデカイ棒の

串刺しになってますぅ!!」

 

「あの眼と男のような低い声……

本当にナンジャモなのか。」

 

「外野が一々煩いな。いい機会だ。

敵を斬る手本を見せてやる。」

 

ボクの身体を支配した

イッシキ氏が宙に浮いて、

セラフを片手で振り上げる。

 

「これが、斬るということだ。」

 

そして、振り下ろす。

 

ザンッ!!

 

刹那、凄まじい風圧が起こった。

 

「わお! ディスイズ真っ二つ!!」

 

DeathSlugの胴体が、

真っ二つに分断され。

瞬く間に白き柱へと姿を変えた。

 

「嘘だろ……

あのDeathSlugを

一瞬で両断しやがった。」

「それだけじゃねぇ月歌。

見ろ。数キロ先の道路まで

斬った跡が残ってやがる。」

 

「これが……ナンジャモさんの

真の力だとでも言うの?」

「ひゃっはァ! 肝が冷えるのォ!」

 

 

 



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13話・World's End Hourglass

 

━━▶︎ DAY12 17:30

 

あれから眠っていたらしく。

基地にヘリが到着した辺りで

目が覚めた。

 

否、タマ氏に起こされた。

 

戦果などを司令部に

報告しないといけないので、

司令室へと一同で入室した。

 

「さて、まずは初めての任務達成、

ご苦労様。初めてのミッション

としては素晴らしい出来よ。」

 

「…………。」

 

「あとは……無線でのやり取りを

聞いていたのだけど、Aを巡る勝負は

討伐数が多い方が

大加点としていたようね。」

 

「…………」

 

「そして31Cの討伐数のほうが

結果として多い。つまり31Cの大加点。

という事でいいのね?」

 

「あちゃー、負けちゃったかー。」

 

「……よくない。」

「あら、どうして?」

 

「どのような理由があれど、

私たちの任務は

この世界を守ること……。」

「そうね。」

 

「今回の戦い、この私は

そのことを見失っていた。

31Aに負けたくない……

その一心で戦闘をこなしていた。」

 

どうやら、

ボクの寝てる間に

何かあったらみたいだ。

 

イヴ氏を改心させられる人なんて、

同じ31Aの仲間でも、

結構限られてる。

 

「ルカ氏、なんかした?」

「あ、あたしは何もしてねーぜ?

な? ユッキー。」

 

「あからさまな態度やめろよ。」

「濃厚確定バレバレですね!」

 

騒つく31Aを無視して、

イヴ氏は言葉を続ける。

 

「でもそれじゃ守りたいものも

守れないってことを痛感した……。」

 

「多くの人みな、自分と

自分の周りの幸福を守るだけで

手一杯になってしまうわ。

けれど、セラフ部隊にはより高い

要求が課される。」

 

「…………。」

 

「自分を守り、仲間を守り、

そして世界を守る。それが

あなた達の使命なのよ。」

 

「私が未熟でした。

……この勝負、私たちの負けです。」

「おめでとうございます♪

あなた達が31Aです♪」

 

「やったーーー!!」

「すげー喜ぶな……

どれだけAがよかったんだよ……。」

 

「負けてしまいましたかー♪」

 

 

 

━━▶︎ DAY12 ???

 

報告を終え、一同共々

部屋で休息をとっていた。

暫くして、寮部屋にノックがきた。

 

ルカ氏がその音に

いち早く気がつき、扉を開ける。

 

扉の前で待っていたのは、

31Cの隊員でありながら、

ショップの店員も兼任している少女。

 

佐月マリ……マリ氏だった。

 

名簿の確認中、様々な特技を

有してる事に目を付け。

 

一応役者の候補として

考えていたが、

彼女の多忙さを加味して

リストからは除外していた。

 

そんな彼女が、何の用だろうか。

 

「こんばんはー♪

本日はお疲れ様でした♪」

 

「ん? どうした? 何かあった?」

 

「実はぶんちゃんのことで

話があります。」

 

「あれ? 

やけに真剣な表情だな。」

「真剣な話ですから。」

 

真剣な顔になったマリ氏は、

少し苦しさの交じった声で

お願いをした。

 

「出来れば皆さん、私たちの

部屋までお越し頂きたいのです。」

 

「みんなで?」

「行くしかないだろ……。」

 

「うん……。」

「はい!」

 

「わかった。じゃあ行こう。」

 

………………。

 

……。

 

伏目がちにマリ氏は進み、

2分ほどして31Cの寮部屋へと着く。

 

「どうぞ。」

 

部屋の中では、哀愁を漂わせ、

ただ俯きに直立する

イヴ氏の姿があった。

 

その視線の先では、

弥生氏が気持ち良さそうに

寝息を立てている。

 

「ぶんちゃんの記憶が

これから消えます。」

 

「え!? なんで!?」

 

「周期的に訪れるものなんです。」

「それはどのくらいの

記憶が消えるんだ……!?」

 

「ここにやってくるまで。」

 

「じゃああたしらと

出会ったことも、戦ったことも……

映画撮影で競ってることも?」

 

「はい。

新しい記憶は更新されません。

忘れてしまいます。」

 

ユキ氏が納得したように、

口を開く。

 

「だからだったのか……。」

「え? ユッキー、何が……?」

 

「あたしとコイツ、毎回のように

同じやり取りを繰り返していたろ……。」

 

ここの数日を頭の中で

振り返ってみると、確かにそうだった。

 

「毎回記憶を失っていたから、

コイツにとっては

毎回初めてだったんだ……。」

 

「そんな……。」

 

「だからぶんちゃんは今も、

ごっこ遊びの途中なんです。」

「ごっこ遊び……?」

 

「マッドサイエンティストごっこです。」

 

「もしかして、山脇が言ってた

世界を滅ぼすってやつか……?」

 

「はい。ふたりは幼馴染でした。

幼い頃に始めた

マッドサイエンティストごっこが

今も続いているんです。

遊んでいる途中にキャンサーに

襲われた日から……。」

 

「…………。」

 

「一命は取り留めましたが

記憶障害が残ってしまい、

深い眠りにつくたび

記憶を無くすようになった……。

目覚めるたびに、

イヴァールちゃんの僕でいるんです。」

 

終わらない、終わる世界。

その惨状を嫌でも

見せつけられる彼女ら31C。

 

きっと、途轍もなく苦しい。

でも……何も言えない。

 

「イヴァールちゃんは

成長していくのに、

もう遊びなんて辞めたいのに、

目覚めるたびにぶんちゃんは

イヴァールちゃんの僕なんです。」

 

まるでそれじゃ、

生きた砂時計みたいじゃないか。

 

「今日はどうやって

世界を滅ぼすでゲスか、けっひっひ。

と、ぶんちゃんは

無邪気に笑うのです。」

 

「そんな……

だからワッキー、

あんなこと言ってたのか……。」

「悲しすぎます……。」

 

「私たちが勝ちたかったのは、

司令官に認められたかった

からだけじゃない……。」

 

「それって……」

 

「ええ。もっと先を見ていたのです。

昇進を続けて、

キャンサーと戦う技術力を

生み出した科学者たちに、

直接訴えかけたかったんです。

――ぶんちゃんを

治してくれませんか、と。」

 

「…………」

 

「もう、ごっこ遊びを

終わらせてあげませんか、と。」

 

「だったらAを譲るよ!」

 

「いいえ。間違いなく、

あなた達の方が私たちより強いです。

だから、昇進した暁には、

それを科学者に伝えてほしいのです。

私たちの代わりに……。

ナンジャモさん、

それに31Aのみなさん……

お願いできますか。」

 

「分かった。

ボクらが伝えてみせるよ。」

 

「……ありがとうございます。」

 

 

 

━━▶︎ DAY12 18:15

 

31Cの真の目的を知り、

ボクら31Aは

彼女たちの寮部屋から立ち去った。

 

部屋の外からも聞こえる

イヴ氏の号泣に、目を伏せて。

 

そうして廊下を歩く中、

エントランスで手塚氏が

待ち構えていた。

 

「茅森さん、ちょっといいかしら。

バンド関連の

主導者はあなたでしょう?」

 

「ん? なに?」

 

「31Aにライブ開催を命じます。

作戦が終わった直後で悪いけど、

もうひと頑張り

してくれないかしら?」

 

「え、急になんで……?」

 

「司令部は、キャンサーに襲撃された

新宿ドームを始め、

不安を抱えるドーム住民を

慰撫するべく施策したのよ。」

 

「いぶ……? せさく……?」

 

「要は、心のケアよ。

あなた達の音楽なら、

それが可能だと判断したの。」

 

「え……そんなことが……。」

 

「やるの? やらないの?」

「やる! 

そんなのぜってーやります!」

 

「そう。助かるわ。

準備含めて頼んだわよ。」

 

………………。

 

…………。

 

「という訳で、ライブを

やることになったんだけど……

みんな……演れる?」

 

「演るよ。ボクは、

少しでも民間人の気持ちを

楽にしてあげたいからね。」

「ナンジャモ!」

 

「もちろん、お付き合いします!!」

「おタマさん!」

 

「緊張するけど、頑張る……!」

「かれりんも!」

 

「わたしも力を貸すわ。」

「つかさっち!

じゃ、早速準備しよーぜ!」

 

「あたしが答えてねーわ。」

 

「え……? 演らないの?」

「……やるに決まってんだろ。」

 

「よっし、ドームの人たちに

向けて、初ライブだ!」

 

………………。

 

……。

 

ライブに備え。

 

カフェテリアで

準備をあらかた終えた頃。

ふと周囲を見ると、

想像以上の人集りが出来ていた。

 

ルカ氏も、思わずリアクションする。

 

「あれ? 告知でもしてくれた

かのように人が集まってる!」

 

「しかもドローン撮影で

日本中に生で中継されるからな。」

 

「凄くドキドキする……

口から心臓が飛び出そう……。」

「はー……わたしも落ち着かないと。」

 

「バシッと決めよう。タマ氏……!」

「はいっ!!」

 

「じゃ、行こう。開演だ!

聴いてくれ!

――『Burn My Soul』!」

 

 

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

皆様、こんなカオスな作品に
13話(一章完結)まで付き合って
下さりありがとうございます。

楽しんで貰えたなら、
毎日駆け抜けた甲斐があります。

突然ですが、
モチベがあまりよろしくない&区切りがいいので
これからは不定期更新にしようと思います。

シネマバトルも今後続きます。
ではまたいつか、何かの拍子に
お会いしましょう。

よろしくお願いします。



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二章『〜水の底、蒼星の墓標〜』
14話・ビャッコを追って


 

━━▶︎ DAY1 5:30

 

「なあユッキー、

今日は何の日でしょう?」

 

「え……? 

なんかの日だったか……?」

 

「えー、覚えてないのー?」

「まさか、お前の誕生日……とか?」

「ぶーーー!」

 

「じゃ、なんだよ……?」

「答えはな、週に一度のお休みさ。」

 

「知ってるよ。

なんで知らねーと思ったんだ。

くそ……

そんな下らない知らせの為に

なぜ起こされなきゃ

ならないんだ……

頼むからもう

少し寝させてくれよ。」

 

寝起き早々不機嫌にされ、

ユキ氏が再び瞼を

落とそうとしたその時。

 

『セラフ第31A部隊、

直ちに教室に集合!』

 

「また急な呼び出しね。」

「なんだろう?」

 

「……いい予感がする。よし行こう。」

「相変わらずポジティブな奴だな……。」

 

 

 

━━▶︎ DAY1 8:30

 

――クラスルーム。

 

「作戦行動が発令されたわ。」

 

「ほーほー。」

「茅森さん。

まだ寝ぼけてるのかしら?」

「いえ! シャッキり起きております!」

 

「……そう。」

「ビビリかよ。」

 

「作戦の決行は22日後。

これからその内容を説明します。

作戦名は、

『オペレーション・プレアデス』。」

 

言って。

手塚氏はリモコンを使い

ホワイトボードにマップを投影する。

 

「神奈川県南西にある、

旧国道246号沿いの秦野盆地に

巣くうキャンサーを排除し、

箱根の入り口となる拠点までを

人類側に奪還する。」

 

「ほーほー。」

「おい月歌、そろそろ

真面目になった方がいいと思うぞ。」

 

「あなた達を含めて、

総計7つの部隊が参加するから

大規模な作戦になるわ。」

 

「一丸となって達成すべし……

ですね! ほーほー!」

「ほら見ろ、國見にまで

伝染してんじゃねーか。」

 

「切り込み隊であるあなた達には、

先陣を切って盆地へ突撃し、

密集したキャンサーを

掃討してもらいます。」

 

「サラッと言われたけど、

死んでもおかしくない内容ね!

ほーほー!」

「最悪だ。

東城までも伝染しやがった。」

 

「あなた達が中心となって

キャンサーを一掃した後。

別の部隊が橋頭堡の資材を

運搬し設営を行う。

橋頭堡が完成したら、

盆地に残るキャンサーを

排除して作戦は終了よ。」

 

「きょうとうほってなんだ……?」

「防御の拠点だろ。」

 

「当然、その間にもキャンサーの

増援は来るだろうけど、

あなた達は周辺を

守ることだけに集中して。」

 

「防衛戦もあるのか……ひゃひゃっ。

ワシの性分には合わんが、

付き合ってやっても構わん……」

「なんでお前は

上から目線なんだよ……。」

 

「この作戦が成功するかどうかは、

あなた達にかかってるというわけ。

その辺りを踏まえて、

作戦に臨んでちょうだい。

他に何か質問はある?」

 

「あのー、映画の件って

どうなるんですか?」

 

「おっと、

そう言えばまだ途中だったわね。

ナンジャモさん、

良い質問をありがとう。

部隊名をかけた競争に

決着がついたとはいえ、この件を

うやむやにするのは筋が通らない。」

 

「ということは……?」

 

「この部屋で少し

待ってくれないかしら。

七瀬。至急で

山脇さんとキャロルさんを

呼び出してちょうだい。」

 

「はい。」

 

バンっ!!

 

「その必要は無いわッ!」

「無いでゲス!」

 

待ち伏せていたのか。

 

完璧なタイミングで

イヴ氏と弥生氏が

扉を開き姿を現した。

 

「あら、盗み聞きとは良い度胸じゃない。」

「違うわ司令官、

私たちは偶然通りがかっただけよ!」

「そうでゲス!」

 

「……そう。」

 

納得したように頷き、

手塚氏が帽子を整えた。

 

「いや、どう考えても

スタンバってないと無理な登場だろ。」

 

「それで、31Aの作戦会議中に

何の用かしら。」

 

「確かに私たち31Cは、

部隊名を巡る競争で白旗を上げ、

その立場を譲ってあげたわ。

しかし、この勝負を

降りる気は毛頭ない!」

「けっひっひ!」

 

「続けたいと言うことかしら。」

 

「勿論よ!

戦闘力だけじゃ31Aは

成り立たないって事、

身をもって教えてやるんだからねぇ!」

 

「と、言っているようだけど。

ナンジャモさんは続ける?」

 

「続ける……ボクは続けたい。

この競争は、ボク自身が

隊長として成長する為にも、

必要な事だと思うんだ。」

 

「流石私たちのライバルね!

よく分かってるじゃない!

ボッコボコにしてやるから、

楽しみにしておきなよ!

……ふっふっふ。」

「けっひっひ!」

 

勝負を続行できることが

よほど嬉しいのか。

2人は高笑いしながら

その場を去っていった。

 

「さて。明日から作戦に向けての

訓練を始めます。

訓練は31Bと共に行います。」

 

映画の件は続行という形で

平然と流され、

手塚氏は言葉を続ける。

 

「部隊長の蒼井さんは、

あなた達より

沢山の知識を持っているわ。

見習うべきことがあるでしょう。

切磋琢磨に臨みなさい。」

 

「このあたしが、

彼女に身体的に劣ると?」

「月歌さんは

人気アーティストだったんですよ!?」

 

「関係あるか。しかもお前ら

31Cの山脇と豊後の行動を

トレースしてるからな。

またデジャヴを感じたわ。」

 

「では解散。」

 

 

 

━━▶︎ DAY1 13:10

 

「そろそろランチの時間ですね!

ナンジャモさん! 

一緒に行きませんか!」

 

「うん。そうだね。」

 

みんな外に出歩いてるし、

むしろボク達のランチタイムが

少し遅いくらいだ。

 

ボクはタマ氏と

学舎を出ることにした。

 

外に出て早々。

白き巨体が道を駆けて行った。

 

(あれは……ビャッコ氏?

あんなに急いでどうしたんだろう。)

 

「ビャッコさん、何か急いでますね。

追ってみますか?」

「……追ってみよう。」

 

気になって、ビャッコ氏を追ってみる。

 

追って数十秒後、

可憐氏が此方へ駆け寄ってくる。

 

「ナンジャモさん……!

今、虎が前を通り過ぎて行ったの……!

なんだろう、あれ。確かめたい……!」

 

自販機まで走った辺りで、

ルカ氏と合流した。

 

「なんかモフッとした奴いたな。

ナンジャモ達もあれ追ってんの?

なぁなぁ、

あたしも混ぜておくれよ。」

 

ルカ氏もついてくる事になった。

最終的にジムに到着し、

ジムの入り口付近では

ユキ氏が冷や汗を垂らしていた。

 

「おいおい、一体なんだよ今の?

くそでけぇ生き物が

中に入っていったぞ……。」

 

「取り敢えず、何に入って

確かめたりましょう……!!」

 

謎の緊張感に包まれながら、

一同でジムへと入った。

 

「ヴァウ!!」

 

「こんにちはビャッコさん!」

 

「見つけたはいいが……」

「どうしてこんなところに

居るんだろう……?」

 

「え、飼ってるの……?

野放しになっているのだけど……?」

「襲うことがないから

ああやって野放しなんだろ。」

 

「じゃ、ユッキー行ってよ。」

「なんでだよ……

隊長が率先していけよ。」

 

「え? ボク。別にいいけど……」

 

「ナンジャモさんには

楔があるし、余裕でしょ。

諜報員である

このわたしが保証するわ。」

 

「楔ってセラフに触れずに

発動出来んのか……?」

 

ビャッコを前に戸惑う一同。

それを気にしてか、

一人の少女が歩み寄って来た。

 

「その子はビャッコです。」

 

「おっと、図らずもターゲットに

辿り着いちまったようだぜ。」

 

「あなた方は?」

 

「31Aだ。ちなみにあたしが

隊長じゃなくて、

そこの身の丈に合わない

クソデカ黄色コートを

制服の上に着てんのが

うちの部隊長な。」

 

雑にルカ氏が指をさし説明した。

 

「ボクは31A部隊の隊長をしてる

ナンジャモっていうんだ。

よ……よろしくね。

コートは戦う時……一応脱ぐよ。」

 

「月歌……言い方ってもんが

あんだろ。少しショック

受けてんじゃねーか。」

 

「数十万GPした

オーダーメイドのコートですもんね!」

「國見、

お前まで煽ってどうすんだよ。

後でちゃんと謝れよお前ら……。」

 

「やっぱり、

あの切り込み隊に任命された……!」

 

「おいおい、そんな騒ぐなよ。

人が集まってくるだろう?」

「どんなスター気取りだ。」

 

「あの、挨拶して良いですか?」

「もちろん。」

 

「私は31B部隊長の蒼井えりかです!

明日から作戦の訓練一緒ですね!

頑張りましょう!」

 

ルカ氏が、頬を緩ませながら

蒼井えりか……えりか氏を見る。

 

「いやぁ、可愛いなぁ……

ふたり31Aに来ない?」

「31Bが困るだろ……。」

 

「でも、白い虎の名前が

ビャッコってそのまま過ぎない?」

 

「カタカナでビャッコだから、

いいんです。」

 

「意外に大人しい。」

「これでもセラフ部隊の

一員ですから。」

 

「「え、この虎が!?」」

 

ルカ氏とユキ氏が同時に驚愕した。

 

「やべぇ、月歌とハモっちまった。

……不覚だ……。」

 

「はい。私よりも古く、

先輩にあたる存在ですよ。」

 

「まさか、セラフも呼べるのか……?」

「はい。」

「すげーな……。」

 

ビャッコがセラフを

呼び出せるなんて、

ボクも知らなかった。

 

「そいつは大変な目に

遭ってるんだろうな。

おー、よしよしよし。」

 

「ヴァゥゥゥゥ……。」

「ビャッコが、

こんなにすぐ懐いた!?」

 

「人懐っこい性格じゃなかったのか。」

「人懐っこい性格ですが、

人見知りなんです。」

 

「ヴァウゥゥ……。」

 

「よーし、ビャッコとも

仲良くなれたことだし、

改めて訊きたいことがあるんだ。」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

お久しぶりです。
張り切って章のタイトルとか考えてみました。

二章以降は、ヘブバンのイベスト
混ぜたり、ヤバすぎる原作改変が
勃発しますが、よろしくお願いします。


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15話・小道具で差をつけろ!

 

「この軍、何か隠してると思わないか?」

 

ルカ氏が、間髪入れず

直球の質問を投げた。

 

いきなりそんな事を訊かれたら、

混乱するのも当然だった。

 

「え、いきなり何ですか?

どうしてそんな疑問を?」

 

「だって、いきなり

セラフィムコード唱えて

セラフ呼んでキャンサーと戦って

パージしろだなんて、

謎が多過ぎるじゃん。」

「パージしろ、とは言われてないだろ。」

 

「それは科学者たちの

叡智の結晶ですから、私たちが

理解できないのも無理ないかと。」

 

「そうなのユッキー?」

「まーな。四次元以上の多次元が

存在するなんて思っても

見なかったからな。」

 

座標とかも、実際に行かなきゃ

あるなんて分からなかった。

 

「つまり、ユッキーより

科学者たちの方が優秀ってこと?」

「そうだろうし、

そもそも分野が違うわ。」

 

「…………。」

「あたしはあくまでも

プログラム専門だよ。多次元や

宇宙の分野で敵うわけねーだろ。」

 

「そっか。じゃ、

記憶の方を確かめてみよう。」

 

「ちゃんと記憶は地続きか?

途中でなくなったりしてないか?」

「私は……ちゃんとあります。」

 

ん、今えりか氏。

一瞬だけど暗い顔つきに

ならなかったか……?

 

彼女の過去に、一体何が……

いや、きっと聞かない方がいい。

 

「そっか。ならいいんだけど。」

「もう話は終わり、でいいですか。」

「そうだな……。」

 

「では、トレーニングに戻りますね。」

 

「最後に一つ、同期として明日から

共に訓練に励む者として

助言しておこう……」

 

「……?」

 

「一緒に頑張ろうな!」

「はい!」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY1 14:10

 

ジムで解散したボクら31A。

 

その後はタマ氏とランチをし、

デンタルケアののち、

映画メンバーと

ナービィ広場で待ち合わせた。

 

「ハーイMs.ナンジャモ!

Good after noon!」

 

元気溌剌で、

キャロル氏が迎えてくれた。

 

その横には、なぜか新しい人が

増えていた。

 

「ま、待ってキャロル氏。

横にいるマフラーした人はだれ?」

 

「oh! 紹介が遅れたわね!

……自己紹介頼めるかしら。」

 

「了解だよ!」

 

自己紹介を促されたマフラー少女は、

戦隊モノのヒーローのような

構えを取り、口を開いた。

 

「ボクは松岡チロル!

プロのスタントウーマンさ!」

 

「なぜ、そんな人が……」

 

「31CにWinしたいなら、

現場の経験者から話を聞いた方が

有利だと思わない?」

 

「確かに有利っちゃ有利だけど……

それじゃフェアじゃないよ。」

 

「安心して、ボクはどちらともの

味方だよ。みんなを輝かせるのが

大好きだからね!」

 

「じゃあ、話してくれるって事?」

 

「いいや、ボクは話さない。

自分の主観で完成させた

作品にこそ価値があるからね。」

 

「Oh! NO!」

 

「キャロル、作戦大失敗してるにゃ。」

「ま、そう都合よく事が進むなんて

拙者らも思ってないでゴザル。」

 

「では、どうして来たんですの?」

 

「良い質問だね。菅原さん。

ボクは両チームの動画編集を

手伝うことにしたんだ。

君たちの映画がより映えるモノに

なるよう、尽力するよ!」

 

「Thank you Ms.マツオカ!」

 

「此方こそだよ。

いい画が撮れたら

ボクにどんどん提供してくれ。

それじゃ!!」

 

チロル氏は高く飛び上がり

去っていった。

 

「拙者よりニンジャしてるでゴザル。」

「ヴァウゥゥ……。」

「ビャッコがそれなって言ってるにゃ。」

 

「それではナンジャモさん!

今日はどんな事をしましょう……!!」

 

▶︎演技練習

▶︎撮影場所選び

▶︎小道具作り

 

「小道具作りしよう。」

 

「いいですね!

ディスイズ小道具作り!!」

 

「小道具作り……

確かに、ナンジャモさんの仰る通り。

ポケモンという生き物の

再現性を向上させる為には、

必要不可欠かもしれませんわね。」

 

「そもそも、拙者らは

どんなポケモンを演じるので

ゴザろうか?」

 

「確かに!?」

 

タマ氏がハッと驚いた。

 

まぁ、その辺伝えるのを蔑ろに

していたボクにも責任はある。

 

「ですわね。

ナンジャモさん、改めて

あたくし達がどんなポケモンを

演じるのか教えてくれないかしら。」

 

「じゃあ、時計回りで伝えるよ。

まずはすもも氏から。

……すもも氏はニャオハって

ポケモンを演じてほしい。」

 

「ニャオハ……?

なんだか猫っぽい響きだにゃ。」

「うん。ネコ科のポケモンだからね。」

「すもも、イメージで

安易に決められてないかにゃ?」

 

「そっ、そんな事ないよ!?

次はビャッコ!」

「ヴァウゥゥウ!」

 

「ビャッコはザングース役だよ。」

「ヴァウゥゥウウ!」

「ビャッコ、ノリノリだにゃ。

というか、ザングースって何にゃ?」

 

「白くてモフモフしたポケモンだよ。」

「なら……OKだにゃ。」

 

「次は神崎氏。

神崎氏はゲッコウガって

ポケモンを演じて欲しい。」

 

「ゲッコウガ……でゴザルか?」

「うん。手裏剣を投げたり、

分身したりする忍者みたいな

ポケモンなんだ。

神崎氏のイメージにピッタリでしょ。」

 

「いいでゴザルな……ゲッコウガ。

拙者の手裏剣術でとことん

目立ってやるでごじゃるぅ……ひひ。」

 

「これで勝つる……!」

「やってやるにゃ。」

「ヴァウッ!」

 

「参るでゴザルか!」

「Here we go!!」

 

「何であたくしは

スルーされてますのッ!!」

 

「ごめんちえ氏。

ちょっと配役を考えてて……

でも、今決まったよ。」

 

「さて……あたくしは

どんなポケモンかしらね。」

「サーナイトというポケモンを

演じて欲しい。」

 

「サーナイト……

リッチな響きですわね。

きっとあたくしのように

華麗でお淑やかなポケモンに

違いありませんわ……。」

 

本人の気質は真逆の格闘タイプな

気がするけど、言うと

また不機嫌になりそうなので

黙っておこう。

 

「OK! じゃあアタシは

正義のトレーナー役。

ナンジャモは

ライバルトレーナーって訳ね!」

 

「その通り。

で、小道具作りの話なんだけど、

ボクもどこから手をつけて

いいか分からないんだよね。

ポケモンは

それぞれの特徴が多いから……」

 

「あのー、ナンジャモさん。

ポケモンというのは、

人間と同じ顔を

してるのでしょうか……?」

 

「人間と同じ顔をしてる

ポケモンは、ボク自身聞いた事ないね。

いい質問ありがとう。タマ氏。」

 

「成る程……では、

お面で再現出来そうでゴザルな!」

「でも、そのクオリティのお面を

作れる人がこの中に居るのかにゃ?」

 

「居ませんね!!」

 

「ちょっ、タマ氏!

諦めが早いって!?」

 

何か心当たりがあるのか、

ちえ氏が挙手をした。

 

「ええ。このメンバーの中には

居ませんが、質の高いお面作りを

する人には、心当たりがありますわ。

ただ、善意で乗ってくれるか

どうかが課題点ですわね……。」

 

「……ちえ氏、それは一体。」

 

「――桐生・美也。

あたくしと同じ

セラフ部隊30G所属の仲間ですわ。

彼女は何より日本文化を愛している。

よく定期的に

お面を作り直す姿も見ますわ。」

 

「居るならさっさと言ってくれにゃ!」

「ヴァウゥッ!」

「………………。」

 

ちえ氏が、渋々とした表情になる。

 

「居るには居るけど、

訳ありって事でゴザルか?」

 

「ええ。神崎さんの推測通り、

彼女は一筋縄でいけるような

相手じゃありませんの。

最悪、あたくし達全員が

『入会』させられますわ。」

 

「入会……?」

 

「彼女は日本文化をこよなく愛する

愛国心の権化。

そして彼女は、その愛を共有する

仲間を求めている。

あたくし達が少しでも

ミスをしたら、即仲間入りですわ。」

 

「Oh! もしそうなったら

どうなるのかしら!」

 

「日本文化が嫌いになるレベルで

振り回されますわ。

そうですね。あたくしの隊員で

剣術に優れた方が居たのですけど、

訳あって約1週間入会したんです。

そして退会した後、

1週間くらいキャロルさんの

ような人になりましたわ。」

 

「どういう事にゃ?」

 

「まず、服装が

キャロルさんのようになり、

次に、英語しか話さなくなる。

そして、麺類とパン類しか

食せない身体になりますわ。」

 

「ぎぃぇぇええっ!

そんなの怖すぎますぅぅうう!!」

 

「ナンジャモさん。

そのリスクを承知の上で、

桐生さんを呼びますか。」

 

正に、

ハイリスクハイリターンの大博打。

 

しかし、あそこまで奮闘してる

31Cに対し、生半可な映画で

挑むのは失礼だ。

 

ボクらも、その全力に応えて、

全力で勝負に臨むべきだ。

 

「頼む。ちえ氏。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

なんか筆のはやさ的に、
月曜、金曜更新がちょうど良さそうです。
その日に出せなかったら、
多分体調崩してます。

よろしくお願いします。


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16話・桐生美也

 

━━▶︎ DAY1 14:20

 

スタスタと、

妖艶なオーラに満ちたターゲットが、

こちらへと歩み寄ってくる。

 

「この人が……」

 

「来ましたわね。桐生さん。」

 

狐の面を外し、彼女……

美也氏は応答した。

 

「菅原さん。

わたくしをいきなり呼びつけて

何の用でしょう?」

 

不思議そうな表情で、

呼ばれた当人が首を傾げる。

 

何の説明もないで呼び出されたら、

流石に無理もない。

 

「あたくし達、映画を

撮影する事になりましたの。」

 

「成る程、菅原さんが

個性的な集まりに

時間を費やしているのは

その為でしたか。」

 

「それで、桐生さんには

頼みたい事がありますの。

あたくし達は今、より質の良い

作品を創り上げる為、

仮面という小道具に目をつけましたわ。」

 

「ほう……。わたくしが

仮面作りの玄人であると推測し、

協力を仰ぎたいという事ですね。」

 

ちえ氏は頷いた。

 

「当然、貴女が無償で協力して

くれるような人でない事は

存じておりますわ。

条件の提示は桐生さんの自由です。

どうなさいますの?」

 

「条件……そうですね。

では独楽まわしで勝負致しましょうか。」

 

「独楽まわしですか?

桐生さんにしては、

えらくシンプルな競技ですわね。」

 

「ええ。そうでないとあなた達に

勝ち筋がなくなりますので。

二階堂さんや白河さんならともかく……

わたくしに対し、弓道や

国産テーブルゲームで挑みたいですか。」

 

「確かに、他競技で挑むには

酷が過ぎますわね。」

 

「分かっていただいて何よりです。

勝負の内容は至ってシンプル。

用意されたフィールドに

お互いの独楽を回し入れる。

最後にフィールド上を

回っていた独楽の持ち主が

勝利です。試合は計3回まで。」

 

「ナンジャモさん。

この勝負……乗りますか。」

 

決まってる。

 

「乗るよ……他の道はない。」

 

「独楽回し。それは遥か昔の日本から

現代に至るまで、老若男女問わず

親しまれている『和』の象徴遊戯。

自らで手掛けた独楽を、

どの座標に回し落とし、

相手の独楽を如何様に崩すのか。

一見シンプルに

見えるかもしれませんが、

そこには廻す者同士の

拘りが衝突し合っている事を

忘れてはなりません。

考えれば考える程奥深い……

その奥ゆかしさが、

多くの人を魅了するのかも

しれませんね。」

 

「ぎぃぇえええっ!!

長い長い長ぁぁーーーい!!

司令官でももう少し区切り

つけて話しますぅーー!!」

 

「……はて?」

 

当の美也氏は、疑問符を浮かべていた。

 

「落ち着きなさい國見さん。

これが桐生さんの『いつも』ですの。

彼女に日本文化の1コンテンツを

語らせたら一週間でも足りませんわ。」

 

「で、いつ勝負を始めるのにゃ?」

 

「もちろん、すぐにでも

始められるよう手配しておきました。

佐月さんと『大島屋』に。」

 

ガラガラガラガラ……

 

ベストなタイミングで、

移動式店舗が

ナービィ広場にやってきた。

 

「桐生さん! お買い上げありがとう!」

 

「おい人質役、なに撮影サボって

のうのうと商売やってるにゃ。

映画なめてるのかにゃ?」

 

ムーア氏に間髪入れず、

すもも氏が殺意剥き出しに

銃口を向ける。

 

……が、対する方は

一切物怖じしていない。

それどころか。

 

「はぁ……はぁ♡

見てよ一千子姉ぇ、

あたし銃口向けられてるよぉ♡

これからどうなるのかなぁ……♡」

 

恍惚とした表情で、

その先を待っていた。

 

「六宇亜! カムバーック!!」

「……え? どうしたの五十鈴姉ぇ。」

「死にかけてたんだよッ!?」

 

「見ての通り、わたくしは

この時の為に備え、買い物を事前に

済ませておいたのです。」

 

どうしよ。

情報量が多すぎて頭に入ってこない。

 

「佐月さん、ステージのセットを。」

「任せやがれ♪」

 

手際良くマリ氏がステージを

組み立てていく。

最早、数十秒でそれは完成していた。

 

「これが、決戦の地でゴザルか……。」

「ワンダホー!!」

「That's great!!」

 

「中々の出来栄えにゃ。」

「ヴァウ!!」

 

「資材設置と設営費は

税込み6600GPです♪ 払いやがれ♪」

 

「大島屋特製独楽2点と、

独楽紐2点で税込み4400GPだよ!」

 

「はい。皆様

ご用意ありがとうございます。

GP Payで支払いますね。」

 

ピピっ!

 

「毎度ありです♪」

「こっちも、毎度ありだよっ!」

 

電子軍人手帳越しに

電子決済を済ませ、

美也氏がこちらに向き直る。

 

その手には、独楽と独楽紐が

握られていた。

 

「さぁ、誰がわたくしに挑みますか?」

 

「ボクが挑む。」

「ほう。31A部隊長の

ナンジャモさんですか。

相手にとって不足なしですね。」

 

嬉しそうに、美也氏が

ボクに独楽と独楽紐を手渡した。

 

そして紐は、すでに巻かれていた。

 

「……ッ!?」

 

「そんなに驚いてどうかしましたか。

あなた達では綺麗に巻けないだろうと

思い、サービスしたまでですよ。

回し方は簡単です。

一番外側に伸びてる紐を起点にし、

引っ張るように独楽を

回し降ろすんです。こんな風に。」

 

シュッ!! クルクルクル……。

 

「おお……! 回ってます!」

 

「國見さん。感激にはまだ早いですよ。

これは準備段階に過ぎないのですから。」

 

サッ。

 

言って。サッと廻る独楽を回収した。

 

「どうしたんですか。

試し打ちくらいしといた方が

良いですよ……ナンジャモさん。」

 

「うん。」

 

シュッ……クルクル。

サッ。

 

「良い感じです。

さ、もう一回試し打ちどうぞ。」

 

「うん。」

 

シュッ……クルクルクル。

 

サッ。

 

「どうです? 

独楽の回し方掴めましたか。」

「ありがとう美也氏。

ボク、戦える気がしてきたよ。」

 

「良い心意義です。

では準備体操はここまでにして、

本勝負と行きましょうか。」

 

「そうだね。」

 

楔のある手に、力を込める。

 

「おや、その黒いアザは……」

 

美也氏がポツリと驚いた。

 

「ようやくこっちの『使い方』も

分かってきてね。

使える手はとことん使うよ。」

 

「それが噂に聞く『楔』ですか。

セラフに触れずとも

使えるなんて、初耳です。

何とも禍々しい力ですね。」

 

「悪く思わないでほしい。

ボクにも負けられない勝負って

モノがあるんだ。」

 

「キタコレ! ナンジャモさんの

楔があれば怖いものナシです!」

 

「さて、それはどうでしょう。」

 

不敵に笑い、美也氏は構えた。

 

「キャロルさん、

進行をお願い出来ますか。」

 

「OKよMs.桐生サン!

アタシがチョベリグな進行を

決めてみせるわ!」

 

「ふっ、どうなるか見ものだにゃ……」

「ヴァウッ!」

 

「3……2……1……GO Shoot!!」

 

「それベ●ブレードの掛け声ですぅ!!」

 

2つの独楽が、ステージに降り立つ。

 

互いの独楽は数秒対峙し、

同時に間合いを詰め抜刀する

侍の如く、剣を交える。

 

火花を散らす剣戟、いや。

衝突は激しさを増し、

ステージ上を素早く駆け回る。

 

キィン! キィン!!

クルクル……クルクル…………キィィン!

 

一同が、ステージ上を舞う

その死闘を見守る。

一音一音重くなる金属音。

 

決着はもう、すぐそこに迫っていた。

 

ガッキィィン!

 

一つの独楽が場外に押し出された。

 

「――なッ!?」

「勝負アリですね。

ナンジャモさん。」

 

穏やかな口調で、

美也氏は勝敗結果を伝えた。

 

「そんな……ナンジャモさんの

楔を持ってしても敵わないなんて。」

 

「そう落ち込む

必要はありませんよ國見さん。

彼女の楔の力は確かなものでした。

正直なところ、

わたくし自身も白熱しましたよ。」

 

「ホントかにゃ?」

「ヴァウ!」

 

「佐月さん、例の独楽を。」

「どうぞ♪」

 

ニッコリとして、

マリ氏が独楽を美也氏に手渡した。

 

そしてその独楽をボクらに

見せつける。

 

「独楽の軸をよく見てください。」

 

「こっ……これはッ!?」

 

タマ氏が驚くと同時、

ボクもその違和感に気がついた。

 

そう。

独楽の軸が『欠けて』いたのだ。

 

「確かに楔の力は凄まじいものです。

ですが、大き過ぎる力は

時として己への破滅をもたらします。

それを理解した上で、

もう一度わたくしと

お手合わせしますか?」

 

 




どうも、たかしクランベリーです。

ええ、昨日の生放送。最高でした。

前にも言いましたが、
次回以降はマジで
ヤベェ原作改変のオンパレードです。

もうノリと勢いが暴走して、
とどまる事を知りませんわね状態です。
よろしくお願いします。


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17話・大島屋同盟

 

━━▶︎ DAY1 14:50

 

「確かに楔の力は凄まじいものです。

ですが、大き過ぎる力は

時として己への破滅をもたらします。

それを理解した上で、

もう一度わたくしと

お手合わせしますか?」

 

見透かしたように言い放ち、

美也氏は問いかける。

 

「でも、独楽はもう……」

 

「大島屋の皆さん。

まだ独楽は残っていますか?」

 

代わりにちえ氏が聞いてくれた。

 

「すみません皆さん。

それがもう、在庫切れでして……」

 

「これじゃ八方塞がり……

どうするにゃ。」

 

「すももさんに、皆さん。

諦めるのはまだ早いですわ。

……桐生さん、残りの2試合に

期限は設けられますの?」

 

「流石菅原さん。

機転の効いた交渉ですね。」

「あたくしは、貴女が勝負を

有耶無耶にして

投げるような人ではないと

存じておりますわ。」

 

「えらく信用されてるようですね。」

「同じ部隊の仲間ですから。」

 

「分かりました。

乗って差し上げましょう。

残り2回戦。

2週間の延期を設けましょう。

延期期間中、どのタイミングで

試合を申し込んでも構いません。

わたくしが試合スケジュールを

組み立てて報告します。」

 

「……何とかなったでゴザルな。」

 

「ただ。独楽の件ですが、

同じモノを作り直すのか、

力に対応した

新しい独楽を創るのか。

そちらはあなた方の

判断に委ねます。お好きにどうぞ。」

 

「すもも達は

なめられてるのかにゃ?」

 

「いいえ。あなた方を見下す気は

毛頭ありません。

わたくしも久々に楽しそうな

試合が出来そうなので、

期待しているのです。」

 

「ナンジャモさん!

私たちの

新作独楽でやったりましょう……!」

 

「そうだねタマ氏。

……美也氏、ボクは新しく

丈夫な独楽を用意する。

悪く思わないでほしい。

ボクらは全力で勝ちたいんだ。」

 

「悪くなんて思いません。

あなた方のその思いは

悪意なんかではなく、

真っ直ぐな信念です。

あなた方が、勇敢な

挑戦者であると認めましょう。

次の試合、楽しみにしてますよ。」

 

穏やかに微笑み、

美也氏はトコトコと

その場を去っていった。

 

「成立してしまったようで

ゴザルな……。」

「そもそも成立しなきゃ

すもも達は詰みだったにゃ。」

「ヴァウッ。」

 

「首の皮一枚繋がったわね!」

「でしょう……!!」

 

「ありがとうちえ氏、

ボク達の希望を繋いでくれて。」

 

「気にしなくていいですわ。

あたくしも参加すると

決めた事ですし、淑女として

最低限の筋は通しますわよ。」

 

「で、具体的にどうやって

新作を作る気かにゃ?」

「オワタ! 考えてなかった!?」

 

タマ氏がハッとした。

 

「うん。同じモノを作らない為にも、

色々考える必要があるね。

と言っても、

どう手を付けるべきか……」

 

「それならナンジャモさん。

あたくしに

いい考えがありますわ。」

 

「ちえ氏……?」

 

「大島屋さん。

ちょっといいかしら?」

 

「え、あたし達?」

 

ムーア氏を始めとして、

大島屋一同が首を傾げた。

 

「あたくし達は見ての通り、

新作の独楽を2週間以内に用意し、

かつ、使い慣れなくてはなりません。

当然、事態は一刻を争う。

あなた方にも仕事があり、

独楽一つのためだけに仕事を割く

余裕なんて無いですわよね。」

 

「それが何だってんだー。

あたいらの代わりに

働いてくれんのかー。

それならあたいは大歓迎だぜー。」

 

大島屋の眠た気な少女が、

嬉しそうに言う。

 

「ちょっ、四ツ葉姉ぇ!

滅多な事言わないでよ!」

 

「安心してくださいまし。

あたくし達は大島屋を

代行経営なんてしませんわ。」

 

「なら、一体……」

 

「同盟です。

あたくし達も仕入れに同行しますわ。

あなた方大島屋は通常通り

現地調達による仕入れをし、

あたくし達は新作独楽用に

丈夫な素材を調達する。

悪くない提案でしょう?」

 

「むーあ、どーすんだ?」

「…………」

 

「名付けて、大島家同盟。

悪くない響きでしょう。」

 

「……みんな。

あたし、同盟してもいいかな。

この人たちを放っておけないよ。」

 

「いいんじゃねーの。

この店の店長はむーあ。

他でもないおめーだろー。」

 

大島屋の面々が、頷いた。

 

「ありがとう、みんな。

大島屋同盟! ここに結成だよ!」

 

「お気遣い、感謝致しますわ。」

 

すごい。

これが先輩部隊の交渉力。

 

ボクも部隊長として、見習わなきゃ。

 

「で、その調達とやらは

いつやるのにゃ?」

「ヴァウッ!」

 

「……あはは、それなんだけど。

あたし達、今から調達に行くんだよね。」

 

「決定して早々出発……

ワクワクするでゴザルな!!」

「YES!」

 

「じゃあみんな!

現地調達にレッツゴーだよ!!」

 

 

 

 

――調達地帯。

 

「凄いなぁ……

あたし、こんな大人数で

現地調達するの初めてだよ!」

 

「なに言ってんだむーあ。

同盟って案外こんなもんだぞー。」

 

大島屋一同も、

嬉しそうに張り切ってる。

さて、ボクらも本腰入れて

見つけていかなくちゃ。

 

「えーと、ムーア氏が店長なんだよね?」

「ん? そうだよ。」

 

「何か丈夫そうな素材に

心当たりないかな。」

 

「んー、パッと思い浮かぶのは

溶岩プレートだね。

独楽の材料としても使ったけど、

探せばもっといいのが

見つかるんじゃないかな。」

 

「ありがとうムーア氏。

参考になったよ。」

「いやいや、あたしは結局

経験で語っただけだから。」

 

「むーあ。そこは素直に

受け取ってもいいんだぞー。」

「うっ……四ツ葉姉ぇ。

分かってるってばぁ。」

 

姉妹睦まじい会話を耳にしながら、

ボクらはより奥へと進んでいく。

 

そうして進むこと数十分後。

 

すもも氏が逸早く何かに気が付き、

指を刺した。

 

「ナンジャモ、見てみるにゃ!

洞窟があるにゃ……!!」

 

「ホントだ……洞窟がある。」

 

と、一同が洞窟に目を向けた瞬間。

ビャッコ氏が

洞穴の先を威嚇し唸った。

 

「ヴァウルルルルッ……!」

「ビャッコ……どうしたのにゃ?」

 

「もしや、野生の勘というヤツで

ゴザルな……ッ!?」

「「「――ッ!?」」」

 

神崎氏が

カッコつけようとした矢先。

 

洞窟から外に、

得体の知れない存在が

歩いて出てきた。

 

ペストマスクを被る、

約5メートルサイズの筋肉質な巨人。

爬虫類を思わせる質感の褐色肌。

 

胸部と背中に半分だけ浮き出た

メロンサイズの緑の双眼。

それは両太ももにも

一つずつついていた。

 

その謎めいた姿に、

一同は絶句するしかない。

 

そんな中、眠た気な少女が

冷や汗を垂らし、口を開いた。

 

「どーして、

『イモータルセル』がここに居んだよ。」

 

「イモータルセル……?」

 

「四ツ葉姉、それって何なの……」

「…………。」

 

ムーア氏が問いただしても、

彼女は沈黙するだけだった。

 

「あなた達、私語はそこまでになさい……

ただ一つ言えるのは、

『彼』に気付かれるのは宜しくない。

あたくしが司令部に

報告しますから、皆さんは一旦、

身を潜めておいて下さいまし。」

 

「分かりました。

ニ似奈、三野里、四ツ葉、

五十鈴、六宇亜。隠れて。」

 

「「「「「了解ッ!」」」」」

 

「ボクらも、大島屋一行に

続いて隠れるよ。散。」

 

全員で、付かず離れずの距離で

身を潜める。

ふと洞窟の方を見ると、

先程の巨人の姿が消えていた。

 

「ソレで隠れたつもりカ?」

 

「「「――ッ!?」」」

 

この重なるような低い声。

大島屋同盟の誰のものでもない。

 

運悪く、気付かれてしまったようだ。

 

いや、まだだ。

もう少し粘れば……

気のせいで

済ましてくれるかもしれない。

 

「貴様ラ、自分の置かれてる状況が

分かってないようダな。」

 

バチバチバチバチ……

 

(これは、電気が漏れる音?)

 

「――コマンド:Thunder

……『辺爆』」

 

ボゴォォンッ!!

 

巨大な爆発が発生し、

辺りが更地となる。

 

ボクらはデフレクタによって

その衝撃から身を守れたが、

最早、隠れる状況は 

維持できそうにない。

 

「どうやら、武力行使以外の

選択肢はなさそうですわね。」

 

ちえ氏が最前線へと

移動して構えた。

 

「ほう、貴様ラは面白い武器を

使うのダな。」

 

「黙らっしゃい!!

アンタは一体、何者ですのッ!」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

アーさん新イベ、最高でした。
そしてついに、
ヤベェ原作改変が始まりました。

お喋りキャンサーのご登場です。

さて、
どういう経緯でイモータルセルが
お喋りキャンサーと化したのか……

U140や君読むで度々触れる
〈例の研究施設〉を絡めて、
次回は、U140イベ軸の
よっつん視点で明かそうと思います。
(原作改変&擬人化補完ストーリー)

よろしくお願いします。


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18話・四ツ葉と手帳(U140イベ軸)

 

━━▶︎ 『U140』DAY??? ??? 

 

〜SIDE『大島・四ツ葉』〜

 

あたいは、ぐーたらするのが好きだ。

特に深い意味はない。

 

人々はみな、

リラックスに導かれる為に生き。

働き、動くのだから。

 

みんなは怠惰というだろうけど、

あたいは他者よりも少しだけ……

ほんの少しだけ、

リラックスを謳歌したいだけだ。

 

ちょっとだけ踏ん張って、

そのあとに食らう

ぽてちとこおらで優勝できたら、

それでいい。

 

いい筈だった……

 

なのに、

成り行きの謎メンバーで

廃棄された研究所へ行くことになった。

 

その特別部隊のリーダーになった

丸山という奴は、

使命感と自信こそ特段強いが、

行動の殆どが空回りしてる。

 

正直なところ、

どこか頼り甲斐のない

リーダーという印象を受ける。

 

そもそも、一千子姉以上に

リーダーシップとカリスマに

優れた人などいない。

 

考えれば一瞬で分かる……

やはり、

考え方が贅沢になってるな。あたい。

 

はてさて。

 

より研究所の深くを調査する為、

電気システムを

復旧してくれるらしいが、

結果はどうなる……?

 

「これをこうして……こうすれば……。」

 

『非常電源、

エコロジーモード起動で起動します。

空調システム起動……。」

 

お? うまくいったか。

 

「おお、やりましたね。」

「まあ、ボクのセンスにかかれば……。」

 

『基地内に空気汚染を確認。

セキュリティシステム起動、

隔離用防護壁作動、

レーザー感知システム作動。』

 

(まーた、やらかしやがった。)

 

「「「「「………………。」」」」」

 

「な、なんだその目は!

ボ、ボクのせいじゃないぞ。」

 

「電源が通った事で

警備システムが復旧しただけでしょう。」

「空気汚染と言っていましたが、

先程の硫化水素ガスの事でしょうか。」

 

「換気システムまでは

起動しなかったようだな。」

「し、下の階層に向かうぞ。」

 

つぎは換気システムを

起動させる為に下行くのかー。

……めんどくせー。

 

あ、思ったより近いな。

 

「見事に封鎖されていますね。

どうしますか?」

 

「くっ、換気システムを起動させて、

下層のガスを

排出してしまえばいいんだ。

……どこかにスイッチがあるはず。

それを探そう。」

 

「おーい。このフロアでも結構

部屋があるけど、

一斉行動で調査したら 

埒があかねーんじゃねーの。」

 

「そっ、そうだな。

四ツ葉の言う通りかもしれない。」

 

「そーだそーだ。

6人で分担して各部屋を 

調査した方がいいぞー。

効率も6ばいだぞー。な、ブリ。」

 

「ええ。

6倍なのは間違いありません。」

 

おし、ブリも味方につけた。

 

あたい一人の意見ならともかく、

数字の得意そうなブリが

こちらに加わるなら、勝機はある。

 

「……成る程、悪くない。

一度分担して各部屋を調査していこう。

いいか皆、20分後にここへ

集合してくれ。」

 

やったぜ。

丸山、まんまと

あたいの罠にハマりやがった。

 

よしよし。

さっさと手頃な部屋見つけて

10分くらいゴロゴロするぞー。

 

「ワシが言うのもなんだが……

四ツ葉、お前なんだか嬉しそうだな。」

「だってお前ら、

今日の任務終わったら

ぽてちゴチしてくれるんだろ〜。」

 

「せんわー!」

「お前は山脇様お手製の

ポイズンポテトでも

食らってろでゲス!!」

 

自称、稀代の魔術師と悪の手下に

叱られた。

 

31Cの連中って、

各々が自由してるイメージだけど、

根は意外と真面目なのかー。

 

「よし、みんな。

準備はいいか……それでは、散。」

 

「「「「「おー。」」」」」

 

「じゃ、あたいは一番近い部屋から

探索するぞー。」

 

ギィィィ……バタン。

 

「ふぅ……これであたいを

邪魔するものは居なくなったな。

お、丁度いいとこに

ソファーあるじゃんか。」

 

結構時間が立って傷んでるけど、

少しの仮眠に使うなら

問題なさそうだな。

 

「ごろごろ〜……すぴー」

 

(あ……いい、これは寝れるぞー。)

 

「四ツ葉さん。そのまま私が

永眠させてあげましょうか?」

 

「――ッ!?」

 

イキナリ声をかけられて、

バッと身体を起こした。

 

声の方を向くと、

殺意剥き出しの麗人が

額に銃口を向けていた。

 

「お前は確か……丸山んとこの……」

「執事の柳です。」

「柳かー。よろしくなー。」

 

「平静を装っても無駄です。

貴女、今何をしようとしてましたか?」

 

「ソファーの隙間を覗いて、

必要資料を探してたんだぞー。」

 

「冗談は程々にして下さい。

貴女はこの期に及んで今、

仮眠を摂ろうとしていましたよね。」

「…………。」

 

「イエスがノーで答えて下さい。

沈黙や嘘をついたら、すぐさま

その脳天に風穴を開けます。」

 

「……いえす。」

 

「よく言えました。

では、なぜ私が憤っているか

理解できますか。」

 

「眠ろうとしたからか?」

 

「いえいえ。私は任務中

無許可で仮眠を摂るのは

悪い事だと思いません。

寧ろ、任務中に疲弊し寝てしまった

お嬢様をおんぶして

任務続行しても良いくらいです。」

 

「へー。

柳は丸山が大好きなんだなー。」

 

「ええ。私は同性愛者では

ありませんが、お嬢様と一緒に

森の中の丸太小屋に

住みたいくらいには慕っております。」

 

「プラトニックな執事だな。」

 

「だからこそ、貴女が許せないのです。

お嬢様の命令に背くのは、

立派な反逆行為に他なりません。

今は目に入ってないでしょうが、

反逆行為を続けるようであれば、

貴女はお嬢様の気分を害し続ける

害虫と判断します。」

 

「…………。」

「害虫を駆除するのは、

人間として当たり前の行為です。

果たしてそこに、情などは

ありますでしょうか。」

 

(何、この執事……怖すぎだろ。)

 

「分かったよ柳。

あたいも真面目に調査するから、

おおめに見てくれー。」

 

「理解して頂けて何よりです。

では、そのソファーから

離れて下さい。」

 

「……え?」

 

「四ツ葉さん。貴女の勘は、

どうやら私を上回る成果です。

それを加味して、今回の件は

水に流すと致しましょう。」

 

ソファーからあたいが

離れたのを確認し、

拳銃の弾を入れ替える柳。

 

そして狙いを定め……

 

バババンッ!!

 

『認証、完了。

資料ファイルを開封します。』

 

……パカッ。

 

「何だー。ソファーが開いたぞー。」

 

「これは紛れもなく貴女の成果です。

さぁ、有用な情報を抜き取り、

お嬢様にお届けしま……ッ!?」

 

「どうした柳。」

 

あたいも硬直する柳を追って、

開いたソファーに詰められた

大量の資料を見る。

 

「プロジェクト: Immortal cell……?

何の話だよ。訳わかんねーぞ。」

 

「四ツ葉さん。

あまり言いたくないのですが、

これは『隠蔽すべき情報』です。」

 

「なんでだよ。」

「これが周知されれば、

私たちセラフ部隊の常識が

覆るからです。」

 

「覆る? さっきから話が

見えてこねーぞ。」

 

「人類は生み出してしまったんです。

人間と同様の知性を持った

人型キャンサーを。

セラフが生み出される前の、

対キャンサー決戦兵器として。」

 

「嘘……だろ。

そんな奴が今でも活動してたら、

あたいら人類に勝ち目は……」

 

「ええ。生きてない事を

祈るしか、今はできません。

他の資料にも目を通しておくので、

四ツ葉さんはこの

『イルゼンの手帳』に

目を通しておいて下さい。」

 

あたいは、柳から例の手帳を

手渡された。

 

「分かった。あたいが読んどくぞー。」

 

 

 

━━『イルゼンの手帳』

 

私は、イルゼン・ファギロン。

イタリアの海洋生物を

専門とする研究者だ。

日本に派遣されて5年。

 

この度、

プロジェクト: Immortal cellに

参加する事を余儀なくされた。

 

未来の糧になると思い、

ここに手帳を残す事にする。

 

人類は今、地球外生命体の

侵略行為によって多くの生活圏を

略奪され、危機に瀕している。

 

当然、研究者や科学者といった

存在は対抗兵器を発明する為、

キャンサーの実験などの

仕事に従事することとなる。

 

プロジェクト: Immortal cellも、

その一環だ。

 

キャンサーの不死性を利用し、

人類が捕獲したキャンサーを

改造、洗脳し戦闘兵器として

利用するプロジェクトだ。

 

当施設では、成功個体が

既に3回ほど出荷されている。

56号、77号、92号……

 

比較的新設された施設であるが

故に、新型の完全体イモータルセル

培養は順調だ。

 

彼らは、昆虫のように変態しながら

完成体に至る。

 

始めに、胎児のような姿をした幼体。

まだ呼吸や帯電に慣れておらず、

定期的に放電したり、鳴いてしまう。

 

刺激を与えると、身体中の眼球色が

緑から赤へと変貌する。

科学者らによると、怒りや警戒の意が

込められているそうだ。

 

蛹の状態。

通称『ロアーノッカー』

 

地球上の物質に当て嵌まらない

謎の白繭に身を包む。

生理的な放電はしないものの、

幼体と同じようによく鳴く。

 

経過観察中、インコのように

科学者の声を真似る事が発覚し、

知能の劇的進化が起きてる

状態だと判明した。

 

科学者ら曰く、この時期に

人語のインプットと

洗脳を行うらしい。

 

完成体。

蛹から成体となると、

全長5メートル程の巨人となる。

帯電器官の操作を完全にモノにする。

 

醜悪な頭部に劣等感を抱いているのか

電気操作と周囲の金属融解により、

ペスト仮面のようなものを精製、

素顔を隠す。

 

更に、幼体で見られた多数の眼球は

数を減らし、胸部、背中に2つ。

太ももに一つずつ。計6つだけとなる。

 

ここまで行けば、

ようやく生体兵器としての

運用が認められる。

 

『ナービィ』という

擬態型の生体兵器よりも、

遥かに優秀な生体兵器である事を

政府に証明してやる。

 

それこそが、

除け者にされた科学者……

我々が持つ存在意義だ。

 

……何。

 

任務中に損傷した108号の

洗脳が解け、暴走しただと?

 

本当の親は我々人類ではなく

『マザー』だと言ったのか。

同族殺しをさせた我々人類に

報復するだと?

 

直ちに当施設と観察中の201号を

廃棄しろだと……?

 

ふざけるな。

201号の管轄主任はこの私だぞ。

チッ、もう政府の手が回ってたか。

 

仕方ない。

表向きで廃棄という形にしよう。

未来の希望である

201号は『廃棄しない』。

 

政府関係者の侵入は絶対にさせない。

当施設に硫化水素ガスを充満させ、

一旦、手を引くとしよう。

 

待ってろよ201号。

いずれ我々が『完成』させてやる。

それまでの辛抱だ。

 

 

 

 

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

ついに明かされる
イモータルセルの知られざる姿(大嘘)。
完成された彼らを前に、
大島屋同盟はどう戦いを展開してくのか。

次回、ヤベェ原作改変は、
更にエスカレートしていきます。
よろしくお願いします。


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19話・報復の雷

 

「黙らっしゃい!!

アンタは一体、何者ですのッ!」

 

対峙する怪物は、

見下すように嗤った。

 

「ふっ……フハハァ。

我々が何者であルか……だって?

お前らが名付けた名前だが、

案外気に入ってルぞ。

我々は『イモータルセル』。

すなわち、不死の細胞。

癪ではあるが、

我々に相応しい銘だ。」

 

「手裏剣! 影分身の術……!!」

 

間髪入れず、無数の手裏剣が

イモータルセルと名乗る存在を

斬りつけていく……が。

 

シュゥゥウウッ。

 

煙のようなものを出し、

即座に切り傷が癒え、再生していく。

 

「愚か者か貴様ラ。

そのような芸当でこの俺が……」

 

バッ。

 

3人の神崎氏が素早く

取り囲み、印を結ぶ。

 

胸部に溜め込まれた

エネルギーが『炎』となって

三方向から吹き込まれた。

 

「「「火遁・業火球の術……!!」」」

 

ボウゥウッ!!

 

「待って待って待ってー!

なんかバトルの世界観違いますぅう!」

 

タマ氏が堪らず

ド正論なツッコミを叫んだ。

 

「貴様ラ、あの武器すら使わずに

俺に挑むとは、本当に

舐めていルようだな。」

 

続けて、

火だるまとなった

イモータルセルが怒り気味に言う。

 

「燃えてるのに、

そんな余裕かましてる場合かにゃ?」

 

そうだ。

すもも氏の言うとおり、

彼は燃えている。

 

既に勝負のテンポは此方が掴んでる。

爛れた身体で戦闘続行なんて

出来るはずない。

 

「まるで分かってなイな。」

 

ズズズズズッ……

 

「なッ……!? 

炎が手に吸収されてるでゴザル!」

 

「嘘にゃ……あれって……」

「どうしてあなたが

楔を持ってるんですか!」

 

すもも氏とタマ氏が驚愕するが、

イモータルセルはただ嗤う。

 

「そんな事、今から死ぬのに

知ってどうする?

……答えはただ一つ。

これが俺と貴様ラの

格の違いだという事だ。

貴様ラは所詮、

愚か者の集まりに過ぎん。さて、

そろそろ此方も反撃に……ッ!?」

 

彼は、身動きが取れない状態に

なっていた。

 

目に映るのは、

彼を物理的に縛り、

拘束する6つの『帯』。

 

それは、ちえ氏のセラフが

変形したモノだった。

 

「――秘術『イノセントワイルド』。

可愛いの極意にして、

あたくしのみが許された『セラフの真価』。

触れた対象を『虜』にする力ですわ。

大好きな母親に抱きかかえられ

喜ぶ赤子のように、

あなたはあたくしのセラフに

魅了され、一切の身動きが

取れない状態でしてよ。」

 

「……小賢しいマネをッ…………」

 

「本当に愚かなのは

貴方でしたわね。

あたくし達が、無策で

行動を起こすとお思いですの?

生捕りにして、

全てを話して貰いますわ。」

 

「フッ……」

 

「何が愉快ですの?

その内セラフ部隊の増援が加わって、

貴方は本当の意味で詰みに

至るのですわよ?」

 

「この程度で詰みにしたつもリか?

俺はワザと乗ってやったのに、

ここまでしかできないなんて、

拍子抜けにも程があルぞ。」

 

「ワザと……?」

「こんな見え見えの陽動に

掛かル事自体、違和感を覚えないのか。

試しに上でも見てみろ。」

 

「負け惜しみも程々になさいッ!」

 

「フッ、負け惜しみかどうかを

決めルのは俺じゃあない。

そこのカチューシャ女、

代わりにコイツの

頭上を見てやってくれ。

『何』がある?」

 

「すももに指図するとか、

化け物のクセに図々しいにゃ。

どうせ罠に決まってるから、

ついでに見て……にゃ…………。」

 

「すもも氏、どうしたッ!?」

 

余裕の表情を見せていた

すもも氏が、

すぐさま顔面蒼白となった。

 

まるで、

絶望を見せられたかのように。

 

「ナンジャモも、見てみるにゃ……」

「分かった。

……待って、これはッ!?」

 

そこには、俄には

信じられない光景があった。

 

ちえ氏の頭上に集まっていく、

多数の鉄骨。

 

先程、電気を操る能力を

披露したが……ここは森林地帯。

何をどうやって鉄骨を集めたのか、

説明がつかない。

 

「皆さん、騙されないで下さいまし!

きっと意図的に

起こした幻覚の類いですわ。

あたくしに構わず、攻撃なさいな!」

 

「いつまで都合のいい夢を

見てるつもリだ?

そんなに死にたいなら、

試しに一本だけ使ってやろう。」

 

バチバチバチ……

 

一本だけ鉄骨が分離し、移動を始める。

 

「まずはそこのカチューシャ女からだ。

……『コマンド:Steel frame』」

 

一本の鉄骨が、すもも氏

目掛け素早く飛びかかってくる。

 

(この距離。

ダメだ……楔の身体能力強化や

トランスポートでも間に合わない……)

 

ん? 鉄骨よりも速く、一つの影が

飛び込んで来てないか……?

 

「――にゃっ!?」

「風遁・烈風掌……!!」

 

シュワァンッ!

 

飛び込んだ神崎氏が、

掌から突風を発生させ、

すもも氏を吹き飛ばした。

 

だが、代わりに……

 

ズドォォンッ!!

 

揺れで土砂が舞い上がり、

彼女は犠牲となる形で姿を消した。

 

すもも氏は、即座に

受け身を取っていた。

 

「神崎氏ぃぃいい!!」

 

「ナンジャモ殿、心配ご無用……

拙者の影分身が飛び込んだ

だけでゴザル……。

しかし、拙者もチャクラと

デフレクタを消耗し過ぎたで

ゴザル。これ以上の援護は……」

 

「充分だよ。おかげでボクらはまだ

戦線を維持できてる。」

 

「これで理解しタか。

俺の力が本物だというコトを。」

 

「ええ。本物なのは

間違いなさそうですわね。

ですけど、あたくしが拘束を解く

脅しとしては不十分でしてよ。」

 

「つまりは貴様、死を覚悟している。

……と言うノか。」

 

「ええ。貴方を野放しにすれば、

人類は確実に敗北の一途を辿る……

今は、その芽を潰せる

絶好の機会ですもの。」

 

「………お前が今から歩む結果は

犬死にに他ならん。理解に苦しムな。」

「あなた方には、

一生理解出来ない感情でしてよ。

この命一つ、人類存続の為なら

喜んで心臓を捧げますわ。」

 

「これが模倣された心臓の末路か。

人類め、とことん腐ってやがル……

せめてもの慈悲ダ。

同じ外宇宙生命の誼として、

この俺が心臓の

呪縛から解放してやろう。」

 

「心臓の呪縛……?

貴方、さっきから何をぶつぶつと……」

 

「安心しろ。我々と同じく、

貴様ラが人類の為に

戦う必要などナい。

今解放し……『戻してやる』。

――『コマンド:Steel frame』」

 

大量の鉄骨が、落ちていく。

このままでは、ちえ氏が……

 

――わたしたち、

ずっと一緒だから……ね?――

 

(いやだ……またボクは救えないのか……

誰も救えないまま、終わるのか?)

 

「ちえ氏ぃぃぃいいい!!」

 

ギィンッ!

 

「何ッ! 鉄骨が消えタだとッ!

ふざけるのも大概にしろヨッ!

模造品共がァアーーッ!!」

 

「何が模造品だ!

仲間を手にかけた事、

ボクは絶対に許さないぞ!」

 

ギィンッ!

 

ズドォォンッ!!

 

突然現れた大きく黒い匣に、

イモータルセルが押し潰された。

 

……が。

 

「……ほう、

貴様は他と違うようダな。」

 

彼はいつの間にか、匣の上に居た。

 

「あの黒い匣……

何がどうなってますの?」

 

「俺にも分かラん……だが、

これでようやく自由に動けル。

さて、仕留め損ねた奴を

片付けるとすルか。

――『コマンド:Thunder』。」

 

掌に電気エネルギーを集め、

球状に形作っていく。

その照準は、

すもも氏に向けられていた。

 

神崎氏は息が上がって

とても動ける状態じゃないし、

他のみんなは群がるキャンサーの

掃討で手一杯。

 

やはり……ボクが守るしか無い。

 

放たれる蒼き電撃弾。

ボクは、その射線に先回りした。

 

「ナンジャモ……何のつもりにゃ。」

「すもも氏……31Aのみんなには、

よろしく頼んだよ。」

 

「ダメにゃ! 

こんなの間違ってるにゃ!」

 

「――『辺爆』」

 

「ハッ!?」

 

この薄暗い景色に、足に伝わる砂の感覚。

……座標だ。

 

「随分と面白い存在に出会ったな。

……小娘。」

「イッシキ氏、なんでこんな時にッ!?」

 

「座標に居るのも暇だ。

偶には会いに来てもいいだろ。」

 

「時間の概念はないけどさ!?

もっとこう……タイミングあるよね!?

DeathSlugの時もそうだけど!」

 

「喧しいな。

どうでもいいだろ、そんな事。」

 

「で、イッシキ氏は何でボクに

会いに来たの?」

 

「楔を持ったあの化け物に

興味があるだけだ。

だからお前にも更なる『楔の力』を

与えてやった訳だが、

使い方がなってないな。」

 

「使い方……?」

「秘術・少名毘古那と

秘術・大黒天だ。まぁ……

6割程度の解凍ではこんなモノか。」

 

「イッシキ氏……?」

 

「偶然だが、奴を生捕りにするという

目的は俺の利害と一致している。

今の状況からして、

お前のように、生半可な実力で

捕獲できる相手じゃ無い。

……少し代われ。ついでに

力の手本も見せてやる。」

 

 




どうも、たかしクランベリーです。

更に、原作改変の狂気度が増しました。
ノリと勢いに全振りにした結果が、
これです。

はい。もう完全に暴走してます。
それでも続けます。
よろしくお願いします。


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20話・十尾の生贄

 

「――『辺爆』」

 

ボゴォォンッ!!

 

「まずは一人、トいった所か……

さぁ、順序よく始末していくとしヨ……

――ッ!?」

 

ギィンッ!

 

突如、匣の足場が消え

咄嗟に着地するイモータルセル。

 

爆風の中心部が晴れた場所には、

何かを握りつぶした手を伸ばす

イッシキ氏の姿があった。

 

頭部からは螺旋状の角が露出し、

楔は紅く明滅している。

 

それに大きな疑問を抱いたのか、

イモータルセルが叫んだ。

 

「貴様ァア!

その『楔』を何処で手にしタァアッ!!」

「それを答えなかったお前に、

俺が答えると思うか?」

 

「調子に乗ルなよ下等種が!!」

 

「只の器ごときが、一々煩いな。

どれ……器としての質を見てやろう。

まずは800本だ。」

 

ギィンッ!

 

イッシキ氏が片目を

琥珀色に輝かせた瞬間。

無数の黒い杭みたいなモノが、

彼目掛けて飛びかかってくる。

 

「――コマンド:Lance!

クソがァアっ!!」

 

電磁力操作によって、

即興で槍を生成し、彼は弾幕を捌く。 

 

ズガガガガッ!!

 

「ほう……見事な槍捌きだ。

では、組み手の方はどうだ?」

 

ギィンッ!

 

「武器が消えただとッ!」

 

武器の消滅に驚くイモータルセルに

一気に詰め寄り、イッシキ氏が

肉弾戦を仕掛ける。

 

彼はイッシキ氏の猛攻を

辛うじて受け流す一方で、

全く攻めに転じられていない様子だ。

 

「クソクソクソぉッ!!

俺がこの程度の小娘に蹂躙される

など……あってはならんのダァッ!!

――グハァッ!?」

 

腹に蹴りを入れられ、

彼は後方へ吹き飛ぶ。

すぐ受け身を取るが……

 

「さっきの威勢はどうした?」

「調子に乗るなヨッ! 貴様ァア!」

 

ギィンッ!

 

イモータルセルの頭上から、

突然黒い匣が現れた。

 

ズドォォンッ!!

 

「……俺の予想が正しければ、

ああ、正解か。」

「……ハァ……ハァ、ナめやがって。」

 

「この積雪……やはり、秘術・雪時雨。

お前、『カサシキの器』か。

積雪した嵩的に、時を消し飛ばした

時間は6秒くらいだな。」

 

「ごちゃごちゃウルせぇゾォ!!

次で終わらせてやルっ!!

――コマンド:Death Punch!!」

 

黒い匣の上で

激昂したイモータルセルが、

拳に黒い雷を纏い、飛び掛かる……が。

 

ギィンッ!

 

ズザァンッ!!

 

彼は一瞬にして、

無数の鉄骨の串刺しになった。

 

「……何が……起きタ…………ッ」

 

「――秘術・大黒天。

お前の使っていた

不恰好なオブジェが、たった今。

お前の墓石となった。」

 

「何……ダとッ。」

 

「皮肉なモノだな。

自分の武器が、

自分の首を絞める結果になるとは。

……今貴様、どんな気分だ?」

 

「不快ダ……だが、

これで俺を拘束した気になルなよ……」

「なら、貴様お得意の電気操作や

雪時雨で逃げてみろ。」

 

「何故ダ……帯電器官や

時飛ばしが使えんッ!?

貴様ッ! 一体何をしたッ!」

 

「この俺が、考えなしに

肉弾戦を仕掛けると思うか……。

遅効性ではあるが、

お前に有用な『点穴』は既に塞いだ。

あと数時間は動けないと思え。」

 

「………………。」

 

「ふっ……偶然しては良い収穫だ。

解凍は73・7……いや、8割9分か。

十尾の生贄としては充分だ。」

 

「………生贄ダと?」

 

「貴様は生きたまま食われるんだ。

十尾の生贄としてな。

それ以外の価値など微塵もない。

所詮貴様は、大筒木カサシキの

模造品として生涯を

終えるだけの……家畜だ。」

 

「つけ上がるナよ小娘がァア!」

 

「……さて、

俺を楽しませてくれた礼だ。

直に大黒天送りにするが、

遺言くらいは聞いてやろう。」

 

「…………。」

 

「聞こえないな。」

 

イッシキ氏が余裕の表情を

浮かべて、聞き取るために

イモータルセルへと歩み寄る。

 

……そして。

 

「フッ、フハハ……

掛かったな。愚か者。

――コマンド:Diver」

 

ザバァッ!!

 

地中から突如現れた

キャンサーが大口を開き、

イモータルセルを呑み込み

地中へと潜っていった。

 

イッシキ氏は見透かしたように、

後方へ回避していた。

 

「チッ……逃したか。

次こそは、間髪入れず

大黒天送りにしてやる。

待ってろよ、十尾の生け贄。

必ず俺の手に収めてやる。」

 

イッシキ氏が悪態を吐いた瞬間。

ボクの意識が、千切れた糸のように

フッと消えた。

 

 

 

━━▶︎ DAY??? ??? 

 

〜SIDE『國見・タマ』〜

 

地中から現れた

謎のキャンサーの奇襲を

回避したナンジャモさんは、

何かを言って空中で気を失った。

 

慌ててトランスポートで移動し、

彼女をキャッチする。

 

スタッ。

 

「ふぅ……危なかったですぅ。」

 

「國見! ナンジャモは無事かにゃ!?」

 

焦燥した顔で、すももさんが

安否確認をしてくる。

 

「は、はい……気を失ってるだけで

息はあります……」

 

DeathSlugの時と同じだ。

 

セラフとは違う『強力な異能力』を

使って、身体がその負荷に 

耐えきれず気を失う。

 

おそらくは『楔(カーマ)』由来の力。

 

私たちが力不足故に、

ナンジャモさんは嫌でもその力に

頼らざるを得ない……。

 

まだ、どんなリスクがあるかも

分かってないのに……。

 

……強くなりたい。

 

ナンジャモさんだけが

重荷を背負わなくていいよう。

私たち31Aのみんながもっと……

 

「國見、どうかしたのかにゃ?」

「なっ、何でもありませんよ!?

早く独楽を完成させたりましょう……!」

 

「その心がけはいいけど、

いつまでナンジャモをお姫様だっこ

してるつもりにゃ。」

 

「地面に置いて

汚したくありませんので!」

「隊長への愛が強すぎるにゃ。」

 

「あなた達、ナンジャモさんと

イチャついてる

場合じゃありませんわよ。」

 

「「――イチャついてない!!」」

 

「それにしても、地面から現れた

キャンサーは何でゴザろうか……?」

 

「地中を掘削して移動する

大型キャンサー。

かつての任務資料で

見覚えがありますわ。」

 

「真でゴザルか!?」

「ええ。資料では確か、

『Rotary Mole』という名で

明記されてましたわ。」

 

「ロータリーモール……

見るからに強そうな

キャンサーだったでゴザル……。」

 

「強いには強いでしょうけど、

彼らにとっては、単なる鞍馬に

過ぎないと思いますわ。」

 

あの怪物が。

 

「そんな……。」

 

「國見さん、その抱え方では

腕が保ちませんわ。

キャロルさん、代わりに彼女を

おんぶしといて下さいまし。」

 

「OKよ!」

 

仕方なく、私はナンジャモさんを

キャロルさんに譲った。

 

「國見もキャロルも……羨ましいにゃ。」

「ん? 

どうかしましたかすももさん。」

 

「何でもないにゃ!

それより早く31Eの援護に……」

 

「お待たせしましたみなさーん!

何かデカイ爆発音がしたんですけど

無事ですかー!」

 

ベストなタイミングで、

大島屋御一行が駆け寄って来た。

 

「はいっ! 私たちは無事です!」

 

「あら、大島屋さん一行では

ありませんか。

キャンサーが

群がった気配がしたのだけれど、

そちらは大丈夫なのかしら?」

 

「心配いりませんよ菅原さん!

あたし達大島屋の手にかかれば、

そこらのキャンサーはパパッと

掃討できるから!」

 

「無茶言うなよむーあ。

あたいはすごい疲れたぞー。」

 

「確かに、敵影は見えませんし、

気配は残ってませんわね。」

 

「ねぇねぇ菅原さん達!

いい素材探してるんだよね?

あの洞窟とか

いい鉱石ありそうだよ!」

 

「いや、拙者たちがあそこに

参るのは……」

 

「……アリですわね。」

 

「oh!? 正気なのMs.菅原!」

 

「正気も何も、

行かない手はありませんわ。

あなた方も、

ナンジャモさんの勇姿を無駄に

したくないでしょう?」

 

「安全という根拠はあるのかにゃ?」

 

「イモータルセルの援軍が

一切ここに来なかった上に、

彼自身が撤退を選んだ事。

考えられるのは、

洞窟内にキャンサーが生息せず、

やむなく集めた援軍が大島屋一行に

運悪く掃討されてしまった。

……という感じでしょうか。」

 

「それなら、納得できるにゃ。」

 

「それともう一つ。彼が、

工業地帯や建築地帯でもない

この森林地帯で、どうやって

『鉄骨』を集めたのか……」

 

淑女然として微笑み、

菅原さんが洞窟内に指を差した。

 

「その洞窟内が実際に運用されていた

炭鉱地で、そこから電磁力によって

引きつけた鉄骨だとしたら、

全ての辻褄が合いません事?」

 

「そ、そういう事だった

のでゴザルか……」

 

「す、凄い。

これが先輩部隊の洞察力……

感服いたしまする……!!」

 

「さて、ここからが本番ですわよ。

始めましょう。

あたくし達の炭鉱を。

そして、勝利を手にしますわよ!!」

 

「ヴァウッ!」

「「「「おーーー!!」」」」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

昨日の生放送。最高でした。
しかし最高すぎるが故に、
もう我慢できません。 

『逢川めぐみ』登場させないから
めぐみんアンチだろと
思われてそうですが、違います。
むしろ大好きすぎて
登場させられません。

彼女に
エセ関西弁(作者の技量問題)を
喋らせたり、
本編通りの曇らせなんて
させたくないくらい好きなんです。

……ですが、来週の水曜日は
4章後半の実装を記念して、
めぐみんを加えた特別回をやります。
(月曜更新も普通にします。)

エセ関西弁が炸裂すると思いますが、
(出来るだけ気をつけます。)
よろしくお願いします。


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21話・うずまきボルト

 

━━▶︎ DAY??? 座標・宝食堂

 

「また……ここか。」

 

明るい和を基調とした店内。

その座敷席で、

アマド氏は待っていた。

 

「最近顔を見せられなくて

すまないなお嬢ちゃん。

構築時間の延長と

複数台作るのに手間取ってな。」

 

「あ……はい。」

 

「おいおい、久々の再会ってのに

気が乗ってないじゃ無いか。

嫌なことでもあったか?」

 

「言わなくても、知ってるでしょ。

寧ろ、それがボクを呼びつけた

理由だよね。」

 

ボクはアマド氏の正面に座った。

 

「それもあるが、理由の一つに過ぎん。

嬢ちゃん、散々な目に遭ったな。」

 

「本当だよ。ただ映画作り

してるだけなのに、

こんな難航するなんて

思いもしなかったよ。」

 

「事実は小説よりも奇なり。

……よく言ったモノだ。

世の中そう簡単に事は運ばない。

キャンサー蔓延る世界なら、尚更な。」

 

「…………。」

 

「まぁ、辛気臭い話は後回しにしようか。

ではみんな大好き、

お待ちかねのQ&Aの時間といこう。」

 

みんなって……

質疑するのはボク一人なんだけど。

 

「今更だけど……いい?」

「何だ。」

 

「アマド氏ってどうやって

此処に来てるの?

まさか、自ら一々仮死状態になってる

訳じゃ無いよね。」

 

「筋がいいなお嬢ちゃん。

半分合ってて、半分間違ってる。」

「……え?」

 

「利用したんだよ。

禁術『口寄せ・座標墓灊』の拡張性をな。

俺は今、強制的に座標を構築し、

術中被験者と干渉する事のできる

ヘッドギア装置を付けているんだ。」

 

「……凄い。」

 

「だが、この術をずっと掻い潜って

居られる訳じゃ無いんだ。

コンピュータ内に侵入した

ウイルスを自動的に排除する

セキュリティソフトウェアのように、

この場が見つかれば即消される。

要するに、此処は時限性の隠れ家

みたいなモンなのさ。」

 

「隠れ家……なんだね。」

「ああ。それだけ

分かってくれりゃ充分だ。

どうだ? 気分は落ち着いたか。」

 

言われてみれば、

リラックスしてるような気がする。

 

「うん。なんか落ち着いたよ。」

「そんじゃ、イッシキの楔と

もう一度向き合うとしようか。」

「これと……」

 

ボクは、手のひらに浮かぶ

黒い菱形模様に目を遣る。

 

「ああ、それだ。

君がイッシキと会話を交わし、

何か気になる事があっただろう。」

 

「待って! 

何でボクが彼と話したのを

知ってるの!?」

 

「此処は魂の檻であると同時に、

『記憶の庭』なのさ。

その気になれば、君だって

俺やイッシキの記憶が見放題だ。

おそらくは、魂が退屈しないよう

用意された扉間の慈悲……

なのかもしれんな。」

 

「でも、ボクはやらないかなー。」

 

「見たくなったら見ればいい。

この俺が、やり方を手っ取り早く

レクチャーしてやるぞ。」

「気を遣ってくれてありがとう。」

 

「じゃあ一旦記憶の話はやめだ。

で、どうなんだ。」

 

「力をくれたって言ってました。

なんだっけ……すくななんとかと、

だいこく……とかなんとか。」

 

「秘術・少名毘古那と

秘術・大黒天だ。

書き記すなら、こうだ。」

 

机の上にいつの間にかあった白紙。

そこに鉛筆でスラスラと

正式名称を書いていった。

 

「秘術・少名毘古那……

秘術・大黒天……強そうな字面だね。」

「強そうも何も、

実際に強すぎる能力だ。」

 

「どんな風に強いの?」

 

「秘術・少名毘古那は、

自身もしくは、視界に映る凡ゆる物質を

瞬時に縮小する能力だ。

勿論、縮小した物体はその分

質量や重量、体積まで縮小してしまう。

何も知らない相手からすると、

突然モノが消滅したように

見えるだろうな。」

 

じゃああの時、鉄骨が消えたり、

イモータルセルの槍が消えたり

してたのは……

『縮小』していたからなんだ。

 

「それと、縮小したモノを

瞬時に元のサイズへ戻せる。

欠点を挙げるなら、

生物にはその力を使えない所だな。

ただ、この能力だけでは

そこまで脅威では無い。

問題はもう一つの力だ。」

 

「……秘術・大黒天。」

 

「ああ。大黒天は『少名毘古那』にて

縮小した物体を

『時間の止まったどこかの異空間』から

元のサイズで取り出せる能力だ。

いつでも自由に、どんな場所にも

予備動作なしで出現させられる。

イッシキが何度か見せてただろ。」

 

もしかして、DeathSlugや

イモータルセルが

急に串刺しになったり。

大きくて黒い立方体の匣が、

何も無いところから

落ちて来たのも……大黒天の力?

 

「……あれだったんだね。」

「納得したみたいだな。」

 

「あれってボクにも使い熟せるの?」

 

「使い熟せるも何も、

6割程度の解凍で使える方が

コチラとしては不思議でならない。

そのまま行けば、すぐにでも

使い熟せるようになるだろうな。」

 

「そんなに異常なの……ボク?」

 

「異常というか何というか……

お嬢ちゃんは大筒木一族にとって

類を見ない最高品質の

器なのだろうな。

今になって、イッシキの野郎が

激甘な対応なのも

頷けるってモノだ。」

 

「最高品質だと、

何かいい事があるの?」

 

「寧ろ、いい事づくめだ。

転生した後の本体スペックが

大幅に変わるといってもいい。

質が悪ければ、元となった身体が

力に耐えきれず、わずか2日で

その寿命を終える事だってあるんだ。」

 

「まるで実際にあったかのような

言い方だね。」

「あったも何も、イッシキは

その策に嵌められて死んだのさ。」

 

「…………。」

 

「おっと、こういう暗い話を

しに来たんじゃなかった。

すまないなあ、お嬢ちゃん。」

「というと?」

 

「成り行きではあるが、

イッシキの楔の力を

大きく引き出したのは事実だ。

それと同時に、自分の無力感も

感じた事だろう。」

 

「…………。」

 

「そこでだ。

楔をより実践的な武器として

鍛え上げたいと思う。

楔には大筒木由来の

戦闘経験値や特殊能力の反映の他に、

時空間移動をしたり、

自然発生以外のエネルギーを

吸収して、自らのエネルギーに

還元する能力があるんだ。」

 

「楔に、そんな力が……」

 

「俄には信じ難いだろうが、

これも事実だ。

吸収能力を使えるようになれば、

物理的攻撃を行わないキャンサーを

完封する事だって可能だ。」

 

「って事は、アマド氏も

楔を使えるってコト?」

 

「初めに言っただろう。

『複数台作る』のに

時間をかけていたと。」

 

「つまり、アマド氏以外の人も

ここに来るの……?」

 

「ああ。君より解凍が進んだ

楔使いの先輩だ。

失礼のないよう、修行に励んでくれ。」

「分かった。」

 

「もう来ていいぞ。

うずまきボルト君。」

 

バッと店の扉を開けて

入店して来たのは、推定12歳くらいで

あろう金髪の少年だった。

 

「うずまきボルト!

呼ばれて参上だってばさ!!」

 

「…………。」

 

「おいアマドのじっちゃん!

このネーチャン反応薄いってばさ!!」

 

「そもそも君みたいな年下の

男の子が来るとは思わないだろう。

少し混乱してるだけだ。」

 

「ご、ごめんねボルト氏。

その……

テンションについてけなくて。」

 

「なぁアマドのじっちゃん。

もしかしてだけど俺、

いた〜いガキだと思われてねーか?」

「十中八九思われてるだろうな。」

「ガーン……」

 

肩を落とし、あからさまに

悲しそうな顔になるボルト氏。

まるで進級デビューに失敗した

アカデミー生みたいだ。

 

「そう落ち込むなボルト君。

君は彼女の希望なんだ。」

「俺が……このネーチャンの?

ははーん……。」

あれ? なんでボルト氏

急に嬉しそうなの?

すんごいニヤニヤしてるんだけど!

 

……まさか。

 

「ちょっ、アマド氏!?

ボルト君に何を吹き込んだの!?」

 

「ボルト君をやる気にさせる為、

強硬手段に出たまでだ。

悪く思わないでくれ。

……というか、

そろそろ自己紹介したらどうだ。」

 

色々言いたい事はあるけど、

時間が限られてる以上。

モタモタしてもいられない。

 

「ボクはナンジャモ。

楔にはまだ不慣れだけど、

色々教えて貰えると助かるよ。」

 

「任せな。

大船に乗ったつもりで

頼ってくれていいってばさ!」

 

すごい自信だ。

 

「そんでよォ、ナンジャモのネーチャン。

アマドのじっちゃんから聞いたけど、

キャンサーという怪物と戦ってる

らしいじゃねぇか。」

「うん。」

 

「何せ相手は怪物だ。

楔の練度を上げて

吸収能力や時空間移動を

モノにするのもいいが、

もう一押し

特別な力が欲しくねーか?」

 

「ボルト君、何のつもりだ?」

 

「アマドのじっちゃんも分かるだろ?

チャクラが練れなくても、

楔のエネルギーを使えば

出来なくないってばさ。」

「理論上は可能だが……本気か?」

 

「ああ。俺はいつだって本気だ。

ナンジャモのネーチャン、

俺の手のひらをよーく見とけよ。」

 

ボルト氏が楔を発現させ、

手のひらに力を込める。

 

すると、手の上にエネルギーが

収束し、乱回転しながら

青い球状を形作った。

 

「これは……?」

 

「――『螺旋丸』ッ!

命中すると相手を吹き飛ばす

すんげー必殺技だってばさ!!」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

柿P「4章後半に約9カ月かかりました!」
自分「よっ! 待ってましたぁ!」

???「アニメBOROTO一部、終わりました。
アニメ2部はしばらくお待ち下さい。
原作も、これから3か月休載します。」
自分「なん……だと。
おい……俺は悪い夢でも見てるのか。」

……現実でした。
こんな涙、あったんだ。
ということで、 
次回もよろしくお願いします。


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21・5話・おめでとう! 4章後半!

 

━━▶︎ DAY??? ???

 

んー。

あれ、なんかボクの

前に柔らかいものがある?

 

妙に温かいし……抱き枕?

 

もしやルカ氏、

ボクに内緒で抱き枕を仕込んだか。

ドッキリでもする気なのかな……。

 

なんか抱き心地いいし、

もうちょっと顔埋めても良いかも。

 

んー。何これ。

2つの柔らかい

でっぱりが邪魔で息がしづらい。

 

少し距離を取って

どんな抱き枕か見てみよう。

 

パチパチ……

 

「……あ。うん。」

 

(人だ。知らない女の子。)

 

いやいや、日々の訓練で疲れてるだけだ。

 

最近ではリアルだけじゃなくて、

寝ても座標の中で

楔と螺旋丸の修行させられるし。

 

もう身体が疲れて幻覚まで

見ちゃってるんだ。

……そうだよ。

他人と同じベットで寝るなんて

ある訳がない。

 

そっと目を閉じて

もう一度開ければただの抱き枕に

戻って……なかった。

 

人だ。

桃色の髪をした、気の強そうな子。

 

「「――いやぁぁあああっ!!」」

 

「もう……朝からうるさいなぁ。

爆音はスピーカーで事足りるっての……」

 

ボクと謎の子の絶叫に反応して、

ルカ氏が嫌々目覚めて

こっちに近づいてきた。

 

「お、ナンジャモとめぐみんじゃん。

……って、

朝っぱらから仲良くベッドインかよ。

やる時くらいは

こっそりしろって

司令官に教わんなかったの?」

 

「教わってないよ!?」

「そんなん知らへんわ!!」

 

「ほら、やっぱ仲良いじゃん。」

 

桃色の髪をした少女が、

不機嫌な顔でルカ氏に反発した。

 

「どこがやねん!

名前も知らない女に

ハグされたんやでうち!?

そもそも頭に謎の目ん玉乗っけた

この女は誰や!?」

 

「え……ホントに

忘れたのめぐみん……。」

「忘れたも何も

知らん言うとるやろがい!

今日会うのが初めてやわ!」

 

「まぁまぁ、そうカッカなさんなって。

めぐみんが忘れても、

あたしは連れてくよ。

孤独の果て、虚数の海……」

「Burn My Soul口ずさむなや!

うちまで歌いたくなってまうやろ!」

 

ルカ氏はこの子を知っている……?

もしや、知らないのはボクだけか。

 

確認してみよう。

 

「ねぇタマ氏。その子の事知ってる。」

「はい! めぐみさんです!」

 

すごい嬉しそうに紹介してきた。

タマ氏が信頼を置くくらいには、

良い人かもしれない。

 

「おいタマぁ!」

「はいぃ。」

「うちだけ自己紹介されるのは

納得いかん。」

 

「でしょうね。……逢川さん。

彼女の紹介は、エリート諜報員である

このわたしに

任せてくれないかしら。」

 

「……ええで。」

 

「皆の者〜!

ドンナモンジャTVの時っ間だぞー!

はいドモドモー!

アナタの目玉をエレキネット!

何者なんじゃ! ナンジャモでーす!

ジムリーダーだよ!

おはこんハロチャオ!」

 

「「「「……………。」」」」

 

「ナンジャモ語使いこなしてんジャン!

意外と場慣れしてるー!?」

 

「東城、誇張抜きで

そういう挨拶する奴なんか……。」

「そうよ。このわたしが

下手な芝居打つわけないじゃない。」

 

待って。

つかさ氏の再現度高すぎて、

逆に背筋が凍るんだけど。

 

「あのぅ……ナンジャモさん。

本当でしょうか……。

ナンジャモ語っていうのは一体……」

「え、えーと。

あれは……そのぅ。」

 

どうしよ。

目を泳がす事しか出来ない。

 

「「「「「…………。」」」」」

 

皆、ボクに向ける目が冷たくないか。

 

え。 

なんでルカ氏が近づいてくるの。

肩にそっと手を置かれたけど……何?

 

ルカ氏が、

すんごい優しい目で見てる。

 

「分かるよナンジャモ。

あたしにも

『そういう時期』があった。

また昂る厨二病を

爆発させたくなったら、

いつでも

あたしに声かけていいんだぜ。」

 

あ……これ。

完全に患者認定されてる。

 

「うっ……うわぁぁああっ!!」

 

堪らずボクは叫んで、

部屋から走り出た。

 

「ナンジャモさん。

出ていきましたね。」

「何がいけなかったのかしら。」

「東城、

少なくともお前のせいだからな……」

 

エントランス、メイン通りを

意味もなく走り……

 

ゴツっ。

 

ぶつかった。

 

「ちよっと、何事ですの。

あら、ナンジャモさん。」

「ちえ氏……」

 

「今にも泣き出しそうですわね。」

「実はボク……」

 

「立ち話も何ですし、

時計塔辺りで座ってお話しましょう。」

「ありがとう。ちえ氏。」

 

………………。

 

……。

 

━━▶︎ DAY??? ???

 

時計塔近辺。

 

幸いな事に今日は休日。

 

時間の余裕がありそうなので、

ボクは今朝の出来事を

細かくちえ氏に伝えた。

 

「……そんな災難がありましたのね。

申し訳ないですが、

特に励ます言葉が思いつきませんわ。」

 

「ううん。

聞いてくれただけで有難いよ。

おかげで、ボクも少し落ち着いた。」

 

「それなら良かったですわ。

……ん? 誰か来ますわよ。」

 

確かに、こちらへ駆け寄ってくる

足音がする。

待って。この集まりって……

 

「逃さへんでナンジャモ!」

 

「えっ! 何でここが分かったの!?」

 

「はっ! うちは天才サイキッカーやで。

ハイヤーセルフ使うたら

居場所特定なんて楽勝やわ!」

 

「騒がしくなりそうですので、

あたくしはこれにて

御暇させていただきますわ。

ナンジャモさん。

後は頑張ってくださいまし。」

 

淑女然とした笑みを浮かべて、

ちえ氏は宣言通り去っていった。

 

「ちえ氏ぃぃいい!!」

 

「はっ! 先輩部隊にも

見放されるなんて情け無い奴ちゃなぁ!」

 

「う……ボ、ボクだって

一応戦えるし。」

 

「そうだぞめぐみん。

こう見えてもナンジャモは

ウチの自慢の部隊長だ。」

 

「何下らない冗談言うてんねん。

31Aの部隊長は自分やろ?」

 

「……え? 本当だよ。

な、ユッキー。」

「ああ。大抵支離滅裂な

発言をする月歌だが、

ナンジャモがウチらの部隊長なのは

紛れもない事実だ。」

 

「嘘やろ! こんなヒョロガリが

隊長な訳あらへん!

……ええわ。

隊長に相応しい存在かどうか、

うちのサイキックで見極めたる……。」

 

なんか勝手に話進んでない?

見極めるって何。

 

「そっか。じゃあ仕方ないな。

めぐみんとナンジャモで

アリーナTA勝負といこうか。

同じ打属性だし、公式でナーフが

確定したビゴトリーゲートでも

一狩りするか?」

 

「んなメンドい勝負して

どないすんねんッ!!

しかもナーフされてんの

メインストーリーだけや!」

 

「え、めぐみん良い勝負でも

思いついたの?」

「決まっとるやろ……

サイキック勝負や。」

 

「それ、圧倒的にめぐみんが

有利じゃない?

確かにナンジャモも

変な力持ってるけど、

ジャンル違いっていうか……」

 

「変な力やと……?

益々滾る事言うてくるやん。

今からでも勝負が楽しみやで。」

 

めぐみ氏、聞く耳持たないのかな。

まぁ、決まった事なら

しょうがないか。

 

場所はナービィ広場に移った。

 

「おいタマぁ!」

「はいぃ!」

「水入れたコップと

電池抜きの電池式オルゴールは

用意できたか?」

 

「はい! この通りです!」

 

言ってタマ氏は用意したものを

陳列していった。

 

「……これで準備万端や。

勝負のルールは至ってシンプル。

自慢のサイキックを

2つ見せるだけでええ。

ホンマは手指で数え切れんほど

あるが……勘弁したる。」

 

「だからそれめぐみん。

何のハンデにもなってないよ。」

 

「ほな! うちから

始めさせてもらうで!」

 

本当に始まっちゃたよ。

 

お、めぐみ氏がコップの前で

険しい顔してる。

 

「はぁぁああっ! どやぁあ!」

 

コップの中の水が浮いた。

見るからに、タネも仕掛けもない

本物の特殊能力っぽい。

 

けれど……

 

「うーん。微妙だねめぐみん。」

「十分凄いやろ!?」

 

「はいはい次々。」

 

「あっさり流すなや!

もうええ……

電池の無い電池式オルゴールを

うちのエレクトロキネシスで

派手に鳴らして驚かせたるで!」

 

もう一度険しい顔になって、

めぐみ氏が力を込める。

 

……バチバチバチ。

 

『鳴らない言葉を……』

「「「一筋の光ィィイイ!!!」」」

 

今にも音楽が鳴りそうな

オルゴールを

ルカ氏、ユキ氏、カレン氏が

同時に強く踏みつけて壊した。

 

「一筋の光って何や!

何結託して

オルゴール破壊しとんねんッ!?」

 

「めぐみん、聞いてくれ。

あの音楽は鳴らしちゃいけないんだ。

あたしらが反省を促さないと

いけなくなる。」

 

「意味わからんのやが!?」

 

「よーし。これで 

めぐみんのターンは終わりだな。

ナンジャモ、見せてやれ。」

 

「やっぱそうなるよね。」

 

サイキックかは分からないけど、

見せられる特殊能力と言ったら

秘術・少名毘古那と

秘術・大黒天だ。

 

幸いナービィ広場にボクら以外の

人影は無いし、

使っていいかもしれない。

 

ボクは手に力を込めて、

楔を発現させ……

 

「待て待て待てぇ!

何やその不気味な黒いアザ!

サイキックか!? 

新手のサイキックなんか!?」

 

楔を見慣れてないせいか、

めぐみ氏がとても驚いてる。

 

「え……めぐみん。

楔知らないとか本気で言ってんの?

もうセラフ部隊全員が

周知してるよ。」

 

「知らんわ! ナンジャモに

会うんも初言うたやろ!」

 

「……そっか。

じゃあナンジャモ。

なんか楔ですごい事してよ。」

 

「分かった。

みんな、ちょっと下がっててね。」

 

周囲の安全を確認して、

ボクは力を使った。

 

ギィンッ!

 

ズドォォンッ!!

 

「待て待て待てぇ!

何も無いところから

馬鹿デカい匣落ちてきおったで!!

こんなサイキック、うちも知らんわ!!」

 

「……え、何これ。

あたしも知らないんだけど。」

「「「「………………。」」」」

 

タマ氏以外の31Aメンバーが、

ドン引きした顔でボクを見た。

 

空気に耐えられず、

ボクはそっと

秘術・少名毘古那で匣を縮小した。

 

「大丈夫だよみんな……

今のは気のせいだから……ね?」

 

しかし、めぐみ氏は悟りを

開いてしまったようだ。

吹っ切ったような目で、空を仰いでいる。

 

「……この勝負、うちの完全敗北や。」

 

「めぐみさん!」

「タマ……どないしたんや?」

 

「私たち、めぐみさんに

言いたい事があるんです。」

 

「おいおい、

自分らパーティークラッカー

うちに向けてどうすんねん。」

 

「皆さん、いきますよ!」

 

パァァン!!

 

「「「「「「4章後半実装! 

おめでとう!!」」」」」」

 

「……はぁ?」

 

「めぐみさん! 

4章後半での活躍、期待してますよ!」

 

「おいタマぁ!」

「はいぃ。」

 

「うちの活躍、よう見とけや。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

とりあえず、4章後半の実装
おめでとうございます!

自分も、これから
遊べるのが楽しみです。

そして、救世主めぐみん様。
また気が乗ったら
ゲスト出演させます。
……いつか会いましょう。


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22話・勃発! 買い物王決定戦!

 

━━▶︎ DAY4 16:30

 

「よっし! 夕飯まであっそぼうぜ、

すももーー!!」

 

「今日はナンジャモ達と

演技練習するから、

また今度にしようにゃ……」

 

「お!? すももお前……もしかして

やる気になったのか!

いやー、どんなのが出来るか楽しみだな!

なあ、あたしも少し見学していいか?」

 

「恥ずかしいけど……

姉さん視点で何かアドバイス

貰えたら、助かるにゃ。」

「おうよ!」 

 

「あのー、みなさん。」

 

カフェテリア前で会話を交わす

水瀬姉妹を前に、えりか氏が

何か言いたげに声をかける。

 

が、その声も虚しく。スルーされる。

 

「蒼井さん。置いてかれてしまったわ。」

「蒼井の仲間。あんな身勝手な

連中だったのかよ……。」

 

「おいおい、

今のどこに身勝手を感じたんだよ。

すももの奴、映画撮影の為に

頑張ってるじゃねーか。」

 

「言われてみれば、そんな気が……」

 

「そんな事より、

蒼井さんの事はいいの?」

 

「あ! そうだった!

部隊長なのに

あんなに蔑ろにされて、

放っておけってかよ!」

 

「おお! 燃えてますね!」

「月歌さんが心配なら、

何とかしてあげるべきよ。

今までだってそうだったじゃない。」

 

「そうだよな……

それがあたしらしいよな。」

「そんな今まで、いつあった?」

 

「じゃ、みんなで映画撮影の見学会に

行くとするか。」

 

「ウチの部隊でも、

約3名は見学会に参加できねーからな。」

 

「あ、ごめん月歌さん。

あたしも山脇さんに

呼び出されちゃった……」

「かれりんの方も、

あたしは期待してんぜ!」

 

「ワシに演れぬ芝居はなぁぁイッ!

ひゃーっはっはっはァア!!」

 

言ってカレン氏は、

高らかに笑い走り去って行った。

 

「カレンちゃんの奴、

一番映画撮影楽しんでねーか?」

「まあ、そういうこともあるさ。

……行こうぜ、ユッキー。」

 

「ナンジャモさん。

私たちの鍛錬の成果、

見せたりましょう……!!」

「そうだね。」

 

 

 

――ナービィ広場。

 

「おい、待つんだお前ら。」

 

広場に向かった水瀬姉妹に、

ルカ氏が喝を入れた。

 

「は? あれ?

さっきの31Aの奴じゃん。」

 

「ナンジャモや國見はともかく、

お前らも見学しに来たのかにゃ。」

「そうなのか?」

 

「それもそうだが……

見学前に、お前らに

言っておきたい事がある。」

「何だよ。」

 

「蒼井の命令を聞け。」

 

「お説教かにゃぁ?」

「うちらに対していい度胸だなアンタ。

何様のつもりだい。」

 

「ただのロッカーだが?」

 

「あー、うちの部隊長が

情けない所為で出世の先

越されちゃったんだったー!」

「そうだったにゃぁ。」

 

「ふざけんなよ!

とにかく、あたしは蒼井の命令を

無視するお前らにカンカンだ。」

「……あっそ。」

 

「ちょっと、何事ですの。」

 

「お、菅やん。」

 

「――菅やん言うなッ!

あとお前らなぜ此処に来たッ!

野次馬多すぎて

気が散るでしょうがッ!!」

 

「すげーなナンジャモ。

ここまで迫真のキレ芸を

菅やんに仕込むなんて……

何百万GPくれてやったんだよ。」

 

「誰がキレ芸だコラぁッ!!

きぃぃいいいっっ!!」

 

「はぁ……マジ白けた。

すまん、すもも。

見学はまた今度にするわ。」

「分かったにゃ。」

 

呆れたような顔と態度で、

いちご氏はナービィ広場から

離れて行った。

 

「おい月歌、お説教失敗してんぞ。」

 

「あたしは言うべきことを

言ってやっただけだ。

後は当人達の問題だし、

余程のことがなければ

しばらくは

口出ししないつもりだよ。」

 

「月歌にしては、

えらくマトモじゃねえーか。」

「そうでもないよ。

ユッキーが居なきゃあたしも、

ここまで踏み込めなかった。」

 

「クソ……照れるな。」

 

「てな訳で菅やん。

あたしら31Aで見学していいかい?」

 

「残念ながら、それについては

あたくしが決める事柄では

ありませんわ。」

 

言って。

ちえ氏はボクの方に目を向ける。

ルカ氏も、こっちを向いた。

 

「……だよな。

映画撮影の主導者は他でもない、

ナンジャモだもんな。」

 

「勿論、皆なら大歓迎だよ。

寧ろ、何か可笑しな所があったら

どんどんアドバイス

してくれると助かる。」

 

「ああ! あたしら31Aが

しっかり見届けてやるぜ!」

 

………………。

 

…………。

 

━━▶︎ DAY4 19:00

 

演技練習も一通り終え、

日もすっかり沈んでしまった。

 

様々な意見が31Aから

寄せられ、より作品の質が

上がっていきそうだ。

 

今はと言うと。みんなして、

31Aの寮部屋でゆったりとしている。 

 

そんな感じの中、

可憐氏が些細な疑問を口にした。

 

「夜って外に出ていいのかな?」

「特に違反ではないわよね?」

 

「じゃ、みんなで徘徊してみるか。」

「あんまりいい意味じゃないから、

素直に出歩くと言えよな。」

 

「眠らない町へと繰り出すか!」

「町でもないからな。」

 

ルカ氏の提案に乗り、

一同は文字通り

夜のセラフ基地へ歩きはじめた。

 

いつも通りの景色からは

少し外れた、

フレーバー通りという場所を練り歩く。

 

様々な施設に寄って、

他愛のない話や感想を

それぞれで広げていく。

 

サウナ、雑貨屋、ブティック、

シネマ館、噴水広場…………

 

およそ人類の危機とは思えない

歓楽街のような場所だった。

 

そして奥には……

 

「あのデカい建物ってもしかして……」

「ナンジャモさん!

私たちで行ったりましょう……!!」

「うん。」

 

一同で走り、建物の中へ入る。

逸早くその建物の

用途に気がついたのは、可憐氏だった。

 

「ここはスーパー?」

「すごく大きそう……。」

「昼間は気づかなかったなあ。

ちょっと彷徨いてみるか。」

 

「……うん。」

 

彷徨くこと数分。

目に入る想像以上の品揃えに、

ルカ氏が感嘆する。

 

「おー! すごい!」

「どこに何があるかも

分からないぐらい広い……。」

 

「でしょう……!!」

「ボクも、こんなにモノが

多い場所が在るなんて

思いもしなかったよ。」

 

「よーし!

じゃあみんながすげーって思うもの

買ってくる選手権しようぜ!

名付けて『買い物王決定戦』ッ!」

 

「なんでそんな判断基準が

曖昧な勝負しなくちゃ

ならないんだよ……。」

 

「その考えはなかったー!

ってなる奴ね。」

「伝わるのかよ……。」

 

「いいですね! やったりましょう!」

「ノリノリかよ。」

 

「よーい……どん!」

 

…………………。

 

…………。

 

それぞれの買い物が終わり、

選手たちが購入物を抱え集う。

 

ユキ氏は、ある2つの購入物を

見るなり、驚愕の表情を浮かべた。

 

「待て……明らかにヤバいのが

2人ほど居るが……。」

 

「そんじゃ、此処に戻ってきた順番に

発表していこうぜ。

さぁさぁ、スタートを切るのは

一体誰だい?」

 

「あたしだ。」

「ユッキーか……不気味な存在だ。

見せてくれ。」

「これだよ。」

 

「なんの紙切れ?」

「旅行ギフト券だ。」

 

「このご時世に旅行!?」

「どこへ行けるというの!?」

「知らねーよ。売ってたから

買ってきただけだよ。」

 

「さすがユッキーと

いったところだな。次は?」

 

旅行……か。

だったら、流れ的にボクの出番かも!

 

「次はボクでいいか!」

「おーナンジャモ!

あたしの目玉をエレキネットして

くれるような逸品を見せておくれ!」

 

「急にハードル上げてくんなよ……」

 

「じゃーん! ピクニックSET一式!

……凄いでしょ!!

旅行のお供にこれ以上の最適解は

ないと思うよね!」

 

「そもそも旅行は行けねーんだぞ。

よくそんな

夢物語染みたモン買えるな。」

「旅行券買ってきたユッキーが

それ言う?」

「……クソ、あたしとした事が

月歌に一本取られちまった……」

 

「さぁ、お次は誰だい?」

 

「わたし。」

「おー、つかさっちか。

エリート諜報員の腕前、

見せて貰おうか。」

 

「これ。」

 

自信満々で、つかさ氏は

謎の手帳を見せてくる。

 

「ただの手帳でしょうか……?」

「違うわよ國見さん。

これはね……『イルゼの手帳』よ。」

 

「何でそんなモン売ってんだよ!?

売ってたとしても絶対買わねーーよ!」

「エリート諜報員たるもの、

貴重な証拠品は

持っとくべきだと思うの。」

 

「今持ってたとしても

セラフ部隊に対しての情報源としては

利用価値ゼロだからな!!」

 

「ここまでやるとはな……つかさっち!

さぁ、お次は誰だ!」

 

「あたし。」

「かれりん……

一体何を見せてくれるんだい。」

 

「あたし、スナック菓子大好きだから

みんなにもその良さを色んな形で

知って欲しいの。」

 

言って可憐氏は、

買い物袋から

ガサゴソと購入物を取り出す。

 

中から現れたのは、人の腕を模した

赤いプラスチック製品。

一目では、全く用途が分からない。

 

しかし、ユキ氏は瞬時にそれが

『何であるか』理解し、驚愕した。

 

「1103兆3543億円んんんん!!」

「え? どうしたのユッキー?」

「和泉さん。これ2200GPだったよ。」

 

「だよな! その値段じゃなきゃ

購入しないもんなぁ!!」

 

「……それは何なのかしら。」

 

「菓子粉砕機・グルメスパイザー。

スナック菓子を粉砕して、

いつもの食卓を

更に豊かにしてくれるの。」

「煎餅入れたら本体がClash

するけどな……」

 

「んじゃ、次はあたしだな。」

「ルカ氏?」

「ああ、そうだぜ。これだ。」

 

ルカ氏は掌の上に乗った

小さい人形をみんなに見せた。

またもや逸早く反応したのは、

ユキ氏だった。

 

「大したハッピーセットじゃねぇか!

つーか月歌、

どんだけナルトス好きなんだよ!

もう後半からネットのオモチャ

お披露目大会になってるじゃねーか!!」

 

「え、ユッキー。もしかして

チャクラ宙返り嫌いなの?」

「好き嫌いの話じゃねーわ!!」

 

「頼む。國見だけはマトモな

買い物をしていてくれ……」

「ユッキー、そしたらこの企画の

意味無くなっちゃうよ?」

「……分かってるよ。」

 

「これです!」

 

意気揚々とタマ氏が

見せてきたのは、一枚のカード。

ん? このカードに映ってるのって……

 

「ナンジャモさんの

激レアポ●モンカードです!

30万GPで売ってました!!」

 

「何それあたしも欲しい!!

おタマさん! それ優勝だよ!!

なぁなぁ、それどこで売ってんのさ?」

 

「ストーーーップ!!」

「「「「「……???」」」」」

 

「……何だよナンジャモ。」

 

「お、お願いだから買わないでぇ……

ボ、ボク恥ずかし過ぎて……

死んじゃうよぅ……」

 

「……色んな意味で、優勝。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

昨日の生放送、最高でした。
現在、運営さんのアップした
公式ヘブバンMAD(4章後編)に
どハマりしてます。

ちなみに、
ネットのオモチャ大好き民です。
よろしくお願いします。


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23話・蒼井の人生

 

━━▶︎ DAY5 19:00

 

いつもの通常課業に加え、

オペレーション・プレアデスに

備えた31Bとの合同訓練が

より厳しいものとなってきた。

 

幾度となく共に訓練した成果が

実り、手塚氏にも

褒められるレベルにまで達した。

 

しかしその分、気になる部分が

より如実に現れ始めた。

 

「ボク……やっぱり気になるな……」

「31Bの隊長さんが気になってんのか?」

 

「流石だねユキ氏。その通りだよ。」

 

「チームワーク

ばらばらみたいだしね。」

 

「ボク一人で、

お話ししに行ってもいいかな。」

 

「あたしは賛成だぜ。

まぁ、あたしは言いたい事いって

さっぱりしたし、

特についてくる理由はない。

っていうのが本音だ。

……後はもう、ナンジャモの

好きにしていいんじゃないか。」

 

「ルカ氏……」

 

一同も同意を示すように、

静かに頷いた。

 

「みんなありがとう。

ボク……行ってくるよ。」

 

決意を固め、部屋を出ると

廊下の椅子で見覚えのある子が

座っていた。

 

(この眼帯……あの子は31Bの……)

 

「何か用ですか?」

「梢氏、えりか氏が今どこに居るか

教えてほしい。」

 

「蒼井さんなら、

飲み物を買いに行きましたよ。」

 

▶︎メイン通り

▶︎行かない

 

取り敢えず、メイン通りの

自販機がある所まで行ってみよう。

 

あ……居た。

 

「おーい、えりか氏ー。」

「え……ナンジャモさん?」

 

「少し大事な話があるんだ。」

「大事な話……ですか。

分かりました。ビャッコはもう、

みんなの所にお帰り。」

「ヴァウ……。」

 

「私は大丈夫だから、みんなとも

仲良しになる時間が必要でしょ?」

「ヴァウ!」

 

ビャッコ氏は

元気よく返事して走り去っていった。

 

「気を遣わせて悪いね。」

 

「良いんですよ。

込み入った話となると、

2人きりに越した事はないでしょう。

……夜風が気持ちいいので、

学舎の方まで歩きませんか。」

 

「うん。

じゃあボクは後で追いつくから、

先に待ってると助かるよ。」

「あ、はい。」 

 

(えりか氏は何も買ってないし、

何か買っていこう。)

 

 

 

――学舎外・噴水付近、ベンチ。

 

「お待たせえりか氏。

良かったら、これ飲んで。」

 

ボクはホットココアを手渡した。

 

「わ! ありがとうございます!」

 

「それと……これも一切れどうぞ。」

 

「え!? 苺のホイップサンドですか!?

こんな夜中に食べるなんて……

罪悪感が凄すぎます!」

 

「気にしないで。

四六時中サンドイッチ食べるなんて、

パルデアでは日常茶飯事だから。」

 

「……ぱるであ?」

「ボクの故郷だよ。

自然豊かで、

ポケ……色んな動物が居るんだ。」

 

「きっと、居心地のいい場所

なんでしょうね……。」

「うん。とっても良い場所だよ。

でも今は、それと同じくらい

ここでの暮らしもボクは好きだ。」

 

「やはり、

気の合う仲間の存在でしょうか……」

 

(えりか氏は鋭いなあ……)

 

「全くもってその通りだよ。

かつてのボクは、1人で抱え込み過ぎた。

あの時、ライムさんに

一声かけてれば変わってたかも

しれないのにね。」

 

「………………。」

 

「この基地の色んな人に触れて

ボク自身の視野が広がった。

もう一度気がつけたんだ。

誰かに頼って良いんだって。

どんなに遅くて歩幅が小さくても、

仲間と共に、一緒に歩いて

成長していけば良いんだって。」

 

「でもナンジャモさん。

お仲間さんとはここで

始めて出会ったんですよね……?」

「うん。

ついこの間会ったばかりだよ。」

 

「それでもうそんなに

親しくなってるなんて……

人見知りの蒼井には真似出来ません。」

 

「ボクだって人見知りだよ。

アカデミーの書庫に独りでこもって

ライトノベル読み漁るくらいには……」

「ぶっ!」

 

勢いよく、えりか氏が鼻から

ココアを吹き出した。

 

手元では、偶然にも

苺ココアホイップサンドが

完成している。

 

よし、今度ココアパウダー用意して

作ってみよう。

って、そうじゃない。

 

「急に吹き出してどうしたの

えりか氏?」

 

「だって、絶対ないような事

言うんですもん……。

人見知りだったらこうして

会いにきてくれる事もない筈ですよ。

鼻かませてください。」

 

「どーぞ。」

 

ボクはハンカチを手渡した。

 

「ずずー。」

 

鼻をかみ終わったえりか氏が、

ハンカチをポケットにしまった。

 

「急に吹き出してすいません。

このハンカチは後で洗ってお返します。」

「分かった。

……それで、聞きたい事が

あるんだけどいいかな。」

 

「はい、なんでしょう。」

 

「えりか氏は、どんな人生を

歩んできたの?」

「蒼井の人生、ですかー……。」

 

しんみりとした表情で、

彼女は語り出した。

 

「そうですね……とても平凡です。

とてつもなく平凡です。」

「そうかなぁ、えりか氏くらい

整った顔立ちなら、浮いた話の

十や二十はありそうだよ。」

 

特に、リップ氏のアカデミー期

モテモテ話はアカデミー七不思議に

入るくらいの逸話だったし……。

 

「絶世の美女かっ。」

 

目を見開いて、ユキ氏のように

強く言い返すえりか氏。

さっきから、予想外の反応ばかりだ。

 

「誰かを好きになるような事も、

誰かに好かれるような事も無かったです。」

「どうして。」

「いわゆる勉強の虫でしたから。」

 

「勉強が好きだったってコト?」

 

「蒼井自身は特には。

ただ両親が教師だったので、

良い点を取ることでしか

褒められなくて……。

それに、ハイパーサイメシアなので

暗記だけは得意でした。」

 

「ハイパーボール入りのサーフゴー?

えりか氏は

ポケモントレーナーだったの?」

 

「ポケ……トレーナー?

ナンジャモさんが何を言ってるか

分かりませんが……

一度見たものをずっと覚えていられる。

という特殊な能力です。」

 

「へー。便利な能力だね。」

 

「そんないいものではないですよ?

寧ろ、ナンジャモさんの持ってる

『楔(カーマ)』の方が羨ましいです。

蒼井の耳にも入りましたよ。

あのDeathSlugを一振りで

両断したと……」

 

「あはは……あれはそのぅ……」

「ナンジャモさん……?」

 

言えない。

イッシキ氏が

好き勝手暴れた結果だなんて。

 

えりか氏、

愛想笑いしか出来なくてごめん。

 

「取り敢えず、話戻そ?」

「そうですね。戻しましょう。

……それで、毎回テストは満点でした。」

「ん……それっていい事じゃないの。」

 

えりか氏は、伏し目がちに

なりながらも言葉を続ける。

 

「でも、『それだけだった』んです。

得意のは暗記した解答を埋めるだけ……

他に取り柄なんかなかった。

みんなは、得意なものがあったり

夢中になれるものがあって

何かを成し遂げようとしていた。」

 

――何処へ行き、誰と出会い、何を成すのか。

それぞれがそれぞれのポケモンたちと

ともに歩き、ともに考え、ともに感じ……

自分だけの宝物を見つけて

帰ってきてください……!!――

 

そうか、えりか氏はまだ……

 

「色んなことを暗記できたけど、

蒼井自身は空っぽだったんです。

それに気づいた時には、

愕然としました。」

 

「親と同じ教師になる夢とかは?」

「個人的にはそれもなかったです……。」

 

「でも今は31Bの部隊長だし、

それなりにやり甲斐とか感じてないの?」

 

「ナンジャモさんは、そうなんですか?」

 

「やり甲斐というか、成り行きだからね。

ボクが楔を持っていなかったら、

素の実力や人望的にも、

間違いなくルカ氏が部隊長を

やってると思うよ。」

 

「そんな事ありません。

他でもない

ナンジャモさんだからこそ、

今があると思うんです。」

 

「……お世辞でも助かるよ。」

 

えりか氏は立ち上がり、

噴水の方を見つめた。

 

「でも蒼井は、ナンジャモさんの

ようにはなれていなくて……。」

 

「見てたよ。えりか氏、

31Bの仲間たちと

上手くいってないみたいだね。」

「巻き込んでしまって

すみませんでした……。」

 

「気にしなくていいよ。

いつかきっと、みんな

えりか氏の事を分かってくれるって。」

 

「優しいですね。ナンジャモさんは。」

「そんな事ないよ。」

 

「最初部隊長に任命された時、

蒼井にも全うすべき役目が

宛てがわれた事が嬉しかったんです。

みんなを纏めて引っ張っていこう。

誰も死なせないように頑張ろう。

それが蒼井の生きる意味なんだ。

そう決意を固めました。

でも、出来なかった……。」

 

夜空を見上げ、えりか氏は

苦しそうに告げる。

 

「蒼井には向いてなかったんです……。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

一部のパルデア人は、
サンドイッチ食べて
ピクニックSETを
出し入れしまくってるらしいです。

もし自分が通行人でそれ見かけたら、
そっとスルーして通り過ぎます。
よろしくお願いします。


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24話・ウェイトレス蒼井、参戦!

 

夜空を見上げ、えりか氏は

苦しそうに告げた。

 

「蒼井には向いてなかったんです……。

みんないなくなっちゃって、

一人きりで立ち尽くしていて……

眠りにつく度、

その光景が眼前に広がります。

空が落ちてきて、蒼井は程なくして

赫い水の底に沈むんです。」

 

未来に大きな不安を持ったせいで、

悪夢に陥りやすい……という事?

 

「それは終わりのない地獄のようで……

水中にある一筋の光……蒼い星を頼りに

足掻いて泳いで出ようとしても、

思うように身体が動かず。

泡だけが指をすり抜けるんです。」

 

どうしてえりか氏は、

溺れる夢を見ているのだろう。

一体何が、

彼女を水中に誘っているのか。

……まるで分からない。

 

「蒼井はきっと、地上で生きていくには

あまりに怯懦な存在だった。

そういう『暗示』がこの悪夢の正体で、

終わらない記憶の『轍(わだち)』。

だから、水の中から出られず

どこにも辿りつけない。

どこにも行けないような人間に、

誰かがついてくる訳ないんです。」

 

「えりか氏は、夜な夜な苦しい思いを

して日々を過ごしてるんだね……」

 

「ですが最近は、その悪夢も

少しずつ改善されて来たんです。」

 

えりか氏の声色が、軽くなった。

 

「どういう事?」

 

「水中なのに、手が温かくなるんです。

すると、蒼い星が眩く光ります。

それが晴れると……稲穂の海に居るんです。

心安らぐ夕景に、

果てしなく続く稲穂の海。

蒼井の心は穏やかになって、

不思議と歩き続けてしまうんです。

でも水の底にいたような息苦しさは

なくて……只々心地良いんです。」

 

「それは、アンタが過去の記憶と

向き合い進もうとしてる証よ。」

 

「「――ッ!?」」

 

突然現れた気配に目を向けると、

そこにはイヴ氏と弥生氏が居た。

 

「いきなり現れて悪いわね。

私とした事が、つい気になって

盗み聞きしてしまったわ。」

「お前らの企みは筒抜けでゲス!」

 

「山脇さん……」

 

「いいかい蒼井。

どんなに苦しくとも、

過去の記憶を嫌ってはダメよ。

過去の記憶と向き合える

権利を持ってる。

それだけで人は幸福なの。」

 

「山脇様……どうしてそんな

悲しい顔をするでゲスか?」

 

「豊後、私の為にココアジュース

2本買ってきなさい。」

「はいでゲス!」

 

スタスタと弥生氏が離れていった。

 

「じゃあ話を戻すわよ。

蒼井、無意識だろうけどアンタは今、

変わろうとしている。

それは過去が鮮明に残っていて、

背中を押しているからに他ならない。

過去の残留すら許されない

私たち31Cには無い強みよ。」

 

「……はい。」

 

「過去と向き合い成長を続ければ、

アンタはきっと、

認められる存在になれる。

31C部隊長であるこの私が

保証してあげる。

身勝手なのは承知だけど、

次の夢が迎えに来たら、

私たちにも聞かせてちょうだい。」

 

「山脇様、例のブツを2本

持ってきたでゲス!」

 

あ、弥生氏が戻ってきた。

 

「ほう……!

やるじゃない豊後ぉ!

どれどれ、私に見せてみな……

ってこれ、どっちも

キャラメルラテじゃないかい!?

しょうがないわね!

罰として豊後、アンタにも

一本飲んでもらうよ!!」

 

「はいでゲス!!」

 

「あのー、山脇さん?」

「まあ、私から言えるのはそうだねぇ……

アンタは独りじゃないって事さ。

何かあったら私たち31Cや31Aに

頼ったっていい。」

 

「ありがとうございます……。」

 

「取り敢えず次の作戦が終わったら、

私たち31A、31B、31Cで

纏まって祝杯をあげるなんてどうだい?」

 

「お前は特別に、当日山脇様の

ウェイトレスとして

クリームソーダを献上する権利を

くれてやっても良いでゲスよ……

けっひっひ!」

「……はい?」

 

唐突な弥生氏の謎発言に、

えりか氏は首を傾げた。

 

「ナンジャモ、アンタも異論はあるかい?」

 

「……ないよ。寧ろ大歓迎だ。

えりか氏は?」

「そうですね……

じゃあ楽しみにしてます!」

 

「マジでウェイトレス

やる気かいアンタ!?

私めちゃくちゃ恥ずかしい奴に

なるじゃないか!!」

 

「はい! 

蒼井、ウェイトレス頑張ります!!」

「うん! えりか氏なら

きっと似合うよ!」

「決まりでゲスね!」

 

「主人である私の意見は!?」

「「「………………。」」」

 

「変な所で意気投合するん

じゃないよアンタ達!?

なんだいその悲しい目はァ!?

――分かったわよ!

アンタ達の好きになさい!」

 

 

……………。

 

………。

 

━━▶︎ DAY5 22:00

 

部屋に戻ると、

タマ氏がベットから立ち上がった。

 

「ナンジャモさん。

結果はどうだったのでしょうか……!」

 

「話してきたよ。結構大変だったけど、

心を開いてくれた。

まあ、イヴ氏のフォローが

無かったら危なかったんだけどね。」

 

「え!? あのワッキーが!?

すげー意外ッ!!」

「月歌、何勝手に1人で

盛り上がってんだよ。

それより蒼井の様子は……」

 

「えりか氏の戦う理由は、

みんなを纏めて

誰も死なせないように

頑張ることだった。」

 

「リーダーとして至極真っ当な理由ね。」

「でも、今の様子だと

先行きが不安過ぎですぅ……」

 

「それについては本人も悩んでる。

だから次の作戦が終わったら、

労いの意味も込めて、

31A、31B、31Cの合同で祝杯を

上げることにしたんだ。

……イヴ氏が独断で決めた事だけど、

ボクも了承した。」

 

「何それ最高じゃねーか!

おいお前ら、あたしらの

チャクラ宙返りで祝杯を

めちゃくちゃに盛り上げてやろーぜ!」

 

「そうね。」

「もちろん。」

 

「もしやったら、クソ迷惑だからな。」

「えー。」

 

各々が祝杯の未来に期待を膨らせ

ながらも、今日という1日は

穏やかに終わりを迎えた。

 

消灯をして、

瞼を閉じれば明日が…………

 

ゴポゴポゴポ…………

 

(ここは、座標……?

座標にも、水中があるのか?

……待って。)

 

座標にしては様子が可笑しい。

ボクは、円柱型の水槽の中に居る?

 

いいや、ボクだけじゃない。

周りにある水槽の中にも、子供がいる。

 

呼吸用のホースが

取り付けられた子供たちが。

 

でも、いくつも破損した水槽が

あったりもするし……

ここは何かの研究施設なのかな。

 

ん……大人が2人居る?

楔を発現させてる僧侶のような人と

――アマド氏!?

 

何がどうなってるの!?

 

「随分減ったな。」

 

「やめる理由が何処にある?

アマド……お前と違って我々には、

時間も、選択肢も無い。

全てを円滑に進めるには、

これこそが最短距離なのだ。

たった一つで良い……」

 

ズブッ。

 

言って、彼は水槽と繋がった

水溜りに手を差し込む。

 

オレンジ色の水は気泡を

ぶくぶくと吹き、黒く淀んでいく。

 

中の子供が声も上手く発せないまま

悶え苦しみ、じたばたとする。

 

それでも解放される様子はなく……

忽ち水槽内が黒く染まり、

水槽が破裂した。

 

その悲惨な結果に、

アマド氏が

悲しげな表情で口を開いた。

 

「また失敗だな……」

 

楔の男は、憤った顔となり

破損した水槽を蹴り飛ばした。

 

バリィイン!

 

そして、怒りをぶつけるように

こちらを睨み……告げる。

 

「私を失望させるなよ……『カワキ』」

 

すぐさま移動して、

彼はボクが居る

水槽の水溜りに手を差し込む。

 

また、黒く淀み始め……

 

(何……これ? くる……しい……)

 

「……はぁっ、はぁっ……。」

 

「お嬢ちゃん。

不慮の事故みたいなモンだが、

どうやら見てしまったようだな。」

 

「……アマド氏。ここは……宝食堂。」

「落ち着けお嬢ちゃん。

今君を苦しめる奴は何処にも居ない。」

 

「アマド氏、あの楔の人は一体……」

「アイツはジゲンだ。」

 

「ジゲン……?」

「なぁ、お嬢ちゃん。

記憶の中で聞いたジゲンの声に、

何か既視感を感じないか。」

 

既視感。……あの声。

 

「声が、イッシキ氏と同じだった。」

「ようやく気がついたか。

そう、あの時のジゲンと

大筒木イッシキは同一人物だ。」

 

「ねぇ、アレは何なの。

アマド氏とイッシキ氏は何を……

子供たちは無事なの? 

カワキっていうのは……?」

 

アマド氏は、手のひらを前に出した。

 

「待て待て。俺といえど

そう一辺に説明できる訳じゃない。」

「……急かしてごめん。」

 

「お嬢ちゃんの気持ちもよく分かるが、

一つずつ説明させてくれ。

まず君は、座標墓灊の

『記憶の泡』に

不慮の事故で接触し、

楔経由でカワキ君の記憶を

『追体験』してしまったんだ。」

 

「追体験……。」

 

「カワキ君とは、

大筒木イッシキの

楔を持っていた前任者だ。

そして我々がしていた事は、

『楔』を人間に刻む『作業』だ。」

 

「作業の為に苦しんだ子供たちは、

どうなったの……」

 

「あの子供たちは、

汚れた金で買い取った

身寄りのない孤児だ。

彼らは、楔の為の尊い犠牲となった……」

 

「……そっか。」

「どうした。

俺やイッシキが憎くないのか。

……それとも、失望し、幻滅したか。」

 

「適当な嘘をボクに吐くこと

だって可能だったのに、

アマド氏は正直に答えてくれた。

罪がどうあれ、

それだけでも充分だよ。

どんなに嘆いたって、

犠牲になった命は蘇らないからね。」

 

「お嬢ちゃんはどこまでも甘いんだな。」

 

ふと、手のひらに

ある楔を見てみる。

 

凝視すればするほど、

異質な雰囲気を放つ黒い菱形……

 

けれどこれは、

希望にだってなる筈だ。

 

「この楔で犠牲になった命より多く、

ボクが……ボクらが

キャンサーから人類を救ってみせる。

――それこそが、ボクが彼の楔に

選ばれた理由だと思うから。」

 

「ああ。嬢ちゃんなら

きっと果たせるさ。……健闘を祈る。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

昨日の生放送、最高でした。
待っていたぞ! 蒼井ィ!
(フルフルニィ……)

ウェイトレス蒼井、全力で引きます。
よろしくお願いします。


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25話・ぐるぐるリベンジマッチ

 

━━▶︎ DAY9 8:30

 

「月歌さん、寝坊したとか

言ってどっか行きましたね。」

 

「休日くらいは良いと思うよ。

ボクらも、ついにあの日が

来てしまったしね。」

「ようやくですか……

桐生さんと独楽バトルリベンジマッチ!」

 

「……うん。」

 

イモータルセルとの交戦から

1週間ちょいが経過した。

 

完成した新作独楽も回し慣れ、

勝ちが狙えるまでに上達した。

 

映画練習で疲労した

仲間の代わりとして

えりか氏を練習相手にしてみたが、

これが結構参考になった。

 

「そういえばこの1週間ちょい、

イモータルセルと戦ってからも

色んな出来事が目白押しでしたね!」

 

「そうだね。

ルカ氏が昨日、えりか氏を

部屋に連れてきた上に、

カルパス競争とか、

バンドメンバーに加えたりとか……

予想外の事ばかりだよ。

当人は楽しそうだから

構わないんだけどさ。」

 

「ですね……!」

「あとは、作戦の模擬演習だっけ?

あれも苦労したよね。」

「はい!」

 

今週特に手間取ったのは、

作戦の模擬演習だ。

 

合同訓練は、思いの外

お互いの動きが中々噛み合わず

多少のタイムロスなどがよくあった。

 

それでもなんとか、

模擬作戦のフェーズ2を完遂し合格。

 

ポイントガンマで待ち構えていた

ダイヤモンド・アイに

苦戦した事は記憶に新しい。

 

と、今週の思い出にほんの少し

浸ってる間に。

LINNEの着信音が鳴った。

 

メールの内容は、

美也氏の呼び出しだ。

 

「呼ばれてしまいましたね!

良いでしょう、

私たちでやったりましょう……!!」

「……おー!」

 

 

 

 

━━▶︎ ナービィ広場。中央。

 

大島屋同盟の面々と……あれ?

なんか多い?

 

「よーナンジャモ!

面白そうな事始まりそうだから、

31Aのダチ連れて来たぞー!」

 

「ルカ氏……。」

 

「蒼井も、練習の成果を見届けに

31Bの皆さんとやって来ました!」

 

「えりか氏……」

 

「やぁナンジャモ!

映画撮影サボって何してんのかと

思ったら、

独楽遊びしてるそうじゃない!

面白そうだし、

私たち31Cも観戦してあげるわ!」

「見てやるでゲス!」  

 

「イヴ氏まで……」

 

「ハーイMs.ナンジャモ!

アタシたち31XもWatchするわよ!」

 

「桐生……どうして我々30Gまで

連れて来たんだ?」

「まぁ、見ていてください白河さん。

少しは気晴らしになりますよ。」

「そうか……なら観戦させて頂こう。」

 

何ということだ。

まさか31Dと31Fを除く

31期セラフ部隊と30G部隊が

観戦するなんて……

 

(凄く緊張する……!!)

 

「ナンジャモさん……?」

「あ、ごめんタマ氏。

少し緊張して圧されてるだけだから。」

 

「ナンジャモさんなら大丈夫です! 

この1週間の訓練の成果……

堂々と見せたりましょう……!!」

 

「だね。」

 

「作戦会議は終わりですか?

では見せて貰いましょうか。

あなた方の用意した新作独楽とやらを。」

 

ボクはタマ氏と

アイコンタクトを取り、

懐から例の独楽を出し見せつける。

 

美也氏は、面を外しニヤリとした。

 

「ほう……それが新作の独楽ですか。

なんとも厳ついお姿……

今からお相手するのが楽しみです。

独楽紐、巻かせてください。」

 

「うん。」

 

独楽を手渡しし、

美也氏に巻かせた独楽が帰ってきた。

 

「触れてみて分かりました。

この独楽にはあなた方の 

強い想いが宿っています。

重量、質感、形状……

どれを取っても一線を画す逸品に

仕上がっています。」

 

「それほどでも!!」

「ちょっ、タマ氏!

あまり驕りすぎないでよ!?

負けた時悲惨になるからね!?」

 

「全くもってその通りです。

……さぁ、始めましょう。

キャロルさん、進行お願いします。」

 

言って。

美也氏はステージ前で構え始めた。

 

いや待って、

前回と明らかに構え方が『違う』ッ!

 

「その顔……ナンジャモさん。

気がついたようですね。

前回わたくしは、独楽の回し方を

セーブしていました。

あの時は飽くまでも初戦のハンデです。

白河さんが観戦する以上、

わたくしも無様な姿は

見せられませんから。」

 

「ギャラリーも多いし、

本気で来てくれた方が

ボクら的にも有難いよ。」

「はてさて、その余裕が

何処まで続くのか見ものですね。」

 

ボクは手に力を込め、

楔を発現させる。

 

「3……2……1……GO Shoot!!」

 

同時に独楽がステージに降り立つ。

 

どちらも初戦とは違い、

回転速度や移動速度までも

ワンランク上の戦いになっていた。

 

クルクル……キィン キィアン!

 

散る火花と、剣戟を彷彿とさせる

甲高い金属音。

 

正に、侍同士の生死をかけた

鍔迫り合い。

 

いいや違う……

今ボクは、美也氏と刀を交えている。

 

「ぎぃえぇっ! 

なんかナンジャモさんと

桐生さんの目つきが怖いですぅ!」

 

「國見さん、落ち着いて下さい。

天才剣士であるわたしから

申し上げますと……

彼女らは今、精神世界で

互いの刀を交えています。

それ程までに、両者の戦いに対する

想いが強いのでしょう……。」

 

「全然納得できませんが!?」

 

右から来るッ!

 

キィンッ!

 

「はああっ!」

 

美也氏が仕掛ける一閃を弾いた。

 

「ここまでやりますか……

ナンジャモさん!」

「直、大島屋同盟のところに

連れてくよ……美也氏!」

 

「それでもわたくしは……

セラフ隊員です!!」

 

キィンッ!!

 

左、下、右上……

どれもしなやかで力強い一太刀だ。

 

でも、追えない動きじゃない。

隙を見て大きく弾き返そう。

 

「ていやあぁっ!」

「ここだッ!!」

 

ガキィンッ!

 

「なッ!?」

 

突きで確実に決めるッ!!

 

「決めさせて貰うよ……美也氏!」

 

ガッキィィン!!

 

美也氏の独楽が場外に飛んだ。

 

「――勝負アリっ!!

WinnerはァーMs.ナンジャモぉ!!」

 

「やりましたね!

ナンジャモさん!!」

「うん!」

 

「これが新作独楽の力……

わたくしが敗北を喫してしまうとは

思いもしませんでした。

しかし、このまま勝てるとは

思わないで下さいね。」

 

あれ、いつものおっとりした

声音が乱れてる?

もしや美也氏、イラついてる。

 

「小笠原さん。『例の独楽』を。」

「本気ですね……桐生さん。」

 

30Gの仲間から、美也氏が

とある独楽を受け取った。

 

「これは一体……」

 

「――魔の独楽・三日月宗近。

使う事はないと思ってましたが、

あなた方の戦果を鑑みて、

使う事にします。

白河さん、見ていてください。

このわたくしが圧勝する

華々しい様を。」

 

「あぁ、見せてくれ。桐生。」

 

「ぎぃえええっ!

あっちも遂に本気の独楽だして

来ましたぁ!!」

 

「大丈夫だよタマ氏。

ボクらが

精一杯を込めて作った独楽だ。

最後まで信じて戦い抜こう。」

 

「はい……!!」

 

「3……2……1……GO Shoot!!」

 

キィンッ!!

 

再び、ボクは美也氏と刀を交える。

……が。

 

「……くっ、さっきより重い。」

 

「ナンジャモさん、

先程の威勢は何処に言ったんですか?

この程度の防御では、

わたくしの猛攻を

抑えられませんよ。」

 

キキィン! キィン!

 

右か……左か?

ダメだ。あまりに速すぎて

追いつくのでやっと。

 

さっきとはまるで、

戦いのステージが違う。 

 

正に一触即発。

少しでも気を抜いたら、

ボクが場外に斬り飛ばされるッ!!

 

それでもボクは……喰らいつく!

ここまで協力してくれた

みんなの為にも!!

 

「はあぁっ!!」

 

キィンッ!

 

「良い太刀筋です!

その喰らいつく姿勢で、

わたくしを

もっと愉しませてください!!」

 

廻り、廻って、赫い火の粉が舞う。

喰らいついて拮抗する両者の剣戟。

 

場外付近のステージで互いに躱し、

時にはぶつかり合う。

時間さえも忘れてしまう刹那の死闘。

 

長く、ひたすらに続き。

 

クル……クルクル……

 

「はぁ……はぁっ、

もう降伏してもいいんですよ。

ナンジャモさん。」

 

「まだだ。ボクはまだ廻れる。

みんなが背中を押してくれるから。」

 

キィン!

 

「虚勢も、ここまで行くと

惨めですよ……くっ。」

 

効いてる。あと一歩だ。

 

「まだっ……うっ。」

「ふふっ。正に命を削る大博打……

ナンジャモさん、貴女、

限界が近いようですね。」

 

「どうだろうね……」

 

美也氏は勝ち誇った様に

刀を振り上げ、歩み寄った。

 

「さぁ、決着と致しま……ぐふっ!?」

 

振り上げた刀が、地面に落ちる。

 

膝を地につき、姿勢を崩した

美也氏が不思議がる様に呟いた。

 

「……このわたくしが、吐血?

貴女、一体何を……」

 

狙い通りだ。

 

ボクの独楽が限界に

達しつつあるなら、

あちらもそれは同じ……。

 

「教えてくれないか……

あと『何秒』だ?

美也氏がこのステージで

廻っていられる時間は?」

 

「馬鹿なッ!

わたくしは確かに貴女の独楽を

追い詰めた筈……」

 

「これが……ボク達の覚悟だよ。

一先ずは、ボクらの勝ちだ。」

「……悔しいですけど、

認める他ありませんね。」

 

……コトっ。

 

……クルクル……クル……コトっ。

 

「――2秒の僅差ッ!!

勝者……Ms.ナンジャモぉお!!」

 

「「「「「ぉぉおおおおお!!!」」」」」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

4章後編、最高でした。(完走&感想)
ヘブバンで一番の
ストーリーどれって訊かれたら、
間違いなく4章後編選びます。
(めぐタマ推しの個人的意見)

ビャッコの眼……あれ手帳だったのか。

……以上。
もう話すネタも切らしたので、
しばらく後書きはお休みします。
よろしくお願いします。


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26話・劇場版! 秘密結社31C!

 

━━▶︎ DAY???

 

〜『SIDE・和泉ユキ』〜

 

あたしは和泉ユキ。

セラフ部隊にスカウトされた

ハッカー組織・オーキッドの構成員だ。

 

セラフ部隊に入隊後、それなりに

経ち、31A部隊として活動するのにも

慣れて来たつもりだ。

 

そんな感じで

順風満帆な軍人ライフが送れると

思いきや、31Aの座を譲れと

言う同期の部隊……

31Cが因縁をつけてきた。

 

そうして決まった

謎の勝負……通称『シネマバトル』。

より顧客満足度が高い方が

勝利するという曖昧な基準の競争だ。

 

あたしと月歌、そして数名が

審査室という別室で

映画の視聴と審査を任された。

 

一般セラフ隊員は映画施設で

自由に視聴可能だそう。

 

途中、小道具の準備の為だけに

大掛かりな独楽勝負を始めた

ナンジャモ達には驚かされたモノだ。

 

(まぁ……八百長さえなければ、

普通にいい競争だ。

先発は31Cの作品か。)

 

「おいユッキー、始まんぞー。」

「分かってるよ……。」

 

考え事の世界から月歌に

起こされたので、

モニターの方に意識を向けよう。

 

「そうそう……

その調子だぜユッキー。」

 

 

 

━━▶︎ 劇場版31C! 

 

『〜征服魔王の人質観察伝〜』

 

かつて、魔族と人間は争っていた。

 

魔族を統治する王……

『魔王』は数多くの魔物を従え、

人類を窮地へと追いやっていた。

 

しかし人類は諦める事なく、

反撃を続けた。

 

永きに渡る戦い。

約100年という時間をかけて、

伝説の勇者が魔王を討ち。

――封印した。

 

人類に安寧が訪れた。

 

だが、長続きとまでは行かなかった。

闇に魅入られた

民の集まりによって、

魔王は封印から解かれる。

 

魔王復活後。

程なくして再び人類は蹂躙され、

人類の3分の1が誘拐。

魔王軍の奴隷となる。

 

魔王城では今も尚、

悪しき密会が開かれていた。

 

「ふっふっふ……

やはり人類は脆いわね。

世界征服は滞りなく進んでいるわ……」

 

「魔王様の手にかかれば、

世界征服なんて容易いでゲス!!」

 

「いいえ、怪人カニハンド!

アンタの手柄も大したモノよ!」

「はいでゲス!!」

 

「フッ……妾の手柄も

忘れてもらっては困るな……!」

 

朱色の布を纏った参謀が、

扇子を広げ颯爽と現れた。

 

「勿論、アンタの

活躍も忘れてないわよ。

怪人イーユイ。

アンタの軍略がもたらした

戦果は天晴れだったわ!」

「フッ……当然であろう。」

 

「役者は揃った様でゲスね!」

 

「なら、始めるしかないわね。

イーユイ、アンタが最近誘拐した

人質の様子はどうだい?」

 

「拷問もフェーズ3に入ったぞ。

もうじき折れて、

立派な奴隷に仕上がるだろうな。

……フッ。」

 

「良いわねぇ。その調子で

とことん絶望させてやりな!!」

 

魔王様がイーユイに

エールを送り、

あちきに期待の眼差しを向けた。

 

「さぁ、怪人カニハンド。

アンタも最近、

誘拐任務達成できたみたいじゃない。

私にもその話、

聞かせてくれない?」

 

「……あちき、説明に自信が

ないから日記を朗読しながらでも

いいでゲスか?」

 

「当然よ!

日記に綴るだけでも凄い事よ!

さぁ、朗読なさいっ!!」

 

「はいでゲス!!」

 

『〜グリーン観察伝〜』

 

明日は、待ちに待った

初の誘拐任務。

 

任務の日のことを考えると、

胸がドキドキして

中々寝付けないでゲス。

 

気がついたら

あちきは任務の時間より

大幅に寝坊して遅れたでゲス。

 

慌てて、任務指定された

公園に辿り着くと、

誰も居ないでゲス。

 

なんとか人質を見つけようと

躍起になって公園中を周っていると、

足を掴まれたでゲス……。

 

重たくなった足を見ると、

怪しい人間が顔を上げてきました。

 

「エナドリくれぇぇええ!」

 

謎の人間にエナドリを

あげましたでゲス。

 

緑色のジャージの胸元に、

勇者グリーンと書かれていたので……

多分それがコイツの名前でゲス。

 

何はともあれ、

あちきはグリーンにエナドリを

いっぱいあげました。

 

いつになったらグリーンは

勇者らしい姿を見せてくれるんだろう?

 

あちきは不思議で

仕方がなかったでゲス。

 

『そんなもんあげてる限り、

一生勇者らしい事しねーーよ!?』

 

――II――

 

「おいユッキー、

映画鑑賞の途中で叫ぶなよ。

思わず一時停止しちまったじゃねーか。」

 

「お前らも少しは違和感持てよ!?」

 

――▶︎――

 

「お前、勇者のくせに

何で魔族に反旗を翻さないで

ゲスか? 情けないでゲスよ?」

 

「いいかいお嬢ちゃん……

一度敗退を辿った人類は、

同じ過ちを繰り返すんだよ。」

 

『子供になんて事言うんだよッ!

しかもそれ勇者の名を冠した奴が

言っていいのかよ!?』

 

人間観察2日目。

 

同じ公園に行くと、

また勇者グリーンが木製ベンチで

寝転んでました。

 

心配なので、数本エナドリを

あげたでゲス。

それでも、彼女は目から

エナドリを流してしまいます。

 

「エナドリが不味かったでゲスか?」

「違うの……もう流さないから、

ごめんね……ごめんね……。」

 

何に対して謝ってるのか。

そんな疑問が頭の中を埋め、

今日という日が終わったでゲス。

 

人間観察3日目。

 

ベンチのそばにある植木の幹に、

小さな手作りのブランコが

出来ていました。

 

「おいグリーン、

あのブランコは何なんでゲスか?」

 

「アレはね、あたしの手作りだよ。

普通のブランコと違って、

遊ぶと首がきゅーっとして

スリル満点なんだ!」

 

嬉しそうに語るグリーン。

 

縄で作った不恰好なブランコの

何が楽しいのか分からないまま、

あちきはその日、眠りについたでゲス。

 

人間観察4日目。

 

公園に行くと、

勇者グリーンの姿がありません。

 

ここで人質を見失うわけには

行かないと思い、公園から離れて

辺りを隈なく探すと……居ましたでゲス。

 

勇者グリーンは、

線路の上で寝ていましたでゲス。

いつになったら

勇者らしい事をするんだろう?

 

どうしてそんな事しているのかと……

 

『もう止めぇえーッ!

もういいですーッ31Cーッ!!』

 

――II――

 

「おいユッキー、

2度も止めさせんなよ。

こっからが面白い所でしょーが。」

 

「何処がだよッ!?

あとコンマ数秒で

肉塊になってたよなァその勇者!?

映画施設の客に何つーもん

見せようとしてんだよ!

もう勇者も人類救えねぇ

罪悪感で自殺図ってるじゃねーか!」

 

「まぁ、落ち着けよユッキー。

31Cといえど、

そんなシーンはカットするだろ。」

 

「……いいや、あたしは心配で

ならねーな。取り敢えず

チャプターを多少スキップして、

要点を掻い摘みながら視聴しようぜ。」

 

「もー、仕方ないなー。」

 

――▶︎▶︎――

 

人間観察11日目。

 

我が家に

家族(奴隷)が1人増えたでゲス。

 

『掻い摘み過ぎだろぉぉおお!

何でグリーンが

家族の一員になってんの!?』

 

寝床を用意してやったが、

相も変わらず奴は勇者らしい

行動を見せない。

 

それもその筈……

突然の魔王の復活。

 

平和な人生を歩んでいた

純粋無垢な少女が、英雄の血族という

理由だけで戦場に駆り出され、

魔王軍に蹂躙される。

 

殺伐とした世界など知る由もない

暖かな環境で育った彼女が、

友軍が死屍累々となった戦地にて

ただ一人として生き残った。

 

この重圧と罪を、

覚悟もままならないまま

背負える訳が無かった。

 

背負いきれないならば、

押し潰され、 

怯懦で惨めな存在に堕ちるのみ。

 

正気を失った赫き瞳は

虚空をただ見つめる。

……視えるのは、簒奪と欺瞞の

跋扈する魑魅魍魎な世界の姿。

 

その様子を憐れむように。

荘厳な沖鳴りと共に

神々しく現れたグリフォンが、

天穹を舞うで下衆。

 

『字面字面字面ーーーァ!!

この1週間で豊後に何があったァ!

達者になり過ぎだろ!?

そっちの方が気になるわ!

大人の階段どころか

大人のエスカレーター

登ってんじゃねーか!

あと何で日本にグリフォン!?』

 

『何言ってんだよユッキー。

人は誰しも、誰にも見えない所で

いつの間にか

大きく成長してるもんさ。

あたしだって中学時代の中期、

難しい言葉をよく羅列させて

周りを畏怖させてたしな。』

 

『お前の普段の奇行に厨二病が

加えられたら誰だって畏怖するわ……。』

 

人間観察13日目。

 

グリーンは、路傍に設けた

犬小屋型の寝床を

とても気に入っているで下衆。

 

「……はあっ♡ 堪んないよぉ♡♡」

 

道行く人々から向けられる

蔑んだ視線が

最高に心地良いそうだ。

 

拷問のつもりで用意したが、

流石英雄の血筋……

並大抵の尊厳破壊如きでは、

そう簡単には折れないらしい。

 

『折れるっつーか

悦び見出してるよなぁ!?』

 

あちきは地面に向かって

唾を吐き捨て、悪態を吐いた。

 

「お前……見れば見るほど

惨めな存在でゲスね。」

「はいぃ♡」

 

母上からくすねてきてきた

エナドリを無造作に奴へ投げつけ、

今日も今日とて犬小屋を見下す。

 

最近、母上がグリーンを

気味悪がっている……。

 

どうやらあちきが飼い始めたのが

犬ではなく……元勇者であることに

勘付き始めているのだろう。

 

『最初から気味悪ぃーよ!?』

 

母上が男を

信用しないようになったのは

あの日の惨劇からだ……。

 

そう……3年前の『あの日』で下衆。

 

『何で日記で過去編ッ!?

何で急に母親の話に変わんだよッ!

色んな意味で追いつけねーわ!!』

 

 



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27話・あちきの勇者(31C映画後編)

 

母上が男を

信用しないようになったのは

あの日の惨劇からだ……。

 

そう……3年前の『あの日』で下衆。

 

『何で日記で過去編ッ!?

何で急に母親の話に変わんだよッ!

色んな意味で追いつけねーわ!!』

 

思い出すのは、

工場越しの夕焼けとサイレン。

 

もう一回って言って。

両親の前で河川敷を駆け回り、

遊んでいた日々が……あちきにもあった。

 

そんな極々普通の暖かい日々が、

あちきにとっては幸せだったで下衆。

 

親父は、腕のいい米農家だった。

 

これでもかと鋭く研いだ鎌を

振り回し、バッサバッサと

稲を収穫する姿は……正に職人。

 

仕上がったモノは、

日本を代表する銘柄米として

市場に良い値で卸される。

 

どんなに儲けが良くても、

機械には頼らない。

それが親父のポリシー。

 

母上は専業主婦の片手間に、

占い稼業をしている。

占いの的中率は53%で、

顧客満足度も

それなりに良いと評判である。

 

親父の働きもあって

一般家庭より金の余裕はあるのに、

趣味でやってるそうだ。

 

各々がやりたい事に尽くして、

楽しく生きる。

……この眩しい家庭に生まれて、

あちきは本当に幸せ者だったで下衆。

 

だが、ある日を境に。

 

支える支柱を

失ったジェンガのように、

みるみると形を崩し……

それは崩壊していった。

 

新たなる支配圏を得る為に、

幾度となく繰り返す

魔王軍と勇者軍の戦い。

 

その戦場へと親父が駆り出された。

 

親父は戦場から生きて帰ってきた。

……が。

 

「おかえり、アナタ。」

「ひひゃ……ワシがこの程度で

くたばる訳なかろう……。」

 

「でも親父……腕が。」

「気にするでない。

新しい時代に賭けてきたまでよォ!」

 

片腕に大きな手傷を負っていた。

最早この傷で、手作業の稲作なんて

出来るはずがなかった。

 

已む無く、機械を

主軸とした稲作に切り替えた。

 

その結果、

我が家の銘柄米は質が著しく低下。

いつの間にか安値で

卸されるようになり、

生活も苦しくなってきた。

 

それに比例して、

親父の精神も荒んでいった。

 

逃げるように酒や博打に入り浸り、

頻繁に癇癪を起こしては

母上にぶつける日々へと変わった。

 

それでもあちきは、

いつかあの優しい日々が

戻ってくると信じていたで下衆。

 

「アナタ……その女は一体。」

「………………。」

 

あちきたちの淡い希望は、

蝉の声と共に夏の空に消えた。

 

……目の前の元勇者に長々と

話し込んでいたらしい。

 

親父がドン底に落ちた時、

支えてやれば……

こんな事にならなかったんじゃないか?

 

親父と、元勇者の姿を

重ねていたのかもしれない。

 

「そうだよね……人間には人間の。

魔族には魔族の暮らしがある。

あたし達人間のエゴで

他者の幸せを崩してるのは事実だよ。

カニハンドちゃん……

本当はもう、自分たちから

大切な暮らしを奪った人間なんて、

見たくもないんじゃないかな。」

 

「……分からないでゲス。」

 

踵を返し、我が家へ戻る。

 

母上を苦しめてまで、

あちきは何をしているのだろうか?

 

その日グリーンは、

エナドリに口をつけなかった。

 

人間観察14日目。

 

絶えず地を叩く大雨の音と、

豪風の吹く音が窓越しに響く。

 

どうやらこの町に

台風が直撃してるらしい。

 

犬小屋に、

勇者グリーンの姿は無かった。

 

――本当はもう、自分たちから

大切な暮らしを奪った人間なんて、

見たくもないんじゃないかな。――

 

「ちょっとカニハンド!

どこへ行くというのですか!」

 

「こんな雨の中じゃ

死んじゃうでゲス! グリーン!」

「所詮人質でしょ!

大人しく引き返しなさい!」

 

「あちきの友達でゲス!!」

 

あちきは母上を振り解き、

外へ走り出した。

 

「カニハンドぉぉおお!」

 

…………。

 

……。

 

結局グリーンは見つからなかったでゲス。

 

体調を崩し

ベットで横たわったあちきは、

エナドリを口にしてないのに、

目からエナドリが流れてくるでゲス。

 

そしたら。

 

頬に流れるエナドリを、

誰かがハンカチで拭いてくれました。

 

「グリーンでゲスか?」

「……そうだよ。

心配させてごめんね。」

 

「外は恥ずかしいから、

家の中で飼いなさい!」

 

母上に叱られたでゲス。

彼女も、あちきと同じく

エナドリを流していたでゲス。

 

「グリーン、また 

エナドリ飲んだでゲスか?」

 

「いいや。もう飲まないよ。」

 

エナドリを綺麗さっぱり断ち、

母上が居ない間は、

グリーンが凡ゆる家事を

こなすようになりました。

 

ある日。

台所で野菜を切っている

母上が、あちきに聞いてきました。

 

「カニハンドちゃん。

お姉ちゃん、欲しくない?」

「お姉ちゃんでゲスか?」

 

後ろ姿でそう言う母上の耳は、

真っ赤になっていました。

 

よく分からなかったので、

夜グリーンに聞いたら……

 

「……知らないよ。」

 

大人はよくわかりませんでゲス。

 

あれから時が経ち。

 

「ほら、ネクタイ。」

「あはっ……すいません。」 

 

母上が、グリーンの襟を正し、

ネクタイを整えます。

 

「頑張ってくださいね。

私の占いでは、

97%成功すると出てますよ。」

「えへへ……嬉しいなぁ。」

 

いつもの占い的中率は53%なのに、

母上は見栄を張っています。

 

体感、あちきが撃つ

トリックオアトリートの

命中率より低いです。

 

グリーンがお姉ちゃん。

なんだかこそばゆかったので、

考えるのをやめるでゲス。

 

 

 

――面接会場、待機フロア。

 

「お主も面接か。

若いのによォ頑張るのォ……」

「あなたは?」

 

「ワシも同じだ。

職を失ってから、すっかり

グレてしまってのォ……

何とかここまで更生して

妻や娘にやり直そうと告げたんじゃが、

考えさせろと言われたわい……。」

 

「………………。」

「椅子は一つしかないが、

お互い悔いのないよう

臨もうじゃないかァ……ひひゃ。」

 

「……あのぅ。」

「何じゃ?」

 

「娘さんの名前……なんて言うんですか。」

 

……………………。

 

…………。

 

人間観察27日目。

 

あれっきり

グリーンは戻らなかったでゲス。

 

母上はいつものように

台所で野菜を切っている。

その姿はグリーンが居た時とは違い、

どこか寂しさを感じる背中でした。

 

「きっと、面接落ちたんでゲスよ!

それであちきらと合わせる顔が無くて……」

 

人間観察29日目。

 

親父と食事しましたでゲス。

 

母上とあちきに何度も謝った後、

仕事が決まった事を報告しました。

 

面接会場で起きた事を、

楽しそうに話していましたでゲス。

 

グリーンが何のために消えて、

どこへ行ったのか。

2日前には全く分からなかったけれど、

今なら全てを『確信』できるでゲス。

 

「ちょっとカニハンド!

どこへ行くんですか!?」

「あちきは……行かなくちゃ

いけないんでゲス!!」

 

あちきはその場から走り去り、

久々にあの公園へ行った。

 

やはり……居た。

公園の木製ベンチに寝そべり、

エナドリをフリフリしてるでゲス。

 

「やぁ怪人ちゃーん!

あたしにエナドリを

分けてくれないかーい!」

 

「……もう飲まないって約束したのに。

……試験、頑張るって!

何で、何で、何ででゲスかッ!!

何であちきらに一言も言わず……」

 

「エナドリが無ぇなら失せろ『怪人』ッ!

テメェとはもうこれっきりだ……。」

 

「それでもでゲス……!」

「もうやめなさいッ!」

 

いつの間にか追いついた母上に

腕を掴まれ、引っ張られる。

 

「グリーンは奴隷なんかじゃないでゲス!

みんながどんなにグリーンを

悪く言っても……それでも

あちきの忘れもの取り戻してくれた、

誰よりも優しくて

立派な『勇者』でゲス!!」

 

あちきはそのまま

母上に引っ張られ、

食事処に戻されてしまいました。

 

………………。

 

…………。

 

「フッ……勇者グリーン、

愚かよのぉ。

社会復帰のチャンスを棒に振る程、

エナドリという飲料は魅力的なのか?」

 

「違うよ、怪人イーユイ。

あと真横にジュークボックス置いて

夏気球流さないでよ。」

 

「偶々聴きたい気分になっただけだ。

今止める気は毛頭無い。

どれ。妾にも味見させろ。」

 

……ゴクゴク。

 

「ブッ! 只の水ではないかッ!?」

 

「あたしは棒に振った訳じゃない。

エナドリも仕事も要らないんだ。

充分、色んなものを貰ったから……」

 

「……それが、うぬの答えか。」

 

「カニハンドちゃん。

父ちゃんと母ちゃんと幸せになりなよ。」

 

――そう。

あちきは知っていました。

グリーンはとっくに、

誰かの心を救い続けた勇者だって。

 

 

 

「うっ……ヤバいよユッキー。

これが、最上の切なさだったんだな。」

「何処がだよ!?

すごく既視感のある

ストーリーだったぞ!?」

 



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28話・シネマバトル、決着ゥゥーッ!

 

 

「うっ……ヤバいよユッキー。

これが、最上の切なさだったんだな。」

「何処がだよ!?

すごく既視感のある

ストーリーだったぞ!?」

 

「うぐっ……柳ぃ。

涙と切なさが止まらないよぉ……。」

「それはお嬢様の懐が広い証です。

その感性をどうか忘れないでください。」

 

まーたここにも被害者が居るよ。

 

「さて、審査員の皆さん。

次の上映まで時間があるので、

審査会議を兼ねて

お嬢様と一緒に

お茶会でもいかがですか。」

 

「いいねやなぎん!

あたし肉パフェ欲しい!」

「月歌、お前どんだけ肉好きなんだよ。

後それデザートじゃねぇからな。」

 

 

………………。

 

…………。

 

 

審査員一同のジャッジお茶会も

終わり、瞳が潤んでいた

月歌や丸山もいつの間にか

上機嫌になっていた。

 

どうやら31Fの部隊長は、

あたしが想像するよりも

遥かに優れた執事なのかもしれない。

 

「おいユッキー。」

「……んあ?」

「ボーっとしてる場合か?

そろそろ31Aの映画始まるぞ。」

 

「あぁ、悪ぃ。

少し考え事をしてた。」

 

「折角の映画鑑賞なんだ。

リラックスして観ようぜ。」

「……だな。」

 

 

 

━━▶︎ 劇場版31A!

 

『ドキドキ★コノヨザル』

 

『タイトルから

出オチじゃねぇかァァアア!』

 

私立、パルルデア学園。

それは、言わずと知れた名門校である。

 

日々生徒らが勉学や部活動に励み、

文武両道を貫いていた。

 

その学園で頂点に君臨する

番長・コノヨザルは、

学園内で最もモテる

男子ポケモンである。

 

風の便りでは、

大企業の社長が

溺愛する御曹子なんだとか。

 

どこか親しみやすそうな、

球体を思わせる丸いボディ。

それでも、威厳を感じさせる

獅子の鬣の如し逆立つ髪。

 

凛とした迫力のある赫い眼。

 

彼の威風堂々とした

立ち居振る舞いに、

恋心を鷲掴みにされる

女子や女子ポケモンが後を経たない。

 

このボク……コイルヘッドも、

その一人だ。

 

「ちょっと、聞いてる?

コイルヘッド。」

「あ、ゴメン。ラブリーマスク。

勉強でつまづいた所があって、

どうやってその公式を解くか

考えてて……」

 

「嘘が見え見えよ。

今日もどうやってオとすか

考えてるんでしょ。彼のこと。」

「うっ……ラブリーマスクちゃんには

バレバレかぁ。」

 

「アタシもよ。」

「……え?」

「だから言ってるでしょ、

アタシも彼を狙ってるの。」

 

「そんな……」

 

ラブリーマスクは微笑んだ。

 

「遠慮なんて必要ないわ。

お互いに全力でapproachし合って、

彼を認めさせればいい。

どういう結果になろうとも、

彼の選んだ選択に

文句をつける気はないわ。

それこそが、アタシの正義だからね。」

 

ボクは、本当にいい親友を持ったなぁ。

 

「おやおや、恋バナでゴザルか?

拙者にも聞かせてくれでゴザル!」

 

「え、ゲッコウガちゃん!?」

 

天井に張り付いてたゲッコウガが

飛び降りて華麗に着地した。

 

「いいわよ。ねぇ、コイルヘッド。」

「う、うん。別にいいけど。」

 

「嬉しいでゴザル!」

 

………………。

 

…………。

 

 

「成る程、皆して

コノヨザル殿を

狙っているのでゴザルか。

奇遇でゴザルな、実は拙者も……」

 

ゲッコウガの発言を遮るように、

教室のドアがガラガラと

スライドした。

 

そこから現れたのは……

 

「オーッホッホ! 

臆病者ばかりでみっともないですわね。

やはり、あたくしこそが

選ばれるにたる存在なのかしら!」

 

「あの子は。」

「今日も懲りないでゴザルなぁ。」

 

高らかな笑い声を上げて

現れたのは、

学園でも嫌な意味で有名な

サーナイトお嬢様だ。

 

傲慢や我儘という言葉を

体現したような悪役令嬢で、

隙あらば惚れた相手にも

容赦なく突っかかる。

 

何度突撃しても

折れない彼女の姿勢は、

ボクらが見習うべきなのかもしれない。

 

「コノヨザル様、見てくださいまし。

これ、あたくしの専属シェフが

腕を振るって仕上げた

手鞠ずし弁当ですわ。

極上の舌触りと旨味が味わえる

逸品でしてよ。

是非ご堪能くださ……」

 

ベチャア!

 

サーナイトお嬢様の顔面に、

バナナの皮が投げつけられた。

すばやさがさがった。

 

コノヨザルは、

不機嫌そうに口を開く。

 

「ヴァウッ!」

 

『ビャッコかよォォオオ!?

てかどこが威風堂々だよ!

女子の顔にバナナの皮投げつける

ような奴がモテてんの

普通に可笑しいだろ!!』

 

「何だって……

サーナイトお嬢が、

もう『バナナポイント』を 

稼いでるなんて。

このままじゃ、ボクら……。」

 

『バナナポイントって何だァ!?

ただの嫌がらせ以外の

何ものでもないだろ!!』

 

バナナポイント。

それはある種の伝説だ。

 

7つのバナナポイントを集めた時。

校内グラウンドのバナナの木に

祈りを告げると、

どんな願いも叶うらしい。

 

『モテるってそっちィ!

そういう意味でモテてんのかよ!?

恋心っつーか、コイツに関わる奴全員

私利私欲じゃねぇか!!』

 

「やめろにゃ!

コノヨザルが困るって言ってるにゃ!」

 

女子生徒ポケモンのニャオハ。

 

コノヨザルの幼馴染で、

彼の言葉を唯一

理解出来るポケモンでもある。  

 

「そんな……あたくしが

コノヨザル様を苦しめていただなんて。

次こそは、次こそは満足させますわ!」

 

顔にバナナの皮をつけたまま、

サーナイトお嬢様は踵を返し

教室から去っていった。

 

授業をサボってまで何をするんだろう。

 

「いやはや、まさかサーナイトお嬢殿に

拙者らが一歩遅れるとは

思わなかったでゴザル。」

 

「ええ。アタシ達は明日の

Big eventで巻き返すしかないようね。」

 

……そう。

幼馴染とご令嬢という

最強のヒロインらに対抗し、

ボクら一般女子生徒が

ヒロインレースで大きくアドを

取る方法がひとつだけある。

 

それこそが、明日のバレンタインデー。

 

最高に美味いチョコバナナを

彼にプレゼントした女の子が、勝つ。

 

「そうだね。

明日、悔いのない勝負にしよう。」 

 

「ええ。また明日ね。」

「御意でゴザル!」

 

 

………………。

 

…………。

 

翌日。

 

案の定、教室の座席でコノヨザルは

バレンタインチョコに埋もれていた。

 

とても不服そうな顔をして。

 

その惨状を目にしたニャオハは、

ぶつけようのない怒りをただ呟く。

 

「去年と同じ……

誰も学習してないにゃ。

コノヨザルが欲しいのは、こんな

空っぽな愛の塊じゃないのにゃ……。」

 

「ヴァウッ!」

「にゃっ!?」

 

コノヨザルは、用意していた

大きめのキャリーケースに

チョコを詰めていく。

 

「そんな大量のチョコ、

何処に持って行くのにゃ!?」

「ヴァヴァウッ!」

「……そうかにゃ。」

 

二人は哀愁を漂わせ、

放課後の教室から離れていった。

 

「ハーイ、コイルヘッド。

チョコバナナはあげたのかしら?

勿論アタシはあげたわよ!」

「ラブリーマスク……」

 

「拙者やお嬢様も渡したでゴザルよ!」

「オーホッホッホ!

貴女はどうなのかしら!」

 

「ボクは……渡してない。

ううん。渡さない事にした。

彼に必要なのが、

それじゃないと思ったから。」

 

「「「――ッ!?」」」

 

「ボクは行くよ。」

 

 

………………。

 

…………。

 

 

ボクは二人の後を追って走った。

 

二人は、

夕景に染まった河川の橋で佇んでいた。

 

「ヴァウウウゥゥ……」

 

「誰も自分を自分として見てくれない。

願いを叶えてくれるだけの

機械としか見ていない。

それは本当に、

『生きてる』と言えるのか?

……その気持ち、痛いほど分かるにゃ。

ニャオハは、コノヨザルの気持ちを

尊重するにゃ。幼馴染として。」

 

コノヨザルは、

キャリーケースを河川に投げ捨てた。

そして……

 

――バッ。……ぎゅっ。

 

「「――ッ!?」」

 

「良かった。間に合った。」

 

ボクはすぐさま駆け寄って、

コノヨザルの手首を掴んだ。

あと数秒、数秒遅かったら彼は。

 

「何でコノヨザルの邪魔をするのにゃ!」

「幼馴染なら分かるでしょ!

こんな事間違ってるって!!」

「……ッ!?」

 

「ボクが友達になるから!

願いなんて叶わなくていい!!

夢や願いっていうのは、

自分の力で叶えるから嬉しいんだ!」

 

「……全く、水臭いですわね。

あたくし達が居る事、

忘れてもらっては困りますわ。」

「そうでゴザルよ。」

「YES!」

 

「……みんな。コノヨザルの

お友達になってくれるのかにゃ?」

 

「当たり前だよ。友達になりたい。

それが今のボク達の気持ちだ。

そうでしょ、皆。」

 

一同は、頷いて同意の意思を見せた。

 

「みんな。ありがとうにゃ。」

「ヴァウウッ……」

 

その日。

ボクらの友達が2人増えた。

 

不器用だけど、

とっても楽しいお友達が。

 

 

 

「うぐっ……柳ぃ。

ボクもコノヨザルとお友達に

なりたいよぉ……。」

 

「ええ。お嬢様なら、

きっといいお友達になれます。」

 

「うっ、ユッキー。

あたしも友達になりたいよぉ。」

「丸山の真似したらあたしが

甘やかすとでも思ってんのか?

さっさと採点しろよ。」

 

「月歌ちゃーんショック!」

 

各々の採点書を柳が収集し、

ノートPCで素早くデータを算出、

比較をする。

 

結果は、思いの外早く出た。

 

「この映画勝負……

31Aチームの勝利です。」

 

「やったぜユッキー!

あたしら31Aの勝ちだぜ!」

「……だな。」

 

「ん? どうしたんだよ。

そんな渋柿食ったみたいな顔して。」

「いや、嬉しいには嬉しいんだが……

これ、ポケモンって概念

入れる必要あったか?」

 

「ユッキー、それは

言ってはいけないお約束だぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






どうも、たかしクランベリーです。

昨日の生放送、最高でした。
あいな様は推しなので、引きます。

そして気がつけば、
シネマバトルもかれこれ
8週間くらい擦り続けてて、
自分でも驚いてます。
(3/24〜5/19までやってる。)

映画やりてぇ→楔覚醒させてぇ
→独楽バトルやりてぇ
→あ、映画終わらせなきゃ。
って感じで右往左往した
結果これです。

もういい加減本編進めます。
(合間合間に本編度外視の
ギャグ回を挟む可能性有り)

といいつつ、この後も
ちょびっとだけ映画ネタ擦ります。
よろしくお願いします。


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29話・Rotary Mole

 

━━▶︎ DAY15 8:30

 

「おー、やってるなぁ。」

 

あ、ルカ氏がイヴ氏達に

ちょっかいかけてる。

 

「何でゲスか!?」

「邪魔しに来たの!?」

 

「いやいや、お互い大変だなって。」

 

「馬鹿さでゲスか?」

「私たちを馬鹿にするって言うの……。」

 

「馬鹿なんて

一言も言ってないんだけどな。」

 

「アンタと一緒にされたら

誰でも馬鹿だと思うわよ。」

「酷い言われ様だ……

みんな言い返してやってくれ!」

 

食卓に広がるのは、

食欲をそそる黄金色の滝。

ボクらはその輝きと香ばしさに

魅入られていた。

 

「なにこれ……」

「すごいチーズの量!」

 

「ハチミツを加えたら、

もはやスイーツ!」 

 

「だね! 出来れば

バケットを用意して

サンドイッチ作るのもアリかも!

絶品チーズサンド、きっと

タマ氏も気に入るよ!」

 

「良いですね!

ディスイズチーズサンド!!」

 

「別の事で盛り上がってるーー!!」

 

「はっ、哀れなやつね。」

 

ユキ氏は、もっちりとした

謎のパンをチーズで

ひたひたにして頬張っていた。

 

その表情は、いつもの仏頂面が

嘘みたいに思えるほど、

ニヤニヤとしていた。

 

あのパン……ボクも食べてみたいな。

 

「え、なになに!?」

「いや、チーズナンがすげぇ

美味いってだけだぞ?」

 

「恋人のあたしが

馬鹿にされてるのに、

そんなことでぇ!?」

 

「馬鹿にされるのは

お前の普段の行いの所為だろ。

あと、あたしは月歌の恋人に

なった覚えはねーよ。」

「えーーー。

よし、あたしも食おう!」

 

「なんて切り替えの速さ!

恐いでゲスよ!」

「まったくだね……

関わらないでおきましょ。」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY15 16:30

 

午後の訓練も、及第点ではあるが

なんとか達成できた。

フェーズ4、輸送車護衛。

 

目標損耗率5%未満にするという

ミッションで、4%までに抑えられた。

 

程々の疲労感を癒させる為にも、

31A、31B両部隊は部屋に戻り

束の間の休息に入った。

 

文字通り、束の間の休息だった。

 

『31Aは、至急出撃準備を済ませて

司令官室まで出頭して下さい。』

 

焦燥の混じった声音で、

ななみ氏のアナウンスが入った。

 

「良い予感しかしねーな。」

 

「なんだよその前向きさは!?

この戦時下で

そのブレない前向きさすげーよ。

凄過ぎてリスペクトの念を

抱いている自分がいるよ。」

 

「よく分からないけど、

早く行った方がいいんじゃないかな。」

「そーだよ! 気づかせてくれて

ありがとうナンジャモ!!」

 

「急ぎましょう!!」

 

 

……………………。

 

 

………………。

 

 

――司令官室。

 

室内では、緊迫した空気が漂っていた。

手塚氏も相当焦っている風に見える。

 

「揃った?」

 

「揃った。」

 

「Rotary Moleを、

パトロールの哨戒部隊が発見したわ。」

 

(まさか、

こんな早く見つかるとは……)

 

「それは助かる。」

「あら、どうして?」

「……いや、何も。」

 

「……そう。

助かったのはこちらの方よ。

あなた達が割り当ての

地域を埋めたから場所を絞れたの。」

 

――コマンド:Diver――

 

「ナンジャモとオタマさん。

難しい顔してどうしたの?」

 

「い……いや。だから何もないって。」

「でしょう……!!」

 

もしかしたら、

Rotary Moleの中に

イモータルセルが居る可能性だってある。

 

イッシキ氏が彼に興味を持ってるから

現れてもなんとかなるだろうけど、

前回のように上手くいくとも限らない。

 

不測の事態に備えて、

最大限警戒しておこう。

 

「私語は済んだようね。

では、本題に戻るわよ。

31Aは有明区域の指定ポイントに

急行し、Rotary Moleを討伐しなさい。」

 

「タマ氏……覚悟はいい?」

「勿論です! 急ぎましょう!」

 

「では、直ちに出撃しなさい。」

 

「「「「「「――了解!!」」」」」」

 

ヘリポートをすぐさま飛ばし、

目撃例のあった哨戒網へ移動した。

 

哨戒網の割には、

小型キャンサーが多い。

 

どうやらルカ氏もその違和感に

気がついたみたいだ。

 

「あれ? 

やけに敵影が多くないか。」

「月歌、これがお前の言っていた

良い予感か?」

 

「な訳ないじゃん!

なんか足止めくらってるみたいで

ムカつくよ!!」

 

「そんじゃ、さっさと掃討して

目撃情報のあったポイントに行くぞ。

ナンジャモ、指示を頼む。」

「分かった。」

 

ユキ氏が軽くルカ氏をあしらい、

任務の方へと動き出した。

 

パリィィィン!

 

「ふぅ……スッとしたぜ。」

 

何かをやり遂げたかのように、

ルカ氏が夕景を見上げる。

 

粗方敵影の掃討が済み、

目標ポイント近辺へと到着したので、

職人気質に振る舞いたい気持ちは

充分にわかる。

 

だけどボクは、

緊張を緩める気は無い。

 

「何一息ついてんだよ月歌。

しかも一人で

やり遂げたみたいな態度やめろ。

あたしらも少しは労えよ。」

 

「いやいや、ユッキーは

ゾウに踏まれても平気そうだし、

まだ余裕あるっしょ。」

 

「残念ながらお前らとそんな

体力変わらねーんだよ。

なんなら本職ハッカーなんだよ。」

 

「おい貴様らァ! 

呑気に駄弁ってる場合かァ!!」

「ひえっ!? カレンちゃん!?

脅かさないでよ!」

「脅かしてなどおらんわァ!

異様な気配を感じ取ったのじゃ!」

 

「見つけた、アレだ!」

 

ユキ氏の向く方に視線を合わせると、

確かにRotary Moleの姿があった。

 

「ナンジャモさん!

どう攻めたりましょうか……!」

 

「トランスポートで急接近し、

一斉に先制攻撃を仕掛ける。

その後は、ボクが

随時口頭で指示をする。

行くよみんな!!」

 

キィン! 

バババァン! ジャキィンッ!

 

「ルモォォオオオ!!」

 

効いてる。手応えアリだ。

外殻も大方剥がれている。

 

「でけぇけど、今の

あたしらにとっては敵じゃねーな。」

「はっ、そうよ!

ズタズタに切り裂いてやるわい!」

 

「ナンジャモ、次の指示を!」

 

「ボクとカレン氏以外は

周辺警戒とフォローの体制に切り替えて。

破壊率を稼いで一旦様子見するから!

カレン氏、頼んだ。」

 

「ひひゃ……

モグラの輪切りと行くかのォ!

――カレンちゃんはどうして

そんなに可愛いの?

美少女の方が絵になるからァア!

ひひゃぁああっ!!」

 

振り下ろした重たい斬撃に

連なるように、爆炎が噴き出して

Rotary Moleを灼きつくす。

 

内殻も爛れてだいぶ傷んできてる……。

このまま攻めれば討伐出来そうだ。

 

「――ッ!?」  

 

突然、Rotary Moleが

触手の先端をボクらに構えた。

そして……

 

シュバババッ!

 

黒い棘を雨のように放った。

 

「カレン氏、後方に退避!」

「分かっておる!」

 

シュッ。

 

あと数秒気づくのが遅かったら、

刺さっていた。

 

なんとか被弾しなくて

済んだものの……

その回避自体が、悪手だった。

 

「さぁ、もう一度立て直……」

 

ギュルルルルッ!

 

素早く地面を掘削し、

Rotary Moleは地中へと

逃亡してしまった。

 

「あやつ、逃げおったぞ!?」

「くっ……ごめん。

陽動だと見抜けなかった……。」

 

「あの逃亡は想像以上に

速かったです……。

無理もありませんよ。ナンジャモさん。」

 

「ああ。攻撃する隙すら

なかったな……。」

「外殻を破壊しただけに

終わっちまったか。」

 

「空いた穴から追えば

良いんじゃないかしら!」

 

「やめとけ東城、

行った先に酸素があるかもどうかも

怪しいし、地中で穴が崩れたら

即座に生き埋めだぞ。」

 

「危険すぎでしょう……!!」

 

「うん。今の所は退却する他ないね。

ボクが帰投ヘリを呼んでおくよ。」

 

ヘリで基地へ戻り。

司令室にて哨戒任務の出来事を

全て手塚氏に伝えた。

 

「……成る程。外殻が剥がれると

地面を掘削して逃亡する。

かつてあった資料と同じ生態を

しているようね。」

 

「つまり……どういう事だってばよ。」

 

「月歌、お前司令官室でも

お構いなしにナルトス言うんだな。

まぁ、それはそれとして……

司令官、過去の資料から

奴の逃亡を阻止する方法は

記載されていたか?」

 

「全ての触手を拘束する装置の

開発をしていたそうだけど、

固定砲台故、実用には至らなかった。

Rotary Moleの出没する

区域が一々変わるのも要因だと

考えられるわ。」

 

「確かに、資源や資材も有限だから

そう易々と試験装置をばら撒けないか。」

「力になれなくて悪いわね。」

「いいや、充分だ。

此方も何か作戦が練れたら伝える。」

 

「それは助かるわ。

……では、解散。」

 

どうしよ。

隊長らしい会話

全部ユキ氏がやってしまった。

 

まぁ、人って適材適所あるよね。

ボクがカッコつけて話したって

空回りしそうだし。

 

………………。

 

…………。

 

司令官室から出た

31Aの面々は、

自由時間の為に各自散っていった。

 

けど……

 

「タマ氏はどっか行かないの?」

 

そう。

彼女だけはどこにも行かず

佇んでいた。

 

「なんか最近、ナンジャモさん

気負ってる気がしてて……

それが少し、心配なんです。

私は元艦長ですから、

リーダーの背負う気苦労とか……

そういうのに人一倍敏感なんです。」

 

「……タマ氏。」

 

タマ氏は朗らかな笑みを

向けて言った。

 

「気分転換に、フレーバー通りの

カフェで一息して行きませんか?」

 

(本当にいい仲間を持ったな。

……ボクは。)

 

「うん。

タマ氏のおすすめデザート、

ボクに教えてくれないかな。」

 

「勿論ですとも!」

 

 

 



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30話・すやすや31Aと勇敢なる青

 

ん……何だここ。

31Aの寮部屋って

こんな何も無い所だったっけ。

 

『今こそ解き放つ時だ。

閉じられた限界への扉を

――目覚めよ!』

 

渋いおじさんの声が、耳に響く。

エコーという特典付きで。

 

ボクらは一斉に上半身を起こした。

 

「ここは……何処?」

「知らねーよ! 

あたしも目覚めたら此処に居たんだわ!?」

 

「何だろうな……ユッキー。」

「あたしも知らねーし、

眠くて頭回らねーわ。」

 

「分かったわ! 停電のアナウンスね!」

「ナーーーイス諜報員ッ!

ワシも今そう思った所じゃァ!」

 

ルカ氏が大きく欠伸した。

 

「はぁ〜あ。

なんか怠いから二度寝させて貰うわ。

停電が治ったら起きよーぜ皆。

――zzz」

 

ルカ氏はまた仰向けとなって

眠りについた。

 

「相変わらず寝つきが早えーな月歌。

ま……あたしも寝るか。」

「とことん寝たりましょう……!!」

「ええ。」

 

「「「「「「――zzzz」」」」」」

 

『解放する時が遂に来たのだ。』

 

「五月蝿いのォ……

あと2時間くらいは寝ても良えじゃろ。

サイコキラーは

夜襲が基本じゃからのォ……。」

 

『いや……あの。

目覚ましとかアナウンスじゃなくて……』

 

「「「「「「――zzzz」」」」」」

 

「目覚めろって言ってんだろぉお!

いい加減にしろぉおお!!

何で異空間で二度寝!?」

 

「なんか変なおじさんが居るわ!」

 

つかさ氏の言う通り、

ボクらの目の前に

怪しいおじさんが立っていた。

 

雰囲気からして、

小物感が凄いし……

絶対イッシキ氏やアマド氏じゃない。

 

それに、何の脈絡もなく

ボクら6人が同時に

座標干渉する事は

普通に考えてあり得ない。

 

「……コホン。

ようやく目覚めたか。

私の事が分からぬか。茅森・月歌?

我は常に汝と共に在り。」

 

ルカ氏は、電子軍人手帳を弄っていた。

 

ポチ……ポチ、ポチポチッ。

 

「あっれーー!?

110番に繋がらなーーい!?

助けてユッキー!!」

「繋がる訳ねーだろ! 

この戦時下だぞ!?

こういう時は司令部に繋ぐのが……

ちょっと待てよ!」

 

ユキ氏が冷や汗をかいた。

 

「何です?」

「司令部に繋がらねーってだけじゃねぇ。

電子軍人手帳そのものが

開かなくなってやがる……。」

 

「え……まさかお前、マジもん。

あたしのセラフ……

Brave Blueなの?」

 

「フン……

まぁ、そういう呼び方でもいい。

だがしかし……まだだ!

強くなりたいか? 茅森・月歌。」

 

「いや、いいっす。」

 

ルカ氏、軽く一蹴してる。

心底どうでも良さそうな目してるよ。

 

「私が言うのもなんだが……

かなり便利だぞ。『セラフの真価』。

君ら5人にも教えてやろう。

これより簡単に見せ場を作る!

あまりのカッコ良さに

痺れてしまうぞ!!」

 

え、もしかしてちえ氏も

こんなおじさんから

『イノセント・ワイルド』

教えてもらったの?

 

……そんな訳、ないよね?

 

「五月蝿ぇんだよクソジジイ!

今すぐこのワシが

血祭りにあげてやろうかァアア!!」

 

カレン氏が

こんなに激昂するのも珍しい……。

ノリでやってる

殺害予告より全然怖いよ。

 

「――ひっ! わたし!?」

「東城、何でお前がビビってんだよ。」

 

「……か、勝手に君ら呼んだだけだし……。

わ、私は何も悪く無いというか……

すいませんでしたね。

なんか余計な事して……」

 

凄いクリティカルヒットしてる。

 

「「「「「「………………。」」」」」」

 

「あーでも!

秘術・インビンシブルとか、

秘術・無我夢中とか

めちゃくそ役立つんだけどなー……

なー。」

 

「「「「「「……zzzz」」」」」」

 

「起きろコラぁああ!

いい加減にしろよ……

ってか、君ら女子だよねぇ!?

一応世間体とかあるけどさァ!?

知らないおじさんの目の前で

どうしてそんな無防備に

何度も寝られんだよ!!」

 

(zzz……)

 

「あーもう分かった!

お前らがその気なら

こっちだって本気出すぞ。

今からするカウント以内に

起きないとマジで襲うからな!!

あさーん! にーっ! いーちっ!

あと1しかないよ!? 

マジで襲うよ!? マジで襲うからな!」

 

「「――うるせぇぇええっ!!」」

 

ルカ氏とカレン氏が飛び起きて

彼の両太腿に

強力なドロップキックをくらわせた。

 

「ぐふぁっ!

……くっ、セラフである

この私の足を封じるとはな。

だがまだ甘い……

セラフの真価さえ使えれば、

鼻、口、身体中の至る穴から

ズバリ体液を噴き出させる事も可能。」

 

おじさん。とても苦しそうだ。

 

「みんなそんなの我慢してやってんだよ。

みんな同じなんだ。大切なのは慣れだ。

我が主人にキレられては困る……。

先代たちが

どれ程苦労してると思ってるんだ。」

 

「どこまで心配してんだよ!?

あたしら31Aの実力は

セラフであるお前の方が知ってるだろ!」

 

彼は首を横に振った。

 

「……足らん。故に私は、

君らを元の世界には戻さん。

人類を救うには

まだまだヒョっ子の集まりだからな。」

 

「いいよ別に、

よーし食い物はっと……」

 

ルカ氏が暮らす前提の態度で

冷蔵庫の中身を物色し始めた。

 

「お! 高そうな焼肉弁当あるじゃん!

最高かよ!」

 

「冷蔵庫とか……ちょっ、あっ。

勝手に開けないでくれない……?」

 

「んだよ。どうせ出られないんだろ。

あたしら6人分の食費くらい

賄ってくれよ。」

 

「とにかく、こんな汚い部屋だと

住めたもんじゃないわね。」

 

あ、つかさ氏までベットの掃除に入った。

あれ。なんか薄い本をベットの下から

出してるような……

 

「凄いわ! 手塚司令官が

表紙になってるグラビア雑誌がある!」

 

「あーちょっとぉ!

部屋のモノ勝手に触らないでぇ!!

やめて! 弄らないでぇ!」

 

「この包めたティッシュが

溢れてるゴミ箱……変な匂いする。

すごく気持ちが悪い……。」

 

可憐氏まで掃除手伝い始めちゃった。

 

「コロポッポー!!」

「どうしたのタマ氏!?」

 

「こ、これが面白くてつい……。」

 

タマ氏は卒業アルバム的な代物を

手元に持っていた。

 

ボクも気になって覗き込んだ。

 

「どれどれ……ブッ!」

 

そこには、今とは似ても似つかない

地味すぎるBrave Blueの

学生写真が貼られていた。

 

これには思わず吹き出して、

笑いが込み上げてくる。

 

「……もういいです、もう帰って下さい。」

「何だよ。永久に出られないん

じゃなかったのか?」

 

焼肉のタレを頬につけたまま、

ルカ氏が問いかける。

……が、おじさんは

ゲンナリとして応えた。

 

「いや、もうホント帰って下さい。

私はもう知りません!」

 

諦めたのか開き直ったのか。

強く言い放った彼は、扉を開け……

 

「――あんた何勝手な事

言ってんのォオオ!!」

 

開けた扉から現れた

母親らしき存在に

顔面ドロップキックをくらわされた。

 

「「「「「「――Brave Blue!!」」」」」」

 

あ、おじさん。

母親らしき存在に説教されてる。

 

「母ちゃんには関係ねぇだろ。

首突っ込むなよ。」

「お父さんだって、

仕事の都合があるんだからね。」

 

「何でセラフに両親が居んだよッ!?」

 

ユキ氏の意見に、激しく同意だ。

 

「あのーお嬢ちゃん達。

悪いんだけどぉ、あの子から

セラフの真価。習って貰える?」

 

「「「「「「………………。」」」」」」

 

「なーにやってんのBrave Blue!

早く来なさい! ほら!」

 

「いや……マジでもういいって。

だって、教えるとかそんなレベル

じゃないじゃん!

なんか俺すっげーカッコ悪いし。

殺人鬼みたいな奴いたり、

冷蔵しておいた高級焼肉弁当

勝手にチンして食う奴も居るし……。」

 

泣きながら必死に訴える彼が、

なんだか可哀想に思えてきた。

 

「あんな一生懸命

セラフの真価考えてたじゃない!

母さん知ってるよ!」

 

「アイツら見てる前で

恥ずかしいから

ちょっかいかけんなよ!

鬱陶しいんだよッ!!」

「鬱陶しいって何なのぉお!!」

 

「――秘術・羅刹ぅうう!!」

 

「あーあ。

母ちゃん藻屑となっちゃったね。」

 

「ま……セラフだしそう簡単に

死なないだろ。

あそこが出口の扉だったか?

さっさと行こうぜ月歌。」

 

「ああ、みんなでカフェテリアの

ご馳走食いに行くぜ!」

 

 




どうも、たかしクランベリーです。

昨日のラプラス生誕祭2023、
最高でした。

今回ギャグ全振りだったので、
次回は真面目な
本編路線で行きます。

『こちホロ!』の方は
不定期更新ですが、
コツコツ更新していこうと思います。
よろしくお願いします。


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31話・予言とセラフの真価

 

━━▶︎ DAY18 17:50

 

カフェテリアでの食事も終わり。

部屋に戻ってデンタルケアを済ませた。

 

今は、書庫でレンタルした

ライトノベルを寮部屋で

静かに読んでいる途中だ。

 

(そろそろ栞挟もっかな。)

 

ピリリリリン!

 

LINNEの着信音が

狙ったかのような

タイミングで鳴った。

 

慌てて開いてみると……

 

(イヴ氏から呼び出し……?

なんだろう。)

 

「ナンジャモさん。

こんな時間に一体、

誰からの呼び出しでしょうか。」

 

タマ氏が心配そうな目で

ボクを見る。

 

「イヴ氏からだよ。

部隊長同士、

2人きりでお話がしたいんだって。」

「そうですか……。

なるべく早く帰ってきて下さいね。」

「うん。」

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

――ナービィ広場、ベンチ。

 

予想通り、イヴ氏は 

ベンチの端に座り込んで

待機していた。 

 

「……急に呼び出して悪いわね。

まぁ、取り敢えず私の横に座りな。」

 

言われた通り、ボクは横に座った。

 

「弥生氏とは一緒じゃないの?」

「豊後は私の仲間が様子を見てるわ。

アンタと折り入った話がしたいから、

こういう形でやるしかなかったの。」

 

「折り入った話……?」

「そうよ。私の部隊には

占いに優れた隊員が居るの。」

 

占いに優れた隊員。もしかして……

 

「劇場版31Cでカニハンドの

母親役をしてた人?」

 

「ドンピシャよ。

話は変わるけど、

以前夜中にアンタと私、蒼井で

話し合った事は覚えてる?」

「うん。忘れもしないよ。」

 

「……そう。なら話が早いわ。

あの時私は、蒼井の様子に

違和感を抱いたの。」

「違和感? ボクには

しょんぼりしてる風にしか

見えなかったよ。」

 

「それとは完全に別ベクトルよ。

私は彼女と対面した瞬間、

沖鳴りを聞いたかのような、

凄いゾワッとした感覚が

全身に奔ったわ。」

 

「それで……。」

 

だから、あんなに優しく

励ましていたのか。

全然気がつかなった。

 

「それだけがずっと心残りでね。

あの後、桜庭の占星術で

彼女の未来を占って貰ったわ。

すると、『ある予言』と『死相』が

導き出されたの。」

 

「予言と死相?」

「セラフの真価が発現した時、

白き光の柱が命を奪うだろう――と。」

 

「もしかしてそれをするのが。」

「そう。31B部隊長の蒼井よ。

水晶に映った死相はおそらく、

この予言が示した

副次的なモノと推測できるわ。」

 

桜庭氏の占いが本当だとしたら、

……マズイ。

最悪の場合、ボクが……。

 

いいや。やるしかないか。

 

ライム姐さんだって、

きっとそうする筈だ。

 

「当然、現在私たち31Cは 

別任務に従事してる都合上、 

いつまでも31B部隊の

そばに居られる訳じゃない。

現在進行形で行動を共にする

アンタ達31Aだけが頼りよ。」

 

「それでボクに……

でもその忠告をするだけなら、

イヴ氏だけが31Aの寮部屋に

来れば良かったんじゃ。」

 

「LINNEで伝えたでしょ。

腹を割って話したいのはアンタだけだと。」

「………どう言う事。」

 

「確かに、31Aの6人掛かりで

止めに入れば阻止できる確率は

一番高くなる。けれども、

その隙をキャンサーに突かれる

リスクだってあるわ。

それで犠牲者が出てしまっては

本末転倒でしょ。」

「………………。」

 

ご尤もだ。

 

「だから、楔という特異能力を

持ったアンタ1人に頼み込んだってわけ。」

「そっか。」

 

「話は変わるけどナンジャモ。

アンタ、『セラフの真価』について

何か心当たりはある?

それさえ掴めれば、

阻止する作戦を

早く練れるのだけど。」

 

セラフの真価……か。

 

――秘術『イノセントワイルド』。

可愛いの極意にして、

あたくしのみが許された『セラフの真価』。――

 

――私が言うのもなんだが……

かなり便利だぞ。『セラフの真価』。

君ら5人にも教えてやろう。――

 

「その顔、

アンタ心当たりがあるようね。」

 

「うん。正確に言うと、

詳しい人に心当たりがある。

今から1人呼んでくるけど……いいかな?」

 

「構わないわ。」

「ありがとう。」

 

ボクは電子軍人手帳で、

とある先輩を呼びつけだ。

 

どうやら偶然近くを

散歩していたらしく、すぐに

その人はボクらの前に姿を現した。

 

「こんな時間にあたくしを

呼び出すなんて……何の用ですの?

映画はもう終わったでしょう。」

 

「急に呼び出して悪いね、

ちえ氏にしか訊けない事があるんだ。」

「それは、横にいる31Cの部隊長と

関係のある話ですの?」

 

「その通りだよ。

イヴ氏、少なくとも彼女は

大事な話を悪戯に

広めるような人じゃない。

ちえ氏にも、経緯を話してほしい。」

 

「分かったわ。」

 

イヴ氏は事の経緯をちえ氏にも

全て話した。

 

「……成る程、

それは物騒な話ですわね。

ですが、あなた方からセラフの真価に

ついて知りたいと訊かれるなんて

思いもしなかったですわ。」

 

「で、話してくれるのかい。」

「当然ですわ。

仲間の命がかかってるのですから。」

 

ちえ氏は一呼吸置いて、口を開いた。

 

「――『セラフの真価』。

それは、心身がセラフの能力に

『追いついた時発現する』特殊能力ですわ。

強大すぎる力が故に、

過剰に使えば命さえも

削る諸刃の剣ですわよ。」

 

「それって……イノセントワイルドも。」

「ええ。そしてあたくし達は、

セラフの真価によって

発現した特殊能力を『秘術』と

呼称し、定義していますわ。」

 

「……ほう、つまり蒼井隊員が

発現させる秘術を阻止すれば

いいって訳ね。」

 

イヴ氏はニヤリとした。

 

「残念ながら、

そう簡単に秘術は止められません事よ。

あなた方が思っている以上に、

秘術の力は強大ですの。

それこそ、セラフに大きな損傷を

与えるなどの細工をしない限り

止まりませんわ。」

 

「……なら、可能かもしれない。」

「ナンジャモさん。貴女正気ですの。」

「うん。」

 

「ナンジャモには『楔(カーマ)』がある。

それだけで理由は充分じゃないかしら。

どんな手を使うのか、

私にもわからないけどね。」

 

「左様ですか。

であれば、あたくしが

心配をする必要はなさそうですわね。

ですが、万が一の事があります。

せめてセラフの真価が発現する

予兆だけは覚えて下さいまし。

という訳でお二人さん、 

今すぐアリーナに行きますわよ。」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY18 19:10

 

イヴ氏、ちえ氏と共に

アリーナで何度も擬似キャンサーの

掃討を行い、予兆の感覚も掴んだ。

 

アリーナを出た所で、

今度はボクがLINNE越しに

呼び出された。

 

<<蒼井

ナンジャモさん。

あまりに遅いから

月歌さんが怒ってますよ。

 

<<自分

ごめん。

すぐ練習に参加するから待ってて。

 

(遅すぎて心配されてる……。

早く行こう。)

 

余計な事は打たず、スッと

電子軍人手帳を懐にしまった。

 

スタジオに着くと、

もう既に聴いたことない

新曲をみんなが通していた。

 

「はいみんなストップ。

真打DJの登場だぜ。」

「あはは……みんな遅れてごめん。」 

 

「気にするな。

隊長には隊長なりの忙しさがある。

あたしらも

それは理解してるつもりだ。」

 

「ナーーーイスハッキング!」

「ハッキングじゃないわ。

只のフォローだわ。」

 

 

……………………。

 

…………。

 

 

新曲練習を何回か通して、

今日という1日が夜に染まった。

 

ボクを含むみんなが

デンタルケアを済ませ、

消灯までそれぞれのベットで

適当に時間を潰していた。

 

おそらくあの予言の日は、

オペレーション・プレアデスの

実行当日だ。

 

やはり時間がない。

えりか氏を死なせない為にも、

あの人の協力が必要不可欠だ。

 

「ちょっといいかな可憐氏。」

「……え、あたし?」

 

「2人きり……じゃなくて

3人だけで話したい事があるんだ。

エントランスの屋上まで

付き合ってほしい。」

 

「分かった……!」

 

「あららー。

おタマさん負けちゃったねぇ。

ナンジャモは朝倉姉妹丼を

ご所望のようだぜ。」

 

「負けてないし!

姉妹じゃなくて二重人格だし!

ね!? ナンジャモさん!」

 

凄い。タマ氏が珍しく必死だ。

まぁ、ボクも変な誤解されては

困るし、言うべき事は言っておこう。

 

「心配しなくていいよタマ氏。

ルカ氏の妄想通りに

なるつもりはないから。」

「そうでなくては困るわい!

さっさと終わらせるぞナンジャモぉ!」

 

カレン氏まで出てきた。

 

「うん。」

 

 

………………。

 

……。

 

――エントランス、屋上。

 

星々が輝いて見える夜空の下、

ボクは朝倉氏2人と向き合った。

 

「ナンジャモさん……話って?」

「今日遅れた事について全て話す。

その内容も、

そして今後ボクがする事も。」

 

ボクは、今日イヴ氏と出会ってからの

全てを話した。

 

「――という事なんだ。」

「どうしてその話をあたしに。」

 

「仲間には内密にして、

ボクに協力して欲しいんだ。

もしもの事があった時、

ボクは部隊長として

指示に専念しないといけない。

止めるには人手も足りないし、

他のみんなは絶対躊躇するから。」

 

「何をする気なの。」

 

「失礼を承知の上で言うよ。

こんな事、殺人鬼である

2人にしか頼めない。

えりか氏が秘術の前兆を見せたら、

ボクが彼女のセラフを

楔の力で『縮小』し、無力化する。

それが合図だ。朝倉氏2人は

えりか氏に――してほしい。

勿論、全ての責任はボクが負う。」

 

「そんな事したら……

ナンジャモさんは。」

 

「いいよ。ボクはどうなったって。

何があろうと仲間の命が最優先だ。

次の部隊長はルカ氏が上手く

やってくれる筈……だから、頼む。」

 

「それは、残された國見さんの

事も考えてるの?」

「……それはっ……でも、

こうするしかないんだ。頼む……。」

 

可憐氏は俯き、

口角を上げながら向き直った。

その狂気的な目は……

カレン氏のモノだった。

 

「ひひゃ……ひゃーっはっはァ!

いいじゃろォ! その威勢買ったァ!

ワシらは乗るぞォ! 

じゃが、一度きりの大博打じゃ……

失敗は許されんぞ。」

 

「……分かってる。

ありがとう、2人とも。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

突然ですが、諸事情により
更新ペース落とします。

まったりゆったり、
更新したい気分になりました。
よろしくお願いします。


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32話・恐るべき神託

 

━━▶︎ DAY19 16:40

 

再度Rotary Moleの

目撃情報があったので、

哨戒網の指定ポイントへ向かった。

 

……が、偶然近くで

任務をしていた30Gが赴き、

既に片付けていたようだ。

 

「やぁ、31Aの諸君。

獲物を奪って

しまったようですまない。」

 

「ユイナ先輩!

いやいやとんでもないっス!

むしろあたしら助かりました!!」

 

ルカ氏、彼女の前だと

ガラッと態度変わるなぁ。

 

「そうだな。月歌が言うのなら、

きっとそういう事なのだろう。

その感謝、有り難く受け取ろう。」

「いやいやいやぁ〜。」

 

「いや、お前は何もしてねぇだろ。」

 

「あら、ナンジャモさん。

あなた方も此方へ来ていましたのね。」

「うん。司令部の指示でね。」

 

「白河さんの仰る通り、

Rotary Moleの排除は

あたくし達が済ませましたわ。

……同じ轍は踏みません。

あたくしの秘術があれば、

アレを拘束し逃亡阻止させるのは

容易い事でしてよ。」

 

済ませたのだとしたら、

一つ気になる事がある。

ちえ氏も、察してくれたようだ。

 

「貴女の言いたい事、存じておりますわよ。

残念ながら、例のキャンサーは

搭乗していなかった。

開かれた敵の口内には、

生物とは思えない

無機質な砲口だけがありましたわ。」

 

「……居なかったか。

だったらしょうがないね。」

「気に病む必要はありませんわ。

いずれ見つけ出して、

必ず捕えましょう。」

「そうだね。」

 

辟易とするなぁ。

 

「さて、私語はここまでにしよう。

30Gの諸君、並びに31A諸君。

私はナンジャモと隊長同士で

情報共有したい事がある。

先に帰投ヘリに搭乗し、

待機していてくれ。」

 

「了解ですわ。」

 

「はーい♪」

「小学生の遠足みたいな返事やめろよ。

お前の所為で31A全体の

イメージが損なわれるわ。」

 

各々が彼女の指示に従って

その場から去っていく。

人影が見えなくなった辺りで、

彼女は口を開いた。

 

「こういう形で31Aの

部隊長と話せるとはな……

独楽回しや映画も見たが、

素晴らしいモノだったぞ。

今更ながら、

桐生や菅原が世話になったな。」

 

「あ、あのー。」

「ああ、すまない。

自己紹介がまだだったな。

私は30G部隊長の白河・ユイナ。

名前は好きに呼んでくれて

構わないぞ。」

 

白河・ユイナ。

……ユイナ氏と呼ぶことにしよう。

 

「で、ユイナ氏は

どういう用件で話を?」

 

隊長同士だけで交わす情報共有。

きっと重要な話に違いない。

 

「ユイナ氏か……悪くない。」

「あ、あのー。」

 

「大丈夫だ。

ちゃんと話は聞いている。

そして先程の発言は建前だ。」

「……建前?」

 

「そうだ。今朝方、 

恐ろしい神託を授かってな。

この機会に

伝えるべきだと私は判断したんだ。」

 

予言の次は神託?

 

この基地では今、

スピリチュアル的なアレや

オカルト的なアレが

流行ってるのだろうか。

 

そういうの、

正直もうお腹いっぱいだよ。

 

「ごめん。ユイナ氏。

そういうの間に合ってるから。

……その、また今度で。」

 

「――頼む! 本気で聞いてくれ!

君についての『神託』なんだッ!

今聞かなければ、

絶対君は後悔する事になるんだ!」

 

部隊長である彼女が、

ここまで必死になって

訴えるって事は……

余程の事かもしれない。

 

ボクはあんまりそういうのを

信じる質じゃないけど、

このまま跳ね除けるのも違う気がする。

 

「……分かった。

聞くよ。その神託。」

「感謝する。」

 

ユイナ氏は一呼吸置いて、

告げた。

 

「心してほしい……

その禍々しき楔は、

いずれ貴様から『全てを奪い去る』……」

 

案の定、物騒な言葉が出てきた。

 

「それは、ボクが命を落とすという事?」 

 

ユイナ氏は、

顔を険しくして答えた。

 

「違う。命を落とすよりも

遥かに恐ろしい未来……

文字通り、

『全てを失う日』が来るのだ。

その理由は私にも分からない。」

 

「…………。」

 

「ただ一つ言えるのは、

周りが自分を見失っても、

自分だけは『自分を見失うな』。」

 

「それが……ボクに関しての神託。」

「ああ。覚悟を固めておいてくれ。」

 

 

 

━━▶︎ DAY19 18:30

 

夕食、デンタルケアを終え。

新生She is Legendの新曲を

何回か通しで演習していた。

 

今は、その合間に挟む休憩時間だ。

 

ピリリリィン!

 

ボクのLINNEが鳴った。

イヴ氏やユイナ氏の次は

一体誰なんだろうか。

 

すごく忙しない。

 

<<大島・六宇亜

大島家同盟の仲間として、

助けてくださいナンジャモさん。

最近姉さん達の様子が可笑しいんです。

 

(ムーア氏に何が!?

これは……気になる。)

 

<<自分

今、31Aのみんなと

新曲練習中だから、

ルカ氏に聞いてみるね。

 

「おいおいナンジャモ、

興味津々にデンチョ覗いて

どうしたのさ。」

「ちょっとムーア氏に呼ばれてね。

皆には悪いけど、

一旦離脱していいかな?」

 

「ムーアが!?」

「ナンジャモさん!

私もお供して宜しいでしょうか!」

 

「えー! おタマさんが

行くならあたしも行くー!」

 

「待て月歌! 行くなッ!

バンマスのお前が抜けたら

練習どころじゃねー。

少しは頭冷やせ!」

 

「何でおタマさんは良いんだよ!?」

「戦艦の頭脳でしたから!」

 

「だそうだ。

まー、月歌よりは頭回るし、

1人で行かせるよりは

良いんじゃねぇか。

三人寄れば文殊の知恵って奴だ。」

 

「何でよ!?

ユッキーいつもダメ艦長とか

罵ってるのに!

今日だけやたら

おタマさんに甘くない!?」

 

「……言い掛かりは止せ。

あたしは

最適な判断を下しただけで、

特に深い意味は……」

 

ポロっ……

 

ユキ氏のブレザーから3つ程

袋詰めのどら焼きがこぼれ落ちた。

 

「ガッツリ賄賂貰ってるじゃん!」

 

「行け! ナンジャモ、國見!」

「「――了解!!」」

 

「この裏切りモンがああああ!!」

 

ルカ氏の怒号から避けるように

その場から走って

ボクらは逃亡した。

 

必死に走り、なんとか

時計塔付近のベンチまで辿り着いた。

 

「ぜぇ……ぜぇ。

もう無理ポ、足折れちゃう!」

「はぁ……流石にここまでは

追ってこないでしょ。」

 

久々に楔の力抜きで猛ダッシュした。

タマ氏の言う通り、

足が痛くて折れそうだ。

 

「和泉さん、大丈夫でしょうか。」

「ルカ氏の扱いは

彼女が一番慣れてるし、

きっと大丈夫だよ。」

「ですね!」

 

「あたしは、

全然大丈夫じゃないよ……。」

 

「「……!?」」

 

咄嗟に感想を述べた声の方を

見ると、ゲンナリとした

ムーア氏の姿があった。

 

「ムーア氏!?」

「へへ……顔を合わせるのは

独楽勝負以来かな。

これでやっと、話せそうだよ。」

 

「聞いたりましょう!」

「うん。」

 

「取り敢えず、

ナービィ広場のベンチで 

横並びに座って話そうか。」

「良いでしょう……!」

 

ボクらはムーア氏と共に

ベンチへ向かい、座った。

 

ムーア氏は、夕空を少しだけ眺め。

深呼吸で心を落ち着かせ、口を開いた。

 

「……よーし、勿体ぶるのも

意味ないし話すよ。」

「わくわく……!!」

 

ワクワクする話には

見えないけどなぁ。

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

〜SIDE『大島・六宇亜』〜

 

それは、今朝方からの話です。

 

あたしは姉妹の中でも

目覚めが早いタイプで、

一番乗りで起床するのは

よくある事でした。

 

いつも通りの何気ない朝。

洗顔、歯磨きうがい。髪梳かし。

スッキリとした爽やかな寝覚めが

消えないうちに、制汗シートで

全身の寝汗を丁寧に拭き取り。処分。

 

寝巻きから緑のジャージに着替えます。

 

その後は、日課通りに冷蔵庫を物色。

スポーツドリンクを一本取って

早朝の筋トレに臨……

 

「あれ? スポーツドリンクって

こんなロゴだったっけ?」

 

これ? エナドリな気がする……。

 

(あはは……あたしったら

おっちょこちょいだなぁ。

寝ボケてエナドリを

取ってしまうなんて。)

 

スッと冷蔵庫の中に

エナドリを戻して、

スポーツドリンクを探してみる。

 

上段、中段、下段。

野菜室、冷凍コーナー……。

 

エナドリ、エナドリ、エナドリ……。

カニカマ、エナドリ、

カニカマ、エナドリ……。

 

「いやぁああああああっ!」

 

思わず叫んでしまい。

姉さん達を起こしてしまった。

 

「どうしたの六宇亜!?」

「一千子姉ぇ!」

 

逸早く駆けつけてきたのは、

一千子姉だった。

 

「六宇亜、何があったの?

わたしに話してみなさい。」

 



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33話・大島家のカニ祭り(ムーア回)

 

「いやぁああああああっ!」

 

思わず叫んでしまい。

姉さん達を起こしてしまった。

 

「どうしたの六宇亜!?」

「一千子姉ぇ!」

 

逸早く駆けつけてきたのは、

一千子姉だった。

 

「六宇亜、何があったの?

わたしに話してみなさい。」

 

そうだ。長女の一千子姉なら

この異常事態を

分かってくれるはず……!

 

それに、常に学問書を

持ち歩く程勤勉なんだ。

何かしら解決して

くれるに違いな……

 

「――小学生でもわかる

カニ図鑑って何!?」

 

「……見ての通りよ。

これでも長女として、

グリ……六宇亜の事は誰よりも

理解してるつもりよ。

わたし、応援してるから。」

 

「それ多分理解してないよ!?

あとグリーンって言いかけてたよね!?」

 

重症だ。

 

31Cの映画の見過ぎで

あたし=グリーンみたいな

認識になってる。

 

完全にあたしと豊後ちゃんを

くっつける気でいるよ。

 

どうしよう。

 

大島屋設立の時みたいに

一千子姉の頑固さが

一度発揮されれば、

そうそう折れてくれないし……

 

「六宇亜、

取り敢えず落ち着きなさい。

わたし達も

朝支度を済ませたいから、

自分のベットで休んでなさい。」

 

「……分かったよ。」

 

ぽふっ。

 

自分のベットに腰を掛け、

解決策を考える。

 

(どうする?

やはり、他のお姉ちゃん達を

説得して味方につけるか。

一千子姉といえど、

家族一丸となった総意には

流石に頷くよね……。)

 

「おいむーあ、なに柄にもなく

難しい顔して考え込んでんだー?

あたいらみんな、

朝の支度終わったぞー。

まー、口や顔がさっぱりしても、

あたいはすぐ寝れるけどなー。」

 

そういえば。

 

大島屋設立の時も、

一番最初に味方に

なってくれたのは四ツ葉姉だ。

 

今回も、逸早くあたしの味方に

なれば、心強いよ!

 

「四ツ葉姉ぇ!」

「んー? なんだぁ?」

 

『――31D、31E両部隊は

点呼ののち、すぐさま司令官室へ

出頭して下さい。』

 

「司令官空気読んでーー!」

 

「おいおい、なんで朝から

こんな忙しないんだよ。

しゃーねぇ。行くかー。」

 

 

………………。

 

…………。

 

――司令官室。

 

「急に呼びだして悪いわね。」

 

「司令官、何かありましたか?」

 

一千子姉が、率先して訊きに入る。

対して司令官の方は、

落ち着いていた。

 

「いいえ。特に何もないわ。」

「何もないんかい!?」

 

「六宇亜!」

「……ッ!?」

「言葉を慎みなさい。」

 

「ごめん、一千子姉ぇ。」

 

「何も無いのに、

どーしてあいな達を

呼びつけたさー。」

 

のほほんとした白衣の少女が、

司令官に訊き始めた。

 

「そうね。

そろそろ本題に入ろうかしら。

この1週間、あなた達2部隊が

任務に尽力してくれたおかげで、

旧木更津卸売市場を 

キャンサー支配圏から奪還出来たわ。

改めて、お疲れ様。」

 

「領海が再び人類の手に戻って、

あいなも嬉しいさー。」

 

「ええ。見事な働きと認める他ないわ。

あなた達が橋頭堡の拡大や、

開渠の設営を支援してくれたからよ。

その結果、新宿ドーム、

習志野ドーム等の各ドーム。

及び基地に供給できる水産物の

総量が増加する見込みよ。」

 

(なんか凄いことしてたんだ……。)

 

「近辺にある習志野ドームは

その恩恵を存分に受けて、

ドーム全体がより豊か且つ、

より活気付いたモノに

なるでしょうね。」

 

「水産物だけじゃなく、

生きた深海魚ももっと欲しいさー。」

「あいなちゃーん、

お口チャックですよー……うふふ。」

 

「バブぅーあいー。」

 

(31D、大丈夫かな。この部隊。)

 

「その戦果を讃え、あなた達2部隊は

オペレーション・プレアデス実行前日

までの期間、休暇を設けます。」

 

「本当にいいのか?

当日だけの任務参加なんて、

他部隊の負担が

増えるだけではないのか。」

 

「いいえ二階堂さん。

あなた達が思っている以上に

切り込み隊は優秀よ。

なんなら、作戦当日までに

余裕が出来るくらいにね。」

 

「やはり……『楔(カーマ)』か。」

 

「確かに『楔』もあるでしょうけど、

31A部隊の強みはそこだけじゃないわ。

あなた達31Dは、

近い将来任務を共にし

その強さを実感するでしょうね。

ナンジャモさんと共に行動した

31Eはそれをよく分かってるわ。」

 

「司令官、

無礼な発言をしてすまない。」

 

「気にしないで頂戴。二階堂さん。

私も、あなた達31Dの気持ちは

理解しているつもりよ。」

 

「…………。」

 

「……話は変わるけど、

あなた達2部隊には、

特別なプレゼントを用意したわ。

……七瀬。」

 

「はい。

そいっ、そいっ、そいやっ。」

 

手早く副官が何らかの紙を

隊員達の指に挟む。

 

「なんだーこれ。

ただの紙切れかー。」

「違うわ四ツ葉、よく見なさい。」

「んあ?」

 

四ツ葉姉が紙を見て

まだ首を傾げた様子でいる。

 

最早、誰も説明して

くれなさそうな雰囲気だ。

 

……と、何かを察したのか。

このタイミングで

司令官から説明が入った。

 

「それは、

カニ料理限定GP20%オフ券よ。

期限は10日間。

好きなだけカニを堪能しなさい。」

 

司令官が朗らかな笑顔で

こんなふざけた発言する訳ない。

 

何かの冗談と思い、

渡された紙を凝視してみる。

 

(カニ、カニ、カニ……20%。

クーポン券。)

 

「いっ、いやぁあああ!!」

 

あたしはその時、

気がどうかしてたのか。

 

司令官室から勢いよく外に飛び出して、

基地を疾走し、7周くらい走った。

 

「はぁっ……はぁっ。

もうこんなの、何かの呪いだよ。

あたし……何かした?」

 

「走ってどこ向かうと

思ったら、こんな所に居たのね。

六宇亜。」

 

「一千子姉ぇ!」

 

「六宇亜、

話の途中で逃げてはダメよ。

何に苦しんでいるのか

分からないけど、わたし達家族でしょ。

1人で抱え込まないで

話してくれたっていいのよ。」

 

やっぱ一千子姉はあたし達の

自慢の長女だ。

こんなにも真剣に妹たちの事を

考えてくれる。

 

そうだよね。話さなきゃ。

信じて話さなきゃダメじゃないか。

 

そう、今こそ……

 

「――小学生でもわかるカニ図鑑

その2って何!?

シリーズ化してたの!

あたしが基地7周走ってる間に

1冊目完読して

2冊目借りにいってたの!?」

 

「大丈夫よ六宇亜。

恋は盲目。迷いが生じて

暴走してしまうのも無理ないわ。」

 

「暴走してるのはそっちの方だよ!

何がどうなったら

小学生でもわかるカニ図鑑

読もうってなるの!?」

 

ダメだ。

 

一千子姉は完全に毒されてる。

この件を話しても

一切動じなさそうだ。

 

「……そうね。わたしは少し、

焦りすぎたのかもしれない。

でも六宇亜、わたし達姉妹はいつでも

あなたの事を思って行動しているわ。

それを忘れないで。」

 

「一千子姉……。」

 

「みんな心配してるの。

わたしとしては、

これ以上みんなの不安を

煽るような真似はして欲しくない。

だからお願い。

そう邪険にならないで。」

 

「……ごめんなさい。」

 

(良かった。いつもの一千子姉だ。

何心配してたんだろう……あたし。)

 

「さて。そろそろみんなが

カフェテリアで

待ちきれなくなってしまうわ。

せっかくの休日なんだし、

ゆったり朝食を摂りましょう。」

「うん!」

 

 

………………。

 

 

…………。

 

――カフェテリア。

 

一千子姉とあたしを除いた

姉妹みんなは、既にテーブルに

着席していた。

 

「待たせたわね。みんな。

今から2人で食事を選ぶから、

そこで少しだけ待ってて。」

 

姉妹みんなは快く頷いてくれた。

 

「よし、一緒に選ぶわよ六宇亜。」

 

一千子姉が

券売機パネルをポチポチと押し、

カニ料理タグを開く。

 

「凄いわよ六宇亜。

カニしゃぶ御膳、カンジャンケジャン、

プーパットポンカリー……

これが全部20%割引だなんて、

本当にお得よ。」

 

「うん!」

 

「それで、六宇亜は何にするの?」

 

そうだなぁ。えーっと……

 

▶︎カニしゃぶ御前

▶︎カンジャンケジャン

▶︎プーパットポンカリー

 

(朝食だし、あっさり

食べられるモノの方がいいよね。)

 

「カニしゃぶ御前!」

「いいわね。

わたしもそれにしようかしら。」

 

一緒の食券とクーポン券を

厨房の受付カウンターに手渡し、

お姉ちゃん達が待つ6人掛け

テーブルに着席する。

 

料理の方は、

思いの外早く来た。

 

料理人が気を遣ってくれたのか、

ほぼ同タイミングで

全員分のカニしゃぶ御前が

食卓に並んだ。

 

「こちら、クーポン適用。

カニしゃぶ御前6人前でーす!

甲羅に注意しながら

お召し上がり下さーい!」

 

配膳のお姉さんが丁寧に説明して、

厨房内へと戻っていった。

 

「さぁ、冷めない内に頂きましょう。

この世の全ての食材に、

感謝を込めて……」

 

「「「「「「――頂きます!!」」」」」」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

ルイ姉様の生誕祭、最高でした。
特に、最後の曲が個人的にお気に入り。
開渠はかいきょ、っていいます。
決して開墾の打ちミスではないです。

開渠? 開渠って…。

一瞬記憶が錯乱するが、開渠は開渠だ。
それ以上でも、それ以下でもない。


……さて、本題のお知らせですが。
原稿ストックに余裕が出来ました。
(ナンジャモの方だけ/N●la書溜め勢)

これも……エ●ンの賜物だな。

という訳で、
またまた更新頻度が変わります。
宜しくお願いします。


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34話・暑さにやられんようにな!(ムーア回Ⅱ)

 

 

「「「「「「――ご馳走様でした!」」」」」」 

 

「ふぅ……流石高級品ね。

ここまで満足感を得られるとは

思わなかったわ。」

 

「あたしも、まさかカニの鋏に

心の扉を開けられるとは

思わなかったよ。」

 

「カニカマとは美しさや旨みが

段違いでした……。

この私の美しさを以ってしても、

口に含むまで見抜けったかった。

これが、本物のカニなんですね。」

 

姉さん達があまりの美味さに

驚愕してる。

 

とても美味いのは分かるけど、

オーバーリアクション過ぎない?

かれこれ

3分くらい余韻に浸ってるよ。

 

(仕方ない……あたしが起こそう。)

 

「起きて一千子姉、

二似奈姉、五十鈴姉!」

 

「「「――ハッ!?」」」

 

「おー、お目覚めだなー。」

「四ツ葉姉もさっきまで

寝てたよ!?」

 

「そんなん、

どーでもいい事だろ〜。

折角の休日なんだ。

みんなでゴロゴロしようぜー。

陽だまりのベンチで

うたた寝すると、

最高に気持ちいいんだぞー。」

 

「ダメです四ツ葉!」

「なんでたー?」

 

「六宇亜の映画の

活躍を忘れたんですか!

やっと時間が取れたのよ。

今日全力で祝わなくて、

いつ祝うの!!」

 

「そ、そこまでしなくていいよ

一千子姉ぇ。あたし達の映画、

結局負けちゃったし……。」

 

「「「「「…………。」」」」」

 

待って。何で5人とも

そんな申し訳無さそうな

顔してるの。

 

一千子姉。

何であたしの両肩掴んで

キリッとした目線を向けるの。

 

「……いい? 

映画の価値観は十人十色。

六宇亜の映画は

負けてなんかいないわ。」

 

「…………。」

 

「わたし達家族にとっては、

六宇亜が一番輝いて見えた。

一番素晴らしい映像作品だったと

胸を張って言えるわ。

そうでしょ? みんな。」

 

姉ちゃん達、

澄ました顔で頷かないでよ。

どう応えていいか分からないよ……。

 

「だから、わたし達家族に

改めてお祝いさせて。」

「……分かった。」

 

「よし! じゃあ一旦部屋に戻って

デンタルケアを済ませたら、

みんなでフレーバー通りを

練り歩きましょうか。」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY19 10:30

 

――フレーバー通り。

 

いつもなら、大島屋営業の為に

立ち寄る時間帯だけど。

今日は特別な休暇。

 

夕方以降でしか

娯楽に費やせないその場所が……

今は午前の楽園。

 

「やっぱ平日のこの時間となると、

閑散としてるなー。

ぐっすり寝られそうだぞー。」

 

「ダメよ四ツ葉、

祝勝会を全力で催すって

言ったばかりでしょ。」

「そーいやそーだったなー。」

 

いや、そもそも

勝ってもいないんだけど……

うーん。

 

この反論は胸にしまっておこう。

 

「で、どう祝うんだい一千子。

あたしが肩揉みして、余った部位を

皆で揉み解せばいいのか?」

 

「ダメよ五十鈴。

それは部屋でも出来るわ。

午前中のフレーバー通りでしか

出来ない何かをしなければ、

ここに来た意味が無くなるわ。」

 

「そうか……」

 

「という事で、祝いの品を

わたし達が各々で買って

プレゼントするなんてどうかしら。

きっと六宇亜も喜ぶわ。」

 

「そうですね!

この美しい私が、美しい逸品を

ご覧に入れましょう。」

「ボクも賛成だよ!

最高のプレゼント、お届けー♪」

 

「みんな賛成みたいね。

では始めましょうかしら。」

 

「待って一千子姉。

みんながプレゼントの

用意をしてる間、

あたしは何をしてればいいの?」

 

「……そうね。六宇亜、

結構基地を走り回ってたでしょ。

ミエミエの浴場で疲れを落として

行ったらいいんじゃない?

準備が整ったら、

わたし達から連絡を入れるわ。」

 

「うん!」

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

――フレーバー通り、娯楽施設・ミエミエ

 

シャワーで一通り髪と身体を洗い流し、

ミエミエの大浴場に浸かる。

 

「ふぅ、ひとっ走りした後の

入浴は気持ちいいなぁ。」

 

大島屋営業後に

家族みんなで浸かるのが

ここ最近の楽しみだった。

 

平日の真っ昼間に、

貸切で利用しているのは

今のあたしくらいだ。

 

(なんか、新鮮だなぁ……。)

 

身体が温まってくにつれ、

溜まっていた疲れが

湯水に溶かされていく。

 

本当に、気持ちがいい。

 

(でも、あたしが求めてるのは

こんな軽々しい気持ち良さじゃない。

ミエミエに来たら……)

 

「……97、98、99、100っ!」

 

ザバァンッ!

 

水飛沫ならぬ、

湯飛沫をあげ、立ち上がる。

 

「ミエミエに来たら、

サウナでしょ!!」

 

更なる気持ちよさを求めて、

サウナへと向かった。

扉の窓越しに、人影が見える。

 

この時間帯にサウナ?

31Dの誰かかな。

いいや、考えても始まらない。

 

むしろ。

誰かが居てくれた方が好都合だ。

 

意を決して扉を開けてお邪魔する。

そこに居たのは……

 

「ふぅ……誰かと思えば、

六宇亜ではないか。

うぬまで休暇を貰っていたとはな。」

 

「映夏ちゃん!?」

「良い機会だ。

最強人権キャラ同士、

共に語り合おうではないか。」

 

「何の話!?」

「妾とうぬが手持ちにいる時点で

勝ち組確定だと言っておろう。

妾とうぬが手を組めば、

大抵のスコアタが玩具同然じゃ。」

 

「だから何の話!?

連撃オーブと心眼オーブ来たら

あたし達降格するよ!?」

 

「……だ、大丈夫じゃ。

妾には単体防御ダウンと

先駆がある。

ゆ、故に妾の需要は終わらぬ……。

と、取り敢えずサウナの話に

戻ろうぞ。」

 

めちゃくちゃ動揺してる。

軍師らしからぬ慌てようだ。

 

「それで、どうして映夏ちゃんは

サウナに足を運んだの?」

 

「心頭滅却すれば火もまた涼し。

シャロの勧めで31X全員と

寄ったことがあってな。

気付いたらこの良さに嵌って、

度々寄るようになったのだ。」

 

「…………。」

 

「まぁ、共に来た

シャロとヴリティカは

既に上がってしまったが……」

 

「へー。そういう事かぁ。」

「邪魔であったか?」

 

「いいよいいよ。

折角だし、一緒にサウナ楽しも?」

「……そうだな。」

 

ん? 今日はセルフ式みたいだ……。

 

「こうしてうぬと

再び会えたのも何かの縁だ。

まだまだ妾も経験が足りぬ。

うぬなりの、このサウナの

更なる使い方を教授してくれぬか。」

 

「映夏ちゃんが良ければ

全然良いよ。それじゃ、始めよっか!」

 

「待て。何をどう始めるのだ。

葉の束みたいな奴は初見で使ったが、

あの積まれた石達や

無造作に吊るされてる

柄杓や団扇はどう使うのだ?」

 

あー。

確かに、よく見たら

不思議なアイテムばかりかも。

 

「それじゃあ、説明を交えながら

実践していこうか。

あたしが柄杓にアロマ水を

汲んでくるから少し待っててね。」

「……うむ。」

 

柄杓にアロマ水を汲んで、

サウナ室に戻る。

 

映夏ちゃんは柄杓に溜まった

アロマ水を興味津々に見ている。

 

「ほう。これが噂のアロマ水か。

中々に良い香りがするではないか。」

 

「でしょでしょ!

映夏ちゃん、さっきの石積みの用途

気になってたよね?」

「……うむ。」

 

「あれはサウナストーンって

言ってね。このアロマ水を

かけて蒸発させる役割があるんだ。

この行為をロウリュって言うんだよ。」

 

柄杓から、サウナストーンに

アロマ水を一気に注ぐ。

 

瞬時にそれは立昇る蒸気と化し、

芳醇な香りを放つ熱源となって

此方に襲いかかってくる。

 

「熱ぢぢぢぢぢぃぃいい♡♡」

「熱ぢぢぢぢぢぃいいいいっ!」 

 

※良い子はマネしないで下さい。

火傷してしまう可能性があります。

※アロマ水は

一気に注ぐものではありません。

※彼女らは訓練された軍人です。

 

(これだよこれぇ……♡

あたしを蒸し焼きにするような

この暑さ……堪んなぃよぉ♡)

 

「はぁっ……♡

今日も良いアロマミストだったぁ……」

 

「蒸し暑いわッ!

妾を蒸し焼きにする気かッ!

一瞬自分が小籠包になると思ったわ!

あと何故うちわを手渡す!?

見た事ない注釈テロップまで

出てきおったぞ!?」

 

まだだ……

こんなんじゃ終われないよ。

 

「細かい話はあと! 蒸し暑い内に、

あたしをそれであおいで!」

「分かった!」

 

ブウンッ……ブウンッ!

 

(キタキタ来たぁーー!

この熱波だよ! 求めていたのは!)

 

「くふぁーっ♡ イイっ!

もっとあたしにおかわりしてぇぇっ!」

 

「ホントにこれで合ってるのか!?」

 

数分して、映夏ちゃんが

あおぐ手をとめた。

 

「凄いよ映夏ちゃん。

熱波師の才能あるんじゃないかな……。」

「妾は軍師じゃぞ。そんな才能不要だ。

で、さっきの追い討ちみたいな

行為は何だ? 何の意味があるんだ?」

 

「あれはアウフグースって言って、

サウナをより楽しむ為の行為だよ。」

「愉しんでたのはうぬだけじゃぞ。」

 

「そっかー。

映夏ちゃんは楽しくなかったかぁ。」

「……う、ま、まぁまぁ良かったぞ。」

 

「なら良かった!

じゃあ次は、あの葉の束……

ヴィヒタであたしの身体を力一杯

ビシバシ叩いて貰おっかな。

その時はこのチャーシューがぁっ!

……って、大きな声で

言いながらやってね。」

 

「シャロの時は力一杯叩く

やり方では無かったぞ!?

明らかにうぬの私情が

混ざっておるよなぁ!?」

 

「私情なんて混ぜる訳ないじゃん!

ウィスキングっていう

大事な行為だよ!」

「妾の知るやつと

違うと言っておろう!」

 

 

ピリリリリリンっ!

 

もうっ、今から一番楽しい所なのに。

 

「六宇亜、

電子軍人手帳が鳴っておるぞ。」

「分かってるよ。」

 

呼ばれてしまっては仕方ない。

 

「映夏ちゃん、

このまま水風呂と外気浴して

一緒に上がろっか。」

「ああ。妾も

そろそろ上がろうと思ってた所ぞ。」

 

 

……………………。

 

…………。

 

 

受付でGP会計を済ませ、

ミエミエから着替えて外に出る。

 

外では既に、荷物を抱えた

家族みんなが待っていた。

 

「お待たせみんな!

おかげでさっぱりしたよ!」

 

「それは良かったわ。

じゃあ、あの噴水広場で

プレゼント発表会と行きましょう。」

 

「うん!」

 

噴水広場に移動し、

一千子姉から順に横並びになった。

 

「さぁ、一斉に見せるわよ。

六宇亜、準備はいい?」

「バッチリだよ!」

 

「「「「「――じゃじゃーん!」」」」」

 

意気揚々と家族が見せてきた

プレゼントは……っと。

 

一千子姉は蟹のバッジ。

二似奈姉は蟹のスノードーム。

三乃里姉は、

蟹のシルエットが付いたシューズ。

 

四ツ葉姉は、

デフォルト調なデザインのカニ枕。

五十鈴姉は、カニのキーホルダー。

 

辺り一面、カニ。カニ。カニ。

 

「――全員毒されてるじゃん!!」

 

 





━━【第2章最終回、予告】
(※最終回は次回ではありません。)
(※予告の為、台本形式の
ダイジェストでお送りします。)

カレンちゃん
「じゃが、一度きりの大博打じゃ……
失敗は許されんぞ。」

ナンジャモ
「……分かってる。
ありがとう、2人とも。」

2人が密に交わした『手段』とは……

和泉ユキ「答えろ朝倉。
お前の目的は何だ?
そしてそれは……『誰』の差し金だ。」

何かを察する和泉ユキ。
そして、
月歌の核心を突くいちごの発言。

水瀬いちご「そいつは本心か茅森……?」
月歌「…………」

水瀬いちご
「今でも2人は
大事な仲間の一員だって……
心から本気でそう思えんのかよ?」

月歌「……やめろ…………。」

蒼井
「……夢で見たものと、同じです。
……蒼井が見た。『蒼い星』と。」

蒼井が夢で見た『蒼い星』の正体とは。

大筒木イッシキ
「諦観したか? 
なら、その身体を今すぐ明け渡せ。
俺が解決してやる。」

ナンジャモ「――断る。」

裏で交代を促す『大筒木イッシキ』の
真の目的とは……。

物語は、
刻一刻と終わりに向かっていく……

オペレーション・プレアデスの
行末は如何に……。

――Coming soon


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35話・ダンスダンスダンスさー!

 

「――って事があったんだ。

あたしは何が何でもこの歪んだ

誤解を解きたい……。

ナンジャモちゃん。タマちゃん。

何かいい策はないかな?」

 

「ムーア氏……」

「それはお辛いですね……。

――ハッ!」

 

タマちゃんが何か閃いたみたいだ。

 

「どうしたのタマ氏?」

「六宇亜さんって、李さんと

仲良しですよね。」

 

「まぁ、映画の撮影とか色々あってね。

最近はトレーニングにも

ちょくちょく付き合ってくれるし、

本当にいい子だよ。」

 

「だからそれですって!

李さんに協力して貰いましょう!

『認識』をすり替えてしまえば、

エナドリカニ地獄から解放

される筈です……!!

内容はこうです!」

 

タマちゃんが、

作戦を細かく伝えてくれた。

 

……確かに、それならこの地獄から

抜け出せるかもしれない。

 

「そうか! その手があったか!?

ありがとう2人とも!

あたし、映夏ちゃんを

LINNEで呼んでくるよ!」

 

よし……! 来てくれた!

 

「ほう、六宇亜か。

それと……ナンジャモ。國見か。

中々見ぬ組み合わせだな。

さて、うぬの要件を聞こうか。」

 

「映夏ちゃんには、家族みんなの前で

あたしのプロポーズを

受け入れて欲しいんだ!」

 

信じられないといった表情で、

彼女は目を見開いた。

 

「待て待て待て!?

何がどうなって

それをやる必要がある!?」

 

「それ相応の理由があるんだ!

あたしの為に一芝居打ってよ!」

 

「一芝居だと?」

 

「そうです! 事情は不詳、

この私めがお話したりましょう!」

 

タマちゃんの説明を

サラサラと聞き入れ、

映夏ちゃんは頷いてくれた。

 

「……成程な。それは

さぞ災難であっただろう。

うぬは妾と映画を創り上げた

大事な朋ぞ。遠慮は要らぬ。

この妾の名演を以て、

必ずや救ってみせようぞ!」

 

「ありがとう! 映夏ちゃんは

あたしの最高の友達だよ!」

 

ブンブンブンッ!

 

「分かった分かった!

分かったから妾の手を握って

ブンブン縦に振るのやめんか!」

 

 

……………………。

 

 

…………。

 

 

━━▶︎ DAY19 18:40

 

 

了承も得たなら、後は実行に移すのみ。

 

家族みんなのLINNEには、

今からナービィ広場で想い人に

告白しますと伝えといた。

 

みんな暇なのか、

そわそわとした空気を醸しながら

ナービィ広場へと集まった。

 

茂みの裏に全員で隠れている

つもりだろうけど、

 

一千子姉の帽子や 

四ツ葉姉のぬいぐるみが

一々ひよっこり出てくるので

こちらからでも位置がバレバレだ。

 

タイミングはバッチリ。

後はあたしの合図に合わせて、

映夏ちゃんと一芝居打つだけだ。

 

偽のラブレターをもじもじと

揺らしながら、合図に入る。

 

「ううっ……来てくれるかなぁ。」

 

(((((……頑張れ! 六宇亜!!)))))

 

なんか、お姉ちゃん達の

向けてくる視線と気持ちが

一瞬だけ一致したけど、気のせいだよね。

 

そう、あたしが今気にするべきは……

 

合図を聞き漏らさず、

彼女は木の影から歩み寄ってきた。

 

「六宇亜よ、妾をこんな場所に

呼び出してどうした?

映画のお礼か?」

 

「ちっ、違うんです……。

そのぉ〜、もっと大事な話があって。

ううっ……」

 

「そう焦るでない。

ゆっくりでも構わぬ。妾に話してみろ。」

 

 

「えっ! まさかのそっち!?

長女のわたしでも気がつかなったわ!」

「まさかそんな大穴があったとはねぇ。

扉違いだったよ。」

「本当の愛をお届けー♪」

 

「なんて事っ、私の美しさを

以てしても見抜けないなんて……。」

「とんでもねーミラクルだなー。」

 

家族みんな予想通りの反応だよ。

予想通り過ぎて逆に悲しい。

 

しかし、悲しんでる暇はない。

一気にケリをつける。今ここで!

 

「いっ、一生懸命気持ちを込めて

綴ったラブレターです!

映夏ちゃん! う、うう……

受け取ってください!!」

 

「ほう。その気持ち、

有り難く頂こうではないか。」

 

映夏ちゃんが、偽のラブレターを

懐へと仕舞った。

 

「……嬉しいよ。」

「それは何よりだ。だが正直な話、

こんな遠回りな真似は不要だ。」

「……え?」

 

ぎゅっ。

 

「「「「「――!?」」」」」

 

家族揃ってそんな反応を

してしまうのも無理もない。

映夏ちゃんが突然、

あたしを抱きしめたのだから。

 

まぁ、演技なんだけどね。

 

こうでもしないと効果なさそうだし。

当然あたしも抱き返した。

 

「六宇亜、実はな。

妾もうぬの事が大好きじゃ。

うぬの人並外れた

スタミナと妾の軍略が

組み合わせれば、

怖いものなしと言っても

過言ではない。」

 

「…………。」

「これからは朋としてじゃなく、

その先の存在として、

末永くよろしく頼むぞ。」

「……うん。」

 

 

その翌日以降、

六宇亜は無事

エナドリカニ地獄から解放された。

 

しかしこの後、カプ厨を

拗らせた大島家によって、

クンフー三国志地獄に

六宇亜は囚われる事になる。

 

それはまた……別のお話。

ちゃんちゃんっ。

 

 

 

 

━━▶︎ DAY20 16:30

 

――31A部隊、寮部屋。

 

「今日はさ。前夜祭としてギグろう。」

「また色々とツッコミ所が多くて

大変だぞ……。」

 

ルカ氏とユキ氏の会話を

不思議がり、つかさ氏が声をかけた。

 

「まず、何の前夜祭なの?」

「もうすぐ作戦じゃん。それの。」

「祭りちゃうわ。」

 

「でも、馬鹿騒ぎ出来るのも

今日くらいまでだと思うからさ。

流石に明日からは、

決戦に向けて集中して

過ごしたいだろ?」

「今日もだよ。」

 

「いやいや、今日弾けなくて

いつ弾けるんだよ!?」

「結構弾けてきたろ?」

「まだ不完全燃焼だろ!

練習の成果だして、

ようやく完全燃焼だろ!?」

 

「なんで大事な作戦の前で

完全燃焼する必要がある?

寧ろエネルギー溜めておくべきだろ。」

 

ルカ氏が床に転がり、

四肢をジタバタと動かし始めた。

 

こんな情けない伝説ロッカーの姿、

出来れば目にしたくなかった。

 

「やだやだやだー! 弾けたいーー!! 

折角練習したのにーーー!!」

 

「子供か。」 

 

うん。

 

それも、ショッピングモールで

興味ある玩具を買って貰えなくて

駄々をこねるお子様みたいだ。

 

こうなってはどうしようもない。

ボクから切り出すしか無さそうだ。 

 

「えりか氏が待ってるだろうから、

取り敢えず行った方が良いん

じゃないかな……。」

 

「そうだな。蒼井を

待たせるわけにも行かねーか。」

「よし、じゃあ取り敢えず移動ー!」

 

ルカ氏がいつもの調子に戻り、

何事もなかったかのように

一同でスタジオへ向かう。

 

……が、宿舎を出てすぐに。

とある人物がこちらへ来た。

 

「31Aのみんなー、ちょっと待つさー!」

 

「あいちん!?」

「あいな氏!?」

 

のほほんとした雰囲気をした、

白衣の少女……あいな氏だ。

 

「あいな氏、どうしたの?」

 

「あいなは今、31Aのみんなに

お礼をしたいさー。」

「お礼?」

 

あいな氏は頷いた。

 

「そうさー。

31Aの映画が楽しかったから、

あいななりのお礼をしたいのさー。

時間はあまり取らないから、

0GPであいなの深海講座を

お届けしたいさー。」

 

「それは、何処で受けられるの?」

 

「アリーナ横にある、研究施設内に

あいな専用の深海ラボがあるのさー。」

 

「良いですね! 皆さん、あんまり

時間を取らないみたいなんで

行ったりましょう……!!」

 

タマ氏がノリ気だ。

 

「んー、そうだな。

ギグるついでにそっちでも

弾けてみっか。行くぞユッキー。」

「講義で弾けんなよ……。」

 

ユキ氏が嫌々そうにしながらも、

目新しさを求めて

大人しくついて行った。

 

――深海ラボ。講義室。

 

「うっわ……広いな。」

 

ルカ氏がボソりと呟いた。

 

正直、31A全員がそう思ってる。

普段は何百人かが

講義を受けてるのかと

思うくらいには広い。

 

ホルマリン漬けの深海生物や

深海生物の写真が其処彼処に

飾られているのにも関わらず、

全く窮屈さを感じないのも不思議だ。

 

あいな氏は何かの

スイッチが入ったのか。

握り拳にした両手を上下に

ブンブン振り、万歳した。

 

「うーっ! あいなの深海講座!

始めるさー!!」

 

「わくわく……!!」

 

最前席に座ったタマ氏が、

今か今かと震えていた。

 

「ちなみにタマちんは、

講義中の特別クイズがでるけど、

回答権はないさー。」

「理不尽! この上ない理不尽っ!」

 

「ごめんよぅ。

タマちんが答えたら

ゲームにならならいさー。」

「う……仕方ありませんね。

我慢したりましょう。」

 

あいな氏がリモコンで

モニターに電源を付け。

スライドを進めた。

 

「さてさてー。

みんながよく口にする

『深海』や『海溝』、

これが具体的には何なのか、

ちゃんと分かってるさー?」 

 

あ、急にそれっぽくなった。

タマ氏が

めっちゃ答えたそうにしてる。

 

「じゃがじゃーん!

ここで第一の深海特別クイズぅー!

深海や海溝の定義をする際、

その定義の基準となる深さが

区分されてるさー。

これを何というか、

今からモニターに

映る選択肢から選ぶさー!」

 

言って彼女は、

次のスライドへ画面を変えた。

 

表示されたのは、

以下の三つの選択肢だ。

 

▶︎護廷十三隊

▶︎五大栄養素

▶︎漂泳区分帯

 

と、パッと見で分かったのか。

つかさ氏が挙手をして立ち上がった。

 

「分かったわ! 護廷十三隊!」

「つかさちん。

残念ながらハズレさー。」 

 

「そんなぁ! 惜しかった……。」

「全然、惜しくねーわ。」 

 

「待って! 次こそ当てるから、

わたしにチャンスを!」

「分かったさー。」

「五大栄養素!!」

「ハズレさー。」

 

つかさ氏は、

また悔しそうに歯噛みした。

 

「惜しい……

ここまで出かかってるのに……。」

「1ミリも出かかってねぇわ。

何で2回連続でミスるんだよ。

諜報員の面目丸潰れだろ。」

 

「正解は『漂泳区分帯』さー。

主に5段階に区分されていて、

海面表層、中深層、漸深層、

深海層、超深海層と

分けられてるのさー。」

 

スライドが

次の画面へと切り替わる。

 

「それと何の関係が……?」

 

「スライドを交えて説明するさ。

見ての通り、一般的には

水深200m以上を『深海』と言って。

区分上は、中深層以上の水深域が

これに当たるさー。」

 

「海溝はどうなるの……?」

「つかさちんは好奇心旺盛で

嬉しいさー。海溝は、文字通り

水深6000m以上の

深い溝の事を言うさー。

区分上は、超深海層に当たるさー。」

 

「凄い! 深海って

そんなに凄かったのね!」

 

「あいー♪

さてさて。基礎を固めた所で、

お次は深海の生物を色々と

見ていくさー。」

 

ピリリンっ!

 

あいな氏の軍人手帳が

突然鳴り出し、

彼女も慌てて開いた。

 

「え!? 色葉ちんが絵の具を!

分かった! すぐ行くさー!」

 

走り去るあいな氏の背中と共に、

講義は呆気なく幕を閉じた。

 

「よし、さっさとギグって

ライブと行くか。」

 

 

 

――カフェテリア、ライブステージ。

 

「よーし、

それぞれ準備はいいなー?」

 

「すごいドキドキする……!」

 

「じゃ、ユッキーカウント!

聴いてくれ!

『Dance!  Dance!  Dance!』!」

 

 



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36話・RED Crimson

 

――オペレーション・プレアデス当日。

ポイントデルタ、菜の花展望台。

 

長い作戦訓練の日々が功を奏したのか。

本任務はスムーズ且つ順調に

進んでいった。

 

菜の花展望台付近の

開けた場所にテントを設営し、

ボクはパルデア在住以来の

ピクニックを

それなりに謳歌した。

 

えりか氏が意外にも

キャンプ慣れしてるのもあってか、

これといったハプニングもなく

みんながみんなゆったりと

野営の時間を過ごしていった。

 

そうして迎えた夜。

 

何故だか夜風に当たりたくなり、

野営地から少し離れて

風を浴びに行った。

 

肌に触れる渇いた風、

茂った草々が奏でる

サラサラとした心地よい音。

 

……何処か、懐かしさを覚えてしまう。

 

そういえば、

ピクニックテーブルの上に 

ランタン置いて。

 

リンちゃんと一緒に

夜空を飾る星々をゆっくり

眺めてた日もあったなぁ。

 

ガサガサっ!

 

「ん? 誰かいる。」

「うわっ!」

 

「いやいや、

そっちに驚かれても困るよ。」

「すみません……。」

 

申し訳なさそうに、

突然現れたえりか氏が頭を下げた。

 

「顔をあげなよ。

別に、ボクも不快に

なったとかはないから。」

「…………。」

 

「それで、ボクに何か用があるの?」 

 

「ナンジャモさんに

お礼が言いたくて……来ちゃいました。」

 

「お礼を言われる事なんてしてないよ。

ボクは入隊式から今日に至るまで、

ただ必死にしがみついて

生きてただけ。それと、

負けたくない勝負があったから。」

 

シネマバトル。

今思い返してみても、

結構ギリギリな勝負だった。

 

31Cとは違うコミカル調な

シナリオが万人に受けたのだろうか。

 

正直、

何が勝利の決定打になったのかは

ボク自身よく分かっていない。

 

「いえ、充分なことをしてくれました。

ありがとうございました。」

「でも、まだ疲れてるように見えるよ。

ちゃんと寝れてるの?」 

 

「あまり……」

「そっか……いつかの日か。

ぐっすり

寝られるようになるといいね。」

 

「……はい。それにしても、 

ナンジャモさんは優しいですね。

まだ蒼井のことをそんなに

心配してくれるなんて。」

 

「ううん。表に出さないだけで、

きっとみんなも心配してる。

みんな、

えりか氏を困らせたくないんだ。

だから自信を持つといいよ。」

 

「はい! 

蒼井、自信を持っていきます!」

 

「そうそう、その意気だよ。」

 

「ありがとうございます。

なんだか今なら、

ぐっすり眠れそうな気がします。」

 

先程の重たい顔つきが、

軽く朗らかなモノへと変わった。

 

この短い会話の中でえりか氏の

中の重荷が少しでも減ったのなら、

外に出た甲斐がある。

 

この調子なら、えりか氏は

今後立派な隊長として

やっていけるだろう。

 

きっと、ボクが

セラフ部隊から居なくなった後も。

 

(覚悟は出来てる。

あとはそれを……実行に移すだけ。)

 

「おやすみ。えりか氏。」

「はい。おやすみなさい。」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY25 4:00

 

「……起きろ小娘。

起きろと言ってるのだ。」

 

(ん、誰かボクを呼んでる?)

 

背に伝わる砂床のような感触。

……座標か。

 

ボクは身体を起こした。

 

目の前には、

イッシキ氏が佇んでいた。

 

「久しぶりだね。イッシキ氏。

急にボクを呼びつけてどうしたの?」

 

「ようやく起きたか。

貴様を呼びつけたのは他でもない。

『忠告』の為だ。」

 

「……忠告?」

 

「俺の勘が言ってるのだ。

これから大事が起きるとな。」

 

「その為にボクを?」

 

「……そうだ。俺の勘は

こう見えて結構当たるんだ。

貴重な器である貴様を

失う事態は極力避けねばならん。

いい加減仮眠を中断し、

現実の方へ目を向けろ。

何かがあってからでは遅い。」

 

「忠告ありがとう。

ボクも、そろそろ動くとするよ。」

 

 

………………。

 

 

……。

 

 

意識を座標から現実へ起こすと、

一同が緊迫した顔付きで

辺りを周辺警戒していた。

 

思わず気になって、訊き込んでみる。

 

「タマ氏、これは一体……」

 

「なんというか……

静か過ぎます……。」

 

確かに、言われてみれば

静か過ぎる気もする。

 

嵐の前の静けさ……

という奴だろうか。

 

どちらにせよ。

自分がその嵐に

飛び込む事は決まっている。

 

その先の空が晴れていたのなら、

ボクの役割は、それで充分だから。

 

「早朝だからそんなもんじゃない?」

 

ルカ氏が眠た気に

タマ氏の発言に答えた。

 

「でもまぁ、散歩がてらに

様子でも見ていこうぜ。」

「はい!」 

 

 

……………………。

 

 

…………。

 

 

━━▶︎ DAY25 5:00

 

「こっちです。ナンジャモさん!」

 

道中、司令部より

オペレーション・プレアデスの

破棄司令、及び

新種キャンサー接近の報告があった。

 

RED Crimsonと呼称された

新種キャンサーとの交戦。

それがボクらに

新しく課せられた任務だ。

 

今は移動指示に従って動き、

丁度ポイント・アルファまでの

移動を済ませた所だ。

 

「うん。案内ありがとう。

少し余裕が出来たみたいだし、

一旦、司令部に報告を入れよう。

えりか氏、頼める。」

 

「任せてください。」

 

えりか氏が了承し、連絡を繋げた。

 

「……31B蒼井より司令部、

31Aと指定ポイントに移動しました。」

 

『こちら司令部、RED Crimsonとの

接触まで残り8,900です。

そちらからの視認は可能ですか?』

 

「……難しいです。

現在地の視界が開けていない為、

明確な視認が出来ません。」

 

『了解しました。

北西方向に移動して視認が可能か

試して下さい……。』

 

ジジッ……。ドドドド……。

ボゴォォンッ!!

 

通信に急なノイズが奔るのと同時、

地響きと揺れが発生した。

 

グギュグバァッ!!!

 

遠方にいるとは思えない、

大きな咆哮が耳に入る。

途端、ここにまで届く熱波が

吹き始めた。

 

燃えたであろう木々から

漏れる焦げ臭さが、

此方の鼻腔まで来る。

 

どれほどの範囲が

この一瞬にして

燃やし尽くされたのだろうか。

 

おそらく。ボクらの想定を

遥かに上回るレベルで、

これから接触する敵は強大なのだろう。

 

「何事だ!?」

「攻撃かもしれません!!」

 

『手塚よ。周辺の状況を

報告しなさい。』

 

「何が起きたか分からない。

爆発音がして、地面が揺れたんだ。」

 

『司令部が観測した結果を伝えるわ。

RED Crimsonの砲撃により

泰野北部に設置済の無人観測機が

消失したわ。』

 

「「………………。」」

 

『砲撃の威力、射程は

これまでのキャンサーとは

一線を画すと推定されます。

よって、司令部はRED Crimsonの

緊急排除を決定したわ。』

 

そうなる事は、

周りの誰もが察していた。

 

『31A、31B両部隊に命じます。

蒼井さんの盾で敵の攻撃を防ぎつつ、

トランスポートでRED Crimsonに

接近し、これを討伐しなさい。』

 

「え、それって

無謀なんじゃねーのか……。」

 

諦観気味に、ルカ氏が問いかける。

が、手塚氏は平然としたまま

淡々と応えた。

 

『勿論危険は伴います。

ただRED Crimsonの進路から

防衛ラインが突破されれば、

複数のドームが壊滅するわ。

その犠牲は我々には見過ごせない。

……そう判断したの。』

 

「和泉だ。横から悪いが、

増援はどうなるんだ?」

 

『悪いけど、あなた達2部隊だけよ。

他部隊は撤退か、

射程距離外に退避させます。』

 

「……あたしらだけで討伐ってのは、

それなりの理由があるんだよな。」

 

『そうね。時間と無理な増援で

犠牲を増やさない為よ。』

「ちっ、想像通りか。」

 

ユキ氏が舌打ちし、

より険しい表情となった。

 

対してルカ氏は、

あっけらかんとした状態だ。

 

「どういうこと?」

 

「要は増援を出すのが

悪手だったって事だ。

実際集まる時間もないし、

蒼井の防御がなければ

撃たれて終わりだからな。」

 

『その通りよ。司令部は

最も犠牲が少なく且つ、

成功率の高い作戦を採用したの。

……ただ。本作戦の要は

蒼井さんの盾による防御力。

だから、討伐が上手くいくかどうかは

攻撃の役割を持つあなた達次第。』

 

「…………。」

 

『厳しい戦いなのは否定しない。

無理強いもしない。

その場合は、

別の策に切り替えるつもりよ。』

 

「いいえ、やります!

やり遂げてみせます!!」

 

『ナンジャモさんはどう?』

「ボクも、

最初からやるつもりだったよ。」

 

予言の未来を変えたいのなら、

この場で交戦を諦める……

という選択肢は無い。

 

絶対にみんなを救ってみせる。

 

その先がどうなろうと、

どんな罰が自分に下ろうとも、

それが……ボクの選んだ道だから。

 

――心してほしい……

その禍々しき楔は、

いずれ貴様から『全てを奪い去る』――

 

――じゃが、一度きりの大博打じゃ……

失敗は許されんぞ。――

 

分かってる。全部。

それぞれが真摯にくれた忠告も。

全部、手に取るように思い出せる。

 

だけど、ボクは進むよ。この道を。

 

 

……………………。

 

 

…………。

 

 

開けた場所へと移動して早々、

えりか氏が逸早く敵影を捉えた。

 

「目標の咆哮! 

距離約5,000メートルです!」

 

「近いっ! 気づかれたかも!」

「いちごさん、すももさん!

注意をこちらに向けます。

戦闘準備をお願いします!」

 

「待て! なんか溜めてやがるぞ!!」

「……口を大きく開けてるにゃあ!!」

 

「気をつけろ!! 

すげーのが来るぞ!!」

「ヴァウウウッ……!」

「……っ!!」

 

『……来るぞ。小娘。』

 

(知ってるよ。イッシキ氏。

だから……使わせて貰うよ。

楔の力を。)

 

『ほう、楔の特性を既に

理解してるようだな。

……やってみろ。』

 

思い出すのは、

アマド氏とのやり取り。

 

――自然発生以外のエネルギーを

吸収して、自らのエネルギーに

還元する能力があるんだ。――

 

――楔に、そんな力が……。――

 

初めはボク自身も

信じられなかったけど、

ボルト氏との長い修行で

ようやく形になった。……楔の力。

 

「みんな! 伏せてくれっ!」

 

ボクは即座に先頭へ移動して、

楔を構えた。

 

「ナンジャモ! 

またあの時と同じ事をするのかにゃ!

絶対に無茶だにゃ!!」

 

「無茶なんかじゃないよ。

すもも氏。

それにみんな……信じてくれ。」

 

 



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37話・楔の特性

 

 

シュゥウウウッ……。

 

楔が紅く明滅し、

ヒリヒリとした熱みを帯びる。

 

どうやら、 

楔によるビームの吸収は

成功したようだ。

 

「「「「「――ッ!?」」」」」

 

当然この力は座標内以外で

一度も使った事ないので、

みな一様にして

驚愕するのも無理はない。

 

けれども、今回の敵は格が違う。

力を出し惜しみしては

勝てる戦いも勝てない。

 

「何なんだよ……今のは?

一体何が起きたって言うんだよ……」

 

「あれ程強力な砲撃を、

盾型セラフを

使わずに防ぐだなんて……

蒼井も聞いた事がありません。」

 

ルカ氏とえりか氏が

困惑を強めてく中、

聖華氏が眼鏡をクイっとした。

 

「いいや、違うな。

ナンジャモはデフレクタで

攻撃を防いでなどいない。」

 

「……え?」

 

「どういう原理かは知らんが、

『吸収』したんだ。『楔』の力でな。

ふふ……実に興味深い。 

ナンジャモ、

この戦いが終わったら

私のラボに来てくれ。

益々興味が湧いてきた。」

 

「ふっ、なるほどね。

エリート諜報員であるわたしも、

そう考えていた所よ。」

 

いや。

多分つかさ氏の発言は

あからさまな見栄張りだ。

 

取り敢えず、このお喋りを

続けていられる状況でもないし。

今は敵を倒すことだけ考えよう。

 

「2人の発言通り、ボクには

敵のビームを吸収する力がある。

相手が放つビームは

この力でボクが全て捌くから、

みんなは一気に距離を詰めてくれ!

――行動開始!」

 

「「「「「――了解!!!」」」」」

 

 

……………………。

 

 

…………。

 

 

作戦通り事は進み。

ようやくRED Crimsonを

部隊の攻撃射程内に捉えた。

 

 

――グギュグバァッ!!!

 

何度もビームが防がれた事に

ご立腹なのか。

 

対峙するRED Crimsonは、

大きめの咆哮を

こちらに浴びせてくる。

 

「へっ、気に入らねーのは

こっちも同じだっつーの。

……ナンジャモ、どうする?」

 

ルカ氏が指示を仰いだ。

 

「強力な個体とはいえ、

何度もビームを撃ってるんだ。

そうすぐに乱発は出来ないと思う。

一気に畳みかけるなら今しかない。

ボクが指示を出す。

やるよ……みんなッ!」

 

「「「「「――了解っ!!」」」」」

 

先ずは相手の外殻の破壊からだ。

水瀬姉妹の瞬発的な高火力を

同時に放てば持っていける。

 

その前段階として……

 

「つかさ氏、聖華氏は部隊全体に

支援バフを付与してくれ!」

 

「分かったわ!」

「良かろう……『ドーピング』」

 

「願いよ叶え! いつの日か……!

――Oh Yeah★」

 

「うぉぉおお! 

力が漲ってきたぞぉ!」

「そのダサい

オーバーリアクションやめろよ月歌。

あたしまで恥ずかしくなるだろ。」

 

これで準備は整った。

後は叩くのみだ。 

 

よし、口が開き始めた。

攻めるなら今だ。

 

「いちご氏、すもも氏!

2人は最大火力で挟撃を

叩き込んでくれ!」

 

「おうよ!」

「分かったにゃ!」

 

2人は左右に敵を挟み、

3点のエネルギーを蓄積させる。

 

「退屈凌ぎに派手なのいくにゃ……」

「お前は今から塵となる……」

 

「――にゃっ!!」

「――これでなァッ!!」

 

2人の蓄積されたエネルギーが、

一点に収束し、敵に襲いかかる。

 

バリイィィィン!! 【BREAK】

 

「グギャガガァッ!?」

 

「怯んだ! この隙を狙うよ!

ビャッコ氏、レイジングクロー!

カレン氏、ブラッディ・ダンス!

ユキ氏は牡丹で頼む!!」

 

「ヴァウウッ!」

「切り刻ぁむ切り刻ぁむ

……切り刻ぁむッ!

――カレンちゃんでしたァア!!」

 

「何もない夏だって……?

こうすりゃあ――2人だけの花火さ。」

 

3人の激しい連続攻撃により、

内殻までもが土砂崩れのように

剥がれ落ちていく。

 

バリイィィィン!

 

あと一息だ。

あと1発さえ叩き込めば確実に……

 

「このまま行ったりましょう……!!」

 

「――待ってくださいっ!

RED Crimsonの様子が変です!」

 

えりか氏が、

何か異変に気づいたみたいだ。

 

その予感は当たり。

 

敵は崩れ落ちるような姿勢を

とったかと思いきや、

再び立ち上がった。

 

そして頭部を開き、

エネルギーを収束し始めた。

 

そのエネルギーの塊は、

対峙するボクらの視覚だけでも

充分に分かる危険な代物だった。

 

「待て! これ以上はもう限界だ。

月歌、撤退するしかねぇ!!」

 

「無理だ! 避けられる距離じゃない!」

 

「死ぬぞ、ここで!!」

「くっ……。

(もう、方法はないのか……。)」

 

「諦めないで下さい!

蒼井がみんなを守ります!」

 

――ドクンッ!!

 

これは……イノセント・ワイルドの

発動と同じ……『秘術の予兆』だ。

 

そうか、これが予言の未来か。

今がその『分岐点』。

 

会いに行こう。

 

瞳を閉じて、干渉する。

 

この素足に伝わる、砂の感触。

……うん。成功だ。

 

「只ならぬ事態になったな。

……小娘。

あの攻撃をどう捌く気だ?

それとも、身体をこの俺に

明け渡す気になったか?」 

 

「…………。」

 

イッシキ氏は、余裕綽々と

ボクに問いかける。

確かに、彼に今すぐ明け渡せば

解決する話だろう。

 

だからといって何も考えずに

明け渡せば、

予言の変化を起こせなくなる

可能性がある。

 

あの予言は

ボク自身の手で変えなければ、

何の意味もない。

 

「黙り込んでどうした?

……因みに言っておくが、

今の貴様の練度では、

あの攻撃を先程のように

吸収する事など出来ん。

塵となって死ぬだけだ。」

 

「……だろうね。」

「諦観したか? 

なら、その身体を今すぐ明け渡せ。

俺が解決してやる。」

 

「――断る。」

 

そうだ。今は明け渡さない。

明け渡さずに解決する方法を、

今の今まで準備していたのだから。

 

「そう答えるって事は、

貴様なりの

解決方法があるって事だな。

それは何だ?」

 

「あるよ。

ボクには吸収し続けた

ビームのエネルギーが

楔に蓄積されている。

だからこそ、出来る手段だ。」

 

「……ほう。」

「だけどそれじゃ足りない。

この窮地を乗り越えるには、

イッシキ氏の協力も必要なんだ。」

 

「協力だと?」

「これを見てほしい。」

 

ボクは片手にエネルギーを

収束し、乱回転させる。

 

「その術は……うずまき・ナルトの

使っていた『螺旋丸』か。

どういう経緯で体得したかは

知らんが、今は

目を瞑っておいてやろう。」

 

「ボクは、この螺旋丸で

敵の攻撃を相殺したい。

力を貸してくれないか……イッシキ氏。」

 

「前にも言った筈だ。

貴様は俺の貴重な器であると。

そう簡単に死なれては困る。

不本意ではあるが、手を貸してやる。」

 

「ありがとう。」

 

 

…………………………。

 

 

…………。

 

 

座標でのやり取りは上手くいった。

後は、全てを片付けるだけ。

 

えりか氏は歩を進め、

一同の先陣に立った。

そして、手を横に薙ぐと。

 

セラフが旋回しだした。

 

(今だ。)

 

 

「――インビ……」

 

――ギインッ!

 

えりか氏のセラフを、

秘術・少名毘古那で縮小する。

 

「――え?」

 

「何ッ!?

蒼井のセラフが突然消えたッ!!

クソっ! さっきから何なんだよッ!」

 

いちご氏が愚痴を溢し、

握り拳を強く締める。

 

しかし、これも必要な工程だ。

えりか氏がこの先も生きられるように。

 

バッ!

 

「――!?」

「……そこまでだ。『蒼井・えりか』。

………………ひひゃっ。」

 

困惑するえりか氏を捕え、

カレン氏が鎌の切先を首元に寄せる。

 

「おい殺人鬼テメェ!!

お前の仕業かッ! 何の真似だッ!

この期に及んで

蒼井に何がしテェんだよッ!!」

 

カレン氏は、いちご氏を一瞥し。

狂気的に笑った。

 

「ひひゃ……ひゃーっひゃっひゃあ!!

ワシの殺戮衝動が高まった迄よォ!

……おっとォ、妙な動きは取るなよ。

この女の首から出る血飛沫が

見たく無かったらなァア!

あひゃひゃひゃひゃひゃああっ!!!」

 

「畜生っ……!

何処まで腐っていやがるッ……!」

 

いちご氏が自分の無力感に

苛まれながら、また愚痴る。

 

「何やってんだよカレンちゃんっ!

あたし達仲間だろ!!

こんな事していいのかよッ!」

 

「仲間だとォ……?

茅森、何を言ってるんだ貴様は?

ワシは貴様らの仲間になった

覚えなどないわ。……忘れたか?

――ワシは只の殺人鬼よォ!

あーひゃひゃひゃひゃぁあああっ!」

 



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38話・終結の黎明

 

 

「何やってんだよカレンちゃんっ!

あたし達仲間だろ!!

こんな事していいのかよッ!」

 

「仲間だとォ……?

茅森、何を言ってるんだ貴様は?

ワシは貴様らの仲間になった

覚えなどないわ。……忘れたか?

――ワシは只の殺人鬼よォ!

あーひゃひゃひゃひゃぁあああっ!」

 

「ふざけんなよ!

蒼井が身を挺して

前に立ったってのに……

こんな事したら

全滅するってくらい分かるだろ!

カレンちゃんはそれでもいいのかよ!」

 

「茅森の言う通りだッ!

死にてぇのかテメェはよォ!!」

 

ルカ氏、いちご氏が説得を試みるが。

カレン氏が離れる気配は一向に無い。

 

「ひひゃ……それもまた一興じゃ。

殺しの美学に従い殉ずる。

それこそ、殺人鬼冥利に尽きる

事だとは思わないか。」

 

「……コイツ、

マジで狂っていやがる……。」

「カレンちゃん! 目を覚ませよ!」

 

「………………。」

 

「落ち着け2人とも!」

「そうだ! ユッキーも

何か言ってやれよ!!」

 

ユキ氏は、いつになく冷静だった。

 

「あたしは少なくとも、

カレンちゃんが無策で

こんな事をする奴だとは思わねー。」

「……え?」

 

「答えろ朝倉。

お前の目的は何だ?

そしてそれは……『誰』の差し金だ。」

 

カレン氏は数秒沈黙し、答えた。

 

「差し金だと?

この行為はワシ自身の殺戮衝動が

体現しただけの事じゃ。

それ以外の理由などないわ…………。」

 

カレン氏……

どうしてボクを庇う真似を?

 

違う。聞いていた話と全然。

 

全てはボクの差し金だ。

 

(……止めなきゃ。

この争いも。敵の攻撃も。)

 

「――正解だ。

全てはボクの差し金だよ。」

 

「どういう事だよ……ナンジャモ。」

 

ユキ氏は、見透かしたように

口を開いた。

 

「だろうな。しかしナンジャモ。

いくら何でも『楔』の力を

過信しすぎなんじゃねぇのか。」

 

「ユッキー、さっきから

何言ってんだよ……。」

 

「月歌。お前も分かってるだろうが、

蒼井は既にBREAK状態で、

残存してる

デフレクタ総量も残り僅かだ。

そんな状態で障壁を展開しようが、

助かる可能性は殆ど無い。」

 

……そう。

 

えりか氏は

ここまで敵を追い詰める為に、

『楔』で吸収出来ない

針のような投擲攻撃を

何度もセラフで防いでいた。

 

「…………。」

 

「ならどうするか。

この場で最もデフレクタ残量に

余裕を持ち、

尚且つ『楔』の力を持った

ナンジャモ自身が攻撃を防ぐ。

これが今の『最善策』だ。

時間が無いから、多少強引な

形にはなってしまったがな。」

 

(ユキ氏、やっぱり鋭いなぁ。)

 

「じゃあ、カレンちゃんは

最初から……」

「ああ、裏切ってなんかいねぇ。

事がおさまったら

全て明かすつもりだったんだろうな。

で、どうするよ部隊長さん。」

 

説明ありがとうユキ氏。

おかげでボクも行動に集中できる。

 

「ボクがあの攻撃を楔の力で相殺する。

後でどんな罰でも

受けるつもりだから、

今だけはボクを信じて欲しい。

みんなは攻撃がおさまった後に、

すぐ反撃できるようポジショニング

してくれると助かる。」

 

「分かった。ポジショニングの

指示はあたしに任せろ。」

「宜しく頼んだよ。」

 

『来るぞ……小娘』

 

「うん。」

 

シュウィィン……ドバァァアアア!!

 

収束した赤黒いエネルギーが、

RED Crimsonから放たれる。

 

「――『超・大玉螺旋丸』ッ!

はぁぁああああっ!!」

 

衝突する蒼い巨球と、赫い光線。

高威力の圧縮エネルギーが、

互いの威力を相殺し合っている。

 

……が。

 

(……重い。想像してたより遥かに。

これが、敵の最後の底力。

気を抜いたら、腕が千切れ飛びそうだ。)

 

「……夢で見たものと、同じです。

……蒼井が見た。『蒼い星』と。」

 

ん? 誰だろう。

ボクの手の甲に手を重ねてきたのは。

 

「ナンジャモさん!

不詳私めもお供します!!」

「すもももいるにゃ。

あの時の借り、

今こそ返してやるにゃ!!」

 

(タマ氏、それにすもも氏……

下手したら

自分たちも死ぬかもしれないのに。)

 

どうしてだろう。

こんな状況なのに、嬉しくて堪らない。

そして……

 

(今は、負ける気がしない……!!)

 

「「「――はぁぁああああっっ!!」」」

 

シュゥウウウッ……。

 

……攻撃が、止んだ。 

 

大砲撃で怯んだその隙を、

ユキ氏は見逃さなかった。

 

「月歌、今だッ!!」

 

「ああ!!

――終わりにしようぜ……」

 

ルカ氏が二刀の刃で

縦横無尽に斬りつけ、

REDCrimsonに虹色の閃光を描く。

 

「……ざっとこんなもんだぜ!」

 

バリイィィィン!!

……ズドドドドォ!

 

敵の身体が散り散りに砕け散り、

瞬く間に白き柱が建った。

 

全てが、終わった。

長い長い戦いが。

 

皆が緊張を解き、休もうとする。

その空気が出来始めそうな……

そんな時だった。

 

 

「考えねぇとな……

朝倉とナンジャモの今後の対応をよォ……」

 

いちご氏の怒りは、

全く収まってなどいなかった。

 

「……考えるって、どういう意味だよ。」

 

ルカ氏も、

訳も分からず疑問を口にした。

 

「決まってんだろ!

仲間を手にかけたんだぞ!?

事情が事情だったとはいえ、

何の躊躇も無しに……!」

 

「ナンジャモやカレンちゃんが

した事は、2人だけの責任じゃねぇ……」

 

「かもな。だが問題なのは、

あの2人が目的の為なら手段を

選ばねぇ奴らって事だ。

今回の件で、それがハッキリした……。」

 

「だったら、どうするってんだ?

セラフ部隊じゃ手に余るから、

村八分にして

除隊させようって言うのかよ……」

 

「一方的に責任を放棄するつもりは

ねぇが、セラフ部隊にも顔ってモンがある。

正式な裁きにかけるのが相当だ。

2人だけ特別扱いする訳にはいかねぇ……」

 

「けれど、2人も大事な仲間だ。

一緒にここまで来れたのも、

そのおかげだろ。

ここで仲間を信じてやれねぇのは、

同じセラフ部隊としてどうなんだよ……。」

 

いちご氏が苦しい表情で応える。

 

「そいつは本心か茅森……?」

「…………」

「今でも2人は

大事な仲間の一員だって……

心から本気でそう思えんのかよ?」

 

「……やめろ…………。」

「殺されかけてんだぞ!?

蒼井をよォ!!」

 

「やめろっつてんだろぉおお!!」

 

「……茅森。お前ならあたしを

理解してくれると思ったが……

どうやら見当違いだったみてェだな。」

 

カチャッ。

 

いちご氏が、ボクに向かって

銃口を向ける。

 

「え……何してんのいちご……」

 

「まだ分かんねぇのか茅森。

お前が腑抜けてんなら、

あたしが裁くしかねぇだろ。

……見せしめだ。

今からナンジャモの指を

あたしの拳銃で詰める。」

 

バンっ!!

 

銃弾が、上の空へ飛んだ。

 

それもその筈……

えりか氏が彼女の手首を掴んで

上に向けたのだから。

 

「蒼……井?」

 

愕然としたいちご氏が

手元から拳銃を落とし、

それはかつんと

音を立てて地面に接触した。

 

と同時、えりか氏が掴んだ手を離し……

 

バッ! ……ぎゅっ!

 

抱きしめた。

 

「――ッ!?」

「いちごさん……

もう……もう良いんです。」

 

「どうしてだよッ……

どうして蒼井は、信じられんだよ……」

 

「みんなとの『確かな過去』が

在るからです。

今の出来事だって、遠い未来の中で

いちごさんと一緒に笑い話に

出来るくらい……蒼井はみんなと

楽しい思い出を創っていきたいんです。

だから……全部水に流して、

一から、

私たちをやり直してみませんか。」

 

(いちご氏が……泣いてる?)

 

「……ああ。」

 

彼女は穏やかな瞳となり、

優しく抱き返した。

 

それを祝福するかのように

日が昇り、明るくなっていく……

 

先ほどの殺伐とした

空気が嘘みたいに沈み、

今は涼しい風が吹きながらも

暖かい空気に満ちている。

 

「いやー、ユッキーもあのくらいの

アプローチはして欲しいモンだよ。

あたし……結構人気者なんだぜ?」

 

「……誰が狙ってるって言ったよ。」

 

「こりゃぁ、

戻ったら例の祝勝会だな。」

「おい、話聞けよ。

アプローチって何だよ。」

 

「蒼井っ!」

「はい。何でしょう月歌さん?」

 

「帰ったらさ。

あたしらにとびっきり美味しい

クリームソーダを

ご馳走してくれねぇか?

みんなで楽しく乾杯したいんだ。」

 

えりか氏は、

満面の笑みを浮かべ。

とても嬉しそうに、幸せそうに答えた。

 

「はいっ! 

蒼井に任せてくださいっ!」

 

 

 

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

祝5500UA突破! 
皆様ありがとうございます!

そして、ここまで付き合って下さり
誠にありがとうございました。

当初は、ヘブバン好きだし
ヘブバンベースの二次創作
なんか書きテェってなって。

何故か、ナンジャモ×
大筒木イッシキ×ヘブバンの
混沌セットを詰め込んでしまって。

大して見られないでしょ(笑)
くらいのノリでやったのに、
ここまで行けて
ホントびっくりしてます。

……ですが。
2作品を並行で更新し続けるのは、
あまりにキツいので。 

ひとまず、
『ナンジャモと
大筒木の居るセラフ部隊』は、
season1〈完〉という形で
締めさせて貰います。
(season2以降の実装は微レ存。)

――お疲れ様でした。

と言いつつ。
こちホロの方は、
まだまだ続きます。

まったりやっていくので、
今後とも
よろしくお願いします。


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