悪魔が絶唱するガンダムバエル (バエルだ!アグニカ・カイエルの魂!)
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プロローグ:一番目の悪魔

……とある南米の戦地、そこに一人の少年兵がいた。とはいっても彼は日本人だ。

 

とある家族と共にNGO活動のため南米に訪れていたところ、その家族の夫妻は紛争に巻き込まれ死亡し、その娘も捕虜となってしまった。

 

少年はそんな娘をほっておくことはできずに自ら少年兵として立候補……そのかわりに娘には一切手を出さないという条件をなんとか取り付けて、必死に戦地で戦い続けていた。娘の名は雪音クリス、世界的ヴァイオリニストの雪音雅律と音楽家のソネット・M・ユキの一人娘。

 

少年の名は〈魁 良夜(カイ リョウヤ)〉天文学者の父を持つただの少年だ。

 

NGO活動に同行したのも、それがきっと残酷な現実でも子供達に取ってなにか良いものが得られる…そう思って父が幼馴染であった雅津に同行を願い出たのだ。本来であれば父も来るはずだったのだが……体調を崩して良夜のみの動向となってしまった。

 

そんな戦地で銃を握るような経験をしてきた少年に取って、クリスの存在が唯一の心の拠り所だった。

 

「リョウヤ……怖く、ないのか?私なんかのために……」

「怖くなんてないよ!クリスの為なら、何も怖くなんてない。きっともうすぐクリスも開放される!だから…もう少し待っててくれ!」

 

寝床を抜け出してそんなふうにクリスと会話するのもしょっちゅうだ。本当のところを言えば、良夜も辛かった。軍にいるのであればふとした瞬間に殴られるし、いつ死ぬかわからない状態な幼子にはあまりにも辛すぎる。

 

だが、それもクリスの為と思えば、良夜はいくらでも頑張れる。事実、捕虜の中でもクリスはまだまともな扱いを受けられていた。それが偶然か、変なことをして戦地で後ろから打たれたらたまったものではないという自衛心からかはわからないが。

 

 

そんなある日のことだ。いつも通り戦地を駆け抜ける良夜……だが、そんな良夜の前を敵が経ち塞ぐ……周りには味方もおらずもうだめだと諦めかけたその時……その敵の後ろに巨大な銀色の機械の巨人の幻影が見えた。

 

その幻影はその刃を古い、敵どころかあたりの木々さえまともになぎ倒す。その中で唯一人立ちすくんでいた良夜、そんな良夜へ、その銀色の機械は手を差し伸べる。そっとその手に触れると良夜の頭に声が響く。若い男の声だ。

 

『俺は■■■■・■■■■……』

 

『お前が望むなら託す。厄災の時代を生き残った一番目の悪魔を。』

 

『その名はバエル、ガンダムバエル。』

 

『その力は、お前の大切な物を守る糧となるだろう。』

 

良夜は答える。

 

「っ!クリスも……助け出せるのか!?」

 

声はその疑問に肯定で返す。

 

『あぁ、お前がそう力を使うなら。』

 

その言葉の後に、良夜はそっともう一度銀色の機械――バエルへそっと手を触れる。すると、良夜はその場に倒れながら目覚める。周りは相変わらず木々がなぎたおれ敵も倒れ伏している。良夜は体に触れてみればたった一つ違和感が……その背中が突き出し、3本の棘のようになっていたのだ。

 

夢とも現実とも分からない体験、とにかくその場は一度基地へと戻ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地へと戻ると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。クリスが、軍人達に囲まれ暴行を受けていたのだ。まるで我慢の限界だと言わんばかりに見な寄ってたかって殴り蹴り続ける。

 

「何っ……何してんだお前らぁ!」

 

そう叫び掴みかかろうとするが、軍人の一人に腹を殴られて地面へ付してしまいほかの軍人らに蹴られる。蹴られ痛みに耐える中見えたのは……クリスが目に涙を浮かべながら、その手を良夜へ差し出す姿だった。

 

その瞬間、良夜の中の何かが目覚めた。

 

「ウ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァァァァァァァ!!!!!!」

 

その叫びと共に、背中から熱い何かが滴ってくる。それが何かなんてもうどうだっていい。クリスを傷つけた、約束を破った。それだけだ。彼の体は一瞬光に包まれ……次の瞬間、あたり一面の人間が切り裂かれる。

 

叫ぶ軍人達中を向けて発砲するものもいた。だが、弾丸はカンカンと軽い音とともに弾かれる。光の中、から現れるのは銀色の体をした機械の人間――謎の声がガンダムバエルと呼んだモノ、それソノモノだった。

 

バエルは腰から二本の黄金の剣、バエルソードを引き抜いて剣を向ける。軍人は一瞬怯えた様子を見せるが直ぐに厳つい顔つきへと戻り銃を打ちながらバエルへと向かう……だが、一瞬ですれ違いざまに切り裂かれ、上半身と下半身が離れ離れになってしまう。

 

そしてバエルは独特な機械音を発しながら、クリスの周りをたかる軍人を一瞬で切り裂いていく。その冷徹かつ悪魔のような暴れ方にその場の一同は恐怖に戦いたという。

 

バエルはクリスを抱きかかえると、バックパックのスラスターウィングから電磁砲を上部への放ち基地の天井に風穴を開ける。そしてクリスを抱きかかえたままバエルは空へと飛び立った。

 

飛び立った瞬間、基地に向けて無数の電磁砲を放ちあたりを火の海にしたあとで―――――。丁度、良夜が15歳になった頃の話だった。不運なことに国連軍が介入してくるのは、その翌日の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま日本へと戻ってきたクリスと良夜――バエル。クリスは無事に保護されたが、肝心の良夜は直ぐにクリスの元から離れていた。その理由は唯一つ……クリスに悪魔と思われたくなかったからだ。

 

こんな姿になれるようになった自分を、果たしてクリスは受け入れてくれるだろうか?もしも拒絶されたら……その恐ろしさに良夜は逃げた。逃げ出したのだ。クリスの言葉も聞かずに、だ。

 

最も不運なのは、たとえクリスに拒絶しないか?等と聞いても彼女は間違いなく受け入れていたのだ。結局、良夜という男の杞憂に彼はクリスを捨てて逃げたのだ。

 

反対に、クリスの方も居なくなった良夜に捨てられた――そう感じてしまい程なくしてその行方をくらました。

 

互いに交わらない感情の中、彼らが再開できるのは……また少し先の話になってしまう。運命の悪戯か、彼らが再開したときには、彼らは真逆の立場からその剣を交わらせることになるのだ。



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一番目:その名はガンダムバエル。

彼がクリスの元を去ってから良夜はたった一人、家にも帰らずに日本を――正確に言えば日本に現れる特異災害ノイズを倒して回っていた。

 

はじめは降りかかる火の粉を弾いていただけだったが、このバエルの力は、なぜだか人間を炭化させるノイズにも効果があるとわかった。物理攻撃や通常の兵器がノイズに聞かないと知ればなおさらだ

 

彼はノイズ被災の場に現れる銀色の機械人形、神々しく有れど悪魔のような暴れ方から聖なる悪魔と呼ばれ、なんの因果が世間からもソロモン72柱の一番目の悪魔の悪魔の名から取って、バエルと呼ばれるようになった。

 

幸いか、どうか、ガンダムバエルの姿になれば栄養補給のたぐいは一切なくなる。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()。だからか、もうずっとバエルからの変身は解除していない。

 

そんなある日の出来事だ。いつものように雲より上の上空を優雅に飛行していると、ピキリと頭に電流が走るような妙な頭痛がする。この頭痛の正体はすでに良夜にはわかっている。

 

「ノイズか……。」

 

この姿ならば、ノイズの位置がまるで地図アプリで上から覗き込むみたいにはっきりわかる。ルートまで脳内に浮かび上がるほどだ。ますます今の自分が本当に人間が疑いたくなる。

 

バエルはスラスターを動かして地面へと落ちていく。その姿はまるで地に落ちていく天使にも見えたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上では、朝に阿鼻叫喚の悲劇が起こっていた。とある人気アイドル、ツヴァイウィングのコンサート中に解除にノイズが現れ、人々が逃げ惑い争いその命をちらして言っていたのだ。

 

人だった肉片や炭欠片しかないライブ会場には、鎧を着込んだ二人の女性がいた。話題のアイドルの天羽奏と風鳴翼だ。

 

まさか誰も夢にも思わないだろう人気アイドルの二人が人類守護の砦【特異災害対策機動部二課】に保管されているノイズに対抗できる手段の人向、【FG式回天特機装束シンフォギア】を保有する組織な所属して、なおかつそのシンフォギア、ガングニールも天羽々斬を操る戦士だとは。

 

だが、その戦士たちも今や危機に陥っていた。

 

「おいしっかりしろ!こんなっ……!こんなっ!」

 

奏が倒れている少女へ呼びかけていく。戦火に巻き込まれ倒れた少女を奏はなんとか守っていたのだが、鎧の一部が守護していたときのはずみで彈かれ、少女の胸へと突き刺さったのだ。

 

「目を!目を開いてくれ!頼む!!」

 

そんなことをしている合間にもノイズたちは近づいてくる。翼もノイズに囲まれ救援には来れない。奏は心の底から叫ぶ。

 

「生きることを……諦めるな!!」

 

その言葉が通じたのか、少女は薄っすらと瞳を開く。だが、その瞳からは今すぐにでも何かしらの処置をしなければその命と灯火が消えることは確実だ。奏は、少し泊をおいて息を飲み込むと、立ち上がってノイズの群れを見て笑う。

 

「一度、身体空っぽにして、本気で……歌ってみたかったんだよな。」

 

そうして奏が奏でるは、とある歌――絶唱と呼ばれるシンフォギアの最終兵器だ。増幅された絶唱による一撃ならばこのドーム中のノイズを殲滅させるなど朝飯前だろう。

 

だが、そんな技をおいそれと放つことはできない。放てばしばらくは病院行き……今のボロボロの状態の奏が唄えば、生き残ることは不可能だろう。

 

だが、それでも、やらなければならなかった。翼はその歌が耳に入った途端青い顔をして叫ぶ。

 

「だめっ!だめっ!かなでぇぇ!歌ってはダメ…ダメぇぇぇぇぇ!!!!」

 

そして次の瞬間、ノイズ達を2つのレールガンが貫いた。

 

「「っ!?」」

 

奏も思わず絶唱を止めて弾丸の先をみる。そこには空へ浮かび上がりながら剣を構える銀色の機械人形――人がバエルと呼ぶ者が立ちはだかっていた。

 

「なっ!?」

「ば、バエル!?」

 

二人も二課の一員として、バエルの存在は知っていた。よもやここでであるとは思わなかったが。

 

まず動くのはバエルだ。体を線上にして飛びかかるノイズをバエルソードで一刀両断、触れることすら許さない剣撃を放つ。

 

空からのノイズには、縦横無尽にスラスターウィングを動かしてノイズを切り裂く。まさにその暴れ方は天使の皮を被った悪魔だ。

 

 

武装は剣二本と電磁砲2門のみ、しかも電磁砲はすべて牽制のみの使用だ。にも関わらずノイズ達は次々の殲滅されていく。まるで草刈りのようだ。バエルは少し後ろへと下がると奏の近くへよると、そばに落ちていたガングニールの槍を拾い上げる。

 

「あっ…おまっ!」

「借りるぞ。」

 

バエルはその槍を敵に投げつけて貫くと槍の影に隠れ一気に接近、バエルソードでノイズ達を回転しながら切り裂き、剣を天へと掲げる。

 

あとに残るのは炭となって消えるノイズ達のみ、バエルという絶対的勝者をのこして、すべてのノイズは消去される。

 

バエルは地面へと降り立つと、奏と少女の元へと駆け寄る。

 

「……大丈夫か。」

「っ!あぁ…なんと、かな。」

 

そうは言うが傍から見てもかなり苦しそうだ。まさに喋るのがやっとと見える。そんな奏に翼が寄り添う。

 

「奏…!よかった……!!」

 

そう言って安堵すると、上空にはヘリコプターがうごめいてくる。バエルはスラスターウィングを動かしてその場からさろうとするが……。

 

「待ってくれ!」

 

翼に呼び止められる。

 

「……奏を助けてくれてあり難う。それは本当に……心の底から感謝している、だが……私の立場としてあなたをこのまま逃がすことはできない。投降してくれとは言わない。どうにか、私達についてきては貰えないだろうか?」

「おいおい……今まで禄に私達の前に姿を見せなかったやつだぞ……流石に断られ」

「いいぞ。」

 

その場に静寂が張り詰める。

 

「……?聞こえなかったか?別にいいぞって言ったんだが……。」

「そうか、感謝する。」

「あぁ、断る理由もないしな。あぁ…だけどそうだな。なんでもいいからご飯をくれ。できればオムライスがいい。」

「……わかった。用意してもらおう。」

 

そゆな文字面だけ見ればギャグのような光景を奏は呆れは半分な目で見ていた。だが、余りの疲れによる睡魔にどうでも良くなり、その瞳を閉じることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜!〜〜!」

 

数日後、二課の本拠地の取調室のような場所で、にて、変身を解除した良夜はひたすらに目の前の更に守られた山盛りのオムライスを平らげていた。

 

「ははっ!いい食べっぷりだな!」

 

そう言って笑い声を上げるのは、二課の責任者風鳴弦十郎だ。良夜は一息ついてハンカチで口元を拭いて声を上げる。

 

「はぁご馳走様!数カ月ぶり飯は体に染みるわぁ。」

「そんなに食べずによく生きてこられてたな……」

「バエルの姿なら食べなくても平気なんですよ。まぁ……空腹感には永遠に襲われますがね。」

 

あっさりそう言うが、空腹感に襲われ続けるというのはなかなかにきついものがあるだろう。弦十郎は思わず少し汗をかいてしまう。

 

「それで……あの奏と響っていう娘の容態は?」

 

立花響、それが判明した少女の名だ。

 

「あぁ、二人共命に別条はない。だが…奏くんの方は車椅子生活を強いられるな……。」

 

弦十郎は表情を暗くしてそういう。良夜もそうですかと軽くうなずいてまたオムライスにスプーンを突き刺して口に運ぶ。

 

奏は投薬治療によってなんとかシンフォギアをまとっていた状態だ、そんなこともあってか体はボロボロだった。絶唱を最後まで使わなかったからか命には関わらなかったが、かわりに下半身不随になり車椅子生活を余儀なくされてしまったのだ。

 

「……それで、俺をこんなところに呼んで何が聞きたいんですか?」

「あぁ、君のその力――バエルの事だ。君の素性はだいたい理解している……NGO活動中に戦火に巻き込まれそのまま捕虜牽少年兵として駆り出される。親元にも帰っていないようだが……」

「貴方なら、あんな姿になれるようになって安安と親の元へ帰れますか?拒絶されるかもしれないのに。」

 

その言葉を聞いて、弦十郎はなんとも言えない顔をする。良夜は話を続ける。

 

「この力、僕もよくわかんないんですよ。変な幻影を見たらこの力を使えるようになっていた。それだけです。」

「そう……なのか?具体的には?」

「バエルが敵を殲滅して僕に手を伸ばす……それだけです。」

 

そう言って笑い、良夜はオムライスを食べ進める。

 

「……君は実に気持ちの良い人なのだな。何もぼかさずに真実を伝える。」

「隠す理由、ないですから。」

 

それを聞くと弦十郎は少しうなずいて立ち上がり、突然頭を下げる。

 

「ならば私も単刀直入に頭を下げよう!どうか……我々二課にノイズ殲滅のために力を貸してはくれないだろか!?生活面のバックアップは保証しよう!君のような少年を戦わせるのは恥と知ってのことだ!どうか――」

「いいですよ。」

 

良夜はあっさりとそう言った。

 

「っ!?良い……のか?」

「あなたが聞いてきたんでしょう?生活面のバックアップもしてくれるなら渡りに船ですよ。親元にも帰れずどうしような悩んでたんで、あなたなら僕を拒絶しなさそうだし。」

「っ!当たり前だ!誰が拒絶などしようものか!大人として、異能を手に入れてしまったのならそれをサポートする……それが役目だ!」

 

熱くそう語り良夜の腕を掴みブンブンと握手する弦十郎、良夜はこれからのことに少し不安を感じながら、これから少しだけ楽しくなりそうだ……と、少し感じるのだった。

 

 

 



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二番目:良夜

ちょっとした閑話です。


その日の夜に、とある広場で良夜の歓迎会が開かれた。堂々と垂れ幕に【ようこそ二課へ!】と書かれ、テーブルに無数の料理が置かれている。弦十郎は挨拶代わりと言わんばかりに良夜を皆へ紹介する。

 

 

「今日より共に戦うことになる魁良夜くんだ!」

「どーもー。バエルでーす。」

「「よろしくー!」」

 

良夜のおとぼけた挨拶に、皆が一斉に声を上げる。良夜はそれぞれと軽いあいさつ回りをしつつ料理を食べな側回っていると、突然の一人の女性に声をかけられる。、二課の技術班の了子さんだ。

 

「ハァイ!バエルくん!これからよろしくお近づきの印にはいチーズ!」

「ピース。」

 

了子のハイテンションなノリに、良夜は冷静にピースで答え一枚写真を収める。了子は取れた写真を見て満足そうに眺める。

 

「うんうんよしよし!」

「この写真にはどんな意味が?」

「お近づきの印にって言ったじゃない!」

「なるほど。」

 

そう言うと了子のもう一枚!という声に答えてもう一度ピースで答える。一見ダウナー気味な彼だがあれで結構ノリは良い方なのだ。彼自身も久しく忘れていた感覚だ。

 

了子と別れ、またしばらくそのあたりをウロウロしていると、車椅子に座る奏と、奏の車椅子を押す翼に声をかけられる。

 

「よっ!バエルさん!」

「あんた…奏さんか。」

「そっ!いやぁ、あんたにはたくさん助けられたねぇ……ありがとう!」

「いや、ありがとうなんて言われる筋合いないよ。もっと早く駆けつけていれば、君をそんな体にしなくても済んだのに……」

「そんなこと気にするなって!」

 

そう言って笑い声を上げながら奏は良夜の肩を叩く。

 

「あんたもアタシもノイズを倒そうとした。その結果だ。何も気にすることはないよ。」

「……君がそう言うなら、俺も気にしないことにするよ。」

 

良夜はそう言って手に持ったソーセージを一口で平らげる。すると、奏は翼の腰をちょんちょんとつついて声をかけるを

 

「ほら、翼も挨拶しなって。これから一緒に戦うなかまだよ?」

「風鳴翼だ。よろしく。」

「どうもー……なんか、怒ってる?」

「っ!?怒ってるように見えたのか!?すまない……」

「ははっ、翼ぁもっと肩の力抜けってぇ!」

 

要するに初対面の新たな仲間を前に色々思うとこがあって力んでしまった。ということだろう。少し気まずい……そんな中、良夜が耐えきれずに口を開く。

 

「えっと……じゃあ互いの戦術的特徴について話す?」

「何故にっ!?」

「それはいいな!」

「良いのか翼っ!?」

 

そうして良夜と翼は互いの戦術を話し合い、うまい連携方法を見出そうとする。

 

「俺のバエルは基本的に近距離が基本だ。遠距離は無し、中距離ならスラスターウィングの電磁砲だ。基本的には俺が切り込み隊長をしたいのだが……」

「私の天羽々斬も近距離型だが、中遠距離も対応可能だ。そうだな……基本的にバエルに斬り込んでもらい私が残党を処理ののち私も最接近、背中合わせの切合を所望したい。」

「ちよっとー!?私を間に挟みながらその会話やめてくれないか!?頭痛くなる!」

 

そう言って手を上げる奏と、その様子を見て笑う翼。

 

「普段は意地悪されてるからな。偶には仕返しだ!」

「おいおい、そりゃないぜぇ……。」

 

そんな二人の様子を、良夜は年甲斐もなく暖かな……だが、何処か焦がれ寂しそうな表情をしてみていた。もしもクリスがここにいたら……そんなIFを考えてしまう。

 

「?おい、バエルさんや。どうしたんだよ。そんな顔して」

「……いや、少し考え事を、ね。」

「もっと気を楽にしな!若いんだからさ!」

「奏も私もそこまで歳は重ねてないだろう?」

 

自分はめぐまれているな。そう感じる。クリスから逃げた自分が、こんな人たちと巡り会えてよかったのだろうか?本来は彼女が……そう考える。

 

願わくば、他でもないクリス彼女が、しっかりと羽を休め心を落ち着けられる。そんな場所へ出会えることを心から臨んでいる。良夜はそんなことを考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所の地下……そこには一つの銀色の機械仕掛けの巨人が立ち塞いでいた。()はただめお礼に忠実に動く機械人形。だが、彼に宿っているものは違う。かつては人間だったモノだ。一応は。

 

彼はその誰もいない、誰も来ない場所でただ一人眺めている。自らが力を託した男の行道を。彼は自分のように悪魔にとらわれないだろうか?そればかり考えてしまう。

 

()()はもう幾年も前に終わり、その歴史ごとまるごと闇へ葬られた。その技術が悪しき方向へ使われないために。だが、それと同時にその厄祭に立ち向かった戦士たちもまた闇へ葬られることになった。彼らの魂はまだあの機械人形に囚われたままだろう。

 

本来受けるはずの称賛の声も得られず、たった七十二人で戦い抜いた戦士たちは皆、自分と同じように得たいのしれない金庫へ押し込められるか、バラバラに解体されスクラップになるか……そのどちらかだろう。

 

彼らの意志を無駄にしないためにも、争いのない……いや、誰も傷つかない世界を齎したい。だが、そんな力も体ももう彼には残されていなかった。最早彼は後世に託すしかできない。途方もない時間はかかるだろうが、それでも……と言い続けなければ。諦めることは許されない。

 

だが、そんな彼の思いとは裏腹に上ではノイズと言うまた別の厄災が現れている。厄災が現れたのならば払わなければならない。それが、自分が戦ってきた意味であり、バエルが作られた意味なのだから。だから彼は一人の青年に託した。少女を護るために戦いへ飛び出した彼に、ノイズへ対抗しうる力を。

 

まだまだ平和には程遠いが……少しでも近づいてくれ、と。そう願うばかりだ。狭い機械人形の中で、彼はそう願い、ふた旅眠りにつく。

 

 

 

 




良夜の歓迎会&とある男のぼやき。()が誰なのかは……まぁ、察してください。


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三番目:新たな装着者

原作!開始ィィィィ!!!!



それから約二年後、良夜はバエルとして風鳴翼と共に戦ってきた。ノイズが現れれば対処にノイズが現れれば対処に、とその繰り返しだ。天羽奏も事務要因やサポーターとして良夜と翼を支援してきた。

 

問題は世間に存在が秘匿されているシンフォギアとは違い、バエルは存在が認知されているという点だ。その為、言い方は悪いがバエルには世間一般の目を向ける囮になってもらう事になった。

 

 

 

 

 

入学シーズンも過ぎてきたそんなある日のことだ。良夜は非番の日一人なんとなく散歩へでかけていた。理由なんてない、ただちょっと外の空気を吸いたくなっていただけだ。するととある公園でとある光景を目にする。一人の少女が木の上から降りれなくなった子猫を助けようと気に登っている姿だ。

 

「大丈夫!怖くないよ!さっ、おいで。」

「にゃ〜〜」

 

だが、旗から見ればかなり危なっかしい光景だ。案の定、猫を抱きしめた少女は少し竦んで足元を崩して地面へと落ちる。

 

「わっ―――」

「っ!」

 

地面へと落ちる少女を、良夜は地面へ落ちるギリギリのところでキャッチする。

 

「きゃっ!」

「!」

 

良夜は丁度少女をお姫様抱っこするような形で抱きかかえる。良夜は少女の顔を除きながら声をかける。

 

「大丈夫か?」

「はっ、はい!大丈夫……です!」

 

少女は良夜から降りると、手足をパッパッと払って良夜を見て笑顔で返す。

 

「ありがとうございます!」

「……っ!あぁ、気にしないでくれ。それよりも、見たところ学生みたいだが、学校は大丈夫なのか?」

「あっ…あぁ!ま、また入学式と同じ理由で遅刻しちゃうっ!?え、えっとこのへんで私は失礼します!本当にありがとうございました!それじゃあ!!」

 

良夜は少女を見てとあることに気づく。この子は……2年前の時に、ガングニールで傷ついた少女、名前は――立花響だったろうか?その少女だ。あの制服はリディアン音楽院のものだろうか……?丁度二課の本拠地だ。ますます縁の類を感じる。

 

元気になったようで良夜は少し安心する。仲間の奏が半身を賭けて守った少女だ。一時はどこから流れてきたのか、生存者を迫害する流れが起きていた、この少女もその憂き目にあったと聞く。

 

だが、こうして元気になってくれたようで何よりだ。そんな思いを混じった表情は慈母のように暖かな瞳だったのだろう。響はその表情に少しの疑問を持ちつつも、猫を持ったまま学校へと走り去るのだった。

 

 

 

 

 

その日の夜だ。自宅近道の路地裏を渡りながら、良夜は最近有名なオムライスの店の弁当を買って、さて家で貪り食うぞ……そんなことを考えていると、突然二課からの連絡が入る。

 

「もしもし?」

『良夜くんかっ!?非番に悪いがノイズの出現だ!君がいまノイズに一番近い、戦闘を向かってくれ!』

「っ!了解!」

 

良夜はそう言って上半身に羽織った服を脱ぎ捨てる。そして己の身体に力を込める。

 

「ハァァ……ア゛ァ!?ア゛ァァァ!!!」

 

すると良夜は背中の突起―」了子曰く、名付けるならピアス――から光が放たれ良夜を包む。その光が晴れれば良夜の姿は白銀の悪魔――ガンダムバエルへと変化していた。

 

「っ!行くぞ……!」

 

バエルは天空へと飛翔して、夜空に銀色の残像を描いた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

その頃、立花響は困惑していた。風鳴翼のCDを購入しにでかけた所で人間が人生で一度出会うだけでも珍しいノイズ災害に2度も巻き込まれ、一人の少女を保護した。

 

保護しながらビルの屋上までたどり着いたと思えば、とある歌が脳裏へと浮かび感じるがままに歌えば体が光に包まれて変なアーマーを装着してしまっている。

 

「え、えぇ!?何でっ!?私、どうなっちゃったの!?」

 

「お姉ちゃん……カッコイイ!!」

 

困惑する響とは裏腹に、少女は目をキラキラと輝かせて響を見ている。そんな少女を見て、響は何かを覚悟すると少女を抱きしめてこの娘を助けようと足を踏み込むと……その体は思いっきり宙へととびあがった。

 

「えぇっ!?何っ!?」

 

たが問題はない、彼女が纏っているのはかつて天羽奏の纏っていたシンフォギア、ガングニール。この程度からの落下ならば差した問題ない。実際足から着地した響と少女にはなんの危害もなかった。

 

「わぁ……す、すごい……って、わぁぁ!!」

 

だが、相変わらずノイズは追ってくる。ノイズ達は体を線状にして響へ襲いかかる。響はまたも足を踏み込んで飛び上がるが、コントロールが聞かずに、タンクへへと激突する。追い打ちをかけるようにの巨大なノイズがその拳を響へ叩きつけようとする。

 

 

たが、その拳は流れてくる一筋の光により一刀両断される。

 

「えっ!?今度は何っ!?」

 

響の前には銀色の体をした人と同じ大きさの機械人形……ガンダムバエルが飛び上がっていた。響もバエルの存在自体は知っていたがまさかこんなところでで得るとは……バエルは背後を振り返って響へ声をかける。

 

「大丈夫か?」

「は、はい!」

「そうか……その子を守ってやってくれ、敵殲滅は……俺の仕事だ!」

 

バエルは響を少女ごと抱きかかえて地面へ降りると、バエルソードを二本引き抜き、まずはスラスターの電磁砲で牽制、後にスラスターを噴射させてノイズへと斬り掛かる。

 

やることは単純に急接近してノイズを切り裂き他のノイズへと映る。それだけだ。というか、それしかできない。派手な波動攻撃もできなければ剣を巨大化したりもない。ただ高速で切り裂くだけ、それだけでもノイズ相手には十分な力が、バエルにはあった。

 

すると、突然背後からエンジン音が聞こえる……そこには、翼がバイクに乗ってこちらへと向かってきていた。翼はそのままノイズへと突撃する……直線上にバエルがいることをわかっていながら。

 

「あぶねっ!?」

 

バエルは咄嗟に避ける……翼は空へと浮かび上がりながら歌を唄いシンフォギアを起動させる。

 

響へ何かを告げると、翼は天羽々斬を纏いながらバエルとともに並び立つ。

 

「良夜、行くぞ!」

「あぁ、任せろ!」

 

バエルが直線で目の前のノイズたちのノイズを切り捨てる背後で翼は千ノ落涙を発動。無数の刃がノイズを貫いていく。そしてその隙に翼は一気にノイズへ接近して切り裂く。

 

「すごい…やっぱり翼さ――」

「お姉ちゃんっ!?」

 

その光景を唖然と眺めていた響の後ろには、巨大なノイズがその口を広げて襲いかかろうとしていた。そこで動くのがバエルだ。

 

続いてバエルは円を描くように急旋回して、響達に襲いかかろうとしている巨大ノイズを一刀両断しながら地面へと落ちていく。

 

「……終わりだ。」

 

バエルは剣を月夜に掲げてその剣を鞘へ収めるのだった。

 



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四番目:ようこそ!二課へ!

すべてのノイズを殲滅し、二課の人間も現場へ到着した。響はコーヒーを飲んでホッとした衝動で変身が解除される。それに合わせるように翼と良夜も変身を解除する……たが、良夜は重要なことを忘れていた。現在、良夜は上半身が裸体だったということに。

 

「わぁぁぁぁ!?」

 

案の定響にとんでもない声を上げられる。顔を赤らめた響は顔を塞いで腕をブンブンと振るう。

 

「ちょちょ!は、早く隠してください!」

「なんだよ、汚いもの見たみたいに。」

「いや、男の上半身の裸体は年頃の女にも来るものがあるだろう……。」

 

私もはじめは目のやり場に困ったしな――そう翼はボソリとつぶやく。良夜は職員の持ってきた予備の服を上半身に羽織その場をやり過ごすことにした。

 

「全く、好きで裸になってるわけじゃあないのになぁ。」

 

良夜としても、上半身を脱ぐのは不服だ。だが、そうしないとピアスに蓋をされてしまい変身ができなくなってしまう。もしもピアスだけ飛びた服があるなら話は別だろうが、そんな服、出来れば着たくない。

 

響がそおっと良夜をみると、思い出したように声を上げる。

 

「あぁ!あなた朝の!」

「んっ?覚えてたのか。」

「勿論!いやぁ、あのときはお世話に……って、なんで貴方がバエルにっ!?」

「そうだな……」

 

良夜は少し考えると、指をピンと上げて一言。

 

「その疑問に答えるためにも…………お前の身柄を拘束させてもらう。」

 

次の瞬間、ガシャンという音とともに鉄製の厳重な手錠が響の腕に掛かる。

 

「ふぇっ……?」

 

「それじゃあ、緒川さん。運転宜しくお願いします。」

「はい、おまかせを!」

 

「だから…………なんでぇぇぇぇぇ!?」

 

情けなくそんな声を上げながら、響は二課の本部、リディアンへと連行されるのであった。

 

 

 

 

 

 

二課本部へと続くエレベーターへと乗り込み、ぐんぐんと下へお降りていく。響も壁画に描かれた絵を物珍しそうに見上げている。しばらくして、二課本部へと到着…………とある扉を開くと………。

 

乾いた火薬の……クラッカーの音と匂いが響き渡った。弦十郎が手を広げて明るく声を上げる。

 

「ようこそ!人類守護の砦!特異災害対策機動部二課へ〜!」

(俺の時と同じだ。)

 

新人はとことん歓迎するのが二課流なのだろう。響はポカンと、翼と緒川は呆れ返っている。そして、良夜の時のように了子が写真をせがるが、響はそれを全力で拒否する。

 

「……まぁとにかく食べろ。そうでなきゃ英気も養えん。」

「両手が手錠で塞がってるんですけど!?」

「オムライス食べるか?ちょっと投げすててぐちゃぐちゃになったけど。」

「食べませんよ!私卵かけご飯のほうが好きなんです!」

 

マイペースな良夜とどこかずれたこたえをする響、案外相性が逆に良いのかもしれない。

 

それから弦十郎はポツポツと二課の事を、シンフォギアの事を簡単にだが説明する。その隣で翼は少し席を外して良夜は少し考え事をする。

 

(……問題は、なぜシンフォギアを、ガングニールを纏えたか、だ。奏のガングニールが刺さったのがトリガーだろうが、だからといってそう上手く適合できるか?いや、シンフォギアの方が適応したということか?)

 

学者でもない良夜が考えることでないが、おもわずそう考え込んでしまう。そうして、一通りの説明を終えたところで弦十郎は一つの言葉を口にする。

 

「ノイズの脅威は未だに健在だ。我々はサポートしかできない。相手取れるのは、シンフォギアの装着者と、バエルへと変身する良夜君のみだ。どうか……その力を我々に貸してほしい。」

 

そう言って弦十郎は深々と頭を下げる。断られるのも覚悟の上だ。だが、響の答えは違った。

 

「わかり、ました。やります…わたしの力で誰かを助けられるなら、護れるなら!」

 

「っ!?……ありがとうっ!響くん!」

 

しばらく会話に間が空いてしまう。クウキヲヨンだのか、良夜が声を上げる。

 

「なら、俺達とは仲間になる訳か、自己紹介が遅れたが、魁 良夜だ。ガンダムバエルに変身する。」

「よ、宜しくお願いします!……あれ、じゃあバエルってシンフォギアじゃないんですか?」

 

その疑問に答えるのが了子だ。

 

「ハッキリ言って、バエルって謎が多いのよねぇ……聖遺物で有ることは確かなのでしょうけど。」

「良夜くんには元々バエルの存在が認知されていたことを利用して、世間の目を引く囮としても活躍してもらっている。」

「まぁ、そういう事だ。よろしく。」

 

良夜が差し伸べた手に、響は笑顔で握手を返す。そんなことをしている横で、翼が奏と共にパーティ会場へと戻ってくる。

 

「おぉ!やってるねぇ!」

「えっあっ、か、奏さん!?」

 

翼がいるならもしや……とは思ってはいたが、まさか奏までいるとは。響は度肝を抜かれたように驚く。そしてテンパったのか……。

 

「さ、サインを!お願いします!」

 

と、言葉を漏らしてしまうほどだ。肝心の奏もそれにすんなりと答えてしまう。奏はどこからか響が取り出した色紙にサインをしながら言葉を漏らす。

 

「しかし、あの時助けた娘がシンフォギアを纏うとはな……ごめんなぁ、私がもっと強ければ、こんなことに巻き込まずに済んだのになぁ……。」

「い、いえ!奏さんは私を護ってくれました!それはしっかりと覚えています!……むしろ私のせいで、奏さんは……。」

 

響はそう言って奏の足を見る。もう動くことはない奏の足を。だが、そんな響の思いとは裏腹に奏は明るく言う。

 

「ははっ!気にすることはねぇよ!アタシが勝手に護って、勝手に自滅しただけだよ……」

「でもっ!」

「でもじゃない!ほらほら、食べな食べな!」

 

そう言って奏は近くの料理をさらに持って響へと加えさせる。響はどこか不満げな顔をしつつも奏の好意に預かりひとまずそのパーティの場をエンジョイするのだった。

 



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五番目:立花響の仲間入り

 

「はぁい!それでは、先日のメディカルチェックの結果発表〜〜!」

 

響は、翼に呼ばれ二課本部の一室へと呼び出される。そこには数人の職員と奏、弦十郎、了子、そして良夜が在籍しており、何が始まるかと思えば先日の検査の結果報告だという。

 

「ほぼ……ですか。」

「うぅん、そうよね。貴方が聞きたいのはこんなことじゃないわよね?」

「あの、あの力を……シンフォギアの事をもっと詳しく教えてください!」

 

響の言葉に、弦十郎は一瞬良夜と顔を見合わせると、翼と奏の方を向く。すると、察したように翼と奏はそれぞれのペンダントをその手に持つ。

 

「天羽々斬、翼の持つ第一の聖遺物、そしてガングニール、奏の持つ第三の聖遺物だ。」

「せい、いぶつ?」

「聖遺物とは、世界各国の伝承や神話に登場する現在では再現不可能の異端技術……所謂、オーパーツみたいなものね!」

 

響の問に了子が答える、それに続けて良夜をその言葉に付け足す。

 

「聖遺物は遺跡から見つかることが多々なんだが、殆どは破損が激しくて持った力をそのまま秘めているのは希少なんだ。」

 

了子に「私のセリフを取らないでよ!」と釘を差されるが、良夜はそんなことどこ吹く風、弦十郎はそんな二人をよそに話を続ける。

 

「翼と天羽々斬も刃の欠片、ほんの一部に過ぎない。」

「欠片に込められたほんのすこしの力を増幅して解き放つ唯一の鍵が、特定振幅の波動なの!」

「とくてーしんぷくの、はどう?」

「要するに歌だ!」

 

奏はそう答えると、弦十郎はそこに付け足す。

 

「歌の力により聖遺物の力は増大する。まぁ、どんな人や歌にも聖遺物を起動させる鍵がある訳では無いがね!」

 

弦十郎の言葉に、響もあの瞬間、心の奥から歌が浮かんできたと答える。良夜と奏、翼は互いに顔を見合わせる。……すると、響が重要なことに気付いたように声を上げる。

 

「あれ、でも良夜さんは、歌ってなかったですよね……?」

 

その言葉に一同は神妙な顔に染まる。すると、答えるのは弦十郎だ。

 

「良夜くんのバエルも、我々は聖遺物の一部であると考えてはいるのだが、歌わずに起動する聖遺物とは今まで殆ど例がない。かわりに必要なのは……。」

「……相手を倒そうとする意志、過剰な言い方をすれば、殺意だ。」

 

良夜のその言葉を聞いて、響は少し顔を青くする。

 

「相手を倒そうという気持ち……その気持ちを強めると、俺のバエルは起動する。そして、敵を倒すことに特化、最適化した状態になるというわけだ。思考も、肉体も、な。」

 

良夜の説明に響は唖然とし、当たりにすこし神妙な空気が走る。そこで弦十郎は少し笑って立ち上がり言葉を紡ぐ。

 

「翼や奏の用に歌を歌いシンフォギアを纏う者、そして良夜くんのバエルのように聖遺物の力を纏う者を我々は適合者と呼んでいる!それが君でもあるということだ!」

 

「どう?自分の力のことわかってきたかしら?質問はドシドシ受け付けまぁす!」

「あの……!さっぱりわかりません……!」

 

その言葉に一同はため息をつくと翼と奏、そして良夜が呟く。

 

「だろうな。」

「だろうねぇ。」

「俺も未だによくわかってない。」

「おい!」

 

そう、この男良夜は2年間二課に在席していても未だに詳しく理解していないのだ。響も思わず苦笑いを浮かべる……すると、大事なことに気付いたように響は声を上げる。

 

「でも、私はその聖遺物を持ってません……なのになんで……」

 

その言葉に翼と奏は少し暗い顔になる。すると、モニターに響のレントゲン写真が浮かび上がった。

 

そこには心臓付近にいくつかの破片が浮かび上がっていた。それは、響の2年前の怪我の位置と同じ部分に浮かんでいた。

 

「この心臓付近の破片が、奏のガングニールの破片の言うことが判明した。」

「……情けねぇ話だ。アタシの力不足のせいで響をこんなことに巻き込んじまった。」

 

奏は悔しそうにその拳を握りしめる。それに慰めるように翼は奏の肩を撫でる。またもや神妙な空気が当たりに張り詰める。すると、良夜が声を上げる。

 

「まぁ、起こってしまったことを悔やんても何も始まらない。響はこの力を使い誰かを助けると決めたんだ。ならば俺達は響が仕上がるまでそれをサポートするだけだ。」

「うむ!いい事を言った!」

 

弦十郎は立ち上がり、良夜の肩にてを載せて一言。

 

「ならば、稽古は良夜くんにつけてもらうことにしよう!」

「……ふあっ!?」

「えっと……宜しくお願いします!良夜さん!」

「えぇっ!?」

 

稽古するのが嫌なわけではないが、突然振られた役目に良夜は驚きの声を上げざる負えない。奏も思わず笑ってしまい、翼も声を上げる。

 

「安心しろ、私も手伝おう」

「翼まで!いや、やるけど!やるけどさぁ!」

 

良夜がそう呆れにも似た声を上げると、突然警報が鳴り響く……ノイズが現れたのだ。

 

「っ!?ノイズかっ!?響、早速初陣だ!」

「えぇっ!?」

「実践は戦いの訓練においてこの上ない舞台だ!遅れるな!」

 

良夜と翼はまっ先に部屋から飛び出す、響も遅れるように部屋から飛び出すのだった。

 

「さて、俺も行かねばな!」

「はぁ……本当に、アイツラを手伝えねぇのが心残りだな。」

 

奏のぼやきに、弦十郎は奏の肩に手を載せてうなずく。奏もため息を付きながらもキリッとした表情へ戻り三人を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現場に到着した良夜、翼、響はそれぞれバエルとシンフォギアを纒い目の前の巨大なカエルのようなノイズへと相対していた。

 

「さて、響。ノイズは機械的に人間を襲う種族な訳だが……そんな相手にどう戦うのが良いと思う?」

「えっ!?……ゴリ押し……ですか?」

「ちがうな、正解は相手の攻撃を確実に避けて、こちらの攻撃を確実に当てるヒット&アウェイだ!」

 

そう言って、バエルはスラスターを噴出させてバエルソードを引き抜いて飛び上がり、巨大なノイズを切り裂く。流石に一撃では斬り切れずに一度ノイズの射程範囲から外れ、ノイズの攻撃に備える。

 

ノイズは体表の破片をバエルへの投げつけてるが、バエルはそれを持ち前の飛翔能力て避けきり、電磁砲で逆に破片を破壊する。

 

さらにバエルは急降下してノイズを二刀で切り裂く。地面へ降りたバエルはソードを逆手に取り、振り向きざまにX字に斬りつける。

 

数度の連撃を受けて、ノイズはバラバラに炭化し崩れていく。バエルは剣を振るい呟く。

 

「こんなふうにな。」

「おぉ!」

「……良夜。」

 

翼は呆れ気味に良夜へと苦言を呈する。

 

「お前が倒してしまえば訓練にならんだろう。」

「あっ。」

 

すっかりそのことを忘れていたバエルは、剣を落としてしまいその場に立ち尽くす。これから大変だと翼は頭を抱えることになるのだった。

 

 




本作品では奏も下半身不随ながら生存し、奏とは別ニュアンスで背中を預けられる戦友の良夜もいるため、響に思うところがないわけではないですが、本編よりもすんなり受け入れている形です。


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