VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ (ガリアムス)
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プロローグ:胡椒のシャンフロ始まる
購入とキャラメイク


初めましての方は初めまして。そうでない方はお久し振りです。

最近ブルーロックやシャングリラ・フロンティアの原作を電子書籍で購入し、物の見事にハマってシャンフロは原作の方も読み始めてしまった作者です。

ちびちびと書いていくので、よろしくお願いします(そんなことより執筆中の作品の続きをはよ書け)


「ふぅ~…やっと買えたぁ」

 

大型スーパーを出て、購入した商品が入った厚手のレジ袋を持って、一息付く者が居た。ポニーテールに束ねた茶毛の髪を揺らし、青い薄手の長袖と黒のジーパンを身に付け、街を駆けていく。

 

青年の名は五条(ごじょう)(あずさ)、東京の某大学に通う大学1年生である。

 

「此の日の為にバイトのシフト増やして給料貯めて来たからなぁ。くぅぅ~、漸く努力が実る………!」

 

彼は今日、あるゲームと其れをプレイする為に必要となる機材を購入した。

 

「今から楽しみだ…待ってろよ『シャンフロ』!」

 

 

 

 

 

シャングリラ・フロンティア、通称シャンフロ。

 

 

1年前の春に発売されたフルダイブ型VRゲームで、登録者は3000万人にも上る化物タイトル。最も多くの人が同じゲームを同時にプレイした世界記録を持ち、僅かな低評価が圧倒的な好評価で上書きされるという、誰もが認める神のゲーム――所謂『神ゲー』として世間から認知されている。

 

中世並の文明世界でありながらも、SF要素を落とし込んでおり、プレイヤーは其の世界の住人――開拓者となり、広大な世界を自由に生きていく………というのが、シャンフロの特色なんだとか。

 

 

「ただいま~…って誰も居ないが」

 

都内某アパートに帰還した梓は、早速シャンフロをプレイするべく動き出す。フルダイブ型VRゲームはガチ勢でない限り、基本的に動くことはせずベッドや床に寝てプレイする。

 

其の間、身体は無防備となり、水分補給は愚か、食事も取れなければトイレにも行けない。実際夏場の室内でVRゲームをプレイして、熱中症にかかって救急搬送、最悪死亡する事例をニュースで観たことがある。

 

蒲団を敷き、シャンフロとVR機材の説明書をよく黙読し、梓はトイレを済ませ、水分補給と愛用しているカロリーメイトを頬張り、玄関の扉に鍵とチェーンを掛けて、窓を僅かに開けた。

 

「機材ヨシッ、ソフト挿入ヨシッ、起動チェック……OK、大丈夫と」

 

ID及びパスワードを設定、頭にVR機材を付け、蒲団へ身を委ねるように身体を投げ出す。

 

「いよいよだな…VR初心者だが、まぁ何とかなるだろ。多分」

 

期待と不安が入り交じり、梓のシャンフロは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

白いまっさらな空間に、タイトル画面が表示される。出て来たパスワード項目に、先程設定したパスワードを打ち込み確認ボタンを押すと、新規キャラクター制作のボタンが出て来た。

 

「キャラメイクかぁ…性別は男としておいて、どんな感じにしよう………ってか、種類多いな?!ざっと50はあるんじゃね?」

 

梓がシャンフロでまず驚いたのはカスタマイズの広さだった。髪色や目の色を始め、アクセサリーに肌色や体格、人種も選び、自由に作れるキャラメイク。此れだけでも迷ってしまいそうだ。

 

だがしかし。

 

「……でも、俺自身。既にやりたい事を決めてるんだよね」

 

そう、梓は去年の春に発売されたシャンフロを買い逃した時から、いつかプレイする時が来ることに備え、キャラメイクの方向性を煮固めていたのである。

 

「リアルの自分をベースに髪色は固定、右目は碧で左目は朱のオッドアイ、性別は男で、種族を人間、身長は10cm高い185cmに………と」

 

そうして完成したキャラクター…シャンフロの自分を見つめて、梓はやり遂げたと言わんばかりにむふーと鼻息を吐いてみせた。

 

「そして次は……職業と出身も決められるのか」

 

シャンフロというゲームにおける職業は武器や魔法に対する適性が、出身には各々上昇補正と下方補正が組み込まれている。

 

「キャラメイクの組み合わせ程じゃないが、職業と出身も半端じゃないな」

 

戦士であれば、物理系統の武器が得意で魔法はからっきし。魔法使いであるなら、魔法やMPに秀でているが物理関係は駄目……みたいな感じである。

 

其の数多の職業の中で、梓が目を引かれたのは――――

 

「………『バックパッカー』。後衛職とな」

 

 

バックパッカー

 

武器や防具、消耗品等の物資を其の身一つで運び、時に他者との商いを、時に開拓者の困難を打開する者。其の背に背負うのは、誰かの希望である。

 

 

「誰かの希望を背負う…か、良いじゃん。そういうの」

 

文脈の最終部分にゾクリと背筋が震え、カッコいいと思った。バックパッカーは、アイテムインベントリの上限が他の職業よりも優れているらしい。

 

「職業がバックパッカーなら、素早く動きつつ武器を投げ渡したり、投擲に適した方が良いのかな?」

 

項目の中を片っ端から探して、良さそうな出身を探す。そうして梓は幾つかの候補を見付けた。

 

先ずは『先住民』。NPCとの会話や好感度に大きな差違が働き、一部NPCから『敵対』される代わりに、スタミナ(STM)筋力(STR)に上昇補正が掛かる。

 

次に『探検家の子』。探索エリアからスタートする代わりに、フィールド内で自身が探索した区域のアイテムドロップに補正が掛かる。

 

そして『行商人』。NPCとのアイテム売買に補正が掛かり、金額に変化が起こる。町からスタートする。

 

 

「………よし。探検家の子にしよう。素材集めの周回は少しでも楽になる方が良いや」

 

出身を決定し、最後にプレイヤーネームを打ち込む。

 

「名前はペッパーっと。これで完成」

 

最終確認ボタンを押して、いよいよゲームが始まる…といった所で、シャンフロのプロローグが流れ始める。他の人は早くゲームをやるためスキップするのだが、梓はオープニングは世界観を知る上で大事だと考えており、スキップはせずにBGMと共に流れる説明文を見つめていた。

 

 

 

 

遥かな太古、神代と呼ばれる時代があった。 偉大なる神人達は後世に命を紡ぎ、その姿を消した。 時は流れ、神人の遺志継ぐ我々は彼らが願ったように地に広がり、そして大いなる命の流れを紡いでいく……

 

 

今を生きる我々は、歴史と遺跡の中に息づく過去の遺産から神人達の軌跡を辿る。 貴方は開拓者。東よりの風と共に現れ、幾度となく膝をつき、されど進み続け……そして風と共に消えるかもしれない者。

 

 

貴方の生きる意味は?

一振りの剣に己が身命を託す?

魔道の深淵を覗いて魔道の高みを目指す?

 

 

あるいは戦いの道を選ばないことも出来る。その全てがここにある。その全ては貴方の中にある。さぁ、一歩踏み出して。 未知を、未来を、そして可能性を切り拓いて。それがこの地に生まれ落ちし、神代よりの子らに課せられた使命なのだから。

 

 

 

五条 梓、もといプレイヤーネーム ペッパーの、シャングリラ・フロンティアが始まる。

 

 




いざ往かん、シャングリラ・フロンティア


※五条 梓がシャンフロを始めた時期は、大体4月辺りです。原作主人公の陽務 楽郎が、シャンフロを始めたのが7月なので、3ヶ月分先輩になります


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汝、其の脚で何処へ往く

VR初心者ゲーマー、シャングリラ・フロンティアの大地に立ちます




オープニングの説明文が流れ終わり、目の前が真っ暗になった後。梓…もといペッパーの耳に小鳥の囀りが聞こえてくる。

 

ゆっくりと恐る恐る目を開けば、視界に飛び込んできたのは青々と繁る草原と、遠くに聳える山々が織り成す広大な世界だった。

 

「おぉ…!此処が、シャンフロの世界か。すげぇ、自分の身体みたいに動く」

 

電脳世界に構築された自分の身体を見渡し、ペッパーは呟く。掌、指先、脚や胴と自分が動かしたいと思う場所が、思うように動く事に感動していた。

 

「取り敢えず、ステータスの確認をしておかないとだな。RPGでも自分が操作するキャラクターや味方の状態把握は大事だし」

 

VRゲームは初心者であれど、昔やっていたRPGゲームのセオリーに従って、ペッパーは自身のステータスを開く。

 

 

――――――――――――――――――――

 

PN:ペッパー

 

レベル:1

職業:バックパッカー

 

体力 10 魔力 10

スタミナ 30

筋力 20 敏捷 20

器用 10 技量 10

耐久力 10 幸運 10

 

装備

左:無し 右:護身用ナイフ

頭:皮の帽子

胴:皮の服

腰:皮のベルト

脚:皮の靴

 

3000マーニ

 

スキル

・スラッシュ

・刺突

 

――――――――――――――――――――

 

 

職業説明文に書いてあった通り、バックパッカーは物資を運搬する職業なだけあり、筋力と敏捷、スタミナが高い数値になっている。

 

「技量が武器の使い方で、器用が多分武器の扱い方…なのかな?幸運は謂わずもがな運に関係あるだろう…。まぁ後衛職だし、戦闘になったら一先ず距離を取って逃げられるようにしておこう」

 

「で、だ」とペッパーが次に注目したのは現在自分が保有しているスキル。スラッシュと刺突についてだ。

 

「いきなり実戦ってなったら確実にパニクる自信しかないし、何事も試してみなくちゃな」

 

右手に護身用ナイフを逆手持ちで装備し、「スラッシュ!」とスキル名を唱えつつナイフを振るう。

 

「次は、刺突!」と真っ直ぐにナイフの切っ先を突き出す。敵は居ないが、どういう挙動をするのかを身体を通して頭に知識として取り入れていく。

 

「ふむふむ、こんな感じで動くんだな……っておや?」

 

スキルを使った後、ペッパーが見たのはスキルのクールタイムが進行している場面だった。

 

「…成る程。スキルにはクールタイムがあって、強力なスキルは相応の代償があるって訳か。覚えなきゃ行けない事が沢山あるなぁ…」

 

何事も試して知識を深め、戦うならば万全の準備を行うべし。RPGで学んで得た格言を胸に、ペッパーは探索エリアを歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「木の棒、木の棒、石ころ、木の実やら色々手に入ったが……うーむ、敵と遭遇しない」

 

ゲーム開始から1時間。探索エリアを歩きながら、ペッパーは道中で入手したアイテムを確認しつつ、簡易の地図で位置情報を確認していた。

 

最初のエリアは一通り歩き回り、自身の出身である探検家の子の恩智が影響を及ぼすか確かめたが、変化を感じられずにいる。

 

「やっぱりアイテムドロップには、幸運も影響してるのかな?……まぁ、ファスティアに行けば色々分かるか」

 

簡易の地図では此処から『ファステイア』という町が近いらしい。ファーストを捩っている事から、おそらく最初の町である事が予測出来る。

 

最初の町は基本、冒険者にとってのチュートリアルレクチャーだったり、基本的なアイテムや武器防具を買い揃えられると相場が決まっているのだ。

 

「町に着くまで敵とエンカウントしない訳じゃないし、油断せずに行こう」

 

右手に護身用ナイフを装備し、左手に拾った石ころを投擲用にアイテムインベントリから出して、周囲を警戒しつつ抜き足差し足気味に動く。

 

木の後ろや茂み付近は特に気を付け、首を降って周囲を確認しながら、町へ1歩ずつ足を進めていた。

 

と、其の時。ペッパーの右後ろの木が僅かにガサガサと揺れ、振り返った視界が一瞬黒に染まる。

 

マズイ――そんな直感が脳裏を走ったペッパーは直ぐ様その場からダッシュ。直後、地面に力任せにぶつかり、ヒビが走った場所に何かが居る。

 

「ギャギャ!」

 

「グレムリン……じゃなさそう」

 

葉っぱのような耳に、昔のホラー映画で見た怪物に似た其れは、ボロ雑巾の衣服と右手に石と木を縄で巻いた手製の斧を持っていた。

 

「ギャギギギッ!」

 

「おわっ!!」

 

小さな体躯にも関わらず、俊敏な動きで斧を縦に振るってきたモンスターに、ペッパーは思わずバックステップで回避する。

 

「……切り換えろ。相手はモンスターだ、流石に初心者が倒せない様には出来ていない、はず!」

 

「ギャギギギャア!」

 

再び大振りに殴り付けんとするモンスターに、ペッパーは左手に持っていた石ころを、頭目掛けてぶん投げた。初期ではあるものの、スタミナに次いで高く敏捷と同じ値から繰り出された筋力による投石攻撃は、モンスターの額を僅かに外れ――――右耳にぶち当たった。

 

「ギギァ!?」

 

耳に当たり、振りかぶった手斧がすっぽ抜け、地面に激突。投げた石ころは耐久を失ったのか砕け散り、ポリゴンと化して消滅。そしてペッパーは護身用ナイフを翳し、スキルの刺突をモンスターの左目にブッ刺して。

 

「せいっ!」

 

トドメとばかりに思いっきり抉って、モンスターを葬った。モンスターは其の身体をポリゴンへと変わって消滅、入れ替わるようにパパーンのSEが鳴り響き、ペッパーのレベルが1つ上がった事を告げる。

 

「おっ、レベルアップか!やったぜ」

 

レベルアップを喜んでいると、ペッパーの近くには先程倒したモンスターが落としたであろう、アイテムが幾つか落ちていた。

 

「ドロップアイテムか~。なになに…ゴブリンの手斧、あれゴブリンなのか」

 

グレムリンと思ったモンスターがゴブリンだったと知り、ペッパーは少し驚く。他にもボロい腹巻きが落ちていたが、取分驚いたドロップアイテムがある。

 

「………………」

 

ゴブリンの目玉という、短剣系統の武器でトドメを刺した場合にしか出ないという、ちょっぴりレアなアイテム。

 

しかし問題は其の目玉が『人間の死体から取り出した眼球のような、造形があまりにもリアル過ぎた』事で。

 

「……封印安定だな」

 

ペッパー自身も誰かに見せてはいけないと、インベントリの奥底へ突っ込み、記憶を忘却の果てへと消し去ることにしたのだった。

 

其の後ペッパーは道中で、他のモンスターとの遭遇を警戒しつつ歩みを進め。

 

漸く最初の町ファステイアへと辿り着いたのであった。

 

 




先ずは一歩、されど一歩


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下準備とお金の使い方

ペッパー、ファステイアを拠点に身支度を整えるの巻


始まりの街 ファステイア。シャンフロを始めたプレイヤーや、ビギナーエリアでモンスターにやられたプレイヤーが夢オチの形でリスポーンする街である。

 

「ファステイアとーちゃ~く……。ふぅ、疲れた……」

 

此処まで来るのに1時間半近く掛かったペッパーは、ゴブリンとの戦闘の緊張から解放されたこともあり、大きく息を吐き、地面に座った。

 

ファステイアは見たところ木材で出来た街のようで、街中に建っている建造物の殆どが木製、地面には切り出された石で舗装された道を他のプレイヤーとNPCが行き来している。

 

「始まりの街ってだけあって人も多いな。さてと、先ずはリスポーン地点を定めておこう」

 

シャンフロ内では街の宿屋を利用する事で、モンスターとの戦闘による死亡後の再出発地点を作ることが出来る。

暫くは此処を拠点に身支度を整えつつ、ペッパーは今後の目標を定める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわー」

 

「いらっしゃい、宿を利用かい?」

 

宿屋の受付に居るNPCが、ごく自然な挨拶に反応してくれた。よく出来ていると心中感心しつつ、本題を切り出す。

 

「はい。空いてる部屋は有りますか?」

 

「ちょっと待ってな。……お、101~107号室まで空いてるが、どれ使う?」

 

「じゃあ101号室で、お願いします」

 

「あいよ、料金は100マーニだ」

 

シャンフロの通貨、マーニ。武器や防具、消耗品のアイテム等の購入やモンスターの素材を売ったり、一部換金アイテムを特定の場所で換金することで増やせる。

 

貴重な鉱物やアイテムは何かと利用するので、換金か素材かでの使い所にも注意したい所だ。

 

「よいしょっ…リスポーン地点更新完了っと」

 

宿屋1回で100マーニ消費し、現在の所持金が2900マーニとなったペッパーは、先を見据えたマーニの使い方を考える。

 

「先ずは体力回復と状態異常回復アイテムの購入と、現状の武器はゴブリンの手斧に護身用ナイフだけだから短剣を1本。仮に短剣が500マーニ掛かるとして、宿での回復を踏まえると100マーニは最低でも残すのが必須……か。

 

よし、情報収集始めよう!」

 

リスポーン地点更新に使用した宿屋を後にしたペッパーは、ファスティアの様々な施設を訪れ、情報収集を行った。其れにより幾つか解ったことがある。

 

先ずスキルは『特技剪定所(スキルガーデナー)』と呼ばれるシャンフロ各地の街にある施設で合体し、より強力なスキルへと昇華させる事が出来る事。

 

ただ、何から何まで合体出来るという訳ではなく、条件として『自然習得』かつ『熟練度』が上がるスキル同士の連結に限られている。

 

またスキルの中には使い続ける事で『発展』し『進化』するスキルもあるらしいが、プレイヤー…もとい開拓者各々の戦闘スタイルによって多少の変化が起きるそうだ。

 

他にも1つレベルアップする毎にステータスポイントを5ポイント獲得出来、其れを振り分ける事でステータスの能力を強化出来る。

 

そして武器には『耐久値』が存在し、使い続ければ何れ壊れて失われてしまう事。耐久値が尽きる前に、武器屋へ持っていけば耐久値を回復出来るそうだ。

 

此の世界(シャンフロ)では『鍛造魔法』を持つ鍛冶師が居るらしく、其の人が居る武器屋なら、素材を使って武器をより強くする事も可能らしい。

 

曰く其の鍛冶師達は自分が作った武器を子供と同じと考え、其れを『強化』するではなく『育てる』と謂うのだとか。

 

「スキルの成長と連結合体、武器を育てる鍛冶師…色々タメになる情報だなぁ…。鉄のナイフの入手は出来たし、解毒薬に麻痺解除薬、スタミナ回復用の食糧と採掘用のツルハシも揃えられた。

 

暫くは金策がてら、経験値と鉱物を狙える『ファステイア坑道』で稼ぎましょっと」

 

ファステイアでの情報収集と物資の調達を終えたペッパーは、アイテムインベントリの確認し次なる目的地として、街近くの坑道にして初心者の金策並びに修行場となっている場所に狙いを定める。

 

「ただなぁ、他にもプレイヤーが居そうだから取り合いになりそうな予感しかしない」

 

採掘場所を巡って争いになる可能性が頭に浮かび、ペッパーは急ぎ足でファスティア坑道へと向かったのだった……。

 

 

 

 

 

「まぁ…うん。予想はしてたが、やっぱりこうなるか」

 

移動して20分、昔ながらの掘削技術と崩壊防止の木組みが成された、ファステイア坑道にやって来たペッパーは溜息を付く。

 

既に坑道には先に到着したプレイヤー達が我先にとツルハシを壁に叩き付け、ドロップしたアイテムに一喜一憂していたり、飛び回る蝙蝠やブヨブヨ動くスライムのモンスターと戦闘したりと盛況を呈していた。

 

「こりゃ、奥まで行かないと駄目かぁ」

 

他のプレイヤーが振り上げるツルハシに当たらぬように、ステップを交えながら坑道を進むペッパー。途中遭遇したスライム相手にゴブリンの手斧で応戦してレベルを1つ上げたり、メイズバットという蝙蝠のモンスターに絡まれたりするハプニングに見舞われたが、漸く鉱脈と思われる岩肌を見付けた。

 

「じゃ、始めます……か!」

 

インベントリからツルハシを取り出し、掘削作業を開始する。が、しかし…………

 

「ツルハシ1回でスタミナ減りすぎなんだが?」

 

開始から30分、直面したのは掘削1回消費されるスタミナによって発生した、非効率な時間浪費だった。

 

「考えられる可能性はツルハシが重い、筋力とスタミナが足らない、ツルハシの使い方が分かってない。……筋力が20でもこれって事はつまり……!」

 

ペッパーは自身の考えが正しいかを確かめるべく、ツルハシを一旦インベントリへと戻し、ステータス画面を開く。現状自分が持っているポイントは10、此れをスタミナと筋力に5ずつ振り分け、再びツルハシで鉱脈を叩く。

 

すると先程までなら1回振って回復するのを待たなくてはならなかった所を、2回振って暫く休めば良い状態に改善したのだ。

 

「やっぱり、重量のある武器はスタミナの消費もデカいんだな。となると重武器を用いたスキルも、クールタイムと合わせて調節する必要性も出てきたか…うーん奥が深い」

 

ステータスポイントの振り分け方、武器の重量とスタミナの消費の比例、新しく手に入れた情報を知識として頭に叩き込む。

 

暫くペッパーはツルハシを鉱脈に叩き込み続け、10分が経過した頃、彼はある事を思い付く。

 

(あれ?もしかしてこの方法、いけるんじゃないか?)

 

彼が考えたのは、自身の出身たる探検家の子による恩恵(メリット)――『一度訪れた場所でのアイテムドロップの上方補正が掛かる』という点。

 

(ただ、ゲーム開始から2時間経ちそう…1回休憩挟もうか)

 

一先ずはゲームを中断し、其の後に思い付いた策を実行に移すべく、ペッパーは採掘で出たアイテムを整理して、ファスティア坑道を後に一目散に始まりの街 ファステイアへと走り出した。

 

己が思い付いた、次なる作戦を実行に移すために。

 

 




思い付いたが吉報、トライアンドエラーはゲームの醍醐味


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周回はストレスと退屈の狭間で揺れる

収集周回ってキツいよね。モンハンとかグラブルとかFateは特に


アイテム周回という言葉がある。古今東西のゲームにおいて其れは、ある種の苦行としてゲーマーの中にはトラウマとして刻み込まれていたり、己の物欲センサーに引っ掛からないよう無心での戦いだったりと、あまり良い意味が持たれない。

 

かくいうペッパーも昔遊んだ某RPGにて、裏ラスボスに唯一勝算が見込める最高レアの装備と、名実共にゲーム内最強クラスの武器を作らんとして、朝昼晩と鉱山へ行ってはツルハシ使ってエンヤコラし続けた記憶がある。

 

ただ、其の素材はゲーム内で都市伝説レベルのドロップ確率を誇り、アイテムドロップのバフを何重に重ねて、装備も専用の物を揃えて初めてスタートラインに立つことが許される。

 

しかも其れが採掘出来る場所まで片道40分掛かる上、1回の挑戦で1個入手出来ればラッキーという、開発陣営の頭の中がどうなってるのかと、正気ではいられない確率であった。

 

最初はポジティブに意気揚々とやっていたが、ドロップ確率による終わりの見えなかった中盤以降、好きなアーティストの音楽を聴いて虚無感を誤魔化し、終盤に入る頃には採掘しながら裏ラスボスの攻撃パターンや戦術をWikiで調べては頭に叩き込む平行作業で規定数を確保。

 

潤沢に揃えた回復・復活・バフアイテムと、カンストに至らせた仲間と共に、裏ラスボスとの1時間以上に渡る死闘の末に、真のエンディングとスタッフロールが流れた時、初めて此の暗黒地獄から解放され、此処までやってきた甲斐が有ったと満足感に満たされた気がした。

 

「ファステイア坑道で鉄鉱石とか採掘資源を色々掘り出せたし、一部は売るとして武器や防具を新しくしたいな」

 

シャンフロからログアウトし、休憩がてら水分補給とカロリーメイトを噛る。

 

「幸運が10でも出身の恩恵でドロップが旨かった……じゃあもう少し幸運に振ったらどうなるだろう?

あとは敏捷も高めて、強奪しようとしてきたプレイヤーから逃げられる様にはしときたい」

 

梓が考えるキャラビルドの方針は、敏捷・筋力・スタミナを中心に、一部を技量・器用・幸運に振った低耐久高速機動仕様。

後衛職のバックパッカーが持つ特性を引き出しつつ、戦闘では他者の足手まといに成らぬよう立ち回るスタイルを目指す事にした。

 

「ビルドの方向は決めたし、シャンフロに戻るとしましょうか」

 

トイレを済ませ、梓はVR機材を頭に装備し、起動する。シャンフロの中の成りたい自分を目指すため、彼は再び歩み出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんくださーい」

 

ファステイアの宿を出たペッパーは、先ず最初に同街内の武器屋を尋ねた。

 

「おう、あんちゃん。何か用か?」

 

「はい、武器を作って欲しくて。材料は此方にあるので作れる武器と装備が作れたら、残りは売りたいです」

 

アイテムインベントリから取り出されたのは、鉄鉱石と銅鉱石が各々10個程、そして白磁石と呼ばれるレア物を2つカウンターに乗せた。

 

「おぉう…随分手に入れたじゃねぇの。おまけに白磁石たぁ、中々やるじゃねぇか」

 

「これで鉄製の武器と、軽くて防御を高められる装備を作れますか?武器の方は短剣で」

 

「ちょいと待ってな……武器ならコイツで、装備なら…こうゆうのがあるが、どうだい?」

 

店主の鍛冶師が画面に出したのは、銅鉱石と白磁石と鉄鉱石を用いて作る『白鉄(はくじ)短刀(たんとう)』という短剣系統の武器と、胴のスロットを消費して装備するアクセサリー『鎖帷子(くさりかたびら)』だった。

 

スロットとは、プレイヤーの頭・胴・両手・腰・脚に各々存在する拡張機能であり、初期段階では各部位で1つずつしか無いものの、レベルアップを行う事で解放されていき、装備時の恩恵を受ける事が出来る。

 

「じゃあ其れで…あ、先に必要な分以外売ったらマーニ足りますかね?」

 

「おう、それなら出来るぜ。やるか?」

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

鉱石資源を換金して白磁の短剣と鎖帷子を購入したペッパーは、出来るまでの間に時間を潰しといてくれと言われたので、其の間にもう一度ファスティア坑道でレベリング兼ねた金策を行うことにしたのであった。

 

 

 

 

 

「よっこいせーのっ!!……銅鉱石か、石ころよりは良い方だな」

 

ファステイア坑道へとやって来たペッパーは、坑内の採掘ポイントを転々としながら奥へと進んでいた。理由としては2つ、1つは奥地の方がより良い鉱物が採れる可能性がある事、もう1つは探索家の子の恩恵を得るための未開地への進出である。

 

「ステータスの幸運値は上がってないが、体感銅鉱石の採掘が良くなってるか…?探索家の子様々だな」

 

最初に訪れた時には石ころが大半を占め、鉄や銅のドロップ率はあまり良くなかったが、2度目の探索では若干ながら銅の出現率が伸びた気がしている。

 

「っと、到着だ」

 

ファステイア坑道・奥地。其処には沢山の鉱脈が無数に枝分かれて発光し、回りの鉱脈も輝く万華鏡を覗くかのような、自然が産み出した神秘の光景が其処には在った。

 

「うおぉ…!綺麗…」

 

採掘すればさぞかし貴重な鉱物資源が手に入るだろうと、期待に胸を踊らせるペッパーだったが、其の心中にはとある疑問があった。

 

(見た目沢山の鉱脈が在るのに、プレイヤーどころかモンスターも居ないんだよな…)

 

普通、此れだけの鉱脈があればプレイヤーなら食い付くのが当たり前の筈。そして其れを阻むモンスターが居てもおかしくはない。

 

警戒し辺りを見回してみたものの、ボスバトル勃発の気配は愚か、アクションすら何もなかったのである。

 

「ま、いっか。起きないなら起きないで、サクッと採掘してファステイアに帰ろう」

 

ツルハシをインベントリから取り出し、良さげな鉱脈の1つに狙いを定め、一気に振るうペッパー。しかし彼の耳に、今まで掘ってきた鉱脈とは違う『鈍い音』が響いた。

 

「………ん?今なんか――――」

 

其の時、背中を走るゾワリとした悪寒が襲い、ペッパーは其の場を即座に離れた。其処へ巨大な『何か』が真っ直ぐに、ペッパーが先程まで居た場所を塗り潰し、通り過ぎていく。

 

「な、なんだコイツ……!」

 

未知の存在の出現に際し、ペッパーは直ぐ様ツルハシをアイテムインベントリに収納し、スイッチする形で護身用ナイフを右手に装備、厳戒態勢を取る。

 

砂煙が晴れた暗闇の中に居たのは、全高3m全長30mには迫ろう鉱脈の岩肌を連ねた鎧に護られ、百足の如き無数の足を生やした巨大な蚯蚓(ミミズ)型のモンスター。

 

ファステイア坑道内では一番遭遇率が低く、しかし倒した際の経験値と、ドロップした鉱物を換金にすれば財布も膨らむというレアモンスター『巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)』であるとペッパーが知ったのは、口を開けながら突進してくる相手に正面で放った護身用ナイフのスラッシュが効かず、丸呑みにされて死亡し、ファステイアの宿屋で目が覚めた後の事だった。




レアモンスターエンカウント



モンスター名 巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)

出現地:ファステイア坑道・奥地

推奨レベル:5以上

推奨パーティー数 2人以上

普段はファステイア坑道の奥地で鉱脈に化ける形で岩肌に擬態し潜んでいる。ツルハシの音が通常よりも鈍い鳴り方をしたなら、直ぐに其の場から離れる事。初撃に右左ランダムに、採掘を行ったプレイヤー目掛けて丸呑みにしようと、口を開けて突進してくるが、急な方向転換はしないためバックステップで十分回避可能。

表面や無数の足は鉱物の鎧で護られているため、斬撃属性の武器は関節か体内以外効果が薄く、打撃属性の武器か魔法属性の攻撃が推奨される。

またガロックワームは『自身に最も近いプレイヤー』を狙う習性があり、1人が囮役(デコイ)を担って注目(ヘイト)を引き付け、其の間に他のプレイヤーがガロックワームの巨体に飛び乗るか、横に回り込んで打撃武器か魔法攻撃を打ち込み続ければ、比較的楽に倒せるだろう。

様々な鉱物を喰って其の身に纏っているため、討伐出来たのならば、レアな鉱石を手にすることも夢ではない。



見た目は『ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン』で登場したモンスター『岩喰怪虫(ロックイーター)』がモデル


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単純な武器とは時として最適解に成り得る


巌喰らいの蚯蚓へのリベンジ、其の準備段階


「何だよあのモンスター」

 

ファステイアの宿屋のベッドにリスポーンしたペッパーは、開眼一声にそう呟く。あのモンスターに護身用ナイフで、スラッシュのスキルを放った。

 

だが結果は、スラッシュは効かずに丸呑みで死亡して此処にいる。

 

ステータスには『デスペナルティ』の一文が表示されており、一定時間自身の全能力が低下しているようだ。

 

「………先ずは落ち着け。このまま再戦しに行ってもまた丸呑みにされて、ファステイアに戻されるだけだ。武器のおっちゃんの所に行って、新しい武器と装備を受け取ろう」

 

リベンジに速る気持ちを抑え、死亡する前に武器屋で依頼していた物を取りに行く事にしたペッパーは、早速行動に移る。

 

 

 

 

 

 

 

「おっちゃん居るかー?」

 

「おぉ、あんちゃん。頼まれてた物なら出来上がってるぜ」

 

ファステイアの武器屋に辿り着いたペッパーに気付いた鍛冶師の店主が言い、カウンターに置かれた装備がアイテムインベントリに加わり、ペッパーは其れを確認する。

 

 

白鉄(はくじ)短刀(たんとう):ファステイア坑道で採れる、白磁石を他の鉱物と共に熱して打たれた短刀。軽い刃と衝撃に強い刀身が最大の売りで、取り回しにも優れる。

 

敵の攻撃を受ける事による、武器の耐久値の減少を抑えられる。

 

装備条件 筋力15 技量10 器用10

 

 

鎖帷子(くさりかたびら):鉄を鎖状に加工した装備品の1つ。胴に身に付け纏う事で、背や胸に差し迫る凶刃より装備者を守る。

 

耐久力+10

 

敵の胴体攻撃によるクリティカルを、一定の確率で防ぐ。

 

 

「こりゃすごい…!耐久力上がるし、今の俺にはピッタリの武器だ」

 

「気に入ったなら、鍛冶師冥利に尽きるぜ。………ところでよぉ、あんちゃん。少し浮かない顔してるようだが、何かあったか?」

 

「えっ、あ、はい。実は……――――」

 

顔色から何かを『察した』鍛冶師の発言に、ペッパーは驚きながらも、ファステイア坑道・奥地での出来事を話した。鉱脈を叩いたら、巨大なムカデのようなミミズのモンスターと出逢った事。其のモンスターに斬撃が効かず、丸呑みにされてやられた事を。

 

「…成程、ソイツは『巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)』だな。あんちゃん」

 

「ガロックワーム?」

 

「ファステイア坑道の奥地で稀に鉱脈に化けて、採掘に来た連中を食っちまう化物ミミズさ。ソイツの身体にゃあ、今まで漁りに喰らった鉱物が、身体中に纏わり付いててな。斬撃は殆ど効きゃしねぇ」

 

スラッシュが効かなかった理由が、そういう事かとペッパーは納得出来た。

 

「だがもし、あんちゃんがまた挑もうって言うんなら……オレの依頼を受けちゃくれねぇか?」

 

依頼?と疑問に思い、内容を尋ねようとした矢先、目の前にステータス画面とは違う画面が表示された。

 

 

『特殊クエスト:【岩砕きの秘策】を受注しますか?』

『YES』or『NO』

 

 

「特殊クエスト?何だコレ…?」

 

シャングリラ・フロンティアにおけるクエストは、一般的なクエストの他に、幾つかの種類がある。中には『価千金レベル』の物や『NPCとの協力』を必須とする等、千差万別である。

 

そして大衆から神ゲーの太鼓判を押されるシャンフロが、アンチから叩かれている理由の1つに『クエストの発生条件の不透明さ』が挙げられ、何時・何処で・何をすれば、其のクエストが発生するのか。其れが『完全に判明している物』は非常に少なく、まさに手探りで見つけ出さなくてはならない。

 

故に、其の新しいクエストの情報は、高ランクプレイヤーにとって喉から手が出る程欲しい物であり、其れを隠し持っているだけでも相手にしてみれば相当の武器になる。

 

(あのムカデミミズには、キッチリとリベンジ咬ましたいし、此の手のクエストは何れ他のプレイヤーにもバレる時は来るだろう……だが此の瞬間、楽しめば俺の勝ちだ!)

 

「そりゃ勿論━━━━やらせて貰う!」

 

即断即決、ペッパーの左人差し指は『YES』のボタンをクリックする。同時に鍛冶屋の店主は、ペッパーに話を始めた。

 

「此処だけの話だが、最近ファステイア近辺の森に『変わった武器を持ったヴォーパルバニー』が現れてな。鍛冶師としちゃ、其の武器を一度は拝んでみてぇんだ」

 

鍛冶師の持つ興味という名の運命(さが)かと思いつつ、初めて聞いたモンスターの名前に「ヴォーパルバニー?」と質問を返す。

 

「あんちゃんは初めて聞くか。ヴォーパルバニーは、人間やモンスターの急所を狙ってくる、二足歩行のウサギのモンスターだ。

 

で、ソイツ等の持ってる武器は中々希少で、オレ等鍛冶師でも御目に掛かれる機会はそうない。

 

一目見れたら、其の武器はあんちゃんが使ってくれて構わねぇ。其の地図にウサ公が現れるポイントを付けといた。頼んだぜ、あんちゃん」

 

マップを確認すると、確かにファステイアの近辺の森エリアに✕印が刻まれており、其処に目当てのヴォーパルバニーが居るのだろう。

 

デスペナルティも終わり、ペッパーは早速完成した鎖帷子を胴のスロットに装備。武器屋を後にし、ファステイア近辺の森へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファステイア近辺の森エリアにやって来たペッパーは、マップを頼りに辺りを散索していた。

 

「武器屋のおっちゃんの話だと、此の辺りに居るらしいんだが……」

 

出身:探索家の子の恩智を兼ねて、エリアを塗り潰すように歩く。木々の皮の肌触り、茂みが身体に触れる音、人間の五感が感じる其れを忠実に、違和感無く再現された技術は本当に良く出来ている。

 

と、森エリアには似つかわしくない大きな岩を発見したペッパーは、其の後ろから響く金属音に気付き、そっと覗き込む。

 

其処に居たのは、赤黒に染まった小さな鎚を持ち歩き、赤いマフラーを首に巻く、二足歩行の兎が一羽。

 

「ウサギ……アレがおっちゃんの言ってた、ヴォーパルバニーか?というか、小鎚持ってる?」

 

気付かれないように遠目で其のモンスターを観察していたペッパーだったが、不意に後ろを振り向いた兎と視線が交わる。

 

直後、其の兎は両足をバネに跳ね、ペッパーの頭部目掛けて手に持っていた小鎚を振り下ろした。

 

「どぅおっ!?」

 

横に回避したペッパー。其の数瞬に彼が居た岩は小鎚の一撃に砕け散り、辺りに散乱したのである。

 

「コレは……食らったら死ぬな、確実に」

 

小鎚の性能も気になるが、ペッパーは此のモンスター兎の攻撃を危険と判断する。同時に脳裏に浮かぶのは、自分を丸呑みにした、巌喰らいの蚯蚓の剣山の歯と底見えぬ口内だった。

 

「……良いぜ。被弾一発で死ぬなら、其れより前にお前を倒すぜ、ヴォーパルバニー!」

 

そう言い放ち、アイテムインベントリから白の太刀筋に黒の乱れ刃が刻まれた新たな武器、白鉄の短刀を右手に装備する。其れが開戦の合図となり、ペッパーとヴォーパルバニーは激突した。

 

(コイツの攻撃は初速も早い…鎖帷子で耐久が上がったとは言っても、油断は出来ない!)

 

振り下ろされる小鎚を左にステップして回避し、白鉄の短刀の鋒を向けつつ、動きを観察して情報を集める。

 

(一撃目といい、二撃目も『頭』を狙ってきたんだよなコイツ。急所狙いが趣味なのかな?)

 

そんな矢先、ヴォーパルバニーが左右にステップをしたかと思えば、ペッパーの顎を狙って小鎚を右スイングでぶん回してきたのだ。

 

「うおぁ!?フェイント掛けられんのかっオマ!?!」

 

不意打ちの攻撃に、ペッパーは白鉄の短刀をインターセプトする形で直撃を避けるも、右側に掛かった重心により右膝を地面に付く。

 

無論、其れを敵が見逃す道理もなく、手に持つ小鎚をペッパーの頭目掛けて振り抜いてくる。

 

「ッ!簡単にやられるか!」

 

白鉄の短刀で小鎚の一撃を『弾いた』ペッパーは、武器を逆手持ちにスイッチ、立て直した右足で踏み込み、胴体を一閃する。

 

切り裂かれたヴォーパルバニーは、腹部からポリゴンが溢れるも、まだ倒れない。

 

「そう簡単にはいかないかッ!」

 

胴を斬られたからか、ヴォーパルバニーは僅かながら攻撃に戸惑いが見られる。普通ならば此処は追撃が考えられる場面、しかしペッパーには『ある予感』があった。

 

(もしかしたら、俺が突撃したところをカウンターしようと、待っているかもしれない………!)

 

二足歩行に進化した生き物は知能が発達し、知識を蓄え、思考を行える様になった。ヴォーパルバニーが人間やモンスターの急所を狙うという鍛冶師の発言と、先程のステップを絡めたフェイントを行った事で、ペッパーの警戒は強まっていた。

 

実際、此の時にヴォーパルバニーに攻撃を仕掛けよう物なら、頭か顎をぶん殴られて死亡していた訳なのだが。

 

(なら、ちょっと試してみようか)

 

右手に装備していた白鉄の短刀を解除し、代わりに耐久力が残り僅かのゴブリンの手斧を引き出し、ペッパーは右手に持つ。

 

そして先程ヴォーパルバニーが左右に跳躍しつつ自分の頭部を狙ったように、小刻みにステップを踏んで左から右に移動する僅かな瞬間、両足が地面から離れた刹那にゴブリンの手斧を水平投擲し、直ぐ様白鉄の短刀を装備し直す。

 

円を成して回り飛翔する小鬼の斧は、ヴォーパルバニーへ迫り、しかし其の一撃は小鎚に叩かれ、地面と挟まれ砕け散る。

 

「ハンマーやトンカチの特徴を知ってるか?ヴォーパルバニー。一度振り下ろしたら威力が保証される代わりに、振り上げるまでに時間が掛かる!

 

そして戦いにおいて、其の一瞬が命取りだ!!」

 

小鎚を地面から引き戻し、ヴォーパルバニーが再びペッパーの頭部を狙おうとするよりも速く、全力疾走したペッパーの、右手に握った白鉄の短刀が白毛皮に覆われた脳天に突き刺さる。

 

ポリゴンが血の如く噴き出す中、ペッパーは短刀を魚の骨を断つが如く、迷い無く引き下ろし兎の顔面を斬り割った。

 

其れにより、ヴォーパルバニーはポリゴンとなって消滅、レベルアップのSEが鳴り響き、幾つかの項目が表示され、此の場に先程まで使われていた小鎚のみが遺されていた。

 

「レベルが一気に2も上がって、何か色々スキルを覚えたようだ。後でポイントの振り分けと、スキルの確認と実戦で使用感を見るとして、ヴォーパルバニーはレアなモンスターだけあって経験値も旨いな。

 

で、本題は『コレ』か」

 

武器屋の店主たる鍛冶師が言っていた『変わった武器』、其れに当て嵌まるであろう小鎚を拾い上げ、能力を見る。

 

 

致命の小鎚(ヴォーパル.レッジ):『特殊クエスト:岩砕きの秘策』にて出現する『特殊なヴォーパルバニー』を討伐する事で、確定ドロップする武器。

 

クリティカル攻撃成功時、ダメージに補正が入る。

 

打撃武器共通能力として、頭部攻撃時にクリティカル成功率に補正が入る。

 

説明:致命の名を冠した武器。其の鎚、正しき場所へと叩き付けば、強者も仕留める一撃に変わる

 

 

「確定ドロップ、良い響きだ。最高だね」

 

昔のゲームの採取周回の地獄を経験したペッパーにとっては、確定で手に入る物は健康に良く、心が本当に楽になる。

 

後はコレを依頼主に見せればクエストは完了だろうと、ペッパーは足早にファステイアを目指して帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『特殊クエスト:【岩砕きの秘策】が進行しました』

 

『シャングリラ・フロンティアの一部のフィールドに、小鎚を持つヴォーパルバニーが出現しました』

 

『小鎚を持つヴォーパルバニーを討伐することで、致命の小鎚(ヴォーパル.レッジ)が確率でドロップするようになりました』

 

 

 

 

 

ペッパーが起こした特殊なクエスト。兎を倒して勝ち得た小鎚は、ヴォーパルバニーの武器に彩りを、フィールドの生態系に更なる多様性をもたらした。

 

世界は動かず。

 

然して情景は変わり、新たな風は吹いていく━━━━━

 

 

 

 

 




斬って駄目なら叩いて壊せ




特殊クエスト:特定の条件を満たす事で発生するクエスト……なのだが、ペッパーが発生させたクエストは更に特殊であり、フィールドに存在するモンスターの生態系にも影響を与えるタイプ。

更に今回の特殊クエストには、まだまだ先があるみたいだ…………


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棚ぼたのアイデアを打開策に変えて


アイデアを閃く時、人は己の進化を知る


「スキルとポイント色々手に入ったなぁ、さてコレをどう調理しようか」

 

『特殊クエスト:岩砕きの秘策』で現れた小鎚持ちのヴォーパルバニーを倒して、ファステイアに戻るペッパーは其の道中、自身に加わった新しいスキルとレベルアップで得たポイントを見て、ほっこりしていた。

 

最初にポイントを振った時は、採掘効率を上げる為にスタミナと筋力に5づつ分けて効率化を高めたが、今回は巌喰らいの蚯蚓へのリベンジを踏まえ、当初のキャラビルドに沿った振り方をしなくてはならない。

 

「攻撃が当たらなければ体力が減る事はないから、現状HPにはポイントを入れなくて大丈夫。あのムカデミミズ、デカい図体で結構速く動いていたし、ポイントは敏捷多めに技量を少し振っておくことにしよう。

 

アイツに挑む以上、スキルの把握と理解にレベリングも含めた準備は念入りにしておかなくちゃ」

 

現状のポイントの振り方を決め、次に手を付けるべきはスキル。手に入れた手札(スキル)が巌喰らいの蚯蚓に有効か、其れを調べなくてはならない。

 

「ただ、此処はモンスターも出現するエリア。闇雲にスキルを使ってクールタイムで襲われて、ガベオベラでリスポーン……なんてのは避けたい」

 

一先ずはファステイアに帰り、依頼となっている致命の小鎚(ヴォーパル.レッジ)を武器屋の店主に見せることを優先する為、ペッパーは森を駆けていく。

 

やるべき事は未だ沢山残っている。

 

 

 

 

 

「おっちゃん、帰ったよー」

 

ファステイア到着後、ペッパーは其の足で武器屋へと直行し、アイテムインベントリから取り出した致命の小鎚をカウンターに乗せて言った。

 

「おぉ、帰ったか…ってコイツは…!」

 

致命の小鎚を見た店主は、目を見開いて手に取るや、振ったり質感を調べ始める。

 

「おっちゃんが示した地図の場所に、小鎚を持ったヴォーパルバニーが居て、倒したら入手出来たよ。ヴォーパルバニーって全員此のハンマー持ってるの?」

 

「いや…普通のヴォーパルバニーは『包丁』を持ってるんだよ。だが『小鎚』を持っていた……。つまりは、奴等の中にも包丁でブッ刺す従来の連中と、此の小鎚でブッ叩く新しい連中の二極化が起きてるってこった……!」

 

独自の考えを話す其の目は真剣で、邪魔はしたら失礼だと、ペッパーは「そうなのか」とだけ言い、成り行きを見守る。数分後、店主は静かに致命の小鎚をカウンターに置き、ペッパーに礼を述べた。

 

「ありがとうよ、あんちゃん。中々御目に掛かれねぇヴォーパルバニーの武器を見せてくれてよ」

 

致命の小鎚を、名残惜しそうに見ていた店主。一先ず目的は果たしたペッパーだったが、此処で有ることを閃く。

 

「あ、あの!もし宜しければ、其の小鎚と白鉄の短刀の耐久値を、回復させることって出来ませんか?いざ戦闘になった時に、万全を期したいので!」

 

ペッパーがこう述べた理由の1つに、先程の戦闘で耐久が減った白鉄の短刀と、既に3割程度の耐久値を失っている致命の小鎚を、巌喰らいの蚯蚓に挑む為に全快状態にしておきたいと思ったのである。

 

無論、店主が致命の小鎚を名残惜しそうに見ていたので、もう少しだけ見ていても良いかな?という、そんな配慮も有ったのだが。

 

「お、おぉ…そりゃ別に構わねぇが、良いのか?」

 

「はい。実は此方も、新しく覚えたスキルを試したりしたいので。よろしくお願いします」

 

「……よし、分かった。コイツはキッチリ面倒みてやるから、安心して自分の事をやってきな、あんちゃん!」

 

鍛冶師の店主に武器を預け、ペッパーは自身のスキルを確かめるべく、再びファステイアを立ち、ビギナーズエリアへと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ビギナーズエリア、到着っと……」

 

ファステイアから走り出し、ビギナーズエリアへとやって来たペッパーは、辺りにモンスターが居ないか警戒しつつ、先ず始めに自分が覚えたスキルと其の能力を確認する。

 

「レベルアップで覚えたスキルは……『フラッシュカウンター』に『ブームスロー』、『スポットエッジ』、其れから『ステップワーク』とな」

 

1つ目のフラッシュカウンターというのは、パリィからのカウンターに補正が入るスキル。パリィとは敵の攻撃を『弾く』行為であり、受・即・反撃の行動に役立つだろう。

 

次にブームスロー、此方は武器やアイテムの投擲に補正が乗るスキルで、使用者の筋力(STR)器用(DEX)の数値が高い程、より正確に狙った位置へ物を投げられる。

 

3つ目はスポットエッジで、敵の頭部・目玉・核への攻撃にダメージ補正が乗るという物。詰まるところ、コレは弱点に駄目押しを叩き込む技と見て良い。

 

最後にステップワーク、サイドステップやバックステップで消費するスタミナを減らすというスキルで、敏捷とスタミナが秀でたプレイヤーが用いれば、かなり強力だ。

 

「正面を避けて横に回り込むステップワークと、ステップワークのリキャスト中に使えるフラッシュカウンター、スラッシュで牽制して敵の観察。

 

ブームスローは相手を動かす為に使い、其の隙にスポットエッジや刺突で頭部を攻撃……が、基本的な戦術になるか」

 

普通のモンスターならば、今のスキルを組み合わせて充分に戦闘は可能だ。しかし、ペッパーにとって其の戦法ではヤツを倒せないと踏んでいる。

 

「ただ………ガロックワームの硬い表皮に、斬撃武器では余り期待は出来ない。となると、打撃系統の武器もしくはスキルが必須だ。

 

武器屋のおっちゃんが直してくれてる致命の小鎚━━あの武器が、俺のムカデミミズの切札といっても過言じゃない」

 

前の戦いで、投擲に使い破壊されたゴブリンの手斧はもう無い。つまり、此のエリアでのレベリングで如何にゴブリンを討伐し、手斧を何本入手出来るかによって巌喰らいの蚯蚓に与えられるダメージが決まってしまっている状態にあると言っても等しいのだ。

 

「あ~…やっぱり『打撃武器』が致命の小鎚1つだけってのは、かなり危険なんだよなぁ~…。耐久限界で破壊された場合、武器の『替え』が効かないのが本当に痛い……。

 

せめて、あのムカデミミズの身体に付いた岩を『剥がせ』られ…れば……?」

 

直後、頭に電撃が迸る。突如降りてきた天啓に似た其れが、彼の思考と此迄に得た巌喰らいの蚯蚓に関する情報と重なり、新しいアイデアが完成しようとしている。

 

 

――――鉱脈に化けて採掘者を喰っちまう化物ミミズさ

 

――――巌喰らいの蚯蚓は漁りに喰らった鉱物を身に纏う

 

 

「…………はははっ、『有った』わ。ガロックワームの攻略法━━━!」

 

とんでもない事を思い付いた結果、獰猛にして真っ黒い笑みを浮かべるペッパー。何しろ彼は『打撃武器』という認識で巌喰らいの蚯蚓を攻略しようとしていた。

 

しかし此の方法ならば、新しい武器を調達する必要も無く、予備を揃えれば十分な上に、最適な場所で練習し放題の一石二鳥。寧ろ今の今まで、何故其れを思い浮かばなかったのかと自分を殴ってやりたい気持ちになる。

 

「はぁ~!よっし、早速レベリング開始だ!一番経験値が旨いヴォーパルバニーを捜すぞー!」

 

巌喰らいの蚯蚓への攻略法を確立し、ペッパーは戦いに備えてレベリングを開始する。

 

ファステイア近辺の森エリアにはゴブリンにオーク、アルミラージ、稀に出現するヴォーパルバニーと遭遇しては、スキルの使用感を確かめながら戦闘し、己を鍛え続けていく。

 

そうして1時間程のレベリングを終えた辺りで、討伐したモンスターのドロップアイテムをインベントリに入れた時、彼の身体は少し動きが鈍くなったのを感じた。

 

「んぉ…?!何か動きづらい…!」

 

まるで冬場でもないのに、登山用厚着を何重にも重ね着したような其れに、ペッパーは難儀する。このままモンスターと戦う事になれば、鈍重な身体ではフットワークに影響が必至だ。

 

因みにペッパーのメイン職業(ジョブ):バックパッカーのアイテムインベントリは、初期状態で他の職業のおよそ2倍近くの容量を誇り、現在の彼と同じだけのアイテムを所持したプレイヤーは、まともに動くことさえ出来ない状態になる。

 

「もしかして…アイテム持ち過ぎた!?」

 

急ぎインベントリを開くと、武器や素材でアイテム欄の殆どが埋め尽くされている。

 

探索家の子の恩恵によって探索したエリアでのドロップに補正が乗り、優秀な素材や希少な武器がドロップしたからと、調子に乗ってインベントリに仕舞いまくったペッパー。

 

其の答えが重量過剰による、あらゆるアクションの鈍化だった。

 

「…………うん。バックパッカーで探索家の子だからと、アイテムはホイホイ拾わないようにしよう……」

 

インベントリの中身を見ながら、泣く泣く一部のアイテムを破棄して、アクションが行える状態への持ち直しに追われる事となる。

 

余談だが、整理中にインベントリの奥底に封印したゴブリンの目玉が、まるで『コンニチワ!』と言ってきてるように見えたペッパーは、再び何も見なかった事にしてインベントリの奥に再封印したそうだ………

 

 




攻略法は出来た、後は其れを証明せよ


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風の噂とは存外速く広がるもの

ペッパーの起こした変化が、プレイヤー達の議論を加速させる




アイテム所持の重量過剰によるアクションの鈍化を経験し、バランスも大事であると学んだペッパーは一路、ファステイアへと戻っていた。

 

「ゲームを始めてもう4時間経つし、今日はもう切り上げる事にするか。明日は大学の講義が有るし、ゲームをやり過ぎると単位に影響が出るしな……」

 

アイテムインベントリに詰め込まれた、モンスターの素材達をどう扱うか考えつつ、宿屋の一室を取ってベッドに寝転がり、プレイデータをセーブする。

 

「大学の講義とバイトのシフトから、シャンフロをプレイ出来るのは2日後。ログインしてやるべき事はポイントの振り分けと、モンスターの素材換金。

 

そして可能なら――――巌喰らいの蚯蚓に引導を渡しに行く」

 

壁に張り付けたカレンダーに記入した講義日程と、バイト先で貰ったシフト表を照らし合わせ、ログイン出来る日時を割り出し予定を組み立てる。

 

「2日間、暫しの別れだ。シャンフロ」

 

ペッパーはそう言い残し、シャンフロからログアウトしていった……。

 

しかし彼はまだ知らない……自分が起こしたクエストによって、シャングリラ・フロンティア内で起こった『変化』を。

 

そして、其の変化に気付いたプレイヤー達が、既に動き始めていた事に。

 

キッカケとなったのは、シャングリラ・フロンティアを遊んでいた1人のプレイヤーが、掲示板に上げた1枚のスクリーンショットが始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【聖女様】初心者プレイヤーに上級者プレイヤーがいろはを教える その63【かわいい】

 

 

195 レーザーカジキ(初)

初めまして、大いなる先駆者の皆さん。今日は質問が有りまして、答えていただけると助かります

実は先程、うさちゃんと戦闘して負けてしまいました。その時にうさちゃんが持っていた武器が気になりました。画像貼りますので、どうぞよろしくお願いします

【画像】

 

196 ムラクモ(上)

新入りさんいらっしゃーい。ゆっくりしていってなー

 

197 ガンバッチョ(初)

え、なにこれ

 

198 悪魔バッド(上)

ヴォーパルバニーか。アイツ急所しか狙わねぇからマジ嫌いだわ

 

199 アゼル(上)

武器奪えば攻撃力は大分落ちるがな。それでも首筋を噛み千切ってくるんだけどね、初見さん

 

200 ケケケーラ(初)

なんだ此のウサギ、ハンマー持ってね?

 

201 タンバリン(上)

確かヴォーパルバニーって包丁…というか斬撃系統の武器持ってる個体が殆どだったよな?

 

202 ベントレマン(上)

いや、釘バットとか鋸とかメイス、あとスレッジハンマーとかもあったはず。其の中の武器の1つじゃねぇの?

 

203 Animalia(上)

え、待って、ヴォーパルバニーちゃんかわいい!じゃなくて!私の記憶だと、今までフィールドで調べてきたヴォーパルバニーは、全部致命の包丁(ヴォーパル.チョッパー)しか持ってなかったわよ!?どういう事!?

 

204 トットロ(上)

園長キタ━━━(゚∀゚ 三 ゚∀゚)━━━━!

 

205 レーザーカジキ(初)

そんなに珍しいんですか?このうさちゃん…

 

206 一寸亡(初)

ファステイア近辺でレベリングしてるけど、遭遇率は1割より低かった希ガス

 

207 ラプソティー(上)

一応他の地域でもヴォーパルバニーにゃ逢える。問題はソイツ等が持ってる武器のドロップ率の低さ

 

208 ムラクモ(上)

ただ其れが在れば、兎の国ツアーっちゅうクエストが受注出来るようになるねん。wiki見れば解ると思うで

 

209 マルマラ(初)

ヴォーパルバニーの武器かぁ、手に入れたいなぁ…

 

210 ベントレマン(上)

まぁぶっちゃけ、兎の国ツアーで手に入る魔法目的の為にヴォーパルバニーを狙う訳なんだが

 

211 Animalia(上)

…………やっぱり思った通りだった。昨日までの時点で、ヴォーパルバニーが持ってる武器は、全部包丁で統一されてる

つまり今日……小鎚持ちのヴォーパルバニーが、突如としてシャンフロに現れた事になる

 

212 タンバリン(上)

なにそれこわい

 

213 トットロ(上)

突然変異とか、そうゆうパティーンか?

 

214 悪魔バッド(上)

てか、ケモナーすげぇなwwwフィールドのモンスター調査力パネェ

 

215 バサシムサシ(上)

流石は天下のSF-Zooだな。モンスターと動物の調査に余念が無い

 

216 Animalia(上)

えっと、レーザーカジキさん。画像を撮影した時間ってどのくらい?

 

217 ケケケーラ(初)

え、なにするんすか?

 

218 ムラクモ(上)

あーこらアレや、出た時間を逆算して該当するクエストやらを判別しよっちゅうヤツやな

 

219 レーザーカジキ(初)

あっはい、分かりました。時間は大体午後4時くらいでした

 

220 Animalia(上)

OK、ありがと。一先ず調べるために離れるわ

 

221 ラプソティー(上)

乙乙

 

222 サンダーナット(上)

にしても、シャンフロのモンスターに変化が起きるなんて、運営が仕掛けたサプライズか何かか?

 

223 アッド(上)

何々、なんか面白い事あった?

 

224 ムラクモ(上)

分かりやすく言うと、トンカチ持ったヴォーパルバニーが各地に現れとるんや

 

225 ケケケーラ(初)

ザックリしすぎぃ!!

 

226 バサシムサシ(上)

しかし不思議だな。いきなり別武器持ちのヴォーパルバニーが現れるとは

 

227 サンダーナット(上)

俺も其れが気になった。何が起きたらそうなるし

 

228 キョージュ(上)

どうやら面白い話をしているようだね

 

229 タンバリン(上)

え!?キョージュ!?

 

230 ケケケーラ(初)

キョージュさん!いつもライブラリの考察記事読んでます!いつかフレ登録させてください!

 

231 マルマラ(初)

恐ろしい速さのフレ登録申請、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

 

232 キョージュ(上)

231》世界の真実を探したいのであれば、喜んでフレ登録をしよう、ケケケーラ君

議題はフィールドに現れた、小鎚持ちのヴォーパルバニーだったね。先程我がクラン『ライブラリ』の調査班も其れを確認した

 

233 キョージュ(上)

此処からは私自身の考察となるのだが………おそらくコレは『クエスト』による物である可能性が、非常に高い。其れも『モンスターの生態系そのものに』変化をもたらすタイプの物だ

 

234 一寸亡(初)

クエスト?

 

235 悪魔バッド(上)

なんだ新人知らないのか?クエストってのはシャンフロの中で起きる依頼の事だ

 

236 キョージュ(上)

そう、しかし其のクエストはアイテムを手に入れ、依頼主に納品したり、特定のモンスターを討伐したりすれば終わる

これまでモンスターにも影響が出るタイプのクエストは、我々の調査でも今日まで確認されていない

 

237 サンダーナット(上)

ってことは…ユニーククエスト!?

 

238 キョージュ(上)

237》恐らく、な

しかしユニーククエストとは、また実に興味深い。考察のし甲斐があると言うもの。是非クエストを発生させた当事者と話がしたいものだ

 

239 アッド(上)

ユニーククエストねぇ、シャンフロのユニーク系統って上位クランが独占していたりで、出回ってる情報が少な過ぎるんだよなぁ

 

240 タンバリン(上)

ユニークの独占はマジ害悪、こうゆうのは皆で共有すべきだと思うの

 

241 Animalia(上)

今戻った。てかキョージュさんも来てたのね。結果だけ伝えると、此れまで確認されてきたクエストのどれにも該当しなかったわ

 

242 バサシムサシ(上)

てことはキョージュの言った通りユニーククエストの可能性が出てきたって訳か

 

243 一寸亡(初)

質問、ユニーク系統をクリアすると良いもの貰えますか?

 

244 ムラクモ(上)

243》せやで。武器に魔法やったり、どれもこれも一流クラスの強力なもんばっかや

 

245 トットロ(上)

243》シャンフロはスキルゲーだからな。如何に強力なスキルを手に入れて、どのタイミングで切るかが重要だし

 

246 キョージュ(上)

生態系を変える程のユニーク………やはり気になる

 

247 Animalia(上)

小鎚持ちのヴォーパルバニーちゃん…一緒にスクショしたい……

 

248 ラプソティー(上)

クランリーダー達が想いを馳せてる…www

 

249 レーザーカジキ(初)

もしかして、僕すごいことしました?

 

250 マルマラ(初)

249》うん、ヴォーパルバニーが新しい武器持ってるって情報で、園長とキョージュがユニーク関係ありそうって考察したから充分凄いぞ

 

251 ガンバッチョ(初)

249》情報共有すごく大事、本当にありがとう

 

252 タンバリン(上)

俺もユニーク関連見つけてぇ…………

 

 

 

 




広がる噂がシャングリラを駆けていく



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我、魂を鉄火に焚べ、復讐の一鐵と成らん



梓の日常、そしてペッパーのリベンジへの最終準備



「ふぁぁ……ん――眠み………」

 

シャングリラ・フロンティアをプレイした翌日、梓は大学の講義の最中に大きな欠伸をして、眠気眼を擦った。

 

「特殊クエスト……か」

 

シャングリラ・フロンティアの特殊クエスト――彼が見つけた其れは、ログアウト後にゲームのwikiや関連ブログを片っ端から検索しても該当する物が一切見付かず、結局分からず仕舞い。

 

「…っといけない。講義を聞かなきゃ……」

 

『全部やりきってから後悔しろ』――――其れが梓の持つ格言である。ゲームの強制敗北イベントでも、梓はやれるだけの事をやりきって、胸を張って敗北しろのスタンスを取っている。

 

(クエストの先に何があるか知らないが、一つ一つこなしていけば、いつか答えに辿り着ける……其れを楽しめば俺の勝ちだ)

 

講義を聞き、時々ノートに記録し、大事と感じた場所に赤線を引く。至って普通に講義を受け、至って普通にキャンパスライフをエンジョイする。

 

其れが五条 梓の大学生としての生活である。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

大学の講義が終わり、梓は大学近くのコンビニでバイトをしていた。

 

「梓君、新しい缶飲料届いたから商品棚に補充お願い」

「あ、はい!分かりました先輩!」

 

惣菜や弁当の売れ行き統計をチェックし、頼まれた物を冷蔵商品棚に補充していく。

 

「コーラ、お茶、カルピス…と。後は……『ライオットブラッド』、エナドリかぁ」

 

ライオットブラッド。一部のユーザー…もといゲーマーに爆発的な人気と根強いリピーターを誇る、ガトリングドラム社製の主力商品。

 

今自分が商品棚に並べている其れは、本家本元のライブラを薄めた物らしいのだが、どれくらいヤバいのか?と聞かれれば、一口で眠気は完全に吹き飛び、一缶で深夜労働さえ乗り越えられるという、明らかに違法だろうと思ってしまうレベルの代物だ。

 

しかし成分表示はしっかり合法であり、商品として通っている為、文句の付けようがない。と、コンビニの自動ドアが開き、開閉時のSEが鳴る。

 

「いらっしゃいませー」とだけ言い、アルバイトを続ける梓。と、此方に足音が近付いて、先程ライオットブラッドを入れた商品棚の前で足を止めた人物一人。

 

黒髪に整った美形の顔立ち、背は180に近い男の子で近くにある高校の制服を着ている。

 

「ちっす」

「いらっしゃい」

 

彼の名は『楽郎(らくろう)』。近くの高校に通っているらしく、時々来店してはスナック菓子や飲料を買っている。中でも特に彼のお気に入りなのが――――

 

「お、ライブラの新フレーバー出たんだ」

 

ライオットブラッド。まだ学生なのに、私生活大丈夫なのかと聞いてはみたいが、他者のプライバシーに関わる事ので、気になっても聞かないことにしている。

 

「好きだねぇ、ライブラ。俺も店長から一回飲んでみてって言ってくるんだけど」

「あ~…。滅茶苦茶キマリますよコレ、マジで最高」

「おぉ、そうなんだ……」

 

キマッた目で言ってくる彼が、少しだけ怖かったのは内緒。そして何時ものように買い物かごにライオットブラッドの缶を10本程入れて、レジへと歩いて行った。

 

「ありがとうございましたー」とレジを担当していた店員の声がして、開閉式の自動ドアが開き、彼は店を後にしていく。

 

「俺も頑張んなきゃな!」と再び集中し、梓もまたコンビニバイトに勤しむのだった。

 

 

 

 

 

 

翌日、梓は大学の講義を終えてバイト先のコンビニで飲み物とカロリーメイトを購入し、アパートへと帰還する。

 

「飲み物よし、カロリーメイトよし、トイレよし、水分補給よし。布団は敷いた、VR機材用意オーケー。準備万端、大丈夫」

 

周辺チェックと環境整備を整え、梓は2日振りのシャンフロにログインする用意を終える。

 

「ステータスの振り分けは頭に入れた。ログインしたらポイントを配分して、商店で素材の換金と『アレ』を購入。そして武器屋のおっちゃんに預けた武器を回収して、巌喰らいの蚯蚓にリベンジする…!」

 

頭に機材を装着、布団に寝転がった梓はシャンフロのペッパーとして、再び世界を開拓する者として飛び込んだのだった。

 

 

 

ログインし、ファステイアの宿屋の個室ベッドで目覚めたペッパーは、宿屋を出て自身のステータス画面を開く。

 

レベリングをしてからペッパーのレベルは12まで上がっており、ステータスポイントはレベルが3になってから1度も振り分けなかった事もあり、ポイントは45も残っている。

 

「さぁて、配分行いましょうか!」

 

自身の職業、バックパッカーの特性を加味しつつ、ペッパーはステータスを振り分けていき、最終的にこのようになった。

 

――――――――――――――――――

 

 

PN:ペッパー

 

レベル:12

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

体力 10 魔力 10

スタミナ 40

筋力 25 敏捷 35

器用 10 技量 20

耐久力 20 幸運 10

 

残りポイント 5

 

装備

左:無し 右:無し

頭:皮の帽子

胴:皮の服

腰:皮のベルト

脚:皮の靴

 

アクセサリー

 

・鎖帷子(耐久力+10)

 

1300マーニ

 

 

スキル

 

・スラッシュ

・刺突

・フラッシュカウンター

・ブームスロー

・スポットエッジ

・ステップワーク

・スイングストライク

・レイズインパクト

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「これでよしっと…」

 

ポイントを振り終え、ふぅ~とペッパーは息を吐く。今回彼は45あるポイントをスタミナと敏捷に15、技量に10振り分け、残り5ポイントを『万が一』に備えて残しておくことにした。

 

レベリングの最中、新しく覚えたスキルの『スイングストライク』と『レイズインパクト』は、対巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)の切札となる打撃系統のスキル。

 

此等のスキルを如何に使い、ヤツを倒すかが鍵となる。

 

ペッパーは其の後、ファステイアの道具屋でモンスターの素材を換金し、物資を購入。其の足で武器屋を訪れた。

 

「おっちゃん、こんにちわー」

「おぉ、あんちゃん。よく来たな!ホレ、武器は直し終わったぜ」

 

耐久回復を頼んでいた白鉄の短刀と致命の小鎚が手元に戻り、アイテムインベントリに仕舞うと、店主は彼に問い掛けてきた。

 

「あんちゃんよぉ、もしかしてヤツに挑むのか?」

「!……はい、其の為の準備もしてきました。今度は勝ちます」

「そうか…なら俺ァ止めねぇよ。野郎にブチ噛ましてきな!」

「はい!行ってきます!」

 

店主の激励を受け、ペッパーはファステイア坑道へと向けて歩みを始めた。

 

全ての準備は整え、戦う為の策も用意した。

 

巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)との一戦は、もう直ぐ其処に迫っている…………。

 

 

 




開拓者よ、己が死した過去を超えて往け


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汝、巌砕を成して過去を祓え(前編)



ガロックワームとのリベンジマッチ、始まります




ファステイアで全ての準備を整えたペッパーは、何度目になるファステイア坑道に辿り着いた。相変わらずのレベリングと金策で人気の此の場所の奥地に、倒すべきヤツが居る。

 

「行きますか」

 

坑道に入り、他プレイヤーの邪魔にならぬよう通り抜けつつ、一路奥地に続く道を歩く。道中の敵は極力戦闘を避け、衝突不可避なら白鉄の短剣で対処し、致命の小鎚の耐久値を温存していく。

 

そうして辿り着く、ファステイア坑道・奥地。普段なら此所で鉱脈に擬態し、巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)はプレイヤーを丸呑みにするのだが、今回は違った。

 

まるでペッパーが此所に来ることが『分かっていた』かのように、最初から姿を見せている。強者の余裕なのか、再び喰らってやろうと無数の足を波の如く動かし、此方を見下ろしている。

 

「よぉ、久しぶりだな………ムカデミミズ」

 

お互い言葉はいらなかった。此所から行われるのは、喰うか喰われるか。原初から続く、捕食者同士の生き残りを賭けた命の闘争だ。

 

「さぁ、リベンジマッチだ!!!!!」

 

 

 

 

 

坑道の奥地が大きく揺れ、砂埃と砂利がポップコーンのように弾けて踊る。幾重の歯と底無しの口内を顕にしながら、巌喰らいの蚯蚓はペッパーに迫った。

 

『ギュリアリラアアアアアアアアア!!!』

「いきなりフルスロットルってか!!」

 

対するペッパーは巌喰らいの蚯蚓の突進攻撃を回避し『全速力』で左側面に斜め移動を行う。大地を削る巨体が唸り、ペッパーの前を過ぎて。

 

しかし蚯蚓は其の巨体の流動を止めることは無く、突進からのUターンで、更なる突進へと繋げてきた。

 

「いっくぞ!!!」

 

そう言い放つペッパーは移動と併行して、アイテムインベントリから『あるもの』を取り出す。巌喰らいの蚯蚓は再び、丸呑み攻撃の為に突進してペッパーとの距離を詰めてくる。

 

「ステップワーク!」

 

ギリギリに近い状態に引き付け、移動補助スキルで回避するペッパー。そして回避だけでは終わらない。両手に握った其れを横に、まるでプロ野球選手の豪快なフルスイングで振り抜く。

 

「今ッ、スイングストライク!」

 

腰を入れた打撃スキルの使用。高速回転するベルトコンベアの様な蚯蚓の岩肌に、其の一撃を叩き込む。鉄と巌が激突し合い、激しい火花が弾けて散り。

 

『ギュラアアアアアアア!?』

 

巌喰らいの蚯蚓が今までにない悲鳴を上げた。身に纏う鉱物を含んだ岩の鎧が『削られ』、『飛び散り』、擬態で使う鉱脈は裂き傷のように『開かれていた』。

 

「へっ、どーだい!人が産み出した、採掘技術の結晶の味は!」

 

してやったり!と獰猛な笑みのペッパー。彼の手に握られていたのは、対巌喰らいの蚯蚓の秘策の1つにして、打撃武器の枯渇を補う物。

 

人類が鉱山に置いて、人力で鉱脈を掘る為に作り上げた発明品━━━━━━━『ツルハシ』であった。

 

 

 

 

 

 

鉱山という物は、時折『人体』に例えられる事がある。

 

山に茂る木々を毛として。

 

山の斜面を肌として。

 

内部の地層を筋肉として。

 

そして鉱脈を血管に、鉱物源を臓器として。

 

巌喰らいの蚯蚓は、鉱脈を『囮として』採掘者達を喰らう。自らの弱点を如実に晒すことで、自分という存在を敵の思考から『隠す』。

 

手品師が用いる『ミスディレクション』とも呼ばれる其れは、鉱物喰いの大蚯蚓が過酷な生存競争で生き残るべく、習得した『武器』だ。

 

しかし其の武器が対策されよう物なら、立ち所に強点はより明確な弱点へと変わり果てる。

 

「結構効いただろ、ツルハシの1発。岩のベルトコンベアみたいな所に、鉄がぶつけられたんだ。そりゃ鉱脈が削られて、傷を負う摂理が待ってる」

 

ダイヤモンドを加工するならばダイヤモンドを、鉱脈を削るならツルハシを。簡単な事であるが故に、意外に気付かない。まさに灯台もと暗しである。

 

(ただ、此の方法には問題がある……!)

 

ペッパーは注意を蚯蚓に当てながらも、自身が握るツルハシを見た。先程のアクションで振るったツルハシの耐久値が1度の攻撃で7割弱まで減らされ、警告を報せる表示画面がアップされていたのである。

 

(ツルハシは所持限界の5本のみ。…つまり其れを使い切ったら、作戦をシフトしないといけない!)

 

勝機が在るとすれば、致命の小鎚に内封された『頭部攻撃時にクリティカル補正の上昇』と『クリティカル成功時のダメージ補正が入る』の2つの能力。

 

つまりペッパーにとって、巌喰らいの蚯蚓に勝利する条件に『5本のツルハシが持つ間にヤツの頭部を覆う岩鎧を砕き、無防備な箇所に致命の小鎚を叩き込む』。もしくは、『体の削った箇所に出来た肉体露出部位に、斬撃武器を斬り付けまくる事』が追加された。

 

「……この皮膚がヒリ付く感覚、久しぶりだ」

 

昔に遊んだRPGの真ラスボス、回復アイテムの持ち込み制限が掛けられた中での戦闘を、ペッパーは思い出す。

 

1度でも回復配分をミスれば、即GAMEOVERに繋がる程の相手に全神経を集中させ、一手一手の選択のプレッシャーとの戦いをした、あの日の緊迫感が脳に伝わる電気信号を、より鋭敏に感じさせた。

 

『ギュララララァアアアアアア!!!』

「殺るってか!?此方は元からお前へのリベンジに来たんだからな!!!」

 

怒りの咆哮に晒されても、ペッパーは怯まない。今日此所でヤツに引導を渡すと決めている。

突進を回避し『左右のステップ』を踏みながら、ツルハシを振り上げ、岩鎧の表皮を叩き割る。

身体を捻り、尾と胴での凪払いが襲い掛かれば、其の身を『跳躍して』飛び乗り、ツルハシで一撃を入れて直ぐに退避。

巨胴の踏み潰しには、ツルハシを用いたフラッシュカウンターで弾き、其の隙に頭部を『連続で』何度も砕く。

 

一撃の被弾が命取りとなる戦いは、彼の精神力を少しずつ削ぎ、更に追い討ちを掛けるかのように、覚悟していた事態が着々と迫りつつあった。

 

「くっ…思った以上に消耗が激しい!」

 

着実に、確実に、巌喰らいの蚯蚓の身体を守る鎧は砕かれ、肉体露出は多くなった。だが戦いが続く中でツルハシが1本、また1本と犠牲になり、ペッパーの状況が徐々に不利に変わっていく。

 

「諦めるな…!例え残り1本が無くなっても、最後までやりきってから後悔しろ!!!!」

 

弱気になりそうな己の心を言葉で鼓舞し、突進攻撃を掛ける大蚯蚓の、僅かに上がった顎にツルハシの一撃を叩き込んだ。

 

耐久限界を迎えたツルハシは、ポリゴンと化してペッパーの手より消滅し。巌喰らいの蚯蚓は衝撃に仰け反り、其の顎を護っていた岩鎧が遂に砕け散る。

 

「ッしぃ!やって━━━!」

 

直後、ゲームの中で培った感覚が回避の警告を発し、直ぐにステップワークでペッパーは距離を取る。其の数秒後。

 

『ギュリアラアリァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!』

 

頭付近の鎧を砕かれ、身体中を傷付けられ続けてきた大蚯蚓は、まるで発狂したかのように怒り狂い、咆哮と共に其の巨体を坑道奥地の天井と地面に対し、力一杯交互に叩き出し始めたのだ。

 

「うわわわ!?何だ、発狂か!?」

 

ボス特有の第二形態に突入したのかと身構えるが、彼の視覚の見える位置に表示されたのは『10:00』というタイマー。同時にカウントはスタートし、1秒ずつ時間が失われていく。

 

「まさか…制限時間で倒せなきゃ、ヤバい?」

 

此所に来て追加される更なる『縛り』。10分で大蚯蚓を倒せなかった場合、何が起きるかは解らないが、ある程度の予測は出来る。

 

(おそらく…いや十中八九『強制敗北』になるだろう)

 

ゲームの中にはボスとの戦いに時間制限が設けられている時がある。其の時間に倒せなかったのなら、ヒロインや友達が死亡したり、GAMEOVERに直結していたりと、プレイヤーの心理に焦りを与える要素だ。

 

「へへっ、良いね。最高じゃん。10分でケリを付けてやるよ、ムカデミミズ!」

 

そう言ったペッパーは、アイテムインベントリから武器を取り出した。ファステイア近辺のレベリングの最中、戦闘したヴォーパルバニーがドロップした其れは、赤黒の刀身と刃が煌めく包丁。

 

致命(ヴォーパル)の名を冠し、致命の小鎚(ヴォーパル.レッジ)と双璧を成す希少斬撃武器、致命の包丁(ヴォーパル.チョッパー)だった。

 

 




残り10分で勝負を決めろ



巌喰らいの蚯蚓は『特殊クエスト:岩砕きの秘策』を受注後、『レベル10以上で再戦し』かつ『1度もダメージを受けずに、ツルハシを用いた頭部もしくは顎の岩鎧の破壊』の条件を満たしていた場合のみ、発狂状態と制限時間超過による強制敗北イベントが追加される。

発狂状態は1度以上、巌喰らいの蚯蚓との戦闘によって死亡しており、かつ特殊クエスト受注後の戦闘で巌喰らいの蚯蚓から1度もダメージを受けていない場合に移行。防御力が急激に低下しスタミナも大きく消耗するが、攻撃力が尋常な迄に高まり、並大抵の防御は繰り出す前に潰されるので通用しない。

また10分という制限時間で発狂状態の巌喰らいの蚯蚓を倒せなかった場合、ファステイア坑道・奥地及びファステイア坑道の全域が崩落し、其のフィールド内に留まっていたプレイヤーは装備の有無に関係無く、窒息による即死判定が適応され、崩落後から2週間立ち入る事が不可能となる。


つまるところ、10分で倒せなかったら崩落させた責任を他のプレイヤーに追及されるから頑張れって事ですね


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汝、巌砕を成して過去を祓え(後編)



ガロックワームとの一戦、其の結末


ペッパーがファステイア坑道・奥地にて、巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)を発狂状態に陥れた時と、ほぼ同時刻。

 

坑道内は未だ嘗てない大混乱の渦中に在った。

 

「なんだこのタイマーは!?」

「俺が知るかよ!?」

「坑道は揺れてるし、なんか壊れそう…!」

「とにかく、外に出た方が良いんじゃないの!?」

 

坑道内に居たプレイヤー達は、突如表示されてカウントダウンを開始したタイマーに、未曾有の危機感を覚え、我先にと坑道の外へと走って脱出を図る。

 

刻一刻と時が過ぎ、崩落の足音が迫り、巻き込まれれば即死であると、プレイヤー達は知る由もない。

 

そして唯一人、其の危険と今尚隣り合わせの中で、退けぬ戦いを続けるプレイヤーが居た…………。

 

 

 

 

 

 

 

他のプレイヤー達が崩落の危険から逃れる為、続々と外へ脱出していく中、其の原因を生み出したペッパーは、怒りの雄叫びを上げながら、巨体を震わせ暴れ狂う巌喰らいの蚯蚓に、アイテムインベントリから致命の包丁(ヴォーパル.チョッパー)を取り出して、対峙し続けていた。

 

(致命の包丁…急所への攻撃時に、クリティカル補正が入る武器。今、ムカデミミズの顎は無防備……其処が狙い目になる!!!)

 

タイムリミットが迫り、1分1秒さえ惜しい状況であるペッパーだが、怒り狂い、暴れ回る、発狂状態の巌喰らいの蚯蚓の繰り出す、巨体の叩き付けに突進攻撃、丸呑みとシンプルながら岩鎧を纏っていた時以上の攻撃力で繰り出される技の対処に追われて、手が付けられぬ状況にあった。

 

(くっそ!ただでさえ此方は被弾1発即死亡だってのに、どうやって攻めたら…!)

 

攻め手を欠き、1分また1分と過ぎ去り、敗北の時間がペッパーの背中を圧している。このままではラチが開かない。残り時間5分を切った所で、彼は『覚悟』を決める。

 

「来やがれや!ムカデミミズ!」

 

巌喰らいの蚯蚓を挑発し、真っ直ぐ前に姿勢を低く、巨体に突っ込んだ。振り上げられる大蚯蚓の巨駆が、罪人に裁きを下す鉄槌のように、岩を砕いて磨り潰す、大蚯蚓の大顎がペッパーへと迫る。

 

(まだ…!まだだ!もっと引き付けろ!)

 

脳裏に思い浮かべるは、一時期流行ったレトロゲームの土竜叩き。ただし土竜役を叩くのは『特殊な思考』を積んだAIエンジンで、土竜役は『プレイヤー』が操作する。

 

問題だったのは其のゲームに置ける、最上級クラスの難易度:神で、曰く『1度でも叩かれなければ超人レベル』と謂わしめた程に、プレイヤーの深層心理を読み切ったかのような超速挙動を行ってくる為、全攻撃を避けきる事は理論上『不可能』。

 

梓自身も其のゲームを遊んだのだが、あまりの難易度に此迄楽しくプレイ出来ていたゲーム『そのもの』が出来なくなる程のトラウマを植え付けられ、1週間は燃え尽きたかのように外の景色を眺め、ゲームをプレイする事を『拒絶』してしまったのだ。

 

(超速トラウマ土竜叩きに比べたら!お前の動きの方がまだ生易しい方だよ!!!)

 

あの日のトラウマは、今も記憶に残り続けている。あのゲームを今でも時々、思い出したかのようにプレイする。経験とは掛け替えのない財産━━━━超速の攻撃の経験が、敗北として自分の中に生きていた。

 

迫る巨体と自身の身体、接する其の僅か数瞬。ペッパーはギリギリまで引き付けてからのステップワークで補強した、連続ステップで巌喰らいの蚯蚓の真横に移動する。

 

彼の目の前には、ツルハシで岩鎧が砕かれ、露出した顎の肉。其処が、其処こそが、勝利を獲る為の一撃を産み出す『震源地』だった。

 

「食らえ、ムカデミミズ!スポットエッジ!」

 

ペッパーは其の瞬間を、制限時間が迫る中で、自ら動いて、戦局を変えた。

 

右手に握る致命の包丁の一突。岩鎧が砕けて、肉体が露出した顎へ、斬撃系スキルにして頭部への攻撃にダメージ補正が乗るスポットエッジが、一度は己を呑み込み喰らった口内にまで到達するかの様に、深々と突き刺さる。

 

『ギュアアアリァラアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?!?』

 

致命の包丁の持つクリティカル補正強化が、スポットエッジのダメージ補正上昇を補強し、猛攻の為に防御を捨てた巌喰らいの蚯蚓の肉体に刺さり、青黒いポリゴンがスプリンクラーの様に放出する。

 

『ギリュア……リリアァァァ…!アァアアアァアアァアアアアアアアアアァアアアァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』

 

「次の一撃が最後だ…!決着を付けるぞ、ムカデミミズ!」

 

タイマーの残り時間が2分を切り、下がるペッパーを前にして、巌喰らいの蚯蚓は残された全ての力を振り絞るかのように、最後の抵抗を見せる。

 

坑道の地面を、壁を無数の歯で削りながら、ペッパーを呑み込まんと、此迄の比較にならない、最初に刃を交えた時の5倍の範囲に匹敵する、丸呑み攻撃を行いながら、突進攻撃を行ったのだ。

 

「マジか…!まだ、こんだけの力が有るか!お前は!!」

 

ペッパーは敵の見せた其の切札に、心の底から敬意を表しながらも、全力全開の全速力で範囲外へとダッシュする。

 

鉱脈を喰らい纏う大蚯蚓が、捕食者としてペッパーを呑み込むか。

 

小さき身で大蚯蚓への復讐を、此の手で果たさんとするペッパーの意志か。

 

砂埃が吹き上がり、ファステイア坑道・奥地の壁に激突し、大きな衝撃が迸る。

 

砂埃が舞う中、巌喰らいの蚯蚓が壁で押し潰し、呑み込んだであろうペッパーの感触を腹の中で味わおうと、其の胴を流動させるが、其処に彼の、人間特有の感触は一切感じない。

 

「ムカデミミズ――――――チェックメイトだ」

 

広げた口の僅か外、ペッパーの声が大蚯蚓には聞こえた。だが感知した時には、全てが手遅れで。

 

彼の手には、致命の小鎚が握られて。其の目が捉えた先には、突き刺さった致命の包丁が在った。

 

「レイズ━━━━━ッ!!!インパクトォォォォォォォ!!!!」

 

己を喰らった大蚯蚓へ贈る、復讐の一鐵。

 

残り時間1分弱。全てを賭けた小鎚の一撃が、ファステイア坑道に甲高く響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打撃スキル:レイズインパクト。此のスキルの特徴は、破壊部位に対するダメージ補正の増加という、単純明快な攻撃スキルだ。

 

シャングリラ・フロンティアでの戦闘では、ダメージの蓄積による耐久値の限界を迎えた部位、及び装備に『破壊判定』が働き、肉質が変化したり武器が破壊されるシステムが存在する。

 

スポットエッジにより、致命の包丁が突き刺さった場所には、現在も破壊判定が刻まれ、明確な弱点となっていた。ペッパーは其処を、頭部攻撃時にクリティカル補正が入り、かつクリティカル成功時のダメージ補正が入る、致命の小鎚で狙い、全力でブッ叩いた。

 

本来クリティカルとは、幸運値と器用が高い程に発生率が上がるのだが、ペッパーの幸運値と器用は初期値のまま。しかし、其処に致命の名を冠す2つの武器が在るならば、話はガラリと変わる。

 

斬撃と打撃。相違の属性を宿す2つの武器の、弱点への攻撃に共通する特性の相乗。自らの防御を支える鎧を捨て、攻撃に振り切った巌喰らいの蚯蚓の顎に、文字通り『致命の一撃』と成って――――貫く。

 

刃の切っ先は顎の肉を裂き、口内を飛んで大蚯蚓の脳下部に突き刺さり、衝撃は顎を伝って擬態を実行する知性が宿る脳を揺らした。

 

『ギュ…ギャアァァ………!!!』

 

口から砂混じりの青黒い血を泡立て吹き出しながらも、大蚯蚓は小鎚を振り抜き、其の赤黒い鉄面を向けるペッパーに視界を下ろしていた。

 

ペッパーは戦いを繰り広げた強敵の名を刻み、忘れぬように大蚯蚓に向けて言う。

 

巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)――荒れ狂う巨体、頑強な鎧、そして敵を欺く確かな知性。

 

お前は強かった。

 

だが、今日は……俺の勝ちだ」

 

暫しの間、其の身を伸ばし、ペッパーを見下ろしていた巌喰らいの蚯蚓だったが、遂には巨体を支える力は尽き果てて、ファステイア坑道・奥地の地に伏した。

 

タイマーは残り13秒で時が止まり、其の巨体はポリゴンへと変わりながら崩れ始める。

 

残された岩鎧は亀裂が走り、無数の脚は一つ一つが割れ落ち、30mに渡る胴体はあちこちが虫食いのようにポリゴンの崩壊で穴が空き、ペッパーの目の前で完全に消えて。

 

巨体が横たわって消えた場所には、幾つかの鉱石系アイテムと、巌喰らいの蚯蚓の素材がドロップし、頭が在った場所には、レイズインパクトで打ち噛まして、脳に刺さっていた致命の包丁が、静かに落ちて地面に刺さっているだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『巌喰らいの蚯蚓は砕かれ、地に伏した』

『荒れ狂う衝動は沈み、崩落は防がれた』

『始まりの街の坑道に、静かな安らぎが訪れた』

『称号【巌砕を成す者】を獲得しました』

『称号【坑道の安寧者】を獲得しました』

『称号【ガロックリベンジャー】を獲得しました』

『特殊クエスト:岩砕きの秘策が進行しました』

 

 

 

 




此れにて、復讐完了(リベンジコンプリート)


称号【巌砕を成す者】:巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)単身(ソロ)で挑み、其の身を護る岩肌を打撃系統のアクションのみで砕いた者に送られる栄誉。

汝、巌砕を成し得た者也


称号【坑道の安寧者】:巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)を『特殊クエスト:岩砕きの秘策』を受注した状態で、発狂状態に移行後の制限時間以内で討伐する事で送られる栄誉。

暴れし狂いし巌を砕くは、鋼の如き己の魂

また、特殊クエストを受注していない状態で、巌喰らいの蚯蚓を討伐した場合は、称号【坑道の平定者】となる。


称号【ガロックリベンジャー】:巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)との戦闘で1度以上死亡した状態で『特殊クエスト:岩砕きの秘策』を受注し、致命の小鎚(ヴォーパル.レッジ)を所持もしくは装備した状態で、巌喰らいの蚯蚓を討伐する事で送られる栄誉。

お前は己の、死せし過去を打破した




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衝動は消えず、クエストは終わらない



巌喰らいの蚯蚓のリベンジマッチの後先




巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)との再戦を制し、強敵の最後を看取ったペッパーは、直後のレベルアップのSEで此所までの緊張が解れ、大の字に寝転ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁ………疲れたぁ~」

 

策を講じ、実力を高め、全力で戦い、勝利を勝ち得た。暫く呼吸を調えてからステータス画面を開くと、レベルは3つ上がり、新しく獲得したスキルや進化したスキルが複数有る。

 

「スキルは……休憩挟んでから確認しよう。先ずは巌喰らいの蚯蚓の素材を回収して、ファステイアに帰ったら武器屋のおっちゃんにも報告しないとな……」

 

ゲームを開始してから1時間も経過していないが、まるで10時間休まずにプレイし続けたような、倦怠感と睡魔に襲われる。

 

そんな身体を起こし、ペッパーは致命の包丁と大蚯蚓の素材を回収。ゆっくりと歩き出し、奥地を出て坑道を入口に向けて進んで脱出すると、入口付近には他のプレイヤー達が居り、此方に気付いて視線を向けてくる。

 

何か言われたり、質問されたりしたが、其の時のペッパーは答える気にはなれず、一路ファステイアの街へ走り去っていったのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

ファステイアの宿屋でセーブとログアウトを行い、梓は頭にセットしたVR機材を外し、枕元に移動させる。

 

「勝てたんだな…俺…………」

 

シャングリラ・フロンティアをプレイした初日に、巌喰らいの蚯蚓に敗北を喫し、其れを切欠に始まった特殊クエスト。

 

準備と策を講じ、畝る頑強な巨体に鉄を打ち立て、制限時間が差し迫る中で、2つの致命武器で仕留め、リベンジを果たした。

 

「………此の先、アイツより強い奴に出逢うんだろうな」

 

ファステイアより先の世界には、巌喰らいの蚯蚓よりも強く、そして凶悪な攻撃を行うモンスター達が幾つかの居るらしい。

 

きっと其れ等と戦う内に、最初の頃に戦ったモンスターの事は忘れてしまうだろう。

 

「忘れねぇよ、ムカデミミズ。シャンフロで最初に俺を殺した、お前の事はよ………」

 

右手を拳に変えて、胸に当てた梓は、重くなった瞳を閉じ、眠りに付く。休憩も兼ねた睡眠は、3時間の時が過ぎ、再び目が覚めた時には既に夕方になっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

仮眠とトイレ、水分補給とカロリーメイトで栄養補給を終えた梓は、再びシャンフロにログインし、1プレイヤー・ペッパーとして活動を再開する。

 

「さぁ、おっちゃんに報告だ!」

 

現実の時間と同じように時が進んでいるシャングリラ・フロンティアでは、ファステイアの街も夕暮れ時となっていて主要施設には灯りが点き、一部NPCの家は扉に鍵が掛かって、侵入出来なくなっている。

 

ペッパーは夕陽の光で橙色に染まりゆく空の下、一路ファステイアの武器屋へ向かい、扉を開いた。

 

「おっちゃん、居るか」

「おぉ、あんちゃん!帰ってくるのが随分長かったから、ちょいと心配しちまったぜ!」

「すいません、御心配を御掛けしました」

 

心配していたらしく、迷惑を掛けてしまったなとペッパーは頭を下げた。

 

「………奴には勝てたかい」

「はい。滅茶苦茶強かったですが、何とか勝つことが出来ました」

 

そう言いつつ、証拠としてアイテムインベントリに収納していた巌喰らいの蚯蚓のドロップアイテムを引き出し、カウンターに乗せる。

 

すると、其れを見た店主は何かを決心した顔付きで、ペッパーに言った。

 

「あんちゃん………もしアンタで良けりゃあ、俺にコイツの素材を預けちゃあくれねぇか?」

「………其の心は」

「前に修理で預けてた致命の小鎚を見て、新しい『武器』のイメージと加工する工程は、もう出来てるんだ。其の武器を完成させるにゃあ、巌喰らいの蚯蚓の素材がいる。

無論、無理強いはしねぇ。あんちゃんが大蚯蚓を仕留めたんだ、どう扱うかは任せる」

 

まるで一世一代の大仕事に挑まんとする、鍛冶師の情熱を燃やす熱い瞳が其処に有り。ペッパーも此所で退いたら、男が泣くと考えた。

 

「新しい武器の誕生…凄くワクワクします。武器の耐久値の回復と平行になってしまいますが、お願い出来ますか?」

「!あぁ、ありがとよ…!暫くしたら、また来てくれや!そんときにゃあ武器全部の回復と、最高の武器が仕上がってるからな!楽しみにしてろよ!」

「よろしくお願いします!」

 

巌喰らいの蚯蚓の素材と致命の武器2つを武器屋の店主に預け、ペッパーは店を出て、入口付近で新しく獲得並びに進化したスキルを確認する。

 

「レベルが付いてるのは『剛擊』『アクセル』『ラッシュ』『見切り』『ハイプレス』の5つと、新しいのは跳躍力を高める『一艘飛び』に、回避行動へ補正を掛ける『タップステップ』、そしてスタミナの消費で攻撃速度を上げる『ブートアタック』。

 

進化したスキルは、スポットエッジが『スピックエッジ』になったくらいか…技量を上げたからか、覚えたスキルも多いな」

 

シャンフロでは、戦闘経験の『積み重ね』とスキルに対する『理解』が、新スキルの習得と既存スキルの進化には欠かせない。一戦一戦を如何に戦い、スキルを使って戦況を優位に進めるか、プレイヤー各自の采配が求められる。

 

「レベルが上がるスキルは何れ、特技剪定所(スキルガーデナー)で合体特技を作りたいし、副業(サブジョブ)も何にするか決めないとだなぁ……。

 

出来る事が増えていくと、相対的にやらなきゃならない事も増える……」

 

嬉しくも向き合わなければならない事実を感じながら、ペッパーは続いて3レベルアップにより得た、残しているポイントと合わせ、20ポイントの振り分けを考える事にした。

 

「巌喰らいの蚯蚓は倒した。バックパッカーとしての責務を果たせるように、筋力3の敏捷8に、スタミナに5ポイント入れて、残りは6………。

 

此のポイントは、必要な時に振れるように残しておこうか」

 

そうしてステータスにポイントを振り分け、暫し夕闇に染まる空を見上げ、此の先はどうするかと黄昏ていると、武器屋の扉が開き、店主が顔を出してペッパーを呼んだ。

 

着いて行ってみると、カウンターの上には耐久値が完全に回復した、致命の包丁と致命の小鎚、更に青黒の脈筋が網のように張り巡り、両方の鉄面部には巌喰らいの蚯蚓の口を彷彿とさせる、円状に配置された黒刺が光る小鎚が1本。

 

其の横には、小鎚のマークが刻まれた一冊の本が置かれており、本その物は分厚くは無いものの、凄まじいオーラを纏っていた。

 

「これが…!」

「応ともッッッ!コイツはあんちゃんが狩った、巌喰らいの蚯蚓の素材をふんだんに使用した、俺の鍛冶生涯最高の逸品、ロックオンブレイカー。

 

其処の本は、ロックオンブレイカーの製造秘伝書。此迄の俺自身が完成に至るまでの道程を示した物だが、既に1つ予備を書き記したから、コイツはあんちゃんに渡すぜ!」

 

ガッハッハッハ!と高らかで上機嫌な笑い声を上げる店主。其の顔は人生最大の大仕事をやりきった職人の顔であり、ペッパーは悔いの無い選択が出来たなと嬉しくなった。

 

「さてさて、武器と此の本には一体どんな性能━━━ブッフェ?!」

 

アイテムインベントリに収納された、大蚯蚓の素材を使って作り上げられた小鎚と、小鎚のマークを表紙に刻む本の説明文を読んだペッパーだったが、其の内容で思いっきり吹き出してしまう。

 

「お、おい大丈夫か!あんちゃん!?」

「あ、いえ…大丈夫です……」

 

あまりの衝撃で一瞬、目眩が生じてしまったペッパー。だがしかし、そんな事は今現在どうでも良い。其れは些細な差異でしかない。

 

問題なのは………『小鎚』と『本』の内封した能力と内容だった。

 

 

 

ロックオンブレイカー(ユニーク武器):致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)より着想を経て、巌喰らいの蚯蚓の素材をふんだんに使用した小鎚。類い稀なる掘削能力を秘めるが、其の力は未だ解放には程遠い。

素材となった大蚯蚓が鉱物を求めるように、此の武器もまた、未だ見ぬ鉱物資源を求めている。

 

戦闘時、自身に最も近い敵に対するダメージ上昇に補正が入る。

 

此の武器で鉱物アイテムを砕いた場合、其の希少度合によって耐久値を回復する。

 

 

 

ロックオンブレイカーの製造秘伝書:ユニーク武器・ロックオンブレイカーの生産に必要となるレシピ。武器屋で鍛冶師に見せる事で、素材を用意すれば生産可能となる。

 

此のアイテムはアイテムインベントリには含まれず、他者によるPKをされても、プレイヤーの手元を離れない。破棄不可能。

 

 

 

マジでヤバい。其の一言に尽きる代物が2つも、己の手の中に在る。

 

先ずロックオンブレイカーは最前線を張れ、クリティカルを叩き出せるプレイヤーに持たせるだけでも凶悪なのに、何をトチ狂ったか耐久値回復等と言う鍛冶師泣かせのヤバい能力が備わっている。

 

シャンフロにおける武器装備の耐久値限界で破壊・消滅問題を『鉱物アイテムを叩き割って回復し、半永久的に機能させれば何も問題ないじゃない』と言う、脳筋ゴリ押し回答で克服した、身の毛も弥立つヤバい武器だ。

 

そして其れを生産する秘伝書と銘打ったレシピもまた、危険な匂いと頭を抱える爆弾的要素しか書いていない。内容を纏めるとアイテムインベントリを圧迫せず、他者に殺されても盗まれる心配が無い、ユニークウェポンの生産・独占が可能な、破棄不可能の呪いの書物。

 

最早此等は、最初の街(ファステイア)で手に入れる装備のレベルではない。ゲームで言うなら最終盤の最後の街で高額叩いて漸く買える、最強クラスの武器と同じ扱い。使い方を何処か一つでも間違えよう物なら、確実に戦争が起きる。

 

「……………武器の横にユニークって四文字付くだけで、此所まで印象が変わるとはなぁ………」

 

おそらく、特殊クエスト:【岩砕きの秘策】は『本来なら』此の武器・ロックオンブレイカーを作るためのクエストで、致命の小鎚を見せた後に耐久値回復の為に預けるか否かで分岐が発生。

 

巌喰らいの蚯蚓を討伐して報告した時に、素材を渡す事により、ロックオンブレイカー単品の入手or秘伝書付きでの入手かの、2つのエンディングに分かれる……と言うものなのだろう。

 

「いやぁ、あんちゃんのお陰でスゲェ武器を作る事が出来た!コイツは他の鍛冶師にも伝えた甲斐があったってなぁ!ハッハッハッハ!!!」

「えっ?…伝えたって――――」

 

そんな折、武器屋の店主がテンション高めに、さらっと『とんでもない事』を言った。其の事を問い掛けようとしたペッパーの前に、更なる事実が含まれたリザルト画面が表示され、彼を混乱へと導く事になる。

 

 

 

『始まりの街の鍛冶師は新たな武器を生み出した』

『産まれた技術がフロンティア中に広まった』

『特殊クエスト:【岩砕きの秘策】をクリアしました』

『武器カテゴリー【小鎚】が追加されました』

『シャングリラ・フロンティアの各街の武器屋で、武器カテゴリー【小鎚】がアンロックされました』

『特殊クエスト:【沼地に轟く覇音の一計】を受注しますか?』

『YES』or『NO』

 

 

 

(あっるぇ?ただでさえヤバい物貰ったのに、更に何か色々ヤバい事起きたし、此の手のクエストって1回コッキリじゃないですの?おかしくないですか?????)

 

 

 

 

世界は未だ動かない。

 

されど人が産み出す技術と知恵は、強者に挑む者達に更なる進化を与えた。

 

新たなる風はファステイアより放ち、世界各所へ伝わり往く――――――

 

 

 

 




此れにて一件落着━━━すると思っていたのか?(ゲス顔)


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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~世界の開拓者達~



此れは、シャンフロを遊ぶ者達の視点のお話




此所は沼渡りに備える街 セカンディル。台地の大都市サードレマの前に在る、豊かな栄養と鉱物資源に満ちる四苦八苦の沼荒野が広がる小さな街だ。

 

「うーん…どうしようか」

 

とある男性プレイヤーは悩んでいた。彼は今、セカンディルからサードレマに向かう道を阻む『エリアボス』を倒すための準備をしている。

 

「あのボス、まさかあんな『アクション』してくるなんて……初見だったとはいえ、情報を集めるべきだったかぁ」

 

エリアボスとの戦いの最中に武器が壊れてしまい、最終的にエリアボスの『アクション』で敗北した彼は、再び挑むために新しい武器を欲していた。

 

「また片手剣を購入するしか無いかぁ……」

 

シャンフロの武器耐久値システムの厄介さを味わった彼は、ウジウジしていても仕方無いとセカンディルの武器屋に訪れた。

 

「おっさん、新しい武器とか無いか?」

「新しい武器だぁ?そんなら作る………いや、ちょっと待ちな」

 

1度訪れた時と店主の台詞が変化しており、男性は何かフラグが立ったのかと身構える。

 

「…丁度良かった、新しい武器が有るが見ていくかい?」

 

そう言って表示されたのは、武器カテゴリーに小鎚というワードが追加されたバージョンであり、項目をタッチすると、幾つかの種類の小鎚が提示される。

 

「小鎚…見た感じ、二刀流にも対応する打撃武器…って感じかな?」

「おう。斬擊が効かない相手に対して有効だったり、使い方によっちゃツルハシを使うよりも、効率的に採掘が出来るみてぇでな」

「へぇ………じゃあ此の鉄小鎚を2つ頼める?」

 

「わかった」と店主が一言、そして数秒後、彼のアイテムインベントリには『鉄小鎚』が納められていた。

 

「ありがとう、おっさん」

「おう。あぁ後な、四駆八駆の沼荒野で採れる鉱石を持ってくりゃ、もっと良い武器を作ってやっても良いぞ」

「お、マジ?やった!」

 

更に強い武器が手に入る。新しい希望を得て、彼はウッキウキで店を出る。

 

(何だか分からないけど、とにかく新しい武器はゲットだ!………取り敢えず、明日から沼荒野で採掘しよう)

 

エリアボスに勝ち、先の街へと行くために男性プレイヤーの戦いは続く………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水晶工芸の街 エイドルト。水晶巣窟の近くで採れる良質な水晶を元に、加工技術が発展した此の街は、夜になると灯された街灯が水晶の輝きに反射され、昼よりもずっと明るく、しかし万華鏡ように美しい不夜の街へと変わる場所だ。

 

「…………」

 

夕暮れ時となり街灯があちこちで灯り、街が明るくなる中で、武器屋の前に立つ桃色の髪をツインテールに束ね、左右に3つずつの計6つの桜色のリボンで各々を結び、赤のラインを通すワンピース型の衣裳を纏う少女が1人、あるカテゴリーを眺めて目を細めている。

 

「調査班の言っていた通り……ほんの数分前まで、武器のラインナップには『小鎚』の表記は存在していなかった(・・・・・・・・・)

 

見た目は幼い幼女でありながら、其の声は滅茶苦茶渋い老年男性の其れである。初めて彼女(?)の声を聞いたのならば、思わず口が止まってしまうだろう。

 

「やはり以前に起きた、小鎚持ちのヴォーパルバニーが此の異変の始まり。モンスターの生態系は愚か、シャングリラ・フロンティアの情景にさえも影響を与える、特別なクエスト……実に興味深い」

 

世界を拓く開拓者のゲーム、シャングリラ・フロンティア。其の広い世界を考察し、他のプレイヤー達に発信するクラン『ライブラリ』。其のリーダーを務める『キョージュ』は、未だ自分達の知らぬ未知との出逢いに想いを馳せる。

 

「情報が出回れば、何れ其の者にも辿り着けるだろう……。考察をしながら、時を待つのも一興……か」

 

そうしている時、自分のメッセージに新しい情報が入る。其れを見ながらキョージュは、クランメンバーとの考察の時間を楽しみとし、自身のクランへと足を運んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門出の港街 フィフティシア。

 

シャングリラ・フロンティアをプレイする開拓者達が、始まりの街・ファステイアより旅立ち、様々なエリアを街を踏破した末に辿り着く、最後の街である。

 

帆船による交易が盛んに行われ、港街として発展した此所は、現状最終地点の街というだけあり武器や防具、装備品にアイテムと其の何れもがRPGで言う処の、最強クラスの品々が揃う。

 

「………………」

「え、えっと……お客、様………?」

 

フィフティシアの一角、裏路地に在る特殊な武器屋。其の店の店主に対して『剣の切っ先』を向けながら、彼女は武器のレパートリーを見ている。

 

彼女のプレイヤーネームの横には、赤黒い『ドクロ』のマークが在った。

 

「ねぇ、店主さん」

「ひぃぃ!?な、なんでございやしょう!?」

「此の『小鎚』って言う武器だけどさ、昨日までは此所には無かったよね?何かあったの?」

 

喉笛に当たるか否かのギリギリまで刃先を寄せ、まるで『天女』に似た笑顔で脅すと、店主はあっさりと白状した。

 

「つ、ついさっきの話になるんだ…!ファステイアの街の鍛冶師がスゲェ武器を作ったって、『伝書鳥(メールバード)』で各地の鍛冶師に言い触らして来てよ…!!

最初は嘘っぱちだと思ったんだ…だが実際に其の技術で作ってみたら、ちゃんと武器として機能した…!

だから俺も負けじと作って…!だから頼む、殺さないでくれ!!!」

 

命乞いをする店主を見て、彼女はニッコリと微笑みながら言った。

 

「貴重な情報ありがと♪御礼と言ったら何だけど、此の一番高い小鎚を買わせてね?モチロン『無料(タダ)』で♪」

「は、はいいいいい!う、売らせていただきやす!」

 

指定額を踏み倒す形で小鎚を入手し、彼女は剣を納めて店を跡にする。

 

「新武器実装…リアルタイムアップデートじゃないとなれば、何かしら『ユニーク』絡みと見て間違いないかも」

 

夕闇が降り、街には灯りが充ち初め、裏路地は暗闇に包まれていく。

 

「ふふふ……夜が開けたら、ちょっとファステイアまで遠出してみようかな」

 

そう言い、彼女はラベンダーのような紫の髪を揺らし、フィフティシアの街の闇へと消える。

 

最上位の廃人プレイヤーとの戦いを何よりの生き甲斐とし。此迄に数多の敵NPCや自身を狙うプレイヤーを幾千と返り討ちにした、最強クラスのプレイヤーキラー。

 

廃人狩り(ジャイアントキリング)の異名で畏れられる女性プレイヤー、『アーサー・ペンシルゴン』は静かに微笑んでいたのだった。

 

 

 




情景を変えた者を探せ、追われる身となったとしても


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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~観測せし創生神~



此れは世界を創りし者が見つめる、世界の話



同時刻、現実世界。

 

都内某所に3つの円状のビルと、7つの長方形のビルがストーンヘンジの様に集まり建つ場所がある。

 

株式会社・ユートピアエンターテイメントソフトウェア。通称UES……大衆から神ゲーと認知される『シャングリラ・フロンティア』を開発・世界に発信し、其の名を天下に知ら占めた、超巨大VRゲーム開発会社。

 

其の開発会社の地下10階に、唯独り。シャングリラ・フロンティアを構成するデータに目を通し、数多あるモニターに映るシャンフロの掲示板や、モンスターとの戦闘を繰り広げるプレイヤー達を見つめる、1人の女性の姿が在った。

 

「サービス開始から1年…3000万人近いプレイヤーが居ながら、未だに『ユニークモンスター』の1体すら倒せず終い……か」

 

考察、愚痴、焦燥、期待………プレイヤーが見せる様々な表情や声を見ながらも、彼女はまるで『期待外れ』であるかのように言う。

 

「誰も彼もが何も考えず、ただ其処に生きているだけ。此の私の世界(シャングリラ・フロンティア)は、そんな端役(モブ)に踏破出来る程、優しくもなければ甘くも無い」

 

彼女の名は継久理(つくり) 創世(つくよ)。ユートピアエンターテイメントソフトウェアの創業者にして、ワールドクリエイティブ・アドミニストレーターの肩書きを持つ、シャングリラ・フロンティアの産みの親――――――――言い換えるならば、シャンフロの創生神である。

 

ピロリン♪『自動メール着信 1件』

 

と、ディスプレイに1件の自動送信メールが入る。ダブルクリックで確認した彼女の目の前に広がるのは、とあるクエストのリザルト画面だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】: 第一段階(ファーストフェイズ)【岩砕きの秘策】のA+クリアを確認

 

クリアユーザー:ペッパー

 

称号【巌砕を成す者】【坑道の安寧者】【ガロックリベンジャー】を獲得

 

シャングリラ・フロンティア内、全武器屋の武器カテゴリー【小鎚】の解放完了(アンロック)を確認』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………えっ、クリア者?」

 

創世は目を疑った。【インパクト・オブ・ザ・ワールド】は、シャングリラ・フロンティアの各地を駆けながら、NPCとの協力で新たな武器やアイテムを解放していくという、『段階型のユニーククエスト』だ。

 

ユニークシナリオ(・・・・・・・・)とは別の意味でも特殊な受注条件を持ち、ノーヒントでは先ず見付からないように出来ている。

 

其の上、此のユニーククエストは『最初に受注したプレイヤー』以外、仮に同じ条件を達成してもフラグそのものが発生しないようになっているため、事実上の『独占状態』になる。

 

「クリアユーザーのペッパー、シャングリラ・フロンティアを始めて……累計3日!?嘘でしょ!?」

 

僅か3日で難解なユニークシナリオを発生させ、新武器の解放を成し遂げたユーザーに、創世の警戒は一層高まる。

 

何せ受注する為の条件として、『レベル5以下の時にファステイア坑道を訪れ』、『一度脱出した後に武器屋で武器を1つ以上の生産を依頼した後』、『再びファステイア坑道を訪れて奥地で巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)と戦闘・丸呑み攻撃で即死』しなければフラグ其の物が立たないのだから。

 

「ペッパー、一体何者なの………」

 

何をどうすれば、コイツは其処に辿り着けたのか。ワールドクリエイティブ・アドミニストレーターの勘が、ユニーククエストの構成を今すぐに再確認しろと叫んでいた。

 

「第二段階のクエストは………今のままで様子を見て、クリア時の状況によって、第三段階で少しメスを入れる必要がある。そうなった場合にクリア時の報酬の性能も、弄っておきましょう………念には念を入れてね」

 

神は世界を見つめている。

 

神とは観測者。

 

世界に満ちる命を見つめる存在(モノ)

 

流れる風を調に変える存在(モノ)

 

 

 

だが時に神とは牙を剥く。

 

不都合を切り落とす為。

 

不具合を削除する為。

 

世界は未だ、揺るがない━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 




世界を創りし者は観ている


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開拓者は旅立ち、駆け往く道を大蛇が阻む



ファステイアよりセカンディルへ




「まさか、クエストに続きがあったなんてなぁ…」

 

ファステイアの道具屋にて、巌喰らいの蚯蚓からドロップした鉱物の一部を換金し、体力回復や状態異常回復、スタミナ回復の各種アイテムを購入しながら、ペッパーは先程の出来事を思い出す。

 

『特殊クエスト:沼地に轟く覇音の一計』。特殊クエスト:岩砕きの秘策をクリアし、武器カテゴリーの小鎚が新規解放された直後に、連動発生した次なるクエスト。

 

取り敢えず受注はしたものの、何処で何をすれば良いのかのヒントは無く、現状手詰まり状態だ。

 

(クエストの続きが解放されるって事は、連続タイプのクエストなのかもしれないな…。というより、これから先のクエストで手に入る報酬も、ヤバい奴だったら俺どーなんの?指名手配されないか?)

 

辺りを見渡し、自分の身を案じるペッパー。しかし既に1名、ヤバい奴に狙われている訳だが、其れを彼は知る由もない。

 

「もう夕方だし、シャンフロは夜になると『危険なモンスター』が出るとか、おっちゃんは言ってたからな…。でも、やっっっっっぱ気になるんだよなぁ………」

 

ゲームでも昼と夜の概念があり、起こせるイベントや出現するモンスターが変化したりと、プレイヤーの興味や探究心を擽る要素として存在している。

 

ペッパーも1ゲーマーとして、1度は体験してみたいと考えていたのだ。

 

「一応日が沈む迄1時間はあるから、今からダッシュで『跳梁(ちょうりょう)跋扈(ばっこ)(もり)』を抜ければ、日没前に『セカンディル』に辿り着けるかな?

 

で、セカンディルでリスポーン地点を更新してから、夜の世界を体験………よし、此れで行こう」

 

物質調達を終え、武器の耐久値を確認し、遂にペッパーは僅かな時でありながら、濃密な時間を過ごした最初の街(ファステイア)より先の世界へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本には逢禍時(おうまがとき)という呼び方をする時間がある。昼と夜の移り変わり、太陽の光が翠を帯びる黄昏時とも捉えられる其の刻は、妖怪や魔物との遭遇を始めとした、巨大な災禍が訪れるとされ、人々が恐怖し畏れていた時間だ。

 

「そんな時間に跳梁跋扈の森に入るだなんて、風情が効いてるなぁ全く。無論、悪い意味でだが」

 

スタミナを全力で使いながら、尽き果てるギリギリで止まって自然回復を挟みつつ、ペッパーは『空腹度』に気を付けながら、途中で襲い掛かるモンスターを切り伏せ、叩き潰しながら、森を一目散に脱兎の如く駆け抜けていく。

 

シャンフロには『空腹パラメーター』と呼ばれる、特殊なステータスが存在しており、プレイヤーのスタミナの回復に対して影響を与える。

 

人間と同じように食事を取ることで回復し、逆に空腹になり過ぎれば、回避や移動といった様々なアクションに支障が現れるようになり、パラメーターが0になれば次第に体力が減少、最終的には底を着いて餓死に至るのだ。

 

「時間が時間だからか、モンスターが狂暴に成りつつあるっぽい?どうにも、血気盛んに俺を狙ってるみたいなんだが?

 

まぁ…コイツの初陣を飾るには上々だな」

 

そう言葉を溢しつつ、右手には巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)の素材を使い、創り上げられたユニーク武器・ロックオンブレイカーの青い脈筋が光り、左手の白鉄の短刀は白刃が揺れて、どちらも次なる獲物を求める様に光っている。

 

ペッパーは地図を頼りに最速最短距離を走り続け、途中レベルが2つ上がる嬉しいサプライズが有りながら、太陽が地平線の彼方へと沈む寸での頃、漸く跳梁跋扈の森の果ての渓谷にして、セカンディルへと繋がる吊り橋の付近に到着する。

 

「時間は…流石に夜になるか。早く渡りた――――!」

 

そんな彼の前に立ち塞がったのは、橋の入口で蜷局(とぐろ)を巻いて、頭と尾先に白毛を囃し、頭の白毛には髪止めのような赤い宝石で結んで着飾った、巨大な大蛇が1匹。

 

ペッパーの存在に気付くや、長く先端が二股に分かれた舌を伸ばし、毒蛇特有の鳴き声で此方を威嚇してくる。

 

跳梁跋扈の森のエリアボス・貪食(どんしょく)大蛇(だいじゃ)

推奨レベル10の、推奨人数3人以上の巨大モンスターだ。

 

「………此方もあんま悠長に出来ないからな。さっさと倒して橋を渡らせて貰うぞ、ヘビ公!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリアボスという事で警戒してはいたのだが、ペッパーは思った以上に『肩透かし』を食らっている。

 

敵は確かに強い。エリアボスというだけあり、身体に纏う鱗は硬く、まともに攻撃が通るのも頭だけと、普通なら苦戦する。

 

(やっぱり、巌喰らいの蚯蚓との戦いで得た経験が生きてるな…!)

 

巨体による突進、丸呑み攻撃、凪払い――初見であれば確かに苦戦を強いられる。だが、彼はそうならなかった。其れは此の大蛇以上のデカブツと、命を取り合う死線を越えたからだろう。

 

経験と知識、2つの要素が歯車と歯車が噛み合い、強大な畝りに変わるように、ペッパーの斬擊と打撃は次々と貪食の大蛇に直撃する。

 

『垂直』に『水平』に白鉄の短刀で巨体に纏う鱗を裂き、スキル『剛擊』で肉質が変化した場所を叩きながら、彼は大蛇相手に立ち回る。

 

「よし、このまま押し切るぞ!!!」

 

そう意気込んだ刹那、貪食の大蛇の尾先が僅かに震え、黒い何かが飛び出した。

 

「へ、わちょ!?」

 

突然の新技に対応が遅れ、ペッパーはまともに其れを受けてしまう。

 

「臭いくっさ!?糞でも引っ掛けられた!?」

 

思った以上に強烈な異臭で鼻が曲がりそうになる。と、ペッパーの体力(HP)バーが表示され、ピッという音と共に1減少。其の横に『毒』という一文字と、10秒毎に1ダメージを受けるという説明文が。

 

「………油断大敵、って訳か」

 

ペッパーの現時点の体力は残り9、つまり順当に行けば90秒後に体力は底を尽き、死亡する事になる。

 

「へっ…こういう時の為に、用意しといて正解だったな!」

 

そう言い、ペッパーは右手の白鉄の短刀の装備を解除し、アイテムインベントリから取り出したのは、ファステイアに辿り着いた時に購入していた解毒薬だった。

 

 

 

 




大蛇の毒牙を越えていけ


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状態異常回復アイテムは、序盤で買うか否か



貪食の大蛇戦、決着





ゲーマーには様々なプレイスタイルがある。

 

自らに縛りを設けて遊ぶ者、回復アイテムよりも強い防具や武器を求める者、様々なアイテムを満遍なく揃えて万が一に備える者、皆遊び方が違うように十人十色のスタイルを持っている。

 

ペッパーの場合は、武器や防具よりも回復や状態異常対応のアイテムを揃えて、戦いに赴く慎重派タイプのゲーマーで、毒や麻痺等の状態異常回復アイテムを序盤で買う場合、少し割高感があり購入を戸惑う者も居たりするが、彼は其れを惜しまない。

 

あらゆる可能性を考慮し、万が一に備えて準備をする……其れがペッパーのスタイルだ。ビンに入った解毒薬を一気に飲み干すと、ステータスの毒の表記は綺麗さっぱり消え去り、減少していた体力バーも7で止まる。

 

「解毒完了!第2ラウンドと洒落混みますか!」

 

アイテムインベントリから、空いた右手に薬草を持って噛り付き、毒のスリップダメージによって減少した体力を上限一杯に巻き戻し、戦闘は再開された。

 

(毒の糞は尻尾から出たから、頭と尾の位置を常に意識!上手く『直線』になるように誘導して、毒を飛ばさせないように動け!)

 

毒攻撃の経験を、貪食の大蛇の位置と己の位置を、ペッパーは頭に叩き込みながら、畝り迫る巨体をステップワークを発動したサイドステップで回避を行い、過ぎ去り様にスイングストライクを横っ腹に見舞う。

 

『シャアアアアアア!!!』

 

と、再び貪食の大蛇の尾先が震える。再び毒攻撃かと感じたペッパーは、アイテムインベントリから護身用ナイフを右手に装備し、ブームスローのスキルで尾先の僅かに空いた穴へ投擲する。

 

だが━━━━━大蛇は毒糞を吐かず、其の尾を使いペッパーを巻き取らんと、猛スピードで伸ばしたのだ。

 

「マジか」

 

護身用ナイフは巨躯に弾かれ、宙を舞い、峡谷の中へと落ちていく。そしてペッパーの身にも、巻き付き攻撃が迫り来る。

 

「『一艘跳び』!」

 

強化された跳躍力、空を切る尾による巻き取り攻撃。着地したのは、大蛇の長い胴の上。

 

『キシャアアアアアアアア!!!』

 

「ランニング・コブラ・ウェイ!」

 

敏捷を高めるスキル『アクセル』を使用し、畝り狂う不安定な足場を駆け抜け、ペッパーは貪食の大蛇の頭部に肉薄する。

 

鋭い牙を翳し、噛み付かんとする大蛇だが、彼の狙いは『蛇の噛み付く際の挙動』にあった。

貪食の大蛇の頭が、左目を上に縦になる。ふわりと上がる白の髪、其の瞬間を待っていた。

 

「一艘跳びのスキル適応時間は…まだ残ってる!!」

 

跳び上がり、噛み付きを回避。右手で白毛を掴み取り、ペッパーは左手のロックオンブレイカーで、大蛇の左目を力一杯ブッ叩く。

 

『ギジャアアアアアアアアアア!!?!』

「うぉあ!?暴れるな、このっ!!」

 

生物にとっての急所、眼球への攻撃。ロックオンブレイカーにより攻撃力が高まり、左目に破壊部位が付く。貪食の大蛇は取り付いた敵を振り落とすべく、其の全身を捻りくねらせて、地面に己が身を叩き付ける。

 

「ッ…!こんなろ、食らえやヘビ公!」

 

足腰で踏ん張り、右手に握る髪を強く握り締め、ペッパーは巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)との一戦で、決め手となったスキル『レイジインパクト』を、スタミナを引き換えとした、攻撃速度上昇スキル『ブートアタック』で加速し、破壊状態の左目へ駄目押しの一撃をブチ噛ました。

 

急所攻撃によるクリティカル。

破壊部位へのダメージ補正が働くスキル。

ユニーク武器の能力による攻撃上昇。

 

3つの要素が噛み合った結果、貪食の大蛇は頭からポリゴンと化して弾け跳び、長く巨大な体躯は爆散。ペッパーのレベルアップを告げるSEが鳴り響く。

 

「よっしゃあ、撃破ー!レベルは1つ上がった……ぜ……………」

 

単独でのエリアボス撃破を成し遂げ、喜びに跳躍するペッパーだったが、空を見上げれば既に世界には夜の帳が降りていた。

 

黒い画用紙のキャンバスに彩りが付くように、天には黄土色の三日月が昇り、都会では街灯の灯りに掻き消されて見られない星々の淡い煌めき、そして一閃の瞬きと消える流れ星が軌跡を描く、夜空の絶景が広がっていたのだ。

 

「綺麗だ……」

 

深い山奥や高い山の山頂でしか見えない、幻想的な美しい景色に、彼は思わずカメラ機能を作動させ、スクリーンショットを撮影し、暫く空を見上げていた。

 

「………って!もう夜じゃん!?思った以上に時間掛かり過ぎてる!セカンディルでリスポーン更新しないと!」

 

貪食の大蛇を倒した事で、セカンディルへの道を塞ぐ障害は無くなった。ペッパーは夜の道を駆け、セカンディルの宿屋を目指す。

 

 

だが、彼は気付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

己の背後で、暗闇が笑っていた事に。

 

 

 

 

 




危険とは何時の間にか、背中に寄り掛かっている


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I dance to NIGHTMARE (前編)



其れは紛れもなく、ヤツさ




「えっほ、えっほ!」

 

セカンディル周辺の何もない荒野を、全力疾駆するペッパーは地図を横目に確認しながら、空腹パラメーターが半分を切らないように簡易食糧で食事を取り、街を目指して真っ直ぐ進む。

 

「あともう少し…!目と鼻の先…!」

 

セカンディルにさえ到着すれば、リスポーン地点を更新して、夜の探索や夜行性のモンスターとも戦える。ゲームの仕様上、死亡してもリスポーン出来る上、規約を遵守すればセーブデータの消去は無い。

 

昔のデスクトップ…今ではレトロゲームになってしまったが、其の中の1つにSDサイズのカラスになって、夜の世界を渡り歩くオープンワールドタイプのゲームがあり、ペッパーは其の画面越しに作り込まれた、精密な夜の『暗さ』に息を飲んだ経験がある。

 

シャンフロの夜も、其のゲームと同じ『暗さ』もそうなのだが、4月特有の寒暖が混じり合う風が肌を撫でる感触や、大地に降り注ぐ月光の仄かな輝き等、まるで自分達が経験したであろう感性を、ゲーム世界で体験出来るレベルにまで持ってきた、別次元のリアリティーだった。

 

「でも本当に凄いなぁ…シャンフロ。夜の暗さに光の強弱、此処まで細かく作り込みました!って作者とスタッフの本気と意気込みが、犇々と伝わってくるように感じるね」

 

時代と共に進化するゲームとクオリティ、其れを実現させ現実に持っていくクリエイター達の努力が、シャンフロを神ゲーにしたのだろうと、ペッパーは思った。

 

と、其の時。

 

 

 

 

 

 

自分の首に死神の鎌を掛けられた感覚がした。

 

 

 

 

 

 

「!!?!??!!!!?」

 

彼の感じた脳内イメージは、全神経と全感覚に未知なる驚異を回避するべく、反射的本能的行動を取らせ。

僅か数瞬の間に先程まで自分が居た場所は、爆弾が弾け飛んだような衝撃と爆風が産まれ、ペッパーの背中を押し飛ばした。

 

思いっきりズッ転んで、顔面を強打。体力が半分(5)まで減るがペッパーは何とか生きている。急ぎアイテムインベントリから薬草を取り出して右手で食しながら、空いた手でロックオンブレイカーを装備して、初めて巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)と出逢った時の厳戒態勢を敷く。

 

 

 

 

砂煙が劇場の幕を開けるようにして、躍り出るは黒の…漆黒すら生温い、底無しの『闇』。

 

月明かりが仄かな光照らす大地を踏み締め、四足でひび割れた大地を歩む大型の『獣』。

 

尖った耳と風に揺れる炎のような黒毛と、敵を意図も簡単に引き裂き、噛み千切る事が出来そうな『爪牙』。

 

 

 

彼は出逢ってしまった。

 

シャングリラ・フロンティアの『真の姿』に。

 

『狼』という形が成った、暗闇の『権化』そのものに。

 

 

 

 

『ユニークモンスター』

 

『夜襲のリュカオーンと遭遇しました』

 

 

 

 

 

「ユニーク……モンスター……」

 

黄土色の三日月が頭上で淡く、妖しい光を下ろす大地の元に、闇夜を纏う1匹の獣がペッパーに向けて喉を鳴らす。

 

『夜襲のリュカオーン』

 

今、自分の目の前に現れたモンスターの名前で、十中八九獲物を――――自分を狩らんとする存在。

 

「………ヤバいな」

 

長い間RPGを始めとした、様々なレトロゲームをプレイしてきたペッパーには、経験から相手と自分の間に在る実力の差を理解する力が育っている。

 

完全初見でプレイしたレトロゲームの、序盤で起こる負けイベントを本能的に理解し、ロジックに抗う為に現時点の自身の持つ手腕・技能・アイテム全てを活用して、負けという終着点を覆すべく戦い、結果として負けイベントは進行する事になったものの、やるだけの事をやりきって抗い抜いたという、自分の中で納得出来る着弾点を作ることが出来た。

 

其れを幾度と無く繰り返していく内に、これもまたゲームの醍醐味なのだと思えるようになり、ストーリーで製作者の仕組んだ絶対不変の敗北さえも楽しめるようになった。

 

だからこそ、理解出来る――――否、出来てしまう。

 

(今のコイツを相手に……何をやっても俺が勝てる未来(ビジョン)が、見えない……!)

 

武器・技能・アイテム――――持ち得る全てをぶつけても、夜襲のリュカオーンには勝てないという事実。何度も何度もゲームで経験した感覚が、ゲーマーとしての本能が過去最大の警鐘を告げている。

 

逃走さえもコイツなら一瞬で潰して、おつりとばかりに瞬殺さえ朝飯前に出来るだろう。自分の事を、容易く食える前菜とでも考えているのだろう。

 

「………ハハハ。ヤバすぎて笑えるな」

 

ペッパーは笑う。

 

圧倒的不利と死亡確定の終着点を悟ったから?――――違う。

 

予測の範疇を越えた理不尽な出来事に、己の無力感を味わったから?――――違う。

 

シャングリラ・フロンティアが嫌いになったから?――――違う!

 

「あぁ、やってやろうじゃねぇか!今の俺の全てで挑んでやるよ――――夜襲のリュカオーン!」

 

覆らない、ならばどうするか。ペッパーは『開き直った』のだ。逃げられないならば、リュカオーンに自分という存在を刻み込んで倒れてやる。

 

其の為なら、今持っている武器もアイテムもスキルも、全リソースを吐き捨てても構わない。後先の思考を放棄し、此の戦いに全てを注ぎ切ると。

 

リュカオーンが大地を踏み締める。そして黒の巨体が繰り出すのは、此れまでプレイしてきたアクションゲームの敵キャラが放った攻撃よりも、遥かに速い右前足の踏み付け。

 

着弾、爆発、暴風で大地は抉れる。

 

「どぅおわぁ!?こなくそ、食らえ!」

 

土塊と岩粒が飛び交う中、ロックオンブレイカーで砕いて進み、指先に小鎚の一撃を叩き込む。ガァン!と響くは鉄同士が真正面から激突し合った音であり、其の規格外の『固さ』がペッパーの腕を通じて、脳にリュカオーンの情報を刻み付ける。

 

「固ったぁ!?何だこちょわ!?」

 

返す刀、もとい右前足の速い斜め振り上げがペッパーの頭を正確に狙い、彼は其れを紙一重といった所で回避。敏捷に補正を加えるスキルのアクセルで、一先ず距離を置いて情報を整理。

 

「あっぶね…!油断とか決断が一瞬遅れるだけで、直撃所か地面叩き砕いた衝撃波だけでも、此方はマジで死ぬ…!!」

 

自身の体力を加味し、ペッパーは自分自身が使う戦法を用いる事にした。

 

「こうなったら…『ヒット&アウェイ作戦』でやるしかない!!」

 

ヒット&アウェイ作戦とは、ペッパーがアクションゲームで格上相手と戦う時に使う、自身の中に確立している戦法の1つである。

 

其の特徴は『後出し』――――格闘技でいう処の『後の先』であり、相手にひたすら攻撃を出させて、攻撃後に発生する『硬直』や『隙』を見極めて狙う方法だ。

 

リュカオーンの攻撃パターンと、自身のスキルの継続時間と再使用時間(リキャストタイム)を、自分の頭の中にノートを書き写すようにして入れながら、ロックオンブレイカーを振るい、ペッパーはリュカオーンに立ち向かう。

 

例え、敗北の未来が覆らなくとも――――――

 

 

 

 

 

 

「はぁ…!はぁ…!くっそ、滅茶苦茶きっつい…!」

 

リュカオーン相手に適切距離を維持し『ヒット&アウェイ作戦』を開始してから、およそ10分が経過する頃。

 

ロックオンブレイカーのダメージ補正上昇能力で、何度も何度も叩いても、リュカオーンの体力が減る気配が皆無だった。 其れ所か、巌喰らいの蚯蚓の素材より作られたロックオンブレイカーが、耐久値の警告を告げる画面を表示する。

 

(ただ、戦う中で『解った事』もあった。コイツの纏ってる毛は『頑丈過ぎて』ダメージが通らないが、打撃系統の『衝撃』は通る。

 

つまり、コイツは『無敵』って訳じゃない――!)

 

勝てないと本能的に理解したリュカオーンだったが、ほんの僅か、そして少しずつ、其の生態を掴みつつあった。

 

(ダメージは通っている!ロックオンブレイカーの耐久値『さえ』回復出来れば、勝機はある!だけど…!!)

 

次々に攻撃を繰り出し、休む所か思考させる刹那さえも、リュカオーンは許さない。発生の速い攻撃で畳み掛け続け、ペッパーのリソースを回避に費やさせるよう動かさせていく。

 

(此のスピードにパワー…!此方が回復させる暇すらくれない!)

 

右足による斜めからの攻撃を何とか弾き、後ろに吹っ飛ばされながらも踏ん張った所で、遂にロックオンブレイカーの耐久値が限界一歩手前となり、破壊警告画面とアラートのけたたましい音が鳴り響く。

 

「ッ………選手交代だ!やるぞ、致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)!」

 

制作秘伝書は在れど、ペッパーは自分に良くしてくれたファステイアの鍛冶師の想いを、此処で終わらせる訳にはいかなかった。

 

限界を迎えたロックオンブレイカーを戻し、アイテムインベントリから致命の小鎚へと武器を切り替える。右前足の踏み付け・左前足の横払いを躱わし、致命の小鎚を足首関節にぶつけ、即座に離脱する。

 

ペッパーは狙っている――――人間や動物の関節部に衝撃が蓄積すれば、其の箇所には『痺れ』が起きる。夜襲のリュカオーンが『動物』であるならば、其の摂理も『例外』なく発生するであろうと。

 

彼は耐え忍び、堪え凌ぎ続けた。リュカオーンが『想像していた以上』に。

 

戦いとは『天秤』でもある。苛烈に攻める側と守る側の高度な知略がぶつかり合い、此の瞬間までは確かに『拮抗』していた。

 

しかし、其の拮抗は時として簡単に失われる。

 

リュカオーンの攻撃を回避し、後出し反撃をしようと踏み込んだペッパーの足元が、僅かに『崩れた』。体幹がズレを起こし、小鎚の当たりがブレて足首ではなく足の甲に、致命の小鎚はぶつかる。

 

『拮抗』が動く。

 

「しまっ…」

 

バランスを崩すまいと、スキルの一艘跳びで横に跳躍したが、其の眼前にリュカオーンの牙が差し迫る。漸く隙を見せたとばかりに、獲物を噛る此の瞬間を待ち望んでいたように。

 

「させっかよ――――――!」

 

左手の中で逆手のスイッチを行った致命の小鎚で、スキル『スイングストライク』を使用。リュカオーンの横っ面を殴り付けようと振るった瞬間。

 

リュカオーンの顔は黒く『変質』し、スライムの様に『変形』。小鎚のフルスイングは空を震わし、空を切る。

 

「………は?」

 

ペッパーのすっとんきょうな声が闇夜に溢れた瞬間、リュカオーンの牙が彼の右腕に突き刺さり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペッパーの右腕は、肩より先を噛まれ。

 

肉が裂けるように、轢き千切られた。

 

 

 

 




其れは定められた運命か、神が嗾けた悪戯か



夜襲のリュカオーン:原作でもお馴染み、夜を駆ける狼。ユニークモンスターの中でも、最も知名度が高い存在。リュカオーンを含めたユニークモンスター達は全員、俺TUEEEEE!だろうが勝てる調整してねぇよ死ね!を地で行くモンスターで、初心者が遭遇したら先ず理不尽の塊で押し潰される事は避けられない。



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I dance to NIGHTMARE (後編)



夜襲のリュカオーン遭遇戦、決着




「あ……――――――」

 

腕が千切り飛ばされる感覚を、ペッパーは始めて味わった。刀で身体を斬られるよりも、肉の繊維同士の結合を力任せに外された痛みが皮肉にも、彼のトんでしまいそうな意識を肉体の内に留めたのである。

 

(あ~くっそ、今のを躱わされる…か。してやられたなぁ………)

 

右腕の損失と同時、右肩の在った場所からは血の色に似せた赤のポリゴンが噴出し、自身の体力(HP)バーが減少を開始した。

 

(リュカオーン相手に意気込んだのにコレって……ちょっと恥ずかし過ぎて死にたくなるな………)

 

体力のカウントが底を尽きるまでが、ペッパーには何時も以上にゆっくりと進んでいるように見えていた。此れが所謂、走馬灯という奴なのだろう。

 

巌喰らいの蚯蚓の時は丸呑みされて即死だったが、今回は轢き千切られてから、体力が減少していった。

 

(そういえば、セカンディルには到着してないから、またファステイアから走り直しかなぁ………。辛いなぁ、此処まで来たのに………)

 

カウントダウンのように体力は削れ、とうとう半分を切った。後は3・2・1の如く無くなれば、きっと自分はファステイアの宿屋で目を覚ますだろう。

 

だが、ペッパーの予測は思わぬ形で外れる事となる。体力の数値が3から2へ、2から1へ、そして0に――――

 

 

 

『ならなかった』。

 

 

 

「……え!!?!」

 

一体何が起きたのだろう。確かに自分はリュカオーンの噛み付きによって右腕を損失し、致命傷とも言えるダメージを受けた。

体力と幸運値は、どちらもステータス画面で1ポイントたりとも振っていない初期値のまま。

 

考えられる可能性は――――最早、1つだけ。

 

「まさか…『食いしばり』!?」

 

ゲームにおける食いしばり、あるゲームでは『乱数の女神の御乱心』だったり、またあるゲームでは『高性能気合いの鉢巻』と揶揄され、ユーザーには良くも悪くも1度は経験する現象だ。

 

何の因果か偶然か、運命の女神は倒れるペッパーの尻を蹴っ飛ばし、未だやれと鞭を打ってきたのだろう。そしてリュカオーンもまた、僅かに驚いたように目を丸くし。だが、既に死に体の獲物を逃す訳もなく、再び踏み潰さんと左前足を叩き付けに来る。

 

「うわぁぁ!?」

 

猛ダッシュで距離を取り、左手の致命の小鎚を解除して、インベントリからスタミナ回復の為の簡易食糧取ろうとするが問題が起きる。ペッパーはファステイアからセカンディルに急ぐために、道中で簡易食糧を消費し過ぎた為に、残されたのは1つだけになっていた。

 

更に追い討ちとばかりに、補給させまいとリュカオーンの攻撃が、更に苛烈に襲い掛かる。

 

(食糧食い過ぎた!其れに今のままじゃダメだ……!インベントリの『操作』がスムーズに出来ないと、まともに反撃さえ出来ないまま殺られる!!!)

 

そう考え、リュカオーンの攻撃から逃れつつ、ペッパーはステータス画面のある項目に、余った21ポイントの全てを振り込んだ。

 

「リュカオーン。こっからは俺の、最後の悪足掻きだ。とくと……御覧あれッッッッ!!」

 

残された左手で簡易食糧を食らい、スタミナを回復。再び致命の小鎚を握り締め、彼は泣いても笑っても此れが最後となる攻撃に転じる。

 

 

 

 

 

 

逃げた踵を一気に返し、ペッパーはリュカオーンに向き合いながら、己の持つ手札(スキル)を今一度思い出す。

 

(ヒット&アウェイ作戦の都合上、先ず相手に攻撃を『出させる』必要がある…!犬系のモンスターは、身体の構造上前足のどちらかが、地面に接地いないと3本足になり、身体のバランスを保てずに転倒する!

 

リュカオーンに繰り出させるべき行動(アクション)は、横払いからの踏み付け攻撃!!)

 

スキル:アクセルを発動し敏捷を高め、スキル:ステップワークとタップステップの重ね掛け、リュカオーンの決殺距離(キリングレンジ)に飛び込む。

 

夜襲は左前足を斜めに掲げる。此れまで何回死を見たか、安全圏は既に頭の中に構築済。避けられる……そう思っていた。

 

リュカオーンが左前足での攻撃を『僅かに』遅らせ、斜めに振り払ってきた。

 

「は!?マジかよ、お前!!?」

 

攻撃緩急を意図的に付ける『ディレイ』と呼ばれるフェイント技術を、此処で使ってくるとはペッパーには予測出来なかった。

 

「ぐお…おおおおお!」

 

心臓が弾けるような『鼓動』を鳴らし、踏み込んだ足は更に加速して。ディレイで狂った僅かな誤差を埋め、右へ『鋭角』を描くようにターンし、リュカオーンの右前足に接近。

 

振り上がる右前足と己の位置、着地した左前足の位置を把握しながら、両足のステップを刻み続け、踏み付け攻撃を誘い込む。

 

そして足が着弾する瞬間、足の甲に飛び乗って周囲に飛び散る岩や爆風を回避。

 

踏み付けを躱わし、右前足の甲から一艘跳びで強化した脚力で跳躍したペッパーは、左手に握った致命の小鎚を振るい翳し。

 

 

リュカオーンの右目に向け、投擲(なげ)た。

 

 

リュカオーンは其れを瞼を閉じて弾く。ガンッと鉄がぶつかる音、ゆっくりと眼を開いた其の視界に映ったのは。

 

空白となった左手で致命の包丁(ヴォーパル.チョッパー)を握り締め、僅かに開いた右目の視界へと刺し迫るペッパーの姿。

 

右腕を噛み千切られた後、ペッパーは残していたポイントを『器用(DEX)』に全ツッパした。其れは致命の小鎚を投げた瞬間に、即座にアイテムインベントリから致命の包丁を取り出し、迅速にスイッチする為に。

 

万が一が、もしかしたら、なるかもしれない――――そんな可能性に備え、残しておいたポイントが、此の局面で文字通り『生きた』。

 

噛み付きも、前足の攻撃も間に合わない、まさに超々至近距離の肉薄。眼を閉じんとしたリュカオーンよりも早く、ペッパーのスキルの1つで、スタミナ消費で攻撃速度を高める『ブートアタック』で、加速された刃が一瞬速く瞳孔へと突き刺さり。

 

『ガルッ…!?』

「っ……おおおおおおおお!スピックゥエッジィィィ!」

 

此の戦いで『初めて』、リュカオーンが痛みによる悲鳴を挙げ。そしてペッパーは僅かに残されたスタミナを全消費して、ありったけの力で夜襲の右目に深く、深く刃を突き立て――――『一文字』に切り裂く。

 

致命の包丁には切り裂いた感触が確かに刻まれ、リュカオーンの右目からは黒色の闇が放出。

 

彼の渾身の一撃を受け、ダメージからか其の身は数歩、後ろへと下がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それでも。暗闇は晴れる事は無く。

 

積み上げた布石。渾身の一撃。

 

全てを懸けても尚、夜襲は沈まなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嗚呼…くっそ……」

 

着地したペッパーは、致命の包丁をアイテムインベントリに仕舞い、近くに落ちた致命の小鎚に手を伸ばす中で、一歩また一歩と歩み寄るリュカオーンを見上げながら、言葉を溢す。

 

スタミナが底を尽き、食糧も無くなった━━━即ちスタミナ回復の手段を失った以上、リュカオーンの攻撃を回避する事も、弾いて反撃する事も出来ない。

 

正真正銘、本当のチェックメイト。

 

「………これでも膝すら付かない、か。認めるよ、リュカオーン………『今回は』お前の勝ちだ」

 

 

 

 

 

だが次は――――『俺が勝つ』

 

刻んだ其の『傷』、忘れるなよ

 

 

 

 

 

致命の小鎚の面と不屈の意思を宿す目で、ペッパーはリュカオーンに宣言する。対するリュカオーンは、彼の宣戦布告をどう受け取ったか、口角を僅かながらに上げて、グルッと笑ったように見え。

 

直後、振り上げた右足でペッパーを頭から踏み潰し、彼の奇跡的に残っていた体力(HP1)は0となり、ポリゴンに変わって此の舞台から消滅したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リュカオーンの呪い(マーキング)が付与されました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




其れは呪いか祝福か


原作改変点 リュカオーンの呪いの付与条件

本来なら前衛職で5分間ノーダメかつ即死攻撃で魔法・アイテム・スキル未使用でHPが全損しない、もしくはレベル差100以上の相手にノーダメで一定数のクリティカルを入れる事が前提です。

しかしペッパーは、後衛職ながらリュカオーンに認められて呪いを付与されました。

これが一体何を意味するのか………



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呪いと向き合い、道を探せ



リュカオーンの呪い(マーキング)と今後の行く先




ファステイア宿屋・101号室。

 

夜の帳が空に満ち、街の至る所に松明の光が灯り、NPCが運営する店が営業を終えた頃。

 

夜襲のリュカオーンとの死闘の果て、右目に一太刀の傷を与えるも敗れ去ったペッパーは、リスポーン地点で目を覚ます。

 

「敗けたわ、ちくせう……」

 

僅かな灯りの照らす部屋で、死闘を思い出す。攻撃・防御・スピード……何れを取っても、リュカオーンに圧倒的な力の差を見せ付けられた。悔しくないと言えば嘘になるが、ペッパーの胸の内は澄み渡るようにスッキリとしていた。

 

「夜襲のリュカオーン…次は敗けねぇ、其の尻絶対ペンペンしてやろうじゃない……の?」

 

リベンジに闘志を燃やし、右手を力強く握った時、ペッパーは自身の右手に『引っ掻き傷のような薄黒いタトゥー』が刻まれていた事に気付く。

 

「何だコレ…?」

 

タトゥーらしき物は、ペッパーがリュカオーンとの戦いで噛まれ、轢き千切られた部位に着いていたが、腕全体ではなく手である事に疑問が浮かぶ。

 

そして此の傷が何なのかとステータス画面を開けば、驚くべき『状態異常』がペッパーに付与されていたのである。

 

 

 

リュカオーンの呪い(マーキング)

 

夜襲のリュカオーンは強敵をこそ好む。そこに善悪賢愚は考慮されず、ただ己の存在を示した者にリュカオーンは自身の呪いを刻みつける

それは己の獲物であるという(しるし)であり、傷跡の呪いより発せられる黒狼の気配は半端な存在に大いなる力の残滓(ざんし)を示す

此の呪いは、黒狼を超える力にて解呪するか、黒狼を打倒する他に解く術なし

 

・リュカオーンの呪いが付与された部位には防具及び武器の装備が不可となります

 

・リュカオーンの呪いを持つキャラ以下のレベルのモンスターは一部を除き逃亡します

 

・リュカオーンの呪いを持つキャラは他の呪いやバフに対して強い抵抗を獲得します

 

・リュカオーンの呪いを持つキャラはNPCとの会話で補正がかかります

 

 

 

「……マーキングにしては、エグくね?」

 

其れがペッパーの、リュカオーンの呪いに対する第一声だった。此の状態異常をペッパーの現時点で要約すると――――

 

 

1、ペッパーのレベル以下のモンスターは自動的に逃走して、レベリングに支障をきたす。

 

2、呪いが付与された右手には防具と武器が装備不可で、バフによる能力上昇が出来ない。

 

3、呪術やデバフ関係に強くなる。

 

 

……といった所だろう。NPCとの会話に補正が掛かるという一文も、恐らくリュカオーンの存在を畏れて、まともに話さえ聞いてくれなくなる可能性が、極めて高いと思われる。

 

「メリットよりデメリットの方がデカイんですが、あのその……」

 

とにもかくにも解った事は、リュカオーンに関われば色々な意味で、無事では済まないという事だ。

 

「………考えようによっては、あの戦いで施された呪い(マーキング)が、『右手だけで済んだ』とも捉えられるか」

 

右手に呪いが在るという事は、逆を考えるなら『右手以外』が呪いを受けた可能性も在る事。其れを踏まえれば、状況は少しだが良い方には向くだろう。

 

「でだ……レベルアップで獲得したスキルポイントの『計算』が合わない」

 

次にペッパーが目を付けたのは『ステータスポイント』。本来なら1レベル上がる毎に5ポイントが追加される仕様で、リュカオーンとの戦闘前にレベル18だったのが、戦闘後には26まで上昇していた。

 

此の計算でいくとポイントの合計は40になる筈だが、表示されているポイントの合計は60。どう考えても計算が一致しないのである。

 

「リュカオーンと出逢った事で、何かしらの『ボーナス』でも入ったのかな…?」

 

ユニークモンスターには、遭遇する事で手に入る特殊なボーナス『ユニークモンスターエンカウント』が有るのだが、ペッパーが其れを知るのはまだ先の話になる……

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャンフロの情報を調べたけど、『リュカオーンの呪い』に関する記事が全くといって良い程無い。『特殊クエスト:沼地に轟く覇音の一計』も謂わずもがな………どうするか」

 

シャンフロからログアウトし、現実に戻った梓はスマフォでシャンフロwiki等を片っ端から知ら見潰しに、検索エンジンを掛ける。

 

リュカオーンの呪い、自分が受注しているクエスト――――少しでも関係が有りそうな情報を、彼は探しに探した。

 

だが、其れらしい情報がヒットする項目は見付からず、現状手詰まり状態に陥っていた。

 

「うーん…考えても仕方無いし、取り敢えず明日になってから色々やろう。其の方が心の健康に良い。飯作って食べて、明日も講義頑張るぞ!」

 

そう言って梓はスマフォを充電器に指し、冷蔵庫の中の残り物と小型炊飯器に残った白米で、簡単な夕食を作り始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり無いなぁ…」

 

翌日、大学の午前中の講義を受けた後の昼休み時間でも、シャンフロの数多ある情報からリュカオーンの呪いや特殊クエストの文献を探す梓だったが、やはりというかヒットする情報は無く、進展は0のままで時間だけが過ぎていく。

 

「これはいっその事、掲示板でリュカオーンの呪いに対する意見を求めるか…?いや、でもユニークモンスターだもんなぁ…。

 

其れに色んなプレイヤーが、我先にイナゴみたいに群がりそう………」

 

『ユニークモンスターと接触しました』等と仮に呟いたならば、其の情報を求めて他のプレイヤーが自分の元に押し寄せてくる場面を想像した梓は、恐怖に身を震わせた。

 

「確かにそうなる危険はある…。あるけれど……うーん………」

 

おそらく、此処が『分岐点』だ。

 

ユニークモンスターの情報を開示すれば、有象無象に絡まれる危険が高まる代わりに、有益な情報を獲得と今後の道は見付かる。

 

一方、其の情報を開示しなければ、其れに関わる有益な情報を得られないが、自身の保身による道を作る事は出来る。

 

選べる道は2つに1つ。

 

梓が思い出したのは、シャングリラ・フロンティアのオープニングで流れた文章達だった。

 

「あぁ、そうだ。そうだった……シャンフロは『開拓者のゲーム』だよな」

 

開拓者とは未知を切り開く者。

 

バックパッカーとは己の脚で物資を運ぶ者。

 

「此の手の情報は何れ『バレる』時がやって来るんだ。だったら其の時に、もっと正確に伝えられるように『信憑性』を高めなくちゃな」

 

情報とは武器だ。真実にほんの少しの嘘を混ぜるだけでも、人は其れに踊らされる。其れがより危機的なモノともなれば、世界中はパニックに陥るのは歴史がきっちりと証明してきた。

 

「拓くしかないな…リュカオーンを含めた、特殊クエストの行き着く先を」

 

目標は定まった。此処から先は自分の、シャングリラ・フロンティアを遊ぶ理由……『原動力』だ。

 

「…………取り敢えずセカンディルに到達しないとかぁ……また走るんだな、俺…………トホホ」

 

 

 

 




リュカオーンの呪いに向き合い、活路を探せ


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誰が為に小鎚は鳴るか



呪いの権能がペッパーの周りの者に与える影響




ざわざわ…ざわざわ…

 

「あの~…すいませーん」

「あ、ご、ごめんなさい!」

「…………………」

 

大学の講義を終え、シャンフロにログインしたペッパーは、早速リュカオーンの呪い(マーキング)に苦しめられていた。

 

ファステイアの道行くNPCは、彼の右手に刻まれた傷痕を見た瞬間、蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出してしまい、周りにいる他のプレイヤーからは、異質なモノを見る視線が背中に突き刺さってくる。

 

このような状態を鑑みたペッパーは、ファステイア防具店に飛び込み、店員がビビって購入の話が難航しそうになるも、何とかアクセサリーの『旅人のマント』をゲット。

 

右腕を隠すようにマントを羽織り、その後は道具屋でこれまた店員に畏れられながら、跳梁跋扈の森と貪食の大蛇との戦闘でドロップしたアイテムを売却し、簡易食糧や解毒薬等の消耗品を購入して、最後に武器屋でリュカオーンとの戦いで耐久限界になってしまった、ロックオンブレイカーの修繕を依頼した。

 

余談だが、武器屋の店主はペッパーに刻まれた傷痕には驚いたものの、快くロックオンブレイカーの修理を承諾してくれ、彼は嬉しくて少し泣いたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「さて…ステータスを振ろうか」

 

ユニーク武器を修理する間、武器屋周辺待機しながら、リュカオーンとの戦いで大きくレベルが上がり、ポイントも貯まったペッパーは、呪いの特性とバックパッカーの役割を加味した振り分けを行うことにした。

 

「まずモンスターが逃走する以上、其れにある程度追い付ける敏捷とスピードを維持するスタミナは有ったが良い。

が、追い付けない場合には、投擲による攻撃が一番手っ取り早いから器用と技量と筋力が必須になる訳だ。

 

器用は…リュカオーンの時に余った分を振り込んだから、今回は振らずに技量と敏捷にちょっと、スタミナと筋力は少し多めに………残ったポイントは体力と幸運に。此れで良しっ、と」

 

そうして振り分けた結果、ペッパーの現時点のステータスはこうなった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━――――――――――――――――――

 

 

PN:ペッパー

 

レベル:26

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

体力 15 魔力 10

スタミナ 60

筋力 50 敏捷 56

器用 31 技量 30

耐久力 22 幸運 15

 

残りポイント:0

 

 

装備

 

左:無し 右:リュカオーンの呪い

頭:皮の帽子

胴:皮の服

腰:皮のベルト

脚:皮の靴

 

アクセサリー

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

 

所持金:3490マーニ

 

 

スキル

 

・スラッシュ→ラダースラッシュ

・刺突→呀突

・フラッシュカウンター

・ブームスロー

・スピックエッジ

・ステップワーク→ハイドレートワーク

・スイングストライク

・レイズインパクト

・剛撃 レベル1→レベル3

・アクセル レベル1→レベル4

・ラッシュ レベル1

・見切り レベル1→レベル2

・ハイプレス レベル1

・一艘跳び→二艘跳び

・タップステップ→スライドムーブ

・ブートアタック

・水平斬り レベル1

・垂直斬り レベル1

・サイダーターン

・ハイビート レベル1

・アクタスダッシュ レベル1

・ステックピース レベル1

 

 

――――――――――――――――――

 

 

当初の予定通り、バックパッカーとしての役割を果たせるステ振りを行い、スキルも確認していく。

 

レベルアップで新たに習得した物、一部が進化・変化した物、熟練度が上がった物等、リュカオーンとの戦いで此れだけの手札を手に入れた。しかし、どんなスキルでも使いこなせなくては腐り札に変わってしまう。

 

(貪食の大蛇はエリアボスだから、多分逃走はしない…よな?逃げたら逃げたで、リュカオーンの呪いがヤバい事になるんだが……。

 

逃げなかったら、新しいスキルの練習台になって貰おう………)

 

呪いの影響で他のモンスターを使ったレベリングが出来ない為、エリアボスの貪食の大蛇でスキルの試運転と使用感を探ることに。

 

其れから少し経ち、ロックオンブレイカーの耐久値が回復し、店主に御礼をしたペッパーは、今度こそセカンディル到着を成し遂げる為、ファステイアを旅立っていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……本当に逃げてるよ………」

 

跳梁跋扈の森に入り、貪食の大蛇が居る吊り橋を目指して駆け抜けるペッパーは、リュカオーンの呪いの力を目の当たりにする。

 

走る先々で飛び出そうとしてくるモンスターが、旅人のマントで右腕を隠しているにも関わらず、一目散に来た道を引き返したり、慌てふためいて木の上や土の中に潜ったりと、呪いの表記通りの行動を取っていた。

 

「武器の耐久値が削られないのは、良いことなんだがな………。でもいざ、こう避けられると、此方は滅茶苦茶悲しくなる………」

 

溜息を溢し、最初に来た時と同じように、されどスタミナ消費に気を付け、最短最速距離を走り、ペッパーは再び吊り橋の近辺に到着した。

 

其処には最初に出逢った時と同じように、其の巨躯で蜷局を巻いて、身をドッシリと置いた、貪食の大蛇が。

 

「………お前は逃げないんだな。貪食の大蛇」

 

プログラム通りか、はたまた恐れ知らずか。リュカオーンの呪いを前にしても、貪食の大蛇は怯む処か『シャアアアアア……!』と低く、縄張りに侵入した此方を睨み付け、威嚇している。

 

「良いだろう…!逃げなかったお前には、今の俺の力をしっかり見せてやるッ!」

 

そう言い述べて、アイテムインベントリから白鉄の短刀を取り出し、ペッパーは2度目となる貪食の大蛇との戦いを開始した。

 

突進や毒、丸呑み等の様々な攻撃を回避しつつ、獲得したスキルを次々と試しては、武器を斬撃から打撃また斬撃へと幾度も切り替え。

 

ペッパーは30分掛け、じっくりと自分の手札を把握しながら、最後は貪食の大蛇の喉笛を、致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)とスラッシュより進化し、逆手での攻撃時にダメージ補正が上昇した『ラダースラッシュ』で切り開き、追撃のスピックエッジでトドメを刺す。

 

貪食の大蛇のドロップアイテムを回収し、吊り橋を渡りつつも、彼はリュカオーンの事が有った為、周辺警戒を厳重に道を歩み続けていき。一度はリュカオーンによって邪魔され、到着叶わぬままファステイアより再走し直し、ペッパーは此処へ来た。

 

石造りの建物が幾つも建ち、先の道を豊かな沼地が沈め。開拓者達は此処で沼渡りへと備える、シャングリラ・フロンティア第2の街『セカンディル』へと到着したのであった。

 

 




漸く到着、セカンディル



ペッパー所持スキル、一部紹介

呀突:刺突の進化スキル。攻撃時、自身の筋力が高い程、ダメージに補正が入る。

ハイドレートワーク:ステップワークの進化スキル。ステップアクションによるスタミナ減少を半分にする。

ハイビート:発動後1分間、自身の敏捷に上昇補正を掛け続け、終了後1分間、スタミナ回復に減少補正を掛ける。熟練度が上がると効果時間が延長する。

ハイプレス:打撃武器によるノックバッグ率に補正を掛ける。熟練度が上がると、補正が大きくなる。

見切り:発動後、1分間回避に補正を掛ける。自身よりレベルが低いモンスターとの戦闘では、補正は更に掛かる。熟練度が上がると、効果も大きくなる。


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到着と出逢い、依頼と絶望、それら総ては紙一重



ペッパー、ユニーククエストを進めるの巻

※エンハンス商会に修正します





沼渡りに備える街 セカンディル。

 

サードレマへと続く道を四苦八苦の沼荒野が沈め、其処で取れる潤沢な石材により発展した地域。沼地ならではの生態系や此処でしか採掘出来ない鉱物もあるため、上級開拓者になった後でも此処の資源を求めて、度々人が訪れる。

 

━━━━━━━シャンフロwikiより抜粋

 

 

「よっし、着いたァ!」

 

入口でガッツポーズを取りながら、ペッパーは其の足で早速宿屋へと赴く。道行くNPC達は、相変わらず此方を見ては避けてばかりで、他のプレイヤーもまた其の様子を見てはざわついている。

 

「……リュカオーンめ、此の借りは数百倍で返しちゃる……」

 

あの夜の出来事を思い出し、ガルルル…と犬のように喉を鳴らして復讐を誓いながら、彼は足を止めずにリスポーン地点更新の為、セカンディルの宿屋へ向かう。

 

 

 

 

 

「お、お客様様、ととと当宿屋を御利用、で、ででし、しょうか?」

 

受付のNPCが呪いにビビり散らかして、会話がバグみたいになってるんだけど、本当に大丈夫?と心配しつつも、106号室が利用出来る事になり、早速部屋に走り込む。

 

ベッドや家具等、一般的な下町の宿屋の質素な所だが、逆に其れが趣となって雰囲気をより際立たせている。

 

「よし、リスポーン更新完了っと。でだ、特殊クエストは『沼地に轟く覇音の一計』だったな。沼地だからセカンディルに関係有りそうだが……先ずは情報収集からだね」

 

ペッパーは早速、セカンディルの探索を開始。此の手の特殊クエストは、必ず関係ある地域でフラグが建っている筈なので、色々な場所を見回った。

 

だがやはり、行く先々でリュカオーンの呪いによるNPC達の逃げっぷりに振り回され、一向に情報を獲られない。

 

「……マジで、どーすりゃ良いのさ」

 

こうも進まないともなれば、街の裏街道にでも配置されているのだろうかと、ペッパーは一縷の望みを託して、街の一角に在る細道に足を踏み入れた。

 

建物と建物の間、空の青が綺麗に見え、人二人が往き来できるか否かの道を、彼は歩く。

 

「此処で戦闘が起きたりなんかしたら、其れこそ逃げられないんだよな……。オマケとばかりに滅茶苦茶強かったし」

 

街中、袋小路、イベント………此迄経験してきたゲーマーとしての勘が、ペッパーの左手にロックオンブレイカーを持たせ、周囲警戒を促させる。

 

角を曲がり、いよいよ本格的にヤバめな雰囲気が漂い始める中、彼の視線の先に居たのは、ボロボロのローブで小さな身を包み込み、俯いたままボソボソ声で呟き続ける老人が一人。

 

「………誰、ダ?」

 

と、此方の存在に気付いたのか、老人は声を掛けてきた。

 

「………其処に、イル…か?」

 

(…ん?居るか?)

 

ペッパーは先の声に『違和感』を感じた。普通ならば此方に気付いたなら、自分の方へと招き寄せるのが自然。だが、此の老人はまるで『見えていない』事のように話している。

 

「あの~……目が見えないのですか?」

 

武器を構え、慎重に近付きつつ、彼は老人の話を聞いてみることにする。

 

「…アァ。昔、戦いのサナカに、目を失ってナ…」

 

そう言った老人が顔を上げ、ペッパーは驚きに目を丸くする。

 

老人の正体は『老いたゴブリン』。長い鼻に顎は白い髭を蓄え、まるで幾億の叡知を納めたかのような、見る角度では大賢者にも見えはする。だが、其のゴブリンは『両目が在った場所が空洞のように空いたまま』の状態だったのだ。

 

「スマナイ…な。ミエナクなって、日々をイキルのも、精一杯デナ……」

 

ヨボヨボの声で元気のない老ゴブリンは、再び顔を俯ける。人もそうだが、今まで目が見えていた物が何らかの理由で見えなくなるというのは、私生活所か人格にさえも大きな影響が現れる。

 

「……あれ?目…?」

 

其の時だ。ペッパーは『何か』を思い出そうと、頭をグルグルと指先で押し、記憶を引っ張り出しては該当する事柄を片っ端から捻りだそうとする。

 

(確か、なんか有ったよな…!?何だったけ…えっと……!目…目…目………目玉!アレだ!)

 

アイテムインベントリの中身を確認。リアル過ぎた為に記憶の奥底に封印し、消し去っていたドロップアイテム━━━━━『ゴブリンの目玉』が、まさか此処で役立つとは、思いもしなかった。

 

「えっと、ゴブリン…で良いのか?もし良ければ、コレを」

 

アイテムインベントリから、シャンフロで初めて討伐し、最初手にしたレアアイテム『ゴブリンの目玉』を老ゴブリンに手渡す。

 

「お、オォ……スマナイ、な。コレは……目…か……?」

「あぁ。他のゴブリンを倒して手に入れた物だ。同族殺しをしたが、堪忍してくれ」

「……『アイツ等』も、自然ノ摂理にシタガッテ、思うままニ生きタ。ならば、ジブンの死も覚悟しとるサ…気に病む事じゃない」

 

老ゴブリンはペッパーから受け取った、ゴブリンの目玉を右目に入れ、右手は緑の光を放ちながら、何かを話している。

 

そして気のせいか、先程よりもずっと『声』に力が戻り始めていた。

 

「スマンな、助けてくれてよ」

 

そう言い、老ゴブリンは髭を指でほぐしながら、ゆっくりと立ち上がる。其の身長は130cm程なのだが、声がラスボスクラスの声優並に滅茶苦茶強く、雰囲気も相まって数倍以上大きく感じる。

 

「あ、いえ、御気になさらず……」

「そうかい。…………しかし驚いたな。懐かしい感じはしたが、お前さん『クロ助』に気に入られとったか」

 

右肩に掛けた旅人のマントから、僅かに覗くリュカオーンに刻まれた傷痕を見て、老ゴブリンが何処か懐かしそうに語ったのを、ペッパーは聞き逃さない。

 

「リュカオーンを……御存知で?」

「まぁな。お前さんの右手に付いた呪い(ソイツ)は、アイツが『自分の物だって』周りに言い振らしとるからの」

 

語り終えて、老ゴブリンはいきなり頭上に魔方陣を展開、其の中へと吸い込まれていく。

 

「え、ちょっ!?ナニソレ!?」

「ワシの名は『ポポンガ』。天と星が見ているように、お前さんを見守っとるよ」

 

そう言い残し、魔方陣の中へと消え、魔方陣本体も消えて、裏路地には静寂だけが残される。

 

「何だったんだ今の………」

 

壮大なフラグなのか、ただの演出なのか、ペッパーには分からない。しかし此の老ゴブリンこと、ポポンガとの邂逅は特殊クエスト、延いては『あるユニークシナリオ』にも大きく関わる事に、此の時の彼は知る由も無かったのである……

 

 

 

 

 

 

「結局、特殊クエストに関しての情報は得られず仕舞いかぁ………。はぁ、どうしよう………」

 

裏路地を出て街を歩くペッパーは、収穫一切無しのまま時間だけが過ぎていく現状に悩んでいた。このままいっそのこと、武器や防具を新調して次の街に進もうか…そう考え始めていたのである。

 

と、其の時。

 

「やや!!ややややややや!!!」と此方に猛ダッシュで走ってくる、其れなりの値が張りそうな衣服を纏った、恰幅の良い男性が1人。

 

ペッパーの左手に出したままのロックオンブレイカーを見て、目をキラキラと輝かせ、人目を憚らず喋り始めた。

 

「貴方様が其の手に握るのは!かのファステイアの鍛冶師が造り上げし名鎚、ロックオンブレイカーでは御座いませぬか!!」

「え!?」

「なんと!其れだけでなく、此の右手の傷痕もが!?」

 

人通りの在る場所で、大声でユニーク武器はおろかリュカオーンの事さえ喋ろうとした男を、ペッパーは慌てて口を塞ぎに掛かる。此処で色々喋られて、周りにバラされては洒落にならない事態が、確実に起きるのは明白だった。

 

「静かにお願い出来ますか…!?」

「おっと、すみません…!何せ『小鎚を生み出したキーマン』となった御方が、『夜の帝王』にも認められていたことに、興奮が止まりませんでしたので…!」

 

おそらく此の男『リュカオーンの呪いを受けたプレイヤーはNPCとの会話に補正がかかります』に該当し、プラス方面に補正が働いているNPCの1人だろう。そうでなければ、今頃逃げ出している。

 

「コホン…興奮していて申し遅れました。私、レクスと申す者。エンハンス商会セカンディル支部の支部長に御座います。以後お見知り置きを」

「あ、はい。ペッパーと申します。よろしくお願い致します」

 

随分礼儀正しい頭の下げ方をしてきたレクスに、ペッパーもまた頭を下げる。

 

「実はペッパー様に、私から…延いてはエイドルトに在る商会本社の『会長』から、直々の依頼を賜っております。

詳しくはセカンディル支部にて、お話させていただきたく……御時間を戴けませんか?」

 

どうやら、クエスト進行のフラグが構築されたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

リュカオーンの呪いを恐れないNPC・レクスに連れられ、辿り着いたのは街の一角に陣取る、エンハンス商会セカンディル支部。岩を煉瓦状に切り出し、加工して建築された2階建ての立派な店である。

 

1階では様々な消耗品を売買し、中にはエンハンス商会でしか購入出来ない限定品もあり、NPCを含めたプレイヤーも利用していた。

 

其の商会の2階、商談室と吊るされた札がある部屋で、大理石と思われるテーブルを挟む形で椅子に腰掛けるペッパーは、レクスから『依頼』を受ける。

 

「新商品?」

「はい…我が商会は現在、『投擲する事で様々な能力を発揮する特殊な玉』の製作をしておりまして。内部の構造は既に完成しております。

 

問題なのは玉の外側に使う『外皮』で、他のモンスターの毛皮等を色々試してはみましたが、上手くいかず……。ですが『マッドフロッグの皮』で試してみた結果、衝撃で内部構造が機能し、玉は確りと機能致しました」

 

詰まる所、次のクエストは『採集型』である事が分かり、ペッパーは一安心する。しかし彼は『重大な』見落としをしていた。

 

「成程、其のマッドフロッグの皮が有れば、投擲玉の試作品が作れる…という訳ですね。幾つ必要になりますか?」

 

そう、ペッパーは採集クエストの類いで要求される素材数は、其処まで『多くない』と思っていた。其れこそが、彼にとっては一番のミスであり。

 

「おお!とても心強い!では、其のマッドフロッグの皮を――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

200枚集めて欲しいのです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのスイマセン、モウイチドイッテモラエマス?」

「200枚、どうか!よろしく!お願い致します!」

 

変わらない所か、先程以上の期待の眼差しを向けてきたレクスに、ペッパーは「アッハイワカリマシタ」とだけ答え、レクス自らが見送る形で、エンハンス商会セカンディル支部を出る。

 

そして彼はこう思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

コレ詰んだわ――――と。

 




呪い身に課せられた、最悪の収集クエスト



ポポンガ:『本来』であれば【ユニーククエスト:インパクト・オブ・ザ・ワールド】の 第4段階(フォースフェイズ)にて、サードレマの下街エリア・裏路地に受注者が入った瞬間、確定でポップするユニークNPCモンスター。同時に第4段階では、クエスト進行の鍵を握る事になる。

其れ以外では、シャンフロの各街の裏路地にランダムで出現するが、受注者以外が話し掛けても反応しない。ユニークモンスターの1体、夜襲のリュカオーンとも関わりを持つようで━━━?



エンハンス商会:シャンフロ第8の街 エイドルトに拠点を構え、日々消費型アイテムを製作・新規開発に着手し、各地の道具屋へと卸しているNPC商会の1つ。

『特殊クエスト:沼地に轟く覇音の一計』では、『特殊クエスト:岩砕きの秘策』をクリアし、ユニーク武器・ロックオンブレイカーを装備した状態で、セカンディルを散策する事でイベントが発生。

エリシオン商会セカンディル支部へと案内され、其処で支部長のレクスから、マッドフロッグの皮を200枚納品する依頼を受ける事になる。



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来襲するは筆記用具の騎士王様



タイトル通りです




「200枚って、マッドフロッグ絶滅させる気かよ……」

 

エンハンス商会で受注した依頼、特殊クエストに関わる内容にペッパーは頭を抱えていた。

 

ただでさえ呪われた身でありながら、レベルが低いマッドフロッグを最低200体狩り、皮が確定ドロップでない場合はもっと必要数と時間が掛かるため、あのレクスというNPCは此方に無理難題を吹っ掛ける鬼かと、彼は内心思い始める。

 

「…そう言えば、マーキングが付いた右手には『装備』が出来ないんだよな。じゃあ、アイテムの『使用』は可能なんだろうか?」

 

現実を直視しつつも、呪いの検証を行ってみる事に。呪いが蝕む右手に、アイテムインベントリから薬草を取り出し乗せ、口の中に放り込む。

 

「………うん。薬草の味に変化は無いし、普通に使えたから使用は可能か。じゃあ次は、右手に『アクセサリー』は付けられるかを確かめよう」

 

次なる疑問を解決するべく、ペッパーはセカンディルの武器屋へと赴いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわー」

「いらっしゃい…って、アンタァもしかしてファステイアの鍛冶師の言ってた、小鎚作りに協力した『あんちゃん』か?」

 

武器屋に入ったペッパーに、武器屋の鍛冶師で白髪と白髭の店主から、開口一番に問い掛けられた。

 

「えっ、あはい。そうですが…?あ、あと名前はペッパーです」

「やっぱりそうか。此の世界の鍛冶師の間じゃ、あんちゃん…じゃなくてペッパーだな。お前さんの名は広く知られてるんだぜ?」

「マジすか…」

 

初耳な情報と大事になっている事実に驚きながら、ペッパーは店主にアクセサリーの事を聞いてみる。

 

「すいません、この店に腕輪系のアクセサリーは置いてあったりしますか?」

「あん?アクセサリーだぁ?……ソイツはセカンディルじゃ売ってねぇぞ?」

 

予想外の回答に、ペッパーは「そうなの?」と店主に質問し返す。

 

「あぁ。指輪系統なら手に入らんでも無いが、あまり効果は期待出来ねぇ。『サードレマ』とか『エイドルト』やらの、此処よりもっと先に在るデカい街で売ってるヤツなら、相応の効果があるぜ?」

「成程…ありがとうございます」

 

口が少し悪くとも、先の街の情報を教えてくれたことに対し、礼を述べるペッパー。すると店主は、彼に質問を投げてきた。

 

「ところでよぉ、ペッパー。ファステイアの鍛冶師が作ったっう『武器』ってのは、どんな物なんだ?」

 

何かしらのフラグが建った気がしたペッパーは、アイテムインベントリからロックオンブレイカーを取り出し、カウンターの上に乗せる。

 

「ほぉ…コイツが」

「はい。ファステイアの鍛冶師のおっちゃんが、生涯最高傑作と言ってましたよ」

 

自慢気に、されど誇らしげに笑った顔を思い出すペッパー。

 

「そうか…『バカ弟子』が一人前の鍛冶師に成ったか」

「ん?バカ弟子?」

「おうよ、ファステイアの鍛冶師は俺の弟子でな。ソイツが新しい武器を作ったってんで、レシピと一緒に伝書鳥(メールバード)で送ってきたんでな。まったく、立派に成りやがってよ…」

 

静かに出で立ち笑いながら、ロックオンブレイカーの表面を撫でる店主は、ペッパーに提案をしてきた。

 

「おぅ、そうだ。オメェの小鎚を俺が更に育てる事も出来るが、どうだやるかい?」

「えっ。じゃあ、お願いしたいです!何か必要な素材は有りますか?」

「そうだな…コイツを成長させんなら、『四駆八駆(しくはっく)沼荒野(ぬまこうや)』で採掘出来る『灰色鉄鉱(はいいろてっこう)』と『沼棺(ぬまひつぎ)化石(かせき)』、あとは『銀色鉄鉱(ぎんいろてっこう)』なんかがありゃァ、コイツをより強靭にさせられる。

弟子が作って育てた武器だ、だったら師匠の俺も育ててやるのも、鍛冶師としての責務さ」

 

バカ弟子と言いながら、随分と褒めてるんだなと思い、ファステイアに寄ることが有ったなら、この事を鍛冶師のおっちゃんに伝えようと決心する。

 

そうしてペッパーは武器屋を後にし、道具屋にて巌喰らいの蚯蚓との戦いで消費したツルハシを購入。其の足で四苦八苦の沼荒野へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

四駆八駆の沼荒野は、フィールドのエリアの一部に『泥沼』が適応されている。プレイヤーは泥沼に足を踏み入れると、強制的に『歩み状態』となってしまい、機動力が著しく落ちてしまう。

 

此れを解決するには『オフロード』という、足場が不安定な状態でも『平地』と同じ扱いとして移動可能な『合体特技(がったいスキル)』、もしくは道具屋で超高額を叩いて購入出来、沼地での強制歩み状態を受けなくなる『足袋(たび)』が必要だ。

 

「よいっしょ!……出たのは石と、やっぱり初めて訪れたから、探索家の子の恩恵は出てないか」

 

以前より筋力とスタミナが成長した事により、ツルハシを振るってもスタミナが減少しなくなり、スムーズに採掘作業が出来ている。

 

だが、やはり沼地。足場が悪く、踏ん張りが効かない中での採掘は、想像以上に大変だ。

 

「うーん…ツルハシだと不意討ちに対抗出来ないし、ちょっと試してみるかな?」

 

ペッパーはツルハシをインベントリに戻し、代わりにロックオンブレイカーを取り出す。採掘場所をモンスターに、あの日戦った夜襲のリュカオーンに重ね合わせ、小鎚を振り抜く。

 

ガイィン!と音を鳴らして、採掘された地層のような石が転がり、ドロップ数の限界を向かえたのか、先程まで叩いていた採掘場所は、崩れて沼へと沈んでいった。

 

「えっと何々…コレが沼棺の化石なのか。化石ってより地層だな」

 

ロックオンブレイカーの強化素材たるドロップアイテムを手に入れたペッパーだったが、此処で更なる疑問を抱く。ユニーク武器・ロックオンブレイカーは鉱物系アイテムを叩く事で、其れを破壊し耐久値を回復する。ならば、沼棺の化石を叩き割った場合の回復量は、どのくらいなのか?

 

「………えいっ」

 

右手に乗せた沼棺の化石を叩き割れば、其れはポリゴンと化して消滅し、代わりにロックオンブレイカーの耐久値がモリモリ回復していく。

 

「おぅふ…すげぇ再生……」

 

ロックオンブレイカーの時点で恐ろしいまでの回復力だ。育成を重ね、最終極致に到達し、モンスターを叩いたら其のダメージ分耐久値を回復する等と言う、ブッ壊れ能力でも付くのではと心配になる。

 

此の時のペッパーは、ロックオンブレイカーの行く末に加え、特殊クエストのマッドフロッグの皮の納品で、頭が一杯の状態だった。

 

其れ故に背後から近付いてくる、1人の女性プレイヤーの存在に気付くことが無かったのだ。

 

「ほっ…!ほっ…!せいっ!うん、やっぱり此方の方が効率が良い。振り方を変えれば、ナイフや短剣を扱いの練習も出来るし、何より必要量の筋力が有ればスタミナの消費をグッと抑えて採掘出来るぞ。オマケにロックオンブレイカーの特性も相まって、ほぼ無限に採掘作業が出来るんじゃねぇか?」

「へ~。其の小鎚、ロックオンブレイカーって言うんだ。ユニーク武器なの?」

「そうそう。鉱物系アイテムを叩き割ると、武器耐久値が回…復……する………え?」

 

誰と話していたのかと、ペッパーが振り向いた先に1人の女性プレイヤー。おまけに名前の横には赤黒いドクロのマーク。

 

シャンフロでは『プレイヤーキラー』を行っているユーザーと、そうでないユーザーを見分けるため、1度でも其の行為を行い、他プレイヤーを死亡させたならば赤黒いドクロが名前の横に押され、他NPC等からの好感度が激減したり、一部施設の利用不可といった、様々な誓約を課される事になる。

 

そして何よりも、ペッパーにとって現時点の状況は『最悪』の一言。沼地で足を取られた強制歩み、ユニーク武器を知られてしまい、よりによって相手はプレイヤーキラー。

 

完全に『詰んだ』。

 

「へ~…フフフ、良いこと聞いちゃった♪」

 

ラベンダー色の長髪と見るからに高価なイヤリングを揺らし、肩と腰の一部が露出した装備は機動力を重視として、おそらくであるが対人戦を想定した軽量モデルと思われる。

 

「な、なんだよ…アンタ」

 

武器は持ってない。が、何時攻撃されてもおかしくない状況。沼に足を取られ、逃げるに逃げれない状態で、流石に捌き切れる自信は無い。

 

「お姉さんに向かってアンタ呼ばわりは、ちょっといただけないなぁ?其れにプレイヤーネームは『アーサー・ペンシルゴン』だよ」

 

何か『違和感』がある。此のプレイヤーの顔は、どう見ても現実のカリスマモデルと、瓜二つなレベルのキャラメイク。だが、何よりも━━━━

 

 

コイツの声を、昔に聞いた事がある。

 

 

「いやぁまさか、君もシャンフロやってるなんて意外だったよ」

 

 

 

━━━━━━━ねぇ?『あーくん』♪

 

 

 

 

其の一言、たった一言で俺は、目の前のプレイヤーキラーの正体に気付いた。いや、気付かない訳がない。

 

「お、ま…!?…まさか…『永遠(とわ)』!?」

「おやおや。ゲームとはいえ感動の再会なのに、随分冷たいね~。あーくんは」

 

ケラケラと笑う彼女を、俺はよく知っている……。昔の友達やクラスメイト、近所のおばちゃん達諸々含めて、俺を『アズサ』とか『あず君』とか、普通に『ごじょー』やら『五条君』等と呼ぶ其の中で、たった1人だけ『あーくん』と呼ぶ奴が居る。

 

正直言って、俺にとっての『コイツ』は。想い出の全てを今此処でひっくり返したとしても、『ロクな出来事』が一切無い。

 

アーサー・ペンシルゴン、本名を『天音(あまね) 永遠(とわ)』。今の時代を輝く、天下のカリスマモデルのコイツと俺は、ある種の『腐れ縁』にも似た、俺からすれば思い出したくもない『因縁』があるのだから……

 

 

 






其の者はカリスマモデル、そして魔王なり


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鉛筆は憚り、胡椒は咳き込み、兎が扉を開く



ペンシルゴンとペッパーのオハナシ





天音(あまね) 永遠(とわ)。現在、カリスマモデルとしての地位を確固たる物にし、雑誌や記事でも引っ張りだこの女性。

 

あらゆる不意打ちの撮影でさえ、どこから撮ったとしても『ベストショット』にしてしまう圧倒的な美貌と顔立ちは、ファンの間で彼女を『神格化』する熱狂的な連中もいる程。

 

「ファッションに困ったら天音 永遠がモデルの雑誌で紹介されている服を買えば間違いない」と言われ、特に10代女性からの爆発的で絶大な人気を受けている。

 

だが、そんな彼女等を全員纏めて敵に回したとしても、俺は自分を曲げずに言ってやろう――――お前達の目は随分節穴なのだな、と。

 

幼稚園年長組の頃、俺の隣近所に家族で引っ越して来たのが、永遠と弟を含めた四人家族の天音家だった。まぁ最初の頃は年上の女の子って感じで、まぁまぁ仲良くはしていたよ。レトロゲームで遊んだり、自転車で河川敷を全力疾走したり、かくれんぼや鬼ごっことかもしたかな。

 

で、そんなある日。永遠が犬に襲われていて、俺が其処に助けに割り込んだ事が在ったらしい。もう既に昔の記憶だから、全く覚えてはいないが。

 

其の事件がある意味『ハジマリ』で、俺が永遠を嫌いになる『キッカケ』だった。

 

ある時は、案内された先で俺が落とし穴に綺麗に落っこちる様を平気で笑い転げたり。

 

またある時は、俺が犬に追われて噛まれそうになったりするのをゲラゲラ笑ったり。

 

特に堪えたのは、頑張って全クリしたゲームの最強装備(2回目以降の入手の場合は滅茶苦茶条件が厳しい)、其れもパーティー全員分を、本人が居る目の前で売却したり。

 

兎に角、人の不幸を笑える『ド畜生』だった。

 

しかも此れを自分で考え、用意して、入念な準備をし、上手いこと口達者に行うのだから、余計にタチが悪い。マジで性根が歪んでるなと思う程に。

 

俺は程無くして家に籠り、兎に角アイツとは会わないようにし続けた。理由を作る名目で色んな昔のゲームをプレイして時間を潰しまくり、アイツと遊ぶ時間を作らせないよう心掛けた。其のお陰が、自分でもかなりプレイスキルは磨き研かれたとは思っている。俺が永遠に感謝してるのは、其れだけしかない。

 

まぁそれでもアイツは、此方の僅かな隙を狙っては、俺を外に連れ出して無茶苦茶しまくり、俺は嫌々ながらも永遠の企みに乗ってはやったが、本当に嫌な思い出ばかりが積もっていった。

 

そんなある日、俺は父親の仕事の関係で別の場所に引っ越す事になり、最後の日に永遠へ「やっと顔を見なくて済むよじゃあな」と言い放ってやった。此迄の怨み辛みやら、纏めて全部吐き捨てる形で。

 

だが何故か、永遠は大泣きし始めて、俺に何かを言って走り去ってしまったのだが、其れを今も思い出せないでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり~。あーくん随分大きくなったねー」

「俺は二度と逢いたくなかったがな…」

 

頭をよしよしと撫でようとしてきたペンシルゴンに、ペッパーは何とか対抗しようとしたが、レベル差の影響で抵抗虚しく撫で撫でされる羽目に。

 

「で…………天下のカリスマ殺人鬼モデル様が、こんな辺境の地で採掘してる一般市民に如何様な御用件で?まさかスカウト?喜んで御断りするけど」

「あらら、スカウトしようとしたら先に断られちゃった♪お姉さんはとってもかなしいな~えーんえーん」

 

棒読み嘘泣きのバーゲンセールかと言わんばかりの演技、明らかに此方をおちょくっている。

 

「まぁ…スカウト自体は本当だけど」

「殺人鬼集団とランデブーとかイヤだが?」

「ははは!君ならそう言うと思った!」

 

コイツの『こういう所』が嫌いだ。本心を隠し、言葉巧みに誑かし、あらゆる物・人を其の全てさえも使いこなし、気付いた時には『掌の上』で、誰も彼もが踊らされている。

 

天音 永遠の本質は『黒幕』――――全てを操り、瞬間瞬間を生き、愉悦に嗤うのだ。

 

「あ~…ハハハ、たのしー。やっぱりあーくん弄ると生きてる実感するわ~♪」

「この女悪魔め…!」

 

思い出したくもない事を思い出して、コイツに心を掻き乱されてムシャクシャしてくる。此の憤り、採掘にぶつけて晴らさで措くべきか…そんな気持ちにペッパーがなり始めた時、ペンシルゴンはこう言ってきた。

 

「まぁ、わざわざフィフティシアから此処まで来たのは、小鎚を解放したユニーク保持者探しが目的で、其れがあーくんだったのは意外だったなー」

「俺で悪いかよ」

「……ううん。寧ろ『君で良かった』って思う」

 

君で良かったというペンシルゴン、其の頬はほんの僅かに赤かったが、ペッパーは気付かない。

 

「ねぇ、あーくん。私と『取引』しない?」

「……取引?何を?」

「なぁに、とっても簡単な話だよ。君が私『個人』に、君の持ってるクエストの情報を売って欲しいってだけ」

 

相変わらず何を企んでいるのか、彼にはペンシルゴンの考えが分からない。だが、彼女はペッパーの予想の斜め上を行く、とんでもない爆弾発言をぶん投げてきたのである。

 

「もし、其の情報が充分な価値有りだと判断出来たなら。『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン』、其の攻略に一枚噛ませてあげる」

「おい永遠、今お前なんて言った?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニークモンスター。シャンフロの世界では、ペッパーが対峙した『夜襲のリュカオーン』を含む『最強種』と呼ばれる存在が居る。

 

どんな種族で、何処で出逢え、何体居るのか。其れ等の情報は極めて少なく、名前そのものが判明しているのも極僅かという、謎が謎を呼ぶモンスター達だ。

そしてそんな最強種達は、全員例外なく『理不尽な強さ』を誇っている。

 

曰く、夜襲のリュカオーン相手に挑んだ最強クランの精鋭達が、ボウリングのピンみたく吹っ飛ばされて総崩れ。

 

曰く、真っ昼間の空から金色の龍が降りてきて、とんでもないブレスで焼き払い、野良パーティーは全員纏めてガメオベラ。

 

3000万人のユーザーがプレイしながら、現在に至るまでユニークモンスターは『1体たりとも』討伐されていない理由が、其の理不尽な強さに在るのだという。

 

「墓守のウェザエモン…だと?」

「そ。私の所属してるクラン『阿修羅会』が直隠しにしてるユニークモンスター。因みに他のプレイヤーは知らなーい、と~っても貴重な情報だよ~?」

 

ニヤニヤしているペンシルゴン、普通のプレイヤーならば喜んで賛同するだろうが、此方は其れで何度も痛い目を見てきた。

 

見えてるぞ、お前の『狙い』は――――!

 

「永遠………相変わらず何企んで、何考えてるか分かりゃしねぇが、此の話を聞いた時点でどっち道『協力』するしか、俺の生き残る道ねーじゃねーか」

 

阿修羅会がどんな集まりなのかは知らないが、プレイヤーキラーのペンシルゴンが所属している事から察するに、プレイヤーキラークランである筈だ。

 

仮にコイツの要求を断った場合『他プレイヤーにウェザエモンの情報知られて、掲示板で拡散されましたー』なんて言われようものなら、間違いなく追われる身にされる。

 

リスポンキルすら生温い地獄が確実に俺を待っているだろう。故に俺を断らせない為に、コイツは先んじて逃げ道を塞ぎにきやがった訳だ。

 

「ほほぅ、存外直ぐに状況把握が出来たじゃない。そんな優秀あーくんには、ペンシルゴンお姉さんとフレンドを結ぶ権利をプレゼントしちゃうぞー。泣いて喜びたまえ♪」

「喜んで突っ跳ねたいがな。……はぁ、フレンドは結んでやるよ。どうせ結ばないって言ったら、また色々やりそうだし」

「あ、バレた?」

「マジで何しようとしたんだよ……」

 

考えるだけでもゾッとした。まぁコイツならやりかねないし、想像するだけロクな事にならないだろう。送られてきたフレンド申請画面のOKボタンをクリックし、俺のシャンフロ初のフレンドは、因縁浅からぬアーサー・ペンシルゴンになった。

 

「……しゃあない。約束通り俺の持ってるクエスト、教えてやるから傾聴しな」

「よっ、待ってました♪」

「先ずは此のユニーク武器・ロックオンブレイカーだが……特殊クエストの一番最初をクリアした事で『秘伝書』と一緒に貰った。で、其の秘伝書は『PK強奪不可能』と『破棄不可能』が付いてて、俺以外閲覧する事すら出来ない」

 

永遠が俺の発言に目を丸くする。此処まで散々振り回してきたんだ。当然、振り回される覚悟も出来てるよな?

 

「要するに…あーくんに素材を渡して、生産を依頼するしかないって事?」

「あぁ。で、今受けてる依頼でマッドフロッグの皮が200枚必要になってて、おそらくだが『複数の段取り』が待ってる。多分流れは収集→実験→戦闘…だとは思う」

 

此の依頼に関しては、ほぼ当てずっぽうだが今までプレイしてきたゲームにも、此のタイプの依頼が有ったので、可能性としては高い。

 

「そしておそらく。此の特殊クエストは『段階式解放型クエスト』――――クエストが1つ終わる毎に新しいクエストの発生と、シャングリラ・フロンティアのゲームをプレイするユーザー達に『様々な恩恵』を与える、とんでもないクエストだと俺は考えてる」

 

世界の情景、其処に住む人やモンスターにさえ影響を及ぼし、あまつさえ変えていく大スケールのクエスト。世界を変えると言う訳ではないが、其れでも此のクエストは進めていくだけの価値は、十二分にあると俺は思っている。

 

「うん…私の予想以上のクエストだね。良いよ、約束通りウェザエモン攻略、あーくんも参加させるね」

「取引成立だな」

 

リュカオーンに噛まれ、呪いが刻み込まれている右手ではなく、ロックオンブレイカーをインベントリに仕舞った左手で握手を交わす。

 

「ところでずっと気になってたんだけど…何で右腕マントで隠してるの?」

「知らないのか?今、シャンフロ初心者の間じゃ流行りのファッション『片腕マント隠しスタイル』なんだぜ?」

 

嘘である。リュカオーンと接触して実力認められた上に、マーキングを付けられたなんて、コイツに言ったら更に面倒事になるのがオチだ。隠せる武器は隠しておくに限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サードレマに着いたら、伝書鳥で報告お願いね~』と言い残して、アーサー・ペンシルゴンはサードレマの方面に帰って行った。

 

「はぁぁぁぁぁぁ……やっと終わったぁ~………」

 

四苦八苦の沼荒野からセカンディルに戻り、色々な意味で束縛を解かれたペッパーは、街の人気の無い裏路地に逃げ込み、大きな溜息を吐き捨てる。

 

「あぁ、くっそ。まさかアイツが、シャンフロやってるなんて予想外にも程がある…。というかキャラメイクに気合入れ過ぎだわ、作り込みが半端じゃねぇ」

 

まるで鏡写しのようなアバターに、彼女自身相当な想いを込めてビルドしたのは間違いない。最も其れは『天音 永遠を語る不届き者』を『本人自ら演じる』という性根の悪さが滲み出ているだろうが。

 

「マーキングもあるし、悪目立ちしそうだし、どうやってマッドフロッグの皮を集め………ん?」

 

行き詰まった状況の打開策を考えていた時、不意に目の前を『黒い兎』が通り過ぎる。視線を送ってみると、此方に気付いた黒兎は、手招きをして街角へと消える。

 

「え、ちょ!?待て待て待て待て待て!!?」

 

見失わないようにスキル:アクセルを使用し、黒兎の跡を追い掛けるペッパー。そうして裏路地の行き止まりに差し掛かった所で、黒兎は壁に『扉』を作り出す。

 

「は!??!何それは!?」

 

魔法の一環なのかと聞きたかったが、黒兎は扉を開けて中に入り、ペッパーに手招きをして扉を閉めた。

 

 

『ユニークシナリオ・兎の国からの招待』

 

 

扉にはそう書かれている。

 

「ユニークシナリオ…!?」

 

まさかの事態だ。特殊クエストを進めていたら、未知のユニークモンスターの存在を知り、其の矢先に今度はユニークシナリオまでもが、自分の元に転がり込んできた。情報の大洪水で頭の許容量が限界点になりそうだが、今は其れもどうでも良い事で。

 

「へっ…兎が出るか、蛇が出るか。確かめてやろうじゃないの!」

 

未知を求め、世界を拓く。其れが開拓者。なれば此の未知、楽しまずして開拓者は名乗れはしない。ペッパーは扉を開き、其の中へと飛び込んでいく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、此の時の彼は知らなかった。

 

このユニークシナリオは『推奨レベル80以上』という、化物シナリオであると。

 

そして彼が、現在進行形で受けている特殊クエストとも相まり、シャングリラ・フロンティアは其の大きなうねりを受け、世界を止め続ける歯車が、確実に破壊されようとしていることに……。

 

 

 






ユニークはユニークを呼び、そしてユニークは連鎖する


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香辛料は兎達の夢を見るか



ペッパー、ラビッツに上陸す。

*読者様からの指摘をいただき、アイリスをアイトゥイルに修正します。教えてくださりありがとうございました


どうも皆さん、こんにちわ。ペッパーです。俺は今、シャングリラ・フロンティアのユニークシナリオに挑戦しています。

 

セカンディルの裏路地で黒兎を追い掛けて、開かれた扉を潜った先には――――――――兎の国が在りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『兎の国ツアー』という初心者推奨シナリオが、シャングリラ・フロンティアにはある。

 

ヴォーパルの名を関する武器を装備し、レベル以上のエネミーを倒すことにより、シャンフロの各街で『特殊なヴォーパルバニー』が現れるようになり、導かれた先の扉を潜る事で辿り着くのが、ヴォーパルバニーの故郷とも呼ぶべき場所『兎の国ラビッツ』である。

 

其の国でヴォーパルバニーを襲う『兎食の大蛇』を倒す事で、自身よりもレベルの高い相手に対しての、クリティカル補正が掛かる魔法【エンチャント・ヴォーパル】を獲得出来る。

 

なお、獲得後はラビッツから弾き出されてしまうため、スクリーンショットをお忘れなく。其れが後に梓が知った『兎の国ツアー』の内容である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁにここ」とペッパーは呟く。扉を開いた先は大樹の上に出来た木の階段と、壮大な造りを成す大御殿が鎮座している。

 

下には見渡す限り、兎を模した建物が並び、ヴォーパルバニー達が皆平和に暮らしていて、ケモナー…もといウサギ好きにはたまらない天国であろう。

 

「とんでもない所に来たのか…俺は……」

「やぁやぁ、よぅ来ましたなぁ。ペッパーはん」

 

そんな折、自分を呼ぶ声がした。彼が視線を向けると、黒い毛並みと細目と丸い唐笠を被り、薙刀と柄先に桃燈をぶら下げて、ヤクザ物でよくある着物と晒を着付ける、右側の袖を捲り捨てた如何にも剣格たる黒兎…否、黒い和装のヴォーパルバニーが居たのだ。

 

「うぉえあ!?どちら様です!?」

 

驚きで後退るペッパーに、其の黒いヴォーパルバニーは語り出す。

 

「いやはや、今ラビッツではペッパーはんの噂で持ちきりな。夜の帝王たる『夜襲』相手に後衛ながら果敢に挑む覚悟と、怒濤の攻撃を見切って夜襲の瞳を切り裂いてみせた技術。ほんまペッパーはん『ヴォーパル魂』の塊やんね~」

 

ほわほわのオーラを纏いながら、口から出るのは解説者特有の事細かな説明だ。其れより気になったのは、此の黒兎が最後に言った『ヴォーパル魂』なるワード。所謂、強敵に挑む心意気のような物なのだろうか?

 

「あぁ、そいえば自己紹介まだやったわ。ワイは『アイトゥイル』っちゅう名前なのさ。よろしゅうな、ペッパーはん」

「あっはい。ペッパーです、よろしくお願いします」

 

小さな掌を優しく握り、ペッパーはアイトゥイルと握手を交わす。

 

「今こうしてペッパーはんをラビッツに連れてきたんは、ワイのおと…じゃなかったわ。『オカシラ』が、アンタに会いたいっちゅう事で、ワイが派遣された訳さ。それにな、ラビッツには沢山人間は来るんやけんど、此の『兎御殿』に来たんわ、ペッパーはんが『初めて』なんよ」

「え、そうなの?」

「せやで。人間として『初来殿』っちゅうこっちゃね」

 

予想以上にとんでもない事態になってきたペッパーは、頭の中が情報でこんがらがりながらも、何とか平静を保つ。此処で逃げたら、せっかく招いてくれたオカシラに失礼極まりない。

 

「ささ、上がってな~」

「お……お、お邪魔します…!」

 

兎御殿に上がらせて貰ったペッパーは、靴を脱いでリュカオーンの呪いをマントで隠した右手で持ち、屋敷に足を踏み入れた。

 

荘厳な造りと和風テイストに満ちた殿内を、アイトゥイルと名乗ったヴォーパルバニーに連れられ、オカシラ……つまりはヴォーパルバニー達の長が居るという、部屋へと案内される。

 

廊下の床や棚に置物等、高級旅館を彷彿とさせる味わいと趣が漂い、屏風や襖に描かれた水墨画達は、まるで生きているかのような躍動感を持ち、緊張から背中はピシッと伸びた。

 

(ヴォーパルバニーのオカシラか。一体どんなんだろう…意外と小さかったりするのか…?)

 

アイトゥイルの身長から同じくらいなのかと考えるペッパー。そしてアイトゥイルの足が、如何にも偉い者が居るであろう大部屋の襖の前で止まる。

 

「オカシラ~、ヴォーパル魂の人間はんを連れて来ましたっせ~」

「おぅ、アイトゥイル。ご苦労だったな」

 

開かれた襖の先、畳が敷かれ、戦国時代で言う城主が家臣を集め、号令を出したりする、謂わば謁見の間の様な空間に『彼』は居た。

 

人間と同じくらいの背丈に、極道物の長が着る着物と袴を確り着付け、細い人参を模した如何にも年代物の煙管を蒸かしている。周りには小さな雌兎を従え、此れがハーレムだと言わんばかりに主張し。

 

其の身を覆うは、白くゴワゴワしながらも艶の有る毛並み。纏う気迫は、幾千の死線を越えてきたであろう、真なる強者の覇気と圧。

 

右目は戦いの中で潰れたであろう傷痕が在り、ドスと深みが聞いた声もラスボスというか、アニメなんかでいう最重要ポジションに席を置いた人物の其れで、威圧感と愛嬌が超高次元で融合したキャラクター。

 

ハッキリと解る、クリエイターと製作陣の情熱と愛情の深さ、其れを一身に受けた存在だと。

 

「おぅ、よく来たなぁ…待ってたぜ」

 

声が本当に強い。ペッパーは緊張で言葉が詰まり、声が出せずにいた。

 

「おめぇさんかい。あのワンコロの眼ェ切り裂いて、マーキング(ションベン)掛けられたっつう人間は。中々ヴォーパル魂が在るじゃねぇの」

 

兎は本来草食動物だが、時に自らの腹を痛めて産んだ子兎を喰い殺す一面も持っている。だが此の大兎の微笑み……此方に向けられた顔は、そんじょそこらの肉食獣の比ではない。

 

下手をしたら━━━━『殺される』。

 

「おめぇ等は直ぐに強くなっちまって、ヴォーパル魂を無くしちまって気に食わなかったんだが、おめぇさんみたいな見所の有る有望な奴も居るもんだなぁ」

 

煙管の煙が漂い、オカシラ大兎は口から煙を吐いて、ペッパーに言う。

 

俺等(おいら)ァは『ヴァイスアッシュ』っていうんだ。もし、おめぇさんが時間を預けるってんなら、俺直々に鍛えてやる事も出来るが………どうだい、やるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペッパーは緊張していた。其れは今現在も同じであり、其れ故に殆ど話が頭に入って来なかった。

 

「――――――おめぇさんを鍛えてやる事も出来るが……どうだい、やるかい?」

 

ハッとなって気付いた時には、もう既にヴァイスアッシュの話の大半は終わっており、答えを問われていたのである。

 

(ヤバいどうしよう!?緊張してて話の殆ど聞けなかった!?鍛える!?え、どゆこと!??!いや落ち着け、落ち着くんだ俺!!スキップ早送りでテキストを読めなかった時の選択肢で重要なのは『雰囲気』!そして答えるべきは『此の大兎の呼び方』だ!)

 

ギャルゲー等でも経験した『複数選択肢よりの選択画面』が、ペッパーの脳内に即座に形作られる。彼の中に現在存在する選択肢は、『親父』『兄貴』『先生』の3つ。

 

(極道物のゲームは『普通』なら親父と呼ぶが、今回のコレは『地雷』の臭いしかしない!下手な回答は絶対駄目!だって一歩間違えたら、ケジメで指全部持ってかれるもん!絶対此の兎やりそうだもん!!

 

つまりッ!!!選択肢は…!!)

 

ペッパーは旅人のマントを外し、靴を右側に置き、両膝を畳に着き、右手から左手を付け、日本人の世界に誇る礼儀作法の構えを取り━━━━━

 

「よろしくお願い致します━━━━━『先生』」

 

頭を下げ、そう答えた。

 

「……………………………」

「……………………………」

 

(…………あっるぇ!?此処『兄貴』って答えるハズだったよね!?コントローラーとかマウス操作でボタンの押し間違えるアレか!?ヤッバイぞ選択ミスったか!?)

 

本来の答え『兄貴』と答えるべき所が、まさかの『先生』と言ってしまったペッパーは、内心で焦りに焦りまくり、脳内はサイレンが鳴りまくっていた。

 

室内には沈黙が満ち、ヴァイスアッシュが静かに立ち上がり、一歩また一歩とペッパーへ歩み寄って。

 

そして――――――――――――

 

 

 

 

 

彼の大きく、優しい掌が、ペッパーの頭の上に乗っていた。

 

 

 

 

「そうか、先生…か。成程なァ…先の者より教えを乞う以上は、おめぇさんは弟子か。気に入ったぜ…其の心意気」

 

そう言ったヴァイスアッシュの瞳は、ペッパーの覚悟を見定め、其の覚悟に答えんとする先達者としての眼だった。

 

彼は自分の懐から、1枚の赤い布を取り出して宙に放り投げると、まるで命を得たように布はペッパーの首に巻き付く。

 

「おめぇさんにコイツを授ける。強さに至りたくば、尋常成らざる苦難と覚悟が必要だァ。其の身に宿ったヴォーパル魂、決して忘れるべからず。………それとアイトゥイル。コイツの世話は任せたぜ」

「任せてぇな~オカシラ~。ペッパーはん行きましょか~」

 

アイトゥイルがペッパーの袖を引っ張るが、彼は全く反応しない。ペッパーは『気絶』していたのだ、ヴァイスアッシュが手を頭に置こうとした瞬間、此迄に積み重なった情報量に脳がパンクして、自身を守るセーフティが発動。

 

お辞儀をしたまま、ピタリと動かなくなったのである。

 

「ふふふ…オカシラの慈悲に感極まってまったんやろなぁ~。まぁええ、運んであげましょか」

 

アイトゥイルは動かないペッパーを「よっこいしょ」と持ち上げて、軽々と自分の部屋へ運んでいく。

 

此れがペッパーと、ヴァイスアッシュとの出逢いであり。そして其の子供の1人にして、彼の相棒として付き合う事になる黒いヴォーパルバニー・アイトゥイルとの、始まりでもあったのだ。

 

 

 






大御殿で頭は一杯


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風来女と料理人と鍛冶師と香辛料



ペッパー、兎御殿を探索し状況を整理する。

※タイトル変更しました

※ティーブルをティークに変更しました


「う、うぅん…?」

 

ペッパーが目を覚ますと、其処には木造の天井が広がっていた。身体を起こして辺りを見渡すと、何処かの部屋のベッドの上で寝ていたようだ。

 

「ええっと確か…あ、先生って呼んだんだった!?大丈夫だったか!?ヴァイスアッシュに悪影響出てないか!?」

「独り言、其れもまた一興……。ペッパーはんはワイ等のオカシラに、きっちり鍛えて貰える事になったんさね」

 

と、横に目をやるとアイトゥイルが丸椅子に座っており、ポリポリと人参形のクッキーらしき物を囓り、背中の小さな小物入れから糸瓜型の水筒を取り出して、くびくびと飲んでいる。

 

「あとオカシラからペッパーはんに首輪着けたんと、ワイが御世話任されたきに、伝えておけと言われたけん。ペッパーはん、よろしゅう頼むさね」

「あっはい。というか、首輪?何だコレは……」

 

アイトゥイルに言われて、ペッパーは自身の首を擦ると、確かに赤い布製の白い焔の刺繍が入った首輪が巻き付いている。彼は性能を調べる為、ステータス画面よりアクセサリーとして加わった首輪の性能をチェックする。

 

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)

 

取得経験値が半分になる代わりにレベルアップの際に獲得するポイントが2.5倍(小数点切り捨て)になる。

 

致命兎(ヴォーパルバニー)(おう)が作り出した戒めの首輪、王の許可なくして外れること有らず。其れ即ち、弱者が強さを得るためには、尋常ならざる苦難が必要であるが故に。

 

 

 

「……普通にヤバいアクセサリーだわコレ」

 

リュカオーンの呪いを含め、戦闘による経験値半分を差し引いたとしても、レベルアップで2.5倍のポイント獲得はとんでもない所か破格の性能だ。単純計算で首輪無しが5ポイントなのに対し、首輪有りなら12ポイントになる。

 

仮にコレを装備したまま、己を鍛え上げ抜き、レベル99(カンスト)まで至った場合の総獲得ポイントは、通常のレベル99とステータスに天と地の差が生まれるだろう。

 

「あぁ其れからもひとつ。ペッパーはんが目ぇ覚ましたら兎御殿の案内しておけと頼まれたんよ。そろそろ夜になり、良き月が昇るけんど、アンタはどないするん?」

 

アイトゥイルの言葉で時間を確認すると、もうすぐ午後5時を指そうとしている。部屋の窓から外を見ると、夕焼けがラビッツを染め始め、遠くの家々にも光が灯る所が出てきた。

 

「そうだな…。じゃあアイトゥイルが、一度顔出した方が良いと思う場所に、ちょっと行ってみたいな。あとリスポーン地点を更新しときたい」

「顔を出した方が良い場所かぁ…となるとアソコとアソコやろなぁ。よっしゃ、付いてきペッパーはん」

 

部屋を出て、アイトゥイルの背中を追い、最初に来たのは赤い暖簾が掛かり、中からは出汁の香りが漂い、食欲を刺激する『食堂』だった。

 

暖簾の先には長方形の木製テーブルと丸椅子が並び、ヴォーパルバニーが30羽以上は余裕で座れるだろう、広々とした空間となっており、窓の外には夕焼けの光が射し込んでいる。

 

「此処は兎御殿の食事処でな~。弟が料理を作ってるんよ」

「ほほぅ、其れはとても気になる」

 

兎御殿の料理ともなれば、やはり主力は和食なのだろうか。期待に胸が高鳴るペッパーの横で、アイトゥイルは此処の主たる者の名を呼んだ。

 

「おーい『ティーク』~。居るかいな~?」

 

僅かな沈黙、聞こえてくるはカランコロンと鳴らす下駄の音。1人と1羽の前に歩き出たのは、白毛に真っ白な高級料亭の料理人が着る調理着を纏う、左目に十字の眼帯を掛け、腰には特注であろう鞘と、包丁を納めたヴォーパルバニーが来た。

 

「おうおうおう、アイトゥイル姉。普段酒呑んで肴食っとるんが、漸く普通のメシ食う気になったかぁ?」

「あ?酒は美味しんよ?命なんよ?舐めとらアカンでティーク」

「お?やるか?やったるか?」

「そっちがそん気なら、やっちゃるけんどな」

 

片や鞘から抜刀した包丁を取り出し牙突の構えを、片や唐笠を投げ捨て薙刀を頭上で回して構え、今にも一触即発のヤバい状況になった。

 

このままでは食事処は愚か、兎御殿が半壊するかも知れないと、ペッパーは恐怖を感じて両者の仲裁に入る。

 

「ちょ、喧嘩は良くない!?刃物で人を笑顔に出来るの料理人だけだし、危ないからストップストップ!!?」

「おぉ、確かにな……。頭に血ィ上ってもたわ………スマン、姉者」

「ごめん、ペッパーはん……危うくワイの酒と晩飯抜きになるとこやった………」

 

ペッパーの必死の説得に、ティークは自身が過ちを犯し掛けた事に気付き、腰に掛けた特注の鞘に包丁を納め。アイトゥイルもまた手に持った薙刀の刃を引き、大事に至らずに済んだ。

 

「コホン…では改めてペッパーはん、こっちは弟のティーク。兎御殿の料理長やっとるさかい、仲良うしたってな」

「ペッパーです、初めましてティークさん」

「よろしゅう、オイがティークや」

 

握手を交わすペッパーは、ティークの手と肉球の感触がゴツゴツしているのを感じる。相当な時間、包丁を握り続けなくては絶対に現れない、まさに職人の手であった。

 

「噂にゃ聞いたが、おみゃさん後衛職なんやってな?」

「はい、バックパッカーをやらせていただいてます」

「成程のぉ…因みに夜襲の眼ぇ切った武器ってな、今持っとるか?」

 

夜襲のリュカオーンとの戦いで一矢報いてみせた、致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)に興味を示したティークに、ペッパーはアイテムインベントリから獲物を取り出し、其の刃を自分の方に向け、峰がティーブルの方を向くように両掌に持って「どうぞ」と渡す。

 

ティークは其れを受け取り、刃先や峰を職人の目で静かに見定め、こう言った。

 

「…良い(ツラ)しとるけぇの。濃いィ夜襲の『残照(かおり)』が漂っとるわ」

 

「残照?何ですか其れ」とペッパーはティークに問う。

 

「知らんのか、おみゃあさん。致命の名を冠する武器ってなぁ、全部が強者と殺り合った『記憶』を其の身に宿しとるんじゃき。アイトゥイル姉、コイツを『ビィラック姉』に見せたら、どんな反応するやろ?」

「多分やけんど、眼ぇ丸くして一晩中弄り倒しそうね。夜襲の眼ェ切っ裂いて、其の残照が残った武器自体、ワイ等でも御目に掛かれへんしなぁ」

 

情報に情報が重なって、1つ理解する間に色々置いてきぼりにされている。高校時代の授業か何かかコレは。

 

「ティークさん、残照付きの武器ってそんなにヤバいんですか?」

「普通の武器よりゃ、価値は有るな。まぁ、人間は怖がっちまって買い取っちゃくれねぇけんど」

 

そう言って包丁を返したティーク。と、アイトゥイルは其の刃を見て、当たり前な。然して、とんでもない発言を溢したのである。

 

「まぁ此の包丁は夜襲にとっちゃ、自分に傷を負わせた獲物さね。残照(かおり)を頼りにペッパーはんを追ってくるんやないの(・・・・・・・・・・)?知らんけど」

 

しれっと爆弾発現をされ、ペッパーはアイトゥイルの方に視線を向ける。確かに、復讐系統のゲームでは、主人公は家族や友人、恋人が殺害された場面で遺されたメッセージや刃物、特徴から犯人を追い、復讐を果たすのが『王道』であり『始まり』になる。

 

もしアイトゥイルが言った通り、此の致命の包丁から発せられる匂いが、リュカオーンを引き寄せる力を宿しているのだとしたならば。夜闇に紛れて神出鬼没にフロンティアを駆け回るリュカオーンを誘き出す、秘密兵器に成り得る可能性が大いに有る。

 

無論、コレはいざという時の『切札』――――――おいそれとは表に出せない上に、夜に包丁を振るおうものなら、リュカオーンがやって来る危険も憑き纏っているのだ。

 

「あああもう……どうしよう本当に………」

 

次から次に不発弾が積まれ、何時爆発する危険と隣り合わせ。おまけに大嫌いなアーサー・ペンシルゴンとも接触する中で、シャンフロをプレイする。ペッパーの胃がストレスで悲鳴を上げ、キリキリしてきた。

 

「リュカオーンめ、絶対許さあああん!!」

 

青筋をビキビキと浮かべ、ペッパーは自身の右手にマーキングを施し、トンズラこいた狼への復讐を更に強く誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兎御殿食事処でティークとの出逢いを経て、ペッパーはアイトゥイルの案内の下、兎御殿の鍛冶場にやって来た。中世ヨーロッパの鉄火場を想わせる道具と器具の数々は、どれも隅々まで手入れが施されており、此の場所ではよくある炭汚れも僅かに留めており、此処を使う者の性格がよく解る。

 

「此処が兎御殿の鍛冶場さ、ペッパーはん」

「おぉ~…凄く綺麗だわ。普通煤汚れとか在ったりもんなんだが…」

「自分の道具もマトモに手入れ出来んヤツは『二流以下』じゃけ」

 

と、奥の暖簾を挙げて白い晒を胸に巻き付け、オーバーオールを履いた、黒茶色の毛並みのヴォーパルバニーが姿を現す。だが、其のヴォーパルバニーはペッパーを見た瞬間、目をキラキラし始めている。

 

「アイトゥイル、此のヴォーパルバニーが…」

「そやで、ウチ等姉妹の一番上の『ビィラック』姉さんさ。姉さん、彼がペッパーはんや」

「ペッパーです、よろしくお願いします」

 

律儀に礼を述べた矢先、ビィラックがペッパーに近寄り「おおお!ワリャがペッパーかいな!?会ってみたかったけぇの!」と、左手を掴んで握手してくる。

 

明らかに体格差が有りながら、握手された瞬間にペッパーの脳裏を過ったのは、自分がビィラックに『ぶん回されるビジョン』を見たのだ。

 

「ビィラック姉さん。ペッパーはん、そげに有名なんさね?」

「バカ垂れ!呑兵衛!アイトゥイル!何たってコイツは人間が新しく『小鎚』っちゅう武器を産み出す立役者になった男じゃ、鍛冶に関わる奴っちゃ知っとかんと恥になるけんの!!」

 

小鎚開発に関わった事が、兎の国 ラビッツの鍛冶師にまで届いているという事実に、ペッパーは改めて特殊クエストによる恩恵がとんでもない物だと冷や汗をかく。

 

下手したらもっと大変な事になるんじゃないか?と、内心気が気でいられない。そして此のテンションのビィラックに、リュカオーンの目を切り裂いた包丁を見せようものなら、間違いなく大変な事になるだろう。

 

「まぁ、ペッパーはん。アンタが成したんは、そんだけ大きって事さ。多分、人間の間でもアンタを巡って争い起こっとるんかもな?」

「大丈夫………じゃないかもなぁ」

 

マッドフロッグの皮の納品が滞れば、自分の噂は更に広まり、軈ては包囲網が形成される。そうなると、もう時間の問題になる。

 

「マッドフロッグの皮を早く集めないといけないけど、リュカオーンの呪いがある以上、収集に支障が出る…どうすれば………」

「『引き寄せれば』良いのさ」

 

アイトゥイルの発言に、ペッパーとビィラックは彼女の顔を見た。確かに的を得ている。逃げ出すならば引き寄せて、一網打尽に狩り取れば、一気に素材は集まるだろう。

 

なんと甘美なアイデアだろう、其れを実践に移せる『物資』が無いことを除けば、完璧な作戦であると言える。しかしペッパーは、ある意味で『運』を引き寄せていた。

 

「いや…確かにそうだけど、そんな都合の良い事無いでしょう?」

「特定のモンスターを引き寄せるんやったら、出来なくもないのさ」

 

素材収集の解決策は、意外な所に━━━━アイトゥイルが握っていたようだ。

 

 

 







包囲前にクエストをクリアせよ



アイトゥイル:ペッパーを兎の国ラビッツへと招待し、兎御殿へ導いた黒毛のヴォーパルバニー。一人称は『ワイ』で、ペッパーの事は『ペッパーはん』、ヴァイスアッシュの事は『オカシラ』もしくは『おとん』と呼ぶ。

衣装は極道+風来坊を組み合わせた感じで、性別は雌。ボイスはヤサカ・マオ似。

ふらりフラリと風のままに行く風来坊であり、ふらっと旅をしていれば、何時の間にか帰ってきている。


ティーク:兎御殿の料理長を務める灰色毛のヴォーパルバニー。一人称は『オイ』で、性別は雄。アイトゥイルを『アイトゥイル姉』と呼んでいる。

兎御殿では食事処で料理の研究に没頭しており、食材とマーニを使うことで彼の料理を食べたり、一部料理を『テイクアウト』することが出来る。

職業は料理人の上位クラス『食王』を持つ。



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胡椒争奪大戦争



掲示板回でありんす




 

ペッパーがユニークシナリオを受注し、ラビッツにて特殊クエストの攻略への糸口を見付けた頃。シャンフロの掲示板では『ある情報』を切欠とした、一波乱が巻き起こっていたのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【聖女様】初心者プレイヤーに上級者プレイヤーがいろはを教える Part65【可愛い】

 

 

738 マスマティ(初)

親愛なる開拓者の皆様こんにちわ、今日は上級者のプレイヤーにお聞きしたい事があり、初カキコしました。セカンディルにてエリシオン商会のおじさんが、あるプレイヤーと話をしていたのですが、夜の帝王とは一体どんなモンスターなのですか?

 

739 フルプル(初)

クラウンスパイダー倒せねぇ…マジ燃やすか?あの木

 

740 ベントレマン(上)

うざったいよね道化蜘蛛、よくわかるわ

 

741 一寸亡(初)

漸く大蛇超えられた…マジ疲れた

 

742 アッド(上)

ん!?いまなんて言った?

 

743 バグナラク(初)

夜の帝王?なにそれ?

 

744 アッド(上)

夜の帝王……どっかで聞いたこと在るぞ?

 

745 バサシムサシ(上)

おう、はよう情報プリーズ

 

746 超合金豆腐(上)

kwsk

 

747 アッド(上)

まてまてまて、おまいら落ち着け

 

748 ブロンズエイト(初)

はようはよう

 

749 レーザーカジキ(初)

夜の帝王ってなんですか?

 

750 プリミチア(上)

其れリュカオーンじゃないの?最強種でユニークモンスターの

 

751 アッド(上)

それだスマン、助かった

 

752 バグナラク(初)

ユニークモンスターって、確か滅茶苦茶強いモンスターだっけか?

 

753 サンダーナット(上)

ファッ!?ユニークモンスター!?

 

754 カレーのジョーンズ(上)

ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン?マジで?

 

755 カニガニ(初)

リュカオーンって強いの?

 

756 バサシムサシ(上)

夜の時間帯限定、ランダムエンカ、理不尽な強さの3点セット。倒せるのかって言われたら、倒せないが真っ先に出てくる

 

757 アッド(上)

もっと言うと、クラン・黒狼がガチ装備の精鋭揃えて戦ったのに、リュカオーンは其れをボウリングのピンみたいに吹っ飛ばして全滅させたらしい

 

758 レーザーカジキ(初)

えぇ…(ドン引き)

 

759 ボルクスワーケ(初)

なぁにそれぇ(白目)

 

760 一寸亡(初)

ガチ装備のクランが勝てないって、討伐とか無理でしょそれ

 

761 バグナラク(初)

クソかな?

 

762 アッド(上)

でだ、マスマティだっけ?其のおっさんが言ってたの其れだけか?

 

763 マスマティ(初)

え、えっと…小さな声だったので解らないですが、確か…認められたとか?言ってたような気がします

 

764 サンダーナット(上)

リュカオーンに認められた…え?

 

765 カニガニ(初)

…………はい?

 

766 バサシムサシ(上)

は?リュカオーンが認めるってどゆこと?

 

767 カレーのジョーンズ(上)

そのままの意味じゃね?

 

768 ベントレマン(上)

いやまて、確かユニークモンスターは力を示した奴にマーキングって名目の呪いを与えるとか、どっかの文献に載ってた

 

メリットデメリット両方付いてるやつ

 

769 一寸亡(初)

てことは、そのプレイヤーはリュカオーンと接触して、実力認められたって事?マジで?

 

770 ガンバッチョ(初)

なになに、なんかあったの?

 

771 ボルクスワーケ(初)

リュカオーンに認められたプレイヤーが現れた

 

772 レーザーカジキ(初)

わかりやすい説明……

 

773 サイガ-100(上)

ほぅ。リュカオーンに認められたプレイヤーと?

 

774 サンダーナット(上)

え、クラン黒狼のリーダー!?

 

775 超合金豆腐(上)

リュカオーンと聞いてやって来たか

 

776 アッド(上)

サイガさんちっすちっす、リュカオーンに手痛くやられたみたいですけど、ダイジョブすか?

 

777 バグナラク(初)

クラン?パーティーみたいなもん?

 

778 ムラクモ(上)

せやで。黒狼はリュカオーン討伐を目標にしとるんや

 

779 サイガ-100(上)

それでマスマティ君、セカンディルのエリシオン商会のレクスというNPCが話していたプレイヤーの特徴を教えて貰えると助かる。装備品は?背丈はどのくらいか?アバターの特徴は何が印象に残っている?

 

780 カケガニ(初)

うわぁ、ガチだ…

 

781 ムラクモ(上)

リュカオーンの事になると黒狼のリーダーは随分躍起になるからなぁ

 

782 レーザーカジキ(初)

凄いことになってきてるな…

 

783 マスマティ(初)

えっと…確か其のプレイヤーは右腕をマントで隠してて、頭と胴が皮の装備だったので、初心者装備の気がします。プレイヤーネームはすいません、わかりませんでした…

 

784 プリミチア(上)

初心者装備でリュカオーンに認められるって…其のプレイヤー何者…?

 

785 ボルクスワーケ(初)

いや、装備品が割れてりゃプレイヤーネームがわからんでも捜す手懸かりになるぞ

 

786 海パン7世(初)

何もないよりゃマシだわな

 

787 サイガ-100(上)

成る程、情報感謝する。あとは私が行くとしよう

 

788 アッド(上)

クランリーダー自ら動くの!?

 

789 カレーのジョーンズ(上)

おいおいおいおいおいおい、なんかヤバい事になってきたぞ!?

 

790 バサシムサシ(上)

ヤバいな、黒狼が動くってこたぁ十中八九リュカオーンに関する情報の争奪戦が起きる。他の奴等に攻略掲示板と情報板にさっきの特徴記入しとけ、セカンディルとサードレマに人員配置して人海戦術掛けにいくぞ

 

791 マスマティ(初)

え、え…俺ヤバい事しちゃったの…?

 

792 ムラクモ(上)

あー…マスマティさんや。この人達、ある種の病的な廃人組なので気にせんでも良いよ。むしろ無断スクショで晒さんかったのGJね

 

793 レーザーカジキ(初)

そうですね、ネチケット大事なので

 

794 ケケケーラ(初)

なんか盛り上がってますけど、どうしました?あ、クラン:ライブラリに入りましたケケケーラです、どうぞ宜しく

 

795 ボルクスワーケ(初)

ライブラリの考察記事には何時もお世話になってます

 

796 ブロンズエイト(初)

面白い記事沢山あるよな、ライブラリって

 

797 バッツァー(初)

初心者装備、旅人のマント…。そのプレイヤー、俺見た気がする

 

798 アッド(上)

!?

 

799 バサシムサシ(上)

!?

 

800 プリミチア(上)

 

801 超合金豆腐(上)

情報プリーズ

 

802 サイガ-100(上)

ほぅ…エイトルドには着いたが、新しい情報が来たか

 

803 ムラクモ(上)

あーあー、上級者が寄って集って…。というかサイガさんもうエイトルド、随分移動ペース速いな?

 

804 一寸亡(初)

アンタもその1人だけどな?

 

805 サイガ-100(上)

バッツァー君。そのプレイヤーは誰なのかな?

 

806 バッツァー(初)

プレイヤーネームは、たしか……ペッパー。右腕をマントで隠してて、エリシオン商会から出てきたのを目撃しました。それ以降はわかりません

 

807 海パン7世(初)

証言とイッチ!

 

808 バサシムサシ(上)

でかした、ペッパーだな覚えたぞ

 

809 アッド(上)

ペッパー?胡椒?

 

810 カレーのジョーンズ(上)

香辛料かよwwwww

 

だがネームがわかりゃ、さっきの特徴と合わせて格段に捜しやすくなるぞ

 

811 サイガ-100

ペッパーだな。特徴も把握した、これにて失礼する

 

812 プリミチア(上)

パーティーに連絡してサードレマで待機させよっと

 

813 レーザーカジキ(初)

あわわ…探した方が良いのかな?

 

814 ケケケーラ(初)

まるで中世の胡椒争奪戦ですね

 

815 ムラクモ(上)

確かになぁ…

 

816 ガンバッチョ(初)

つまりこれは、シャンフロの胡椒争奪大戦争…というわけですな

 

817 ボルクスワーケ(初)

胡椒争奪大戦争wwwww大袈裟すぎワロタ

 

818 海パン7世(初)

捜すか…胡椒……

 

 

 

 

 

 

 

 

此の掲示板での騒動は、後に別スレにて『胡椒争奪戦争』と呼ばれる形で情報が飛び交い、更には『あるプレイヤー』の参戦後には、更なる白熱を帯びる事になるのだが、其れはまだ先の話である…………

 

 

 

 






ユニークが嵐を巻き起こす


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Oneday to running ~追われる胡椒よ、鉱石と皮を集めて~



ペッパー、迫る刺客と時間との勝負




「…今日は本当に色々有りすぎたわ………」

「せやね、ペッパーはん。どう見てもお疲れ様やけぇ、ゆっくり休んだってな」

 

ラビッツ、兎御殿の中にある休憩室に案内されたペッパーはベッドの上に寝転び、身を預ける。リスポーン地点が更新され、彼はセーブを行い、ログアウトの準備を進める。

 

「アイトゥイル。明日はシャンフロを1日中プレイ出来るから、行動に移る為にも例の『アイテム』、よろしくお願いします」

「任せんしゃい。準備して待っとるさかい、ペッパーはんも英気を養ってな」

 

シフトと大学の講義が無い明日ならば、特殊クエストを一気に進められる。情報が拡散していないとも限らない以上、セカンディルに留まり続けるのは危険だ。

 

ラビッツに雲隠れするのは、手も足も出なくなった時の『最終手段』としておき、一刻も早くクエストを終わらせなくてはならない。

 

特殊クエストのヤバさ、因縁との再会、ユニークの連続……激動の1日だったペッパーはシャンフロからログアウトし、現実へと戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……疲れた………」

 

外が夜に向かって暗さを増す中、現実に戻ってきた梓はVR機材を頭から外して、大の字に身体を広げる。其の頭に浮かぶのは、ニタニタと笑うアーサー・ペンシルゴンこと天音 永遠の顔。

 

「あー…嫌な奴の顔が浮かんだわ。頭も使いまくったし、夕飯作る気にもなれない………」

 

色々と、本当に色々あった。明日は自分の今後のシャンフロに、確実に影響を与えるであろう1日になる。

 

此処でしくじれば平穏無事なプレイライフは崩れ去り、情報を求める他プレイヤーやクランに、追われ続ける未来が待っているだろう。

 

「近所で食事を済ませて、早く寝て、早朝にシャンフロを始めよう…朝っぱらからプレイしてる人はそういる訳じゃないだろうし」

 

ゆっくりと起き上がり、スマフォを充電コードから抜き取って、梓は財布と鍵とスマフォを持ってアパートを出る。春の季節ではあるが、夜になるとまだ寒さも残った風が吹いて、少し肌寒く感じた。

 

「う~、さっむ。春だってのに寒いな…暖かいものでも食べようかな」

 

シャングリラ・フロンティアを始めて、1週間にも充たない初心者の自分が、特殊クエストを受注して以降、様々な恩恵に携わった。

 

「……明日の為にも早く食べて、早く寝よう………」

 

夜に向かう街を、梓は歩く。

 

そして………決戦の日はやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、早朝4時。

 

 

ピピピピ…ピピピピ…とタイマーが鳴り、梓は布団の中でモゾモゾと動き、音の震源に手を伸ばして止める。

 

「ん、ふぁぁぁ………朝か」

 

身体を猫の様に伸ばし、カーテンを開く。外はまだ暗いが、西の方は少し明るくなり始めている。

 

「…………さぁ、勝負だ」

 

パチンと両頬を叩き、梓は行動に移る。最初にシャワーで身体と頭を洗って、眠気と身体を綺麗に流し、次に朝御飯でパンとベーコンエッグを焼き、飲み物にグリーンスムージーを用意して飲食。

 

トイレを済ませ、VR機材のチェック並びにやるべき事を再度確認を行い、布団を敷き直し、寝間着を着替え、布団に寝転がった。

 

「今日1日が…俺の運命を決める…!」

 

ゲームが起動し、現実の梓はシャングリラ・フロンティアのプレイヤー・ペッパーとなり、新たなリスポーン地点となった兎御殿のベッドへと流れていく。

 

彼の長い、長い1日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~ペッパーはん、よう眠れたかいな~」

 

兎御殿のベッドで目を覚ましたペッパーの視界には、顔を覗き込むようにしてアイトゥイルが胴に乗っており、酒を呑みながら微笑んでいた。

 

「アイトゥイル、おはよう。早速だけど頼んだ物は用意出来てる?」

「ワイを誰やと思っとるん?バッチリ準備出来たさかい」

 

ホレッと目の前に積まれたのは、大きな酒樽。ペッパーは早速其の性能をチェックする。

 

 

呼び寄せの風酒(沼蛙)

 

マッドフロッグの身体から取れるエキスを使い、製造された濁り酒。製造方法は秘匿されている。

 

其の酒を飲みて、産み出されし息は沼蛙の本能を擽り、其の場所に同種同族を引き寄せる。

 

 

「つまりコレをアイトゥイルが呑んで、吐いた息がマッドフロッグを呼び寄せて、擬似的な群れを作り出せるのか。凄いなアイトゥイル」

「フフン、当然じゃきに。しかも200体ともなりゃあ、並みの量ではいけないさ。依頼を進めんなら御世話係のワイも、全力でペッパーはんを手助けするよ」

 

『NPC『風来坊のアイトゥイル』からパーティーの申請が来ました。受諾しますか?』

『YES』or『NO』

 

と、SEがピロリンと鳴り、ペッパーの前にセレクト画面が表示される。

 

「よろしくお願いします、アイトゥイル」

 

YESボタンをクリックし、アイトゥイルがパーティーに加わった。時間は余りない、此処からは1分1秒の行動が運命を別けてくる。

 

「で、ペッパーはん。早速、四苦八苦の沼荒野に行くのかい?」

「あぁ。でもその前に、アイトゥイルは俺が移動してる間は、マントの中に隠れていて欲しいんだ」

 

唯でさえユニークによる複数の爆弾を抱えている状況で、アイトゥイルが他者の目に止まれば、其れこそ大騒ぎによる大混乱は避けられない。

 

リュカオーンの一件もある以上、アイトゥイルとの関係が明るみになれば、頭のキレるプレイヤー…アーサー・ペンシルゴンみたいな連中が、ユニークシナリオを嗅ぎ付けて接触してくる可能性は高くなる。

 

「それじゃあ失礼しますけ。ペッパーはん、移動頼むさね」

 

兎御殿の部屋の壁に、アイトゥイルは扉を作り、ペッパーのマントの中へと隠れる。1人と1羽の特殊クエスト攻略が始まりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セカンディルの裏路地。何もない場所に扉が産まれ、ガチャリと静かに開かれる。

 

「戻ってこれた…閉じ込められた訳じゃなかった」

「誘拐したと思ったんかいな、ペッパーはん」

「昔やったゲームで、バグのせいで部屋から出られなくなった事が有ってね…ちょっと怖い思いをしたんだよ……」

「な、何の話か分からんけど、あんまぁ良いことや無かったんね…」

 

裏路地から顔を覗き、人通りを見る。やはり早朝というだけあり、NPCとプレイヤーの往来は少なく、スムーズに街の出口に移動出来た。

 

そのままペッパー達は四苦八苦の沼荒野へと移動し、周りに人の気配が無いことを確認して、作戦を開始する。

 

「アイトゥイル、大丈夫そう?」

「大丈夫、大丈夫さ、酒は上手いし、良い感じさぁ……ペッパーはんこそ、酒の匂いは平気さね?」

「心配してくれてありがとう、此方は大丈夫だよ」

 

大酒樽の酒をグビグビと一気飲みの要領で飲み干し、其の味を口一杯に留め、喉を鳴らして胃に納め。口から桃色の吐息が空気中に漂い始める。

 

「さぁて………こっから暫く待てば効果は出るけぇ……。其の間に何かするんさ………ペッパーはん……?」

 

酒を呑んで酔った影響か、其れとも年上のお姉さんからか、アイトゥイルが艶やかな花魁のような口調と、トロリと蕩けた目を向けてきた。

 

「う、うん……ロックオンブレイカーの強化とセカンディルで鍛冶師のおっちゃんが作ってくれる『ある武器』が欲しいんだ。だから、採掘して待ち時間も有効活用するぜ……」

 

変な扉が危うく開きかけ、ペッパーは其れを誤魔化すように、ロックオンブレイカーを取り出して、吐息が満ちた場所より少し離れた、沼荒野の採掘ポイントへ移動した。

 

「此処等辺で良いかな。アイトゥイル、マントの中に隠れて」

「ん……承ったさ………」

 

酔って何処かへ行かないように、アイトゥイルを寄せて、ペッパーはロックオンブレイカーを振るい、採掘を開始した。出身:探索家の子による恩恵+僅かに上がった幸運値、そしてリュカオーンとの戦闘で大幅強化された筋力とスタミナ、極め付けにユニーク武器の能力が噛み合い始めた。

 

 

「灰色鉄鋼…灰色鉄鋼…石…石…沼棺…石……灰色鉄鋼!終わった次!沼棺……灰色……きた!銀色鉄鋼!……石…石……石…灰色…鉄鉱石………沼棺…終わり次!石、石、沼棺!…石叩き割りまくって……銀色ォォォォォォ!」

 

採掘時間およそ40分、ペッパーはお香を置いた付近の採掘ポイントの大体を掘り尽くし、灰色鉄鋼14・鉄鋼石7・沼棺の化石8・銀色鉄鋼4、そして『沼豊穣(ぬまほうじょう)(いわ)』というレア鉱石と十分過ぎる程の成果を得る。

 

「さぁて…!いよいよ、お香の効果を確かめに行きましょうか…!」

「ふふん…酒の効果は保証するさ………」

 

採掘で頭のギアが噛み合い、テンションが高まっているペッパーに、アイトゥイルは未だに酔っている。設置した場所に向かい、岩影から覗き込んだ2人の目の前に広がっていた景色は――――――

 

 

 

地層のような見た目のブロック形の大蛙・マッドフロッグが、数百匹に及ぶ大群衆を作り、沼にまみれてゲコッゲコッと鳴いていた。

 

 

「カエル嫌いの人にとっては地獄だろうなぁ…コレは」

「群衆闊歩…沼蛙達の……歌合戦……。匂い誘われ…唄謳い………さ。ペッパーはん、あのマッドフロッグは全部狩るのさ?」

「………いや。所定数取れたら、後は全員逃がそう。武器の耐久値もそうだが、絶滅したら困る人も居るだろう。其れにプレイヤーには、敵対しないモンスターみたいだからね」

 

風情に詩を奏でるアイトゥイルの問いに、自然の摂理とクエスト達成のため、ペッパーは一度合掌をして致命の小鎚を取り出し、マッドフロッグの群れへと飛び掛かった。

 

当然リュカオーンの残したマーキングに反応した蛙達は、我先にと跳ね逃げていくが、ペッパーは次々とマッドフロッグの頭に打撃を叩き込み、苦しまぬように一撃で仕留めていく。

 

斬撃に強い特性を持つマッドフロッグに打撃武器を使い、100体ほど殴った辺りで致命の小鎚の耐久が限界に近付いて、ペッパーはロックオンブレイカーに切り替え、狩りを続けた。

 

そして設置していた、引き寄せのお香の効果が尽きた頃、マッドフロッグの皮200枚が集まって、狩りは終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

因みに狩りを終えて、耐久値の減ったロックオンブレイカーには、採掘した沼棺の化石を1つ使って耐久値を回復し、マッドフロッグを狩る最中に『マッドフロッグの舌』なるレアアイテムが幾つかドロップした。

 

アイトゥイル曰く『鶏皮みたいな砂肝で、中々の珍味さ。オカシラも……コイツを、酒の肴にする事もあるんさ………』と言っていたとか。

 

 






鉱物資源と皮、両方を手にせよ


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Oneday to running ~追われる胡椒よ、珍味を味わえ~



特殊クエスト、進行します




「おっっっっっっっも………!?」

「…っこら、想定外…さ……!」

 

『特殊クエスト:沼地に轟く覇音の一計』の中で、エリシオン商会のレクスより、マッドフロッグの皮200枚の納品を行う依頼を受けたペッパーは、ヴォーパルバニーにして風来坊なるアイトゥイルの協力の下、何とか規定数の確保に成功した。

 

しかし問題は帰るまでの道程。……そう、アイテムインベントリの圧迫による重量問題とアクションの鈍化である。

 

幾ら物資を運ぶ事に優れたバックパッカーでも、此の量は流石に運ぶのも一苦労で、此れでは何時まで経ってもセカンディルのエンハンス商会に納品出来ない。其れ所か、アイトゥイルが見付かる危険も比例して高まる。

 

「こーなったら…!」

 

ペッパーは覚悟を決め、アイトゥイルに作戦を提示する。先ずはペッパーがマッドフロッグの皮を彼女に預かって貰い、ダッシュでエンハンス商会セカンディル支部へと走って、回収班を寄越して貰うように頼む。

 

其の間、アイトゥイルは岩影に隠れてやり過ごして貰い、10分以内に再び舞い戻って回収、エンハンス商会から寄越した回収班に皮を回収して貰い、あわよくば回収班の足へ相乗りし、セカンディルに安全な移動を考えた。

 

「ペッパーはん、必ず帰って来てさ……。其れなりに戦えは、すんけど………呼び寄せの酒で、酔ってる……のさ………」

「あぁ、10分で帰ってくる」

 

致命魂の首輪によって所得経験値は半分になったが、代わりに2.5倍のポイントを得る。200体のマッドフロッグを狩り、レベルが2つ上がった事で得た24のポイントを、敏捷10とスタミナ14に振り切り、スキル:アクセルとハイビートを使用し━━━━駆けた。

 

さながら此の時のペッパーは、ある意味『走れメロス』の様に、動けないアイトゥイルを救うため、荒野の岩肌を蹴り砕き、簡易食糧を噛りながら、ただただセカンディルのエンハンス商会を目指して駆け続ける。

 

そうして5分程走り続けて、エンハンス商会セカンディル支部へ到着。受付に「マッドフロッグの皮は揃えたけど、重すぎて運べないから回収班を直ぐに出して下さいお願いします!」と伝言して、また来た道を全力疾走で走っていく。

 

走って、走って、走って、走って。30秒オーバーしてはしまったが、アイトゥイルの隠れていた岩場に帰って来た。因みにアイトゥイルはまだ酔っており、ペッパーの顔を見た瞬間飛び掛かって「ちゃんと、戻ってきたさ~……」と言ってきた。

 

心配させてしまったアイトゥイルを、ペッパーが暫く慰めていると、エンハンス商会の馬車が大慌てでやって来て『遅くなり申し訳有りませんでした!セカンディルまで運びますので、どうぞ乗ってください!』と迅速な対応と、誠意の謝罪したので許すことにする。

 

そうしてペッパーとマントに隠れたアイトゥイルは酒臭さを纏いながら、マッドフロッグの皮達と共に馬車に乗って、セカンディルへ帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー様、ありがとうございます。依頼のマッドフロッグの皮200枚、確認致しました。細やかながらではありますが、報酬を御用意しましたので御受取り下さい………うっぷ」

 

エンハンス商会セカンディル支部2階の商談室にて、マッドフロッグの皮を納品した報酬として、3万マーニを貰ったペッパーは、酒の臭いに苦しそうな顔をしたレクスより次なる依頼を受ける。

 

「重ね重ね…依頼をしてしまい、申し訳ありませんが…。夜の帝王に認められたペッパー様の実力を見込み、依頼をお願いしたく存じます…」

「分かりました。如何なる御依頼でしょうか?」

 

マッドフロッグの皮の重さに苦しめられはしたが、3万マーニという大金を貰い、少しは努力が報われたとペッパーは思い、納品依頼の文句は言わずにおいた。

 

「ありがとうございます…ペッパー様!其れでは依頼内容を御説明させていただきます………」

 

ペッパーと旅人のマントに隠れて聞き耳を立てるアイトゥイルに、レクスは依頼内容を話し始める。

 

「以前、マッドフロッグの皮を使った新商品の開発を行っていると説明しましたが、実は其の内の『試作品』の1つが後少しで完成します。

 

そしてペッパー様にお願いしたいのは、其の試作品の性能を『沼掘り(マッドデイク)』というモンスター相手に『証明して欲しい』のでございます」

「沼掘り?何ですか其のモンスターは」

 

聞き覚えが無いモンスターの名前にペッパーが質問すると、レクスは沼掘りの情報をマップを踏まえながら教えていく。

 

「沼掘りは、セカンディルとサードレマの間の道を沈めている、四駆八駆の沼荒野にある峡谷を縄張りとして住み着いているモンスターなのであります…」

 

沼を自由に泳ぎ、近付く敵を鋭い牙で噛み砕く、四足歩行の鮫のような見た目であり、開拓者の皆様も苦戦を強いられている…とか」

 

開拓者の名前が出た事で、ペッパーは沼掘りというモンスターが『エリアボス』である事に気付く。つまり次なるミッションは『支給される其のアイテムを使い、沼掘りを撃退もしくは撃破』であると予測出来た。

 

「ペッパー様も納品でお疲れのようであります。しっかり休息を取って、準備が出来ましたら受付の者に声を掛けて下さい。微力では有りますが、沼掘りの出現エリアまで馬車で送らせていただきますので」

 

沼地の仕様が働く中で、エリアボスとのバトルを行う以上、生半可な準備では痛い目を見る事になる。沼掘りの耐久が何れ程かは分からないが、マッドフロッグを狩った後の武器の耐久値では間違いなく壊れるだろう。

 

「分かりました。準備を確り整えて、依頼を随行させて貰います」

「よろしくお願い致します…!」

 

沼掘りに備えてやるべき事は『3つ』。

 

武器の修復、新しい武器・防具の調達、そして空腹を充たす為の━━━食事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんくださーい」

 

エンハンス商会を出て、ペッパーはセカンディルの武器屋へと足を運んでいた。

 

「おぅいらっ…っぶ、酒くせぇ…」

「すいません…マッドフロッグの皮納品の依頼をエンハンス商会から受けていて、其の時に連れが酒で誘き寄せてくれたんです。今はちょっとした用事で離れてますが」

「お、おぅ…そうなのか」

 

アイトゥイルの存在をバラさない為にも、其れらしい言い分を述べておく。

 

「で、今日来たのは武器の修繕とロックオンブレイカーの強化、其れと新しい武器の生産を御願いしたくて来ました」

「良いぜ、材料は有るかい?」

 

「此方に」とアイテムインベントリから沼荒野で採掘した鉱石類を次々に出して、カウンターに乗せていく。

 

「こりゃまた、随分集めたな…しかも沼豊穣の岩ったぁ中々御目に掛かれねぇ。こんだけありゃあ、ロックオンブレイカーは十分に強化出来るぜ、ペッパー」

「良かった…其れで武器の修繕は、此の致命の小鎚を。新しい武器なのですが、沼棺の化石から作れる『湖沼(こしょう)短剣(たんけん)』と『湖沼(こしょう)小鎚(こづち)』を1本ずつ。余った鉱石は売却して、制作費に当てる形で御願いします」

「よし分かった。だが、武器修繕と新しい武器作成、ロックオンブレイカーの強化が立て込む以上、昼過ぎくらいまで時間を貰うが、其れでも良いか?」

 

新しい武器と強化、時間は迫るが此所は彼を信じて、時間を預ける事にする。

 

「よろしくお願いします」

「任せな、しっかり作って置いてやるからよ」

 

こうして新武器とユニーク武器の強化諸々を含め、レクスの報酬金の大部分が出費で吹っ飛びはしたが、ペッパーに後悔はなかった。

 

その後、ペッパーは防具屋にてマッドフロッグの皮より作られた防具『(へだ)()の皮服装備一式』を購入、初心者装備であった皮装備をアップデートした。

 

「此所まで世話になったな」と初心者装備に礼を述べる。そうして全身を切り替え、最後に頭装備を変えようとしたのだが、隔て刃の頭マスクはプロレスラーのような変態スタイルの其れで有ったため、ペッパーは頭装備だけは皮の帽子を続投させることにしたそうだ。

 

「うーん、時間空いちゃったなぁ……」

 

納品依頼も終わり、武器の修繕と生産そして強化の段取り、防具のアップデートも完了した為、現状ペッパーはやることがなくなってしまった。

 

ログアウトすれば、スマフォで沼掘りに関する情報は獲られるだろうが、其れは昼飯を食べる時にでも調べられる。何か無いか…そう考えていた。

 

「ペッパーは~ん。マッドフロッグの舌手に入ったやろ~?宴にしないか~?」

 

マントの中に隠れているアイトゥイルが、そう言ってきた。ヴァイシュアッシュが酒の肴にするという珍味、気にならないと言えば嘘にはなる。おそらく彼女が、一杯やりたいのだろう。

 

「そうだね…アイトゥイルにはマッドフロッグの狩猟に手助けして貰ったから、労いも込めてパッとやりますか」

「おー…。さーすが、よぅわかってるさねー」

 

やる事を決めた、なれば善こそ急ぐべし。ペッパーは足早にセカンディルの裏路地に飛び込み、アイトゥイルが扉を作り、ラビッツの兎御殿へと帰還したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおぉ!!こりゃまた、新鮮なマッドフロッグの舌やんか!!」

 

兎御殿に戻ったペッパーとアイトゥイルは、其の足で食事処のティークに会いに行き、マッドフロッグの舌を見せていた。

 

「ティーク~。ペッパーはんと細やかな宴にするさ~。おとんも好きな『アレ』、作ってくれへ~ん?」

「おいおいアイトゥイル姉よ、呼び寄せの酒で酔いまくってんげ、大丈夫だか?」

「そりゃ~ペッパーはんとの宴さ~。大丈夫~大丈夫~」

 

ほぼ酔ってる状態で、まだ酒を飲むのかと心配になるが、ペッパー自身も珍味の味とやらには興味がある。

 

「ティークさん、俺も先生が好きな味を食してみたいです。よろしくお願いします」

「……おぅし、分かった。直ぐに支度するけん、座って待っとりや」

 

マッドフロッグの舌を手に取り、席に座って待つよう言ったティークに従い、1人と1羽は近くの席に隣通しで座る。

 

暫く待っていると、厨房の方から肉を切り、そして焼く音と塩の香りが漂い始め、走り小腹が空いた胃が『ぐぅ~』と音を鳴らした。

 

「あ…良い匂い」

「おとんもワイも『エードワード兄さん』も、此の匂いが好きさ~…」

「へー…」

 

アイトゥイルの口から、またしれっと新しい兄弟の名前が出てきたが、今此の瞬間には関係が無いと思い、ペッパーは料理出来上がりを待つ。

 

そして………

 

「へい、御待ちどう!ティーク印の『マッドフロッグの串タン焼き』だ!おあがりな!」

 

お盆で運ばれて、竹のコップに入った冷水と白い長方形の皿に乗った料理が出てきた。串に刺されて塩焼きにされた其れは、見た目は焼き鳥でいう所の鶏皮の様。

 

ペッパーは早速、其の料理の性能を調べてみる。

 

 

 

マッドフロッグの串タン焼き

 

食王ティークが作った、マッドフロッグの舌を塩のみで串焼きとした一品料理。噛む程に味が染み出し、深みを増していく

 

1度噛み始めたが最後、己の意志で止めぬ限り、肉汁が口を満たし続ける

 

空腹度を25%回復する テイクアウト可能

 

 

 

「美味しそうだ…」

「あ~…これさ、これさ…。この匂いが酒に合うのさ~」

 

瓢箪水筒を開けて、早速串焼きに囓り付いて酒を飲み出すアイトゥイル。対するペッパーは合掌と「いただきます」を述べ、匂いを嗅いで、口を大きく開けて含む。

 

(ん……?確かに食感は砂肝みたいでコリコリはする……だけど………)

 

鶏皮の見た目ながら、砂肝特有の食感と微弱ながらの味は有る。だが、食べてはみたものの『味が薄く』感じるのだ。

 

(何だろう…薄味なガムを噛んでるみたいに味がしない……。通にしか解らない味か?じゃあ俺は、まだ早かったのかな……?)

 

ペッパーは気付いていない。シャンフロの食事において、プレイヤーには味覚に『デフォルト状態』が付与された状態でスタートするシステムがある事を。

 

此れは運営がVRゲームの食事でしか満足出来ず、現実の食事を受け付けなくなり、餓死をする可能性を防ぐ為の措置で、ある『特定の条件』を満たさない限り、人間本来の味覚が『開花』される事は無いのだが、ペッパーは其れを知らない。

 

「………ティークさん、コレ美味しいです」

 

不味くは無かったが、作ってくれた者へ失礼に当たると考え、ペッパーはティーブルの気持ちに配慮し、礼を述べる。

 

「そりゃあ作った甲斐が有ったな。ペッパー、お前さんが何かしら食糧を入手したら、オイの所に持ってきな。代金は貰うが、最高の一品を拵えてやるぜ」

「マジすか。ありがとうございます」

「ペッパーはん、ペッパーはん。水でもいから~乾杯しよさ~」

 

乾杯をせがんでくるアイトゥイルに苦笑しながら、ペッパーは竹のコップを持ち上げ、瓢箪水筒に軽く当てた。

 

英気を養い、彼は迫る時の中で束の間の休息を堪能したのである………。

 

 

 






英気を養うは、沼蛙の串タン焼き



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Oneday to running ~追われる胡椒よ、準備に急げ~



新たな武器を携え、いざ往かん

※アイトゥイルのサブ職業をヴォーパルバニー・トラベラーに変更しました


「シャンフロ、沼掘り(マッドディグ)………と」

 

兎御殿・食事処にてティーブルが調理した、マッドフロッグの串タン焼きを食して、アイトゥイルと細やかな宴をしたペッパーは、一旦ログアウトをしてスマフォで沼掘りというモンスターの情報を調べていた。

 

「お、色々出てきた。何々……『シャンフロモンスター図鑑』?」

 

梓が見つけたのは、有志のプレイヤー達によるシャングリラ・フロンティアに生息する様々なモンスターの情報や、行動パターンに関するアレコレが記載されていた。

 

「へぇ…モンスターの出現地域に行動パターン、有効な攻撃方法やらも、随分事細かに書いてある…」

 

何時の時代も大規模で自由なゲームである程、考察や観測が行われ、プレイヤー達が敵の生体やパターンを調べ尽くし、後進に道を作る。梓は其れを見るのも好きなのだ。

 

「沼掘りの情報は…あったあった。………見た目は(さめ)(なまず)じゃねーかコレ」

 

鮫の頭部と背鰭に尾びれ、鯰の胴体にウーパールーパーの四足と、随分なキメラっぷりなモンスターに梓は若干引いた。

 

其れでも融合元の生物達の特徴を殺さずに、バランス良く如何にもエリアボスにデザインされた沼掘りは、見た目以上の強敵感を醸し出している。

 

「やってやろうじゃん、鮫鯰。必ずブッ飛ばして、サードレマの道を開けて貰う…!」

 

沼掘りの行動パターンや生態に関する情報を、梓は頭の中に叩き込む。沼地という仕様が働く中、自身のビルドカスタムで如何に迅速に攻略するかが問題になる。

 

「あぁくっそ………レクスさんマジで頼むぞ…!沼掘り相手に有効なアイテムください……!」

 

沼掘りとの『相性』を知って、NPCに神頼みをする梓は時間を見て、不安になりながらログインする。彼のキャラビルドは、沼掘りと沼地のフィールドを含め『最悪』だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャングリラ・フロンティアにおいて『フィールドの特性』は、現実世界の地形と重力の概念が『遜色無く』発揮される。

 

草原・荒野・舗装された道での歩行や走行、急斜面での転倒で転げ落ちによるダメージや、高所からの落下による死亡等、敵味方を問わず『平等』に襲い掛かる摂理だ。

 

そしてシャンフロを始めたての者が、最初に当たる壁こそ『沼地の仕様』と『沼掘り』で、仕様として片方の足が底を着くまで、沼に足を取られ続ける事で起きる『強制的な歩み状態』の付与が沼地では発生する。

 

そして沼掘りが起こす『ある特殊行動』が、プレイヤーを苦しめ、サードレマに辿り着けないままセカンディルで足止めを食らい続ける初心者が後を立たない。

 

総じて沼掘りは『初心者最初の通過儀礼』としても存在し、シャングリラ・フロンティアというゲームをプレイヤーに叩き付ける存在となっているのだ。

 

「………はぁ。どーしよ」

「ややや~…ペッパーは~ん。どうしたのさ、随分暗い顔してさ~…」

 

現実世界で沼掘りの情報を粗方調べ終え、再びシャンフロへとログインし直したペッパーは、兎御殿の部屋のベッドの上で目を覚ます。

 

其の横ではアルコールがある程度抜けて、微酔いまで回復したアイトゥイルが居て、自身の得物たる薙刀の刃を手入れしていた。

 

「以前、エンハンス商会で支部長のレクスさんから、沼掘り相手に新商品の性能を、証明して欲しいって頼まれたじゃない?で、沼掘りについて調査したんだが……俺『個人』だけだと少し厳しい」

「…ペッパーはん。ワイはおとんから、アンタの世話役を任されたさ。風来坊なワイでも、戦おうっちゅうオノコの覚悟に答えなきゃ、ヴォーパル魂が泣くでよ。大変ならワイを頼ってエエんさ」

 

弱音を吐きそうになるペッパーに、アイトゥイルは細目を静かに開き、言葉で背中を押していく。相変わらずヴォーパル魂が何なのかは分からないが、今は心強い言葉であり、応援だった。

 

ペッパーは改めて、彼女の━━アイトゥイルのステータスを見る。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

NPCN:アイトゥイル

 

レベル:79

 

メイン職業(ジョブ):風来坊

 

サブ職業(ジョブ):ヴォーパルバニー・トラベラー

 

 

体力:170 MP:235

スタミナ:80

筋力:58 敏捷:90

器用:73 技量:72

耐久:47 幸運:40

 

スキル

酔息吹(よいいぶき)

円月斬(えんげつぎ)

無双閃迅(むそうせんじん)

風来刃(ふうらいじん)夜叉斬(やしゃぎ)

風来撃(ふうらいげき)月威(かつい)

 

魔法

【座標転移】

【座標転移門】

【座標転移「凱旋門」】

【ランダムエンカウンター レベル1】

 

装備

 

武器:嵐薙刀(らんなぎなた)虎吼(とらぼえ)

頭:風来の唐笠

胴:風来の胴着物

腰:風来の袴

足:無し

 

アクセサリー

風呼びの風鈴

小物入れ(小)

妖炎桃燈(ようえんちょうちん)

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

うん、やっぱり強いわ此の娘。アイトゥイルのステータスを見たペッパーは、心の中でそう呟いた。装備品の質も有るだろうが、全ステータスで自分よりも上にいる。

 

RPGゲームでの一時的に味方になってくれる、お助けNPCの立ち位置なのだろう。リュカオーンによる呪いの影響でまともにレベリングが出来ない場合の救済措置で、一期一会の関係。

 

其れでも今、此の時此の瞬間は。彼女の力を借りてでも、沼掘りを相手にエンハンス商会が作ったアイテムの性能を示さなくてはいけない。

 

「アイトゥイル。沼掘り相手に危険は付き纏うけど、協力よろしくお願いします」

「任されたさ。頑張ろなペッパーはん」

 

覚悟は決めた。兎の手も借りれる。成れば自分は、自分のやるべき事をやりきるだけだ。武器屋の鍛冶師が定めた時間まで、1人と1羽は沼掘りを相手取る作戦会議を行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兎御殿からセカンディルへと出て、ペッパーはアイトゥイルを隠して、武器屋に一目散に走り込む。扉を開くと店主がペッパーに気付き「待ってたぜ、ペッパー」と言ってきた。

 

「おっちゃん、武器は出来たのか?」

「あぁ。致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)の修復と、頼まれてた『新しい武器』2つ。そんでロックオンブレイカーの強化、キッチリやらせて貰ったぜ」

 

店主はそう言い、最初に修復した致命の小鎚をペッパーのアイテムインベントリに直接入れ、続けてカウンターには2つの武器を置いた。

 

片方は蒼く輝く刀身と刃に、水面に反射する陽光の意匠が施された短剣。もう片方は透き通る水中と、射し込む光が水底を照らすような蒼の小鎚だった。

 

 

湖沼(こしょう)短剣(たんけん):澱めど輝きの欠片を見せる短剣。沼荒野の良質な鉱石から作られ、鍛冶師により産まれた其れは、戦士の長き友となるであろう。

この剣に輝きを宿せるかは使い手次第だ。

 

クリティカル攻撃に成功時、一定時間耐久値の減少が半分になる。

 

 

湖沼(こしょう)小鎚(こづち):澱めど輝きの欠片を見せる小鎚。沼荒野の良質な鉱石から作られ、鍛冶師により産まれた其れは、戦士の長き友となるであろう。

この小鎚に輝きを宿せるかは使い手次第だ。

 

クリティカル攻撃に成功時、一定時間耐久値の減少が半分になる。

 

 

 

長き友となるの一文から、此の武器達は頑丈さに売りがあるのだろう。何よりペッパーが惹かれたのは、武器のネーム…五条と湖沼の読み方が似ていた事だった。

 

「すごい…!」

「そしてペッパー、お前さんが持ってきた鉱物のお陰で、ロックオンブレイカーは更に強化された。バカ弟子の作った武器ってのもあって、俺も久しく気合を入れて育てちまったぜ。あぁ、そうだ。コイツも渡しとく、何かの役に立つかも知れねぇ」

 

アイテムインベントリに2つの武器を仕舞った矢先、店主が自信満々にカウンターへと乗せたのは、蒼と銀の脈線が血脈のように走り、黒はより深い黒へ、インパクトを叩き込む両面に円錘の刺が付いた小鎚と、其の横にはノートが置かれていた。

 

するとペッパーの前で、以前ファステイアで貰った秘伝書が出て来るや、ノートを取り込んで再び消えた。

 

そして新しい武器の性能と秘伝書に加わった部分を確認したペッパーは、あまりの衝撃に身体が固まってしまう。

 

 

 

 

マッドネスブレイカー(ユニーク武器):四駆八駆の沼荒野で採掘される、潤沢な鉱物資源を用いて成させた、ロックオンブレイカーの成長形態。複数の鉱物により合金に均しき硬度あれど、其の真髄は未だ遠く、遥か先に。

 

戦闘時、装備者に最も近いモンスター及びプレイヤーに対するダメージ上昇に補正が掛かる。

 

此の武器で鉱物系アイテムを砕いた場合、其の希少度合いにより、武器の耐久を回復する。

 

 

 

ロックオンブレイカーの製造秘伝書+:ユニーク武器・ロックオンブレイカーの生産、及び成長形態を製作する際に必要となるレシピ。武器屋で鍛冶師に見せる事で、素材を用意すれば生産可能となる。

 

此のアイテムはアイテムインベントリには含まれず、他者によるPKをされても、プレイヤーの手元を離れない。破棄不可能。

 

 

 

 

(うわぁ……。ロックオンブレイカーの名前変わってるし、モンスター所か対人戦も出来る様に育てられて、秘伝書まで進化してるわ。………アレだ、孫の為に色々頑張った結果、気合入れすぎちゃう孫馬鹿のじーちゃん思考だコレ)

 

冷や汗がダクダクと流れ出し、何れはもっとヤバい能力を備えるんだろうなと、ペッパーは思う。

 

というより、此れが量産されて他のプレイヤーの手に渡った場合、シャングリラ・フロンティアというゲームのバランスが、大いに揺らぐ事は間違いない。

 

【世界を変えてしまう強すぎる『力』とは、己の身すら殺し滅ぼす『毒』だ……其れを努々、忘れるべからず】

 

とあるゲームで、師匠が人類の未来の為に世界を危ぶめ、汚名を被り、弟子たる自分が其れを止めるバトルが有り、勝利した弟子へ最後の言葉として師匠が送った超次元の剣客ゲームの台詞を思い出す。

 

(忘れるものか…。自分の手にある此の武器の存在を、課せられたクエストの重さを…!)

 

ロックオンブレイカー改めて、成長したマッドネスブレイカーの柄を力強く握る。

 

沼掘りとの決戦は、直ぐ其所に迫っている――――――。

 

 

 






新たな武器達、そしてユニークは成長する。



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Oneday to running ~追われる胡椒よ、鮫鯰を〆よ~



沼掘りこと鮫鯰との戦闘開幕




セカンディルの武器屋にて、修繕した致命の小鎚と新武器、成長したマッドネスブレイカーを受け取ったペッパーは、急ぎ足でエンハンス商会の門を叩いた。

 

「ペッパーです。レクスさんに準備が出来ましたと伝えてください」

 

受付担当に話を通すと「畏まりました!直ぐに支部長に連絡します!」と直ぐ様行動に移った。と、受付と入れ替わる形で、商会内の開いていた窓を潜り抜けた1羽のカラスが飛来、ペッパーの腕に舞い降りようとしている。

 

「わわっ、カラス!?何だ!?」

 

突然の来訪者ならぬ来訪烏に驚くも、敵対している訳ではないようで、左腕を差し出してみるとカラスは其所に止まった。同時にテロリン♪のSEと『伝書鳥(メールバード)が届いています』とメッセージ画面が表示。

 

シャンフロのメール機能かと納得すると同時、ペッパーは此のメールに嫌な予感を感じた。というのも、沼掘りの情報を精査している時に伝書鳥なる仕様表記が有ったので、彼は気になり調べたのである。

 

そう、此の伝書鳥――――――『フレンドを結んだ者同士』が連絡を取り合う手段として、用いられているのである。何よりもペッパーは現在シャンフロにて、フレンドを結んでいるプレイヤーは『唯一人』しか居ない。

 

(絶ッッッッッッ対、永遠からだよ此のメール……)

 

100%アーサー・ペンシルゴンからのメールだ、出なければ出ないで此方が何をされるか解らない。リスキルすら生温い事を仕出かしそうと考え、ペッパーは仕方無く内容を確認する事にした。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

あーくんへ

 

 

やっほー元気~?まだセカンディルかな?ペンシルゴンお姉さんだよー♪

 

クエストは順調そうかな?前にサードレマに着いたら連絡入れてねって言ったと思うけど、あんまり遅いし何より此方が待てなくなっちゃって、メール送っちゃった♪

 

改めて……サードレマに着いたら連絡頂戴ね。墓守のウェザエモン討伐を受注する為の方法、直接会ってお姉さんが教えてあげる。無論、まだ討伐の為の段取りやメンバーは精査中だし、此の事は決行日まで他のプレイヤーには絶対ヒミツだよ?

 

もしバラしたら~……解るよね?

 

それと。あーくんが今も元気にしてて、お姉さんは安心したよ。また一緒にゲームしたり、遊んだりしたいな

 

アーサー・ペンシルゴンより

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

人の不幸を嗤い、黒幕で魔王な彼女からの手紙等、煽られると思っていたが、真面目な内容を送って来た事に彼は驚くと共に、警戒心が強くなる。

 

縦読みで隠されたメッセージでも付けたのかとも思ったが、幾度読み返そうと其れらしい記述はない。

 

しかしペッパーにも1つ、自分の中に定めた『人』としてのルールがある。『メールには必ず返事を出せ、例え相手を振る結果になったとしても』――――だ。

 

「仕方無いな……えっと、伝書鳥は使えるな。カラスを選択して、うわ結構高い。………で、返事はまぁ『分かった、そっちも気を付けろよ』で良いか」

 

文章を綴り終えると昔ながらの封筒が出現、其の中に手紙が納められ、手紙を届けたカラスが嘴で摘まみ、ペッパーの腕を離れ、エリシオン商会の窓より外の空へと飛び立って行く。

 

同時に支部長のレクスがやって来た。

 

「ペッパー様、お待たせ致しました。此方が沼掘り(マッドディグ)相手に試していただきたい、私達エンハンス商会が試作した品でございます。商会入口正面に馬車も手配致しましたので、どうぞお乗りください」

 

そう言って渡されたのは、マッドフロッグの皮を加工して高校野球の硬球状に整えた、5コのボール状のアイテムだった。

 

 

投擲玉・炸音(試作型):エリシオン商会が製作した試作品モデル。強い衝撃を与える事で内部の機構が作動し、強力な音波が発生する。

 

 

(よっし、沼掘り相手に有効なアイテムきた!)

 

一先ず変な物ではなく、有効に機能しそうな物であったので、ペッパーは安心する。そして同時に、此のアイテムの残数こそが沼地という仕様の中で、高機動低耐久の自分が攻撃を食らわずに済む可能性が残された、タイムリミットでもあると覚る。

 

(沼掘りは『あの行動』を行ってくる以上、実質的に『4回』しか回避する術がない訳だ。沼地で使えるスキルを使えば、何とかなるとは思うけど)

 

「ペッパー様、どうか御武運を」

「ありがとうございます」

 

レクスより託された依頼だ、キッチリやりきってサードレマへ向かわなくてはならない。ペッパーはレクスの言った通り、商会正面に付けていた馬車に乗り込み、沼掘りの出現地域の近くまで運んで貰う事になった。

 

だがしかし、エリシオン商会に居たプレイヤーの1人が物陰よりペッパーを観察し、其の情報をあるプレイヤーへと送っていた事に、彼は気付かなかった。

 

其のプレイヤーの腰に巻かれた白い布には『盾と剣を噛み持つ黒い狼』のマークが刻まれていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬車に揺られて数分後、ペッパーとマントに隠れたアイトゥイルは、サードレマへと続く峡谷沼地の近くまでやって来た。

 

「ありがとうございます」と彼は言い、商会の職員も頭を下げて馬車を近くの岩影まで移動、待機する。やはり投擲玉の性能を見るために、実際の戦いを見届ける観測者が必要なのだろう。

 

「さてっと…アイトゥイル、此所が沼掘りの生息地域みたいだよ」

「ようやっと着いたさね~ペッパーはん」

 

声を掛けると、マントの中から現れて地面に降りるアイトゥイル。1人と1羽の目の前には、見渡す限りの沼と峡谷が広がり、周りは切り立った崖となっていて、馬車で通るのは非常に困難な道だ。

 

沼地に足を踏み入れ、ペッパーはアイテムインベントリから、新造したばかりの湖沼の小鎚を左手に装備し、一歩また一歩と歩みを進めていく。

 

が、其の歩みは中府付近に差し掛かる所で止まり、彼は辺りを見渡して、岩壁を背にする様に移動した。

 

「ペッパーはん?どうしたのさ?」

「いや……フィールドを見ていたら、ちょっとした作戦を思い付いてね。あとアイトゥイル、俺の背中に乗って」

「分かったさ、失礼するね」

 

アイトゥイルが背中に乗り、ペッパーは中央へ足を踏み込む。すると、沼地が大きく揺れ始め、目の前の泥は大きく大きく、空気を送られて膨張する風船の様に盛り上がる。

 

そして弾けて泥が辺り一面に散乱し、其の中心に奴は居た。鮫の頭部と牙に、エラと背鰭と尾びれを持ち。鯰の胴体にウーパールーパーの四肢を持つモンスター。

 

セカンディルからサードレマへの道を繋ぐ沼道に縄張りを敷き、初心者開拓者達を苦しめるエリアボス『沼掘り』の御出座しだった。

 

『ギシャアア………!!!!』

「出たな、鮫鯰…!此方は急ぎ身なんで、とっとと倒させて貰うぞ!」

 

沼掘りもペッパーが臨戦態勢を敷いている状況に、直ぐ様沼の中へと潜行する。此のエリアボスの厄介な点の1つが、プレイヤーは歩み状態の強制に対し、沼掘りは水泳状態である事。当然ながら、機動力には雲泥の差が生まれる。

 

「さぁ、先ずはコレだ!」

 

ペッパーは所持スキルの1つで、筋力の数値10に付き1秒間、悪路での走行を可能にする『アクタスダッシュ』を起動。背鰭を出して迫り来る沼掘りに背を向け、真っ先に『岩壁』の方へとダッシュする。

 

「ペッパーはん!?そっちは行き止まりやよ!?」

「分かってるよ、アイトゥイル…『此れで良い』んだ」

 

アクタスダッシュの効果が切れ、再び強制歩み状態に。自ら行き止まりを選んだマヌケな獲物を食らうべく、沼掘りは沼地より飛び出して、鮫特有の剣山の歯を突き立てようとした。

 

「鮫鯰。お前からすれば、俺がマヌケに見えたか?だとしたら、お前の方がマヌケだよ」

 

ギリギリまで沼掘りを引き寄せたペッパーは、スキル:スライドムーブが発動し、横へと滑走する。そして沼掘りの目の前には、硬い岩肌の壁が在り、鼻先から思いっきり激突する。

 

『ギジャア!?』

「もしかして、ペッパーはん…コレが狙いさね?」

「鮫鯰が沼の中を泳げるなら、進行方向を絞り込ませれば良い。沼で足を取られて死角からの攻撃をされようなら、此方は防ぐ手立てはアイトゥイルが知らせてくれる方法以外無いからな。其れに此の岩壁だ、利用しないなんて勿体無いし」

 

鼻先をぶつけた沼掘りに、ペッパーはスキル:アクセルで距離を詰める。しかし沼掘りも直ぐに体勢を立て直し、ペッパー達を噛み砕かんと牙を振るう。

 

「ペッパーはんだけに見とれ取ったら、痛い目見るやね?」

 

背中に乗っていたアイトゥイルが跳ね、沼掘りの顎に嵐薙刀・虎吼を一文字で振るい、斬撃スキル:風来刃・夜叉斬りを使って怯ませる。

 

「ペッパーはん、行きなさ!」

「ナイス、アイトゥイル!ハイプレス&スイングストライク!オラァ!」

 

沼掘りが怯みによる体勢の崩れ、其れを元に戻そうとする所に、ノックバック補正を付与した湖沼の小鎚の打撃が追撃。沼掘りの巨体が横に倒れるも、直ぐに再潜行を行ってきて、状況は振り出しに戻る。

 

「逃がすかよ!アイトゥイル、耳を塞いでて!」

 

アイテムインベントリから、エリシオン商会が作った試作品の投擲玉・炸音を取り出して、筋力50以上から繰り出す『握力』で握り、岩壁に叩き付ける様に『投擲』する。

 

岩にぶつかり、皮が破れた瞬間。沼地には『巨大な音』が鳴り響き、音に驚いた沼掘りが沼の中から飛び出した。

 

『ギジャアアア?!?』

「ぐおぉ……っ!?思った以上に…!!」

「大きな音…さね……!!」

 

思っていた以上の音に、敵味方問わず動きが止まる。しかし怯みはせど、ペッパーの動きは止まらない。スキル:ハイビートで敏捷に補正を与えつつ接近、沼掘りの横っ腹へ、打撃によるダメージに上昇補正を掛ける『剛撃』と、連続での攻撃によるスタミナ減少を抑制する『ラッシュ』のスキルを重ね掛けた、連打を叩き込む。

 

『ギシャアア…!』

「まぁ、まだ沈まねぇよな」

 

再度使用可能時間(リキャストタイム)が終了したスライドムーブで距離を取り、再び岩壁を背にした陣を敷くペッパー。対する沼掘りも先程の反省から、沼へ潜行して左右に揺れるように動き、出方を窺い始めた。

 

「新造した武器はもう1つ有る。試し斬りと試し叩き、付き合って貰うぜ…!」

 

湖沼の小鎚をアイテムインベントリに仕舞い、代わりに湖沼の短剣に切り替える。

 

同時に沼掘りは大口を開けて右側から飛び掛かり、ペッパーもまた鋭き視線で刃を構えたのだった。

 

 






別名、ソロ殺しのエリアボス



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Oneday to running ~追われる胡椒よ、鮫鯰との決着を~



沼掘りとの決戦、其の決着です




『ギシャアアアアアアア!!!!』

「――――――ッ!其所ォ!」

 

沼掘り(マッドディグ)の飛び掛かりを、ペッパーは湖沼の短剣の刀身で受けつつ流し、胴にスキル:水平斬りで斬り付ける。

 

しかし沼掘りは、ペッパーからのダメージを許容するかのように、彼を無視して其の背後に居るヴォーパルバニーのアイトゥイルに狙いを定めていた。

 

「アイトゥイル!」

「見えとるよ、ペッパーはん」

 

小物入れから瓢箪水筒を取り、中の酒を口に一杯含む。酒の味を内に満たし、噛み付こうとする沼掘りに向けて、口より『妖炎』は放たれた。

 

『ギジャア!?』

「…『酔息吹』ってさ。ペッパーはん」

「任せろッ!」

 

アルコールを口に含み、プロレスの技の1つ『毒霧』の要領で、火炎放射を放つアイトゥイル。突然の高熱に怯む沼掘りに、ペッパーはハイビートのデメリットによるスタミナ回復減少を、ハイドレートワークによるステップ移動で補いながら頭部左側へと接近。

 

「鮫鯰!其のエラ、狙わせて貰う!!」

 

沼掘りの左側エラに向け、スキル:呀突と共に湖沼の短剣を深く刺し込む。

 

『ギジャガァ!!?』

「そしてぇ!ラダースラッシュ!」

 

間髪入れずに湖沼の短剣を左逆手にスイッチ。逆手持ちでの攻撃にダメージ補正が乗る、ラダースラッシュで追撃を入れ、沼掘りは急所たるエラから赤いポリゴンを放出して、沼地に『深く』潜っていった。

 

「やりますなぁ、ペッパーはん」

 

沼をベチャベチャと踏み鳴らし、アイトゥイルが此方に合流しようとして来る。此処までは、アイトゥイルの援護も有ってか、かなり順調だ。

 

(いや…寧ろ此処までが『順調過ぎる』……!)

 

ペッパーの思考には、沼掘りの『ある秘策』が水を含んだ注連縄のように絡み付き、乗し掛かっている。

 

「あぁ。だが、気は抜かずに…!?」

 

ズズンッッッッッッ……と。沼地が大きく震えた。

 

「こら、なんさね…!?足が動かな…!」

「まさか…『アレ』か!?」

 

足の裏が流れるプールの排水口の吸引に似たように吸い付き、動きが完全に封じられたのを感知した瞬間、ペッパーはアイテムインベントリから右手に炸音玉を、左手の湖沼の短剣をマッドネスブレイカーへと、直ぐ様切り替える。

 

沼掘りには、自身が追い詰められた際に繰り出す秘策がある。現実でのネット検索で調べた際に、要注意事項として其れは書かれていた。

 

此のエリアボスは『2つの異名』を持っている。1つは敏捷に重きを置き、軽量装備で戦うプレイヤーを其の巨体とパワーで押し潰す戦車の様を喩え『軽量殺し』。

 

そしてもう1つ、此れが沼掘りが『初心者最初の通過儀礼』とされる『特殊行動』。複数人で挑んだ場合、沼掘りは体力が一定数値まで減った瞬間、プレイヤー全員の足を沼に深く沈め、ランダムに1人を鼻先で真上に突き上げる。

 

飛ばされたプレイヤーは『落下による』ダメージで体力がほぼ全損して死亡し、たった1人――――『ソロ』で挑戦すれば、其の特殊行動によって確実に殺される事となってしまう。

 

故に付いた名は――――『ソロ殺し』。其れが、エリアボスの沼掘りというモンスター。

 

沼が震え、アイトゥイルの足元がより強く震える。沼掘り(ヤツ)の狙いは彼女。

 

「ッ………せるかよぉ!!!!」

 

右手に持った炸音玉を握り締め、圧力変形によるコブを作り。膨らんだ風船を糸針で貫き割るように、ペッパーはマッドネスブレイカーの円錐のインパクト部分で、思いっきりブッ叩いた。

 

同時に炸裂するのは『音』。其れも先程の比ではない、雷が今此の時、此の瞬間、此の場所に落ちたかのような『覇音』。

 

人が生み出しし計略が、音と共に沼地に轟いた。

 

其の覇音は、四苦八苦の沼荒野全域を越え、セカンディルとサードレマを越えて、跳梁跋扈の森の中腹とサードレマから往ける『とある森』にまで響いたという。

 

 

 

 

 

 

 

「――――はん、――――パーはん!」

「……うぅん……はっ!?沼掘りは!?ソロ殺しは防げモガ!?んぐぅ!?」

「ちゃあんと防げたよ、ペッパーはん」とアイトゥイルが顔を覗き込んで、自分の口に水を含んだ気付け草なる状態異常回復アイテムを詰めて飲み込ませ、スタン状態を回復させている。

 

「でも驚いたね…神鳴り様の逆鱗に触れた様な、年の移ろいを鳴らす鐘楼の様な、とても大きくて力強い音だったさ…」

 

ほらアレをと、アイトゥイルが指差す先には沼掘りが居り、其の巨体は完全に伸びきってしまっている。

 

事実、水中に置ける音の伝導率は空気の約4~5倍。沼地で水泳判定が入り、水中と同義の場所に居る沼掘りにとっては、寝耳にロックバンドの演奏を大音量スピーカーの最大ボリュームで叩き付けられた様な物だ。

 

自分の鼓膜が潰れなかっただけ、幸運だっただろうか。

 

「ペッパーはん」

「あぁ」

 

1人と1羽に此れ以上の言葉は要らなかった。ペッパーはアイトゥイルが拾い、手渡してくれたマッドネスブレイカーを改めて握り、沼地を進む。

 

湖沼の短剣で切り裂き、破壊部位となった頭部左エラの前に立ち、剛撃・スイングストライク・レイズインパクトの3つのスキルを同時に起動。

 

「去らばだ、沼掘り(マッドディグ)……今回は俺とアイトゥイルの勝ちだ。だけど次は、俺一人でお前を倒してみせる」

 

アイトゥイルが居なければ、確実に苦戦し、そして負けていた。其の事実を認めて、沼掘りに礼儀として今の自分が持つ最大打撃を叩き込む。

 

破壊されて急所と化したエラを、マッドネスブレイカーが着弾、衝撃が穿ち貫いて沼掘りの頭を構成するポリゴンが弾け飛び、其の巨体は沼地より消え去り。

 

ペッパーのレベルが1つ上がった事を報せるSEだけが、静寂の沼地に聞こえるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー様、そして付き人のヴォーパルバニー様、お疲れ様でした。炸音玉の性能、しかと記録致しました」

 

戦いを終え、エンハンス商会の職員が回復ポーションとマナポーションで、激戦により疲弊したペッパー達を回復してくれた。

 

「回復ありがとうございます。人語を喋るヴォーパルバニーを見ても驚かないんですね?」

「初めは驚きました。ですが、ペッパー様と友好を築き、共に沼掘りと戦っておりましたので、信頼に値する存在だと、私は判断致しました」

「ほほ~ん…中々見る目があるさね、アンタ」

 

シャンフロのNPCとモンスターは基本的には敵対しており、フィールドに連れ出せば危険が伴う。そんな中で自分の目で見て、己の心に従った此の職員にペッパーもまた、信頼に値する人物だと思った。

 

「今回の戦いを通じて、ペッパー様が炸音玉に対する改善点が有りましたら、何れ程小さな事でも良いので、教えていただけますと幸いです」

 

炸音玉の感想を聞かれたペッパーは、戦いを通じて感じた事を正直に述べる。

 

「そうですね…先ず手触りや硬度は申し分ありませんでした。音の威力も沼掘りを気絶させる力があり、十分だと思います。

 

其の一方で、投げる際に滑り止めと言いますか、縫い目の突起があると便利ですし、軽い力でも中の装置が起動して音が発生するようにすると、使い勝手が良くなると思います」

 

5個ある内の2個しか投げなかったが、1つで沼掘りの特殊行動を封じる事が出来た。其れだけでも十分過ぎる成果だろう。

 

「分かりました。今回の戦いを支部長に御伝え致します。数日以内に今回の改善点を含めた製品版を製作し、エンハンス商会で販売致します。

もし宜しければ、此方を他の街に在るエンハンス商会の受付にて呈示してください。ペッパー様の旅路の御力添えに成れるかと」

 

職員はメモに改善点を書き込んだ後、ペッパーのアイテムインベントリに『銀のプレート状のアイテム』が加わり、彼が其れを確認すると、またとんでもない物だった。

 

 

エンハンス商会会員証

 

エンハンス商会の運営する商店を利用、並びに商品の取引を行う際に必要となる特別な会員証。

 

千万以上の大きな取引を行った商人か、商会からの多大な功績と信頼を置かれた者にしか与えられない証明書であり、商人が一流を目指す際の指標の1つとなっている。

 

其れは商会からの信用であり、君が築いた信頼である

 

 

 

(なんか信用置かれてるんですけど。しかも商人の登竜門みたいな記述あるし。アレかな?開拓者じゃなくて、商人に成れってスカウトなのかな?バックパッカーは商売する事もあるからって理由で)

 

エンハンス商会がどのくらいの規模の商いを行っているかは解らないが、会員証を発行しているのは其れなりの大きな商会であるのだろう。今後は普通の道具屋だけでなく、エンハンス商会での買い物にも役立ちそうだと考え、持っておく事にした。

 

「其れでは私はセカンディルに戻ります。試作の炸音玉はペッパー様が御持ちに成られて大丈夫です。其の旅路に幸大からん事を、御祈り致します」

 

そう言って職員は岩壁に退避していた馬車に乗り、ペッパー達に手を降ってセカンディルへと帰って行った。

 

「終わったさね、ペッパーはん」

「うん。ありがとうアイトゥイル、でもサードレマに着くまでが沼掘りとの戦いだ。勝って兜の緒を締めよ…ってね」

「あぁ~…そう言えば『シークルゥ兄さん』も、そげな言葉遊びを呟いてたさね」

 

また知らない兄弟姉妹の名が出て来て、ペッパーは疑問を抱く。

 

(アイトゥイル…エードワード…ビィラック、そしてシークルゥにティーブル……。皆名前に『アルファベット』が入ってるんだよな…。もしかして先生の子供達は、そういう感じなのかな?)

 

色々と考察が頭の中を過るが、沼掘りとの戦いで疲れた頭では考えは纏まらなかった。

 

(まぁ…いっか。ユニークシナリオを進めれば、何れ真実に辿り着く時は来るし、其の過程を楽しむ事もゲームの醍醐味だ)

 

軈て明かされる其の時を楽しみに、ペッパーはアイトゥイルをマントの中に隠して、峡谷を沈める沼地を渡る。目指すはサードレマ、ペンシルゴンが話した『墓守のウェザエモン』と戦う為の情報が、もうすぐ其所に迫っている。

 

 

 

 

『沼を泳ぐ獣は覇音により鎮まった』

『エンハンス商会は戦いを見届けた』

『致命の兎と共に沼渡りを成し遂げた』

『称号【沼鮫の鎮圧者】を獲得しました』

『称号【覇音を成した者】を獲得しました』

『称号【種族は違えど志は共に】を獲得しました』

『特殊クエスト:【沼地に轟く覇音の一計】が進行しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろか………フフフ、待っているよ。ペッパー君」

 

そして黒狼を追う者達が、サードレマで待っている。

 

 

 

 

 






1人と1羽で掴んだ勝利




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Oneday to running ~追われる胡椒よ、修羅場を越えて(上)~



サードレマ到着、そして一悶着起きる




ファステイアを旅立って、貪食の大蛇を倒し。セカンディルで装備を整え、沼掘りとの戦いを制した開拓者達は、シャングリラ・フロンティア第3の街『サードレマ』へと辿り着く。

 

新米開拓者にとってのサードレマ到着とは謂わば『脱シャンフロ初心者』の証であり、1つの指標でもあるのだ。

 

「ふぃ~…アイトゥイル、そろそろサードレマに着くぞ」

「ようやっとって感じさね…お酒売っちょるさね?」

「分からないが…まぁ売ってるとは思う。調べた所かなりデカい街らしいし」

 

峡谷を沈める沼地を越え、遠くに聳える山々が見渡す荒野を歩き、ペッパーとマントに隠れたアイトゥイルは、高台から眼下に其の街を収める。

 

岩山に出来た大地を利用し、結婚式で見るホールケーキのような都市。中心に大きな城が建ち、中世ファンタジー系統のゲームでよくある、城下町と下町の様な構図を成しており、其所に建つ家々もレベルが高く、生活水準も相応の物だと見て取れる。

 

「おお、こりゃまた随分と大きな街だな…」

「せやねぇ…酒も色々売ってそうさ」

「まぁ……此れだけ大きければ、手には入るだろう」

 

両頬をパチンと叩くペッパー。此処からが本当の意味で『正念場』だ。サードレマに入り、ラビッツへの道を開いてエスケープし、安全圏からペンシルゴンへ伝書鳥で連絡を入れる。其の間に自分はまだ良いが、アイトゥイルが見付かった場合は、更に面倒な事になるのは間違いない。

 

「さてと…。行きますか」

 

気合を入れる。門を潜り抜けて、とっとと路地裏へと逃げ込めば、後はラビッツに逃避行して俺達勝ちだと。

 

そう思っていた時期が、ペッパーにもあった。

 

「やぁ、ペッパー君。待ちかねていたよ」

 

門前で如何にも最上級装備の聖剣を地面に刺して、腰まで伸びた赤髪が風に揺れ、前髪の一部を左側に束ねる、顔以外を白の鎧で纏った女性プレイヤーがニッコリ笑って立っていたのを、自分の目で目撃するまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~どちら様で?」

 

サードレマの入口にて、謎の女性プレイヤーにより足止めを食らったペッパー。其の横を行き来する、他のプレイヤーやNPCからの視線が刺さってくる。

 

「む…済まない、自己紹介を忘れていた。私は『サイガ-100』。クラン『黒狼(ヴォルフシュバルツ)』のリーダーをしている者だ」

「あ、はい。ペッパーです、どうぞよろしくお願い致します」

 

聖剣を仕舞いながら、サイガ-100と名乗る女性プレイヤーに、ペッパーは左手を差し出して、握手に応じようとする。

 

「……右手では無いのか?」

「生まれつき左利きなんです。御容赦を」

 

此れは右手を見せたくないペッパーの方便であり、1番の理由は右手に在るリュカオーンの呪い(マーキング)以上にアイトゥイルを隠すことだ。

 

何せ夜襲のリュカオーンと接触し、マーキングを刻まれたプレイヤーに会いに行ったら、別のユニークも引っ提げていた等と、芋づる式にも程がある。

 

「そうか、分かった」と事情を納得したのか、左手で握手に応じたサイガ-100。そして彼女は剣の様に鋭利な視線で、彼に言った。

 

「単刀直入に聞こう。ペッパー君、君は『夜襲のリュカオーン』と会敵して、其の実力を認められたと聞くが…本当かな?」

 

おそらくはセカンディルでのレクスの発言が、全ての原因だと予測したペッパーは、ある意味諦めの境地に居た。此の手の情報は尻尾が出れば、何処から徒もなく探りが入り、軈ては答えに至るものだと考えている。

 

同時に彼は、脳内で保有している情報を手札へと変え、切るべき内容を精査し始める。何処で何を切るべきか、そして切ってはいけない情報は、何れを提示するのが最適か、練りに練って思考していく。

 

「あ~…答えても良いんですが…。此処だと他のプレイヤーにも聴かれたりしますし……移動しません?」

 

此のサードレマの入口でユニークモンスターの名を出せば、当然ながら興味を持った他の連中が集まってくる。仮にサイガ-100との話し合いを何とか乗り越えられたとしても、次から次へとプレイヤーがやって来て、情報をせがみに来るのは明白だ。

 

「……確かにそうだな。一先ず移動しようか」

「すいません、こうゆうのに馴れてないもので」

「いや…私もリュカオーンの事で急ぎすぎていた。すまない」

 

互いに謝罪し、急ぎ足で大通りを避けて、裏路地から人目の付かない酒場を探して駆け出す。

 

「ふぅん…。あーくん、そうゆうことするんだ」

 

そして其の2人が行く先を、アーサー・ペンシルゴンが物陰から覗いている事に、気付く事はなかった。其の目に光は無く、唯々深く、暗い漆黒よりも尚黒い、深淵の闇が備わっていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードレマ・裏通り、蛇の林檎。

 

人の出入りが極端に少ない此の酒場は、密会の穴場として極々一部のプレイヤーのみに認知された場所である。其の店内の一角は、今まさに地獄の三丁目の様な状態に在った。

 

「……………………………………」

「……………………………………」

(き、き、気まず過ぎる……………)

 

どうしてこうなった。片やアーサー・ペンシルゴンの放つドス黒いオーラ、片やサイガ-100の他者を押し潰す圧力に、ペッパーは板挟みにされていた。

 

サイガ-100と共に蛇の林檎に入って席を取って数十秒後、アーサー・ペンシルゴンが何時も通りの透かした笑顔で入店、そして一変して真顔で同じ席に座ってきて、現在に至っている。

 

「ねぇ、サイガ-100さん。ワタシこれからペッパー君と大事な大事な『オハナシ』が有るんだけど、席を離れてくれない?」

 

滞った空気を裂き割る様にペンシルゴンが、サイガ-100に話を切り出す。彼女に視線を向けながらも、一瞬此方にも視線を送ってきて、気が緩む暇を与えてくれない。

 

「聞かれて困ることでもあるのか、アーサー・ペンシルゴン?私はペッパー君に、聞かなくてはならない事が有るのだが」

 

ペンシルゴンの発言に対し、サイガ-100もまた圧を沈める所か、更に強い圧を以て真正面からぶつけに来る。此れでは話が進む気配がない、どうしたものかと考えるペッパーは勇気を出して発言する。

 

「あ、あの!サイガ-100さん!リュカオーンの話なのですが、実は前にペンシルゴンに話していて…他のプレイヤーに話す場合は一度連絡を入れてねって、口酸っぱく言われていたんですよ!………本当にすいませんでした!」

 

嘘ではあるが、事実であるかのように話すペッパー。無論ペンシルゴンはそんな話を聞いてはいないし、そんな事は初めて聞いた。

 

「ね!?そうだよね!??ペンシルゴン!?ユニークを無闇矢鱈に流したら、どうなるか分かったもんじゃないから、慎重に扱った方が良いって先輩として教えてくれたんだよね!?」

 

思いっきり汗がダクダクと流れ、目は完全に泳ぎまくっている。此れはもう駄目か…そう思っていた。

 

「………そうだよ、サイガ-100さん。ペッパー君は私がシャンフロを奨めて、始めたばかりの初心者君なんだ。数日前に『ユニークモンスターのリュカオーンと遭遇して、善戦したらマーキングを受けちゃったよぅ。ペンシルゴン先輩どうしよう(泣)』って私にメールで泣き付いてきちゃってさぁ…。

 

先輩としてアドバイスしたんだ。其の情報は簡単にプレイヤーに明かしちゃダメだし、もし聞かれたら私に連絡して、立ち会った状態で話すようにって、釘を打っておいたの。まぁ、サイガ-100さんに話す前に相談したから、今回は許すけど………ねぇ?」

 

何を思ったのか、はたまた自分を立てたことを良しとしたのか。ペンシルゴンは持ち前の話術で、サイガ-100に其れらしい理由を伝えていく。

 

中盤辺りで凄く癪に障るような言い方と、即席捏造メール文章も言ったし、此方に一瞬送る視線は未だに鋭いままだが此の一瞬で、よくもまぁアドリブを効かせたなと感心した。

 

「………成る程、そうだったか。報連相はとても重要だ、良い後輩だな」

 

天音 永遠の話術は、嘘を真に、真を嘘に錯覚させる。俺はコイツの嘘に、何度も幾度と騙されてきた。だからこそ解る――――嘘の張り合いで、コイツに勝てるヤツはそうはいない。

 

「でしょ?ギリギリ何とか間に合った形になったわけさ。じゃあ………話し合いを始めましょうか」

 

此処からが本当の意味での戦い。情報という名の見えない手札を用いた『化かし合い』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー君。先程言ったとは思うが、私は君がリュカオーンに認められたという情報を聞き付け、サードレマまで足を運んだ。理由は単純、私は――――いや、クラン:黒狼は『夜襲のリュカオーン打倒』を最終目標と位置付け活動している」

 

サイガ-100は語り始めた。自分が何故此処まで来たのか。自分が何を求めているのかを。

 

「恥ずかしながら、私達のクランは幾度と無く奴に返り討ちにされ続け、攻略への糸口を掴めずにいた。だが、そんな中でリュカオーンと戦い、実力を示したプレイヤーの情報を得てね。調べていく内に君へ辿り着いた…という訳だ」

 

彼女は夜襲の情報に餓えていた。自分達が黒い闇の狼を前に唯々蹂躙されていく中で、其の狼に実力を示した者が現れた事を。

 

吉報であった。暗く深く、先の見えない闇の中に在った。そんな中、ペッパーの存在はリュカオーン攻略に繋がる光明、謂わば一筋の光だった。

 

「で、サイガ-100さん。目的はペッパー君が持っている『リュカオーンの情報』でしょ?」

「無論だ。奴の攻撃パターンや動き、どんな些細な事であっても良い。其れが奴の攻略に繋がるのであれば、クラン:黒狼は如何なる報酬も惜しまない」

 

其の言葉に偽りはない。彼女の目はリュカオーン討伐に向けて、ひたすらに情熱を燃やし続けている。モチベーションとはゲーマーにとって、センスや才能以上に大事な要素だ。

 

如何に才能が有ろうと、何れだけのセンスを秘めようと、何らかの理由で萎えてしまえば、全てが無へと変わってしまう。其れを維持する事は、簡単なようで逆に難しいのである。

 

「……1つ、聞いても良いですか?サイガ-100さん」

「何だ、ペッパー君」

 

彼女の言葉をペッパーは信じた。故に彼は――――『右手』を見せる。

 

「此れは俺がリュカオーンと戦い、其の中で刻まれたマーキングという名前の『呪い』です。コレを解くには『聖女の祈り』が必要であると、説明文にはありました。其の聖女を……知っていますか?」

 

リュカオーンが認めた強者の証を見た、ペンシルゴンとサイガ-100はペッパーを見る。実力を示した存在へ、ユニークモンスターは呪いを掛けると聞いていたが、実際2人にとって実物を見るのは初めてで。

 

特に初期勢のサイガ-100は、此れまでの数多のプレイヤー達で、真に呪いを受けた者を見たのは初めてだった。

 

「………あぁ、知っている」

 

呪いの解除――――ペッパーにとって其れは、封じられた右手の解禁による『二刀流』の復活。手数の確保だけでなく、斬撃と打撃をモンスターに叩き付けるスタイルを取り戻せるようになるという事だ。

 

「其の名は『慈愛の聖女イリステラ』。シャングリラ・フロンティアで唯一『全ての呪いを解除可能』なユニークNPC。喩え其れが『ユニークモンスター』から受けた『呪い』であったとしても、彼女の祈りであれば消し去れない道理は無い」

 

「成程…」とペッパーは溢す。一先ず呪いを解除する方法は見付かった。其所に目を付けたか、サイガ-100はこんな提案をしてくる。

 

「もし望むなら、黒狼は聖女イリステラに君を合わせる為の段取りと手筈を整えよう」

「へぇ…流石、最強クラスのクラン:黒狼。リュカオーンの情報を得るためなら、シャンフロのアイドルに会わせる為に奔走するんだね」

「当たり前だ。其れくらいするという覚悟を示さねば、君を前にしてペッパー君から情報は得られないからな」

 

其れだけサイガ-100にとって、ペンシルゴンの存在は厄介なのだろう。

 

「分かりました。でも、俺がリュカオーンと戦ったのは1度だけ。持ってる情報も、役に立つか保証は出来ませんよ?」

「其れでも構わない」

 

彼女の意思は変わらない。ならば、彼女の覚悟に此方も答えなくてはならない。

 

「先ず、夜襲のリュカオーンの攻撃パターンですが、前足での振り上げや横薙ぎ払い、斜めからの振り下ろしに返し刃の様に上げる攻撃を使ってきます」

 

思い出すのは、あの夜の決闘の記憶。リュカオーンの攻撃を一手一手を思い出し、言葉に変えていく。

 

「全ての攻撃は発生が兎に角速く、反射神経が優れていない俺は、常に適切な距離を取っていないと回避するのが困難でした。

其れと、リュカオーンには打撃系統武器と衝撃は効くみたいで、斬撃系統の武器は目に刺せて――――」

「ちょ、ちょっと待ってくれ…ペッパー君」

 

説明をしていく最中、サイガ-100は困惑を含んだ声で。ペンシルゴンは信じられないとばかりに、ペッパーに言う。

 

「君は、たった1度しか戦っていないのだろう…!?あの攻撃の中で、適正距離を保ちながら…!あまつさえ、『あの』リュカオーンの目に…刃を、突き立てたと言うのか…!?」

「ペッパー君、其れ…ホントの事なの?」

「……えぇ。俺はアイツに後出しを狩る形でしか、攻撃を当てられませんでした」

 

ペンシルゴンも、サイガ-100も、両者共に言葉が続かない。ユニークモンスターは其の全てが、理不尽の塊であり権化。そんな理不尽に抗い、一矢報いてみせたペッパーは、2人からすれば『ユニークモンスター』と戦える戦力と数えるには、十分過ぎる要素だった。

 

「まぁ…俺がリュカオーンとの戦いで得られた情報はこんな物ですね。サイガ-100さん。御力になれそうに無ければ、本当にすいません」

 

リュカオーンの目を切り裂き、残照を刻んだ致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)とラビッツ、そしてアイトゥイルの存在を隠すことは出来ただろう。頭を下げ、サイガ-100に謝罪を述べた。此れで義理は果たしただろう。

 

「………………ペッパー君」

 

そんな折、サイガ-100が口を開く。

 

「私は最終的に、君からリュカオーンの情報を聞ければ良い……そう思っていた。だが、気が変わったよ。此れは私の、いや…クラン:黒狼からの言葉だと思って貰って良い」

 

そう言って立ち上がった彼女は、ペッパーに右手を差し出して、言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君を『スカウト』したい。君の力を私達の下、リュカオーン討伐に際限無く奮って欲しい」

 

――――――――――と。

 







黒狼が胡椒を手招く




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Oneday to running ~追われる胡椒よ、修羅場を越えて(下)~



この一悶着に終止符を




「君を『スカウト』したい。君の力を私達の下、リュカオーン討伐に際限無く奮って欲しい」

 

完全に予想の斜め上をいく、サイガ-100の発言。ペッパー、そしてペンシルゴンは頭に盥を落とされた様な強い衝撃を受ける。

 

「………は?ねぇサイガ-100さん、其れ何言ってるのか…意味、理解(わか)ってるの?」

理解(わか)っているさ。リュカオーンを相手にし、戦える実力を見込んでのスカウトだ。現に彼はサードレマまで辿り着いているし、何よりも『どのクランにも所属していない』。ならば…勧誘しない手は無いだろう?」

 

不味いことになったとペンシルゴン、そしてペッパーは焦っていた。今自分が、自分達が握っている物は余りにも大きく、他者に明かせば混乱をより加速させる要素しかない。

 

先ずは、ユニーククエストによる恩恵――――――ペンシルゴンが知るユニーク武器:ロックオンブレイカーの生産・成長の秘伝書を唯一閲覧・鍛冶師に開示出来るのはペッパーだけで、其れが黒狼に知られれば、増産による戦力増加が必然的になる。

 

ペッパーにとってはユニークシナリオによって得た、ラビッツへの往来と兎御殿内の施設の利用に加え、エンハンス商会の会員証を持っている事で、通常のプレイヤー以上にアイテムの幅に差が生まれている為、黒狼にとってみれば十分過ぎる『宝』だ。

 

そして何よりも、現状PKクラン:阿修羅会が秘匿中の『ユニークモンスター:墓守のウェザエモン』の名を知っているという事。此れが1番の問題であり、ペンシルゴンは今、此の場でペッパーをキルしてでも、サイガ-100を含めたプレイヤーに『絶対に渡せない』。

 

というのも、此のウェザエモン。倒す倒せない以前に『存在している事(・・・・・・・)』にこそ、阿修羅会は比重を置いている。アーサー・ペンシルゴンにとって其れは『堪え難い事』であり、そして其れを壊す為の『誓い』になった。

 

だからこそ――――――目の前に座り、ペッパーを自分のクランに引き入れんとする親友()に、永遠(自分)は譲れぬ想いと、()を渡さぬ為に言う。

 

「…………悪いけどね、モモちゃん(・・・・・)。いくら親友の貴女でも、今回ばかりは譲らないし、譲れない。ペッパー君は黒狼には……『アゲナイ』から」

「ゲームで『本名(ソレ)』を呼ぶのは御法度だろう。しかし珍しいな……お前が感情的になるなんて、随分と彼に入れ込んでるじゃないか」

「別にぃ~?私にとっては、弄って楽しいペッパー君が手元から離れるのはヤダしぃ~?何より知り合いの傍に措かれるのが、私は気に食わないだけなんですけど~?」

 

何なんだ此の会話。ペンシルゴンは変な風に拗らせて面倒くさい状態だし、サイガ-100はサイガ-100で如何にもペンシルゴンを知っている口振りだしで、話に入る隙が無い。

 

「まぁ…最終的な判断はペッパー君に決めて貰った方が良いだろうな」

 

そして此のタイミングで爆弾ボールのパスが回ってきた。ペンシルゴンが見ている、ウェザエモンの情報は取引をした以上、サイガ-100にも渡せない。そんな事をすれば、自分がどうなるか等と想像もしたくない。

 

「スカウトは……正直嬉しいです。でも……今はまだ、無理です」

 

どうにも煮え切らない回答だと、サイガ-100は思った。シャンフロをペンシルゴンに奨められて始めたと言ったが、其れは嘘か真か、サイガ-100は確かめる術を持ち合わせていない。

 

成ればこそ、彼女はペッパーの真意を確かめる為に、質問を投げ掛ける。

 

「ペッパー君。君にとって彼女……ペンシルゴンは『尊敬する先輩』なのかな?」

「いや全然」

「ぅおい、ペッパー君!?其処はウソでも否定しようぜ!?」

 

ペッパーは即答した。残念だったな、ペンシルゴンと(ほく)()()んで。彼はこう見えて、やられた事は根に持つタイプの人間だ。此の際だと、ペンシルゴンの知り合いらしいサイガ-100に、色々と追い打ちに言ってやる事にした。

 

「だってペンシルゴン、人の不幸を喰らって生きる、血も涙もない外道ですよ?人が協力して作った落とし穴に、協力した人間を平気で落として其の様を笑い転げたり。

 

炭酸ジュース飲んでたら、横からナマハゲの面被って脅かして、咳き込んで噎せる様子を楽しんでたりだとか。

 

おまけに、コレクションアイテム含めて全クリしたゲームデータを、本人の目の前で『はじめから』を押してリセットしたりだと、振り返っても全くと言って良い程、ロクな思い出がありません」

 

思い出コロコロ、最悪ゴロゴロ。ペンシルゴンは今にも此方に殴り掛かりそうだし、サイガ-100も其れを止めようと手を伸ばしている。

 

 

 

「でも」

 

 

 

そう言って、ペンシルゴンを見つめて。其れからサイガ-100に視線を移して、彼は言う。

 

「コイツの行動には何時だって『信念』があった。たった一瞬…其の顔を見る為なら、あらゆる『努力』と『準備』を絶対に怠らない。

 

利用出来る物は何だって利用するし、使えるものは全部使う。其の一瞬の為に、入念に計画は練り込むし、自分が持ってる小遣いでさえ吐き捨てられる」

 

認めたくは無いが。ペッパー…否、梓がゲームでの覆らない敗北イベントに抗う為、全ての武器やアイテムを使って戦ったり出来るのは、ある意味で永遠の影響を受けた結果でもある。本当に認めたくは無いが。

 

つまり何が言いたいかと言うと――――だ。

 

「俺は永遠と『ある約束』を交わして、シャンフロをプレイしています。其の約束を果たすまでは、俺は黒狼には入れません。約束を果たした後で、俺を迎えたい気持ちに変わりがないのであれば、其の時は交渉の席に着くつもりです。

 

だから………ごめんなさい」

 

一礼して断った。

 

ペンシルゴン(天音 永遠)が目論み、静かに準備を続けている『墓守のウェザエモン(ユニークモンスター)』の討伐を、此の目で見届けたいと思ったからだ。

 

此の選択に、後悔は無い。

 

「ふふふ…ははははは!そうか、其れなら仕方無いな!スッパリ断ってくれたお陰で、私も存外悪い気分じゃないぞ!」

 

サイガ-100が笑う。その高笑いは成程納得といった感じの笑いだ。

 

「其れにしても…ふふふ、君も中々に『やるじゃないか』。ペッパー君」

「……?どういう意味です?」

「おっと失礼………。そろそろクランの皆が待っているのでね、私は御暇させて貰うよ。あぁそれと…此処の代金は私が払っておく。ゆっくりしていると良い」

 

では、とサイガ-100は店主に代金を支払い、まるでクールに。然して威厳を持ったまま、蛇の林檎を去っていった。

 

「はぁああああ……………疲れたぁ。マジで緊張したぁ………」

 

サイガ-100が店から離れて、足音も完全に聞こえなくなった辺りで、ペッパーは緊張による疲れがどっと襲い掛かり、椅子に座ろうとした其の時。

 

ガシッと、ペンシルゴンが正面から抱き付いてきた。

 

「お、おい!?……ペンシルゴン、どうし……た?」

 

ぎゅっと、腕を背中に持ってきてのハグに、ペッパーは困惑していると、ふと耳に小さな小さな声が聞こえる。

 

「…………して」

 

ペンシルゴンが何かを喋っていた。ペッパーが「何て?」と問い掛けると、彼女は小さく細い声で言った。

 

「………………ぎゅっ、てして」

 

いや何故だ、どうして其処でハグを求める。そして店長、此方を見ないで恥ずかしいわ。

 

「どうしたんだよ急に」

「……………あーくんの、ばか。あんなに、ぼろくそにいわなくても……いいじゃん……………」

 

普段の雰囲気は何処へやら、ペッパーの胸に顔を埋めたまま、ペンシルゴンは声を漏らす。流石に言い過ぎたかと、ペッパーは反省した。まぁ、其れでもやられた事はまだまだある。少しだが、やり返せただけでも良しとするか……そう思いたかったのだが。

 

「ぎゅってしてくれなきゃ、やだ………。ゆるさないし、はなさない」

 

肌を伝ってきたのは、ペンシルゴンの……否、永遠の身体の震えで。やはり、かなり傷付いていたのかとペッパーは思い知った。

 

何を考えているか、自分には今も解らない永遠だが、彼女もまた人間で。外道や悪魔、魔王に黒幕と例えても、感情的になったりする事もあるのだと知った。

 

「……………悪かったって」

「あたま。なでなでして。してくれないと…ゆるさない………」

「分かったよ、ごめんな」

「ふたりでいるときは、トワってよばないと、あーくん………ゆるさないから」

「すまん…トワ」

「………………………ゆるす」

「……ありがと、トワ」

「……………………………うん」

 

 

蛇の林檎の店内は、抱擁し合う2人……とペッパーのマントに隠れていたアイトゥイル、カウンターから見守る店長の4人だけとなり、数分程此の状態は続いたそうだ。

 

ペッパーにとって激動の1日は、サイガ-100からの黒狼へのスカウトと、対する自身の意志をハッキリと伝え。

ペンシルゴンの此迄に無い、思わぬ一面を目撃した形で幕を閉じる。

 

 

 

 






此れは己の答え、偽り無き心の答え



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鉛筆への詫び品と商会の規模は釣り合わない



ペッパー君、エンハンス商会の事を知るの巻




サードレマ・裏通りはマップが示す通り、かなり複雑に入り組んでいて、まるで迷宮のようになっている。マップを持たず、初見で其処に突撃しようものなら、確実に彷徨い、挙げ句の果ては目的地の反対側に出ていた等、簡単に起き得る事で知られていた。

 

「むすぅ~………」

「悪かったってトワ、随分言い過ぎた」

 

現実サードレマの地図を持っていないペッパーは、ペンシルゴンの案内を受けて大通りの道へと向かっている。無論、其の道中では蛇の林檎でやられた事を愚痴られているが。

 

「あーくん、随分私をボロクソに言ってくれたよねぇ~?なぁにか奢ってくれないと、お姉さんは許さないよぉ~?」

「すまないって…取り敢えず、討伐した沼掘りの素材を売らせてくれ、今所持金がそんなに無いんだ」

「宿屋使えなくなるまで奢ってね、あーくん?」

「流石に宿屋は使える金額は残させてよ…」

「だーめ、それじゃ誠意を示した事にならなーい♪」

 

蛇の林檎を出て、道行く道を歩く中で漸く何時ものペンシルゴンに戻り、内心ペッパーはホッとする。

 

「お、そろそろだよ。裏路地を抜ける」

 

迷宮に似た裏路地の終着点、僅かに顔を出せば其処には他のプレイヤーとNPCが行き交う道が現れ、連なる様々な店と家々、そして露店商が建ち並び人気に賑わうエリアに出たようだ。

 

「サードレマはシャンフロの中でも大きな街だから、1つの区画(エリア)に複数の雑貨屋が並んでても、何ら不思議じゃない。特に此の辺りは色々な物が買える、サードレマ初心者にはオススメの所。

 

ささ、あーくん。沼掘りの素材を売ったお金で、ペンシルゴンお姉さんに対する御詫びの品を入れたまえよ♪」

 

ニンマリと黒い笑みを浮かべるペンシルゴンに、ペッパーは分かったよと言って、露天の裏に出来たスペースに繰り出す。

 

「とは言っても、何が良いんだろうか……」

「ペッパーはん、ペッパーはん。お酒はまださね?」

「ちゃんと覚えてるよ」

 

アイトゥイルの酒代は持っているマーニで買うとして、沼掘りの素材を買ってくれる所は有るか、ペッパーが露天を探していると、其の向こう側に『見覚えのある商会』の店名が刻まれた建物が見えた。

 

「もしかして…!」

 

裏のスペースに出来た僅かな区切りから通りに出て、人の往来を縫うように潜り、反対側へと行って店の前に着く。其処には『エンハンス商会・サードレマ露店通り支部』と書かれた看板が。

 

「此処なら酒とペンシルゴンの詫び品が手に入るかな?」

 

呼吸を調え、余白を一つ。ドアに手を掛けて「ごめんください」と開き、中へ。店内は其れなりのスペースで、雑貨や食糧、アイテムといった品々が商品棚に並んでいる。

 

受付とNPCが会話をしている中、やはりリュカオーンのマーキングの影響からか、ペッパー到着から話の手が止まり、ざわついている。と、受付の1人が店奥へ走っていった。

 

「いらっしゃいませ、エンハンス商会・サードレマ露店へようこそ。……あら、貴方は」

 

其の数十秒後、眼鏡を掛ける其れなりの値のドレスを着た年配の女性が対応に出てきて、ペッパーの姿に目を丸くする。

 

「こんにちわ。えっと…エンハンス商会のお店ですよね ?会員証を持っているので、買い物をさせて貰えませんか?」

 

沼掘りの戦いを見届けた職員から貰った、エンハンス商会会員証をアイテムインベントリより取り出し、女性に提示するペッパー。

 

「えぇ、其れなら大丈夫ですが…付かぬことを御聞きしますが、ペッパー様でしょうか?」

「え、あっはい。ペッパーです。よろしくお願いします」

「そうですか…ようこそ御越しくださいました」

 

まるで王族のダンスパーティーの舞台で挨拶をするような所作で、女性は彼に御辞儀をする。

 

「ペッパー様の御活躍は先程、エンハンス商会セカンディル支部から発信された伝書鳥を通じて拝見致しました。もし、他の支部とエイトルドの本社に御立ち寄られる事があれば、力になるようにと指示を受けております」

 

既に情報が伝わっている辺り、やはり大きな規模を誇る商会なのだなとペッパーは思う。露天通り支部という事は、他のエリアにもコンビニみたく店を出しているのだろうか?

 

「ありがとうございます。今日此処に来たのは、沼掘りの素材の売却とお酒…というか葡萄酒、其れから贈り物を買いたいと思いまして」

「かしこまりました。贈り物に御要望は御座いますか?」

 

カリスマモデルの永遠の事だ、ネックレスや耳飾り、指輪等の装飾品は持っているだろう。だが、そういう贈り物が案外効いたりするのは、レトロギャルゲーの高飛車ヒロインに贈る、プレゼント選択で経験したことがある。まぁ、気持ちが籠っていれば一番なのだが。

 

「そうですね、沼掘りの素材売却で買える程度の、小洒落たネックレスでお願いします」

 

ペッパーはカウンターに、沼掘りとの戦いで獲得したドロップアイテムを置く。其のアイテムを精査する女性はふと、あるドロップアイテムに目を付ける。

 

「あら珍しい…沼掘り(マッドデイク)清歯(せいば)が有りますね」

 

女性が指差したのは、沼掘りのドロップアイテムの中に有った、小さくとも綺麗な真珠の様な歯。戦った時の奴の剣山の如き歯達は皆、泥の汚れでくすんで見えていた。

 

「清歯…?確か頭を小鎚で叩いたからか、1本手に入りましたね…希少な物ですか?」

「えぇ。沼掘りの清歯は、モンスターの中でも清潔な部位の1つで、ネックレスは人気の品なのです。此方で装飾工の職人へ加工を承る事も出来ますよ。3日程御時間を頂きますが、依頼料はエンハンス商会で負担致します」

「本当ですか?では、其れで御願いします」

「かしこまりました。其れと沼掘りの他の素材は換金させていただきました。マーニは此方に、どうぞ御納め下さい」

 

仕事が早いと感心しながら、ペッパーは浮いたお金で沼掘り討伐に協力してくれたアイトゥイルへ、そこそこの値段の葡萄酒を3本購入し、商会を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、お姉さんに対する贈り物は3日後に完成するのね?」

「あぁ、沼掘りのレアドロップから造るネックレスで、女性に人気が有るんだとか。しかも加工依頼は会員証を持ってたからか、商会持ちになった。かなり得したぜ」

 

ペンシルゴンが待つ裏路地へと舞い戻ったペッパーは、状況を報告する。無論アイトゥイルの為に葡萄酒を購入したことは秘密にしている。

 

「其れで1つ気になったんだけどさ、其の商会って何処の物なの?」

「え、エンハンス商会のものだけど。特殊クエスト進めて、沼掘り討伐したら職員から貰ったんだよ」

 

此れが証拠と、アイテムインベントリから会員証を取り出し、ペンシルゴンに見せるペッパーだったが、彼女は其れを見て唖然としていた。

 

「いや……えっ………マジで?」

「どうした?」

 

驚愕にも似た表情に、疑問を投げ掛ける彼だが、返ってきたのは新たな混乱を招く事実だった。

 

「…………シャンフロのNPCが運営してる『ユニーク商会』って知らないの?」

「ユニーク商会?ユニークモンスターとかそういう類いのヤツか?」

 

ユニーク商会とは何ぞやと言った感じに聞いたペッパーに、ペンシルゴンは片手を顔に当てて、天を仰ぎながら言う。

 

「あぁもぅ…………………君は本当に、本当に………私の予想を超えるなぁ…………。えっとね、此の会員証は、ひっっっっっっっじょぉぉぉぉぉぉぉぉに、大切な物だから絶対に失くしちゃ駄目。イイネ?」

「いや、普通に会員証って重要だから失くさないし、失くすつもりは無いんだが…」

 

どうやら事の重大さに気付いていないらしい。其の会員証が何れだけの価値を持っているのかを、ペンシルゴンはペッパーへレクチャーする。

 

「コホン。いい?エンハンス商会って言うのは、『黄金の天秤商会』と『カルカダ=コラス商会』と並ぶ『シャンフロ3大商会』の1つでね。

 

特に『エンハンス商会会員証』を保有しているのは、シャンフロをメイン職業(ジョブ):商人でプレイしてるプレイヤー達でも、かなりの取引を行って実績を積まないと貰えないアイテムで、現実で例えるなら数千万以上の取引を数百くらい行った先で、漸く貰えるレベルの代物。

 

もっと言っちゃえば、私達プレイヤーでもエイトルドの本社の会員限定販売所や、サードレマの上級貴族達が行ける上層エリアに構えてる店には、其の会員証が無いと入れない仕様になってるの。

 

更に言えば其の会員証持ちの君は、サードレマの上層エリアに立ち入れるようになってて、いざって時の逃げ場所も其れで確保出来てるって訳さ、解った?」

 

ペンシルゴンの説明が予想以上の衝撃で、ペッパーは思考を止められてしまった。つまるところ此の会員証は、通常なら血みどろの努力の果てに手に入る物を、特殊クエストの恩恵によって其の段階をスッ飛ばしてしまったに等しい。

 

もっと言うなら、此れをサイガ-100に知られていたなら、昼夜問わずに伝書鳥が飛んできて、譲渡交渉させられていた可能性すら在ったのだ。

 

「なぁ、俺明日死ぬのか?大丈夫か?」

「此の特殊クエストは、君が始めた事でしょ?シャンフロプレイヤー達の戦力増強っていう唯でさえ重大責任背負ってるんだから、最後までやり遂げなくちゃねぇ?」

「もう既にあちこちからの絶大プレッシャーで、押し潰されそうなんだよなぁ……」

「泣き言言わない。取り敢えず、あーくんは暫く雲隠れしておいて。色々と爆弾要素を抱えすぎてる」

 

ペンシルゴンの言い分は至極尤もであり、ペッパーもネックレスが完成するまでの数日間は、シャンフロから一時的に離れる事を決めたのであった………。

 







得た人脈は計り知れず


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残照香る武器は鍛冶心を惑わせる



残照刻んだ武器の行く末




「また大変な事になったなぁ……」

 

サードレマの裏路地にて、大きな溜息を付くペッパーは数分前に別れたペンシルゴンから言われた言葉を思い出す。

 

「さてと…アイトゥイル、兎御殿への道を頼む。あっちに着いたらエンハンス商会で買った、報酬の葡萄酒挙げるから」

「はいさね、ペッパーはん」

 

よっと、と何の変哲も無い壁にアイトゥイルはラビッツへと続く(ゲート)を開く。潜り抜け、兎御殿の休憩所へと着いたペッパーは、アイテムインベントリから葡萄酒を3本取り出して、アイトゥイルへと渡す。

 

「ありがとさね、ペッパーはん。また何かあったら呼んでな~」

 

ふわりふわりと風が流れるように、彼女は兎御殿の外へと出て行った。そしてペッパーはベッドに寝転がり、ふぅ……と大きく息を吐く。

 

「………どーしよっかな」

 

朝からセカンディルで採掘と皮を集め、武器を強化し、エリアボスと戦い。本当に色々有りすぎて、頭と身体に疲れが乗し掛かる。エンハンス商会の依頼遂行、サイガ-100からのスカウト、ペンシルゴンことトワの意外な一面…兎に角沢山だった。

 

このままログアウトしても良いが……どうせなら最後に何か1つ、イベントフラグでも起こして、ログアウトした方が面白そうだとペッパーは考える。

 

「あ………」

 

ふと、アイテムインベントリを漁って取り出したのは、夜襲と戦いで瞳を切り裂いた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)。ティーブルとアイトゥイル曰く『夜襲の残照が刻まれた武器は御目に掛かった事がない』と呟いていた。

 

其れをもし、兎御殿の一流鍛冶師たるビィラックに其の包丁を見せた時、彼女は如何なる反応を見せてくれるのか?

 

「思い付いたからには、やってみますか」

 

少し悪い笑みを浮かべて、ペッパーは致命の包丁を仕舞い、1人兎御殿の鍛冶場へ足を運んで行ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビィラックさん、居ますか~?」

 

兎御殿の鍛冶場に足を運んだペッパーは、入口で部屋の主たるビィラックの名前を呼ぶ。

 

「おぉ、ペッパーやんか。どないした?」

 

奥の暖簾を開けて、ビィラックが出てくる。ペッパーは本題に入る前の手始めとして、彼はアイテムインベントリからユニーク武器:マッドネスブレイカーを取り出し、ロックオンブレイカーの製作秘伝書をビィラックに見せる。

 

「実は此れを見て貰いたくて」

「ほほぅ…。此れが噂のユニーク小鎚かいな、こりゃ良い面しちょるけん。しかも製造方法と、成長形態への必要な材料と鉱石の加工方法まで、事細かく書いちょるとはの…。人間の鍛冶師の加工技術も随分やるけぇな」

「ビィラックさん、此れって材料揃えれば作れますかね?」

「………ペッパー、わっちを誰だと思うとるん?わっちは鍛冶師じゃ、必要なもん揃えりゃキッチリ作っちゃる。其れが一流の仕事じゃけ」

 

当然の答えが返って来て、ペッパーも「ですよね」と苦笑する。

 

「ペッパー、わっちをからかいに来たんか?」

「いえいえ。……実はビィラックさんに本当に『診て』貰いたい武器が有りまして」

 

『見て』を『診て』と言ったのは、シャンフロの鍛冶師達が産み出した武器を育てるという話を、ロックオンブレイカーを作り、小鎚をフロンティア全土に広げ、自分も御世話になった、ファステイアの鍛冶師より聞いたからである。

 

鍛冶師にとっての武器は子供で、同時に直す『医者』のような存在(もの)。異常が出れば、責任を以て其れを直す。其れが一流の鍛冶師たる生き物のサガならば、残照が刻んだ致命の包丁をどう扱うかを聞けると考えて。

 

「ビィラックさん。此の致命の包丁は俺が夜襲のリュカオーンと戦い、片眼に突き刺して切り裂いた獲物です。アイトゥイルとティーブルさんは、此れに濃い残照が刻まれていると言いました。

 

鍛冶師としての視点から、此の武器の扱い方のアドバイスをいただければと思い、こうして此処に来たのです」

 

アイテムインベントリから致命の包丁を取り出し、以前ティーブルに見せた時と同じく、刃を自分に峰をビィラックの方に向けて、彼女の前に膝を着いて差し出した。

 

ふとビィラックの方を見ると、彼女はあんぐりと口が開いたまま呆然としており。

 

「わ……ワリャ……!!なんちゅうもん持っとるんや、ワリャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?????」

 

怒号に等しい声が、鍛冶場を越えて兎御殿全域に響いた。

 

そしてペッパーが持っている致命の包丁を、ビィラックは奪い取り、金床の上に乗せる。そして大急ぎで奥の部屋に飛び込むと、ガッチャンゴッチャンと慌ただしく何かを物色。

 

数分後に黒地の布と立て掛け棒、小さな筒を持ってくるや、布を棒に引っ掛け、テントのように包丁の刀身部分に影が出来るようにして覆い、其処に筒を持ってきて先端をクルクル回すと白い光が出てきた。

 

其の光を受けた致命の包丁の刀身からは、白い光を塗り潰して喰らうかのような、ドス黒い漆黒のオーラがズズズズズ…と溢れ出している。

 

「うわぁ…呪いみたいにヤバい雰囲気プンプン……」

「ペッパー…ワリャほんま、とんでもないもんを出しおってからに………」

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………と、ビィラックは思いっきり大きな息を吐き捨てる。頭を描き回し、天を仰ぎ見て、幾度も深呼吸を繰り返し。漸く落ち着き、思考と答えを調えた彼女は、ペッパーに言った。

 

「………此の筒の光は『月の光』を擬似的に再現したとか、オヤジが言っとった。そいで夜襲の眼ェ裂いたっちゅう噂は本当だった訳か……。しっかしまぁ、小鎚開発のキーマンがこんな事までやりおっとったんとは。全く、わっちに診せて英断じゃったわ」

 

現実で言うところのブルーライトみたいな物かとペッパーは思う。そしてビィラックはペッパーへ鍛冶師としての判断を提示した。

 

「結果から伝えるが……コイツは昼にぶん回すんならまだ良い。じゃが、夜になったら『絶対に振るっちゃアカン』。此の刀身に刻まれた夜襲の残照は、何処に居たとしても必ず其処へ行き、持ち主を必ず殺すという『夜の帝王の復讐の証』じゃけ。

 

自分の身と四肢が崩れ、首だけに成り果てようとも、夜襲は『必ずお前(ワリャ)を殺す』という宣言をしちょる。………だから自分の為にも、コイツは夜に振るうなよ?」

 

刻まれた残照に込められたメッセージが予想以上の激重だった事に、ペッパーは驚きを隠せない。そして一流たる鍛冶師ビィラックの言う言葉は、間違い無く本物であり、其の誓いを護ることにした。

 

だがペッパーは、此の時ビィラックと結んだ約束を『ある形』で破る事になるのだが、其れはまた別の話になる。

 

 

 

 

 

 

「あ~…今日は本当に色々有ったなぁ………」

 

シャンフロからログアウトし、ペッパーから梓へと戻った彼は、VR機材を頭から外して、思いっきり身体を伸ばした。時間を確認すると、午後4時を過ぎた辺りであり、実に9時間近くシャンフロをやっていた事になる。

 

「夕食は…まだちょっとだけ時間が有るし、1時間仮眠をとって…。メニューは野菜炒めとご飯と味噌汁に……あと何が良いんだろ……まぁ良いか、仮眠の後で考えれば……」

 

スマフォのタイマー機能で1時間後に鳴るように設定を行い、枕元に置いた梓は軈て小さな寝息を立てて、仮眠の床に着く。

 

そんな折、彼のスマフォのEメールアプリに1件着信が入った。

 

 

 

 

 

件名:バトルしようぜ

 

from:ブシカッツォ

 

to:A-Z

 

よぉ、A-Z。暇な日あるか?久し振りに『ビルディファイト』の相手してくれ。場所は何時ものゲーセン。負け越したままは癪だし、今度はキッチリ勝たせて貰うよ

 

 

 

 

 

 

 






王者の誘いが、梓を呼ぶ


ビルディファイト:VRゲームが主流となった現代で、其の流れに抗うようにロールアウトした、レトロアーケード格闘ゲーム。

昔ながらのコントローラーやアーケード操作、其処にスマフォアプリでビルドしたキャラクターでプレイ出来るのが売りであり、一部のユーザーから好評を受ける良ゲーである。


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胡椒と鰹節のレトロゲーム対決 ~前編~



とある人物と、梓の意外な関係




「う~ん…………」

 

シャンフロで大激動の時間を過ごした翌日、梓はバイト先のコンビニでシフト表を見つめ、脳内スケジュールを更新している。

 

其の理由が、Eメールアプリに届いた1通のメールであり、仮眠後に気付いた其れにはゲームフレンドの名前があった。

 

「大学の講義が明日から2日続けであって、バイトは今日と明後日……そうなると会えるのは4日後。で、其の翌日に講義とバイトがあるから、シャンフロをゆったりプレイ出来るは6日後になるんだな」

 

エンハンス商会に頼んだネックレスは、完成まで3日掛かると言っていた。ペンシルゴンも暫く雲隠れしていた方が良いと警告していたし、暫く休むには十分な期間になるだろう。

 

「彼処に行くのも久し振りだし、気合入れて『遊び』ますかね」

 

そう決めた梓は何時も通りにバイトをして、数時間後にアパートへと帰宅し、彼はタンスの奥に仕舞っていた『肩掛け鞄』と『決戦服』と書かれた箱を手元に持ってくる。

 

「此れを着るのは久し振りか…まぁ『此の姿』をするからには、思いっきり楽しまなきゃな」

 

そうして梓はEメールアプリで文章を綴り、4日後に会おうとメッセージを送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4日後…都市部から発進する電車に揺られ、都市部から少し離れた郊外の駅で降り、バスに乗り換え、梓は肩掛け鞄を持って、辺境のゲームセンターにやって来た。

 

「さてと…だ」

 

梓は目立たないように、こっそりとゲーセンに入店。足早に男子トイレに駆け込み、個室トイレの鍵をかける。

 

肩掛け鞄から茶色のボーラーハット(安売りセール)、黒淵のグラサン(中古)、髑髏の顎の刺繍を刻んだ特製のマスク(バザーで購入)を装着。

靴を黒の革靴に履き替え(閉店セールで格安品なので買った)、ワインカラーのベロアキルティングコート(父親が昔使ってた物)に袖を通す。

両手にフィンガーレスグローブ(通販で安かった物)、最後に真っ赤なマフラー(中古品)を首に巻き、背を伸ばして威風堂々と歩み、鞄を持ってトイレから『戦場』へと躍り出た。

 

普段は冴えない普通普遍の梓だが、このゲームセンターでは装いを新たに『最強のゲーマー』としての姿に変わる。

 

「…お、おい見ろ、アレ…!」

「なんだありゃ、コスプレかwwwww」

「おいばか!ありゃ『A-Z』だよ!このゲーセンじゃ殆ど負けなしのプレイヤー…!」

「え、マジ!?マジもんのA-Zか!!?」

 

此れが梓の『もう1つの顔』。此のゲーセンに限ってでは有るが、様々なジャンルのレトロゲームで、ランキング最上位に名を刻み、伝説やら最強やらと称えられる、レトロゲーマー『A-Z』となるのだ。

 

だが梓…否、A-Zにとってはそんな称号はいらない物で、ただ単純にレトロゲームを楽しんでいるに過ぎない。彼は静かに、ただ1つの目的地に向かって歩みを進め、そして辿り着く。

 

「よっ。待ってたぜ、A-Z。久し振りだな」

 

深く被ったベイカーボーイハットのキャップを僅かに上げ、サングラスから覗くトパーズ色の瞳から放つ視線が、A-Zに向けられる。

 

サングラスとマスクを付け、春先を意識した薄水色メンズと白シャツに、フランクなジーンズを身に付けた男性が1人、レトロ格闘ゲーム『ビルディファイト』の前で待っていた。

 

「あぁ、久し振り。というか夏に大会有るのに、こんな辺境のゲームセンターで、レトロ格闘ゲームしてるとか、随分余裕なんだな『ブシカッツォ』。大丈夫?また『アイツ』にボロ負けない?」

 

コイツとゲーマーとしての付き合い始めは、およそ2年前辺りに遡る。何時ものように様々なレトロゲームで楽しく遊んでいた俺の前に、何処で噂を聞き付けたのかブシカッツォ――――いや、日本最強のプロゲーマー『魚臣(うおみ) (けい)』は、変装をして此のゲーセンにやって来た。

 

当時、格闘やシューティングジャンルのVRゲームで、タイトルを総なめにし最強の座に君臨していた名実共に『日本一』のプレイヤーで、1人のゲーマーとして憧れた存在。

 

そんな男が『最強レトロゲーマーのA-Z』に直接挑戦状を叩き付けに遠路遥々此処まで会いに来て、僅かに見えた眼と立ち振舞いで正体に気付いたと同時に、いつの間にか出来ていた二つ名を聞いた時など、ヤバいレベルで心臓に悪かったのを覚えてる。

 

結果だけを述べるのであれば、俺とブシカッツォのレトロゲームでの経験値の差は明確だった為、最初に戦った時は3ラウンド制を先に俺が2勝して、ストレート勝ちをしてしまった。其れも圧倒的な、自分でも生涯に渡ってドン引きするレベルの。

 

試合後、秘密裏に正体を指摘したら大当たりで、其の際にEメールアドレスを交換しろと迫られ、強制的に交友関係を結ばれた訳だが。

 

「は?負けないが?今年こそは絶対に勝つし?てか、相変わらず季節感バグりそうな見た目だな、春なのにそんな服装で大丈夫なんか????」

 

其の一件が有って以来、ブシカッツォ━━━慧は時折俺を呼び出しては、格闘ゲームでリベンジをしに来るようになった。一戦一戦を事細かに分析し、徹底的に詰めてくる理詰め型のプレイスタイル。そして誰よりも負けず嫌いで、一度会う度に想像以上の成長を見せ付けて、どんどん強くなっていく。

 

負けじと俺も、操作キャラの動き方を自身の身体でトレースしたり、キャラの見ている景色を視覚で意識した立ち回り方等を、脳内にフィールドに作って動かしたりして、其の進化に食らい付いた。

 

「同じ台詞を半年前にも聞いたし、此の格好は中二病心を擽るから良いんだよ、気にするな。………まぁでも、最新の大会で引き分けに出来たんだろ?負け続けを断ち切っただけ、俺は十分凄いとは思うが?」

「いや、駄目だ。引き分けは負けと同じ。アイツに勝つ……其れが俺の目標だ」

 

総対戦数はおよそ300近く、其の内の俺の勝率は5割3分━━━━━今はまだ勝ち越せているが、何れは抜き去られると確信している。

 

「相変わらず負けず嫌いだな、お前は」

「レトロゲームに張り込んでVRゲームやってねぇお前には言われたかねーよ?」

「お?言ったな?俺一応VRゲームやり始めましたけど~?累計1週間も経ってないが~?」

「自慢して言えることじゃねーだろが!?こちとらお前の何倍も長くやってんだぞ?!」

 

他愛もない会話、ちょっとした煽り弄り合いは、2人にとっての此のゲーセンでの挨拶みたいなもので。

 

「……んじゃ、やるか。A-Z」

「あぁ、やろう。ブシカッツォ」

『『楽しもうぜ』』

 

其れが終われば、お互いゲーマーとして強さ比べの時間。そして其の中で在る『暗黙の了解』━━━━━『最初の一戦で負けた方が、勝った方にラーメンを一杯奢る』がある。

 

アーケード用のICカードを取り出し、識別エリアにセット。A-Zとブシカッツォのビルディファイトが開幕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルディファイト。VRゲームが流行し、主流へとなった中で、其の流れに抗うようにして産まれた、アーケード格闘ゲーム。

 

アーケード由来の操作に加え、普段使っているコントローラー接続にも対応。様々なプレイアブルキャラクターの絶妙な能力調整により、近年のアーケードゲームの中では『良ゲー』と位置付けられた。

 

更に此のゲームは、スマフォにインストールしたアプリでキャラクターやコマンド構成を自由自在に『ビルド』出来るのが特徴で、決められた規定能力値を如何に分配し、装甲の有無と重量上限を含め、何を強くし何を弱くするかの取捨選択が非常に重要となる。

 

其れでいながら、通常のプレイアブルキャラクターでも、ビルドしたキャラクター相手に十分に戦える上、プレイスキルとコマンド構成が絡み合えば、初心者でも上級者に勝てる可能性を秘めているのが、ビルディファイトの面白さなのだ。

 

「2ヶ月振りくらいか『ノブ=ナッシュ』。ブシカッツォに、思いっきりブチかましてやろうぜ」

 

データによって形成された円形のコロッセオに顕現するは、本能寺の変での織田信長をモチーフに白着物と黒袴を纏い、両手両足に格闘戦用ガントレットを、腰に軽量装甲を装備した、A-Zのビルドキャラクター。

 

其の特性は彼が格闘ゲームで主力とする『ヒット&アウェイ作戦』を実行する、所謂『後攻カウンタータイプ』であり、長く戦う体力(スタミナ)・確実に捌いて反撃する技術(テクニック)・相手の攻撃に沈まない耐久(ディフェンス)に能力配分の比重が置かれた、長期戦タイプのビルドだ。

 

「相変わらず何時見ても秀逸だな、お前のノブ=ナッシュ。だが、此方も攻略の為にビルドしてきたからな」

 

そう言って顕現するは、ブシカッツォ作のビルドキャラクター。金髪碧眼20代女性がベースとなったキャラで、肩には肩当て用の装甲、脚部にはリジェクターアーマーと呼ばれる、加速と攻撃力と重量上限リソースの大部分を裂いた、強化装甲を纏っている。

 

見たところ、俊敏(スピード)攻撃力(アタック)破壊力(ブレイク)を主軸に置かれた、一撃必殺型のスピードタイプだろう。

 

「今回は速さが勝利への鍵か、ブシカッツォ?随分思い切ったビルドキャラだな」

「コイツの名前は『リーエル』。お前に時間を与えたら、幾ら俺のプレイスタイルであっても、捲られて負ける。だから…其の時間を与える前にぶっ倒す!」

「やってみな………!」

「やってやるよ………!」

 

 

 

ノブ=ナッシュ VS リーエル

 

 

ROUND・1

 

 

READY…FIGHT!!!!

 

 

 

戦いのゴングは鳴る。ラーメンを賭け、そして己の意地とプライドを懸けて。

 

 

 






其の男、日本最強のプロゲーマー



ビルドキャラクター:ビルディファイトでは既存のプレイアブルキャラクター以外に、スマフォでインストールしたアプリを使い、自分の分身たるキャラクターをビルド出来る。

其の際にキャラクターの能力値を、決められた規定値で振り分ける事が可能になっている。また、ビルドキャラクターを含む全キャラクターに装甲重量限界というパラメーターが存在。此れ等は攻撃・防御・俊敏に影響を及ぼし、規定値を超過しないように調整する必要がある。


各種パラメーター説明

体力:キャラクターの総合体力値。0になるとKOされ、体力と耐久の数値が高い程、長期戦で有利になる

攻撃力:キャラクターへの攻撃に影響する数値。攻撃力の数値が高い程、相手に与えるダメージは大きくなる

耐久:キャラクターの受けるダメージを減らす数値。体力と耐久が高い程、長期戦に強く、打たれ強いキャラクターになる

破壊力:キャラクターの纏う装甲に対するダメージに影響を与える数値。破壊力が高い程、装甲を破壊しやすくなる

技術:キャラクターのガード並びに連続攻撃に影響する数値。技術が高い程、ガードによるダメージの軽減がより大きくなったり、連続攻撃がスムーズに行える

敏捷:キャラクターの機動力や移動速度に関係する数値。敏捷が高い程回避が速くなり、追撃時には間合いを詰めやすくなる





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胡椒と鰹節のレトロゲーム対決 ~中編~



ラーメン一杯を賭けた、ビルディファイト。始まります




ビルディファイトのアーケード箇体の中に顕現したコロッセオ。其所では今、2人のファイターによる腕比べが行われていた。

 

「相っ変わらず、硬ェ…なっと!」

「そっちは速すぎだろ!どんだけ俊敏に能力配分置いてんだよ…くっ!」

 

ブシカッツォの操作するビルドキャラ:リーエルが脚部装備のリジェクターアーマーで、スケートに似た浮遊移動を行ったと思えば、アーマーが火を噴き出して加速し、一気に間合いを詰め切る。

 

加速+アーマーのブーストによる積乗が重なり、A-Zの操るノブ=ナッシュの脚部に纏う戦闘用ガントレットに蹴り技となって直撃。

 

しかしノブ=ナッシュ━━━否、A-Zも負けてはいない。直撃を受けた瞬間、わざと転ぶ形で威力を流し、即座にダウンより復帰する事で、本体と装甲のダメージを最小限度に抑えて見せた。

 

「ホント、一丁前に硬ェな。コイツにどんだけ苦しめられたか…!」

「そりゃ当然。受けて、受けて、受けきって、最後にドカン!が、ノブ=ナッシュのスタイルなのだ!」

「お前の後出しは、毎度毎度反則レベルなんだよなぁ!少しは自重しろや!」

「メタりまくってるのに文句は言わねぇけど、そっちも自重しやがれっての!」

「メタ張らねぇと簡単に勝てねぇからやってんだよ!」

「嗚呼そうかい!」

 

喧嘩腰にギャーギャー言い合いながら、リーエルの上空踵落としを捌いたノブ=ナッシュが拳連打の技『ラッシュ』で、リーエルの脚部のリジェクターアーマーに連続で直撃させる。

 

「なら、コイツでどうだ!」

 

距離を取って再加速し、イナズマターンでノブ=ナッシュの背後に回り込み、リーエルが背中に『ジェットキック』という蹴り技を入れる。其の一撃にノブ=ナッシュの体勢が前に崩れるも、お前も道連れにしてやるとばかりに、リジェクターアーマーを左手で鷲掴み、雪崩れ込むようにして投げ技の『道連れ落とし』と共に、地面へ自分とリーエルを叩き着けた。

 

「残念だったな、多少の被弾は織り込み済みだぜ!ブシカッツォ!」

「解っちゃいたが、こうもやられると無性に腹立つわA-Z…!!!」

 

色々言い合いながらも、2人は今同じ感情を抱いている。『楽しい』のだ、此の一瞬が。隠した策を如何にしてぶつけるか、組んだコマンドをどのタイミングで使用するか。

 

シナプスを通じて、全身を走る電気が肌をヒリ付かせ。指先の感覚や視覚聴覚の全てまで、此の戦いに勝つために脳のリソースを費やす、此の昂りが。

 

「おい、A-Zとブシカッツォが戦ってるぞ!」

「え、マジで!?ヤッバ!」

「うぉぉぉぉ!すげェ!!!」

 

そんな2人の戦いを見たゲーセンの利用者達が次々にやって来て、そう時間が掛からない内に周りを観衆が囲い込み、大画面に写されるライブ中継をスマフォで撮影したり、興奮で奇声を上げたりする者まで現れる。

 

「ボルテージが高まってるな、ブシカッツォ」

「良いねA-Z、盛り上がってきた」

「負けても文句は言うなよ?」

「魅せる戦いも、ゲーマーの仕事だろ?」

「其れもそうだ。が…お前相手に手は抜けねぇよ!」

「全く以て同意見ッ!!!」

『『勝つのは…俺だァ!』』

 

ノブ=ナッシュのガントレットとリーエルのリジェクターアーマーがぶつかり合う。火花は散り、炎は燃え、歓声に店内は沸き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーエルとノブ=ナッシュ。此の2体のキャラを例えるならば、かの有名な『矛盾』が思い浮かぶだろう。

 

対極のビルド(速攻VS耐久)

対極の能力値(攻撃型VS防御型)

やられる前にやる(ブシカッツォ)受け切って勝つ(A-Z)

どちらも正反対の勝ち方を目指すプレイヤー。

 

反対であるが故に、互いの強さも弱さも解る。

そして其れを、倒して超えんとするのだ。

 

「そらそらそらぁ!!」

「ちぃっ…!」

 

リーエルの脚部装甲たるリジェクターアーマーが、火と蒸気を大きく上げながら、連続蹴りの技『ガトリングスタンプ』を小刻みに、ノブ=ナッシュの腕部脚部を守るガントレットに叩き付けていく。

 

対するノブ=ナッシュは、ガトリングスタンプに手も足も出せないのか、頭と腹部を守るように必死にガードする事しか出来ていない。

 

「おいおい、A-Z押されてねぇか!?」

「ビビんな、攻めろー!」

「いけー!ブシカッツォー!!!」

「このまま攻めきれ!いけるいける!」

 

ガードによりノブ=ナッシュの体力の減りは少ないものの、此れを何時までも続ければ、何れガントレットはアーマーブレイクによって破壊されてしまう。

 

其れでもA-Zはノブ=ナッシュのガードを解かない。受けて、受けて、ひたすらリーエルのラッシュを受け続け。

 

「このまま………いや、違う!!」

 

突如としてブシカッツォは、リーエルのラッシュを停止し、距離を取った。

 

「え、何で止めたんだ!?」

「詰めきれたろ、今の場面……」

「いや……今のブシカッツォの判断は正しい」

 

砂塵舞うコロッセオに立つノブ=ナッシュは、リーエルのガトリングスタンプによりガントレットにダメージは受けども、体力は最小減少で済んでおり。

 

「…………良いね、ブシカッツォ。そのまま攻めてくれてたら、勝てたんだが」

 

各プレイアブルキャラクター並びに、ビルドキャラクターが放つ逆転への一手を生み出す『必殺技』、其の技を起動する為の『必殺ゲージ』のメーターが、ノブ=ナッシュはレベル3寸前(・・)まで到達していた。

 

「まさか、さっきのラッシュを受けたのって…!?」

「そうだ、A-Zはノブ=ナッシュの体力と耐久なら確実に耐え切れると踏んで、必殺ゲージをレベル3付近まで持っていく為に受けていたんだ」

「マジかよ…!」

 

防御型ならではの、しかし防御型だからこそ出来るゲージ調整。例え必殺技を外し、ガントレットが破壊されても、持ち前の体力と耐久ならば、再度ゲージを貯められる。A-Zは其れを狙っていたのだ。

 

「あっぶね…。お前のレベル3必殺は、食らったら間違いなくKOされる。だがまぁ、バカスカ受けてくれたお陰で此方は先にレベル3を越えられたぜ(・・・・・・)……!」

 

しかしA-Zの予想より早く、ブシカッツォのリーエルはレベル3までゲージを蓄積し、早くも必殺技発動の構えを取っている。

 

『レベル3・FINISH MOVE!』

『エクスプロージョン・チャージ!!!!』

 

必殺技発動音声が筐体のスピーカー部分より鳴り響き、リーエルに装着された脚部のリジェクターアーマーの全ジェネレータが解放。エンジンが唸りを上げながら蒸気と炎を噴き上げ、同時にI字バランスを取るかのように、脚を高く天に翳した身体が、高速回転を開始。

 

蒸気と炎による紅白の竜巻がコロッセオに生まれ、リーエルが何を仕掛けてくるか解らぬ中、ノブ=ナッシュは左腕のガントレットを前に出し、空手家特有の受けの姿勢で

 

「遅いッッッッッッ!!!」

「!?」

 

 

 

 

 

 

A-Zが殺気を感じ、咄嗟に動かした其の時。

 

赤と白の閃光が、ノブ=ナッシュの左側を(はし)り。

 

左腕のガントレットが、木っ端微塵に弾けた。

 

 

 

 

 

「え………」

「何ぃいいいいいいいいいいいい!?」

「は!?今何した、ブシカッツォの奴!!」

「いや、まだ来るぞ!」

 

ブシカッツォのリーエルが繰り出した必殺技により、A-Zのノブ=ナッシュの左腕ガントレットが破壊され、観衆がざわめき、どよめくが、直後に第二撃が体勢を崩したノブ=ナッシュを直撃。

 

車に轢かれたように宙を舞い、背中からコロッセオに叩き付けられてしまう。体力が削られ、必殺ゲージがレベル3を突破するが、先程の一撃で体力調整は『完全に崩された』。

 

「は、速過ぎる…!!」

「何が起きてるのか、全然わからねぇ…!?」

「A-Z!ヤバイぞ、3発目が来る!?」

 

直角を描くようにターンをしたリーエルが、電光石火の如く赤と白の閃光となって、起き上がろうとしているノブ=ナッシュに迫ってきた。

 

「………そうゆう(カラクリ)か、ブシカッツォ!」

 

超接近するブシカッツォのリーエルに、ノブ=ナッシュを操るA-Zが取った行動は――――『両脚のガンドレットを盾に頭をガードする事だった』。

 

「お、おいいいいいいい!?」

「何やってんだよ、A-Z!!」

「うわあああ!!?やられるぅぅぅ!?」

 

頭を守る為に出した直後に、ガントレットはリーエルの攻撃が直撃し、同時に音を立てながら、粉々に砕け散っていく。

 

「――――ッ!今だッ!!!!」

 

両脚のガンドレットが粉砕されていく中、A-Zはノブ=ナッシュの両足を、左へ流すようにローリング。唯一ガントレットが無事な右手で、リーエルの『左脚』を押すようにして叩く。

 

すると其の身体はバランスを崩して地面に倒れ込みそうになり、ブシカッツォはリーエル『右腕』を出して接触を防いだと同時、地面はガリガリガリガリ!と鉄が削る音と砂煙が発生する。

 

砂煙が晴れ、A-Zと観衆が見たのは。

 

 

 

 

 

 

リジェクターアーマーが右腕に装着され。

 

右足は素足へとなっていたリーエルの姿だった。

 

 

 

 

 

「え……!?」

「なんじゃそりゃ!?」

「腕に…アーマー着いてる…!?」

 

観衆が驚きの声を挙げる中、A-Zは早くも答えに辿り着いていた。

 

「其のリジェクターアーマー…『腕』にも装備可能な『多様式装備装甲(デュアリンクアーマー)』だったか、ブシカッツォ!」

 

多様式装備装甲(デュアリンクアーマー)…其れは通常の装甲以上に積載重量を食う代わりに、他の部位へとスイッチによる、装備変更を可能にする特殊な装甲。

 

種類や形によってマチマチだが、使いこなせれば非常に強力な武器となる。今回ブシカッツォが装備しているリジェクターアーマーは、脚部ではブースターに、腕部ではランスアームに似た機能を持ち、レベル3必殺技のエクスプロージョン・チャージで、回転を目眩ましに右足から右腕にシフト。

 

ノブ=ナッシュのガントレットと体力を、超スピードによる突進攻撃により破壊しに掛かったのだ。

 

「バレたか。割と初見殺しギミックとして結構自信あったのに、よく対応出来たなA-Z。………まぁだが、ノブ=ナッシュの右腕以外のガントレットはキッチリ破壊出来たし、おまけにそっちの体力調整もブッ壊してやった。

 

此処からクライマックスだ、勝たせて貰うぞ」

 

 

 

片や必殺技と隠し持った牙により、予想外の大ダメージを与えて、宿敵を追い詰めたブシカッツォのリーエル。

 

片や必殺ゲージはMAXに向かいながらも、体力調整の破綻に右腕のガントレット以外を失い、追い詰められたA-Zのノブ=ナッシュ。

 

勝負は最終局面に向かっていく………――――。

 

 

 

 

 






我が為に、研ぎ澄まされた牙を向け


ノブ=ナッシュ:本能寺の変時の織田信長がモチーフとしている、A-Zのビルドキャラクター。体力・耐久・技術に能力値配分を置き、両腕両脚ガントレット・腰部に軽量装甲を纏う。

コンセプトは『受けて、受けて、受けきって、最後にドカン!』の下に、必殺技で捲り返す後攻カウンター型。


リーエル:ブシカッツォ作のビルドキャラクター。攻撃力・俊敏・破壊力に能力値配分を行い、脚部に多様式装備装甲リジェクターアーマーと呼ばれる加速・攻撃力を大幅に上げる代償に、積載重量限界ギリギリの装甲を装備している。

またリジェクターアーマーは脚部では浮遊機動とブースターを用いた足技を、腕部装備時には最高速度到達と共に解禁される装甲破壊能力で、怒濤の攻めを得意とする。

リジェクターアーマーのモチーフは『戦国ARMORS』に登場する、五大(ごだい)甦土武(ソドム)の一柱・夜叉(ヤシャ)







コマンド:ビルディファイトは、既存のプレイアブルキャラクターやビルドしたキャラクターの技のコマンドを自由に入れ替えられる。普段使う技を出しやすくしたり、万が一に使えるように調節出来る。

コマンドには投・絞・打・組の4種類があり、絞め技オンリーにしたり、投打の二刀流も可能となっている。



必殺技:ビルディファイトではキャラクターは相手からのダメージを受ける、もしくは相手にダメージを与える、攻撃をガードする事により必殺ゲージが上昇していき、一定値を消費する事で強力な技を繰り出せる。

必殺ゲージはレベル1・2・3・MAXの4段階で、段階が上がる程に強力な必殺技となる。此の必殺技もカスタマイズする事が可能で、レベルMAXの必殺技は発動・直撃すれば何れもゲームセットを狙える物になっているが、最強クラスの必殺技は複数ストック出来ず、レベル1にセットした場合は性能が相応に低下する。

また必殺ゲージがレベル3の状態の場合、レベル2の必殺技からレベル1の必殺技へ繋ぐ事は可能で、逆も同じように出来る。


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胡椒と鰹節のレトロゲーム対決 ~後編~



ラーメンを賭けた、ビルディファイトの決着




ブシカッツォがビルドしたキャラクター:リーエルは、脚部に装備したリジェクターアーマーによる浮遊移動の恩恵と、推進力の一点集中による圧倒的かつ爆発的な初速、そして最大加速時限定では有るが、装甲貫通能力付与を可能にしている。

 

300戦に渡る戦いを通じて、ビルドキャラクターの能力振り分けによる恩恵を1から検証し、緻密なデータとして収集。A-Zの戦闘スタイルを過去に渡って遡る事により、彼がゲーマーとしてある種の生命線である『反射神経』が、他のゲーマーよりも劣っている事に行き着いた。

 

しかし、其れでも。其の弱点に行き着いたブシカッツォが、A-Zに今も勝ち越せていない『真』の理由。其れは、A-Zが僅かな可能性さえも考慮する思考と読みの『深さ』、そして突如として繰り出す『隠しの一手』に有った。

 

 

 

――――――もしかしたら、必殺技を囮に通常技をぶちかます可能性が頭に過ってさ。其処に投げ技を合わせたって感じかな

 

――――――万が一、あの場面で攻められたら逃げられないから、反撃出来る体力を残しておいて、カウンターに全力を注いだ

 

――――――もしも、ダッシュ攻撃じゃなくて投げ技を仕掛けて来ても良いように、距離を調整して備えて其処を腹パンでダウン出来るよう意識したよ

 

 

 

戦いが終わった後、ブシカッツォは決まってA-Zが勝負の節目となった場面で、どのような選択をしたのかを聞くようにしている。そして聞くたびに、彼の持つ読みの深さと隠したサブウェポンを、何度も目の当たりにしている。

 

今回ビルドしたリーエルの、リジェクターアーマーの腕脚のスイッチと、最大加速時の装甲貫通機構による初見殺しの牙を表立たないように調整、砂煙と蒸気で隠し。此処ぞと言う場面で切ったのだが、左腕部と両脚部のガンドレットを砕くのみで、左腕と両脚を持っていく事は出来なかった。

 

(A-Zの思考領域は、俺が想像しているよりも『一段か二段』くらい上にある。其れでいて『直感』が鋭いのか、初見殺しに引っ掛からない事が多い。此の手のタイプのゲーマーは『稀有』だ)

 

プロとして世界の強豪達と戦うブシカッツォにとって、オフの日はレトロな格闘ゲームも其れなりに嗜み、楽しんでいた。

 

『辺境のゲームセンターに出没し、店内の最高スコアを片っ端から塗り替える、最強のレトロゲーマーがいる』――――――そんな噂を2年前のある日耳にした。

 

プロとして其のゲーマーの実力を知る為に、ゲーマーのプレイスタイル等の諸々の情報を集め、最も得意としているゲームの練習を重ね、あの日初めてA-Zと対峙し。

 

結果は、3ラウンド制の2連続ストレート負けという……惨敗。人生で『2度目』の、苦くて渋い敗北を味わったのだった。

 

其れ以来幾度も戦い、漸く勝率は五分辺りにはなったが、A-Zの思考の深さは未だに底が見えず、完全に読み切れないままである。

 

「!」

 

ブシカッツォの画面越しでは、右腕のガントレット以外を失い、体力ゲージが4割程削れながらも、未だにガードを堅く構えるノブ=ナッシュの姿が。必殺ゲージは既にレベル3からMAXまで、半分貯めれば到達する状況である。

 

「どうした、ブシカッツォ?積極的に速攻狙うキャラクターが、ガンガン攻めないでどうするんだ?」

 

平手を上に、手招くノブ=ナッシュ。明らかに誘っている。狙いは恐らく、必殺ゲージ・レベルMAXから繰り出す、ノブ=ナッシュ最強の大技にして、耐久防御型の神髄に等しき御業(イカれた一撃)臥薪嘗胆(がしんしょうたん)絶撃(ぜつげき)』。

 

受けてきたダメージを拳に乗せて放つ其の技は、直撃時にキャラクターが受けたダメージと同じ数値を、相手キャラクターに与えるというシンプルな物。しかし、耐久と防御に比重が置かれたキャラクターが、レベルMAXにセットした場合に限り、話は180度引っくり返る。

 

発生こそ並で、見てからでも回避可能。しかし直撃すれば、同じタイプのキャラでない限り、漏れ無く『一撃必殺が確定(ワンパンリーサル)』するからだ。

 

「そりゃ攻めるさ。タイムアップでの勝ちなんて、ゲーマーとしてはナンセンス。だから…お前が仕掛けた策を全部踏み越えて。俺が勝つ」

「其れでこそ、だ。全部受け止めてやるよ」

 

左脚のリジェクターアーマーが、リーエルの左腕にスイッチし、炎と白い蒸気が上がる。

 

『エクスプロージョン・チャージ』はレベル3以上で発動した場合は其のラウンド中、レベルMAXで発動したならば全ラウンドに渡り、攻撃力と敏捷を大幅に上げるバフ技である。

 

今回のビルドキャラたるリーエルは通常でも高い攻撃力を持ち合わせているが、エクスプロージョン・チャージを使用することで、常に最高速度に到達した状態に入ることが出来るように、ブシカッツォが細かな調整を施した。

 

其れ即ち━━━━━━━

 

 

「!!!!」

 

此処からの攻撃全てが(・・・・・・・・・)装甲破壊能力付与を受けた状態になる(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「必殺技を放つ前に、此のラウンドを貰うぞA-Z!」

 

リジェクターアーマーが機関銃の如く、リーエルの目にも止まらぬ連打と重なり、ノブ=ナッシュを袋叩きにし始めた。

 

「うわあああああ!?袋叩きじゃねーか!」

「擬似的なガトリングボヤージュかよ!?」

「ヤバイって、A-Zが手ェ出せてねぇ!」

「決まっただろ、これ絶対!」

 

叩き付けられる破撃の嵐がノブ=ナッシュの腰部の装甲を、右腕に残されたガントレットを砕き割る。体力はどんどん削られていき、3割を切り掛ける。

 

――――――――しかし。

 

筐体から『ゲージMAX!!!!』の音声が響いた。体力が削り切られる前に、体力と耐久に比重が置かれたビルドが、反撃を可能にする一手に届く。

 

「きた!必殺ゲージMAX!」

「やっちまえ!A-Z!!!」

「ぶちかませー!!」

 

観衆の期待、ブシカッツォの警戒。

 

だが、A-Zは必殺技を起動しない。

 

リーエルの攻撃に晒され続けるノブ=ナッシュを、画面越しに見ながら今尚ガードを崩さない。

 

誰しもが、此のラウンドの勝負をA-Zが捨てたと考える。

 

(なわけねぇだろ!)

 

ブシカッツォ、唯一人を除いて。

 

(コイツがそんな生温い考えをした事なんか、一度たりだって無い!耐えて耐え抜き、最後の最後に逆転する!其れがA-Zとノブ=ナッシュだ!)

 

だからこそ。

 

(だからこそ!)

 

「俺が――――勝つ!!!」

 

リーエルのラッシュから左アッパーが、状態が下がったノブ=ナッシュの鳩尾を正確にぶち抜き、体力は遂に1割に到達。

 

最後の一撃(リーサル)、繰り出すは右ストレートの顔面粉砕。

 

だが、しかし。

 

『レベル1! FINISH MOVE!』

 

必殺技発動の音声。

 

カチ上げられたノブ=ナッシュの上体が押し留められ、押さえ込まれたバネが巻き戻るように、腕を大きく広げ、リーエルを掴まえようとする。

 

(此処で組み技………!いや、まだ『回避』は出来る!)

 

組み技の仕様上、其の挙動は真っ直ぐにしか進まない。されど、ノブ=ナッシュの耐久からすれば、此処で1発2発攻撃をしても耐えられる事を、ブシカッツォは『知っている』。

 

なれば……………ブシカッツォは、リーエルに『バックステップ』を踏ませた。組み技を回避し、右ストレートで〆る。其の為に。

 

 

 

 

 

 

「………………ありがとう、ブシカッツォ」

 

 

 

 

不意にA-Zが、自分に礼を言ったように聞こえた。画面を見るとノブ=ナッシュが、まるで見知った『魔王』に似たドス黒く獰猛な笑みを浮かべていて。

 

 

 

 

「お前なら此の局面。バックステップを踏んでくれると――――――信じていたよ(・・・・・・)

 

 

 

 

 

そうして、彼は悟った。此の瞬間、此の盤面こそが、A-Zが狙った勝利への転換点であり。

 

 

山彦(やまびこ)猫騙(ねこだま)し!!!』

 

 

組み技だと思っていた其れが、レベル1の時は『相手キャラクターに2秒間の強制スタン付与&次に受けるダメージを1,5倍』にする、組み技『偽装(フェイク)』のデバフ技だと。

 

 

 

『レベル3! FINISH MOVE!』

 

画竜点睛(がりょうてんせい)一本背負(いっぽんせお)い!!!』

 

 

 

発動時の掴みに失敗すると、問答無用で技が不発に終わるだけでなく、重大な隙を晒す大き過ぎるデメリットを抱えた代わりに、其の威力を保証された必殺の投げ技。

 

逃げられる筈だった計算が、猫騙しにより強制スタンで動きを止められ。たかが2秒、されど2秒。ノブ=ナッシュの一本背負いの掴みモーションが、リーエルを捉えるには余りにも、そして充分過ぎる時間だった。

 

(やられた、くそ………)

 

ブシカッツォは内心で悔しがる。

 

A-Zは戦いのゴングが鳴り響く前から、リーエルのリジェクターアーマーが『脚だけでなく腕にも装着出来るかもしれない』思考の片隅に置き、組み込んでいたのだ。

 

体力調整を破綻させ、片腕と両足のアーマーを犠牲にしたのは、リジェクターアーマーの持つ『ギミック』が正しいかをどうかを、実際に確かめる為。

 

そして両腕にリジェクターアーマーを取り付けを誘い、最高のタイミングでレベル1の必殺技『山彦の猫騙し』で2秒間の強制スタン。

 

レベル3の『画竜点睛一本背負い』の確定コンボによる、一投確殺を実現する事こそが、A-Zの最終到達目標(リーサルポイント)だった訳だと、リーエルが投げられる中でブシカッツォは気付くに至り。

 

渾身の一本背負いで背中から叩き付けられたリーエルの体力は0となり、筐体の画面並びにスピーカーより『KO!!!!』の表示とゴングが鳴り響き。

 

『WINNER! ノブ=ナッシュ!!!!』の文字が画面に刻まれた。

 

 






臥薪嘗胆が成し獲た勝利



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因果と麺は絡まりつるみ



ラーメンを懸けたビルディファイトの後先とラーメンの宴

※天音 永遠の髪色を修正しました




「いぇぇぇぇぇい、俺の勝ちー!!!」

「彼処で猫騙しとかマジかよオマエ…!」

 

天を見上げ、ウヒャヒャヒャヒャと高らかに笑うA-Zに、頭に青筋をビキらせるブシカッツォ。真剣勝負の決着が付いたら、最早恒例行事となった煽り煽られが始まる。

 

「と・り・あ・え・ず・だ!初戦は俺の勝ちなのは事実だからな、ブシカッツォ!」

「わかっとるわ、そんくらい!……はぁ、しっかしレベルMAXでぶっ飛ばしてくると思ったら、スタンから投げ技確定コンボとか、思い付いてもぶっつけ本番で普通はやらねぇよ…」

「ゲームの技としてあるなら、利用しない手は無いもんなぁ?何でも利用するブシカッツォ君の名が泣くねぇ?」

「こんなろ…!今すぐ席に着け、次だ次!」

「OK、このままストレート勝ちにしてやんよ!」

 

互いに席に付いて、ビルディファイトのROUND2が幕を開ける。

 

ROUND2はブシカッツォが、リーエルのレベルMAXの必殺技にして防御貫通無限ダメージを与える『インフィニティーブレイカー』で、ノブ=ナッシュをKOして勝利。

 

ROUND3はリーエルの『インフィニティーブレイカー』と、ノブ=ナッシュのレベルMAXの必殺技で、受けたダメージを相手キャラクターに与える『臥薪嘗胆・絶撃』が激突。火花と力場が発生し、十数秒の拮抗の果てに両者共に吹っ飛び、同時に互いの体力ゲージが尽きてWKO。

 

A-Zとブシカッツォのビルディファイトは、1勝1敗1引き分けとなったが、先に1勝したA-Zがラーメン一杯を奢って貰う権利を得る。

 

其の後A-Zとブシカッツォは、プレイアブルキャラクター限定で戦いを続けた。勝って負けて、煽って煽られ、3ラウンド制2勝先取を30本勝負で戦い、お互い一人のゲーマーとして、友として、楽しい時間を過ごして。

 

結果は最初の分も合わせ、14勝16敗1引き分け。A-Zはブシカッツォに僅差で敗れる事になり、今回は御開きとなったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都内某所……街に灯りが点り、空がすっかり暗くなった頃。ゲーセンのトイレで最強レトロゲーマーのA-Zから普通普遍の大学生に戻り、鞄を抱えて脱出した梓は、ブシカッツォと共にバスと電車を乗り継いで、都内に在る小さなラーメン屋にやって来た。

 

此処は2人がゲーセンで遊んだ後、初戦の勝敗によってどちらかが、ラーメン一杯を奢る場所として利用している隠れ家のような物で、静かな安らぎの一時を得る場所になっている。

 

「いらっしゃいやせー」と入店した2人に、店員の声が聞こえ、カウンター席に彼等は座る。

 

「御注文が決まりましたら、お声掛けください」

「あ、俺とんこつラーメンのチャーシュー2枚プラスの奴で」

「味噌ラーメンのコーンホウレン草バタートッピング頼みまーす」

「あ、はい。かしこまりましたー」

 

注文は即決め、出された冷水で喉を潤す。

 

「ぷはぁー。あ~本当にすっごく楽しかった」

「久し振りに勝ち越せたわ、今日は気分が良い」

「ブシカッツォ。ラーメン、ゴチになります」

「………其れ言われなきゃ、最高だったのによぉ」

 

合掌と御辞儀する梓に、ブシカッツォは少し苦い顔をした。やはり初戦を落とした事を、まだ引き摺っているのだろう。

 

「…相変わらず空いてるなぁ此処」

「スープとチャーシュー、凄く旨いんだがなぁ」

「まぁ空いてるお陰で、秘密の隠れ家みたいで良い………ん?」

 

他愛ない話でもしようとした梓は、ふと店内を角に座る一人の客に気付いた。黒のベレー帽を被り、サングラスとマスクを着けた女性で、白インナーと黒の薄着、藍色のジーンズを着てテーブルに座っている。

 

そして帽子からは、僅かに青みが掛かった黒髪が覗いており。梓は其の横顔に『強い既視感』を抱いていた。

 

「どうした、A-Z?」

「…………ブシカッツォ、ちょっと席離れるね」

 

そろ~りそろ~りと、ゆっくり彼女が座るテーブル席に近付いて「よっ」とだけ声を掛けた。

 

彼女は一度此方を見て、直ぐ様二度見する程に動揺し、サングラスを上げて梓を見た。

 

「やっぱりか『トワ』。どーしてこんなとこに?」

「其れは此方が聞きたいよ!?……『あーくん』こそ、何で此処居るの…?」

 

天下のカリスマモデル、天音 永遠。オフだったのか分かりはしなかったが、俺と永遠は実に10年くらい振りの、現実での再会を果たした。

 

「おーい、A-Z~。誰と話し……って、おま『鉛筆戦士』じゃんか」

「え?なんで『カッツォタタキ』君まで居るの?」

 

そしてブシカッツォと永遠が、別の名前で互いに呼び合っていた。何だ此の二人、知り合いだったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん…ペッパー君は私と離れた間に、カッツォ君とゲーマー仲間として仲良くしてたんだ~………へー………」

 

ラーメンの出来上がりを待つ間、永遠の座るテーブル席にお邪魔して、ブシカッツォと自分の話をしたら、何故か永遠は不機嫌そうに頬を膨らませていた。

 

「なぁ、ブシカッツォ。ペンシルゴンってこんなに拗らせる奴だったのか?」

「いやぁ?俺が知る限り『鉛筆王朝時代』のコイツは、もっと外道だったぞ」

「えっ何それ、凄い気になる」

「其れなら私が教えたげるよ?ペッパー君」

 

ブシカッツォの話を遮るようにして、ペンシルゴンは俺に語り始めた。VRゲームの1つ……『ユナイト・ラウンズ』という『クソゲー』での、ブシカッツォ…其のゲームでは『カッツォタタキ』との因縁を。

 

ユナイト・ラウンズ…別名『世紀末略奪ゲー』。元々は「協力型MMOVR」としてリリースされたのだが、世界観を余りに忠実にし過ぎてしまった結果、アイテムドロップ率が異常なレベルで低く、初心者クエストもクリアに半日掛かるという始末。

 

其れ故にプレイヤーが辿り着いた真理(せいかい)は『略奪』で、NPCの店を襲撃して物資を奪うか、襲撃したプレイヤーを襲って略奪するかという、プレイヤー全員敵の無法地帯(アウトレイジ)と化した。

 

そんな混沌とした世界で、あらゆる手練手管を用いて王国を掌握━━━━『富もドロップも全て仲良く皆で分けよう』のスローガンを掲げ、共産主義国家よりも真っ赤な旗と共に爆誕したのが『鉛筆王朝』であり、其れを支配したのが『鉛筆戦士』ことアーサー・ペンシルゴンであったそう。

 

配下にしなかったプレイヤーからの搾取に、敢えてレジスタンスを作らせてプレイヤー離れを防止する等、世界を確実に掌の上で支配していた事から、彼女は『反理想郷の女帝(ディストピア・エンプレス)』と畏れられ、崇められていたらしい。

 

そんな鉛筆王朝を終わらせたのが、ブシカッツォと『もう一人のクソゲー愛好プレイヤー』で、ある時に反乱軍を囮にして少数精鋭で鉛筆戦士の元へ突撃、死闘の果てに討伐に成功した。

 

だが鉛筆戦士は其の死に際、王国中に仕掛けていた爆弾を爆発させ、反乱軍と配下のプレイヤー、ブシカッツォと其のプレイヤー諸とも巻き込んで盛大に爆散、鉛筆王朝に幕を引いたのだという。

 

「うわぁ………お前の事だから、絶対ロクな事してないかと思ったが、ゲーム『そのもの』を支配してたのかよ…」

「あの頃は本当に楽しかったよ~♪」

「王様キル楽しかったですwwww」

「カッツォタタキ君、毎度思うけど鼻で笑うと凄くムカつくのは何でだろうね?」

 

ワイワイ語らい合うペンシルゴンとブシカッツォ。しかし思った事が1つある。名前の呼び方がバラバラで、共通していないのだ。

 

「あ、此の際だから呼び方決めない?」

 

思わず俺は声に出してしまった。しかし其れを名案だと感じたのか、2人は同時に「「確かに」」とハモった。

 

「じゃあ俺は『カッツォ』で良いぞ?」

「私は『鉛筆』と呼んで良いよ、ペッパー君」

「それなら……『胡椒』でOK?」

「何故に香辛料だよ?」

「名字を捩って出来たから」

「あー……そうゆうことね」

 

俺の本名(フルネーム)を知っている永遠…もとい鉛筆は納得しているようだ。

 

と……

 

「失礼します、醤油ラーメン卵トッピングの御注文の方!おまち!」

 

店員が俺達のテーブル席にやって来て、鉛筆の前にラーメンを一杯置いていった。

 

「お、きたきた………ってどうしたの2人共?」

「此処って普通なら『ニンニク野菜マシマシこってり固めのとんこつラーメンの方おまち!』な流れだよな?」

「あ~其れ何か解るわ。『カリスマモデルの可憐にして意外なる一面!』みたいなアレでしょ?」

「君達は私を何だと思ってるの?」

「外道の権化」

「悪辣の魔王」

「うーん、否定したいなぁ?」

 

そう言いつつも、麺が延びては美味しく無くなるので永遠は一足先に「いただきます」からラーメンを啜った。

 

「というか、ト…鉛筆は此処どうやって見付けたの?」

「…仕事帰りにラーメン食べたいって思って、その時たまたま立ち寄ったのが此処。醤油スープが優しい味で気に入っちゃってさ、時々こうして1人オフの日に食べに来てる」

 

永遠にしては意外とシンプルな答えだった。

 

「あ、そうだ胡椒君。Eメールアドレス教えて」

「え、何でさ」

「いざって時に連絡手段無いとキツイでしょ?其れと『例の情報』について、3日後にゲームでメール送っておくから確認お願い」

「………あぁ、そゆことね。解ったよ」

 

シャングリラ・フロンティアのユニークモンスター、墓守のウェザエモンに関わる情報だと思考が至る。Eメールアドレスを永遠のスマフォに送信し、送られてきたアドレスを登録していると「ゲーム?何かやってんの2人共」と、カッツォが質問してきた。

 

「シャングリラ・フロンティア、知ってるだろ?」

「あぁ、有名だしな。てか意外だわ、レトロゲーマーのお前がシャンフロやってるなんてさ」

「レトロゲームも好きだが、VRゲームもやってみたい御年頃なんだよなぁ、俺も」

「だったら『便秘』やれよ、胡椒。滅茶苦茶楽しいぞ?」

「カッツォ、お前腹でも下したか?大丈夫?下剤飲む?」

「ゲームの名前だよ!?」

 

少しエスカレートしそうになったのを察したか、永遠が「ラーメン美味しくなくなるから、やめて貰って良いかな?2人共?」と真っ黒なオーラを纏って言ってきたので、俺とカッツォは「「はい」」と言って静かになる。

 

其の後カッツォはとんこつラーメン、俺は味噌ラーメンがやって来て、永遠から案の定『魚なのに肉食べるんだね』と言われたりし、俺達は此の一時をラーメンと共に過ごしたのだった………。

 

 

 

 






三人三色の好きな味



???「次はどんなクソゲーをやろうかな」



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胡椒を探す者よ、掲示板に声を綴れ



掲示板回になります。



ペンシルゴンの助言により、ペッパーがシャンフロを一時的に離れていた頃、シャンフロの掲示板には『ペッパーというプレイヤーを探す』スレが立ち上げられていた。

 

其の名を『胡椒争奪戦争』。夜襲のリュカオーンに認められたペッパーを探して情報の入手。あわよくば、自分のクランに引き込もうと画策するプレイヤーが、早い者勝ちという暗黙の了解の下、情報交換を行うスレである。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

【情報】胡椒争奪戦争 part1【急募】

 

 

 

1:バルムンク(初)

スレ建てた

 

2:サザーラン(初)

助かる

 

3:バッツァー(初)

ありがと

 

4:レーザーカジキ(初)

よろしくお願いします

 

5:バグナラク(初)

よろよろ

 

6:ムラクモ(上)

おほん。では此れより、ペッパーというプレイヤーの捜索と情報共有を始めたいと思うけど、解ってる通りスカウト成立でのクラン引き込みは早い者勝ちやで?恨みっこ無しで行きましょ

 

7:ケケケーラ(初)

なんかムラクモさんが司会進行してる……

 

8:ガンバッチョ(初)

良いんじゃない?

 

9:一寸亡(初)

まぁ、誰がやっても変わらんだろ

 

10:マルマラ(初)

せやなー

 

11:ボルクスワーケ(初)

わかるー

 

12:アッド(上)

んで?ペッパーの情報有るんだろ?はよ公開せーや

 

13:バサシムサシ(上)

同意

 

14:サンダーナット(上)

同じく

 

15:ムラクモ(上)

まぁ皆さん、一先ず落ち着いてな?此のスレの暗黙の了解は忘れたらアカンから、注意せぇな?

 

16:ベントレマン(上)

わかったわかった、早く開示頼むわ

 

17:トットロ(上)

イエスイエス

 

18:レーザーカジキ(初)

はーい

 

19:ムラクモ(上)

でまぁ情報収集組によると、ペッパーは現在サードレマのエンハンス商会から、裏路地に入っていく姿が確認されて以降、姿を見せていないんやと

 

装備も変わっとって、頭以外隔て刃の皮服装備に変更されて、頭装備は皮の帽子のままでアクセサリーも旅人のマントのままやったらしい

 

あとサイガ-100が、ペッパーと接触したとかしなかったとか、不透明な噂が流れとる

 

20:バサシムサシ(上)

右腕隠すようにマント着けてるんだよな?てことは、右手にリュカオーンの呪いが付与されてると見て良いか?

 

21:カレーのジョーンズ(上)

胴防具装備出来てるから間違いないだろう。寧ろ隔て刃の皮服の頭装備を着けてくれてた方が、よっぽど捜しやすかったんだがな

 

22:超合金豆腐(上)

不審者じゃねーかwwww

 

23:ダスク(初)

旅人のマント+隔て刃シリーズはプロレスラーみたいで、俺は好き

 

24:アッド(上)

其れは其れとして、他に何か情報無いの?

 

25:プリミチア(上)

そういえば、サードレマの入口でサイガ-100さんが聖剣エクスカリバーを突き立てて、騎士王立ちしてたの見たよ

 

26:海パン7世(初)

ガチガチのガン待ちじゃねーか

 

27:ルルパリス(初)

ペッパーは大丈夫だったんですかね…

 

28:ケケケーラ(初)

サードレマは正面以外から入る手段は城壁を登るか山側から侵入する以外の方法は無いらしくて、其れをやると衛兵さんから不法侵入扱いを受けて街中を追い回された挙句に、多額の罰金を支払う事になるとクランリーダーが言ってました

 

29:ベントレマン(上)

考察クラン:ライブラリ期待の新人ケケケーラ君じゃないすかー

 

30:トットロ(上)

となると正門から行くしかないって事になるのな

 

31:ボルクスワーケ(初)

要するに詰んでいた…と

 

32:バルムンク(初)

(‐人‐)《ナムナム

 

33:シュテンド(初)

まぁ、現時点最強プレイヤーのサイガ-100に絡まれたら、逃げられる訳もないわな。俺が同じ立場なら降伏するし

 

34:サンダーナット(上)

其処は同意する

 

35:バサシムサシ(上)

分からんでもない

 

36:マルマラ(初)

うんうん

 

37:ムラクモ(上)

で、1つ気になったことが有ってな?情報収集組によると、ファステイア坑道でレベリングしてた時に、謎のタイマーとカウントダウンが始まった時があったらしいと

 

其のタイマーは13秒?あたりで止まって、最後に出て来たんがペッパーだったっちゅう話が、最近出て来たんよ

 

其のタイマー出したんは、ペッパーの仕業やとか何とか有るらしくて、現在も随時情報収集中や

 

38:バッツァー(初)

え、何ですか其の話

 

39:レーザーカジキ(初)

あー、そう言えば何処かの掲示板で出てましたね、其のタイマーとカウントダウン表記の話

 

40:ダスク(初)

確かに其の話をフレンドから聞いたが、あれペッパーが関わってたんか

 

41:トットロ(上)

因みに0になったらどうなってたと思う?

 

42:アッド(上)

崩落して生き埋めだったり?

 

43:ルルパリス(初)

問答無用の即死ですか…

 

44:ベントレマン(上)

コワスギィ!

 

45:バルムンク(初)

ヒエッ

 

46:一寸亡(初)

何か話脱線してない?

 

47:シュテンド(初)

確かに

 

48:プリミチア(上)

問題なのはペッパーが、夜襲のリュカオーンの情報をどのくらい持っているのかが重要

 

49:超合金豆腐(上)

それな

 

50:サイガ-100(上)

ほぅ?ペッパー君に関する情報共有の掲示板が在ったのか

 

51:トットロ(上)

 

52:レーザーカジキ(初)

!?

 

53:アッド(上)

サイガ-100!?

 

54:サンダーナット(上)

ファッ?!マジで!?

 

55:一寸亡(初)

ゥエイ!?

 

56:ムラクモ(上)

おやおや、サイガ-100はん。どないしました?

 

57:サイガ-100(上)

興味が有って覗いただけだ。そうだな、単刀直入に言おう。ペッパー君と接触し、リュカオーンの情報を聞いた上で彼をスカウトした

 

58:アッド(上)

マ!?

 

59:ケケケーラ(初)

ウソデショ…

 

60:カレーのジョーンズ(上)

待って待って速いって!?

 

61:一寸亡(初)

このスレは早くも終了ですね…

 

62:レーザーカジキ(初)

オーマイガー

 

63:海パン7世(初)

アァ…オワタ………

 

64:サイガ-100(上)

話を最後まで聞け。ペッパー君にはスカウトはしたが、断られてしまってね。其れにまだ何か隠していそうだ

 

65:プリミチア(上)

かくしてる?何を?

 

66:ルルパリス(初)

いや、解るわけ無いでしょ…

 

67:ケケケーラ(初)

まだ何か、情報を隠してるみたいな?

 

68:バルムンク(初)

てか、クラン:黒狼のスカウト蹴るとかどんだけ剛の者なんだよペッパー……普通なら喜ぶだろ…

 

69:マルマラ(初)

ホントそれな

 

70:海パン7世(初)

夜襲のリュカオーンの呪いを受けたなら、其れを追うクランに入ってリベンジする…ある種の王道展開なんだが

 

71:サイガ-100(上)

まぁ私自身、彼のスカウトは諦めてはいないさ。実際に彼と会って話してみると良い。理由が解る筈だ

 

72:シュテンド(初)

ただし、会えたらに限る

 

73:レーザーカジキ(初)

其れですね…。ペッパーというプレイヤー自身、サードレマの何処に居るか解らないので、捜さなくてはいけませんし

 

74:バルムンク(初)

だからこそ、このスレが生まれた…そうだろう?

 

75:マルマラ(初)

全くだ

 

76:サンダーナット(上)

取り敢えず情報収集を続けて、スカウトの為の地盤作りをしないとか

 

77:カレーのジョーンズ(上)

そうだな。先ずはペッパーを見付けないと話にならんわ

 

78:超合金豆腐(上)

せやな、サードレマの街を片っ端から捜してみる

 

79:バッツァー(初)

よっしゃ、サードレマで散策しながら捜索だ!!

 

80:ムラクモ(上)

では皆さん、頑張りましょか

 

81:一寸亡

おー!

 

82:ケケケーラ(初)

おー!

 

83:レーザーカジキ(初)

おー!

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 






探せ、其処に答えが在ると信じて


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依頼は終わり、颶風が呼びて



ペッパー、6日振りのシャンフロへ

※ピーツの毛色を修正しました


ブシカッツォとのアーケードゲーム、ビルディファイトを終えた日から2日後。シャングリラ・フロンティアに実に6日振りのログインを果たしたペッパーは、ベッドの上で思いっきり体を伸ばして立ち上がる。

 

「っし!およそ1週間振りのシャンフロやりましょうか!」

 

先ずは兎御殿からサードレマへ行き、エンハンス商会・サードレマ露店通り支部で、沼掘りの清歯を用いて作った、ペンシルゴンへの詫び品たるネックレスを受け取る。そしておそらく、投擲玉の売れ行きも其処で聞けるだろう、とにもかくにもアイトゥイルを捜さなくては話が始まらない。

 

「アイトゥイル~!居ませんか~!何処ですか~!」

 

大声で彼女を呼んで耳を澄ませてみたものの、返事や反応は無いまま。彼女自身風来坊ならぬ風来兎である為、また何処かで酒を飲んで、風が吹くまま、ゆるりゆらりと旅路を歩いているのだろうと、自分の中でそう思うことにする。

 

「じゃあ、どうするかな…兎御殿の探索でもしようかな?」

 

ティーブルやビィラックの所に顔を出しても良いが、他の場所も行ってみようと考え、ペッパーはアイトゥイルを待ちながら、兎御殿の中を歩いてみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり広いなぁ、兎御殿。…造りも隅々まで細かいし、シャンフロ開発陣の熱量が伝わるなぁ……」

 

兎御殿を散策しながら、廊下の木目や襖の肌触り、質感といった感覚を肌身で感じるペッパーは、辺りを見回し歩いていく。

 

「此処等辺は畳が続くエリアか…あ、そう言えば靴脱ぐの忘れてた」

 

装備枠から隔て刃の皮ズボンを外そうかと考えたが、よくよく思考すると外した場合、更に格好がおかしな状態になってしまうと至ったペッパーは、装備解除を諦めて合掌してから畳に足を踏み入れる。

 

「んお?ペッパーやんけ、どないした?」

 

そんな時、畳が敷かれた区画の一角に布を敷き、様々な雑貨品を露店のように並べた、1羽の黄茶毛色のヴォーパルバニーが其所に居た。

 

「あ、初めまして。えっと、名前を聞いても良いですか?」

「オラは『ピーツ』って言うんや。頭から聞いた話やと、アイトゥイルねーちゃんが世話しとるっちゅう、夜の帝王の目ェ切っ裂いた人ってな」

「えぇ、はい。其の通りです…」

 

やはりというか、リュカオーンの眼を切り裂いた事が兎御殿のヴォーパルバニー、延いてはラビッツ全土に知れ渡っている事実は大きい。

 

理不尽の権化相手に、自分の敗北が確定した未来へ抗い、己の存在を夜襲の瞳に物理的に刻み付けた事が、こうも大事になっていると改めて実感する。

 

「聞くにペッパーは、バックパッカーっちゅう職業なんよな?何か良い品持ってたりするん?」

 

と、ピーツが商談らしき話題を持ってきた。バックパッカーは他者との取引を行う事もある職業、露店商らしきピーツからすれば、自分を商人として品物の取引が出来ないか、そう考えているのだろう。

 

「うーん…すいません、今売れるものが無くて…。良い品物が手に入ったら売買出来ますかね?」

「ありゃ、そら残念やね。売買に関しちゃ、品物次第にはなるけど大丈夫やで」

「ありがとうございます、其の時は宜しくお願いします」

 

兎御殿で店を出すという事は、相応のアイテム等が取り揃えているのだろうと期待し、ペッパーはピーツと別れる。そして其の足でまた、兎御殿の散策を再開しようとした時だった。

 

「ペッパーはん、ようやっと戻ってきたさね?」

「どぅおわ!?びっくりした!?」

 

ピーツの後ろの窓から声が聞こえて、直後アイトゥイルが現れた。

 

「んおー、アイトゥイルねーちゃん。数日前にぶらぶら旅してたんに、いつの間に帰ってきたんか」

「山彦みたいに、ペッパーはんの声が聞こえたのさ…。おとんから御世話係を任されたさに、ワイも無責任で放っぽるほど――――――柔さないよ?」

 

アイトゥイルの細目が僅かに開いた時、背筋がゾクゾクっと震えた。漫画やらアニメやらゲームでもそうだが、普段温厚で細目なキャラが何らかの理由で開眼する時程、強いものは無いとはよく言われる理由が、少し理解出来た気がする。

 

「で、ペッパーはん。今日は何処に行くのさ?」

「えっと、サードレマのエンハンス商会・露店通り支部に行って、フレンドに渡すプレゼントを取りに。其の後はまだ決めていません。ゲートお願いします」

「分かったさ。じゃ、行きましょか」

 

兎御殿の壁にアイトゥイルが扉を創り、開かれた景色の先へ1人と1羽は足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードレマ・露店通り付近、路地裏。

 

アイトゥイルが形成した扉を出て、エンハンス商会・サードレマ露店通り支部の近くにやって来たペッパーは、彼女をマントに隠して人の往来を確認し、サササッとエンハンス商会へと滑り込む。

 

「あ、ペッパー様!い、いらっしゃいませ!」

 

そんな彼に、店員の1人がリュカオーンの呪いに震えながら、声を掛けて。他の店員が直ぐに奥へと走っていく。数十秒後、最初に出逢った時に沼掘りの清歯をネックレスにする事を奨めてくれた女性が出て来て、手には小さな箱を持っている。

 

「ペッパー様、よくいらっしゃいました。此方が加工商に依頼しました、沼掘りの清歯を用いたネックレスです。どうぞ、御拝見下さいませ」

「ありがとうございます、拝見致します」

 

箱を開くと、現実のチェーンタイプのネックレスであり、中心には勾玉の形に加工された沼掘りの清歯が、真珠のようにキラリと光っている。

 

早速、彼はネックレスの性能を確認してみた。

 

 

 

 

清歯のネックレス

 

沼掘りの希少部位、清歯を用いて創られたネックレス。清廉潔白を象徴する御守りとして、女性から高い人気を持つ一品

 

装備した者の罪が深く、咎を重ねる程、其の清なる白は血と黒でくすみ、其の業を白日の下に曝すであろう

 

カルマ値の低いプレイヤーが装備すると、最も高いステータスに3%の上昇補正を追加する

 

カルマ値の高いプレイヤーが装備すると、最も高いステータスに3%の下方補正を追加する

 

 

 

 

(うわあああああああああああ!!???完全にやっちまったあぁあああああ!?!?プレイヤーキラーのペンシルゴン相手に、こんなものをプレゼントしたら、此方は何されるか解ったものじゃないよ!!?最悪だ!?よりにもよって、絶対最悪なプレゼントになるだろコレェ!?)

 

「ア,アリガトウゴザイマス。ダイジニシマスネ………」

 

地雷所の話じゃ済まないアクセサリーに、冷や汗ダクダクになりながらも、平静を取り繕ってアイテムインベントリの奥に仕舞うペッパー。と、女性が自分の目の前で深々と頭を下げて言ったのである。

 

「ペッパー様。この度は私達の商会に御協力いただき、感謝しか御座いません」

「………………へ?」

 

真剣な話の雰囲気を感じるペッパーに、女性は御礼と共に感謝の言葉を紡ぎ始める。

 

「エンハンス商会を利用する、開拓者様の方々から『漸く沼掘りを倒して、先に進むことが出来ました』との、感謝の言葉を始めとし、様々な投擲玉によって苦難を切り開く事が出来たという『声』が届きました。

 

此れもペッパー様の御尽力有っての事。本当に、本当に………ありがとうございます」

 

 

そうして目の前には、クエスト完了のリザルト画面が現れて、ペッパーは不安と期待を織り混ぜながらチェック。書かれていた内容に、彼は心の中でホロリと涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エンハンス商会は新たなる道具を産み出した』

『エンハンス商会から多大な信頼を勝ち取った』

『特殊クエスト:【沼地に轟く覇音の一計】をクリアしました』

『称号【投擲道具のパイオニア】を獲得しました』

『称号【エンハンス商会御用達】を獲得しました』

『新たな技術がフロンティア中に広まった』

『フロンティアのエンハンス商会並びに一部の道具屋で【消費アイテム:投擲玉】が追加されました』

『アイテムカテゴリー【投擲玉】が解放されました』

『特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】を受注しますか?』

『YES』or『NO』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(うん、まぁ知ってた……知ってたよ……。段階式解放型クエストって、予想してた時点で大体こうなる事くらいはさぁ………。

 

嗚呼もう、俺の行動一つ一つホント責任重大だぁ泣きたい………)

 

 

1つの戦いが終わり、新たな戦いが始まる。ペッパーの開拓者人生は、またしても安寧は訪れる事はなく、喧騒と激動の怒濤に呑まれていく。

 

世界は未だ進まず。

 

其れでも、人の想いは重ねて積もり、軈ては世界を動かす力となる…………

 

 

 






次なるクエストが始まる




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~沼地を越える者達~



此れは、あるプレイヤー達の話




シャンフロ第2の街、セカンディル。沼渡りに備える街として知られる此所で、多くの初心開拓者達はシャンフロの洗礼を受ける。

 

「どうしようか…沼掘り(マッドディグ)

「機動力が封じられた沼地の戦闘に、相手はデカいエリアボス。複数人で挑んで最後の最後に『アレ』を食らったからな」

「何か策を練らないと、サードレマには着けないね…」

 

シャンフロには『ギルド』と呼ばれる組合機関が在り、此所で登録した開拓者達は正式な『パーティー』を組む事が出来たり、クエストを受けてマーニを稼げるようになる。

 

当然ながら、セカンディルにもギルドは在り、其のギルドの一角のテーブル席に座りながら、先程沼掘りとの戦いで撤退に追い込まれた3人編成のパーティーは作戦会議をしていた。

 

メンバーはタンクを担う重戦士の男、火と水を中心とする女魔法使い、回復やバフ魔法を使う聖職者の男子で、バランス自体は中々に良い。

 

「もう1人メンバーが欲しいね。敵に斬り込んでいける斥候タイプの」

「そうだな…メンバー募集の看板見てみるか」

「でも、沼掘り相手に大丈夫かな?」

 

うーん…と悩むパーティーメンバー。

 

「あ、あの…ちょっと良いか?」と3人に声が掛かる。其の方向を見ると、軽戦士の装備品に身を包んだ男性プレイヤーが居た。

 

「見たところ軽戦士みたいだな、アンタ」

「あぁ。実は俺、沼掘りにリベンジしたくてさ。最初はソロで挑んで手酷くやられた。奴の攻略に参加させて欲しい。其れと、沼掘りへの秘策のアイテムを持ってる」

 

パーティーへの加入希望を申し出た男性プレイヤーは、アイテムインベントリから【投擲玉:炸音】を取り出し、3人の前に置いた。

 

「コレは?野球ボールみたいだけど…」

「さっきエンハンス商会って所のNPCショップが、販売し始めたっていう消費アイテムらしくて、聞く所によると対沼掘りのキーアイテムだとか」

「アンタ、使い方は解るのか?」

「練習もしたし威力も保証する、因みに1玉5000マーニ掛かる」

「ちょっと高いね…でもコレで沼掘りを攻略出来るなら、安い……のかな?」

 

野球ボール状のアイテムを見ながら、意見を交わしたタンク担当の男は他のメンバーに問う。

 

「皆、どうする?彼をパーティーに加えるか?」

「私は良いよ。攻撃の手数が増えれば、沼掘りも早く倒せると思う」

「MP管理は大変だけど…頑張る」

「という訳だが、良いか?」

「すまん、助かる。沼掘りの攻略、頑張ろう」

 

新しい仲間が加わり、一同は沼掘り攻略に気合を入れる。此れは、初心者脱却の難関を越える戦いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四苦八苦の沼荒野・沼峡谷………エリアボスが縄張りとして、侵入者を喰らう為に身を潜める沼地にやって来た一同は、其処で戦いを繰り広げていた。

 

「こいっ!沼掘り!!」

 

タンクの男が自身のスキル:挑発を発動し、沼掘りの注目(ヘイト)を買い、巨体による突撃を大盾で受け止める。

 

「ぐぬぅぅぅぅぅぅ!今だ、攻撃頼む!」

「はい!ファイヤーボール!」

「援護します!マジックアップ!」

 

聖職者のバフにより強化された女魔法使いの火炎玉が沼掘りの横っ腹に直撃し、其の巨体がぐらつく。

 

「負けたあの日から、コツコツ採掘して準備を続けてきた…リベンジさせて貰うぜ!沼掘り!!」

 

軽戦士の男性プレイヤーは、足袋により沼地の強制歩み状態を無効化しながら、アイテムインベントリから2本の湖沼の小鎚を取り出し、エラに攻撃を叩き込む。

 

『ギジャアアア!』

「深追いはするなよ、軽戦士!」

「アンタもな、重戦士!あと手応えから、アイツの急所はエラだ!」

「よし、エラを狙う!援護してくれ!」

「分かったわ!」

「はい…っ!」

 

斥候として軽戦士が情報を伝え、タンクたる重戦士が防御を敷いて指示の下、魔法使いと聖職者がサポートを行う。

 

ファステイアから3人パーティーで貪食の大蛇を攻略し、セカンディルまで来ていた彼等彼女等の実力は確かで、其所に単独ながらも沼掘りをあと一歩まで追い詰めた男が加わった。

 

今の自分達ならば、負ける可能性は極めて低いと感じる程、士気も気合も十二分に満ちている。

 

「ふんぬ!」

「オラァ!!」

 

片手剣による斬撃、2本の小鎚による打撃でエラを攻撃され、赤いポリゴンが零れた沼掘りは、其の身を翻して、沼へ深く潜行していく。

 

「潜った!?」

「いや、コレは…!」

 

直後、パーティー全員の足元に振動が走り、足が沼地に吸い着くように拘束される。

 

「これ、もしかして…!」

「沼掘りの…ソロ殺しの技……!」

「ッ!させねぇ…!」

 

誰が突き上げられ、落下死するか判らぬ中で、軽戦士は左手の湖沼の小鎚を解除し、アイテムインベントリから投擲玉:炸音を取り出して、力強く握り締める。

 

「全員!耳を塞げェェェェェ!!!」

 

右手に力を込め、思いっきり投擲玉を叩く。直後、強力な音波が発生。沼地に響き渡り、彼の足元は爆弾が弾けた様に破ぜた。

 

其の身は僅かに跳ね上げられて空を舞い、背中から沼地に叩き付けられる。しかし、本来の高さまで飛ばされなかった事で、ダメージは少々負ったものの、沼掘りの特殊行動をキャンセルする事に成功したのだ。

 

「沼掘りのソロ殺し、攻略してやったぜ…!あと、頼む…!!」

「あぁ、任せて貰おう!!皆、決めるぞ!!」

「「はいっ!!!!」」

 

大音を間近で受けた事でスタン状態となった、軽戦士の男が後を託すように叫ぶ。彼が作ったチャンスを無駄にしないと、3人は音によるスタン状態の沼掘りへ攻勢を掛ける。

 

「スキル:首断ち!」

「ファイヤーボール!」

「マジックアップ、アタックアップ!」

 

聖職者のバフを受け、渾身の火炎玉と首斬り斬撃が炸裂。弱点のエラにダメ押しの攻撃を叩き込まれた沼掘りは、ポリゴンと化して爆発四散。

 

パーティー全員生存で経験値が入り、レベルアップのSEが同時に鳴り響いた。

 

「っしゃあ…!やっと、越えられた…!」

 

軽戦士は漸くスタン状態が解除され、沼掘りを倒せた事に歓喜する。これでサードレマに進める…そう思った時、重戦士の男が手を差し伸べながら言った。

 

「軽戦士よ。もし君で良いなら、此れからも我々のパーティーに力を貸して欲しい。君が居ると、我々も助かる」

 

パーティーへの加入を希望してきた重戦士、後ろでは女魔法使いと男子聖職者も、朗らかに微笑み頷き合っていた。

 

「!あぁ…よろしくな!」

 

重戦士の手を掴み、軽戦士は起き上がる。こうして、パーティーには新たなメンバーとして斥候して軽戦士が加わった。合縁奇縁が織り成すフロンティアで、また1つ不思議な縁が成される。

 

世界は動かず、然れども共に歩む者達はまた、手と手を取り合い先へと進む…………。

 

 







沼掘りを越えて、いざサードレマへ



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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~世界の調律神~



此れは世界を調える神と、世界を創りし神の話




ペッパーが特殊クエストを攻略し、次なるクエストを解放した、ほぼ同時刻………。

 

現実世界にあるシャングリラ・フロンティアを開発したユートピア社では、地下10階にある女性がやって来ていた。黒のショートヘアに研究白衣と黒のミニスカートを着け、黒の女性物の靴を履いている。

 

彼女は『原典閲覧室』と呼ばれる大部屋の前に在る、認証装置の前に立って社員証を翳し、指紋認証と網膜認証の三重認証を行い、ロックが解除された扉の先に歩いていく。

 

「…………おい『継久理(つくり)』、お前また私に隠して『弄ったか』?」

 

彼女の名は『天地(あまち) (りつ)』。シャングリラ・フロンティアのエグゼクティブ・プロデューサーであり、神ゲーたるシャンフロを『ゲームとして成立するレベルまで』調整を施した女性だ。

 

継久理(つくり) 創世(つくよ)がシャンフロの創生神であるならば、天地 律はシャンフロの世界を調える調律神の様な存在である。

 

「何よ天地。私が何か変なことでもした?」

「お前の場合は目を離すとシナリオやら何やら書き換えに走るから、私が目ぇ付けとかないと直ぐに暴走するだろうが」

「此の『私の世界』で、おこぼれ貰って生きてる様な寄生虫には、決して言われたくないわ」

「其の私の世界とやらのゲームバランスさえ、お前じゃ『マトモ』な調整出来ねぇから、私がやってんだよ」

「言ったわね…!」

「あぁ色々言ってやるよ…!」

 

額同士をぶつけ合い、今にも爆発して喧嘩が始まりそうになる。其の時だった。

 

 

ピロリン♪『自動送信メール1件』

 

 

ディスクトップに自動送信メール1通が届く。創世は律を無視して、直ぐ様ダブルクリックで其の内容を確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニーククエスト:【インパクト・オブ・ザ・ワールド】 第二段階(セカンドフェーズ):【沼地に轟く覇音の一計】のA+クリアを確認。

 

クリアユーザー:ペッパー

 

称号【沼鮫の鎮圧者】【覇音を成した者】【種族は違えど志は共に】【投擲道具のパイオニア】【エンハンス商会御用達】を獲得。

 

シャングリラ・フロンティア内、全エンハンス商会及び一部道具屋のアイテムカテゴリー【投擲玉】の解放完了(アンロック)を確認』

 

 

 

 

 

 

 

「…………………嘘でしょ」

 

ディスクトップに表示された、ユニーククエストの第二段階クリアの報せに、創世の表情はより険しくなる。当初想定していたクリア日数を、此のユーザーは圧倒的なスピードで攻略してしまった。

 

幾ら何でも早すぎる(・・・・・・・・・)

 

「何々、ペッパー…?………あぁ、コイツだよ。私が話したかった、ユーザーってのは」

 

其の後ろから、表示された画面を見た律は当初の目的を果たす為に、創世に言った。

 

「夜襲のリュカオーンの『AI』は、お前の要望通り……『前衛職』にしか呪い(マーキング)をプレイヤーに付与しないようにしてある」

「じゃあ何で、私に聞いてきたのよ」

 

創世の疑問に律は、ただ存在する事実を言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此のペッパーって奴は、メイン職業がバックパッカー。……つまり『後衛職』なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………は?」

 

沈黙と静寂。そして…動揺。

 

「そんな筈無いでしょ!?私の可愛い、夜闇の支配者のリュカオーンちゃんが、か細くて弱い後衛職のバックパッカーにマーキングするなんて有り得ないわ!?!」

「其れが有り得たから私は来たんだよ!?一体どうなってやがるんだ!?大本の『原典』やらにそういう事態が起きるとか書かれてなかったのかよ!?」

 

律と声を張り上げて言い争い、創世は肩で息をしてディスクチェアにドカッと腰掛けた。

 

「………………一応、後衛職がリュカオーンのマーキングを受ける方法は、在るわ。

 

大前提として、夜襲のリュカオーンと『レベル差が100以上離れていて』尚且つ『単独状態(ソロ)』で遭遇する事。

 

そして戦闘開始から『ノーダメージで20分以上適正距離を保ち続けてダメージを与える』、もしくはリュカオーンに『残照が残る程の傷を刻み付ける』………其れ以外は無い」

 

前髪を鷲掴み、創世は大きな溜息を溢す。

 

「……『普通』は無理よ、後衛職は大体MPや器用にリソースを使う。敏捷やスタミナにステータスを振る余裕なんてレベルカンストに近付いて、余裕が出来たくらいしか無い………!」

「………ペッパーってユーザーが何を思って、どういうステ振りをしたかは知らねぇが、リュカオーンがコイツを『認めた』。………其れだけは、変えようの無い『確かな事実』だ」

 

調律神たる律もまた、ペッパーというユーザーの存在に睨みを効かせ。対して創生神たる創世はペッパーの名を見ては、恐ろしい言葉を吐き捨てる。

 

「………ペッパー、此のユーザーは危険過ぎる(・・・・・)。後衛職でありながら、リュカオーンちゃんに『認められて』、あまつさえ『ヴァイスアッシュ・シナリオ』に絡んで。何れ私の……私の世界のシナリオを『根幹から狂わせる』可能性すら含んで………」

「おい創世、勝手にシナリオやシステムを書き換えるなよ?アイツの首が飛ぶぞ」

「……解ってるわよ」

 

(………対策は必要。そうなると『オルケストラ』に観測させる?いえ、まだね………『色々足らな過ぎている』。なら、インパクト・オブ・ザ・ワールドの第五段階(ファイブフェイズ)の最終試練の難易度調整と、ヴァイスアッシュ・シナリオの実戦的訓練の最終試験で『ポポンガ』を絡ませましょう……)

 

 

 

神々は見つめている。

 

世界を動かさんと、藻掻き足掻く者を。

 

其の異質なる存在を、神は赦しはしない。

 

其のシナリオを崩さんとする者を、神は認めない。

 

 

 

世界を創りし神が、筆を取る。

 

異質なる存在を、詰ま着かせる為に。

 

其の心を減し折り、砕く為に。

 

 

 

世界は進まず、動かない…………。

 

 

 






標されたコタエが、神々を揺らす


※リュカオーンの呪い(マーキング)付与条件(後衛職)は本作品のオリジナル設定です


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ペッパーのジャングル大冒険



ペッパー、金策の為に樹海に行くの巻




「さて……どうしますかね」

 

特殊クエスト:【沼地に轟く覇音の一計】を攻略し、新たに【颶風を其の身に、嵐を纏いて】が出現した。裏路地に隠れ、いざとなればサードレマから別のエリアに逃げられる状態にしながら、ペッパーはクエストのタイトルよりフラグ立ての予測を考察する。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。どないしたん?」

「アイトゥイル。前にクエスト受けてるって言ったけど、其れをクリアしたら新しいクエストが出て来てね。こういうタイトルなんだけど……」

「颶風……強い風の意味さね、けんど嵐を纏う…は、どういう意味なのさ?」

「其れが俺にもさっぱりでさ……」

 

マントの中から覗くアイトゥイルに見せるも、タイトルだけでは解らない状態で、完全に御手上げ状態になった。

 

「………………そういえば俺、サードレマの地図を持って無い。街中の大まかな構図と、先のエリアが解るように成るだけでも、一歩前進するかな」

 

今の大雑把なマップでは、広大な街と入り組んだ路地裏で迷宮になったサードレマで、土地勘が無ければ迷う事は確実。おまけにユニーク持ちの身である以上、情報を求めて自分を探しているプレイヤーも少なくない。

 

鉢合わせしたり、追われた際に逃走ルートが解らない様では、どうぞ捕まえて下さいと言い触らしているのと同じである。ならばと、ペッパーは再びエンハンス商会・サードレマ露店通り支部に滑り込み、サードレマのマップを購入。

 

再び路地裏に逃げ込み、地区の情報を頭の中に叩き込んでいく。

 

「此処を通って、此方にいくと『神代(しんだい)鐵遺跡(くろがねいせき)』に向かう門が在り、今居る場所から一番距離が離れた所の門は『栄古斉衰(えいこせいすい)火口湖(かこうこ)』………と。

 

此処からだと一番近いのは『千紫万紅(せんしばんこう)樹海窟(じゅかいくつ)』か。……昆虫は確実に居そうな名前だな。…………よし、決めた」

 

サードレマから先の3つのエリアの名前を精査し、ペッパーは次に向かう新エリアを決定する。

 

「アイトゥイル、此れから俺達は千紫万紅の樹海窟に向かう。新エリア探索だ、あと昆虫に会いたい」

「ふふふ…男の子は虫さ好きやね………」

「おう、昆虫はロマンが有るからな」

 

一昔前に流行ったアーケードゲームで、カードに刻まれた昆虫を呼び出し、じゃんけんの要素を組み込んでバトルする筐体ゲームが、ペッパーの記憶に在った。

 

永遠の弟が其のゲームのファンであり、彼の集めたカードを借りて時々一緒に遊んだ事を思い出しながら、彼はアイトゥイルをマントに隠して、人目を避けて移動。

 

千紫万紅の樹海窟があるゲートを潜り抜けて、新エリアへと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千紫万紅の樹海窟。

 

樹齢千年以上は下らないだろう樹木達の密集によって出来た天然のトンネルにより、太陽の光が僅かばかり地上に届くのみの世界。

 

地面や岩肌には光る苔達が光源となり、木々の合間から零れる其の僅かばかりの光や、葉々より伝い落ちる水の一雫を栄養として、華々が咲き誇り、光るキノコが生え、独自の生態系を形成したエリアだ。

 

「おおぉ…!ちょっとジメジメしてるけど、空気が澄んでて美味しい…」

「光の粒…生きる者達の命の煌めき…綺麗さ…」

「だね。此処の恵みを分けて貰う以上、感謝しないと」

 

合掌と一礼から1人と1羽の兎は歩き始める。

 

大きな腹を揺らし、木々の合間を縫いて舞う蝶。バスケットボール程の大きさを誇る、腹に引っ掻き傷に似た紋様を持つ働き蜂達。

 

大きな華に擬態して近寄った獲物を狩る蟷螂に、クワガタムシのハサミを持った巨大なカブトムシが居たり等、まさにザ・ジャングルといった生態系で構成されたエリアだった。

 

「さて…何から手を付けようかな」

 

虫とは基本的に、此方から手を出さなければ、襲ってきたり反撃したりしない生き物だ。蜂や毒蜘蛛は其の最たる例で、人間は毒を恐れるが故に、不意に頭や身体に落ちてきた虫に驚いて、振りほどこうとする。

 

彼等にとって其れは、自分達への攻撃であると認知するには充分な要素になる為、そうなった時は一先ず落ち着いて、地面や木の樹面に身体や頭を接地させ、彼等を返してやると襲われる事はない。

 

「キノコとか採れるかな?」

 

ペッパーは近くに生えた、淡い光を放つ白いマッシュルームの前に歩み寄り、アイテムインベントリから白鉄(はくじ)短剣(たんけん)を左手に逆手で装備。

 

根本をラダースラッシュで、獲物の頸を刈り取るように切り離し、手に取ってアイテムの内容を確認する。

 

 

 

ホラルマッシュルーム

 

 

千紫万紅の樹海窟で採れるキノコの一種。淡い光を放つ茸は樹海の地を優しく照らし、花華の光合成を支えている

 

樹海窟のキノコの中では珍しく、食用としても親しまれ、シチューを始めとした煮込み料理で使われる事もある

 

 

 

「樹海窟では珍しいって、他のは毒キノコですか…」

「ホラルマッシュルームさね…串焼きやソテーにすると美味しいのさ…」

「なら、ティークさんに調理して貰おうかね」

 

どんな味なのだろうかと想像しながら、ペッパーとアイトゥイルは樹海窟散策を再開。

 

所々に生えるホラルマッシュルームや薬剤に使える綺麗な花を採取しながら歩いていると、目の前の大樹の合間に巨大な蜂の巣が。

 

其処には働き蜂達が舞い踊り、其の中心に一際大きな女王蜂が鎮座、近くを少し大きな蜂達が護衛する形でフォーメーションを取っている。

 

「あれは…」

「ペッパーはん。彼処に居るんは『エンパイアビー・クイーン』っちゅう奴やね。周りのは『エンパイアビー・ワーカー』と、ちょっと大きいなんが『エンパイアビー・ハンター』さね」

「エンパイアビーの巣か…」

 

あれ程の大きな巣を作る女王蜂と其処を支える蜂達、謂わば一つの王国だ。ペッパーは考える……其の軍団を潜り抜け、あの女王を自分の手で倒せたなら、自分は少しは強くなれるだろうか…と。

 

夜襲のリュカオーンに届く牙を磨き、尻をひっ叩く力を身に付ける為にも、彼はコロニーへ挑戦してみたいと思ったのだ。

 

「アイトゥイル、此れから俺達はアレを攻め落とすよ」

「お~……其れはまた、随分大胆に言ったねぇ。ペッパーはんや」

「リュカオーンのリベンジの為にも、戦闘経験は積んでおきたいからね。それじゃ…作戦を伝えるよ」

 

そう言ってペッパーはアイトゥイルに耳打ちで作戦内容を伝達。1人と1羽によるエンパイアビーの帝国陥落作戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわ、エンパイアビーさん達」

 

アイトゥイルを肩に乗せ、ペッパーはエンパイアビー・クイーンが形成し、作り上げた巣に居座る大樹の前に躍り出る。彼の手には白鉄の短剣より切り替え、残照が刻まれた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)を構える姿在り。

 

其の殺気に気付いたクイーンが、警戒のフェロモンを放ち始め、ワーカーとハンターが羽音を鳴らし、羽ばたいて此方を威嚇する。

 

「アイトゥイル、コロニーを攻略するよ」

「さぁて…ペッパーはん、あの女王をどうやって倒すさ?」

「蜂や蟻を含めた、群れを成すモンスターへの対処は、昔から決まってる。配下は全無視して頂点の頭を狩る、其れがセオリーだ!」

 

スキルの二艘跳び・アクセル・ハイビート・ハイドレートワークと、現状ペッパーが持ち合わせている、ありったけ移動スキルを点火し、樹面を蹴り上げて駆け上がる。

 

彼の行動を攻撃の意思有りと判断したエンパイアビー・クイーンが前肢を振るうや、女王の子供達のエンパイアビー・ワーカー達が、一斉に襲い掛かって来た。

 

「おいおい、そんなに近寄って大丈夫か?ワーカー達よ……其の行動は『足場』にされるぞ」

 

迫るワーカー達の位置を捉え、脳内でクイーンへの最短ルートを割り出し、万が一の場合に備えた別ルートを平行して構築。二艘跳びで強化された跳躍力でペッパーは『真上』に跳び、近くに来ていたエンパイアビー・ワーカーの腹部を思いっきり『蹴り飛ばす』。

 

所謂『三角跳び』と呼ばれる移動方法を、ワーカーを利用する形で行いながら、大樹の樹面をステップとダッシュで重力の魔の手に抗い、ペッパーはクイーンが居座る巣の近くへと迫り行く。

 

(此処までで25秒、ハイビートの制限時間まで35秒…!)

 

ワーカー達を越えてきたペッパーに、護衛を務めるエンパイアビー・ハンター達が動き出す。クイーンは彼が先程見せた三角跳びを封じる為、前肢を指揮者の振るうタクトの如く動かし、古代ローマ帝国の侵攻に抗ってみせたスパルタの戦略『ファランクス』の構えで迎え撃つ。

 

「アイトゥイル、酔伊吹で中央に風穴を開けてくれ!突破して、クイーンを討つ!」

「任せなさいな…!ペッパーはんの覚悟、ワイも応えてみせるさ!」

 

速度は弛めず、其の脚は停めず。樹面に着地し其のまま走るペッパーは、ハンター達の迫る針山に怯む事無く前進。アイトゥイルもまた瓢箪水筒に入れた酒を口に含み、唇を細くして一点集中の火炎放射を放ち、真ん中を固めたエンパイアビー・ハンターを焼き落とし、道を作り上げてみせた。

 

「女王様に至られては、御機嫌麗しく!然して其の御霊、我は頂戴致す者也!!!」

 

ワーカーを越え、ハンターを越えたペッパーを、クイーンは遂に自らの手で仕留めんと、羽根は羽ばたきて風が巻き起こる。

 

「飛ばすつもりか!此処で落とされる訳にはいかない!!」

 

スキル:サンダーターンで鋭角移動を行いながら、強風を避けて女王の真横に向かう。しかし女王には手を振れさせないと、エンパイアビー・ハンターが態勢を立て直して迫ってくる。

 

「アイトゥイル!酔伊吹の再使用は!?」

「あと8秒待ってさ…!」

「なら1周分樹を走り回って、時間を稼ぐ!」

 

アクセルとハイビートの効果終了まであと15秒、ペッパーは重力の特性を加味した螺旋上昇走りに、不安定な樹面を沼掘りとの戦いで活躍したスキル:アクタスダッシュを使用して駆ける。

 

「うおおおおおおおおおお!!!!!!なんぼのもんじゃああああい!!!!」

 

樹面を駆けて、駆けて、駆けて。ペッパーとアイトゥイルはエンパイアビー・クイーンの巣の真上へ、遂に走り出た。

 

「来るぞ、アイトゥイル!」

「はいさ!」

 

クイーンが羽ばたき、尾の鋭き針を1人と1羽に翳して、刺し殺さんと突撃。ペッパーは身を委ねるように上体を後ろへずらし、クイーンの渾身たる針を致命の包丁の刀身で『受け止め』。鉄と鉄にぶつかり合い、火花が散る。

 

直後にクイーンが目撃したのは、目の前に迫る赤く強い火炎の息吹きであり、自分の身体を羽根を焼かれ。怯んだ其の数秒を置いて、自身の首に刃の感触が突き刺さった。

 

「スキル:呀突!そして━━━水平斬り!」

 

致命の包丁によるクリティカルの上昇効果、及び頸への攻撃と喉笛を切っ割かれた事で、エンパイアビー・クイーンを構成したポリゴンは弾け飛び、ペッパーはエンパイアビーの巣の上に着地。

 

一方のエンパイアビー・ワーカーとハンターは、クイーンを失った事で蜘蛛の子を散らすようにして散開し、此方に襲って来る事は無かった。

 

「……っしゃあ!女王討伐成功だ!アイトゥイル、力を貸してくれてありがとう!」

「ううん。クイーンにトドメさしたんは、ペッパーはんさ。本当に格好良かったのさ…!」

 

互いに健闘を称え合い、ハイタッチをした後、ペッパーとアイトゥイルはエンパイアビーの巣を物色。中には『エンパイアビーのハチノコ』や『帝蜂蜜(エンパイアハニー)』と言った巣でしか採れない、希少なレアアイテム達の獲得に成功する。

 

其の後、1人と1羽は樹面を伝って地上に降りて、地上に落ちたエンパイアビー・クイーンを含め、三角跳びで蹴り飛ばした時にクリティカルで倒れたエンパイアビー・ワーカーと、酔伊吹により焼かれながらも辛うじて残ったハンターの素材回収。気分はウッハウハしながらも、油断する事は無く森を奥へと進むのであった………。

 






ジャングル素材わんさかホイホイ



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ギラファとコーカサス、そして胡椒



ペッパー、ドデカ昆虫に出逢う





「おりゃあ!」

「いくで!」

 

千紫万紅の樹海窟。ペッパーとアイトゥイルの1人と1羽による行進は、現在1匹のカブトムシと交戦を繰り広げている。

 

「やっぱり堅いな!此の『クアッドビートル』って昆虫!斬擊より打撃の方が、まだ効果が有る!」

「この子は、かなり『出来る』さね…!」

 

クアッドビートル…千紫万紅の樹海窟に生息する甲虫型のモンスターで、5mは下らない巨体は堅く強靭な甲殻で身を包み、雄大なる剛角を用いた突進で意図も容易く木々を折り倒す力を持った、重量級パワーファイターだ。

 

事実、ペッパーが致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)等の打撃武器と打撃系統のスキルを立て続けに使い、アイトゥイルの援護も絡めて幾度も攻撃を行っているのだが、ポリゴンこそ溢れても中々沈まないでいる。

 

「こんなに堅いって相当な防御力だ…!コイツの素材は防具にしたら強い…絶対倒す!」

「ならワイも、もう一踏ん張り…するさね!」

 

振り回される雄角を避けて下側から回り込みつつ、ペッパーは剛擊・スイングストライク・レイズインパクトの3つのスキルを重ねた一撃、アイトゥイルは風来擊(ふうらいげき)月威(かつい)を、各々クアッドビートルの顎に叩き込む。

 

しかし其れでも。クアッドビートルは沈まず、そして倒れない。其れ所か角を土竜叩きの要領で振り回し、ペッパー達に襲い掛かってくる。

 

「耐久力えっぐ…!いい加減………!」

「倒れなさい!!なッ!!!」

 

アイトゥイルの酔伊吹を放ち、クアッドビートルを怯ませて雄角土竜叩きを封じ込め。ペッパーが、其の間を狙ってスキル:ラッシュで渾身の連打を叩き込み。

 

戦闘開始から実に20分、遂にクアッドビートルは倒れて、身体を構成したポリゴンが爆発した。

 

「だあああああ、やっとだぁ…!!」

「ふぅ…流石に疲れたさね………」

 

クアッドビートルの素材を回収し、一休みするペッパーとアイトゥイル。アイテムインベントリにはまだ余裕は有るものの、先程の戦闘もあり疲労の色が目立つ。

 

こんな時は甘味でもと、エンパイアビーの巣を物色した時に手に入れた帝蜂蜜(エンパイアハニー)を取り出してみる。

 

 

帝蜂蜜(エンパイアハニー)

 

 

エンパイアビーの巣から採れる希少な蜂蜜で、高濃度に圧縮された甘味の爆弾。働き蜂たるエンパイアビー・ワーカーが集め、エンパイアビー・クイーンのフェロモンを受けた蜜は、濃密かつ優しい味となり、女王と幼虫達、そして巣を支える者達の食事となる

 

一口で高い疲労回復と魔力充填を行える、千紫万紅の樹海窟が産み出した、命の結晶にして偉大なる宝液

 

 

近くの葉に帝蜂蜜を垂らし、味見として少し舐めてみるペッパー。

 

(……甘い)

 

通常の蜂蜜よりも味こそ薄いものの、此れでも充分に甘味を感じられる程の甘さを誇り、一舐めで確かに身体から疲労が取れていくのが解った。

 

「アイトゥイル、帝蜂蜜です。凄く甘いですよ」

「ありがとさ、ペッパーはん。流石にクアッドビートル相手には疲れてしまったのさ……」

 

葉に乗せた帝蜂蜜を指で絡めて舐め取るアイトゥイル、甘味を味わった其の表情は、とろ~んと蕩けて幸せ一杯に満ち溢れた可愛い笑顔だった。

 

「ふぅ…もう少しだけ探索したら、サードレマに帰りましょうか」

「そうするさね…因みになペッパーはん。帝蜂蜜は『ストレージパピオンの蜜袋』以上に、薬剤合成に重宝される代物でな?今度、薬剤師やっちょる子に会わせてあげるのさ」

「ほう…其れは楽しみですね」

 

また新しいアイトゥイルの兄弟姉妹に会える事を楽しみに、ペッパーとアイトゥイルは暫しの休憩を挟み、千紫万紅の樹海窟の探索を再開したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海窟をペッパーとアイトゥイルが歩き続け、30分が経過した。行けども行けども変化は無く、巨木と華々、ホラルマッシュルームや発光キノコに、生態系を築く生物以外に見当たらず、そろそろエリアの端辺りに差し掛かってきていた。

 

「何にも無いなぁ…」

「そうやねぇ…」

 

もう引き返して、樹海窟で入手したアイテムを売却か取っておくかの選択をしようか。そう思った時である。

 

「ペッパーはん、何か此方に来とるさ…」

 

アイトゥイルが指差す方を見ると、樹木の間をゆらゆらと舞い、仄かな光で此方に来ている1匹の蛍をペッパーは目視する。

 

其の蛍は此方に近付いてきて、1人と1羽の目の前を淡く光を放ちながら通り、ペッパーとアイトゥイルの周りを一周した後、振り子の様に左右に揺れて、何処かに導こうしているように舞い踊っている様だった。

 

「ペッパーはん、アレなんやろさ?」

「行ってみよう…付いていけば何か在るんだと思う」

 

蛍の光に導かれ、1人と1羽は歩みを進め、軈て蛍達が作った天ノ川へと辿り着く。

 

其の光の先には、樹海窟で見てきた大樹の何れよりも太く、大きな大樹が天を衝くかのように聳え、其の周りはまるで『整地された』様に木々と花が無く、不自然な円の空間が出来ており。

 

其の巨木の間には、黄金色の中に翡翠の輝きが光る、巨大な『宝石』が見えた。

 

「もしかして、レアアイテム……か!?」

「綺麗さ…近くに行けば、何なのか解るさね?」

 

ゆっくりと慎重に、ペッパーとアイトゥイルは進み、草木が無い円のような場所の入口まで来た。

 

普通ならば進む所だが、ペッパーは此処から先に1歩でも足を踏み入れようものなら、確実に侵入者扱いをされて『ボス戦』が開始される予感を心に抱いている。

 

更に彼が思考したのは、アイトゥイルの存在………もしかしたら。シャンフロのNPCは、死亡したならば『二度と生き返らないかもしれない』とも考えて。

 

「すまないが、アイトゥイルは此処で待機してて欲しい」

「……理由を聞いても良いさ?」

「此処から先は、おそらく強い敵が待ち構えている。俺達開拓者達は幾度死んだとしても、蘇って再び立ち上がれる。でも、アイトゥイルや他の人達は死んでしまったら元も子もない。其れに……女の子を死地に赴かせるなんて、男が廃るだろ?だから……俺に守らせてくれ」

 

自分の思考した理論が、本当に正しいかどうかは解らない。其れでも僅かな可能性が存在するならば、万全を期す。其の慎重さこそが、ペッパーというゲーマーの本質なのである。

 

「………解ったさ。ペッパーはん、気を付けてな?」

「ごめんよ、アイトゥイル。他の開拓者に見付からないように、近くで隠れていて」

「うん。あとなペッパーはん…………今の、とても『格好良かった』よ」

 

唐笠を深く頭に被って、近くの草むらへと隠れる際にアイトゥイルがそう言っていた。多分ではあるが、説得は成功したのだろう。

 

「…じゃあ、往きますか」

 

意を決し、ペッパーは円の内側に足を踏み入れる。直後、円の内と外との境界線を『風と雷より創られたフェンス』が覆い、彼は閉じ込められてしまう。

 

やはりボス戦かと予想が当たった事で、一先ず安心したペッパーだったが、其れも数瞬。声が樹海に轟いた。

 

『汝……何故、此処ヘ……来タ…!!』

『今スグ………ニ、立チ…去レ……!!』

 

続け様に起こるは、肌身をつんざく風の重圧と、空気を震わせる雷の煌めき。堂々と立つ二本の巨木の天頂より、声の主達は開拓者の前に降り立ち現れる。

 

片や、玉虫に似た艶やかで美しい翡翠の甲殻と、風を纏う羽根を振るわし、長く発達した大鋏を誇る、世界最長のクワガタムシたる『ギラファノコギリクワガタ』。

 

片や、漆黒の身体と黄金色の前はねを持ち、電雷を帯びる三つの剛角を携えた、闘争心の塊たる世界最強のカブトムシ『コーカサスオオカブト』。

 

「おいおい…まるで風神と雷神じゃないか」

 

ボス戦に相応しい、如何にも大物と呼べる二体の昆虫の皇者に、ペッパーのゲーマーソウルが疼く。クアッドビートルとの戦闘経験から、打撃系統の武器が効果的と考え、更に耐久面でも優秀かつクリティカル時に耐久減少を抑える、湖沼の小鎚を左手に装備した。

 

と、ペッパーのアクセサリーたる旅人のマントが風に煽られ捲られて、右手のリュカオーンの呪い(マーキング)が顕になり。其れを見た昆虫達はこう言った。

 

『…!来タカ……『勇者』、ヨ…!』

『黒キ、夜闇ノ……王が、認メシ…『勇者』…!』

「勇者?と言うか、リュカオーンを知っているの?」

 

彼の問い掛けに、二体の昆虫は何も答えを返す事は無く。然れど彼等は、命の鼓動たる風と雷を纏い。声を張り上げ、開拓者に言う。

 

『我ハ…『颶風ノ申シ子』!ティラネードギラファ!』

 

翡翠の甲皇虫はそう述べて。

 

『我ハ…『雷嵐ノ申シ子』、カイゼリオンコーカサス!』

 

漆黒と金色の甲皇虫はそう述べて。

 

『『呪イ携エシ勇者ヨ…!其ノ『力』ヲ、我等に示セ!!!!!』』

 

言うが早いか、ペッパーに襲い掛かってきたのである。

 

(あっるぇ?もしかしてコレ、同時に相手しないといけないタイプ???)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者とは何ぞや?其れがペッパーの第一の疑問であった。一般的に勇者とは、ゲームならば魔王討伐の為に国王から選ばれたり、一昔前に流行った異世界ブームでは、転生したり転移によって別の世界から呼び寄せられたり等、様々な形ではある。

 

彼等は確かに自分の事を勇者と呼んだ。夜闇の王たるリュカオーンに認められた勇者だと。自分は勇者では無いし、どうゆう意味なのかも聞きたかった。しかしそんな暇は、二体の戦闘に突入してから吹っ飛んでしまった。

 

「どわああああああああああああああ!?!?」

 

縦横無尽に疾走する突風に、天より降り注ぐ豪雷の轟き。クアッドビートルより頭一つ抜けた巨体から繰り出す突撃が、考察に回す思考の全てを回避と反撃に持っていかざるを得なくなっていた。

 

そして何よりも、ペッパーが疑問視したのが。

 

(何でだ…!?何で…ダメージ表現の『ポリゴン』が出てない?!)

 

此れまで戦ってきたモンスターにも、ダメージを受ければポリゴンやら残照やらが出ていた。痛みとは生物が身を守る為の『防衛機能』、正常な痛みが在るからこそ無茶をしなくて済むし、自分の限界も計る事が出来る。

 

しかし開始から既に4分、ヒット&アウェイ作戦でティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの攻撃を、各々捌き続けて反撃もしたが、此処まで一切『ポリゴン』が溢れた形跡が無い。

 

「くっそ…!せめて右手にも『装備出来れば』、此の嵐みたいな攻撃にも抗えるが…!」

 

片腕プレイを強いられた事が、此処に来て重く乗し掛かり、そして彼の動きを一瞬鈍くさせた。そして其れが両サイドからの二体の甲皇虫達の突撃に繋がった。

 

「しまっ――――――!」

 

二艘跳びでも避けられない。角と鋏に押し潰されて、自分はぺしゃんこにされて、殺られる。彼の脳裏にそんなビジョンが過った。

 

「ッ!!?」

 

と、其の時。ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスは共に、ペッパーの頭上を通り過ぎて、高くに羽ばたくや、其の身が眩く発光し始め。

 

『呪イ刻マレシ、勇者……ヨ!…オ前ニハ、マダ…早イ………!』

 

ギラファは翡翠色の輝きと、鋏の間に絶大な力場と風を発し。

 

『力、未ダ…足リズ……、我等ニハ……届カズ……!

 

コーカサスは黄金色の輝きと、3本の雄々しき剛角の中心に稲妻が迸り。

 

『『風ト嵐ヲ従エ………、出直シテ…クルガ、良イ………!!!』』

 

 

樹海に吹き荒れる颶風と、樹海を貫き迸る雷光が、ペッパーへと叩き付けられ。体力は1まで削り取られて、バトルフィールドを外まで追い出されてしまった。

 

ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサス。

 

千紫万紅の樹海窟・双皇樹にて出逢った、二体の甲皇虫との戦い。ペッパーにとっては、リュカオーンの呪い(マーキング)による右手装備不可のデメリットを叩き付け、シャンフロを始めて三度目の敗北を経験する事になり。

 

そして此の時の敗北こそが、特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】が本当の意味で始まる、トリガーとなっていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】が進行しました』

 

 

 







新たな強敵、二体の甲皇虫



ティラネードギラファ&カイゼリオンコーカサス:特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】を受注後に千紫万紅の樹海窟に出現する特殊エリア『千紫万紅の樹海窟・双皇樹』にて、二本の巨木の先に在る特殊レアアイテム『皇樹琥珀(おうじゅこはく)』を守護している全長8mクラスのギラファノコギリクワガタとコーカサスオオカブト。

戦闘時に対峙したプレイヤーの使った、武器の系統と属性によって、どちらかが戦闘に参加する。斬擊・魔法・近距離武器ならばティラネードギラファが、打撃・弓矢・遠距離武器ならばカイゼリオンコーカサスが、各々相手として立ち塞がる。

但し、特殊クエスト:【岩砕きの秘策】と【沼地に轟く覇音の一計】のどちらか1つでも『A+』以上でクリアした場合、二体が戦闘に参加。此の時の二体にはスキルや攻撃を行っても、HPが一切減少する事は無い。

また、戦闘時に二体の攻撃はプレイヤーの体力が少なかろうと、防具やスキルが劣悪であるのに関わらず、HPを強制的に1で止める、謂わば『峰打ちだ』の状態であり、死亡する事は無いものの、戦闘開始から5分後に強制敗北イベントが発生し、バトルフィールドの外へと追い出される。

つまりは初戦時は絶対に倒せない、強制敗北イベントという奴になります。




モチーフはティラネードギラファが風神、カイゼリオンコーカサスが雷神。


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人は蒼空(ソラ)に夢を抱く、そして蒼空(ソラ)にて争う



致命兎の王が語る、昔の噺




完全に負けた━━━━。

 

二本の巨大樹に居座り、自身をリュカオーンの呪いを刻まれた勇者と呼んで、突如二体同時に襲い掛かってきて。攻撃してもダメージを負った気配は無く、最後の最後に体力を1まで減らされ、バトルフィールドから吹っ飛ばされたペッパーは、心中でそう思って。

 

「………………あ~、くそ。やられたわ」

 

大の字に仰向けながら、樹海の合間より僅かに溢れる光の帯を彼は見て、悔しさを言葉に変えて溢した。そんな彼の顔を覗くように、アイトゥイルが顔を出して言ってくる。

 

「ペッパーはん、大丈夫さね?」

「アイトゥイル…、俺負けちまったよ」

 

ティラネードギラファ、カイゼリオンコーカサス。フィールドの状態、シチュエーション的にも、二体が同時に襲ってくる可能性は十分考慮出来た筈だった。だが、戦闘開始前に二体がリュカオーンの呪いを知っている発言に加え、思わぬ形で得られた特殊クエストのヒントにより思考が滞った結果、敗北してしまった。

 

幸い体力が1残っているのは、昆虫タッグの良心なのか、弱い者を殺す趣味では無いのか……何にせよ自分はこうして生きている。

 

「どないする?また戦うのさ?」

「いや……このまま行っても、おそらく『二の舞』になるだけだ。あの2体の甲虫の台詞のおかげで、3つ解った事がある」

 

アイテムインベントリから薬草を取り出し、口に丸めて飲み込んだ後、ペッパーはアイトゥイルに戦闘で得られた情報を伝えていく。

 

「先ず1つ目に、戦闘開始時にギラファが『颶風の申し子』、コーカサスが『雷嵐の申し子』と口上した事。今受注している特殊クエストのタイトルが【颶風を其の身に、嵐を纏いて】。間違いなく、あの二体の甲虫が鍵を握っている」

 

堂々と叫ぶようにして、わざわざ口上まで行って攻撃を仕掛けてきたのだ。アレは完全に『我々が特殊クエストの目標ですよー』と、大々的に言っているようなものである。

 

「次に2つ目は、ギラファの『お前にはまだ早い』と、コーカサスの『力足らず』。これは推測の域では有るけど、俺の『レベル』が規定値(キャップ)に到達していない事が考えられる」

 

ゲームでも特定のランクやレベルに到達する事で、始めて解禁される武器やアイテムが存在するように、大前提となるレベル指標があるのだろう。

 

「そして3つ目が、『風と嵐を纏い、出直して来い』。其の台詞から、あの2体には『特定のアイテムか特効能力持ちの武器』が無いと、そもそもダメージを与えられない可能性が極めて高いって事だ」

 

呪霊系統のゴーストモンスター等が、浄化系統のアイテムでないと実体を捉えられず、ダメージが入らない事をペッパーは嘗てのレトロゲームで経験している。

 

詰まる所、あの二体の甲虫は『特定の行程』を踏んだ上で挑戦しなければ、倒す所かダメージすら入らない『ギミックモンスター』だと、ペッパーは読んだのである。

 

「となると、さ。此処は撤退するん?」

「あぁ。一先ずサードレマからラビッツに帰って、対策を練り直さないとだ。あの2体にリベンジする為にも、態勢を整えなくちゃな」

 

そうと決まれば、善は急げ。得た情報を持ち帰り、安全圏で思考して、今後の対策を組み立て直さなくてはいけない。ペッパーはアイトゥイルをマントに隠して、千紫万紅の樹海窟を走り、サードレマへと帰っていく。

 

しかし其の途中で、1人と1羽はクアッドビートルに樹液を横取りに来たと、勘違いされて襲い掛かけ回されたペッパーは、怒りのマッドネスブレイカーをクアッドビートルに叩き込みまくり、アイトゥイルの援護も有って10分での討伐に成功。

 

致命魂の首輪により経験値が半分になりながらも、漸くレベルが1つアップし、さっさっと素材を回収してサードレマへと急ぎ帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千紫万紅の樹海窟とサードレマを繋ぐ門を潜り抜け、人気の無い裏路地に逃げ込み、アイトゥイルが開いた兎御殿行きのゲートを越えて帰還したペッパーとアイトゥイルは、御殿の縁側に移動して腰掛け、早速作戦会議を開始する。

 

「一先ず今後の目標としては、特殊クエストは進行させつつ活動範囲を広げ、レベリングを行うために、サードレマから行ける3ヶ所のエリアに住むエリアボスの攻略と、其の先にある3つの街に到達する事を、此の先の目標にします」

「成程…ワイの扉を作る魔法も、一度行った街にしか作れないのさ。活動範囲拡張は急務と言う訳なのさ」

 

サードレマは街としては確かに広いものの、何時までも留まれば、他のプレイヤーによって此方が何処から出てくるか等の、法則性を暴かれる可能性が在る。

 

活動範囲が広がれば、追手が来たとしても別の街に避難出来るメリットも有るので、やらない手はないだろう。

 

「そしてもう1つ……『風と嵐を纏う』。此れが何を意味するのかを、先生に聞いてみたいと思う。先立ちの御方なので其れを知っているかもしれないですし」

「確かに…ワイも其の意味は解らんさが、オカシラなら知っている可能性も大いに有るさね。ただ……」

 

アイトゥイルは当たり前の、しかし納得の行く言葉をペッパーに言った。

 

「オカシラは何時も兎御殿に居る訳じゃないのさ。何処かに出掛けてるらしいんけど、何をしに行ってるのかは、ワイにも解らないのさ」

 

ラビッツの頭を張るヴァイスアッシュは、何時でも兎御殿に居るとは限らない。機会を見計らって聞くのが良いだろうと、ペッパーがそう思った時である。

 

「おぅ、どうしたぁ二人とも。随分と考え込んでるみてぇだがよぉ」

 

ドスが効いた強い声が後ろから突然聞こえ、振り返ると何時から其処に居たのか、ヴォーパルバニーの大頭・ヴァイスアッシュが立っている。

 

「ほひゃあ!?先生!?」

「あ、オカシラさぁ~。何処行ってたんさね?」

「まぁ、オイラの『顔見知り』んとこにな。んで、何か有ったか?」

「はい。実は……」

 

ペッパーはヴァイスアッシュに、千紫万紅の樹海窟に探索に行った事、其処でエンパイアビー・クイーンの巣やクアッドビートルと戦った事。

 

そして樹海窟の奥の方で、蛍が導かれた先に居たティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスと遭遇し、彼等が自分を『勇者』と呼び、『風と嵐を纏い出直して来い』と言った事、そして自分は殆ど何も出来ずに敗北した事を、包み隠さず話した。

 

「ほぉ……おめぇさん、あのクワガタとカブトムシ相手に、こっぴどくやられたのか」

「ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの事、知っているんですか?先生」

 

問い掛けに「まぁ、な」とヴァイスアッシュは答え。ペッパーとアイトゥイルの近くに立って、人参型の煙管で煙を吸い込み、縁側から見える空へと吹いた後、彼はこんな事を呟く。

 

「なぁに……こいつぁ、一線を退いた老兎の独り言葉。…聞くも聞かぬも、おめぇさん次第だぁ」

 

ペッパーは此れから、ヴァイスアッシュが特殊クエストに関わりそうな、重要な話をするのかもしれないと予感し、縁側で腰掛けていた姿勢を正座へと直して、背筋を伸ばして静聴する。

 

「むかぁしむかしの、そのまた昔の噺さ。とある人間の一人が、蒼空を翔ぶ事を夢に見た」

 

ヴァイスアッシュが語り始めたのは、空を夢見た一人の先人の話。人が空を翔ぶ夢物語を叶えた、人間の話。

 

「そいつぁ蒼空を翔ぶために、色んな馬鹿をしたってなぁ。実験、研究、肉体改造………其れ等諸々行って、一つの『答え』を世界に産み出したってんだ。人はそいつの答えで、蒼空へと舞い上がり、自由に翔ぶ力を得た。人は鳥みてぇに、蒼空を舞えるようになったのさ」

 

実験と研究は解らなくもないが、肉体改造とは一体何をしたのか。マッドな雰囲気が漂うが、どうやら其の研鑽が実り、人々が空を翔べるようになって、其の人は夢を叶えたのだと解る。

 

「だがなぁ……示した答えを、他の連中が奪い取らんと争いが起きてな。そいつぁ夢に見た蒼空が、哀しみで染まってく様を嘆いて、産み出した(モン)をたった一つ遺して、他全てをぶっ壊した。そして遺った一つを『器』・『機構』・『魂』の三つに分けて、別々の場所に仕舞ったらしい」

 

化学や発明は人を豊かにする。一方で豊かに成れば成る程、其れを用いて更に豊かに成ろうとする連中は、何時の時代も当たり前のように現れる。他者を突き落として、其の利益を独占しようとする輩もまた然り。

 

欲望とは『底無し沼』だ。一度でも度坪に嵌まれば、脱け出すのは容易な事じゃない。際限が無いからこそ、誰かが其れを断ち切り、負の連鎖を終わらせなくてはならない。其れが産み出した者の、運命であり、責任であるのならば尚更だろう。

 

「そんでぇ、其の内の一つたる『魂』は、今もクワガタとカブトの奴等が、何世代に渡って、今尚守り続けててなぁ。……律儀で筋が通った奴等さ」

 

二本の巨木の先に見えた宝石。おそらく其れが、空を翔ぶ『答え』の為に必要な、三つの要素の一つで間違いないだろう。

 

「クワガタとカブトムシはよぉ…今も待ち続けてるのさ。そいつが描いた、蒼空へ翔ぶ夢と願いを紡げる…強き者が現れるのを。

 

アイツ等が、おめぇさんを『勇者』って呼んだのぁ、犬っころに力を示して認められたからってだけじゃねぇ。人と人の(えん)繋いで、此処まで来たってのもある」

 

ヴァイスアッシュの台詞から、ペッパーは此れまでクリアしてきた2つの特殊クエストの評価によって、あの二体の昆虫がどちらか単独で戦うか、もしくは両方同時に戦う事になるのかで分岐していた事に気付く。

 

そして同時に、此処までやって来た事の全ては、決して無駄では無かったのだと思った。

 

「だが………おめぇさんは、まだ『弱い』。己の牙を研ぎ澄まし、ヴォーパル魂を高め、そいつが遺した『夢』を継げるだけの実力を、胸張ってアイツ等に示してやりなぁ」

 

そう告げて、ヴァイスアッシュは去っていく。ペッパーはヴォーパル魂の事は解らないままではあったが、彼の其の大きな背中を見て、「はい!先生!」と述べた。

 

今の自分は弱い。然れど逆に捉えるならば、自分はまだ『成長』の余地を残している事。成すべきは、己自身のレベルアップ。致命魂の首輪が掛かった状態でも、必ず規定値に到達してみせると、闘志を燃やしていくのであった……。

 

 

 

 






強くなるため、決意を新たに




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脚とは歩むだけに有らず、困難を踏み越える為に有りて



ペッパー、新たな活路を見出だす




ヴァイスアッシュの激励を受けた後、ペッパーはアイトゥイルと共に、兎御殿の鍛冶場にやって来ていた。

 

「ビィラックさん、居ますかー?」

「ビィラック姉さん、居るかいなー?」

「ペッパーにアイトゥイル。2人してどないしたよ?」

 

金づちや金床を始めとした、鍛冶師の道具の数々を磨いているビィラックが居り、何をしに来たのかといった表情で此方を見ている。

 

「あぁ、ビィラックさん。実はさっきまでアイトゥイルと一緒に、千紫万紅の樹海窟に行って来てて。其処でエンパイアビー・クイーンの(コロニー)の攻略や、クアッドビートルを倒して、其の素材を持ってきたんですよ」

 

アイテムインベントリから討伐で手にした素材達をペッパーは取り出して、ビィラックに見せていく。

 

「因みにな、ビィラック姉さん。今ペッパーはんが見せとるクアッドビートルの素材は、ワイとペッパーはんで10分以上掛かって漸く討伐出来た程の、かなり強靭な甲殻しとるさね」

 

アイトゥイルの言葉に、ビィラックはクアッドビートルの素材の中にある甲殻を、両手で力一杯持ち上げて裏表を見渡し、表面の肌触りを見ながら言った。

 

「…こりゃ良い甲殻(ガワ)じゃけぇ。お前(ワリャ)の打撃や、アイトゥイルの炎にも長く耐えた、上質な素材じゃな。んで、コイツ等を新しい武器や防具にするんか?」

 

ビィラックからの問いに、ペッパーは彼女に『クアッドビートルの素材を使った防具と、エンパイアビーの素材を使った武器を拵えて欲しい』と言おうとしたが、先程の甲虫達との戦いを振り返り、こう言ったのである。

 

「あ~、其れなんですけど……此の素材で『ガントレッグ』を造って貰えませんか?」

「……すまん、ペッパー。今何と言った?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガントレッグ━━━━━通称『籠脚(こきゃく)』。籠手(こて)もしくはガントレットと双璧を成す、格闘戦に用いられる武具の1つであり、脚部に固定して使うタイプの武装である。

 

ペッパーはリュカオーンの呪い(マーキング)で、右手が使用不能になった事で陥った、手数の不足を補う戦術として、小鎚や短剣等の片手武器以外の、脚を使った戦い方を身に付けておきたいと考えたのだ。

 

「…………つまりペッパーは、ガントレットを脚用に調整したもんが欲しい━━━というこっちゃか?」

「はい。近接戦闘時に今のまま左手だけでの戦闘だと、右側からの攻撃に弱いのに加えて、いざという時に足で攻撃を『弾ける』ようにしたいと考えまして」

 

難しい注文を依頼したかなと、ペッパーは思っている。其れもそうだ、籠手やガントレットならば鍛冶師たるビィラックには理解出来ても、未知なる武器を空論で作る事は出来ないだろう。

 

「ふぅむ…脚用のガントレット、いやガントレッグか………」

「やっぱり難しいですよね…」

「………ペッパー、ワリャは本当に『面白い』のぉ。発想が『秀逸』じゃ…。そんな武具を聞いたら、鍛冶師の血が騒がん訳がないわ…!」

 

未知の武具作りに怖気付くところか、ビィラックは未知を『楽しんでいる』。自分の力で新しい物を産み出す事に、喜びと生き甲斐を彼女は抱いているのだ。

 

「ペッパー。ワリャの想い描くガントレッグの形は、頭ん中に出来とるかいな?」

「え、其れって…」

「四の五の言わずに、紙やら何やらに描き出してみ。わっちは『名匠』じゃ、そんじょそこらの鍛冶師とは『経験値』と『深み』が違う」

「…ありがとうございます!」

 

ペッパーはそう言って、ビィラックが持ってきた紙と鉛筆に、自分が想い描くガントレッグの形を示していく。

 

ベースに在ったのは、ブシカッツォとのビルディファイトで彼がビルドし、自分のノブ=ナッシュと激闘を繰り広げたリーエル、其の腕脚兼用装甲として使われたリジェクターアーマー。

 

其れを元に、クアッドビートルの勇角で爪先を、エンパイアビー・クイーンの針で膝のバンデージを構成。装甲をクアッドビートルの甲殻達を用いた、ガントレッグのイメージを紙上に築いてみせた。

 

「……おぉ、こりゃまた……!」

「出来そうですか?」

「うむ…此れだけ鮮明なら充分じゃな。じゃが此の手のタイプの武器は、わっち自身初めて作る。早くて2日…長く掛かっても5日は時間が必要じゃ。それでも良いか?」

 

名匠ビィラックでも、万全を期して製作したいのだろう。時間こそ掛かりそうだが、何とかなりそうだ。

 

「よろしくお願いします。あ、あとすいませんが、湖沼の小鎚と致命の小鎚、二本の修繕も頼んで良いですかね?立て込む形にはなりますが……ガントレッグ製作を優先してください」

「ん、わかった。承ったけの」

 

修理費はピーツの所でアイテムの取引をした分で作ることにし、アイトゥイルに一旦鍛冶場で待って貰い、急ぎ足でペッパーはピーツの元へ向かった。

 

取引では、帝蜂蜜(エンパイアハニー)が思った以上に希少アイテムであるらしく、此れ1つで回復ポーションの大幅なグレードアップが出来るそうなので、其れをピーツに売却して、多額のマーニに換金。

 

其の脚でビィラックの元に戻り、二本の小鎚の修理費を支払い、兎御殿の休憩室に在るベッドでセーブ&ログアウト。此の日のシャンフロを終えたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうするか……」

 

シャンフロをログアウトし、ペッパーから梓に戻った俺ではあったが、1つの問題に直面している。其れは『VRの格闘ゲーム』の経験自体皆無である事。

 

レトロゲームで人体の構造等をトレースし、自分の身体で再現したりはしたのだが、実際に電脳空間で自分自身を動かして戦う事は初めて。何よりガントレッグを使いこなすには並の格闘ゲームでは、真に研鑽を積めるとは言い切れない。

 

必要になるのは━━━━━『理不尽な発生』と『異常レベルの攻撃速度』、そして何より『全方位から攻撃が飛んで来る』レベルの格闘ゲームだ。

 

「………カッツォなら、此の手の格ゲーを知ってるかな」

 

決めたのならば即行動がセオリーだ、梓は早速スマフォのEメールアプリを起動して、ブシカッツォへメールを送り。直ぐに彼から返信のメールが届く。其の内容を返信してを幾つか繰り返し、梓は『あるゲーム』の購入を決めたのだった。

 

因みに、其の際のやりとりが此れである。

 

 

 

件名:何かオススメある?

 

from:A-Z

 

to:ブシカッツォ

 

プロゲーマーの視点から、オススメの格ゲー教えてくれ。内容としては、理不尽レベルの発生の速さと異常レベルの攻撃速度、そんで全方位から攻撃仕掛けてくるタイプのが良い。脚でパリィする練習がしたい

 

 

件名:Re何かオススメある?

 

from:ブシカッツォ

 

to:A-Z

 

脚でパリィって、何が起きたらそうなる

まぁ、理不尽な発生と攻撃速度なら、前に俺が奨めた『便秘』は其の類いの格ゲーだから良いぞ

何なら、未経験のA-Zに戦闘レクチャーをしてやっても構わん。報酬は何時ものラーメン一杯で

 

あとダウンロード版がオススメだ

 

 

件名:ReRe何かオススメある?

 

from:A-Z

 

to:ブシカッツォ

 

あっじゃあパッケージ版買いますね^^

それと明日は鉛筆との約束があるから、明後日の夜あたりに便秘にログインするよ。待てずに他のプレイヤーと戦ってるかも知れんが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、都内某所の電器店……。

 

「ありがとうございましたー」の掛け声を背に、ペッパーは店を出ていた。

 

「目当てのゲームは、内容が内容なだけに格安でゲット出来たわな」

 

電器店の中古エリアに鎮座していた、中古品のゲームのパッケージ版をレジ袋で揺らしながら、梓はアパートへ向かう帰路へと着く。

 

「永遠との約束のメールは今日来るし、其れを確認してから飛び込みましょうか。VRの……格闘ゲームの世界に」

 

ブシカッツォがオススメと言っていた、VR格闘ゲーム『ベルセルク・オンライン・パッション』━━━通称『便秘』。全ての攻撃が超速フレームで発生し、常識を逸脱した恐るべきバグ技達のオンパレード。

 

1日のログインユーザー総数100人以下でありながら、何故かプレイしていたユーザー達がゲームを離れたとしても、月日を跨いで時折顔を出したくなるという、不思議な魔力を含んでいる、所謂『クソゲー』の部類に入るゲームだ。

 

此の便秘の世界で、一介のプレイヤー『ブラックペッパー』として、ガントレッグを使いこなす為に足でのパリィの訓練をするべく、また新しい世界の扉を叩く。

 

其処で俺は、新しい出逢いを果たすことになる………。

 

 

 






胡椒よ、便秘にて技を学べ




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永遠なるセツナ、刹那なるトワ



ペッパー、ユニークシナリオを受注するの巻




電器店にてベルセルク・オンライン・パッションこと便秘の中古品パッケージ版を購入し、都内某所のアパートに帰って来た梓は、手洗いうがいを行って簡単な夕食を作り始めた。

 

献立は白米に葱と油揚げの味噌汁、そして豚挽肉を加えた野菜炒めに、プチトマトをデザート代わりにした夕飯を作り、何時も通りに「いただきます」と合掌して食し、何時も通りに「ごちそうさまでした」と合掌し片付ける。

 

皿を洗い、食後にホットミルクで一息着いて、シャワーを浴びて寝間着に着替えつつ、水分補給とトイレを済ませ。布団を床に敷いて、VR機材や水分補給用のペットボトルを近くに配置し確認を取る。

 

「水分補給よし、機材チェックよし……時間はそろそろ8時くらいか…。夜はビィラックさんが言ってた、リュカオーンの残照が刻まれてる致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)は振り回せない時間だからなぁ……。

 

となると、現状使えるのは白鉄(はくじ)の短刀と湖沼の短剣、そしてマッドネスブレイカーになる……だけどマッドネスブレイカーは出したら出したで、面倒な事になる未来しか見えないなぁ……」

 

今の段階で自分の使える武器を把握し、機材を頭にセッティング。布団に寝転がり、梓はペッパーと成ってシャンフロの夜の世界に降り立つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ペッパーは~ん。こんばんわ~さね~」

 

開眼一声、目の前にはアイトゥイルが自分を覗き込む様に座っており、吐息が若干酒気を帯びて臭い。彼女の手には瓢箪水筒と串焼きが握られ、其の近くの机には以前ティーブルが作ってくれた、マッドフロッグの串タン焼きが皿に置かれている。

 

窓の外に目を移せば、煌々と輝く美しい満月が夜空に昇り、雲一つ無い夜天を星の瞬き以上の輝きで、ラビッツと兎御殿を含めたフロンティア全域を、隅々まで照らしているかの様な美しさがあった。

 

「成程、此れは風情の効いた月見酒ですね」

「こんな良い夜に月見て酒飲まないなんて、勿体無いのさ……ペッパーはんも一口如何かいな?」

「気持ちは有り難いですが、これから待ち人との約束が在りまして。とても大事な話らしく、内密かつ口外禁止の厳戒令が敷かれた情報なんですよ」

 

ユニークモンスター・墓守のウェザエモン。因縁深きアーサー・ペンシルゴンが、此方のユニーククエストとの交換取引で俺に提示…もとい交渉から降ろさせない為に、先制パンチでぶちかましてきた特級レベルの爆弾要素。

 

他者にバレないように立ち回り続けてきた甲斐が、漸く実ったのだと安堵した束の間、夜闇を切り裂くように窓枠に1羽の梟がやって来て、自分に手紙を渡してくる。

 

画面には『伝書鳥(メールバード)が届きました』とのメッセージ、おそらくペンシルゴンからのメールだと、ペッパーは其の内容を確認した。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

あーくんへ

 

 

このメールが届いてるって事は、シャンフロにログイン出来てるみたいだね。四駆八駆の沼荒野で取引した時に話したけど、墓守のウェザエモンに関する情報を教えるよ。

 

今日を含めた満月の日の夜に、サードレマから行ける千紫万紅の樹海窟で、月の光が当たらない苔の壁が在るんだ。画像を貼っておくから、其処で私は待ってるよ。

 

 

《画像》

 

 

あと重々承知してるとは思うけど、此方に来るまでに誰かに付けられたりしたら、全力で振り切ってね。やむを得ない場合は、PKしてでも情報隠してくること。

 

まぁ、あーくんの事だから上手くやれると思うし、自分の手を汚したくないなら、おねーさんが張り切って暴れてあげちゃうから、多分問題無し。

 

ちゃんと来てね?……待ってるからね。

 

 

アーサー・ペンシルゴン

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

内容が内容なだけあって、PKしてでも漏らすなという強い意志を感じる文面。にも関わらず、最後の一文だけ何故だかしおらしいのに、ペッパーは強烈な違和感を感じた。此れは本当に『あの』ペンシルゴンが、自分に送ったメールで間違いないんだよな?………と。

 

「さて行くとしますか。アイトゥイル、ゲートをお願いします。それとゲートを開いた後は、其処で待機してて貰えますか?」

「其の人とぉ~密会す~るんさ~?」

「そうですね…二人だけで会いたいと言ってましたから」

「ほいさ~。わかったぁよ~。ワイは待機しててええんやなぁ?」

「はい。ゲートを開いた後、物陰に隠れてやり過ごして欲しいです。密会が終わり次第、直ぐに戻りますので」

 

「了解さ~」と酔いどれ気味になりながら、アイトゥイルはゲートを開き、サードレマの裏路地に出たペッパー。物陰にアイトゥイルは隠れ、彼は暗闇に紛れて人目を避けながら、千紫万紅の樹海窟へと向かう。

 

彼女と交わした契約を今こそ果たす為に、彼は樹海へひた走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千紫万紅の樹海窟に辿り着いたペッパーは、ペンシルゴンからのメールの画像を頼りに、苔の壁に沿いながら歩きつつ、彼女との合流を目指す。

 

ホラルマッシュルームの光や、木々の間から溢れる月光が、昼間とはまた違う幻想的な世界を樹海に彩り、昆虫達もまた命の循環に身を投じている。

 

そんな世界を横目にしながら彼は苔壁を視界に納めて進んでいき、数分程走った先で月明かりが当たっていない苔壁と、木の影に隠れていたペンシルゴンを発見する。

 

「お、来たね。あーくん」

「待たせたなら、すまん。トワ」

「ううん、私も丁度今来たところ。あーくん、誰にも付けられてないよね?」

 

「あぁ。問題なく」とペッパーが言い、ペンシルゴンは周りを見渡し、更には聞き耳を立てて、周りに他のプレイヤーが居ないかを確認した。

 

「…………OK。ちゃんと振り切ってるね。偉いよ、あーくん」

「其れくらい重要案件なんだろ?慎重にいかなくちゃな」

「うん。其れじゃ『セツナ』の元に案内するよ」

 

光苔の極一部……月明かりが照らされていない壁に、ペンシルゴンが手を置いて擦るように調べると、壁は崩れて人が一人通れるくらいの小さな穴が出現する。

 

「隠し通路か…」

「そ。此処を見付けたのは偶然で、必要なアイテムを樹海窟に取りに来た時に見付けたの」

 

ペンシルゴンの後に続く形で、ペッパーは穴の中を進んでいく。そして穴を抜けた先、二人の目の前には満月の輝きが一面に広がる、樹海窟とは別の吹き抜けたエリアが現れた。

 

地面には周りを囲うように、無数の彼岸花達が咲き乱れ、其のエリアの中心地点には、枯れ果てた大樹が一本聳え立ち。

 

其の根元には、幽霊の様に透明な『現代の服装』に身を包む、髪を三つ編みにし、下唇より少し離れた場所にホクロが有る、一人の女性が凭れ掛かって座っている。彼女は此方に……というよりは、ペンシルゴンに気付くと落ち着いた静かな声を発した。

 

『あら…アーサー。久し振りね』

「やっほー『セッちゃん』、1ヶ月振り」

 

彼女がセッちゃんと呼び、親しげに話している。本来、PKプレイヤーはNPCとの好感度補正が最悪まで下がるのだが、どうやら此のセッちゃんことセツナなるNPCは、例外のように見えた。

 

と…彼女はペッパーの方を見て、こんなことを言ってくる。

 

『今日は何時もの人達と違うのね』

「うん。彼はペッパー、私の後輩。そしてウェザエモンをはっ倒す『切り札』の1人(・・)だよ。まだまだ弱いけど、キッチリ育てるつもり」

 

現在のペッパーのレベルは30。弱いと言われても仕方無い事実である。しかしセッちゃん━━━━『遠き日のセツナ』は、首を横に振りながら言った。

 

『ううん…そうじゃないわ。『クロちゃん』の『強い気配』と『強い想いが籠った物』を、一緒に持ち歩いている人、私は初めて見たの。ふふふ……あの娘も、貴方を相当気に入ったのね』

 

セツナが言っている『クロちゃん』とは、十中八九『ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン』と見て間違いない。しかし装備せずに、アイテムインベントリに入っている筈の残照刻んだ致命の包丁の存在を、何故彼女が気付けたのか。

 

ペッパーの疑問は、唯々積もるばかりである。

 

「………ペッパー君、取り敢えず後で『オハナシ』有るから逃げないでね?」

「拒否権を行使します」

「駄目に決まってるでしょ?」

「さいですか」

 

そして其れを聞き逃さないのが、ペンシルゴンというプレイヤーであり、ペッパーは残照武器の存在を開示する事が無情にも確定してしまった。

 

『貴方のお陰で、昔の事を思い出せたわ……ありがとう、ペッパー』

 

朗らかに微笑んだセツナに、残照武器の事を許す形で「…どういたしまして」とペッパーは言う。

 

「早速だけどセッちゃん、ペッパー君に『アイツ』の事を話してあげられないかな?」

 

ペンシルゴンの言葉に『……わかったわ』とセツナが言って、ペッパーの目の前には画面が表示された。

 

 

ユニークシナリオEX

此岸(しがん)より彼岸(ひがん)(あい)()めて』

を開始しますか?

【OK】/【NO】

 

 

提示された画面にはそう表記されており、下には選択肢が出現。ペッパーはペンシルゴンの方を見ると、彼女は小さく頷いていた。意を決してOKボタンを指先で触れると、シナリオ開始を告げる表記と共に、セツナが静かに語り始める。

 

『彼……ウェザエモンは、私の恋人。ちょっとしたすれ違いで私が死んで…其れからずっと………ずっと、私のお墓を守り続けているの』

 

墓守のウェザエモンなる存在は、セツナの墓を守り続ける者。長く、永く、永劫なる時間を墓守として捧げているのだと言う。

 

(永劫の墓守…………其れがウェザエモンなのか)

 

『私が死んでから、どれだけの時間が経ったかわからないけれど…。気付いた時には『こう』なっていた…死んだことを、未練に思っている訳じゃないのにね』

 

木に右手を添え、セツナはそう言って話を続ける。

 

『過去とは終わり…。終わってしまった過去であって、誰かの今…未来を縛るものじゃないの……。だから今もあの人が、私の(過去)に縛られ続けている事が、私には耐えられない……』

 

ゲームであれば幾らでもセーブ&ロード、そしてセーブデータのリセットでやり直し、過去や現在、そして未来さえも変える事は出来る。

 

だが現実は、過ぎた過去は巻き戻す事も、やり直す事も出来ない。人生とは、やり直しもリセットも不可能の、1回個っきりのライブゲーム。

 

ウェザエモンは今も尚、セツナを喪った過去に囚われ、時計の針が止まったように、未来への歩みを止めているのだと、ペッパーは思う。

 

セツナは木から空に淡く輝く満月に視線を移して、ペッパーとペンシルゴンに言った。

 

『彼は私が構築したプログラ……ん……魔法で結界を構築したの。月光の宿す魔力を利用して座標を次元の裏側に『反転』させる事で、誰にも干渉出来ないようにした』

 

(ん…?今、プログラムって言おうとしたか?)

 

セツナの台詞にペッパーは疑問を抱くが、彼女はウェザエモンと戦う際に必要な、重要な事を話していく。

 

『でも『新月の夜』に……月の光が失われた時、結界に綻びが生じて、彼が居る『裏座標』に通じる道が生まれるの』

 

詰まる所━━━━墓守のウェザエモンは満月の夜の時間帯に、NPCのセツナと会話してシナリオを受注し。2週間後に訪れる新月の夜の時間帯に、此処から裏側に居るウェザエモンとの戦闘を行うという事だった。

 

「此処から行ける裏側で、ウェザエモンと戦う事になるのか」

 

ペッパーの言葉に、セツナは静かに頷き。二人の方に向き直り、彼女は頭を下げながら言う。

 

『どうか、あの人を。……ウェザエモンを眠らせてあげてください』

 

彼女から感じる切なる願い。恋人(自分)を強く、そして誰よりも深く想うが故に、其の死を理由に自らを(過去)に縛り付ける、自分が愛した愛しき男(ウェザエモン)を止めて欲しい。

 

そうしなくてはきっと、彼女自身も報われる事は無いのだろう………と。そんな考えを抱いていた矢先、ペンシルゴンがセツナへと堂々と言ってみせた。

 

「任せて、セッちゃん。私は必ず最強のメンバーを揃えるよ。そしてセッちゃんを困らせてる、頑固者のウェザエモンを張り倒してあげるから!」

 

外道の権化、悪辣の魔王、黒幕が相応しい称号たるペンシルゴンが、こうも熱く、溌剌とした言い方をしている事に、ペッパーは心中で風邪を引いてしまう。

 

「…お前がこうも熱く言ってみせるなんて、随分意外だわ。もしかしてペンシルゴンのそっくりさん?」

「よし、ペッパー君。今すぐ切腹して謝るなら、おねーさん許してあげちゃうけど、どうするかな~?」

 

良かった本物だと、土下座で謝る形で切腹を回避するペッパー。

 

「まぁ、なんだ……人が不幸になる様をゲラゲラ笑ってるペンシルゴンが、こうもNPCに入れ込んでのが珍しくてな」

「私だって、ちょっとくらい熱くなったりするよ…」

 

そう言ったペンシルゴンは、セツナの方に視線を向ける。透明ながらも、此方を見て微笑んでいる彼女を見ながら、言葉を紡いでいく。

 

「セッちゃん…セツナは何と言うか、こう……話の背景的にも、自分に重なるというか……他人事のように思えないっていうか……」

 

出し渋る彼女だが、俺には何となくコイツが言いたい事が解った。当たればきっと面白い事になる筈だ、なので此処は当ててやろう。覚悟しやがれ魔王め。

 

「…あ~。つまりアレかペンシルゴン。セツナに対して『本気(マジ)で感情移入しちまった』訳か」

 

肩で笑うように、ペッパーは言ってやった。ゲーマーが其のゲームを好きになる時には、様々な要因が働く。ゲームシステム、プレイ中に流れるBGM、壮大で手の込んだストーリー等、人によって変わってくる。

 

其の中でも『特定のキャラクターを好きになったり』、『自分自身に強く重ねたりする』事は割合的にも多く、かくいうペッパー自身も、数々のレトロゲームをプレイし、好きなキャラや自身に重なるキャラが見付かったりした時は嬉しい物があった。

 

「……そうですよ、ええ、全く以て其の通りですよ!笑えば!?ゲームで熱くなってる私を、笑ったらどうですかペッパー君!!!!」

 

図星というか、大当たりというか、顔を真っ赤にしてるペンシルゴン。そんな彼女を見たペッパーは、口角を吊り上げて胸を張り、堂々と胡座座りで。しかし其の眼は、キラキラと輝きながら言ったのである。

 

 

 

 

 

「笑わねぇよ、ペンシルゴン」――――と。

 

 

 

 

 

 

「ゲームで熱くなる?そりゃ結構だ。キャラに本気の感情移入?大いに結構!其れは今、此の瞬間、そして刹那に。お前というプレイヤー(ペンシルゴン)がゲームで『夢中』になってる証拠じゃねーか」

 

今、ペンシルゴンはセツナを救いたいと強く願い、そして未だ誰も彼もが倒せていない、絶対強者たる最強種の一角を落とすという、前人未到の偉業を成さんと挑戦している。

 

「ゲームは所詮『遊び』だ。時間が来れば中断するし、エンディングが終われば現実に戻る。そんな『遊び』だからこそ、人は『真剣』になれるし『夢中』にもなれる。だからこそ、此の一瞬一瞬を楽しみ抜いて、最後に笑って『嗚呼、愉しかったな』ってゲームを終われたなら。

 

其の時は、製作者や開発陣でも誰でも無い……お前の『勝ち』なんだよ。ペンシルゴン」

 

ゲーマーとして、思いっ切り言い切ってやった。自分にしては少しばかり、彼女に熱く語り過ぎただろうか。

 

「……ふふふ!あははははは…!あぁ、確かに…!確かにそうだ。…そうだったね……君は何時だって『ゲーム』の時は、其のスタンスだったね。ペッパー君」

 

そんな俺の言葉に、ペンシルゴンは笑った。其の笑いは恥ずかしさ等ではない、感謝に似た笑い声のようで。

 

「相手はシャンフロで、誰もが攻略出来ていない最強のモンスター、墓守のウェザエモン。けど、君のお陰で俄然燃えてきたよ」

 

座る俺に、ペンシルゴンが手を差し伸べて来て。俺は其の手を掴み取り、立ち上がる。

 

「やろう、あーくん。最強種討伐を」

「あぁ、お前との取引だからな。最後まで責任は果たすぜ、トワ」

 

満月が照らす、雲一つ無い月夜の下、二人の男女が共に夢を叶える誓いを立てた。ユニークモンスター討伐という偉業へと動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはそれとして、オハナシはサードレマの蛇の林檎(いつものとこ)でしようか?ペッパー君」

「デスヨネー」

 

 






遠き日のセツナの願い、ペンシルゴンの想い



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黒幕魔王に爆弾パンチをぶちかませ



ペッパーとペンシルゴンのオハナシ、そして詫び品納品




サードレマ・裏路地、蛇の林檎。

 

ユニーククエストとの取引で、アーサー・ペンシルゴンから墓守のウェザエモンと戦う為の方法を教えて貰ったペッパーだったが、ウェザエモンの恋人というユニークNPC『遠き日のセツナ』との会話により、リュカオーンの残照武器の存在が発覚した事で、彼女との『オハナシ』をしなくてはならなくなってしまった。

 

店内の一角に座って目の前のペンシルゴンに向き合うペッパーは、蛇に睨まれた蛙の気持ちを否応なしに体験している。彼女自身の顔()笑っているものの、身体から放つオーラは真っ黒であり、其の眼は頂点捕食者と同じ。

 

此れはどうやっても逃げられる雰囲気じゃない。

 

「さて、あーくん。色々グダグタするのはよろしく無いから、単刀直入に聞くけどさ。セッちゃんが言っていた『強い想いが籠った物』って何なの?」

 

やはり其れで来るよなとペッパーは思いながら、サイガ-100の時と同じように、切るべき手札と切ってはいけない手札についてを考え。

 

そして此の話し合いで、絶対に守らなくてはいけない要素は『ラビッツ』、そして『アイトゥイル』の2つに絞り込んだ。

 

「感情移入する程好きになったNPCの発言、相当気になりますか…トワさんよ」

「そりゃ、ね?セッちゃんが言った『クロちゃん』って言うのが、君が前に私が居る中でサイガ-100と話した『夜襲のリュカオーン』で在るとして、一体何なのかなって気になった訳なのだよ」

 

正直、残照武器に関してはあまり開示したくは無い。本来ならば、ランダムエンカウントである筈の『ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン』を、夜になれば、何時何処に居て、何をしていたとしても、確定で誘き寄せられる特級レベルの代物であり、これが他者の手に渡れば悪いことしか起きる予感がしないのだ。

 

だが相手はペンシルゴン………生半可な情報では、根掘り葉掘り深掘りして、全て所か其の先に隠してある物さえも暴こうとしてくる。彼女という存在をよく知るペッパーは、額に嫌な脂汗を流しながらも、第一声にこう切り出した。

 

「……実はセツナが言っていた『クロちゃんの強い想いが籠った物』なんだが……。夜の時間帯は見せたり、振っちゃならねぇって『とある鍛冶師』に、口酸っぱく忠告されてるんだよ………」

「ほほぅ、其れで?」

 

彼は左手でペンシルゴンを手招きし、彼女に耳を貸すようように誘導。ゆっくりと近付いてきた彼女の耳元で、ペッパーは簡潔に事実を述べる。

 

「簡単に言うと……夜の時間にリュカオーンを持ち主の元に召喚出来る包丁」

 

其の言葉を聞いた瞬間、ペンシルゴンは目に見える動揺と共に、コントのボケ役みたいな引っくり返り方をした。ぶちかましたパンチが思いっ切りクリティカルしただろう、ざまぁみやがれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本っっっっっっっっ当に君は、私の予想を斜め上に軽々しく超えてくるね、あーくん………」

 

数分程掛かって、漸く本来の落ち着きを取り戻したペンシルゴンは、蛇の林檎のマスターがサービスで持ってきてくれた冷水を飲みつつ、頭を抱えている。

 

「此の情報は正直に言うけど、他者に開示したく無いんだよなぁ……。今さっきのトワみたいに、思いっ切り引っくり返るだろうし」

「当たり前だよ。そんなもの出されたら、誰だって引っくり返るに決まってる」

 

だからこそ、自分はやりたくは無かったのだ。しかしペンシルゴンはオハナシで開示を要求して、自らの手でパンドラの箱の蓋を開けてしまったのだから、自業自得である。

 

「サイガ-100と話した時に俺は包丁の存在は明かしていないが、公になれば残照武器を大金積んで買い取るとか、其れこそ実力行使に踏みかねないだろうと睨んでる」

「そうだね……サイガ-100(あの娘)は『リュカオーン討伐に関して』言えば、全プレイヤーの中で『一番積極的』だし、其の為なら『如何なる手段さえ厭わない』から」

 

目的の為なら手段を厭わない人間は、何かの弾みで『オカシク』なる事は多々ある。だからこそ怖いのだ――あの手のタイプの人間が、『目的を叶えられる』道筋が整った瞬間の爆発力は、何者にも遮る事も、止める事も叶わなくなる。

 

ましてや、夜闇を駆け回るリュカオーンを『確実』に引き寄せられる『残照武器』等、サイガ-100にしてみれば、喉から手が出るところか、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)の全てを捧げてでも交渉して、手にする可能性すら出て来たのだから。

 

「取り敢えず、ペッパー君。君は引き続き、其の残照が籠った包丁を秘匿し続けてね。其れは何れ、私達の『切り札』になる時が必ず訪れる」

「当たり前だ。唯でさえ此方はユニーククエストも有るのに、これ以上の不発弾と面倒事を抱えるのは御免蒙りたいわ」

 

ウェザエモンとは別のユニークシナリオ――――『兎の国からの招待』と、シャンフロの全プレイヤーに恩恵をもたらすクエストを抱える身として、隠しておきたい情報は多々ある。

 

だが、最優先秘匿情報のラビッツ並びにアイトゥイルは、ペンシルゴンにも隠せたので良しとした。

 

「短いけど、オハナシは終わりにしましょうか」

 

此れで帰れる…そう思ったのだが、ペッパーは『ある事』を思い出して、ペンシルゴンを引き止める。

 

「あぁ、そうだペンシルゴン。そういや、渡しそびれてた物があったわ」

「ん?なぁに?」

 

ペッパーはアイテムインベントリの奥底に仕舞っていた、沼掘りの清歯から創ったネックレスが入った箱を取り出し、ペンシルゴンに手渡す。

 

「エンハンス商会に頼んで創って貰った、詫び品のネックレスだ。清歯のネックレスっていうらしいが、カルマ値とかいう数値が高いとデメリットが働くように出来てるみたいで、今のペンシルゴンには相性が悪いと思う。

 

気付かなかったとはいえ、本当にごめん。気に入らなきゃ、売却して金策の足しにするなり、好きにしてくれて構わない」

 

頭を下げて、ペッパーは謝意を見せる。此の状態はペンシルゴンからすれば、スクショも出来るし、何らかの煽りだって入れられるチャンス。彼女なら狙ってこない訳がない。多分数ヶ月は弄り倒される事になるだろうと、彼は身構えた。

 

「……あーくん」

 

そんな時だ。ペンシルゴンの声が聞こえて、ペッパーが顔を上げた。

 

 

 

 

 

「ありがとう………大事に、するね」

 

 

 

 

 

 

潤んだ瞳と赤くなった頬、嬉しさが溢れた心からの笑顔に、ペッパーの……梓の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

 

彼女の今の笑顔は、人を弄り倒して玩ぶ時の外道顔でも無ければ、カリスマモデルとしてカメラの前で取り繕った顔でも無い。

 

幼き日の、一緒に遊んでいた頃に見せた、まっさらな。何色にも染まっていない、天音 永遠の純心無垢な笑顔だった。

 

「あ………え、えっ………」

「ん~?どうしたのかな、あーく~ん?私に見惚れちゃったかな~?顔が赤いぞ~?ん~?」

「はぁ!?違うし!?全然、そうゆうんじゃないんだけど!?」

「では一体何なのかな~?ペンシルゴンお姉さんに言ってみようじゃないか~ホレホレ~」

 

どぎまぎで言葉が続かないペッパーに、此処ぞとばかりか弄りに来るペンシルゴン。何なんだ、此の感情は。一体何なんだ?……モヤモヤするし、ムカムカする。わからない、解らない、判らない。

 

「ホレホレ~。言っちゃった方が楽になるよ~?」

「言わねぇって!?」

 

(だけど……あの瞬間のお前は………)

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――『綺麗』、だったから」

 

 

 

 

 

 

 

 

意図せずに、ペッパーの口からホロリと零れた言葉だった。ペンシルゴンの動きが止まり、店内はより深い静寂に包まれて。

 

「……あ、え……?今…何、口走った……?」

 

僅かに早く覚醒したペッパーが見ると、其処には顔が完熟トマトの様に真っ赤に染まりきった、ペンシルゴンが居り。

 

視線が重なった瞬間、ボスン!と水蒸気爆発でも起きたかのような蒸気と音が鳴り、彼女は猛スピードで店を出ていってしまった。

 

「何だったんだよ……アレは」

 

結局、答えは見付からず。ペッパーはマスターに料金を支払い、其の足でアイトゥイルと合流。ラビッツへと帰還後、セーブ&ログアウトを行い、現実世界に帰って来た。

 

しかしトワの今までに見たことが無かった表情と、己の内に燻る理解出来ない感情に振り回され、悶々としたまま、翌日寝不足気味になったのである………。

 

 






其の贈り物に祝福あれ



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其れは誰が仕組みし運命か



バグだらけの格闘ゲームに、いざ出陣




「くあぁ~…。んんっ………眠い」

 

シャンフロにて、ユニークモンスター・墓守のウェザエモンに挑戦する為の段取りを踏み、ペンシルゴンとのオハナシをした翌日。

 

大学の屋上に寝転がり、大きな欠伸で青空を見上げる梓は、昨日の出来事があってからというもの、心の中が雨が降る前の曇天のような、スッキリしない気分に見舞われていた。

 

(何なんだ、此の変な感じ……)

 

ペンシルゴン……トワが清歯のネックレスを受け取った時に見せたあの笑顔は、確かに綺麗だった。外道でも無ければ、カリスマモデルとしてでもない、一人の女性の普通の笑顔で。

だからこそ自分の感情が、自分でも解らない。あの瞬間の笑顔が、頭に引っ付いて離れない。

 

と、自分のジーンズのポケットに入れたスマフォが、バイブレーションを鳴らし始める。何事かと画面をチェックすると、其処には『父』と一文字に着信電話が表示されている。

 

またアレかな…と、若干憂鬱気味になりながらも、梓は電話に応答した。

 

「もしもーし?」

『おぉ、梓。大学生活楽しんでるか~?』

「まぁね。アパートの生活も慣れてきたし、自炊も其れなりに出来てるよ。母さんは元気してる?」

『おうとも、元気過ぎて心配になるレベルでな!』

 

ガハハハハ!と電話越しで聴こえる父親の声に、相変わらずだなと梓は思う。高校卒業と大学進学を期に、彼は親元を離れて、小さなアパートで暮らしながら大学に通っている。

 

大学卒業までの間の学費は全て、親が負担する代わりとして、一浪せずに卒業する事と、其の間の生活費は全て自分で稼ぐ事の2つの約束をして、梓は大学に通っている。

 

『でだな、梓。そろそろ父さんと母さん、孫の顔が見たいんだが……お見合いする気にはならんのか?』

 

そんな良い雰囲気をぶち壊す爆弾発言が、父親の口から電話越しに聴こえる。

 

「あのさぁ……俺まだ19だぞ?一般的に成人年齢越えてるけど、大学生活始まったばかりなんですがねぇ……?」

『いやいや…父さん母さんも、何時死ぬか解らん。せめて梓が良い嫁さん貰うか、何処かに嫁いで孫の顔を見せてくれんと、死ぬに死ねないわ』

「……20手前で俺産んで、今も兎みたいに毎晩御盛んなのに孫求めるとか、どんだけ強欲かっての」

『そりゃそうさ。人間、次の未来に子供を残すのも使命だ。あと父さんと母さんは、自分の墓は遺すつもりはないからな、お前達に負担を掛けたくは無い』

 

今の日本は少子高齢化が前以上に拍車が掛かり、バイトの年齢が中学生レベルにまで引き下げられる程に低迷。

 

一部はロボットが補っては居るものの、専門家によるともう数十年しない内に、日本は高齢者を支える若者に限界が来ると警鐘を鳴らし、政府も其の対策の為の法律制定に動いているとのニュースを見た。

 

「墓は遺さない…か」

 

梓が思い出すのは、墓守のウェザエモン。幾星霜の年月を愛した人の墓を守る事に捧げた、ユニークモンスター。今尚、シャンフロのプレイヤーの誰もが倒せていない最強種。

 

其の最強を、ペンシルゴンは倒そうとしている。そして自分は其の結末を、最後まで見届けると決めたのだ。

 

『梓?どうかしたか?』

「……ううん、何でもない。そろそろ次の講義有るから、電話切るね。母さんによろしく伝えて」

『おぅ、頑張れよ!』

 

電話を切り、思いっ切り背伸びをして梓は講義を受けるべく、校内へと戻っていった。両親との約束をキッチリと果たす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大学の講義とコンビニでのバイトを終え、アパートの自室に帰った梓は、手洗いと嗽を行って、夕食の準備に勤しむ。

 

本日の献立はちょっとだけ豪華に、冷凍炒飯2袋の大盛りと市販のパック入りワカメスープ、リンゴ1個の柵切りで完成。いただきますと合掌して、炒飯を頬張り、スープとリンゴで舌を洗って、また食し。米粒一つもワカメ一枚たりとて残さず平らげ、ごちそうさまでしたと合掌する。

 

食器を洗い、水を一杯飲んで一休みし、シャワーを浴びて寝間着に着替えて布団を敷く。そしてVR機材に入れたソフトを『シャングリラ・フロンティア』から『ベルセルク・オンライン・パッション』――――『便秘』にチェンジし、何時ものように指差し確認。

 

トイレを済ませて、スマフォのwikiで基本的なバグ技を把握し、梓は機材を頭に被り、布団へと寝転がる。

 

(さぁてと…ブシカッツォは、既にログインしてるだろうか?まぁ、先に入って対戦してるとメールで言っといたし、大丈夫だとは思うけど……)

 

ログイン画面のOKボタンをクリックし、アバター設定画面が開く。便秘のアバターは男女共に分けられており、初期段階では某世紀末格闘漫画のモブモヒカン達の様な格好の衣裳しか無いが、ストーリーを攻略していけば徐々に種類が解放され、キャラメイクの幅が充実していく様だ。

 

「名前はブラックペッパーで、ベースは自分を元に、髪は黒に白毛メッシュ入りの青年。性別は男の背丈が180cmくらいにするか。で、タイプが有ってアタック・スピード・ディフェンス・バランス・テクニックの5種類から選べると。

 

此処はそうだな……足パリィの訓練をするから、テクニックで行くとしよう」

 

キャラメイクが完了し、梓は便秘の世界に飛び込む。オープニングが流れ、彼は此の世界の闘士『ブラックペッパー』として新生するのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

核による人類史の崩壊で荒廃した大地と、人が確かに住んでいたであろう痕跡が遺る、混沌とした世界。信じられるは、己の拳と脚1つのみ。

 

さぁ戦え。此の世界を、お前の色に染め上げてみせろ――――!!

 

「…………って言うのが、便秘の世界観らしいが……。某世紀末格闘漫画そっくりだな、本当に」

 

今現在が夜というのもあり、空は真っ黒で星が瞬いて、周りには焚き火が灯る。何よりもブラックペッパーが驚いたのは、此の時間帯であるにも関わらず、人の気配が1つたりともしない事だった。

 

「過疎ってるとはwikiには載ってたが、此処まで成ると笑えないわ……」

 

過疎ゲーかつクソゲー。其れで有りながらも、物好きなゲーマーを惹き付ける魅力が、此の便秘にはある。足パリィを習得する中で、其れに気付けたならばきっと、ゲーマーとして良い経験になるだろう。

 

「ブシカッツォが来るまでストーリーモードでも進めて、実際にバグ技を試し……ん?」

 

ストーリーモードを進めるべく、ブラックペッパーが移動していると、視界の先に1人のプレイヤーを見付けた。

 

顔立ちは整った中々のイケメンで、髪は後ろに上げている様。衣裳も黒で統一され、肩だしジャケットに半ズボンと黒ブーツ、肩と拳に手首を包帯に似たバンデージを巻き付けた男性プレイヤーが居る。

 

「あ、あの!其処のプレイヤーさん!」

「ん?」

 

声を掛けると、彼が足を止めて此方に振り返ってくる。プレイヤー名は『サンラク』とあり、見たところ上位プレイヤーの様だ。

 

だが俺は彼の顔を見た時、既視感を抱いてた。此のプレイヤーの顔を、何処かで見た覚えが在る……と。

 

「えっと、何すか?」

「あ、その…実は俺、今さっきログインしたばかりで…今日始めたばかりの新参なんですよ」

「えっ」

「なので、先達の方々に教えを乞いたいと思っています。よろしくお願いします」

 

そう言って頭を下げるブラックペッパー。逆にサンラクはと言うと、過疎ゲーに新規プレイヤーがやって来た事に驚愕の表情を浮かべていた。

 

「マジすか、新規ですか」

「はい、なのでよろしく……ん?」

 

声のトーン、笑った顔、目の輪郭………既視感にパズルのピースが埋まるように、ブラックペッパーは其の『答え』に辿り着く。

 

そうか、此のプレイヤーは――――――!

 

「もしかして………『楽朗』君、か?」

 

其の一言に、サンラクは思いっ切り吹いて。そして自分の正体に気付いたようで、答えを提示してくる。

 

「え!?もしかして………コンビニのお兄さん!?」

「あ、はい。コンビニのバイト店員のお兄さんダヨー」

 

毎度コンビニでエナジードリンクを購入し、特にライオットブラッドがお気に入りの、何時しか顔見知りになった少年。

 

種類(ジャンル)を問わず、数多のレトロゲームを攻略と、アーケードゲームの最高記録を塗り替え、更新して来たレトロゲーマーの五条(ごじょう) (あずさ)

 

数々のクソゲーを踏破して、其のクソゲーをプレイしたゲーマーから様々な異名で呼ばれ、恐れられたり尊敬されたり憧れられたりしている、クソゲーマーの陽務(ひづとめ) 楽朗(らくろう)

 

後にシャングリラ・フロンティアにて、幾多のユニークの発見と世界を突き動かす事になる、2人のプレイヤーが便秘の地にて邂逅した瞬間であった。

 

 

 






主人公と主人公が交錯(クロス)する



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プロとクソとレトロのトライアングル



三大ゲーマー、便秘に集う





「いや、マジすかブラックペッパー。クソゲーに興味有ったんすね」

「まぁ、此れを始めるに至った経緯が経緯で、色々とね…。ら…じゃなくてサンラク君は、此のゲームはやり込んでるの?」

「そうっすね。ストーリーモードのラスボスまでクリアしましたよ」

 

ログイン初日にコンビニバイトで顔見知りの楽朗ことサンラクと出逢ったブラックペッパーは、先輩としての彼から色々な話を聴いたりしていた。

 

やはりこのゲームは、ブシカッツォの言っていた通り、攻撃発生やスピードが尋常では無いらしく、反射神経の優れていないプレイヤーはかなり苦戦を強いられる事になるらしい。

 

「あ、そうだサンラク君。対戦希望しても良いかな?」

「お、良いっすよ。バグは有り無しどっちで?」

「勿論有りで。よろしくお願いします」

 

ブラックペッパーの便秘初の対戦相手はサンラクとなり、3ROUNDの2本先取のルールで戦いのゴングが夜空に響く。

 

「……………」

「お、攻めてこないか」

 

ブラックペッパーは体勢を中腰にしつつ、掴みや打撃に対応可能のオーソドックスな構え。対するサンラクは半ズボンのポケットに両手を入れて、どっしりと構えている。

 

(確かこういうシチュエーションには……『アレ』が使えたな)

 

ブラックペッパーは頭の中で思考を重ね、にじり足で左足を下げ。そして『僅かに前に』身体を動かし、振るう。

 

「!」

 

彼が繰り出した『コレ』は、便秘wikiに載っていたバグ技の1つ。足を用いたバグの中に『ヨーヨー』と呼ばれる、アバターの判定をテクスチャごとずらした技から派生した物。

 

腕もしくは足を繰り出す際にヨーヨーの容量で、アバターの判定を『前に繰り出す』事で、前方並びに真っ直ぐ限定ではあるが、超スピードのストレート攻撃と強烈なノックバックが繰り出せる。其のバグ技の名を、便秘プレイヤーは『ゴムパッチン』と読んでいる。

 

「おぉ…便秘始めたてで、ゴムパッチン出来るとは。思った以上にやるな、ブラックペッパー」

「な…!?」

 

サンラクの声がして、ブラックペッパーは驚く。何と彼は『首を僅かに横に曲げただけで』、超スピードのゴムパッチンを躱わしていたのである。

 

「ゴムパッチンは確かに、中距離での技選択としては『悪くはない』。けど、其のバグ技は外した場合の『リスク』がデカい!」

「ッ…『戻しが間に合わない』!」

 

ゴムパッチンは貴重な遠距離攻撃ではあるが、当然ながら『デメリット』も抱えている。其れは外した場合に足が伸びきり、自身に戻るまでに『3秒』動けなくなってしまう。

 

つまりは3秒間、動けない状態で相手の攻撃に晒される事になり。

 

「食らえ!」

 

至近距離での攻撃を防ぐ手段が、限られる事になる。サンラクの腕がパンチモーションを発動した瞬間、捻って戻された事で腕が『弛み』、ぶるるんと揺れる。

 

便秘初心者必修バグ技(・・・・・・・・・・)とされる其の技は、2段ヒット&威力2倍の破壊力を秘め、攻城兵器より名を賜った技。

 

其の名を――――――――

 

「パイルバンカー!」

「ごふぅえ!?」

 

ブラックペッパーの顔面に思いっ切りサンラクの拳がめり込んで、所謂『前が見えねぇ状態』になった所に、追撃とばかりのパイルバンカーラッシュが叩き込まれまくり、ブラックペッパーの体力は底を着いて『KO!』判定が下されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れからブラックペッパーはサンラクと、十数回に渡るバトルを続けたのだが、結果は兎に角酷かった。ある時はROUND開始時に『2人』に分身するバグ技『ドッペルゲンガー』で袋叩きにされたり。またある時は回転回避で起きるバグ技で『スライムのように身体が変形』して、大蛇固めを掛ける『メタモルフォーゼ』で絞め落とされたりと、散々な結果になっている。

 

だがブラックペッパーもゴムパッチン以外に、相手に合わせたヨーヨーの発動や、其れに合わせたゴムパッチンにパイルバンカーを狙いにいけるようには成った。

 

「良いぞ、ブラックペッパー。だがしかし、まだまだ甘いわァ!!」

「ッ、くそ…!同じパイルバンカーでも、此処まで違うのか…!!」

 

パイルバンカーとヨーヨーの合わせ技、ならぬ『バグ合わせ』に、ブラックペッパーはヨーヨーで距離を取るが、サンラクは其の選択を待っていたとばかりにヨーヨーを発動し、右拳を捻って戻して飛んで来る。

 

(ヤバい!避けるか…って違う!逃げられないんだろ!?!だったら『脚で弾けよ』!思い出せ、何の為に便秘をやってるんだ俺は!!)

 

思考が高速で処理されて、脚でパリィを行う為に全神経が一瞬の為に統合されていく。足の位置調整、蹴りの為の体幹設定、視覚の情報のインプット。

 

サンラクの狙いはパイルバンカー、そして其の着弾地点は――――自分の鳩尾。

 

「ッ!!此処…だぁああ!!!」

 

蹴りのモーションで身体を前に、ゴムパッチンを発動。サンラクのパイルバンカーを、下から吹っ飛ばす形で大きく後ろに弾き飛ばす。其の瞬間、ブラックペッパーの頭の中で『脚パリィ』の理想とする型が明確に定まった。

 

見てからでは遅い――――頭の中で『落ちものパズルゲーム』の最終局面を『反射』で処理を行うように、其の場面を『1枚の写真』にし、次に『相手の行動』を予測。最後に視線や状況を精査して『脚を合わせる』事が、脚パリィを可能にする為の『真理(こたえ)』だと悟ったのだ。

 

「マジか!?其の局面に、脚でパリィしてくる!?」

「今度こそ決めッ――――!?!」

 

サンラクもノックバックされながら、思わぬ一手に驚きを隠せない。ブラックペッパーも、此処までやられた分の反撃とばかりにパイルバンカーのモーションを行う。

 

だが、サンラクが弾かれた片手ともう片方の手を、半ズボンの中に突っ込んだ瞬間、とてつもない悪寒が走り、攻撃を中断する。

 

「!どうした、今のチャンスだったろ?」

「何でしょうね。………もし、彼処で突っ込んでたら、俺は『負けてたかも』しれなかったので」

 

冷や汗を流し、されどブラックペッパーは構えを緩めない。あらゆる可能性を考慮した思考と、慎重さが彼の真骨頂なのだ。そして思考をしていく内に、ブラックペッパーは『気付く』。現状の自分では、サンラクを相手に『倒す事が出来ない』と悟る。

 

「一か八か…やるしかない!」

 

ブラックペッパーは右足でゴムパッチンを行う為のモーションを行い、サンラクが迎え撃たんと膝を曲げて構えた。其処の局面に彼は、蹴りモーションをステップによって解除した時――――――『バグ』は起きた。

 

 

 

 

繰り出した右足が、ブラックペッパーの前に『無数に分裂』したのである。

 

 

 

 

「は!?え!?何、其のバグ技!?」

 

サンラクは、突然起きた謎のバグに驚き。

 

「うわあああ!?なんじゃこりゃあああ!?」

 

ブラックペッパーは、自分の足が突如烏賊のように増えた事に、もっと驚いて。

 

更に驚いたのは、分裂して増えた脚がブラックペッパーの意識もしないまま『独りでに』、しかも『連続』でゴムパッチンを繰り出し始めた事。

 

其の光景はさながら、まるで大口径ドラム型ガトリングガンキャノンで撃ち抜かれて、ミンチより酷い処刑をされる死刑囚のようだ。

 

「えっちょ!?どういう事なの!?サンラク君逃げて!!今すぐ逃げて!?!」

 

自分でも制御不能の連続脚擊が、サンラクに迫り来る。しかし当の本人は、明鏡止水に似た凄まじい落ち着きをしており。

 

「1回受けてはみたいが、此の速度なら――――――『全弾撃ち落とせる』ぜ!」

 

ギギギッと、両手を突っ込んだ半ズボンから音が聞こえ。其の直後――――無数の拳がポケットより放たれて、無数の脚と激突する。叩き落とし、砕き割り、襲来する脚達を次々とポリゴンに変えていく。

 

何が起きているか解らなかったが、ブラックペッパーは其れを見てこう思ったのだ。まるで居合の拳が、流星群のように瞬いている……と。

 

永遠に続くと思われた、打撃と打撃の応酬は、サンラクが繰り出した連打によって、突然増えたブラックペッパーの脚擊を、宣言通りに全て撃ち落としきり。

 

最後は見とれていたブラックペッパーに、サンラクはヨーヨーで接近。先程と同じ流星群のような拳の連打を叩き込み、体力を0まで削り切ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………負けたわ。凄いな、サンラク君」

 

拳の流星群を全身に叩き込まれ、地面に大の字に延びたブラックペッパーは、ポケットに手を入れたまま此方を見下ろす、サンラクに言う。

 

「いや…あの時の脚パリィは正直ビビった。ゴムパッチンで吹き飛ばすのは、俺でも予測出来なかったし。何より『新しいバグ技』が見れたから、スゲー良い気分だぜ」

 

ガトリングに似たゴムパッチンの連射、自分の意識と無関係に発動した其れが、サンラクの言ったバグ技なのだろう。

 

「………今回()俺の負けだけど、お陰で『脚パリィ』のコツを掴めた気がする。ありがとうサンラク君、初心者の俺とバトルに付き合ってくれて。其れと……次は俺が勝つよ、サンラク君」

 

サンラクに対し、ブラックペッパーはリベンジ宣言を突き付ける。其の目には必ずやって見せると、強い意志を込めて。

 

「おう。あと何て言うか…君付けじゃなくて良いっすよ、俺を呼ぶの」

「………解った。じゃあ『サンラク』って呼ぶよ」

「あぁ。よろしく、ブラックペッパー」

 

互いに握手を交わし合い、ブラックペッパーにとっては、便秘での初めてのフレンドが出来た。

 

「で、ブラックペッパーは何で便秘に?」

「あぁ、其れなんだけど。実はゲーマー仲間と待ち合わせしてて、此処で脚パリィの練習をしたくて。そろそろ来るかと……」

 

「おーい、ブラックペッパー!やっぱ先に戦ってやがったかぁ!!」と聞き覚えの声が背後から聞こえ、振り返ると其処には白で統一された服に、両手に白い鉄製のガントレットを、両足に白地のブーツを履き、薄朱色のヘアバンドで目元を隠した金髪の男性プレイヤーが走り寄ってきた。

 

プレイヤーネームは『モドルカッツォ』。間違いない、カッツォだ。

 

「モドルカッツォじゃねーか。随分久し振りなログインだな?」

「おう、サンラク久し振りだ。前にメールしたろ?便秘に新人入ってくるってよ」

「え、てことはブラックペッパーが?」

「はい、カッツォの知り合いのブラックペッパーです。改めてよろしくお願いします、サンラク」

 

ペコリと御辞儀をしたブラックペッパー。其れを見たモドルカッツォはサンラクに言った。

 

「因みになサンラク、こ…ブラックペッパーはレトロゲームが強くてな」

「ほぅ……んで?勝率はどんくらい?」

「恥ずかしいが…レトロ格闘ゲームに関して、コイツは俺より勝率は『上』だ。しかもコイツ『鉛筆』とも知り合いで、鉛筆の奴とブラックペッパーは今『シャンフロ』をやってるんだとさ」

 

カッツォからの紹介に、サンラクは「マジか」と驚愕していた。其れもそうだ、日本国内延いては世界強豪選手相手にバラつきこそあれど、殆どの相手に勝率7割を切らないカッツォが、得意としているジャンルのゲームで負け越している事実を、サンラク自身にわかに信じ難かった。

 

しかし普段からナチュラルに毒舌を吐くカッツォが、ブラックペッパーの実力を認めている事から、其の言葉に嘘が無いと思ったのである。

 

「マジかよ………っうか、ブラックペッパー。お前『鉛筆戦士』と知り合いなのか」

「ん?『鉛筆戦士』…?もしかして…カッツォが言ってた『鉛筆王朝を革命したクソゲーマー』って、サンラクだったの?」

「あぁ。というか其処まで知ってんのか」

 

コクリと頷いたブラックペッパーに、サンラクは更に驚いた表情をしている。日本最強のプロゲーマー、そして天下のカリスマモデルと知り合い。もしかしてコイツ、実はとんでもない大物なのではないか?……と。

 

「でだ、サンラク。実は俺、シャンフロ始めようかと考えてる」

「え、マジで?」

 

そんな折、モドルカッツォの爆弾発言が飛んで来て、サンラクは目を丸くする。其れも其の筈、モドルカッツォは理不尽を叩き付けてくるクソゲーを、自分と同じように好んでいる。

 

故にクソゲーから、文句無しの神ゲーに挑戦しようとしているゲーマーフレンドの真意が解らなかったのだが、其の理由をサンラクは知る事になる。

 

「前に鉛筆から俺個人にメールが来ててさ。アイツ『今の流行りのシャンフロをプレイしないとか、シナシナに干からびたカッツォ君ダッサーイ♪そんなんで、プロが勤まるんでちゅか~?』なんて、文面に全力煽り入れて来やがった。

 

ちょっとムカついたし、何か企んでるらしくてな……俺自身もシャンフロには少し興味が有るし、やってみようって思ってる」

 

モドルカッツォがシャンフロを始めようとしている理由は幾つかあるものの、半分は鉛筆戦士からの全力煽りが有って、もう半分は『ある情報屋』からもたらされた『情報』が理由になっているのだが。

 

と、サンラクはモドルカッツォにこんな質問を投げ掛けてきた。

 

「仮にお前……シャンフロ始めたら、鉛筆と一緒にプレイしてない俺を、全力で煽り倒す気だろ?」

「当然。しっかり煽らせて弄り倒してやるから、覚悟しとけよな~、クソゲーマーサンラクぅっ~?」

 

悔しい事にブラックペッパーの脳裏には、ペンシルゴンとカッツォが一緒になって、サンラクを煽りまくる情景が簡単に想像出来てしまった。一方でゲラゲラ♪と煽り笑いするモドルカッツォに、サンラクの後頭部と額に青筋がビキリと浮かび上がらせ、そしてモドルカッツォに言ったのである。

 

「あぁ、じゃあやってやろうじゃねぇか、モドルカッツォこの野郎!『フェアクソ』クリアしたら、速攻シャンフロ始めてやっから、覚悟しとけよこんにゃろう!!」

「サンラクおま、あの伝説的クソゲーの『フェアクソ』やってんの?!」

「マジ邪神のクソ尼がクソ過ぎてムカつきまくって、便秘で発散しに来たんだよ……!ホントあの野郎、マジゆ"る"さ"ん…!!!!」

 

プロゲーマーとクソゲーマーが何か話をしている。フェアクソ?何なんだ、其のゲームは……。

 

「あー…邪神思い出したら無性に殴りたくなってきたわ。ブラックペッパー、モドルカッツォ、バトルしようぜぇ…!!」

「え、俺ボコボコにされたばかりなんですけど!?!」

「お、良いじゃん。ブラックペッパー、実戦形式でバグ技沢山体験しようか?」

「もうサンラクとの戦いで、俺既にお腹一杯何だけどさぁー!?!」

 

あっコレ完全に、俺をサンドバッグにする流れだわ――ブラックペッパーは、心の中でそう呟いた。

 

そして其の予想通り、モドルカッツォからは、レトロ格闘ゲームでの勝ち越されまくっている恨みを晴らすように。サンラクからは、フェアクソなるクソゲーの邪神に対する怨念じみた物を叩き込まれ。

 

結局2人相手に、ブラックペッパーは1度もラウンドを取れないまま、便秘の洗練された数多のバグ技達の洗礼を、其の身を以て体感する事となった。

 

だが、ブラックペッパーもまた唯では負けずに、便秘最強クラスのプレイヤー2人からバグ技を学び取り、極一部の技では有るものの、脚でのパリィを行う事が出来るようになったのである………。

 

 






便秘の洗礼は、苛烈にして手酷く




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蜘蛛狩り行こーぜ!



ペッパー、千紫万紅の樹海窟踏破に動く




「酷い目にあったよ、全く……」

 

ベルセルク・オンライン・パッション、通称『便秘』にて日本最強のプロゲーマーのカッツォと、顔見知りで鉛筆王朝を革命したサンラクから、痛烈なバグ技洗礼を受けた梓は翌日、グロッキーな表情になりながらもコンビニでのバイトに汗を流していた。

 

今日は大学の講義は無く、朝から午後4時手前辺りまでバイトが出来る日で、梓は揚げ物類を新しく揚げたり、商品棚に飲み物を補充したりと、忙しく働いている。

 

「だが便秘の技は、何れも凄かったな……。超速の発生をどうやって脚でパリィするかも、学べる事は多かったし」

 

腕が伸びたり、脚が蛸のように吸い付いたり。今までの格闘ゲームとは別の、最早何でもありな無法地帯の戦闘。だが、其れ故に新鮮で、人の身成らざる戦い方も大いに学ばせて貰った。

 

此の経験と、カッツォ&サンラクへの御礼参りは何れ必ず果たすとしよう……。そう心に誓い、梓はバイトを続けていく。今日はバイトが終わり次第、シャンフロのエリアの1つを突破しに行くつもりでいる。

 

活動範囲の拡張及び特殊クエスト攻略に向けてのレベリング、やるべき事は色々あるのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイトゥイル~!居るか~!」

 

無事バイトを終えてアパートへ帰還し、シャンフロへログイン後、兎御殿で目を覚ましたペッパーは、先ず手始めに御世話係のヴォーパルバニーのアイトゥイルを呼んでみた。

 

現状、此処兎御殿からペッパーが行ける街は、ファステイア・セカンディル・サードレマの3種類のみ。サードレマは広大であれど、留まり続けては何れ見付かる事になる。其の時はエンハンス商会会員証で、サードレマの上層の貴族エリアに逃げ込めば良いが、あくまでも其れは最終手段として取っておきたい。

 

「アイトゥイルが合流するまでに、スキルの確認を……おおぅ、新しく色々覚えたし、何れも此れも強化されてる……。やっぱり先生が託してくれた、此の首輪のお陰か…」

 

弱者が強者に至る為、尋常成らざる苦難を歩むべし。ヴァイスアッシュの言葉を胸に、ペッパーはレベルアップで得たポイントをステータスに振り分ける。

 

「今回はそうだな…器用に4と筋力と技量に5振って、残り10ポイントは万が一に取っておこう。レベリングは今まで以上に大変だから、残ったポイントは凄く大事になる」

 

経験取得が半分である今、レベルアップで得られるポイントはとても貴重になってくる。ペッパーはこうしてステータスにポイントを振り分けて、最終的にこうなった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

PN:ペッパー

 

レベル:30

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

 

サブ職業(ジョブ):無し

 

体力 15 魔力 10

スタミナ 74

筋力 55 敏捷 66

器用 35 技量 35

耐久力 26 幸運 15

 

残りポイント:10

 

 

装備

 

左:無し 右:リュカオーンの呪い(マーキング)

頭:皮の帽子(耐久力+1)

胴:隔て刃の皮ベスト(耐久力+4)

腰:隔て刃の皮ベルト(耐久力+4)

脚:隔て刃の皮ズボン(耐久力+4)

 

 

アクセサリー

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

所持金:4520マーニ

 

 

スキル

 

・ラダースラッシュ

・呀突

・フラッシュカウンター→ジャストパリィ

・ブームスロー

・スピックエッジ

・ハイドレートワーク

・スイングストライク→バルガストライク

・レイズインパクト→ダイナモインパクト

・剛撃 レベル2→レベル6

・アクセル レベル4→レベル8

・ラッシュ レベル1→レベル4

・見切り レベル1→レベル4

・ハイプレス レベル1→レベル5

・二艘跳び→五艘跳び

・スライドムーブ

・ブートアタック→ジェットアタック

・水平斬り レベル2→レベル5

・垂直斬り レベル1→レベル4

・サンダーターン

・ハイビート レベル2→レベル6

・アクタスダッシュ レベル1→レベル4

・ステックピース レベル1→レベル3

・握擊 レベル1→レベル3

・投擲 レベル1→レベル2

・クライムキック レベル1

・首断ち レベル1

・ムーンジャンパー

 

 

――――――――――――――――――

 

 

経験値半分というデメリットも、謂わば戦闘経験を多く積み重ねさせる事に直結し、スキルを幾度も使用にする事による理解度の蓄積。其れを致命魂の首輪は、装備者に教えようとしているのだろう。

 

「今更だが、ホント此の首輪はヤバイね…」

「ペッパーはん、呼んださ~?」

 

と、此処でアイトゥイルが戻ってきた事で、ペッパーは行動指針を彼女に伝える。

 

「やぁ、アイトゥイル。今から蜘蛛狩り…もとい千紫万紅の樹海窟に居る『エリアボス』を倒して、新しい街に行こうと思ってるんだ。手伝ってくれるか?」

「お~…遂に別の街に行くのさね、ペッパーはん」

「あぁ、長らく世話になったサードレマから、いよいよ別の街に向かう。先ずは旅支度を整える為、エンハンス商会・サードレマ露店通り支部に行く。近くの裏路地に扉を出してくれ」

「わかったさ~」

 

ペッパーとアイトゥイルは、千紫万紅の樹海窟のエリアボス攻略を目標に定め、行動を開始する。相手は枯れ巨木を住み家にした道化蜘蛛の名を冠する、巨大タランチュラ――――――『クラウンスパイダー』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンハンス商会・サードレマ露店通り支部。

 

相変わらず人の往来が激しい地域に店を構える此処は、やはり相応の人の出入りが有る。路地裏から出て、アイトゥイルをマントの中に隠して、人の往来のタイミングを合わせ、速攻で店に入店。

 

「ペッパー様、いらっしゃいませ!」

「こんにちわ。買い物したいのですが良いでしょうか?」

「はい!此方が当店が扱っている商品です。あ、あと商会の会長から『エンハンス商会にペッパー様が訪れたら、少しだけ割引して販売するよう』にと、指示を頂いています」

「え、本当ですか?ありがとうございます」

 

称号:【エンハンス商会御用達】には、フロンティア各地に点在するエンハンス商会でのアイテム購入時に、割引補正が働く効果がある。ペッパーは会員証に其の効果が内封されているのかな?と思ったようだが、予想は外れている。

 

だが何にせよ、少し割安でアイテム購入が出来るなら、其れに越した事は無いだろう。ペッパーは簡易食糧や回復ポーション等の消費アイテムや、投げナイフ等の痒い所に手が届く投擲アイテムを複数購入。

 

さぁ、いよいよ千紫万紅の樹海窟へ……と思った其の時、1人の少年プレイヤーとペッパーの視線が合った。彼は身長150cm程の小柄な体躯に、青い魔導師のローブと大きな魔法使いの帽子を装備、両手には銀色の腕輪が光っている。

 

頭上のプレイヤーネームは『レーザーカジキ』と表示され、見た感じはMPと器用に比重を置いた、ザ・後衛職の魔法使いのようである。

 

「あ、あの………ペッパー、さん……ですか?」

 

随分と恥ずかしそうにしながら、両手の指先を合わせたり、離したりしてはモジモジと、時折チラリチラリと見上げては帽子の縁で視線を隠している。

 

「え、はい。そうですけど…?」

「えっと…その……あの!……よ、よろしくお願いしましゅ………!!」

 

噛んだ、思いっ切り噛んだ。其れにしても随分と緊張しているようであり、一先ず落ち着かせようと思った矢先、ペッパーの目の前に1つの画面が表示された。

 

『レーザーカジキさんがフレンド申請をしてきました。受諾しますか?』

【Yes】or【No】

 

(フレンド申請?………もしかして、情報貰いに来たのか?此の子……)

 

此の時、ペッパーは知る由も無かった。レーザーカジキというプレイヤーが、ペッパーの起こした特殊クエストによって、フィールドに現れた小鎚持ちのヴォーパルバニーを発見し、交戦して敗れた事を。

 

其の時の出来事を掲示板に報告して、シャンフロに起きた変化をキョージュやAnimaliaが、ユニーククエストの可能性があると推測するキッカケを作ったプレイヤーである事を。

 

そして何よりも、此のレーザーカジキというプレイヤーが、ペッパー捜索スレ『胡椒争奪戦争』の住民である事を、彼自身知らなかったのである………。

 

 

 






エリアボス攻略に向けて準備万端。されど問題発生



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蜘蛛の巣とは、強いようで実は弱い



ペッパー、クラウンスパイダーに挑むの巻




新しいオンラインゲームを始めた頃、見知らぬプレイヤーからのフレンド申請をされた場合、其のプレイヤーが考えている事は大きく分けて2通り存在する。

 

1つは初心者狩りを生業とするプレイヤーで、コレはまぁオンラインゲームでは良くある事なので、登録は一旦保留として装備やレベリングをし終えたら受諾して、一方的に解除してくれば、ソイツは『そういう奴だった』と見極められる。何なら第二、第三の被害者を出さないように、運営に通報してクリーン化に手を貸す事もする訳で。

 

で、もう1つは打算等関係無しの単純に御近づきになりたいプレイヤーで、実は此のタイプのプレイヤーはかなり少なく、見極めるのは熟練プレイヤーでも難しい。そして今、俺の目の前にいるレーザーカジキなるプレイヤーは直感的に『後者』の存在で、どう対処するかによって今後のシャンフロライフに影響を及ぼすだろう。

 

(レーザーカジキが、何を考えてるかは俺には解らない…。だが、無下には出来ないな…こういうタイプのプレイヤー)

 

「うん、良いよ。ただ、此方も色々有って今から向かわなくちゃ行けない場所が有るんだ。情報が欲しい場合は伝書鳥(メールバード)で連絡を下さい。教えられる事は限られてるけど」

 

そう言って、ペッパーはフレンド申請のOKボタンを押した。無論何かしら起きた場合は、真っ先にペンシルゴンへ相談すると心に決めて。

 

「あ、ありがとう…ございましゅ…しゅっ!!」

 

嬉しいのかなんなのか、レーザーカジキがまた噛んだ。いや流石に緊張し過ぎだろと心で呟きながらも、ペッパーは「では、俺は此れで」と少年に一礼し、エンハンス商会を後にしようとする。

 

「あ…えっと!ペッパーさん、コレをどうぞ!」

 

フレンド登録の御礼か、はたまた何か企み事を含んでいるのか、レーザーカジキが自前で買ったであろう『MPポーション』を1ダース、ギフトとして此方に贈ってきた。

 

(魔法使いじゃないんだけど…一応善意と見て受け取っとこ)

 

「ありがとうございます。では此方も」とペッパーはアイテムインベントリの中から『エンパイアビーのハチノコ』をギフトとしてレーザーカジキに贈り、商会から出て直ぐに移動系スキルを駆使して裏路地を走り、千紫万紅の樹海窟へ続くゲートを潜り抜けていった。

 

余談だが、エンパイアビーのハチノコをレーザーカジキがエンハンス商会の受付に見せた所、エンパイアビーの巣でしか採れず、高効能の強壮薬の原材料であるらしく、2万マーニで取引して貰えたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千紫万紅の樹海窟にアイトゥイルと共に到着したペッパーは、スキル:ハイビートのデメリット緩和と他スキルの再使用可能になるまでの間、早歩きで此のエリアのボスが居住とする枯れた巨木を目指していく。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。此処の頭張ってる道化蜘蛛わはな、上からずどん!って物落として来るんさ」

 

道中、マントに隠れたアイトゥイルがクラウンスパイダーに関する情報を喋ってきた。おそらく其の蜘蛛は、巨木の最上部に糸と巣を張り巡らし、落下物で圧死させるタイプのボスであると考察出来る。

 

「落下物注意って訳か…となると、地上に引き摺り落とせれば、かなり優位に戦えそうだな」

「あとな、ペッパーはん。其の蜘蛛を倒すと時々出てくる『上質な糸』は、織物とか防具の糸に使われたりもするのさ」

「ほほう、レアドロップか…売ったら何れくらいのマーニに換金出来るだろうか」

 

そんな何気無い会話を重ねていると、目的地たる巨木が見えてくる。樹海の僅かな隙間から零れる光に反射した無数の白糸が見え、眼前には内側が繰り抜かれて真っ暗な空洞が。

 

其の空洞の内側…………正確には『上の方』から魑魅魍魎の気配漂い、彼方此方に張り巡らされた糸が、雰囲気をより過密にしている。

 

ゆっくりと忍び足で入口付近まで接近し、空洞の入口から恐る恐る、空洞の上層を見上げたペッパーはあまりの暗さに驚いた。

 

「うわぁ…コレは松明やらカンテラの類いが無いと、目が慣れるまで移動もキツいな……」

「其処はワイの酔息吹で何とか出来るのさ…。問題は頭蜘蛛が、一体どのくらいの高さに居るかさね」

「あぁ。先ずは奴の居場所が解らないと、何も始まらない。アイトゥイル、酔息吹を頼む」

 

「はいさ~」とマントから飛び出し、アイトゥイルが右肩に乗る。其のまま瓢箪水筒の中の酒を口に含んで、45度の角度を付けた酔息吹の炎を放つ。

 

炎が闇を照らし、頭上には無数の岩や巨木が、巣の糸に絡み付いてぶら下がり、其の奥には大小揃えて4つの赤い光が見え。

 

直後、上から落ちてくる風鳴り音が聞こえ、1人と1羽が回避すると、先程自分達が居た場所に枯れた巨木が落下。ポリゴンと化して消滅する。

 

「当たったら即死だな……あ」

 

体力と耐久が低い自分の場合、直撃=死だと確信していると、どうにも右側が明るい。左目で視線を上に向けつつ、右目で其の方向を見ると、肩に乗っているアイトゥイルの武器:嵐薙刀・虎吼の柄に吊り下げられて揺れる、妖炎桃燈が1つ。

 

「光源有ったわ…ってうお!?」

 

再び落下物接近の音、其れも連続で来る。回避しながらペッパーは、アイトゥイルに指示を出す。

 

「アイトゥイル、今俺達の位置は桃燈の灯りが教えてる!相手にこれ以上、情報を与えない為に灯りを消してくれ!」

「わ、わかったさ!でも、ペッパーはん灯りが無いと移動はキツくないさね!?」

「確かにキツいかもね。…でも、さっきの酔息吹と桃燈の灯りで、此の巨木の構造が少し『特殊』な事に気付けた」

 

桃燈の灯りをアイトゥイルが消し、真っ暗な闇が戻る中でペッパーは明るかった時に見た物を整理し始めた。此の巨木、設計者のミスか攻略の為の配慮か、どうにも内側の壁面が『螺旋階段』のように、せり出ている部分がある。

 

「使って下さいと言わんばかりの其れ、狙わない手はないよな…!」

 

スキル:五艘跳び並びにムーンジャンパー起動、強化された跳躍力で地面を蹴って高く舞い、巨木のおよそ四合目手前まで一回の跳躍だけで到着する。

 

(暗闇に眼も順応してきた……今なら道化蜘蛛が張り巡らせた糸の位置も解るぞ!)

 

「ペッパーはん、此処からどないするさ?」

「蜘蛛の糸を掻い潜って、御大層に構えた頂上の巣から、アイツを地上に引き摺り下ろす!」

 

スキル:アクセルを使ったペッパーは、万が一に備えて旅人のマントの装備を一時的に解除。螺旋階段状の足場を駆け、反射で狙った落下物攻撃と、行く手を阻む蜘蛛の糸の合間を駆け抜けていく。

 

「蜘蛛型のモンスター相手に、プレイヤーが一番やってはいけない行動は『糸に衝撃を与える事』。巣を張るタイプの蜘蛛は、獲物が巣に引っ掛かった『振動』を利用して狩りを行う」

「其れを利用して、敵を糸に絡め取るのさね?」

「そう。だから逆に其れを利用する。……見えた」

 

巨木の7合目辺りまで着た時、ペッパーとアイトゥイルは其の存在を逸早く視認する。白に包まれた体毛と黒い八脚、大小異なる赤い四眼と腹には巨大なピエロの顔。

 

エリアボス・クラウンスパイダーが其処に居た。

 

「さぁて、お前の出番だ…!」

「耳塞ぐさね!」

 

アイテムインベントリから取り出すのは、沼掘りとの戦いでもキーアイテムになった、投擲玉:炸音の試作品。其れをスキル:握擊で力を込めて握り、即座にスキル:投擲及びブームスローの重ね掛けで、クラウンスパイダーの巣の真横を狙って玉を投げ込み、同時に最上部を目指して再びダッシュ。

 

巣に直撃した瞬間、投擲玉は起動して強烈な音波が巣を揺らし始めた。クラウンスパイダーが其れに反応し、発生源に向かおうとする。

 

「それ、もう一発!」

 

移動しながら次は右側に同じ要領で投げ込み、着弾と同時に音の嵐が巣を揺らしていく。

 

「蜘蛛って虫は巣を張る事で知られているが、其の自慢の巣が何らかの理由で修復不可能なダメージを受けると、決まって『ある行動』を取る」

 

二ヶ所からの同時の音による衝撃で横糸が弛み、ブチリブチリと千切れ出し。宿主の重量を支えられなくなった巣が、徐々に崩壊を始めた。

 

其れを察知してか、クラウンスパイダーは糸を吐く器官の尻疣を小刻みに動かし、真上に向けて糸を放って逃げようと、腹部を立たせた。

 

「当然の行動を取るよな、クラウンスパイダー。だが…其の行動を『狙ってる奴』も居るんだぜ?」

 

ハイビートによって高められた敏捷と共に、ペッパーが壁を蹴ってクラウンスパイダーの腹部に取り付くや、アイテムインベントリより取り出して左手に握った湖沼(こしょう)短剣(たんけん)を振るう。

 

そして、クラウンスパイダーの尻疣へ刺突攻撃のダメージ補正上昇スキルの『ステックピース』と、筋力を参照した攻撃補正を更に追加する刺突攻撃スキル『呀突』の重ね掛けで、ピンポイントで刺し貫く。

 

『ギジイイイイイイイイイイイ!?』

「アイトゥイル、今だ!」

「はいさ!!」

 

ペッパーの合図を待ってたとばかりに、アイトゥイルが酔息吹でクラウンスパイダーの周りの糸を焼き払う。

 

「クラウンスパイダー、お前だけ地上に落ちてくれ」

 

ペッパーは死刑判決のように道化蜘蛛へと言い、クライムキックで落下へのダメ押しの一発を蹴り込んだ。足場を失い、糸を放つ手段も失い、クラウンスパイダーは焼け落ちる巣と共に、遠く離れた地上へと真っ逆さまに落ちていくのだった………。

 

 

 






デカイ蜘蛛を地上に落とせ




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胡椒と黒兎は斬打の調を奏で、三ツ星の可能性が勇者を誘う



クラウンスパイダーの解体、はーじめーるよー




クライムキックで蹴り飛ばし、クラウンスパイダーを地面に落としたペッパーは、跳躍から螺旋階段状の競り出し部分に着地。其の数秒後に底の方でズズゥ…ンと一際大きな音が、空洞になった巨木を揺らした。

 

「よっし、引き摺り下ろし成功っと」

「やったさね、ペッパーはん。」

 

糸を放つ器官も潰した事で、クラウンスパイダーは自力で巣の再生は出来なくなり、脚は有るにしても壁をよじ登ったり、巨体を生かした体当たり以外の攻撃は封じられただろう。

 

ふとペッパーが上を見上げると、其処にはクラウンスパイダーが糸で絡めて吊り下げた岩や巨木達が。刃物を用いて糸を切れば、落下物でのダメージが狙えそうである。

 

「お、アレは使えそうさね。ペッパーはん」

「そうだな。まぁ使っても良いんだろうけど………其れじゃ『つまらない』んだよな」

 

そう言ってペッパーはアイトゥイルを肩に乗せつつ、落下ダメージが入らない間隔の高度から、下へ下へと木の縁部分を伝って降りていく。

 

「もしかしてペッパーはん…地上に引き摺り下ろした理由って」

「クラウンスパイダーを此方の土俵(地上戦)で、真正面から倒したかったからな」

 

ハイビート終了後に発生するスタミナ回復量半減デメリットを抱えつつ、アイトゥイルを肩に乗せてペッパーが最下層まで戻ってくると、クラウンスパイダーが前肢を振り翳して、奇声を挙げている。地上に落とされた事が大層御立腹の様だ。

 

単純な肉弾戦なら、クラウンスパイダーは此方よりずっと上。まともに戦えば、体格差で押し潰されるのは火を見るより明らか。

 

しかし、だからこそ……ペッパーは戦うのだ。ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスを超え、夜襲のリュカオーンの尻を引っ叩く為に、道化蜘蛛(エリアボス)相手に躓いては居られない。

 

「さぁ、仕上げだ道化蜘蛛…!キッチリ〆てやるから、覚悟しな!」

 

スキル:アクセルのクールタイムが終了し、ペッパーはハイドレートワークと共に即再点火。爪先に力を込め、地面を蹴り上げて、クラウンスパイダーに接近する。

 

前肢を振るい、踏み付けんとする道化蜘蛛の目の前でバックステップでフェイクを掛け、着弾に合わせて湖沼の短剣を通常持ちから逆手持ちにスイッチ。ラダースラッシュと水平斬りの併用で、左前肢と奥から二本目の足を切り裂き、左側のバランスを切り崩す。

 

『ギジイイイイイイイイイイイ!!』

「ペッパーはん!体当たりがくるさ!」

「ありがとう、アイトゥイル!」

 

四本の右足に力を集め、クラウンスパイダーが巨木と自身の巨体で、ペッパーとアイトゥイルをサンドイッチにしようとしてくる。

 

しかし既にクールタイムを終え、再使用可能になっていたムーンジャンパーが起動。螺旋状のせり出し部にジャンプで突撃を回避後、左手の湖沼の短剣をリュカオーンの残照が刻まれた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)に変更。

 

五艘跳びで強化し、真上から脳天目掛けてスピックエッジで突き刺そうとしたペッパーだが、其の殺気に反応が僅かながら勝ったクラウンスパイダーが、傷付いた左足の中で無事な足を動かして、間一髪脳天直撃を回避した。

 

「機動力を削いだと思ったが…!中々機敏に動く!」

「ペッパーはん!ワイが右足を持ってくさ!キッチリ決めてな!」

「あぁ!任せた、アイトゥイル!」

 

左腕から跳躍し、右足目掛けて動き出したアイトゥイルにシンクロするように、ペッパーは彼女の後ろに付いた――――と見せ掛け、サンダーターンで左へ直角旋回を行い、右足の無事な一本へスキル:首断ちを使い、関節の隙間から切り裂いて、回避行動不能に陥れた。

 

「道化蜘蛛、其の足――――貰うさね!」

 

嵐薙刀・虎吼が闇を斬り、アイトゥイルのスキル:無双閃迅が炸裂。無事だった四本の右足の内、二本が木っ端微塵に斬り散られ、右前肢は皮一枚で繋がっているような、深い裂傷が入った。

 

クラウンスパイダーがバランスを失い、地面に倒れ込む。

 

「ペッパーはん!キッチリ決めてな!!」

「応ッッッッッ!!」

 

現状持ち得る最高の跳躍と、物理エンジンによる落下。全体重を致命の包丁の鋒に乗せて、クラウンスパイダーの脳天に刃を『突き立て』。

 

「此れで決める!!」

 

包丁の、延いては刃物を振るう極意たる『押し付けて引く』の動作で、スキル:垂直斬りでクラウンスパイダーの顔面を真っ二つに斬り割る。

 

其の一撃がクリティカルとなり、クラウンスパイダーの身体を構成するポリゴンが、火山噴火のように爆発して、ドロップアイテムが散乱。ペッパーの目の前に『エリアボス討伐完了』のリザルト画面が映った。

 

「クラウンスパイダー。暗闇からの奇襲に加え、不利な筈の地上戦でも垣間見た、確かな機動力と巨体を生かしたパワフルな攻撃。エリアボスに相応しい相手だった。

 

だが今回は、俺とアイトゥイルの勝ちだ」

 

致命の包丁をアイテムインベントリに仕舞い、入れ替えるように旅人のマントを装着。走り寄るアイトゥイルとタッチし、互いの健闘を称え合う。

 

そうして1人と1羽はクラウンスパイダーのドロップアイテムを回収。千紫万紅の樹海窟を越えて、シャンフロ第4の街にして、瘴気が蔓延り満ち溢れた死者の峡谷を越えんとする、開拓者達の止まり木こと『フォスフォシエ』へと到着したのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォスフォシエに到着したペッパーは、アイトゥイルをマントの中へ隠して人目の合間を縫い、フォスフォシエの武器屋にやって来た。

 

どうやら此の先のエリアに居る敵モンスターは、何れも此れもが『呪霊系統』や『アンデッドタイプ』が主流らしく、其れを攻略するには『消費アイテム:聖水』を直接、もしくは武器に振り付けて打ち当てるか、聖属性の武器を用いる。または聖職者か魔法職をパーティーに加えた状態で、攻撃を与えるかの三択になっている。

 

現状ペッパーには聖属性の武器は無く、アイトゥイルの酔息吹か夜叉斬り以外で攻撃手段が無い為、此処で戦力増強を計りに着たのだ。

 

「こんにちわ~」

「あら、いらっしゃ…もしかしてペッパーさんかしら?」

 

入店一番、店主らしき恰幅の良い女性がペッパーにそう言ってきた。やはり特殊クエストクリアで、小鎚製作のキーマンになった事が此処にも影響が出ているように思われる。

 

「はい、ペッパーとは私ですが…」

「あらあらまぁまぁ…セカンディルから遠路遥々お疲れ様です。御師匠様から、此処に立ち寄る事が有ったら、お前の力を貸すようにと言伝てを受けてますの」

 

セカンディルの白髭鍛冶師の弟子の1人らしい此の女性。もしかすると、あの男性鍛冶師は相当な腕前なのでは?とペッパーは思う。

 

「ということは、マッドネスブレイカーを強化して貰えると?」

 

「えぇ」と女性は答え、其の後にペッパーが予想だにしなかった、とんでもない事実を述べたのだ。

 

「ただ其の為には、サードレマから行ける神代(しんだい)鐵遺跡(くろがねいせき)で採掘出来る『駆動鉱石(ギアメタル)』。

 

千紫万紅(せんしばんこう)樹海窟(じゅかいくつ)の採掘場所で採れる『生命碑石(エナジーストーン)』。

 

もしくは『栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)』に存在するという『炎水剛岩(ブルレットロック)』と呼ばれる、鉱物資源の何れかが必要になりますね」

 

ファステイアの鍛冶師が巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)の素材を用いて産み出した武器、ロックオンブレイカー。其のロックオンブレイカーを、セカンディルの鍛冶師が四苦八苦の沼荒野の鉱物で育て上げた、マッドネスブレイカー。

 

未知なる鉱物資源を求め、蓄積された大地の恵みを糧に命を得る此の小鎚は、サードレマから行けるエリアの鉱物によって、各々が『異なる姿へと成長する』という――『成長派生形態を内封した』ユニーク武器だったのだ。

 

 

 






ユニーク武器の秘められた可能性



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汝、其の欲望に忠実であれ



ユニーク小鎚を揃える為、ペッパー奮闘の話

※沼豊穣の岩の数を修正しました




「………っと。此れでフォスフォシエとラビッツのゲートは繋がったさね、ペッパーはん」

 

フォスフォシエの人目の付かない裏路地で、マントの中からアイトゥイルがラビッツへのゲートを開く。

 

「ありがとう、アイトゥイル。あっちに着いたら、今度はセカンディルに繋ぐゲートを開いてくれ」

「……ペッパーはん、やっぱり『アレ』が理由さ?」

「まぁ………ね?あんな事言われたらさ、やらない訳にはいかないしな」

 

彼が思い出すのは、数分前に武器屋の女鍛冶師が言った台詞。特定の鉱物アイテムを含んだ育成で、マッドネスブレイカーが『3つの成長形態』に変化していくという内容だった。

 

「マッドネスブレイカーの成長先が、まさか『複数在るなんて』予想だにしなかった……。そんなん聞いたら、俄然『全部揃えたくなる(フルコンプ)に決まってる』だろうが…!!」

 

レトロゲームで収集アイテムを含め、100%の完全クリアまで徹底的にやり込むプレイヤースタイルであるペッパーは、狂気じみた笑みを浮かべる。

 

彼のゲーマーとしての誇りや魂が叫んでいるのだ……全てを揃えろ、全てを育てろ、全てを最後の極致まで連れて行け……と。

 

「トラウマの採掘が何ぼのもんじゃ…!残ったポイント全部幸運にブッパして、四苦八苦の沼荒野の採掘ポイント全部を掘り尽くしてでも、マッドネスブレイカーを2本拵えて、全成長派生形態に育ててやろうじゃん…!」

 

言うが早いか、アイテムインベントリからMPポーションを取り出して、アイトゥイルに手渡し。ステータス画面で余っていた、10ポイント全てを幸運に振り込む。

 

同時にロックオンブレイカーの製作秘伝書+の中にある、マッドネスブレイカー単体に必要な素材をチェックし、頭の中に必要数の表を形成して、準備を整える。

 

「やってみせろよ、ペッパー…!今日中にマッドネスブレイカー2本分の素材調達して、翌日以降に各々のエリアで指定の鉱物を集め、マッドネスブレイカーの全成長形態を育成してやる…!!」

「ペッパーはん燃えとるさ…。夏のおてんとさんみたいさね……」

 

フフフフフ…!と、ドス黒いオーラとゲーマー魂の炎を織り混ぜ放つペッパーに、アイトゥイルは相棒の今まで見た事の無い表情を見て、若干引き気味な顔をしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラビッツの兎御殿に戻り、即座にセカンディルの裏路地へと移動したペッパーは、スキルのアクセル・ハイビートを重ね掛け、一気に走り出す。

 

嘗て、朝からマッドフロッグの皮集めに、湖沼の短剣と湖沼の小鎚、マッドネスブレイカーを作るべく採掘エリアで小鎚を振るいまくって奔走した、懐かしき四苦八苦の沼荒野に到着する。

 

ハイビートのデメリットが解除されるまでの間、夕焼けの夜闇と僅かな冷たさを含んだ風が吹く中で、岩影にじっと身を潜め。採掘ポイントの周りに他のプレイヤーが居ないかどうか確認し、旅人のマントでマッドネスブレイカーを隠しつつ左手に装備後、ペッパーは採掘を開始した。

 

(平常心…平常心…鉱石集めは平常心……物欲センサーは敵だ…心の水面を立たせる事無く…俺の心は平常心………)

 

マッドネスブレイカーを単品で作る場合、四苦八苦の沼荒野内の採掘ポイントで『最も希少な鉱物・沼豊穣の岩』が1本製作毎に5個必要になる。

 

他にも沼棺の化石や灰色鉄鋼に銀色鉄鋼等、此処で採れる鉱石がかなり必要であり、本来なら(・・・・)巌喰らいの蚯蚓を狩って、其の素材からロックオンブレイカーを作り、此処で採掘した各種鉱物でマッドネスブレイカーにした方が割安で済む。

 

しかしペッパーは現在、リュカオーンの呪い(マーキング)によって、自身のレベル以下のモンスターから逃げられてしまう状態にある。ましてや巌喰らいの蚯蚓が居るのは、序盤の序盤たるファステイアの坑道の奥地……戦闘は愚か、会敵した瞬間にリュカオーンの呪いの気配を察知して、逃げられる可能性が非常に高いと考えたのだ。

 

(無心になれ。されど夢中であれ。寄り道、脇道、回り道。然して、全ては己が道。成れば…物欲センサー、恐るるに有らず!)

 

マッドネスブレイカーが唸り、スキル:ラッシュが起動。叩き付け、叩き付け、叩き付け━━━『一心不乱』に採掘ポイントに己が小鎚の擊を叩き込む。

 

残されたポイントの幸運全ツッパに加え、強化されたスタミナとスキル、そして出身:探索家の子の恩恵が無数の歯車同士を噛み合わせ、大きな力と畝りを起こす。

 

採掘ポイントを掘り尽くしては、出て来た鉱物資源を精査しつつ、マッドネスブレイカーの耐久回復に砕き割り、再び移動して同じ要領で繰り返していく。

 

(小鎚の二刀流なら、もうちょっと早く掘り尽くせるんだが…。まぁ、其れは其れとして割り切ってしまおう、そうしよう)

 

後悔の先に道は立たず、失敗の過去は未来の成功へ繋ぐべし。無いものは無いのだ。今の自分に有る物を用いて、己に出来る事を唯々やりきる。

 

1つまた1つと、採掘ポイントを掘り尽くしながら、ペッパーは内なる昂りの焔を燃やし、表面上では黙々と無言で採掘を続けていた。

 

其の途中、他のプレイヤーがペッパーに気付いて、声を掛けに来たようだが――――

 

あ、すいません。後にして貰って良いですか(今大事な作業してるから、邪魔すんな)

 

――――と、無言の威圧を放って追っ払う。

 

現実世界の時刻が午後9時手前を指す頃、ペッパーは数時間に渡る、四苦八苦の沼荒野採掘ポイントマラソンの果て、マッドネスブレイカー生産に必要な沼豊穣の岩を11個並びに、大量の副産物を掘り出してラビッツに帰還し、此の日のシャンフロを終える事となった。

 

尚、夕飯は今から作ったら時間的に遅くなるからとの理由を付けて、近場に在るコンビニの弁当と野菜ジュースで済ませる事にしたのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、大学の講議が終わりバイトのシフトが休日だった事で、シャンフロにログインし、兎御殿の休憩室で目覚めたペッパー。

 

其処には相棒にして御世話係のヴォーパルバニーのアイトゥイルの姿は無く、代わりに鍛冶師のビィラックが仁王立ちで待っていた。

 

「おぉ、やっと来たかペッパー。全く、何時までも来んから、此方から会いに来たわ。待ち草臥れとったぞ」

「あ、ビィラックさん。こんにちわ」

 

フンスと鼻息を1つ吐いて、起き上がったペッパーにビィラックが歩み寄ってくる。

 

湖沼(こしょう)小鎚(こづち)致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)、キッチリ修復完了しとったぞ。其れと――――ワリャが依頼した『アレ』もな」

 

そう言ったビィラックがペッパーのアイテムインベントリに、修復した小鎚達を入れ。そして取り出したのは、鉄よりも硬度な鐵に等しい艶を纏った脚装甲と、強靭にして鋭き角で出来た爪先、そしてバンデージは円錐形の針が妖しく煌めいた『籠脚(こきゃく)』。

 

クアッドビートルの堅牢な甲殻をふんだんに使い、シンボルである角で形成した爪先と共に、如何なる攻撃をも弾き飛ばし、蹴りに使えば大きな衝撃を産み出し。

 

エンパイアビー・クイーンの針がもたらす致死の毒を纏うバンテージは、至近距離下の膝蹴りに利用すれば、強烈無比な隠し手となって敵を倒す刃に成れる。

 

「クアッドビートルとエンパイアビー・クイーンの素材を使い、ペッパーのアイデアで形にした、名匠ビィラック特製のガンドレッグ!其の名も……『甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)』じゃあああああ!」

「きたああああああああああああ!かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ブシカッツォのリーエルが用いたリジェクターアーマーが此処までに至るとは思っても居らず、ペッパーは大興奮。

 

早速装備を…と思った矢先、クイズ番組で不正解を告げる『ブブーッ』のSEが鳴り響き、目の前に現れたのは『必要ステータスが足りていない為、装備出来ません』の一文。

 

其の横には『必要ステータス』と証して『レベル35以上・筋力70・技量50』の表示が現れ。ペッパーは歓喜より一転、絶望のドン底に突き落とされる羽目になったのだった…………。

 

 

 






寄り道や回り道、其れもまたゲームの醍醐味




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胡椒と黒兎,sは神代の遺跡に夢を抱くか



ペッパー、遺跡散策準備をするの巻




「ああああ!!ああああああ!!!ああああああああああああああああ!!!!!」

 

新しい武器、ビィラック作『甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)』を目の前にして立ち塞がった、レベルキャップ到達という壁が、ペッパーを絶望のドン底に突き落とし、彼は怨嗟に等しき悲鳴を轟かせて叫ぶ。

 

「ペッパーはん!?どないしたのさ!?」

 

そして其の悲痛な声がトリガーとなったか、何処から途もなくアイトゥイルが帰還してきて、休憩室の窓より現れてきた。

 

「おう、アイトゥイル。ペッパーはな、わちの作ったガンドレッグの出来栄えに感極まって、男泣きしちょるんや」

「ビィラック姉さん、多分コレは違うのさ……装備出来なくて叫んどるさね……」

 

彼の世話役となり、其の傍で人と成りを見てきたアイトゥイルは、何となくではあるもののペッパーという人間を理解している。故に此の状況と雰囲気から、大体の事を察したのだ。

 

「ああああああああああ!あああああああああああああああああ!!!ああああああああああああああああああああ!!!…………よし、調った!喚き散らし終わり!切り替えて次行くぞ!」

「ワァ!?ワリャいきなり落ち着くなァ!?」

 

先程の喚き散らしから一変、人が変わったようにスンッ…と、落ち着きを取り戻したペッパーに、ビィラックは思わずツッコミを入れる。

 

「おお~。ペッパーはん、切り替え早いのさ」

「あ、アイトゥイル。此れから『神代(しんだい)鐵遺跡(くろがねいせき)』に行って『駆動鉱石(ギアメタル)』を掘りに行くぞ。サードレマに続くゲートを頼む」

 

「はいさ~」とアイトゥイルが準備しようとした時、ビィラックは駆動鉱石の名前に目を丸くした。

 

「ペッパー…、今ワリャ駆動鉱石と言うたか…?」

「え?まぁはい。フォスフォシエの女鍛冶師曰く、マッドネスブレイカーはサードレマから行ける、3つのエリアで採れる鉱石で『3つの成長派生形態』が存在する武器みたいです。

 

其の内の1つが、鐵遺跡に有るらしくて此れからアイトゥイルと一緒に採りに行こうかなって」

 

事情を説明すると、ビィラックは目を輝かせている。やはりマッドネスブレイカーの秘めた可能性を、製造秘伝書から感じたのだろうか。

 

「成長先が変化する武器…か!やはり人間が考えて作る武器は、わちとも全く違って面白い…!ペッパー、わちを鐵遺跡に連れて行ってくれ。少しばかりじゃが、力になってやれるけぇの」

 

『NPC『名匠鍛冶師のビィラック』からパーティーの申請が来ました。受諾しますか?』

『Yes』or『No』

 

そうして提示されたパーティー加入申請の画面に、ペッパーは迷わず『Yes』ボタンをクリック。そしてビィラックのステータスを確認した。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

NPCN:ビィラック

 

レベル:98

 

メイン職業(ジョブ): 名匠

 

サブ職業(ジョブ):考古学者

 

ヴォーパルバニー・マスタースミス

 

体力:175 MP:530

スタミナ:120

筋力:130 敏捷:30

器用:120 技量:130

耐久:169 幸運:130

 

スキル

 

・ベストステップ

・クエイクスタンプ

・ギガトンスイング

・タイタンブラスト

・フォートレスブレイカー

・マテリアルデストロイ

・クリティカルフォーカス

・アナライズ:レガシーLv.4

 

魔法

 

損傷修復(ダメージリペア):レベルMAX

破損修復(ブレイクリペア):レベル8

緊急鍛造(クイックフォージ):レベル4

蓄積研磨(スタックグリンド):レベル7

吸収錬刃(ドレインエンハンス):レベル7

武装破壊(ブレイカライズ):レベル1

武装鍛造(フォージライズ):レベルMAX

武装強化(ストレングライズ):レベルMAX

武装進化(エヴォライズ):レベル8

武装融合(フュージョライズ):レベル6

武装真化(トゥルーライズ):レベル4

・ランダムエンカウンター:レベル3

・エンチャント:ハイロブスト

・ミラクルマイニング

・レガシーセンス:レベル3

 

 

装備

 

武器:王鬼の戦鎚(スレッジ・オウガ)

頭:火見の巻布

胴:兎式鍛治装

腰:兎式鍛治装

足:兎式鍛治装

 

アクセサリー

 

炎霊の手袋(イフリートグローブ)

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

うわヴォーパルバニーの鍛冶師滅茶苦茶強い。其れがビィラックのステータスを見て、ペッパーが抱いた第一印象である。

 

敏捷を最小限に留め、前線で戦えるだけの筋力と耐久。そして鍛冶魔法関連に比重が置かれた、鈍足重量アタッカー。アイトゥイルの……兎御殿のヴォーパルバニー達の長女というだけあり、生半可な強さじゃない。

 

「流石アイトゥイルのお姉さんだな…パワーが段違い過ぎる」

「ペッパー、そりゃどういう意味じゃ」

「アイトゥイル共々頼りにしてますって事」

 

アイトゥイルが機動力型の前衛なら、ビィラックは重攻撃型の前衛だ。無論、自分自身も前衛を張れなくはない………が、後衛職で一発の被弾=ガメオベラに直結している以上は、後出しを狙う形で攻撃するしかない訳だが。

 

「あ、でもどうする?旅人のマントだと2人が入ると嵩張りそうだけど……」

 

パーティーが増えた事で、普段ならアイトゥイルだけ隠せば良かった所が、ビィラックも隠して行動しなくてはいけない。自分を隠すことが可能なスキルはビィラックとアイトゥイルには無い為、出歩くにしても目立ってしまうだろう。

 

「其処は考えがあるから安心せい。わちは此れから出立の支度するから、ちょいと待ってな」

「あ、ビィラックさん。其の前にちょっとお願いしたい事が有って」

 

用事を思い出したペッパーが、鍛冶場に戻って準備をしに行こうとしたビィラックを引き留め、アイテムインベントリから四苦八苦の沼荒野で採掘ポイントマラソンで掘り出した、数多の鉱石達を取り出し積み上げていく。

 

「…また随分と掘り出しおったな。しかも沼豊穣の岩まで在るとはのぉ」

「鐵遺跡に行く前に、マッドネスブレイカー2本の製作依頼の予約をしておきたく…。必要数は秘伝書で見て貰って、制作費は鉱石を売却したマーニで補う形で良いですかね?」

「おし、解った。一先ずコイツ等を鍛冶場に置いてくる。少し待ってな」

 

鉱物アイテムを受け取り、自分のインベントリに仕舞ったビィラックは、出立支度の為に鍛冶場へと戻っていく。ペッパーはビィラックが創った甲皇帝戦脚を眺め、装備したかったなぁ…と静かに感傷に浸って、自身のアイテムインベントリに収納する。

 

「……さて、ビィラックさんは何を考えてるんだろうか」

 

そんな事を考えながら、神代の鐵遺跡はどんなエリアなのかと想いを馳せる。シャンフロのオープニングでも有った、遠い遠い昔の時代を神代と呼んでいたらしいが、其の名残が其処に在るのだろうか。

 

「戻ったで、ペッパー。そいじゃ行こうかの」

「あ、お帰りなさい。早かったですね」

「一流の鍛冶師は、準備も行動も早いものじゃ。オヤジがそうであるように、わちもそうありたいんじゃ」

 

そうこうしている内にビィラックが戻ってきた。やはり出来る女…ならぬ出来る兎は行動が早い。

 

「わちは他の兄弟姉妹と違って『人間の姿』にはなれん。ピーツや『エムル』なんかは其れが出来るが…代わりに、こういうんなら出来るけぇの」

 

そう言いつつ、アクセサリーの手袋を外したビィラックは、胸に巻いた晒しを弛め始める。すると彼女の身体の毛がモコモコと成長し始め、ふっくら柔らかな毛玉の様な状態になった。

 

「じゃ、ちぃとばかし失礼するけのペッパー」とビィラックは言い、ペッパーの首に毛を巻き付けて左腕を覆い隠す様にくっ付いた。

 

「なにこれ」

「ビィラック流擬態術、ヴォーパルファーコートじゃけ」

「ペッパーはん、ビィラック姉さんの毛は暖かいさね?」

「うん…ホカホカしてる。何時も鍛冶場に居るからかな、温かくて良いね」

 

ファーコートのようになったビィラックの毛並みは、肩や腕の肌から伝わっており、肌触りはまるで高級羽毛布団に匹敵している程の柔らかさだ。

 

実際に掌で触ってみたい気持ちは有るが、其れをやった場合はビィラックに100越えの筋力と如何にも強力な武器たる大鎚で、頭をぶん殴られて頭蓋骨が粉砕される未来しか見えない。

 

アイトゥイルがサードレマに続く扉を開く。目指すはマッドネスブレイカーの成長派生形態の1つに必要な素材、駆動鉱石(ギアメタル)が在る神代の鐵遺跡だ。

 

 






2羽の黒兎と、遺跡を踏破せよ



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光線梶木は捜索スレにて胡椒を語る



掲示板回です。





ペッパーがアイトゥイルとビィラックの2羽の黒兎と共に、神代の鐵遺跡に向かわんとし、行動を開始した頃。時を同じくして、ペッパー捜索スレこと『胡椒争奪戦争』では大きな動きが起こっていた。

 

事の発端は、とあるプレイヤー。もとい『レーザーカジキ』により始まったのだった…………

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

【情報】胡椒争奪戦争 part1【急募】

 

 

 

 

……………………………

…………………………

………………………

 

346:ルクルク(初)

ペッパー見付からない…

 

347:プリミチア(上)

サードレマ広い…

 

348:一寸亡(初)

沼掘り倒せない…

 

349:サンダーナット(上)

いやマジで何処行った、胡椒のクソッタレは

 

350:フルプル(初)

裏路地だけでも迷路だからぁ、サードレマ

 

351:バグナラク(初)

せめて法則というか、出入りしてるエリアがハッキリすれば何とかなる……はず

 

352:海パン7世(初)

旅人のマント持ちは少なからず居るんだが、隔て刃シリーズの防具+旅人のマント持ちプレイヤーは更に少なくて、プレイヤーネーム見ても違うパターンばっかり

 

353:ベントレマン(上)

ショップを見回っても見付からないし、建物の上を利用して移動してたりするのか…?

 

354:アッド(上)

じゃあ俺、今度高い所から観てみるわ。ペッパーが見付かるかもしれねぇし

 

355:カレーのジョーンズ(上)

頼んだ。此方は引き続き、サードレマの裏路地のマッピングと聴き込みで、地道に捜してみるわ

 

356:悪魔バット(上)

了解

 

357:マルマラ(初)

アイアイサー

 

358:レーザーカジキ(初)

こんにちわー

 

359:ガンバッチョ(初)

お、レーザーカジキ。いらっしゃい

 

360:バサシムサシ(上)

情報持ってない?レーザーカジキ

 

361:超合金豆腐(上)

現在進展が無い!

 

362:トットロ(上)

新しくスレ建てたのに此の様だ!

 

363:タンバリン(上)

雑談みたいな状況になりつつある…

 

364:ルクルク(初)

全然見付からないから、スレもかなり滞ってるわ

 

365:レーザーカジキ(初)

そ、そう…なんですね………

 

366:バグナラク(初)

……ん?

 

367:海パン7世(初)

おやレーザーカジキ、何か良いこと有ったか?

 

368:ケケケーラ(初)

ですね…何か有ったのですか?

 

369:ムラクモ(上)

どったの、レーザーカジキはん?

 

370:レーザーカジキ(初)

あ、ケケケーラさんにムラクモさん、こんにちわ。実は僕、ペッパーさんと出会ってフレンド登録結んで貰えました

 

371:ケケケーラ(初)

……………えっ?

 

372:ムラクモ(上)

………………へ?

 

373:アッド(上)

ファッ!?

 

374:トットロ(上)

ちょいちょいちょいちょい!?

 

375:ブロンズエイト(初)

待て待て待て待て!!え、マジなの!?

 

376:ベントレマン(上)

え、いや…え?えぇ……

 

377:一寸亡(初)

マ!?

 

378:ルクルク(初)

うそぉん!?

 

379:ムラクモ(上)

えっと…まぁ色々聞きたいけんど……取り敢えずペッパーの事や。どんなプレイヤーだったか解るかいな、レーザーカジキはん?

 

380:レーザーカジキ(初)

ペッパーさん、以前皆さんが言ってた特徴と同じだったんですが、オッドアイでちょっと強面の、凄く優しそうな見た目でした。僕、御近づきに成りたくてMPポーション1ダース渡したら、御礼にエンパイアビーのハチノコくれました

 

381:プリミチア(上)

レーザーカジキ一人称:僕なんだ…というかエンパイアビーのハチノコ!?

 

382:海パン7世(初)

エンパイアビー・クイーンの巣に損傷を与えないで、クイーンの討伐をすると手に入るアイテム…だったよな?それって

 

383:ケケケーラ(初)

更に言いますと、其のハチノコは高効能の強走薬の原材料の1つで、道具屋や薬剤師に売るとかなりのマーニに換金出来るアイテムになってますね

 

384:ベントレマン(上)

其れを何の躊躇も無く渡せるって…マジかよペッパー

 

385:アッド(上)

リュカオーンに認められた実力は確かだな、アレを単騎で攻略出来るって

 

386:マルマラ(初)

てか、エンパイアビーの巣を落としたって事は、ハチノコ以外も持ってるんじゃないか?

 

387:タンバリン(上)

エンパイアビー・クイーンやワーカーにハンターの素材、もしかしたら帝蜂蜜(エンパイアハニー)も持ってるかもね

 

388:ムラクモ(上)

少し薄くても十分甘いんよ、あの蜂蜜。ホットケーキにかけて食べてみてな?飛ぶよ

 

389:プリミチア(上)

唐突なスイーツテロ止めてください…ホットケーキが食いたくなるの…

 

390:超合金豆腐(上)

んでだ、レーザーカジキ。ペッパーと何話したんだ?

 

391:サンダーナット(上)

それな。そこんとこ気になるわ

 

392:カレーのジョーンズ(上)

情報開示プリーズ

 

393:レーザーカジキ(初)

えっと…ペッパーさん曰く、大事な情報は伝書鳥でのやり取りになるのと、あと出せる情報は限られてるって言ってました

 

394:プリミチア(上)

限られた情報…気になるわ

 

395:サンダーナット(上)

取り扱い注意情報多数ってか?

 

396:アッド(上)

やっぱり直接聞くしか………いや待て、レーザーカジキはフレンド結んだから、伝書鳥使えるし其れで聞き出せるのか

 

397:ベントレマン(上)

確かに。シンプルに考えたら情報ゲットもいけるじゃねーか

 

398:バサシムサシ(上)

レーザーカジキ、現状ペッパーとのコネクト持ちはお前だけだ。初心者に言うのもなんだが、ペッパーへの聞き出しやらを頼めるか…?

 

399:レーザーカジキ(初)

えっと、はい。…………でも、正直に言いますと、僕自身ペッパーさんとは普通に。情報とか関係無しに、お話がしたいだけなんです

 

400:レーザーカジキ(初)

ユニークモンスターのリュカオーンに認められたペッパーさんに会って、どんな人なのかなって純粋に知りたくて…。出会ってみて、フレンド登録を快く結んで貰えて、凄く嬉しかったんです

 

401:レーザーカジキ(初)

きっとペッパーさんは、僕の事は普通のプレイヤーで……一期一会みたいに思っているでしょうけど…僕にとって、あの瞬間はかけがえの無い時間でした

 

402:レーザーカジキ(初)

だからまた会えたら情報とか関係なく、ゆっくり普通のお話がしたいなって…そう思ってます

 

403:ベントレマン(上)

光だ…!光がいる……!!

 

404:超合金豆腐(上)

コノキモチ…コレガ、ココロ……?

 

405:ブロンズエイト(初)

ま、眩しすぎるッッッッッ!!!

 

406:バグナラク(初)

目がああああああああああ!!!!

 

407:バサシムサシ(上)

やめてくれ、レーザーカジキ。其の言葉はシャンフロプレイヤーの大半にブッ刺さる

 

408:プリミチア(上)

純粋過ぎるよ、この子…直視出来ない……

 

409:アッド(上)

俺達の心が汚すぎる定期

 

410:ムラクモ(上)

基本的にMMO関連には、平等って二文字は無いんや。けんど、レーザーカジキはんみたいなプレイヤーが1人居るか居ないかで、ゲームの雰囲気は良くも悪くもなるんよな。うん……貴重な人材やね………

 

411:超合金豆腐(上)

それな、本当に其れは真理だわムラクモ

 

412:一寸亡(初)

ゲームってのは世知辛い世の中に似てる。だからこそ、こういうプレイヤーが光って見えるんだ…

 

413:ケケケーラ(初)

そうですね……そうかもしれません………

 

414:ルクルク(初)

うむ……

 

415:ブロンズエイト(初)

右に同じ

 

416:レーザーカジキ(初)

えっと…、皆さん大丈夫ですか?

 

417:プリミチア(上)

大丈夫、大丈夫…ちょっと泣けてきただけだから

 

418:アッド(上)

レーザーカジキ、お前は俺達の様にはなるな…

 

419:カレーのジョーンズ(上)

オンラインゲーム経験者組の発言だから気にするな…

 

420:ベントレマン(上)

君は其のままの君で居て…

 

 

 

………………………………………

……………………………………

…………………………………

 

 

 






全てのプレイヤーが悪という訳ではない



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遺跡は危険(スリル)未知(ロマン)で溢れている



ペッパー御一行、遺跡散策を開始する





サードレマの裏路地から出発し、時折表通りも駆使しつつ、神代の鐵遺跡へと繋がるゲートを越えたペッパーと、ビィラック&アイトゥイルの1人と2羽のヴォーパルバニーのパーティーは歩みを続ける。

 

「此処等辺、草木が所々に生えてきてるな…そろそろ着くだろうか?」

「地面に黒い物体が埋まってたじゃろ?アレは元々、遺跡に在る『どろーん』なる物の成れの果て、ちゅーハナシをオヤジから聞いた」

「オカシラも昔、ワイの寝る前に語ってくれてたさ…懐かしいさね…」

 

周りに人が居ないか確認しつつもペッパーが進んでいくと視界に小さく映る、根と苔に侵食された、黒い鋼色の建造物が見え。走り出して、草々を掻き分けて接近していくと、徐々に大きくなっていき、軈ては見上げる程の巨大にして時代の流れを感じる、大いなる遺跡に辿り着いた。

 

「此処か…『神代(しんだい)鐵遺跡(くろがねいせき)』は」

「うむ、此処にペッパーの求める『駆動鉱石(ギアメタル)』が在るんじゃ」

「そして、別の街に向かうための踏破するエリアの1つ……さ」

 

遺跡は何時の時代も、危険と宝探しの匂いが漂う。未知とは危険に似てこそいるが、其処に解き明かされぬ謎が在るならば、人は其れを求めて歩む事を止めない生き物で。そしてペッパーも、そんな人間の1人なのだから。

 

「さぁ…遺跡(ダンジョン)攻略行きましょうか、御二人さん」

「応ッ」

「了解さ~」

 

ファーコートを解除したビィラック、マントから出たアイトゥイルを両肩に乗せ、鐵遺跡の『地上側』からの入口より脚を踏み入れて、ペッパー達一向は地下へ続く階段を降りていく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下続きの階段を下り、遺跡の地下一階にやって来た一同の目の前に現れたのは、皹割れて苔むした壁や床と天井に、機械の電子板に似た紋様と不規則に浮遊している黒鋼の板達が点在しているエリアだった。

 

「……『ブレイヴ・ギャラクシー・ファイター』のラスボスステージだわ此処…懐かしい」

「ぶれ…何じゃて、ペッパー?」

「ギャラクシー…神秘なる宇宙の事さ…」

「あー……此方の独り言だから、2人は気にしなくて良いよ」

 

一昔前…といっても10年くらい前の、まだディスプレイがゲームの主流だった頃に発売された、SF格闘ゲームの金字塔…其れが『ブレイヴ・ギャラクシー・ファイター』というゲームだ。

 

当時としては圧倒的なステージクオリティと、VR技術の先駆けとも言える操作感を融合、大会も開かれた事も有った『神ゲー』で、俺とカッツォが交遊関係を結ぶ際に話の『決め手』になったのも、実は此のゲームが大きかったりする。

 

「えっと……確か事前に調べた情報だと、地下5階にエリアボスの『ルイン・キーパー』が居るんだよな。で、其の先に出口が在り、シャンフロ第6の街『シクセンベルト』に到着する。と……」

 

下に行けば行く程に鐵遺跡は荒廃しているというのが、事前に調べた情報の中には在った。ネットの中…情報収集時、何時も御世話になる『考察クラン:ライブラリ』の有志プレイヤーによる記事にはこんな事が書いてあったのを思い出す。

 

『神代の鐵遺跡は昔々の神代の時代に『何か』が起きて、地下側のエリアは大打撃を受けた痕跡が在り、下に進む程に荒廃しているのは、其の『何か』が理由である。今後とも調査を続け、記載していく所存だ』━━━━━と。

 

(其の『何か』が、特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】に関係有ったら、また面倒な事になりそうだなぁ……)

 

またしても厄介事に不発弾が重なる気配がして、ペッパーは気と頭が重くなる。と━━━━━

 

「ペッパー!横に注意せい!」

 

不意にビィラックの声が響き、直後に真横から殺気を感じて、ステップを踏みながら回避すると、先程まで自分達が居た場所にギィィィィン!と金属同士の激突音が鳴り。

 

其処には此のエリアで浮遊している黒鋼色の板と同じながら、正三角形のピラミッドタイプの物体が再度浮遊を開始している姿があった。

 

「アレは敵…というか、リュカオーンの呪いが効かないのか…。『生物系統』と『物質系統』の違いか何か働いてるのかね、あのピラミッドは?」

「ペッパーはん、来るさね!」

 

思考する傍ら、先端部分で突撃を掛けてくるピラミッドに、アイトゥイルの声で切り替えたペッパーは、再び回避して目の前の敵に集中。物質系統なら試しにと、アイテムインベントリから、マッドネスブレイカーを取り出して左手に装備する。

 

「アイトゥイル!ビィラックさん!」

 

2人を肩から下ろしつつ、向かってくるピラミッドに対しては、スキル:ジャストパリィを使って弾き飛ばし。

 

「新スキルの一撃、食らってみなピラミッド!」

 

言うが早いか、レイズインパクトの進化スキルで目や頭部、核といった弱点部位へのダメージ補正が大幅に上昇した『ダイナモインパクト』を平面部分に叩き込む。

 

マッドネスブレイカーの特性である、最も近い相手に対するダメージ補正上昇と相まって、黒鋼色のピラミッドは一撃で粉砕され、ポリゴンが爆散した。

 

「おぉ、コイツは威力十分!」

「ペッパーはん、次来るさかい!」

「油断するなよ、ペッパー!」

 

此方の先制攻撃を皮切りとしたのか、ピラミッド型の物体達が次々と正三角形の先端部分で、此方を怒突きに掛かり始めた。

 

「折角だ!便秘で学んだ格闘技術、お前達で試させて貰う!」

 

突進してくるピラミッドに、ペッパーはスキル:アクセルを起動し、アイトゥイルとビィラックを常に視界に置きつつ、ベルセルク・オンライン・パッションで学び、習得した格闘技術を披露する。

 

甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)が装備出来ない此の恨みぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!お前等で晴らしてやる畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

怨嗟に等しき声を挙げ、ピラミッドの進行方向に立ちつつも、スキル:見切りとハイドレートワークの併用で躱わし。無防備な平面に『回し蹴り』を、上から来る場合はブレイクダンスの要領を用いた『蹴り上げ』で、後ろから来るならば『背面蹴り』を打ち咬まし。

 

地面に撃墜させてからの、ヤクザキックに似た『踏み付け』や『踵落とし』や『膝蹴り』による追撃、サッカーボールキックの様に『蹴り飛ばしたり』しながら、スキル:剛擊やハイプレスを用いた『拳による殴り付け』を無機物のピラミッドに叩き込む。

 

「ペッパーの奴、滅茶苦茶燃えとるのぉ…わち等も負けとれんな、アイトゥイル!」

「そやね、ビィラック姉さん!ワイ等も遅れは取れないのさ!」

 

鬼神の如く殴り蹴るペッパーに負けじと、ビィラックも炎霊の手袋(イフリートグローブ)を装着。己の獲物たる大鎚・王鬼の戦鎚(スレッジ・オーガ)を手に取り、接近してくるピラミッド達の位置を見極める。

 

「狙い良し…位置良し…!いける!」

 

地面に打ち付けた戦鎚が、衝撃によって炎を纏う。地獄の業火に等しき熱と、ビィラックの鍛えられた筋力から繰り出される其のスキルは、巨人の名に相違無き絶大な一撃と成って放たれる。

 

「ぶちかませ…!タイタンブラスト!!!」

 

ガッキィィィィン!!!と一際大きな音が鳴り響き、戦鎚に弾き飛ばされたピラミッドが、近くを浮遊しているピラミッドや鉄板を巻き込んで激突。

 

ピラミッド達はボウリングのピンが如く離散して地面に墜落、打ち咬まされたピラミッドに至っては、ピンボールのパチンコ玉の様に反射してあちこちに飛んで行き、最後は壁にぶつかって粉々に砕け割れた。

 

「月威…さね!」

 

アイトゥイルの嵐薙刀(らんなぎなた)虎吼(とらほえ)もまた唸り、凝縮された一点集中による突っ衝きが、墜ちたピラミッド達の土手っ腹へ、周りに一切の皹割れを残さない風穴を穿ち抜き、1つまた1つと破壊していく。

 

其れを横目で見たペッパーは思ったのだ。

うん、やっぱり此の2人滅茶苦茶強いわ……と。

自分も更に強くならなくてはいけないと、そう肝に強く銘じて。

 

「準備運動としちゃ、上出来じゃろ」

「良い汗掛けたさね…嗚呼、酒が美味いのさ…」

「お疲れ様です」

 

エリアに居たピラミッド達をあらかた砕き尽くし、安全を確保した一向は、少しだけ休憩を挟んで次のエリアへ、次なる階層を目指して進む。

 

遺跡探索はまだ始まったばかりだ。

 






次の階層へ進め




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神代の神秘は、悠久の刻に揺蕩う



深く、深く、潜り行け




神代の鐵遺跡、地下2階……━━━━━━

 

「おどりゃあああああああ!」

「どっせぇぇぇぇぇい!!」

 

ビィラックの王鬼の戦鎚(スレッジ・オーガ)とスキル:マテリアルデストロイが、ペッパーのマッドネスブレイカーとスキル:バルガストライクが、ピラミッド型とは同じ色で異なる形の円球体型(スフィアタイプ)に各々炸裂し、球体に皹が迸って砕き割れた。

 

球体を構築するポリゴンが爆散し、ペッパーの足元には小さな破片が転がり落ちる。

 

「っし!硬かったな、さっきから遭遇するボールみたいの」

「ビィラック姉さんもペッパーはんも、ほんまパワフルさね」

 

エリアを往復浮遊している巨大な鉄板の上での戦闘を繰り広げ、ビィラックとアイトゥイルにハイタッチをし合いながら、ペッパーは1つずつ鐵遺跡のエリアを越えていた。

 

地下1階の最初のエリアから始まり、此処に来るまでにピラミッドタイプが。地下2階に降りると今度はボールタイプが、リュカオーンの呪い(マーキング)が在るにも関わらず、自分に襲い掛かって来た事で、ペッパーは少なくとも、呪い(マーキング)は『視覚を持ったモンスター』にしか効果が無いか、自分のレベルが此処に居るピラミッドやボールより『低い』可能性が有ると予想する。

 

「ドロップアイテムは…『神代の鉄辺』、鉱石系統のアイテムかな?」

「そうじゃけ。コレを大量に用いた鉄装備は、ちょいと頑丈じゃ。ただまぁ…数が揃うまでに根気がいるけの」

 

ビィラックの説明に「成程」とペッパーは言い、マッドネスブレイカーを使って迷うこと無く、鉄片を砕き割る。

 

「ペッパー、ワリャ何しとるんじゃ!?アイテムじゃぞそりゃ!?」

「マッドネスブレイカーの耐久回復ですけれど…駄目でしょうか?」

「いや、止めはせんが…。そうか、マッドネスブレイカーの特性か………」

 

ペッパーの発言に少し肩を落とすビィラック。おそらくだが、ユニーク武器たるマッドネスブレイカーを一度、自分の手で直してみたかったのだろう。

 

「………うーん、どうしようかなー。マッドネスブレイカーの耐久値を、完全に回復させたいなー。こんな時、頼れる一流の鍛冶師に、お願い出来ないかなー?」

 

チラッチラッと目線をビィラックに向けてみると、彼女の顔が太陽みたいに明るくなった。うーん、チョロい……大丈夫か先生の長女よ。

 

「そんなに気になるか?じゃったら、わちに任せんしゃい!応急処置になるが、メンテナンスしてやるけぇ!」

「其れでは御言葉に甘えさせて貰います」

 

そう言ってマッドネスブレイカーを手渡すペッパー、ビィラックは嬉々としてユニーク小鎚を受け取り、早速鍛冶師スキルを使ってメンテナンスを開始する。

 

「にしても…まだ地下2階とは言え、あちこちにダメージが在るみたいだね」

「諸行無常の響き…形在る物は何れ滅びて無くなる、其れが自然の摂理なのさ」

 

アイトゥイルの言う事は至極であり、此の遺跡も何れは風化によって無くなる運命に有るだろう。

 

「ペッパー、マッドネスブレイカーの応急処置完了じゃけ!」

「うおっ、流石名匠ビィラックさん。仕事が早い」

「ふふん。また修理したくなったら、わちに頼め!確りじっくり直しちょるけぇ」

 

ドヤッと言った具合で、晒しを巻いた胸を張るビィラック。やはりマッドネスブレイカーを修理する傍らで、人間が産み出した技術を見てみたかったのだろう。

 

と、自分達の乗る巨大鉄板が独りでに止まり、目の前には地下へと続く階段が在る。

 

「どうやら、地下2階とも此処で御別れらしいな…」

「ペッパーはん、こっから先は足場が崩れやすくなっとるさ、足元にも気ぃ付けんとな」

「落下したらわち等でも助けに行けん、慎重に立ち回れよペッパー」

 

2人の忠告を受け、ペッパーはコクリと小さく頷いて歩き出す。此処から先は神代の鐵遺跡の折り返し地点、地下3階の新しいエリアだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ…こりゃエグいレベルで荒れてるな…」

 

 

地下3階への階段を降りた先、ペッパーの視界には一際広い空間が広がっており、フロアを形成する壁や天井には無数の穴が空き、床は僅かな衝撃が加わろう物なら、一瞬で全体が崩落しそうな脆さが匂う。

 

そして天井をよく見ると、ピラミッドやボールと同じ黒鋼色の無数の『歯車』達が突き刺さっており、不思議な雰囲気を醸し出していた。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。彼処に在る『山』は何さね?」

「山?えっ何処に在るの、アイトゥイル?」

「彼処に在るさ、ほら彼処…」

 

アイトゥイルの発言とに目を細めて、エリアを汲まなく見渡して見ると、エリア中央辺りに如何にも『採掘ポイントだから掘ってね~』と主張する、複数の大きな盛り土と如何にもな大きめの、円状のフィールドが在った。

 

「あ、見えた。ありがとうアイトゥイル」

「彼処にペッパーの求めとる『駆動鉱石(ギアメタル)』が在る訳じゃな」

 

早速向かおうとするビィラックだったが、ペッパーは彼女の前に手を翳し、停止を促す。

 

「ペッパー、どないした?」

「……何か『嫌な予感』がするんですよね。あからさまというか、顕著というか……」

 

ペッパーは此のフロアのシチュエーションが、嘗てプレイしたレトロゲームの中盤ダンジョンに似ている事に気付いた。

 

其れは、ストーリーに関わる重要アイテムがあるダンジョンに潜り、目当てのアイテムが在るフロアに到着。いざ入手……といった所だったが、悪い予感が頭を過って別のアイテムをフロア入口から投げ込んでみた。

 

そうした時、アイテムが在った場所と自分が立っている所以外の全てが、崩落するという初見殺しのギミックが発動。選択次第では、自分は落下死してガメオベラする所だった経験がある。

 

「アイトゥイル、ビィラックさん。万が一が有ると思うので、俺の肩に乗ってください」

「……分かった。なら失礼するけ」

「心配性なんよな、ペッパーはんは。でも其処が良い所なのさ」

 

2羽の黒兎達が肩に乗り、ペッパーは先ず手始めに神代の鉄片を床に向けて投擲。コロンカロンと音が鳴りこそしたが、床が崩れる気配は無い。

 

ならばとスキル:アクセル及びハイビート、更にアクタスダッシュを起動。床が崩れ落ちる可能性が発生する其の前に、中央の採掘ポイントまで駆け抜ける事にし、一気に掘り出して此のエリアから脱出する事にする。

 

ペッパーが一心に、真っ直ぐに走り出した。其れがトリガーだったのか、天井に刺さっていた歯車達が一斉に振動。天井から抜き出され、一気に襲い掛かってきた。

 

「げぇ、二重トラップかよ!?」

 

あからさまに崩落しやすいフィールドを目の前に提示し、地下1階と地下2階で緩い動きでも反応してきた、同じ色のピラミッド型やボール型との戦闘で思考に刷り込ませる。そうする事によって知らず知らずの内に、ペッパーは『此のフロアは早く走り抜けないと崩落する』という可能性に、思考を誘導させられていた(・・・・・・・)

 

そして彼は歯車型の起動条件に『一定速度以上で移動する存在の検知』が在ったのだと、此の一連の中で製作者側が仕掛けた『ミスディレクション』なのだと気付く事となる。

 

「此のフロア作った奴、絶対ミスディレクション系のマジック好きだろ!嗚呼もう、マジでやられた!!」

 

頭上や後方を狙うように、歯車型がペッパーを狙って来た。人間の視界は頭部の構造上、首を回さなくては後方を確認出来ないようになっている。

 

俗に言う『死角』と呼ばれる其れを補う為、人の耳は左右の真ん中に陣取るように、感知した『音』をダイレクトに脳へ伝えられるよう、数千年の何百世代に渡る命のバトンを重ねながら、最適化するように『進化』したともされている。

 

だが、ペッパーは現時点で頭を回して振り向く必要は無い。何故ならば。

 

「ペッパーはん!後ろ側の見えない部分は、ワイとビィラック姉さんで補うのさ!」

「ワリャは真っ直ぐに、其のまま採掘ポイントまで移動するけぇ!そして茶々っと駆動鉱石を掘り出すんじゃ!」

「はいっ!」

 

万が一に備え、両肩に乗せたビィラックとアイトゥイルが、死角を補う観測者になってくれる。中央に在る盛り土まで移動し、アイトゥイルとビィラックが歯車型の注目(ヘイト)を集めるべく、今にも崩壊が起きそうな床の上で戦闘を開始。

 

一方で注目を集めた2人の働きに応えるべく、マッドネスブレイカーで採掘ポイントたる盛り土を叩くペッパー。しかし其れが、其れこそが。此のフロアに秘められていた『最大のギミック』だった。

 

採掘ポイントたる円状のフィールド、其の『真下』。フィールドを一心に支えていた、一本の『支柱』が━━━━━衝撃により『ピンポイントで崩れた』。まるで一昔前に流行っていたプッチンプリンのような、綺麗で重力に従うような落下で。

 

「へ…?!嘘、だろッ!?」

 

更なるミスディレクションの攻撃に、ペッパーは反応が完全に遅れた。だが、よくよく考えれば『こうなる可能性』は大いに考えられた。

 

あからさまな崩壊手前のフロア、ダメージを受けている床、此方の移動速度で反応する敵、そして中央に置かれた採掘ポイント。

 

触らぬ採掘ポイントにギミックなし━━━そんな格言がペッパーの脳裏を過った。

 

「ペッパーはん!」

「ペッパー!」

 

アイトゥイルとビィラックが走り出し、此方へ手を伸ばしてくる。だが、兎達の其の行動を見た歯車達は何を思ったのか、はたまたシステムが定めた挙動なのか。

 

彼女達がペッパーの異変に気付いた瞬間に、死角を狙うようにして背中を押して、彼の方に飛ばしてきたのである。

 

「な、んじゃ…と!?」

「やられた…さ!!!」

「アイトゥイル!ビィラックさん!」

 

飛ばされる彼女達に、ペッパーは目一杯に腕を、指先を伸ばして腕を握り取り、胸元に引き寄せて包み込むように守る。

 

大円状のフィールドが採掘ポイントを抱えたまま、ペッパーと2羽の兎を乗せて落ちていく。地下4階を抜け、地下5階にまで落ちようとした直後━━━━『何かに乗っかり』滑走して。

 

風を切り裂き、無数のカーブを描いた其の果てに、一同が辿り着いたのは、地下に行く程に荒れ果てた遺跡の特徴を真っ向から否定するかの様な、此の空間で一際綺麗に整備された隠し扉の前であったのだった。

 

 

 






胡椒と黒兎達は、神秘なる場所に辿り着く



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空を夢見る願い、其れ即ち翼の歌



特殊クエストのキーアイテム




「あいっててて……尻を思いっきり打ったわ……」

 

ヒリヒリと感じる尻餅の痛みを感じながら、ペッパーは自分の体力を確認する。最大HPである15が6まで減ってこそいたが、重体…では無いにしても生きてはいた。寧ろ尻餅で死んでいたら、其れは其れとして笑えない話になるのだが。

 

「ビィラックさん、アイトゥイル、大丈夫?」

「わちは何とかな…」

「ワイも大丈夫さ…」

 

抱き抱えたビィラックとアイトゥイルの安否を確認すると、2人とも無事であり一安心するペッパー。円状のフィールドは何処かに突っかえているのか、此れ以上は先に進む事も無く止まったまま。

 

そして目の前には此の遺跡では一際異質な、綺麗に整備された扉が立ち、周りの間取り的に考えても隠し部屋であるように、ペッパーには見えた。

 

「何じゃけぇ、此処は……」

「今までの所と違う感じが匂うのさ…」

「だな…。しかし、どうやって帰れば良いのか解らん…」

 

脱出の為の方法は後で考える事にしたペッパーは、念の為にポーションによる回復と周辺確認を行う。周りには敵の気配は無く、ペッパーはマッドネスブレイカーを取り出して、採掘ポイントを掘り始め。出てきたのは、黒鋼色の鉱石の中に小さな歯車の様な紋様を残す鉱石だった。

 

 

 

駆動鉱石(ギアメタル):神代の鐵遺跡に住むサプレスドローンが寿命を迎え、組まれたシステムに従って一ヵ所に積み重なる事で産まれた物。

 

遺跡のドローンにとっての其れは、同胞達の亡骸であり。遺された者にとっては、其処で確かに存在した同胞達の残示である。

 

 

鉱石の説明文からして、開拓者が完全に墓荒らし認定を食らっている事を理解するには十分で。例えリュカオーンの呪い(マーキング)であろうが、組まれたシステムが闘争を選択させていたのだと気付く。

 

「………すいません。同胞の亡骸をいただきます」

 

ペッパーは合掌と一礼を行い、マッドネスブレイカーを湖沼(こしょう)小鎚(こづち)に切り替え、円状フィールドの採掘ポイントを1つも残らぬように、全て採掘し終えてみせた。

 

「おーい、ペッパー。此方に来ちょくれや」

「ペッパーはーん」

 

と、ビィラックが自分の事を呼んできて、ペッパーは湖沼の小鎚をアイテムインベントリに仕舞って、彼女達の元へと向かう。

 

「どうしました?」

「此の扉じゃけ。さっきから押せども引けども、どうにも開く気配がせんのじゃ」

「一層の事、此の扉を壊して入っても良いのさねと、ビィラック姉さんが言い出してな?ペッパーはんの意見を聴きたいのさ」

 

一同の目の前には、頑丈なロックが施されているであろう扉。仮に神代の技術が用いられているならば、攻撃した瞬間にサプレスドローンが物量で押し寄せたり、強烈な電流が流れたりと、迎撃用のシステムが生きている可能性が高い。

 

「こういうタイプの扉って、案外『認証システム』が鍵になったりする事有るんだが、まぁそうはならんでしょ……」

 

試しにペッパーは旅人のマントを捲り、リュカオーンの呪い(マーキング)が刻まれた右手と、首に巻き付いた致命魂(ヴォーパル魂)首輪(くびわ)を見上げるようにして、扉に見せる。

 

「……うん、まぁそうなるよね。こりゃ別のエリ『……認証:識別コード『リュカオーン』、『ヴァイスアッシュ』…………。及び証たる『マーキング』並びに『首輪』を………確認。━━━ロックを解除します』…………あっるぇ?」

 

ハズレだと思った行動が、まさかの大当たり(クリティカル)だった事に、ペッパーはすっとんきょうな声が洩れる。

 

そんな彼を置いてきぼりにするかのように、扉は重い金属音を立てながら、ゆっくりと開いて。アイトゥイルとビィラックは興味津々の様子で入って行き、ペッパーもまた黒兎達に遅れる形で、部屋の中に入ったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重く堅く閉ざされていた扉が開ききり、ペッパーとアイトゥイル、そしてビィラックの視界に映るのは、埃を被る『小さな研究施設』だった。

 

『現代社会』のオフィスに似た机やディスクチェア、横には溶接機材を含めたロボットアームと作業エリアが区分された空間であり、机には分厚いファイルが幾つか積み重なって置かれている。

 

其の部屋の一角には、成人男性が一人余裕で入れそうな『大きな金属製の箱』……形状的に見れば『タイムマシン』に似た物が鎮座し、中身は外からも確認出来ないようになっていた。

 

「何じゃ、一体コレは……」

「随分とごちゃごちゃしてるのさ…」

「こりゃまた、とんでもない所に来ちゃったよ」

 

神代の鐵遺跡…もしかして昔は『研究所』だったりしたのか?システムが組み込まれたサプレスドローン達、下層部に行く程に荒廃した異質さ。

 

疑問と考察が浮かぶものの、謎が謎ばかりを呼び続けており、何処かで区切らないと永遠に終わらない蟻地獄に突入すると感じたペッパーは、一旦思考を真っさらにして散策を行う。

 

「ん?」

 

辺りを見回しながら散策していたビィラックが、何かに気付く。ノイズが走りながらも青い僅かな光を透写し、空間に描かれている其れには『レディアントシリーズ』なるSFアーマーが表示されている。

 

「ペッパー、こりゃ何じゃけ?」

「何ですか、ビィラックさん………レディアントシリーズ?何でしょうかコレは」

「考古学者のわちにも、解らん代物じゃ…。じゃが此の青い光は『ほろーぐらふぃっく』なる、立体物を創るとか言う、昔の技術らしいのはオヤジから話を聴いたけぇ」

 

ペッパーはビィラックの発言から、此れはホログラフィック技術であると察する。解らないのは此の『レディアントシリーズ』なる存在で、舞台背景が中世時代の世界観であるのに、何をトチ狂ったか近代的スーツというミスマッチ。

 

此れも、神代の時代で造られた物なのだろうか?そう思っていた時だった。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん!此方来てさね!」

 

アイトゥイルの声が聞こえて、彼女の元へと走り寄ったペッパーとアイトゥイル。どうやら彼女は、開かずの大箱の丁度横に置かれていた透写機に触ったらしく、其れが起動ボタンに触れたのか、映像が再生されたようだ。

 

開始して暫くの間、ノイズと砂荒らしが起きていたのだが、漸く画面が正常となって落ち着き、鮮明となり其処に映し出されたのは、暗い部屋の中で女性が1人、椅子に座りながら話をしている場面だった。

 

現代風の科学白衣に、腰まで伸びたオレンジのボサボサツンツン長髪、黒の縦ニットセーターと赤のミニスカート、黒タイツを身に付けた彼女は足を組んで、独白の様に画面に向かって話をしている。

 

『今此の瞬間…此れを見ているのが、誰なのかは解らないけれど。……此処を訪れたという事は、私が産み出した『答え』を受け取りに来たのでしょうね』

 

ヴァイスアッシュが語った『蒼天に夢を抱いた人間』。おそらく彼女こそ、世界に其の答えの示した存在である事が解る。

 

『残念だけれど……私が産み出した物は『(アーマー)』・『機構(ギア)』・『(エンジン)』の3つに分割して、別々の場所に封じたわ。此処にあるのは、其の答えの内の『器』に当たる物よ』

 

彼女は首を縦に振ったが、ペッパーにとっては寧ろ有り難い情報だった。千紫万紅の樹海窟の奥地にてティラネードギラファ&カイゼリオンコーカサスが何世代にも渡り、今尚守護し続けている『魂』。

 

そして此処に存在する『器』、残り1つの『機構』を探し当てれば、全て揃うことになる。

 

『私の答えは3つ全て揃う事で、始めて其の力を『取り戻せる』。けれど、其れ等を全て揃えたとしても『神の御業を持つ者』以外で、其の翼を『甦らせる事』は叶わないわ』

 

予想通り、3つ全てを揃える事で空を飛ぶ力は手に入るようだ。しかし問題も有り、神の御業を持つ者にしか直せないと言う台詞から、其の条件を充たす者を探し当てて、修繕を依頼しなくてはならず、其れまで空は飛べないらしい。

 

『最後に1つ……私が遺した願いが、心正しき者に紡がれる事を切に願う。唯々自由に、純粋に蒼空を夢見た私の願いが、其の者の手に託される事を……』

 

そうして遺された映像メッセージは途切れ。其の直後、一同の真横に在ったタイムカプセルらしき箱のロックが解除。白く冷たい煙が足元に流れ込み、床一面を雲海の様に埋め尽くしていく。

 

煙が晴れて箱の中に在ったものは、ビィラックが見せたホログラフィックの映像と同じ形状をした、蒼空をイメージするスカイブルーに、霹靂のような稲妻を模した金色の雷マークが刻まれた、昔に大ヒットを記録したSF映画の主役が開発した、メカニカルスーツ一式に似て非なる姿形をしていた物。

 

此のスーツは見るからにとんでもない逸品だと、本能的に感じたペッパーは、畏れながらもスーツの内容をチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レディアントシリーズ(ユニーク遺機装(レガシーウェポン)):神代の時代に、ある科学者と鍛冶師により産み出された、人が蒼空を舞う為の(よろい)籠脚(ガントレッグ)。其の中の1つでも身に纏えば、人は短時間という制約の下でも、天を飛翔する事を可能にした。

 

其れを産み出した者の、穢れ無き蒼天に夢を抱いた願いは、願いを紡ぐに相応しき者が全てを纏う時に紡がれ、装備者は天を駆ける翼を授かるであろう。

 

(しか)して此れは、答えの『(うつわ)』であり、分かたれた『機構(きこう)』と『(たましい)』を揃える事無くして、目覚める事は叶わず。

 

 

 

頭装備(あたまそうび):レディアント・ヘルメイト【EMPTY】

胴装備(どうそうび):レディアント・アーセナル【EMPTY】

腰装備(こしそうび):レディアント・オルサーグ【EMPTY】

脚装備(あしそうび):レディアント・クラリオン【EMPTY】

籠脚(ガントレッグ):レディアント・ソルレイア【EMPTY】

 

 

 

 

 

 

 

(遺機装(レガシーウェポン)って何?全部装備したら自由に空飛べるってどうゆうことなの?そのまんま?そのまんまの意味として受け取って良いのかコレ??

 

というか、まだ序盤の序盤なのに何かとんでもない防具一式安置されてるってマジなの?大丈夫?俺以外で呪い受けた別のプレイヤーが、此処にやって来て中身持ってったりする可能性無かったの??)

 

神代の鐵遺跡の地下3階から落ち、滑走した円状のフィールドに乗って辿り着いた扉。

 

其れが開かれた先に在った部屋でペッパーが見付けたのは、見たこともない防具と自分がビィラックに頼んで創った筈の籠脚という、カテゴリーの武器であり。

 

しかし、此れこそが特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】に置いて、ヴァイスアッシュが言っていた『人が空を飛ぶ為の答え』であり。同時に分かたれた3つの要素の内の1つたる『器』であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は神代よりの願いを託された』

『称号【夢を紡ぐ者】を獲得しました』

『特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】が進行しました』

 

 

 

 

 






斯くして先人より、夢と願いの翼は託された


レディアントシリーズ:【ユニーククエスト:インパクト・オブ・ザ・ワールド】の第三段階【颶風を其の身に、嵐を纏いて】に置いて、鍵を握る神代時代の遺機装(レガシーウェポン)であり、防具と籠脚からなる一式装備。

全身に纏う事によって蒼空を自由に飛翔する事が出来るが、其の力を狙った者との争いによって、唯一(たった1つ)を遺して全てを破壊し、遺った其れを3つの機能に分かたれたとされる遺物。

ヴァイスアッシュ曰く『世界に示した答えで、人が空を自由に翔べる様になった物』であるらしい。



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宝探しの後は脱出までがセット



無事に危機を脱するまでが遺跡散策です




神代の鐵遺跡にて、隠し部屋に納められていた『レディアントシリーズ』なる、ユニーク遺機装(レガシーウェポン)と呼ばれる武具防具を入手、もとい授けられる形で夢と願いの結晶を受け継いだペッパーは、其の装備一式全てをアイテムインベントリに仕舞い、改めて研究所なる此の部屋を見渡した。

 

「重要な施設…なのかは定かじゃないが、其れでも特殊クエストの最重要アイテムは手に入れられたから、良しとしよう」

 

出来れば此処に在る資料を挟んだファイルやらも、希少アイテムの匂いがしたので持ち帰りたかったが、獲得不可能状態だった為に泣く泣く諦める事に。

 

「ペッパー、此処からどう脱出するけ?乗ってきた円状のフィールドはもう動きゃせんが」

「何か良い作戦有るかいな?」

 

遺跡散策やダンジョン系統のゲームで、宝探しを終えたなら其の後にやるべき事は1つしかない。宝を保持したまま生きて此処から脱出する、王道にして摂理たる戦いが待っている。

 

「アイトゥイル、ビィラックさん。先ずは俺達が今居る場所の状況を確認しましょう」

 

脱出ゲームにおいて、大事になる要素は3つ。

 

何時如何なる状況でも、制限時間が差し迫ろうが、落ち着いて行動する冷静さ。

 

残されたアイテムやシチュエーションを元にして、脱出への道筋をイメージする頭脳。

 

最後に脱出する1分1秒まで諦めず、そして油断せず、未知を楽しみ抜ける己の心だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隠し部屋から出たペッパー達一向は、先ず自分達が置かれている状況を整理する為に、部屋入口周辺並びに隠し部屋内の今一度の探索を開始。そして数十分程の散策よって解ったのは、先ず此の部屋が地下4階の中腹地点に存在していて、登れば地下3階へ降れば地下5階に行ける事が解った。

 

ただどちらのルートにも問題が存在しており、地下3階へ登る場合は此処から少し行った先に在る、鉄製梯子を使えば地下4階を経由せずに行けるが、鼠返しの様になっている床に阻まれることになり、仮に床を壊そうとして動いたなら、先程のサプレスドローンの歯車型(タイプギア)に襲われ、3人纏めて落下死する危険性が非常に高い。

 

一方の地下5階に降りるルートの場合は梯子もなく、光源がアイトゥイルの妖炎桃燈、降る際の命綱が『あるアイテム』のみになる上、暗闇の中で敵が襲って来ての戦闘と全員無事に降りられるか解らないリスクと引き換えに、隠し部屋内部で見付けた遺跡の簡易見取図によって、エリアボスの目の前のエリアに向かう事が可能になるというもの。

 

「決めました。下に降りましょう」

 

ペッパーの答えは即決だった。地下3階に登ったとしても地下4階に立ち寄れないともなれば、確実に罠である可能性は高く、そしてビィラックとアイトゥイルが共にパーティーに居る以上、全員生存による鐵遺跡脱出が彼の中では絶対条件として定まっている。

 

エリア攻略、遺跡脱出。其れは自分を含めて、誰一人として欠ける事無く、皆で手にした宝物と喜びを分かち合ってこそ、宝探しゲームは自分達の完全勝利だと考えるが故に。

 

「地下に降りるんはエエが、アイトゥイルの桃燈じゃ狭い範囲しか照らせんぞ?」

「確かにそう。だけど、何時かこういう事態に陥る『かもしれない』って考えて、エンハンス商会で色々買っていました」

 

そう言ってペッパーはアイテムインベントリから、消耗品アイテムの1つたる『ロープ』を取り出す。

 

「遺跡散策と言ったら、やっぱりロープは必須。雰囲気以上に、文字通り自分達の命を繋ぐ綱にだってなれる」

「流石ペッパーはん、準備に余念が無いのさ」

 

あらゆる可能性を考慮し、エンハンス商会にて購入していた5本のロープ。1本に付き10メートルの其れは、全て繋げて伸ばした場合には、およそ48メートルが限界の長さ。

 

つまり此処から地下5階までの深さが、80メートル以上あった場合は、落下ダメージを加味しても生か死の二択になる為、自動的に地下3階に登るルートに切り替える以外方法が無くなってしまう。

 

危険な賭けであるのは変わりはしないが、鼠返しで落ちるよりかはまだ勝算がある、分の悪くない賭けだ。何よりも自分達はエリアボスの攻略を目指している。成ればこそ、危険を承知して進むのみ。

 

遺跡探索ゲームであった、縄同士のより強くする結び方で5本のロープ達を結び合わせて、1つの長いロープに変える。片側を梯子の根本に力一杯結びつつ、残りを暗闇で見えない其処へと垂らす。

 

「アイトゥイル、ビィラックさん。しっかり掴まっていて下さいね」

「はいさ~」

「頼むけぇ」

 

2羽の黒兎を腹に乗せ、ペッパーは腰にロープを通しながら、ゆっくりと1歩づつ、地下へと向かって降りて行く。

 

ロープの軋む音が暗闇と静寂の中で木霊しながら、アイトゥイルの妖炎桃燈が照らす僅かばかりの光源を頼りに、ペッパーは慎重に上下左右や自身の足元、光灯る場所から見えていない暗闇部分の対応出来るよう、耳を研ぎ澄まして音を聞いた。

 

(今はまだ大丈夫……。けど、何時何処から来るか解らない以上、此方もチンタラしてる訳にはいかない)

 

緊張で手汗がロープに滲む。ペッパーは落下の危険を加味しつつ、旅人のマントで時々手汗を拭きながら、少しずつ地下へと降りて行く………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降下を開始してから、およそ10分が経過する頃。ロープの残されたメートルも少なくなり始めた時、漸く待ち望んでいた物が見えた。

 

「ペッパーはん!地面が見えてきたさ!」

 

妖艶桃燈が照らす中でペッパー達が見たのは、有ると信じて降り続けてきた、地下5階の地面。

 

「やっと着いたけぇ…ロープが足らんかと、肝を冷やしたのぉ…」

「本当ですね…兎に角、何とか……」

 

ロープを手離して降りようとしたペッパーだったが、アイトゥイルの妖炎桃燈が照らした地面と壁を見て、強烈にさて多大な『違和感』を抱いた。

 

降りようとしている地面は、何故か『人が3人分通れそうな広さで有るにも関わらず、なだらかな斜面になっている』のである。謂わば此処は、まるで『スロープ』の一部の様な場所の様で。

 

「ペッパーはん…どしたん?」

「アイトゥイル、ビィラックさん………此処の地形に何か違和感が有りませんか?」

 

2人にも此の違和感が伝わっているか。もしくは其れに気付けるか。そう思って、彼は質問を投げ掛けた。

 

「違和感じゃと…?見た感じ、地面が『斜めに』なっちょるけんの」

「あ………本当さね。でも其れがどうしたん?」

 

2人は知らない、ペッパーは知っている、探索ゲーの醍醐味を。

 

「遺跡系統のダンジョンっていうのは決まって、暗黙の了解に似たある種の『約束事』が在るんですよ」

 

旅人のマントの装備を解除し、ロープを振ってブランコの様に漕ぐ。遠くに飛べるように、少しでも距離を稼げるように。身体を大きく振り、ペッパーは飛ぶ。

 

「御二人共、着地したら絶対に俺から離れないで下さい」

 

そう忠告したと同時に着地、足裏から伝わる衝撃。落下ダメージが入ったことで体力が僅かに減少するが、そんな事は此れから起きる事に比べたなら、些細な事でしかない。

 

着地を関知したのか、遠く遠く背中の方の、奥の奥からガゴン!と一際大きな音が鳴り響き、地面をゴリゴリと削りながら此方に向かって『何か』が来ている。

 

着地と同時に、アクセル・ハイビート・アクタスダッシュ等の移動系スキルを全起動したペッパーは、背中に古部り憑くように迫る存在に向けて言う。

 

「さぁ…生還か死かの鬼ごっこ(デッド・オア・アライブ)だ!」

 

爪先に力を込めて、指先を真っ直ぐに伸ばし、状態を低く落としたフォームで、ペッパーはアイトゥイルとビィラックを背中に乗せながら、一心不乱に走っていく。

 

「な、何じゃあ!?ありゃあ!?」

 

妖炎桃燈の僅かな光の中、ビィラックが背後に迫ってきた物の存在に気付いて声を上げた。視界を僅かに後ろに向けると、遺跡脱出ゲームで十八番なコテコテの巨大鉄球が、スロープの床を削りながら此方に迫って来ていた。

 

「脱出ゲームなら、最終盤面即死ギミック対策は必須科目だよなぁ!」

 

足を踏み込み、腕を振るい、ペッパーは駆けていく。しかし其れでも、徐々に、確実に、先んじて走り出したにも関わらず、距離が狭められていく。

 

「!ペッパーはん、彼処!」

 

アイトゥイルが指差す先、500m程向こうに人が一人通れるスペースが見える。おそらく、鉄球に押し潰される前に入れれば、三人纏めて生き残れる。

 

だが、今の状態では全員鉄球に潰されて、ガメオベラ一直線の状況に変わりはない。

 

負けない……!

 

負けられない………!

 

負けたくない………!

 

此処で自分が殺られれば、アイトゥイルとビィラックも巻き添えで死ぬ事になる。そうなればもう二度と会えなくなってしまうかもしれない。そんな予感が、ペッパーの脳裏を過る。

 

「うぅぅおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

アクセルとハイビートが強化補正が最大地点まで到達し、ペッパーの速度が過去最大まで上昇する。だが其れでも足らない。此のままでは、出口に到着するギリギリで自分達が鉄球に潰されてしまう。

 

 

 

『此の身を削っても良い』。だからもっと、速度を寄越せ。

 

『己の命を差し出してやる』。だからもっと、速度を出してみせろ。

 

 

 

「負けってぇ……たまるかぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

自らの殻を破るように、全てを引き出しきるように、ペッパーはブートアタックの進化によって、攻撃だけでなく『モーションを含めたアクションの速度』を、スタミナの消費と引き換えに加速させる『ジェットアタック』を使用。

 

迫っていた鉄球を強化したダッシュアクションで突き放し、逃げ場たる出口へとヘッドスライディングにより、一瞬早く飛び込んだ。

 

出口に激突した鉄球がペッパーの身体を押して、スライディングで滑った身体はダメージが入り、ペッパーは体力が尽き果てる前に、回復ポーションをインベントリから出して、がぶ飲みに走る。

 

「ペッパー…!ワリャほんまに、無茶するなぁ!」

「お疲れ様さね、ペッパーはん…!」

 

あと一歩踏み出すのが遅かったら。あと一瞬ジェットアタックを起動するのが遅れたら。もしくはあの時にロープを振らずに降りていたら。ビィラックかアイトゥイル、もしくは二人か自分を含めて三人共々全滅していた。

 

そんな、有り得たかもしれない可能性を噛み締めつつも、即死トラップで全員生存という最高の結果を噛み締めながら、ペッパーはハイビートによって発生したスタミナ回復量半減が解除されるまで、暫く寝転がっていたのだった……。

 

 

 






限界を越えて、走り抜いた開拓者




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錆び朽ちる守護者(ルイン・キーパー)に、安らぎの鎮魂歌(レクイエム)



鐵遺跡のエリアボスとの一戦へ




「改めて思うけど……遺機装(レガシーウェポン)とは何ぞや?」

 

ハイビートのデメリット解除とスタミナ回復を待つ間、ペッパーはアイテムインベントリに納めた、レディアントシリーズ一式に記載されるワードに首を傾げる。

 

此れが神代の時代に造られた物であり、そして蒼空を飛翔する願いが込められた物であるのは解る。だが此れはどうやって造られたのか、一体何を素材にしたのかまでは解らない。

 

「ビィラックさん、遺機装って何か解ります?」

「わち自身鍛冶師じゃけんど、ソイツ等ん事は全く解らんのじゃ」

 

名匠ビィラックですら解らない、異質な防具と武装達。何よりペッパーが疑問視していたのはレディアント・ソルレイアであり、此の武器のカテゴリーは『籠脚(ガントレッグ)』……以前ビィラックに製作を依頼して完成したが、現状練度規定値(レベルキャップ)未到達により、アイテムインベントリ内で置物と化している、甲皇帝戦脚(エクスパイド・ウォーレッグ)と同じ武器種。

 

現状ファステイアやセカンディル、フォスフォシエの武器屋のカテゴリーにも無かったので、おそらく第三段階クリアで正式にシャンフロ各地で解放される武器カテゴリーであると思われる。

 

「じゃが…遺機装(コイツ)の扱い方は、オヤジなら解るかもしれん」

「先生が?」

「あぁ。オヤジはラビッツの頭をエードワードの兄貴に継がせて一線を退く前までは、ばりっばりの鍛冶師じゃったけ。わちはオヤジから鍛冶師としての『いろは』を叩き込まれたからの」

 

ペッパーはヴァイスアッシュがラビッツの国王かと思っていたが、実際は隠居して自分の子供の中の長男らしいエードワードなるヴォーパルバニーが引き継いでいる事が解った。

 

時折彼が兎御殿に居ないのは、ある程度の(しがらみ)から解放されて、自由を謳歌出来るようになったのだろうかと、ペッパーは考え。

 

「お、ハイビートのデメリット解除完了。じゃあ御二人共、行きましょうか。エリアボス討伐に」

「はいさ~」

「うっし、打ちのめしちゃるけぇ」

 

全スキルの再使用時間並びにスキル:ハイビートのデメリット解除を皮切りとし、旅人のマントを再着。アイトゥイルとビィラックと共に、此の先で待っているエリアボス、ルイン・キーパーの御尊顔を拝みに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神代の鐵遺跡・地下5階……地上から地下を降り続けてきた開拓者が、外へと出るべく最後に辿り着く此の場所で、門番をしている全長5m程の人間に象られた機械人形が居る。

 

老朽と風化に晒されながらも原型を留め続け、苔が生えた装甲を各部に纏う、昔の映画であった天空の城で産み出されたロボットのような其れは、侵入者を生きて此処から出すまいと起動し、ペッパーと2羽の黒兎達の前に立ち塞がった。

 

「コイツが鐵遺跡のエリアボス…!」

「違い無い、ルイン・キーパーじゃ…!」

「随分古ぅゴーレムさ…!」

 

見るからにスクラップ寸前なのだが、初動でペッパーを狙い繰り出してきた右腕の振り下ろしで、其の浅はかな考えを修正する。

 

「うおっ!?コイツ、思った以上に機敏に動ける!」

「腐ってもエリアボスじゃ!ペッパー、決して油断するなよ!」

 

回避を挟んで聞こえたビィラックの忠告に、ペッパーは「はいっ!」と答え、アイテムインベントリから彼女が耐久値を回復してくれた、マッドネスブレイカーを左手に装備して、ルイン・キーパーと向き合う。

 

「ロボットやゴーレムタイプの敵との戦いは、先ず機動力を削ぐ事に有る…!俺とアイトゥイルで隙を作るので、ビィラックさんはルイン・キーパーの膝関節を狙って下さい!」

「任されたさ、ペッパーはん!」

「分かった、気ぃ付けんよ!」

 

巨大ロボット系を倒すには幾つか手段がある。機動力となる脚部を壊すか、核が在る胸部を壊すか、全機能を処理する頭部を壊すか。

 

ペッパーが選んだのは『脚部の破壊』━━━頭部は高い場所に在る為に避けられる可能性が高く、胸部は劣化と風化しているルイン・キーパーの中では『比較的』進行が遅い為、破壊には苦労すると踏んだからである。

 

「こっちさね~」

「此方も居るぞ!」

 

膝関節攻撃の鍵となるビィラックから注目(ヘイト)を逸らすべく、ペッパーとアイトゥイルはルイン・キーパーの動きを制限するよう、機動力を駆使した立ち回りで誘導を掛けに行く。

 

と、ルイン・キーパーの頭部がいきなり180度回転、ステップで後ろに移動していたビィラックの方へと視線が移る。

 

「な、なんじゃと!?」

「うっそだろオイ!?」

「そげん事出来るのさ!?」

 

人形のゴーレムで有りながら、まさかのギミックを搭載していた事に、一向は三者三様の驚き方をした。そして驚いている間にも、ルイン・キーパーは巨体の駆動を止める事をせず、右足を動かして右腕による裏拳をビィラック目掛けて叩き込まんとする。

 

「させっっっ……かよぉ!!!」

 

其の声と共に動いたのはペッパーで、スキル:アクセルによる敏捷と筋力上昇を加え、マッドネスブレイカーのダメージ補正上昇能力、打撃系スキルたるハイプレスに、更にはバルガストライクを掛け合わせたフルスイングを、ルイン・キーパーの足首目掛けてブチ当てる。

 

「足首を…挫きやがれぇぇぇ!!!」

 

此の機械人形が『人体を模した物』であるならば、全身の重量を支えるのは『2本の脚』だ。其の内の1本が崩れるだけでも人は容易く転ぶ、其れが軸足であれば尚の事。

 

だが、ルイン・キーパーは裏拳を即座にキャンセルし、右腕を折り曲げ、肘を挟む形で転倒を防いで、直ぐに体勢を立て直しに掛かる。やはりエリアボス、そう易々とは沈んでくれないようだ。

 

「ペッパー、今のお陰で隙が作れた。感謝するぞ」

 

そんな折、ビィラックの声が聞こえて。彼女がルイン・キーパーの左脇腹に肉薄する。

 

「食らいなぁ、ルイン・キーパー!」

 

ビィラックのスキル:マテリアルフォーカスが発動。命中精度の向上が行われ、同時に王鬼の戦鎚(スレッジ・オーガ)が、赤い業火を纏いて燃え上がる。放つは城塞を打ち砕く戦鎚の一撃。

 

「フォートレスブレイカー!!!」

 

ルイン・キーパーの脇腹を渾身の一撃が直撃、勢いそのままに立て直された体勢が再び崩れ、地面に押し倒される。其の衝撃たるや凄まじき一言で、遺跡の地面にはクレーターが出来上がり、朽ち錆びの機械人形の胸部装甲が爆ぜて、核となるコアが白日の元に晒された。

 

R18Gのゲームなら、先ず間違いなく胴体の内臓はミンチとなって消し飛び、胸より上と腰より下だけが残った凄惨な死体が出来上がるだろう。

 

「今じゃ!いけ、ペッパー!アイトゥイル!」

「はいさ、ビィラック姉さん!」

「分かりました!」

 

嵐薙刀・虎吼が無双閃刃による刃の刺突連擊が、マッドネスブレイカーのダイナモインパクトが。各々ルイン・キーパーの胸部に納められた核を無数に穿ち、心臓破壊の一振は剛擊と成って機械人形の核を砕く。

 

ルイン・キーパーを構成したポリゴンは崩壊し、ペッパーの目の前には『苔生(こけな)した装甲板(そうこうばん)』がドロップする。

 

「ルイン・キーパー。何千年も此の遺跡の門番として、相違無い実力だった。機転の効かし方、転倒防止の行動……得られる物は多かったぞ」

 

ドロップアイテムを拾い上げ、消えたルイン・キーパーに述べ、彼は駆け寄るビィラックとアイトゥイルにハイタッチをした。

 

日が傾き、夜の帳が世界の空を満たす頃、神代の鐵遺跡の地下より脱出したペッパー達一向は、目の前に拓かれた山に等しい、相応の高度を誇りし大きな丘を、月が昇り始める辺りに漸く踏破。

 

シャンフロ第6の街であると共に大陸では一番の農業によって栄え、片や天にまで伸びる雲海に覆われた落下死が常に付き纏う道、片や足を滑らせば轟音と激流貫く大河に呑まれる道の、二つに一つを選ぶ場所『シクセンベルト』に到着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして同時刻……ファステイアでは新しいプレイヤーが、シャンフロの世界に降り立った。

 

「お~…すっげ、身体がスムーズに動くわ」

 

金髪のツインテールを揺らし、オレンジの虹彩が揺め煌めく、初心者装備一式に身を包んだ女子プレイヤーが顕現する。

 

しかし其の声は男性の其れであり、男子が女性プレイヤーでプレイする、所謂『ネカマ』に当たる物なのだが、ゲームのプレイスタイルは十人十色の千差万別━━━━気にしては負けなのだ。

 

「じゃ…見せて貰いますかね。文句無しの神ゲー(シャンフロ)の実力って奴を」

 

そう言った女性プレイヤー………『オイカッツォ』は、ファステイアに在る各施設でチュートリアルを受ける為、一人動き始める。

 

だがオイカッツォ……『魚臣(うおみ) (けい)』は気付かない。自分のメイキングしたアバターが、女性化した場合の自分をほぼ鏡写しにした様な状態である事に。

 

 

 

 






胡椒はシクセンベルトへ、プロゲーマーはファステイアより動き出す




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胡椒はレベリングを、鉛筆は共闘を欲す



急募するは、レベリングへの最適解





シクセンベルトに到着したペッパー達一向は、裏路地にてアイトゥイルのゲートを、ラビッツとシクセンベルトに繋いでいた。

 

「此れで完了さね、ペッパーはん」

「アイトゥイル、ビィラックさん、今日は御協力ありがとうございました。アイトゥイルにはMPポーションを、ビィラックさんには駆動鉱石を」

「ありがとうさ、ペッパーはん」

「おぅ。わちはラビッツに戻って、マッドネスブレイカー2本分の製作に取り掛かるけぇな」

 

「よろしくお願いします」と頭を下げ、ビィラックとアイトゥイルがゲートでラビッツへ帰還するのを見届け、自分はこのままシクセンベルトの武器屋で、マッドネスブレイカーの3つの内の成長派生形態の1つを育成する手筈を整え、ログアウトしようかと考えた時だ。

 

シャンフロに同期したEメールアプリに1件のメールが着信して、ペッパーは誰からだろうと其の内容を確認。其の内容に少し笑みを溢しながら、メールを通じて少しのやり取りをしたのである。

 

 

 

件名:シャンフロ始めた

 

from:ブシカッツォ

 

to:A-Z

 

よぉ、A-Z。今さっきシャンフロにログインしたぜ。いや、これホントスゲェな。自分の身体みたいに、思った以上に動きやがる…。クソゲーと全ッ然違うわ

 

あぁ其れと、鉛筆の方にも俺始めたって報告入れといたぞ。因みにアイツのレベル何れくらいか解るか?早いとこ追い付いて、メールで煽られた分レベルマウントで取り返してやりたいんだけど

 

 

 

件名:Reシャンフロ始めた

 

from:A-Z

 

to:ブシカッツォ

 

おめでとう、ブシカッツォ。一先ず此れからよろしく。鉛筆…もといペンシルゴンのレベルに関しては、俺自身聞いてないし、気にしてないから解らないが、装備から見るにレベルカンスト前提だと思う

 

俺もシクセンベルトに到着したが、レベリングでちょっとした縛りが入っててキツい所だから、ペンシルゴンにレベリングに最適な穴場を聞くつもりでいる

 

まぁ確実に何かしら要求されそうだが…因みに俺レベル30

 

 

 

件名:マジかよ

 

from:ブシカッツォ

 

to:A-Z

 

マジか、カンストか…。こりゃ当分煽り散らかしそうだわ鉛筆のヤロー。あとさらっとレベルマウントで煽るの止めろ、地味にムカつく

 

色々試して直ぐ追い付いてやっから、首洗ってサンドバッグにされるつもりで待ってろよA-Z

 

 

 

件名:Reマジかよ

 

from:A-Z

 

to:ブシカッツォ

 

んじゃ其の時には安全圏に雲隠れしますんで^^

 

まぁでも、レベリングで鉢合わせん時には御互いに強くなって、ペンシルゴンに煽られないようにしようぜ?ブシカッツォよぉ

 

 

 

「…相変わらず負けず嫌いだわな、ブシカッツォの奴め」

 

彼のゲーマーとしてのタイプを知っているペッパーは、フフッと微笑を溢す。そして彼は、あまりやりたくは無かったが、甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)による脚パリィと蹴脚戦術を試したい事と、特殊クエストのクリアに少しでも近付きたい気持ちも有り。

 

故に彼はペンシルゴン相手に、暴利を吹っ掛けられる事を覚悟した上で、Eメールアプリでメールを作成する。だが其の胸中に宿ったモヤモヤした想いは、文脈を綴る程にメレンゲのように膨れていき、いざ送信しようとすると其の指先が震えて送信を拒み。

 

数回に渡る添削を繰り返した果て、ペッパーはメールを送信した。

 

 

 

 

 

件名:シャンフロの先輩として

 

from:胡椒

 

to:鉛筆

 

非常に不本意ですが、シャンフロの先輩であるトワに聞きます。サードレマから行ける地域で、レベリングに効率的な穴場を教えて下さい

 

特殊クエスト関係を進めてたら、新しい武器が解放されるみたいで、其の武器はステータスの他に一定のレベルが装備条件になってるらしく、今現在リュカオーンの呪われた身なので大変です

 

協力する場合には、ユニーク関係以外で何かしらの要求は呑む用意があります

 

 

 

(お、送っちまったぁぁぁぁぁあああ………。いやマジどうするよ……あの時から俺の胸ん中はモヤモヤしたままだし、ペンシルゴンに弄り倒されそうだしで本当に嫌だぁぁぁぁぁ…………)

 

自分が自分でメールに綴った文章を思い出して、裏路地の壁に額を擦り付けて落ち込むペッパー。彼女に弱みを見せる事は即ち、ロクな事にならないに繋がる為にこういう事自体やりたくは無かった訳なのだが、背に腹は変えられない。

 

と、Eメールアプリに1件の新着メールが届いて、不安が99.9%支配した状態になりながら、嫌な顔をしつつもペッパーは内容を確認する。

 

 

 

 

件名:Reシャンフロの先輩として

 

from:鉛筆

 

to:胡椒

 

サードレマから行ける、レベリングに最適な場所ならペンシルゴンお姉さんは知ってるよぉ?要求を呑んでくれるなら、一緒に其処に行きたいけど明日以降で空いてる日は有るかな?集合場所はサードレマの蛇の林檎…何時もの所でね

 

其れと…ありがとね。あーくんが私を頼ってくれて、嬉しいな

 

 

 

理不尽な要求をされるかと身構えていたが、パーティーを組んで欲しいというだけらしく、ペッパーはホッとしかけるも、此の文章に裏が有るかもしれないと文脈の隅々まで確認を取る。

 

だが、何処を見ても其れらしい表記は見当たらず、此れは合流後に何かしら仕掛けてくる可能性が高いという結論で、一旦落ち着く事にして。

 

頭の中に入ったバイトのシフト表と大学講義予定を思い出し、ペンシルゴンに2日後なら行けると連絡したのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シクセンベルトの裏路地から、ペッパーは街の武器屋にやって来た。此処で今まで世話になったマッドネスブレイカーを駆動鉱石(ギアメタル)を用いた派生形態へ成長させる為に。

 

「こんばんわ~」

「いらっしゃい…ってペッパーさんか、アンタ?」

 

応対してきたのは、片目がモンスターの引っ掻き傷で潰れ、左腕には酷い火傷の痕が残る男性。前掛けを着け、鍛練を重ねたであろう筋肉が、只者でないと解った。そんな男性がペッパーを見て反応してきたので、彼は「はい、ペッパーです」と答える。

 

「そうか、サードレマから遺跡を越えてきたんだな…。フォスフォシエや、セカンディルの鍛冶師からの伝書鳥(メールバード)を見ているから、俺も力になるよ」

「ありがとうございます。早速なのですが、フォスフォシエの女性鍛冶師から、マッドネスブレイカーに駆動鉱石を加えると、別の姿になると聞きましたが…育成出来ますか?」

「勿論。素材は持ってるかい?」

 

どうやら快く依頼を受けてくれるらしく、ペッパーはカウンターにマッドネスブレイカーと鐵遺跡で採掘した駆動鉱石を乗せていく。

 

「うん…これだけ有れば、充分に育てる事が出来るよ。ただ今日はもう遅いし、2日程時間を貰えないかな?」

 

「お願いします」と男性に頼み、ペッパーは一先ずミッションを完了した。2日後にラビッツの兎御殿からシクセンベルトへ飛び、武器を受け取ってサードレマの蛇の林檎に集合。ペンシルゴンが知っているレベリングの穴場で、甲皇帝戦脚が装備可能に成るまで練度を高める。

 

此処に計画は整い、後は当日に備えて準備を…と思いながら武器屋を出た時に、ペッパーは自分に対する視線を感じた。

 

何処からの視線かと辺りを見回してみると、桃色の髪をツインテールに束ね、左右に3つずつの計6つの桜色のリボンで各々を結び、赤のラインを通すワンピース型の衣裳を纏う『キョージュ』なる少女アバターが、ペッパーをじぃぃぃ~…と凝視している。

 

「………………………」

「………………………」

 

視線を感じながらも、何食わぬ顔で横を通り過ぎようとするペッパーだったが、旅人のマントを捕まれてしまい、尻餅を付かされて逃げられなくなってしまう。

 

「あ、あの~…俺に何か御「噂に聞いてはいたが、此処まで特徴が一致しているとはね」ブッフ?!?」

 

少女から発された声は、見た目と年齢不相応の激渋のおっさんボイスであり、不意打ちにも程が有りすぎる衝撃に、ペッパーは思わず吹いてしまった。

 

「…何かおかしい事でも?」

「すいません…あまりに唐突だったので。えっと……」

 

何から話せば良いのか解らない状況を察したのか、キョージュなる激渋ボイス魔法少女は、自ら話を切り出した。

 

「そう言えば自己紹介をしていなかったね。私はキョージュ、考察クラン『ライブラリ』のリーダーを務めている」

「ライブラリ…もしかして、ネットで考察記事を有志のプレイヤーが書いてるのって」

「ほほう、君も読者だったか。そう…クランメンバー達が様々な情報を精査し、調査し、観察し、考察し合い、シャンフロの謎を日々解明しようとしているクラン、其れがライブラリだ」

 

ライブラリがアップしている考察記事の中には為になる情報も多く、神代の鐵遺跡に関する記事も面白かったのも記憶に新しい。

 

「時にペッパー君。君は『リュカオーン』に認められ、其の身に呪いを刻まれたという情報を耳にしたが…本当かな?」

 

やはり其れが目的かとペッパーは心中で警戒を強め、同時に少し幸運だったと思った。もしもアイトゥイルとビィラックが居る状態で、さっきのマント引っ張りをされていたなら、間違いなく大変な事になっていただろう。

 

「……其の話をする前に。此処だと人通りも多いのと、リュカオーンの話は『ある人』と同席でないと話せないんですよ。連絡して合流した後で、何処かの店で話をする感じでも良いですかね?」

 

ユニーク関係の話である以上、ペンシルゴンに相談しなくてはならない。こういう場合、悪巧みと策謀ならば彼女程の適任者は居ない。

 

キョージュは少し考えた後で「ふむ…良かろう」と納得。ペッパーは「ありがとうございます」と頭を下げて、ペンシルゴンに伝書鳥の梟を送り。

 

其の数分後に、何らかの魔方陣と共に満面の笑顔で現れたペンシルゴンが、キョージュを見た瞬間に一変して苦虫を噛み潰した様な、露骨過ぎる嫌な顔をしていたのだった。

 

 

 






此のまま終わる……と思っていたのか?



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鉛筆と教授に巻き込まれる胡椒



楽しい愉しいオハナシの時間




シクセンベルト……シャンフロの大陸でも農業で栄えた此の街は、新鮮な採れたて野菜と、其れを用いて作られる料理達が旨い街としても知られている。

 

そんなシクセンベルトの中でも、取分人気なのがスープや煮込み料理であり、特に『コーラルの釜戸店』で作られる『根菜満天ポトフ』は街の中では一番旨いとされているとかいないとか。

 

今宵コーラルの釜戸店の2階にて、1室を貸し切った考察クラン・ライブラリのクランリーダーたるキョージュと、ペッパー&ペンシルゴンの話し合いが始まろうとしていた。

 

「ペッパー君。君は毎度のように私の予想を斜め上に超えてくるね。よりによって『おじいちゃん』に出逢っちゃってさぁ……。

 

まぁ、話し合い前に連絡したから許すけども?もし前みたいな事があったら、ちょ~っと『オハナシ』案件だったから……ねぇ?」

 

サイガ-100の時と同じような、黒いオーラを纏う鋭利な視線が刺さって痛い。また拗らせそうな予感しかしないと、内心で溜息を溢しつつも、ペッパーはペンシルゴンに言う。

 

「正直ペンシルゴンのオハナシってのは、毎回肝が擦り潰される想いを味わうから嫌なんだよ。例えるなら亀虫の臭いが充たされた青汁を、口ん中へ無理矢理飲まされる奴なんだけど」

「私、此のおじいちゃん相手に、話し合いしたくなかったんですけどー?此の人ライブラリ連中の中でも、兎に角根掘り葉掘り聞いてくるから嫌なんだよねぇー?」

 

相変わらず露骨なまでに嫌そうな顔をしているペンシルゴン、対してキョージュは正反対のニッコニコ顔である。

 

「しかし…シャンフロの悪名高い、PKクランの阿修羅会。其のNo,2たる『廃人殺し(ジャイアントキリング)』に、有望な後輩が居たとはね。因みに彼はフリーなのだろう?どうだい、私と『世界の真実』を解き明かしたくはないかな?」

 

さらっとクランに勧誘してきたキョージュ、其の台詞をペンシルゴンもペッパーも、両者共に聞き逃さない。

 

「………キョージュさん。ペッパー君は、ライブラリに『アゲナイ』よ。私と一緒に、やらないといけない事があるからさ」

「………クラン勧誘は嬉しいですが、俺はペンシルゴンとの約束があります。なので其れを果たすまでは、クランには入れません。ペンシルゴンとの約束を果たして、其れでも俺を迎え入れるつもりであれば、俺は貴方との交渉の席に着くつもりです」

 

黒いオーラを纏いながら、キョージュに対して宣ったペンシルゴン。そしてサイガ-100の時と同じように、自分の意思を明白にした上で勧誘を蹴るペッパー。

 

「…良い目をしているね、ペッパー君。成程成程…クラン・黒狼(ヴォルフシュバルツ)団長(リーダー)が言っていた理由、少し解った気がするよ」

 

二者各々の答えを見届けたキョージュはフフフ…と朗らかに微笑する。

 

「其れでは、互いに有意義な時間にしようか」

 

そして激渋ボイスの魔法少女の一声で、俺達の話し合いは本格的に始まる。ユニーククエストやユニークシナリオ、そしてユニークモンスター・墓守のウェザエモンの存在を絶対秘匿する為の、取捨選択の戦いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が今回、ペッパー君と取引したいのは『リュカオーンの呪い(マーキング)』が、他者とモンスターに及ぼす『影響』と『仕様』についてだ」

 

キョージュが話し合いの場にて交渉してきたのは、自身の身体に刻まれた、リュカオーンの呪い(マーキング)の詳細だった。

 

「今日まで、ユニークモンスターから呪いを受けたプレイヤーはペッパー君を除いて『確認されていない』。其故、君が体験している呪いの『情報』は、とてつもなく希少…後々君と同じような呪いを受けたプレイヤーにとって、仕様に関する情報の有無はプレイに影響を与える可能性が非常に高い」

 

情報がハッキリとしていないからこその『未知』であり、其れを『解き明かす事』が考察クランたるライブラリの使命だと、キョージュはそう言いたいのだろう。

 

「ペッパー君の『呪い』に関する情報に対し、クラン・ライブラリは『七つの最強種の情報』をペッパー君とペンシルゴン君に提供しよう。無論、既に判明しているモンスターに限るが…どうだね?」

「七つの最強種?」

「そう。ライブラリの調査班や他のプレイヤーによって、今まで謎であったユニークモンスターの『総数』が判明した。其れが『7体』、故に私達はユニークモンスターを『七つの最強種』と呼ぶ事に決めた」

 

ユニークモンスターの名前が解るだけでも、万が一遭遇した場合を考え、備える事は出来る。何より他のプレイヤーより先に名前を知れる事は、色々とアドバンテージにはなる。

 

しかし、名前が解ったとしても『特徴』や『攻撃方法』が判明していなくては、ユニークモンスターの『攻略』には繋がる事はない。

 

ペッパーは此の情報をどうするべきかと、ペンシルゴンを見ながら問い掛ける。

 

「…ペンシルゴン、どうする?」

「良いと思うよ。ペッパー君が現状体感してる事、おじいちゃんに教えてあげて」

 

「分かった」と頷き、ペッパーはキョージュにリュカオーンの呪いが刻まれた右手をテーブルに乗せ、話し始める。

 

「リュカオーンから受けたマーキングですが、自分よりもレベルが低いモンスターは、戦闘エリアでも蜘蛛の子を散らすように逃げられてしまいます。今の俺のレベルは30で、其れより弱い相手は逃げてしまって、レベリングに支障が出てます。

 

旅人のマントで隠してても、気配が滲み出ているせいか、NPCとも普通に会話出来てる方が少ないですね。其れでも、セカンディルの武器屋に居る鍛冶師のおっちゃんには、呪いを持ってても会話が出来たり、エンハンス商会のレクスさんは逆に、ハイテンションで話し掛けてきたりしましたが……」

 

自分が体験してきた事を、ペッパーはキョージュに面と向かい合って話をしていく。キョージュもまた、其の話を真摯に聞き、一言一句聞き逃す事が無いようにしているようだ。

 

「ただ、此のマーキングは『無機物系統』か『視覚を持たないモンスター』には効果が無い可能性があって、シクセンベルトに来る前に攻略した『神代の鐵遺跡』のサプレスドローン達は、呪いが有るにも関わらず襲い掛かられました。

 

なので、レベリングをする場合は『ドローンタイプ』や『ゴーレムタイプ』のモンスターと戦うのが良いかと。其れと『エリアボス』達には門番的な性質からか、呪いの効果は無いみたいで、戦闘は普通に出来ました。後はデバフや呪術に対する耐性が在るらしいんですけど……残念ながら其所は、試したりしていないので詳しくは解ってないです……。

 

今のところ、リュカオーンの呪いに関して自分が解っているのは、此のくらいですね」

 

ふぅ…と一息着くように、ペッパーは語り終えた。

 

「成程…とても貴重な情報だ。NPCの情報と有事者からの情報では、後者に軍配が上がるな」

 

ニッコリと微笑むキョージュ、どうやら情報の質に満足したと思われる。

 

「では約束通り、現在判明している七つの最強種についての情報を、ペッパー君達に提供しよう」

 

そうしてキョージュは2人に、七つの最強種たるユニークモンスターの情報を提示していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先ずはペッパー君が戦い、呪いを刻んで行った『夜襲(やしゅう)のリュカオーン』。夜の時間帯にシャンフロ各地を駆け回る、ランダムエンカウントの黒い狼。目撃情報も多く出回り、ユニークモンスターの中では知名度は『一番高い』。

 

また、最近の調査によって性別が『(メス)』であるとの情報が出てきたが、此れはハッキリとしていない」

 

キョージュが最初に語ったのは、自分にとっても因縁浅からぬ敵。サイガ-100率いるクラン:黒狼が、最終目標として討伐を目指し、そして自分が保有する手札の中でも『残照を刻んだ致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)』なる、確定召喚を可能にした爆弾クラスの切り札(ジョーカー)が在る。

 

墓守のウェザエモン共々、公に出来ない秘匿情報だ。

 

「次に『天覇(てんは)のジークヴルム』。全身が黄金に包まれた『金色のドラゴン』で、リュカオーンと同じくランダムエンカウントなのだが、空を飛んでいる為に中々戦う事が出来なかった。

 

だが、2ヶ月前に『気宇(きう)蒼大(そうだい)天聖地(てんせいち)』を探索していたプレイヤーが、頂上にて休息しているジークヴルムを発見し、此処を居住の1つにしている事が判明。人語を喋り、己を超えんとする英雄を常に求めているそうだ」

 

前に見たネットの情報に在った金色の龍、其れが天覇のジークヴルムと繋がった。己を超える英雄を求めるという性格から、ペッパーはジークヴルムなるユニークモンスターは、ある種の『魔王ムーヴ』をしているのかと考えた。

 

無論の事になるが、自分の真隣に座している悪辣外道の黒幕魔王(アーサー・ペンシルゴン)とは、一線を隔てた清き崇高なる魔王として見ての話である。

 

「最後に『深淵(しんえん)のクターニッド』。場所はフィフティシアの裏町に居る、発狂したNPCの発言によって判明した。海に潜み、巨大な足を持った、黒い大蛸のモンスターとされている……。のだが、クターニッドに関しては、リュカオーンとジークヴルム以上に情報が少ない。

 

言ってしまえばユニークモンスターに関しては、何れも此れも謎に包まれ、我々考察クランも暗礁に乗り上げているのだ」

 

夜襲のリュカオーン、天覇のジークヴルム、深淵のクターニッド、そして此方が隠している墓守のウェザエモン。七つの最強種の内、四強が明らかになったが、ペッパーは此処で1つの疑問が浮かび上がった。

 

ラビッツの兎御殿、ヴォーパルバニーの大頭『ヴァイスアッシュ』。身体から溢れる、分厚く重大な覇気を纏った彼は、もしかしたら明かされていない『七つの最強種』の一角なのではないか?……と。

 

「だからこそ…リュカオーンと戦い、其の身に強者たる証を刻まれた君を、上位クランは『戦力』や『情報源』として欲しているのだ」

 

そう言ったキョージュは、画面を開いて操作を行い。ペッパーの前に『フレンド申請画面』が出現する。

 

「フレンド申請…ですか?」

「ユニークモンスターの呪いに関して、私も解らない事が沢山有る。呪いに関して何か判ったのなら、私に連絡を頂ければ此方も、君の役に立つ情報を提供しよう」

 

キョージュからのフレンド申請、此れをどうするべきか、横目でペンシルゴンをチラリと見る。其のペンシルゴンは『駄目に決まってるでしょ!』と視線+ジェスチャーで此方に圧を掛けてくる。

 

「ペンシルゴン。確かにキョージュさんは何考えてるか解らないけれど、信用には値するプレイヤーだと俺は思う」

「ペッパー君?私の事、信用出来ないって言うのかなぁ?お姉さん悲しいぞぉ?」

「そういう意味じゃないんだよなぁ…」

 

確かにペンシルゴンは人の不幸を嘲笑う畜生で、今も何を考えてるのか解らなかったりする時もある。其れでも彼女は決めた事は必ずやりきるし、最後にはあっと驚くような結果を見せてくる。

 

悪巧みをしている時の彼女の顔は、誰よりも生き生きしているし、どんな結末を頭の中で描いているのかと興味も合った。

 

「……ペンシルゴンの事、俺は此れでも信用してるんだよ。悪事や策を憚ったら、俺の知る限りペンシルゴンの右に出る奴は居ないって思ってるし、最後には色々な意味で驚かせてくるからさ」

 

自分の内側に燻るモヤモヤは今尚晴れないが、其れでも言葉にするならば、少しくらいは整理が付くだろうか。

 

「ペンシルゴンは其の…………先輩と、しても……『頼り』に………してるし」

「ッ~~~~~~~~~~~~!!!!!」

「あいったぁ!?ちょっ、痛いって!?」

 

段々と恥ずかしくなって、後頭部を掻き始めてしまったペッパー。其れを聞いたペンシルゴンは、目に艶やかな光が灯り、頬は赤く照りながら、バシバシとペッパーの背中を叩き始めた。

 

「フフフ……良いものを見せて貰ったよ。ペッパー君、ペンシルゴン君。お邪魔虫の私はそろそろ掃けるとしよう。フレンド申請はゆっくり考えて、後日に決めてくれ」

 

其れではと、キョージュは手を振って店を後にし。ペッパーは暫くの間、ペンシルゴンに今の発言を弄られまくり、恥ずかしさで赤面する事になったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーくん、私の事そんな風に思ってたなんてねぇ~♪お姉さん、すっごく嬉しくなっちゃったよぉ~?」

「うごごごご………恥辱だ、マジで恥辱だ……!」

 

コーラルの釜戸店を出て、路地裏に入ってからも、ニヤニヤニマニマと黒い笑顔でペッパーを弄るペンシルゴンに、ペッパーは自身が晒した大き過ぎる隙を見せた事に赤面になりながら、頭を抱えて唸っていた。

 

「フフフ…あーくんは何時も気取った顔してるけど、可愛い顔も出来るんだね。お姉さん、意外な一面が見れて大満足♪」

「ぐぐぐぐ…一生の不覚だ、ちくせう……!」

 

恥ずかし過ぎて、今すぐにログアウトしてしまいたい。顔を赤面させながら、ペッパーは早歩きで路地裏を歩き続けていく。

 

そんな折「あーくん」とペンシルゴンが足を止めて、ペッパーに言ってきて。

 

「2日後に、蛇の林檎で。……またね」

 

そう言って手を振った姿は、幼い頃に見た夕焼けに照らされて、笑顔でまた遊ぼうねと約束をした天音 永遠の顔と同じで。

 

「!……あぁ、またな。トワ」

 

昔の記憶を思い出しながら、ペッパーも手を振って2人は各々の場所へと帰って行く。燻り続けるモヤモヤは今も残ったままだったが、彼女と一緒に居ながら話をして、ほんの少しだが其のモヤモヤが晴れた気がして。

 

2日後のペンシルゴンとのレベリングを行い、甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)の初陣で彼女を驚かせてやろうと、ペッパーは心に誓って此の日のシャンフロを終えたのだった……。

 

 

 






七つの最強種(4/7)




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ユニークは成長し、胡椒は鉛筆と共に往く



レベリングの幕開け




考察クラン・ライブラリのリーダー、キョージュとの話し合いから2日後。大学の講義やコンビニのバイトに勤しみ、漸くシャンフロをゆったりと出来る日が来た梓。

 

早速ログインして、梓からペッパーに成った彼は、最後にセーブした兎御殿内の休憩所のベッドにて目が覚めた。

 

「…っし!今日のレベリング頑張るぞ!先ずはシクセンベルトで、マッドネスブレイカーの成長形態を回収だ!」

 

時刻は午後3時を過ぎ、ペッパーはシャンフロに同期させたEメールアプリにて、ログインした事をペンシルゴンに伝えていく。

 

「ええっと…『ペンシルゴン、今ログインした。修繕した武器を回収してから向かうので、少し待っててください』…此れで良し。アイトゥイルー!居ますかー?」

「ほほい、ペッパーはん。ワイを呼んだかいさ?」

 

今回はベッドの下のスペースから、ひょっこり頭を出してきたアイトゥイル。毎回神出鬼没な登場だ、いつか天井から飛び出してきたりするのだろうか?

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。ビィラック姉さんから、預かっといた物が有るのさ」

「もしかして…!『アレ』が出来たんですか?」

 

「そうさね」とアイトゥイルが取り出したのは、ビィラックに製作を依頼し、四苦八苦の沼荒野で採掘した鉱石を用いて造られた、2本のマッドネスブレイカー達。

 

シクセンベルトに預けるまで使っていた物と、遜色無く仕上がっており、名匠の名に相応しい仕事振りにペッパーは感動した。

 

「ビィラックさん…ありがとうございます。よし、アイトゥイル。シクセンベルトに向かうから、ゲートを頼みます」

「任されたのさ~」

 

兎御殿からシクセンベルトを繋ぐ扉が産み出され、ペッパーは最早恒例ともなった、旅人のマントにアイトゥイルを隠して、ドアノブを握って扉を開く。成長したマッドネスブレイカーを受け取る為に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんくださーい…ってうぉ!?」

「ペッパーさんの事だから、そろそろかなと思っていてね。待っていたよ」

 

シクセンベルトの裏路地を抜けて、武器屋へとやって来たペッパーを待ってましたとばかりに、男が爽やかな笑顔で迎え入れた。

 

「依頼していた物は完成しましたか?」

「あぁ、キッチリ仕事をさせて貰った。此れが駆動鉱石を用いて育てた、マッドネスブレイカーを改め『ギルフィードブレイカー』さ。其れと、ギルフィードブレイカーの製作方法を纏めた『書物』も有るから、君の役に立ててくれ」

 

そう言い、シクセンベルトの武器屋の男がカウンターに乗せたのは、漆黒の光を内封する、噛み合った歯車模様が鎚全体に蔓延る、円型の歯車両面が特徴的な鐵色の小鎚。そしてセカンディルの時にも見た、ノートが一冊。

 

すると製造秘伝書が独りでに飛び出し、ノートは其れに吸収・合併される形となって消滅。

 

小鎚の方はと言うと、肌に触れればシットリした質感を持ち。しかし手に持てば吸い付くようなフィット具合に、確かな重量感を感じ、振れば振る程に自らの身体に馴染んでいくような、中々の逸品だった。

 

ペッパーは早速、成長して変化したマッドネスブレイカーの性能と、秘伝書の中身を確認する。

 

 

 

 

ギルフィードブレイカー(ユニーク武器):マッドネスブレイカーに、神代の鐵遺跡で採掘出来る駆動鉱石(ギアメタル)を用いて育成した、マッドネスブレイカーの成長形態の1つ。

 

遥か太古の記憶を其の身に取り込み、過去の時代に紡がれた力を以て、所持者の現在(いま)を阻む敵を、物を、壁を打ち砕く。

 

然れど其の身に宿りし力は、完全なる覚醒未だ遠く、小鎚に宿る大蚯蚓の魂は今も尚、新たなる鉱石を欲し、更なる成長と真化を目指さんとしている。

 

戦闘時、装備者に最も近いモンスターかプレイヤーに対するダメージ補正が上昇し、攻撃時に相手の武器・防具・装甲・甲殻に対して、破壊属性を付与する。

 

此の武器で鉱物系アイテムを砕いた場合、其のアイテムを破壊し、希少度合に応じて耐久値を回復する。

 

 

 

 

ロックオンブレイカーの製造秘伝書・改式:ユニーク武器・ロックオンブレイカーの生産、及び成長形態を製作する際に必要となるレシピ。武器屋で鍛冶師に見せる事で、素材を用意すれば生産可能となる。

 

此のアイテムはアイテムインベントリには含まれず、他者によるPKをされても、プレイヤーの手元を離れない。破棄不可能。

 

 

 

 

(滅茶苦茶カッコいい名前になってるし、スチームパンク味の溢れるデザインも素敵だが、破壊属性って何?そして鉱物系アイテム砕いての耐久値回復は、ロックオンブレイカー系列共通効果なのね、うん。

 

しかも製造秘伝書は改式に改名してるし、最後どうなるの?極式になるタイプ?)

 

「ありがとうございます。大事に使いますね」

 

心の中で言いたい事を言い切って、ペッパーは武器屋の男に礼を述べ、店を後にする。其の脚で裏路地に入り、見えない場所でアイトゥイルが開いたゲートを潜り抜け、兎御殿に帰還。

 

再びゲートを使い、ペンシルゴンが待つ蛇の林檎に向かう為、サードレマへと飛ぼうとしたのだが……

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。最近ワイを置いてきぼりにするのは、ちょっと関心しないのさ。一緒に連れてってくれないと、ゲートを開いてあげないのさ」

 

と、珍しくアイトゥイルが我が儘を言ってきた為、仕方無く同行を許可した。此れによりペッパーは、ペンシルゴンに見付かる危険性を孕んだ状態で、集合場所たる蛇の林檎に向かう事になる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードレマ・裏路地、蛇の林檎。アイトゥイルをマントの中に隠しつつ、普段使っている裏路地を大回りルートで走り抜け、ガチャリと扉を開いたペッパー。

 

店内は落ち着いた雰囲気が漂っており、2回とも同じ席でペンシルゴンは座っていた。テーブル席に脚を組んで座る其の姿は、さながらパリの小洒落たカフェの独り、待ち人を待っているかのような、スクショすれば漏れ無く映える1枚が撮れるだろう。

 

「待った?ペンシルゴン?」

「ううん、10分前に此処に着いた感じ。武器の方は修繕バッチリ?」

「あぁ。キッチリ仕事をしてくれてたよ」

 

アイトゥイルがマントの中に居るが、多分バレる事は無いだろう。ペッパーはそう思っていた。しかし彼は、女性が持つ『嗅覚』を甘く見ている。特に『思い人』の浮気等を嗅ぎ分ける時に至っては、警察犬の比にならない凄まじさを誇る訳で。

 

「ねぇ、あーくん。サイガ-100さんの時にはして(・・)、おじいちゃんの時にはしなかった(・・・・・)んだけどさぁ。………今日は『臭い』がしているね」

 

 

 

一体何を隠してるのかな(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

微笑みながら歩み寄るペンシルゴンが、ゆっくりとペッパーの耳元で囁く言葉に、彼の全身の毛と言う毛が一声だけで逆立った。

 

いやマジか…と。上手く隠し切ったと思っていたのだが、ふと思い返せばサイガ-100が帰った後にハグを要求してきた時点で、自分の臭いを嗅いでいたとすれば合点がいく。

 

「トワ、お前………。まさか、あん時のハグから全部『計算』してたのか?」

「ハグに関しては、あーくんに言わなくても解るでしょ?でもハグした時に、君から若干『獣臭い匂い』がしたんだよねぇ~…」

 

改めて思うが、やはりコイツは曲者だ。隙を見せようものなら、此処ぞとばかりに攻め立てるのが、アーサー・ペンシルゴンというプレイヤーな訳で。

 

一部のプレイヤーのみが使う、NPCが運営する蛇の林檎。密会として最適なシチュエーションで、他者に知られる危険を避けて、確実に情報を引き出す。

 

完全に一本取られた。

 

「さぁさぁ、あーくん。私に『隠してる物』は何なのかなぁ?」

「………はぁ。凄いよ、トワは」

 

観念するようにして旅人のマントを開くと、其処にはアイトゥイルが、ペッパーの右脇腹に引っ付く形で掴まっており。ペンシルゴンの視線に気付いて、彼女はサッと背中に隠れる。

 

「…黒毛のヴォーパルバニー?」

「まぁそうだね。此方の特殊クエスト(・・・・)の関係で、一時的にパーティーに入ってるNPC。名前はアイトゥイルって言うんだ」

 

アイトゥイルはユニーク関係なので、此の言葉に『嘘は無い』。しかし此処でペッパーが仕掛けたのは、特殊クエストの絡みであるという『フェイク』。

 

リュカオーンの呪いによって発生し、現在受注している『ユニークシナリオ:兎の国からの招待』で加わったヴォーパルバニーであると、ペンシルゴンから隠す為にペッパーは仕掛けたのだ。

 

「特殊クエストの関係ねぇ…。今回はNPCモンスターがパーティーに加わるタイプなの?」

「あぁ。どうにも、今回のクエストクリアで『新しい武器』が手に入るらしくてね。協力してくれる事になったんだよ」

 

実際は『空を飛べるユニーク遺機装(レガシーウェポン)一式+籠脚』が報酬で、武器たる籠脚は装備の『一部』でしかないが。

 

「ふぅ~ん………。其れにしても、随分和装なヴォーパルバニーなんだね。見た感じは風来坊なのかな?」

「ア、ウン。ソウデスネ」

 

ペッパーは片言のように言いつつ、旅人のマントを下ろしてアイトゥイルを再び隠した。もし此処で「アイトゥイルは女の子だぞ?」なんて言おうものなら、ペンシルゴンはまた変な風に拗らせる可能性が非常に高い。

 

「さて…あーくんが何隠してるか解ったし、気を取り直してレベリング場所に向かうよ」

 

やっと本題に入り、ペンシルゴンは自分のアイテムインベントリから取り出したのは、何かの道順が印された『地図』と『釣竿』だった。

 

「なぁトワ、何故に釣竿?」

「向かう場所は神代の鐵遺跡……其のエリアを『ある道順』で進むと行ける『隠しエリア』が在るの。で、釣竿は其処で必要になるアイテム。実際に行けば解るからさ」

 

「じゃ、往こう?あーくん」と、ペンシルゴンに導かれて、サードレマ・蛇の林檎よりペッパーとアイトゥイルは神代の鐵遺跡に向かう。

 

目指すエリアの名は『涙光(るいこう)地底湖(ちていこ)』。サードレマから行けるエリアの中では、随一に近いレベルで、経験値稼ぎが出来る事で知られる此の場所は、後に『2人のプレイヤー』も利用する事になるのだが、其れはまだ先の話である……。

 

 






再び目指すは、神代の鐵遺跡



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胡椒と鉛筆と黒兎、サーモンとサーペント



パワーレベリング突入





神代の鐵遺跡には『とあるルート』を通る事で行ける、隠しエリアが存在している。

 

遺跡へと突入し、地下1階を真っ直ぐに進むと、真ん中に穴が空いたプレートが在り、其のプレートの左側を進む。暫く道なりに進むと、大きな亀裂で谷の様になった場所が在るので、其処を飛び越えると四方が欠けているプレートが見える。

 

此のプレートは通常の物とは軌道が異なり、地下2階と3階の隙間に向かう、特殊なルートになっているので、逃さずに飛び乗る事。

 

「━━━そうして先に進んで、最後に大穴へ飛び込む事で、隠しエリア『涙光(るいこう)地底湖(ちていこ)』に辿り着く……か。しかしまぁ、こんなルートをよく見付けたなトワ」

「ふふん♪此処発見してから暫くの間、レベリングする時に通い詰めたからね。隠しエリアで出現するモンスターは経験値が美味しいし、何よりタフだから覚えたスキルの実験台にも向いてるの」

 

サードレマ・蛇の林檎から神代の鐵遺跡にやって来た、ペンシルゴンとペッパー、アイトゥイルの2人と1羽のパーティーは、彼女が書き記したルートに従って、遺跡とプレートで出来た道を、飛んだり跳ねたりしながら進んでいた。

 

「っと…あーくん、着いたよ」

 

そう言ったペンシルゴンが指差す先には、地面を繰り貫かれた様な大穴が空いており、底の方は真っ暗で見えないようになっている。

 

「なぁトワ。俺のキャラビルド、低耐久高機動の物理型なんだが、此処降りたら死にますみたいな事って起きないよな?大丈夫か?」

「随分と深いのさ……」

「斜面はスロープみたいに滑らかだから、耐久が低くてもダメージ受けないし大丈夫だよ。というか、アイトゥイルちゃん喋れるんだ…」

 

大穴を覗き込み、罠を想定した思考で言葉を発するペッパーと、実直な感想を述べたアイトゥイルに、連れ歩くヴォーパルバニーが喋った事に反応するペンシルゴン。

 

「ささ、あーくんとアイトゥイルちゃん、ほれほれ入った入った」

「う~ん…アイトゥイル、酔息吹を頼んだ」

「任されたのさ」

 

瓢箪水筒の酒を含み、火炎放射で闇が満ちる穴を照らす。どうやらペンシルゴンが言った通り、スロープ状にはなっているのでダメージは受けなさそうだが、念には念を入れて、アイテムインベントリから致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)を装備。

 

壁を背中に足裏を着けながら、罠の可能性を鑑みつつ、慎重にゆっくりと降りて行って━━━━━辿り着く。

 

地下とは思えぬ昼間に似た明るさは、地底の地層から放たれる『白照石(はくしょうせき)』と呼ばれる岩が放つ、天然のLEDライト。そして水底さえも透き通る程の、最上位クラスの水質たる地底湖が其処には在った。

 

「とても綺麗さ……」

「神代の鐵遺跡の中に、こんな場所が在ったんだな…」

「綺麗でしょ?此処が隠れたレベリングの穴場『涙光の地底湖』だよ」

 

そう言いつつ、ペンシルゴンは釣竿をインベントリから引っ張り出して、針に餌をくっ付けるや湖の奥目掛けて釣糸を垂らした。

 

「ほらほら、あーくん。フィッシングだよ、フィッシング。此処で釣り上げられるモンスターは、経験値が美味しいんだから」

「わかった、わかった。ちょっと待ってて」

 

ペンシルゴンに急かされながら、ペッパーはアイトゥイルを肩に乗せて、渡された餌を針に付け、湖に投げる。と、開始早々いきなり釣竿が引っ張られた。

 

「うおっ、いきなりヒット!」

「ペッパーはん、中々やるのさ」

「お~、あーくん運が良いねぇ」

 

筋力50以上から成るパワーで竿を引き、対象を湖より釣り上げる。水飛沫が舞い踊り、針に食い付いていたのは……栄養を其の身に蓄え、丸々と肥え太った1匹の『鮭』だった。

 

 

 

ライブスタイドサーモン

 

生命の潮流に住まう鮭。その身は食した者の体力を回復させ、その卵は優れた魔法触媒となる。大いなる大地にも命があり、血と命が巡る。

 

 

「あら、あーくん残念。其れは此処でしか釣れない魚で、料理人を職業に持ってるプレイヤーかNPCに調理して貰うと、美味しく食べられるよ」

「……つまりハズレって訳かい。まぁ、いざって時に使える回復アイテムと考えれば良いか」

「お、此方もヒットしたよ」

 

アイテムインベントリに鮭を入れていると、ペンシルゴンの釣竿が弛み、彼女がレベルカンストの筋力で湖から獲物を引き上げる。

 

其の魚影は小さく、しかし途中から大きな物へと変わり、水柱を纏って現れるは、ライブスタイドサーモンに噛み付き、髭と牙を生やした、ヒレや各部の鰭を鋭利な物へと変えた、10メートルは有ろう赤身掛かった巨大鰻。

 

「あーくん!コイツが『ライブスタイド・レイクサーペント』、経験値が美味しいモンスター!」

「よっしゃ、狩るぞ!」

「はいさ!」

 

ペッパーが致命の小鎚を振るい、アイトゥイルも嵐薙刀・虎吼を構え、ペンシルゴンもインベントリから武器を取る。

 

彼女の武器の形状は『槍』、しかし纏う気配は『魔法』や『呪術』の類いに似た物で、白黒の混沌たる『カオス』が織り成す槍である。

 

「トワは『槍使い』か、接近戦に強そうだ」

「ちょっと違うね。私の()のメイン職業(ジョブ)は『魔槍使い』、キャラビルドは『対人戦を想定した』体力・筋力・スタミナ・器用に重きを置いた、長期戦仕様。本当は『ある槍』を使ってるけど、ウェザエモン戦の為に『担保』にしてるから、今は他の槍で頑張ってる感じ」

 

もう既に墓守のウェザエモン(七つの最強種)の攻略の為に準備をしており、メイン武器を担保にしているのも、PKによるデメリット回避の為に取った行動だろう。

 

「さぁ、彼方さんが来るよ!」

『ジャアアアア!!』

 

ライブスタイド・レイクサーペントが吠え、鋭い牙でペンシルゴンに突撃してくる。

 

「アイトゥイル。俺が大鰻の側面に回る、奴の身体を切り裂きまくって」

「任されたのさ、ペッパーはん」

 

アイトゥイルを肩に乗せて、ペッパーはハイドレートワークを起動。ペンシルゴンが注目(ヘイト)を買う中で、彼は大鰻の『死角』を意識し、スキル:五艘跳びで跳躍。レイクサーペントの側面に降り立ち陣取る。

 

「バルガストライク!」

「無双閃刃!」

『ギジャア!?』

 

斬打応酬、意識外からの手痛い一撃を食らうも、レイクサーペントは直ぐに注目を変更。湖の水を器用に尾鰭で救い上げ、ペッパー達へ水遊びの様に吹っ掛けてきた。

 

食らったらヤバい!━━━そんな予感がペッパーの脳裏を過り、スキル:アクセルが起動。直撃寸での所で、間一髪の回避に成功する。

 

「アイツそんな器用な事出来るの!?」

「危ないのさ…!」

 

油断出来ない相手に、ペッパーとアイトゥイルは気を引き締めて直して、各々が己が持つ武器を強く握り直す。

 

「大鰻ちゃん、あーくん達に気を取られて良いのかな?」

 

ふと、レイクサーペントが聞いたのはペンシルゴンの声であり、両手に握る白黒の魔槍━━━『混沌魔槍グリサイア』を跳躍しながら振るい。

 

黒闇と白夜の泡沫(ダース・ホォル・フロース)!」

 

魔槍の切っ先に白と黒のオーラが紡ぎ、ライブスタンド・レイクサーペントの脳天を一刺しにする。

 

『ギジャアアアアアアア!!?』

「あーくん!アイトゥイルちゃん!ヤっちゃって!」

「任せろ!」

「解ったのさ!」

 

レベルカンストの暴力から成る筋力と、重力エンジンを用いた落下と共に、ペンシルゴンが大鰻を地面に組み伏せる。引き抜かれ、破壊部位と成った額部分にアイトゥイルのスキル:風来刃・夜叉斬りと、ペッパーのスキル:ダイナモインパクトが炸裂。

 

ライブスタンド・レイクサーペントを構築するポリゴンが爆発して、ペッパーのレベルが1つ上昇。同時に此処までの戦闘経験を元に、スキルが進化・変化を起こし、新たなスキルが開眼する。

 

「すげぇ…あの大鰻、経験値が旨いな…」

「ペンシルゴンはん、強いのさね…」

「ふふん♪見直しちゃったかな?」

 

ライブスタイド・レイクサーペントの経験値効率。致命魂の首輪が有る状態で1体討伐する毎にコレならば、十数体以上狩る必要こそ有るものの、今日中にレベル35に到達出来るとペッパーは確信した。

 

2人は再び釣りをする。己が目標を叶える為、其の者と少しでも長く居る為に。

 

 






鮭を釣り上げ、水蛇を狩り取れ





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堅過ぎるロブスターは、育てた小鎚と籠脚で倒せ(前編)



大物出現、新武器初陣




涙光の地底湖でのパワーレベリング開始から数時間。レベルアップで変化と進化、新規習得した様々なスキルを試し、次々と武器を切り替えつつ、ライブスタイド・レイクサーペントを総計20体程を狩った事により、ペッパーはレベル35まで成長。

 

当初の目的とし、甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)を装備する為の条件であった、練度規定(レベルキャップ)に漸く到達した。

 

だが、此処まで地底湖でペッパーが釣り上げてきたのは、全て『魚』であるライブスタイド・サーモンだけで、地底湖の『モンスター』たるライブスタイド・レイクサーペントは、1匹とて竿に掛からない。そして此処までサーペントを釣り上げたのはペンシルゴンであり、当然ながら其れを見逃す訳も無く。

 

「ほらほら、あーくんどーしたの~?さっきからサーモンしか釣れてないようだけど~?」

「幸運が25しかないし、ステ振りも幸運以外を振らなくちゃいけないから上がってないんだよ…!俺はサーモンじゃなくて、サーペントを釣りてぇんだわ…!」

 

甲皇帝戦脚装備と、元々のバックパッカーとしての役割遂行の為、ステータスの幸運にポイントを振り分ける事が出来ず、ペンシルゴンから煽りを加えられたペッパーは怒りで身を震わせそうになる。

 

しかし釣りとは、己との戦いでもある。怒りの感情が竿と糸に伝われば、水を通じて魚達にも伝播してしまい、寄り付かなくなってしまう。なのでペッパーは努めて冷静に、怒りを内に秘めながらも竿と糸には伝わらないよう、深呼吸を繰り返す。

 

と、釣糸と竿に今までに無い『重さ』が伝わり、ペッパーの身体は地底湖に引き込まれそうになる。

 

「ぐぅうおっ!?遂に来たか!?」

「ペッパーはん、気張るのさ!」

「おっ、あーくんおめでとう。後はキッチリ釣り上げるだけだよ?がんばれがんばれ、あーくん♪」

 

天音 永遠を推す連中からすれば、先程のがんばれコールで昇天する輩も居るのだろうが、残念ながら彼にとっては煽りにしか聴こえてこない。

 

「おおおおおお………!りやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

力一杯に釣竿を引き上げると、魚影は段々と大きくなる。しかし其の魚影はライブスタイド・レイクサーペントの物よりも『ずっと巨大』であり。

 

水柱を上げるようにして現れ出たのは、地底湖の水蛇の胴を鋏む程の巨大な赤い鋏に、薄黒い模様が刻まれた巨体、そして伊勢海老を彷彿とさせる長く分厚い前触覚から成る、全長5mは下らない『巨大ザリガニ』だった。

 

「何だコイツ…レイクサーペントを狩ってる、のか?」

「!あーくん、ソイツ『ライブスタイド・デストロブスター』だよ!」

「ロブスター?ザリガニとかじゃな…どわ!?」

「ペッパーはん!」

 

言うより早く、自慢の前足を振り翳して、ペッパーに叩き付けて襲い掛かるロブスター。回避に集中して直撃を躱わし、致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)を振り翳す。

 

「なろ…!此れでも食らえ!」

 

左前足目掛け、レイクサーペントとの戦いの中で遂に最大練度に至り、レベルMAXとなったスキル:剛撃と御馴染みのバルガストライクを起動させ、ペッパーの一撃がデストロブスターに炸裂する。

 

だが其の一撃は、巨大ザリガニの前足に直撃しても傷一つ所か、僅かな痣さえ残らない程に強靭かつ堅牢。ペッパーの脳裏に過ったのは、千紫万紅の樹海窟でアイトゥイルと共に戦い、討伐に20分以上掛かったクアッドビートルであり。ライブスタンド・デストロブスターの甲殻は、クアッドビートルの甲殻『以上』の堅さを誇っていた。

 

「っそだろ、クアッドビートルより硬いのかよ!?此の巨大ザリガニ!!?」

「其れ本当なのさ、ペッパーはん!?」

「アイトゥイルは俺の肩に!コイツは生半可な武器じゃダメージが入らない!」

 

ペッパーがアイトゥイルを肩に乗せ、どう攻略しに行くかを思考する最中、ペンシルゴンが自身の体験から成るアドバイスを、1人と1羽にレクチャーしてきた。

 

「コイツの厄介な点は『単純な強さ』もそうだけど、全身に纏ってる甲殻が兎にも角にも『堅過ぎる』事でね…!『破壊属性』か『貫通属性』の武器、もしくは『魔法』関係の攻撃じゃないと、まともにダメージが入らない。

一応、私は貫通属性付与の魔法は使えるけど、其れをやった場合、武器の耐久値がゴリッゴリ減ってくから正直やりたくないんだよ…」

 

唯でさえ堅いのに、特定の方法で戦わなければならない。かなりの強敵であるようだ。しかし「ただ…」と、ペンシルゴンは其の後にこう続けて言った。

 

「其の馬鹿にならない『強さ』と『堅さ』を突破して、コイツを仕留められれば、経験値は笑っちゃうくらい入るんだよねぇ…。あーくんはどうする?おねーさん1人でも戦えなくは無いけど、見学しちゃう?」

 

ペンシルゴンの言い分は最もだ。戦わない事もまた、時として最善手足り得る選択も在る。ましてや先の一撃で、巨大ザリガニ相手に『並大抵』の武器では太刀打ち出来ない事も解った。

 

だが、だからこそ。ペッパーは燃えるのだ。

 

「逃げる?ソイツは冗談キツいぜ、トワ。お前が其れくらい言い切る程の相手なら、俄然戦いたくなるじゃんか…!」

 

ゲーマーとしての『サガ』が騒ぐ。コイツを攻略して見せろと。此の困難を越えて見せろと。ペッパーは装備していた致命の小鎚を解除、アイテムインベントリから『2つの武器』を取り出し、各々対応する部位に装備する。

 

片や歯車模様を刻んだ、歯車両面を持った漆黒の鐵色に輝く、シクセンベルトの鍛冶師が育て上げた、マッドネスブレイカーより成長せし、ユニーク小鎚。

 

片や漆塗りによって産まれたような艶を含む、クアッドビートルの甲殻を装甲に、雄角を爪先や踵のスパイクとし、エンパイアビー・クイーンの針を用いて造られた、バンデージが鋭く在る、ガントレッグ。

 

「さぁ初陣だ…巨大ザリガニ相手に、思いっきり暴れてやろうぜ!

ギルフィードブレイカー、甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)!!」

 

人が造りし結晶と、兎の名匠が造りし結晶。種こそ(たが)えど、其の輝きは1人の男と共に在る。相手は地底湖の大主だろう、巨大ザリガニ。

 

相手にとって━━━━不足無し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーくん、其れ何!?新武器!?」

 

左手に握られた成長したユニーク小鎚と、両脚に装備された籠脚(ガンドレッグ)に、ペンシルゴンが思わず叫ぶ。

 

「簡単に言えば、成長したロックオンブレイカーと、クエストクリアの為に鍛冶師が作ってくれた試作品!耐久が滅茶苦茶上がった!!以上!!!」

「ザックリし過ぎィ?!」

「ペッパーはん、当たったら幾ら上がった耐久でも殺られかねないのさ!」

 

アイトゥイルの忠告に頷いて、ライブスタイド・デストロブスターに駆け出すペッパー。対する巨大ザリガニは口から泡を吹き出し、水鉄砲ならぬアクアレーザーに似た水圧光線を発射する。

 

「躱わす…!躱わす、躱わす!」

 

サンダーターンより進化した、発動から1分間に鋭角移動を行った回数に応じ、戦闘中に敏捷と技量へ強化(バフ)が加算されるスキル:バリストライダーが起動。デストロブスターのアクアレーザーを回避する度に、ペッパーの敏捷は高められていき、鋭角ターンから再度接近戦に持ち込む。

 

『キュロロロロロ…!』

 

振り上げられる右前足の堅牢な鋏。叩き付けられれば、幾ら耐久の上がった今のペッパーでも、耐える事は叶わない。だがしかし━━━━

 

「オラァ!」

 

新武器を装備する為にステータスに振った筋力と、バリストライダーによって高められた技量、そして名匠ビィラックの産み出した、甲皇帝戦脚の耐久を組み合わせたのであれば━━━━鐵と鋏がぶつかり合い、衝撃が爆ぜる。

 

『キュロロロロロ!?』

「よっし!『脚パリィ』出来たァッ!」

 

人間の腕力の3~4倍の筋力を誇る脚力、便秘で磨かれた脚パリィの技術が、此の瞬間に結実した。前足の叩き付けを弾かれ、体勢が崩れるデストロブスターにペッパーの追撃が襲い掛かる。

 

体重を支える右足に、回転蹴りスキルのワンスフリップが叩き込まれ、バランスを切り崩す追撃にブレイクダンスから着想を得た、背中を向けた状態で繰り出すとノックバック補正が掛かる背面蹴りで、デストロブスターの身体を横倒しにしようとした。

 

「ッ…!やっぱ、そう上手くはいかねぇよな!巨大ザリガニ!!!」

 

しかしデストロブスターの巨体は蹴りに屈する事は無く、持ち前の馬力でペッパーを逆に押し倒そうとしてくる。

 

「あーくん!」

「ペッパーはん!」

 

だがペンシルゴンが走り、肩に居たアイトゥイルがペッパーの脚を駆けて、各々の持つ得物でロブスターの甲殻の内側に有る首根に、渾身の刺突を叩き付けて、其の巨体を地面に押し倒す。

 

『キュロロロロロ!?!』

「2人共!?」

「あんまり長く押さえられないから、頭をブッ叩いちゃって!」

「ペッパーはん!ワイもペンシルゴンはんと一緒に、押さえておくさ!」

「………ありがとうございます!」

 

ペッパーの狙いを少なからず理解している1人と1羽に、彼は礼を言って。熟練度MAXとなったスキル:アクセルで更に敏捷を強化、横倒しにしたライブスタイド・デストロブスターの頭部に回り込む。

 

倒されて無防備になったザリガニへ、ギルフィードブレイカーを強く握り締めてスキル:ラッシュと共に、甲皇帝戦脚のバンデージを加えた連続攻撃を頭殻に叩き込む。

 

「オラオラオラオラオラオラ!!!」

 

ギルフィードブレイカーには最も近い相手に対するダメージ補正以外に、相手の武器・防具・甲殻・装甲に対する攻撃へ『破壊属性』を付与する特性が備わっている。

 

そして甲皇帝戦脚のバンデージに使われたエンパイアビー・クイーン、円錐角の刺に備わる『壊毒(かいどく)』は、破壊属性が『時間経過と共に侵食』するという所謂DOTの能力を内封する。

 

2つの破壊属性による、頭部への連続打撃の一点集中が、全身の中でも一際堅牢過ぎるライブスタイド・デストロブスターの頭殻に叩き付けられ、破壊属性が急速進行。

 

そして━━━━━━

 

「割れろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

右足の渾身の『膝蹴り』によって、遂にライブスタイド・デストロブスターの頭殻は破壊、肉質が変化した。

 

「やった!これ…ッ!?」

『ギュロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!!!!!』

 

直後、ライブスタイド・デストロブスターが今までに無い咆哮と共に暴れ狂い、ペンシルゴンとアイトゥイルを振り払って立ち上がる。

 

鋏をガチンガチン!と打ち鳴らしながら、身体の紋様は薄黒い紋様は、身体の赤よりも朱に近しい色に変貌し、口から噴き出す泡は、最初の時以上に激しい物に変わる。

 

「な、何なのさ…!?」

「…もしかして『発狂モード』か?自慢の頭の甲殻、俺が叩いて壊したから」

「うん、多分そうだねぇ…」

 

アイトゥイルが身の危険を感じ、ペッパーに駆け寄って背中に飛び乗り、ペッパーとペンシルゴンは共に身構える。

 

ライブスタイド・デストロブスターとの一戦は、クライマックスに向かおうとしていた………

 

 






人が造りし成長小鎚と名匠が造りし剛脚で、地底湖の強者に挑め


ペッパーのステータス&スキル。

レベル30→レベル35までに起きた、スキルの変化と進化



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


PN:ペッパー

レベル:35

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し


体力 15 魔力 10
スタミナ 90
筋力 70 敏捷 80
器用 35 技量 50
耐久力 376 幸運 25
 
残りポイント:0

 
装備

左:ギルフィードブレイカー

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)(耐久力+350)

頭:皮の帽子(耐久力+1)
胴:隔て刃の皮ベスト(耐久力+4)
腰:隔て刃の皮ベルト(耐久力+4)
脚:隔て刃の皮ズボン(耐久力+4)

 

アクセサリー

・鎖帷子(耐久力+10)
・旅人のマント(耐久力+2) 
致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

所持金:1400マーニ



スキル

・ラダースラッシュ
・呀突→命尽突(めいつきとつ)
・ジャストパリィ→レペルカウンター
・ブームスロー→ドライブスロー
・スピックエッジ→アルゼイドエッジ
・ハイドレートワーク→メイアスワーク
・バルガストライク
・ダイナモインパクト
・剛撃 レベル6→レベルMAX
・アクセル レベル8→レベルMAX
・ラッシュ レベル4→レベル7
・見切り レベル4→レベル6
・ハイプレス レベル5→レベル8
・五艘跳び→六艘跳び
・スライドムーブ→スケートフット
・ジェットアタック
・水平斬り レベル5→レベル6
・垂直斬り レベル4→レベル5
・サンダーターン→バリストライダー
・ハイビート レベル6→レベルMAX
・アクタスダッシュ レベル4→レベル5
・ステックピース レベル3→レベル4
・握擊 レベル3
・投擲 レベル2→レベル4
・クライムキック レベル1→レベル5
・首断ち レベル1→レベル3
・ムーンジャンパー
・ボディパージ レベル1
・ライフオブチェンジ
・ストレートフィスト
・背面蹴り レベル1
・ワンスフリップ
・フルズシュート レベル1
・オプレッションキック レベル1

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━






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堅過ぎるロブスターは、育てた小鎚と籠脚で倒せ(後編)



ライブスタイド・デストロブスター戦、此処に決着




「おいおいおいおいマジかよ!?トワ、アイツ発狂モードに突入したら、あんなに暴れまくるギミックでも備わってたのか!?」

「いやいや!?発狂したらもっと面倒になるって、何匹か狩っては来たけど、私初めて見たよ!?」

「暴れ馬ならぬ…暴れ海老さね…!?!」

 

涙光の地底湖にてライブスタイド・レイクサーペントをフィッシングし、パワーレベリングを行っていたペッパー・アイトゥイル・ペンシルゴンの2人と1羽の混種パーティーは、ペッパーが釣り上げたレアエネミー、ライブスタイド・デストロブスターとの戦いを繰り広げている。

 

彼女達の協力と共に、ペッパーが新武器のギルフィードブレイカーと甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)の新武器二種で、巨大ザリガニの頭殻を砕いたまでは良かったものの、其れがトリガーになったのかデストロブスターが発狂し出したのだ。

 

「何だよアレ!?口からは水圧光線、鋏は閉じた衝撃から『空圧の砲弾を吹っ飛ばす』とか、アイツ『モンハナシャコ』か何かかよ!?」

 

アイトゥイルを抱え、頭上を間一髪掠めかけた空圧弾に振るえながらも、ペッパーとペンシルゴンは脚を止めずに駆け続ける。

 

タダの発狂(・・・・・)ならまだ良かったのだが、頭殻を砕かれた事が余程巨大ザリガニの琴線に触れたのだろう。鋏を打ち鳴らす度に、空圧弾らしき不可視の空圧砲弾が、頭上や身体を目掛けて飛んで来ては、其所に水圧レーザーまでもが飛来し、地面や壁を切り裂き、クレーターを作っていく。

 

「あんまり良くない流れだね…!早く決着を着けないと、ちょっとずつジリ貧になるよ。あーくん」

「此処が崩落する可能性も在るって事だろ?其れが起きては欲しくないが、此れだと本格的にヤバいな…」

 

デストロブスターの暴れ具合に、ペンシルゴンもペッパーも苦い表情を隠せない。此の停滞を打破しなくては、幾らレベルカンストのプレイヤーが居ても、追い込まれていくだけだ。

 

「仕方無い…おねーさんがちょっくら気張ってみるとしますか!あーくん、アイトゥイルちゃん。あのザリガニのヘイトを惹いて欲しいのと、アイツに『両鋏を上に挙げさせる』行動を、何でも良いから『誘発』させてくれないかな?」

 

悪巧みでは無く、本気でライブスタイド・デストロブスター攻略を考える目をしているペンシルゴン。ペッパーは彼女の言葉の真意を其の瞳より見て、最後の確認を取る。

 

「『勝てる策』が有るんだな?トワ」

「『勿論』だよ、あーくん」

「よし、乗った」

「ペッパーはん即答さね!?」

 

幼い時コイツの企みに否応無しに参加させられ、自分がターゲットにされていたりして酷い目に有ったりしたが、こんな時だからこそ頼もしく見えるのは不思議だ。

 

「混沌魔槍グリサイアにバフを重ねて掛けて、投擲スキルで破壊部位に投げ込む。確実にブッ刺す為に、破壊部位の的を見易くして欲しい」

「OK、ダメ押しは任せとけ」

「ワイもやるさね…!」

「良い返事ありがとう。じゃあ…やろうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、巨大ザリガニ!戦闘再開だ!」

「ペッパーはん、無茶はしては駄目さね!」

「おう、アイトゥイルも無茶するなよ!」

 

作戦決定後、二者一羽は各々の得物を取って、ペッパーとアイトゥイルは、ライブスタイド・デストロブスターの前に立ち。ペンシルゴンは離れた位置に移動しつつ、投擲スキルの射程圏を量っていく。

 

『ギュロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!!!!』

 

発狂した巨大ザリガニが、自慢の鋏を1人と1羽に向けて閉じる度、地底湖の空気が震え、不可視の衝撃波が飛び出し、水圧光線が空を斬る。

 

「おおおお!?」

「危ない…さね!」

 

デストロブスターの鋏の方向、口の位置を視覚に捉え。ペッパーはスキル:スケートフットを起動させ、滑走するように空圧砲弾と水圧光線を回避。自ら敵の最も得意とする肉弾戦の決殺距離(キリングレンジ)に飛び込む。

 

「さぁ、どうするよ…巨大ザリガニ!」

 

超至近距離のペッパーに対して、鋏の空気砲弾は隙が大きいと踏んだか、ライブスタイド・デストロブスターは巨大な鋏をハンマーのように叩き付け始めた。

 

「そうだよな?至近距離下じゃ、水圧光線は海老やザリガニの構造上、頭を左右に動かさなきゃ『中央にしか』撃てない。

おまけに空気砲弾は閉じた際の衝撃で打ち出す訳だが、其れやるくらいなら質量と馬力で此方を押し潰した方が、簡単に俺を倒せるもんな!」

 

永遠と彼女の弟と一緒にザリガニ釣りをした時に、ザリガニの動き方や口の形をじっくり観察していた事が、此処でも知識として役に立った。

 

「オラァ!」

 

スキル:見切りを使いつつ、巨大鋏の叩き付けを回避しながら、時折放たれそうになる水圧光線を、甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)で固めた脚蹴りでカチ上げて、ペンシルゴンやアイトゥイルに被害を出さないように立ち回る。

 

「はい…さァッ!」

 

そしてアイトゥイルもまた、ペッパー1人に負荷を掛けさすまいと、酔息吹を嵐薙刀・虎吼の刀身に纏わせ、ライブスタイド・デストロブスターの間接部に出来た僅かな隙間を狙い澄まし、開眼と共に焼き切り裂く。

 

「フォーカスアイズ、エンチャント:ヴォーパル、ブラッティスカー、グロリアス・ブライト…!」

 

アイトゥイルとペッパーが、デストロブスターの周りを跳ねて駆けて、叩いて斬って、注目(ヘイト)を買い集め、両鋏を振り上げる行動を誘発させようと動き続け。

 

其の間にペンシルゴンは自分の持つ魔槍へ、命中精度・クリティカル補正・破壊箇所のダメージ上昇・筋力バフに関わる魔法を次々に点火、付与魔法(エンチャント)を重ね掛けていく。

 

「どうしたどうした!俺は此方だぞ!!」

「海老さん、此方…さ!」

『ギュ…ロロロロロロロロ!!!』

 

うろちょろと己の周りを蠢き、あまつさえ鋏を弾いて頭殻をも砕いてきたペッパー達に、デストロブスターの怒りのボルテージは有頂天に到達。

 

此の一帯を纏めて崩落させるべく、其の身を持ち上げ『自慢の両鋏を天井目掛けて振り上げた』。

 

「今だ、トワ!!」

「ペンシルゴンはん!!!」

 

ペッパー、アイトゥイルの声。其の横目で見る視線の先には、ペンシルゴンの姿有り。

 

「いっけぇ!!乾坤ッ、一ッ擲ィ!!!」

 

混沌魔槍グリサイアへ、ありったけのバフ魔法を掛け重ね、己のスタミナを全てをダメージ補正に引き換えるスキル:乾坤一擲による渾身の槍投げが、アイトゥイルと共に突き刺した首根に、ピンポイントで突き刺さる。

 

『ギュリュロロロロロロ!?!?』

 

青白いポリゴンが間欠泉の如く噴出し、身体は後ろに反れ曲がり、口からは黒く濁った(あぶく)が、窒息寸前の時と同じ状態となって流れ出す。

 

しかし、ライブスタイド・デストロブスターは。此れでも沈まない。其れでも倒れない。

 

「やっぱり沈まないよね…!巨大ザリガニちゃん…!」

 

カンストまで高めたステータスから繰り出し、渾身の投擲攻撃でクリティカルを出しても尚、沈まず倒れない強敵相手にペンシルゴンは悪態を付きたくなる。

 

「いいや、トワ。巨大ザリガニが衝撃で『後ろに反れる』のが、俺が欲しかった事だ!」

 

しかし彼女の耳に届いたのは、ハイビートを点火して疾駆するペッパーの声。彼はギルフィードブレイカーから致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)に切り替え、デストロブスターの背後まで回り込んでいた。

 

「ペッパーはん!?」

「あーくん!?」

「槍が刺さった首の位置に、衝撃で反れた身体。もし此の状況で『破壊部位の頭部』に打撃が加わって、頭が前に押し込まれたら……お前はどうなるかな、巨大ザリガニ!?」

 

六艘跳びで斜め上に跳躍し、ライブスタイド・ロブスターの背面より頭部へとペッパーが迫る。彼は『万が一』にも、ペンシルゴンの攻撃で沈まなかった場合を想定し、乾坤一擲発動の瞬間からロブスターの背後に向かって走り出していたのだ。

 

首根に刺さる混沌魔槍グリサイア…頭が押し込まれれば、槍の穂先は更に深く、命に届く程に深く刺さる。其れがペッパーの狙いであり。

 

「コイツでッ、沈めェ!!!!」

 

ギルフィードブレイカーの破壊属性によって砕かれ、肉質が変化した頭殻へ、弱点部位に対するクリティカルに補正が入る、致命の小鎚が振るわれる。

 

其所に重ね掛けられるは、スタミナ消費を引き替えとする、モーションの高速化と攻撃速度を上昇させるジェットアタック。防具を含めた自らの耐久値を半減させて、敏捷と器用を高めるボディパージ。

 

弱点部位へのダメージ補正を上昇させるダイナモインパクトに、剛撃とハイプレスと言った、レベルアップで獲得し、ライブスタイド・レイクサーペントとの戦いで確認してきた、自身のバフと打撃・小鎚系統で繰り出せる、ありったけのスキルを全て使い。

 

『全身全霊』の、致命へ到達する『絶命の一撃』が炸裂。乾坤一擲により投擲されたペンシルゴンの混沌魔槍グリサイアが、ペッパーの一撃でデストロブスターの頭部が押し出された事により、槍の穂先たる刃は首根の内部へ更に深く突き刺さり、神経部分を絶断し切る。

 

『ギュリュ……リュロロ…………ロロロロロロロロロロロロロロ…!!!』

 

断末魔に似た叫びと共に、デストロブスターの虹彩は光を失い、其の巨体は地底湖の大地に倒れ伏す。身体を構成していたポリゴンは爆発四散し、ペッパーは致命魂の首輪が着いているにも関わらずレベルが3も上昇、アイトゥイルのレベルも1つ上がった。

 

「ライブスタイド・デストロブスター…クアッドビートル以上の甲殻とパワー、空圧を飛ばす鋏と水圧光線による遠距離攻撃。トワとアイトゥイルの協力無しでは、倒しきるのに困難を極める相手だったぞ」

 

戦いの後に残されたデストロブスターのドロップアイテムを拾い上げ、ペッパーは消えた強敵へ称賛と共に手向けの言葉を贈ったのだった。

 

「あーくん…『ソレ』何時もやってるの?」

「強敵に対して、戦ってくれた事に感謝するのって普通じゃないのか?」

「ペッパーはん、沼掘りや道化蜘蛛、ルイン・キーパーに対しても言ってたのさ」

「ふぅ~ん…。意外な一面も有るんだ…」

 

デストロブスターのドロップアイテムを回収して、何に使おうかなとワクワク顔をしているペッパーを見て、穏やかな表情をしているペンシルゴン。然して其の表情は直ぐに邪悪に変わり、彼女は彼の肩を掴んで言った。

 

「まぁ其れは其れとして……ギルフィードブレイカーと甲皇帝戦脚について、私と『オハナシ』しましょう?あーくん♪」

 

ライブスタイド・デストロブスターと派手に戦った事で、ペンシルゴンに情報を与えてしまった事実にペッパーは気付き。

 

戦略的撤退(逃げるんだよ)ーーーーーーー!」

戦略的確保(逃がしません)ーーーーーーー!」

「ぎゃぁあああああああああ!?!?」

「ペッパーはぁぁぁぁぁぁぁん!?!」

 

逃走を計るも、当然レベルカンストから成るステータス差の暴力の前には成す術無く。ペッパーはペンシルゴンによって、ギルフィードブレイカーと新武器・籠脚の事を布団叩きの如く、情報を吐かされる羽目になったのだった………。

 

 






開拓者よ更に強くなれ




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育てたスキルは合わさり、新たな特技(ちから)へ生まれ変わる



ペッパー、特技剪定所(スキルガーデナー)を利用する




「はぁぁぁぁぁぁぁ………。全く、脚防具の上から装備出来る両脚武器に、3形態に成長派生するユニーク武器って…………おねーさんを驚かせるのが趣味だったりするの、ペッパー君?」

 

午後8時を過ぎ、シャンフロの空も夜闇と静寂で満ちる頃、涙光の地底湖から、神代の鐵遺跡を脱出して、サードレマに戻って裏路地に逃げ込んだ、二人一羽の混種パーティーは、ペッパーの隠した情報にペンシルゴンが深い溜め息を付いていた。

 

「んな訳有るかい、ペンシルゴン。ユニーククエスト進めながら、武器育成したら鍛冶師にそう言われて、俺だって驚いてるんだから」

 

実際、ペッパーもフォスフォシエで聞いた時は驚かされた物だ。マッドネスブレイカーに宿った3つの可能性、駆動鉱石(ギアメタル)で成長したギルフィードブレイカーに、生命碑石(エナジーストーン)炎水剛岩(ブルレットロック)で育てる、残り2つのユニーク小鎚。

 

ビィラックのお陰で、マッドネスブレイカーは2本製作済みであり、後は各々の鉱石が眠る場所に行き、採掘するだけだ。

 

「取り敢えず…ユニーク小鎚と籠脚の情報は、今後とも出来る限り秘匿しといてね?どうしようも無くなった場合に限り、自衛の手札として他者への開示を許可します」

「良いのかよ、事前相談しなくて?」

 

全部を知りたがるペンシルゴンにしては、随分とあっさり退いてきたので、何か罠が有るのかとペッパーは問い掛け、彼女は其れに対してこう答えを返した。

 

「君が持ってる製造秘伝書はPKされた所で誰にも強奪出来ないし、仮に教えたとしても、素材集めをしてる間に逃げる時間も稼げるでしょ?

其れに籠脚に関しては、私でも造った鍛冶師が誰だか解らない、情報面での『アドバンテージ』は君に有るんだから、図太く利用しちゃいなさーい」

 

ぷくぅと頬を膨らませたペンシルゴン。彼女とのオハナシの中で俺は、ビィラックとアイトゥイルの関係やラビッツの事を含めた秘匿情報を、マッドネスブレイカーの秘密や籠脚の事を引き換えに、何とか死守する事に成功したのだ。

 

「と……私はそろそろ、自分のクランに帰るよ。あんまり遊び過ぎちゃうと、家のクランリーダーが癇癪起こして大変だから。じゃあね、あーくん。また今度♪」

「あぁ、また今度な。トワ」

 

手を振りながら、無垢な笑顔で別れたトワの背中を見送り、気配が完全に消えきった事を確認し終えたペッパーは、大きな溜息を吐く。

 

1日でレベルが8も上昇し、目的としていた甲皇帝戦脚を装備しての脚パリィも完成、充実した時間を過ごす事が出来た。

 

「しかし…あのロブスターは本当に強かったな。お陰で首輪付いてるのにレベルは3も上がったし、素材も手に入ってウハウハだ」

 

そう言い、ペッパーは自身のステータス画面を開いて、成長した自分を確認する。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

PN:ペッパー

 

レベル:38

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 15 魔力 10

スタミナ 90

筋力 70 敏捷 80

器用 35 技量 50

耐久力 26 幸運 25

 

残りポイント:36

 

 

装備

 

左:致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

頭:皮の帽子(耐久力+1)

胴:隔て刃の皮ベスト(耐久力+4)

腰:隔て刃の皮ベルト(耐久力+4)

脚:隔て刃の皮ズボン(耐久力+4)

 

 

 

アクセサリー

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

 

所持金:1400マーニ

 

 

スキル

 

・ラダースラッシュ

命尽突(めいついとつ)

・レペルカウンター

・ドライブスロー

・アルゼイドエッジ

・メイアスワーク

・バルガストライク→ボルベルグストライク

・ダイナモインパクト→グラシャラスインパクト

・剛撃 レベルMAX

・アクセル レベルMAX

・ラッシュ レベル7→レベル9

・見切り レベル6→レベル7

・ハイプレス レベル8→レベルMAX

・六艘跳び→七艘跳び

・スケートフット

・ジェットアタック

・水平斬り レベル6

・垂直斬り レベル5

・バリストライダー

・ハイビート レベルMAX

・アクタスダッシュ レベル5

・ステックピース レベル4

・握擊 レベル3

・投擲 レベル4

・クライムキック レベル5

・首断ち レベル3

・ムーンジャンパー

・ボディパージ レベル1→レベル3

・ライフオブチェンジ

・ストレートフィスト

・背面蹴り レベル1→レベル4

・ワンスフリップ→デュアルフリップ

・フルズシュート レベル1→レベル2

・オプレッションキック レベル1→レベル3

命撃鐵破(めいげきてっぱ) レベル1

一撃絶壊(いちげきぜっかい) レベル1

羨望合炙(せんぼうがっしゃ)

・挑発 レベル1

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「色々覚えたし、格好良い名前のスキルも有る。そろそろ『合体』しても良い頃かな?」

 

シャンフロを始めた頃からずっと、利用したいと考えていた施設『特技剪定所(スキルガーデナー)』。スキル名の横にレベル表示が有るスキル同士を組み合わせ、新しいスキルを作り出す事が出来る場所で、覚えたスキルがどのくらいで進化するかや、様々なスキルの巻物が有ったりと、スキルゲーのシャンフロには欠かす事の出来ない要素である。

 

「ペッパーはん、スキルを合体するのさ?なら、ワイの妹が経営してる特技剪定所が、兎御殿の中に在るんよ。あと、其所はラビッツの所よりも良いスキルの巻物も置いてあって、ちょっと特別なのさ」

「そうなのか、なら利用しない手は無いな。でも其の前に…素材売って換金してからの方が、選択肢は広がるだろう」

 

思い立ったら即行動、ペッパーはマントにアイトゥイルを隠しつつ、暗闇を駆けて行き、エンハンス商会・サードレマ露店通り支部に駆け込む。

 

其所で彼はライブスタイド・レイクサーペントの鱗や牙、ライブスタイド・デストロブスターの一部素材を売却。シャンフロとしては初めて、15万マーニ超えの大金を収入として手にした。

 

そうしてアイトゥイルと共にラビッツへと続くゲートを潜り、一路兎御殿に在ると言う特技剪定所へと向かったのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラビッツの兎御殿に戻り、正面入口に向かって右側へ進み、デフォルメウサギ模様の障子窓を右手に見ながら、縁側廊下を暫く歩いた先に、特技剪定所の文字を刻みし暖簾が垂れる場所が見えた。

 

「ペッパーはん、此処が兎御殿の特技剪定所なのさ。ワイの下の3つ子の妹の1人が、合体特技を作るのに長けてるさね」

「ほほぅ、其れは期待出来そうだ。」

 

暖簾を挙げて中に入ると、其所には日本風味溢れる箪笥に瓶詰めやフラスコ等が置かれており、受付には薄桃色の毛並みに、三角形の眉と垂れ目、垂れ耳にイヤリングを二種類の計四つ。赤桃色の上着と碧緑の薄着を着、ほんわか雰囲気の1羽のヴォーパルバニーが居た。

 

「いらっしゃあーい。あらぁ~アイトゥイル姉さんに、ペッパーさんじゃなぁい」

 

自分の名前が知られている辺り、兎御殿でも知名度は其れなりに有るのだろう。

 

「ペッパーはん、此方がワイの妹の『エルク』さね。ワイ等の中じゃ、一番スキルの合体何かに長けとるのさ。あと銭ちょば!?」

「姉さぁ~ん?世の中には言っちゃいけない事も有るのよぉ~?」

 

アイトゥイルが何か大事なワードを、自分に向けて伝えようとした瞬間、いつの間にかアイトゥイルの背後へ回っていたエルクが口を塞いで、地面に組み伏せる。

 

「ペッパーさぁん、よろしくねぇ?」

 

細目ながらも纏い放つ黒い圧力は、ペンシルゴンに匹敵しており、ペッパーは思わず固唾を飲み。

「え、えっと…はいよろしくお願いします」と頭を下げて、御世話になる事を伝えた。

 

「それでぇ?今日はどんな御用~?」

 

兎特有の強靭な跳躍で跳ね、受付に舞い戻ったエルクはペッパーに要件を聞きに来る。

 

「アイトゥイルから此処で、スキルの合体が出来ると聞き、強化したいと思いまして。出来ますか?」

「出来るわよぉ。わたしぃそういうの得意だからぁ、お父さんにぃ言われて担当してるのぉ~。早速スキルの合体をするのねぇ?」

 

言うが早いか、ペッパーの目の前には合体可能なスキルだけが表示されて、一覧として見易く連なっていた。

 

「レベルMAXまで育ったスキルも在る…此処等で整理して強くしちゃおう」

「あ、ペッパーさぁん。スキルはレベルが高い物同士を組み合わせると、すっごぉく強くなるわよぉ?」

 

スキル合体は、強い×強い=滅茶苦茶強いみたいな、掛け算方式だと知り、認識を改めて自身のスキルに向き合う。

 

「コレとコイツを合わせると、そうなって…。だとしたら此のスキルは…コレに……。なら此処は、コレと合わせたら……うん。良い感じ」

 

無数に存在する選択肢の中から、スキルの内容・効果を合成した場合に出来る事前の結果から、脳内で戦闘状況(シチュエーション)を構築して、一番有効に機能する形を模索していく。

 

「まぁ…こんな感じだろうか?」

 

およそ30分の長考の果てにペッパーは今回、8つのスキルを合成し、4つのスキルに変化させる事にした。

 

「ふんふん、此のレシピで良いのねぇ。因みにスキルは連結1つに付き、1000マーニよぉ」

「では、此方が費用になります。よろしくお願いします」

「はぁい、直ぐに作るから待っててねぇ~」

 

マーニを受け取ったエルクはそう言い、スキルレシピが記された巻物を持って、店の奥へと向かっていった。

 

其れから十数秒後、戻ってきたエルクの手には不思議な模様のリボンが巻かれた丸底フラスコが在り。中身は緑と土色が入り混じった変色に、木の枝や葉っぱが混入された如何にも不味そうな液体が、たぷんたゆんと揺れている。

 

「コレを飲めば、作ったスキルを直ぐに覚えられるわよぉ~。ささ、イッキにどうぞぉ」

 

現実では絶対に飲みたくは無いなと思いつつ、ペッパーは手渡されたフラスコの中の液体を、意を決して一気に飲み干した。

 

すると自分の身体がポゥ…と淡く光り輝き、新しくスキル4つを一挙に習得する。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

PN:ペッパー

 

レベル:38

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 15 魔力 10

スタミナ 90

筋力 70 敏捷 80

器用 35 技量 50

耐久力 26 幸運 25

 

残りポイント:36

 

 

装備

 

左:致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

頭:皮の帽子(耐久力+1)

胴:隔て刃の皮ベスト(耐久力+4)

腰:隔て刃の皮ベルト(耐久力+4)

脚:隔て刃の皮ズボン(耐久力+4)

 

 

アクセサリー

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

 

所持金:15,1100マーニ

 

 

 

スキル

 

・ラダースラッシュ

命尽突(めいついとつ)

・レペルカウンター

・ドライブスロー

・アルゼイドエッジ

・メイアスワーク

・ボルベルグストライク

・グラシャラスインパクト

・ストレングス・スマッシャー レベル1

・オーバートップビート

・インファイト レベル1

・七艘跳び

・スケートフット

・ジェットアタック

・十字斬 レベル1

・バリストライダー

・アクタスダッシュ レベル5

・ステックピース レベル4

・握擊 レベル3

・投擲 レベル4

・クライムキック レベル5

・首断ち レベル3

・ムーンジャンパー

・ボディパージ レベル3

・ライフオブチェンジ

・ストレートフィスト

・背面蹴り レベル4

・デュアルフリップ

・フルズシュート レベル2

・オプレッションキック レベル3

命撃鐵破(めいげきてっぱ) レベル1

一撃絶壊(いちげきぜっかい) レベル1

羨望合炙(せんぼうがっしゃ)

・挑発 レベル1

 

 

 

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様々な組み合わせを事前段階で試し、気に入った合体によって産まれたスキルが、色々と手に入った。

 

連続攻撃スキル:ラッシュに、回避スキル:見切りを合成して産まれたスキル:インファイトは、超至近距離下での格闘にダメージ補正を付与する物で、籠脚を装備出来る身としては、とても頼りになるスキル。

 

熟練度カンストに至るまで、戦闘や移動で御世話になったアクセルとハイビートの組み合わせで出来た、スキル:オーバートップビートは発動から3分間、筋力・敏捷を2倍に引き上げる代わりに、スキル終了後より3分間は敏捷・スタミナ・スタミナ回復量が半減するハイリスクハイリターンの二面性を内封した物。

 

斬撃スキル:十字斬。此れは水平斬りと垂直斬りの合成から産まれ、二連続で十字に切り裂いて直撃箇所に裂傷状態のデバフを付与するそうで、裂傷状態の場所に斬撃武器や斬撃スキルを加えると、クリティカルのダメージ補正が大きく働くらしい。

 

そして個人的に一番気に入ったのは、剛撃とハイプレスの組み合わせから合成された、ストレングス・スマッシャー。此れは通常のダメージに加えて、筋力を参照とした強力なノックバック補正が働く。小鎚や籠脚を含めた打撃・格闘の両アクションに対応しているので、かなり優秀なスキルだ。

 

「ペッパーさぁん、ペッパーさぁん。因みにラビッツでしか取り扱ってない、スキルの秘伝書が有るのだけれどぉ~。いかがかしらぁ?」

 

そんな折、エルクが此方に御特な話を持ち掛けてきた。

 

「ラビッツ限定の秘伝書…ですか?」

「そうよぉ~アイトゥイル姉さんのお気に入りだから、お安くしますよぉ。ちなみに…ご予算は如何程かしらぁ?」

 

アイトゥイルが言い掛けた台詞は、おそらく『銭ゲバ』と見て間違い無い。であるならば、涙光の地底湖で消耗した武器の修繕を踏まえると、少しばかり手元にマーニは残しておきたい所である。

 

「そうですね…。武器の修繕をビィラックさんにお願いしたりするので、12~13万マーニ程になります」

「あらぁ、それなら色々買えちゃうわね~」

 

そう言ったエルクが巻物を広げると、ペッパーの目の前に買い物画面が表示される。其所には『致命』の名を冠した技の数々が在り、剣術や刃術に槍術や体術等の豊富な品揃えだった。

 

だが問題は種類や数では無く、スキルの秘伝書の『値段』で、安くて5万マーニから高いもので10万マーニと言う、ぼったくりレベルの金銭要求である。

 

「おおぅ…此れは中々……!」

「さぁさぁどれにしますかぁ~?」

 

一覧に有るスキル名を見つつ、何れにするべきか精査していると、ふと1つのスキルに目が止まる。致命(ヴォーパル)鎚術(ついじゅつ)と掛かれた其れは、どうやら小鎚や鎚に関係したスキルの様で、ペッパーは其れに運命に似た『何か』を感じずにはいられなかった。

 

値段は8万マーニではあるが、5万マーニで買える致命(ヴォーパル)剣術(けんじゅつ)と合わせれば、ピッタリ13万マーニで購入出来る。

 

「エルクさん、此の『致命(ヴォーパル)剣術(けんじゅつ)半月(はんげつ)()ち】』。

其れから『致命(ヴォーパル)鎚術(ついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】』を買います」

「お買い上げぇ、ありがとうございますぅ~♪」

 

購入品を決めてペッパーが大金を支払うと、ニッコニコの営業スマイルでエルクが言った。此の2つの秘伝書の技と、新しく手にしたスキルは明日以降試す事にして、ペッパーはアイトゥイルと共に、特技剪定所からビィラックの居る鍛冶工房に突撃。

 

ライブスタイド・レイクサーペントやライブスタイド・デストロブスターとの戦いで消耗した武器の耐久値回復を依頼して、本日のシャンフロを終えたのだった……。

 

 






其れは己が積み重ねた証




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老大兎は語り、胡椒は己を示す



ペッパー、ヴァイスアッシュとオハナシをする




ペンシルゴンと共に涙光の地底湖でのパワーレベリングをした日から4日が経った。大学の講義やコンビニでのバイト等で日々を忙しく過ごした梓は、実に何週間振りかの1日フリーの日を手に入れたのである。

 

時刻は午前9時。今日は1日中雨天の予報が有り、朝からシトシトと雨がパラ付いている。

 

「今日やるべき事は生命碑石(エナジーストーン)炎水剛岩(ブルレットロック)を入手して、マッドネスブレイカーの成長派生形態をフルコンプする為の、足掛かりを作り上げる…此れで行こう」

 

何時ものように朝食を食べ終わり、トイレを済ませて機材確認や水分補給用の水を近くに置いて、窓は雨風が入らない程度に空け、玄関の鍵を閉め、機材を頭にセット。

 

布団に寝転がり、梓はペッパーとなってシャンフロへとログインする。

 

 

 

「おぅ、ペッパー。久方振りじゃな」

「ペッパーはん、おはようなのさ」

 

兎御殿の休憩室のベッドで目覚めたペッパーを、待っていたとばかりに、ビィラックとアイトゥイルの2羽の黒兎達が覗き込んでいた。

 

「おはようございます、ビィラックさん。アイトゥイル」

「ペッパー。ワリャがわちに修繕頼んどいた武器等は、キッチリ直しておいたけぇ」

 

ビィラックの手でアイテムインベントリの中に入った武器達は、耐久値MAXまで回復していた。流石は名匠、素晴らしい仕事っぷりである。

 

「其れよりペッパーはん、ワイとビィラック姉さんと一緒に来て欲しいのさ」

「え、何ですか?」

 

そんな折、アイトゥイルがペッパーにこう言ってきて。疑問に思っている最中に、ビィラックの言葉によって彼は大きな衝撃を受ける事となる。

 

「何でもオヤジが、ペッパーに聞きたい事が有るみたいじゃ。前にワリャが手に入れた『えすえふすぅつ』?やったかの。其れをオヤジに話したら、そんの実物を見せちょくれんかって言ってたけぇ」

 

もしかしてヤバい案件だったりしたのか?と脂汗ダクダクになり始めたペッパーは、自分の肝を磨り潰される様な気持ちを味わい、断頭台で処刑される死刑囚の如く、重い足取りでヴァイスアッシュが待つ大広間へと、ビィラック&アイトゥイルと共に向かったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兎御殿・大広間。嘗てペッパーがアイトゥイルの案内の元、ヴァイスアッシュと初めて邂逅した此の場所で、彼等は向き合っている。相違が有るとするならば、此処に名匠のビィラックが居る事だろうか。

 

「ペッパー。おめぇさん、随分良い顔立ちになったな。見違えてるぜ」

「あ、ありがとうございます。先生」

 

ヴォーパルバニーの大頭ヴァイスアッシュからの一言に、ペッパーは正座をしたまま頭を下げた。

 

パワーレベリングが功を奏したか、はたまた其れも折り込み済みだったのか、何にせよヴァイスアッシュはペッパーを見ながら、人参型の煙管の煙を吹かしている。

 

そうして暫しの沈黙の後、ヴァイスアッシュが『本命』となる話を切り出してきた。

 

「ビィラックから聞いたがよぉ…おめぇさん等、神代の鐵遺跡で『レディアントシリーズ』を見付けたんだってな?」

「はい。地下3階を探索中に駆動鉱石を採掘しようとしたら床が落ちてしまい、其の床に乗った先で辿り着いた隠し部屋の中を探索して見付けました。

部屋には映像も在って、其所に映っていた女性は『蒼空を飛ぶ為の『答え』の内の『器』である事と、自分の『夢と願い』が心正しき人によって、叶えられる事を祈る』と言っていました」

 

ペッパーは其の時の状況を詳しく報告し、アイテムインベントリから部屋の中に在った箱から入手し、大切に守ってきた『レディアントシリーズ一式と籠脚』を取り出して、ヴァイスアッシュに提出する。

 

「確かにレディアントシリーズだぁ…しかも状態も良い。厳重に保管されてたんだなぁ…」

 

1つ1つを持ち上げ、撫でて、見定めるヴァイスアッシュの眼は、鍛冶師としての真剣な眼であった。

 

「よろしければ、先生にお渡し致しますが…」

「気にするこたぁ無い…。コイツを見つけ、ソイツから想いと夢を託されたんだろう?ならよぉ…コレはおめぇさんの(もん)なのさ」

 

そう言って装備と武器をペッパーに返したヴァイスアッシュは、彼に向けて問いを投げ掛けた。

 

「ペッパー。仮にコイツを構成する物を揃えて、此の世界に甦らせた後、おめぇさんは『何を成す』?」

 

蒼天を望み、夢を叶え、人が空を飛び、舞えるようになった。だが、空を飛べる様に成ったが故に争いは起き、血は流され、蒼空は悲しみで染まった。

 

ヴァイスアッシュはペッパーの口から聞こうとしている。蒼空を飛ぶ事の重大さを、己の身一つで背負いきれるか。レディアントシリーズを造った先人より、託された想いと願いに応え、夢を紡ぐ覚悟が在るか━━━と。

 

ペッパーは考える、自分はレディアントシリーズを復活させた後の事は、現状考えていない。しかし其れを公にすれば、1つしか存在しない此の装備を巡った争いが再発するだろう。そうなれば嘗ての二の舞になってしまう。自分に出来る事は、成さねばならぬ事は何か?其れをヴァイスアッシュに伝え、自分の道を明確にする事だ。

 

「先生、俺は……『今の自分では』まだ。レディアントシリーズを正しく、真に使えるとは思ってはいません」

 

現在の己がどういう立ち位置に居るのか、今の己にレディアントシリーズが渡ったならどうなるか、其れをハッキリとヴァイスアッシュに向けて伝える。

 

「俺は未だ『小さく』、そして『弱い』と自覚しています。そんな自分が空を飛ぶ力を持てば、其の力を狙って他の開拓者が襲い掛かるでしょう」

 

ペッパーの言葉にヴァイスアッシュは「ほぉ?」と、少し意外と言うような声を放つ。

 

彼が授けてくれた致命魂の首輪によって、他のプレイヤーよりもステータスポイントは多く貰えてはいるものの、廃人組にはスキルもステータスも遠く及ばないし、圧倒的な力で迫られれば、幾ら強かろうが関係無い。

 

強奪されて自分の手元を離れれば、次の所有権を巡る争いが勃発して、戦争が起きる事は目に見えている。

 

「首輪を授けた、オイラが言うのも何だが…おめぇさん、自分を悲観しちゃあいねぇかい?」

「此の世界には、自分よりも強い開拓者やモンスターは大勢居ます。託された願いや想いさえ、ましてや自分の物も守れないようでは、レディアントシリーズを纏う資格等、俺には在りません」

 

いつか決着を付けなくてはならないリュカオーンに、トワと約束したウェザエモンとの決戦、其の先に有るサイガ-100やキョージュとの交渉。

 

レベルで勝てないにしても、『心』で敗北してしまう事の無いようにしなくては、自分に夢と願いを託してくれた彼女に、申し訳が立たない。

 

「俺は『弱者』です。其れでもこんな俺を信じて、神代の時代に世界へ示した『答え』を、蒼天に抱いた『夢と想い』を託してくれた彼女の。最後に遺した『願い』を守り抜けるように。

 

俺は更に強く、そして必ず。本物の『勇者』になります。一人の大馬鹿な男が放った『虚言』が、何れ本物の言葉と成って『実現』し、此の世界に示せるように」

 

此れは自分から、ヴァイスアッシュに示す『宣言』だ。今はまだレディアントシリーズは纏えない、其れを纏うに相応しい人間に成ってみせると………彼にそう伝えた。

 

静寂が部屋を支配する。ヴァイスアッシュは此方を見つめ、静かに眼を見ていた。此処で眼を反らせばきっと、先程までの言葉は全て『嘘』だと思われるに違いない。怖かろうが、チビりそうになりながら、ペッパーはヴァイスアッシュの視線と向き合い続ける。

 

「……………虚言を本物に変える勇者、かぁ。良い『覚悟』じゃねぇかよぉう、ペッパー」

「!」

 

ヴァイスアッシュが笑う。其の笑みはペッパーの宣言を、1人の男の覚悟を(しか)と見届けた、致命兎の王たる『漢』の顔だった。

 

そして彼はペッパーに、アイトゥイルに、ビィラックに語り始める。

 

「レディアントシリーズ一式の中にあるぅ籠脚(ガンドレッグ)、レディアント・ソルレイア。…コイツだけぁ『3つの要素が揃って無くても動ける』。がぁ…今はまだ『眠ってる状態』だぁ。クワガタとカブトムシが放つ『ドデカイ攻撃』でも受ければ、バッチリ目ェ醒ますだろうなぁ」

 

ティラネードギラファ&カイゼリオンコーカサスの最初のタッグ戦で、戦闘開始から5分後に食らった強力な雷風の攻撃。そしてヴァイスアッシュの台詞から、ペッパーはレディアント・ソルレイアこそが、2体の甲虫皇に対する『ギミックウェポン』で有ると悟った。

 

「最後に1つ。今のおめぇさん(・・・・・・・)なら『栄古斉衰の死火口湖』に在る、空を飛ぶ為の『答え』の1つたる『機構(ギア)』…ソイツを取りに行けるだろうぜ」

 

そして明かされた事実。嘗て世界に示した人が蒼空を舞う為の『答え』、レディアントシリーズ一式と籠脚の『器』と甲虫皇達が守り続ける『魂』、明かされていなかった最後の1つたる『機構』は、サードレマから行ける3つのエリアの最後の一ヶ所に。

 

ユニーク小鎚たるマッドネスブレイカーの成長派生形態へ必要となる『炎水剛岩』が在る場所と同じ処に存在していたのだった………。

 

 






致命兎の大頭が語る、空を舞う答えの最後の在処




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動かぬ山、中を進むか、外を進むか



ペッパー、栄古斉衰の死火口湖に往く




「マジかぁ………レディアント・ソルレイア君。お前、甲虫皇攻略の鍵だったのか………」

「とんでもない事になったけぇな…」

「そうさね、ビィラック姉さん…」

 

ヴァイスアッシュとの会談を終え、一度休憩室に戻った一向。ペッパーはアイテムインベントリから、ユニーク遺装機(レガシーウェポン)の1つである、レディアント・ソルレイアを取り出して、1人と2羽の中心に置いて眺めている。

 

レディアントシリーズの中に含まれ、ビィラックに依頼して製作したカテゴリーと同じ籠脚(ガンドレッグ)。一式装備と同じ蒼天をイメージした空色に、膝へ向かう線描は雲を模した白の翼の衣裳が備わり、膝のバンデージ周りや靴底は稲妻の輝きたる黄金を纏った物に、ドリルの如き掘削角。爪先は猛禽類特有の鉤爪のフォルムが、まさに『此れぞユニーク装備である!』を一目で解るように、格好良さが全開に押し出された武装だった。

 

試しに装着出来ないかと、レディアント・ソルレイアを調べるが、甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)の時と同じ様に『ブブーッ』のSEが鳴って、表示されるのはステータス不足の表記。其所には『レベル40以上・筋力85・技量70』のステータス要求がされていた。

 

「…要求ステータスが完全に『お前脳筋に成れ』と言ってきてるんだが…。まぁ首輪のお陰で手に入ったポイントを振って、レベルキャップに到達すれば装備は出来る…。けど敏捷とか器用にも、ポイント振りたいんだよなぁ…」

 

バックパッカーの使命を果たせるように成る為にも、敏捷やスタミナは必要だ。一応敏捷に関して見れば、耐久を半減させて敏捷を高めるボディパージや、ハイリスクだが敏捷と筋力を3分間だけ2倍に出来るオーバートップビートも在る。

 

「………まぁ取り敢えず、だ。栄古斉衰の死火口湖に行って、当初の目的である炎水剛岩(ブルレットロック)と先生が言った世界に示した答えの『機構(ギア)』を取りに行こう。ビィラックさん、レディアントシリーズ一式とソルレイアを預かって貰って良いですかね?」

「解った、任せとけぇ。其れとペッパー、わちも栄古斉衰の死火山湖に連れてっちょくれ。レディアントシリーズを見ちょったら、俄然完成形が気になってもうての」

 

万が一の事も考え、ビィラックにレディアントシリーズを預ける事にしたペッパー。栄古斉衰の火山湖に行こうとするや、父親と自分の話を聞いたからか、鍛冶師を引き継いだ者ならぬ兎として見届けようと、彼女は同行を申し出てきた。

 

「解りました。アイトゥイル、ビィラックさん。準備が出来次第、火山湖に向けて出発しましょう」

 

ビィラックはユニーク装備一式を鍛冶場に置きに行き、アイトゥイルは恒例となりつつある旅人のマントの中に隠れ。数分後戻ってきたビィラックは装備を一度外して、ファーコートに擬態する形でペッパーにくっ付く。

 

アイトゥイルが開いたゲートでサードレマの裏路地に出るや、試運転がてらスキル:オーバートップビートを起動したペッパーは、黒い線を描くが如く、街を駆け抜けて往き、僅か2分で栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)に向かう門を潜り抜け、サードレマを脱出。

 

残り1分で出来る限り離れて、其所からはデメリット解除と再使用時間(リキャストタイム)終了を待つ為に、歩いて移動する事にしたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリア・栄古斉衰の死火口湖には、大まかに『2種類』のルートが存在している。

 

1つは、火山内部に在る太古の時代の坑道を通り抜け、山の反対側に出た先で待つエリアボスにして、ガゼルの頭部にバッファローの角、山羊の毛皮と胴体を持つエリアボス・怒猛なる山鹿羊(ディックホーン)を倒す。もう1つは、登山を行った上で火口を半周進み、山を下った先でエリアボスを倒すかの2種類だ。

 

字面だけ見るなら、後者の登山ルートの方が速くエリアボスに到達するのでは?と思う開拓者も多いだろう。しかしコレは大きな間違いで、此の栄古斉衰の死火口湖の山肌には、ペリカンの嘴にダチョウの身体をした『ブルックスランバー』なるモンスターが住み着いている。

 

此のモンスターの恐ろしい点は、プレイヤーを発見するとストーカーの様に地の果てまで追い掛け、捕まえると口の中にプレイヤーを頬張り、其のまま火口の淵まで運んだ挙句に、高い場所から湖の中に放り込むという、落下死不可避の恐怖が待っているのだ。

 

ならば、逃げれば良いのでは?と思うだろうが、此のペリカンダチョウ、序盤の敵としては驚異的なスピードと、無尽蔵に等しいスタミナを保有し、体力も馬鹿高いので序盤装備で狩るのは中々厳しく、更に言うと常に『5羽以上のコミュニティ』を形成して襲うので、見付かる=落下死確定ルートになっている。

 

よって『正規の攻略』をするなら、火山内部の入り組んだ迷宮の様な坑道を地道に進み、山の反対側に出てエリアボスと戦うのが、一番の得策なのだ。

 

「間近で見るとやっぱりデカいな、標高2000mは有りそうか?此の山」

「何時見ても大きいのさ…」

「ほんまじゃけぇ……」

 

『昔は生きていた』とされる火山、其の坑道入口近郊に辿り着いたペッパー達一向は、空に向かって聳える勇姿を見上げ、各々の感想を溢した。

 

「さてペッパー、ワリャ此処からどうする?坑道から炎水剛岩を探しに行くか?」

「鉱物は後でも探せます。けれど機構(ギア)は1つしか無いので、先にそっちを見付けようかと」

「でも、其れが何処に在るのかはワイ等には解らないし、オカシラも教えてくれなかったのさ」

 

おそらくヒントは出すから自分で見付けてみせろという、ヴァイスアッシュからの見えない伝言だろう。しかしペッパーには、火山の何処に隠したのかが、ある程度ながらも予測出来ていた。

 

「ただ1つ、俺には機構が在る場所に『目星』が立っているんですよ」

「そりゃホンマか、ワリャ」

「ペッパーはん、本当なのさ?」

「はい。其れを説明しながら、山を登りましょう」

 

旅人のマントが風に揺れる中、ファーコートのビィラックと脇の下に挟んだアイトゥイルを連れて、ペッパーは登山を開始した。

 

「普通は山に物を隠す場合、土を掘って坑道を作り、罠を張って最奥の地に仕舞うのが一般的です。けれど、其れだと何れは、凄腕の開拓者に発見されてしまう。彼女はそう考えた可能性が在ります」

 

一歩ずつ山肌を進み、力強く斜面を踏み締め、少しずつ確実に上へと往くペッパーは、人が空を飛ぶ答えを世界に示した女性が、どのように考えていたかを推理する。

 

「ダンジョンやら未踏の地は、いつか誰かに踏破される…。其れもまた運命なのさ……」

「ならワリャ、あの人間の女は機構を何処に隠したんじゃ?」

「……此のエリアは昔、火口からは常に溶岩が噴き上がり、周辺地域一帯に大量の火山灰を降らす程の、凄まじい火山だったと聞きました」

 

考察クラン:ライブラリの記事では栄古斉衰の死火口湖は地層を調べた所、今よりも遥か昔に活火山だったという情報が出たらしい。

 

「溶岩が飛び散り、火山灰で前が見えない、そして何時噴火してもおかしくない状況。俺が其の『答え』の開発者ならば……『火口部分の壁面の何処か』に仕舞いますね」

「火山の火口の中…なのさ!?」

「な、そんな事しとったら『熔けて無くなる』けぇよ!?」

 

アイトゥイルは兎も角、ビィラックに至っては至極全うな感想だ。其れもそうだ……自然とは気紛れで、天気とて今の時代でも完全に予測出来る訳じゃない。1歩間違えば、空を飛ぶ答えが世界に甦る事は、2度と無くなってしまう危険が有るのだから。

 

だからこそ(・・・・・)、彼女は火口の壁面(其の場所)に隠したのでは無かろうか?

 

「ビィラックさん、其所なんですよ。彼女はきっと邪な者に、答えを構成する他の要素が見付かってしまって、最後の1つが機構だけになってしまった場合を想定し、備えて居たのではないかと」

 

そうしてペッパーは、自分の推理を2羽に向けて語り出す。

 

「常に活動している火山には火山灰を含め、有毒なガスや高温の溶岩が飛び散る危険地帯で、まともに近付くことすら出来ない。仮に其れを乗り越えて来たのなら、何らかの『トラップ』を稼働させ、機構ごと持ち出した者を火山の中に落とそうとしたんじゃないかな…と」

 

心正しき者以外の手に渡るならば、自分の夢が二度と甦らなくなったとしても、其の者には決して渡さない。そんな彼女の覚悟が在ったのだと、ペッパーは考えた。

 

「た、確かに…。技術を悪用するかも知れんなら、わちもそんな決断をしたかもな…」

「あの人…そうなるのを考えてたなら、ヴォーパル魂に溢れた人なのさね…」

 

ヴォーパル魂が未だに何を意味しているかは定かでは無いが、人の持つ『心意気』や『気高さ』といった物が関係しているのだろうか?其れは何れ解る時が来るだろうと、ペッパーは其の思考を一度記憶の片隅に置いて、己の歩みを進め続ける。

 

目指すは山頂、昔は溶岩と灰と毒ガスが舞い満ち、今は静寂となった火口の淵だ。

 

 

 






幾つもの可能性を考慮すべし


レディアント・ソルレイア:ユニーク遺装機(レガシーウェポン)・レディアントシリーズ一式と共に、神代の鐵遺跡内に在る隠し部屋の中のボックスに仕舞われていたユニーク籠脚(ガンドレッグ)

ヴァイスアッシュ曰く、3つの要素を揃えずとも稼働はするが、現時点では眠っている状態にあり、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスのドデカイ攻撃を受ければ、目を覚ますと言うらしい。

モチーフはジェネシックガオガイガーの脚を構成する、スパイラルガオーとストレイトガオーの変形・合体待機状態に、『ゼルダの伝説 ふしぎのぼうし』で登場するアイテム『ペガサスの靴』を、足して3で割ってカラーチェンジした様な見た目。




ブルックスランバー:栄古斉衰の死火口湖に生息しているペリカンの嘴にダチョウの身体をした鳥型モンスター。常に5羽以上のコミュニティで行動し、プレイヤーを発見すると警察犬の如く猛追。

捕獲するや火口の淵まで運んだ後、湖に目掛けて放り込む。捕まれば先ず脱出不可能&高所からの落下による即死が適応されるので、登山ルートでエリア越えをする命知らずのプレイヤーは非常に少ない。

モチーフは『ルーニー・ティーンズ』のキャラクターで、音速と幸運の疾駆鳥『ロード・ランナー』にポケモンの『ウッウ』を合わせた様なモンスター。


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胡椒と黒兎達は山を登り、青駝鳥の首を断つ



訪れるは、死した火山の火口痕




栄古斉衰の死火口湖を、ペッパーとアイトゥイルにビィラックが登山を開始してから、およそ1時間半。山登りを続ける一向は現在、珍妙な光景を目の当たりにしていた。

 

『ギョエー!!?ギョエー!!?』

 

死した火山の山肌に住み着き、登山ルートで進んできた開拓者達を捕獲し、火口湖に放り込んで死に様を嗤う悪辣な鳥型モンスター『ブルックスランバー』。登山を続ける1人2羽のパーティー目掛けて、5羽以上の群帯を形成しつつ、大きな口を開けながら突進してくる。

 

だが、旅人のマントで隠れているペッパーの右手に刻まれた、リュカオーンの呪い(マーキング)の気配をキャッチした瞬間、180度に近しい急速旋回で我先にと逃走していった。

 

「先生が今の俺なら取りに行けるって言ったのは、コレが理由かぁ………」

「あの鳥達、随分綺麗に曲がってるのさ」

「夜の帝王の獲物に、ワリャ等は手ェ出すなっちゅうこっちゃな」

 

本来の登山ルートは、ブルックスランバーの持つ特性によって、上級プレイヤーでも突破が困難を極めるのだが、ユニークモンスターの呪いが機能した結果、一切の妨害も被害も受ける事無く、順調に山登りが出来ているのだ。

 

「うーん…戦わなくて済むなら、其れに越した事は無いけれども…。進化したスキルや、秘伝書の技を試運転がてら試したいんだよなぁ…」

 

リュカオーンの呪いが良い方向で機能したが、本来はデメリットの方が目立つ為、誤差の範囲である。と、一向の目前には山肌が途切れ、青空と白い雲が見えてきた。

 

ペッパーが足早に走り始め、到達したのは直径10㎞に渡る大円を描く火口は自然が作り出した光景で、既に活動を終えた底には水が溜まって湖となっており、脚を滑らせて落下すれば先ず助からないだろう。

 

「絶景さね~、絶景さね~」

「此処の火口の何処かにワリャが言うとった、空を飛ぶ答えの機構(ギア)が在るんじゃな?」

「あの女性が、誰かに盗まれる可能性を想定しているなら」

 

火口付近を歩き回れば、きっと何かしらのヒントが得られる可能性が高い。早速ペッパー達は火口を時計回りに探索を開始し、火口内部の壁面に存在するであろう『違和感』を目を凝らして、よく観察。

 

壁面に不自然な所は無いか、突起物らしき物は存在していないか。僅かな違和感をも見逃さないように、ペッパーは探索ゲームで手懸かりを探すように、ビィラックは耳をピンッと立て、アイトゥイルは小物入れから筒を取り出し、クルクルと回しては中をじっくりと見詰めていた。

 

「……ん?アイトゥイル、スルーしようと思ったけど其れは何です?」

「コレさね?オカシラが誕生日のお祝いにくれた、ワイの大事な『宝物』なのさ。観てみるさね、ペッパーはん?」

 

アイトゥイルから手渡された其れを覗き込むと、遠くに見える壁面が、目の前に在るかのように近くに見えている。どうやらコレは、昔の偵察兵が使っていたタイプの、年代物なる『一眼望遠鏡』の様だ。

 

「望遠鏡か。ありがとうアイトゥイル、返すね」

「ペッパーはん、コレを知ってるのさ?」

「あぁ。見張りや偵察に使われた道具で、危険や違和感を逸早く発見するのに重宝したんだ」

 

人類の発明や科学は豊かさの追求や、最適への到達から産まれた物が多い。近眼を解消する為に眼鏡が産まれ、眼鏡の要素を利用して遠くを観れるようにした物が望遠鏡、其れを元にして双眼鏡が、更に遠くを観る為に天体望遠鏡が産み出された。

 

「……よし。アイトゥイルは望遠鏡で引き続き、火口壁面を観察して、少しでも小さな違和感を感じたらビィラックさんか俺に教えて」

「解ったのさ、任せてさね」

 

アイトゥイルの意外なアイテムにより、探索は少しだが捗りそうである。此の調子で機構を見付けて、炎水剛岩を堀当て、レディアント・ソルレイアの装備可能になるレベル40を目指してレベリングを……そうペッパーは予定していた。

 

だが神は、そんな思惑を一瞬で破綻させ、其の上で試すかのように、特大地雷を豪速球で顔面パスするように、1人と2羽に向けてぶん投げてきたのである。

 

「………ん?おぅ、アイトゥイル。何か『声』が聞こえてこんか?」

「………あ、確かに聞こえるのさ。しかも『聞き覚え』が有るのさ」

 

聞き耳でレーダーの役目を担うビィラックが何かの声を耳にし、アイトゥイルが更に反応して望遠鏡で声の方角を覗き込むと、此方に向かってブルックスランバーの群帯が十数羽突っ込んで来る。

 

そして先頭の1羽は、ペリカン特有の頬袋に『人間を頭から呑み込んで』運送しており、呑み込まれた其れは「あああああああああああああああ!!?」と悲鳴を上げていた。

 

「ん?何か聞こえるぞ?」

「鳥達が人の頭呑み込んで、此方に向かって来てるのさ、ペッパーはん」

「………あのペリカンダチョウめ、プレイヤー丸呑み運搬する趣味……いや待て」

 

背筋を撫でる嫌な予感。此方に向かってくるペリカンダチョウ、運ばれているプレイヤー、自分達の背後に在るは深い火口湖。ピースが組み合わさり、ペッパーの脳内に『最悪のシナリオ』が産み出される。

 

「あの鳥作ったヤツ、絶対趣味悪いだろッ!?ビィラックさん、アイトゥイル!俺の肩に!先頭の鳥を止めて、呑まれたプレイヤーを助ける!」

「おう、解ったけぇ!」

「はいさ、ペッパーはん!」

 

予想が正しければ、あのペリカンダチョウはプレイヤーを丸呑みして、火口湖に放り投げて落下死させる、悪趣味なモンスターだ。つまり今、自分達以外で其のプレイヤーを助ける事は出来ない。

 

スキル:スケートフット並びにバリストライダーを起動。おまけとして、レベルアップで手にしたステータスポイントを敏捷に11振り込んだペッパーは、山の斜面を滑走し、アイテムインベントリから湖沼(こしょう)短剣(たんけん)を逆手に装備。アイトゥイルが発見したブルックスランバーの群帯の前に躍り出る。

 

『ギョエー!!?』

「やぁおはよう。そして口ん中の物を盛大に吐き出せペリカンダチョウ!」

 

逃げようとターン旋回をする僅かな隙、ペッパーはスキル:首断ち・ラダースラッシュを重ね、駄目押しに致命(ヴォーパル)剣術(けんじゅつ)半月(はんげつ)()ち】を使い、介錯人の如く『一寸の迷いも無く』。まるで『集中』に入ったプロ選手の如く、ブルックスランバーの首を『一刀の元に斬り断って』みせた。

 

『ギョエ………』

 

首関係に関するスキルの重ね掛けが効いたのか、はたまた致命剣術自体が凄まじい威力だったのか。『壱刃決殺』によって首チョンパされ、呆気ない断末魔の鳴き声と共に、プレイヤーの頭を丸呑みにしていたブルックスランバーが消滅。ペッパーの目の前には『青玩駝鳥の羽根』がドロップアイテムとして出現する。

 

「ふぃ~…一撃で首を斬り取れたわ。失敗してたらヤバかった……」

「ペッパーはん、この人って前に在ってた人さね?」

 

ドロップアイテムの羽根を拾い上げ、アイテムインベントリに仕舞った其の時、アイトゥイルが旅人のマントを引っ張ってきて、ペッパーが振り向いた時、彼は衝撃と共に絶句した。

 

「きゅう………」と目を渦巻きの様に回していたのは、見覚えが有る青色の魔導師ローブ、大きな魔法使いの帽子、身長150cm程の小柄な少年のアバター。

 

「しっかしあの鳥共…開拓者を弄ぶったぁ、随分腐った性根をしてるけぇ…!」

「本当に許せないのさ…!見掛けたら焼き鳥に…ペッパーはん?」

 

下手をすればプレイヤーが死亡していた事案に、ビィラックとアイトゥイルの姉妹は怒りを顕にしていた。が、其れ以上の感情に曝されていたのは、助けに入ったペッパー本人であり。ビィラック、アイトゥイルの2羽を肩から下ろし、大きく息を吸い込み。

 

 

 

 

 

『いや何で此処に居るんだよレーザーカジキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!?』

 

 

 

 

 

 

火口湖に向かって、今の心境を木霊せたのだった……

 






まさかの乱入者




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機構より翼は宿り、願いは蒼天に向かう



乱入者に胡椒は如何なる判断を下す




何故此処に居るのだ、其れがペッパーが抱いた疑問である。サードレマで出逢い、フレンド登録を結んだ青の魔法使いの少年プレイヤー・レーザーカジキは、ブルックスランバーによって危うく火口に放り込まれそうになった所だった。

 

敏捷にステータスを振って、何とかペリカンダチョウを首チョンパで倒し、彼を救出したまでは良いものの、どうした物かとペッパーは対処に困っていた。

 

「………ほぇ!?あ…ブルックスランバー……あれ?」

 

そんな折、目覚めたレーザーカジキが声を上げたが、目の前にはサードレマの宿の天井は無く、澄み渡った青空と綿飴に似た白い雲が浮かんでいる。そして其の近くにはペッパーとアイトゥイル、ビィラックが覗き込むように座っていた。

 

「おはよう、レーザーカジキ。色々言いたいや聞きたい事は有るけど、取り敢えず助けられて良かったわ…あっやべ」

「あ……ペッパー、さん。もしかして、助けてくれ……ふえっ!?」

 

ペッパーは自分がやらかした事に気付く。レーザーカジキを助ける事に必死で、アイトゥイルをマントの中に、ビィラックをファーコートへ擬態させるのを、完全に忘れてしまった。が、時既に遅く。

 

「ヴォーパルバニー…!?しかもオシャレして、る…………!!?」

 

バッチリとアイトゥイル&ビィラックを見られてしまった。嗚呼コレどうしようかと、頭の抱えて悩むペッパー。しかし彼は、レーザーカジキの思わぬ一面を目の当たりにする事に。

 

「はわわ…!可愛い…可愛い…!さらさらの毛並みに、ふわふわの肉球…!動物特有の温もりにパッチリオメメ…!はわぁ~!!!!!此方のヴォーパルバニーは和装なんですね、唐笠と着物が似合った風来坊ならぬ風来兎でしょうか!対して此方は洋風、オーバーオールとサラシを着けてるんですね!其れと大きな手袋が似合ってて、かっこかわいいです!ほひゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

2羽の黒兎の頭や耳に肉球を撫でまくり、別人じみた奇声を上げるレーザーカジキ。ハッと我に返った時、ペッパーとアイトゥイル、ビィラックは彼のあまりの豹変っぷりにドン引きしており、レーザーカジキは顔を真っ赤に染め上げた。

 

「火口湖に身投げしてきますッ!!!!」

「待て待て待て待て、早まるなァッ!?!」

「拾った命は大事にせんかいワリャァ!!?」

「そんな事、絶対駄目なのさぁ!?!」

 

恥辱で火口湖バンジージャンプを強行しようとするレーザーカジキを、1人と2羽のパーティーが何とか引き留める、端から見ればツッコミ所だらけの光景が出来ていたのである………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お恥ずかしい所を見せました、本当にすいませんでした…!」

 

身投げバンジージャンプを何とか止め、落ち着いたレーザーカジキが深々と頭を下げる。其れにしても、何故彼は此の登山ルートに居たのだろうか?

 

疑問を解決する為、ペッパーは問い掛けてみる事にした。

 

「其れにしてもレーザーカジキ、何故に登山ルートを通ってきたんだ?あのペリカンダチョウに頭丸呑みされてたようだけど……」

「あ、其れは…その……。ペッパーさんがサードレマから走って、栄古斉衰の死火口湖へ向かってたのと、山を登っているのが見えたので追い掛けてきました。其れとブルックスランバーの生態を『姉さん』から聞いて、前々から気になっていたので……」

 

どうやらレーザーカジキなるプレイヤーはモンスターの生態に興味が有るようで、自分を追い掛ける次いでに其れを確かめたかったのだと、心の中で察した。

 

「後は…そう……」

 

 

 

ペリカンに狩られた魚の気持ちを(・・・・・・・・・・・・・・・)味わいたかったのがあるんです(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「…………んんんん?」

 

サラッと最後にとんでもない発言が飛び出して、ペッパーは自分の耳を疑った。魚の気持ちを味わう?は泳ぐなりで体験出来るが、捕食される魚の気持ちになるとは、一体どういう事なのか。

 

「レーザーカジキ………?」

「あ、えっと…自然界は弱肉強食じゃないですか。食べる者と食べられる者が居るように、動物や魚、鳥にしても食べられる側が居るからこそ、自然は廻っているんだと思うんです。だから僕は、強者だけでなく弱者の視点からも動物を知りたい…そう考えているんです」

 

モジモジと、両手の人差し指を突っつきながら、レーザーカジキはそう言った。人は時として、物事を一面しか見ていない時がある。普段スーパーで何気無く購入している鶏肉も精肉されて、パック詰めされて並んでいる『結果』だけを捉え、其所に至る迄の『過程』を見ていない。

 

レーザーカジキは、其の動物が食べている生物にも『ドラマ』があり、其れを知る事によって自分が好きな動物を、更に知りたいのだと思い。そして少年に向けて言った。

 

「………『深いな』、其の考え方」

「そ、そうです……か?」

「此の世界に生きる開拓者も、NPCも、モンスターにも、皆が各々の『ドラマ』を持っている。俺も、ビィラックさんも、アイトゥイルも。そしてレーザーカジキにもね」

 

生きる事は『戦う事』だ。其の命が狩り取られて尽き果てるまで、寿命で瞳が光を失って息の一つが切れて無くなるまで、人も動物も、誰も彼もが戦い続ける。

 

「人の価値観は各々違う。レーザーカジキの『考え方』が、他の人に受け入れられない事も有るだろう。だが、そんなものは『気にするな』。自分は自分だ、己を信じて、貫き通せ。自分を曲げない人間に『信念』は宿り、其の信念は必ず、誰にも負けない『強さ』に成るんだ」

 

昔のギャルゲーで、此迄一緒に戦ってきた仲間が敵に寝返るイベントが起き、男ヒロインが悲しみに打ち拉がれて、生きる意味すら失い掛けた時、女主人公が彼に対して言っていた台詞が有る。

 

自分の信念さえ信じられなくなった彼を、女主人公が上記の台詞を放ち、其の心を再び立ち上がらせた。其れを自分なりに『アレンジ』した物が、ペッパーがレーザーカジキに送った言葉だった。

 

「ペッパーさん…ありがとうございます!」

「気にするな、楽に行こう。あと、レーザーカジキはこの後どうする?このままじゃまた、ブルックスランバーに火口湖に放り込まれる可能性が有るけど…」

「えっ…あ。じゃあ…其の……同行させて、ください……」

 

モジモジしながらも、小さな声で申し出てきたレーザーカジキを、ペッパー達はパーティーに迎え入れる。

 

「わちはビィラック、此方は呑んだくれの妹のアイトゥイルじゃけ。よろしくな、レーザーカジキとやら」

「ペッパーはんとビィラック姉さん共々、ワイもよろしくさね~」

「は、はい…!よろしくお願いしましゅ!…しゅゅし!!」

 

最初に出逢った時と同じように、緊張からまたしても舌を噛んだレーザーカジキ。魔法使いにバックパッカーから成る後衛陣、軽量風来兎と重量鍛冶師兎の前衛陣から成る、バランスの取れた2人と2羽に増えた一向は、火口壁面に存在するであろう、空を飛ぶ為の答えたる機構を探して、再び歩き始めたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死した火山の山頂、其の巨大な火口の円上を行くパーティーは、壁面の何処かに在るだろう機構を探して歩き続ける。アイトゥイルは先程と同じ様に、一眼望遠鏡で火口の壁面を観察し続け、ビィラックはペッパーがレーザーカジキの護衛を頼んだ。そんな名匠鍛冶師たる黒兎は、現在少年の腕に包まれながら、ぬいぐるみのように抱っこされている。

 

「ペッパーさん…あの、ずっと気になっていたのですが…。えっとその……『何を探して』いるのですか?」

 

ビィラックの温もりに、表情がほわほわしているレーザーカジキが、ペッパーに質問してくる。此処での受け答えによっては、色々と面倒な事に発展しかねない。

 

只でさえビィラックとアイトゥイルを見られた上に、空を飛ぶ為の装備のパーツを探している等と、口を滑らせ喋ろうものなら、収集が付かなくなる。

 

「此方のクエスト関係で、必要なアイテムが此の山の火口壁面の何処かに在るらしくてな…。全部揃えると、スゴい事が起きるらしい。……何だが、俺にも全容は解らない」

 

特殊クエストに関わる事をぼやかす形で伝えつつ、ペッパーはレーザーカジキにこう言った。

 

「其れと…ビィラックさんとアイトゥイルの事、そして此れから手に入れるアイテムに関して、くれぐれも『他者や君のお姉さんとやらを含めて、一切のプレイヤーに対して情報を口外しないでくれ』。此の約束を守れるなら━━━━━『2人をたっぷり時間一杯、愛でて、撫でる権利を進呈する』けど………どうする?」

 

交渉とはメリットとメリットの天秤が釣り合い、均等に成る事で成立するのが『常識』だ。

 

「ペッパーはん、ワイはお人形じゃなさよ!?」

「そやぞワリャ!?見せ物とちゃうんぞ!!」

「本当にごめんなさい……!協力してくれたら御二方が望む報酬を、必ず御渡し致します!!なのでどうか、どうか今回だけで良いので、御願い申し上げます!!」

 

日本人が世界に誇る、御願いの最終極致たる『土下座』を行い、ビィラックとアイトゥイルに頼むペッパーだったが、レーザーカジキが「あ、あの!」と其の間に入るようにして、土下座をしている彼に言ったのだ。

 

「僕はその……『ペッパーさんと普通に会話がしたい』……です!ビィラックさん達の事は…撫でてみたい、ですけど……。其れよりも、ペッパーさんとお話が出来れば……僕は其れだけで、満足……なんです」

 

普通の話がしたい━━━━そんなレーザーカジキのシンプルで、しかし純粋な想いは、1人と2羽のくすんだ心を真っ白な洗濯物のように洗い流し、心を温かいモノでゆっくりと包んでいく。

 

「レーザーカジキお前、本当に良い子……」

「純心無垢な童なのさね………」

「ヴォーパルバニーなら家族にしたいけぇ…」

 

心を浄化され、押し寄せた感情と共に、1人と2羽はレーザーカジキの頭を撫でた。死した火山の火口に、優しい空間が一時的に形成され、再び一向は探索を再開。

 

時計回りに火口を進み続けて20分が経過し、距離にして1/3程を歩いた頃━━━━━

 

「!ペッパーはん、彼処に何か在るさね!」

 

一眼望遠鏡で火口壁面を見続けていたアイトゥイルが、遂に『機構』に繋がるであろう手掛かりを発見する。

 

「アイトゥイル、其れは何処に在りますか!」

「距離は大体2㎞くらい先に!岩肌と擬態するように『茶色で塗られた階段』が見えたのさ!そして其の先に『不自然に出っ張った終点』みたいな場所も!」

「ナイスじゃ、アイトゥイル!」

 

期待が高まる中、2人と2羽は走り出して其の場所に辿り着く。其所には山肌の色で完全に擬態しながら、嘗ての火山活動が起きていた頃の熱と風化で、今にも崩壊しそうな階段。

 

其の階段を補うかのように人が漸く1人、壁に張り付いて通れるような、人為的に掘られた横凹状の通路が在った。

 

「こりゃあアレじゃな…階段使(つこ)うたら、漏れ無く落下死するヤツじゃけ」

「そうなると…進むのは一択しか無いのさね…」

「あぁ。皆、落下しないように慎重に進むよ」

「は、はい…!頑張り、ます…!」

 

ペッパーが先頭に立ち、風によって飛ばされる可能性を無くすため、自信の旅人のマントを解除し、アイトゥイルの唐笠を預かり、横に掘られた道を指先足先の感覚を頼りにしながら、罠がないかを慎重に確かめ、其の後をビィラック、アイトゥイル、レーザーカジキが続く。

 

「皆!此の先、少し通路が歪んでるから注意して!」

「はい!ありがとうございます!」

 

1歩1歩少しずつ前に、2人と2羽は進み続け、途中でビィラックがバランスを崩して、落ちそうになる危機に見舞われたり、強風でレーザーカジキがパニックになったのを落ち着かせたりと、ハプニングは有ったものの、何とか終着点たる場所に到達出来た。

 

其所は如何にも、罠とおぼしき正方形のフィールドで、目の前には山肌に擬態する程までに錆び付いた、長方形の扉が1つだけ存在しており、突如として4人に向けてスピーカーを通じて喋ったかの様な声が、扉から聴こえてくる。

 

 

 

『ザザザッ━━………汝等の、業……測る━━━━。人を殺める罪、業の重さに━━━……裁きを、降す………━━━━━』

 

 

 

「一体どういう事…なのさ?」

「業の重さじゃと…わちは悪い事なぞしちょらんが?」

「ぼ、僕も…他のプレイヤーさんに迷惑は掛けて、ません…!」

 

レーザーカジキやビィラック、アイトゥイルが其の声に疑問を抱き、首を傾げる中で、ペッパーは此処に存在する罠は『カルマ値を参照にした全員落下死ギミック』だと感じ、万が一に備えて、ビィラックとアイトゥイル、そしてレーザーカジキを纏めて抱え、錆び付いた階段で上に避難出来るように備えた。

 

しかし………。

 

 

 

『内なる業、産出………規定値、クリア。トラップ及び最終ロックを解除………━━━━━━。翼を紡ぐ、心正しき『勇者』よ。其の……道に、幸……多からぬ事……を、祈る………━━━━━━━』

 

 

 

スピーカーの声は断絶し、重い扉が開かれた。一向の前に顕れるは、ペッパーが神代の鐵遺跡の隠し部屋にてレディアントシリーズ一式と籠脚を厳重保管していた、タイムマシン味の在る鋼鉄の箱に酷似した物。

 

ピーというSEが響き、白い蒸気を吐き出して開かれ。中に納められていたのは、大小異なる真っ白な箱形のユニットが合計で7つ、其の1つずつに英語表記で各々の対応箇所が印されていた。

 

ペッパーはアイテムインベントリの中に、此の純白なユニット達を仕舞って、アイテムの内容を確認する。

 

 

 

 

 

 

 

翔陽顕翼命晶機構(ライジング・フォルクス・ギア):レディアントシリーズの四肢と胸部と背面へのエネルギー循環、及び飛翔能力を制御する為の機能。天を舞う答えの1つたる『核』より流れ溢れ出す力により、答えたる『器』を壊さぬ為に必要となる存在。

 

各々が背より巨翼を、四肢より羽根を、鎧より水晶を顕わし、全身に渦巻く生命の奔流は、其の身を蒼空へと導き、装者を阻む全てを祓い、彼方の果てまで舞い上げる。

 

(しか)して此れは、答えの『機構(きこう)』であり、分かたれた『(うつわ)』と『(たましい)』を揃える事無くして、目覚める事は叶わず。

 

 

 

 

 

 

 

(あ~あ~あ~………。レーザーカジキを連れた状態で、レディアントシリーズの機構(ギア)を入手しちゃったよ。我ながら、色々抜けてるよ全くさぁ……。まぁ、こうなったのは自業自得。自分の不注意が招いた事……)

 

後悔先に立たず。起きてしまった事実は、もう変える事は叶わない。

 

ならば。

 

ならば。

 

其れすらも、此の背に背負ってやる。ヴァイスアッシュに宣言した、虚言を現実に変える本物の勇者に至る為に。

 

ペッパーは目を閉じて、見開いた。其の瞳の内に宿った焔は強く、雄々しく燃えていたのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は別たれし歯車を見付けた』

『曇らぬ魂が、崩落の罠を封じ込めた』

『特殊クエスト:【颶風を其の身に、嵐を纏いて】が進行しました』

 

 






遺されしは魂のみ





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怒れる山鹿羊が阻み、胡椒は火山の中を往く



エリアボス戦&火山探索




「ほふぅ………無事ゲット出来て良かったぁ~」

 

火口壁面の絶壁の中に、人為的に造られた道を再び戻り、火口周辺まで帰って来たペッパーは、開口一番に大きな息を吐く。

 

あの中腹に在った終着点、乗った者の業を測るという台詞、可能性としては彼処に立ったプレイヤー及びNPCの『カルマ値』の合計を元にして、一定以下でないと扉自体が開かず、全員火口に真っ逆さまのガメオベラ不可避の罠と見て間違いない。

 

もし仮にペンシルゴンがあの場に居たなら、アイトゥイルとビィラックの死亡&二度とリスポーンしない可能性が考えられただけに、背筋がゾッとした。

 

(神代の鐵遺跡と言い、此処のトラップと言い……シャンフロ開発陣の中に、アドベンチャーゲームかそういうカテゴリーの映画が好きな奴絶対居るだろ………)

 

火口より下山し、シャンフロ第5の街『ファイヴァル』への道を阻むエリアボス、怒猛る山鹿羊(ディックホーン)が待つ場所へ、ペッパーとレーザーカジキ、ビィラックとアイトゥイルのパーティーは進み続ける。

 

「あ、あの…ペッパーさん。その…さっきからブルックスランバーが逃げてるのって、リュカオーンの呪い(マーキング)が効いてる…から、ですか?」

 

下山途中、またしても悪辣ペリカンダチョウが突進してくるものの、眼前で急速旋回をしながら去って行く光景を目の当たりにし、レーザーカジキが質問をしてきた。

 

「うん。マントで隠してるんだけど、気配が漏れ出してる影響か、登山時もあんな感じに逃げられてね。お陰で新しいスキルの検証や、レベリングが難しくなってる」

 

レベリングに関して見れば、其所に致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)の効力も重なっているが、此れのお陰でスキルの成長・進化、ステータスポイントも通常より多く手に入っているのは事実だ。

 

「ペッパーは夜の帝王相手に大立ち回りをしたからなぁ。呪いをフッ掛けられて当然じゃけ、くかか」

「ペッパーはんは、ギラギラに輝くヴォーパル魂を持っとるのさ」

「…ヴォーパル、魂?」

「俺にも解らないが…多分『魂の気高さ』とか『強者に挑む心意気』なんだと思ってる」

 

ヴォーパル魂なるワードは、ユニークシナリオを進めた先で、何時の日にか判明する時は来るだろう。其の為には先ず、クリア条件をアイトゥイルに聞かない事には始まらないが。

 

「…………っと。雑談してたが、全員気を引き締めて。エリアボスが御待ちかねだ」

 

ガゼルの頭にバッファローの角を持ち、山羊のゴワ付いた毛皮と胴体をキメラ合成にした、全長7m程の巨大獣。栄古斉衰の死火口湖のエリアボス・怒猛る山鹿羊(ディックホーン)が、登山ルートを通ってきたペッパー達一行を待ち構えていた。

 

白い鼻息を放出し、前足の蹄で地面を削り、唇を持ち上げ歯を顕にし、首を左右に太い角と共に振り回しては、此方を威嚇している。

 

「アレか…4人居る事だし、ヤギガゼルを苦しませないように手早く倒してしまおう」

「そやね、ペッパーはん。獲物は鮮度が大事なのさ」

「おう、其れに関しちゃワリャ等に同意じゃ」

 

小鎚を、薙刀を、ハンマーを振るい、あの獣を如何にして苦しませずに〆るかと、ペッパー・アイトゥイル・ビィラックは、三者三様の想を浮かべる。

 

が、そんな一向に向かって、レーザーカジキは先んじて前に躍り出るや言ったのだ。

 

「あのッ!こ、此処は……僕に、任せて貰えません……か?ブルックスランバーから護衛して、いただいたので……其の御礼をさせて下さい……!あと、ディックホーンは…『裏技』で倒せます」

 

━━━━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━って!!何だよ『アレ』は!?呆気無さ過ぎるだろ、あのヤギガゼル!!?」

 

怒猛る山鹿羊の戦いは、ペッパーが期待していた物よりも、余りにも外れた形で終わってしまった。というのも此のモンスターは、レーザーカジキが実戦した所、単にダメージを与えるよりも『全身に纏っている毛を火属性魔法で燃やして』、其所に直ぐ様『水属性の魔法で鎮火する』という方法。

 

そうした場合に限り、戦闘経験値は入らないが怒猛る山鹿羊(ディックホーン)恥辱(・・)で走り去って行き、討伐扱いとしてエリア突破出来ると言う、思わずツッコミを入れたくなるような、何をしたら製作陣はそんなギミックを思い付いたんだ的なボスなのである。

 

「毛が無くなって逃げ出すなんて…ブフッ」

「ビィラック姉さん、あんま笑わな…フフフ」

「昔の子供向け番組の悪役が、火炎放射で服ごと真っ黒に焦がされて、全裸で逃げ去ってくヤツじゃねーか…」

「あはは…実はコレ『姉さんのクラン』が、怒猛る山鹿羊(ディックホーン)の生態調査をしていたら、偶然発見したらしくて…教えて貰ったんです」

 

改めて思うが、シャンフロの世界モンスター達は『世界観』から推測して、倒せるタイプが多いように感じる。謂わば『発想』の転換……生物系統のモンスターに関しては、様々なレトロゲームに実際の昆虫・動物の映像等で学びはしたが、ある意味で自分は其の考え方に『凝り硬め』られているのかも知れない。

 

レーザーカジキの姉のクランが見付けた、怒猛る山鹿羊の裏技攻略法も1つのやり方で。そう考えるならば、自分はもっと『自由』に戦っても良いのだろう。

 

「因みに其のクランの名前を聞いても?」

「姉さんが……『オーナー』を勤めてるクラン、『SF-Zoo』は。シャンフロの『モンスター』や『動物』に関する、様々な事を調べて……。あとは……写真を撮ったり、モンスター…に噛まれたり、首チョンパされたりする事、前提の……『ふれあい』……してます」

 

どうやら想像以上に『動物狂い』の面々が多いようだ。そして同時にペッパー、其のSF-Zooにビィラックとアイトゥイルの存在を知られよう物なら、間違いなく撫でさせろとか、果ては彼女達を仲間に出来る方法を聞き出す可能性が高い。

 

いや━━━━━━━━確実にやる(・・・・・)

 

「まぁ、なんだ……レーザーカジキ。其のお姉さんとやらにはビィラックさんとアイトゥイルの事、黙っててくれると助かるんだが…」

「は、はい。えっと………」

「また会話がしたいって言うんだろ?面白い話を揃えておくから、次に会う時を楽しみにしておいて」

「……ありがとうございます!」

 

僅かな時間だったが、モンスターの倒し方等に関する有意義な情報や、時間を過ごす事が出来たのは事実だった。

 

レーザーカジキはこのまま、第5の街ファイヴァルでブルックスランバーの生態調査結果を報告するそうで、ペッパーは火山内部に在る『炎水剛岩(ブルレットロック)』を採掘する為、此処で解散する事となったのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーザーカジキと別れ、栄古斉衰の死火口湖の内部に入ったペッパーは、此処から炎水剛岩の在る鉱脈を目指してひた走った。アイトゥイルをマントの中に、ビィラックをファーコートに擬態させ、坑道途中で襲い掛かるモンスターを、呪い刻まれた右手を見せ付ける形で追い払い、其の行く先を邪魔させない。

 

入り組んだ坑道を縦横無尽に走り抜け、数十分程の疾走探索の末に、ルビーの如き赤とサファイアの如き青に彩られた鉱脈と、熱と冷気が入り交じり合った不思議な空間に辿り着く。

 

「何だ此処…ジメジメはしないけど、滅茶苦茶変な感じがする」

「熱くはないし、逆に寒くもないのさ…」

「こんだけの寒暖が働いとって湿気の1つも無いとは、随分けったいな空間じゃけ」

 

各々が感想を述べた後、ペッパーはビィラックが作ってくれたマッドネスブレイカーで、採掘を開始。鉱脈を叩くと、赤と青のマーブル食パンに似た紋様を描く鉱石がドロップ。

 

アイテム名には『炎水剛岩』と書かれていて、マッドネスブレイカーの成長派生に必要となる鉱石だ。触れると、赤からは携帯カイロに似た熱を、青からは冷えたペットボトルコーラに似た冷気を感じ、早速其の内容を確認してみる。

 

 

 

 

炎水剛岩(ブルレットロック):栄古斉衰の死火口湖の鉱脈から採れる鉱石。水のように冷たく焔のように熱い其れは、二律背反の証とされた。

 

火山は生きして鼓動を続け、地脈と地表の熱の寒暖より産まれた岩は、其の生き様を証明出来る者を、ひたすらに待ち続ける。

 

 

 

 

(んんんん……?確かネット情報だと『火山は既に死んでいる』って書かれてたのに、此の鉱石には『火山は生きている』って説明されてる……。どうゆう事なの?)

 

炎水剛岩に疑問を抱きつつも、ある種のフレーバーみたいな物だと思い、採掘ポイントを掘り尽くして、マッドネスブレイカーの成長に支障を来さないだけの量を手に入れたのだった。

 

此の時のペッパーは、火山の中に潜む『存在』を知らなかった。後に『あるプレイヤー』がヴァイスアッシュの言伝ての下、此の地を訪ねる時までは。

 

そうしてペッパー達一向は、来た道を再び疾走。エリアボス討伐扱いで通れる様になった場所を越え、シャンフロ第5の街にして、外気すら吸い込む底無しを大穴を抜ける為の備えを行う街・ファイヴァルに到着したのであった…………

 

 






相対する属性の鉱石は、山の秘密を示す




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世の中で何が金に成るかは、当事者の価値観次第



ファイヴァルより兎御殿に舞い戻る




シャンフロ、第5の街・ファイヴァル。近隣に全ての風を飲み込み続けている大穴『天頂地朽(てんちょうちきゅう)大穴(おおあな)』を、第7の街『セブラセブル』と挟む形で存在する、煉瓦造りの風車塔が建ち並び、風と共に生きる街。

 

街中は強弱問わず常に風が吹いており、ペッパーの旅人のマントやファーコート擬態したビィラックは、上下左右から吹き付ける風に煽られ、揉みくちゃにされていた。

 

「マジで危なかったわ…こうも風が吹きっぱなしだと、移動も安心して出来ないな……」

「捲れ上がった時なんて、ワイの心臓なんか止まり掛けたのさ…」

「目に砂入って擬態解けそうになったけぇ…」

 

此の街は自分達にとって相性が最悪だった。マントが捲られアイトゥイルが白日の下に晒される危険性を、常に意識しながら歩かねばならず、ビィラックにとってはふとした拍子に、ファーコート擬態がバレる可能性も有り、兎に角全てが噛み合わない。

 

「ビィラックさんは、先にラビッツに戻っていて下さい。アイトゥイルは、サードレマの時と同じく擬装して隠れてて。俺はファイヴァルの武器屋でマッドネスブレイカーを成長させてきます」

「解った。終わったら、成長したソイツを見せちょくれ」

「気を付けてな、ペッパーはん」

 

アイトゥイルにマナポーションを2本渡し、彼女が開いた扉でビィラックは一足先にラビッツの兎御殿に帰還する。そして彼女の擬態を見届けた後、ペッパーは旅人のマントを一度外すや、駆け足でファイヴァルの武器屋に向け、移動を開始したのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや…。ペッパーさんだねぇ……」

 

ファイヴァルの武器屋に辿り着いたペッパーを迎えたのは、ちんまりとした見た目で齢60代にも迫る眼鏡を掛けた老婆だった。この人が鍛冶師なのだろうか、そう思って話し掛けた時、老婆は驚く事を口にする。

 

「えっと、お婆様…」

「フフフ…。マッドネスブレイカーを炎水剛岩(ブルレットロック)で育てたい。……ペッパーさん、そう言いたいのだろう?」

 

エスパーなのか、そうじゃないのか、ペッパーが言おうとしていた事を瞬時に理解して言ってきた。

 

「え、何で解ったんです?」

「長年鍛冶仕事をしているとね…其の人が何をして欲しいのか。何を望んでいるのか。武器はどんな姿に成りたいか…そういうのがちょっくら解るのじゃよ…」

 

ふぉっふぉっふぉっ…と笑っている老婆。話は早くて助かるが、此れは此れで怖い。

 

「じゃあ…お願いします。炎水剛岩は必要な分以外は、売却で費用にしたいのですが……」

 

ビィラックが造ってくれたマッドネスブレイカーと、栄古斉衰の死火口湖の火山内で採れた、炎水剛岩達をカウンターに積み上げていく。

 

「まぁまぁ…此れだけ有れば、十二分に育ててあげられるわ。任せなさいな、ペッパーさん。ただ…炎水剛岩は少し特殊な加工を必要とするから…『3日程』時間を貰って良いかしらねぇ?」

「はい。じっくり時間を掛けて、育ててやって下さい」

 

こうしてファイヴァルの武器屋にて、マッドネスブレイカーの三大成長形態の一工製作を依頼し終えたペッパーは、返す脚で風が吹く街中を駆けてアイトゥイルの待つ裏路地に逃げ込み、彼女が開いたゲートを越えて兎御殿に帰還する。

 

「いよっし。炎水剛岩を使うマッドネスブレイカーは、ファイヴァルで製作依頼完了!アイトゥイル、1回休んだら兎御殿の食事処に行くよ」

「おぉ、ソイツは新武器の前祝いなのさ?」

「あぁ。ライブスタイド・サーモンとホラルマッシュルームで、包み焼きにしたら絶対旨い筈だ。少し休んで来るよ」

「行ってらっしゃいなのさ~」

 

1度昼食を挟んだ休憩を取る為、ペッパーは毎度御馴染みとなった、休憩室のベッドにてログアウトしていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後。昼食&トイレ休憩を挟んで、シャンフロに再ログインしたペッパーは、アイトゥイルと共に兎御殿食事処にやって来た。暖簾の向こう側から漂う昆布出汁の良い香りに誘われながら、1人と1羽は室内に足を踏み入れる。

 

「おぅ、ペッパーやないか。久しいのぉ、飯でも食いに来たか?」

 

入って右側の食事受け取りと会計カウンターから、兎御殿の料理長でアイトゥイルの弟のティークが、ヒョッコッと顔を出してきた。

 

「御久し振りです、ティークさん。食材を手に入れたので、俺とアイトゥイルに貴方の料理を御馳走して貰いたいと思って来ました」

「酒に合うものを頼むさ~、ティーク~」

「応ともッ、因みに食材は何を使うんだい?」

 

ティークの問い掛け、ペッパーは既にアイトゥイルと何を食べるかを決めている。

 

アイテムインベントリから、千紫万紅の樹海窟で採れたホラルマッシュルームと、涙光の地底湖で釣り上げたライブスタイド・サーモンを取り出し、カウンターに乗せていく。

 

どちらも採って直ぐにアイテムインベントリに仕舞ったからか、採れたて新鮮の凄まじい活きに成っていた。

 

「そうですね。えっと…此のホラルマッシュルームと、ライブスタイド・サーモンを使った料理を………あれ?」

 

ふとペッパーが見ると、あんぐりと顎が地面に着いてしまう程に、口を開けるティークの姿が。

 

「ら、ららら、らららららら………!ライブスタイド・サーモンやどぉおおおおおおおおおおお!??!」

 

思いっきり叫んだ声が、兎御殿の外のラビッツの国にも響き渡った。

 

間違(まちげ)えねェ……!!本物のライブスタイド・サーモンだ……!涙光の地底湖でしか釣れねェし、人間の市場(・・・・・)でも滅多に出回らねぇ、超が付く程の『最高級食材』じゃないかよォ……!!!」

 

目をキラキラと輝かせ、ライブスタイド・サーモンを見つめたティークは、ペッパーに提案を持ち掛けてきた。

 

「ペッパー、コイツを………ライブスタイド・サーモンを、オイに卸させちゃくれんか!?」

 

まさかの展開にペッパーも驚く。食事処なので食材とマーニを用意して、食事を食べるだけかと思っていたのだが、食材の買い取りもしていた情報を獲られたのは、かなり大きい。

 

良い食材なら、相応の値段で買い取ってくれるだろう。

 

「えっ、あはい。良いですけど…御値段は如何程に?」

「おう……!其れなら━━━━」

 

ペッパーは此の時、ライブスタイド・サーモン1匹辺り、大体『1万マーニ』くらいだと予想していた。ロブスター1匹釣るまでに、大体30匹は釣れていたので、30万マーニは稼げる計算にはなるだろうと。

 

其れくらい有れば、各種ポーションや消費アイテム、後は投擲玉やらの買い物が出来るし、武器の育成・防具の新調等々、色々出来そうだと考えて。

 

しかし、食材系アイテムは高値で売れる物は、ペッパーが此れまでプレイしてきたゲームの統計上、かなり限られている。ましてや地底湖で釣り上げたサーモン、価値は流石に誇張し過ぎただろう…そう思っていた。

 

「1匹『10万マーニ』で卸させてくれぃ!」

 

ティークが此のサーモンに、己が予想していた『10倍』の値段を付けるまでは。

 

(……………んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん?????????)

 

「あ、あの~…………」

「どうした、ペッ「コレ全部、卸させて頂けませんかね?」…………ハァ?????????」

 

そう言ってペッパーはアイテムインベントリから、ペンシルゴンとのパワーレベリングの最中に釣り上げまくったライブスタイド・サーモンを次々と取り出し、食事受け取り口のカウンターに乗せていった。

 

ティークにとって此の光景たるや、自分の目の前に金塊が積み重ねられていくのと同意義に等しい、凄まじい光景であり。30匹のサーモンがピラミッド状に重ねられる頃には、彼はあまりの衝撃で気絶してしまい、アイトゥイルのビンタによって目を覚ます事に。

 

漸く落ち着きを取り戻したティークは、宣言通り1匹につき10万マーニの、合計300万マーニを支払って━━━━

 

 

「今日はライブスタイド・サーモンの造りじゃあああああああああ!オヤジやイーヴェルにも伝えて、豪勢にいっちょるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!イヤッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

 

 

1周回って頭のネジが吹っ飛んだような、とんでもないハイテンションで、早速調理に取り掛かり始め。そしてペッパーは此の1日にして、とんでもない大金を入手する事になったのであった………。

 

そして同時にこうも考えた。珍しい食材を手に入れたら、ティークの所に持っていって換金しよう…………と。

 

 

 






大金獲得は突然に




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胡椒捜索スレで、武器狂いが笑う



久し振りの掲示板回




ペッパーが兎御殿にて、ライブスタイド・サーモンによって大金を手に入れ、懐が暖まった頃とほぼ同時刻。

 

其のペッパーを捜索する掲示板『胡椒争奪戦争』では、再び大きな畝りが起きようとしていた………

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

【情報】胡椒争奪戦争【急募】part1

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

511:マルマラ

また過疎ってきましたね…

 

512:アッド

それ

 

513:海パン7世

同意

 

514:一寸亡

わかる

 

515:バグナラク

マジで何処行ったし…

 

516:インドルー

見付からない!

 

517:サンダーナット

本当に何処に行ったんだよ……ペッパーのヤツは

 

518:ケケケーラ

あ、そう言えば……クランリーダーがペッパーさんとリュカオーンのマーキングに付いて、話を聞いたと言ってましたね

 

519:バサシムサシ

 

520:カレーのジョーンズ

!?

 

521:アッド

マジ?キョージュ、ペッパーに接触したの?

 

522:バグナラク

おう、情報開示請求しますわ

 

523:超合金豆腐

ちな何処で会ったって?

 

524:トットロ

情報プリーズ

 

525:ケケケーラ

場所はシクセンベルトって言ってました。あとリーダー曰く、ペッパーさんはシクセンベルトの武器屋に入って行ったらしく、鍛冶時の店主さんに小鎚の育成を依頼していたみたいで…

 

話し合いの後、リーダーが其の店主に話を聞きに行った所、マッドネスブレイカーという名前らしいです

 

526:バサシムサシ

マッドネスブレイカー?なんだ其の武器?

 

527:ムラクモ

小鎚って確か、最近になって新しく武器屋に追加されたカテゴリーやったな?

 

528:ルルパリス

二刀流に対応可、ピコピコハンマーサイズの片手武器、一部プレイヤーの間では短剣か短刀と小鎚を組み合わせた、斬打二刀流なんていうバトルスタイルが流行ってるとかいないとか

 

529:プリミチア

あとツルハシよりも重量軽いし、扱いやすいって好評。実際知り合いが、小鎚で採掘してると打撃系統のスキル習得もしやすいとか何とか言ってた

 

530:グラッチェ

へー…因みに職業:傭兵にも使える?

 

531:一寸亡

俺氏職業傭兵、二刀流対応打撃武器と聞いてワクワク止まらぬ

 

532:ケケケーラ

出来ますね。実際にライブラリと協力関係にあるクランのメンバーから、装備可能報告が入ってます

 

533:トットロ

ほぇー、お得やんけ

 

534:インドルー

って事はペッパーのヤツ、何かしらのクエストで其の小鎚を入手したって感じか?

 

535:ルルパリス

ペッパーが持ってる物

・リュカオーンのマーキング&モーション関係

・ユニーク小鎚(New!)

 

536:バグナラク

助かる

 

537:超合金豆腐

しかしマッドネスブレイカーねぇ…気になるな

 

538:トリスメギクトスマアレ

わかる

 

539:SOHO-ZONE

ほぅ…私の、私達の知らない小鎚が現れたのですか

 

540:グラッチェ

!?

 

541:サンダーナット

ファッ!?

 

542:ムラクモ

う わ で た

 

543:バサシムサシ

げぇっ!?武器狂い!!!

 

544:トリスメギクトスマアレ

武具防具の情報図鑑コンプリート勢のヤベーヤツじゃん

 

545:SOHO-ZONE

失礼な。人を出来物みたいに、言わないで頂きたいですね

 

546:トットロ

え?

 

547:グラッチェ

えっ

 

548:アッド

どの口が言うか

 

549:バサシムサシ

以前に最大火力のユニーク大剣と防具の能力を教えてと迫りまくって、黒狼の団長から手ぇ切られたの忘れてませんかねぇ…?

 

550:カレーのジョーンズ

シャンフロの武器と防具に関する知識は、シャンフロ動物園のSF-Zooに匹敵するヤバい集団(なお)

 

551:ルルパリス

耐久検証動画及び、鍛冶師向けの動画はガチ(なお)

 

552:インドルー

鍛冶師関連クランとは密接な関係だし、何よりライブラリに武器と防具関連の情報を大々的、かつ包み隠さず詳細に至る隅々まで開示してる所は評価する(なお)

 

553:SOHO-ZONE

いやぁ、其れ程でも……照れますね

 

554:ケケケーラ

うわぁ………(ドン引き)

 

555:一寸亡

えぇっ……(白目)

 

556:海パン7世

褒めてないんだよなぁ…(呆れ)

 

557:インドルー

なぁんで嬉しそうなんですかねぇ…(諦め)

 

558:アッド

駄目だコイツ、早くなんとかしないと

 

559:サンダーナット

もう手遅れ定期

 

560:ドグマータ

そんなにヤバいの?

 

561:グングラソル

うん

 

562:アッド

この人に狙われたら、どんな武器も防具も最後の一片まで情報を吐かされるぞ

 

563:バサシムサシ

ストーカーか何かかな?

 

564:サンダーナット

ペッパー逃げて、マジ逃げて

 

565:SOHO-ZONE

フフフ…フフフフフフ……!ペッパー君……君は私が必ず見付けて、マッドネスブレイカーの情報や耐久値の事、諸々纏めて吐いて貰いましょうねぇ…………

 

566:カレーのジョーンズ

ヒエッ

 

567:トリスメギクトスマアレ

うわぁ…ガチで怖いわ…

 

568:グングラソル

夢に出てきそう

 

569:一寸亡

ペッパァ!ニゲルォ!?

 

570:アーサー・ペンシルゴン

へぇ…また面白い捜索スレが出てきたんだ

 

571:SOHO-ZONE

!?

 

572:トットロ

えっ!?

 

573:ムラクモ

!?

 

574:アッド

んな!?廃人狩り!?

 

575:サンダーナット

げぇ!?ジャイアントキリング!?

 

576:カレーのジョーンズ

PKクラン:阿修羅会のNo.2!?

 

577:バサシムサシ

オイオイオイオイ!?ヤバい事に成ってきたぞ…!?

 

578:一寸亡

ジャイアントキリング…?

 

579:ムラクモ

一寸亡はんは知らんのな。アーサー・ペンシルゴンと京極、此の2人…というか、京極は脱退したっちゅう噂が有るんやけど、阿修羅会の中でも上級者や廃人以上ばかりしか狙わない、バーサーカーみたいなヤツ等なんよ

 

580:ムラクモ

正直遭遇したら、逃げた方が良いんよ

 

581:ケケケーラ

勉強になります

 

582:一寸亡

情報感謝

 

583:ルルパリス

つまり要注意人物……と

 

584:アーサー・ペンシルゴン

あぁ…。今日は皆に宣言しに来たんだ

 

585:アーサー・ペンシルゴン

ペッパーは━━━━━私の獲物だから

 

586:アーサー・ペンシルゴン

他のプレイヤーには━━━━━アゲナイから

 

587:カレーのジョーンズ

ヒュッ

 

588:ムラクモ

ヒエッ

 

589:アッド

アッハイ

 

590:SOHO-ZONE

\(^o^)/

 

591:サンダーナット

ペッパーオワタ……

 

592:プリミチア

どうか安らかに………

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 






曲者開拓者、新たに来る




SOHO-ZONE:シャンフロの内に存在する武器・防具の情報や製作、並びに耐久や仕様検証を日夜問わず行っている『クラン:ウェポニア』のオーナー。武器や防具に関する知識と製作技術に関して見れば、シャンフロ動物園ことSF-ZooのAnimaliaに比肩する程の深い知識と経験を持つ。

なお過去に、黒狼の団員の1人が保有しているユニーク大剣と鎧を調べようとしてやり過ぎた結果、サイガ-100にブチ切れられて、クラン提携を切られた経験が有るものの、未だ其の興味と調査に向けた情熱は衰えていない。

其の飽くなき狂気に等しい情熱から、シャンフロをプレイするユーザーに『武器狂い』の二つ名を賜っている。此れは本来恐れられる名前なのだが、当の本人は全く気にしておらず、寧ろウェルカムな模様




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致命の極技、そして鬼ごっこ



大金入手から、一点しての危機




「いやぁ~………。世の中、何が金に成るのか解らないな~。アハハハハハ………」

 

兎御殿・食事処を後にしたペッパーは、ライブスタイド・サーモン30匹が300万マーニに変わった事で、浮かれ半分怖さ半分が入り交じって、グチャグチャになった感情と共に、アイトゥイルを肩に乗せて歩いている。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。お金沢山入ったなら、良いお酒を奢って欲しいのさ」

「……そうだね。アイトゥイルには何時も御世話に成ってるし、何か良い酒でも買おうか」

 

金銭面は余裕が有るので、エンハンス商会に寄って良い酒でも労いに買うとするか……そう思っていた時である。

ふと目の前が光に包まれて、ペッパーとアイトゥイルは『何故か』兎御殿の特技剪定所(スキルガーデナー)・受付前に立っていた。

 

「あらぁ~ペッパーさん、アイトゥイル姉さん、久しぶりねぇ~♪」

「……あれ?何で此処に立ってるの?」

 

自分達は確かに休憩室に戻って、其所からサードレマの裏路地に行こうとしていた筈だ。何時の間にか特技剪定所に居る事実にペッパーは混乱するも、逸早く真実に辿り着いたアイトゥイルが、受付で営業スマイルをしているエルクに答えを突き付けた。

 

「なぁ、エルク。さっきの光をやったんは『アンタ』やな?何が目的なのさ?」

「あらあらぁ~アイトゥイル姉さん、兎聞きが悪いわねぇ~?さっきティークが叫んでたじゃない、ライブスタイド・サーモン……って」

「ちぃ…流石は銭ゲバ妹兎さ。もう金の匂いを嗅ぎ付けて来たのさね」

 

つまりは、さっきの光はエルクが仕組んだ罠で、此方に何か買わせようと考えている……という事だろうか。

 

「えっと、エルク……さん?因みに此処から出るには?」

「少なくとも『5つ』は買って欲しいわねぇ~。ペッパーさん『200万マーニ』以上は、確実に持っていそうだから……ねぇ?」

 

エルクの狙いは、此方の所持金が100万マーニになるまで、秘伝書やら何やらを買わせまくるつもりかと、ペッパーは気付いて頭をもたげる。

 

しかしエルクは、そんな悩むペッパーの背中を押すべく、こんな事を言ってきた。

 

「其れにぃ…今回売りたいって思ってるのは、ラビッツの~延いては兎御殿の中でもぉ…『特別な御客様』にだけぇ売り出すつもりでいる…とぉっても貴重で、とっても凄い……『(キワミ)()秘伝書(ヒデンショ)』なのよぉ?」

 

シャンフロ各地の街に点在する特技剪定所には、秘伝書以外に『極之秘伝書』と呼ばれる、強力なスキルを内封している巻物が販売される事がある。

 

性能面ではユニークに及びこそしないものの、其れ等のスキルは何れもが一線級に等しく、中には極め抜けばユニークにも引けを取らない、凄まじい性能を誇る物も多い。

 

ただ、其のスキル達は全てが例外無く『一定の条件を満たし、特定のモンスターを単独(ソロ)で討伐する』事により、初めて習得する権利が与えられ、更に言うと極める迄に膨大な戦闘経験が必須になる。

 

故にスキルを最高練度に至らせる為、自らのレベルを下げてスキルの熟練度を高めに掛かる、レベルダウンビルドを敢行する、ガチ勢開拓者も居るとか居ないとか。

 

「極之秘伝書…ねぇ。値段を見せて貰っても?」

「ペッパーはん!?酒買う分の金は残してさね!?」

「あらぁ、興味があるのねぇ~ペッパーさん。此方が其の極之秘伝書よぉ」

 

躊躇する所か、興味を示して値段を聞いたペッパーに、アイトゥイルは当初の酒用の資金を残すように言い、エルクは意外と言った声色で手に持った巻物を広げた。

 

同時に1人と1羽の前に、無数のスキル達が立ち並び、其の全てが頭文字を『致命極技(ヴォーパルヴァーツ)』で統一されている。

 

そして其の値段はというと、安い物で30万マーニの一番高い物に至っては150万マーニという、やはりぼったくりレベルの金銭要求をしてきた。

 

「うぉあ…?!やっぱり極技なだけあって、相応のマーニは要求するよねぇっ…!?」

「さぁさぁ、どれにしますかぁ?」

 

ずずずずいっと迫るエルクに、ペッパーはプレッシャーを感じながらも、致命極技の内容を確認していき、判った事があった。

 

其れは致命極技の全てが『レベル50以上』で初めて習得条件が『開示』される事。つまりは仮に購入したとしても直ぐに習得は出来無い上に、規程練度に到達するまでスキルの詳細も判らない、謂わば『先行投資』を意味する。

 

(そうなると……だ。多く購入しても、全て習得出来る訳では無く、絞り込んでの購入が必須になるか…。ならば━━━!)

 

数分の沈黙の果て、ペッパーは極之秘伝書の中から2つ、致命の秘伝書から3つを購入する事に決めた。

 

「エルクさん、決めました。先ずは致命の秘伝書からで、致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月(みかづき)(ともえ)】。次に致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】、そして致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光(げっこう)円舞(えんぶ)】。

極之秘伝書からは、致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】。最後に致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多(ナユタ)(ワダチ)】を買わせて下さい」

「はぁい、お買い上げぇありがとうございますぅ♪」

 

三日月巴9万マーニ、水鏡の月8万マーニ、月光円舞13万マーニの30万マーニ。晴謳80万マーニと那由多轍60万マーニの140万マーニ。5つのスキルで合計170万マーニと、ペッパーは現在の所持金の半分以上が、スキルの秘伝書により一瞬で消し飛ぶ事になったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暫く特技剪定所は行きたくないな…」

 

エルクによって手にした大金が、半分以上持っていかれたペッパーは、アイトゥイルを肩に乗せて、溜息と共に兎御殿の廊下を歩く。

 

「銭ゲバ妹兎は『ああゆう』事を普通に仕出かすから、ほんまに厄介なのさ。ただ其の分スキルも強力な物が多いし、進化すると使い方次第で化ける技も多いのさ」

「其れはそうなんですよねぇ………」

 

実際ブルックスランバーを首チョンパで一撃必殺にし、レーザーカジキを落下死から助ける事が出来たのも、一重に致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】の影響が大きい。

 

未進化であれだけの威力を誇る御業を、最終極致まで至らせたなら、何れ程の強さに成るのだろう。そして致命極技の技は習得した時に、何れだけの恩恵を自分にもたらすのか。期待が否応無しに高まってしまう。

 

「よしっ、うだうだするのは此処まで!アイトゥイル、サードレマへのゲートを頼む!」

「任せてなのさ!」

 

兎御殿の休憩室に走り込み、アイトゥイルがゲートを開く。何時もの様に彼女を旅人のマントの中に隠し、扉を開いてサードレマの入り組んだ裏路地の一角に出る。

 

と、出たのも束の間、此方を見ていた複数人のプレイヤーと目と目が合った。

 

「…………………………ん?」

「…………………………ん?」

 

暫しの沈黙。そしてペッパーは反射的に、スキル:ムーンジャンパーと七艘跳びを同時点火。建物の壁をクライムキックを使って『三角跳び』の要領で跳ね、屋根の上に避難した。

 

唐突な出来事に、プレイヤー達は唖然として。しかし直ぐに落ち着くや、大声で叫びまくる。

 

『ペッパーが居たぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!屋根の上に逃げたあぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』

 

其の声に反応したプレイヤー達が建物の屋根を見上げる中、ペッパー本人は千紫万紅の樹海窟に続くゲートへ━━━━━━『向かっていなかった』。

 

「ペッパーはん、どないするのさ!?」

「このまま他のエリアに続くゲートに行っても、待ち伏せされて捕まるまでがオチだ!だからこそ、一回『キッチリ』追手を振り切る必要がある…!と、そうも言ってられなさそう!」

 

スキル:バリストライダー並びにボディパージ、駄目押しのオーバートップビートを起動させた彼の視界には、自分と同じように建物の屋根を使って追い掛けてくるプレイヤーが点々と見える。

 

「待ちやがれー!」

「情報寄越せー!」

「ペッパー待たんかゴラァ!」

「そんな血眼で脅す奴等に、渡す情報なんかねぇ!」

 

鋭角移動に防御を捨てて敏捷を高めたペッパーは、疾風となってプレイヤーの前を走り去っていく。

 

「くっそ、アイツ速いぞ!」

「いや待て…この先はサードレマでも『上級貴族』とかしか、立ち入れない場所じゃねぇか!」

「馬鹿だな、ペッパー!自ら行き止まりに飛び込むなんてよぉ!」

 

他のプレイヤー達は、ペッパーが間違えた選択をしたと考え、黒い笑みを浮かべていた。此れで漸く情報が入手出来ると。

 

(………まぁ。彼等がそんな風に考えてるなら、此方にも在るんだよ。こんな状況を打破する『切り札』って奴がな……!)

 

移動しつつ、アイテムインベントリから『あるアイテム』を取り出し、ペッパーは目的地となるサードレマの『上層と下層を隔てる門』の前に到着する。

 

「貴様、何者━━━!?」

「此処から先は━━━━えっ!?」

 

行く手を阻まんとする門番が槍を使って、通せんぼうを掛けるも、ペッパーが取り出した『エンハンス商会会員証』を見た瞬間、槍を引いて『どうぞ、お通り下さい!』と言い放った。

 

そしてペッパーを追い掛けてきた他プレイヤーは、会員証も無ければ通行証無く、門番達によって『お引き取りを!』と弾かれてしまう。

 

彼は其の様子を確り見届け、怨嗟に等しい声を挙げるプレイヤー達を背にして、上層エリアへと消えていったのだった……。

 

 

 






ラン・オブ・ペッパー in サードレマ


致命(ヴォーパル)極技(ヴァーツ):兎御殿の特技剪定所のエルクが御得意様にのみ販売する、超レアなスキルの秘伝書。致命の名を冠し、一手用いるだけでも凄まじい性能を発揮するが、此の技の『真化』は致命の名を持つ様々な武技と併用(・・)する事に有る

致命を冠する極みに均しき其の御業は、弱者が真なる強者へと至る為に、其の身に課される(たましい)への試練。答えを(そう)に写す時、刻まれた御業は其の身と真に結び付き、己の力と成る


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新装備と新武器、そして新エリア探索



ペッパー、次なる目的地へ




「よっしゃ逃走成功だぁ!情報欲しいなら、其れなりの対価で取引(トレード)するのが、世の中の常識なの御存知無いのかねェ、あの連中は?」

 

サードレマ・上層エリア。下町とは一線を画す高級感と綺麗な街並みが広がる、上級貴族や一部商人を始めとする権力を持つ者のみが入る事を許された場所である。

 

ペッパーは特殊クエストによってエンハンス商会会員証を手にしていた為に入る事が出来たが、彼を発見して追い掛けてきた他プレイヤーが通行証が無い為に、門番によって足止めを食らう中、アイトゥイルと共に彼は此処へ避難出来た。ペンシルゴンが言っていた通り、会員証のお陰で、安全地帯に逃げ込めた様な形に成った訳だ。

 

「其れにしても…綺麗な場所だな。下町エリアも良く見える」

 

下と上とで隔絶された空間を見るペッパー。そして感じるのはNPCの視線━━━━やはりリュカオーンの呪い(マーキング)からか、此方を嫌煙するように避けているし、何より場違い感溢れる沼蛙製ピッチリ装備も、拍車を掛けている理由だろうか。

 

「………アイトゥイル、裏路地に入ったら兎御殿に帰還して、フォスフォシエにゲートを繋いでくれ。酒は其所で買ってくる」

「解ったのさ、気を付けてさね。ペッパーはん」

 

今後の事も踏まえて、装備は確実に新調して置いた方が良いと考えるペッパー。幸い所持金は、まだ130万ちょっと有る。金は有るだけ有った方が良いが、使い所では奮発しきっておかなくては、持ち腐れになった経験が有るが故に。

 

オーバートップビートのデメリット解除と同時、裏路地に移動した1人と1羽のパーティーは、開かれた扉を潜り抜け、彼より手渡されたMPポーションで失った魔力を、風来兎は供給。そして再び扉をフォスフォシエへと繋ぎ、彼は1人で街の防具屋へと走って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひょえ…!?い、らっしゃい…ませ!!!」

 

フォスフォシエ・防具屋にやって来たペッパーは、直ぐに店内へと入る。其の店の受付には女性NPCが立っていたものの、ペッパーの姿を見た瞬間に顔を真っ青に、冷や汗と恐怖に震えながらの台詞を言ってくる。

 

夜の帝王の呪いを憑けた、ヤベー奴認定をNPCに食らっているペッパーは、既に其の反応には慣れきった表情で、彼女へ用件を伝えた。

 

「すいません、新しい防具を一式で購入したいのですが……」

「は、はい!?た、ただいま!?!」

 

彼女の台詞と共に、目の前の画面に羅列する防具一式の数々。此処まで御世話になってきた、隔て刃シリーズと初心者装備の皮の帽子に、心の中で『ありがとう』と伝えて、彼は新たな装いを選択(チョイス)する。

 

新装備の候補となったのは『3種類』。

 

1つ目は『蒼零(そうれい)の黒服シリーズ』。某タキシード仮面のシルクハットをカウボーイハット、黒スーツをポンチョに変更した黒と青地の装備で、闇と氷属性に対して耐性を持つ事が出来る。費用は25,000マーニ。

 

2つ目は『スカルバーディーシリーズ』。亡邪の飛竜こと、ワイバーンゾンビの素材を使って製作された一式装備であり、呪術系統に対する耐性並びに、竜型モンスターに特効能力を内臓している。費用は30,000マーニ。

 

3つ目は『ブラッディスカーシリーズ』。費用は55,000マーニと、此の街では最も値段が張る一式装備なのだが、自身のレベル以上のモンスターとの戦闘時に、此の装備を身に付けている部位ごとに、ステータスへ1%のフル装備で4%のバフが乗る。

 

「よし、蒼零シリーズとブラッディスカーシリーズ、両方を買います」

「は、はい!お、おおおお、買い上げ!ありが、とう…ございましたっっっ!」

 

代金を支払い、防具一式が2種入ったペッパーは、早速自身をコーディネート。

 

色々な組み合わせを試し、最終的には蒼零シリーズの頭装備『蒼零のヴォージュハット』と脚装備『蒼零のスートズボン』、ブラッディスカーシリーズの胴装備『ブラッディスカーの長ラン』と腰装備『ブラッディスカーのベルト』に変更。

 

黒と赤、そして蒼の三色でバランスを取った、其れなりに良い新生装備に生まれ変わったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防具屋にて装備を調えたペッパーが、次に辿り着いたのは、以前にマッドネスブレイカーは3つの成長派生形態を内封している、ユニーク武器と教えてくれた恰幅の良い女性鍛冶師が店主の武器屋。

 

「あら、ペッパーさん。御久し振りですね」

「はい、御久し振りです」

 

扉を開けて中に入ると、女性が此方に気付いて声を掛けてくる。防具屋の時とは打って変わって、普通に話して接してくれている事が、こんなにも嬉しく感じる不思議だ。

 

「今日はどのような御用件かしら?」

「此方の武器を見せて貰えませんかね?出来れば『斬撃系統』の武器種を」

 

「解ったわ」と彼女がペッパーの前に武器カテゴリーを絞った物を見せてくる。其所には種類別に、『短剣』『片手剣』『大剣』『両手剣』『太刀』『大太刀』等と種類がズラリと並び、ペッパーは其の中の『太刀』をタップし、売られている武器と性能を確認していく。

 

「太刀でも色々有るんだな……何々、耐久値が高くて初心者にも扱い易い『黒鉄丸(クロガネマル)』に、霊体相手にダメージ補正が働く『夢幻刀(むげんとう)霊斬(たまぎり)』。

 

他にも色々有って…『赤刃(しゃくとう)汚血硯(どちずすり)』、カッコいい名前だな。…………よし決めた、黒鉄丸を買おう」

 

改良に必要な素材コストが少なく、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)と並び、初心者プレイヤーが御世話になる太刀武器、黒鉄丸を購入したペッパーは、其の脚でエンハンス商会・フォスフォシエ支部へ移動。

 

此の先のエリアで有効な消費アイテム『聖水』や、閃光玉として使える『投擲玉(とうてきだま):炸光(さくこう)』等を含め、回復アイテム等も複数購入して、彼はフォスフォシエの先に在るエリア『奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)』に向かう。

 

其所での目的は唯一つ。己に課せられた、マーキングのもたらす表面上の僅かばかりの恩恵、デバフと呪術関係に対する耐性能力の検証を行う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥古来魂の渓谷………フォスフォシエとシャンフロ第8の街『エイトルド』の間に存在している谷で、嘗ての時代に起きた、人と人との戦争の激戦地になった場所である。

 

血を血で洗い、大勢の死者を出す程の戦いは、皮肉な事にモンスターが介入する形によって、強制中断せざるを得なかった。

 

其の結果、渓谷には大量の瘴気が蔓延。生者を憎み、生者を寄せ付けぬ、死者達の世界と成っているのだとか。

 

「……で、此処に来たわけだが……汚染されてる筈の空気が、随分『美味しい』のはマーキングの影響なのか?」

 

死んだ珊瑚礁のような白い岩肌が谷と底を作り、フィールド全域を灰色の靄が被い尽くす場所なのだが、ペッパーの周りの空気だけは『澄みきった綺麗な物』になっている。リュカオーンの呪いには、自身よりも弱い魔術や呪術、瘴気がもたらすデバフを弾き、其の身を守っているのだろう。

 

と、ドスンドスンと地鳴りが聞こえ、其の方向をペッパーが見ると、全身が骨だけの四足歩行の蜥蜴のようなドラゴンが、如何にも悪臭漂う息を吐いて此方を睨んでいる。おそらくアレが『ワイバーンゾンビ』で、フォスフォシエの防具屋で売られている『スカルバーディーシリーズ』の素材になるモンスター。

 

早速狩らせて貰おうかと、買ったばかりの黒鉄丸をアイテムインベントリから取り出すも、右手にリュカオーンの呪いがワイバーンゾンビの視界に映った瞬間、一転して逃走してしまった。

 

レベル38でワイバーンゾンビが逃走、エリアを満たす瘴気もマーキングで無効化、其れ等の要素が頭の中で組み込まれた結果、導き出される答えは1つのみ。

 

「…………………もしかして、此のエリア限定ヌルゲーになってしまった可能性有ります?」

 

本来ならば聖水や聖職者が必須となる、デバフがうざったいエリアなのだが、ユニークモンスターの呪いによって、エリアボスまで散歩するだけの簡単な物に変わってしまったのである。

 

が、そんな彼の前には『新たな敵』が現れた。

 

黒く煤け、血の痕に汚れ、錆が蔓延る甲冑に身を包み、青く燃える手綱を左手に、右手には身の丈程のボロボロの長剣を握り、股がるは関節周り以外、全身の至る箇所に鎧を纏わせた軍馬。

 

然して其の者と馬には『首より上が存在せず』、剣を振り翳してペッパーの首に鋒を向けている。

 

「リュカオーンの呪いを見て逃走しないって事は、あのデュラハンは確実に俺よりレベルは『上』だな。良いぜ、全力で俺の首を取ってみな!」

 

ペッパーも未知の強敵を前に、闘志を燃え上がらせた。アイテムインベントリより甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)を脚に装備し、黒漆で塗られた鞘から黒の刀身を淡く光る、太刀武器・黒鉄丸を抜刀する。

 

奥古来魂の渓谷にて、レアエネミー『喪失骸将(ジェネラルデュラハン)』とペッパーの戦いが━━━始まった。

 

 

 






向かうは瘴気が満ちる死者の谷間、そして現れるは首無し騎士




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致命の御業よ、首無しの騎士に終止符を



レアエネミー対黒染め胡椒




喪失骸将(ジェネラルデュラハン)━━━━━此のモンスターを一言で現すならば、此程までに『人馬一体』が当て嵌められるモンスターは、そうは居ないだろう。

 

人と馬が共に在る事を意味する言葉で、此のデュラハンの強さは今まで戦ってきたモンスター達の中でも、リュカオーンを除けば、現状の自分の中にある格付けでは、上位に相応しい存在だった。

 

移動手段として、馬の機動力が加わっており、スピード勝負に持ち込まれたとしても、競り勝つ事が容易になる。そして機動力を馬に任せられるという事は、自分は攻撃に集中する事が出来るという副次性を生み出す。

 

そして長剣と馬に股がる事で発生する、攻撃範囲の拡大。何よりも此れが厄介極まりなく、長物武器と騎乗は古来より最強に等しい相性を誇り、右手がリュカオーンの呪い(マーキング)で潰されたペッパーは、両手系統の武器を装備出来ない。

 

幸い投擲スキルは有るにせよ、超至近距離と中距離のリーチ差という根本的なハンデを抱えたまま。つまりはデュラハンと馬を分断しなくては、一対一(タイマン)の勝負すら出来ない領域に在るという訳だ。

 

(さて…此の人馬一体を、如何にして切り崩すか!)

 

振るわれる両刃の長剣を回避し、ペッパーは此迄以上にワクワクしていた。アイトゥイルとビィラックが居ない中で、己が身一つで強敵を打ち崩す。ゲーマー魂が高鳴り、挑戦心が大きく奮え、戦闘の意欲が湧き立つ。

 

自分の持つ手札、新たに手にしたスキル。其れ等を総動員して、此の瘴気満ちる谷を闊歩する、デュラハンを倒してみせると。

 

「なら此れで行くぞ!」

 

長剣の刺突を、黒鉄丸の峰で弾いて進行方向を反らし、スライディングで後ろに回り込む。デュラハンの股がる馬が、騎馬と同じ様に旋回挙動を取った其の瞬間を狙って、ペッパーは『あるスキル』を点火、黒鉄丸の刀身で素早く『×の字』を誰も居ない空間へなぞった。

 

直後、馬に股がるデュラハンの背中に『×の字の斬撃』が襲い掛かり、未知の攻撃(・・・・・)にデュラハンは、己の背中へ不意討ちを行った者に向け、長剣を振るう。

 

『…!?』

 

しかし其所には何も無く。

 

水面(みなも)に写る月に、目が眩んだかな?」

 

既にペッパーが、自身の最も真髄を発揮出来る、決殺距離(キリングレンジ)に飛び込んだ瞬間だった。

 

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】。斬撃並びに刺突属性武器を用い、繰り出す事が出来る此のスキルは、繰り出された攻撃判定だけを『敵の背後に移し変える』という、異色とも呼べる特徴を持っている。

 

実際にはダメージは無いものの、其のスキルの真価は敵の注目(ヘイト)を背後へ、自分という存在(・・・・・・・)を相手から隠す事にあり。其れ即ちリーチの有る武器を振るった場合には、少なからず再攻撃の為に武器を構え直さねばならない。

 

そして何よりも、リーチの有る両刃の長剣は中距離下では無類の強さを持つものの、超至近距離下では己の足を引っ張りかねない武器でもある。

 

「歯は無いだろうが、食い縛れよデュラハン!」

 

甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)を装備したペッパーが吠え、スキルを次々と起動する。超至近距離下での格闘ダメージに補正を掛ける『インファイト』、蹴りでの攻撃に相手への気絶効果を付与する『フルズシュート』、自身よりレベルが高くステータスが勝る相手との戦闘時に体力とMPを除いた上位3種のステータスに強力なバフを追加する『羨望合炙(せんぼうがっしゃ)』。

 

そして筋力を参照とした、強力なノックバックを叩き付ける『ストレングス・スマッシャー』の四種スキルによる超打撃が炸裂。

デュラハン━━━━━━では無く、デュラハンが乗っていた軍馬の横っ腹に、鎧の上から渾身のドロップキックを御見舞いした。

 

重ねられた攻撃・補助スキルによって、達磨落としの様に吹き飛ばされた軍馬は、ピンボール玉の様に飛んでいって渓谷の岩肌に激突、デュラハンは背中から地面に落馬する。フルズシュートによる気絶効果が付与され、更にストレングス・スマッシャーによる遠方への蹴り飛ばし(ノックバック)で、軍馬の方は暫く起き上がる事も出来ないだろう。

 

「さぁ、此れでタイマンだ。斬り結び合おうぜ、デュラハン!」

 

互いに体勢を立て直して即座に立ち上がり、己の獲物を用いて斬り合う。刃と刃がぶつかり合い、鳴り響く金属の音色が、嘗て此の地で行われた戦いを、記憶を思い出させるかの様であり。

 

そんな斬り合いの最中、デュラハンの剣先がペッパーの首を狙い、一点集中による刃の切っ先が、彼の首筋に届かんとした時。突如ペッパーの身体がゆらりと揺れて、剣筋の閃光を回避。直後に首無し騎士の胴鎧に、十字の斬撃が迸った。

 

「はははっ…ヤバいわ。まさかのスキルだ、コイツはよ……!」

 

ペッパーは先の斬り合う流れの中で、スキルを1つも使用していない。にも関わらず、あの時の首を狙ったデュラハンの攻撃に、ペッパーはレペルカウンターが間に合わず、そのまま貫かれると思った。

 

しかし其の瞬間、致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】が、ペッパーの意思とは関係無しに自動で発動(・・・・・)。デュラハンの刺突を前に、月下に舞う踊り子の様な、可憐な身体捌きで刃を躱わして移動。相手にクリティカルを叩き込める、絶好の位置に陣取れたのである。

 

自身の体力を全損させる攻撃に対して、自動発動する此のスキルは、謂わば『オート回避スキル』━━━反射神経の優れていないペッパーにとって、スキル自動発動&120秒の再使用時間(リキャストタイム)、多大なデメリットを抜きにしても、1回は『確実に避けられる』神スキルに等しい物だった。

 

「スゲェな月光円舞!十字斬とかにも繋げたりしやすいし、気に入ったぜ!」

 

大金を払った価値が有ったと、エルクに心の中で感謝しつつ、デュラハンとの戦いに終幕(フィナーレ)をもたらすべく、スキル:オーバートップビートを起動して、最後の仕上げに取り掛かる。

 

デュラハンの両刃長剣が横に振り翳される。狙いはやはり首、そして解った事は此のモンスターの筋力は、自分よりもずっと高い事。まともに剣撃を受ければ、幾ら耐久力が高い黒鉄丸でも、折られないとは言い切れない。

 

「レーザーカジキから教わった事、やりますかね」

 

呟き、ペッパーがインベントリから取り出すは、エンハンス商会・フォスフォシエ支部で購入した、対アンデット特効消費アイテムの聖水。其れをスキル:ドライブスローでぶん投げ、十字斬に切り裂いて『裂傷状態』が付与された場所に直撃させたのだ。

 

傷口に塩を塗り付ける所か、裂傷を負ったアンデットに聖水をブチ込む諸行無常の一計に、デュラハンは苦しみ始めて攻撃行動(アタックモーション)が解除される。

 

「デュラハン。お前との剣撃対決、凄く楽しい時間だった。次に会う時は聖水無しで、お前を斬り倒してみせるぞ」

 

黒鉄丸を逆手持ちへスイッチ、十字斬によって出来た裂傷箇所と聖水で更に脆くなった胴体に、ラダースラッシュと致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】の重ね掛けで切り裂き、胴体を横一閃で真っ二つに両断。

 

直後に漸く気絶状態から復帰した軍馬が、己が主人を殺された事に怒り狂い、突撃を仕掛けてくる。

 

「案ずるな。せめて一撃で逝けるよう、全力の足技を食らわせてやる」

 

インファイト・フルズシュート・デュアルフリップ、ボディパージとストレングス・スマッシャーの、重ねに重ねた二連式回転蹴りで、宣言通りに軍馬を粉砕したペッパー。同時に、彼のレベルは2つアップして、様々なスキルが進化を行い、新たなスキルも並行して開眼していく。

 

「やっぱりレアモンスターだったのかな、あのデュラハン。まぁ、何にせよ…だ。遂に来たぜ、レベル40に!」

 

ユニーク籠脚たるレディアント・ソルレイア。設定された規定練度(レベルキャップ)へと到達した事で、彼は遂にティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスを相手取れる、其の領域に踏み込んだのであった………。

 

 

 






到達するは、レベル40の境地




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決戦前には細心にして、最大限の備えを



準備は何時だって大切である




「ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスに敗れた日から随分経ったが………漸く此処まで来たって感じだな」

 

レアエネミー・喪失骸将(ジェネラルデュラハン)との戦いで、レベルが40へ到達したペッパーは改めて、経験値がロブスター並みに美味しく、そして自分と戦ってくれた、首無し騎士に感謝と黙祷を捧げる。

 

そして近くの地面に突き刺さった両刃の長剣を拾い上げ、アイテムインベントリに仕舞いつつ、其の内容を確認してみた。

 

 

 

 

 

喪失骸将(ジェネラルデュラハン)の斬首剣

 

喪失骸将(ジェネラルデュラハン)が持つ、かつては強き力を持っていたのだろう長剣。今は朽ち果て、ただ力任せに肉を断つことしか出来ない。

 

記憶を、誇りを、愛すらも忘れた骸は己の首すらも失った。故にこそ、取り残された胴体は生者のみならず死者の首すらも狙うのだ。

 

対象への首に対する攻撃時、ダメージに補正が入る。

 

 

 

 

「自分は首を失ったから、お前も首を失えと?八つ当たりにも程が有るでしょコレ……」

 

錆び付き刀身がボロボロになっているものの、武器として存在しているならば、直してやる事が出来るかもしれないと、ペッパーはくすんだ刃を見つめながらそんな事を考えた。

 

「ビィラックさんに相談して、斬首剣の修復を御願いしてみよう」

 

オーバートップビートのデメリットが解除されるまで、暇になった彼は、試しに渓谷の地面や岩肌を、呪いを刻まれた右手で撫でてみる。掌にはヌチャリとしたスライムのような感触が伝わり、凄まじい不気味さで思わず手を離してしまった。

 

「うぇつ、滅茶苦茶やな感じ……臭いが残らなきゃいい……ん?」

 

フルフルと右掌を地面に振り、ふと真上を見上げた時、深い瘴気の霧の中で『何かの影』が、ペッパーの視界に映る。

 

「見間違い…か?でも動いたよな、今」

 

奥古来魂の渓谷の上に一体何が在るのだろう。ゲーマーとして、開拓者として、不変の興味が湧いてきた。しかしペッパーは知っている……未知に飛び込むには、相応の覚悟と慎重さも、必要不可欠な要素だという事を。

 

「………危険と感じたら、直ぐに逃げよう。あくまでも、己の安全が第一なんだから」

 

深呼吸を調えつつ、オーバートップビートのデメリット解除、並びに全スキルの再使用時間超過を待つ間に、エンハンス商会・フォスフォシエ支部で購入していた簡易食糧を食らってスタミナを回復し、持ち物と武器の耐久値をチェック。

 

解除と同時にペッパーは、ムーンジャンパーと七艘跳びを起動して、真上へと跳躍。岩肌をクライミングし、瘴気満ちる霧を抜け、登った先で彼が見たのは今まで見た事もない光景だった。

 

「何じゃこりゃ…………」

 

空を見上げれば雲一つ無い蒼天が、眼前に広がるは小さい物で人間の胴体、大きい物に至っては高層ビルサイズの、様々な太さと大きさの水晶が地面から生え、地表全てを覆い尽くしてしまう程の数で出来た、豪華絢爛に等しい煌美やかな絶景。

 

名を『水晶(すいしょう)巣崖(そうがい)』……奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)の真上に存在している、美しさ及び危険度MAXの隠しエリアであった。

 

「綺麗な場所だな……」

 

普通ならば探索をする所であるが、ペッパーのゲーマーセンサーが先程よりずっと、厳重警戒のサイレンを鳴らし続けている。崖を登る前に見えた影の正体も判らぬ状況に、完全初見の未知なるエリア。

 

ゴクリ…と固唾を飲み込み、アイテムインベントリより最後の投擲玉:炸音(試作)を取り出し、スキル:握撃で握って空に放り上げ。左手にギルフィードブレイカーを装備、野球ゲームの豪快フルスイングで近くの水晶にブチ当てた。水晶巣崖全域に天地を揺るがす轟音が鳴り響き、ありとあらゆる水晶を震わせる。

 

直後━━━━━あちこちの水晶地表が皹割れ、顔を出したのは透き通る白晶に包まれ、研ぎ澄まされた針にデストロブスター以上の鋏、鋭利な錐角の足達。成長途中の水晶であるかのような意匠が全身に施された、身体が半透明な全長10mは有ろう、巨大な蠍達が数十匹同時に現れた。

 

「よし、逃げよう!!」

 

レトロゲーマー・五条(ごじょう) (あずさ)。彼は此の日、ゲーマー人生史上最速の判断を下し、此方に雪崩の如く迫る水晶の蠍を前に、オーバートップビート・ボディパージ・羨望合炙(せんぼうがっしゃ)・ライフオブチェンジを同時起動。己の命を削りに削り、スタミナと敏捷を高め、更に耐久力を削って敏捷を高め、一目散に来た道を引き返し、渓谷の谷底に降りて、フォスフォシエのエンハンス商会まで逃げ帰った。

 

ペッパーは此の時の判断を、後にこう語ったという。

 

『あの日、水晶巣崖に突っ込んでいたならば、間違い無く俺は奴等に。『水晶群蠍(クリスタルスコーピオン)』にトラウマを植え付けられていただろう』━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンハンス商会・フォスフォシエ支部でオーバートップビートのデメリット解除を行い、アイトゥイルと約束した高級葡萄酒と口直し用に濁り酒を併せて購入し、裏路地へと移動する。

 

「アイトゥイル~居るかー?」

「はぁ~い、ペッパーはん。ワイは此処に居るのさ~」

 

彼が呼び掛ける声に対し、風と共に現れて、何時の間にか肩に乗っかっていた風来兎は、クンクンと匂いを嗅いでいる。

 

「ほぉ~此れは此れは…前に買ってくれた葡萄酒と、濁り酒の匂い…どちらも良い香りなのさ」

「エンハンス商会で購入したんだ。兎御殿に戻って、ビィラックさんに渡したい物があってね」

「解ったのさ、ゲートを繋ぐのさ」

 

アイトゥイルがラビッツの兎御殿へ続く扉を開く。今一度辺りを確認して、素早く入って扉を閉じ、其の足でビィラックの仕事場へと向かった。

 

「ビィラックさん!両刃長剣を直して下さいッ!」

「おういきなり話をスッ飛ばすなやペッパー」

 

金床を研き、道具をメンテナンスしているビィラックが、飛び込んできたペッパーにそう言った。其処で彼は、彼女に解るように事情を事細かに話し始める。

 

自分は先程まで奥古来魂の渓谷に居た事、其処でリュカオーンの呪い(マーキング)が谷底に満ちる瘴気を無効化した事、喪失骸将(ジェネラルデュラハン)と新しく手に入れた黒鉄丸を使って戦った事、そして谷底の真上に在る水晶地帯に赴いて蠍達に追われ、フォスフォシエに直ぐに引き返した事を語った。

 

「ペッパーワリャ……本当に命知らずか。いや寧ろ直ぐに帰ったのは、慎重故の最善行動だったと言えるか……」

「ビィラックさん、あの蠍達は一体何なんですか?モンスターのように見えましたけど……」

 

ううむ…と唸るビィラックに、ペッパーが問い掛けると、彼女は溜息と共にこう答えた。

 

「はぁ………そりゃワリャ、水晶巣崖に住んどる水晶群蠍じゃけ」

「水晶群蠍?」

「そうじゃ。音や振動を関知して現れる、水晶纏った巨大蠍。見付かったら袋叩き所か挽肉にされて、わちとて漏れ無く死ぬ」

 

レベル98のビィラックが言い切り、ペッパーは目を丸くする。

 

「………もしかして、無茶苦茶強いのです?あの水晶蠍達って」

「オヤジには到底及ばん………が、其れでもエードワードの兄貴や、わちにシークルゥ、そんでアイトゥイル等で束になって掛かっても、1匹なら何とか成らんくも無いが、数十匹出て来られたら数の暴力で木っ端の様に、押し潰されるだけじゃな」

 

つまりレベル100以上に加えて、軍団による数的暴力で押し潰すモンスターだと判り、あの瞬間の判断に狂いは無かったのだと、ペッパーは心の中で思った。

 

「んでじゃ…本題の両刃長剣じゃたか。見せてみぃ」

 

アイテムインベントリから喪失骸将の斬首剣を取り出し、御願いしますとビィラックに手渡す。

 

「………成程な、コイツは『まだ』死んどらんけぇ」

「死んでいない?……じゃあ、治すことって出来ますか?」

「あぁ、炉と金床使ってやればな。で、どうするペッパー?コイツを『元の姿』にするか、もしくは『ワリャの扱いやすい』方に直すか。どっちにする?」

 

此処に来てまさかの二択が持ち込まれた。元の姿にしても良い、だが今の自分に見合った形にするのも捨て難い。少し悩んだ果てに、ペッパーはビィラックに向けてこう言った。

 

「自分に見合う姿にして下さい」と。

 

「うむ、承った。1日くらい経ったら受け取りにくるけ」

「あ、あとビィラックさん。此の太刀の修繕に、以前手に入れた機構を預かって欲しいのと、預かっていたレディアント・ソルレイアを持って来て良いですかね?」

 

アイテムインベントリから喪失骸将との戦闘で耐久が削られた黒鉄丸に、ビィラックとアイトゥイルにレーザーカジキと共に見つけた、空を翔ぶ為の答えの分かたれた3つの要素の1つたる機構を取り出す。

 

「……そうか、行くんじゃなペッパー」

「はい。ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスに、今の自分が夢を受け継げる事を、確りと証明してきます」

 

強く、そして揺るがない意思を宿す目を見て、ビィラックもまた機構と太刀を預かり、仕事場の奥へと赴いて。数十秒後にピカピカに磨かれた、レディアント・ソルレイアを持って来て、ペッパーに言った。

 

「解った…。じゃが、決して無茶はするなよ?」

「………はいッ!」

 

二体の甲皇虫のギミックウェポン、レディアント・ソルレイアを受け取ったペッパーは、ステータス画面を開いて、レベルアップによって獲得したポイントを振り分ける。

 

筋力と技量はレディアント・ソルレイアに装備出来るまで、器用と余った分は敏捷へと振り込み、準備は整った。と、アイトゥイルが肩に乗って来て、ペッパーに懇願するように言う。

 

「ペッパーはん。ワイはペッパーはんの戦いを、あの決闘場の外で見届けるのさ。だから……連れてって欲しいのさ」

 

仮に彼女を説得しても、きっと付いてくるに違いない。此迄共に色々な場所を冒険し、探索し、共闘して、何となくだが、アイトゥイルの気持ちが解ってきたペッパーは、彼女に向けて言った。

 

「あぁ、解った。俺と甲皇虫達の世紀の一戦、然と見届けて、先の時代に語り継いでくれ」

「!………解ったのさ!」

 

我ながら少し格好を付け過ぎたかと思ったが、上手くいったようである。アイトゥイルをマントの中に隠して、ビィラックの鍛冶場を後にし、兎御殿の休憩室からフォスフォシエへと繋がる扉を開く。

 

時は此処に満ちる。あの日に戦い、そして敗れた、風雷の化身達へのリベンジの刻が訪れる。意志は強く、心は熱く、ペッパーは決戦の地へと走り出した………。

 

 






夢を受け継ぐ勇者よ、風雷の化身を超えていけ






ペッパーの現時点のステータス


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


PN:ペッパー


レベル:40
 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー
サブ職業(ジョブ):無し

 
体力 15 魔力 10
スタミナ 90
筋力 85 敏捷 95
器用 45 技量 70
耐久力 61 幸運 25

 
残りポイント:0



装備

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し


頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)
胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)
腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)
脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)



アクセサリー


・鎖帷子(耐久力+10)
・旅人のマント(耐久力+2) 
致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

所持金:103,5400マーニ


致命極技

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未解放
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多(ナユタ)(ワダチ)】……未解放


致命武技

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】→致命剣術【半月断ち】参式
致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)
致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】→致命刃術【水鏡の月】弐式 
致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)
致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】→致命舞術【月光円舞】弐式


スキル


・ラダースラッシュ→サイスオブスラッシュ
命尽突(めいついとつ)
・レペルカウンター
・ドライブスロー→ブーメランスロー
・アルゼイドエッジ
・メイアスワーク
・ボルベルグストライク
・グラシャラスインパクト
・ストレングス・スマッシャー レベル1→レベル5
・オーバートップビート
・インファイト レベル1→レベル4
・七艘跳び
・スケートフット
・ジェットアタック
・十字斬 レベル1→レベル3
・バリストライダー
・アクタスダッシュ レベル5→レベル6
・ステックピース レベル4
・握擊 レベル3
・投擲 レベル4
・クライムキック レベル5→レベル7
・首断ち レベル3→レベル5
・ムーンジャンパー
・ボディパージ レベル3→レベル5
・ライフオブチェンジ
・ストレートフィスト
・背面蹴り レベル4
・デュアルフリップ→トリスフリップ
・フルズシュート レベル2→レベル5
・オプレッションキック レベル3
命撃鐵破(めいげきてっぱ) レベル1
一撃絶壊(いちげきぜっかい) レベル1
羨望合炙(せんぼうがっしゃ)
・挑発 レベル1
壱心(いちしん)()(ざん) レベル1
深斗(しんとう)()(すい)
連刀(れんとう)()(じん)
(ばつ)()(ざん)重連(ツラネカサネ)
 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


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天に光、木々に風、目覚めし遺物に祝福を



リベンジ・トゥ・ムシキングズ





千紫万紅(せんしばんこう)樹海窟(じゅかいくつ)。ペッパーはアイトゥイルと共に、幾度目になる此の場所へ走り、やって来た。

 

「すぅ~……ふぅ~…」

 

周辺に他のプレイヤーやモンスターが居ないか、聞き耳と気配を探りつつ、巨木の樹皮に寄り掛かり、緊張を解す呼吸法で、ペッパーは心に余裕と落ち着きを取り戻す。

 

「ペッパーはん、大丈夫さ?」

「…緊張してないと言ったら、其れは嘘になる。怖いかって聞かれたら、正直に言うと……逃げたい」

 

手汗が滲み出て、いざという時に武器を落としてしまいそうになる。ゲームの中の勇者達も、御伽噺の勇者達もきっと、全員が勇敢だった訳では無い。ある者は恐怖で身が(すく)み、ある者は絶望に沈みそうになって。

 

だが、其れでも。勇者達は仲間達に支えられ、誓い交わし合った約束を果たす為、恐怖を絶望を乗り越えて世界を救ってきた。

 

「彼女は……たった一つ遺した夢と想い、そして願いを俺に託した。だったらさ……其の選択が正しかったって思えるように、俺が証明してみせたいじゃん」

 

ヴァイスアッシュに誓った、虚言を現実にする勇者に成る。其の為にも、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスに、あの時よりも強くなった己を示してみせると、ペッパーは恐怖を心の内に留め、戦意を奮い立てて樹海窟を歩いていく。

 

歩き、歩き、歩き続け。あの日と同じ1匹の蛍が、此方にやって来る。1人と1羽の周りを旋回し、導くように移動して付いて行くと、蛍達が天ノ川を作り上げており。

 

幻想的な道の先には樹海の天を突く、二本の巨木たる双皇樹が聳え立ち、周りには円状に整地された跡が唯々不気味に在る。奥に在る双皇樹の間には、黄金の中に翡翠の光が宿る、巨大な宝石が静かに鎮座して、木漏れ日に照らされ、淡く光を放っていた。

 

「来たな……」

「そう、さね…」

 

あの日の戦い、そして敗北がトリガーとなり、特殊クエストの歯車が動き始めた。リベンジを誓い、新たな武器を手にして、様々な可能性を探り、精進と鍛練を重ねて続けて。こうして今、自分は仲間に支えられ、此処まで辿り着いた。

 

歩み寄るは円で敷かれた境界線、此処を跨げば戦が始まるだろう。

 

「じゃあ、行ってくるよアイトゥイル」

 

戦地に赴く覚悟の瞳。其れを見た風来兎は内より込み上げ、溢れる感情に襲われ。

 

「ペッパーはん!」

 

ペッパー顔を横に向けた、次の瞬間━━━━━アイトゥイルが彼の頬に『キス』をしていた。彼女自身の行動に、頭と感情の整理が追い付かない。

 

「……あ、アイトゥイル…!?」

「………絶対、勝ってさ」

 

漸く言葉を発したペッパーだが、アイトゥイルの黒毛を纏う頬が赤く、細目を潤ませながら言って。彼の肩から降りて、近くの草影に身を潜める。

 

「フッ…そんな事されたら、尚更負けられないな」

 

ニッと口角が上がり、ペッパーは草むらに隠れるアイトゥイルへ、背を向けつつも右手でサムズアップを作り、円内へと足を踏み入れる。

 

直後━━━━━風と雷の魔法で創られたフェンスが、背中側で立ち上がり、彼の逃げ道を封じ込め。同時に吹き荒れる風と轟音の羽音が鳴り響き、翡翠色のギラファノコギリクワガタ・ティラネードギラファと、漆黒と黄金色のコーカサスオオカブト・カイゼリオンコーカサスが、潜んでいたであろう双皇樹の後ろより現れた。

 

『再ビ来タカ…!勇者……ヨ!』

 

ティラネードギラファがそう言い。

 

『アノ日ヨリ…!ヨクゾ、此処マデ…成ッタ!』

 

カイゼリオンコーカサスが続く形で述べる。どうやらレベル40へ到達し、尚且つレディアント・ソルレイアを所持する事で、会話に変化が生まれるのだろう。

 

「ティラネードギラファ!カイゼリオンコーカサス!お前達に敗れたあの日から、俺は強くなった。見せてやる、今の俺の力を!」

 

ギルフィードブレイカーを装備し、吠えたペッパーが構え。

 

『我ハ…颶風ノ申シ子!ティラネードギラファ!』

 

翡翠の甲皇虫が、名乗りて叫び。

 

『我ハ…雷嵐ノ申シ子!カイゼリオンコーカサス!』

 

漆黒と黄金の甲皇虫が、名乗りて叫び。

 

『『再ビ、訪レシ勇者ヨ!其ノ培ワレシ『力』ヲ、我等ニ……示セ!!!!』』

 

羽音と羽ばたきが双皇樹の幹と枝を揺らし、地面に落ちた木葉が舞い上がり。二体の皇達は、ペッパーが空を舞う夢を継ぐに相応しき者であるかを、己の身を以て確かめるべく、再び襲い掛かる。

 

此処に勇者を目指す1人の人間と、2匹の甲虫皇達の戦いが━━━━━始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此の2体には幾ら攻撃を叩き込んでも、ダメージのポリゴンが発生しない。ニ度目の戦いで初戦と同じく、打撃武器や斬撃武器に切り換えても尚、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスにはダメージは無かった。

 

致命刃術【水鏡の月】や致命舞術【月光円舞】等のスキルを絡めて、攻撃を凌ぎ続けるペッパーは2体はギミックモンスターであると確信すると共に、訪れるであろう『其の時』を虎視眈々と待ち続ける。

 

ヴァイスアッシュは言った。レディアント・ソルレイアは、2体の甲虫皇達が繰り出す、大きな一撃を受ければ眠りから覚めると。

 

「あと、何分!?いや、今はそんなのどうだって良い!マジで回避に集中しないと殺られるって!?どぅおあ!!!?」

 

前回の時の体力1残しで、戦闘強制終了とは限らない。移動系スキルもフルに利用し、ステップを絡め、走り続けるペッパー。

 

風が真横を擦り抜け、雷が大地を抉り、2体の甲虫皇が巨体を用いて、力強い一撃を叩き付けてくる。耐え忍び、回避を続け、突撃を往なして弾き。

 

そして━━━━━『其の瞬間』は訪れる。

 

ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスが天に舞い上がり、各々の象徴となる鋏と三ツ角を光らせて、風と嵐が巻き起こる。

 

『夜ノ帝王ノ呪イ、刻ミシ…勇者ヨ!』

『我等ガ試練、越エテ…ミセヨ!』

 

空を切る烈風が走り、爆ぜる稲妻が迸って、ペッパーの視界には初めて戦った、あの日の光景が蘇る。

 

目を閉じ、息を吸い込み、ペッパーは叫ぶ。脳裏に浮かべるは、因縁深きアーサー・ペンシルゴンこと天音 永遠。彼女は何時も『ゲーム』を楽しむ時には、そう言っていたのを思い浮かべて。

 

「さぁ…『ド派手』に行こうか!」

 

アイテムインベントリより、レディアント・ソルレイアを取り出し、装備した瞬間に彼を襲うは、轟雷と旋風の融合攻撃。

 

最初と同じくして、彼が光と風に包まれた時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇跡は覚醒(おき)た。

 

 

 

 

 

 

 

 

着弾地点に起こるのは━━━━━『息吹(いぶき)』。

 

まるで此の世界に産み落とされた、新しい生命が産声を上げるようにして、其れは起動(めざめ)る。

 

嘗て一人の女性が描いた、蒼天の空を舞うという途方もない夢物語。

 

人と人が争い、其の夢と願いは潰え。何時か正しき者によって、再び甦る事を願い。唯一遺して逝った彼女の想いは、永く遠い時間を越えて、遂に結実する刻が来た。

 

「行こうぜ…レディアント・ソルレイア!ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスに、俺達の力を見せてやろう!」

 

絶大な風と雷の奔流の中心にペッパーが立ち、両脚に装備されたレディアント・ソルレイアが、放たれた烈風と轟雷の悉くを喰らい尽くし、其の鋼の脚にエネルギーを蓄積。

 

同時にバンデージのドリルが音を上げて回転し、ラジエーターは開かれて白い蒸気を放出。響いたのは『エネルギー・フルチャージ!』の音声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此の日、此の時、此の瞬間。

 

 

神代の時代に『始源』の胎動へ抗う、唯一無二の『龍の王』を模倣し、人の身に纏い、彼の者を支える為に創造された、『光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)』の一欠片が甦ったのである。

 

 

 

 

 

 

 






目覚めよ、レディアント・ソルレイア




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吹けよ旋風、走れよ稲妻、そして胡椒は夢を継ぐ(前編)



重要ポイントでのチュートリアル戦闘、有ると思います




シャングリラ・フロンティア内の大陸に在るエリアに、『気宇蒼大(きうそうだい)天聖地(てんせいち)』と呼ばれる、天を貫く程の高い山脈が在る。

 

天に向かう程に、蒼空へ登ろうとする程に、行く手を強きモンスター達が阻み、開拓者達は此処で練度を高め、最大境地に近付かんと、画策する者も多い。

 

然し其のエリアの頂点には『モンスターは寄り付かない』。モンスター達は知っている、此処の頂点に座するは、龍の━━━━其の龍達の中でも唯一『王』を名乗るに相応しき存在が居るが故に。

 

名を『天覇のジークヴルム』。世界に七つのみの最強種、其の一柱たる金色のドラゴン。彼は今、此の地にて翼を休めながら、下層より這い上がり、己に挑まんとする剛の者を待っていた。

 

『!………此れは!』

 

そんな時、ジークヴルムが感じたのは『己』と同じ気配の、しかし『己』と異なる気配だった。

 

『クックック……!ハァーッハッハッハ!!そうか、遂に目覚めたか!蒼天を舞う勇者の元で、我を模した『大いなる遺産』が!!』

 

龍王が立ち上がる。其の背に在る黄金の四翼を大きく広げ、翼膜は光に照らされて、金色の輝きが山頂を満たす。

 

『僅かな欠片、されど其れは大きな一歩!なれば、なればこそ!此のジークヴルムが、夢を受け継いだ者が如何なる存在か、此の眼で確と見定めてくれよう!』

 

天を覇する龍の王が翼をはためかせ、其の巨体が浮かび上がる。其の瞳孔が見定めるは、己の気配が目覚めた場所へ注がれた。

 

ジークヴルムが動く。其の行き先は唯一つ。

千紫万紅の樹海窟・双皇樹である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、行こうぜ!レディアント・ソルレイア!」

 

ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサス、2体の甲虫皇達の融合攻撃によって、永き眠りから目覚めて起動した、レディアントシリーズの籠脚(ガントレッグ)たるレディアント・ソルレイア。

 

金色の爪とドリルは輝き、エネルギーが完全満タン状態。今ならば確実にダメージが徹せると……そうペッパーは考えていたが、此処で問題が発生する。

 

(どうしよう、レディアント・ソルレイアの使い方が解らねぇ!?てか、どーやって空飛ぶの!?)

 

遺機装という以前の時代の代物、起動させたは良い物の、説明書も無いので何をすれば良いのか全く解らない状況。しかし、思わぬ所から助け船がやって来た。

 

『勇者ヨ、レディアント・ソルレイア…ノ、使イ方ヲ…我等ガ、教授シテ…シンゼヨウ…!』

『翼ハ、紡ガレタ……!ナレバ…其ノ道ヲ、進ム背中ヲ押スノモ……マタ、我等ノ使命!』

 

先程まで上空を飛んでいた、2体の甲虫皇達が地上に降り立ち、ペッパーに向けて言葉を発する。

 

「お願いします!」

 

返答するまで1秒もいらない、最速最短の回答。ティラネードギラファ、カイゼリオンコーカサスは互いにアイサインを送り合い、そしてペッパーに。翼を紡いだ勇者に、レディアント・ソルレイアの使い方を指導し始めた。

 

遺機装(レガシーウェポン)達ハ、装備者ノ放ツ…『言霊(コトダマ)』ニヨリ、其ノ能力(チカラ)ヲ………『発現(ハツゲン)』、スル』

『レディアントシリーズ、ノ……レディアント・ソルレイア…ハ、勇者ガ放ツ…『蓄積(チクセキ)』ト『飛翔(ヒショウ)』ノ…言霊ヲ受ケル、事ニヨリ…『力』ヲ解放スル』

 

どうやら遺機装には各々、力を使う為の鍵となる『合言葉』が存在するらしく、レディアント・ソルレイアは空を飛ぶ為のエネルギーを『蓄積』する事と、本題の空を飛ぶ力たる『飛翔』が必要であるようだ。

 

『先ズハ…レディアント・ソルレイア…ヘ、コウ言ウベシ。『蓄積セヨ(Charging.up)』、『飛翔セヨ(Flying.up)』………ト!』

『ソシテ…『歩ム』カ『走ル』、マタハ『風』カ『雷』ノ攻撃ニ、合ワセテ…蹴リ出ス、ベシ!』

『『エネルギーガ、貯マレ…バ、レディアント・ソルレイア…ハ、空ヲ舞エル!』』

 

片言による説明ではあったが、合い言葉と共にレクチャーをしてくれた2体に、ペッパーは「ありがとうございます!」と深々と頭を下げて礼を述べた。そうして彼はレディアント・ソルレイアに向けて、飛翔の機能を解放する言葉を放つ。

 

飛翔せよ(Flying.up)!」と。

 

其の言葉を受け、レディアント・ソルレイアに在る白い翼を模したモジュールから、オーロラの様な翼が展開され、同時に足裏よりブースターが起動。ペッパーの身体が段々と地面を離れ、徐々に空へと浮かび上がっていく。

 

「うぉお!?と、飛んでる…!マジか!?マジで飛んでるよ俺!」

 

足を動かせば高度が、前に動かせば後ろへ、後ろに動かせば前へ進む。両脚に蓄積されたエネルギーの量を、細かくコントロールすれば、変速的な機動も可能にする事も出来、使えば使う程に新しい可能性が、やってみたい事が頭の中で源泉の様に溢れてくる。

 

「すげぇ…!すげぇ!あの人は、こんな技術を産み出して、空を飛ぶ夢を叶えたのか…!」

 

夢とは、原動力やモチベーションに匹敵する、確固たる力になる要素だ。夢が在るからこそ、其れを叶える為に如何なる努力や研鑽を怠らず、そして様々な可能性を模索し、人は夢物語を現実に変えて来たのである。

 

『先ズハ…其ノ力、ニ…適応スル…ベシ!』

『使イ方ヲ、理解…シタナラ、バ…実戦ヘト、移行…スル!』

 

アクションゲームでよくある、操作やコマンド入力に慣れるまでは戦闘が始まらない、所謂チュートリアルモードに突入したようだ。

 

時間は有るが、問題も有る。其れは此の状況を、誰かに目撃される事。空を飛べるというのは古今東西のゲームに於いて、莫大過ぎるアドバンテージを誇る要素。

 

例えば、FPS等の地上での銃撃戦を主流としたゲームが有るとして、仮にプレイヤーの1人が空を飛べる機能を得たとする。そして其のプレイヤーが、空からの狙撃が出来るカスタマイズを施して、戦場に出来たとする。

 

では何が起きるか?簡単だ、答えは『蹂躙』である。上空から敵の位置が見えるという『情報』は、太古から現代に至るまで、戦闘では其の差が『勝敗に直結する』と言って過言では無く。

 

配分を間違えようなら、どんな良ゲーだろうが、如何なる神ゲーだろうが、其れ一つで一瞬の内にクソゲーに成り果てる劇物という訳だ。

 

「………あぁ、下らねぇ」

 

思考が『つまらない』方向に引っ張られている。確かに空を飛べる力は素晴らしいし、現状は自分が独占状態にしている。アドバンテージも計り知れないが、何れは突拍子も無い所からバレる時が来だろう。

 

後先を考えるのは良い事だが、其れでは自分が『楽しくない』。今の自分は何の為にゲームをしている?

 

「決まってるだろう?人生を楽しむ様に、ゲームを楽しむ為だ!其れ以上の理由はいらねぇ!」

 

バレたらバレたで仕方無い!其の時は全部纏めて、ペンシルゴンに投げてしまおう!悪巧みや策謀を企むアイツなら、きっと何とかしてくれるでしょう!多分!

 

「段々と挙動と出力制御のコツが掴めてきた…!良いぞ…自分の脚みたいに、空中で踏ん張りが効く…!」

 

レディアント・ソルレイアを使い続ける中で判明した事は幾つか有る。先ず此のユニーク籠脚(ガントレッグ)は、エネルギーのフルチャージで『10分間』連続での飛翔が出来る事。タイマー機能を使って測ってみた結果から判ったので、エネルギー供給手段がない場合は此れを念頭に、飛翔と操作をする必要が有る。

 

次にエネルギーの蓄積に関しては、歩行や走行のアクションで貯めるよりも、脚による攻撃を直撃させたり、脚で攻撃を弾いたり、風か雷の属性攻撃か魔法による攻撃を『吸収』する方が効率が非常に良い。しかし此の吸収機能、どうやら『装備貫通能力持ち』には意味を成さないと2体が教えてくれたので、其所は注意していきたい。

 

最後にレディアント・ソルレイアを含め、遺機装(レガシーウェポン)と呼ばれる兵器達は共通して『超過機構(イクシード.チャージ)』と呼ばれる、とっておきの必殺技が存在するらしく、其れは実戦の中で自分達にある程度ダメージを与えた後に教えると、勿体振るように彼等は言っていた。

 

「必殺技まで完備してるとは、俄然気になるなレディアント・ソルレイア…!」

 

十分にチュートリアルは出来た、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスから、注意事項は確り聞いた。

 

頬を叩き、気合を注入。いざ往かん、双皇との決戦へ。

 

「準備出来ました!よろしくお願い致します!皇達よ!!!」

『ウム…!ナレバ!』

『勝負…デアルッ!』

 

三つの勇姿が天へ飛ぶ。戦いが此処に始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れを草影から見守りて、後世に語り継がんとするは、黒の致命兎の風来女・アイトゥイル。

 

そして更に後ろにて、青の魔法使い・レーザーカジキが、其の決戦を木の影から見つめていた。

 

 






勇者は蒼空へ翔び上がり、其れを光線梶木は目撃する



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吹けよ旋風、走れよ稲妻、そして胡椒は夢を継ぐ(中編)



チュートリアルから本番へ




「うぉぉぉぉぉりやぁぁぁぁ!」

 

千紫万紅の樹海窟、其の奥地に天を貫く様に聳える、二本の大樹が在る。其のフィールドの上空━━━正確には『円状に造られたコロシアム』の様な場所の空で、翡翠と黄金、空色の光が瞬き、輝き合い、幾重の線を描く。

 

ペッパーが目覚めたレディアント・ソルレイアの操作に慣れるまでの訓練を行い、そうして始まったティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスとの戦闘から、此の時およそ30分が経過しようとしていた。

 

『勇者ヨ…!既ニ空ノ戦イヘ、適応シテイル…カ!』

『何トイウ、成長…ダ!我等トノ戦カラ、此程マデ…!』

「俺はこう見えて、やられた事は根に持つタイプなんでね!リベンジ出来る此の時まで、じっくり色々培って来たんです……よッ!」

 

戦闘機を操作するゲームや超スピードのレースゲームで、何度も何度も三半規管をやられては、乗り物酔いに潰され、時に思い切りゲロを吐いたトラウマに苛まれながら、必死で出力を調整し続ける。

 

「ッ…今!蓄積せよ(Charging.up)!よっしゃ、其所の雷と風をいただきました!てなわけで食らえ、逆回転トリスフリップのサービスアタックじゃあオラァ!」

『ヌグゥ…!?此程トハ…!素晴ラシイ、ゾ……勇者ヨ!』

 

ティラネードギラファの放った風刃攻撃を、自身の速度・相手との位置調整で合わせて吸収。迫るカイゼリオンコーカサスの角に、三連式『バックフリップ』を叩き込み、其の巨体に後ろ回転蹴りを直撃させる。

 

蹴られた箇所からは、ダメージによるポリゴンが溢れ落ち、此の籠脚こそが2体に対するギミックウェポンだと、ハッキリと証明された瞬間で。

 

「七艘跳び!クライムキック!そんでもってストレングス・スマッシャーにジェットアタックのサービスと、バンデージドリルもおまけだ、ありがたく受け取ってけぇ!」

『グオォッ…!?幾多ノ技ヲ、惜シム事無ク…重ネ合ワセル…カ!』

 

コーカサスの角を足場代わりに、エネルギーを節約。自分とティラネードギラファの位置関係を、脳内で直ぐに更新。跳躍力強化の七艘跳びとクライムキックでコーカサスを下に蹴り飛ばし、背面蹴り以上のノックバックを与えるストレングス・スマッシャーを、ジェットアタックによるモーション加速で昇華し、バンデージのドリルで『膝蹴り』を行い、ギラファを更に上空へと打ち上げる。

 

タッグ系のボスの攻略は、常に『相方の引き剥がし』が肝になる。何れだけ長く分断出来るか、如何にして合流させないか。其れを意識するだけで、攻略難易度はグッと変化するのだ。

 

「天に煌めく三ツ星…二つは一つの星を、一つは二つの星を落とさんと、命を燃やして煌めき迸る……のさ」

 

其の様子を場外で見つめ、其の戦いを紙に筆を走らせ、綴り行くはヴォーパルバニー・トラベラーのアイトゥイル。

 

双皇樹の周りを飛び交い、幾度も幾多もぶつかり産まれる輝きは、英雄譚として申し分無しの演出であり、自然と筆先に力が籠る。

 

「す、すごい……。ペッパーさんが、空を翔んでるなんて……」

 

そして其の戦いに見惚れる様に、青の魔法使いの衣裳を纏ったプレイヤー・レーザーカジキが、風と雷で構築されたフェンスの近くまで歩いて来ていた。だが、レーザーカジキは空を見上げて歩いていたので、目の前にフェンスが張られている事に気付いていない。

 

「あ!レーザーカジキはん、危ないのさ!」

「えっ、アイトゥイルさん!?わあっ!?」

 

アイトゥイルが押し倒す形で、レーザーカジキをフェンス激突から守り、一先ずは事無きを得る。

 

「あ、ありがとう…ございます」

「レーザーカジキはん、何故にこんな所に居るのさ?確かファイヴァルに行ったはずさね?」

「あ、えっと…あの後にまた栄古斉衰の死火口湖に登って、ブルックスランバーと戯れて……火口湖に放り込まれてしまって………」

 

どうやら彼は懲りずに、悪辣ペリカンダチョウへ突撃したらしく、落下死を経験したらしい。しかし其の後、レーザーカジキはアイトゥイルが、自分の耳を疑う様な言葉を放ったのだ。

 

「其の時に……僕ブルックスランバーの事で頭が一杯で、ファイヴァルの宿屋で『リスポーンの更新を忘れて』しまいまして……。またサードレマからやり直しに……仕方無いので、千紫万紅の樹海窟を探索してたら綺麗な蛍さん達が見えて、其れに付いていったら此処に着いて、ペッパーさんが居た……という感じです」

 

リスポーン更新、自分達とは異なる種族(・・・・・)たる開拓者達は、身体が欠損したり死んだとしても、ベッドの上から蘇る奇妙な特性が有るのを、アイトゥイルは父親のヴァイスアッシュから聞いた為に知っている。

 

偶然が重なったのか、其れともペッパーの持つ不思議な引力に誘われ、導かれたのか……何にせよ彼が居る所に、レーザーカジキもやって来るらしい。

 

「成程なのさ…。レーザーカジキはんも、ペッパーはんの不思議な因果に引き寄せられた、そんな人間…なのさ」

「……?」

「ワイの独り言なのさ。気にしなくて良いのさ」

「は、はぁ……」

 

アイトゥイルは語り、レーザーカジキと共に天を仰ぐ。翡翠と黄金と空色の輝きはぶつかり合い、煌めきは閃光となって樹海を迸る。

 

戦いは続く、されど2体の身体から溢れるポリゴンは、更に多くなっていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼等は知っている、己等の命はもう少しで尽き果てる事を。双皇樹の根本に出来た皇樹琥珀の力で、繋がれていた命も、既に風前の灯に有る事を。

 

彼等は決めたのだ。世界に示した蒼空を舞う為の答えを、真に正しく受け継ぐに相応しい勇者が現れた時、己の命を全てを燃やし尽くし、其の使い方を伝えてみせると。

 

其れ故に彼等は、命が尽きる瞬間まで。勇者たる者に、其の籠脚の使い方を伝授するのだ。そして、ペッパーがカイゼリオンコーカサスの頭を、渾身のフルズシュートでサッカーボールキックを叩き込んだ時。

 

『時ハ………此処ニ、満チタ!今コソ……ガ、其ノ…時デ、アル……ッ!』

『勇者………ヨ!此ヨリ…我等ガ、答エノ宿シタ……必殺技ノ、発動…ヲ伝エル…!』

 

今世の役目を果たし(・・・・・・・・)、次代の子等へと繋ぐ為に。2体の皇達は残された命の灯火の、其の全てを燃やし尽くす程の、烈風と轟雷を各々の象徴に掻き集め始め、其の余波によって雷が落ち、突風が巻き起こり始めた。

 

「うぉわ!?何だ、発狂モードか!?」

 

ペッパーが吹き荒ぶ風と出鱈目な落雷に驚き、回避しつつ合い言葉を述べつつ、エネルギーをチャージする中、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスは、彼に向けて言葉を発する。

 

『レディアント・ソルレイア…其レニハ、最大マデ…エネルギーヲ蓄積スル、事ニ……ヨリ!超過機構(イクシード.チャージ)ガ、発動スルッ!!!』

『我々ノ攻撃ニ、超過機構……ト、叫ビ…!唯、ヒタスラ……ニ、真ッ直グニ…!蹴リ砕ク……ノダ!』

 

ティラネードギラファが前に、カイゼリオンコーカサスが後ろへ移動し、2体の甲虫皇は生命エネルギーの全てを1つに束ね、巨大な嵐を作り出す。このまま発射を許すか、待っていては彼等の命は尽き果てて、束ねた力は暴発。此の辺り一帯を吹き飛ばしてしまう。

 

止めるには伝授された、レディアント・ソルレイアの超過機構を使い、彼等へトドメを刺す以外に道は残されていなかった。

 

「ッ……いくぞ、レディアント・ソルレイア!お前の魂を燃やせッ!甲虫皇達に、お前の力をぶつけてやるんだッ!」

 

ペッパーも覚悟を決める。彼等の命懸けの一撃に、此方も全力全開で応えてこそ、彼等への手向けに成ると信じて。

 

エネルギーは先程の落雷と突風を食らい、フルチャージ済み。相手が繰り出すは、強大な暴風雷嵐の破壊の奔流。成れば、此方もやるしかない。必殺技に対し、此方が示すは唯一つのみ。

 

超過機構(イクシード.チャージ)!」

 

遺機装達が共通して内封している必殺技。各々種類によって異なるが、何れもが強力な力と多大な代償を背負う。レディアント・ソルレイアも例外ではなく、繰り出される此の技は、落下による物理エンジンを用いた速度を参照にした、謂わば『突貫槍(チャージングランス)』の様な物。

 

発動すれば、168時間の再使用可能時間(リキャストタイム)の要求、更に其の間はフルチャージでも『10秒』しか飛翔出来なくなる。そんな多大なデメリットを抱えても尚、装備者に『反動ダメージを与えない』此の技は、低耐久のペッパーにとって文字通り『切り札』に相当する、絶大無比の一撃となる。

 

超高加速(オーバードライブ)ッッッッ!」

 

レディアント・ソルレイアの金色の爪が、戦闘爪の如く自分の脚と同じ真っ直ぐに向けられ、太腿辺りに組み込まれたブースターが完全に解放。

 

同時にペッパーの身体がグンッと、爪先の指す方向へ凄まじい速度で引っ張られていき、2体の甲虫皇達が撃ち放った先程の比ではない風雷融合攻撃に、真正面からぶつかり合い。

 

「おおおおおおおおお!!!!貫ッ━━━━けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

竜巻の中心部、眼となる場所を走る様に、黄金色の流星は煌めいて。強靭な甲殻を無視(・・)した、部位の内側への貫通攻撃(ダメージ)が適応され。

 

ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスを象徴とする鋏と角を減し折り、頭部と胴体を右半身も纏めて穿ち貫き。

 

地面に突き刺さる翡翠色の鋏と、漆黒色の雄角と共に、天に舞い上がる武具を纏った勇者は、大地を滑るようにして、決戦の大地へ滑走着地したのだった。

 

 






〆はやはり必殺技に限る



超過機構(イクシード.チャージ)超高加速(オーバードライブ):レディアント・ソルレイアが持つ必殺技たる超過機構。エネルギーフルチャージから自身が持つ『推進力』を『破壊力』に転換して、敵を蹴り砕く技。

其の際に爪先と足裏には特殊なフィールドが形成され、敵の攻撃を弾き飛ばし、自身に対する空気抵抗を弾き、着弾時に装備や装甲に干渉して、一時的に耐久を無効化。

自分は高所からの落下による、高低差での物理エンジン及び速度による威力増大+敵は鎧の下の生身状態でのダメージが適応される、装備並びに装甲貫通能力持ちの大技。

代償として、発動後より再使用可能時間(リキャストタイム)に168時間が必要な点と、其の間はレディアント・ソルレイアの飛翔時間がフルチャージで10秒しか飛べなくなるといった、重大なデメリットを抱えている。



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吹けよ旋風、走れよ稲妻、そして胡椒は夢を継ぐ(後編)



戦の終わり、そして継承の刻





在る刻に、三つの勇姿が樹海の空にて、閃光を描きて舞い踊った。

 

一つは樹海の緑より、尚も深く静かに美しく、翡翠に染まりし、クワガタの皇。

 

一つは樹海の影よりも黒く、木漏れ日よりも煌めく黄金を持つ、コーカサスの皇。

 

一つは神代の時代に産まれ、蒼天を舞う為の答えを受け継ぎ、果敢に世界を拓く二号計画の小さな人。

 

三つの輝きは双皇の樹にてぶつかり合い、二対の皇は一人の人が真に夢を受け継ぐに相応しい者か、己等の命を糧に確かめ、最後は一片までも悉くまでをも、燃やし尽くして散った。

 

其の人は、今はまだ小さな。しかし其の者は、世界を動かす人に成る…………。

 

()の者、名を━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティラネードギラファ!カイゼリオンコーカサス!」

 

超過機構(イクシード.チャージ)超高加速(オーバードライブ)によるライダーキックで半身を貫かれ、双皇樹の決戦の大地に墜落した甲虫皇達に、ペッパーが駆け寄ってくる。

 

『見事……ダ、勇者……ヨ。蒼空ヲ、舞ウ…答エ、其ノ…輝キ……見届ケタ……ゾ』

『オォ…オォ……ヨクゾ、此処マデ……至レ、タ…今ナラバ…己、ニ……託セル…』

 

半身を砕かれ失いながらも、2体の皇は残された半身を制御し、其の死に体の身体を立ち上がらせる。砕かれた場所からはポリゴンが溢れ落ちて、美しい甲殻は色を喪失して、段々とくすんでいく。

 

「お、おい!無茶するな!」

 

ペッパーが止めようとするも、彼等は双皇樹の間に出来た、皇樹琥珀へ其の脚を進めて行く。

 

『我等ノ命…ハ、モウ……当ノ、昔……ニ尽キ、果テタ……。ダガ……』

『勇者ガ…蒼空ヲ、舞イ……。輝キヲ、示ス……マデハ……倒レヌト、決メテ…イタ』

 

崩壊する身体で彼等は、皇樹琥珀を両脇から挟み込む形で、己の残された獲物を用い、巨大結晶塊を地面より引き抜いていく。

 

『勇者………我等ハ、此処デ……終ワリ、輪廻ハ、…巡ル…………』

『シカシ…、我等ノ……子等ガ……此ノ樹ニ、来タリ…守護者、ニナル…ダロウ』

 

最後の力を振り絞り、彼等は皇樹琥珀の結晶塊を掘り返し、根本より地面に薙ぎ倒した。

 

『蒼天ノ夢ト……願イヲ、神代ヨリ、紡ギシ……勇者………ヨ』

『其ノ道ニ…幸ト、数多ノ……出逢イ…在ランコト……祈ル』

 

2体の甲虫皇達は、ペッパーに言葉を遺して。終には其の身体は完全に崩壊。掘り返された皇樹琥珀の周りには、彼等のドロップアイテムが大量に現れる。散り行くポリゴンは風に揺られ、聳える双皇樹の合間に見える、青空へ昇って行くかのようだった。

 

「ティラネードギラファ。そしてカイゼリオンコーカサス。風神と雷神に相応しい力と勇姿、俺にレディアント・ソルレイアの━━━━遺機装(レガシーウェポン)の使い方を、教えてくれて…。本当に……ありがとう、ございました……!」

 

偉大なる甲虫の皇達よ。どうか其の御霊が、安らぎに満ちる事を。

 

中世時代に騎士が王族へ謁見し、頭を垂れるようにして挨拶をしたのと同じように、ペッパーは自身と戦い、最後にレディアント・ソルレイアの扱い方を伝授した、強き皇に深く、強い祈りを捧げたのである。

 

風と雷で造られたフェンスが消え、ペッパーは彼等が遺したドロップアイテムを、唯の一つとして残さずに回収していく。

 

「ペッパーはん!」

「ペッパーさん!」

「アイトゥイル!と…何で此処に居るの、レーザーカジキ!?」

 

激戦を見届け、駆け寄ったアイトゥイルとレーザーカジキ、彼女ならば納得だったが予想外の珍客に、ペッパーは当たり前の問いを投げ掛け、少年は事情を話していく。

 

「うん……まぁ、こういう事はあるよね………。セーブ忘れはゲーマーあるあるだから………そうしよう」

「あ、あの…御迷惑を御掛けしたなら、僕…其の……直ぐに離れて、見なかった事に………」

 

気不味くなったのか、去ろうとするレーザーカジキ。しかしペッパーは、此の時点で彼がレディアント・ソルレイアの情報と、双皇樹の位置に出現する2体の昆虫達の攻撃パターン、更にはドロップアイテムの事を知った事で、まぁやらないだろうとは考えつつ、万が一に解放して情報を拡散されるよりは、このまま最後まで突っ走ってしまう方が良いという、ある意味で大正解の結論に至った。

 

「あー…其の事なんだが。さっきの戦いを観てたなら、最後まで見届けてて欲しいんだが……」

「えっ…良いんですか?」

「良いよ、良いよ。乗り掛かった宝船なんだ、乗らずに後悔するくらいなら、乗り込んで楽しんじゃえ」

「ペッパーはんの言う通りさね、人生楽しんだ者が一番の勝ちなのさ」

 

レーザーカジキも巻き込んで、ペッパーは甲虫皇達が死の際に崩壊する身体で掘り返した、皇樹琥珀の巨大結晶塊の下を捜索する。

 

掘られた事によって、柔らかくなった土をペッパーが手で掻き分けてみると、一昔前に流行ったタイムカプセルの様な、其れでも外面を含めて一切の錆び付きが無い長方形の箱が在り。

 

器たるレディアントシリーズ一式と籠脚を、機構たる翔陽顕翼命晶機構(ライジング・フォルクス・ギア)を居れていた、同じ材質と造りで作られた其れを開くと、中には掌サイズの円型アイテムが1つだけ入っており、今も其の中芯は蒼白く、仄かな光を放ち続けている。

 

「綺麗な物…ですね、それ」

「本当さね…」

「あぁ…確かに」

 

ペッパーは早速、アイテムインベントリに仕舞い、其の内容を確認する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頂星煌炉心(ビックバンピース):レディアントシリーズの1つ、胴装備のレディアント・アーセナルに装填され、全身の機能を解放する為のエネルギー源となる円型の核。

 

一度稼働すれば、如何なる状況や環境下であったとしても、莫大なエネルギー生産・発生を可能とした神代屈指のエンジンであり、溢れ出る生命の奔流は、他の生命体にも影響を与え、地層や木々の成長を凄まじい勢いで書き換える程の力を持つ。

 

魂と成る頂星煌炉心(ビックバンピース)をレディアント・アーセナルに埋め込み、機構となる翔陽顕翼命晶機構(ライジング・フォルクス・ギア)により制御されたレディアントシリーズを全て纏う時、此の一式たる鎧は真名へ至る。

 

其の名を光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)と成りて。

 

(しか)して此れは、答えの『(たましい)』であり、分かたれた『(うつわ)』と『機構(きこう)』を揃える事無くして、目覚める事は叶わず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(神代指折りのエンジンって…相当ヤバい代物じゃん。しかも植物や地質に影響与えるって、双皇樹と此のデカい結晶塊も、コイツが要因って事になるんだよな?

 

というかレディアントシリーズ、君本当の名前在ったのか。滅茶苦茶格好良いんですけど、何で金の龍王?もしかしてライブラリの言ってたユニークモンスター、天覇のジークヴルムに何か関係有ったりするんです?)

 

「う~ん…此れは流石に先生やビィラックさんに聞かないと、扱い方は解らないか……。でも、遂に此処まで来た訳だ」

 

器たる、レディアントシリーズ一式装備。

 

機構たる、翔陽顕翼命晶機構(ライジング・フォルクス・ギア)

 

魂たる、頂星煌炉心(ビックバンピース)

 

此処に神代の時代に世界へと示された、蒼空を舞う答えを構成する三大要素の全てを、ペッパーは手に入れたのだ。

 

が、しかし。突然空が、黒く━━━影で染まる。

 

「えっ!?何で、す……これ…………!?」

「あ、あぁ……ペ、ペッパー……はん…!」

「皆、どうし……た………」

 

見上げた双皇樹の合間に、天の光を遮るようにして降り立つ其れは、2人と1羽に絶大過ぎる衝撃を与える。

 

空へ広げし、黄金の四翼の膜が羽ばたく度に、吹き荒れる風は嵐の如く。

 

頭に生えし五つの角は、太古の時代より権威と力を示す王冠の様に煌めきを放ち。

 

巨体に纏いし黄金の鱗は、誰がどう見たとしても、絢爛豪華だと豪語するに相応しき美しさ。

 

逃げ道を塞ぐようにして、頭上を越え、其れは天より樹海窟の大地に降り立った。彼は龍の中の龍にして、龍の中の王である。

 

 

『さて……蒼天を舞う夢を紡いだ勇者は、果たしてどちらか?』

 

 

 

 

 

『ユニークモンスター』

 

『天覇のジークヴルムに遭遇しました』

 

 

 

 

 

 

蒼天(ソラ)を舞う勇者。此の日、金色の龍王と邂逅す。

 

 

 

 

 






空を舞う答えの最後の1つ。そして龍王降臨。



頂星煌炉心(ビックバンピース):レディアントシリーズ復活に関わるキーアイテムの1つで、蒼空を舞う答えを神代に示したレディアントシリーズの動力源と成った存在。別名『調和を産み出すモノ』。

ジークヴルムの創造時に産まれた副産物だが、小型ながらも神代最強クラスの稼働効率を誇った、超高性能エンジンとされている。

モチーフは『アイアンマン』のパワードスーツを支える動力源『アーク・リアクター』。



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龍王は英雄を問い、そして兎の国へと降りる



ジークヴルムとペッパーのオハナシ




ドラゴンとは。中世ファンタジーや狩りゲー等でも、ポピュラーな存在であり、ゲーム内のラスボスだったり、居なければ華が無いと言われる程に、居て当然の存在と認識されているモンスターだ。

 

英雄の前に立ちはだかる魔王が真の姿として、龍に転身する王道シチュエーションがあったり、竜の力を其の身に宿したヒロインが、アイテムで変身した姿に成る等でも、ゲーム内ここすきシチュエーション上位に食い込む程に人気が高い。

 

そんなドラゴン………もとい、現在ペッパー達の目の前に降り立った龍こと、ユニークモンスター・天覇のジークヴルム。ライブラリのリーダー・キョージュとの話し合いで、リュカオーンのマーキングの仕様と取引して教えて貰った、七つの最強種の一角たる金色の龍王が、自分達の目の前に居る。

 

『さて……蒼天を舞う夢を紡いだ勇者は、果たしてどちらか?』

 

ドラゴン特有の長い首を此方に寄せ、細いキャッツアイに似た瞳孔がペッパーとレーザーカジキを見つめてくる。

 

耳に聴こえてくるのは力強い鼻息と呼吸、肌に古部り着く圧倒的な威圧感。夜襲のリュカオーンとはまた異なる、別ベクトルの覇気を放つ巨体。

 

此れが天覇のジークヴルム、空を統べる龍の中の龍であり、そして龍の中の王かと、2人は否応無しに理解させられる。

 

「あ、あわわわ……」

 

レーザーカジキは完全にビビり散らかして、バイブレーション鳴らしっぱなしの、一昔前の携帯電話みたいになっていた。

 

「あ、あの…!天覇のジークヴルム…さん!」

『む…?貴様……其れは…!』

 

少年を庇うように、ペッパーがジークヴルムに話し掛け、龍王の注目が此方に向けられた。と、ジークヴルムが彼の脚に装備された、レディアント・ソルレイアに気付く。

 

『そうか…!そうか、そうか!貴様が蒼空を舞う答えを受け継いだ勇者か!ハッハッハ!会いたかったぞ!』

 

ジークヴルムが高らかに笑う。とんでもない声量が放たれ、樹海窟の木々が暴風雨を受けているかのように、大きく揺れた。

 

『其れに…クックック!『忌々しい犬が刻んだ呪い』と『我が友の首輪』を共に身に付け、世界を拓いているとはな!面白い…実に面白いぞ!!』

 

忌々しい犬というのは、間違いなく夜襲のリュカオーンである。しかしペッパーは此の時、ジークヴルムの発言によって、ある1つの答えに辿り着く。

 

ヴァイスアッシュが『神代の時代に蒼空を舞う答え』について、自分とアイトゥイルに話した時、彼が『顔見知りに逢いに行っていた』という発言、先程のジークヴルムが言った『我が友の首輪』によって、点と点が線で繋がった。

 

「ジークヴルムさん。もしかして…先生が。ヴァイスアッシュさんが言っていた顔見知りって、貴方の事でしょうか…?」

 

ペッパーの問いに、ジークヴルムは頷き。

 

『……如何にも。貴様の言う先生……我と『ヴァッシュ』は、旧き時代よりの友である』

 

唯、事実と共に答えたのだ。

 

ヴァイスアッシュが、ユニークモンスターのジークヴルムと知り合いである。此の時点で既に、色々と頭がこんがらがりそうになるペッパー。

 

「お、おい!あれ!?」

「え、何!?金色のドラゴン!!?」

「やべーって、滅茶苦茶デカいぞ!?」

 

と、タイミングが良いのか悪いのか、騒ぎを聞き付けた他の開拓者達が続々と此方にやって来ている。

 

『む…他の開拓者達か。此処では窮屈だ。ペッパー、そして我が友の娘っ子よ、我の手に乗れ』

「えっ!?」

「ぴょえ!?」

 

まさかの展開に思考が追い付かない状況で、ジークヴルムの『早く乗らんか』という眼力による無言の圧力に、ペッパーとアイトゥイルは「アッハイ」と従うしか無く。龍王の左手に乗った1人と1羽は、巨龍の羽ばたきと共に双皇樹の合間より空へと脱出し、高く高く飛んで行った。

 

尚、其の場に置き去りにされたレーザーカジキは、口を開けたまま気絶してしまい、駆け付けた開拓者達のパーティーによって保護され。其の際にメンバーの1人が、空に飛び立とうとするジークヴルムを、強烈な風圧の中に居ながら、気合と根性のスクショを行った事によって、此れが大波乱を巻き起こすキッカケとなるのである…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャングリラ・フロンティア、上空。

 

西の空から夕焼けが情景を彩る中、天に舞い上がり、四翼を羽ばたかせ飛ぶジークヴルムは、左手にペッパーとアイトゥイルを乗せていた。

 

「………空、高い…………」

「風が、強いのさ……」

 

ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサス、今は亡き双皇とレディアント・ソルレイアを身に付け、遺機装の使い方を教えられる形で戦った時の比にもならない高さに上がったペッパー。

 

今までの人生で経験したことの無い高さから、此の世界を見たアイトゥイルもまた、壮大すぎる光景に言葉を失ってしまう。

 

『ハッハッハッハッハッハ!此れが我が見ている景色ぞ、蒼天を舞う勇者よ。其の気になれば貴様も、此処まで飛ぶ事が出来るのだからな!』

 

吹き付けてくる風の中でも、ハッキリと聞こえてくるジークヴルムの声。もし………こんな所から落ちよう物なら、間違い無く。例外無く。漏れ無く自分とアイトゥイルは死ぬ。

 

ならばジークヴルムが、自分達を此処に連れて来たのは何故だ?理由を思考しようとしても、既に色々と有り過ぎて、解らなくなってしまった。

 

と━━━━━━

 

『………蒼天を舞う勇者よ、貴様に問おう。貴様にとって『英雄』とは、如何なる『存在』であるか』

 

先程の笑い声は何処へやら、ジークヴルムが地平線の彼方を、そして更に上に在る宇宙を眼差し、ペッパーに問いを投げてきた。此処での回答はおそらく、自分達の運命に関わる。

 

此れはアレだ。失敗が許されない、一発勝負のQTEだ。ペッパーはそう判断して、今までのレトロゲームで培った様々な英雄像を思い浮かべ、言葉にして黄金の龍王へと話す。

 

「…………俺にとっての『英雄』は。『弱き者を守る者』だと、思います。例え報われなくても、誰かに後ろ指を指されても。己を曲げずに、使命を果たす存在だと」

 

汝は弱き者、牙無き者達の。

明日を開きし、剣と成れ。

 

アクションレトロゲームの、明らかに強キャラ感を演出しながら、序盤で死亡してしまったお爺ちゃんキャラが居た。其の人がプレイヤーの操作する主人公に向けて、そう言っていたのを思い出し。

 

「『ある人』は言いました。………『最後まで倒れない者が英雄では無い。最後まで諦めない者こそが英雄たりえるのだ』━━━と」

 

カスタムロボットゲームの中盤、折り返しとなるイベントで此処まで生き残っていた隊長キャラが、絶望的な状況下で新たな力に覚醒した主人公を逃がす為、たった一機のボロボロになった機体と共に、分厚い扉の前に居座って、孤軍奮闘の果てに死亡するイベントの中、主人公へ最後に贈った言葉を紡ぎ。

 

「そして━━━『取り零さずに居るだけでは、決して英雄には成れない』…そう思っています。俺が仮に英雄に成るのだとしたら…『自分の手の届く範囲を救い、誰かと手を取り合い、其の手の届く範囲を広げられる』。そんな英雄に…俺は成りたい」

 

某RPGのラスボスが、主人公とヒロインに犠牲を強いた世界の、業の深さと残酷さを説いた時に、2人が長い旅路の果てで、辿り着いた答えをラスボスに叩き付けた台詞で決める。

 

此れが正解なのかは判らない。そしてジークヴルムの考えている英雄像が、如何なる物かも定かでない。

 

最早ペッパーに出来るのは、自分の答えがジークヴルムにとっての大当たり(クリティカル)による生存か、大ハズレ(ファンブル)による死亡の二択で。

 

大ハズレになった場合は、アイトゥイルだけは見逃して貰えるよう、ジークヴルムに嘆願する事しか出来ない。

 

『フッ…フハハハハハ……!ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!』

 

ジークヴルムが笑う、此れはどちらだ、死亡か生存か。

 

「ジークヴルムさん!俺の事はどうなっても良い!せめてアイトゥ『合格だ!蒼天を舞う、神代の夢と願いを紡ぎし勇者よッ!』……ほぇ?」

 

嘆願した其の時、ジークヴルムが笑い声を上げた。大当たり(クリティカル)ですか、正直落とされると考えたし、まだ油断は出来ない。正解と見せ掛けて大ハズレの可能性も残っている。

 

『そうとも。あぁ、其の通りだ。我もそう『教えられた』のだ。英雄とは…何時の時代も、弱き者を守る事が仕事であると』

 

ジークヴルムが懐かしむように、天を見上げて語っている。教えられた?いや、えっ?どういう事?

 

『蒼空を舞う勇者よ。我を目指し、我を模した『神代の傑作』を継ぎし者よ。試練の時は必ず訪れる。其の時に我を越える力を、己の信ずる者達と共に、我に示して見せよ』

「ッ………はい!」

 

色々有ったが、残された僅かな思考を何とか働かせ、判った事は一つ。レディアントシリーズよ、とんでもなくヤベー逸品じゃねーか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジークヴルムと共に空を飛び、数十分が経過した頃。空は夕焼け色のオレンジから、段々と暗闇が空のキャンパスを塗り潰していく中で、突如としてアイトゥイルが叫んだ。

 

「あ、ペッパーはん!彼処見るさね!」

 

彼女が指差す先、見えてきたのは一つの島。自分達が先程まで居た千紫万紅の樹海窟が在った、巨大な大陸から離れた先にポツンと浮かぶ島が在る。

 

「アレは…?」

「ペッパーはん、彼処は何時もペッパーはんが拠点にしてる、ワイ等ヴォーパルバニーの産まれ故郷、兎の国・ラビッツなのさ!」

「………………マジで?」

 

という事はジークヴルム、まさかラビッツ目指して飛んでいたって事?後コレ、此のままラビッツの何処かに着陸するって事?大丈夫、他のヴォーパルバニー達がパニックにならない?

 

『ハッハッハッハッハッハ!蒼空を舞う勇者よ、我が友の娘っ子よ!此のままヴォーパルコロッセオに着陸するぞ!』

「えっ!?ちょ、大丈夫なんですか!?先生居なかったら、不法入国になったりとかしません!?大丈夫ですか!?」

『問題は…………無い!』

「え"、ぢょ、本当に大じょばああああああああああああああ!!?!?」

「ぽびぁああああああああああああ!!?!!」

 

ジークヴルムが一気に加速し、ペッパーもアイトゥイルは風圧で吹き飛ばされないよう、必死にしがみつく以外に方法が無く。

 

ものの数十秒、言い替えれば1分に充たない時間で、金色の龍王は天井が開けた、闘技場らしき場所に降り立った。

 

ペッパーとアイトゥイルは、ジークヴルムの左手から転がり落ちるように、実に何十分振りの地面の感触に感謝して。

 

不意に見上げると其処にはラビッツの王、ヴォーパルバニーの大頭・ヴァイスアッシュが、真正面でジークヴルムを見上げていた。

 

「あ!先生!御見苦しい姿を晒しました!」

「オカシラ!ただいまなのさ!」

 

1人と1羽が直ぐ様正座に姿勢を立て直し、同時に頭を下げる。

 

「おぅ、よく帰ったなぁ。ペッパー、アイトゥイル。しかしまぁ、ジークヴルム。…おめぇさんが、人を手に乗せて飛ぶなんてよぉ」

『フッハッハッハ!我が友ヴァッシュよ!我も数多の挑戦者を見てきたが、此処までの男はそうはおらんぞ!何せ英雄とは何たるかを、よく理解していたのだならな!』

 

グワッハッハッハッハッハ!!!と、またしても高らかに天に笑うジークヴルムは、ふとペッパーを見て、こう言葉を残した。

 

『蒼空を舞う勇者………いや『ペッパー』、だったな』

「えっ、あはい。ペッパーです」

『そうか……━━━━━』

 

 

 

 

 

 

其の名前━━━━━確と『覚えた』ぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてジークヴルムは『また逢おう!我が生涯の友、ヴァッシュよ!』とそう言い放ち、ジークヴルムは四翼を力強く羽ばたかせ、闇の帳が降りる空へと飛んで行った。

 

其の煌めきは、空に瞬く一等星の光より明るく。

 

其の速さは、天を走る流星より速かった。

 

「凄いな……ジークヴルムさん」

「はっはっは!そりゃあそうさ、何たってアイツは龍達の王なんだからよぉ。其れになぁペッパー、アイツが人の名前を『間違えずに覚える』のぁ、滅多にねぇんだぜ?」

「えっ、そうなんですか先生?」

 

無言で頷くヴァイスアッシュ。またしても変な方向で感情の矢印が向けられた事に、ペッパーは身震いし。

 

「あ…そうだ、先生!此方を!」

 

そう言って彼は、アイテムインベントリから千紫万紅の樹海窟の皇樹琥珀の下に埋められた、神代の箱型カプセルに納められている、頂星煌炉心(ビックバンピース)を箱ごと取り出して、ヴァイスアッシュに差し出す。

 

「おぉ…おめぇさん、クワガタとカブトムシの試練を超えたのかい」

「はい。双皇から『よくぞ此処まで至った』と『其の道に幸多からん事を祈る』とそう言われました」

「そうかぁ…アイツ等も、満足して逝けたって訳か……」

 

空を見上げ、ヴァイスアッシュは煙管で煙を噴かして。其の後、青年に向けてこう言った。

 

 

 

 

「ペッパー。おめぇさんが集めた3つの要素、1つに束ねて、蒼空を舞う為の『答え』を甦らせてやろう」

 

 

 

━━━━━━━━━━━と。

 

 

 

 






神匠が動く




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人は空を夢見る、其れ即ち翼を手にして



集った3つの要素よ、1つに重なり甦れ




兎御殿の中には、二つの鍛冶場がある。

 

1つはペッパーが何時も世話になっている、名匠ビィラックが仕事場としている、何時も掃除が施された綺麗な鍛冶場であり。もう1つは兎御殿の地下に在る、年季が入った歴戦の工房に等しい、こじんまりとした鍛冶場だ。

 

ペッパーが先生と呼ぶ、ヴォーパルバニーの大頭・ヴァイスアッシュの鍛冶場は後者に辺り、石造りの螺旋階段を下った先に、其れは在った。

 

「オヤジにペッパー、アイトゥイルじゃけ。此処に来るなんて珍しいの」

 

箒と塵取りを使い、せっせこ床掃除をしていたビィラックが此方に気付く。

 

「おぅ、ビィラック。何時も掃除してくれてよぉ、あんがとうな」

「!……オ、オヤジがちゃんと掃除すればエエだけじゃけ!」

 

褒められて嬉しいのだろう、言葉は荒いが耳がピコピコ動いている。ビィラック、諸バレだ。其れは其れとして可愛い。

 

「ビィラック。ペッパーから預かっとった、籠脚を除いたレディアントシリーズ一式と、機構を持ってきちょくれ。此処で3つを束ねて、元の姿に甦らせる」

 

其の言葉を聞き、ビィラックは眼を輝かせ「わ、解ったけ!直ぐに持ってくるの!!」と言い、猛スピードで走っていき。ヴァイスアッシュはペッパーから受け取った、頂星煌炉心(ビックバンピース)を金床に乗せて、棚に立て掛けた道具達を手に取り、作業台に並べていく。

 

「ペッパー。嘗て蒼空を夢見た、一人の人間の夢ェ。おめぇさんに、其の続きを『託す』ぜ」

「………はいっ!先生!」

 

託された願いに応えられるように、ペッパーは覚悟を決めてヴァイスアッシュに返事をし。少しの間を空けてビィラックが、レディアントシリーズ一式と翔陽顕翼命晶機構(ライジング・フォルクス・ギア)を持ってきた。

 

「じゃあ、始めるかい。此処に揃った3つの要素、1つに束ねて甦らん」

 

そうしてヴァイスアッシュは、肩に掛けた上着を払い、着物の右肩と、右腕の可動域を広げるように、着物を脱ぐ。まるで昔々の時代劇で、桜の刺青をした代官が其れを罪人に見せるようにしていたシーンの様に。

 

胴装備たるレディアント・アーセナルの胸部に、頂星煌炉心を埋め込み、接続と感度の調節を行い。レディアントシリーズの籠脚(ガントレッグ)たる、レディアント・ソルレイア以外の全てに、翔陽顕翼命晶機構を取り付け、丁寧な仕事で接続していくヴァイスアッシュ。

 

其の眼には唯強く、そして鍛冶師としての使命を宿していた。

 

「凄い……」

 

彼の手際や道具の使い方は超一流を超え、神の領域に居るように見える。道具の使い方や手際とそうだが、まるで『解っている』かのように、レディアントシリーズ達を組み立てている様な、もしくはレディアントシリーズがヴァイスアッシュに向け、順序を示しているかのように見えて。

 

ビィラック、アイトゥイルが見守る中、ヴァイスアッシュは黙々と、然れども動じる事も無く、己の御業を以て成すべき事を成していく。

 

そうして…………

 

「おぅし、出来たぜ」

 

そう言ってヴァイスアッシュが見せたのは、ゲーム内の防具屋でよく有る防具立てに、ズラリと立て掛けられたレディアントシリーズ装備一式の姿。

 

白と空色の明るい色彩を主体にしながらも、青天の霹靂たる雷をモチーフにした、金色の装飾が全体を引き締め、アクセントを産み出す。

 

昔の映画のSFパワードスーツの形状と似通っては居るが、腰装備のレディアント・オルサーグの背面には、龍の尻尾と思われる物が見えている。

 

「これが、レディアントシリーズの本来の姿…ですか?」

「有ってるが、少し違うな。おめぇさんがコイツを全身に纏って、脚のクラリオンの上に、籠脚たるソルレイアを装備してェ、こう言いやぁ起きるぜ。『目覚めよ(Wake up)』━━━ってな」

 

ヴァイスアッシュが甦らせた、神代の時代に示された蒼空を飛ぶ為の答え。ペッパーは彼に深々と感謝と共に頭を下げ、現在の装備を解除してレディアントシリーズを1つずつ、其の身体に纏っていく。

 

そうして全身に神代の叡智を纏い、ペッパーは己の胸に納められている頂星煌炉心に手を当てる。

 

「レディアントシリーズ………いや。一式完全装備状態の時は、お前の名前は真名に変わるんだったな。

 

改めて…よろしくな?光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)━━━━━━目覚めよ(Wake up)!!!」

 

覚醒の合い言葉を受けて、頂星煌炉心が唸りを上げて、強く青い光を室内に放つ。

 

アーセナルに収まる胸部のコアを、装着者の肩を護る装甲や、腰装備のオルサーグのサイドアーマーに水晶の防壁が展開され、龍の尻尾を思わせていたユニットはエネルギーが伝達された事で、本物の龍尾の様に成り。

 

頭装備たるレディアント・ヘルメイトには光が灯り、フルフェイスヘルメットとしての機能を発現、水晶で構築された三本の角が生えた事により、人の姿ながらドラゴンの様な龍面の顔へ変わる。

 

各部も機構が展開して、白い翼状のモジュールが現れて、極めつけはアーセナルの背面に展開される、金色に煌めく『エナジーウイング』。片側につき三枚の両方合わせて六枚の翼が展開され、触らずともウイングからは、膨大なエネルギーの波動を感じられた。

 

そして何より凄いのは、甲虫双皇との戦いで超過機構(イクシード.チャージ)を発動し、エネルギーがすっからかんになっていた、レディアント・ソルレイアが『エネルギー・フルチャージ!』という音声を発した事。流石は神代屈指のエネルギー発生装置、一瞬でソルレイアのエネルギーチャージ問題を解決してみせるとは。

 

「なにこれすごい」

 

もう一回言う、なにこれすごい。いやいや、滅茶苦茶格好良いんだが?中世から未来にタイムワープしたようで……うん、もう一回言うわ。なにこれすごい。

 

語彙力?奴なら死んだよ……。

 

「はっはっは!随分馴染んでるじゃあねぇかよぅ、ペッパー。アイツの生き写しに見えるぜ?」

 

ビィラックとアイトゥイルが、何時の間に持ってきた大きな鏡を自分の前に持ってくる。確かに頭装備の形や龍面だったり、角が三本とか身体のカラーリングとか差異は有るが、ヴァイスアッシュの言う通りジークヴルムを模倣しただけあり、似通った部分も多い。

 

「えっと…其れじゃあ耐久力はどのくらい上がったの…………ふぁ?」

 

ステータス画面を開いた其の時、ペッパーは衝撃のあまり絶句する。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

PN:ペッパー

 

レベル:40

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 15 魔力 10

スタミナ 90

筋力 85 敏捷 95

器用 45 技量 70

耐久 70013(FCB+15000) 幸運 25

 

FCB:無限飛翔・?????・レーザー砲撃

 

 

残りポイント:0

 

 

装備

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:レディアント・ソルレイア(耐久力+5000)

 

頭:レディアント・ヘルメイト(耐久力+10000)

胴:レディアント・アーセナル(耐久力+20000)

腰:レディアント・オルサーグ(耐久力+10000)

脚:レディアント・クラリオン(耐久力+10000)

 

 

アクセサリー

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

 

所持金:102,9000マーニ

 

 

致命極技

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未解放

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多(ナユタ)(ワダチ)】……未解放

 

 

致命武技

 

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】参式

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】弐式 

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月(みかづき)(ともえ)

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】弐式

 

 

 

スキル

 

 

・サイスオブスラッシュ

命尽突(めいついとつ)

・レペルカウンター

・ブーメランスロー

・アルゼイドエッジ

・メイアスワーク

・ボルベルグストライク

・グラシャラスインパクト

・ストレングス・スマッシャー レベル5

・オーバートップビート

・インファイト レベル4

・七艘跳び

・スケートフット

・ジェットアタック

・十字斬 レベル3

・バリストライダー

・アクタスダッシュ レベル6

・ステックピース レベル4

・握擊 レベル3

・投擲 レベル4

・クライムキック レベル7

・首断ち レベル5

・ムーンジャンパー

・ボディパージ レベル5

・ライフオブチェンジ

・ストレートフィスト

・背面蹴り レベル4

・トリスフリップ

・フルズシュート レベル5

・オプレッションキック レベル3

命撃鐵破(めいげきてっぱ) レベル1

一撃絶壊(いちげきぜっかい) レベル1

羨望合炙(せんぼうがっしゃ)

・挑発 レベル1

壱心(いちしん)()(ざん) レベル1

(しん)(とう)()(すい)

連刀(れんとう)()(じん)

(ばつ)()(ざん)重連(ツラネカサネ)

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

(防御力インフレしてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!?え、ま、はぁああああああ?!?耐久7万!?!7000じゃなくて?!?…………ええぇ…………???

 

しかもFCBって何?ヤバい機能有るんだが?滅茶苦茶ヤバくないですか????)

 

神代の叡智が詰まったトンデモユニーク遺機装に、ペッパーは頭が痛くなってきた。と、そんな彼にビィラックがこんな事を言ってきた。

 

「ペッパー。ワリャが甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)を創る時に、わちに描いてくれた籠脚(ガントレッグ)の絵と開発のノウハウなんじゃがな。

 

『他の鍛冶師にも匿名で伝書鳥(メールバード)を流したけぇ』。わちの技術を元にして、人が産み出す籠脚も見てみたくなっての。くかかかか♪」

 

悪戯っ娘の様に笑ったビィラックに、ペッパーがフルフェイスヘルメットの下で唖然とする中。彼の前には、クエストクリアを告げる、リザルト画面が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『兎の国の神匠は嘗ての夢を甦らせた』

『兎の国の名匠は新たな武器を産み出した』

『勇者は蒼天への願いと夢を紡いだ』

『称号【夢を紡ぐ者】が【夢の継承者】に変化しました』

『称号【蒼空(ソラ)を舞う勇者】を獲得しました』

『称号【新武具の開拓者】を獲得しました』

『特殊クエスト【颶風を其の身に、嵐を纏いて】をクリアしました』

『産まれた技術がフロンティア中に広まった』

『武器カテゴリー【籠脚(ガントレッグ)】が解放されました』

『シャングリラ・フロンティアの各街の武器屋にて、武器カテゴリー【籠脚(ガントレッグ)】が追加されました』

『クエスト【風雷の挑戦状:強者よ、双皇樹に来たれ】が受注出来るようになりました』

『特殊クエスト【想いの御手は、境界線を超えて】を受注しますか? 【Yes】or【No】』

『特殊クエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】を受注しますか?【Yes】or【No】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(籠脚が新しく追加されたり、レディアントシリーズがとんでもない代物なのは判明した、其れならまだ良いんだ………。此の『特殊クエストEX』ってナニ?アレか?レディアントシリーズみたくユニークモンスターを模した、遺機装(レガシーウェポン)一式がシャンフロの各地に散らばってるから、頑張ってコレクトしてみてね♪みたいなヤツですか?

 

唯でさえ空を飛翔出来るし、天覇のジークヴルムをモチーフにした一式装備っていう、ヤバい代物が手元に在るのに、此れ以上の爆弾を抱えさせるつもりですか?鬼か?鬼なのか???此のクエスト作った製作者は悪鬼羅刹の類いなの?????)

 

リザルト画面を見たペッパーは、頭を抱えながらダラダラと思いの丈を流し続ける。

 

彼のシャンフロライフは、またしても平穏は縁遠き物となり、不発の爆弾は積み重ねられていく。

 

然して、勇者に天へ舞い上がる、神代の願いは紡がれた。そして……世界が動く時は、もう直ぐ其所に迫りつつ在った………。

 

 

 

 

 

 






此処に夢は甦り、クエストは進行する



光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス):3つに分かたれた要素を集め、完全復活したレディアントシリーズ一式+籠脚たるレディアント・ソルレイアを、合い言葉によって装着者が起動する事によって目覚める、神代の時代に示された蒼空を舞う為の答え。

天覇のジークヴルムを模したユニーク遺機装(レガシーウェポン)であり、全種装備状態(フルカウルモード)と成る事で、秘められた能力が解放される。

光輝へと昇る金龍王装が持つ機能は『ほぼ無制限に空を舞う』事と『━━━━━━━━』、そして頂星煌炉心を用いて繰り出す、天覇の足元にも及ばずとも強力な『レーザー砲撃』を可能とする。

モチーフは『シャドウバース』のレジェンドフォロワーで、アニメ:シャドウバースFの主人公・天竜ライトの切り札『レーヴァテインドラゴン』が、ドラゴウェポンを使わず、進化先をチョイスせずに進化した姿。



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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~世界に走るは胡椒の香り~



二回連続掲示板回の一回目




ペッパーが特殊クエストをクリアし、籠脚(ガントレッグ)の解放及び天覇のジークヴルムを模したユニーク遺機装(レガシーウェポン)を獲得により、頭を抱えていた其の頃…………シャンフロの掲示板は、強い熱を帯びていた。

 

世界に七つのみの最強種の一角、ユニークモンスター・天覇のジークヴルムが、大陸の王都ニーネスヒルの上空を越え、千紫万紅の樹海窟に居るペッパーを一目見ようと、其処に向かって飛んでいる姿を目撃したプレイヤーが、掲示板に放った事が始まりであったのだ…………。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

【情報】シャンフロ雑談 part1293【共有】

 

 

 

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**************

 

 

 

703:プロトゴン

ヤバいものみた

 

704:タングステン

なにみた定期

 

705:ドロップス

ほぅ、何かな?

 

706:ベネグリット

勿体振らずに、はようせい

 

707:アッド

うむうむ

 

708:ブリューナク

開示はよう

 

709:サンダーナット

なになに?

 

710:プロトゴン

ニーネスヒル

 

上空を飛ぶ金色のドラゴン

 

画像はる

 

《画像》

 

 

711:海パン7世

!?

 

712:バサシムサシ

!?

 

713:ほのみか

はぁ!?!?

 

714:プリミチア

え、ジークヴルム!?

 

715:ぽべら

マ!?

 

716:タングステン

ユニークモンスター……だと!?

 

717:ドロップス

エエエ!?

 

718:アッド

最近になって判明した七つの最強種の一角じゃねーか!?てか、何処向かってるの?

 

719:プロトゴン

其処まではわからない…何せ突然だったし…

 

720:斬クロ

実際俺だったら思考放棄してるね…

 

721:でぃくたー

わからんでもない

 

722:ルクルク

同意

 

723:ロップイヤー

うむ

 

724:バサシムサシ

しかしジークヴルムかぁ…あれってどっかのエリアの山頂にいるんだっけ?

 

725:ローレライ

あーそんな話有ったわな

 

726:グミーズ

速報、千紫万紅の樹海窟の隠しエリア発見

速報、ジークヴルムが隠しエリアに着地

 

727:ルルパリス

!?!!

 

728:海パン7世

えっ!?

 

729:ドロップス

ファッ!?

 

730:ジャーアク

いや、何処だよ。情報プリーズ

 

731:グミーズ

場所、千紫万紅の樹海窟のエリア端。双皇樹っていう二本の、滅茶苦茶でっかい木。コロシアムみたいに円形状の空間出来てて、其処に降りてたとか

 

732:ダウミー

ほぇーそんなエリア在ったんか

 

733:タングステン

また新しいエリアが見付かったのだな

 

734:ケケケーラ

気になりますね……

 

735:ほのみか

そやな

 

736:バサシムサシ

いや今はジークヴルムじゃ、アイツどうした

 

737:グミーズ

速報、ジークヴルム隠しエリアより飛翔、その際に開拓者達が吹き飛ばされ、殆どが大ダメージの重傷、一部は死亡した模様

 

738:ロップイヤー

えええええええええええええ!?

 

739:ドロップス

マ?

 

740:海パン7世

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

741:タングステン

羽ばたきでプレイヤー殺すとかマジかよ…

 

742:でぃくたー

まさに鎧袖一触ですわね…

 

743:ルクルク

流石は最強種という訳だな

 

744:ダウミー

でも何で、ジークヴルムは双皇樹って所に降りたんだ?

 

745:プリミチア

あ、たしかに…

 

746:ルルパリス

食べ物探しに来たとか?

 

747:ケケケーラ

もしかして草食なのでしょうか?

 

748:バサシムサシ

いや其れはねーだろ、ドラゴンって肉食のトカゲだぞ?

 

749:ドロップス

金ぴかドラゴン(草食)

 

750:サンダーナット

ワロタwwww

 

751:海パン7世

何処ぞのマンガかな?

 

752:パルマピォーキ

み、皆……ちょっとヤバいもの……撮れた……

画像貼るから………後頼む………ガクッ

 

《画像》

 

753:タングステン

お、新しい情報か?

 

754:アッド

ジークヴルムの羽ばたいてる場面か、よく撮れたなオイ

 

755:バサシムサシ

いや、スゲーわ。二本の木をバックに天に向かう金色のドラゴン、コレだけでも絵になるわ

 

756:プリミチア

………あれ?ジークヴルムの左手、かな?誰か乗ってない?

 

757:でぃくたー

え?

 

758:ロップイヤー

へ?

 

759:ルルパリス

あ、ホント…

 

760:ほのみか

!?

 

761:ジャーアク

ええええええ!?

 

762:ドロップス

乗ってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!!?

 

763:アッド

え、ちょ、えぇっ………????

 

764:バサシムサシ

いやなにこれ?ユニークモンスターの手に乗ってるって、どうしたらそうなるし

 

765:グレックリン

……しかも何か他にいない?さっきの画像の此処等辺なんだけど

 

《画像》《画像》《画像》

 

766:サンダーナット

んんん?………黒い、ヴォーパルバニー…か?

 

767:海パン7世

え?何でヴォーパルバニー?

 

768:タングステン

どういうこった?あの畜生兎ってテイム出来ないよな?

 

769:ルルパリス

うん、出来ない

 

770:プリミチア

え、どゆこと?

 

771:グレックリン

なぁ…皆、ジークヴルムの手に乗ってる奴、画像拡大して鮮明加工したんだが……

 

《画像》

 

772:ロップイヤー

ペッパー…?胡椒?

 

773:海パン7世

ペッパー!?はぁ!?

 

774:アッド

えっマジで?

 

775:バサシムサシ

!?

 

776:ドロップス

どういう事?

 

777:ヴァイブァート

ペッパーって言えば、最近胡椒争奪戦争っていう彼専用の捜索&スカウトスレが建ってて、本人はリュカオーンの呪いが右手に在るから、其れを隠してるプレイヤー

 

778:ヴァイブァート

更に言うと、リュカオーンと会敵して実力を示したからマーキングされ、其れを聞いたサイガ-100やキョージュが接触して、彼をスカウトしたという話がある

 

779:ヴァイブァート

あとは…阿修羅会のアーサー・ペンシルゴンが、ペッパーを名指しした上で、獲物判定下したんだとさ

 

780:ルクルク

なぁにそれぇ

 

781:海パン7世

情報の大洪水で草ァ!!

 

782:バサシムサシ

じゃあ何か?ペッパーって奴はジークヴルムを呼び寄せる方法を持ってるって事?

 

783:プリミチア

え?

 

784:タングステン

え、マジで?

 

785:サンダーナット

ランダムエンカウントのユニークモンスターを呼び寄せるって、何したらそうなるんだよ………

 

786:プリミチア

訳がわからない………

 

787:サザーラン

というかヤベェな、ペッパーってプレイヤー。価千金どころか一攫億金以上の価値有るじゃん

 

788:ぽべら

黒いヴォーパルバニーも気になるが、何よりジークヴルムに乗っかってる時点で色々ヤバい

 

789:でぃくたー

彼は自分達の知らない、未知のユニークを持ってる可能性有るよな?

 

790:ケケケーラ

ジークヴルムと接触出来る場所は、確か気宇蒼大の天聖地だったはず………。おそらくテンバートか、フォルティアンに向かってるかも知れません

 

791:バサシムサシ

今テンバートに居るから、ちょっと胡椒捜してみるわ

 

792:ロップイヤー

こりゃ今頃、胡椒争奪戦争の方も盛り上がってそうだな

 

793:タングステン

ユニーク由来の情報は貴重だ。何としても手に入れたい

 

794:ドロップス

欲望とは正義である!

 

795:ベネグリット

いやぁ盛り上がってきたねぇ!

 

 

 

 

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龍王降臨の裏側の出来事




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~胡椒争奪戦はヒートアップ~



掲示板回、其の二です




シャンフロ雑談スレが、ジークヴルムの手に乗っかったペッパーとアイトゥイルの情報で、てんやわんやの大騒ぎになっていた頃。

 

時を同じくして、ペッパー捜索スレこと胡椒争奪戦争でも、大騒ぎと大混乱の渦中に在った。此れはそんなスレの、其の時の状況である……………

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

【情報】胡椒争奪戦争 part1【急募】

 

 

 

 

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823:ムラクモ

はい、そんなわけなんやけど……とんでもない情報が飛び込んで来ましたなぁ………

 

824:ニシシッピン

ホントそれな

 

825:ブラサース

情報が大洪水過ぎるよ…マジ何したらそうなるし…

 

826:チルタン

雑談スレの方は凄い勢いで、コメント付きまくってる…

 

827:ダスティエラ

ヤバいわね…ホンマ………

 

828:ピーセント

おっそろしいプレイヤーだよ、ペッパーは

 

829:ムラクモ

さて、や。皆一応解っとるとは思うけど、ペッパーが何したのか、おさらいや

 

830:ムラクモ

現在のペッパーの持ってる物

 

・夜襲のリュカオーンに関する情報

・ユニーク小鎚

・天覇のジークヴルムの呼び出しが出来るアイテム(?)←New!

・黒毛のヴォーパルバニー←New!

 

あと、サードレマの上層エリアに行けるブツも有るらしいんやて。

 

ついでに掲示板で出回った写真も、確認がてら貼っとくで

 

《画像》

 

831:ポライゾム

助かる

 

832:ダスティエラ

いやぁさ、半日でよくもまぁ……

 

833:ニシシッピン

言いたい事は解る

 

834:ピーセント

ユニークモンスターに接触したってだけでもヤバいのに、よりにもよってヴォーパルバニーを引き連れてるって言うね

 

835:チース

ほんそれ

 

836:チルタン

わかる

 

837:Animalia

黒毛の…ヴォーパルバニー…?

 

838:ガルガムガン

う わ で た ! ! !

 

839:トットロ

園長だああああああああ!?

 

840:ギニョーラ

やっぱり来るよね、うん

 

841:ポライゾム

知ってた

 

842:Animalia

どういう事…?ヴォーパルバニーって、テイム出来ないわよね…?チートでも使ったの?

 

843:ムラクモ

シャンフロのセキュリティは頑強やし、御隣の国のハッカー集団でも抉じ開けられずに、逆探されて全員縄に着かされたんや。其の可能性は無いで

 

844:バライヲン

じゃあ何か?ヴォーパルバニーを仲間に出来る、クエストでも在るってか?

 

845:チムニー

わからない。…が、現にペッパーがヴォーパルバニーと一緒に居るって事は、まぁ可能性としては有るのか

 

846:ダスティエラ

そうなのかねぇ?

 

847:Animalia

つまり…つまりよ…?其れが受注出来れば……行く行くは再び、ラビッツにも行ける可能性が………?フフフフ…!フフフフフフ…………!!何としてもペッパーさんに接触して、見合う対価で交渉して情報を………フフフフフ!!!!

 

848:トットロ

あ~あ、園長の変なスイッチが入っちゃったよ…

 

849:ブラサース

絶ッッッッッッ対、面倒な事が起きるぞコレ…

 

850:ブルークリム

SF-Zooにとっちゃ、ヴォーパルバニーをテイム出来る可能性が有るなら、手を伸ばしたいだろうな…

 

851:グルグナムーサ

動物狂いだもんなぁアイツ等…知識に関しちゃマジもんのガチなんだが……

 

852:キョージュ

どうやらペッパー君は、またまた面白い事をやったみたいだね

 

853:ポライゾム

あ、キョージュまで来た!

 

854:ギニョーラ

考察クランも、ユニークモンスターと聞いては動くか…!

 

855:チルタン

上位勢がどんどん来ますね

 

856:ピーセント

キョージュは何を求めてるのかな?

 

857:ダスティエラ

其処だよね…

 

858:キョージュ

ユニークモンスター・天覇のジークヴルム。写真とは言え、此処まで造形がハッキリと判ったのは、とても貴重だ。是非ペッパー君には、ジークヴルムの口調やらも含め、事細かく話を聞いてみたいね

 

859:ポミュー

おおぅ…考察ガチ勢流石や

 

860:Animalia

ヴォーパルバニーちゃんも気になるけど!ジークヴルムも捨てがたいわ!

 

861:ニシシッピン

わぁ!?園長が絡んできた!?

 

862:ギニョーラ

やっぱ動物狂いは制御が効かねぇ!?

 

863:バライヲン

動物ガチ勢こえぇよ…

 

864:キョージュ

私はあくまで、ジークヴルムというモンスターが如何なる理由で空を飛び、シャンフロ各地に姿を見せているのか?其れが知りたいのだよ…

 

865:ブルークリム

ランダムエンカウント、というよりは其の先に在る理由を知りたいってか

 

866:ピーセント

成程………

 

867:サイガ-100

ほぅ…ペッパー君はリュカオーンに続いて、ジークヴルムにも遭遇していたのか

 

868:ガルガムガン

オイオイオイオイ!?

 

869:グルグナムーサ

今度はクラン:黒狼まで来たぞ!?

 

870:Vアース

まぁじかぁ……また大事に成るぞ…!

 

871:ククルン

やっぱりユニークモンスター、相応の価値を秘めてるな…上位勢がどんどん来やがる…

 

872:テムデム

盛り上がってきたな…!

 

873:ムラクモ

リュカオーン討伐ガチ狙いのサイガ-100はんも、ジークヴルムは気になるようで?

 

874:トットロ

リュカオーン優先じゃなかったんすか?

 

875:サイガ-100

ジークヴルムの事は気にはなるが、黒狼の最終目標はリュカオーン討伐だ。其処に変わりは無い

しかしアングルといい、まるで龍に愛された御伽話の中の英雄の様にも見えるな

 

876:ガルガムガン

言われてみれば、確かに…

 

877:ギニョーラ

剣持たせたら映えそう

 

878:トラム

わかりみ

 

879:Animalia

それはそれとして、ペッパーさんは何処に居るのかしら…?早く会いたいのだけど…!

 

880:キョージュ

ペッパー君との会話がしたい。ジークヴルムの詳細は、現状彼しか持っていないからね

 

881:サイガ-100

彼をスカウトするためにも、相応の準備と対価は必要不可欠になるな…フフフフ!

 

882:ローラ

ガチ勢こわい…

 

883:ブルークリム

躍起になってんなぁ…

 

884:バライヲン

見てる分には愉しいけども、やられるペッパーからしたら堪ったもんじゃねぇ…

 

885:アーサー・ペンシルゴン

へぇ…また面白い事に成ってるんだねぇ……

 

886:トットロ

!?

 

887:ギニョーラ

ヒッ

 

888:Vアース

ヒエッ

 

889:ガルガムガン

でぇたぁ!?

 

890:ククルン

廃人狩りだああああああ!?

 

891:トラム

でぇたァ!

 

892:プーレン

よりにもよって、大々的に獲物宣言してきたヤベー奴が来ちゃった

 

893:ローラ

コナイデ…コナイデ…

 

894:サイガ-100

ほぅ?阿修羅会も彼を狙うつもりかな?其れなら此方も受けて立つが?廃人狩りよ

 

895:アーサー・ペンシルゴン

黒狼とのガチ戦争は楽しそうだし、受けてあげても良いけどねぇ…団長さん?

でもまぁ、此処で言い争っても何の得にもならないし、私も単純にペッパーを狙ってるから、此のスレの情報見に来ただけだよぉ?

 

896:フルムーン

ほぉんとかなぁ?

 

897:ブルークリム

絶対何か企んでるだろ…

 

898:Vアース

ヤベー予感しかしねぇ…

 

899:アーサー・ペンシルゴン

あぁ、其れと…さっき武器屋覗いたんだけどさ。何か新しい武器として、籠脚が追加されてるみたいなんだよねぇ、誰か知らなぁい?

 

900:ムラクモ

新しい武器やて?

 

901:トットロ

籠脚?

 

902:フルムーン

えっ、新しい武器だと!?

 

903:モトレーヌ

武器カテゴリーに新しいの追加されたのか

 

904:ローラ

籠脚?籠手じゃないの?

 

905:SOHO-ZONE

なんとぉ?!新しい武器ィ!?其れは一体何なのだァ!!?

 

906:ガルガムガン

うわぁ、ウェポニアまで食い付いてきたァ!?

 

907:バライヲン

ヤベー奴がヤベー奴を呼び込んだぁ!

 

908:ブラサース

あーもう滅茶苦茶だよぉ!?

 

 

 

 

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

「…ペッパー君は少しでも目を離すと、何しでかすか解らないね。フフフ…」

 

シャンフロ某所にて『胡椒争奪戦争』を見ながら、アーサー・ペンシルゴンは投下した爆弾で、ウェポニアが釣れた事により、更なる混沌が起きた事に笑い。そして同期させている、カレンダー機能を展開して、予定を再確認しながら『あるプレイヤー』に話をした。

 

「で…阿修羅会を抜けて以来、久し振りに会えた訳だけどさ『(キョウ)(アルティメット)』ちゃん。フリーの君を阿修羅会に悟られずに捜すの、随分苦労したんだよ?」

 

彼女と対面しているのは、長い黒髪を後ろで一纏めにして束ね、大正時代を意識した着物と袴にブーツを着け、腰には一本の日本刀を納めた女性プレイヤーが居る。

 

「わざわざ捜しに来たのは、御苦労様で良いけどさ。また阿修羅会に再就職してくれ……なんて、つまらない理由じゃないよね?ペンシルゴン」

 

ペンシルゴンの意志を確認するように、京極は問い掛けて。そして彼女はニッコリと笑って言ったのだった。

 

「そうだね。………単刀直入に言うよ、京極ちゃん。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンの攻略。阿修羅会(アイツ等)を出し抜いて、私達『5人』でやらない?」

 

其の言葉に京極が目を開く。墓守のウェザエモン…彼女が阿修羅会に属していた頃に戦った、ユニークモンスター。圧倒的な強さと理不尽の塊が在る事を、否応無しに知った最強の存在。

 

其れに挑まないかと、ペンシルゴンからの持ち掛けに京極は微笑して、しかし直ぐに疑問に気付いて質問する。

 

「…へぇ、面白いじゃん。というか参加人数5人?誰で行くか決まってるの?」

「そりゃ勿論。何よりウェザエモン相手(・・・・・・・・)には、『レベル』じゃなくて純粋な『プレイスキル』が必要不可欠だしね。クランが『まだ』ガチだった頃の経験者の私達に、残り『3人』は全員が相応のプレイスキルを持ってるし、あのヤローに確実に勝ちに行ける自信がある」

 

「ただねぇ…」とペンシルゴンは天を見上げて、悩むように言う。

 

「其の3人の内の1人が、今クソゲーに挑戦中らしくて、正直何時終わるか解らない状況なんだよ。早くしてくれると助かるんだけどなぁ……」

 

レトロゲーマーのペッパー、プロゲーマーのオイカッツォは既にシャンフロを初めているのは、メール等を含めて確認出来たが、クソゲーマーのサンラクだけは『フェアクソ』という大作クソゲーをやっているらしく、何時終わるか判らない状況にある。

 

「ソイツ等って強いの?」

「強いよ、全員ゲーマー」

 

何時になく真剣で、言い切ってみせたペンシルゴンに、京極はフッと笑って彼女へ言った。

 

「OK、フフフ…楽しくなりそうだ」

 

ペッパーの情報にプレイヤー達が盛り上がる中、ペンシルゴンはウェザエモン攻略に向けて、着々と準備を進めていく。

 

世界は動かず、進まない。然れど世界が動く時は、着々と迫っている………。

 






動き出す、ユニークモンスター攻略戦




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~クソゲーハンターが動き出す~



現実世界の今は如何に

※今回は少し短めになります




ペッパーの情報が掲示板を通じて、シャンフロを遊ぶプレイヤー達に広がった同時刻。

 

現実世界に在る、ユートピア社・地下10階にある原典閲覧室では、シャンフロの産みの親たる創世が、ディスプレイ画面を見つめて、苦い顔をしている。

 

「ッ━━━━━━━━!」

 

画面に表示されていたのは、シャンフロの『とあるクエスト』のリザルト画面。本来なら其れは、こんな序盤ではなく『ずっと先に』なる筈だった。

 

しかし結果は、彼女の予想も思惑も超えた形として、静かに。然れども残酷に、電子の文章が其処に示されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】 第三段階(サードフェイズ):【颶風を其の身に、嵐を纏いて】のSクリアを確認。

 

クリアユーザー:ペッパー

 

称号:【夢の継承者】【蒼天(ソラ)を舞う勇者】【新武器の開拓者】を獲得。

 

シャングリラ・フロンティア内の各街の武器屋にて、武器カテゴリー【籠脚(ガントレッグ)】の解放完了(アンロック)を確認。

 

第三段階クリア時の総合評価A以上、並びに1つ以上のSクリアの条件達成により、ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】の解放完了(アンロック)を確認。

 

残された最強種を模倣せし遺産は6種』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………嘘、でしょ…?」

 

よりにもよって、此のタイミングでの解放に創世の表情は更に険しさを帯びていく。ユニーククエストEXは本来ならば(・・・・・)、自分が難易度調整を施した、第五段階(ファイブフェイズ)クリアと同時に第六段階(シクスフェイズ)共々解禁される筈だった。

 

一応第三段階クリアまでの間に、受注プレイヤーが行ってきた行動により、出現するようにはなっていたものの、此の段階で鍵を握っていたのは、神匠及びジークヴルムがプレイヤーに投げ掛ける『質問』に対する回答で、其の回答によっては手にしたユニーク遺機装(レガシーウェポン)の能力が、時が来るまでは使用に制限(ロック)が掛かるようになっている。

 

しかしSクリアをしている為、ペッパーは現状のユニーク遺機装の機能を、ほぼ100%出し切る事が可能となり、創世にとっては想定外どころの話ではないのだ。

 

第三段階クリアより先のクエスト(・・・・・・)は、受注こそ出来たとしても、シャングリラ・フロンティアの『ワールドクエスト』が第二段階へ進行しなくては、そもそも先に進まない。

 

しかしユニーククエストEX受注により、最強種を模したユニーク遺機装を探す事が可能となる為、見つける種類によってはユニークモンスター攻略へ、大きな足掛かりを作る事が出来るのだ。

 

「ペッパー…コイツは一体、ヴァイスアッシュとジークヴルムに、何て答えたの…?」

 

創世はペッパーというプレイヤーが解らない。

 

難解な此のユニーククエストを発見し、短期間の内にシャングリラ・フロンティアのワールドクエスト第一段階迄の間にクリア出来る、全てのクエストを制覇してしまった。

 

彼女は知らない、ペッパーというプレイヤーがヴァイスアッシュに対し、己が神代の夢を受け継ぎ守る勇者に成ると答えた事を。ジークヴルムの英雄たる者の質問へ、満点に等しい答えを提示してみせた事を。

 

ならば、自分がやるべき事は決まっている。

 

「次にペッパーが探しそうなのは何れか………可能性なら『リュカオーン』か、あるいは『オルケストラ』かしら?なら此のクエストに派生させて、此のモンスターを此処に……」

 

創生の神が、再び世界に筆を走らせる。

 

プレイヤーの思惑通りに、事を運ばせぬ為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨッシャアアアアアアア!遂に『フェアクソ』をクリアしたぞぉぉお!」

 

そして時を同じくして、1人のゲーマーが『試練』の時を越えた。

 

「しゃあ!今までの鬱憤に憎悪やら、まとめて『邪神(フェアカス)』に叩き込んでやったぜ!………しっかし、噂に違わぬ大作『クソゲー』だったわ。もう二度とやらねぇ」

 

VR機材を頭から外し、ソフトをパッケージに納めて、部屋の一角に在る本棚タイプの物置。其の中の『二度とやらない』に区分されたスペースに、パッケージを差し込んで、彼は大きく背伸びする。

 

「随分遅れちまったが、此れで心置きなく挑戦出来るって訳だ。問題は注文してから、届くのが『5月の初日』ってのがな…」

 

窓を開けて薄暗くなった空を見上げて言った。

 

「先に始めた『鉛筆戦士』や『モドルカッツォ』、それに『ブラックペッパー』……早いとこ追い抜かなきゃだな。待ってろよ、アイツ等!ぜってぇブチ抜いてやらぁ!」

 

彼の名は、陽務(ひづとめ) 楽朗(らくろう)。アーサー・ペンシルゴンが、ユニークモンスター・墓守のウェザエモン攻略メンバーとする最強のクソゲーマーが、誰もがクソゲーと叫ぶ『フェアリア・クロニクル・オンライン』を終え、誰もが認める神ゲー『シャングリラ・フロンティア』へと向かう。

 

世界が━━━━━動こうとしている。

 

 

 

 






クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす



※新章に向けての構想や骨組みの組み立ての為、1週間程お休みをいただきます


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我等は永劫の雲を晴らし、時代を拓く者也て
鉛筆が語るは、永劫の墓守人




新章開幕。墓守のウェザエモン攻略へ向け、準備が始まる




「ふぅ~…大変だったけど、充実した日に成ったなぁ……」

 

特殊クエストを攻略し、激動の一日を終えたペッパーはシャンフロからログアウト、現実へと戻った梓はVR機材を頭から外して大きく息を吐いた。

 

外は既に夕闇が帳を降ろして、肌寒さが残っていた風は夏へと向かう暑さが混じった物になり、季節は春から夏へ移ろうとしている。

 

「いやぁ、またとんでもない事になったわ…」

 

天覇のジークヴルムに名を覚えられ、彼を模倣したユニーク遺機装(レガシーウェポン)光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)を自分は獲得した。

 

現状スキルや魔法等を一切用いずに、ノーリスクで浮遊・飛翔・空中移動といったアクションが可能な一式装備は、地上系統のフィールドギミックやモンスターを全無視して、目的地に突き進む事が出来る。

 

もっと言えば、空中から『写真を撮影する』事が出来る様になるので、自分が居るエリアにはどんな物があり、採掘ポイントや敵のスポーン位置は何処か、最適なルートは何れなのかを導き出す事が容易になった。

 

古来より情報とは、其の時の状況により価値が変動する。戦局を覆し得る物には、多大な報酬が贈られる程で、スパイを送り込んでの収集も盛んに行われている訳だが。

 

「空中からの写真は、ライブラリに持っていったら買い取ってくれるだろうか?……いや、レディアントシリーズに気付くだろうから、絶対に駄目だ。

 

唯でさえ悪目立ちしてるのに、更に目立つ事になる。そうなったら俺のシャンフロライフは間違いなく崩壊して、最終手段のラビッツに雲隠れするしか無くなるわ」

 

『好奇心は猫をも殺す』という諺を思い出し、梓は己が浅はかな考えをした自分を罰する。と、彼のスマフォが『ピロリン♪』と、Eメールアプリに電子メールが1件着信して、其の内容を確認。

 

其所にはアーサー・ペンシルゴンことトワが、自分に送った『墓守のウェザエモン』に関する、とんでもない超機密事項満載の重大情報の数々だったのである………。

 

 

 

 

 

 

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件名:墓守のウェザエモンの事

 

from:鉛筆

 

to:胡椒

 

 

やぁやぁ、ペッパー君。ペンシルゴンお姉さんだよ~。今何処に居るのかな、君とたぁ~っぷりオハナシしたいんだけど、ログアウトしちゃったかな?

 

まぁ、後々でやるとしておいて…だ。取り敢えず…待たせたね。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンの攻略について、詳細を伝えていこうと思うよ。

 

先ずウェザエモンとの戦闘に関して言うと、問題点が幾つもある。

 

1つ目、墓守のウェザエモンとの戦闘開始時に、参加プレイヤー及びNPCに対し『レベル上限を50にする』スキルが発動する。此れは如何なる(・・・・)バフやアイテム、スキルや魔法を使っても、絶対に『無効化出来ない』。対するウェザエモンは『レベル200』。鑑定スキル持ちで確認したから間違いないんだけど、要するに私達はレベル差150での戦闘を、唯でさえ理不尽なユニークモンスター相手に強要させられる事になる。

 

 

2つ目にウェザエモンが繰り出してくる技。私ともう1人の経験者が、今までウェザエモンと戦ってきた時に確認出来た技を下に記載しておくから、ちゃんと目を通しておいて。

 

断風(たちかぜ):ガード貫通と発生1フレームの神速抜刀居合。予備動作を見切って弾くか、刀身の射程外に回避する以外に方法無し。ウェザエモン自身が高頻度で使う技、当たれば死ぬ。

 

雷鐘(らいしょう):広範囲への5秒間の連続落雷攻撃で、戦闘参加人数が多く、ヘイトが分散している程、着弾範囲が広くなる。ガード貫通は無いけど、其れでも驚異は変わらない。当たれば体力や耐久に、余程ステータスやバフを盛ってないと死ぬ。

 

入道雲(にゅうどうぐも):刀を持っていない手で雲の腕を作って、自身の周りを薙ぎ払う技。背後と腕より上が安全地帯で、予備動作も大きいから正直言うとデレ行動。ただ雷鐘の後に合わせられると、理不尽窮まり無い技。食らえば死ぬ。

 

火砕龍(かさいりゅう):ウェザエモンに3人以上のヘイトが向けられている状態でのみ使う技。刀を突き立てて、ランダムに1人の居る場所から竜を模した火柱が襲い掛かってくる。回避は出来るけど、此の技は後の灰吹雪とワンセットでヤバさが増す。

 

灰吹雪(はいふぶき):火砕龍の後に火柱が立った地面目掛けて、上空に留まる雲から、灰色の龍が連続で着弾する。此の技は当たると窒息死が適応されて、ある意味滅茶苦茶堪える。

 

 

 

3つ目が、戦闘開始から10分経過でウェザエモンが呼び出す『戦術騎馬・麒麟(きりん)』。馬みたいな見た目で脚が付いたダンプカーの、トンデモ馬力持ちの巨大メカ。

コイツは広範囲にミサイルやレーザーを撒き散らしながら暴れ回った挙句、ウェザエモンに合流して『合体』する。万が一にでも其れを許したら、ウェザエモンはケンタウロスみたいな見た目に変化。スーパーアーマーと馬の機動力でゴリ押しされて、其の時点で私達は負ける事になる。

 

ウェザエモンはおそらく『時間経過』を勝利条件とする、特殊なユニークモンスターと見て間違いない。此の戦いは一発勝負、ウェザエモンと麒麟各々で担当を設けて、セッちゃんを困らせる頑固者のアイツをブン殴るよ。

 

其れと、前にラーメン屋で話したサンラク君だけど、彼フェアクソを攻略して5月初めにシャンフロを始められる事がメールで届いたんだ。カッツォ君の方にも来たから間違いないので、ペッパー君の暇が出来た日が在ったらサードレマで、オハナシしましょ?

 

 

 

 

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「オハナシって絶ッッッッッッ対、ジークヴルムさんの事についてだろ……。あの時は他のプレイヤーも来てたから、スクショ撮る可能性は有った訳だしなぁ……」

 

メールの文面から絶対にロクな事にならないと、嫌な顔をする梓。そして彼は、トワが此迄に戦い得てきたウェザエモンの技の数々に目を通していく。

 

「ウェザエモンの攻撃、何れも此れも回避必須の即死攻撃のオンパレード。レベル差150の強要って、まともに殴り合うつもりも無しってかい…」

 

レベル差とはゲームに於いて、絶望を演出するには十分な要素だ。圧倒的な力を見せ付け、心を減し折って、反逆の意志を奪い取る。嘗ての世界の海を船で渡り、数多の国で植民地支配を進めた、列強の国々のやり方に似ている。

 

「だが………雷鐘に関して見れば、レディアント・ソルレイアの電撃吸収能力が役に立つ。装甲貫通能力持ちじゃなければ、雷を吸収して飛翔エネルギーに変えられるし、入道雲と灰吹雪も上空に飛べば、問題無く回避出来る。

 

其れに灰吹雪は、上に留まる雲を攻撃発動前に吹き飛ばせれば、ワンチャンだけどキャンセル出来るんじゃないか?」

 

光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)の飛翔能力とブースト、レディアント・ソルレイアの雷吸収が加われば、仲間達を守り、被害を押さえ込めるだろう。

 

無論、ユニークモンスターとの戦いでユニーク遺機装を持ち込み、大暴れ等した日にはペンシルゴンに、あれやこれやのオハナシ案件が待ち構えている。

 

しかし彼女は、本気でウェザエモン攻略を狙っている。其の為の準備を着々と進め続け、攻略メンバーも揃えつつある。ならば、此方だけ手を抜く等という無粋な真似は、失礼の極みに他ならない。

 

自分に出来る事は、今の自分が作れるマッドネスブレイカーや他ユニークウェポン、他にも攻略に役立つだろう武器製作、武器の改修をビィラックに依頼して、其の時に備えて準備を整える事だろう。

 

「問題は断風…攻撃発生激速・ガード貫通のおまけ付き。コレは本番で、刀とウェザエモンの腕の長さから、射程距離を測るしか無い……か。

 

………其れにしても、頭を使い過ぎた。…返信メール送ったら、シャンフロの事から離れて、今日の夕飯作ろう……」

 

トワへの返信として『攻略に役立つか解らないが、麒麟に効果が出せる武器を造れるかも知れない。作って欲しい武器のオーダーが有れば、聞いておくよ』と文章を綴り終え、梓は夕食の調理に取り掛かったのだった……。

 






レベル差150は、ステータスによる暴力の極み




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双皇甲虫の遺産、産み出すは雷槍と風刃



対ウェザエモン、新武器生産へ




ペッパーがシャンフロにて、特殊クエスト【颶風を其の身に、嵐を纏いて】をクリアし、次なるクエスト【想いの御手よ、境界線を超えて】と【七星の皇鎧よ、我が元に集え】を受注した日から、数日の時が過ぎた。

 

季節は4月が終わり、5月の始まりの日。世間では後数日で初夏の大型連休(ゴールデンウィーク)が始まるが、一部の職種や会社等に勤める者にとっては、縁遠い虚無となるものである。

 

そんな人によっては天国や地獄で割れる中、比較的天国側に居る梓は、大学での講義やコンビニのバイトをしながら過ごし、此の日も朝からバイトで忙しく働き。午後3時にバイトを上がって、スーパーで食材を購入しつつ、午後4時頃にアパートに戻って、必要な物以外を冷蔵庫に収納。

 

水分補給並びにトイレを済ませ、何時もの様にゲーム環境の構築と、日課に成った指差し確認を行う。

 

「夕食を含めた買い出しは出来た。VR機材の動作確認…OK。布団を敷いた、水分補給用の飲み物…良し。窓開け、ドアの施錠確認…完了。トイレもバッチリ。よし、やりますか!」

 

頭に装着し、仰向けで布団に寝転がった梓は、現実の世界より、シャンフロで嵐を巻き起こすプレイヤー・ペッパーとなって、未知なる世界を拓く者となるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ペッパーはん。久し振りなのさ」

 

シャンフロにログインして、兎御殿の休憩室に在るベッドで目を開いたペッパー。聞き慣れた声の御世話係たるヴォーパルバニー・アイトゥイルが覗き込む様に見つめていた。

 

「アイトゥイル、久し振り。早速だけどビィラックさんの所に行って、色々頼まないといけない物が有る。付いてきて」

 

「はいさ~」とアイトゥイルが頭に乗っかり、ペッパーはビィラックの元に向かう。

 

「ビィラックさん、御久し振りです!」

「おぉ、ペッパーか。また随分日が空いたの」

 

ビィラックが仕事場にしている鍛冶場に着くと、彼女は自分の使う道具を念入りに磨いて、入念なチェックをしており、此方に気付いて声を放った。ペッパーも実際、リアルが忙しく、数日間ログイン出来なかったのは、否定しない。

 

「此方も色々有りまして…黒鉄丸とアレの修繕って出来てますか?」

「おぅ。ワリャが修繕を頼んだ武器と、錆び付いた斬首剣をワリャ用に整えて、鍛え直しちゃきに」

 

ビィラックがペッパーのアイテムインベントリに、耐久値MAXまで回復させた太刀・黒鉄丸と、仕立て直しを行った武器を入れ、彼は其の内の一つたる武器の内容を見た。

 

 

 

 

 

焰将軍(ほむらしょうぐん)両刃長剣(ロングソード):喪失骸将(ジェネラルデュラハン)斬首剣(ざんしゅけん)を打ち直し、名匠の手により改め直した両刃長剣(ロングソード)

 

赤く光る刀身は高き熱により強く、より強靭な刃となり、今は遠く喪われた栄光を、持ち主と共に歩み、其の刃で再び世界に示さんとする。其れは再起であり、再生であり、再誕である。

 

首に対する攻撃時に、ダメージに補正が入る。

 

火炎属性及び炎熱攻撃による、耐久値減少を大幅に抑制する。

 

 

 

 

 

奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)にて戦った、レアエネミー・喪失骸将(ジェネラルデュラハン)。其のドロップした錆び付き果てた斬首剣は、此処に炎熱耐性を獲得した両刃長剣(ロングソード)へと生まれ変わった。

 

片手でも扱う事が出来、中距離対応可能なリーチを持っているコレは、今の自分にとって貴重な武器になる。

 

「ありがとうございます、ビィラックさん。其れと、新しい武器の製作を依頼したいのですが、良いでしょうか?」

「ほぅ?ペッパーはまた、面白い物でも思い付いたのか?ほれ、素材を出してみぃ」

 

クイックイッと利き手で手招くビィラックの言葉を受け取り、ペッパーはアイテムインベントリに仕舞っていたモンスターの素材を取り出す。

 

其れは死ぬ瞬間までも気高く、そして高潔な魂を示し続け、神代に示された蒼空を舞う夢と願いを紡ぐ者を待ち望み、己に託して逝った二体の甲虫皇が遺した、ドロップアイテム達だった。

 

「コイツは…!?ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの…!双皇甲虫達の素材じゃけぇ…!!で、コレで一体何を作るんじゃ!?」

 

颶風の申し子と雷嵐の申し子の素材に、ビィラックの眼は一際キラキラと輝く。というのも、シャンフロに於いて雷属性や風属性の武器・魔法等は、現状大陸の中盤以降でしか手に入らず、魔法を魔導書で習得出来たとしても、レベルアップや熟練度を高めるのに苦労する事になる。

 

故に最初から雷属性や風属性を内蔵している武具は、数多有る武器の中でも取り分け稀少度合が高く、シャンフロに在る『武器や防具のコレクト狂いのクラン』では、其れ等を常備する武器や武具、防具の買取を血眼になって行っているとかいないとか。

 

ペッパーはビィラックの腕前を信じ、其の上で数日前の返信メールに記載されていた、其の武器種の名前を彼女へ伝える。

 

「ビィラックさん。彼等の素材を用いて『太刀』を2本と『大槍』を造って頂けますか?大槍の穂先はカイゼリオンコーカサスの3本ある雄角を、全部使って構わないです」

 

 

 

━━━━━もし造れるなら、ウェザエモン攻略に関わった知り合いがメイン武器にしてる太刀の新造と、私が麒麟相手に対抗出来る雷属性の大槍を造って欲しい

 

 

 

其れがあの日、ウェザエモンの情報をEメールで送ったペンシルゴンが、此方の返信時の質問に対する解答で、機械属性のメカである麒麟に電撃を叩き込み、伝達回路をブチ壊せないかと考えたのだろう。

 

もう一つの太刀は、ペンシルゴンと共にウェザエモン戦経験者であるらしく、メインを太刀とする時代錯誤の女剣客なのだとか。二本製作の理由だが、一本をペンシルゴンのオーダー通りに其の知り合いに渡し、もう一本は性能確認で自分が使用する為。普通に使うか、性能を確認した上で使うかでは、後者の方が信頼度は高い。

 

「ペッパー、今回はワリャにしちゃ堅実なオーダーをしたの。じゃが、両手武器は夜の帝王のマーキングの影響で、使えんじゃ無かったのか?」

「武器は使えませんが、やっぱり一度は気になるし、憧れるんですよね。両手武器の格好良さとか、凄まじい破壊力に」

 

大剣・バスターソード・大太刀・ハンマー・ハルバート、etc……。現状、リュカオーンの呪いによって右手が使えない以上、製作しても意味が無いのは理解している。

 

其れでも憧れは捨てられない、夢は諦めたくは無い物で、慈愛の聖女イリステラに頼んで呪いを解呪する以外の、何らかの方法で両手武器を使えるようになりたいという、ペンシルゴンのオーダー抜きにしての、ペッパーが持つ、切なる想いなのだ。

 

「成程の、よぅ解ったけぇ。なら太刀に使うなら鋏とコレと……大槍は角とコイツと…コレを主体に使うかの。太刀は1本作るのに半日、大槍は造り終わるのに1日貰うがエェか?」

 

全て出来るのに二日掛かるが、問題無しと判断して「よろしくお願いします」と頭を下げたペッパー。

 

「ペッパーはん、此れからの予定は何か有るのさ?」

 

そんな時、アイトゥイルが質問してくる。夕飯調理までは時間も有るし、数日前に改修を頼んでいた『武器』も受け取りに行きたい。

 

「アイトゥイル、ファイヴァルへのゲートを開いてくれ。マッドネスブレイカーの成長派生形態、其の二つ目を取りに行く」

「はいさ~、任されたのさ」

 

ウェザエモン攻略に向けて、ペンシルゴンが準備を進めている。自分に出来る事は多くなく、限られているだろう。其れでも己が成せる事は、此の手で全てやりきる心構えでいる。

 

アイトゥイルと共に休憩室に帰り、彼女をマントの中に隠してゲートを越えようとしたが、危うくSFドラゴニックスーツのままで、街に繰り出そうとしていた事に気付き、装備をスーツ装着前の物に替え直し、改めてゲートを潜り抜けたのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梓がペッパーとして、シャンフロにログインした頃。新しいプレイヤーが開拓者として、此の世界に降臨する。

 

「………お?おぉ………って『森の中』?街からスタートじゃねぇのか」

 

出身:彷徨う者を選択した場合に、初心者用(ビギナー)エリアの何処かに、ランダムでスポーンする仕様を知らなかった『彼』は、辺りを見渡しながら簡易マップを調べている。

 

彼は『半裸』であり、同時に『鳥の被り物』を装備していた。というのも、シャンフロではキャラメイク時の初期装備売却による金額(マーニ)所持多めのスタートが出来るのだが、彼は其れを選択。

 

代償に耐久値は完全に捨て去られ、せめてもと顔を隠すのに選んだのが、此の『凝視(ぎょうし)鳥面(ちょうめん)』と呼ばれる、剥製にした巨大ハシビロコウの内部を繰り抜いた様な頭装備というモノで。

 

端から見ても『HENTAI』スタイルなのであった。

 

「体力30の耐久値3って……1回当たっただけでオワタ式ってか」

 

と、そんな事を呟く彼は殺気を感じて、ステップ回避で其の場を離れ。直後走った刃が彼の近くに聳えた木を、打ち倒して行った。向き直ると、包丁を握ったヴォーパルバニーが1羽居り、彼の頭を鋭い視線で見つめている。

 

「さて…神ゲーの戦闘って奴はどんなもんか、試させて貰おうか!」

 

レアエネミーを前に、インベントリの中にある『傭兵の双刃』を取り出して、両者共に逆手で構えつつ、刃の切っ先で迫るヴォーパルバニーの刺突を弾き、逆手で腹部を裂いて地面に叩き付け。

 

体勢を整えようとしたヴォーパルバニーに向けて、左手の傭兵の双刃を投擲。兎の頭に刃が刺さり、怯んだ其所に追撃の首筋目掛けた一閃で仕留め切った。

 

ヴォーパルバニーはポリゴンとなって爆散、持っていた包丁はドロップアイテムとして地面に落ち、同時に彼のレベルは一気に3つも上昇して、幾つかのスキルを獲得する。

 

「今の敵、ヴォーパルバニーって言うのか。ってかレベルが3つも上がったし、スキルも色々覚えた。レアエネミーって奴なのか?」

 

ドロップアイテムの包丁を拾いながら、彼は戦闘を経て感じた事を言い放つ。

 

 

 

「此処までバグらずに戦闘出来るって凄くね?」

 

 

 

………と。

 

 

 

 

 

 

 

 

プレイヤーネームは『サンラク』。

 

本名を陽務(ひづとめ) 楽朗(らくろう)

 

クソゲーハンターが、神ゲーたるシャンフロへ降り立った瞬間だった。

 

 






双皇甲虫の素材を用いた、烈迅と稲妻の武器




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相剋なる小鎚と生命の碑石採掘



ユニーク小鎚の派生と、最後の一つの製作の為に素材集め





アイトゥイルの開いたゲートを潜り、ファイヴァルの裏路地に出たペッパーは、アイトゥイルに物陰で隠れるよう指示を出しつつ、付近一帯に不審な影や人物が居ないか確認。

 

風が吹き荒ぶ街中を駆け抜けて、武器屋に突入するとカウンターより此方を見つめる、鍛冶師の老婆が一人で店番をしていた。

 

「おやおや…ペッパーさん。そろそろ来る頃だと思っていましたよ…ホホホ」

「お婆様、御久し振りです」

 

ペコリと一礼してカウンターに歩み寄ると、彼女は語らずとも静かに、ペッパーが何を求めて来たのかを察し。カウンターにゴトリ…と一本の小鎚と、忍者ゲームでよく見るジャパニズムを感じる、一本の巻物を乗せる。

 

其の小鎚は『相剋』という言葉が、似合う存在であった。

 

片面は灼熱を帯びるマグマの様な、身体を流れる血脈の如き紅玉(ルビー)の深みと、真紅に等しい煌々たる明るさを持ち。

 

片面は轟流の流れを感じる怒濤の水の様な、しかし淀み無き青玉(サファイア)濃藍(こあい)と、深海に等しい底知れぬ深さと暗さを持ち。

 

持ち手と繋ぐ場所を挟み、其の両面は互いに相容れる事は無く。然れどて、其の身より放つ熱と冷は、互いが負けじと力を出し合う事で其の力を伸ばし合い、一つの武器の(かたち)と成りて此処に在る。

 

「名前は……そうさね。炎と水、相反する属性同士。『ヴァンラッシュブレイカー』とでも名付けようかねぇ…。

 

そして…此の小鎚の製造工程を記載した、巻物も渡しておくわ…。ペッパーさんなら、正しく扱えると思うからねぇ……ホホホ」

 

其の台詞がトリガーと成ったのか、ロックオンブレイカーの製造秘伝書が飛び出して、巻物が其所に吸収されて消滅。ペッパーはヴァンラッシュブレイカーをアイテムインベントリに収納し、其の性能をチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァンラッシュブレイカー(ユニーク武器(ウェポン)):マッドネスブレイカーに栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)で採掘出来る、炎水剛岩(ブルレットロック)を用いて育成した成長派生形態の1つ。

 

灼熱の焔たる赤と波濤の如き青の、相剋せし属性を一つの小鎚に宿した其れは、人の成せし御業の形であり、放つ一撃は触れた物質の悉くを焼き付くし、放つ一撃は触れた物質の悉くを押し流す。

 

鉱石を喰らう大蚯蚓の魂は、異なる力を一つの石に納めた神秘すら食らい尽くし、其の権能さえも己の力に取り込み、進化していくのだ。

 

攻撃時にインパクト部分によって、炎属性と水属性の属性攻撃能力を付与(エンチャント)する。

 

此の武器で鉱物系アイテムを砕いた場合、其のアイテムを破壊し、希少度合に応じて耐久値を回復する。

 

 

 

 

ロックオンブレイカーの製造秘伝書・改弐式:ユニーク武器・ロックオンブレイカーの生産、及び成長形態を製作する際に必要となるレシピ。武器屋で鍛冶師に見せる事で、素材を用意すれば生産可能となる。

 

此のアイテムはアイテムインベントリには含まれず、他者によるPKをされても、プレイヤーの手元を離れない。破棄不可能。

 

 

 

 

 

 

 

(ギルフィードブレイカーがある意味で『正統成長形態』とするなら、ヴァンラッシュブレイカーは『属性特化形態』への成長って感じなんだな。

 

火属性と水属性の両方を使えるようになるのは、普通に戦略の幅が拡がるし、光と闇を従える的な物に通じる、中二病チックなロマンを感じるぞ…!

 

というかムカデミミズの奴、鉱物の権能さえ食い尽くして、其の力にさえも適応するとか…どんだけ進化に対して貪欲なんだよ……。いや、其れがマッドネスブレイカーが3つの成長分岐に対して、大きな影響を与えてるんだろうけども)

 

「ありがとうございます、大事に使わせていただきます」とペッパーは老婆へと礼と頭を下げて、武器屋を跡にし裏路地へと走り去り、アイトゥイルと合流。

 

アイテムインベントリに在るMPポーションを手渡し、兎御殿に帰還。其所からシクセンベルクの裏路地へとゲートを繋いで、千紫万紅の樹海窟に走って行く。

 

全ては、マッドネスブレイカーに残された最後の成長派生形態、其の育成に必要となる生命碑石(エナジーストーン)を採掘する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何度目になる見慣れた樹海へとやって来た、ペッパーとアイトゥイルは、他プレイヤーに見付からないように草木の影を利用しながら、視野を広く持ちながらフィールドを散策する。

 

木の根元や苔が生えた壁を、注視して虱潰しに見つめ続けて、彼は地表に競り出した人の背丈程の高さがある、白い山を発見した。

 

其の山は所々に小さく、翡翠の光を放つ緑色の粒が光を放っており、ペッパーはアイテムインベントリからマッドネスブレイカーを取り出して、連続で打撃を叩き込みながら、採掘を開始。

 

ドロップしたのは、表面が鶏卵の殻のような肌触りと、翡翠の粒が無数に点在する白い楕円形の丸石で、アイテム名には『生命碑石(エナジーストーン)』と記されていた。 

 

目的の鉱物を掘り当て、アイテムインベントリに入れながらペッパーはふと、生命碑石の内容から此れを用いて育てたマッドネスブレイカーの、成長形態の能力予想が出来ないかと考え、早速確認してみる事に。

 

 

 

 

 

生命碑石(エナジーストーン):千紫万紅の樹海窟に点在する白山から採掘出来る、純白の丸石。樹海窟にとっての此れは、木々と苔の成長の過程の中で産まれた恵みの、ほんの僅かな一欠片に過ぎない。

 

石の中にある翡翠の粒達は其の昔、取り出して細かく砕き、薬草と共に煎じる事で万能の薬としても機能し、毒草と共に万物を死に至らす劇物とも成った。

 

強すぎる回復力は、他者を活かすも殺すも可能なのだ。

 

 

 

 

 

(まぁた、とんでもない鉱石だなぁ………しかも人の病を直せる薬にも、人殺せる劇物にもなるって……薬と毒は表裏一体って訳ですかい。

 

という事はだ、生命碑石で作る成長形態って『回復(ヒール)&吸収(ドレイン)』みたいな、所謂『特殊能力特化』みたいな感じに成ったりするのか……?

 

ちょっと怖いね…うん。でも、そうならないかも知れないから、大丈夫だろう…そう思おう………)

 

生命碑石を用いた、マッドネスブレイカーの成長派生形態に不安を覚えつつも、ペッパーは採掘ポイントを粗方堀尽くし、十分に育てられるだけの量を確保。

 

このまま帰るのも味気無いと思い、甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)の改修に必要な素材を確保するべく、クアッドビートルとエンパイアビー・クイーンの巣を狩る事にし。

 

およそ1時間程の捜索&戦闘で、クアッドビートルを4匹とエンパイアビー・クイーンの(コロニー)を5つ程陥落させ、其の過程で様々なスキルと武器を、戦闘中に複数使いこなし、色々な戦法を試しに試して、そして理解し。

 

4匹目のクアッドビートルを、ギルフィードブレイカーで頭殻を打ち砕いて倒した瞬間、ペッパーはレベルが1つ上昇。

 

致命魂の首輪により、通常の2倍必要となる戦闘経験の積み重ねが、此迄のスキルを更なる高みへ昇華させ、新たなスキルの開眼が、彼をより強くする。

 

「よっし、こんなもんで良いかな。素材も此れだけあれば、改修も少しは捗るだろう」

「ペッパーはん、何時も以上に気合が入ってるのさ」

「そうかな?クアッドビートルや、エンパイアビー・クイーン達。呪いを受けた身の俺と戦ってくれた事に感謝してるし、そんな感謝を全身全霊全力全開で示してこそ、意味が有ると思うから」

 

 

『獅子は兎を狩る時も全力を以て行うべし、其れが王たる者の生き様であるが故に』

 

 

百獣の王者・ライオンとなって、広大なサバンナを駆け回り、己の手で王国を築くレトロゲームで、先代の王者にしてプレイヤーが操作するライオンの父親が、王位を譲り渡す際に贈った言葉をペッパーは思い出す。

 

「さてと!フォスフォシエに戻ったら、マッドネスブレイカーの育成を依頼して、奥古来魂の渓谷を越えて先のエイトルドと、兎御殿を繋げられるようにしよう。アイトゥイル、行こう!」

「はいさ、ペッパーはん!」

 

こうして1人と1羽のパーティーは、新たな街を目指して進軍を開始する。目的地はエイトルド、立ち塞がるは奥古来魂の渓谷のエリアボス、合唱髑髏の異名を持つ『歌う瘴骨魔(ハミング.リッチ)』だ。

 

 

 

 






胡椒は戦う、己が持ちし武器の為




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胡椒と黒兎は死者の谷で、合唱髑髏の首を断つ



ペッパー達、エリアボスを倒しにいく

※シャンフロwikiを調べていたところ、レベルが付くスキルに関してのミスが有ったので修正します


 

 

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PN:ペッパー

 

レベル:41

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 15 魔力 10

スタミナ 90

筋力 85 敏捷 95

器用 45 技量 70

耐久力 61 幸運 25

 

 

残りポイント:12

 

 

装備

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

アクセサリー

 

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

 

所持金:984,300マーニ

 

 

致命極技

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未解放

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未解放

 

 

致命武技

 

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】参式

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】弐式 

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】弐式

 

スキル

 

・サイスオブスラッシュ

命尽突(めいついとつ)

・レペルカウンター→パウリングプロテクト

・ブーメランスロー

・アルゼイドエッジ→選択可能

・メイアスワーク→ソラスティワーク

・ボルベルグストライク

・グラシャラスインパクト

・ストレングス・スマッシャー レベル5→レベル7

・オーバートップビート→アンブレイカブルソウル

・インファイト レベル4→レベル7

・七艘跳び→八艘跳び

・スケートフット→ドリフトステップ

・ジェットアタック→ストリームアタック

・十字斬 レベル3→レベル5

・バリストライダー→ボルテックスムーヴ

・アクタスダッシュ レベル6→レベル8

・ステックピース レベル4→レベル6

・握擊 レベル3→レベル5

・投擲 レベル4→レベル6

・クライムキック レベル7→レベルMAX

・首断ち レベル5→レベル8

・ムーンジャンパー

・ボディパージ レベル5→レベル7

・ライフオブチェンジ

・ストレートフィスト→スマッシュナックル

・背面蹴り レベル4→レベル7

・トリスフリップ→フォースフリップ

・フルズシュート レベル5→レベル8

・オプレッションキック レベル3→レベル6

命撃鐵破(めいげきてっぱ) レベル1→レベル2

一撃絶壊(いちげきぜっかい) レベル1→レベル3

羨望合炙(せんぼうがっしゃ)

・挑発 レベル1→レベル4

壱心臥斬(いっしんがざん) レベル1→レベル3

深斗止水(しんとしすい)

連刀五刃(れんとうごじん)連刀七刃(れんとうしちじん)

罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)

・クラッシュレッジ

・ヴァーティカルセンス

速刃(そくじん)(つゆ)(ばら)い】

・チェインズアップ レベル1

・チェインズブート レベル1

一振両断(いっしんりょうだん)

隕石落蹴(メテオ・フォール)

・ラッシュスティック

・ベラスティ・ニー

・ラッシュキック

・ハンズ・グローリー レベル1

・パワースラッシュ レベル1

・ナックルラッシュ

・ブランシュ・クロッサー レベル1

・ライオット・スート

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

千紫万紅の樹海窟よりフォスフォシエへ戻り、武器屋で生命碑石でのマッドネスブレイカーの育成を依頼して、2日後に完了すると聞いたペッパーは、旅人のマントの下にアイトゥイルを隠しながら、レベルアップによって新規習得したスキルや、進化したスキルを確認していた。

 

其の脚はひたすらに、真っ直ぐに、奥古来魂の渓谷のエリアボスが居る場所を目指して直走っている。

 

「致命魂の首輪には感謝しか無いな…色々面白いスキルも覚えたし、クアッドビートルの甲殻が堅いお陰も有ってか、打撃系スキルの確認も沢山出来たからな」

 

エンパイアビー・クイーンを擁する(コロニー)には斬撃系武器とスキルを、クアッドビートル相手には打撃及び格闘系武器とスキルを駆使し、各々のモンスターに見合った戦闘方法で戦い。

 

バフや移動スキルも惜しむ事も無く、エンパイアビー・クイーン達に、クアッドビートルへとぶつけた結果が、こうして結実していっているのだと考え、自然と笑みが溢れる。

 

「ペッパーはん、楽しそうさね」

「解る?自分がメキメキと強くなってるって感じる時、人はもっと頑張るぞって気持ちになれるんだ」

 

渓谷の谷底を走り、道中で出逢うワイバーンゾンビ達が尻尾を巻いて逃げるならぬ、尻骨を巻いて逃げ去るのを横目に、1人と1羽は真っ直ぐに此のエリアのボスが待ち受ける、瘴気の発生源に向かっていく。

 

数分後、ペッパーが目撃したのは半円形状に張られた、黒いドームの様な物であった。

 

「もしかして此処かな?エリアボスが居る場所って」

 

早速突撃を………と思ったペッパーだったが、一度踏み留まって、ステータス画面を開くやレベルアップで得たポイントを体力に10振り分け、調整を施しに掛かる。

 

更に彼はアイテムインベントリの中に在る、アンデット系モンスターに有効な聖水の残数をチェックした。

 

「ペッパーはん、入らないのさ?」

 

アイテムインベントリを確認しているペッパーを見たアイトゥイルが、エリアボスに挑まないのかと疑問を投げ掛けて。彼は彼女に理由を述べつつ、こう質問してきた。

 

「聖水の数は確認しておきたくてね。其れとさアイトゥイル、今更になるが『酔伊吹』ってスキルは『瓢箪水筒』の中に入ってる酒を、口に含んで繰り出すんだよね?」

「?そうさね、でも其れがどうしたのさ?」

「じゃあさ…其の瓢箪水筒の中に『聖水』を入れて、お酒と混ぜて(・・・・・・)酔伊吹を繰り出す事って……出来る?」

「出来るさね」

「OK、瓢箪水筒を出して。此方聖水です、混ぜておいて下さい」

 

彼女の即答に、彼は消費アイテムの聖水を手渡し。インベントリから焰将軍(ほむらしょうぐん)両刃長剣(ロングソード)と投擲玉を取り出して、スキル:握撃を用い、林檎の果実を握り潰すが如く搾り、玉の中から出て来た液体を、赤い刀身に纏わせていった。

 

「ペッパーはん、何をするつもりなのさ?」

「フッフッフ……実は此のエリアのボス相手に、試したい事が有ってね」

 

聖水を瓢箪水筒に入れて、シェイクするアイトゥイルにペッパーはニンマリと笑っていた。

 

「準備よし、体力にポイント振った、いざ行かんエリアボス!」

 

意を決して黒いドームの中へ足を踏み入れた、ペッパー&アイトゥイルが目撃したのは、身長がおよそ3mで、間接が2つは有ろう長い腕と、其の第二間接から先の指先まで掛けて、皮膚が削がれて筋肉の繊維が見えており。

 

奥古来魂の渓谷の何処よりも、濃厚で重圧な瘴気を黒いドレスに変えて纏い、其の右手には顎骨を棒に括り付けて、円状に配置した気色悪さが際立つ、黒髪髑髏の女の姿であり。

 

奥古来魂の渓谷のエリアボス・歌う瘴骨魔(ハミング.リッチ)が其所に居た。

 

「アイトゥイル、早速だけど酔伊吹を頼む!」

「任されたさね!」

 

事前準備で瓢箪水筒に混ぜた、聖水入りの酒を口に含み、妖炎に変えて放つ酔伊吹を繰り出した瞬間。ペッパーは焰将軍の両刃長剣を前に翳して、其の炎の中に刀身を突っ込む。

 

すると、其の赤き刀身は炎を纏いて燃え上がる。

 

「ペッパーはん…もしかして、これがやりたかった事なのさ?」

「其れも有るけど…理由はもう1つあるんだ」

 

そう答えつつも、彼の視線と燃え上がる剣の切っ先は、瘴骨魔へと向けられる。

 

「アイトゥイルの酔伊吹に使う酒に、聖水を混ぜ込んだ妖炎。ビィラックさんが仕立て直した、炎熱耐性持ちの焰将軍の両刃長剣。

 

そしてエンハンス商会で売られてた、着弾箇所に『可燃性の油』を付与する『投擲玉(とうてきだま):炸油(さくゆ)』の中の油を刀身に塗り付けて、アイトゥイルの聖水含んだ妖炎を纏わせた。

 

敢えて名前を付けるならば…『聖妖炎両刃長剣(カオスバーン・ロングソード)』が似合うだろうか」

 

赤く、紅く、朱く燃えて、赫焉を放つ刀身が瘴気に満ちる霧の中で、煌々と聖なる輝きを放ち。其れを見た瘴骨魔(リッチ)が、耳に聞こえる程の歯軋りを鳴らして、全身からドス黒い瘴気を放つ。

 

『ギィィイイイイイイイイイガァアアアアアアアアアアアアアアァアァアアア!!!!!』

「少し肌が焼ける感じだが…!俺にデバフは効かないよ、髑髏の乙女さん!」

 

しかし其の瘴気も、リュカオーンの呪いを受けたペッパーの体力を、ほんの僅かに削るのみに留まり。彼は其の間に、自身のスキルを次々と点火する。

 

『ボディパージ』で、耐久を犠牲に器用と敏捷を。『ライフチェンジ』で、体力を削って筋力を高め。心拍数が一定以下での斬撃系武器による攻撃時、クリティカル発生率を上げる『深斗止水』を重ね掛け、敵の注目(ヘイト)を集める『挑発』で視線を引き寄せ。

 

左手に持つ焰将軍の両刃長剣を、逆手持ちにスイッチ。『背面蹴り』で地面を蹴って、直線と鋭角移動時に速度の高速化を行う『ボルテックスムーヴ』でスタートを切り。

 

滑走と急旋回を可能にする『ドリフトステップ』に、ステップと慣性による移動時のスタミナ消費を1/3まで抑える『ソラスティワーク』。そして移動・攻撃モーションの両方をスタミナ消費で、任意の速度へ変速を可能にする『ストリームアタック』。

 

スキルの重ね掛けに応じた移動距離の増加を行う『チェインズブート』によって、剣道の世界で言う所の『縮地法』で敵が反応するより尚も速く、数回のステップを絡めた状態で、己と両刃長剣の決殺距離(キリングレンジ)に侵入。

 

逆手での攻撃時に、クリティカルで低確率だが『即死』を付与する『サイスオブスラッシュ』。首に対するダメージ補正を高める『首断ち』。自身の敏捷を参照とする、斬撃スキルの『速刃【露払い】』に、発動者に最も注目(ヘイト)を持つ相手への、斬撃による攻撃時にダメージ補正が上昇する『壱心臥斬』。

 

そして筋力を参照する斬撃武器によるダメージ補正を上昇させる『パワースラッシュ』と、直剣や大剣系武器を用いて繰り出す『一振両断』、積み重ねたスキル数に応じてダメージ補正を大幅に上昇させる『チェインズアップ』でブーストし。

 

「首へのダメージ補正上昇効果に、聖水を含んだ妖炎による属性付与(エレメント.エンチャント)。そして俺が持っている、ありったけの攻撃スキルとバフスキルを重ね合わせた━━━そんな攻撃が加われば」

 

其れはスキル込みでこそあった。が、其れでも。彼の放った逆手による斬撃の一撃は、確かに達人が如き『居合斬り』の一閃で。

 

歌う瘴骨魔(怒れる彼女)の首を、一撃で断つ事も不可能じゃないッ!」

 

弱点属性×武器の特性×攻撃速度×攻撃スキルが織り成し、合わさりあった四重奏(カルテット)が、瘴骨魔の首骨を一刀の元に斬り裂き、断ち切り、焼き祓っていたのである。

 

首を断ち斬られた瘴骨魔は、断末魔すら挙げる間も無く、ポリゴンは爆散。ペッパーは炎を振り払う形で鎮火しつつ、残心と共に赤い刃を構えた。

 

「歌う瘴骨魔よ。一刀必殺の為に戦ってくれて、ありがとうございます」

 

振り返りつつ一礼を行って、ドロップアイテムを回収して先に進み。

 

ペッパーとアイトゥイルは、シャンフロ第8の街にして、水晶を用いて結晶と共に生き。快晴と夜になれば街の影と闇は煌めきによって払われる、美しき場所たる『エイトルド』へと到着したのであった…………。

 

 

 

 

 






改め直されし両刃長剣(ロングソード)が、死霊の首骨を断ち斬る




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汝、怒濤の大河を渡れ(但し正攻法以外を可とする)



ペッパー、新エリアへ




水晶工芸が盛んな街・エイトルド。水晶巣崖の侵食を受ける此の街は、定期的に押し寄せる水晶を間引き、其の際に採掘された水晶を用いた加工・整形が盛んに行っており、街の至る所に水晶が使われている。

 

其の為、水晶系武器及び防具が脅威的な格安の値段で入手出来る街として知られ、サードレマから大まかに『3つのルート』に分かれる中でも人気が高く、中級者プレイヤーが選ぶ一式装備ランキングで、ベスト5に食い込む程だ。

 

そんなエイトルドにやって来たペッパーとアイトゥイルは、夕方の街並みに水晶灯の魔力光が放つ、仄かな輝きが少しずつ影と闇を照らし、現実世界のネオン街に似た明るさを得ていく中を駆け、静かな裏路地に入って彼女が兎御殿とエイトルドのランドマークを繋ぎ、往来を可能にしていく。

 

「これで此処と兎御殿は何時でも行けるのさ」

「ありがとうアイトゥイル、MPポーションをどうぞ。其れと今日最後の一仕事として、兎御殿に戻った後にシクセンベルトに向かいたいんだ。良いかな?」

「ん…他のエリアも攻略するのさ?」

「あぁ。其のエリアは『正攻法』だと攻略に時間が掛かるが、今の俺達なら多分『其所まで』時間が掛からずに、エリアボスを倒せる………と思う」

 

「任せてさ」とアイトゥイルがゲートを開き、ペッパー達は兎御殿を経由して、シクセンベルトへと向かったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンフロ第6の街・シクセンベルトは、2つのルートへと分岐する街である。

 

1つは、高地である此の街から先の道を登り、シャンフロ第10の街で、大陸では最も高地に在るとされる『テンバート』へ向け、雲海によって足元が満たされた『雲上流編(うんじょうりゅうへん)雲海地(うんかいち)』という、視認性が悪くなった道を慎重に進むルート。

 

もう1つは、街から続く坂を少しだけ下り、轟々と唸りを上げては、大質量の水流が流れる大河を泳ぐか、飛び石の様に設置された足場を渡るかの二択ながら、現実的に飛び石を渡る以外の選択肢無しの。そして落水=溺死に直結する、危険なエリア『翔風桜結(しょうふうろうけつ)大河(たいが)』のルートが在る。

 

現在、ペッパー&アイトゥイルが来たのは後者の大河ルートであり、夕焼けに照らされながら走る広大な激流と、大型リゾートプールで見たようなターザンアスレチック味を持つ、無数の飛び石が目の前に広がっていた。

 

「事前に情報を調べてはいたけど…絶対飛び石に乗ったら崩落する系のギミック有るでしょ」

 

彼の予測は当たっている。事実、此の大河を渡る場合は正しいルート上にある、飛び石を渡らなくてはならず、一歩間違えようものなら怒濤の水流に押し流されて、溺死する以外の道は無くなるのだ。

 

「夕日染まる激流…跳ねて舞うは兎の如く…なのさ」

「出来るなら、満月の空の下で挑んでみたい気持ちは有るけれど………日が完全落ちる前にエリアボスを倒して、先に在る街にもランドマークを付けるよ」

 

ペッパーはそう言い、アイテムインベントリからレディアント・シリーズ一式装備と籠脚を取り出し、現状装備を入れ換えて次々と装着。

 

起動の合い言葉たる『目覚めよ(Wake up)!』の掛け声で、光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)を覚醒させて、ホバークラフトのように高速浮遊滑走を開始する。

 

「ペッパーはん、まるでアメンボみたいなのさ」

「飛び石の正解ルートが解らないなら、そもそも着地せずに浮遊して渡れば、何の問題も無いってね」

 

一式装備を持ち込んでのエリア攻略。其れも空を飛べたり、浮遊しての移動が出来る代物ともなれば、目撃された場合に色々と面倒事は避けられない。

 

成れば、自分が取るべき方法はただ一つ。

 

「最短で!最速で!此の大河を突っ切る!」

 

レディアント・ソルレイアのモジュールから出る、白翼のオーロラが唸り、頂星煌炉心(ビッグバンピース)から無尽蔵に等しいエネルギーが常に(・・)充填され、使った傍から補給される事で、グングンとスピードが上がっていく。

 

改めて思うが、本当にヤバい。常にエネルギーが補給され続ける上に、やろうと思えば成層圏すらも飛び越えて、宇宙の果てまで飛んでいけるだろ、此のユニーク遺機装(レガシーウェポン)

 

ジークヴルムが言っていた『其の気になれば、自分と同じ高さまで飛べる』の意味を、全身に纏って運用してみたからこそ、初めて理解出来た。

 

「まぁ、成るようになるだけだな…」

「ペッパーはん…?」

 

思考は止めない、問題は見られた場合の対処だ。要は自分の名前が入って、尚且つ此の装備のスクショを撮られなければ、情報の拡散までに時間が掛かる。

 

人間とは基本的に、空想という物を信じない。其の空想を現実に変える、頭のネジがブッ飛んでいるイカれた少数派(マイノリティ)の連中は居たりするが、殆どが其れを否定する多数派(マジョリティ)だ。

 

出来る訳が無い、そんな事は不可能だ、頭オカシイんじゃねぇの?という意見は、正に其の多数派の意見で少数派を押し潰すのに、此程うってつけな言葉は無い。そんな多数派の戯れ言を、少数派はブッ飛ばして空想を現実に変えてきたのだが。

 

「!」

 

そんなペッパーの装着し、フルフェイスヘルメットたる機能を持つレディアント・ヘルメイトが、大河の中腹辺りに一際大きな飛び石が在り、其所で複数人のプレイヤーが休んでいる姿を捉える。

 

「アイトゥイル、確り掴まってて!」

「はいさ!」

 

脇腹に掴まるアイトゥイルを支える様に、右腕を彼女の背中にくっ付け、速度で彼女が飛ばないよう固定し。

 

金色のエナジーウイングが煌めき、四肢の白翼のモジュールが唸り、速度が更に上がって。大きな飛び石を過ぎる頃には、金の閃光が軌跡を残して行ったのみ。

 

其の後に吹き荒れた突風と遅れて発された水流の波が、休んでいた開拓者達にぐっしょりと引っ掛かり、彼等彼女等は新手の奇襲かと身構えたものの、何も無かった事に怖いモノを覚えたのだとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…他のプレイヤーには、何とか気付かれずに越えられたかな」

 

ハイスピードでの浮遊滑走を緩め、エリアボスが潜んでいるであろう、シクセンベルトの対岸付近までやって来た。

 

普段は濁流であるはずの大河は、此の近辺だけ『複数の飛び石』が入り組んでいる事により、川の流れが比較的穏やかになっている。

 

「ペッパーはん、此処だけ『嫌な感じ』がするのさ」

「あぁ、油断しないでいこう━━━!」

 

背後より殺気を感じ、浮遊滑走で避けた彼等の頭上を、ピラニアの牙と頭・アリゲーターの顎と胴体と四肢・サンショウウオの滑りが掛かった体皮。

 

全長8mクラスは在ろう、翔風桜結の大河のエリアボス『熾烈な鯢鰐(ドメスティボルゲーダー)』が、此方に瞳孔を向けながら着水していく姿を捉えた。

 

「アイツか!此のエリアのボスってのは!」

 

本来(・・)は無数の飛び石による移動の制限、何処から襲い掛かるか解らない恐怖。加えて落水すれば、水中という慣れない環境下で、敵の独壇場での戦いを強要。

 

挙句にシャンフロのモンスターの中では珍しい『捕食モーション』によって、四肢を、胴体を、頭蓋を、脚を噛み砕かれて、殺される。

 

更に此処のエリアボスの体力は、中盤訪れるエリアでは其れなりに高く、ぬめりを含んでいる皮膚によって、斬撃・打撃の通りが悪く、攻略法としては鯢鰐の皮膚を魔法か炎属性武器で水分を取り除き、其所を集中狙いすれば比較的倒しやすくはなるのだ。

 

「先ずはアイツを岸に引き上げて、地上戦に持ち込む!」

 

ペッパーはそう言い、水中を潜る相手を水上に引っ張り出す為、アイテムインベントリから以前に涙光の地底湖でのパワーレベリングの際に、ペンシルゴンから渡された『釣竿』と、エンハンス照会で購入した『釣餌:生肉』を取り出して、針に生肉を括り付けるや、水面に投げ入れて浮遊滑走を行い、岸側へ誘い込む。

 

実は此の鯢鰐、釣竿を用いた『フィッシングアクション』で釣り上げる事が可能で、パーティーを組んだならば、機動力の有る職業持ちが避けタンクを担い、他メンバーは対岸に辿り着き次第、釣竿を使って鯢鰐を釣り上げ、水中から地面に引きずり出して、炎属性武器や魔法で叩くという物である。

 

そして其れを現在、避けタンクを兼任しながら、フィッシングアクションが出来、尚且つ水上に居ながらに可能としているのが、光輝へと昇る金龍王装を装着しているペッパーで。飛び石の合間の水面を浮遊し、垂らした釣り針に着けた生肉を揺らして、鯢鰐を誘き寄せるべく、スキル:挑発で注目(ヘイト)を買って岸に誘い込む。

 

「来た!食い掛かった!」

 

フィッシングレトロゲームで、現実の釣り堀で、シャンフロでライブスタイド・デストロブスターの釣り上げで経験した、獲物が食い付いて釣竿にズシッと来る、形容し難い此の重さが、鯢鰐が食い付いた事を指先から電気信号を以て、己に教えてくる。

 

釣糸を通じて相手の進行方向と逆になるよう、釣竿を倒して体力の消耗を促し、泳がせ、引っ張り、相手を自分のペースへ陥れ。

 

「オラッシャアアアアアアアアアアアア!!!」

 

一本背負いの要領で釣竿を引き、水中にいた鯢鰐を岸辺に引き摺り出す事に成功する。

 

『カロロロロロ…!』

「さぁ、此処からは一気にギアを上げてくぞ!サンショウワニ!」

 

釣竿をインベントリに収納、スイッチする形で取り出すは新しい武器。炎水剛岩(ブルレットロック)を用いてマッドネスブレイカーを育成した姿たる、ヴァンラッシュブレイカーを左手に握り締める。

 

『ガロロロァアアアアアアア!』

「先ずは何処を狙うのが正解か、其れを見極めからだ!」

 

開かれる大顎の噛み付きを躱わし、エリアボスを水辺に戻さないよう、常に背後に大河を来るように位置取る。

 

尻尾による薙ぎ払いをレディアント・ソルレイアの上昇で、突進攻撃をパウリングプロテクトで弾きつつ、ペッパーは得てきた情報を元に、攻略方法を組み立てていく。

 

「噛み付きは大振りで破壊力抜群、尻尾による薙ぎ払いも広範囲で厄介だし、突進攻撃も十二分のスピードだ。だがしかし、水中よりも動き自体は遅い。もしかしてサンショウワニ、地上戦が苦手なのか?」

『ガロロロァアアアアアアアァアアア!!!』

 

どうやら正解であるらしく、咆哮による怒りを顕にする鯢鰐だが、顎を上げて咆哮を行ったのをペッパーは見逃さない。

 

「チェッ━━━ストォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

 

ヴァンラッシュブレイカーの炎熱を放つ緋色の面が、下顎をアッパーカットの如く、フルスイングでブッ叩く。其の衝撃に鯢鰐の巨体はフワリと浮き上がり、背中から地面に倒していく。

 

たった一回の打撃にペッパーが重ねたスキルは、小鎚・鎚を用いての打撃を直撃させた箇所に、丸い弱点部位を『刻み付けて』、ダメージやスキルの影響を其の部位へ『ストック状態』とし、再び其の箇所を叩いた場合に其の時の攻撃ダメージと補正を『乗算』させる、致命鎚術【満月押印】。

 

鎚系統の武器での攻撃時に『装甲貫通能力』付与を追加する『命撃鐵破』と、打撃スキルによる攻撃時に破壊属性を乗せる『クラッシュレッジ』。駄目押しに自身の筋力と技量を参考として、ダメージ補正を上昇させる鎚武器系攻撃スキル『ボルベルグストライク』を使用したのである。

 

『ガロァアアアアァァアギャルォオオオオオオオオオオ!!!!!!!』

 

が、強力なノックバックで引っくり返されたにも関わらず、直ぐ様巨体を振り子の様に左右へ振った鯢鰐は、早々にダウンから復帰して再び噛み付きに来た。

 

「アイトゥイル!」

「はいさぁ!」

 

マントから現れたアイトゥイルが、瓢箪水筒の中にある酒を含み。ペッパーは右手に投擲玉:炸油を握り、スキルの握撃で握り締めてギミックを起動。同時にスキル:投擲で鯢鰐の口を目掛けて投げ、アイトゥイルが酔伊吹で放った炎が、可燃性の油によって威力を上昇。

 

『ガロァアアアアァァア!!!????』

 

爆炎に均しき火炎放射が炸裂し、口内を超高熱で焼かれ、大火傷を負った鯢鰐は堪らず顎を振り回し、大河の中に逃げ込もうとした。

 

「サンショウワニ、俺はお前を相手に地上に引き摺り出す事でしか、勝つ事が出来なかった。次に会う時は、お前が得意とする水中の土俵で、俺が勝つ!」

「決めるさね、ペッパーはん!」

 

鯢鰐が最後に見たのは、赤に輝く小鎚で下顎に刻み付けた刻印目掛けて、全力の一撃を放つペッパーと其の付き兎たるアイトゥイルの姿であり。

 

アイトゥイルの薙刀からは無双の連斬撃が迸り、ペッパーは満月押印を刻んだ場所へ、弱点部位への攻撃時にダメージ補正を大きく追加する攻撃スキル『グラシャラスインパクト』に、打撃スキルのクリティカルを高める『ヴァーティカルセンス』。そして鎚系スキルの中でも、ポピュラーな攻撃スキル『一撃絶壊』による、全身全霊全力全開渾身のフルスイングが刻印の位置に打ち付けられて、スキルによる置換(ストック)からのダメージ乗算が発生。

 

装甲貫通と破壊属性が時間を越えて爆発、衝撃波が鯢鰐の下顎から伝導、脳を攻城槍(こうじょうそう)が穿ち貫く様にクリティカルが炸裂、熾烈な鯢鰐を構成するポリゴンは爆発四散して、ドロップアイテムが複数落ちる。

 

ペッパーはアイテムを拾って、アイテムインベントリに収納し。一式装備を大河を渡る前の状態に戻した後、アイトゥイルを旅人のマントの下に隠して先へ進み。

 

シャンフロの現在の大陸に在る、此の地を統治する王族が住まう御膝元にして、他の街とは一線を画す賑わいと人々が住む、大陸最大の都市たる『王都ニーネスヒル』に到着したのであった…………。

 

 

 






王が住まうエリアに、胡椒は来る



熾烈な鯢鰐(ドメスティボルゲーダー):翔風桜結の大河のエリアボスであり、シクセンベルトの対岸手前の無数の飛び石が並ぶ場所で、開拓者を待ち構える。

水中からの飛び掛かりでプレイヤーを水の中に落とし、溺死と捕食モーションによる攻撃で、肉体と精神の両方にトラウマを植え付けてくるモンスター。

また体力が半分を切ると、フィールドの飛び石を噛み砕いて、ジャンプで行ける範囲を絞り込んでくる為、最後まで油断しない事。

攻略法として、釣竿によるフィッシングで岸に引き上げ、水に戻させなければ比較的楽に倒せる。



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胡椒、神ゲーのアイドルと相対す



ペッパー、ユニークNPCと出逢うの巻




王都ニーネスヒル。シャングリラ・フロンティアの大陸内で、首都とも言うべき此の街は中世ヨーロッパよろしく、大都市として物資の流通や人の往来によって発展している場所だ。

 

そんな賑わいと活気が満ちる王都の一角に座す、巨大な大聖堂。其の中の貴人用の大部屋にて、ペッパーとアイトゥイルは頭を垂れていた。

 

何故、1人と1羽は此の状態に有るのか?理由は至極簡単で、彼の目の前に『シャンフロ屈指の人気を誇る、現役アイドルさえ敗北する存在』が居て、其れを守る『白金の騎士団』の団長が、横で大絶賛目を光らせられている状況に在るが故に。

 

どうしてこうなったのか、少し時間を遡る事になる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は、ペッパーとアイトゥイルが王都ニーネスヒルに到着した、およそ30分程前まで遡る。

 

翔風桜結(しょうふうろうけつ)大河(たいが)を渡り終えたペッパーは、アイトゥイルをマントの下に隠したまま王都の正門を潜り抜けるや、人目に付かない路地裏を目指して、広い王都をひた走っていた。

 

しかし後少しで裏路地に入れる所で、其の行く手を白金の剣と盾を背負い、如何にも高貴な騎士甲冑一式に身を包む、腰には同じ短剣を全員共通で携え、同様装備で統一したプレイヤー達が囲んで、逃げ道を阻んできたのである。

 

「ペッパーさんですね?私達は『聖盾輝士団』というクランの者です」

「是非とも、貴方に御同行を頂きたく存じます」

 

一糸乱れぬ統率力と、僅かな情報から此処を訪れる可能性も考慮し、待ち構えて居たのか。ペッパーはどうにかして、此の場から逃げられないかと思考を巡らせるが、其れを見た団員がこんな事を言ってきたのである。

 

「身構えなくても大丈夫。我々は貴方が持っている『情報』を、欲している訳ではありません」

「は、はぁ…では如何なる理由でしょうか?」

 

其の問いに、彼等は、彼女等は。ペッパーが衝撃を受けるに等しい答えを、唯々提示するだけだった。

 

「貴方に逢いたいと言う…我々の『聖女様』からの強い『要望』。そして貴方が此処を訪れると、運命神より『御告げ』を受けて王都へと来訪し、到着を待っていたのです」

 

聖女━━━━シャンフロにて、其の名前で呼ばれるNPCは『1人しか』居ない。ペッパーの右手に呪い(マーキング)を刻んで、今も夜闇を駆けているだろう、ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン。

 

世界に七つのみの最強種から強者の証として刻まれた、デメリットが大半となる呪いすらも、其の聖なる祈りによって解呪する事が可能である、ユニークNPC『慈愛の聖女 イリステラ』。

 

『シャンフロのアイドル』と呼ばれる彼女が、木っ端の開拓者たる自分を名指しした上に、王都を訪れると予知し。普段拠点としているフィフティシアからニーネスヒルまで『クラン:聖盾輝士団』━━━通称『聖女ちゃん親衛隊』を護衛に付けて、遠路遥々此処までやって来ていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖盾輝士団の団員達に囲まれて、厳戒態勢の元に護衛が付けられたペッパーは、彼等彼女等が用意していた馬車に揺られ、イリステラが待つというニーネスヒル大聖堂へ向かっていた。

 

「どうしてこうなった」

 

十中八九ジークヴルムの手に乗った事が全ての原因であるとして、彼が何処かしらで暴れたならば、此方が責任を追及されても仕方が無い。しかし、あの時の彼の口調や雰囲気から理由も無しに、其れをやるようには思えないのである。

 

と、ガラガラガタゴトンと石で舗装された道を進んでいた馬車が止まり、団員の一人が「此方です」と降車を促してきた。

 

「うわぁ………」

 

王都ニーネスヒル。シャンフロ屈指の大都市である為、都内に立つ建物も軒並み豪勢だったり、豪華だったり、巨大だったりするのだが、此の大聖堂は王城━━━とまではいかなくとも、かの有名な『ノートルダム大聖堂』をモチーフに、其れを一回りか二回り大きくしたような、立派な建築として堂々と聳えていた。

 

此処に聖盾輝士団が崇め奉り、自分に逢いたいとやって来たイリステラが待っているのだろう。

 

「ペッパー殿、よくぞ参られた。私は『ジョゼット』、クラン:聖盾輝士団の団長をしている者だ」

 

大聖堂を見上げるペッパーに、女性の声で語り掛ける者が一人。聖盾輝士団の団員達と同じ装備ながら、しかし其の身に纏う覇気は、団員達と一線を画す存在。間違いなく、クランの中でも一番の実力者だろう。

 

「あ、はい。ペッパーです、よろしくお願い致します、ジョゼットさん」

 

マントの中にアイトゥイルを隠しつつ、ペッパーは左手をジョセットに差し出し、彼女も何かを察してか左手で握手に応じてくれた。

 

「早速だが、ペッパー殿。私に付いて来てくれ」

「解りました」

 

今更逃げて良いですか?なんて言おう物なら、イリステラの好感度は地に落ちる所か、ジョセット率いる聖盾輝士団に白い目で見られる事は避けられない。此処は大人しく従って、波風を立たせないに限る。

 

ジョゼットの後に続く傍ら、他の団員達が進路上の両サイドを固めて、規律正しく整列していく。まるで、重要人物の護衛の様な状況になっているが。

 

彼女の後に続き、並び立つ他の団員達の勇姿を間近で見つつ、其の果てに貴人用の大部屋と思われる、大きな扉の前に着いた。

 

「ペッパー殿、此の先にイリステラ様が御待ちだ。くれぐれも、粗相の無いように」

「はい…あと、一つ質問良いでしょうか?」

「何か」

 

首を傾げるジョゼットに、ペッパーは周りの団員達に聞かれないよう、細々とした声でヒソヒソと話す。

 

「此の先って付き兎のヴォーパルバニーが入っても、大丈夫だったりしますかね?一応、俺のパーティーに入っているんですけれど…」

「……解った、私がイリステラ様の護衛とペッパー殿の監視に着く。他の団員達は、此の部屋に立ち入らんとする不届き者が居ないか、厳重警戒を続けてくれ」

 

「「「はっ!」」」と、一糸乱れぬ掛け声を響かせ、一同直ぐ様に行動を開始。そしてジョゼットもまた、入室に当たって自らを律し、扉をノックして言った。

 

「イリステラ様。件の開拓者を御連れ致しました」

「━━━━どうぞ、入ってきて下さい」

 

ジョセットの声に扉の向こう側から、鈴の音のような澄み渡る声が耳に届く。

 

「アイトゥイル、部屋に入ったらマントの中から出て来て。あと、酒は飲まないでね。聖女様が目の前に居るから」

「解ったのさ」

 

扉が開かれてペッパーが入室し、マントの中からアイトゥイルが出て、1人と1羽は部屋の最奥に座る女性の姿を見る。

 

光さえも透き通るような銀の、後ろに束ねても尚も肩に掛かる程に長い髪。クレリック系ながらも、聖女と言う存在を明確に、より際立たせる純白の衣裳。

 

そして何よりも、彼等彼女等が見たのは、あまりの美しさに、魂は愚か自分達の全てが、吸い込まれそうな『瞳』で。夜明けの寸前の夜空と、太陽が昇る青空の境界線を思わせる、そんな神秘的な美しさを持っていた。

 

ペッパーそしてアイトゥイルは、本能的に片膝を地に着け、頭に装備した帽子と唐笠を外すや、胸に当てるようにして頭を垂れる。彼女こそがイリステラ、二次元や三次元の女性達が霞んでしまう程に、綺麗で美しい女性である。

 

「貴方がペッパーですね。初めまして、私はイリステラ………光栄な事に皆様から聖女と、頼られる者です」

 

透き通る優しい声が、耳と心に響く。シャンフロのアイドルと言われる由縁を、ペッパーは理解出来た気がした。

 

「初めまして、聖女様。私はペッパー、世界を旅する木っ端の旅人でございます。此方は、私の付き人のアイトゥイルと申す者。以後、御見知りおきを」

「ペッパーはんから紹介をいただいた、アイトゥイルと申します。『御頭』より貴女様の御活躍は、遠く我等の国にも高らかに響いております」

 

普段の呑兵衛たる雰囲気は何処へやら、細目を開眼しビシリと決めたアイトゥイルに、ペッパーは今目の前に居るのは俺が知ってるアイトゥイルか!?と驚愕、ジョセットはヴォーパルバニーが人語を発した事に目を丸くする。

 

「七つの最強種の一角に強者たる刻印を刻まれ、他の一角に其の名を覚えられ、遠い時代の蒼天への願いを紡いだ勇者。そして其の傍らに共に立つ、ヴォーパルバニー。一度御逢いしたいという、私のわがままを聞いてくださり……ありがとうジョゼット」

 

ニッコリとジョセットに微笑むイリステラ、そんな聖女からの御誉めの言葉に、ジョセットは直ぐに片膝を付きつつ、彼女に向けて言う。

 

「其れが貴女の御望みとあらば。我等一同、必ずや叶えましょう」

 

アイトゥイルの見栄切りに、イリステラに褒められても、聖騎士としてのロールプレイに一切ブレがないジョゼット。しかし問題は解決していない。

 

イリステラが言った『蒼天の願いを紡いだ勇者』というフレーズ。おそらく彼女は、自分が保有している光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)を見せて欲しいと、言ってくる可能性が有るとペッパーは予感した。

 

「ペッパー………私が今回、貴方に逢いたいと願ったのは、是非『蒼天を舞う答え』━━━其れを此の目で見たいと思ったからです。嘗ての時代に世界へと示された、人の想いが創り上げし『結晶』の輝きを。そしてそう遠くない未来に、貴方が『世界を動かす鍵』となる事を、予知したのです」

 

そして其の予想は当たり、イリステラは光輝へと昇る金龍王装を見たいと言ってきた。ペッパーはジョゼットの方を見ながら、心の中で思考を重ねる。

 

今現在此の場に居るのは、イリステラ以外にアイトゥイル、そしてクラン:聖盾輝士団の団長・ジョゼット。仮にイリステラの要望に答え、天覇のジークヴルムを模したユニーク遺機装(レガシーウェポン)を纏ったとして、彼女が其の情報を外部に漏らさないと、絶対の自信を以ったとしても言い切れない。

 

そして自分も此の装備一式の情報が、何かの拍子に外部に漏れて拡散した場合、現在追われている身であるが故に、対処する事は困難を極める。

 

「解りました。━━━━━ですが、一つ。聖女様が仰った蒼天に舞う為の答えは、私自身他者への開示をあまり好んではおりません。嘗て其の力を巡り、大きな争いが起きた事で、私の手元に在る物以外は全て破壊されたと『先生』は話し、私に夢と願いの『続き』を託しました」

 

伝えるのはレディアントシリーズの力が引き起こした、神代の人類の争いと過ち。不用意に此の情報を扱えば、再び同じ事が繰り返されるという、現実の歴史も示し続ける事実。

 

「此処で見た事を、何れ訪れる『ジークヴルムさんとの戦いの時まで』、秘匿して頂けるのであれば、私は喜んで聖女様の御要望に御答え致します」

 

我を模した神代の遺産を継ぐ者よ、己が信ずる者と共に、我を超えてみせよ。ジークヴルムとの約束を胸に、ペッパーはイリステラに言い切った。

 

暫しの沈黙、イリステラはジョゼットを見て、こう言った。

 

「━━━━━ジョゼット、良いですか?」

「我等一同、貴方とペッパー殿に誓って此の約束、必ずや御守りします」

 

深く頭を下げて、彼女は聖女の意向に従う。其れを見届けたペッパーは、アイテムインベントリからレディアントシリーズ一式装備を取り出し、一つ一つを其の身に纏っていき、最後に合い言葉たる『起動せよ(Wake up)』と唱えて覚醒させる。

 

白翼のモジュールが顕れ、黄金のエナジーウイングが展開。ペッパーの身体はフワリと浮かび、室内の天井まで飛翔するまで10秒と掛からなかった。

 

「凄い………」

 

イリステラの前でも聖騎士ムーブで固めていた、ジョゼットの口調が崩れる。無理もない、魔法やスキル等を一切使わずに、ノーリスクで空を飛べる一式装備等、シャンフロでも特級レベルの代物だ。寧ろ拝めただけでも、彼女は幸運と言って差し支えない。

 

と、飛翔からゆっくりと床に降りていくペッパーだったが、其の最中にイリステラが呟いた、小さな言葉を聞き逃さなかった。

 

「世界を動かす勇者……蒼天を舞う答えを紡ぎて、其の手に『大いなる遺産』の全てを揃えし其の時。強き仲間達と共に、巨大なる『滅びの力』へ立ち向かう……」

 

大いなる遺産と言うのは、ユニークモンスターを模した遺機装であると予測出来る。だが、滅びの力とは一体何なのか?

 

「聖女様………?」

「ずっと昔……私が産まれて初めて『運命神』より賜った、最初の『信託』です」

 

重要な台詞を述べたイリステラは、其の言葉の意味を思考しているペッパーに向けて、こう言ったのだ。

 

「ペッパー。もし貴方が望むのであれば、此の場でリュカオーンの呪い(マーキング)を祈りにより、浄化する事が出来ます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最強種が強者に刻んだ呪いと言う名の傷痕は、ペッパーにとっては厄介極まりない存在でもあった。右手の装備枠が潰された事で、片手武器しか使えない&格下モンスターの逃走というレベリングに対する縛りの追加。此れだけでもシャンフロをやる上で、何時如何なる時も己の身に乗し掛かってくる。

 

本来ならば『多額の御布施』や『大聖堂への通い詰め』を何度も行う事で、初めて対面する事を許されるイリステラとの面会。其の過程をスッ飛ばして、此の場で呪いを解除してくれるという、世紀のビックチャンスが巡ってきたのだ。

 

普通のプレイヤーなら、喜んで彼女へと頼むだろう。だがペッパーはイリステラに対し、こう述べたのである。

 

「聖女様。ありがたき御言葉と提案、とても感謝しております。ですが………其の御話は受けられません」

 

此処を逃せば、もう二度と巡って来ないだろうチャンスを、ペッパーは自らの意志で断ったのだ。

 

「私は以前、夜襲のリュカオーンと戦い、敗れました。しかし夜の帝王と恐れられる、黒闇の狼の右目へ一太刀の刃を突き立て、切り裂いたのです。

 

そして頭蓋を砕き潰される直前、リュカオーンへ約束しました。『自分が刻んだ其の傷を、決して忘れるな』と。もし此処で呪いを解呪してしまえば、自ら約束を破ってしまう………そんな気がして。

 

なので……ごめんなさい」

 

ペッパーの言葉に、ジョゼットは驚きを隠せない。呪いを解除出来るチャンスを棒に振って、リュカオーンに取り付けた約束の為、呪いを背負い続けるペッパーの覚悟に。

 

其の覚悟にイリステラもまた、迷い人へ此の先に進むべき道を示すように、こう言ったのである。

 

「ペッパー、サードレマを治める『大公殿下』の元を尋ねてみて下さい。天を覇する龍王の鎧を纏い、彼に見せたのであれば、きっと貴方が『探している物』を、彼は託してくれる筈です。

 

貴方の其の気高き『覚悟』と、揺らぐ事の無い『信念』が在れば、其れは必ず貴方に『応えて』くれるでしょう」

 

 

 

━━━━━━━━と。

 

 






開拓者よ、サードレマへと迎え



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夜闇を駆ける者、其れは誰の物語(其の一)



其の時、世界は━━━━━━━




王都ニーネスヒル内、ニーネスヒル大聖堂でシャンフロのアイドル、慈愛の聖女 イリステラとの会合を終えた、ペッパー&アイトゥイルは現在聖女ちゃん親衛隊こと、聖盾輝士団団長のジョセットと共に懺悔室に居た。

 

光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)…………ユニークモンスター・天覇のジークヴルムを模した、神代の大いなる遺産……ね。とんでもない代物じゃん………因みにコレって一点物なの?量産出来ない?」

 

おそらく此方が()であるだろうジョゼットが、先程見せたレディアントシリーズの事を聞いてくる。

 

「さっきも説明したが、此れに関しては一点物だよ。後、聖女様との『約束』は守ってくれよ?」

「任せなさい。イリステラ様に誓って、貴方との約束はちゃんと守ってみせるわ。勿論、クランのメンバー全員にもキッチリ言い聞かせるし、情報の一片でも流すようなら、クランからの追放も考える」

 

フンスと胸を張りながらも、懺悔室の入口をキリッと鋭く睨むジョゼット。直後、ガタゴトッと音が聴こえた辺り、聞き耳を立てた団員が居たのだろう。

 

アイトゥイル及びユニーク遺機装(レガシーウェポン)の事を、時が来るまでは公にしないよう、イリステラの名前を出した上で約束を取り付けた訳だが、ロールプレイガチ勢の怖さを垣間見た気がするペッパー。

 

「コホン…して、ペッパー殿。此れから貴殿はサードレマに向かうのか?」

 

先程のフランクな口調より、再び聖盾輝士団団長としてのロールプレイに入ったジョゼット。切り替えが早い。

 

「そうですね…ニーネスヒルの宿でセーブして、今日は終わりにしようかなと」

「成程、ならば『コレ』を貴殿に差し上げよう。開けば一度行った場所へ瞬時に行ける。使い切りの品物では有るが、大いに役に立つだろう」

 

ジョゼットが『ギフト』として渡してきたのは、ファンタジーでよくある古ぼけた巻物。受け取ったペッパーは、早速巻物の性能をチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

使い捨て魔法媒体(マジックスクロール)座標移動(テレポート)

 

大いなる魔術師が魔術媒体に刻んだ、深き叡智が刻まれた魔法。開けば其の魔法を詠唱無しに発動出来るが、一度使用したならば、媒体は其の効力を失い、唯の紙屑に成り果てる。

 

使用者が最後にセーブをした場所に飛ぶ事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

あ、絶対ヤバいレベルの金が掛かる、ヤバいアイテムだ。マジックファンタジー系統のレトロゲームも経験したペッパーの記憶が、己に向けて警鐘を鳴らした。

 

今はアイトゥイルが居るお陰で、兎御殿との往来が出来ているが、万が一に彼女をラビッツに待機させた場合、帰る手段がリスポーン以外無かったが、此の巻物があれば死なずに戻る事が出来る。

 

「良いんですか?こんな貴重な物まで貰って…」

「問題無い。だが、万が一の事も踏まえて『フレンド登録』をしてはくれないだろうか?PK対策と守る事に関しては、誰にも負けないと自負している」

 

『ジョゼットさんから、フレンド申請が来ました』

『登録を、よろしく御願いする』

『登録しますか?【Yes】or【No】』

 

 

シャンフロに置いて、最強を誇るプレイヤーに対して贈られる、名誉たる『称号』が有る。

 

 

万物を打ち砕く、絶大な『火力』に。

 

何人たりとも崩せぬ、絶対の『防御』に。

 

追随を許さぬ、抜きん出た『速度』に。

 

数多の敵を討ち取る、一騎当千の『撃破』に。

 

傷付けど倒れる事なき、不屈の『耐久』に。

 

究極をも極め、深淵にも届いた『魔導』に。

 

戦場に倒れ伏す、万人を治す『治癒』に。

 

 

シャンフロのシステムは規定値を超えたユーザーに、其の称号を授与する。そして其の内の一つにして、最大の防御を誇る者へ与えられる、ゲーム内レコード【最大防御(ディフェンスホルダー)】。

 

現在の保持者こそ、ペッパーの目の前に立つジョゼットだと知るのは、とある戦いの一幕での出来事になるのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~………ちゅかれた………」

「ふぅ……緊張したのさ………」

 

ニーネスヒル大聖堂での重大イベントを乗り越えたペッパーとアイトゥイルは、王都の裏路地に入って開いたゲートを通って兎御殿に帰還する。

 

「ジョセット……聖盾輝士団……イリステラ……。うーん、色々有ったなぁ………」

 

少し悩んだものの、ジョセットとフレンド登録を結んだペッパーは、兎御殿の休憩室のベッドに座って、もう一つのフレンド申請者たる『キョージュ』を見る。

 

ペンシルゴン曰く、考察クラン:ライブラリの中でも根掘り葉掘り情報を聞いてくる、厄介なおじいちゃんとの事らしい。

 

「トワはそう言っていたけれど、そう見えなかったんだよな……。考察面で御世話になりそうだし、ジークヴルムさんとの決戦の時にも、味方は一人でも居た方が良い。

 

其れに……ウェザエモンとの戦いが終わったら、クランへのスカウトに対する交渉もしないといけないから、連絡手段の確保は大事……だもんな」

 

幼女のガワを被ったおっさんだろうが、其の先に罠が仕込まれようが、突き進んでやる。ペッパーはそう決意を固めて、キョージュのフレンド申請を許可し、此の日のシャンフロを終え、ログアウトしていった。

 

 

 

しかし、彼は知らなかった………。

 

 

 

キョージュというプレイヤーが、フレンドとなった者が『とてつもない事』をしたならば。例えば『ユニークモンスターの掌に乗っかり、空へと舞い上がって飛んで行く』等と、常識外れの事をすれば直ぐ様伝書鳥(メールバード)でスパムメールならぬ、スパムハヤブサを叩き付けてくる事を。

 

其れにより、送り付けられたハヤブサの大群が兎御殿の休憩室を占拠して、ペッパーは唖然となるのだが、其れは翌日の話である…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、所変わって此処は跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)(もり)

 

夕焼けが夜闇へと変わる頃、一人のプレイヤーが人知れず『とある』戦いを続けていた。

 

「うっし!やっとレベルが上がったぜ。これでレベル14か、あんま上がらなくなってきたな。……と、やっと手に入ったわ」

 

プレイヤーの名はサンラク、此の森でヴォーパルバニーが落とす『ドロップアイテム』を狙い、狩りを続けて漸く、御目当てのアイテムを入手する。

 

名を『致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)』と『致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)』。ヴォーパルバニーを倒すと、低確率でドロップする希少武器。メイン職業(ジョブ)を傭兵(二刀流)で開始した彼は、最初の戦闘でヴォーパルバニーが落とした包丁を求めて彷徨い。

 

途中遭遇した別のヴォーパルバニーが、包丁とは別の小鎚を落とした事で、2本づつ揃えようとする欲望が働き、ヴォーパルバニーを中心にモンスターを狩って、レベリングを行って。

 

そして先程の戦闘で、御目当ての致命の小鎚がドロップしたのだ。

 

「大体110体くらいかな、あの兎を狩ったの。お陰で小鎚と包丁各々2本ずつ、手に入れられた訳だけど」

 

二刀流対応可能な、クリティカル補正を高める斬撃武器と打撃武器。両手打撃・両手斬撃・斬打二刀流………思い付く戦法を、片っ端から試してみたい欲求が、沸々と内側より湧いてくる。

 

「現状、使えそうなスキルはと……『スクーピアス』に『ラッシュストンプ』。其れと『アクセル』に『フラッシュカウンター』……まぁ他は無いよりゃマシか」

 

レベリングの中で覚えたスキルを頭に入れつつ、サンラクはマップを確認する。簡易的で大雑把な地図に表示された現在地は、どうやら跳梁跋扈の森を抜けて、セカンディルの方面まで来ていたようだ。

 

「ファステイアの方じゃなくて、セカンディルが近くなってるか。このまま引き返すのも面倒だし、渓谷を渡って━━━━!」

 

草を掻き分け、渓谷を渡らんとしたサンラクが目撃するのは、白毛を頭と尾に生やした巨大な大蛇こと、跳梁跋扈の森のエリアボス『貪食の大蛇』が、とぐろを巻いて桟橋の前に立ち塞がっている。

 

「成程……門番って奴ね。しかも複数人(マルチ)推奨のボス。燃えてきたぜ…!」

 

傭兵の双刃を装備し、サンラクは大蛇に立ち向かう。此の敵を乗り越え、初めての街たるセカンディルに到着する為に戦う。

 

「いくぞ、オラァ!」

 

噛み付き、薙ぎ払い、巻き付き……蛇型モンスター特有のモーションを見切り、表皮を切り裂かんとする。

 

が、そんな最中に良くない事は起きる物で、傭兵の双刃が耐久値限界を迎えて、流動する巨体にぶつかった瞬間、バキン!と一際大きな音を立てて、刀身が砕け散ったのだ。

 

「げぇっ!?コイツ、硬いぞ!?」

 

距離を放しながら、サンラクは貪食の大蛇を見る。硬い表皮、常に動く巨体、並大抵の武器ではダメージが入らない。普通のプレイヤー(・・・・・・・・)であるならば、軽い絶望を味わうだろう。

 

「……はっ。こんな程度の事なんざ、何度も何回も味わって来たんだよ、コッチはなぁ」

 

左手に致命の小鎚を、右手に致命の包丁を握りて、サンラクは不屈の瞳で大蛇を睨む。

 

理不尽なエンカウト、クソの様なヤケクソ調整、意味不明のバグ。幾多の『クソゲー』を乗り越え、攻略してきたゲーマーにとって、此の程度『朝飯前』にもなりはしない。

 

「覚悟しろよ、デカ大蛇。お前は此の包丁と小鎚の実験検証用に、しゃぶり尽くしてやるよ!」

 

逆境である程に、己が昂る程に、プレイヤースキルとテンションの高まりが重なる程に、クソゲーマー・サンラクは『強く』なるのだ。

 

漆黒に空が染まる中、サンラクと貪食の大蛇、鳥と蛇の戦いはヒートアップしていく………

 

 

 

 






世界は廻る、人は動く




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夜闇を駆ける者、其れは誰の物語(其の二)



人が見る景色は、十人十色




「オラァァァァァァァァァ!そろそろ死に晒せや、クソ蛇ィィィィィィィィィィィ!!!」

 

跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)(もり)を抜け、セカンディルを繋ぐ渓谷に掛かり、桟橋の前に陣取る貪食の大蛇に向けて、サンラクは吠えていた。

 

決して負け犬の遠吠え等では無く、既に何十回に及ぶだろう致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)の斬撃と、致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)の打撃でも未だ倒れない、此の大蛇のしぶとさに対して………である。

 

『シャアアアアアアアアア!』

「あーそうかい、そういうヤツかいお前は!じゃあ、やってやろうじゃねーかコノヤロウがよォッ!?」

 

右手の小鎚を解除し、跳躍で噛み付きを回避。髪のように束ねられた白毛を掴み、左手の包丁で大蛇の左目に向け、短剣系スキル『スクーピアス』を叩き込む。

 

『ジャアアアアアア!?』

「そしてェ!コレで終わりだ大蛇!」

 

ブッ刺した包丁から手を離し、取り出すは小鎚。此処までのレベリングの中で、獲られたポイントを振り分けて来た。そして現在のサンラクは、幸運が最も高い。

 

そして今、大蛇の左目には包丁が、己の左手には小鎚が、互いにクリティカルに関するダメージに補正が掛かる。

 

即ち━━━━━━━━

 

「一人式!パイルバンカー!!」

 

包丁の持ち手目掛けて、渾身の力で振るった小鎚の面が着弾し、刃が視神経を断裂させ、衝撃が脳を揺るがし砕く。

 

しかし大蛇も唯では死なず、残された僅かな力を振り絞り、尾先よりサンラクの背中に向けて、毒糞攻撃をぶちまけた。

 

「ぐえっ!?くっさ!?何だそりゃ、最後ッ屁!?」

 

直後、貪食の大蛇を構成するポリゴンが爆発四散して、ドロップアイテムと共に、致命の包丁が地面へ落ちる。同時に討伐者たるサンラクのレベルは、一気に2つ上昇して、新しいスキルに開眼する。

 

「おっしゃあ!複数人推奨エリアボス、単騎攻略だぜェェェェェェ!っか毒になってる!……10秒で1減るって事は、俺に残された時間は………およそ5分くらいか!?」

 

嘗て挑戦したクソ恋愛ゲーによって、トラウマと共に鍛えられたタイムスケジュール管理が、短時間で己の余命を導き出した。

 

「急いでアイテム拾って、ポイントは……ええいスタミナと敏捷に全ツッパだ!早いとこセカンディルに向かって、セーブなりしないとアイテム全ロスも有り得るぞ、マジ其れだけは勘弁!」

 

とあるクソゲーに、死亡=装備品と所持金を全喪失(ゼンロス)すると言う、身の毛も弥立つペナルティが在った。

 

とあるクソゲーに、死亡でセーブデータ破損=最初からやり直しと言う、製作陣のトチ狂った感性が反映されたゲームが在った。

 

ノーデスノーコンティニュー必須、ランダムエンカウトと内部ダンジョンが潜る度に変わる仕様、初見殺しのオンパレード等々……。クソゲーに相応しい要素を、プレイヤーに此れでもかと叩き付けたゲームを、サンラクは幾つも経験している。

 

「……やっぱ斬撃と打撃を、両方同時に遜色無く絡められるってのは良いな。スキルも色々覚えたし、小鎚二刀流ってもしかしたら、打撃系スキルも覚えやすくなるのか?って、急がなきゃヤベーんだった!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!持ってくれよ、俺の体力ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

暗闇の世界を、敏捷とスタミナにポイントを振り分け、毒によるスリップダメージを受けながら、サンラクは一人全力疾走で駆けて行く…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの大蛇……まぁまぁの強敵だったけど、毒攻撃にさえ気を付けてれば、特に驚異じゃ無かったな」

 

サンラクが貪食の大蛇を討ち取り、最後ッ屁の毒糞によって毒状態となった事で、セカンディルへ全力ダッシュをしている頃。先に大蛇を殴り倒したオイカッツォは、セカンディルに向けて歩みを進めていた。

 

「にしても、本当によく動けるね『シャンフロ』は。『便秘』や『キャバクラ』なんかと、挙動にダンチの差が出てるな」

 

戦闘に置ける一挙手一投足の動きの滑らかさは、プロゲーマーとして感心する程である。プロの世界では戦闘に於いての1秒の動きが、其のまま勝敗に直結する場面が多々存在している。

 

無論、此れは他の格闘ゲームでも同じで、ビルディファイトも1つのガードの有無が、必殺ゲージを貯めるか否に関わり、自分も相手も其の1回の判断で勝ったり負けたりしているのだが。

 

「━━━━━━━━ォォォォォォ!」

「………ん?」

 

そんな時、オイカッツォの耳に『聞き馴染んだ声』が届く。まるで何かに追われているかの様な、切迫と逼迫に満ちた声である。

 

「ォォォォォォォォォォォ!」

「んんん…!?」

「ウォォォォォォォォォォォォォ!!あと2分しかねぇェェェェェェェェェ!?!セカンディルまであと少しだ、頑張れ俺ェェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

ドドドドドド!と暴走に似た爆走で、大地を蹴り上げ走る半裸の鳥頭が、オイカッツォの真横を走り去っていき。本職:プロゲーマーたるオイカッツォは、其の僅かな錯綜の中でプレイヤーネームを見逃さなかった。

 

そして驚く。何せ、其のプレイヤーネームは如何なる世界(ゲーム)でも不動であり、不変であるからこそ、オイカッツォは気付けたのだ。

 

「………え、ちょ、ま!サンラク!?ってかアイツ、何で半裸!?防具売り払ってスタートしたのか!?」

 

クソゲーフレンドが今日、シャンフロを始められるとメールで知っていたが、まさかの防具売却鳥頭HENTAIスタートをしていた等、其れなりに付き合いの長いオイカッツォでも予想出来なかった。

 

「ってか、此れだと先にセカンディルに到着されるじゃねーか!!絶対煽ってくるだろ、あの野郎!」

 

互いに中指を立て合いながら、煽り煽られの関係に在るのがサンラク・カッツォ・鉛筆であり、此のままだとおそらく━━━━━

 

『え~!?先にシャンフロ始めたのに、未だにセカンディルにも到着してなかった、ノロマの魚類がいるんでちゅくわぁ~??????』

 

━━━━━等と、真面目に煽られる事になる。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!あのヤロー、先着させてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

オイカッツォもまた走り出す。だが、サンラクはキャラビルドとして、幸運・敏捷を中心にスタミナにポイントを振った、高速低耐久の幸運戦士。

 

一方のオイカッツォは体力・耐久を主体に、他ステータスをバランス良く伸ばしていく、軽戦士ビルドタイプ。要するに其処まで脚が速い……と言う訳ではなく。

 

「あ、あんの野郎…!速過ぎ、だろッが………!」

 

追い付く間も無く、先にセカンディルの門を全力ダッシュで越えて行った、クソゲーマーの背中を追う事しか出来なかったのだった。

 

サンラクに遅れる事、およそ30秒。オイカッツォも旅立ちの街・ファステイアから、跳梁跋扈の森のエリアボス・貪食の大蛇を越えて、第2の街たるセカンディルへ到着したのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………居ないなぁ」

 

セカンディルの大通り、シャンフロを始めた初心者プレイヤーが、沼掘り(マッドデイク)によって洗礼を受け、脱初心者へ向けた、レベリングや装備充実を目指す街。

 

初心者装備を纏うプレイヤー達が行き交う中、其の者は『極めて異質』で。純白の穢れが無い鎧兜は、見る者に高レアリティの装備であると主張し。背中に掛かるマントと、腰に巻かれた布に刻み、示された『黒の狼と咥えた剣のエンブレム』が。

 

男性アバターに纏う鎧で、街中を見渡す彼女(・・)は『サイガ-0』と言う、頭上のプレイヤーネームが示す。リュカオーン討伐を最終目標として定めた、廃人クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)が誇る『最強の切札』にして、ゲーム内で『最高瞬間火力』を更新したプレイヤーへ贈られる、【最大火力(アタックホルダー)】の現在の所持者だ。

 

「……『陽務(ひづとめ)君』。何処に居るんだろう?……まだ、ファステイアかな……?」

 

『とある伝からの情報』によると、彼が今日『シャングリラ・フロンティア』を始めたという、とびっきりのグッドニュースが舞い込んだ。

 

様々なゲーム(・・・・・・)をやって来た彼が、何を思って此の神ゲーに挑んだのか、其の心境を彼女は知る術を持たない。しかしながら、他のゲームで逢えなかった彼と、出逢う事が出来る千載一遇のチャンス━━━━何としても物にしなくてはいけない。

 

「ォォォォォォォ!宿屋何処だァアアアアアアアアア!!あと1分しかねぇちぎじょぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「━━━━━━えっ」

 

そんな時だ。サイガ-0の耳に届く、何時も影から見ていた、大切な『想い人の声』がセカンディル中に響く。直後に目の前の道を通り過ぎるは、半裸鳥頭のプレイヤー。頭上に表示されていたのは………『サンラク』。

 

ある人曰く、彼はゲームをする際に名前を統一するタイプのゲーマーで、全て『サンラク』でプレイしているのだとか。

 

「見つけた…………陽務君!!」

 

セカンディル全体の地図は、既に頭の中に覚えている。此処から先回りして、彼が30秒以内で宿屋に………否、其れでは『間に合わない』。

 

サイガ-0が自身に補助魔法を掛けていく。敏捷を、跳躍を、筋力を、高めに高めて跳躍する。石造りの地面が皹走り、砕き割れ、其の巨体が宙へと飛んだ。

 

跳躍中にアイテムインベントリから全回復(フルド)ポーションを取り出して、進行方向と着地位置を調整。着地と同時に巻き起こる衝撃波と砂埃、落下によるダメージが自分の体力を削る。

 

しかし其れは今、そんな事は些細な問題であり。

 

「あ、あの!全回復ポーション…です!毒を…治せますッッッッッ………!」

 

 

嗚呼、神様━━━━どうか…どうか、此の一瞬だけ。

 

弱気な私に力を貸して。

 

 

切なる想いを抱え、抜かれた木製の栓に留められた薬液が、溢れる声を思わす様に、サンラクへと叩き付けられたのだった。

 

 

 

 






プレイヤー達は、未開の世界を生きていく




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夜闇を駆ける者、其れは誰の物語(其の三)



サンラク・オイカッツォ・サイガ-0、対面する




「ォォォォォォォ!宿屋何処だァアアアアアアアアア!!あと1分しかねぇちぎじょぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

現在、サンラクは焦っていた。貪食の大蛇を打ち倒し、最後ッ屁の毒ダメージに追われながらも、何とかセカンディルに辿り着いたまでは良い。しかしセカンディルに在るだろう宿屋が、走れど見付からないのだ。

 

ゲーマーにとっての『状態異常:毒』は、何時の時代も切っては切れないポピュラーなデバフで、プレイする以上は避けては通れぬ事柄である。時間経過によって起きるスリップダメージは、回復アイテムを持っていれば何の問題も無いが、持っていないとなれば『詰み』に匹敵する事になる。

 

(くっそ!毒ってのはコレが有るから、マジで厄介なんだよ!あの毒糞蛇はリスポンしたら、もう1回一人式パイルバンカーをブチ込んでやる!)

 

体力が残り5から4へと減る。残された時間はおよそ40秒。此れは流石に間に合わないか………サンラクは毒ダメージによる死亡も覚悟し、心の中で怨嗟の声を上げた。

 

が━━━━『其れ』は突如として夜空から。自分の目の前に落ちてきた。衝撃が走り、砂埃を引き裂いて、純白の鎧兜を纏う巨体が、サンラクの前に現れる。

 

(オイオイ…まさかPKか!?勘弁してくれ、此方はもう30秒したら死ぬんだぞ!)

 

毒によるスリップダメージで、此方の残り体力は僅か3。そして目の前には、如何にも最上位クラスの装備を着込んだ、最上位のプレイヤー。

 

まるで戦って死ぬか、毒の時間経過で死ぬか。そんなクソな選択肢を、仕掛けているかの様にも見えて。

 

だがサンラクは気付く。目の前に居る騎士が、其の右手に『何かを持っている』事に。そして木製の栓をキュポンと、力強く引っこ抜いた所を見た。

 

(何だアレ…青い、ポーション?フムフム、えーと栓抜いて?振りかぶって?)

 

「あ、あの!全回復(フルド)ポーション…です!毒を…治せますッッッッッ………!」

「おぶぉつぼぼぼぼっほほふぉ!!??」

 

強化された筋力と敏捷で振り翳された薬液が、ハイドロポンプの如くサンラクへと叩き付けられ。凝視の鳥面の嘴、其の奥に在る『本体』の口の中にも、液体が放り込まれて喉を通り過ぎ。

 

次の瞬間、己を蝕み続けていた毒は綺麗さっぱり解除され、スリップダメージで削られていた体力は、全回復によってMAXまで巻き戻る。

 

「ゴホッ、ゲホッ!?……毒が、解除された?」

「え、っと……間に合って、良かった……です」

 

乱暴では有ったが、全回復ポーションで自分の命を救ったサイガ-0を見上げるサンラク。一方のサイガ-0はというと巨体に似合わず、両手の人差し指を合わせたり、突っ付いたりし、モジモジしている。

 

「あの………スイマセン。助けて貰っちゃって」

「あ、いえ…!その……礼には、及びま……せん……」

「おーい……ゼェ、ゼェ…!おーい、サンラクゥ…ゲホッ…ゴッホ…!」

 

御互いにペコリと頭を下げ合う、サンラクとサイガ-0。其処に息切れ気味で、オイカッツォが合流してきた。

 

「んぉ、カッツォじゃねーか!?セカンディルに来てたのか!……ってか『追い鰹』、ねェ」

「………まァな。てかサンラク、お前半裸鳥頭ってどんな変態だよ(笑)。とうとう人間辞めましたってか??」

「うっせ、勝手に言ってろノロマ魚類。セカンディルに2着だったクセになぁ????」

「オ?喧嘩売ったな?あとサラッと走ってる中で見てやがったな、サンラクテメェ!」

 

街中にも関わらず、ギャーギャーワーワーと言い争い、取っ組み合うクソゲーフレンズ2人。しかし端から見れば、ガワが金髪ツインテ少女アバターのオイカッツォと、半裸の鳥頭男のサンラクが痴話喧嘩というか、キャットファイトしてるようにしか見えず。

 

「━━━━━━━━━━━━━━━━━」

「「!!!!!」」

 

そしてクソゲーマーとプロゲーマー、両者共に全身を走る悪寒で、錆び付いたカラクリ人形の様に、ギギギと顔を前へと向け。其所にはサイガ-0が、純白の鎧の内側より漆黒の殺気を放ち続けている姿を目撃したのだ。

 

「あの…サンラク、サン。其所にイラッシャル、オイカッツォ……サン、とは………如何なる関係(・・・・・・)………デスカ?」

 

あっコレ選択間違えたら、ガメオベラ一直線だわ。サンラクとオイカッツォは、同時にそう確信してアイコンタクト&ジェスチャーで会話をする。

 

(おい、どーすんだよサンラク!?明らかにヤベーだろ、さっさと答えてくれ!)

(おまフッざけんな!オレが指名されたからって、一人安全圏に逃げてんじゃねぇ!?)

 

「……………サンラクサン」

 

威圧感が増していき、道行く他のプレイヤーも修羅場か何かと、ヒソヒソ話をし始める。非常に不味い、これ以上長引かせたら、面倒な事にしかならない。

 

「えっと、此方のオイカッツォとは……『ゲーム友達』デスネ、ハイ」

「………!そ、そう…ですか!友達…トモダチ……フレンズ………」

 

サンラクの解答に、サイガ-0の纏う殺気は途端に引っ込んで、一気に落ち着いた物に戻った。どうやら、当たりの選択肢だったらしい。

 

「………………………………」

「………………………………」

「………………………………」

 

(((き、気不味い………ッッッッッ)))

 

ギスギスの雰囲気が、どんよりとした停滞へ変わり、場を支配する。

 

(ハッ!そうだ…そうだった!陽務君に会えたら、やらないといけない事を…しなくちゃ!頑張れ、頑張るのよ私!)

 

沈黙を破る様に、サイガ-0が画面を開き、サンラクに向けて『あるアクション』を取り。彼の前には其れが表示される。

 

『サイガ-0さんからフレンド申請が来ました』

『よろしくお願いし申す』

『フレンド登録しますか?【Yes】or【No】』

 

「フレンド申請?」

「は、はい……其の、えっと……お友達から、お願いします…!」

 

深々と頭を下げるサイガ-0。恋愛以外は(・・・)完璧な彼女にとって、今日という日は今まで以上の大きな前進であった。

 

彼をシャンフロで見付け、毒のスリップダメージから救い、あまつさえフレンド申請を出せた。心臓がバクバクと大きな鼓動を鳴らし続けて、今にも頭は緊張でパンクしそうになる。

 

「……毒から助けて貰ったし、いつか此の御礼は返しますね」

 

ふと頭を上げれば、サンラクが笑ったように見えて。目の前の画面には『フレンドにサンラクが追加されました』と、彼女の勇気と頑張りを称える結果が、其所に在った。

 

(や、ややや……ん、やったあああああああああああああああああああああああああああ!!!)

 

表面は冷静さを取り繕いながらも、心の中は今にも天に昇ってしまうような想いが、サイガ-0を満たす。

 

嗚呼、嗚呼……。本当に、本当に……。勇気を出せて、本当に良かった。

 

「えっと、大丈夫……?」

「はい!何の問題もありません!むしろ絶好調です!もし困った事が有ったら、伝書鳥を下さい!どんな場所に居ても、直ぐに駆け付けますから!」

 

其れでは!と、サイガ-0はルンルン♪とスキップしながら帰り、他のプレイヤーも一人また一人と各々の目的の為動いて。其の場には、サンラクとオイカッツォだけが取り残された。

 

「………フレンド登録しとくか、サンラク」

「………そーだな、オイカッツォ」

 

御互いにEメール以外の連絡を取り合う手段として、しかしながら御互いに煽り煽られの覚悟の元に、サンラクとオイカッツォはフレンド登録をし合う。

 

そうしてオイカッツォはギルドの方へ、サンラクは防具屋で装備を整えるべく、各々が行動を開始したのであった…………。

 






物語が交錯する時、新しい物語が産まれる




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夜闇を駆ける者、其れは誰の物語(其の四)



夜闇の中を開拓者は往く




オッス!オラ、サンラク!今日神ゲーたるシャンフロを、始めたばっかの初心者!現在セカンディル到着してセーブをしてから、色んな施設を巡って武器屋に来たんだぜ!

 

━━━━と、そんな主役を張る声優が冒頭ナレーションをするように、サンラクは防具屋の最安装備の『隔て刃シリーズ』で身成を整え、道具屋でレベリングで狩ったモンスター達の素材を売却し、現在は武器屋に居る。

 

「あ?こんなゴミ買い取れるかよ」

「ですよねー」

 

跳梁跋扈の森でドロップした『ゴブリンの手斧』を、武器屋で売れないか試したが、どうやら買い取ってくれない様だ。

 

「しょうがない。おっちゃん、武器のラインナップ見せてよ」

「おぅ、良いぞ」

 

表示される武器の一覧、何れも此れもイマイチかと思った矢先、サンラクは『籠脚(ガンドレッグ)』なるカテゴリーに目を付ける。

 

「なぁ、此のガンドレッグって何?」

「お、目の付け所が有るじゃねぇの兄ちゃん。ソイツはつい最近、新しく出来た武具でな。両足に固定して使い、防具として耐久上げたり、蹴りでの格闘に用いるんだとよ」

 

「へー」と答えつつ、サンラクは籠脚のラインナップに目を通す。しかしシャンフロの序盤の街と有って、性能は据え置きである。

 

「うーん…やっぱビミョーだなぁ」

「なら『作る』しかねぇなぁ兄ちゃんよ。俺達鍛冶師に素材を渡せば、武器を作れるぜ」

「えっマジで?」

 

「あぁ」と白髭を生やす鍛冶師が、マップを展開して其のエリアを指差す。

 

「此処から行ける『四苦八苦(しくはっく)沼荒野(ぬまこうや)』で採れる鉱石を持ってくれば、見合った武器を拵えてやれるぞ。其れと兄ちゃんが採掘するなら、ツルハシよりゃ小鎚の方が効率が良いかもな」

「そうなのか…じゃあ、此の鉄小鎚を2本頼むよ」

 

「あいよ」とアイテムインベントリに入った、鉄の小鎚を確認したサンラクは、四苦八苦の沼荒野へと走る。

 

時刻は午後7時を差し、夜は増していく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇな小鎚。打撃練習にもなるし、ツルハシよりもスタミナ消費が押さえられてる。おっちゃんが言ってたのは、こういう理由か」

 

夜闇の空に星が瞬く、四苦八苦の沼荒野。点在する採掘ポイントで、鉄の小鎚を振るい翳し、トンカラカンとリズミカルに、鉄面を岩山へぶつけるサンラクは、小鎚の有用性に感心していた。

 

傭兵(二刀流)は職業特性によって、連続攻撃の手数で押し切る事を戦闘の主としている。其れが小鎚を用いた採掘ともなれば、ツルハシを用いるよりも段違いのペースで掘れる。更に言えば打撃系スキルを覚えるのに、此れ以上に適正な方法は中々無いだろう。

 

「小鎚で採掘して、其の鉱石を売って小鎚を買って、また採掘をして、目当ての武器を作る……よし、整った!」

 

そうと決まれば話は早い。一昔前にゲームセンターで見た太鼓のゲームの様に、音ゲーでお気に入りの楽曲を奏で、リズミカルに鼻唄を歌うように、サンラクは次々と採掘ポイントを掘っていく。

 

およそ1時間半程が経過し、粗方の採掘ポイント巡りで、鉄鉱石等の鉱石アイテムを手に入れた彼は、颯爽と武器屋へ帰還する。

 

「おっちゃん、早速だが武器作ってくれ」

「おぉう…。こりゃまた……随分採って来たな、兄ちゃんよ」

 

アイテムインベントリから取り出され、カウンターに積み上げられていく、数多の鉱石を見た鍛冶師は目を丸くする。

 

「ふふん、小鎚様々ってね。ところで、作れる武器って何があるの?」

「待ってな、今出来るリストを出してやるよ」

 

そう言って展開される武器一覧に、目を通すサンラク。すると鍛冶師は『あるアイテム』を見て、こう言ってきた。

 

「おいおい、こりゃ『沼棺の化石』じゃねーか。珍しい」

「あぁ、ソレ?採掘ポイントで掘ってたら、幾つか出たんだよ。レアアイテム?」

「あぁ。コイツがありゃ、こんなのも作れるぞ」

 

そう言い、ピックアップした画面には『湖沼の短剣』や『湖沼の小鎚』と言った、クリティカル発生による耐久値減少を半減するという、手数とクリティカルの連打でモンスターを倒す自分と、相性抜群(ベストマッチ)な武器が在った。

 

「…良いね。じゃあ湖沼の短剣と小鎚、各々2本づつ頼むよ」

「おぅし解った!直ぐに作るから、適当に時間を潰しておけ!」

 

余った鉱石は一部を除いて換金し、道具屋で回復アイテムを幾つか購入。スキルを確認したり、夜の時間帯のモンスターとの戦闘で、レベリングをしながら時間を潰して、およそ1時間が経過。

 

サンラクが武器屋へと戻ると、白髭を生やす鍛冶師が彼の注文していた、湖沼の短剣と湖沼の小鎚を完成させており、アイテムインベントリに各々2本ずつカウンターに乗せて、腕組みをしながら待っていた。

 

「お~……神武器かよ………」

「また素材が手に入ったら持ってきな。武器を育てるのも、俺達鍛冶師の仕事だ。あと、俺はそろそろ寝るから、武器の修繕するなら明日以降に頼むぜ?」

「うーん…まぁ、しゃーない。あんがとな、おっちゃん」

「おう。あぁ、其れと夜の時間は危険だ、くれぐれもそんな装備で出歩くんじゃねぇぞ?」

 

武器を育てるという気になるワードも有ったが、サンラクが1時間程戦った、夜の時間帯のモンスター達を思い浮かべる。何れも一筋縄ではいかなかったものの、昼間とは変わって好戦的な連中も多かった。

 

そしてゲーマーならゲームの中で、思いっきり無茶をしたいと思うのも、逃れられないサガであり。

 

「フフフ…!無茶をするなと言われたら、無性に無茶したくなるのがゲーマーなんだよなぁ…!インベントリがパンパンになるまで、狩り尽くしてやろうじゃねーの!」

 

夜の時間帯にしか現れないモンスターならば、其れなりのレアアイテムも有るだろうと、サンラクは再び四苦八苦の沼荒野へと突き進むのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲギャギャギャギャ!」

「ギャキキー!」

「ギャギャキャー!」

「ゲギギーギギギ!!」

「ゲキャッ!ゲキャキャ!」

 

(仲間を呼ぶコマンドは昔っからザコ敵が呼ぶって、相場が決まってる筈だろが━━━━━!!!)

 

四苦八苦の沼荒野でレベリングをしていたサンラクは、現在赤頭巾を被る、通常のゴブリン達よりも遥かにグレードアップした武器を携え、本来は弱いモンスターが数的優位を作るために使う能力を使い、5体に増えたモンスター『レッドキャップゴブリン』と、生き残りを懸けた戦いを繰り広げていた。

 

昼間に戦ったゴブリンとは、明らかに挙動が違う。仲間を呼ぶという『弱者特権』を行使しながら、其れでいて1体1体が全員フェイントを絡めたり、常に此方の武器が届かない間合いを『判っている』立ち回り。

 

どうみても、ソロで攻略させるつもりが無いだろう、そんな調整が施されたゴブリン達に、袋叩きにされるか逃げ帰るかの選択が示され。しかしながらサンラクは、其所に新しい選択肢を作り出す。

 

「へっ…『イイね』。俺はこういうのが(・・・・・・)欲しかった所だ!」

 

クソゲーマー・サンラクは、誰よりも『理不尽な状況』を好む。逆境や一対多数、クソの様な調整を施したエネミーとの戦闘、ギミック必至の攻略………其れ等を楽しめるプレイヤー。

 

こんなシチュエーションを楽しめないで、己はクソゲーマーが名乗れるか!

 

「掛かってきな、レッドキャップゴブリン共!全員纏めて剥製━━━━━」

 

其の時だった。襲い掛かるレッドキャップゴブリン達が、突如として爆ぜてポリゴンと化し、目の前に吹き荒れる衝撃波で、サンラクも尻餅を付かされた。

 

一体何なんだと、彼は『其れ』を目撃する。

 

 

 

 

 

砂煙が開けるようにして、躍り出るは黒の。漆黒すら生温い、底無しの『闇』であり。

 

月と星達の放つ仄かな明かりが照らす、荒野の地を踏み締め、四足で歩む大型の『獣』を見た。

 

尖った耳と風に揺れる炎のような『黒毛』、敵を簡単に引き裂き、噛み千切る事が出来そうな『爪と牙』を。

 

 

 

 

 

サンラクは出逢った……否、出逢ってしまった。

 

真のシャングリラ・フロンティアに。

 

狼の形が成った、暗闇の権化に。

 

其の右目から(・・・・・・)黒の闇を溢し続ける帝王と(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

『ユニークモンスター』

 

『夜襲のリュカオーンと遭遇しました』

 

 

 

月明かりの下で、鳥頭と夜襲が此処に相対す。

 

 

 

 






如何なる世界でも、定められた特異点




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夜闇を駆ける者、其れは誰の物語(其の五)



サンラク 対 夜襲のリュカオーン




七つの最強種(ユニークモンスター)・夜襲のリュカオーン。

 

シャングリラ・フロンティアを始めるに当たって、楽朗はソフト到着を待つ間、ネットサーフィンで調査した項目の中に、其れは在った。

 

ゲームの中でたった7体しか存在せず、其の全てが唯一つの例外も無く、理不尽な強さを誇るとされるモンスター達。其の一角であり、夜の時間帯にシャンフロ全域を駆け回る、ランダムエンカウントの黒い狼というのがリュカオーン。

 

そして何の因果か偶然か、今現在自分の目の前にソイツは居る。

 

「まさか、こんなに早く出逢えるとはな…」

 

ゴクリと固唾を飲み込んで、サンラクは両手に握る湖沼の短剣を構え直す。あの黒狼から放たれる殺気は、此迄プレイしてきたゲームのボスすら、霞んでしまう程に濃密で濃厚で重圧だった。

 

星の数程有るVRゲームの中の、誰もが認める神ゲー。風や肌触りといった『普通ならば』妥協する部分さえ、一切手を抜く事無く仕上げた事で、リュカオーンの気迫も想像以上の物として、彼は感じる事が出来たのである。

 

リュカオーンが大地を踏み締めて、右前足を振り翳してサンラクへと襲い掛かる。右目から闇が溢れる様は、まるで月と星の光満ちる夜空に、墨汁の一閃をなぞるようで。

 

「ッ━━━━━オラァ!!」

 

ドンピシャと言えるタイミング。スキル・ジャストパリィを発動し、重ね合わせた湖沼の短剣で、リュカオーンの一撃を弾い(パリィし)たサンラク。

 

身体を宙返りさせる中、刃を横薙ぎで右前足にクリティカルの斬撃を叩き込む。

 

「ハハッ…!フハハハハハ!確かに速ぇが、大したことねぇーな!リュカオーン!」

 

バックンバックンと鳴り響く、己の心臓の鼓動。タイミングをミスれば、危うく死んでいた事実を感じつつも、取り繕う様に己を鼓舞する。

 

リュカオーンが地面を叩き割り、衝撃波が大地を抉る中、サンラクも移動系スキルを使い、全力でユニークモンスターへ立ち向かう。

 

四苦八苦の沼荒野で、一人の開拓者と最強種の黒狼は、生きるか死ぬかの戦いを、夜天の下で繰り広げていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦い始めてから、一体どのくらいの時間が経っただろう。10分…いや、既に15分は確実越えたか。被弾一発で死亡してしまうサンラクは、濃厚な死の気配と死線の中で、得られたリュカオーンの情報を整理する。

 

全身を纏う毛皮は、最上位クラスの鎧を一本一本繊維にしたような強靭さ。加えてスピードとパワーも圧倒的。此方に其れを、嫌と言う程に見せ付けてくる。

 

与えたクリティカルは400は越えたにも関わらず、毛皮が堅過ぎる為にダメージが通っていない。そして耐久で優れている湖沼の短剣と湖沼の小鎚達も、リュカオーンとの戦いで消耗して、既にボロボロとなってしまった。

 

(確かに『理不尽な強さ』だ……夜襲のリュカオーン!だがコレは『お前を創ったヤツ』の、想定通りの強さ。つまりは『倒せる理不尽』だ………!)

 

致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)へ切り替えて、リュカオーンが繰り出す怒濤の攻撃を見切り、隙間を縫う様に打撃を叩き付けていく。

 

(そして攻撃はディレイも絡めてくるが、意外と『安置』も多い。コイツの攻撃速度に馴れさえすれば、クリティカルを叩き出すのも不可能じゃねぇ!)

 

致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)に切り替わり、走り込んだ安置より放たれる斬撃と刺突が、黒の毛並みを突き、切り裂く。

 

(そして何でか知らないが、戦闘始まってからもずっと闇が洩れてる『右目』。まるで『狙って下さい』って言ってる様だよなァ?!)

 

サンラクは思う━━━━『アレ』は明らかに誘っていると。理不尽の塊であり、権化であるユニークモンスターの、攻撃が確実に届くであろう『傷痕』。もし其所を狙ったのなら、自分はタダでは済まない事になる。

 

「戦いには卑怯も、ひったくれもねぇんだ!弱点晒したままで居るのを、しっかり後悔しやがれ!」

 

狙うは闇を今も尚、涙のように溢し続ける右目。全力移動でリュカオーンの踏み付けに合わせ、サンラクは片手の小鎚を包丁に切り替えて跳躍。全神経を唯一点、此の一撃に集束させて見定めた。

 

黒く、黒く、唯々黒く━━━━充血したように、真っ黒に染まった右目に向けて、致命の包丁の鋒を振り翳し、彼はスクーピアスを叩き込む。

 

 

 

が━━━━━━━

 

 

 

ガッギィィィ!と黒板を爪で引っ掻いた様な、嫌悪感を催す異音が響き、リュカオーンの瞼に刃が阻まれた。

 

「…まだまだァ!!」

 

サンラクが切り替えた小鎚の面を、包丁の持ち手に目掛けて振った瞬間。リュカオーンが瞼を力強く開くや、包丁の刃を押し上げて、サンラクの身体が浮かされる。

 

目の前に写るは、リュカオーンの鋭き牙達。狙いは噛み付き攻撃。

 

「チィッ…!」

 

小鎚と包丁の側面を構え、ジャストパリィの構えを取る。弾き次第、再び右目を狙いに━━━━━

 

『ォォォオオオオオオオオオオオオン!!!』

 

がしかし。彼の耳に轟いたのは、狼が月に吼える様に噛み付きではなく、闇夜へ遠吠えるリュカオーンで。其の咆哮が響いた瞬間、サンラクを襲ったのは『全身が金縛り』を食らった様な『硬直』だった。

 

(な…!?咆哮、いやフェイント…か!?其れよりも、身体が動かねぇ!?何だこ━━━━)

 

次の瞬間にサンラクの両足は、チェーンソーかギロチンでバツン!と断たれた感覚。

 

力任せに筋肉と骨を引き千切れ、慣性によって其の身は宙を舞い、背中から四苦八苦の沼荒野の岩肌へ、乱雑に叩き付けられていた。

 

「………ゴフッ……!!」

 

背面の圧迫で肺から空気が漏れる。噛み千切られた両足から、叩き付けられた背中から、赤いポリゴンが放出されて体力が減っていき━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其の進行は、残り僅か『1』で止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

(現実は……何時だって甘くねぇ。突然覚醒してスキルで一発逆転とか、謎の高ランクプレイヤーに助けて貰ったりだとか。そんな『奇跡』早々起きはしない)

 

岩肌に凭れつつ顔を上げれば、此方に歩いてくるリュカオーンの姿が映る。一歩、また一歩と、確実に己の命を狩り執る、死神の足音にも聞こえて。

 

(………いや、奇跡なら既に『起こってる』。幸運が働いたか知らんけど、体力が全損して無いわ……じゃあ『食いしばり』か?乱数の女神(クソッタレ)、こういう所で仕事をするんじゃねぇ!)

 

サンラクが脳内で喧嘩をしている内に、眼前にはリュカオーンが迫っていて。だが不思議と、満足感が在る。全力を出しても届かなかった、最強の相手に自分の目標が定まったのを感じた。

 

己の炉心(ゲーマー魂)に火が着いて、神ゲーをやる原動力(モチベーション)が沸き上がる。

 

「決めたよ。ラスボスとかストーリーとか、そんなもんはもう、どうでも良い。今は無理でも………いつか必ず、お前を倒すからな」

 

絶望に屈する事は無く、サンラクは致命の包丁の鋒を翳して、リュカオーンに宣った。

 

「其れまで、誰にも倒されるんじゃねぇぞ………!夜襲のリュカオーン!!!」

 

彼の言葉と最後に見せた行動に、夜の帝王は何を想ったのか。然して口角は上がり、リュカオーンは『グルッルッ』と笑い、其の眼は一瞬だが『そのつもりよ』と言った様も見えて。

 

直後に開かれた口と牙達を以て、サンラクの胴体を断絶し、残っていた体力を削り切り、仕留めたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リュカオーンの呪い(マーキング)が付与されました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………へ?」

 

 

セカンディルの宿屋にて、初めてのリスポーンを経験したサンラクは、死亡と同時に起きた己の変化を確認するべく、ステータス画面を開く。

 

其所に在ったのは、進化したスキルや新規習得したスキル、大きくレベルアップした事等々。しかし諸々含めても、全てが胴体と足に刻まれた『リュカオーンの呪い(マーキング)』の一文と、其の説明文に持っていかれて。

 

一通り確認し終えたサンラクは、一人呟いた。

 

 

 

「あれ、これ詰んでね?」

 

 

 

━━━━━━と。

 

 

 

 






刻まれた呪いは、強者に認められた証




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そして半裸の鳥頭と話題の胡椒は邂逅す(ペッパーside)



100話になりました




ペッパーが王都・ニーネスヒルに到着し、クラン:聖盾輝士団こと聖女ちゃん親衛隊の案内で、ユニークNPCにしてシャンフロのアイドルこと、慈愛の聖女イリステラと邂逅して、サードレマ大公の元へと向かえという御告げを受けた翌日。

 

世間一般では初夏の大型連休(ゴールデンウィーク)に突入し、学生達は休日を各々の思うがままに過ごし、社会人は休日が仕事で完全に殺されて、世界は天国と地獄に別たれる。

 

都内某所の大学に通う五条(ごじょう) (あずさ)は、連休によって大学の講義は無く、コンビニのバイトもシフトを上手く調整した事で、1日フリーを手にしていた。

 

「うっし!今日も今日とて、シャンフロを進めますかね!」

 

朝食を食べ終え、トイレとシャワーを済まして、恒例となったVR機材の動作チェックと、水分補給用の飲料の用意をしながら、Eメールアプリで永遠へメールを送る。

 

「ええっと……『今日1日シャンフロやれるから、鉛筆の都合が合う時間と、集合場所を教えて下さい』……此れで良いかな?」

 

送信ボタンを押した後、彼はスマフォを枕元に置く。そして万が一に備えて、玄関の鍵を閉めつつ、チェーンで二重ロックをし、空気循環と雨が降ってきた場合に対応出来るよう、窓をスライドさせて調節する。

 

そして機材を頭にセット、布団に寝転がった梓はシャンフロの世界で、ペッパーとなって走り出すのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なにこれ」

 

ログイン早々、ペッパーの視界へ飛び込んできたのは、兎御殿の休憩室内に所狭しと並ぶ、伝書鳥(メールバード)のハヤブサ達の大群だった。

 

「ペッパーは~ん!来てたのさ~!コレは一体どういう事なのさ~!?」

 

休憩室の出入口でアイトゥイルの叫ぶ声がする。どうやらハヤブサ達によって、部屋に入れないで居るらしい。

 

「アイトゥイル!ちょっと待ってて、原因を確認するから!」

 

画面を開くと、其所には『伝書鳥が届いています』の一文。誰からだろうと確認したペッパーは、其の内容に唖然の表情で口が開きっぱなしになってしまう。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

やぁ、ペッパー君

 

 

フレンド登録をしてくれたようで、何よりだよ。単刀直入に聞きたいが、数日前に千紫万紅の樹海窟で天覇のジークヴルムに遭遇して、其の手に乗っていたそうだね?

 

其の時にジークヴルムと一体何を話したのか、金色のドラゴンは何を想って空を飛んでいるのか、是非とも話を聞かせて欲しい。其の内容によっては、此方も君に有用な情報を提供する用意が有る。

 

本来ならば直接話を聞きたい所では有るが、君は他のプレイヤーからも追われているようだし、伝書鳥で返信してくれて構わない。

 

では、期待しているよ

 

 

クラン:ライブラリのキョージュ

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

………と、類似した内容のメールが約30件近く届いており、ペッパーは全ハヤブサからメールを受け取った後、無言で文章を打ち込み、伝書鳥サービスを利用。

 

ハヤブサにメールを持たせ、空へと放ったのだった。

 

「ペッパーはん、ハヤブサだらけで大丈夫だったのさ?」

「全然ッ、大丈夫じゃないね………うん。というかスパムメールどころか、スパムハヤブサやられたの生まれて初めてだわ………」

 

普段温厚な方であるペッパーの額には、僅かに青筋が浮かび上がっている。どうやら、相当堪えたようだ。と、此方に駆け寄るアイトゥイルが、驚きの情報を投げてきたのだ。

 

「其れよりもペッパーはん!今ラビッツで『新しい噂』が、ヴォーパルバニー達の間で出回ってるのさ!」

「新しい噂………?」

「そうなのさ。ペッパーはんが以前戦った、夜の帝王に唯一人で挑んで、其の身に『二つ』の呪いを受けた、凄まじいヴォーパル魂の開拓者が居るのさ」

 

自分以外に夜襲のリュカオーンに挑み、強者の証を刻まれし新しいプレイヤーが現れた。一ヶ所だけでも凶悪なデメリットを抱える呪いを、何をどうすれば二ヶ所も受ける事になったのだろう。

 

「アイトゥイル、因みに其のプレイ……じゃなくて、開拓者の名前って判明してたりする?」

「名前は既に出てるのさ。確か……『サンラク』って名前で、今ワイの妹のエムルが兎御殿に招く為に、迎えに行っているのさ」

「へぇ~…………ん?サンラク?」

 

ベルセルク・オンライン・パッションこと『便秘』で、モドルカッツォと共に洗礼という名の下、凶悪なバグ技をたっぷりと叩き付けたプレイヤー。

 

得意なバグ技は、対バグ技(・・・・)の秘技たる『居合フィスト』。至近距離下でのインファイトでも、圧倒的な反射神経を此方に見せ付けた。

 

カッツォや鉛筆曰く、どのゲームでも共通して『サンラク』のネームでプレイするそうなのだとか。

 

「ペッパーはん、知り合いなのさ?」

「知り合いかどうかは解らないが…『其の名前』は聞き覚えが有ってね。兎御殿の入口に行けば逢えるだろうか?ちょっと行ってみたい」

 

実際に自分の目で確かめた方が早いだろう。そんなペッパーに「ワイも付いていくのさ」と、アイトゥイルも肩に乗っかってきて、1人と1羽は兎御殿の入口を目指して移動しようとし。

 

昨日からレディアントシリーズを着っぱなしでログアウトしたので、其のままになっていた事に気付いて、ユニーク装備の情報を秘匿すべく、元々の黒主体のコーディネートに着替え直して、移動を再開。

 

そうして兎御殿の入口に着くと、其所には『2羽の者共』が居た。

 

1羽は童話『不思議の国のアリス』で、主人公の少女を不思議の国へと招いた兎を彷彿とさせる、ファンタジー味が溢れた大きなシルクハットを頭に乗せている。

 

衣服は洋風、チェーンで繋いだ金時計を右側に、シルクハットには片眼鏡が付いている、白毛垂れ耳のヴォーパルバニー。おそらくアイトゥイルが言っていた、妹のエムルと思われる。

 

そしてもう1羽は、剥製にしたハシビロコウの被り物を頭に被って、ピッチリパンツと隔て刃シリーズのベルトを装備する、腹筋が割れた半裸の変態。

 

しかし其の胴体と両腕上腕、そして両足の太腿には、自分の右手に刻まれた、リュカオーンの呪い(マーキング)が確かに存在し、アイトゥイルの言葉が事実だと証明している。

 

そして頭上のプレイヤーネームは『サンラク』と表示されており、此方に気付いた彼は驚いた様子で声を出した。

 

「えっ!?『ブラックペッパー』!?なんだその真っ黒コーデ?現役中二病か?あと一番乗りお前だったんかい!」

 

ブラックペッパー、便秘での自身のプレイヤーネームに反応した事で、ペッパーも彼の正体に気付くに至り。

 

「やっぱり『サンラク』か!便秘の時は世話になったな!………というか、鳥頭半裸HENTAIスタイル好き好んでやってるの?もしかして露出癖でも有るのかい?」

「好きでこうなった訳じゃねぇんだよなぁ……。あとサラッとHENTAI言うな、あの(いぬ)っころとかのせいでこーなったんだよ。てか、誰が露出狂じゃゴラァ!」

 

そんな他愛の無い会話の中で、便秘でやられた分を煽り返すのだった。

 

 






シャンフロにて主人公達が交錯(クロス)する



100話突入記念、小説設定ぶちまけコーナー


ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】

ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】の報酬たる、ユニーク遺機装(レガシーウェポン)。此れには秘密がある。



光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)

悠久を誓う━━━━━━

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星を━━━━━━━━━





夜闇━━━━━━━━━

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そして半裸の鳥頭と話題の胡椒は邂逅す(サンラクside)



其れは、別の視点の話




サンラクが夜襲のリュカオーンとの戦闘を行い、そして敗北を喫した夜が開けた。戦いの果て、胴と脚に刻まれたリュカオーンの呪い(マーキング)に関する情報を調べる為、そして日にちを跨いだ事で一旦ログアウトしていた楽朗は睡眠を経た後、再びシャンフロのサンラクとしてログインしていた。

 

あのクソ犬(リュカオーン)め……。レベル上げまくって、生け好かない顔面を思いっ切りブン殴ってやる……!」

 

シャンフロwikiを調べた所、クラン:ライブラリと呼ばれる考察班が記載した『リュカオーンの呪い』に関係する記事が在り、此のゲームを遊んでいるプレイヤーが、自分と同じマーキングを受けたらしく、其の特性や積極的に狙いたいモンスターの情報を、ライブラリに提供したという。

 

「とと…焦るな、先ずは落ち着け……『クソゲー三ヶ条』を思い出すんだ。『寛容な心』と『不屈の精神』に『冷静な判断力』。其れを忘れなければ、大抵の『クソゲー』は何とも無くなる。ふぅ~………」

 

深呼吸で荒ぶりそうになる心を落ち着け、サンラクは己のやるべき事を整理していく。

 

「最優先にやる事は、武器の修繕。リュカオーンとの戦いで、湖沼の武器達はボロボロになった…。このまま先に進んでも、耐久値限界で破壊される事になる」

 

新しく作るにしても(マーニ)は掛かる。新造するよりは武器を直した方が、結果的に費用は少なく済む。サンラクは首をコキコキと鳴らした後、其の脚で武器屋へと向かう。

 

「んぉ!?……って兄ちゃんじゃねぇか、ソイツぁ…『夜の帝王の呪い』…か?」

 

入店早々、白髭を生やした鍛冶師の男が驚いた様子で、サンラクに問い掛けてくる。マーキングが内封している効果として、NPCとの会話に補正が掛かると在ったが、成程こういう事かと彼は理解した。

 

「あぁ、コレ?昨日リュカオーンと殺り合ってね、胴と脚にマーキング食らっちまった」

「そうか…随分大変な目に有ったな、兄ちゃんよ」

「まぁね。だけど、アイツをぶん殴るって目標が出来たから、其所だけは感謝してるよ。おっちゃん、武器を直してくんねーか?」

「おぅ、任せな。キッチリ直してやるよ!」

 

400近いクリティカルの中の、大半を占めた湖沼の短剣と湖沼の小鎚をカウンターに乗せ、代金を鍛冶師に支払ったサンラクは、店を出た後にステータス画面を開き、ステータスポイントに注目する。

 

「でだ……リュカオーンとの戦闘時はレベル18で、今現在はレベル28。計算が合ってるならステータスポイントは『50』なんだが、表示されてるのは『70』。やっぱユニークモンスターと戦闘すると、ボーナスポイントが貰えるのか?」

 

自分のアバターの装備スロットを、呪いで二つ潰されている以上、耐久や体力には振る事はレベリングに縛りが付いた今、貴重なポイントをドブに投げ捨てる事と同義。

 

此処でキャラビルドの方向性を決める為、サンラクはスポイントをステータスに振り分け、最終的に此の様になった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

PN:サンラク

 

 

レベル:28

 

メイン職業(ジョブ):傭兵(二刀流)

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 30 魔力 10

スタミナ 55

筋力 20 敏捷 60

器用 25 技量 25

耐久力 6 幸運 65

 

 

残りポイント:0

 

 

装備

 

右:致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)

左:致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)

両足:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

頭:凝視の鳥面(耐久力+2)

胴:リュカオーンの呪い(マーキング)

腰:隔て刃のベルト(耐久力+4)

足:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

 

アクセサリー

 

無し

 

 

 

スキル

 

・スピンスラッシュ→ラッシュスラッシュ

・スクーピアス→スパイラルエッジ

・ナックルラッシュ

・スライドステップ→スライドムーブ

・ジャストパリィ→レペルカウンター

・ループスラッシュ レベル1→レベル4

・エッジクライム

・アクセル レベル1→レベル4

・ラッシュスタンプ

・デュアルストラス

・クラッシュセンス

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

「攻撃に当たったら即死だわな…コリャ」

 

ステータスを見ながら、サンラクは頭を抱えた。幸運は『食いしばり』に大きく関係しているようで、あの時のリュカオーンの噛み付きを耐えられたのも、幸運が高かったからだと推測出来る。

 

だが幸運であるからといっても、自分はマーキングを食らった挙句、リュカオーン討伐or聖女の祈りで浄化するまで半裸強制という始末、良い事が一つも起きていない。

 

「こういう時、何か『救済措置的なイベント』の一つや二つ、起きてもおかしく無いんだが……」

 

大衆から文句無しの神ゲーとして、太鼓判を押されるシャングリラ・フロンティア。ユニークモンスターと戦い、呪いを受けたプレイヤーに何も与えぬまま、フィールドに放逐する鬼畜な真似等、運営は決してしない筈。

 

数分後、鍛冶師がサンラクを呼んで修復した武器を渡し、アイテムインベントリに仕舞った彼は一人、裏路地へと入った其の直後、己の頭上をボフンと柔らかい衝撃が襲う。

 

「ふべっ!?な、何……だ………!?」

 

闇討ちか天誅かと視線を向けたサンラクの思考が、シャットダウンを経由して再起動する。

 

彼が目撃したのは童話『不思議の国のアリス』で主人公の女の子を導く兎よろしく、高級感の有る洋服にシルクハット、金時計に片眼鏡を付けた『白毛のヴォーパルバニー』で、此方を見ながらヒョイヒョイっと手招きして、裏路地へと入って行くのを目撃したからだ。

 

「ヴォーパルバニー…!?街中にもポップしたか?いや、今はそんな事言ってる場合じゃねぇ!」

 

重大で重要なイベントのフラグだと、長年のクソゲーを含んだゲームで培われたゲーマーの『勘』が告げている。走って壁を蹴るヴォーパルバニーを、サンラクは強化した敏捷で追い掛けて。

 

軈て行き止まりに辿り着いた所で、ヴォーパルバニーは壁に手を当てるや、一つの扉を作り出す。

 

「!?扉だと…?」

 

ガチャリと開き、ヴォーパルバニーはサンラクを見て、扉を閉める。そして扉にはこう記される。

 

 

 

 

『ユニークシナリオ』

 

『兎の国からの招待』

 

 

 

 

━━━━━━━━━━と。

 

 

 

「ユニークシナリオ…!?」

 

事前のネットサーフィンで調べたが、シャンフロのユニークシナリオは発生条件が何れもハッキリとしておらず、自らの手で開拓して見つけ出さなくてはならないように、複雑怪奇に構成されている。

 

「……ククク!まさか、こんな序盤で出会えるとは!幸運にポイントを振った甲斐が有ったって訳だ!此のチャンス、ぜってぇ逃がさねぇぞ!」

 

扉を開き、サンラクは中に飛び込んだ。しかし閉じられた扉には、後付けとなるように『推奨レベル80以上』の文字が刻まれたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開いた先でサンラクが見た景色は、大樹の上に出来た木の階段と、壮大な造りで成された大御殿が鎮座。

 

下には見渡す限り、兎を模した建物が並び、ヴォーパルバニー達がのびのびと暮らす、楽園の様な世界が広がっている。

 

「な、何だコリャ…!?ヴォーパルバニーの巣穴…?まさか、敵の本陣に乗り込んじまったのか…!?」

「ようこそですわ、サンラクさん!御会いしたかったですわ!」

 

其の背後で声が聞こえて、サンラクが振り返ると、其所には先程追い掛けていた、白毛のヴォーパルバニーが居た。

 

「だっ!はいぃっ!?おはようございますぅ!?」

 

思わず後退りするが、其のヴォーパルバニーは目を輝かせながら言ってくる。

 

「いやぁ!今ラビッツは、サンラクさんの噂で持ちきりなんですわ!かの夜の帝王を相手に、たった一人で果敢に挑んだ勇気!被弾する事も無く、致命の一撃を幾百にも渡って叩き付ける確かな技量!まさに『ヴォーパル魂』の体現者ですわ!憧れますわ!」

「お、おぅ……そりゃどうも。滅茶苦茶強かったし、全ッ然歯が立たなかったけどな」

 

ヴォーパル魂とは何ぞや?と聞いては見たかったが、リュカオーンに完敗に等しい敗北を喫したのは事実だ。

 

「当然ですわ!夜の帝王はゴーレムを道端の小石を蹴飛ばすように扱い、ドラゴンに至ってはおやつ感覚で喰い殺す最強種!サンラクさんの様に『神代の加護』を持っている開拓者さん達でなくては、此の瞬間さえも、アタシと喋る事すら出来ないのですわ!」

 

此の白毛のヴォーパルバニーが言う、神代の加護とやらが何かは解らないが、ゴーレムを小石・ドラゴンをおやつ扱いにするリュカオーンに、鳥面の奥に在るサンラクの顔は引き吊った物になる。

 

七つの最強種の一角・夜襲のリュカオーンに対する認識を、此の場で改めなくてはならない。

 

「えっと……君が俺を案内した理由って、ヴォーパルバニーを100匹近く狩ったから、其のケジメ……とか?」

 

致命の包丁と致命の小鎚を各々二本ずつ揃える為に、ヴォーパルバニーを狩った事に対する報復かと身構えるも、返ってきたのは意外な答えだった。

 

「オカシラはそんな『小さな』事で報復はしませんわ。そしてアタシは『エムル』って言いますわ。サンラクさん、よろしくお願いしますわ。其れとサンラクさんが呼ばれたのは、アタシ達のオカシラがサンラクさんに逢いたいって言ったからなのですわ」

「……直々の御使命、ねぇ」

 

報復を小さい事とする国のトップから、名指しで召集される事ともなれば、大きな恩恵を得られるに違いない。そんな風に思うサンラクへ、エムルはこう言ったのである。

 

「アタシ達、ヴォーパルバニーの国・ラビッツを訪れる開拓者さん達は沢山居ますが、此の兎御殿を訪れたのはサンラクさんで『二人目』なのですわ」

「………ん?二人目?もう既に誰か来てるのか……エムル、ソイツの名前って解るか?」

 

二人目という事は既に誰かが、自分と同じように此のユニークシナリオを受注しているという事。一体、誰なのだろうか?

 

「はいな。確か………あ」

 

エムルが何かに気付いて、サンラク其の視線の先で『一人と一羽』の姿を目撃する。

 

一人は黒を含んだ青と赤の色合いを持つ、ギャングスターを彷彿とさせる黒服、右目は碧で左目は朱のオッドアイが光る、身長185cmの長身男性。そして其の右腕を隠すようにして、マントを身に付けていた。

 

一羽は其の男の肩に乗る、頭には唐笠を被り、薙刀の柄に荷物と桃燈をぶら下げる、風来坊を想わせる細目で黒毛のヴォーパルバニーが居る。

 

サンラクは其の男のプレイヤーネーム『ペッパー』と、彼の顔立ちを見て『正体』に気付いた。

 

 

 

 

 

何せ━━━━━━━━『便秘とシャンフロのアバターの顔が殆ど一緒だった故に』。

 

 

 

 

 

 

「えっ!?『ブラックペッパー』!?なんだその真っ黒コーデ?現役中二病か?あと一番乗りお前だったんかい!」

 

其の声を聞いたペッパーも目を丸くし、此方の正体に気付いて声を上げた。

 

「やっぱり『サンラク』か!便秘の時は世話になったな!………というか、鳥頭半裸HENTAIスタイル好き好んでやってるの?もしかして露出癖でも有るのかい?」

「好きでこうなった訳じゃねぇんだよなぁ……。あとサラッとHENTAI言うな、あの(いぬ)っころとかのせいでこーなったんだよ。てか、誰が露出狂じゃゴラァ!」

 

ベルセルク・オンライン・パッション、通称『便秘』。新規プレイヤーとして参戦し、初心者ながらも脚を用いたゴムパッチンで、己のパイルバンカーをパリィし。

 

ゴムパッチンによる新しいバグ技を発見した、ブラックペッパーとサンラクは、こうして兎御殿で出逢ったのだった………。

 

 

 

 






こうして胡椒と鳥頭は出逢う




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サンラクとヴァッシュ、そしてペッパー



サンラクのロールプレイ




「ペッパーさん、初めましてですわ!アタシはエムルですわ!ギラギラ滾るヴォーパル魂を持っていますわね!」

「初めまして、ペッパーです。アイトゥイルから、貴女の話は聞いてます。よろしくお願いします」

「やぁやぁ、サンラクはん。ワイはアイトゥイルなのさ。夜の帝王から二つも呪い受けるやなんて、アンタも中々のヴォーパル魂を感じるのさ」

「お、おぅ……よろしく」

 

御互いに自分を連れて来たヴォーパルバニーと、挨拶に握手を交わして、エムルの案内でサンラクと一緒にペッパーとアイトゥイルは兎御殿を歩く。

 

(なぁ、ペッパー………さっきからエムルとアイトゥイルが言ってる、ヴォーパル魂ってのは何なのか解るか?あと此のユニークシナリオ、誰かに口外したりしてねぇか?)

 

そんな折、サンラクがペッパーにヒソヒソ話をするように、ヴォーパル魂とユニークシナリオについての質問をしてきた。

 

(俺も詳しい事は解らないけれど……。多分『魂の気高さ』とか『強敵に挑む心意気』の事じゃないかと思う。ユニークシナリオに関しては、誰一人にも口外してない。とんでもなく貴重だからな、コレ)

(そうか。…………って、要するにアレか?自分の言動に対して、状況に応じた『ロールプレイ』を常時要求してくる……みたいな?)

(だとは思う……まだハッキリとしてないけど)

 

ペッパーの思う、ヴォーパル魂に関する解釈に、うむむ…とサンラクが唸る。そう考えると、ロールプレイの下に慈愛の聖女イリステラの親衛隊として、活動・護衛を行うジョセット率いる聖盾輝士団の本気(ガチ)度合が、生半可な物では無いと改めて考えさせられる。

 

と、エムルの足が嘗て、アイトゥイルの案内で訪れた謁見の間たる、大広間の襖の前で止まった。

 

「サンラクさん!此方にアタシ等のおと…げふん、カシラが居ますわ!カシラー!ヴォーパル魂に溢れる、人間さんを連れて来ましたわー!」

「おぅ、エムル。よぅやった……」

 

内側からヴァイスアッシュの声が聞こえて、サンラクが早速開こうと襖に手を掛けるが、ペッパーが一旦静止を促すように伸ばした手首に、指先を乗せる。

 

(おいペッパー、早く開けたいんだが?)

(サンラク。さっきヴォーパル魂について言ったと思うが、必要なのはロールプレイだ。此の場面、君ならどうやって入る?)

(………もしかして、そういう事?)

 

先程と同じく、ヒソヒソ話をしてコクリとペッパーは頷く。其れを見たサンラクは深呼吸をした後、キリッとした視線で背筋を伸ばし。エムルが襖を開くと共に、彼は「失礼しやす」と述べて部屋へと入る。

 

「おぅ、よく来たなぁ。待ってたぜ……」

 

謁見の間の奥に座り、着物を着た小さな雌兎を付き従え、ヴァイスアッシュが座っている。部屋の外から見ても、ヴォーパルバニーの大頭の気迫は、尋常の物ではない。

 

しかし其の気迫にも負けず、サンラクの瞳はヴァイスアッシュを見つめて。其の目は既に『入っている』かの様にも感じられた。

 

「おめぇさんかい。あのワンコロと殺り合って、ションベン(マーキング)引っ掛けられたってのは。中々ヴォーパル魂が有るじゃねぇか」

 

人参型の年代物の煙管を吹かして、ヴァイスアッシュが左目を開きながら、サンラクに対して言った。

 

「どうだい?おめぇさんが俺等(おいら)に時間を預けるなら、直々に鍛えてやっても良いぜ」

 

ペッパーとアイトゥイルは、サンラクの背中を見ながら、彼がどんな答えを返すのかを見守り。そしてサンラクは脚を広げて、膝を畳に付け、太腿に両手を置きながら、頭を下げてこう言った。

 

「拒む理由も在りやせん、よろしくお願いしやす。兄貴」

 

極道物のゲームである、組長との一場面として完全解答(パーフェクト)に等しい、受け答え(ロールプレイ)をサンラクは成し遂げたのだ。

 

「うはははははは!そうか、そうだよなぁ!教えを請う以上、おめぇさんは舎弟だ!よぉく解ってるじゃねぇか!ははははははは!!!」

 

ヴァイスアッシュも大笑いで立ち上がり、上機嫌な様子でサンラクに近付いて、其の手でバシバシと彼の肩を叩く。やはりあの場面、選択肢は兄貴が正解だったかと、先生と呼んだペッパーは己の選択ミスを少し後悔して。

 

そしてヴァイスアッシュは、サンラクへと言った。

 

「おいらの事は、ヴァッシュって呼びな!気に入った奴にゃあ、そう呼ばせてるんだ」

「………ウッス!兄貴!」

「おぅ、エムル!コイツの世話ァ、お前に任せるぜ」

「は、はいな!アタシ、一生懸命頑張るわ!」

 

此所にまた1つ。プレイヤーとヴォーパルバニーの新しいコンビが誕生した、そんな記念すべき瞬間に立ち会えた事を、ペッパーは心の中で感謝したのだった。

 

と、彼はある事に気付く。そう言えば自分は此の後、致命魂の首輪を強制装備されたんだよな?━━━と。

 

「おっといけねぇ、コイツを忘れる所だった」

「へ?え、何すかコレ!?強制装備!?」

 

其の予想は的中し、サンラクの首にヴァッシュが投げた、致命魂の首輪がギチッと巻き付く。

 

「はぁあ!?所得経験値半分!?また縛り追加ァ!?」

「弱者が強さを得るには、尋常じゃない苦難が必要だぁ。其の身に宿ったヴォーパル魂、忘れるべからず!だ!」

「お似合いですわ、サンラクさん!」

 

リュカオーンの呪いと致命魂の首輪による二重の縛りに増えた事で、サンラクが先程のキリッとした表情は、一気にグロッキーな物へと変わったのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「経験値半分……レベル以下逃走……被弾したら死ぬ……」

 

ヴァッシュとの邂逅を経たサンラクは、兎御殿をフラフラ歩きながら、ブツブツと呟く。胴と脚の二ヶ所に呪いが付いている以上、防具による耐久値上昇は見込めず、回避特化にするしか道は無くなり、苦労していると考えたペッパーは、非常に申し訳無い気持ちになった。

 

「サンラクさん!そんな時は兎御殿やラビッツを見て回ると、少しは気分が変わりますわ!」

「エムルの言う通りさね。役に立つ施設も沢山あるし、悲観してても何も始まらないのさ」

「ソーダナー……」

 

エムル&アイトゥイルがエールを送る中、此方も何か出来ないかと考え、彼は言う。

 

「サンラク。首輪は俺も付けているが、ステータスポイントもそうだけど、何よりスキルの熟達や開眼に関して、とんでもない効率を誇る『ブッ壊れアクセサリー』なんだぞ其れ」

「…………そうなの?」

 

「あぁ」とペッパーは答えて、首輪がもたらす恩恵に対する説明を、ユニークシナリオの先達者として、サンラクにレクチャーした。

 

「シャンフロは所謂『スキルゲー』で、覚えるスキルや魔法は、戦闘やそうじゃない場合で使用しても、熟練度は『上がっていくんだ』。同時にスキルや魔法を習得出来るか否かは、レベルアップの時点に於いての『理解と経験』に比例してる。

 

では問題。今サンラクや俺が付けてる、此の致命魂の首輪。此れを装備した状態で、スキルや魔法を二倍の戦闘回数の中で使い重ねて、様々な戦法を用いた果てにレベルアップした場合━━━━」

 

 

 

 

スキルの成長及び習得率(・・・・・・・・・・・)は一体どうなると思う?

 

 

 

 

ニンマリと笑うペッパーに、サンラクは其の答えを考えて。そして答えに辿り着いてか、目を大きく見開いて丸くする。

 

「イヤイヤイヤイヤ……えっ、マジで?」

 

致命魂の首輪が装備者に与えるメリット。戦闘経験の倍増によるデメリットは、同時に己が持つスキルの理解に直結し、レベルアップによる進化と変化に、大きく関わっている。

 

「フッフッフ……俺はレベル26の時に装備して、41までレベルを上げたんだが、秘伝書で覚えた物を除くと、50近いスキルを持ってる。

 

右手に呪いが在ってコレなんだ、両手が使えるサンラクなら大剣に大槍、ハルバートやらの大型武器も使えるから、もっと色んなスキルを覚えられると思うぞ?」

 

防具が装備出来ないのは、何も悪い事ばかりではない。見方によっては防御以外のステータス数値を伸ばせる事であり。

 

両手が使える事は、双剣と小鎚に片手剣2本を初めとした二刀流、破壊力抜群のロマン火力を誇る両手武器の使用、剣と盾に槍と大盾といった様々な組み合わせによる、攻撃バリエーションの模索が出来るのだ。

 

メイン職業(ジョブ)によっては、習得しやすいスキルに傾向は有るものの、理論上は『全て』のスキルや魔法を覚える事は出来るらしく、習得を補う為にサブ職業(ジョブ)に対応する物をセットし、プレイする者も居るのだとか。

 

「そうか…!デメリットばっかりに目が行ってたけど、確かにスキルゲーと考えれば、戦闘回数増加は寧ろメリットになるのか…!」

「まぁ其の分、武器の耐久値消耗も激しいから、マーニも食う事にはなるが……多分誤差だと思う」

 

首輪の持つ力に直ぐ気付けた辺り、サンラクはペンシルゴン程では無いにしても、頭が相当切れている。

 

「フフフフフ…!フハハハハハ…!そうと決まれば、やる事が色々出て来たぜ!取り敢えず休憩してから、サードレマに向かうぞ!エムル、準備しとけ!」

「は、はいな!でしたら、兎御殿の休憩室にベッドが在るので、其処でも休めますわサンラクさん!」

「お、じゃあ案内頼むわ!シャア!やぁーってやろうじゃねーか!」

 

沈んでいたテンションがハイに戻ったようで良かったと、休憩室に走り出した彼の背中にペッパーは微笑み。しかし、直ぐに冷静になって思考し始める。もし、此のままサンラクが外に出た場合、エムルも一緒に連れて行くとなると、他のプレイヤーに見付かる危険が非常に高い。

 

キョージュからの伝書鳥によって、おそらくアイトゥイルの存在も知られている以上、サンラクとの繋がりが公になれば、自分だけでなく彼にも影響が出るだろう。

 

「アイトゥイル、ピーツさんって今居るかな?」

「居るさね。でもどうするのさ?」

「彼は『商人』だ。なら……『良い物』を取り揃えてるかも知れないだろう?」

 

バックパッカーとして、ペッパーが動く。

 

 

 






先達者として、道を照らせ




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鳥と胡椒の旅立ち、鰹も巻き込み大波乱



ペッパー、サンラクを手助けするの巻




「ピーツさん、居ますか?」

「おぉ、ペッパーにアイトゥイルねーちゃんやんか。買い物に来たんかいな?」

 

兎御殿の一角に商品を並べて、露店を構えるピーツと出会ったペッパーは、早速話を切り出す。

 

「えぇ。最近、リュカオーンと戦ってマーキングを付けられた、サンラクって開拓者を知ってますか?」

「知っとるで。さっき兎御殿にやって来て、オヤジに気に入られた、夜の帝王のオキニとか言う『鳥の人』やろ?」

 

「鳥の人……ね」とペッパーは、サンラクの格好を思い浮かべる。ハシビロコウの被り物を付けている姿は、確かに鳥人族(バーディアン)と見間違えられても、仕方無いかもしれない。

 

「で、其の鳥の人……サンラクにプレゼントをしたくて来たんです」

「ほほぅ。ペッパー、アンタも鳥の人が気に入ったんかな?で、どんな物が欲しいん?」

「そうですね……例えば『頭から全身をスッポリ隠せる物』って言えば、解りますかね?」

 

胴体と脚に呪いが在る以上、まともな方法では隠し徹す事は不可能である。必要なのは、呪いの影響を受けずに全身を隠せる物、早い話が巨大な布でも足が動かせれば、移動出来る訳だ。

 

寧ろ自分が目立てば、其れだけサンラクの方は呪いを隠して動ける。其れが巡り廻っていけば、彼と自分が同じユニークシナリオ(・・・・・・・・)を受注している事に至らないだろう。

 

面倒事を此の身一つに引き受けるのは、ある種の主人公ムーブにも等しく、ペッパー…もとい梓の好きなシチュエーションでもある。

 

「ピーツ。そいやアンタ、前にワイ等に言い触らしてた、面白いアイテムが手に入ったって、言うてなかったかさ?」

「……あー。其れなら確かにあるで。ただ値段の割に、全ッ然売れんくてなぁ~。見た目『ただの布』なんよ……値段は『3万マーニ』やけど、そんでも買うか?」

 

アイトゥイルの指摘で何か心当たりが付いたのか、ピーツが巨大なリュックサックをゴソゴソと漁って、折り畳まれた白い布を出して来た。

 

「お願いします。一応懐は温かいので」

 

料金を支払うと、ピーツが「まいどおおきに~」と購入したアイテムを、インベントリに仕舞ってくれた。ペッパーは早速、購入した内容を確認する。

 

 

 

 

 

 

祭衣・打倒者の長頭巾(フェスタ・メジェ・カフィエ)

 

獣人族が祭祀で用いる白頭巾。大いなる白の影の正体を知る獣人族は、既に命を紡ぐ果てへと消えていった。

 

頭部に装備出来るが、装備中は腕及び手に装備する武器、手に関係するスキルが一切使えなくなる。

 

 

 

 

 

 

いやなんだこのネタ装備は。ピーツから白頭巾を買ったペッパーが、初見で抱いた感想である。脚系統のスキルは使えはするにしても、手に関係したアクションの制限は、単純に痛過ぎる。

 

何からの理由で戦闘になった場合、脱いで武器を取って戦うの三度手間を挟むので、其の間に逃走経路を塞がれては元も子も無いのだ。

 

「どうする……こうなったら、サンラクとパーティーを組んで、俺がサードレマまでキャリーするか?」

 

いざとなったら『此所は俺に任せて、お前達は先に行け』をしても良い、もしPKに絡まれたなら『救済措置』で凌ぐ事も視野に入れ、今自分が持っているアイテムを確認し、四苦八苦の沼荒野のエリアボス・沼掘り(マッドデイク)最速攻略のチャートを、脳内で組み立て始める。

 

「おーい、ペッパー。戻ったぞー…って、もしかして兎御殿限定のショップ!?」

 

と、サンラクが再ログインしたようで、エムルと共に此方に歩いて来て。そして横目でピーツを見て、再び二度見して声を上げた。

 

「サンラクさん、コイツはアタシの弟のピーツですわ!品物を仕入れては、店を開いてるんですわ!」

「エムルねーちゃんの弟のピーツや、初めましてやな。夜の帝王のオキニの鳥の人」

「鳥の人て…一応コレ被り物なんだよな。ホレこんな風に」

 

スポンとハシビロコウの被り物を取って素顔を見せるサンラクに、やっぱり楽朗君だなと思うペッパーと、中々の顔立ちだと感心するピーツ&アイトゥイル。

 

そして此の面々で一際驚いて、頭に乗せていたシルクハットがポーンと飛んだエムルの、十人十色な反応が其処には在った。

 

「よっしゃあ、早速サードレマに向けて出発だ!」

「ちょい待ち、サンラク。其のままの格好で出歩くつもりか?呪いとエムルを見られる可能性も在るんだぞ?」

 

意気揚々と街に繰り出そうとする彼を、ペッパーは此所で待ったを掛ける。

 

「あ、確かに………。でもなぁ~、胴と脚に装備付けらんねぇしなぁ………」

「サードレマに向かうなら、コイツを装備して呪いを隠した方が良い。其のまま街に出るよりか、まだマシになると思う」

 

先程ピーツから買った白頭巾をギフトとして送り、呪い隠しの装備としてサンラクに渡すペッパー。そしてサンラクが其れを受け取って、頭に装備してみると、ジト目と脛より下の素足以外、全てが白い布でスッポリ覆われた、かの『メジェド神』を彷彿とさせる姿に早変わり。

 

「……………なにこれ」

「実際戦闘向きじゃ無いが、此れで呪いは隠せるだろう?しかも似合ってるぜ?」

「いや両手使えなくなってる時点で、完全にネタ装備まっしぐらじゃねーか!?」

「大丈夫、大丈夫。俺がデコイになるから、サンラクは真っ直ぐに、サードレマを目指して進んでくれ」

 

サンラクはまだ目立っていない、要はミスディレクションなのだ。強い光が煌々と輝けば、其れに比例するように影は黒く深くなる。自分という光を利用して、サンラクを影に隠す。我ながら良いアイデアを思い付いた物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな風に思っていた時期がペッパーにも有った。

 

「ペッパー見付けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「しかも何か変な白装束被った奴も居るぞ!」

「引っ捕らえて情報吐かせろ!」

 

アイトゥイルのゲートを使って、兎御殿からセカンディルの裏路地へ繋ぎ、サンラクは白頭巾にエムルを、ペッパーは旅人のマントの中にアイトゥイルを隠して、裏路地に出た。

 

しかし出た直後、運悪く他のプレイヤーと鉢合わせ、ペッパーは消費アイテム『投擲玉:炸煙』を使って、サンラクと共に逃げたは良いが、派手に炸裂させた煙が別プレイヤーを引き寄せる結果となってしまう。

 

「何やってんだよペッパー!ワラワラと他の連中来てるじゃねーか!?」

「本当にゴメン!こりゃマジでやっちまった!」

 

シャンフロで話題を巻き起こしている、そんなプレイヤーと一緒に居る時点で、サンラクもターゲティングされてしまった訳だが。

 

と、サンラクが疾走する中で誰かに気付いて。布を被った状態ながらも大きく息を吸い込むや、大声量で声を放ったのだ。

 

「おおおおおおおおおおぅうぃぃぃぃぃぃぃぃい!オイカッツォきゅぅうううううううううん!!!」

 

突然のサンラクの発声、彼の視線の先には金髪ツインテ少女のプレイヤー、其の頭上のプレイヤーネームにはオイカッツォの文字。アイツはどのゲームでも、必ずネームにカッツォを加える事から、ペッパーはオイカッツォ=ブシカッツォが同一人物と気付き。

 

やりやがった。サンラクお前マジか、やりやがったよ。此のタイミングで、カッツォを犠牲にするためにヘイトを入れ替えさせやがったと、心の中で叫ぶ。

 

「アイツ、知り合いか!」

「よし、取っ捕まえるぞ!」

 

確かにサンラクのやり方は悪い訳ではない。全員敵のサバイバルでは強敵に対しては、プレイヤー達が一時徒党を組んで対処する何てのはよく有る事。

 

そしてオイカッツォはと言うと、そんな事をさせてたまるかとばかりに、此方へ猛ダッシュで突っ込んで来た訳で。

 

「ちょ此方来んな、カッツォテメェ?!」

「人巻き込んどいて、自分等だけ逃げようとか、許す訳無いんだよねぇ!!一緒に捕まろうぜ、ペッパー&サンラクぅ!!」

「総受けはオメェ一人で事足りてるわ!バーカ!」

「其れは禁句だろーがコノヤロウ!」

「ああもう!カッツォとサンラクは喧嘩するな!兎に角サードレマに向かわんと話にならねぇ!」

 

「はいこれ持って!」と二人に、ペッパーがギフトとして手渡したのは、消費アイテムの投擲玉:炸油が無数。可燃性の油を着弾部分に付与するが、何も此れは燃やすだけが全てでは無いのだ。

 

「街の入口出たら、其れ強く握ってアイツ等の進行方向、足元目掛けて投げる!OK!?」

「コレナニ?マッドフロッグの皮玉?」

「玉無しが何か言ってる(笑)」

「あ"?お前の(たま)も取ろうか?おん?」

「はいはいシャラップ御二人さん!!!握って投擲すると、可燃性の油が出る!ローションの代わり!」

 

ペッパーの説明に、サンラク&オイカッツォはニヤァアアと悪い笑顔を浮かべて。セカンディルの門と四苦八苦の沼荒野の境界線に、三人は投擲玉:炸油をぶん投げまくり、オイルローションの床を形成。

 

他のプレイヤー達が突撃するも、ローションと化した地面に滑ってスッ転んで、人が積み重なっていく。

 

「お~スゲェ便利じゃんコレ」

「投擲玉って言ってね。煙玉や閃光玉、音爆弾にさっきの油とか、ラインナップが充実してる」

「投擲玉かぁ、アイテム投げる練習にもなるかな?」

「兎に角、今の内にエリアボスの所まで走るよ。彼処は仕様上、挑戦中のプレイヤーが死ぬかクリアするまでは、他のメンバーは入れない様になってる。此のまま三人……いや、三人と二羽で攻略してサードレマに向かおう」

 

三人は解るが、二羽とは何ぞや?と疑問を浮かべるオイカッツォと、成程そう言う意味かと納得したサンラク。各々の事情を抱え、巻き込み巻き込まれながら走る三人は、エリアボス・沼掘りが待つ沼地の渓谷を目指して行く………。

 

 

 

 

 






事は何時も、簡単には運ばず




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開拓者は胡椒と珍獣と鰹を捜し、ある者共は狙い定む



掲示板回でございます。




【情報】胡椒争奪戦争 part2【急募】

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

****************

***************

**************

 

 

 

 

682:ルクルク

ペッパー発見!場所セカンディル!

 

683:ベリアベリー

お、見付かった!?

 

684:ブラサース

ナイス!

 

685:海パン7世

よしきたぁ!

 

686:カレーのジョーンズ

ファイヴァルで張ってたが、まさかのセカンディルだったとは

 

687:Vアース

先に進むと思わせて、敢えて戻ってたのかね?そう考えると中々の策士だわ

 

688:プリミチア

感謝

 

689:マルマラ

情報プリーズ

 

690:南京南瓜

服装どうだった?!

 

691:デラウェア・B

そんときのスクショ撮ったぞ

《画像》

 

692:ケントゥリオー

有能

 

693:黒之助

助かる

 

694:パイハス・メイロ

よくやった

 

695:ジャミューズ

なにこれ、布?

 

696:ポンチョ

金髪ツインテ!金髪ツインテ!

 

697:マルマラ

オイカッツォ……追い鰹?

 

698:ギムレット・プリン

えっとサンラク?てか、何この……なにこれ?

 

699:ギリシーオン

わかる、コレ何ぞや?

 

700:バサシムサシ

白い布か?全身スッポリ覆ってるの

 

701:ケケケーラ

あ、これは確かサードレマに出没する、謎の露店商から買えるアイテムですよ。名前はえっと……祭衣・打倒者の長頭巾(フェスタ・メジェ・カフィエ)だったと

 

702:黒之助

ほう、そんなのがあるんですか

 

703:ニンギルシオー

何で全身覆ってるんだ?見られたくない物でもあるのか?

 

704:対魔-2

確かに

 

705:サンダーナット

てか、ペッパーと一緒に行動してるって事は、此のサンラクとオイカッツォってのは、知り合いか何かか?

 

706:南京南瓜

シャンフロ新規プレイヤーだったり?

 

707:一寸亡

気になるな…!

 

708:オルスロット

リスキルして吐かせるか

 

709:アッド

オルスロットさんじゃないすかー、チースwww

賞金狩りNPCに追われる気分はどーすかねー?www

 

710:ムラクモ

おやおや、阿修羅会のクランオーナーやないか。最近のアプデでPKに、けったいなデメリット追加されたようやけど、夜逃げの準備出来たんか?

 

711:ルクルク

阿修羅会か…廃人狩りもスレに出没してるし、こりゃ本格的にペッパーを狙ってきそうだな……

 

712:ベリアベリー

先手必勝は確実に求められそうだな…

 

713:ケケケーラ

阿修羅会も絡んできましたか…!

 

714:対魔-2

本格的に胡椒争奪戦が苛烈化するぞ…!

 

715:オルスロット

……………は?ペンシルゴンが既に張ってる、だと?

 

716:一寸亡

えっ

 

717:ギリシーオン

 

718:ドロボラス

へ?

 

719:パイハス・メイロ

マ?

 

720:アッド

悲報:阿修羅会クランオーナー、廃人狩りから何も聞かされていなかった

 

721:サンダーナット

仲間からの信用も皆無で草ァ!見てる分には最高ですねェ!www

 

722:バサシムサシ

因みに廃人狩り、ペッパーを自分の獲物って大々的に宣言してたんっすよ~。もしかして其れも聞いて無かったんすか~?www

 

723:トットロ

あれは正直ビビりましたねぇ!

 

724:オルスロット

な…!!な…?!な…!?

 

725:Vアース

オイオイオイオイオイオイオイオイ

 

726:ムラクモ

こりゃ傑作やね。アニメになったなら『またしても何も知らないオルスロット(◯◯歳)』って、有志のルビ振られそうやな

 

727:シュースケ

こwwwれwwwはwwwひwwwどwwwいwww

 

728:ドラッヘダーゼン

(阿修羅会は)もうおしまいですね……

 

729:ベリアベリー

今年一番笑ったわwwwひぃ~お腹痛いwww

 

730:パイハス・メイロ

(阿修羅会の)風向き、変わりそうね(キリッ)

 

731:一寸亡

WWWWWWWWWWWWWWWWWWW

 

732:ドロボラス

草生えるWWW

 

733:サイガ-100

ペッパー君にも知り合いが居たのか。彼をスカウトするにも、二人にも話を聞いてみたいな。今から行けばサードレマには間に合いそうか。

 

734:黒之助

お、サイガ-100も来た!

 

735:ギムレット・プリン

黒狼の団長キタ━━━(゚∀゚ 三 ゚∀゚)━━━━!

 

736:シュースケ

混沌が加速しそうや…

 

737:サバイバアル

サンラクだぁ…?アイツ、シャンフロ始めてやがッたかァ…!!

 

738:ドラッヘダーゼン

え?

 

739:プリミチア

!?

 

740:バサシムサシ

げぇ、サバイバアルぅ!?

 

741:アッド

元阿修羅会のキルスコア3位…だとぉ!?

 

742:ギリシーオン

アババババババババ(トラウマスイッチON)

 

743:サバイバアル

こりゃあ…ハハッ!会いに行くしかねぇよなァ!

 

744:ベリアベリー

ええええええ!?

 

745:グリャーガーデン

どういうことなの…?

 

746:トットロ

ワケワカンナイヨー!?

 

747:ディープスローター

サンラク…?サンラク…!………みぃつけたぁ♪

 

748:黒之助

え?!

 

749:サンダーナット

んぉ!?

 

750:ケケケーラ

今度はどちら様です!?

 

751:アッド

いや誰ぇ!?

 

752:ディープスローター

フフフ…!サンラク君、今会いに行くからねぇ!

 

753:グリャーガーデン

ヒエッ

 

754:シュースケ

ピェッ

 

755:プリミチア

怖い怖い怖い!?ってかサンラクってそんなにヤバいの!?

 

756:ムラクモ

こりゃまた、とんでもない奴等が釣れまったなぁ………

 

 

 

 

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此の日、ペッパー捜索スレ・胡椒争奪戦争に降臨した二人のプレイヤー、サバイバアルとディープスローター。

 

ペッパーは知らない、此の二人のプレイヤーとサンラクとの間に在る、切っても切れぬ因縁を。

 

サンラクは知っている、此の二人のプレイヤーと己との間に在る、忘れたくても忘れられない因縁を。

 

此の出来事をキッカケとして、シャングリラ・フロンティアは更なる熱を帯び、ある種の混沌を加速させる事になっていく………。

 

 

 

 






のちにサンラク捜索スレが生まれるキッカケ





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三身は沼越え、阿修羅は憚り、そして火力と防御は揃い踏む(其の一)



プロとクソとレトロのゲーマーが、沼掘りに挑む




「えっほ、えっほ!」

「ま、待ってくれよ…!けっこーキツイ…!」

「ドンケツのカッツォ君、遅すぎ~!」

「お前等が、速いんだよ…!」

「カッツォ、スタミナ減ったら簡易食糧やるから、弱音吐かずに走って!」

 

セカンディルの門を抜けて、他の開拓者達から逃れたペッパー・サンラク・オイカッツォの三人は、其の脚で四苦八苦の沼荒野のエリアボス・沼掘り(マッドデイク)攻略に挑むべく、走り続けていた。

 

「ペッパ~簡易食糧~!もうちょいでスタミナ切れる~!」

「あいよ!簡単にスタミナ回復出来るから、結構オススメだぞ!」

「あ~助かったぁ~スタミナ回復してくぅ~」

「止まったら死ぬってか?カッツォ。いや此の場合は……マッグロ?」

「お?喧嘩売ってる?売ってるよねサンラク?」

「はいはいはいはい!そろそろ鮫鯰の居る沼地峡谷に着くよ!」

 

三人の視界の先に、道を沈める沼地が広がり、両側には峡谷の岩肌が堂々と鎮座している。

 

「彼処か、エリアボスの沼掘りが居るのって」

「はいな。此処のボスは沼からズドーン!してくるので、注意ですわ!サンラクさん!」

「沼からズドーン……アレか。………ん?今誰か喋った?」

「俺は一応、此処のエリアボスはアイトゥイルと経験したもんな……」

「そうさね…アレは中々の強敵だったのさ…」

「もしもーし?何かまた声が聞こえたんだけど~?」

 

初めて訪れた者、再び訪れた者。各々が声を出す中で、オイカッツォは二人の違和感に気付いて質問してきた。

 

「アイトゥイル、戦闘準備だ」

「解ったのさ」

「よっしゃ、やるぞエムル!」

「はいな!サンラクさん!」

「えええっ!?何そのヴォーパルバニー!?ってか二人共、其のタトゥーみたいなの何?!」

 

アイトゥイルを頭に乗せながら、ペッパーはインベントリから太刀武器の黒鉄丸を取り出し、腰に指した後に抜刀しながら構えて。

 

サンラクは白頭巾を凝視の鳥面に変更し、リュカオーンとの戦闘で比較的耐久値が減っていない、致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)をインベントリから取り出し、二刀流にしながらエムルが彼の肩に乗る。

 

そして其の様子を見て、オイカッツォは驚愕の声を上げていると、沼地が揺れ動きながら盛り上がって、空気の許容量を超えた風船が、大きな音を以て破裂する様に泥が弾け飛び。

 

エリアボス・沼掘りが其の姿を現した。

 

「コイツか、エリアボスは!」

「あぁ、気を抜かずにな!」

「おっしゃ、ブッ飛ばしてやろうじゃん!」

 

各々が己の武器を手に取り、鮫鯰が沼地に潜行を皮切りとしてペッパーがスキル:挑発を起動して、敵の注目(ヘイト)を買い取りつつ、黒鉄丸の刃先を向けて身構える。

 

「サンラク!オイカッツォ!攻撃準備!」

「エムル、気張るのさ!」

 

鮫鯰の沼からの飛び掛かりに対し、ペッパーは『パウリングプロテクト』でパリィを行いつつ、手を用いた格闘攻撃にダメージ補正を追加する『ハンズ・グローリー』と、超至近距離での格闘攻撃にダメージ補正を加える『インファイト』、筋力を参照としたノックバックを敵に与える『ストレングス・スマッシャー』で、下顎目掛けて右拳を振るって殴り付け。

 

「アイトゥイル!」

「はいさ!」

 

嵐薙刀(らんなぎなた)虎吼(とらぼえ)の柄が風を穿つ様に、アイトゥイルのスキル:風来撃(ふうらいげき)月威(かつい)が追い討ちとなり、鮫鯰の巨体をカチ上げる。

 

「ペッパーナイス、ヘイト誘導良いぞ!」

「ほれ御二人さん、ぶん殴れ!」

「チャンス到来!エムル、デカいの一発ぶちかます準備しとけ!」

「頑張るのさ、エムル!」

「アイトゥイルおねーちゃんが見てるなら、アタシも負けてられませんわー!」

 

ペッパーが後ろに下がったのをスイッチとし、サンラクがスキル:アクセルで沼地を走りつつ、両手に握る包丁を回転させながら突き出す、スクーピアスの進化スキルの『スパイラルエッジ』を放ってダメージを与え。

 

エムルが魔導書を用い、次に繰り出す魔法攻撃の威力上昇を行う『加算詠唱(アッド・スペル)』を発動。一方のサンラクは、巨体に刃を突き立てながら登るスキル、『エッジクライム』で沼掘りの身体をクライムして、其の鼻先に登頂する。

 

「サンラク!思いっ切り揺らすぞ、落ちんなよ!」

「あいよぉー!」

 

鼻先に乗っかり、噛み付き攻撃をホップステップジャンプしながら、曲芸者の様に軽やかに躱わすサンラク。

 

「うわスゲェ…不安定と限られた足場で、バランス取ってるよサンラク……」

「中々の身体捌き…素晴らしいのさ…」

「そりゃアイツは『クソゲーマー』だからね。『あれくらいなら』、アイツにゃ朝飯前にもならない…よっ!」

 

オイカッツォが沼地に脚を取られながらも、前へと進み出て、己の両手を拳に変え、火打石をぶつける様にして合わせれば、左拳には『赤いオーラ』が、右拳には『黒いオーラ』纏っていく。

 

彼が初期職業として選んだ修行僧(モンク)には、武器を装備出来ない事を引き換えに、拳へ様々な強化(バフ)魔法『拳気(けんき)』を付与して殴るという、格闘ゲームを最も得意としている自分と、相性の良い職業を選んでいた。

 

キャラビルドを体力と耐久中心にしたのには『多少のダメージを是としながらも、敵にやられる前に此方が相手をやる』という、プロゲーマーの信条が在ったのである。

 

「拳気の『赤』と『黒』!合わせて『()()(イロ)』!インファイト、そしてェ!パワーストレート!」

『ギシャアア!!?』

 

手を合わせて赤黒に燃えるオーラを放ち、超至近距離下で振るわれる正拳突きが、沼掘りの鳩尾にクリティカルヒットして、其の巨体がグラリと揺れる。

 

「よっとぉ!良い火力じゃねーか、カッツォ!」

「サンラクさん!来ますわ!」

 

鼻先から跳躍したサンラクは、一瞬ペッパーを見て。しかし直ぐ様己へと迫り来る、沼掘りの剣山の如き牙に視線を向き直す。

 

「パリィスキルを持ってるのは、ペッパーだけじゃねぇんだよなぁ?」

 

パウリングプロテクトの前身スキル、レペルカウンターが起動して、沼掘りの攻撃を弾き。サンラクは直後に己の身を回転させつつ、本来ならば隙が大きいスピンスラッシュを『カウンター直後』に組み込む事により、本来攻撃時の後隙が大きいデメリットを、擬似的に掻き消したのである。

 

『ギジャア!?』

「よし、いけエムル!」

「は、はいなぁ!!」

 

回転斬撃の中、サンラクの声でエムルがブーストを掛け終え、威力を増大させた『加算出力(アッド・ブースト)マジックエッジ』を沼掘りの身体に叩き込んだ。

 

『ギジャアアアアアアア!!!?』

「ごへっ」

「エムル!」

「アイトゥイルおねーちゃん!」

 

沼掘り・サンラクが共に背中から沼地に落下して、エムルは走り込んだアイトゥイルが、スライディングキャッチし、落下ダメージを軽減する。

 

「サンラク、大丈夫か!?」

「落下ダメージは…そんなに無いか」

「鳥頭なのに空飛べてねぇ(笑)」

「あ"?沼の中泳げない魚類が何か言ってら」

「は~?泳げますがァ?そっちは泳げるんですくわぁ~?」

 

サンラクとオイカッツォがまたしても煽り煽られをし始めて、泥んこプロレスをおっぱじめんかとした中。ペッパーとアイトゥイル、そしてエムルが沼掘りの姿が見えなくなった事に気付く。

 

「サンラク!オイカッツォ!プロレスは後で好きなだけやれば良い!沼掘りの『アレ』が来るぞ!アイトゥイルは俺に、エムルはサンラクに乗っかって!」

「沼掘りの『アレ』……?エムルが言った『ズドーン!』ってヤツ!?」

「!そうか沼掘りの『特殊行動』━━━━!」

 

サンラクがエムルの発言で、ペッパーとオイカッツォが知る、エリアボスの『特殊行動』に気付いた直後。沼地全域をズズン!と、一際大きな揺れが発生して。三人と二羽の足裏が、磁石で引っ付いた様に動かなくなってしまう。

 

「うおっ、何だコレ!?吸い付いたみたいに動かねぇ…!」

「事前に調べてたけど、実際食らうと印象が変わるッ…!」

「あわわ…サンラクさん!」

「くっ…やっぱり、そう上手くはいかないようなのさ…!」

 

各々が反応を示す中、ペッパーは一人落ち着きながらも、左手の黒鉄丸を湖沼の小鎚へ変更し、アイテムインベントリから投擲玉:炸音を右手に持って叫ぶ。

 

「全員!!!耳を塞げぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

握撃を以て投擲玉を握り締め、ヴァーティカルセンスの補助を乗せた、ボルベルグストライクの一撃を叩き付ける。

 

嘗て此の地で成された覇音の一計が、今再び渓谷へと轟き、響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「掲示板の情報だと、ペッパーさんは必ずサードレマに来るはず……フフフ!必ず見付けるわ…!SF-Zooの名に掛けても!」

 

そしてサードレマではペッパーを狙う者が、サンラクを捜す者が続々と集まり、水面下にて緊張状態が展開されている事に、三人は気付く事は無かったのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






後衛の仕事、バックパッカーとしての仕事




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三身は沼越え、阿修羅は憚り、そして火力と防御が揃い踏む(其の二)



サードレマにて三身が来たり、そして戦いは勃発す




「全員!!!耳を塞げぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

左手の湖沼の小鎚を振るい、右手に握った投擲玉:炸音をペッパーが叩き潰した瞬間、彼の居る場所に落雷が落ちた様な轟音が鳴り響き、沼地全域を揺るがす音が走る。

 

「うぉあああああああ!?」

「音…爆弾、か……!?」

「おっきな音でしゅわあああああ!?」

「ッ………ペッパーはん!」

「皆…!後の攻撃は頼ん、だぁぁぁぁぁぁ!?」

 

轟音鳴り裂く中、ペッパーの足下が一際揺れ、彼の身体が飛ばされる。されど、巨大な音によってタイミングをずらされた事により、本来なら落下死になる高度へと打ち上げられる所を、沼地に背中での落下による多少のダメージで済んだ。

 

そして沼掘り(マッドデイク)はというと、巨大な音をぶつけられた事によりスタン状態が付与され、其の巨体は伸びて、頭には混乱している様に数個の星が、クルクルと回っている。

 

「えぶっふ…いけぇ…!サンラク、オイカッツォ、エムル…ッ!いけぇえええ!」

 

投擲玉:炸音を間近で使用した事による、自身のスタン状態に苦しみながらも、此のチャンスを逃すな仕留め切れとペッパーは叫び。

 

「オイカッツォ、エムル!決めるぞ!」

「は、はいですわぁ!」

「ぶちかまして、ブッ壊す!」

 

一つは、致命の包丁が螺旋を描きて、沼掘りのエラを穿ち。

 

二つは、魔法の刃が弧を成しながら、沼掘りの首を裂き。

 

三つ、赤・青・黄色のオーラが黒に生まれ変わり、其の拳が下顎を打ち砕く。

 

其の直後、沼掘りを構成するポリゴンは爆発四散を遂げて、サンラクとオイカッツォのレベルアップを告げるSEが鳴り響いた。

 

「しゃあ!鮫鯰攻略完了っ!三人だったりエムルやアイトゥイルの協力もあったからか、けっこー早く終わったぜ!」

「てか、投擲玉便利だな。油といい音といい、攻略の幅がグッと広がるわ」

「はははっ……。此のアイテムはエンハンス商会で売られてるから、訪ねて見ると良いよ」

 

うんしょっと、スタン状態から開放されたペッパーが起き上がり、サンラクとオイカッツォにハイタッチを交わし、エムルとアイトゥイルにも同様のタッチで、健闘を称え合う。

 

が、しかし…………

 

「居たぞ、彼処だ!」

「エリアボスを攻略しやがったぞアイツ等!」

 

セカンディルで炸油のローションで足止めを食らったプレイヤー達が、其れを乗り越えて追い掛けてきている。うかうかと喜んでは居られない。

 

「サンラク、オイカッツォ、逃げるぞ!」

「オイカッツォはん、急ぐのさ!」

「エムル、肩に乗っかれ!」

「は、はいですわぁ!」

「沼地走りづらい…!」

 

追跡者を振り切るように、三人二羽の行軍は沼地沈める峡谷を越え、サードレマへとひたすら走り。そして彼等を追う者達は、リポップした沼掘りによって阻まれる事になったのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードレマ周辺高地。見下ろせば、シャンフロの大陸で上位を争い、初心者を脱したプレイヤー達が此処を拠点に、三つのエリアへと派生する中から選択し、向かう準備をするサードレマの街並みが一望出来る、良好のロケーションだ。

 

「此処からサードレマを見るのも二回目か」

「へぇ~…アレがサードレマ……」

「其れなりにデカいな……」

「何時見ても、大きな街なのさ…」

「おっきな街ですわぁ」

 

十人十色ならぬ三人二羽五色の反応を示し、ペッパーは此処からどうするべきかと考え始める。アイトゥイルとエムルの二羽を、旅人のマントの中に隠すとなれば嵩張り、見付かる危険性が高まる事は避けられない。

 

しかし彼は此処で、以前ビィラックがエムルやピーツには人へと変化出来ると、そんな事を言っていたのを思い出す。

 

「うーん……さっきの白頭巾被って移動しても、万が一戦闘になると邪魔だし、そうなるとエムルを隠すしかないんだが……。となると、ペッパーの着けてるマントの中しか無いんだよなぁ……」

「俺は良いが、アイトゥイルを隠してる以上面積は嵩張るし、此方が狙われた場合に両方を守り切るのは難しいぞ」

「まぁ、ヴォーパルバニー連れてる時点で普通じゃ無いしな、ペッパーとサンラクは」

「お?そりゃどーゆー意味だカッツォ?」

「其の鳥頭で考えてみろよサンラクぅ?」

 

またしても取っ組み合いが始まりそうになったので、ペッパーはオイカッツォに向けて、彼が置かれている状況を言ってやった。

 

「カッツォの言う通りだサンラク。だがな、カッツォ。お前は俺達といる時点で、もう既に追われる身の仲間入りをしているんだよな。御愁傷様です」

「あぁ、チクショウ!そうだった!」

 

明かされた事実に頭を抱えるカッツォ、対してプギャーwwwwと笑うサンラク。と、そんなやり取りを尻目に、アイトゥイルがエムルに言った。

 

「あ………エムル、久し振りに『アレ』をやったらどうなのさ?」

「確かに『アレ』なら、何とか成りそうな気がしますわ!サンラクさん、ペッパーさん、オイカッツォさん!此処で見た事は、他言無用でお願いしますわ!」

 

そう言って、エムルが取り出したのは黒と金の腕輪。三人と一羽の前で其れを右手首に付けて、念じた瞬間に彼女を白い煙が包み込む。

 

煙が晴れた先には、白桃色のショートヘアの着ていた服を人間大サイズとし、両足はオーバーニーソックスと可愛らしい靴を履く、身長170cm程の女の子に変化したエムルが其所に居た。

 

「ふふふ、此れぞヴォーパルバニーの秘法ですわ!でも此れを使っている間は、MPを物凄い消耗してしまって、アタシでも5分が限界ですわ……」

「おぉ…!こりゃ凄い……取り敢えずハイ、マナポーション。ある程度は有るけども、大事に飲んでね」

「わぁ、ありがとうですわ!」

 

5分の制限時間は有るものの、人に変化出来る。一先ずエムルを隠す方法が見付かったので、サードレマには入れそうだ。アイテムインベントリからマナポーションを手渡したペッパーが、ふとサンラク達を見ると、エムルの姿に唖然と言った表情をしている。

 

「お、おーい?サンラクー?オイカッツォー?」

「御二人共、大丈夫ですわー?」

「おやおや…二人共、エムルに見惚れたのさね?」

 

そんな一人と二羽の問い掛けに、二人は漸く戻ったように声を出す。

 

「おかしいなカッツォ…俺達は確か大衆が認める神ゲー『シャンフロ』をやってるはずだ。決してケモナーの女の子と、キャッキャウフフする『ギャルゲー』をしてる訳じゃない……よな?」

「そうだなサンラク…俺達はギャルゲーをしてるんじゃない、神ゲーをしているハズ………うん、きっとそう。そうに違いない………」

 

俺達がプレイしているゲームはシャンフロだぞ?とツッコミを入れるべきか否か、無言で試されてるように感じたのは気のせいか。

 

「コホン………カッツォ、サンラク。俺が今現在持ってるマナポーションは合計8本、内一本はエムルに渡したから、残り7本で最大変化可能時間は35分。其の間にサードレマに突入後、裏路地を使って各々解散するって感じになるけど良いか?」

 

あくまでも理論上の時間であり、戦闘が発生した場合は変動が起きる可能性も加味し、二人に今後の事を話していく。

 

「解った。でも先ずは、サードレマの正門まで無事に辿り着く事から………だよな?サンラク、ペッパー」

「そこだよなぁ……俺はあのクソ犬の呪いを、衆人環視に晒しながら通らないと行けねぇし……あの野郎絶対許さねぇ…!」

「何十回何百回負けようが、最後に一回勝てたらサンラクの勝ちさ。じゃあ、行こう……サードレマに」

 

開拓者一向は、目的地たるサードレマに足を踏み入れんとし、周辺高地を下って行く。

 

其処で待ち構える、数多のプレイヤーが居る事に気付かないまま…………

 

 






いざ突入、サードレマ




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三身は沼越え、阿修羅は憚り、そして火力と防御が揃い踏む(其の三)



外道三人衆、此処に揃う




「お、おい!ちょっと待て!」

「何故半裸なんだ?追い剥ぎにでも逢ったのか君は?」

 

サードレマ正門。ペッパー達一向が門を通ろうとしたのだが、やはり半裸の不審者に思われたサンラクに、門番達が声を掛けた。

 

「ですよねー…まぁ此れには色々訳が……」

「ちょっと待ってくださいわ、門番さん!サンラクさんは確かに半裸姿の鳥頭ですが、深い深い事情を抱えてるだけで、決して怪しい者ではありませんわ!」

「プフッ」

「プピヒ」

「ふきゅふ」

「おいエムル、お前今半裸の鳥頭っつったよな?あとテメェ等笑うんじゃねーよ、俺と同じ目に遇いやがれ」

 

エムルの悪意無き不意打ちに、思わず笑ってしまったペッパーとオイカッツォ、そして旅人のマントの中に隠れているアイトゥイルに向けて、サンラクは青筋を立てながらに言った。

 

と…━━━━━━━━━

 

「…………其所の貴方!」

 

ガシリと、ペッパーの手首を掴むようにして声を掛ける者が一人居た。黄土色のローブで頭と上半身を覆い、くすんだブロンドヘアが覗く女性が。

 

ローブの下には赤を含んだ黒の服とズボンを着て、両腕両足にはギチリと蔦の様に巻き付く意匠を施したバンデージと、フワフワの毛が付いたシューズを付けている。

 

見た所、最高レア装備の呪術師プレイヤーの様で、頭上のプレイヤーネームは『Animalia』と掲げられていた。

 

「其の『黒で統一した衣裳』に『右腕を隠す旅人のマント』…!やっと見付けたわ…『ペッパー』さん!」

 

どうやらペッパーを捜していたらしき彼女の、自分の手首を握る力が強くなる。絶対に取り逃がさない…そんな決意を顕すように、彼女の視線が此方に向けられている。

 

「おーおー、随分人気者じゃねーの~ペッパーくぅん?」

「ペッパー、お前の知り合いかなんか?」

「いや、初対面だけど……。あの、俺に何か御用でしょう…か?」

 

梟の様にキョトンと首を傾げて聞くと、Animaliaは単刀直入に本題を切り出してきたのだ。

 

「一つだけで良いの……正直に答えて頂戴!どうやって『ヴォーパルバニーをテイムする為のクエストを受注したのかを』、私に教えて!」

「………!」

 

ペッパーとサンラクが反応し、Animaliaに対する警戒アンテナを鋭くする。双皇樹で出逢い、ジークヴルムの手に乗って空を飛んだ時の場面を、他のプレイヤーがネットに拡散した事が此処まで大事に発展したと、ペッパーは心の中で溜息を溢す。

 

「えっと…其のクエストなんだけど……」

「やっと見付けたよ━━━『ペッパー』。そして『革命騎士サンラク君』と『革命騎士カッツォタタキ君』?」

 

刹那に感じた殺気と、直後に迫る刃の一閃。Animaliaの背後から聞こえた声に、ペッパーは己の手首を握る、彼女の手を振り払い、サンラクとオイカッツォ、エムルにAnimaliaは共にジャンプして、サードレマの正門から離れる。

 

彼等彼女等が見上げた其所には、仮面舞踏会で着ける様な目元隠しのマスクを着ける、アーサー・ペンシルゴンが居て。サンラク&オイカッツォは、ほぼ同時に言葉を発した。

 

「……此処では『初めまして』で、合ってるかな?『反理想郷の女帝(ディストピア・エンプレス)』!」

「出たな…!『鉛筆戦士(えんぴつせんし)』!」

「こらこら、こんな超絶美人のおねーさんを、何処ぞの『モンスター』みたいに呼んでるんじゃないよ、二人共。其れに此処では『アーサー・ペンシルゴン』って名前だよ」

 

以前にラーメン屋でブシカッツォから聞いた、世紀末略奪ゲーユナイト・ラウンズでのプレイヤーネームで、ペンシルゴンがマスクを外して二人の名前を呼び。

 

そして其の視線がペッパーの方に向く。

 

「さて…と、ペッパー。私、君の事を捜してたんだよねぇ……?随分と『情報』を溜め込んでるみたいだし、此処等で吐き出しちゃおうか?」

「おいペッパー、お前ペンシルゴン相手に何やらかしたんだよ」

「ありゃアレだね、絶対ヤベー事したでしょ」

「……心当たりが有り過ぎるんだよなぁ……」

 

チャキ…と片手剣の鋒を構えるペンシルゴンに、サンラクとオイカッツォも既に各々の武器を構え、臨戦態勢に入っている。だが、ペンシルゴンのレベルは十中八九カンスト、装備の質も違う上に此方は三人の合計レベルで漸く抜かせる程度。

 

光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)はラビッツのユニークシナリオ同様、目の前のペンシルゴンや、オイカッツォとサンラク、そして近くに居るAnimaliaと周りの野次馬にも開示出来ない、特級レベルの代物だ。

 

 

 

だからこそ━━━━━『コレ』が役に立つ。

 

 

 

画面を開き、ペッパーが何かのボタンを押した瞬間、ペンシルゴンと自分達の間に『特殊な魔方陣』が現れ、何者かが『召喚』される。

 

「………ペッパー。まさか君が『彼女』とフレンド登録をしていたなんてねぇ……?」

「知らなかった?此方も『万が一に備えて』、ちゃんと準備するタイプなんだよ?」

 

【救難信号】と呼ばれる、PK対策のシステムがシャンフロには存在する。フレンド登録を結んだ者がPKerに遭遇・襲撃を受けた際、フレンドに救助要請を出せるシステムだ。

 

其のフレンドの中に、特殊な魔法【盟友救助(フレンドワープ)】を会得している者が居るならば、其の場に召喚可能となる。

 

そしてペッパーがフレンド登録をしたユーザーの中で、盟友救助を習得している者は、たった一人(・・)しか居ない。しかし、其のたった一人は数千万人のシャンフロユーザーの中で、最強にして絶対の防御力を誇る者。

 

クラン:聖盾輝士団、慈愛の聖女イリステラを護りし、白金の盾を掲げるロールプレイガチ勢のクランオーナー・ジョゼット。

 

『シャンフロ瞬間最高火力』を叩き出した者へ贈られる、称号【最大火力(アタックホルダー)】保持者たるサイガ-0の絶大技を見事に防ぎ切り、双璧を成す称号たる【最大防御(ディフェンスホルダー)】を得た人物が、ペッパーの救難信号に応じて、此の場に推参したのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー殿、助太刀に参った」

「ありがとうございます、ジョゼットさん」

 

ペコリと一礼したペッパーを見たジョゼットは、状況を確認していく。

 

「SF-ZooのAnimalia、更には阿修羅会のNo,2たる廃人狩り(ジャイアントキリング)。………いや、まだ『居るな』。ペッパー殿と其の御友人、サードレマに入るならば気を付けて参れ」

 

騎士甲冑の内側にある、彼女の表情は読み取れずとも、声色から『決して最後まで油断するなよ』と言っている事が伝わる。

 

「解りました。サンラク、オイカッツォ、行くよ」

「良いのかよ、相手はあの(・・)ペンシルゴンだぞ?」

「あの白金の騎士、最高レアの装備を付けてるみたいな感じはするけど……大丈夫か?」

 

「大丈夫」と言い切るペッパー。チラリ…とAnimaliaの方を見れば、彼女はペンシルゴンとジョゼットの対峙に視線が行っており、アイテムインベントリからマナポーションを取り出しつつ、振る形で人化エムルをサンラクに引き寄せ、そろりそろりと移動していく。

 

「クラン:聖盾輝士団のリーダー、最大防御のジョゼット……フフフ。聖女ちゃん親衛隊と戦えるなんて、滅多に無い機会だし、思いっきり楽しんじゃおうかしら?」

「ぬかせ、廃人狩り。私は私の…成すべき事を成すのみだ」

 

片や片手剣を、牙突の構えで鋒を向け。片や白金の剣と盾を、聖騎士の如く掲げ。上位プレイヤー同士が、サードレマの正門前で激突を皮切りとして、ペッパー達一向はサードレマ正門を目指して駆け出した。

 

「な!?」

「うおっと!!」

「む…!」

「あわわ…!」

 

が、彼等の企みは目の前に立ち塞がった、頭上のネームに赤黒い髑髏印を刻む、プレイヤーキラー『十数人』によって邪魔される。数は多く見積もって、10…いや15人以上は居るだろうか。

 

「家のクランリーダーが、ペッパーに対して『結構なお怒り』でねぇ……。口酸っぱくキルしてこいって言ってきたから、私含めて阿修羅会のメンバーで、数ぶつけに来た訳なんだよ。感謝して咽び泣いても良いんだぞぉ?」

 

片手剣を振るい、ジョゼットと打ち合いながらも余裕そうな表情のペンシルゴンが、そう言って宣ってくる。

 

「……ペッパーお前ホントマジで何したんだよ」

「俺とサンラク、完全に巻き込み事故じゃん。何にも悪い事してないんだけど」

「いやいや…此処まで大事になるとはねぇ…。サンラク、フレンドで救難信号に答えてくれる人居ないか?」

 

此の状況を打開する為、ペッパーはアイテムインベントリから甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)を取り出し、両足に装備。サンラクは「取り敢えずやってみるわ」と、救難信号を発信し、一秒もしない内に『あるプレイヤー』が此の場へと『召喚』されたのだ。

 

「え…!?嘘、だろ…!?」

「な、マジか…!?」

 

阿修羅会の面々も、目の前に現れた存在に、驚愕と絶望の声色を呈した。当然だ、其のプレイヤーを彼等彼女等は知っている。

 

何故ならば、()は現在の。数千万人がプレイしているシャンフロの中で、瞬間最高火力(・・・・・・)を叩き出した、トップ帯プレイヤーなのだから。

 

「いやぁ…まさか直ぐに応じてくれるとは……」

「約束しましたから。何処に居ても、必ず駆け付ける……と」

 

プレイヤーネーム、サイガ-0。

 

トップクラン『黒狼(ヴォルフシュバルツ)』の誇る、最強の『切り札』にして、称号【最大火力(アタックホルダー)】所持者たる純白の重鎧騎士が、漆黒の大剣を振るい翳して、阿修羅会のプレイヤーキラー達の前に躍り出たのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして此の時、此の瞬間。先んじて『転移魔法』によって現地入りをしていた『あるプレイヤー』が、サードレマ内部より正門に向け、移動を開始し始めたのであった………

 

 

 

 






戦場は混沌を窮める




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三身は沼越え、阿修羅は憚り、そして火力と防御は揃い踏む(其の四)



新たな乱入者来る




「うわぁ……」

 

己が所属する阿修羅会の下っ派(メンバー)達の前に、サンラクが要請した救難信号によって、サイガ-0降臨の瞬間を目撃したペンシルゴンは、廃人狩りとして上位プレイヤーを狙える歓喜と、アレを相手する三流共への憐れみの感情が入り雑じった、変な声を出した。

 

最大火力と最大防御、シャンフロ最強の剣と最強の盾が今此の場に揃い、おまけと言っては悪いが、SF-Zooの園長たるAnimaliaも居るので、混乱に乗じて上手い事全員キル出来ないかと、ジョゼットの打ち合いをしつつ悪巧みをしている。

 

「流石の阿修羅会と廃人狩りと言えども、最大火力のサイガ-0が相手では、有象無象のPKer達も太刀打ち出来まい。大人しく引き下がるなら、此の場は見逃してやるが………どうする?」

 

サイガ-0が動き出し、阿修羅会のメンバーが嵐に吹っ飛ばされる木っ端の如く、次々と漆黒の大剣を前にして仏陀切られて、ポリゴンを爆散させていく。

 

そんな彼等彼女等の姿を見ながら、ペンシルゴンはジョゼットに向けて、こう言った。

 

「そうだねぇ……最大火力の方に行っても良いんだけど、私的にはアイツ等に『このまま全滅して貰った方が』、色々と都合が良いんだよねぇ?」

「何……?」

 

自分のクランメンバーが吹き飛ばされる様を尻目にしながら、黒く悪辣な笑みを崩さない廃人狩りの姿に、ジョゼットの警戒心は更に深まった。

 

「其れに私は阿修羅会のメンバーを、正門にしか置いてない訳じゃ無いんだ。さて、そろそろ………お、噂をすれば」

「うおおお!最大火力をキルして、キルスコア上位入りだぜぇ!」

「俺が次のランキング1位になるんだァッ!」

 

サードレマの正門からぞろぞろと、およそ20~30は居るだろうプレイヤー達が、我先にとサイガ-0目掛けて押し寄せてくる。おそらく街中で、万が一の場合を想定し待機させていたのだろう。

 

そして全員が一人として例外無く、赤黒い髑髏マークをプレイヤーネームに抱える、阿修羅会のメンバー達だ。

 

「援軍か…!」

「ふふっ…流石の最大防御と最大火力でも、大人数相手はキツい所が有るんじゃないかな?」

 

ジョゼットは此方で足止めし、絶対的な強さがあるサイガ-0は数でゴリ押し…とは行かなくても、十数人をぶつけている間に他の連中でペッパー達を襲えば良い。

 

(まぁ………サイガ-0を数で足止めしたとしても、『あの三人』は連れてきた連中達じゃ、ハッキリ言って仕留めるのは『無理』だね)

 

ありとあらゆるクソで、クソなクソゲーをクリアしてきたクソゲーマー・サンラク。自他共に認める日本最強のプロゲーマー・オイカッツォ。そしてオイカッツォを相手にレトロゲーム限定だが、勝率五割以上を譲らない最強のレトロゲーマー・ペッパー。

 

特にペッパーに関しては、彼とのレベリングの中でライブスタイド・デストロブスターを共に狩った事で、ペンシルゴンはよく理解出来た。生物を構成している身体構造への理解力の高さに、戦いの中で起きるであろう些細で僅かな可能性さえも、己の思考の範疇に置く読みの深さ。

 

アレは戦う相手を理解すればする程、エネミーの攻撃モーションを学べば学ぶ程、味方に成れば頼もしく、敵に回した場合の厄介さが、驚異的な勢いでハネ上がっていく。おまけに勘が鋭いせいか、初見殺しにも引っ掛かり難いという、カッツォの発言も在って驚かされた。

 

 

 

「プロミネンス」

 

 

 

が、そんな最中にペンシルゴンが見たのは、阿修羅会の増援達が何者かが放った豪炎の魔法により、纏めて薙ぎ払われながら、爆発で大きく吹き飛ばされていく姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁにこれぇ…」

「うわぁお…すげぇ……」

「こ れ は ひ ど い」

「ぴぃあふぁ…」

「まさに、一騎当千…なのさ」

 

救難信号で救援に駆け付けたサイガ-0が、阿修羅会を相手に漆黒の大剣を振り回し、物を謂わさず駆逐していく無双ゲームも真っ青な虐殺劇に、ペッパー・サンラク・オイカッツォ・エムル、そして旅人のマントに隠れているアイトゥイルは、各々の言葉を溢す。

 

(陽務君が助けを求めてくれたんだ…!私は最大火力としてピンチを救い、サードレマへの道を切り開いてみせるッ!!)

 

想い人が救難信号を出した時、サイガ-0は一体何事かと思った。数多のゲームをクリアしてきた彼が、打破出来ないピンチに陥ったのかと。そして要請に応じて推参してみれば、目の前に居たのは悪名高きPKクランの阿修羅会の軍勢達。

 

自身の姉(サイガ-100)が『見つけ次第一撃で確殺しろ』と言ったアーサー・ペンシルゴンも居たのだが、彼女はどういう訳だか聖盾輝士団の団長で、自分の大技を防いだ最大防御(ジョセット)と戦闘していた。

 

(此れを期として、陽務君と……!現実でも……御近付きに………!)

 

力が漲り、心は滾る。サイガ-0を支える、純白のユニーク装備・双貌(そうぼう)(よろい)、共にある漆黒の刃・神魔の大剣(アンチノミー)

 

黒の一閃が走る度に、此方へ押し寄せてくる阿修羅会のプレイヤー達を薙ぎ払い、PKer達は度重なるアップデートによって、所持する武器や防具を全て其の場にドロップする。

 

(此のまま彼が見ている状態で、襲い掛かる阿修羅会を壊滅させられれば、きっと………!)

 

そんなサイガ-0の願いに応えるかのように、阿修羅会のPKerの増援が突撃してきて。神魔の大剣を構え直し、其の軍勢に向き合った其の時だった。

 

 

 

 

「プロミネンス」

 

 

 

 

突如吹き荒れる爆炎の砲撃によって、阿修羅会のPKer達の増援が弾け飛んだ。サイガ-0は余波たる熱波を耐えたが、ペッパー達は爆風よって転ばされる。次から次へとやって来る、未曾有のハプニングの連続にペッパーは頭を抱えながらも、先程の攻撃を行った存在を黙視する。

 

炎が踊る中を歩く様にして、彼女は其所に居た。黒のドレスと胸に白いナプキンを着け、所謂『ゴスロリ』と呼ばれる姿。紅蓮に燃える朱い外側と青紫色の内側の、腰までウェーブ掛かった髪を揺らし、陽の光でキラリと光る蒼眼は『サンラク』を見つめていた。

 

「━━━━━━━逢いたかった」

「ッッッッッッ!?!」

 

サンラクが彼女の台詞で震え上がって立ち上がり、オイカッツォは続く形で立つや新しい乱入者かと警戒、ペッパーは周りを警戒しつつも、アイテムインベントリからマナポーションを取り出し、エムルに手渡ししながら彼女を庇うように立ち回る。

 

「……………逢いたかった。ずぅっっっっと、ずぅっっっっと………君の事を探してたんだよぉ?」

 

嘗めかしい声を放ちながら、一歩一歩サンラクに歩み寄る女性プレイヤー。サイガ-0が其の女性プレイヤーを見る中、サンラクは一人、苦虫を噛み潰した様な嫌な事を思い出したかのような表情と共に、彼女に向けて言葉を言い放つ。

 

「お前とはもう二度と、今世で逢いたくなかったよ『ナッツクラッカー(・・・・・・・・)』………!」

「んふふふ……此処では『ディープスローター(・・・・・・・・・)』なのだよ、サ・ン・ラ・ク・く・ん?喩え今世紀で巡り逢えなくても、来世でまた私達は運命の様に出逢うのぜよ?」

 

語尾や口調が全く安定しない、ディープスローターなるプレイヤー。サンラクが露骨なまでに嫌そうな顔をしているのを見たオイカッツォは、自分の知らないクソゲーフレンズかと目を光らせ。

 

「━━━━━━━━━━━━━━━━━━━」

「「「!!!!!」」」

 

そして、サンラクとディープスローターの会話の中、其れを見ていたサイガ-0が、一際巨大な殺気を纏ってディープスローターを無言で見つめ。ペッパーとオイカッツォ、エムルがビビり散らかす中で、サンラクに詰め寄るように質問したのだ。

 

「サンラクサン………そちらの、ディープスローターさん、とは…………『如何なる関係』、デスカ?」

 

ゴゴゴゴゴゴ……と背後で、SEが鳴り響いているかのように、サンラクに迫るサイガ-0。純白の鎧と漆黒の大剣が白装束の死神の様で、直後にサンラクはディープスローターとの関係をこう述べた。

 

「あ~……サイガ-0さん。此処に居るナッツクラッカー……今はディプスロだけど、前にプレイしてたゲームを『閉鎖に追いやった張本人』で、サ終直前でコイツの最終決戦の御誘いに乗って、激闘の果てにブチ倒したんだよ。俺自身も結構好きなゲームだったんだが、其れを終わらせやがったコイツを、最後の最後まで勝ち逃げさせたくなかった訳さ。二度と顔を見たくなかったし、二度と逢いたくなかった奴だ。其れだけの関係」

 

ゲームには始まりも在れば、必ず終わりも在る。サービス終了の理由は様々だ。課金しなくては人権すら与えられない。運営会社が潰れた。バグだらけでチュートリアルから先に一切話が進まない等々……。

 

そんなゲームの中でも、一部の者にとって思い出深かったり、青春の全てを捧げたり、かけがえのない仲間と出会えたといった理由で、終わった事を嘆く者も居る。

 

つまりサンラクにとっての『其のゲーム』は、色褪せる事の無い思い出で。其れを終わらせたディープスローターを打ち倒す事で、サンラクの復讐は果たされた訳だが、彼女は其の時の事を覚えていて、リベンジするためにシャンフロで待っていたのだろうか?

 

「そ、ソウナン…ですか……!因縁……ラスボス……ほっ………」

「うふふふふふふふ………サンラク君とまた出逢えたのは、ある意味『胡椒争奪戦争』のスレのお陰だしゥィ~?其れを踏まえるなら、俺ぁペッパー殿にも感謝してるんだぜぃ?」

 

サンラクから聞けた答えに、安心してぽわぽわした雰囲気になるサイガ-0を横目に、今すっごい重要なワードを出したか!?とペッパーは目を見開いて、変幻自在のボイスを口喋るディープスローターを見る。

 

此の時の彼女の台詞によってペッパーは後日、己の捜索スレが掲示板に建っている事に気付くのであった……。

 

 

 

 

 






混沌は混沌を呼び起こし、怒濤の如く侵食する




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三身は沼越え、阿修羅は憚り、そして火力と防御は揃い踏む(其の五)



サードレマ正門前での混沌の一戦、閉幕す




胡椒争奪戦争とは何ぞ?

 

ディープスローターことディプスロ(サンラク命名)が口走った事で初めて知った単語に、ペッパーは口元を押さえつつも、周りを見ながら己の思考を張り巡らせる。

 

彼女の言葉を信じるなら、オンラインゲームの掲示板でよく見る『捜索スレ』だとして、一個人を対象としたスレが建つのは非常に珍しい。ある意味で珍事であり、そして稀有な事柄だ。

 

ならば何時(・・)、其のスレが建った?ジークヴルムの手に乗って、空へと飛んだあの日か?可能性としては非常に高い。此の一件が済んだなら、其のスレを調べに行こうとペッパーは決意する。

 

実際はセカンディルのレクスとの会話から、全てが始まって居たのだが、其れを今の彼が知る由もない。

 

「で、ディプスロ。お前何が目的だ?『スペクリ』の時の復讐でもしようってか?」

「げぇ……コイツ『スペクリ事件』関係者なのサンラク?」

「いやコイツ事件の『首謀者』。其の時はナッツクラッカーってプレイヤーネーム」

「特大レベルの厄ネタじゃねーか!?」

「エヘヘ…そうでもないのだ」

「「褒めてねーよ!?!」」

 

サンラクが放ったスペクリなるワードで、カッツォが反応して、明かされた事実に彼等のツッコミが入る。どうやら其のスペクリ事件でゲームがサービス終了となり、サンラクは犯人たるディプスロを討伐して、其の後にディプスロはサンラクを探すべくシャンフロをやっていた……。

 

というのが今回、此の一連の流れであると、ペッパーは頭の中で情報を整理する。

 

「ぐっ…まだ、だ!」

「俺は終わってねぇぞ…!」

「ぜってぇキルしてやる…!」

 

が、今は戦いが続いている。ディプスロのプロミネンスで吹っ飛ばされていた、阿修羅会のメンバーが復帰して、ぞろぞろと此方を包囲してきた。

 

「まだ戦うか…阿修羅会……」

「執念深いってか、ゾンビだわな」

「ぴゃああ……」

「どーすんのコレ?PKerキルしてPKの仲間入りなんて、真っ平ゴメンだよ俺?」

「寧ろ我はサンラクくぅんにキルされ…いゃ待って待って!?冗談だから!?」

「ディプスロ。次変な事言ったら、首骨減し折るから覚悟しとけ」

 

三者三様十人十色の反応を示す開拓者達。此の状況で自分はどうするべきか………そう思い始めて。

 

 

 

「【従剣劇(ソーヴァント)独奏(ソロ)」・ 至高の一閃(プライマルスラッシュ)】!」

 

 

 

 

取り囲む阿修羅会のメンバーの一角に、刺突の一閃と暴風が風穴を穿つ。またしても乱入者かと、彼等彼女等が見た其の先に其の人は居た。

 

サイガ-0にとっては、何時も隣や背中を見て。トップクランを率いし、今尚衰える事無く煌々と燃え上がる、打倒リュカオーンを掲げる者。

 

ペッパーにとっては、およそ数週間振りとも言える再会。揺れる赤髪と鋭利な視線、纏う鎧と其の手に握られし聖剣を振るう者。

 

「ふぅ…どうやら間に合ったみたいだね」

「姉さ…ゴホン、クランリーダー…!」

「サイガ-100さん!どうして此処に!?」

 

サードレマ正門前で出逢い、リュカオーンの呪いの解呪に関する情報と、クランへのスカウトをしてきた人物。

 

混沌を催す戦場に、修正前剣聖勇者(・・・・・・・)が━━━━━クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)の団長たるサイガ-100がペッパー達を探しに来て、現在進行形で阿修羅会に襲われているのを発見し、情報を持つ彼等を守るべく援軍として、サードレマ正門前に到着した。

 

混乱混沌必至の戦いは、此処に総滅戦という名前を以て、佳境へと突き進んでいく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(うん……アイツ等も此処までかな)

 

誰の目にも理解(わか)る、戦況は既に決したと。魔法系最上位職にして、現状唯一の『賢者職』まで登り詰めたディープスローターと、対人戦によって現在の『剣聖職』まで到って見せたサイガ-100の乱入で、阿修羅会のメンバーの闘志が、粉微塵に砕かれていく様を、ペンシルゴンは見た。

 

(仕込みは今回の一件で充分。京極ちゃんには既に連絡済み……よし、やるとしようか)

 

自分の役割は二つある。一つは阿修羅会のクランリーダー・オルスロットを焚き付けて、ペッパー達を襲撃させて、少しでも戦力を削ぎ落とす事。胡椒争奪戦争での出来事がオルスロットの耳に入ったのは僥倖で、愚弟は大局感が欠如しているが故に簡単に嵌まった訳だが。

 

問題は二つ目。程好く戦いながら、ペッパー達を此の場から逃がす事だったのだが、残念ながらペッパー達が救難信号を使って召喚したのが、サイガ-0とジョセットというシャンフロ最強クラスのプレイヤー。今後のウェザエモン攻略に向けた話し合いを、彼等を含む五人でする以上は、此処で足止めを食らう訳にはいかない。

 

(あーもう、本当に………。あーくんは私の予想を、軽々と越えるなぁ……)

 

ジョセットと剣劇を重ねながらも、ペンシルゴンはペッパーを見る。ジョセットを盟友救助で召喚出来たという事は、此の時点で彼はシャンフロのアイドル『慈愛の聖女イリステラ』に会っており、少なくとも現時点で到達出来る最後の街で、彼女が拠点としている『フィフティシア』まで到達している可能性が在る。実際はペッパーがイリステラに逢ったのは『王都ニーネスヒル』なのだが、彼女は其れを知らない。

 

(さぁて、お姉さんもいっちょ頑張りましょうか!)

 

ペンシルゴンがアイテムインベントリから取り出すは、ペッパーが特殊クエストクリアにより解放した投擲玉。名前を炸光と炸煙と炸音……別のゲームで閃光玉と煙玉に音爆弾たる其れを用いて握り潰し、ジョセット及びサイガ-100が居る方向へ投げた。

 

炸裂した音が鳴り響き、煙と閃光が放出しながら、サードレマ正門前一帯を包み込む。

 

「ッ…!廃人狩り!」

「じゃあね、ジョゼットちゃん?また何時か会いましょ」

 

響く音の中で届くかは解らずとも、ペンシルゴンはジョゼットにそう言い、煙に紛れて投擲玉達を阿修羅会の包囲目掛けて投げ込みまくる。

 

「アーサー・ペンシルゴン!」

「コレは…投擲玉!」

「およよ~コレは目眩ましだねぇ…?」

「ほれほれ、阿修羅会の皆ー!キルするなら今だぞー!」

 

煙に音に光。此れだけの要素が有れば、擬似的な『混戦状態』を創り出せる。光と煙による目潰し、音による聴覚の封殺。そして阿修羅会のメンバーの背中を蹴り飛ばし、戦闘を『誘発』させる。

 

そうすれば━━━━━━━━

 

(サンラク、オイカッツォ、エムル!今しかない、俺の後に続いて!行くよ!)

 

ペッパー(あーくん)ならば。此の瞬間を決して逃さずに、脱出するべく行動するだろうと。そしてペンシルゴンの予想通り、彼は三人の手を引き、刃がぶつかり鍔競る音が鳴り合う中、煙と光と音の中を走る。

 

オーバートップビートより進化し、効果時間が180秒から90秒になったものの、敏捷・筋力・スタミナを2倍にし、終了後のデメリットが解消された『アンブレイカブルソウル』。

 

全身の感覚をレベル数に応じ、より鋭利にしていく『ブランシュ・クロッサー』。全力疾走時にスタミナ消費を押さえる『ライオット・スート』を起動し、彼等彼女等の眼となって、混戦へと激変した戦場を脱出する。

 

「くっ…此のッ!」

「クランリーダー…!」

「ちょっと…!しつ、こい…!」

「おいおい、血気盛んなのは良いけどさぁ~?君達粘着し過ぎじゃないかぁ?」

 

作り出した舞台(ステージ)で、シャンフロ廃人達が己のけしかけた阿修羅会のメンバーと戯れる姿を、ペンシルゴンは北叟笑みながら、サードレマへと悠々とウイニングランをして。

 

此の日サードレマ正門前にて勃発した、阿修羅会による胡椒殺戮作戦は、ジョセットやサイガ-0の盟友救助での加勢に加え、乱入してきたディープスローターやサイガ-100により、未曾有の被害と共に失敗に終わった。

 

同時にサンラク&オイカッツォは、ペッパーと一緒に行動していた事で、胡椒争奪戦争にて名前が拡がり、此れが先々にて影響を与える事になるのだが、其れはまだ遠い話である……。

 

 

 

 

 






響き渡るは胡椒と鳥頭と追い鰹の名前




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リュカオーンの呪い(マーキング)、前衛と後衛の違い



サードレマでの戦いの後に




「サンラク!オイカッツォ!エムル!走れ、走れ、走れ!!」

 

アーサー・ペンシルゴンが投擲玉を用いての舞台を形成、其れに乗ずる形でペッパー達はサードレマに突入して、大通りを駆けていた。

 

「此処まで来たら、そろそろ解散で良いか!?」

「サンラクさん!もう変化が限界ですわ…!!」

「俺、もう限界…!宿屋近いから、一旦其処逃げ込んどく…!」

「OK、エムルはマナポーションを!全員幸運を祈るよ!」

 

ペッパーがエムルにマナポーションを投げ渡したのを合図として、サンラク&エムル、ペッパー&アイトゥイル、オイカッツォの三手に分かれて、各々裏路地へと消えていく。

 

とは言っても、サンラク&エムルは自分と同じユニークシナリオを受注している為、兎御殿に行けるので実質二手に分かれたが正解である。

 

「アイトゥイル!ゲートの準備!」

「了解なのさ…!」

 

裏路地に入り、他のプレイヤーが居ないか目視確認。アイトゥイルが旅人のマントの中からゲートを開き、ペッパーは兎御殿の休憩室に逃げ込んだ。

 

「よっし逃走成功ォ!流石にサンラク以外は此処まで追って来れないだろ!」

「ペッパーはん、走り回って大変なのさね」

「まぁね。しかし思った以上に情報が拡散されてたな…そろそろ装備の替え時だろうか?」

 

今の装備の格好良さは、とても気に入っている。だがAnimaliaが言った、黒統一の装備と旅人のマントによって、自分の特徴が洗い出されている可能性は高い。

 

(今の俺が行ける街の中で、一番耐久力を上げられる防具が有りそうなのは、エイトルドかニーネスヒルだろう。サードレマ大公殿下の屋敷にも行きたいけど、阿修羅会が起こしたゴタゴタに上位プレイヤーの捜索も有る。其れにアイテムインベントリ中に在る、モンスターの素材も整理しないとアクションに影響が出そうだ…)

 

ペッパーはアイテムインベントリの中身を調べ、帝蜂蜜(エンパイア.ハニー)やエンパイアビーのハチノコ、双皇甲虫の残り物やエリアボスの素材等々、売れば10万マーニは稼げそうだと目算する。

 

(甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)の強化をしたいから、エンパイアビー・クイーン達とクアッドビートルの素材は使用分以外売却して、12か13万マーニくらい稼げるかな?)

 

と、兎御殿の休憩室に別の扉が構築されて、サンラクと殆ど人化が解けた結果、半人半獣状態のエムルが全速力で駆け込んで来た。

 

「だらっしゃあい!逃げきってやったぜぇ!ペンシルゴン含めてPK共、ざまぁみやがれ!!」

「もう変化、限界…でずわ……!ぽぴゅう!」

「エムル、お疲れ様なのさ…」

 

白い煙と共にエムルは元の姿に戻り、アイトゥイルが頑張ったねと彼女の頭を撫でている。

 

「サンラク。無事に逃げ切れたか」

「応よ!敏捷と幸運特化の『前衛職』傭兵を舐めんなって奴だ!」

「…………ん?前衛職?傭兵?」

 

サンラクが口走った前衛職というワードに、ペッパーは反応して。

 

「因みにペッパーは、どんなステ振りしてんだ?俺と同じ傭兵?さっきの走り方からして、スタミナと敏捷特化の長時間走れるタイプだったり?」

「いや……俺、筋力・敏捷・スタミナを中心に振ってる、バックパッカーで『後衛職』なんだけど」

「え」

「えっ」

「「………………………え?」」

 

前衛職と後衛職。同じユニークから受けた呪いを持つ者同士。そして其れによって、二人は同時に『答え』に辿り着く。

 

 

 

「「リュカオーンの呪い(マーキング)って………前衛職と後衛職で、付与条件が異なる………?」」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジか…マジかぁ……。リュカオーンの呪いって、前衛職でも付与されるのか……」

「後衛職でも呪い引っ付けるとか、あのクソ犬どんだけ悪辣だよ…!」

 

兎御殿休憩室にて、ペッパーとサンラクは互いに相棒兎を横に置き、向き合う形で胡座を掻きながら座って、明かされたリュカオーンの呪いに言葉を溢した。

 

「因みにサンラクは呪いを受けた時の状況って、どんな感じだったんだ?言いたくなければ言わなくて良い。もし教えてくれたなら、此方も其の時の状況を詳しく話すよ」

 

誰しも秘密の一つや二つは有って良い。得た情報には相応の対価を以てこそ、初めてトレードとは意味を成すのだから。

 

「……俺も其の時は必死こいてリュカオーンと戦ってたし、大雑把な説明になるかも知れねぇが、其れでも良いか?」

「勿論」

 

ペッパーは一言、力強く答えを返す。

 

「解った………。俺の場合だが、レベル18の時にリュカオーンに遭遇して『15分以上ノーダメージ』かつ『400回以上』のクリティカルを叩き出して、脚を噛み千切られた時に『食いしばり』発動したら、あの犬っころに脚と胴に呪いを引っ掛けられたわ。

 

因みに200回くらいかな?武器は『致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)』と『致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)』使って、殴ったり斬ったりしたのは。あと何でか『右目』が真っ黒だったんだよなアイツ。其処から闇ってか黒いの溢れてたし。ペッパー、何か知らねぇか?」

 

サンラクの説明に、ペッパーは唖然となって絶句する。あの攻撃速度に加え、ディレイすら意図的に絡めてくるリュカオーンを相手に、単騎(ソロ)で15分持ちこたえ、数百回に渡るクリティカルを叩き出した。

 

しかしペッパーが其れ以上に驚愕したのが、リュカオーンが自分の刻み付けた右目の傷を、今も尚放置している事であり、彼が身体の二ヵ所に呪いを食らう理由を作ってしまった事で。

 

「サンラク!本当にすまん!」

「えっどうした急に!?」

 

サンラクを前にして、ペッパーは直ぐ様に由緒正しき土下座を敢行し。申し訳なさそうに唯々事実を述べるしか無かった。

 

「其のリュカオーンの右目……、俺が致命の包丁でブッ刺して切り裂いたんだよ……」

「…………は?」

 

そうしてペッパーもまた、其の時のリュカオーンとの戦いを説明していった。

 

「俺がリュカオーンと戦ったのは、サンラクと同じくレベル18の時で。反射神経に優れてない俺は、リュカオーンの『攻撃パターンに合わせて立ち回って、理想となる攻撃を誘発させる』為に動きながら戦った。此れを『ヒット&アウェイ作戦』って俺は呼んでて、武術の世界だと『後の先』に近い戦法なんだけど……。

 

其れを用いて『適正距離を保って』10分生き残ってたんだが、足場が崩れて回避ミスからの右腕を噛み千切られて、やられたと思ったら『食いしばり』で体力1で耐えた後、リュカオーンの踏み付けに合わせる形で跳躍。致命の小鎚を投げ付け→致命の包丁切り替えで、リュカオーンの右目に『刃をブッ刺して、一文字に切り裂いた』所でスタミナ切れで頭を潰されてやられた………サンラク?」

 

ペッパーの一通りの説明を終えて、申し訳無さそうにサンラクを見ると、彼は胡座座りから一転して正座態勢に入り。

 

生意気(ナマ)言ってすいませんした!」

「えええええええええええ!?」

 

此方も綺麗な土下座を行ったのである。相手の行動を読み、モーションを誘発させ、あまつさえリュカオーン相手に一矢報いてみせたペッパーに、サンラクは驚愕したのだから。

そしてペッパーは其の行動に対して、驚愕の声を上げるしか無かったのだった………。

 

暫くして漸く、御互いに謝罪を含めた心の整理が着いたので、二人はリュカオーンの呪いの付与条件を、一度纏めてみる事にした。

 

「つまり、こういう感じなのか…」

「おそらく此れで合ってる……筈」

 

内容はこうだ。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

リュカオーンの呪い付与条件・共通

 

・ソロでの遭遇

 

・レベル条件

 

・致命の武器(ユニークシナリオ『兎の国の招待』に関わる可能性大)

 

 

付与条件・前衛職

 

・一定時間ノーダメージ&一定回数のクリティカル

 

・体力が全損しない(食いしばり必須?スキルや魔法の補助は駄目?)

 

 

付与条件・後衛職

 

・適正距離を保って、一定時間の生存

 

・リュカオーンに傷が残る程のダメージ

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

改めて思うが、尋常じゃない難易度である。当たらないだけでもプレイヤーとして実力は相当なのだが、前衛にしても後衛にしても、善戦すればする程に呪いを受ける可能性が極めて高い事は間違いない。

 

「なぁ、サンラク。ちょっと良いか?」

「奇遇だなペッパー、俺も多分同じ事考えてた」

「「やるか、ユニークシナリオ秘匿同盟」」

 

リュカオーンの呪い付与条件の共有、同じユニークシナリオの受注者、そして互いに善戦して呪いを食らった者同士。話はすんなりと纏まった。

 

『ユニークシナリオ・兎の国の招待』を、出来得る限り他のプレイヤーに公にしないようにする事。

 

リュカオーンの呪い付与条件を開示する場合は、大雑把な物に留めておき、自力で考えさせるようにする事。

 

自分達以外で『兎の国の招待』を受注したプレイヤーが現れたならば、其のプレイヤーと接触して口外しないように言い聞かせる事。

 

此の三ヶ条を以て、ペッパーとサンラクとの間で、ユニークシナリオ秘匿同盟は締結され。そして二人はフレンド登録を結んだのであった………。

 

 

 

 

 

 






ペッパーとサンラク、兎御殿で結ぶ約束




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ハニーパニック、マーニタイダル、スキルフィーバー



ペッパー、持ち物整理をする(其の一)




「おぉ、ペッパーやないか。久しいのォ」

「御久し振りです、ティークさん」

 

ユニークシナリオ秘匿同盟を締結し終えた後、サンラクはエムルと共に、ラビッツや兎御殿の散策をすると言ったので、ペッパーはアイトゥイルと共にティークが居る兎御殿・食事処にやって来ていた。

 

「ペッパーが前に卸してくれたライブスタイドサーモン、うみゃあうみゃあとオヤジや他の皆に好評だったぜぃ。また釣れたら卸してくれや」

「其れは良かった。新しく仕入れた物が有るんですが、見て貰っても良いでしょうか?」

「おぅ!見せてみぃ」

 

次は何を見せてくれるかと、期待するティークにペッパーはカウンターへ帝蜂蜜(エンパイアハニー)とエンパイアビーのハチノコを一つずつ、アイテムインベントリから取り出して、彼の目の前に乗せていく。

 

「おおおおおおおおおおおおおお!?!こりゃあ…こりゃあ、帝蜂蜜!!甘味の王様としても名高く、ドミニオンハニーと頂点を争う超絶レア物の蜂蜜やぁッ!其れにエンパイアビーのハチノコ!栄養豊富滋養強壮に効果適面!莫大なエネルギーが獲得可能なレア食材ッ!!ペッパー!おみゃあさん、エンパイアビーの巣を無傷で攻略したのか!」

「はい。ビィラックさんに甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)を改修して貰う為に、エンパイアビーの巣とクアッドビートルを倒して得られた副産物ですね」

 

エンパイアビーの巣は四つ陥落させ、蜂蜜とハチノコも相当数手に入った訳だが、まぁライブスタイドサーモン並の高値には成らないだろう……そうペッパーは思っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー!この帝蜂蜜は1つ『30万マーニ』!エンパイアビーのハチノコは1匹『5万マーニ』で卸させてくれんか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ほぇ?」

 

ティークが蜂蜜とハチノコに、ライブスタイドサーモン同様、とんでもない価値を提示するまでは。

 

「え………っと、理由を聞いても?」

「応ともよ。先ず帝蜂蜜なんだが、ラビッツに在る甘味処で食える、ラビッツスペシャルパフェを初めとした、最高級の菓子やスイーツに、コイツが材料として使われててな。甘さとコクを求めるならドミニオンハニーが断然良いんだが、優しい味にするなら帝蜂蜜の方が向いとるん。

 

ハチノコはマッドフロッグのタン同様、珍味としても通の間じゃ知らない奴は居ない代物。開拓者が採ってくれんと市場にも流れんからこそ、蜂蜜とハチノコは此れくらいの値段になるんや」

 

スペシャルラビッツパフェやスイーツが、何れくらいの値段になるかは解らないものの、後で調べに行くことにしたペッパーは無言で、アイテムインベントリから帝蜂蜜を20個、ハチノコを30匹取り出してティークに見せた。

 

「エンパイアビーの巣を四つ程陥落させたので…全部卸して貰えますか?」

「ペッパーはん、此れはティークの頭が破裂するのさ」

 

またしてもあんぐりと、顎が外れたように口を開きながら気絶し、アイトゥイルのアッパーカットで復活したティークは、帝蜂蜜20個で600万マーニとハチノコ30匹で150万マーニ、合計750万マーニをペッパー支払い。

 

「あはは…あははは…。オイは今夢を見とる……、高級蜂蜜…ハチノコ…一杯……。あはははは…………」

 

トロットロに蕩ける多幸感で満ち溢れた幸せそうな笑顔と共に、帝蜂蜜とエンパイアビーのハチノコ達をインベントリに収納、店の奥へフワフワしながら入って行った。

 

「さて…アイトゥイル、エルクさんの所に行くよ」

「あの銭ゲバ妹兎が、直ぐにマーニの匂いを嗅ぎ付けてくるからなのさ?」

「まぁ、其れもあるんだけど……。スキルで気になる事があるからエルクさんに質問したいのと、アイトゥイルの使えるスキルをちょっと増やしたいってのがあるかな」

 

戦闘面で自分を支えてくれている彼女に、酒以外でのプレゼントを渡せれば…そう考えたペッパーはアイトゥイルを肩に乗せて、特技剪定所(スキルガーデナー)に出向く………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらぁ~、ペッパーさんじゃな~い。よく来たわねぇ~」

 

来訪早々、待っていましたとばかりに、営業スマイルで出迎えるエルク。普段の細目は¥のマークになっていて、最早隠すつもりが無いようだ。

 

「御久し振りです、エルクさん。実は今日来たのはアイトゥイルのスキルを増やして、戦略の幅を広げたいのと、俺のスキルにある『選択可能』って文字が、一体何を意味しているのか、其れを知りたくて此処に来ました」

 

レベルアップで習得したスポットエッジ、進化してリュカオーンの右目を抉り裂いたスピックエッジ、其れが更に進化を遂げたアルゼイドエッジ。

 

シャンフロを初めてから、自分の戦いを支え続けたスキルだ、其れが選択式に成った以上はどうすれば良いのかを確かめなくてはならない。

 

「どれどれ~……あらぁ、確かにアルゼイドエッジが、選択可能になってるわねぇ~。其れはスキルが各々、新しい方向に成ろうとしている証なの~。特技剪定所(此処で)なら選択先のスキルの内容や効果、再使用時間(リキャストタイム)も確認が出来るから~積極的に、使って~ちょうだぁい?」

 

そしてあわよくば、スキル合体ついでにスキルの秘伝書や、極之秘伝書も買わせようとの魂胆は丸見えで、商魂逞しいなと思いながらも、ペッパーはアルゼイドエッジの派生先の能力を確認する。

 

 

 

アルゼイドエッジ

シャドウズ・シーク レベル1

or

グロリアス・ストラータ レベル1

 

 

 

シャドウズ・シーク:刺突攻撃スキル。攻撃時にスキルレベルが高い程、ダメージ補正を追加する。此の時、使用者に対する相手のヘイトが高い程、与えるダメージは大きくなる。

 

グロリアス・ストラータ:刺突攻撃スキル。攻撃時にスキルレベルが高い程、ダメージ補正を追加する。此の時、使用者の歴戦値を参照にした、更なるダメージ補正を追加する。

 

 

 

(シャドウズ・シークはヘイトを集めるタイプのスキルと併用すれば相性は良いんだろうけど、グロリアス・ストラータの『歴戦値』って何だろう?ヴォーパル魂みたいな物か?)

 

少しの間、選択式のスキルと睨めっこをして、現在持っているスキルを確認。そうして漸く、ペッパーはエルクに選んだスキルを決めたのである。

 

「エルクさん。アルゼイドエッジは『グロリアス・ストラータ』にします。其れから、現状のアイトゥイルが使えるスキルの巻物をお願いします」

 

「はぁい」とエルクはペッパーのスキルを、彼の望んだ進化先へと進化させて、アイトゥイルが使えるスキルを幾つかピックアップし、目の前の画面に表示する。

 

「アイトゥイル、何れが良い?」

「そうさねぇ……。じゃあ、これと…これに……、あとはこれと、其れから此のスキルが、ワイは欲しいのさ」

「エルクさんお願いします」

「お買い上げ、ありがとうございますぅ~。そしてペッパーさぁん?御一緒にスキルの秘伝書や極之秘伝書も、購入しませんかぁ?」

 

デスヨネーとペッパーは心の中で呟き、最終的に致命武術から『致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】』(10万マーニ)と『致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】』(7万マーニ)を購入、何とか出費を50万マーニで押さえる事に成功したのだった……。

 

 

 






金は天下の回り物




Q、ペッパーは何でこんなに蜂蜜やハチノコ手に入ったの?
A、出身:探索家の子による、探索済みエリアに入るアイテムドロップに対するボーナス補正と、巣に損傷を出さないよう慎重に立ち回った結果。あと前に巣を攻略した時の残りも含まれてます。



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胡椒はサードレマを旅立ち、死した火山で疾風(はやて)と出逢う



ペッパー、持ち物整理をする(其の二)





「ビィラックさーん」

「ビィラック姉さーん」

「おう、ペッパーにアイトゥイル。太刀は出来たが、まだ大槍は作り終わってないけ」

 

エルクの下で色々なスキルの秘伝書を購入したペッパーとアイトゥイルは、其の脚で兎御殿の鍛冶師にして名匠たるビィラックの所を訪れていた。

 

其の彼女はと言うと、カイゼリオンコーカサスの角を削って整形しており、其の傍らにはコーカサスの残り二本の角と、翡翠と黄金の螺旋模様を掘った、槍の柄が立て掛けられている。

 

「ビィラックさん。大槍が終わった後なんですけど、甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)の改修をお願いしたいんです。あ、ゆっくり休んでからで良いです!」

 

シャンフロに置ける武器は、素材を消費して鍛冶師に依頼する事で、耐久値・ダメージ補正・能力等を強化出来る。一般的に改修された武器には『【武器名】改◯』といった形となり、最大で『改十五』まで至れる。

 

そして改修は十段階目を突破すると、必要素材よりも費用が頭がおかしいレベルで跳ね上がる為、ウェポニアのような武器防具コレクト勢の様な、狂った連中以外の正常な思考持ちのプレイヤー達は、改修を十段階で打ち止めとして、さっさと『真化』させてしまうのだが。

 

「解った、どんくらい素材を持っちょるか見せてみぃ。其れで何処まで改修出来るか、わちには解る」

「はい、此方になります」

 

アイテムインベントリからエンパイアビー・クイーン他エンパイアビー達の素材に、クアッドビートルの素材を取り出して、ビィラックの見える位置に重ねていく。

 

「おぉう……こらまた随分有るの……」

「クアッドビートルは五匹、エンパイアビーの方は巣を四つ程陥落させましたので……結構手に入りました」

 

研磨加工を一時中断して、ビィラックはペッパーが狩り、重ねた素材達に目を通していく。

 

「フムフム…これなら『改五』まで行けそうじゃ。よし、ペッパー。甲皇帝戦脚をわちに預けてくりゃあ、そんなに時間は掛からずに育成しちょるけ。マーニはあるかいな?」

 

彼女の言葉に従い、両足に装備していた甲皇帝戦脚をマーニと一緒に提出し、ビィラックは素材共々己のインベントリに収納。

 

鍛冶場の奥へと引っ込んでいき、其の十数分後に暖簾を上げて一仕事終えた表情と共に、ペッパーとアイトゥイルの前に育成した甲皇帝戦脚と、翡翠の鞘に収まる黒碧色の柄を持った太刀を二本置いた。

 

「双皇甲虫の一角、颶風の申し子ティラネードギラファの素材を用いて製作した、名匠ビィラックの太刀。銘打つならば『風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】』じゃけ」

 

置かれた太刀の、其の内の一本を手に取り、恐る恐る鞘から抜いてみると、翡翠色の刀身が顔を覗いたと思えば、其処から切り裂くような風と共に、表皮を刺激する電撃の気配が漂うのを、彼は如実に感じた。

 

ペッパーは慌てて太刀を納刀すると、先程の風と電撃は収まり。彼は育成で改五に成った甲皇帝戦脚共々、アイテムインベントリに収納して、此の武器の能力を確認する。

 

 

 

 

 

風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】:颶風の申し子ティラネードギラファの大断鋏を主体として用い、名匠の手により製作された翡翠色の太刀。鞘より抜かれた刀身には、雷嵐の申し子カイゼリオンコーカサスの素材も使われており、一刀の元に振るわば、風の刃と雷の追撃を共に成して、敵を斬り穿つ。

 

颶風の申し子たるティラネードギラファは、遺された残滓と共に獲物を振るう者へと問い掛ける。

 

━━━『汝は風、汝は刃。偽り無き己の意思を、詐り無き己の真を示せ』━━━━と。

 

汝が汝で在る限り、此の風と雷は決して、汝を裏切る事は無い。

 

斬撃による攻撃時、ヒットした箇所へ裂傷状態及び帯電状態を、相手に付与する。

裂傷状態:斬撃武器及び斬撃スキルによるダメージを与えた場合、ダメージ及びクリティカルに補正が掛かる。

帯電状態:斬撃武器及び斬撃スキルによるダメージを与えた場合、装備者の筋力に応じた追加ダメージを付与する。

 

 

 

 

(己が己で在る限り、風と雷は力を貸してくれる……か。ティラネードギラファ、カイゼリオンコーカサス…俺を、俺達を見ていてくれ。此の刃が到達する輝きを)

 

「ありがとうございます、ビィラックさん」

「ペッパーはん、これからお出かけなのさ?」

「あぁ。其れとアイトゥイル、サンラクが戻ってきたらエムルと一緒に、兎御殿を案内してあげて欲しいんだ。其の間に俺は、サードレマから死火山のエリアに行って来る」

 

今の時点でサードレマから動くとなると、サンラクやオイカッツォは非常に危険だ。未だ他のプレイヤーが探している可能性は有るし、此処は自分が囮となって、他の連中をサードレマから引き剥がす必要が有るだろう。

 

「ペッパーはん…」

「大丈夫、ちゃんと戻ってくるよ。エンハンス商会のサードレマ露店通り支部の近くにゲートを頼む」

「……解ったのさ。気を付けてさね」

 

ありがとうと頭を撫でて、ペッパーはアイトゥイルを肩に乗せて、休憩室に帰還。喧騒新しいサードレマへと向かう扉を開いて、彼はアイトゥイルが見送りを背に、真っ先にエンハンス商会・サードレマ露店通り支部に入店。

 

エリアボスや他のモンスターの素材を売却して、得られたマーニで回復アイテム等の様々な道具を補充。少し周りに目立つよう心掛けて移動しながら、其の脚で栄古斉衰の死火口湖へと脚を踏み入れたのだった………。

 

時刻は午前10時を越えていく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処まで来れば、大丈夫でしょ……」

 

サードレマから栄古斉衰の死火口湖にやって来たペッパーは、登山ルートを駆け登った後に中腹辺りに座って、ふぅ…と大きな息を吐いた。

 

ブルックスランバーは其の性質上、プレイヤーを見付け次第、地の果てまで追い掛けて口に含み、火口から湖目掛けて放り投げる悪辣さを持ったモンスター。

 

対して此方は、リュカオーンのマーキングによって、自分よりもレベルが劣っている彼等は、Uターンで逃げ出すので安心安全なのだ。

 

『ギョエー!?ギョエー!?』

『ギョエー!!?』

 

そして案の定、ブルックスランバーが此方に気付き、飲み込もうと走り来る訳なのだが、呪いが放つ黒狼の気配によって、一目散に来た道を帰って行く。

 

「こうして見ると、リュカオーンには感謝しなくちゃだな」

 

呪いのお陰で、本来なら危険なエリアである此の場所が、安全地帯が作られたと考えれば、礼を述べなくてはならない。

 

と、此方に再び近付いてくる悪辣な青駝鳥達に、ペッパーは視線を移した瞬間。其の奥より、ブルックスランバー達のコミュニティよりも『桁違いに速い』、一匹の巨鳥が突っ込んで来て、ブルックスランバーを吹き飛ばしたのだ。

 

「は!?な、何だコイツは!?」

 

ブルックスランバーよりも一回り大きい、全長4mは在るだろう巨大な鳥。ブルックスランバーと同じく、ペリカンの頭とダチョウの胴体を融合させた、青い羽毛を身体に纏いながらも、其の羽毛には朱が混じった物になっており、尾羽は孔雀や鳳凰の様に長く、まるで飛行機雲を描くジェット機の様だった。

 

シャングリラ・フロンティアに置いて、ユニークに匹敵する強力なスキル『不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)』と呼ばれる物がある。其れ等に共通する事項として、エクゾーディナリーモンスターと呼ばれる存在と戦い、勝利する事が条件として含まれている。

 

ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"。

 

栄古斉衰の死火口湖の岩肌に生息している、ブルックスランバー達の中でも、誰よりも先へ。誰よりも速く。誰よりも一番に駆ける。

 

其れを唯ひたすらに求め続けた果て、己が育ったコミュニティを捨て、愛した伴侶さえも捨て、最後は孤高を頂く事に到りし、異端なる王鳥がペッパーの前に現れたのだ。

 

 

 






出逢うは、悪辣駝鳥の最速走者




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其の疾走は烈風と成り、其の激闘は魂を揺らす



ペッパー 対 エクゾーディナリーモンスター




ブルックスランバー、別名を悪辣ペリカン駝鳥。栄古斉衰の死火口湖を、登山ルートで攻略をしようとする開拓者を追い回し、口に含んで運送した挙げ句に湖へとポイ捨てする、製作者(産みの親)の悪意が節々から滲み出ているモンスター。

 

サードレマから旅立ったプレイヤー……余程敏捷スタミナに秀でた状態か、極論二極振りにしなくては上位勢ですら逃げられずに、落下死に持っていかれる事が、如何に凶悪かを理解出来る。

 

では、そんなブルックスランバーが突然変異か何らかの理由で、通常個体以上の『スピードとスタミナを得て』。更に落下死に持っていく悪辣さを、全て『攻撃能力に振り切った』場合、一体どうなるか?

 

━━━━━━━━━━━今に解る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どわぁぁぁぁ!?」

 

直線走覇からの鋭角ターンの切り返しで突撃してくる、此のブルックスランバー。普通の個体とは違って群れる事をせず、習性に従って突撃してくる同胞達さえ『お前等邪魔!』と言わんばかりに、大型トラックで轢き殺すが如く走り回っている。

 

「見た目は差違有れど、ビルディファイトでブシカッツォがメイクしたリーエルが、常にエクスプロージョン・チャージを使い続けてる感じか…ッとふぉ!?!」

 

首を低く下ろし、空気抵抗を減らして、全速力で走る。おまけにリュカオーンの呪い(マーキング)を見たり、感知したにも関わらず、逃走の素振りを一切見せていない。間違いなく、あのペリカン駝鳥のレベルは自分よりも『上』だ。

 

「レベル諸々含めて、アイツの方が上…か」

 

嗚呼…自分はある意味『幸運』だ。此の青駝鳥を前に、今の自分では何もかもが『劣っている』。だからこそ。此迄得てきたスキルを、習得した致命の武術を、際限無くぶつけにいける。

 

「フッ…やってやろうじゃん、青駝鳥!いや………ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"!」

 

直線の突進攻撃を回避し、アイテムインベントリよりペッパーが武器を取り出して、其の身に装備していく。

 

「さぁ…暴れよう、レディアント・ソルレイア!そして早速の初陣だ、最速走者を斬り倒すぞ!

 

荒れ狂い暴れよ!風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】!!」

 

此の世に甦りし天覇を模した遺産の一欠片と、双皇甲虫の素材を用いて造られた、翡翠の太刀が鞘より抜かれて、風雷を纏いて彼の周りを包んでいく。

 

其の風を、雷を。レディアント・ソルレイアが食らい、己の力に変換して、鳴り響くのは『エネルギー・フルチャージ!』の音声。其れが合図となり、ブルックスランバーは弾かれたパチンコ玉の様に飛び出して、ペッパーも横にホバー移動による回避を行う。

 

最速の走りを誇りとする鳥と、風雷を従える一人の開拓者の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルックスランバーが、コミュニティを構成・暮らしていく中で、極稀に『速度のみ』を馬鹿の一つ覚えであるかのように追い求める、異端児たる個体が産まれる。

 

走れ、走れ、走れ━━━━まるで何かに取り憑かれたように、唯々ひたすらに走り。コミュニティも、伴侶も、子供も、己の命すらも捨てていく。

 

そうして産まれたブルックスランバーの異端児は、大多数が走る中で己の命さえも薪とし、走覇に全てを注ぎ尽くした結果、人知れず……否鳥知らずに死んでいく。

 

 

 

だが……━━━━━━━━━━━━

 

 

 

そんな異端児の中でも、本当に極々僅かに。走覇に全てを捧げながらも、今尚も走り続けられる存在が居たとしたならば。

 

其の存在は孤高であり、異端であり、最速であり、そして不世出たる存在(エクゾーディナリー)と成る。

 

そうしてブルックスランバーの中でも、異端を極めし存在へ、彼等は彼女等は畏怖を以て、其の者をこう呼ぶのだ。

 

 

 

最速走者(トップガン)━━━と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最高速度維持と持久力特化に至った異色個体。其れがペッパーが、此のブルックスランバーとの戦いで感じた、モンスターとしての特徴だった。

 

(巨体を用いながら、スタートから一瞬で最高速度に到達しての突撃。要するにアクセルから、いきなりトップギアに入るせいで、走り回られてちゃ手が出せない!)

 

パウリングプロテクトで弾きつつ、レディアント・ソルレイアのブースターで加速し、鋭角ターンの瞬間を狙いに行くが、其れを解っているかのように、最速走者は『逆方向』に鋭角ターンを刻んで行く。

 

「だぁあ!またかよッ!?」

 

かれこれ10回目(・・・)のフェイント鋭角ターンに、ペッパーはスキルを空振りされまくった事で、怨唆の声を上げて。頭を低く下ろして突撃を敢行してくる、最速走者の攻撃を躱わしつつ、どうしたもんかと頭を悩ませる。

 

悪辣さが攻撃の為の知性に振り切られているせいで、並大抵の企みが此の駝鳥には効果が無い。攻撃を当てるならば、ターン直後に発生する僅かな減速の瞬間を狙いたいが、逆方向へのターンのせいで其れも通じない。

 

そして攻撃方法は突進オンリーと、通常種共々多様性は無いようだが、たった一つの物事を。ただ走る事を極めに究めて、窮め抜いた奴が繰り出す武器は、単純明快に恐ろしい存在である。

 

正拳突き一つを限界まで突き詰め続けて、音速を越えた飛翔正拳にしたNPC。

 

剣一本の上段唐竹割りを極め抜いた果て、一つの宇宙を両断した剣の師匠(ラスボス)

 

虚弱体質の身体ながら、鍛えて鍛えて鍛え上げ続けた筋肉で、最後の最後に主人公を救ってみせた親友。

 

自分にしかない唯一無二の武器を見付けて、研鑽と鍛練を以て磨き上げた結晶は、時に多大で多数の武器を持つ者や、全てで優れた強者すらも倒す力に成るのだから。

 

「くっ!埒が明かない…!!」

 

突撃を行う最速走者から逃れる為に、ペッパーは一度ホバー移動を切り、『クライムキック』と『ムーンジャンパー』、更には『八艘跳び』を起動させて突撃をジャンプで回避する。

 

「ちぃっ……何とかして、アイツの移動パターンを見極めないと…!このままじゃジリ貧一直線━━━━!!」

 

歯軋りしながら今、敵は今何をしてるか、今どうなっているかとペッパーが地上を見た時。山肌に刻まれた最速走者の『走った後の痕跡』を目撃した事で、彼の頭にアイデアが降りてきた。

 

「……『目に視える全てが答えに非ず。時に世界を反対より視るべし』━━━か」

 

昔の謎解きアクションゲームに在った、立方体のエネミーに対する戦い方を伝授された時、モブ教官が言っていた台詞を思い出したペッパー。

 

「漸く見えたぜ、最速走者……!お前の『攻略法』がな!」

 

高所からの落下と着地時のダメージを、レディアント・ソルレイアのホバー機能で無効化しつつ、彼は碧千風の鋒をブルックスランバー"最速走者"に向けたのである………。

 

 






天から見えた、勝利の天啓。




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其の疾走は転機と成り、其の斬打は攻略となる



ブルックスランバー"最速走者"との戦いが動く




「漸く見えたぜ、最速走者(トップガン)……!お前の『攻略法』がな!」

 

空中跳躍によって見えた、ブルックスランバー"最速走者"攻略の糸口。ペッパーは再び襲い掛かる突進攻撃を、ホバー移動で回避しながら、風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】を『とある場所』に突き刺して、太刀を『オブジェクト化』させた。

 

「ブルックスランバー"最速走者"。お前の速さは本当に凶悪だ。攻撃速度と攻撃発生の両方が、超レベルの便秘で『脚パリィ』を行う技術を学ぶ中で、動体視力に慣れて無かったら、手が付けられずに終わっただろう」

 

鋭角ターンを刻み、再びの突撃が向かってくる。だが、目の前に突き刺さった太刀を見た瞬間、最速走者は目の前で大きく『跳躍』したのである。

 

「ダチョウって生き物は、走る事に特化していると同時に、跳躍力も優れた動物だ。しかし走行と跳躍力の代償として、知能は低くなってもいる」

 

レディアント・ソルレイアのブーストを掛けながら、アイテムインベントリより、リュカオーンの残照刻まれし致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)を取り出したペッパーが躍り出て。最速走者の胸に向け、ストリームアタックによる急激な攻撃速度の上昇による変速と、アルゼイドエッジより派生し、進化したグロリアス・ストラータ。そしてステックピースを使用した渾身の刺突で、刃を突き立てた。

 

『ギョエ…!?!』

「だが、お前は違う。フェイントを絡める狡猾さに、障害物を的確に避ける知能もある。しかし……お前は『横を通り過ぎる』という選択肢を、最初から持っていない」

 

胸に致命の包丁を刺されながらも、止まる事をしない最速走者。其のスピードは更なる加速を遂げて、鋭角ターンを刻もうとする。

 

「なぁ、ブルックスランバー"最速走者"。お前は『フーコーの振り子』って奴を知ってるか?」

 

羨望合炙(せんぼうがっしゃ)、ライオット・スート、アンブレイカブルソウル、ボディパージ、チェインズブートの起動と共に、猛ダッシュによって鋭角ターンを潰しに掛かる。

 

「お前さんは気付いていないかも知れないが、真上から見た時に『走った跡』が見えてな。其の跡がフーコーの振り子が刻んだ軌跡━━━『中心通過』にそっくりだった。其の中心に太刀を置けば、お前は障害物と見なして跳躍してくれると………俺は信じた訳さ(・・・・・・・)

 

ハンズ・グローリーとインファイト、ストレングス・スマッシャーにスマッシュナックル、そしてチェインズアップの近接スキル五連コンボで繋ぐ中、最速走者の嘴がペッパーの頭を狙って振るわれる。

 

「同じ至近距離でも、サンラクやモドルカッツォのパイルバンカーに比べれば!」

 

最速走者の視線・脚の位置・嘴の角度から、相手がどの位置を狙うかを予測し、ギリギリまで引き付けて躱わし、ペッパーは右手を拳に変えて握り締める。繰り出すのは兎御殿の特技剪定所にて、エルクより購入した新しい致命武術の一つ。

 

相手が突っ込んでくる体勢に合わせて、最速最短で拳を『合わせる』其の技は、中国武術の世界では発頸の一つであり、超至近距離での気を流し込む『寸頸(すんけい)』とされる。

 

スキルの名を、致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】。嘴の下側、攻撃の死角を細い針に糸を通すが如く、打ち振るわれた正拳が、最速走者の喉元へ強烈無比な打突を叩き付けた。

 

『ギョギュ…!』

(攻めきれ!動かさせるな!最速走者を動かさせたら、反撃のチャンスが何時になるか解らない!だから━━━━ッ!)

 

「間髪入れずに追撃するッ!」

 

インファイトのスキル効果が残っている今、ペッパーは仰け反った最速走者へ、更なる追撃を掛ける。進化を重ねる度に、連続回転数が上がっていく蹴りスキル、現在四連式に成った、フォースフリップの右足蹴りで、敵の左足を足払いをするようにスッ転ばし。

 

ダウン状態時の相手に使うと、威力が増大するオプレッションキック。サッカーボールキックの如し、全力キックを叩き込むフルズシュート。そしてレディアント・ソルレイアのブースト点火により跳ね上がったスピード共に繰り出す、もう一つの新規致命武術。

 

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】━━━━所謂サマーソルトキックたる其のスキルが、転ばされて起き上がらんとする最速走者の胸元を蹴り砕き、大きくノックバックによって吹き飛ばす。

 

『ギュ、キィ…!』

「まだまだぁ!」

 

ドリフトステップ起動、オブジェクト化して置いた風神刀【碧千風】を装備し直す中、跳ね飛びながらも体勢を立て直した最速走者。突進を噛まそうとダッシュ前のモーションへと被せる様に、ペッパーは致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】を用い、後ろに撫で切る斬撃の幻想を置く。

 

『ギュ…!?』

「前見て走るのは、決して悪いことじゃない。……が、たまには後ろを。走ってきた道を、振り返っても良いんじゃないか?」

 

横薙ぎの幻影に背中を襲われた最速走者が、ペッパーから視界を外し。其の刹那に彼は、八艘跳びとライフオブチェンジを点火、体力を削りながら既に高められていた敏捷を更に高め、地面を蹴り上げ跳躍し、十字斬とパワースラッシュを左胸に刻み込む。

 

『ギョキョギョキ!!?』

「さぁ…ぶちかますぜ!」

 

太刀系統武器を用いて繰り出す、連続斬撃スキル。三刃より始まり五刃と成り、更なる研鑽で進化する七連続の鱠切り━━━━━連刀七刃。

 

「うぉおおおおおおおりやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

十字斬が刻みし傷口に、風神刀【碧千風】の特性たる裂傷と帯電の二つの状態が加わり、連続のクリティカルと斬撃ダメージの増加を付与と、追撃のダメージが加わる効果が織り成して、最速走者の体力を目に見える程に削っていく。

 

だが、だが、だか━━━━━

 

「マジ、かよ………ッ!?!」

 

最速走者は耐えきった(・・・・・)。不屈の意志か、孤高たる者の矜持か。何にせよ、彼はペッパーの連続斬撃を見事に耐えたのだ。

 

「だったらッ!」

 

トドメを指し切る。其の為にも、十字斬で刻んだ場所に致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】を繰り出し当てて、彼をこれ以上苦しませずに終わらせてやる事。其れが己に出来る、最善手だと信じ。

 

しかし構えて振るわんとした瞬間、最速走者の足蹴りがペッパーの握る翡翠の太刀の柄を蹴って、遠くに飛ばしたのだ。

 

「なっ━━━━━━━━」

 

地面に刺さる風神刀。別の武器を取り出すか?致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】で躱わしてから、致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】で仕留めるか?

 

「………いや!まだある(・・・・)!」

 

背面蹴りで地面を蹴り、握撃を点火した左手で其れを掴む。在ったのは、最速走者の胸に突き刺した、リュカオーンの残照が刻まれし致命の包丁。

 

「いくぞ、致命の包丁よ!」

 

刺突攻撃スキル・命尽突。此の一撃に全てを乗せ、押し込めた刃が、確かに最速走者の胸にある心臓に届き。

 

『ギュ…………ギュイ………━━━━』

 

異端の王鳥の生命を、走り続けた情熱の灯火を、確かに狩り取り、掻き消した瞬間だった。

 

「ブルックスランバー"最速走者"。弾丸の如き疾走、尽きる事の無いスタミナ、戦う為の確かな知能。お前の名を、俺は決して忘れない。

 

戦ってくれて、ありがとうございました!」

 

最速走者の身体を構成した、ポリゴン達が目の前で爆ぜる。小さな開拓者の目の前には、羽先が赤・中腹が青・根元が白の、三色で彩られた艶やかな羽根を含む、ドロップアイテムが落ちて。

 

同時にペッパーの耳には、自身のレベルが2つ上がった事を報せるSEと共に、己が成した偉業を示す表示が現れたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

『モンスター不世出(エクゾーディナリー)……解明(クリア)!』

『討伐対象:ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"』

『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』

『称号【(キワ)(キワ)(キワ)マル(ハヤ)サ】を獲得しました』

『称号【疾走(シッソウ)()到達点(トウタツテン)】を獲得しました』

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)窮速走破(トップガン)】を習得しました』

 

 

 

 

 

 

 

 






成し遂げるは、不世出の討伐




不世出の奥義(エクゾーディナリースキル):窮速走覇(トップガン)

習得条件:ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"を討伐する。

効果:発動後5分間の間、現時点の敏捷数値を3倍にし、スタミナの減少を無効にする。再使用時間(リキャストタイム)はおよそ9日


悪辣なる有象無象の同胞に縛られぬ気高さ、尽きる事無き一等の如く駆ける疾走の執念。其れこそが不世出の奥義






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争奪戦の後先、開拓者達の語らい



掲示板回です




ペッパーがエクゾーディナリーモンスター、ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"との戦いを終えた其の頃。シャンフロ掲示板のペッパー捜索スレ『胡椒争奪戦争』では、またしても大きな畝りが起こっていた。

 

理由は至極簡単で、サードレマ正門前で発生したアーサー・ペンシルゴン率いるPKクラン:阿修羅会の大軍勢に、ペッパーが最大防御(ディフェンスホルダー)のジョセットを、サンラクが最大火力(アタックホルダー)のサイガ-0を盟友救助にて呼び出した事である。

 

そして其の光景は、野次馬プレイヤー達によって、此のスレにも情報が流れる事となったのだ………。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

【情報】胡椒争奪戦争 part3【急募】

 

********************

*******************

******************

 

 

 

211:ムラクモ

はい

 

212:アッド

211》 いやはい、じゃないが

 

213:サンダーナット

言わなくても解る

 

214:インドルー

それな

 

215:超合金豆腐

アタリマエダヨナ

 

216:ハザシムサシ

マジかよ……マジだったわ

 

217:トットロ

ペッパーもそうだが、サンラクもやべーわ

 

218:プリミチア

解る……

 

219:ムラクモ

え~………コホン。皆はん、情報の濃縮原液飲まされて、頭パンクしそうやとは思うけんど、安心せい此方も同じや。

 

てなわけで、サードレマ正門前で解った事を整理しましょか

 

220:ムラクモ

サードレマ正門前でペッパー・サンラク・オイカッツォ・エムルのプレイヤーが門番に足止めされてた。其の内のエムルは頭上にPN無かったので、NPCの可能性が極めて高い。んで、サンラクとかいうプレイヤー、頭に凝視の鳥面被って、胴体と脚にリュカオーンの呪いと酷似した痕が在った。

SF-ZooのAnimaliaがペッパーに接触、其所に廃人狩りのアーサー・ペンシルゴンと阿修羅会メンバー十数人が強襲。ペッパーが救難信号発信で、最大防御ことジョセットが盟友救助で到来。廃人狩りと戦闘開始。

サードレマから阿修羅会の増援、サンラクが救難信号発信で、最大火力のサイガ-0降臨。其の後に赤い賢者のディープスローターと、黒狼の団長サイガ-100が乱入。

廃人狩りが投擲玉で戦況を混乱させ、廃人狩りと阿修羅会の一部は行方を眩まし、ペッパー達一向はサードレマに逃走。残りの阿修羅会は謂わずもがな、全員纏めてPKKされた。

 

まぁ…此れがさっき起こったっていう、阿修羅会の胡椒殺戮作戦。名前は有志のプレイヤーが決めた……………何やねん、此の情報のラッシュは(怒)おのれらの情報は、わんこそばとちゃうんぞ?オォ?(怒)

 

221:一寸亡

ヒエッ

 

222:インドルー

ヒッ

 

223:ポンチョ

ムラクモ、キレた!

 

224:アゼル

ムラクモがブチギレてやがる…

 

225:南京南瓜

わからんでもないというのがまたな…

 

226:対魔-2

おいたわしや…

 

227:国茶民

(‐人‐)《ナムナム

 

228:プリミチア

ねー

 

229:ギムレット・プリン

しかしまぁ、ジョセットとフレンド登録してるって事は、ペッパーはシャンフロのアイドルこと、イリステラ様に接触したのかね

 

230:サンダーナット

其所だよなぁ………。少なくともペッパーは、フィフティシアに到着してるって事になるんだよな

 

231:デラウェア・B

もしかして転移系統の巻物常備してたり?だとしたらセカンディルや、サードレマ、シクセンベルトに出没したのにも合点がいく

 

232:マルマラ

ありえそう…

 

233:ケントゥリオー

というか、サンラクねぇ…。ペッパーって確か、右手に呪いが有るんだよな?ユニークモンスターの呪いが、二つ付くってありえるのか?

 

234:アッド

呪いは複数付けられる場合もあるとか、NPCが言ってたよ。ライブラリが調べて、記事にしてるから間違いない

 

235:サンダーナット

って事は、サンラクもリュカオーンに接敵して、二ヶ所に呪いを食らった訳か………いや、ヤバくね?

 

236:バサシムサシ

ヤバいよ定期

 

237:プリミチア

(最大火力を盟友救助で、呼び寄せられる時点で)もうすでにヤバいですわ

 

238:対魔-2

鳥頭半裸でNPCの女の子をパーティーに加えてるとか、裏山けしからん

 

239:デラウェア・B

凝視の鳥面だっけか?剥製ハシビロコウから作ってるのコレ?

 

240:インドルー

鳥面さんはハシビロコウじゃねよ!いい加減にしろ!

 

241:悪魔バッド

一応解りやすいように、その時のスクショ撮っといたわ。いやぁ…マジでヤバいわ

 

《画像》《画像》《画像》

 

242:国茶民

助かる

 

243:BNW

感謝

 

244:超合金豆腐

ナイッスゥ

 

245:ガンバッチョ

確かに鳥頭半裸だわ…沼掘りどうやって攻略したし…

 

246:ポンチョ

俺は金髪ツインテのプレイヤーが気になる…

 

247:対魔-2

見た感じは軽戦士3のNPC1のパーティーだよな……えっ、どうやって沼掘り攻略出来たのコイツ等?

 

248:悪魔バッド

247》知らんのか?投擲玉使えば特殊行動封じられるぞ?

 

249:アゼル

248》尚、其れが出来ても勝てるとは言っていない

 

250:BNW

壁タンク必須案件

 

251:ラプソティー

沼掘り、投擲玉の音使えば特殊行動キャンセル出来るが、使った奴が大音量でスタンするし、推奨攻略人数通りに行かないといけないのよね

 

252:デミウルゴス

話仏切るようで悪いが、皆はスペクリ事件って知ってる?

 

253:インドルー

知らん奴はおらんでしょ定期

 

254:ガンバッチョ

規制強くなったもんなぁ…事件以来

 

255:ギムレット・プリン

嫌な事件だったね……

 

256:デミウルゴス

でな、一つ気になる発言をしていたんですよ。サンラクが

 

257:アッド

発言?

 

258:マルマラ

ほほぅ?

 

259:デミウルゴス

ディープスローターと話していた時に、彼が首謀者とか、サ終前に討伐したとかうんぬんかんぬん

 

260:BNW

へ?

 

261:トットロ

え?

 

262:超合金豆腐

いやいやいやいや…………え、マジ?

 

263:デミウルゴス

どうだろう……ハッキリとは………

 

264:一寸亡

だが、ペッパーと同じ呪い持ちで一緒に居たって事は、少なからず何かしらで接触してるんだよな、サンラクとオイカッツォは

 

265:ベントレマン

サンラクはスペクリ事件と関係有りそうだし、話聞いてみたいわ

 

266:BNW

俺も

 

267:アゼル

ワイトもそう思います

 

268:国茶民

【珍獣】サンラク追跡スレ part1【捜索隊】

 

よしスレ建てた

 

269:ケントゥリオー

はやっ!?

 

270:一寸亡

仕事はえーよ!?

 

271:サンダーナット

ペッパーはまた今後やらかしそうだし、サンラクもサンラクで期待のニューフェイスだし、オイカッツォも気になるしで、掲示板も盛り上がりそう

 

272:バサシムサシ

それな

 

273:ギムレット・プリン

新しい情報がまた舞い込みそうだなぁ…

 

274:プリミチア

楽しいだわ

 

275:アッド

シャンフロ…熱いな!

 

 

 

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 






サンラク捜索スレが建つ




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ニュース、サードレマカムバック



一戦の後に、驚愕の光景有り




 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

PN:ペッパー

 

レベル:43

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 25 魔力 10

スタミナ 90

筋力 85 敏捷 95

器用 45 技量 70

耐久力 5061 幸運 25

 

 

残りポイント:46

 

 

装備

 

左:致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:レディアント・ソルレイア(耐久力+5000)

 

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

アクセサリー

 

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

 

所持金:7,837,400マーニ

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリー.スキル)

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

 

致命極技

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未解放

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未解放

 

 

 

致命武技

 

 

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】参式

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】壱式→弐式

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】弐式→肆式

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】壱式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】弐式

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】壱式→参式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】壱式→参式

 

 

 

スキル

 

 

・サイスオブスラッシュ→デッドリースラッシュ

命尽突(めいついとつ)(ぜっ)()(いっ)(とつ)

・パウリングプロテクト

・ブーメランスロー

・グロリアス・ストラータ レベル1→レベル3

・ソラスティワーク

・ボルベルグストライク→グラナートストライク

・グラシャラスインパクト→バルバドスインパクト

・ストレングス・スマッシャー レベル7→レベルMAX

・アンブレイカブルソウル

・インファイト レベル7→レベルMAX

・八艘跳び→遮那王(しゃなおう)()

・ドリフトステップ

・ストリームアタック

・十字斬 レベル5→レベル8

・ボルテックスムーヴ

・アクタスダッシュ レベル8

・ステックピース レベル6→レベル7

・握擊 レベル5→レベル6

・投擲 レベル6

・クライムキック レベルMAX

・首断ち レベル8→レベルMAX

・ムーンジャンパー→スカイウォーカー

・ボディパージ レベル7→レベルMAX

・ライフオブチェンジ→ソウルジェネレート

・スマッシュナックル→選択可能

・背面蹴り レベル7→レベルMAX

・フォースフリップ→ファイズフリップ

・フルズシュート レベル8→レベルMAX

・オプレッションキック レベル6→レベル8

命撃鐵破(めいげきてっぱ) レベル2→レベル5

一撃絶壊(いちげきぜっかい) レベル3→レベル6

羨望合炙(せんぼうがっしゃ)英雄志願(ウォーレヴ.ヒロイック)

・挑発 レベル4→レベル7

壱心臥斬(いっしんがざん) レベル3→レベル4

深斗止水(しんとしすい)凪静(なぎしずむ)水面(みなも)

連刀七刃(れんとうしちじん)連刀九刃(れんとうくじん)

罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)

・クラッシュレッジ

・ヴァーティカルセンス

速刃(そくじん)(つゆ)(ばらい)】→速刃(そくじん)(きり)(ばらい)

・チェインズアップ レベル1→レベル4

・チェインズブート レベル1→レベル3

一振両断(いっしんりょうだん)

隕石落蹴(メテオ・フォール)

・ラッシュスティック→選択可能

・ベラスティ・ニー

・ラッシュキック

・ハンズ・グローリー レベル1→レベル3

・パワースラッシュ レベル1→レベル4

・ナックルラッシュ

・ブランシュ・クロッサー レベル1→レベル2

・ライオット・スート

居合(いあい)切羽(きりばね)

・クロスインディクション

・デュエルイズム

・バーストダッシャー レベル1

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル1

・ハードスマッシュ レベル1

閂昏打(かんぬきこんだ) レベル1

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

致命魂の首輪、本当にヤバい。

 

ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"に蹴り飛ばされた、風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】を拾って鞘に納刀し、ドロップアイテム『王駝鳥(おうだちょう)三色羽(みしきばね)』をアイテムインベントリに収めた後、スキルを確認したペッパーは唖然となっていた。

 

歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)熾烈な鯢鰐(ドメスティボルゲーダー)沼掘り(マッドディグ)、そして最速走者(トップガン)。エリアボス3体とエクゾーディナリーモンスターの討伐で、積み重ねられてきたスキル達がドミノ倒しの如く連鎖的成長を行い、熟練度MAXの到達・新規習得・選択可能・進化スキルが多数。

 

跳躍の研鑽、艘跳びが結実した『遮那王憑き』。

普通にプレイしていれば(・・・・・・・・・・・)喜ばしい事になったであろう、ゲームでよく目にする『二段ジャンプ』を可能にする『スカイウォーカー』。

自分のレベル及びステータスが、全て相手より劣っている場合に、全ステータスに3%のバフを追加する『英雄志願』等々、今後のシャンフロライフを支えるスキルが目白押しである。

 

「また特技剪定所(スキルガーデナー)行きかぁ………」

 

先程利用したばかりの所にまた行くのもなと思いつつも、其れは其れとしてスキル合成をする事に決めたペッパーは、一先ずレディアント・ソルレイアの装備を解除し、此の場を移動しようとした。

 

と、同機しているEメールアプリに、一件のメールが届いたので、内容を確認してみると、ペンシルゴンから重要な報せだったのである。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

あーくんへ

 

 

やぁやぁ、あーくん。ペンシルゴンおねーさんだよ~。此のメールが届いているって事は、サンラク君にオイカッツォ君達と一緒に、無事に逃げ切れたようだね?

 

君が今日送ってくれたオハナシの日程なんだけど、今日の午後3時にサードレマの蛇の林檎に、誰にも見付からないように来て欲しいんだ。今から二人を円卓で、ウェザエモン攻略メンバーに勧誘しに行くの。

 

あと蛇の林檎には私達四人以外に、もう一人の攻略メンバーを連れてくるから、よろしくね。現役PKerだけど元阿修羅会メンバーで、当時まだガチだった頃の、ウェザエモン攻略メンバーの一人だったプレイヤー。腕は信用して良いよ。

 

全員揃ったら、あーくんには確りオハナシして貰うから、覚悟していてね?

 

アーサー・ペンシルゴンより

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

サードレマ正門前時点で色々と溜まってたんだろうなと、心の内に思いながらもペッパーはメールに了解ですと返信し、栄古斉衰の死火口湖より下山を開始。

 

途中ブルックスランバーの通常個体が来るも、やはりリュカオーンの呪いに反応してUターンしていく。このままサードレマへ………と思ったが、事はそう上手くは運ばない。

 

死火口湖とサードレマを繋ぐゲート、其所には10人程のプレイヤー達が待ち構えており、辺りを見回しながら誰かを捜して居るようだ。

 

(まぁ十中八九、俺を捜してる感じだよな……)

 

ペッパーはサードレマの地図を開き、裏路地や建物の位置を確認しつつ、通常並びに回り込まれた場合に備えて、移動で使えるスキルを精査しながら、脳内で複数のルートを構築していく。

 

「……じゃ、やるとしましょうか」

 

首骨を鳴らして、深呼吸を整える。此処から始まるのは鬼ごっこ。逃げるは自分、鬼は己を捜すプレイヤー全員。油断はしない、逃げ切ってみせる。

 

覚悟を決め、ペッパーは走り始める。其の速度は少しずつ、しかし着実に高まっていく。

 

「………ん?おい、アレ…!」

「あ、ペッパーじゃねーか!?」

「居たぞ!取っ捕まえろ!」

 

此方に気付いたプレイヤーの一部がゲートで待機して、残りの数人で捕らえに来た所だろう。第一陣で捕らえられなかった場合も考慮し、二手に分けたのは合格といって良い。

 

「悪いな、スキル検証の実験台に成ってくれ」

 

ボルテックスムーヴの起動、雷の如く迸る走りと共に鋭角ターンで第一陣を躱わすペッパー。続け様に自身の筋力を参照に、ダッシュによる加速力を高める『バーストダッシャー』で、僅かに出来た隙間を抜い、サードレマへと突入する。

 

「なっ………!?」

「アイツ速ッ━━━!」

「追え!追い掛けろ!」

 

走り往くペッパーを何としても捕らえるべく、他のプレイヤー達が連絡を取り合い、其の行く先を予測して走り出す。

 

サードレマを舞台に、鬼ごっこが始まった。

 

 






ゴールはサードレマ大公の城




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胡椒は走り、鬼は追い掛け、そして辿り着くは大公の城



鬼ごっこは続くよ、飽きるまで




「待ちやがれペッパー、チクショー!」

「止まれ止まれ止まれェ!」

「情報が欲しいなら、相応の材料で交渉しろって、学校で習わなかったのかー?」

 

バーストダッシャーで加速しながら、ペッパーは徐々に追跡者達を後ろへ引き離していく。

 

「……使えるな、バーストダッシャー。筋力にステータスを振ってる身としては有難いわ」

 

角を曲がり、裏路地を縫い、其の脚で駆けるペッパーだが、目の前に複数のプレイヤーが居るのを目視で確認する。どうやら彼方も気付いている様子で、何かを叫んでいたり、応援を呼び寄せている模様だ。

 

「次は屋根の上で、追い駆けっこと洒落混みますか」

 

艘跳びの極み、源 義経の異名たる名を冠せしスキル、『遮那王憑き』を起動。30秒間、跳躍を含むモーションが強化され続ける仕様を利用して、建物間を大ジャンプ。クライムキックと併用しながら、三角跳びで三階建ての建造物の合間を駆け上がり、僅か5秒で登り切る。

 

「なっ…何だあの跳躍!?」

「高………!」

「屋根見張ってる奴等に連絡だ!」

 

ライオット・スートの起動と共に、遮那王憑きの効果が残る間に、アクタスダッシュも絡めて斜めに傾く、屋根上をペッパーが駆ける。

 

「遮那王憑きは効果が切れそうだし、此処で『ストック』しておこう」

 

ライフオブチェンジより進化した『ソウルジェネレート』。自身の体力かMPを一定値減少させ、自身の筋力や耐久力等のステータスに、減少した数値分をストック出来(・・・・・・)、任意のタイミングでの追加を可能(・・・・・)とする『自傷スキル』を点火。

 

ペッパーは体力を減らし、此の先にある大通りを越えられる様に跳躍力を強化、ジャンプ時の踏み出す脚の調整に取り掛かる。

 

「ペッパーが居た!」

「大通りを飛び越えるつもりか!」

「下の奴等を大通りに行かせておけ!落ちてきた所を確保するぞ!」

 

屋根で見張っていたプレイヤー達が、ペッパーが立ち止まれば確保出来る様に、其の後を追跡してくる。

 

「さぁ…総仕上げと参りましょう!」

 

ボディパージ・ストリームアタックを起動。耐久を削りながら敏捷を上げて、脚を止める事をしないまま、更に速度を上げて走り続けて、跳躍地点に迫り。

 

ソウルジェネレートで体力を削って得た跳躍力で、屋根先より大通りの向こう側に建つ建物へ━━━━飛んだ。

 

「は……?!」

「飛んだ…だと!?」

 

勝算有りか、自殺志願か。何にせよペッパーが大通りの真上を飛んでいき、中腹まで浮いていた身体が。シャンフロが誇りし、あらゆる物事に対して反映された、絶対の物理エンジンがもたらす、不変の『重力』に従う形で落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

「だけど俺は、其の重力に『反逆する術』を手に入れている」

 

跳躍と着地時に発生する、重力負荷を軽減する『セルタレイト・ケルネイアー』を使い、続け様に其れを使用する。レディアントシリーズ一式を纏う以外の、空を蹴り、落下死等を書き換える、其のスキルの名を『スカイウォーカー』。

 

背面蹴りによって空中を踏み締め、二段ジャンプと成った其れで更に跳躍距離を伸ばして、見事に着地を行ったペッパーは、勢いを其のままに近辺となった、サードレマの上層と下層の境界線となる門へと突き進む。

 

向こうで二段ジャンプが出来ない、プレイヤー達の声が聞こえたが、そんな事は気にも止めず。建物の合間を伝って地面に降りて、上下層を隔てる門を守るNPCの門番へ、エンハンス商会会員証を見せてゴールイン。

 

其の後を追跡していたプレイヤー達が門に殺到したのだが、通行証やサードレマ大公が認めた証を持たない者は、通行出来ずに足止めされてしまい、ある者は怨嗟の歯軋りを鳴らし、ある者は怒号と血涙で狂い叫び、またある者は届かなかった事に悲鳴を上げたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名も知らぬプレイヤー達、スキル検証に付き合ってくれて、ありがとうございました……と」

 

後ろで木霊し聞こえる声に耳を傾け、小さな声で礼を述べた後、彼は辺りを警戒と見回しを行いつつ、サードレマの上層エリアを探索する。

 

上級階層が暮らしているだけあり、プレイヤーが利用出来る店は何れも此れも、高級なアイテムが勢揃いしており、中には数十万マーニの雑貨品が置いてあったりと、金銭感覚大丈夫かなと心配になったりもした。

 

銭ゲバ兎(エルク)のお陰で此れだけの値段を見ても大して驚かないのは、自分の金銭感覚がおかしくなったのか、はたまた大量の金額を所持しているからか。

 

「っといけない。サードレマ大公殿下に謁見しないといけないんだった」

 

 

 

━━━━━━━━天を覇する龍王の鎧を纏い、彼に見せたのであれば、きっと貴方が『探している物』を、彼は託してくれる筈です。

 

 

 

数日前、王都ニーネスヒルの大聖堂で出逢った、慈愛の聖女イリステラは自分に対して、こう言っていた。探し物とはおそらくだが、特殊クエスト:【七星の皇鎧よ、我が元に集え】に関するフラグで、ユニーク遺機装(レガシーウェポン)であると見て間違いない。

 

問題は確実に何かしらの試練や、御使い等のクエストが待ち受けている可能性が極めて高く、失敗すればユニーク遺機装の性能に、制約が掛かる可能性も存在している。

 

「何も持たないで行くのも、大公殿下に対してあまりにも失礼だし……。何か茶菓子や茶葉を購入して、ドレスコードもしておきますかね」

 

そうと決まれば話は早い。ペッパーは早速、服屋でジェントルマンの紳士服(30万マーニ)を新規で購入しつつ、直ぐに着替えて、先程通り過ぎた雑貨品でサードレマ大公の好きな茶葉と茶菓子を聞き、其の店に来店して購入する(合計10万マーニ)。

 

上層エリアを歩き続け、彼は上級階層がクラス上層エリアと、サードレマ大公の屋敷が在る最上層の城郭エリアを繋ぐ、門の前に到着する。

 

(おそらく此処からはロールプレイ必須だ…)

 

イリステラの時も、ヴァイスアッシュの時も、鍵を握ったのは何時だってロールプレイだった。此のシャングリラ・フロンティアというゲームは、NPCに対する言動を一言一句、一挙手一投足事細かに見られている可能性が、非常に高い。

 

憶測でしかないが此処でのドレスコードを含め、サードレマ大公に良い印象を持たせなくては、そもそもユニーク遺機装を手にする権利すら、与えられないのでは無いだろうか?

 

「さて、到着しました……っと」

 

見上げれば巨大な正門と、外から見ていたサードレマの街並みの中でも、一際大きかった建造物が隔たれた壁の先に在る。目の前には門番が二人、形状的にハルバートと思われる武器を持ち、警備に勤しんでいる様だ。

 

呼吸を整えろ、背筋を伸ばせ。

 

身の周りは調えた、茶葉と茶菓子も持った。

 

迷いは無い、いざ開戦の時。

 

「む…?見ない顔だな、此処に何用か?」

 

徒歩で近付くとドレスコードとして、紳士服に袖を通しても、やはり警戒される。向けられたハルバートの穂先、しかしペッパーは恐れる事無く門番達に向け、此処を訪れた理由を話す。

 

「初めまして、私はペッパーと申す者。此の世界を旅する、小さく木っ端の旅人で御座います。一昨日前に私は、王都ニーネスヒルにて慈愛の聖女イリステラ様に出逢い、サードレマ大公殿下の元へと向かうよう、御告げを賜りました。

 

大公殿下に是非とも━━━『天を覇する龍王の鎧』を。嘗ての時代に世界へと示された、人が『蒼天を舞う為の答え』を見ていただきたく、来訪したのです」

 

一人の旅人としてのロールプレイを絡めつつ、イリステラから言われた言葉を門番に伝える。すると彼等は目を見開き、ペッパーを見て言った。

 

「貴方でしたか…!長旅お疲れ様で御座います…!」

「我等が主にして、サードレマを治める『ノアベルト様』は貴方の到着を……『蒼天(ソラ)を舞う勇者』たるペッパー様を、今か今かと待ち望んで居たのです…!」

 

「「案内致します」」と門は開かれ、案内されるペッパーは称号【蒼天を舞う勇者】が、唯単なる称号で終わらず、自身に刻まれた『肩書き』の様な存在であることを知り、頭を抱えそうになる。

 

しかし、今はそんな事に捕らわれていてはいけない。此の先に待っている、サードレマ大公との面会の内容次第で、遺機装の性能が変動する可能性がある以上、最後までロールプレイは継続必須。

 

此処からが本当の勝負なのだから………。

 

 

 

 

 






ロールプレイの重要性




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胡椒は大公の城で、大いなる遺産を受け継ぐ



特殊クエストEX、進展




サードレマ大公城。

 

門番の許可を得て、入城を果たしたペッパーの目の前には、中世の城特有のエントランスに両サイド階段と、高級感満点のレッドカーペットが敷かれ、選りすぐりの大理石を敷き詰めた床と、中世の石切技術で造られた白石の壁が出迎える。

 

頭上を見上げると小さなシャンデリアが吊るされ、魔力石の輝きを煌々と放ち、中央に向かう廊下には、屋敷に仕えているであろうメイド達が、手を前にして背筋を伸ばして待機しており、万が一に備えてドレスコードをしておいて良かったと、ペッパーは考えた。

 

「ペッパー様。王都ニーネスヒルよりの長旅、大変お疲れ様で御座います。我が主『ノアベルト様』が、応接室で御待ちで御座います」

「此方こそ、事前のやり取りもなく急に訪れてしまい、申し訳ありません。御詫びの印で御座いますが、サードレマ大公殿下が御好きだと聞き、購入しました茶葉と茶菓子です。どうぞ、御受け取り下さい」

 

メイド長と思われる女性がペッパーに話し掛け、彼も謝罪の意を示すと共に、購入していた茶葉と茶菓子をメイド長へと渡した。

 

「では、此方へ。応接室へ案内致します」

「よろしくお願い致します」

 

一礼し、ペッパーは彼女の後を付いていく。中央廊下を歩き、左へ曲がり数百メートル程の徒歩移動の後、一室の扉の前にてメイド長が止まった。

 

「御主人様。蒼天を舞う勇者、ペッパー様を御連れ致しました」

「うむ…入ってきてくれ」

 

メイド長が扉を開いて入室許可が下りたので、ペッパーは「失礼致します」の一言と一礼。部屋へと入ると其所には、ダンディーなイケメンボイスを発する、鋭い視線と手入れされた髭に、ナイスミドルな体格をした男性が皇帝ナポレオン三世の様な衣裳を纏い、此方を振り返ってくる。

 

「貴殿がペッパー殿か。貴殿と出逢える事を、心より待ち焦がれていた。私が現サードレマ大公『ノアベルト・オルトロス・サードレマ』だ。以後、御見知り置きを」

「初めまして、サードレマ大公殿下。私はペッパー、一部の人々より『蒼天を舞う勇者』と、崇め奉られておりますが、此の世界を旅する木っ端の旅人で御座います。よろしくお願い致します」

 

ニッコリと微笑むサードレマ大公。一部の人間にはとことんブッ刺さるだろう魅力を感じながらも、差し出された手を取って、此方もロールプレイを継続して握手をする。

 

「して、ペッパー殿。嘗ての時代、かの『天覇』を模倣し産み出され、人が蒼空を舞う為の答えを、旧き世界に示したという伝説の遺産を手にしたと、イリステラ様より伝書鳥にて報せを受けましたが……」

 

早速本題が来た。ペッパーはノアベルトに、イリステラの時と同じように約束を取り付けに行く。

 

「はい。イリステラ様にも『ジークヴルムさん』との決戦の時までは、公にしないように約束をした上で、提示しました。御約束頂けるのであれば、御見せ致します」

「……解った。サードレマ大公として、そしてイリステラ様に誓って、ペッパー殿との約束を必ずや守ると誓おう」

 

彼の答えを聞き、ペッパーはアイテムインベントリからレディアントシリーズ一式と、レディアント・ソルレイアを取り出し、一つ一つ全身へと装備。全種装備により光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)になった其れに、合言葉たる「目覚めよ(Wake up)」の掛け声で起動。

 

展開した四肢の白翼のモジュールと、背中の金色たるエナジーウイングと共に、僅かな出力で室内を滑走移動して、天井にゆっくりと舞い上がり。そうして降り立ってノアベルトを見ると、彼は目を丸くしていた。

 

「……凄まじいな………此れが嘗ての遺産、か」

「はい。此れが光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)、嘗て此の力を巡って争いが発生し、自分が持っている物以外は全て破壊された、正真正銘最後の一つです」

 

此れを公にする事の危険性、唯一残された最後の結晶。そしてノアベルトに向けて、ペッパーが伝えるは、此れを託した女性と、甦らせたヴァイスアッシュの言葉だ。

 

「光輝へと昇る金龍王装を作った女性は、こう言っていました。『私が遺した願いが、心正しき者に紡がれる事を切に願う。唯々自由に、純粋に蒼空を夢見た私の願いが、其の者の手に託される事を』━━━と。

 

そして此れを甦らせてくれた先生は、俺に向けて『嘗て蒼空を夢見た、一人の人間の夢を。おめぇさんに、其の続きを託すぜ』━━━━そう言ってくれました。

 

自分は此の鎧を、約束を、必ず守り抜きます。其れが課せられた使命………いいえ、其れが『運命』であるならば。俺は決して逃げません」

 

託された願いを背負った者として、受け継がれた夢の継承者として、己の役目を果たして見せる。そんなペッパーの言葉と目を見たノアベルトも、ニッコリと微笑み。

 

「………ペッパー殿。貴方の高潔な覚悟と意志、確と見届けた」

 

彼は上着のボタンを外して、内側に手を入れて取り出したのは、銀色の骨董品らしき時計であり。其れを開いてペッパーに見せたのは、一本の銅色の鍵であった。彼は言う。

 

「歴代のサードレマ大公が代々、就任と共に受け継ぎ、そして守って来た物を。貴方に………蒼天を舞う勇者に託そう」

 

━━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノアベルトの案内を受けて、ペッパーがやって来たのは城の地下へと続く階段。カンテラに火を着け、ノアベルトが先を行く形でペッパーは後に続いていく。

 

そうして辿り着いたのは大きな鉄扉であり、其所には南京錠らしき物で施錠が施されていた。其れを先程取り出した銅色の鍵で解錠し、扉を開いた先。

 

ペッパーが見たのは、神代の鐵遺跡に存在していた扉の内側、研究施設内に在ったタイムカプセルと同じ形状の鉄の箱が一つ、静かに鎮座しているのを目撃する。

 

「ペッパー殿。此方が歴代の大公達が、就任と共に受け継ぎ、地位を次の大公へと渡す時に共に授けた物だ。一説では『蒼天を舞う心正しき勇者現れし時、此の箱の封印は解き放たれ、偉大なる王の鎧は日の元に現れる』………そう、言い伝えられているとか」

 

「成程……」とペッパーは言って、一歩ずつ箱に歩み寄る。そして其の前に立つ。同時にセンサーらしき光が、箱より放たれて、ペッパーが纏う光輝へと昇る金龍王装をスキャンし始めた。

 

そして━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

『光輝へと昇る金龍王装、確認。ロックを解除します。神代の叡智を束ねた結晶を継ぐ、心正しき勇者よ。其の力を正しき為に使う事を祈る』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、真空密封された缶ビールを空けるように、プシュゥゥゥウウウ!と鉄扉が重い音を立てながら開かれ。冷たく白い冷気と共に現れたのは、天の雲を想わせる白の武士甲冑が、人が身に付けていないにも関わらず、まるで『纏っているかの様』に鎮座しており。

 

胴体には赤の陣羽織が在り、騎馬にも適すよう背中側が開かれ、胸の両側には白の刺繍で縫られた、手製であろう桜の花が咲く。

 

南蛮鎧特有の軽量化が施されて有りながらも、四肢や胸部に胴体等、遺機装特有のエネルギーラインが引かれ、今もエネルギー供給が行われている。

 

そして極めつけは、甲冑の前の刀置きの。白の鞘に納められている『太刀』であり、其所に存在しているだけで在りながら、其の手で触ろう物なら木っ端微塵に切り裂かれる様な、そんな重圧で鋭利な気配を纏っている。

 

ペッパーは固唾を飲み込んで、手を合わせて一礼。大いなる遺産を受け取る心構えを、行い示してアイテムインベントリに収納し、一式装備の内容をチェックし━━━━━━言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)【ユニーク遺機装(レガシーウェポン)】:ウェザエモン・天津気(アマツキ)が嘗て使用したとされる、数千年前の戦場にて纏った偉大な戦鎧。

 

天下無双と称された将軍が、想い人を護ると強く揺らがぬ誓いを立てた其れは、あらゆる困難を切り開き、あらゆる窮地に膝を付かない。

 

歴戦を重ね紡いだ戦装束には、気高き魂・揺るぐ事無き意志・強き想いが共に在る。

 

己の誓いを護らんとする限り、此の戦鎧を纏いし者は沈む事有らず。其の魂が絶望に屈する事の無い限り、此の戦鎧を纏いし者は倒れる事有らず。

 

 

 

頭装備:天将乃兜(テンショウノカブト)碧羅之天(ヘキラノテン)

胴装備:天将乃胴鎧(テンショウノドウガイ)天照一清(アマテラスイッセイ)

腰装備:天将乃腰鎧(テンショウノヨウガイ)澄清天際(チョウセイテンサイ)

脚装備:天将乃脚鎧(テンショウノキャクガイ)蒼天走川(ソウテンハシカワ)

 

轟斬型(ゴウザンガタ)太刀式(タチシキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)

 

 

FCB:不屈之鎧【時ヲ待テ】

 

FCB:天王招来【時ヲ待テ】

 

FCB:晴天結実【時ヲ待テ】

 

 

不屈之鎧(フクツノヨロイ):装備者と装備者が持つ武器に対する、あらゆるダメージ・デバフ・耐久値減少を1/10にする。此の効果は装甲貫通・装甲破壊・防御無視・スキル無視を含む、最上位のスキル・魔法及び武器の能力以外で無効化されない。

 

 

天王招来(テンオウショウライ):試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】を召喚する。天王は通常の軍馬形態・装着者との合体により、機動力に秀でた人馬形態・覇撃力に秀でた甲冑形態に変型する。

 

 

晴天結実(セイテンケツジツ):装備者が晴天流を使用した上でレベルアップした場合、其の熟達に大きな補正を追加する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(コレ絶ッッッッッッッ対、ウェザエモンのユニーク遺機装じゃん……マジで言ってるの?しかもウェザエモン・天津気って墓守のウェザエモンのフルネーム?で、天王って麒麟のダウングレードバージョン……で合ってるか?確かトワの話だと、人馬形態は有るって言ったが、甲冑形態って何?別形態有るの?

 

装備は出来るけど、時を待てって何?アレか、ウェザエモンとの戦いの時までは使えないから、時期を待つ事も大事って事か?ダメージ抑え込む装甲もヤバいし、晴天流って何なのさ?………いや、まさかウェザエモンの使う技って、俺達プレイヤーも習得可能な技……?……コレ、色々とヤバくね?)

 

サードレマ大公の城。其の地下にて安置されていた、七つの最強種を模したユニーク遺機装(レガシーウェポン)の一つたる・悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)

 

またしてもペッパーは、とてつもない装備一式という戦力爆弾を掴まされ、頭を抱える羽目になってしまったのだった。

 

しかしユニークモンスター・墓守のウェザエモンが、嘗ての時代に用いたという戦装束を、ペッパーは受け継ぎ。其の鎧に刻まれた能力は、此の先のウェザエモン攻略に向けて、大きな意味を持つ事になる……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は嘗ての偉大なる将軍の鎧を受け継いだ』

『悠久の時を越えて、伝説は再び動き出す』

『称号【残影を纏う者】を獲得しました』

『称号【天に示すは我が想い】を獲得しました』

『特殊クエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

 

 

 

 

 

 

 






其れは一人の男の、嘗ての相棒



悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ):サードレマ大公屋敷の地下に在る、神代のタイムカプセルの中に封印されていた、ユニーク遺機装(レガシーウェポン)

若き日のウェザエモン・天津気(アマツキ)が、戦場で纏っていた戦装束であり、掛けられた陣羽織の襟元に在る手作りの桜刺繍は、其の昔に彼の恋人の刹那(セツナ)天津気(アマツキ)が戦いから無事に帰って来れるよう、御守りとして着けた物である。

墓守のウェザエモンに由縁するユニーク遺機装であり、全種装備状態(フルカウルモード)となる事で、秘められた能力が解放される。

悠久を誓う天将王装の持つ機能は『装着者に対するダメージやデバフ等を抑え込む堅牢な装甲』と『装着者の音声認識により三形態へ変型する戦術機獣の招来』、そして『晴天流と呼ばれる古武術の習得速度の上昇』がある。

しかし現在、其の能力は使用出来ない様で……





モチーフはバトルスピリッツのXレアカードにして、バトルスピリッツ烈火魂(バーニングソウル)の主人公・烈火 幸村の最終キースピリット『戦国龍皇バーニングソウルドラゴン』の胴並びに腰鎧と陣羽織、其の鎧の胸に在る六文銭を桜花へ変更。

四肢の甲冑を仮面ライダー鎧武・極アームズをベースとして、ゴッドゼクス・終ノ型のエネルギーラインが引かれ、頭兜は仮面ライダー鎧武・カチドキアームズをイメージした歯朶の葉前立ての兜飾りに、武田信玄の兜の白毛を着けた物になっている。

大天咫のモチーフは、『ONE PIECE』の海賊狩り ロロノア・ゾロの愛刀にして、大業物21工の一本『和道一文字』。



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胡椒と鳥頭、ヴァイスアッシュと交わす約束



帰った後に一難待って




「ペッパー殿、帰り道には御気を付けて」

「アッハイ、アリガトウゴザイマス」

 

サードレマ大公の城。光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)から紳士服へと戻ったペッパーは、ノアベルトに見送られる形で屋敷を後にした。

 

言葉は片言ではあるが、歩き方はロールプレイの状態という、それはロールプレイとして大事なのか?とツッコミを入れられそうでは有ったものの、屋敷を出てからも歩法は崩さずに歩いて、裏路地へと入り━━━

 

(っっっっっ……………ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??あびゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???)

 

言葉に成らぬ声で、心の内の悲鳴を上げた。

 

(マジかよ、マジかよ、マジだった!?何でさ、何でサードレマ大公の城の地下に、ウェザエモン由来のユニーク遺機装(レガシーウェポン)が置いてあるんだよ!?

 

此れ下手したらペンシルゴンどころか、サンラク達からも一式装備着させろとか、うんたらかんたら難癖付けられても反論出来ねぇぞ!?

 

寧ろ戦う前から結束どころか、装備巡ってサヨナラバイバイ離散エンドで、ユニークモンスター討伐頓挫の可能性すら有り得るじゃねーか!?ファーーーーーーーーー!!??)

 

七つの最強種を模倣せし、神代の大いなる遺産。現在自分の手元には、天覇のジークヴルムを模倣した光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)と、墓守のウェザエモンの由来の悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)の、2種類のユニーク遺機装が在る。大元のモンスターに及ばずとも、其の能力は唯一無二に等しき力を持ち合わせ、真に一式装備の力を使いこなす者が纏えば、無双に等しい圧倒的な戦いが出来るだろう。

 

しかしながら巨大過ぎる力は、同時に争いの火種を孕んでいる。片やスキルや魔法を含んだ、相応の代償を用いずに天を舞い上がる力。片やダメージにデバフを最小限に留めて、最前線での秀でた継戦能力と戦略級のロボットホースを呼び出す力。存在が公になれば、此方は唯では済まない。下手を打てば戦争勃発と激化に伴って、此方は最悪引退も避けられない。

 

(ああああああ……もう本当にどーしよう……)

 

改めて特殊クエストがもたらす恩恵が、洒落や馬鹿に成らないレベルの代物だと実感する。

 

「………取り敢えず、先生に報告しよう。ウェザエモンとの戦い赴く事も踏まえて、準備しなくちゃ」

 

ペッパーは漸く落ち着き、王都ニーネスヒルで出逢ったクラン:聖盾輝士団団長ジョセットから貰った、使い捨て魔法媒体(マジックスクロール)をアイテムインベントリから取り出し、兎御殿を頭に浮かべながら封を解く。

 

次の瞬間、ペッパーの周りを魔方陣が包み込み、彼の姿形はサードレマの上層エリアから、忽然と姿を消したのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……芳醇な香り、チーズと良く合うのさ…」

 

兎の国 ラビッツ。兎御殿の休憩室にて、アイトゥイルはペッパーが買ってくれた高級葡萄酒と、ティークが朝早くに市場で競り落として仕入れたという、旨いチーズと天日干しにした葡萄をつまみに、昼近くに飲んでいた。

 

「白いカビが生えたチーズ……最初はどうかと思ってたけど、匂いと味わいが中々クセになるのさ……」

 

チーズを一口含み、じっくりと噛み。葡萄酒を飲んで、舌をリセット。渋味の葡萄酒の後味を、干した葡萄の甘味により正常に戻せば、あら不思議。あっという間に、飲酒の永久機関が完成する。

 

アイトゥイルは此れが好きだ。アルコールが身体に染みていく、此の言葉にならないが体験すれば解る感覚が、彼女は大好きなのだ。

 

「とても幸せなのさ……」

 

ぐびりと葡萄酒を喉に通し、さぁ天日干しの葡萄をと思った所、後ろで出現する魔方陣。現れるは高級な紳士服に身を包んだ、ジェントル溢れしペッパーである。

 

「アイトゥイル、今帰ったよ」

「ペッパーはん……どうしたのさ、其の格好は?」

「色々有ってね、ちょっとサードレマ大公の城に行ってたんだ。其れとさアイトゥイル、先生とサンラクは今居る?」

「オカシラなら応接の間に居て、サンラクはんはエムルと一緒に千紫万紅の樹海窟に行った後、戻ってきたら少し用事が出来たとか言って寝たのさ。でもどうしたのさ?」

 

サードレマで目立つように動き、ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"と戦闘をして、戻ってくるまでの間にサンラクもサンラクで、色々やっていたようだ。寝ている……つまるところはログアウトで、オイカッツォと一緒にペンシルゴンからウェザエモンとの戦いについて、話を持ち掛けられているのだろう。

 

「……アイトゥイル、俺も少し休んでくる。そうだな…午後1時になったら戻ってくるから、其の間にサンラクが起きた場合に待ってて貰えるよう、お願いしてくれないかな?」

「解ったのさ。オカシラと話すって事は相当重要な事情があるのさね?」

「あぁ。今後の事にも関わるからな……」

 

アイトゥイルもまさか、自分が御世話係に付いた開拓者が1時間と少しを離した間に、エクゾーディナリーモンスターを討伐した挙句、サードレマ大公の城で墓守のウェザエモン由来の、ユニーク遺機装を入手していた等と予想出来る訳もないだろう。

 

ペッパーは自身の装備をジェントル溢れる物から、黒一色のコーデに変更してベッドに寝転がり、目を閉じてログアウト。シャンフロのペッパーから現実世界の梓へと戻り、昼御飯&トイレ休憩を挟むことにしたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んで、ペッパー。お前んとこのアイトゥイルが、ログインするなり待機をしてろって言ってたけど、何か有ったの?」

 

昼休憩を挟んで、午後1時にシャンフロへ再ログインしたペッパーは、休憩室で胡座座りをしていたサンラクと、頭の上に乗っかったエムルを目撃する。

 

「あぁ。実は此方は此方で色々やってたんだけど、ちょっと『ヤバい物』を手に入れちゃって。先生案件なのとサンラクにも関係が有る代物だから、一緒に来て欲しいんだ」

「兄貴と関係あんの?ってか何なの、其のヤバい物って」

 

アイトゥイルとエムルも、此方の内容が気になる様子で視線を向けてくる。此処で話すといけない気がする……そんな予感が頭を過ったペッパーは、サンラクにこう言った。

 

「先生と向き合ったら、其の時に話すよ。多分腰抜かすと思うから………」

「……………?」

 

遠い目をしながら明後日の方角に視線を運ぶペッパーに、サンラクと二羽の兎達は疑問符を浮かべる。二人と二羽は兎御殿の応接の間に足を運び、開かれた襖の先の奥で座るヴァイスアッシュと対面した。

 

「おぅペッパー、サンラク。二人揃って俺等(おいら)に何用だい?」

 

人参の煙管を吹かし、ヴァイスアッシュが此方を見る。相変わらず凄まじい気迫と覇気だ、並大抵の奴等ならチビって指詰め案件だろう。だが、俺もサンラクも、既にロールプレイに入っている。

 

きっと大丈夫、なはず。

 

「先生。実は先程、私はサードレマ大公殿下の城に赴きました。理由は数日程前に王都ニーネスヒルにて、慈愛の聖女イリステラ様と面会し、其処へ向かうよう御言葉を賜ったからです。そして大公殿下のノアベルト様と出逢い、彼から『コレ』を託されました」

 

そう言ってペッパーは、アイテムインベントリから『一式装備』を取り出す。其れを見た瞬間、サンラクとヴァイスアッシュ、エムルにアイトゥイルが、其の目を丸くする。

 

「サードレマ大公の城の地下、神代のタイムカプセルらしき其の中に保存されていた、一式装備。名を『悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)』。

『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン』が、数千年前の戦場で纏ったとされる、伝説の戦鎧です」

「いやなんちゅう物出しやがった、ペッパーお前」

 

サンラクはついさっき、世紀末略奪ゲーたるユナイト・ラウンズで鉛筆戦士こと、アーサー・ペンシルゴンからユニークモンスター・墓守のウェザエモンの討伐を、ペッパー含めた5人で一緒にやらないか?と誘われたり、ウェザエモンの即死&広範囲&理不尽攻撃のオンパレード説明で、オイカッツォ共々戦慄したが、其れがたった一瞬で塗り替えられた。

 

何でコイツ、ユニークモンスターに関係ありありな一式装備を手に入れてんの?腰抜かすとか事前に言われてても無理だわこんなん。其れがサンラクが心の中で思った事であり。

 

「ペッパー、サンラクよぉ。まさかたぁ思うが……おめぇさん等、あの『死に損ない』にケンカを売りに行くつもりかい?」

 

そしてヴァッシュが放った死に損ないの台詞(ワード)で、衝撃が更に塗り替えられた。ウェザエモンについて聞きたい事は有る、だが今答えなくてはいけないのは『其れではない』。

 

「……『今はまだ』、俺もサンラクも。ウェザエモンに挑んで、確実に勝てるとは思っていません」

 

ペッパーが先んじて切り出し、話の骨組みを作り出す。サンラクは思い出す、隣に居るペッパーが言った、ロールプレイの重要性を。

 

「……兄貴。俺とペッパーは、ウェザエモン討伐の補助に徹する事になってやして。主幹となるのは、俺達の知り合いで御座いやす。其の知り合いが言うには、ウェザエモンは今………『殺人鬼集団』の育成の為に、都合の良い道具の様に扱われている……という風に、そいつから聞きやした」

 

骨組みを舗装し、より頑丈に仕立てていく。ロールプレイのボルテージが、段々と高まって上がっていくのが二人には解る。

 

「ウェザエモン討伐の発案者は、其の殺人鬼集団の中の一人で御座いやすが……。そいつぁ本気で、ウェザエモンをぶん殴り、ハッ倒すつもりでいやす」

 

大袈裟だと思うだろうか。否、此れで良い━━━━━カッコつけとは、何時だって大きく見せた方が勝ちなのだ。

 

「意気るのは良いがぁよぉ…勝算は在るんかい?俺ァ負けに行くことを、『ヴォーパル魂』だとは教えちゃいねぇぜ?」

 

此処からが正真正銘の大詰め。ペッパーがヴァイスアッシュに言葉を放つ。

 

「……『約束』をしたんです……友と、そしてセツナと」

「む……」

 

ヴァイスアッシュがペッパーを見る。彼の目には熱く燃える炎が宿り、そして力が満ち充ちている。

 

「友は……恋人のセツナを困らせる、頑固者のウェザエモンを張り倒したいと言い。セツナは自分の過去()に縛られたままでいる、自分の愛した愛しい人(ウェザエモン)を止めて欲しいと言いました」

 

あの日、セツナと話していたトワは。強い意志を宿して、セツナに言い切ってみせた。

 

「友は昔から、一度決めた事は必ず成し徹す人でした。其の為なら自分の全てを捧げ、投げ捨てられる人間です。ウェザエモンとの戦いを、彼女は一回限りの大勝負と言ってみせた。そんな彼女に俺も、サンラクも、他の協力者達も。彼女の其の『心意気』に胸を打たれ、力を貸す事が『仁義』だと思ったのです」

「俺達は未だ、木っ端微塵の弱者ではありますが、猶予はおよそ『4週間弱』。あまり長くはありやせんが、必ず間に合わせてみせます。未熟で弱者で凡夫たる俺達二人の『蛮勇』が、強者に挑む者の『度胸』となるまで」

 

即興では有ったが、ダブルロールプレイでヴァイスアッシュに自分達の意向、立ち位置、そしてやるべき事を伝えきった。後はどうなるかだが…………

 

「友との約束…心意気…仁義……かぁ。おめぇさん等二人共、ヴォーパル魂が何たるかってのを、確りと理解出来てる様だなぁ」

 

ヴァイスアッシュが立ち上がり、ペッパーとサンラクに歩み寄る。そして目の前に置かれた、悠久を誓う天将王装を見ながら、語らうようにして二人にこう言った。

 

アイツ(・・・)はよぉ…不器用なヤツなのさ」

「不器用なヤツ……もしかして、ウェザエモンの事ですか?先生」

「あァ…糞真面目で加減すら効かねぇアイツは、下手な嘘で女房を失って、死ぬに死ねねぇ身体になっちまった。言うなりゃ………『生ける屍』なんだよォ」

「生ける、屍……アンデッドって事なのか?」

 

確かに悠久を誓う天将王装にも、ウェザエモンが数千年前に纏ったというテキストが在った。普通人間の寿命は平均で75~80、今の時代は100まで生きられる環境も整ったが、其れにしたって有り得ない。

 

「俺等ぁはよぉ。アイツ等にゃあ手ェ出さねぇと決めているんだが、挑もうってなら止めはしねぇ」

 

「だが………」とヴァイスアッシュは、応接の間から去り際に、ペッパーとサンラクへウェザエモンに挑む為の『条件』を提示したのだ。

 

「アイツに挑むなら、先に『実戦訓練を終えてから』だなぁ。其れが『通過儀礼』ってもんさぁ」

 

 

………………と。

 

 

「あ、先生。レディアント・ソルレイアの耐久値の回復を御願いしても良いでしょうか?」

「おぅ、解った。……この具合なら、こんくらいかぁ」

「ペッパー、それなんだよ」

「エネルギーフルチャージで空飛べるようになる籠脚(ガンドレッグ)……値段は結構掛かるけど、払えない金額じゃないな。御願いします先生」

「エッナニソレ」

 

ペッパーが取り出し、ヴァイスアッシュに修繕を依頼したレディアント・ソルレイアによって、サンラクは再び腰を抜かす事になったのだった……。

 

 

 

 






挑む為の最低条件




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ペッパーズ・スキルレクチャー



整理整頓は大事


シャングリラ・フロンティア、2023年10月より日5枠にて放送開始!(ダイマ)




「マジかぁ……さっき兄貴に渡したレディアント・ソルレイア?ってヤツ、ユニーク籠脚(ガンドレッグ)なのか……」

「兎の国の招待とは別の、クリアする度にシャンフロをプレイしてるプレイヤー全員に、少なからず恩恵が与えられるっていう、大スケールのユニーククエストみたいでね……」

 

ヴァイスアッシュとの面会で、ユニークモンスター・墓守のウェザエモンに挑む為には、先にユニークシナリオ・兎の国の招待で行う、実戦訓練を終えなくてはならなくなった、ペッパーとサンラク。彼等は現在話をしながら、各々の世話係のヴォーパルバニーと共に、兎御殿に在る特技剪定所(スキルガーデナー)を訪れていた。

 

「サンラク。前に致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)には、スキルの習得と成長率に影響を与えるって話をしたよね?」

「おぅ。千紫万紅の樹海窟でクアッドビートルやエンパイアビー共をブッ倒す時に、跳躍したり回転したり、滅茶苦茶ダッシュしたり、兎に角色々試してレベルを上げたら、スキルを複数覚えたんだよな」

「サンラクさん、大奮闘してましたわ」

 

致命魂の首輪の能力を理解し、其れを意識した立ち回りをしたサンラクは、色々なスキルを覚えたようである。スキルの充実はプレイの幅を大きく広げ、戦闘でも優位に立ち回ることも可能だ。

 

「覚えたスキルの中に、レベルの表記があるの気にならなかった?アレは同じようにレベル表記スキルと組み合わせで、合成スキルが作れるんだ」

「………あ、アクセルとかの後ろにレベルって表記が有ったアレ、合成出来るヤツなのか…!」

「えっ…知らなかったの?というか、ファステイアで習わなかったの?」

 

知らない発言にペッパーは、サンラクに問いを投げ掛け、其れに対して、彼は驚くべき答えを返した。

 

「………オレ、ファステイア、ヨッテナイ。スタート、ソノママ、セカンディル」

「………マジで?」

 

最初のキャラメイクの際、出身地選択によってビギナーエリアからスタートすると、シャンフロwikiには掲載されていた。どうやらサンラクは、ビギナーエリアから跳梁跋扈の森を抜け、貪食の大蛇をキルされる事無く攻略して、セカンディルに辿り着いたと言うのである。

 

「サンラク、凄いな………」

「ウヘッヘッヘ……其れ程でも無い」

「何だか悪意の在る嗤いなのさ……」

 

若干小馬鹿にされた気がしたが、些細な事であるので流しておく。

 

「と、此処が特技剪定所。育成したスキルは此処で合成して新しいスキルにしたり、スキルの秘伝書なんかも販売してくれる場所だよ」

「サンラクさん!此処にはアタシ達の三つ子の、エルクおねーちゃんが居るんですわ!因みに、ラビッツよりも兎御殿の方がスキルの巻物関連は、充実しているんですわ!」

「お、秘密の格差か。良いね、そういうの大好き」

「すっごいワカル、ゲーマーあるある」

 

そんな話をしながら、二人二匹は暖簾を上げて店に入る。其処にはエルクが営業スマイルで待っていた。

 

「あらぁ~ペッパーさんに、最近噂の鳥の人じゃなぁい。いらっしゃぁい~♪」

「鳥の人って……俺、兎御殿じゃ其れで通ってんの?」

「まぁまぁ…其れでエルクさん、合成や選択可能に成ったスキルがあるので、先に纏めちゃいたいんですけど、良いですか?あと、サンラクにも合成の手本を見せたいのだけど……」

 

「はぁ~い♪」とエルクが、ペッパーの選択可能と成ったスキル『スマッシュナックル』と『ラッシュステック』をピックアップし、派生進化先の内容と効果を展開。

 

ペッパーはサンラクにレクチャーするように、自分の持っているスキルを確認して、照らし合わせながら此の場合には此れに派生させたり、レベル表記のスキルを実際に彼の前で合成したりしながら、先達者としてアドバイスを行い。

 

そうしてレベルアップによって、ごちゃごちゃになっていたスキル達を、新しいスキルとして進化させた。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

PN:ペッパー

 

 

レベル:43

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 25 魔力 10

スタミナ 90

筋力 85 敏捷 95

器用 45 技量 70

耐久力 61 幸運 25

 

 

残りポイント:46

 

 

 

 

装備

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

 

アクセサリー

 

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

 

所持金:7,191,000マーニ

 

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

致命極技

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未解放

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未解放

 

 

 

致命武技

 

 

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】参式

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】弐式

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】肆式

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】壱式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】弐式

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】参式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】参式

 

 

 

スキル

 

・デッドリースラッシュ

(ぜっ)()(いっ)(とつ)

・パウリングプロテクト

・ブーメランスロー

・グロリアス・ストラータ レベル3

・ソラスティワーク

・グラナートストライク

・バルバドスインパクト

・ウルティモアス レベル1

・アンブレイカブルソウル

決戦爍拏(けっせんしゃくな) レベル1

遮那王(しゃなおう)()

・ドリフトステップ

・ストリームアタック

十断斬首(じゅうだんざんしゅ) レベル1

・ボルテックスムーヴ

・アクタスダッシュ レベル8

・ステックピース レベル7

・握擊 レベル6

・投擲 レベル6

・プレジデントホッパー

・スカイウォーカー

・ソウルジェネレート

・クロスインパクター

・ファイズフリップ

・ナタラージャ レベル1

命撃鐵破(めいげきてっぱ) レベル5

英雄志願(ウォーレヴ.ヒロイック)

烈光仙迅(れっこうせんじん) レベル1

凪静(なぎしずむ)水面(みなも)

連刀九刃(れんとうくじん)

罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)

・クラッシュレッジ

・ヴァーティカルセンス

速刃(そくじん)(きり)(ばらい)

・チェインズアップ レベル4

・チェインズブート レベル3

一振両断(いっしんりょうだん)

隕石落蹴(メテオ・フォール)

(しずく)波紋(はもん)(レン)(ジュウ)穿()(カン)

・ベラスティ・ニー

・ラッシュキック

・ハンズ・グローリー レベル3

・パワースラッシュ レベル4

・ナックルラッシュ

・ブランシュ・クロッサー レベル2

・ライオット・スート

居合(いあい)切羽(きりばね)

・クロスインディクション

・デュエルイズム

・バーストダッシャー レベル1

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル1

・ハードスマッシュ レベル1

閂昏打(かんぬきこんだ) レベル1

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

ストレングス・スマッシャーと一撃絶壊の合成で、ウルティモアスが産まれ。

インファイトとボディパージの合成で、決戦爍拏が産まれ。

十字斬と首断ちの合成で、十断斬首が産まれ。

クライムキックと背面蹴りの合成で、プレジデントホッパーが産まれ。

フルズシュートとオプレッションキックの合成で、ナタラージャが産まれ。

挑発と壱心臥斬の合成で、烈光仙迅が産まれた。

 

選択可能になったスキル達も、進化先と己の持つスキルを踏まえて進化させた。そして此処に在るのは、己の重ねた研鑽の証である。

 

「合成スキルはカッケェ名前も有るんだな…」

「あぁ。こうしてスキルを合成して、実戦で使える瞬間が、俺は凄く楽しみなんだ」

「すっごいワカル」

 

新しいスキルがどんなものか、どんな力を発揮出来るか。スキルゲーたるシャンフロで、用いる事が可能な手札の重要性が、サンラクにも解ったようであった。

 

「ペッパーさぁ~ん。御一緒にスキルの秘伝書と極之秘伝書も、購入しませんかぁ~?」

 

そして隙有らば銭ゲバエルクが、此方に高額商品を買わせようとしてくるので、ペッパーはサンラクに対して「御利用時は気を付けてね」と耳打ちで教えつつ、9万マーニで『致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】』を購入し。

 

「あ、其れとよペッパー。クアッドビートルやエンパイアビーの素材で、新しい武器を作りたいんだが…兎御殿に鍛冶師(スミス)って居るのか?」

 

どうやらサンラクは戦略の幅を広げたいらしく、ペッパーに質問して。

 

「其れなら、うってつけの鍛冶師を知ってるよ。着いて来て」

 

ペッパーはサンラクをビィラックに引き合わせるべく、集合時間をアプリで確認しながら移動を開始したのであった…………。

 

 

 

 

 






戦う為の力、研磨と研鑽の結晶




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五勇士は蛇の林檎で語り合い ~白頭巾とSFサムライ降臨~



サンラクの新武器開発依頼、そしてオハナシ会場へ




「ビィラックさーん」

「ビィラック姉さーん」

「ビィラックおねーちゃん!」

 

兎御殿の鍛冶場、其の内のビィラックが居る方へとやって来た二人と二匹。ビィラックは今も尚、カイゼリオンコーカサスの素材を用いた大槍製作に精を出している様だ。

 

「おぉ。ペッパーにアイトゥイルにエムル、よう来たの」

「ビィラックさん、此方に居るのがサンラク。最近ラビッツで噂になっている、リュカオーンと戦った開拓者ですよ」

「おぉ、噂通りの鳥の人やな。オヤジに気に入られたんじゃっけの。ビィラックじゃ、よろしくな?」

 

製作の手を止め、歩み寄ったビィラックがサンラクに手を差し伸べ、握手をしてくる。サンラクは其れを見て数拍を置きながら、ロールプレイを踏まえてこう言った。

 

「………ウッス、ビィラックの姐さん。サンラクっす」

 

そう言って握手に応じたサンラクに、ビィラックは目が光り。フッと微笑み握手をしながら、彼に言う。

 

「……ワリャ、中々『解ってる』ようじゃな。じゃが、わちの事は『ビィラック』でエエけ」

「ウッス…!」

「で、ペッパー。鳥の人…いや、サンラクだったの。此処に連れて来たんは、新しい武器を作って欲しいからやろ?違うか?」

「やっぱり解りますか?」

「何となくじゃがな。サンラク、素材を見せてみ。其れで何を作りたいか、わちに言うてみな」

「えっと…、双剣と頭装備が欲しいっす」

 

ビィラックの言葉を聞き、サンラクはアイテムインベントリから、クアッドビートルとエンパイアビー達、更にはペッパーが見た事の無い、蟷螂と思われるモンスターの素材を取り出していく。

 

「其のカマキリの素材は?」

「ミミクリーマンティスってハナカマキリでな。花に擬態して見付けるのは大変、おまけにダメージ食らうと直ぐに逃げるせいで、狩るのに苦労したぜ……。おかげで小鎚をぶん投げて倒したからか、投擲系スキルが手に入ったから良いんだけどさ」

「サンラクさん、血眼で叫びまくってましたわ……」

 

何となく場面を想像出来てしまい、ペッパーは「大変だったな」とサンラクに言った。

 

「注文は双剣と頭装備じゃったな……。なら、双剣はコイツにコレ。んで、頭装備は……コイツ等じゃな。サンラク、今回は(・・・)ワリャの気概を称して、無料(タダ)で作ってやるけ」

「あ、ありがとうございやすッ!ビィラックの姐さん!」

 

ロールプレイが上手くいった事で、初回に限り無料製作を承ってくれたビィラックに、サンラクは直角90度で礼を述べた。

 

「と、サンラク。そろそろ時間だね」

「んぉ、確かにそうだ。遅れたら色々面倒な事になりそうだよなぁ……」

 

ペンシルゴン、オイカッツォ、そしてもう一人の協力者。サードレマのNPC運営のカフェ・蛇の林檎で行われる、ユニークモンスター・墓守のウェザエモン攻略会議。遅れたら遅れたで、また厄介な事になるのは間違いない。

 

「あ、そうだサンラク。ちょっと協力してくれない?」

「ん?何だペッパー」

悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)でペンシルゴンビックリドッキリ作戦。報酬は便秘での組手50連戦に付き合う」

「よし乗った」

 

作戦会議&ルート確認。サンラクは頭装備を白頭巾に変更し、兎御殿の休憩室からエムルが開いたゲートを越え、ペッパーが先んじて街に出て。数分置いてから、エムルとアイトゥイルを頭巾の中に隠したサンラクが街を駆けて、目的地を目指して走り始めたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードレマ・蛇の林檎………

 

「……いらっしゃい」

「お、俺が一番か。あ、どうも」

 

集合時間30分前。騒がしい街の中を人目に見付からず、現場到着一番乗りを果たしたオイカッツォは、一人適当な席に座って他のメンバー到着を待つ。

 

「まぁ……遅れたら遅れたで、どう煽ってやろうか。特にサンラク」

 

セカンディルの煽りを何倍にして返すべきか、そんな悪巧みでクツクツと笑って、円形のテーブル席に着くオイカッツォ。流石は外道で毒舌家である。

 

と、カランカランと扉に立て付けられたベルが鳴り、二人の女性プレイヤーが訪れた。

 

「やぁやぁ、カッツォ君。君が一番乗りは意外だねぇ」

「お?其れどーゆー意味?俺は場合によっちゃ、女の子でも顔殴るよ?……で、そちらの大和撫子…げ、PKerじゃん」

「ん?斬られたい?斬られたいって事で良いよね?」

「カッツォ君、レベル差の暴力を味わいたいかな?」

 

半目で嫌そうな顔をするオイカッツォに、PNに髑髏を掲げるアーサーペンシルゴンは魔槍を、もう一人の協力者たる京極(キョウアルティメット)は、オイカッツォの発言に腰に指した刀をチャキチャキと鳴らして威嚇してくる。

 

「とまぁ、冗談はさておくとして」

「完全にPKする雰囲気だったじゃん……まぁ良いけどサ」

「して…あと『二人』来るんだよね、ペンシルゴン?件の二人はどうしたのかな?」

「大遅刻はしないと思いたいけど……ねぇ?」

「遅れようが遅れまいが、其れは其れとして煽る」

「良いね。其れ最高じゃん」

 

外道が三人、クックックと嗤う。どうやって煽ってやるか、どんな表情や声色を使ってやってやるか。そんな風に考えていた時だった。

 

カランカランとドアの音が鳴り、二人のプレイヤーが入ってきて。片や『真っ白な頭巾で其の身体をスッポリと覆い』、片や『SFサムライスーツに身を包んだ』プレイヤーが入って来る。

 

頭巾のプレイヤーが先に席に着いて、もう一人のサムライスーツの方は、マスターが居るカウンターに歩み寄ると、マーニの袋を置いて「此の店を貸し切りにして欲しい」と願い出た後、同じく席に着いた。

 

「え……どちら様?」

「おいバカッツォ、俺はサンラクだ」

「いや、サンラクは解るよ。じゃあ此方は一体……ペンシルゴン?」

 

サムライスーツの姿に、ペンシルゴンと京極は言葉を失っていて。震える声で、其れを呼ぶ。

 

「な、んで……?『ウェザエモン』……が?」

「いや、えっ?アレって確か、彼処から出られない……ハズ、だよね?」

「え!?ウェザエモン!?」

 

身構える三人に、サムライスーツの内側から「いや、俺はウェザエモンじゃないし」との声が。同時に頭兜型フルフェイスヘルメットのロックが外れて、中からペッパーが顔を出す。

 

「どうだ、驚いたか?」

 

ニッコリ笑った瞬間、ペンシルゴンに殴られ。ペッパーはこう思った。

 

作戦成功━━━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………あのさぁペッパー君。君ホント何なの?私結構ガチで心臓止まりかけたんですけど?」

 

店を貸切りとして、マスターがサービスで持ってきた冷水を飲み干したペンシルゴンは、ジト目でペッパーを睨んでいる。

 

「いやゴメンて…ペンシルゴンなら驚かんと思ったんだが、ちょっと刺激が強すぎたかな」

「てか何なんだよペッパー、其のカッコいいSFスーツは」

「総受けのオイカッツォじゃ、どう頑張っても一生手が届かない、ユニーク装備なんだとさ」

「おっし解った、取り敢えずペッパーぶん殴って良いよね?」

「そんな台詞1ミリも言ってねぇんだけどサンラクゥ!?コレの詳細に関してはちゃんと話すから、安心してくれオイカッツォ。……其れより、其処の大和撫子さんは?」

 

再び頭兜型フルフェイスヘルメットを被って、ペッパーが京極を見る。刀をチャキチャキと鳴らしながら、此方をじっと見つめていた。

 

「僕は京極。アーサー・ペンシルゴンから、サンラクとオイカッツォ、そしてペッパーの話は聞いていたけどさ………。まさか、ウェザエモンみたいな格好で来るなんて、予想出来る訳ないじゃんか。其れは其れとして斬って良いかな?」

「物騒だなオイ………狂犬かよ、京ティメット」

「京ティメット………」

「制御不能の君達三人に比べたら、まだ可愛い狼ちゃんだよ?」

 

『どっちにしても京極はヤベー奴』と、三人が認識した所でペンシルゴンが手を鳴らす。

 

「時間は早いけど、全員揃ったから始めようか。ユニークモンスター・墓守のウェザエモン、攻略作戦会議をさ」

 

オハナシが━━━━━━━━始まる。

 

 

 

 






オハナシの始まり始まり




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五勇士は蛇の林檎で語り合い ~質問と波乱、そしてまた質問~



オハナシの幕は上がる




サードレマ・蛇の林檎。

 

ユニークモンスター・墓守のウェザエモン討伐に向けて集まった、サンラク・オイカッツォ・ペンシルゴン・京極(キョウアルティメット)・ペッパーの五名による作戦会議が幕を開けようとしていた。

 

「えっと先ず話し合いを始める前に一つ、京極へ渡す物が有ります。此方ウェザエモン戦に向けて、ペンシルゴンが製作依頼を出してた太刀、其れが完成したのでどうぞ御受け取り下さい」

 

SFサムライスーツを纏いながら、ペッパーはアイテムインベントリより、もう一工の風神刀(ふうじんとう) 碧千風(そうせんふう)】を取り出し、ギフトとして京極に送る。

 

「ペンシルゴンが言っていた武器かい?大した物じゃ無かったら、君の事斬………エッナニコレスゴイ」

 

名匠ビィラックが丹精込めて打った、ティラネードギラファの太刀だ。業物には及ばずとも、彼女が仕立てた刀が持つ性能に、京極は思わず片言になってしまった。

 

「京極ちゃん、どしたの?」

「此の太刀凄い……デフォルトで風属性と雷属性持ってて、切り傷に裂傷と帯電デバフ乗せてるとか……神武器か何かかな?」

 

京極に言われ、内容を確認したペンシルゴンとサンラク、そしてオイカッツォは其の性能に唖然となった。

 

「…………ペッパー君、大槍はまだ出来ない?」

「あと一日掛かる。楽しみは取っておかなくちゃな?」

 

太刀で此の性能なのだ、大槍を始めとした両手系統の武器は、一体何れ程の性能となるのか。否応無しに期待が高まってしまうというもの。

 

「さて、と………だ。ペッパー君、色々言いたい事が有るけど、今回は大きく分けて質問を『三つ』に絞り混むよ」

 

そう言ってペンシルゴンは、ペッパーの前に手を突き出して、他の三人も彼に視線を注ぐ中で指を一本ずつ折っていく。

 

「一つ。ジークヴルムの手に乗って空を飛ぶ前に君が居た、千紫万紅の樹海窟の隠しエリアについて。

二つ。今君が纏っている、其のサムライスーツかサムライアーマーか解らない、一式装備の事。

そして三つ。シャンフロのアイドルこと、慈愛の聖女イリステラと何処で出逢ったのか。

 

此れを話してくれない?」

 

ペンシルゴンの質問、ペッパーは四人を一通り見た後、一息着いて『警告』した。

 

「話しても良いが、一つ『条件』がある。今から話す情報と今日見た事を、時が来るまで『俺達以外に他言無用にする』と約束出来るなら、俺は其の質問に答える」

 

墓守のウェザエモンが嘗て装備していた、偉大なる戦鎧にして、七つの最強種を模倣せし、神代の大いなる遺産・ユニーク遺機装(レガシーウェポン)。文面だけでも持っているパワーが凄まじい上に、存在が公になれば、間違いなく戦争が起きる。

 

「………解った。約束するよ」

「僕も良いよ。そう言うって事は、相応のヤバさが有るんでしょ?ソレ」

「俺も良いぜ、ペッパー」

「そんな風に言うんじゃ、余計気になっちゃうよねぇ」

 

全員の心持ちは決まって、ペッパーは深呼吸を調え。そしてペンシルゴンの質問に答えていく。

 

「千紫万紅の樹海窟に在る隠しエリア。名前は双皇樹(そうおうじゅ)と呼ばれていて、翡翠色のギラファノコギリことティラネードギラファと、黒金色のコーカサスオオカブトのカイゼリオンコーカサス、二体の双皇甲虫が居る。さっき京極に渡した翡翠色の太刀は、其の二体の素材を用いて作った武器になる。

 

で、此のサムライアーマーに付いてだけど、此れはイリステラ様と出逢った場所と、組み合わせて話した方が良いな。彼女と出逢ったのは王都ニーネスヒルって場所で、ジークヴルムさんの手に乗って空を飛んだ事が、プレイヤーを通じて伝わったのか、聖女ちゃん親衛隊ことクラン:聖盾輝士団を護衛として引き連れて、俺がニーネスヒルに来るのを待ってたんだとさ。

 

其れで彼女と謁見する事になって、ロールプレイが上手くいったからか、サードレマ大公の元へ訪ねてみて下さいって神託を受け、此の時にジョセットさんとフレンド登録をして、盟友救助で呼べるようになったんだ。そしてサードレマ大公の城で、大公殿下に会いに行ったら熱烈歓迎、からの城の地下に案内されて、サムライアーマー……『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン』が嘗て戦場で着ていたという、伝説の戦装束たる『悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)』を受け取った訳だ」

 

実際は光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)を甦らせる為の、三つの要素を探してサードレマから行ける三つのエリアを走り回り。甦った一式装備で、大河を渡った先の王都での出逢いと実物を動かし、イリステラとノアベルトに見せた事で手に入った代物なのだが。

 

そしてペッパーの話を聞いていた四人は、全員目を丸くして唖然となっていて、一度見ていた筈のサンラクも驚きを隠せていない様子である。寧ろ驚かなかったら驚かないで、ペンシルゴンに考察の余地を与える結果になりそうだったので、ナイスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの女泣かせのウェザエモンが、昔に纏ってた戦鎧って………。ペッパー君、一体どうしたらそんな代物を手に入れられるの………?」

「というか、ウェザエモンに由来する一式装備ねぇ……因みに何かヤバい能力持ってるっぽい?」

「ちくしょー!こんなかっちょいい装備着れないとか、マジでクソ犬許さねぇ……!」

「流石にウェザエモンと同じに!っては成れないでしょ?ペッパー?」

 

四人四色の声を上げ、悠久を誓う天将王装を語らう者達。驚愕を浮かべる者、興味津々の者、怒りで声を上げる者、冷静に分析する者と、皆反応は各々だ。

 

「まぁ色々と言いたい事が有るとは思うし、質問にも答えてくけど、ウェザエモン由来であってウェザエモンには成れないって感じだね。能力は一式装備状態時に限定で発動するのと、今現在は『時ヲ待テ』なる表記に加えて、ロックが掛かってる。だが一式装備の太刀は、普通に装備出来るらしいから、試しに装備してみるよ」

 

そう言ってペッパーは、悠久を誓う天将王装の得物たる、轟斬型太刀式武装(ゴウザンガタタチシキブソウ):大天咫(オオテンタ)を装備しようとするが『ブブー』のSEの表示と共に、彼の前には『必要なステータスが足りないので、武器として装備出来ません』の表示。其処には要求ステータスとして『筋力100・器用70・技量70』と示されていた。

 

「…………ダイジョブソウダ」

「えっ、何今の間」

「ステータスが足りなかったけど『変わったブルックスランバー』と戦って勝ったからか、ボーナスポイントが入って………あ」

 

口と指を動かして、要求されたステータスにポイントを振り分けた所で、ペッパーは自分がやらかした事に気付くも、時既に遅く。ペンシルゴンがペッパーの腕をガッシリと掴まえ、そして顔を近付けながら聞いてきた。

 

「ねぇ、ペッパー君。今、変わったブルックスランバーって言わなかった?」

「黙秘権を行使します」

「駄目に決まってるでしょ?」

 

ペンシルゴンを始めとした、サンラク・オイカッツォ・京極も、無言で此方に視線を向けてくる。

 

「私からの質問追加。其のブルックスランバーを倒して、君は一体何を手に入ったのかなぁ?」

「……………解ったよ、此れも他言無用にするなら教える、だから同調圧力掛けるの止めて」

「「「「うん、解った」」」」

 

ゲッスイ笑顔とハモっての即答。即興ながら恐ろしい連携と速さである。

 

「簡単に言うと、其のブルックスランバーは"最速走者(トップガン)"って名前で。討伐したら専用の素材多数と、其のモンスターの習性か栄誉らしき『不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)』が入手出来た。

 

因みに俺が習得した窮速走覇(トップガン)は、再使用時間(リキャストタイム)に9日程度を要求するが、発動したら5分間は発動時の敏捷を3倍にして、スタミナ減少無効にするみたい」

 

あるがままの事実を話すペッパー。そして其れを聞いた四人はまたしても唖然となり、落ち着きを取り戻してから感想を述べる。

 

「えっ強くない?其のスキル。ヤバい、神?」

「スタミナ減らないって…5分間スタミナ切れに泣かずに、連続攻撃を叩き込めるってか?こっっっわ、下手なクソゲーのラスボスより(タチ)ワリィわ」

「5分とはいえ、能力は『必殺級の切札』の其れだね。スタミナが切れると色んなアクションに影響出るから、其れを防ぎながら戦えるの、十分ヤバいわ」

「良いねぇ。其れを獲得出来るモンスターが居る場所、僕にも教えてよペッパー」

「解った解った、取り敢えず京極は落ち着いて。後で最速走者が出現した場所は教えるから。ペンシルゴン、本題のウェザエモン攻略の話はしないの?」

 

エクゾーディナリースキルで盛り上がっているが、今日こうして集まったのはユニークモンスター討伐の為だ。脱線しかけたルートを戻して、話を進めなくてはいけない。

 

「誰のせいでこうなったと思ってるの?」

 

ジト目で睨むペンシルゴン。ペッパーはアイテムインベントリからポーションを取り出し、フルフェイスヘルメットの一部を弄ると、口元がガパッと開く。

 

皆其の機能に目を丸くする中、一人グビグビと飲み干して、殴られて削れた体力を回復してペンシルゴンに言った。

 

「まぁ、其の…ごめんなさい」

「………素直でよろしい」

「因みにペッパーが、ふざけて謝ったら?」

「魔法バフ付与(つけ)て腹パンしてた」

「食らいたくねぇ………」

「本当に面白いね。叩くだけ埃が出るマットレスか何かかい?」

「誰が廃棄不可の粗大ゴミですか?」

「はいはいはいはい、話を戻そう。ペッパー君がわりと制御不能の、暴走列車なのは解ったから良しとしといて…………だ。やるよ、ウェザエモン攻略に向けて」

 

紆余曲折を挟み、此処からが本番である………。

 

 

 






情報の大洪水




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五勇士は蛇の林檎で語り合い ~情報の共有~



ユニーク戦に備え、集めた情報を分かち合え




「墓守のウェザエモン。既に話しているとは思うけど、此のユニークモンスターはレベル以上に、プレイヤースキルが攻略の鍵になる存在だよ」

 

ペンシルゴンは言った。150レベル差の理不尽な戦闘が要求され、使う技は何れも此れもが即死級のオンパレード。まともに戦っては勝てない、というよりも『勝たせない』相手であると。

 

「10分が経過する毎に、ウェザエモンの戦闘段階は変化していく。第一段階はウェザエモン単体を、第二段階突入で巨大馬型ロボットの麒麟を合流させずに戦わないといけない」

「麒麟は見た目以上に狂暴でねぇ…昔『腕っ節の強い暴力野郎』が、麒麟を担当していたけど、アレでも一苦労したくらいだし。でも、問題は………其所じゃないよね?ペンシルゴン」

 

京極の横目遣い、サンラク・オイカッツォ・ペッパーの三人が気になる様子で見る中、ペンシルゴンがウェザエモンの第三段階戦闘の事に付いて話始める。

 

「私と京極ちゃんが知っているウェザエモンの第三段階は、突入時点以降は何一つ情報(・・・・・)を持ってないの」

「えっ、どういう事?」

 

ペンシルゴン・京極ともにカンストからレベル50に引き下げられたとは言え、そんな事がありえるのか?と。そして其の答えは、京極の口から発せられた。

 

「………『全滅させられた』んだよ僕達。第三段階突入時に、ウェザエモンの身体に皹が入ったと思ったら、さっきのペッパーの纏ってるサムライアーマーの口辺りをガパッ!って開いた様に放った、フィールド全体を揺らす『巨大な咆哮』によってね」

「クソゲーかな?」

「元よりユニークモンスターってのは、全部が理不尽でしょ?サンラク」

「クソゲー?」

「京ティメットは知らない方が良い。沼にハマるから」

「???」

 

サンラク・オイカッツォ・京極が喋る中でペッパーはペンシルゴンに質問をぶつける。

 

「ペンシルゴン、ウェザエモンが放った咆哮はどんな感じだったか解るか?」

「咆哮は防御や魔法で、ガッチガチに固めても即死だった。音でも掻き消せないと思う。………私達が第三段階に入るには……ううん。ウェザエモンを攻略するには、あの咆哮をどうにかしない限り、全滅不可避だね」

 

皹割れ、咆哮、全滅……おそらく『衝撃波』によるフィールド全体を巻き込む技。喉を潰すか、口を縫い止めるか、そうしなくては防げないと思われるだろう。

 

だが、ペッパーとサンラクは約一時間前に、ヴァイスアッシュからウェザエモンについて、『ヒント』を貰っている。

 

「あ~……ペンシルゴン、ちょっと良いか?」

「何?サンラク君」

 

話を切り出したのはサンラク、白頭巾で身体を隠しながらも、其の目はペンシルゴンを見つめている。

 

「実は『此方のユニーク』を進めてたら、墓守のウェザエモンに関して『ある言及』を得てな。攻略の参照になると思う」

「此方も悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)で、少し気になる事を発見したから、サンラクの後でも良いかなペンシルゴン?」

「解った。取り敢えずサンラク君から話して、其れからペッパー君で」

 

サンラクは名前を伏せた上で、ヴァイスアッシュがウェザエモンを、死に損ないや生きる屍と言った事を。そしてペッパーは、ウェザエモン由来の一式装備の能力の中にある、試作型戦術機獣の天王が軍馬・人馬・甲冑の三形態に変形する事を話した。

 

「成程…ウェザエモンを、死に損ないや生きる屍と形容して、其の戦術機獣には甲冑形態が在る……と」

「要するにウェザエモンは『アンデッドモンスター』って事?ペンシルゴン」

「………そう考えると、戦闘開始時点で動きが固かったりしたのにも、色々と辻褄が合う。そして甲冑形態は第三段階突入で、麒麟が変形する時の可能性が有り……か」

 

顎に手を当て、暫く無言の思考をしていたペンシルゴンが、何かの答えに行き着き。そして一人、席を立ち上がる。

 

「ちょっと用事が出来たから、私と京極ちゃんは少しの間、別行動を取る事になりそう」

「……もしかして『アレ』をやるのかい?ペンシルゴン」

 

アレ?と質問したかったが、ペンシルゴンと京極は素晴らしく悪い顔でニタニタ笑っており、サンラク・オイカッツォ・ペッパー共に、絶対にロクな事をしない感じだと確信した。

 

「其のまさかだよ、京極ちゃん。君が待ちに待った『アレ』をやるよ」

「フフフ…遂に、だね。あぁ、ペッパー。其の前に最速走者が居たのって何処?」

「ソイツは栄古斉衰の死火口湖、其の山肌の中腹辺りで見付けた。けど、通常のブルックスランバーもプレイヤーを見付けたら、追いかけ回して火口に放り込む悪辣さがヤバい」

 

実際の所、あの悪辣駝鳥は複数体で襲い掛かってくるし、リュカオーンの呪い(マーキング)無しでは出逢えなかった事を考えると、京極が習得するのは難しいのでは無かろうか。

 

「情報ありがと」

「どういたしまして」

 

フッと笑った京極。まぁ、火口から湖に放り込まれて落下死したとしても、一応警告はしたから許される……よな?

 

「サンラク君とカッツォ君は、一先ず『レベリング』だね。レベル50に届いてないんじゃ、挑む挑まないの話にもならないよ」

 

ペンシルゴンがアイテムインベントリを操作、取り出したのは釣竿と地図。此のアイテムを見たペッパーは、あぁそういう事かと納得する。

 

「ペッパー君、前に案内した『レベリングの穴場』が在ったでしょ?二人を彼処に案内してあげて」

「解った。………あぁ、其れとペンシルゴン。お前が何を考えてるかは知らないけど━━━━『無茶はするなよ』?」

「……………心配してくれて、ありがと♪」

 

そう言ってペンシルゴンは、振り返り様に朗らかな笑顔をペッパーに向けて。京極と共に何かをするべく退席し、店を出て行った。

 

「………なぁカッツォ。アレ本当にペンシルゴンか?」

「其れなりにアイツとゲームしてるけどさ。あんな顔始めて見たわ……」

 

其れなりに長い付き合いのサンラク・オイカッツォでも、彼女のああいう表情と顔を見た事が無いらしい。まぁアイツはそういう奴だからなと、ペッパーは口に出さずに居る。

 

「ヨッシャ、早速レベリングに行こうぜ!」

「ちょい待ち。装備を元の状態に戻すのと、ルート確認。アイトゥイル、もうそろそろ良いよ」

「あ~…白頭巾被り続けるの、地味に疲れるわ。エムル、大丈夫か」

「やっぱり、ワイはペッパーはんの所が落ち着くのさ…」

「隠れ続けるのも一苦労ですわ…」

 

オイカッツォがやる気を示すが、此のまま行ける訳が無いだろと、ペッパーはSFサムライアーマーから真っ黒統一中二病コーデに変身し、旅人のマントの中にアイトゥイルを隠して。サンラクは白頭巾を凝視の鳥面へ変更し、エムルが耳を彼の首に巻き付ける形で擬態させる。

 

そしてサードレマの地図の裏路地を参考に、神代の鐵遺跡へのルートを導き出して、蛇の林檎から旅立ち。他のプレイヤーに鉢合わせに成らぬよう、ブランシュ・クロッサーで感覚を研ぎ澄ませながら脱出。

 

ペッパー・サンラク・オイカッツォ・アイトゥイル・エムルの三人二羽のパーティーは、神代の鐵遺跡に在るレベリングスポット、涙光の地底湖へ旅立つのだった………。

 

 

 






計画は綿密に



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再来の地底湖、戦えスリーゲーマーズ



レベリングの開幕




神代の鐵遺跡に到着し、内部の構造と浮遊しているドローン達を見たオイカッツォが、ブレイヴ・ギャラクシー・ファイターのラスボスステージだと気付いて大興奮し。

 

其れにペッパーが同調して、サンラクがナニソレと言ったのをトリガーに、揃い揃って煽りまくり。サンラクがお前等のレベル幾つと聞いてきたので、オイカッツォが25・サンラクが30・ペッパーが43と答え、今度はオイカッツォを二人で煽り散らかして。

 

途中、サプレスドローン達をサンラクが小鎚を用い、オイカッツォは拳気でブン殴って粉砕しながら、地図のルートに沿って移動を続けていき。

 

そうして目的地へ続く穴に着いて、オイカッツォが先行して降りて行き、アイトゥイルとエムルが格好良い女性だと言ったので、サンラクとペッパーはオイカッツォの中身は男だと言って驚かせ、偵察していたオイカッツォが「はよこいヘタレ共~」と挑発。サンラクはブチギレ、エムルを抱えて先んじて穴へ飛び込み、ペッパーはアイトゥイルを頭に乗せて、慎重に降りて行く。

 

「此処か…レベリングの穴場!」

「まさに、ザ・地底湖だね」

「此処で釣れる、ライブスタイド・レイクサーペントの経験値が美味くてな。期待して良いぞ」

 

三人各々釣竿を握り、地底湖に糸を垂らして獲物が掛かるのを待つ。

 

「そうだ、誰が一番多く釣れるか勝負しようぜ?」

「あ、ヒットした」

「俺も来たわ」

「ちょっと早くない?5秒も経ってないってマジ?」

 

サンラク・ペッパー共に釣竿を引き上げれば、針にはライブスタイド・サーモンが引っ掛かっており、ビチビチと元気に身体を揺らしている。

 

「サーモンかぁ……金に成るかなぁ、コイツ」

「ティークさんに持ってけば、大金だな……」

「ん?ペッパー、何か言った?」

 

サンラクの問いに「ナンデモナイヨー」と答えつつ、兎御殿に帰還してから教えるかと、ペッパーは思う。そんな折に「お、此方も掛かったよ」とオイカッツォ。しかし、釣竿を引き揚げた先に食い付いて居たのは、二人が釣り上げたのと同じサーモン。

 

「ありゃハズレた」

「こりゃ幸運無いと駄目か……」

「幸運一番高いの俺だな、さてさて…おっ食い付いた!」

「またサーモンでしょ?」

「そろそろ食い付いて……!」

 

一度此処を訪れ、ペンシルゴンがライブスタイド・レイクサーペントを釣り上げる様子を見ていたペッパーとアイトゥイルは、小さな魚影の下から大きな魚影が重なるのを目撃する。

 

「サンラク、エムル、オイカッツォ!戦闘準備!来るよ!」

 

引き揚げられた釣竿、サーモンに噛み付く湖鰻蛇の姿。あの日のパワーレベリングで数十体は見て、其の身体構造は記憶に刻まれている。

 

「コイツがターゲットか!」

「オッシャ、ブッ飛ばしてやろーじゃん!」

「全員油断するなよッ!」

「はいさ!」

「は、はいな!」

 

ペッパーとサンラクが各々武器を装着し、其れを開戦の合図としたのか、長い胴体を畝り玖ねらせ、ライブスタイド・レイクサーペントが襲い掛かる。

 

「さて、新スキルの使い心地を確かめますかね…っと!」

 

敵に狙われたペッパーは、装備した湖沼(こしょう)小鎚(こづち)甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)改五(かいご)】を構え、落ち着きながら対処する。

 

ペッパー・サンラク・オイカッツォ共に、四週間のレベリングで規定レベルへ、何れだけ早く至れるかが鍵となり。特にペッパー&サンラクは、ヴァイスアッシュからの条件として、ユニークシナリオの実戦訓練も在るので、ゆっくりしては居られない。

 

超至近距離での打撃・格闘スキルの使用時、自身の耐久値を半減させて、敏捷と器用と相手に対するダメージ補正を追加する、『決戦爍拏(けっせんしゃくな)』を起動。噛み付き攻撃を甲皇帝戦脚を用いた『パウリングプロテクト』で弾き、相手の体勢を崩し切り。

 

そして蹴りによる攻撃時、相手に筋力を参照したダメージを与え、クリティカル時に回避を阻害する『昏倒(こんとう)』の状態異常(デバフ)を付与する脚撃スキル『ナタラージャ』で横っ面を蹴り砕いて、地面に叩き伏せ。追撃に小鎚を用い、打撃スキルの『閂昏打』で、顎にクリティカルを叩き込みながら、サンラク達の方へカッ飛ばす。

 

「皆!」

「ナイス、デバフ付与!」

「ブッ飛ばすぜ!」

 

サンラクが湖沼の短剣を首に刺し、湖沼の小鎚を用いた一人式パイルバンカーこと、スキル『ワンセットバンカー』を叩き付け。オイカッツォはインファイト起動に、拳気【青衝(せいしょう)】とクラッシュアッパーで、サーペントの顎を虐め倒す。

 

「エムル!」

「アイトゥイルおねーちゃん!」

 

エムルがマジックエッジを発動して顎を切り裂き、着弾箇所に重ねる様に、アイトゥイルが新しいスキルの巻物より習得した『魔人斬』が炸裂。

 

ライブスタイド・レイクサーペントを構成しているポリゴンが爆散して、サンラク・オイカッツォのレベルアップを告げるSEが、地底湖に鳴り響く。

 

「おぉ、レベルアップ!確かに経験値が美味いな!スキルレベルも上がった!」

「此方はレベルが4つも上がったよ。新しいスキルも覚えたし、此の調子でバンバ……ん?なぁ、サンラク。其の首輪何だ?アクセサリー?」

 

釣らなければいけない手間抜きにしても、レベリング効率の良さにサンラク・オイカッツォが喜ぶ中で、サンラクの首に巻き付いている首輪に気付いたオイカッツォ。

 

「ん?あぁ、コレ?此方のユニーク関係で入手したもんでな。まぁ端的に言うと、所得経験値半分になる代わりに、レベルアップで貰えるポイントが2.5倍と、スキルレベルや新スキルが大量にゲット出来る様になる、ブッ壊れの首輪」

「………………マジ?」

「マジ」

 

ドヤ顔+鼻に付くキョキョキョ笑いのサンラクに、歯軋り+血涙で「ユニーク…ユニーク…!」と怨嗟を口にするオイカッツォ。

 

「ある程度時間は有ると言っても、余裕が有る訳じゃ無いからね。気を取り直して次やるよ」

「あー!俺もユニーク欲しいなー!!」

「リアルラックが無いと手に入んないからな~?カッツォには一生無理でしょ~?」

「ぜってぇ見付けてやる…待ってろユニーク…!」

 

ユニーク獲得に執念というか、決死の覚悟を決めて燃やすオイカッツォを挟み、ペッパーとサンラクもまた地底湖に釣糸を垂らす。

 

其れから釣り上げられたサーペント達を相手取り、三人と二羽の混合パーティーは戦闘を続け、三人の中で一番スキルを保有するペッパーが攻撃の起点を作り出し、其所にサンラク・オイカッツォが、アイトゥイルとエムルと共に切り込み倒す流れが産まれた。

 

戦闘が終わる度、サンラクとオイカッツォはペッパーが使ったスキルに関して聞きに来て、ペッパーは其れに関するヒントだけを提示する事で、二人に自力での習得を促し。時折ペッパーは、サンラクやオイカッツォに自分の武器を使わせ、使用感を聞いてみたりした。

 

そうしてレベリング開始から、およそ三時間が経過し、午後七時を指す頃━━━━━━。

 

「二人共、短時間で此処まで成ったか。凄いな」

「ふふん、プロゲーマーを嘗めて貰っちゃ困るよ」

「まぁ蓋を開けてみたら、ペッパーとエムルにアイトゥイルが大体の火力を担ってたっていうオチだけどな」

「其れは言わないのが御約束でしょーが……」

 

ペッパー・レベル44。

サンラク・レベル36。

オイカッツォ・レベル39。

 

サンラクは二刀流・斬打二刀流を始め、移動・格闘関連のスキルを、オイカッツォは拳闘や脚撃に関する、様々なスキル習得に成功。

 

ペッパーはサンラクが新規習得した『ドリルピアッサー』の始まりのスキル、『スクーピアス』について教えて貰い、レベルアップで自力習得及び、新しいスキル習得に漕ぎ着け。

 

三人と二羽は此の日の、地底湖レベリングを終えたのであった……。

 

 






開拓者よ強さを求めよ




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其れは誰かの朗報、そして者共の終わり



変わり、変わる。変えて、変える。




サードレマ・裏路地………。午後八時に迫る頃に、神代の鐵遺跡から帰って来た三人と二羽のパーティーは、人目に付かないルートを通りつつ、下町エリアに点在する宿屋に向けて進んでいた。

 

サンラクは白頭巾でスッポリと全身を覆い、エムルを其の中に隠しており、ペッパーは黒統一とだけあって夜闇の裏路地に溶け込んでいる。

 

「くっうぅ~…疲れたぁ。かなり動き回ったから、精神的にキたな……」

「大変だったね、レベリング。まぁ、穴場だけあって効率はかなり良いね」

「レベルアップで色々面白いスキルも手に入ったし、此のまま明日もやったるぜぇ…!」

 

片や一日通してシャンフロをやり、色々な意味で疲れきった表情をしている者。

片や冷静にレベルアップで得られたスキルと、自身のステータスを吟味する者。

片やレベリングも踏まえて、新規習得したスキルを明日もレベリングで試そうとする者。

 

各々が想いを抱えて、夜の街を歩いて行き。十字の交錯地点で足を止めた。

 

「じゃあなサンラク、オイカッツォ。俺明日以降バイトが入ってて、ログイン時間が不規則になるわ」

「おう。先に規定レベルに到達して、キッチリ煽ってやるよペッパーサンラク」

「んじゃスキルの数で勝負しようじゃねーの、ユニーク自発出来ないカッツォくーん?」

「いったなぁ?ユニーク探して自慢してやるから覚悟しとけよ、サンラク」

 

じゃあな~とオイカッツォ、ペッパーと別れたサンラクは一人、裏路地の何処か適当な場所でエムルにゲートを開いて貰い、ペッパーより先に兎御殿に帰ろう……そう思っていた。

 

ドン!っと『誰か』にぶつかって、サンラクは転けた。

 

「でっ……!」

「あァ、すまねぇ。大丈……」

 

サンラクが見上げた先、建造物の合間に見える夜空から覗く、僅かな星明かりが其の者を照らす。

 

茶髪のポニーテール、荒々しさと凛々しさが両立された見た目たる女性プレイヤー。PKを行いPKerとなり、そしてキルされた場合に装備する事になる、麻の衣服を纏う者。

 

鼻から左頬にペイントされた傷痕、そして自分の心臓を鷲掴みにする男の声(・・・)。彼にとっての『サンラク』は、忘れたくても忘れられない、因縁持ちの相手であるが故に。

 

「……其の全身を隠す白頭巾、サンラクだな?」

「えっと、どちら様……で?」

 

当の本人(サンラク)は正体が解らない様子であり、彼女━━━『サバイバアル』は、決定的となるワードを以て、己の正体を提示する。

 

「………『Φ鯖のバイバアル』だ。お前は『μ鯖のサンラク』だな?」

「!」

 

『サバイバル・ガンマン』━━━━通称『鯖癌』と呼ばれるゲームが在った(・・・)。ある問題を抱え、大事に成ったが為にオンラインが封鎖となり、今ではオフラインしかプレイ出来ず、ソフト自体もプレミア価格で取引されている代物。

 

Φにμを含むギリシャ語………其れは鯖癌において『ある規定値』をクリアした者達━━━━━━『イカレポンチ』共が、闇鍋の如く放り込まれるサーバー郡を指し、サバイバアルことバイバアルも、そしてサンラクも。サーバーは違えど、其の規定値を満たしていたプレイヤーなのだ。

 

「ハハッ……『孤島からの生還者』ってか?」

「応よ。まさかたァ思ったが、本物だったとはなァ……!」

 

肉食獣真っ青な、獰猛な笑顔と白歯を見せながら、そう言ったサバイバアルは、フレンド申請をサンラクに送ってくる。対するサンラクは、頭巾で隠れた手でYesボタンを押して、フレンドを承認した。

 

「…………で、だ。何で俺がシャンフロやってるって気付いたのさ、バイ……此処じゃサバイバアルだったか」

「あァ其れか。胡椒争奪戦争ってスレを見てな。ペッパーってヤツにも会ってみたかったが、見当たらなくてよォ」

 

ペッパー捜索スレから情報が発信されていたかと、サンラクは思いつつも、サバイバアルにこう言った。

 

「俺もペッパーは捜してるが、何処に居るか判らないんだよなぁ……。何か噂じゃ、色んな街に出没してるせいで、捕捉出来ないとか何とかかんとか」

 

実際はペッパーと自分は、同じユニークシナリオを受注している為、片方が捕まって情報を吐かされる可能性が在る。故にこうして、サンラクは『表向き』は彼と無関係で有るように装うのだ。

 

「そうかァ、しゃあねぇ……。ペッパーを見掛けたら連絡くれや」

「応よ」

 

そう言ってサバイバアルは裏路地の闇の中へと消えていった。

 

「サンラクさん、サンラクさん。さっきの人は何だったのですわ?」

 

頭巾の中で、サンラクとサバイバアルの話を聞いていたエムルが、彼との関係を聞いてくる。

 

「……簡単に言うなら、殺し合いをした仲だよ。別の世界で命を掛けた、血深泥の戦いの━━━━な」

「な、なんかよく解りませんが、とんでもない相手って事なのですわ………?」

「まぁ、そう言う事だな。よっしゃ、エムル。兎御殿に帰ろうぜ」

 

「はいな」とエムルが開いたゲートを潜り、サンラクは兎御殿へと帰還していった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、フィフティシアの隠しエリア『栄光の廃船 グローリー・エリス号』。断絶の大海を眼前に置いて、周りは岩肌に囲まれ、外からは見えないようになっている此の場所に、一隻の船が鎮座している。其の廃船は現在『髑髏の左目に、剣を突き立てた旗印』として掲げる、とあるクランの本拠地に利用されていた。

 

名を『阿修羅会(あしゅらかい)』。アップデートによるPKへの罰則強化が行われる原因を作り、嘗ては全方位に喧嘩を吹っ掛けて、並み居るプレイヤーを返り討ちにしてきたクラン。

 

だが、現在の阿修羅会は過去の苛烈さは成を潜めている。度重なる墓守のウェザエモン討伐の失敗、アップデートによるPKerの厳罰化、クランオーナーが危険よりも安寧を取る方向へと転換(シフト)した事で、一人また一人とクランを脱退していき、今ではド三流以下の連中しか存在しない、劣悪な物へと成り果てたのだ。

 

「何か言う事は有るか?」

 

廃船の一室、会議等で使われる大部屋にて座るオレンジ髪のオールバックで、左目の下に模様を入れた男性プレイヤーが、言葉を放つ。黒の暗黒騎士を思わせる装備を纏い、背中に掛けたマントには阿修羅会の旗印を掲げ、大多数のクランメンバー達とペンシルゴンを睨み付けていた。

 

彼は『オルスロット』。阿修羅会のクランオーナーであり、ペンシルゴンの弟である。

 

「すいません…オルスロットさん。まさかペッパーの奴が、最大防御を呼び出せるだなんて、知りもしませんでした……」

「おまけにヤツと一緒に居たサンラクってのも、最大火力と知り合いだったなんて……」

「あの場に居た私が言うのも何だけどさ?現役最強賢者のディープスローターに、剣聖勇者のサイガ-100まで出っ張って来た中で、此れだけ生き残った事実は大きいんじゃないかな?」

 

クランメンバーの言う事は本当であり、そしてペンシルゴンでさえ予想だにしなかった。結果からしても事故に等しいあの局面で、クランメンバーの大多数はやられたものの、何とか逃げられたのはペンシルゴンの一手が大きいと言える。

 

「トップ帯が狙っているヤツだ、そうなる可能性が有っただろうが。それとペンシルゴン、獲物だとか何だとか言っておきながら、ペッパーを仕留めなかった理由は有るのか?」

「私がどう思おうが、アンタには関係無くない?」

 

室内の空気がビシリと皹割れる音がして、オルスロットとペンシルゴンの視線がぶつかる。

 

「………兎に角だ。ペッパーって奴はジークヴルムを呼び出せる『何か』を持っているし、傍らに居る黒兎は『ユニーク』絡みで間違いない。必ず見付けて、情報を吐き出させろ。リスキルしても構わん、徹底的に追い詰めて手に入れるんだ」

 

自分達の知らないユニークを持つ、名も知らぬ無名のプレイヤー。其れが、オルスロットには気に食わないのだ。誰も見た事も、聞いた事も、手にした事すらないユニークを、シャンフロを始めたばかりの初心者プレイヤーが持っている事、其れそのものが彼にとって気に食わない。

 

だからこそ脅しを掛け、情報を手に入れ。引退に追い込めば、阿修羅会や自分は更に強くなる。何れは全プレイヤーを己の足元に膝間付かせるという、誰が聞いたとしても幼稚な野望だと答える夢も、確実に実現すると考えて。

 

「ペッパーの事、ユニークの事でお熱なのは良いけどさ。私達は『アイツ』の事を、どうにかするのが先決じゃないの?」

 

そしてペンシルゴンは、オルスロットに対して問う。此の質問が『最後』の判断材料になる。何度も、何回も、幾度も、オルスロットに進言しては弾かれた。

 

そうして彼女の問いに、オルスロットは━━━

 

「………何度も言った筈だ。ユニークモンスターは『倒せる様に出来ちゃいない』。アレの出現方法は現状、俺達以外知らない情報だ。出逢うだけで経験値が入る仕様を利用して、阿修羅会の戦力増強に使う。今も、此れからも、其の方針に変わりはない」

 

━━━遂ぞ、変わる事は無かった。

 

「そうだよなぁ……。アレは倒せるように出来てないし」

「真面目にやっても、アイテム失うだけだもん…」

 

無理だ………無駄だ………意味がない………。クランメンバー達の言葉を、ペンシルゴンは諦めの様に聞いていた。もしペッパーが此の場に居たら………彼は何と言っただろう?

 

『つまんねぇな、お前等。ウェザエモン相手に、自分達の考え得る、全部をやり切ったのか?何にもやり切って無い癖に諦めるとか、プレイヤーとして恥ずかしくないの?』

 

きっと彼なら、最期まで。幾度打ちのめされても、ウェザエモンを攻略する為に死力を尽くすだろう。今は届かなくても、ゲーマーとして届かせるために考え抜く。

 

(あぁ……やっぱり駄目だね、阿修羅会(コイツ等)じゃ)

 

此の瞬間、ペンシルゴンの意志は完全に固まった。だからこそ、此処で手を打つ。パチンと指を鳴らし、ペンシルゴンはオルスロットへ、衝撃の発言を噛ましたのである。

 

「決めたよ、クランオーナー」

「あ?な「私アーサー・ペンシルゴンは、只今此の瞬間を持ちまして、クラン:阿修羅会を脱退しまーす」……は?」

 

清々しい笑顔の退職届、同時に部屋の天井が砕け散り、阿修羅会のクランメンバー数人が、狐の面で口元以外を隠す強襲者に斬られ、ポリゴンを散らしながら倒され、所持アイテムを撒き散らす。

 

「な、なん……ぐわぁ!?」

「ぎゃあああ!?」

「は…?は…!?」

 

振るわれる翡翠の閃光が煌めき、メンバーの腕や脚が斬られ。首は落とされて、心臓が一突きにされていく。何が起きたか解らないオルスロットは、自身のユニーク武器たる『殺戮者の魔剣(スローター・ブリンガー)』を取り出した瞬間、己の身体が後ろに吹っ飛ばされて、壁に叩き付けられた。

 

「がっ………はっ…………!」

 

鳩尾を貫き、深く突き刺さった魔槍の柄。体力にステータスポイントを振り、相手との斬り合いを上等とするビルドのオルスロットは、辛うじて其の一撃に耐えて。そして飛び掛ける意識を繋いで、其の犯人に叫び声を上げた。

 

「な、に……しやが、る……ペンシ、ル…ゴン……テメェ……!?」

「何って辞表だよ、辞表。アンタが何時までもウェザエモンを倒さないし、殺り返されるのが怖いからって、チキンになっちゃってさぁ」

 

ペンシルゴンがオルスロットに話す中、もう一人の襲撃者が此処に居たクランメンバー全員を、一人残さずにキルしきって刀を鞘へ納刀し。狐の面を上げながらオルスロットへと近付いて来た。

 

「ブクブク太っていくから、私……いや『私達』が腹パンして、汚い性根ごと吐き出させてやったに過ぎないんだよ?」

「殺るか殺られるか…プレイヤーと戦って、勝つ喜びを。負けて全てを失うスリルを。其れを無くしたらPKer失格なんだよね、オルスロットくぅーん?」

「き、ょう……アルティ、メット……!?」

 

オルスロットは魔槍を抜こうとするが、深く突き刺さった結果、引き抜く事は叶わない。

 

「其れにね、愚弟?………私は掲示板に、こんなコメントをしてたんだよ?」

 

ペンシルゴンは朗らかに、テクテクと槍の柄に近付いて行き。オルスロットの手に握られている、反撃の手段たる殺戮者の魔剣を蹴り飛ばし、柄を握り締めて。

 

オルスロットに顔を近付け、光すら飲み込む漆黒の暗闇を含んだ瞳で捉えて、死刑を執行する様に言ったのだった。

 

「ペッパーは『私の獲物』だから。他の誰にも『アゲナイ』から………ってさ」

「ま、待てクソ姉k━━━━━」

 

魔槍の穂先が引き抜かれ、顔面に再度突き刺される光景の中、何処で何を間違えたのかと、オルスロットは走馬灯の様に思い返した、其の直後。

 

顔面を突き刺し、頭蓋が砕かれ、脳が鉄の刃でぐちゅぐちゅに潰される感覚を味わい。己を構成したポリゴンは崩壊して、己が此迄に積み上げ続けてきたアイテム等が、ペンシルゴンの目の前に散乱する。

 

「ふぅ…スッキリした」

「クランリーダーに『オシオキ』が出来て、何よりだねペンシルゴン」

「まぁね~。っと、其れよりも京極ちゃん大丈夫?動けそう?」

「此方は大丈夫、ペンシルゴンはどうだい?」

「私は平気だよ~」

 

クラン脱退届提出+現時点の阿修羅会主要メンバーを奇襲からの全滅という、一大ミッションを終えたペンシルゴンと京極は、彼等彼女等が此迄に得てきたアイテム、予備の品を全て手にして、グローリー・エリス号を脱出。漆黒の暗闇に消えたのだった。

 

此の日、シャングリラ・フロンティアにて猛威を奮っていた、PKクラン:阿修羅会は。サブリーダーたる『廃人狩り(ジャイアントキリング)』アーサー・ペンシルゴンの反逆と、元メンバーの京極(キョウアルティメット)の手によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩壊した

 

 

 

 

 






一大クランの結末




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造られしは轟雷の大槍、活性と毒殺の小鎚



新武器、完成す




ペッパーがサンラクとオイカッツォ、ペンシルゴンに京極とユニークモンスター・墓守のウェザエモンへ向けたオハナシと、レベリングをした日から三日が経った。

 

今年の初夏の大型連休が今日で終わりを告げ、世間は再び忙しなく動き始める中、長期休暇最初の日をシャンフロのプレイで過ごし、残りはコンビニのバイトで働き続けた梓は、最終日となる今日を朝からバイトで費やし、午後四時過ぎに帰宅。

 

何時もの様に機材のチェックにトイレ、水分補給と布団を敷いて、プレイ環境を整え、シャンフロへとログインする。

 

「あ、ペッパーはん。おはようなのさ」

「おはよう、アイトゥイル」

 

兎御殿の休憩室、ベッドにて目を覚ましたペッパーの視界には、自身の御世話係たる黒毛のヴォーパルバニーが居て。ペッパーは起き上がるや、早速ビィラックの居る鍛冶場へと向かう。

 

「ビィラックさーん、居ますかー?」

「ビィラック姉さーん」

「ペッパーか、よう来たな。此処に来たんは『コイツ』を取りに来たんじゃろう?」

 

ペッパーの到着に言うが早いか、ビィラックは自分のインベントリから取り出したのは、黒と黄金色が融合したような渋さと重厚感の溢れる、巨大な大槍。

 

槍の柄は翡翠で彩られ、漆黒の槍の穂先はバチバチと雷音が鳴りながら、時折耳には風の吹く音が聞こえ、其の様子は嵐の如し荒れ狂う力の奔流が在った。

 

「雷嵐の申し子カイゼリオンコーカサスの素材を使い、作り上げた名匠ビィラックの大槍。コイツに銘を着けるなら、そうじゃな………『轟雷大槍(ごうらいだいそう)・グラダネルガ』。

 

常にビリビリバチバチの角の加工に手こずったが、ティラネードギラファの甲殻を使ったら、スムーズに整形出来たけぇ」

 

誇らしげに胸を張り、フンスと鼻息を鳴らしたビィラック。一部の毛が焦げていたり、静電気で立っているのは其れが理由かとペッパーは思いつつ、自分のアイテムインベントリに大槍を収納して、早速其の性能をチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟雷大槍(ごうらいだいそう)・グラダネルガ:雷嵐の申し子ことカイゼリオンコーカサスの大雷角を中心に用い、名匠の手により製作された黒黄金色の大槍。

 

槍の穂先に使用された大雷角の電導効率を高める為、柄や穂元に颶風の申し子ティラネードギラファの素材が使われており、風属性による絶大な貫通能力と雷撃による追撃能力を誇る。

 

雷嵐の申し子たるカイゼリオンコーカサスは、遺された残滓と共に獲物を振るう者へと問い掛ける。

 

━━━『汝は雷、汝は槍。固く強い己の意思を、揺るぎ無き己の心を示せ』━━━━と。

 

汝が汝で在る限り、此の雷と嵐は決して、汝を裏切る事は無い。

 

攻撃時、ゴーレム・機械系統のモンスターやエネミーに対して、高いダメージ補正を追加する。また帯電状態の相手に対し、此の武器による攻撃は装甲貫通を持つ。

 

此の武器で攻撃した相手に、帯電状態を付与する。

帯電状態:斬撃武器及び斬撃スキルによるダメージを与えた場合、装備者の筋力に応じた追加ダメージを付与する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりと言うか、双皇甲虫の素材を使って産み出されただけあって、其の能力は計り知れない。そして当初の予定通り、麒麟を担当するペンシルゴンと相性ピッタリな槍武器で、ペッパーは心の中でガッツポーズを取った。

 

「ありがとうございます、ビィラックさん。其れと、ゆっくり休憩を取ってからで良いので、武器の修繕を依頼したいのですが、大丈夫でしょうか?」

「解った、見せてみぃ」

 

快く引き受けてくれる事に感謝しつつ、ペッパーはアイテムインベントリからサンラク・オイカッツォと共に、レベリングをする中で用いた武器達を取り出し、提示されたマーニ共々、彼女に提出していく。

 

「ふむ…何れも耐久値が1/5も切ってないな。ワリャは相変わらず、自分が手にした武器を大事にするのぉ」

「僅かに減った耐久値が、いざという時の破損に繋がる可能性が有ると、何時も考えていますので」

「良い心掛けじゃな。一日経ったら取りにきぃ、其れまでに確り直しておくけぇ」

 

「よろしくお願い致します」と頭を下げ、ペッパーはアイトゥイルと共に鍛冶場を後にする。

 

「ペッパーはん、今日は何をするのさ?」

「そうだね……先ずはフォスフォシエに行って、マッドネスブレイカーの最後の成長派生形態を回収してから、エイトルドの先のエリアへ探索がてら、行ってみようかなと考えてる」

 

水晶工芸で栄える街・エイトルド。ネットサーフィンで得た情報によると、其の先に在るのは神代の時代や、現地の素材から産まれたゴーレム達が闊歩する、嘗ての時代の残り香が漂うエリア『去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)』。

 

サードレマから三つのルートに分岐し、現状シャンフロ最後の街・フィフティシアに向かう中でも、真っ直ぐに一直線で向かえるという理由から、多くのプレイヤーが此のルートを選ぶのだとか。

 

ペッパーはアイトゥイルを旅人のマントの中へと隠し、兎御殿の休憩室からフォスフォシエへと繋ぐ扉が開かれ、一人と一羽は目的達成に向けて旅立つのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォスフォシエの裏路地より、繋ぎ開かれた扉から出たペッパーは辺りを見渡しつつ、加速系スキルを用いながら一目散に武器屋を目指して走り。

 

到着後、店に入る前にも一度周りを確認をした後、彼は扉をゆっくりと閉めてカウンターに向かって歩いて。そして「ごめんくださーい」と声を掛けると、店を奥から店主にして、恰幅の良い女性が顔を出してくる。

 

「あらあら、ペッパーさん。お久し振りねぇ」

「すいません。出来上がりから、随分時間が経ってしまって」

「いえいえ。ペッパーさんが依頼していた、マッドネスブレイカーの育成は、無事に完了しましたよ」

 

そう言って彼女はカウンターに一本の小鎚を乗せる。其れは純白の鉄面に、茹でられて冷水に潜らせた白玉の如き艶を持つ小鎚。

 

側面に生命碑石の緑の粒を纏め、エメラルドをの様に埋め込んだ其れは、目の前に有りながらも存在しているだけで、生命力を無差別に放ち続けて。

 

ペッパーはユニーク小鎚をアイテムインベントリへと収納後、其の性能をチェックした結果、目を見開いて丸くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライダメイズブレイカー(ユニーク武器(ウェポン)):マッドネスブレイカーに千紫万紅の樹海窟で採掘出来る、生命碑石(エナジーストーン)を用いて育成した、成長派生形態の一つ。

 

溢れ零れる生命の息吹を宿す、碑石の力を其の身に携える。白の面一度打ち据えば、傷を塞ぐ息吹きと共に毒を吸い尽くし、打撃を受けた命を救う力と成る。

 

しかし白の面を二度打ち据えば、打ち込まれた命は溢れ暴れる生命力に押し潰され、其の身を生命力に犯され、遂には崩壊して消え果てるだろう。

 

此の小鎚でプレイヤーかモンスターに一度打ち込んだ場合、其のプレイヤーかモンスターに時間回復効果を付与する。二度打ち込んだ場合、其のプレイヤーかモンスターに時間ダメージ効果を付与する。三度打ち込んだ場合、此の効果は消失する。

 

此の武器で鉱物系アイテムを砕いた場合、其のアイテムを破壊し、希少度合に応じて耐久値を回復する。

 

 

 

 

ロックオンブレイカーの製造秘伝書・改参式:ユニーク武器・ロックオンブレイカーの生産、及び成長形態を製作する際に必要となるレシピ。武器屋で鍛冶師に見せる事で、素材を用意すれば生産可能となる。

 

此のアイテムはアイテムインベントリには含まれず、他者によるPKをされても、プレイヤーの手元を離れない。破棄不可能。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(強過ぎる薬は毒に変わるとは言うけれど、マジモンのヤベー小鎚じゃねーか、ライダメイズブレイカー……。打ち込む回数を間違えたら、戦闘の泥沼化は不可避だし、味方に打ち込むにしても、用量を守んないと自滅を促す、クセが強い武器だわな………。

 

そしてとうとう改参式かぁ……何処まで行くんだろうな、ロックオンブレイカーの製造秘伝書………。でもこうしてマッドネスブレイカーの成長派生形態は、今此の瞬間に揃った事になるか)

 

ギルフィードブレイカー。

 

ヴァンラッシュブレイカー。

 

ライダメイズブレイカー。

 

異なる鉱物の特性を喰らい、能力に順応し、果てには己の力とする、巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)の魂は、各々が各々の成長と進化を遂げて、此処に形を成したのだった。

 

ペッパーは店主に「ありがとうございます」と礼を述べて、フォスフォシエの武器屋を出て、裏路地へと走り込んだ後、兎御殿を経由してエイトルドの街へ向かったのである………。

 

 






ユニーク小鎚、成長派生形態コンプリート




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開拓者は未知を求め、残骸の荒野を行く



ペッパー、新エリアの探索をするの巻




去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)。シャンフロ第8の街・エイトルドの先に在る此のエリアは、嘗て起きたとされる大きな戦いの後のみが残っているエリアだ。

 

フィールドの中央に聳え立つ、一見すると生物の背骨と肋骨が繋がっているような構造をしているものの、じっくりと観察すれば人工的に造られた物であると解る。

 

考察クラン:ライブラリは此のエリアと、シャンフロ第11の街・イレベンタルの先に在るという、無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)の荒れ様を見て、此の世界に一体何が起こったのかを考察するべく、結成されたという秘話が有るらしい。

 

「大きな建造物、なのさ……」

「此れで残骸なら、元々はどんな姿だったんだろう……」

 

夕陽に染まる空を背景に見上げれば、自分達が何れだけ小さな存在かが解る程に、其れは巨大で。しかし何千年の時間が過ぎようとも、不動の如く立ち続ける姿は偉大であった。

 

と、ペッパーの後ろでカランカランと音、振り返ると金属片が落ちていて。直後に目の前に降ってきたのは、ゴリラを想わせる巨腕と反比例するように貧弱な両足、角張った胴体を持つゴーレムが一機現れる。

 

「アイトゥイル!」

「ペッパーはんも、気を付けてな!」

 

一声からの臨戦態勢。アイトゥイルは薙刀を、ペッパーはギルフィードブレイカーを各々装備して、ゴリラゴーレムに立ち向かう。

 

ギギギ…と、ぎこちない動きをしていた矢先、ゴーレムが右腕をペッパーに翳すと、肘の付け根から煙が吹き出し、直後にロケットパンチが発射された。

 

「うおぉっ!?ロケットパンチだと!?」

 

飛来する攻撃に対して、動体視力に補正を掛けるスキル『クロスインディクション』を起動させ、ギリギリの回避を行う。

 

「ペッパーはん、大丈夫なのさ!?」

「大丈夫!アイトゥイルは後ろから追従しつつ、魔人斬の準備を!」

「解ったのさ!」

 

バーストダッシャー・ボルテックスムーヴと共に切り込み、ペッパーはギルフィードブレイカーを振るいながら、装甲貫通付与の『命撃鐵覇』に、相手の耐久が高く強靭で堅牢である程に衝撃を徹しやすくする『ハードスマッシュ』、打撃攻撃のクリティカル補正を上げる『ヴァーティカルセンス』、クリティカル時にダメージ補正が大きく上昇する『グラナートストライク』、そして駄目押しに『ウルティモアス』を使う。

 

此のスキルは、打撃及び格闘による攻撃時に自身の筋力を参照とするダメージを与え、此の時に相手の重量を参照に重ければ重い程、ノックバックと破壊属性効果を発揮するスキルであり。

 

「ロケットパンチを繰り出しながら体勢が崩れないって事は、体重は重いって事だよな!ゴリラゴーレム!」

 

大天咫装備の為に振り込んだ器用によって、今まで以上にクリティカルを出せる様になり、振りかぶった小鎚でゴリラゴーレムの右膝を、ペッパーは思いっきり殴り付ける。

 

ギルフィードブレイカーの武器特性に、スキルの重ね掛けによる破壊属性の補助、3桁に到達した筋力を以て繰り出された一撃が、膝の機構を一発で粉砕し、其の体勢をノックバックにより打ち崩す。

 

「右腕を飛ばしたのは、少し悪手だったなゴリラゴーレム。アイトゥイル!」

「魔人……斬ッッッ!」

 

残された左手で転倒を阻止したゴリラゴーレムだったが、其れが己の運命を分かつ結果となり。エフェクトを纏い、アイトゥイルが振るいし薙刀の一閃が、袈裟斬りと成って鉄の身を切り開く。

 

ゴリラゴーレムを構成するポリゴンは、彼女の一撃で爆ぜ飛び散り、此方に戻って来ていた右腕も主人に続く形で消滅。そして其の場には、石造りで出来たゴリラの置物が一つだけ遺された。

 

「凄い威力だね、アイトゥイル」

「ペッパーはんが購入してくれた、巻物のお陰なのさ。………ペッパーはん、アレは何なのさ?」

 

アイトゥイルが指差す先に、石造りの置物が在る事を確認したペッパーは、周囲を警戒しつつ其れを手に取り、アイテムインベントリに収納・チェックを行う。

 

 

 

 

 

 

 

拒獣の偶像

 

自然発生するゴーレムが稀に生成する小規模な己の分け身。ラティオンゴーレムが生成した偶像は特定のモンスターの気を強く惹き付ける力を宿す。

 

其れ即ち拒獣の偶像が拒絶する程に、より興味を引いてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

「偶像……要するに『フィギュア』か」

 

コレクトタイプのゲームでは、最早御約束とも言える収集要素。ペッパーのゲーマーとしてのスイッチが入りそうになる。が、欲望を制御するように、彼は己の頬を右手で軽く叩き、やるべき事を再確認する。

 

「おっといけない……。大事なのはエリア探索、忘れるべからずだ」

「ペッパーはん、偶像揃えたいって顔に出てるのさ……」

「……解っちゃう、アイトゥイル?」

「自分の欲望に、素直になったって良いのさ……」

 

共に過ごし、ペッパーを見てきたアイトゥイルは、彼が此の手のアイテムに対する、並々ならぬ収集意欲を持っているのを知っている。

 

そんな彼女の一押しがトリガーとなったか、ペッパーはステータスポイントを幸運に10と、敏捷に5を振って。去栄の残骸遺道を駆け回り、手当たり次第にゴーレムと戦い続けた。

 

鉄板で全身を守り、重量と共に押し潰しにくるゴーレムは、足を引っ掻けて転ばせた後、鉄板をひっぺがしながら頭を叩き潰し。

 

針鼠の如く剣を纏い、其の剣を飛ばしてくるゴーレムは、月光円舞で回避からノックバックで、ひっくり返して殴り壊し。

 

マトリョーシカの様に中からゴーレムを飛び出させ、脱け殻が襲い掛かるゴーレムは、脱け殻達を速攻で撃破しながら、最後に逃げ出した小さな本体をブーメランスローで砕き潰し。

 

上空を浮遊して、火炎放射で薙ぎ払ってくる鳥のようなゴーレムは、遮那王憑きとスカイウォーカーで背中に飛び乗り、両翼のフレームを減し折って地上に叩き落として粉砕し。

 

そうして2時間程の戦いの果て、ペッパーはユニーク小鎚を切り替えながら使用感を確かめつつ、アイトゥイル共に百十数体近いゴーレム達を殴り壊し、叩き壊し、果てにレベルが1つ上昇。ドロップした偶像達を、次々とインベントリに回収していったのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拒盾の偶像

 

自然発生するゴーレムが稀に生成する、小規模な己の分け身。タンザナゴーレムが生成した偶像は、特定のモンスターの気を強く惹き付ける力を宿す。

 

其れ即ち拒盾の偶像が拒絶する程に、より興味を引いてしまうのだ。

 

 

 

 

拒剣の偶像

 

自然発生するゴーレムが稀に生成する、小規模な己の分け身。ソードルゴーレムが生成した偶像は、特定のモンスターの気を強く惹き付ける力を宿す。

 

其れ即ち拒剣の偶像が拒絶する程に、より興味を引いてしまうのだ。

 

 

 

 

包聖の偶像

 

自然発生するゴーレムが稀に生成する、小規模な己の分け身。ネスティングゴーレムが生成した偶像は、特定のモンスターの気を強く惹き付ける力を宿す。

 

其れ即ち包聖の偶像が拒絶する程に、より興味を引いてしまうのだ。

 

 

 

拒鳥の偶像

 

自然発生するゴーレムが稀に生成する、小規模な己の分け身。ミトナムズゴーレムが生成した偶像は、特定のモンスターの気を強く惹き付ける力を宿す。

 

其れ即ち拒鳥の偶像が拒絶する程に、より興味を引いてしまうのだ。

 

 

 

天願の偶像

 

自然発生するゴーレムが稀に生成する、小規模な己の分け身。ネスティングゴーレムが生成した偶像は、特定のモンスターの気を強く惹き付ける力を宿す。

 

其れ即ち天願の偶像が拒絶する程に、より興味を引いてしまうのだ。

 

 

etc…etc…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッフッフ……色々手に入ったぜぇ………」

「幸せそうさね、ペッパーはん」

 

アイテムインベントリに収まった偶像コレクションを眺めながら、ホッコリ顔になったペッパーは今一番幸せな気分にあった。

 

「こういうアイテムって、全種類揃えると称号とかが貰えたりするからね。ただ幾つかダブったし、捨てるにしても忍びないし、ギルフィードブレイカーの耐久値回復に使うのも何か勿体無いし……どうしようかな?」

 

ガチャ系列のコレクトで、一度出たアイテムが被る事は間々有り、乱数に嫌われると沼にハマって出られなくなる恐怖が待っている。

 

取り敢えず、此の偶像達は一旦保留としておく事にしたペッパーは、アイトゥイルをマントに隠して、エイトルドへと帰還していくのであった………。

 

 






コレクトの匂い漂う、石造りのフィギュア


現在のペッパーのステータス及びスキル


レベル44→レベル45のスキル習得及び変化


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




PN:ペッパー


レベル:45

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー
サブ職業(ジョブ):無し

 

体力 25 魔力 10
スタミナ 90
筋力 100 敏捷 100
器用 70 技量 70
耐久力 61 幸運 35



残りポイント:15



装備


左:ライダメイズブレイカー
右:リュカオーンの呪い(マーキング)
両脚:無し

 
頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)
胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)
腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)
脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 
アクセサリー


・鎖帷子(耐久力+10)
・旅人のマント(耐久力+2) 
致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 
所持金:5,733,000マーニ




不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)


窮速走破(トップガン)



致命極技


致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未解放
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未解放



致命武技

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだち)】参式
致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】弐式
致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】肆式
致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】壱式
致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】弐式
致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】参式
致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】参式
致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】壱式



スキル

・デッドリースラッシュ
絶華逸突(ぜっかいっとつ)
・パウリングプロテクト
・ブーメランスロー
・グロリアス・ストラータ レベル4
・ソラスティワーク→選択可能
・グラナートストライク
・バルバドスインパクト
・ウルティモアス レベル1→レベル2
・アンブレイカブルソウル
決戦爍拏(けっせんしゃくな) レベル1→レベル2
遮那王憑(しゃなおうつ)
・ドリフトステップ
・ストリームアタック
十断斬首(じゅうだんざんしゅ) レベル2
・ボルテックスムーヴ
・アクタスダッシュ レベル8→レベル9
・ステックピース レベル7
・握擊 レベル6→レベル8
・投擲 レベル6→レベル7
・プレジデントホッパー
・スカイウォーカー
・ソウルジェネレート
・クロスインパクター
・ファイズフリップ
・ナタラージャ レベル1→レベル2
命撃鐵破(めいげきてっぱ) レベル5→レベル7
英雄志願(ウォーレヴ.ヒロイック)
烈光仙迅(れっこうせんじん) レベル1
凪静水面(なぎしずむみなも)
連刀九刃(れんとうくじん)
罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)
・クラッシュレッジ→イモータルヴァーツ
・ヴァーティカルセンス→ブレイク・セリオン
速刃(そくじん)霧払(きりばらい)
・チェインズアップ レベル4→レベル5
・チェインズブート レベル3→レベル4
一振両断(いっしんりょうだん)
隕石落蹴(メテオ・フォール)
雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)
・ベラスティ・ニー
・ラッシュキック→選択可能
・ハンズ・グローリー レベル3→レベル4
・パワースラッシュ レベル5
・ナックルラッシュ
・ブランシュ・クロッサー レベル2→レベル4
・ライオット・スート
居合(いあい)切羽(きりばね)
・クロスインディクション
・デュエルイズム
・バーストダッシャー レベル1→レベル2
・セルタレイト・ケルネイアー
鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル1→レベル2
・ハードスマッシュ レベル1→レベル3
閂昏打(かんぬきこんだ) レベル1→レベル3
・ファイティングスピリッツ レベル1→レベル2
・ナイフズタクト レベル1
・フェイローオブスロー レベル1→レベル2
・スクーピアス
・ドロッパーストンプ レベル1→レベル4
・ハイランナー レベル1→レベル3
・セルタレイト・ヴァラエーナ
・レコメント・クラッチ レベル1




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偶像の秘めし価値は、当人にしか解らない



ダブったガチャアイテム、君はどうする?




去栄の残骸遺道での現地生成の機械人狩り(ゴーレムハンティング)を終えて、エイトルドの裏路地から兎御殿へと帰還したペッパー&アイトゥイルは、アイテムインベントリからダブってしまった偶像達を取り出して、並べながら処遇を考えていた。

 

「うーん……ギルフィードブレイカーにヴァンラッシュブレイカー、そんでライダメイズブレイカーの3種のユニーク小鎚は、ビィラックさんに頼んで耐久値回復をして貰うとして。どうしようかなコレ……」

 

バックパッカー系列の職業が、他の職業よりもアイテムインベントリに優れているとは言え、流石に容量は『無尽蔵』ではない。長く居座り嵩張れば、自ずとアイテム枠を食い潰し、本来運べる筈のアイテムも運べなくなってしまう。

 

其れでは、バックパッカーとしての使命が。味方の窮地を切り開く者としての役目が果たせない。

 

「アイテムとして存在しているなら、当然使い道は必ず有る筈だ。………『産まれてきた物には必ず、各々が持つ役割が在る』。だから此の偶像達にも、コレクション以外に必ず意味を持ってる……!」

 

何時に無く真剣な表情と眼差しで、偶像達を手に持っては考えるペッパー。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。こんな時はピーツに聞いてみたらどうさね?」

「ピーツさんに?」

「こういう骨董品はピーツが好きそうだし、色々仕入れる過程で、何かしらの知識を持ってる筈なのさ」

 

確かに彼なら……いや彼だからこそ、此の石造りのフィギュア達の事が解るだろうと、アイトゥイルは睨んだのだろう。

 

しかしペッパーは知らなかったのだ。此の石造りのフィギュア達━━━━『偶像シリーズ』が、コレクター気質のプレイヤー達にとっては、ある種のエンドコンテンツ(・・・・・・・・)に匹敵、もしくはシャンフロをプレイする原動力そのものだという事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ペッパー…………!こりゃまた、とんでもないもん…………手に入れおったな………!」

 

兎御殿の一角にて、露店形式の店を構えるピーツを発見したペッパーとアイトゥイル。早速ダブった偶像を見せた所、ピーツは眼を真ん丸に血走らせ、息は荒々しい物にしながらも、何とか冷静さを保っている。

 

「えっと、ピーツ……さん?」

「おーおー…こりゃまた、けったいな興奮度合いなのさね、ピーツ」

「興奮?どういう事なのアイどぅ!?」

「ペッパー!此の偶像、1個につき『30万マーニ』で買い取るで!?めっちゃあくっちゃあレアや!!」

 

石造りで細かく作り込まれた偶像に、此程まで値段を付ける理由。コレクト要素をフルコンプリート、穴空きを全て充たすまで埋め尽くす、ゲーマーとして収集欲も持ち合わせるペッパーは、俄然其の理由が気になってしまった。

 

「えっと…参考までに、偶像ってレアな物でしょうか?」

「当たり前や!此の偶像は自然発生したゴーレム達が、此の世界に住まう命の記憶を読み取り、其の身体に産み出した小さな『図鑑』の様なもん!特に『七つの最強種』を模した偶像(ヤツ)は、特に貴重で仮に買い取るんなら最低でも『200万マーニ』は下らんし、普通の偶像ですら場合によっちゃ30万マーニさえ『端金』になる場合も多いんよ!特に…………━━━━━」

 

そうして突如始まった、ピーツによる偶像の価値講座。およそ一時間近く事細かに説明、及びゴーレムが偶像を産み出す確率や、どんな条件だとレア物が生成されるか等の、数学的領域にまで踏み込んだ話が始まって。

 

気難しい話に退屈したのか、アイトゥイルは酒を飲み始め、逆にペッパーはピーツの講座を真剣に聞きながら、時折彼に質問をしては頷いている様子だった。

 

「━━━━━━━………と、言う訳や!どうや!?理解出来たかいな!?」

 

フーフー…!と呼吸鼻息が荒々しいピーツが、ギラギラの視線でペッパーに問い掛け。

 

「…………はい、とっっっっっても勉強になりました!」

 

其れに負けず劣らずのキラッキラの瞳を持って、ペッパーはピーツに答えた。そして…━━━━━

 

「ピーツが話していた偶像の中に、イリステラ様に似た偶像が在るって言ってましたけど、もしかして『此の偶像』でしょうか?」

 

七つの最強種を模した偶像は出なかったが、最後の最後にレベルアップを決める為討伐した、マトリョーシカゴーレムことネスティングゴーレムがドロップした、『天願の偶像』をアイテムインベントリから取り出して、ピーツの前に置き。

 

そして其れを見たピーツは、文字通り目玉が飛び出してピョイーンと跳ね上がり、兎御殿の天井に頭をぶつけ。漫画やアニメで良く見る、ギャグテイストの巨大たんこぶを頭に作りながら、恐る恐るというか御尊顔を拝む様に、振るえながらも其れを手に取った。

 

「て、天願の……偶像………!?開拓者の間でも、超に超と超が付く……極レアの、偶像…………やん、けぇ……の…!!……ま、まさか………コレを直に、拝める、日が……くるっ………なんで………!」

 

感動のあまりボロボロと大粒の涙を溢しながら、ピーツは慎重に偶像を置いて、両手を合わせて祈りを捧げている。プレイヤーからも、NPCからも愛される慈愛の聖女イリステラ。偶像に成ったとしても、彼女の人気は絶大な様だ。

 

「………ペッパー。アンタの人柄を見込んで、頼みたい事が有るんや」

 

そんな時、大粒の涙を拭って鼻を擤みながら、ピーツは一際真剣な表情と眼差しをペッパーに向けながら言った。

 

「此の偶像……いや、天願の偶像を譲ってはくれんか?コイツは開拓者の中でも、極レベルのレア物………過去にオークションでは、此の偶像が『億越えのマーニ』を叩き出した事も有るんや」

「お…ッくぅ!?えっ、マジですか?!」

「時々街に『変装』しながら出て、色んな開拓者から話を聞いたから、先ず間違いないんよ」

 

確かビィラックは、ピーツとエムルは人化変化が出来ると聞いたが、街に繰り出してはアイテムを色々売買しているのだと言う。

 

「で、近々サードレマで『オークション』が開催される話が、開拓者の間で流れててな。今回は『目ぼしい品物』が出展されんらしくての」

「其所に天願の偶像を持ち込み、本日の一大目玉商品に!……と?」

「せや。天願の偶像が極レア物っちゅうのは話したが、此れを手に入れようとするのは、何も開拓者だけやない。大陸の富豪達もコイツを狙ってたりするからなぁ……。オークションともなれば、金額は鰻登り待った無しの、超ハイレベルの競り合いは間違いなしや。

ペッパー頼む……!『ワテ』を信じて、天願の偶像を出展させてくれんか!?」

 

今まで一人称が解らなかったピーツが、唯成らぬ想いと共にペッパーに頼み込んだ。彼は其の熱と想いを汲み取り、そして微笑みながら、ピーツの視線まで身を屈めて、右手を差し出しながら言った。

 

「報酬は売上の三割。ピーツさんがオークションで売り出した天願の偶像の落札価格から、主催者側に払う分を差し引いて、得られた利益から三割を御渡しする形でどうでしょうか?」

 

旅人のマントで隠し、リュカオーンの呪い(マーキング)が見えないようにしている彼が、こうして右手を出す事は『信頼した相手にしか見せない』を意味している。

 

「お、おぉっ!!解った、取引成立や!」

「よろしくお願い致します」

 

ガシッと右手で握手を交わし、ペッパーはピーツに天願の偶像を渡して。其の後にダブってしまった偶像を9個売却し、270万マーニを受け取って。

 

そして特技剪定所にて、選択可能となった『ソラスティワーク』と『ラッシュキック』の二種類を派生進化させて、此の日のシャンフロを終えたのであった……。

 

 

 






誰かに必要とされるなら




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オーバーヒート・レベルアップ



戦え、規定レベルに向けて




サードレマで行われるというオークションへ、天願の偶像を出展したいという、ピーツの願いを聞き届けてから早三日が経過した。

 

「胡椒争奪戦争……胡椒争奪戦争……。うげぇ」

 

初夏大型連休明けの大学講義の合間を縫い、ディープスローターが言っていた自分の捜索スレッド、胡椒争奪戦争をスマフォを使って調べていた梓は、苦い表情を浮かべていた。

 

「既に4スレ目に入ってるし……ジークヴルムさんの場面も拡散されてるし……」

 

自分がやらかした事が他のプレイヤーには情報の大洪水だったり、ペンシルゴンが自分を獲物宣言した上で誰にもアゲナイと宣言していたり、他の廃人プレイヤーも狙っていたりと、色々な情報が錯綜していた。

 

既に起こってしまった事は巻き戻しが出来ないので、梓は割り切りつつも、スマフォを仕舞いながら呟く。

 

「此方もゆったりしてられないんだよなぁ……」

 

此の日、梓に届いたのはブシカッツォから届いたEメールであり。どうやら彼はサンラクと自分よりも先に、ウェザエモンと戦える規定値のレベル50に到達したらしい。

 

そしてサンラクもサンラクで、レベリングに精を出しており、ブシカッツォの情報によると彼は現在レベル44。深夜までゲームをする事も有り、大型連休中も含めて時間を費やした結果、急激なレベルアップに至ったのだとか。

 

「やっぱり効率を考えるなら、ライブスタイド・レイクサーペントやデストロブスターだな。後はエンカウント率……乱数に嫌われないように、今から祈っておくしかないな……」

 

天に祈りを捧げ、梓は講義へ舞い戻る。オイカッツォに追い付くため、ユニークシナリオを越えてウェザエモンに挑む為に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前中に講義を終えて、午後にコンビニのバイトを行い、スーパーの特売品の争奪戦で揉みくちゃにされた後、午後6時に帰宅した梓は早速、夕食を作りに取り掛かる。本日の献立は残っていた白米に、葱と油揚げの味噌汁、

 

其れを一人で食して、トイレとシャワーを浴びて、何時もの様に布団を敷き、機材の確認と水分補給用の水を近くに置いて、梓はペッパーとしてシャンフロの世界へとログインする。

 

「ペッパーはん、こんばんわなのさ」

「アイトゥイル、こんばんわ。早速だけどビィラックさんの所に行くよ」

「修繕に出した武器を取りに行くのさね」

 

コクリと頷き、ペッパーはアイトゥイルと共にビィラックの鍛冶場に向かって移動していく。

 

「おぉ!流石ビィラック、スッゴい武器と頭装備だぜェ!」

「サンラクさん、とってもお似合いですわ!」

「ふふん、当然じゃ。良い素材を使ったなら、良い武器と防具を作る。わち等鍛冶師の、当たり前の使命じゃけ」

 

と、鍛冶場からサンラクとエムル、そしてビィラックの声が聞こえてきて、ペッパーとアイトゥイルが顔を出すと、其所には四角の黒兜を頭に被り、両手にはザリガニの鋏を思わせるフィストグローブを着け、腰には鏡面の様な鱗で作っただろう腰当てを装備したサンラクが、エムルの拍手にビィラックのドヤ顔を受けている。

 

「よ、サンラク。其の両手の籠手はライブスタイド・デストロブスターの前鋏を使って、頭兜はクアッドビートルから作ったのか?」

「お、ペッパー。オイカッツォと地底湖でレベリングしてたら、変なウィザードが出てきたり、バカでっけぇザリガニが釣れたり、めっちゃ大変だったわ。まぁ其の分、新武器に頭と腰装備が作れて、戦力アップだ」

 

シュッシュッとシャドーボクシングをするように、サンラクは新しい装備を見せ付けてくる。地底湖から出て来たウィザードとやらも気にはなるが、其れは今の時点で置いておく事にしたペッパーは、ビィラックに話し掛ける。

 

「ビィラックさん、修繕を依頼してた武器達を取りに来ました」

「おぅ、ペッパー。きっちり直し終わったけぇ」

 

「ほれっ」と金床の上に乗せていく武器の数々に、サンラクも少し驚いている様だ。

 

「ありがとうございます、ビィラックさん。其れと三つの小鎚達の耐久値を回復させたいので、依頼しても良いでしょうか?」

「よし、出してみぃ」

 

手招きするビィラックに、ペッパーはアイテムインベントリからギルフィード・ヴァンラッシュ・ライダメイズの、マッドネスブレイカー成長派生形態三種を取り出して、彼女の前に置いた。

 

「ペッパー、其の小鎚は何だ?」

「何れも色が全然違いますわ…」

「おぉ……!コレが…!」

 

サンラクとエムルも、此の小鎚に関して気になる様子だ。ペンシルゴンが自分に、ユニーク小鎚の事は話しても良いと言っていたのを思い出しつつ、ペッパーはサンラクに説明を行った。

 

「コレ?左から順番にギルフィードブレイカー・ヴァンラッシュブレイカー・ライダメイズブレイカーって言う、小鎚のユニーク武器。元々マッドネスブレイカーっていう武器が有ったんだが、其れに異なる鉱物アイテムを使って育成すると、此の三つに派生して成長するんだってさ」

「何処ぞのイー◯イかよ…。けどスゲェな、コレってどうやって作れるんだ?」

「四苦八苦の沼荒野で採掘出来る、鉱石を使えば準備は出来る。但し此の秘伝書を見せないと、製作する事は出来ない代物なんだ」

 

そう言いながら、ペッパーはロックオンブレイカーの製造秘伝書を取り出して、ビィラックに見せる。

 

「成程成程…!また面白い加工技術じゃのぅ、人間の鍛冶師が作る武器は、目の着け所が異なるけぇ…!」

「ビィラック、俺にも見せてくれ。……必要数は、フムフム……よし、エムル!セカンディルに行くぞ!」

「レベリングの予定はどーしたんですわ!?」

「ユニーク小鎚作ってからでもギリギリ行ける!」

 

言うが早いか、エムルを連れてサンラクは慌ただしく去って行き、ペッパーとアイトゥイルもレベリングに向けて動き始めたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードレマの下町エリアに在る、プレイヤーが使用可能で自身のアイテムを預けられる倉庫へ、去栄の残骸遺道にて入手した偶像達を預けたペッパーは、アイトゥイルと共にサードレマの裏路地とスキルを巧みに利用し、街を脱出して神代の鐵遺跡に到着。

 

ペンシルゴンが示したルートを通り抜け、涙光の地底湖に辿り着くや、レベルアップで手に入っていたポイントを幸運に全部振り込み、フィッシングを開始した。しかしペッパーが、サーペントやデストロブスターを望めば望む程、サーモンばかりが釣れていく。

 

物欲センサー……乱数の女神の琴線に触れた場合に発揮される其れは、ガチャで最高レアのキャラクターや武器が引けなかったりした場合、原因となるゲーマー達がプレイする上で少なからず抱える、大問題なのである。

 

此のままではいけないと、ペッパーは悪い流れを断ち切るべく、一度涙光の地底湖から脱出し、サプレスドローンを相手にパリィをしたり、全力キックで蹴り飛ばしたり、地面に叩き付けて紅葉卸しにしながら、己の心を落ち着かせた。

 

彼は物欲を、雑念を祓い、地底湖に舞い戻ってフィッシングを再開。変わらず釣り上げられるサーモン、そして時折サーペント、極稀にデストロブスターと出逢い、戦って戦って戦い続ける。

 

どんなに時間が掛かっても良い、自分が持っているスキルを徹底的に磨け。一戦一戦を大事にして、始めた頃の様にあらゆる方法を試せ。自分の身体に僅かな切り傷を作ってみたり、超至近距離で一撃の被弾で即死するギリギリの戦いを、アイトゥイルと共闘しながら、ペッパーレベルを上げ続け、己を強くしていった。

 

そして、時刻が午後10時を回る頃。遂に其の時は訪れた。

 

「だああああああ!!」

「はああああああ!!」

 

ライブスタイド・デストロブスターの顎を、バフと攻撃スキルを盛りに盛り込んだ、致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)のアッパースイングで打ち抜き、彼女の魔人斬が神経をブツンと断絶。巨大ザリガニは、其の身を構成するポリゴンが爆ぜて砕け散り、ペッパーは自分のレベルが上がるSEと、スキルの変化と進化の表示を見聞きした。

 

「アイトゥイル、お疲れ様。レベリングに付き合ってくれて、本当にありがとう」

「ペッパーはん、本当によく頑張ったのさ。此れでいけるのさ?」

「あぁ。此所まで来れば、後は『実戦訓練』で最終調整を行うだけだ」

 

ユニークシナリオ・兎の国の招待。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンへと挑む為の通過儀礼となる、実戦訓練に向けての修練は此所に整い。ペッパーは己の拳を力強く握り締め、高く突き上げたのであった……。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:ペッパー

 

 

レベル:48

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 25 魔力 10

スタミナ 90

筋力 100 敏捷 100

器用 70 技量 70

耐久力 61 幸運 50

 

 

 

残りポイント:36

 

 

 

装備

 

 

左:ヴァンラッシュブレイカー

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

アクセサリー

 

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

 

所持金:8,347,000マーニ

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

致命極技

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未解放

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未解放

 

 

 

致命武技

 

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】参式→肆式

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】弐式→伍式

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】肆式→陸式

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】壱式→参式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】弐式→参式

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】参式→伍式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】参式→肆式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】壱式→参式

 

 

 

スキル

 

・デッドリースラッシュ

絶華逸突(ぜっかいっとつ)

・パウリングプロテクト→セツナノミキリ

・ブーメランスロー→スワロスキースロー

・グロリアス・ストラータ レベル4→レベル8

・ペガサロスワーク

・グラナートストライク

・バルバドスインパクト

・ウルティモアス レベル5→レベル7

・アンブレイカブルソウル

決戦爍拏(けっせんしゃくな) レベル5→レベル7

遮那王憑(しゃなおうつ)

・ドリフトステップ→選択可能

・ストリームアタック→疾風連紲(しっぷうれんせつ)

十断斬首(じゅうだんざんしゅ) レベル5→レベル6

・ボルテックスムーヴ→迅雷刹華(じんらいせっか)

・アクタスダッシュ レベル9→レベルMAX

・ステックピース レベル7→レベルMAX

・握擊 レベル8→レベルMAX

・投擲 レベル7→レベルMAX

・プレジデントホッパー

・スカイウォーカー

・ソウルジェネレート

・クロスインパクター

・ファイズフリップ→シクセットフリップ

・ナタラージャ レベル2→レベル6

命撃鐵破(めいげきてっぱ) レベル9→レベルMAX

英雄志願(ウォーレヴ.ヒロイック)

烈光仙迅(れっこうせんじん) レベル1→レベル3

凪静水面(なぎしずむみなも)

連刀九刃(れんとうくじん)

罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)

・イモータルヴァーツ

・ブレイク・セリオン

速刃(そくじん)霧払(きりばらい)】→速刃(そくじん)雨払(あめばらい)

・チェインズアップ レベル5→レベルMAX

・チェインズブート レベル4→レベル9

一振両断(いっしんりょうだん)儷紲一剣(れいせついっけん)

隕石落蹴(メテオ・フォール)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・ベラスティ・ニー

・ジェスター・タロス

・ハンズ・グローリー レベル3→レベル8

・パワースラッシュ レベル5→レベル8

・ナックルラッシュ→選択可能

・ブランシュ・クロッサー レベル4→レベル8

・ライオット・スート→レコメンド・スート

居合(いあい)切羽(きりばね)】→居合(いあい)切翼(きりつばさ)

・クロスインディクション→アイズオブセスティ

・デュエルイズム→纐纈戦々(こうけつせんせん)

・バーストダッシャー レベル2→レベル6

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル2→レベル5

・ハードスマッシュ レベル3→レベル6

閂昏打(かんぬきこんだ) レベル3→レベル7

・ファイティングスピリッツ レベル2→レベル6

・ナイフズタクト レベル1→レベル4

・フェイローオブスロー レベル2→レベル4

・スクーピアス→スパイラルエッジ

・ドロッパーストンプ レベル4→レベル7

・ハイランナー レベル3→レベル7

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル1→レベル5

・トーテン・タンツ

・ヴィールシャーレ レベル1

・ゲニウス・チャージャー レベル1

 

 

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準備は此所に整った



サンラクの新装備紹介



デスタイト・フィスト:両手装備の小型籠手。ライブスタイド・デストロブスターの中でも、取分強靭な前鋏を用いて作られた其れは、堅き一撃を以て阻む敵を撲り砕く。

装備条件:筋力25 器用25 技量30

攻撃及びパリィ時、敵に3%の追加ダメージを与える。

装備者の心拍数が一定以上の場合、自身が受けるダメージを減らす。


命湖鱗の腰当て:腰装備。ライブスタイド・レイクサーペントの鱗を使用した腰当てで、其の身に命を喰らいし者の力が宿された其れは、纏う者に水に生きる者の力を食らって、其の力をより高める力を宿す。

耐久値+200

魚系統の回復アイテムを使用時、回復が確定となり、体力・MP回復量が2倍となる。




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アップデート・アンソロジー



スキル精査と約束の日時決め




午後11時過ぎ、神代の鐵遺跡からサードレマへと戻って来たペッパーとアイトゥイルだったが、大きな問題に直面していた。というのもシャンフロ、と言うよりはオンラインゲーム全般からして、深夜帯に成れば成る程にプレイ人口が比例して増加する傾向に有る。

 

そして脱初心者を果たした開拓者達が、拠点として滞在して大勢のプレイヤー行き交うサードレマ、ペッパーという現在シャンフロを賑わわせる、一人のとんでもないプレイヤーの存在。

 

なれば、何が起きるのか?

 

「ペッパー見なかった!?」

「さっき、此方の方角に行ったよ!」

「ヤッバ!速いね!」

「というか、ペッパーって昼間~夕方を中心にプレイしてると思ってたわ」

「ほんとそれな」

 

胡椒捜索を行うプレイヤー達が、街の至る所に沸いて出ては、野良という淡い繋がりでありながらも、驚異的な連繋を発揮してペッパーを捜しているのだ。

 

「深夜帯のプレイヤー達を甘く見てたわ…!アイトゥイル、ゲートを頼んだ…!」

「了解なのさ…!」

 

やっぱり夜遅くまでプレイするのは、其れ相応のリスクを抱えている事を再認識したペッパーは、アイトゥイルが開いた扉を潜り、兎御殿の休憩室へと帰還する。

 

「今後は時間にも注意しながらプレイしないとだなぁ……。特技剪定所に行って、今日は終わりに━━━『バサバサ……』━━━━んん?」

「フクロウさね……」

 

背後で聞こえた鳥の羽音。振り返って見れば窓際に一羽のフクロウが止まり、同時に『伝書鳥(メールバード)が届きました』の一文が。前回キョージュからジークヴルムについてのスパムメールならぬ、スパムハヤブサを叩き付けられた経験から、ペッパーは複雑な想いを抱えつつ、メールを受け取って。

 

書かれた内容に絶句した。

 

 

 

 

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あーくんへ

 

 

やぁやぁ、あーくん。ペンシルゴンおねーさんだよー。つい数日前に、阿修羅会のメンバー率いてペッパー君達を襲撃した私だけど、此の度私アーサー・ペンシルゴンは、阿修羅会のクランリーダーに退団届を提出して、無事受理されました~。

 

………と言うのはさておいて。本当の所は京極ちゃんと一緒に、ボロクソになって弱ってた阿修羅会を、クランリーダーと主要メンバーの集まる定期集会日を強襲して、全員キルして来ただけなんだけどね?

 

ブクブクに肥って、低レベルプレイヤーばっかりキルしてた奴等ばっかりだったから、主要メンバーは億レベルの、クランリーダーに至っては悪質なリスキルやり過ぎたから、多分兆越えクラスの借金背負ったと思うんだよ。

 

おまけに退職金として、京極ちゃんと一緒に主要メンバーやクランリーダーの持ち物やレアアイテムを、根刮ぎ強奪したから、アイツ等は当分借金返済に追われて、まともな金銭取引すら出来ないし、ウェザエモン所の話じゃなくなった訳だから安心して。

 

此のメールは、オイカッツォ君とサンラク君にも送ってるよ。其れと私の大槍が出来たと思うから、三日以内で空いてる日が有ったら、サードレマの蛇の林檎に集合ね?受け取りに行くから。

 

あーくん、絶対来てよ?お願いね?

 

 

 

アーサー・ペンシルゴンより

 

 

 

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何を考えているか解らないと思っていたが、まさか所属していたクランを京極共々強襲し、潰していた等と誰が予想出来ただろうか。

 

詰まる所━━━━━『邪魔する可能性が非常に高かった阿修羅会を排除して、キルランキング上位の面々が持っていた物を、墓守のウェザエモン攻略の資金の足しにしてしまおう』━━━━━というのが、ペンシルゴンと京極が話していた『アレ』であり、失敗する可能性も有った非常に危険な作戦だった訳だ。

 

「トワの奴、エグい事するなぁ……」

「どうしたのさ、ペッパーはん?」

「前にペンシルゴンと出逢ったよね、アイトゥイル。彼女はあぁ見えて結構エグい事をしてくるから、気を付けてねって意味だよ……」

 

一先ずメールは送信するとして、バイトのシフトに大学の講義日程を思い出しながら、ペッパーは伝書鳥のフクロウを選択。『三日後なら大槍を渡せる』といった予定を打ち込んだ文章をメールに載せて、ペンシルゴンへと送信していった所、同期しているEメールアプリに一通の着信メールが届く。

 

送り主はブシカッツォであり、ペンシルゴンがやった事に対し、ヤベーヤベーと声を挙げては、外道窮まれり等々言いたいように言っていた。

 

「まぁペンシルゴンなら、其れくらい呼吸をするように、当たり前にやらかすよね……っと」

 

ブシカッツォにメールを送信した後、ペッパーは再び伝書鳥機能でフクロウをチョイスし、サンラクへ向けて『ペンシルゴンビックリドッキリ作戦の成功報酬、便秘での組手50連戦を明日やりませんか?』と、伝書鳥を飛ばして伝えた。

 

「さて……さっさと特技剪定所でスキル関連の事、終わらせなくちゃな……。レベリングで熟練度がMAXになったり、選択可能になったりしたから整理しないと」

 

規定レベルまで後2つ、兎の国の招待による実戦訓練を踏まえると、此れ以上のレベリングは50レベル時の動きに影響が出ると考え、レベルが47もしくは48に到達した時点でユニークシナリオに挑戦すると、ペンシルゴンによってもたらされたウェザエモンの情報を見た時から、ペッパーは心に決めていた。

 

と、窓際に一羽のフクロウが止まり、伝書鳥が届きましたの一文。受け取った手紙を開くと、サンラクからのメッセージ。内容は『午後6時に便秘でやろう』との事である。

 

「解った、其れでいこう……と。時間は…やっべぇ日付変わるまで40分もねぇじゃん!アイトゥイル、エルクさんの所へ全速前進だ!」

「は、はいさ!」

 

早歩きかつ大急ぎで特技剪定所へと向かうペッパー&アイトゥイル。夜は深く、深く、更けていく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、ペッパーさぁん。こんな遅くまで活動してるなんてぇ~、随分珍しいわねぇ~?」

 

特技剪定所にやって来たペッパーとアイトゥイルが目撃者したのは、紅玉模様のパジャマ姿のエルクであり、其の脇には可愛らしい枕を抱えていた。

 

「実戦訓練に備えて、結構な追い込みをしてましたからね……。其れでスキルの合成と、極之秘伝書が一つ欲しいんですけど……夜分に訪れてた挙句、いきなりこんな事を言ってしまい、本当に申し訳ありません」

「いいえぇ~。深夜でも、こうしてお金を使ってくれる人が居るならぁ~、私は大歓迎よぉ?」

 

銭ゲバが過ぎるが、此所まで至れば逆に信用出来てしまう不思議である。時間を取らせるのもいけないと考え、ペッパーは早速自分のスキルを確認し始め、手始めに選択可能と成った『ドリフトステップ』と『ナックルラッシュ』を、各々『アクセラレート・ステップ レベル1』と『拳乱夕立(けんらんゆうだち)』に進化。

 

続いてスキル合成で、アクタスダッシュ&バーストダッシャーの組み合わせで『ホライゾン・メロス レベル1』に。握撃とハンズ・グローリーで『アドバンスト・フィンガー レベル1』を、ブランシュ・クロッサーとハイランナーを『激走奮迅(げきそうふんじん)』。

 

チェインズアップにチェインズブートの二つは『デュアルリンク レベル1』、グロリアス・ストラータとステックピースで『ライトニング・シャーレ』となり、投擲に命撃鐵破(めいげきてっぱ)は『業腕一投(ごうわんいっとう)』に生まれ変わった。

 

最後に致命極技の一つたる『致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】』(80万マーニ)を購入した所で、エルクがこんな事を言ってきたのである。

 

「ペッパーさぁん、何時もスキルの秘伝書を買ってくれてる~貴方にぃ、ちょっと『耳寄りな情報』をあげるわぁ」

「耳寄りな情報……ですか?」

「そうよぉ~因みに御値段は、2万マーニで聴けるけどぉ~……如何かしらぁ?」

 

ペッパーは考える。銭ゲバエルクの事だ、おそらく2万マーニでは『最低限の情報』しか、教えてはくれないだろうと。彼女はよく解っている。ならば、敢えて乗ってやろう。そう考えたペッパーは、彼女が提示した金額の10倍、20万マーニをカウンターに乗せた。

 

「うふふ…ペッパーさんならぁ、そうくると信じてたわぁ~……」

「折り込み済みだったか…食えないなエルクさんは」

「良いわぁ。ペッパーさんに耳寄りな情報、教えて上げるわ~」

 

そうしてエルクが喋り始めた情報を、ペッパーとアイトゥイルは傾聴し。日付が変わった頃、其の話を聞き終えたペッパーはシャンフロからログアウトしたのであった………。

 

 

 

 

 

 






実戦訓練に向けての総仕上げ、完遂




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クソとレトロの便秘50組手勝負



さぁ始めよう、僕等の戦いを




シャンフロにて、エルクから『耳寄りの情報』を手に入れてから15時間30分が過ぎた。現在の梓はコンビニのバイトを終えて、帰路に着こうとしていた。

 

「お疲れ様でしたー」

「はーい、おつかれさーん」

「お疲れ様でーす」

 

入れ替わりのバイト店員に仕事の引き継ぎを御願いし、梓は衣服を着替え終えて、裏口から外へと出る。初夏と温暖化の影響が近年酷くなっている事だけあり、じんわりとした肌に汗が沸き、衣服にベットリと古部り付く、嫌な暑さを感じる日々だ。

 

「あっっっづ………。コンビニの裏方の方が、まだ冷房効いてて涼しいわ……」

 

近くの自動販売機に立ち寄り、小銭を挿入してポカリスエットを購入。ゴクリッゴクリッと喉を鳴らして、液体を流し込めば、乾いたカラカラのスポンジの様な身体に、水分がたっぷりと含まれるが如く細胞の一つ一つに染み込んでいくのが解る。

 

「っ………ぱぁ、美味い!やっぱりバイト上がりに飲むポカリスエットは最高だぜ!」

 

スマフォで時間を確認しつつ、思い返すは今日の予定。夜8時からサンラクこと、楽朗(らくろう)との便秘組手50連戦がある。先んじてログインし、バグ技の練習がてら1面のボスを攻略しておく事に決めた梓は、空になったペットボトルを備え付けのゴミ箱に分別し、アパートへと帰って行く。

 

バイト先のコンビニから徒歩で30分弱、午後4時過ぎに自宅のアパートに帰宅した梓は、汗だくの身体と衣服を洗うため、玄関に鍵を掛けるや、着替えの半袖半ズボンのパジャマにトランクスを用意し、洗濯機に衣服を入れ込み液体洗剤を適量加えてスイッチON。

 

其の間にシャワーを浴びて、髪と身体を洗いつつ、うがいも行い、汗と皮脂を綺麗さっぱり流してスッキリし。パジャマに着替えて髪を乾かし、窓を開けて風通しを良くしつつ、水を飲んでシャワー後の涼みを一人満喫する。何気無い事だが、誰かにとってはこんな小さな幸せでも、格別の瞬間でもあるのだ。

 

涼みながらも今日は麺類が食べたいと考えた梓は、確か冷凍庫に冷凍うどんを買っておいた筈と捜索し発見。使い掛けの野菜と余った豚肉も在ったので、消費も兼ねてサラダうどんを作る事に決めるや、即座に行動を開始する。

 

冷凍のうどんを冷凍庫から出し、常温に馴染ませ。鍋に水を汲み、火を付け。野菜を洗い、適切な大きさに切り。フライパンを熱して、油を僅かに注ぐ。鍋の水が沸騰した所でうどんを入れつつ、フライパンで豚肉を炒めて、焼き肉のタレで絡め。少し深い皿とザルを用意し、うどんの固さをチェック。

 

茹でたうどんをザルに開けて、冷水に通しつつも、其の傍らで肉を炒め終えて、火を消し。押し込む様にしてキッチリと水気を切り、深皿にうどんを乗せて野菜と肉をトッピング。仕上げにゴマだれドレッシングを掛ければ、余り物野菜と肉のサラダうどんの出来上がりである。

 

「我ながら、惚れ惚れする出来映えだわ……」

 

俎を先に洗い、スマフォを用意し、パシャリ。いただきますと共に合掌一礼、そして一気に食す。啜り啜り、噛み噛み、また啜る。完食するまでそう時間は掛からなかった。

 

手を合わせ、御馳走様でしたと唱え、食器とフライパンを洗って拭き上げ、何時も通りのプレイ環境構築と指差し確認。ソフトをシャンフロから便秘に切り替え、ブラックペッパーとなり、久し振りのログインを果たす━━━━!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、相変わらずの過疎り具合ですよねー」

 

流石便秘、夕方だろうと人が居ない。寧ろ此の過疎っぷりが、便秘だと安心出来てしまう。コンテンツ維持的には新規プレイヤー参戦や、プレイ人口減少阻止は必要不可欠。プレイ人口の減少は人間の出生率共々、サービス終了に直結し得る、大問題待った無しなのだが。

 

「サンラクが来るまでに、肩慣らしがてら操作感を復習しますか」

 

どのゲームにも操作を学び、経験を積むチュートリアルステージが存在するように、便秘にも其れは存在している。其れが1面であり、ラスボスの放った部下か、幹部の一人だったか、ソイツが支配しているテリトリーを攻略し、ヘッドとなって他のエリアを征服。最後に待つラスボスに辿り着いて倒す事が、大まかな流れであった筈だ。

 

「さぁ、そんな訳でやって来ました1面ステージ」と、RTA解説走者の様な言葉を呟きつつ、以前サンラクがやっていた『ドッペルゲンガー』ラウンド開始前に行い、立ち塞がる敵をモドルカッツォやサンラクから、あの日刻み付けられたバグ技を使いまくり、次々と薙ぎ倒す。

 

「確かに発生も速いけど、上位クラスの二人に骨身に染みる程、超発生・攻撃速度・理不尽の三種の神器を食らいまくったんだ!ボスでもない相手に負ける程、俺の精神は柔じゃないよッ!」

 

ゴムパッチンから派生し、あの日に生まれたバグ技。無数のゴムパッチンをガトリング砲の様に展開し、敵を超スピードで連続して蹴り砕くバグ技で吹き飛ばし、辿り着くは1面のボス。

 

何処ぞの鉄仮面に癖強ボイスを響かせながら、魔改造バイクより跳躍。からの見事な空中三回転霧揉み着地で登場した男は、此方に人差し指を向けては何かを言っている様子。

 

長々となったので超意訳すると、だ。『俺様の部下をぶん殴ったテメェは、俺様にぶん殴られなきゃあならねぇ!!』という、見た目に反して仲間思い溢れる奴だった。

 

其れでも倒さなくてはストーリーは進行しないので、ラウンド1でドッペルゲンガー+展開キックバグ技で踏み荒らし、ラウンド2では『メタモルフォーゼ』で絞め落とす形を以て、1面をクリアしたのである。

 

「うん…大丈夫そうだね。ふぅ…んじゃ、行くとしましょうか」

 

時刻は午後5時半過ぎ、約束はもうすぐ其処に迫っている。急ぎ走る形で廃墟ビルが乱立していた、過去の都市部の面影が残る場所に戻って来たブラックペッパーは、自分が使えるバグ技とサンラク・モドルカッツォが使ったバグ技を思い出しながら、脳内シミュレーションで戦略を組み立てていた。

 

(サンラクの一番ヤバい技は『あの居合みたいな技』だ。正面180度…とはいかないが、およそ120~130度の攻撃と防御に関しては、アレで防がれると考えて良いだろう。

 

なら『上や地中からの攻撃』は対応出来るか、何度敗北しても良いから、ちょっと確かめてみるかな。無論、勝つつもりの全力の戦いをしながら……ね)

 

ゲーマーとは何時だって『挑戦する心』が重要になる。ワクワクを、未知を。心より楽しみ抜けるか、強敵と戦って勝利を勝ち取れるか、其れはモチベーションと同じく重要な要素であり、素質なのだから。

 

と、目の前でポリゴンが構築され、頭上のプレイヤーネームに『サンラク』を掲げる男性プレイヤーがログインしてきた。

 

「お、来たねサンラク」

「待ったか、ブラックペッパー?」

「いんや、ストーリーモードの1面ボスを、準備運動がてら倒してきた。サンラクとモドルカッツォが、たっぷり体験させてくれたバグ技のお陰でね」

「そりゃ良かった。………じゃ、やるか」

「あぁ、やろう」

 

戦闘形式はバグでもあり、互いに己の持ち味となる構えを取って。

 

 

 

『ROUND1』

『Ready…Fight!』

 

 

 

クソゲーマー・サンラクと、レトロゲーマー・ブラックペッパーによる、便秘50連戦組手が始まった。飛び交う拳と振るわれる脚がぶつかり合い、互いの体力を先に削り切らんとする、激しい戦いが幕を開けて。

 

そして戦いを始めた二人を、廃墟ビルの一角の影から一人のプレイヤー『ドラゴンフライ』が、目を輝かせながら、見ていたのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

便秘上位プレイヤー・サンラク。モドルカッツォを相手に、彼が主戦上とするVRゲームで勝率三割強を誇るクソゲーマー。ロマン思考が強く、揺るぎ無い筋が通ったプレイスタイル、そして何より厄介なのは『次々と選択肢を突き付けて来る』、其の場其の瞬間の『変幻自在なバトルスタイル』が特徴である。

 

そしてブシカッツォ━━━此の世界のモドルカッツォ曰く、自身のテンションとボルテージが高まる程に、サンラクは更に強くなっていくとの事。後はエナジードリンクをキメた(・・・)場合、もっと手が付けられなくなるのだとか。

 

「ぐあっ……!?あああぁ、また負けたぁ!!」

「ハッハー!此れで29連勝だぜぇー!」

 

パイルバンカーを脚パリィで弾いたまでは良かったが、追撃のゴムパッチンで吹っ飛ばされたブラックペッパーの体力が0となり、サンラクは歓喜に吠えていた。おそらく現在のサンラクは、テンションとボルテージが極めて高い状態に在ると見て間違いない。

 

更にエナジードリンクも確実に飲んでいる可能性も含めれば、此所まで彼の体力を半分以上削れていない事に対して理由が付く。

 

「負け越し確定だろうが、一回は勝たせて貰うぞサンラク!」

「応よ、掛かってこいやブラックペッパー!」

 

30回目のゴングが鳴る。10回以上戦って居れば他のプレイヤーが気付き、20回を越えればログインしてきたプレイヤー達が遠くから見物を始めて。

 

「いけー!サンラクー!」

「負けんなー!ブラックペッパー!」

「ってか何、今のバグ技!?新しいの!?」

「何でも新規プレイヤーが見つけたって言う……」

「其れブラックペッパーなんだよな」

「えっマジで!?」

 

応援する者、新しいバグ技を検証する者、実際に再現して見る者等々、此の日のベルセルク・オンライン・パッションは過疎ゲーとは思えない、一際の賑わいを見せている。

 

そして35を越え、40回目の組手に差し掛かった頃、此迄やられっぱなしであったブラックペッパーの動きが、少しずつサンラクの動きに着いていけるように成り始めてきたのだ。

 

(何となくペッパーの動きをシャンフロで見てきたけど、コイツの『スタイル』がやっと解ってきた……!太刀筋や毛色とか色々違うが、ペッパーは『ディプスロ』に近しいタイプのプレイヤーだ………!)

 

相手を理解する程、情報を手に入れる程、ゲームの理解を深める程、総じて強くなっていき、最後には攻略難易度が跳ね上がるプレイヤー。嘗てスペクリを滅ぼした、ディープスローター程の隔絶した応用力は無いにしても、便秘での超発生の攻撃速度に適応しつつ、ヒット&アウェイ作戦を絡めれた攻撃で、ダメージを与えられる場面が増えてきた。

 

其れでもまだ、サンラクの代名詞たる『居合フィスト』の突破口を見出だせて居ないようだが、49回目を終えた段階でブラックペッパーは、後一歩でラウンドを奪取出来る場面が増えてきた。

 

そして最終決戦となる50回目、其のROUND2。サンラクが先取し、後が無くなったブラックペッパー。

 

「はああああああ!!」

「おおおおおおお!!」

 

幾度も幾度も打ち落とされ、其の度に磨き続けたパイプオルガンと、対バグ技の到達点たる居合フィストのぶつかり合う。

 

パイプオルガンの脚のポリゴンが居合フィストの打撃に弾かれ飛び散り、何度も光景を見てきた他のプレイヤー達には、またしてもサンラクの勝ちでブラックペッパーの負けかと思っていた。

 

「だったら……『増やす』だけッ!」

「!」

 

ブラックペッパーは此所までの戦いを統計・統合し、サンラクの繰り出す居合フィストを相手に、現時点の連続バグ技キックでは(・・)根本的に数が足らない事に気付き。

 

戦闘を積み重ねる中で、彼は自分自身の蹴りのモーションが、居合フィストよりも遅い事に気付き。脚を繰り出して戻す迄に、何処まで上げたなら発動し、何処から不発に成るかを検証し続けた。

 

戦いの最中でも続けた、蹴りバグ技の習練。最適化していった、脚の振り上げと降り戻し。最後の最後に一矢報いてやると、心の内に燃やした執念。

 

其の結実か、此迄の比較に成らない所か、洒落にならないレベルで増大し、ブラックペッパーの両脚が展開。密度によって押し出され続けた結果、『プラネタリウム』のように成った其れを見て、サンラクと見物していたプレイヤー達、そして実際にやった本人の目が飛び出し。

 

そしてサンラクは「実際に食らってみよう」と遺言の言った瞬間、降り注ぐ脚にタコ殴りならぬタコ蹴りにされまくり、体力が0となって。ブラックペッパーは此の日漸く、自身が目標としていたROUNDを1つ奪取する事に成功したのだった。

 

尚其の後のROUND3では、サンラクがドッペルゲンガー+居合フィストでブラックペッパーをボッコボコにし返し、最終的にブラックペッパーはサンラクに、1勝100敗の大敗を喫する事になったのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~…やっぱり強いね、サンラク」

「お前もスゲェよ、ブラックペッパー。最終戦のROUND2のアレも、連続キックが発展したバグ技な訳だから、実際食らってみてヤバい奴って認識出来たわ」

 

便秘組手50連戦を終えて、ボロボロのブラックペッパーを見下ろすサンラクは、勝ち越せた事に加えて、新しいバグ技の最初の犠牲者になれた事を、喜んでいるようだ。

 

「おーい、サンラク!ブラックペッパーの繰り出した、さっきの技2つ共ちゃんと再現出来たわ!ドーム状は脚の振り抜きはシビアだが、やれなくも無いぜ!」

「マジでアレはエグいな。ガトリングみたいな奴と違って、単発攻撃なのがまだ救いだわ」

「やったなブラックペッパー。さっきのバグ技、名前は決めてるか?」

 

便秘では新しいバグ技を発見し、検証勢が実際に確かめ、再現可能である事が確認出来れば、発見者に名付けの権利が与えられるのだ。

 

「そうだな……連続キックは『パイプオルガン』、ドーム状は『プラネタリウム』……って、流石に安直かな?」

「お、良いじゃん其の名前。皆ー、ブラックペッパーがパイプオルガンとプラネタリウムにするってさー!」

「えっちょっ……」

 

サンラクの声に『『『意義なーし!!』』』と他のプレイヤー達も同調して、便秘にて正式なバグ技として認定される運びとなった。

 

「……まぁ良いか。戦ってくれてありがとな、サンラク」

「あぁ。またやろうぜ、ブラックペッパー」

 

「次は負けないよ」と差し出した手で握手を交わし、サンラクとブラックペッパーは其の場を移動。50連戦組手の中で、御互いにあの場面は何を考えていたのかを質問しあっていると、一人のプレイヤーが「あ、あのっ!」と声を掛けてきた。

 

振り向くと金のショートヘアの、右頬に引っ掻き傷。肩に刺付きのアーマーが付いた初心者の衣裳と、中性的な体格をしたプレイヤー。其の頭上にはプレイヤーネームとして、ドラゴンフライが掲げられていた。

 

「えっと……ブラックペッパーさんとサンラクさん、でしょうか?」

「は、はい。そうですが……?」

「どーも」

 

ペコリと御辞儀するブラックペッパーに、フランクな態度で答えるサンラク。対してドラゴンフライは、驚くべき発言を放ってきたのだ。

 

「御二人共、凄い戦いでした!私、今日始めたばっかりですが!あんな技を繰り出せるように、頑張りたいです!」

「「えっ」」

 

まさかの新規参戦者の降臨に、二人は目を丸くする。そして此の時のドラゴンフライとの出会いが、後々にシャンフロにて、ペッパーとサンラクに一波乱巻き起こす事に成るのだが。

 

其れはまだ、先の話である……。

 

 

 

 






新技と新規プレイヤー参戦




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最終調整は実戦訓練で施すべし



ペッパー、ユニークシナリオ攻略へ




サンラクとの便秘組手50連戦の翌日。コンビニバイトはシフト休みであり、講義を午前中受けて午後完全フリーを手にした梓は、アパートの自室に帰還後諸々の準備と確認後、便秘からシャンフロに切り替えてログインしていた。

 

「あ、ペッパーはん。こんにちわなのさ」

「やぁ、アイトゥイル。こんにちわ」

 

兎御殿の休憩室にて目覚めると、相棒の黒毛のヴォーパルバニー・アイトゥイルが近くに座っていた。其れを見ながらペッパーは、彼女に向けて『クエスト』を受ける旨を表明する。

 

「アイトゥイル。随分待たせたけど、今日『実戦訓練』をやるよ」

 

ユニークシナリオ・兎の国の招待。其処で待っているのは『ヴォーパルコロッセオにて行う、モンスターとの10連戦』というものしか情報が無く、ペッパーも完全初見の戦いの為、何が起きるか全く予想出来ず、解らない事だらけである。

 

しかし、ユニークモンスター・墓守のウェザエモンに挑む為には、此れを『通過儀礼として越えなくてはならない』と、ヴァイスアッシュとの約束が有るので、遅かれ早かれ越えねばならぬ試練だった。

 

「フフフ…とうとう来たさね、ペッパーはん。早速ヴォーパルコロッセオに行くのさ?」

「此所までレベリングも、確りやって来たからな。ただ、最後にポイント振り分けだけさせて欲しい」

 

ステータス画面を開き、ペッパーは残された36ポイントを慎重に振り分けていく。

 

「体力は30越えれば良いから、そうなるとスタミナと技量器用に振り込んで……此れでステータスは良いかな?」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:ペッパー

 

 

レベル:48

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 31 魔力 10

スタミナ 110

筋力 100 敏捷 100

器用 75 技量 75

耐久力 61 幸運 50

 

 

残りポイント:0

 

 

装備

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

 

アクセサリー

 

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪

 

 

所持金:7,341,000マーニ

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

致命極技

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未解放

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未解放

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未解放

 

 

 

致命武技

 

 

 

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】肆式

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】伍式

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】陸式

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】参式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】参式

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】伍式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】肆式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】参式

 

 

 

スキル

 

 

・デッドリースラッシュ

絶華逸突(ぜっかいっとつ)

・セツナノミキリ

・スワロスキースロー

・ライトニング・シャーレ

・ペガサロスワーク

・グラナートストライク

・バルバドスインパクト

・ウルティモアス レベル7

・アンブレイカブルソウル

決戦爍拏(けっせんしゃくな) レベル7

遮那王憑(しゃなおうつ)

・アクセラレート・ステップ レベル1

疾風連紲(しっぷうれんせつ)

十断斬首(じゅうだんざんしゅ) レベル6

迅雷刹華(じんらいせっか)

・ホライゾン・メロス レベル1

・アドバンスト・フィンガー レベル1

業腕一投(ごうわんいっとう)

・プレジデントホッパー

・スカイウォーカー

・ソウルジェネレート

・クロスインパクター

・シクセットフリップ

・ナタラージャ レベル6

英雄志願(ウォーレヴ.ヒロイック)

烈光仙迅(れっこうせんじん) レベル3

凪静水面(なぎしずむみなも)

連刀九刃(れんとうくじん)

罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)

・イモータルヴァーツ

・ブレイク・セリオン

速刃(そくじん)雨払(あめばらい)

・デュアルリンク レベル1

儷紲一剣(れいせついっけん)

隕石落蹴(メテオ・フォール)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・ベラスティ・ニー

・ジェスター・タロス

・パワースラッシュ レベル8

拳乱夕立(けんらんゆうだち)

激走奮迅(げきそうふんじん)

・レコメンド・スート

居合(いあい)切翼(きりつばさ)

・アイズオブセスティ

纐纈戦々(こうけつせんせん)

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル5

・ハードスマッシュ レベル6

閂昏打(かんぬきこんだ) レベル7

・ファイティングスピリッツ レベル6

・ナイフズタクト レベル4

・フェイローオブスロー レベル4

・スパイラルエッジ

・ドロッパーストンプ レベル7

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル5

・トーテン・タンツ

・ヴィールシャーレ レベル1

・ゲニウス・チャージャー レベル1

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

思えば此所まで格上を相手取り、戦いを積み重ね続けて、24レベルから48まで実に4倍に渡る戦闘回数を経験したのだなと、ペッパーは感慨深くなった。

 

スキルも進化や合成、変化を踏まえて整頓されたが、此所まで共に戦ってきた頼もしい手札達、切るべきタイミングで切れば、どんな相手にも通用するだろう。

 

「アイトゥイル、準備が出来た。ヴォーパルコロッセオに向かおう」

「はいさ!」

 

いよいよ始まるは、モンスターとの戦い。此所までの総決算、ユニークモンスターへ挑む為の試練だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパーはん、此所がヴォーパルコロッセオ。以前ジークヴルムはんと一緒に舞い降りたから、詳細は省くけども此所からの戦いは『致命武器以外の使用は禁止』するのさ」

 

中世の闘技場の様な設備と観客席、そして致命魂の首輪に着いた刺繍と同じマークが刻まれたフィールドに着いたペッパーは、アイトゥイルから実戦訓練の詳細説明を受けていた。

 

「あと、リスポーンしてもデメリットは無いから、安心してなのさ」

「成程……因みに『アイテム』の使用禁止は、されてたりとか……」

「アイテムは大丈夫、致命武器以外の使用禁止以外は特に制限は無いのさ」

 

武器以外は特にルールが設けられていない事を確認し終え、ペッパーは時間を確認する。現在は午後1時を過ぎており、日没までおよそ5時間弱。つまり其の間に10体のモンスターを攻略出来なければ、残照が付いた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)が夜の時間帯で使えなくなり、打撃のみで倒さなくてはならなくなる。

 

「……解った。アイトゥイル、1体目を頼んだ」

「はいさ。ペッパーはん、御武運を祈るのさ」

 

ヴォーパルコロッセオの観客席に跳ね上がり、アイトゥイルは一画に在る、鎖を手回し車で巻き上げていく。すると目の前の門が開かれ、中から現れたモンスターを目撃したペッパーは、目を丸くして固唾を飲んだ。

 

何故なら、彼は其れを一度見た事がある。巨大な鋏、鋭き爪、穿ち貫く針、そして……………

 

 

全身の全てを覆い尽くす水晶(・・・・・・・・・・・・・)を。

 

 

 

 

 

 

 

水晶群蠍(クリスタルスコーピオン)、だと…!?」

 

 

 

 

 

 

 

『ユニークシナリオ・兎の国の招待』

『実戦的訓練・1体目』

水晶群蠍(クリスタルスコーピオン)1体 レベル111』

 

 






試練を越えよ、最強へ挑む為




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愚鈍なる強者を超えるは、気高き弱者であれ



実戦訓練は続く




「…………マジかよ」

 

ヴォーパルコロッセオの休憩室にて、実に『12度目』となるリスポーンをしたペッパーは、一人ポツリと呟いた。

 

「アレが複数所か、雪崩で押し寄せて来るとか……。ヤバいだろ絶対死ぬわ。………実際、単体でも死んだけどさ」

 

水晶群蠍(クリスタルスコーピオン)。ペッパーが嘗て、水晶巣崖(すいしょうそうがい)にて遭遇した、水晶を纏う巨大な蠍である。其れがまさか、実戦的訓練の1体目で相手をしなくてはならないと、誰にも予想出来る訳がない。

 

レベルカンスト間近のビィラックが、水晶群蠍相手に間違い無く死ぬと言った理由を、実際に戦闘を経験した事で、彼は其の意味を真に実感した。

 

「ペッパーはん、大丈夫なのさ?」

「あぁ……あの巨大蠍が『普通の戦い方』じゃ、倒せないってのが解った。そして『アイツのモーション』も大分把握出来たし、次は勝ちに行ける」

 

致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)を左手に装備し、13回目となる水晶群蠍戦に臨む。

 

「さて、水晶群蠍。俺は唯々殺られっぱなしで終わっていた訳じゃ無いんだ」

 

突進してくる水晶群蠍に、ペッパーはステップ関連の移動時に、重力作用を軽減する『ペガサロスワーク』で、ゆらりふわりと動き回り、移動・攻撃モーションを吹き荒ぶ風の様に、スタミナ消費で加減速を変幻自在に変更する『疾風連紲(しっぷうれんせつ)』を使い、大鋏の横薙ぎ一閃攻撃を躱わして蠍の『頭』に着地する。

 

「幾度か叩いたから解るが、お前さんの『針の硬度』は全身に纏っている水晶より、ずっと『堅い』のが解った。じゃあ其れを、頭に乗ってる俺に向けて刺してくるならば……一体どうなるんだろうな?」

 

差し迫る水晶群蠍の針。ペッパーは其の攻撃に対して避ける事をせず、致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】の自動発動を以て回避を行い。水晶群蠍の頭を守る晶殻と針がぶつかり合った果て、晶殻が砕け散りて其の穂先が脳天に突き刺さった。

 

「其の針、もっと深く刺してやる…!」

 

決戦爍拏(けっせんしゃくな)による超至近距離の打撃ダメージ補正追加、英雄志願(ウォーレヴ.ヒロイック)による格上相手へのバフ、ソウルジェネレートで体力減少を引き換えに筋力増加、破壊属性の強化たるイモータルヴァーツに、近距離での戦闘でバフを入れるファイティングスピリッツ、そして打撃攻撃のクリティカルを補正と強化を行う、ブレイク・セリオンのバフスキルを点火。

 

致命の小鎚を振って致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】で針を押し込み、続けて様にウルティモアス・鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】・ハードスマッシュ・閂昏打(かんぬきこんだ)・ドロッパーストンプの追撃を着弾地点、丸く満月に刻まれた刻印に重ね合わせ、乗算された衝撃がパイルバンカーとなって水晶群蠍の脳を突き刺し、二撃決殺と成って破壊する。

 

衝撃に震えて、水晶群蠍を構成するポリゴンが爆散。此所に実戦的訓練・1体目、水晶群蠍に勝利を納めたのだった。

 

「ペッパーはん、御見事なのさ。次の相手と戦うのさ?」

「スキルの再使用時間(リキャストタイム)を終えてからだな。あと、少し休憩も」

 

己のスキルが使えるようになるまで、ペッパーはヴォーパルコロッセオの中心点で禅を行うように、深い呼吸を行いながら精神を落ち着かせていく。

 

そしてスキルが使えるようになり、彼は2体目となるモンスターへと挑むのだった………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此所に記載するのは、ペッパーが挑んだ兎の国の招待・実戦的訓練で戦った、モンスター達の記録である。

 

 

 

2体目、プラタヌクス・ホォーラクス。戦闘開始と同時にフィールド全体を蟻地獄状態に変えてくる、前鋏のサイズからして6mは下らないアリジゴク型のモンスター。

 

平面だろうが壁が有ろうが悪路だろうが全力疾走出来、悪路だと加速力が跳ね上がる、ホライゾン・メロスで壁際まで避難後、壁を伝ってジャンプ系統スキルを用いて空中に飛び上がり、投擲玉・炸音で地上に引き釣り出した所、異常発達した腹部が見えた。

 

気絶している状態になったので、致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)で斬撃スキルで滅多斬りと、刺突スキルで滅多刺しにして勝利。尚、最後っ屁に体液を身体にぶちまけられて、衣服が汚れる羽目に。毒は無かったけど。

 

 

挑戦回数:1回

 

 

3体目、ルートエンド・ミノタウロス。御伽噺に出てくる、こってこての牛頭怪人で両手武器の大戦斧を持っている。半径3mの決殺距離(キリングレンジ)で振るわれたら、先ず間違い無く死ぬ。

 

なので、斧の上段唐竹割りを誘発させて、三日月巴でミノタウロス本体をぶん投げから分離、斧をインベントリに回収すると、ミノタウロスは突進攻撃しかしなくなった。

 

其の突進攻撃でも破壊力が半端では無いので、脳天に致命の包丁を突き刺して、突進攻撃で壁に激突させて脳を破壊し、勝利を納めた。後、インベントリに入れた斧が、ドロップアイテムとして加わっていた。俺、両手武器使えないんだが………。

 

 

挑戦回数:6回

 

 

4体目、エブリシング・モスキート。必ず20匹以上で出現するダニの身体に蚊の四肢と頭を持った、虫とかダニとか駄目な人には徹底的に刺さるヤバい相手。常にプレイヤーの半径5mを徘徊し続け、皮膚に接触すると一瞬で体力とMPをドレインして殺してくる。おまけに本体は物凄くちっこいくせに、蝿の様に機敏に動き回り、反応も滅茶苦茶速いせいで、攻撃が全然当たらない。

 

コイツ等をわからせる為、一旦実戦的訓練を中断。アイトゥイルと共にエンハンス商会サードレマ露店通り支部に行き、投擲玉・炸臭と呼ばれる特定のモンスターを惹き付ける玉と、着弾地点に火を放つ投擲玉・炸火を購入。

 

炸臭でエブリシング・モスキート達を引っ張り、炸火で燃やしてやったら、今まで苦労したのは何だったのかレベルで、あっさりと倒しきれた。クリアにはなったので良し。

 

 

挑戦回数:10回

 

 

5体目、嘲り嗤う影法師(グルナー・グリンセリン)。アイトゥイル曰く『相対者の影を模倣し、本体と遊ぶ事を生き甲斐としている』らしいドッペルゲンガー。自身の影から産まれているので、性能は兎に角強い。自分と自分が戦うと、普段見えない事も見えてきたので、非常に楽しいし勉強になる。

 

戦闘開始から10分経過して、あらかたスキルを出し切った所、満足したのか霧散して消えていった。消え行く直前に「戦ってくれてありがとう」と伝えたら、フード付きの黒いトレンチロングコートらしき物を落として、朗らかに笑っていたのが印象的。嘲り嗤うというよりは、悪戯っ子みたいな。

 

どうやら胴装備らしく、PKerは即死するが普通のプレイヤーは装備中に限り、プレイヤーネームを隠せるという内容だった。因みに耐久値+2000……神防具かな?あとレベルが1つ上がって、スキルのレベルアップと新スキルを習得出来た。防具云々抜きにして、また戦いたいと思える強敵。

 

 

挑戦回数:4回

 

 

6体目、オーヴェルワーウルフ。高ステータスと柔術使いの狼人間、ただ其れだけ。強いて言うなら、グラップルからの頭噛み砕きが大好きなモンスター。

 

顎骨を致命の小鎚と打撃系列スキルで粉砕骨折させ、ダースティ・クラッチで首をへし折って倒した。

 

以上。

 

 

挑戦回数:3回

 

 

7体目、ベホイデッドスライム。打撃は効かない、斬撃は効かない、おまけに触れたら猛毒状態にしてくる相手。触れてから一秒経たずに毒殺された時は、マジでどうやって倒すんだ……と絶望しかけたが、試しに毒消し薬を放り込んだら其の部分だけ毒が中和された。

 

ラビッツで毒消し薬を買い占めて、此れまでの恨みを晴らすかの如く、毒消し薬をブチ込みまくって無害化させてから、体内の核をアドバンスト・フィンガーで摘出、業腕一投(ごうわんいっとう)で空に放り投げて、ナタラージャで蹴り砕いて倒した。

 

二度と相手したくないわ。

 

 

挑戦回数:40回

 

 

8体目、ゴブリン・聖騎士(パラディオン)。何で聖騎士?と思う疑問も、コイツの剣筋で瞬く間に掻き消された。いや、滅茶苦茶綺麗だし凄いんだけど。ナニコレ、聖騎士の技を完全模倣してるの?ってくらい強い。

 

ただ言ってしまえば、ゲームの剣客の師匠に比べて天と地の差があって、モーションを理解して剣を弾き飛ばせれば、倒す事は出来た。

 

次遇う時は、他の武器で戦いたい。

 

 

挑戦回数:5回

 

 

9体目、ストーム・ワイバーン。四翼で兎に角素早く飛び回って、上空より口から放つ風のブレスがヤバいドラゴン。此れのせいで空中系・ジャンプ系のスキルが軒並み腐った。

 

飛翔能力を支えているのは、背中の四翼であるために其処を潰せれば、何とか成る……とはいかずに、地上に降ろせても普通に強いと言う罠。

 

寧ろ地上に降りてからが本番じゃあ!と言わんばかりに暴れまくり、持てるスキルの全てを総動員して、何とか倒す事が出来た。単純なステータスの暴力程、厄介で恐ろしい存在である。

 

 

挑戦回数:28回

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~………」

 

27度の死と1度の勝利の果て、大地に横たわりポリゴンを崩壊させ、消えていくストーム・ワイバーンの姿を見届けたペッパーは、肺に重く乗し掛かった二酸化炭素を吐き、此所まで来たのだと想いを馳せる。

 

とはいえ、時刻は5時手前であり、致命の包丁が使える時間は残り僅か。のんびりしていられないが、かといってスキルの再使用時間も、まだ完了していないので、一旦トイレを含めて10分の休憩をする旨をアイトゥイルに伝え、ペッパーは一時ログアウト。

 

現実世界で梓は、最後の敵も相応の強さを誇ると考えながら、ワクワクと不安が入り雑じった感情を胸に秘めて、トイレと水分補給を行い、シャンフロへと再ログインする。

 

「ペッパーはん、お帰りなのさ」

「ただいま、アイトゥイル。実戦的訓練、最後の相手を頼む」

「はいさ。あと其れに関して、オカシラが『ペッパーに相応しい相手を連れて来る』って言ってたのさ」

 

「相応しい相手?」と首を傾げた時だった。

 

「おぅおぅ、ペッパー。案外掛かるたぁ思ったが、随分早く9体目を倒せたみてぇだな」

「オカシラ!」

「先生!」

 

ヴォーパルバニーの大頭・ヴァイスアッシュが闘技場の客席に現れて、其の隣にはローブに身を包む、杖を持つ小さな者の姿在り。

 

其の者がローブを上げると、顔を出したのは『隻眼のゴブリン』であり、其の姿を見たペッパーは其の名を叫ぶ。

 

「ポポンガさん……御久し振りです!」

「久しいの、ペッパー。お前さんの活躍、星や人の噂で耳にしたぞい」

 

嘗てセカンディルの裏路地にて出逢い、ゴブリンの目玉を渡した事で生きる力を取り戻した老ゴブリン・ポポンガ。魔術なのか杖を振るえば、其の小柄な体躯は宙に浮いてヴォーパルコロッセオに降り立ち。

 

そしてヴァイスアッシュは、ペッパーに実戦的訓練の最終内容を伝えた。

 

「ペッパー。おめぇさんの最後の相手は『オイラの古くからの友公(ダチコウ)』、数多の叡知を其の頭に修めた『極星大賢者(スターラウズ)のポポンガ』だぁ。内容は……友公が決めるんだそうだ」

「お前さんに褒められると、やる気がでるわいヴァッシュよ。そうじゃな………」

 

そう言いながらポポンガはペッパーを見て。少し沈黙の果てに最終戦の内容を決定した。

 

 

 

 

 

 

「ペッパー、ワシの攻撃から30秒間生き残って見せんしゃい」

 

 

 

 

 

と…━━━━━━━。

 

 

 






特殊クエスト・第四段階のキーゴブリン




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大賢者の試練と未到を超える勇者



実戦訓練を越えていけ




「ペッパー、ワシの攻撃から30秒間生き残って見せんしゃい」

 

ユニークシナリオ・兎の国の招待。受注プレイヤーのレベル以上の、およそ2倍以上のレベル差が有る、遥かに格上のモンスターを相手取り、途中で中断有りの10連戦を行うミッションの最後の1体。

 

挑戦者ペッパーの前に現れたヴァイスアッシュと、彼の友にして極星大賢者(スターラウズ)の二つ名を持ちし老ゴブリン、ポポンガより告げられた内容に彼は目を丸くしていた。

 

「えっ……30秒、ですか?」

「そう。30秒生き残れれば、実戦訓練は終了じゃ。準備は出来とるかな?」

 

ヴァイスアッシュの友、ポポンガ。僅か30秒という最後にしては圧倒的な『異質さ』。数多のレトロゲームをプレイしてきた経験から導き出されるのは、初撃から即死級の攻撃を放つという結論で。

 

ペッパーはポポンガと向かい合い、致命の小鎚を取り出しながら構える。

 

「よろしくお願い致し『金星の光迅(ヴィーナス・レイ)』まッッッッッッ!?」

 

構えを行った事が戦いの合図として認定されて、カウントダウンの開幕と同時に、ポポンガの杖先から放たれた発生1フレームに匹敵する、『金色の閃光』がペッパーを切り割かんとし。

 

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】の自動回避によって、紙一重で其の一閃は彼の頭上を掠めていった。

 

(━━━は?何、今の……?)

 

其れがペッパーの思った事であり。しかしそんな彼にポポンガは、思考時間も弱音を吐く事さえ許さぬ、新しい攻撃をぶつけてきた。

 

「『火星の怒号(マーズ・ゲネト)』」

 

自分の足元に赤い、紅く、朱に燃える熱。出し惜しみしたら死ぬ━━━そう感じたペッパーは疾風連紲(しっぷうれんせつ)迅雷刹華(じんらいせっか)以外の、移動系列のバフスキルの全起動。並びに不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)窮速走破(トップガン)】を使う。

 

もし、此れで失敗したら。自分はきっと、ポポンガの試練を攻略出来ない。其れは此れまで攻略した、レトロゲームで培った幾多の経験から成る、己のゲーマーとしての『勘』と、絶対の確信を持って言える『予感』だった。

 

退避、疾駆、激走。同時に先程迄、己が居た場所から『火炎の柱が立ち上ぼり』、地面を爆砕しながら此方へ迫り来る。不世出の奥義によって支えられた、爆裂的な加速と敏捷に無尽蔵のスタミナにより、ペッパーは其の攻撃を逃れ━━━━

 

「『木星の豊乱(ジュピター・ソドム)』」

 

━━━━━られていない。

 

「だわあああああ!?」

 

『天より降り注ぐは翡翠色の石柱の乱下』。此方の逃げ道を塞ぎ、あまつさえ取り囲むようにホーミングしながら、迫る其れを小刻みにステップを踏み、常に周りを確認しながらスキル:アクセラレート・ステップで其の動きはスムーズに成っていく。

 

「なんつー攻げ「『水星の歌声(マーキュリー・セナ)』」きぃ!?」

 

耳元に聞こえたポポンガの声、ヨボヨボの『右手』が自分の首に触れんと迫ってくる。其の手を拒むように、ペッパーはセツナノミキリと共に、ポポンガの右手首を下から叩くように、致命の小鎚を振るって弾く(パリィ)した。

 

(今、一瞬で移動したよな!?魔法的に其れも出来るか!?)

 

「『天王星の河転(ウラヌス・ヴェゼル)』」

 

ポポンガの後ろ、現れるは『空色のオーロラカーテン』。其れがポポンガの周りを薙ぎ払うように、ペッパーに向けて壁のように迫り来る。

 

「うおおおお!と、どっ、けぇっ!!!」

 

跳躍と着地時の重力負荷を減らすセルタレイト・ケルネイアー、空中での視界及び体勢に関する補正を与えるゲニウス・チャージャー、そして二段ジャンプのスカイウォーカーで迫るオーロラカーテンを、走り高跳び選手の如く紙一重のギリギリで避けきり、着地するペッパー。

 

高所からの着地、セルタレイト・ケルネイアーで軽減されたとはいえ、落下ダメージによる足の痺れが襲い。しかしポポンガの攻撃は終わらない。終わる訳がない。

 

「『土星の業厳(サターン・アルアダ)』」

 

ヴォーパルコロッセオの地面が、無作為に鋭利な隆起を起こし、円錐形の攻撃が『五連続で叩き付けられてくる』。

 

「うおわあああああああ!!!!」

 

走り、跳ねて、飛んで。ペッパーは生き延びる事に全神経の注ぎ込み、戦い続ける。

 

「最後の一秒、そして一撃。………越えてみんさい、ペッパー」

 

直後、自身の両足が『底無しの沼地に填まった』様に動かなくなってしまう。

 

「は…!?な、動かな…い!?」

 

絶大な殺気を感知して、ペッパーが首を横に動かせば。天に杖を掲げるポポンガと、杖先から『青く細い水の線』が其処には在って。

 

「『海王星の瀑布(ネプチューン・コラプス)』」

 

振り下ろされる水の線。其の瞬間にペッパーの視界はスローモーションとなって、脳内では此の状況を打開する為の策が、超高速で走馬灯の様に練られ始めていた。

 

(仮にあの水線が『高圧水流を圧縮した』モノであれば、受ける事は文字通り死に直結する!なら弾くか、いや何処を?!水流は論外、可能性は杖!距離は1m弱、普通に迎撃していたら間に合わない!

 

疾風連紲と迅雷刹華で速度を調節、迎撃箇所は杖の横っ腹!全打撃系スキルを絡めて吹き飛ばす以外に生き延びる道はないんだ!

 

覚悟を決めろペッパー!先生が、アイトゥイルが見てるんだ!此所で決めなきゃ男が廃るぞ!)

 

迫る水線が、死刑囚を打ち首にせんとペッパーの首に迫る中、発動される疾風連紲と迅雷刹華のスキル。

 

前者はスタミナを利用した攻撃と移動の、あらゆる速度を変幻自在に変更し、片や後者は移動に用いれば電光石火を成し、攻撃に用いれば火雷大神の如く敵を打ち砕く、文字通りの覇撃に変わる。

 

「うううおおおおおおおおおりゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

己の持ち得る、全ての打撃系スキルを纏った致命の小鎚が、迫る水流の線の発生源たる杖、其の横側へと全力全開の一振を以て、英雄に登り詰めんと望む者の聲と共に、赤黒い輝きは振り抜かれ。

 

極星大賢者(ポポンガ)の杖は、大きく飛んで宙を舞い。そして重力に従い、カロンコロンと地面に落ちて木音を鳴らした。

 

「ハアッ…!ハアッ…!ハアッ、ハアッ…!」

 

数分間振りに呼吸したかのように、体内に滞った空気を総入れ替えをしていく。足は動けるようになったが、まだ何かしてくるかも知れないと、ペッパーはポポンガを含めて周りを警戒した。

 

「…………見事じゃ、ペッパー。ワシの一撃、初見ながら見切られるとは思わなんだ」

 

左手の人差し指を振るえば、転がっていた杖が独りでに浮遊し、ポポンガの手の中に舞い戻る。と、観客席からアイトゥイルとヴァイスアッシュが此方にやって来た。

 

「ペッパーはん!凄いのさ!」

「おぅおぅ、ポポンガ。まぁた派手にやったなぁ」

「いやぁスマンなヴァッシュ。久し振りに気合が乗っちまって、ヴォーパルコロッセオをボコボコにしてしもうたわい」

 

隆起した円錐形、裂き割れた地面、突き刺さる翡翠の石柱。確かに派手な荒れ具合だが、此の30秒間にポポンガが其れだけ本気で撃ってきてくれたと考え、ペッパーは老ゴブリンに向き合う。

 

「ポポンガさん。俺の為に本気の攻撃をしてくださり、ありがとうございました!」

 

アイトゥイルを肩に乗せ、ペッパーは深く深く、直角90度まで到達する御辞儀で、ポポンガに礼を述べる。

 

「カハハ…良い心掛けじゃな、ペッパーよ。そしてヴァッシュや、彼は素晴らしい開拓者じゃな」

「あぁ。何せ『ジークヴルム』に、名ァ覚えられた男だからなぁ」

 

友としての語らいを見ながら、ふとペッパーはポポンガが繰り出してきた技を思い出し、そして何か『違和感』を覚え。しかし、其の思考はヴァイスアッシュが放った言葉によって、掻き消されるのだった。

 

「ペッパー、よくやったなぁ。おめぇさんに『報酬』を与えるぜ」

「報酬…ですか?」

「あぁ。ラビッツの『名誉国民』、おめぇさんをオイラ直々に任命してやるよぅ」

 

名誉国民、其れもヴァイスアッシュから直接認められる形で賜った栄誉に、ペッパーは「ありがとうございます、先生」と深々と頭を下げる。

 

「それと……だ。今のおめぇさんには『ソイツ』はいらねぇだろうな。あと一つ、少し休んでからオイラの鍛冶場に来なぁ」

 

ヴァイスアッシュがパチンと指を鳴らせば、レベル24の時から首に巻き付き、共に苦難を乗り越え、己を強く高みに昇らせた致命魂の首輪が外れ、ポリゴンと化して消滅し。

 

そして其れをトリガーとしたのか、ペッパーのレベルが1つ上がり。同時に目の前の画面には、実戦訓練の果ての結果と、心の片隅で待ち焦がれていた『ある物』の解放を示す、リザルト画面が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試練を越えよ!致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】の習得条件が開示されました』

『試練を越えよ!致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】の習得条件が開示されました』

『試練を越えよ!致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】の習得条件が開示されました』

『ユニークシナリオ【兎の国からの招待】をクリアしました』

『称号【ラビッツ名誉国民】を獲得しました』

『アクセサリー【致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)】が消失しました』

『NPC『風来坊のアイトゥイル』が正式にパーティに加入しました』

『ユニークシナリオEX【致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)】を開始しますか?【Yes】or【No】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(エルクさんに買ってと圧を掛けられた致命極技、レベル50到達で漸く条件開示かぁ……長かったなぁホント。で、アイトゥイルと正式にパーティを組めるようになったり、御世話になった致命魂の首輪がなくなったりしたが、最後の致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)って何?

 

やっぱり先生って、七つの最強種の一角たるユニークモンスターなのか?じゃあ何で、俺やサンラクを鍛えようとしてるんだろう?何か理由が有るのか?其れに鍛冶場に来いって……何かイベントが起きるフラグなのかな?)

 

ウェザエモンのユニークシナリオEXに続き、ヴァイスアッシュのユニークシナリオEXを受注したペッパーは、彼が七つの最強種だという疑問を抱き、アイトゥイルと共に鍛冶場に向かうのだった……。

 

 

 

 






さらば、致命魂の首輪。こんにちわ、ユニークシナリオEX




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まことのかがやき、真化する武器



共に歩みし武器の、更なる力を紡ぎ出せ




 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

PN:ペッパー

 

 

レベル:50

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

 

体力 31 魔力 10

スタミナ 110

筋力 100 敏捷 100

器用 75 技量 75

耐久力 61 幸運 50

 

 

残りポイント:24

 

 

 

装備

 

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

 

アクセサリー

 

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

 

 

 

所持金:7,149,000マーニ

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

致命極技

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

致命武技

 

 

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】肆式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】伍式→漆式

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】陸式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】参式→伍式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】参式→捌式

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】伍式→陸式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】肆式→漆式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】参式→陸式

 

 

 

スキル

 

 

 

・デッドリースラッシュ→マチェット・サイサリス

絶華逸突(ぜっかいっとつ)

・セツナノミキリ

・スワロスキースロー

・ライトニング・シャーレ

・ペガサロスワーク

・グラナートストライク→選択可能

・バルバドスインパクト→選択可能

・ウルティモアス レベル7→選択可能

・アンブレイカブルソウル→戦王の煌心(プライマス・ハート)

決戦爍拏(けっせんしゃくな) レベル7→選択可能

遮那王憑(しゃなおうつ)

・アクセラレート・ステップ レベル1→レベル4

疾風連紲(しっぷうれんせつ)

十断斬首(じゅうだんざんしゅ) レベル6→レベル7

迅雷刹華(じんらいせっか)

・ホライゾン・メロス レベル1→レベル3

・アドバンスト・フィンガー レベル1→レベル4

業腕一投(ごうわんいっとう)

・プレジデントホッパー

・スカイウォーカー

・ソウルジェネレート→エクステンド・オーレイズ

・クロスインパクター

・シクセットフリップ→セブニッシュフリップ

・ナタラージャ レベル6→レベル9

英雄志願(ウォーレヴ・ヒロイック)英傑之呼応(ヴァンガート・グレイトフル)

烈光仙迅(れっこうせんじん) レベル3→レベル7

凪静水面(なぎしずむみなも)

連刀九刃(れんとうくじん)連刀十刃(れんとうじゅっぱ)

罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)

・イモータルヴァーツ

・ブレイク・セリオン

速刃(そくじん)雨払(あめばらい)

・デュアルリンク レベル1→レベル4

儷紲一剣(れいせついっけん)

隕石落蹴(メテオ・フォール)爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・ベラスティ・ニー

・ジェスター・タロス

・パワースラッシュ レベル8→レベルMAX

拳乱夕立(けんらんゆうだち)

激走奮迅(げきそうふんじん)

・レコメンド・スート

居合(いあい)切翼(きりつばさ)

・アイズオブセスティ

纐纈戦々(こうけつせんせん)

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル5→レベル9

・ハードスマッシュ レベル6→レベルMAX

閂昏打(かんぬきこんだ) レベル7→レベルMAX

・ファイティングスピリッツ レベル6→レベルMAX

・ナイフズタクト レベル4→レベル5

・フェイローオブスロー レベル4→レベル6

・スパイラルエッジ

・ドロッパーストンプ レベル7→レベルMAX

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル5→レベル6

・トーテン・タンツ

・ヴィールシャーレ レベル1→レベル3

・ゲニウス・チャージャー レベル1→レベル5

・フローティング・レチュア レベル1

・ムーヴセドナ レベル1

・リトセンス・パラダズム

衝拳打(しょうけんだ) レベル1

・エクシリア・スライサー レベル1

・アゼルライトパウンド

・ミッシングブレイド レベル1

・セルタレイト・ミュルティムス

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

レベルMAXまで到達すると選択可能表記になるスキルだったり、セルタレイトシリーズのスキルが増えたのが気になったり、致命秘奥と言う心惹かれるワードがあったり、何れを合成したらどんなスキルに成るかワクワクしたりしたが、其れ以上にレベル50の到達による達成感が凄い。

 

首輪付きの状態であれだけの戦闘をこなせば、流石にスキルの成長率もエグいものであり、打撃系スキルを始め、斬撃に格闘系列、バックパッカー特有の移動やダッシュを含め、ウェザエモン相手に充分通用するだろう。

 

日が水平線に沈み始める頃、少しの休息を終えたペッパーはアイトゥイルと共に、ヴァイスアッシュの鍛冶場へとやって来ていたが、何故かビィラックも一緒にいたのである。

 

「ペッパーよぅ。来て早々なんだが、おめぇさんの持ってる致命(ヴォーパル)の武器を出しなァ」

「は、はいッ」

 

アイテムインベントリからリュカオーンの残照を刻んだ致命の包丁、そして普通の致命の小鎚を取り出して、持ち手をヴァイスアッシュに向けるように、慎重に手渡す。

 

「おぅおぅ…成程なァ。致命の小鎚は普通に『真化』出来るが、致命の包丁の方は『認めちゃいるが、生半可な物を受け付けなく』なってらぁ」

 

さらっと重大な台詞を吐いたのは、此方の聞き間違いじゃ無い。真化とは何ぞや?認めているが受け付けないとは何ぞや?そんな事を考えている内に、ヴァイスアッシュが致命の包丁を此方に返してくる。

 

「そうじゃろ、オヤジ。ペッパーの持っとる包丁にゃあ、夜の帝王の復讐への残滓がこびり憑いとるんじゃて」

「あぁ、そうだなぁビィラック。ペッパー……包丁(コイツ)ァ、真に『相応しい素材』を手にする迄は、どうも真化したくねぇらしい」

「は、はぁ……」

 

一流の鍛冶師や、神の領域に足を踏み入れた鍛冶師には、武器に宿った想いや声を聴ける力でも有るのだろうか?

 

「さて…おめぇさんの持ってる、苦労して倒した奴の『素材』を出してみな」

 

モンスターの素材を要求してくるヴァイスアッシュ。恐らくだが、其の真化とやらにはモンスターの素材が必要であり、苦戦具合や強敵度合いで武器に何かしらの変化が起きると見て良い。

 

ペッパーはアイテムインベントリを確認し、ならば『コイツ』を使おうと決心。取り出したのはブルックスランバー"最速走者"の最高希少素材『王駝鳥の強堅心臓』だった。

 

「コイツァ、ブルックスランバーの心臓かい?」

「ただの心臓では有りません、先生。何でもエクゾーディナリーモンスターと呼ばれる、ブルックスランバーの中の一握りの存在のみが到達出来るとされ、悪辣な同胞に縛られる事の無い、気高き王鳥……『最速走者(トップガン)』を支えた心臓でございます」

 

不世出のモンスター、そして其の希少素材。話を聞いたヴァイスアッシュが獰猛な笑みを浮かべ、上に着た着物を右肩と右腕を出し、小鎚を業火にくべる。

 

「ペッパー、おめぇさんと共に歩んだ此の小鎚。更なる高みに昇らせてやるぜ」

 

ヴァイスアッシュはそう言って、業火より取り出した小鎚を金床に乗せ、トンカチを振り翳して思いっきり叩く。すると、小鎚の中から水色の魔法陣達が幾多も生まれ、そして再び小鎚の中へと吸い込まれて戻って行った。

 

「ペッパー。オヤジが言うた『真化』とは、武器が戦いの中で培った『記憶』と『経験』を読み取り、強者の素材と共に其れを持ち主に『相応しい姿』………即ち『まことの姿』へ変える御業を指すけぇ」

 

ヴァイスアッシュの仕事を見ながら、ビィラックはペッパーに真化について説明してくる。

 

「そして致命の武器達は、強者に挑んだ記憶を其の身に宿しちょる。リュカオーンを初め、数多の強敵と死闘合(やりあ)い、修繕してはまた死闘をし合い、重ね紡いだワリャの武器。一体どんな形に変わるか、楽しみじゃけ」

 

ニヤリと笑うビィラック。と、何かが『聞こえて』くる。

 

「昏い夜空に、炉の炎。火花は生まれ、闇が舐め取る」

 

ヴァイスアッシュが金属を打ち合う中で、何かを『歌っている』。力強く、まるで万人へ歌う演歌の様に。

 

「踊る金槌、歌う鉄。トンカラカンと、コンキンカン。お前は刃、お前は力。土より出でて、木を焚べ、火を育み、金を鍛えて、水にて冷やす」

 

ビィラック、アイトゥイル共に、ヴァイスアッシュの。父親の歌に耳をピーンと伸ばして、謹聴している。神聖なる歌なのか、話し掛けたら不味い事に成りそうだと、ペッパーは黙ってヴァイスアッシュの歌を聞く。

 

「世界は巡り、しかして停滞る。金より鉄を、鉄より鋼を、鋼より刃を、刃より剣を。明ける夜空に、剣の輝き。光を映し、闇を切り裂く。

 

踊る剣に、歌えや世界…………」

 

そうして歌は終わり、ヴァイスアッシュは鍛えた致命の小鎚に、更なる細かな装飾を施していき。

 

「おぅし、出来たぜ…ペッパー」

 

ヴァイスアッシュが置いたのは、一昔前に流行った『とあるロボットアニメシリーズ』の中で、泥臭い戦いと鈍器を用いた質量戦闘が話題を呼び、其の劇中で使われた『小型メイス』━━━━其れの形によく似ながら。

 

然して其の形状は、小鎚からメイスに変わった事で更に凶悪な圧砕武器に成り変わり、致命武器特有の血の赤と鉄の黒は変わらず、新たに空の青色が在った。

 

致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)は今此所に……真なる姿と()を得たァ。コイツは『兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】』……。形ごと姿を変えちまうたァ、随分久しいねェ」

 

着物を着付け、人参の煙管で煙を噴かしながら、一仕事を終えたヴァイスアッシュはそう言って。ペッパーはアイテムインベントリに出来上がった武器を仕舞い、其の性能をチェックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)

 

武器種:ショートメイス

 

天の目覚めたる青と天の眠りたる赤、其の狭間の黒に浮かび、残る月のように。致命兎の魔法が込められた此の武器は、神髄たる領域未だ遠く、真なる姿は遥か先に。

 

此の武器によってクリティカル攻撃を当てた時、王撃ゲージを追加する(最大200%)。王撃ゲージは一定値を消費する事により、以下の能力から1つを選択して、其の効果を此の武器に付与する。

 

・20%:破壊効果

・50%:貫通効果

・70%:破壊効果+貫通効果

・100%:耐久値回復

・200%:専用スキル【不壊なる激闘打(アンブレイカブル.ディボウリー)

 

必要ステータス

『スタミナ80』『筋力60』『技量50』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(神武器かよ。もう一回言うわ、神武器かよ。王撃ゲージがクリティカルで、何れくらい貯まるか解らないけど、其れを抜きにして70%で破壊貫通効果付与はヤバいわ。

 

100%で出来る耐久値回復もエグいし、200%で繰り出せる専用スキルもヤバさが滲み出てるしで………うんもう一回言うわ。神武器かよ……)

 

特殊クエスト受注と共に出現した、ヴォーパルバニーが持っていた致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)は此所に、真化を以て新しい姿へと形を変えた。

 

此の日、ペッパーはスキルの整頓を明日以降に行う事とし、ペンシルゴンとの約束の時刻を取り決める伝書鳥を飛ばして。少し後に修理に出していたレディアント・ソルレイアを、ヴァイスアッシュが返しに来たのを受け取ったり、伝書鳥の返信で指定された時間を確認した後、本日のシャンフロを終えたのだった…………。

 

 

 






歩みし記憶が、真の姿へ変わる



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インストラクション・レグルス



色々あります




ユニークシナリオ・兎の国の招待における実戦的訓練を乗り越え、新たに発生したユニークシナリオEX【致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)】を受注して一夜開け。

 

此の日も梓は、大学の講義にコンビニのバイトで汗を流して、ペッパーとしてシャンフロの世界に降臨していた。

 

「さて……ペンシルゴンとの約束は『午後6時』で、今は午後4時と……。ビィラックさんの所に行って、修理に出してたユニーク小鎚3本を回収してから、エルクさんの所でスキルの整理をしてから行くかね」

 

ある程度時間は空いており、其の間に武器の回収やスキルの確認、試運転をしたり出来そうだと、脳内でシミュレーションを組み立てていくペッパー。

 

「あ、ペッパーはん。こんにちわなのさ」

「やぁ、アイトゥイル。こんにちわ」

 

と、兎御殿の休憩室の窓からアイトゥイルが顔を出して、此方の肩に飛び乗ってくる。ユニークシナリオ攻略によって、彼女とパーティーを組めるようになった事で戦略の幅もグッと拡がったが、同時にリスクも抱える事になった。

 

旅人のマントの中にアイトゥイルを隠すのは、悪い戦術では無いものの、不意の突風等によって捲れ上がる可能性が高い。現在の装備も、既に多くの不特定多数のプレイヤーに認知されているので、不用意な移動で見付かる危険も隣り合わせ。

 

どうしたものかと考えたペッパーが、ふと何かを思い出してインベントリの中身を確認して。ニンマリと笑い、確信する。此れなら誰にもバレずにペンシルゴンの所まで行ける━━━━━と。

 

そんな時、兎御殿の休憩室に飛来してきた一羽のハヤブサが、自分に宛てた一通のメールを届けに来た。送り主はレーザーカジキであり、受け取って確認した其の内容というのが━━━

 

『ペッパーさんへ。レーザーカジキです。ジークヴルムさんの一件以来、ちょっとしたゴタゴタがあってログイン出来なかったので心配を掛けたかと思います。

 

僕は最近、ロッド持ちのヴォーパルバニーを倒して、致命の錫杖(ヴォーパルロッド)という武器を手に入れました。其れで奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)を倒したら、ユニークシナリオ【兎の国ツアー】を受注しました。今、兎の国・ラビッツに居ます。

 

うさちゃんだらけで、凄く幸せです。これから兎食の大蛇を倒しにいきます』

 

━━━との事らしい。

 

此れに対してペッパーは返信として『頑張ってね』と返した。

 

其の後はビィラックの鍛冶場に行って、ユニーク小鎚達を受け取って他の武器の修繕を依頼。エルクの居る特技剪定所(スキルガーデナー)で、進化派生先のスキルの確認を行い決定。そしてエルクから、最早御約束になったスキルの秘伝書やらを色々買わされそうになりながら、致命極技(ヴォーパルヴァーツ)の事をマーニで情報を購入したりし。

 

アイトゥイルを連れ、サードレマの蛇の林檎へと赴くのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニークシナリオ【兎の国の招待】。実戦的訓練の折り返しとなる第5戦で戦った嘲り嗤う影法師(グルナー・グリンセリン)が、戦いと言う名の遊戯を愉しめた報酬(?)として落とした、真っ黒ブカブカのフード付きトレンチロングコートこと『影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)』。

 

胴装備として使える其れは、一見するとブカブカロングコートに等しいモノであり、端から見れば真っ黒なプレイヤーとして見られるが、此の装備の神髄は装備したプレイヤーの名前を『隠せる』という、恐らく━━━いや断言しよう。まさに『唯一無二の名前隠し』が可能とする、恐ろしい防具だ。

 

其の壊れ性能からか、PKerが装備したら装備の効果による即死が確定し、装備者も『クエストやシナリオ等のイベントや戦闘、PKerとの戦闘が避けられない場合を除き』、『他プレイヤーへのPK行為、及びNPCへ故意に危害を与えて死亡させた瞬間』に甚大なデメリットを受ける。

 

其の内容というのが、どんなにデバフに強い装飾品を身に付けていようが、此のゲームに在ると言う復活効果持ちの武器や防具を装備しようが、システムによって定められた『問答無用の即死』と『現在持っている所持品&倉庫に預けた装備やアイテムの全没収』が発動する、と言う物だ。

 

「まぁコレに関しちゃ、使わないなら使わないで、自分に被害は出ないし。自分からNPCやプレイヤーに手を出さなければ、何の問題にもならないからな」

 

黒いロングコートを纏い、名前が無いともなればユニークと疑われて追い回される事になるだろうが、逆に自分が『NPCとしての立ち振る舞い』をし、此の世界に文字通り『溶け込めば』万事解決である。

 

頭装備を外して、コートと共に着いているフードを深く被り、ペッパーはアイトゥイルをコートの内に隠し、人波の中を、裏路地を歩み行く。途中、道行くプレイヤーにNPC達の視線を感じなくも無いが、逆に堂々として此の世界の一住人に成りきれば、怪しまれる事は無い筈。

 

そんな彼の立ち振舞いが功を然してか、プレイヤーやNPCからは『漆黒のフード付きロングコートを纏った、右手にヘンテコなタトゥーの入ったNPC』と言う、まさか今現在話題のプレイヤーたるペッパーが、己の近くを通り過ぎた等と予想だに出来ない状況が出来上がり。

 

ペッパーとアイトゥイルは、サードレマの蛇の林檎へと到着したのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードレマ・蛇の林檎。

 

ガラガラに空いた店内にて一人、冷たく冷やされた水を飲み干し、グラスの縁をなぞるペンシルゴンは、店の入口をじっ……と見つめていた。

 

(まだかなぁ……あーくん)

 

柄にもないとは此の事だろうか。約束の時間はまだ有れど、刻一刻と過ぎ去る時の流れが、己の焦燥を掻き立てていた。

 

ペッパー…梓はメールに関してみれば、きっちり返信はしてくるし、ゲームでも決められた時間より前には到着していたり、ある意味で律儀な面と、時折鋭利な正論で反論を仏陀切りにいく。

 

ゲームでは常に本気で、唯々真剣に、遊びであるからこそ全力で取り組むスタイルを、あの頃から変わらず今も貫き徹している。

 

(……また変な格好してきそう、だなんて……。流石に2回目は無いでしょ)

 

そう思いながら待っていると、木製のドアが開いて取り付けられた小さなベルが、カランカランと店内で鳴って。コツン…コツン…と靴を僅かに鳴らしながら、真っ黒なフード付きトレンチロングコートで身を包んだ、名前の無いNPCがペンシルゴンの元へ歩み寄ってくる。

 

街中でPKをしていないにも関わらず、PKerを倒す為のPKKNPCが居るとは聞いた事は有るが、まさか其れが非戦闘時にも来るように、更なるアップデートがされたのか……彼女がそう思っていた、正に其の時。

 

「やぁ、ペンシルゴン」と聞き覚えた声と共に、フードを捲り上げて見知った顔が現れる。右目は碧で左目は朱のオッドアイ、茶髪の男性プレイヤー。

 

胴に装備されたコートを別のコートに変え、マントを羽織って、カウボーイハットらしき頭装備を被る事で、表示されなかったプレイヤーネームが顕になり、頭上には『ペッパー』の文字が現れ直す。

 

「やぁやぁ、ペンシルゴンはん。久し振りなのさ」

「あーくん………さっきの装備何?あ、アイトゥイルちゃんこんにちわ」

「まぁそう言う反応するよな、ペンシルゴン。端的に伝えると、PKしたら即死するし、PKerが纏っても即死するが、其れをしなければPN隠せるコート」

「………マジ?」

「うん、マジ」

 

また自分の知らないところで、知らない物を見付け出しているペッパーに、ペンシルゴンは溜息を付きならがも、自然に笑みが溢れてくる。

 

「ペンシルゴン。無事に大槍が出来たから渡すね」

 

そう言ったペッパーは、アイテムインベントリから名匠ビィラック作『轟雷大槍グラダネルガ』を取り出し、ペンシルゴンへギフトとして送った。

 

「わぁ……コレはまた、とんでもないね……。機械ゴーレム特功と、帯電状態相手に常時貫通効果……予想以上だよ」

「麒麟がロボットホースって教えて貰った時から、電撃系統には弱いんじゃないかと、ずっと考えててね。お気に召したなら何よりだ」

 

何にせよ無事ペンシルゴンに武器を渡せたので、兎御殿に戻ってスキルの合成と新スキルの試運転を……。そう思っていた矢先、ペンシルゴンが仕掛けた。

 

 

「あーくん。私と一緒にサードレマで散歩しない?さっきのロングコートを着けた状態でさ」

 

 

━━━━━━━━と。

 

 






一緒に居られる、一時の時間を




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カプレット・アッセンブル



ペンシルゴンとのお散歩と言う名のデート回




「お散歩?さっきのロングコートを着てか?」

「そうそう。プレイヤーネーム隠せるなら普通に動いても問題無いし、寧ろそう言う装備が有るなら積極的に利用しなくちゃ」

 

サードレマ・蛇の林檎。轟雷大槍グラダネルガを手渡して、兎御殿にさぁ帰ろうと思った矢先に、ペンシルゴンがペッパーに観光を誘ってきたのである。

 

影法師の愉快河童(グルナー・ト・シェミンコート)が有れば、ルールを遵守する限りデメリットを与えず、名前隠しのプレイが出来る素晴らしい装備だ。何より今の時点のシチュエーションが良い。夜に傾くサードレマの街並み、漆黒のオーバーコートが夜風に揺れる姿、成程中二病心を擽りにきている。

 

「オーケー、其の散歩とやらに付き合うよ。トワ」

「あら即答。因みに本音は?」

「さっきのフード付きブラックトレンチロングコートで、サードレマの街並みを駆け抜けるアサシンレトロゲームの一画面がやりたい」

「な、何か知らないけど、痺れるような響きなのさ……」

「あはは…!やっぱり変わらないなぁ、あーくんは」

 

目を輝かせて早速胴装備を切り替えながら、アイトゥイルをコートの中に招き入れるペッパー。其の様子を見ながらペンシルゴンは何かを企んでいるようである。

 

「其れじゃ行こっか」

「おぅ……で、何処に行くんだ?」

「さぁ?たまには無計画でブラブラするのも良いんじゃないかな?」

「おいおい、そんなんで良いのかよ……」

 

アイトゥイルと言う一羽同伴を付けながら、本当なら二人で歩きたかったなぁと思いつつも。ペンシルゴン(天音 永遠)ペッパー(五条 梓)を連れ歩いての、サードレマ内散歩と言う名目の、御忍びデートに挑むのである…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペンシルゴンと共に名隠しと成ったペッパーは、人の流れが比較的穏やかな場所を横に並んで歩きながら、色々な物を見て回った。

 

過ぎ行く他者の視線は相変わらず変なモノを見る其れだが、頭上に掲げられている筈のプレイヤーネームが無い事で、まさか廃人狩りと一緒に居るのが現在話題と嵐を巻き起こしている、ペッパー本人である等と予想だにする事無く通り過ぎていく。

 

「プレイヤーネームが解らないだけで、上手く行きすぎだろ……」

「名前隠せるってアドバンテージは、どんなゲームでも其のプレイヤーを特定させない、最強の『手札』にも成るんだよ?」

 

其の手札の一つが既にペンシルゴンにバレた時点で、手札として成立しているかは怪しいが、此方には新しい手札が存在している。

 

ユニークシナリオEX【致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)】………前身となるユニークシナリオ【兎の国の招待】を攻略し、受注した新ユニーク。クリア報酬として此処まで連れ添った、致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)の消失を引き換えに、ラビッツ名誉国民の称号と、致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)を真化させた兎月(とげつ)暁天(ぎょうてん)】を手にした。

 

近い内にサンラクもユニークシナリオの実戦的訓練に辿り着き、オイカッツォ曰く『様々なクソゲーをやりこみ、便秘の理不尽な速度にさえ対応しきり、自分を相手に三割を切れる』らしい彼ならば。そんなに時間が掛からずに、クリアへと漕ぎ着けられるだろう。

 

(まぁ、今は……ペンシルゴンを見とかないとな)

 

余所見をしたら何を言われるか解った物ではないし、想像だってしたくはないのだ。コレはそう、ギャルゲーでよくあるイベント。ヒロインとのデート中にQTE発生で、視線を逸らさないようにするミニゲームと同じ。

 

ミスれば好感度爆下がり、最悪ガメオベラに直通する事だってある。そして相手は、あろうことかペンシルゴン……下手を打てば間違いなく末代まで鏖殺(おうさつ)するとか、絶対にやりかねない。何せ自分の所属していたクラン『阿修羅会』を、京極と共に強襲して壊滅させたのだから、絶対にすると自信を持って言い切れる。

 

(…………ペッパー君がゲームに対して、常に真剣なのは知ってるし、多分『此の瞬間はQTEだー』とか考えたりしてるんだろうねぇ……。まぁ其れなら其れで、私から目を離してないから、善しとしようかな?)

 

そしてそんなペッパーの思考をテレパシーか超能力か、勘では有るものの大体当てたペンシルゴンは、少し上機嫌になっている。

 

「お、おいアレ……!?」

「わわ、廃人狩りだ…!」

「ってか、何だあの真っ黒コート」

「NPCか…脅されて付いて行ったり?」

 

大通りに差し掛かった所で、プレイヤーの一人がペンシルゴンに気付いた事を切っ掛けに、ざわめきが電波のように波状して伝播する。

 

(おいペンシルゴン、何かヤバくないか?)

(そうだねぇ…ちょっと裏路地に移動しよう)

 

流石に不味いと考えてか、表面上は平静を装いながら、二人は移動しようとした其の時。ペッパーと角から出て来た巨躯の女性プレイヤー………『サバイバアル』がゴツンとぶつかって、ペッパーが思いっきり尻餅を着く。更に運が悪い事に、其の衝撃で被っていたフードが頭から離れて、彼の顔が通りにいたプレイヤーやNPCの前で顕になった。

 

サードレマのNPC・そして他のプレイヤーが、まさかの事態に唖然となる中、ペッパーはと言うと…………

 

「ペンシルゴン、ごめん!」

「えっ、きゃっ!?」

 

フードを被り直してペンシルゴンに謝罪すると共に、彼女を抱いて担ぎ上げる。其の様たるや漆黒の夜に現れた黒騎士が、絶世の美女をお姫様抱っこで運び去らんとする光景であり。

 

「確り掴まってろよ…!」

「っ………うん♪」

 

ジャンプ系列スキルによって、強化を受けた跳躍力で一気に建物の上まで飛び上がり、ダッシュ系列スキルを使用しながら屋根を激走する。暗闇走る其の姿は、黄昏時を越えて次第に夜へと移ろう街並みと、ベストマッチすら超えたミラクルマッチとなって、見上げるプレイヤーやNPC達の記憶に深く刻まれた。

 

そして其の光景に、漸くプレイヤー達は反応する。

 

「ペッパァァァァァァァァ!!!?」

「えっ、マジで!?マジか!?」

「てか名前隠し!!?どうなってんの!?」

「アーサー・ペンシルゴンと一緒に…居る、だと?」

「お姫様抱っこして走り去るとかカッコいい…!」

「滅茶苦茶絵になりますねぇ!」

「漆黒の戦士、廃人狩りを拐う…!コレは特ダネ待った無しだ!」

「待ちやがれぇ、ペッパー!」

「くそっ、やっぱりはえぇ…!!」

「サードレマの上層エリアに先回りさせろ!道を塞ぐんだ!」

 

突然の出来事に騒ぎ立つ者、ペンシルゴンを抱えて走り去る一連の流れに興奮する者、胡椒を取っ捕まえて何としても情報を吐き出させようとする者で、サードレマは再び混沌の渦中となる。

 

前回、前々回と過ちを学んだ開拓者達は、三度目の正直と言わんばかりに、下層と上層を繋ぐ門を目指して突き進み、そして辿り着くや門の周りを見張り始めた。

 

だがしかし、其所にペッパーとペンシルゴンは現れる事は無く、追跡者達はまたしても怨唆の声を上げる事になったのである。では、ペッパーとペンシルゴン、アイトゥイルは如何にして、他の開拓者達の追跡を振り切る事が出来たのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペンシルゴン、アイトゥイル。声を出さないでくれよ………本当にマジで」

「大丈夫、大丈夫。おねーさんこういうの、職業柄得意なんだからね?」

「人を隠すなら、人の中。闇に隠れるなら、闇の中……なのさ」

 

ペッパー・ペンシルゴン・アイトゥイルは現在、サードレマの裏路地の一角にて、留まり静かにじっとしていた。

 

やり方も単純明確で、先ずペッパーの脇腹にアイトゥイルが掴まって、次にペンシルゴンが壁に依り掛かり、最後にペッパーが其れを壁ドンする形を取って、影法師の愉快河童で夜闇に隠れ身の術をすると言う、時間とフィールドの仕様を用いた、即席の作戦である。

 

しかしながら、時にシンプルな作戦程効果覿面となるパターンは多く、此れまで二度ペッパーはサードレマの上層エリアに逃げ込んだ事で、走り込まれる事を恐れた他プレイヤー達はそちらに意識を削がれ。そして其の意識の隙間を突くように、ペッパーは隠れ身の術で、追跡を撒く事に成功したのだ。

 

(にしても………。コレ色々とヤバいな?)

 

黒尽くめの衣裳の男が、廃人狩りを壁ドンしている。既に此の時点での、文章のパワーワードが凄い。そして先程からじぃぃぃ……っと、ペンシルゴンが此方を見つめているのだ。

 

(後々「あの日に私を壁ドンしたんだから、ちゃんと責任取ってよね?」……って言われる流れだよなぁ。もうちょっとしたら、トワと別れて兎御殿に逃げ込もうそうしよう……)

 

若干死んだ眼になりながらも、思考は止める事をせぬままに、ラビッツに逃げ込む為のルートを模索し始めたペッパー。

 

(……逃走経路を一生懸命考えてるのかな?あーくん。良いね……其の表情。考えて考えて、何時だって君はゲームを楽しみながら、そして勝てるように思考を重ねていたよね)

 

黒いコートの中、暗闇に順応したペンシルゴンの眼は、ペッパーの眼を見ている。レトロゲームをしている時の梓を見ていた永遠は、彼の真剣な眼差しが好きなのだ。普通の年下の男の子、勉強も体育も同年代の子達と比べて、突出した訳でも無い。かといって誰より劣っている訳でも無く、本当に普通の凡百に等しい子。隣近所という間柄で遊んだりし、色んな遊びをして交流を深め。取分ゲームをしている時の真剣な表情は、普段の普通とは明らかに違う、格好良い物だった。

 

あの日、大型犬に永遠は襲われて。怖くて逃げられず、更には失禁までしてしまった。周りに人は居ない、誰も助けに来ない中で、噛み付かれ掛けた。そんな時にたった一人で間に割って入るや、ピコピコハンマーを片手に握って立ち向かい。自分よりずっと恐怖で震えているにも関わらず、大声で恐怖を押し殺しながら、出鱈目に玩具を振りまくって助けてくれた時に、永遠は梓に対するハッキリとした好意を抱いた。

 

其れから永遠は梓へ好意を伝えんと、アタックをしてみたが、逆に梓は家に籠るようになってしまい。何とか隙を見付けては外に連れ出して、色々な事に巻き込んで。暫く経った頃、梓は父親の仕事の関係によって引っ越す事を知り、勇気を出して告白しようとしたのである。

 

だが、自分の想いを伝えるよりも早く。彼から発せられたのは『二度と逢いたくない』という、冷めきった言葉であり。彼女は此の時始めて、自分のやってきた好意で傷付く人が居る事を。好きな人がずっと、其れによって傷付いた事を知ったのだった。

 

泣きながら彼女は決意し、大粒の涙を溢しながら彼に向けて宣言した。『必ず君に好きだって言わせてやるんだからー!』………と。

 

其れ以来、昔からの夢だったカリスマモデルに成る為に人一倍の努力を重ね続けて、其の夢を叶えてみせた。彼と……梓とまた出逢えた時に、誇れる自分で在る為に。

 

「……もう、大丈夫……か。ペンシルゴン」

「あ、うん。平気平気、そうだね……大丈夫だと思うよ」

「ほっ……撒けた様なのさ……」

 

永遠に続いて欲しいと願えば、其の手から望む物は溢れ落ちて消えていく運命(さだめ)だ。名残惜しいが此処までとしておく事にする。

 

「あーくん。今日はお散歩に付き合ってくれて、ありがとう」

「……どういたしまして。トワも帰り道は気を付けてな?」

「また何処かで、なのさ。ペンシルゴンはん」

 

コートの中に隠れたアイトゥイルと共に、リキャストタイムが終了したスキル達を再度点火していき、ペッパーは夜闇のサードレマの裏路地へ走り出して行った。

 

「…………ペンシルゴン。アレで良かったのか?」

「オーケーオーケー。スーパーベストタイミングだったよ。協力ありがとね『サバちゃん』」

 

ペッパーが去った後、一人残ったペンシルゴンに影から話し掛けたのは、ペッパーとぶつかったサバイバアル。彼女は事前に『今日ペッパーと一緒に此のルートを歩くから、其のタイミングでぶつかって転ばせて欲しい』と、サバイバアルに連絡を入れていたのだ。

 

「で、どうだった?ペッパー君に逢えて満足した?」

「本当はもう少し、ゆっくり話を聞いてみたかったがなァ。顔が解りゃあ、次探す時に目星が着く」

「相変わらず、猟犬というか狼の眼をしてるねぇ~。あ、コレ報酬ね」

「阿修羅会の本拠地でクランリーダーやら相手に、反逆大立周りしたオメェにゃ言われたかねぇがな。……うん、確かに受け取った。じゃあな」

 

一仕事を終え、サバイバアルとペンシルゴンもサードレマの闇の中へと消えて行った。そして此の日。サードレマで起きた出来事は、ペッパー捜索スレたる胡椒争奪戦争でも、大きな波乱を産み出す事になったのである………。

 

 






幸運とは待つものではなく、引き寄せるものである



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ダークナイツ・サードレマ



掲示板回です




 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

【情報】胡椒争奪戦争 part4【急募】

 

 

 

*******************

*****************

***************

 

 

407:ユナティムス

速報、サードレマにてペッパー、廃人狩りと共に居るのを発見す。逃走時、廃人狩りをお姫様抱っこした模様

 

《画像》《画像》《画像》

 

408:サンダーナット

キタコレ

 

409:バサシムサシ

お、見付かったか!

 

410:トットロ

ニーネスヒルで見張ってたワイ、無事敗北確定

 

411:ケントゥリオー

新しい情報………へ?

 

412:プリミチア

えっ

 

413:ニシシッピン

は?

 

414:ガルガムガン

!?

 

415:秋刀魚騎士

えっ、何でプレイヤーネームが頭上に無いの?バグ?

 

416:アゼル

てか、何此のブラックトレンチロングコート

 

417:超合金豆腐

ペッパー、ペンシルゴンに捕まったんかね?

 

418:ガガガット

ありえそう………

 

419:ユナティムス

というかコートが気になる、何かのユニーク?

 

420:ジョーサン

真っ黒くろで視認性わっっっっるwwwwwどーやって見付けるねん

 

421:サンダーナット

てか廃人狩り…お前表情乙女かよ……

 

422:フロップ

天音 永遠に激似なのよね、廃人狩り。もしかして御本人だったりするの?

 

423:ガルガムガン

トワ様が外道な訳無いだろ

 

424:メイナス

同意

 

425:ユッキー

右に同じ

 

426:ニシシッピン

トワ様は天使である

 

427:ケケケーラ

此のブラックコートって、確か嘲り嗤う影法師(グルナー・グリンセリン)というモンスターが、落とすドロップアイテムですよ

 

PKerが装備したり、装備者がPK行為を行ったら即死適応と、現在のアプデと同じペナルティを受ける代わりに、其れさえ遵守すれば名前を隠せる、固有能力持ちの胴装備

 

名前が影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)だった筈です

 

428:ガガガット

えっ何其れ凄い

 

429:秋刀魚騎士

てか、始めて聞くな其のモンスター…

 

430:リギュー

影法師……まさか自分の影と戦うみたいな?

 

431:ユナティムス

ケケケーラさん、解りますか?

 

432:ケケケーラ

何せ此のモンスターはSF-Zooとライブラリが共同調査をした所、跳梁跋扈の森で96時間に1体のペースでしか出現しない上に、本体はスキルや魔法で攻撃しても効かないに加えて、相対者の影を模倣して襲い掛かってくるみたいで……

 

433:ケケケーラ

其の討伐方法は、影法師を相手に自分の持っているスキルや魔法を全て一度以上使って、全力で影法師を楽しませる……だった気がします

 

434:ニシシッピン

うわ、特殊勝利系かぁ……

 

435:サンダーナット

スキルが少ないと満足しないタイプなのかね?

 

436:海パン7世

めんどくさそう……

 

437:ケケケーラ

キョージュさんやレミィさん、あとは園長さんも一度調査に出向いて捜索しましたが、残念ながら其の時には発見出来ず……。

 

風の噂では、ウェポニアが此のモンスターが落とすコートを、現在血眼になって探しているらしい……とか

 

438:ガルガムガン

血眼……あ

 

439:アゼル

あっ(察し)

 

440:ユナティムス

此の後の流れ読めたわ

 

441:サンダーナット

同じく

 

442:SOHO-ZONE

影法師の……愉快合羽……!

 

443:ケントゥリオー

う わ で た

 

444:ムラクモ

噂をすればなんとやらやね

 

445:リギュー

やっぱり来たか武器狂い…!

 

446:ニシシッピン

知ってた

 

447:国民茶

デスヨネー

 

448:SOHO-ZONE

まさかペッパー君が、トレンチロングコートを持っているとは…!フフフフフフ……!何としても、何としても…!彼に出逢い、交渉によってユニーク小鎚共々、手に入れなくては…!

 

449:トットロ

あーあ。まぁためんどっちいスイッチが入りやがりましたわ武器狂い

 

450:アゼル

そりゃユニーク武器防具も含め、確認されてる武器防具の情報コンプ勢だもんな、武器狂いとウェポニアの面々に至っては。色々助かってはいるが(なお)

 

451:ユッキー

数学好きなワイ、ウェポニアの作り出した耐久値計算式に感謝(なお)

 

452:リムリ

ウェポニアの記事には、武器の強化や費用がどれだけ掛かるかってのも、事細かに載ってるから勉強になる(なお)

 

453:ムラクモ

其れにしても………廃人狩り良い顔してはるなぁ

 

454:ハム八波

それは思った。大規模クランとの戦いじゃ、先んじて混乱を作り出しては、敵陣営を恐怖のドン底に陥れるってのに………

 

455:超合金豆腐

アイテムと話術の組み合わせ……というか、フィールドの仕様を味方に付けると、廃人狩りは本当に手が付けられなくなるんよ

 

456:ケントゥリオー

こんな一面があるとはねぇ……

 

457:ロップル

ペッパーとペンシルゴン……まさかデキてる?な訳ないか

 

458:イグザード

廃人狩りと胡椒が付き合ってたら、まぁた色々とネタが出てきそう

 

459:秋刀魚騎士

申し訳ないがナマモノはNGな?プライバシーにも関わるから

 

460:国民茶

それな。本人の許可取らんと

 

461:ユナティムス

うむ……

 

462:キョージュ

ほぅ…またペッパー君は面白い事をしているようだね

 

463:リギュー

あ、ライブラリのクランリーダー!

 

464:ガルガムガン

ライブラリが反応したか…!

 

465:ロップル

きたわね上位クラン

 

466:ガガガット

また騒がしくなりそうですね……

 

467:ケケケーラ

キョージュさん!

 

468:リギュー

ちっすちっす

 

469:イグザード

こんばんわー

 

470:キョージュ

ケケケーラ君。影法師の愉快合羽の説明、実にお見事。花丸をあげよう

 

471:ケケケーラ

ありがとうございます!

 

472:カイゼル

やりますねぇ!

 

473:秋刀魚騎士

勉強熱心なのは良いことだ……

 

474:ガガガット

褒められたら嬉しいよな

 

475:ニシシッピン

わかる

 

476:レーザーカジキ

こんばんわー

 

477:リギュー

努力が報われた時の達成感……わかりみ

 

478:ユナティムス

せやな

 

479:一寸亡

あ、レーザーカジキだ

 

480:バサシムサシ

ジークヴルムに遭遇した後、音沙汰無かったから心配してたぞー!

 

481:国民茶

ペッパーで何か有った?

 

482:秋刀魚騎士

情報プリーズ

 

483:レーザーカジキ

えっとですね……ついさっき、兎の国ツアーを終えてきました……うさちゃんいっぱいで楽しかったです……

 

484:ムラクモ

お、初心者推奨クエスト終えたんか。レーザーカジキはん

 

485:バサシムサシ

エンチャント・ヴォーパルは良いぞ……格上相手に役に立つ

 

486:一寸亡

因みにラビッツで何か食べてきた?

 

487:ガガガット

観光楽しかったかー?

 

488:レーザーカジキ

ラビッツお子様セットに、ラビッツスペシャルパフェを……。とっても美味しいかったです……

 

489:Animalia

ラビッツ……?スペシャルパフェ……?

 

490:アッド

ヒエッ

 

491:リギュー

うわでた!?

 

492:トットロ

園長じゃねーか!?

 

493:レーザーカジキ

あ、Animaliaさん

 

494:Animalia

レーザーカジキさん?ちょっと後で━━━━オハナシ、しましょう?

 

495:ガガガット

ヒエッ

 

496:一寸亡

ビュフ…

 

497:ガルガムガン

ヒッ……

 

498:プリミチア

ちょっ怖い怖い怖い!?

 

499:バサシムサシ

怒ってんのか、わっかんねーんだが!?

 

500:レーザーカジキ

アッ……ハイ、わかりました………

 

501:海パン7世

レーザーカジキ、強く生きろ……

 

502:アッド

ドウカイカナイデ

 

 

 

 

 

********************

******************

****************

 

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蒼天を舞う勇者、漆黒の激走破、黒毛のヴォーパルバニーを連れし者




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戦いとは正面から殴るだけが全てじゃないし、正解でもないのは歴史が示している



ペッパーはスキルを、サンラクのユニークシナリオ挑戦を頑張る




「あ"~………ぢゅがれだ……」

「ペッパーはん、随分とやつれているのさ…」

 

サードレマでの一騒動の果て、何とか兎御殿へ帰還したペッパー&アイトゥイル。ペンシルゴンとの散歩、サードレマの衆人環視の元に顔を見られ、彼女をお姫様抱っこ&壁ドンまでした。

 

精神衛生状あまりよろしくないシチュエーションだったと、ペッパーは遠く若干死んだ様な目をしながら、こんな状況を変えるならスキルを変化させたり、合成させようと決心し、アイトゥイルと共にエルクの待つ特技剪定所(スキルガーデナー)へ移動を開始する。

 

そして辿り着いた剪定所にて、一人と一羽が見た物は……ひょろひょろと細身になっていたサンラクと、其れを心配するエムル、御肌が艶々になって笑っているエルクの姿。おそらくスキルの熟練度が高まったから合成を行って、エルクに秘伝書の購入を迫られ、所持金(マーニ)をコッテリ搾り取られたのだろう。

 

一応話を聞こうと、ペッパーがサンラクに問い掛けた所、彼は予想以上の答えを提示したのである。

 

「やぁ、サンラク。其の様子だとエルクさんに秘伝書を買うように迫られたか?」

「あ……あぁ、ペッパーか……。まぁ、そーだなぁー……、俺現在所持金三桁………実戦訓練9体目に挑戦中」

「…………マジで?総リスポーン数どのくらい?」

「多分……60にも入ってないんじゃないか?」

「ペッパーさん、サンラクさんが今戦ってるモンスターとタコさん以外は、何れも10回以内で倒しているんですわ!」

 

自分より少ない回数でのリスポーン、そして攻略を成し遂げていたのだ。そしてサンラクの実戦的訓練は、既に9体目に突入しており。彼が戦ったモンスターはと言うと…………

 

 

1体目、ウドフェイル・フロッガー。舌がアナコンダになっており、本来苦手とする蛇をある程度の克服をしているトノサマガエル。

 

打撃系が無効なので舌になってるアナコンダを処理出来れば、ボディプレスしか撃ってこなくなる。其れに注意すれば苦戦しない。

 

 

挑戦回数:4回

 

 

 

2体目、スピキュールバット。超音波による衝撃波・強酸糞の爆撃・空中高速飛行の強敵。

 

単純に空を飛べるアドバンテージは相手に有ったが、翼膜に穴を開けた所、飛べなくなったのでボコボコにしてやったとか。

 

 

挑戦回数:3回

 

 

 

3体目、ルートエンド・ミノタウロス。斧を持っている間は厄介な相手で、動体視力が無かったら首チョンパ不可避だったらしい。

 

両手首を集中攻撃して斧を落とさせたら、突進攻撃しかしてこなくなり、スタミナ切れを狙いながら立ち回って倒した。

 

 

挑戦回数:1回

 

 

 

4体目、ワイルディーマンティス。鎌鼬を飛ばしたり、空を飛んだりする上、単純なスペックは上だった。両鎌を振るった後、必ず鎌を手入れをするルーティーンが有った。

 

試しに鎌に砂を投げ付けると、手入れに集中し始めて攻撃してこなくなり、其れを起点に討伐したそう。

 

 

挑戦回数:5回

 

 

 

5体目、チャクラム・ホイーガー。背中が刃物に成っているヤスデタイプのモンスター。衝撃を与えると丸まって突進してきたが、コロッセオの壁に刺さって動けなくなった。

 

其の間に致命の包丁でブッ刺しまくり、滅多斬りにして勝利。なお、丸まらないと強烈な悪臭で気絶状態にさせられ、真っ二つに斬られるとか。

 

 

挑戦回数:8回

 

 

 

6体目、ゼッサーゴーレム U型9-276。ハイスペック・ハイスピード・ハイパワーの三点尽くしのゴーレム。打撃よりも斬撃が効きやすい状態になったり、逆の状態になったりと、かなりトリッキーな相手だったらしい。

 

手からレーザー背中からミサイルと、歩く機動兵器でこそ有ったが、パターンを確り把握して遠距離武器を解体し、本体をブッ壊したそう。

 

 

挑戦回数:7回

 

 

 

7体目、リップルオクトパス。シャンフロの海の浅瀬に暮らすヒョウモンタコらしいが、蛸足に攻撃を加える度に分裂していく習性を持ち、最終的には一足につき20本の合計160本にまで足が増える。

 

足分裂をしていたらキリがないと本体を攻撃したら、ヘドロ墨で身動きを封じられてタコ殴り。仕方無く蛸足を一足ずつ解体していった所、本体は自爆して戦闘が終了した。

 

 

挑戦回数:19回

 

 

 

8体目、ウルトラワーム。出現は必ず20体以上でポップし、一子乱れぬ軍隊並列移動と全身に生えた毒針による、質量物量攻撃を掛ける厄介な毛虫。

 

が、毒針は毛のように柔らかい事と針先にしか毒が無いので、毛を斬ったり引き抜いてしまえば、擬似的な安全地帯を作れる。安全地帯を作ったなら、ただの芋虫と同義なので頭を捌いて、ブッ叩いてオシマイ。

 

挑戦回数:7回

 

 

 

との事らしい(サンラク談)。

 

そして現在戦っている9体目は、フォートレス・ボルケートルなる、噴火し続ける小型活火山を背中に抱えた、スッポンタイプのモンスターという、ヤバめな存在だった。

 

サンラクは既に15回の挑戦した様であり、先程降り注ぐ火山弾を跳ねて走って、四本の脚をブッ叩いた所、此れまでに無い咆哮と共に起きた、大噴火からの熱風攻撃に焼き払われたらしい。因みに鳥面は無事だったそう。

 

しかし、其の熱風攻撃によって見えなかった攻略への糸口が見えたらしく、其の攻略方法が正しいか確かめる為に、スキル合成をするべく特技剪定所を利用したのだとか。

 

「よっしゃ、スキルのリキャストも終わった!とっとと火山亀をブッ潰して来るぜ!」

 

メラメラと燃える打倒火山亀への意欲と共に、走り去るサンラクの肩に乗っかるエムル、其れをペッパーとアイトゥイルは「頑張ってな(さ)~」と見送って、エルクと向き合う。

 

「あら~ペッパーさん、いらっしゃあい」

「やぁ、エルクさん。ウェザエモン戦に備えてスキルの最終調整に来ました」

「そぉ、いよいよなのね~。はぁい、此方が合成可能なスキルよぉ」

 

そう言ってエルクが表示した、合成可能スキルと選択可能スキルを見ながら、ペッパーは今現在のスキルや合成時の立ち回り等を、脳内シミュレーションで照らし合わせつつ、合成スキルを決定。

 

マーニをエルクに支払い、出来上がるまでの間にステータスポイントを振り分け。そしてエルクが持ってきた、丸型フラスコ入りの液を飲み切り、ステータスは此のような状態に成った。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:ペッパー

 

レベル:50

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 35 魔力 10

スタミナ 110

筋力 110 敏捷 110

器用 75 技量 75

耐久力 61 幸運 50

 

 

残りポイント:0

 

 

 

装備

 

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

アクセサリー

 

 

・鎖帷子(耐久力+10)

・旅人のマント(耐久力+2) 

 

 

所持金:7,020,000マーニ

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

致命極技

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

致命武技

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】漆式

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】伍式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】捌式

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】陸式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】漆式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式

 

 

 

スキル

 

 

・マチェット・サイサリス

絶華逸突(ぜっかいっとつ)

・セツナノミキリ

・スワロスキースロー

・ライトニング・シャーレ

・ペガサロスワーク

轟天大破厳(ごうてんだいはがん)

冥動戟砕(ギルト・レアー)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)

戦王の煌心(プライマス・ハート)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)

遮那王憑(しゃなおうつ)

・アクセラレート・ステップ レベル4

疾風連紲(しっぷうれんせつ)

十断斬首(じゅうだんざんしゅ) レベル7

迅雷刹華(じんらいせっか)

・ホライゾン・メロス レベル3

・アドバンスト・フィンガー レベル4

業腕一投(ごうわんいっとう)

・プレジデントホッパー

・スカイウォーカー

・エクステンド・オーレイズ

・クロスインパクター

・セブニッシュフリップ

・ナタラージャ レベル9

英傑之呼応(ヴァンガート・グレイトフル)

烈光仙迅(れっこうせんじん) レベル7

凪静水面(なぎしずむみなも)

連刀十刃(れんとうじゅっぱ)

罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)

・イモータルヴァーツ

・ブレイク・セリオン

速刃(そくじん)雨払(あめばらい)

・デュアルリンク レベル4

儷紲一剣(れいせついっけん)

爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・ベラスティ・ニー

・ジェスター・タロス

・ファイティングスラッシュ レベル1

拳乱夕立(けんらんゆうだち)

激走奮迅(げきそうふんじん)

・レコメンド・スート

居合(いあい)切翼(きりつばさ)

・アイズオブセスティ

纐纈戦々(こうけつせんせん)

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル9

・イグナイトブレイカー レベル1

閂昏打(かんぬきこんだ) レベルMAX

・ナイフズタクト レベル5

・フェイローオブスロー レベル6

・スパイラルエッジ

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル6

・トーテン・タンツ

・ヴィールシャーレ レベル3

・ゲニウス・チャージャー レベル5

・フローティング・レチュア レベル1

・ムーヴセドナ レベル1

・リトセンス・パラダズム

衝拳打(しょうけんだ) レベル1

・エクシリア・スライサー レベル1

・アゼルライトパウンド

・ミッシングブレイド レベル1

・セルタレイト・ミュルティムス

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

グラナートストライクは、攻撃によるクリティカル発生時に強力なノックバック・気絶効果・昏倒状態を付与する打撃スキル『轟天大破厳(ごうてんだいはがん)』。

 

バルバトスインパクトは、敵対モンスター及び敵対プレイヤーの眼・頭・顎・核に対するダメージ補正が、超大に働く様になる鎚武器スキル『冥動戟砕(ギルト・レアー)』。

 

ウルティモアスは選択先の中で、拳や脚を用いた格闘攻撃時に、自身に追加したバフの総数で更なるダメージ補正が追加される『聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)』。

 

決戦爍拏(けっせんしゃくな)は自身の耐久力が低ければ低い程に、早い話が自身の『元々の耐久力』が防具を除いて『貧弱で脆弱で在れば在る程』、超至近距離下での動体視力と全身の感覚を鋭利にする『戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)』。

 

レベルMAXとなった、ファイティングスピリッツとパワースラッシュの合成により、筋力・技量・スタミナを参照する斬撃スキル『ファイティングスラッシュ』。

 

同じくレベルMAXに至った、ハードスマッシュとドロッパーストンプを合成、地面に接地している敵に対する衝撃浸透率が大幅に上昇する、鎚武器スキル『イグナイトブレイカー』へとパワーアップを遂げた。

 

そしてエルクは隙を見ては、またしてもスキルの秘伝書と極之秘伝書を買わせようとしてきたのだが、ペッパーは非常に申し訳なさそうにしつつ、彼女へ「墓守のウェザエモン相手に、武器や防具を出来るだけ万全な状態にしておきたい」と言い、断る事で難を逃れ。

 

サンラクの実戦的訓練を見届けるべく、アイトゥイルと共にヴォーパルコロッセオへと向かうのであった……。

 

 

 






見届けよ、挑戦者の戦いを




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クソゲーマーたるもの、積み重ねた敗北を勝利に注げ



此の戦いに結末を




ユニークシナリオ【兎の国からの招待】。其の実戦的訓練で登場するモンスター達は、何度も戦った事で『単純な高スペックモンスター』か『ギミックモンスター』、そして『特定の行程を踏まなければならないギミックモンスター』の三種類であり、同時におよそ『2~3倍のレベル差が空いた状態』で戦わなくてはならない事が、サンラクは解ってきた。

 

そしてフォートレス・ボルケートルは、3つの中の内の3番目『特定の行程を踏まなければならないギミックモンスター』という、倒すのにも一苦労するし一番面倒臭いモンスターである。

 

「先ずは左前足ィ!」

 

ペッパー&オイカッツォとの地底湖レベリングで、ペッパーからヒントを貰い、実戦的訓練中に習得へ漕ぎ着けた『サンダーターン』が唸り、鋭角ターンと共に足の関節の裏側に在る、『赤褐色のマグマ溜まり』を致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)を振るい、合成スキルであり自身の敏捷を参照して、敵にダメージを与える『イプロッションスライサー』で切り裂く。

 

『ブォォォォォォォォォォォォォ……!!!』

 

瘡蓋がパックリ割れるように、塞き止められていたマグマが吹き出して、フォートレス・ボルケートルが悲鳴を上げる。振り上げられるは左足、其れをサンラクは『知っている』。

 

「足関節の裏側破壊したら、直ぐに回避ィッ!踏み付け発生のフィールドスタンは、ジャンプをすれば………はい余裕で躱わせますぅーーーー!残念だったなァ、火山亀!!!」

 

アッハッハッハッハッハ!と上機嫌に嗤い、続いて右前足の足関節裏側のマグマ溜まりを、再び致命の包丁で突き崩してマグマを放出させる。

 

フォートレス・ボルケートルが火山噴火を起こす最大の原因は、巨体の各部に在る『マグマ溜まり』から送られる熱によって噴き出して、火口から放たれる事で起きている事が、さっきの挑戦で漸く解ったのだ。

 

そしてこのモンスター……身体の随所に在る『マグマ溜まりが発光している限り』、火山弾は飛ばすし、火砕流を起こすわで、近接遠距離共に手が出しにくい相手であった。

 

では、どうすれば倒せるか?簡単な話だ………『各部に在るマグマ溜まりを破壊して、フォートレス・ボルケートルを出血死』。もとい『出溶岩死に追い込んでしまえば良いのだ』。

 

「あんなにバカスカ火山噴火に火山弾撃ちまくれる理由が、今までは解んなかったが……熱風攻撃前に全身のマグマ溜まりが発光したから、漸く辿り着けた訳だよ!」

 

両後足のマグマ溜まりを切り開き、エッジクライムの進化スキル『グレイトオブクライム』で、細かなマグマ溜まりを刺しながら、フォートレス・ボルケートルの甲羅に登るサンラク。

 

「わちちち!?!」

 

足裏が焼けて、熱によるスリップダメージが襲い掛かるが、焼け死ぬ寸前にライブスタイド・サーモンを噛って食し、命湖鱗の腰当ての力によって倍増された回復で誤魔化しながら、六艘跳びの跳躍を踏まえてダメージを減らしつつ、小鎚に切り替えて火山回りのマグマ溜まりを、次々と迅速に破壊していく。

 

『ブォォォォォォォォォォォォォ!!!???』

「このまま出血死になりやがれぇええええええ!!!」

 

細かな物、大きな物。大小異なるマグマ溜まりが次々と、サンラクの斬打によって次々と破壊されていき、各部各所から溶岩が大量に噴出。

 

フォートレス・ボルケートルの背中にある小型火山は徐々に其の勢いを、生命活動を停止していく様に、火山灰は最盛期の勢いを失って細く弱い煙となり、軈ては止まり。

 

そして━━━━━━スッポン特有の長い首を出し、吠えようとした瞬間、額に『超極小のマグマ溜まり』が生まれる。

 

「ラスイチャァ!!」

 

残された移動系スキルを全起動させて、サンラクはフォートレス・ボルケートルの額に包丁を突き立て、スキル『ドリルピアッサー』で螺繰り回して破壊。同時に刃を引き抜くや、即座に頭部より離脱。

 

同時に火山亀の全身から残された溶岩が、怒濤の勢いですっからかんになるまで全て放出され、其の巨体を構成していたポリゴンが花火の様に爆発四散。

 

同時にレベルアップを告げるSEが鳴り響いた。

 

「っしやぁぁぁぁ!火山亀攻略完了だぜぇ!」

「サンラクさん、お見事ですわー!」

 

やんややんやとエムルがサンラクを称え、両手の小鎚を掲げて雄叫ぶサンラク。

 

「サンラク!攻略出来たか!」

「お見事、なのさ」

「アイトゥイルおねーちゃん!ペッパーさん!」

「おうよ!バッチリ決めてやったわ!」

 

と、ペッパー&アイトゥイルもヴォーパルコロッセオに到着したようで、サンラクに声を掛けてきた。対するサンラクは目でドヤ顔しつつ、サムズアップを決め。其れに対してペッパーも、サムズアップで返す。

 

「サンラクは此のまま10体目に行くつもりか?」

「うーん……リキャスト終わってないけど、まぁ何とかなるでしょ」

「すげぇ自信……」

「因みにペッパーは実戦訓練は終えたのか?」

「まぁね、一発クリアしたぜ。其れとレベル50到達と対ウェザエモン戦に向けて、合成スキルの最終調整した所。そっちは何レベ?」

「フッフッフ…さっきのでレベル50だ。ポイント振っとかなくちゃな」

 

そう言ったサンラクはステータス画面を開き、ポイントを振り分けつつ、スキルを確認していく。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

PN:サンラク

 

レベル:50

 

メイン職業(ジョブ):傭兵【二刀流使い】

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 30 魔力 10

スタミナ 100

筋力 60 敏捷 100

器用 70 技量 70

耐久力 203 幸運 109

 

 

残りポイント:0

 

 

装備

 

 

左:致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)

右:致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)

両脚:リュカオーンの呪い

 

 

頭:凝視(ぎょうし)鳥面(ちょうめん)(耐久力+2)

胴:リュカオーンの呪い

腰:命湖麟(めいこりん)腰当(こしあ)て(耐久力+200)

脚:リュカオーンの呪い

 

 

 

170マーニ

 

 

 

致命武技

 

 

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】弐式→肆式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】壱式

 

 

 

スキル

 

無尽連斬(むじんれんざん)獣鏖無尽(じゅうおうむじん)

・ドリルピアッサー→グローイング・ピアス

・インファイト レベル4→レベル6

・スケートフット→ドリフトステップ

・パリングプロテクト→セツナノミキリ

・ハンド・オブ・フォーチュン レベル3→レベル8

・グレイトオブクライム

・クライマックス・ブースト レベル2→レベル4

・ラッシュスタンプ→ランブルスタンパー

・デュアルストラス→チェイニング・プレス

・クラッシュセンス→モーメントアリアス

・ワンセットバンカー→カルネイドバンカー

・六艘跳び→七艘跳び

・リコシェット・ステップ レベル1→レベル4

・アサシンピアス レベル5

・オプレッションキック レベル6→レベル9

・ムーンジャンパー

・ハイプレス レベル1→レベル3

餓狼の闘志(ハンガーウルフ)

・オフロード レベル2→レベル5

・イプロッションスライサー レベル3→レベル7

・サンダーターン

・ルクスフェイト レベル3→レベル5

・ハイビート レベル4→レベル6

・チェインズブート レベル2→レベル3

・デュエルイズム

・パワーストライク レベル2→レベル4

・衝拳打 レベル1→レベル3

・メルニッション・ダッシュ レベル1

裂刃尖斬(れっぱせんざん) レベル1

・アミュールディルレイト

・ブートアタック

・ブレスドラウム レベル1

・バッツクローシス レベル1

・オーバーヒート レベル1

・ニトロゲイン レベル1

・イグニッション レベル1

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)によって、高いステータスへ至りつつ、新しく覚えたスキルや進化したスキルも多数。

 

ペッパーが習得のヒントをくれた、攻撃速度加速スキルの『ブートアタック』もだが、地上において即興の鋭角ターンを刻み、更に加速して走れる『サンダーターン』も面白い。

 

レベル系統のスキルもてんこ盛りで、まだ見ぬ10体目との戦いや墓守のウェザエモンに通用するかどうか、ワクワクする。

 

「うっし、準備完了だ!エムルー!最後の相手を出してくれー!」

「おぅおぅ、サンラク。もう9体目を倒し終わったんかい」

 

実戦的訓練・最終10体目との相対を前にし、小鎚と包丁を構えるサンラク。と、モンスターをコロッセオに入れる門の上に、何時の間にかヴァイスアッシュの姿が在り。

 

其の右手には『封印札と思われる、布と鎖でぐるぐる巻きにされた、木の様な人間らしき者』を抱えていた。

 

「ヴァッシュの兄貴!」

「先生!」

「「オカシラ!」」

 

一人と三羽が各々の反応を返す中、ヴァッシュはコロッセオの中に抱えていた者を放り込み、パチンと指を鳴らす。

 

すると封印の布と鎖が解けて、ゆっくりと其れは動き始めて、『丸い球体がくっ付いた長杖(ロッド)』を取り出し、右手に握る。

 

「兄貴……コイツぁ?」

「むかぁし昔、其のまた昔さぁ。木に融合してでも生き残らんとした『馬鹿野郎共』が居てな、ソイツは其の一人よぉ。名ァ『妄執の樹魔(ルーザーズ・ウッズ)』。………今のおめぇさんなら『多分』イケるとは思うが、一応条件を此方で決めておく。

 

達成条件は………━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分生き残るか、コイツを攻略するかだ

 

 

 

 

 

 

「マジ……すか」

 

ゴクリと固唾を飲み込んだサンラクは、小鎚と包丁を構え。直後『ノーモーション』の木の根が、サンラクの顔面をブチ抜き掛け、サンラクは首を横へ咄嗟にずらす形で回避する。

 

「………は?今発生あっ……!?」

 

初撃を開戦のゴングとし、妄執の樹魔は無数の木の根と共に、『ドス黒いオーラ』を纏った鎖をサンラクに向け、ホーミングによる攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

「うぇおあ!?当然の権利みたく、ホーミングしてくるんじゃねぇ!!」

 

コロッセオを駆け回り、サンラクが見たのは妄執の樹魔のレベルであり。ギリッと奥歯を噛み締めながら「マジ、かよ……!」と言葉を漏らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニークシナリオ・兎の国の招待』

『実戦的訓練・10体目』

妄執の樹魔(ルーザーズ・ウッズ)1体 レベル120』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、見せてみな。おめぇさんの『ヴォーパル魂』をよぅ」

 






最後の敵は、生に執着せし亡者




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クソゲーマーたるもの、初見突破は嗜みの一つ成りて



妄執を超えて行け




妄執の樹魔(ルーザーズ・ウッズ)。ヴァイスアッシュ曰く、木と融合してでも生き残ろうとした馬鹿野郎共の一人であり、生に執着する亡者たる者。

 

ユニークシナリオ【兎の国からの招待】で、クソゲーマー・サンラクに立ち塞がる最後の相手であり、レベル120の強敵。しかもヴァイスアッシュはコレを『10分間生き残るかコイツを倒すか』の2択を迫ってきた。

 

「オイオイ……魔法がまた『増えてる』し、攻撃密度が『濃くなってる』んだけどぉあ!!?」

 

追尾式の木の根と、ドス黒鎖だけならまだ良かった。だが、戦闘時間が長引く程に『新しい魔法攻撃と、既存の攻撃の密度上昇が追加される』のだ。

 

最初はファイヤーボールだけだったのが、10秒経過毎に、氷の槍に始まり落雷攻撃、呪術らしき黒煙と土の槍の出現。木の根と鎖の攻撃も相まって、まだ他のモンスターと戦った方が勝ちの目が見える。

 

(しかも此の成りをしながら、本体はゴムを巻き付けた鉄塊らしき硬度により、完全に『物理攻撃無効』ときた。何だ此のクソモンスターは………!)

 

そして一番の問題点が物理攻撃無効という、サンラク……もとい物理攻撃しか持ち合わせていないプレイヤーに対する、最悪レベルのメタ能力。コレのせいで攻撃スキルが軒並み息をしていない。

 

「サンラク、頑張れー!」

「気張るのさー!」

「サンラクさーん!あと8分ですわー!」

 

観客席から一人と二羽の声が聞こえるが、其れはまるで此方を天国に運ばんとする天使の様に思われ。増える攻撃と密度にサンラクは………

 

(くっそ…!初見殺しが過ぎる、まだ他のクソゲーやクソモンスの方が、さっくり『諦められる』。だが、アイツの攻撃方法は解った。次は………ん?)

 

 

 

 

━━━━まぁね、一発クリアしたぜ。

 

 

 

 

サンラクの琴線に『ソレ』は触れた。何故『諦めよう』としているのか?……と。ヴァッシュは『今のお前さんなら多分イケる』と言っていた。つまりは『今の自分に倒せる可能性』が有るからこそ、制限時間か討伐かの、二つの選択肢を提示したのでは無いか?

 

ペッパーが言っていたヴォーパル魂が、強者に挑む心意気で有るならば、此処で諦めて死ぬ事こそ、ヴァッシュに対する『最大の裏切り行為』では無いのか?

 

そして何より。

 

(レトロゲーマー(彼処の胡椒)は一発でクリア出来たってのに、クソゲーマー(この俺に)は一発クリアが出来ないって?んな訳有るか!)

 

ゲーマーの矜持(・・・・・・・)が其れを許さない。

 

『手抜きをする事なく、全力でゲームを楽しむ事』。

 

単純であるからこそ、忘れてしまいがちになる『ソレ』を、ペッパーの一発クリア報告が、サンラクというゲーマーの炉芯に火を着けたのだ。

 

(嗚呼やってやろうじゃねぇか!ノーコン&ノーダメクリア、クソゲー初見突破もやって来た!クソゲーマーの俺に、出来ねぇ道理はねぇ!こちとら火山亀攻略に『エナドリ』使ったんだ!カフェインはまだ残ってる!なら燃やせるだろ!?全部燃焼させてやっから━━━━!)

 

「覚悟しやがれや、ルーザーなんたらぁ!」

 

逃走から一転、セツナノミキリ起動。飛来する木の根にタイミングを合わせ、致命の小鎚でパリィしつつ、横回転しながら片手の小鎚を収納。移動・ダッシュスキルを点火、更にぶっつけ本番ながら『ニトロゲイン』を使用した。

 

体力の最大値2割を削り、筋力と敏捷を強化するバフスキル。其れだけ見れば、ごく普通の体力調整に過ぎない。しかし、其の体力調整によって進化を発揮するスキルが、サンラクの手札にはある。

 

名を『クライマックスブースト』。体力が1/3の状態に有り、尚且つ敵のレベルが自身より高い程、発動から5分間自身の全ステータスに強化を入れるスキル。ニトロゲインによるバフが、クライマックスブーストの発動可能な状態に届かせ。サンラクは、其れを点火した。

 

タイムリミットは5分、此の時間で決める━━━!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……結構な速度に殆どノーモーション、おまけに複数の物理と魔法攻撃仕掛けてくるのに、動体視力だけで避けてるよ……すげぇなサンラク」

 

妄執の樹魔の攻撃速度、攻撃発生、攻撃の種類を頭に叩き込みながら、ペッパーはコロッセオの中で走り跳ね、濃密な敵の攻撃の隙間を縫うように、肉薄しに行くサンラクを見て、そう呟いた。

 

さっきの逃走による時間超過を狙っていた雰囲気が、あの瞬間に討伐の方向にシフトしたサンラク。果たして何を思って、あの瞬間に行動を切り換えたのか、ペッパーには解らない。

 

最も、サンラクが妄執の樹魔を討伐すると決めたのは、他ならぬペッパーの発言があった故なのだが、本人は其の戦いを見届けんとしており、気付く事が出来ないでいる。

 

「此の訓練を通じて、シャンフロには『ギミックモンスター』が居るってのも、よぉ~く理解したわ」

 

木の根の上を爆走し、妄執の樹魔へと肉薄するサンラクは、小鎚を収納とスイッチするように取り出した、致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)を握って振るい、目の前を✕の字に薙ぐ。直後、樹魔の背中に幻影なる斬撃が走り、敵が『左側』背後を向いた。

 

「もしもルーザーなんたらが、ギミック持ちだとして何を封じれば勝てるか?」

 

致命刃術【水鏡の月】。相手のヘイトを一瞬消す、致命武術の一つであり。サンラクはサマーソルトの要領で、妄執の樹魔の持つ長杖を蹴り飛ばした。

 

そして其の直後に、樹魔の両手へサンラクは致命の包丁を、逆手に切り返し即座にグローイング・ピアスで突き刺す。すると、今までは出ていなかったポリゴンが、妄執の樹魔の掌から零れ落ちる。

 

「ビンゴ!杖が無けりゃ攻撃が通る(・・・・・・・・・・・)!此れでもう、お前はあの杖を掴めねえだろ!」

『ギ…ギッ……!ギイイイィイイィィイイイイ!!!』

 

痛みによる悲鳴を上げながら、叫ぶ妄執の樹魔。飛んで行く杖を見て、サンラクは非常に悪い笑顔を浮かべ。

 

「良い事考えた」と言うや、ムーンジャンパーと七艘跳びで杖をキャッチ。残された艘跳び跳躍補強回数をフルに使い、木の根と鎖の間をすり抜けて。

 

「生け花ならぬ、生け杖ェェェアッ!」

『ギギョイイ!?』

 

口を開き見上げた妄執の樹魔に、無慈悲なる物理エンジンの一撃を加えて。

 

「そしてェ……ブッ壊れろやぁぁぁぁぁあああああぁ!!!!」

 

インベントリから取り出した、致命の小鎚を両手に握って。打撃スキルを点火して叩いては、木の根と黒鎖の合間を飛び跳ね続けて、最後にはスキル:獣鏖無尽(じゅうおうむじん)により、連続で妄執の樹魔の頭部をブッ叩きまくった。

 

其の形相たるや、怒りに燃えて、吼え滾る鳥怪人の其れであり、アイトゥイルとエムルが唖然とする中、ペッパー無言で戦いから目を反らす事をせず、ヴァイスアッシュは満足気な笑みを浮かべて。

 

『ギ……ギィッ……ア…━━━━━━』

 

妄執の樹魔が其の身を構成するポリゴンを崩壊させ、同時にサンラクのレベルアップを告げるSEが、ヴォーパルコロッセオに鳴り響き、取り囲む様にしてスキルの変化や進化が表示された。

 

そして此処に、実戦的訓練の決着が付いたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンラク、やったな!」

「どーだ、ペッパー!初見ノーコンノーダメクリアしてやったぜ!」

「ハハハ……!すっげぇよ………!」

「サンラクさーん!」

「見事な連撃だったさ…」

 

観客席からヴォーパルコロッセオに降りてきた、ペッパーと二羽の兎姉妹に向けて、サンラクは渾身とも言えるドヤ顔を噛ましてきた。実際、最終戦を初見突破するのは、簡単な様でとても難しい。其れを成し遂げたなら称賛するのが、同じ実戦的訓練を越えた者として贈る祝福なのだろう。

 

「サンラクよぉ、おめぇさんのヴォーパル魂。見届けさせて貰ったァ」

 

そんな時、ヴァイスアッシュがパチパチと拍手をしながら歩いて来る。其の表情たるや、天晴れや御見事といった物だった。

 

「兄貴」

「いやぁ、まさか『倒しきる』とはな。制限時間まで逃げ切ると思ったがァ……やるじゃねぇか」

「………ウッス。実戦訓練、勉強になる事が多々有りやした」

 

キリッとした目でロールプレイを行うサンラクに、「そうかぁ、そうかぁ」と頷くヴァイスアッシュ。

 

「サンラク、実戦的訓練を越えたおめぇさんを『ラビッツ名誉国民』に任命してやるよぃ」

「サンラクさん!此れは名誉ある事ですわ!」

 

ヴァイスアッシュからの授与、エムルの発言を受けたサンラクは「謹んで賜りやす」と返し。

 

「……あぁ、忘れる所だった。其の首輪は『今の』おめぇさんにゃあ、要らねぇだろう。其れから……少し休んでから、オイラの鍛冶場に来なァ」

 

パチンと指を鳴らせば、サンラクの首から致命魂の首輪が外れて、ポリゴンと化して消滅し。彼の前には実戦的訓練を終えた証たる、リザルト画面が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニークシナリオ【兎の国からの招待】をクリアしました』

『称号【ラビッツ名誉国民】を獲得しました』

『アクセサリー【致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)】が消失しました』

『NPC【魔術兎エムル】が正式にパーティに加入しました』

『ユニークシナリオEX【致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)】を開始しますか? 【Yes】or【No】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユニークシナリオEX…!ってか、現物支給無しかい……」

「まぁまぁ……実戦的訓練を越えたんだし、スキルも色々手に入った。其れにクリア出来たから、俺達『挑戦出来る』様になったし」

 

ガックシと肩を落とすサンラクに、ペッパーがフォローを入れる。実戦的訓練を乗り越えた事実は、何も悲観するだけが全てでは無いのだ。

 

「………確かにな。取り敢えず此れで、ウェザエモンに挑む『通過儀礼』を、キッチリ果たしたって訳だ」

 

ヴァイスアッシュとの約束、実戦的訓練を乗り越えた事により、此れで心置きなくウェザエモン戦に備える事が出来る。武器や防具の強化等、即死攻撃と理不尽のオンパレードとは言えども、備え有れば必ず役に立つ時は来る。

 

「おぉ……そういや、もう一つ言っとく事があったァ」

 

と、ヴァイスアッシュが何かを思い出した様に、二人に向けて言ってきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『エフュール』の(とこ)に行ってきなぁ。むかぁし昔に『オイラが作った腕輪』を預けてある。オイラの名を出しゃあ………『渡してくれる』だろうぜ」

 

━━━━━━━━と。

 

 

 






二人目のユニークシナリオEX到達者




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兎御殿の人形職人と、致命魂の腕輪



実戦的訓練の後先




兎御殿の中にある一室。和風溢れる暖簾の先、茶色い毛並みとエプロンドレスに似た衣裳を纏う、一羽のヴォーパルバニーが耳をピンと伸ばし、針と糸を器用に扱いつつ小さな『人形』を作っている。

 

ヴァイスアッシュの事伝、アイトゥイル&エムルの案内により、兎御殿の一室たる『ドールフロント』と呼ばれる『ドールキーホルダー』を専門に扱う店舗に、ペッパーとサンラクはやって来た。

 

此処の主たる『エフュール』から、ヴァイスアッシュが其の昔に作ったという『腕輪』を受け取る為に。

 

「あらぁ、おいでやす。アイトゥイルにエムル、ペッパーはんに噂の鳥の人」

「やっぱ俺、兎御殿(ココ)じゃ鳥の人で共通なんだな……」

「あはは……」

 

サンラクと名前で読んでくれるビィラックとヴァイスアッシュを除き、呼び名が固定されたサンラクは遠い目をし、ペッパーは乾いた声を溢す。

 

「サンラクさん!ペッパーさん!エフュールおねーちゃんですわ!」

「初めまして、エフュールさん。ペッパーです。此方は俺の友達のサンラク」

「ウッス、サンラクっす」

「エフュールどす、どーぞ良しなに」

 

御互い軽く自己紹介を終えて、早速ペッパーが本題に入ろうとするが、此処で目に飛び込んできたのは、彼女の後ろの棚に飾られている、小さくとも手作りのドールキーホルダー達。

 

「彼方のドール達は、もしかしてエフュールさんが全部手作りで?」

「そうどす。あての手作り、そして自信作達な」

 

はんなりと京都弁で喋るエフュール。彼女の後ろに在る棚には、マッドフロッグやクアッドビートル、ゴブリンにヴォーパルバニーを含め、他にも色々多数有る。しかも妙に愛嬌を含んでおり、不思議と奥ゆかしさも籠められている様だ。

 

「興味が御有りんす?ペッパーはん」

「えぇ……まぁ。何て言うかこう……ゲームの『コレクト』で、特定のアイテムを集めて消費して『ガチャ』して、コンプリートする事で手に入る『称号』が有りまして。いやぁ……懐かしい」

 

昔やったレトロゲームの100%コンプリートの為に、草木を切り分け、特定のアイテムを用いて回した事を思い出し、染々とした気持ちに浸るペッパー。

 

「ガチャか……アレって『乱数』だろ?ソイツには良い思い出が一切ねぇわ」

「極論、出るまで引けば『100%』だからな。課金じゃないレトロゲームの話だけど」

「其れ一昔前のソシャゲで、馬鹿とか洒落みたいな廃課金してる連中(頭イカレたヤベーヤツ)と同じ思考なの草」

「苦労して得られる達成感は、古今東西変わらないからね」

「其れは解る」

 

ゲーマーあるある雑談をしていたが、エフュールがニッコリ笑いながら「で、買いますの?」と、声が全く笑っていない発言をしてきたので、ペッパーは「此処に有るドール達、此れで買えるだけ買わせて下さいな」と言い切り、マーニの袋をズシン…!とカウンターに乗せた。

 

「………うふふ。お金使いが荒いなぁ、ペッパーはんは。成程成程……エルクにアイトゥイルが、あんたの事を気に入る訳や」

「フフフ…ペッパーはんの時々見せる大胆さが、ワイの好きな所なのさ」

 

ヴォーパルバニー同士にしか伝わらない会話をしながら、後で購入したドール達の性能をサンラクと一緒に確認する事とし。そしてサンラクが、エフュールに本題を切り出した。

 

「なぁ、エフュール。ヴァッシュの兄貴から事伝を受けたんだが、此処に兄貴が昔作った腕輪が有るんだってな?俺とペッパーは、エフュールに言えば渡してくれるって、兄貴に言われて来たんだけど」

「ふむ……おとうちゃ、コホン………。頭がわてに預けといた、あの腕輪やね」

 

「ちょいと待ってな」と言い、エフュールはエプロンドレス衣装の胸ポケットから、丸型の眼鏡を取り出し掛けるや、店の奥へと向かって行って。

 

数分後に戻ってきた彼女の手には二つ、致命魂の首輪と同じ紋様を刻んだ、赤金色の腕輪が乗っていた。

 

「コレは頭が昔に作った『致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)』と言うモノでな。致命魂の首輪と違って『自由に取り外せはしますが』、其れだと強くは成れないとの事で、装備してから『1つ強くならんと』外れんように、わてが改良した物になりんす」

 

そう言って差し出した腕輪を、ペッパーとサンラクは受け取って、早速能力を確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)(ユニークアクセサリー)

 

致命兎の王が其の昔に己の手で作り出し、強者へ至らんとする者に贈った腕輪。自在に着脱出来ては意味が無いと封じた其れに、兎の国の人形職人が装備者の強さが、一段階昇る毎に外すか否かの選択によって、道具としての意義を確立させた。

 

形は変われど、此の腕輪に籠められた願いは同じ。

 

装着者が此のアクセサリーを装備後、レベルアップまで此のアクセサリーは外す事が出来ず、PKされても装備者の手元を離れない。譲渡及び破棄不可。

 

習得経験値が半分になる代わりに、レベルアップで得られるステータスポイントが1.5倍になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((あ、致命の首輪程じゃ無いけど、コレ十分壊れアクセサリーだわ))

 

致命の首輪を装備して、レベル50に到達したペッパーと、妄執の樹魔(ルーザーズ・ウッズ)によりレベル52になったサンラクは、瞬時に同じ結論へと至っていた。

 

獲得ポイントが現在レベルアップで得られるポイントが、12から7に減りこそしたものの、通常プレイで得られるポイントが些細ながら増えており、戦闘経験と回数は据え置きである為に、スキル育成に最適である。

 

「ペッパー、腕輪も腕輪でヤバイな?」

「あぁ……。というか先生、昔から此れだけの優秀なアクセサリーを作れたのか……」

 

早速装備を……と思った矢先、エフュールが二人に声を掛けた。

 

「時にペッパーはん、サンラクはん。あんさんら『スロット』は拡張してはるん?」

「スロット……?何だそりゃ?」

「俺はアクセサリー屋に行った時に空けてますよ。スロットが増えれば、色々と便利ですから」

 

サンラクは頭を傾げ、ペッパーは頷いて答え。エフュールはレクチャーを踏まえ、サンラクに説明をしていった。スロットは霊穴という物である事、一定のレベルに到達する事で1つずつ解放される事、そしてアクセサリーによってはスロットが永久に塞がれる事を。

 

「サンラクはんは、と……。フムフム、2つやな」

 

言うが早いか、エフュールの掌にエフェクトが宿り。「スロットオープン!」の掛け声を受けて、サンラクの身体に二度衝撃が走った。

 

「あで!?いったぁ!?」

「はい。此れで合計3つまで、アクセサリーやら色々と付けられる様になりましたわ」

 

眼鏡を仕舞い、エフュールは一仕事終えた表情で息を吐いた。ペッパーとサンラクは腕輪を装備するか否かを、彼女が作ったドールキーホルダーの性能を見てから、慎重に吟味する事に決め。

 

各々の付き兎と共に、ヴァイスアッシュが待つ鍛冶場へと向かったのだった………。

 

 

 






スキル成長か、レベルアップか




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Q、対刃剣と双節棍は何故かっこいい?A、男の子の憧れだから



サンラクの致命武器が真化する




エフュールのドールフロントにて、彼女お手製のドールキーホルダーとヴァイスアッシュが嘗て作った、致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)を受け取ったペッパーとサンラクは、彼の鍛冶場へとやって来た。

 

其処には当然のようにビィラックも居て、サンラクは何で居るんだ?と疑問を抱き、ペッパーはヴァイスアッシュが武器を打った時の歌を、聞きに来たのだろうと予測する。

 

「おぅ、よく来たなぁ…二人共」

「ウッス、兄貴。エフュールが保管していた腕輪、確かに受け取りやした」

「大事に使わせて貰います、先生」

 

ロールプレイを絡めつつ、二人は腕輪を手に載せて見せる。

 

「サンラク、おめぇさんが持ってる致命(ヴォーパル)の武器達を出しな」

 

「解りやした」と言うや、サンラクはアイテムインベントリから致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)と、致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)を各々二本取り出して、ヴァイスアッシュに手渡す。

 

「おぅおぅ、良い刃付きに面構えじゃあねぇか。全部から確り『認められてる』なぁ……」

「はぁ……ありがとうございやす」

 

優しい目で包丁を、小鎚を見つめたヴァイスアッシュ。其れを見たビィラックが炉に火を入れ、石炭へ熱を含ませていく。

 

「サンラク。おめぇさんの手持ちの中の素材に、苦労して倒した強敵(ヤツ)の素材は有るかい?」

「強敵……ですか」

「おうよ」

 

ヴァイスアッシュの発言に、サンラクはアイテムインベントリの中身をチェックし。二つの素材を取り出して、致命兎の王へと提出する。

 

一つは、クアッドビートルの象徴にして、彼の者の中では最も強靭にして希少なる素材『クアッドビートルの堅雄角』。

一つは、ライブスタイド・デストロブスターの主力武器であり、幾多の敵を打ち倒す力を宿す『命湖大海老の前鋏』。

 

クアッドビートルはサンラクがエムルの協力の元、頭装備素材確保の為のレベリングで。ライブスタイド・デストロブスターは、エムルの全面協力無しでは、討伐出来なかった強敵。手渡すならば文句無しだろう。

 

「クアッドビートルの角に、ライブスタイド・デストロブスターの前鋏か……」

「どちらも強敵でした。特にデストロブスターは、エムルの協力無しじゃ、討伐に何時間掛かっていたか解りやせんでした」

「どちらも悪くねぇ……良い素材だぁ」

 

サンラクの説明に、頷きながら「じゃあ……『真化』を始めようかい」と言い、道具棚に立て掛けた鍛冶道具を手に取っていく。

 

「真化…?進化となんか違うの?」

「武器の記憶を辿り、まことの姿にする……とビィラックさんが言ってました」

「フフフ………サンラク、ペッパー。ワリャは本当に運が良いの。わち等の頭は『鍛冶師』なんじゃ。其れも只の鍛冶師じゃないけぇ」

 

炉に空気を送り込み、温度を更に高めながら、ビィラックはサンラクに言う。

 

「鍛冶を極めた者のみが到達出来る『名匠』であり、神代の遺物を扱う事が可能な『古匠』。そんで其の二つを更に極め抜いた先に在る、鍛冶師の最高にして至高の頂に立つ『神匠』なんじゃ」

 

着物の右袖を脱ぎ払い、炉へと包丁を入れたヴァイスアッシュが金槌を握り、目を見開くやトンカチを振るい、鉄を打ちて真化を行い始めた。

 

二本の包丁を、二本の小鎚を。鉄打ちの唄と共に鍛え、ビィラックとアイトゥイル、そしてエムルが聞き耳を立てている歌の事を聞こうとしたサンラクを、ペッパーが小声で「傾聴しなければ彼女達が、不機嫌に成りかねない」と、寸での所で止める事に成功し。

 

そうして鍛えた武器達にヴァッシュが細かな装飾や、意匠を加えて仕上げる工程を踏まえ、数十分の時間が流れて………。

 

「おぅし、出来たぜ」

 

致命武器を四つ仕上げきったヴァイスアッシュが、右腕に着物を通し直して、サンラクの取り出した致命武器達を置いた。

 

致命の包丁は『白の刃を持つ剣』と『朱の刃を持つ剣』と成り、柄の先端には各々の色に対応した勾玉が。

致命の小鎚は二本共に『太鼓で用いられる枹が漆黒の鉄棒』の様な姿へと生まれ変わっていた。

 

「おめぇさんの致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)は、此処に真なる姿と()を得たァ……。

 

此方に在るのは『対刃剣(ついじんけん)』。白い方が『兎月(とげつ)白上弦(はくじょうげん)】』、赤い方が逆手で用いる『兎月(とげつ)紅下弦(こうかげん)】』。

 

そしてもう一つの黒い二本の(バチ)、今は分かれちゃいるが、コイツの真の姿は『双節棍(そうせつこん)』………名を『兎月(とつき)煌枹(こうばち)】』だ。

 

どちらも二対一体の武器であり、片方が欠けてもいけねぇ。二つ在ってこそ初めて『本来の意味』を成す……そういう武器達だぜ」

 

二刀流使いとして戦ってきたサンラクの致命武器達は、ヴァッシュの真化によって二刀流対応武器へと姿を改め直した。

 

ペッパーが二刀流武器見ながら、自分は使えないのにサンラクは使えて良いなぁと、羨望の眼差しを向けているのを見ながら、アイテムインベントリに仕舞って武器の性能をチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兎月(とげつ)白上弦(はくじょうげん)

 

武器種:対刃剣

 

対となる刃の名は紅下弦(こうかげん)。空に浮かびし、上弦三日月の刃を持つ剣刃(つるぎ)。致命兎の魔法が込められた刃は、真の姿を叢雲の内に隠す。

 

自身よりレベルの高い相手と戦闘する場合、此の武器によってクリティカル攻撃が成功した場合、装備者の体力を減少させる代わりに、次の攻撃時にクリティカル補正とクリティカル成功時のダメージ補正を追加する。

 

クリティカル攻撃が成功する度、此の武器の合体ゲージが蓄積し、ゲージMAXとなる事で【合体状態(がったいじょうたい):皇弦月(おうげんげつ)】と成る。

 

必要ステータス

『筋力45』『器用70』『技量60』

 

 

 

 

 

兎月(とげつ)紅下弦(こうかげん)

 

武器種:対刃剣

 

対となる刃の名は白上弦(はくじょうげん)、空に浮かびし下弦三日月の刃を持つ剣刃(つるぎ)。致命兎の魔法が込められた刃は、真の姿を叢雲の内に隠す。

 

自身よりレベルの高い相手と戦闘する場合、此の武器によってクリティカル攻撃が成功した場合、装備者の体力とMPを回復する。

 

クリティカル攻撃が成功する度、此の武器の合体ゲージが蓄積し、ゲージMAXとなる事で【合体状態(がったいじょうたい):皇弦月(おうげんげつ)】と成る。

 

必要ステータス

『筋力45』『器用60』『技量70』

 

 

 

 

 

 

兎月(とつき)煌枹(こうばち)

 

武器種:双節棍

 

分かたれた二つの黒枹、暗き夜空に赤く煌々と浮かぶ月の如く、溢れる力は黒の眠りを朱へと起こす。然れど其の真なる姿は、未だ遥かに先に在りて。

 

自身よりレベルの高い相手と戦闘する場合、此の武器によるクリティカル攻撃が成功した時、攻撃対象のモンスター及びプレイヤーの体温を吸収する。

 

クリティカル攻撃が成功する度に、此の武器の連接ゲージが蓄積し、ゲージMAXとなる事で【連接状態(れんせつじょうたい):灼奈棍(しゃくなこん)】と成る。

 

必要ステータス

『スタミナ90』『筋力50』『技量60』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

致命魂の首輪で鍛えられたステータスによって、真化された武器の全てが、ちゃんと装備出来る事に安堵したサンラク。早速新武器の試運転の為、ヴォーパルコロッセオで打ち込み練習が出来ると言う案山子を求めて走り出し。

 

 

ペッパーも自身のスキルのリキャストタイムや、自分の真化武器の性能と効果確認を行う為、彼を追い掛けようとした其の時。同期させたEメールアプリに、一通のメールが届いた。送り主はアーサー・ペンシルゴンであり、其の内容が━━━━━━

 

 

『4日後に満月の夜になるから、其の時に千紫万紅の樹海窟の写真の場所に集合する事。

 

墓守のウェザエモンと戦う為のユニークシナリオ受注に必要不可欠なので、サンラク君とカッツォ君は絶対に忘れないように。あと万が一に追跡してくるプレイヤーが居たら、必ず振り切ってから来る事。イイネ?

 

其れとペッパー君、悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)を必ず持ってきて欲しい。セッちゃんにとっても因縁深い一式装備、頑固者のウェザエモンに関して、何か新しい情報が手に入るかも知れないから』

 

 

━━━━━━と。

 






合体と連結は、何時だって男の子の浪漫




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~世界に生きる人々~



シャンフロをプレイする者達は……




兎の国・ラビッツ。ヴォーパルバニー達が日夜訓練にて汗水を流し、竜すら喰らう牙を研ぎ澄ます、訓練所が此の国には在る。

 

ヴォーパルコロッセオ━━━━━ユニークシナリオ【兎の国からの招待】にて、自身より格上だが機転を効かせれば倒せる相手との、10連戦を行う此の場所では現在、其のシナリオ突破者のペッパーとサンラクが、ヴァイスアッシュの手により真化を果たした武器と、今現在の己が持つスキルの検証をするべく、案山子を相手に試していた。

 

「………凄いな、サンラクの武器達は」

「いやぁ、此処までとは思わんかったわ……」

 

サンラクが手に握っているのは兎月(とげつ)白上弦(はくじょうげん)】と兎月(とげつ)紅下弦(こうかげん)】の、クリティカルを叩き込み上昇していく合体ゲージ。

 

其れをMAX状態となるまで蓄積する事で移行出来た、合体状態たる【皇弦月(おうげんげつ)】であり。対刃剣だった二本の兎月が、まさか一本の『大剣に変わる』等、思いもしていなかったのだ。

 

「おまけに最初試した枹も、連接したらカッコイイ『ヌンチャク』に成るとか……。しかも連接部分が『炎に成ってる』し、黒い鉄棒は『真紅に染まる』しで、もう最高かよ……」

 

二刀流対応の対刃剣の前に試した、二本の黒き枹武器たる兎月(とつき)煌枹(こうばち)】も、連接ゲージを貯めれば貯める程に、其の身を赤く真紅に染め上げて。

 

そして連接ゲージMAXと成り、燃えた先端同士を打ち合わせれば、炎の鎖で互いを繋ぐ【双節棍(そうせつこん)】━━━━━もとい【ヌンチャク】に姿を変えたのだ。

 

「まぁ……武器で喜んでも良いが、問題も発生したしなぁ……」

 

実際に真化した武器を使って、サンラクが解った事。其れは皇弦月形態時に使えるスキルが、武器固有のスキル以外に『一つも存在していない事』なのだ。武器として使えれば問題は無いと思ったが、使えるスキルが無いともなれば話は大きく変わる。

 

「寧ろ武器の特性を、ウェザエモンとの戦いの前に解っただけでも、重畳じゃあないか?」

「其れはそうだな……後でエルク、いやマーニ無いわ俺………」

「だったらティークさんの所に行くと良い。ライブスタイドサーモンを相当な値段で買い取ってくれる」

「………マジ?」

「マジ。此れでも本当に助けられてるよ」

 

実際、ティークの元にサーモンと蜂蜜を持っていったお陰で、エルクからはスキルの秘伝書や極之秘伝書を、エフュールからはドールキーホルダーを大量購入出来たので、非常に有難い。

 

話を聞いたサンラクは「ちょっと行ってくるわ!」と、エムルと共に兎御殿の方へと戻っていき。一人残されたペッパーは、確認したスキル達を精査してウェザエモン戦を想定した立ち回りを、脳内にインプットと構築にアウトプットと実験を繰り返す。

 

此のスキルはどうだ?此のタイミングで何が来ると不味いか?其れを想定し、万が一に備えてスキルの使用タイミングを思考していった。

 

シャングリラ・フロンティアは少しずつ、深い夜の世界に成っていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィフティシア━━━━シャンフロ第15の街であり、現状開拓者達が最後に辿り着ける、大陸の大きな港街である。

 

此処には様々なプレイヤーが近くのエリアにてレベリングを行ったり、自分の武器や装備を整えたりと、日々の修練を重ねる上級者や、廃人プレイヤーが活動拠点としている事でも有名な場所だ。

 

其の街の一角に『盾と剣と鎚と弓と杖を掲げるエンブレム』を旗に刻み、日夜問わずに『シャンフロの武器と防具の調査及び研究』を行うクランが在る。

 

【クラン:ウェポニア】。シャンフロに於いて武器防具関連に対する、狂気的な信念と共に武具の耐久調査や、特性検証等を徹底的に行うクランであり、クランオーナーを含めて『武器や防具が大好きプレイヤー』の集まりで結成されているのだ。

 

「オーナー。此の間『アリアン』が見付けてきた武器なんですが、ストーム・ワイバーン相手に耐久値が一割程度しか削られませんでした。滅茶苦茶ヤバイですよ!」

「其れは凄い……!修繕した後は、重量級を相手に試してみましょう。検証班にはゆっくり休むように伝えて下さいな」

「解りました!」

 

クランメンバーの持ってきた資料と『耐久結果報告書』を読み上げつつ、ウィンドウを展開してシャンフロwikiへ其の武器の情報を記載、及びクランメンバーに指示を飛ばしていく。

 

彼は『SOHO-ZONE』、クラン:ウェポニアのクランオーナーであり、病的なまでに武具の性能を調査して、能力の詳細を隅々まで解き明かす、武器狂いの通り名で知られているプレイヤーだ。

 

(ペッパー君はサードレマに居るらしいが、中々捕まらない為にコンタクトが難しい……ライブラリのキョージュさんに頼んで、話し合いの場を設けて貰う?いや、此処は自分から赴くべきか………?)

 

シャンフロに存在する七つの最強種、夜襲のリュカオーンと天覇のジークヴルム、二体のユニークモンスターに遭遇し、其の名を此の世界に轟かせては話題を巻き起こすプレイヤー。

 

彼が持っているユニーク小鎚や、名前隠しを可能にする影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)等、武器と防具を徹底調査するウェポニアにとって、未知の宝を秘めるに等しい者に、何とか接触出来ないかと思考を巡らせる。

 

(何にせよ……交渉して愉快合羽とユニーク小鎚は、何としても手に入れたい。となれば………いよいよ『アレ』を手札として切るべき、か)

 

SOHO-ZONEはオーナー室の一角にある金庫を見つめ、近付いてダイヤルを回す。ガチャリと解錠と共に開かれた金庫の中に入っていたのは、其の身を『金と白に染めた神々しき盾』で。

 

「……此れならば、交渉するに申し分無しでしょうか」

 

シャンフロにて現状五種しか(・・・・)確認されていなかった、特殊な武器であると同時に、ユニーク何たるかを体現する存在でもある『勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)』。

 

新たに発見され、装備する事無く。万が一にも装備者を出さないようにと、厳重に保管し。元々此の武器が発見された場所(・・・・・・・・・・・・・・)にウェポニアの本拠地を建てた程に、此のクランが誇る切り札的な存在たる━━━━━━『聖盾イーディス』。

 

金の鏡面に映る己を見つめながら、SOHO-ZONEはペッパーとの来るべき交渉へと備えるべく、イーディスを金庫に仕舞いてディスクに戻ったのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、シャンフロ第8の街・エイドルト。

 

各街に存在しているNPC経営のカフェ『蛇の林檎・水晶街支店』の一室にて、レーザーカジキの目の前には大量の御馳走が並べられていた。

 

対面には朗らかに、然れど背面には黒いオーラを漂わせ、彼を見つめるクラン:SF-Zooのオーナー、Animaliaの姿が在る。

 

「あ、あの……Animalia、さん?」

「そう固くならなくて良いわ。レーザーカジキさん……其れとも『ヒカル』って呼んだ方が良いかしら?」

「僕ゲームでも『姉さん』って呼びたく無いんだけど……」

 

レーザーカジキ、本名を厳島(いつくしま) (ひかる)。目の前に居るシャンフロトップクランの1つ、SF-Zoo率いるAnimaliaこと厳島(いつくしま) 真理亜(まりあ)の弟である。

 

「……ラビッツは楽しかった?」

「えっと……はい。兎食の大蛇は倒せました」

「そう……良かったわね。エンチャント・ヴォーパルは初心者から上級者まで、格上相手と戦う上で切札に成るわ。確り使い潰していきなさいな」

「………はい、ありがとうございます」

 

ワイングラスの中にあるジュースを飲み、姉として弟が最期までユニークシナリオを終えた事を称賛し。そして静かに、本題を切り出した。

 

「時にレーザーカジキさん」

「はい………」

「貴方……ジークヴルムと遭遇した時に、ペッパーさんと一緒に居たって本当?」

「………へ?」

 

雑談掲示板のジークヴルムが千紫万紅の樹海窟に降りた所まで遡った時に、レーザーカジキは他のプレイヤーに助け出されたという情報が有り。そして故障争奪戦争というスレにて、レーザーカジキは既に何らかの形でペッパーと接触を果たし、交流している事を知った。

 

灯台下暗しとは正に此の事か━━━━━受けた衝撃以前に、Animaliaはレーザーカジキに感謝している。まさか身内に、シャンフロで話題を引き起こしては各地に神出鬼没になるせいで、足取りを掴む事が難しいペッパーへと繋がるパイプが、こんな近くに居た事に。

 

「えっ、えっと………」

「あぁ、大丈夫大丈夫……。ちょっとペッパーさんとコンタクト、もといフレンド登録したいから、其れに協力して欲しいってだけよ」

(………………絶対嘘だ)

 

レーザーカジキは真理亜の狙い、そして彼女の夢を知っている。嘗て兎の国・ラビッツにて時間制限が有る中で、一向にクエストを進めなかった結果、強制退国によるクエスト終了になったSF-Zooと姉の話が有る。

 

今尚、シャンフロの歴史でも語り継がれる事件であり、其れ以来彼女と彼女のクランがラビッツ再訪問と、フリーパス入手及び永住権獲得を密かに狙っている事を。

 

Animaliaを……姉の事をよく知るが故に、レーザーカジキは『ブレーキ』を掛ける事の重要性を学び、そして動物と触れ合う事の『素晴らしさ』も学んだのだ。

 

「ペッパーさんは其の……『普通にプレイしている』……だけ、だと思う……よ、姉さん」

 

レーザーカジキは言う。自分が見ていた彼は何時も、唯々楽しそうにゲームをしていて。其の場其の時其の瞬間を、全力で楽しんでいる様に見えて。

 

しかし其れが通用するなら、世の中に争い事やらが起きないのは明白であり、そしてシャンフロトッププレイヤーたるAnimaliaも、話を聞いて納得するのであるが。

 

普通(・・)……ねぇ。リュカオーンにジークヴルムとの遭遇、黒毛のヴォーパルバニーにユニーク小鎚、そして名前隠しの黒コート。ねぇ、ヒカル………

 

普通って何かしら(・・・・・・・・)?」

 

あ、駄目だ完全に逆効果になった。自分の発言が姉の地雷を踏み抜いたと、レーザーカジキが気付くのが後少し早ければ、結果は違っていただろう。

 

「取り敢えず、ヒカル。ペッパーさんに伝書鳥(メールバード)を送って頂戴。彼とのコンタクト、もといパイプを作るのよッ!良いわね?」

「えっと……ハイ……」

 

ペッパーさん、ごめんなさい………。

 

ラビッツ再訪を夢見るAnimaliaの姿を見ながら、レーザーカジキは未熟な己に心で泣いたのであった……。

 

 

 

 

 

 






試す者、企む者、知る者




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~世界を見つめし神々達は~



其の時の世界は………


※今回は短めです




午後7時半過ぎ、現実世界・ユートピア社の社員エントランスホール。

 

確りと手入れされたスーツを着こなし、ピッカピカに磨かれた革靴を履いた、鋭い目付きと眼鏡のオールバックのイケメンキャリアマンが、袖内のポケットに大事に仕舞った、漢方成分入りの胃薬が入っている小瓶を取り出して、複数個掌に乗せるや水を使わず呑み込む。

 

彼は木兎夜枝(つくよぎ) (さかい)。大衆が認める神ゲー、シャングリラ・フロンティアの宣伝部長。そして神ゲーを産み出した神と神ゲーを調整する神の、水と油以上に仲が悪い二人の仲裁役を担う男である。

 

(久しぶりに妻の夕食が食べれて幸せだったのに、こんなタイミングで本社から呼び戻しを食らうとは……。まぁ内容は大体、予想出来るがな)

 

はぁ……と一際大きな溜息を付きながらも、彼は専用エレベーターに乗り、ユートピア社の原典閲覧室へと向かう。

 

到着後、彼の耳に響いてきたのはもう幾百も越え、良い年頃の女二人の幼稚園児じみた、止めなくては永遠に続くだろう言い争う声が。

 

妻の手料理+胃薬による加護を受けて尚、胃がキリキリする感覚に苛まれながらも、あの双神を唯一人止められる自分がやらなくては、シャングリラ・フロンティアそのものに影響が出る。

 

覚悟を決めた木兎夜枝は、三段階認証を終えて原典閲覧室へ足を踏み入れて、そして己の目の前で猿の様な奇声を上げ、創世と律がキャットファイトの如く取っ組み合いをしていた。

 

「何でよりにもよって、ヴァイスアッシュ・シナリオのモンスター10連戦の中に『煌星(こうせい)のポポンガ』を絡ませやがったんだよオマエは!?」

「其れは此方が聞きたいわよ!何であの10連戦の中に『オルケストラを模倣したユニーク遺機装(レガシーウェポン)』に関わる、フラグモンスターが入ってんの!?」

「また勝手にシナリオ書き換えたオマエが原因作ったんだろうが!?」

「なぁんですってぇ!?此の!私の!世界の!シナリオに!ケチを付けるつもり!?」

「………落ち着け、二人共。取り敢えず深呼吸。其れからシャワーを浴びるか、風呂に入ってくれ。もう三日は入ってないだろう」

 

そんな彼女達の間を割り裂く様に、木兎夜枝は創世と律のキャットファイトを止めて、此の場を納めに掛かる。

 

「先ず状況を説明してくれ。律、何があった」

「………ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】。第四段階(フォースフェイズ)の鍵を握るNPCモンスターのポポンガが、ヴァイスアッシュ・シナリオの実戦的訓練の最終戦に出るように、創世がシナリオを書き替えやがった」

「………成程。で、創世。オルケストラのユニーク遺機装のフラグモンスターは?」

「ヴァイスアッシュ・シナリオの実戦的訓練、5体目に出て来た嘲り嗤う影法師(グルナー・グリンセリン)。戦ったのはペッパーで、条件を満たして愉快合羽を手に入れたのよ……」

 

話の筋が読めた木兎夜枝は、そう言う事かと溜息を溢す。創世がインパクト・オブ・ザ・ワールドのクエストEXを解放されて、此れ以上受注プレイヤーの思惑通りにさせんと弄くった結果、其れが律にバレた。

 

しかし実戦的訓練の中に、ユニーククエストEXに関わるフラグモンスターが含まれていたのを、律の調整ミスだと創世が突っ付いて、今回のキャットファイトに発展したのだと。

 

「ペッパー……か」

 

プレイ開始から僅か一ヶ月と少しでありながら、リュカオーンに傷を刻み付け、ヴァイスアッシュ・シナリオへ最初に関わっただけに留まらず、ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】を受注し、第三段階(サードフェイズ)まで攻略。

 

更にはクエスト中の行動により、ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元へ集え】を解放して、天覇と墓守のユニーク遺機装を手にした、未知数の実力を持つプレイヤー。

 

と、そんな三人に追い打ちを掛けるが如く、創世のパソコンにピロリン♪と、1通の着信メールが届いて。またペッパーがやらかしたかと、メールを確認した創世は苦い表情をし始めて、律と木兎夜枝は其所に在った事実に目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニークシナリオ【兎の国の招待】、クリアユーザーを確認。

 

プレイヤー名:サンラク。称号【ラビッツ名誉国民】を獲得。

 

実戦的訓練クリア時、ヴァイスアッシュのペッパー及びサンラクに対する、規定値以上の好感度とヴォーパル魂所得により、ユニークアクセサリー【致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)】を獲得条件を満たしました。

 

ユニークシナリオ攻略に伴い、ユニークシナリオEX【致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)】を解放しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘でしょ……」と創世は歯軋りを、律と木兎夜枝は新たにユニークシナリオを攻略したサンラクに、各々が警戒を強くする。

 

「ペッパー……サンラク……か」

「何にせよ、此の二人は警戒必至だ。また何かやらかしかねん。其れと創世、またシナリオを書き変えると、他の調整班の仕事が絶大に増える。程々に頼むぞ」

「………解ってるわよ」

 

ペッパーという悩みの種に続き、新たにシナリオを攻略したサンラクが、神々の記憶に刻まれた。そして此の二人によって、シャングリラ・フロンティアという世界は、大きな畝りに直面する事に成っていくのである……。

 

 

 

 

 

 






神々は見た、ギラリと煌めく双つの星を




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プロゲーマーとクソゲーマーはセツナに出逢い、レトロゲーマーは嘗ての鎧を纏う



サンラク&オイカッツォ、ユニークシナリオEX受注へ




アーサー・ペンシルゴンのメールが着信してから四日後の夜。ユニークシナリオEX【此岸(しがん)より彼岸(ひがん)へ愛を込めて】を受注可能な、満月の日が再び訪れた。

 

兎御殿の休憩室のベッドで目覚めたペッパーは、ペンシルゴンへとEメールでログインした事を伝えていると、サンラクがログインしてきたので、千紫万紅の樹海窟へのルートを確認し合い、時間差を付ける形で各々の付き兎と共に、変装をしてからサードレマの裏路地を進んで街から脱出。

 

樹海の中をホルンマッシュルームや、苔が放つ仄かな緑の光を頼りに目的地に到着すると、其所にはペンシルゴンとオイカッツォ、そして何故かジト目でペッパーを睨み、其の手に黒と赤の異質な剣を握る、京極(キョウアルティメット)の姿が在った。

 

「やぁやぁ、ペッパー君。サンラク君。どうやらちゃんと撒いてきたみたいだね」

「てかペッパー、其の真っ黒コート何?中二病でも発症してるの?あと何で名前無いの?バグ?」

「胴装備でPKerやPK行為したら、即死&罰則の代わりにルールを遵守すれば、名前隠しが出来るオンリーワンの性能持ちのコート」

 

ペッパーの説明に、オイカッツォは歯軋りと共に「ユニークユニークユニーク……!」、サンラクは「クソ犬許さんクソ犬許さん……!」とブツブツ怨唆の声で呟き始めて。そしてペッパーは、京極の方に視線を変えて問い掛ける。

 

「で、何で此方を睨んでるのさ?京極は」

「ペッパーさぁ……最速走者(トップガン)と戦う前に、あの悪辣駝鳥に火口へ放り込まれたんだけどさ……君の事斬って良いかな?」

 

やっぱり其れかと内心溜息を付きながら、ペッパーは京極に警告として言った事を、もう一度正論と共にブチ当てにいく。

 

「一応警告したよな俺?あの悪辣駝鳥はプレイヤーを見付けると、ヤバい追跡をしてくるって。シャンフロのエネミー記事読まなかったの?アレ、敏捷スタミナの二極化した上級プレイヤーでも、逃げ切るのは簡単じゃないって書かれてたし」

「斬っても斬っても次から次にやって来るから、捜索出来なくなったんだよ……。取り敢えず、落下死した分だけ、君の事斬って良いよね?」

 

嗚呼、コレは駄目だわ。何度言っても話が一向に通じないし、イベントが進まないタイプだと、ペッパーは静かに確信。ペンシルゴンにアイコンタクトで救援要請を出しながら、京極へこう言った。

 

「取り敢えず悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)着させてやるから、怒りを静めてくれ京極。ウェザエモン討伐前にゴタゴタで、メンバー離散はしたくないんだよ」

「ふぅん………まぁ良いけど」

 

溜息一つを付いて赤黒い剣を仕舞い、京極が落ち着いた所で本題へ。ペンシルゴンが苔の壁の中の光っていない箇所を調べると、およそ一ヶ月前に見た隠し通路が現れる。

 

「懐かしいね…初めて知った時は、こんなの在ったんだって驚かされたよ」

「クリアしたエリアにこんなのが在ったとは……何かちょっと悔しい」

「RPGとかでも隠しエリア見付けたら、何時だってワクワクするわ」

「こんなのよく見付けたね、ペンシルゴン」

「私がコレを見付けたのって、必要なアイテムを取りに此のエリアに来た時だったからね。時間指定有りだから、偶然が重なっただけだよ」

 

隠し通路を歩いている最中に、サンラクがオイカッツォにユニーク自発出来ないマンだとか弄り始め、あわや通路で喧嘩が始まりそうになったので、ペッパーが割って入り、ペンシルゴンが宥める形で矛を治め。

 

通路を抜けて眼前に広がる彼岸花、サンラクは変装用に装備した頭装備の白頭巾を、何時もの鳥面に変更すると隠れていたエムルが現れて。面識の有るオイカッツォは軽く挨拶を、逆に喋るヴォーパルバニーが居た事に、ペンシルゴンと京極は、驚愕の表情と目を丸くする。

 

そんなやり取りをしている中、ペッパーも着替えるからとコートを少し捲ると、アイトゥイルが出て来た。ペンシルゴンとオイカッツォは一度面識が有るので軽い挨拶を、逆に初見の京極は再び目を丸くした。

 

と……

 

「サンラク、アレ………」

「!半透明のバグか何か…か?」

「いや何でバグが第一声になるし」

 

オイカッツォが指差す先、巨大な枯木に凭れ掛かるセツナの姿を五人は目撃する。彼女も此方に気付いたようで、優しい声と共に話し掛けてきた。

 

『あら……アーサー、ペッパー。久し振りね。其れに京極も……』

「やっほーセッちゃん、一ヶ月振り」

「セツナさん、御久し振りです。そして、こんばんわ」

「久し振りだね、セツナ」

 

ユニークシナリオEXを受注しているプレイヤー達に対する、セツナの反応なのだなと思いつつ、サンラクとオイカッツォの方を見ると、サンラクは鳥面に手を当てながらセツナの服装を見て考察をしており、オイカッツォはセツナに興味津々の様子である。

 

『今日の人達は……また違うのね』

「此方に居るのは、サンラク君とオイカッツォ君。此の二人もウェザエモンを張り倒す、最強のメンバーであり切札達。此の五人でウェザエモンを止めて見せるよ」

 

利き手を強く握り締めたペンシルゴン。思えば此処までレベリングに追われたりしながら、短期間で規定レベルまで到達したなと思っていると、セツナがサンラクとオイカッツォ、そしてペッパーを見つめて言った。

 

『凄いわね……『クロちゃん』の強い気配を二つも着けた人、私は初めて見たわ。其れに……『灰被りちゃん』の子供達と一緒だなんて……フフフ』

「?」

 

セツナが朗らかに笑う中、オイカッツォとペンシルゴンに京極が、アイトゥイルとエムルを見つめて。ペッパーとサンラクは、各々の兎を肩や頭に乗せながら、ペッパーはセツナの気になる言葉を考察し始めた。

 

(『灰被り』……?先生……もとい『ヴァイスアッシュ』の事だよな、セツナが言ったのって……。でも先生は『白色』の毛皮だった……。ゴリラには年老いる程に、毛並みが黒から白に変わる『シルバーバック』の様な現象が有るから、其れを指しているのか?)

 

『あぁ、気にしないで。ずっとずっと、ずっと昔の郷愁………。彼女(・・)はもう既に死んでしまっているけれど……貴方達のお陰で、懐かしい記憶を思い出せたわ。………ありがとう』

「どう、いたしまして……」

 

考察は程々にした所でペンシルゴンがセツナに、ウェザエモンの事をサンラクとオイカッツォに話して欲しいと言って、二人の前にはユニークシナリオEXの受注画面が表示。

 

二人がOKボタンを押して、受注を行うとセツナはウェザエモンの事を語り出し、五人は其れを静かに聞いた。最期にセツナが願うように、彼等彼女等に深々と頭を下げたのだった。

 

そしてペンシルゴンは此処からが本題とばかりに、セツナへ話を切り出す。

 

「セッちゃん……いえ、セツナ。今日は見て欲しい物が有るんだ」

『見て欲しい……物?』

 

セツナが疑問符を浮かべるように首を傾げて、ペンシルゴンがペッパーの方を向く。其れを合図として、ペッパーはアイテムインベントリから取り出した、悠久を誓う天将王装を一つ一つ、其の見に纏わせていく度にセツナの目は丸く、見開かれていく。

 

そして其の全てを纏った姿に成るペッパー。初見ではウェザエモンと見違えてしまう程、似通った部分も多い物の、然れど其れはウェザエモンに有らず。纏っているのはペッパーなのだ。

 

「ペッパー君が受け継いだ、悠久を誓う天将王装。私達も初めてコレを見せられた時は、ウェザエモンかと……セッちゃん?」

 

ペンシルゴンがセツナに話し掛けようとした時である。彼女の両目からは、大粒の涙がボロボロと零れ始め、胸に手を当てながら、泣き声と共に言葉を紡ぎ始めた。

 

『あぁ……あぁ……『桜の刺繍』。……『遠い過去に』セツナが、あの人の無事を、願って………付けた、セツナが好きだった『桜の花』……』

「セッちゃん!?大丈夫!?」

「おいおいおいおい、ペッパーがセツナを泣かせやがったぞ~????」

「いーけないんだ~、いけないんだ~。ペンシルゴンに殴られろ~」

「いーけないんだー、いけないんだー。サムライ装備ズルいペッパーくーん」

「オイ今さらっと私怨加えたよな京極?」

 

外道三人に好き勝手に言われまくるペッパー、セツナに寄り添うペンシルゴンと、秘匿の花園は一時的に混沌に陥った。

 

『ごめんなさい、アーサー……。あの人が纏っていた鎧を見たら、感窮まって泣いてしまったわ……』

「やっぱり、あの頑固者のウェザエモン由来の装備なんだね、悠久を誓う天将王装って……」

 

改めて此の一式装備は本当にヤバい存在だと、ペッパーはフルフェイスヘルメットの中で遠い目になっていると、セツナがペッパーを手招いて近くに来るよう、サインを送っている。

 

彼は近くに進み、彼女の前に立つと、セツナは言葉を紡ぎながら、桜の刺繍に手を伸ばす。

 

『ペッパー、其の鎧に秘められた力。此処に解き放ちます。そしてどうか、あの人に伝えてあげて。貴方は……もう十分に守ってくれた、本当に………本当に、ありがとう……と』

 

セツナの透明な両手が、天将乃胴鎧(テンショウノドウガイ)天照一清(アマテラスイッセイ)に掛けられた陣羽織の桜刺繍に触れた直後、ペッパーの目の前で此れまで封じられていた『ある能力の解放』を告げる、リザルト画面が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『此処に時は満ちた!FCB【不屈之鎧(フクツノヨロイ)】が解禁されました』

『此処に時は満ちた!FCB【天王招来(テンオウショウライ)】が解禁されました』

『此処に時は満ちた!FCB【晴天結実(セイテンケツジツ)】が解禁されました』

『伝説を超えよ!轟斬型(ゴウザンガタ)太刀式(タチシキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)の専用スキル【破天光(ハテンコウ)】が解禁されました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(FCBが解禁された…!此れで天王を呼び出したり出来るし、使用感をちゃんと確認出来る。というか、大天咫にも専用スキルが有ったのか……名前が破天光?破天荒じゃないの?何か意味有りなスキルだな……?)

 

「任せてよ、セッちゃん。私達が必ず、あの頑固者のウェザエモンを倒して、安心出来るようにしてあげるから!」

 

右手で拳を作り、溌剌とした表情で宣言したペンシルゴン。其れを見たサンラク・オイカッツォ・京極の三人は目を合わせつつ、各々が声を出す。

 

「オイオイ見たか?オイカッツォ、京ティメット」

「見た見た、アレって本当にペンシルゴン?」

「普段相手を陥れる事に関して、嬉々としてやってるペンシルゴンが………ねぇ?」

 

セツナを前にして言い切ったペンシルゴンに、外道三人が言い始める。

 

「円卓では敵を誘き寄せる為に、NPCの王様を生き餌にして馬車で引き摺り回したり…!」

「NPCのお姫様をシャンデリアに吊るして、他のプレイヤーが城に入った所を、闇討ちにする餌にするとか…!」

「敵対クランを倒すために別クランに情報リークして、疲弊した所を纏めて漁夫の利してたり……!」

 

ボロクソかつ好き勝手に言いまくる三人に、ペンシルゴンの頭の後ろに怒りのマークが浮かぶのが見えたペッパーは、アイトゥイルとエムルを抱えて其の場からソロリ…ソロリ…と退避していく。

 

「NPCと談笑しているじゃないか…!遂に、遂に人の心を取り戻したと言うのか…!?」

「コレガ…キモチ、コレガ……ココロ……?」

「いやはや……こんな一面が見られるとは。此の僕でさえ見抜けなんだ……」

 

ブチリと明らかにキレた音と共に、花園に爆発と稲妻が迸る。ペンシルゴンの手には轟雷大槍グラダネルガが握られ、彼女は大層な御立腹である。

 

「流石に失礼過ぎないかなぁ~、君達さぁ……?レベルカンストの恐怖と共に、グラダネルガの実験台にしてあげようかぁーーーーーーー!!!!!」

「わぁ!?待って待って、雷纏いながらの攻撃は卑怯でしょ!?」

「今ので瀕死に成ったから、PKは勘弁!カッツォ犠牲になれ!?」

「許すわけねーだろが、お前が死ねぇサンラクゥ!?」

 

ギャーギャーワーワーと大混乱になる様を見ながら、はぁ……と溜息を付くペッパーと、彼の両肩に乗る形であわわ顔で見守る、エムルとアイトゥイル。

 

暫し経って追い掛け回された三人が、ペンシルゴンに服従のポーズをした事で、漸く落ち着いた彼女はセツナを見て言った。

 

「セッちゃん……セツナはこう、何て言うか……背景的に、他人のように思えなくて……。ッ~~~!えぇ、そうですよ!私だって本気でゲームに感情移入しちゃったりする事が有るんですよー!?」

 

恥ずかしくなったのか、正直な気持ちを白状したペンシルゴン。其れを聞き届けたサンラク・オイカッツォ・京極の三人はニヤリと笑い、そして言った。

 

「ゲームで本気なる?大いに結構だろ。何事も本気と全力で取り組んだ方が、絶対に楽しいに決まってら!」

「そうそう。ゲームって、誰よりも楽しんだ奴の勝ちなんだし。と言うのか俺は、其れで飯を食ってるしね」

「僕もウェザエモンにはリベンジしたいし、一人の剣士としてアイツに挑みたい。こうしてリベンジの機会が巡って来た訳だし、全力で勝ちに行きたいから」

 

動機は各々、然れど見据える目標は同じ。其れを見てペッパーはコクコクと頷きながら歩み寄り、ペンシルゴンは笑って言った。

 

「アハハハハ……!あぁ、そうだった。君達()大概大馬鹿だったね」

「ペンシルゴン。俺達全員、ウェザエモンに勝つために集まったんだ。本気の一発勝負、勝ちに行こうぜ」

 

皆自然と右手が拳を握っていた。突き出す拳が拳と触れて、ペンシルゴンが音頭を取る。

 

「相手は此迄、誰にも討伐出来なかった七つの最強種、墓守のウェザエモン。けれど君達が居れば、必ずアイツに勝てる。アイツを超えられる。本気で戦い、勝ちに行こう━━━━!」

 

此処にウェザエモン討伐への意志は固まり、其の時に備えて最期の仕上げに、各々取り掛かるのであった━━━!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「其れは其れとして、サードレマの蛇の林檎で作戦会議ね。ペッパー君の天将王装の装備を京極ちゃんが試すのを踏まえてさ」

「「「「アイアイサー」」」」

 

 






セツナの遺志、解禁される真なる力




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皇たる鎧、秘められた条件



ウェザエモン戦を前に、問題発生




サードレマ・蛇の林檎。千紫万紅の樹海窟・秘匿の花園より帰還して、裏路地を使いこなしながら現地集合をした五人は、店のマスターの案内によってVIP対応の部屋にて、墓守のウェザエモン討伐に向けた話し合いを開始する。

 

「さてと……話し合いの前に、先ずはペッパー君と京極ちゃんの要件を解決しようか」

悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)の装備………だったよな」

「そうだね、さぁさぁ早く出してペッパー君」

 

待ち望んだ物事を手にするのを急かすように、誕生日プレゼントの包装紙を開けて中身を見ようとするように、ユニーク遺機装(レガシーウェポン)を求める京極。

 

ペッパーはアイテムインベントリから一式装備、悠久を誓う天将王装を取り出して、彼女の前へと置いた。

 

「さてさて、ウェザエモン由来の装備『ブブーッ』………は?」

 

フルフェイスヘルメットを手に取り、いざ装備と思った矢先、京極に叩き付けられたのは『装備出来ません』を報せるSEであり。

 

「おい、京ティメット何があった?」

「どうしたの、京極ちゃん?」

「もしかしてステータス充たして無かった?」

 

サンラク・ペンシルゴン・オイカッツォが聞いてくる中、京極はペッパーに悠久を誓う天将王装を返して、衝撃の事実を口にしたのだ。

 

「……………悠久を誓う天将王装、これ………『男性用装備』なんだけど」

「「「「……………は????」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニーク遺機装(レガシーウェポン)悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)。墓守のウェザエモンが嘗ての時代に纏ったとされる、偉大なる戦鎧一式の事を指す。

 

一式装備の全てを其の身に着ければ、全種装備による固有能力が働き、装着者は一騎当千に等しき力を手に入れられる。

 

だが、京極が装備しようとした所で此の一式装備……もとい七つの最強種を模倣した、ユニーク遺機装の持つ『装備条件』が開示された。

 

「まさか……悠久を誓う天将王装が『男物の装備』だったとはね……。ペッパー、君の事斬り殺して良いかな?良いよね?答えは聞かないけど」

「俺だって始めて知ったよ!?ってか何で男しか着られないんだ、訳が解らん……」

「へいへい京極ちゃん、落ち着こうぜ?此処で流血沙汰起こしたら、唯でさえ肩身狭いPKerの休める場所が減っちゃうよ~?」

 

赤黒い剣を握って斬らんと迫ってくる京極を、ペンシルゴンが両脇を押さえる形で止めつつ、ペッパーは悠久を誓う天将王装を全身に装備し、万が一斬り掛かって来た時に備えてる。

 

とはいえ、ユニーク遺機装・悠久を誓う天将王装に性別限定装備という、特殊な条件が存在していた事を知らなかったのは事実であり。同時にペッパーの脳内では、新たな仮説が産み出され始めていた。

 

(女性アバターの京極が装備出来なかったって事は、もし仮に光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)を渡したとしても、装備出来なかったって事になるんだよな……。

 

いやまさか、ユニーク遺機装は各々模倣したり由来したユニークモンスターの『性別』で、装備出来たり出来なかったりするって事か?

 

じゃあ『夜襲のリュカオーン』は、ライブラリの情報が正しいとするなら『雌』だから、其のユニーク遺機装は『女性』じゃないと装備出来ない的な………?

 

えっ、此のゲーム『性別』変える手段無くない……?どうやって『女性装備』着けるの?仮にユニークモンスターの半分が女だったら、半分は装備出来なくなるじゃん……。いやマジかよ……ゲットしても着れないんじゃ意味ないじゃん………)

 

七つの最強種達が、一体どのような性別分配をしているかは解らないが、仮に其の予測が正しけば男性アバターの自分には、全て探し当てたとしても、其の半数が装備出来ない問題に直面する事になる。

 

そして問題は『もう一つ』。

 

「…………あれ?ちょっと待てよ」

「おい、まさかとは思うけど……」

「サンラクとオイカッツォ、気付いたか」

「え、何どういう事?」

 

サンラクとオイカッツォが事の重大さに気が付いて、ペンシルゴンが京極を宥めながら二人に聞いてくる。

 

「えっと、ペッパーが着ているSFサムライアーマーは、男物だから男性にしか装備出来ない訳じゃん」

「うん、そうだね」

「カッツォとペンシルゴン、そして京ティメットは女性アバター。そして俺は、胴と脚に装備が付けられない」

「……………そういうこと?」

 

二人共に頷いて、サンラクがペッパーの装備を指差しながら、事実を言ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現状、其のアーマーを全部纏って能力を十全に発揮出来るのが、ペッパーしか(・・)居ない。事実上、ペッパーが悠久を誓う天将王装を装備しないと、ウェザエモン相手に何らかの『イベントを起こせない』って訳だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう━━━━━ユニーク遺機装が、一式完全装備と性別限定装備という条件によって判明した、もう一つの問題点。

 

討伐メンバーの中で、男性アバターなのはペッパーとサンラクの二名だけ、更にサンラクはリュカオーンの呪い(マーキング)によって、一式完全装備が事実上不可能。

 

消去法で片手が使えずとも、一式装備を装着出来る+大天咫を振るう事が出来るのは、五人の内でペッパー以外存在しないのだ。

 

「まぁ何が言いたいかというとだな、京ティメット。此処でペッパーをキルして、其れが原因で『シャンフロ引退する』なんて事になったら、戦力大幅ダウン所の話じゃ済まねぇ事態になる」

「ウェザエモン攻略を行う以上、ペッパーの『読みと思考能力』は必要だし、何より一式装備は此の戦いじゃ不可欠だよ。直前ドタキャンで降りられちゃ、此方は堪ったもんじゃないよ」

 

内ゲバなんぞ起こそう物なら、最悪詰みに直結しかねない。サンラク・オイカッツォの二人が警戒しているのは正に其れであり、此処で京極がやらかせば一生掛けて怨み殺すと、無言の殺意を決め込みながら。

 

「ぐっ………はぁ、解ったよ。ウェザエモンを討伐出来なくなるのは、僕だって非常に困る。………ので、君を殺すのは我慢してあげる」

 

絶対何処かでキルしに来るんだろうなぁと、京極に対する警戒心を残しながらも、ペッパーは四人を見る。

 

「さて、話は脱線したけど話し合いをしよう。先ずは第一段階のウェザエモン単体、此れはサンラク君と京極ちゃんを中心に置きつつ、ペッパー君とオイカッツォ君、そして私が二人の補助を担当する。ウェザエモンの超速攻撃に対応出来得るサンラク君と、実際に戦闘経験有りの京極ちゃん。第一段階は二人の立ち回りが、文字通り鍵を握ってるから頼んだよ」

 

ウェザエモン相手に10分持ちこたえる。耐久戦は柔道に似通っており、普通に勝つ以上に苦しく、そして難しいとされている物だ。

 

「任せろ、キッチリ持ちこたえてやるよ」

「腕が鳴るね」

 

最強を相手に耐久戦を行う役目に、サンラク・京極共にやる気充分の様子だ。

 

「第二段階に突入したら、補助役だったカッツォ君が麒麟を相手にロデオで動きを封じつつ、私はカッツォ君の補助に入る。そして第二段階では、ペッパー君が全体を見通してアイテムの投入や、状況報告を行う担当に入る。全体を見通しながら、常に状況に応じたアイテム選択をしないといけない、正直かなりキツイけど━━━━やれる?」

「麒麟がデッカイロボットホースだろうと、ちゃんとロデオしてみせるよペンシルゴン」

「任せろ。レトロRPGの操作キャラ最大10人全体の状態チェックや、体力マナの管理で嫌という程経験してきたんだ。今更そんな事でビビるかよ」

 

此処まで力強く答えてくれると、寧ろ逆に安心出来る自分が居る。

 

「…………よしッ、じゃあ皆。ウェザエモン攻略、頑張って行こう!」

「「「「応ッッッッッ!!!!」」」」

 

担当は決まった、何を成すかも解った。必ず勝ってみせる………!ペンシルゴンを含め、此処に居る五人は改めて、其の意志を確固たる物としたのである……。

 

 

 






纏いし切札、使えるは唯一人のみ



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最期の追い込み、習得すべきは極みの秘技



致命極技を習得せよ




ウェザエモン戦に備え、アーサー・ペンシルゴン・サンラク・オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)を含む、五人での作戦会議から四日が経過した。

 

戦いに備えて、各々が武器防具の育成やアイテムといった物質の調達。サンラクと兎御殿で出逢えるペッパーは、彼との連絡用にEメールアドレスを交換したり、エフュールのドールキーホルダーの能力確認をしたりと、来るユニークモンスターとの一戦に向け、成すべき事を成し続けている。

 

「よっしゃ!今日も今日とて、シャンフロ頑張りましょうか!」

「ペッパーはん、来たのさね」

 

兎御殿の休憩室にて覚醒したペッパーは、身体を伸ばして起き上がると、自分の近くに付き兎たるアイトゥイルが居た。そんな彼女は現在、目をキラキラと光らせており、素晴らしいと思える上機嫌の表情をしていた。

 

「やぁ、アイトゥイル。どうしたの?」

「ペッパーはん、ペッパーはん。ピーツが『ペッパーはんが来たら、ワテん所に連れて来てくれって』言ってたのさ。何でも『天願の偶像』のオークションが完了したらしくて、其の売上金を渡したいのさ」

 

以前去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)でのゴーレムハンティングで、偶像をコレクトした時に出て来た、ユニークNPC『慈愛の聖女イリステラ』に激似とされている天願の偶像(フィギュア)

 

ピーツが頼み込み、オークションで落札価格から諸々引いた三割を報酬として、彼に支払うと約束したイベントの結果が解るようだ。こうしてはいられないと、ペッパーはアイトゥイルと共にピーツの元へと向かった。

 

「ペッパー!天願の偶像をオークションに出したら、想像以上の盛り上がりになっとったけぇ!大陸中から金持ちの開拓者に大富豪達が挙って訪れ、今までにない熱狂やったわ!」

 

ペッパーとアイトゥイルが、兎御殿内に在るピーツの露店を訪ねるや、開口一番スーパーハイテンションになった彼が、耳をピコピコ目をキラキラと輝かせながらに言ってきた。

 

やはり聖女の偶像ともなれば、其の情報はたちまち拡散して、求める者達がオークションに集うのは当然と言えば当然で。

 

しかしペッパーが、自身も予想だにしなかった展開は此処からだった。

 

「ペッパー。今回のオークション……天願の偶像の『最終落札価格』は……!なんと………なんと………なんと………!!!!」

 

 

 

 

 

 

10億マーニで、ジョセットっちゅうネーちゃんが、競り落として行きおったんや!

 

 

 

 

 

 

クラン:聖盾輝士団━━━━通称:聖女ちゃん親衛隊のクランリーダーが、落札者になったとペッパーは目を丸くした。イリステラにプレゼントする為か、其れとも自分自身で愛でる為か、用途は解りはしない。

 

「……でや!今回のオークションの主催者側に諸々支払った結果、残ったのが『9億マーニ』でな?其所からペッパーが言及した報酬分の三割を差し引いて………」

 

そう言ったピーツがペッパーとアイトゥイルの目の前に、マーニが入った巨大な袋をドスン!と置いた。

 

「ペッパーの取り分は『6億3000万マーニ』や!まさに偶像ビッグドリーム!一攫千金ならぬ一攫億金やぁ!」

 

偶像一つで億越えの金を手にしたペッパーは、目眩を覚えながらも大金入りの袋を受け取り。落ち着きを取り戻す為に、暫しログアウトをするのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「6億3千2百30万マーニかぁ……」

 

現実世界で落ち着きと心の整理を終え、シャンフロに戻ってきたペッパー。サーモンから始まり、蜂蜜へと続き、偶像で手に入れた、とんでもない金額のマーニが表示されたステータス画面を見て、彼は大きな溜息を溢す。

 

「ペッパーはんペッパーはん、大金手に入れた訳やけど、此れからどうするのさ?」

「マーニは幾ら有っても良いからね。使う時はドカンと使うさ。其れよりアイトゥイル、エイドルトにゲートを繋いでくれ。其れから、一時間経ったら同じ場所に迎えに来て欲しい」

「ワイはお留守番なのさ?」

「ごめんな……。でも、エルクさんから買った『あの技』を習得するには、単独で対象モンスターを討伐しないといけないから」

 

レベル50に成った事により、購入してから習得条件が開示されず、半ば置物状態だったスキル『致命極技(ヴォーパルヴァーツ)』。漸く解禁された其れを、彼女から金で買い得た情報を踏まえ、ペッパーは『ある一体のモンスター』へと当たりを付けたのである。

 

「解ったのさ、気を付けてなのさ」

「ありがとう、行ってきます」

 

自身のアクセサリーに此迄セットしていた鎖帷子を外し、新たに致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)を右手首に装着。アイトゥイルが兎御殿の休憩室からエイドルトの裏路地に出る。

 

其所からペッパーは裏路地を駆使しながら、先にエンハンス商会・エイドルト本社に飛び込み、アイテムを購入。そして加速や移動スキルを使い、去栄の残骸遺道へ突っ走って行ったのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードレマにて装備と武器を整えた開拓者達は、千紫万紅の樹海窟・栄古斉衰の死火口湖・神代の鐵遺跡の三つのルートへと分かれ、各々がフォスフォシエ・ファイヴァル・シクセンベルトの街に行き、最終的にフィフティシアへと向かう。

 

其の中でもフォスフォシエを通り、エイドルトを経由。イレベンタルを通って、フィフティシアへと向かうルートは、他のルートよりも人気が高く、選ぶプレイヤーも多いのだとか。其の理由の一つが、去栄の残骸遺道(此のエリア)のエリアボスが大きく関係している。

 

「真っ直ぐ一直線に行けるって、RTA勢にすれば是非とも選びたい選択肢でも有るからなぁ……。まぁ、俺の目的はエリア攻略以上に『エリアボス』なんだけども」

 

エルクは言っていた。致命極技の習得には『自身よりもステータスが、何倍以上も離れた相手との戦い』を、必要不可欠としている事を。

 

ペッパーは調べた中に、自身よりも何倍も優れたステータスに加え、自身が現時点で行けるエリアの中で条件を満たすモンスターが、一体だけ存在している事を知った。

 

「……っと、そろそろ目的地だな」

 

去栄の残骸遺道を駆け抜け、ペッパーが辿り着いたのは、不自然に開けた巨大な円状のフィールド。其の中心地点には『巨大なガラクタと瓦礫の山』がポツンと一つ、余りにも不自然に鎮座していた。

 

遠目で見たが、其れでも『およそ八階建てのビル』に匹敵する高さの残骸の山で。そして其れは、音を建てながら動き出す。のっそりと、ゆっくりと。しかしながら力強く、其の身を立ち上がらせながら、天を突くかの如き巨体を、テリトリーに侵入してきた者の前へと晒す。

 

エリアボス『オーバードレス・ゴーレム』。特徴として、ガラクタや瓦礫といった様々な物質が全身に纏わり付いた、強靭かつ天然の鎧によって『ランダムに特性が変更される』。つまり、常に『有効な攻撃手段』の変更を余儀無くされ、巨体も相まって倒すのは困難を極めていた(・・)

 

しかし、とあるプレイヤーによって発見された弱点(・・)により、今ではプレイヤー達に『貪食の大蛇以下』という哀しい烙印を押された挙句、単独討伐タイムアタックの対象にされているのだとか。

 

「今回俺が来たのは、お前さんを『刀武器で攻略する』事。ポップした時には必ず、『二本の支柱に支えられたホイール』が現れる。そして其の真下に、お前さんの『核』が存在しているのは調査済みだ」

 

此処数日の鉱石採掘を行い、自分が持っている武器を強化していたペッパー。其の内の一つであり、彼が新しい戦い方を模索せんと購入した『黒鉄丸(くろがねまる)』。

 

掘り出した鉱石達を用い、名匠ビィラックの手により育成を受けた結果、其の段階を改九にまで到らしめた事で、元々刀武器としては其れなりの耐久力を誇っていた黒刀は、更に強靭で剛強な耐久力を獲得した。

 

「タイムアタックはしない。確実に致命極技を習得する為に、お前さんを倒させて貰うぞ!オーバードレス・ゴーレム!」

 

鞘より抜かれた黒の刀身が光った瞬間を合図とし、オーバードレス・ゴーレムが身体に纏った瓦礫を、無数のクレーンを使い放り投げる。

 

超巨大な敵と小さな開拓者ペッパーの、致命極技習得を賭けた戦いが始まった。

 

 

 

 






立ち塞がるは、超巨大モンスター




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切り開くは刃、強者を倒す輝き



ペッパー 対 オーバードレス・ゴーレム




去栄の残骸遺道エリアボス、オーバードレス・ゴーレム。エリアの名前を彷彿とさせる姿と、降り注ぐ瓦礫とガラクタの雨を、加速力と敏捷を時間経過と共に高めて行く『激走奮迅(げきそうふんじん)』に、平地でも高い加速力を発揮する『ホライゾン・メロス』で置き去りにしながら、ペッパーは天を見上げ。核となる脳天部分へと上がるルートを思考する。

 

「侵入経路は三ヵ所、攻撃感覚はクレーン一本の叩き付けが約10秒毎に一回ずつ、瓦礫の放り投げも同様……タイミング、よし今ッ!」

 

名匠ビィラックの育成によって、更なる強靭な刀身を得た黒鉄丸(くろがねまる)改九を振るい、ペッパーがルート突入直前に『スキル』を発動する。致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】の鍛練を続け、壱式より始まり玖式を超えた事で到達した『致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】』。

 

秘奥到達前が『敵の背後にヘイトを移す虚影の斬撃』であるのに対し、秘奥に到達した此のスキルは『敵のヘイトを其の場に置き去りにする分身生成』へ成長。実際に計算した所、此の分身は『およそ8秒間』持続する。

 

タイミングを調整し、ペッパーは登山ルートの一角よりセルタレイト・ケルネイヤーと遮那王憑(しゃなおうつ)き、アンブレイカブル・ソウルより進化し、発動時間は90秒と据え置きだが、筋力・敏捷・スタミナの上昇数値を2.5倍とし、発動中に自身が敵の攻撃を受けて、体力が全損して死亡した瞬間に『戦闘中1度だけ』、体力を半分回復させて『自己蘇生』を可能にする『戦王の煌心(プライマス・ハート)』を起動。

 

更に重ねたスキルの最後に使う事で、其の継続時間と補正を高める『デュアルリンク』による補強を加えて、地面より跳躍するや残骸とガラクタで出来た、オーバードレス・ゴーレムの身体を高速で登っていく。

 

「3…2…1…ウツロウミカガミの効果終了。攻撃来る前に、更に登って距離を稼ぐ!」

 

タイマーアプリを横目に、ウツロウミカガミの効果時間を把握。同時にスキルレベル×3歩、発動者は空中歩行が出来る『フローティング・レチュア』。スキルレベルに応じてスタミナの残存量に比例し、プレイヤーの移動量を高める『ムーヴセドナ』。ステップを掛ける度に、移動速度・加速力を大幅に上昇させる『アクセラレート・ステップ』の起動で、空中をステップ。

 

一歩で振り下ろされるアームを躱わし、二歩目で飛んできた瓦礫を致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】で三歩目を踏んで、ありったけの力を籠めて跳躍し、ペッパーは目的地へと到着した。

 

「ホイールの真下、此処だ!オーバードレス・ゴーレムの『核』が在る場所ッ!」

 

着地前に『凪静水面(なぎしずむみなも)』を発動。高まった心拍数を正常に戻し、クリティカル時には装甲破壊効果を乗せる、刀・直剣系スキル『儷紲一剣(れいせついっけん)』、自分よりもあらゆる要素で勝るエネミーに対し、全ステータスに5%のバフを追加する『英傑之呼応(ヴァンガート・グレイトフル)』と共に、黒鉄丸を鞘へ納刀。

 

刀武器スキルで自身の筋力・敏捷を参照する『速刃(そくじん)雨払(あめばらい)】』、同じ武器種スキルで技量・器用を参照する『居合(いあい)切翼(きりつばさ)】』。逆手で繰り出すと強大なダメージ補正が追加される『マチェット・サイサリス』、自身と戦っている(エネミー)の数が少ない程にダメージボーナスが入る『烈光仙迅(れっこうせんじん)』で、逆手横一文字の『斬覇撃』と化した一閃と共に、オーバードレス・ゴーレムの核を守る残骸を一刀で切り開き。

 

「斬りッッッッ裂くッッッッッ!!!」

 

ペッパーは黒鉄丸をインベントリに仕舞い、即座に風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】へ変更し、切り口に目掛けて十連続膾切りたる『連刀十刃(れんとうじゅっぱ)』、同じ箇所に斬撃ダメージが入る度にクリティカルとダメージ補正が働く『罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)】』に、筋力・技量・スタミナを参照する『ファイティングスラッシュ』。

 

其所へ駄目押しとばかりに、自身の高潔度によってステータスを追加する『纐纈戦々(こうけつせんせん)』。高潔度を参照としてダメージ補正が働く『エクシリア・スライサー』に、斬撃ダメージが入る度に威力を上昇していく『ミッシングブレイド』の、ありったけの斬撃スキルの十連撃を、開かれた切り傷へ碧千風の特性と共に刻み込み。

 

「此れでッ………最後!!!」

 

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)の修練の結実、ウツロウミカガミと共に秘奥へと到達し、直前の斬撃軌道と誤差が無い程、正確無比に(なぞ)る程、クリティカルとダメージの双方の補正に、高いボーナスが追加される『致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】』。

 

迫り来るクレーンをバク転で回避し、空中に放り出された己の身体を二段ジャンプたる『スカイウォーカー』で整え。効果が残されたバフの中、ペッパーの身体は空中を飛んで。

 

全身全霊全力全開の横一閃の翡翠の光が走り、武器特性によって裂傷と帯電のデバフが入った傷口に刀身が入り、風と雷の融合と致命の秘剣が、オーバードレス・ゴーレムの核を遂に両断する。

 

「オーバードレス・ゴーレム。巨大ボスに相応しい体力に振り下ろされる強大な攻撃技、後半エリアに相違無い素晴らしい相手だった!」

 

巨体を、瓦礫を、ガラクタを。其の身一つで構成していた、オーバードレス・ゴーレムのポリゴンは、爆発四散を遂げて。致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)を装備しながらも、後半エリアのボスだけありレベルアップを果たしたペッパーだったが、只今問題に直面していたのだ。

 

「あ~…討伐した後の着地を考えて無かったな」

 

現時点のペッパーはオーバードレス・ゴーレムの崩壊した身体から、シャンフロが誇りし物理エンジンに従い、空中から地面に目掛けて落下している。此のままでは物理エンジンによる、落下死と言う名のプレイヤーもNPCも、そしてモンスターも等しく殺す死刑判決が適応されてしまうだろう。

 

かといってレディアント・ソルレイアを装備し、空中浮遊を万が一にも見られて、胡椒争奪戦争にコメントが記載されれば、其れこそ収拾が付かなくなる。

 

「危険だが…アレを使うか……!!ええぃ、いざ参らんッ!!」

 

迫る地面に向けて、空中で足裏を向け。着地に備えながら、ペッパーは『プレジデントホッパー』を起動する。

 

此のスキル、本来ならば落下死と言う物理エンジンの死刑宣告に対し、一定の高さから落下+着地時に足裏が地面に接地している場合に限り、其の落下ダメージを次の跳躍時に跳躍力へと変換出来るスキルなのだ。

 

其れを活かす為、ペッパーは『ゲニウス・チャージャー』を使って空中での姿勢制御を行いつつ、出来得る限り自身が真っ直ぐに落ちるようにして、更に甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)改五を纏って脚部の耐久値其の物を引き上げる。

 

(ビビったら負けだ、ビビったら負けだ、ビビったら負けだ!やってやるぅぅぅぅぅぅ!)

 

着地と同時に本来なら襲い来る筈の衝撃が来ず、足裏から脚全体にスキルエフェクトが纏う。確認次第、向きを調整し僅かな力で跳ねてみれば、遮那王憑きでも使ったかの様な、とんでもない力が発揮されて、ペッパーの身体はエリアボスのコロシアムから、イレベンタルへと続く出口方向にかっ飛んで行く。

 

「そりゃあんな高さから落ちたのを、跳躍力に変換したらこうなるよねぇえええええ!?!?」

 

身体を捻って、甲皇帝戦脚の爪先部分を構成するクアッドビートルの角と、風神刀【碧千風】を地面に刺してブレーキ。武器防具共に耐久値がゴリッゴリに減らされるが、下手をすれば石にぶつかってシミになっているかも知れなかったので、勘弁して欲しい。

 

結果として甲皇帝戦脚は残り耐久値が3/8、碧千風に至っては1/10まで減ってしまい、武器変更推奨アラートが鳴ったが、ペッパーは何とか落下死を覆す事に成功して。 同時に『条件達成』による解放を告げる、ウィンドウ画面が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

『修練は此処に結実す!』

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】を習得しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………よしっ!致命極技獲得成功!取り敢えず、碧千風と甲皇帝戦脚をインベントリに収納して、オーバードレス・ゴーレムのドロップアイテムを回収しよう」

 

風神刀【碧千風】並びに、甲皇帝戦脚の装備を解除。かっ飛んで行った分の距離を走って戻り、再びオーバードレス・ゴーレムが居た場所に到着。周囲を見渡してみると、円状フィールドの中心地点にウィンドウが見えており、近付いてみると其所には『偶像』が一つ落ちていた。

 

其の偶像は『四匹の巨大な蛇を従えた中学生程の背丈をした女の子』の姿をし、髪の質感や表情の細部に至るまで、現代のフィギュア造形にも匹敵し得る魂が込められた、まさに逸品と呼ぶに相応しい出来栄えで。

 

ペッパーは早速、此の偶像をインベントリに入れて、名前をチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無尽(むじん)偶像(ぐうぞう)

 

其れは始まりの(いち)であり、其れはありとあらゆる蛇達の母であり、そして森羅万象をも憎みし、最強たる女王の御姿を示す。

 

無尽の偶像より発せられ、存在を拒絶する気配は、其の存在の興味を引き、重力の如く惹き寄せる。然れども、其れと相対する者在るならば、其の存在を退ける力と成るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

レアな偶像の気配漂うフレーバーテキストに、ペッパーはワクワクしながら、休憩がてら偶像を暫く眺めて。そしてアイトゥイルが迎えに来る10分前に、エイドルトで待っている彼女の元に戻るべく、去栄の残骸遺道をUターンして行ったのだった。

 

此の時、彼は知らなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

オーバードレス・ゴーレムのドロップアイテムたる偶像が、まさか『七つの最強種(ユニークモンスター)』の一角を担う存在である等と。

 

 

 

 






切札は此処に揃い、後一つの確認のみ




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老大兎は偶像を語り、胡椒はコロッセオにて馬を喚ぶ



悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)の試運転




シャンフロ第8の街、エイドルト。裏路地を駆使して目的地に到着したペッパーは、一息付いた。

 

「さて、兎御殿に戻ったら武器の耐久値回復をしなくちゃな……碧千風はもうちょい育成しておくか?」

「ペッパーはん、戻って………きたのさね」

 

と、近くの扉が開いて、顔を出したアイトゥイルが一気に不機嫌そうな顔をし、一体何事かとペッパーは疑問を抱く。一瞬此のまま放置されるかと思ったが、彼女は扉を開けてくれて、無事に兎御殿へ帰る事が出来た。

 

「なぁ、アイトゥイル。何でそんなに不機嫌なんだ?」

「……ペッパーはんから、嫌な雰囲気が漂ってるからなのさ」

 

プイッとそっぽを向いて、頬を膨らませるアイトゥイルに、どうしたものかと悩んでいた時である。

 

「おぅおぅ、ペッパー。おめぇさん、また『とんでもねぇモン』を手に入れたようだな?」

「うぇい!?先生、何時の間に!?」

 

背後に居たのは兎の国・ラビッツの頭にして、ヴォーパルバニー達の王であるヴァイスアッシュ。気配も無く突然のエンカウントに、ペッパーは思いっきりビビった。

 

「ペッパー、おめぇさんが手に入れたモンを出してみな」

「は、はい……」

 

何処か一つでも傷が付かないように、慎重に恐る恐る、無尽の偶像を取り出して、ヴァイスアッシュに手渡す。其れを見ていたアイトゥイルは、今すぐに其れをブッ壊さんとして、薙刀を構えている。

 

「あぁ、成程なぁ。アイトゥイルが不機嫌になる訳だぁな。おぅアイトゥイル………気持ちは解るが『コレァ』は『アイツ』じゃあねぇんだ」

「…………すまんのさ、御頭」

 

偶像を見て何か思う所がある様子のヴァイスアッシュは、黒毛の娘に向けて『相手が違う』と言っている様で。父親の言葉に冷静さを取り戻したアイトゥイルは、薙刀を納めて深呼吸を行う。

 

「先生……此の偶像のモチーフって一体……」

 

普段落ち着きがあり、ほわほわしているアイトゥイルが、偶像とは言え此処まで感情を……『嫌悪感』を顕にする存在。彼女とパーティーを組む以上、其れを知らなくてはならないと考えたペッパー、ヴァイスアッシュに偶像の元となった『存在』を問い掛け。

 

そしてヴァイスアッシュは、ペッパーに衝撃の事実を叩き付けたのだ。

 

「コイツは『無尽(むじん)のゴルドゥニーネ』……オイラ達ヴォーパルバニーの宿敵(・・)であり、アイトゥイルのダチ公を死に追いやった仇敵(・・)。そして、おめぇさんが出逢った『犬っころ』や『ジークヴルム』……そんで此れから戦う『死に損ない』と同じ、七つの最強種(・・・・・・)の一角よォ。其れと…此の偶像は、オイラが預かっておくぜ」

「えっ…!?あ……っ、…はい、お願いします……」

 

えっマジで!?マジで言ってるの!?あ、言ってるわ。目がガチとマジだわ。冗談とかなんかじゃあない、本当の事を言ってる目だ。

 

というかアイトゥイル、友達が居たのか。いや其れよりも、友達を宿敵によって殺されたのであれば、復讐したい気持ちは痛い程理解出来る。かと言って、モチーフにしただけの偶像をブッ壊した所で、失われた命が戻って来る訳は無い。

 

「アイトゥイル、まさか俺も此の偶像が先生達にとって、因縁が在る相手だとは知らなかった………本当にごめんなさい!腹を切って詫びます!」

「あ、ペッパーはんが謝る事は無いのさ!悪いのは全部ゴルドゥニーネなのさ!」

 

御世話になっている者達の宿敵たる偶像を持ち込んだ事に対する謝罪として、土下座を行い其のまま切腹も辞さないペッパーを、アイトゥイルが止めんとして。

 

其れを見ていたヴァイスアッシュは、苦笑いしながらもペッパーに言ったのである。

 

「まぁ待てよぃ、ペッパー。偶像一つで腹ァ切る覚悟は随分なこったが、何もオイラは『責めちゃいねェ』んだ。おめぇさんが手に入れた無尽の偶像(コイツ)は、持ちっぱなしにしちゃあ『ゴルドゥニーネ』に狙われちまうからな。弟子守んのも、先達たるオイラの役目だからよォ」

 

自分の期待に応え、ジークヴルムやポポンガ(己の友達)にも認められた若き芽を、宿敵には摘み取らさせない………そんな意味を込め。

 

「其れと……『死に損ないとの戦い』が終わって、サンラクとおめぇさんが『限界点まで到達出来たならぁ』よう、オイラん所に来なァ。アイツが持っている『毒』なら、身体に引っ付いてる犬っころのマーキング。

ソイツを一時的にだが無効化出来る(・・・・・・・・・・・・)からよぉ……。其の毒を採らせる手筈、オイラが整えてやろうじゃあねぇか」

 

そしてヴァイスアッシュより、今日一番の爆弾情報のアッパーカットを食らったペッパーは、顎が外れた様に口を開いて引っくり返ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時々思うけど、先生って去り際にヤバい情報で、開拓者の顔面をぶん殴ってくるよね……」

「オカシラはそういう兎なのさ。今更気にしても仕様がないのさ」

 

ヴァイスアッシュの発言に頭を抱えながら、ペッパーはアイトゥイルと共に、ヴォーパルコロッセオへとやって来た。理由は悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)全種装備の恩恵(フルカウルボーナス)の中にある【天王招来(テンオウショウライ)】によって召喚出来る試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(てんおう)】を確認する為だ。

 

アイトゥイルが観客席から見守る中、装備を最早見慣れた中二病チックな物から、SFファンタジー味溢れたサムライアーマーに切り替え、腰に大天咫を指し添えたペッパーは、自身のステータスを確認し━━━━絶句した。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

PN:ペッパー

 

 

レベル:53

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 35 魔力 10

スタミナ 110

筋力 310(+200) 敏捷 110

器用 75 技量 275(+200)

耐久力 50001 幸運 50

 

 

残りポイント:21

 

 

装備

 

 

左:轟斬型(ゴウザンガタ)太刀式(タチシキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)(筋力&技量+200)

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

頭装備:天将乃兜(テンショウノカブト)碧羅之天(ヘキラノテン)(耐久力+13000)

胴装備:天将乃胴鎧(テンショウノドウガイ)天照一清(アマテラスイッセイ)(耐久力+10000)

腰装備:天将乃腰鎧(テンショウノヨウガイ)澄清天際(チョウセイテンサイ)(耐久力+12000)

脚装備:天将乃脚鎧(テンショウノキャクガイ)蒼天走川(ソウテンハシカワ)(耐久力+15000)

 

 

 

FCB:不屈之鎧・天王招来・晴天結実

 

 

 

アクセサリー

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

・旅人のマント(耐久力+2) 

・無し

 

 

 

所持金:632,150,000マーニ

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

致命極技

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……未習得→始ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

致命武技

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】漆式

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】伍式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】捌式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】陸式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】漆式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式

 

 

 

スキル

 

 

・マチェット・サイサリス

絶華逸突(ぜっかいっとつ)

・セツナノミキリ

・スワロスキースロー

・ライトニング・シャーレ

・ペガサロスワーク→蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)

轟天大破厳(ごうてんだいはがん)

冥動戟砕(ギルト・レアー)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)

戦王の煌心(プライマス・ハート)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)

遮那王憑(しゃなおうつ)き→鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)

・アクセラレート・ステップ レベル4→レベル8

疾風連紲(しっぷうれんせつ)

十断斬首(じゅうだんざんしゅ) レベル7

迅雷刹華(じんらいせっか)

・ホライゾン・メロス レベル3→レベル7

・アドバンスト・フィンガー レベル4

業腕一投(ごうわんいっとう)

・プレジデントホッパー

・スカイウォーカー→選択可能

・エクステンド・オーレイズ

・クロスインパクター

・セブニッシュフリップ

・ナタラージャ レベル9

英傑之呼応(ヴァンガート・グレイトフル)

烈光仙迅(れっこうせんじん) レベル7→レベルMAX

凪静水面(なぎしずむみなも)明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)

連刀十刃(れんとうじゅっぱ)→選択可能

罰斗斬(ばつとざん)重連(ツラネカサネ)】→罰閃乱(ばつせんらん)佐々波(サザナミ)

・イモータルヴァーツ

・ブレイク・セリオン

速刃(そくじん)雨払(あめばらい)】→速刃(そくじん)雲払(くもばらい)

・デュアルリンク レベル4→レベル8

儷紲一剣(れいせついっけん)

爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・ベラスティ・ニー

・ジェスター・タロス

・ファイティングスラッシュ レベル1→レベル5

拳乱夕立(けんらんゆうだち)

激走奮迅(げきそうふんじん)破天爽駆(はてんそうく)

・レコメンド・スート

居合(いあい)切翼(きりつばさ)】→居合(いあい)切燕(きりつばめ)

・アイズオブセスティ

纐纈戦々(こうけつせんせん)

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル9

・イグナイトブレイカー レベル1

閂昏打(かんぬきこんだ) レベルMAX

・ナイフズタクト レベル5

・フェイローオブスロー レベル6

・スパイラルエッジ

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル6

・トーテン・タンツ

・ヴィールシャーレ レベル3

・ゲニウス・チャージャー レベル5→レベル9

・フローティング・レチュア レベル1→レベル5

・ムーヴセドナ レベル1→レベル4

・リトセンス・パラダズム

衝拳打(しょうけんだ) レベル1

・エクシリア・スライサー レベル1→レベル4

・アゼルライトパウンド

・ミッシングブレイド レベル1→レベル5

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)

刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)

刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

大天咫装備してるとスキル滅茶苦茶覚えられそうだなぁとか、致命魂の腕輪ってやっぱり壊れアクセサリーだわとか、また新しい致命秘奥が追加されたり選択可能スキルが増えたから特技剪定所に行かなきゃとか、そう言えば武器の修繕をビィラックに頼んでなかったとか。

 

そんな諸々の思考を踏まえても、不屈之鎧込みでの悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)の総耐久値が50万であることを知って、ペッパーは絶句したのだ。

 

「ヤバすぎでしょ……天将王装。とと、其れよりもだ……えっと天王を呼び出すには、詠唱が必要なのか。掛け声は……『質量転送(エクスポート)及び展開(サモンコール)、試作型戦術機獣【天王】』っと」

 

召喚の為の合言葉を述べた直後、ペッパーの真上に空色の六芒星魔方陣が展開するや、其所から飛び出し現れたるは、白い機械の騎馬。

 

全長は3mは有ろう其の巨体は天を跳ねて、頭を構築するパーツから白い蒸気を鼻息の様に排熱し、堂々と地上に降り立つや、辺りを一通り見回してペッパーの方を見る。

 

『最終召喚カラ、幾星霜……貴方ガ、今ノ主人デ在リマスカ?』

 

キェェェェェェェェェェア、シャベッタァァァァァァァァ!?えっ、機械仕掛けの馬なのに、言葉喋れるの!?えぇ……

 

「あ、はい。ペッパーです。訳在って此の鎧を継承しました、木っ端の開拓者です。よろしくお願い致します」

 

ペコリと頭を下げた所、天王はペッパーを見て。そして空を見上げて、染々といった様子で言葉を紡ぐ。

 

『フム……ドウヤラ、私ガ見ナイ内ニ世界ハ、大キク変ワッタ………トイウ事ノヨウデス』

 

そして一歩ずつ馬特有の足取りでペッパーに近付き、其の身を低くして言った。

 

『主人。此レヨリ私ハ、貴方ノ指示ヲ以テ動キマス。貴方ノ腕ト成リ、貴方ノ脚ト成リ、戦イマス』

「主人だなんて…堅苦しくしなくて良いよ、天王。ペッパーって呼んで」

『………其レハ『命令』デスカ?』

「ううん、此れは『提案』。天王は喋れるし、自分でも考えたり出来そうだし、気楽に行こうよ」

 

沈黙がコロッセオを支配する。命令では無く提案をしたのは、共にウェザエモンと戦う仲間としての発言であり。

 

『………解リマシタ。ヨロシク、ペッパー』

「よろしく、天王」

 

其れをどう思ったか、ブロロンと蒸気を吹き出して、天王はコクリと頷いた。其の後ペッパーは天王と共に、人馬形態や甲冑形態時の動きを確認。

 

途中でヴォーパルコロッセオにやって来た、サンラクとエムルが天王を見て驚きの声を上げ、天王に乗ったサンラクがロデオをして遊んだりし。

 

そんな時にオイカッツォから、ウェザエモンの超速攻撃に対応出来るように、便秘で修行しようぜとの御誘いのEメールが届いたのをキッカケに、ペッパーとサンラクはEメールアドレスを交換し、サンラクにヴァイスアッシュが言っていた事を伝えた。

 

最後にビィラックの元で風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】並びに甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)黒鉄丸(くろがねまる)の修繕依頼を。エルクの元で、選択可能に成ったスキルの進化や合成を行い、ペッパーは此の日のシャンフロを終えたのだった………。

 

 

 

 






ユニークモンスターの力、天将王装の実力




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超速への適応は早い話が積み重ねである



ウェザエモンに備え、修練怠るべからず




ヴォーパルコロッセオにて試作型戦術機獣【天王】の動作確認を行った日から四日が過ぎた。コンビニのバイトや大学の講義でシャンフロをプレイ出来る時間が少なくなったが、何とか空いた時間を有効活用して鉱石を掘ったり、ヴォーパルコロッセオにてスキルの確認をしたりと、出来る事を続けていった。

 

そして今日はモドルカッツォの呼び掛けの元、ブラックペッパーとサンラクは便秘にて、対ウェザエモンの超速攻撃に対応するべく特訓をする事になっている。

 

「おりゃさぁああああああ!!!」

 

便秘ストーリーモードの4面ボスに、アルゼンチンバックブリッカーを極めながら、放り投げて地面に叩き落とした事で体力が0となり、見事に勝利を納めたブラックペッパーは思いっきり背伸びをしていた。

 

「敵もバグ技使ってくる様になったし、油断したら負ける……。3面時点で雰囲気は有ったけど、4面入って難易度がガラッと変わったな………」

 

道中の雑魚敵もバグ技、フィールドギミックもバグまみれ、そしてボスに至ってはラウンド開始前からバグ技のオンパレードと、バグゲーム特有の恐ろしさがてんこ盛りである。

 

「さて、そろそろかね……モドルカッツォとサンラクは」

 

サンラクには1ROUND奪取出来たが、モドルカッツォには出来ていない。ならば、リベンジするには丁度良い頃合いだろう。

 

パイプオルガンとプラネタリウム、二つの新しいバグ技で初見殺しをしに行き、同時に此方も初見殺しをされる覚悟を決め、ブラックペッパーは集合場所へと走って行くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ブラックペッパー」

「居なかったから心配したぞ」

「悪い悪い、さっき4面のボスにちょっと苦戦してたんだ」

 

プレイヤーがログインログアウトするエントランスエリアに戻ってきたブラックペッパーは、待っていたサンラクとモドルカッツォと合流する。

 

「てか4面か、バグり具合ヤバかっただろ彼処?」

「ほんっっっっと其れよ!初見殺しの落とし穴三連打は回避したけど、其の後の道中の雑魚敵にはボコされたわ」

「三連落とし穴回避出来たんか、ブラックペッパー…。ストーリーモードの初見殺し、ベスト5に度々上がるんだがな……」

 

便秘が本気でプレイヤーに、バグを叩き付け始めるストーリーモード4面の話で盛り上がっていると、此方を見つめる視線が一つ。サンラクが其れに気付いて振り向くと、其所に居たのはドラゴンフライだった。

 

「お、ドラゴンフライじゃん。よっ」

「やぁ、久し振り」

「お久し振りです!ブラックペッパーさん、サンラクさん!」

 

タタタッと駆け寄ってきたドラゴンフライを見て、声を掛けるサンラクと手を降るブラックペッパー。

 

「サンラク、ブラックペッパー。ソイツ知り合いか?」

「前に俺とブラックペッパーが、50連戦組手をした時に出逢った。因みに其の日が、ゲーム初日の新規プレイヤー」

「えっマジで?」

「マジマジ、俺も後輩が出来るとは思わなかったよ」

 

モドルカッツォも、まさかこんな過疎ゲーに新規プレイヤーが参戦する等、夢にも思わなかっただろう。感想やら何やら色々聞きたいが、其れは其れとしておいて。

 

「早速やりますか?御二人さん」

「何時でも良いぜ」

「掛かってきな。ブラックペッパー、サンラク」

 

『便秘の超速攻撃で対ウェザエモンの攻撃に対応しましょう作戦(モドルカッツォ命名)』が幕を開けて、三人の修行が始まった。

 

「はいそこっ!」

「掛かったなタコが!」

「其れありぃ!?アベシ!」

「ハッハッハァー!きっもちぃぃぃぃ!」

 

モドルカッツォを相手に、久方振りの勝利を手に入れたサンラクが吠えていたり。

 

「食らえサンラク!俺のバグ技、プラネタリウム!」

「え"っ!?ナニソノバグ技!?」

「居合フィィスト!!!」

「更にマシマシィ!頑張れ俺の脚イイイイ!!」

「うぉぉぉぉぉ!アボババババババ!?」

「サンラクぅぅぅぅぅ!?」

「よっしゃああああああ勝ったアアアア!」

 

ペッパーが新規発見したバグ技・プラネタリウムを披露し、モドルカッツォが驚愕して。サンラクが居合フィストで応戦したが、更に増量させるために脚を振るいまくって、脚の物量で居合フィストを押し潰したペッパーが歓喜に叫んだり。

 

「食らえR18触手アタック!」

「ネーミングセンスゥ!?」

「はっはっは!最終的に勝てば良かろうなのだぁぁぁぁぁ!」

「パイプオルガンくらええええ!」

「えっ其れも新バグあふん!?」

「ぐべふぇ!?」

 

四方八方からくるディレイ込みの四肢と、無数に飛び行く脚が双方に叩き付けられ、ダブルノックアウトで引き分けになったりしながら、三人は当初の目的を忘れて、便秘での対人戦を楽しみ尽くし。

 

そしてドラゴンフライもまた、楽しそうにプレイする三人を見て、キラキラと目を輝かせていた。

 

だがしかし、三人は肝心な事を忘れていたのである。今日此処に集まったのは、便秘で戦う為では無く。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンの繰り出す、超速の攻撃に身体を適応させる為だという事に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いやちょっと待て!?俺達今日、何の為に便秘に集合したんだよ!?」

 

便秘での戦いでヒートアップした身体を休める中、本来の目的を思い出したサンラクが声を上げた。

 

「はっ!確かに……俺達アレの為に集まったんだった!」

「やっべぇ……単純に楽しんでいただけで、完全に目的を忘れてたわ……」

 

作戦発案者のモドルカッツォ本人ですら、やるべき事其の物を忘れていた。つまり其れ程までに、夢中で熱中していたという事なのだ。

 

「えっと……ブラックペッパーさん、サンラクさん、モドルカッツォさん。皆さん、凄いバグ技を使って戦ってる時、凄く『楽しそう』に笑ってました!真剣勝負みたいなのに、勝ち負け以前に本当に楽しんでいました!そういうのを本番で出来るのって簡単な様で難しいので……尊敬します!」

 

そんな時、声を掛けてきたのがドラゴンフライであり。其の言葉が三人の中にあった、対応出来なくてはならないという固定観念の糸をブツリと切り落とした。

 

「………其れもそうか。見てから避けられる可能性だって有るわけだし」

「モーションを理解出来れば、其所から理詰めして積み上げて行けば良い」

「得られた情報と攻撃パターンの判明で、対応出来れば何の問題も無いか」

 

相手は最強種の一角、そして自分達はプレイヤーであり、同時に『チャレンジャー』なのだ。カテゴリーこそ違えども、各々が其の中で名を馳せるゲーマー達。

 

本気で戦って、未知を楽しみ尽くし、そして勝利をもぎ取る。そうしてこそ、本当の意味で『挑戦する』という事なのだろう。

 

「ありがとう、ドラゴンフライ。おかげで覚悟が決まったよ」

「えっ?」

「サンラクに同意だ、アイツと戦える事が楽しみになってきた。サンキューなドラゴンフライ」

「えっ、ええっ?」

「大切な事、思い出せたよ。本当にありがとう」

「ど、どどどど、どういう事ですか~!?」

 

思わぬ所から、思わぬ人物によって、解らなかった事が解るというのも、ゲームではよくある事だ。意図が掴めずに困惑するドラゴンフライへ、三人は御礼として便秘のバグ技をレクチャーしていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後……遂に時は訪れる。

 

 

 

 






身体に刻み込む戦い



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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の一



決戦最終準備




遂に此の時が訪れた…………と、昔のアニメやら映画やらで、予告に使われる常套句が頭に流れる。しかしながら、本当に遂に此の時が訪れた━━━なのだ。

 

思い返せばシャンフロを始め、特殊クエストを受注し。夜襲のリュカオーンに会敵してから、永遠との再会とユニークシナリオの受注。様々な事が起きて、シャンフロの掲示板に載る程の有名っぷり。本当に色々有った。

 

「いよいよ今日の8時……か」

 

バイトを終え、傾く日の光射し込むハンバーガーチェーン店で、梓は早めの夕食を取りつつ、時間を確認する。

 

サンラク・オイカッツォが、ユニークシナリオEX【此岸より彼岸へ愛を込めて】を受注してから二週間。レベリングや武器防具の強化を重ね、皆各々がやるべき事を成すべき事をやって来た。

 

勝っても負けても、一度っきりの大勝負。ペンシルゴンがメールで、口頭で言った言葉を思い出しながら、梓はシャンフロwikiを覗き、アイテムの一覧を見つめる。

 

「ふっ……今の俺の懐はホクホクしてるんだ。ドカンって使ってやろうじゃないの」

 

金は貯蓄するのも大事だが、同時に大きく使う為に有る。億越えのマーニで『あるアイテム』を購入する事を決めた梓は、ハンバーガーを食べ終えてバスに乗って、アパートの近くのバス停で降り、自室に帰宅。

 

手洗いとうがい、シャワーで汗を流して寝間着に着替え、水分補給を済ませる。布団を敷いて、機材チェックに、水分補給用のペットボトルを用意。

 

玄関の戸締りを行い、窓の空き具合を調節。VRソフトを便秘からシャンフロへとチェンジし、夕焼けに染まる部屋の中で、梓は寝転がって神ゲーへとログインする。

 

アーサー・ペンシルゴン………天音 永遠との約束を果たす為に、ペッパー……梓は戦うのだ。墓守のウェザエモンを倒す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後5時。兎御殿の休憩室、ベッドより目覚めたペッパーは呼吸を整える。

 

「ペッパーはん、こんにちわなのさ!」

「やぁ、アイトゥイル。こんにちわ」

 

そんな折、アイトゥイルが休憩室の窓から顔を出して、此方に跳ね寄ってくる。

 

「今日なのさね、ペッパーはん」

「うん。今日の夜に」

 

心配そうに見つめるアイトゥイルに、微笑み掛ける形で安心させたペッパーは、墓守のウェザエモンに挑む自身のステータスを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:ペッパー

 

 

レベル:53

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 35 魔力 10

スタミナ 110

筋力 110 敏捷 110

器用 75 技量 75

耐久力 51 幸運 50

 

 

残りポイント:21

 

 

 

装備

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:ブラッディスカーの長ラン(耐久力+18)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

 

アクセサリー

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命兎人形(ヴォーパルバニードール)(クリティカル率アップ)

 

 

所持金:631,970,000マーニ

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

致命極技

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……始ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

致命武技

 

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】漆式

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】伍式

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】陸式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】漆式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式

 

 

 

スキル

 

 

・マチェット・サイサリス

絶華逸突(ぜっかいっとつ)

・セツナノミキリ

・スワロスキースロー

・ライトニング・シャーレ

蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)

轟天大破厳(ごうてんだいはがん)

冥動戟砕(ギルト・レアー)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)

戦王の煌心(プライマス・ハート)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)

鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)

・アクセラレート・ステップ レベル8

疾風連紲(しっぷうれんせつ)

十断斬首(じゅうだんざんしゅ) レベル7

迅雷刹華(じんらいせっか)

・ホライゾン・メロス レベル7

・アドバンスト・フィンガー レベル4

業腕一投(ごうわんいっとう)

・プレジデントホッパー

・ホップスウイング

・エクステンド・オーレイズ

・クロスインパクター

・セブニッシュフリップ

・シーヴァル・ディーバ

英傑之呼応(ヴァンガート・グレイトフル)

烈光仙迅(れっこうせんじん) レベルMAX

明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)

連刀二十刃(れんとうはだち)

罰閃乱(ばつせんらん)佐々波(サザナミ)

・イモータルヴァーツ

・ブレイク・セリオン

速刃(そくじん)雲払(くもばらい)

・デュアルリンク レベル8

儷紲一剣(れいせついっけん)

爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・ベラスティ・ニー

・ジェスター・タロス

・ファイティングスラッシュ レベル5

拳乱夕立(けんらんゆうだち)

破天爽駆(はてんそうく)

・レコメンド・スート

居合(いあい)切燕(きりつばめ)

・アイズオブセスティ

纐纈戦々(こうけつせんせん)

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル9

・イグナイトブレイカー レベル1

・ナイフズタクト レベル5

・フェイローオブスロー レベル6

・スパイラルエッジ

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル6

・トーテン・タンツ

・ヴィールシャーレ レベル3

・ゲニウス・チャージャー レベル9

・フローティング・レチュア レベル5

・ムーヴセドナ レベル4

・リトセンス・パラダズム

衝拳打(しょうけんだ) レベル1

・エクシリア・スライサー レベル4

・アゼルライトパウンド

・ミッシングブレイド レベル5

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)

刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)

刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)

 

 

 

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致命極技の晴謳、新しい致命秘奥の習得。やる事はやって来た、此の一戦の為に鍛えてきた。

 

「即死攻撃オンパレードのウェザエモン相手に、敏捷とスタミナは三桁越え、アイテム共に武器改修良し……。さてと、アイトゥイル。エイドルトのエンハンス商会本社に行くから、ゲートを頼んだ。買い物を終えたら、兎御殿に戻ってサードレマに。アイトゥイルは兎御殿で待機をして、午後9時から10時辺りにサードレマの裏路地に迎えに来て欲しい」

「解ったのさ、任せてなのさ」

「おぅ、ペッパー。今日行くんだな?」

 

事細かなオーダーをするペッパーに、アイトゥイルが話の内容を理解するや、ぴょいーんと彼の肩に乗って、壁にゲートを開いた時。休憩室の出入口に、ヴァイスアッシュの姿が在った。

 

「はい、先生。今日、ウェザエモンと決着を付けに行って来ます」

 

床に正座し一礼と共に、戦いに赴く意志を示すペッパー。するとヴァイスアッシュは、ペッパーに向けて重要な発言をしてくる。

 

「そうかぁ……ペッパー、おめぇさんの持っている死に損ないの鎧。ソイツを纏うのはァ『アイツの意識が目覚めて』からが良い。そうじゃあねぇと、暴れ狂って手ェ付けられなくなるからよぉ」

 

そう言ったヴァイスアッシュは去り際に、背を向けたままペッパーに「ヴォーパル魂を忘れるなよ、ペッパー」と言い残して去って行き。

 

ペッパーは其の背中に一礼、そして「はい、先生!」と述べてゲートを越えたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンハンス商会、エイドルト本社。水晶煌めく街並みの、影たる裏路地を駆使してアイトゥイルを隠して辿り着いたペッパーは、従業員にエンハンス商会会員証を見せ、会員限定売り場へと足を運んだ。

 

シャンフロwikiを検索し、目当てのアイテムを探していると、此方に向かって歩いてくるスーツ姿の、五十代程のダンディな男性が一人。

 

「御初に御目にかかります、ペッパー様。本日は御来店、誠にありがとうございます。私、エンハンス商会の会長『メラゼイト・カブンセル』と申します。以後、御見知り置きを」

「初めまして、ペッパーです。エンハンス商会の投擲玉には、要所要所で何時も助けられています」

 

サーカス等で見る御辞儀をしたメラゼイトに、ペッパーも御辞儀をして握手に応じる。会長自ら出向いてくれたのは大きいと思い、ペッパーは彼に此の店を訪れた目的を単刀直入に述べる。

 

「早速ですが、メラゼイトさん。購入したいものが有るのですが、良いでしょうか?」

「はい。何なりと御申し付け下さい」

「ありがとうございます。では………━━━━『再誕(さいたん)涙珠(るいじゅ)』というアイテムを、買わせていただけますか?」

 

ペッパーの発言に、メラゼイトの目が丸くなり、表情も堅くなる。

 

再誕(さいたん)涙珠(るいじゅ)………其れは戦闘不能(体力0)となった対象に投げ付けたり、叩き付けたりする事によって、身体の欠損を含めて(・・・・・・・・・・)全快状態で復活させる、ゲームではポピュラーなリスポーンアイテム。

 

此のアイテムの素晴らしい点は、体力0になった場合の復活対象がプレイヤーだけでなく、NPCも含まれており、最難関護衛系ミッションでは此れの有無が、攻略の成否を分けるとまで言われている。

 

「再誕の涙珠……ですか。貴方程の御方が、其れを求めるとは……如何なる理由なのでしょうか?」

「不可能を可能にする為に。友達との約束の為に。どうしても必要不可欠なアイテムなんです。とても貴重な品である事も、重々招致しています。其れを知った上で、エンハンス商会ならば、手に入れられると踏んで来ました」

 

「どうか、よろしくお願い致します…!」と深く頭を下げるペッパー。並々成らぬ覚悟を間近で見たメラゼイトは、近くに居た職員に目配せを送り。そして頭を下げるペッパーに向かって言った。

 

「ペッパー様。貴方様の覚悟、そして想い。確りと聞き届けました」

 

そうして職員が持ってきたのは、南京錠による鍵が付いた宝箱。ロックを外して開かれた中には、野球ボールサイズの透明な硝子玉と、其の内側に無数の呪文を内封したような文様が蠢いている物であり。

 

「此方がペッパー様が求める、再誕の涙珠。エンハンス商会が総力を上げて独自のルートで仕入れた、運命神が復活の詠唱を封じたという、神秘の宝玉になります。

 

本来であれば、1つ『400万マーニ』が必要なのですが、ペッパー様には大恩が有りますから、1つ『360万マーニ』で御売り致しましょう」

「ッ………ありがとうございます!」

 

エンハンス商会会員証、そしてロールプレイの成功によって、一割引きでの購入が出来る事になった。ペッパーは8000万マーニを支払い、再誕の涙珠を22個購入してエンハンス商会・エイドルト本社を後にする。

 

去り際、メラゼイトが「ペッパー様、御武運を」と言って、彼も深く深く御辞儀をして感謝の意を伝え、エンハンス商会本社より出て、裏路地の闇へ潜って行ったのだった………。

 

 






開拓者よ、前人未到へ挑め。




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の二



其の頃、鳥頭は




ペッパーがエンハンス商会・エイドルト本社にて、再誕の涙珠を購入し、一度兎御殿に帰還した午後7時。一人の戦士が、ベッドにて顕現する。

 

「………カフェインの効き時間と、アバターの空腹度合いも良い感じだ。スキルの合成、武器改修もやるだけやれた。後は俺のプレイヤースキルが鍵………か」

 

兎御殿の休憩室にて目を覚ま(ログイン)したサンラクは、ウェザエモンとの一戦を前に世紀末円卓(ユナイト・ラウンズ)にて、鉛筆戦士から言われた言葉を思い出し。

 

決戦時に凡ミスをやらかさない為にも、サンラクは最終確認を兼ねた、ステータスチェックを行う。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:サンラク

 

 

レベル:52

 

 

メイン職業(ジョブ):傭兵【二刀流使い】

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

 

体力 30 魔力 10

スタミナ 100

筋力 60 敏捷 100

器用 70 技量 70

耐久力 203 幸運 109

 

 

残りポイント:24

 

 

 

装備

 

左:無し

右:無し

両脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

 

頭:凝視(ぎょうし)鳥面(ちょうめん)(耐久力+2)

胴:リュカオーンの呪い(マーキング)

腰:命湖麟(めいこりん)腰当(こしあて)(耐久力+200)

脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

 

アクセサリー

 

・ダイナボアドール(スタミナ回復時間短縮:小)

小鬼人形(ゴブリンドール)(HPリジェネ:微小)

・無し

 

 

830マーニ

 

 

致命武技

 

 

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】伍式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】壱式

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】壱式

 

 

 

スキル

 

 

獣鏖無尽(じゅうおうむじん)

・グローイング・ピアス

・インファイト レベル8

・ドリフトステップ

・セツナノミキリ

・ハンド・オブ・フォーチュン レベル8

・グレイトオブクライム

・クライマックス・ブースト レベル8

・ランブルスタンパー

・チェイニング・プレス

・モーメントアリアス

・カルネイドバンカー

・八艘跳び

・リコシェット・ステップ レベル7

・ヘイト・トランプル レベル1

・ムーンジャンパー

・ストロングプレス レベル1

餓狼の闘志(ハンガーウルフ)

・オフロード レベル5

・イプロッションスライサー レベル8

・サンダーターン

我狼の鼓動(ルプスビート)

・チェインズブート レベル5

・デュエルイズム

衝拳打(しょうけんだ) レベル7

・メルニッション・ダッシュ レベル3

裂刃尖斬(れっぱせんざん) レベル1

・アミュールディルレイト

・ブートアタック

・ブレスドラウム レベル5

・バッツクローシス レベル1

・オーバーヒート レベル1

・ニトロゲイン レベル6

・イグニッション レベル1

・マグナマイトギア レベル1

・ゲイルサベージ

・ファスティウム・ブロッション

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

スキルの合成によって新たにストロングプレスにヘイト・トランプル、及び我狼の鼓動(ルプスビート)が手札に加わり、皇弦月(おうげんげつ)時の手札として致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】を習得。

 

武器の強化も現状行ける限界点まで行い、此の決戦の為にカッツォが奨めたエナドリも飲んできた。体調も此の日を想定して調節も入れて、サンラクは準備万端である。

 

「あ、サンラクさん!こんばんわですわ!今日がウェザエモンとの決戦なのですわね!」

 

スキルの確認をしていると、エムルがやって来てサンラクに声を掛けてくる。

 

「お、エムル。そうだけど、どーした?もしかして応援してくれるんか?」

「はいな!私やアイトゥイルおねーちゃんは、一緒には行けないですけど……サンラクさんの無事を願って、コレを貸してあげるですわ!」

 

そうしてエムルが取り出したのは、赤い正方形状のキューブに紐を通したネックレスであり、其の中には不思議な光が溢れていた。

 

「ネックレスか?」

「はいな!おとーちゃんが昔、御土産として持って帰って来てくれたのを、ネックレスにしてくれたんですわ!アタシの宝物で御守りなんですわ!」

 

エムルがぴょんぴょこ跳ねて、自慢気に説明してきた。余程の物かと、サンラクは早速ネックレスの性能をチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

識別片のネックレス

 

其れは残滓であり、残骸であり、断片であり、欠片である。

 

それが誰を証明するもので、どこで用いられたものかを知ることはできない。

 

だが嘗ての其れは、確かにある人物の存在を証明するものであった。

 

 

 

 

 

 

 

「装備時の効果は無しか……。だが、エムルが言う御守りだ。コレがありゃあ、絶対に負けねぇよ。サードレマへのゲートを頼むぜ」

「はいな!頑張って下さいですわ!」

「おう、サンラク。今日此れから行くんだな」

 

識別片のネックレスを、サンラクが空いたスロットに装備した直後。エムルの後ろに何時の間にか、ヴァイスアッシュが立っていた。

 

「ぷょぴぃ!?オカシラ!?」

「ヴァッシュの兄貴!………はい、今夜です!行って来やす!」

「良い面構えだ。サンラク………ヴォーパル魂を、忘れるんじゃねぇぞ」

「ウッス!」

 

背中を見せて去り行くヴァイスアッシュへ、一礼したサンラクはエムルを肩に乗せて走り出し。途中で戻って来ていた、ペッパー&アイトゥイルと合流する。

 

二羽の兎達に見送られ、二人はサードレマの裏路地より千紫万紅の樹海窟を目指して走り出した。途中で同じように裏路地を利用していた、オイカッツォとも合流した事で、三人になったゲーマー達はゲートを越えて、千紫万紅の樹海窟のエリアへと足を踏み入れたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、ペッパー君。サンラク君。オイカッツォ君。ちゃんと撒いてきたみたいだね」

「集合時間15分前に来たね、三人共」

 

午後7時45分、千紫万紅の樹海窟・秘匿の花園。先に到着していたペンシルゴンと京極(キョウアルティメット)が、ゲーマー三人に声を掛けてきた。

 

「オッス、ペンシルゴン。スキルやらの最終調整しててな、おかげで準備万端だぜ」

「俺も何時でも行けるよ、ペンシルゴン」

「いよいよだな」

 

三人共に、自信と闘志が漲っている。一発限りの大勝負、此の戦いにペンシルゴンはシャンフロでの、己の全てを賭けて挑むべく、四人に『アイテム』をギフトとして渡していく。

 

「何じゃこりゃ?アイテム?」

「此れは『再誕の涙珠』と『生命の神薬』っていう、リスポーンアイテム。私が集めた涙珠は18個で神薬は25個、合計43個の残機でウェザエモンを倒すよ」

「そんなアイテム在るんだ……因みに1個おいくら?」

「涙珠は400万マーニ、神薬は250万マーニ」

「うっへぇ……億越えてて笑えねぇ……」

 

蘇生アイテムを持ち込み、戦わなくてはならない相手……其れがユニークモンスター・墓守のウェザエモン。43機だけで本当に倒しきれるのか……?皆の実力をよく知っているからこそ、ペンシルゴンには一抹の不安として残っていた。

 

「ペンシルゴン、残機数を訂正してくれ」

 

そう言ってペッパーがアイテムインベントリから、エンハンス商会で購入した再誕の涙珠を22個取り出し、彼女にギフトとして贈った。

 

「エンハンス商会で再誕の涙珠を22個買っておいた。総残機数は43改めて65、此れだけありゃあイケるんじゃないか?ペンシルゴン」

 

およそ1億マーニに迫る大金を、どうやって掻き集めたのか。何を仕出かしたら、そんな大金を手にしたのか。四人には全く解らなかった。が、此の状況では非常に有難いのは事実であり。

 

「……ペッパー君、どうやってそんな大金を産出したのかは、後で『オハナシ』で吐いて貰うとして。此のギリギリのタイミングで、最ッ高のファインプレーをしてくれた訳だ…!」

 

ニッと笑うペッパーに、ペンシルゴンも笑い返して。受け取った再誕の涙珠を五人に振り分け、ペッパーには『瓶に入った神々しい液体』も付けて、一人当たり涙珠8個と神薬5個と、合計13個の残機を手にする事と成る。そしてペンシルゴンが四人にパーティー申請を送り、五人パーティーを組んだ。

 

「なぁ、ペンシルゴン。今日はセツナは居ないんだな」

 

大きな枯れ木の根元を見て、サンラクがペンシルゴンに問い掛けた。

 

「うん……セッちゃんは満月の光が無いと、其の姿は見えないんだって」

 

そう言ったペンシルゴンは、枯れ木に手を翳すと目の前の空間に、黒い『歪み』が生まれていき、軈て人一人が通れる『綻び』が出来上がった。

 

「セッちゃん……いいえ、セツナ。貴女の願い、私達が叶えてあげる。皆、行くよ………!」

「「「「応ッ!!!!」」」」

 

京極が、オイカッツォが。サンラクが、ペッパーが。綻びを潜り抜けて、内側へと消えて行き。最後にペンシルゴンは枯れ木を見上げ、そして微笑みながら呟いた。

 

「……貴女との約束、必ず果たすよ」

 

言い残したペンシルゴンは、綻びの中へ飛び込んで。黒い綻びは歪みと変わり、歪みは軈て正常へと戻って行く。誰も居なくなった花園に、残された枯れ木の根元、其所には『見えない筈だった』セツナの気配が在るだけであった。

 

そして、世界は反転(ハンテン)する━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗て一人の男が居た。

 

男は愛した女に、気の迷いから小さな嘘を付いた。其の嘘で愛した女は死んでしまい、男は彼女の墓を守ると決意する。何千……何百……何十……何年だろうと、必ず守ると永劫の誓いを立てた男は、其の身を機械の鎧に変えた。

 

全身を覆いし、肌身は愚か顔すらも覆い尽くした白と黒の機械の装甲を纏い。座る姿は斬首を待つ、咎人の様な悲哀を含み。然れども其の身より放つ威圧は、幾千幾億の修羅場を越えし、歴戦の戦人の其れであって。

 

右置き外向けに置いた刀は、利き手では直ぐに抜けぬ、礼儀と礼節を重んじ。然れども外向けの刃が示すは、己の敵の全てを斬滅するとの決意。

 

日本の武士甲冑に似たパワードスーツを纏った男は、満開の桜の木の下で愛した女の墓を守る。其れが己の誓いであり、己の決意であり、彼女への贖罪であるが故に。

 

 

 

 

『ユニークモンスター』

 

『墓守のウェザエモンに遭遇しました』

 

 

 

開拓者達よ、前人未到の偉業を成せ。

 

 






最強種を越えていけ




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の三



墓守のウェザエモン戦、始まる




ジキジキと世界が反転する音がする。空間に出来た黒い綻びに飛び込んだ先で、サンラク・オイカッツォ・ペッパーのスリーゲーマー達が感じた事だった。

 

色付いて居た景色が変わって、色調が反転したかの様にフィールドが書き変わる。ユニークNPC・遠き日のセツナが言っていた、此処とは反対側の座標の意味はまさに其れで、暗い夜空は純白へ煌めく星々は、墨汁を落とした様に黒い点として空を彩り、辺りを取り囲む岩達は白へと変わった。

 

隠しフィールド『反転の花園』━━━━━━━━秘匿の花園と同じフィールドなのだが、表側が枯れ木と彼岸花の群生地帯とすれば、裏側たる此処は何もない平らな地平と、大きく満開に咲き誇る、桜の大樹が一本在るのみで。

 

其の大樹の根元に簡素な墓標と、そして()は居た。

 

「ペンシルゴン、京極(キョウアルティメット)アレ(・・)がそうか?」

「うん、アレが『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン』。私達、元阿修羅会が秘匿し続けていた存在」

「久し振りに見たけど、相変わらず凄い殺気だ。まだ10mは離れてるってのに、此処からでもビリビリ来るよ」

 

ペッパーの問い掛けに、ペンシルゴンと京極は答える。そして三人のウェザエモンに対する第一印象は、言うなれば『ロボット武者』だった。

 

全身の肌すら隠しきった日本甲冑、膝先をバネに変えて人としての脚を完全に捨て、ヒロイックな頭部とツインアイたる双眸に光が宿り、右置き外向けの大太刀たる己が得物を手に取って、硬い身体を金属特有の音を鳴らし、其れは立ち上がる。

 

墓守のウェザエモン。其の身長たるや、およそ2,5m。身体に降り積もっていた、桜の花弁を落として立ち上がる姿は、ロボット物アニメ好きならば堪らないワンシーンだろう。

 

「さぁて、サンラク。お手並みを拝見しようか」

「ヘッ、好きに言ってろ京ティメット」

 

御先にどうぞと言う京極の挑発に、鼻で嗤いつつもサンラクは一歩ずつ、墓守のウェザエモンに近付いていく。対するウェザエモンもまた、手にした大太刀を右手から左手に移し、左腰に添えて居合抜刀の構えを取る。

 

(どっちが速いか、勝負しようぜって事か?面白ェ……其の挑発、敢えて乗ってやるよ。墓守のウェザエモン)

 

強化スキルたる、イグニッション・ニトロゲインを点火し、体力調整を行ったサンラクは、最初から全開状態にしながら、ウェザエモンとの距離を徐々に詰めていく。

 

5m…4m…3m…2m…。そして1mに突入した刹那、サンラクはクライマックスブーストを起動し、同時に宣言する。

 

「墓守のウェザエモン。いざ尋常に━━━━」

『━━━━(タチ)……(カゼ)━━━!』

 

およそ50cmと言う所で、ウェザエモンが刀を抜いた。一瞬迸った水色の線は、サンラクの『首』を斬り飛ばさんと走って。

 

然れども瀕死寸前に至るまで強化された、彼の敏捷と持ち前の動体視力は、ウェザエモンの一刀を見切って回避するに至り。

 

「勝負!」

 

超至近距離時の格闘ダメージ補正を与える『インファイト』と共に、格闘ダメージに補正を加える『マグナマイトギア』、そして敏捷と筋力を参照とする打撃スキルの『ゲイルサベージ』を点火したサンラクが、ウェザエモンに肉薄して鳩尾に蹴りを咬ます事で、五人にとって後々の記憶まで残る、長く……そして永い『30分』の時間が、堂々と幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハッ……本当に初見で回避しちゃったよ、サンラク君……」

「やるね、彼。ペンシルゴンが言うだけはあるか」

 

ウェザエモンが初手で繰り出す断風は、確定で一番近いプレイヤーの首を狙うというのは、幾度と戦ったペンシルゴンと京極が得た情報では有ったものの、其れを加味してもアレを、超至近距離下で避けるのは簡単な話ではない。

 

「京極ちゃんは、サンラク君が殺られたらスイッチ。ペッパー君、オイカッツォ君は涙珠を投げ込めるようにしておいて。私も此方で『準備』しておくから」

 

そう言ってペンシルゴンは、アイテムインベントリから『金色に輝く黄金の天秤』を取り出し、ウィンドウを展開。京極は何時でもスイッチ出来るよう、風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】を取り出しつつ構えを取り、オイカッツォとペッパーはサンラクがウェザエモンとの戦闘で引き出した、攻撃モーションを頭に叩き込み、思考を重ねていく。

 

「断風からの派生モーションは、右手からの振り下ろしに、両手での水平斬り払い。其所から更に派生して、ディレイ持ちの突きに斬り上げ……」

「大太刀の長さとウェザエモンの身長、腕の長さから計算するに、射程距離はおよそ3m。大体4m離れれば、断風の射程圏からは逃れられ━━━!」

 

其の時、ペッパーはウェザエモンが大太刀の鋒を、天に掲げる姿を見た。反射的とも言えるインベントリ操作、両足に『レディアント・ソルレイア』を装着し、彼は真っ先にサンラクと三人の間へと駆け出す。

 

「ペッパー君!?其の装備何!?」

「ペンシルゴン、雷鍾(ライショウ)が来るよ!」

 

刀身に雷電が纏い、ウェザエモンが構え。重く乗し掛かる声で、『雷鍾(ライショウ)』の一声と共に振るえば、高らかな轟音響かせて、空色の雷が降り注ぐ。

 

「レディアント・ソルレイア、早速で悪いが仕事を頼むぜ…!『蓄積せよ(Charging up)』ッ!」

 

Uターンからの、ペンシルゴンや京極、オイカッツォに降り注ぐ雷撃に、籠脚を合わせて振るい抜く。本来ならば感電死による死が待ち構える自殺行為、然れどもレディアント・ソルレイアは風と雷を喰らい尽くし、己の身に其のエネルギーを蓄え、浮遊と飛翔のエネルギーへと転換する。

 

即死級の雷なれど装備貫通能力を持たない雷鍾は、レディアント・ソルレイアの風雷吸収能力の前に、餌を与える形となり。そしてペッパーは広範囲落雷攻撃から、仲間達を守り抜く。

 

「しゃあ!電撃吸収成功!此れで雷鍾は実質ボーナスだ!」

「ペッパー、其の籠脚(ガンドレッグ)何!?何で雷吸収出来たの!?」

「はいはい、質問は後!雷鍾は俺が封じるから、目の前に集中!」

 

そしてサンラクは、ドリフトステップで急カーブを行いながら、雷鍾を回避してエンパイアビー・クイーンを始めとする、エンパイアビー達の素材より作り、改修をした『帝蜂双剣(エンパイア.ビーツイン)改三』と共に、致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】でヘイトを一瞬掻き消し、グローイング・ピアス&ヘイト・トランプルで墓守のウェザエモンの左脇の下を突き、ヘイトを一心に集める。

 

「何かあっちはあっちで、色々やってるみたいだ……なっどぅお!?!」

 

恐ろしく速い水平斬り払いをバク転跳躍で、続く斬り上げをセツナノミキリで紙一重の横回避。エフュール特製の小鬼人形(ゴブリンドール)がもたらすリジェネによって、体力が規定値まで回復し次第、ニトロゲインでバフを加えながら、ウェザエモンの攻撃に食らい付く。

 

しかし武器を身体を、思い付く限りの箇所を攻撃しても、ウェザエモンは怯まない。全ての攻撃が即死級の物だらけ。攻撃をパリィしたサンラクは、二度目となるユニークモンスターに対する感情を、言葉と共に溢した。

 

「ハハッ…聞いてた通り、コイツは━━━!」

 

 

倒せるような相手じゃない。

 

 

そう言葉を紡ごうとした瞬間、飛んできたのはウェザエモンの代名詞、神速の抜刀居合たる断風。

 

直後、致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】により、サンラクの身体は己の意志とは関係無く、ブリッジ体勢を取って其の斬撃を回避して。次の瞬間、体勢を戻した僅か一瞬に、ウェザエモンのディレイが入った高速の突きが、サンラクの心臓を穿ち貫き、なけなしの体力を0へと変えたのだった。

 

 

 

 

 

戦闘開始から、2分53秒の出来事である。

 

 

 

 

 






思い知る、ユニークモンスターの実力。




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の四



耐え凌げ、勝利の為に




「サンラク!」

 

墓守のウェザエモンの牙突一閃に、心臓を貫かれたサンラクが倒れた。

 

京極(キョウアルティメット)ちゃん!カッツォ君!」

「任された!」

「解ってる!」

 

ペンシルゴンの一声を合図として、京極が走り出し、其の後ろにオイカッツォが続く形で駆ける。

 

「久し振りだね、ウェザエモン!次は僕が相手をしてあげる!」

『━━━━━断風(タチカゼ)

「当たらないよッ!」

 

腰狙いの神速抜刀居合を跳躍で避けて、サンラクに変わる形で戦闘を開始した京極。其の隙にオイカッツォは全力で再誕の涙珠を投げ、サンラクの脚にぶつける。

 

すると内側より呪文のような文章が浮かび上がり、倒れたまま微動だにしないサンラクの真上で光が満ちて。一突きにされ、ポリゴンが漏れ出していた胸部の傷跡は塞がり、体力とMPそしてスタミナが回復。

 

同時に意識を取り戻したサンラクは、直ぐ様ペンシルゴンやオイカッツォ、ペッパー達が居る場所までバックステップで帰還する。

 

「サンラク、ウェザエモンと戦った感想」

「ペンシルゴンが言ってた通り、即死攻撃のオンパレード。オマケに本体は何処を殴っても、一切怯まないときた。正直『余程の策』が無い限り……やり合う相手じゃないってのはよく理解出来たよ」

「サンラクが其所まで言うとはね……」

 

オイカッツォの問いに、サンラクはありのままに感じた事を答え、ペッパーはウェザエモンを見ながら、小さく言葉を溢した。

 

「其の『余程の策』って言うのが、私やギリギリでペッパー君が持って来てくれた、涙珠と神薬な訳なんだけどね」

「一回の蘇生で400万か……考えたく無いねぇ」

「なぁ、アレって『入道雲』だよな?」

 

感想を言い合っていると、ウェザエモンの背後に浮かび上がるは白い曇の巨腕。水掻きをするかのように、半円上に薙ぎ払う其れを、京極は何とか避けようとしたが、残念ながら間に合わずに轢き殺されて死亡する。

 

「あ、京ティメットが死んだ!」

「此の人でなし!じゃなくて、サンラク君戦闘準備!ペッパー君が京極ちゃんの蘇生を!」

「お前にだけは、人でなしって言われなくないなぁ!?」

「サンラク、急いで!」

 

耐久値が半分以上削られた帝蜂双剣(エンパイヤ.ビーツイン)改三を仕舞い、インベントリより改修された『湖沼(こしょう)短剣(たんけん)改三』と『湖沼(こしょう)小鎚(こづち)改二』を各種一本ずつサンラクは装備して、ニトロゲインの強化と共に走り出し。

 

ペッパーはインベントリより、投擲玉(とうてきだま):炸煙(さくえん)を取り出してウェザエモンのヘイトを擬似的に消しつつ、サンラク接近の援護と京極の蘇生の為に、投擲スキル『スワロスキースロー』で再誕の涙珠を彼女の左手にぶつけた。

 

「1分程度しか持たなかった京ティメットに代わり、俺がまた相手をしてやるよウェザエモン!」

 

煙の中より半裸の鳥頭が飛び出して、ウェザエモンの頭を小鎚を用いて殴り付け。其れが目覚ましとなってか、京極も蘇生によって意識が覚醒する。

 

「クッ……思った以上に感覚が鈍ってた……!」

「たかが1分、されど1分だ。ナイスファイト、京極」

 

超速即死攻撃多用のユニークモンスター相手に、1分生存出来るだけでもペッパーからすれば、其のプレイヤーは凄いという認識である。

 

「はいはい、ペッパー君!京極ちゃん!火砕龍が飛んで来たら、ヤバくなるから早く離れて!」

 

ペンシルゴンの声で退避する中、ふとサンラクの方を見れば、断風を回避して小鎚を上空に放り投げたかと思えば、エフェクトが付いた拳でウェザエモンの顔面を殴りつつ、様々なスキルを点火しながら戦い続けている。

 

しかし、サンラクも人間である以上は疲労もする。深夜帯までゲームをやり込む事も少なくないらしいが、其れでも長丁場の集中力とスタミナを維持するのは、本当に難しいのだ。

 

(ウェザエモンのモーションは、オイカッツォの指トンと一緒に見てきたから、大分解ってきている。問題は今の俺がウェザエモン相手に『どれだけ』持ちこたえられるか………だな)

 

現状、ウェザエモンのユニーク遺機装(レガシーウェポン)を一式完全装備が出来るのは、自分しか居ない上に何時訪れるか解らない、ウェザエモンの意識の覚醒時に鎧を纏って動けるようにしなくてはいけない。

 

「ペンシルゴン、其の天秤を動かしながら聞いてくれ」

「何、ペッパー君?」

「次、サンラクがウェザエモンに殺られたら、次は俺がウェザエモンの相手に入る」

「「「!?」」」

 

其の宣言にペンシルゴン、オイカッツォ、京極が目を丸くしてペッパーを見つめた。

 

「理由を聞いても良い?」

「万が一にも俺にヘイトが集中した場合、時間稼ぎが出来るようにしておきたい。其れと天将王装を纏った時に、立ち向かわなきゃいけない気がする」

「サンラクは約3分、僕は1分、君に出来るのかい?」

「出来るかじゃない、やるんだよ」

 

オイカッツォと京極の問いに、ペッパーは言い切り。其れを聞いたペンシルゴンは少し思考をして、ペッパーに向けて言った。

 

「ペッパー君……君が脱落した場合、ウェザエモンの一式装備が使えなく事と同じだから。絶対に(・・・)無茶だけはしないでね?」

 

ペンシルゴンのペッパーに向けられる視線が、何処か『恋人を心配しているよう』に京極には見えて。其の視線に何を感じたのかペッパーは「……応ッ」とだけ答え。

 

月光円舞のリキャストタイムが終わっていなかったのか、サンラクがウェザエモンの断風によって、胴体を真っ二つにされ、大の字に倒れたのをトリガーに、ペッパーが戦王の煌心(プライマス・ハート)を起動、黒鉄丸(くろがねまる)改九を抜刀してウェザエモンに突撃。其の後ろに京極が続き、サンラクの蘇生へと動く。

 

「勝負だ、墓守のウェザエモン!」

 

鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)、レコメンド・スートで、機動力と動体視力を高めたペッパーは、ウェザエモンに接近。刀身を揺らし敵胴体を斬るように狙い、目算で断風の射程圏たる3mに入った瞬間。

 

自身の注目(ヘイト)を其の場に置き去りにする、スキル『致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】』で残像を残して、自身は京極と反対側に移動。

 

ウェザエモンがペッパーの残した残像へ、断風を使って斬り放つも、微動だにしないペッパーに斬撃を続けて。其の間に京極はサンラクを蘇生させ、安全圏まで退避を完了した。

 

「行くぞ!」

 

残像が目の前で消滅した瞬間、ウェザエモンの背後よりペッパーが迫り。首への攻撃を行う度に追加ダメージが入る、スキル『十断斬首(じゅうだんざんしゅ )』で背面より首筋に斬撃が走る。

 

「………ッ、ダメージは入らないか!」

 

レディアント・ソルレイアで浮遊滑走を行い、ウェザエモンが雷鍾を落としたくなる位置を意識し、黒鉄丸改九の鋒を向ける。

 

其れを見たウェザエモンは再び左腰に刀を置いた瞬間、ペッパーは『致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】』を使い、直後に彼の脳内に過ったのは。

 

 

 

『踏み込んだウェザエモンの居合抜刀により、己の胴体を斬られ、上半身が地面にゴトリと落ちる光景』だった。

 

 

 

「見えたッ!ちょっと先の未来(・・)!」

『━━━━断風(タチカゼ)

「カッ飛ぶ!」

 

レディアント・ソルレイアが唸り、ブースターが点火して、ペッパーは自ら重力に身を委ね、低く沈んだ瞬間に頭部を、空色に光る大太刀の刃が擦り抜け。

 

爆音と共に加速し、儷紲一剣(れいせついっけん)とライトニング・シャーレの刺突を放って、斬り抜けならぬ突き抜けを行い、再びウェザエモンとの距離を4mで維持した。

 

「俺にはまだ、大仕事が残ってるんだ。悪いが、ちょっとだけ付き合って貰うよ。墓守のウェザエモン!」

 

唸るは光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)を構成せし一欠片、レディアント・ソルレイア。そして黒鉄丸を収納しつつ新たに振るうは、ヴァイスアッシュの手により致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)が真化し、ショートメイスに姿を変えた『兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】』。

 

相対するは白黒の歴戦の戦装束に身を包む、大太刀を振るいしロボット鎧武者が唯独りのみ。

 

戦闘開始より、7分が過ぎようとしている━━━。

 






一分一秒の時は永く




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の五



第一段階、大詰めへ




致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】。此のスキルを簡単に言い表すのであれば、数秒先に起こる『己の死亡に直結するダメージを受ける瞬間』を、未来予知の様に脳内イメージとして発現するスキルである。

 

今回の場合、ウェザエモンの代名詞にしてガード貫通攻撃内封スキルたる、神速居合抜刀の断風の発生モーションに合わせて発動した事で、ウェザエモンが自分の胴体を斬り飛ばす狙いに気付き、動体視力が其所まで優れていないペッパーでも、何とか回避に成功したのであった。

 

(まぁ其の分、再使用時間(リキャストタイム)に20分要求する、燃費が悪いスキルでは有るんだけども)

 

相対する者を押し潰さんとする、圧倒的な殺意を放つウェザエモンの姿を見ながらも、己の得物たる兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】を握るペッパーは、フッ…と笑っていた。

 

其の笑みは、彼がウェザエモンを相手に『勝てないから』笑ったのではない。弱者として挑戦者(チャレンジャー)として、此の圧倒的なまでの強者に自分の『牙』が届き得るか試せる事に、喜びを感じて笑ったのである。

 

ウェザエモンを前に、戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)を起動。全身の感覚と動体視力を鋭敏にして、斬り払い一閃を回避しつつ、振り切った後に残る僅かで些細な隙を狙い。

 

鎚武器スキルでどんなに耐久値と体力に優れた相手でも『一定値のダメージを固定』して与えられるスキル『アゼルライトパウンド』と、地面に接地状態にある敵に対する衝撃浸透を高める合成スキル『イグナイトブレイカー』。

 

そして鎚武器での攻撃時に『美しいフォーム』で打ち抜いた場合、武器の搭載する能力を更に強くする『セルタレイト・ミュルティムス』で、ウェザエモンの左脇腹を斬り抜けならぬ、打ち抜きで叩き据える。

 

同時にクリティカルの発生が兎月【暁天】に秘められた、王撃ゲージを上昇させていき、一連の流れで21%の獲得に成功した。しかしペッパーの狙いは其所に有らず。

 

「さぁ来い!ウェザエモン!」

 

ディレイ入りの牙突を、アクセラレート・ステップで回避。体力・MP・スタミナの何れかで、己のステータスで消費出来るパラメーターを消費し、身体機能へボーナス補正を加える『エクステンド・オーレイズ』で体力を1/5までの減少とMPの全消費を対価として、動体視力を強化。

 

更に自傷系統スキルで得られる恩恵を高める『トーテン・タンツ』に、高潔度を参照とした強化スキル『纐纈戦々(こうけつせんせん)』と、目に関係するスキルの補正を強化する『アイズオブセスティ』を起動。

 

断風(タチカゼ)

「『弾ける(パリィ)』!」

 

膝狙いの抜刀居合を、レディアント・ソルレイアと共にクリティカル及び弱点への攻撃に成功すれば、相手に気絶を初めとした『様々な状態異常』を相手に与える『シーヴァル・ディーバ』。脚でのパリィに成功すれば自身の敏捷・器用・技量にバフを与える『セルタレイト・ヴァラエーナ』を使い、ウェザエモンの大太刀を━━━━弾く。

 

『………!?』

「ハァッ!」

 

まさかウェザエモンでも、籠脚(ガンドレッグ)装備有りきとは言え、脚で断風を弾かれるとは(・・・・・・・・・・・)、夢にも思わなかっただろう。そして其の隙を、当然ながらペッパーは見逃さない。

 

レディアント・ソルレイアが唸り轟き加速して、兎月【暁天】と共に『轟天大破厳(ごうてんだいはがん)』が、ウェザエモンの下顎をクリティカルで打ち抜き炸裂。其の一撃に、ウェザエモンは一瞬身体が揺れて、暁天の王撃ゲージは39%へ上昇する。

 

「脚でパリィされたのは初めてだったかな?墓守のウェザエモン。こういう技術を見せ合うのも、戦いの醍醐味って奴さ」

 

小さな挑戦者が此処まで研ぎ澄まし、洗練してきた牙達が、永劫の墓守人へと突き立てられていく。しかしウェザエモンもユニークモンスター、一筋縄所か百の縄が有っても足らない、超絶厄介なモンスターで在る事は解っている。

 

然れど其の闘志は更に大きく燃え上がり、最強へ立ち向かう己は凄い事をしているのだと、犇々実感する。振り下ろされる大太刀の右斜め袈裟斬りを、強化された動体視力でウェザエモンの視線、刀の持ち方、刃の角度から予測を立て、脚を後ろ移動で体勢変更により回避。

 

抜刀ならぬ抜鎚で致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】を自身の筋力より相手の耐久値が高い場合に、武器の耐久値減少を抑制する打撃武器スキル『リトセンス・パラダズム』。そして鎚武器スキルで、高潔度と歴戦値を参照したダメージを与える『アゼルライトパウンド』と組み合わせ、ウェザエモンの腹部に刻印を刻み付けた。

 

王撃ゲージが58%へ上昇する時間……過ぎ行く一秒がまるで一時間にも等しい、ゆっくりとした時の流れを感じながら、ペッパーは墓守のウェザエモンに立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて思うがサンラク、ペッパーのスキルって何れも此れも、強いのばっかりだよね?オマケに『読みの能力』も有ってか、ウェザエモンに食らい付けてるし」

「動体視力はそんなに高く無いけど、便秘で見せた『後出し脚パリィ』や、シャンフロで獲得してる『潤沢なスキル達を惜しみ無く使える』ってのも、ペッパーの『強み』なのかも知れねぇな」

「数分とはいえ、ウェザエモンのモーションを『確り観察出来た』からねぇ。ああなったペッパー君は、本当に厄介だよ」

 

ペッパーがウェザエモンとの戦闘を開始して1分程が経過する中、遠くで其れを見ているオイカッツォ・サンラク・ペンシルゴンは、入道雲を跳躍で躱わして、空中を歩行とダッシュをしつつ着地したペッパーが、直後の無数の斬撃をダッシュスキルで切り抜け、唯一人で最強種に食らい付く、其の動きを見ながら各々の感想を言い合い。

 

しかしながら、彼が何時倒れるか解らない為に、サンラクは再誕の涙珠を右手に、左手に湖沼(こしょう)短剣(たんけん)を装備して、オイカッツォも万が一にもサンラクが蘇生行動最中に倒された場合、戦闘を引き継げる様に準備をしていた。

 

「………………なん、で………なんで?」

 

そんな中、ペッパーの動きに驚愕とも言える、衝撃を受けた表情のプレイヤー………京極(キョウアルティメット)が言葉を溢す。

 

ペッパー、今戦っているあのプレイヤーの動きは、於保つかずそして出鱈目で、何時殺られてもおかしくない。

 

だというのに。

 

其の動きの節々から感じるのは、剣道や格闘技でも用いられる『後の先』に近しい物であり。其の深く深い思考と読みは、己の『憧れた存在』に近しい物であった。

 

そしてウェザエモンの攻撃を見る度に、回避が洗練されていき、相手の視線や身体の動きを見続けて、何時倒されるか解らない状況で、あのプレイヤーは『笑っている』のだ。

 

『相手に攻撃を繰り出させ、得てきた情報を元にして』

『相手を見ながら、己の攻撃を当てられるように動き』

『少ない攻撃回数で、相手を倒しきれるようにする』

 

そんな立ち回りを。

 

「………なんで?なん、で………?」

 

ウェザエモンと戦い続けるペッパーの其の背中に、京極の目には『ある人物』の姿が色濃く重なる。もう此の世には居ない、当世最強と詠われた『正真正銘の剣聖』と。

 

「サンラク!此れ以上は流石に無理!スイッチしてくれ!」

「おぅ、任せろ!」

 

ショートメイスをインベントリに仕舞い、黒刀を取り出して逆手に構えながら、ペッパーが叫んだ。其れを合図として、サンラクが走り始めて即座に水鏡の月で、ウェザエモンの背後に一突きの幻影を打ち。ヘイトをペッパーから虚空へ移しながら、イプロッションスライサーで斬撃を叩き込んで、其の戦闘を引き継ぐ。

 

「時間は!?」

「1分37秒、まぁ上々かな?」

「引き際を弁えてる辺り、本当に厄介だねペッパー君はさ。私より長生きするんじゃない?」

 

サンラクがウェザエモンと三度の戦闘を開始し、黒幕魔王が何を言ってんだとオイカッツォとペッパーは思いつつも、ペッパーは黒鉄丸を鞘に納刀して絶え絶えの呼吸を、スキル『明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)』で落ち着かせる。

 

と━━━━━━

 

「ねぇ!君は誰なの(・・・・・)!?」

「うおっ!?」

 

突然胸ぐらを掴まれ、立ち上がらされるペッパー。其の犯人は京極で、其の目は『真剣さ』と同じく『驚愕』と『殺意』で満ちていた。

 

「ねぇ、誰!?君は誰!?ねぇ、教えてよ!其れを一体何処で習ったの(・・・・・・・)!?()に教えてよ、ねぇ!?」

「お、おち…落ち着け、京極…!」

 

感情がオーバーフローを起こし、其の瞳からはシャンフロの誇るシステムにより、涙が零れ落ちていく。だが、其れをこんな状況下でやっていては、敵に隙を晒すのみ。

 

「落ち着け京極!今はウェザエモンに集中しないと!」

「そうだよ京極ちゃん!其れに……あと15秒で『規定時間』になる」

 

オイカッツォがペッパーから京極を引き剥がし、ペンシルゴンがタイマーを見ている。カウントは進み、刻まれた秒数は減少し、そして遂には0を刻む。其の瞬間、ドッ………!と重く空気が、否『隠しエリア全体』が軋む音が、五人の耳に轟き刻まれる。

 

「第二段階!カッツォ君はロデオ、ペッパー君は全体サポート!京極ちゃんはサンラク君と一緒に、ウェザエモンを対処して!」

「残機回復要員から、麒麟とのロデオ役だ。やってやんよ!」

「おぅ、任せとけ。ペンシルゴン」

「ッ……解った」

 

一人此方を睨んでいるが、直ぐに気持ちを切り替えて、全員がウェザエモンの方を見る。

 

『……エ、………………質量転送(エクスポート)及び展開(サモンコール)

 

『…………戦術機馬(せんじゅつきば)………【騏麟(きりん)】』

 

上空にて展開されるは、巨大な黒の魔方陣。其所から少しずつ姿を晒し、躍り出たるは巨大な騎馬。

 

「………ん?」

「なぁ、ペンシルゴン」

「うん?」

「確か情報だと『足が生えたダンプカー』って言ってたよな?」

「そうだよ」

 

反転の墓標に降り立った其れは、確かに馬の見た目をしていた。しかし実際に目の前で出されたのは、全長およそ8mは余裕で有るだろう、馬の形を成したナニカ。

 

白い蒸気を顔回りのバルブより吐き出し、稼働する其の様たるや━━━━━━

 

「コレ、ダンプカーじゃなくて戦車でしょ。どう見てもおっ!?」

「各員持ち場に着けー!?」

「散開!」

「オイカッツォ、マジでロデオ頼んだぞ!?」

 

前足を振り上げ、踏み付けをゴングとし、ウェザエモン・麒麟の双方が動き始めた。

 

戦いは、第二段階(セカンドフェイズ)へと突入する━━━━。

 

 






麒麟とウェザエモンを合流させるべからず




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の六



墓守のウェザエモン戦、第二段階へ




戦術騎馬(せんじゅつきば)麒麟(きりん)】。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンとの戦闘開始から10分が経過する事より、反転の花園へと召喚される大型のロボットホースである。

 

唯でさえ馬鹿げた馬力を持ち、近距離では突進するだけでプレイヤーは、自身が『ボウリングのピンとして吹き飛ぶ感覚』を直に味わい、其の後ろ足で蹴り飛ばされれば、凄まじい耐久を手にしたタンクでさえ『一撃粉砕』されると言う。

 

おまけにミサイルとレーザーを撒き散らして、暴れ回りでもしようものなら甚大な被害を被る上に、万が一にもウェザエモンと合流を許せば、其の瞬間にガメオベラ確定と言う鬼畜っぷりだ。

 

「いや、どーやってコイツと『ロデオ』すりゃ良いんだよ!?うわああああ!!?」

「ロデオする為の心得有るでしょ?『キャバクラ』で3位入賞したっていう、カッツォ君の其の実力見せてよ!」

 

麒麟担当のオイカッツォがレーザーやミサイルで、時折命の危機に晒されて悲鳴を上げながら、必死こいて逃げる中でペンシルゴンは天秤を操作しつつ、オイカッツォの援護に入る。

 

(キャバクラって何……ギャルゲーか?)

 

そんな中、ウェザエモンと戦うサンラクが殺られた瞬間、蘇生&スイッチ出来るように備える京極と。麒麟を担当するオイカッツォに、彼が取り付けるよう援護するペンシルゴンを視野に置きつつ、ペッパーは一人全体を見つめて誰かが倒された場合に涙珠を投げ込める様、準備を行う。

 

「キャバクラ?何だそりゃ、クソゲーか!?」

「キャバクラはクソゲーじゃないし!サンラク君、ウェザエモンに集中して!」

「あいよー!」

 

第一段階と同じであるならば、第二段階もウェザエモンと麒麟の合流を阻止しつつ、10分間耐え凌ぐ戦いになるだろう。そしてペッパーは考えた━━━━『滅茶苦茶つまらないな?』、と。

 

数年前にプレイしたレトロゲームでも、規定されたターンまでプレイヤーは、ボスの攻撃から生き残るタイプのゲームは有った。其れが達成されてステージがクリアとなり、先に進む事が出来たのだが、やられっぱなしのまま終わった不燃焼感で、心をモヤモヤさせられた経験を味わった。

 

其れはサンラクや京極(キョウアルティメット)も、きっと同じ事を思っているだろう。

 

「ぐぁ……!?」

「京ティメットっ!」

「サンラクは戦闘続行!俺が蘇生を!」

 

袈裟斬りにより京極が叩き斬られ、ペッパーは涙珠を京極の腰に豪速球をブチ当ててリスポーン。サンラクが戦闘へ突入し、京極は離脱する。

 

「あと少しアイツのモーションが解れば、もうちょっと生存時間を伸ばせそうなんだけど…!」

「さっきから1分半切れずに殺られる、京ティメットさーん?もーすこし、何とか生きられませんかねぇ~~~~????」

「うっさいよサンラクゥ!!」

 

ギャーギャーワーワー言い争い、ウェザエモンの斬撃に晒されつつも、両者の闘志は衰える事はない。ペッパーは二人は『今』は大丈夫だと睨み、オイカッツォとペンシルゴンの方向を見る。

 

其所ではペンシルゴンが、麒麟の斜め前に陣取りつつもウェザエモンの方へ行かせないよう立ち回り、オイカッツォはミサイルとレーザーに追い掛け回されながら、麒麟にロデオをする為の突破口を探していた。

 

ミサイルを放ち、発射口より白い蒸気を吹き上げて、麒麟の動きが僅かに止まるのを見たペンシルゴンは、アイテムインベントリから『投擲玉(とうてきだま):炸餅(さくもち)』ことトリモチ玉を取り出し、麒麟の右前足と地面の間を狙って投げ込み、拘束出来ないか試している。

 

しかし馬鹿力の麒麟の前には焼け石に水の様で、一秒足らずで引き剥がして暴れ回り始め、再びオイカッツォが悲鳴を上げている。

 

「ペンシルゴン!麒麟の動きを止めるにはどうすれば良い!?」

「ペッパー君!麒麟は上にプレイヤーが乗っかって、振り落としモーションを取らせないと、動き回れて広範囲に被害が出る!」

 

つまり、一刻も早くオイカッツォを麒麟に乗せないと、ウェザエモンと合流を許す事になるのは明白で。ペッパーはレディアント・ソルレイアを一瞬見て、此れ以上ユニーク籠脚(ガンドレッグ)の情報を、サンラク以外の面子に見せたくは無かったが、敗北しては元も子も無い。

 

「ペンシルゴン、しくじったら蘇生頼んだ!」

「え、ペッパー君!?」

 

彼は覚悟を決めつつ、レディアント・ソルレイアのエネルギー残量に目を通して、ミサイルとレーザーに追われるオイカッツォの元へ、浮遊滑走をしながら急速移動を行った。

 

「オイカッツォ、無事か!」

「コレの何処が無事に見えるよペッパー!!うわぁふぉ!?」

 

レーザーを跳躍で回避して走るオイカッツォは、籠脚で浮遊滑走するペッパーに、ユニーク怨唆を含んだ声を上げる。

 

「はいちょっと、失礼しますよオイカッツォ!」

「えっ何っ、わわちょおわああああああ!?」

 

ペッパーがオイカッツォをおんぶし、レディアント・ソルレイアの飛翔機能を解放。合言葉の『飛翔せよ(Flying up)!』と言い放ち、オイカッツォを背に乗せたまま色調反転した空へと舞い上がった。

 

「ハァァァァァァァァ?!!?!」

「ちょっ、ペッパー君!?何で空飛んでるの?!」

「其れも後でな!オイカッツォ、このまま麒麟に肉薄するよ!掴まっててな!」

「お、おう!」

 

麒麟が空を舞い踊るペッパーとオイカッツォを狙い、ミサイルとレーザーを放つが、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスとの戦いで培われた、レディアント・ソルレイアの空中機動と軌跡を残し、弾幕の合間を縫うように麒麟に接近。

 

「オイカッツォ!ミサイルの切れ目まで、あと何秒!?」

「あと7秒!」

「やぁあああああってやるぜぇ!!!!」

 

レーザーを、ミサイルを、巨体の振り回しを躱わし。麒麟が白い蒸気を吐き出し、攻撃に隙間が産まれた。

 

「よし、行けオイカッツォ!そっちのロデオも、此の戦いで鍵を握ってるから頼む!」

「任せとけ、運送分確りロデオしてやんよ!」

 

ペッパーにおんぶされていたオイカッツォが、彼の背中をサーフボードの様に乗り変えて、渾身の力を込めた跳躍で麒麟に迫る。

 

「暴れ馬には(くつわ)が必須だよねェ?」

 

アイテムインベントリから取り出すは、オイカッツォがサブ職業(ジョブ)にセットした『考古学者』。其の職業で用いる『縄武器』を操るスキルたる、スキル『縄傀儡(なわくぐつ)(へび)】』で麒麟の首にギチリと固く、力強く縄を巻き付ける。

 

「さぁ、麒麟!此処からは『騎兵格闘ゲーム(キャバリー.クライシス)』全国3位の実力、見せてやるよ!」

 

取り付いた小さな開拓者を振り落とさんと、跳ね始めた麒麟の前足の踏み付けで発せられた轟音をゴングとし、オイカッツォにとっての長い戦いが、此処に始まったのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー、何で空飛んでるの!?」

「うわぁ……実際見るとやっばぃ、なぁ!?」

 

ウェザエモンと戦うサンラクと京極は、ペッパーがレディアント・ソルレイアで空を飛んだ姿を見て、各々の言葉を溢していた。スキルや魔法の類いを用いず、ノーリスクかつ超スピードでの飛行を可能にする籠脚の、凄まじい性能を目の当たりにしたのだから。

 

『…………………………』

 

サンラクに斬撃を放ったウェザエモンが、レディアント・ソルレイアを装着し、空を舞い踊っているペッパーを見上げ、其の動きが止まった。

 

「おい、何止まってるんだウェザエモン!」

「隙有りッ!」

 

湖沼(こしょう)短剣(たんけん)湖沼(こしょう)小鎚(こづち)を用い、サンラクは『カルネイドバンカー』を。風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】を用い、京極は『秘剣(ひけん)蕪木咲(かぶらさき)】』を。

 

動かないウェザエモンへ、此処まで殺られた鬱憤を晴らすが如く、其の一撃を叩き付けた。

 

だが。

 

「は?!」

「えっ!?」

 

京極の渾身たる太刀の斬撃も、サンラクの全力の小鎚と短剣の斬打すら意に介さず、ウェザエモンの双眸はペッパーを捉え続け。

 

そして━━━━━━爆ぜるような音と共に、其の巨体は駆け出して。空中飛翔から着陸して来たペッパーに向かい、真っ直ぐに突撃していく。

 

「ッ…雷鍾(ライショウ)封じに空中飛翔してたら、そりゃそうなるよねぇ!?」

 

ウェザエモンが、眼前のサンラクと京極の二人を無視して、ペッパーに斬り掛かりに行った。此の瞬間二人はほぼ同時に同じ思考へと至る。

 

 

 

 

最優先撃破対象が自分達から、ペッパー唯一人(・・・)に置き換わったのだと。

 

 

 

 

 






シャンフロのAIが成す、新たな思考




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の七



君はどうやって生き残る?




シャンフロの誇る『AI』はゲーム内に存在するNPCを時折、現実世界の『人間』であるかのように錯覚させる。相手の表情から考えを『察し』、必要なアイテムを求めれば外れたりする事はあるが、大体の場合は『当てる』事が出来たりと、VRゲーム全盛期たる此の時代でも数世代先を往く、トンデモスペックだ。

 

ましてや、シャングリラ・フロンティアというゲームにおいて、ただ七つしか存在しないユニークモンスターへ搭載されたAIともなれば、其れは通常のAIを遥かに超越する。

 

━━━━━━━であるならば、だ。

 

『自身の必殺技の一つを完封可能であり、空中を自由自在に飛び回る事が出来て、尚且つ挑戦者の中で最も邪魔に成り得る存在が居たとするならば』。

 

シャングリラ・フロンティアの、七つの最強種に組み込まれたAIは、一体どのような答えを算出するのか?

 

答えはこうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ、ペッパーだけ『集中狙い』してんじゃねぇか!どんだけ空中飛ばれたのを根に持ってんだ、ウェザエモンのヤロウ……!」

「粗方予想はしてたけど、こうなる運命だった訳だ……っぁぶね!?!」

「ッ、此方からの攻撃は『完全に無視を決め込んでいる』…!」

 

振り下ろしを避け、全力で麒麟との合流をさせないよう逃げ回るペッパーと、全力で追跡して仕留めようとするウェザエモン。

 

其の全力追跡を行うウェザエモンを、何とかして止めんとするサンラク&京極(キョウアルティメット)だが、ダメージが通らない上に水鏡の月を使っても、全く止まる気配が無い。

 

ペッパーもウツロウミカガミを起動させては見るものの、8秒の足止めは出来ても、直ぐにペッパーを目視するや、突撃を敢行してくる。

 

「おい、ペッパー!其の籠脚外せんのか!?」

「そーだよ、多分其れ付けっぱだから狙われてるんじゃないの!?」

 

サンラクと京極はレディアント・ソルレイアが原因で、ペッパーが狙われる事になったのではと予測するが、此処で外したとしても、ウェザエモンを動かすAIはペッパーを狙う事を止めはしない(・・・・・・)

 

元々ウェザエモンは、『セツナの墓に危害を出す者』を排除する事が最優先事項であり、其れが『墓守』としての己の役目に乗っ取った行動を取る。

 

そして戦いの中、レディアント・ソルレイアを取り出して、雷鍾を打ち払ったペッパーを見た事により、其の思考は『ペッパーを排除せよ』という、墓守の指命と同じ事項として定めたのだ。

 

「外した所で、タゲられている以上は一生付き纏って来るよ!出来るだけ反撃しながら、時間を稼いでみせる!」

 

遠からず、近からず。其の予測が当たったペッパーは、全力逃走からの反転。インベントリからポーションと、兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】を取り出し装備する。

 

ポーションを浴びるように飲んで体力を回復し、『迅雷刹華(じんらいせっか)』による超スピードで地面を走り、致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】を叩き付けた場所へ、スキル『冥動戟砕(ギルト・レアー)』と『イモータルヴァーツ』、そして『ブレイク・セリオン』。最後に『デュアルリンク』を以て打ち込み、ストックされていた衝撃を乗算させて炸裂させる。

 

しかしウェザエモンはダメージを全く受けてはおらず、逆に大太刀をくるりと回して、鋒を地面に突き立て『火砕龍(カサイリュウ)』と述べて。すると、ペッパーの近くの地面がビキリバキリと皹割れるや、火焔と高熱を纏う龍を想わす、巨大な火柱が出現。ペッパーを焼き殺さんと迫ってくる。

 

「だぁい!?」

「オイオイ……!」

「全く容赦無し…!」

 

迫る火の龍、逃げる胡椒。しかし其の火の龍は、天に昇り始め、ペッパーは上空とウェザエモンの位置を把握し、レディアント・ソルレイアに飛翔機構解放の合言葉を言い放つ。

 

「ッ!『飛翔せよ(Flying up)』!」

 

再び空へ飛び上がり、赤い火の龍達は一つに集まり、黒い雲へと変わる。火砕龍とワンセットで繰り出され、直撃で窒息死が適応される『灰吹雪(はいふぶき)』。

 

高く飛んだペッパーは、ペンシルゴンが前にEメールで記載した灰吹雪の特性から、其のまま突っ込めば窒息死に直結し得ると考察し、身体を上下逆さまに反転させて、ブースターを全開。

 

灰吹雪(ハイフブキ)

「晴れろぉおおおおおおお!」

 

七連続回転蹴りスキルたる『セブニッシュフリップ』と『セルタレイト・ヴァラエーナ』と共に、人間扇風機と化して突撃。最大出力で振るう、開脚回転回し蹴りが嵐を巻き起こし。爆ぜる様に灰吹雪発生前の黒雲は、ペッパーによって払われた。

 

「灰吹雪…封殺完了!」

 

直ぐ様地上に着陸するも、待ち構えるはウェザエモン。ペッパーに身心の休息も、安全圏も在りはしない。

 

断風(タチカゼ)

「うぇあぉ!?」

「くっそ、ウェザエモンが止まらねぇ!」

「あぁもう!興味無しって地味に傷付く!」

 

逃走するペッパー、追跡するウェザエモン、追尾するサンラク&京極。スタミナとレディアント・ソルレイアのエネルギー切れにならないよう、鬼ごっこは続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おわあああああああああああ!!?!?」

 

鬼気迫る勢いで襲い掛かるウェザエモンに、ペッパーが追い回されている頃。麒麟を相手にロデオをしているオイカッツォもまた、縄傀儡【蛇】で巻き付けたロープに対し、縦横無尽の『振り落としモーション』に振り回され、空中に放り出されてもおかしくない状態に在った。

 

「カッツォ君!麒麟から離れなければ、振り落としモーションは解除されないから!」

「解除されないって言っても……!このままじゃ飛ばされるんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」

 

キャバリー・クライシス全国3位を含む、日本屈指のプロゲーマー・オイカッツォでさえ、麒麟相手に大苦戦を強いられている。

 

(ペッパー君はウェザエモンに追われて、サンラク君と京極ちゃんはウェザエモンに追い付けても、決定打が与えられてない…!カッツォ君は麒麟の制止に苦しめられている…!間違いなく此処が『分岐点』━━━━!)

 

戦闘開始からペンシルゴンが此処まで、準備をしていたユニークアイテム『対価(たいか)天秤(てんびん)』。シャンフロ三大NPC商会の一角『黄金(おうごん)天秤商会(てんびんしょうかい)』が保有する、ゲーム内屈指の能力を誇るレアアイテムだ。

 

其の能力は、左側の『捧げの皿』にアイテムやマーニを、文字通り『捧げる』事によって其の金額に応じ、様々な恩恵を右側の『恵みの皿』より受け取る事が可能になる。

 

「ふぅ~…頼むよ、天秤ちゃん。此の状況を打破するには、君の力が必要だ……!」

 

思えば自分が最も得意としている交渉やらオハナシやらを駆使し、自身のメイン武器を担保にして『一時的に借りる』事しか出来なかった此れは、墓守のウェザエモンがレベル50を強制する状況を、擬似的に突破可能な存在として、ペンシルゴンが前々から目を付けていた代物。

 

もしも。阿修羅会がもう一度だけ本気になって、ウェザエモンに挑んでいたなら。自分は此れを借りたり、蘇生アイテムを集めるべく奔走していただろうか?

 

だが、其れ等はもう既に過ぎ去った事。世界線の分岐でしかないのだ。

 

「阿修羅会のランキング上位者に、チキンな元クランリーダーが溜めに溜め込んできたアイテム達。そして私が此れまで集めて、あれやこれやでトレードしてきたアイテムやら含めた全財産。其の総額『1億マーニ』を━━━━捧げる!」

 

己の手によって滅ぼした阿修羅会の、京極と共に回収したクランの持ち物を含め、自分の全てを擲ち捧げた事で左側の皿は、地に着く程に大きく傾いた。

 

同時に現れるは、支柱の中心に展開される恩恵選択の画面。示された項目より、ペンシルゴンは迷う事無く『追加ステータスポイント』をタッチする。

 

すると天秤はまるで太陽の如く、其の身に纏う金色の輝きをより一層輝かせ、戦場に光をもたらす程に美しく光を放つ。

 

「『天秤は均衡を保つ。価値を数値に、万夫不当の力を』………!一時的と言う制約の元、追加ステータスポイントの恩恵を得る。レートは10万マーニに付き、1ポイント。其の合計は1000ポイント……!」

 

刀一本でプレイヤーとの対人戦に生き甲斐を感じる、時代錯誤の女剣格へ。

 

何をしたいのか解らない、半裸で鳥頭のクソゲーマーたる幸運戦士へ。

 

タフネスに秀でし、女アバターの軽戦士ビルドたるプロゲーマーへ。

 

そして━━━頑固者で女泣かせのウェザエモンの鎧を継承した、自分が愛する一人のレトロゲーマーへ。

 

「全員に150ポイントずつ!大盤振る舞いだ!!持っていけ泥棒共ッッッッ!!!」

 

放たれる金色の光、不可能を可能へと変える一計。そして四人に、其の加護は与えられた。

 

 

 






ユニークアイテム・対価の天秤が覚醒する




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の八



生き残れ、勝利の為に




「うおおぉ!?」

「な、何だぁ!?」

「何これ!?」

 

ウェザエモンとの戦いを続けているペッパー・サンラク・京極(キョウアルティメット)は、突如として己の身体を金色の光が包み、同時に襲った漲るような感覚に驚き、ペッパーはウェザエモンから逃げつつ、サンラクと京極は追い掛けながらステータスを開く。

 

各々のステータスを表示する画面には、ペッパーにはスタミナ・敏捷・筋力に、サンラクにはスタミナ・敏捷・幸運に、京極には筋力・敏捷・技量のステータスにポイントが追加されており。此の急激な能力上昇はペンシルゴンが、此の戦いが始まった時より弄っていた、黄金の天秤がもたらした物であると気付いた。

 

「ペンシルゴンか…!レベル強制下のステアップは地味に効くぞ!」

「ってか、相変わらずウェザエモンが止まらねぇ…!」

「もー!どうするの、本当に!」

 

ステータスアップにより、ペッパーがウェザエモンに捕まる可能性はぐっと減ったものの、状況は以前ウェザエモンがペッパーを追い掛ける状況が続く。

 

が、此処でウェザエモンが突きを放って、ペッパーの膝を刺そうとしたモーションと、断風の射程距離を体感したサンラクが『打破の一手』を閃いた。

 

「ペッパー!Uターンして此方に来い!」

「サンラク!?何か妙案閃いた!?」

「おぅ!其のまま来い!断風のモーションを誘発させろ(・・・・・)!」

「……心得た!」

 

一定のリズムで空中を踏むと、最大で『十段ジャンプ』が出来る『ホップスウイング』と共に、ありったけの力で跳躍し、同時にペッパーは自身のスキルを惜し気も無く起動する。

 

地上だけでなく空中でもダッシュ可能となる『破天爽駆(はてんそうく)』、レベル×3歩の空中歩行を行える『フローティング・レチュア』。空中でスキルを使うと、補正・効果時間をプラスする『ヴィールシャーレ』に、自身の歩行走行に対する重力そのものに干渉(・・)・半減させる『蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)』を起動。

 

ウェザエモンの頭上を越えて、空中を駆けて二人の方へ走ったペッパーが、サンラクのオーダーに応えるべく、3mギリギリ手前で着地。断風ワンアクションで届く危険な距離に、己の身を置く。

 

「さぁ、ウェザエモン。断風一刀で仕留められる距離だぜ?」

 

挑発的な視線をウェザエモンに送るペッパーの背後より、サンラクはニトロゲインのバフを積んで仕掛ける。

 

(タチ)━━━━「おう、ウェザエモン。其れを待ってたわ」

 

致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)により鍛えられ、三桁を突破した幸運値。天秤のバフを受けてより高まった数値と共に、エフェクトを纏うサンラクの拳が放たれる。狙いはウェザエモン本体━━━━━ではなく、ウェザエモンが持つ大太刀の持ち手たる『柄』。

 

「ハンド・オブ・フォーチュン!」

 

更に高まった幸運を参照する格闘スキルが、ウェザエモンの断風を繰り出す前の、抜刀居合時の弛緩に細い針へ糸を通す如く、ピンポイントで叩き据えられ、大太刀を彼方後方へ大きく吹き飛ばす。

 

「ハッハッハー!刀が無い武士等、肉が無い牛丼と同じ!漬物持って出直して来やがれ!」

「其所は梅干しで良くない?あと味噌汁も付けようよサンラク」

「いや、朝食のおかず会議してる場合じゃないんだが二人共!?」

 

ペッパーの呼び掛けに、京極が一人駆け出して。遠くに吹っ飛ばされたウェザエモンの大太刀を、猛ダッシュで拾い上げて回収する。

 

「コレがウェザエモンの太刀ね。流石にインベントリには入らないか……」

 

大太刀の刃先を見ていた京極だったが、ウェザエモンの視線がペッパーから、大太刀を回収した京極に移ったのをサンラク・ペッパーが共に気付く。

 

「京ティメット逃げろ!!」

 

ウェザエモンとペッパーが駆け出したのは、ほぼ同時であり。ウェザエモンが右手を翳して『大時化(オオシケ)』と言い放ち、京極の首を掴まんとし。

 

「おい、ウェザエモン!俺は此処だぁ!」

 

ペッパーの両脚に装備されたレディアント・ソルレイア。其の膝部分に取り付けられた、ドリルバンデージが高速回転を行い、膝蹴りスキルの『ベラスティ・ニー』による左膝蹴りが、ウェザエモンの左脇腹に突き立てられる。

 

だがしかし。

 

「ッ……此れでも駄目か!」

 

墓守のウェザエモンにダメージは入らず。そして其の視線はペッパーへと向けられて。

 

大時化(オオシケ)

「ぐあっ!?」

 

首を掴まれ、視界が回転と同時に暗転。何が起きたのか解らない中、サンラクが見たのは『ウェザエモンが左手でペッパーの首を掴まえ。頭から地面に叩き付けられた、彼の首が160度折れ曲がって死亡した光景』であり。

 

同時に再誕の涙珠をペッパーにぶつけつつ、京極に指示を出した。

 

「京ティメット!ウェザエモンに刀を返してやれ!刀を持ってるモーションの方が、まだ対処しやすい!」

「其れは同感だ……よっと!」

 

ペッパーが狙われないよう、位置を意識して刀をぶん投げた京極。視線が外れた瞬間にペッパーは意識を覚醒させ、直ぐに距離を離す。

 

「スマン、助かった!」

「寧ろ此処で1デスなんだから、よく生き残ってた方だわペッパー」

「さぁて、また面倒な鬼ごっこだね……。あの斬撃のリーチからしても、至近距離での戦闘は精神力と集中力を、どちらも凄まじく磨り減らしてくる」

 

刀を拾い上げ、再び三人の方へ向くウェザエモン。自分達にヘイトが行くならまだ良いが、一式装備を纏えるペッパーが狙われている以上、そうはいかないのだ。

 

「……サンラク、京極。ちょっと思い付いた事がある。上手く行けば、多大な時間稼ぎと蘇生アイテムを減らさずに戦える━━━━かもしれない」

 

そんな中、打開策を思い付いたペッパーがニヤリと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此の麒麟(暴れ馬)、どうしてくれようか。

 

天秤のバフによって、体力・耐久・筋力への追加ステータスを獲得したオイカッツォは、ペンシルゴンによる三度目の涙珠蘇生から、思考とロジックを構築していた。

 

ロープは未だ有れども、振り回される遠心力で千切れてしまう。かといって、中途半端に巻けば振りほどかれてからの、前足スタンプで即死確定。

 

(キャバリー・クライシスでも、此の手のタイプの馬は居たけどさぁ………跳ね回る戦車じゃん。馬の形したダンプカーじゃないじゃん)

 

嫌な脂汗が額に滲むも、オイカッツォは麒麟のミサイルとレーザーの合間を縫って、麒麟の後ろ足に走り込む。

 

「まぁ…シャンフロが『世界観や背景』から、攻略法を推理するゲームなので、巨大なロボットが『現地整備の必要性を重視』しているのは、当然な訳だ……と!」

 

両後ろ足に取り付けられた『鉄製の梯』を駆け上がり、オイカッツォは四度目となる、麒麟の登頂に成功。しかし問題は此処からであり、暴れ狂う麒麟にどうにかして張り付かなくては、振り落としモーションを誘発出来ない。

 

(問題は此処から。強化された筋力でも、此の暴れ馬をロープだけで止めるのは、正直本当にキツイ。せめて『張り付いて』動きを封じ……………張り付く?)

 

其の時、オイカッツォに電流走る。同時に其れは天啓となって、彼に答えを導き出させた。

 

 

「………良い事、閃いた……!」

 

 

戦闘開始から、16分が過ぎようとしている。

 

 

 

 

 






状況打破への閃き




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の九



戦局を打開せよ




「多大な時間稼ぎに……」

「蘇生アイテムの節約……?」

 

第二段階戦闘開始から6分が経過。ぶん投げられた大太刀を拾い上げるウェザエモンを視界に入れ、ペッパーの発言に耳を貸すサンラクと京極(キョウアルティメット)は、彼が閃いたという策を聞く。

 

「あぁ、けど其れを行うには、サンラクと京極の二人の協力も必要不可欠になるんだ。具体的に言うと、二人にはウェザエモンを『かごめかごめ』して欲しい」

「………は?かごめかごめ?」

「えっ、どういう事?」

 

突如ペッパーの口から出てきた、子供の遊びに外道二人は疑問符を浮かべ。張本人たる胡椒は左手の兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】を、黒鉄丸(くろがねまる)改九にチェンジ。右手には投擲玉:炸煙を、スキル『アドバンスト・フィンガー』で握り、一人ウェザエモンとの距離を詰めに行く。

 

「さぁ、ウェザエモン。俺の策を見破れるかな?」

 

言うが早いか、投擲スキル『フェイローオブスロー』で投擲玉を投げ込み、ウェザエモンの目の前で白く濃密な煙を発生させる。

 

入道雲(ニュウドウグモ)

 

対するウェザエモンも、煙ごと三人を薙ぎ払って全滅させんとして、雷鍾ではなく吸収不可能の入道雲を選択。煙ごと雲の巨腕にて押し退け払い、自身の周りを薙ぎ払う。

 

だが煙が払われた先には、三人の姿は無く。左右を見渡すと、サンラク並びに京極の姿は在れども、肝心のペッパーの姿は残像を残して消えている。

 

「やぁやぁ、ウェザエモン。俺は此方だよ?」

 

背後より声、振り返ったがペッパーの姿は無い。

 

「おやおや…俺は近くに居るんだけど、気付かないかな?」

 

刀を振るえど、ペッパーは居ない。だが気配と声は在る。ならば奴は何処に居る?

 

「正解は…………貴方の丁度『真後ろ』なんだよね」

 

ふと足元を見れば、ペッパーの足がほんの少しだけ見えた事で、ウェザエモンは背後に手を伸ばすが、其の手は虚空を掴み。なれば刺突をせんと刃を突き翳すも、当たった手応えは有りはしない。そしてペッパーは宣言通りにウェザエモンの真後ろに居た。

 

始めに『セルタレイト・ケルネイアー』で跳躍と着地の重力軽減を施し、リキャストが終わった『鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)』とウツロウミカガミ。そしてスタミナの消費で、変速移動を可能にする『疾風連紲(しっぷうれんせつ)』で、ウェザエモンが入道雲の薙ぎ払いに合わせて跳躍し、頭上を飛び越えつつ丁度背面に着地するように、調整をしていたのだ。

 

「なぁ、ウェザエモン。貴方は『台風の目』を知っていますか?」

 

ウェザエモンの動き━━━正確には『腰の可動』に己の身体をシンクロさせながら動かす形を維持して、ペッパーは常にウェザエモンの背後を、背中合わせのようにして陣取り続ける。

 

「貴方程の剣士を相手に、俺はスキルをフル稼働させないと、其の動きに付いていく事は出来ません。けれど、入道雲の説明を友人から教えて貰い、そして此処までの戦いで貴方の動きを見れた事で、確信に至れた。

 

貴方の放つ即死オンパレードの攻撃範囲……其の『絶対的安全地帯』は貴方の背後にこそ在ると『信じて』、俺は此の作戦を思い付いたという訳です」

 

ウェザエモンが前に動けば、自らも後ろに動き。逆にバックするなら、此方は前進をチョイス。剣士が持つ剣劇の間合いを、至近距離下で繰り出す掴みさえも封殺し、己に対するヘイトで味方をも守る技。

 

「名付けて『影法師』……別名『剣士殺しの技』なんて、何処かのレトロゲームで名付けられてました」

「成る程なぁ……剣士の間合いを封殺するたぁ、ペッパーめ。中々やりおるわ」

「武士として見れば、アレは最低の戦法だけどね」

「あっれ~?俺頑張ってるのに、何で京極はそういう事言うのかなぁ?」

 

サンラクと京極を無視して、己を倒そうとするウェザエモンの思考を信じたペッパー。そしてサンラクと京極がペッパーのオーダー通り、かごめかごめで其の周りを駆け回りつつ、絶妙な距離感を維持する。

 

ペッパーを狙わなくては、確実に雷鍾や灰吹雪を封じられる。かといって、周りに居る此の二人を放置するわけにもいかない。思考をすればする程に、ウェザエモン━━━否、ウェザエモンを構成するAIは、思考の坩堝に嵌まってズブズブと底無し沼の様に沈んでいく感覚を、初めて感じた(・・・・・・)

 

「ヘイヘイヘイヘイ、ウェザエモン!胡椒引っ付いた状態じゃあ、まともに倒せないかぁ~???」

「悔しかったら、ペッパーを早く倒したらどーですかー?????」

 

外道達が煽り、胡椒が纏わり付いて離れない。思考が縛られる感覚の中、状況を覆すべくウェザエモンは行動の選択を取り、ペッパーの引き剥がしを狙う。

 

「ペッパー、左腕来るぞ!」

「ありがと、サンラク!」

 

だが、其の行動を第三者たるサンラクと京極が見逃す訳がなく、行動を読み取られて動きを制限される。ペッパーの集中力が切れるか、ウェザエモンの思考が白旗を掲げるか。互いに苦しい持久戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーーーーーーにやってんのかなぁ、あの三人は………」

 

ウェザエモンの背後を背中合わせに陣取るペッパー、かごめかごめで煽り散らかすサンラクと京極を横目に、ペンシルゴンは大きな溜息を吐く。

 

しかし其の行動自体は効果覿面で、ウェザエモンの攻撃や行動を封じつつ、時間を稼げている。

 

「あ、そう言えばカッツォ君は!?」

「おおおおおおぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~!」

 

ハッと思い出して麒麟の方を見たペンシルゴン、其所には麒麟の頭部にロープで己の身体ごとギチギチに縛り付けて、張り付いているオイカッツォの姿が。

 

「こ、ここれななならららぁ、振り落とされずずずずにににに~~~!ロデオでででででで、きるわわわわーーーーーー!?」

「え?カッツォ君、何て?」

 

首をブンブンと全力スイングしたり、上下に振り回しては引き剥がさんと藻掻く麒麟ではあるが、ロープ三本を利用して己を巻き付けたオイカッツォは、そんな程度では剥がされない。

 

「でも、ここここここれれれれれ、じみみみにに体力へらさささささ、れるかららあああ!ダメ前いいいいえあんまぁぁぁり、長くはもたなななななな!!!??」

 

麒麟の巨体が揺れる度に発生する、絶大な振動が元々体力耐久にステータスを振り分け、天秤の加護によって更に強靭となった軽戦士たるオイカッツォの体力を、着実に確実に減らしていっている。

 

「いや、大丈夫だよ。カッツォ君」

 

ペンシルゴンが見つめていたのはタイマー表示画面。其の秒数を刻む数字が『00:00』へと至り、麒麟は定められた『プログラム』に従い、オイカッツォを振り落とそうと暴れ狂っていた其の巨体を、ピタリと停止させた。

 

「……あ、れ?止まった……?」

 

其れは同時にウェザエモンにも起こる。ペッパーを捉えんとした彼が、突如として膝を着いて刀を地に刺し、其の身を止めた。同時に起きるはウェザエモンを全身を包み、攻撃を加えようともダメージを通さなかった、剛強たる甲冑パワードスーツが卵の殻の様に皹割れる『音』。

 

「止まった…?」

「倒したって…訳じゃなさそうだな……」

「ペッパー!早く此方来て!早く!」

 

最強種の一角相手に背中合わせをしていたペッパーと、かごめかごめで煽り散らかしたサンラクが同じ疑問を抱く中で、京極は叫んでペッパーを呼び戻す。

 

「ペッパー、サンラク。気を付けた方が良いよ」

 

京極は緊張から冷や汗を額に滲ませて。

 

「カッツォ君。気を引き締めてね」

 

ペンシルゴンは遠目でウェザエモンを目視し。ウェザエモン戦経験者達は、シンクロしたかのように同時に言葉を発した。

 

 

 

 

「「此処からが本番………『第三段階(サードフェイズ)』だ」」

 

 

 

 






戦いはネクストステージへ




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の十



第三段階突入




ピキリ…バキッ…パキン……と、まるで卵の中から雛が孵る様に、大太刀の鋒を地面に刺して両膝を着いたウェザエモンの、全身に纏った甲冑から音が響く。

 

「ペッパー、サンラク。僕とペンシルゴンがマジだった頃の阿修羅会で、たった一度だけ第三段階に来れた事が有った。でも……」

「ウェザエモンが初手に繰り出した咆哮と衝撃波に、全滅させられた。そして今まさに其の衝撃波を、ぶっぱなそうとしている………って事だな?」

「防御も駄目となると、流石に御手上げなんだが……」

 

京極(キョウアルティメット)・ペッパー・サンラク共に、固唾を飲み込んで成り行きを見守っていると、後ろからペンシルゴンの声が聞こえた。

 

「ペッパー君!反転の花園突入前に『瓶』渡したでしょ!アレをウェザエモンにぶん投げて!」

「アレか、解った!」

 

蘇生アイテム振り分けの際に、此方に手渡された神々しい煌めきを持つ液体入りの瓶を、アイテムインベントリから取り出したペッパーは、スキル『豪腕一投(ごうわんいっとう)』と共にウェザエモンの顔面目掛けて全力投球。

 

直後、ウェザエモンの口周りのアーマーがガパッ!っと、口裂け女のように展開し、同時に液体入りの瓶が着弾。バリン!と高級な硝子が割れる音と共に、内に収められていた液体が、破損して隙間が出来たウェザエモンの鎧にぶちまけられ。

 

『ガ……!?オオオオオオオオォォォォォオオオオォォォォオオオオオオオオオォオオォォォォォォォオオオオオオ!!!!!!!!!!!』

 

咆哮が放たれる。しかし京極とペンシルゴンの記憶に根付いたウェザエモンの咆哮━━━━━『怒りに燃える怒号』とは明らかに違う、まるで『苦痛に藻掻き苦しむ悲鳴』に似た声であり。

 

「全体攻撃か!?」とサンラク、ペッパーも身構えるが、一度身を以て経験した京極は反応の違いに気付く。

 

「いや………コレは!」

 

そして数秒後、ウェザエモンは顔面を片手で押さえて立ち上がり、自分達には何も起きなかった事で、京極とペンシルゴンは声を上げる。

 

「全体攻撃がキャンセルされた!」

「よっし、ビンゴ!」

「ペンシルゴン、ペッパーに何渡したんだ!?」

 

サンラクの声が響き、ペンシルゴンと京極が答えを示す。

 

「シャンフロってゲームは、世界観や背景から敵モンスターの弱点とかを考察するゲームなんだよね。私と京極ちゃんは最初、ウェザエモンを『身体を機械化させたサイボーグモンスター』って思ってたの」

「でも、サンラクが『何処の情報』から仕入れたか解らないけど、ウェザエモンを『死に損ない』や『生きる屍』って言った事で、本当は『特殊なアンデッドモンスター』じゃないかなと、ペンシルゴンは予想出来た訳さ」

 

そしてペンシルゴンは、其の答えを踏まえた上でペッパーに渡した『アイテム』の種明かしをする。

 

「ペッパー君に渡したのは、シャンフロのアイドル『慈愛の聖女イリステラ』が、丹精込めて作った『聖女ちゃんの聖水』。対アンデッドポーションのカテゴリーじゃあ、最強クラスの代物でね。あの手この手の裏ルートで、何とか入手出来た代物なんだよ」

「聖女ちゃんの聖水(意味深)……ねぇ?ペンシルゴン、もしかして其の聖水とやら、『アレ』なヤツじゃないよな?」

「当たり前でしょ!」

「あぁ、其れとサンラク。其の聖女様に頼めば、身体に引っ付いてる呪い(マーキング)が解けるらしいぞ」

「えっマジで?」

 

そんな話に花を咲かせていると、ウェザエモンに変化が起きる。全身の装甲に亀裂が走り、頭や首に胴を始め、腕や脚に手首や腰等、各部から蒼白い焔が勢い良く噴出し始め、大太刀の鍔からも同様の焔を出し、其の身体が少しずつ崩壊を始めた。

 

「ペッパー、サンラク。言っとくけど、僕も此の先の事は何も知らないから(・・・・・・・・)ね?此れで死んだとしても、怨むのは御門違いだよ」

「ゲームの初見突破はゲーマーの嗜みだ。というか、俺もペッパーもオイカッツォも、勝つ為に来たんだからな…!」

「前人未到の領域なんだろ?逆にワクワクするぜ…!」

 

此の先の事は何も解らない京極からの質問に、サンラクとペッパーは共に力強く答えを返す。

 

「うわぁ……ウェザエモン、どーなって……わぁわわ!?」

「カッツォく……ん!?」

 

麒麟に縛り着く形でロデオを乗り切ったオイカッツォだが、其の麒麟が突如音を立てて変型し、ロープが千切れてオイカッツォが振り落とされる。

 

巨大な馬の体型が、巨大な四肢を持ちながらも、胴体と頭が無い中途半端な甲冑へと姿を変え、腰にはウェザエモンのバネ状の脚がスッポリ嵌まりそうな穴が二つ開いていた。

 

「此れって……甲冑じゃないの、ペンシルゴン!?」

「ペッパー君の天将王装の中に在るっていう天王……甲冑形態に成れるって言ってたけど、麒麟にも同様な機能が有ったか…!」

 

仮に……否、十中八九此の甲冑形態と成った麒麟が、ウェザエモンに合流しようものなら、自分達の敗北は間違いなく確定する。今の自分に出来る事は麒麟の足止めを行い、三人がウェザエモンを攻略するまでの時間を稼ぐ事。

 

「ペッパー君!サンラク君!京極ちゃん!私とカッツォ君で麒麟を止めておくから、ウェザエモンの方を任せられる!?」

 

彼女の問い掛けに、三人の答えは既に決まっていて。「「「当たり前だ!!!」」」と断言し。其れを合図としたか全身から蒼白い焔を噴き出す、亡霊と化したウェザエモンが━━━━━━

 

『ワ………レ、ハ………』

「!?」

「えっ…」

「は…?」

 

『我、は……『ウェザエモン・天津気(アマツキ)』……。セツナ……の、墓………を、守りし……者……也!!!』

 

喋ったのだ。此迄一切喋らなかったウェザエモンが、ハッキリとした『意志』を以て言葉を放ち。然れども直ぐ様、己の役目を邪魔する者達を斬り捨てに行く。

 

京極は風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】を改めて構え直し、ウェザエモンの攻撃を回避。狙いをペッパーに定めたウェザエモンが来るも、サンラクが立ち塞がり。横薙ぎに振り光る刃を『鋭き角の兜』が弾き、白紅の双刃がウェザエモンの身体を切り裂く。

 

すると、今までダメージを表現するポリゴンが出ていなかった、ウェザエモンの身体からポリゴンが溢れ落ちたのを確認した。

 

「京ティメット、朗報だ。今の(・・)ウェザエモンには、ダメージが通るぞ!」

「よし、来たね!僕達の『反撃のターン』が!此迄やられてきた分の恨みを、纏めて熨斗付けて返してあげるよウェザエモン!!!」

 

頭装備を凝視の鳥面からクアッドビートルの素材より産み出した、数有るシャンフロの防具では珍しい攻撃判定(・・・・)を持つ頭装備『戦角兜(せんかくかぶと)四甲(しこう)】』に切り替え。

 

手持ち武器をインベントリに、サンラクがスイッチするは、ヴァイスアッシュが致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)を真化させた、二対一体の対刃剣『兎月(とげつ)白上弦(はくじょうげん)】』と『兎月(とげつ)紅下弦(こうかげん)】』。

 

京極も翡翠の太刀をチャキっと鳴らし、刃にウェザエモンの顔を写し、遂に訪れた反撃の瞬間(とき)に心を踊らせる。

 

「ウェザエモンの意識が戻った……!なら、此処が纏う時だッ!」

 

━━━━━━━ソイツを纏うのはァ『アイツの意識が目覚めて』からが良い。そうじゃあねぇと、暴れ狂って手ェ付けられなくなるからよぉ。

 

ヴァイスアッシュの言葉を思い出し、ペッパーはアイテムインベントリより、其れを取り出し纏っていく。墓守のウェザエモン………ウェザエモン・天津気(アマツキ)が生前に纏った、偉大なる戦鎧たるユニーク遺機装(レガシーウェポン):悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)を構成する、一式全てを其の身に纏い。

 

黒鉄丸から、天将王装に唯一対応する武装たる轟斬型(ゴウザンガタ)太刀式(タチシキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)に変更し、鞘より直刃(すぐは)たる刀身を抜刀。

 

「………質量転送(エクスポート)及び展開(サモンコール)……!試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】ッッッッ!こぉぉぉぉぉぉい!」

 

合言葉と共に、大天咫の鋒を天へと掲げ。空色の魔方陣の中より、試作型戦術機獣【天王】が姿を現して。麒麟には及ばずとも、十分な巨体を誇る機械の騎馬が、反転の花園へと降臨する。

 

『ペッパー、此ノ瞬間ヲ心待チニシテオリマシタ』

「やるよ天王…!俺達でウェザエモンを止めるんだ!」

 

崩壊する最強種、闘志燃える開拓者達。戦いは佳境へと差し掛かる…………。

 

 

 

 






天将王装、出陣




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の十一



第三段階、各々の戦い




『ペッパー、此ノ時ヲ待チワビテオリマシタ』

 

ユニーク遺機装(レガシーウェポン)悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)が保有する三種の全種装備状態(フルカウルモード)で解放される能力の一つである、天王招来(テンオウショウライ)によって召喚された試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】。

 

全長は3m程で麒麟と比べれば見劣りしてしまうが、現実世界の馬よりも大きな巨体と、頭部周りのバルブから噴き出す白い蒸気は、高出力を顕すには充分だった。

 

「おっ、遂に装備を纏ったなペッパー!」

「アレが悠久を誓う天将王装……そして戦術機獣の天王っていうロボットホース……!」

 

第一及び第二段階では、堅牢な鎧に包まれてダメージが通らなかったウェザエモン。第三段階にてダメージが通るようになった敵に対し、サンラク・京極が各々の武器とスキルで反撃する中、ペッパーが召喚した天王をチラリと見た。

 

兜型フルフェイスヘルメットに表示される、天王の機能を見つつも、ペッパーはフィールドの状況を整理。数秒の沈黙を経て、天王にオーダーを発令する。

 

「天王。君には甲冑形態になった麒麟を足止めしている、紫髪で槍を使うペンシルゴンと、金髪ツインテのオイカッツォのサポートをして欲しい。ただし無茶はしない事。其れと、万が一にウェザエモンに異変が起きたら呼ぶから、此方に戻って来てくれ」

『了解シマシタ、ペッパー』

 

白い蒸気をバルブより噴き出して、天王は甲冑形態へ変型した麒麟と戦う、ペンシルゴン・オイカッツォの援護をするべく、馬特有の蹄で地面を鳴らしながら駆け出して行く。

 

「頼むぞ天王。麒麟相手には、馬の手も借りたいからな」

 

そう言ってペッパーはウェザエモンの方を向き、鬱憤を晴らすべく戦うサンラク・京極を見て、自分も攻撃をしに行こうとし。其の瞬間、自身の背筋を強烈な悪寒が走ったのを感じた。

 

まるで『このままウェザエモンに突撃したならば、其れこそ取り返しの付かない事態が発生する』。そんな予感が、彼のゲーマーとしての勘に響いたのだ。

 

(何だ、此の嫌な感じは………)

 

喉に魚の小骨が引っ掛かった様な『もどかしさ』と、何か大事な事を忘れてしまったかの様な『虚無感』を抱き、ペッパーは必死に理由を考察する。

 

悠久を誓う天将王装の持ち主たるウェザエモンの事、彼の恋人であるセツナの事、此のフィールドと桜の巨樹と根元に在る小さな墓標の事。

 

(…………まさか)

 

もしも、其れが有り得るのならば。もし、其れが正しいならば。産まれた仮説を立証するべく、ペッパーは『セツナの墓』へと駆け出して行く。

 

そして其の行動を、ウェザエモンはサンラクと京極を相手にしながら、ツインアイでペッパーを捉え続けて居たのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンラク・京極が、ダメージを与えられるようになったウェザエモンとの戦闘を。ペッパーが天王に指示を出しつつ、自身はセツナの墓へ急行した頃。

 

人型の甲冑形態へ変型した麒麟を相手に、ペンシルゴンとオイカッツォは戦闘を繰り広げていた。

 

「カッツォ君、殴った手応えはどう?!」

「めっちゃくちゃ硬いけど、ダメージは通るよ!」

 

唯でさえ強靭で堅牢な麒麟では有るものの、人型に変型してくれた事は、オイカッツォからすれば朗報でも有った。VRゲーム全盛期たる此の御時世、人体構造の理解及び熟知はゲーマーとして必須科目。

 

日本最強クラスであり世界にも通用するプロゲーマー・魚臣(うおみ) (けい)ともなれば、其れに加えて人の身体がどんな状況なら、どう動くかを眼で見て、直ぐ反射的行動に移す事が出来て当たり前だと考えている。

 

(まぁ、あっちでウェザエモンと戦ってるユニーク持ちのクソゲーマーだったり、ユニーク関連一人で何個持ってるか解らない思考深度が異常なレトロゲーマーは、其の予測を軽々と越えてくるんだけどネ)

 

思えばあの二人も大概だなと思いながら、点火した格闘スキルを膝に叩き付け。麒麟の巨腕の掌から放たれる、高出力のビーム砲撃を回避しては、麒麟の各部位に拳気を打ち込んで感触から弱点を炙り出す。

 

「ペンシルゴン。一応一通り殴ったけど、麒麟は何処もかしこも硬過ぎる。ただ、甲冑のお腹……と言うよりは腰?は他より異常に堅くて、多分彼処の装甲を破れればイケる気がする」

「バフ積んで、最大火力で殴っても駄目そう?」

「天秤のバフと近接関係全部積んでも、ちょっと足らないかなぁ」

 

自身を動かす事を、積み上げて突き詰める事を、オイカッツォは理想としている。例え1から始まったとしても、積み上げ重ねて極めて行けば、必ず100まで到達すると信じているからこそ、揺るがない信念を持つからこそ、彼は強い。

 

と、二人の後方から蹄を鳴らし大地を駆ける音が鳴り、ペンシルゴンが振り向くと、鉄機の騎馬が一頭此方に走ってくる。

 

「えっ麒麟!?」

『イエ、私ハ天王。ペッパーヨリ、ペンシルゴン並ビニ、オイカッツォノサポートヲスルヨウ、オーダーヲ受ケテ来マシタ』

「天将王装の天王ってお前か!てか麒麟より小さいけど、十分デッカいな……」

 

ビーム砲撃を逃れて走るペンシルゴンに、余裕を以て追い付いた天王を見、オイカッツォはユニーク良いなーの視線を向け。然れど振り翳された鉄拳を回避し、何とか状況打破出来ないかと思考を行う。

 

「カッツォ君、コレ使って!」

 

そんなオイカッツォを見たペンシルゴンは、アイテムインベントリから魔槍と『小瓶に入った丸薬』を取り出し、オイカッツォに薬を投げ渡した。

 

「ペンシルゴン、ナニコレ?えっと…『魔魂丸薬(イヴィル・フォース)』?」

「噛み砕いて飲み込むと色んな副作用(デメリット)を引き換えにして、15分間レベルカンストに匹敵する能力値を得られる禁忌のアイテム(色んな意味で)。原材料は聞かない方が、精神衛生にイイヨ」

 

昔身を以て経験済みのペンシルゴンは、遠い目をしながらチラリとオイカッツォを見つつ、天王へと指示を出す。

 

「さて……天王ちゃんだっけ?君は現状私達のサポートをしてくれるんだよね?」

『ハイ。但シウェザエモンニ、何カ変化ガ起キタ場合ハ、ペッパーノ元ニ戻ル事ニナッテイマス』

「OK。馬の脚も借りたかったから、君の戦果に期待するよ!カッツォ君、やれる!?」

副作用(デメリット)だか何だか知らないけど、失敗(リスク)を怖れてちゃゲーマーなんて名乗れないもんね。麒麟のヤロー、きっちりスクラップにして花丸満点取ってやろうじゃん!」

 

放り投げた黒い丸薬を口に含み、拳を重ねると同時に犬歯を以て、オイカッツォは薬を噛み砕く。同時に訪れるは視界の反転に五感の鈍重化、此れでもまだ軽い方(・・・・・)だが、彼はそんなデメリットも恐れはしない。目指すは勝利の唯一点のみ。

 

黒幕魔王とプロゲーマー、そして機械の巨騎馬を加えし、二人と一頭のパーティーは甲冑形態と化した麒麟に立ち向かう…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反転の花園の中心に立つ、満開に咲き誇る桜の巨樹。其の根元に有る墓の前へと、ペッパーはやって来た。墓標には英語で、『SETSUNA AMATUKI』と文字が刻まれている。

 

「セツナ アマツキ………彼女の墓か」

 

墓守のウェザエモンが名前通りの存在ならば、何よりも最優先で恋人の墓を攻撃する者に対し、排除の選択をする筈だ。しかし、ペッパーは墓に攻撃する事はしない。

 

墓の前に一礼して正座で座り、左利きたる己の左側に鞘に納めし、ウェザエモンの嘗ての愛刀・大天咫の刃を内に向け、目を閉じて合掌と祈りを捧げる。

 

「セツナさん。貴女が愛した人を、俺達が必ず止めてみせます」

 

立ち上がり一礼して、ペッパーはウェザエモンと戦うサンラク・京極の方へと走って行く。天将王装を着けたペッパーが離れた後、セツナの墓がほんのりと『白いオーラ』を纏った事に、ペッパーを含めて誰も気付く事は無い…………。

 

だが、ペッパーは己のゲーマーとしての勘を信じ、其のアクションを起こした。其れが例え間違いだったとしても、彼は後悔したりはしないのだから。

 

 

 

 






代償畏れる事なかれ、礼節を忘れる事なかれ。




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の十二



戦況が変わる




魔魂丸薬(イヴィル・フォース)。此のアイテムは15分間という制約の下、使用者のステータスをレベルカンスト……即ち『レベル99』相当に匹敵するステータスへ到らせる、普通に見れば有用なドーピングアイテムである。

 

が、使用すれば色調反転や五感の鈍重化を始めとした、様々な副作用を被る事となり。そして此のアイテムの真髄たるデメリットは、30秒経過毎に『使用者のレベルが1つずつ減少して、最終的にレベル30ダウン』と言う、必死にレベリングをしてきたメンタルにダイレクトアタックを決め、此のアイテムを産み出した開発者の性根の歪み具合が犇々と感じられる物。

 

しかし、此のデメリットを逆にメリットとして捉え、再度レベルアップによるステータスポイントの獲得、及びスキルレベルと魔法レベルアップの育成の為に用いる、ガチ勢や廃人プレイヤーは多数存在しており、喪われる虚無感を振り払い、唇を噛み潰し、血涙を溢して行った回数(・・)が其のまま己の証と成る。

 

「あぁ~!また下がった(・・・・)チキショー!麒麟絶対に許さん!!!サンドバッグにしてブッ壊してやるぅぅぅぅぅ!!!!」

『嗚呼、御痛ワシヤ。オイカッツォ』

「天王ちゃん、同情する暇が有るなら甲冑麒麟に肉薄して、後ろ足蹴り上げブチ込んで!」

『了解』

「あ、因みに私は天秤ちゃんの残りのポイントで、ステータスアップ……っと!」

「ひっでぇ!やりやがった!鬼!悪魔!外道!ペンシルゴン!」

 

ミサイルを潜り抜け、ビーム砲撃を回避し。レベルダウンのSEの音と、ペンシルゴンの横暴にオイカッツォが怒りで吠えた。

 

拳気【火彩色(ヒヒイロ)】を使いながらインファイトと共に、次の攻撃のダメージ上昇並びに怯みモーション強化の『デュアルインパクト』で膝を撲り、合成スキルで自身の発動したバフで、ステータスが高く成れば成る程、ダメージボーナスが入る『ナックルティーガ』で、追撃を入れる。

 

「ステータスアップしたんだから、ちゃんと働いてくれよペンシルゴン!」

「ナイス怯みだカッツォ君!其の膝苛め潰してあげるよ!」

『麒麟ヨ、御相手ツカマツル!』

 

オイカッツォに続き、天王が蹄を鳴らして接近。怯みモーションが強化されたデュアルインパクトで、立ち上がりに時間が掛かる甲冑麒麟に、ペンシルゴンが追撃の『日差しの穂先(スピアオブサンレイズ)』を入れ、天王は最も硬い装甲を持つ腰へと、馬特有の後ろ蹴りを叩き込む。

 

だが、甲冑麒麟の右手がガチガチと動くや、ペンシルゴンに掌が翳され。内側にて蓄積されていたビームが、彼女を飲み込まんと発射されそうに成る。

 

「あ、ヤバ……!」

『ペンシルゴン!』

 

天王が麒麟の右腕を己の巨駆で下から押し上げ、ビーム砲撃の方向を寸でのタイミングで変更。彼女を飲み込む光は、空へと放たれ消えていく。

 

「ッ…ありがと、天王ちゃん!」

『サポートガ目的故、此レクライハ当然カト』

「やっぱり腰の装甲だね。彼処は一際硬いけど、其れくらいガチガチに固めたって事は、確実に『何か』在るよ」

 

「弱点の可能性大って訳ね………」とペンシルゴンは呟き、二人と一頭は麒麟から距離を取りながら、彼女は指示を出す。

 

「カッツォ君、あとロープは何本持ってる?」

「残り四本。ただアイツの巨体を止めるには、本数が心許ないってのがね」

「あと四本か、OK解った。天王ちゃん、君には遠距離武装か何かはない?」

『私ハ試作型故、遠距離武装ハ有リマセン。ガ、マグマノ熱ニモ耐エ抜ケルダケノ強靭ナ装甲ト、麒麟ニモ負ケヌ高イ馬力ガ、私ノ持チ味デス』

「わぁお、シンプルisベスト。……でもお陰で、即興とは言え『甲冑麒麟轟沈作戦』が整った。ウェザエモンと戦ってる三人に被害を出す前に決めちゃいたいし、手短に説明するよ」

 

甲冑麒麟がズシン……ズシン……と地面を鳴らし、一歩また一歩と二人と一頭に近付く中、ペンシルゴンは簡潔かつ端的に説明を行う。

 

「━━━━━━━って感じなんだけど、行けるかい?天王ちゃん、カッツォ君」

『心得タ』

「腹砕きは頼んだよ、ペンシルゴン!」

「じゃあ、始めよう!」

 

ペンシルゴンが先行し、天王はオイカッツォを跨がらせ、反転の花園を走り出した。

 

「はいはい、麒麟ちゃん!おねーさんと遊ぼーぜー?」

 

挑発的に槍の穂先で膝関節を突っ付き、注意を引き付ける。振り翳される甲冑麒麟の鉄拳、然れど其の巨腕を繋ぐ細い二の腕と細腿に当たる箇所、即ち四肢の全てをロープで縛り付けた。

 

「さっきまでとは、全ッ然違うでしょ。ありったけのバフスキルに、残ったロープと天王の綱引きだ!気合入れてけ、天王!」

『了解、オイカッツォ!』

 

拳気【赤衝】を始め、筋力上昇スキル『ハイストレングス』に、四肢の筋力と耐久を向上させる『剛力充躯(ごうりきじゅうく)』と言った、オイカッツォ自身の持つバフスキルを全解放し、四肢の拘束及び天王による脚の固定と馬力を含めて、其の動きを押さえ込む。

 

「ペンシルゴン!天王と自前のバフが有るとは言え、ロープはあんまり長くは持たないよ!」

「上等!切札の雷槍の前に、巨人殺しで腹を砕かせて貰うよ!」

 

武器や蘇生アイテムを除き、殆どのアイテムが天秤によって捧げて無くなったペンシルゴンが、耐久限界を迎えた魔槍を放り捨て、アイテムインベントリより取り出すは、武器カテゴリー『大槍』に属し。

 

其の()に巨人を殺すと刻まれ、武器の生産には自身より巨大なモンスターの素材を必要とする、『巨人殺し(ジャイアントキリング)シリーズ』の一つ『巨人殺し(ジャイアントキリング)串刺し(スキューア)』。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

自身より巨大なサイズの敵に対するダメージ補正が入る大槍に、ペンシルゴンは装甲貫通効果を付与(エンチャント)するスキル『ブロークン・シェル』を乗せて、槍系攻撃スキルを腹部装甲に叩き込み続ける。

 

「ペンシルゴン、まだ!?」

「くっ……思った以上に堅い!けどっ!」

 

ロープが耐久限界を告げるアラートが鳴り響き、オイカッツォが叫ぶが、ペンシルゴンは己のやるべき事を成す。

 

「根性見せなさい、巨人殺し!」

 

巨人殺し・串刺しの耐久値が、ブロークン・シェルによる代償と、堅牢な甲冑麒麟の腹部にぶつかり合いでゴリゴリと減らされる中、彼女の一刺しが遂に堅牢な腹部装甲を剥がし、巨大な円状の砲撃部位らしき物が、白日の元に晒される。

 

「腹部が剥がれた!」

「よしっ!このまま決めちゃおう!」

 

が、其の直後。露出した砲撃部位にエネルギーが集束するや、甲冑麒麟は其処から細い枝分かれしたビームを、胴体からはミサイルを四方八方に放ち、自身を縛るロープを断ち切るや、狂乱するかのように暴れ始めた。

 

「ッ!!!」

「おわぁ!?ロープが全部逝った!」

 

天王に跨がって騎乗テクニックと共に、ミサイルとビームを避けるオイカッツォは、ペンシルゴンに合流する。

 

「ってか何アレ!?発狂モード!?距離取って態勢調える!?」

「おそらく、腹部装甲破壊がトリガーの可能性が高いね。其れと………このまま『轟沈』させるよ。長引いたらウェザエモンと戦ってる三人に、被害が及ぶ可能性が高い」

 

ペンシルゴンがそう言ったのは『半分』の理由だ。あの発狂具合では時間が掛かれば掛かる程、状況が不利になっていくのは明白で。

 

「で………もし私達が麒麟を仕留め損なったら、サンラク君と京極(キョウアルティメット)ちゃんは何て言うと思う(・・・・・・・)?」

「!」

 

そして残り半分は『外道節なサンラクと京極』を踏まえての理由である。あの二人ならば━━━━「えー!?俺と京ティメットはウェザエモンを仕留めたのに、機械馬一匹倒せなかった奴等が居るってマジですかぁ~!?」とか「へぇ~??お馬さんの足止めするのに手一杯だっだんだぁ~??ごめーん、僕達三人でウェザエモン倒しちゃった♪」とドヤ顔で煽る。いや、確実に半年は煽ってくる。

 

「あ、段々ムカついてきたわ!」

「其れに関して、私も同感だよ!じゃあ、やりますか!カッツォ君!天王ちゃん!」

「あぁ、やろう!ペンシルゴン、天王!」

『了解!』

 

「「『ジャイアントキリングだ(ダ)!!!』」」

 

逃走より反転。二人と一頭の挑戦者達は、荒れ狂いし甲冑麒麟を沈めるべく、走り出すのだった……。

 

 

 






甲冑麒麟を打ち倒せ




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の十三



ウェザエモンと戦う者達は




ペンシルゴンとオイカッツォが、ペッパーが呼び出した試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】のサポートで甲冑麒麟の腹部を打ち破り、麒麟轟沈作戦が最終段階に突入した其の頃。

 

サンラクと京極(キョウアルティメット)は、自壊によって其の命を削る墓守のウェザエモンへ、攻撃を叩き込み続けていた。

 

「オラァ!」

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

翡翠の刃が斬撃の軌跡を描き、戦角のパリィから紅白の連斬が調を刻み、亀裂が入ったウェザエモンの鎧に切り傷が走り、ダメージ表現たるポリゴンが溢れる。

 

「どーしたどーした、ウェザエモン!御得意のロボット剣術が通用しなくてショックかぁ???フハハハハハハハ!」

「残念だったね、ウェザエモン。僕も君の動きに随分慣れてきたよ。ほらほら、隠してる技でも出したらどーだい???アッハハハハ!」

 

外道二人が嘲笑い、各々の得物で鋒をウェザエモンに向けていた。サンラクは二本の兎月(とつき)達を、合体ゲージを高めて合体状態を目指していた。

 

クライマックスブーストを始め、自身の体力と空腹度が少ない程に、スタミナ・器用・技量を減少し、筋力・敏捷・耐久力を上昇させる『餓狼の闘志(ハンガーウルフ)』。

同じく体力の残量と空腹度を参照して、自身のスタミナが少ない程に、スタミナが底を尽き掛けている状態である程、敏捷・筋力・幸運を上昇させる『我狼の鼓動(ルプスビート)』と共に切り込み。

 

京極は風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】で産み出された、裂傷と帯電のデバフを刻んだ箇所へ、デュエルイズムとセツナノミキリより選択派生する『瞬刻視界(モーメントサイト)』。

自身の此処まで得たウェザエモン戦の経験に、持ち前の技量と上位職業(じょういジョブ):剣豪(けんごう)で得てきた、秘剣(ひけん)系列スキルと共に、ウェザエモンの体力を削っていく。

 

(まぁ………此処までノーダメだったアイツにダメージが入って、鬱憤晴らせるのは良いんだが。何か『オカシイ』んだよな)

 

サンラクが感じたのは、ウェザエモンの違和感(・・・)。かなりの回数のクリティカルに加えて、京極の太刀の特性も相まってか、此処まで順調に体力を削っていた。

 

敵は反撃してきているし、攻撃速度も相変わらず超速と理不尽攻撃。現在はペッパーが居ない為に、雷鐘と灰吹雪を防ぐ手段が無く、サンラク・京極共に1回ずつ死亡したが、御互いに蘇生アイテムを投げ付けて、戦線離脱を回避出来ている。

 

だからこそ。クソゲーマー・サンラクは思う━━━『ウェザエモンとの戦いは、ただ体力を削り切って終わる可能性は極めて低い』と。

神ゲーたるシャンフロが、第一段階と第二段階を耐え抜いた褒美として、ユニークモンスターの体力を削り切らせて終了………で、終わらないのでは無いのか。そんなゲーマーとしての予感を抱き。

 

「サンラク!京極!スマン!」

「ペッパー、おせーぞ!ウェザエモンは大分削ったぜ?」

「で、重役出勤のペッパーは今の今まで何をしてたの?」

「ちょっと墓参りに行ってた!」

「墓参り!?彼処の小さな墓に!?」

「何か、そうしなきゃいけない気がしてさ!」

「おいおい、そんなんで大丈夫かよペッパー…」

 

此処で戦線を離れて、あろうことか墓参りをしていたペッパーが、漸く外道二人と合流した時━━━━『其れ』は起きた。

 

『…………ァ………リス…。……ゥェザ……リォ……』

「!」

 

サンラクの胸に煌めく、エムルの宝物である『識別片のネックレス』と。ペッパーが全身に纏いし『悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)』を見たウェザエモンは、掠れた声でありながら三人に向け━━━言葉を放つ。

 

『………………アリス(・・・)…………。そして………我の、嘗ての約束(・・・・・)たる、鎧……と……刀……は、無事であったか(・・・・・・・)…………』

 

「………は?アリス………?」

「約束……」

「無事だった………?」

 

サンラク・ペッパー・京極の三人は武器を各々握ったまま、ウェザエモンの様子を窺い。同時に其の会話が何かが起き得る可能性を疑って、構えを続ける。

 

『ア……リス、断片認証キー………『アリス』。………そして『悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)』………は、紡がれ………継承された、のだな………』

 

ウェザエモンが言葉を発している。紡がれた、継承された、そしてアリス。サンラクとペッパーがウェザエモンに対する、何らかのフラグを踏んだ可能性が高い。

 

だが、イベントは進行する。ウェザエモンの言葉は止まらない。

 

『悠久は果てなく……我が身朽ち、果て…………彼等の行く末、見ざれ…ど……。確かに………『フロンティア』は………成され、成されて………。人の『想い』、は紡ぎ……紡がれ、ていく……』

 

「おいおい!?其所で其れ(・・)は無いだろう!?」

「まさかこんな状況で考察(・・)させるつもり、ウェザエモンの奴ッ……!」

「ッ………!サンラク、京極!何を仕掛けてくるか解らないから、注意してくれ!」

 

ペッパーは天将王装を纏ったまま、レディアント・ソルレイアの飛翔機能によって上空に舞い上がり。サンラクと京極は共に、各々の得物を握り直して備える。

 

そしてウェザエモンは、まるで何かを『新たに』決心するかのように、弾けた己の鎧に残った肩当てを、自らの手で剥ぎ取り投げ捨て。利き手で大太刀を水平に構え、残された片手を峰に添えて、そして三人の開拓者へと言い放った。

 

『行くぞ……『二号計画(セカンドプラン)』の申し子()よ。我の『戦鎧』を、受け継ぎし勇者(・・)よ………。新たな時代を切り開き、此の世界を拓きたくば……。

 

我が誓いを、我が『晴天大征(セイテンタイセイ)』を…………』

 

 

越えていけ(・・・・・)

 

 

 

其の一言に、サンラク・京極・ペッパーの脳より絶大な衝撃と、背筋を雷が走った様な警鐘が、過去最大級の音量で鳴り響く。

 

「……へっ!此処からが本当の本番ってか!良いぜ、掛かってこいよウェザエモン!」

「ウェザエモンの本気か…、乗り越えてみせる…!」

「絶対に油断したりしない……!」

 

墓守のウェザエモン、最後の戦い。最初に晴天大征のターゲットとされたのは………『サンラク』だった。

 

腰に刀を添えて、超速の抜刀居合の構えと共に。神速の踏み込みから、代名詞たる『断風(タチカゼ)』の一声が響き、頭狙いの一閃が煌めき。然れどもサンラクは、己の動体視力とスキルと天秤で強化された敏捷で、此れを回避する。

 

「ハッ…!御大層な宣言かと思ったら、ただの断風じゃ…『入道雲(ニュウドウグモ)』…は?」

 

なぞりし神速の抜刀居合の最中、空いた手を模して膨れ上がる白い雲の巨腕。

 

「えっ!?何でいきなり『別の技』!?」

「晴天大征……何かが『違う』!」

「おいおい、何焦ってんだウェザエモン!」

 

地面を薙ぎ払う白の質量攻撃を、ダッシュで躱わしたサンラク。其の最中に響くは、ウェザエモンの攻撃技の宣言。

 

雷鐘(ライショウ)

「其れは━━━ボーナス行動ッ!」

 

降り注ぐ雷撃を、上空から強襲したペッパーが吸収していき、再び天へと飛んで行く。だが、今さら雷を吸収されようが、ウェザエモンは気に止める事はしない。

 

断風(タチカゼ)断風(タチカゼ)大時化(オオシケ)

「オイ、技の再使用時間(リキャストタイム)はどーなってやがんだ!?胴、脚、首ィィィィィ!」

 

二連続の抜刀居合を紙一重と跳躍、首掴みを回転キックで腕を弾く。しかし、ウェザエモンは止まらなかった。

 

火砕龍(カサイリュウ)

「全力ダッシュ!」

「灰吹雪は……俺が対応ッ!」

 

差し迫る火柱の龍から回避し、上空に浮き行きて黒雲となり。灰吹雪による追撃前に、ペッパーが人間扇風機の要領で、黒雲を打ち払う。

 

だが、ウェザエモンの本当の最終奥義(・・・・)は此処からだった。

 

晴天大征(セイテンタイセイ)流転(るてん)手向(たむ)けを()って、終極(しゅうきょく)()す』

「ッ!?速い━━━━!」

 

そう。幸運スタミナ敏捷に比重を置くステ振りをしたサンラクの、其の全力全開ダッシュに意とも容易く追い付いてきたのだ。其れだけでなく、既に両手は大太刀の柄を握り締め、刀身は天に掲げられている。

 

晴天(セイテン)転じて、()窮極(きゅうきょく)一太刀(ひとたち)

「明らかに必殺技って感じの其れを、食らう馬鹿はいねーだ………あれ?」

 

武器をインベントリに放り込み、万が一に備えて再誕の涙珠を取り出した瞬間、サンラクに襲い掛かったのは、自分の両足裏が粘着テープによって、地面に吸い付く様な感覚。其れによって彼は、『其の場から一歩たりとも動けなくなったのだ』。

 

おまけに『致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】が自動発動した』にも関わらず。

 

「サンラク!?」

「どうした、サンラク!」

「動けね……ッ!!」

 

ぞわりと感じた濃密な死の気配、其の刹那にサンラクは手に持った再誕の涙珠を空に放り投げて、己の死に抗うべく戦角兜【四甲】による、不安定な状態での頭パリィを慣行し。

 

(ワレ)(りゅう)をも()つ………』

 

振り下ろされるは所謂『大上段の斬り下ろし』。剛たる剣の極致にして、回避不能の状況下なれば、其の一刀は文字通り龍ですらも両断し、二の太刀を必要としない。

 

耐久(・・)も、防御(・・)も。魔法(・・)だろうと、幸運(・・)だろうと、そして技能(・・)であったとしても。此の一撃の前に何も意味を成さないのだから(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

(テン)(セイ)

 

 

頭パリィで繰り出した、戦角兜の象徴たる四角の内の三本が硝子細工のように『砕け散り』、サンラクの胴体を切り裂き、腰に纏う命湖鱗の腰当を仏陀斬って『破壊した』。

 

(何だそりゃ………天晴だか何だか知らねぇが、此の技は『ヤバすぎる』………!)

 

暗転する意識、聞こえるはペッパーと京極の声。

 

(だがな、ウェザエモン………!『此の程度』で、俺が倒れるタマだと思うな!)

 

僅かに残った視覚が見据えるは、数瞬前に己が放り投げた再誕の涙珠の輝き。開拓者達は闘志を持つ限り、其の心は決して折れない。

 

そして其れが逆境(クソゲー)を誰よりもこそ好む、サンラクであるならば、此の天晴の攻略が彼のゲーマー魂を、烈火の如く燃やすのである。

 

 

 

 

 






墓守が課す、最終試練を越えていけ。




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の十四



晴天大征を越えるには




「「サンラク!!!!」」

 

墓守のウェザエモンが繰り出した晴天大征(セイテンタイセイ)に挑み、最後の刹那まで抗おうとしたサンラクが、最上段の斬り下ろしたる最終奥義『天晴(テンセイ)』に斬り捨てられた。

 

クアッドビートルの素材から作った、サンラクの頭装備:戦角兜(せんかくかぶと)四甲(しこう)】の角が砕け散り、ライブスタイド・レイクサーペントの素材たる腰装備:命湖鱗(めいこりん)腰当(こしあて)が両断されて、破壊・消滅していくのを二人は目撃する。

 

しかしレディアント・ソルレイアにより、空を飛翔可能となっているペッパーの目には、何時の間にか空に放り投げられていた、再誕(さいたん)涙珠(るいじゅ)が物理エンジンに従って、斬り倒されたサンラクの頭にコツンとぶつかる光景が見えて。

 

「究極奥義『自己(セルフ)蘇生(そせい)』ッ!完了ァッ!」

「えっ、どうやったの!?」

 

地面より跳躍一回転からサンラクが再起するや、京極は其のやり方が気になる様子で声を上げた。

 

「サンラク!晴天大征はどうだった!?」

「最後の天晴だけは、今までの技と『違う』!」

 

上空からペッパーの声が響き、サンラクは簡潔に感想を述べた。パリィにより多少耐久値が減っていた戦角兜はまだしも、耐久値をMAXまで回復させていた命湖鱗の腰当は、天晴の一撃で全壊する凄まじい威力。しかしサンラクは、断風や此処までパリィしたり、受けた斬撃の感触から、天晴は根本的に異なる技だと感じたのだ。

 

(大太刀の刃先、彼処に触れた兜の角が『意図も簡単に』仏陀斬られた。おそらく『装甲貫通』に『ガード貫通』……あと『装甲破壊効果』に加えて、まさかとは思うが『即死攻撃』か?あの天晴ってヤツはよ)

 

クソゲーマー・サンラクは、此の戦闘中にウェザエモンに斬られた感触を、電気信号とは言えど身体に刻み、記憶に覚えている。数多の理不尽(クソゲー)経験(プレイ)した彼にとって、痛みに対する耐性も有る。だからこそ理解るのだ……最後の天晴だけは明らかに。プレイヤーそのもの(・・・・)をブチ殺しに来ていると。

 

(だが『そんなものよりも』ヤバイのは、天晴の前に発生する『回避阻害の金縛り』だ…!アレのせいで、ウェザエモンとの『向きと位置』を合わせなきゃ、まともに反撃すら出来やしねぇ……!其処に『乱数の女神(クソッタレ)』も絡めば、よりクソな展開が起きる……!)

 

機敏だろうが鈍重だろうが、あの金縛りは等しく逃走を封じ、最上段の斬り下ろしを食らう運命を決定付ける。

 

何より一番最悪なのは、墓守のウェザエモン由来のユニーク遺機装(レガシーウェポン)を纏ったペッパーが、自分の受けた天晴を食らって、其の一式装備を失う事。もしそうなれば、墓守のウェザエモンに関係するフラグを、纏めて消失する可能性が非常に高い。

 

(俺の残り残機は、涙珠と神薬共に5つ……。ペッパーや京ティメットの残機も使えれば、粗方の情報は引き出せそうでは有るが……)

 

と、サンラクがウェザエモンを見るや、其処には驚くべき光景が在った。其れは丁度一分程前に、ウェザエモンが晴天大征を宣言した時と同じ状態。そして、利き手で大太刀を水平に、残された片手を峰に添える構えで。

 

『しからば………我が窮極(きゅうきょく)を超えぬ限り、此の身は(たお)るる事在らず』

 

ウェザエモンの行動、そして台詞。クソゲーマー・サンラクとレトロゲーマー・ペッパーは、同時に晴天大征のギミックの『1つ』に気が付いた。

 

「オイ、まさか……!?!」

「嘘、だろ……!?」

 

クソゲーだろうと、神ゲーだろうと、其れは1つのギミックとして存在している。特定の条件を成せるまで継続し、充たせなければプレイヤーに再び襲い掛かる代物。

 

「「最初からやり直し(・・・・・・・・)!?」」

晴天大征(セイテンタイセイ)━━━大時化(オオシケ)

「ラァァァァァイス?!?」

「「いや何で白米!?」」

 

ハモったゲーマー達の答えに正解と言うが如く、サンラクを掴みに掛かるウェザエモン。動揺しながらも、サンラクは兎月(とげつ)達を取り出して、腕を下側から弾いて対応する。

 

火砕龍(カサイリュウ)灰吹雪(ハイフブキ)雷鍾(ライショウ)

「ペッパー!灰吹雪と雷鐘封じながら、晴天大征の時間を測ってくれ!京ティメットは万が一の時に備えて、スイッチ出来るよう頼むわ!」

「はいよぉ!!!」

「解った!」

 

タイマーアプリを起動して、晴天大征の時間計測を始めたペッパーと、天晴によって斬り倒された後の事を京極に頼みつつ、ウェザエモンの最終試練を乗り越えるべく、己の身を以て実験を行う。

 

ユニークモンスターへ勝利する為、此の理不尽とサンラクは戦うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェザエモンの晴天大征が発動し、三人が驚愕の能力を目の当たりにしていた其の頃。

 

甲冑麒麟に挑むペンシルゴン・オイカッツォ・天王の二人と一頭のパーティーは、腹部装甲をひっぺがされて狂乱した巨大ロボット相手に、轟沈作戦を完遂するべく総仕上げに取り掛かっていた。

 

「さぁ、とっとと決めちゃおう!カッツォ君、天王ちゃん!」

「轟沈作戦の要、此方は何時でも出来るよペンシルゴン!」

『私モ準備万端デス!』

「ならよしっ!」

 

飛び交うレーザーなミサイルの嵐の合間を縫い、天王に跨がったオイカッツォが甲冑麒麟の注意を引き付け、其の間にペンシルゴンは巨人ロボットの真横に在る『影』を目指しながら、魔法の詠唱を執り行う。

 

「汝、縫い留めしもの。我、繋ぎ止めしもの。万象に寄り添い、しかして相容れぬ。万有の黒を穿つ━━━【黒楔の槍(シャドウ・ウェッジ)】!!!!!」

 

槍系武器に付与する魔法の一つにして、敵やNPCにプレイヤーの『影』に穂先を刺す事により、武器の耐久限界で消滅する迄の間、ゴブリンだろうがワイバーンだろうが、其の動きを完全に封じ込められる其の性能故に、最初期に暴れた事で下方修正を受けた其れは、巨人殺し(ジャイアントキリング)に付与されて、甲冑麒麟の動きを完全に止めてみせた。

 

だが、装甲貫通付与のブロークン・シェルに加えて、麒麟の巨体の動きを封じ込める為に耐久値を削られまくった巨人殺し(ジャイアントキリング)串刺し(スキューア)が耐久限界の警告(アラート)を響かせて、其の身に亀裂が迸る。

 

「持ちこたえられる時間は、おそらく『10秒』!でも、其れだけ有れば………仕留められる!」

 

アイテムインベントリからペンシルゴンが取り出すは、己の持つ武器の最後の一本。そして其れはペッパーが、兎の国の名匠鍛冶師たるビィラックに依頼し製作、持ってきてくれた雷嵐を纏いし大槍たる『轟雷大槍(ごうらいだいそう)・グラダネルガ』。

 

ゴーレム・機械系統のエネミーに対する高いダメージ補正追加と、帯電状態の相手に対する装甲貫通効果を持ち合わせた、まさに対甲冑麒麟の特攻兵器たる黒黄金の槍は、ギラリと渋い輝きと其の穂先より雷を放つ。

 

「いっけぇ、グラダネルガ!乾坤一擲(けんこんいってき)ッッッッ!!!」

 

まさに今、ペンシルゴンの心情を反映したかのようなスキルと共に、北欧神話の主神(オーディン)が持つ絶対必中の槍・グングニルが如く投擲された其れは、雷嵐を纏いて甲冑麒麟の腹部の砲撃口に迫り。其の背後より、追随する二つの影が在った。

 

直後、黒黄金の穂先が動けない甲冑麒麟の砲撃口に突き刺さって、麒麟の全身を雷が迸り。

 

「さぁ、最後の仕上げだ…!頼んだよカッツォ君、天王ちゃん!」

 

ペンシルゴンの声と共に、天王の上に乗ったオイカッツォが跳躍。同時に麒麟は其の巨体を翻し、後ろ脚での蹴りの態勢に入る。

 

「赤と青、そして黄!三色混合ッ………【拳気(けんき)過重黒衝(かじょうこくしょう)】!!!」

『オイカッツォ!御武運ヲ!』

 

麒麟の後ろ蹴りに己の足裏を合わせる形でオイカッツォがカッ飛び、まるでパチンコ玉の様に突き刺さった轟雷大槍・グラダネルガの持ち手部分に向かって、黒雷を纏う右拳を握り締めながら、凄まじい勢いで飛んで行く。

 

「名付けて、人機馬一体パイルバンカー!」

「さぁ、いい加減に沈め!伽藍堂(がらんどう)ッ!」

 

運動エネルギーを内封した黒の雷が、巨体に突き刺さって放ち続ける黄金の雷と合わさり、打ち据えられた衝撃が爆ぜた。

 

其れによってグラダネルガの穂先が、奥へ奥へと押し込まれて行き、遂には甲冑麒麟の動力源たるコアを穿ち貫き風穴を開け。グラダネルガは耐久値を大きく減らし、破損一歩手前ながらも何とか原型を保って地面に突き刺さる。

 

同時に巨人殺し・串刺しが耐久限界を迎え、其の身が砕けて消滅すると同時に、甲冑麒麟を構築していたポリゴンが盛大に爆発し、巨体は崩壊・消滅した。

 

「ふぃぃぃ~………勝てたぁ………」

「ちょっと休憩、だね……。グラダネルガは、無事かな……」

 

御互い大技発動とアクションと、スタミナ切れにより動けない二人だが、天王はウェザエモンと戦う三人の方向を静かに見据え。

 

『ペンシルゴン、オイカッツォ。立チ止マッテイル時間ハ有リマセン。急ガナクテハナリマセン』

 

そう言うや天王は、其の身を屈めて二人を背中に乗せられるようにする。

 

「いやぁ、本当に便利だね天王ちゃん………」

「因みに最大何人乗せられるの?天王は」

『……試シタ事ハ有リマセンガ、恐ラク三人位デアレバ、運ベルカト。サァ、行キマショウ』

 

グラダネルガ回収を後回しに、休憩によってスタミナが少し回復したペンシルゴンが、過剰黒衝の反動で動けないオイカッツォを天王に乗せ、自身も乗り込み。

 

反転の花園の大地を蹴り上げて、天王は其の巨体を奮わし駆け出すのだ。自身を呼び出したペッパーを、助けて支える為に………

 






甲冑麒麟戦、此処に閉幕




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の十五



全ては其の瞬間の為に




天晴(テンセイ)

「うおおおお!リスポーン!」

晴天大征(セイテンタイセイ)

 

累計四度目となる天晴による即死から、セルフリスポーンで復活を遂げるサンラクは、半壊した戦角兜(せんかくかぶと)四甲(しこう)】を着けたまま、己が経験してきた晴天大征の情報を洗い出す。

 

先ず晴天大征の真髄は『ウェザエモンが持つ六つの技全てを、再使用時間(リキャストタイム)をガン無視して、連続使用してくる』乱舞系の必殺技。技自体はランダムに選出されて繰り出されるも、性能は此処までと同じであるので、各々の対処方法を覚えていれば生き残る事は(・・)簡単。

 

そして其の乱舞を生き残り、ペッパーが四回の時間計測を行った事によって、晴天大征は発動から必ず『30秒後』に、標的となったプレイヤーが『生存』していれば、ウェザエモンは共通して『天晴』を。つまり一連の流れの最後に、大上段斬り下ろしの即死含めた諸々の効果が乗った、天晴で〆る事が解った。

 

問題は天晴発動前に、回避行動の一切を封じる『金縛り』。体力を全損させる攻撃に対し、自動発動する致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】が有るにも関わらず、金縛りを食らう事で回避や移動系スキルは封殺され、其の場に留められてしまう。

 

雷鐘(ライショウ)入道雲(ニュウドウグモ)断風(タチカゼ)断風(タチカゼ)断風(タチカゼ)

「よっ!せい、そっりやぁ!!!!」

 

(天晴の攻略方法は、今現在『三つ』まで絞り込めた。

 

一つ目はウェザエモンが握っている、あの大太刀を破壊して、天晴そのもの(・・・・)を封じてしまう事。刀が無い状態なら大時化(オオシケ)くらいしか打たなくなるだろう。………が、晴天大征の乱舞の中で行うのは現実的じゃない)

 

雷鐘をペッパーが防ぎ、入道雲と断風の三連打を抜け、致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】で、ヘイトを一瞬掻き消したサンラクがウェザエモンを切り裂き、兎月達の合体ゲージを上昇させていく。

 

(二つ目はウェザエモン本体の撃破。可能性としては有りなんだろうが、ウェザエモンの台詞と天晴の特徴からすると、どうにも矛盾してるって言うか、噛み合わないんだよな)

 

火砕龍(カサイリュウ)灰吹雪(ハイフブキ)断風(タチカゼ)入道雲(ニュウドウグモ)

「うおおおおおっ!そいやぁ、はぁいっ!!」

 

(………となると、最有力候補は三つ目。ウェザエモンが放つ天晴を、プレイヤーはどうにかしてパリィで弾き飛ばして(・・・・・・・・・・)生存する事。だが、パリィとて万能な技じゃない。ウェザエモンの筋力をバフ諸々含めて上回るか、あの速さの一刀両断をクリティカルのタイミングで、刀の『側面』を叩かなきゃならねぇ。タイミングを見誤れば、身体は仏陀切られるし武器も破壊されちまう)

 

灰吹雪をペッパーに任せ、其れ以外は自力での回避を行い。スキルの再使用時間を参考に、20秒が経過したタイミングで武器をインベントリに再収納。己が持つ最後の再誕の涙珠を取り出し、自己蘇生の準備を終える。

 

(そしてパリィ成功の鍵を握っているのは、ペッパーの太刀と俺の兎月の合体形態。ヴォーパルコロッセオでのスキル確認中に見た、アイツの武器大天咫(オオテンタ)の専用スキル【破天光(ハテンコウ)】は、其れを可能にする。

 

つまり天晴の際に『大太刀の側面へ大天咫の専用スキルを当てる事が出来れば』、俺の合体状態時の兎月専用スキルと合わせて、パリィの成功確率が飛躍的に上昇する━━━━━━━!)

 

大時化(オオシケ)断風(タチカゼ)断風(タチカゼ)()窮極(きゅうきょく)一太刀(ひとたち)━━━━━』

「精一杯抵抗してやろうじゃねーか、ウェザエモン!」

天晴(テンセイ)

「おりゃあああ!ぐぼへ!?」

 

腕狙いの大時化、胴と首狙いの断風を回避後、六度目となる回避阻害の金縛り。涙珠を上空に投げて、せめてもと振り下ろされるタイミングにハンド・オブ・フォーチュンを使ってみたが、刀身はズレる事無くサンラクの身体を切り裂き、体力を全損させていった。

 

(俺に出来る事は、兎月の合体ゲージをMAXまで蓄積させて、ペッパーの破天光のタイミングに備える事。其の為にはバフスキル全般の再使用は必須条件……!)

 

涙珠が当たり、リスポーンしたサンラク。同じく晴天大征を構え、サンラクを見据えるウェザエモン。条件を整える為に、彼は戦うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンラク……!」

 

五度目の自己蘇生から再度ウェザエモンとの戦闘を開始し、あの攻撃の中で兎月の刃達を徹す姿を見て、上空から雷鐘と灰吹雪を封じながら、時間計測と援護する事しか出来ないでいる、自分の情けなさを噛み締め。

 

然れどペッパーは一人、空からウェザエモンが繰り出す晴天大征と天晴をひたすら観察し、確実に己に訪れる相対の瞬間に備えて情報とモーションを頭に叩き込んで、思考へと組み込み続けていく。

 

(此処まで見てきて、晴天大征は天晴を放って終わる一連のアクションを指している。つまりウェザエモンにとっての窮極を越えるとは、天晴から生き残る事。其れが出来なければ、ウェザエモンは永遠に終われないんだ(・・・・・・・・・・)………!)

「サンラク、僕の再誕の涙珠使う!?」

「頼むわ、京ティメット!」

 

京極(キョウアルティメット)もまた、サンラクが何時ウェザエモンに仕掛けても良いように、自身のスキルのリキャストタイムを把握し、其の時が来るのを虎視眈々と待ち望む。

 

「おおおおぃ!おおおおい!ペッパー、サンラク、京極!無事かぁあああ!」

「麒麟はバッチリ仕留めたよー!」

「ペンシルゴン!オイカッツォ!」

 

と此処で、天王の背中に乗ったペンシルゴンとオイカッツォが、麒麟討伐から戻り合流を果たす。ペッパーはレディアント・ソルレイアを使って着陸、天王から降りた二人の元へ駆け寄った。

 

「よっし!ペッパー、此方はバフスキルのリキャストタイム終了とゲージMAXで準備が出来た!」

「僕も何時でも行けるよ!」

『天晴』

「あぼふぅ!?」

「サンラク!」

 

クリティカルの蓄積で合体ゲージがMAXとなった兎月達を、サンラクが自身のインベントリに入れた直後、襲い掛かった天晴によって斬られ。京極は直ぐ様、自身の再誕の涙珠をサンラクへぶつける。

 

「天王!甲冑形態へ変型、そして合体だ!」

『了解ッ!』

 

サンラクが殺られた瞬間、ペッパーの音声を認証した天王が、其の身を五つの部位へ別ち、右腕・左腕・右脚・左脚・胸部へとパーツを次々に合体。

 

見た目こそ、甲冑麒麟の四肢が天将王装に着いた様な物だが、胸部に加わった装甲の中心には大きく『(アマツ)』の漢字を刻んでおり、如何にもパワータイプな姿へと変化した。

 

『来たか……継承せし勇者。我が晴天大征(セイテンタイセイ)………越えてみせよ』

「墓守のウェザエモン。……いいえ、ウェザエモン・天津気(アマツキ)さん!此れが最後の晴天大征です、必ず越えてみせます………!」

 

サンラクが幾数のデス&リスポーンで得てきた情報を、ウェザエモンの晴天大征を空から見、其れ等全てを己の思考に納めたペッパーが、満を持して動く。

 

悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)と、招来させた試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】と己を合体。左手に轟斬型(ゴウザンガタ)太刀(タチ)(シキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)を握り振いて、四人の前に踊り出る。

 

全てはウェザエモンの天晴を、大太刀を弾き飛ばす(パリィする)為に。最後の30秒にして失敗が許されない、一発勝負の戦いが………始まった。

 

 

 






気炎万丈




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の十六



墓守のウェザエモン戦、此処に決着




『勇者よ……晴天大征(セイテンタイセイ)を越えてみせよ』

「………皆、今の俺は晴天大征に集中しなくちゃいけないから、雷鐘(ライショウ)灰吹雪(ハイフブキ)は防げない。範囲攻撃は兎に角生き残る事に尽力してくれ」

「応よ、そっちこそミスんじゃねぇーぞ!」

「ペッパー。此の30秒の為に御膳立てしたんだから、キッチリやってよね?」

「失敗したら、向こう半年は煽ってやるから覚悟しとけよ?」

「頑張れ、ペッパー君!」

 

己の四人に注意を促し、彼等彼女等の罵倒やらエールやらを受けたペッパーは、此の一瞬の為に使えるスキルを点火していく。

 

戦王の煌心(プライマス・ハート)戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)纐纈戦々(こうけつせんせん)鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)、そして英傑之呼応(ヴァンガート・グレイトフル)、最後にデュアルリンクを重ね連ねて、己を全力で強化する。

 

『━━━━断風(タチカゼ)

「ッ!」

 

レコメンド・スート、アイズオブセスティ起動。神速の抜刀居合を強化された動体視力で回避し、ウェザエモンの大太刀と彼の視線、バネ状脚の爪先の位置を、写真のように切り取って頭へ入れて行く。

 

雷鐘(ライショウ)入道雲(ニュウドウグモ)

「皆!気を付けて!」

 

振り抜いた大太刀の刀身が電撃を纏い、仲間達に注意を促した直後、天より降り注ぐ落雷。其れを走り抜け、襲い来る白雲の巨腕を跳躍と空中歩行で飛び越え着地。

 

大時化(オオシケ)断風(タチカゼ)火砕龍(カサイリュウ)

 

着地の後隙を狙う掴みを脚で弾き、頭狙いの断風を回避し、ウェザエモンの正面に立ちながら、もうすぐ来る天晴に備えて位置調整を行う。

 

灰吹雪(ハイフブキ)断風(タチカゼ)━━━』

「ペッパー!30秒の5秒前!」

「ありがとう、サンラク!」

 

降り注ぐ灰吹雪と断風を回避し、致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】起動。数秒後の天晴によって己と天将王装に天王を含め、真っ二つに破壊される姿が脳内イメージに焼き付く。

 

「越える……!越えてみせるッ!」

晴天大征(セイテンタイセイ)流転(るてん)手向(たむけ)()って、終極(しゅうきょく)()す』

「………我等は永劫の雲を晴らし、時代を拓く者也て!」

 

両足に襲い掛かる、天晴の前の金縛り。しかしペッパーは気圧されはしない。此処まで情報を集めたサンラクと、晴天大征前までサンラクと共に、ウェザエモンを足止めしてくれた京極(キョウアルティメット)

 

麒麟と其の身一つでロデオをして、合流を阻止したオイカッツォ。そして━━━━墓守のウェザエモンとの戦いに参加させてくれた、ペンシルゴンの為に。

 

晴天(セイテン)転じて、()窮極(きゅうきょく)一太刀(ひとたち)

「過去の因果を断ち切り別ち(タチキリワカチ)、新たな時代を晴れ謳い(ハレウタイ)!ドデカき雲割る一刀両断、我が身恐るる事在らず!」

 

己を鼓舞するが如く唱え、発動するは致命の秘奥と致命の極技。然れども此程迄に合致したのは、如何なる偶然か、はたまた運命の悪戯か。

 

(われ)………(りゅう)をも()つ━━━━━』

大天咫(オオテンタ)超過機構(イクシードチャージ)………!」

 

両者の得物が光を、空色の輝きを放ち。振るわれる二つの閃は、色調反転の空の元に煌めき、そして━━━━重なった。

 

 

天晴(テンセイ)!』

破天光(ハテンコウ)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟斬型(ゴウザンガタ)太刀(タチ)(シキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)。其の超過機構(イクシードチャージ)たる『破天光(ハテンコウ)』は、敵意を以て放たれた攻撃に対し、太刀の刃先(・・)を当てる事によって、其の威力を霧散・無効化させる『特殊な超過機構(ユニーク・イクシードチャージ)』である。

 

機構を発動した刃先を合わせられれば、投げられたゴブリンの手斧だろうが、ライブスタイド・デストロブスターの水流レーザーだろうが、夜襲のリュカオーンの前肢攻撃だろうが、理論上『全ての攻撃に対して』其の攻撃エネルギーを取り除き、止められる力を持つ。

 

ユニークモンスター・墓守のウェザエモン。最終奥義たる天晴は、大太刀の『刃先』に装甲と装備破壊、ガード・スキル・魔法の貫通、そして問答無用の即死効果を乗せた刃を振り下ろす。

 

動体視力を強化するバフスキルを全て点火して、大天咫を通常の持ち方から、逆手にスイッチして握るペッパーは、振り下ろされるウェザエモンの斬り下ろしを視界に捉え、セツナノミキリと疾風連紲(しっぷうれんせつ)で速度を調整。大太刀の刃先を避けながら、ジャストタイミングで『刀身の横っ腹』に己の太刀の刃先をぶつける。

 

すると、ウェザエモンの大太刀から空色の光とエフェクトが、膨張した風船から空気が抜けていくように霧散して、徐々に其の力を失っていった。

 

「俺は『一人で戦っている』訳じゃない………!此処まで連れて来てくれた『皆』や、彼女の━━━『セツナ』の願いの為!そして……『先生』と約束した、虚言を現実へ変える勇者に成る為に!俺達は!貴方を越えていく!」

 

破壊と死を乗せた絶撃たる刃が、約束と想いと願いを護らんとする守りの刃により阻まれ。直後にペッパーの背後より、大太刀へ来たるはサンラクと京極の姿有り。

 

「ヴァッシュの兄貴に代わって、俺達がハッ倒して眠らせてやる………!」

「此れで最後だッ………!」

 

合体ゲージMAXとなった、二つの兎月で己の得物たる【白上弦(びゃくじょうげん)】と【紅下弦(こうかげん)】を一つに重ねて、紅白の大剣なる合体状態:【皇弦月(おうげんげつ)】へと姿を変え、サンラクはニトロゲイン・オーバーヒート・クライマックスブースト、餓狼の闘志(ハンガーウルフ)我狼の鼓動(ルプスビート)を加え、専用スキル【致命の煌月(イルザムーン・ヴォーパル)】を。

 

京極は風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】と閃乱破刃(せんらんはじん)・デュエルイズム・風雷破動(ふうらいはどう)刃開花(じんかいか)五天無双(ごてんむそう)等の、ありったけのバフスキルによる強化を加えて、現時点の自分が繰り出せる最強の攻撃スキル:秘剣(ひけん)獅子(しし)(きり)】を起動する。

 

前者のサンラクのスキルは、自前の強化と対価の天秤によるバフを受けてなお、全ての能力を上回るウェザエモンに対し、『クリティカル確定成功』と『クリティカル最大威力』に加えて、バフスキルの総数(・・)に応じた『クリティカルダメージのボーナス』が乗り。後者の京極のスキルは、剣士系統プレイヤー必須スキルを始め、刀を使うならば必要となる物ばかりに、自身よりレベルが勝る相手に対するダメージが増大する刀系攻撃スキル。

 

ペッパーの破天光がウェザエモンの天晴の威力を殺し、一瞬だが大太刀の動きが止まった刀身に、サンラク・京極の渾身の一撃達が直撃。振るう得物達は力強く、然れど其の煌めきに迷い無く、ウェザエモンの大太刀の側面を押し出して。

 

「そろそろ眠りな、墓守のウェザエモン!」

「君との戦いは本当に楽しかった!」

 

刀を握った手が爆ぜる様にして、大太刀は宙を舞い飛んで。ウェザエモンから見れば、左後ろ側の地面に突き刺さる。

 

「ウェザエモン・天津気さん。敵を一撃で仕留めきる絶大な御業の数々、そして最後の一刀両断たる天晴。最強種に相応しい凄まじき強さ、感服致しました。戦って下さり……本当にありがとうございました!」

「アイツ等の援護も加える形になったが……窮極(きゅうきょく)の一太刀、攻略完了だ」

「此処に僕のリベンジは果たされた………」

 

各々の言葉をトリガーとしたのか、地面に突き刺さった大太刀の刀身は、真ん中より皹が走ってパキンという、小さな音と共に折れ。

 

『……………見事だ』

 

ズタボロと成った掌に舞い落ちた、一輪の桜の花をウェザエモンは見て。桜の巨樹と空を見上げた後に、ペッパーとサンラクに京極、そして見守るペンシルゴンとオイカッツォに、静かながらも力強く言葉を紡いだ。

 

晴天(セイテン)転じて、我が窮極(きゅうきょく)一刀(ひとたち)………天晴(テンセイ)。此処に言葉は移りて、(イワイ)へ転ず……………』

 

 

 

 

天晴(あっぱれ)である。

 

 

 

 

其れは墓守のウェザエモン━━━━否、ウェザエモン・天津気(アマツキ)からの祝福であり。長く永い激闘を乗り越えた挑戦者達へと贈る、最後にして最大の賛美であった。

 

 

 






数多の挑戦者を退けし秘剣、攻略せし者達への称賛と成る




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刹那に花を、永劫へ終止符を 其の十七



墓守のウェザエモンの最後




晴天(セイテン)転じて、我が窮極(きゅうきょく)一刀(ひとたち)………天晴(テンセイ)。此処に言葉は移りて、(イワイ)へ転ず……………天晴(あっぱれ)である。我が窮極、よくぞ見切った』

「ダジャレかよ、ウェザエモン」

「サンラク、其所は言わない方が良くない!!?」

天晴(てんせい)……天晴(あっぱれ)……フフッ。結構『ハイカラ』なんだね、ウェザエモン」

 

墓守のウェザエモン、最終奥義の天晴を乗り越えたペッパーとサンラク、そして京極(キョウアルティメット)へと贈られた賛美の言葉。まさか此の場面でダジャレが飛んで来た為に、思わずツッコミを入れたサンラク、そんな彼にペッパーはツッコミ。そして想う所が有ったのか、京極は微笑んでいる。

 

呵々々(カカカ)……嗚呼(あぁ)。セツナにもよく、言われた……ものよ………』

 

身体中から放出されていた蒼白い炎は消えて行き、煙が薄く細く線香の様に立ち昇っているのみであり。そしてウェザエモンは静かに、折れた大太刀の所へと歩み寄って、己の得物を拾って言った。

 

『重ねて……天晴、である。拓く者の末裔達よ……そして、我の……戦鎧を継承、せし……勇者よ……』

 

全身に纏う甲冑パワードスーツの崩壊が進む中、ウェザエモンは折れた大太刀を、鞘に納刀して一歩ずつペッパーの元へと歩み寄って、彼に問い掛ける。

 

『我の戦鎧を継ぎし者………名を、聞こう』

「………ペッパー」

『……ペッパー、か』

 

そう言ったウェザエモンは、己の大太刀をくるりと回して、ペッパーに差し出しながらこう言った。

 

『ペッパー。御主に……我が『魂』と、我が『名』を……託す。此れより………『天津気(アマツキ)』と……名乗る、事を……許す』

 

フルフェイスヘルメットの内側でペッパーは目を丸くして、サンラク・京極・オイカッツォ・ペンシルゴンもまた仰天といった表情をする中、ペッパーは何とか冷静さを保ちながら「………ありがたき御言葉。偉大なる魂と名を、謹んで襲名させていただきます」と大太刀を受け取り、深く頭を下げた。そして最後に、遠き日のセツナに言われた伝言を、ウェザエモンへと伝える。

 

「ウェザエモン・天津気(アマツキ)さん。最後にセツナさんから、貴方に伝えて欲しいと伝言を賜っています。『貴方は……もう十分に守ってくれた、本当に………本当に、ありがとう』………と」

 

最後の最後、彼女の言葉を伝えたペッパー。ウェザエモンは暫しの沈黙を経て『………そう、か………』とだけ、言葉を返した。

 

『悠久に均しき、刻……我の、誓い……も此処ま、で………か……━━━━━』

 

煙が細く途絶え、身体は朽ち果て、四肢の崩壊が進む中、ウェザエモンは一歩、また一歩とセツナの墓標へ歩いていく。

 

「あれ、セツナの墓が光っ…………『セっちゃん』……?」

「「「「え………!?」」」」

 

そんな時だった。ウェザエモンが歩く先を見ていたペンシルゴンが、セツナの墓標に『何か』が在る事に気付き。其の白い物が形を創り、見覚えたセツナの姿を成した瞬間を目撃。

 

他の四人が墓の方を見ると、確かに其所には『セツナ』が居て。然れど、半透明の『遠き日のセツナ』では無く。墓の近くまで歩いてきていた、ウェザエモンの足が…止まる。

 

『…………セツ、ナ……━━━?』

『ウェザエモン……私、ずっと、ずっと……貴方に謝りたかった……』

 

ふわり…ふわり…。形を成したセツナは、ウェザエモンの前に立ち、其の眼から大粒の涙を溢して彼に謝った。

 

『本当に……ごめんなさい……。私の死が貴方を……ずっと、(過去)に縛り付けてしまっていた事を………』

『違う!!……我は、君を……守れなかった…!!あの日、()が……嘘さえ、付かなければ……!君を死なせる事もッ……!』

 

ウェザエモンの声が震え、一人称が素の物へと戻り。セツナはウェザエモンに寄り添い、ずっと伝えられなかった事を━━━━伝える。

 

『貴方は何時だって不器用で、真っ直ぐで、決めた事は頑として曲げない……私の大切な人。私は貴方を……『許しているわ』。だから貴方も、貴方自身を『許してあげて』………』

 

彼を愛し、彼の傍に居たからこそ。セツナは………刹那(セツナ)天津気(アマツキ)は、彼を救う言葉を知っているのだろう。

 

『嗚呼、嗚呼……セツナ………。俺は……一緒に居て、良いのか……?』

『えぇ……。ずっと、ずっと……一緒よ……ウェザエモン……』

 

そう言った瞬間、ウェザエモンの身体は完全に崩壊し、同時にセツナの身体も消え。しかし其の場に残る二つの白い霊魂は、互いに離れる事は無く空へと昇っていった。

 

「………もしかして、ペッパーが『天将王装を装備して墓参りしたから』起きた、イベントシーンだったりするのか?」

「解らないけど……多分、そうなのかも……?」

「シナリオクリアの表示は出てないし、まだ何か有るのかな?」

 

辺りを見回して、何が起きるか警戒を続けていると、反転の花園『其のもの』に変化が起きる。満開に咲き誇る桜の巨樹は枯れ果てて、色調反転をしていた白い空は黒の夜空に戻り、平坦なフィールドは彼岸花が咲き乱れる、秘匿の花園へと戻っていく。

 

そしてセツナの墓標の近くに、半透明なセツナが。ユニークNPC・遠き日のセツナが、五人に向けて微笑みながら立っていた。

 

「セッちゃん……」

『アーサー……。其れに京極(キョウアルティメット)、オイカッツォ、サンラク、そしてペッパー……成し遂げてくれたのね。本当に……本当に、ありがとう。私の……いいえ、遠き日に『セツナ』が抱いた願いは……此処に果たされました』

 

セツナの言葉に、全員が疑問を抱き。ペンシルゴンがセツナに問い掛けた。

 

「セッちゃん……というより、セツナって貴方の事じゃないの?其れじゃあ、さっきのセツナって一体……?」

『アーサー……私は確かに『セツナ』ではある。けれど、あの日死んだ『セツナ本人』とは違う……。『もしも恋人がずっとずっと私の死に囚われるのなら、どうか止めて欲しい』…………其の想い(・・)が生み出した彼女の『残滓』。謂わば筆跡まで完全に再現された、写本(・・)のようなものなの。

そして貴方達が見たのは、ペッパーの天将王装の陣羽織に在る、桜の刺繍に宿った『彼女の想い』が、反転の花園に在った『彼女の墓標』と結び付いた事で蘇った、彼女本人(・・)の霊魂よ』

 

つまり遠き日のセツナは、セツナ本人の想いによって産み出された、所謂『コピペ』のような存在で。先程のウェザエモンとセツナのやり取りは、天将王装が有ったからこそ起きた『奇跡』だった様だ。

 

『私はセツナの残滓。役割を終えれば、消える存在……』

 

そう言ったセツナの半透明な身体は、足元からポリゴンと化して少しずつ消え始めていた。

 

「あっ……待って、セッちゃん!」

 

ペンシルゴンが惜しむような声を上げるが、セツナは儚げで朗らかな笑顔で彼女へ言う。

 

『悲しまないで、アーサー………。彼女の願いに『世界が応えた』時点で、いつかはこうなる事は決まっていたの………」

 

セツナはまるで、定められた己の運命を受け入れている様に言い。しかし其の表情は真剣な物に変わり、消え行く身体ながら、五人を見て言葉を紡ぐ。

 

『貴方達は開拓者(かいたくしゃ)二号計画(セカンドプラン)末裔(まつえい)、そして世界を『(ひら)(もの)』。もしも……貴方達が自身のルーツを。『世界の真実』を知りたいと願うのなら━━━━━『バハムート達』を探しなさい』

「バハムート?」

「知らんのか、カッツォ。大体どのゲームでも、ドラゴンとして扱われてる魚だよ」

「いや、それくらい知ってるって。此のゲームのバハムートについてだって」

 

セツナが言った『バハムート達』というワード。単体では無く複数体で言った事で、ペッパーは此の世界にバハムートなる存在が、少なくとも『一体以上』居るのだと考察する。

 

「バハムート……セッちゃん、其れって一体……」

『此処から先は、自分で見つけ出してちょうだい。だって其れが、未来を『切り拓く』って事でしょう?』

 

セツナの真剣な表情は再び、悪戯っ子のような柔らかな物へと戻る。己を構成するポリゴンが消えていく中で、彼女はペンシルゴンを見つめながらにこう言った。

 

『………アーサー。此れは『セツナ』じゃなくて、『私自身』が貴女に送る言葉』

「えっ………?」

『何時も『私』に、会いに来てくれて……ありがとう。大好きよ、アーサー』

「あ……っ……。………こちらこそ!」

 

満開に咲き誇る桜の様に、セツナは笑顔でペンシルゴンに手を振って。ペンシルゴンは何かを言おうとしたが、続く言葉を詰まらせ。しかし、彼女との別れをせめて笑顔で居ようと、己の表情を取り繕いながら、彼女に満面の笑顔と手を振って言う。

 

『そして……ペッパー。貴方にも一言、言わなくちゃいけない事が有るわ』

「俺、に………?」

 

最後にセツナは、己の言葉に疑問符を浮かべる天将王装を纏った勇者へと、コクリと頷いて。そしてポリゴンが消滅する瞬間に、彼女は彼へと言葉を伝えたのだ。

 

『━━━━アーサーを、大事にしてあげてね?』

「…………!」

 

其の言葉の意味が、ペッパーには解らなかった。彼女を『仲間』として大事にすれば良いのか、彼女を『友達』として大事にすれば良いのか。其れとも、彼女を『恋人』として大事にすれば良いのか。

 

答えが解らなかったペッパーではあったが、今は解らずとも何時かは其の意味を知る時が来ると思い、無言でセツナに頷いて。

 

其れを見届けた事がトリガーとなって、ユニークNPC・遠き日のセツナは泡沫の様にポリゴンを散らし、朗らかな笑顔のまま此の世界から消滅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『墓守のウェザエモンは永い眠りについた』

『勇者は偉大なる将軍より魂と名を継承した』

『別たれた二人は此処に再び廻り逢えた』

『セツナの残滓は遠き日の願いを終えた』

『ユニークシナリオEX【此岸より彼岸へ愛を込めて】をクリアしました』

『称号【看取りし者】を獲得しました』

『称号【刹那を想う者】を獲得しました』

『称号【ご先祖様のお墨付き】を獲得しました』

『称号【残影を纏う者】が【天津気の襲名者】に変化しました』

『参加者全員がアクセサリー【格納鍵(かくのうけん)インベントリア】を獲得しました』

『参加者全員がアイテム【球状型記憶装置(きゅうじょうがたきおくそうち):極天(ぎょくてん)】を獲得しました』

『参加者全員がアイテム【世界の真理書「墓守編」】を獲得しました』

『アイテム【折れたバンガード】を獲得しました』

『Loading………』

『ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】が進行しました』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

『ユニークシナリオEX【致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)】が進行しました』

『ワールドクエスト【シャングリラ・フロンティア】が進行しました』

 

 

 

 






成し遂げられし、前人未到の偉業




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~世界は英雄達を知る~



プレイヤー達は知るだろう




其れは唐突な出来事であった。

 

シャングリラ・フロンティアの各エリア、各街の上空に突如として出現した、年季の入った黄金の鐘楼がカラーン…!カラーン…!と、荘厳な音色を世界に響かせる光景に、プレイヤー達は何だ何だと空を見上げる。

 

『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』

 

「え、何あれ」

「鐘?」

「ありゃ、ゲーマスからのアナウンスだわ」

「何か不具合でも有ったのかね?」

 

始めたばかりのプレイヤー達は、一体何事だと疑問を。既に古参となったプレイヤー達は、運営からの放送だと落ち着きを保ち。だが、其の後に来たのは予想だにしなかった、衝撃と驚愕の内容だったのである。

 

『現時刻を持ちまして、ユニークモンスター………『墓守のウェザエモン』の討伐を確認致しました』

 

「…………は?」

「はぁああああああああああ?!?」

「えっ、ユニークモンスター!?墓守のウェザエモンって、何!?」

「ふぁぁ!?!」

「マジかよ……えっ、マジかよ……」

 

シャングリラ・フロンティアに7体しか存在しない、理不尽の権化にして各々が最強と謳われるユニークモンスター。其の内の一角が今日、此の瞬間に倒されたというニュースは、瞬く間にプレイヤー達に伝播していき。そして彼等彼女等は、前人未到の大偉業を成し遂げた者達を知る事となる。

 

『討伐者プレイヤー名は『アーサー・ペンシルゴン』・『オイカッツォ』・『京極(キョウアルティメット)』・『サンラク』・『ペッパー』の五名です。

 

さらにユニークモンスターの討伐に伴い………ワールドストーリー【シャングリラ・フロンティア】が進行しました』

 

「えっ、五人……!?」

「嘘だろ、五人で倒しきったってのか!?」

「ペッパー……サンラク……オイカッツォ………情報出てたが何処だっけ?」

「廃人狩りに人斬り……他の連中も阿修羅会に関係あるの?」

「知らないの?阿修羅会って廃人狩りと人斬りに潰されたんだぞ」

「えっそうなの?」

「ワールドストーリー……?なんだそりゃ」

 

ユニークモンスターを倒した五人のプレイヤー達。其の情報を探す者や、調べ直す者が現れてシャングリラ・フロンティアは喧騒に満ちていく……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンフロ第8の街『エイドルト』。

 

考察クランにして此の世界(シャンフロ)の謎を解き明かさんとする『ライブラリ』の本拠地もまた、運営からのアナウンスによって活性化していた。

 

「まさか此処に来て七つの最強種の、不明枠だった存在の一角が明らかになるとはね…」

「墓守のウェザエモンかぁ…どんなモンスター何だろう?」

「ウェザエモン………上左衛門かな?もしかしてサムライだったり?」

 

『夜襲のリュカオーン』・『天覇のジークヴルム』・『深淵のクターニッド』……大陸全土に派遣している調査班や、様々な情報屋のプレイヤーから得てきた事で判明した、七つの最強種達。つい最近『冥響のオルケストラ』という存在がライブラリにもたらされたのだが、此処に来て新しく『墓守のウェザエモン』が現れた事に、考察クランは盛り上がる。

 

「アナウンスに有った、ワールドストーリーってのは何だろうな?グランドクエストと違うんかね?」

「大まかなクエストが『NPCとの協力をしながら世界を開拓する』で、ワールドストーリーが『世界そのものが進んだ』と見て良いのかな?」

黒狼(ヴォルフシュバルツ)とかに調査依頼出して、調べて貰う?」

「此方も調査班を出したり、ウェポニアにも武器ラインナップの変化が無いか頼んでみますね」

 

ユニークモンスターの討伐により、ワールドストーリーというワードが出た事で、其の辺りの考察を行うクランメンバーも居る。

 

「皆、一度思考を続けながら聞いてくれ」

 

と、此処でクラン:ライブラリのオーナーにして、激渋ボイス魔法少女アバターのキョージュが、一室から姿を表す。

 

「キョージュさん!」

「考察で盛り上がっている所だが、先程討伐者メンバーの一人であるプレイヤーに、墓守のウェザエモンの情報の購入を依頼しておいた。胡椒争奪戦争を見ている者達には御存知だろう……ペッパー君だ」

 

ペッパー。黒毛のヴォーパルバニーを連れ、七つの最強種たるリュカオーン・ジークヴルムに接触、更にはウェザエモン討伐という、前人未到の大偉業を成し遂げるに至った、行動する度に話題と嵐を巻き起こすプレイヤー。

 

「最強種討伐の後なのか、返事は貰えなかったが……今回の一件で私は彼を━━━━ペッパー君を『クラン:ライブラリにスカウトしたい』という意思を、より強固なものとした」

 

情報源や戦力としてではなく、ペッパーというプレイヤー個人をキョージュは『評価』しており。そして彼と此の世界の謎を解明したいという、キョージュ自身の想いが有る。

 

「彼をクランへ迎える為にも、我々は相応の対価を用意しなくてはならない。考察クランとして最高の情報と共に交渉を行い、彼が我々の同志となれる様に頑張っていこう」

『おおおおおおおおおお!!!!』

 

ライブラリの本気を見せてやる。そんな強い想いを乗せて、考察クランのメンバー達は動くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンフロ第15の街『フィフティシア』。

 

現在此の街の一画に在る宿屋では、個室を借りる形でシャンフロにおいて最前線を走るトップクラン『黒狼(ヴォルフシュバルツ)』と、シャンフロの武器防具を徹底的に調べ上げる『ウェポニア』、シャンフロの世界に生きるモンスター達を調査する『SF-Zoo』。其の三大クランのオーナー達が集っていた。

 

「わざわざ呼び出して済まない。貴重な時間をいただけた事、感謝する」

「別に気にしてないわ、サイガ-100さん。寧ろ此方から声を掛けるつもりだったもの」

「私もですよ、団長さん。今回の呼び出し、此方にとっても大事でしたから」

 

先に立ち上がって頭を下げた剣聖勇者『サイガ-100』に、シャンフロ最強クラスの呪術師『Animalia』と、眼鏡が似合うインテリな顔立ちの海賊風衣裳とバンダナを頭に巻く、武器狂いの異名を持つ『SOHO-ZONE』が各々声を発する。

 

「今回集まって貰ったのは他でもない。ペッパー君とサンラク君、そしてオイカッツォ君についてだ」

 

三人の名前はAnimaliaの記憶にも新しい。およそ四週間前辺りに、サードレマに向かっていたペッパーにヴォーパルバニーをテイムするクエストを聞きに行き、彼と一緒に居たプレイヤー達の名前である。

 

「サンラクさんは見た感じだけど、ペッパーさんと同じ『リュカオーンの呪い(マーキング)』が在ったわ。しかも胴と脚の二ヶ所に………つまり彼はリュカオーンを相手に、ペッパーさんと『同じ』か『其れ以上』の善戦をしていたという事になるわね」

「私としては、ウェザエモン討伐の報酬が気になりますね。何せ初めてのユニークモンスター討伐という、前人未到の栄光を掴んだのですから」

 

「最前線を走る黒狼(我々)からすれば、トップクランも形無しなのだがな………」と、サイガ-100は溜息を付きつつ、およそ一ヶ月半前にサードレマの蛇の林檎にて、ペンシルゴンと共に相対したペッパーの事を思い出す。

 

(リュカオーンの瞳に刃を突き立て一矢報いたペッパー君。リュカオーン相手に二つ呪いを受けたサンラク君、そして彼等と一緒に居るオイカッツォ君。ユニークモンスターを倒した以上……三人共、相応の実力を持っていると見た方が良いだろう)

 

「サードレマでの阿修羅会との一件の後、サイガ-0に聞いてみたが、どうやらサンラク君と知り合いらしくてな。フレンド登録を結んだおかげで盟友救助(フレンドワープ)が出来ていたらしい」

「あぁ、だからあの時にサイガ-0さんが現れた訳ね。其れとペッパーさんなのだけど、私の身内にフレンド登録をした子が居た事がつい最近判って、其れを利用してコンタクト出来ないか依頼してるわ」

「取り敢えず、交渉の場を設けたい所ですね。スカウトや情報を得るにしても、先ずは舞台を整えなくてはいけません………」

 

トップクラン達の話し合いは続く。各々の目的を果たす為に…………。

 

 

 

 

 

 






強者共が動き出す


おまけ

「あんのクソ姉御がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

全てを奪われ、文字通り一文無しの頭寒貧になったオルスロット君。ウェザエモンという情報アドバンテージすら消滅した結果、ブチギレ発狂




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~珍獣捜索本格始動~



掲示板回、其の一




ユニークモンスター・墓守のウェザエモン討伐。世界へと報された其の偉業と、其れを成し遂げた英雄達(プレイヤー)の一人・サンラクの名は彼専用スレである『サンラク追跡スレ』にも轟いていた。

 

此れは其のスレの、アナウンス直後の掲示板の喧騒である…………

 

 

 

 

 

 

 

*********************

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【珍獣】サンラク追跡スレ part1【捜索隊】

 

1:国茶民

此のスレはスペクリ事件に関わったという発言、ならびに胴体と脚に呪いを受けたサンラクというプレイヤーを探して、話や情報を聞き出す為に出没地域の情報等を共有するスレです

 

スカウトの場合は自己責任ならびに、スカウト出来なかったからといって、他プレイヤーに八つ当たりする事は控えてください

 

 

 

 

……………………

………………

…………

 

 

120:国茶民

過疎ってきましたね………

 

121:カレーのジョーンズ

せやな

 

122:マイリー

それなー

 

123:サンサン

サンラクどこだよ

 

124:マルマラ

全然見つからん!

 

125:ゲートゥング

もう珍獣じゃなくてツチノコでよくね?

 

126:ロップ

良いと思っ

 

127:一寸亡

へ?

 

128:国茶民

お?

 

129:ジェスタン

ん?

 

130:我我我O

アナウンス?

 

131:バサシムサシ

なんかあったんか?

 

132:アッド

不具合かな

 

133:ルクルク

全プレイヤーに?一体

 

134:クロッカス

…………は?

 

135:コクリュー

 

136:イーシャン

!?

 

137:カレーのジョーンズ

はぁああああああああああ?!?

 

138:ダイナマ

ファッ!?ユニークモンスター!?墓守のウェザエモンって何!?

 

139:ギリオン=ハザード

えっマジd

 

140:我我我O

は?

 

141:アッド

マジかよ!?

 

142:一寸亡

なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?

 

143:ダイナマ

えっ、ウェザエモン討伐!?何してんのサンラクさん!?

 

144:マイリー

はああっ!!?

 

145:ジェスタン

マジかよ……マジかよ……

 

146:ディープスローター

サンラクくぅん…!凄いことしたねぇ…!

 

147:サバイバアル

ハハハッ…!あの野郎、やりやがったか…!

 

148:タコ・サーン

滞ったと思ってたら、まさかの爆弾が飛んで来てたでゴサル

 

149:バサシムサシ

てか、アーサー・ペンシルゴンに京極まで居るとは……まさかサンラク諸々含めて阿修羅会のメンバーなのか?

 

150:カノープン

ありえそう……

 

151:ジギルバイト

ワールドストーリーねぇ……気になるなぁ

 

152:サバイバアル

阿修羅会はペンシルゴンと京極が上位陣とリーダーキルして潰したぞ

 

153:ザイモン

回り始めたな、此処も!

 

154:ユリュー

はい?

 

155:ルクルク

へ!?

 

156:バサシムサシ

おいさらっと爆弾発言したよサバイバアル!?

 

157:ダイナマ

は?阿修羅会壊滅してたの!?

 

158:ウルシエラ

マジで?????

 

159:メモリナ

説明を!詳しい説明を!

 

160:ラッセル

阿修羅会の壊滅…知ってるんですか、サバさん!

 

161:サバイバアル

簡潔に言うなら、ペッパー強襲失敗を皮切りに阿修羅会定例集会に合わせてペンシルゴンが京極リーク、本拠地に強襲させたってのがタネだな。ペッパー強襲時に最大火力と最大防御、剣聖勇者にディプスロが来るのは予想外だったらしいが、其れが壊滅させんのに巧い事ハマったらしい

 

162:ディープスローター

んふふふ………サンラク君に出逢えるってェ絶好のチャンス、見逃したくなかったんけぇさ。邪魔するヤローどもは、プロミネンスで吹っ飛ばしてやっちゃたんだぜ★

 

163:アッド

やっちゃたんだぜ(初手対竜規模の火焔魔法)

 

164:タコ・サーン

スケールが違う……(魔法使いとして敗北)

 

165:カノープン

現状唯一の賢者職まで登り詰めたプレイヤーだからなぁ……

 

166:ジギルバイト

そう考えると、阿修羅会潰しの一因になったんだろうね、サンラクが呼び出したサイガ-0は

 

167:バサシムサシ

サンラクの功績

 

・スペクリ事件で黒幕討伐

・リュカオーンの呪い二ヶ所持ち

・最大火力を救難信号で呼び出せる

・阿修羅会潰しの一計を担う→New!

・墓守のウェザエモン討伐→New!

 

168:カレーのジョーンズ

助かる

 

169:ダイナマ

最大火力召喚だけでもヤバイのに、墓守のウェザエモン討伐まで関わるとはな……

 

170:ラッセル

此れは本格的に捜索及び捕獲隊が編成されて、間違いなく動きますね……

 

171:アッド

更に言うと他の上位クランも、サンラク含めてペッパーやオイカッツォにロックオンしてる可能性

 

172:ギリオン=ハザード

つまり早い方が良いという訳だな!

 

173:ジェスタン

ウェザエモン討伐の報酬気になる

 

174:ロップ

即断即決だ!探しに行くぞ!

 

175:ユリュー

いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

176:一寸亡

おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

177:我我我O

サンラク何処じゃああああああああああ!!!

 

178:国茶民

シャンフロ………始まったな!

 

 

 

 

………………

……………

…………

 

 

 

 

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珍獣探しが始まる




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~故障争奪戦は大混乱に包まれて~



掲示板回、其の二




【情報】胡椒争奪戦争 part5【急募】

 

 

 

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453:ムラクモ

ペッパー見付からへんなぁ………

 

454:ルクルク

ねぇ、ペッパーどこ……?

 

455:超合金豆腐

見付かりませんね………

 

456:タングステン

見付かったら見付かったで、またエグい情報出るでしょ。知らんけど

 

457:ミューティアス

そもそも見付からん定期

 

458:TASer

ペッパーもそうだが、サンラクやオイカッツォも何処行ったのかわから

 

459:ピーセント

へ?アナウンス?

 

460:ブルークリム

運営からのアナウンスか

 

461:ラプソティー

もしかして迷子のお知らせとか

 

462:ガムガルガン

まぁどーせしょう

 

463:ムラクモ

 

464:トットロ

えっ

 

465:サザランガ

マ!?

 

466:ラクラシアン

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????

 

467:シオン

なにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!????

 

468:TASer

ファッッッッッッッッッ!!!???

 

469:ギームズ=ギャペロン

ユニークモンスター討伐!?え、マジ!?

 

470:海パン7世

うぉぉぉぉぉぉぉぉ

 

471:ピーセント

墓守のウェザエモンって何!?今まで判らなかった奴かコレ!?

 

472:ムラクモ

夜襲、天覇、深淵に次ぐ4体目かいな…あとs

 

473:ユシイス

は?

 

474:チルタン

え!?

 

475:バグナラク

ぶっっっっっっっっ!!!?

 

476:シオン

!!!!????!!!!!

 

477:タンバリン

やりやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

478:モンタージュ

ペッパァァァァァァァァァァァァァァ!!!?

 

479:TASer

うわああああああああああああ!?!?

 

480:ムラクモ

ペッパー!?なんで最強種討伐メンバーにはいってんやねん!?

 

481:ポライゾム

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

482:サンダーナット

マジ……だと………!?

 

483:ベントレマン

ファァァァァァァァァァァァァァァァ!!!?

 

484:ガムガルガン

速報:ペッパー、最強種討伐メンバー入り

悲報:最強種討伐によりスカウト難易度跳ね上がり

 

485:ロクッルス

おおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

486:チルタン

やっば……

 

487:ギームズ=ギャペロン

特大の号外ニュースじゃねーか……

 

488:ドミグルゴヲン

クランスカウトの難易度爆上がりで森何ですがあのその

 

489:ポンチョ

まっっっっっっっっっっっじかよお前……

 

490:カルネシア

まさかリュカオーンを相手とって右手に呪いを受けた男が、ジークヴルムとも接触を果たして、其処からウェザエモン討伐に関わったとか………

 

491:サザランガ

こりゃ伝説になるわ

 

492:トットロ

(ペッパーの価値が)ヤバイわよ!

 

493:サンダーナット

スカウトするにしても、最強種討伐の肩書が加わったせいで、其れ以上の対価を示さなくちゃいけないってのが……

 

494:海パン7世

サンラク・オイカッツォもメンバー入りしてたし、ペッパーってあの二人とも知り合いなのかね?

 

495:ラプランス

セカンディルからサードレマまで一緒に行動してたって事は、間違いなくそう見て良いかも知れぬ

 

496:黒之助

廃人狩りと人斬りとの関係も気になるが……

 

497:ギームズ=ギャペロン

まさか此処まで全部、廃人狩りの描いた脚本的な物だったのか……?

 

498:ムラクモ

ペッパーの持ち物・肩書

 

・夜襲のリュカオーンに関する情報

・ユニーク小鎚

・天覇のジークヴルムの呼び出しが出来るアイテム(?)

・黒毛のヴォーパルバニー

・サードレマ上層エリアに行けるアイテム

・慈愛の聖女イリステラと遭遇

・救難信号で最大防御呼び出し

・名前隠しのコート

・墓守のウェザエモン討伐→New!

 

 

499:ピーセント

あのさぁ………

 

500:トットロ

自力でスカウト難易度上げるの止めて貰えません???

 

501:ギームズ=ギャペロン

立てばビックリ、走れば爆速、出てくる情報馬鹿気たレベル

 

502:プロトガイスト

マジでそれな

 

503:マルマラ

ペッパーさぁ……………

 

 

 

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刻まれた偉業、盛り上がるスレ




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~止まりし世界よ、今こそ動け~



ユニークモンスターの討伐を成して




「なぁ、ペンシルゴン……」

「………ぐずっ、な…泣いてなんか、ないから」

「俺まだ何も言ってねぇよ?」

 

ユニークモンスター・墓守のウェザエモン、ユニークNPC・遠き日のセツナの最後を見届け、ペッパーはペンシルゴンに声を掛けて。当の本人は涙声で、泣き顔をゴシゴシと腕で拭っている。

 

そして其の後ろでは、サンラク・オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)の外道三人組が、ニマニマニヤニヤと今すぐに殴りたくなるような、ゲスい笑顔を浮かべていた。

 

「いやぁ………まさか、ペッパーとペンシルゴンがねぇ~~~???実はそゆこと(・・・・)だったんですかぁ~~~???」

「もしかして御二方、そういう関係(・・・・・・)だったりするんですぅ~~~???」

「コラコラ、サンラクとオイカッツォ。其所はもっと盛大に御祝い(・・・・・・)しなくちゃさぁ!!」

 

外道共が結託してワイワイ言ってくるが、此処で下手に反応すれば何を言われるか解らないので、どうしたものかと思っていると、全員の目の前にユニークシナリオEXのクリア画面が表示された。

 

「ぐずっ……うぅ……。………とにかく、何はともあれ……。皆、私のワガママに付き合ってくれて、本当にありがとう。おかげでユニークシナリオの攻略まで、キッチリ持っていけたよ」

 

四人に素直な礼を述べたペンシルゴンに、各々の言葉を以て返事を返す。

 

「ンだよ、急に改まりやがって。俺達全員、やりたいから参加した。其れだけだろ」

「そーそー。無事全員生存出来たし、ウェザエモンもセツナに再会で、大団円……だったのかは知らないけど、クリアしたからね」

「僕もウェザエモンにリベンジ出来たから、満足と言えば満足ではあるかな」

「何にせよ……シャングリラ・フロンティアのサービス開始から、初めてのユニークモンスター討伐かぁ……報酬気になる」

「「「それはそう」」」

 

やんややんやと騒ぐサンラク、オイカッツォに京極と、そしてペッパーを見ながら、ペンシルゴンはカリスマモデルや黒幕魔王とも違う、心からの笑顔で大々と宣言した。

 

「さぁ、野郎共!報酬確認と洒落込もうか!」

 

ペンシルゴンの音頭に四人が『おー!』と同意した、まさに其の時。

 

突如として秘匿の花園の上空に現れた、黄金にして年季の籠った鐘楼。其れがカラーン…!カラーン…!カラーン…!と荘厳な鐘の音を、幾度も鳴らし始めたのだ。

 

「えっ?」

「何あれ、鐘楼?」

「あぁ…アレはゲームアナウンスの鐘だよ。シャンフロの運営からの『お知らせ』ってヤツだね」

 

初めて見る其れに、サンラク・オイカッツォが疑問の声を上げ、京極は其れに対する回答を出し。

 

「なぁ……ペンシルゴン。俺ちょっと『嫌な予感』がするんだけど」

「奇遇だね、ペッパー君。私も『そんな気』がするよ」

 

悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)と甲冑形態に変型・合体していた天王(テンオウ)を軍馬形態へ戻し、一式装備をインベントリに天王を格納空間へ収納しながら、ペッパーはペンシルゴンと共に若干引き吊った表情となる。

 

そして二人の予想通り━━━━其れはアナウンスとなって、秘匿の花園へ。否、文字通り『此のシャングリラ・フロンティアという世界』の全てへと響く報せとなって、英雄達の名を轟かせたのだ。

 

『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します。現時刻を持ちまして、ユニークモンスター………『墓守のウェザエモン』の討伐を確認致しました。

 

討伐者プレイヤー名は『アーサー・ペンシルゴン』・『オイカッツォ』・『京極(キョウアルティメット)』・『サンラク』・『ペッパー』の五名です。

 

さらにユニークモンスターの討伐に伴い………ワールドストーリー【シャングリラ・フロンティア】が進行しました』

 

鐘の音と共に、世界へ響き渡るアナウンス。伝える事を伝え終えてか、金色の鐘楼は消え去って。五人は御互いに顔を見合わせた。

 

「………逃げるか、誰か来る前に」

「それな」

「取り敢えず、解散って事で良い?」

「OK、其れで行こう」

「報酬確認は個々人で。後日、蛇の林檎に集合しよう」

 

そんな中、サンラクは二羽とペッパーには三羽のフクロウが飛んで来て、各々が彼等の腕に乗って来た。同時に画面には『伝書鳥(メールバード)が届きました』と報せる通知が入る。

 

確認すると、サンラクはサイガ-0とサバイバアルからで、前者は前人未到の偉業を成し遂げた彼に対する称賛、後者は落ち着いたらウェザエモンの事を聞かせてくれとあり。

 

ペッパーの方はジョゼットに、レーザーカジキとキョージュ、前者はサイガ-0と同じく偉業を称え、中者はサイガ-0やジョセットと同じだが、偉業への称賛が語彙力を失った状態、後者は墓守のウェザエモンについて話が聞きたいと言う、だいぶハッスルした文面であった。

 

同時に『解散ッ!』と五人は叫んで、ペンシルゴンは刺さったままのグラダネルガを回収してから、他四人も秘匿の花園を出た後、サンラク・ペッパーはサードレマ、京極・オイカッツォはフォスフォシエ方面へと走り出す。

 

停滞に満ちた世界は、遂に動き出した。五人の開拓者(プレイヤー)が成した、大きな大きな偉業によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェザエモン討伐者の五人を探す、他プレイヤー達が喧騒と血眼で探し回るサードレマに戻りつつ、ペッパーは胴装備を名前隠しが出来る影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)に切り替えて、サンラクと共に街の裏路地を縫いながら、目的地となる場所へと辿り着く。

 

グッドタイミングとも言うべき所で、迎えに来たアイトゥイルとエムルに各々抱き着かれ、涙と鼻水ぐしゃぐしゃの泣き笑顔で、彼女達が何を言っているか解らなかったが、取り敢えず二人は兎御殿へと避難。

 

数分後、一足先に落ち着きを取り戻したアイトゥイルが、ヴァイスアッシュに無事に帰還したと伝えに行き、エムルはサンラクの頭に乗って、二人を連れて大広間へと案内した。

 

「おぅ。ペッパー、サンラク。早速聞かせてぇ貰おうかい……あの『死に損ない』は、どうだったぁ」

 

座りつつ、年代物の人参煙管で煙を吸い込み、ヴァイスアッシュが問い掛ける。

 

「ウェザエモン・天津気さんは、本当に……本当に強敵でした。サンラクを始めとして、仲間達の協力無しでは決して勝てない程に」

「滅茶苦茶強かったッス、ヴァッシュの兄貴。少なくともルーザーズ何たらと、比べ物にもならないくらい」

「はっはっは!だろうなぁ……」

 

悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】との合体、そして轟斬型太刀式武装(ごうざんがたたちしきぶそう):大天咫(オオテンタ)超過機構(イクシードチャージ)を使い、最終奥義の天晴(テンセイ)を止める事が出来たのだ。

 

もし天王と合体していなかったら、もし大天咫の超過機構を使っていなかったら。きっと負けていたのは自分の方で。其れ程までに墓守のウェザエモン………ウェザエモン・天津気は此迄のゲーマー人生で、最大最強に相応しい相手だと、胸を張って言い切れる。

 

「………あいつぁ満足して逝けたかい」

天晴(テンセイ)転じて、天晴(あっぱれ)と。俺とペッパー、協力者達を褒めて貰いやした。其れから……」

 

サンラクが答え、チラリとペッパーを見て。ペッパーは小さく頷き、アイテムインベントリから『折れたバンガード』を取り出して、己の前に置いて言った。

 

「ウェザエモン・天津気さんより、彼の魂たる『大太刀・バンガード』を受け継ぎ。そして彼の名前たる『天津気』を襲名させていただきました」

 

育てている弟子の一人が、まさか死に損ないから魂と名を継承した等、ヴァイスアッシュも予想外だった様子であり。

 

「ふっははははは……!!!!はははははははははははは!!!!そうか、ペッパー!おめぇさん、あいつに認められたかぁ!」

 

驚き半分、喜び半分の笑い声で、高らかに笑い。軈て瞑目した後に、何かを決意してペッパーとサンラクへ言ったのだ。

 

「育み……拓く……そろそろ、かもなぁ。………ペッパー、サンラク。おめぇさん等……『世界の真実』を知りてぇかい?」

 

ヴァイスアッシュの問いに、二人は迷う事もなく答えてみせた。

 

「……そりゃあ、願ってもない事で」

「…………はいッ!先生!」

 

世界の真実を知る為に、二人の新たな戦いが幕を開けんとしている…………。

 

 

 

 






世界は、遂に動き出す




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~創世神は激震に揺れる~



偉業は神にも知らされ届く(ちょっと短いです)




シャングリラ・フロンティアにてユニークモンスターの一体、墓守のウェザエモンが討伐された事で、プレイヤー達が喧騒に満ちていた頃と同じ時刻帯。

 

現実世界・ユートピア社の地下10階にある原典閲覧室では、シャングリラ・フロンティアを創りし神である継久理(つくり) 創世(つくよ)が、何世代も前の年季が籠ったディスプレイパソコンとキーボードの前に座り、そして画面に表示された『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン』のリザルト画面に、奥歯を噛み締めながら険しい表情をしている。

 

「墓守のウェザエモンが、倒されたッ………!」

 

神代最強の英雄、人類という種族の中の最強と謂うべき存在、そして継久理のお気に入り(・・・・・)が五人のプレイヤーによる討伐で、自身の構築した世界(シャングリラ・フロンティア)から姿を消したのである。

 

ゲームである以上は、いつか攻略されなくてはならなかったにしても、本当ならばウェザエモンは『中盤から終盤』に掛けて攻略される存在で。彼女のシナリオ(・・・・・・・)では、一番最初の討伐は『深淵のクターニッド』になる筈だったのだ。

 

其れが在ろう事か、一番最初に攻略されただけに終わらず、彼女や律に境にとって『記憶に新しいプレイヤー達』が其の討伐に関わっていたのだから。

 

「ペッパー……サンラク……!」

 

両者共、ヴァイスアッシュ・シナリオのEXルートへ突入し、ペッパーに至っては墓守のウェザエモンの特殊エンディングに到達する為、必要不可欠となる悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)を獲得しただけに留まらず。

 

特殊エンディングへ到達する為のルート………『第三段階突入で天将王装を装備し、試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】を召喚。自身はセツナ・天津気の墓へ祈りを捧げて、墓守のウェザエモンに挑み』。

 

そして『晴天大征(セイテンタイセイ)の最終奥義【天晴(テンセイ)】を天将王装の武器・轟斬型太刀式武装(ごうざんがたたちしきぶそう):大天咫(オオテンタ)超過機構(イクシードチャージ)破天光(ハテンコウ)】で止めて、其の間に他のメンバーが大太刀をパリィする』という条件を、在ろう事か完全初見(・・・・)で成し遂げたのだ。

 

しかし悲観してばかりでは居られない創世は、ウェザエモン討伐による報酬の確認を行う事にした。

 

「………特殊エンディング到達によるクリア。討伐者プレイヤーの共通報酬は、インベントリアに真理書と……極天(ぎょくてん)か。アレは『バハムート』でなければ解読出来ないけれど、解読すれば『其の時点でプレイヤーに最も必要となるスキル』を無条件(・・・)で習得出来る能力が宿っている」

 

現在討伐を成し遂げたプレイヤーたる五人は、クリア時評価A以上の結果により、遠き日のセツナの消滅前にバハムートという情報を得たが、今の彼等彼女等にはどうする事も出来ないので、一旦置いて置くとしてもである。

 

他にもサンラクと京極(キョウアルティメット)が、天晴をパリィした事で『晴天流奥義書(せいてんりゅうおうぎしょ)』を獲得したり。

麒麟と戦い続けたオイカッツォが、インベントリアの中に在る物を動かす『規格外(きかくがい)エーテルリアクター(破損)』を獲得したり。

遠き日のセツナの好感度を最大まで高めていたペンシルゴンが、後々に開放されるロケーションを示す『遠き祈りの花飾り』を獲得したのを確認し。

 

そして最後に、ペッパーが手にしたアイテムを見る。

 

「ペッパーが手にしたのは………『折れたバンガード』。現状『真化の素材』には使えても、普通の武器では真化する事は出来ない。今現在は使い道は無い……と見て本当に良いのかしら……?」

 

ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】を発見し、驚異的な速度で第三段階(サードフェイズ)まで攻略しきり、ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】を解放して、天覇と墓守のユニーク遺機装(レガシーウェポン)を獲得。

 

そして墓守のウェザエモンの特殊エンディングを、一発クリアで引き当てた程のプレイヤーだ。自分の予想等軽く越えてしまうコイツを相手に、創世は断言する事が出来なくなり。

 

其の数十秒後に、シャンフロの調律神たる天地(あまち) (りつ)が原典閲覧室に飛び込んで来て、墓守のウェザエモンが倒されたやら、対価の天秤に天将王装とレディアント・ソルレイアを持ち込んで突破しただのと言い始め、創世はウェザエモンが討伐されたのはお前のせいだと口走った事が、二人の火蓋を切る事となって幼稚園児じみた喧嘩に発展。

 

更に数十秒後に仲裁神の境が原典閲覧室に来て、創世と律の喧嘩に胃薬の加護を受けた胃を痛めながらも、今後の対策とワールドストーリー第二段階での予定等を含めた、今後のシャングリラ・フロンティアの行く先を彼女等に確認を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墓守のウェザエモン。恋人を喪い、彼女の墓を守らんとした神代の英雄が、五人の開拓者の手によって倒され━━━眠った。

遠き日のセツナ。恋人の不器用さを知るが故に、世界に遺る程の想いを宿した、女性の残滓が役目を終えて━━━消えた。

滞り止まった世界の楔は遂に外れ、歯車は動きて回り出す。開拓者達は変化を遂げた、新たな世界に想いを馳せる。

 

シャングリラ・フロンティアは次なる段階へと進む。待ち受けるは、果てなく続く断崖の海。深き海の底にて神代の兵達が生み出した遺産が、勇者の到来を静かに座して待つ。

 

次なる冒険は━━━━━直ぐ其所だ。

 

 






世界は進む、開拓者達よ恐れず進め


*次章の骨組みと艦これイベント攻略の為、お休みをいただきます。1週間辺りに『世界の心理書【墓守編】』を投稿し、本編再開は9/1を予定しています



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世界の真理書【墓守編】



真理書です




 

Loading………

 

 

 

墓守のウェザエモン、適性攻略人数は『6~7人』です。また大前提として、全員が3〜4個の『蘇生アイテム』と、1名以上のプレイヤーが『復活魔法』を所有しているものとします。

 

メンバーの内訳としては『ウェザエモン担当』『麒麟担当』『サポート担当』の3つに分けて攻略すると良いでしょう。

 

ウェザエモン担当……避けタンク、可能であれば回避スキルも習得した壁タンク、回避系スキルか魔法を多く持つプレイヤー

 

騏驎担当……麒麟のモーションに対し、振り落とされないプレイヤースキルを持つプレイヤー

 

サポート担当……他プレイヤーへのバフ、蘇生魔法を使用できる職業、蘇生を行うプレイヤー

 

 

 

 

墓守のウェザエモン攻略

 

戦闘フィールド【反転(はんてん)花園(はなぞの)】に入った瞬間より、全てのプレイヤーは【常在挑戦陣(ジョウザイチョウセンジン)】によって『レベル50まで強制ダウン』し、此の効力は戦闘終了まで持続すると共に、如何なるスキルや魔法を含めて『一切の方法』で無効化出来ません。

 

ステータスも『レベル50時点で割り振ったステータス』以降のポイントが『一時的に消失する』為、ステータス制限のある装備を装備しているプレイヤーは、特に注意する事。

 

また墓守のウェザエモンは、戦闘参加人数が増える程、自身の『全ステータスを強化する』為、適正人数以上での攻略は望ましく有りません。

 

墓守のウェザエモンは戦闘開始と同時に、自身のスキル【断風(たちかぜ)】を使用しますが、対象はウェザエモンに『一番近いプレイヤー』及び『対象プレイヤーの首』を確定で狙うので、予備動作から身を屈める事により、初段の攻撃は回避可能です。

 

 

 

墓守のウェザエモンが使用する技

 

 

断風(たちかぜ)

 

防御貫通効果を内封した、神速の抜刀居合。予備動作が比較的大きい為、此のスキルは『抜刀の瞬間』ではなく『居合の姿勢を完了した瞬間』を目安に回避行動を行う事。最も簡単な対処方法は、居合の射程範囲である『3m以内』から退避する事。

 

 

 

雷鐘(らいしょう)

 

刀を上に掲げ、雷を『5連続で5秒間』発生させる。ウェザエモンのヘイトが分散しているほど、雷の数が増えて広範囲に被害が拡大するので、ウェザエモンには『少人数』で対処するのが望ましい。全力で走り抜ければ雷に被弾する事はなく、回避自体は簡単だがスタミナを消費しすぎた場合、次の行動で倒される可能性が有るので注意。

 

 

 

入道雲(にゅうどうぐも)

 

刀を持っていない腕で雲の巨腕を作り出し、自身の周りを薙ぎ払う技。此の技はウェザエモンの『背後』と『腕よりも上』が明確な安全地帯となっており、予備動作も大きいので対処自体は容易。しかし、後述の『騏驎』を引き離す距離が足りない場合は、騏驎担当やサポート担当に被弾し、戦線崩壊の原因に成る。

 

 

 

大時化(おおしけ)

 

基本的に『何らかの理由』で刀を失っている場合に使用する、ウェザエモンの掴み攻撃。対象プレイヤーの『重量』を参照し、叩き付け時のダメージが増加する技であり、特に壁タンクのような重装甲は注意すべき技。しかし此の技は『手を真っ直ぐに伸ばしてくる』だけなので、ウェザエモンを注意深く見れば、回避スキル無しでも避ける事は可能。パリィスキルも使用可能で、回避が難しい壁タンクは其の場で手を弾くのも一手。しかし、其の後のウェザエモンの攻撃に注意するべし。

 

 

 

火砕龍(かさいりゅう)

 

ウェザエモンのヘイトが『3人以上向いている場合』のみ使用する技。刀を地面に突き立て、ウェザエモンがヘイトを向ける対象から『ランダム』に選択し、その対象の地面から火柱を発生させる。火柱は『直進攻撃』なので回避自体は難しくはないが、後述する灰吹雪と『ワンセットの技』であり、最悪の場合味方諸とも全滅に直結する危険性を孕む。

 

 

 

灰吹雪(はいふぶき)

 

火砕龍とワンセットで使用される技。上空で黒煙に変換された火砕龍が火柱の発生地点を中心に『半径5mを包囲』、同時に包囲網を急速に狭める技。完全に包囲される前に抜け出さなければ、死は『確定』するので覚悟した方がいい。此の技は『窒息死』が適応される為、斬り殺される以上に精神的なダメージが大きい。

しかし対象方法も存在し、灰吹雪発動前の黒煙を『適正距離下での風属性魔法』、もしくは高火力の『衝撃波を発生させるスキル』で吹き飛ばし可能なので、場合によっては封殺出来る。

 

 

 

天鬼夜咆(てんきよほう)

 

墓守のウェザエモンが、第三形態に突入する際に使用する『フィールド全体に放つ』衝撃波。後述の第三形態はウェザエモンに『アンデッド属性』が付与されるので、最上位クラスの『浄化アイテム』や『浄化魔法』で阻止可能。但し此の技には『装甲貫通効果』があるので、直撃で殆どの場合は即死する事になるので注意。

 

 

 

晴天大征(せいてんたいせい)

 

第三形態から通常なら『10分経過』で発動し、『30秒間天鬼夜咆を除く、前述のアクションを再使用時間無視で連続使用する』技。此の時の技選択は『ランダム』であり、断風を連続使用した場合は必ず1回毎に『予備動作』が行動間に挟まるため、完全に隙が出来ない訳ではない。

 

此の技を発動した際、ユニークシナリオEXは『2種類のルート』へ分岐。『通常ルート』と、後述の特定条件を満たした場合の『特殊ルート』に移行し、クリア時に各々のルートで獲得出来る報酬と称号に変化が起きる。

 

また両ルートでも『30秒経過時点で刀を持っている場合』に限り、後述の『天晴』が使用される。

 

 

 

天晴(てんせい)

 

即死効果・装甲貫通・装備破壊・魔法貫通・スキル貫通・回避不可の、あらゆる効果が此れでもかと付与された『大上段からの斬り降ろし』攻撃。直撃=装備品諸々の破壊及び死亡確定は不変となるが、諸々の効果が付与されるのは、ウェザエモンの大太刀の『刃先』であるため、斬られなければ高い筋力から繰り出される『斬り降ろし攻撃』と同義となる。しかし天晴発生時には、全ての回避行動に反応する『金縛り』が発生するので、此の技を受ける場合、避けタンクは非推奨となる。

 

また『パリィ』であれば相応の威力及び筋力が必要であるが、此の一撃を弾く事が可能。また難易度は高いものの、高火力の攻撃を『一点集中させることで弾く』という方法もある。ただし『刃に当てた時点で全て無効化&破壊される』ので、狙うならば『刃』ではなく『刀の横面』が適正。

 

後述の方法で、ウェザエモンのヘイトをパリィスキルを持つプレイヤーが全て請け負い、天晴を受ける……と言う方法が最も安全。但し『既に天晴を発動した時点では、天晴のターゲットは変わらない』という特性を持っており、注意が必要。

 

最も簡単な対処法は、墓守のウェザエモンの持つ大太刀を『破壊する』事。ウェザエモンは大太刀を破壊された場合、晴天大征においても入道雲と大時化しか使用しなくなる上、天晴を使わずに戦闘が終了するので、攻略難易度は大幅に下がる。但し、此の手段を用いた場合、獲得可能報酬と称号に変化が起こる為、あくまでも『最終手段』としておく事が推奨される。

 

 

 

墓守のウェザエモン特殊行動

 

墓守のウェザエモンは其の特性上『セツナの墓を守ることを最優先』としている。もし墓に近く、其れを破壊しようとする者が居れば、墓守のウェザエモンは『何よりも最優先で其のプレイヤー』を狙う。

 

第一形態及び第二形態では、墓守のウェザエモンはパワードスーツがもたらす『スーパーアーマー』、そして『ダメージ軽減が付与』された事により、固定ダメージ以外の殆どの攻撃・デバフ等の魔法を弾いてしまう。

 

第三形態になるとウェザエモンの装甲が破損し、攻撃やデバフが通るようになる。この時点でウェザエモンには『アンデッド属性』が付与されており、アンデッドに対して有効な『アイテム』や『魔法』、更に『スキル』が弱点になる。しかし相当高位のものでなければ、其れを無視して攻撃を仕掛けてくる。

 

第三形態になった時点でウェザエモンは1秒ごとに体力を消耗する『自壊状態』が付与され、何もせずに放置した場合は基本的に『10分経過』により、体力は『0』となる。但し体力が0になっても『倒れる事』はなく、『晴天大征を発動して、天晴を放ち終えた時点で全員が生存』及び『天晴を受けたプレイヤーが生存している』という条件を達成する事でのみ、墓守のウェザエモンとの戦闘は終了する。

 

尚『天晴により死亡したプレイヤーが蘇生した場合、最初からやり直し』となるので注意。

 

 

 

 

 

戦術機馬(せんじゅつきば)騏驎(きりん)

 

墓守のウェザエモンが戦闘開始から10分経過した時点で、亜空間格納施設から召喚する馬型のゴーレム。放置した場合は、搭載されたミサイルやレーザーを乱射しながらフィールドを爆走する上に、第二形態時に一定時間放置し続けると、墓守のウェザエモン本体との『合体』を行うので、攻略においては『対処要員』を必ず用意する事。

 

弱点として『プレイヤーが背中に乗っている場合は振り落とすモーションのみ』となり、第三形態までロデオをするのが封殺手段として最適解。第三形態に入った時点で、墓守のウェザエモンと同様にダメージが通るようになるが、ウェザエモン本体と比較しても耐久値が飛び抜けて高く、ゴリ押しによる攻略は実質的に不可能と成っている。

 

 

 

馬形態

 

基本的にミサイルとレーザーを撒き散らしてのフィールドを駆け回る行動を取る。背中に『プレイヤーが乗っている場合のみ』振り落とすモーションを取る。

 

 

 

人馬形態

 

第二形態中に騏驎とウェザエモンが合流した場合、騏驎の頭部が変形し『ケンタウロス』のような姿へ合体する。此の状態では、前述のウェザエモン本体の特性に加え、ミサイルとレーザーを撒き散らしながら、雷の雨を降らせ、雲の巨腕を振り回し、フィールド中を縦横無尽に走り回るという、実質手が付けられない『詰み』状態になってしまう。

 

 

 

甲冑形態

 

第三形態中に騏驎が変形する形態。頭部の無い巨人のような姿で、ミサイル、レーザーの他に四肢を使った物理的な攻撃、さらに切り札として腹部に大口径レーザーキャノンを内蔵している。体力が残り4割に突入、または腹部装甲を破壊された時点で、麒麟甲冑は『発狂モード』に突入し、ヘイトに関係なく攻撃を撒き散らす。

 

即死級ダメージを叩き出す腹部レーザーキャノンは、同時に麒麟甲冑の明確な弱点でもあり、砲口の奥に弱点にして動力源の『エネルギーコア』が存在している。

 

また、ウェザエモンが晴天大征発動前に合流した場合、ウェザエモン本体が甲冑形態の騏驎と合体。『巨人スケールで晴天大征を発動する』という、地獄めいた行動を展開する。

 

 

墓守のウェザエモン、効率重視の攻略方法

 

ウェザエモンの大太刀を握る手を集中攻撃し、大太刀から手を離させて強奪。ウェザエモン、場合により騏驎も含め、壁役たちがヘイトを集めて引き付けている間に、尋常成らざる耐久値を誇る、大太刀を破壊します。

 

後衛が大太刀の破壊に専念している間、前衛は援護を受けるのが困難になる為、ゾンビ戦法に等しく、自爆特攻に近い突撃で、時間を稼ぎます。

 

大太刀を失ったウェザエモンは、行動が大幅に制限され、攻略難易度が大幅に下がります。但し此の方法でクリアした場合は、通常・特殊の両ルートに関わらず、セツナからの好感度が極大に下がり、クリア報酬も【格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア】と【世界の真理書「墓守編」】のみとなります。

 

 

 

墓守のウェザエモン、特殊ルート突入条件及び攻略方法

 

先ず大前提として、特殊ルート突入の為にはプレイヤーが、ユニークモンスター・墓守のウェザエモン由来の一式装備・悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)を所得している事が、絶対条件となります。

 

悠久を誓う天将王装を入手後、ユニークNPC『遠き日のセツナ』に一式装備を見せる事により、全種類装備状態限定能力と武器の機能が解禁されます。

 

墓守のウェザエモンとの戦闘時、第三段階突入前にプレイヤーが一式装備を纏った場合、意識が戻っていないウェザエモンは、パワードスーツの定めたシステムに従い、装備したプレイヤーと『信頼度か親愛度の高いプレイヤー』へ、集中攻撃を行うになります。

 

其のプレイヤーを倒したら、次に信頼度か親愛度が高い相手を排除。そして其れを繰り返して、一式装備を纏ったプレイヤーのみを残す行動をする様になります。

 

第三段階突入後に一式装備を装着して居ない場合に限り、墓守のウェザエモンは特殊セリフを放つ為、其所で一式装備を装着。全種装備時限定時の能力で、試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】を、反転の花園へ召喚。自身は『セツナ・天津気の墓へ祈りを捧げて』、墓守のウェザエモンに挑む事で、晴天大征時に『特殊ルート』への移行条件が満たされます。

 

そして晴天大征の最終奥義【天晴】を、天王を甲冑形態へ変型と合体をし、一式装備対応武器の専用機能【破天光(ハテンコウ)】で受け止め、其の間に『2~3人』がスキルや魔法を用い、大太刀の側面を『一定以上の火力による』パリィを行う事で、パリィが『確定成功』となり、戦闘終了となります。

 

 

 

墓守のウェザエモンのストーリー的設定

 

第一形態と第二形態は『ウェザエモン』というキャラクターが動かしてはおらず、ウェザエモンが纏っているパワードスーツが『意志』を持って動かしています。此れは、ウェザエモンの意志が染み付いた鎧版『遠き日のセツナ』のような状態。

 

第三形態時点で、ウェザエモンというキャラクターの意識が復活し、自身の属性が機械から死に損ない………科学由来のアンデッドへと移行した状態になります。鎧の中身はハイテクノロジー的な物によって、肉体を『固定』しており、ミイラが鎧を動かしておらず、若々しい男性の『肉体』が入っています。第一と第二形態の時点では、ウェザエモンの肉体と意識は鎧によって『固定』されています。

 

第三形態に突入した時点で、ウェザエモン本人の意識が覚醒。同時に『固定』の解除によって、ウェザエモンの肉体は急速に老化・崩壊を起こして、自壊していきます。然れど、天晴を攻略されるまで動き続ける事が出来たのは、己の自壊すらも自らの『意志』によってねじ伏せる、彼自身の『執念』が成せた技であります。

 

 

 

 

 

遥か昔の太古………『神代』と呼ばれる時代に些細なすれ違いと、ウェザエモン━━━━『ウェザエモン・天津気』は、気の迷いから口にした『小さな嘘』が原因で、彼の恋人たる『セツナ・天津気』を死なせてしまい、其れによって彼は永い時を『墓守』として生きる事を決意。

 

セツナ自身も、ウェザエモンの性格や人となりを十分に理解していた為、死の間際『彼は誰かが止めないと、死んでも(・・・・)墓守を止めない。願わくは、誰か彼を止めて欲しい』と願い、結果として『遠き日のセツナ』が誕生しました。

 

枯れた桜の木はウェザエモン・天津気が、セツナの墓と一緒に植えたもので、セツナが最も好きだった花。ウェザエモンと同じく『固定』が施されていましたが、ウェザエモン本人とは違って固定が『不完全であり』、其れが原因となって枯れ始めてしまい、此れ以上の進行を防ぐ為にウェザエモンは、セツナが遺した論文を基にして月からの魔力を利用・空間を時間ごと『反転』させる事で墓を。土に還ったセツナと、まだ致命的なレベルで枯れていない桜の巨樹を、空間の『裏側』へ移転します。

 

この『反転』は例えるなら『版画』であり、腐り始めた版の木板が『表の空間』、それを用いて作られた版画が『裏の空間』。其の裏の空間は反転した時点で時間が停止しており、残された表の空間に存在する固定が不完全だった木は、原型こそ残すものの完全に枯れてしまったのです。

 

然しながら、桜の根元にセツナが埋められていた事。嘗て墓標があった其処には、確かに『セツナの居場所』として認識される為に『遠き日のセツナ』は、表空間の桜の木からスポーンすることになりました。

 

そして『固定』と同時に、様々な半永久的延命処置が施されていた桜の木が枯れ、行き場を失った其れ等の処置が広範囲の植物を活性化させ、本来は仄かな光を放つ程度の苔が、陽光に匹敵する光量を得たり。唯々大規模な洞窟だった場所に、樹海規模の植物が生い茂り。大量の花々が地面を埋め尽くす程の、増殖をする原因となりました。

 

つまり間接的に成りますが、秘匿の花園に隣接する『千紫万紅の樹海窟』というエリアそのもの(・・・・)が、ウェザエモンによって作られた訳なのです。

 

 

 

悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)

 

試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】。

 

轟斬型(ごうざんがた)太刀式(たちしき)武装(ぶそう):大天咫(オオテンタ)

 

此れ等は全て、セツナ・天津気によって『一番最初に産み出され』、ウェザエモン・天津気が『神代最強の英雄』と謳われるに至った過程で用いられた、伝説に均しき装備と戦術機獣であり、後に産み出された規格外特殊装甲及び規格外戦術機、規格外武装達の『原点』と成った存在であります。

 

悠久を誓う天将王装を含む一式装備と天王、そして大天咫は、ウェザエモン・天津気の『原点』であり、セツナ・天津気が彼の無事を願って創り上げた『願い』であり、神代の数多の叡智が積み重なった大いなる『結晶』なのです。

 

 






攻略し終えての攻略本




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狼は旅をし、世界を駆ける
ウェザエモンの遺産達(サンラクside)




新章開幕




ユニークモンスター・墓守のウェザエモンとの激戦から帰還したペッパーとサンラクは、ヴァイスアッシュから世界の真実を知るのに必要となる物が有る事。そして其れを持って来なくては、世界の真実には辿り着けないと、彼から教えられた。

 

知る為には先ず『無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)』と呼ばれるエリアの、何処かに存在している『3つのΔ装置』を見付けなくてはならず、其れが有れば『先に進める』のだとか。

 

そして最後にペッパーが、ヴァイスアッシュに『折れたバンガード』と『致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)』を真化の為に預けて、ログアウトしていき。サンラクはもう少し続けようかとも考えたが、明日以降に影響が出るかもと思い、数分後にログアウト。

 

そしてログアウト直後、ウェザエモン戦の反動によって其のまま寝落ちしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンラクさん!おはよーございますですわ!」

「ん、おはよエムル。て言っても、既に昼過ぎだけどな」

 

翌日午後2時。シャンフロへとログインし、兎御殿の休憩室に在るベッドで目覚めたサンラクは、近くに居たエムルに挨拶して身体を伸ばす。

 

「さて……昨日は大変だったから後回しにしてたけど、確認しておくか」

 

ユニークモンスター・墓守のウェザエモン。七つの最強種の一角を討ち取り、勝ち取った報酬もそうだが、気になるのはレベルが何れくらい上がったのだろう。

 

「確認確認………。フフフ……あァやべぇな、こりゃ」

 

凝視(ぎょうし)鳥面(ちょうめん)に隠した口角が、思わず上がってしまう光景が其処には在った。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:サンラク

 

 

レベル:77

 

 

メイン職業(ジョブ):傭兵【二刀流使い】

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 30 魔力 10

スタミナ 100

筋力 60 敏捷 100

器用 70 技量 70

耐久力 3 幸運 109

 

 

残りポイント:345

 

 

 

装備

 

 

左:無し

右:無し

両脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

 

頭:凝視(ぎょうし)鳥面(ちょうめん)(耐久力+2)

胴:リュカオーンの呪い(マーキング)

腰:無し

脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

 

 

 

 

アクセサリー

 

 

・ダイナボアドール(スタミナ回復時間短縮:小)

小鬼人形(ゴブリンドール)(HPリジェネ:微小)

・識別片のネックレス

 

 

830マーニ

 

 

 

 

 

致命武技

 

 

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】伍式→捌式

致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】壱式→肆式

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】壱式

 

 

 

スキル

 

獣鏖無尽(じゅうおうむじん)→選択可能

・グローイング・ピアス→選択可能

・インファイト レベル8→レベルMAX

・ドリフトステップ→選択可能

・セツナノミキリ→選択可能

・ハンド・オブ・フォーチュン レベル8→レベルMAX

・グレイトオブクライム→選択可能

・クライマックス・ブースト レベル8→レベルMAX

・ランブルスタンパー→バルカンスタンパー

・チェイニング・プレス→プレス・ドミネイト

・モーメントアリアス→戦火の瞳(ウォーアイズ)

・カルネイドバンカー→ストランダイトバンカー

・八艘跳び→遮那王憑(しゃなおうつ)

・リコシェット・ステップ レベル7→レベルMAX

・ヘイト・トランプル レベル1→レベルMAX

・ムーンジャンパー→スカイウォーカー

・ストロングプレス レベル1→レベル6

餓狼の闘志(ハンガーウルフ)孤高の餓狼(トランジェント)

・オフロード レベル5→レベルMAX

・イプロッションスライサー レベル8→レベルMAX

・サンダーターン→バリストライダー

我狼の鼓動(ルプスビート)雄々しき狼魂(ベイオヴルフ)

・チェインズブート レベル5→レベルMAX

・デュエルイズム→血戦主義(けっせんしゅぎ)

衝拳打(しょうけんだ) レベル7→レベルMAX

・メルニッション・ダッシュ レベル3→レベル8

裂刃尖斬(れっぱせんざん) レベル1→レベル6

・アミュールディルレイト

・ブートアタック→ジェットアタック

・ブレスドラウム レベル5→レベルMAX

・バッツクローシス レベル1→レベル5

・オーバーヒート レベル1→レベル8

・ニトロゲイン レベル6→レベルMAX

・イグニッション レベル1→レベル7

・マグナマイトギア レベル1→レベル6

・ゲイルサベージ→タイフーンランペイジ

・ファスティウム・ブロッション→ディコード・ブロッション

・パワースラッシュ レベル1

武頼闘気(ぶらいとうき) レベル1

・オーファジール・セイド レベル1

包囲先見(ほういせんけん)

・アサイラムサイン

・スティアウィスパー レベル1

・アクロバット レベル1

・トルクチャージ レベル1

・チェインズアップ レベル1

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

レベルが一気に25も上がり、新規習得に進化を経てパワーアップを遂げたスキル達。そして何よりも、およそ350に差し迫るステータスポイントが手に入った。レベルアップとは別に、ユニークモンスターとの邂逅や撃破がポイントとして振り込まれたのだろうか?

 

「フフフ……さぁて、此のポイントやスキルをどう調理してやろうかなぁ?」

「サンラクさん。ものすっっっっっ………ごい、悪い顔してますわ」

「欲望に忠実な、其れでいてピュアな笑顔だよ……」

 

ニマニマしつつも、サンラクはウェザエモン戦の報酬を確認していく。

 

「さて先ずは………『世界の真理書【墓守編】』?フムフム、あぁこりゃ運営からの『答え合わせと攻略本』ね」

 

他にも墓守のウェザエモンの背景ストーリーに付いての記載が有ったが、リスポーンしないユニークモンスターの攻略本を、攻略し終えてから渡されるのは、最早オマケでしかない。

 

「他に実用的なアイテムを頼むぜ………次は、何じゃこりゃ?」

 

アイテムインベントリから取り出され、サンラクの目線より少し上に浮遊するは、半透明で時折光のラインが走る、SFゲームでもよくある数千年先の超未来的な、角の取れた正八面体のキューブ。

 

こういう物は解らずウダウダ悩むよりは、説明文を読んで理解するのが一番であり、サンラクは此のキューブの説明を黙読した。

 

 

 

 

 

 

 

晴天流奥義書(せいてんりゅうおうぎしょ)

 

神代の剣豪が残せし、天の剣術の奥義を記した記憶媒体。其の一太刀は天を斬り、雷を起こし、海を割り。大地を穿ち、暗雲を晴らす。

 

解読には神代の設備が必要。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ………晴天流ってウェザエモンの技?えっアレ習得出来んの?マジで………?」

 

断風(たちかぜ)を始めとし、最終的には天晴といった技も習得出来る其れは、サンラクにワクワクをもたらした。専用の設備が必要と有るので今は使えないが、楽しみは後々まで取っておく事にしよう。

 

「習得出来る時が楽しみだぜ…!其れじゃ次、行ってみよう!」

 

アイテムインベントリに収納し、続いて取り出したのは先程の晴天流奥義書と同じ、超文明の気配漂う掌サイズのボール状の物体。どんな能力を秘めているのやら、サンラクはアイテムの内容をチェックした。

 

 

 

 

 

 

球状型記憶装置(きゅうじょうがたきおくそうち):極天(ぎょくてん)

 

神代の技術習得において、革命的と歌われた記憶装置。所持者と共に歩み、所持者の技能習得傾向を読み解く事により、球状の装置のロックが解除された時、所持者の最も必要とする技能を直接習得出来る。

 

解読及び習得には、大いなる神代の設備が必要。

 

 

 

 

 

 

「コレ、プレイスタイルで習得出来るスキルが変わるんだろうか?ただ晴天流奥義書と違って、大規模な奴じゃないと解読出来ないって事は、相当後になんなきゃ習得出来ねぇ感じかぁ……。ああああああ!滅茶苦茶気になるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「ぽぴゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」

 

晴天流奥義書、そして極天。2つのアイテムが御預け状態に有り、サンラクはエムルの頬をムニムニムニムニと弄くり倒し、エムルは悲鳴を上げる。

 

「そして最後の報酬は……っと。アクセサリーで腕輪か、コリャ?」

「サンラクさん……アタシのほっぺが崩壊しそうですわ……」

 

エムルのジト目を流しつつ、最後に取り出すは此迄の奥義書に極天と同じ雰囲気漂う、腕輪型のアクセサリーを手に取り、其の性能をチェックした。

 

 

 

 

 

 

格納鍵(かくのうけん)インベントリア

 

格納空間への鍵であり扉でもある神代の時代においても一部の者のみが持っていた、特殊な腕輪型アクセサリー。装着した時点でアクセサリー欄を1つ消費するが、装着者がPKされても略奪されない。魔力を消費する事で格納空間内へと転移可能。

 

空間拡張術式携帯アクセス装置。神代において、肉体情報と同期することで一体化し、装着者の『身体の一部と成る』此の道具は、携行可能な『最小のシェルター』であり、許容の限界を持たぬ『無尽蔵の倉庫』である。

 

容量制限:無し

 

格納限界:縦横高さ50mまでの非生物

 

 

 

 

 

 

「身体の一部になり、無尽蔵の倉庫である………か。要は50mクラスの物質なら何でも詰め込める、限界無しのアイテムボックスって感じかな?魔力を消費すると格納空間に行けるって有るし、試してみよう。エムル、お前の御守りを返すぜ」

 

首に掛けられていた『識別片のネックレス』を身を屈めてエムルに返却。代わりに自身の右手首にインベントリアを装着。魔力を消費し、サンラクは格納空間に転移する。

 

「おぉ……此処が格納空間。何、が……!?」

 

そう言ったサンラクは、目の前に広がる光景に言葉を失った。己の眼前に広がるは、4体のロボットに4機のSFスーツ、そして11種類の武装達が商品棚の様に陳列し、彼を出迎えた。

 

「い………いや、確かにスゲェけど……な、ななな……んナンジャコリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!???????」

 

中世的なシャングリラ・フロンティアの世界背景が、超未来のSFにまでワープドライブした状況に、サンラクは大興奮と大混乱を含んだ悲鳴の様な雄叫びを上げ。

 

『大至急『格納鍵インベントリア』の中身を確認せよ。出来次第メール送信を』と、オイカッツォ・ペンシルゴン・ペッパーに送信。数分後、オイカッツォとペンシルゴンから驚愕唖然衝撃といったメールが返信され、其の後にペンシルゴン経由で京極(キョウアルティメット)からも同様の内容が帰ってきたのだった……。

 

 

 

 






偉業の報酬は、世界観を覆すSF武装達





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ウェザエモンの遺産達(ペッパーside)



新たな旅立ちを前に




「ありがとうございました~」

 

シャングリラ・フロンティアにて、ユニークモンスター・墓守のウェザエモン討伐から一夜。梓はヴァイスアッシュ関連のシナリオを一通り済ませた後、極限の緊張状態から解放された反動により、ログアウト後におよそ半日近く眠ってしまった。

 

おかげで翌日のバイトは遅刻ギリギリになったり、予定していた大学の講義は受けられなかったりしたが、前人未到の大偉業を成し遂げた実感は凄まじい興奮をもたらしている。

 

大学の昼休みの食堂やコンビニでのバイト中に、シャンフロの話題や墓守のウェザエモンに盛り上がる人々を見ながら、其の一人が自分なのだと思いつつ、普段と変わりなく過ごす。

 

時折、自分の顔をジロジロ見てくる客や、同じ大学の大学生からの視線を感じるようになったが………堂々としていれば大丈夫だと言い聞かせ、彼はシャングリラ・フロンティアのペッパーとなり、新たに動いた世界へ飛び込むのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパーはん、こんにちわなのさ」

「アイトゥイル、こんにちわ」

 

午後4時。ラビッツの兎御殿・休憩室のベッドにて目を覚ま(ログイン)したペッパーは、アイトゥイルに挨拶して立ち上がった。

 

そして、そう言えばウェザエモン戦の後にステータスを確認していなかったり、およそ2時間前にサンラクから『大至急『格納鍵インベントリア』の中身を確認せよ。出来次第メール送信を』という謎のメールの意味を考えたり。

 

ヴァイスアッシュに預けた、リュカオーンの残照が刻まれた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)と『折れたバンガード』が、彼の手による『真化』でどうなったかと思いながらも、先ずはステータスとウェザエモン戦の報酬を確認する事とし、ペッパーはステータス画面を開き━━━━━目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)

 

レベル:66

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 35 魔力 10

スタミナ 110

筋力 110 敏捷 110

器用 75 技量 75

耐久力 2041 幸運 50

 

 

残りポイント:332

 

 

 

装備

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)(耐久力+2000)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

アクセサリー

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

・旅人のマント(耐久力+2) 

致命兎人形(ヴォーパルバニードール)(クリティカル率アップ)

 

 

所持金:551,970,000マーニ

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……始ノ巻→次ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

 

致命武技

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)

致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】漆式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】伍式

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】陸式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】漆式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式

 

 

 

スキル

 

 

・マチェット・サイサリス→死神の斬撃(デス・マサカー)

絶華逸突(ぜっかいっとつ)→選択可能

・セツナノミキリ→選択可能

・スワロスキースロー→ブルズアイ・スロー

・ライトニング・シャーレ→フィーバー・シャイニング

蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)

轟天大破厳(ごうてんだいはがん)巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)

冥動戟砕(ギルト・レアー)冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)

戦王の煌心(プライマス・ハート)戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)

鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)

・アクセラレート・ステップ レベル8→オーバーラップ・アクセラレート

疾風連紲(しっぷうれんせつ)烈風轟破(れっぷうごうは)

十断斬首(じゅうだんざんしゅ) レベル7→レベルMAX

迅雷刹華(じんらいせっか)驚雷羅刹(きょくらいらせつ)

・ホライゾン・メロス レベル7→レベルMAX

・アドバンスト・フィンガー レベル4→レベル8

業腕一投(ごうわんいっとう)乾坤一擲(けんこんいってき)

・プレジデントホッパー

・ホップスウイング→天空神の加護(レプライ・ウーラノス)

・エクステンド・オーレイズ→全身全霊(フルドレイズ)

・クロスインパクター→デュアライズ・ストライク

・セブニッシュフリップ→選択可能

・シーヴァル・ディーバ→破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)

英傑之呼応(ヴァンガート・グレイトフル)英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)

烈光仙迅(れっこうせんじん) レベルMAX

明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)

連刀二十刃(れんとうはだち)

罰閃乱(ばつせんらん)佐々波(サザナミ)

・イモータルヴァーツ→封栓認視界(ブロット・ウラタナ)

・ブレイク・セリオン→破界の視覚(ミュリミア・メナトス)

速刃(そくじん)雲払(くもばらい)

・デュアルリンク レベル8→レベルMAX

儷紲一剣(れいせついっけん)煌軌一閃(こうきいっせん)

爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・ベラスティ・ニー→グラッセル・ゼイリアス

・ジェスター・タロス

・ファイティングスラッシュ レベル5→レベルMAX

拳乱夕立(けんらんゆうだち)

破天爽駆(はてんそうく)

・レコメンド・スート→スート・アヴェニュー

居合(いあい)切燕(きりつばめ)

・アイズオブセスティ→適正眼下(ノリティア・アイザック)

纐纈戦々(こうけつせんせん)天壱夢鳳(てんいむほう)

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベル9→レベルMAX

・イグナイトブレイカー レベル1→レベル5

・ナイフズタクト レベル5

・フェイローオブスロー レベル6→レベルMAX

・スパイラルエッジ

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル6

・トーテン・タンツ→マシニクル・リブラ

・ヴィールシャーレ レベル3→レベルMAX

・ゲニウス・チャージャー レベル9→レベルMAX

・フローティング・レチュア レベル5→レベルMAX

・ムーヴセドナ レベル4→レベル8

・リトセンス・パラダズム→ミューサドール・パラダズム

衝拳打(しょうけんだ) レベル1

・エクシリア・スライサー レベル4→レベル7

・アゼルライトパウンド→エトラウンズパウンド

・ミッシングブレイド レベル5→レベル8

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)

刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)

刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)

・ピアッシングアーマー レベル1

・メタルレッグス

・クリティカルメナス レベル1

・ニトロスマッシュ レベル1

・デッドユアセイブ

・スラッシュハイド レベル1

・シャイニングムーヴ レベル1

・ラセルクロスアップ レベル1

・クイックスピン

一天無双(いってんむそう)

・コラプションスマッシャー

剣人闘魂(サムライ・ハート) レベル1

・トルクチャージ レベル1

・ヴァーミンガム・スナッチャー

・ソニック・アサルト レベル1

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

振り分けられるステータスポイントが、ウェザエモン戦の前に獲得していた分を含め、300を超えていたのもそうだが、此迄育成してきたスキル達が致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)によって鍛えられ、致命武技も踏まえて進化と選択可能、そして昇華や改備なる物に至ったスキルもある。

 

そして何よりも、自身のPNに天津気と入っているのがヤバい。ウェザエモンから名を襲名した事を意味する称号が有るが、其の影響だろうか?何にせよ、大々的には口に出せない名前だ。

 

「………気を取り直して、報酬確認と行きましょうか」

 

真化に使われている『折れたバンガード』は一旦置いておくとして、ペッパーは最初に一冊の本状のアイテム【世界の真理書『墓守編』】から確認する。

 

「えっと……ウェザエモン・天津気さんの背景ストーリーや、攻略法を記した攻略本か。成程……えっ?」

 

墓守編の文章を見ていた時、ペッパーが見たのはユニーク遺機装(レガシーウェポン)悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)を用いた攻略法の記載が載っており、此れを仮にライブラリに見せた場合、不特定多数に一式装備の存在がバレる事になる。

 

「ペンシルゴンに要相談案件だなコレは……」

 

一式装備を秘匿する上でも、ウェザエモンから魂と名を継承した者として彼を理解する為にも、真理書は必要不可欠。此れは隅々まで読み返す必要が有るだろう。

 

「次は……【球状型記憶装置(きゅうじょうがたきおくそうち):極天(ぎょくてん)】、とな?」

 

アイテムインベントリから取り出すは、淡い蒼空色の晴れ渡る空を思わせる、光のラインが走るボール状のアイテム。どんな効果を内封しているのか、早速アイテムの効果や内容をチェックした。

 

 

 

 

球状型記憶装置(きゅうじょうがたきおくそうち):極天(ぎょくてん)

 

神代の技術習得において、革命的と歌われた記憶装置。所持者と共に歩み、所持者の技能習得傾向を読み解く事により、球状の装置のロックが解除された時、所持者の最も必要とする技能を直接習得出来る。

 

解読及び習得には、大いなる神代の設備が必要。

 

 

 

 

「……大いなる神代の設備ね。普通の方法じゃ解読出来ない代わりに、解読時に一番必要となるスキルを、レベルやら関係無しで習得出来るのか。覚えるスキルは弱点保管か長所補強か、其の時まで楽しみにしておこう」

 

アイテムインベントリに極天を収納し、いよいよ最後となる報酬にして、サンラクが大至急確認せよと言っていた、ヤバいと思われる【格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア】を手に取り、性能をチェックする。

 

 

 

 

格納鍵(かくのうけん)インベントリア

 

 格納空間への鍵であり扉でもある神代の時代においても一部の者のみが持っていた、特殊な腕輪型アクセサリー。装着した時点でアクセサリー欄を1つ消費するが、装着者がPKされても略奪されない。魔力を消費する事で格納空間内へと転移可能。

 

空間拡張術式携帯アクセス装置。神代において、肉体情報と同期することで一体化し、装着者の『身体の一部と成る』此の道具は、携行可能な『最小のシェルター』であり、許容の限界を持たぬ『無尽蔵の倉庫』である。

 

容量制限:無し

 

格納限界:縦横高さ50mまでの非生物

 

 

 

 

「要するに、此の中に入れたアイテムや装備は奪われないし、おまけに許容限界が無いって事は、此処に天将王装と大天咫、アイテムやらを入れておけば、万が一PKされても強奪されずに済む訳か」

 

バックパッカーとして、アイテムインベントリの限界を取っ払い、アイテム数をカンストしてもインベントリアに入れておく事により、いざという時に備えて準備出来る。

 

しかし最後の報酬にしては、効果が地味で有るように見えてしまうが、シェルターと表記されている事から、MPを対価に逃げ込める『安全装置』と捉えられるだろう。

 

取り敢えずは格納空間へ転移するのに、一回毎に何れくらいのMPを消費するのか、其れを確かめなくてはならない。ステータスポイントをMPに振り込む数値は、何度も試して模索する事に決めた。

 

アクセサリーの致命兎人形を外し、左手首に格納鍵インベントリアを装着。其の機能を起動させると、自身を光が包み込んで、目の前に広がるは真っ白に広がる地平線。そして━━━━━━4体の機械の獣とSFパワードスーツ、11種類の未来的武装が商品のように陳列し、ペッパーを出迎えたのだ。

 

「………なんじゃこりゃあ………!?」

 

光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)で、ある程度の耐性は付いていたものの、ウェザエモンの遺産たるSF武装には度肝を抜かれ。

 

ペッパーは直ぐに、ペンシルゴン・オイカッツォ・サンラクへと、Eメールで中身を確認したと伝え。そうして格納空間から兎御殿に戻ると、返信メールが届く。

 

内容は『今日の午後5時にサードレマ、蛇の林檎に全員集合』とのメール。其れに返信をしていると、ビィラックがペッパーに声を掛けてきた。彼女曰く━━━━

 

「ペッパー、オヤジがワリャを呼んでたけぇ!ワリャが渡した『墓守の御仁が遺して逝った魂』と、『夜の帝王の残照を刻んだ包丁』が、とんでもない武器に成りおったわ………!」

 

━━━━━と。

 






其の時は訪れる




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真化の輝きは、星の皇の剣となりて



ヴァイスアッシュが打ちし、残照を刻んだ包丁の形




ビィラックの伝言を受け、ペッパーはアイトゥイルと彼女を肩に乗せて、ヴァイスアッシュの鍛冶場へとやって来た。

 

「先生、失礼致します」

「おぅ、ペッパーかぁ。待ってたぜぇ」

 

人参煙管で煙草の煙を吸いながら、ヴァイスアッシュは一仕事を終えきった表情でペッパー達を出迎える。心なしか彼の身体が、少し細くなったような気がするのは見間違えだろうか。

 

「先生、痩せました?」

「ハハハ!そりゃ、半日近くトンカチ握って打ったからなぁ。すげェモンが出来たぜ?」

「……お疲れ様です!」

 

ヴァイスアッシュ程の鍛冶師が、半日掛かる程の戦いをした武器は。リュカオーンの残照が刻まれた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)は、一体どんな姿に生まれ変わったのだろう。

 

「おめぇさんが渡した、犬っころの残照が引っ付いた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)はぁ……死に損ないの魂たる大太刀を加えてぇ、此処に新たな姿(すがた)()ァを得た。

コイツの銘は兎月(とげつ)……いや、兎月なんてモンにゃ『収まらねぇ』。なげぇこと(てつ)を打ったオイラですら、こんな上物(じょうもん)に仕上がり、姿を変えたのは随分と久し振りだぁ(・・・・・・・・・)

 

其所に在ったのは、ペッパーが予想していた形である『刀』ではなく、RPGゲームの最終盤で手に入るコッテコテの『聖剣』。剣の長さは刀身だけで『70cm』、刃幅は『15cm』程有り、一瞬『両手剣』かと思われたが、此の武器のカテゴリーは『片手剣』とある。

 

其の身を彩る『銀と空色』の刀身は美しく輝き、然れど此の刃には光が宿り輝く程に、刃の中に在る『黒い光』もまた同様の存在感を放っており。

 

そして何よりも、其の身に刻まれた『七つの穴』が、喋らずとも此の剣の異質さ(・・・)を物語る。まるで何かを『セット』する事で其の真価を、其の真髄を『解放』出来るかの様に在り。聖剣の隣には黒く、黒い『鞘』が置かれ。其の黒さは星の輝きも、光の煌めきさえも吸い込み、二度と出られなくする『ブラックホール』に似た力を秘めている。

 

「コイツの銘ァは『星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ』。死に損ないやジークヴルム、毛色は違うが犬っころにも認められた、おめぇさんと共に歩み……其の身を更なる高みへ届かせる。正真正銘の『業物(ワザモノ)』よぉ」

 

ヴァイスアッシュが其所まで言い切る程に、ビィラックもアイトゥイルも、そしてペッパーも目の前にある聖剣を目を丸くしながら見つめて。

 

固唾を飲み込み、震える手で聖剣の柄を掴みつつ、ブラックホールのように全てを吸い尽くす鞘へ刃を納め、そして其の性能をチェックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ(ユニークウェポン)

 

武器種:片手剣

 

兎の国の神匠が、致命の名を冠する刃に神代最強の英雄の遺した御霊(みたま)を用い、真化を行う事により姿を成した蒼天(そら)を舞う勇者の(つるぎ)

最強種達に認められし者が、強き意思と共に刃を振るえば、己に掛かりし呪いを捩じ伏せ、其の手に剣は握られる。其の刃に彼等彼女等の根源を示す物を翳す時、星の剣に光は灯りて、其の御技は解放される。譲渡及び破棄不可能、PKされても持ち主の手元を離れない。

 

此の武器を装備する場合、装備者に以下の状態異常が付与されている場合、此の武器の黒鞘を当てる事により、戦闘終了まで『装備出来ない効果』のみを吸収する。

 

・リュカオーンの呪い(マーキング)

・リュカオーンの刻傷(こくしょう)

・リュカオーンの愛呪(あいじゅ)

 

 

此の武器は破壊・消滅されず、耐久値が0になった場合にオブジェクト化する。アイテムインベントリ及びインベントリア内で、一定時間使用せずに置く事で、此の武器の耐久値はMAXまで回復する。

 

此の武器を用いた刺突及び斬撃、並びにスキルによるダメージとクリティカル、クリティカル補正上昇能力を含む攻撃は、プレイヤー・エネミー・ユニークモンスターの持つ防具・スキル・アクセサリーで軽減されず、無効化されない。

 

夜の時間帯に此の武器を使用した場合、夜襲のリュカオーンが其のエリア内、もしくは隣接するエリアに存在するなら、確定で遭遇する。また此の武器を夜襲のリュカオーンとの戦闘中に使用した時、夜襲のリュカオーンの装備者に対するヘイトが永続する。

 

 

必要ステータス

 

【筋力150】【技量125】【器用125】

 

【ヴォーパル魂300】【高潔度300】【歴戦値1000】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、コレはヤバい武器だ。そうペッパーは瞬間的に理解した。一時的とは言え、リュカオーンの呪いによって装備不可能の都合上、アイテム投擲ばかりだった右手が此の装備限定だが装備可能となり、更には耐久限界による破壊・消滅問題を、インベントリやインベントリアに収納すれば、時間経過が何れだけ掛かるかは解らないものの、耐久値MAX=完全に修復される事を意味している。

 

刺突・斬撃系統のスキルによるダメージ軽減を許さず、おまけにユニークモンスター相手となれば、其の理不尽に刃を突き立て、切り裂く事が可能となっていた。

 

しかし問題点も有り、リュカオーン相手に此の剣を振るえば、彼方は戦闘終了まで自分しか狙わなくなる事。デコイになれば良いが、リュカオーンを相手にして何分持ちこたえられるか解らない以上、そう簡単には使えない。

 

そしてさらっと、リュカオーンの呪いに関する興味深い表記も有る。刻傷と愛呪とは一体何なのか、疑問は積み重なるばかりである。

 

総じて、星皇剣グランシャリオと言う武器は『とんでもない能力を秘めた、とんでもないヤバい武器』という評価に、ペッパーは落ち着く事とした。

 

「先生、ありがとうございます。お疲れの所悪いのですが、此のグランシャリオの説明に在る『根源を示す物』とは一体………?」

「そいつはァ、おめぇさん自身が見付けるべき物なのさ。其れによぉ……其の一つをおめぇさんは『既に』手にしてるんだからなぁ」

「手に入れている………」

 

ヴァイスアッシュは其れ以上の事は教えず、自分自身で見付けて初めて意味が有ると、そう言い切った。ならば其れを探し出すのもまた、ゲーマーの生き様なのだから。

 

ペッパーは彼に頭を深く下げて礼を述べ、アイトゥイルと共に休憩室からゲートを開いて、サードレマの裏路地へと繰り出し、蛇の林檎へと向かったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後5時、サードレマ・蛇の林檎。

 

影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)の中にアイトゥイルを入れて訪れたペッパーは、到着して個室を取っていたサンラク・オイカッツォ・京極、そして麻の衣服一式と花飾りに清歯のネックレスを付けたペンシルゴンが、巨大なバースデーケーキを取り囲むように待っていた。

 

「やぁやぁ、ペッパー君。君が一番最後のドンケツだよ?」

「悪いな。此方は此方で、ウェザエモンさんの報酬確認してたからね。で、何で貧相な装備に成ってるの?ペンシルゴン」

「格納鍵インベントリアの性能確認の為に『サバちゃん』にお願いして、現地解散後にPVPして貰ったんだってさ」

「実験は無事成功してね。報酬として再誕の涙珠や生命の神薬を持ってかれたけど、インベントリアに入ったアイテムやらは、没収されずに済んで一安心だよ」

 

PKされても手元を離れないインベントリアの特性を、PKerがキルされても効果が働くかを自身で確かめていたと、京極(キョウアルティメット)は言った。ペッパーは実験は大事と思いながらも、京極の回答で出てきた名前について問う。

 

「そうか……あとサバちゃんって誰?」

「ソイツは俺の別ゲーの知り合いでな。サバイバアルってPNで、ペッパーを探してるんだと」

「そうなのか……」

 

サンラクの知り合いとなると、どんなプレイヤーなのか気になるが、其れは其れとしてペッパーは席に座る。

 

「さて……全員集まったし、色々と確認したい事が有るんだけど。先ずは『インベントリアの中に在る、SFパワードスーツやらロボットに武装』は見たよね?」

「あぁ。世界観が中世から、一気に超未来方面に飛んじまったな」

「ペッパーのサムライアーマーがそうだったけど、アレはアレで本当に凄いよ」

「というかアレ全部ワンマンアーミーでしょ、あの装備達さ」

「僕は彼処の中にある太刀武器を使ってみたいな……」

 

最初の話題はインベントリアの中に在る、戦術機獣やパワードスーツ、そして武器の数々についてだ。しかし、此処でペンシルゴンは現実を突き付けてくる。

 

「まぁ、使ってみたいって気持ちは解るけれど、率直に事実を述べるなら『動力源』が無いので、現状鑑賞用以外にアレに価値が無い」

「動力源?」

 

「そう」とペンシルゴンは言い、バースデーケーキの苺に似た果物を口に入れ、淡々と事実を述べる。

 

「ペッパー君が持ってる、サムライアーマーと天王(テンオウ)ちゃんに大天咫(オオテンタ)の動力は、一体どうなってるのかは置いとくとしておいても、インベントリアの中にあるパワードスーツにロボット達は、動力源━━━━『規格外エーテルリアクター』が無いと装備諸々含めて動かないの」

 

どうやら其れを稼働させるには、対応するアイテムが必要不可欠であり、其れが無いと話にもならないようだ。だがしかし、此処で驚くべき物をオイカッツォが取り出した。

 

「ん……?規格外エーテルリアクター……?もしかして『コレ』か、ペンシルゴン」

「ぶっふぅ!?えっ!?なんっで、カッツォ君持ってるの!?」

「うわっ、きったねぇ!?」

「おいペンシルゴン、せめて口を塞ぎなさい」

 

オイカッツォが取り出したのは、角を取った三角柱状の筒のアイテム。其所には確かに『規格外エーテルリアクター』と有り、インベントリアに在る戦術機獣を含んだ物を動かす為の動力源だ。

 

「俺、ウェザエモンとの戦いで麒麟に付きっきりだったからなのか、討伐報酬で真理書と極天に、インベントリアとコイツを報酬で貰ったんだよ」

「カッツォ、マジナイスだ。ロデオが効を奏して、スーツにロボット達起動の足掛かりが出来たな」

「ファインプレーだよ、緊縛ロデオ君」

「くっ、スクショしとけば良かった……!」

「ウェザエモン戦、唯一の不覚ッ……!」

「おい、外道三人。場合によっては俺女子の顔面も躊躇無く殴りにイクヨ?」

 

シュッシュシュとシャドーボクシングの要領で、ジャブを繰り出す真似をするオイカッツォ。しかしオイカッツォは、規格外エーテルリアクターを見ながらこう言ったのだ。

 

「ただコイツ……『破損』してるらしくてね。フォスフォシエやサードレマの鍛冶師に修理を依頼したんだけど、全員『こんなワケ解らんもん直せるか』の一点張りだったよ」

「参ったね……直せる鍛冶師が必要なのか、其れとも特殊なアイテムが必要なのか………」

 

またしても行き詰まり、頭を悩ませながら水を飲むペンシルゴン。しかしペッパーとサンラクは、神代の遺物を扱える存在………ヴァイスアッシュを知っており、彼は遺機装(レガシーウェポン)を修繕出来ていたので直せるアテを持っている。

 

「其のエーテルリアクター、直せるかも知れねぇぞペンシルゴン」

「ぶっーーーーー!?」

「オイゴラ、ペンシルゴン!今のわざとやったろ!?」

「ペンシルゴン、ロボット扱えなくなっても俺は一切責任取らんからな?」

 

サンラクが切り出した、エーテルリアクター修理のアテに、ペンシルゴンがまたしても吹き出して、サンラクの顔面はビショビショになる。

 

「てか、マジなのサンラク?」

「あぁ。ただ『此方のユニーク関係』なんで、案内が難しいんだわ。出来ればソイツを預けて欲しいんだが……」

 

サンラクから示された、規格外エーテルリアクター修理への道。オイカッツォは掌に在る其れを見て、しかし表情は真剣さを帯びながら、サンラクへ言ったのだった。

 

 

 

 

「解った……と言いたい所だけど、一つ条件がある。サンラクが隠してる『ユニークシナリオ』……ソイツの『発生条件』を教えてくれ」

 

 

 

 






オハナシの始まり


星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ(ユニークウェポン)

ヴァイスアッシュが、墓守のウェザエモンの得物だった『バンガード』を継承したペッパーの、彼が持つリュカオーンの残照が刻まれた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)の真化に用いて、完成させた業物。

最強種に傷を刻み、最強種に名を刻み、最強種に認められた、前人未到へ到らんとする勇者に、神の御業を持つ匠によって打たれた此の剣は、未だ遠く、然れど遠くない未来に、真なる姿へ其の身を変える。

此の剣は星である━━━━星は命であり、命は流転であり、流転より産まれる力は、何物にも模倣する事(・・・・・)は叶わない。

モチーフは百獣戦隊ガオレンジャーの『獣皇剣(じゆうおうけん)』の、ガオの宝珠をセットする部分が七つ存在する、仮面ライダーセイバーの『刃王剣(はおうけん)十聖刃(クロスセイバー)』の刀身カラーを銀と空色、黒にカラーチェンジした物。




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天舞う秘宝のオハナシと、借金返済と、ペンシルゴンの提案



サンラクのユニーク条件開示、レディアント・ソルレイアのオハナシ




「サンラクが隠してる『ユニークシナリオ』……ソイツの『発生条件』を教えてくれ」

 

戦術機馬(せんじゅつきば)麒麟(きりん)】撃破の報酬として、オイカッツォの元へとやって来た『規格外(きかくがい)エーテルリアクター』。

ウェザエモン討伐報酬の一つ『格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア』の中にある、パワードスーツや戦術機獣達を動かすのに、必要不可欠となる其れは現在破損しており、サンラクならば直せるアテが有るという。

 

しかしオイカッツォも、其れをタダで渡す程ピュアではない。ユニークシナリオの発生条件を聞くという事は、そういう事なのだろう。

 

「カッツォ君、其れは……」

「どーせ俺はユニーク自発出来ないですしぃ~?他人のユニークに乗っかりたいのが本音だしぃ~?」

「彼は面倒臭い拗れ方してるね、ペンシルゴン…」

 

気持ちは解らなくもない。仮に自分がオイカッツォと同じ立場で、規格外エーテルリアクターが来たのならば自分もそうしていたのは間違いない。

 

「……俺もリザルト画面を見た訳じゃないし、ハッキリと確信を以て言えるか解らないが、其れでも良いなら教えるぞ」

「えっ、良いのサンラク君?」

「マジ?言ってみた甲斐が有った」

「僕も気になるね、サンラクが隠してる物」

「メモメモ……」

 

ペッパーとサンラクは裏で繋がっている。しかし反応せずに居ては不自然に思われ、ペンシルゴンに考察の余地を与えかねないので、メモを取る用意をする事で関係性を隠しに行く。

 

「じゃ、言うぞ。俺の場合だが……ランダムエンカした『ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン』を相手にして、其の時は『レベル20以下で15分間ノーダメかつ400回以上』、内分けの半分以上を『致命武器(ヴォーパルウェポン)でクリティカル』を叩き込んだらこうなった」

 

………改めて思うが、本当に酷いな条件。

 

「曲芸馬鹿かな?」

「はい解散!」

「持ってけバッキャヤロー!」

「んぎゃあ!?あべし!?」

 

豪速球で投げられる規格外エーテルリアクターが顔面にめり込み、椅子に座ったまま引っくり返されるサンラク。ペンシルゴンとオイカッツォは青筋を浮かべ、京極(キョウアルティメット)は大きな溜息を付いている。

 

「何で俺がキレられるんだよ!?」

「人が空を飛ぶにはどうしたら良いって質問に、大胸筋を鍛えましょうって答えられたのと同じなんだよ」

「さらっと言ってるけど、レベル20以下でランダムエンカウントって時点で、相当な幸運が求められるんだよね」

「教えても達成出来ないから、支障が無いってか?あーもー馬鹿馬鹿しぃ。持ってけ持ってけ」

「理不尽だろ外道共!誠意持って答えたのに!」

 

ギャーギャー騒ぐサンラク達、そして此処でペンシルゴンがペッパーを見つめて言った。

 

「あ、空を飛ぶって事で思い出したんだけどさ。ペッパー君、君がウェザエモン戦で使ってた『空を飛ぶ籠脚(ガンドレッグ)』について………『オハナシ』しようか?」

 

やはり其れで来るよなと、ペッパーは一応の覚悟は決めていた。墓守のウェザエモンとの決戦において、雷鐘(ライショウ)灰吹雪(ハイフブキ)を封じ込めただけに留まらず、オイカッツォを麒麟にロデオさせる為の足掛かりを作って、断風(タチカゼ)をスキル込みでパリィし、あの戦いのMVPに等しい活躍を見せたユニーク籠脚。

 

本来は光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)を構成する要素の一欠片でしかないのだが、其の一欠片でさえ七つの最強種(ユニークモンスター)を相手に、とてつもない戦いが出来た代物だ。

 

「…………一つ言うと、あの時使った籠脚。名前はレディアント・ソルレイアって言うが、此の存在は『慈愛の聖女イリステラ』様も知っているし、もっと言うと『聖女ちゃん親衛隊』のジョゼットさんも目撃した。二人には『時が来るまで』は、コイツの存在を公にしない事を条件に、其の機能の『一部』………『飛翔機構』を見せている」

 

アイテムインベントリから取り出し、白と金に彩られたレディアント・ソルレイアを床に置いた。

 

「コレが……!」

「レディアント・ソルレイア。雷属性や風属性の攻撃、歩行走行、脚での攻撃やパリィで、エネルギーを吸収し蓄積。エネルギーを最大まで溜める事で『10分間』空を飛べるように成る、世界にたった一つしか存在ない『正真正銘のユニーク武具』だよ」

 

他にも切札たる超過機構(イクシードチャージ)が有ったりするが、此れだけ情報を出せば納得するだろう。

 

「まぁた、とんでもない物を手に入れたねペッパー君……」

「クソ犬許さねぇ……!」

「ユニークユニークユニークユニーク……!」

 

ペンシルゴンは頭を抱え、サンラクとオイカッツォは歯軋りと目を血走らせて、カオスさが増している。

 

「スキルや魔法の類い要らずで空飛べるって反則でしょ……あ、因みに装備出来そう?」

「ステータス満たさないと装備出来ないが、やってみるか京極?」

「うん。えっと……籠脚は装備条件にレベルが関係してるのか。ステータスは大丈夫、装備……出来た!」

 

京極がレディアント・ソルレイアを試してみたいと言ってきて、ペッパーは一時的に貸し出し。装備条件を確認した京極は、条件を満たしていた事に安堵しつつ、両脚に籠脚を纏う。

 

「飛翔や浮遊滑走には『飛翔せよ(Flying up)』って、音声認証を行う事で出来るようになる。ただ出力調整が結構難しくて、スケートとフライボードが超融合した物をやってる感覚を味わう事になる」

「成程。えっと…『飛翔せよ(Flying up)』……わわっ…!?これ、意外ッと…難……わぁ!?」

 

出力調整に失敗し、バナナの皮で滑ったギャグの様な回転で、背中から床に落ちた京極。

 

「うわぁ………ペッパー君、其れ使いこなすのに何れくらい掛かったの?」

「基本的な操作感は大体2時間くらいかな。ウェザエモンさんとの決戦を前にも、ちょくちょく練習したりして、今は三次元高速戦闘出来ないか、色々と模索してる所だよ」

 

実際、此れと習得したスキルを組み合わせれば、今まで以上の機動力で、変幻自在の空中殺法も可能と成る筈だ。

 

「あ、そういやペンシルゴン。PKerがキルされたら、確か多額の賠償金を払うんだよな?どのくらい借金背負ってるの?」

 

此処でペッパーが切り出したのは、サバイバアルにキルされたペンシルゴンの今現在の状態。シャンフロのwikiでは、PKerがキルされるとカルマ値に応じた多額の賠償金と、持ち物を倉庫に預けた分を含めて全没収されるという、重いデメリットが掛けられる。

 

其の上、借金完済までは『一切の金銭取引』が出来ないオマケ付き。まともに武器やアイテムも買えないので、苦労する元PKプレイヤーも多いという。

 

「ざっと『5億マーニ』かな。まぁ返せない訳じゃないし、何なら世界に5冊しかない『真理書』をライブラリに売り払って、借金返済に当てるつもりだけど」

 

そしてペッパーの恐れていた事態が、起こり掛けていた。もしペンシルゴンが真理書をライブラリに渡せば、天将王装の存在がバレて、彼方がハッスルする未来しか見えない。なんならウェポニアなる、武器狂いのクランまで出張って来る可能性も高い。

 

「あー………ペンシルゴン。真理書売り払うのは、ちょっと待ってくれない?」

「えっ何で?」

 

疑問符を浮かべて首を傾げたペンシルゴンだったが、ペッパーは彼女の横に『5億マーニが入った袋』をオブジェクトとして置きつつ、アイテムインベントリから世界の真理書【墓守編】を取り出し、事態が飲み込めていない四人に言う。

 

「コホン……皆様、世界の真理書【墓守編】の攻略記載部分を熟読してください。そうすれば意味が解ります故」

「世界の真理書?アレ攻略本だろ、特に意味無くない?」

「え~…数回読んだら価値無いでしょ、あの本って」

「サンラクにオイカッツォ。君達は価値が解ってないようなので、廊下に立ってなさい」

「理不尽だろソレ!?」

「恩赦!恩赦プリーズ!」

 

能天気なクソゲーマーとプロゲーマーに、レトロゲーマーがツッコミを入れる。

 

「………ペッパー、君が言いたい事がよく解ったよ。あ、レディアント・ソルレイア返しておくね」

「あぁ……ペッパー君、そういう事か。というよりコレは見せられないね……。見せるにしても、情報規制掛けて貰わないとヤバい」

 

元と現役のPKer達は本を読んだ事によって、其の意味を理解したようだ。そして残り二人も渋々本を読んでいき………其の理由に辿り着く。

 

「ペッパーの言う通り、こりゃあ渡せんな」

「天将王装を用いた場合の、攻略方法までバッチリ記載されてるじゃん………」

「Exactly。世界観を考察するライブラリに、天将王装の情報までもたらされたら、俺含めて全員に影響が出ると判断した」

 

少なくとも快適なシャンフロライフを送る為には、隠しておける物は隠しておくに限る。

 

「不本意だが……前に『ある人』の伝で『天願の偶像』をオークションに出品したら『10億』で売れてね。其の内の諸々差し引いた金額の七割を受け取り、涙珠やら諸々買って余ってた5億。ペンシルゴンの真理書売り払い防止とレディアント・ソルレイアやら諸々含む口外を控える条件に、俺が借金を肩代わりしますので感謝するように」

「……ありがとう、ペッパー君。君は目を離すと予想の斜め上を、毎度毎度軽々しく越えていくんだから」

 

はぁ…と溜息を溢しながらも、5億マーニの入った袋を受け取り、ペンシルゴンはインベントリアに其れを収納する。

 

「まぁ、今回の一件で色々解った事も有る。ユニークモンスターは『金』になるんだよね」

「確かにな……」

「はっ」

「簡単に言ってくれるじゃねーか」

「そうだね」

 

世界の真理書、インベントリア、極天……ウェザエモン討伐によって得た、此の三つの報酬だけでも廃人プレイヤーのプレイ日数や内容を上回る、とんでもない代物だらけ。更にはバハムートなる存在も在るので、情報のアドバンテージも凄まじい限りだ。

 

其れを踏まえた上でペンシルゴンは、四人に向けて提案をしてきたのである。

 

「其処で私から『提案』が有るんだ。………此の5人で『クラン』を結成しない?」

 

クランとは、仲間内や同じ目的を達成するべく、プレイヤー同士で作るコミュニティを指す。別のゲームならば『ギルド』や『サークル』と言われる物だ。

 

「俺は良いぞ、ペンシルゴン」

「其の話、乗った」

「僕も構わないよ」

「俺は……ライブラリと黒狼(ヴォルフシュバルツ)とのスカウトを断ってからだなぁ、一応状況を伝えないといけないし」

 

サンラク・オイカッツォ・京極は了承し、ペッパーは先にスカウトを言ってきた、ライブラリと黒狼と交渉をしてからでは無いと、駄目である事を示した。

 

そして此処でサンラクが、一つ。クラン結成においての避けては通れない、問題点に気付く。

 

「そういやよ………『クランリーダー』って誰がやんの?」

「「「「……………あ」」」」

 

全員の視線がぶつかり合い、そして利き手を拳に変える。学校でもよくやる、班毎のメンバー内での役職決めに用いる『じゃんけん』。

 

『最初はグー!じゃんけんポン!』

 

ペンシルゴン・ペッパー:グー

サンラク・オイカッツォ・京極:パー

 

「よっし抜けた!」

「いぇぇぇぇぇい!」

「フフン、クランリーダーは面倒だからねぇ」

「負けた……」

「うわヤバい……」

 

反射神経で勝る外道三人が先抜けし、残ったペッパーとペンシルゴンが互いに真剣な眼差しとなる。

 

「最初はグー…!」

「じゃんけん…!」

『ポン!』

 

ペッパー:パー

ペンシルゴン:チョキ

 

「ああああああああ!負けたァ!?」

「シッッッッッ!勝ったアアアア!」

 

片や悲鳴、片や歓喜。此処にクランリーダーを決める戦いは終結した。

 

「はいっ、という訳で!クランリーダー(・・・・・・・)はペッパーに決定だぁ!」

「イェェェェェェェアアアアアアア!!!」

「御就任おめでとう、ペッパー」

「はぁ……勝てて良かったぁ」

「うむむ……はぁ、負けちまったのは仕方無い。やってやんよ、クランリーダー」

 

じゃんけんで負け、クランリーダーに就任する事になったペッパーは溜息を付きつつも、今後の事を含めて覚悟を決めた。

 

「じゃあよ、ペッパー。初仕事として『クラン名』を決めてくれ」

「其れじゃあ私、音頭用にドリンク頼んでおくよ」

「バースデーケーキが、奇しくもクラン結成の御祝いになるなんてね」

「さぁて、どんな名前にするのかなペッパー。中二病魂全開は流石に控えてくれよ?」

 

クラン名付けという、一大事業。失敗すれば、他のプレイヤーから色々と嘗められる羽目になる。

 

「……狼……自由……放浪……あ」

 

天啓が舞い降りた。

 

「じゃあ、さ……。俺達は『世界を旅する気高き狼達』って意味を込めて、クラン『旅狼(ヴォルフガング)』……なんて、どうかな?」

 

四人がシーンとしている。流石に駄目かと思ったペッパーだが、意外な答えが帰って来た。

 

「旅する気高き狼……良いじゃん、其れ」

「若干、黒狼と被ってるけど名前が良いね」

「格好いいし、俺は賛成だよ」

「僕も良いよ」

 

全員一致の賛成で、クラン名は旅狼と成り。そして蛇の林檎のマスターが、ペンシルゴンのオーダーしたドリンクを五人分持ってきて。一人ずつ一杯を受け取り、ペンシルゴンが音頭を取った。

 

「其れでは皆さん、ドリンクは持ちましたね?今此の瞬間から、私達は世界を旅する気高き狼として、シャンフロのユニークを探すクラン………旅狼(ヴォルフガング)となります。クラン結成を祝して━━━乾杯!!!」

『乾杯~~!!!!』

 

木製のジョッキを鳴らし、五人はドリンクを一気に飲み干した。此処に生まれた旅狼(ヴォルフガング)……ユニークモンスター・墓守のウェザエモンを討伐した、五人の英雄達によって結成され、誰も彼もが強い癖を持ち合わせる此のクランは、シャングリラ・フロンティアの世界に大きな波乱を巻き起こして行くのだが………其れはまだ先の話である。

 

 






此処に狼達はクランを作る




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新たな旅立ち、ポポンガの試練



ユニーククエスト進行




 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)

 

 

レベル:66

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 125 魔力 50

スタミナ 140

筋力 150 敏捷 140

器用 125 技量 125

耐久力 2039 幸運 52

 

 

残りポイント:0

 

 

 

装備

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)(耐久力+2000)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

 

 

アクセサリー

 

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア

 

 

 

 

所持金:51,966,000マーニ

 

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

  

 

致命武技

 

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】伍式

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】陸式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】漆式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式

 

 

 

スキル

 

 

死神の斬撃(デス・マサカー)

終極刺突(グルガ・ウィズ)

瞬刻視界(モーメントサイト)

・ブルズアイ・スロー

・フィーバー・シャイニング

蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)

冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)

戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)

鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)

・オーバーラップ・アクセラレート

烈風轟破(れっぷうごうは)

十傑斬覇(じゅうけつざんは)

驚雷羅刹(きょくらいらせつ)

全進開速(フルスロットル)

・アドバンスト・フィンガー レベル8

乾坤一擲(けんこんいってき)

・プレジデントホッパー

天空神の加護(レプライ・ウーラノス)

全身全霊(フルドレイズ)

・デュアライズ・ストライク

・トルネードレッグス レベル1

破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)

英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)

絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)

明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)

連刀二十刃(れんとうはだち)

罰閃乱(ばつせんらん)佐々波(サザナミ)

封栓認視界(ブロット・ウラタナ)

破界の視覚(ミュリミア・メナトス)

速刃(そくじん)雲払(くもばらい)

・デュアルリンク レベルMAX

煌軌一閃(こうきいっせん)

爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・グラッセル・ゼイリアス

・ジェスター・タロス

拳乱夕立(けんらんゆうだち)

破天爽駆(はてんそうく)

・スート・アヴェニュー

居合(いあい)切燕(きりつばめ)

適正眼下(ノリティア・アイザック)

天壱夢鳳(てんいむほう)

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベルMAX

・イグナイトブレイカー レベル5

・ナイフズタクト レベル5

・フェイローオブスロー レベルMAX

・スパイラルエッジ

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル6

・マシニクル・リブラ

・ヴィールシャーレ レベルMAX

天翔歩奏(てんしょうほそう)

・ミューサドール・パラダズム

衝拳打(しょうけんだ) レベル1

・エトラウンズパウンド

・ミッシングブレイド レベル8

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)

刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)

刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)

・ピアッシングアーマー レベル1

・メタルレッグス

・クリティカルメナス レベル1

・ニトロスマッシュ レベル1

・デッドユアセイブ

・スラッシュハイド レベル1

・シャイニングムーヴ レベル1

・ラセルクロスアップ レベル1

・クイックスピン

一天無双(いってんむそう)

・コラプションスマッシャー

剣人闘魂(サムライ・ハート) レベル1

・トルクチャージ レベル1

・ヴァーミンガムスナッチャー

・ソニック・アサルト レベル1

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「色々有ったなぁ………」

 

サードレマ・蛇の林檎にて話し合いを終えたペッパーは、アイトゥイルを隠しつつ、現在サードレマの下層エリアに存在している特技剪定所(スキルガーデナー)の一つを利用。レベルアップで獲得したスキルや、新しく手にした合成スキルの確認、ステータス調整を行い終えていた。

 

ヴァイスアッシュの手により真化を遂げたヤバい剣……『星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ』。其れを扱える最低ラインの筋力・技量・器用を確保しつつ、敏捷とスタミナもバックパッカーとして役割を全う出来るように調節。

 

体力を増やしたのは、低い状態では天覇及び墓守の一式装備を活かしきれない事。MPは格納鍵インベントリアが1回の使用で、25ポイントの消費が行われる事が判明した為、2回使用出来るようにしている。

 

「さて、此れからどうするかな……」

 

ステータスにポイントを振り分け、試しに星皇剣グランシャリオを装備しようとしたのだが、彼の目の前には『装備出来ません』の表記が出て、不足分には『歴戦値』があった。ヴォーパル魂と高潔度の2つは、どうやら300以上あるらしい。

 

黒狼(ヴォルフシュバルツ)にライブラリとのスカウト交渉もやらなくてはならないが、ワールドストーリー【シャングリラ・フロンティア】が進行した事によって、新たに現れた物があった。

 

ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】……此迄『特殊クエスト』の表記で存在していた段階式開放型クエストが、世界が進んだ事により真名へと転じたのである。現状四つ目(・・・)のクエスト【想いの御手は、境界線を超えて】を受注しているが、何処で何をすればクエストのフラグが建つのかは、ペッパーには解っていない。

 

「サンラクは先生に、規格外エーテルリアクターの修復依頼を出してる筈。俺はスキルの使用感等を、オーバードレス・ゴーレム相手に試してみるか。アイトゥイル、エイドルトに向かうから一度兎御殿に戻るよ」

「はいさ!」

 

サンラクの方を確認する為、ペッパーとアイトゥイルはサードレマの裏路地に足を踏み入れた瞬間だった。突如自分達の進行方向にスライムの壁が発生して、其の中へ取り込む様な感覚に襲われ。

 

「うぉ、コレはいっ…━━━━━」

「あわわ…!?なん━━━━━」

 

声を上げる間も無く、一人と一羽は裏路地の闇へと取り込まれ、消えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおああああっ…………あでっ!?」

「ペッパーはん、何が起きたのさ!?」

 

暗闇に吸い込まれて、ペッパーとアイトゥイルが解放されたのは、黒一面に塗り潰されたドームの中。辺りを見回しても光は存在せず、行けども行けども元の位置に戻される感覚である。

 

「何だ此処。どうやって脱出すれば良いんだ……?」

「ワイの桃燈で照らしても、真っ暗なのさ……」

「ホホホ……ペッパー、そしてヴァッシュの娘よ。久し振りじゃのぉ」

 

突如響く、記憶に残る其の声。刹那に暗闇のドームを彩るは、無数に遍く星々の煌めきが満たし。

 

軈て一人と一羽の前に、長く付き添ったであろう年忌の入った杖を握り、ヨボヨボの掌から魔法で作った光の粒達を放ち。火星の色をした球体に、胡座姿勢で腰掛けるヴァイスアッシュの友公(ダチコウ)━━━『極星大賢者(スターラウズ)のポポンガ』が現れた。

 

「ポポンガさん!御久し振りです!」

「御久し振りでございます、ポポンガさん」

「堅苦しくせんでエェ……楽になさい」

 

ペッパーとアイトゥイルが頭を下げて挨拶すると、ポポンガは右手に握った杖を振るう。すると光の粒が集まり、大小の椅子を作り出すや二人に座る場所を提供した。

 

「では、御言葉に甘えまして……失礼します」

「ありがとうございます」

「うむ……さて、ペッパー。お前さん、今の職業である『バックパッカー』。……コイツを『大いなる高みに持っていきたい』と、思った事は有るかの?」

 

早速本題を切り出したポポンガが言ったのは、職業(ジョブ)のクラスチェンジの話で。今のバックパッカーを別の職業へ変える事が出来るという。

 

「出来るのですか?」

「うむ。じゃが其の為には、ワシからの『試練』を越える必要が有る」

「試練……なのさ?」

 

そうしてポポンガは、指をタクトの様に空をなぞり。そうして光の粒を集めて、シャングリラ・フロンティアの大陸の詳細な地図を作り出した。

 

「そうじゃ。そして其の内容は………『ファステイアからスタートして、7ヶ所以上の街と都市を巡り、フィフティシアまで到達する』事じゃ。そしてフィフティシアに到着したなら、其処で試験を行う。

其れに合格出来たなら、お前さんの職業を更なる高みに至らせる事が出来るぞい」

 

ファステイアから始まり、各地に有る街を巡り、大陸最後の街へと向かう。此れは即ち━━━━

 

「シャンフロ大陸横断試練………やらせていただきます!」

 

ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】、第四段階(フォースフェイズ)【想いの御手は、境界線を超えて】。其の試練は、ポポンガより与えられた。そして同時に彼の存在が、第四段階の鍵を握る事となる。

 

 

 

 






大陸最後の街を目指せ




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開拓者は走り出し、影法師は歌を求む



ユニーククエストEX、進展




「大陸横断試練………やらせていただきます!」

 

極星大賢者(スターラウズ)のポポンガより、シャングリラ・フロンティアの大陸に在る街を巡り、最後の街へ到達する事で現在のメイン職業(ジョブ)を高みに至らせられる試練に、ペッパーは力強く答えた。

 

「……良い返事じゃ。しかし……唯々此の大陸を駆けても、つまらんじゃろう」

 

ペッパーの答えを聞いたポポンガは笑い、しかし自身が持つ杖を掲げ、魔法を施す。するとシナシナだった其の身はハリの有る肌と代わっていく。同時に自分達の周りには魔方陣が生まれ、ペッパー達を包囲した。

 

「…………ん?えっ、ポポンガ……さん?」

「な、何している……のさ?」

「ペッパー、そしてヴァッシュの娘のアイトゥイルよ。ワシはワシ自身に魔法(・・)を掛けたわい。其の魔法の内容は『現時点のワシのレベルを1/10』に固定し、目的地到達まで『解除されんようにした』んじゃ」

 

そしてポポンガの背丈は更に縮み、最終的に人間の五歳児程度の大きさにまで小さくなり、ちんまりとしたものとなった。同時に魔方陣は起動して、一人と一羽と一匹を光が包む。

 

「え?え……ちょっ、まさか………」

「其れでは、よろしく頼むぞい。あぁ、其れとな……フィフティシアに到達する過程で、他の開拓者に『協力を仰ぐ事』は許すからのぉ。頑張りんしゃい」

 

光が包み込み、己の視界を真っ白に染め上げた瞬間、ペッパーの目の前には『画面』が現れる。其れは、第四段階(フォースフェイズ)の始まりを。戦いの幕開けを告げる物となったのだ。

 

 

 

 

『NPC『極星大賢者(スターラウズ)のポポンガ』がパーティーに強制加入しました』

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】を開始します』

『クエスト開始に伴い、ファステイアに強制的に転移します』

 

 

 

そしてペッパーとアイトゥイル、そして自らの魔法で自らを縛ったポポンガは、始まりの街・ファステイアへと転移する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームには『護衛系ミッション』と呼ばれる物がある。NPCを目的地まで連れて行く、殺られてしまえば即ガメオベラが適応される、RPGやアクションゲームでも見掛けるカテゴリーだ。

 

そして護衛対象となるNPCは、大抵が非力に設定され、立ち回りやヘイト管理、アイテムの準備が整っていないともなれば、苦戦必至となる。総じて嫌いなプレイヤーは、とことん嫌いなミッションなのだ。

 

「………………マジかよ、ポポンガさん」

「カハハ。さぁ、ペッパー。お前さんの脚で、此の大陸を駆け抜けなさいな」

「とんでもないことになったのさ……」

 

ファステイアの裏路地に転移したペッパーは、ポポンガを見て驚愕と共に呟く。

 

彼は護衛系(此のタイプ)のミッションが嫌い、という訳ではない。其の手のクエストはレトロゲームで幾度もプレイしてきたし、普通なら行けた筈の道がミッション中に限り『どういう訳か』通行止めになったりと、簡単にクリアさせない設計なのも理解している。

 

彼が驚いたのは『ポポンガのレベル』だ。

 

「……『レベル20』……10倍で、レベル200……」

 

そう、自分自身が施した魔法によって弱体化したとはいえ、元々のレベルが『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン』と同じだったのである。

 

ポポンガのレベル以外の全てのスキルやステータスを、此方(プレイヤー)が確認出来ないようになっているのは、護衛系ミッションを更に盛り上げる為の措置として、運営側が用意した物と見て良いだろう。

 

(協力者を募る事は禁止されていない……。此れは所謂『複数人推奨』、其れも『パーティー編成推奨の護衛系ミッション』だ)

 

ポポンガの発言。未踏の世界を進む事。此等の情報からペッパーは、第四段階は『他のプレイヤーの協力必須のクエスト』だと判断する。

 

しかしパーティープレイをする以上、問題が在る。己が……ペッパーというプレイヤーが、七つの最強種の一角を崩したプレイヤーだという事。依頼をすれば、対価として情報を寄越せ等、当たり前のように言ってくる事は明白であり、其れがキッカケになって付け入る隙を与えないとは言い切れない。

 

「えっと、ポポンガさん。兎御殿に帰還したり、休息を取る事は出来ますか?」

「うむ、可能じゃよ。アイテムの補充も、味方を頼るもお前さんの自由……其の脚でフィフティシアを目指すのじゃ」

 

流石に一日で走破せよ!という事では無く、クリア日数に制限は存在していないようだ。

 

「取り敢えず、動かない事には始まらないか……。アイトゥイル、ポポンガさん。先ずはセカンディルに行きますよ!」

「はいさ!」

 

爪先に力を込めて、ペッパーはヴォーパルバニーとゴブリンを引き連れ、裏路地から跳梁跋扈の森を目指して駆け出して。

 

「ん!?えっ、なっ━━━━!?」

 

突如、自分の前に出した足が底無し沼に嵌まった様な、己の身体が真下に引き摺り込まれる(・・・・・・・・・・・)感覚と共に、暗闇の中にアイトゥイルとポポンガ共々飲み込まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、どうなって……あぶん!?」

「みきゃん!」

「ふほぉぉ…。こりゃ何じゃな、いきなり」

 

本日二度目の暗闇の中に落ちたペッパーとアイトゥイルは尻餅を付いて、そしてフワリと浮遊するポポンガは、突如起こった状況に何事かと辺りを見渡す。

 

落下ダメージは無く、周りは暗い上に、落ちてきた先を見上げるとスポットライトの光が当たり、ステージ上の様な白い電光灯で出来た、光の円内にペッパー達は居た。

 

「ポポンガさん……もしかしてコレ、試練ってヤツですか?」

「いや、ワシは何も知らんぞ?」

「じゃあ一体誰がやったのさ……」

 

ポポンガが仕組んだ物でないなら、一体誰が。何の目的を以て、此のような場所に自分達を引き摺り込んだのか。

 

疑問……謎……見えない存在……。ペッパーが周囲を警戒した其の時。アイトゥイルとポポンガの腕を掴んだ『ナニカ』が、一羽と一匹を円外へ連れて行ってしまう。

 

「わ、ペ、ペッパーはわぁぁぁぁぁぁ!?」

「おや、コレは不味いのぉぉぉぉぉぉ!?」

「アイトゥイル!ポポンガさん!」

 

手を伸ばすも届かず、一人取り残されてしまったペッパー。同時に聞こえてきたのは━━━━━()だ。

 

『ラ……ララ、ラ………♪』

「え……?」

 

響き渡り、透き通り、語り掛ける。そんな優しく、しかし何処か寂しげな……歌。

 

『ラ…ラララ…、…ラ━━━━━♪』

「歌を……歌ってる?」

 

暗闇が薄く晴れ、フィールドの輪廓がハッキリとしてくる。ペッパーが此のフィールドを見て思った第一印象は、小さな『中世の劇場』だった。自分の今居る場所は『ステージ』、そして見渡せば『観客席』が広がって。

 

「ペッパーはん!」

「ペッパーよ、大丈夫か!」

「アイトゥイル!ポポンガさん!」

 

VIP観客席とおぼしき場所に、アイトゥイルとポポンガが移動させられているのを確認し、ホッと一安心した瞬間。

 

『ラララ……ラ、ララ……ラ……♪』

「!?」

 

歌のリズムが、テンポが、ペースが『変わる』。

 

『私は……貴方……。貴方は……私……』

 

同時にペッパーが目撃したのは、スポットライトに照らされる己の『影』が揺らめき、独りでに動き始めた事。光に照らされる影が、黒く濃くなるや自分の影から『離れ』、ペッパーの目の前で『黒いペッパー』の姿形を作る。

 

「は……?」

『合羽は貴方の(かたち)を知り、影は揺らがぬ(たましい)を知る━━━貴方はだぁれ?貴方はだぁれ?』

 

劇場から響く歌が、問い掛けてくる。

 

『影は何時も貴方を見る━━━━』

 

黒く濃く染まったペッパーに、何処からともなく飛来したのは、自分の装備している『影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)』と同じもの。

 

『さぁ、示して……貴方の光を(・・・・・)。影が見つめる、貴方の輝きを(・・・・・・)。揺らぐ事無い、貴方の強さを(・・・・・・)

 

愉快合羽を纏い、影なるペッパーが武器を手に取る。其れは包丁と小鎚……其れも『致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)』を握ったペッパーが、今は呪いによって出来なくなった『斬打二刀流フォーム』を成している。

 

「おい、まさか……『巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)と戦った頃の自分』と戦えって事かよ!?」

『光と影は瓜二つ。決して離れず、決して交わらず。けれど常に在り続け、共に高め合う……!』

 

 

ペッパーを示す物語(・・・・・・・・・)前奏曲(プレリュード):英雄の原点(ヒロイックオリジン)

 

 

題名を言う(タイトルコール)が響き、真っ黒に染まったペッパーが、アイテムインベントリから『ギルフィードブレイカー』を取り出して握った、ペッパー本人に襲い掛かったのである。

 

 






影法師は求めている。魂を奮わせる其の歌を




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影法師と胡椒は踊りて、次なる歌へと響いて紡ぐ



己との戦い




「どうわっ!?」

『……………』

 

影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)を纏い、致命の武器たる包丁で刺突、小鎚で打撃を次々に繰り出す、真っ黒なペッパー。此処では『黒ペッパー』は迷う事も無く、ペッパーを狙って攻撃を掛けてくる。

 

「喋らないからか、何してくるか解らない…ッ!オオオッ━━━ラァ!」

『……………………!』

 

ステータスポイントを振り込み、強化された筋力と共にギルフィードブレイカーを振るい、クリティカルが発生しやすくなる打撃スキル『クリティカルメナス』を、致命の小鎚の側面を叩いて体制を崩させ、格闘スキル『衝拳打(しょうけんだ)』で頭を殴り付けて吹き飛ばす。

 

「ペッパーはーん!そんな黒いペッパーはんに負けるななのさー!」

「良いぞ、ペッパー。あの時よりも、益々強く成っておるの」

 

戦闘開始から三分、自分の影が形を作ったペッパーについて、解った事は『三つ』ある。

一つ、今現在戦っているのは『巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)と戦った時のペッパー』という事。

二つ、影から作られたペッパーは『其の当時の武器とスキル』しか使ってこない事。

 

正直に言うなら、此の二つは然程問題という訳ではない。

 

問題は三つ目、判明した何よりも『厄介な点』━━━━此の影ペッパーは『今の自分と同じ防具を身に纏い、同じ数値のステータスを保有している』事。

 

其れ即ち━━━━━━━

 

「耐久2000越え、体力125の『俺』と戦わなきゃならないっ……!」

 

仮に此の戦い以降、同じようなイベント発生が有るとして、自分(ペッパー)が厄介になるのは喪失骸将(ジェネラルデュラハン)やティラネードギラファ、カイゼリオンコーカサス等の『合成スキル』を使って、倒した時の自分を出された場合。

 

今はまだ斬打二刀流に、小鎚の打撃と包丁の斬撃だけだが、次にティラネードギラファ&カイゼリオンコーカサス討伐時の自分と戦うなら、脚パリィに格闘だけでなく、進化スキルも使ってくる様になる。

 

「くおっ!セイヤァ!」

 

影ペッパーの致命の包丁による刺突を、自身の視角内及び半径5m以内から放たれた攻撃を『自動回避』する『適正眼下(ノリティア・アイザック)』で回避。幸運が高い程にダメージが与えやすくなる『ピアッシングアーマー』、膝から下の脚を鋼化させるスキル『メタルレッグス』を使って、ジャストタイミングでのフック→蹴りで脇腹に重い打撃を入れていく。

 

と、此処で黒ペッパーを作った時と同じ『歌』が響いてきた。

 

前奏曲(プレリュード)は、終幕(フィナーレ)へ向かう………。勇者は己の死した過去を打破した……致命たる鋭き刺突、致命を打ち込む雄々しき衝撃、斬打の形が……新時代を切り開く……』

「ッ!………『影の自分を倒すのは、其の時のモンスターと同じトドメの刺し方』か!」

 

巌喰らいの蚯蚓を仕留めた時に使ったスキルは、刺突スキルの『スポットエッジ』からの、刺さった包丁を小鎚で殴り付け、パイルバンカーにした打撃スキル『レイズインパクト』。もうスキルは何回も進化を遂げたが、其の時其の瞬間の戦いは今も、自分の記憶に残っている━━━━━!

 

「御要望通りに、キッチリ決めてやるぜ!」

 

ギルフィードブレイカーを収納、ステータスポイントを器用に振ったからか今までより、スムーズに武器が取り出せる。使うのは白磁(はくじ)短刀(たんとう)【改五】。黒ペッパーの包丁の斬撃に対し、自身の認識限定で『スローモーション』化させる眼と思考の強化スキル『瞬刻視界(モーメントサイト)』で回避。

 

突っ込んできた無防備の首へ、スポットエッジが進化を続け、合成して至りし高速の刺突スキル『フィーバー・シャイニング』が、物理エンジンの慣性を乗せて深々と突き刺さり。

 

空いた手にインベントリより取り出され握るは、あの時の致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)。今はヴァイスアッシュにより真化を遂げて、兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】となったショートメイス。

 

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)!!!」

 

突き刺さった白磁の短刀【改五】の柄に、大火力の一撃が打ち据えられ。其の瞬間に構築されていた黒ペッパーと、同時に中世劇場を模したフィールドも崩壊する。そして観客席に移されたアイトゥイルとポポンガは、何時の間にか出来たレッドカーペットの滑り台で、舞台まで降りてきた。

 

「ペッパーはん、やったのさ!」

「お疲れじゃの、ペッパー」

「自分との戦いですから……一瞬たりとも油断出来ませんよ」

 

合流したアイトゥイルとポポンガが、各々ペッパーの肩に乗る。視界には劇場の崩壊による元の黒い世界が戻り、聞こえてくるのは同じ声の歌である。

 

『勇者は力を示した。………光を、輝きを、そして強さを。影は貴方を見ています……どうかまた、貴方の魂の歌を……奏でて、繋いで………』

 

其の声が途切れた瞬間、ペッパー・アイトゥイル・ポポンガは『強烈な倦怠感』によって立っていられなくなり。一羽と一匹が眠るようにして意識を失い、ペッパーも最後まで抗ったものの、遂には彼女と大賢者に続く形で、同じ道を辿り。

 

其の直前に、彼はリザルト画面を目撃した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は影法師の試練を越えた』

『魂の音色は始まり、次へ繋ぐ………』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

『影法師の愉快合羽が、一時的に胴装備から外せなくなりました』

『全ての歌を歌う時、影法師の愉快合羽は己の身より離れる』

『残された歌は━━━━━━━三つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……!?」

 

意識が覚醒して、脚が地面を踏み締める。ペッパーが辺りを見れば、其所はおよそ四分程前に地面に引き摺り込まれた場所と同じ。

 

「アイトゥイル、ポポンガさん、居ますか!?」

「ペッパーはん、ワイは居るのさ」

「ワシも無事じゃよ、ペッパー」

 

ゴソゴソモゾモゾと、トレンチロングコートから顔を出した、アイトゥイルとポポンガ。どうやら二人共無事だったようだ。

 

「何だったんだ今のは……当時のプレイヤーのコピーと戦うって、相当だなオイ……。しかも後三回も……」

「今までワイ達、劇場みたいな場所に居たのさね……何なのさアレは………」

「ワシも長いこと生きとるが、生まれて初めて経験したからの……」

 

三者三様の感想。しかし解った事も有り、胴装備として身に付けている『影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)』により、先程のイベントと戦闘が起きたという事。

 

ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行した為に、愉快合羽が外せなっただけでなく、光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)、各々の胴装備が装着出来なくなった事だ。

 

(兎に角、先ずは影法師の歌とやらを速攻で解決しないと話にならん!)

 

不意に情報を漏らして、ペンシルゴンからのオハナシで詰められたりするだろうと、頭と胃を痛くしながらも、ペッパーは気を取り直してファステイアを脱出し、セカンディルを目指して猛ダッシュし始めたのだった……。

 

 

 






ハプニング有れど、セカンディルへ進む




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我が身は走り、峡谷と沼地を越えて



勇者は次の街を目指す




夕焼けが空を染め、シャンフロが夜へ移る頃。跳梁跋扈の森を抜けた先の渓谷で、黒き閃が迸っていた。

 

「打っ手切りだああああああああ!!」

 

声の主はペッパー。影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)の内側に、付き兎のヴォーパルバニー・アイトゥイルと、ユニーククエストでパーティーに加入した老ゴブリン・ポポンガを入れて守りつつ、エリアボス・貪食の大蛇相手に立ち回っていた。

 

剣・刀系列武器を装備中、対応する武器スキルに多大な補正を加える『剣人闘魂(サムライ・ハート)』と、超至近距離戦闘で御馴染みに成りつつ有る、戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)強化(バフ)を施し。

 

此迄以上の速度上昇に加え、攻撃及び移動時に相手に『怯み』の状態異常を与える『驚雷羅刹(きょくらいらせつ)』。

短剣・短刀武器の使用時にクリティカル補正を強化する『ナイフズタクト』。

自身よりも敵の方が大型で、重量が有る程に比例して、威力が上昇する斬撃スキル『王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)】』。

 

3つのスキルによって白光る雷迸り、赤褐色の夕闇に近しい焔のエフェクトを纏った、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)【改三】の斬撃が、動きが止まった貪食の大蛇の首根を断ち斬って、確定ドロップアイテムのみを残してポリゴンが爆散・消滅する。

 

「貪食の大蛇。戦ってくれて、ありがとうございました………と。アイトゥイル、ポポンガさん。確り掴まってて下さいね」

「はいさ!」

「解ったぞい」

 

合掌と一礼。ドロップアイテムを拾って、インベントリアの中に収納するや、ホライゾン・メロスとムーヴセドナの合成によって誕生したダッシュスキル『全進開速(フルスロットル)』を起動。ペッパーの全身から白い蒸気が吹き出し、地面を踏み締めてダッシュを開始すると、5秒と掛からずに現時点で繰り出せる『最高速』に到達。其の脚は渓谷の岸を渡す吊り橋を越え、黒の弾丸に成ってセカンディルを目指して駆けて行き。

 

疾走途中で貪食の大蛇を倒せたものの、毒のスリップダメージに追われているのか、軽装備のプレイヤーがセカンディルに向かっているのを目撃するも、自分は其れ以上の速度で真横を走り抜け。セカンディルの門を潜るや、其の脚を止める事はせずに、四駆八駆(しくはっく)沼荒野(ぬまこうや)のエリアボス・沼掘り(マッドデイク)攻略へと向かっていった。

 

そしてセカンディルからサードレマへ続く門を通った瞬間、ペッパーにユニーククエスト進行を告げる画面が現れたのである。

 

 

 

 

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』

『条件達成まで、残り━━━六つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……思った以上に『腹が減るな』、此のスキル」

「あちゅいのさ………酒を飲むのさ………」

「コートん中に居たからのぉ……」

 

四駆八駆の沼荒野に有る岩山の影に隠れ、スキルを解除と呼吸を調えるペッパーは、愉快合羽の内側に籠った熱を追い出し、袖で汗を拭い取る。アイトゥイルとポポンガも汗まみれになっていて、片や瓢箪水筒で酒を喉に流し込み、片や水魔法で出来た水滴を口に含んでいく。

 

スキル:全進開速(フルスロットル)………此れは『発動から5分間は常に最高速度で走れる様になり、任意のタイミングでスキルを終了出来るが、使用から1分経過する毎に、自身の空腹度が爆速で増大していく』能力を保有している。

 

そして空腹度は、スタミナ回復速度に影響を与えるパラメータであり、シャンフロにおいて食事を行う事で腹が満たされる……即ち満腹に。逆に空腹に成り過ぎると、スタミナ回復に悪影響を及ぼす。だが、其の空腹度が『限界ギリギリの状態』でレベルアップすると、習得可能になるスキルがあるそうで、其れを狙うのも一興かも知れない。

 

「今の内にスタミナ回復をしておこう」

 

アイテムインベントリから携帯食糧を取り出し、ガブリと噛み付き咀嚼。減少していたスタミナと空腹感が満たされていき、元気が湧いてきた。

 

「次は沼掘り……沼のフィールド……カチ上げから空中移動スキルで速攻掛ければ、イケるかな?」

 

スキルの再使用時間(リキャストタイム)を目視確認しつつ、保有スキル一覧に在るスキルの中で『試してみたい組み合わせ』を沼掘り相手に披露する事を決めた。

 

アイトゥイル・ポポンガを愉快合羽の中に避難させ、再び走り始めたペッパーは沼掘りがテリトリーとして潜む、沼地に沈んだ峡谷へと到着。軽戦士の十八番たる機動力を奪う沼地へ恐れる事無く進んで行けば、三度目の遭遇となった鮫鯰ことエリアボスの沼掘りと対峙する。

 

「さぁ、ギアを上げていこうか!」

 

纐纈戦々(こうけつせんせん)より進化し、高潔度(こうけつど)とNPCを除いたソロプレイ時間を参照する強化(バフ)スキル『天壱夢鳳(てんいむほう)』。

強化時間90秒から60秒に減少したが、1度だけ自己蘇生を据え置きとして、敏捷・筋力・スタミナの強化数値を3倍にした『戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)』。

1分間自身の動体視力強化とスタミナ消費を抑制し、クリティカルを繰り出せす度に効果時間が延長する『スート・アヴェニュー』。

 

そして駄目押しに、其れ等のスキルを熟達度MAXの『デュアルリンク』の起動で補強し、沼掘りを『1分以内』で仕留め切ると、脳内で目標を設定。直後鮫特有の背鰭残しの潜行を行った沼掘りが、ペッパーの目の前より飛び出して噛み付き攻撃を仕掛けてきた。

 

「躱わせる!」

 

墓守のウェザエモンの断風を直に経験した彼は、其の身を屈めて噛み付きを回避。バフを含めて『一定以上の筋力』に到達した場合に繰り出すと、直撃した相手やモンスターに『確定気絶』を付与する『コラプションスマッシャー』で、頭上を過ぎ行く沼掘りの下顎を叩き据えてカチ上げた。

 

『ギィ…ア……!?』

 

スキルの効力により、沼掘りが気絶で動かなくなる中、ペッパーは3つのスキルを起動させ、片足を沼から引っ張り出す。

 

自身に対する重力へ干渉し、歩走行の軽量化を可能にする『蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)』。

ゲニウス・チャージャーとフローティング・レチュアを合成した事で産まれた、90秒間の空中歩走行を可能にする『天翔歩奏(てんしょうほそう)』。

熟練度MAXとなり、空中でのスキルに対する効果時間を強化・延長する『ヴィールシャーレ』。

 

では此等のスキルが合わさった場合、一体何が起きるのか?

 

 

 

 

「よし、出来た!思った通り此の3つなら、擬似的な『浮遊移動』が可能に成ったぜ!」

 

 

 

 

そう、蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)天翔歩奏(てんしょうほそう)に、ヴィールシャーレが組み合わされば、レディアント・ソルレイアの力を借りずとも、3分間限定で『地上フィールドギミックを完全無視』出来る様に成ったのだ。沼という牢獄から空という自由を手にしたペッパーは、己の両足を空中に踏み込み、両手を拳に変えて握り締めて、スキルを点火する。

 

敵の点穴を、言い換えるなら『弱点のツボ』を可視化する『封栓認視界(ブロット・ウラタナ)』。

エネミーの弱点に、最も衝撃が通る場所を知る事が出来る『破界の視覚(ミュリミア・メナトス)』。

元々高火力を繰り出せるが、バフスキルの総数で更なる火力に至る『聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)』。

頭部に直撃させると仰け反り発生率を高め、確率で気絶判定を付与する『衝拳打(しょうけんだ)』。

打撃攻撃でクリティカルを出しやすくする『クリティカルメナス』。

攻撃時にスキルレベル1につき、打撃による衝撃が爆破属性を含む確率が1%乗る『ニトロスマッシュ』。

複数スキルを重ねた攻撃時、同系統の攻撃スキルを発動していれば、自動的(・・・)に発動して『其の全て』の威力と補正を高める強化(バフ)スキル『ラセルクロスアップ』。

 

 

ありったけの格闘と打撃スキル、そして強化スキルが己の拳に金色のエフェクトが纏わり、最後に拳撃スキルで連続かつ出鱈目に繰り出す程、ダメージ補正とダメージ追加が乗る『拳乱夕立(けんらんゆうだち)』が、沼掘りの顔面に夕立のように連続で拳を叩き付けていく。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

2つの視界に関するスキルにより、沼掘りの弱点となるツボと其の近辺に、黄金の拳の豪雨が降り注ぐ。マンガでも連打の表現として用いられる、拳や腕の複数描写が有るが成程こういうモノかと、ペッパーは此の日自分自身で再現するに至り。

 

『ギィィィ………!!』

「此れでッ、終わりだ!」

 

同じ箇所に打ち込み続け、時折爆破が発生。打撃ダメージによって頭部の肉質が柔らかくなり、衝撃が徹し易くなった其の場所へ、同じ箇所に打ち込んだ回数を参照して、威力を上昇させる『デュアライズ・ストライク』を使用。

 

弱点のツボに渾身の正拳突きが打ち込まれ、沼掘りを構成するポリゴンが爆散して、ドロップアイテムが沼地に落ちる。

 

「沼掘り。嘗てお前に誓ったソロ討伐、確かに果たしたぞ」

 

中国武術に有る挨拶で左手を掌に、右手を拳のまま添えて一礼。そして擬似浮遊の効果が続く間に、ペッパーはドロップアイテムをインベントリアに収納して、真っ直ぐにサードレマを目指して走り始めたのであった……。

 

 

 

 

 

 






大蛇を斬り裂き、鮫鯰を殴り倒し




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ランニング・フライング・ブレイバー



走れ、走れ、走れ




沼掘り(マッドディグ)を打ち倒し、夕焼けから夜闇へと変わる空の下、外せなくなった影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)を身に付け、黒の線を引く様に走るペッパーは、サードレマ周辺の高地に到着していた。

 

「サードレマが見えてきた……。周りに他のプレイヤーは居ないから良いとして、一先ず兎御殿に帰還して作戦を立てないと……」

 

アイトゥイル・ポポンガが、トレンチロングコートの内側に居るので、先ず絶対に見られたくは無い。だが、此の胴装備を身に付けている限り、ファステイアでの突発的コピーと戦闘イベントが、再び起こらないと断言出来ない。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。此処から見るサードレマも良い景色なのさ……」

「空の黒も善き深みに成ってきおったわい……」

「……確かに。風も涼しいし、過ごしやすくて良い感じだな」

 

ステージの垂れ幕から観客席を覗く出演者達の様に、アイトゥイルとポポンガが外の景色を見て、ペッパーも空を見上げ。しかし十数秒の沈黙を経て、両頬を叩いて気を引き締め直すや、サードレマの正門を見定めて走り出したのである。

 

そしてサードレマの正門にて、案の定衛兵達から不審者と思われ声を掛けられたものの、エンハンス商会会員証を見せる事により、事無きを得たペッパー達は、サードレマ・下層エリアを歩いて行く。

 

上層エリアが貴族達の住まいであるなら、此の下層エリアは下町と言える区間であり、夕暮れ刻であるからか住民やプレイヤーの交流、やり取りが盛んに行われており、そんな活気の中をペンシルゴンと一緒に散歩をした時の事を思い出す。

 

「アイトゥイル、ポポンガさん。ティークさんの食事処で何か食べたい物ある?俺が御馳走するよ」

「本当さね?じゃあ、ワイは『兎御殿晩酌膳』が食べたいのさ」

「おぉ……ティークのボンが作っとる『アレ』か。ワシも久し振りに、一杯やりたいの」

「解りました。其れでいきましょうか」

 

右手に刻まれた呪い(マーキング)を隠し、程好いタイミングを見計らい、人目の付かない裏路地に入ろうとした、まさに其の時。真上からの此方を意殺すかのような、明確な殺意を。否、生物的な直感(ゲーマーの勘)が今すぐに回避せよと、ペッパーに告げて。

 

其れはあの日、夜襲のリュカオーンと初めて遭遇した時と同じ、全神経を此の一瞬に反射して自身に迫る危機より回避。同時に地面にザクリと刺さる刃物の音、然れども其処には誰も居ない(・・・・・)し、気配を感じない(・・・・・・・)

 

だが、確かに。自分の直感が。ゲーマーとしての本能が。己に告げているのである。

 

其処に居るのは誰だ(・・・・・・・・・)?」

 

鋭利な視線が、姿形の見えぬ敵に注がれていた。そして其れは、襲撃者に。『PKerのヒイラギ』に、絶望以上の甚大な衝撃を与えたのだ。

 

(な、何で!?どうして!?何で何で何で!!?完璧に気配(・・)姿()も消したのに!?何でコイツ解ったの!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンフロの不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)の1つに『隠閉巧索(カモフラージェン)』と呼ばれるスキルがある。エクゾーディナリーモンスターの1体、ステルテラー・カメレオン『隠蔽工作(カモフラージェン)』の討伐を成し遂げる事で、獲得可能な其れは『最初の一撃を当てるまで』という条件で、プレイヤーの姿を『物理的に透明化させる能力』を持っている。

 

そして其のスキルと絶大なシナジーを産み出すのが、最上位職業:隠の大地(ステルスフォース)。レンジャーから派生し、自然環境における潜伏・奇襲に特化した職業の固有スキルに『ステルスアサルト』と呼ばれる、戦闘開始時から『最初の一回目の攻撃』はあらゆるヘイト(・・・・・・・)を受け付けない能力が有る。

 

此の2つを掛け合わせる事で、最初の一撃に限り『完全隠密攻撃(パーフェクトステルスアタック)』を成し遂げる其れを利用、更に『もう1つの要素』を組み合わせる事により、ヒイラギは今日まで『無敗のPKer』として活動してきた。

 

プレイヤーを奇襲して初撃必殺を狙い、そうしてPKした『実利』を求めるのが、ヒイラギのプレイスタイルであり。彼女はペッパーが持つ数多のユニークの品々を狙う為、胡椒争奪戦争から情報を入手。特徴を洗い出してセカンディルから『裏ルート』で沼掘りをスルーしてサードレマへ向かい。

 

そして隠閉巧索(カモフラージェン)とステルスアサルトで、正門からペッパーを追跡。タイミングを見計らい、何時もの様に一撃で始末をと彼女は考えていたのだろう。作戦は悪くない。しかし彼女にとっての『最悪の不運』は、ペッパーというプレイヤーが完全隠密攻撃(パーフェクトステルスアタック)等の初見殺しに対して、滅法強過ぎたという事だろうか。

 

初撃に失敗した時点でステルスアサルトの効果は切れ、姿は見えずとも気配は感じられる。直感でしかない上に、外したら外したでペッパーは滅茶苦茶恥ずかしい想いをする。だがスキルを使わずとも、肌身に感じる殺気は静電気の様に、己に敵の居場所を教えてくれていた。

 

「気配と姿を消すスキルか魔法かな?生憎、其の手の攻撃をしてくるタイプは、幾つかのレトロゲームで体験済みさ」

 

此の襲撃者はおそらく『一撃必殺型ビルド』。文字通り暗殺者の様に一撃で敵を仕留めて、勝負を決めに行くスタイル。つまり初撃で仕留め損ねた時点で、勝負は着いている。

 

(ワケ解んない!?何で解ったの!?スキルに穴があったの!?とゆーかレトロゲーム!?何なのコイツ!?)

 

ヒイラギが戸惑う最中、彼はセルタレイト・ケルネイアー、鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)、エクステンド・オーレイズより進化を遂げて体力・MP・スタミナ以外にも回復・強化アイテムを捧げられる様になった『全身全霊(フルドレイズ)』。

 

トーテンタンツの上昇数値が強化された『マシニクル・リブラ』で、己のMPを全て捧げて『自身の体重』を軽くし。其れ等を更に窮速走破(トップガン)を点火・強化させ、其の身は軽々と真上へ跳躍。

 

(あッ!?しまっ━━━━)

 

迷った僅かな瞬間を突かれ、ヒイラギが見上げた時にはもう遅く。ホップスウイングからの進化で、スタミナを一定数値消費する事により、スタミナが尽きぬ限り擬似的な『無限ジャンプ』を可能とする『天空神の加護(レプライ・ウーラノス)』の点火により空中を踏み締め、大通りの方角を眼差しながら、空中での姿勢制御や視角及び効果時間補強のヴィールシャーレと、破天爽駆(はてんそうく)による空中ダッシュ。

 

シャンフロの魔法の1つ、瞬間移動(アポート)じみた挙動をスキルで可能にする『オーバーラップ・アクセラレート』と、疾風連紲(しっぷうれんせつ)の効果時間と速度調整が更なる強化を受けた『烈風轟破(れっぷうごうは)』の速度調整ステップで軌道を描き、夕闇染まるサードレマの街並みをまるで流星の如く、ペッパーは駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此の日、サードレマには『新たな都市伝説が産まれた』。1つは『サードレマの白布お化け』、もう1つが『サードレマの黒い流星』。そして其の時の光景を見たプレイヤーの一人が、反射的にビデオ撮影を行って掲示板にアップした事により、新たな話題を呼び込む事になる……。

 

 

 

 

 

 

 






己の道は、己が作る




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味・覚・開・眼



兎御殿にて、食事を楽しめ




「よっし、上手く逃げ切ったぞ!あのステルスアタッカー、何れ御礼参りしてやる!」

 

サードレマの街並みの空を駆け、夜闇の裏路地に逃げ込み。アイトゥイルが開いたゲートに滑り込んだペッパーは、公式戦でハットトリックを決めたサッカー選手の如く、高らかに吠えた。

 

「ペッパーはん、どうしたのさ!?さっきの疾走も何か大変そうだったのさ!?」

「黒の流星じゃったのぉ…ペッパーよぅ。あやつ、姿も気配も消しておったか」

 

安全圏に来るまでに何があったかと慌てるアイトゥイルに、事の顛末を理解しているポポンガが、コートの中から出て来て各々言葉を放つ。

 

「正体が見えない敵と戦うのは、何時だって不毛って事さ……。というかポポンガさん、見えていたんですか?」

「いんや?ペッパーの発言と、ちょいとコートの中から覗き見した情報から予測を立てただけじゃよい」

 

長い時間を生きているからか、僅かな見聞きで状況把握が出来ているポポンガ。自らのレベルを落とそうが、此れくらいならば問題無しと言っているようである。

 

「さて……襲撃者から無事逃げ切れたし、約束通りティークさんの所で奢りますよ」

「やったのさ!」

「酒が飲めるわい」

 

兎御殿晩酌膳なる食は如何なる物か、期待に胸踊らせてペッパー達一行はティークの元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃ………って誰やぁ!?」

「まぁ、そういう反応するのさ」

「当然じゃな」

「あはは………」

 

影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)が外せず、其のまま兎御殿の食事処を訪れたペッパーを出迎えた料理長のティークは、見知らぬ存在に声を上げる。

 

「ティークさん、俺です。ペッパーです」

 

フードを捲り、顔を露にした事でティークは落ち着き。ペッパーは早速、本題を切り出す。

 

「ティークさん、兎御殿晩酌膳(うさぎごてんばんしゃくぜん)を3つお願い出来ますかね?」

 

ペッパーからの注文に、ティークは満面の笑みを浮かべて言った。

 

「ペッパー。おめぇさん、良いもん頼んだなぁ?」

「ウェザエモン・天津気さんとの激戦を終えたので、其の戦勝祝いにと。おいくらですか?」

「ハハハ、迷い無しか!良いねぇ、チャキチャキやないかい!兎御殿晩酌膳、一膳につき『10万マーニ』や!」

 

一膳10万マーニするとは、如何なる料理なのか。そんな期待を胸に代金を支払い、待つ事およそ1時間。

 

「御待ちやぁ!オイの特製、兎御殿晩酌膳じゃあ!」

 

ティークが運んで、各々の目の前に出されたは、抹茶蕎麦・通常の蕎麦・胡桃蕎麦と思われる、三色蕎麦に蕎麦汁と、葱・ワザビ・海苔の三種薬味。

 

小鉢には酒盗を思わす和え物に、野菜や魚の五種類の天婦羅と共に岩塩が小皿に添えられ。卵焼きと合鴨焼きらしき物に、赤身と白身の鮮度抜群の刺身、冷やされた果物が甘味として食卓を彩り。

 

そして晩酌の主役(メイン)たる酒は、日本人には馴染み深く熱燗で用いられる、陶器と猪口と共に提供され、注ぎ口からほんのりと漂う暖かく、そしてまろやかで鼻に程好く残る甘く良い香りがする。

 

「おぉ……THE・和食って感じですね」

「さぁさぁ、ペッパーはん。食べましょ!」

「そうじゃなぁ、熱燗も温い内に飲むのが一番じゃよ」

 

アイトゥイルとポポンガの催促もあり、ペッパーは皆と手を合わせて『いただきます』と合掌。先ずは蕎麦の風味その物を味わうべく、三種各々を一度ずつ其のまま食し。次に蕎麦汁に着けて、最後に薬味を加えてもう一度ずつ口に運んでいった。

 

すると、ペッパーの眼前でリザルト画面が表示される。

 

 

 

『称号【美食舌】を獲得しました』

 

 

 

(美食舌?………あれ、何だ?気のせいか、蕎麦の風味が凄く『濃く』なってない!?)

 

称号【美食舌】。シャンフロではプレイ開始時点から、味覚に制限が掛けられており、高級な食事を取っていく事によって、味覚の制限が解除されていくシステムと成っている。

 

そうして味覚制限が『完全に取り払われる事』により、初めて手にする称号こそが『美食舌』で、此れが有るか無いかではシャンフロの食事其の物の、楽しみに影響を与える程だ。

 

「美味しい…!」

「そうやろ、ペッパーはん。ティークの作る料理は普通に旨いけど、此の晩酌膳は特に酒との相性が良いのさ」

「カハハ…!いやぁ、久し振りにティークのボンの選んだ熱燗を飲んだが、やはり美味じゃのぉ」

 

熱燗として提供された陶器を慎重に手に取り、先ずは香りを嗅ぎ。悪酔いをしないよう猪口に一杯取って、口に含みゆっくりと飲む。

 

数年の熟成を経て居るだろう酒は、温められた事により『辛口』ではあるのだが、単なる辛さとは違う『美味くて辛い』の其れで。喉を通る度に身体が暖まり、酒の香りと味が口と鼻に広がり、他の料理が『欲しくなる』のだ。

 

食し、飲み、また食し。まるでカレーライスを食べているかのような、腹一杯になるまで止まらない、まるで『無限ループ』に突入して。

 

「…………はっ!?」

 

そうして気付いた時には、ペッパーは兎御殿晩酌膳を完食しており。アイトゥイルとポポンガは、其の速さに唖然としていた。

 

「もう食べ終わったのさ、ペッパーはん!?」

「おやおや、ティークのボンが作った料理と熱燗の相性は、そりゃあ抜群じゃからなぁ……。少しでも自身を制御出来んと、何時の間にか食べ終わってまうんじゃよ」

「な、成程……」

 

美食舌による称号で、味覚開眼が此処まで影響を与えるとは、ペッパー自身も思わなかった。他の料理も食べてみたい気持ちも有ったが、必要な時にマーニを残して起きたいので、今回は我慢し。

 

アイトゥイルとポポンガが食べ終わった所で、一旦休憩を挟んでくると二人に告げ、兎御殿の休憩室に移動。シャンフロからログアウトしたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……夕食は『焼きおにぎり』にしようかね?」

 

午後七時過ぎ。シャンフロからログアウトし、現実世界へ意識が戻った梓は、夕食の支度に取り掛かる。蕎麦を食べたからか、無性に和食が。麺類を食べたら、米が食べたくなるのも必然で。

 

小型炊飯器の中に余った白米を、全部取り出しボールに入れ。醤油・味醂でタレを作り、白米を投入からの混ぜ合わせて形を整え、ゴマ油を敷いたフライパンに投入。こんがりと両面と側面を焼き上げ、仕上げに薄く味噌を塗ってゴマを振り掛け。最後に余り物の沢庵や野菜のぬか漬けを添えて、コップ一杯の牛乳を用意すれば、夕食は完成した。

 

「うん、良い香りだ……」

 

スマフォで写真撮影して、温かい内に頬張る。こんがりと焼いた表面が、咀嚼する度にバリッボリッと音を鳴らし、内側のふっくらした軟らかさがクセになる。

 

「美味しい。本日も良く出来ました………と」

 

御馳走様でしたと合掌と一礼、食器と調理器具を洗浄して片付けて、歯磨きとシャワーを浴びて寝巻き姿に着替えた時、Eメールアプリに3件のメールが届いていた。

 

 

 

 

件名:A-Z、今何処に居る?

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

おーい、A-Z。クラン・旅狼のメンバーとして、リーダーのお前と早急に合流して、確認したい案件が有るんだが

 

 

 

件名:あーくんに相談

from:鉛筆

to:胡椒

 

やぁやぁ、あーくん。ペンシルゴンお姉さんだよー。単刀直入に聞くけど、何処に居るかな?旅狼(ヴォルフガング)のクランリーダーたる、あーくんと直接会って話をしたいの

 

 

 

件名:リーダーとして頑張れ

from:サンラク

to:ペッパー

 

おう、ペッパー。ペンシルゴンとカッツォが、お前を探してたぞ。其れは其れとして、今何処に居るよ?サードレマで激渋ボイスエセ魔法少女キョージュに出会って、フレ申されたんだけどよ。ついでにペッパーに出会ったら、エイドルトに来てくれって伝言受けたわ

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ………」

 

クランリーダー決めで負けたツケが、此処に来て皺寄せとなって襲い掛かってきた。オイカッツォとペンシルゴン、サンラクの全員がクラン:旅狼のオーナーとしての仕事を、要求しているようだ。

 

「えっと……『実は此方も此方で厄介な事が起きて、明日なら大丈夫だけど其れでも良いですか?』………と。送信」

 

罠である可能性も否めないが、影法師の愉快合羽の問題を解決して、装備切り替えを可能にしないといけない。送信後に布団を敷いて就寝準備をしていると、Eメールアプリにメールが届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

件名:いやマジで直ぐ来て欲しいんだが???

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

目ェ血走らせたヤベー連中が、ペッパーに合わせてくれとか、ユニーク小鎚を見せてくれとか、黒毛のヴォーパルバニーと握手したいとか、俺一切関係無いんだけど?

お前を生け贄に捧げて、快適なシャンフロライフを送るんだから、とっととログインすべし

 

 

 

 

件名:実はそうもいかないんだよねぇ

from:鉛筆

to:胡椒

 

いやね、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)の団長さんが最大火力に加えて、園長さんと武器狂いを連れて来ちゃって、収拾付かなくなりつつ有るんだよ

京極ちゃんも他のプレイヤーに絡まれて困ってるんで、あーくんがビシッと決めてくれなきゃ、悪化の一途を辿りそうなんで頑張って?

其れとクラン同士の会談になった場合、あーくんに他のクランへクラン連盟の打診をして欲しいんだ

 

 

 

 

件名:面倒な事になるぞ………

from:サンラク

to:ペッパー

 

まだ深夜帯じゃないし、早急に対応して自由になった方が良いぞぉ~ペッパァ………。あぁ、其れと規格外エーテルリアクターの修理見込みだが、ビィラックを育成して古匠にする事で解決しそうだわ

ペンシルゴン曰く、オハナシはエイドルトでやるそうだとさ

 

 

 

 

 

 

「コイツ等め………」

 

どうやら事は思った以上に深刻な様であり、他のクランメンバーも対応に難色を示しているらしい。クランリーダーとして、一人安全圏でぬくぬくと過ごすのもどうかと思い、梓は全員へ━━━━━

 

『今からログインしてエイドルトに向かうので、全員逃げずに来るように。尚、此れはクランリーダー命令なので、全員に拒否権は有りません。そして交渉事に成ったら、ペンシルゴンに其処等辺は任せたいので、よろしくお願いします』

 

━━━━━と、メールを送信。

 

気の滅入りそうな夜に想いを馳せ、梓はペッパーとなって再びシャンフロの世界へ飛び込むのだった………。

 

 

 

 






美味なる食が味覚の上限を取り払い、然れど新たな問題が来る




兎御殿晩酌膳(うさぎごてんばんしゃくぜん)

食王ティークが作り出す、夜の時間帯では最高級の食事メニュー。シャングリラ・フロンティアの中でも稀少な『和』の食事であり、厳しき自然界を生きた食材の力を注いで作った料理は、食す者に更なる力を与えるだろう。

此の料理を食べた場合、初回ならば『称号【美食舌】』を確定で入手出来る。二回目以降に食した場合、体力・MP・スタミナ・空腹度がMAXまで回復し、食事後から1時間の間ステータスを、ランダムに2つを2倍にする。






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旅する狼達は水晶に集いて、会議は始まる



集う者共




「あ、ペッパーはん!こんばんわなのさ」

「こんばんわ、アイトゥイル」

「目覚めたようじゃの、ペッパー」

「こんばんわ、ポポンガさん」

 

梓からペッパーと成り、兎御殿の休憩室で目覚めたペッパー。其処にはアイトゥイルとポポンガ、そしてサンラクにエムルが居た。

 

「お、直ぐ来たなペッパー」

「此れでもクランリーダーなんでね……。じゃんけんで負けた上、このままやる事やらずにバックレたら、サンラクは煽るでしょ?」

「良く解ってらっしゃる」

 

ニンマァァァァァと、今ならブン殴っても正義は此方に有りそうな顔をするサンラク。だが暴力を用いて訴えるのはあくまで最終手段であり、人間無闇矢鱈に流血沙汰を起こしていたら、命が幾ら有っても足らない。

 

「コホン……で、サンラク。エイドルトの何処で話し合いをするって聞いてるか?」

「其処に関してなんだが、ペンシルゴン曰く『蛇の林檎・水晶街支店』で行うんだとさ。後、俺にもアイツからのオーダーで『エムルを連れて来て』だとさ」

「其れ絶っっっっ対、嫌な予感しかしないんだが?」

「同感だわ」

 

実際パワーレベリングを共に行った際に、アイトゥイルとエムルを間近で見ていたのがオイカッツォであり、自分に対するヘイトを少しでも軽減しようと、ペンシルゴンと共謀したのだろうか。

 

「じゃあ、行きますかサンラク。其れと……逃げるなよ?」

「ハッ、お前もな」

 

御互いに釘を打ち込む形で逃がさない様にしあい、エムルが開いたゲートを使って、二人と二羽と一匹のパーティーはエイドルトに向かったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイドルトに到着し、サンラクは頭装備をエムルを隠せる様に『祭衣・打倒者の長頭巾(フェスタ・メジェ・カフィエ)』に切り替え、ペッパーは現状呪いの装備と化している影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)にアイトゥイルとポポンガを隠し、蛇の林檎・水晶街支店に到着。

 

サードレマの店と顔が同じマスターに名前を出すと、2階にある大部屋に案内され。ドアを開くと、ペンシルゴンとオイカッツォ、そして京極(キョウアルティメット)のクラン:旅狼(ヴォルフガング)メンバーが全員揃っていた。

 

「やぁやぁ、ペッパー君。直ぐに対応してくれるとは、リーダーの素質が有るよ君は」

「バックレたらバックレたで、お前等全員何してくるか解らないからな。取り敢えず、全員集合してくれたのには感謝してる」

「僕も少しくらい楽になりたいからね。まぁ、血生臭い事に成った時は任せてよ」

「其れ絶対切り捨てたいだけでしょ……」

「奇遇だな、カッツォ。俺もそんな事考えたわ」

 

サンラクが装備を切り替え、エムルはマフラーへ擬態し。他愛も無い会話を重ねてワイワイと言い合い、近況報告をしながら待つ事およそ15分。

 

ガチャリと扉が開き、ゾゾゾゾゾ……と一番最初に入ってきたのは、サードレマでペッパー・サンラク・オイカッツォが遭遇したAnimalia。ギョロリとした目玉でサンラクとペッパーを見定め、飢えた狼すら逃げ出す形相と、ガルル……と喉を鳴らして居る。

 

其の後ろにはウサ耳やイヌ耳のカチューシャ、果ては肉球グローブでコスプレした、血走る眼と飢える肉食獣の如き、呼吸を放つプレイヤー達の群れ。そして半分死んだ目をしている、レーザーカジキの姿が在った。

 

「レーザーカジキ!」

「あ、ペッパーさん!」

 

希望の光を見付けてか、真っ先にペッパーの元へと走り寄るレーザーカジキ。

 

「ペッパー、其処の彼とは知り合いかい?」

「まぁ、そうだね京極。因みに彼はフリーなんだとさ」

「え、と……其の……『姉さん』が御迷惑を掛けてたら、すみません……」

 

そしてペンシルゴンがレーザーカジキを、ジッッッ………と見つめているが、最近のアイツは大体こんな感じだから馴れた方が楽になる。そしてAnimaliaと愉快な仲間達の視線は、マフラーに擬態しているエムルに、愉快合羽の中に居る筈のアイトゥイル目掛けて注ぎ込まれていた。

 

「おぅエムル、ヴォーパル魂の見せ所だぞ」

「其れは愉快な自殺なんですわ!?」

「アイトゥイルとエムルに握手したい方、一列に並んで下さい。過度なおさわりをした場合、直ぐに取り止めますから御注意を」

「ペッパーはん……格好良い事を言ってる様だけど、根本的な解決に成ってないのさ………」

 

ペッパーが音読及び睨みを効かせて、レーザーカジキがAnimaliaに何とか交渉する事により、どうにかヴォーパルバニーとの握手会が成立。時折彼等彼女等が、度を越えた『モフり』をしようとするものの、ペッパーの目が光る事により、大事には至らず済み。

 

そして握手会の最中に他の来訪者達もやって来た。

 

「来たぞ、ペンシルゴン」

「やっほー、モモちゃん。相変わらず削ってるねぇ?」

「やかましい!?会う度に毎度の如く、指摘するんじゃない!」

 

トップクランの1つ、黒狼(ヴォルフシュバルツ)のリーダー・サイガ-100、そしてクランの切札たる『最大火力(アタックホルダー)』のサイガ-0。現実で知り合いらしい会話をするペンシルゴンとサイガ-100を見て声を掛ける。

 

「御久し振りです、サイガ-100さん」

「やぁ、ペッパー君。最強種の一角を崩したという、運営アナウンスは聞いていたよ。あの時の君が其処まで至るとはね……」

「皆のおかげですよ」

 

サイガ-100と握手を交わし、そしてSF-Zooの握手会に目を通しつつも、ペッパーはサンラクとサイガ-0の方を見る。

 

「サンラクさん、こんばんわ。えっと……最強種討伐、おめでとう………ございます」

「あ、はい。ありがとうございます、サイガ-0さん」

 

何故か張り詰めた感じであるサイガ-0に、警戒色を示しているサンラク。おそらくサードレマでの阿修羅会騒動からの救難信号の一件で、礼を言う事無く消えてしまった事を根に持ってたのだろうか?

 

「おや、私と彼が最後だったかな?」

「そうみたいですね……何とか集合時間には間に合って良かった」

 

そして最後に聞こえたのは、激渋ボイスとペッパーにとっては『聞き覚えのある声』で。見た目はロリータの魔法少女と、海賊を彷彿とさせるバンダナや衣裳に身を包む、眼鏡の似合うインテリヤクザが入ってきた。

 

「いやはや。早急に対応してくれて助かったよサンラク君、そしてペッパーく………ん?」

「………………………」

「………………………」

 

ペッパーとインテリヤクザ、もとい『SOHO-ZONE』が顔を見合い、そして叫んだ。

 

「もしかして『ソウちゃん』……!?」

「あ、まさか『アズサ』か!?」

「何てこった……!久し振り、中学以来か!?ハハハ!」

「まさかお前が話題と嵐を巻き起こしてる『ペッパー』だったなんて、なんちゅう因果だよ…!」

 

数年振りに再会した親友に、ハリウッド映画である抱擁をし合う青年二人。皆の視線が気になるが、そんな事はどうでも良かった。

 

「ペッパー君、武器狂いと知り合いなの?」

「同じ中学の同級生。武器のデザインとギミックが秀逸なんだよ彼」

「以後御見知り置きを、アーサー・ペンシルゴンさん」

 

ペコリと御辞儀をしたSOHO-ZONE。そしてペッパーはキョージュの方を見る。

 

「御久し振りです、キョージュさん」

「うむ。久し振りだね、ペッパー君。対応が早くて助かった」

「さて……全員揃ったみたいだし、早速始めようか?プレイヤーの皆さん」

 

ペンシルゴンが司会進行をスイッチして、全員が席に座りつつも、ペッパーはアイトゥイルとエムルの握手会を監視し、他のプレイヤー達を見た。

 

シャンフロ最前線を駆ける、トップクランの『黒狼』。

考察クランの最大手にして、多数のクランとの繋がりを持つ『ライブラリ』。

動物の生態を徹底的にリサーチする、動物狂いながらも確かな実力を宿す『SF-Zoo』。

独自の方程式を確立し、武器と防具の耐久値計算を可能とした『ウェポニア』。

そしてシャンフロ史上初めて、ユニークモンスター討伐の栄誉を掴みし、5人の英雄が創設した『旅狼』。

 

此処に5つのクランによる、話し合いが幕を開けようとしていた………。

 

 

 

 






話し合いが始まる




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求む者、示す者



会談が始まる




エイドルト、蛇の林檎・水晶街支店。大部屋を貸し切り、5つのクランによる会談が幕を開けた。

 

「先ず、会談を始める前に皆さんに一言。此の度クラン『旅狼(ヴォルフガング)』を結成し、クランオーナーに就きました、ペッパーです。どうぞよろしく御願い致します。

 

そしてキョージュさん、サイガ-100さん。クラン勧誘なのですが、こうしてクランを創設してリーダーとして就任し、皆自由にシャンフロをやりたいという意思の元に集まっています。皆の意思を尊重する為、クラン勧誘は残念ながら断らせていただきます。誘って下さり、ありがとうございました」

 

先制パンチはペッパーから。自身の立ち位置を明確化&クラン勧誘を断る事で、此の先の話し合いを円滑に進められるようにした。

 

「では此方も。クラン『ウェポニア』のオーナー、SOHO-ZONEです。どうぞ良しなに」

「そうか……。君の意思に変わりは無いようだ、仕方無い。改めて……御存知かと思うが、クラン『ライブラリ』のキョージュだ。よろしく」

「クラン『SF-Zoo』のAnimaliaよ」

「歯切れの良い勧誘蹴りだ、ペッパー君。私としても良い断り方だよ。さて……クラン『黒狼(ヴォルフシュバルツ)』の団長(リーダー)、サイガ-100だ。よろしく頼む」

 

一連の挨拶を経て、5つのクランオーナー達は座り、会談は始まる。

 

「では最初に、私から良いか?」

 

一番最初の質問はサイガ-100、其の視線はサンラクに注がれる。

 

「はい、サイガ-100さんどうぞ」

「単刀直入に言おう。私達、黒狼よりの案件は1つ。サンラク君が持っている『夜襲のリュカオーンに関する情報』が欲しい。其の対価として、黒狼は君の身体に刻まれた『リュカオーンの呪い(マーキング)の解呪』。及び其れを行い終える迄の『全ての段取りと費用を此方持ちで負担する事』を約束する」

「えっ、マジで?」

 

初手から黒狼は、フルスロットルで条件を提示しに来たのである。ユニークNPC・慈愛の聖女イリステラは、クラン『聖盾輝士団』や高ランクプレイヤー、果てはNPC達に囲まれて中々対面出来ない存在。其れを段取り諸々含めた、全負担を保証しに来たのだ。

 

「我々黒狼の最終目標は『ユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの討伐』。……ただ恥ずかしい事に、運良く接触出来ても、殆ど何も出来ずにやられてしまってね。ペッパー君から得たモーションを踏まえても、中々対応出来ずに居るのが現状だ」

「はぁ………」

 

サンラクがチラリとAnimaliaを見、ペッパーはアイテムインベントリに在る『星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ』を思い浮かべる。エムルとアイトゥイルの存在もそうだが、両者共にユニークシナリオEX『致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)』の受注者として、なるべく他者への情報開示は避けたい所である。

 

更に言ってしまうと、夜の時間帯に其のエリアか周辺に『夜襲のリュカオーン』が居れば、確定遭遇(・・・・)を可能にする正真正銘の鬼札たる星皇剣グランシャリオは、意地でも開示出来ない『禁断級の超劇薬』だ。存在がバレたならリュカオーン独占等の難癖で、黒狼との対立コースは不可避になるだろう。其れだけは何としても避けたい所だ。

 

「…………おそらくだが、ユニークモンスターは『普通の方法』じゃ倒す事は不可避、だと思う。例えば俺達が討伐した『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン』に関しても、専用の『ユニークシナリオ』を受注しないと挑戦出来なかったからな」

「そうだね。ユニークモンスターは、ユニークシナリオEXの中核を担う存在。そして夜襲のリュカオーンは御存知の通り『ランダムエンカウント』だから、挑めても何かしらの『フラグ』を建てないと、倒せない可能性は大いにある。ただ現状、其のフラグに思い当たる節は何処にも無いし、他『ユニークモンスター』達もフラグを探さないと、討伐には到れないと思うよ」

 

ペンシルゴンの補足に、むぅ……と顔をしかめたサイガ-100だが、ペッパーは既に『5体』、サンラクは『4体』のユニークモンスターの存在を把握している。そして二人は、自分達の身体に引っ付いたリュカオーンの呪いを、一次的とは言え『相殺』可能な毒を持つ存在を、ペッパーはヴァイスアッシュより、サンラクはペッパーから聞き得ている。

 

其のユニークモンスターの名は『無尽(むじん)のゴルドゥニーネ』。自分達がレベルカンストに至れば、其の毒を取りに行ける為、レベル99到達は目標の1つである。

 

「そう言えばサイガ-100君。家の『家内(かない)』が迷惑を掛けていないかな?」

「あぁ……『マッシブダイナマイト』さんですか。最大火力獲得の為、今日も頑張っていますよ」

 

クランメンバーの話なのだろうが、サイガ-100とキョージュの関係も気になる所ではある。

 

「………俺もリュカオーンに関して知ってる事は少ないし、ペッパーとモーションが被ってるかもしれねぇが、其れでも良いか?」

「構わない。呪いを受けた戦闘経験者(プレイヤー)からの情報は、非常に大きい。何より別の視点から見れば、新しい発見が有るからな」

 

「成程な……」とサンラクは暫く考え、そしてリュカオーンのモーションをサイガ-100に説明していく。

 

「じゃあ始めるが………先ず、アイツの物理攻撃は予備動作が少なく、発生も並のボスより遥かに速い。だが、基本的には前足攻撃は『斜め・縦・横振り』の三パターン。後ろ足の蹴りは『ヤクザキック』だけ。どっちの足もディレイを当然の権利の如く多用してくるが、ああ見えて結構な具合に『安全地帯』が多い。

詳しくは後で説明するとして……厄介なのは『噛み付き』だな。というか、物理攻撃は『デフォルト』で破壊属性を帯びてる。食らったら普通に食い千切られるし。

他にも『影』を利用して、黒い棘を針山みたいに出現させたり、アイツが夜空に吠えると『金縛り』が働いて動けなくなったりとか。後は━━━━━━」

「ちょ、ちょっと待ってくれサンラク君」

「ん?」

 

話を続けようとするサンラクに、サイガ-100は声を震わせる。

 

「君は『一度』しかリュカオーンと戦って居ないのだろう……!?其の一度の戦いで『其れだけの情報』を分析したのか……!?」

「あー……コイツ変態なんだよ、あんまり気にしない方が良いよ」

「おいバカッツォ、変態は余計だろうが」

「半裸で鳥頭だからねぇ、彼」

「京ティメット、テメェ後で覚えとけ」

「はいはい。其処の外道組、ハッスルしてないで落ち着いて」

 

一触即発の気配漂うも握手会を処理しつつ、ペッパーが仲裁に入って事を荒立たせないように努めており、サイガ-100はペッパーとサンラクの二人を見つめ、思う。

 

(ペンシルゴンやペッパー君とつるみ、リュカオーン相手に呪いを二ヶ所受けたプレイヤー……か。成程、サンラク君。……今後も君はペッパー君共々やらかして(・・・・・)くれそうだな)

 

ほんの少しサイガ-100の口角が上がり、しかし直ぐ様自然体へと戻る。

 

「すまない、続けてくれ」

「あぁ。………そういや1つ、俺にも『解らない事』が有るんだよな」

「解らない事?」

 

コクリと頷き、サンラクはリュカオーンについて語り出した。

 

「リュカオーンと遭遇する前、俺は『レッドキャップゴブリンの群れ』と戦ってたんだ」

「レッドキャップゴブリン?」

「夜の時間帯にだけ出現する、赤い布着けたゴブリンでな。通常種よりずっと狡猾でフェイント入れてくるわ、群れで襲ってくるわで大変だった。で、其の群れをリュカオーンは『真正面』から薙ぎ払い、俺の前に姿を現しやがった」

 

サンラクの説明に疑問を抱いたのは、レッドキャップゴブリンの事を聞いたペッパーと、其の異質さ気付いたオイカッツォだった。

 

「正面から?背後からじゃないの?」

「確かに変だな……シャンフロのモンスターって確か『フィールドに突然ポップ』する事は無かった筈だよ」

「気紛れなのかは知らないが、其の時のアイツはそうやって俺と対峙してきた。だが、問題は其処じゃねぇ━━━━不意打ちとは言え、其の巨体で吹っ飛ばされる迄、俺は奴の存在(・・)に気付けなかった。そんな事ってフツー有り得るか?」

「サンラクにしては『らしくない』な……」

 

室内に満ちる暫しの沈黙、そして口を開いたのはサイガ-100。

 

「敵の仕様上、其れは有り得ないな。……だとすると、サンラク君が体験したのは『リュカオーンの何らかの能力によるもの』である可能性が高い、と?」

「だと思う。………流石にリュカオーンに関して、解ってる事が少な過ぎる。せめて1か2回戦えば、何かしら掴めそうだけど……」

 

夜襲のリュカオーンに秘められた能力は未だ謎が多く、攻略の糸口を見出だすには至れないようだ。語る事を語り終え、フー……と息を付いたサンラクと、リュカオーンの特性を考察するペッパー。

 

早く話し合い終わらなかなぁと考える呆け顔のオイカッツォに、自身の刀の刃が欠けていないかチェックする京極、そしてニヤニヤと何か企んでいるペンシルゴン。

 

そんな五人を見て、サイガ-100は微笑みながらに言った。

 

「成程、ありがとうサンラク君。私の質問は此れで終わりだ」

「おぅ、どーいたしまして」

 

軽いノリで答えたサンラク。そして次なる質問が来る。

 

「じゃあ次は私で。良いですかね、Animaliaさん?」

「えぇ、構わないわ。私は今、凄く幸せだからね♪」

 

此処まで大多数に握手をさせられ、若干お疲れ気味のアイトゥイルとエムルを両手で握手しつつ、満面の笑みを溢すAnimaliaは、随分と幸せなそうな御様子だ。

 

「オホン……では、ペッパー君。我等『ウェポニア』のオーダーは、貴方に対しての物になります」

 

ウェポニアと武器狂い(SOHO-ZONE)。胡椒争奪戦争の情報によれば、武器や防具の耐久値を徹底的に調査及び研究し、独自の理論で方程式までも産み出した程のクラン。そして其のクランオーナーは自分の知る限り、武器や防具に関して一際真剣で、真摯な姿勢を貫く男だ。

 

「我等が求めるのは、小鎚のユニーク武器『マッドネスブレイカーの情報と本体の譲渡』。もしくは『影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)本体の譲渡』を要求します。片や武器其の物の研究が進んでいない事に加え、現状唯一のカテゴリー内ユニークですからね。そして愉快合羽其の物も、研究と実験に用いたいのです」

「成程……」

 

マッドネスブレイカー其の物は三つの成長派生形態へ育成してしまった為、現在は存在して無い。だが、自分の手元には『ロックオンブレイカーの製造秘伝書・改参式』があり、其れを用いれば作り出す事も可能になる。

 

そして影法師の愉快合羽は現在、呪いの装備と化して外す事は出来ないので、消去法でマッドネスブレイカーに関する情報を開示するしか無いだろう。

 

だが、ウェポニアは。SOHO-ZONEは。此の場に居た全員が予想だにしなかった、とんでもない切札で勝負に出たのだ。

 

「もし、此方の要望を受け入れて下さるなら。ペッパー君個人に、我等ウェポニアが手にしている切札。盾の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディス』を譲渡する用意があります」

 

━━━━━━━━と。

 

 

 

 






示せ、己の手札の価値を




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勇者武器の取引、園長の要求



会談はまだまだ続く




「もし、此方の要望を受け入れて下さるなら。ペッパー君個人に、我等『ウェポニア』が手にしている切札。盾の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディス』を譲渡する用意があります」

「勇者武器?な「「盾の勇者武器(だと)!?」」うぇぁい!?」

 

武器狂いの異名を持ちし、クラン・ウェポニアのオーナー『SOHO-ZONE』の爆弾豪速球に、ペッパーが反応するよりも更に早く、サイガ-100とペンシルゴンの双方が声を上げた。

 

「え、マジで?マジで持ってんの武器狂い?」

「はい。何せ所持者を出さないように厳重管理と、発見した場所にウェポニアのクランを建てた程ですから。いざと言う時に備えておきました」

「まさか他にも勇者武器が在ったとはな……」

 

二人がウムム……としているので、ペッパーは改めてSOHO-ZONEに話を聞いてみることにする。

 

「あー……えっと、SOHO-ZONEさん。勇者武器って何ですか?」

「あ、其処からですか……コホン。勇者武器と言うのは、シャンフロ内でも現状『6種類』しか確認されておらず、各武器種に1つずつ存在すると言われる、ユニーク何たるかを体現するアイテム。各々を装備すれば特殊な職業として『勇者』が解禁され、そして勇者武器達は『原始的かつ根源的な願い』に答え、世界が鍛えて作られた(・・・・・・・・・・)という物なんです」

 

武器狂いの説明だけで、ライブラリのキョージュの目がキラキラに輝いており、逆にペンシルゴンはハッスルし始めて、面倒臭くなったエセ魔法少女を遠い目で見ている。

 

「今現在判明している勇者武器の所持者は『5人』。先ず廃人狩りのペンシルゴンさんが持つ、槍の勇者武器『聖槍(せいそう)カレドヴルッフ』。

黒狼の団長たるサイガ-100さんが所有している、剣の勇者武器『聖剣(せいけん)エクスカリバー』。

同じく黒狼に在籍している草餅さんが、弓の勇者武器『聖弓(せいきゅう)フェイルノート』を。

現在活動しているプレイヤーの中では、最高峰の鍛冶師として知られるイムロンさんが、槌の勇者武器『聖槌(せいつい)ムジョルニア』を所持し。

最後に火酒夏(カシューナッツ)さんが所有する、杖の勇者武器『聖杖(せいじょう)アスクレピオス』となっています」

 

つまり剣・槍・弓・槌・杖の5種類だと思われていた勇者武器に、新たに盾が加わった事でペンシルゴンとサイガ-100は驚いた………という訳らしい。

 

(さて、どうしようか………)

 

勇者武器というユニークアイテムを、マッドネスブレイカー本体と情報を提供すれば入手出来るが、SOHO-ZONEの説明からペッパーは自身が提示する物が『価値として吊り合わない』と感じた。

 

無論勇者武器其の物にも興味は有り、盾を用いた新たな戦法やスタイルを模索するのにうってつけである。故にこそ。武器狂いを相手に、此方も保有している手札の1つを切りに行く。

 

「………SOHO-ZONEさん、今俺の手元にはマッドネスブレイカーは在りません。ですが、マッドネスブレイカー……其の前身である『ロックオンブレイカー』。其のユニーク小鎚を産み出す『製造方法及び特性』を記載した『秘伝書』。其れを御見せする事ならば、出来ます」

 

そうして掌に現れた『ロックオンブレイカーの製造秘伝書・改参式』を手に取り、ペッパーはSOHO-ZONEへ見せる。

 

「本、ですか?」

「此れは俺でないと鍛冶師がロックオンブレイカーを作れず、アイテムインベントリに含まれていない上、PKによって手元から離れる事もない代物です」

 

「成程……」と彼は本を手に取って、示された内容を黙読。そして書かれてある内容に、段々と目を丸く徐々に口が開いていく。

 

「ハハハ……!とんでもない武器だ、マッドネスブレイカー……!此程とは畏れ入る……!因みに材料と料金を持ってくれば、ペッパー君に生産依頼をしてもよろしいか?」

「はい、大丈夫です」

「解りました。取引成立と行きましょう」

 

差し出された手を握り、此処にウェポニアとペッパーの交渉は終結した。

 

「SOHO-ZONE君、随分と上機嫌だな。あの本は相当な物だったと御見受けするが」

「えぇ、えぇ。シャンフロには、まだまだ私の知らざる武器が沢山有ったのだと解ったので、調べ尽くせる幸せを犇々と感じましたから」

 

ホクホクかつ満面の笑顔で自分の席へ戻ったSOHO-ZONEを見て、サイガ-100はペッパーの持つ本が気になる様子である。

 

「私からの交渉は以上ですよ、Animaliaさん」

「其れじゃあ私ね。ではペッパーさん、そしてサンラクさん。始めに宣言して置くけれど、SF-Zooは可能な限り貴方達の要望を『全て呑む用意が有る』わ」

「む……」

「成程」

 

やられた、会話の主導権を相手に握られたと、ペッパー&サンラクは思った。初手から自分達が繰り出せる『最高の手札』をぶつける事で、交渉を優位に進める手口をドラマ以外で初めて見せられた気分だ。

 

「ペッパーさん……サンラクさん……」

「大丈夫だ、レーザーカジキ。そして其の条件と引き替えに、君のお姉さん……Animaliaさんが求めているのは『ヴォーパルバニーをテイムするクエストの開示』。もしくは……」

「其のヴォーパルバニーの故郷『兎の国・ラビッツへの再訪問の方法』……って所か?」

 

サンラクの発言に、Animaliaの目の色が変わる。此れに関しては『墓守のウェザエモン戦』の前に、サンラクと出逢う機会が有ったので相談済みだ。動物好きな彼女とSF-Zooの面々なら、ヴォーパルバニーの国に再度来訪出来る様になれば十分過ぎるだろう。

 

「其れに関しちゃ、当人……いや当兎かな。エムルに話を聞いた方が早いと思うんだよ。だから握手してる、其処の二羽を返してくれると助かるんだが………良いか?」

 

サンラクの要求に、Animaliaは数分程悩みに悩んで悩みまくり、名残惜しそうに兎の姉妹達を解放して、各々付き人の元へと戻る。

 

「なぁ、エムル。質問良いか?」

「はい、サンラクさん。何ですわ?」

「確かラビッツって、時々プレイヤー……じゃなくて開拓者達を招いて『蛇退治』をさせてるって話をしてたよな?つまり、ラビッツって別に『人間立入禁止の御断り』って訳じゃ無いだろう?」

 

レーザーカジキも先日受注した『ユニークシナリオ【兎の国ツアー】』。致命の名を冠する武器で、自身よりレベルの高い敵モンスターを倒す事で発生する、初心者クリア推奨のユニークシナリオであり、同じくユニークシナリオだが、幾度も訪れられる『兎の国からの招待』以外では兎の国・ラビッツを訪れる事は出来ないとされている。

 

そしてどさくさに紛れ、1人逃走を企てたオイカッツォは京極(キョウアルティメット)によって確保され、再び席へ強制着席させられていた。

 

「多分そーだとは思い、ぴぁっ……」

「かわゆい……はぁ………」

「………エムル、アレは無視した方が良いのさ」

 

水晶らしきアイテムで、アイトゥイルとエムルを撮影しているAnimaliaに対し、危機感を抱くエムルに助太刀するアイトゥイルだが、寧ろ逆効果となってしまいデロンデロンの放送事故気味の笑顔をしている彼女に、此の場に居たほぼ全員がドン引きの表情をしている。

 

「でだ、エムル。一度蛇退治に招いた連中を、もう一度ラビッツに招待する……なんて事は出来るか?」

「むむむむ………其れはラビッツの『せーじ』に関わるので、何とも言えませんわ。でも、サンラクさんがお願いすれば、何とかなるかもしれませんわ!『エードワード』おにーちゃんは『じゅーなんなしこーのいんてりー』なんですわ!」

 

アイトゥイルから聞いた事の有るペッパーは、ビィラックやシークルゥに並ぶ実力者、そしてヴァイスアッシュの長男坊たる、エードワードの存在が俄然気になってきた。

 

「今から聞く事って出来たり?」

「はいな!其れはもう迅速に、そしてじっくり聞いてきますわ!」

「あぁ………」

「ペッパーはん、失礼するのさ」

「はいよ」

「アッアッア………」

 

明らかにAnimaliaを恐れている雰囲気で、エムルは木造の壁にゲートを創り出し、脱兎の如く逃げ去っていき。1羽残されたアイトゥイルは、ペッパーの愉快合羽の中へと潜り込んで避難し。其の様子を見ていたAnimaliaは目に見えて解りやすい、落ち込んだ表情でションボリとしている。

 

「………というらしいんだが、ラビッツ再来訪はエムルが話を聞いて、戻ってくるまで保留って事でも良いか?」

「むぅ、仕方無いわね………」

 

取り敢えず、Animaliaの用件に対する時間稼ぎは出来たので、良しとしておこう。そして最後にペッパー達が見つめる中、此処まで発言をしてこなかったライブラリのクランリーダー・キョージュが、遂に口を開く。

 

「さて……最後は私だね。ライブラリが求めているのは『墓守のウェザエモンに関する情報』だ。クランメンバー達が様々な考察を出し合い、議論を重ねてはいるが、どのような存在で如何なる背景を持っているのか、一切判明していない完全未知のユニークモンスター」

 

そう言いつつ、キョージュはユニークモンスターの名前を呟き、情報を此の場に居る全ての者達に伝達する。

 

「七つの最強種『夜襲(やしゅう)のリュカオーン』・『天覇(てんは)のジークヴルム』・『深淵(しんえん)のクターニッド』に続き、先日にライブラリと繋がりを持つ調査員のプレイヤーの1人が『冥響(めいきょう)のオルケストラ』という、七つの最強種の一角の存在を突き止めた。

が、君達が討伐した『墓守(はかもり)のウェザエモン』と同様に、ユニークモンスター達に関して解らない事が多過ぎるのだよ」

 

故にと。キョージュはペッパーを、サンラクを、オイカッツォを、京極を、ペンシルゴンを見て、こう言ったのである。

 

「此れは私の予想でしかない(・・・・・・・)が、君達は墓守のウェザエモンを討伐した事で、ウェザエモンに関する『何かしらのアイテム』を。そうだね……もっと解りやすく言うならば、だ」

 

 

 

 

 

ウェザエモンの背景に関する情報を記載した物(・・・・・・・・・・・・・・)を手にしているのではないかね?

 

 

 

 

 

 






最後に立ち塞がるは、最強クラスの舌戦人




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誰の掌で踊っているか、誰が踊らされているか



最後の相手、キョージュ




「此れは私の予想でしかない(・・・・・・・・・)が、君達は墓守のウェザエモンを討伐した事で、ウェザエモンに関する『何かしらのアイテム』を。そうだね……もっと解りやすく言うならば、だ。

ウェザエモンの背景に関する情報を記載した物(・・・・・・・・・・・・・・)を手にしているのではないかね?」

 

改めて思うが、此の『狸ジジイ』は厄介極まりない。其れがアーサー・ペンシルゴンが抱く、キョージュというプレイヤーの印象である。

 

自身と同じく言葉巧みに他者を翻弄し、人を動かす根っからの策士型の人間で、一見双方共にメリットが吊り合いが取れた様な交渉結果でも、其の実自分の方が取分が多く成るようにしてしまう、口が回る人間なのだと。

 

(さぁて、どうしようかねぇ………)

 

ペッパーが借金を建て替えてくれたお陰で、晴れて1プレイヤーとして再出発を果たしたペンシルゴンは、キョージュに世界の真理書【墓守編】を見せるか否か思考を重ねる。

 

現状ウェザエモンを討伐した5人のみが持ち、彼の背景や誕生に至る経緯。そしてペッパーが保有しており、クラン:旅狼(ヴォルフガング)の『切札』の1つ、ユニーク一式装備の『悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)』の存在が記載された、考察クランからすれば金銀財宝の宝の山に等しい書物。

 

オマケにサイガ-100が、園長と一緒に連れて来た武器狂い、ウェザエモン由来の一式装備の存在が知られれば、武器や防具に関してキョージュやAnimalia以上(・・)に面倒臭くなるプレイヤーも居る。

 

(一丁、おねーさん頑張ってみましょうか!)

 

交渉諸々をペッパーから信用され、任されたペンシルゴンはキョージュが見つめる中、アイテムインベントリから世界の真理書【墓守編】を取り出す。

 

「流石考察クラン(ライブラリ)のリーダー、御明察だよ。どうやらユニークモンスターを討伐すると、其の根源や世界背景を知る事が出来る、書物が貰えるみたい」

 

真理書を持つ手首をふりっふりっと揺らしながら、挑発的な視線をキョージュに送るペンシルゴン。

 

「ほぅ、其れが……!」

「名前は『世界の真理書【墓守編】』。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンに関する、超に超と超が付く物凄っっっっっごい貴重な書物。でも、私達からすれば『不特定多数』には絶対に(・・・)開示したく無い代物なのよねぇ……」

 

ねっとりボイスでニヤニヤと微笑み、ペンシルゴンは真理書を開いては閉じて、目をキラキラと光らせるキョージュを見る。

 

「でもでもぉ……此の情報を正しく扱い、大事な記載箇所を秘匿すると約束してぇ。其の価値(・・)に応じた金額を支払って下さるなら、御見せしても良いですけどぉ~……どうしますぅ?」

「よ、よし!幾らだ!幾ら払えば見せて貰える!?」

 

ペンシルゴン特有の御得意ムーブに、キョージュは乗っかり早速金額交渉に入った。

 

「エグいな、ペンシルゴン」

「同意だな」

「アレは全部を見せずに、部分的な課金させていく奴だね」

「どのくらい搾り取るつもりなんだろうか?」

 

悪どい事をしているが、貴重な情報ともなれば端金で見せる程、ペンシルゴンも愚かではない。キョージュが百万単位で見ようとすれば、此処から先は更に数百万必要だねぇと言って、超重要文面となれば億は下らないと言いながら、終始ペースを握り続けて。

 

「グム、グムム………!………ムムムムム………ッ!よし、解った!じゃあ『3億マーニ』だ!超極秘情報は秘匿を約束する!だから3億マーニで見せてくれ!此れ以上は流石に払えん!」

「オッケー、交渉成立ー♪」

 

清々しい満面の笑顔でペンシルゴンが付き添うようにして真理書をキョージュに見せ、激渋ボイスのエセ魔法少女は食い付くように書物を見ている。

 

「ペンシルゴン、因みにどのくらいキョージュさんから金を取ったんだ?」

「合計『5億マーニ』だね。ホントはもうちょっとむしり取りたかったけど………まぁ仕方無いか。あ、此処等辺は秘匿してね?おじーちゃん」

「さっすが魔王。容赦ねぇ」

「えっぐいなぁ。何時もの事だけど」

 

其れなりに長い付き合いのペンシルゴンのやり口に、サンラク・オイカッツォはある種の安心感を抱いていた。

 

そしてキョージュは、パッチリ目を一際キラッキラのキンキラリンに光らせて、何とか真理書を買わせてくれないかと交渉するも、ペンシルゴンは素晴らしい笑顔と共に「だぁめ♪」と一刀両断しきってみせた。

 

「………まぁ、今回の交渉で得られたマーニはクランの運営費に充てるから、安心して頂戴な。………最後に我等旅狼(ヴォルフガング)のリーダー・ペッパー君から4クランに対して『打診』が有るんだ」

 

当初の予定通り、ペッパーが立席し。そして彼は数拍の間を置いた後、4クランのリーダーに向けて、こう言った。

 

「旅狼の打診は、此処に集まっていただいた黒狼(ヴォルフシュバルツ)・ライブラリ・SF-Zoo・ウェポニア。此の4クランと『クラン連盟』を構築したいです」

『!?』

 

旅狼のメンバーを含め、クランリーダーに関係者全員が、ペッパーの発言により視線が注がれる。クラン連盟とは、プレイヤー同士で結ぶフレンド機能を、クラン同士の領域まで拡張した物であり、連盟が成立すれば互いのクランが保有する施設や特権を利用出来るようになるのだ。

 

「旅狼は結成したてで、此の世界の中(シャングリラ・フロンティア)でも木っ端の存在です。此の世界で最前線を走り、様々な経験・活動をしている皆さんに御指導御鞭撻を頂きたい………そう思っております。よろしく御願い致します」

 

クランリーダーとして、一人のプレイヤーとして。先輩プレイヤーに対する敬意を、彼は忘れない。堂々と頭を深く下げ、連盟構築を願い出たペッパーに、4クランのリーダー達は━━━━━

 

「………良いだろう。ペッパー君」

「………私も断る理由は無いね。活動其の物に支障が出る訳では無さそうだ」

「此方も別に構わないわ。まぁ、SF-Zooの要求はまだ叶ってはいないけれども」

「私も同意です。ペッパーさんとロックオンブレイカーを含む、ユニーク小鎚を製作を依頼する以上は連絡手段が欲しいですから」

 

彼の誠実な姿勢を良しとしたのか、すんなりと。おおよそペンシルゴンの思惑通りに事が運ぶ形と成って。

 

「連盟の誓いを結びましょう」

 

発言者のペッパーが音頭を取り、クラン連盟に置ける『幾つかの約束事』を立て。今日、此の日、此の瞬間。5つのクランによる『5クラン連盟』が結ばれる事に成ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラン連盟の盟約を結び、ペッパーはSOHO-ZONE・Animalia・サイガ-100とフレンド登録をして、クランリーダー間の連絡を取り合えるようにし。サンラクはサイガ-100に伝え損ねていた、夜襲のリュカオーンの攻撃の安全地帯に関する説明を終えた。

 

そうして4クランが蛇の林檎・水晶街支店を去った後、残った旅狼の5人はペンシルゴンが頼んだケーキを食しつつ、一息付く。

 

「まぁ、当然と言えば当然なんだけど『ウェポニア』以外のクランは、私達の事を多少なりとも『下に見てる』訳なのよね」

 

トッピングされた果物をフォークで刺し、口に運んだペンシルゴンが言う。

 

「盾の勇者武器……もとい、文字通り自分のクランの切札を交渉材料に、ペッパー君のユニーク小鎚の情報と製作依頼を取り付けた、武器狂いは良いとしておいても……だよ。黒狼は黒狼でサンラク君の事は、多少評価はしてる気がするけど、足元を見てたし。

まぁ彼処に関しては、ウチの愚弟並みに拗らせた選民主義者共が集まってて、ワチャワチャしてるから『モモちゃん』も意思統一に苦心してるし、気持ちは解らなくも無いんだけどさ」

「別にリュカオーンの攻撃モーションくらいなら、教えてやっても良くない?ペッパーも教えてたくらいだしさ」

 

鳥面の下嘴を開けて、ケーキを内側に突っ込んだサンラクに、ペッパーは同意するように頷いたが、「其れは違うよ」とオイカッツォが口を開く。

 

「プロゲーマーの俺が言わせて貰うけど、此の御時世で敵の動きが解るって言うのは相当な価値を秘めてる。ましてや、シャンフロのユニークモンスターともなれば、其の価値は値千金なんて話じゃない。頑張って治せる状態異常とは違うし、下手すれば数百万マーニを要求したって、文句は言われないし言わせない力を秘めてるんだから」

「………あぁ確かに」

「其れもそうか……」

 

オイカッツォの言う事も、また真実だ。何せ最新の対戦相手のプレイスタイルや戦術が、情報として金銭取引される程、プロの世界も相当なのだから。

 

「というか、オイカッツォ。君プロゲーマーだったんだ」

「まぁね、あんまり口外してないけど」

 

そしてオイカッツォの職業を初めて聞いた京極(キョウアルティメット)が反応し、彼も普通に答えた。

 

「そゆことだよ、サンラク君。ライブラリはウェポニア程じゃないけど、まだ良い方(・・・)ではある。問題はSF-Zooと園長さんだね。アレは端的に現すなら『蝗の群れ』だよ、プレイヤーとNPCの区別が出来てない」

「其れは俺も思ったな。握手会を見ていたけど、隙有らばモフろうとしてたし、レーザーカジキの仲裁も有ったから大人しくはしていたが、アレは『枷』やら『ブレーキ』やら『手綱』が無いと、とんでもない事になる」

 

エムルとアイトゥイルは握手中、時折死にそうな顔をしていたので、相当なプレッシャーが掛かっていただろう。もしラビッツに再来して、永住権を獲得しよう物なら、サンラクと自分に対するヴァイスアッシュや兎御殿のヴォーパルバニーの好感度にも悪影響が及び兼ねない。

 

「サンラク君が『何のユニーク』を隠してるかは、聞かないで置くけどさ。其れが私達以外の、他の連中の手に渡るようなヘマをしないで欲しいんだよ。そしてペッパー君も、今進めている『ユニーク関連』も同様にね」

「………其のつもりだよ」

「あぁ、勿論」

 

ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】。

ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】。

ユニークシナリオEX【致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)】。

 

何れも此れも、シャンフロに置いて絶大な影響を与える代物ばかりだ。成るべく隠し通しておきたい。

 

「まぁペッパー君のお陰で、当初の目的は果たせたから良しとしようかな」

「あの4クランとの『クラン連盟かい』?ペンシルゴン」

「そう!其の通りだよ、京極ちゃん!此れで私達は他クランの恩恵や権利を受けられる様に成った訳さ!」

「まさか全員一致の承認とはなぁ……」

「案外あっさり決まったし、絶対何か企んでそうだ」

 

あまりにもすんなりと決まったクラン連盟。プレイヤー間で発足するのがクランであるなら、連盟はクラン同士で結ぶ様な物である。

 

「彼方からすれば『便宜を図るから情報頂戴』って感じなんだろうけど、此方もそう易々と情報を渡すつもりは無い。そしてクラン:旅狼は今現在、複数の切札を持っている。其の1つ1つが廃人クラン達が必死こいて積み重ねた物を、一発でブッ壊せるくらいのモノをね」

 

ニヤニヤニマニマと笑い、ペンシルゴンはクランの持ち札を示していく。

 

「1つ目。一番最初にユニークモンスターを討伐した事で、私達はバハムート達という情報を手にした。

2つ目。格納鍵インベントリア内に有る、様々な武装にパワードスーツとロボットを保有している。

3つ目。墓守のウェザエモン由来の一式装備とロボットホースの天王ちゃん、そして空を飛ぶ力を持つユニーク籠脚(ガンドレッグ)を、ペッパー君が所持している事。

4つ目。ロックオンブレイカーの製造秘伝書をペッパー君が持っているので、彼に頼まないと生産出来ず、ユニーク小鎚生産権を旅狼が実質的に独占している。

5つ目。ペッパー君が持つエンハンス商会の会員証によって、普通なら行く事が出来ない商会内の会員専用エリアで買い物が出来る。

6つ目。サンラク君がエーテルリアクターを直す過程で、どうやらラビッツの鍛冶師を育成出来れば、私達が古匠(こしょう)を実質独占出来るという事。

7つ目。兎の国・ラビッツへ行く為の条件を含んだ、ラビッツ関連の情報をサンラク君が握っている事。

8つ目。其れ等諸々含めて、次のユニークシナリオに王手を掛けてるのは私達だという事」

 

他にも夜襲のリュカオーンを誘き寄せられる残照持ちの武器だったり、レディアント・ソルレイア含む天覇のジークヴルムを模倣した一式装備、光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)が有ったり、他のメンバーも何か隠している可能性もあるが、大体はこんな所だろう。

 

「切札は匂わせるだけでも『力』になるし、そして『情報』は人を簡単に殺せる。結成して1週間にも充たない私達5人がトップクラン達に貢がせ、常に先を突っ走り続けられる………其れって『最高に楽しい』と思わない?」

 

最高に悪い顔で、まさに此の瞬間シャングリラ・フロンティアの世界を、最も楽しんでいるのは自分だと言わんばかりに、ペンシルゴンは微笑む。其の姿は昔、小さな頃の一緒に遊んでいた時に見せた、永遠(トワ)の笑顔であり。

 

「悪い顔してるね、ペンシルゴン」

ユナイト・ラウンズ(世紀末略奪ゲー)では鞭が強すぎたからねぇ……。飴も踏まえて、上手くバランスを取らないと」

「コレ最終的に俺達全員悪いって流れで、討伐されてクラン崩壊の流れじゃない?」

「攻め立ててくるなら、逆に全員斬り捨てれば解決じゃん」

「全責任俺が背負う羽目になりそうなんだが……」

「そん時はお前等売って、ラビッツに亡命するわ」

 

悪巧みを始めたペンシルゴンに、皆各々思う事を言い合って。そして蛇の林檎・水晶街支店を退出し、現地解散の形で全員別々の方向へ歩いて行った。

 

そしてペッパーも、装備解除不可能状態に陥った影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)を何とかする為の予定を、現実世界に戻ってから組むべくアイトゥイル・ポポンガと共に、兎御殿へ帰還。

 

休憩室のベッドにてセーブを行い、此の日のシャンフロを終えたのであった………。

 

 

 

 

 






旅狼の持つ切札達



旅狼のリーダー・ペッパーから見た他クランの印象



黒狼:サイガ-100とサイガ-0を中心に、強いプレイヤーが揃っている実力派クラン。リュカオーンに関する事になるとグイグイくる。ペンシルゴンが団長と知り合いらしいから、交渉時は彼女を主軸に立てて対応しよう。


ウェポニア:SOHO-ZONEことソウちゃんは、中学時代の知り合いであり、武器や防具に関した約束はキッチリ守る人柄なのは知っている。程好く付き合いつつ、互いに利となる関係に成れれば上々。


ライブラリ:もしもペンシルゴンと出逢わなかったら、彼のクランに入っていたかも知れない。世界の真実には興味も有ったし、キョージュさん本人は悪い人じゃ無いのは感じたので、もしもが有り得たなら別の道が有ったかも………。


SF-Zoo:レーザーカジキから話は聞いていたが、実際に見聞きして一番ヤバい連中だと確信。ラビッツに悪影響が出かねないので、上手い事交渉時期を伸ばしつつ、及第点を探りたい。もしくはレーザーカジキを旅狼に引き込んで、Animaliaさんのブレーキ役を担って貰うのも有りか。






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半裸の鳥頭、水晶の地にて友に出逢う



タイトル通りです




旅狼(ヴォルフガング)黒狼(ヴォルフシュバルツ)・SF-Zoo・ウェポニア・ライブラリによる、5クランの話し合いと連盟締結、そして現地解散から十数分後。クラン:旅狼のメンバーの一人、サンラクは現在単独行動を取り『奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)』にやって来ていた。

 

「フッフッフ……人って生き物は『やるな』と言われたなら、やりたくなってしまうもんなんだよなぁ?」

 

しかし彼の目的地は渓谷に有らず、瘴気の霧満ち充ちる渓谷の()に在る━━━━『水晶巣崖(すいしょうそうがい)』を目指している。

 

 

━━━━━彼処には水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)っちゅう、わっちやエムルでも手に負えん、とんでもない奴等が居るけぇ。出逢ったら、袋叩きで一貫の終わりじゃの。

 

 

ビィラック・エムルと共にパーティーを組み、奥古来魂の渓谷を攻略する最中、ヴァイスアッシュの長女が言った其の言葉をサンラクは覚えていた。パーティーを組んだビィラックのレベルが98であり、彼女が一貫の終わりと言った事から察すると、水晶群蠍達のレベルは確実に100オーバーと見て良い。

 

「んじゃ、登りますかね!」

 

艘跳びの強化により到達した、軽戦士必須級スキル『遮那王憑(しゃなおうつ)き』と、スキルレベル1に付き十秒間、壁や天井に足の裏が接している場合、重力を変更する合成スキル『グラビティゼロ』を起動させ、サンラクは三角跳びの要領で渓谷を跳ね上がっていく。

 

渓谷を登り、グラビティゼロの効果が切れ、すかさずグレイトオブクライムの進化スキルたる、『トライアルトラバース』で崖を駆け上がり、遮那王憑き終了前に霧を抜けて登頂に成功。そうして彼の目の前に広がるは、辺り一面が水晶で構築された神秘のフィールド・水晶巣崖に到着する。

 

「おおぉ……随分と足場が最高(最悪)じゃねーか」

 

大小太細異なる水晶により、まるで迷宮となった其処に、サンラクは恐れる事無く足を踏み入れた。

 

「下の空気わりぃ谷底と違って、此処は空気も清潔だ。さて、ビィラックが言ってた水晶群蠍ってヤツは何処に居るんだろうか?」

 

辺りを見回せど気配は無く、硝子特有のしっとりした質感が素足である足裏から伝わり。そして己の後ろで、無機質である筈の水晶が揺れた(・・・)━━━━直後『其れ』は水晶を砕き割り、爆ぜて現れる。

 

全身に水晶を纏った全長10mの巨体と鋏、鋭い脚と針を携える蠍型のモンスターが、サンラクの後ろに出現した。

 

「ハハッ、フィールドに擬態するタイプのモンスターか!逢いたかったぜ、水晶群蠍!」

 

歓喜の声を上げた侵入者(サンラク)へ、水晶群蠍は蠍型モンスターの不動のシンボルたる針を振るい、刺し殺さんと暴れ出す。

 

「うおっ、とぅ!でぇい!?オイオイ、暴走列車かよ!?足場の悪い水晶地帯で追跡しまくって、質量で圧し潰すつもりか?」

 

だが、サンラクも簡単には殺られない。ウェザエモンとの戦いを経て、大量に手に入ったポイントを、敏捷・スタミナ・幸運に多く振り分けた事で、今まで以上に長くアクションを取れるように成っている。

 

更に足を離したアクションを行う場合、消費するスタミナを減らすスキル『アクロバット』。自身の視覚内限定だが、移動ルートを割り出す『アサイラムサイン』。そしてクソゲーで培ったプレイスキルを用いて、入り組んだ水晶巣崖をプロのパルクール選手顔負けの機動力で乗り越えていく。

 

(水晶群蠍……初見で討伐したいとこだが、今回の目標(ミッション)は其処じゃねぇ。此のエリアにある『アイテム』を何か1つ持ち帰る事だ。其れが出来れば、今回は俺の勝ち━━━━━━ん?)

 

サンラクの視界の其の先に見えたのは、明らかに『ピッケルを使って叩いてね』と言わんばかりの、採掘ポイントのクリスタルの塔。そして更に奥からは、夜空に浮かぶ月の光で輝くオーロラ………ではなく、無数の水晶群蠍の姿。

 

其の数およそ『三十体』。

 

「侵入者一人に対して、どんだけの人員割いてるんだよオマエ等ァ!!!?」

 

サンラクが水晶群蠍の生態を目の当たりにし、採掘ポイントたるクリスタルの塔が水晶群蠍によって破壊され、悲鳴を上げた其の直後。

 

襲い掛かった一匹の水晶群蠍の前鋏を、致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】にて自動回避に成功したのだが、其処に追撃とばかりに数匹の水晶群蠍が殺到、サンラクは押し潰されて死亡したのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、兎の国・ラビッツの兎御殿。其の休憩室にて月を見上げながら、サンラクとコンビを組むヴォーパルバニーのエムルは、彼の帰還を待っていた。

 

「サンラクさん、まだ戻って来ないですわ……」

 

先に兎御殿に帰還したペッパーは、今日は寝ると言ってベッドで眠り、アイトゥイルはポポンガと食事処で晩酌をしてくると行ってしまった。

 

「やっぱり、迎えに行った方が良かったですわ……?」

 

サンラクからの依頼で、エムルは既に長男のエードワードに『ラビッツ再訪問』の件は話しており、彼からの返事は「二週間程時間を貰いたい」との事だった。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ!!ぢぎじょーが!!あの蠍野郎共、派手に採掘ポイントブッ壊しやがって!!ぜってぇ許さねぇ!!」

「ぽぴゃあぁ!?」

 

と、エムルの真後ろ━━━休憩室のベッドで半裸の肉体と鳥面を被った頭部が再構築され、怒号と共に跳ね起きる。

 

「おう、エムル!良い所に居たな!エイドルトまでゲート頼むぜ!」

「サンラクさん……もしかして水晶群蠍と戦ってましたわね?」

 

あっやべ、といった表情のサンラク。ジト目のち膨れっ面になったエムルが、プンスコとSEが鳴るようにサンラクへと説教をする。

 

「もう!水晶群蠍は危ないって、ビィラックおねーちゃんも言ってたじゃないですわ!!」

「未知が其処に有る限り、開拓者は死を恐れない生き物なんだよッ!!」

 

此のまま終わらぬ、絶対アイテムゲットする。そんな物欲にまみれたオーラが、サンラクに纏わり原動力となって突き動かす。

 

「はぁ……解りましたわ。全く、ゲートを開けるのもタタじゃないんですわ………」

 

嗚呼、コレは何言っても止まらない時のサンラクだ。半ば諦めにも似た、悟りを開いたような表情で、アイテムインベントリからマナポーションを取り出したエムルは、ジト目に加えてハァ……と溜息を溢しつつ、飲もうと口を付け。

 

「……………ん?」

 

エムルの発言が、サンラクの脳内に在る琴線に触れる。何か、何か『とんでもないアイデア』が閃きそうな。

 

「………………んんん?」

 

ぐぴぐぴ…とマナポーションを飲み干すエムルを見、サンラクの脳内で情報が精査されていく。数十体の大群と成って包囲圧殺を仕掛ける蠍達、マナを使って開く物、ヘイトの消滅、逃げ込める安全地帯……………何処に逃げ込む(・・・・・・・)

 

「うおっ!?いや、待て!MPの消費……エリアボスの素材売却……タイミング……!行ける!行けるぞ!」

「サンラクさん、何が行けるですわ?」

「エムル!お前、ホントグッドガールだッハッハッハァ!!懐に余裕が出来たら、ラビッツスペシャルパフェと、前に欲しいって言ってた魔導書買ってやるよ!」

「えっ!?本当ですわ!?」

「応とも、約束するぜ!」

 

獰猛な黒い笑みを浮かべ、サンラクは勝利を確信した。

 

(待ってろよ、レベル100オーバーの蠍式水晶地雷地帯…!俺が超ヌルゲーにしてやるぜ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デスペナルティの解除、スキルのリキャストタイム終了。エムルのゲートを越えて、夜のエイドルトの街に駆り出したサンラクは、早速エリアボスやその他の素材を売り払い、其のマーニでマナポーションを購入。

 

其の脚で奥古来魂の渓谷へ向かい、スキル温存の為に素手によるクライミングを敢行。およそ1時間振りに、彼は水晶巣崖に帰って来た。

 

「さぁて……始めるか!」

 

最初と同じく、夜空に浮かぶ星と月が照らす水晶地帯を、サンラクは全速力で中心地点を目指して走り出し。其の全力疾走によって起きる、水晶や空気の振動を受けて8体の水晶群蠍達が、擬態状態から目覚めて侵入者へと襲い掛かった。

 

「ハッーハッハッハッハァ!おーい、寝転けてねェで起きろォ!蠍共!!!!」

 

わざとらしく、見付かるように大声を上げながら、サンラクは走る。そして其の声に反応して、案の定十数体の水晶群蠍が目覚めるや、追跡していた蠍含めて二十五体の軍勢となって彼を包囲した。

 

「わぁー囲まれちったーどうしよっかなー」

 

明らかに棒読み発言のサンラクに、我先にと飛び掛かり、突撃の掛ける蠍達。月と星の明かりに照らされる、煌美やかで美しき死の津波が迫る。

 

だが…………━━━━━━━━

 

「なぁーんちゃって」

 

渾身のドヤ顔と共に、サンラクは己の右手首に装着された『格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア』に、己の左手を触れる。

 

「オマエ等の大質量袋叩きに、誰が付き合ってやるかバーカ!あばよ!『転送:格納空間(エンタートラベル)』!!!」

 

刹那、サンラクの身体を光が包み込み、其の姿を水晶巣崖から消し去り。殺到した蠍達は互いが互いに激突し、おしくら饅頭状態となって、水晶の身体が砕け散る。

 

離れてみれば、先程まで居たはずの半裸の侵入者の姿は無く、頻りにキョロキョロと首を左右に振って必死に探すも見付からない。

 

そしてサンラクは……………

 

「フッ……くっくっく!あーっはっはっはっは!文明万歳!結局最後に笑うのはテクノロジーなのさ!」

 

彼が思い付いた策……其れが格納鍵インベントリアの説明文に有る『シェルター』というワード。古今東西ゲームにおいて安全地帯と認識される其れは、まさに今自分が思い描いた通りの成果を出した。

 

蠍達を引き付け、再び擬態するまでインベントリアにて待機。こうする事で安全に、採掘ポイントで掘り出せる様になる。

 

「使いようによっちゃ……コイツは、滅茶苦茶ヤバい代物になるな。インベントリアは………。っと、いけねぇ。時間はもう少し待った方が良いか……?」

 

インベントリアの性能に奮えながら、サンラクはタイマーアプリを起動して時間を計測。およそ3分が経過する頃を目安に、元のエリアへと戻る為の合言葉たる『転送:現実空間(イグジットトラベル)』を唱え、水晶巣崖に再び降臨。

 

其処には何と、水晶群蠍の素材達が大量にドロップしており、思わぬ副産物にサンラクは目を丸くした。

 

「ハハハ……やっべぇ、コレやり方『大正解』じゃねーか……!激レアモンスターの素材を無傷で確保出来るし、安全に採掘も可能になった……!こりゃあ予想以上に稼げるぞ!」

 

インベントリアに水晶群蠍の素材を次々と突っ込みつつ、サンラクは己の産み出したアイデアを駆使し、行動を開始した。すっからかんとなった懐を、此の荒稼ぎで目一杯に潤し、エムルとの約束を果たす為に………。

 

 

 

 






裏技で一攫千金へ



水晶巣崖再突入時点のサンラクのステータス



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

PN:サンラク


レベル:77


メイン職業ジョブ:傭兵【二刀流使い】
サブ職業ジョブ:無し

 
体力 55 魔力 50
スタミナ 150
筋力 100 敏捷 130
器用 100 技量 100
耐久力 3 幸運 209



残りポイント:0

  


装備

左:無し
右:無し
両脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

頭:凝視(ぎょうし)鳥面(ちょうめん)(耐久力+2)
胴:リュカオーンの呪い(マーキング)
腰:無し
脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

アクセサリー


・ダイナボアドール(スタミナ回復時間短縮:小)
小鬼人形(ゴブリンドール)(HPリジェネ:微小)
格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア

 
30マーニ

 

致命武技

 
致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】捌式
致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】肆式
致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだち)】壱式



スキル

 

縷々閃舞(るるせんぶ)
一念岩穿(いちねんいわうがち)
・インファイト レベルMAX
・フォーミュラ・ドリフト レベル1
瞬刻視界(モーメントサイト)
・アガートラム レベル1
・トライアルトラバース レベル1
・クライマックス・ブースト レベルMAX
・バルカンスタンパー
・プレス・ドミネイト
戦火の瞳(ウォーアイズ)
・ストランダイトバンカー
遮那王憑(しゃなおうつ)
・グラビティゼロ レベル1
・ヘイト・トランプル レベルMAX
・スカイウォーカー
・ストロングプレス レベル6
孤高の餓狼(トランジェント)
逸撃斬羅(いつげきざんら) レベル1
・バリストライダー
雄々しき狼魂(ベイオヴルフ)
血戦主義(けっせんしゅぎ)
・メルニッション・ダッシュ レベル8
裂刃尖斬(れっぱせんざん) レベル6
・アミュールディルレイト
・ジェットアタック
・ブレスドラウム レベルMAX
・バッツクローシス レベル5
・オーバーヒート レベル8
・ニトロゲイン レベルMAX
・イグニッション レベル7
・マグナマイトギア レベル6
・タイフーンランペイジ
・ディコード・ブロッション
・パワースラッシュ レベル1
武頼闘気(ぶらいとうき) レベル1
・オーファジール・セイド レベル1
包囲先見(ほういせんけん)
・アサイラムサイン
・スティアウィスパー レベル1
・アクロバット レベル1
・トルクチャージ レベル1
・チェインズアップ レベル1

 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━






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半裸の鳥頭、水晶の地にて宿敵に出逢う



水晶巣崖で荒稼ぎは続く




本来、開拓者(プレイヤー)アイテム保有容量(インベントリ)には限界が存在している。アクセサリーや職業により多少の拡張こそ出来れど、詰め込み過ぎればアバターのアクションを鈍重にしてしまい、プレイングに支障をきたす。

 

だが、格納鍵(かくのうかぎ)インベントリアが在れば、保有容量限界及び重量問題を一手に解決してくれる。あまりにも大き過ぎる物に生き物を除けば、『何でも詰め込めてしまえる』無尽蔵の倉庫であり。

 

「フハハハハ………!素晴らしい……素晴らしいぞ、インベントリア!そして其れを思い付いた俺、マジ天才!クックック……!」

 

僅かなMPを対価に、絶対安全地帯(・・・・・・)たる格納空間へ転移出来る能力がある。荒稼ぎ開始からおよそ1時間。既に数十回に渡って試した事で、水晶群蠍達(クリスタルス.コーピオン)の擬態状態に移行する条件や、モーションに生態の観察も出来た。

 

そして蠍達同士を激突させての素材回収に、採掘ポイントでの掘削で、インベントリア内には其の素材と煌美やかな鉱石や宝石達が、此の無尽蔵の倉庫の一角を占拠している。

 

「水晶群蠍の素材もたんまり集まったし、何よりも鉱石に宝石達……こんな危険地帯に在るって事は、労力以上の価値が有る筈…!」

 

流石にヌルゲーが極まり過ぎた上、近い内に運営から修正は入るだろうが……と予感しつつも、今此の瞬間にキッチリ稼いでおけば良いだけの話だと、サンラクは自己思考にて結論を下し。

 

そしてレアアイテムの一覧を見ながら、彼は『ある物』が無い事に気付く。

 

「やっぱり『針』が採れてねぇな。蠍型モンスターって言ったら、針は欠かせねぇ『レアアイテム』だろ……」

 

唯でさえ硬質な水晶群蠍の甲殻、其れを加味しても間違い無く、水晶群蠍の針は其れ以上の『超硬度』を誇る。

 

「蠍共の身体は『鉱物』とかで固まってるからなぁ……『打撃武器』で付け根を脆くして、一気に打っ手斬るのが一番かも知れねぇ。問題は安定しない足場と、不規則に動く蠍達を如何に集中させるか…………ん?」

 

蠍達の素材を確認、そして自身のインベントリに在る武器を確認。ある武器の説明文を読み、素材と照らし合わせた瞬間、サンラクの脳内でスーパーノヴァが起きた。

 

「フッ…フフフフフ………!!!ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!やっっっっっべぇ!?今日の俺、ツキが回ってねぇか!?」

 

クソゲーマー・サンラクは、此迄に乱数という要素に嫌と言う程嫌われている。様々なクソゲーをやって来た中でも、特に嫌われたのが『ミナココロ大戦記』なる『クソゲー』であり、ストーリー進行に必須となる『キーアイテム』を手にする迄に三週間もの時間を費やし、漸く辿り着いたエンディングで、メンタルに完璧なトドメを刺された経験がある。

 

以来、彼は乱数の女神を『クソッタレ』と呼ぶ程に嫌悪しているが、どうやら其の女神様は上機嫌かは知らないものの、良い方向に働きまくっている様だった。

 

「そうと決まりゃあ、話は早い……!さっさと採取して、水晶巣崖からオサラバしようじゃねーか」

 

格納空間から現実空間へ転移。辺りを見渡せば、近くの水晶に擬態している水晶群蠍を一匹発見した。一見、キッチリ擬態したように見えるが、長い尻尾は折り畳まれているが故に、変わった形に成っている。

 

「何れが擬態してるのかも、何回も見たから解る!」

 

そろーり……そろーり……と、足音を立てずに近付いて、アイテムインベントリから『武器を二本』取り出し装備。

 

「すぅぅぅぅ……………おはよーごさいまーす!」

 

武器を振るいて、折り畳まれた針の付け根を『ブッ叩く』。すると、針の周りに纏わり付く水晶が『削り取られ』、其の武器に『吸収された』。水晶群蠍は、突如自分の尻尾に走った『異質な攻撃』に反応し、周りの水晶を爆砕しながら起き上がる。

 

「ハッハー!効果抜群!此の武器なら、オマエ等の針も楽勝で持ってけるぜェ!」

 

サンラクの手に握られるは二本の小鎚、然れど其の小鎚は凡百の小鎚に非ず。ペッパーが持つ製造秘伝書と、ビィラックの手により造られた『マッドネスブレイカー』。

 

鉱石を喰らいて其の力を己の身に携え、鉱脈に擬態し開拓者を食らう巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)の力を、四駆八駆(しくはっく)沼荒野(ぬまこうや)で採れる鉱石を用いて育成したユニーク小鎚が、水晶群蠍の硬質な水晶鎧を削り取って脆くした。

 

ロックオンブレイカーの特性━━━━鉱物系アイテムを砕く事で其の希少度合いに応じ、小鎚の耐久値を回復するオンリーワンに等しい修復能力を持っている。

 

「ちゃっちゃと針ぶん取って、ウイニングランと洒落込もうか!」

 

ありったけのバフスキルを点火して、サンラクは水晶群蠍の針の付け根を二刀流スキルと打撃スキル、そしてマッドネスブレイカーの武器特性を併用。

 

縷々閃舞(るるせんぶ)が、一念岩穿(いちねんいわうがち)が、ジェットアタックのスピードアップで叩き付けられ。マッドネスブレイカーの能力で、本来(・・)は相当の威力を持たなくては、傷一つ付かない水晶をゴリゴリと削っていった。

 

と、背後で水晶が爆砕されて、他の水晶群蠍達がアクティブ状態となるや、此方へ迫ってくる。

 

「ちぃっ…急げ急げ……!おおおおおおりゃあああああああ!!!!」

 

粗方水晶を削り、此処で武器をマッドネスブレイカーから湖沼(こしょう)短剣(たんけん)改三を取り、イプロッションスライサーとチェインズブートの合成で生まれた、敏捷・技量を参照にダメージを与える『逸撃斬羅(いつげきざんら)』で削られた水晶を切り裂き。

 

二段ジャンプスキルの『スカイウォーカー』と共に、刹那に刃を反転させながら、致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】を起動。処刑人が罪人の首を断ち斬る様に、水晶群蠍の針が切り離されて宙を舞う。

 

「ヨッシャアアアアアアアア!斬り落としじゃああああ!後は此のままインベントリアに━━━━━━」

 

近くの水晶の頂上へ着地し、真上に飛んだ針に向け、サンラクが手を伸ばした………其の直後。自身の背後から腰に衝撃が走り、己の視界が()へと落ちる。

 

「いるぶガッ…フ!?………は━━━!?」

 

『ダメージ』を受けた感触が襲い、体力が削られるも200超えの幸運による『食い縛り』が発動し。サンラクが見たのは、腰から真っ二つに斬られた己の下半身。

 

そして其の奥には『金色の水晶群蠍』の姿が在った。だが其の蠍は、水晶群蠍のおよそ『3倍の巨躯』を誇り、其の鋏は『蟷螂に見られる折り畳める形状』、そして何よりもサンラクの目を惹いたのは『剣に似た金色に輝く針』。其の煌めきが放つ光を見た彼は、怒りと共に叫んだ。

 

「い……何時か必ずッ……!オマエを、ブッ殺してやる……から、なァァァァァァァァァァァ!!!べほば!?」

 

金色の針が合唱団指揮者の指揮棒(タクト)の如く振るわれ、一糸乱れぬ統率が成された(・・・・・・・)水晶群蠍達が襲来。サンラクは怨唆の声を上げたのも束の間、トラックが突撃してきたような大質量の運動エネルギーに、四方八方から押し潰されて死んだ。

 

水晶を纏う蠍達は、侵入してきた小さく木っ端の人間を排除し、月明かり照らす水晶に其の身を擬態させ、一匹…また一匹と再び眠りの床へ着き。そして最後に、黄金に其の身を染めし、大躯を成す金色の皇もまた、静かに眠りに沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の者、金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)"皇金世代(ゴールデンエイジ)"。

 

小さき頃より、王の背の上にて育ち。産まれた頃より同族を喰らう偏食個体にして、育て上げた親を喰らい尽くす事により成された其れは、種族を守護する次世代決戦戦力として、水晶巣崖に住まう者達の雄々しき皇帝なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

尚、兎御殿にてリスポーンしたサンラクは、手に入った水晶群蠍の素材の一部を売り払い、手にしたマーニで約束通りエムルに魔導書と、ラビッツスペシャルパフェを奢った事を記載しておく。

 

 






何時か必ず、其の身に刃を突き立てる




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黒い流星は人々の噂を駆ける



掲示板回




 

 

 

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***************

 

 

【ワールド】シャンフロ掲示板 part1469【ストーリー】

 

 

 

 

 

…………

………

……

 

379:ヤクシャンク

すごいものを見た

 

380:ショーナッツ

なんじゃらほい

 

381:ロットルズ

勿体振らずにはようせい

 

382:亜斗夢

なになに

 

383:ヤクシャンク

【映像】

 

コレ

 

384:ユトセンリ

えっ、ナニコレ

 

385:π孫

はっっっっや

 

386:クトゥール

!?

 

387:八咫ワシ

真っ黒の………なんだコレ?

 

388:エクイスト

はやっ!?

 

389:ヨーテイリ

えっ、これ何ぞ?

 

390:DANコマタ

場所的にサードレマだよな?時間帯は夕方から夜あたりで桶?

 

391:クリプソン=ヘイF

其れで合ってる。で解らんのが此のスピードよ、普通繰り出せるか?

 

392:ヤシャロード

新しい賞金首NPCか?誰か追っ掛けていたとか?

 

393:ファラウェイ

ってか、空中走ってる?そんな事出来るのか?

 

394:ミューティア

《393 見た感じ空中ダッシュスキルは確実に使ってる。確か重力の影響を軽減するスキル?か魔法が有ったはず

 

395:ユトセンリ

ほぉーん、そんなの有るんか

 

396:π孫

にしても……空中を走る姿、真っ黒な閃光………どうみてもG………

 

397:ロットルズ

おいやめろ

 

398:Qベイ

おいバカやめろ

 

399:ラララータ

G……

 

400:アサシン

まぁ、うん……思わなくもないが

 

401:ヤクシャンク

【映像】

 

スロー加工してきた

 

402:亜斗夢

助かる

 

403:トロイデル

有能

 

404:インポスタ

何だ?アポートしてる?

 

405:ファラウェイ

あ、確かに

 

406:スータダン

いや、アポートだったら魔法エフェクト出るだろ。コレ出てないぞ

 

407:ヤシャロード

じゃあスキルか?

 

408:ミューティア

アポートみたいに移動するスキル……確か、ドリフトステップからの選択先でアクセラレートステップを選んで、其れがレベルMAXまでなってから進化するとオーバーラップアクセラレートっていう、アポートじみた挙動を可能にするスキルが有った

 

409:ミューティア

更に言うとドリフトステップのもう1つの派生先にフォーミュラードリフトってのがあるが、アレはかなりシビアなモーションとコントロールを要求されるけど、かなり楽しい

 

410:キャロライン

へー

 

411:シェリーα

って事は、其のオーバーラップアクセラレートで空中ダッシュ中にステップ踏んで、其処からまた空中ダッシュしてステップ踏んでるってか………いやヤバくね?

 

412:ヨーキ

其れだと重力に従って落ちるでしょ、多分其処に無限ジャンプも加わってるはず

 

413:モーマン

無限ジャンプ?!

 

414:ダミエル

え、そんなん出来るか?

 

415:ヨーキ

えっと、スキル研究の知り合い曰くスカイウォーカーを進化派生先に、ホップスウイングっていう最大10段ジャンプスキルがあって、其れが進化すると天空神の加護(レプライ・ウーラノス)なるスタミナ一定値消費でスタミナが続く限り無限ジャンプ可能な奴がある。まぁ、途中でスタミナ回復挟まないと、スタミナ切れの瞬間に効果も切れるから下手すれば落下死確定

 

416:スータダン

へー

 

417:ハルキ

そんなんあるんか

 

418:ヨーキ

仮にプレイヤーなら、其処までスキル育成してるとなると、相当回数のレベルダウンビルドを経験してる。神系統の名が付いたスキルは普通なら早々届く程、簡単に習得出来るスキルじゃない

 

419:米四駆

にしても空中ダッシュに擬似的な無限ジャンプ、夜闇染まる街を駆け抜ける姿………ブレイブ・シャドウソードやミーティアスだわなコレ

 

420:シェリーα

其れ思った

 

421:キャロライン

あぁ…確かに

 

422:亜斗夢

確か黒狼にもそんなん居たよな?

 

423:モーマン

名前が……えっと、†武閃陰蝕(スラッシュシャドウ)†だっけ?

 

424:ヤクシャンク

そうそれ

 

425:トマトン

無銭飲食

 

426:インポスタ

《425 うぉいwwwww

 

427:米四駆

《425 おぅ、主人公の名前地雷なんだからヤメーヤ

 

428:ヨーキ

《425 吹いたじゃねぇか、どうしてくれるwwwww

 

429:シーランカンス

ミーティアスかぁ……ギャラクシア・ヒーローズでミーティアス使ってるが、直線からターンが結構シビアなのよね

 

430:パリプトン

お、お前さんGHのプレイヤーか

 

431:毬門手ヱ路

持ちキャラはミーティアスかい?俺Dr.サンダルフォン

 

432:ナッシュ

今秋発売のギャラクシア・ヒーローズ:カオスが楽しみですねぇ……

 

 

 

…………

………

……

 

 

 

 

 

*******************

*****************

***************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れは彼女(・・)にとって、何気無い時間だった。何時ものように早起きをして、ランニングをしてから『ギャラクシア・ヒーローズ』をプレイする筈……だった(・・・)。日本が世界に誇る、おま国ゲーたる『シャングリラ・フロンティア』。其のゲームの1つの映像が、彼女の目に止まったのである。

 

『良い…!』

 

黒く、黒く、其れで居ながら。ただ真っ直ぐに、未来を見据えて駆けている。シャンフロは『スキルゲー』であり、スキルの組み合わせや使うタイミングでは、日本でいう所の『HENTAI』挙動が出来たり、理論上はマッハレベルのスピードすら繰り出せるらしい(・・・)とは聞いたが、実際に見たのは『初めて』で。

 

此の黒い存在は如何なる方法で空中を駆けたのか、如何にして此処までの速度を引き出す事が出来たのか、彼女は気になって仕方無い。そして何よりも━━━━コイツとの戦いは、決して避けられない。そんな気配がするから。

 

『あぁ、モシモシ。マネージャー?』

 

スマフォを手に取る。善は急げ。休暇を取って日本へ。此の黒い存在が、一体何者なのか。己が『リアルミーティアス』として、己を脅かし得る(・・・・・・・)に足りる存在か確かめる為に。

 

彼女は『シルヴィア・ゴールドバーグ』。日本最強クラスのプロゲーマー・『魚臣(うおみ) (けい)』がギャラクシア・ヒーローズシリーズで完敗を喫し、其れ以降も挑み続けても尚勝利に届かぬ、誰もが口を揃えて言い切る全米一位(ゼンイチ)最強の格闘ゲーマーが、動こうとしていたのである……。

 

 

 






駆ける黒閃、世界は見る




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猫が風を呼び込み、鳥と胡椒の名は轟く



勇者達の名は轟き響く




エイドルトにて行われた、5つのクランによるクラン連盟設立から一夜。季節は6月の初日となった此の日、大学講義とコンビニバイトを終えた梓は、降り頻る雨を傘で身を守りながら、アパートへ帰還していた。

 

「傘持っといて正解だったな……降りそうな感じはあったし」

 

あと1~2週間もすれば、本格的な梅雨入りになるだろう。梓は梅雨と言うものがあまり好きではない、洗濯物は乾かないし、湿気で室内が蒸れると中々寝れなくなるからだ。

 

「明日から夏服に変えるとして……ジーンズにすると、乾くのに時間掛かるし、半ズボンにするかなぁ……。いや、あんまり目立ちたくないから大人しくジーンズか……うむむ」

 

玄関の鍵を施錠し、寝間着を取り出しつつ、洗面所にてシャワーを浴び。髪と顔と身体を洗い、次いでに手洗いとうがいをして、タオルで全身の水気を拭き取る。

 

下着を履き、寝間着を付け。ドライヤーで頭を乾かし、布団を敷いて、機材をチェック。トイレと水分補給を済ませて、現実世界の梓はシャンフロのペッパーとなり、世界へと降り立つのだ。

 

 

 

 

「ペッパーはん、こんにちわなのさ」

「こんにちわ、アイトゥイル」

「ペッパーよ、昨日ぶりじゃな」

「こんにちわ、ポポンガさん」

 

午後5時過ぎ、兎御殿・休憩室のベッドよりログインして、待っていたであろうアイトゥイルとポポンガに挨拶をし、ペッパーは影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)の装備解除に向け、ユニーククエスト進行を目指すべく行動を起こそうとして。

 

『ワリャはいきなり何しとるんじゃあ!?』

「ん!?」

「ビィラック姉さん!?」

「おやおや、物騒じゃの……」

 

休憩室を出てきた瞬間、聞こえてきたのはビィラックの怒号。声色から一体何事かと不安になり、ペッパーはアイトゥイルとポポンガを肩に乗せて、ビィラックの鍛冶場に向かい。

 

「アァッ!?麗しき黒き乙女よ!?!背骨はヤメテ!せめて尻を叩いて!?」

 

ビィラックに背骨をガシガシと蹴られては、愉悦というか歓喜というか、頬を赤らめる『長靴を履いた黒毛の猫』が一匹居て。其の様子を遠い目をしながら見る、サンラクとエムルの姿が在った。

 

そして其のカオスな光景を目の当たりにしたペッパーは、至極全うな言葉を以て呟く。

 

「なにこれ」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在進行形で、ビィラックに背中を踏み続けられている黒猫……彼女と同じ程の背丈と、中世ヨーロッパの王宮に仕えていそうな衣裳を身に纏い、腰にはレイピアを1本。そして脚にはトレードマークたる長靴を履いている。童話に出てくる『長靴を履いた猫』のイメージに合致した其の二足歩行の黒猫は、どうやらビィラックに関係が有るようだ。

 

ふとペッパーの目に止まったのは、ビィラックが鍛冶仕事で使う金床の上に乗る、煌美やかな色彩に満ちる見事な宝石達と、近くには水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の素材が山積みで置かれている光景で。

 

「サンラク、其所に在る宝石と水晶群蠍の素材………もしかして『水晶巣崖(すいしょうそうがい)』で採ってきた?」

「あぁ『ペッパー』か。応よ、コイツ等は昨日の話し合いが終わってから、水晶地雷元で『ちょっとした裏技』使って掻き集めたんだよ。代わりに色々………うん、色々有ってな。最終的に死んだんだけどさ」

「マジかよ………因みに何かあったの?」

「キンイロソードユルサネェ。イツカアイツブッコロス」

「???????」

 

身の安全を最優先として撤退した自分と違い、ゲームだからこそ死を恐れないサンラクは、あの危険地帯でとてつもない成果を上げたようである。と、サンラクの言った言葉に黒猫の耳がピクリと反応し。

 

「ペッパー……!?まさか、そちらにいらっしゃるのは、我等『猫妖精の国(キャッツェリア)』にも其の名轟く『蒼天(そら)を舞う勇者のペッパー』殿で有らせられるか!?な、何と!?あ、貴方様は『極星大賢者(スターラウズ)のポポンガ』殿でございますか!?」

 

ババッと立ち上がり、慌てふためく黒猫騎士によって、ビィラックの鍛冶場は暫しカオスとなる。

 

「おぅ、ペッパー。お前相当有名人みたいだな」

「……色々とやってるからかな、うん」

 

ニンマリ顔のサンラクに対し、遠い目をするペッパー。数分後、黒猫騎士は落ち着きを取り戻したようで、ペッパーとポポンガに自己紹介と挨拶をしてきた。

 

「コホン……御恥ずかしい姿を晒した事、御詫び申し上げると共に、御初に御目に掛かります、ペッパー殿。そして我等の国にも轟きし、偉大なる大賢者のポポンガ殿。

 

我は『剣聖』にして、其の名に『吹き荒ぶ旋風(ワイルドウィンド)』を賜りし者。猫妖精(ケット・シー)の国・キャッツェリアが誇る、長靴銃士団(ながぐつじゅうしだん)副団長(ふくだんちょう)。名を『アラミース』と申し上げる。以後、御見知り置きを」

 

キリッとした視線と共に、頭に着けた帽子を外し、片膝を着くように、挨拶をしてきたアラミース。

 

「えっと、ペッパーです。よろしく御願い致します」

 

アラミースと同じ高さまで腰を落として膝を着き、ペッパーは己の左手を出して握手をする。

 

「んでじゃ『バカミース』。今日はワリャに頼みが有るんじゃ」

「な、何と!?乙女が僕に頼み!?君の頼みならば、僕は『あの』リュカオーンにだって挑んでみせよう!何ならジークヴルムの『逆鱗』すら穿ってみせる!」

 

最強種相手に挑んだなら、先ずタダでは済まないのは間違いない。ソースは自分とサンラクであり、二人共にリュカオーン相手に善戦した結果、其の身に呪いを受けたのだから。

 

「其れも一興かも知れんが、今日呼び出したんは他でもない。ワリャ等んとこの『宝石匠(ジュエラー)』の『ダルターニャ』に、サンラクが集めた宝石を全て使った『アクセサリー』の製作を依頼したい。其れも只の(・・)アクセサリーじゃのうて、此の宝石達を用いた最高傑作(・・・・)を、じゃ」

「おぉ…、此れはまた見事な宝石達……!……えっ、最高傑作を?全部?乙女よ、彼は一体……?」

 

ビィラックの両手一杯に乗った宝石達を見て、アラミースが目を輝かせている。そして直ぐ様、彼女が最高傑作を要求した理由を聞く。

 

「ただの人間だと侮るな、バカミース。人の身ながら『夜の帝王』に認められ。そして『永劫の墓守』を打倒してみせた、オヤジの舎弟(・・・・・・)じゃ」

「そして俺の友達(・・・・)です、アラミースさん」

 

蒼空を舞う勇者の友であり、ヴァイスアッシュの舎弟というワードに、アラミースの目はサンラクという一個人を見る目に変わり。

 

「…なれば、長靴銃士団副団長。吹き荒ぶ旋風の名に誓い、必ずや至高の逸品を仕立てて見せましょう」

 

ペコリと頭を下げ、ビィラックから宝石達を受け取り。転移魔法と思われるエフェクトの魔方陣に飛び込むや、其の姿は一瞬にして消えてしまった。

 

猫妖精(ケット・シー)の国・キャッツェリア……か。ビィラックさん、アラミースさんとの御関係とかって………」

「昔アイツの武器を作った、そんだけの関係じゃ」

「因みにアラミースって、滅茶苦茶強いのか?」

「あぁ。あんな風に見えるが、わちより強い」

「仮にも『あの』長靴銃士団副団長を務める剣聖なのさ。ワイやエムル、シー兄さん達が戦って勝てるかどうか……其れくらい強いのさ」

 

中々に色濃い黒猫騎士だったアラミース。そしてクラン:旅狼(ヴォルフガング)に、新たな手札として『猫妖精(ケット・シー)の国・キャッツェリア』、そして『宝石匠のダルターニャ』なる存在が加わり。同時にペッパーは、自分の名前が何処に在るかは解らない、キャッツェリアという国にも轟き、知れ渡っているという事実に、内心気が気でなくなった。

 

「で、サンラクは此れからどうするの?」

「俺は今から、エイドルト経由で去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)に行くんだ。何でも『ビィラック育成計画』で古匠(こしょう)に成るには、『マリョクウンヨーユニット』ってヤツが必須なんだと」

 

どうやら古匠という職業に就くには、専用のアイテムが必要らしい。そして其れが、嘗てペッパーがゴーレムハンティングで、石造りのフィギュアを乱獲しまくったエリアに存在しているのだとか。

 

「ペッパーは何かするのか?」

「俺は『自分のユニーク』を進めないといけなくてね。ちょっと急がないと、困った事になってる。あぁ、何か有ったら連絡くれな」

「おぅ、解った。しっかり道連れにしてやるよ」

「相談事には乗るって意味だよ!?……じゃ、御互い頑張ろうぜ。サンラク」

「あぁ、ペッパーもな」

 

拳をぶつけ、やるべき事を成すべく、二人の開拓者は各々の目的地へ向けて動き始め。出立前、ペッパーはエムルにラビッツの件を、エードワードに聞きに行った後、どうなったかを聞き。

 

エムルから、二週間程時間が欲しいとの解答を貰い、伝書鳥(メールバード)のハヤブサでAnimaliaへ『サンラクから聞いた話によると、二週間程時間が欲しいとの事です』と連絡を送ったのだった………。

 

 

 






アラミースが現れ、二人の名は知らされる




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奏でる歌よ、英雄の道を示せ(前編)



ユニーククエストEX進行




兎御殿にてキャッツェリアのアラミースと出会った後、ペッパーはアイトゥイル・ポポンガと共に、休憩室に移動してゲートを越え、サードレマの裏路地に転移していた。

 

「さぁて、ユニーククエストを進めていきましょう!」

 

アイトゥイルとポポンガの二人は、呪いの装備と化して外せない影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)の中に隠している。夕方の時間帯であり、かつ名前隠しプレイが出来るにしても、昨日の気配も姿もない敵の襲撃も考えられる以上、サードレマに留まるのも危険だ。

 

(先ずは栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)を越えて、ファイヴァルに。其れからサードレマにカムバックして、神代(しんだい)鐵遺跡(くろがねいせき)に向かってシクセンベルト。

そして、千紫万紅(せんしばんこう)樹海窟(じゅかいくつ)を越えてフォスフォシエに向かう……!)

 

今日中に進められる所まで進めて、其れ以降は余裕を以て作戦や予定を立てていきたい。オーバドレス・ゴーレムを倒した事で、一応イレベンタルまで進めるものの、其れ以降は全くの未知のエリア。

 

現状フォスフォシエルートからフィフティシアへと向かう開拓者達に、最後に()(はだ)かるエリアが『無果落耀(むからくよう )古城骸(こじょうがい)』であり、wikiによると『最低レベル80以上無ければソロ踏破はオススメしない』やら『護衛系ミッションで通るなら壁タンク含めた3人以上のパーティープレイ推奨』等々、明らかに此方の不利に働く記載が多かった。

 

(イレベンタルにはエイドルトより良い防具が有るらしいし、早く行ってみたい所だが。クエストの兼ね合いも有るからなぁ………)

 

パーティーを組むにしても、出来るならクラン:旅狼のメンバーで固めて置きたい。他のプレイヤーやクランに頼めば、また面倒な事に成りかねないのは事実。作られたばかりのクランの、クランリーダーとしての威信にも関わるので、易々と決められる物ではないのだ。

 

(兎に角前に進もう…!)

 

当初の目的通り、先ずはファイヴァル到達を目指すと決め。ペッパーが足を踏み出した一歩目で、彼の足は昨日ファステイアの裏路地より旅立つ際に味わった、見えない力によって己の身体が、真下に引き摺り込まれる感覚。

 

「んおぁ!?マジ━━━━━━」

「ペッパーはん、ど━━━━━」

「こりゃ、まさかあ━━━━━」

 

そうしてペッパーと仲間達は、サードレマの裏路地より消える。ファステイアの時と同じように、忽然と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体を襲う重力による落下。暗闇の中を落ちて、落ちて、落ちていき。軈て己の尻に衝撃が走る。しかしダメージは無く、見渡せば昨日振りに見た、薄暗いステージとスポットライトが焚かれ、己を照らし始めた。

 

そして見えるのは、やはり中世の劇場であり。前回見たフィールドと遜色無いようである。

 

「くっ……!」

「ペッパーはん、此処って……!」

「そうじゃの……昨日と同じ、誰が創りおったか解らんステージじゃな……」

 

トレンチロングコートから出て来たアイトゥイルとポポンガ。同時に一羽と一匹を見えない手が捕まえ、舞台から強制退場させていく。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「こりゃまたかぁ………!?」

「アイトゥイル、ポポンガさん!」

 

再び連れていかれた二人に声を上げたペッパーだったが、其の耳に聞こえたのは『あの時』と同じ『歌声』だった。

 

『ラ……ララ、ラ………♪ラ…ラララ…、…ラ━━━━━♪ラララ……ラ、ララ……ラ……♪』

 

歌声が聞こえる。其の歌はまるで『自分の為に』歌っているようで、されど悲しさが宿った歌声であり。

 

「ペッパーはん、大丈夫さ!?」

「ペッパーよ、ワシ等は無事じゃ!」

「アイトゥイル!ポポンガさん!良かった……!」

 

付き兎と護衛対象の小鬼が、前回と同じくVIP席に居る事を確認し安堵。しかし其の視線は直ぐに、己の足元に在る影を見詰めて。

 

『私は……貴方……。貴方は……私……』

 

スポットライトに照らされ、くっきりと形を成した己の影が、独りでに蠢き始める。

 

『合羽は貴方の(かたち)を知った。影は揺らがぬ(たましい)を知った━━━。私は歌う……貴方は踊る……』

 

黒い影が動きて、自分の目の前で形を成していく。

 

『影は何時も貴方を見る━━━━』

 

そして何処からともなく現れる、影法師の愉快合羽が黒ペッパーに被さり、其のトレンチロングコートに黒ペッパーは袖を通す。

 

『さぁ、再び示して……貴方の光を。影が見つめる、貴方の輝きを。揺らぐ事無い、貴方の強さを……』

 

左手には『ギルフィードブレイカー』を。其の両脚には『甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)』を。装備し、装着し、黒ペッパーは其の身を構える。其の首には今は無き、致命魂(ヴォーパルだましい)の首輪が巻かれており、ペッパーは『何時の黒ペッパー』であるかを瞬時に理解する。

 

「今度は『ライブスタイド・デストロブスターの時の自分』が相手か!良いぜ、掛かって来いよ!」

『光と影は共に在り。形は揺るがず、動きは変わらず。けれど常に在り続け、共に歩み行く……!』

 

 

 

ペッパーを示す物語。協奏曲(コンチェルト):英雄の煌めき(ヒロイック・フラッシュ)

 

 

 

本場のムエタイ選手が如く脚を構え、同じく甲皇帝戦脚を。然れど改修を重ね、改五に到達した其れを装着したペッパーに、黒ペッパーはスキル『フルズシュート』を打ち放って。対するペッパーは連続踏み付け攻撃を行う脚撃スキルの『ジェスター・タロス』で対抗。

 

クアッドビートルの甲殻で作られた、堅牢な装甲が火花を散らし合う事で、戦闘開始のゴングが鳴り響いたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………』

「なろっ…!」

 

戦闘開始から2分半、御互い初手は脚撃系スキルでぶつかり合った後、黒ペッパーは白磁(はくじ)短剣(たんけん)に切り替えて襲い掛かり、ペッパーは其れを回避しながらも、ヒット&アウェイ作戦で敵を伺いつつ、様子を見ていた。

 

『…………!』

「うおっ!?」

 

だが此処で黒ペッパーが、ボディパージとアクセルのバフスキルを重ね掛けて、白磁の短剣からギルフィードブレイカーに切り替え、ハイプレスを起動しながら振るってきた。

 

対するペッパーは、ヴァンラッシュブレイカーを取り出して、瞬刻視界(モーメントサイト)と敵との距離が近ければ近い程、至近距離である程に敏捷・筋力・器用に強化を加えるスキル『デッドユアセイブ』。

そして複数のスキルを重ねて発動した『一番最後』に発動する事で、発動したスキル達の熟達具合により『再使用時間(リキャストタイム)を短縮可能』になる『トルクチャージ』を起動。

 

スローモーションで流れる相手の鎚武器攻撃に、自身もまた鎚武器攻撃スキルのイグナイトブレイカーで対抗。凄まじいパワーでぶつかり、重い金属同士の激突。両者共に吹っ飛ばされる。

 

「っいてぇな!これでも食らえ!!」

『…………………』

 

御返しとばかりに、アゼルライトパウンドより進化し、前身と同じく高潔度と歴戦値を参照しながら、ダメージ補正が伸びた『エトラウンズパウンド』を叩き込もうとするが、黒ペッパーは其れをレペルカウンターで弾き(パリィ)。スキルの効果で追撃を噛ました。

 

「だぁっ!?」

 

パリィの反動か、クリティカルか。ヴァンラッシュブレイカーがペッパーの手より離れた。勝機有り。黒ペッパーが笑ったように見え、体勢を崩されたペッパーの首目掛けて、右手が真っ直ぐ伸びてくる。

 

此れで━━━━━「握撃、だろ?」

 

ガシリ、と。黒ペッパーの手首を掴んだペッパー。其の獰猛な笑みは、正に『待っていた』と言わんばかりの物であり。

 

「俺がお前なら、此処で必ず握撃を使うって………信じていたよ(・・・・・・)

 

直後、黒ペッパーの視界は反転し。まるで『巴投げ』の要領によって投げ飛ばされて、背中より地面に叩き付けられたのだった。

 

 

 






己を写す影を越えよ




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奏でる歌よ、英雄の道を示せ(後編)



影との戦いはヒートアップ




身体が傾く。レペルカウンターを食らったからか!耐久2000の防具で頭まで覆っている以上、俺が黒ペッパーなら此処は打撃じゃなくて、蹴りか首絞めを選択する筈!

 

見極めろ、相手の選択肢を!足……動かず、手は……伸びた!当時の俺のスキルは握撃が有る!タイミング…3…2…1…!

 

(コッこ、ッッッ!だああああぁ!)

 

黒ペッパーの伸びる手……其の手首に向けて烈風轟破(れっぷうごうは)で加速した己の右手を伸ばして、アドバンスト・フィンガーで握り締める。

 

「握撃、だろ?俺がお前なら、此処で必ず握撃を使うって………信じていたよ(・・・・・・)

 

言うが早いか、己の身体を重力に身を任せつつ、致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】起動。通常の巴投げ以上の速さで、黒ペッパーを背中から地面に叩き伏せるや、自身は素早く起き上がりつつ、落としたヴァンラッシュブレイカーを拾って、体勢を立て直す。

 

「ペッパーはーん!頑張るのさー!」

「負けるなよ、ペッパー」

「あぁ!反撃開始だ!」

 

英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)、トルクチャージ起動。

 

前者のスキルは自身と同じか、其れ以上のレベルを持つ相手に対する全ステータスへの10%の強化を。

中者のスキルは戦闘中に1度だけ自己蘇生を据え置きとして、60秒間敏捷・筋力・スタミナを3倍にする能力。

そして後者のスキルは、スキルの熟達に応じた再使用時間の短縮を助けるスキルであり。

 

「ッ!オラァ!」

『!?』

 

スタートダッシュからのオーバーラップ・アクセラレートで瞬間移動。黒ペッパーの後ろに回り込み、聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)を起動。カッ跳んだペッパーのドロップキックを、後頭部に諸で食らった黒ペッパーが、観客席の方まで大きく吹き飛ばされ、顔面から激突した衝撃で椅子達が爆砕されていく。

 

致命魂の首輪、致命魂の腕輪による高いステータスポイントの確保と、ウェザエモンとの戦闘を経た事で到達したスキルの更なる進化。バフの総数によって更なるダメージ増加が可能なスキルたる聖攣の神覇業なのだが、たった『3つのバフ』だけで凄まじい吹き飛ばしを繰り出せた。

 

此れが最大までバフを乗せたなら、一体何れ程の威力に至るのか。そんな事を頭の片隅で考えていると、黒ペッパーが直ぐに立ち上がるや、ステージまでひとっ跳びで戻ってくる。

 

「良い一撃入ったが……やっぱりフードみたくなってるから、ダメージ軽減が入るか……!」

 

黒ペッパーがアクタスダッシュを起動させ、ドライブスローでギルフィードブレイカーをぶん投げ。ペッパーは適正眼下(ノリティア・アイザック)の自動回避で其の身を屈め、黒ペッパーの動きを視線で追い続ける。

 

バリストライダーの鋭角ターンを切って、ハイビートのブーストを受けて一気に加速する黒ペッパーに、ペッパーは戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)天壱夢鳳(てんいむほう)を使用。

 

黒ペッパーがギルフィードブレイカーをキャッチし、ペッパーはヴァンラッシュブレイカーを逆手にスイッチ。ジェットアタックによる加速を乗せたダイナモインパクトと、全身全霊(フルドレイズ)でMPを対価+マシニクル・リブラで動体視力を強化し、ニトロスマッシュとコラプションスマッシャーで対抗する。

 

至近距離で発した衝撃波で、互いにフードがはだけながらも、パリィし合った小鎚を上に放り投げ。黒ペッパーが剛撃+ラッシュ、ペッパーがピッキングアーマー+クリティカルメナス、更に拳乱夕立(けんらんゆうだち)で殴り合う。

 

「オラオラオラオラァァァァァ!!!」

『………………………━━━━!!!』

 

拳と拳がぶつかり、互いに距離を取る。だが、今のペッパーには黒ペッパーに無い、攻撃手段を持っている。ワンスフリップより始まり、セブンスに至った回転蹴りスキル。進化により選択可能として提示された、二つのスキルである『サイクロンセイル』と『トルネードレッグス』。

 

前者はスタミナが尽きるまで、連続蹴りを繰り出せる脚バージョンの『獣鏖無尽(じゅうおうむじん)』。後者は凄まじい速度の蹴りを放つが、其の真髄(・・)は其処に有らず。此のスキルは他の脚撃系スキルの影響を受けられるだけではなく、レベル1に付き━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

『!??!』

「今の俺の攻撃は、其処まで届くッ!」

 

 

 

 

 

 

 

一回の衝撃波を飛ばす遠距離攻撃スキル(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)になるのだ。メタルレッグスによる硬化、デュアルリンクによる強化。そして凄まじい威力を持つが、『使用したスキルが多い程』に、攻撃速度と威力と相手への昏倒や気絶に脱力と言った、様々なデバフが付与される『破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)』。

 

甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)の爪先に使用されたクアッドビートルの角より放たれ、様々なバフスキルにより強化された敏捷と筋力を以て放たれた、『刺突属性』を宿した衝撃波が、愉快合羽を纏った黒ペッパーの腹部に直撃。破戒の神の名を賜りし脚撃が炸裂し、大きく後ろへ吹き飛ばす。

 

同時に響くは、クライマックスを告げる歌声。

 

協奏曲(コンチェルト)終幕(フィナーレ)へ至る……勇者は巨獣を打ち倒した。放たれるは全てを捧げる一投、全力を駆ける意思は致命の鎚と共に、打ち破りし後頭に引導を渡す………』

「良いぜ、再現してやる……!」

 

ライブスタイド・デストロブスターを仕留めた時、其の時はペンシルゴンとアイトゥイルとパーティーを組んでいた。其の場合、該当スキルは有るが、問題はどうやって其処まで持っていくか………そう思った直後、真横を猛スピードで通り過ぎる『黒い一本の槍』が見えて、黒ペッパーの喉に深々と突き刺さった。

 

「えっ!?あ、其処等辺はそっちが再現するタイプなのかよ!?」

 

ウツロウミカガミ→乾坤一擲(けんこんいってき)全力開速(フルスロットル)の順でソロ再現しようとした矢先の出来事だったため、一瞬反応が遅れはしたが誤差の範囲内、何とか修正出来る。

 

驚雷羅刹(きょくらいらせつ)全進開速(フルスロットル)の起動で加速し、槍が刺さった衝撃で硬直した黒ペッパーを抜き去り、クイックスピンで方向転換。ヴァンラッシュブレイカーを兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】にスイッチし、破天爽駆(はてんそうく)で更なる加速。

 

そして━━━━━━━

 

冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)!!!」

 

地殻を叩き砕き、対巨竜規模(・・・・・)にまで到達した、鎚武器攻撃スキルが黒ペッパーの後頭部を直撃。其の瞬間構築された劇場と観客席が、音を立てて崩壊を始め。

 

「ペッパーはーん!ペッパーはーん!」

「ペッパーや、よう頑張ったのぉ」

 

レッドカーペットのスロープにより、アイトゥイルとポポンガがペッパーに合流。同時に聞こえるは、昨日と同じように戦いの閉幕を告げる歌声だった。

 

『勇者は再び力を示した。………光を、輝きを、そして強さを。影は貴方を見ています……どうかまた、貴方の魂の歌を……奏でて、繋いで………』

 

襲われる倦怠感と脱力感、そして遠退く己の意識。ブラックアウト直前、ペッパーが目撃したのはあの時と同じ、リザルト画面だった……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は影法師の試練を越えた』

『魂の音色は紡ぎ、次へ至る………』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

『全ての歌を歌う時、影法師の愉快合羽は己の身より離れる』

『残された歌は━━━━━━━二つ』

 

 

 

 

 

 






決着と試練をまた一つ越えて




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死火山を駆ける勇者と、京極が求める物



ファイヴァルを目指して




「…………………ん」

 

ユニーククエストEXにおける戦いを越え、黒ペッパーを倒して意識がブラックアウトしていたペッパーだったが、数瞬の内に目が覚めて。気付けば地面に引き摺り込まれる前の、サードレマの裏路地に帰ってきていた。

 

「ペッパーはん、やっぱりアレは夢じゃなくて現実みたいなのさ……」

「そうだな、アイトゥイル。俺もアレが俄然気になってきた」

 

中世の劇場、黒い影を模したプレイヤーの再現、歌声が攻略のヒント……七つの最強種(ユニークモンスター)の中に、そんな芸当を可能とする存在が確実(・・)に居る。そして何より、黒ペッパーと二度の戦いをした事で、ペッパーは此のイベントの『発生条件』が解り始めた。

 

(昨日、そして今日。時間は『午後五時から六時の間』、裏路地へ足を踏み入れた瞬間に発生した。……つまり『逢魔時(おうまがとき)』に人気の無い場所に入ると、あの戦いが発生する可能性が高い。

 

そして何より厄介なのは、プレイヤーに対して『当時の戦いを再現させる』事であり、万が一にも対応するスキルがリキャストタイム中で使えなかったり、対応可能な武器を修理に出していた場合、戦闘『そのもの』に影響が及ぶだろうな……)

 

普通の戦闘ならまだ良いが、状況を完全再現するとなれば、いざと言う時に備えて武器の耐久値やスキルの再使用時間にも気を遣わなくてはならず、マルチタスク処理能力が求められそうだ。

 

「ポポンガさん、昨日今日で体験した『アレ』は何なんでしょうね?」

「ワシにも解らん。が、おそらくヴァッシュなら、あるいは………」

「先生かぁ……」

 

ユニークモンスターを模倣、もしくは由来となる神代の大いなる鎧達。仮にそんな事が可能なユニークモンスターが、もし『今の自分を数割程強くして、スキルや武器の諸々も再現し、其れ等全ての扱い方が己以上であったなら』。

 

「………どうやって攻略するんだろ」

 

何時か戦わなければならないなら、避けられない時が訪れたなら、全力で戦って勝利する以外に道はない。だが、其れを考えるのは()じゃなくて良い。

 

「ちょっとしたハプニングは有ったけれど……気を取り直して、ファイヴァルへ向かおう!」

 

勇者は黒を纏いて走り出す。目指すはファイヴァル、栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)を越えた先に在る、シャンフロ第5の街。

サードレマから栄古斉衰の死火口湖に続くゲートを越えた時、ペッパーの前にリザルト画面が表示される。

 

 

 

 

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』

『条件達成まで、残り━━━五つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レディアントシリーズを甦らせる三つの要素探し&ヴァンラッシュブレイカー生産の為、訪れた死火山に久し振りに来訪したペッパーは、其の脚で山肌を駆け上がって行く。

 

『ギョエー!?ギョエー!?』

『ギョエー!?ギョエー!?』

 

そして喧しくとも懐かしい、青い羽毛のペリカン駝鳥ことブルックスランバー達の、騒がしい鳴き声とリュカオーンの呪い(マーキング)が放つ気配に、数羽の群れが我先にとUターンを決めては逃走する。

 

「いやぁ洞窟通らなくて済むのは、本当にリュカオーン様々だね」

「フホホ……クロ助の気配は生半可な奴等にゃあ、ちと刺激が強いからなのぉ」

「相変わらず、綺麗なターンで逃げていくのさ」

 

沼掘り(マッドデイク)相手に試した、3分限定地上ギミック完全無視スキルコンボを決めても良かったが、万が一にも他のプレイヤーに見られて、面倒な事に成りかねないと考えながら、携帯食糧を頬張っては咀嚼し、スタミナと空腹度を回復させて山を登る。

 

と、アイトゥイルの耳に『何か』が聞こえた。

 

「ん?ペッパーはん、ペッパーはん。何か聞こえないのさ?」

「え?何が?」

「此の声………ワイは聞き覚えが有るのさ。声色は『女』なのさ」

 

アイトゥイルの聞き覚えた女性の声ともなれば、数はそう多くはない筈。では一体誰の声なのか?そう思考している内に、彼女はトレンチロングコートから飛び出し、頭の上に乗っかるや単眼望遠鏡を手に取り、辺りを注意深く観察して発見する。

 

「居たのさ!ペッパーはん、10時の方角で誰かがブルックスランバーと戦闘してるのさ!」

「取り敢えず行ってみよう!アイトゥイル、ポポンガさん!しっかり掴まってて下さい!」

 

全身開速(フルスロットル)起動。一気に速度を上げて突撃しつつ、瞬刻視界(モーメントサイト)で思考加速により、位置と状況を把握する。

 

自身の敏捷を高めるだけでなく、一定以上のスピードで走っている場合に『自身の前に空気の層を纏い』、敵や障害物との接触ダメージを減らす『ソニック・アサルト』。自身の敏捷が何らかのスキルやバフ、デバフ等で『変動』したならば、其の変動分だけ敏捷を高める『シャイニングムーヴ』。そしてデュアルリンクとトルクチャージで補強しつつ、ペッパーは駆け出し。

 

そうして数秒で到着した彼の視界に飛び込み写るは、無数のブルックスランバーと、一際大きなブルックスランバーの不世出存在(エクゾーディナリー)最速走者(トップガン)。そして唯一人、悪辣なる青駝鳥と気高き王鳥が入り混じる混沌とした戦場にて、翡翠色の刀を振るう京極(キョウアルティメット)の姿が有った。

 

「えっ!?名無し!?」

「おい、京極。俺はペッパー…だぁっ!?」

「わわっ!?ちょ、ペッパー邪魔しに来たの!?」

「違うよ!此方のユニーク関係で、ファイヴァル目指して登山してただけだよ!?」

 

最速走者の中腰による爆走突進、リュカオーンの呪いによる気配で通常種達は逃走の大混乱。ペッパーと京極は己の身を守るべく、背中合わせとなる形で状況整理に入る。

 

「最速走者が居るな………もしかして、あの時からずっと狙ってたのか?」

「………そうだよ。窮速走破(トップガン)……5分間敏捷3倍に、スタミナ減少無効なんてスキル、ブッ壊れでしょ。其のスキル、本当はウェザエモンとの戦いの前に手に入れて、切札にしておきたかったんだけどさ」

 

あの日、自分が教えた窮速走破を求め続けて。けれど、通常種達により機会を逃し続けてきた京極は、決して諦める事をしなかった。

 

「ペッパー。君の右手に刻まれてる、リュカオーンの呪いの力。窮速走破を獲得する為に、僕に貸して欲しい。其の……報酬は「良いぞ」………へ?えっ、其処は普通何か求めるんじゃないの?」

 

エクゾーディナリー、ましてや窮速走破相手に、見返りを求める事も無く、無償で協力するとはどういう事か。京極………いや他の者にとっても、無償の善意という物は一番とは嬉しい物であり、同時に怖い物だ。

 

「ある『ヒーロー』は言っていた━━━『私は見返りを求めて、戦っているのでは無い。助けを求める、どんな小さな声も聞き逃さない。そんなヒーローに成る為に戦っているんだ』、と」

 

ヒーロー物レトロゲームにて、三つのルートの一つたる王道のライトロードルートの主人公に言った、とある売れないヒーローの台詞である。其の売れないヒーローはモブのような存在であったが、其の台詞はとても印象的で、ヒーローとは何たるかをよく理解している台詞(モノ)だった。

 

「ブルックスランバーの通常種達は、俺がリュカオーンの呪いで追っ払っておく。京極は其の間に、最速走者を叩っ斬れ。油断するなよ」

「………解った。ただし、ラストアタックは持ってかないでね?」

「しねーよ、そんなハイエナプレイは」

 

息を大きく吸い込み、吐いて、京極は刀を構え直す。最速走者もまた片足で地面をなぞり、中腰姿勢で突進の構えを取る。

 

影法師の愉快合羽を纏うペッパーが立ち会い、邪魔鳥が居なくなった山肌にて、人斬りの異名を持ちし京極は、気高き王鳥との一対一(タイマン)勝負に挑む。

 

 

 






切札足り得る力、窮速走破(トップガン)




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刀一本剣技一筋、極めし者其れ即ち



京極 対 最速走者




「さて、トップガン。家のクランリーダーが立ち会いに来てくれたけど、殺り合おうか?」

 

風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】を本物の剣士さながら、剣道家の構えを取る京極(キョウアルティメット)。対するブルックスランバー"最速走者(トップガン)"も臨戦態勢に入っており、言うが早いか京極が仕掛けて。然しトップガンは其れより速く、突進攻撃を仕掛けてきた。

 

「ッ!」

 

嘴が刃の側面と交わり、火花を散らす。

 

(速い…!最速なんて、大層な名で呼ばれるだけあるか!)

 

あのブルックスランバーのアクションは、直角ターンと直線移動と突進による攻撃のみ、しかし其れ等も極めて窮めれば、立派な武器に成る。

 

(『私』の剣術と、どうにも『相性』がよろしくない…か)

 

京極、本名を龍宮院(りゅうぐういん) 京極(きょうごく)。剣道の世界では知らぬ者が居ない、名門『龍宮院家』の長女。彼女の剣には『龍宮院流』という流派が流れている。

 

『切断力は有るが、攻撃を受け止めるにはよろしくない武器で、如何にして戦うのか』を突き詰め。

『敵の攻撃を紙一重で躱す立ち回り』と『相手の急所に最速最短で攻撃を叩き込む』事を極める、謂わば『後の先』に特化した剣。

 

そして『自分の身体を如何にして、最高効率で動かすか』を本質とする剣道こそが、龍宮院流の『強さ』であり、同時に『弱点』でもある。『初手の踏み込み』……其れを潰されると、龍宮院流の剣技は弱くなる。

 

あのブルックスランバーは、此方よりも『常に速く』動き回る事で、スピードによる勝負の世界に相手を『引き摺り込み』。相手を『防戦一方』に追いやって選択肢を奪い取り、最終的には『自分のペースを押し付け続けて』勝利する、謂わば『サンラク』に近しいタイプのモンスター。

 

サンラクと実際に便秘で50連組手を行ったペッパーは、最速走者という存在の『本質』に気付いた。

 

(さて、京極よ。此の暴れ鳥、君はどうやって攻略する?)

 

真っ直ぐ走り、凄まじく駆け、鋭角の刻む。バフスキルを点火しても尚速い最速走者のスピードに、京極は振り回され続けていた。

 

「だぁあ、もう!さっきから走り回って、全然攻撃出来ないんですけど!!ペッパー、どうやってコイツ倒したの!?」

 

鋭角ターンを狙いすまし、剣を振るえど悉く回避され、京極が怒号と共に叫ぶ一方。ペッパーはトップガンと京極の戦いに、通常種が入り込まぬよう外側で待機しつつ、様子を見続けている。

 

「普通に教えたらつまらないでしょ?自力で攻略してこそ、価値が有るんだからさ」

「其れ踏まえても、さっきから逆方向に走り回られて、攻撃の起点が作れないんだって!」

 

攻めあぐねる京極に、ペッパーは少し考え。夕日が地平線に沈んでいく中で、トップガンが走り回った跡を観察、そして彼女へ言った。

 

「なら、攻略のヒントを一つ………。キーワードは『フーコーの振り子』。其れをよく考えれば、自ずと答えは見えてくる」

「フーコーの振り子?は、何其れぇ!?」

 

走り抜けるトップガン、振り回される京極。されど京極は冷静に、ペッパーから教えられたヒントを元にし、敵の情報を整理し始める。

 

(フーコーの振り子……確か昔、何処かの情報で見た覚えがある。えぇっと………確か『自転軸』を測る装着、だったっけ?其れで何が…………!)

 

失踪し続ける巨体を刀の側面で受け流し、彼女はひたすらトップガンを観察し続け。夕焼けが沈み行く中で、照らされて地面に刻まれた、トップガンの『走行跡』を発見。そして見つめた先の『答え』に辿り着いた。

 

「………そう言う事か!」

 

彼女は『ある場所』を目指して走り、刀を鞘へ納刀。ありったけのバフスキルを積み重ねて、勝負を仕掛ける。対するトップガンもまた中腰姿勢を崩す事無く、真っ直ぐに京極へ突進し。

 

されど、幾度も走った走行跡が交わる『中心点』に京極が居た事で、巨体でありながら其の両脚で軽々と彼女の頭上を跳躍する。

 

「やっと隙を見せたね、トップガン!」

 

瞬刻視界(モーメントサイト)、敵の速度に合わせ居合、そして抜刀。技量・器用を参照としつつ、相手の敏捷が自身を上回っている場合に、ダメージ補正が大きく働く、居合(いあい)切燕(きりつばめ)】の上位スキル(・・・・・)たる居合(いあい)切空(きりそら)】で、トップガンの腹部から胸部に掛けて、風雷を籠りし翡翠の一閃が迸る。

 

裂傷と帯電のデバフと共に、深く刻まれた斬撃がトップガンの胸部より、赤いポリゴンを撒き散らして、此処まで散々此方を苦しめてきた其の動きが鈍った。

 

「もう、そっちに手番は渡さないっ!」

 

スキル:秘剣(ひけん)獅子斬(ししき)り】起動。トップガンの左足を斬り飛ばして、機動力を奪い取る。されど、トップガンは、片足を失おうとも倒れない。

 

『ギョエエエエエエエ!!!!』

「っくぅ!」

 

雄叫び、片足跳躍、そして蹴り。嘴の突っ突きに、両翼を用いたインファイト。其の戦う姿たるや、童話『かたあしだちょうのエルク』そのものに等しく。

 

「ッ!負けるかぁ!」

 

嘴を刀の側面で会心のタイミングで受け流し、碧千風と切空で刻んだ裂傷箇所に向けて渾身の力を込めながら、スキル:『刃王斬(ばおうざん)修羅(しゅら)】』で傷跡を撫でる様に切り裂き。走る斬り傷は胸部を越えて長い首をも深く、首全体の1/3にまで到達する致死レベルの傷口とダメージを、気高き王鳥に叩き付けた。

 

『ギュギィィィィ…………!』

 

赤いポリゴンが血飛沫となって放出し。しかし、ブルックスランバー"最速走者"は、眼より血涙を溢しつつも、片足で立っており。だが、京極が与えたダメージは確かに、気高き王鳥の魂の火を絶ち斬ってみせたのである。

 

其れでも………其の身が地に伏せる事は、最期の一瞬まで在らず。ポリゴンの爆発と共に散らばった、ドロップアイテムと京極が求める続けた成果が、リザルト画面として表示されたのだった。

 

 

 

『モンスター不世出(エクゾーディナリー)……解明(クリア)!』

『討伐対象:ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"』

『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』

『称号【(キワ)(キワ)(キワ)マル(ハヤ)サ】を獲得しました』

『称号【疾走(シッソウ)()到達点(トウタツテン)】を獲得しました』

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)窮速走破(トップガン)】を習得しました』

 

 

 

 

「はぁ………疲れたぁ」

「御見事、ヒントとしては解りやすかったかな?」

 

激戦を終えた京極は、刀を鞘に納めて山肌に座ると、ペッパーが声を掛けてくる。

 

「そうだね。けどペッパーが通常種を捌けてくれてなかったら、今頃また火口に放り込まれてたよ」

「そりゃ良かった。念願の不世出の奥義獲得おめでとう、京極」

「……其の言葉、素直に受け取っておくよ」

 

フッと微笑み、ブルックスランバー"窮速走破"のドロップアイテムを拾い上げて、インベントリアに収納。そして残った『王駝鳥(おうだちょう)三色羽(みしきばね)』をペッパーに差し出した。

 

「此れは通常種を捌けてくれた、君に対する僕からの御礼。受け取ってペッパー」

「いや、其れはトドメを刺した京極の物だよ。俺も持ってるしな」

 

そう言って取り出したのは、嘗て此のエリアで京極と同じくトップガンを討伐した時に手にし、今も記念の品として保管している三色羽。

 

「そうなんだ……あ、ペッパーは此れからファイヴァルに行くんだっけ?」

「まぁな。其れから一度サードレマに戻ってからシクセンベルトを目指す感じ。京極はどうするの?」

「僕は一度ファイヴァルに戻るつもり。一緒に来る?」

 

 

 

『京極からのパーティー申請が来ました。パーティーを承認しますか?【YES】or【NO】』

 

 

 

「じゃあ頼む」と即断即決で承認し、二人と愉快合羽に隠した一羽と一匹を連れて、死火山を下り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日振りですね、アーサー・ペンシルゴンさん」

「やぁやぁ、SOHO-ZONE君。此方から呼び出しちゃって悪いねぇ」

 

そして其の頃、ペッパーと京極が向かうファイヴァルでは、クラン:旅狼(ヴォルフガング)のペンシルゴンと、クラン:ウェポニアのクランリーダーたるSOHO-ZONEが集合し、何かを始めようとしていたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 






獲得、不世出の奥義




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武器狂いは依頼を出し、勇者は聖なる盾を得る



ファイヴァル到着、そして一悶着




「いやぁ、まさか此処のエリアボスに『あんな攻略方法』が有ったなんてね……」

「SF-Zooに知り合いが居るって言う、レーザーカジキが教えてくれた裏技でな。初見の時は驚いたし」

 

栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)のエリアボス:怒猛る山鹿羊(ディックホーン)。ペッパーはヤギガゼルを相手に、直撃箇所に炎を発生させる投擲玉(とうてきだま)炸炎(さくえん)】と、同じく直撃箇所に大量の水を発生させる投擲玉(とうてきだま)炸水(さくすい)】で、ヤギガゼルの毛皮を燃やして鎮火する、嘗て教わった裏技で討伐扱いとして攻略し、ファイヴァルに歩みを進めていく。

 

京極(キョウアルティメット)、此の後の予定は?」

「ん~……本当はもう少し遊びたかったけど、トップガン討伐で疲れちゃったから休む」

 

エクゾーディナリーモンスターを相手にし、苦戦を強いられながらも討ち取り、念願のスキルを獲得したのも有るのだろう。PKerにユニーククエストでの、ポポンガの護衛依頼するのもどうかと考えたが、ペッパーは彼女の意思を尊重する事にした。

 

そしてファイヴァルの門を越えて街中に踏み込み、宿屋に向かっていた時。ペッパーが目撃したのは、ニッコリ笑顔で建築物に背を凭れる、アーサー・ペンシルゴンと武器狂い事ウェポニアのSOHO-ZONEで。

 

「ペッパー君。ちょっと『オハナシ』、しようか?」

 

彼女の言葉には、何時もの様に邪悪さと企みと、そして其れ等を纏めて飲み込むような、怒気(・・)が含まれていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった。

 

「なぁ、ペンシ……あ、いや、トワ」

「ん~?何かな、あーくん」

「コレ、言わなくても『壁ドン』……だよな?」

「そうだねぇ………でもねぇ、コレに関しては()が悪いんだよ?」

 

もう一度言おう。どうしてこうなった。

 

SOHO-ZONE・京極・ペンシルゴンと共にファイヴァルの宿屋にチェックインしたペッパーは、ペンシルゴンに2階の別の部屋へと連れ込まれ、只今壁ドンをされていた。

 

因みにSOHO-ZONEは別室で待機し、京極は漸く成し遂げた窮速走破(トップガン)獲得の反動から回復する為、パーティーを解散してログアウトしている。

 

「さぁて、あーくん。何で京極ちゃんと一緒に居たのかなぁ?ん~?デートかなぁ?デートでもしてたかなー?ん~?」

「何で発想が飛躍して、決め付けになるんだよ………。此方のユニーク関連を進めてたら、色んなエリアを巡り歩いて最終的にフィフティシアを目指す事になったんだ。で、ファイヴァルに向かう為に、死火山を登山ルート選んで登ってたら、最速走者と戦ってた京極を見付けてね。リュカオーンの呪い(マーキング)で通常種を捌けて、彼女のスキル獲得を援護してた訳。デートじゃないぞ」

「ペンシルゴンはん、其れに関してはワイも保証するのさ」

 

京極が幾度も挑んでは、悪辣駝鳥によって火口に放り込まれて居たのを、彼女は知っている。ペッパー……五条 梓の性格的に、クランメンバーの助けに入る事は目に見えて解っていた。

 

他の女性プレイヤーやNPCに呆けていない……其れを加味しても、ペンシルゴンは『自分以外』に彼の隣に他の女が居る事を、許容する事はない。

 

そして其れは、彼の肩に乗っかった黒毛のヴォーパルバニー・アイトゥイルに対しても同様に。

 

「あーくんの隣は、私だけのモノなんだから」

 

小さく、しかしハッキリと言い切る。

 

「何か言ったか、トワ?」

「何でもなーいよ」

 

表情を取り繕い、上手く誤魔化し、彼女は笑う。彼と二人きりになったなら、思いっ切り自分に注目させて魅せよう。そして必ず、彼方から自分に好きだと言わせてやるんだと、強く決意して。

 

「さて、ペッパー君。私からのオハナシは終わりだけど、此処からは武器狂いの話が待ってるのだよ……」

「およそ予想は付いてるが……ユニーク小鎚だよな?」

「そうそう。先に勇者武器渡して、直ぐにユニーク小鎚全部作りに行きたいんだって」

 

先んじて武器を渡す事で、製作までの流れを一気に進める魂胆であり。そしてペンシルゴンと共に居たのは、先の会議から参謀の彼女を通せば、此方が話し合いに応じるだろうと睨んだのだろう。

 

「OK、解った。SOHO-ZONEさんと話し合いをするよ。ペンシルゴンは、立会人として話し合いを記録して欲しい」

「はぁい、ペッパー君♪」

 

武器に対して誠実な彼だからこそ、此方も自分の発言に真摯で有りたいと思うのだ。ペンシルゴンと共に、アイトゥイルを愉快合羽に隠したペッパーは、別室で待機している武器狂いこと、SOHO-ZONEとの話し合いに臨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日振りです、ペッパー君。本当はペンシルゴンさんに依頼して、呼び出して貰おうかと思っていました。タイミングが良くて助かりました」

「此方も別件でファイヴァルを目指してましたので、噛み合った感じでしょうかね」

 

別室にて待機していたクラン:ウェポニアのオーナー・SOHO-ZONEと、クラン:旅狼(ヴォルフガング)のリーダー・ペッパーが机越しに対面し、ペンシルゴンが立ち会う中で話し合いが始まる。

 

「単刀直入に行きましょう、ペッパー君。我等ウェポニアが昨日取引した、ロックオンブレイカーと其の成長派生形態製作の依頼。此方が、ロックオンブレイカーと其の成長派生形態を各々『10本ずつ』作る為に必要な、素材とマーニに成ります」

 

そう言ったSOHO-ZONEが、アイテムインベントリから大量の素材が入った袋と、マーニがズッシリと収まった革袋を置いてきた。

 

「……もしかして、一日で全部?」

「えぇ。まだまだ未開拓の部分が多い小鎚。其のユニークともなれば、やる気と気合が入りましたから。皆、素材とマーニ集めで本当によく頑張ってくれました」

 

圧倒的な熱意と執念に、ペッパーとペンシルゴンは内心引きつつも、製造秘伝書と照らし合わせて、数に誤差が無いかを入念にチェック。ペッパーはペンシルゴンにも確認を取る事により、二重チェックでミスを押さえに掛かる。

 

「素材数過不足、及び資金の誤差無しを確認したよ。流石はウェポニアだね」

「責任を持ってロックオンブレイカーと其の成長派生形態の製造を、ファイヴァルの鍛冶師に依頼してきます」

「よろしくお願いします。では、此方も『約束』を果たします」

 

そう言い、SOHO-ZONEが取り出すは『金と白に染めた神々しき盾』であり、其のサイズたるやシャンフロ最後の街『フィフティシア』で購入可能な、現状最上位クラスの大盾『タワーシールド』よりも一回り小さく。

 

形状は野球のホームベースの形をしながら、然れども放つオーラは美しく、金の鏡面に己の顔が写る程に曇り無き物であった。

 

「我等ウェポニアが保有する切札、そしてペッパー君に譲渡する盾の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディス』になります」

「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」

 

SOHO-ZONEより渡された、盾の勇者武器こと聖盾イーディス。ユニーク何たるかを体現する、ユニーク武器の一角たるコレが一体どんな性能を誇るのか。ペッパーはアイテムインベントリに収納するや、早速其の性能をチェックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖盾(せいじゅん)イーディス(勇者武器(ウィッシュド.ウェポン))

 

選ばれし者のみが使うことを許された勇者の武器。イーディスが見定む金色の鏡面は、あらゆる殺意を退け、弱き者を守り抜く。其の四肢が朽ちようと、其の魂が砕けようと、我が身一つで守らんとする者に勇者の盾は、大いなる加護と再起を与える。

 

苛烈に倒れる事も、困難に屈する事も無く、命を掛けて守る者を、人は勇者と呼ぶのだ。

 

 

此の武器を装備した場合、装備者の全ステータスにボーナス補正を与え、職業(ジョブ):勇者(ゆうしゃ)を獲得出来る。

 

此の武器の耐久度が0になった場合、体力・MPの何れかを消費することで、此の武器の耐久値を10%回復する。

 

此の武器を装備した場合、特殊スキル【アンブロークン】・【ブレイブリバイヴ】・【窮地不屈(きゅうちふくつ)】を獲得する。

 

アンブロークン:装備者の体力が0になった時、25%の確率で最大HPの10%を回復・復活する。パーティメンバーが0人、もしくは3人以上の場合に使用可。

 

ブレイブリバイヴ:装備したプレイヤーに、エネミー・NPC・プレイヤーのヘイトが全体の80%以上向けられている状態で、自身の体力が全損するダメージを受けた場合、アンブロークンの発動条件が充たされているなら、発動確率が50%になる。

 

窮地不屈(きゅうちふくつ):装備者の体力及びMPが10%以下の場合、エネミー・NPC・プレイヤーによるダメージを受けた時、50%の確率でダメージが10になる。

 

 

【耐久力+3000】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっコレヤバい奴だ。

 

 






此処に勇者武器は届けられた



聖盾「身体が半分になろうが、四肢が腐り落ちようが、絶対に諦めるな。己を顧みずに弱き者を守り抜け」

聖盾イーディスのモチーフは、千年戦争アイギスの最高レアリティ・ブラックのユニット:『光の守護者アルティア』の未覚醒状態の盾を一回り大きくしたイメージ。








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依頼を終えて、勇者は産まれる



会談はもう少し続く




盾の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディス。

 

耐久力を3000も引き上げるだけに留まらず、体力・MPのどちらかを消費して破壊状態からの再生、更には条件を充たしたならば復活確率が50:50に成る。

 

其の上ピンチになれば、どんなに強力な攻撃を受けてもカスダメにしてしまう可能性を持ち、タンク職プレイヤーが血涙を流して欲しがるだろう、とんでもなくヤバい武器だ。

 

正にユニークとは何たるか、其れを証明した武器と言える。

 

しかし、当の本人(ペッパー)が注目したのは『装備者にボーナス補正』を加えるという表記。恐らく此れは『装備が装備者に与えるバフ』と思われ、リュカオーンの呪い(マーキング)が付いている身では、対価の天秤に匹敵するレベルの力で無い限り、バフだろうがデバフだろうが問答無用で『弾いてしまう』。

 

つまり現時点での聖盾イーディスは、ペッパーが扱うとおよそ6~7割の性能しか引き出せない、そんな状態に在ると見て良い。其れでも復活能力と再生能力が使えるだけでも、十分過ぎる程の装備アドバンテージが有るが。

 

「SOHO-ZONEさん。此の装備はファイヴァルの鍛冶師にロックオンブレイカーの製作依頼を出してから、装備した方が良いでしょうか?一応、実際に見て貰った方が信憑性が増すかと思いまして」

「そうですね。其れで行き━━━━エッ其れなんですか?」

 

渡されたアイテムとマーニの袋を、左手首に装着して一体化している格納鍵(かくのうかぎ)インベントリアに収納していると、SOHO-ZONEが其れを見て声を上げた。

 

「どうしましたか?」

「ペッパー君、其の左手首に付いている『アクセサリー』………というよりは『腕輪』、みたいですね?其れは何でしょうか?」

 

ズズズイッと興味津々な様子で、ペッパーの左手首に装着された、格納鍵インベントリアを見るSOHO-ZONE。此れに関しての説明をすれば、また面倒な事になりそうだと考えつつも、アクセサリーの説明文を思い出して『オンリーワン』では無い事を踏まえつつ、彼はペンシルゴンをチラリと見て。

 

其の視線に何かを感じたのか、彼女もサムズアップでサインを送ったのを合図に、ペッパーは己の左手首をSOHO-ZONEに見せながら、簡潔に話をする。

 

「コレですか?コレは格納鍵インベントリア。ウェザエモンさんとの戦いに勝利して、旅狼(ヴォルフガング)のメンバー全員が獲得した報酬です。一言で表すなら『無限インベントリ』━━━ただインベントリア自体はユニークではなく『他にも有る』そうで、おそらく『此の世界の何処かに』存在しているかと」

 

他にも此のインベントリアには、ウェザエモンの遺産たるSFパワードスーツにロボット、武装達が収納されているが、無限インベントリというパワーワードが有れば十分だろう。

 

「無限インベントリ……!?エッ、マジで?……コレきっと『カローシスさん』が知ったら、絶対目を丸くして来そうだな……。あの人前々から、インベントリ重量をどうにかして増やしたいとか言ってたし…………」

 

ブツブツと独り言を呟き始めたSOHO-ZONE。ペッパーはクランリーダーとして気になり。彼に「カローシスさん?」と問い掛ける。

 

「カローシスさんとは、クランリーダーとしての付き合いでね。ペッパー君は『クラン:午後十字軍(ごごじゅうじぐん)』を知っていますか?」

「私は知ってるよ。ログイン時間が午後10時以降でログイン出来る面々で構成されてるクラン……だったよね?」

「はい。もっと言うと、夜間にしかログイン出来ないプレイヤーが集まる傾向にあるので、クランメンバーの総数ならば黒狼(ヴォルフシュバルツ)に負けず劣らず……だとか」

 

曰く『メンバー全員が死んだ魚の目をしながら、際立った組織力を持つ』らしい。何が起きれば死んだ魚の目をしながら、そんな状態に至ってしまうのか……ペッパーは考えたくもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、ペッパーさん。久し振りねぇ」

「御久し振りです、御婆様」

 

ファイヴァルの宿屋を後にし、やって来たのはファイヴァルの武器屋。カウンターに座る、店主の老婆がペッパーの姿を見て微笑み掛けて、彼も小さく御辞儀をする。

 

「早速で悪いのですが、ロックオンブレイカーとマッドネスブレイカー、そして3つの成長派生形態の小鎚達を各々10本ずつ、製作依頼をしたいのですがよろしいですか?」

 

そう言って左手首のインベントリアを操作し、SOHO-ZONEから渡された製作の為の素材、及びマーニが入った袋を置く。

 

「おやおや、まぁまぁ……沢山在るわねぇ……」

「俺の友達がロックオンブレイカーの研究をしたいので、此方も協力しているんです。其れから製作に必須の秘伝書です」

「そうなのね……。作り方はフムフム……素材数とマーニも……大丈夫ねぇ。ただ量が多いから全部作るとなると、弟子の子達を総動員しても『2週間』は掛かっちゃうのだけど……其れでも良いかしら?」

 

ユニーク小鎚を各種10本、其れが5つ有って50本作るともなれば、秘伝書有りとは言えど相応の時間と労力は、必用不可欠という事だ。

 

「SOHO-ZONEさん、其れでも良いかな?」

「えぇ、勿論。よろしくお願いします」

「との事です。御婆様、よろしくお願い致します」

「えぇ…承りました」

 

パチンと老婆が指を鳴らすと、店の奥から屈強な男達が出て来て、マーニと素材が入った袋を軽々と抱え、店奥へ引っ込んでいった。

 

「………と、こんな感じなのですが。どうでしたか?」

「えぇ、えぇ。しっかり見届けさせていただきました。ああやって依頼するんだなって……」

 

ぽわぽわと、ホクホクと。大満足と言った表情でSOHO-ZONEは、2週間後に出来上がるユニーク小鎚達に想いを馳せ。

 

約束を果たしたペッパーは、インベントリに納めていた盾の勇者武器・聖盾イーディスを左手に装備。其の瞬間、彼の目の前に『勇者限定の新たな要素』が追加されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者誕生!盾の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスが、PN:ペッパー【天津気(アマツキ)】に装備されました』

『サブ職業(ジョブ)に職業:勇者を追加します』

『ユニークシナリオ【勇ましの試練】を開始しますか?【YES】or【NO】』

 

 

 

 

 

 

 

(えっマジで?勇者武器って、装備するとユニークシナリオ発生するの?じゃあペンシルゴンも、同様のシナリオを受注してるのか?てか俺、ユニークシナリオ2つ持っちゃったよ…………ユニーククエストと合わせたら4つだよ…………。

 

神様や。アンタは俺に、一体何をさせたいんだ?藻掻き抗う姿を見て、コーラとポップコーンを御供に、鑑賞会でもやりたいのか?俺は見世物じゃないんだが……)

 

勇者武器装備で発生した、新たなユニークシナリオ【勇ましの試練】。

 

ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】。

ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】。

ユニークシナリオEX【致命兎叙事詩(エピック.オブ.ヴォーパルバニー)】。

 

抱える物がまた増え、平穏なシャンフロライフは最早遠い存在となったペッパーは、一人頭を抱える事となり。

 

想い人が、自分と同じ勇者に成った(・・・・・・・・・・・)事を確認したペンシルゴンは、此の場に居た誰よりも幸せで、満面の笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 






依頼完了




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古の御業は、太古の技術を今に甦らせる



オハナシを終えて




「SOHO-ZONEさん、本日はありがとうございました」

「此方こそ、貴重な時間をありがとうございます。ペッパー君」

 

クラン:ウェポニアとの会談を終え、取引成立と依頼完遂により、晴れて(たて)勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスを手にして勇者となったペッパーは、SOHO-ZONEと握手を交わした。

 

「聖盾イーディスで解った事や、武器防具で解らない事が合ったら、伝書鳥(メールバード)で連絡を下さい。クラン:ウェポニアとして全力でサポートします」

「は、はぁ……其れは心強い。其の時はよろしくお願い致します」

 

力強い視線で言い切ったSOHO-ZONEは「其れでは」と言い、ファイヴァルの宿屋へと歩いて行き。ペッパーはSOHO-ZONEが見えなくなった事を確認して、緊張からの解放と共に「はぁぁ~……」と息を吐く。

 

「お疲れ様。そして勇者就任おめでとう、ペッパー君」

「立会ありがとうな、ペンシルゴン。というか、勇者になるとユニークシナリオ発生するのか」

「あぁ、ユニークシナリオ【勇ましの試練】でしょ?君が持ってるユニーククエストと同じ『段階型クエスト』みたいでね。最初は勇者武器を装備して、幾つかのエリアを制覇するみたいなの」

 

彼女が言うには、勇者と成ったプレイヤーは未踏のエリアの踏破したり、自身よりレベルの高い相手と戦ったりし、そしてペンシルゴンのシナリオは、現在『勇者武器を持つ者同士が戦う』といったフェイズに入っているらしい。

 

黒狼(ヴォルフシュバルツ)に二人の勇者武器持ち、そして私達旅狼(ヴォルフガング)にも二人……。フフフ、此れは良いかも知れないわね………」

 

そして何やらペンシルゴンが企み始めて、ニヤニヤしているのを横目にしていると、二人のEメールアプリに1通のメールが届いた。

 

一度ファイヴァルの裏路地で内容を確認すると、サンラクからのメールで『ビィラック育成計画で稼働してる遺機装(レガシーウェポン)が必要なんだが、インベントリアの中にある武装のコメットカタパルトを使って大丈夫か?』との事。

 

「サンラク君順調みたいだね。ねぇ、あーくん。明日暇だったりしない?」

「ん?まぁ、明日は丸一日フリーだが……」

「そっか。じゃあさ……新人勇者のあーくんを、先輩勇者たるトワおねーさんが、ファイヴァルまで護衛してあげよう!」

 

実際レベル99のカンストに到っているプレイヤーの護衛は心強く、何よりNPC込みで4人のパーティーが構築される事によって、勇者武器の聖盾イーディスとペンシルゴンが持つ聖槍カレドヴルッフの特殊スキル:アンブロークンを活かせるようになる。

 

「………良いよ、トワ。何時に集まる?」

「おやおや即決、悩むかと思った。そうだねぇ……明日の午前9時、場所は此処で良い?」

「OK、其れで行こう。もし急な予定が入ったら、Eメールで連絡出すよ」

「うん、御願いね。あーくん」

 

あっさりと決まった協力プレイ。然れどペンシルゴンこと天音(あまね) 永遠(とわ)の狙いは、勇者武器を持つ者としてペッパーこと五条(ごじょう) (あずさ)護衛・誘導(一日デート)を取り付ける事だったのだ。

 

(フフフ……あーくん。一日掛けてた~っぷりと、おねーさんの魅力を教えてあげるんだから♪)

(イーディスの性能チェックや、イレベンタルで武器防具の新調もしたいし、ペンシルゴンが誘ってくれて助かったな)

 

ペンシルゴンとペッパー。互いに思惑は内に秘めど、目指す場所は御互いに同じであり。

 

「あ、トワ。ユニーククエストの関係でサードレマに行ってから、シクセンベルトにも立ち寄りたいんだが良い?」

「ん?OKOK、良いよあーくん」

 

予定を決め、そして二人は「また明日」と別れて行った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペンシルゴンと現地解散の後、他者に見られないようにアイトゥイルのゲートで兎御殿に帰還したペッパー。サンラクがメールで言っていた、ビィラック育成計画が現状、どんな状態に至ったかを知る為、彼女の鍛冶場へと向かった。

 

そしてペッパー、両肩に乗るアイトゥイル・ポポンガが目撃したのは、VRゴーグルに似た円形のユニットを頭に装着し、ウェザエモンの遺産にして格納鍵インベントリアに入っている、規格外武装の一つ【コメットカタパルト】を分解し、研究しているビィラックの姿が在った。

 

「お、ペッパーか。今わちは、神代の技術の深奥を学び取っとるけ。もう少ししたら、エーテルリアクターの修理に入る。ちゃちゃっと終わらせて、明日にはキッチリ直しとくわ」

「よろしくお願いします。頑張ってください、ビィラックさん」

 

部品やパーツを一つ一つ見つめながら、一際真剣な眼差しをしているビィラックにエールを送り。邪魔をしては不味いなと思い、鍛冶場から立ち去ろうとする。

 

「あぁ、ペッパー。ちょいまちや」

「え?何ですか、ビィラックさん」

 

何かフラグを踏んだかと身構えるが、当の本人はゴーグルの一部がスライドして顔全体がハッキリと出て。彼女はペッパーにこう言った。

 

「……遺機装を扱える古匠(こしょう)となれば、わちは神代の技術を用いて『遺機装を直したり』、遺機装を『新しく造り出す』事が出来るようになるんじゃ」

「遺機装の修理……?もしかして、ウェザエモンさんの一式装備も!?」

「あぁ。アレも凄まじい年季が入った遺機装じゃけ。わちが古匠に成れば、修繕出来るようになるけぇの」

 

今までヴァイスアッシュに頼まなくては、耐久値を回復出来なかったが、ビィラックが古匠となれば彼一人に頼らなくて済むようになる。

 

「でじゃ、ペッパー。引き留めたんは他でもない、わりゃに『頼みたい事』が有るん」

「頼みたい……事?」

 

「そうじゃ」と言った彼女の目付きは真剣で、そしてペッパーに言ったのだ。

 

「以前………わりゃが新武器製造の為に持ってきた、『ティラネードギラファ』と『カイゼリオンコーカサス』……。双皇甲虫達の素材を用いて、遺機装を造りたいんじゃ」

 

颶風の申し子と雷嵐の申し子と呼ばれる、気高く強かな甲皇虫達の素材を用いた、神代の技術が産み出す新たな遺機装を造りたいと言う彼女。

 

「製作する過程で、かなりの量を使うじゃろう……!おまけに双皇甲虫達の戦いは苛烈を極める上、希少部位とも成れば収集は更に困難となる……!じゃが、アレを使えば『水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の素材』を用いた遺機装にも匹敵し得る、凄い物が出来る予感がする…!

頼む!わちを信じて、わりゃの為の遺機装を造らせてくれんか!」

 

此の通りじゃ!と深々と頭を下げるビィラック。彼女程の鍛冶師が見せた、凄まじい覚悟を犇々と感じたペッパーは、膝を曲げて腰を落とし、彼女と同じ視線まで身を屈めて言った。

 

「ビィラックさん、顔を上げてください。どんなに時間が掛かっても、沢山集めて持ってきますので、最高の逸品に仕上げてください」

 

此処まで言われて断ったなら、男が廃る以前に人間として彼女に顔向け出来なくなる。成ればこそ、此方も最大の覚悟で答えるのが筋と言うモノ。

 

「あぁ、あぁ!必ず、最高の逸品を仕上げてやるけぇ!で、何を造りたいんじゃ!何でも言うてみ!」

 

目を輝かせ、オーダーを聞くビィラック。ペッパーは暫く考えた後、彼女に向けて己が望む武器種(ジャンル)を上げたのだ。

 

「そうですね。俺が使いたいジャンルは…………

 

 

 

 

 

両脚に装備出来る『籠脚(ガントレッグ)』に、片腕に対応した『大型の籠手(ビックスケール.ガントレット)』。そして最後に『斧槍(ハルバート)』が使いたいです。

 

 

 

 

 

━━━武器のイメージは、既にイラストとして起こしてあります。どうぞ、御参照下さい」

 

 

 

 

 

 

と………。

 

 

 

 

 






デートという名の行軍取り付け、兎の国の名匠は古匠へと昇る




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胡椒は三種の武具を望み、半裸の鳥頭は水晶地帯へ狩りに向かう



ペッパーが望む武具達




「両脚に装備出来る『籠脚(ガントレッグ)』に、片腕に対応した『大型の籠手(ビックスケール.ガントレット)』。そして最後に『斧槍(ハルバート)』が使いたい………か」

 

古匠となる事で、新たに遺機装(レガシーウェポン)を製造出来るようになると言う、ビィラックの発言。そしてティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの素材で、ペッパーの為の遺機装を造りたいと言うオーダーを受け、彼の提示した武器種と彼が起こしたイラストを見つつ、彼女は呟く。

 

「籠脚は爪先と膝にカイゼリオンコーカサスの角、其の間をティラネードギラファの鋏で出来た斬撃機能。……こりゃ籠脚一つで、斬打突の三要素が出来てまうな。

籠手もまた豪華じゃのぉ。指パーツは全部カイゼリオンコーカサスの角、手刀に用いる部分と手甲にゃティラネードギラファの鋏、回避されても掠り傷で致命傷に至らす。

そして斧槍……全く『とんでもないギミック』入れおってからに。最高に『頭悪ぅのぉ』ペッパーや」

 

凄まじい気配が漂う武器イラストに、ビィラックは引き吊ったような、然れど不敵な笑みを浮かべた。

 

「知り合いに、武器のデザインやギミックに精通した、凄い奴が居ましてね。特に斧槍のギミックは、俺と其の知り合いが昔、一緒に考えた物なんです」

 

武器狂いの異名を持つ、クラン:ウェポニアのクランオーナー・SOHO-ZONE。本名を『創太(そうた) 宗助(そうすけ)』。中学時代に同級生だった彼とは、美術の授業で作った段ボールアートで知り合い。

 

文化祭の出し物で用いた段ボールの武器を見て、武器作りレトロゲームこと『ウェポニアメーカー』で登場した、大剣武器の正式名称とギミックを、一言一句外す事無く言い当てた事で、友達になった記憶が有る。

 

まさか思い出のゲームの名前を、クラン名にしているとは考えてはいなかったが。

 

「成程の……してペッパーよ。武器は三種類有るが、何れを最優先で作りたいとかは有るかの?」

「やはり籠手ですかね。材料的にも一番量が要りますので」

 

事実、籠手の指パーツにカイゼリオンコーカサスの角と、手甲及び小指の側面部分にティラネードギラファの鋏を用いるともなれば、少なくとも彼等を『5体』。もしくは、其れ以上の体数を狩らなくてはならない。

現状ユニーククエストで呪いの装備と化している、影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)の解除。そしてポポンガの護衛が有る為に、素材集めはかなり先に成るだろう。

 

色々と合って精神面で疲れたペッパーは、まだ夕食も食べていなかったのと、明日はペンシルゴンとエリア踏破を目指す為に備える事として、今日は此処で終わりにしようとログアウトする為に兎御殿の休憩室に赴き、ベッドに寝転がってコンソール画面を操作。

 

「ん……『お知らせ』?何々……『モンスターの一部挙動を修正しました』とな?バグでも有ったのかな?」

 

疑問に思いつつも、ペッパーは此の日のシャンフロを終えたのだった。しかし彼は知らない……此の緊急修正は、同じクランメンバーのサンラクが、水晶巣崖(すいしょうそうがい)での荒稼ぎによって引き起こされた物である事を。

 

そして運営が行った緊急修正対象の一体が、昨日荒稼ぎしまくった水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)で有る事を知らないサンラクは、ビィラックから水晶群蠍の素材を用いた遺機装を造りたいと言うオーダーを受け、単身死地へと赴いていたのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペッパーが兎御殿の休憩室にて、セーブ&ログアウトをしてシャンフロから退場していた頃。サンラクは一人水晶巣崖を登り上がり、昨日見た水晶地帯へ到着していた。

 

「さぁて……稼ぐとしましょうか。運が良ければ、あのキンイロソード野郎に出逢えるかも知れねぇしな」

 

不意討ちとは言え、針を持って帰れなかった原因を作った金色の水晶群蠍を解らせてやると心に決め、わざとらしく音を立てて着地する。

 

こんな時に限って幸運なのか不運なのか、乱数の振れ幅が凄まじい事になり、水晶に擬態していた蠍達が眠りを邪魔されて覚醒するや、数十体がアクティブ状態となって一斉に侵入者(サンラク)へと襲い掛かる。

 

「ハッハァー!良いぞ良いぞ、付いてきやがれ蠍共!」

 

機動系スキルを全点火、アサイラムサインで入り組んだ水晶地帯のルートを割り出し、複数の敵や攻撃に晒される程にステータスへ強化(バフ)が入る『包囲先見(ほういせんけん)』を加えつつ、走り続ける。其の爆走に反応した他の蠍達も水晶を爆ぜながら、包囲陣を敷くようにサンラクを取り囲み、我先にと襲い掛かった。

 

「3…2…1……今ッ!」

 

合い言葉は【転送:格納空間(エンタートラベル)】。完全安全地帯に逃げ込んだサンラクは一人、凄まじく悪い笑顔で勝利宣言をするかのように、笑い声を上げる。

 

「フハハハハハハハハ!楽勝楽勝、テクノロジーの大勝利だぜぇ!此れなら大量の水晶群蠍の素材で、すんげぇモンをビィラックが造れそうだな……クックック!」

 

タイマーアプリで時間計測から、およそ三分経過。【転送:現実空間(イグジットトラベル)】のコールで、サンラクが格納空間から、元の場所へと転移。

 

「フフフ…見渡せば勝利の光景━━━━あれ?」

 

だがサンラクを待っていたのは、驚くべき光景で。昨日と同じ方法でやった時には、大量の水晶群蠍の素材が其処彼処に散らばっていた。

だが、今日は足の一本処か水晶の一欠片さえも、水晶群蠍の素材が存在していないのである。

 

「どうなってやがる?転移のタイミングは完璧だった筈だろ……?」

 

巨体の突撃からの急ブレーキは、シャンフロが誇る物理エンジン(・・・・・・)の都合上、反動は襲い掛かる為に『絶対に有り得ない』。重力と慣性が働いて無くては、此の世界は今頃『バグと面白おかしな挙動を取る』プレイヤーとNPCで、溢れ返ったバグゲーに成っている。

 

そして水晶群蠍を1時間近く観察出来たサンラクには、あの蠍達のAIは『賢くない』と判断出来ていた。だからこそ激突寸前で、あの蠍達が止まれる筈が無い。

 

「……………いや、まさ━━━━━━」

 

サンラクが水晶群蠍の変化した挙動の真実(カラクリ)に辿り着いた、まさに其の刹那。足下の水晶が震えて、サンラクの左脇腹を抉る様な衝撃と共に、彼の身体が夜空に舞った。

 

「ガハッ………!?う、運営の野郎……サイレント修正しやがべぼば!?!?」

 

水晶群蠍が行った新戦法、其れこそがサンラクが受けた攻撃にして、通常の潜伏状態から行う奇襲の『もう一段階上の奇襲』。

 

アクティブ状態で行う潜伏奇襲(・・・・・・・・・・・・・・)と言う圧倒的な初見殺しを誇る一撃に、サンラクは運営に対する怨嗟の声を上げながら、四方八方から襲い掛かった蠍達の振るう針によって滅多刺しにされ、死亡したのであった……。

 

 

 






運営の善意と悪意(修正)






200話到達、設定開示コーナー






七つの最強種をモチーフ、もしくは由来するユニーク遺機装は、各々対応した武器が在る



光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス):籠脚

悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ):刀

━界━━━━兎━━:???



深淵━━━蛸極━━:大盾



夜闇━━━━黒狼━━:戦双爪

永━━━━━歌━━━:???

━━━━━━蛇━━━:変幻武具









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半裸の鳥頭は水晶の滝にて、強大なる蠍を落とす



復讐を始めよう




「マジかよ………」

 

水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の初見殺しの技に殺られ、情報を確かめるべく一旦ログアウトした楽朗(らくろう)は、タブレットでシャングリラ・フロンティア公式HPをチェックし、苦虫を噛み潰した顔をした。

 

其処には確かに『モンスターの一部挙動を修正しました』と書かれており、身を以て体感したサンラクは其のモンスターが誰なのかに心当たりが有る。

 

「アイツ等の(AI)は其処まで高性能じゃなかったし、何なら同士討ちも視野に入れてた矢先にコレかよ、チクショウ………!金策や経験値稼ぎに持ってこいだと思ったんだがな……」

 

何れ修正が来ると見込んで大量に稼いだのは不幸中の幸いであり、もし稼ぎ途中で修正が入っていたら発狂不可避になっていただろう。

 

椅子に凭れ掛かりタブレットを操作しながら、楽朗は修正によって挙動が変わった水晶群蠍の攻略法を考え始める。

 

「巨体の突撃……大多数……ドロップアイテム……ウムム」

 

アクティブ状態での潜伏奇襲という、新たな戦法を運営()から与えられた蠍達は、前にも増して侵入者に容赦無く牙を剥くだろう。水晶巣崖(あそこ)のレア物の鉱石に宝石達ならば、仮に水晶群蠍の素材が手に入らなくても十分な対価と金策になる。

 

問題は従来の方法での、格納空間エスケープが通用しない事だ。アレが出来たとしても、せいぜい己の寿命を僅かに延命させる事しか叶わないのだから。

 

と、思考を蠍達に持っていかれていた影響で、まだ開けていないエナジードリンクの缶が、楽朗の手の甲に『押されて』。『重力という名の物理エンジンに従い、床へ向かって落下』。

 

「うおっ、危ッ……!」

 

其れを慌てて彼が掴んだ瞬間、彼の脳内に電力が迸り、アイデアのスーパーノヴァが発生した。

 

「…物理エンジン、蠍のAI………特性に…重力…!そうか、此の方法ならイケる!水晶群蠍達(アイツ等)を倒せるぞ!」

 

水晶巣崖の場所と立地、水晶群蠍の思考と特性、待ち伏せという新たな武器を手にした彼等は、侵入者を一体何処まで追い掛ける(・・・・・・・・・・・)

 

「必要スキルは、有る………!リキャストタイムとの兼ね合い、大丈夫だ………!フハハハハハハハハ!運営め、修正で俺の闘志を消せると思ったか?残念だったな、こんくらいじゃヘコタレの内にも入らねぇんだよなァッ!」

 

クソゲーマー・陽務(ひづとめ) 楽朗(らくろう)。今宵彼が行うのは『逃走』に有らず。

 

 

 

 

 

「あ、サンラクさん。戻ってくるなり眠ってしまって、心配だったんですわ」

 

シャンフロに再ログインし、兎御殿の休憩室にて目覚めたサンラクは、休憩室に在る小さな腰掛けに座るエムルに声を掛けられた。

 

「おぅ、エムル。早速だが、エイドルトまでゲートを開いてくれ」

「………はぁ、また『オトモダチ』のお家に遊びに行くのですわ?」

 

サンラクが一方的に水晶群蠍達を『ダチ』と呼び、水晶巣崖で鉱石や素材を掻き集め、荒稼ぎをしているのを知っているエムルは深い溜息を溢し、そして言う。

 

「また兎御殿待機ですわ?」

「いや、エムル。今回は『エイドルトの裏路地』で、深夜に此の裏路地へ迎えに来てくれ」

 

他者に見付かるリスクもあるが、今回サンラクは死に戻りをする為に、水晶巣崖という『死地』に赴く訳ではない。言い換えるならば非常に『ヴォーパル的』な事━━━━━━即ち水晶群蠍達を討伐しに行く事(・・・・・・・)なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャングリラ・フロンティアというゲームは、何世代も先のシステム━━━━通称『シャンフロシステム』により、現実世界と遜色の無い『物理エンジン』が搭載されている。

 

背中を押せば人やモンスターは前に倒れ、木に成った林檎は重力に従って地面に落ちる。現実世界での当たり前に働く力を、ゲームに妥協する事無く細部に渡って落とし込んだ事で、大衆から『神ゲー』として認知され、世界記録にも其の名を刻んだのだ。

 

「覚悟しろよ、水晶群蠍。オマエ等は此のゲームの『当たり前』で、殺される事に成るんだからな」

 

己が身一つで崖を登り、夜空と見慣れた水晶輝く危険地帯に辿り着いたサンラクは、足下に転がる掌サイズの水晶片を拾い上げて、高く高く放り投げる。重力という物理エンジンにより、投げられた水晶片は軈て上昇から下降へと転じ落下。近くの水晶柱にぶつかり、数秒の振動を経て水晶群蠍が数匹程、擬態を解除するやサンラク目掛けて突貫してくる。

 

「さぁ、行くぜ!初っぱなからフルスロットルだ!」

 

自分一人がヘイトを受けている場合に、自身が空腹かつ体力残量が少ない程、筋力・敏捷・耐久に強化を入れる『孤高の餓狼(トランジェント)』。

孤高の餓狼と同じ条件で、敏捷・筋力・幸運を高める『雄々しき狼魂(ベイオヴルフ)』。

一対多数もしくは多数対一である時に、視覚・筋力・敏捷に補正を加える『戦火の瞳(ウォーアイズ)』。

スキルや魔法等で自身の敏捷が上がる度に、走行時限定ながら加速と速度が大幅に上昇する『メルニッション・ダッシュ』。

 

其所に包囲先見(ほういせんけん)血戦主義(けっせんしゅぎ)、ニトロゲインにイグニッション、更にはアサイラムサインとクライマックスブースト、最後はトルクチャージで使用した機動系スキルの全使用、並びに再使用時間短縮を行い、サンラクは水晶地帯を爆走する。

 

「ハハハハハハハ!起きろ、起きろ!寝坊助蠍共!祭の時間だあああああ!」

 

スキルによって体力を削りに削った為、掠っただけで死が確定する緊張感と、背後より伝わる濃密な死の気配に押されながらも、半裸の鳥頭は止まる事無く其の両足で水晶地帯を進み続け、そんな侵入者のけたたましい声が喧騒を呼び、眠りを妨げられた蠍達は無機質故に表情は解らずとも、纏う気配から御立腹の様子だ。

 

迫る煌美やかな死の津波が、駆け続けるサンラクの背を追い掛け、既に50体は居るだろう軍勢として押し潰しに来る。

 

「物量で俺はオマエ等にゃあ、逆立ちしても勝てやしねぇ。だから………自分達で死んでくれ」

 

谷間に伸びる巨大水晶の穂先より、サンラクは恐れる事無く跳躍。水晶群蠍達も、目の前に道が無くなった事に漸く気付いたが、時既に遅し。

 

急ブレーキを掛けるものの、後ろからの同族達の巨体に圧されて、抵抗虚しく物理エンジンに従い、前へ前へと押し出され、十数匹の蠍達が水晶の崖から真っ逆さまに、谷底へと落ちていく。

 

古今東西、重力と高所が存在するゲームに置いて、プレイヤーにNPC、そして敵やモンスターに等しく適応され、対処無しならば例外も漏れも無く殺す、物理エンジンからの死刑宣告━━━━━『落下死』である。

 

「だが俺は。其の物理法則に反逆する『術』を手にして、此処に来た!」

 

遮那王憑(しゃなおうつ)きと共に点火するは、ペッパーも手にした『二段ジャンプ』。空中を踏み締め、蹴り上げ。一度限りの跳躍を条件として、死刑宣告を回避する『奥義』。

 

「スカイウォーカー!」

 

ボォン!と空気の入った風船を足で潰し割った様な音と共に、サンラクの身体がもう一段階跳躍。谷間の中腹まで飛んでいた己の身体は、飛行距離を更に伸ばして水晶巣崖の反対側まで飛び越えた。

 

そして後ろをチラリと見れば、水晶群蠍達が瘴気で満ち充ちる谷底へと落ちていく様子であり。

 

作戦名(オペレーション):蠍落とし(スコーピオンフォール)。大量の水晶群蠍、討伐完了だ!」

 

取り出した湖沼(こしょう)短剣(たんけん)を、水晶に突き立てぶら下がり、サンラクは此処に勝利を宣言したのであった。

 

 

 

 

 






作戦名(オペレーション):蠍落とし(スコーピオンフォール)



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衝動は力となり、怒号は魔人の如く在れ



サンラク vs 金色蠍

※3連続更新の第1陣です





作戦名(オペレーション):蠍落とし(スコーピオンフォール)

 

ところてん作戦という別の名前も考えたが、ダサ過ぎたのでカッコいい方にした其れは、水晶群蠍(クリスタルスコーピオン)の特性と生態、そしてAIを利用しなくては完遂出来なかった方法である。

 

「何にせよ、だ。レベル100オーバーの水晶群蠍の討伐で、相当な経験値が入ったんじゃないか?」

 

水晶に突き立てた、湖沼の短剣を使って登り、ステータスを確認したサンラク。しかし、自身のレベルは1たりとも変化していない。

 

「?妙だな……レベルが上がってない?蠍共はもう地面に落ちた筈………」

 

シャンフロの経験値上昇のシステムは、モンスターとの『戦闘終了』と同時に処理が行われる。例えばプレイヤーが百体のモンスターと相対し、九十九体のモンスターを落下死や同士討ち、毒殺謀殺落下死等の諸々によって討伐したとしても、最後の一体を殺るか殺られるかしない限り、経験値は入らないシステムだ。

 

「つまり、まだ『戦闘が終わっていない』…?」

 

サンラクが結論に至った直後、背後から水晶を砕き割り現れる三匹の蠍達。此れはまた大量に集めて、谷底へ叩き落としてやろうと考え。しかし其の思考は、新たに現れた『乱入者』によって塗り替えられる。

 

「まだ居たか、もう一回谷底……ん!?」

 

一匹は胴体を鯖折りに、一匹は頸を断ち斬られ、一匹は乗し掛かりで圧殺されている。其れを行ったのは水晶群蠍………否。パラサイト隕石の中に有る、黒黄金色の成分と同じ色で全身を染め上げた、一匹の『金色の水晶群蠍』だった。

 

其れ(・・)はサンラクをじっと見つめ。徐に自分の手で始末した水晶群蠍の一匹をぶん投げてきた。

 

「うおっ、金色の蠍!?いやカラーリングは似てるが、アイツとは『鋏や針の形状が違う』…!何より他の蠍達を従えてたが、コイツは逆に蠍達を『狩ってやがる』!」

 

大質量の投擲を回避し、同時にシステムによるアナウンス。其所に記されるは『金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)』。昨日死ぬ直前にアナウンスが報せた存在と同じでは有るが、自分を殺した金蠍の名には『皇金世代(ゴールデンエイジ)』と続いていた。

 

(皇金世代(キンイロソード)が他の蠍を従わせる存在なら、コイツはある意味『一匹狼(トランジェント)』ってか。其れにしても、あの硬度を誇る蠍の甲殻を破壊するって、どんだけ馬力が有るんだよ…!)

 

インベントリアに引き籠り、戦闘を回避するという選択肢もある。しかし、サンラクはクソゲーマーであると同時に、一人のゲーマーなのだ。目の前に現れた明らかに『レアエネミー』と見て差し支えない、此の金色の蠍━━━金晶独蠍への挑戦権が与えられたのならば、彼が取る行動は最早一択。

 

「良いぜ、金晶独蠍。俺も今は一匹狼(トランジェント)だ……一対一の勝負(タイマン)と行こうか!」

 

おそらく周りの水晶群蠍は、金晶独蠍が始末した影響が有ってか出現していない。視野を広く以て見れば、およそ半径20m以内が『安全圏』であり、同時に金晶独蠍との『バトルフィールド』だ。

 

孤高の餓狼(トランジェント)雄々しき狼魂(ベイオヴルフ)の同時起動。半裸の鳥頭は周りに転がる、水晶群蠍の残骸から採れるアイテムと、向こう岸で落下死させた分の経験値と、此の近辺で採掘出来る鉱石と宝石を求めて、金晶独蠍に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水晶地帯に轟音は響き、打ち鳴らされる金属同士の激突音。半裸故に肌身に犇々と感じる、濃密な死の気配と全身を押し潰さん圧力に、サンラクの身体を嫌な汗が伝う。

 

(久々だぜ『此の感覚』はよ…!)

 

夜襲のリュカオーンとの初遭遇、墓守のウェザエモンとの激闘………其れ等に近しい、強敵との戦いに似た感覚。耐久に優れた、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)湖沼(こしょう)小鎚(こづち)を振るい、何倍もの大きさを誇る敵の攻撃をパリィし、サンラクの脳内では戦闘中に得られた、金晶独蠍の情報が猛スピードで精査され、チャートが編み出されていく。

 

先ずは金晶独蠍の『両鋏』、通常種が侵入者を『質量で叩き潰す』事に重きを置いているのに対し、此方の鋏は叩き潰すだけでなく、敵を『断ち斬り裂いて殺す』事にもリソースを捧げた、攻防一体どころか攻防特化の大鋏だ。

 

次に全身に纏う『金水晶の甲殻』は、通常種程の硬度(・・)は無かったものの、其の硬度を代償として通常種以上の『機動力(スピード)』を獲得している。おまけに其の甲殻も『合金』で出来たような硬さがあり、素直に喜べる情報ではない。

 

そして蠍型モンスターのシンボルたる『針』もまた、厄介な攻撃手段を備えていた。何より金晶独蠍は、其の針先から毒液を『単発』・『レーザー』・『散弾』の三種類の型を用いた遠距離攻撃(・・・・・)を仕掛けると言う、蠍ながら多芸者な一面を披露してくる。

 

特に散弾型は限られたフィールド内、投擲スキルに乏しく近接系統・移動系統スキルが殆どを占めるサンラクは、致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】では躱わしきれず、インベントリアエスケープを使わざるを得ない。

 

戦闘中に獲得した情報を整理し、彼は金晶独蠍を水晶群蠍の『突然変異個体』であると同時に、其の能力を研ぎ澄まし鍛え上げた『戦闘特化個体』だと結論付けた。

 

(だがこうして戦い続ければ、見えてくる物も多い…!)

 

先ず金晶独蠍本体は水晶群蠍よりも、耐久力が低いと言う事。攻撃・破壊力・機動力を上げる為に、本体其の物の耐久を削ったので致命的な一撃が入れば、一気にペースを奪い取れるだろう。

 

では、此の金蠍を相手に其のペースを奪うにはどうするかだが、根気強く攻撃を続けたサンラクは、金晶独蠍の機動力を上昇させる甲殻の随所に在る、僅かな隙間(・・)を発見したのだ。

 

「狩りゲーの基本!先ずは敵の遠距離攻撃を奪う!」

 

クソゲーだろうが、良ゲーだろうが。神ゲーだろうが存在する、狩りゲーの基礎中の基礎と共に、振り翳される巨大な前鋏の斬刃(ざんば)を切り抜けたサンラクが、攻撃後の僅かな隙を縫って尻尾の付け根、針の根元に出来た隙間を狙い定め、斬打二刀流スキル『ストランダイトバンカー』を使用。

 

湖沼の短剣を隙間に突き刺し、湖沼の小鎚の鉄面を思いっきり叩き付けて、淡い碧色の刃を押し込むと同時に、掌に伝わるクリティカルの感触。

そして金晶独蠍の針の根元からは、ミギャリ!と金属の破砕音と生物の肉が圧砕する音が混じった、形容し難い嫌音が鳴り響いて、薄い水晶が破損する。

 

「おっしゃあ、良い感じだぜェ!此のペースで━━━」

 

が、此処でサンラクが予想だにしなかった行動(アクション)を、金晶独蠍は取った。其の巨体は己の真後ろに立つ、一際巨大な水晶の頂上へと飛び上がり、着地するや否や頭上に浮かぶ月を見上げ、己の前鋏を広げてポーズをしたのである。

 

「おいおい、何だ其の逃げ腰は?金晶独蠍なんて大した名前で、やってる事はみみっ……!?」

 

サンラクが目撃し、予想だにしなかった金蠍の行動。月の光を浴びた其の身体は、全身に金色の光を帯びていき、同時にストランダイトバンカーで傷付いた水晶の隙間へ、周りの水晶達が這っていって穴を塞ぐという物で。

 

「な、マジかコイツ!?よりによって『再生能力』持ちだと!?」

 

戦闘特化に加え、新たに示された再生能力。クソゲーマーの脳内で金晶独蠍の存在は、新たに『完全無欠』にアップデートが成され、急ピッチで攻略チャートの再構成を行い始め。サンラクは鳥面に隠れた口角は『笑った』のだ。

 

「……良いね、金晶独蠍!リュカオーンを倒す為にも、皇金世代(ゴールデンエイジ)を倒す為にも!オマエは俺が!必ず『ブッ倒して』やる!」

 

自分の全ての手札を出し切って、此の敵を打ち倒すと心に強く決意。アイテムインベントリから取り出すは、ヴァイスアッシュが真化(しんか)によって鍛えた、もう一つの『兎月』の名を持つ武器。

 

「ウェザエモンの時には出番が無かったが、蠍相手にゃ斬撃よりも打撃が効くのは解ってる!思いっきりブチ噛まそうぜ━━━兎月(とつき)煌枹(こうばち)】!!」

 

黒く、黒く。熱を求める黒い枹を握り締め、サンラクは金晶独蠍に立ち向かったのだった。

 

 

 

 

 






戦闘特化、唯一無二、完全無欠の金蠍




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渇望は餓えであり、歓声は高らかに在れ



戦いは続く


※3連続更新の第2陣



「オラァ!いくぞォ!」

 

兎月(とつき)煌枹(こうばち)】が風を割き、金の巨体へ打ち据えられる度、漆黒に染まる棒は少しずつ赤みを、熱を喰らいて(あか)を帯びていく。

 

戦闘開始からおよそ三時間、新たに発覚した金蠍こと金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)の特性たる、月光を浴びる事で『再生能力』を発揮する力により、戦闘は長期戦に縺れ込んでいた。

 

振り回される巨体の苛烈な攻撃を避けて、全身に渾身の打撃を与えても、毒液を潜り抜けて水晶の隙間を狙い、刃を差し込み突き立てても、一定以上のダメージを受けた瞬間に金蠍は露骨にサンラクから距離を離し、近くに在る水晶柱の頂上に登って回復行動を取ってしまう。

 

しかも最悪なのは、マッドネスブレイカーの武器特性で金晶独蠍の甲殻を削った時であり、一発殴った瞬間に彼方は露骨に距離を離してしまったのである。

 

「特効レベルで刺さる武器は、ぜってぇ食らってやらねーよバーカ!ってか。あの金蠍オツム(AI)は有るクセ、其所等辺に危機感が働いてるのは地味にムカつくぜ…!」

 

武器を連接ゲージが高められ続ける煌枹から、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)湖沼(こしょう)小鎚(こづち)に切り替え。再び至近距離での斬り合い叩き合いながら、サンラクは小鬼人形のリジェネを受けてニトロゲインのバフを使い、闘志は揺らがず立ち向かう。

 

白上弦(びゃくじょうげん)紅下弦(こうかげん)の合体ゲージはあと少し、煌枹は一割超えた……!良いぞ、楽しくなってきやがった!」

 

致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】発動。背面に斬撃の虚像を繰り出し、金蠍の意識を一瞬背後へ反らす。そしてアサイラムサインとメルニッション・ダッシュ、更にバリストライダーのコンボと共に、特殊なモーションが可能になる『フォーミュラ・ドリフト』で敵の死角を駆け抜け、トライアルトラバースを用いて金の尾を一気に登り上がり。

 

「要するにリジェネ持ちは『回復する隙を与えない』か、其の『回復を阻害するように動けば』、万事解決(ALL OK)だ!」

 

此の戦闘、五回目となるストランダイトバンカー。しかし今回の斬打は一味も二味も違う。刺突攻撃に一念岩穿(いちねんいわうがち)、刺突攻撃時に命中とダメージに補正を掛け、クリティカルであるならレベル×1分の傷口を残す『スティアウィスパー』。そして打ち込む打撃には『ストロングプレス』を組み込んで、水晶の隙間にパイルバンカーを叩き込む。

 

「ヨッシャア!しっかり刺し込んだ!ってあぶっ!?」

 

水晶を貫いた湖沼の短剣が深々と、尾と針の付け根に突き刺さり、金晶独蠍の針がビクンと跳ねるや至近距離での散弾毒液が襲い掛かり、サンラクも格納空間へ緊急退避を行い、難を逃れる。

 

「油断も隙もありゃしねぇ…!一応マナポーションは有るが、其れでも残り回数はおよそ『10回』程度。良いね、残り回数に追われながらやる……此の感覚!」

 

マナポーションを飲み干し、再び水晶をフィールドへ。見上げれば水晶柱の上に座し、夜空に両鋏を広げて月光を其の身に受ける金蠍の姿。

 

「あんの金蠍が!ちょっと目を離したら直ぐに回復しやがって………!」

 

短剣と小鎚をインベントリに収納、取り出すのは赤身を帯びし刀身の『ツーハンデットソード』、名を『焔将軍(ほむらしょうぐん)斬首剣(ざんしゅけん)』。

 

サンラクがフォスフォシエからエイドルトに向かう途中、エムル・ビィラックと共に攻略した奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)。其所で出逢った喪失骸将(ジェネラルデュラハン)のドロップアイテムが、名匠(めいしょう)ビィラックの手により『元の姿を取り戻した状態』である。

 

「此れ以上回復させて堪るか!オラァ!」

 

本来、首に対するダメージ補正の上昇。及び炎熱耐性に秀でると共に、湖沼の短剣のおよそ五倍の耐久値を誇る武器を、サンラクはあろうことか『槍投げ』として用いて、スキル『武頼闘気(ぶらいとうき)』の点火と同時に、バフを受けた筋力と共に投擲━━━━金蠍の左目に寸分狂わずブッ刺したのだ。

 

思いがけぬ一撃を受け、しかしまだ傷は浅いと割り切り、月光を受ける事を止めない金晶独蠍。

 

「おいゴラ金蠍、テメェ此れでも無視を決め込めるか?」

 

潰れて死角となった左側より、遮那王憑(しゃなおうつ)きを点火したサンラクが迫り。其の右拳にスキルのエフェクトが込められ、纏われ始める。

 

至近距離での格闘による、ダメージ補正を与える『インファイト』。

拳闘や脚撃等の格闘による、ダメージ補正を加える『マグナマイトギア』。

負傷箇所への攻撃で、追加ダメージが入る『バッツクローシス』。

敏捷と筋力を参照し、進化前よりダメージを与える数値が伸びた『タイフーンランペイジ』。

自身の幸運値を参照としてダメージ、及びクリティカル成功でダメージ補正追加の格闘スキル『アガートラム』。

 

最後に駄目押しとばかりに、スタミナ消費で攻撃モーションを更に加速させる『ジェットアタック』と、重ねたスキルの数だけ威力を上昇させる『チェインズアップ』。そして、再使用時間を短縮させる『トルクチャージ』を纏いし拳で、金蠍の左目に突き刺さる焔将軍の斬首剣の柄尻へ、思いっきり殴り付けた。

左目に突き刺さった斬首剣の穂先が、ゴヂャリュと更に深く、立ててはいけないような音を鳴らし、金蠍が痛みに悶えて、のたうち回り出す。

 

「ハッハァー!少しは効いたか、金蠍!転がってる場合じゃねぇーぞ、ゴラァ!!!」

 

スイッチするは、対刃剣の兎月達。紅白の刃を握り締め、裂刃尖斬(れっぱせんざん)逸撃斬羅(いつげきざんら)を起動。

 

怒りに震える金蠍の前鋏の攻撃を回避し、敏捷と技量を参照する逸撃斬羅で回復しきれていない傷口をなぞって、連続または追撃時に繰り出す斬撃ダメージが伸びる裂刃尖斬の『スキル二刀流攻撃』により、傷口を更に刻み。同時に表示されるは、兎月二本の合体ゲージMAXの表記。

 

「おっしゃあ!兎月、合体ゲージMAX!」

 

赤と白の刃が交わり一つの刃、皇弦月(おうげんげつ)へと姿を変えた。繰り出すは水鏡の月、ヘイトを背後に移して大鋏を足場に飛び。

 

「良い加減ッ……チョン斬れろ!!!」

 

ニトロゲインでバフを加え、スキル『パワースラッシュ』を幕末(・・)で鍛えて研いた、剣技による『上段一刀両断』をストランダイトバンカーで打ち込んだ亀裂目掛け、迷う事無く斬り据えて━━━━打っ手斬る。

 

「オッシャアアアアアアア、斬ったぞォォォォォォォォォ!!!アッハッハッハッハッハァ!!!」

 

宙を舞う、レアエネミーの希少部位。部位破壊による達成感でテンションがブチ上がり、サンラクは笑い吠え。シンボルたる針を斬り飛ばれ、憤怒に唸る金晶独蠍は大鋏を振るうも、彼は皇弦月をインベントリに収納しながら、同時にスカイウォーカー起動。

 

「はい、二段ジャンプゥーーーーーーー!!!」

 

空中を蹴って、地面に落ちる針をキャッチ。インベントリアに針を放り込むと、金蠍に変化が起こる。

全身の水晶の隙間という隙間より、黄金の魔力が焔の如く燃え広がり、全身を這い尽くす姿たるや夜空に浮かぶ太陽の如く。

 

爆発的に増大した魔力が、周りの水晶片を吹き飛ばし、其れを引き金(トリガー)として、眠りに着いていた水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)達が水晶を砕き割り、わらわらと出現してきた。

 

「おいマジかよ!?此処で面倒事を増やすんじゃねぇよ、金蠍……!」

 

周りの水晶群蠍が現れた事で、サンラクは嫌な顔をする。唯でさえ金晶独蠍の対処に追われ、其所に他の水晶群蠍までもがやって来た。インベントリアエスケープには一応の余裕は有るものの、残り回数も両手の指で数えられる程度しか無い。

だが、サンラクは。水晶群蠍を見た事で、此の状況を打破する『手立て』を閃いたのだ。

 

「………いや、そうか……!見えたぜ、金蠍。オマエに勝つ為の道筋(ルート)がよ……!」

 

前門の金晶独蠍、後方の水晶群蠍。然れど半裸の鳥頭は、恐れる事非ず。見えた勝利の道を見据え、闘志を更に燃やしていくのだった。

 

 

 

 

 






戦いはクライマックスへ




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決着は盛大にして、終幕は静かであれ



金晶独蠍戦、決着


※3連続更新の第3陣になります


金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)。其れは水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の中でも生まれつき、『同族の身体に生えた水晶のみ』を好んで喰らうと言う、偏食個体を指す。

 

餓えて死ぬと言う未来を乗り越えた一握りの『其れ』は、同族を喰らいながら、其の身に月光を浴びる事により、其の体躯をより戦闘へ特化した物へと変貌させ、黄金色に染まった身体は月の魔力で、自身の水晶を活性化させての再生する事が可能になった。

 

其れ故に水晶群蠍は金晶独蠍を『恐れる』。そして金色の暴意がコミュニティに打撃を与えるならば、彼等は己達の命を懸けて、其の存在を排除しに行くのである。身が砕け、命を落とそうとも、未来に種を繋ぐ為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きろ起きろォ!寝坊助蠍共!ウェイクアップスタンダップグッドモーニング!アーッハッハッハッハァ!」

 

金晶独蠍と水晶群蠍は敵対関係に在る………水晶群蠍を狩っていた金蠍を目撃したサンラクは、現在全速力で水晶地帯を爆走して行き、行く先々で擬態した水晶群蠍達がアクティブ状態に成るように仕向けていた。

 

(金蠍と蠍達を互いにぶつけ、モンスター対モンスターの状況を作り出す。其れで金蠍が倒れたら、蠍共は前と同じように谷底に叩き落として、キッチリ終わらせてやんよ!)

 

後方より迫る金の殺意と、怒濤の如く押し寄せる水晶の津波。サンラクは後方確認と、金晶独蠍の左目に突き刺さった斬首剣の位置を頭に入れ、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)を取り出しつつ水晶に向けて跳躍。

 

グラビティゼロで重力位置を調節後、目に関するスキルの一つで『エネミーの部位を一ヵ所見定め』、攻撃に成功すればダメージが伸びる所謂『集中状態』を作り出す『ディコード・ブロッション』で、金晶独蠍の右目をロックオン。

 

遮那王憑(しゃなおうつ)きで水晶を蹴り、『破壊属性』が乗った刺突攻撃スキル『オーファジール・セイド』で、残された右目に刃を突き立て破壊する。

金蠍の両目を遂に潰した。片や斬首剣、片や短剣。不釣り合いなれど、両者共に耐久に優れた武器達だ。そう簡単に壊れない……とは思いたい。

 

『ギ…ギギギ………ギ…!!』

「あ、お前ちゃんと『鳴ける』んだな」

 

短剣から手を離し、慣性を受けた其の身は宙に放り出されて。背に迫る水晶群蠍達を背景としながら、サンラクは金晶独蠍に言った。

 

「俺ばかりにかまけてばかりじゃ駄目だぜ?オマエを砕く厄災が、もう其所まで来てるんだからな!精々頑張れ(Good Luck)金蠍!!【転送:格納空間(エンタートラベル)】!!!』

 

右手首の格納鍵インベントリアの輝きが放たれ、サンラクがフィールドから消えた瞬間、入れ替わるようにして水晶群蠍が金晶独蠍に殺到する。

 

彼等と同じく、空気の震えや音を感知する事に優れている金蠍は、迫る水晶蠍を相手に『逃走』ではなく『迎撃』を選択。針を喪えども己の闘志は燃え尽きず、朱を帯し金の鋏は振るわれて、屈強なる者達を討ち取って。

 

しかし多勢に無勢とは正に此の事で、耐久面で優れた水晶群蠍達は己の身に纏う水晶の硬度と、幾十の同胞と共に金の暴意を鎮めんとし、命を懸けてぶつかりに行くのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……『攻撃スキルの重ね掛け』。ペッパーがよくやってる戦法だが、最大出力を叩き付けるっつう『ロマン思考』は嫌いじゃねぇな」

 

インベントリア内・格納空間にて、サンラクは右手を握って開き、斬首剣の柄尻を叩いた感触を思い出す。バフと格闘、拳撃スキルの八連鎖点火による一撃━━━攻撃を外したり、仕留め損ねれば多大なリスクを背負うアクションだが、ハイリスクだからこそハイリターンは成り立つのだ。

 

「おっと……そろそろかな?」

 

転送:現実空間(イクジットトラベル)を唱え、サンラクの視界が一瞬ホワイトアウト。広がるは水晶彩る危険地帯、足元には金晶独蠍の大鋏や甲殻、そして何本かの脚が転がり。

 

そして━━━━━━水晶地帯に打ち捨てられた無数の水晶群蠍の亡骸達を背に、満身創痍ながらも魔力と言う形で闘気を放ち立つ、金晶独蠍の姿。

 

二つ有る大鋏は左側が取れ、残された右鋏も下鋏が何らかの拍子で落ちてしまいそうになって、金の尾も半分から先が千切れ欠けており、脚も数本失ってまともに歩く事も叶わず、事切れるのも時間の問題に等しい重篤の身。

 

しかし金晶独蠍は生きていた(・・・・・)。襲い掛かった水晶群蠍達を自力のゴリ押しと言う、脳筋(シンプル)な答えで退けたのだ。

 

「マジか……マジかオマエ……!」

 

背筋が震え、戦慄する。ある種の恐怖、ある種の敬服。戦闘特化のレアエネミーに搭載したAIの凄まじさと、金晶独蠍を産み出した開発者の熱意が、クソゲーマー・サンラクの肌身と記憶に刻まれ、そして伝わった。

 

「ワリィな、オマエの事を甘く見過ぎてたわ……!オマエは俺が、俺じゃなくちゃ倒せねぇよなァ!」

 

兎月(とつき)煌枹(こうばち)】を取り出し、サンラクが満身創痍の金晶独蠍に宣言。デメリット故に此処まで出し渋ってきたオーバーヒートを点火し、其所に他のバフスキルも出し惜しみせず使って、五分で勝負を決めきると誓う。

 

両目を潰され、視覚と言う情報を失った金晶独蠍は、振動と言う情報のみでサンラクを探し。残された鋏を出鱈目に振り回して、土竜叩きの様に叩き付け。近接攻撃を仕掛けるサンラクには、自身の魔力を蒸気の如く噴き出して、超至近距離の戦闘を拒否してくる。

 

「ぐっ…!解っちゃいたが、魔力の蒸気が邪魔だ…!」

 

だったら!と、アイテムインベントリの『奥』から取り出すは、魔力運用ユニット探しで訪れた『去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)』にて、ゴーレムの一体が落としたアイテム。

 

現実・ゲームの両世界でも『兵器』として使われ、壁に隠れた敵を射線上に引っ張り出したり、塹壕戦(ざんごうせん)打破として使われる『手榴弾』こと、変わった顔立ちを持つ『爆土(ばくど)偶像(ぐうぞう)』。

音に反応する金晶独蠍の特性、反応した時に巨大な鋏の位置が偶像に被るように、サンラクは右手の煌枹を左脇に挟み、野球クソゲーで培った『デッドボール投球』を調節して投擲する。

 

コツンと水晶に当たるや、細い腕と丸い手が動き出し。てけてけてけてん♪と音を鳴らしながら、ヤジロベエの様に踊り始め。

其の音に反応してか、金蠍が鋏を振り上げた瞬間に偶像の踊りが『最高潮』に至り、同時に大質量の剛撃が打ち据えられた途端、サンラクはニヤリと笑う。

 

「爆土の偶像の踊りが最高潮に達した時、土の中より炎は生じる━━━━ってな」

 

刹那、爆発と衝撃の発生。右鋏の下鋏が、爆発の衝撃で遂に千切れ。上鋏も亀裂が迸って、付け根も限界を迎えた。

 

「勝機!」

 

スキル:バルカンスタンパーと縷々閃舞(るるせんぶ)起動。付け根に向けた1ヒットが3ヒット分に変わる連打が、高速連続打撃として叩き込まれ、遂にバキンと音を立てて付け根をへし折り、大鋏が水晶の地にゴトリと落ちた。

同時に煌枹が真っ赤に染まり、『連接ゲージMAX!』とのアナウンスを報せ、サンラクは金蠍に宣言する。

 

「此の一撃で決めるぜ、金晶独蠍!」

 

煌枹の先端同士をガチリと重ね、熱が炎の鎖を作り出して互いを繋ぎ、兎月【煌枹】を本来の姿(・・・・)たる双節棍(そうせつこん)━━━【連接状態(れんせつじょうたい):灼奈棍(しゃくなこん)】に。

 

ヌンチャク使いの動画やカンフー映画から学んだモーションを以て回して掴み振るい、掴んでいない空いた棍に煌々と、豪々と焔が灯る。

 

「スキル━━━━━━」

 

 

 

致命に染まる朱照月(ヴォーパル・オブ・メナスクリムゾン)

 

 

 

赤く、紅く、なお朱く。燃える焔は、金晶独蠍から吸収してきた熱であり。円月の弧を描く棍の先端が、黄金色に染まる孤高の蠍の首を『焼き絶ち斬る』。

 

此のスキルは煌枹で集めた熱を、灼奈棍の『片側の先端に集束』。円月を描く様にして対象の一点を殴り付け、熱を流し込みながら『へし折って焼き斬って落とす』と言う、敵との距離が近過ぎても遠すぎても、其の威力が出せない大技。

 

然れど直撃すれば、敵エネミーの『総体力が3%以下』であるなら。其の一撃は『問答無用の即死攻撃』━━━━正に致命の名に相違無しの必殺となるのだ。

 

斬首によって落ちる金晶独蠍の頭、しかし黄金の巨体は事切れる其の瞬間迄も、サンラクに乗し掛かり潰そうとし。其れでも其の身は遂に、力無く大地に倒れ伏す。

 

「金晶独蠍。インベントリアに兎月、用いる手札を全て使わなきゃ、決して勝てない相手だった。墓守のウェザエモンに匹敵する、凄まじい強敵だったぜ」

 

構成したポリゴンが崩壊し、サンラクの目の前には金蠍の両目に刺した武器と、報酬たるドロップアイテム達が水晶の大地を埋め尽くすように溢れ返り。

そして彼のレベルアップを告げるSEが、勝利のファンファーレの如く鳴り響いた。

 

全力で自分の全てを出し切り、策を講じて敵と戦い抜き、其の果てに掴み取った勝利の余韻に浸り、サンラクはゲーマーとして『最高』の台詞を放つ。

 

 

 

 

「はぁーーー………んんんっ~『楽しかった』ァ!シャンフロ……最高だ!」

 

 

 

 






楽しい時間はあっという間



金晶独蠍戦後のサンラクのステータス



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

PN:サンラク


レベル:99


メイン職業(ジョブ):傭兵【二刀流使い】
サブ職業(ジョブ):無し

 
体力 55 魔力 50
スタミナ 150
筋力 100 敏捷 130
器用 100 技量 100
耐久力 3 幸運 209


残りポイント:160


装備

左:兎月(とつき)煌枹(こうばち)
右:兎月(とつき)煌枹(こうばち)
両脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

頭:凝視(ぎょうし)鳥面(ちょうめん)(耐久力+2)
胴:リュカオーンの呪い(マーキング)
腰:無し
脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

アクセサリー


・ダイナボアドール(スタミナ回復時間短縮:小)
小鬼人形(ゴブリンドール)(HPリジェネ:微小)
格納鍵(かくのうけん)インベントリア

 
1,611マーニ

 

致命武技

 
致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】捌式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】
致命舞術(ヴォーパルまいじゅつ)月光円舞(げっこうえんぶ)】肆式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】
致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】壱式→漆式




スキル


縷々閃舞(るるせんぶ)百閃の剣(ヘカトン・スラッシュ)
一念岩穿(いちねんいわうがち)鋭結点睛(えいけつてんせい)
・インファイト レベルMAX
・フォーミュラ・ドリフト レベル1→レベルMAX
瞬刻視界(モーメントサイト)真界観測眼(クォンタムゲイズ)
・アガートラム レベル1→レベルMAX
・トライアルトラバース レベル1→レベルMAX
・クライマックス・ブースト レベルMAX
・バルカンスタンパー→マシンガンスタンパー
・プレス・ドミネイト→王壥粉砕(キングス・ドミネイト)
戦火の瞳(ウォーアイズ)戦鬼の瞳(オーガストアイズ)
・ストランダイトバンカー→選択可能
遮那王憑(しゃなおうつ)き→鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)
・グラビティゼロ レベル1→レベルMAX
・ヘイト・トランプル レベルMAX
・スカイウォーカー→選択可能
・ストロングプレス レベル6→レベルMAX
孤高の餓狼(トランジェント)月狼の誇り(マーナガルム・プライド)
逸撃斬羅(いつげきざんら) レベル1→レベルMAX
・バリストライダー→ボルテックスムーヴ
雄々しき狼魂(ベイオヴルフ)狼王の威光(ルゥヴルフ・クルムシス)
血戦主義(けっせんしゅぎ)全霊喚起(ぜんれいかんき)
・メルニッション・ダッシュ レベル8→レベルMAX
裂刃尖斬(れっぱせんざん) レベル6→レベルMAX
・アミュールディルレイト→選択可能
・ジェットアタック→ストリームアタック
・ブレスドラウム レベルMAX
・バッツクローシス レベル5→レベルMAX
・オーバーヒート レベル8→レベルMAX
・ニトロゲイン レベルMAX
・イグニッション レベル7→レベルMAX
・マグナマイトギア レベル6→レベルMAX
・タイフーンランペイジ→ハリケーン・ハルーケン
・ディコード・ブロッション→エントラウス・ブロッション
・パワースラッシュ レベル1→レベルMAX
武頼闘気(ぶらいとうき) レベル1→レベルMAX
・オーファジール・セイド レベル1→レベルMAX
包囲先見(ほういせんけん)包囲無双(ほういむそう)
・アサイラムサイン→ルーパス・アサイラム
・スティアウィスパー レベル1→レベルMAX
・アクロバット レベル1→→レベルMAX
・トルクチャージ レベル1→レベルMAX
・チェインズアップ レベル1→レベルMAX
一振両断(いっしんりょうだん)
・ウォーロック・ティーン レベル1
突刃追撃(ディア・ガジェット)
劉棍打(りゅうこんだ) レベル1
棍閃先斬(こんせんせんざん)
・パーシスタンド
剣舞(けんぶ)紡刃(ぼうじん)
・メロスティック・フット
・テンカウンター
鎚撃(ついげき)鉄砕(てっさい)
・アドレラリン・バースト レベル1
燐砕拳(りんさいけん) レベル1
・パドロン・スロー
・フローティング・レチュア レベル1
・ゲニウス・チャージャー レベル1




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










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激闘を越えて到達、披露するは絢爛



帰るまでが遠足だ




ゲームのボスとの戦いが終わる瞬間は、どんな時だろうと達成感に満ち溢れ、そして寂しい時である。

 

金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)との死闘の果てに、全力と己の手札の全てをぶつけて戦い、そして勝利したサンラクは斬首剣と短剣をインベントリに収納しながら、そんな想いに浸っていた。

 

「はぁぁぁぁ~………いやぁ絶景だわぁ………」

 

目の前に広がるは金色……そう、金晶独蠍討伐の報酬たるドロップアイテム達だ。数時間に渡る激闘を乗り越えて、単独での討伐を成し遂げたからか。はたまた幸運値200越えによる、神乱数を引いたからか。

 

何にせよ━━━━だ。水晶の大地に広がり、彩る、黄金の美しい輝きは、最高の報酬と言っても差し支えない素晴らしい物だった。

 

「甲殻、鋏に、針と脚。尻尾と……クックック!コイツは絶対に『最高レア』のアイテムだろ……!」

 

ドロップアイテムをインベントリアに収納しながら、サンラクは『其れ』を手に取り、獰猛な笑顔を浮かべる。其の名を『金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)命晶核(めいしょうかく)』。バスケットボールサイズながら純金で出来たであろう其の球体は、内側に銀河に似た魔力の渦を描き、見つめているだけで人生に潤いを与える様な、一際美しい輝きを放っている。

 

モンスターから生成されるドロップアイテムの中でも『魂』や『逆鱗』、更には『核』と言ったアイテムは狩りゲーに置いて、最高の素材の立ち位置を持つ。其れも今回は何と『二個』。そう二個もドロップしており、金晶独蠍を一匹か其れ以上狩らなくては出ないだろう、最高レアのアイテムがもう一つ手に入ったのだ。

 

「幸運値が200越えてたからか、もしくは神乱数を引いたのか……まぁ何にせよ、俺の勝ちって奴だな」

 

オーバーヒートの効果が切れ、重く気だるさが全身を襲い、満ちる。其れでもサンラクは周りに転がる、水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の残骸からアイテムを、近くの採掘ポイントから鉱物資源をせっせと回収を開始し。

 

そして爆土の偶像の衝撃からか、遠くより出現する水晶群蠍達の姿を目撃する。更に其の奥には『尻尾のサイズだけで金晶独蠍の十倍強のサイズの水晶』が、ゆらりゆらりと動きながら此方へとやって来るのを見た。

 

「大親分の御出座しってか。上等だ、生きて帰る為にも泥臭く足掻いてやろーじゃねぇの!」

 

水晶群蠍の残骸や採掘ポイントは未だ在れど、エムルと約束した手前、死に戻りでもしようものなら格好が付かない。一応インベントリアエスケープは使えるものの、流石に此れ以上戦ったら深夜を越えて一夜漬け不可避。

 

おまけにサンラク……楽朗(らくろう)の家には『ある約束事』が在るので、其れを加味しても戦闘続行は出来なかった。オーバーヒートのデメリットを受けた身体に鞭打ち、サンラクは水晶巣崖を走っていく。

 

「うぉおおおおおおおお!!絶対死んで堪るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ………あ"~クッッッッソ疲れた……」

 

頭装備を祭衣・打倒者の長頭巾(フェスタ・メジェ・カフィエ)に切り替えて、インベントリアエスケープ等を駆使し、何とか水晶巣崖から五体満足でエイドルトに生還し(戻ってき)たサンラクは、疲労困憊ながらもエムルが待っている裏路地に向かう。

 

深夜帯なだけあり他プレイヤーの姿も多いが、皆サンラクの装備を見ては「変な装備だな」と言いたげな視線を送り、其のまま通り過ぎていく。

 

「明日の朝飯迄に起きられっかな……」

 

楽朗は以前、家族間で決めていた『約束事』を破ってしまった事があり、其れによってゲームを『強制終了』させられた経験を持っている。アレは割と『シャレ』にならない経験だった為、以後同じ過ちを繰り返さないよう、彼は心掛けているのだ。

 

「おーい、エムルー。居るかー」

「はいな!サンラクさん、此処に居ッ……?!」

 

目的地周辺に到着し、サンラクが呼ぶと近くの木箱に隠れて居たか、エムルが飛び出して。そしてサンラクの全身を見ながら叫んだ。

 

「サ、サンラクさん!?何かサンラクさんのヴォーパル魂が『ぎゅいんぎゅいんのずどどどどどど!』ってなってますわ!?」

 

ヴォーパル魂とは何ぞや?と聞かれたら、強敵に挑む心意気とペッパーは答えた。そして解った事は、水晶群蠍や金晶独蠍に戦いを挑んだり、討伐したりする事でヴォーパル魂とやらは急上昇すると言う事だ。

 

「ハハッ、何じゃそりゃ。だがまぁ『すんげぇ事』してきたからな、絶対驚くぜ?」

 

ゲートを越えて兎御殿に帰還しながら、サンラクは水晶巣崖での成果を思い出す。

 

討伐結果は水晶群蠍十数体に、レアエネミーの金晶独蠍。報酬は金晶独蠍の激レア素材と、金晶独蠍が狩った水晶群蠍の亡骸より採れた素材と、超希少な鉱石に宝石達多数。大戦果にして大勝利と断言して間違いないだろう。

 

(そして何より(・・・・)……そう何より、だ。辿り着いたぜ『レベル99』!レベルカンスト(・・・・・・・)までなァ!)

 

ペッパーは言っていた。

 

自分達二人が今の限界点……即ちレベル99まで到達出来たなら、自分達の身体に刻まれた『夜襲(やしゅう)のリュカオーン』の呪い(マーキング)

其れを一時的に無効化出来る(・・・・・・・・・・)と言う『ユニークモンスター・無尽(むじん)のゴルドゥニーネ』が持つ毒、其れを採取する手筈をヴァイスアッシュが整えてくれる事を。

 

一時的とは言え、全身に装備を纏う事が出来るように成れば、格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア内に在るSFパワードスーツやロボット、更にはペッパーが持っている墓守のウェザエモン由来の一式装備も、時間制限有りながら使用可能になるのだ。

 

(問題はペッパーのレベルだが……アイツ確か『致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)』をウェザエモン戦の時も付けてたよな?俺はレベルが25上がったが、半分となると今のアイツはレベル60後半辺りか……)

 

 

 

こりゃ水晶巣崖に連行&マブダチ達の荒波に放り込んで、パワーレベリングさせるのも視野に入れよう

 

 

 

外道クソゲーマー・サンラク。レベルマウント+水晶群蠍と鉱石宝石で胡椒を釣り、水晶地雷元で育ててやろうと北叟笑む。

 

「サンラクさん……また何か企んでますわね?」

「ん?んん~何でもないぞー?」

 

スキルがある程度揃っていた自分ですら、討伐に数時間掛かった正真正銘の強敵。ならば自分以上にスキルの数が、自分以上にスキルの育成が、自分よりも高いステータスを持っている可能性が高い『ペッパー』が、金晶独蠍と戦ったならば一体どのような結果が出るのか?

 

一人のゲーマーとして、些細な興味が有る。

 

(ペッパーの『思考深度』はカッツォ曰く『一般的プロゲーマーの一段から二段、下手したら三段近く深い』らしい。ディプスロに近しいタイプで、対戦相手やゲームシステムに対する理解度合いが深まる程、攻略難易度が『桁違い』に上がっていく。おまけに『勘』が鋭くて初見殺しに滅法強い……いや何だ此の『キメラ』は)

 

どんなに優れたゲーマーやプレイヤーでも、思いがけぬ初見殺しで殺られる事は多い。自分やカッツォ、ペンシルゴンもそうだ。しかしペッパーは其の初見殺しが殆ど効かず、あらゆる状況を思考に置いての『読み』と『後出し攻撃』が凄まじく強い。

 

数分の時間を与えれば、墓守のウェザエモン相手にスキルをフルスロットルで点火し、97秒間ノーダメージで乗り切る程の実力を持っている。

 

「何時か白黒着けてぇな………」

「サンラクさん、どうしたのですわ?」

「ん?あぁ、何でもねーぞ。エムル」

 

白布から何時もの鳥面に切り替えて、サンラクはビィラックの鍛冶場に向かう。

 

「お、おぉ……サンラクかぁ。もう少し待ってな……エーテルリアクター、もう少しで直せそうじゃあ……」

「おいおい大丈夫かよ……」

 

眠気と使命感の狭間に揺れる、ゾンビ状態の様なビィラックの姿に、サンラクは若干引き気味になり。彼女を正気に戻すべく、気付けの一発としてインベントリアから取り出すは、金蠍の針たる【金晶独蠍の煌弩晶針】と水晶蠍の針こと【水晶群蠍の剛強晶針】を、無骨な金床の上に乗せる。

 

「ん…?…んんん…!?んん!?んんん!?……は?金晶独蠍の針……!?しかも、水晶群蠍の針……?!サンラク、わりゃ、金晶独蠍を……倒した、のか??!!」

「応よ、まだまだ在るぜ?」

 

目の前に置かれた超希少なモンスターの素材に、ゾンビ状態から正常へと振り戻り、四度見からの唖然といった表情をするビィラック。サンラクは機を逃さず、インベントリアより金晶独蠍と水晶群蠍の素材達、更には鉱石と宝石達をまるで金銀財宝の宝の山の如く積み上げていく。

 

「し、しかも……命晶核まで……?おまけに……二個、じゃと……?」

「水晶群蠍を使いたいって言ってたけどよ、金晶独蠍の素材も使ってみねぇか?きっと『スゲェ』のが出来ると思うぜ?」

 

渾身のドヤ顔でサンラクはビィラックに頼んでいた、新造遺機装(レガシーウェポン)に金蠍の素材も加えられるか聞くも、彼女は口を開いたまま気絶しており。

 

サンラクがビィラックの気付けをしたり、エムルに水晶群蠍の排泄物を渡しておちょくったり、ビィラックが追加で『もう一つ遺機装』を作れると言ってきたので、サンラクは『ある武器種』をオーダーし。

 

彼は此の日のシャンフロを終えたのだった……。

 

 

 

 

 






最高で最大の成果



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聖盾勇者と聖槍魔王はファイヴァルに集う



一日行軍、幕を開ける




ピピピピ……ピピピピ……ピピピピ……

 

スマフォを目覚まし機能が、午前7時30分のアラームを鳴らす。外では雨の音が、静寂の室内にアラームが鳴り、敷き布団でモゾモゾと五条 梓は目を覚まして起き上がる。

 

「ん……くぁあ~…。……時間は、まだ大丈夫か」

 

今日はトワと、アーサー・ペンシルゴンと共にシャンフロでフィフティシアを目指して行軍する日。新しく手にした勇者武器(ウィッシュドウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスの性能を戦闘面で試したり、武器や防具を更新したりとやりたい事が沢山有る。

 

「朝食は何にしよう……。確か冷蔵庫に避難させた、食パンが何枚か残ってた筈……」

 

眠気眼を軽く擦り、冷蔵庫の中身を見ると確かに三枚の食パンが、冷え冷えで鎮座していた。湿気によりパン類が腐りやすくなる対策として、冷蔵庫の中に居れると良いと有った。実際に試してみたのだが、時間を置けば常温に戻っても、普通に美味しく食べられる。

 

「……よし、朝食は『アレ』にしよう」

 

顔を洗い、シャワーを浴びて。髪を乾かし、眠気覚まし完了。冷蔵庫から取り出すは、卵二個に食パン三枚、残りかけの牛乳パックに砂糖の袋。カレー皿に卵を割ってカラザを箸で取り除き、牛乳と砂糖を適量加えて掻き混ぜる。出来た元タレに食パンを押し付けるように浸して、其の間に手を洗い終えてコンロに火を着け、フライパンを熱して油を一匙。

 

冷たい状態時の食パンは、スポンジの特性に似るらしい(独自の研究だが)ので、こうする事によりタレが染み込みやすくなると知ってからは、一段と出来上がりが美味しくなったのに感動した。

 

タレに浸したパンを、油を敷いたフライパンに投入し、中火から強火で一気に焼き上げ、タイミングを見計らって引っくり返して、残りの面も同様に焼けば『サク…ジュワ…』の食感になる。此れを三回繰り返して包丁と俎で四等分にカット、皿に盛り付けて市販の蜂蜜を細口モードで、フランクフルトのケチャップの様に掛ければ。

 

「出来た……五条 梓特製、『余り食パンのフレンチトースト』……!」

 

コップに林檎ジュースを、朝食の御供にヨーグルトを一つ添えて、此処に朝食は完成。何時もの様に「いただきます」の合掌と共に、フォークを使って食す。

 

「パンに染み込んだタレと蜂蜜が、相性抜群で堪らん……!嗚呼、何時食べても美味しいなぁ……」

 

中身は程良くミディアムを目指して火を通したからか、やはり美味しく出来ている。数個食べてジュースで口直しをしてから、再び数個食す。今度はヨーグルトで口直しを行い、残りを食べ切る。

 

「ふぅ……御馳走様でした」

 

合掌そして洗浄と片付けを終えて、梓はトイレを済ませた後、窓をほんの少し開けて雨戸を調節。VR機材のチェックと、水分補給用の水を用意して準備完了。時刻は午前8時半。五条 梓は現実世界から、ペッパーとしてシャングリラ・フロンティアの世界へと降り立つのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんん…さぁて、フィフティシア目指して行動を始めようか!」

「おぉ、ペッパーや。良く眠れたかな?」

「ペッパーはん、おはようなのさ!」

 

兎の国ラビッツ・兎御殿の休憩室にて覚醒し(目を覚まし)たペッパーは、元気良く本日の成すべき事を宣言し、其れに呼応するようにポポンガとアイトゥイルが、各々休憩室の窓から現れて肩に乗る。

 

「おはよう、アイトゥイル。ポポンガさん。此れからペンシルゴンと合流して、シクセンベルトに寄り道からのフィフティシアを目指すよ」

「ホホホ、一気に進める気じゃな?」

「久し振りに長距離移動なのさ」

 

「そう言う事だね」とペッパーは言い、アイトゥイルとポポンガとパーティーを結成し、一羽と一匹影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)の中へと導こうとした時だった。

 

「あ、ペッパーはん。そう言えばビィラック姉さんが……コホン。『ペッパーはんが兎御殿を出立するなら、その前に自分の鍛冶場に来るように』って言ってたのさ」

「ビィラックさんが?」

 

何かイベントを踏んだのか、そう思いつつもペッパーは足早にビィラックの鍛冶場へと向かう。

 

「おう、ペッパー。わりゃ昨日辺りから『神々しい気配(もん)』を纏っておるの?見せてみぃ」

 

到着早々ビィラックはペッパーを見ながら、手招くようにそう言ってきた。神々しいともなれば、今持っている武器の中でも『一つ』しか無いだろう。彼女のオーダー通り、装備している勇者武器・聖盾イーディスを彼女へ見せる。

 

「おぉ……コレか!わりゃの周りに纏われとった、神々しい気配の正体は……!」

「武器に精通したクランのリーダーが、マッドネスブレイカーの製作依頼と情報を対価に、俺に譲渡してくれた勇者武器・聖盾イーディスです」

 

金と白の鏡面にうっとりしながら、イーディスを見ていたビィラックは、ペッパーに返すとこう言ってきた。

 

「ペッパー……勇者武器を手にする、其の意味が解るか?」

「えっと、勇者になるだけでなく……他にも何か『成し遂げなくてはならない』……と?」

 

コクリと無言で頷いたビィラック、おそらく其れが正解であり、そして彼女はイーディスと。持ち主となったペッパーを見て、問い掛ける(・・・・・)

 

「イーディスに託された願いは━━━━『守護』じゃけ。四肢が朽ち落ちようと、其の身が砕けようとも、『弱き者を守り抜く』事じゃ。……ペッパーよ、わりゃに其の『覚悟』は在るか?」

 

勇者武器達は『原始的かつ根源的な願い』に答え、世界が鍛えて作られたという物である。クラン:ウェポニアのリーダーにして、武器狂いたるSOHO-ZONEはそう言った。武器とは何時の時代も目的の為に用いる物、其れを成せと願いを込めて作られる物。

 

「………はい!覚悟は出来ています」

「なら善し。其の盾を、確り『使い熟して』いくけぇ。其れと………わちは『古匠(こしょう)』に成れた。わりゃの持っちょる、神代の大いなる遺産達もキッチリ直せる。何かあったら親父だけやのうて、わちも頼れよ」

 

拳を出してきたビィラックに、ペッパーは微笑みながら拳を合わせて。彼と一羽と一匹を愉快合羽の内に隠して休憩室に戻り、アイトゥイルが開いたゲートを越えて、ファイヴァルの裏路地に向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午前8時50分、ファイヴァルの裏路地に繋がるゲートを抜けて、到着したペッパー達は辺りに人が居ない事を確認しつつ、Eメールアプリでペンシルゴンに連絡を取る。

 

すると視界がいきなり真っ黒になって、ペッパーは「いきなり何だ!?」と驚いて身体はビクリと跳ね。そんな彼の右耳元にて、「あーくん♪」と聞き馴染んだ声が聞こえた。

 

視界が明るさを取り戻し、振り向いた先にはペンシルゴンが、悪戯成功と言わんばかりの笑顔で立っていた。

 

「お、おうトワか。はぁ、ビックリしたぞ……」

「んふふ……♪ちゃあんと来てくれたね、あーくん?」

「まぁな、待ったか?」

「んーん、丁度今来たんだ」

「そうか……それじゃあ予定を確認するよ」

 

軽く言葉を交わし合って。今日中にフィフティシアを最終目標地点とし、行ける所まで進む事に決め。

 

ペッパーはアイトゥイル・ポポンガを愉快合羽に隠し、ペンシルゴンと共にファイヴァルの門を越えて、栄古斉衰の死火口湖に向かう中、彼の目の前には『リザルト画面』が表示されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』

『条件達成まで、残り━━━四つ』

 

 

 

 

 






旅立ちて、死火山へ




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火山駆けて、黒の流星はサードレマに着く



一日行軍開始




栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)……通常は無数に入り組んだ廃坑内を踏破して抜けるのだが、ペッパーの右手に付けられたリュカオーンの呪い(マーキング)は自身よりレベルが低い相手を追い払う力を宿している。

 

そして其の力を用いたならば、本来は危険となる登山ルートによる踏破は、迷宮たる廃坑を越えるよりも遥かに簡単なルートとなるのだ。

 

『ギョエー!?ギョエー!?』

『ギョエー!?ギョエー!?』

「わぁ……私、あの悪辣駝鳥達がUターンして逃げ去って行くの、初めて見たよ……」

「トワの悪辣さに比べたら、可愛いもんだよ」

「んー?あーくん、其れは一体どーゆう意味かな~?」

「鏡見て、胸に手を当ててみれば解るんじゃない?」

「鏡には綺麗なトワおねーさんしか写ってないな~?」

 

コイツ無敵かよ……そう考えながら歩きつつも、ペッパーはペンシルゴンにちょっとした質問をしてみる事にした。

 

「なぁ、トワ。SOHO-ZONEさんが言ってた『聖槍カレドヴルッフ』ってのが、前に地底湖レベリングの時に言ってたメイン武器なんだよな?どうやって入手したの?」

「お、同じ勇者武器所持者として気になっちゃう?気になっちゃうのかな、あーくん?」

 

「興味は有るかな……」とだけ答える。そりゃ真横でニマニマと、其れは其れは良い笑顔をしていたので、余計な事を口に出したら、面倒な事になるのは目に見えている。

 

「まぁ簡潔に伝えると『カレドヴルッフ出現後に、同じ箇所に集まったプレイヤー達とPvPやって、最後まで生き残る事』だね。因みに私、15キル0デスの文句無しのMVP」

「………乱戦や策謀なら、トワの独壇場だからな。何と無く納得したわ」

「因みに他プレイヤーも、カレドヴルッフ参加他プレイヤーの情報で釣ったり、乱戦で漁夫の利してノーダメ勝利しました♪」

 

其の最後の一文が無ければ、素直に褒めてやっても良かったのになぁ………

 

「まぁつまり……シャンフロ版サバイバルFPSでの優勝賞品が、カレドヴルッフって訳か」

「そゆこと♪いやぁ、其の時のプレイヤー達も本当に強くてね。策略含めても勝てる見込みが薄かったプレイヤーが、確かあの時は『三人』程居たんだよね」

「………因みに其の三人の名前を聞いても?」

「うん、良いよー」

 

黒幕として策謀に長けたペンシルゴンが、己の十八番の領域に引き摺り込んでも、勝てる可能性が低かったと言う三人のプレイヤー達。興味が湧いたのでペッパーがペンシルゴンに問うと、彼女は素直に答えた。

 

「先ず始めに『輝羅(キィラ)』。バリッバリの前衛戦士でカレトヴルッフ入手に『一番躍起になってたプレイヤー』。ログイン率はカレトヴルッフ争奪戦以降は落ちたけど、其れでも基本スペックが『滅茶苦茶高い』。時々『NPCが主催する闘技大会』で、リハビリがてらに暴れたりしてるとか。最近の大会だと『ベスト8』に入ったらしいし」

 

其の大会がどのくらいの規模かは解らないが、強豪八人の内に収まるプレイヤーともなれば、相当な強さを持っているだろう。

 

「次に『レガーティエ』。同じ魔槍使いでは有るんだけど、搦め手無しの単純なプレイヤースキルじゃ、私より『遥かに上』の実力持ちだね。輝羅に彼女、そしてあと一人が潰し合いしてなかったら、私はカレトヴルッフを入手出来なかったよ。因みに京極(キョウアルティメット)ちゃんと同じ、現役PKer」

 

カレトヴルッフ争奪戦とやらでは、ペンシルゴンの策謀に嵌まったとは言え、彼女が遥かに上と言い切る実力者。そして現役のPKともなれば、情報が漏れたならば此方を狙ってくる危険性も在る。

 

「最後の一人は『ムラクモ』。シャンフロの全プレイヤーの中でも最多回数の『レベルダウンビルド』を経験して、武器種一つに付き『少なくとも五つ以上』の強弱問わず、対応スキルを持ってるプレイヤー。数多有る強化(バフ)スキルも十全に使いこなすし、前衛後衛も其の時の状況で最高の役割を完遂する、凄まじい『オールラウンダー』なんだよね」

 

前衛後衛に対応出来ると言う事は片手武器は勿論、両手武器に重量武器、弓による遠距離武器すらも使いこなせると言う事を意味する。そして何より、小鎚(こづち)籠脚(ガンドレッグ)を武器カテゴリーとして解放しているので、再びレベルダウンビルドを敢行して、複数のスキルを手に入れている可能性が非常に高いだろう。

 

「輝羅、レガーティエ、ムラクモ……ねぇ。戦わなきゃならない以外は、其の輝羅とムラクモって人に『変わったスキル』の習得方法とか聞いてみたいな」

「まぁスキルは少なく取って磨き上げるか、多く取って多彩に仕上げるかは、プレイヤー各々だからねぇ……。因みにあーくん、今持ってるスキルって幾つなの?」

 

そして自然な流れで、此方の持ち札を聞きにきたペンシルゴン、マジペンシルゴンである。右手首に装着している『致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)』に関して彼女に言ったなら、また『オハナシ』を仕掛けられるのも面倒なので、取り敢えず信憑性も含めて答えておく事にした。

 

「うーん……確か通常のレベルアップで獲得したのが32、合成スキルがざっと10と、秘伝書経由が8だな」

「へぇ~……結構手札持ってるんだね、あーくん。副職で汎用スキル獲得してたりするんだ?」

「まぁ、そうだね」

 

本当は様々な武器を用いて、致命魂の首輪と致命魂の腕輪によるレベルアップに支えられた結果だ。此処からは聖盾イーディスを用いたり、エイドルトやイレベンタルで『手斧(ておの)』に『短刀(たんとう)』、更には『短剣(たんけん)』と『(むち)』を含めた新武器の購入や、防具の新調もしておきたい。

 

「お、そろそろ山の中腹だねぇ」

「確かに。えっと、地図によると東方向に円周移動していけば、サードレマに入るゲートが在る……だな」

「うん、あーくんは早い所フィフティシアに向かいたいんだよね?」

「あぁ。出来る限り進めるだけ進んでおきたいって思ってる」

 

イレベンタル以降のエリアは、自分でも解らない事が多い。もし万が一にも何らかのアクシデントが発生して、エイドルトまでしか到達出来なかった場合は、もう一度ペンシルゴンに護衛を依頼する事も視野に入れつつ、彼は一つの決断をした。「トワ」と声を掛けて、両腕を前に出す。

 

「どうしたの、あーくん?」

「お姫様抱っこさせて」

「………?………!?……!!???」

 

突然の想い人の発言に、ペンシルゴンは思考が混線を起こし、顔が真っ赤になり始め。「ちょっと失礼」と答えを聞くまでも無く、解ってるだろうと言わんばかりに彼女の脚を払って、お姫様抱っこに持ち込み。

 

「確り掴まってて」と一言、同時に繰り出すは自身の持つスキルたる鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)全進開速(フルスロットル)、ソニック・アサルトに加えてシャイニングムーヴ、そしてデュアルリンクにトルクチャージで加速を開始。

 

地上を駆けるは黒の流星。ソニックアサルトによって出来た風の壁を纏いながら、聖なる盾を受け継いだ勇者は死した火山の山肌を走り抜けて。鞍馬天秘伝のスキル終了と、全進開速のスキル時間ギリギリでサードレマへ続くゲートを真正面に捉える位置に辿り着いた。

 

「はぁ…はぁ…。やっぱり、全進開速を使うと腹が減るんだな。携帯食糧食べて回復しないと……トワ、大丈夫だった?……トワ?」

 

そう言えば走っている最中は正面ばかり見ていて、彼女の顔を見ていなかったと思い出して、視線を下に向けると、顔を真っ赤な林檎の様に火照らせた、ペンシルゴンの姿が在って。彼女の潤んだ瞳と艶を含んだ唇に、ペッパー自身もドキッとさせられた。

 

「あ、えっと…あーくんスタミナ回復するんだったよね!?ごめんごめん、自分で降りれるから安心して!」

 

顔を隠すように後ろを向いたペンシルゴンに、ペッパーも少し気不味そうになりながらも、携帯食糧を食らってスタミナと空腹度の回復を行う。

 

(うう~……!いきなりお姫様抱っこするなんて……!あーくんって思った以上に、大胆な行動するんだ……意外だなぁ………)

(トワの奴、結構『軽かったな』……装備が軽戦士系列ってのもあるのか、自分の筋力がアイツの体重でも負けないだけの数値になってるからか……どっちだ?)

 

御互いにすれ違い、しかし御互いが少なからず相手を想いながら。ペッパーは携帯食糧でスタミナと空腹度の回復を終え、ペンシルゴンも漸く落ち着きを取り戻し、二人はサードレマのゲートを潜り抜けたのであった……。

 

 

 

 

 

 






サードレマへ到着




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乗し掛かる時間は、疾走を縛りて止める



サードレマに着きまして




「おーい……ペンシルゴ~ン?」

「……………ウフフ」

「……駄目だコリャ」

 

此れで通算十九回目(・・・・)のペンシルゴンの無反応に、ペッパーは小さく「はぁ…」と溜息を付く。お姫様抱っこ+全速ダッシュでサードレマの入口に来たまでは良かったのだが、其の後が問題だった。

 

クラン:旅狼(ヴォルフガング)の外道参謀、或いは黒幕魔王ことアーサー・ペンシルゴン。ペッパーのお姫様抱っこによって、現在高級日本酒でも飲んだような、ぽわぽわとした幸福に満ち充ちたニッコリ笑顔の上の空。

 

其の状態のペンシルゴンは、此方の声に全く反応しておらず、建造物の壁やNPCに激突し掛けてしまい、此れでは不味いと、ペッパーが彼女の手を引きながら歩く。そして当然だが其れなりに名が知られているペンシルゴンが、そんな顔をして歩こうものなら他のプレイヤーにNPCの注目を集めるのは当然で。

 

「おい、あれ……」

「わ、廃人狩りじゃん……ってか何だあの顔」

「手を引いてるのNPC…なのか?」

「真っ黒コート格好良いなぁ……」

「いや、名無しのコート着けて歩いてたのペッパーって情報有ったし……」

「廃人狩りと一緒って事は……いやまさかな?」

 

嵐を巻き起こすペッパーが、名前隠しのコートを装備している情報は出回っている様で、前回の事件からもしかすると、ペッパー本人が変装しているのでは?とも考える。が、やはりペンシルゴンが居るからか、話し掛ける事が出来ずに、通り過ぎるのを見ている事しか出来なかった。

 

此のままではペンシルゴンが使い物にならない為、ペッパーは上の空で幸せ笑顔の彼女を連れて、サードレマの裏路地へと入る。そして周りに誰も居ない事を確認しつつ、彼女を壁に寄り添わせ……━━━━━。

 

「トワ、おーいトワ~」

「ん~?あーくん、どうしたの~?」

「そろそろ戻ってこーい。お前の表情が他のプレイヤーに見られてたぞ~」

 

ぽわぽわの彼女の肩を軽く叩き、此処までの事を包み隠さず話すと、彼女は思いっきり真っ赤な顔をして、後ろ向きで建物の壁を殴り始める。

 

「うぐぐ……!ペンシルゴン………シャンフロ人生、一生の不覚……!」

「誰にだって、ミスや失敗の一つや二つ有るよ。同じ過ちを繰り返さなきゃ良いだけの話だ」

「うぅ~……!其れやったの、あーくんじゃん!」

「解った、解った。悪かったって」

 

恥ずかしさ故か、振り返るやペッパーの胴をポカポカと叩くペンシルゴンに、彼もまた謝る。

 

「む~……ちょっとあーくん、おねーさんに対する誠意が成って無いんじゃなぁい?」

「じゃあ………どうしろと?」

「其のコートのフード外しと、手を繋いで大通りを一緒に歩いて貰おうかなぁ?」

「ごめんなさいごめんなさい、其れしたら此方が死ぬので止めて下さい御願いします」

 

「ウフフ…ジョーダンだよ♪」と笑うペンシルゴンだが、其の目は冗談で言って居らず、寧ろやらせる気満々だっただろうといった表情。どうやら何時ものペンシルゴンのペースに戻ったようである。

 

「まぁ、私としてもあーくんの『意外な一面』が見れたから、貴重な経験が出来た感じではあるねぇ」

「今日一日で出来るだけ、フィフティシアに近付きたいからな。成るべく足を止めたく無いんだ」

 

時間は限られているからこそ、有効に扱わなくてはならない。特に今回は叶うならフィフティシアまで、そうでなければイレベンタルまで向かいたい所である。

 

「ん~まぁそうだねぇ。でも、あーくんって結構速く走れるんだね。色々スキルを使ってるの?」

「あぁ、窮速走破(トップガン)無しでも其れなりに速く走れるよう、ダッシュスキルに強化(バフ)スキルの補強と、再使用時間(リキャストタイム)短縮スキルを使ってる感じ」

 

スキル名:トルクチャージ。ウェザエモン戦の後に新規習得のスキルとして加わった其れは、重ね掛けて使用したスキル達を、其の熟達具合に応じて再使用時間を短縮するという、有用なスキルである。

 

「再使用時間短縮スキル有るの?」

「多分『複数の同系統スキルを重ね掛けて使う』と、習得出来る可能性が高いね。実際使ってみたが、再使用時間が減ってた。レベルアップしていけば、もっと短縮可能になるとは思う」

 

でもなぁ……と、ペッパーは裏路地から見える空を見上げ呟く。

 

「出来る事なら其のスキル以外で、もう少し『スキルの再使用時間を減らしたい』とは考えてる。切札級のスキルともなると再使用時間が長くて、外せないプレッシャーの中で戦わないと行けないんだよね……」

 

致命魂の首輪と致命魂の腕輪によってもたらされた、スキル達の凄まじい成長は、強力な手札となってペッパーに恐るべき『力』をもたらした。しかし其の代償として、強力になったスキル達は再使用時間の長さという、相応の『対価』をペッパーに与えている。

 

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)に、冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)、そして聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)等を初めとした、今も自分を支えている手札の中には、強過ぎるが故に再使用時間に『1~2時間』、長いものになると『数時間』を要求する物が在る程だ。

 

「まぁ、シャンフロがスキルゲーである以上は、避けて通れないもんだと割り切るさ」

「そうだね、用いる手札を何処で何を切るか……。PKerしてた時は、其の『緊張感』が堪らなかったんだよねぇ……」

 

対人戦の醍醐味は其処(・・)だろう。自身と相手の持つ手札、装備の種類に持っている武器、最新の情報と現在の情報による化かし合い。一手一手の取捨選択と刹那の判断、其れが勝敗に直結するスリルは何物にも代え難い。

 

他のプレイヤーと力を比べたい、己の実力を格上の相手に試したい……そんな想いを宿すが故に、PKer達は消えないのだろう。だがPKによって積み上げたものを、全てを失う危険(スリル)と、代償(リスク)を抱えたとしても、其れでも試したいと願う者が居る限り、PKは無くならないのだろう。

 

「まぁ万が一にも、あーくんの所にPKerが来たら京極(キョウアルティメット)ちゃんを差し向けたり、私直々にブッ飛ばしに行ってあげるから……安心してネ?」

「アハハ……頼りにしてるわ……」

 

やっぱり、ペンシルゴンだけは絶対敵にしたくない……そう改めて胸に刻んだペッパー。そして二人と一羽と一匹は、裏路地を上手く使いこなして神代の鐵遺跡へ続くゲートを潜り抜け、目的地を目指して走って行ったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれって………ペッパーさん、かな?」

 

其の後を追い掛け始めたのは、青い魔術師の衣服を纏って致命の錫杖(ヴォーパル.ロッド)を抱えて走る『レーザーカジキ』。

 

「………ほぉーん?あの(・・)ペンシルゴンがねぇ……」

「サンラクさん、また悪い顔してますわ……」

「トモダチが良い顔してる(弄り甲斐有る)んなら、其れを確かめたいのは『当然の事』なんだよなぁ……」

 

祭衣・打倒者の長頭巾(フェスタ・メジェ・カフィエ)にエムルを隠した『サンラク』が、ペッパーとペンシルゴンのやり取りを見届け。更にはオイカッツォへのメールを送って、其の後を追い掛ける。

 

状況はペッパー達の予想とは思わぬ形に転じ始めたのだった………。

 

 

 

 






次なる場所は、鐵遺跡



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人は其れを切るべき縁と呼ぶが、当事者からは切ってはならぬ縁と呼ばれていたりする



鐵遺跡攻略




神代(しんだい)鐵遺跡(くろがねいせき)

 

超古代の気配漂い、考察クラン:ライブラリによると、昔は何らかの研究所の跡地であった……とも言われている、サードレマから行ける三つのエリアの一つでもある。

 

「トワ!道中のドローンは出来る限り無視で!一体出て来たら、わらわらと襲い掛かってくる!アイトゥイルも攻撃は牽制程度で良い!」

「OK、ちゃちゃっと抜けて地下に降りちゃおう!」

「了解なのさ…!」

 

遺跡内に浮遊・襲来してくるサプレスドローンの達を、左手に盾の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)たる聖盾(せいじゅん)イーディスを装備。真正面に構えつつ、ペッパーはドローンの突撃を受け流したり、タイミングを合わせての押し当て(バッシュ)に、盾面を使って殴り付けてみたりする等、盾を用いた新しい戦い方を、思い付く限り試していく。

 

「トワはアイトゥイルを乗せて先に階段へ!殿は俺がやる!」

「任せなさーい、あーくん!アイトゥイルちゃん、カマーン♪」

「ペッパーはん、油断しないでなのさ!」

 

御互いに右腕を利用、アイトゥイルを橋渡し、ペンシルゴンは和装黒兎を肩に載せ、階段を駆け降りて先を往く。そしてペッパーもまた、便秘で多少ながら鍛えられた動体視力で飛来するドローンを、瞬刻視界(モーメントサイト)を併用しながら、弾き飛ば(パリィ)して地下に向かう。

 

「ペッパーよ。お前さん、イーディスの使い方が様になっているじゃあないか」

 

そんな時、影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)から聞こえたのは、ユニーククエストで護衛対象となっているポポンガの声。どうやらイーディスを用いてのサプレスドローン迎撃を、先程からコートの中でジッと観察していたらしい。

 

「盾系の武器も頑丈では有りますけど、耐久力に『限界』は在りますから。如何にして攻撃を凌ぐか、どうすれば耐久減少を抑えられるか……。其れを考えるのも、武器を扱う者の成す事だと思います」

「ホホホ……良い心掛けじゃの」

 

武器種の中では耐久力が凄まじい盾、其れも勇者武器ともなれば其の数値は桁違いとも言える頑強さを持つ。普通ならば(・・・・・)レベルアップにより、盾系統やタンク関係のスキルを習得出来る可能性が有る。

 

しかしペッパーの職業:バックパッカーは移動やダッシュ系統スキルを習得しやすい反面、盾やタンク系統スキルを習得し難い。物資を迅速に運ぶ職業持ちが、他者を守る必要なくない?等と言う声が聞こえてきそうだ。実際、職業の設定上ではそうなのだが。

 

だが人間と言う生き物、新しい武器は使いたいし、新しい戦法を試したい……そんな『欲望』を持っている。現実では出来ない事もゲームの中なら出来る、シャンフロのスキル達は運が絡みはするものの、理論上(・・・)全てのスキルを覚えられる様に出来ている。

 

バックパッカーは盾を用いたスキルに、タンク職のスキルは習得し難い。しかし逆に『し難い』━━━━其れだけ(・・・・)なのだ。習得するのに通常以上の時間と修練の必要が有るだけで、レベルアップ時に条件を満たせば、習得のチャンスは等しく訪れる。

 

要するに━━━━だ。

 

(致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)を信じる事。習得に漕ぎ着ける為には、俺が確りと立ち回る事が必要…!)

 

右手首で今も淡く輝き、ヴァイスアッシュから託された腕輪を見て。然れども、先に行かせたペンシルゴンの後を追い掛け、ペッパーもまた階段を駆け降りたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下二階もウェザエモン戦で鍛えられたステータスで、地下三階の落下床ギミックも破天爽駆(はてんそうく)で駆け抜けて突破し。地下四階も特に問題も無ければ、つまづく事も無く駆け抜けて、ペッパー達一向は地下五階に続く階段に辿り着いた。

 

「此処を下れば地下五階……。ペッパー君、アイトゥイルちゃん、一気に駆け抜けてエリアボスをブッ飛ばすよ!」

「おう、ちゃちゃっと決めちゃおう」

「そやなのさね」

 

黒い闇が染まる階段をペッパーが先頭に立ってイーディスを構えつつ、アイトゥイルが桃燈をライト代わりとして一段ずつ降りていく。

 

「………なぁ、アイトゥイル」

「ペッパーはんも気付いたのさ」

居るよね(・・・・)、俺達の跡を付けてる連中が」

「此の感じ……『三人』居るのさ」

 

階段を降りる最中、ペッパーとアイトゥイルはペンシルゴン以外に『複数人』が足音を立てず、此方の跡を付けているのを、直感的に関知する。しかし敢えて気付かないフリをして階段を下り降り、ペンシルゴンが数歩先を歩いた瞬間にペッパーは、振り向き様に声を放つ。

 

「其処に居るのは誰だ?足音に合わせて、歩いてきたようだけど?争うなら、此方もやるけど」

「えっ、誰か居るの?」

 

イーディスを真正面に構え、既に臨戦態勢状態に有る中、アイトゥイルの持つ桃燈が照らしたのは━━━。

 

「おいおい待て待て、ペッパー俺達だ」

「アイトゥイルおねーちゃん!」

「敵じゃねぇよ、ペッパー」

「あ、あの…ごめんなさい!」

 

祭衣・打倒者の長頭巾(フェスタ・メジェ・カフィエ)を装着したサンラクと、其の白頭巾から出て来たエムル。其の後ろからヒョコっと顔を出すオイカッツォに、其の脇に抱えられたレーザーカジキの姿が有った。

 

「あれ、サンラク君にカッツォ君。其れにレーザーカジキ君じゃん、三人共遺跡攻略に来たの?」

「まぁな。俺はシクセンベルトの先のエリアの偵察と、活動範囲拡大に」

「此方もテンバートに在るって言う、現状最強クラスの縄を手に入れようかと。そんで、ペッパーの後をレーザーカジキが追っ掛けてたから、キャリーして来た訳」

「えっ、えと……其の…。アハハ………」

 

笑顔がどうにも固いレーザーカジキ。そしてサンラクとオイカッツォが『何か企んでいる時』の目の色を、長い付き合いの中で知っているペンシルゴンは、数瞬の思考の果てに『質問』をぶつけた。

 

「……サンラク君。君は確か『シクセンベルトに向かう』……だったよね?」

「あぁ、そうだな」

「オイカッツォ君は『神代の鐵遺跡』で何してたの?」

「鮭と海蛇釣ってレベリングしてたけど……」

「………OK、成程。じゃあ、レーザーカジキ君。ペッパー君を『何処から』追い掛けて来たのかな?」

「えと……『サードレマ』の裏路地から、ペッパーさんが出て来て。其れを追い掛けて、来ました………」

『………???』

 

ペンシルゴンの質問にペッパーとアイトゥイル、エムルが疑問符を浮かべる中、ペンシルゴンの視線はサンラクとオイカッツォの方に向けられ。

 

「ねぇ…サンラク君、カッツォ君。………『私達の話を聴いていたんだよね』?」

「「相変わらず、勘の良いペンシルゴンだなぁ」」

 

三人は獰猛な笑顔を浮かべ。そしてサンラクとオイカッツォは、其れは其れは素晴らしい笑顔と共に、ペンシルゴンとペッパーに向けた爆弾をぶん投げる。

 

「『む~……ちょっとあーくん、おねーさんに対する誠意が成って無いんじゃなぁい?』(裏声&声真似、但し似てない。発声者:サンラク)」

「『トワはアイトゥイルを乗せて先に階段へ!殿は俺がやる!キリッ』(滅茶苦茶似ている。発声者:オイカッツォ)」

 

渾身のドヤ顔と共に炸裂したネタバラシに、ペッパーとペンシルゴンの双方の顔が真っ赤に染まって、水蒸気爆発が起きたような音が鳴った。何せサードレマの時点から、此方のやり取りはサンラクに聞かれており、おそらくオイカッツォも遺跡の何処かで潜んで、見聞きしていた事になる訳だ。

 

「へっへっへ~……。御二人さん此れはもう『そういう関係』って事でヨゴザンスかぁ~????」

「ヒューヒュー♪『あーくん』とか『トワ』呼びとは、随分熱々ですねぇ!御二人さぁん!!!!」

「えっと……其の、あの……!『おめでとうございます』……?」

 

唯でさえ外道二人に対し、弄られ擦られるネタを与えただけに止まらず、レーザーカジキの一際純粋な御祝いの台詞によって、恥ずかしさが限界を突破。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!????」

 

ペッパーとペンシルゴンは顔を真っ赤にしながら、鐵遺跡のエリアボスたる『ルイン・キーパー』を一分で瞬殺するも、追い付いてきたサンラク・オイカッツォに弄り倒され、悶絶する羽目になったのだった………。

 

 

 

 

 






外道は嗤う




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勇者は外道を鎮め、シクセンベルトに着く



遺跡攻略より再び遺跡へ




「いやぁ、我等が外道アーサー・ペンシルゴンにも、遂に春が訪れていたとはなぁ~~~???」

「結婚報告待ってまーす」

『ッッッッッッ………!!!!』

「あわわわ……」

 

エリアボスのルイン・キーパーを瞬殺し、早足でシャンフロ・第6の街たるシクセンベルトに向かう、ペッパー・ペンシルゴン・アイトゥイル・ポポンガの一向を、サンラク・オイカッツォ・レーザーカジキ・エムルのパーティーが追い掛ける。

 

「もう良いでしょ!?此のネタおしまいッ!!」

「其れを決めるのはペンシルゴンじゃないんだよなぁ……ヘッヘッヘ」

「因みに此れ何時まで続けるの?」

「少なくとも半年は確定で擦るから、御二人さん覚悟しておいてね?」

「いや、流石に半年はキツイって……」

「はわわ………」

 

サンラク・オイカッツォの怒濤の弄り攻撃に、普段の余裕が失われたペンシルゴンは、ぐぬぬ…と言った具合に後方でニヤニヤニマニマしている、外道二人に視線を送り。そんな外道組のやり取りで、自分はどうすれば良いのか解らないレーザーカジキは、唯々慌てている事しか出来ず。

 

そんな中ペッパーは一人、サンラクとオイカッツォを静かにさせ、此の状況に終止符を打つべく『カウンター』とも言うべき爆弾を放つ。

 

「なぁ、サンラク」

「ん~?何だ、ペッパー?弁解の余地でも有るんか~?」

「『行列、エナドリ、妖怪一足りない』」

 

たった三つの言葉(ワード)、然れどサンラクにとって其れは、桁違いの破壊力を秘めた言葉であり。

 

「すいません、クランリーダー。其れだけは、其れだけは止めて下さい」

「素直でよろしい」

 

深々と頭を下げて、何なら今すぐに土下座か五体投地をやらかしかねない勢いを見て、ニッコリと笑って許し。

 

「えっ、何?ペッパー、サンラクに何したの?」

「『初戦、ストレート、正体』」

 

彼がやった其の真意を、確かめんとしたオイカッツォだったが、ペッパーのオイカッツォにだけ伝わる言葉で、彼の目から光を消し去る。

 

「一応ゲームってのも有るし、不特定多数が此の世界で生きているので、程々に………な?」

 

ペッパーのニッコリ笑顔に、サンラク・オイカッツォは唯一言「「はい」」とだけ言った。そして同時に、外道二人は同じ真理に辿り着く。

 

『クラン:旅狼(ヴォルフガング)の中で、一番ブチキレさせたら恐いのはペッパーだ』━━━━と。

 

「さて……レーザーカジキは此れからどうするの?」

「えっ、僕……ですか?」

 

サンラク・オイカッツォに連れられて来ていたレーザーカジキに、今後の予定を問うペッパー。小さな青の魔術師はこう答える。

 

「その……えと、あの……ペッパーさんの後に、付いて行きたい……です。実は、無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)のエリアボスが倒せなくて………協力して貰えませんか?」

 

無果落耀の古城骸、其のエリアボスをペッパーは知っている。オーバードレス・ゴーレム━━━致命極技(ヴォーパルヴァーツ)習得の為に戦い、無尽の偶像を拾う事となった巨大ゴーレムだ。

 

「良いよ、レーザーカジキ。俺とペンシルゴンもフィフティシアを目指してる。今のレベルは幾つかな?」

「あ、ありがとうございます!僕、今レベルは62です!」

 

ラビッツのユニークシナリオを受注したあの日から、レーザーカジキも随分と己を鍛えたようだ。遠からず追い抜かされるだろうと思い、そしてペンシルゴンがレーザーカジキをジィッ……と黒い物を含んだ視線で見ていた時、サンラクが全員に問い掛けてきた。

 

「あ、ペッパーとオイカッツォにペンシルゴンよぉ。今お前等レベル幾つだ?」

「レベル57。鮭と海蛇にザリガニ釣り上げて、漸くって感じ」

「此方はレベル66」

「私は当然カンスト、レベル99。じゃあ言い出しっぺのサンラク君は幾つなのさ?」

 

ペンシルゴンの問い掛けに、サンラクはクックック……と笑いつつも、自信に満ちた声で答えを示した。

 

「俺か?俺は『レベル99』!カンストでーす!」

 

渾身のドヤ顔を決めたサンラクと、彼以外の全員が同じ言葉を口にする。

 

『……………え?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『男子三日会わざれば刮目して見よ』なる言葉が在る。人は誰もが能力を持っており、僅か三日の時間でも人は変わる事が出来るという意味だ。

 

現実でも有るが、特にゲームともなれば顕著に現れる。始めたばかりの初心者が、レベリングで最も優れた場所を見付けて三徹し、レベルカンストに至らせた……と言う逸話も有ったりするが、此処は大衆が神ゲーと認める『シャンフロ』であり、サンラクは其の身に『リュカオーンの呪い(マーキング)』を二ヶ所持つ。

 

何をどうしたら此の半裸の鳥頭は、本当に三日の短期間でレベルカンストに至る事が出来たのか、此の場に居た全員が例外無く思った事だった。

 

「サンラク君、レベルカンストってマジなの?」

「応よ、俺の『マブダチ』の所で戯れて来たんだ。友情………そう。友情パワーが、俺に力をくれたのさ……」

 

何やら吟遊詩人の様に語らい、ドヤ顔を噛ましているサンラク。と、ペッパーの肩に何時の間にかエムルが乗って来ており、簡潔に事情を伝えてきた。

 

「ペッパーさん、サンラクさんはマブダチ………水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)と戦っていたのですわ」

「…………マジ?」

 

小声で答えるとエムルは小さく頷いて、ペッパーの肩からサンラクの頭へと跳ね飛び移るのを見ながら、彼は思考を開始した。一体辺りの平均レベルは100オーバー、実戦的訓練の中で嫌と言う程味わったペッパーは、其の実力をよく知っている。

 

其の言葉に嘘が無いようであり、水晶群蠍を何らかの方法で討伐したのだろう。そして金晶独蠍なる存在は水晶群蠍に関係するモンスターで、名前から予想するにレアエネミーである可能性が非常に高い。

 

「「マブダチ?」」

「海蛇やザリガニなんか比にも成らん、素晴らしい強敵だよ……。ぶん殴れば素材は落ちるし、何処までも追い掛けてくる……そんな可愛い奴等だ」

 

あの(・・)蠍達の事を『可愛い奴等』と言い切るサンラクに、ペッパーは内心震え上がって強張った表情になる。

 

「まぁサンラク君には、急激なレベルアップについて『オハナシ』して貰うとして……。私とペッパー君、レーザーカジキ君はシクセンベルトに着いたら、其のままサードレマにUターンして、フィフティシアに向かうからね」

「気を付けてな。サンラク、オイカッツォ」

 

「「おーう」」と軽口で答えて、サンラク・オイカッツォ・エムルは先にシクセンベルトに入り。其の後にペンシルゴンとレーザーカジキ、そして愉快合羽にポポンガとアイトゥイルを隠したペッパーが街に到着。

 

そして三人と一匹と一羽が、其のまま街の外へと出た瞬間、ペッパーの目の前にリザルト画面が現れた。

 

 

 

 

 

 

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』

『条件達成まで、残り━━━三つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 






開拓者達は各々が目指す場所へ




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遺跡を走り、サードレマに着き、樹海を駆けて再会す



前へ前へと、我が身が叫ぶ




結論から言うならば、神代の鐵遺跡では何も起こらなかったし、サードレマに戻るだけの道中も平和だった。

 

レーザーカジキの頭にアイトゥイルを乗せて、ペンシルゴンと自分がサンドイッチする陣形(フォーメーション)を取り、前後方向から襲い掛かる形状豊かなドローン達を、確りと迎撃して来た道を戻って行ったので、特に問題も無く乗り越えられた。

 

「まぁ、サプレスドローンを一々落としてたら、何時まで経っても先に進めないからねぇ」

「其れはそう」

「御二人共、凄いです……!」

「レーザーカジキはんも、周りをよく見ていたのさ」

 

サードレマのゲートが近いので、アイトゥイルを再び愉快合羽の中へ戻し、ペッパー・ペンシルゴン・レーザーカジキは街の中へ入る。ゲートを潜り抜けながら、裏路地を駆使して、千紫万紅(せんしばんこう)樹海窟(じゅかいくつ)に通じるゲートを目指す。

 

「あ、あの……ペッパーさん」

 

そんな時、レーザーカジキが歩みを進めつつも、ペッパーに声を掛ける。

 

「レーザーカジキ、どうした?」

「えと……其の、ペッパーさんの装備してるコートって、確か『嘲り嗤う影法師(グルナー・グリンセリン)』からドロップする装備です……よね?強かった……ですか?」

 

現状呪いの装備と化している影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)が、レーザーカジキは気になる様で、ブラックトレンチロングコートを見つめている。

 

「あぁ、強かったよ。あの影法師はどうやら、相対者と『遊びたい』らしくてね。持ってるスキルをほぼ全て出し切ったら、満足したのか消える前に此の合羽をくれたんだ」

 

本当はユニークシナリオの実戦的訓練中の相手で、ギミックを確かめる為に数回死亡したのだが、実際自分vs自分を体験する上で、影法師程の適任は居なかった。

 

「名前隠してプレイ出来るって、唯一無二の性能してるからねぇ……。さて御二人共、サードレマの裏路地に居るからと言っても、完全に安全って訳じゃない。早い所、千紫万紅(せんしばんこう)樹海窟(じゅかいくつ)へ行っちゃおう」

「応ッ」

「は、はい!」

 

其の歩みは止まらず、ペッパー達一向は入り組んだ裏路地を走り、千紫万紅の樹海窟へ続くゲートを目指して駆けて行く。

 

 

 

 

「アレは………ッ!」

 

そして一向の姿を双眼にて捉え、街角の影より見つめる、一式装備・麻の衣服で身を包むプレイヤーが居た。

 

「アーサー・ペンシルゴン………!やっと見付けたぞッ………姉御(・・)………!」

 

嘗て彼女と京極の手により阿修羅会を滅ぼされ、一夜にしてウェザエモンと言う情報アドバンテージを失った、PKクラン:阿修羅会の元オーナー『オルスロット』が一向の後を一人、静かに追い掛ける。

 

其の目に復讐の焔を燃やしながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千紫万紅の樹海窟に到着した一向は、万が一に備えて各々が得物を装備し。然して其の脚を止める事もせず、フォスフォシエに続く道筋(ルート)を最速最短で通り、突き進んでいく。

 

昆虫型のモンスターは、自分から手を出さなければ基本的に襲う事はしないと、ペンシルゴンとレーザーカジキに豆知識として伝えたり、蜜袋をたゆませながら舞うストレージパピオンの群れを見上げたりしつつ、一向はフォスフォシエまで残り半分と言った所までやって来た。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。また『双皇甲虫』達に会ってみたいさね」

 

そんな時、コートの中から出て来たアイトゥイルが、ペッパーの頭に乗っかり、そう言ってきた。

 

「確かにね、次世代の子達に会ってみたいな」

 

『颶風の申し子・ティラネードギラファ、雷嵐の申し子・カイゼリオンコーカサス。二体の双皇甲虫の素材を使った、遺機装(レガシーウェポン)を造りたい』………ビィラックはそう言っていた。

 

各々の素材は風属性と雷属性をデフォルトで搭載するに止まらず、武器種の性質上は耐久性に優れていない太刀武器でも相応の耐久力を獲得している。ならば其の二つの皇の素材を用いて、以前見せたイラストを参照とし、リソースを惜しむこと無く注ぎ込んで造ったなら、一体どんな逸品に仕上がるのだろうか?

 

(水晶群蠍にも匹敵する遺機装ねぇ……。耐久性じゃ彼方に劣るが、属性方面なら優位に立ってるって意味なのかな?)

 

水晶群蠍を構成する水晶の甲殻だけでも、相当な硬度を持っていた。アレは斬撃属性ではマトモなダメージが入らず、打撃属性でなくては倒せなかった。

 

「へぇ……此の樹海に居るんだ、其の双皇甲虫ってモンスター」

「ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスな。出逢った場所は知ってるし、テリトリーに入らなければ戦闘には入らないから。行ってみるか、ペンシルゴン?」

「じゃあ、御言葉に甘えて案内して貰おうかなぁ?」

 

時間はまだ十分に有るので、寄り道も旅の一興と考えたペッパーは、一度自分の後を追い掛け、其の場所まで辿り着いていたレーザーカジキと共に、ペンシルゴンを目的地たる『双皇樹』へと続く道を教える。

 

そうして徒歩による移動と案内を開始して十数分、ペッパーとアイトゥイル、レーザーカジキの二人と一羽は、淡い光を放つ蛍達が此方に向かって、飛んできているのを見付けた。

 

「アレだね」

「アレなのさ」

「アレですね」

 

まるで此方を導くように、蛍達は光の道を作って案内して。軈て一向が辿り着くは、大地に根を張り巡らせながら樹海の天井を突き破り、天高く聳え立つ巨大な二本の巨樹と、其の周りが不自然に整備されたドーム状のフィールド。

 

そして双皇樹の奥には、黄金色の中に翡翠の輝きが光る巨大な宝石が、太陽の光に照され輝きを放ちながら御神体の様に鎮座していた。

 

「此処が双皇甲虫の住家なの、ペッパー君?」

「あぁ。此処でティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスと戦ってね。どちらも本当に強かっ━━━!」

 

刹那、背筋を撫でる悪寒と殺気。レーザーカジキを庇うように躍り出て(インターセプト)、振り翳される一撃を左手に装備した勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスにて受け止め防ぎ、其の一撃を押し出し(バッシュ)で凌ぐ。

 

「えっ、えっ何ですか!?」

 

状況が呑み込めず、慌てるレーザーカジキ。ペッパーとアイトゥイル、ペンシルゴンが見たのは麻の衣服一式装備と、ゴブリンの手斧を二本装備したプレイヤーの姿。

 

「やっと見付けたぞ、姉御ォ……!あん時はよくも、よくも裏切ってくれやがったなぁ……!」

 

プレイヤーネーム、オルスロット。ペンシルゴンが嘗て所属していたPKクラン:阿修羅会のクランオーナーだった(・・・)存在であり、ペンシルゴンと元メンバーの京極(キョウアルティメット)の反逆によって全てを失った人物だ。

 

そしてペッパーはオルスロットの顔を見ながら、彼と向き合うペンシルゴンを見つつも、レーザーカジキを庇いながら、他の襲撃者が居ないかどうか警戒する。

 

「なぁに言ってんだか。私は何時まで経ってもアンタがウェザエモンを倒さないから、先んじて倒しただけなんだよねぇ~?

其れにアンタ達がブクブク肥やして、貯めてきたマーニやアイテムは、アイツとの戦いの資金にしたし無駄じゃ無かった。間接的だけど、ウェザエモン討伐には『一枚』噛んでたんだよねぇ。アンタ達もさ」

 

ペンシルゴンが言ってる事は一見すれば『正しい』。阿修羅会の資金が、ウェザエモンの討伐に役立った。言い分は確かにそうなのだが、彼女が言うと言葉巧みに『言いくるめている』様にしか聞こえないのもまた事実。

 

天音 永遠(己の姉)をよく知るが故、此の世の頂点に立つのは私だと言わんばかりの、美貌に隠された本性(・・)をよく知る天音 久遠(オルスロット)は、歯軋りと共にゴブリンの手斧を握り締め、再び襲い掛からんとし。

 

其の行動に反応したペッパーが、アイトゥイルをレーザーカジキの護衛に回し、イーディスを構えて振り下ろされる手斧を、盾の鏡面で受け流すようにして防ぐ。

 

「ッ!退きやがれ!」

「其れは出来ない相談だ、オルスロット。ペンシルゴンは此れでも、俺の(・・)クランメンバーの一人なんでな。傷付けさせる訳にはいかないんだよ」

 

もう一方の手斧も、新たに両脚へ甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)改五を装着し、エンパイアビークイーンのニードルバンテージで弾いて凌ぐ。

 

「チィッ……!」

 

黒いコートを纏うプレイヤーが持つ、其の見た目に似つかわしくない白と金の大盾と、刺々しい見た目の籠脚(ガンドレッグ)に阻まれ、オルスロットは舌打ちをする。其の様子を見ていたペッパーは、己の正体を明かすように『嘗て送った格言』を以て、彼に言い放つ。

 

「………『攻撃の時は相手を常に俯瞰の視点で見るべし』。目の前の敵と集中して戦えるのは強みであり、同時に其れを意識しないと、坩堝に嵌まって抜け出せなくる弱点だ」

「…………は、あ……!!?」

 

フードを取り、隠した顔を露にすれば、オルスロットの表情は驚愕の色を帯びる。頭上にプレイヤーネームは無いものの、現実の己をベースとして目の色を弄っただけの物だが、久遠にとって見知った顔たる其れは、正体に辿り着くには十分過ぎて。

 

「あ………『アズサ兄』……!?ペッパーって、アズサ兄だったのかよッ!?」

「やぁ、久し振りだな『クオン』。元気にしてたかい?」

 

およそ十年振りに、天音 永遠の弟である天音 久遠。そして五条 梓は、シャングリラ・フロンティアという電子の世界で再会したのだった。

 

 

 

 

 






再会



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再会を経て、助言を送り、樹海を往きて



十年振りの顔合わせ




「あ、アズサ兄……!?マジかよ……!」

「やぁ、クオン。久し振りだ、元気にしてたか?」

 

片や驚愕、片や微笑み。クランオーナーだった者と、クランオーナーをしている者が、樹海窟にて相対す。

 

「んふふ……ペッパー君も気付いてると思うけど、オルスロット君は家の愚弟なんだよねぇ~」

「おいクソ姉貴!?愚は余計だろうが、愚は!!」

「クソは余計じゃないかなぁ~?悪い口は此処かぁ~!此処かーーーーー!!!」

「やめ、やめろォ!?クソ姉御がああああああ!!!」

 

オルスロットに組み付いて、後ろから両頬を引っ張ってぐいーんぐいんと伸ばすペンシルゴンに、オルスロット渾身の叫びが響く。

 

「えっ…えっ、ペッパーさん……。阿修羅会のリーダーと知り合い……だったんですか?」

 

そんな中、レーザーカジキがペッパーに問い掛ける。悪名高き阿修羅会の話を、彼は自身の姉であるAnimaliaから聞かされている。

 

「いや、リアルで会った事が有っただけで、阿修羅会のリーダーだったんは俺知らないよ?」

「へ?そうなんですか?」

「うん」

 

事実である。父親の仕事の都合で引っ越す前の久遠は、幼稚園の年長組くらいの年齢であり、十年も経てば人間も少なからず成長する。だが引っ越す前にやっていたレトロゲームで、久遠が中々勝てずにいる状態を見てアドバイスを送ったが、未だに改善出来ていないのを見て、人は変われない部分も有るのだと改めて認識したのだが。

 

「しかしまぁ……二人のやり取りを見てると、昔を思い出すな。よく弄られてたっけか懐かしい………いや悪い思い出しか無いわ」

「其れはどーゆー意味かなぁぁぁぁ???ペッパーくぅぅぅぅん???」

「おわあああああああ!!!???」

 

染々と思い出せば、ロクな事が無かった事に気付いたペッパー。其れをトリガーにしてか、両頬を弄くり倒して伸びているオルスロットに変わり、両頬を弄り倒しに掛かるペンシルゴンに彼の悲鳴が上がる。

 

「うごごご……クソ、姉御がぁ………」

「あ、あの……」

「アァ??」

 

倒れ伏すオルスロットが見上げれば、其処にはレーザーカジキと頭に乗っかったアイトゥイルが居り。レーザーカジキは睨み付けるオルスロットに対し、己の身を屈ませながら勇気を出して問い掛ける。

 

「えっ……と、オルスロット……さんは、ペンシルゴンさんの弟さんで…しょうか……?

「…………そうだが」

「その……お姉さんの事……『嫌い』……ですか?」

「…………は?」

 

レーザーカジキにもAnimaliaという姉が居て、無茶振りを吹っ掛けてきたり、姉特権と年上権限を行使して振り回された経験が有り、其れで喧嘩をした事も有ったりもした。だが其れでも、Animaliaはレーザーカジキを大切な家族として接し、愛情を持っている。

 

オルスロットは気付いていないだけだが、ペッパー……五条 梓は天音 永遠と共に過ごした数年間で、天音 久遠に対して見下しては居るものの、家族として大事に思っている様に感じていた。

 

ゲームでも自分の思い通りにいかなくては直ぐに辞めてしまう彼を、此の世界━━━神ゲーたるシャンフロでは辞めて欲しく無いと、何とか引き留めようとしたのではないのか…………と。

 

「僕は……Animaliaさんの弟、です……」

 

レーザーカジキの唐突なカミングアウトに、オルスロットは目を丸くする。Animalia━━━━シャンフロの中でも最強クラスの呪術師にして、ゲーム内トップクランの一つ・SF-Zooを率いるクランオーナーだ。

 

「今も時々、知り合いから……姉と比べられたり、して……。嫌な……思いを味わった、り……します。」

 

オルスロットの目に写るレーザーカジキは、所謂オーソドックスな魔法使い。手に握る致命の錫杖(ヴォーパル.ロッド)にアクセサリーの指輪はMP関連の補助に関係する物ばかり。

 

最高クラスの呪術師と比べるまでもない、木っ端の様な存在。だというのに、そんなレーザーカジキの瞳は真っ直ぐに自分に注がれている。

 

「でも……そんな時は何時も、自分に言い聞かせている言葉が……有ります。…………『辞めない、諦めない。続けている限り、必ずチャンスは平等に訪れる』………って」

 

キラキラと曇り無い光の眼が、オルスロットを見つめている。そして彼は、憧れた人が倒れ伏した人へ何を伝えようとしたのかを、己の思考で導き出した答えを言葉に乗せて伝えたのだ。

 

「ペッパーさん…の、言葉は……きっと……『もっと周りを見て、相手が何を考えているのかを考えてみて』と……言ってる様に、思い……ます」

「………大正解だ、レーザーカジキ。凄いな」

 

頭に乗っていたアイトゥイルがペッパーの腕を伝って彼の肩に移る中、ペッパーがレーザーカジキの頭を撫でながら、膝を付いて身を屈めるや、オルスロットに向けて言った。

 

「オルスロット。君のキャラビルドはどんな配分だ?」

「はぁ?何で其れを聴く」

「愚弟、ペッパー君の質問に答えて」

 

有無を言わさぬペンシルゴンの一声に、オルスロットは彼女を睨みつつも、渋々『敵との斬り合いを前提にしたビルド』とだけ答える。

 

「答えてくれてありがとう、オルスロット。其れじゃあ相手にダメージを与える為にはどうすれば良い?」

「………レベルを上げて、ステータスを上げて、スペックで押し潰す」

「其れも『答え』だね。悪く無いよオルスロット。寧ろ自分が『どうしたいか』や、自分が『どうなりたい』かが、明確に定まっているだけでも大きい」

 

相手のプレイスタイルや考え方を頭ごなしに否定せず、聞き届けて一定の『理解』を示す。レトロゲーマーたるペッパーは、オルスロットに次なる質問をぶつける。

 

「そう言えば阿修羅会ってPKクランだったんだよな?」

「……あぁ、そうだ。……勝ったり負けたりしながら、運営が罰則強化に動くまでは、普通に楽しくやってただけだ。なのに、リスクから安定を取った瞬間から『他のメンバーが離れて行ったのか』……今も解らねぇんだ」

 

何でだ……と頭を掻き毟り、出ぬ答えを絞り出さんとするオルスロットだが、ペッパーは此処で答えに辿り着く。

 

(成程な……久遠はPKによって得られる『結果』を求めたのに対し、所属していたメンバーは『過程』や『戦いのやり取り』を求めていた………と)

 

元メンバーであるペンシルゴンや京極(キョウアルティメット)が、何故阿修羅会を見限って離れていったのかを遠からず、然れど大まかな答えに辿り着いたペッパーは、静かにオルスロットを見る。

 

危険を避け、安寧を取る………其れをペッパーは、悪い事とは思わない。シャンフロのPKerに対するリスクはとてつもなく重く、ペンシルゴン程のプレイヤーでも敗北して、借金5億マーニという罪状を背負った。

 

負ければ全てを失うという、圧倒的なハイリスク。しかしPVPとは駆け引きこそが『醍醐味』であり、其のリスクを許容して己の全てを懸けて勝ちに行く事こそが『本懐』である。

 

「なぁ、オルスロット。斬り合い前提のビルドって何を以て『真髄』としていると思う?」

「何って………そりゃ相手を『倒す』為だろう。相手を倒して圧倒する、其れが俺の『答え』だ」

「そうか……なら、相手が自分よりも『強く』て、そして『狡猾』で、自分のゴリ押しが『通用しない』相手なら━━━━どうやって『勝ちに行く』?」

 

自分のやりたい事が解っているなら、何がしたいかをビルドとして構築出来ているなら、必ず答えに辿り着ける。其処に気付ければ、オルスロット━━━天音 久遠は変われると信じている(・・・・・)からこそ、ペッパーは其の質問を投げ掛けたのだ。

 

「どうやって勝ちに行く……?そりゃ………どうやって?」

「俺は昔に、こんなアドバイスをしたぜ。━━━━『対戦型ゲームは、スペックだけじゃ決まらない』ってな」

 

ゆっくりと立ち上がり、レーザーカジキの護衛として彼の頭にアイトゥイルを乗せて。ペンシルゴンも状況を理解してか、オルスロットに言った。

 

「ねぇ、元クランオーナー。昔、私はアンタに『オフラインゲームが御似合い』って言ったと思うけど。其の答えは、ペッパー君の質問の意味が解ったら、アンタでも気付けるよ(・・・・・)。其れくらいの『大ヒント』なんだから」

 

頑張りなさいな━━━━━━そう言い残し、ペッパー達一向は双皇樹付近を後にして、フォスフォシエに向かって歩いて行く。

 

背を向け歩いて行く一向に、オルスロットは復讐への好機と思うも、ペッパーとペンシルゴンが何故自分に対し、問いを投げ掛けたのかを『考え』。そしてレーザーカジキの言葉から、変わる為のチャンスを『与えられた』と思い、其の意味を考え始めたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったの?ペッパー君」

 

オルスロットの襲撃に逢いながらも、歩みを進めるペッパーは、ペンシルゴンから声を掛けられる。

 

「ん?何が?」

「何って……そりゃ家の愚弟が、ペッパー君を襲った事だよ。下手したらアイツ、ケジメ案件にしてやろうかと思ったんだけど」

「ケジメ……御頭もケジメは大事だって言ってたのさ」

 

相変わらず恐ろしい事此の上無しなのだが、ペッパーは言う。

 

「『誰でも等しく変われるチャンスが有る』………レーザーカジキはそう言っていた。其れはクオンも━━━オルスロットも同じで、要するに『気付けるか否か』さ。ゲームでなら『成りたい自分に成れる』ように、レベルダウンビルドで幾らでも『変わる事が出来る』んだからな」

 

そうして歩き続けた先に、全員が一度攻略したクラウンスパイダーの縄張りとする、巨木が見えてきて。ペッパーはペンシルゴン・レーザーカジキ・アイトゥイルに向けて、宣言する。

 

 

「此処は俺が。1分でクラウンスパイダーを真上の巣から、地上に叩き落としてみせる」

 

 

━━━━━━と。

 

 






ゲーマーとして送る、再起へのアドバイス




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樹海を経てフォスフォシエより渓谷に



勇者達は進む




「ペッパー君、マジで言ってるの?」

 

千紫万紅(せんしばんこう)樹海窟(じゅかいくつ)に生息し、エリアボスとして君臨する道化蜘蛛ことクラウンスパイダー。

 

「あぁ、大マジだ。ボスとの戦闘エリアの構造上、地面に叩き落とすには、高い機動力持ちのプレイヤーが登って奴とこさんを巣から落としてから、全員で叩いた方が効率的に良い」

「一気呵成……怒濤の津波が如く、なのさ」

 

屈伸とジャンプの軽い運動にて全身をほぐすペッパーと、其の心を表すアイトゥイル。そして彼は徐に、愉快合羽を上げて「ポポンガさん」と声を出す。

 

「よっこいしょい……ふぅ、あの若者め。いきなり殴り掛かるとは何事か」

「えっ、ゴブリン!?ペッパー君、此のゴブリン何者?」

「じ、人語……話してる……?あ、でも、アイトゥイルさんも話せてる……し、ラビッツのヴォーパルバニーさん、達も話せるから……良いの、かな……?」

 

今まで隠れていた喋るゴブリンのポポンガに、ペンシルゴンとレーザーカジキは驚きの表情をしていた。

 

「実は此方関係のユニークで、今回は『護衛系ミッション』でね。此方にいらっしゃるポポンガさんを、現状シャンフロ最後の街・フィフティシアまで護衛しないといけなくて。空中で事故したら、ポポンガさんも危険に晒す可能性が極めて高いので、ペンシルゴンに護衛を頼みたい。お願いします」

「……ペッパー君が、其所まで言うなら引き受けたげる」

「……すまん、助かる。内側に入ったら、壁際に一気に移動して。落とした所で一気に攻める」

 

ペンシルゴンにポポンガを、レーザーカジキの護衛にアイトゥイルを付け、三人と一匹と一羽はクラウンスパイダーが根城としている、巨木の内側に足を踏み入れた。同時にペッパーは、白磁(はくじ)短刀(たんとう)改五を取り出し装備、機動系スキルを次々と点火していく。

 

今回使うは鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)全身全霊(フルドレイズ)天翔歩奏(てんしょうほそう)天空神の加護(レプライ・ウーラノス)、ヴィールシャーレ、デュアルリンク、トルクチャージの7種類。MP全消費と全身に施される、鍛えられたスキル達による加護を纏い。

 

セルタレイト・ケルネイアーによる最初の強烈なジャンプで飛び上がり、同時にウツロウミカガミを飛翔途中に置き去りとし、空中を蹴り跳ねて空を駆けてはまた跳ね、落下物による攻撃を避けて、以前は数分掛かっていた頂上付近到達まで、10秒と掛からなかった。

 

クラウンスパイダーは置き去りのヘイト(ウツロウミカガミ)を倒す事に注目しており、此方に気付いてはいない。当然ペッパーは此の機を逃さず、白磁の短刀から焔将軍(ほむらしょうぐん)両刃長剣(ロングソード)に切り替える。

 

そして王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)】と共に、斬撃系統武器によるアクションでのダメージ補正を伸ばす『スラッシュハイド』に加えて、剣や刀系統武器装備時に強化を与えるスキルの剣人闘魂(サムライ・ハート)、ランダムに自身のステータス1つを割合強化を加える『一天無双(いってんむそう)』と共に繰り出す。

 

自身の高潔度・歴戦値を参照に、装備している剣系統武器に強力な『炎属性攻撃効果を付与(エンチャント)する』と言う、強力な合成スキル『絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)】』を起動。空中を跳ねて飛びながら、クラウンスパイダーの巨体を支える蜘蛛の巣の支糸を、全て焼き斬った。

 

「落ちろ、クラウンスパイダー」

 

ウツロウミカガミの効果終了。クラウンスパイダーは自身の身体が、重力によって落下している事に気付いた時には既に手遅れで、巨木の縁部分に着地したペッパーを道連れにせんと糸を繰り出すも、適正眼下(ノリティア・アイザック)の自動回避によって躱わされ。壁に引っ付いた糸も、炎属性付与効果が持続していた両刃長剣に断ち斬られ、其の巨体は地面に叩き落とされた。

 

そして、地上に落ちた蜘蛛を待つ運命は唯一つ。

 

『全員ッ掛かれーーーーー!』

 

自分の持つ最大攻撃魔法の全文詠唱を唱え終えたレーザーカジキと、自らを縛って弱体化して尚も凄まじい魔力を帯びたポポンガ。各々の得物を握り締めながら襲い掛かる、ペンシルゴンとアイトゥイルで。

 

墜落からの衝撃でスタン状態から動けない、クラウンスパイダーは抵抗する間も無く、肉質無視の刺突に魔の人を切り裂く斬撃、毛の一つすら残さず焼き尽くす炎魔法に焼かれ、確定ドロップを残してポリゴンを崩壊させたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁペッパー君。1分は愚か30秒も掛からず、陰湿蜘蛛を叩き落とすとはねぇ。中々やるじゃないの、流石はクランリーダー」

 

巨木の縁を伝って、一向が待つ地上まで降りてきたペッパーは、早々にペンシルゴンを始めとして、他メンバーからも声を掛けられた。

 

「ペッパーさん、凄く速くて……カッコ良かった、です……!」

「スキルの使い方が確りしとるからのぉ……。何にせよ、此れで先に進めるの」

「いよいよフォスフォシエ、なのさ」

 

時間的に御昼にするには速いのだが、そろそろ一度休憩を入れるべきかと考えたペッパーは、全員に休息の提案をしてみた。

 

「なぁ、皆。フォスフォシエに着いたら、一回水分補給とかを踏まえた休憩にしないか?流石に3エリアをぶっ通しで攻略してきたから、此処等で一休みを挟んでエイドルトを目指すって感じにしたいんだけど………」

「うーん……まぁ、そうだね。何処等辺かで一回休んで起きたかったし、丁度良いタイミングかもね」

「僕も、賛成……します」

「わいも、ペッパーはんの意見に従うのさ」

「状況判断も大事じゃな」

 

話は纏まり、アイトゥイルとポポンガはペッパーの纏う愉快合羽の中へ入って、ペンシルゴン・レーザーカジキと共に其の歩みを進め、フォスフォシエに到着。裏路地に入った一向は、三十分後に再び此処に集合する事にし。

 

レーザーカジキが先のエリアに備えて、聖水やマナポーションの購入がしたいと言ったので、一路道具屋に移動。ペンシルゴンはフォスフォシエの宿屋を目指し、ペッパーは二人が離れた事を確認した後、周囲警戒を終えてアイトゥイルが出したゲートでラビッツに帰還。

 

兎御殿内の休憩室にてセーブ&ログアウト、水分補給とトイレ休憩を行った梓は、寝転がっていた事で硬くなった体を適度に伸ばしてほぐし、再ログイン。ラビッツの道具屋にて消費アイテムの補充を行って時間を潰し、フォスフォシエの裏路地にゲートを繋いで到着。

 

影に擬態してペンシルゴンとレーザーカジキの到着を待つも、二人がペッパーに気付け無かったのでツッコミを入れながら正体を表すハプニングが有りつつも、一向はフォスフォシエを旅立ち。

 

同時にペッパーにはリザルト画面が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』

『条件達成まで、残り━━━二つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォスフォシエより奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)にやって来たペッパー達一向は、蔓延した瘴気で満ちる渓谷を歩いて行く。レーザーカジキとペンシルゴンは瘴気によるデバフを阻止する為、聖水を飲んだりして対策を取った。

 

一方のペッパーは、自身に刻まれたリュカオーンの呪い(マーキング)がもたらした力によって、瘴気を弾き返して出来た安全かつ清潔な空気を堪能している。

 

「あ、れ?ペッパー……さん、何か……ペッパーさんの、周りだけ……其の、空気が『綺麗』……ですね」

「ホントだ、ペッパー君どゆこと?」

 

此処でレーザーカジキが気付き、ペンシルゴンが反応。ずずずいっと秘密を暴かんとして、顔を近付けてくる。

 

「空気が新鮮な理由?此れは右手にあるリュカオーンの呪いのお陰さ。リュカオーンより弱い呪術や瘴気とか、バフデバフ諸々含めて弾く特性が、こうして働いてる」

「ペッパーはんの周りだから、わいやポポンガはんも其の恩恵を受けているのさ」

「聖水を使わんで良いのは、助かるわい」

 

呪いの効力を説明していると、アイトゥイルとポポンガはコートの中から出て来て、各々ペッパーの両肩に乗っかる。そして其れを見たペンシルゴンは、良い事考えたと言わんばかりの獰猛で悪い笑みを浮かべながら、ペッパーの右腕に両腕を絡ませ、くっ付いてきたのだ。

 

「ペンシルゴン、急にどうした?」

「ん~?こうして君にくっ付いてたら、聖水の消費も押さえられるって思った訳なのだよ」

「あ、じゃあ僕も!」

「俺はエアクリーナーや、ストーブじゃないんだけど!?」

 

渾身のツッコミが響くも、引っ付いたペンシルゴンとレーザーカジキは離れる気配が無く、此のエリアを出るまでだからなとペッパーは二人に言った。

 

途中、ワイバーンゾンビの群れに遭遇するも、ペッパーの右手から放たれるリュカオーンの呪いの気配が、ワイバーンゾンビ達を退けていき、真っ直ぐに谷底を歩み続けた一向は、エリアボス・歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)が待つ、一際濃度が濃い瘴気のドームに辿り着く。

 

「さぁ、一気にブッ飛ばすよ皆!」

『おー!』

 

ペンシルゴンが音頭を取り、聖水で武器を濡らし突入していったのだった………。

 

 

 

 






尚、歌う瘴骨魔は聖槍に貫かれ、首を斬られ、魔法攻撃に押し流されました━━━━━とさ




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勇者は水晶街にて、新しき武器と危機を手にす



エイドルトにて、戦力増強




エリアボス・歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)を倒して、ペッパーはアイトゥイルとポポンガをコートの中に隠し、瘴気の谷間を越えた一向はシャンフロ第8の街・エイドルトに辿り着く。

 

奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)の上部に存在する、水晶巣崖(すいしょうそうがい)より侵食する水晶達から街を守るべく、定期的に水晶の採掘が行われ、其れと共に水晶の加工技術や研磨技術により発展。

 

今では此の大陸内の街で、中盤かつ格安で入手可能な水晶装備や武器が在る場所として、其の名が知れ渡っている程だ。無論、武器屋と防具屋も例外ではない。

 

「おおお~……、すげぇな此の『クリスタルナイフ』って。武器耐久方面も優れてるし、おまけに軽くて扱い易い」

「クリスタルロッド……クリスタルディアラー……。手数か威力か……どっちにしよう……」

「エイドルトは水晶系統の武器に関しては、フィフティシア以上の最高品質だからねぇ。武器は扱いやすさを重視してみては如何かな、レーザーカジキ君?」

「金銭面で余裕が有るなら両方を、もしくは自分が持っている武器種を踏まえて、決めてみるのも有りだと思うよ」

 

エイドルトの武器屋にて、水晶の刀身で出来た短剣こと『クリスタルナイフ(28.000マーニ)』を手にしたペッパーは、店内の灯りに写しながら言い。短杖と長杖のカテゴリーに分かれた武器の、どちらを取るかで悩むレーザーカジキに、ペンシルゴンとペッパーはアドバイスを送る。

 

(水晶装備は防具屋で見たが、装備耐久上昇値は高いけども打撃耐性が低いって言う、無視出来ない弱点が有るからなぁ……。防具の更新はイレベンタルでやる事にしよう)

 

購入したクリスタルナイフをインベントリに収納し、レーザーカジキは悩んだ末に、短杖のクリスタルロッドを選択・購入。一向は武器屋を後にして裏路地に入る。

 

「次のエリアは去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)。ゴーレム系統が相手なので呪い(マーキング)が効かないから、出来る限り戦闘を避けて行きましょう」

 

イレベンタルに到達出来れば、其の先エリアや手前のエリアでも、レベリングが可能になる。何よりフィフティシア手前に在る街なので、防具や武器も高性能な物が多く、確りと備えれば先々まで活躍が見込めるのだ。

 

(兎に角先ずはイレベンタルまで行軍。防具と武器をチェックしつつ、ランドマークを更新した後は一度兎御殿に帰還して、ビィラックさんの所で武器の耐久値の回復。そしたらペンシルゴンとアイトゥイル、ポポンガさんと一緒にフィフティシアへ到達する。………よし、此れだな)

 

裏路地を駆使して、人目の付かぬ闇の中を進む。いざエイドルトを旅立ち、イレベンタルへ。ペッパーはそう思っていた。

 

「やはり君ならば、此のルートを通ると思っていたよ。ペッパー君」

 

耳に飛来する、聞き覚えた激渋の知性的な声(シルバーインテリジェンスボイス)。路地角から姿を見せたのは、考察クラン:ライブラリのクランオーナー・キョージュだったのだ。

 

「おやおや、おじーちゃん。こんな所にやって来てどうしたの?」

「やぁやぁ、ペンシルゴン君。クラン:旅狼(ヴォルフガング)のリーダーとサブリーダーが、此方(エイドルト)に向かってきていると、我々(ライブラリ)の調査班から報せを受けてね。単刀直入に言うが、私は………いや『クラン:ライブラリ』は君達と少し()をしたいのだが……良いかね?」

 

キョージュの視線はペッパーとペンシルゴンに注がれており、ペッパーはウェザエモンの事だろうかと疑問を抱く中、ペンシルゴンはキョージュの思惑(・・)に気付いていた。

 

(此の狸爺が求めてるのは十中八九、いや断言しても良い━━━━『悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)』だね。おそらく旅狼(私達)の誰かが所持している可能性が高いと睨んで、当たりを付けに来た……そんな所かな?)

 

ペンシルゴンの予想は当たっている。キョージュがこうして裏路地まで足を運んで来たのは、数日前にクラン会議でペンシルゴンから5億マーニの大金を払い、見せて貰った『世界の真理書【墓守編】』。其の中に記載されていた、超極秘情報にして『ユニークモンスター・墓守(はかもり)のウェザエモン』に由来する一式装備の事。

 

此の電子の世界(シャングリラ・フロンティア)を考察・解明を活動方針としているライブラリにとって、七つの最強種(ユニークモンスター)に関する装備が有ると言う情報は、ペンシルゴンが言っていた通り超に超が付く超極秘情報であった。故にライブラリの本部に戻ったキョージュは、クランメンバーに情報を開示した後も、全員に外部に流出させずに秘匿しておくようにと、注意喚起を促した程。

 

であればキョージュが此処に来た理由も、ペンシルゴンは自ずと答えに辿り着くには充分だった。

 

(おそらくライブラリは『悠久を誓う天将王装の実物が見たい』って、そんな風に考えてるんだろうねぇ。そうなると『クラン:ウェポニア』が話に噛んでた場合は、更に拗れる予感しかない)

 

クラン:旅狼の保有する『八枚の手札』は、何れも並大抵のレベルでは収まらない、一枚一枚が凄まじく恐るべき破壊力を秘めた物ばかり。扱い方一つで、クランの今後にも影響を与えかねない劇物(・・)でもある。

 

そしてペンシルゴンの思考の中、ペッパーはキョージュにこう言った。

 

「実は今日、自分達はフィフティシアに向かわなくてはいけなくて………。今すぐという事は出来ませんが、空いている日時を御連絡頂ければ、予定が合う日を連絡致します」

 

先ずは自分達の状況を示し、相手に今は手が放せない状態に有る事。そして日時を報せてくれれば、連絡をする事を伝えた。

 

「成程……解った。日時を確認次第、伝書鳥で連絡を送らせて貰うよ。良い返事を期待している」

 

其れではと、スパムメールならぬスパムハヤブサを叩き付けてきたプレイヤーにしては、あっさりと退いた事に警戒心を抱きつつも、一向はエイドルトのゲートを越えて先のエリアへ入って。

 

同時にペッパーの目の前に、リザルト画面が表示されたのだった。

 

 

 

 

 

 

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』

『条件達成まで、残り━━━一つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー君。さっきのおじーちゃん(キョージュさん)の発言、君はどう受け取った?」

 

去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)に入り、巨大な生物の背骨と肋骨に見える人工物を遠くから見ていた時、ペンシルゴンがペッパーに問い掛けてきた。

 

やはり話の内容が気になる様子だろう。

 

「もしかしたら………『アレ』かも知れない」

「まぁペッパー君も予想してる通り、おそらく『アレ』な可能性が濃厚だね。上手く日時を伸ばしつつ、相手にペースを握らせない方が良い」

 

クラン:旅狼のメンバー全員が知っている手札であるからこそ、慎重に取り扱わなくてはならない。

 

「ペッパーさん、アレって……何ですか?」

「ん?あー……俺とペンシルゴンの間で扱ってる、暗号みたいな奴かな」

「そーそー。私とペッパー君の間で使ってる、大事な大事な秘密の会話なんだよ、レーザーカジキ君?」

 

優越でニッコリと笑い、ペッパーの右腕に己の両手を絡ませ、ペンシルゴンは宣う。まるで『自分の物だから気安く触るな』とでも言わんばかりの、魔王じみた台詞である。

 

「……ペンシルゴン。取り敢えず、他のプレイヤーを恐喝したりすると、清歯のネックレスが穢れて黒くなるから、あんまりやんない方が良いと思うぞ」

「はぁい、気を付けまーす♪」

 

ペンシルゴンを落ち着かせつつ、ペッパーは此のエリアに存在する、ゴーレム達の特性を踏まえて、エリアボスに辿り着く為の方法を思考。其の果てに、彼は二人に言った。

 

「ペンシルゴン、レーザーカジキ」

「ん?なぁに、ペッパー君?もしかしてまたお姫様抱っこ?」

「何ですか、ペッパーさん?」

「お米様抱っこで、エリアボスの所まで一気に運びたい。協力してくれないか?」

 

両手を広げ、運搬態勢を整えているペッパー。ペンシルゴンは自分がお姫様抱っこに成らなかった事に、少し不満を覚えながらも、逆にイレベンタル以降はNPCを除けば実質デートになると考え、右腕に己の身を任せ。

 

レーザーカジキは「お、お願い……します」と恐る恐る、彼の左腕に寄り添い凭れて。二人が両腕に収まったのをトリガーとしてか、ペッパーは足腰に力を入れて、持ち上げ。

 

「確り掴まってて」と一言、踏み出す足は力強く大地を蹴り上げ、ペッパーが走り出す。道中で複数のゴーレムと出逢うも、持ち前の機動力(スピード)持久力(スタミナ)、そして育てたスキルを点火しながら駆け抜けていく。

 

(あぁ……やっぱり格好良いなぁ。あーくん)

 

真っ直ぐに目的地を見据え、右腕の緊張具合と真剣な表情で走り続けるペッパーを見ながら、ペンシルゴンはそう思い。

 

(ペッパーさん、凄いや……。ゴーレム達を、置き去りにして………何れくらい努力したら、此処まで辿り着けるんだろう……?)

 

自分が見ている景色の移ろいに対する驚きと、見知り憧れたプレイヤーの持つ力の一端を知って、改めて彼をもっと知りたいと、レーザーカジキは心に抱き。

 

二人を抱えながら走るペッパーは、瓦礫の小山を駆け登り、立ち塞ぐゴーレムを踏み越えて、其の脚でエリアボスのオーバードレス・ゴーレムが待つ、フィールドへと辿り着いた。

 

「!着いたよ、皆!」

 

お米様抱っこ状態だったペンシルゴンとレーザーカジキを下ろし、愉快合羽からアイトゥイルとポポンガを出す。

 

三人と一羽と一匹が見つめる先には、残骸遺道に点在する瓦礫の山の中でも一際巨大な山であり、侵入者達を感知して動き始めて、其の巨体を彼等彼女等の前に見せ付ける。

 

「お、大きい…!」

「直線で行けるとは言っても、後半エリアのボスだ。裏技(・・)を使えば簡単に倒せそうだけど……ペッパー君、やれる?」

「任せとけ、ペンシルゴンはポポンガさんを。アイトゥイルはレーザーカジキの護衛に入って」

 

パーティーメンバーに指示を出しつつ、ペッパーは手に入れたばかりのクリスタルナイフを逆手持ちで装備し、単騎で巨大ボスの前に躍り出た。脳内で精査し、組み上げるはオーバードレス・ゴーレムの攻略チャート。使えるスキルを洗い出して、走り始める。

 

レーザーカジキのエリア攻略を助ける為、イレベンタルで装備を更新する為、速攻による攻略が開始された。

 

 

 

 






エリアボスを越えていけ




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瓦礫纏う者へ、大質量の鉄盥を落として



オーバードレス・ゴーレム、解体の極意




「全員、降ってくる瓦礫に気を付けて!」

 

動き出したエリアボスたる、オーバードレス・ゴーレムを前にペッパーは注意を促しつつ、以前致命極技(ヴォーパルヴァーツ)を習得した時と同じく、頂上付近に有る巨大ホイールを目指して、使えるスキルを洗い出していく。

 

(先ずはウツロウミカガミでヘイトを分散させつつ、地上ギミック無視コンボ+空中ダッシュスキルで、一気に頭頂部まで到達する!)

 

ウツロウミカガミ起動。其の場にヘイトを纏った残像を残し、オーバードレス・ゴーレムに接近しつつ、セルタレイト・ケルネイアー起動と共に地面を蹴り、黒の戦士は空へと跳ねる。

 

蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)天翔歩奏(てんしょうほそう)・ヴィールシャーレの三つのスキルによって、三分間限定で地上ギミック完全無視と、空というフィールドで自由を獲得。

 

其所へ再使用時間(リキャストタイム)を終えた鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)破天爽駆(はてんそうく)、追加とばかりに英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)、そしてデュアルリンクとトルクチャージを重ね掛けながら、空中を足場として駆け上がっていく。

 

下からペンシルゴンが何かを言っていたような気がしたが、余所見や脇見による不注意は事故の大方を占めているので、オーバードレス・ゴーレムの最上部、ホイールを支える二本の支柱を目指す事に集中する。

 

と、此処でゴーレムに搭載されたクレーン達が、空中を走るペッパーに瓦礫投擲による攻撃と、直接殴りに行く攻撃を開始。ウツロウミカガミの囮が切れたのだろう。しかしペッパーは止まらない、空中を駆け歩く事が出来るなら、空中を滑る事が今なら出来るのではと考え、摺り足の要領で空を滑って跳躍し、再び駆け上がって目的地へと辿り着く。

 

「始めよう…!」

 

両脚に装着していた甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)改五より切り替えるは、此迄耐久値回復がヴァイスアッシュ以外で出来ず、慎重に扱わなくてはならなかった代物。

 

ユニークモンスター・天覇のジークヴルムを模倣し、神代の頃に世界に示された人が蒼空を舞う為の答え………其の一欠片であり、ビィラックが『古匠』と成った事で、此処から先はある程度の消耗も視野に入れての運用も可能になった。

 

「いくぞ、レディアント・ソルレイア」

 

白と金の輝きを放ち、勇者の叫びに応えるように、ドリルバンテージが唸りを上げる。先ず使うスキルは、封栓認視界(ブロット・ウラタナ)破界の視覚(ミュリミア・メナトス)。此の二つで、打撃によるダメージの通りやすい箇所を視界に示す。

 

次は自身に対する強化(バフ)天壱夢鳳(てんいむほう)とスート・アヴェニュー、全身全霊(フルドレイズ)で体力を削り、マシニクル・リブラで上昇値を強化。其処に『ヴァーミンガムスナッチャー』の起動により、攻撃で相手にダメージが入った場合、『仰け反りや硬直からの復帰に時間を割かせる』スキルを乗せて、最後にデッドユアセイブで準備完了。

 

「ぶちかます!」

 

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)起動、重ねたバフの総数に応じて其の威力が上がっていく、ストレングス・スマッシャー時代より自分(ペッパー)を支える拳擊・脚擊スキルが、オーバードレス・ゴーレムの巨大ホイールを支える支柱の止金具を蹴り砕き、爆音と共に破壊した。

 

「あと………ひっとォッつッ!」

 

空中歩走スキルの時間は、まだ継続している。空中を走り、オーバーラップ・アクセラレートでクレーンを回避しつつ、反対側の支柱の止金具が有る場所に着地する。

 

「どうせやるなら、盛大に……ってな!」

 

クイックスピンによるターンを刻み、メタルレッグス・クリティカルメナス・ニトロスマッシュ・コラプションスマッシャーで重ねて紡ぎ。スキルの連鎖を〆るように、破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)と自動発動したラセルクロスアップで、威力を高め。

 

「決めるッッッッッ!!」

 

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】によるサマーソルトキックを、レディアント・ソルレイアがもたらすブーストで、加速した右脚による一撃を叩き込み、一際大きな破砕音と共に物理エンジンがもたらす重力が、大質量の巨大ホイールを真下へと落とす。

 

「此れにて━━━━━チェックメイトだ」

 

空中へと跳び、残されたスキルの効力で空を駆け。同時に真後ろでは、巨大ホイールに己を動かす『核』を潰されたオーバードレス・ゴーレムが、瓦礫を纏った巨体を崩壊させ、ポリゴンと化して爆発四散。

 

同時にペンシルゴンと、自らを縛り弱体化したポポンガを除き、レーザーカジキとアイトゥイル、そしてペッパーにレベルアップを告げるアナウンスが鳴り響いたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番星の様に輝く、黒い星を私は見た。

 

「ペッパー君、空飛べるの!?」

 

柄にもなく叫んでしまった。ウェザエモンとの戦いでレディアント・ソルレイアの秘めた、恐るべき力を目の当たりにしていたが、其れを用いずに空を駆け上がって往く、流星の様に煌めく彼の姿を見たから。

 

真っ直ぐに、唯一つの到達地点を見据え。オーバードレス・ゴーレムの巨大ホイールが在る、頭頂部を目指して空を駆ける姿は、彼が高機動と空中系統の戦いに重きを置く、軽戦士だと理解するには充分で。

 

自由に空を走り、縛られる事無く駆け、天……いや宇宙にさえ届く程の、そんな可能性を秘めているのを。そして同時に思ってしまった━━━━何時か彼は、私よりもずっとずっと、高く遠い場所まで往ってしまうのではないか?……………と。

 

怖い……と、不安を抱いた。

嫌だ……と、心が声を溢した。

 

だけど。

 

彼はゲームをしている時、何時だって真剣なのだ。ゲームをしている時の、彼の真剣な眼差しが私は好きなのだ。一つの事に誰よりも真剣でいられる、彼の心構えが私は大好きなのだ。

 

だから、だからこそ。

 

そんな彼を、私だけの物にしたい。

そんな彼を、誰にも渡したくない。

そんな彼を、独り占めにしてしまいたい。

そんな彼を、誰かに取られたくない。

そんな彼を、私の物だと言い触らしたい。

 

内なる獣が吠える様に、心が叫びを上げていく。

 

「あぁ……カッコいいなぁ……」

 

まるで夜闇を照らす蛍光灯に、引き寄せられる虫の如く。スクリーンショットを取る為に、両手を長方形にして一枚の写真を撮る。

 

其処には雲一つない快晴の青空と、背後には堂々と佇む建造遺物。そして爆発四散したオーバードレス・ゴーレムのポリゴンの雨の中、地面に降りてくるペッパーの姿が写っていた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れたァ………」

「やぁやぁ、ペッパー君。空中を駆け上がって行く姿は見物だったよ」

「凄かったです、ペッパーさん……!」

「フォホッホッホ………彼処まで昇るとは、流石じゃのぉ」

「流石、ペッパーはんなのさ」

 

空中歩走スキルの効力終了ギリギリで地上に降り、着地時に両足を若干の痺れと落下ダメージが体力を削るが、ペッパーは無事にオーバードレス・ゴーレムの頭部へ巨大ホイールを落とす、所謂『脳天ダンクシュート作戦』を成し遂げ、仲間達に迎えられる。

 

体力回復ポーションとマナポーションを飲み干して、オーバードレス・ゴーレムが落としたドロップアイテムを見ると、レアアイテムの一つ『サファイアインゴット』が落ちており、話し合いの末にレーザーカジキが手にする事となった。

 

そしてペッパーはアイトゥイルとポポンガをコートの中に隠し、三人と一羽と一匹のパーティーは街へと続く道を歩み。遂に、シャンフロ第11の街・イレベンタルに到着したのであった………。

 

 

 

 

 

 






オーバードレス・ゴーレム攻略、其れを見たペンシルゴンの心中




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イレベンタルにて一休み………の前に一悶着



イレベンタルにて、旅支度を整えよ




 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)

 

 

レベル:68

 

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 125 魔力 50

スタミナ 140

筋力 150 敏捷 140

器用 125 技量 125

耐久力 7039 幸運 52

 

 

残りポイント:14

 

 

 

 

装備

 

 

 

左:クリスタルナイフ

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:レディアント・ソルレイア(耐久力+5000)

 

 

頭:蒼零のヴォージュハット(耐久力+13)

胴:影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)(耐久力+2000)

腰:ブラッディスカーのベルト(耐久力+12)

脚:蒼零のスートズボン(耐久力+15)

 

 

 

アクセサリー

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア

 

 

 

所持金:51,713,000マーニ

 

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

致命武技

 

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】伍式→漆式

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】陸式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】漆式→玖式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式

 

 

 

スキル

 

 

死神の斬撃(デス・マサカー)

終極刺突(グルガ・ウィズ)

瞬刻視界(モーメントサイト)

・ブルズアイ・スロー

・フィーバー・シャイニング

蒼天律駕歩(アンソジーウォーク)頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)

冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)

戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)

鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)韋駄天権現(いだてんけんげん)

・オーバーラップ・アクセラレート→レーアドライヴ・アクセラレート

烈風轟破(れっぷうごうは)

十傑斬覇(じゅうけつざんは)

驚雷羅刹(きょくらいらせつ)

全進開速(フルスロットル)咆進快速(フルスレイドル)

・アドバンスト・フィンガー レベル8→レベルMAX

乾坤一擲(けんこんいってき)

・プレジデントホッパー

天空神の加護(レプライ・ウーラノス)

全身全霊(フルドレイズ)

・デュアライズ・ストライク→ドミノチェイン・ストライカー

・トルネードレッグス レベル1→レベル4

破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)

英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)

絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)

明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)

連刀二十刃(れんとうはだち)

罰閃乱(ばつせんらん)佐々波(サザナミ)

封栓認視界(ブロット・ウラタナ)

破界の視覚(ミュリミア・メナトス)

速刃(そくじん)雲払(くもばらい)

・デュアルリンク レベルMAX

煌軌一閃(こうきいっせん)

爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・グラッセル・ゼイリアス

・ジェスター・タロス→ダイズン・ストンプス

拳乱夕立(けんらんゆうだち)拳乱(けんらん)五月雨(さみだれ)

破天爽駆(はてんそうく)摩天来蓬(まてんらいほう)

・スート・アヴェニュー

居合(いあい)切燕(きりつばめ)

適正眼下(ノリティア・アイザック)天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)

天壱夢鳳(てんいむほう)

・セルタレイト・ケルネイアー

鎚撃(ついげき)地割(ちわり)】 レベルMAX

・イグナイトブレイカー レベル5→レベル8

・ナイフズタクト レベル5→レベルMAX

・フェイローオブスロー レベルMAX

・スパイラルエッジ

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル6

・マシニクル・リブラ

・ヴィールシャーレ レベルMAX

天翔歩奏(てんしょうほそう)流天翔奏(るてんしょうそう)

・ミューサドール・パラダズム

衝拳打(しょうけんだ) レベル1→レベル6

・エトラウンズパウンド

・ミッシングブレイド レベル8→レベルMAX

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)

刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)

刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)

・ピアッシングアーマー レベル1→レベル4

・メタルレッグス→アイアンレッグス

・クリティカルメナス レベル1→レベル3

・ニトロスマッシュ レベル1→レベル4

・デッドユアセイブ→デッドオブスリル

・スラッシュハイド レベル1→レベル2

・シャイニングムーヴ レベル1→レベル3

・ラセルクロスアップ レベル1→レベル4

・クイックスピン→シャープターン

一天無双(いってんむそう)二天無双(にてんむそう)

・コラプションスマッシャー→ディムセインスマッシャー

剣人闘魂(サムライ・ハート) レベル1→レベル3

・トルクチャージ レベル1→レベル5

・ヴァーミンガムスナッチャー

・ソニック・アサルト レベル1→レベル4

・メタルフィスト

・アクロバット レベル1

・ストロング・キャリアー

・サーファー・スロープ

同力相殺(シンクロ・ダウトラス)

虎崩擊(こほうげき) レベル1

皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

影法師を操る存在との二度に渡る激闘、六体のエリアボスの攻略によってレベルアップを果たし、数々の戦いで培われたスキル達が、致命魂の腕輪により更なる成長を遂げた。

 

ペッパー本人にとっては此迄幾多の戦局で用い、ずっと使い続けた聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)が、戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)と同じく昇華(スタンバイ)に漸く到達した事が嬉しく、他のスキルも昇華にならないかなと思っている。

 

空中歩行や空中ダッシュ、移動系スキル達も順調に成長している反面、使っていないスキルは成長が遅れているので、其れを意識して戦ってみようと思考を巡らす。

 

「………さん、ペッパーさん!」

「んぉ!?レーザーカジキ?」

 

思考がスキルに持っていかれていたか、レーザーカジキの声に漸く反応したペッパーは、視線を向ける。

 

「ペッパーさん、ペンシルゴンさん。今日は御付き合いいただき、ありがとうございました…!今回の事、何時か御礼を……させてください…!」

 

レーザーカジキが深い御辞儀をして、ペッパーとペンシルゴンに感謝の意を示す。

 

「あぁ、此方も良い経験になったよ」

「また何処かでね、レーザーカジキ君。其れと君の御姉さん……園長(Animalia)さんで何か有ったら、ペッパー君に連絡入れてくれるかな?」

「解りました…!必ず、連絡します……!」

 

ありがとうございました!と数歩歩く度に、また御辞儀をしてから、数歩進んで御辞儀……此れを数回繰り返し、レーザーカジキは先にイレベンタルへと入っていった。

 

「ふぅ……。やあっと、オジャマムシ君が居なくなってくれた」

「おいペンシルゴン、レーザーカジキをオジャマムシとか言うなよ……」

 

今までレーザーカジキによって、想い人とのデートが出来なかったペンシルゴンは、相当堪っている様子だ。アイトゥイルとポポンガはどうなんだと彼は聞いてみたが、『せっちゃん以外は特には思い入れは無いから』とバッサリ言い切る。

 

流石は外道で黒幕魔王。自分の目的の為ならプレイヤーやNPC、敵味方も利用するだけ利用して、頃合いを見て手銭として切り捨てに行くヤバさ。ブシカッツォから聞いた、嘗て一つのゲームを支配していた彼女の逸話は、伊達や酔狂等で収まる物では無いのだ。

 

「んふふ………さてさて、あーくん。イレベンタルに行こう?」

「解った解った、ただレディアント・ソルレイアだけはインベントリに収納させてくれ。イレベンタルに入るのは其れからだ」

 

レディアント・ソルレイアを両脚から取り外し、インベントリに仕舞った………其の時。突如としてインベントリに入れていた、ペッパーの勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)たる『聖盾イーディス』が独りでに飛び出すや、左手に装備していたクリスタルナイフの『装備状態を強制解除して』、己の左手の装備枠にスッポリと収まり。

 

同時にペッパーの目の前に、本当の意味での『ユニークシナリオ』の開始を告げるウィンドウが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は逃げるべからず』

『勇者は危険を一手に担うべし』

『聖盾イーディスが強制装備されました』

『ユニークシナリオ【勇ましの試練:聖盾之型】が開始されました』

『一定数以上の味方プレイヤー・NPCとパーティーを組み、一定以上のヘイトを集めた状態で、危険度S以上のエリアを踏破せよ』

 

 

 

 

 

 

 

マジかよ………。

 

 

「ペンシルゴン……ヤバイ事に成った」

「ん?どうしたの、ペッパー君」

 

表示されたウィンドウを見て、ペッパーはペンシルゴンにユニークシナリオ【勇ましの試練:聖盾之型】が、今此の瞬間に開始された事を伝え。

 

そしてペンシルゴンは其の内容を聞いて、デートがまた遠い物となってしまった事に頭を抱え、大きな溜息を付いたのだった……。

 

 






聖盾が求めるのは、善悪賢愚老若男女だろうと、唯一つの盾で守り護る姿勢である




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勇者は試練を越えるべく、仲間を募りて集めて行く



ユニークシナリオを超える為、ペッパーとペンシルゴンが動く




ユニークシナリオ【勇ましの試練】。

 

勇者武器を手にして始めて起きる特殊なユニークの其れは、今此の瞬間より初めて始まった事で、ペッパーとペンシルゴンは両者共、別の意味で頭を抱える羽目になっていた。

 

ペッパーにとっては此の街(イレベンタル)で他武器種を入手し、先のエリアで試しながら進もうと思っていた矢先に、ペンシルゴンにとっては漸く手にしたデートチャンスが、突如始まったユニークシナリオと其の内容でパーティープレイ必須という事態で、またしても御預けとなった事によって。

 

「………でだ、ペンシルゴン。俺は此れから、パーティーメンバーを募ろうと考えてる」

「其れはそうだね、勇者武器って一定期間以上使ってないと持ち主の手元を離れて、元の位置に戻るって特性が有る。私の場合もウェザエモンとの戦いの後、所有権が離れるギリッギリで間に合った感じだったからさ」

 

現在、イレベンタル内に在る宿屋、其の二階の個室を取ったペッパーとペンシルゴンは、ユニークシナリオへの対策会議を行っている。

 

聖盾イーディスの試練は危険度Sのエリアを、一定人数以上のパーティーを組んで踏破する事。幸いイレベンタルとフィフティシアを結ぶエリア『無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)』は危険度Sであり、突破出来ればユニーククエストとも平行して達成可能だ。

 

問題はパーティーメンバーであり、一定人数を揃えなければならない上に、有象無象と組めば良いという訳でもない。自分達のクラン:旅狼(ヴォルフガング)との面識を持ち、外部へと情報を漏らさずに秘匿を約束してくれ、相応の実力持ちでなくてはいけない。

 

「現在のパーティーは俺とペンシルゴン、アイトゥイルとポポンガの『4人』。一定人数以上って表記が『何人』の事を示しているか解らないが、少なくとも『8~10人以上は必須』だと考えてる」

「成程ねぇ……因みにメンバーの当ては有るの、ペッパー君?」

 

そうだなぁ……と、ペッパーは脳内で誰をメンバーに加えるかの思考を始める。

 

(本当はサンラクやオイカッツォにも頼みたいが、あの二人ってシクセンベルトやテンバード方面だからなぁ……。思い付く限りだと、レーザーカジキにソウちゃん、後は……駄目元で『あの人』に頼んでみる、か?)

 

「一応当てはある……が、状況にもよるかな。其れと此処から先に備えて、防具と武器の修繕。休憩を挟んでから、無果落耀の古城骸を攻略するよ」

「OK、ペッパー君♪」

 

会議を終え、ペッパーは早速伝書鳥(メールバード)を利用し、フレンド登録を結んだプレイヤーの中から数人をチョイス。ハヤブサでメールを送って宿屋を後にし、武器屋にて各々の武器修繕を依頼、並びにペッパーは新武器たる『鞭』から『風竜骨の筋鞭(ストーム・ウィッパー)』と『手斧』から『ミリア・アティオン』を各々一つずつ購入。

 

修繕が終わるまでの間の時間を利用して、防具屋や特技剪定所(スキルガーデナー)で身支度に向かう途中、送っていたハヤブサ達が帰って来て返信メールが届き、其の宛先を見たペンシルゴンがジト目で詰め寄るも、内容を見て安堵している。

 

防具屋にてペッパーは、ストーム・ワイバーンの素材から作る一式装備『烈風竜印(れっぷうりゅういん)シリーズ』とハードラッグ・ライノから作る一式装備『ライノベレーシリーズ』、そしてイレベンタル内では一番ポピュラーな一式装備たる『発掘研磨シリーズ』を購入して、ペンシルゴン監修でドレスアップ。

 

ハードボイルド漂うアダルティーな其の見た目は、影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)も相まって、随分とマッチしていたので、ペッパー本人も凄く気に入った。

 

そして休憩前に、二人は特技剪定所を訪れて。ペッパーは数多に所持した己のスキルを一部合成し、再び宿屋に帰還。13時に集合としたので、時間までに昼休み休憩を取る事にし。

 

ペンシルゴンがログアウトするのを見計らい、ペッパーはアイトゥイルの開いたゲートで、ポポンガも連れて兎御殿の休憩室にてセーブ&ログアウトしたのであった。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)

 

 

レベル:68

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):勇者

 

 

体力 125 魔力 50

スタミナ 140

筋力 150 敏捷 140

器用 125 技量 125

耐久力 6051 幸運 52

 

 

 

残りポイント:14

 

 

 

 

装備

 

 

 

左:聖盾(せいじゅん)イーディス(耐久+3000)

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

 

 

頭:ライノベレーの帽子(耐久力+350)

胴:影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)(耐久力+2000)

腰:発掘研磨腰帯【古兵】(耐久力+400)

脚:烈風竜印のズボン(耐久力+300)

 

 

 

アクセサリー

 

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア

 

 

 

所持金:51,640,000マーニ

 

 

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

 

窮速走破(トップガン)

 

 

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

 

致命武技

 

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】漆式

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】陸式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】玖式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式

 

 

 

 

スキル

 

 

 

死神の斬撃(デス・マサカー)

終極刺突(グルガ・ウィズ)

瞬刻視界(モーメントサイト)

・ブルズアイ・スロー

・フィーバー・シャイニング

頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)

冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)

戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)

韋駄天権現(いだてんけんげん)

・レーアドライヴ・アクセラレート

烈風轟破(れっぷうごうは)

十傑斬覇(じゅうけつざんは)

驚雷羅刹(きょくらいらせつ)

咆進快速(フルスレイドル)

・アドヴェイン・スロー

乾坤一擲(けんこんいってき)

・プレジデントホッパー

天空神の加護(レプライ・ウーラノス)

全身全霊(フルドレイズ)

・ドミノチェイン・ストライカー

・トルネードレッグス レベル4

破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)

英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)

絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)

明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)

連刀二十刃(れんとうはだち)

罰閃乱(ばつせんらん)佐々波(サザナミ)

封栓認視界(ブロット・ウラタナ)

破界の視覚(ミュリミア・メナトス)

速刃(そくじん)雲払(くもばらい)

・デュアルリンク レベルMAX

煌軌一閃(こうきいっせん)

爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・グラッセル・ゼイリアス

・ダイズン・ストンプス

拳乱(けんらん)五月雨(さみだれ)

摩天来蓬(まてんらいほう)

・スート・アヴェニュー

居合(いあい)切燕(きりつばめ)

天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)

天壱夢鳳(てんいむほう)

・セルタレイト・ケルネイアー

・フォートレスブレイカー

・スラッシング・ファンファーレ レベル1

・スパイラルエッジ

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ダースティ・クラッチ レベル6

・マシニクル・リブラ

・ヴィールシャーレ レベルMAX

流天翔奏(るてんしょうそう)

・ミューサドール・パラダズム

衝拳打(しょうけんだ) レベル6

・エトラウンズパウンド

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)

刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)

刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)

・ピアッシングアーマー レベル4

・アイアンレッグス

・クリティカルメナス レベル3

・ニトロスマッシュ レベル4

・デッドオブスリル

・スラッシュハイド レベル2

・シャイニングムーヴ レベル3

・ラセルクロスアップ レベル4

・シャープターン

二天無双(にてんむそう)

・ディムセインスマッシャー

剣人闘魂(サムライ・ハート) レベル3

・トルクチャージ レベル5

・ヴァーミンガムスナッチャー

・ソニック・アサルト レベル4

・メタルフィスト

・アクロバット レベル1

・ストロング・キャリアー

・サーファー・スロープ

同力相殺(シンクロ・ダウトラス)

虎崩擊(こほうげき) レベル1

皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

数週間振りのカップラーメンによる昼食、トイレと水分補給を済ませて再ログイン後にゲートを抜け、イレベンタルの宿屋へ戻ってきたペッパーは、ペンシルゴンがログインするまでの間に回復アイテムや道具の総数をチェックし、不測の事態が起きても対応出来るように心掛け。そして午後1時━━━━自分が取った部屋の扉が、コンコンと音を鳴らす。

 

「ペッパー君~、ペッパー君~。ペンシルゴンおねーさんと、他愉快な仲間達が来たよ~♪」

「どうぞ入ってくだ………へ!?」

 

扉を開け、入ってきたプレイヤー達を見たペッパーは、己の目を疑った。ペンシルゴンを先頭に、レーザーカジキと彼の姉であるAnimalia、武器狂いで知られるSOHO-ZONEと最後に入ってきたのは━━━━━『大男』。目に飛び込むのは筋肉、圧倒的な筋肉の権化たる姿。力こそが正義と、断じて言い切らんばかりにインパクトが大きかった。

 

若干の波掛かった金髪と無精の髭を蓄え、彫刻のような彫りの深い顔立ちは中々にハンサム、巨人に匹敵する高身長のボディビルダーたる姿は、成程此れが現代版『ヘラクレス』かとペッパーも納得してしまう程である。

 

「ペッパー君、聖盾イーディスのユニークシナリオが始まったとメールを見たが、本当なのですか?」

「はい、おそらく8人以上でパーティーを組まないといけない感じかと」

「よ、よろしゅくお願いひましゅ!ペッパーさん!」

「私はレーザーカジキさんが、フィフティシアまで行きたいと言っていたから、其の付き添いよ。で、ペッパーさん。アイトゥイルちゃんは其処に居るのかしら?」

「居ますが、街中ではおさわりしないでくださいね?結構目立ちますから……」

 

事情説明をしたペッパーは筋肉モリモリマッチョマンたる存在━━━━『マッシブダイナマイト』に相対する。

 

「え、えっと……始めまして。クラン:旅狼(ヴォルフガング)のリーダーをしています、ペッパーです。よろしく御願い致します」

「始めまして、ペッパーさん。団長さんや()から話は聞いておりますわ。クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)所属、サイガ-100さんの代理として来ました、マッシブダイナマイトと名乗っておりますの。どうぞ良しなに……あら?」

「……!……!………!!!!!」

 

予想出来る訳がない、何せ其の見た目とは裏腹に飛び出て来た『声』は、年を重ねて深みを増した穏やかさが如実に現れた『女性』の物だったから。寧ろ笑わずに堪えた事を、誰か褒めて欲しい。

 

「えっと、はい……。…よろしくお願い致しま……夫?」

「えぇ。ライブラリのクランリーダーのキョージュさん……彼は私の夫なのです」

 

夫婦揃ってギャップ満載のアバターを使っているとは此如何に。そう思いつつもペッパーは改めて、此処に集まってくれたプレイヤー達に一礼して、パーティーを結成する。

 

聖盾を携える勇者にして、クラン:旅狼のリーダーのペッパー。

廃人狩りの異名を持つ聖槍勇者で、旅狼のサブリーダーのアーサー・ペンシルゴン。

武器狂いで認知され、クラン:ウェポニアのリーダーたるSOHO-ZONE。

クラン:SF-Zooのリーダーで、シャンフロ最高峰の呪術師たるAnimalia。

其のAnimaliaの弟である、青の魔術師レーザーカジキ。

クラン:黒狼随一のパワーファイターで、今も尚称号【最大火力(アタックホルダー)】を諦めない求道者、マッシブダイナマイト。

ペッパーの付き兎たる、黒毛のヴォーパルバニーのアイトゥイル。

ユニーククエストの護衛対象の小鬼(ゴブリン)のポポンガ。

 

此処に即席パーティーが完成し、一同は大移動を開始。武器屋にて耐久回復を終えた武器達を回収し、イレベンタルを抜けて、フィフティシアへ向かう最後のエリアたる『無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)』に足を踏み入れた瞬間、ペッパーの目の前でリザルト画面が開く。

 

 

 

 

 

 

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』

『条件達成、此処に七つの街を巡り歩いた』

『其の脚でフィフティシアを目指せ』

 

 

 

 

 

 

 






豪華メンバーでエリア踏破を成せ



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白幽霊と黒流星を追う者達



久し振りの掲示板回

※ちょっと短いです




【ワールド】シャンフロ掲示板 part1498【ストーリー】

 

…………………………

………………………

……………………

 

 

684:Ithen

サードレマの黒い流星を知っているか?

 

685:リップロス

黒い流星とな?

 

686:セイバー

何それ?

 

687:パチマンド・ゲイル

なに、新しいユニーク?

 

688:夢徒緋亞

詳細教えなされ

 

689:ガムガルガン

情報開示請求しますわ

 

690:キシャル

サードレマの白布お化けなら聞いた事有るが

 

691:Ithen

サードレマの黒い流星。数日前に夕方のサードレマの街上空を空中ダッシュ+無限ジャンプで駆けて行った、超高速機動の存在。録画映像は有るが、スローにしても名前が解らない為に正体不明。

 

通常映像とスロー映像を置いとく

 

【映像】【スロー映像】

 

692:風太郎

助かる

 

693:エンプディング

有能

 

694:キシャル

うっっっっわ、はっや

 

695:ゴーマ

なんじゃこのスピード!?

 

696:ケストレル

はぇぇぇぇぇぇぇぇ

 

697:キシャル

なぁにこれぇ(白目)

 

698:夢徒緋亞

軽戦士のワイ、空中ダッシュと無限ジャンプの存在を知って、膝から崩れ落ちる

 

699:ガラーダム

此れ多分遮那王憑きも使ってそうだよな?軽戦士プレイヤー必須級スキルだし

 

700:ギアシューリィ

其れ言うならヘルメスブートの方が良くないか?一定時間経過か、被弾するまで空中歩行出来るんだぞアレ

 

701:ポロロ

スカイウォーカーの派生って、其所んとこが嫌らしいわな。片や無限ジャンプ、片や空中歩行

 

702:ゴップソン

一応ヘルメスブート以外の空中歩行スキルは有るぞ、其れは其れとして習得難度は高いが

 

703:風太郎

ほぇ~そうなのか

 

704:セイバー

因みに習得条件とは……?

 

705:メゾン

空中関連スキルの一定以上の修練必須

 

706:竜十

はい解散

 

707:ラピズランズリー

(そもそも二段ジャンプスキルを覚えて)ないです

 

708:ミュレイ

スカイウォーカーの習得には、大前提としてタップステップを習得してからベストステップへ進化、其所からムーンジャンパー、そしてスカイウォーカーにすれば余裕です

 

709:王魚

其れって軽戦士プレイヤーにとっての余裕ですよね?

 

710:ゴラッゾ

タンク職のワイ、空中ジャンプの夢儚く散る……

 

711:メゾン

取り敢えず、其の二段ジャンプや空中ダッシュは良いとしておいて。で、黒い流星だっけ?其れがどうしたのさ

 

712:Ithen

サードレマ大公の公女様が、白布お化けか黒い流星を見てみたいってシナリオを出してきてな

 

シナリオ名が【白布の幽霊を探して】と【黒煌の流星を探して】。多分【おてんば公女に付き添って】の好感度に関わる物と思われる

 

713:ハテナ

へーそんなのあるんか

 

714:君印四位

サードレマ名物ユニークシナリオだからなぁ、公女様の連れ添い

 

715:下駄壱

アレ結構我が儘に動くし、此方の話は聞かないし、執事に速攻で送り届けるのが無難な気がする

 

716:Ithen

ただシャンフロってゲーム、ロールプレイや好感度が結構重要な気がするんだよな。俺サードレマの防具屋で色々商品買ったり贔屓にしてたからか、此の前買いに行ったら少し割引してくれたし

 

717:風太郎

そうなの?

 

718:ダーマ

マ?

 

719:モラリス

となるとNPC相手にも、各々接し方を考えながらプレイしろ……と?

 

720:セイバー

地味に面倒な……

 

721:ミュレイ

シャンフロのNPCって、時折人間臭いところが有るけど、そう言う事なのか………?

 

722:王魚

何にせよ公女様の好感度を上げたいなら、必須級シナリオって事だな

 

723:ジョイソン

まぁ、其れで有ってる

 

724:ハテナ

しかし白布お化けと黒い流星かぁ……見付けたら幸せに成れるだろうか?

 

725:ルピア

幸せは自分で掴め定期

 

 

 

…………………………

………………………

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、現実世界の某所・商店街━━━『其れ』は突如として鳴り響いた。

 

カラーン!カラーン!カラーン!と、鐘の音が高らかに轟き、道行く者達が何だ何だと其の方角を見る。

 

「大当たりぃぃぃぃ!大当たりだ!運が良いねぇ、お嬢ちゃん!」

「わぁ、わわわ………!」

 

昔ながらの押し回し式の福引き機から転がり出たのは、金色の小さな玉であり一等賞の証であり、彼女は其の豪運を引き寄せたのである。

 

「一等賞を当てたお嬢ちゃんには、此方の商品をプレゼントだ!プレイ人口3000万人、世界も認めたフルダイブVRゲーム!『シャングリラ・フロンティアのソフト&最新型VRヘッドギアセット』だ!」

「わぁ……ありがとうございます!おとうさん、おかあさん!私やりましたよ!」

 

笑顔でパタパタと走って、両親の元に駆け寄る少女は太陽の様な笑顔と共に、福引きで当てた商品を見せる。

 

「おめでとう紅音(あかね)。ゲームをやるのは良いが、やり過ぎには気を付けて」

「はい!勉強も部活も、ゲームも全部頑張ります!」

 

彼女の名は『隠岐(おき) 紅音(あかね)』。ペッパーとサンラク、そしてオイカッツォがベルセルク・オンライン・パッション━━━━━━━通称『便秘』にて出逢った『ドラゴンフライ』の中の人であり。

 

後にシャンフロにて、『ドラ姫』という異名で呼ばれる事となる光に満ちた少女が、其の電子の世界へと降り立たんとしていた………。

 

 

 

 






最強クラスの光属性、シャンフロへ来る




クエスト【白布の幽霊を探して】【黒煌の流星を探して】

サードレマ名物シナリオ【おてんば公女に付き添って】から派生するユニークシナリオ。サードレマに出没する、噂の『白布お化け』か『黒い流星』を探して、写真か映像に納める事がクリア条件。

達成するとサードレマ大公の第一公女、フレデリア・オルトロス・サードレマの受注プレイヤーに対する好感度が上昇する。





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勇者達は戦場跡地を進み、災禍に立ち向かう



フィフティシアを目指して




無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)

 

シャングリラ・フロンティア第11の街・イレベンタルと現状最後に行ける街であるフィフティシアの間を繋ぐエリアであり、巨大な瓦礫と何もない草原が共に在る、大規模な戦場跡地とされる場所だ。

 

見渡せば去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)のエリアボスたる、オーバードレス・ゴーレムに匹敵する程の瓦礫が山を成し、遠くには古びた『太古の城』が忽然と鎮座している。

 

そして何よりも。ペッパーやレーザーカジキにアイトゥイルを含め、此のエリアを訪れた事がない面々の眼を一際引いたのが、巨大な()だった。

 

「何だあの腕……」

「ライブラリ曰く、昔此の辺りは大規模な戦闘の痕跡が在ったらしくてね。ペッパー君も其の辺りに興味が有るのかい?」

「まぁね。あのサイズのモンスターってシャンフロに居ないから、気になってさ」

 

SOHO-ZONEの説明と問い掛けに、聖盾イーディスを構えつつも周囲警戒を怠らず、ペッパーはそう答える。チラリと横目で見れば、アイトゥイルを抱っこしながらモフモフを堪能しているAnimaliaの姿と、ポポンガから授業か何かを受けるレーザーカジキの姿を見る。

 

「あ、そう言えばSOHO-ZONEさん。以前から気になってはいたのですが、主に戦闘で使ってる武器って何でしょうか?」

 

親友がどのようなバトルスタイルをしているのか気になったペッパーは、SOHO-ZONEに質問すると彼はこう答える。

 

「自分は主に『弓』や『ボウガン』を使ってますね。クランメンバーが武器の性能を十二分に試せるよう、ヘイトを集める高機動後衛……という奴でしょうか。因みにペッパー君は?」

「スタミナ敏捷筋力を中心に鍛える、高機動仕様ですね。武器は今使ってる盾や、小鎚に刀、短剣短刀、他にも籠脚。後はイーディスを外せるようになったら、鞭や手斧に片腕仕様の籠手とかも使いたいかなと」

「あらぁ~随分多彩なのねぇ、ペッパーさん」

 

そんな折、興味津々な様子で言葉を発したのはマッシブダイナマイト。やはり見た目と声のギャップが大き過ぎて、笑いそうになってしまう。

 

「ち、因みにマッシブダイナマイトさんは、どんな武器を使っています………か?」

「私は大剣や大斧を使ってますわ。ステータスは死なない事と、武器を振るう事が出来るだけの数値、後は全て筋力に『極振り』していますの」

 

極振りとは、ステータスポイントが絡むゲームで耳にする、プレイスタイルの一つでもある。ある一つのステータスだけに能力値を振り込み、最大到達点を突き詰めていく事を指す其れは、普段の戦いでは非常に『ピーキー』な立ち位置に居ながらも、得意とする戦いでは『無類の強さ』を誇る存在だ。

 

「マッシブダイナマイトさんの凄まじさは、私達SF-Zooを始めとして、他のプレイヤーにも届いているわ。一度私達の所のタンク達を彼女の護衛に付けた事が有るのだけど、アレは本当に凄かった……」

「其の時は僕も一緒でしたけど、あの……本当にすごかった……です!」

「マッシブダイナマイトさんに憧れて、其のプレイスタイルを模倣するファンも多いのだとか……」

 

改めて考えると、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)もとんでもない戦力を送ってきたのだなと思いつつ、デカい借りを作った事に後悔しながらも、歩みを止める事はしない。

 

「っと、また来た!」

「此れでざっと『20回目』の襲撃みたいね、ペッパー君…!」

「全員、気を付けなさい!」

 

そして襲い掛かるは、レベル99(カンスト)越えのモンスター達の強襲連鎖。イーディスが仄かに光を放つ度に来るモンスター達を前に、全員が戦闘準備の元戦いを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニークシナリオ【勇ましの試練:聖盾之型】。其れは盾の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン):聖盾イーディスがペッパーに課した試練である。

 

他プレイヤーやNPCと一定人数以上でパーティーを組み、危険度S以上のエリアを踏破する事が大まかなクリア条件なのだが、問題はイーディスを装備している為なのか或いは仕様なのかは知らないものの、モンスターの襲撃頻度が普段の三倍まで増えていた。

 

此のエリアのモンスターを、徹底的に調べ尽く上げたAnimaliaが断言し切った程なので、間違いでは無いだろう。何よりも四方八方縦横無尽に襲い掛かる、レベル99越えの終盤エリアのモンスター達。油断していれば一瞬でパーティー崩壊すらザラでは無い話である。

 

「ハードラック・ライノは直線的にしか来ないわ!ストーム・ワイバーンは羽ばたきを止めれば、突風攻撃は起こせない!」

「俺が盾で受けつつ止めますので、マッシブダイナマイトさんは其の間に攻撃を!Animaliaさん、SOHO-ZONEさん、レーザーカジキは空中からの敵を牽制、ペンシルゴンはちょっとデブッチョのリザードを頼む!各所の援護入ります!」

「任せて、ペッパー君!」

「はい、頑張ります!」

 

が、此処に居るのはシャンフロ屈指のプレイスキルとレベルカンストのプレイヤー達。聖槍のギラリ輝く煌めきが、分厚い脂肪と肉質を無視して心臓を穿ち。金と白の鏡面宿す盾が突撃をいなして、再び高速機動でカバーリングを行い、振るわれる大剣が突撃犀の胴体を真っ二つに切り裂き。

 

プレイヤー屈指の呪術師のデバフが四翼の翼竜の動きを鈍らせ、青の魔術師と今は弱体化している極星大賢者の雷属性魔法が走り、竜の翼を止め。打ち込まれる爆撃の矢が着弾して、落ちる竜の翼を黒兎の斬撃が切り飛ばす。

 

「決める!」

 

韋駄天権現(いだてんけんげん)』起動と共に走り出し、同時にストーム・ワイバーンがスタンから復帰するも一歩遅く。『確定気絶効果が常時発動』するスキル『ディムセインスマッシャー』を、アクロバットによる空中でのスタミナ消費を押さえ、ピアッシングアーマー・クリティカルメナス・ニトロスマッシュで上乗せ。

 

メタルフィストのスキルで拳を鋼鉄化し、デュアルリンクの強化に加え、自動発動したラセルクロスアップで補強、最後の〆としてトルクチャージを加えながら、先の戦闘に備えつつも全力でストーム・ワイバーンの横っ面に右ストレートを叩き付け、爆発の衝撃と共に殴り倒す。同時にレーザーカジキとペッパーに、レベルアップを告げるSEが鳴り響く。

 

「ふぅ……やっぱり、此処等辺のモンスター達は軒並みレベルが高いな」

 

パーティーメンバーの援護やアシスト有りとは言え、此処までレーザーカジキやAnimalia、SOHO-ZONEにポポンガが被弾0で進められているのは、前衛を張るペンシルゴンやアイトゥイル、高速インターセプトで防衛に入るペッパーと一撃仕留めるマッシブダイナマイトが、想像以上に噛み合った結果なのかも知れない。

 

「其れにしても………凄いわね、ペッパーさん」

 

レベルアップで変化したスキルを確認しつつ、敵の襲来に備えて周囲警戒を続けていると、アイトゥイルを抱っこしたAnimaliaが声を駆ける。

 

「どうしましたか?」

「いやね、ペッパーさんのスキルって見た所、かなり強力な物が多いなって思って。見た感じ、格闘や脚撃に打撃系スキルが特に印象的だったし」

「私も其れは思ったわ~。ペッパーさんって、結構な回数の『レベルダウンビルド』をこなしているのかしら?」

 

さて、どう答えた物かとペッパーは思考する。何せ此のゲームを始めてから、一度たりともレベルダウンビルドをした事が無い上に、自分のスキルは致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)という、今尚右手首で輝くブッ壊れのアクセサリーによって支えられているからだ。

 

下手に情報を開示したならば、サンラクとの関係に関して嗅ぎ付けれる可能性は非常に高くなるし、何なら既にペンシルゴンにはバレているかも知れない。そして此の手の廃人達が戦闘経験値を半減させて、レベルアップステータスポイント倍率変動アイテムの存在を知れば、また面倒な方向に話が傾く未来しか見えて来ないのだから。

 

「レベルダウンビルドは数回ですかね……。あとスキル育成のコツは、自分の場合『戦闘以外でもスキル』を使う事………と考えてます」

「戦闘以外で使う?其れとスキル育成って何の関係が有るの?」

 

普通(・・)は戦闘時以外で自分の手札を使うという行為事態、危険な行動に他ならない。再使用時間(リキャストタイム)が終了してない状態で戦闘に入れば、自身の手札が少ない状態で戦う事と同義なのだから。

 

「レベルアップ時にスキルを覚えるか否かは、レベルアップした『其の時点』でのスキルへの理解度合い(・・・・・)と、自身の武器や身体の動かし方(・・・・)が直結している………と、俺は考えています。

移動一つにしても、ダッシュやステップによる移動方法は有りますし、崖を登るにしても武器やら三角跳びと、少し考えれば色々出て来るので、常に試行錯誤しながらプレイしていますから」

 

警戒を怠らず、周りを見渡しながら歩くペッパーに、Animaliaとマッシブダイナマイトは言葉が続かなかった。最強種の一体・夜襲のリュカオーンから呪い(マーキング)を右手に受け、両手武器や二刀流の戦いを封じられても尚、強くならんとする飽く無き闘志を、此の男は燃やしている。

 

両手が使えないなら片手で使える武器や戦いを、腕が駄目なら脚による戦い方を。思考し、実行し、修練し、研究し、検証し、継続する。其の繰り返しの中で培われてきた物こそが、ペッパーの持つ強力なスキル達なのだろう。

 

(あーくんのスキルって、どうも『変』なんだよねぇ。エフェクトは派手だし、破壊力も凄い、でも再使用時間を気にしてた。………もしかして主力組が『神系統』に到達してたり?数回やったって言ったけど、だとしたらレベルダウンビルドを『何回』やった……?)

 

そしてペッパーが説明しながら周囲警戒を続ける後ろで、ペンシルゴンは彼の説明とサードレマでのリキャストタイム云々から、其等が神の名を関する領域に踏み込んでいると予想を立てる。

 

様々な思惑渦巻く中で、パーティーは戦場跡地を進んでいく……。

 

 

 

 

 






開拓者達は知る。黒い流星の強さを支える柱の一つを




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開拓者は往き、飛竜は吠え荒ぶりて嵐呼ぶ



パーティープレイは続く




「はああああああッ!」

 

拳に無数のエフェクトが交じり、迸る稲妻の様にリザード型の敵に叩き付けられる。

 

「気絶付与しました!!」

「ナイスだ、ペッパー君!」

 

ステップ回避と同時に後方で待機していたSOHO-ZONEが、己が獲物たる弓を片手にギリギリと弦を引き、風を貫き穿つ一本の矢が放たれ、脳天を寸分の狂い無く撃ち抜くや、敵を討ち取ってみせた。

 

「ペッパーさん、本ッ当によく動くわね……」

「体がピカーって光って、ずぎゅーんって走って、ドドドドドって感じでした!」

「レーザーカジキ君の言うことも、あながち間違っていないな………。しかし本当に凄まじい……」

 

無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)を進行するペッパー達一向は、通算39回目のモンスターを襲撃を退けて、ドロップしたアイテムを拾いつつ移動を続けている。

 

後ろでAnimaliaとレーザーカジキ、SOHO-ZONEがペッパーの事を話し合っているが、聞いたら聞いたで面倒な事になりかねないので、見えていない今の内に拾ったアイテムをインベントリアの方へ収納していく。

 

「ストーム・ワイバーンの牙に翼膜、鱗に爪……ハードラック・ライノの足爪や表皮、そして角………他にも色々手に入ってるな。売ったらマーニも相当手に入りそうだ」

「イレベンタルからフィフティシアに着けば、此のルートを通ってきたプレイヤーのレベリング場所に、うってつけだからねぇ」

 

同じようにドロップアイテムをインベントリアに収納し、ペンシルゴンが地図を見せながら、ペッパーの隣に近付いてくる。

 

「距離としては半分以上を切った感じか。皆さんの武器の耐久値や矢、マナポーション等の残量は大丈夫ですか?」

「此方は矢の数が少し心配ですが、一応魔法弓も持っています」

「私とレーザーカジキさんは、MPに余裕は有るわ。マッシブダイナマイトさんやペンシルゴンさん、ペッパーさんにアイトゥイルちゃんが、前衛張ってくれているお陰で当てやすくて助かってる」

「私の武器も大丈夫よ~」

「ペッパー君と私の勇者武器は、まだまだ余裕だよん?」

 

かなり大変な道程だが、順調にフィフティシアへ進めている。此のまま行ければ良いが……とペッパーは思うが、盾の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスは、持ち主たる彼に更なる試練をぶつけてきた。

 

「………………ん?何か聞こえるのさ」

「え、どうしたのアイトゥイルちゃん?」

 

兎の耳に轟くは大地を蹴り、驀進する大質量の足音。40回目ともなれば、此の辺りのモンスター達がどんな足音や翼音、鳴き声を鳴らすかは嫌と言う程、記憶に刻まれる物だ。

 

「皆はん、高い所へ!サイが来てるのさ!」

 

足音の主は『ハードラック・ライノ』。突進能力に秀でた爆走犀であり、真正面から受けた場合は一定以上の筋力が無ければ、吹き飛ばされてしまう程の威力を誇る。しかし秀でた突進能力の代償に、横に回り込めば無防備なので攻略方法が解れば、其所まで驚異ではない。

 

そして何よりも、ハードラック・ライノの最重要危険攻撃が突進である為に、背丈より高い場所に登ってしまえば、其れを受けずに済むのである。

 

「よいっしょっと………全員無事ですか?」

「私達は大丈夫よ。近くに高台が在って助かったわ」

「しかしアイトゥイルさんの耳は、物音をよく捉えてくれますね………」

 

巨大な瓦礫の山の上に避難し、下の様子を見るとハードラック・ライノが群れを成しながら、先程までパーティーが居た場所に殺到して来た。後少しアイトゥイルの耳が音のキャッチに遅れていたなら、勇者武器を持っているペッパーとペンシルゴンは何とか耐えられたかも知れないが、他のメンバーはタダでは済まなかっただろう。

 

「パーティーを護る事も、護り手の大事な仕事だからな……」

 

幾ら勇者武器が凄まじい耐久値を誇っていても、再生する事は出来れども、使い続ければ何れは壊れる運命は変えられない。ハードラック・ライノ達の移動先を見定めつつ、フィフティシア方面に向かうルートと爆走犀の群れが重ならないルートを割り出さんとし。

 

そして此のエリアの動物系モンスターの生態を、徹底的に隅々に渡って調べ上げてきたAnimaliaは、アイトゥイルを抱っこ&撫で撫でしつつも、ハードラック・ライノ達の動きに『違和感』を感じ取っていた。

 

「ねぇ、皆。あのハードラック・ライノ達の群れの動き、何か()だわ」

「えっ、何か変なの?園長さん」

「そう。まるで何かに追われている(・・・・・・)様な雰囲気を感━━━━━━━」

 

其の刹那。パーティーの目の前を『何か』が勢い良く通り過ぎ、同時にハリケーンに似た突風に襲われ。次の瞬間、自分達が見送り過ぎ去ったハードラック・ライノの群れが行った方角から、犀特有の鳴き声が上がる。

 

「ッ!?今の何!?何か通り過ぎなかった!?」

「いや、滅茶苦茶速かったぞ!?」

「あらあら……何か凄い事になりそうねぇ……」

 

何だ何だとパーティーメンバーがざわつく中、アイトゥイルは自身の宝物である単眼望遠鏡を取り出して、其の方角を凝視し………言葉を失う。

 

其れは四翼を背に携える翼竜であり、ペッパーがラビッツで30に近い死闘を経て倒し、今ではあの頃よりもずっと倒すのに時間が掛からなくなった、此のエリアの頂点捕食者たる『ストーム・ワイバーン』で間違いない。

 

しかし、其の翼竜は従来種の『およそ2~3倍』の巨体を持っており、翼も通常より大きく、全身の筋肉もバキバキのボディービルダー顔負けに等しい肥大化と仕上がり具合。

 

何よりもハードラック・ライノの群れを襲い、獲物を喰らい食している姿は獰猛で荒々しく、成熟体だろうが幼少体だろうが、一切『見境無く』食い荒らしている。そんな凶悪で残忍な翼竜と、単眼望遠鏡越しに見ていたアイトゥイルの視線が『合った』。

 

「ペッパーはん!皆はん!あのストーム・ワイバーンに気付かれたのさ!?」

「な、全員戦闘準備ーーーーーーー!!?」

 

アイトゥイルの声を受け、全員が即座に散開したと同時に、其のストーム・ワイバーンは翼を羽ばたかせ空を舞い踊るや、先程まで一同の居た場所に凄まじいスピードで飛来・砲弾が着弾するかのような爆音を轟かせ、己の存在を誇示する。

 

名を『ストーム・ワイバーン"威風堂々(リーガルック)"』。

 

ペッパーの持つリュカオーンの呪いに屈する事無く、己の腹を満たせる者達の存在に引き寄せられた、不世出たる翼竜は雄叫びを上げ、開拓者の一団に襲い掛かったのである。

 

 

 

 

 






襲来、エクゾーディナリーモンスター




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秀でたる力は抗うのではなく、揺るがぬ意志で対するべし



vs 威風堂々




突然だが、筋肉を支える物とは何だろうか?上質なタンパク質の摂取か?日々のトレーニングによる研鑽か?

 

其れも『一理』有る。だが私は、其の答えに対して『骨』であると示す。骨とは生物の『歩走行』や生物『たらしめる』動きに必要不可欠である、と考えている。

 

しかし骨という物は意外な事に『脆い』のだ。例えば人体を形成する骨も『206本』と多いには多いが、転んで骨に皹が入ったり、下手をすれば骨折と常に危険と隣り合わせだ。

 

だが━━━━生物の持つ骨という物は『強い』。皹が入る事や骨折を経験しながら、彼等は其の環境に適応するように自らを鍛えて、より頑強で強固な骨とするのだ。

 

ストーム・ワイバーンの中には稀に、赤子の頃より『筋肉が異常発達する個体』が産まれてくる事が在る。殆どの個体が成熟し切る前に、成長・発達した筋肉に骨と内臓を押し潰され、早死にしていく。

 

しかし其の中で。極少数ながら、骨が発達する筋肉に屈する事無く、異常な成長速度に『適応』し。破壊と再生によって、己を支える骨を作り出す個体が現れる。骨の相次ぐ破壊に適応し、再生によって其の骨を強く太く硬くした其の個体は、通常種の倍の体躯を誇る存在として、無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)の『真の頂点捕食者』として君臨する。

 

其の身を今尚襲い続ける『骨の破壊と再生による痛み』に耐え忍び、堂々たる『威光』を掲げる翼竜へ、此のエリアに住まう生物達は畏怖を、或いは恐怖を以て、其の者の名を叫ぶのだ。

 

 

 

 

 

 

威風堂々(リーガルック)……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うか、あのストーム・ワイバーン何!?通常種の2倍の体格に、純粋な身体スペックは3倍強ってどんな化物よ!?」

「前に此のエリアでレベリングしてた黒狼のメンバーちゃん達が、ボロボロになって帰って来た事が有ったけど……もしかして『アレ』なのかしら?」

「Animaliaさん、マッシブダイナマイトさん!兎に角奴の『竜巻のブレスの射線上』に入らないようにしてください!此方で注意を惹き付けます!」

「ぼ、僕は速度強化の補助魔法を掛けます!」

「マッシブダイナマイトさん、カバー入ります!ペンシルゴンはポポンガさんを護りつつ、カレトヴルッフの攻撃タイミングを見据えてくれ!」

「任せなさーい!」

 

ストーム・ワイバーン"威風堂々(リーガルック)"。此のモンスターを現すなら『単純なスペックモンスターが、更なるスペックモンスターに化けた存在』と言って差し支えないだろう。

 

先ずはストーム・ワイバーンが其の名を冠する、象徴たる技『竜巻のブレス』。通常種でも厄介な技だった其れは、威風堂々が放つと視界内の瓦礫の山を『一撃で薙ぎ払う』だけに止まらず、上空を飛ぶ彼の者の所へ届かせる為の手段を、確実に奪い去って来るように放つ。

 

次に厄介なのは威風堂々の『頑強な巨体』。竜巻ブレスを回避し、上空からの強襲攻撃を凌ぎ、数十秒間地上に居る時間は在るものの、其の翼竜の身体を攻撃した所物凄く『硬い』のだ。此れは予測では有るが、唯でさえ鍛えた『筋肉による硬さ』+剛強と化した骨によって筋肉と骨を支える『腱が引き伸ばされ』、其の結果として『剛力かつ強靭な筋肉の鎧』を常に纏っている。

 

そして最後にシンプルな『スペック』と言う、圧倒的で単純明快な要素が絡み、ストーム・ワイバーン"威風堂々"はパーティーを苦しめていた。

 

「竜巻ブレス、来ま━━━━?!」

「SOHO-ZONEさん!危ないッ!」

 

メンバーの中でも一番足の遅い、レーザーカジキとポポンガを援護するペッパーを狙わんとした威風堂々は、爆撃の矢を放って注意を惹こうとしたSOHO-ZONEに急遽狙いを変更。其れに逸早く気付いたペッパーがSOHO-ZONEを抱えて射線上から外した瞬間、ブレスが飛来。

 

彼を投げて安全圏へ飛ばした刹那、風の圧力によって揉みくちゃにされて、残骸の壁に叩き付けられ。同時に聖盾イーディスが眩くや『黄金の輝き』を放ちて、持ち主たるペッパーの全身を包む。

 

『ペッパー君(はん)(さん)!』

「ガッ………!?はっ…!よ、よし……『復活』出来た……!危ねぇ……!」

 

打ち付けられた瓦礫から其の身を起こし、聖盾の勇者は再び立ち上がる。

 

(ストーム・ワイバーン以上のスペックモンスター。さぁて、此の化物をどうやって攻略しようか………!)

 

ペッパーがユニークシナリオ時に対峙し、ストーム・ワイバーンを攻略した時のチャートをなぞり、思い出す。あの翼竜は四つ在る翼を折るか翼膜を破壊すれば、空中で飛べなくなる様になっていた。

 

しかし強靭な筋肉によって、翼の骨を折るのは困難を極める。故に狙う場所は、翼膜以外有り得ない。

 

「先ずはストーム・ワイバーンを此れ以上空中に飛ばせない事………!SOHO-ZONEさん、ポポンガさん、レーザーカジキは威風堂々の翼膜に集中攻撃を!」

「解った、ペッパー君!」

「ホッホッホ……任せんしゃい」

「や、やってみます!」

 

遠距離攻撃可能な職業持ちのプレイヤーに指示を出しつつ、ペッパーは盾を構えながらダッシュを開始。英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)驚雷羅刹(きょくらいらせつ)と共に全進開速(フルスロットル)から進化し、効果時間が3分に減少と空腹度が強制的に半分になる事を条件に、最大加速時の速度が大幅上昇と直線移動時限定だが更なる速度上昇を持つ『咆進快速(フルスレイドル)』を起動。

 

ソニック・アサルトとデュアルリンクを加えながら、瞬刻視界(モーメントサイト)とスート・アヴェニュー、全身全霊(フルドレイズ)のバフで動体視力を強化、そして自身を中心に『半径10mを俯瞰の視点から見れる』ようになるスキル『天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)』で、自身の見ている景色と空から見ている己の景色を統合し、威風堂々とパーティーメンバーの現在地を把握。

 

平地を走り、シャープターンで方向転換。己のMPを全てを全身全霊(フルドレイズ)により跳躍力に加え、マシニクルリブラで上昇数値を底上げ。天壱夢鳳(てんいむほう)のバフから、セルタレイト・ケルネイアーで跳躍。瓦礫の山を軽々と飛び越え、古錆びた鉄の道を凄まじい速度で走って戦場に舞い戻る。

 

フィールドでは現在、SOHO-ZONEがペッパーの復帰までの間を囮として、威風堂々のレーザーカジキ・ポポンガ・アイトゥイル・Animaliaに対するヘイトを集め。ペンシルゴンとマッシブダイナマイトは荒ぶる翼竜を止めんとし、各々の武器をスキルと共に振るっている。

 

そして当然ながら、敵はペッパー(・・・・)を見ていない。

 

「敵からしたら吹き飛ばした奴を無視するのは、当たり前っちゃ当たり前か……!」

 

だからこそ、其の思考を突く。

 

「覚悟しろ、威風堂々………!」

 

戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)摩天来蓬(まてんらいほう)流天翔奏(るてんしょうそう)、アクロバット、ヴィールシャーレを使用。更なる強化を乗せたペッパーが空中を駆け出して、其の身を黒い流星へと変え。

 

「よう、威風堂々!此れは俺からの大サービスだ、たっぷりと受け取りなッ!」

 

昇華(スタンバイ)まで到達した聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)を始め、ピアッシングアーマー・メタルフィスト・クリティカルメナス・ニトロスマッシュ・衝拳打(しょうけんだ)を重ねて束ね、ラセルクロスアップを乗せた状態で繰り出すは、確定気絶付与の打撃スキル『ディムセインスマッシャー』。

 

己を無視し、パーティーメンバーを食い殺さんとした不世出の存在にして、エリアの真の頂点捕食者たる翼竜の顔面に、聖盾イーディスの鏡面が煌めきを纏いて激突。

 

スキルを積み重ね、連ね紡いだペッパー渾身の打撃が、此処に炸裂したのだった。

 

 

 

 

 






其の背を押す者が居る限り、盾の勇者は決して折れない




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黒の流星は煌めきて、吠える嵐を討ち沈める



パーティープレイで不世出を討ち果たせ




サードレマの黒い流星。

 

逢魔時(おうまがとき)に出現し、サードレマの街並みの上空を駆けて消えた、文字通り流星の如き速度を放つ、ペッパーの持つ異名の一つである。音速か下手すれば超速(マッハ)に比肩し得る可能性を持った、凄まじいの一言では表現出来ない様な、圧倒的な機動力。

 

そして勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)のカテゴリーの中でも、抜きん出た耐久値を誇る聖盾イーディスを、有ろう事か籠手(ガントレット)の変わりとし、確定気絶付与の打撃スキルを含んだ一撃を以て戦局の転換点にするべく、ストーム・ワイバーン"威風堂々(リーガルック)"の顔面を己の速度+聖盾の硬度による融合攻撃で、思いっきり叩き据える。

 

衝撃、爆発、振動。重ね繋いだスキルの連鎖が超新星の如く炸裂し、不世出の頂点捕食者は其の一撃に瞳孔が振るえ、然れどスキルによって発動した効力を受けて、仰向けで地面に倒れた。

 

「今だ皆、翼膜を狙い打て!!」

 

己の力を以て、決定的な隙を作り上げた聖盾の勇者の叫びをトリガーに、パーティーメンバーも此の好機(チャンス)を逃さぬとばかりに攻めに転じる。

 

「任せなさぁい!羅刹貫鐵(らせつかんてつ)!」

「行くわよぉ~~!爆砕剛撃(ばくさいごうげき)!」

「食らうのさ!魔人斬!」

 

ペンシルゴンの持ちし聖槍による、螺旋を描きし渾身の破壊属性効果を宿す刺突が、威風堂々の巨大な翼膜に大きな風穴を穿ち。

マッシブダイナマイトの鍛え続ける筋力が振るう、筋力を参照する拳撃スキルの一撃が、威風堂々の翼骨の関節を粉砕、其処にアイトゥイルの薙刀による斬撃が翼骨の関節間を切断する。

 

『グルォラァ!?』

 

気絶状態の身に叩き付けられた、マッシブダイナマイトの一撃に跳ね起きた威風堂々だったが、其の眼前に在ったのは『バチバチと電気が走る、一つの巨大なシャボン玉』。

 

完全(フル)詠唱━━━━【力奪う水気泡(パワードレイン・バブル)】ッ!行きます!」

「効力が浸透しやすいよう、オマケで【リアスパーク】も付けといたぞい」

 

ペッパーが、SOHO-ZONEが、アイトゥイルがヘイトをかき集めた間に、レーザーカジキは己の持ち得る水属性魔法の中で『水属性攻撃及び脱力のデバフ付与の融合魔法』を叩き付け、ポポンガは水属性魔法と極めて相性が良く、其の効力を倍化させる雷属性魔法でサポート。

 

破裂した水が濁流となりて威風堂々を襲い、付与された雷属性の効力で効果は即効性を以て発揮され、威風堂々は全身を襲う脱力感に苦しみ、苛まれて。だがそんなものは、今も自分を襲い続ける『痛み』に比べれば何ともないと言わんばかりに、其の口から巨大な咆哮を上げて、竜巻ブレスを放たんと構える。

 

「よくもハードラック・ライノの群れを……!其の子供達を……!!傷付けたわね、威風堂々!絶対に……絶対に許さないんだからァ!!!!!」

「いや、怒る所其処ォ!?」

 

Animalia怒りの咆哮に、此の場に居た全員のツッコミを代弁したSOHO-ZONEが、弓を構えて弦を引き絞り、仕掛け鏃を乗せた矢を瞬刻視界(モーメントサイト)による視界の中で、威風堂々の右目を狙って放つ。

 

仕掛け鏃……其れは弓にボウガンといった武器を使うプレイヤーに取って、戦局を切り開く武器でもある。一本に付き3000マーニという、シャンフロを始めたてのプレイヤーは、此れ一本で所持金をすっからかんにするが、其の能力は単純明快。

 

『グリュリァアアアアアアア!?』

「どんなに身体を鍛えても、眼球『そのもの』は鍛えられない!」

 

着弾時に爆発する。右目の真ん中を居抜き、網膜を貫いて、視神経に到達した鏃が起動し爆発。竜巻ブレスのモーション解除と共に威風堂々はのたうち転げ回り、空中に逃げようとするものの、既に翼は二ヵ所壊されて飛ぶには至らず、更には泡の魔法により引き起こされた脱力感が、ジワジワと己の神経を侵食する。

 

「逃がす訳無いでしょう!覚悟なさい!【アトラス・バインド】ッ!!」

 

錫杖から放たれる正三角形の魔法が、威風堂々の首筋に絡まり付き、其の動きを止めに掛かる。普段の威風堂々であるならば、此の程度の足止め等雑作も無く退けられる。

 

だがSOHO-ZONEの放った仕掛け鏃が右目を直撃、爆発による衝撃で右脳に障害を負い、身体機能の一部に支障をきたしていたのだ。

 

「さぁ、決めなさいッ!」

『ペッパー!!!!!!』

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

此の戦いのフィニッシュは、聖盾勇者に託される。上空を駆けて、高みへと走り登った彼は再使用時間を終えたセルタレイト・ケルネイアーと天空神の加護(レプライ・ウーラノス)を起動。高みへと登った己が身を、天から地に向けて蒼空を蹴って加速し。

 

「此れでッッッッッ……………終わりだぁアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

加速した己の身を一回転、爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)烈風轟破(れっぷうごうは)の加速と共に、破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)を起動。黒い流星が煌めき瞬いて、威風堂々の顔面に超スピードの飛び蹴りが直撃。

 

此処まで使い続けて来たスキル達の総数に比例して、ダメージ補正が伸びていく其のスキルは、数多有るペッパーのスキルの中でもトップクラスの威力を誇る『切札』。着弾と共に威風堂々の首が時計回りに五回転程捩り回って、最後はゴキョン!と首の骨が折れる音が、戦場に甲高く鳴り響く。

 

そして当然ながら、此れだけの威力の脚撃スキルを繰り出したペッパーもタダでは済まず、超上空からの高速落下エネルギーと、威風堂々の硬い頭蓋骨による硬度補正がもたらす『反動ダメージ』は甚大極まり、聖盾勇者の体力を削り取って『全損』させるには充分過ぎる物であった。

 

だが、ペッパーは自身の体力を全損させて死ぬ事も見越して、スキル発動中に一度だけ『確定自己蘇生』が働く戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)を使っており、崩れ落ちる最中に暗転し掛けた視界を光が満たし、意識が再び覚醒する。

 

実は戦帝王の煌炉心のスキル効果発動と同時に、聖盾イーディスの復活効果も発動し、其の効力が重複していたのだが、ペッパーは其の事実を知らない。しかし其れ故に、『戦闘中に一度だけの確定自己蘇生』という凄まじい『手札』を持っている事が、白日の元に曝されずに済み。

 

そして彼は落下する身体を、空中ジャンプで整え直しつつ着地を行い。首を捩り回され折れた、"威風堂々"へと言葉を紡ぐ。

 

「ストーム・ワイバーン"威風堂々"。其の圧倒的な巨体と、単純明快なスペックでの戦いを仕掛けてきた、強大で強き翼竜よ。お前は俺達パーティー全員が力を合わせなくては、倒しきれなかった強敵だった。

次に逢う時は、一対一(タイマン)で勝負をしよう」

 

其の言葉をトリガーとし、威風堂々を構成するポリゴンが崩壊、爆発四散する。

 

パーティーが一丸となって討伐を果たした、不世出たる頂点捕食者。其の報酬は此の戦いでレベルアップを果たした者達のSEがファンファーレと成りて響き、ラストアタッカーとなったペッパーの前には、リザルト画面が表示される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モンスター不世出(エクゾーディナリー)……解明(クリア)!』

『討伐対象:ストーム・ワイバーン"威風堂々(リーガルック)"』

『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』

『称号【風塵烈破(ふうじんれっぱ)】を獲得しました』

『称号【嵐を我が手に】を獲得しました』

不世出の奥義(エクゾーディナリー.スキル)偉風導動(リーガルック)】を習得しました』

 

 

 

 

 

 

 

 






嵐を其の手に掴む者





不世出の奥義(エクゾーディナリースキル):偉風導動(リーガルック)

習得条件:ストーム・ワイバーン"威風堂々(リーガルック)"を討伐する。

効果:発動から3分間、自身の装備する剣武器に高出力の竜巻を纏わせる。再使用時間(リキャストタイム)はおよそ4日。

己の身体を襲う破壊の力に、臆し屈する事の無く堂々と敵を打ち砕く嵐従える牙。其れこそが不世出の奥義。



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英雄達は困難を越えて、フィフティシアに辿り着く



走り続ける勇者は




「ペッパーさん、新しいスキルを習得したって本当?」

「ストーム・ワイバーンの素材、分配するわね~」

 

不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)、ストーム・ワイバーン"威風堂々(リーガルック)"を、パーティー討伐によって成し遂げた一同は、フィフティシアに向けながら進み。其の間ペッパーは、威風堂々について質問攻めに遭っていた。

 

「で、ペッパー君。あのストーム・ワイバーンを討伐して、君は何を手にしたの?」

「ぼ、僕も……気になります……!」

「通常種とは異なる感じでは有りましたが、二つ名持ちという訳では無いようですね」

「皆さん落ち着いて、ちゃんと話しますから」

 

移動しながらもイーディスが化す試練は終わっておらず、威風堂々討伐から休む間も無く、此れで通算50回目に到達するレベルカンスト超えモンスター達の襲来を退けながら、ペッパーはパーティーメンバーに説明していく。

 

「どうやらシャンフロには、エクゾーディナリーモンスターと呼ばれる『特殊な出自を持つモンスター達』が居るようで。其れを討伐する事で、其のモンスターの持つ力を、自身のスキルとして行使可能になるみたいです。

名前が『不世出の奥義(エクゾーディナリー.スキル)』で、先程討伐した威風堂々は『偉風導動(リーガルック)』なるスキル。四日間の再使用時間(リキャストタイム)を有する代わりに、発動から三分間は装備している剣武器へ、高出力の竜巻を纏わせる効果だとか」

 

偉風導動のスキルは非常にシンプル、剣へ竜巻という『強力な風属性効果を付与する』物だ。一見すれば其れだけ?と思われてしまうが、此の手の能力は『応用力』に富んでいる事が、御約束レベルで決まっている場合が多い。

 

竜巻の出力や威力の調整は出来るか?

短剣や大剣といった武器でも対応可能か?

剣武器の二刀流でも発動可能か?

 

考えたなら、片っ端から試してみたくなるのも必然である。

 

問題はやはりと言うか、不世出の奥義特有の再使用時間の長さ。五分間の間に限り、現時点の敏捷数値を三倍+スタミナ減少無効効果の窮速走破(トップガン)の約半分の再使用時間とは言え、気軽に使える訳では無いものの『切札(ジョーカー)』とするなら十分だろう。

 

「其のモンスターの生態に関するスキルね………」

「遭遇時のアナウンスで解ると思うので、探してみるのも良いと思います」

「其れにしても、良い筋肉だったわねぇ威風堂々ちゃん。何時か一人で討伐してみようかしら?」

 

モンスター達の襲来を退けつつ、歩みを進めていく一向の視界に、大きな円上に出来た窪地と瓦礫の山々が山脈の如く連なったフィールドが見えてきた。

 

「あ、ペッパー君。此の先にエリアボスが待ってるんだ」

無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)のエリアボスか……どんなモンスターなんだ」

 

「じゃあ私が」と挙手して答えるはAnimaliaだった。

 

「名を『簒奪者の竜(ユザーパー・ドラゴン)』。飛竜型のモンスターであり、迷彩色の竜鱗を纏った空を飛ぶ上に、殆ど地上に降りてくる事が無い。おまけに厄介なのが、此方の『魔法攻撃のコントロール』を奪取したり、体力が減ってくると接近して武器を強奪してくるの」

「え、じゃあ魔法職のプレイヤーは……」

「残念ながら弓系統を扱えるプレイヤーの援護か、空中を走ったり飛び跳ねられる前衛職プレイヤー無しだと、確実に『詰む』わね。私やレーザーカジキさん、そしてポポンガさんは魔法職である以上、アレに対する有効打が無いわ」

 

やはりフィフティシアに到達する最後のエリアボスともなれば、一癖や二癖は有る上に駄目押しで純魔御断りと来た。

 

「俺は威風堂々討伐時に、空中関連のスキルを軒並み使った反動で、何れも再使用時間突入中だからなぁ……」

「空中を飛び回ってるとなると、私やアイトゥイルちゃん、マッシブダイナマイトさんは地上に落とさないと手が出せない。純魔はユザパの特性で駄目……となると、だ。撃墜作戦の鍵はSOHO-ZONE、君が握っている」

「まぁ……でしょうね。任せて下さい、キッチリ墜落させてみせますよ」

 

パーティーのフィフティシア入りの是非を、一手に背負う事になったSOHO-ZONEは、両頬をピシリと叩いて集中力と気合を入れ直し。全員がエリアボスの待つフィールドに脚を踏み入れた瞬間、目の前の瓦礫の色に混ざっていた飛竜がヌルリと姿を現した。

 

全長は7m前後のRPGでよく見掛ける飛竜型のモンスター、尻尾の先端にはフックショットに酷似した形状、頭部には米神の辺りから、鬼の角めいた物が2本生えている。

 

「アレがユザーパー・ドラゴンか…!」

「えぇ。因みにユザーパー・ドラゴンの素材を用いて作った防具には、迷彩効果が付与されているので遠距離職のプレイヤーの間では、『持っていれば局所的に役立つ』と評価を受けています。さぁ、来ますよ!」

『各員、戦闘態勢!』

 

SOHO-ZONEの一声をトリガーに、ユザーパー・ドラゴンが翼を広げて天に舞い、口から火球攻撃を吐き出し襲い掛かったのを見て、ペッパーが火球を聖盾イーディスで受け流すようにして凌ぎ、エリアボスとの戦いが幕を開けたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユザーパー・ドラゴン。無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)のエリアボスにして、ストーム・ワイバーンと同じドラゴン型のモンスターである。

 

地上に数分間降りる以外、其の殆どを飛翔状態で戦う此のモンスターは、空中関連や投擲スキルに遠距離物理攻撃持ちの役職者が居なくては、通常での討伐に一時間程度も時間を持っていかれてしまう。

 

そう、通常ならば(・・・・・)━━━━━なのだ。

 

「落としました!頼みます!」

「任せろ、マッシブダイナマイトさん!行きますよ!」

「御願いねぇ」

 

ボウガンを構え、地上から幾度も弓を打ち続けたSOHO-ZONEによって、翼膜に幾十の穴を穿たれた簒奪者が遂に地上に落ちてきた。

 

「ウフフフ……タスラム・フィスト、えいっ♪」

 

ペッパーのスキル『ストロング・キャリアー』によって運送されたマッシブダイナマイトの拳が、地上に墜落した翼竜の首に突き刺さり、およそ79度に渡って其の首をへし曲げる。

 

『ゴビォ……バァ……!?』

「あらあら……此れでも『最大火力』は取れなかったわぁ……」

「今だ、近距離職全員攻撃ぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

古今東西狩りゲーのラスボスだろうと通用する、数的優位を用いた戦法『袋叩き』を近距離職プレイヤーが担当。マッシブダイナマイト・ペンシルゴン・アイトゥイル・ペッパーの攻撃が飛竜に突き刺さり、か細い断末魔の呻き声を上げたユザーパー・ドラゴンは、其の身を構成するポリゴンを散らしていく。

 

「ユザーパー・ドラゴンよ。空を舞い上がる飛竜よ。今回は複数人で戦ったが、次に相対す時は一対一での空中戦をしよう」

 

ペッパーの言葉を受けた瞬間、ユザーパー・ドラゴンは消滅。そしてペッパー・アイトゥイル・レーザーカジキは、此のエリアで何度目かになるレベルアップを果たした。

 

ペッパーはアイトゥイルとポポンガを愉快合羽の中に避難させ、一向は遂に現時点でシャンフロの最後に到達出来る街たる『フィフティシア』に着き。其の門を潜り抜けた瞬間、ペッパーの目の前でリザルト画面が表示される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は聖盾の課す試練を乗り越えた』

聖盾(せいじゅん)イーディスに、ペッパー【天津気(アマツキ)】は所持者として認められた』

『ユニークシナリオ【勇ましの試練:聖盾之型】をクリアしました』

『七つの街を渡り、極星大賢者の課した試練を乗り越えた』

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】が進行しました』

 

 

 

 

 

 

 

 






シャンフロ最後の街、到着



無落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)攻略開始(レベル68)から、フィフティシア到達時(レベル77)のペッパーのステータス変化



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)


レベル:77


メイン職業(ジョブ):バックパッカー
サブ職業(ジョブ):勇者

 

体力 125 魔力 50
スタミナ 140
筋力 150 敏捷 140
器用 125 技量 125
耐久力 6051 幸運 52

 

残りポイント:83

 


装備



左:聖盾(せいじゅん)イーディス(耐久+3000)
右:リュカオーンの呪い(マーキング)
両脚:無し



頭:ライノベレーの帽子(耐久力+350)
胴:影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)(耐久力+2000)
腰:発掘研磨腰帯【古兵】(耐久力+400)
脚:烈風竜印のズボン(耐久力+300)

 



アクセサリー



致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)
格納鍵(かくのうけん)インベントリア




所持金:51,640,000マーニ

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

窮速走破(トップガン)
偉風導動(リーガルック)


 


致命極技(ヴォーパルヴァーツ)




致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

致命武技



致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)
致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】漆式→捌式
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】
致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】陸式→玖式
致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】玖式
致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式



スキル



死神の斬撃(デス・マサカー)
終極刺突(グルガ・ウィズ)
瞬刻視界(モーメントサイト)真界観測眼(クォンタムゲイズ)
・ブルズアイ・スロー
・フィーバー・シャイニング
頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)
巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)
冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)
聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)
戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)昇華(スタンバイ)
戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)
韋駄天権現(いだてんけんげん)
・レーアドライヴ・アクセラレート
烈風轟破(れっぷうごうは)神律燼風(しんりつじんふう)
十傑斬覇(じゅうけつざんは)
驚雷羅刹(きょくらいらせつ)神謳万雷(しんおうばんらい)
咆進快速(フルスレイドル)
・アドヴェイン・スロー
乾坤一擲(けんこんいってき)
・プレジデントホッパー
天空神の加護(レプライ・ウーラノス)
全身全霊(フルドレイズ)奮魂絶闘(オーバード・ソウル)
・ドミノチェイン・ストライカー
・トルネードレッグス レベル4→レベルMAX
破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)昇華(スタンバイ)
英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)昇華(スタンバイ)
絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)
明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)
連刀二十刃(れんとうはだち)
罰閃乱(ばつせんらん)佐々波(サザナミ)
封栓認視界(ブロット・ウラタナ)
破界の視覚(ミュリミア・メナトス)
速刃(そくじん)雲払(くもばらい)
・デュアルリンク レベルMAX
煌軌一閃(こうきいっせん)
爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)爆芯輪転蹴(メテオ・ドリンラム)
雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)
・グラッセル・ゼイリアス
・ダイズン・ストンプス
拳乱(けんらん)五月雨(さみだれ)→選択可能
摩天来蓬(まてんらいほう)
・スート・アヴェニュー→局極到六感(スート・イミュテーション)
居合(いあい)切燕(きりつばめ)
天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)
天壱夢鳳(てんいむほう)
・セルタレイト・ケルネイアー
・フォートレスブレイカー
・スラッシング・ファンファーレ レベル1
・スパイラルエッジ
・セルタレイト・ヴァラエーナ
・ダースティ・クラッチ レベル6→レベル9
・マシニクル・リブラ
・ヴィールシャーレ レベルMAX
流天翔奏(るてんしょうそう)
・ミューサドール・パラダズム
衝拳打(しょうけんだ) レベル6→レベルMAX
・エトラウンズパウンド
・セルタレイト・ミュルティムス
王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)
刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)
刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)
・ピアッシングアーマー レベル4→レベル9
・アイアンレッグス→フルメタルレッグス
・クリティカルメナス レベル3→レベル7
・ニトロスマッシュ レベル4→レベルMAX
・デッドオブスリル
・スラッシュハイド レベル2
・シャイニングムーヴ レベル3→レベル9
・ラセルクロスアップ レベル4→レベルMAX
・シャープターン→選択可能
二天無双(にてんむそう)
・ディムセインスマッシャー→ホォロルゥクスマッシャー
剣人闘魂(サムライ・ハート) レベル3
・トルクチャージ レベル5→レベルMAX
・ヴァーミンガムスナッチャー
・ソニック・アサルト レベル4→レベル8
・メタルフィスト→アイアンフィスト
・アクロバット レベル1→レベルMAX
・ストロング・キャリアー
・サーファー・スロープ
同力相殺(シンクロ・ダウトラス)
虎崩擊(こほうげき) レベル1
皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)
・ガードバッシュ レベル1
・アサイラムサイン
・シールド・スティーブ
速崩巌砕(そくほうがんさい)
窮戦剋意(きゅうせんこくい) レベル1
鬼蹴(おにげ)り レベル1
英雄疾走(ヒーローダッシュ)
・プロテクト・スマッシュ
・ゲイルサベージ




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爪弾くは神秘、示されるは未知の可能性



新たな出逢い

※作者様の除夜ゲロにて神秘:星の能力が明かされたので変更します




終点と港の街・フィフティシア。

 

シャンフロ・第15の街にして、此の大陸を統治する『エインヴルス王国』の終わりの街として知られ、サードレマから分かれた三つのルートを通り、幾多の難関を越えた開拓者(プレイヤー)が辿り着く最後の街である。

 

ルートは異なれど、此処まで辿り着いたプレイヤー達のレベルは軒並み高い上、其の殆どがレベル80後半から90台前半に至っており、差異は有れども皆強い者ばかり。

 

そして聖盾(せいじゅん)イーディスがもたらした、モンスターの連続襲来を乗り越え続けた事で、アイトゥイルはレベル87、レーザーカジキはレベル83にまで上昇し、既に一線級で戦えるだけのレベルになった。

 

「Animaliaさん、SOHO-ZONEさん、マッシブダイナマイトさん、レーザーカジキさん。今日は此方の呼び掛けに答えて下さり、本当にありがとうございました」

「アイトゥイルちゃんを堪能出来たし、ペッパーさんの実力を間近で見れて良かったわ。レーザーカジキさんを良くしてくれて、ありがとうね」

「何か新しい武器が見付かったら、是非とも声を掛けて下さい。価値に見合う金額や報酬を提示します」

「良い経験になったわぁ~♪」

「と、とても楽しかったです…!ありがとう、ございました…!」

 

フィフティシアの街に入り、パーティーを組んだトッププレイヤーに御礼を言いつつ、パーティーを解消して街を歩く。

 

此れからの予定を聞いた所、Animaliaとレーザーカジキは宿屋でセーブとログアウト、マッシブダイナマイトはクラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)の根城たる『黒狼館』へ帰還、SOHO-ZONEはクラン:ウェポニアの本拠地に戻って聖盾イーディスの事を資料に纏めるのだとか。

 

そしてやはりと言うか、当たり前と言うか。高レベルプレイヤーの一団が、其れもシャンフロをプレイする者からすれば、名の知れたプレイヤーが行動を共にしている状況は、良くも悪くも目立つ物であり。

 

「マッシブダイナマイトさんだ……!」

「園長に武器狂い、あと廃人狩りまで居る……」

「名無しプレイヤー誰だよ……」

 

往来する他のプレイヤーのざわめき声を耳にして、一向は足早に其の場を離れ、街の裏路地へと入る。

 

「やっぱり昼間だと目立つなぁ、此のコート……」

「色々目立ってるからねぇ、ペッパー君」

「ウフフフ、有名になると大変ねぇ~」

 

影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)の強制装備状態を解除し、状況に応じた装いがしたいと思いながら歩いていると、ペッパーの視線の先に一人の老人が胡座を掻き、座っているのに気付く。

 

「ん………?」

 

其の老人は立派な白い髭を蓄えており、涅槃に至った様に腕を広げ。顔までスッポリとローブで覆い隠し、不思議な紋様を背中に背負い、質素な絨毯に座っている。

 

「ペッパー君、どうしたの?」

「あの御爺さん、誰なんだろうって」

 

ペッパーが指差す先を見た他のメンバーも、其の老人に気付いて慎重に近付いて行き。其の老人は突然喋り始めた。

 

『強きに至りし者よ……。(なんじ)神秘(アルカナム)を、覚醒してしんぜよう……』

「神秘?何ですかソレ?」

『強気に至りし者よ……。汝が神秘を、覚醒してしんぜよう……』

「あ、昔のレトロゲームのNPCみたいな奴か」

 

何度話掛けても、同じ会話しか繰り返さないタイプだと判断したペッパーは首を傾げ、同時にローブで見えていない其の老人の視線が、Animalia・SOHO-ZONE・ペンシルゴン・マッシブダイナマイトの四人に注がれているのに気付く。

 

「此のおじいちゃん、さっきから同じ事しか言わないねぇ?ボケてるのかな?」

「辛辣だなオイ……。どうもペンシルゴンとSOHO-ZONEさん、其れとAnimaliaさんにマッシブダイナマイトさんが関係してるみたい」

「えっ、そうなの?」

「あら、私も?」

「自分も……ですか」

「まぁまぁ……」

 

神秘と言う気になるワードを放つ、老人が起こしたイベント。誰が先にやるか、水面下での視線の送り合いの末、先陣を切ったのはSOHO-ZONEだった。

 

「どうも、よろしくお願い致します」

『強気に至りし者よ……。汝が神秘を、覚醒してしんぜよう……』

 

絨毯に座り、声を掛けた其の直後。SOHO-ZONEと老人を包むように、絨毯が展開してドーム状に二人を覆い隠した。

 

「あわわ……!どどどど、どうしよう……!」

「落ち着きなさい、レーザーカジキさん。此れは一種の演出よ、慌てない慌てない」

 

パニックになるレーザーカジキをAnimaliaが静めていると、蓮の華が開くように絨毯が元に戻り、手に『1枚のカード』を掴んだSOHO-ZONEと、老人が現れる。

 

「何が起きました、SOHO-ZONEさん?」

「簡単に述べると『神秘(アルカナム)』と言う、サブ職業(ジョブ)限定で付けられる『アイテム』を入手出来る………そんなイベントですね。因みに其のアイテムは『タロットカード』で、自分の場合は『隠者(ハーミット)』でした」

 

SOHO-ZONE曰く、どうやら此の老人は『覚醒の導師アーカナム』と呼ばれ、プレイヤーに対してサブ職業限定ながら、アイテム状の新しい職業を与えてくれるユニークNPCであり、其れがタロットカードの大アルカナたる22種に関係する物なのだとか。

 

そして【神秘(アルカナム):隠者(ハーミット)】には『習得難易度の高いスキル及び魔法を覚えやすくなる反面、習得難易度の低いスキル及び魔法を覚えにくくなる』と言う効果が有るらしい。

 

「サブ職業限定ねぇ……じゃあ、私もやってみようかしら」

 

SOHO-ZONEが手にした神秘が気になるAnimaliaは、自分は何れに成るのか確かめるべく絨毯に座り、先と同じく絨毯のドームに包まれて。数分後に出て来た彼女の手にも同様、タロットカードが握られていた。

 

「あ、あの……神秘は、何でした……か?」

「私は『太陽(サン)』だったわ。『昼間であればスキルと魔法の効果倍率が高くなって、夜間だと其の効果が逆になる』みたい。あと、何て言うのかしら……そう、此の神秘って『強力なんだけど極端過ぎて使いにくい』、そんな印象ね」

 

つまり神秘と言う特殊な職業は、プレイヤーにハイリスクハイリターンの恩恵を与える物で有り、其の能力も大アルカナに由来する物だと解る。

 

「ふぅーん………。なら私も試してみるか」

 

SOHO-ZONEとAnimaliaに続き、ペンシルゴンも神秘チャレンジをおこなって。数分後に出てきた彼女の手には、前の二人と同じくタロットカードが握られていた。

 

「で、ペンシルゴン。神秘は何だった?」

「私は『(ストレングス)』だったよ。『スキルや魔法での状態異常付与確率の向上と、格上の相手と戦う場合のステータス上昇。代わりに格下だとステータス低下と、一定時間内に一定以上のダメージを加えないと其の戦闘中永続ステータスダウン』って、ちょっと無視出来ないデメリットが付いてた」

「弱い者虐めせず、ジャイアントキリングしろって事かな?」

 

廃人狩りの名で知れ渡っていた、ペンシルゴンにある意味でピッタリな神秘だろう。そして最後にマッシブダイナマイトがアーカナムの前に座り、数分後に出てきたのだがタロットカードが握られていなかった。

 

「あれ、マッシブダイナマイトさん。タロットカードは?」

「其れが神秘を選んだら、身体の中に吸い込まれちゃってねぇ。あら、でも外せるみたいよぉ」

 

そうして掌に納めたタロットを見て、マッシブダイナマイトは自分が手にした神秘を説明する。

 

「私のは『戦車(チャリオット)』で、どうも筋力と敏捷を『常時二倍にする』代わりに、自身のスタミナ減少の『倍増』と、スタミナが尽きた時の回復速度を『半減』させちゃうみたいねぇ~」

「まぁた極端と言うか、強烈な神秘な事で……」

 

戦車は筋力と敏捷を高め、力は影響を与え。太陽は昼間に恩智をもたらし、隠者はスキル習得に影響を及ぼす。確かに極端なメリットデメリットを抱えているが、使いこなす事が出来れば面白い能力ばかり。

 

そうして一仕事終えてか、覚醒の導師アーカナムは絨毯に包まれて、一瞬で其の場から消えたのだった。

 

「………取り敢えず、本日はありがとうございました!」

 

対象メンバーの神秘チャレンジ終了と、ペッパーの言葉を皮切りとして、パーティーは此処にて御開きとなり、皆目的地に向かって歩みを進める。

 

一期一会か運命の巡り合わせが有るならば、開拓者達は再び集い、手を取り合って困難を乗り越えるだろう………。

 

 






各々の手にした神秘




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爽やかな波風に揺蕩い、勇者は力を示す



槍と盾の勇者はゆったりと休息す




フィフティシア行軍+無落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)臨時攻略パーティー解散後に起きた、覚醒の導師アーカナムによる神秘(アルカナム)獲得イベントから少しの時間が経過した。

 

時刻は現在午後三時であり、此処フィフティシアの波の音と潮の香りに海風が吹き、日光の暖かさも相まって日向ぼっこに丁度良い気候である。

 

そんな中、ペッパーとペンシルゴンの二人はフィフティシア某所に在るカフェテラスにて、海が見える一番良い席を一区画貸切としつつ、紅茶とスコーンでティータイムと洒落込んでいた。

 

因みに各々のクランに関わる話でも、此の店のマスターは口外しないと約束してくれている。

 

「まさか此の店がクラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)が出資してるカフェテラスの一つだったとは……。クラン連盟の恩恵が、こんな形で働いていたなんて完全に予想外だった………」

「まぁ彼処ってメンバーごちゃごちゃだけど、シャンフロじゃ最前線突っ走ってるクランだからねぇ。サイガ-100(百ちゃん)のカリスマもそうだけど、あの子の扱う『剣聖固有魔法【従剣劇(ソーヴァント)】』はド派手だから、熱狂的なファンも多いのよ」

「剣聖の固有魔法……かぁ。前にプレイしたレトロゲームの必殺技に、自前のエネルギーソードを生成・浮遊・ホーミングさせる技が有ったなぁ……」

 

ペンシルゴンの話を聞きつつ、ふと思い出すは兎御殿で遭遇した猫妖精(ケット・シー)のアラミース。確か彼も剣聖と言っており、アイトゥイル達が束になっても勝つのは難しいと言っていたので、黒狼の団長も同様か其れ以上の強さかもしれない。

 

「あと驚いたのは、此のカフェテラスが『テイムモンスターの立ち入り禁止じゃなかった事』だなぁ……」

 

ふと視線を移せば、モンスター専用の椅子とテーブルに着き、人参味のスコーンを噛るアイトゥイルと、フィフティシアに到着した事で自らを縛った制約から解き放たれ、元の力を取り戻したポポンガが優雅に紅茶を嗜んでいる姿が。

 

一応ペッパーも入店前、店員へ事情の説明を行った所、快く許可を貰ってホッとしている。もし駄目なら別の店を探すか、一羽と一匹を隠して入店するしか無かったので助かった。

 

と此処でペンシルゴンがテーブルに肘を置き、妖艶な目をしながらこんな事を言ってきた。

 

「そう言えばさ、ペッパー君。今の君ってレベル幾つなの?」

「ん?今のレベル?俺77だが?」

「フムフム……ぶっちゃけ聞くけど、ペッパー君のスキルって『神系統』に届いてるよね?」

「……………へ?」

 

無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)攻略中から、否━━━━━『他のエリア踏破中』からずっと。ペンシルゴンは、ペッパーの動きを見続けていた。連続空中ジャンプにダッシュ、バフスキルをエフェクト等々、一つ一つを観察し続けていた。

 

本来は神の名を冠するスキルに魔法達は、習得に漕ぎ着けるまで膨大な戦闘経験を要する。だからこそ『おかしい』と彼女は感じた。

 

墓守のウェザエモン━━━━レベルを50に固定して戦うという、理不尽極まるユニークモンスターに備えてレベルを50まで上げていたが、戦いを終えて魔神の丸薬による副作用でレベル20に下がっていたオイカッツォは、戦いの後に得られた経験値でレベル48まで戻ったらしい。

 

であれば、だ。少なくともレベルが25上がっていなくては、其の計算が合わない。そして新しいスキルの習得や、スキルの進化には莫大な経験値が必要になる。なれば、考えられる答えは『唯一つ』。

 

「もっと詳しく言おうか、ペッパー君。君は『戦闘で得られる経験値を半減させる』━━━━そんなアイテムかアクセサリーを持ってるんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりペンシルゴンって、キョージュと同じで僅かに情報を漏らしたら、大体の当たりを付けてくるの怖いわ。其れがペッパーの抱いた、ペンシルゴンに対する評価である。

 

(何時からバレてたのかなぁ………)

 

オーバードレス・ゴーレム、ストームワイバーン"威風堂々(リーガルック)"との戦いからか、もしくは其れ以前からかは解らない。

 

「………根拠は?」

「ん~?勘かな?」

「そんなんで良いのかよ………」

「いーの。其れに女の勘って、大体当たるんだよ?ペッパー君」

 

ニンマリと微笑むペンシルゴン、ペッパーは腕輪の出自に関する重要情報を秘匿しつつ、此の状況を乗り切るべく、右手首に着いたままの腕輪を見せる。

 

「……大体当たりだな、ペンシルゴン。理由としてはコレ」

「腕輪?見た感じは何の変哲も無い、金色の腕輪のように見えるけど」

「此方の『ユニーク関係』で手に入れた代物でね。レベルアップする度に外すか否かを選択が出来、装備中は戦闘経験値を半分にする代わりに、レベルアップ時のステータスポイントを1,5倍+スキル及び魔法の進化と習得率に影響を与えてくれる、そんな効果を宿したブッ壊れの腕輪」

「…………マジ?」

「マジ」

 

シャングリラ・フロンティアというゲームは、高い自由度と現実世界の物理エンジンが働く、凄まじい完成度を誇る神ゲーなのだが、根本的なゲームカテゴリーは所謂スキル魔法ゲーに分類されている。武器や防具にアイテムは勿論、話術・反射神経・反応速度等のプレイヤースキルも立派な手札では有るが、其の戦略や戦術に直接影響を与える物がスキルと魔法なのだ。

 

如何に反射神経や反応速度が優れていたとしても、其れを容易く引っくり返し得る可能性を秘めているのが、何を隠そう『神の名を冠するスキルや魔法』であり、使い方によっては一手で戦局を変えられる。

 

「えぇ………っと、ペッパー君?君、其れ何時から着けてるの?」

「ウェザエモンさんとの戦いの前からだが?」

「…………つまり君は、既にレベル99に匹敵するステータスとスキルを保有してる………と?」

「まぁ、そうだな」

 

サラッと言っているが、普通に考えればとんでもない事だ。数時間前に此方を煽りに煽って走り去って行った半裸の鳥頭(サンラク)が、三日会わざる内にレベル99のカンストまで行ったのもヤバい。そして総合的に見れば、レベル70後半時点で神系統のスキルに手が届いているペッパーも、大概ヤバいのだ。

 

そしてペンシルゴンは知らないが、既にペッパーの主力級スキルの一部は、昇華(スタンバイ)の領域にまで到達している。腕輪がもたらす恩恵は、獲得経験値半減+レベルアップまで外せない制約を差し引いて尚、おつりが出る程のヤバい代物なのである。

 

「レベルダウンビルド勢が、血涙流して歯軋りしそうだねぇ………」

「魔神の丸薬使って行うんだっけ?」

「そうそう。積み上げてきた物を失う喪失感に苛まれながら、歯を食い縛って戦うのだよ……。別の手段が有れば、其れを用いるんだろうけど」

 

ぐいっと紅茶を飲み干して、一息着いたペンシルゴンはステータス画面を操作しながら、自身のスキルを確認するペッパーを見つめる。あの腕輪を此のまま装備し続けて、其の果てにレベル99まで登り詰めたなら、一体どうなるだろうかと興味が湧いてくる。

 

「あぁ、ペンシルゴン。俺此れから特技剪定所(スキルガーデナー)で、今の自分のスキルを整理したいんだが良いか?」

「良いよー。ねぇ、あーくん。其れが終わったらフィフティシアの観光しようよ、とっておきの穴場スポットも知ってるからさ」

「穴場スポットかぁ……興味も有るし、付き合うよ」

 

ペッパーが一日フリーである事を利用し、ペンシルゴンは此のまま、夜までデートを続けんと画策し、思考を巡りに巡らせる。今日一日で彼との距離を更に詰めて、行く行くは『電話番号交換』に漕ぎ着けんと、此の先の事を考えていく。

 

フィフティシアに、シャンフロの世界に夕暮れ刻が迫っている…………。

 

 

 

 

 






ペッパーの力を支える逸品




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胡椒の香り漂い、焦燥と喧騒を呼び込む



フィフティシア観光への準備




 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)

 

 

レベル:77

 

 

メイン職業(ジョブ):バックパッカー

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

 

体力 130 魔力 50

スタミナ 180

筋力 150 敏捷 160

器用 125 技量 125

耐久力 3051 幸運 70

 

 

 

残りポイント:0

 

 

 

 

装備

 

 

 

左:無し

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:無し

 

頭:ライノベレーの帽子(耐久力+350)

胴:影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)(耐久力+2000)

腰:発掘研磨腰帯【古兵】(耐久力+400)

脚:烈風竜印のズボン(耐久力+300)

 

 

 

 

 

アクセサリー

 

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

格納鍵(かくのうけん)インベントリア

 

 

 

 

所持金:51,719,890マーニ

 

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

窮速走破(トップガン)

偉風導動(リーガルック)

 

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

 

 

致命武技

 

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】捌式

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】玖式

致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】玖式

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式

 

 

 

スキル

 

 

 

死神の斬撃(デス・マサカー)

終極刺突(グルガ・ウィズ)

真界観測眼(クォンタムゲイズ)

・ブルズアイ・スロー

・フィーバー・シャイニング

頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)

冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)

戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)昇華(スタンバイ)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)

韋駄天権現(いだてんけんげん)

・レーアドライヴ・アクセラレート

神律燼風(しんりつじんふう)

十傑斬覇(じゅうけつざんは)

神謳万雷(しんおうばんらい)

咆進快速(フルスレイドル)

・アドヴェイン・スロー

乾坤一擲(けんこんいってき)

・プレジデントホッパー

天空神の加護(レプライ・ウーラノス)

奮魂絶闘(オーバード・ソウル)

・ドミノチェイン・ストライカー

・トルネードレッグス レベルMAX

破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)昇華(スタンバイ)

英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)昇華(スタンバイ)

絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)

明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)

連刀二十刃(れんとうはだち)

罰閃乱(ばつせんらん)佐々波(サザナミ)

封栓認視界(ブロット・ウラタナ)

破界の視覚(ミュリミア・メナトス)

速刃(そくじん)雲払(くもばらい)

・イクス・トリクォス レベル1

煌軌一閃(こうきいっせん)

爆芯輪転蹴(メテオ・ドリンラム)

雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)

・グラッセル・ゼイリアス

・ダイズン・ストンプス

拳雨怒濤(けんうどとう) レベル1

摩天来蓬(まてんらいほう)

局極到六感(スート・イミュテーション)

居合(いあい)切燕(きりつばめ)

天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)

天壱夢鳳(てんいむほう)

・セルタレイト・ケルネイアー

・フォートレスブレイカー

・スラッシング・ファンファーレ レベル1

・スパイラルエッジ

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ボンバーナ・グラップル レベル1

・マシニクル・リブラ

流天翔奏(るてんしょうそう)

・ミューサドール・パラダズム

衝拳打(しょうけんだ) レベルMAX

・エトラウンズパウンド

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)

刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)

刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)

・ハンド・オブ・フォーチュン レベル1

・フルメタルレッグス

・デッドオブスリル

・スラッシュハイド レベル2

・シャイニングアサルト レベル1

・マーシフルチャージャー レベル1

・リコシエット・ステップ レベル1

二天無双(にてんむそう)

・ホォロルゥクスマッシャー

剣人闘魂(サムライ・ハート) レベル3

・ヴァーミンガムスナッチャー

・アイアンフィスト

・アクロバット レベルMAX

・ストロング・キャリアー

・サーファー・スロープ

同力相殺(シンクロ・ダウトラス)

虎崩擊(こほうげき) レベル1

皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)

・ガードバッシュ レベル1

・アサイラムサイン

・シールド・スティーブ

速崩巌砕(そくほうがんさい)

窮戦剋意(きゅうせんこくい) レベル1

鬼蹴(おにげ)り レベル1

英雄疾走(ヒーローダッシュ)

・プロテクト・スマッシュ

・ゲイルサベージ

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)でドロップしたアイテムを一部残して売却し、フィフティシアや周辺の地図の購入、ステータスにポイントの振り込みと特技剪定所(スキルガーデナー)でスキルの整理を行ったペッパーは、ペンシルゴンと共に街を歩く。

 

「ねぇねぇ、此れ見て」

「何々………花か?」

 

陽は夕方へ傾きつつ有る街を行き、店頭の商品を見ては手招きするペンシルゴンが、花屋の前で手招き。花瓶に収まった花を見ながら、彼女は言う。

 

「そう、花。実は『花を売ってるNPCの女の子』を助ける、普通のクエストが有ってね。其の報酬で貰える花が『トワセツナ』っていうの」

 

彼女が言うクエスト、花の名前、そしてNPC。此の世界の天音 永遠(アーサー・ペンシルゴン)を知る五条 梓(ペッパー)は、彼女が何を考えているのか少し解った。

 

「トワセツナ……。つまりペンシルゴンは、其れを花束にして、セッちゃんの墓に御供したい━━━と?」

「ザッツラーイト♪今度ペッパー君がサードレマに来たら、一緒に其のクエストやらない?」

 

近況報告も兼ねての墓参りも悪くないなと考え、ペッパーはこう答える。

 

「そうだな……ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスと戦えるクエストも有るし、同時並行でクリアするつもりで受けても良いかな?」

「うん、其れでも良いよ。私も其の二匹の昆虫の事、気になってたんだよね。雷属性と風属性をデフォルトで備えてる、そんなモンスターにさ」

「ただあの二体は、プレイヤーが使ってきた武器を参照して、片方しか襲ってこなかったり、逆に両方同時に襲ってきたりで、かなり厄介な相手だ」

 

話をしつつも、ペッパーはEメールアプリを開いて時刻を確認する。時刻は現在午後五時の一分前、自分の予想が正しければ、もうすぐユニーククエストEXの発生時刻帯に突入し、万が一ペンシルゴンも巻き込んだなら、十中八九『オハナシ案件』待った無しになるだろう。

 

なので購入した地図で人通りの多い場所から、裏路地に入るルートに入らないように注意しつつ、彼女と共に街を歩く━━━━━━━━筈だった。

 

「見付けたぞ『サードレマの黒い流星』!俺様と一緒に来て貰おうか!」

 

夕方から夜間で遊ぶプレイヤーがログインする時間に、其れも他のNPC・開拓者問わず沢山の人が居る大通りで、一人の男性プレイヤーが声を放って指を指し。其れによって周囲の視線がペッパーに向いた。

 

(え、何?君また何かやらかしたの?)

(んな訳有るかい!?口から出任せだろ……)

 

ヒソヒソ話を交えつつ、ペッパーとペンシルゴンは無視して歩くのが、其れを気に食わなかったのだろう。其のプレイヤーはペッパーが着込んだ、ブラックトレンチロングコートの袖を掴んでくる。

 

「わ、ちょっ……!?」

「其の面を拝んでやるっ━━よぉ!」

 

ペッパーも抵抗しようとするが、掴まれた反動で体勢が崩れてしまい、ペンシルゴンが引き剥がそうとするも、時既に遅く。フード部分に手を掛けられて捲られた事により、ペッパーの顔が衆人環視の元に晒される事となってしまった。

 

そして当然ながら、シャンフロにおいて表面上は三体のユニークモンスターに接触し、其の中の六体の名前を知り、内一体を討伐したペッパーの名はプレイヤー及びNPCの間では有名である。

 

となれば当然、姿を見られたペッパーはペンシルゴンを無言でお姫様抱っこして、街を疾駆するのに数秒と掛からず。そして其の行動によって、プレイヤー達が狂気乱舞するのは必然であり。

 

『ペッパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?』

『居たぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!居たぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

『情報寄越せェェェェェェェェェェェェェェ!!!』

 

叫び声がフィフティシアに木霊して、混乱が嵐を纏って港町に喧騒をもたらし。開拓者達はペッパーとペンシルゴンを追い掛け始める。

 

「くっそっ、何でこうなるんだよ!?ペンシルゴン、何処か良い隠れ場所知らない!?」

「エヘヘ………♪」

 

あ、ペンシルゴンが駄目になった。彼女の顔を一瞬見て、表情がポワポワした物に変わってしまった彼女に、ペッパーはガックリと肩を落としそうになるものの、此のままでは何れジリ貧になると思考。

 

自分とペンシルゴン、アイトゥイルにポポンガを守りつつ、適度な時間稼ぎが出来る上に新しいスキルを試せ、何より呪いの装備化している愉快合羽を、解除に繋げるクエストが出来る状況を引き起こすために、入りたくはなかった裏路地に逃げ込む事を決意。

 

後ろから迫る開拓者の津波から逃げるように、前もって確認した地図から、裏路地へと続くルートを割り出して走り続け、其の場所へ飛び込んだ。

 

直後、ペッパーの身体を襲うは実に三度目(・・・)となる、下へ引き摺り込まれる感覚であり。お姫様抱っこをされたペンシルゴン、コートの内側でペッパーの胴体に張り付くアイトゥイルとポポンガ、そしてペッパーの二人と一羽と一匹のパーティーは、フィフティシアの裏路地から忽然と姿を消し。

 

後を追い掛けてきた開拓者達は、裏路地に逃げ込んだペッパーを探すべく、表通りだけでなく裏路地にも捜索の目を光らせるのだった…………。

 

 

 

 

 






ユニーククエストEX発動




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歌は高らかに、誰かに届くように



此れはお前が決めた道




ペッパーが影法師が課した試練により、裏路地から劇場へ案内された頃。ユートピア社内地下10階の原典閲覧室にて、シャングリラ・フロンティアの創世神たる継久理(つくり) 創世(つくよ)は年代のPCに向き合っていた。

 

「ペッパー、オルケストラのユニーク遺機装(レガシーウェポン)に至る為の試練に入ったか」

 

黒闇の中に吸い込まれ、劇場へと案内されていく姿を神の視点から見つつ、彼女は『プログラム』を起動する。

 

「三回目の試練。だけど、此れ以上進ませる訳には行かない」

 

ペッパーの今に至る(・・・・・・・・・)戦闘の記憶を、今回の影法師に反映したデータが、七つ在るサーバービルの一つ『オルケストラ』に送信され、同時にアップデートを行っていく。

 

「さぁ………オルケストラの課した試練。越えられるなら越えてみなさい、ペッパー」

 

創世の神が記したデータから、オルケストラ━━━━『冥響(めいきょう)のオルケストラ』は影法師を強化する。そして同時に挑戦者へ叫ぶ。

 

彼女の歌を聴いて(・・・・・・・・)………と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……来た来たァッ!」

 

浮遊感、後に足裏に痺れ。落下ダメージは発生しておらず、辺りを見渡せば薄暗いながらも、三度目の風景たる中世ヨーロッパ風劇場と観客席が在った。

 

「無事に入場出来た訳だが……他のプレイヤーが入っても大丈夫な訳か」

 

フィールドに入る事自体は出来るらしいが、戦闘が始まれば一対一がデフォルトになる事から、おそらく此の影法師を操るユニークモンスターの攻略推奨人数は、『一人』である可能性が極めて高いと見て良いだろう。

 

「ペッパーはん、また此処なのさね」

「来おったか……劇場の中に」

「だな。おーい、おーいペンシルゴーン。目を覚ませー」

「ウフフ………♪」

「駄目だコリャ……」

 

使い物にならなくなったペンシルゴンを下ろし、肩を揺さぶらんとした其の瞬間、伸びてきた黒い影の手がコートから出て来たアイトゥイルとポポンガ、そしてポワポワ状態のペンシルゴンを掴んで、ステージから退場させていく。

 

「ペッパーはん、頑張ってなのさ!」

「ペッパーよ、気張れよ……!」

「あぁ、確り攻略してやるぜ!」

 

ステージに唯一人残されたペッパー、彼の耳に聞こえ響くは、三度目となる歌声。しかし其の歌声のリズムが今までとは違う(・・・・・・・)

 

『ラララ………ラララ、ラララ~♪ラララララ~~~ラーーーーーー…………♪』

 

同時に注がれるは、スポットライトの光達。白く、白く、白く。視界が、ステージが塗りつぶされ、観客席はオレンジのライトが点り、場内が明るくなっていく。

 

『ララ、ラララー♪ラララララ~、ラララ………ラララ~~…………♪』

 

歌声が響く。自分だけに捧げられる様に。

 

『私は………貴方の強さを知った。貴方の奏でる………歌を聴いた。私は歌い、貴方も歌う…………』

 

其の声はやはり『悲しそう』に聞こえ。足元を見れば影が蠢き、離れて黒いペッパーの形を作り出す。

 

『影は何時も貴方を見る………』

 

飛来する影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)を掴み、黒ペッパーが袖を通して静かに立ち上がる。

 

『さぁ、三度示して……貴方の光を。影が見つめる、貴方の輝きを。揺らぐ事無い、貴方の強さを……』

「今回は何時の自分が来…………!?」

 

ペッパーが甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)とイレベンタルで入手した新武器・風竜骨の筋鞭(ストーム・ウィッパー)を装備したのに対し、黒ペッパーが装備したのは何と両脚に『レディアント・ソルレイア』、左手には『聖盾(せいじゅん)イーディス』が。

 

「おい、嘘だろ………?『今日討伐したオーバードレス・ゴーレムの時の自分』………!?」

『影は時間を問わず、場所を問わず……。見定むは……過去と、今……。乗り越えるは未来の己━━━━━!』

 

 

 

 

 

ペッパーを示す物語。幻想曲(ファンタジア):尽きる事無き英雄譚(インフィニティ・ヒストリア)

 

 

 

 

 

創世の神が施した強化(アップデート)により、本来なら定められたペッパーの試練が、此の瞬間より書き変わる。

 

題名は言い放たれ(タイトルコール)、そして黒ペッパーはペッパーへと、容赦無く襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………………』

「だぁい!?」

 

戦闘開始から一分。黒ペッパーとペッパーの戦いは、現時点で黒ペッパーが優勢である。

 

理由は三つ。一つ目が、勇者武器(ウイッシュド.ウェポン)とユニーク遺機装(レガシーウェポン)同時装備という、黒ペッパーとペッパーの間に在る、圧倒的な戦力差を埋めに来ている事。

 

二つ目が、使うスキルと使える武器が最新のペッパーとほぼ同じであり、イレベンタルで入手した鞭と手斧を除けば、自分に近しい状態だという事。

 

そして三つ目…………其の三つ目こそが、ペッパーが黒ペッパーに勝つ上では、絶対に乗り越えなくてはならない確定事項。相手に『窮速走覇(トップガン)』を使わせなくては、スピード勝負で土俵に立てない事。

 

(盲点だった………!そりゃそうだ!影は『何時も』自分を見てるなら、過去の自分だけじゃなくて今に近い自分も、彼方は出してくる『可能性が在った』筈……!二度に渡って昔の自分を出された事で、其処に対する警戒が疎かになってた!)

 

自分の影法師に対する思考の甘さを改め、当時の自分が持つスキルや使用武器の種類を、脳内記憶から引き摺り出しては、繰り出される攻撃を何とか凌いでいく。

 

((ペッパー)に有って、彼方(黒ペッパー)に無い物をぶつけろ!其れが勝利に繋がる道になる……!)

 

風竜骨の筋鞭をクリスタルナイフに切り替え、ウツロウミカガミ起動で距離を離し、其所から聖盾イーディスへ装備変更。サブ職業(ジョブ)に勇者がセットされ、シャイニングムーヴとソニック・アサルトの合成スキル『シャイニングアサルト』で一気に加速。

 

同じくイーディスを構え、残された残像(ヘイト)を蹴り続ける黒ペッパーに突貫、盾を使って殴るというシンプルながらも、盾の耐久値によりダメージが伸びる攻撃スキル『プロテクト・スマッシュ』、自身の『幸運値を参照するスキル』で、サンラクもウェザエモン戦で使用した格闘スキル『ハンド・オブ・フォーチュン』を点火。

 

黒の閃光がステージを駆け抜け、黄金の盾に金色のエフェクトが纏わり、呪いの影響で装備が無い右側から思いっきりぶん殴って、後方に大きく吹き飛ばす。だが黒ペッパーは其の両脚に、レディアント・ソルレイアを装備している。吹き飛ぶ方向と逆にブーストを掛ける事で、彼方との距離を取らせず、即座に距離を詰めに来た。

 

「だぁ、もう!復帰するのが速いっての!?」

 

四の五の言って入られず、ペッパーも甲皇帝戦脚からレディアント・ソルレイアに装備をチェンジ。対する黒ペッパーは装備をイーディスから、風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】に切り替え、抜刀。

 

同時に刀身から巻き起こす風と雷を食らい、黒ペッパーのレディアント・ソルレイアが『エネルギー、フルチャージ!』の音声を鳴らし、劇場に響かせた。

 

戦いは、第二ラウンドに突入する━━━━━━。

 

 

 

 






強くなったのは、お前だけではない




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影法師は歌を奏で、勇者は天を舞い、風雷が劇場に迸る



試練は続く




自分(ペッパー)というシャンフロでのアバターを、一言で言い表すならば『前衛偽装の高機動スキルアタッカー』だ。

 

地上だろうが、空中だろうが、両脚と闘志とスタミナが尽きない限り、何処までも駆け抜けて、昇って上がり、相手の攻撃パターンやスキルを分析する。

 

そして勝利の道筋が完成したなら、一気呵成に攻めへと転じ、スキルを惜しみ無く使い潰して、勝利を掴み取りに行く。其れがペッパーの、此のアバターの『プレイスタイル』なのだ。

 

「んなろっ……!同じ戦い方をするんなら、其の『弱点』だって解る……!」

 

高機動アタッカーの弱点、其れは『カウンター』だ。どんなに速く走れようが、どんなに高く飛べようが、自前のスピードにジャストミートで攻撃を食らわされれば、致命的大ダメージを負うし、其の一撃で死亡する事は避けられない場合が多い。

 

高速の交錯の中で、黒ペッパーの目がエフェクトを帯びる。おそらく使ったのは、瞬刻視界(モーメントサイト)天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)。スローモーション+俯瞰の視点で此方が繰り出す攻撃を、高速移動中にカウンター(・・・・・・・・・・・)するつもりなのだろう。

 

(━━━━━━━って、俺なら(・・・)そう考える!)

 

現在に近い状態の黒ペッパーを出された事で、ペッパーは『自身の思考も模倣している』可能性を考慮。左手に装備したイーディスを投擲スキルであり、其の『飛距離と投擲速度』が高潔度・歴戦値を参照して決定する『アドヴェイン・スロー』と共にモーションに入り、踏み込みの瞬間に『別のスキル』を起動させる。

 

金色の盾が高速で投げられ、刹那に劇場内を大音量が鳴り響く。

其れは例えるならば『万に等しい雷鳴と無数の雷閃』。

其れは謂わば『一瞬の内に数十に渡る、超高速で昇降縦横の移動を行う』物。

そして其れは『神が地上へ裁きの稲妻を降らすが如し』。

 

神の御業たる領域へと踏み込む、神名冠する其の技能(スキル)の名は━━━━

 

神謳万雷(しんおうばんらい)!」

 

跳躍し、天井を蹴ってはレディアント・ソルレイアの飛翔能力で空中を舞い踊り、『リコシエット・ステップ』で壁を蹴って空中を駆け、黒ペッパーへ突撃するペッパー。

 

対する黒ペッパーは『スート・アヴェニュー』並びに『戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)』で感覚と動体視力を強化、同時に持っていたイーディスを、焔将軍(ほむらしょうぐん)両刃長剣(ロングソード)に切り換えてきた。

 

(ギリッチョンで避けてから、首の叩ッ斬るつもりだろう。いや、黒ペッパー(アイツ)ペッパー(俺である)なら、其処から………!)

 

レディアント・ソルレイアのブーストを全開とし、空中で描くは六芒星。其の中心でイーディスを掴み取り、『対象の頭を狙い投擲』する投擲スキル『ブルズアイ・スロー』で再び盾をぶん投げて、其れすら追い越す勢いで真っ直ぐに、直線高速移動を行い、同時にサキガケルミゴコロで黒ペッパーの狙いが『正しい』かを見極め。

 

黒ペッパーは手に取った両刃長剣を手から離し、英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)の強化を自身に上乗せながら、トルネードレッグスで持ち手たる柄を蹴り、サッカーボールの様にして飛ばしてきたのだ。そして同時に、黒ペッパーは左手にイーディスを取り直す。

 

「ッ……!だよなァ、俺でも『そうした』よ!」

 

飛来する両刃長剣をペッパーは回避━━━━━ではなく、動体視力強化と思考加速に加えて『攻撃の波を可視化する』スキルの『真界観測眼(クォンタムゲイズ)』により、両刃長剣の投擲と背後に在るトルネードレッグスの衝撃波を視認し、自身の『五感及び直感を大幅に強化』するスキル『局極到六感(スート・イミュテーション)』で更に感覚を強化。

 

両刃長剣の持ち手を掴まえ、レディアント・ソルレイアのブーストを吹かして回転、全力の投擲でダイナミック返送を行う。

 

対する黒ペッパーもレディアント・ソルレイアで其の場を逃れるや、残り二発のトルネードレッグスをアイアンレッグス・ピアッシングアーマー・クリティカルメナスの重ね掛け。

 

駄目押しにトルクチャージで再使用時間(リキャストタイム)を短縮しながら縦回転蹴りを打ち放ち、ペッパー目掛けて攻撃を行う。

 

「ジャストタイミン………グゥッ!」

『………………………!』

 

が、ペッパーは其れを『読んでいた』。ブルズアイ・スローで予め投げていた聖盾イーディスが左手に収まり、重ね掛けられたトルネードレッグスの衝撃を、黄金の鏡面は真正面から受け止め、持ち主たる勇者を守り抜く。

 

だが、複数の攻撃スキルによる重ね掛けられた衝撃は凄まじく、直撃を防げど発生したノックバックにより、ペッパーは劇場内を飛んで行き。黒ペッパーはレディアント・ソルレイアのブーストと共に、驚雷羅刹(きょくらいらせつ)を起動して一気に距離を詰めながら、爆芯蹴脚(メテオ・アドレウズ)の体勢に入る。

 

『……………………』

「ッ!」

 

タイミングは一瞬、イーディスから風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】に切り換えて、居合より放つは斬撃スキル『煌軌一閃(こうきいっせん)』。

 

高潔度・歴戦値を参照にしながら、強力な『飛ぶ斬撃』を可能とする一撃を、剣人闘魂(サムライ・ハート)並びに二天無双(にてんむそう)、至近距離から超至近距離下での戦闘時に感覚が強化される『デッドオブスリル』で上乗せ。

 

更に其所へ居合(いあい)切燕(きりつばめ)】と共に、デュアルリンクとヴィールシャーレの合成から生まれ、使用したスキルの補正と威力上昇を与え。同時発動時に『足が地面から離れた場所である程』に上昇値が増大する合成スキルの『イクス・トリクォス』。

 

そしてトルクチャージ・ラゼルクロスアップの合成により、スキルレベルに応じて再使用時間短縮+次に同じスキルを繰り出す場合に威力と補正を高める『マーシフルチャージャー』と共に翡翠の刃を抜き放つ。

 

風と雷を乗せた刃が黒ペッパーの首に向かって飛ぶが、其れを読んでいたとばかりに、爆芯蹴脚のモーションからレディアント・ソルレイアのブーストを全開とし、サマーソルトキックの要領で吸収してしまう。

 

『……………………!?』

 

再び元の体勢に戻った時、黒ペッパーが目撃したのは居合を放った筈のペッパーが一瞬で再抜刀状態になりながら、超至近距離に飛び込んでいた光景だった。

 

神謳万雷と共に神の名を冠するに至り、今もペッパーを支える其のスキルは、あらゆるモーションから発生する運動エネルギーを、自身のスタミナを対価に変幻自在に操作、其の動きを『早送り』にも『急停止』にも『突発的な加減速』をさせる事も、朝飯前が如く可能にする。

 

碧千風は、黒ペッパーにレディアント・ソルレイアの風雷吸収効果を使わせる為の『第一の囮』。

 

首を狙っての居合による遠距離一閃は、サマーソルトキックのモーションを誘発させる為の『第二の囮』。

 

セルタレイト・ケルネイアーによる空中下での跳躍、そして『神律燼風(しんりつじんふう)』によるモーションを高速化させた、碧千風の再納刀と再抜刀による、神速の抜刀居合。其れこそ、ペッパーの『本命』であり。

 

「ペッパー流……断風(たちかぜ)ェアッ!!」

 

墓守のウェザエモン━━━━━ウェザエモン・天津気(アマツキ)が代名詞たる絶技を、自身のスキルと共に再現しながら。神の速さたる風の力を借り、解き放った神速の抜刀居合が、黒ペッパーが構えんとしたイーディスを寸分速くすり抜けて、其の胴体を切り裂いたのだった。

 

 

 

 

 






其の一太刀が再現するは、墓守の御人の超絶技能




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放たれる窮速、勇者は星の剣を掲げる



加速する戦い




「ん……………ふうっん………んんん?」

 

ふと目を覚ませば、見知らぬ天井が在った。━━━━なんて、数十年前の二次創作小説の導入なんかで良くある光景を、此の日私は体験した。

 

気が付いた、と言うより━━━━『トリップ』。幸せで心が充たされて、頭は思考のネジが取れてしまった……そう言った方が良いのだろうか?

 

意識が戻った私が見たのは、垂れ幕が掛かった舞台裏の様な場所。背中に感じるのは、複数の斜めに並んだ高級な椅子の感触。

 

起き上がって周囲を見渡せば、其処に在ったのは中世ヨーロッパの劇場めいた場所で、舞台が出来そうなステージと灯された多数のスポットライト、そして無数の観客席と私が居る複数のVIP席。

 

観客席の背凭れに登って、必死に目で何かを追っているアイトゥイルちゃんとポポンガのNPC達、其の視線を向けた先に在ったのは。

 

「ペッパー流……断風(たちかぜ)ェアッ!」

 

レディアント・ソルレイアを着け、空中で頑固者のウェザエモンが代名詞、神速の抜刀居合をエフェクトを纏って放ち。黒く染まった『あーくん』の胴体を切り裂く『あーくん』の姿が在って。

 

二人のあーくんが劇場で戦う、あまりにも理解不能な状況に、私はありのままの言葉を込めて言い放った。

 

 

「何これ」

 

 

━━━━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕留められていない。

 

翡翠の太刀を納刀し、直ぐ様イーディスに切り替えたペッパーは、そんな直感を抱いていた。自己流の断風、あの盤面は神律燼風(しんりつじんふう)単体ではなく、速刃(そくじん)雲払(くもばらい)】も加えて斬るべきだったと思ったが、黒ペッパーがペッパーの模倣体である以上、余計な一手は確実に気取られるとペッパーは思考。

 

故に自身が反応出来ないスピードで、サマーソルトキックからの防御姿勢の僅かな隙を狙い、相手を切り裂く『神速の抜刀居合』を選択したのだ。結果として見れば、黒ペッパーの着る愉快合羽の上から、裂傷付与の斬撃を刻み付けられたが、果たして其の選択が正しかったかは自分にも解らない。

 

だが其れでも、一つだけ朗報が有るとするなら。黒ペッパーが全身にエフェクトを纏い、明らかに自身を強化しているように見える、という事か。

 

「ふっ、上等!」

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル):窮速走覇(トップガン)は五分の間に限り、現在(・・)の敏捷数値を三倍&スタミナの減少を無効にするスキルである。単体でも使えば凄まじいが、やはり其の真髄は『複数の敏捷強化(スピードバフ)スキルを乗せて起動する』事。

 

現時点での敏捷数値を三倍にするので、重ね掛けしたバフが切れてもスピードは其の分だけしか落ちない。だからこそ、此処からの五分間は一番『厳しい』戦い━━━或いは『山場』、或いは『分岐点』とも取れる五分間になる。

 

黒ペッパーがバフスキルの重ね掛ける様に、ペッパーもまたバフスキルを小分けしながら重ねていき。其の直後、空中を駆けた黒ペッパーが此の場面で更に加速(・・・・)。前回自分が影法師相手にやった、聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)・ドロップキックを仕掛け。

 

其れを半分直感じみた反射的な行動(アクション)と共に、イーディスの差し込み(インターセプト)で防いだペッパーが、ステージ奥まで吹っ飛んで壁に叩き付けられた。

 

「ぐへっ!?だぁあ!?」

『━━━━━━━━』

 

窮速走覇━━━━━対人戦なのか、対モンスター戦なのか解らない影法師との戦い。実際に使われると、こうも違って見えるのか。単純に相手の方が速い、レディアント・ソルレイアのブーストに空中ダッシュ、そして無限のスタミナによる無限ジャンプで、黒ペッパーが劇場内を縦横無尽に飛んで跳ねて駆け回り、ペッパーも其の速度の中で生き残るべく必死に抗う。

 

「ぐあっ…なろ!?やっぱり『解って』やってるな………っう!」

 

脇腹を攻撃が掠め、ダメージが発生。盾を構えた位置を避け、ガードが出来ないor間に合わない位置を狙って、黒ペッパーが攻撃を当ててくる。しかも嫌らしい事に繰り出し当てる攻撃が『コンパクト』だ、速さは自身が上であるアドバンテージを大いに利用して、直前で攻撃の軌道を変えながら、確実に削りに来てるのが嫌らしい。

 

「うおっ、ぶね!?」

 

そして何より嫌らしいのが、黒ペッパーが扱いが難しい『ライダメイズブレイカー』を、完璧に近い形で使いこなしている事実。コンパクトに二度当てるだけでもDOTが発生する特性を利用した、謂わば『攻めのヒット&アウェイ作戦』。

 

黒ペッパーの攻撃を凌ぎ、イーディスからライダメイズブレイカーにチェンジ。同じ箇所に打撃を軽く打ち込み、毒性として働く箇所を活性で中和する。そして黒ペッパーのライダメイズブレイカーが、凄まじいエフェクトを帯びる。使ったのは間違いなく冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)、食らえば大ダメージは避けられない。

 

だがペッパーは此の盤面では(・・・・・・)動かず、ギリギリの瞬間まで黒ペッパーの動きを追いながら、スキルを点火する。

 

全身全霊(フルドレイズ)より進化して体力やMPにスタミナを『残り5%になるまで削り』、其の減少数値分を自身の様々なステータスに加える『奮魂絶闘(オーバード・ソウル)』。

 

自傷によって強化されるスキルを使った場合、其の上昇数値をより高める『マシニクル・リブラ』。

 

『自身の体力・MP・スタミナが僅かな状態』であり、尚且つ『自身が追い詰められている程』、バフの数値と補正が上がる『窮戦剋意(きゅうせんこくい)』。

 

其れ等をイクス・トリクォスにマーシフルチャージャーを加えて、動体視力を強化。今までは目で負うので精一杯であった、窮速走覇によって加速した黒ペッパーの動きを、ペッパーは完全に捉えることが可能に成ったのだ。

 

「見えるぜ……!」

 

ライダメイズブレイカーを逆手にスイッチ、振り翳される一撃を同じ威力で相殺するスキル『同力相殺(シンクロ・ダウトラス)』で迎え撃たんとした矢先、黒ペッパーの姿が目の前から『忽然と消えて』。

 

「あーくん、後ろ!」

 

ペンシルゴンの声が劇場に響くと同時、ペッパーもまた忽然と姿を消して、黒ペッパーの背後を取る。対する黒ペッパーもまた消えて、ペッパーの横を取りながら殴り掛かる。

 

其れはまるで、瞬間転移(アポート)による移動を繰り広げながら、現れては消え、また現れての繰り返し。瞬間転移じみた挙動を可能にするステップスキル『オーバーラップ・アクセラレート』の回数が増えた『レーアドライヴ・アクセラレート』を持つ者同士による読み合いだ。

 

(だが、此の勝負には決定的な()が生まれている!先に出したのは彼方さん(黒ペッパー)で、此方()は後に出した!つまり『一回分』多く動ける!)

 

レーアドライヴ・アクセラレートを使いつつ、黒ペッパーの全身を黙視しながら、其の瞬間を待ち続け。そして其の時はやって来た。黒ペッパー()レーアドライヴ・アクセラレートが、効果終了となったのである。

 

(此のチャンス、逃しはしない!)

 

英雄疾走(ヒーローダッシュ)起動、巨悪に苦しむ人々の声に応じて颯爽と登場するが如く、レディアント・ソルレイアのブーストで宙を駆けて、ライダメイズブレイカーをヴァンラッシュブレイカーに変更。抜鎚の如く、名に冠された通り『対城規模の敵の装甲』を破る為のスキル『フォートレスブレイカー』を繰り出す。

 

が、ペッパーは此処で黒ペッパーの武器がライダメイズブレイカーから、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)に変わったのを目撃。其の狙いが『逆手による斬撃で、自身の首を狙っている事』に気付く。

 

死神の斬撃(デス・マサカー)』と呼ばれるスキルがある。『短剣・短刀・大鎌武器時のみに対応』、『逆手持ちで発動可能』、『首への攻撃でクリティカルを出す』と言う、面倒な前提条件を持つ。

 

だが、ヒットすれば━━━━━━ユニークモンスターと一部の敵を除き、其の他多くに対して『100秒後に問答無用の即死判定が下される』、恐るべきスキルなのだ。

 

攻撃モーションに入った以上、キャンセルは出来ない。迫り来る刃がスローモーションに見える。まさに死神が刃を突き立てる様であり。

 

「いっっっっま、ダァアッ!!!」

 

残り一回、レーアドライヴ・アクセラレート。目の前で消えて振り終えた右側に、煌軌一閃(こうきいっせん)で飛ばした可能性も想定し、屈みながら出現。即座に巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)で右脇腹をぶん殴り、其の勢いでステージ奥まで吹き飛ばす。

 

黒ペッパーがステージ奥へ飛んで行き、爆砕音が鳴り響く中、ペッパーはレディアント・ソルレイアのブーストを調整。観客席の通路に降りて、肺に溜まった二酸化炭素を息に込めて吐く。

 

「はぁぁぁぁぁぁ~~!!っ………くっそ、マジできっつい………!このまま長期戦になったら、間違いなくジリ貧して負ける………!」

 

戦闘が始まってから、そう時間は経過していない筈であるのに、疲労感が生半可なレベルでは無い。ステージを見れば、黒ペッパーが起き上がってくる。あまり時間は掛けられない、此処からは速攻で決めるしか道がない。

 

「大丈夫かな………?」

 

ペッパーは遂に『ある武器』を使う事にし、インベントリから『武器』を、手にした時から使えなかった『剣』を取り出す。黒鞘に納められ、必要なステータスを振っても『歴戦値』が足らず、インベントリの中で眠っていた『聖剣』を。

 

「装備は……イケる」

 

嗚呼━━━━俺は今、ある意味で幸運(・・)であり、同時に不運(・・)だ。

 

幸運は影法師を相手に、此の武器を振るうに相応しい状況(シチュエーション)だという事。

 

不運は我等が外道、アーサー・ペンシルゴンが此の戦いを見ているという事。

 

だが、そんなのは知った事じゃない。

 

「往くぞ……………!」

 

黒鞘を呪いが刻まれた右手に当てると同時、呪いから滲み出た黒靄が黒鞘に吸収されて。ペッパーはクルリと剣の柄を回して、右手で力強く握り締めて━━━抜剣。

 

黒く……黒く………尚黒い。ブラックホールの様に黒い鞘より剣が右手によって引き抜かれ、劇場に其の御姿は示された。

 

其の剣は銀と空色と僅かな黒が彩り、スポットライトの光に灯され煌めき、七つの穴が空いた剣身は、誰の目にも異質に映る。

 

七つ星の意味を名付けられた、其の剣は。

 

 

 

 

「━━━━『星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ』!!!」

 

 

 

 

死闘の最中、『夜襲』の瞳に傷を刻み。

 

激闘を越えて、『墓守』の魂を受け継ぎ。

 

『不滅』の鍛冶師が、彼の為に打った其の刃。

 

黒ペッパーを、影法師の試練を越えるべく、遂に戦闘へ投入されたのであった。

 

 

 

 






其れは、蒼天(ソラ)を舞う勇者の剣




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第三楽譜は終わりを告げて、歌声は終幕へと向かう



戦い抜け、クエストを越える為に




「とうとう、其の手に剣を取ったかい━━━━ペッパー」

 

兎の国・ラビッツ………兎御殿から街を一望出来る部屋から沈む夕陽を見、煙管を吹かすヴァイスアッシュは『己が打った鐵』の臭いを感じ取っていた。

 

「積み重ねた戦いの重さが、其の剣を抜くに値するに……至れたってェ訳だぁ」

 

墓守の御人の遺した『魂』を、最強種の一角たる夜の帝王に一矢報いた『強さ』と混ぜて、鍛えて産まれた其の『剣』。彼からすれば、未だ『赤子』の様な存在でもある。

 

其の剣は、持ち主と共に歩み。

困難を乗り越えて、強敵と凌ぎを削り。

神へと至り、七つの星を剣身に納めた時。

 

剣は初めて、本当の意味で『完成』する。

 

「何時か『大きな事を成し遂げたならァ』………託してやっても(・・・・・・・)良いかも知れねぇなぁ」

 

煙管を吹かし、煙を空に放つヴァイスアッシュ━━━━の後ろには『箱』が鎮座している。其れは遠い、永い、遥か昔に産まれた、神代の頃の『遺産』。

 

旅をして真実を知り得た兎を模倣した(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、大いなる遺産が納められた箱は、時と勇者の到来を今尚も待ち望み、唯々静かに在った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「往こう━━━━━星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ!」

 

黒鞘に納められた剣の名を述べ、夜襲の刻んだ呪い(マーキング)から装備不可の力のみを吸い取り、右手に其れは握られた。蒼空を舞う勇者(ペッパー)に贈られた彼の為の剣が、劇場の中でもスポットライトに負けぬ煌めきを放ち、まるで主役の登場を引き立てる様に輝く。

 

そして空気を読んだのか、はたまた思考を更新中なのか、黒ペッパーも動かずに待機している。

 

「あーくん、其の剣何!?何で右手に装備出来てるの!?というか、此処何処なの!?」

「詳しい話は後だ!」

 

其の言葉をトリガーとして、黒ペッパーが碧千風を抜刀し、レディアント・ソルレイアにエネルギーを送り込み、再び空を駆け上がる。

 

「大盤振る舞い……往くッぜぇ!!!!」

 

温存していたバフを全て起動し、空中に跳躍したペッパーが黒ペッパーの後を追う。相手が窮速走覇(トップガン)を使った時、ペッパーは一部のスキルを温存して、攻撃を耐え忍んだ。何よりも自分のスキル達は強力であるが故に、長い再使用時間(リキャストタイム)を抱えているのを、ペッパーはよく知っている。

 

「窮速走覇の残り時間は一分くらいだろう?」

 

黒ペッパーが聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)を使った時の加速は、烈風轟破(れっぷうごうは)による加速で無かったのをペッパーは感じた。だからこそ確信出来る━━━━━━此の戦いは、自分が窮速走覇を使えていたなら(・・・・・・・)、相手が勝利を掴み取っていたと。

 

「だが俺は其の一分を逃げて、やり過ごすつもりは毛頭無い!生前奏だ、決着を着けようぜ!」

 

全身全霊、全力全開の己をぶつける。其れが黒ペッパーへ、影法師への礼儀だと、ペッパーは信じているから。グランシャリオを逆手に持ち、インベントリから碧千風を取り出して、左手で鞘から抜き放つ。

 

リュカオーンと戦い、右手が呪いにより封じられ、あの日から出来なくなった二刀流。今こそ、思う存分に暴れよう。

 

「勝負!」

 

黒い双星が流星となって、劇場の空にぶつかった。幾度の激突による火花を散らし合い、命を燃やして爆ぜる様に剣と刀の、鉄と鉄の鍔競り合うシンフォニーが奏でられる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

『━━━━━━━━━━━━━━!!!!!!』

 

武器が砕けてしまうのでは無いかと思われる程に、激しく荒々しく刃がぶつかり合う。そして二つの流星の攻撃は首筋を狙い、鳩尾を貫かんと振るわれる。かと思えば空中で脚が薙ぎ、刃だけの戦いではないと言っているかの様にも見えて。

 

そしてペッパーは予感する。此の戦いは先に、致命の一撃を当てた方が勝つと。自分を元にして現れた黒ペッパーなら、自分と同じ思考をしている筈だと。手数は刀と剣の二刀流によってペッパーが有利、対して一撃の威力と速度ならば両手を使って刀を振るえる黒ペッパーが有利。

 

刃が、籠脚(ガンドレッグ)が、身体を掠める度に、ポリゴンが散り。ペッパーの握るグランシャリオが横一文字で、黒ペッパーの左脚前太腿を切り裂いた瞬間━━━━━声が劇場に響き渡る。

 

幻想曲(ファンタジア)は、終幕(フィナーレ)へ向かう………。勇者は巨大なる機械を斬り倒す……。風雷迸り……天を駆け、………月を割るは、秘奥の一撃………』

「!━━━━倒したモンスターは『同じ』でも、其の時の倒し方は『同じじゃない』パターンも有るって事か!上等だ、やってやんよ!」

 

二度目に戦った時の自分を出され、最初に倒した時の再現を要求する。此れを仕掛けてくるユニークモンスターを作った人間は、相当性格の良さと趣味の悪さが混同していると思われる。

 

「うおおおおおおお!頑張れ、俺の両腕とシナプスぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

剣と刀を握り振るう両腕と、其れを動かし続ける脳が悲鳴を上げているが、此処で決めきれなくては勝ちの目が無くなってしまう。

 

黒ペッパーの刺突に対し、グランシャリオで剣道で言うところの小手返しを使って体勢を崩し、スキル『刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)】』を起動。

 

渾身の切り上げが黒ペッパーの身体を━━━━━━━『すり抜ける』。

 

「……やられた━━━━━━━」

 

黒ペッパーは小手返しの瞬間に、此処まで使わなかったウツロウミカガミを使い、レディアント・ソルレイアのブーストを掛けて、ペッパーの死角に回り込んでいた。

 

黒ペッパーの真なるフィニッシュムーヴは、サキガケルミゴコロとウツロウミカガミの併用による、ペッパーの意識が完全に目の前に集中しきる瞬間を狙っての『十傑斬覇(じゅうけつざんは)』。此れ「と思っていたか?」

 

其の刹那、斬り掛かろうとした黒ペッパーの目の前で、突如『膨大な威力の竜巻』が至近距離で発生。レディアント・ソルレイアを装備していた為に風を吸い込み、直接的な被害を被る事は無かったが、突風発生で僅かに『数秒間』黒ペッパーの動きが止まり。其の数秒で己の身体を二十の翡翠の迅が走り、ポリゴンが撒き散らされる。

 

刀系統武器スキルで、斬撃を当てて次の斬撃を当てれば其の分だけ攻撃間隔が短縮される『刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)】』。

斬撃スキルであり、一定以上のスピードでの攻撃時にスタミナ減少を抑制し、クリティカル補正を増大させる『スラッシング・ファンファーレ』。

そして刀系武器スキルで、二十連続の鱠斬りを放つ『連刀二十刃(れんとうはだち)』のスキルコンボ。

 

「楽しい戦いを、ありがとうございました」

 

タチキリワカチの一閃が、滅多斬りにされた胴体を文字通り『断ち斬って別ち』、真っ二つ。其れがトリガーとなってか、劇場が崩壊を始めて。ふとVIP席を見れば、アイトゥイルとポポンガを抱えて、レッドカーペットの滑り台からステージへ降り、観客席に走ってくるペンシルゴンの姿が在った。

 

其れと同時に劇場で響く歌声が、此の場に居る全ての者に聞こえてきた。

 

『勇者は三度、其の力を示した。………光を、輝きを、そして強さを。影は貴方を見ています……どうか、どうか………最後にもう一度。貴方の魂の歌を……奏でて、繋いで………』

 

直後、襲い掛かるは強烈な眠気と気だるさ。ペンシルゴン達が抗おうとするも、遂には眠りに落ち。そしてペッパーの前にはリザルト画面が表示される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は影法師の試練を越えた』

『魂の音色は紡ぎ、終わりへと向かう………』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

『全ての歌を歌う時、影法師の愉快合羽は己の身より離れる』

『残された歌は━━━━━━━一つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 






影法師の唄は、遂に最後へ






???『グルルル………!』

???『嗚呼……不快だワ……。男ト、ウサギ、そして犬が混ジッた、不快ナ臭い………』

???『ハハハ!クハハハハハ!面白い、実に面白いぞ……!クックック………!』

???『遺志は………受け継がれる………』






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聖槍魔王は聖盾勇者を卓へと付ける



ペンシルゴンからのオハナシ




「あ"~~~………ちゅかれた…………」

 

影法師との試練を終えて、劇場内からフィフティシアの裏路地へと戻ったペッパーは、戦いの反動から其の場にヘタって座り込む。ゲームという物は、種類を問わず脳のスタミナを使う。其れがVRゲームでの高速空中立体機動戦ともなれば、発揮した能力(スペック)に対する対価(反動)は尋常ではない。

 

「まぁ………楽しかったから、良しとするか」

 

事実、ペッパーの心は疲労感とは別に充実感と満足感に満ちている。自分対自分、思考深度が深い者同士による、高度な読み合いが織り成す戦いは、何時だってゲーマー魂が燃え上がるのだから。

 

何よりも、そう何よりも。リュカオーンがあの日刻み付けた呪い(マーキング)によって出来なくなった二刀流を、星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ使用時限定ではあるが、取り戻す事が出来た。此れで今までは試したくても試せなかった、剣×刀や剣×短剣に短刀、斬打二刀流を戦術に組み込めるようになる。

 

だが彼は忘れていた、此の戦いを誰が見ていて、自分が何を言っていたのかを。

 

「ペッパー君」

 

ふと見上げれば、クラン:旅狼(ヴォルフガング)のサブリーダーたるアーサー・ペンシルゴンが、アイトゥイルとポポンガを抱えており、リーダーにしてあの戦いをしていたペッパーを見つめていた。

 

其の両目は光を無くし、黒い闇より尚も深く。深淵すら生温い、漆黒以上の黒の視線を向けていて。

 

「…………ちょっと『オハナシ』、しようか?」

「アッハイ」

 

オハナシが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NPCカフェ・蛇の林檎:フィフティシア支店。サードレマ・エイドルトのカフェと、殆ど同じ顔をした店主が経営している店の一個室を取ったペンシルゴンは、ペッパー・アイトゥイル・ポポンガの分の飲み物と食事を頼み、椅子に座った。

 

「あ~……其の、何から聞きたい?トワ」

「………あーくんが右手で握っていた剣の事。あの中世ヨーロッパの劇場みたいなフィールドの事。あの黒いあーくんは何者なのか。そして…………あの歌声は誰なのか」

 

席に座ってオハナシの内容を問うペッパーに、ペンシルゴンは至極全うな、そして自身が納得する為に必要な要素を述べてくる。あれだけ派手に暴れ散らかしたのだから、当然と言えば当然なのだが。

 

(さて、何れから話していくか………)

 

ぶっちゃけるなら、四つあるオハナシ案件の内の剣…………星皇剣グランシャリオ『以外』の三つは、全てが影法師のイベントで繋がっている。問題なのはイベント戦闘の中で、オープニング・トドメの刺し方へのヒント・エンディングを歌っている声の主たる女性が、ペッパー自身にも解らない………という事だ。

 

「………解った。だが先ず、最初に断っておく。あの時、ペンシルゴンが見た戦いをクランメンバー以外には、『時が来るまで』他者への口外しないで欲しい。おそらくだが………あの中世ヨーロッパの劇場染みたフィールドは、間違い無く『ユニークモンスター』━━━━多分だが、『冥響(めいきょう)のオルケストラ』絡みであると見て良いと思う」

 

『プレイヤーをフィールドに引き摺り込み、プレイヤーを模した黒いプレイヤーと戦わせ、当時の戦闘状況の再現を要求する超状存在(ユニークモンスター)』ともなれば、其の情報は価千金以上の価値を持っている。仮に其の情報をライブラリに提供すれば、名前を言い当てる可能性が極めて高い。

 

最もペッパーは三度に渡る戦いの経験し、共通して『歌』と言う形で状況が進行していった事から、ユニークモンスターの中でも該当するのが『冥響のオルケストラ』以外考えられないと、当たりを付けたのだが。

 

「冥響のオルケストラ………あのおじいちゃんの言ってたユニークモンスター関係、ねぇ……」

「確たる証拠は無いから、解らないんだけどな……。次に中世の劇場に入る条件は『影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)を装備した状態』で、午後五時から午後六時の間………つまり『逢魔時にシャンフロの裏路地へ足を踏み入れる事』で発生した。此れに関しては、既に三度経験済みなのでほぼ確定してる」

 

嘲り嗤う影法師(グルナー・グリンセリン)と戦い、満足させる事で手に出来る名前隠しを可能にする、オンリーワンに等しい特殊な防具。名を内に秘めて、共に歩む事により、プレイヤーの動きや偉業を初めとし、スキルや魔法を影法師へと反映しているのだろうか?

 

「劇場内に入ると、装備者以外はステージから退場させられて、スポットライトが点火。自分の影が愉快合羽を纏って、歌声と曲名を歌った後に襲い掛かって来る。

戦闘方式は一対一(タイマン)。愉快合羽を装備した黒いプレイヤーは、プレイヤーが討伐したモンスターの中から『ランダム』で選択されて、相対者が其のモンスターを討伐した時に持ってるスキル・魔法、そして武器や防具を『完全に模倣した状態で襲って来る』。

おまけにダメージを受けても、超スピードで動き回っても、一切『疲労する様子』が見られなかった」

 

プレイヤーが操作する以上、脳の活動で身体操作にも影響が現れる。だが、あの黒いペッパーは一切疲労する様子も無ければ、ダメージを受けて吹っ飛んだ後でも早々に復帰してきた。

 

「そして黒いプレイヤーとの戦いが進んで、ある程度ダメージを与えると『トドメの指し方に関する歌』が歌われ始める。此れは当時のモンスターに使ったスキルや魔法、もしくは其の系列スキルに魔法、及び同じ武器を用いての『状況再現』が必要になって、其れが出来ないと駄目な感じ」

 

何よりも一番厄介なのが、彼方が示す要求通りに当時の状況を再現する事。乱獲等で其のモンスターを狩りまくっていた場合、倒し方が混在するだけに収まらず、道筋が異なれば思わぬ形で『ミス』が生まれる危険が伴う。

 

「相当性格が悪いね、此のユニークモンスターを作った人はさ」

「そうだな。此れが中世の劇場と黒い俺、そして歌声に関する話。で、だ…………此の剣の話をしよう」

 

そう言ってペッパーは、アイテムインベントリから星皇剣グランシャリオを取り出し、持ったままペンシルゴンに見せる。

 

「此れは星皇剣グランシャリオ。墓守のウェザエモン……ウェザエモン・天津気さんから託された『折れたバンガード』を素材として、夜襲のリュカオーンの眼を切り裂いた包丁を『真化』させた武器。一時的に装備不可状態解消と、夜の時間帯に俺が居るエリアか其の隣接エリアにリュカオーンが居たら、問答無用で『確定遭遇』する事になる聖剣。因みに俺以外装備出来ないオンリーワン」

 

ペッパーの言葉に、ペンシルゴンは眼を丸くして。そして夜襲の目を切り裂いた包丁の持つ、ヤバすぎる能力を知った時と同じ様に引っくり返る事となった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~……………。ほんっっっっっっっ………………とうに。君は少しでも目を離すと、私の予想を軽々と斜め上に越えてくるんだから………」

 

オハナシ開始前に注文していた料理が届き、ステーキ肉をフォークとナイフで上手に切り分けながら、ペンシルゴンが大きな溜め息を付いている。本性は外道なれども外面は清純潔白を取り繕う天音 永遠(ペンシルゴン)だ、一挙手一投足が売上に直結するカリスマモデルである以上、食事一つにしても繊細で綺麗なフォームだ。

 

「ペンシルゴンはん、ペッパーはんに振り回されてるのさ……」

「俺はペンシルゴンに振り回される側だけどな」

 

ステーキ肉を切り分け頬張り、咀嚼するペッパー。兎御殿晩酌膳により、美食舌による味覚制限が解放されたお陰で、ペンシルゴンは「食べられるけど、和牛ステーキよりは美味しくないなぁ……」と呟きながら食べている其れが、彼には『ちょっとだけ高めの肉の味』として、味覚に反映されている。

 

「でだ、ペンシルゴン。此の話の秘匿は頼んだよ?」

「OK。何せユニークモンスター・冥響のオルケストラに関する、重大情報かも知れないからね。何らかの形で手札として切りに行くから、其の時は連絡入れるね」

「よろしくお願いします」

 

黒く深い闇を纏っていたペンシルゴンの瞳から其れが消え、穏やかで余裕を纏った物へと戻った。ペッパーはホッと一安心しながら、シャンフロの食事を楽しむのだった………。

 

 






旅狼の手札は増える




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示すは己の走破、風雲急は告げられる



ポポンガの最終試練




「ふぅ……食べた食べたぁ~」

「VRゲームで取る食事も、悪く無いな……」

 

ペンシルゴンとのオハナシを終えて、食事代をペッパーが支払う形で蛇の林檎を出た一向は、建物の合間から見える星々が彩る空の下、他プレイヤーに見付からないように影に隠れ、フィフティシアの裏路地を歩いて、街から離れた場所に移動している。

 

「おぉ、そうじゃ……。ペッパーよ、忘れてまう所じゃったわい」

 

と、愉快合羽に隠れたポポンガが外に出て来て、ペッパーに話し掛けてくる。

 

「例の『最終試練』じゃが……場所はフィフティシア郊外に在る『栄光の廃船 グローリー・エリス号』の付近にて行うぞい。最終試練はペッパー……お前さんが持つ『最高のスピードと最大の高さが鍵を握る』。

全てをぶつけるつもりで、そして万全の準備をした上で、最終試練を乗り越えてみせい…………」

 

そう言い、上空に出現させた魔方陣にポポンガは、吸い込まれて消えて。其の場に残された者達に静寂が訪れ、しかし其れも数瞬の間を置き、ペンシルゴンが衝撃の事実を言い放つ。

 

「ねぇ、あーくん。さっきのポポンガちゃんが言ってた、グローリー・エリス号なんだけど………実は其所って『クラン:阿修羅会』が根城にして、活動していた場所なんだよねぇ」

「えっマジで?」

「案内して挙げても良いけど………どうする?」

 

ペンシルゴンのニヤリ顔、嗚呼此れは確実に『何かを要求している』顔だと、ペッパーは彼女の表情からおおよその、しかしながら大正解と言える答えを導き出し。

 

「………解った。次一緒にプレイ出来る日を、俺に教えてくれ。ポポンガさんの最終試練を受ける以上、トワの協力も必要不可欠だからさ」

「………!うん♪」

 

そうして朗らかに微笑んで、ペンシルゴンはカレンダー機能を使って、自身の空いている日を見せ。ペッパーもバイトや大学の講義日時と照らし合わせつつ、六日後にプレイが出来る事を伝えた。

 

「さて………本当はもうちょっと、君と一緒にフィフティシア観光をしたかったけど、そろそろ御開きとしようかな。あーくん、影法師ちゃんとの戦いで武器が結構消耗したでしょ?」

「まぁな。モンスターの連続襲来に影法師の試練で、イーディスの耐久値は半分以上削られたし、ちょっと洒落にならない」

 

他の勇者武器なら復活効果による再生を視野に入れるが、其所は聖なる盾の勇者武器だ。あれだけの戦いを経ても尚、半分近い耐久を残している。やはりとんでもない武器だと、改めて認識するには十分だった。

 

「じゃあな、トワ。また六日後に」

「うん、またね。あーくん」

 

手を降って六日後に逢うことを約束して、ペンシルゴンはフィフティシアの裏路地の闇へと消えて行き。ペッパーはランドマークを更新して、アイトゥイルが開いたゲートを越え、兎の国・ラビッツの兎御殿へと帰還するのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビィラックさーん、居ますかー?」

「ビィラック姉さーん、元気かいなー?」

 

兎御殿に帰還し、ビィラックに修理依頼をするべく彼女の鍛冶場へと向かったペッパーとアイトゥイル。其所で一人と一羽が眼にしたのは、加工された黄金で巨大な針を巨大な籠手の様な物に組み込んで、魔力運用ユニットを頭に着けて黙々と作業を続けている、ビィラックの姿が。

 

其の隣には水晶の柱が差し込まれた、同形状の籠手がもう一つ鎮座しており、此の二つは見るからにヤバい武器であるとペッパーには一目で解った。

 

「んぉ?あぁ、ペッパーとアイトゥイルか。すまんな、コイツを作るのに集中しとったけぇ」

 

と、此方に気付いたビィラックが魔力運用ユニットを外して、話し掛けてくる。

 

「ビィラックさん、此れは……?」

「おぉ、コイツか?コイツはサンラクが狩ってきた水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)、其の二つの蠍達の素材を使った『甦機装(リ.レガシーウェポン)』じゃけ。おそらく今のわちの『最高傑作』になる……そんな予感がするんじゃ」

 

へー……と言いながら、ペッパーはビィラックが現在進行形で製作している武器を見つめ、そして一つ引っ掛かる言葉に気付いたので、彼女に質問する。

 

「ん?甦機装(リ.レガシーウェポン)遺機装(レガシーウェポン)とは違うカテゴリーですか?」

「おぉ、其所に気付くとはのペッパー。そう、甦機装とは遺機装の『新規製造版』であり、わちや親父のように『古匠』………つまりは古の時代たる神代の技術を扱える物にしか造れん、特殊な武器じゃ。例えば━━━━」

 

あ、此れは長くなる奴だ。そう気付いた時にはもう遅く、其所からビィラックによる遺機装と甦機装の事に付いて、みっちり一時間にも及ぶレクチャーが開始。

 

そして長い話を聞き飽きたアイトゥイルは、瓢箪水筒に入れた酒を飲み始め、其れを見たビィラックに怒鳴り散らされ、正座させられながら聞く事となって。

 

逆にペッパーは甦機装が、素材としたモンスターの特性を活かす武器であると理解し、其の素材となるモンスターの相性や組み合わせによっても、新しい可能性が生まれるのでは?と、ビィラックに言った事で彼女も其れに反応。

 

其の説明と互いの議論によって、白熱していく事となった。

 

「ははは……ホンマ、ワリャは面白いの。成程成程……モンスターの特性の組み合わせか、少し賢く成れたわい」

「此方も勉強になりました」

 

甦機装の話を聞いた事で、ペッパーは益々ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの甦機装に対する製作欲が沸き上がり、ビィラックへの武器修繕依頼はサードレマで行って、自分はペンシルゴンとの約束とは別に周回を開始しようと決意。

 

ビィラックの邪魔をしないように、鍛冶場から退出して休憩室に移動後、セーブを終えて此の日のシャンフロプレイを終えたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんん………楽しかったぁ」

 

頭に装着したVRヘッドギアを外して、大きく背伸びをして布団から起き上がった梓は、今日の夕食を何にしようかと思考しつつ、冷蔵庫の中身を見る。

 

「そうだな……今日は刺身定食にしようか」

 

取り出すのは、格安セールで買えたサーモン。炊飯器のご飯の総量の確認と、残った野菜を見ながら即興で献立を組み立てる。

 

鍋に少量の水を張り火を着け、皮を剥いたじゃがいも・玉葱半分ずつ用意し、一口大に切り分け。油揚げを湯に潜らせて油を抜く。そして湯を捨てて新たに水とだしの素を入れ、じゃがいもと玉葱に油抜きをした油揚げを加えながら、火を通していく。

 

チャック付きの袋を取り出して、胡瓜を半分使いつつ斜め切りに分け、浅漬けの元を投入。塩を一摘まみ加えてよく揉みんでから少し置き、其の間にサーモンを一般的な刺身定食サイズに切り、チューブ山葵と共に皿へと盛り付ける。

 

そして鍋で煮た具材に味噌を加え、沸騰直前で火を止めて汁椀に。炊飯器の白米を茶碗に盛り付け、コップに牛乳を注ぎ。揉み浸けた胡瓜を取り出して、小皿に乗せれば━━━━━━

 

「完成………!梓流『サーモン刺身膳』!」

 

自分にしては上々な出来映えだと思いながら、スマフォで料理を撮影してアルバムに保存。さぁ夕食をと思った矢先、スマフォのEメールアプリに一通の届き。其のメールがもたらした物が、新たな波乱を巻き起こす事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

件名:お前何やらかした?

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

俺のゲームする時に使ってるマンションに、全米一位のシルヴィア・ゴールドバーグが突撃してきたんだが?スマフォで何かスゲェスピードで走ってる、黒いプレイヤーの画像と一緒にやって来て、コイツに会いたいって言ってんだけど。

 

まさかコレ………お前じゃないよな???お前じゃないよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???????

 

 

【映像】

【スロー映像】

【スーパースロー映像】

 

 

 

 






カッツォからのSOS




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そして黒い流星は、己の意思で行く先を決める



カッツォがもたらした物




「なぁーーーーんで、サードレマの上空を走ってた時の映像が撮られてるんですかねぇ……………」

 

梓流サーモン刺身膳を作り終えて、夕食タイムに入ろうとした矢先にブシカッツォ━━━━日本最強クラスのプロゲーマー・魚臣(うおみ) (けい)がもたらした映像を見た梓は、溜息と共にコップへ注いだ牛乳を一気に飲み干す。

 

「いや、問題は其所じゃないな………。問題は何で『全米一(ゼンイチ)』がブシカッツォのマンションに突撃してきたか、だ。というか、何で俺に会いたいんだ?訳が解らん………」

 

格ゲー界隈━━━否、プロゲーマーの界隈で彼女の事を知らない人間は、唯の一人として存在しない。何せ彼女は、超と超に超が付くレベルの超有名人である。

 

シルヴィア・ゴールドバーグ。アメリカで最強の格闘ゲーマーは誰か?という質問に対し、全員が『先ずは彼女━━━シルヴィア・ゴールドバーグだろう』と声を揃えて言い切る程だ。そんな彼女の伝説的な偉業を話すには、彼女の名が初めて公の場に出て其の名を世界に知ら占めるに至った『五年前のとある格ゲー大会における、アマチュア部門での戦い』が話に上がる事が多い。

 

トーナメント形式であった大会において、無名だった彼女は『全試合ノーダメージパーフェクト勝利』という、有り得ないような結果と共に、優勝とトロフィーを手にし。続くエキシビションマッチに至っては『当時のアメリカプロゲーマー内でもトップクラスの実力者を相手に、3ラウンド方式下で2ラウンドを一方的(・・・)に奪取・勝利』という冗談のような事実と共に、世界へ己の名前を刻み付けたのだ。

 

大会後、シルヴィア・ゴールドバーグは其の場で、大手マルチプロゲーミングチーム【Zodiac(ゾディアック) Cluster(クラスタ)】からスカウトされ、僅か一年の期間の内に彼女を中心とする格ゲー部門チーム【Star(スター) Rain(レイン)】が設立。其れから五年間、彼女は現在まで『無敗のプロゲーマー』として今尚伝説を積み重ねている。

 

「さてと………どう返すか」

 

刺身を食し、白米を含みながら思考を巡らせる。正直に言ってしまえば、此のメールは非常に面倒(・・)な雰囲気しかない。選択を間違えようものなら、話は拗れる気配しかない上に、最悪の場合はブシカッツォが此方の住所をシルヴィアに教えて、突撃させる事すら朝飯前に出来るだろう。

 

「はぁ…………」

 

願わくは、どうか穏便に事が済みます様に。淡い願いを神頼みしながらも梓は、食事を終えてブシカッツォへとメールを返すのだった……。

 

其の時の一連の流れが此れである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

件名:Reお前何やらかした?

from:A-Z

to:ブシカッツォ

 

よぉ、ブシカッツォ。さっきの画像のプレイヤーは俺だが、何で全米一位が来日してるの?どうゆうこっちゃ?

 

 

 

件名:お前かあああああああ!

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

お前かぁぁぁぁぁぁぁ!!お前かあああああああ!!なにやってんだお前ええええええええ!!!

 

 

 

件名:Reお前かあああああああ!

from:A-Z

to:ブシカッツォ

 

いやまて、此れには深い訳がある。理由を述べるなら、サードレマでパーフェクトステルスのスキルを使った、一撃必殺っぽいビルドのプレイヤーキラーに襲われてさ。其れから逃げる為に、使えるスキルを全力で点火して逃げたんだよ。

 

空中ダッシュすれば地上よりも、ずっと逃げれる領域と選択肢が広がるかなと思いましてね。

 

 

 

件名:ReReお前かあああああああ!

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

えっ、マジ?此のゲーム、パーフェクトステルスアタック可能なの?

 

いやそんな事より、お前かぁ…………お前だったかぁ…………まぁじかぁ………。

 

 

 

件名:ReReReお前かあああああああ!

from:A-Z

to:ブシカッツォ

 

先に断って置くが、住所特定からの全米一位突撃は止めろよ。絶対やるなよ?………って言ってもやるんだろうな?お前なら確実に。

 

 

 

件名:何故バレたし

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

テレパシーかよ、こっわ………宇宙人の親戚か何かですか?

 

 

 

件名:Re何故バレたし

from:A-Z

to:ブシカッツォ

 

誰が宇宙人の親戚だよ。俺は至って普通の人間なんだが?????

 

 

 

件名:ReRe何故バレたし

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

日本最強クラスのプロゲーマー相手に思考で読み勝って、レトロゲームとはいえ勝率五割弱で勝ち越し決めてる奴を、世間やプロは普通とは言わないんだよねぇ。

 

自分が普通じゃないって事、もうちょっと自覚したらどうなんですぅ~~~~?????

 

 

件名:ReReRe何故バレたし

from:A-Z

to:ブシカッツォ

 

いや、誰だって努力すれば何とかなるでしょ。将棋とかチェスとかのそうゆうレトロゲームも有るわけだし、プレイしてれば何れ其れくらい余裕だって。

 

んで、本題は?ブシカッツォは俺に何をして欲しい訳だよ?

 

 

件名:よくぞ聞いてくれた

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

端的に説明すると、お前に大好評発売中のVRゲーム『ギャラクシーヒーローズ:バースト』でシルヴィア・ゴールドバーグと対戦して欲しい。

 

尚公平を期す為、両者のヘッドギアは最新鋭の同型の物を用意するし、A-Z君にはギャラクシーヒーローズ:バーストのソフトもプレゼント致しますので、泣いて喜べ。

 

因みに対戦内容だが…………シルヴィアからのオーダーで、お前にミーティアスを使ってくれとさ。リアルミーティアス直々の御指名だから、心してOKするように。

 

 

件名:いや何も良くないよね?

from:A-Z

to:ブシカッツォ

 

相手のホームグラウンドで勝負+触ったことすらないゲーム+全米一位の最も得意とするキャラクターに挑めとか、レトロゲームにある負けイベントじゃねーか!?

 

試運転無しのぶっつけ本番は、流石に無茶と無謀が過ぎるだろうが!?

 

 

件名:Reいや何も良くないよね?

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

うるさい!此方は全米一位に家凸された挙げ句、アイツ隣の部屋を賃貸したから、もうリアルがゴタゴタ確定になったんだよ!此の一件はお前が原因作ったんだから、責任以てぶちのめされて来い!

 

其れとヘッドギアとソフトは今日中に届く&今から4日後の午後8時にバーストのゲーム内に専用部屋作るから、其所に行きな!!

 

【部屋ID///~~~~】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マァジカヨォ……………」

 

メールを見ながら、事態がとんでもない方向に進んでいた事実に震えていると、インターホンが鳴り響く。まさかと思いながら応答すると、黒猫マークの宅急便会社の配達員のお兄さんが立っていた。

 

「お届け物でーす」

「アッハイ、えっと………どちら様からですか?」

「あ、送り主様ですね?送り主は【電脳大隊(サイバーバタリオン)】からで、品物が最新型VRヘッドギアとゲームソフトですね。お兄さん、もしかして何か凄い事でもしましたか?」

 

電脳大隊━━━━━━━其れは日本最大級のマルチプロゲーミングチームの事であり、格ゲーやFPSにレーシング等々、担当する部門事にチーム分けがされている程だ。

 

其れを受け取るという事は、自動的に電脳大隊のスカウトを受けるという意味に等しく、まさに『地獄への片道切符』と同義である。

 

「マァ………イロイロト」

「そうでしたか。では、指紋認証かサインを」

「アッハイ」

 

右手人差し指で指紋認証を行い、荷物を受け取った梓はスマフォを手に取って、ブシカッツォにメールを送る。

 

 

 

 

 

 

件名:おいどーゆーことだ????

from:A-Z

to:ブシカッツォ

 

オイゴラ、ブシカッツォ。電脳大隊からの荷物とか、プロチームにスカウトするつもりか?入らんからな?俺絶ッッッッッッ対に入らんからな?

 

 

件名:Reおいどーゆーことだ????

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

まぁまぁ落ち着けって。実はビルディファイトで俺との対戦動画を、ウチのトップが偶々目にしたらしくてね。曰く『コイツの思考深度なら、間違い無く世界にも通用する』との事らしくてさ。

 

そういう訳なんで頑張れ。因みにギャラクシーヒーローズ:バーストの試合、俺やウチのトップもシークレット観戦するから精々ヘマしないようにな?

 

 

 

 

 

 

「クソッタレがよぉ…………!」

 

完全に外堀も埋められてしまい、逃げられぬ運命が定まった状況に梓は頭を抱える事となり。一先ずバイトと大学講義の日時を確認して、用意可能な総プレイ時間を脳内計算で弾き出し。

 

一分一秒でもゲームシステムと仕様に慣れるべく、届いたばかりの最新型VRヘッドギアに同梱された、ギャラクシーヒーローズ:バーストのソフトを挿入、来るリアルミーティアスとの戦いに備えて、準備を始めたのだった…………。

 

 

 

 






リアルミーティアスに挑め




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レトロゲーマーはコロシアムにて、全米一位と対峙する



ゲーマーは 目と目が合えば 戦場だ

※α-ΩをAZに変更しました




「くあぁ………んんん、眠いぃぃ……」

 

ブシカッツォによって此方にもたらされた衝撃の情報と、全米一位(ゼンイチ)シルヴィア・ゴールドバーグこと『リアルミーティアス』からの挑戦状により、梓は此の三日間深夜二時近くまで、ギャラクシーヒーローズ:バーストをプレイし続けていた。

 

お陰で日中は眠気に襲われ続け、大学では休み時間中も寝落ちしかけたが、ゲームの仕様の研究と原作に置けるミーティアスの軌跡を辿り読み漁って、何とか堪え忍ぶ。

 

「………全米一位との戦いが終わったら、翌日はトワとフィフティシアで隠しエリアに行って、ポポンガさんの最終試練を終わらせて………。其の次の日には、エイドルトでライブラリとの会談が待ってるんだよなぁ………」

 

ペンシルゴンこと天音 永遠から届いたEメールによると、キョージュからのハヤブサが届いたらしく、内容が『五日以内で会談可能な日が在るならば、其の日に合わせて会場を準備したい。今回はライブラリと旅狼による会談であり、他のクランは関わっていないので安心してくれ』━━━━━━━との事だ。

 

「ブシカッツォめ……今度会ったら、色々文句言ってやるぅ………ぐぅ━━━━━━」

 

眠気で押し潰されそうになりながらも、梓は何とか此の日のバイトを終えて、自身の住むアパートまで帰宅するや、布団を引いてスマフォでタイマーをセットし、其のまま眠りに落ちていく。

 

そして、梓にとって運命の日がやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャラクシーヒーローズ:バースト。

 

其れはアメリカのポピュラーなコミック『ギャラクシア・レーベル』内に登場するヒーローとヴィランが、御互いの誇りや矜持を懸けて雌雄を決する━━━━━と言った内容。

 

そして其のカテゴリーは『コロシアム型のフィールドで戦う一般的なVR格闘ゲーム』である。キャラクターを己の身体として操り、先に相手の体力(HP)全損()させた方が勝つと言う、レトロゲームやアーケードゲームでも良くあるタイプだ。

 

キャラクターの性能(パラメーター)資質(ステータス)は原作を準拠とし、細かな部分まで忠実に数値化されていて、キャラクターの性能と相性だけでなく、プレイヤー自身の力量も問われるゲームとなっている。

 

(シルヴィア・ゴールドバーグのミーティアスは、講義の合間やバイトの休み時間で何回か動画は見たが、正直に言えば………俺に真似出来る要素が『一つたりとも無い』。

いや、マジで何なの………?先読みは極まり過ぎてるし、直線移動くらいしかトップスピード繰り出せないのを、直線走りながら角度付けてカーブ切るし、其所止まらんと事故るだろって場面すら、逆に加速して振り切るしで意味解らん…………)

 

総評して梓が、リアルミーティアスこと『シルヴィア・ゴールドバーグ』を一言例えるならば、最早『怪物(モンスター)』以外の言葉が思い付かない、と言った所だろう。

 

「そんな怪物と此れから戦うって考えると、改めてヤバいわって認識するなぁ………」

 

電脳大戦内の格闘ゲーム部門、其の不動のエース・ブシカッツォや、彼の所属するトップチームの首領が自分の戦いを見ると言う事実に、梓は緊張で震える。

 

「いや……寧ろ『開き直ろう』。シルヴィア・ゴールドバーグっていう『強敵』に、挑めると言う此の幸運。彼女の……リアルミーティアスが操るミーティアスに、無名のレトロゲーマーが『ジャイアントキリング』出来たなら、世界は騒然とするだろうなぁ?よしやるぞ、やってやるぞ……『ヴォーパル魂』全開で!」

 

二ヶ月前、ランダムエンカウントしたユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの時と同じ様に、梓は開き直る。せめてラウンドを一つ……出来れば一撃当てて負けてやると。

 

「と、そろそろ時間だな………。ふぅ………ヨシッ!」

 

トイレに水分補給用、機材チェックに布団を敷いて、梓はVRヘッドギアを装着し、布団にダイブ。そして戦場へ、シルヴィア・ゴールドバーグの待つフィールドへと向かうのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャラクシーヒーローズ:バーストのアバターは『半透明の状態』━━━━謂わば『霊体』のような存在であり、キャラクターの中に入る事で実体を得て、動く事が出来るようになる。

 

時刻は19:50、ゲームにログインしてブシカッツォが用意した専用部屋が出来るまでの間に、梓………ギャラクシーヒーローズ:バースト(此のゲームの中)では『AZ』と名付けたアバターになった彼は、エントランスフロアにて其の時を待ちつつも、ギャラクシア・レーベルのヒーローこと『ミーティアス』の設定や挙動、其の他諸々を含めて復習していた。

 

『……………ヘイ!ヘイ、コンバンーワ!』

『んぉっ!?』

 

と、集中していたのか声を掛けられた事に気付かなかったAZが、バッと顔を上げる。其所には女性の輪郭を持った霊体のアバターが立っていた。

 

其の頭上には『Silvi』のプレイヤーネーム、此のゲームでシルヴィア・ゴールドバーグの名を表すネームだ。間違いない…………自分は今、此の瞬間。全米一位と向き合っている。

 

『ユーがKの言ってた、ブラックシューティングスターね?ドーガを観たよ、スッゴイ、スピードだネ!』

 

片言日本語ながら、随分とハイテンションだなぁとSilviを見ているAZだったが、ふと周囲を見渡せば他のプレイヤー達が此方のやり取りを見ていた。

 

『あれ誰?』

『見たこと無い名前だ……』

『もしかしてプロゲーマー?』

『てか、何でSilviと話せてる訳?許せないんだが?』

 

ざわざわと観衆の声と、此方に突き刺さる様々な感情を含んだ視線が痛い。寧ろ此れから全米一位と戦う身である上に、下手を踏んで惨めに負けようものなら、ブシカッツォに何を言われるか解らない。

 

何より電脳大隊(サイバーバタリオン)のトップが御忍び観戦しているともなれば、手を抜くことすら許されない状況である。

 

そんな絶大なプレッシャーがAZを襲う中、彼とSilviの前に今回の黒幕(ブシカッツォ)が用意した、専用部屋への入場コードが送られてきた。

 

『ヘイ、AZ!レッツバトル!』

『…………アッハイ』

 

ハイテンションなSilviと真逆で、今にも地の底に沈んでしまいそうなAZは、彼女に引っ張られる形で用意された部屋へ連れて行かれ。

 

其の光景を見ていた他プレイヤーからAZは、羨望やら憎悪やらの様々な感情の籠った視線で、背中を刺されまくる事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全米一位に引っ張られて連行され、ブシカッツォの用意した対戦部屋にやって来たAZは、改めてSilviと向き合う。

 

『えと……コホン。本日は対戦させていただきます、AZです。呼び辛い場合は『アズ』とでも呼んでいただいて構いません。全米一位の貴方に、胸を借りて全力かつ本気で戦わせて貰いますので、どうぞ御手柔らかに御願い致します』

 

ペコリと90度に近い御辞儀と共に、此れから戦う者への礼儀を示したAZ。と、そんな彼の何時もやっている事に対し、Silviは目を輝かせながら言う。

 

『ジャパニーズ、ワビサービ……!』

『えぇ………』

 

日本文化は世界に誇るべき要素だ。侍やアニメを始めとして、華道茶道や日本食に詫び錆び、日本から生まれて世界に発信される其れ等は、本当に素晴らしい物なのだから。

 

Let's have a fun battle(楽しいバトルをしましょう)!』

 

互いに自己紹介が終わり、セレクト画面が表示されて、操作キャラを選択。此の時、自身の操るキャラクターのカラーリングは各々『8種類』ずつ存在しており、同キャラ対決時には被らないよう配慮がなされている。

 

全米一位は当然『ミーティアス』を選択(チョイス)し、カラーも白と金のラインが入った原作準拠。そしてAZは彼女からのオーダーに応える為、Silviと同じミーティアス選択。其のカラーリングは原作のミーティアスとは対照的に、黒と青のラインが入ったダークヒーローを彷彿とさせる物を選んだ。

 

今此処に流星が相対し、そしてぶつかり合う……。

 

 

 






ヒーロー 対 ヒーロー

流星 対 流星




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一等星は瞬き、閃光となりて染め上げる



戦いが始まる




ミーティアス。ギャラクシア・レーベル『ミーティアス』の主人公で、レーベルに置けるデウスマキナこと『ギャラクセウス』により、流星の力を与えられてヒーローとなった、極めて普通のサラリーマン。護身術として、ジークンドーを習得している男性。

 

変身するとマッチョで濃い顔、白と金のラインに星を掲げるヒーロースーツを纏い、空を高速で駆ける事が出来るようになる。其のトップスピードはまさに『流星(ミーティアス)』の如く、悪の芽を摘み取り、街の平和を守る者………と言う設定だ。

 

『サァ、楽しもう!ブラックシューティングスター!』

『全米一位からの挑戦状。其の胸、全力で借りさせて貰います……!』

 

電脳世界(ギャラクシー・ヒーローズ:バースト)のバトルフィールドたるコロシアムが構築される中、白と金の流星にして絶対王者たる『Silvi』と、黒と青の流星にして挑戦者たる『AZ』が対峙する。

 

『おいおい……Silviのミーティアスに同キャラで挑むって、赤っ恥自殺志願者か?』

『黒と青の流星ねぇ………彼女への当て付けかな?』

『派手に負けやがれー!』

 

ギャラクシー・ヒーローズ:バーストの中でも、圧倒的な強さと無敗のチャンピオンとして君臨しながら、今尚進化を続ける彼女の姿勢と強さに魅力され、彼女に惹かれるプレイヤーにファンは多い。

 

そしてそんな彼等彼女等は、彼女に『ミーティアス』で無謀にも同キャラ対決を仕掛けた愚か者に、モニターを見ながらガヤガヤと沸き立っている。

 

一方のAZは、そんなリアルミーティアスたるシルヴィア・ゴールドバーグが、わざわざ来日してでも『黒い流星』と言う渾名が付いていた自分に会いに来た事実を受け入れ、ミーティアスとなった自分の胸に手を当てながら、深呼吸で高鳴る鼓動を鳴らす胸を静め、真っ直ぐに彼女のミーティアスをジッ……と見詰めた。

 

(やっべーな………)

 

レトロゲーマー………否、一人の『ゲーマー』としてシルヴィア・ゴールドバーグと対峙したからこそ。今の自分では(・・・・・・)、彼女から勝利を奪い取る事は『微塵の可能性しか無い』事を、彼は此の一瞬で理解した。

 

では、諦めて降参するのか?其の問いに関する、彼の答えは『No』だ。

 

些細で。微塵で。極僅かで。

 

蜘蛛の糸よりもずっと細く、ミジンコの様にずっと小さく、広大な砂漠の中で一粒の砂金を探すような、ほんの僅かな可能性であったとしても。

 

手繰り寄せて勝利を掴む為に、自分が持つ全てを懸けて挑む事こそが、彼女に━━━━━リアルミーティアスであるシルヴィア・ゴールドバーグに対する、自分自身に出来る最大の礼儀であると信じて。

 

 

『ラウンド1、3………』

 

 

カウントダウンが始まる。

 

今回の勝負は『1ラウンド・制限時間300秒』で行う、3ラウンド制の2本先取による勝利の、格ゲーでよくあるポピュラーなルール。

 

ダメージを与えるか、ダメージを受ける事でゲージが蓄積。一定量消費で『ゲージ技』及びゲージ全消費で『超必殺技(ウルト)』の使用が可能となる。

 

 

 

『2………』

 

 

AZがシルヴィア・ゴールドバーグの操るミーティアスを、過去に渡る動画含めて数日間と言う限られた時間の中で調べ上げ、解った事が『三つ』有る。

 

一つ、キャラコントロールと理解度(・・・)、驚異的な『反射神経』が高次元で両立した、圧倒的な『先制奪取』。

 

二つ、対戦相手の一挙手一投足を読み切る『先読み』と、自身のリズムを『変幻自在』に切り替え・組み換え・叩き付ける、凄まじい『柔軟性と瞬発力』。

 

だが、AZにとって『本当に恐ろしい』のは、其の二つ等では無く『三つ目』にある。あらゆる動画を注意深く、隅々まで観てきた彼だからこそ気付けた、彼女の『真の強さ』に。

 

 

『1………』

 

 

其れは『速攻』を掛けようが、雑な『長期戦』をやったとしても『意味が無い』。彼女を倒すには、そんな生半可な方法では『絶対に勝てない』。

 

やるならば『徹底的』に、彼女の選択肢全てを『読み切り』、そして全て『潰さなくてはいけない』のだから。

 

 

『Fight!!』

 

 

そんな彼の視線を、白と金の閃光が塗り潰し。黒と青のミーティアスはコロシアムと言う箱の中を、スーパーボールの様に跳ね飛んで、地面に叩き付けられ転がったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が起きた?何をされた?一体どうなっている?

 

ミーティアスを通して、全身に伝わる痺れや痛み。体力ゲージは尽きていないが、開始してから5秒経たずに半分まで減らされていた。

 

(ははは………笑えねぇ━━━━!)

 

コロシアムを走り、残された白金の軌道が己の瞳に映る。ベルセルク・オンライン・パッション(超速攻撃がデフォルトで乗ったバグ格ゲー)シャングリラ・フロンティア(大衆が認める文句無しの神ゲー)で、多少は動体視力が鍛えられたと思ったが、そんな事は無く。

 

全米一位は動画で観た以上のスピードで此方の反応速度さえ完全に上回り、初手から本気を叩き付けに来た。

 

『んな、わぉあ!?』

 

直感。身を屈めて躱わせば、先程まで頭が在った場所を閃光が過ぎ去り。しかし直ぐ様、とんでもない加速で地面を蹴り砕きつつ、再び攻撃を仕掛けてくる。

 

『くぉ、っ!だぁ!?』

『!』

 

身体を動かし、攻撃を回避。常にコロシアムの壁と、過ぎ去った軌道から入射角を意識して、全米一位の攻撃方向を『予測』。

 

動画で観てきた彼女と、今此の瞬間に見せている彼女の動きを精査しながら、此方も高速で移動を開始。情報をインプット、アウトプットで『更新し直す』。

 

『だぁ、せいっ、とう!のぉぉぉぉん?!』

『ヘェ……ソコソコ、動けるんだ?』

『こう見えて、まだプレイ開始数日(・・)だけどな!人間の身体の『動かし方』はッ、熟知してるんだよ!』

 

事実、突如決められたシルヴィアとの対戦で、梓が此のゲームをプレイした時間は、僅か数日と言う短さしか無い。しかし数々のレトロゲームや、ブシカッツォとの戦いを経た事で、人体と生物の『体格挙動』を身体に染み付かせた彼は、コロシアム型のフィールドをレトロ格ゲーの其れに『例え直し』、自分と彼女の操るミーティアスをレトロ格ゲーのキャラに『写し直す』事で、此の短時間の内に微細ではあるものの、リアルミーティアスの動きに『適応』し始めていたのだ。

 

『じゃあ3段階(・・・)くらい、ギア上げようかな?』

『━━━━━━━━━は?』

 

全米一位の発言、直後に打ち上げられる黒と青のミーティアス。空が、白と金の軌道に染まり出す。

 

『ッッッ、負けっかぁ!!』

 

ゲージ消費、ミーティアスの技『スターロード』起動。5秒間と言う僅かな時間だが、空中すら走れる其のゲージ技は、ミーティアスが何たるかを示すには十分であり、同時に滅茶苦茶扱い辛いのがプレイヤーの総評だ。

 

だがリアルミーティアスに掛かれば、其れすらも完璧にこなす。空中戦は彼女に掛かれば朝飯前、寧ろ十八番と言わんばかりに叩き付けてくる。

 

だからなんだ?此方は最初から負けるつもりで戦うなんざ、毛頭思っちゃいない!

 

シャンフロでレディアント・ソルレイアを使い続けて、高速機動で培った感覚を!スキルを全開にして、空を駆けた衝動を!此の瞬間に!

 

『ブッ放す!!!』

 

空を黒い流星が迸る。自身に繰り出せるトップスピードを解放し、積み重ねてきた鍛練の成果を引き出しながら、白と金の流星(ミーティアス)黒と青の流星(ミーティアス)が食らい付く。

 

『アハッ、此れがブラックシューティングスターなんだネ!AZ!』

『プレイヤーやキャラ性能で、勝敗が決まる訳じゃねぇってのを見せてやらぁ!』

『上等ッ!』

 

ぶつかる、()ぜる、弾け合う。

 

空を走る二つの流星が幾度の激突の果てに、白と金の流星が、黒と青の流星を打ち砕き、コロシアムの地面に墜落させた。

 

『ぐっ………!やっぱ、リアルミーティアスは伊達じゃない………か』

 

結局一撃も当てる事が出来ず、AZのミーティアスの体力はミリになって。Silviのミーティアスが、ダッシュで接近してくる。

 

『イイネ、ブラックシューティングスター。速さも空中戦も今までのミーティアス使いだと、良い方に居る。けど……此のラウンドは私の勝ちダヨ!』

 

蹴りのモーション、此の状態では避けられない。

 

『あぁ。此のラウンド()……貴方に譲るよ、リアルミーティアス』

 

最後に不敵な視線を送り、Silviのミーティアスによるサッカーボールキックを脇腹に受け、蹴り抜かれたAZのミーティアスが爆発する。

 

 

 

 

ラウンド1、勝者・Silvi to ミーティアス

 

 

 

 

 

 






全米一位の実力




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黒の流星よ、一等星を喰らえ



戦いを観る者




「まぁ、AZが最初のラウンド落とす事は解ってたし。寧ろ30秒ギアを上げたシルヴィ相手に、よく食らい付いた方だとは思うけど」

 

Silviのミーティアスが、AZのミーティアスをサッカーボールキックで仕留め、ラウンドを奪い取った頃。今回の黒幕である魚臣(うおみ) (けい)こと『K』が、ギャラクシー・ヒーローズ:バースト内の専用フロアから、二人の対戦を眺めていた。

 

(てかAZ(アイツ)、よくよく考えたらシャンフロでレディアント・ソルレイアや、空中ダッシュスキルを使いまくってるからか、空中戦もかなり『出来て』たな)

 

Kは知っている。二年の年月で数百に渡るゲーム対決で経験した、AZの持つ『恐ろしさ』を。格ゲーに置けるラウンド制、彼の本領は強敵を相手にして、1ラウンド目を落とした瞬間(・・)から始まるのを。

 

(さぁ、シルヴィ。AZの強さを知ると良いよ)

 

プロゲーマー(ブシカッツォ)相手に思考で読み勝ち、レトロゲームとは言え勝ち越しているレトロゲーマー(AZ)の力が、リアルミーティアス(Silvi)に牙を剥こうとしている………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『百聞は一見にしかず』と言う諺がある。

 

聞いただけの話で納得せず、実際に見て確かめよと言う意味である。また現代風に言うならば『動画やネットの情報を見聞きして解ったつもりに成らず、実際に経験してみよう』といった意味が込められているのだ。

 

つまり、今のAZがSilviのミーティアスを相手にして、経験した事に恐ろしい程合致していた。

 

(いやはや。とんっっっっっでもねーな、リアルミーティアス。見ると体験するとじゃ、全然違うわ)

 

バトルフィールドにして、蹴り砕かれたコロシアムの外壁や石畳が再生する中、AZは口元に手を当てながらも、ほんの数十秒間の戦いで得られた情報を脳に入れて、勝利の道筋を構築するべく思考を重ねた。

 

(一応、一撃叩き込める『算段』は整ったが……問題はあの『スピード』。加速されたら(・・・・・・)、正直追い付く事は同じキャラを使ってても難しい)

 

ミーティアスの強さは、何と言っても『ゲーム内最速のスピード』と『空中戦に置けるビックアドバンテージ』だ。動き出したら止まらない、空中に飛ばされたなら十八番の戦場。其れをリアルミーティアス(Silvi)がやったのならば、一瞬で攻めきられて、重量級キャラ以外等しく纏めて御陀仏不可避。

 

(フィールドの状況、相手との距離、俺が地上で出せるトップスピード…………『条件』は揃ってる。後は彼女が俺の、考え得る行動を『取ってくれるか』………だな)

 

自由奔放に走り回って飛び回る、超速高機動の敵キャラを倒す方法は、古今東西あらゆるゲームで決まっている。ソイツを鳥籠の中に閉じ込めて、高機動の武器たる『自由』を封じるように。リズムを生み出し、変幻自在に変えるなら。其の波長すらも『飲み込んで』、全て思考の『範疇に置いて対処する』。

 

スタートダッシュでリアルミーティアスから初手を奪い取り、思考で行動を読みきって沼に沈め、流れを渡さずに倒しきる。もし失敗したなら、最後まで一撃当てる事のみに思考を切り替えて、絶対王者に自分を刻み付けてやる。

 

(やってやろうじゃん……!)

 

瞳に闘志が灯る、心も折れてはいない。視界がクリアになり、思考も冴えている。

 

『ラウンド2、3………』

 

 

カウントダウン開始、リアルミーティアスがストレートか。其れとも無謀なチャレンジャーが五分に戻すか。

 

 

『2……』

 

 

AZのミーティアスが、Silviのミーティアスよりも低く、更に低く構えを取る。其れは絶対王者の彼女の目には、黒と青のミーティアスの構えが、日本の伝統競技『SUMOU wrestling』の様にも見えて。

 

 

『1……』

 

 

だが、AZのミーティアスの左足が伸びて、伸びて、伸びて。此処まで見て其れが『変形したクラウチングスタート体勢』を取っていたと気付き、彼女は僅かに警戒。

 

 

『Fight!』

 

 

先に動いたのはSilviのミーティアス、ではなく。全神経の集束による集中と、後が無い中で己の全てを懸けたAZのミーティアスが、リアルミーティアスの『初速』を上回る疾走を発揮。ラウンド1の仕返しとばかりに、全速力で真っ直ぐに突っ込んできた。

 

『Wow!フルスロットル!そうこなくっちゃ!』

 

Silviのミーティアスが加速し始める。此のままじゃ駄目だ、逃げられる。相手に逃げられたら、もうチャンスはやって来ない。此れじゃ駄目だ、届かない。

 

ならば、どうする?届かせるには、流星を捉えるには。お前に出来る事は━━━━━━━何だ?

 

『ッ!アアアアア!!!!』

 

加速しろ!ぶつかることを怖れるな!此処は『ゲーム』だ!現実じゃない!此の瞬間にしか勝利を掴むチャンスが無いなら、前へ出ろ!

 

魂が吠える様に直線を駆けた黒と青の流星が、白と金の流星の予測を越えた速度を繰り出した。

 

『What's!?』

 

ラウンド1時点で見ていたAZのトップスピード、其れを更に上回る彼の速さに、かの絶対王者もどうやら予測出来なかったらしい。だが、其れでも彼女は揺るがない……………誰よりも(・・・・)ミーティアスと言うキャラクターを、人一倍『深く理解している』からこそ、あの爆発的な加速は『自分以外』で曲がる事は出来ないと。

 

だからこそ、彼女は『カウンター』を狙う。AZの操るミーティアスは確かに『速く』、そして『空中戦』も強い。しかし其の能力を充全(・・)に発揮する為の『動体視力』が圧倒的に足らない事が、Silviには解った。

 

全力で突っ込んでくる黒の流星、其の顔面を全力で蹴り砕く。自分を相手に、全力と本気でぶつかって来た彼に対する、プロゲーマーとしての矜持を以て答える為に。

 

流星との距離が詰まり、世界と景色がスローに成る。タイミングを合わせて、彼女の左足が繰り出され━━━━

 

『待っていたよ、此の瞬間を』

 

 

 

 

白と金の流星の繰り出した左足が、黒と青の流星に掴まれた。

 

 

 

 

『貴方なら、真正面から突っ込んできた俺を『バックステップの回避』ではなく『蹴り技による迎撃』を選択すると━━━━━━読んでました(・・・・・・)

 

 

 

 

AZが笑い、Silviが驚愕で目を見開き。

 

Kが獰猛な笑みを浮かべ、観戦するプレイヤーが彼の読みの深さの一端を目の当たりにし。

 

加速と回転によって、体勢が崩された両者の身体が、互いにコロシアムの石畳へ、凄まじい勢いで叩き付けられたのだった。

 

 

 

 

 






反撃への狼煙を上げろ




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黒とは自分を隠す色、他者には煌めく虹の色



ヒーロー対決、決着




シルヴィア・ゴールドバーグが操るミーティアスは『スピードキャラが相手の場合』、迎撃ではなくバックステップによる回避を選択する場合が、7割の確率で存在する(・・・・)

 

そして『ミーティアス同士の対決の場合』に限り、彼女は『意識』しているのか、はたまた『無意識の癖』なのか、回避ではなく迎撃を選択する場合が多い(・・・・・)

 

だが此の戦法は、リアルミーティアスに『逃げられてしまっては』意味が無い。故にAZは戦いが始まった瞬間より。彼女を思考の沼に引き摺り込む為の策を、戦いの中で『仕掛けていた』。

 

最初のラウンド、自分が出せるトップスピードを『敢えて』相手に見せ、此れが自分の最高速と『認識』させ。

 

相手が回避ではなく迎撃を『選択する』ように、ラウンド2開始時点の全力スタートダッシュから、更にもう一段階『加速』する。

 

そして最後は、ミーティアス同士の戦いに於いての、彼女の思考を『信頼』したからこそ。

 

『だらしゃあああああい!』

『っぐぅ!?』

 

高速で過ぎ去る景色の中、振るわれる脚を此の一瞬の中、己の直感と共に手を伸ばして掴み取り。彼女の蹴りの攻撃時に発生した軸足の回転と、自身の放ったスピードによる相乗を、自爆覚悟のスイングスローで己諸ともコロシアムに叩き付ける。

 

体力の減少具合は、AZのミーティアスの方が大きい。だが、其れでも。此迄捉える事も、ダメージを与える事も叶わなかった、Silviのミーティアスの体力を削り、初めて『思考』による刃を届かせる事が出来たのだ。

 

『ヨッシャア!届い、たぁぁぁぁ!』

 

歓喜、雄叫び、しかし止まらない。勝機を決して逃さぬ為、再びフルスロットルで立ち上がり、超至近距離の格闘戦に持ち込む。

 

『ッ、surprised(驚いたよ)!キミは『コレ』を狙ってたんだ!』

『まだまだ、こんなもんじゃない!』

 

至近距離の戦い、繰り出すは『拳』。原作(コミック)のミーティアスは、足技による可憐でスピーディーな戦いを得意とするが、此処は『ゲーム』である。何よりジークンドーは、ボクシング等も参考にしている武術。

ブレイクダンスキックや、敵の体格を利用した蹴りにだけしか使わないなんて『あまりに勿体無い』と、AZは思っていた。

 

『せいっ!』

『其所だ!』

『ぐふ、っ!?』

 

拳がコンパクトに飛び、其れを躱わして蹴りを入れる。黒と青の流星は『初速及び直線』と言う、非常に限定的な条件下に限り、白と金の流星のスピードを『凌駕』する。故にこそ、彼女は『接近戦』から『スピード勝負』に持ち込みたい。

 

総合力では此方に圧倒的なアドバンテージが有り、リズムを変幻自在に変えて押し付けるのが、シルヴィア・ゴールドバーグのバトルスタイルだ。

 

AZのミーティアスの腹部に、Silviのミーティアスの蹴りが突き刺さる。距離が出来る、バックステップを踏め。そして『スターロードで加速する━━━ですか?』思考を読まれ、其の一瞬に右足が彼の左足に踏み付けられ。

 

『此れでも食らえッ!』

 

直後、踏み付けた脚で跳躍したAZのミーティアスが、右腕と右足を振り翳して来るのを見た、Silviのミーティアスが左サイドのガードを固め。

 

其れを更に読み切った彼の膝蹴りが、顔面に叩き込まれクリーンヒット。白と金の流星の身体が宙を舞って、空中一回転で地面に着地する。

 

AZは彼女を思考で捕まえんと、再び格闘戦の為に走り出し。観客は名も知らないプレイヤーが、まさかのジャイアントキリングをするのかと期待し。KはA-Zの思考深度が、自分だけでなく全米一位にも通用したと思っていた。

 

だが、彼等彼女等は。

 

シルヴィア・ゴールドバーグというプレイヤーが、『自身のテンションの変化によって、パフォーマンスが跳ね上がる』タイプのプレイヤーであるとは『知らなかった』。

 

其れは『自由』を奪われ、己の思考を『読み切り』、選択を『潰してくる』プレイヤーにより、ある種の『スイッチ』が入る。其れはカチッと(・・・・)、触れてはいけない『スイッチ』が入ってしまう音が、シルヴィア・ゴールドバーグの脳内で響き渡る。

 

そして此の日、此の時、此の瞬間。ギャラクシー・ヒーローズ:バーストで、彼女とAZの対戦を観ていた者は知る事になる。Silviのスイッチを入れてしまった(・・・・・・・)プレイヤーが、如何なる『末路』を辿ったのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えぇ…………』

 

其れはもう本当に酷かった。能面に似た無表情と最適化された無駄の無い動きでAZのミーティアスから勝機を奪い返し、空中に蹴り上げてから、僅か10秒足らずで体力を1割にまで削り切って、超必殺技(ウルト)『ミーティアストライク』による飛び蹴り粉砕で、此の対戦を勝利したSilviのミーティアスに、AZはドン引きと共に言葉を発した。

 

(まさか全米一位に『第二形態』が在って、其れがさっきのヤツ……だったり?所謂『覚醒』って感じ?いや………リアルミーティアスの、本当の『本気』ってか………!)

 

レトロゲームで時折体験した、強制敗北イベントへ実際に立ち会ったキャラの気分を体験する、良い機会になった。リアルミーティアスの強さも速さも体験出来たし、最強相手にダメージを与えると定めた目標も、何とか達成出来たので良しとしておこう。

 

『HEY、ブラックシューティングスター!』

 

と、Silviが声を掛けてきたので視線を向ける。彼女の声色は何と言えば良いのか、怒っている様にも喜んでいる様にも聞こえる。霊体の為に表情が解らないが、何となくそんな気がした。

 

『あ、えっと……』

『You are amazing!And deep reading!チェスかショウーギ、やってるの?』

 

どうやら彼女は、自分の読みの深さが何処から起因したのかを聞きたいらしい。

 

『強いて言うなら………レトロゲーム』

『Retro games?』

『そう、レトロゲーム。ガンシューティング・弾幕ゲーム・FPSにRPG、パズルゲームやボドゲ諸々含めて、兎に角色々プレイする。対人戦も一瞬一瞬のやり取りから、相手の行動を読む事………かな?後は反復と経験の蓄積、其れを繰り返せば誰にだって(・・・・・)出来るよ』

 

対戦相手のキャラクターの動かし方や使う技、多用するアクションの傾向等々、リプレイ映像の中にも学べる事は沢山在る。AZの持論を聞いたSilviは数秒後にこんな事を彼に言ってきた。

 

『I will surpass your reading and win with a shutout next time』

 

其の意味は『貴方の其の読みを越えて、次は完封して勝つわ』だ。シルヴィア・ゴールドバーグは完封勝利宣言と題した、宣戦布告を自分に叩き付けて来たのである。

 

ならば、此方も答えなくてはいけない。

 

『………!Let's take up the challenge』

 

其の意味は『其の挑戦、受けて立とう』。彼女が此処まで言ってきたのだ、ならば全身全霊全力全開で挑んでこそ、ゲーマーとしての礼儀と言うもの。

 

尚、ブシカッツォが作った部屋から退出した所、戦いを観戦していた他プレイヤーから色々と質問攻めに有ったので、魔法の言葉『フレに呼ばれたんで部屋抜けますね^^』で強制ログアウトをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがしかし、AZは━━━━梓は知らない。

 

ギャラクシー・ヒーローズ:バーストの絶対王者にして、全米一位の無敗の格闘ゲーマーことシルヴィア・ゴールドバーグに関する『とある言葉』が、プロの格ゲーマーの間に存在している事を。

 

『シルヴィのミーティアスに一撃当てられたら、初めて一人前』なる言葉が在る。

 

ゲームを初めて『数日ながら』、シルヴィのミーティアスへ『一撃を叩き込み』。僅かな時間とは言え、彼女の行動を思考によって『縛り付け』。あまつさえ彼女に感情(テンション)のバーストによる本気(マジ)を『引き出させた』━━━━━そんなプレイヤーの出現。

 

其れによって、謎の新規プレイヤー『AZ』の名は、プロの格ゲーマーもプレイする此のゲームに、流星の如く拡散されていく事になるが………。当の本人はそんな事実を、知る由も無かったのだった。

 

 

 

 

 

 






リアルミーティアスからの挑戦状


※尚、試合観戦後に現実世界に戻った慧はシルヴィに色々問い詰められた模様。主にAZの思考深度のヤバさについて。あと電脳大戦からの電話も掛かってきて、スカウト諸々の対応もした。




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流星の軌跡は、電子の世界に光を残す



掲示板+α回




 

【ギャラクシー】戦闘観測所 part68【バースト】

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

********************

******************

****************

 

 

 

 

640:名無しの観戦者

滅茶苦茶ヤベー者居たな

 

641:名無しの観戦者

嗚呼、アレか

 

642:名無しの観戦者

Silviに挑んだAZだろ?

 

643:名無しの観戦者

そうそう。黒で青のラインが入った、カラチェンのミーティアス使いな

 

644:名無しの観戦者

ラウンド1で無謀にもスピード対決しにいってボコボコ、からのラウンド2で体力を1/6まで減らしたプレイヤー。で、其の後にSilviの動きがTASみたいになって10秒KOしたのはヤバかった。しかもAZってプレイヤーは、プレイ開始から数日しかやってないって事が、もっとヤバイ

 

645:名無しの観戦者

それな。てか、あんなSilviは初めて見たよ

 

646:名無しの観戦者

読んでいたって台詞でゾワッとしたわ。Silviも驚愕してたし

 

647:名無しの観戦者

わかる

 

648:名無しの観戦者

わかるわ、ゾワッってきたしなアレ

 

649:名無しの観戦者

まぁ結局Silviにボコされたんだけどな乙

 

650:名無しの観戦者

というかSilvi、テンションファイターだったのは意外。感情の高まりでパフォーマンスが上がるのかな?

 

651:名無しの観戦者

唯でさえ強いのに、更に強くなるの………?

 

652:名無しの観戦者

どう考えてもラスボスです、本当にありがとうございました

 

653:名無しの観戦者

既にラスボス定期

 

654:名無しの観戦者

AZねぇ………もしかしてA-Zの可能性ある?

 

655:名無しの観戦者

絶対無敗の最強王者だもんなSilviは。アレからラウンド取れるのはプロでも上澄みの、更に其の中の極々一握りの奴しか居ない

 

656:名無しの観戦者

そしてカースドプリズン使いには容赦無い

 

657:名無しの観戦者

せやな

 

658:名無しの観戦者

《654

ん?A-Z?誰ソイツ?

 

659:名無しの観戦者

A-Z?誰?プレイヤー?

 

660:名無しの観戦者

《658

《659

知らんの?辺境のゲームセンターに出没しては、店内のスコアを軒並塗り替えてくレトロゲーマー。因みに全国スコア対応型のも更新してるし、結構高い難易度の媒体も有る中で10位以内に必ずコイツの名前が入ってる

 

661:名無しの観戦者

へー、そんな奴居るんか

 

662:名無しの観戦者

あ~そいや、聞いたことあるわ。何か変なコスしながらゲームプレイしてるヤツ

 

663:名無しの観戦者

AZ→A-Z もしかしてそゆこと?

 

664:名無しの観戦者

いや、単純にソイツに肖った名前なのかもしれん

 

665:名無しの観戦者

御本人だったり?いや、流石に無いか

 

666:名無しの観戦者

てっきりアーケードゲームとかのレトロゲーム専門だと思ったんだが………VR関係もやるんかアイツ

 

667:名無しの観戦者

VR関係のレトロもやるために慣らし運転してる説

 

668:名無しの観戦者

あ、そうも考えられるのか

 

669:名無しの観戦者

しかしまぁ、Silvi相手に空中戦で食い下がった奴初めて見たわ

 

670:名無しの観戦者

リプレイ映像もあるが、一応空中戦の部分だけ切り出して置いたよ

 

【映像】

 

671:名無しの観戦者

助かる

 

672:名無しの観戦者

感謝

 

673:名無しの観戦者

有能

 

674:名無しの観戦者

ナイス!

 

675:名無しの観戦者

いや、ホントにスゲェな

 

676:名無しの観戦者

空に星を描いてる………

 

677:名無しの観戦者

楽しそうですね……

 

678:名無しの観戦者

尚、撃墜される模様

 

679:名無しの観戦者

御二方共よくやりおる

 

680:名無しの観戦者

A-Zか……覚えておこう

 

 

 

 

********************

******************

****************

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「ふぅ……………」

 

全米一位との同キャラ対決を終えて、ギャラクシー・ヒーローズ:バーストからログアウトした梓は、頭に着けた最新型VR機材を外しながら、大きく息を吐いた。

 

リアルミーティアス何たるかを見せ付けられ、殆ど完敗に等しい敗北。圧倒的な経験とプレイヤーの性能の差が顕著だった事を痛感するには充分で。

 

「次やる時に『動体視力』と『対人戦での身体の動かし方』を、今以上に鍛えなきゃな………。ゲームでそういう奴が無かったか、サンラクやブシカッツォに聞いてみよう」

 

サンラクやブシカッツォ程では無いにしても、動体視力はある程度強化しておきたい。シャンフロではスキルによって動体視力(其れ)を補えるが、他のゲームではそうはいかない。

 

早速、Eメールアプリを使ってクソゲーマーとプロゲーマーの二人に、レトロゲーマーはメールを送る。其の内容と、やり取りはこうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

件名:大将、オススメある?

from:A-Z

to:ブシカッツォ

 

全米一位にコテンパンにやられたので、動体視力と対人戦の両方を鍛えられる、便秘以外のそんなゲームが有ったら教えて下さい。

 

 

 

件名:Re大将、オススメある?

from:ブシカッツォ

to:A-Z

 

ボコボコにやられてたなA-Z、御愁傷様です(笑)。まぁ、其のお陰でシルヴィへの勝筋がちょっと見えた気がするし、感謝しとくよ。しかもアイツ、わざわざ此方の部屋に乗り込んできて、お前の事を事細かに聞いてきたわ……。

 

ありゃガチだね……自由を縛られたのが相当堪えたみたい。で、動体視力と対人戦を同時に鍛える奴だっけ?俺のオススメはやっぱり『デュエル・ガンナー』だな。所謂『早撃ちゲー』で、動体視力と反射神経の研鑽を積むなら。

 

因みにサンラクもプレイした事があるが、アイツ曰く『可も無く不可も無い、普通の良ゲー』って言ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

件名:大将、オススメある?

from:ペッパー

to:サンラク

 

復讐したい奴が居るんだが、ソイツ相手に動体視力と対人戦で勝つ為に、便秘以外の戦場を探しているんだが、何かオススメ有りませんか?

 

 

 

 

件名:Re大将、オススメある?

from:サンラク

to:ペッパー

 

便秘以外か……なら断然『辻斬り・狂騒曲:オンライン』。彼処は良いぞ………絶え間無く選択肢を迫って来るし、何より対人戦をしたいならオススメだ。

 

相手が誰かは知らんが、勝つ為に足を踏み入れるなら歓迎するぜぇ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュエル・ガンナー………辻斬り・狂騒曲:オンライン………か」

 

ゲーマー達から示された、新しい戦場の名をメモに書き記し、梓は早速ネット等の情報を調べ始める。そして彼は、デュエル・ガンナーこと『デュエガン』と、辻斬り・狂騒曲:オンラインこと『幕末』の世界を。其所に生きるプレイヤー達を、否応無しに知る事になる…………。

 

 

 

 

 






戦いの後の喧騒、己を鍛える為の戦場を求めて



デュエル・ガンナー

一対一の早撃ち対決型のVRゲーム。通称『デュエガン』。反射神経と反応速度に関してヤベー奴等が多く、カッツォこと『カッツォダシ』も『撃たれる前に撃ち倒す』を学んだ。

因みに不動の一位は『野比のび太』に匹敵する早撃ちの化物が居るし、上位組には『冴羽 獠』や『次元 大介』に『ゴルゴ13』に近いレベルの早撃ちのスペシャリストがゴロゴロいる。

クソゲーマー・サンラクの早撃ちレベルは『中の上以上の、上の下くらい』の速さ。解りやすく言うと、一流のガンマンの中の更に上の上澄みに居るレベル。普通に強いんだが、マジモンのヤベー奴等にはちょっと届かないな感じ。




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血飛沫と死を炉に焼べ、修羅を双眸に宿して



レトロゲーマー、修羅の國に往く




「辻斬り・狂騒曲:オンライン……。いや、長いから辻斬りで。えっとダウンロードショップには………お、有った有った」

 

シルヴィア・ゴールドバーグとの一戦を終えた後、彼女に勝つ為の修行場として、ゲーマー仲間のサンラクから奨められたゲームソフトのダウンロード版を探し、御目当ての物を発見する。

 

「辻斬りは通常ソロプレイだが、幕府軍と維新軍のどちらかに所属する事で、色々な恩恵が得られる……と」

 

購入・ヘッドギアにダウンロードする中で、スマフォを使ってゲームの内容を調べる。どうやらゲームの舞台は江戸時代の幕末風を模したフィールドで、幕府・維新・浪人の三つの派閥に分かれて戦うのだとか。

 

「幕末と言えば血を血で洗う、ヤバい時代だったからな………」

 

新撰組が活躍し、日本の夜明けの為に戦い、命を散らした者達が居た。血が血を呼び、仇討ちによって華が咲いた、そんな時代である。何より梓が警戒したのは『プレイヤー達は和気藹々の仲良しです!』という、公式サイトやレビュー文章から滲み出てくる、圧倒的なまでの胡散臭さ(・・・・)

 

こういうタイプはレトロゲームで幾度も体験したし、何よりもゲーマーとしての直感が『初手に気を付けろ!』と、高らかに警鐘を鳴らしているのだ。

 

「まぁ、行ってみれば解るか………ダウンロードも出来たし、明日は休みでトワと逢うまで時間は有る。ほんのちょっとやってログアウトしよう」

 

機材確認・水分補給・トイレを済まして、ギャラクシー・ヒーローズ:バーストから辻斬り・狂騒曲:オンラインに変更し、頭に装着。梓はキャラメイク画面に移行後、自身をベースとして細マッチョな体格と釣り目の男性、初期装備を其の身に纏うアバター『ブラッドペッパー』を作り、幕末の世界へと往くのだった。

 

彼は此の世界で、此処に生きる者達の『狂気』を知る。そしてゲーマーという生き物にとっての『ほんのちょっと』は、一時間程度では決して終わらない事を意味している………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕末の世界に降り立ったブラッドペッパーが、メニュー画面を開きつつも、最初に警戒したのは『初手リスキル』だった。

 

「「ログイン天誅!!!」」

「「ログボ天誅!!!」」

「やっぱり『リスキルやスタート地点待ち伏せタイプ』で来たか!」

 

ある程度予想しては居たが、やはり此の手のタイプだったと思いつつ、刀を構えて全方位に警戒網を張り巡らして、敵の襲撃を往なしていく。

 

此のゲームにはシステムとして『直感システム』なる物が、プレイヤーにデフォルトとして備わっている。殺意や攻撃に対し、うなじに当たる部分に『微細な静電気が走る』感覚、其れが先程から立て続けに襲い掛かり。

 

しかしブラッドペッパーは『剣豪アクションレトロゲーム』で感銘を受けた、剣術の師匠にして同ゲームのラスボスの動きを『独自改良(アレンジ)』した物で戦い、プレイヤー達を退ける。

 

「何でビギナーなのに、ログイン天誅対応してんだオメー!?」

「ゲームで鍛えた!以上!」

「せ、せめて装備は質屋に流……ぐへぇ!?」

 

逆手胴斬り一閃で襲い掛かったプレイヤーを仕留め、周囲警戒を決して怠らない。此の手のゲームは『基本的』にソロプレイ、つまり『自分以外の全てが敵』という理論が存在している。

 

プレイヤーの落とした武器を拾って、警戒を続けながらも一先ず問屋が何処なのか探すべく、ブラッドペッパーが移動を開始した其の瞬間。突如響くは銃特有の発砲音と、左肩を弾丸が貫いた感触。

 

そして━━━━━

 

「経験値埋め合わせ天誅ぅぅぅぅぅぅぅ!」

「ッ!諦めない!!!」

 

上段からの飛び込み一刀両断に兜割りを食らいながら、死の瞬間まで抗わんとし、逆手抜刀斬り上げでプレイヤーを殺して相討ちとなり。

ブラッドペッパーは、幕末で『初めて』の死を経験する事になった。

 

そして同時に考える。『自分の肩に弾丸を撃ち込んだ奴に、一体どんな最期を与えてやろうか』━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其の後もブラッドペッパーは、他プレイヤー達から襲撃を受け続けた。あるプレイヤーは銃撃で彼の頭を撃ち抜いて、またあるプレイヤーは味方ごと此方を団子刺し、はたまたあるプレイヤーは爆撃で仕留めて来る。

 

だが、ブラッドペッパーの強さは『負けて』。自身が『失敗』して。そして『死んだ』経験を糧に、己の思考として其れを『記憶に蓄積する』。一度殺されたなら、殺した相手と殺し方を、記憶に刻み付けて忘れずに。プレイヤーが複数で来るならば、途中で横槍や裏切りを考慮して立ち回る。

 

「天誅ーーーーーーーー!」

「其れは知ってます、よ!」

「な!?ぐへぇ!!?」

 

ログイン・ログボ・リスポン・経験値・其の他諸々etc…………彼等彼女等が掲げ唱える天誅(其の言葉)の意味が、ブラッドペッパーには『解らない』。だが襲い掛かって来るならば、此方も刀を振るうだけ。己に掛かる火の粉は全力で振り払い、殺意は打ち倒し滅するのみ。

 

「天誅ゥア!!」

「はい、其所ですね!」

「グアー!?」

「おい、彼処の野郎の潰すぞ!裏切んなよ………天誅!!!」

「御命頂戴天誅!!!!!」

 

見る、動く、斬る。見る、動く、斬る。

 

斬られて死ぬのは己の思考が浅いから、撃たれて死ぬのは可能性の考慮が薄いから。ならば思考を広げろ、フィールド全体を見ろ。一点に捕らわれず、相手の視線も意識して動け。

 

自分の動きを殺意を、相手の動きを殺意を、建物やオブジェクトの位置も、全て己の思考に入れて、目指すべき終着点を描け。

 

「斬りッ、割く!」

「ぶぎゃほ!?」

「アイツ何なの!?おかしいだろ!?ログボリスポン奇襲悉く跳ね返して━━━━━」

「いただきますわ、天誅」

「あ、やバボフ!?」

 

互いに喰らい喰らわれの蟲毒が坩堝。

 

信ずるは己と己の得物のみの修羅。

 

刀に手を置けば戦いの合図也。

 

「天誅!!!」

「すいません、いただきます!」

「ぎゃん!」

「アイツをぶっ殺せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「何処からでも掛かってこいッ!」

 

礼節を忘れず、挑んだ者には感謝の意を。其れは其れとして、自分を殺した奴には復讐を忘れない。

 

「漸く、だな。あの時、俺の左肩を撃ち抜いた分は返したよ」

「ぐっ…!次再び……逢った時には、御命頂戴……!」

「━━━━━天晴れ!」

 

斬ッと音が鳴り、自分を一度殺したプレイヤーが倒れる。周囲警戒は怠らない、武器を拾って即移動。

 

そして思った。いや………、思わずにはいられなかった。

 

(嗚呼……━━━━━━━━━)

 

 

 

 

コレすっごく楽しいな(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

そんな想いに至ったブラッドペッパーは、何処からともなく空から降ってきた、身の丈サイズの斬馬刀に脳天唐竹割を食らって死んで。リスポーン後にリスキルしてくるプレイヤー達を斬り倒し、今後の活動も踏まえて『銃と刀』での戦いが出来るという『維新軍側』に所属する事に決定し、役所に出頭。

 

諸々の手続きを終え、晴れて維新側のプレイヤーになったブラッドペッパーは、セーブをしつつも周囲警戒を怠らず続け、此の修羅の國からログアウトしたのだった。

 

そして此の日━━━━『ニュービーなのにリスキルが通用しないヤベープレイヤー』として、ブラッドペッパーの名前が幕末に拡がる事となる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尚、梓がログアウトした時の時間は午前三時前であったのを、此処に記載しておく。

 

 

 

 






幕末でしか味わえない感覚




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勇者は最期の試練に臨む



クエストを進めるために、己の全てを懸けよ




得られた物は辻斬り・狂騒曲:オンラインでの戦いが楽しかったという感触。

其の楽しさの代償に、ほぼ徹夜で遊んで目が覚めたのは昼間の午後二時、就寝時間十時間越えの大寝坊という始末。

 

「さてさて、あーくん。おねーさん朝からずぅぅぅぅぅ…………と、フィフティシアで待ってたのにシャンフロへはログインしないしぃ?昼過ぎになっても、一切メールには返信しなかったしぃ?一体 ど ん な 言い訳をするのかなぁ?」

 

そして梓が起きた時には、Eメールアプリに永遠からのメールが百にも渡って届いた事で、急いでシャンフロにログインして、アイトゥイルと共に兎御殿からゲートを越えて、フィフティシアに向かい。

 

待ち受けていたのは、ニッコリ笑顔と青筋をビキビキに浮かべたペンシルゴン、腕を引かれて街中を歩き、裏路地に引き摺り込まれて壁ドンを食らったのだ。其の圧たるや凄まじく、愉快合羽に隠れたアイトゥイルも震えている程ヤバい。

 

「…………オイカッツォからの要請で、ギャラクシー・ヒーローズ:バーストで全米一位ことシルヴィア・ゴールドバーグと戦いました。其の時は電脳大隊(サイバーバタリオン)のトップも、其の対戦を見に来て居たので逃げられず…………。ダメージは与えられたんだけど、結局殆ど手も足も出ずに完敗して、リベンジの為に二人に動体視力と対人戦経験が積めるゲームを聞いたら、サンラクから辻斬り・狂騒曲:オンラインを奨められたので、プレイしたら結構ハマりました………。ハイ……………」

 

ありのまま、包み隠さずに真実を伝える。其れを聴いたペンシルゴンの表情は、此れまでの物とは『何れにも当て嵌まらない』、喜怒哀楽の色々な感情でグチャグチャの、何を考えてるのか全く解らない物になっていて。

 

「此れはカッツォ君とサンラク君にも『オハナシ』をしないとだねぇ………?ゲームとは言え、私の(・・)あーくんをプロゲーマーとの戦いに引っ張り出した挙句、私の(・・)あーくんをあんな『修羅の世界』にハマらせた分のオハナシをキッ~チリ……たぁ~っぷりしないと、ね?」

 

其れも一瞬で元の不敵な笑顔に戻り、されど青筋は浮かべたままでブシカッツォとサンラクに、一体どんなオハナシをしてやろうかと企んでいる。

 

「ふぅ………君の予想超えは今に始まった事じゃないしね。隠し事をしている感じもなかったから、許してあげる。あ、其れからさ。あーくんの電話番号教えてくれない?」

「………ハイ、本当にすいません………。で、何で電話番号?」

「大遅刻したんだから、文句言わなーい」

「解った、解ったから……」

 

正直生きた心地がしない。其れは其れとして、カッツォは何時か便秘でボコり、サンラクには辻斬りのプレイヤー達が何故天誅と叫んでいるのか聞く事を決め、電話番号をEメールアプリを使って送り、そうして彼女に本題を切り出す。

 

「ペンシルゴン、例の廃船の場所まで案内し……て下さいお願いします」

「ん、良いよー♪でもぉ……あーくんに『お姫様抱っこ』、して欲しいなぁ?」

「………仰せのままに」

 

寝坊による大遅刻をしたのだ、此れくらいの要求は呑むに限る。彼女をお姫様抱っこし、其の案内の元、二人と一羽はポポンガが待つ『栄光の廃船 グローリー・エリス号』の在る場所へと向かったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィフティシアの門を出て、海が一望出来る細道を歩き。入り組んだ洞窟を抜けた先に、其の隠しエリアは存在している。

 

天井が開けて空が見え、真正面には直線ながら海が一望出来る、秘密の隠れ家。海船の墓場もしくは過去の残り香と言うべき、損壊した木造の船達。

 

まるで怪物の口の中に飲み込まれたかのような場所で、破棄された船の中でも一際大きく、外側から見たなら限り無く損傷が少ない船が一隻だけ存在していた。

 

「着いたよ、あーくん。此処が私や京極(キョウアルティメット)ちゃんに元阿修羅会が拠点としていた隠しエリア、そして彼処に在るのがグローリー・エリス号だよ~」

「おぉ、秘密基地感満載のエリアじゃん……!」

「大きな船、なのさ……!」

 

昔に永遠と一緒に秘密基地を作らんと、段ボールで工作した事を思い出しながら、ペッパーとコートから出て来たアイトゥイルは眼を輝かせる。

 

「ペッパーよ、来たようじゃな」

 

と、グローリー・エリス号の船首部に現れたのは魔方陣が一つ。そして其の中から登場したのは、ローブを纏った装いの老ゴブリンが一匹。

 

「ポポンガさん!はい、試練を受けに来ました!」

「ほっほっほ、良い返事じゃの。では、最終試練の内容を発表しようかの」

 

言うが早いかポポンガは、右手に杖を握り振るい翳してシャボン玉を作り出し。其れに乗りながら、二人と一羽の前までやって来た。そして空いた左手で、淡い光を放つ球を作り出して説明を始めた。

 

「ペッパー、お前さんの最終試練は此の光球を『一分以内に破壊する事』じゃ。そして此の光球は、此の世界を構成する『マナ』が薄くなる場所………遥かに高い『天空』に置く。

マナが少なくなると、スキルの影響力も薄まり効果も激減する。だがそんな状況下でも尚、其の脚で空を駆け上がる『覚悟』………其れを見せてくれ。因みにレディアント・ソルレイアは『使用禁止』じゃ。アレは色々と『規格外』過ぎるからの」

 

一通りの説明を終えて、ふぅ……と息を吐いたポポンガ。そしてペッパーは彼の説明を聴き終えた瞬間から、既に思考を開始していた。

 

(此の光球が一体何れくらいの『高さ』に在るかは解らない。けど、上空に往く程にマナが薄くなるって事は『生半可なスキル点火』じゃ、効果切れによって上空から海へのダイビング=落下死が待っているだけ。重要になるのはスキルの『点火の順番』。そして超高度の中でも自分を『信じられるか』の戦いになる………)

 

「解りました、ありがとうございます!」

「うむ、準備が出来たなら声を掛けとくれ」

「はい!」と返事をして、ペッパーは自身の持っているスキル達を確認。どの順番で切れば、其の能力を一番強く発揮出来るかを計算していく。

 

「あーくん、ちょっと来て」

 

そんな折、ペンシルゴンが声を掛けてきて。其所には簡易的で、質素なテントが一つ立っていた。

 

「コレは?」

「ふっふっふ……コレは『セーブテント』。回数制限在るし、オブジェクトだから壊される危険性も有り。使用回数を超過したら壊れるし、高額のマーニを払わないと手に入らない畜生アイテムだけど、擬似的な『セーブポイント』を作れるんだ。万が一も在るし、フィフティシアから此処まで戻って来るのも大変でしょ?」

 

確かにリスポーンを誰かに見られて、ストーキングされるのは非常に面倒な事に成りかねない。此処は彼女の厚意に甘えて、テントに入ってセーブとリスポーン地点を更新。

 

そしてスキルの最終確認とスタミナ、及び自身の空腹具合を意識しながら、点火の順番を考えていた時である。突如ペンシルゴンとアイトゥイルに、ペッパーはぎゅ~……っとハグをされた。

 

「お、おいどうしたんだ………?」

 

理由を聞くも、ハグを続ける彼女達に益々疑問を抱く中、不意に耳元で声が囁かれた。

 

「頑張って……、あーくん」

「ペッパーはん、武運を祈るのさ………」

「!」

 

まるで戦地に赴く想い人(ペッパー)が、無事に帰って来れる様にと願いを込めた其れ(ハグ)に、彼の胸は温かくなる。

 

「………ありがとう、二人共。往ってきます」

 

そう言い、ペッパーは彼女達をぎゅっと抱き締めて。セーブテントから外へ出、ポポンガの課した最期の試練へと挑むのだった………。

 

 

 

 

 






エールを受けて、いざ往かん




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蒼空を駆け抜け、偉業は刻まれ、新たな戦いへ



試練を越えていけ




「ポポンガさん、御待たせ致しました」

「ホホホ……良い眼じゃ、ペッパー。覚悟と気合に満ち充ちておるわい」

 

ペンシルゴン・アイトゥイルからのエールを受けて、ペッパーは涅槃のポーズで精神統一をしていたポポンガに声を掛ける。対するポポンガも、ペッパーの眼を見て其の意気や良しと笑う。

 

「では、始めるかの」

「よろしくお願い致します」

 

交える言葉は、其れだけで充分で。ポポンガが左手で光球を作り出し、真上の蒼空へと放り投げ。其れはまるで風船の様に、しかし凄まじい勢いで高く高く昇っていく。そしてポポンガは眼を閉じて何か感じ取り、再び眼を見開いて言った。

 

「最終試練。制限時間一分で、ワシの作った光球を破壊して見せよ」

 

目の前に表示されるカウンター、60秒間の勝負。スキルの使う順番は、既に脳内チャートで決めてある……!

 

星皇剣グランシャリオを取り出し、右手に鞘を当てつつ奮魂絶闘(オーバード・ソウル)で自身を追い詰め、マシニクル・リブラと窮戦剋意(きゅうせんこくい)で『第一の強化』。

 

頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)流天翔奏(るてんしょうそう)、イクス・トリクォスの三連コンボで地上ギミックを無視。

 

グランシャリオ抜剣、天壱夢鳳(てんいむほう)英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)二天無双(にてんむそう)剣人闘魂(サムライ・ハート)・マーシフルチャージャーで『第二の強化』。

 

「残り50秒ッ━━━往く!!」

 

咆進快速(フルスレイドル)英雄疾走(ヒーローダッシュ)韋駄天権現(いだてんけんげん)局極到六感(スート・イミュテーション)で目の前に広がる海面を全速力で駆け出す。

 

セルタレイト・ケルネイアー、戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)神謳万雷(しんおうばんらい)、そして窮速走破(トップガン)天空神の加護(レプライ・ウーラノス)摩天来蓬(まてんらいほう)とアクロバット。

 

最後に真界観測眼(クォンタムゲイズ)天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)を起動したペッパーは━━━━━━━『黒い流星と成った』。

 

疾走と黒閃が余りにも出鱈目で、しかし幼児が白いキャンバスに様々な色のクレヨンで自由に色を付ける様に。軌跡と残影を青空に刻み付けて、縦横無尽に駆け上がって行く。

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

空中を無限ジャンプで跳ね飛び、レーアドライヴ・アクセラレートで位置を調整しては、神律燼風(しんりつじんふう)による運動エネルギーの微調整で駆け昇る。消えてはまた現れて、地上から彼を見る者からすれば、まるで黒い流星群にも見えるようであり。

 

偉風導動(リーガルック)ゥウウウウウウウウウウウウ!!!!!」

 

グランシャリオから放たれる高出力竜巻の力も受けながら、強化された動体視力と共に天空へと昇る。と、まだスキルの効果時間が切れ始めていないにも関わらず、其の効力が弱くなり始めた。

 

「もしかして超上空に来たから……!」

 

ふと見上げると、其所にはポポンガの作った光球がキラキラと輝き。後一歩の所だが此のままでは届かないと、ペッパーはゲーマーとしての直感を抱いた。

 

(なら……『最後の手段』!)

 

残り時間30秒、一か八かの大博打。グランシャリオをインベントリに収納、其の身を反転し一定の速度からの落下による攻撃時、速度と威力に補正が掛かると同時に、『垂直落下攻撃』を可能とするスキル『速崩巌砕(そくほうがんさい)』で海面へと超スピードで落下。

 

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)爆芯輪転蹴(メテオ・ドリンラム)を使用しながら落ちていく。そして彼は━━━━海面ギリギリの所で『ジャンプ』する。

 

しかし其れは唯の『ジャンプ』ではない。プレジデントホッパーと呼ばれる、落下死によるダメージを受ける時に、其のダメージを次の跳躍力に変換するスキルが、ペッパーの手札には有る。

 

無限ジャンプや空中歩行にダッシュ、レディアント・ソルレイアによって存在意義を失い掛けていたが、此のスキルは正に此の時を、此の瞬間を待っていたんだとばかりに叫び、彼は其れを使った。

 

圧倒的な速度による垂直落下と、主力級にして切札の二つのスキルによる威力増大、そして落下死に至らんとする其れを跳躍力に書き換えた、たった一回のジャンプ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」

 

真上へ昇った黒い流星は、此れまでの自身の繰り出した最高速度を更新。垂直跳躍によって射線上に存在していた光球は、再び取り出されたグランシャリオの居合一閃と共に砕け散り、ペッパーは其のまま蒼空の彼方まで飛んで行った。

 

 

そして━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

『規定高度観測、条件達成』

『達成者プレイヤー名:ペッパー』

『称号【最大高度(スカイホルダー)】を獲得しました』

 

 

 

 

前人未到の偉業と共に、一つの空席が此の瞬間に埋められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、ペッパー君。最大高度獲得おめでとう。シャンフロ中にアナウンスされてたよ~?」

「ペッパーはん、凄かったのさ………」

「えっ、マジで?」

 

光球を破壊したあの後、天空を越えた所で酸欠によって死亡し、セーブテントからリスポーンした所で、ペンシルゴンから事の顛末を聞かされた。

 

「えっ………え?いや、え?マジ?」

「マジもマジだよ。多分だけど、ライブラリのおじいちゃんとか辺りから伝書鳥(メールバード)来るんじゃないかな?」

 

無我夢中に蒼空を駆けて決死の覚悟で跳躍したら、シャンフロプレイヤーの中で一番高い場所に到達したという。そして其れを達成した瞬間、シャンフロ全域にアナウンスとして自分の名前が響き渡った………との事。

 

ふとEメールアプリに着信が入ったので見てみると、サンラクとカッツォからのメールが届き、立て続けにハヤブサがやって来ては、自分の頭や肩に腕へと止まって。

 

送り主はペンシルゴンの予想通り、考察クランのライブラリを初め、最大防御(ディフェンスホルダー)のジョゼットにクラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)のサイガ-100、レーザーカジキやAnimalia、SOHO-ZONEからも祝福の言葉が寄せられ、其れは其れとしてクランリーダー達は是非とも、自分と話がしたいという内容だった。

 

「なぁ、ペンシルゴン。色々と疲れ過ぎたから、クランリーダーの皆様との話し合いに関しては、後日でも良いか?」

「良いんじゃないかな?流石に影法師の試練も立て続けにやろうとしたら、間違いなく詰む未来しか無いだろうし」

 

実際、最大高度獲得と最終試練クリアの代償は大きく、主力級及び機動系と強化系スキルの消費という、無視出来ない現状を抱えていた。

 

「ペッパーよ、見事に最後の試練を越えたようじゃな」

 

そんな時、ポポンガがシャボン玉に乗った状態で此方にやって来た。

 

「ポポンガさん……」

「己の持つ全てを懸け、蒼空を走って宙を舞う……実に見事じゃ」

 

そうして彼は杖を翳して、試練を越えた勇者を手招き。其れに導かれて、ペッパーは何か起きると直感し、ロールプレイでポポンガの前にて片膝を着く。

 

「ペッパー。ワシの試練を越えし者よ。其の覚悟に敬意を表し、力を授けよう。そして………御主の曇り無き眼と困難を駆け越える姿勢に、其の疾走を支える加護を与えん………」

 

其の言葉と共に、ポポンガは自身のインベントリから『ネックレス』をペッパーに与える。其れは白い半透明な結晶の中に『幾つもの円型の羅針盤と、小さな針が混在した』不可思議な物であり。

 

同時に彼の目の前に『ユニーククエスト』クリアによる、リザルト画面が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は極星大賢者の最終試練を越えた』

『空を走る秘技は勇者に受け継がれる……』

『称号【天走者】を獲得しました』

『アクセサリー【超星煌耀宝珠(クロック・スタリオン)】を獲得しました』

『クラスチェンジ!メイン職業(ジョブ):【バックパッカー】が【星駆ける者(スターランナー)】に変化しました』

『ユニーククエスト【想いの御手は、境界線を超えて】をクリアしました』

『一定条件を満たす事で、一部職業が【星化(スターアップ)】出来るようになりました』

『ユニーククエスト【覇道を刻みて、武は形を成す】を受注しますか?【Yes】or【No】』

 

 

 

 

 

超星煌耀宝珠(クロック・スタリオン)

 

極星大賢者の試練を乗り越えた者にのみ与えられる、()の者の加護が秘められた神秘の結晶体。空と星と流転の力が籠められた其れは、装備者の疾走を助けると共に、更なる飛躍をもたらす。宝珠を授かりし者、己が輝きを星として示した証である。

 

譲渡及び破棄不可、PKされても自身の手元を離れない。

 

此のアクセサリーを装備中、自身の心拍数が一定値以上の状態で両手を合掌する事により、一定時間【特殊状態:白刻閃(はくこくせん)】を付与する。

 

※特殊状態:白刻閃………対象者は煌星の如き、暖かく強い白光(びゃっこう)を纏う。此の状態時に装備者の敏捷は1.5倍となり、機動系・跳躍系・強化系のスキルと魔法を使用した場合、使用した其のスキル・魔法全ての再使用時間(リキャストタイム)を1/4にする。此の短縮効果は他スキルや魔法・職業と競合せず、別枠として適応される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(バックパッカーが変化したけど、星化って何?特殊な方法による職業転換有るのか?そしてアクセサリーがヤバいわ、一定値以上の心拍数の状態で両手を全力で叩くと、光を纏ってスピードアップに機動跳躍強化系列スキル限定だが、再使用時間の短縮が入るのか………。いざって時には目眩ましにも使えそうだし、試してみたいな………。

 

そしてクエストが終わらない………次は武器なのかアイテムなのか、一体何になるんだ………。あぁ……俺に平和は何時になったら訪れるんだよ………)

 

ユニーククエストのクリアにより、新しいアクセサリーの入手と職業の変化で新しい可能性を手にした一方、最大高度なる称号と新しいユニーククエストの出現で、自身の平穏は既に遠くの物になってしまったと嘆くのだった…………。

 

 

 






勇者は次なる戦いへ





星駆ける者(スターランナー)

シャングリラ・フロンティアという世界に満ちるマナ。其のマナを可視化・集束させ、其の両足で空を駆け上がり登り、滑り降り落ちる等の三次元行動をも可能にする御業を扱う者を指す。

空は等しく自由だ、其の自由な空を縦横無尽に駆けられたなら、何れ程素敵な事だろう。




※実は最大高度自体は、レコードの中では更新されやすい部類の称号。理由としては、単純に高い場所まで到達する、スキル・魔法・装備品にアクセサリー次第で獲得のチャンスが有る、やり方は多種多様に有るから。

問題なのは、ペッパー君は此れを『スキルのみ』で獲得するに至った事なのです。もし仮に


金龍王装全種装着
+
機動系&バフスキル全力点火
+
封雷の撃鉄みたいなアクセサリー


のキメラみたいな事をしたら………ねぇ?


余談だけど白刻閃を発動したプレイヤーは、白色発光のプリズンブレイカーみたいな姿になる。




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開拓者は胡椒探し求めて、そしてまた驚愕す



掲示板回

※ちょっと短め




 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

【情報】胡椒争奪戦争 part9【急募】

 

 

 

********************

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******************

 

 

143:DOONボヤージュ

ペッパーの奴、何処行ったし

 

144:ベトローパ

最近フィフティシアに出没してるって情報出てるからな。後黒いコート来て名前無しなの、アイツで確定してる

 

145:ユーティ

廃人狩りと一緒に歩いているなら間違いない、問題は奴が神出鬼没過ぎて、ソロで居た場合は全く見付からんという事

 

146:スノーダウン

って事はアイツがサードレマの黒い流星で間違いないか?

 

147:国茶民

そうかも知れぬ

 

148:海パン7世

空中超スピードで走ったアレか……どうやったか気になる

 

149:一寸亡

それな、どしたら

 

150:サンダーナット

へ?

 

151:DOONボヤージュ

は?

 

152:アラカルテ

 

153:バルムンク

ファッ!?

 

154:アッド

なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?

 

155:ベトローパ

最大高度!?

 

156:ボルクスワーケ

ナニヤッテンダァァァァァァァァァァァ!?

 

157:魔富裕

エエエエエエエエエエエエエ

 

158:ベントレマン

うっそだろオイ!?

 

159:ポライゾム

マジかよ……マジかよ……

 

160:海パン7世

速報:ペッパー、最大高度なるレコード保持者になる

 

161:ダスク

あのさぁ………

 

162:国茶民

まぁた伝説を作ってるよ………

 

163:アラカルテ

ペッパーさぁ………

 

164:DOONボヤージュ

最大高度ねぇ……高さ関係って事か?

 

165:サンダーナット

多分な。おそらくプレイヤーがスキルやら含め、自力で到達した高さに関係する称号かと

 

166:ピーセント

最大火力の高さバージョンって訳か

 

167:メッサーモッサー

ま、まぁ別ぬぃ???最大速度取られたわけじゃじゃじゃなななななないしししししし?????ど、どどどどどうじででででで

 

168:ベトローパ

動揺してるのお前じゃい!

 

169:ヴァーテク

最大火力と最大防御は保持者が居るが、最大速度はティーアスたんを超えなきゃ無理と言うね

 

170:モートレイ

おっそうだな

 

171:ロキソミソ

同意

 

172:イガスタ

ペッパーの着てるコート見てると、ルティアさんが目に浮かぶなぁ……

 

173:国茶民

賞金狩りNPCの話は専用スレでやってどうぞ

 

174:海パン7世

それな

 

175:バルムンク

行動する度に話題を巻き起こすのホントなんなの?ペッパーってそういう生態なの?

 

176:DOONボヤージュ

モンスターやん

 

177:アッド

いや、モンスターって言うなら半裸鳥頭のサンラクもだろ

 

178:魔富裕

一理有る

 

179:ベトローパ

マッダイさんや園長、武器狂いと一緒に居たのはどーゆー事なんやろな

 

180:レーザーカジキ

こんばんわー

 

181:ルルパリス

あ、レーザーカジキ!

 

182:アッド

よぅ、こんばんわ

 

183:ボルクスワーケ

レーザーカジキ!ペッパーの事で何か解ったか?!

 

184:バルムンク

最大高度獲得アナウンス聞いたよな!?今アイツ何処に居るか解る!?

 

185:サンダーナット

おまいら落ち着け!

 

186:レーザーカジキ

あ、あわわわ………

 

187:ベトローパ

ペッパーの知り合い&シャンフロの光なんやぞ、曇らせるな!

 

188:アラカルテ

そだそだ!優しくしないとだぞ!

 

189:DOONボヤージュ

右に同じ

 

190:レーザーカジキ

えっと、其の………ペッパーさん、旅狼ってクラン創りましたよ?

 

191:ダスク

………………は?

 

192:国茶民

えっ

 

193:アッド

マ?

 

194:ノーアルド

なん……だと………

 

195:ポライゾム

うっそだろオイ!?

 

196:バルムンク

詳細を!詳細をプリーズ!

 

197:ルルパリス

kwsk

 

198:レーザーカジキ

えっと……名前はヴォルフガングらしくて、ペッパーさん曰く『世界を旅する気高き狼達』の意味が込められているそうです。

 

リーダーがペッパーさんで、サブリーダーがペンシルゴンさん。他のメンバーがオイカッツォさんにサンラクさん、其れから京極(キョウアルティメット)さんの5人で、ユニークモンスターを討伐した仲間達で結成したそうです。

 

199:米四駆

まぁじかぁ

 

200:サンダーナット

時間制限付きのレアモンスターだったか

 

201:アラカルテ

時間以内に捕まえられないと二度とゲット出来ないモンスターだわな

 

202:DOONボヤージュ

それな

 

203:一寸亡

しかし格好いい名前だ、黒狼と被ってはいるけれど

 

204:ボルクスワーケ

あっちはリュカオーンに因んで、此方は自由ってかんじがする

 

205:ミッキシマ

ぜっっっっったい廃人狩りが提案しただろ、クラン結成に関しては………

 

206:魔富裕

逆に考えよう、ペッパーが結成したクランにはサンラクが居る。彼かサンラクを探せば、其所にはどっちか二人が居る可能性が有ると

 

207:アッド

ただし見付けられたらの話

 

208:サンダーナット

そもそも何処に居るか判らん定期

 

209:ノーアルド

見付けても逃げられたら駄目じゃん………

 

210:ルルパリス

それ…………

 

211:国茶民

ペッパーの持ち物・肩書き・偉業

 

・夜襲のリュカオーンに関する情報

・ユニーク小鎚

・天覇のジークヴルムの呼び出しが出来るアイテム(?)

・黒毛のヴォーパルバニー

・サードレマ上層エリアに行けるアイテム

・慈愛の聖女イリステラと遭遇

・救難信号で最大防御呼び出し

・名前隠しのコート

・墓守のウェザエモン討伐

・クラン:旅狼のリーダー→New!

・最大高度の保持者→New!

 

 

212:シャクシャク

ペッパーさぁ…………

 

 

 

 

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其の名は広く知れ渡る




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黒兎が語るは未知なる武器、鍵を握るは三体の強者



ユニーククエストの進展




「はぁぁぁぁぁ……」

 

ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】の四つ目のクエスト【想いの御手は、境界線を超えて】をクリアして、五つ目のクエストである【覇道を刻みて、武は形を成す】を受注したペッパーは、頭を抱えて踞った。

 

手にしたアクセサリーの性能も凄まじい気配しか漂っておらず、此れをクリアする過程で最大高度なるレコードまで獲ってしまった事で、他のプレイヤーやクランから事情説明等を受ける可能性が高まったからである。

 

「いやはや、此れはまた大変な事になりそうだねぇ………」

 

ふと顔を上げれば、ペンシルゴンがニヤニヤと笑っており、ペッパーが成し遂げた事や、手に入れたアクセサリーを踏まえ、如何に交渉をしようかと考えている。

 

「こんな状況を楽しめる、トワの図太い精神が時折羨ましく感じるよ……」

「んふふ~♪そりゃあ私の(・・)あーくんが色々な物を手にして、宝箱の様に納めて居るんだもの。此れを知ってるのは私だけ(・・・)って優越感が、何よりも嬉しい♪」

 

相変わらず自分のペースに持ち込むのが上手い。そして電話番号を交換したので、今後はゲームだけでなく現実方面からも、何か仕掛けてくる可能性が非常に高くなった。

 

「今日は疲れたし、何より武器の修繕が出来てないから、直しておかないとヤバい」

「まぁ、其れもそうだね………あれ?ポポンガおじいちゃんが居ない」

「え?あ、本当だ」

「ポポンガはんは、ペッパーはんに似て神出鬼没なのさ………ふらっと現れたら、何時の間にか消えているなんてザラなのさ」

 

ペッパーに試練を与え、最終試練を乗り越えた事で、職業(ジョブ)の変化とアクセサリーを渡していったポポンガは、何時の間にか此のエリアから消えてしまっていた。

 

「まぁ、うん………。取り敢えず、お疲れ様でした……で良いのかな?」

「良いんじゃない?私としては『十分な成果』を得られたし♪」

 

電話番号入手と言う、『作戦の第一段階』を此所に完了させたペンシルゴンは一際上機嫌であり。ペッパーは色々ヤバい事になりそうだなぁと、未来の自分を案じながらも、取り敢えずはユニーククエストクリアでゲットしたアクセサリーを装備しつつ、ヴォーパルコロッセオで其の性能を確かめる為、フィフティシアへの帰路に着くのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最大高度のレコード保持者となったペッパーを探し、プレイヤー達がギラギラと捜索の目を光らせるフィフティシアを、建物の壁や物陰を利用しながら移動し、何とか裏路地に到着したペッパーとアイトゥイルは、兎御殿に帰還を果たす。

 

「アイトゥイル、ビィラックさんの所へ行こう」

「はいさ!」

 

アイトゥイルを肩に乗せて、ビィラックが仕事場として居る火事場へとやって来たペッパー。其所で一人と一羽が見たのは、壁と言う壁に貼り付けられた無数の紙━━━よく見ると『設計図』たる其れと、熱心に何かを記載する古匠・ビィラックの姿が在った。

 

「えっ、ナニコレ」

「ビィラック姉さん、コレなんなのさ」

「お、おおおっ!ペッパーか、よう来たの!」

 

振り返り様、此方の到着を心待にしていたとばかりに目を輝かせ、飛び込んできたビィラックにペッパーも驚きの色を隠せずにいる。

 

「どうしたんですか、ビィラックさん。何か興奮してると言いますか……」

「ペッパーよ………!わちは今、とんでもない『発明』をしようとしてるんじゃけ……!其れが『コレ』じゃ!」

 

地面に降り、取り出したのは二枚の『設計図』。ペッパーも屈み、彼女の視線から其の設計図に目を通す。其所に描かれていた物は、『巨大な洋弓の図面と、弦の一部分が刃の物に置き換わった、変わった形状の弓』。

 

もう一枚の方には『折り畳まれて弦の先端がくっ付く事によって、一本の大剣として機能する』という、何ともロマンに溢れた物としてイラストという形で描き出されていたのである。

 

「コレは……?」

「フッフッフ……!コイツの名は『弩弓剣(アーチブレイド)』!巨大な弓と大剣の能力を組み合わせて、わちが創る新しい『武器』じゃけぇ!」

 

ペッパーは此の瞬間に確信する。此れは『ユニーククエストのフラグ』だと。此の武器━━━つまり弩弓剣を造り出し、其れがシャングリラ・フロンティアの新たな武器カテゴリーとして解放される、其の為に必要となるフラグであると。

 

そんな時「じゃが……」とビィラックが苦い顔をしており、彼女はペッパーを見つめて言ったのだ。

 

「コイツを創るに当たってな………ひっじょぉぉぉぉぉぉぉに『厄介な問題』にブチ当たったんじゃ」

「厄介な問題、ですか?」

「そう……コイツは一つの武器ながら、遠距離と近距離の『異なる武器種の力を持つ』。故に武器の耐久性は、通常の武器よりも『強く』。そう…………『大盾よりも』強くせんといかんのじゃ」

 

曰く、遠距離と近距離の二種類を使い分ける為に、どちらが偏った状態ではいけないらしく、使われる素材も生半可なモノでは壊れてしまうのだとか。

 

「其所でじゃ、ペッパーよ。ワリャには今からわちの言う『強者(ツワモノ)達』を倒して、其の素材を獲ってきて欲しいんじゃ」

 

そう言ってビィラックはペッパーに、オーダーを伝え始める。

 

「倒すべき存在は『三体』じゃ、ペッパーよ。

 

一つは『月下の水晶を闊歩する孤高なる金蠍』。

二つは『暗き深穴にて眠る揺り篭の中の赤子』。

三つは『天貫く大山に居着く無限掘削の女王』。

 

其の三体の素材があれば、弩弓剣の耐久問題を解決出来る。危険なのは承知しておる!じゃが、其の三体の素材こそが、問題を解決するのに必要なんじゃ!……頼める、か?」

 

此方を『信用』し、新しい武器を造らんとする『熱意』。其れだけでペッパーにとっては十分だった。

 

「任せて、ビィラックさん。必ず其の三体を狩って、新武器に必要な素材を獲ってきますよ」

「ッ……忝ない!」

 

深く頭を下げたビィラックに、ペッパーは此迄の戦いで耐久が減った武器達とマーニを支払い、修繕を彼女へ依頼する。

 

そして彼はアイトゥイルと共に、ヴォーパルコロッセオへ向かう。ポポンガより託されたネックレスにしてアクセサリー、超星煌耀宝珠(クロック・スタリオン)の実力を確かめる為に………。

 

 

 

 

 

 






打ち倒すべき強者達



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白く煌めき、コロッセオで輝く一番星



ペッパー、アクセサリーの性能チェック




ヴォーパルコロッセオ。兎の国・ラビッツにて御世話になっているペッパーとサンラクが、ユニークシナリオでの戦い以降もスキルや武器性能の確認で世話になっている場所である。

 

「さて、到着…………っと」

 

此所へ来た目的は一つ。ユニーククエストにて七つの街を踏破、極星大賢者(スターラウズ)のポポンガから最終試練を乗り越え、報酬として渡されたアクセサリー『超星煌耀宝珠(クロック・スタリオン)』の性能を確かめる為である。

 

「先ずはコイツの発動条件……つまり心拍数がどのくらい迄上がっていれば、発動可能なのかを確かめなきゃいけない。アイトゥイル、万が一の事が有るかもなので観客席で待機していて欲しい」

「はいさ!」

 

アイトゥイルを安全圏に避難させ、ペッパーは深呼吸で精神を落ち着かせる。先ずはジョギングの様に三分間ダッシュし、心拍数を上げてみる。そして三分間ジョギングから「せーのっ!」で、パシン!と両手を合掌するも、アクセサリーに変化無し。

 

「ジョギング程度じゃ駄目か……なら、全力ダッシュで一分ならどうだ?」

 

思い付いたなら即実行、再びヴォーパルコロッセオを駆けて、一分スキル無しの全力疾走で心拍数を高める。

 

「さぁ………どうだ!?」

 

両手を広げ、いざ合掌。コロッセオに響くは高らかな掌音、同時に超星煌耀宝珠が光を解き放ち、一瞬の強い光の後にペッパーの全身が『真っ白』に染め上がる。

 

「お、おおおお………!?」

「ペ、ペッパーはんが……太陽みたいに光り始めたのさ……!?」

 

ブラックトレンチロングコートさえ染める、白く暖かな輝きにペッパーも驚きを隠せない。午後だが昼間でありながら、此れだけの光量を放っている事実。夜に使おう物なら、悪目立ち此所に極まれりな状態は不可避、おまけに他のプレイヤー達が、此の光に引き寄せられる未来しか見えてこないのだ。

 

ステータスを確認すると、敏捷数値が現在の1.5倍+特殊状態:白刻閃(はくこくせん)となっており、無事モードには入れた様だ。

 

「とと、じゃあスキルの再使用時間(リキャストタイム)の短縮とかを調べましょうかね」

 

セルタレイト・ケルネイアーとリコシエット・ステップ起動。地面を蹴り上げて跳躍し、壁を踏み込み蹴って再び元の位置に着地。そして使用したスキルを見れば、確かに再使用時間が此迄の1/4に短縮されていた。

 

「おお、ちゃんとスキルの短縮が出来てる!けどやっぱり光ってると、敵や他のプレイヤーに見付かる危険は高いからなぁ」

 

総じて『使うシチュエーションを要求される代わりに、特にデメリットを受ける事なく、特定系統スキルの再使用時間短縮可能な強力なアクセサリー』といった形で、超星煌耀宝珠の評価は落ち着いた。

 

因みにもう一度合掌を行った所、白刻閃の状態は解除されて、元の真っ黒なトレンチロングコートを纏ったペッパーに戻った。

 

「よし、もう一回試すか!」

 

其れから一時間程、ペッパーはヴォーパルコロッセオにて白色発光しながら、自身の身体の動かし方を頭に入れていく。光っては消えて、また光って。此の日のヴォーパルコロッセオは、光り輝いていたと言う………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………思った以上にヤバいな、此のアクセサリー………」

 

スキルによる再使用時間減少は出来るが、別枠効果として短縮可能と言う、凄まじい能力を秘めたアクセサリーに、ペッパーは震え上がっていた。

 

イクス・トリクォスによる再使用時間短縮は有るが、其れと組み合わせての機動・跳躍・強化系統スキルの回転率が上がって、今まで以上の機動力を生かした戦い方が出来るように成るだろう。

 

「ペッパーはん、お疲れ様なのさ。水をどうぞなのさ」

「ありがとう、アイトゥイル」

 

普段彼女が飲んでいる瓢箪水筒とは違う、別の瓢箪水筒を手渡され、ペッパーは其れを飲む。

 

「ふぃ~……美味い。やっぱり動いた後には、水分補給だな」

「ふふふ……ペッパーはん、お星様みたいにキラキラ輝いてたのさね」

 

渡された瓢箪水筒を返して、ペッパーはビィラックが言っていた弩弓剣(アーチブレイド)製作に必要な、モンスターの事を思い返す。

 

(水晶を闊歩する金蠍……此れって間違いなく『金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)』の事だよな?エムルさんが耳元で呟いてた、サンラクが討伐したっていうモンスター……もしかして水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の『変異体』なのか?)

 

『月下の水晶を闊歩する孤独なる金蠍』。

『暗き深穴にて眠る揺り篭の中の赤子』。

『天貫く大山に居着く無限掘削の女王』。

 

大盾以上の耐久値を出す為に必要な、強者(ツワモノ)と謳われる三体のモンスター達。其の内の一体は以前ペッパーが偵察がてら訪れた、水晶(すいしょう)巣崖(そうがい)に居ると見て間違いない。そして残り二体のモンスターも、シャンフロの地図と彼女の言葉を照らし合わせて探せば、自ずと答えに辿り着ける筈だ。

 

「明日はライブラリとの話し合いがあるし、ペンシルゴンと一緒にトワセツナの花を得るクエストは、少し先だな。其の間に双皇甲虫の素材集め、頑張るとしようか!」

 

予定は組み立てられ、ペッパーはペンシルゴンに明日のライブラリとの会談に関する、メールのやり取りをすると共に、万が一にライブラリ以外の他のクランが居た場合の打開策等を話し合い。

 

そしてライブラリのクランリーダー・キョージュに伝書鳥(メールバード)のハヤブサを使い、会談の時間を確認し合い。翌日の午後七時にエイドルトに在る、ライブラリの本拠地にて執り行われる運びとなって。

 

彼は此の日のシャンフロを終えたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~………」

 

シャンフロからログアウトし、一息付くと共に起き上がった梓は、そう言えば今日は朝昼と何にも食べていなかったと気付き、最終手段として保管していたカップ焼きそばを取り出して、其れを作り始めた。

 

「こういう時のカップ焼きそばが本当に助かる………。時々食べるからこそ、美味しく感じるんだよな」

 

湯を沸かして具を投入から待つ事二分半、湯を切ってソースとマヨネーズを適量掛けて完成。日本が世界に誇るカップヌードルやカップ焼きそば、其れを開発した偉大なる先人達に、心と動作で感謝の意を示しながら梓は合掌。

 

さぁ食べようと思った矢先に、『ピロピロピロン♪ピロピロピロン♪』と、スマフォの着電が鳴り響く。一体誰かと覗いてみれば、其所には『永遠』の二文字が。

 

「もしもし?」

『お。やぁやぁ初電話だねぇ、あーくん』

「永遠か、どうした?」

『ん~?君の声が聞きたくてさ』

 

電話越しに聴こえる彼女の声は、何処か『しんみり』していて。

 

『ねぇ、あーくん。毎週火曜日の午後10:30にさ、君に電話を掛けて良いかな?』

 

突然そんな事を言ってきた。

 

「……………いや、何で?」

『別にいーじゃん、減るもんじゃないんだしぃ?』

「此の御時世、パパラッチもヤバいんだぞ?世界に名を刻む超一流カリスマモデル様が、一般市民の一般男性と電話してるなんて、其れだけでもネタにしてくるようになったんだからな」

 

実際超有名人とも成れば不祥事一つで、其の名前が持つ価値(ブランド)に傷が付く。其れによって芸能界やスポーツ業界に影響を及ぼし、スキャンダルでひっそりと消えていった有名人も居るくらいだ。そんな事を言った所、永遠が電話越しにこう言ってきた。

 

『へぇ~~~?あーくん、私の事をそんな風に思ってたんだぁ~~~?へぇ~~~~?』

 

声色からしか予想出来ないものの、ニヤケ顔をしているのは間違いない。

 

「………俺は、世間一般の皆々様が考えてる『天音 永遠』の肩書きってヤツを、其のまま言葉にしただけだが?」

『知ってる、君は何時だって其の姿勢だからね』

 

『だけど━━━━』そう言って彼女は言葉を繋いできた。

 

『君は君が思う以上に、色んな人を変えている。其の姿勢や心構えが、沢山の人を動かしてる。其れを絶対に忘れないでね?』

 

私も影響を受けた人間の一人なんだから、と心の内で呟いて。彼女の言葉に梓は。

 

「………まぁ、よく解らないけど………ありがとうな永遠」

 

相変わらずの言葉を以て、しかし其の言葉からは相手に対する感謝が籠った声であった。

 

『………どーいたしまして。取り敢えず明日、ライブラリとの会談を頑張ろう』

「あぁ、交渉方面は永遠に任せる。事情説明は俺が、相手側が納得出来るようにやってみるから」

『うん、また明日。シャンフロでね』

 

そう言って、電話は切れて。梓は『永遠があんな風に喋るなんて、明日は土砂降りの雨が降るか?』と思いながらも、カレー皿を持ってきて。冷めてしまったカップ焼きそばの中身を移し、電子レンジにて再加熱するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!緊張したぁ~~~~…!でもお陰で、あーくんの現在地(・・・)も解ったし、良しとしとくかな?フフフ…………」

 

そして梓の知らない所で、永遠は少しずつ。そして着実に、己の計画を進めていく。彼女の握る最新型のスマートフォンには、ストーカーや粘着してくる相手に備えた『逆探知機能』が搭載されている。

 

「覚悟しててね?あーくん…………」

 

彼女のスマフォに映る地図アプリ、其所には梓の居るアパートの位置が鮮明に表示されて居たのであった……。

 

 

 

 

 






夜の中で声を聞き、計画は進む





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ライブラリの要求、そして未来への出資



ライブラリとの会談




翌日、午後七時前。シャンフロにログインして、兎御殿の休憩室にて目覚めたペッパーは、アイトゥイルと共にゲートを越え、エイドルトの裏路地にやって来た。ライブラリ本拠地に向かう途中でペンシルゴンも合流し、二人と一羽のパーティーは其の足で、考察クランの本拠地に辿り着いた。

 

「何て言うか、アレだな。現実世界(リアル)の図書館を模した建物だわ」

「私もそう思うよ、ペッパー君」

 

クラン:ライブラリの拠点たる建物は言うなれば、図書館の其れである。入り口には階段、全長は三階建てのサイズの建物がどっしりと構えて建っている。

 

「さぁて、相手は狡猾な狸じ……あ、間違えた。うぉっほん、狸お爺様な訳だけど」

「ペンシルゴン、其れ言い方変えても悪口にしか聞こえてこないぞ?」

「えー、だってあの人ネカマだし」

 

ツッコミはしない。寧ろインテリジェンスネカマと言った方が良い気がしたが、此れも悪口になるので胸の内にしまっておく。

 

「さてさて、ちょっとしたクラン攻略戦みたいだねペッパー君」

「アレの事を上手く扱って、何れだけ情報を取れるか……だな」

 

此れは言わば旅狼(ヴォルフガング) 対 ライブラリのユニーク戦。どちらが多くの情報を相手から引き出し、情報の秘匿が出来るかの大勝負なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考察クラン:ライブラリ。クランリーダーのキョージュを始め、此の電脳世界(シャンフロ)に在る謎を解き明かす為に結成された其のクランの、活動本拠地に乗り込んだペッパーとペンシルゴンの目に飛び込んできたのは、数多の本棚という本棚達がずらりと並び、クランメンバーも本を熱心に読んだり、考察をし合ったりと皆シャンフロを楽しんでいる様だ。

 

「うわぁお………こりゃすごい」

「ライブラリの本拠地って所謂『図書館』なんだよねぇ。私も此所に来るのは何気に初めてだったし」

 

近くに積まれた本にしても、随分と年期が感じられる其れを見て、ペッパーは読んでみたいと考え。

 

「あ、アレは……」

「間違いない、ペッパーさんだ!キョージュさーん、ペッパーさんと廃人狩りが来ましたー!」

 

そんな折り、此方の存在に気付いたライブラリ所属のプレイヤーの一人が声を上げ、皆の視線が一気に此方へと向く。何より最大高度なるレコード保持者となったペッパーは、現在シャンフロでは其の名は広く知れ渡っている。為れば必然的に、彼等彼女等の興味はペッパーに向く訳で。

 

「ほぉ……此れが噂の名前隠しが可能な防具なのか……」

「最大高度を取った感想は!?」

「スキル構成ってどんな感じ?」

「ペッパーさん!嘲り嗤う影法師(グルナー・ト・グリンセリン)と戦ったってマジですか!?」

「やはり『サードレマの黒い流星』は、ペッパー君だった訳だ……」

 

パパラッチに寄り付かれた有名人ってこんな気持ちなんだなと思いつつ、さてどうやってキョージュを探そうかと考えていた矢先。ペンシルゴンが、此方の手を掴んできた。

 

「えっ、おいペンシルゴン?」

「ねぇねぇ『あーくん』、そんな事よりキョージュさんを探そうよ。私達の目的って『アレ』に関する会談をする事だからさ?」

「ちょっ、おま!?」

 

さらっと二人で居る時の呼び方を、考察クラン相手にブチ咬ましたペンシルゴンに、ペッパーは目を見開き、ライブラリの面々がざわついた。ある者は驚きを、ある者は何かを察し、またある者はニヤニヤし始めて。

 

「……君達、旅狼(ヴォルフガング)のリーダーとサブリーダーの来館だ。足留めをしてはいけないよ」

 

激渋ボイスと共に囲んだメンバー達を割って、キャルンキャルンな魔法少女の衣裳とアバターをした、クランリーダーのキョージュがコホンと咳き込んで現れた。

 

「あ、キョージュさん。その、御久し振りです……」

「うむ。最大高度獲得おめでとう、ペッパー君。積もる話は色々有るが、今回の目的は一つだ。立ち話も何だし、別室で話をしようか」

 

彼女()の視線は自分とペンシルゴンを見て、其れから二人が握る手を見た後に微笑し。

 

「進展しているようで何よりだよ」と言ったので、ペッパーは顔が引き吊りそうになり、逆にペンシルゴンはニッコリ笑顔になったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブラリ内・某一室……所謂『教室』たる其所には、木と金属のマリアージュにより形を成した、机と椅子が縦横列に並んで在り、目の前には黒板が有る光景たるや『学校』と呼ぶに相応しい。

 

図書館の中に教室が有るとは此れ如何にだが、気にしてはいけない気がするのは何故だろうか。

 

「其れでは諸君、始めるとしようか」

 

机と椅子の位置を組み直し、一般的な学級会議等で用いる『コの字型』に、中央にペッパーとペンシルゴン、そしてキョージュが対面する形で向き合った。

 

「ペッパー君。ペンシルゴン君。前置き無しの単刀直入に言うが………我々ライブラリが君達に話をしたいと声を掛けたのは、以前クラン会談時にペンシルゴン君が私に見せてくれた、『世界の真理書【墓守編】』に書かれていた内容。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンに由来する一式装備こと『悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)』を、是非とも拝見したいと思っているのだよ」

 

チラリとペッパーが周りを見ると、ライブラリの他のメンバー達も興味津々な様子で、此の会談を見守っている。七つの最強種に由来、もしくは模倣によって産み出された神代の技術による結晶ともなれば、其の価値は絶大の一言では片付けられない。

 

「無論此れが超極秘情報である以上、ライブラリのメンバー達も公には開示しない事を皆了承してくれた。此の世界に唯一つのみのユニークともなれば、此れを巡っての『戦争』が起こる可能性も考慮している。我々としても多くのユニークを保持している、クラン:旅狼の手助けをするべき(・・・・・・・・)と━━━━━『満場一致の解答』を出した」

「おやまぁ……其れはキョージュさん含めて()でって事?」

 

無言…………しかし煌々と眼を光らせ、微笑し頷いたキョージュ。此の発言は実質、先々に置いても『クラン:ライブラリはクラン:旅狼の肩を持つ』といった宣言に等しく、其れを先んじて提示する事により、此方が持っている天将王装の開示を要求してきた訳だ。

 

チラっとペンシルゴンを見れば、ニッコリと笑って返してくる。此の時の彼女は『やっちゃいなさい』と言って来ていたか。

 

「解りました。ライブラリの皆さんの心遣い、感謝致します」

 

そう言ってペッパーはアイテムインベントリから、秘匿し守り続けている悠久を誓う天将王装を取り出して、ライブラリの面々の前に提示する。其れを見た瞬間やはりと言うか、考察クランの目の色が変わり、ざわめきと考察の話し声が広がるのが解る。

 

「諸君、触ったり実際に装着したい気持ちは解る。が、所持者であるペッパー君の許可を頂いてからだ」

「フフフ……其処ら辺の事、よく解ってるじゃない」

「ゲームであろうとも、人様の物を扱うなら敬意と感謝、そして許可は取るべきと考えているからね」

 

一連の流れの中、ペッパーのライブラリに対する評価が二段階程上がった。そして彼は天将王装を着たいと目を光らせるプレイヤーに向けて、注意事項と称した『ある事実』を伝える。

 

「えっと、此の天将王装なんですが………先に言っておきますと『男性用装備』ですので、御気を付けて」

 

其の一言で男性アバターは歓喜し、女性アバターは絶望に沈むという、ある種のカオスが巻き起こった。そして「成程……」とキョージュが呟いたのを、ペンシルゴンは聞き逃さない。

 

「さてキョージュさん……まだ何か(・・・・)企んでるでしょ?」

「フフフ……流石はペンシルゴン君だ」

 

ゾワリとペッパーの背筋が逆立つ。此れで終わりではない、寧ろ此所からが本番だったと直感する。

 

「真理書に書かれていた、墓守のウェザエモンの一式装備の存在。其れを見て、私は『一つの仮説』を立てた。そして今日、ペッパー君が其れを持ち歩いている事で、其の仮説は『ある確信』に変わった━━━━━と言っても良い」

 

表情は崩さず、しかし其の興味は底知れず。キョージュは己の言葉を用いて、自分の『答え』を指し示した。

 

 

 

 

 

 

「クラン:旅狼は『ユニークモンスターに由来、もしくは模倣した一式装備を探せる』━━━━━そんな『ユニークシナリオを受注している』…………違うかね?」

 

 

 






辿り着いた、ライブラリの答え




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ライブラリの報酬、もたらすは荒ぶる蛇神



此所からが本番




 

「クラン:旅狼は『ユニークモンスターに由来、もしくは模倣した一式装備を探せる』━━━━━そんな『ユニークシナリオを受注している』…………違うかね?」

 

やっぱり此の人(キョージュ)ヤバいわ。クラン:ライブラリのリーダーたる彼女()を見ながら、ペッパーの額に冷や汗が滲む。口論になったら間違いなく負ける、舌戦に持ち込まれたら確実に詰む………其れがペッパーの抱くキョージュに対する評価だった。

 

(ヤバいな……真理書を見てた時から、既に会談(此れ)へ持ち込む事を考えていたのか………!)

 

そんなペッパーとは裏腹に、ペンシルゴンは笑う。此所からは私の独壇場(ステージ)だと宣わんばかりに、彼女はキョージュに言う。

 

「流石だね、考察クランのリーダー。そう……私達の隠している手札の中には『天将王装』と同じく、七つの最強種(ユニークモンスター)に由来か模倣した一式装備を探せるシナリオを受注した『プレイヤー』が居るんだ。実際装備が在ったお陰で私達は、ウェザエモンの討伐に漕ぎ着けられた………と言っても良い」

 

『誰が』『何時』『何処で』受注したかは語らない。話の中で相手から情報を引き出す為、ペンシルゴンの滑舌が唸る。

 

「其の人曰く『下手に開示したり使用すると、他のプレイヤーから追及される危険が有るから、取り扱いに気を付けろ』との事。そして其れは今、此の瞬間に話を聞いた『ライブラリの皆様方も同様に』ね?あ、後下手したら『クラン:旅狼(ヴォルフガング)のメンバー全員抱え落ちするかも』知れないから」

 

やりやがった、やりやがったよペンシルゴン。ライブラリが肩を持つと言う、先制の豪速球による手札に対し、後手からエグいホームランクラスの一撃を、カウンターで叩き付けやがった。

 

クラン:旅狼の肩を持つ上に、手助けをすると宣言した手前、下手をすればクランメンバーが全員蒸発するという『脅し』を掛けたのだ。もし其れが発覚すればクランの威信にも関わる、大きな『傷』になるのは必然的であり、様々な繋がりが断絶する危険も孕む事になる。

 

「………フフフ……ハハハハハハ!やれやれ、此れは一本取られたよ。成程成程………其れは我々としても『非常に困る』な」

「此方も天将王装っていう『切札』を切ったんだ、タダでは引き下がらないんだよねぇ?」

「真理書提示の時点で、五億マーニを取った口でよく言うよ……」

 

楽しそうなペンシルゴンを見ながら、そう呟くペッパー。そうしてキョージュは、ペッパーとペンシルゴンに向け、こう言ってきた。

 

「良かろう、此方もクラン:旅狼に『とっておきの情報』を渡そう。とは言っても、其の情報はまだまだ不透明な部分も多く、『確約』出来る━━━━と言う訳では無いのだがね?」

 

考察クランが一体何を提示するのか、ペッパーは身構え、ペンシルゴンが余裕を崩さぬ中で、キョージュは己の言葉を以て『其れ』を伝えたのである。

 

「此れは『黒狼(ヴォルフシュバルツ)』や『SF-Zoo』を含めて、他のクランやプレイヤーにも開示していない情報だ。我々ライブラリは、君達のクラン:旅狼に対し『荒ぶる蛇神』の情報を渡す用意がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒ぶる蛇神………其の情報を聞いた時、ペッパーは『無尽(むじん)のゴルドゥニーネ』の事かと思った。何故なら彼は、既に『無尽の偶像(フィギュア)』と、ヴァイスアッシュの発言で『其れ』を知っているが故に。

 

と、コートの中に居るアイトゥイルが震え、飛び出さんとしているので、ペッパーは彼女をコートの上から彼女を撫でつつ宥め、ライブラリを相手に余計な詮索をされる訳にはいかないと、言葉を放つ。

 

「荒ぶる蛇神、ですか?」

「そう。様々な文献に記載された其の蛇が、君達に渡す情報だ。ある文献には『此の世界に存在する蛇型のモンスター達は、荒ぶる蛇神より産まれた』。他には『其の蛇より分かたれ、形を変え、そして無尽蔵(・・・)に増え、世界に根付いている』………ともある」

 

「そして」とキョージュは、ペッパーとペンシルゴンに其の存在を言葉を以て示した。

 

「様々な文献に記載されていた、其の蛇神こそ………『七つの最強種(ユニークモンスター)』の一角たる存在。名を『無尽のゴルドゥニーネ』と言うのだよ」

 

ヴォーパルバニーの宿敵であり、ペッパーのコンビを組む風来黒兎たるアイトゥイルの友を殺した仇敵、そして七つの最強種の一角の存在が、ペッパーとペンシルゴンに伝えられた。

 

「無尽のゴルドゥニーネ…………蛇のユニークモンスター、か」

「うむ……跳梁跋扈の森のエリアボスに『貪食の大蛇』が居るが、アレもゴルドゥニーネから派生した存在なのだとか」

 

思い返してみれば、貪食の大蛇は蛇でありながらも、頭部と尻尾に『女性』を思わせる白髪が生えていた。

 

「つまりゴルドゥニーネは、性別が『雌』である可能性が高い……と?」

「おそらくだかね。そしてゴルドゥニーネに由来もしくは模倣した一式装備は、先程の天将王装に関するペッパー君の発言から、間違いなく『女性用装備』であると予想出来る」

 

天覇のジークヴルム・墓守のウェザエモンが『男性』、冥響のオルケストラ・夜襲のリュカオーン・無尽のゴルドゥニーネが『女性』と考えるなら、仮にヴァイスアッシュがユニークモンスターであれば、其の一式装備は『男性用』として見て良いだろう。

 

問題なのは『深淵のクターニッド』であり、其の一式装備が男性か女性かによって、男性と女性の纏える一式装備の『総数』が決定する事になる。

 

「ただ厄介なのは、一式装備が『性別限定装備』であると言う所でね……。あの様にクランメンバーも、着れないと嘆き叫んでいる」

「実際此れを見付けた仲間の一人が、男性用装備だと知って絶望していましたし。な、ペンシルゴン?」

「うんうん、アレは正直笑った……じゃなくて凄惨だったもの」

 

そう考えると、アバターと異なる性別の一式装備を纏う場合、何かしらの方法で『性別変更』が必要になるわけだが、其の『方法』が見付からなくては話にならないのは明白だった。

 

「もしも━━━━━俺達『クラン:旅狼』が性別を変えられる方法を見付けたら、其の重要度にもよりますけど、ペンシルゴンに言っていただければ、『交渉』と言う形で御話も致しますが?」

「ほほう………其れは僥倖だ」

 

交渉面での話し合いに持っていけば、ペンシルゴンが得意とする領分での戦いが出来る。フフン♪と悪い笑顔を浮かべた彼女を横目に、ペッパーとキョージュは握手を以て話し合いを締結。

 

そしてペッパーは天将王装を『見る』という条件で、ライブラリに開放し、キョージュも含めて閲覧会が始まって。日本に上陸したパンダに、ガラス越しで群がった日本人の様に、ライブラリの面々から360度見られる事となって。

 

途中、ペッパーは彼等彼女等からの一式装備に関する質問攻めに逢いながら、午後八時に漸くペンシルゴン共々解放される事となったのである………。

 

 

 






6体目のユニークモンスター




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勇者は往く、約束の武器を創る為



会談を終えて




「やぁぁぁぁと、終わったぁ…………」

「お疲れ様、あーくん」

 

午後八時、ライブラリとの会談を終えてゲッソリ気味に成りながらも、何とか山場を乗りきったペッパーはペンシルゴンと共にエイドルトの裏路地に着く。

 

「今回のオハナシで、ライブラリから『ユニークモンスターの情報』と『後ろ楯の太鼓判』を頂いたからねぇ………。ンフフフ、充分な成果と言えるでしょう♪」

「大手のクランが味方として、今後付いてくれるのはありがたいな」

 

実際ライブラリも幅広く情報は開示するものの、天将王装の様にワンオフのユニーク一式装備の様に、戦争を引き起こし得る存在の秘匿はクランメンバー全員が了承する等、本当に厳重だった。

 

「さてさて、あーくん。私はそろそろログアウトするけど、フリーの日が出来たら『花のクエスト』やらない?」

 

以前ペンシルゴンが言っていた、トワセツナなる花を得る為のクエストの存在を、ペッパーは彼女から知らされている。

 

「良いよ。空いてる日が判ったら連絡入れる」

「うん。楽しみにしてるよ♪」

 

そう言ってペンシルゴンは裏路地の闇に消えて行き、ペッパーも裏路地をある程度移動した後、周囲確認と共にアイトゥイルが開いたゲートを潜り抜け、兎御殿に帰還したのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兎御殿に帰還後、休憩室にてリスポーン地点を再設定したペッパーは、其の足でビィラックの居る鍛冶場へと移動すると、其所にはサンラクとエムル、そしてビィラックの姿が在った。

 

そして彼の両手には、右手には巨大な金の針の籠手と左手には水晶柱の籠手が握られている。どうやらビィラックが、水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)の素材を使った甦機装(リ.レガシーウェポン)を完成させたらしい。

 

「やぁ、サンラク。こんばんわ」

「おぉ、ペッパーか。見ろよコレ、スゲーだろ?」

「でっか……サンラクや俺の背丈くらい有るだろ、其の籠手。……いや、スゲェな………」

 

ニヤニヤニマニマと自慢してくるサンラク。其れは其れとして、武器自体の完成度は凄まじいの一言であり、出来栄えも抜群。間違い無く、今のビィラックの最高傑作と言える逸品だ。

 

「コイツの名は『煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)』!今のわちが作った最高傑作の『一つ』じゃけ。そしてサンラクよ、ワリャが頼んどいた『もう一つ』も此処で御披露目と行こうか!」

「お、マジで!?」

「もう一つ?」

 

そう言ってビィラックが取り出したのは、金晶独蠍の尾をベースとして使用した、煌蠍の籠手の1.5倍のリーチを持った『大剣』であり。

 

其の剣の鋒には水晶群蠍の『針』を、持ち手部分たるナックルガードには金晶独蠍の『下鋏』を加工した物が取り付けられ、全体像は『蛇腹剣』にも見える。

 

「金晶独蠍の尾を中心として用い、煌蠍の籠手と同時並行で作り上げた甦機装!其の名を………『煌蠍の尾鞭剣(ギルタ・アドラスカ)』じゃあ!!!」

『おぉーーーーーーー!!!!』

 

一回り大きな煌蠍の尾鞭剣に、サンラク・ペッパー共に声を上げた。見た目はどっしりと重量を持ちながらも、両手で振るあば鞭の様に撓り、敵を叩き斬る破壊力を秘めているかのようである。

 

「こりゃスゲェ……!!此れが頼んでた、もう一個の武器か!?てかデッケェ………!!」

「其の通りじゃ、ワリャが『格闘用の籠手(ガンドレット)』と『両手で扱える大剣』が欲しいと言っとったからの!どちらも細部に渡って拘っちょるし、神代の技術を組み込む事で凄まじい『仕掛け』を施した。何せ二つの武器は持ち主の『声』を利用する事━━━━」

「あー悪いが、ビィラック。後は実戦含めて使用感を確認するから良いや!良い仕事ありがとよ!」

 

ビィラックの説明が聞こえる中、煌蠍の籠手と煌蠍の尾鞭剣を自身のインベントリに収納し、鍛冶場から出立するサンラク。

 

「な、製作秘話を聞かんのか!?」

「其れに関しちゃペッパーが聞くってよ!エムル、エイドルトまでゲート頼むわ!」

「え"っ!?ちょ、サンラク!?」

「まぁたオトモダチのお家ですわ、サンラクさん……」

 

流れるようにペッパーを囮に、エムルを肩に乗せて悠々と走り去ったサンラク。其れを見て怒りと共に、プルプルと震え出したビィラックに、ペッパーは「あ、あのぉ………話、聞きますから……」と、何とか怒りを鎮めんとするも。

 

『そいつらがどんだけ凄いもんか解っちょらんじゃろ、おどりゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!』

 

兎御殿全域に響く彼女の怒号に、ペッパーとコートの中に居たアイトゥイルは、思いっきり引っくり返る事となり、そしてビィラックの製作秘話を一時間に渡って聞く事になったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神代の技術………かぁ」

「ビィラック姉さん、語ってる時の目がキラキラしてたのさ。余程聞いて貰えたのが、嬉しいようなのさ……」

 

煌蠍の籠手及び煌蠍の尾鞭剣の話を聞き終え、ビィラックから修繕依頼を出していた武器達を受け取ったペッパーは現在、アイトゥイルと共にサードレマの裏路地に来ていた。

 

「アイトゥイル、行ってくるね」

「うん、気を付けてなのさ」

 

ペッパーが此所に来た理由は唯一つ。ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】の進行と共に解放され、ティラネードギラファ・カイゼリオンコーカサスの双皇甲虫と戦えるクエスト【風雷の挑戦状:強者よ、双皇樹に来たれ】を受注、彼等の素材を用いた甦機装をビィラックに作って貰い、其の上でユニーククエストの第五段階に望む為である。

 

何より決定的になったのは、煌蠍の籠手と煌蠍の尾鞭剣の二種を拝見した事で、弩弓剣(アーチブレイド)よりも先に作っておかねば!と、決意したからに他ならないのだが。

 

サードレマの裏路地を駆け抜け、千紫万紅の樹海窟を走り抜け、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの待つ、月光の光差し込み神秘の気配漂う、双皇樹の入口までやって来た。コロシアム状のバトルフィールドを見れば、全米一位との戦いを思い出すものの、アレはアレで此所は此所だと割り切り、中へ入ろうとする。

 

と、目の前にクエストの受注画面が表示。ユニーククエスト第三段階クリアと共に追加された、クエストのタイトルと同じ【風雷の挑戦状:強者よ、双皇樹に来たれ】だ。迷い無くYesボタンをタッチして、入場すると雷と風で出来たフェンスが退路を塞ぎ、双皇樹から声が響く。

 

『此所ニ……何ヲシニ、来タ!』

『今スグニ、立チ………去レ!』

 

神代の遺産たるレディアント・ソルレイアの輝きを刮目し、消えてしまった双皇甲虫達を思い出す。見上げれば彼等と同じサイズを誇る、颶風の申し子たる翡翠色のギラファノコギリクワガタたる『ティラネードギラファ』と、雷嵐の申し子たる黒黄金色のコーカサスオオカブトたる『カイゼリオンコーカサス』の二体が羽を羽ばたかせて降りてきた。

 

「会いたかったぜ、ティラネードギラファ!カイゼリオンコーカサス!」

 

故郷で出逢い友となった親友と、数年振りに再会した感動の様な感情と共に、ペッパーは双皇甲虫に言葉を発し、インベントリから兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】を取り出して。

 

『!夜ノ帝王ヨリ、呪イ……受ケシ者…!』

『貴様ハ、強キ………者!』

 

右手に刻まれた呪い(マーキング)に反応して、双皇甲虫達が言葉を紡ぐ。そして………

 

『我ハ、颶風の申し子!ティラネードギラファ!』

『我ハ、雷嵐の申し子!カイゼリオンコーカサス!』

『『強キ者ヨ、我等ニ其ノ力ヲ……示セ!!』』

「やってやる!俺の実力、確りと刮目せよ!双皇甲虫達!!」

 

バフスキルを乗せて、ペッパーは双皇甲虫達に立ち向かう。全てはビィラックに彼等の素材を用いた、甦機装を作って貰う為に。

 

 

 

 

 






甦機装の為、勇者は双皇甲虫と戦う








煌蠍の尾鞭剣(ギルタ・アドラスカ)

正式名称:甦機装(リ.レガシーウェポン)ビィラック・煌蠍の尾鞭剣(ギルタ・アドラスカ)。金晶独蠍の尾をベースとして、煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)と共に開発されたもう一つの甦機装であり、蛇腹剣。

月光を浴びる事で自己修復を行った特性を活かし、月光から得た魔力を蓄積して、武器の切味と耐久値を回復する『修繕せよ(Repairing up)』を始め、剣身から晶刃(クリスタブレイド)を産み出し、切断能力を高める『研磨せよ(Sanding up)』の他、蛇腹剣特有の伸縮効果を持つ。

要求ステータスは筋力150 技量100 スタミナ130


モチーフは『BLEACH』で同時する斬魄刀の一つ『蛇尾丸』。





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周回は何時でもエンドコンテンツ



逸品を作るために、ペッパーは戦う




雷が双皇樹のコロシアムに落ち、雷光は迸り、打撃音が響き渡る。

 

「うううぅおりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】と共に繰り出された、スキル『フォートレスブレイカー』の一撃が、カイゼリオンコーカサスの角をへし折り。其の勢いで『冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)』を空中ジャンプと縦回転による勢いを付けながら、頭部を思いっきり殴り付け、千紫万紅の樹海窟の大地へと叩き落とした。

 

『見事、ナリ………強キ、者…。シカシ、我等ノ同胞……ハ、強イ……』

『我等ハ、此処デ………終ワル。ダガ……此ノ先、新タナ皇達……此処ヲ、守護スル………』

「はぁ…はぁ…!っ、ティラネードギラファ………!カイゼリオンコーカサス………!戦って下さり、本当に………ありがとうございました!」

 

そう言葉を遺し、ティラネードギラファ・カイゼリオンコーカサスがポリゴンと化して爆発四散。ペッパーは彼等に感謝の言葉を伝えると同時に、コロシアムを囲んでいた雷と風の檻は消え、ソロによる討伐+出身:探索家の子の恩恵による、大量のドロップアイテムが空中から地面に降りたペッパーの前に在った。

 

同時に彼の前には、クエストクリアによるリザルト画面が表示される。

 

 

 

『挑戦者は双皇甲虫との戦いに勝利した』

『クエスト【風雷の挑戦状:強者よ、双皇樹に来たれ】をクリアしました』

『双皇再臨まで、あと239,49………』

 

 

 

どうやら此のクエストは『自身よりレベルが高いティラネードギラファ・カイゼリオンコーカサスと戦え、倒した場合は四時間後に再び戦えるようになる』、所謂『周回可能クエスト』らしい。

 

そして双皇甲虫達は、空中地上共に『以心伝心』とも言うべき凄まじい連携攻撃と、空中であれば御互いの持つ属性攻撃を爆撃機の如く振り下ろし、地上に降りれば昆虫特有の超馬力を発揮して押し込んでくる。

 

何よりも厄介なのは、此の二体の内の片方が倒された瞬間に、残された方が『超強化』されて、攻略難易度が桁違いに『跳ね上がる』のだ。まるで『生き残った方の攻撃や速度の調整ミスしたのか!?』━━━━━と叫びたくなるように。

 

「致命魂の腕輪でスキルを強化してなかったら、本当にヤバかったな………」

 

今回ティラネードギラファを先に倒した結果、カイゼリオンコーカサスが猛スピードで飛び回りまくりながら、落雷を流星群めいて落としまくる光景は、かのウェザエモンの雷鐘を、落雷時間を無制限にしたかに等しい地獄絵図。生きた心地はしなかったし、もう一回ノーコンクリアしてくれと言われたなら、流石に無理だとペッパーは予感し。

 

「ニ時間掛かったとは。流石双皇甲虫達だ、一つ残さず持ち帰らなきゃ………」

 

時刻を確認すると既に深夜の十一時を過ぎており、あの二体が如何に強敵かを物語るには、充分過ぎる物だった。

 

其れでも手にした彼等の素材は凄まじい量で、本来周回クエストの報酬は少ない事が多いものの、双皇甲虫達自体がレアモンスターなのか、討伐にまで持っていけたからか、其のドロップアイテムも多い。

 

カイゼリオンコーカサスの剛雷角や発雷器官、ティラネードギラファの風斬鋏に起風器官を始め、彼等の甲殻や前羽殻に脚等々、選り取り見取りである。

 

「製作過程で結構使いそうだし、出来る限り集めないと………」

 

甦機装(リ.レガシーウェポン)の製作には、モンスターの素材が大量に必要となる。彼等の素材を利用した『籠手(ガンドレット)』は、イラストに興してビィラックに見せた。そうまでしたのは、ペッパーが折角作る其れを『妥協』したくはなかったから。ならば、自分に出来る事は一つ。

 

「決めた………!アイテムやアクセサリー、食事やらで幸運を高めて一気に揃えきる!此れで行こう………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、午後四時。コンビニのバイトを終えて、住まいに戻ってログインしたペッパーは、アイトゥイルを連れてティークの元を訪ねていた。

 

「ティークさん!幸運を上げられる料理を食べさせて下さい!」

「うぉう!?ペッパー、いきなりどうした!?」

「簡単に言いますと、双皇甲虫達の素材が大量に必要なので、ドロップ率を滅茶苦茶上げたいのです!」

「お、おぅ!待っとれ、幸運を上げるなら……少し値ェ張るが、其れでも良いか!?」

「テイクアウト出来るヤツで!お願いします!」

「よっしゃ!任せィ!」

 

其の料理はテイクアウト可能だが、テイクアウト品の中では『最も高額』であり、一つ『1万マーニ』が掛かると言う。ペッパーは其れに『2万マーニ』を支払うや、調理補助のヴォーパルバニーが其れを受け取り。チャキチャキの江戸っ子が如く、早速ティークが調理に取り掛かり。そして十分後、笹の葉で包んだ『おにぎり』がカウンターに乗せられた。

 

「待たせたァ!ティーク特性の『幸有りおにぎり』じゃ!テイクアウト分、キッチリ作っといたぞ!!頑張りやァ!!」

「ありがとうございます!」

 

アイテムインベントリに収納し、アイトゥイルを頭に乗せて、休憩室からサードレマの裏路地に移動。彼女は二時間半後に此所に来るように伝え、千紫万紅の樹海窟にむかって走り出す。

 

「幸有りおにぎりの効果は……『食事後からの最初の戦闘終了まで、自身の幸運を1.3倍にする』か。一旦超星煌耀宝珠(クロック・スタリオン)を外して、幸運を少し上げる『パピオンドール』に変えて……と」

 

樹海を走り抜け、双皇樹の有るコロシアムの近くに到着。幸有りおにぎりを食し、効果発動を確認したペッパーはコロシアムの前に立ち、表示されたクエストの受注画面でYesボタンをクリックし、入場する。

 

退路を塞ぐ風雷の檻、巨樹から響くは彼等の声。

 

『侵入者……メ!』

『此所、ニ……何ヲシニ、来タ!』

「双皇甲虫よ!俺は貴殿方に挑戦しに来た!俺は強くなりたい、命を懸けた果たし合いを所望する!」

 

降り立つティラネードギラファ、カイゼリオンコーカサス。レベルはやはり自分よりも高い、だが其れでもペッパーは怖じ気付く事は無い。

 

『!……夜ノ、帝王ヨリ、呪イ……受ケシ者…!』

『成程……!貴様ハ、強キ者デアルカ!!』

 

呪いを見、彼等は吠え猛る。そしてペッパーも、彼等の素材を求めて戦う。

 

『我ハ、颶風の申し子!ティラネードギラファ!』

『我ハ、雷嵐の申し子!カイゼリオンコーカサス!』

『『強キ者ヨ、我等ニ其ノ力ヲ……示セ!!』』

「勝負ッッッッ!!!!!」

 

兎月【暁天】を握り構えて、双皇甲虫に立ち向かう。見据えるは唯一つ……………ビィラックに甦機装を製作して貰う為。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!絶対にかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼェ……ゼェ……!」

 

討伐所要時間、およそ二時間半弱。ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの二体を、どちらか片方の撃破ではなく同時に撃破出来る様、ペッパーは意識しながら立ち向かい。

 

危うい場面は多々あったものの『裏技』を利用する事で、何とか事なきを得ながら双皇甲虫の三度目の討伐に成功した。

 

ポリゴンが爆発四散、ドロップアイテムが散乱する中、ペッパーは合掌と感謝の意を示しつつ、一つたりとも拾い溢しが無いよう、アイテムインベントリアへと収納していく。

 

「外付けで幸運を上げたからか、ドロップアイテムも沢山手に入って良かった……。其れに……『コレ』が双皇甲虫の『最高レア』のドロップアイテムだろう」

 

整理する中で彼が手に取ったのは、サッカーボールを一回り小さくした『翡翠色に輝く核』と『黒黄金色に輝く核』。各々『颶風皇(ぐふうおう)翡翠風核(ひすいふうかく)』と『雷嵐皇(らいらんおう)黄金雷核(こがねらいかく)』とあり、間違いなく双皇甲虫の『心臓』だ。

 

手に持つだけで掌から雷と風の感触が、ズッシリと乗し掛かってくるのが解った。コレが持つ『価値』が重さとなり、彼に扱い方に気を付けよと警告を促しているようにも思えてくる。

 

「此れだけ有れば、良い武器が作れる筈だ。待っててください、ビィラックさん!」

 

インベントリアの中に収納し、ペッパーは皇樹琥珀(おうじゅこはく)も少しだけ掘削で採取し、サードレマへと全力で走り出す。一刻も早く、己の甦機装を造り上げる為に…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイトゥイル、居るか!?」

「はいさ、ペッパーはん!大体時間通りさね!」

 

サードレマの街並みを駆け抜け、所定の裏路地に戻ってきたペッパーは、アイトゥイルが開いたゲートに飛び込んで、兎御殿へ帰還。其の脚でビィラックの鍛冶場へと向かう。

 

「ビィラックさん、双皇甲虫の素材を持って戻りました!」

「ワリャ、相変わらず早いの……。んで、肝心の素材は有るかいな?」

「勿論!」

 

茶を飲んで一息付いていたビィラックが、ペッパーを見て驚いた表情をしている。ペッパーが何を作りたいかは数週間前に彼女に話し、其れから様々なクエストが次々と立て込んだが、無事に此所まで漕ぎ着けられた。

 

インベントリアから取り出される双皇甲虫の素材達が、山を形成するのを目の当たりにしたビィラックは、やはり目を丸くする。

 

「こんだけの量を数日で、よくもまぁ集めたのぉ……。しかも双皇甲虫達の核まで有るたぁ、こりゃ凄まじい……」

「人間の欲望って底無しだけど、己自身が気を強く持って其れを律せば、凄い力を発揮しますから」

「全くじゃ。素材は………うむ、此れなら行けるけぇ。ペッパーよ、ワリャの望んだ『籠手(ガンドレット)』!最高の逸品に仕立てちゃるけ、待っとれよ!」

「よろしく御願い致します!」

 

古匠ビィラックに双皇甲虫の素材全てと皇樹琥珀を渡し、甦機装の出来上がりを楽しみにしつつ、ペッパーは此の日のシャンフロを終えたのだった……。

 

 

 

 

 






ブルジョアジーのゴリ押し




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勇者闘争、標的は深穴にて眠る赤子



ユニーククエストを進めよう




双皇甲虫との戦いから二日の時が経った。時刻は午後四時半過ぎ、バイトを終えてシャンフロにログインしたペッパーは現在、アイトゥイルと共に『ファイヴァル』へとやって来ていた。

 

「久し振りに来たな、ファイヴァルには」

「そうさね、ペッパーはん。小鎚を作る為に来た以来なのさ」

 

コートの中にアイトゥイルを隠しつつ、ペッパーは道具屋でアイテムを購入。街を駆け抜けて外へ出て、ファイヴァルからセブラセブルへと行く為の関門にして、常に風が吸い込まれるように吹き込み続ける『天頂地朽(てんちょうちきゅう)の大穴』にやって来た。

 

此のエリアは常に風が()に向かって強く吹いており、外縁を通る事は『空中ダッシュや無限ジャンプ』を使っても『不可能』な作りになっている。故に渡るだけならば穴の内側に在る、人一人がやっと通れる『窪み』を通り、向こう側に居るエリアボスを倒してセブラセブルに入るのが基本(・・)

 

しかしペッパーが此処を訪れたのは、他でも無い『己のユニーククエスト』を進行させる為だ。古匠ビィラックは言っていた━━━━『三体の強者(ツワモノ)を倒せ』と。

 

其の中の一つに『暗き深穴にて眠る揺り篭の中の赤子』なる存在が居て、現実世界でシャンフロのwikiを調べた結果、此れは天頂地朽の大穴の『何処か』に居ると彼は予測したのだ。

 

「アクセサリーも切り替えを忘れずに、だな」

 

アクセサリーとしてセットされたパピオンドールから、超星煌耀宝珠(クロック・スタリオン)へとチェンジ。意を決して穴へと進んでいく……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窪みの中を歩き進むペッパーは、大穴の底に一体何が在るのかと気になりつつも、時折壁を伝って現れるアシナガクモのような巨大蜘蛛が、リュカオーンの呪い(マーキング)にビビり散らかし、バランスを崩して落下していく姿を遠い目で見ながら、目的の物を探していた。

 

(ビィラックさんの説明から察するに、何処かにイベント用のフィールドへ続く『入口』が在ってもおかしくは無いが……)

 

ペッパーは壁を背にしつつ、両手で叩いた時の『音』及び背中から伝わる『感触』で、此の大穴に在るだろう『異質』な部分を探す。

 

「ペッパーはん、ペッパーはん。此所にビィラック姉さんの言っていた『強者』が居るのさね?」

「間違いなくね、多分此の穴の窪みの何処かに入るための入口が隠されてる」

 

アイトゥイルに説明しつつ、探索の手を止めないペッパー。そして一人と一匹がファイヴァルとセブラセブルを繋ぐ大穴の、丁度中間地点まで辿り着いた時にペッパーは『其れ』を見付けた。

 

「………ん?」

 

此迄飽きる程に触った壁が、此の場所だけ『僅かに脆い』。掌から伝わる感触とゲーマーとしての直感が、ペッパーに答えを伝えてくる。ギルフィードブレイカーを左手に装備、思いっきり壁を叩けば、人が入れるサイズの『入口』が現れた。

 

「此所か……?」

「中は暗いのさ……」

 

底の見えない大穴よりは薄いが、此の先も負けず劣らずの暗さが待ち構える。しかしペッパーは開拓者、アイトゥイルを守りながら強者に打ち勝ち、孥弓剣(アーチブレイド)を作り出す為、彼に撤退の二文字は無い。

 

暗闇に目を順応させ、ギルフィードブレイカーから聖盾(せいじゅん)イーディスにチェンジ。前へ前へと進んだ先に待っていたのは、だだっ広いドーム状の『何もない』空間だった。

 

「何だこりゃ……」

「明らかに罠の匂いしかしないのさ……」

 

アイトゥイルの言う事は正しく、先程から全身の毛という毛が張り詰め、全方位を警戒せよとのメッセージを脳へ送ってきている。

 

「敵は何処だ………上か?壁の中か?其れとも地面の下に居る?」

 

周囲警戒をするも一向に現れない敵に、ペッパーの警戒心は益々強くなり。そして此処で『ある仮説』が浮かび上がってきた。

 

(ビィラックさんの説明は『暗き深穴にて眠る揺り篭の中の赤子』……。暗き深穴が此のエリアを、揺り篭が此の場所を指しているとするなら……!赤子が寝ているなら、ソイツは『命の鼓動』を刻んでいる筈━━━━!!!)

 

言うが早いか、局極到六感(スート・イミュテーション)をペッパーは起動する。此のスキルは全身の五感を高めるだけに留まらない。其の最大の特徴は『自身の目に見えない物を、ハッキリと捕捉出来る』事であり、例えば此の何もないような空間で起動すれば。

 

 

 

 

━━━━━━━━ドクン!

 

 

 

 

聴こえた(・・・・)!此の真下に奴が居る(・・・・・・・)!!!」

 

僅かな音すらも逃さない、超人的な聴覚さえもスキルながら発動出来る。アイテムインベントリから掘削用に備えて買っていたツルハシを、シャベルを取り出して、鼓動が聴こえた場所に向かうべく、土を掘り出し始めるペッパー。

 

掘って、掘って、掘って。掘って、掘って、幸有りおにぎりを頬張り、また掘って、掘り進め。掘削開始からおよそ一時間が経過する頃━━━━遂に彼は『目的の存在』と対面した。

 

「コレは………『蛹』なのさ?」

「みたい、だな………」

 

真下に掘り進め、シャベルの穂先が当たった所を中心として、慎重に土を退かし掘り出したペッパーとアイトゥイルが見たのは、生命の鼓動を鳴らす巨大な蛹の一部。見た感じは『カブトムシ』によく似た橙色の表皮を持った蛹であり、しかし掌で触れてみれば此れが『生命体』であると、心臓を鳴らす脈の鼓動が伝わってくる。

 

「さて、どうしようか………。周りを掘り出して、全体を見定めてか『パキン』………パキン?」

 

真下を見下ろせば蛹の表皮が皹割れて、一部が陶磁器の様に落ちている。其の瞬間、ペッパーの全身の毛という毛がゾワッ!と逆立ち、今すぐに此処を離脱せよと緊急命令を発して。彼はアイトゥイルを抱えるや、シャベルとツルハシを其のままに、穴を三角跳びで駆け上がって脱出した。

 

其の直後━━━━━此の空間を激震させながら、地面を砕き割って現れる『二本の角』。続く形で土を盛り上げ、姿を見せるは全長5m超えの『巨体』。千紫万紅の樹海窟にいたクアッドビートルとは異なり、前羽は『白』で角は『二本』の其の姿は、以前昆虫図鑑で見た『ヘラクレスリッキー』に似通っている。

 

「アイトゥイル、気を引き締めろ!コイツがビィラックさんの言っていた『暗き深穴にて眠る揺り篭の中の赤子』だ!」

「はいさ!」

 

兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】を装備したペッパーと、彼の肩に乗ったアイトゥイルは、ヘラクレスリッキーに似た『ヘラクレスオオカブト』と対峙する。

 

其の名を『FM's(フォッシルマイナーズ)クリサリス』。採掘クラン『フォッシル・マイナーズ』が発見し、激闘の果てに討伐する事で得られた『名付けの権利』を使い、自分達のクランの名を刻んだ『其れ』は、外気に触れる事により覚醒・羽化をするという神秘の力を宿す。

 

自身の目覚め、そして叩き起こした者を倒す為、FM'sクリサリスは産声と言う名の、怒号を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の者、其の強さ(レベル)━━━━━『130』

 

 






蛹を破りてカブトは目覚める




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力は示すもの、威光は掲げるもの



vs FM'sクリサリス




問題です。ほぼ密封された空間に、暴れ狂う巨大スーパーボール。これなーんだ?

 

正解は━━━━━━━━━━

 

「地獄絵図じゃねぇーか!!??!何だよあのヘラクレスオオカブト!?どったんばったん大騒ぎじゃないんだわ!どうぇいいい!!!???」

「ペッパーはん!ペッパーはん!アレ、アレはホンマにヤバいのさ!わぁぁぁぁぁ!!!??」

 

ドーム状の空間を飛び回っては激突し、フィールド全体が崩壊の危機を迎えている危険の中、ペッパーとアイトゥイルの悲鳴が木霊す。

 

ヘラクレスリッキーもとい『FM'sクリサリス』━━━━━━━クアッドビートルを始め、ティラネードギラファやカイゼリオンコーカサスと同じ『甲虫型のモンスター』であり、分類は昆虫の王様たるヘラクレスオオカブトに近しい存在。

 

しかし其の甲殻の『硬度』は、此迄戦ってきた彼等とは一線を画す程に『硬く』。其の『馬力』は彼等以上に『高く』、其の『スピード』は彼等よりもずっと『速い』。何より5m近い巨体が、ある程度の広さを持つ空間内で飛び回って、暴れ狂う光景は生きた心地がしない。

 

「くっ……!アイトゥイル、此処を出よう!下に吹き込む風を使って、アイツを此の穴の底まで引き摺り落とす!」

「了解なのさ………!」

 

ドッゴン!ズッゴン!と壁にぶつかり、崩壊までのタイムリミットが迫る中、ペッパーとアイトゥイルは自分達が入ってきた通路へと全力ダッシュを敢行。其れを見たFM'sクリサリスもまた、お前達を絶対に逃がさないと叫ぶように、前羽を広げて後羽を展開。

 

高速で羽ばたかせながら巨体を浮かせて、ヘラクレスオオカブト特有の発達した胸角を突撃槍の如く振り翳して、一人と一匹を追尾。人間と兎が飛び込んだ小さな穴に頭角が刺さるも、仕留められた感触が無かった。

 

だが其れが何だと言わんばかりに、FM'sクリサリスは自らの馬力と共に穴を掘り上げ、自らの通れるスペースをゴリ押しで作りながら、前へ前へと前進し。

 

其の最中に目の前に転がってきた、小さな玉達から放たれる『強烈な臭いと光』によって、己の視界が染め上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カブトムシ型のモンスターは『夜行性』であり、樹液を嗅ぎ分ける為の『嗅覚』が発達している。言うなれば此のほぼ密閉のドーム状のフィールドに、ペッパーとアイトゥイル以外の臭い『以外』存在していない事で、彼方は殆ど狙い済まして攻撃が出来る。

 

「つまり彼方さんの『嗅覚』と、此方を捕捉可能な『視界』を潰すだけの、強烈な臭いと光をぶつけてやれば良い」

 

窪みに避難してアイトゥイルと共に移動を続けるペッパーは、あの大暴れヘラクレスリッキーを地の底に引き摺り落とし、其処で決着を着ける為の準備を進めていた。

 

投擲玉(とうてきだま)炸臭(さくしゅう)】と投擲玉(とうてきだま)炸光(さくこう)】によって、FM'sクリサリスを擬似的な盲目盲鼻状態に追い込み。

 

「さぁて、彼を外に出してやろう……!」

 

取り出すは、アイテムインベントリの奥底に仕舞っていた『爆土の偶像』、ゴーレムハンティングで手にして以降、万が一に備えて一つだけ持っていた其れを手に取り、出入口目掛けて転がし放つ。

 

離れつつも偶像が転がった方向を見れば、立ち上がってニョキニョキと腕を伸ばして、珍妙なダンスを踊り始め。直後に其の音に引き寄せられてか、FM'sクリサリスが入口を胸角と頭角で突き破り、爆土の偶像諸とも通路を押し潰した。

 

「アイトゥイル、確り掴まってろ……!」

「解ったのさ………!」

 

爆発・衝撃・崩壊。己の顎に爆撃がクリーンヒットしてアッパーカットを食らい、其の時の仰け反りにより後頭部を机にぶつけたかのように、FM'sクリサリスの上半身が跳ねる。

 

同時に窪みに皹が迸って道が崩壊し、ペッパーはダッシュで走り出して跳躍、FM'sクリサリスの身体に飛び乗る。神ゲーが誇る物理エンジン、現実世界さながらの重力+凄まじい吸引力を持つエリアの風力で、バランスを崩した甲虫は翼を広げて抗おうとする。

 

「ちょっと大人しくしとこうか!」

 

だが其れを見越したペッパーが自身のスキル、エトラウンズパウンドを使用。高潔度を参照した一定量の固定ダメージを与える其れが、フォートレスブレイカー及び巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)、そしてセルタレイト・ミュルティムスと共に、兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】の一振で振るわれ、其の一撃がFM'sクリサリスの頭部に着弾し、衝撃が爆ぜた。

 

フォートレスブレイカー・巨人兵の大厳撃覇で甲殻を貫き、エトラウンズパウンドの固定ダメージを脳髄に叩き込まれた結果、FM'sクリサリスは平衡感覚に重大なダメージを負い、致命兎の王が打った武器たる暁天は其の身に携えた王撃ゲージを49%に高めていく。

 

「此のまま地面に落ちていこうぜ……!」

 

兎月【暁天】をインベントリに収納しながら、ペッパーは胸角にしがみ付き。FM'sクリサリスは風と重力に引き摺り込まれ、其の巨体を地面に墜落させていく。

 

が、其れでも。自分の身体に引っ付いた、小さな存在達を何とかせんとして、己の身を顧みない自爆覚悟の急転直下錐揉み回転をしながら、大穴の底を目掛けて落ち始めたのだ。

 

「うおわあああああああああああああ?!」

「ひぎゅうううううううううううう!!?」

 

FM'sクリサリスの決死の覚悟を秘めた行動に、ペッパーは己の身体に渾身の力で組み付いて、遠心力でも離れんとするアイトゥイルを支えながら、自らの腹部に来るように脇を締め、戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)起動で筋力向上、其処にイクス・トリクォスとマーシフルチャージャーで補強を加えて振り落とされぬ様に胸角に食らい付く。

 

(チャンスは一回!タイミングとスキルを使用して、此の状況を切り抜けるんだ!俺なら…………絶対に出来るッッッッ!)

 

風が一人と一羽と一匹を押し込み、落下速度は加速の一途を辿り続け。ペッパーは先にサキガケルミゴゴロを使用し、数秒後に振り掛かる己とアイトゥイルが死する瞬間を予見。FM'sクリサリスが地面に激突する、ギリギリのタイミングでの離脱を行う為、真界観測眼(クォンタムゲイズ)及び神律燼風(しんりつじんふう)を発動する。

 

落ちる巨体は隕石の如く、吸い込むように続いた強風の道を貫き。大穴の底が見えた其の瞬間に、ペッパーはアイトゥイルを腹部に抱えて、起動したスキルによって得られた動体視力と共に、手を離した瞬間発生した運動エネルギーを、己のスタミナを引き換えに相殺。直ぐ様身体を神律燼風によって反転させ、地面に着地した━━━━━其の直後。

 

一際大きな衝撃と音が大穴全体に木霊まして、FM'sクリサリスが底の大地へと墜落したのだった………。

 

 

 






知恵と道具と武器と勇気で、困難を乗り越えろ




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神秘なる甲虫に我が魂を刻む



最後まで油断無く




轟音、衝撃。ペッパーの渾身の一撃により平衡感覚を奪われたFM's(フォッシルマイナーズ)クリサリスが地面に落ちた。

 

ペッパーは墜落の寸前に己の腹部に移動させ、守ったアイトゥイルと共にスキル点火で脱出。事無きを得ながら、音のした其の方向を見る。

 

彼の者の姿は超高度からの落下によって、全身に甚大極まるダメージを負っていた。頭角は在らぬ角度に曲がり、胸角に至っては何か強い力が加われば、ポッキリと折れてしまうかの様。

 

全身の甲殻も落下時の強い衝撃で彼方此方に亀裂が走り、六本有る内の足も二本が折れ曲がり、一本は根本から無く、そして前羽の一部は割れており、後羽はひしゃげて曲がり、今まで以上に速く飛ぶ事は出来ないだろう。

 

だが、其れでも。FM'sクリサリスは立っていた。産まれたばかりの神秘の甲虫は沈まず、そして不動であるとばかりに大穴の底で吠えたのだ。

 

「ははは……!やっぱり落下程度じゃ沈まねぇよな、FM'sクリサリス!」

「コイツ、頑強なのさ……!」

 

アイトゥイルが肩に移動し、ペッパーはアイテムインベントリから再び兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】を取り出しながら、此の強者と対峙する。

 

FM'sクリサリスが羽を広げ、再び突撃を仕掛けてきた。先程よりも機動力(スピード)は落ちたものの、其れでも尚速く、何より角が折れ曲がった事で空気抵抗が増えた代わりに、攻撃範囲が広がっており、更に投擲玉(とうてきだま)炸臭(さくしゅう)】と投擲玉(とうてきだま)炸光(さくこう)】の効果も切れ、彼方は視覚嗅覚を取り戻した様であり、正確に狙い澄ました突進攻撃を仕掛けてくる。

 

(さっき見せた投擲玉による攻撃は、効果は薄くなっている!先ずは折れ掛けてる胸角の破壊から……!)

 

レーアドライヴ・アクセラレートによる瞬間移動で回避。墓守のウェザエモンとの死闘を越え、致命鎚術(ヴォーパルついじゅつ)満月押印(まんげつおういん)】が進化した、致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】を冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)と共に起動。

 

FM'sクリサリスが突進攻撃で通り抜ける軌道を、天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)で大まかに予測を立て、徐に『空中をぶん撲った』。

 

其れを見たFM'sクリサリスはペッパーが作った其の隙を見逃さずに、羽を羽ばたかせながら己の巨体で押し潰さんと迫り。

 

「残念、此の瞬間移動は『一回限り』じゃないんだよね」

 

再びのレーアドライヴ・アクセラレート。ペッパーの姿が忽然と目の前で消えた、次の瞬間。胸角に凄まじい衝撃が迸り、折れ掛けだった角が衝撃で吹き飛び、眉間が砕けるような重撃が炸裂して、頭殻に皹が走る。同時にペッパーはレーアドライヴ・アクセラレートで吹き飛んだ胸角を回収、彼の握る暁天の王撃ゲージが106%へ到達した。

 

致命秘奥【オウツキノアカシ】。前身のスキルが敵の身体に満月の刻印を刻み衝撃をストックし、二度目の攻撃で炸裂させる物なら、進化した此のスキルは敵の身体だけで無く『空中や地面』といった場所にもストックし、其所を敵が通り過ぎた瞬間に炸裂する、謂わば『見えない地雷攻撃(マインアタック)』が可能になる。

 

「やっぱりスキルの質によって、クリティカルの上昇数値が上がるみたいだ!アイトゥイル、此のまま一気に畳み掛けるよ!!!」

「はいさ、ペッパーはん!」

 

封栓認視界(ブロット・ウラタナ)破界の視覚(ミュリミア・メナトス)天壱夢鳳(てんいむほう)、そして駄目押しに英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)起動。己の視界に『衝撃が最も徹る位置』と『敵に打撃によるダメージが入る場所』を視覚に映し、己にバフを乗せながら、暁天の能力によって王撃ゲージを70%消費し、装甲破壊と装甲貫通効果を付与。

 

アイトゥイルと共に切り込み、御互いにスキルを起動させながら、衝撃と斬撃がFM'sクリサリスに此れでもかと叩き込まれる。

 

「おおおおおおりゃあああああああああああ!!!」

「はぁあああああああああああああああああ!!!」

 

装甲破壊と装甲貫通がある状態ならば、何も強く叩く必要は無い。レーアドライヴ・アクセラレートの残り回数をフルに使って、コンパクトにショートメイスの打撃とアイトゥイルの薙刀の斬撃を亀裂に叩き付け、クリティカルを増産。暁天の王撃ゲージを確実に蓄積する。

 

しかしFM'sクリサリスも、黙って倒されるつもりは無い。速く飛べないならば『自身を回転させて周囲を凪払う』という行動(アクション)を起こして、攻撃を続けるペッパーとアイトゥイルを間合いから弾き、引き剥がしてみせたのだ。

 

「ぬぐぉ!?」

 

弾くだけでは終わらない。FM'sクリサリスは其の身を回転させながら、フリスビーめいた挙動を起こして、ペッパー達に襲い掛かってきたのだ。

 

「やるな!此方も負けてられねぇ……!!」

 

神謳万雷(しんおうばんらい)及び摩天来蓬(まてんらいほう)起動。其処に再使用時間(リキャストタイム)を終えたイクス・トリクォスとマーシフルチャージャーを加えて、回転突撃を咬ます巨体を万雷の如く躱わしながら空中を駆け抜け、回転してもブレる事の無い場所たる『中心軸』を狙い、ミューサドール・パラダズムをクリティカルのタイミングで叩き据える。

 

同時に暁天の王撃ゲージが200%━━━━即ち『MAX』まで蓄積され、彼の前で『王撃ゲージMAX!』の表示が現れた。

 

「きた!此所が勝利への分岐点!」

 

甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)改五を装着し、回転突撃を掛けるFM'sクリサリスに真正面から対峙。戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)奮魂絶闘(オーバード・ソウル)窮戦剋意(きゅうせんこくい)でバフを加え、フルメタルレッグスによる硬化。

 

そして単発威力の高い『鬼蹴(おにげ)り』、聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)&破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)の脚技ズッ友切札コンボに加えて、致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】と同力相殺(シンクロ・ダウトラス)を点火。

 

回転突撃が迫る中でペッパーは、ギャラリーヒーローズ:バーストでシルヴィア・ゴールドバーグが操る、ミーティアスを捕まえた時と同じように感覚を研ぎ澄まし、渾身の力でサマーソルトをFM'sクリサリスの下顎に叩き据えて、何と其の巨体を蹴りの衝撃で引っくり返したのだ。

 

「ペッパーはん、凄いのさ!」

「此れで……決めるッ!!」

 

ショートメイスを握り締め、セルタレイト・ケルネイアーで跳躍し、引っくり返りながらも起きようと藻掻く、FM'sクリサリスの中心部目掛けて、己の持つ武器の最大蓄積値(200%)まで貯まった王撃ゲージを全て使用し、赤と青のオーラを纏った其の一撃を繰り出す。

 

此の武器に備えられた其れ(スキル)は、戦闘中に所持者が繰り出した此の武器の『クリティカルの総回数』と『与えたダメージ総量』によって威力が変動(・・)し、此の一撃は他の攻撃によって『弾かれず』、そして『確定部位破壊』を可能とする大技。

 

其の名を━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

『【不壊なる激闘打(アンブレイカブル.ディボウリー)】!!!!!!!』

 

 

 

 

 

装甲破壊・装甲貫通の効果を付与された、絶大極まる一撃がFM'sクリサリスの引っくり返った腹部に直撃。古い建物の外壁や屋根を、超重量の落下物が押し潰すかのような、衝撃と圧力が炸裂。

 

腹部を圧し壊された結果、内部まで衝撃が貫通したFM'sクリサリスは一瞬ビクン!と、一際大きく其の身を跳ねるも、瞳からは光を失って生き絶えて。同時に此のヘラクレスリッキーを構成するポリゴンが、徐々に崩壊を始める。

 

「FM'sクリサリス。羽化と共に、強大極まる力を見せ付けた雄々しき甲虫よ。俺とアイトゥイルはお前を、此のフィールドに吹き降ろす風を利用し、地上戦に持っていかなくては、勝機を見出だせなかった。お前の名を、俺は決して忘れない。戦ってくれて、ありがとうございました!」

 

強者に対する感謝の意を忘れる事無く、ペッパーはFM'sクリサリスに礼を述べ、其の言葉をトリガーとしてポリゴンが爆発四散を遂げて。

 

ドロップアイテムが目の前に広がると同時に、レベルアップのSEが鳴り響き、彼の前にはリザルト画面が表示されたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

『暗き深穴にて眠る揺り篭の中の赤子は、強き者により討ち鎮められた』

『ユニーククエスト【覇道を刻みて、武は形を成す】が進行しました』

『残された強者は……………二体』

 

 

 

 

 

 






煌々と燃える闘志を抱き、不屈の意志が敵を討つ








※現在のペッパーのステータス


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



PN:ペッパー【天津気(アマツキ)


レベル:80



メイン職業(ジョブ):星駆ける者(スターランナー)
サブ職業(ジョブ):無し

 

体力 130 魔力 50
スタミナ 180
筋力 150 敏捷 160
器用 125 技量 125
耐久力 3751 幸運 70

 

残りポイント:21

 


装備


左:兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)
右:リュカオーンの呪い(マーキング)
両脚:甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)改五(耐久+700)

 

頭:ライノベレーの帽子(耐久力+350)
胴:影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)(耐久力+2000)
腰:発掘研磨腰帯【古兵】(耐久力+400)
脚:烈風竜印のズボン(耐久力+300)



アクセサリー


致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)
格納鍵(かくのうけん)インベントリア
超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)



所持金:51,689,890マーニ

 


不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

窮速走破(トップガン)
偉風導動(リーガルック)

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 


致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得


 

致命武技


致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)
致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】捌式
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】
致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】玖式
致命蹴術(ヴォーパルけりじゅつ)円月砕(えんげつさい)】玖式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オボロサイダン】
致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式



星天秘技(スターアーツ)


・ミルキーウェイ







スキル


死神の斬撃(デス・マサカー)
終極刺突(グルガ・ウィズ)
真界観測眼(クォンタムゲイズ)
・ブルズアイ・スロー
・フィーバー・シャイニング
頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)
巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)昇華(スタンバイ)
冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)昇華(スタンバイ)
聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)
戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)昇華(スタンバイ)
戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)
韋駄天権現(いだてんけんげん)神威光臨進(かむいこうりんしん)
・レーアドライヴ・アクセラレート→レーアドライヴ・アクセラレート・昇華(スタンバイ)
神律燼風(しんりつじんふう)
十傑斬覇(じゅうけつざんは)
神謳万雷(しんおうばんらい)
咆進快速(フルスレイドル)
・アドヴェイン・スロー
乾坤一擲(けんこんいってき)
・プレジデントホッパー→ブレイジングジャンパー
天空神の加護(レプライ・ウーラノス)
奮魂絶闘(オーバード・ソウル)
・ドミノチェイン・ストライカー
・トルネードレッグス レベルMAX
破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)昇華(スタンバイ)
英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)昇華(スタンバイ)
絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)
明鏡睡蓮(めいきょうすいれん)仙水開蓮(せんすいかいれん)
連刀二十刃(れんとうはだち)連刃結(れんじんむすび)九十九(つくも)
罰閃乱(ばつせんらん)佐々波(サザナミ)】→刃閃鑼(じんせんら)波狼(はろう)
封栓認視界(ブロット・ウラタナ)刻痕栓認視界(リュトラスメル・ウラタナ)
破界の視覚(ミュリミア・メナトス)破魔を示す視覚(テトラミュオン・ナルクト)
速刃(そくじん)雲払(くもばらい)】→速刃(そくじん)塵晴(ちりはらし)
・イクス・トリクォス レベル1→レベル6
煌軌一閃(こうきいっせん)
爆芯輪転蹴(メテオ・ドリンラム)
雫波紋(しずくはもん)連重穿貫(レンジュウガカン)】→雫波状(しずくはじょう)澄蓮華(スミレンゲ)
・グラッセル・ゼイリアス
・ダイズン・ストンプス
拳雨怒濤(けんうどとう) レベル1→レベル4
摩天来蓬(まてんらいほう)
局極到六感(スート・イミュテーション)
居合(いあい)切燕(きりつばめ)】→居合(いあい)切空(きりそら)
天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)
天壱夢鳳(てんいむほう)
・セルタレイト・ケルネイアー
・フォートレスブレイカー
・スラッシング・ファンファーレ レベル1→レベル5
・スパイラルエッジ→ドリルピアッサー
・セルタレイト・ヴァラエーナ
・ボンバーナ・グラップル レベル1→レベル3
・マシニクル・リブラ→アレフ・オブ・エクシード レベル1
流天翔奏(るてんしょうそう)
・ミューサドール・パラダズム→秀越なる鎚撃(オルフェイム・タンザライナ)
衝拳打(しょうけんだ) レベルMAX
・エトラウンズパウンド→境鳴絶壊昴打(シューヴェイト・ラプソディ)
・セルタレイト・ミュルティムス
王斬技能(おうざんぎのう)修羅破断(しゅらはだん)】→王斬儀顛(おうざんぎてん)鬼皇刃侵(きおうばしん)
刃王斬(ばおうざん)鬼丸(おにまる)】→刃王斬(ばおうざん)修羅(しゅら)
刃舞(じんぶ)回輪(かいりん)】→刃舞(じんぶ)流転(るてん)
・ハンド・オブ・フォーチュン レベル1→レベル4
・フルメタルレッグス→メダリオンレッグス
・デッドオブスリル
・スラッシュハイド レベル2→レベル7
・シャイニングアサルト レベル1→レベル6
・マーシフルチャージャー レベル1→レベル7
・リコシエット・ステップ レベル1→レベル8
二天無双(にてんむそう)三天無双(さんてんむそう)
・ホォロルゥクスマッシャー→選択可能
剣人闘魂(サムライ・ハート) レベル3→レベル5
・ヴァーミンガムスナッチャー→選択可能
・アイアンフィスト→フルメタルフィスト
・アクロバット レベルMAX
・ストロング・キャリアー
・サーファー・スロープ→ウェーブ・スライド
同力相殺(シンクロ・ダウトラス)反力調錣(イナトゥム・カウント)
虎崩擊(こほうげき) レベル1→レベル3
皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)
・ガードバッシュ レベル1→レベル3
・アサイラムサイン
・シールド・スティーブ
速崩巌砕(そくほうがんさい)徹硬鋼突(てっこうこうとつ)
窮戦剋意(きゅうせんこくい) レベル1→レベル4
鬼蹴(おにげ)り レベル1→レベル6
英雄疾走(ヒーローダッシュ)英雄走破(ヒーロースプリント)
・プロテクト・スマッシュ
・ゲイルサベージ→タイフーンランペイジ
渾身衝撃(ストライク・アーデ) レベル1
業魔崩(ごうまくず)し レベル1
武頼闘気(ぶらいとうき) レベル1
・スラッシュスレイト
・セルタレイト・スラッシャー
・コンパクト・イステル レベル1
護り手の献身(ソラティオン・エモニー)
・ティア・セイバー レベル1




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




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とても楽しい、すごく愉しい、オハナシ



其の頃、外道達は


※少し短いです





ペッパーが弩弓剣(アーチブレイド)を新武器として解放するユニーククエスト【覇道を刻みて、武は形を成す】を受注し、アイトゥイルの協力を得ながら、三体の強者が一角『FM's(フォッシルマイナーズ)クリサリス』と激闘を繰り広げていた其の頃。

 

世紀末略奪ゲーこと『ユナイト・ラウンズ』の某館の一室が『物々しく』、そして『殺意』で満ち溢れていた。

 

「さぁて、サンラク君とカッツォタタキ君。言い訳をするなら、今の内に聞いてあげるけど━━━━━どうする?」

 

ニッコリと笑い、しかし其の額には青筋を浮かべた鉛筆戦士(ペンシルゴン)が、テーブルを向い合わせにして座る、ダンディーな顎髭を生やす『サンラク』と全身を甲冑で身を包んだ『カッツォタタキ』に、詰め寄る形で言ってきた。

 

「ペッパーがお前とのオハナシで、何時も感じてる感覚ってヤツが、よーく解ったわ」

「俺もドーカンだね、何時か胃が潰れそう(笑)」

 

ビシリッ……と空気が割れるような音が響き、彼女の殺意が膨張したので、サンラクとカッツォは此れ以上は言わない事にする。

 

「何で呼び出されたか……解ってるよね?二人共」

「………先に断っとくが、俺はあくまでも(・・・・・)アイツに幕末を『オススメ』したに過ぎないからな?其れでアイツがハマったなら、奨めた甲斐が有っただろう」

「む………」

 

サンラクの言う事は一理有る。彼はあくまでゲームを奨めただけに過ぎず、最終的な判断はペッパー本人に任せただけなのだ。

 

「そーだそーだ、俺達何にも悪くなーい」

「そんな訳無いよねぇ、カッツォくーん?」

 

話の流れのまま無実を訴えようとしたカッツォタタキに、鉛筆戦士の眼光が突き刺さる。元を正せば、ペッパーが『全米一位』こと『シルヴィア・ゴールドバーグ』と戦う羽目になったのは、カッツォが彼に要請を出したからに他ならない。

 

「いやな、鉛筆戦士。アイツ曰く、シャンフロのサードレマの街中で『パーフェクトステルススキル』持ちのPKerに襲われたらしくてね?其れから全力逃走したら、他のプレイヤーが録画したのが『全一』に目撃されたんだとよ」

「其れは彼から聞いた。で、電脳大戦(サイバーバタリオン)のトップまで観てたのは、どーいう事な訳ー?」

 

あぁ、コレは面倒臭くなった時のペンシルゴンだと、其れなりにゲームでの付き合いを持った二人は感じた。

 

「…………アーケードゲーム『ビルディファイト』。俺とペッパーが遊んでる格闘ゲームで、其の対戦動画を家のトップが目撃してな。曰く『コイツの思考深度なら、世界にも通用する』って言ったんだよ。で、実際にシルヴィア・ゴールドバーグ……『世界最強の格ゲーマー』からの挑戦状を受けて戦い、アイツは自分の実力を示したって訳だ」

 

其れからカッツォタタキはシルヴィア・ゴールドバーグの事を話し始めた。彼女の伝説となった五年前の戦いを、彼女の今も尚続く伝説を、そしてプロの世界に伝わる彼女の話を。

 

映像を絡め、ペッパー……ギャラクシーヒーローズ:バーストでは『AZ』と名乗る彼と、ゲームの絶対王者たる『Silvi』の、ミーティアス同士のマッチングを録画した物を二人に見せながら、カッツォは説明したのだ。

 

「うわマジか……。ってか、第1ラウンドから全部計算(・・)してやがったか、ペッパーの奴」

「二手三手とは言え、絶対王者を思考で縛る………普通(・・)は出来ないでしょ」

「言ったろ?アイツの思考深度は、プロゲーマーの其れよりも二段階くらい深いってさ」

 

世界最強の格ゲーマー、リアルミーティアスたるシルヴィア・ゴールドバーグを相手に、一矢報いて見せたペッパーの凄まじい実力を、三人は改めて『ペッパーはヤバイ』との認識で思考が統一された。

 

「と、言う訳なんだが………。御理解頂けたかな、鉛筆戦士?」

「そうだね……。コレを見せられたら、納得するしか無いよねぇ………」

 

実際シャンフロで空を駆け上がり、凄まじい速度で空中を走った光景を見て居たからこそ、全米一位が彼と戦いたいと願ったのも、鉛筆戦士には何と無く解ってしまった。

 

アレは誰かに見付かるまでは目立たないが、見付けたならば見た者を魅了するギラリと輝く『一番星』。ゲームでよくある『ザコ敵だけど何故か記憶に残る』ような、そんな感じの存在に似ているだろうか。

 

「………OK、二人に対するオハナシは終わりだよ。悪いね、時間を取っちゃってさ。何か有ったら、ちゃんと連絡してね、二人共」

「特にサンラク、お前シャンフロでユニーク見付けたら、俺も絡ませろよ?」

「え~~~ユニーク自発出来ない惑星マン、そんなんで良いのかぁ~~?」

「だぁーーーーーー!?シャラァアアアアプ!!!其れは禁句だろがーーーーーー!!!」

 

ギャーギャーと取っ組み合うサンラクとカッツォタタキの姿を見ながら、鉛筆戦士は自然な笑みで微笑んだのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして同時刻、シャングリラ・フロンティアのエリアの一つ、栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)にて、誰もが知らない新たな『出逢い』が在った。

 

「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

『むっ!?』

 

山頂にて対峙するは『橙色の忍者装束に身を包む少女』と『天覇する金色の龍王』の激突。十数分の戦いの果て、少女の渾身の一突きが龍の『逆鱗』に刃を突き立てた。

 

「やっぱり硬ッ……!?」

『ククク……ハーッハッハッハッハッハ!!!見事、見事見事!我が『逆鱗』に!よくぞ其の刃を届かせたァッ!』

「えっ、わぁ!?」

 

高らかな笑い声と共に繰り出す、超高熱の炎………否、極太のレーザー光線が少女を━━━『秋津茜(アキツアカネ)』を無情にも焼き払った。

 

「小さき者よ、強くなれ……!其の牙を研ぎ澄まし、我すらも喰らい尽くす牙とせよ!」

 

焼き払われ、ポリゴンとなって消える少女の頭部に『傷』が刻まれる。金色の龍王━━━━━『ユニークモンスター・天覇のジークヴルム』が彼女に与えた『己の呪い』たる証を。

 

『良い……良いぞ!強き者が育っている………!あの少女もだが、ペッパーもまた強くなったか。フフフ……!ククク……!』

 

 

 

嗚呼、英雄よ。

 

おお、英傑よ。

 

我を越える、強き者よ。

 

試練の時は、そう遠くはない………!

 

 

 

そうしてジークヴルムは空へと舞い上がり、何処かへと飛んで行く。

 

世界は少しずつ、確実に動き始めている………。

 

 

 

 






光の少女、金龍より呪いを賜る




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勇者は風と空を裂いて走り、兎の国にて秋茜と出逢う



帰る為に全力を尽くせ




「ふぅ…………」

「疲れたのさ……」

 

FM's(フォッシルマイナーズ)クリサリスとの激闘を乗り越え、ドロップアイテムを一つ残さずインベントリアへ回収したペッパーとアイトゥイルは、現在とある問題にブチ当たっていた。

 

「さて………どうやって帰ろうか」

 

大穴の底の言わば『地の底』にまで落ちた事で、現状帰る為の手段がない………という訳ではないが、其れをやったなら『悪目立ち』にも程がある状態まっしぐら。

 

しかしペッパーが、其の選択肢を取らなくては行けないと考えたのは、アイトゥイルの存在であり。NPCである以上は、放置したままではあまりにも危険(リスク)が高過ぎる上、彼女を死なせようものなら間違い無く『取り返しの付かない事態』が待っていると、確信しているからだ。

 

「仕方無い……『超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)』を使うとしましょう。アイトゥイル、来てくれ」

「はいさ」

 

見られたら見られたで、其の時は其の時として考える。ペッパーはアイトゥイルをコートの中に入れて、其の場で高速足踏みをし始め、自身の心拍数を増加させ始めた。

 

(超星時煌宝珠の起動条件は、心拍数が毎分100以上の状態になる事。そうなれば白刻閃(はくこくせん)に成って、此処から脱出出来るようになる!)

 

「おりゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

高速足踏みを続ける事、およそ五分。心臓がドクンドクンと鼓動を鳴らす中、ペッパーは両腕を広げて結びの音頭を取るかのように、両手を合掌。

 

超星時煌宝珠が起動して、ペッパーの身体を真っ白に染め上げながら、地底に生える光る苔以外に光が無い暗闇をも照らし、煌めき輝く一番星となる。

 

「さぁ…………行くよ!」

 

ホポンガの最終試練を越えた事で、バックパッカーの特性を引き継ぎ、変化した『星駆ける者(スターランナー)』。そしてFM'sクリサリスとの戦いを越えた事で、新たに『職業(ジョブ)専用スキル』として発現した。

 

先ずは『頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)』で一定時間、己の身体が高度に到達する為に上昇すればする程、下に発生する『重力』や己の上より『吹き降ろす風』を含めた影響を『大幅にカットする』スキルを使い、レベルMAXまで至ったアクロバットで空中でのスタミナ消費を軽減。其処に再使用時間を超過した、イクス・トリクォスとマーシフルチャージャー、韋駄天権現(いだてんけんげん)より進化した『神威光臨進(かむいこうりんしん)』と咆進快速(フルスレイドル)を加え、其の両足で地面を蹴り上げて跳躍し━━━━━━━『空中を走り出した』のだ。

 

星天秘技(スターアーツ):ミルキーウェイ。其れがペッパーがFM'sクリサリスとの戦闘を越え、レベルアップを経た事により習得したスキルである。

 

此のスキルは『夜』、もしくはフィールドの元々の状態が『暗闇』に近いか『暗闇である』場合のみ発動可能で、自身の視界内に存在している『漂うマナ粒子を磁力のように両足に集め』、其の集めた『マナを用いて己が思い描いた道を作り出す』と言うもの。

 

そして此の時に自身が移動した軌道は、暫くの間『フィールドに留まり続ける』為、そうして出来た道筋は正に『天ノ川』と呼ぶに相応しい美しさと煌めきを持つ。

 

(まぁ…………超星時煌宝珠を使ってると、天ノ川ってよりは『彗星』だとか『流れ星』だとかが似合うだろうけども)

 

上から下に吹き下ろす突風地帯に入ろうが、ペッパーの疾走を止める事は出来はしない。咆進快速(フルスレイドル)の起動で真っ直ぐに、彼は最速で最短の道を其の脚で進む。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

真上に向かい、両足にマナを集め。吹き荒ぶ風にも負けず、携帯食糧を食らってスタミナを回復させながら、白く輝く一番星は風の中をも駆け抜け、暗闇さえも突き抜けて、遂に地上の光が見える場所まで戻ってきた。

 

「よし、仕上げッ!」

 

暗闇から光が射す所に戻って来た事で、効果が切れたミルキーウェイに代わり、大穴からの脱出用に温存していた天空神の加護(レプライ・ウーラノス)起動。

 

更にレベルアップで獲得したポイントを、スタミナに全て注ぎ込み、再使用時間を終えたセルタレイト・ケルネイアーも使って空中ジャンプを行い、穴の中心から縁にまで跳躍し続けた果てに、遂に彼は大穴からの脱出を成功させたのだ。

 

「っし!帰って来れたぜぇ!」

 

穴に向かって吹き込む風に押し込まれぬよう着地し、合掌を行って白刻閃を解除。空を見上げればすっかり夜の帳が落ち始めており、メニュー画面を開けば時刻は既に六時になった所だ。

 

「ん?」

 

ふと周りを見れば、周りには数人のプレイヤーが居て。此方を注視しながら、口をあんぐりと開けていた。対するペッパーはざわめく状況であれども、スッ……と立ち上がり努めて冷静に歩いて行く。

 

だが、其の内の一人が「あれペッパーじゃね?」と呟いた事を聞き逃さず。反応すれば悟られると考えた結果、一切迷う事無く一瞬で走り去って。其れを見たプレイヤー達は此処で漸く、さっきの黒装束を纏ったプレイヤーがペッパーだったと気付くも、時既に遅く逃げられた後だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃい…………」

「何とか逃げ切れた様なのさ……」

 

ファイヴァルに戻ったペッパーは武器屋や道具屋、防具屋を巡って時刻が六時を完全に過ぎたのを目安に、アイトゥイルが開いたゲートを越えて、兎御殿の休憩室に一人と一羽は帰還した。

 

「あっぶねぇ………!やっぱりブラックトレンチロングコートは相応に目立つな……、早い所試練を乗り越えないと」

 

冥響のオルケストラの遺機装(レガシーウェポン)に関わる、影法師との戦い。あと一つなので、早い所終わらせて胴防具を変更出来る様にしたい。

 

「ふぅ………よし、アイトゥイル。ビィラックさんの所に行こう」

「ペッパーはん、あのカブトムシの素材を渡すのさね?」

「あぁ。インベントリアは無尽蔵ではあるけど、渡しておいた方が武器を作る時に、何処にどの素材を用いるか考えられる様にしておけば良いかなって」

 

弩弓剣(アーチブレイド)の完成形も気になりながら、ペッパーはアイトゥイルを肩に乗せてビィラックの仕事場たる鍛冶場へと向かおうとした時だった。

 

「おぉ、アイトゥイル。其れに『ペッパー』殿、帰って来ていたで御座るか」

 

不意に自分の名前を呼ばれたので振り向くと、其処に居たのは全身に朱い甲冑と兜を纏った、二足歩行の細目な白兎が一羽。背丈はビィラックより少し高く、一言で言い表すなら『武士兎』が似合うだろう。

 

「『シークルゥ』兄さん!久し振りに帰ってきたのさ!」

「シークルゥ……あぁ、アイトゥイルが言っていたのは貴方でしたか。初めまして、ペッパーです」

「ウム、初めましてで御座る。拙者はシークルゥと申す」

 

身を屈めて手を差し出し、彼と握手を交わしたペッパー。其れを見ながらアイトゥイルは、シークルゥに問い掛ける。

 

「ところでシークルゥ兄さん、どうして帰ってきたのさ?」

「実は親父殿に紹介したい人がおってな。何せ『黄金の龍王』に其の実力を認められた、実に天晴れな人間を連れて来たので御座るよ」

「ジークヴルムさんに認められた?」

 

とんでもない事になったと、ペッパーは口に手を当てながら思考を重ね始める。つまり其の人間……開拓者(プレイヤー)は、ユニークモンスター・天覇のジークヴルムに接触・戦闘中に条件を満たした結果、呪いを刻まれて『ユニークシナリオ【兎の国からの招待】』を発生させ、シークルゥの案内で兎の国・ラビッツの兎御殿へ来訪した━━━━という事なのだろう。

 

「ほれ、此方へ。拙者の妹の一人、アイトゥイルで御座る」

「あ、はい!」

 

シークルゥがアイトゥイルを紹介して、其のプレイヤーはペッパー達の前に姿を表した。橙色の忍者装束に身を包み、狐の面で顔を隠した濃い水色のショートポニーテールと黄緑色の瞳をした『少女』だ。

 

面を上げて顔を見せれば、右頬と額にはリュカオーンの呪い(マーキング)に似た『引っ掻き傷の痕』が刻み込まれている。

 

「初めまして!私『秋津茜(アキツアカネ)』って言います!」

 

爽やかな笑顔で挨拶をしてきた秋津茜、其の声はペッパーの記憶の琴線に触れたのだ。己の記憶が正しければ彼女の声を、自分は聞いた事が有る。

 

「あの~………何で名前が無いんですか?」

「あ、あぁ。実は此の胴防具の影響で……ちょっと待っていて下さい」

 

フードを上げて、顔を見せながら答えるペッパー。其れを見た秋津茜は目を丸くして、こう言ったのだ。

 

「あ………!もしかして『ブラックペッパー』さんですか?!」

「……………ん!?何で『便秘』の…!?」

 

其の時、ペッパーの脳内で電流が迸り。彼は答えに辿り着く。

 

「えっ………もしかして『ドラゴンフライ』!?」

「はい!私が『ドラゴンフライ』です!此処では初めましてです!『ブラックペッパー』さん!」

 

ベルセルク・オンライン・パッション………通称『便秘』。墓守のウェザエモンとの決戦に備え、サンラク・カッツォと共に特訓をしに来た時に、背中を押してくれたプレイヤー。

 

ゲームを越えて、ブラックペッパーはドラゴンフライとシャングリラ・フロンティアの世界で巡り合ったのだった…………。

 

 

 

 

 






三人目の到達者




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三人合流、大兎との謁見



秋津茜の御挨拶




便秘にて出逢った『ドラゴンフライ』━━━━━此のシャンフロでは『秋津茜(アキツアカネ)』と名乗る彼女は、ユニークシナリオ【兎の国の招待】を受注し、此の兎御殿へとやって来た。

 

不思議な巡り合わせもあるものだと思っていると、秋津茜がペッパーに質問してくる。

 

「ペッパーさん、此の兎御殿に一番最初に来たんですか?」

「あ、あぁ。そうだけど……。秋津茜はジークヴルムさんと戦って、顔に呪いを?」

「はい!とっても強くて、何とかジークヴルムさんの『逆鱗』に攻撃を当てたのですけど、焼き払われてしまいまして………目覚めたら顔に『呪い(マーキング)』が付いてました!」

 

紛れか実力か、何にせよ新たにユニークシナリオの受注者が現れた以上、サンラクにも大至急伝えなくてはならない。

 

「あ~……秋津茜。此のユニークシナリオと兎御殿の事を、他のプレイヤーには出来るだけ内緒にする事って出来ないかな?理由としては、此のシナリオ━━━俺と『もう一人』そして秋津茜以外に受注者が居ない、とても希少な物なんだ。協力してくれるかい?」

「はい!解りました!」

「いや、即決かい」

 

彼女を守る為、サンラクと交わした秘匿同盟の為、秋津茜に進言するペッパーに、目を輝かせながら言った彼女に彼は困惑した。秘匿同盟に基づき、ペッパーはサンラクにEメールで連絡を入れる。

 

 

 

 

件名:緊急速報

from:ペッパー

to:サンラク

 

 

サンラク、大至急シャンフロにログインして下さい。俺とサンラク以外で『ユニークシナリオ【兎の国の招待】』を受注したプレイヤーが現れた。

 

プレイヤー名は秋津茜、俺とサンラクとカッツォが便秘で出逢った、ドラゴンフライで名乗ってるプレイヤー。

 

今、兎御殿で待機させてるから、会いに来て欲しい。其れから彼女をクラン:旅狼に加えたいと考えてるので、1プレイヤーであるサンラクの意見が聞きたい。

 

 

 

 

件名:Re緊急速報

from:サンラク

to:ペッパー

 

マジか!?解った、直ぐ入るわ!!あとスカウトするなら賛成、情報秘匿するなら自分の所に引き来んじまえば、実質秘匿になるからな!

 

 

 

 

 

「サンラクさん!もしかして、便秘のサンラクさんですか!?」

「お、おぅ……いやマジかドラゴンフライなのか、秋津茜」

「はい!秋津茜です!よろしくお願いします!」

 

数分後、ログインしたサンラクと秋津茜を引き合わせる事に成功したペッパーは、早速彼女に質問をした。

 

「えっと、秋津茜。君は今、何処かのクランに所属していたりする?もし所属していないなら、俺やサンラクが所属しているクラン:旅狼(ヴォルフガング)に入らないか?」

「えっ、良いんですか!わぁ、ありがとうございます!私、シャンフロでスカウトされたの初めてで!是非!!」

「「いや即決かよ」」

 

何と言うか此の娘から漂う感じは、ある種の後輩系ヒロインか何かかと、秋津茜というプレイヤーの雰囲気をペッパーとサンラクは抱いた。

 

「あ、サンラクさん!シークルゥおにーちゃん!アイトゥイルおねーちゃん!探したですわ!」

 

と、そんな時エムルが少し慌てた様子で走ってきたので、サンラクとペッパーは何事かと彼女に視線を向ける。

 

「おう、どーしたエムル?」

「サンラクさん!おとーちゃんが、サンラクさんを呼んでましたわ!あとアラミースさんが、サンラクさんに『例の物』が完成したので御届けに来たって言ってましたわ!」

「例の物?あ、もしかして『アクセサリー』か!?」

「はいな!」

 

数日か十数日前に、ビィラックがアラミースを通じてダルターニャに依頼して渡した、水晶巣崖(すいしょうそうがい)で掘り出した宝石達。どうやら其れを用いた品が出来上がったようだ。

 

「サンラク。先に先生に秋津茜を会わせてから、アクセサリーを受け取るって形には出来ないかな?」

「そうだな……焦ってる訳じゃないし、其れで行くか」

 

話の流れを決めて、エムルとシークルゥの案内を受けたペッパー・サンラク・秋津茜は兎御殿の廊下を歩いて行き、移動中にペッパーは秋津茜へ粗相が無いように気を付けてと、先達者としての意見を彼女に伝え。そうして三人と三羽は、ヴァイスアッシュが待つ謁見の間へとやって来た。

 

「頭。ジークヴルム殿との戦い、其の身に呪いを刻まれた強者を連れて参った」

「おぅ、シークルゥ。よくやったぁ……」

 

エムルとアイトゥイルが襖を開いた先、其処にはヴァイスアッシュが人参型の煙管で煙を吹かして座っていた。何時見ても彼からは凄まじい気迫が滲み出ており、此処からでも覇気が伝わってくる。

 

「おめぇさんかい。ジークヴルムと殺り合って、顔に印を刻まれたヤツぁ……。中々ヴォーパル魂が有るじゃねぇか」

「はい!ジークヴルムさんはすっごい強敵でした!」

 

ド直球に感想を述べた秋津茜に、「だろうなぁ………」と煙を吸い込み、ヴァイスアッシュは彼女を見つめながら言った。

 

俺等(オイラ)は此のラビッツで頭ァ張ってる、ヴァイスアッシュってもんだ。もし、おめぇさんが望むなら俺等直々に鍛えてやっても良いがぁ………どうする?」

 

問題は此処からだ。自分は緊張によって選択肢をミスったが、サンラクは舎弟としてパーフェクトコミュニケーションを成し遂げ、現在に至っている。

 

ヴァイスアッシュからの問い掛けに対する秋津茜の答えは、畳に正座した後に「よろしくお願いします!師匠!」と述べて。

 

其れを聞いたヴァイスアッシュは、微笑の後に「おぅ、おめぇさんは今日から弟子だぁ」と述べて、シークルゥに向けて言葉を発する。

 

「おぅ、シークルゥ。コイツの世話ァ、おめぇさんに任せるぜ?」

「ウム、承ったで御座る!」

 

一先ず気に入られた様で、やり取りを見ていたペッパーとサンラクは一安心し。そしてヴァイスアッシュは、自身の懐から致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)を放り投げ。まるで意思を持った様に、首輪は彼女に巻き付いた。

 

「わわっ!?コレは!?」

「弱者が強者に至るにゃあ、尋常成らざる苦難が必要だぁ。ヴォーパル魂を忘れるべからず!だ」

 

そして彼は入口でやり取りを見ていた、サンラクとペッパーの方を向いて言った。

 

「おぅ、サンラク。おめぇさんの客人が来てるぜ」

「エムルから話は聞きやした。何でも(くだん)のアクセサリーが出来た………と」

「あぁ。其のアクセサリーなんだが、当事者がおめぇさんに『話』をしたいってェ、言ってきてなぁ。おぅ、入ってくれや」

 

横の襖が開き、やって来たのは黒猫の猫妖精(ケット・シー)のアラミース、そして虎柄の毛並みをした猫妖精が現れた。

 

「アラミースさん、御久し振りです」

「おぉ、ペッパー殿にサンラク殿!御久し振りで御座います。………もしや、そちらの御方は『黄金の龍王』に挑んだ強者でありますか!?」

 

頭に乗せた帽子を外し、胸に当てながら御辞儀をしてきたアラミースと、もう一匹の猫。そしてアラミースは秋津茜の額にある呪いを見て、声を上げる。

 

「はい!ジークヴルムさんはすっごい強敵でした!」

「成程………!我が名はアラミース、以後御見知り置きを。そしてサンラク殿、此方にいらっしゃるのが我等キャッツェリアの誇る、最高の宝石匠(ジュエラー)『ダルニャータ』殿であらせられる」

「よろしくで……御座います………」

 

其のケット・シーことダルニャータは、何故か『怯えて』いた。其の理由を、俺達は此れから知る事になる…………。

 

 

 






彼は宝石匠




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手にしたアクセサリーは着て飾るのみでなく、使い熟してこそ真に煌めく



特別なアクセサリー




虎猫の猫妖精(ケット・シー)・ダルニャータ。ビィラックの言葉通りであるなら、クラン:旅狼(ヴォルフガング)の内の三人━━━━━ペッパー・サンラク・秋津茜だけが知っており、他のメンバーと公に開示していない『隠し手札』の一つたる『宝石匠(ジュエラー)』の職業(ジョブ)を扱う者で間違いない。

 

其のダルニャータなのだが、カタカタと震えているのだ。一体何が有ったのだろうか?

 

「サ、サンラク殿………アラミース殿からの依頼を受けて、あああ、アクセサリーを……御作り致しました。で、ですが……完成した『アクセサリー』の一つは、非常に……そう、本当に非常に『危険な物』なので御座います………」

 

今にも『ちびって』しまいそうな雰囲気に、ペッパーとサンラクは首を傾げていると、ヴァイスアッシュが口を開いた。

 

「サンラク。おめぇさんが渡した宝石の中にィ『とんでもねぇヤツ』が入っていたと、キャッツェリアの国王を通じてダルターニャが言っててなぁ。『オイラの舎弟であり、ペッパーの友人たる』おめぇさんを、其れのせいで危険に遭わせるかも知れねェと、アクセサリーを作ったは良いが渡すか否かで、今も悩んでいるんだそうだ。でぇ………悩んだ末に、おめぇさんの判断に委ねたいってオイラん所を訪れたってェ訳だァ」

「極めて危険、で御座いやすか……兄貴」

 

頷き、ダルニャータに視線を送ったのを合図とし、ガチガチの緊張で歩きつつも、虎猫の宝石匠はサンラクの前まで行き、大きな装飾が施された箱を取り出して彼の前で開いて見せてくる。

 

其の中に入っていたのは、綺麗に折り畳まれた『白地のマント』に『親指部分に宝石が埋め込まれた右手用の革手袋』、そして『歯車と車輪と風車を足して三で割ったが似つかわなくなった不思議な物』が、其の中には納められていた。

 

「此方の三種のアクセサリー……が、(わたくし)ダルニャータが………全身全霊を以て、作りました…。

マントが『瑠璃天(ラピステラ)星外套(せいがいとう)』………革手袋が『封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)』…………。そ、そして……一番危険な物が……『兇嵐帝痕(イデア=ガトレオ)(スペリオル)』、で………御座います………!」

「あぁ、えっと……コホン。ケット・シーの王国・キャッツェリアと、此等三種のアクセサリーを作ってくれたダルターニャに、感謝の意を。もし困った事が有ったなら、ヴァッシュの兄貴だけでなく俺も頼って欲しい」

 

突発的なロールプレイをして、アクセサリーを受け取ったサンラクは、早速アクセサリーの内容をチェックし。数秒後に突如として硬直してしまった。

 

「サンラクさん!?大丈夫ですか!?」

「サンラク、どうした!?」

「ヤベーわ、此のアクセサリー達。取り敢えず、ヴォーパルコロッセオで性能を確かめてくる」

 

そう言ってサンラクは実験場へと走って行き、エムルとダルターニャも其の後を追い。更にはヴァイスアッシュまでもが煙を吹かしながら、コロッセオへと移動を開始。唯成らぬ事態にペッパーと秋津茜も各々のパートナーを連れて移動するのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴォーパルコロッセオに移動し、コロッセオ内のベッドにてリスポーン地点を更新したサンラクは、アクセサリー・装備の整理を行い、手始めに封雷の撃鉄・災を右手に装備する。

 

「さて………やるか」

 

ふと観客席を見れば、ヴァイスアッシュを始めとしてペッパーに秋津茜、ダルニャータやアラミース、エムル・アイトゥイル・シークルゥの姿も在る。

 

サンラクは呼吸を一度、其れを合図として右手親指を己の胸に叩き付け。刹那、彼の身体を静電気が迸った音が響き、其の身を『黒い雷』が包み込んだのだ。

 

「サンラクさん!?」

「黒雷を……纏った?」

「お、おおぉお!?」

 

バチバチバチと鳴り止まぬ電音の中、サンラクは己の全身に力が漲り満ち、荒ぶる様な力の奔流を感じて。思わず全力で駆け出した瞬間、目の前に壁が迫った事に気付くも対処出来ず。

 

「ほぐべぇ!?」

 

壁に思いっきり叩き付けられたトマトの様に、サンラクはヴォーパルコロッセオの壁に突っ込んで、シミとなって死んだ。

 

「サンラクさぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

「サンラクぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

「サンラクさーーーーーーーーん!?」

 

秋津茜、ペッパー、エムルの声が響いた後。

 

「はっ!?」

 

コロッセオ内のベッドにて覚醒したサンラクは、先程起きた事を確かめるべく、再び表に出てからペッパー達の方へと走って行き。彼は「なぁ、今何が起きた?」と質問をしてきたのだ。

 

「サンラクさん、何かすっごいスピードで走り出して、壁にぶつかりました!」

「俺も秋津茜と同じだ。強いて言うなら『過剰な速度』で突っ込んで行った………そんな感じ」

「アタシもペッパーさんと秋津茜さんと同じですわ!」

「マジ?いや…………もしかして、つまり『そういう事』なのか………!?」

 

此方の説明を聞いたサンラクは、徐にステータス画面を開き、其の後に封雷の撃鉄を起動。黒雷が彼を包み込み、先程とは違って彼は暫く其の場で留まって、再びステータス画面を開き。

 

バク転をしようと、其の身を後ろに跳躍した結果、サンラクの身体は空中で二回転半の弧を描き、顔面からコロッセオの地面に落ちて。

 

「ぼへっ」

 

彼の首はあらぬ方向へと曲がって死んだ。

 

「サンラクさぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

「サンラクぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

「サンラクさーーーーーーーーん!?」

 

そして数十秒後に再びコロッセオに現れたサンラクは、ダルターニャに視線を向けながら言った。

 

「……………ダルニャータ君。兇嵐帝痕は封雷の撃鉄よりヤバいってマジ?」

「は、はぃい……!其れは、本当で御座います……!」

「そうか………封雷の撃鉄よりもヤベェのか。よし、使ってみよう」

「サンラクさん!?」

「物は試しだ、実際に使用すれば判る事も有る」

 

他者の意見には耳を貸すが、最終的な判断は己自身で決める。兇嵐帝痕をスロットにセットすると、彼の腰辺りに左右一つずつ、歯車らしき物が浮遊していた。バフスキルを全開にし、封雷の撃鉄を起動。

 

サンラクが走り出した直後、ペッパーは状況を理解する為に真界観測眼(クォンタムゲイズ)を発動し、サンラクもまた同様に真界観測眼で己を制御していると、腰辺りに浮遊している兇嵐帝痕が稼働し始め。左足を踏み込んだ瞬間、彼の視界がぐるりと時計回り(・・・・)に高速回転。

 

「ッんお!?」

 

真界観測眼で見つめても、圧倒的な高速回転を止めんとしたサンラクが、己の右足を踏み込めば、今度は反時計回り(・・・・・)の回転が襲い掛かって。

 

「おぼえっ!?」

 

雑巾を渾身の力で思いっきり地面に叩き付けた様な音と共に、コロッセオの壁までぶっ飛んで、顔面からぶつかって再び死んで。

 

「サンラクさぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

「サンラクぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

「サンラクさーーーーーーーーん!?」

 

本日三度目となる二人と一羽の声が、夜の帳が降りるコロッセオに響き渡ったのだった………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃヤベーわ………」

 

三度のリスポーンを経て、サンラクは封雷の撃鉄と兇嵐帝痕を見ながら呟いた。

 

「サンラク、どうだった?」

「端的に言うなら、今の俺じゃ此の二つは『同時に使用したら』間違いなく死ぬ。片方だけなら練習し続ければ『何とかなる』気がする」

 

黒雷を纏う封雷の撃鉄に、凄まじい加速と回転挙動をもたらす兇嵐帝痕に触れながら、サンラクはダルターニャへと言葉を述べる。

 

「あー……ダルニャータ君。良い仕事をしてくれてありがとうな。作ってくれたアクセサリー達、確り使いこなしてみせるよ」

「は、はいサンラク殿!どうか貴方に、運命神の導きと加護が在らんを!!」

 

ニッと笑って言葉を放てば、ダルニャータは深々と頭を下げて。其れを見るヴァイスアッシュも微笑み、そしてペッパーに言った。

 

「あぁ、ペッパーにサンラク。そいや、ビィラックの奴がペッパーを、エードワードがおめぇさん等を呼んでたぜ」

「ビィラックさんと………」

「エードワードが……?」

「おぅ」

 

そう言ったヴァイスアッシュは、ペッパーにとって待ち焦がれていた『ある物』が出来上がった事、そして二人にとって『最重要となる話』伝えたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめぇさんが依頼した『(モン)』、アイツがキッチリ仕上げて『逸品』にしたってよォ。双皇甲虫の素材を使った『甦機装(リ.レガシーウェポン)』がな。そしてェ……前に聞きに来た『ラビッツ再訪問』への回答がよォ」

 

 

 

 

━━━━━━━と。

 

 

 

 

 






使い熟して己とせよ




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双皇が成した武器、そして勇者は鳥頭に金色の蠍を聞く



完成、甦機装(リ.レガシーウェポン)




ヴァイスアッシュの伝言を聞き、ビィラックの鍛冶場へとやって来たペッパー・サンラク・秋津茜と、各々のパートナーたるヴォーパルバニー達。彼女の鍛冶場は彼女自身が古匠となった影響も有ってか、最近はSFじみた近未来的物へと変わっている。

 

「ビィラックさん!例の物が出来上がったと、先生から言伝てを受けて来ました!」

「おぉ、ペッパー!待たせたの、遂に完成したぞ!」

 

言うが早いか、彼女が自身のインベントリから渾身のドヤ顔と共に『其れ』を取り出す。

 

其れはとても巨大な『左手用の籠手』、装着箇所から指先までペッパーの背丈を上回る程の『グローブ型の武器』であり、五指を構成する全てが『カイゼリオンコーカサスの角』を、手刀攻撃を行う部分には『ティラネードギラファの鋏』を以て作られた刃が備わり、腕甲には二体の前羽を各々重ねてマーブルにしたような、金と翡翠の装甲が取り付けられている。

 

「ペッパーが集めたティラネードギラファ、そしてカイゼリオンコーカサス。其の双皇甲虫の素材を用いて作った甦機装(リ.レガシーウェポン)

其れが此の『風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)』じゃあああああああああ!!!!」

「おおおおおおおお!」

 

手渡された其れを立たせれば、此れは本当に片手で扱えるのか?と思う程にデカイ。サンラクがビィラックに依頼して製作して貰った、煌蠍の籠手や煌蠍の尾鞭剣に横幅で勝っていると言えば、其の大きさが伝わるだろう。早速ペッパーは、此の新武器の性能をチェックして見る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)(甦機装(リ.レガシーウェポン))

 

颶風の申し子・ティラネードギラファと、雷嵐の申し子・カイゼリオンコーカサスの素材を用い製作された、双皇甲虫の籠手。双つ皇の力を壱つに宿し束ねた其の手は、装着者の行く手を阻む敵を風と共に薙ぎ倒し、雷と共に敵を穿ち貫く光となる。

 

此の武器を装備中、装備者の移動・攻撃・防御・パリィによって、風雷エネルギーを蓄積する。此のエネルギーは一定数値を消費する事で、以下の能力を音声認証をトリガーとして使用可能となる。

 

 

収束せよ(Convergencing up)

音声認証を行う事により、風雷皇の御手の掌内に風と雷の両属性を内封した、空気弾を生成する。此の空気弾は実体・非実体に触れる事で炸裂し、対象を風によるノックバックと状態異常:麻痺を付与する。

 

此の効果は、消費したエネルギーの量に比例して強化される。

 

 

放出せよ(Discharging up)

音声認証を行う事により、風雷皇の御手全体に風と雷の両属性を纏う。此の状態時に格闘攻撃によってクリティカルが発生した場合、確率で帯嵐状態と帯雷状態を付与する。また『収束せよ(Convergencing up)』の後に発動することで、生成した空気弾を飛ばす事が出来る。

 

帯嵐状態:此の状態時に斬撃・刺突によってダメージを受けた場合、追加のダメージが発生する。

 

帯雷状態:此の状態時に打撃によってダメージを受けた場合、其のダメージは対象の肉質及び性質を無視する。

 

 

超過機構(イクシードチャージ)】:超排撃(リジェクト)

蓄積された風雷エネルギーを全て消費し、拳の面or掌の中心に集結させ、風雷エネルギーを叩き付けるor風雷エネルギーの砲撃を行い、敵を貫く。発動時、超過機構の出力は自在に設定可能。

 

再使用時間(リキャストタイム)は一週間、使用後に武器と装備者に消費したエネルギー分の反動ダメージを与える。

 

必要ステータス

 

筋力140 技量100 耐久800

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風属性と雷属性の両属性をデフォルトで乗せているのもそうだが、双皇甲虫達が得意とした遠距離攻撃をエネルギー消費で繰り出せるのも凄まじい。空気弾として用いれば、咄嗟の防御や緊急回避へ応用に転用出来る可能性を持ち、帯嵐と帯雷の状態異常付与で斬・打・突の三要素による戦闘が出来る。

 

そして目玉たる必殺機能の【超過機構】:超排撃も敵を直接殴るか、遠距離からエネルギー弾を当てるかの二択を取れ、戦局に応じた使い分けが勝負を左右する事になる。攻撃を外したり、其の一撃で敵を仕留め損なえば、漏れ無く武器は破損する上に、自身は反動ダメージで死ぬ可能性も孕む。

 

総じて『装備者は応用力と判断力が求められ、此処ぞと言うタイミングで最高の一撃を当てに行ける、勝負師気質のプレイヤーが使うと凄まじく化ける逸品』という評価に、風雷皇の御手は落ち着く事になった。

 

「ビィラックさん、ありがとうございます!製作秘話を聞きたい所ですが、実はエードワードさんから話を聞かなくてはいけなくなってしまって………」

「おぉ、そうか……。あぁ、後一つ。甦機装は『修繕』が普通の武器とは『違う』。破壊されても消滅はせんが、直す場合に相当量の『素材と金』が要る。気ぃ付けェ」

 

どうやら耐久値が0となり、破壊・消滅する従来の武器と異なるらしく、修繕出来はするものの素材によっては周回必須の物もある。全力を出さなくては絶対に勝てない相手には、切札たる超過機構を切る事も視野に入れつつ、ペッパーはビィラックに討伐してきた『FM's(フォッシルマイナーズ)クリサリス』の素材を渡した後、三人と三羽は鍛冶場を後にし。

 

途中、秋津茜はリアルの事情でログアウトすると言っていたので、シークルゥの案内で休憩室へと向かい。ペッパーとサンラクはエムルとアイトゥイルに導かれ、エードワードが待つ『執務室』に向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー。ビィラックに作って貰った武器ってのは、前に京ティメットへ渡してた太刀と同じモンスターか?」

 

サンラクはエムルを頭に乗せ、ペッパーはアイトゥイルを肩に乗せて廊下を歩いた時、サンラクが風雷皇の御手の事を聞いてきた。

 

「あぁ。千紫万紅の樹海窟、双皇樹で受注可能な周回クエストで戦える、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの二体の素材を使ってね。攻略法教えようか?」

「ん~……いや、良い。自力で攻略してみせるわ」

 

同じゲーマーとしてペッパーが攻略出来たなら、自分に出来ない道理は無いと、サンラクは其の両目に闘志を燃やし。其れを見たペッパーは、サンラクにユニーククエスト関連の質問をした。

 

「あ、サンラク。ちょっと質問良いか?」

「ん?どーした」

「前に段階型のユニーククエストをやってるって、サンラクに話したとは思うが、今『新武器』製作の為に強者を倒すミッションをしてて。さっき渡したヘラクレス以外に『女王』と『金蠍』を倒さないといけないんだが、金蠍を知らないか?」

 

ペッパーの其の質問に、サンラクの目の色が変わる。其れはまるで『待っていた』とばかりの物であり。

 

「ペッパー……『金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)』が相手たぁ、御目が高いねぇ………。親愛なる大親友(クソッタレのマブダチ)達の中でも、奴単騎の実力は『素晴らしい』の一言に尽きる。戦ってみると良いぞぉ………」

 

ニチャアァァァァ………な笑みを浮かべ、金晶独蠍の説明をしたサンラク。実戦的訓練で水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)とは戦ったが、アレは単体だけでも凄まじかった。其れ以上ともなれば、相当の覚悟を以て挑まなくてはならないだろう。

 

そして二人の足は兎御殿の一角にある、荘厳な扉の前で止まった。

 

「サンラクさん!ペッパーさん!着きましたわ!此処にエードワードおにーちゃんが居るですわ!」

 

エムルの説明を聞き、ペッパーとサンラクは意を決して扉をノックして開く。此の先に待つヴァイスアッシュの子供達の長男、そしてラビッツの中核を担う国王と謁見をする為に………。

 

 

 

 






いざ対面へ







風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)

正式名称は甦機装(リ.レガシーウェポン)ビィラック・風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)。双皇甲虫の素材をふんだんに使用して製作された片手用の大型籠手であり、甦機装共通の音声認識による機能の行使を可能にする。

また親指とブレードは取り外す事が出来、反対に移す事で右手用に切り替える事も可能。

此の武器の超過機構:超排撃は拳状態では『テリー・ボガード』の超必殺技『バスターウルフ』、掌状態では『うずまき ボルト』の『飛ぶ螺旋丸』。

モチーフは『デュエル・マスターズ』のクリーチャーの一体『ボルシャックNEX』の手甲を大型化&『サイブレード』を融合させ、カラーリングを翡翠と金と黒にしたもの




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国王より示される回答(こたえ)



ラビッツのトップとの会談




ノックが数回響き、執務室の扉が開かれる。室内は日本の極道物ゲームで見るトップの部屋の其れであり、額縁には『ヴォーパル魂』と達筆な書初め、人参の噛み持つ木彫りのヴォーパルバニーの置物等々、重厚と雰囲気が凄まじい品々が出迎えた。

 

「…………おや、誰かと思えば。エムルにアイトゥイル、そして初めましてになりますかな?ペッパー殿とサンラク殿」

 

部屋の奥の机に座り、資料に押印をしていた其の兎は此方に気付いてか微笑んだ。ビィラックが黒毛、シークルゥが白毛ならば、今自分達の目の前に居るヴォーパルバニーにして、ラビッツの宰相(・・)たる彼━━━━ヴァイスアッシュの子供達の長男であり、Aを冠する灰色の毛の兎『エードワード』は、眼鏡をクイッと上げながら答えた。

 

「初めまして、エードワード国王陛下。自分はペッパーと申す者です」

「サンラクだ、初めましてだな宰相閣下」

 

インテリヤクザのような見た目のエードワードに挨拶をし、ペッパー達は早速本題を切り出しにいく。

 

「兄貴………いや、此処では『ヴァイスアッシュ』と呼ぶが、アイツから『SF-Zooのラビッツ再訪問』の回答が出たと聞いてな。答えを受け取りに来た」

 

およそ二週間前、蛇の林檎・水晶街支店にて行われた、黒狼(ヴォルフシュバルツ)旅狼(ヴォルフガング)・ウェポニア・ライブラリ・SF-Zooによるクラン会談。其の時にSF-Zooのリーダー・Animaliaは『此方の提示する全ての条件を飲む』と言い切り、交換条件として『ラビッツへの再来訪』を交渉してきた。

 

ペッパーが息を飲み、サンラクが見守る中、ラビッツの国王たるエードワードは先に、二人と二羽を来客用の椅子に座らせて、答えを述べる。

 

「我々ラビッツの答えとしては━━━━━━━此のままでは(・・・・・・)『NO』と言わざるを得ません」

 

ん?此のままでは?と、ペッパー・サンラク共に疑問を抱き。エードワードは理由を説明していく。

 

「彼等彼女等がラビッツを来訪し滞在していた期間中、同胞達から多くの『クレーム』が寄せられましてね。何でも『すくしょ』……なるものの騒音が、昼夜問わず響いたせいで寝られなかったや、問答無用で捕まえられて全身を撫でられた等々、挙げればキリがない程の『迷惑行為』を行っていた━━━━━と」

 

やっぱり手綱やら枷を掛けなくてはヤバい連中だと、二人はSF-Zooの評価を訂正していく。そしてペッパーはエードワードに問い掛ける。

 

「エードワード国王陛下」

「エードワードで良いですよ。ペッパー殿、サンラク殿。肩の力を抜いて話しましょう」

「………失礼します。では、エードワードさん。先程仰られた此のままではという意味を、御教えいただいてもよろしいですか?」

 

ペッパーの質問に、エードワードは一拍おいて答えた。

 

「彼等彼女等は『実力の断片を見せていない』━━━其れが理由です」

「実力の断片を………?」

「………見せてない?」

「はい。時に御二人は『兎食(としょく)大蛇(だいじゃ)』というモンスターを御存知でしょうか?」

「はい。招待を受けたプレ………じゃなくて、開拓者が倒さなくてはならない、ラビッツを襲う大蛇だとか」

 

ユニークシナリオ【兎の国ツアー】の最終的な目標が、ネームドモンスターたる兎食の大蛇であり、其れを討伐する事によってプレイヤーは、報酬たるユニーク魔法(マジック)『エンチャント・ヴォーパル』を獲得出来る。

 

「我々は兎食の大蛇と戦い、見事に討伐した開拓者達を『見ています』。戦い方を始めとした、様々な要素を。ですが彼等彼女等は、其れを見せていない」

 

「故に」と、エードワードはペッパーを、そしてサンラクを見てこう言った。

 

「十日後、エイドルトの街に此方からヴォーパルバニーを一羽派遣します。最近『無尽のゴルドゥニーネ』が活発化した影響からか、兎食の大蛇達が何時も以上に数を増して、抜け道から出てくるようになりました。彼等彼女等には、溢れ出た兎食の大蛇達を『全力』で。そして『一匹残さず』倒していただきたい」

 

ラビッツの国王からの直々のオーダーに、ペッパーとサンラクは耳を傾け、視線を彼に注ぎ。そしてエードワードは最終的な回答を、ラビッツの意向を伝えたのである。

 

「戦いの結果次第にはなりますが………其の実力相違無しと判断したならば。ラビッツの再来訪も前向きに『検討』する事を、我々は視野に入れても良い。そう考えております」

 

━━━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十日後かぁ……六月の下旬辺りだなぁ………」

「そうだな。しっかしSF-Zoo……唯の動物狂いではなかったか」

 

エードワードとの会談を終えて、ラビッツ側からの回答を受け取ったペッパーとサンラクは、休憩室にて情報を整理していた。

 

「でだ、サンラクよ。今回の会談で得られた答えを伝える役目、サンラクが果たしてくれない?………って何だよ、其の『えっ何で俺がやるの?ヤダよ面倒臭い』みたいな顔は」

「いや実際面倒だし。其処はクランリーダーたるペッパーやってくれない?」

「俺とサンラクがユニークシナリオで繋がっているって、SF-ZooとAnimaliaさん、延いてはペンシルゴンに悟られたくない」

 

此れは事実だ。サンラクとユニークシナリオ秘匿同盟を結んでいる上、何らかの拍子でポロッと口走ってしまうかも知れないからである。

 

「…………なら、どうする?」

「じゃんけんで」

「よし、乗った」

 

互いに立ち上がり、拳を握り締める。だがサンラクは既に策を考えていた。

 

(掛かったな、ペッパー。じゃんけんとは言ったが、別に『スキルを使っちゃいけねぇ』なんて事は言ってねぇもんなぁ?つまり、サキガケルミゴコロと真界観測眼(クォンタムゲイズ)で予測して勝ち抜きしてやらぁ……!)

 

覆面の下に隠した口元を弛ませ、クツクツと笑うサンラク。

 

(━━━━━って考えてるんだろうな、サンラクは。多分サキガケルミゴコロと真界観測眼でも使うつもりかな?まぁ、其処に関しちゃ『勝算』は有るんだけども)

 

冷静に努めて、便秘やシャンフロでの戦い方から確実に仕掛けてくると、ペッパーは予測を立て。

 

「最初はグー……!」

「じゃんけん………!」

 

『ポン!』の瞬間、互いに真界観測眼とサキガケルミゴコロを使用、スローモーションと思考加速の中で脳裏に浮かぶ、己の敗北の未来を見た果てに、二人が繰り出したのは━━━━━━━━━━

 

 

 

 

ペッパー:グー

 

サンラク:チョキ

 

 

 

「シッヤァァァァァ!勝ったァ!」

「ギャアアアアアア!?負けたァ!?」

 

勝敗を分けたのは同じ『サキガケルミゴコロ』、其れが『改備(あらためぞなえ)』に至っていたか否かの、小さくも大きな違いだった。

 

「ってかペッパー、お前スキル使っただろ!?もう一回!」

「却下。サンラクの性格なら、絶対スキルを使うと予想してたし。勝てたのはサキガケルミゴコロが『改備』まで、ちゃんと到達してたのが大きかった」

「グヌヌヌ………ん?改備?ナニソレ」

 

種明かしをした所、サンラクが聞き慣れない単語に疑問符を浮かべたようなので、ペッパーは彼にレクチャーをする事にした。

 

「どうやら致命武技は、秘奥から一定以上の修練を重ねる事で、其の後ろに改備なる物が表示される様になる。因みにスキルも同様な物が有るんだが、此方の場合は神とかの領域の先に『昇華(スタンバイ)』という表記が有る。

多分なんだが此の二つの表示は、スキル『其のもの』の熟練度がMAXに到達して、条件を達成する事で変化するっぽい」

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)の力によって、既に八つのスキルが昇華の領域に至っているペッパー。此処でサンラクはペッパーの右手首に今も輝く腕輪を見て、答えに至る。

 

「なぁ、ペッパー。まさかオマエのスキルって……既に昇華に至った奴が有ったり?」

「あぁ、八つ昇華まで至ってるぜ。俺は腕輪を此のまま装備し続けて、スキルの育成を続けるつもりだけど」

「ふぐぅ!?」

 

サンラクが膝から崩れ落ちた。一気にレベルを上げた弊害が、まさか此のような形で襲い掛かるとは、彼自身思いもしなかったのだろう。

 

「ウゴゴゴゴゴゴ……!まさかスキルに、更にもう一段階の変化が有ったとは………!」

「一気に上げるか、じっくり上げるか。永遠に続くレベリングの議題だな……」

「…………よし、決めた!レベル上限取っ払ったら、腕輪装備し直して、スキルを鍛えてやる……!!!!」

 

致命魂の腕輪がもたらす、凄まじい力を目の当たりにして、改めて装備すると誓ったサンラク。其れは其れとして、じゃんけんに勝利したペッパーはサンラクに、SF-ZooとAnimaliaへの回答を頼んで。

 

サンラクは嫌そうな顔をしながらも、ペンシルゴンを通じてAnimaliaを蛇の林檎に引っ張り出す様に連絡を入れるのを見届けた後、本日のシャンフロを終えたのだった………。

 

 

 

 

 






強くなるのに、道程は様々




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白に煌めく恒星を求めて



掲示板回です


※少し短いです





 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

【情報】胡椒争奪戦争 part10【急募】

 

 

********************

*******************

******************

 

 

430:ダスティエラ

ペッパー見つけた!

 

431:ゴーダイン

マジで!?何処!?

 

432:夢茶

情報プリーズ!

 

433:タンバリ

情報開示!

 

434:黒ベアー

はようはよう

 

435:ダスティエラ

場所は天頂地朽の大穴、だけど真っ白に発光しながら、穴の中から駆け上がってきた

 

436:メモーニ

は???????

 

437:グッシー

はい?

 

438:パップリーン

えっ?

 

439:モモリン

???????

 

440:タロー

え、どゆこと????

 

441:

ワケワカンナインダガ?

 

442:ヴァッツ

ラスボスの第2形態ですか?

 

443:メモーニ

というか空中駆け上がるって何?ヘルメスブートでも使ったの?

 

444:ケラッチ

いや、彼処は下に吹き込む風が働いてる。普通は其の風で振るい落とされるだけだぞ

 

445:ダムー

じゃあ何で空中を走れたん?理由が解らん……

 

446:シンリ

いや、頂天律驚歩使ってたんじゃないか?アレ、重力や風の影響を大幅にカット出来るスキルらしいし

 

447:亜流冠刃

へぇ~そんなスキル有るんか

 

448:マットム

って事はペッパー、相応回数のレベルダウンビルドしてるのは確定か

 

449:シンリ

ペッパー、高機動の軽戦士で空中戦が得意。おそらく頂天律驚歩&天空神の加護含めた+αで、無限ジャンプからの最大高度獲得に至ったと推測

 

450:米四駆

じゃあ引っ捕らえる場合はどーする?

 

451:キシャ・ベル

リュカオーンの呪いが在る以上、状態異常は効かんだろう。狙うなら重力魔法やアトラス・バインドで拘束掛けるべきか

 

452:亜流冠刃

SF-Zooに頼むか?

 

453:ダムー

あれは動物専門だからなぁ……ライブラリ辺りに依頼だして、ペッパーに実証して貰うとか

 

454:ジョッキー

其れアリだな

 

455:ルーパ

気になるんだよね、最大高度取れたスキル構成

 

456:森々ン

空中関連・ジャンプ・機動系スキルに重きを置いてるんだろうか?

 

457:白独楽

可能性は有るな

 

458:チューシャ

真っ白に発光しながら、穴の中から駆け上がってきた、かぁ。………いや字面だけ見ても、頭オカシイ事しか書いてねぇwwww

 

459:シャクシャク

せやな

 

460:ポチャン

それよ

 

461:ゼッティ

わかる

 

462:剣刃

ワカルマーン

 

463:イゴーサ

黒い流星かと思ったら、中から白い恒星が現れたでござるの巻

 

464:シンリ

ゴキブリじゃなくてホタルだったか……ペッパー

 

465:ヴァッツ

黒い時がブラックペッパー、白い時がホワイトペッパー

 

466:タンバリ

写真は無いの~?

 

467:ケラッチ

突然過ぎて撮れんだろ

 

468:米四駆

其れはそうよ

 

469:デモトーン

知り合い曰く、穴の中を白い光で照らすくらいの輝きだったとか何とか

 

470:ヨーキ

白い恒星ってやつだな

 

471:白独楽

サードレマの黒い流星以外に闇照らす白い恒星って異名付ける?

 

472:ポチャン

さんせーい!

 

473:白独楽

賛成

 

474:シューベルト

良いと思う

 

475:メモーニ

夜の時間帯にそれやって欲しいわ

 

 

 

 

********************

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「なぁーーーーーーーにやってんのかなぁ、あーくんは……………」

 

シャンフロ第8の街・エイドルト。蛇の林檎・水晶街支店にて、ペッパーの捜索スレッドたる『胡椒争奪戦争』を見ながら、ペンシルゴンは深い深い溜息を吐いている。

 

ポポンガの最終試練を乗り越え、ユニーククエストのクリアと最大高度(スカイホルダー)の称号獲得。そしてNPC老ゴブリンとの別れ際に、彼が貰ったアクセサリーは『一定条件を満たせば白く発光する』という特性が在るとは聞いていたが、まさかあの(・・)大穴すらも照らす程の強い光だとは、彼女自身も予想外であった。

 

「此れは、あーくんに『オナハシ』する?………いや、寧ろ『計画』を進める好機(チャンス)と捉えるべきかな?」

 

カレンダーと天気予報アプリの二つを開いて、各々を見ながら照らし合わせ、ペンシルゴンは思考する。

 

「………住所は解った。撮影の時間……後はあーくんが家に居る時間を聞き出せば……ん?」

 

そんな時、Eメールアプリに一通のメールが着信。ペンシルゴンは其の内容を確認すると、同じクランに所属するゲーム仲間・サンラクからのメールであり。

 

「何々…………『ラビッツの意向を聞けたから、動物園との交渉をしたい。ついでに『条件を何でも飲む』って発言利用して色々と仕掛けたい』と……………へぇ?」

 

悪い笑みを浮かべ、ペンシルゴンはサンラクに返信メールを送るのだった………。

 

 

 






計画(あーくん関連)




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血煙燻る中に胡椒の匂い巡り、そして災害が襲来す



対人戦を磨こう




シャンフロからログアウトし、今日の夕食として回鍋肉・グリーンサラダ・わかめスープを作った梓は、炊きたての白米をかっこみ早々に食事を終えた後、食器の洗浄を行い、シャワーとトイレを済ませて寝間着に着替えるや、ダウンロードした辻斬・狂想曲:オンラインを起動させる。理由は簡単、打倒シルヴィア・ゴールドバーグ其れだけで有るが故に。

 

「さて、頑張るか……!」

 

願わくば、天誅なる意味を知る事が出来るように。彼はブラッドペッパーとなり、幕末の深淵に続く修羅へと飛び込む………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ログイン天誅ーーーーー!」」」

「「「ログボ天誅ゥゥゥゥゥゥ!」」」

「あ、こんばんわ!元気ですね皆さん!」

 

維新軍に入隊したからか、幕府側から狙われる様になった。ブラッドペッパーは周囲を警戒しつつも、其れは其れとして己をブチ殺さんとする他プレイヤーを、刀で斬るだけで無く脚で蹴り砕いたり、他のプレイヤーを倒して得た刀を投擲してみたりと、様々な攻撃方法を模索しながら、己の思考と経験を研鑽・強化していく。

 

「げぇっ!?ブラッドペッパーじゃねーか!?」

「ログインログボリスキル効かないヤベー奴じゃん!」

「天誅ウウウウウウウウウ!!!!」

「あ、すいません!其れは知ってますので!」

 

肉壁を囮に更なる奇襲を仕掛ける(・・・・・・・・・・・・・・・)技を対処し、ブラッドペッパーは斬って斬られて、殺し殺されを繰り返しながら、笑顔で敵を斬り果たして行く。

 

そして全神経を尖らせながら、勝利の余韻に決して浸らず、己を襲撃し得る可能性を常に考慮し。そしてあらゆるオブジェクトや視界の死角を常に意識し、攻撃を仕掛けるならどんなポイントが有用なのかを、彼は戦いの中でも思考し続ける。

 

「常に状況が変化する対人戦は、やはり学べる事が多いな━━━━ッ!」

「ぐべふ!?」

 

倒して、斬って、倒して、倒して。斬って、斬って、倒して、また斬って。ブラッドペッパーは少しずつ、己がゆっくりと『変わっていく』のを感じながら、其れでも此の変化を善しとして、幕末の世界を駆けていく。

 

そして同時に彼は思うのだ。

 

『前回の最後で自分に斬馬刀落とした奴、絶対に脳天へ刃をブチ込んでやる』━━━━━━━と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いね」

「!?!!!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仰天、距離を取る。其処に居たのは、赤子の様な顔立ち(ベイビーフェイス)の女の子にも似た華奢な男性プレイヤー。所謂『男の娘』という、一部の人間の性癖やらをブッ壊す存在であり、目の前に立つ此の人はまさにも其れだ。

 

着物と袴を着付け、羽織を肩に流すように掛けた其のプレイヤーの頭上には『ユラ』と掲げられ、ほわほわともぽわぽわとも言える、そんな気配を持つ此のプレイヤーが音も無く(・・・・)何時の間にか(・・・・・・)己の背後を取ったなら(・・・・・・・・・・)、当たり前だがビビる。

 

だが、ブラッドペッパーが距離を取ったのは、そんな事等では無い。

 

辻斬・狂想曲:オンライン(此のバトルロワイヤル)に置いて、ギャラクシーヒーローズ:バーストと同様、不動の一位であり絶対王者のシルヴィア・ゴールドバーグ(リアルミーティアス)と同じ存在が、此の世界には居る。

 

誰か曰く『レイドボスさん』。

誰か曰く『千人斬り』。

誰か曰く『金魚鉢の中の鮫』。

 

一時期流行ったという『チーター』による跋扈さえ、其のプレイヤーを始めとした上位の面々は、圧倒的な戦闘力で撲滅し切ったなる、嘘のような本当の話が存在していたりいなかったり。

 

そんな此の『幕末』最強の存在こそが『ユラ』。目の前に立つプレイヤーこそ、此のゲーム最強の王者なのだ。

 

「君、始めたばかり?」と、いきなりそんな事を聞かれたので、此方も直ぐに「はい、そうですね」と答える。厳戒態勢は崩さない、全方位から襲い掛かる敵の気配を常に感じつつも、目の前のプレイヤー・ユラにブラッドペッパーは相対し続ける。

 

「見てたよ、最初の段階を越えてたのを」

「アレは勉強になりましたから」

 

何だろう、此の会話は。品定めをされてるのか、はたまた殺る瞬間を見定めて居るのか。

 

「お茶しない?」

「え?アッハイ、喜んで」

 

何故か茶会に誘われた。一体何が狙いなの此の人(レイドボスさん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抹茶、美味しいね」

「どら焼きや羊羹と一緒だとホッコリしますな」

「あんこ、好きなの?」

「甘味の中では特に」

「良いね」

 

いや、何だコレは。彼の奢りで注文された抹茶に、毒が入ってないか警戒し、彼方は羊羹・此方はどら焼きを食べ、抹茶を飲みながらもそう思う。

 

自分は斬って斬られて、血を血で洗う蟲毒の壺中、バトロアの極限到達点たる辻斬・狂想曲:オンラインをやっていた筈だ。其れが何故、不動の一位たるレイドボスと茶会をしているのか、段々と解らなくなってきた。

 

「桜餅………」

 

何故其処で桜餅を話に出したか、ブラッドペッパーには解らない。なので彼に聞いてみた━━━━━「春、好きですか?」と。ユラの動きが止まる。何かがヤバいとゲーマーの直感が囁く。

 

「何で維新側に?」

「刀と銃を扱って、戦える様になりたいと」

 

「ふぅん」と言う彼。厳戒態勢を解かないブラッドペッパー。と…………

 

「「「天誅ぅぅぅぅぅぅぅぅ!」」」

「レイドボス覚悟ァァァァ!!!!」

 

油断もへったくれもない、口を開けば天誅の響きが聞こえ、襲撃者が二十人。ブラッドペッパーも迎撃せんと、速攻で立ち上がり

 

「天誅」

「べきゃぽ!?」

「びか…!?」

「るヴぇ」

「は!?」

 

ユラがブラッドペッパーを除いて、刹那の内に錆び付いた見窄らしい刀を振るい、全員の首を寸分狂わず切り落とした。

 

「えぇ………」

 

千人斬りなんてよく言うが、アレは『歩く災害』だ。竜巻やら台風が人という貌を成して歩いているとは言うが、正に其れなのだ。

 

そして『カチリ』と空気に、まるでスイッチが入った音が聞こえた。奇しくも其れは、リアルミーティアスの本気の本気が引き出された時と同じ物であり。

 

「だぁい!?」

「━━━━━!」

 

直感と経験と体勢から、彼が『胴斬り一閃』を放つと見抜き、踏み込み前に避けた事で事無きを得る。問題なのは其れを、彼がインベントリから取り出した『三叉槍(さんさそう)』を用いて行った事。流石は幕末の絶対王者、刀だけでなく槍の扱い方も心得てると来た。

 

「凄いね」

「貴方も凄いですよ、ユラさん」

 

此れは『世辞』では無い。心の底からの『称賛』だ。今の俺では勝てるビジョンが見えてこない……………そう断言出来る程に此の人の実力は、先程の二十人の襲撃を返り討ちにした事で、天と地の差が有ると解ったからだ。

 

だが、其れで良い(・・・・・)。今は届かなくても、何時か必ず其の身に刃を届かせる為に、此方も最速で抜刀して彼に向き合う。

 

満月の光射す茶屋、其の場所の路道にて幕末ランキング一位の『レイドボス』ユラと、幕末ランキング圏外であるブラッドペッパー…………後に『血煙(ちけむり)』の異名で呼ばれる彼と、金魚鉢の鮫が激突したのだった。

 

 

 

 






戦闘、レイドボス




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風が囁き、天が叫び、唱える言葉が魔人を起こす



人が修羅に変わる瞬間




風が走り、刃が煌めく。

 

「ッ、おぁ!?」

「此れも避けられるんだ?」

「どーも!本当は反撃したいけどね!」

 

辻斬・狂想曲:オンライン、不動の絶対王者・レイドボスの『ユラ』。彼の太刀筋は『人を効率良く殺す事に特化している』と、そう断言して良い。

 

己の衝動の成すがまま、敵を屠って倒す事に全霊を捧げた攻撃達。歩く暴力装置。意思を持った厄災。おまけに察知能力も獣の其れだ、どんなに距離を離そうが、まるで其所に居るのが解っているかのように、必ず自身の間合いに引き摺り込んで、決して逃がさない。

 

「ちょおふ!?」

 

そして何よりヤバいのは『身体の動かし方』。シルヴィア・ゴールドバーグが『自前の体感とキャラ操作を極めた』物とはまた違う、ユラの其れは正に『武器と純粋な殺意を流動的に無作為にぶつける』、そんな戦い方だ。

 

何よりも相手に攻撃を『読ませない』と言うのが、単純ながらも一番エグい。特に相手を読む事を得意とするヤツには、自分みたいなタイプには相性最悪レベルでブッ刺さる。

 

「うおっ!?危ッ………だぁわぉ!?」

 

一瞬の気の弛みが命取りになる。思考を広げろ、フィールドを利用しろ、そして何よりも!

 

「不確定をも味方に付けろ……ってね!」

 

真っ直ぐ伸びる槍の穂先を回避し、米俵が重なった山を蹴って跳躍から、屋根の上に着地。ユラも其れを見て追い掛け━━━━━てこずに、槍を家の壁に突き刺して、パチンコのようにカッ飛び、抜刀の構えを取る。

 

「其れは『ブラフ』でしょ!」

「!」

 

幕末には『銃』がある。何より片手を刀に添えながら銃を奇襲で撃ってくる相手と、此方は戦った事がある。

 

「っお!?」

 

解っていても、幕末一位ともなれば其の動きに『更なる偽装』を絡めてくる。抜刀居合偽装の射撃偽装の抜刀居合がユラの狙いで、其れを『想定していた』からこそブラッドペッパーは、何とか回避に成功したのだ。

 

だが、ブラッドペッパーは━━━━━━ジリジリと追い詰められている。

 

「ハァ……ハァ……!ッ……!」

 

『形の無い攻撃を読み切る』のは、並大抵の事ではない。脳の思考を常に全開状態(フルスロットル)で動かし続けながら、此れまでの殺られてきた記憶を引っ張り出して、更には今までのゲーマーの経験と直感を総動員しなくては、食らい付けない。

 

其れがユラ程となれば、尋常ではないレベルで脳を使う。シナプスが休ませてくれと悲鳴を上げて、スタミナがゴリッゴリと削られていくのが解る。

 

「凄いね、何処まで『読めてるの』?」

「…………さぁ、何処まででしょう?」

 

不敵に笑え、限界の表情すらも手札にしろ。

 

「ュくッ!?」

 

錆び付いた刀が縦横無尽の軌跡を描く。だが、あの武器は『クリティカル』で当たらない限りは、致命傷にはならない事が『解ってきた』。

 

(彼の動きを『誘導』させろ!己の思考で想定した動きを、敵に取らせる為のポジショニングを『反射』で行え!そして理想の一撃をぶつけるために、あらゆる事態を『想定』するんだ!)

 

振り切る刀の挙動を覚え、刀以外の攻撃を覚え、踏み込みや重心を覚え、其の中に有る『付け入る隙』を探す。己の被弾を最小限に留め、相手の攻撃を最小の挙動で回避し、まるで『煙』のようにのらりくらりと動きながら、ゲームで感銘を受けて学んだ剣の師匠の動きを、己自身で独自改良(アレンジ)した物を、回避特化に再調整(チューン)した物に変え、レイドボスの動きへと少しずつ『適応』し始めていく。

 

「天誅ぅぅぅぅぅぅ!」

「うおおおおお!!!天誅だぁぁぁぁぁぁ!」

「天誅ッッッッッ!」

 

が、此処で他プレイヤーの襲撃。今度は百名近い、当然自分も狙われている。いや、寧ろ自分に集中していたレイドボスを天誅する、絶好の機会(チャンス)と見たのか。

 

ブラッドペッパーも彼等彼女等を利用して、レイドボスへ一太刀をと動こうとした直後、ペッパーの脳裏に『声』が響く。

 

 

 

 

 

天が避けろと言った気がした(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

「ッ!?!!!!!?」

 

其の刹那、ユラが振り翳した無数の斬撃が迸り。先んじて回避行動を取ったブラッドペッパーを除き、天誅を仕掛けた他プレイヤー達を、彼は立ち所に一人たりとて残す事無く、ただ笑顔のままに切り捨てていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、ぐっ………」

 

屋根から落ちたのだろうか。背中が痛い。

 

敵が来ている。諦めるか?

 

「貰うぞ!天誅!」

 

天が諦めるなと言っている(・・・・・・・・・・・・)。四肢が繋がっているなら、首の薄皮一枚繋がっているなら、最後の瞬間まで決して思考を、動きを止めるな。

 

「っ!させる━━━━かぁ!」

 

足を払い敵を転ばせ、置いた刀の刃先で喉を貫き、返り討ちにした瞬間。ブラッドペッパーの脳内で、思考の歯車が『噛み合う』。其れは『カチリ』と噛み合って、其れにより巨大な工場の生産ラインが、一気に回り出すように。

 

ユラが屋根から降りてくるのが、スローモーションに見えながら、ペッパーは最小限の動きを絡めた、回避行動で此れを躱わす。

 

「!」

 

限界ギリギリと言えるブラッドペッパーの肩を使った息遣い。スタミナを使い切ったと思われる鈍重な避け方。だが、ユラは『攻めなかった』━━━━━━其れはきっと何かが起きると(・・・・・・・)直感したから。

 

 

 

 

 

「嗚呼━━━━そう言う事なのか(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

ゾワリとレイドボスの毛が逆立ち、口角が吊り上がる。恐怖等では断じてない、此れは歓喜(・・)だ。幕末をプレイし、環境や戦闘方法に適応出来た者は、ある『一線』で立ち止まる。其れを越えられるか否かによって、其のプレイヤーは更なる高みへと昇っていける。

 

彗星の如く現れ、一日目で初心者の洗礼を退けたプレイヤー・ブラッドペッパー。自分を殺した敵を決して忘れず、最終的には斬り倒して見せた此の男は、遂に此の瞬間に、レイドボスとの戦いの最中に『一線』を踏み越えて見せたのだ。

 

『プレイヤーの行動原理の理解』━━━━━其れが幕末のプレイヤーが先に進む為に、己の殻を破る為の条件。

 

「今の攻撃………『天が俺に教えてくれたから』避けられた」

 

経験値稼ぎ、戦闘欲求、誰かを叩っ斬りたい。大小賢愚を問わず、誰しもが抱える欲求(其れ)は『天がやれ』と申すからやる。其処には細々とした理由等を必要とはしない。

 

全ては天が保証してくれる。天が赦してくれる。悪いのは天の仕業。責任転嫁する為の『合言葉』。

 

 

 

 

「━━━━━━『天誅』………!!」

 

 

 

 

そう。其れこそが、天誅なのだから。

 

「良いね……良い……」

「視界や思考が冴えた気がするよ。ユラさん」

「やる?」

「勿論!」

 

此れ以上の言葉は要らない。伝えるならば戦いの中で示すべし。

 

ブラッドペッパーとユラの戦いは過熱の一途を辿り、そして………終わりを迎えた。

 

結論から言うが、やはりレイドボスは『単騎』では届かない相手で。あれから一分、残されたスタミナと思考をフルスロットルで彼にぶつけるも、右腕と両足を斬り飛ばされて、彼には最後まで致命傷を与えることは出来なかった。

 

其れでも最後の最後に、あの錆びた刀の連刃を潜り抜けて、右腕を犠牲にしながら、彼の頬に僅かな切り傷を残す事が出来たので良しとする。

 

辻斬・狂想曲:オンライン………幕末の不動の一位の実力は伊達や酔狂等では無いと、ブラッドペッパーは此の日、此の瞬間、其の身を以て味わった。

 

「強ェ……」

 

負けた悔しさが全身に乗し掛かると同時に、自分の今の全力をぶつけた上での敗北を噛み締めていると、レイドボスのユラが此方に歩いてくる。其の表情は、何処と無く満足気にも見えた。

 

「強かったよ」

「どうも………完敗だったけど。あぁ、そうだ……介錯を頼めるかな?」

 

打算等何も無い、心からの願い。其れに彼は何を思ったのか、コクリと小さく頷いて。

 

「ブラッドペッパー、名前覚えたから(・・・・・・・)

「ユラさん、何時か必ず天誅します(・・・・・・・・・・)

 

ニッコリ笑顔の後に、最後の台詞を吐き捨てて。

 

 

 

 

天誅

 

 

 

 

そして復讐に燃えるブラッドペッパーの首を、ユラの刀が斬り飛ばし、此の戦いは終わりを告げた。

 

 






何時か必ず届かせる



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血の胡椒は幕末の世界に痕跡を刻む



掲示板回


※少し短めです





 

 

【幕末】天誅致す part743【最高】

 

 

*********************

********************

*******************

 

 

319:名無しの剣各

天誅!(今日も良い天気!)

 

320:名無しの剣各

天誅!(経験値足らぬ、キルしなくては)

 

321:名無しの剣各

楽しいねぇ、クフフフ

 

322:名無しの剣各

裏切りも幕末の醍醐味だからなぁ

 

323:名無しの剣各

斬って斬られて、陰謀裏切り何でもあり、正に天国!

 

324:名無しの剣各

幕末汚染が進んでやがる……良いぞもっと落ちろ

 

325:名無しの剣各

落ちろ!落ちたな(確信)

 

326:名無しの剣各

おい、お前らブラッドペッパー知ってるか?

 

327:名無しの剣各

ブラッドペッパー?

 

328:名無しの剣各

知ってるも何も、リスキル効かないヤベー奴だろ

 

329:名無しの剣各

ログボ天誅しに行ったら、知ってますので!と爽やか笑顔でキルされましたでゴサル

 

330:名無しの剣各

初見殺しが悉く退けられて、ヤベー奴認定食らったヤベー奴

 

331:名無しの剣各

本当にヤバいよ、初心者の動きじゃないでしょアレ

 

332:名無しの剣各

で、何でソイツの話題が?

 

333:名無しの剣各

ブラッドペッパー、レイドボスさんと接触

茶屋でティータイムからの軍勢キルしてスイッチオン

ブラッドペッパー、レイドボスさんの攻撃を適正距離維持でおよそ三分持ちこたえる

ブラッドペッパー、天誅と唱えて反撃に転向。錆丸の連斬で右腕と両足失うも、レイドボスさんの頬に切り傷与える

レイドボスさんブラッドペッパーの名前を覚え、ブラッドペッパー捨て台詞、首チョンパで戦闘終了。此処までおよそ十分の出来事

 

334:名無しの剣各

????????????

 

335:名無しの剣各

えっ、は?

 

336:名無しの剣各

マ?

 

337:名無しの剣各

はいいい………?

 

338:名無しの剣各

えぇ………(ドン引き)

 

339:名無しの剣各

なぁにそれぇ(白目)

 

340:名無しの剣各

やっっっっっっっば

 

341:名無しの剣各

マジで?

 

342:名無しの剣各

ヒエッ

 

343:名無しの剣各

レイドボスさんの攻撃三分凌げるってヤバくね?

 

344:名無しの剣各

俺等の勇者以外で、数分単位で生き残れた奴って今まで居たか?

 

345:名無しの剣各

ランカーくらいだろう、あの人は格別って此処じゃ常識だから

 

346:名無しの剣各

それはそう

 

347:名無しの剣各

まさか初心者偽装の上位勢か?

 

348:名無しの剣各

いや其の可能性は少ないだろう、此の御時世同じゲームで複数アカ持てないようになってるし

 

349:名無しの剣各

ヤバいな、ブラッドペッパー……

 

350:名無しの剣各

今日ブラッドペッパーに上空肉盾貫通型奇襲式袋叩き天誅仕掛けたんだけど駄目だったわ

 

351:名無しの剣各

うわマジか

 

352:名無しの剣各

えぇ………

 

353:名無しの剣各

其れにも対応したの!?

 

354:名無しの剣各

煙みたいにゆらゆら動いて、気付いたら斬られたなんてザラだしな

 

355:名無しの剣各

てか視野がとにかく広いんよアイツ。常に周囲警戒+建物オブジェプレイヤーの死角を意識して動いてるんだよ

 

356:名無しの剣各

其れは思った。あと、相手を見ながら自分の動き方を修正してる感じ

 

357:名無しの剣各

ライブ感覚で進化してる………ってこと!?

 

358:名無しの剣各

何其のバケモノ?

 

359:名無しの剣各

こっっっっっっわ

 

360:名無しの剣各

ブラッドペッパー、どうやら維新側のプレイヤーみたいだから、幕末組は気を付けた方が良いわな

 

361:名無しの剣各

まぁそれはそうと、ブラッドペッパーの渾名どーする?

 

362:名無しの剣各

無難に血煙で良くないか?ブラッドペッパー、煙のように動いて斬り倒すプレイヤー、なので血煙

 

363:名無しの剣各

良いんじゃないかな?

 

364:名無しの剣各

賛成!

 

365:名無しの剣各

天誅の意味を学び唱えて、自分なりのスタイルを確立してる………こりゃあ強くなるぞ………!

 

366:名無しの剣各

期待のニューフェイスだな

 

367:名無しの剣各

まぁ天誅するんだけどね

 

368:名無しの剣各

同意

 

369:名無しの剣各

其の通り

 

370:名無しの剣各

ぜっっっっっっったいに天誅しちゃるでェ………

 

 

 

 

 

 

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ヤベーヤツに名前を覚えられた男




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半裸の鳥頭と魔王は動物園と向き合い、兎の国からの答えを伝える



ラビッツの意向を示す時




ブラッドペッパーが幕末の修羅の地にてレイドボスと戦い、其の名が轟いていた頃。

 

シャングリラ・フロンティア内の第8の街たるエイドルトに在る、蛇の林檎水晶街支店の一室にて、クラン:旅狼(ヴォルフガング)所属のプレイヤー・サンラクとサブリーダーのペンシルゴンが、同盟を結んでいるクラン:SF-ZooのAnimaliaとサブリーダーの呪術師・ヴェットが対峙する。

 

「サンラクさん、伝書鳥は見たわ。ラビッツからの回答をいただけたって」

「ん~まぁ、そうだな………」

 

チラリと横を見れば、此方のサブリーダーのペンシルゴンはニヤニヤと笑って、彼方のサブリーダーのヴェットは彼女に警戒色を示している。

 

そしてサンラクが対面しているAnimaliaはと言えば、ペンシルゴンの要請で彼と共に付いてきたヴォーパルバニーのエムルを抱っこ、撫で撫でしながらグヘヘ顔になっていた。

 

「コホン………。まぁ先に結論から言うが、ラビッツの国王陛下曰く『SF-Zooがラビッツを訪れた時にスクショの騒音や、国民を見境無く取っ捕まえたりしたせいで、信用が地に落っこちてる』って事だ。此のままじゃ(・・・・・・)、再訪問に関して『NO』と言わざるを得ないだとさ」

 

そして彼女の笑顔はサンラクから伝えられた、ラビッツ国王『エードワード』からの回答で、一瞬の内に凍り付いた物へと変わる。

 

「えっ………?じゃ、じゃあ………もう、二度とラビッツには、行けない………って事………?」

「んーまぁそゆこと…………え、そんな死にそうな顔するの?」

 

ハイライトを失い、今すぐにでも身投げをしてしまうかのような、絶望に染まった顔色をするAnimaliaに、ペンシルゴンも驚いていたが、此処で一人冷静に話を聞いていたヴェットが『ある事』に気付き、サンラクへと質問する。

 

「………いや、待ってくれ。えっとサンラクさん、確か『此のままじゃ』と貴方は言ったが、其れは一体どういう意味なんだ?」

「…………そう。あくまで『此のままじゃ』なんだよ」

 

其の言葉をトリガーに、ニヤリと笑ったサンラクは答え。同じく不敵に笑うペンシルゴンが、ヴェットに問いを投げる。

 

「サブリーダーのヴェット君、だっけ?確かSF-Zooってさ。ユニークシナリオ【兎の国ツアー】のボスたる『兎食の大蛇』を倒してないんだよね?」

「あ、あぁ。あのユニークシナリオが時間切れだとは知らずに滞在し続けた結果、時間切れで強制退国となってしまって……」

 

未だに絶望表情のAnimaliaを見て、サンラクは一気に話を加速させに掛かる。

 

「近頃ラビッツでは、其の兎食の大蛇が『大量発生』していてな。開拓者を招いて退治させてるが、如何せん人手が足らないんだとさ」

 

「…………其処で、だ」とサンラクが一言、そしてクライマックスへの道筋を構築していく。

 

「来たるは十日後。エイドルトの街に、ラビッツからヴォーパルバニーの使者がやってくる。そしてSF-Zooには、大量に湧き出した兎食の大蛇を『全て』!『一匹残さず』!『クランの全力』を以て撃滅して欲しい!!!━━━━━と、ラビッツの国王陛下は仰られた!」

 

吟遊詩人の様に大々的に、大袈裟に、やり過ぎくらいの言葉を用いて、ラビッツからの意向をSF-Zooに叩き付ける。サンラクの台詞に、絶望の底に沈んでいたAnimaliaの目に光が再び灯り、彼を見詰めている。

 

「つまり、我々の本気を見せたなら………!」

「あぁ。其の働き次第では『ラビッツ再訪問の件も、前向きに検討させていただく』━━━━との事だとさ」

「本当に……?本当の本当の本当に………?」

「勿論。ラビッツの国王陛下は、其の誓いを守ると太鼓判を押して下さった」

 

絶望から希望へ、Animaliaの表情が歓喜を帯びる。

 

「だが!此処でSF-Zooには、ちょっとした『約束』を守って貰いたい」

「約束?」

 

ヴェットの言葉をトリガーとして、ペンシルゴンがバトンタッチ。話の流れを己の得意とする、舌戦へ持ち込みに行く。

 

「園長さんさァ。確か前の五クラン会議時に、私達に『言った事』…………覚えてる?」

「勿論よ、私達はそちらの要求を『可能な限り全て飲む』……………って、まさか!?」

「そう。其の『まさか』なのよねぇ~……?」

 

獰猛で、そして悪い笑顔で、ペンシルゴンはSF-Zooに『要求』もとい、サンラクが考えた『ラビッツに再訪問出来るようになった場合のルール』を提示したのだ。

 

 

 

 

一つ。ラビッツに再訪問出来るようになったら、現住しているヴォーパルバニーの許可無く『スクショ』及び『モフらない』事。

 

二つ。ラビッツに置ける『様々なルールを遵守する』事。『交通ルールや迷惑行為』も対象。

 

三つ。再びラビッツの国民から苦情が出た場合は、クラン:SF-Zooを兎の国・ラビッツから『永久追放』とする。

 

 

 

「とまぁ、此の三つを守ると約束出来ないなら、此の話は当然『無かった事』になるけど………どうする?園長さん」

「うぐっ………!」

「こ、此れは……厳しい………」

「此処は一応『ゲーム』だし、ネットモラルも『存在』している。アンタ等の『見境の無さ』は、俺達のリーダーたるペッパーや、アンタの弟さんも心配してるってェ話が有るそうじゃねーの」

 

末席とは言え、ラビッツ名誉国民の称号を持つ人間として、サンラクはSF-Zooの動物に対する狂い具合は、当然ながら無視する事が出来ない。

 

ただ、あの国に居るヴォーパルバニー達は、話をすれば普通に気さくで良い兎達も多い為、許可を貰えばスクショくらいなら撮らせてはくれるだろう。モフりは知らないが。

 

「ううう……!解ったわ、約束する……!他のクランメンバーにもラビッツ再訪問の条件を、キッチリ伝えるし守るようにするから………!御願いしますッ………!!!」

 

嬉しさと不自由さにグチャグチャになりながらも、Animaliaとヴェットは深々と頭を下げて。此処にクラン:旅狼とクラン:SF-Zooのクラン会談は終了となったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー………疲れた」

 

シャンフロからログアウトして現実に戻った楽朗は、ライオットブラッドの缶を開け、中身の液体をグビグビと飲み干しながら、ふとインベントリアの中身に在る『ロボットとSFスーツ』の事を思い出す。

 

「ペッパーがまだレベルカンストじゃねぇんだよな………。あ~……御預けってのは、やっぱツレェモンがある………」

 

忌々しいリュカオーンに刻まれた呪い(マーキング)により、一式装備が出来ない状態でペッパーがカンストになるのを待つのは、楽朗にとっても辛い物だ。

 

「……………あ、そうだ。ゲームでロボが『使えない』なら、ゲームでロボスーツを『纏えば』良いじゃねぇか……!そうだ、其の手が有った!」

 

カフェイン補充のお陰かナイスアイデアが降りてきた彼は、自身がプレイしてきたゲームソフトを収めた棚から、一つのソフトを取り出す。

 

「コイツをやるのも、フェアクソをプレイする前だったな………久し振りにやる以上、腕は鈍ってそうだが………何とかなるだろ」

 

彼が手にしたソフト、其のタイトルには『ネフィリム・ホロウ』と掲げられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして楽朗は此のゲームにて、旅狼全員が『度胆を抜かれる情報』を手にする事になるが……。其れは二日後、彼が再びシャンフロにログインした時、明かされる事になる………。

 

 

 

 

 

 






クソゲーマー、ネフホロに行く




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勇者は修羅の國より神ゲーに戻り、魔王と共に花を探す



戦いの後先




「ふぃ~………」

 

辻斬・狂想曲:オンラインにてレイドボスのユラとの戦いを終えたペッパーは、あの後ログアウトをして現実世界へと帰って来た。

 

「ん~!楽しかったな、幕末」

 

背伸びをしながら、ゆっくりと身体を起こして呟く。敗北こそしたものの、あの世界で『天誅』の意味を知る事が出来た。此れだけでも充分な成果と言える。

 

「あ、そうだ。秋津茜(アキツアカネ)の事、旅狼(ヴォルフガング)の他メンバーにも教えなくちゃ」

 

そして思い出した新メンバーこと秋津茜。ブシカッツォには伝わるだろうが、問題はペンシルゴンと京極(キョウアルティメット)の二人にどうやって連絡をするかだ。梓は暫し悩んだ後に、旅狼専用の『チャット』を作る事を決意し、早速チャット用のアプリをスマフォにインストール。

 

Eメールアプリで現状連絡が取れるメンバー全員に向けて、チャット部屋への入室アドレスを送信したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【旅狼の溜まり場】

 

 

 

ペッパー:やぁ皆、旅狼のリーダーのペッパーだ

 

ペンシルゴン:同じく旅狼所属、サブリーダーのアーサー・ペンシルゴンおねーさんだよー

 

オイカッツォ:旅狼のメンバー、オイカッツォだよー

 

サンラク:旅狼所属、サンラクじゃい

 

京極:えっ、なにこれ。僕もやるパターン?

 

ペンシルゴン:いやぁ?ノリと勢いって大事ってよく言われてるからさ?

 

オイカッツォ:まぁあくまで自由参加って奴な

 

サンラク:カッコ付けたって良いんだぜ?京ティメットさんよォ?

 

ペッパー:さて、皆さんに御報告がある

 

オイカッツォ:なになに?結婚報告?

 

ペンシルゴン:今はまだ、だけどね?

 

サンラク:今は、か

 

京極:日程決まったら招待状よろしくね?

 

ペッパー:おう全く違うし、ペンシルゴンよ其所は結婚じゃないんだが?取り敢えずシャンフロの事だよ

 

ペッパー:サンラクが新メンバーを一人連れてきた。俺とそしてカッツォにとって、顔見知りのプレイヤーをね

 

オイカッツォ:ほぅ?其れは気になる

 

京極:ユニーク関係だったりするの?

 

ペンシルゴン:三人に関係あるプレイヤーねぇ?一体誰かなぁ?

 

ペッパー:てな訳でサンラク、説明頼む

 

サンラク:任された。其のプレイヤーの名前は秋津茜、ベルセルク・オンライン・パッションこと便秘で、ドラゴンフライと名乗っていたプレイヤー

 

オイカッツォ:えっマジで?

 

ペンシルゴン:便秘かぁ……あんまり良い思い出が無いなぁ……

 

京極:秋津茜ね、OK覚えた

 

サンラク:因みに秋津茜、ユニーク持ちらしい

 

ペンシルゴン:へぇ、凄いねぇ其の子。其れに比べてカッツォ君ねぇ?

 

京極:ユニーク自発出来てないもんねぇ???

 

サンラク:ユニーク自発出来ない総受け魚類だもんなぁ????

 

オイカッツォ:シャラーーーーーーープ!!!

 

オイカッツォ:シャラーーーーーーープ!!!

 

オイカッツォ:シャラーーーーーーープ!!!

 

ペッパー:あんまり弄ってやるなよ………。んでだ、ペンシルゴン。前に言った花のクエストが有ったろ?アレを二日後フリーだから受けたいんだが、良いか?

 

ペンシルゴン:お。良いね、あーくん。やっちゃおう

 

ペッパー:おう…………っておい、ちょっとまて!?トワお前其の呼び方ァ!!!

 

サンラク:お?デートかぁ?シャンフロでデートですかぁ???

 

オイカッツォ:ほぅ、御二人さん其処まで行ったのかい?

 

京極:へぇ~~????

 

ペッパー:あ

 

サンラク:28282828

 

ペンシルゴン:28282828

 

オイカッツォ:28282828

 

京極:28282828

 

ペッパー:全員のニヤケ顔がハッキリ浮かぶ………

 

ペンシルゴン:えへへへ………♪

 

ペッパー:おーい、おーい。ペンシルゴーン、呆けてないで確りしろー

 

サンラク:エナドリがウメェわ

 

オイカッツォ:夕食が美味しくなるなぁ

 

京極:白米が進むねぇ

 

ペッパー:此方は重くなりそうなんだよなぁ………まぁ良いや。取り敢えず明後日な、ログインしたら連絡出すよ

 

ペンシルゴン:うん。待ってるからね、あーくん♪

 

ペッパー:其の呼び方ヤメイ

 

サンラク:頑張んな、ペッパーよぉ~?

 

オイカッツォ:こういうの見てると飯が進むわ

 

京極:良い夢が見れそうだよ、クランリーダー

 

ペッパー:俺は 悪夢にうなされそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラン:旅狼のチャットを構築してから二日後の午前九時。ペッパーは此の二日の間に、シャンフロ内で『様々な準備』を整えて、約束の日を迎えた。

ログイン前にEメールアプリで永遠へメールを送った梓は、ペッパーとして電子の世界へログインした後、兎御殿にてアイトゥイルと合流。

 

エルクの元でスキルを整頓し、サードレマのエンハンス商会・サードレマ露店通りの裏路地に、ゲートを繋いで兎御殿から足を運ぶ。

 

「さて……」

 

武器の耐久値とスキルの再使用時間(リキャストタイム)をチェックしながら、ペンシルゴンが言っていた花のクエスト………報酬として貰える『トワセツナ』の事を考えつつ、影法師の試練を今日終える事を決意する。

 

と………「あーくん♪」と聞き慣れた彼女の声が聴こえて、視界が真っ黒になり。数瞬の後に、再び視界が明るくなって振り向くと、其所にはペンシルゴンが朗らかに笑って立っていた。

 

「やぁやぁ、あーくん。ちゃんと時間に来てくれたねぇ?」

「幕末で夢中になり過ぎて時間越えたのは本当に済まんな………さて、依頼主は何処に居るのかな?」

「クエストの依頼主は『サードレマの西側通りの花屋さん』の看板娘ちゃんでね。

内容が咲いてから『五分で枯れてしまう花を、千紫万紅の樹海窟で採ってきて』欲しいっていう、所謂タイムアタック型のクエスト。因みに私は此のクエストを何度もやってるから、場所は大体把握済みだよん♪」

「そりゃ心強いな。早速だが案内をよろしく頼むよ、ペンシルゴン」

「OK、おねーさんに任せなさぁーい!」

 

ニッコリ笑顔でペッパーを連れて、依頼主の女の子の元へと案内するペンシルゴン。時折、自分や彼女に注がれる視線に固い表情になりつつ、其の後を着いていき。そんな視線をペッパーは感じながら歩き続け、二人と一羽はサードレマの西側通りに在る、小さな花屋へと着く。

 

「あ、おねーちゃん!」

「やぁやぁ、お嬢ちゃん。またまたおねーちゃんが来たよー?」

 

顔見知りなのか、少女からの好感度が高いペンシルゴンを見詰めていると、少女が此方に気付いて。しかし右手に刻まれたリュカオーンの呪いの気配を感じてか、震えながらペンシルゴンの背中に隠れてしまう。

 

「あ~……まぁ、そうなるよな」

「だねぇ~。お嬢ちゃん、此方のおにーちゃんはね、おねーさんの『大事な人』なんだ」

「そ、そうなの………?」

「うんうん。とっても、とっても。大事な人なんだよ?」

 

ペッパーを見ながら、少女に説明するペンシルゴンの表情は、何と言うか『恋する乙女』の其れなのだが、ペッパーは幕末での戦いを経た影響から、周りの視線や気配を気になる様子で辺りを見回しており、彼女の表情に気付いていない。

 

「ところでお嬢ちゃん、花が見たいって依頼が出ていたから来たんだけど………良いかな?」

「う、うん!とっても貴重な花だから、見てみたいの!」

 

そう言った少女、同時に二人の前にはクエスト受注画面が表示される。

 

 

 

 

 

『クエスト【永久に咲く花を探して】を受注しますか?【Yes】or【No】』

 

 

 

 

勇者達は此れより、トワセツナの採取へ向かう。

 

 

 

 

 

 






いざ、花の採取に






※現在のペッパーのステータス


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



PN:ペッパー【天津気(アマツキ)


レベル:80



メイン職業(ジョブ):星駆ける者(スターランナー)
サブ職業(ジョブ):無し

 

体力 130 魔力 50
スタミナ 201
筋力 150 敏捷 160
器用 125 技量 125
耐久力 3051 幸運 70

 

残りポイント:0

 


装備


左:兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)
右:リュカオーンの呪い(マーキング)
両脚:無し

 

頭:ライノベレーの帽子(耐久力+350)
胴:影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)(耐久力+2000)
腰:発掘研磨腰帯【古兵】(耐久力+400)
脚:烈風竜印のズボン(耐久力+300)



アクセサリー


致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)
格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア
超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)



所持金:45,350,130マーニ

 


不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

窮速走破(トップガン)
偉風導動(リーガルック)

 


致命極技(ヴォーパルヴァーツ)


致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……未習得
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得


 

致命武技


致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)
致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】捌式
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】
致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】玖式
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オボロサイダン】
致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式



星天秘技(スターアーツ)


・ミルキーウェイ




スキル

死神の斬撃(デス・マサカー)
終極刺突(グルガ・ウィズ)
真界観測眼(クォンタムゲイズ)
・ブルズアイ・スロー
・フィーバー・シャイニング
頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)
巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)昇華(スタンバイ)
冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)昇華(スタンバイ)
聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)
戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)昇華(スタンバイ)
戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)
神威光臨進(かむいこうりんしん)
・レーアドライヴ・アクセラレート・昇華(スタンバイ)
神律燼風(しんりつじんふう)
十傑斬覇(じゅうけつざんは)
神謳万雷(しんおうばんらい)
咆進快速(フルスレイドル)
・アドヴェイン・スロー
乾坤一擲(けんこんいってき)
・ブレイジングジャンパー
天空神の加護(レプライ・ウーラノス)
奮魂絶闘(オーバード・ソウル)
・ドミノチェイン・ストライカー
風暴鬼の飛脚(マルトリアス・レッグス)
破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)昇華(スタンバイ)
英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)昇華(スタンバイ)
絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)
仙水開蓮(せんすいかいれん)
連刃結(れんじんむすび)九十九(つくも)
刃閃鑼(じんせんら)波狼(はろう)
刻痕栓認視界(リュトラスメル・ウラタナ)
破魔を示す視覚(テトラミュオン・ナルクト)
速刃(そくじん)塵晴(ちりはらし)
・イクス・トリクォス レベル6
煌軌一閃(こうきいっせん)
爆芯輪転蹴(メテオ・ドリンラム)
雫波状(しずくはじょう)澄蓮華(スミレンゲ)
・グラッセル・ゼイリアス
・ダイズン・ストンプス
拳雨怒濤(けんうどとう) レベル4
摩天来蓬(まてんらいほう)
局極到六感(スート・イミュテーション)
居合(いあい)切空(きりそら)
天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)
天壱夢鳳(てんいむほう)
・セルタレイト・ケルネイアー
・フォートレスブレイカー
・スラッシュレイト・フォルテシモ レベル1
・ドリルピアッサー
・セルタレイト・ヴァラエーナ
・ボンバーナ・グラップル レベル3
・アレフ・オブ・エクシード レベル1
流天翔奏(るてんしょうそう)
秀越なる鎚撃(オルフェイム・タンザライナ)
・アガートラム レベル1
境鳴絶壊昴打(シューヴェイト・ラプソディ)
・セルタレイト・ミュルティムス
王斬儀顛(おうざんぎてん)鬼皇刃侵(きおうばしん)
刃王斬(ばおうざん)修羅(しゅら)
刃舞(じんぶ)流転(るてん)
・メダリオンレッグス
・デッドオブスリル
・シャイニングアサルト レベル6
・マーシフルチャージャー レベル7
・グラビティゼロ レベル1
三天無双(さんてんむそう)
・ドュヨンペイル レベル1
剣人闘魂(サムライ・ハート) レベル5
・ヴァーテクス・ガーラザイド
・フルメタルフィスト
・ストロング・キャリアー
・ウェーブ・スライド
反力調錣(イナトゥム・カウント)
虎崩擊(こほうげき) レベル3
皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)
・ガードバッシュ レベル3
・アサイラムサイン
・シールド・スティーブ
徹硬鋼突(てっこうこうとつ)
窮戦剋意(きゅうせんこくい) レベル4
英雄走破(ヒーロースプリント)
・プロテクト・スマッシュ
・タイフーンランペイジ
渾身衝撃(ストライク・アーデ) レベル1
業魔崩(ごうまくず)し レベル1
武頼闘気(ぶらいとうき) レベル1
・スラッシュスレイト
・セルタレイト・スラッシャー
・コンパクト・イステル レベル1
護り手の献身(ソラティオン・エモニー)
・ティア・セイバー レベル1



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


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墓には花を、魔王には祝福を



クエストをクリアせよ




クエスト【永久に咲く花を探して】。此れはプレイヤーがクエストを受注後、千紫万紅の樹海窟に到達してから『五分以内に此のエリアの何処かに咲く、トワセツナの花を一本以上確保する』という内容だ。

 

広大なエリアの中から、特定のアイテムだけを探すのは難しく、虫型のモンスターも闊歩する中で妨害が入らないとも限らず、クリアには『ある程度のレベルを持ち、機動系に重きを置いたプレイヤーと、虫型モンスター達を退けられるアイテム』等を持ち込まないと、攻略難度は少し高いクエストになっている。

 

そう、普通の攻略法(・・・・・・)であるならば。

 

「トワ。五分でトワセツナの花『百三十本』見付けたぜ」

「いやぁ、あーくんが居てくれて助かったよ。蜂は飛び回って鬱陶しいし、花カマキリは奇襲してくるしで、結構探すのに苦労するんだよねぇ~此のクエスト」

 

ペッパー…………片手にリュカオーンの呪い(マーキング)を携え、最大高度を獲得したプレイヤー。地上空中共に高機動で駆け回り、呪いの放つ波動で敵の逃走を促進・ペンシルゴンの指示を受けて、トワセツナを次々とインベントリアに回収。

 

そして五分経過時点で、ペッパー・ペンシルゴンは合計『百四十五本』のトワセツナを探し当てる事に成功し、セツナの墓に供えるならば充分な本数を確保出来た。

 

「此れだけ有れば良いか?」

「うんうん。上々だよ、あーくん。セッちゃんも喜んでくれるよ」

 

トワセツナの花は他の花とは違い、開花から五分と言う短い命では有るものの、其の五分以内に採取してインベントリorインベントリアに収納出来れば、なんと枯れる事が無くなるのだ。

 

五分の刹那を生きて、枯れる事無く永遠に咲き続ける━━━故にこそ此の花は『トワセツナ』。ペンシルゴンがセツナとの思い出を忘れぬように、彼女の墓参りの献花に選んだ理由をペッパーは納得出来た気がした。

 

「さてさて、サードレマに戻ろうか」

「そうだな。………ペンシルゴン。クエストと墓参りが終わったら、蛇の林檎で食事しないか?」

 

ペッパーからの突然の誘いに、ペンシルゴンが振り向いて。其の表情には期待が溢れている。

 

「へぇ~?あーくんから誘ってくるなんて、随分と意外だねぇ~??おねーさん相手に、一体なぁーに企んでるのかなぁ~???」

「フフフ……其れは着いてからの御楽しみってヤツさ」

「じゃあ、楽しみにしちゃおうかなぁ~?」

 

ニヤリと不敵に笑うペッパーと、ニヤニヤと笑うペンシルゴン。端から見れば、化かし合いでもしているのかと思われる雰囲気だが、思惑と読みが交錯し合っているだけなので、本当に正常だ。

 

一度サードレマに戻り、花屋の少女にトワセツナを見せるクエストをクリア。報酬として花はそのまま受け取る事となり、二人と一羽は再び千紫万紅の樹海窟へと向かう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニークシナリオのクリアによって、常に開きっ放しになった樹海窟の一角の壁に出来た穴を通り、辿り着いた枯れた桜の巨樹と一面に咲いたら彼岸花。空を見上げれば僅かな雲と晴天に太陽が覗く、あの日とはまた違った趣を含んだ『秘匿の花園』が眼前に広がる。

 

「此処に来るのも随分と久し振りな気がするな……」

「久々に来たのさね………」

「まだ一ヶ月程度しか経ってないけどね。其れでも激動の時間を考えたら、久し振りに思えても仕方無いかも。ありゃ、アイトゥイルちゃんも居たんだ?」

「ペッパーはんの居る所、ワイも居るのさ。ペンシルゴンはん」

 

フフンといったアイトゥイルの言葉に、ペンシルゴンの表情はムスゥ…なるものに変わり。其れも直ぐに見えてきた小さな墓を前にして、何時もの自然な状態へと切り替わる。

 

「セッちゃん、久し振りだね。今日はペッパー君とアイトゥイルちゃんも一緒に来たよ」

「刹那さん、御久し振りです」

「御久し振りなのさ」

 

ペッパーは採取した沢山のトワセツナの花達を、ペンシルゴンは大きな花瓶と水が入った瓶を各々取り出して、花瓶に水を注ぎ入れ、墓にトワセツナを献花。

 

二人と一羽は手を合わせ、刹那の………今は亡き彼女の墓に祈りを捧げて。

 

一分に近いの沈黙の後、ペッパーは己が装備するブラックトレンチロングコートにアイトゥイルを隠し、静かに秘匿の花園を後にする。

 

残されたのは彼岸花の赤にも負けない、永遠に咲き続けるトワセツナの花達が、風に揺れて仄かな香りを放つのみだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三度戻ってきたサードレマ。裏路地を駆使して、他のプレイヤー達の視界を潜り抜け、辿り着いたNPC運営のカフェ、蛇の林檎・サードレマ裏路地支店。墓守のウェザエモンとの戦いでも作戦会議場として使用した此の場所に、ペッパー・ペンシルゴン・アイトゥイルはやって来て。

 

ペッパーは此処で別室にペンシルゴンを待機させ、自分はコートに隠したアイトゥイルと共に、店のマスターと話をする。

 

「マスター。頼んでおいた『例の物』は?」

「えぇ、注文通りに」

「ありがとうございます、本日はよろしくお願い致します」

「御任せを、金額分の働きをさせていただきます」

 

最終確認を終え、ペッパーはペンシルゴンの待つ部屋へと舞い戻る。

 

「ねぇ、あーくん?おねーさんを部屋に一人きりにするとか、君は何を企んでるのかねぇ?」

「フフフ……今日だからこそ(・・・・・・・)、なのだよ。ペンシルゴン」

 

テーブル席で対面し、ニヤリと笑いを崩さないペッパー、そして彼の肩に乗っかるアイトゥイル。そして二人と一羽が待つこと、およそ一時間。ドアをノックして店のマスターが、白丸皿に『バースデーケーキ』を一つ乗せて持ってきた。

 

何の因果か偶然か、其れは『クラン:旅狼(ヴォルフガング)の結成時』にペンシルゴンが頼んだ物と同じ物なのだが、其のバースデーケーキは『現実世界の最高級フルーツケーキ』にも匹敵する出来映えと飾り付け、そしてチョコレート細工に似たプレートには『HAPPY BIRTHDAY to PENCILGON』と、ホワイトチョコらしきもので書かれた文字。

 

「えっ………え?」

 

目の前に出されたバースデーケーキに、驚愕の表情をしているペンシルゴンに、ペッパーとアイトゥイルは彼女に言葉を伝えた。

 

「「ハッピーバースデー、ペンシルゴン」なのさ」

 

ドッキリ大成功と言わんばかりの渾身のドヤ顔を咬まして、ペンシルゴンは漸く事態が飲み込めたのか、数回の深呼吸の果てに彼に言った。

 

「覚えて、くれてたんだ……私の誕生日………」

「忘れたくても、忘れられる訳ねーんだよなぁ……。トワがずっと前に『今日は私の誕生日だー!二人とも祝えー!』って久遠共々、俺の事を巻き込んだのをさ……」

 

『誕生日プレゼント!私の為に簡単な物でも良いから用意しろー!』と彼女に言われて、買いたいレトロゲームの為にコツコツ貯めていた小遣いが、其の一件で吹き飛ばされたのを、梓は今も覚えている。

 

結局、其のレトロゲームはサンタクロースに御願いして、クリスマスプレゼントに貰った訳なのだが。

 

「因みに其のケーキの果物達はシャンフロの大陸内に有る最高級品を取り揃えて、店のマスターに作って貰いました。其れに昔、トワはこんなこと言ってただろ?確か………『いつか大きくなったら、フルーツたっぷりのホールケーキを一人で食べたーい!』………っさ」

 

渾身の声真似を絡めて言ってみると、ペンシルゴンは唖然となって。其れからこう言ってきた。

 

「………あーくん、もしかしてそんな事まで覚えてたの?」

 

ペッパーが「嫌だったか?」と返せば、ペンシルゴンは首を横に振った。其の瞳は潤み、今にも泣き出しそうな其れであるが、悲しくて泣きそうなのではなく、嬉しさで泣きそうな状態である。

 

「ううん………すっごく嬉しい。こんなサプライズバースデー………私、シャンフロで味わえるなんて、正直思いもしなかった、から………グズッ……」

 

感窮まったのか、とうとうペンシルゴンは泣き出して。ペッパーとアイトゥイルは互いにコツンと、作戦成功として軽く拳をぶつけ合う。

 

そしてペンシルゴンはケーキを食べ進めた結果、称号【美食舌】を獲得するに至ったのであった…………。

 

 

 

 

 






其れは此の世に産まれた全ての命への祝い




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勇者と魔王と黒兎、ゆるりゆるやか散歩道



最終試練前に、ゆったりと




「はぁ………あーくんに泣かされるなんて、思いもしなかったなぁ。……でも、嬉しかったよ?私の誕生日ちゃんと覚えてくれてた事」

「ふっ………そりゃどーも。準備した甲斐が有ったってもんだ」

 

蛇の林檎・サードレマ裏路地支店で食事を終えて、サードレマの街並みをペッパーはアイトゥイルを隠し、ペンシルゴンと共に歩く。所謂食後の散歩であり、其の足取りは非常にゆったりと、幸福に満ちている。

 

「あーくんは此れからどうするの?」

「影法師の最終試練を終わらせるつもり。まだ時間は有るから、適当にサードレマを散歩しつつ、其の時を待つって感じかな」

「そうなんだ……じゃあさ、あーくん。一緒にサードレマを歩かない?」

「まぁ、良いけど……後、他のプレイヤーも居るから注意してくれよ?」

 

ペンシルゴンからの誘いに、ペッパーは数拍の思考をしてから答えると、彼女はニッコリ笑顔で頷く。其の時の彼女の笑顔を見た彼は、何時もの黒い笑顔とは違い、とても可愛らしい物であった。

 

其れからペッパーとペンシルゴンは、サードレマの下層エリアの街中を何処に向かう訳でも無く、色々な店や施設を見て回り歩いていった。

 

露店通りではモンスターの肉を使った串焼きを食べて、美食舌によって正常になった味覚により、其れがラム肉に似たクセありながらも、じっくり煮詰めた頬肉の様な柔らかく美味しい物だったのを知る事が出来て。

 

衣服店ではNPCが売っている衣服を試着し、街民や酒場の看板娘になったペンシルゴンを見て、何着ても悔しい程似合っている彼女に「似合ってて羨ましい」とペッパーが小声で溢すと、彼女が本気のコーディネートを施した結果、店員のNPCが「御似合いですね」と言葉を発したり。

 

雑貨店では何か良いアクセサリーが無いかと探していた時に、ペンシルゴンがバンドの演奏者がよく使う、男性用のフィンガーレスグローブを見付けてきて、此れなら右手を隠せるんじゃないかな?と言い。

 

其れを見たペッパーは、フィフティシア含めた終盤の街で同じのがないか探してみようと考えるも、ふとダルターニャに此れを見本として見せたなら、同じ形状のを作れるか?と考えて、購入・装着してみたりして。

 

其の後、二人と一羽はサードレマの上層エリアに繋がる門に着き、ペッパーが取り出したエンハンス商会会員証で通り抜け、下層エリアと同じようにショッピングや散策を楽しんだのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間というものは、何時だってあっという間に過ぎ去っていく。Eメールアプリで時計を見れば、既に午後四時半を過ぎていて、ふと空を見上げれば少しずつ夕日の橙色を帯びていき、ゆっくりと時が迫りつつあった。

 

「楽しいね、あーくん♪」

「あぁ。悪くないな………」

「色々食べたり、買い物したりしたのさ」

 

上層エリアから下層の街並みを見下ろし、ペンシルゴンが朗らかに笑い。ペッパーは彼女の隣に立って、彼女と同じ景色を見ている。

 

と、ペンシルゴンはそそそ……と組んでいた自分の左手をペッパーの右手の方に寄せて、ちょんちょんと彼の右手の甲や指先に触れてきた。

 

「ん?どうした、トワ」

「…………………」

「いや、どういう事だよ…………」

 

疑問符を浮かべるペッパーに、だんまりしているペンシルゴン。彼女の横顔をジッと注意深く観察すると、耳の頭が若干赤くなっている事に気付く。

 

試しに左手の甲や指先を、さっきの御返しとばかりにちょんちょんと突っ付いてみると、其れに反応してか此方の右手人差し指に自分の左手人差し指を重ねて。其のまま人差し指と中指の間に、彼女は指を入れてきた。

 

(━━━━━いや、もしかして………?)

 

其の行動を見たペッパーは、自身のプレイした『恋愛ゲーム』の中にあるヒロインの行動から、同様のシチュエーションが無かったかと洗い出し、とある学園物恋愛ゲームのヒロインとの関係進展イベント『夕日を背景に手を繋ぐ』という、一場面が在った事に辿り着き。

 

主人公が其の時に行った行動をなぞるように、彼女の左手に自身の右手を寄せて行き、指先を重ねながら少しずつ指の間に己の指を絡ませる。

 

するとペンシルゴンの耳がどんどん真っ赤に染まっていくのが見え、其れを見たペッパーは此迄散々やられて振り回された分を含め、彼女の耳元で恋愛シミュレーションゲームの主人公が、ヒロインに言った台詞を以て『トドメ』と言うべき言葉を放つ。

 

 

 

 

「━━━━━━可愛いな、トワ」

 

 

 

 

と。

 

其の一言はペンシルゴンの聴覚を通じ、三半規管を貫いて。脳内をアドレナリンがドバドバと溢れ流れて、全身に快楽物質を送り出し。そうして水蒸気爆発に似た音を立てて蒸気の放出と顔面赤面、及び全身骨抜きにされ、顔を両手で隠したまま倒れそうになった所で、ペッパーは彼女を御姫様抱っこする。

 

「今までやられた分、きっちり返したぜ」

 

耳元でそう言った所、ペンシルゴンは首をフルフルと横に振り回しており。彼女を運びつつ、ペッパーはEメールアプリで時間をチェック。時刻はもうすぐ五時を回ろうかという辺りで、彼は上層エリア内の裏路地付近にて待機し。午後五時を回った所を見計らい、裏路地に足を踏み入れた瞬間。

 

四度目となる地面の下に引き摺り込まれる感覚と共に、二人と一羽はサードレマの上層エリアから、忽然と其の姿を消したのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「挑戦可能な時間は逢魔時で確定……アイトゥイル、戦闘が始まるから離れる準備を頼む。あと、トワの様子も見てくれ」

「解ったのさ、ワイにどーんと任せてなのさ!」

 

四度目となる劇場への案内、下へ下へと落ちる感覚と共に中世ヨーロッパの劇場へと降り立ったペッパーは、影法師の愉快合羽からアイトゥイルを出す。

 

「ペッパーはん!武運を祈るのさ!」

「あぁ、必ず勝つ!」

 

そして何処からともなく現れた黒い手により、アイトゥイルと御姫様抱っこされているペンシルゴンを捕まえ、ステージから退場させていき。

 

『ラララ………ラララ、ラララ~♪ラララララ~~~ラーーーーーー…………♪』

 

同時に劇場内に歌声が響き始める。やはり其の歌声は綺麗で、自分だけ(・・)に聞かせているように、しかし何処か悲しそうな声で。

 

『ララ、ラララー♪ラララララ~、ラララ………ラララ~~…………♪』

 

スポットライトがペッパーに投射され、足元に在る影が蠢き離れて、己の前で形を作る。

 

『私は………貴方の強さを知り、私は、貴方の奏でる歌を、聴く…………。貴方の歌を、私は聞いた………貴方の強さを私は、見た━━━━━━』

 

飛来する影法師の愉快合羽に袖を通し、黒ペッパーが立ち上がる。

 

『影は何時も貴方を見る………』

 

其の身に纏う装備は全て『同じ』。そして左手には『兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】』を、両脚には『甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)改五』を装備した姿を見た事で、ペッパーは黒ペッパーが『何時の自分』を模倣したのかを知る。

 

『さぁ示して……最後にもう一度。………貴方の光を。影が見つめる、貴方の輝きを。揺らぐ事無い、貴方の強さを……!』

「覚えてるぜ、記憶に新しい……!『FM's(フォッシル.マイナーズ)クリサリスと戦った時の俺』だ!」

 

ペッパーは先に星皇剣(せいおうけん)グランシャリオを手に取り、右手に刻まれたリュカオーンの呪い(マーキング)から装備不可能力を取り払い、右手で黒鞘から剣身を抜き放ち。

 

左手には勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスを装備、そして両脚にはレディアント・ソルレイアを着けて、黒ペッパーに対峙する。

 

「さぁ、勝負と行こうか!」

『影と共に歩んだ、時間…………掛け替え無き、戦いの刻━━━!今こそ、貴方の力を………!』

 

 

 

 

ペッパーを示す物語、聖譚曲(オラトリオ)君という英雄伝(ヒーローズ・ウルティエラ)

 

 

 

 

曲名が響き渡り(タイトルコール)、遂にペッパーと黒ペッパーの最後の戦いが始まる。

 

 

 

 






いざ行かん、最終試練




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魂の旋律(ウタ)を響かすは、己の揺るがぬ心であれ



最後の試練




ペッパーと黒ペッパー。四度目であり、最後の戦いである此の一戦は、ペッパーにとっては絶対に落としたくない戦いでもある。

 

「フッ!」

『………!』

 

左手に握る聖盾(せいじゅん)イーディスで、黒ペッパーの握る兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】を受け流し、振るわれる脚をグランシャリオで受け止めて。

 

黒ペッパーが右拳で繰り出したハンド・オブ・フォーチュンを、イーディスと共にプロテクト・スマッシュで迎え撃って弾き飛ばす。

 

だが、黒ペッパーも直ぐ様レディアント・ソルレイアに切り替えて、其の手に兎月【暁天】から黒鉄丸(くろがねまる)改九を握り。其れを納刀したまま、レーアドライヴ・アクセラレートを繰り出し、此方の死角に回り込んでくる。

 

「ッ!」

 

三天無双(さんてんむそう)護り手の献身(ソラティオン・エモニー)で己を強化。そして致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】を追加し、彼が見た未来は。

 

『自身が再現した疑似断風を囮に、レーアドライヴ・アクセラレートで移動、絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)】を偽装した咆進快速(フルスレイドル)の加速を行った黒ペッパーが、王斬儀顛(おうざんぎてん)鬼皇刃侵(きおうばしん)】で唐竹割りを繰り出し、真っ二つにする瞬間』だった。

 

「読み合い含めて、高度になってんなぁ!黒い俺ェ!!!」

 

影法師(黒いアバター)自分(アバター)を観ているとはよく言った物で、自分ならこうするだろう行動を越えてきた。繰り出された居合斬りは盾で対処。黒ペッパーが瞬間移動した所(レーアドライヴ・アクセラレート)を、此方は神謳万雷(しんおうばんらい)で距離を詰める。

 

スピードタイプの敵を殺す方法?簡単だ。動き出される前に、超至近距離での戦闘に持ち込めば良い。

 

「対抜刀術奥義━━━━━!」

 

グランシャリオを上空に投げ、アガートラム・ドュヨンペイル・タイフーンランペイジを起動。

 

アガートラムは自身の幸運を参照する拳撃スキルで、クリティカル判定が出ればダメージ補正が入り。

ドュヨンペイルは技量の数値を参照、ヒット時に状態異常を付与する打撃スキル。

タイフーンランペイジは筋力と敏捷を参照する格闘スキルだ。

 

幸運戦士のサンラクに比べれば、アガートラム自体の威力は天と地の差だが、ドュヨンペイルとタイフーンランペイジで補強して、彼方が握る刀の柄を殴り飛ばせるなら、十分な火力であり。

 

「サンラク参考!打たせる前にパイルバンカー!!」

 

今も尚、記憶に根付く墓守のウェザエモンとの戦闘。第二段階で断風を繰り出さんとした、彼の大太刀の柄を殴り付け、吹っ飛ばして封じた動きを模倣、黒ペッパーが抜き放たんとした黒鉄丸改九の柄を、渾身の一撃で其の手より引き剥がす。

 

「しゃおらぁ!」

 

攻めの姿勢は止めない。フルメタルフィスト起動でペッパーは拳を硬化、裏拳と天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)を使って、黒ペッパーに一撃を繰り出す。だが黒ペッパーも其れを読んでおり、彼方も両目にエフェクト、使ったのは真界観測眼(クォンタムゲイズ)

 

殴り飛ばされた黒鉄丸に変わり、白磁(はくじ)短刀(たんとう)改五を構え、一撃しか繰り出さないが其の単発威力が極大という、シンプルで強力無比の刺突攻撃スキル『終極刺突(グルガ・ウィズ)』を繰り出し、ペッパーの脇腹に刃を突き立てる。

 

「ぐふっ…!」

 

影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)と敵の攻撃を受けた場合に、ダメージ減少効果が働く『護り手の献身(ソラティオン・エモニー)』によって押さえられたとはいえ、やはり痛いものは痛い。

 

体力が今の一撃で1/7まで減らされてしまい、黒ペッパーは其のまま、ドリルピアッサーに繋げようとする。だが黒ペッパーは上空から落ちてくるグランシャリオに気付き、攻撃に繋げず其のまま後ろへバックせんとして。

 

「逃がさ……無いっ!」

 

左足で黒ペッパーの右足を踏み付け、投げていたグランシャリオをキャッチ。黒ペッパーが白磁の短刀改五を構えてパリィ態勢に入るが、そんな事知った事かと言わん勢いで、神律燼風(しんりつじんふう)の加速を加えた十傑斬覇(じゅうけつざんは)&刃王斬(ばおうざん)修羅(しゅら)】を点火した、渾身の上段切り下ろしを放ち。

 

黒ペッパーが構えた短刀によって受け止められる瞬間、ペッパーは保有する不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)の一つ、偉風導動(リーガルック)を使用して、高出力の竜巻でパリィを無効化。風の回転と加速による威力上昇を加えた、反撃の刃が黒ペッパーの身体に届き、深い斬撃が刻み込まれる。

 

強大な一撃に怯みながらも、黒ペッパーは鬼蹴りを使い、ペッパーはガード行動を加速させる『シールド・スティーブ』でイーディスを差し込み(インターセプト)。足蹴りによって後退させられながらも、レディアント・ソルレイアで踏ん張り。そうして剣の鋒を黒ペッパーの心臓に向けつつ、盾を構えて次なる一手を思考する。

 

(反撃は出来たが、問題は此処からだ………。俺がFM'sクリサリスを倒した時、トドメに使ったのは兎月【暁天】の専用スキル。アレを使うには、クリティカルで王撃ゲージを200%まで蓄積し、叩き込まなきゃならない。其の間、装備しているイーディス&グランシャリオが使えないとなれば、不意の事故で倒される可能性も出てくるな……!)

 

ウツロウミカガミ起動。其の場に残像(ヘイト)を残留させ、自身は全力でステージから離脱。観客席の方へと移動しながら心拍数を高め、回復ポーションをがぶ飲みしつつ減らされた体力を回復する。

 

彼方が残像に目を捕らわれている隙に、超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)を使用可能な心拍数に持っていき、イーディスを手より離してオブジェクト化からの合掌。己の全身を、中世の劇場を、真っ白に染め上げる程の白光(びゃっこう)を解き放ち、特殊状態:白刻閃(はくこくせん)に移行。

 

白い閃光を纏い、兎月【暁天】を左手に。オブジェクトになった事で右手に握る事が出来た、聖盾イーディスを右手に掴み、神威光臨進(かむいこうりんしん)戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)を起動。劇場の壁をスキルレベル1につき10秒間、足裏が天井もしくは壁に接触している場合に、重力の方向を変更出来る『グラビティゼロ』で高速疾走。

 

セルタレイト・ケルネイアーを使い、壁より跳躍。残像が消えた事でヘイトが戻った刹那、高潔度と歴戦値を参照する鎚武器系スキル『秀越なる鎚撃(オルフェイム・タンザライナ)』と打撃攻撃により与える『ダメージの数値を操作する』という、一風変わった効果を宿している『ヴァーテクス・ガーラザイド』。

 

其れ等をイクス・トリクォス並びにマーシフルチャージャーで補強しつつ、黒ペッパーの顔面にクリティカルで一撃を叩き込み、後頭部から黒の己をステージへ打ち倒す。同時に王撃ゲージは、45%まで上昇した。

 

「武器の都合上、あまりチンタラ出来ないんでな………合計270%のゲージを貯めさせて貰うぞ、黒い俺!」

 

黒ペッパーが武器を聖盾イーディスに切り替えて、ペッパーは兎月【暁天】を握り締める。

 

戦いは新たなステージへ突入していく………。

 

 

 

 






戦え、勇者よ




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奏で紡いだ旋律(ウタ)を刻み、勇者は渾名を賜る



決着、影法師戦




「はあああああああああ!!!!」

『…………………!!!』

 

劇場を白の閃光が駆け走り、打撃同士による激突音が鳴り響く。超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)によって特殊状態:白刻閃に至ったペッパーは、黒ペッパー以上のスピードと、回転率が高まった特定のスキルを駆使して、ダメージを与え続けていき。

 

兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】の王撃ゲージを高めながら、内70%消費しつつ、装甲破壊と装甲貫通効果を付与。そして彼は『ある疑問』を抱き、戦いの中で思考する。

 

(おかしいな…………此の局面、俺が黒ペッパー(アイツ)なら、超星時煌宝珠で自身のパワーアップを行う筈。なのに未だ使う素振りがない………)

 

何よりも勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)すら模倣し、装備出来る影法師━━━━━━其れを操っているであろう『ユニークモンスター・冥響(めいきょう)のオルケストラ』が、元より使わないという選択肢を選ぶ等、彼からすれば『有り得ない』と考えていた。

 

(━━━━━もしかして『使わない』んじゃなくて、超星時煌宝珠を『模倣出来ない』のか……!?いや、まさか………?だが、だとしたら『考えられる』かも知れない…………!!)

 

プレイヤーのコピーをぶつけてくる、冥響のオルケストラにも『出来ない事』がある。其れが解っただけでも、此の戦いには意味があった。

 

「ペッパーはーん!頑張れなのさー!」

 

アイトゥイルの声援を受けながら、ペッパーは右手に握るオブジェクト扱いのイーディスで、黒ペッパーが構えるイーディスを往なし、金と白の鏡面に兎月【暁天】をクリティカルで叩き付け、王撃ゲージを着実に蓄積する。

 

「此処で勝負に出るッ!」

 

白刻閃の残り時間が迫る中、残ったバフスキルをありったけ点火し、更に切札の不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)窮速走破(トップガン)も切って、五分間で倒す事を決意。

 

「黒い俺、全力で自分を強化しろよ?じゃないと━━━━あっという間に御陀仏だぜ?」

 

白光一閃。煌めき輝く光の迅が、黒ペッパーを塗り潰す様に。ギャラクシーヒーローズ:バーストで戦った、リアルミーティアスの閃光の様に、ペッパーが『白い流星』に変わる。

 

「おりゃああああああああああ!!!!」

『………………………!!!』

 

流石に不味いと感じたのだろう、彼方も強化をふんだんに使い、最後に窮速走破(トップガン)を施し、勝負に出た。そうだ、其れでこそ自分なのだ。そして自分であるからこそ━━━━━━!

 

「オウツキノアカシを、空中に残すッ!!」

 

強化の中、高速戦闘を想定して残しておいた真界観測眼(クォンタムゲイズ)局極到六感(スート・イミュテーション)

 

白と黒の閃光が交錯する最中、黒ペッパーが空中に刻んだオウツキノアカシ目掛けて、オブジェクト化したイーディスを投げ。

 

自身も冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)&巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)をオウツキノアカシと共に撃ち放って、空中に衝撃を保持。

 

そして投げたイーディス目掛けて、ペッパーは更なる加速を行い、所定位置に飛んで行った勇者の盾が黒ペッパーの残したオウツキノアカシにより衝撃を受け、鏡面にダメージが入る。

 

「済まん、イーディス!」

 

衝撃に吹っ飛ばされるイーディスを足場に、プレジデント・ホッパーから進化した『ブレイジング・ジャンパー』で黒ペッパーに肉薄。

 

「吹き!飛び!やがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

自身の身体を空中で横型高速回転をし、スキル『ウェーブ・スライド』で空中急カーブ(・・・・・・)をしながら、黒ペッパーの脇腹に兎月【暁天】を叩き付け。

 

回転による加速と、装甲貫通による衝撃を乗算。己が放ったオウツキノアカシの在る場所に向けての殴り飛ばし、されど黒ペッパーも両脚装備をレディアント・ソルレイアに変えて、空中で踏ん張りを掛ける。

 

「させるかァッ!」

 

超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)によってもたらされた物、其れは敏捷数値の1.5倍化と特定ジャンルのスキルの『再使用時間(リキャストタイム)の短縮』。セルタレイト・ケルネイアーの再使用時間が終わり、発動された跳躍で腹部に打撃を加えて、黒ペッパーをオウツキノアカシの在る場所に押し込み、スキルの一撃を炸裂させた。

 

其の一撃が王撃ゲージを最大(200%)まで上昇させ。ゲージMAXの標示と同時に、響くは『歌声』━━━━最後に成すべきトドメの指し方を示す『歌』が、劇場に木霊する。

 

聖譚曲(オラトリオ)は、終幕(フィナーレ)へ向かう…………勇者は、神秘の甲虫を打ち倒した………。重ねて、示すは………極みに到りし、神の脚技………決して砕けぬ、強い意志にて…………王を討つ━━━━━!』

「任せな、キッチリ再現してやんよ!」

 

強化スキル使用の最中、温存していたレーアドライヴ・アクセラレートを起動。連続瞬間移動で黒ペッパーとの距離と位置を調節、彼方の攻撃を誘発させる位置取りを行い。黒ペッパーが近付けさせんと、レベルMAXまで高めたトルネードレッグスで迎撃を掛ける。

 

遠距離より放たれる十発の脚衝撃の飛来、瞬間移動を駆使して回避し、距離を詰め切り。黒ペッパーの振るう右拳に、金色のエフェクトが纏われていた。スキルの名を聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)………ストレングス・スマッシャーの時代から、ペッパーを支え続ける其れが振るわ『バァン!』━━━━━音の爆弾が黒ペッパーの前で炸裂し、攻撃が明後日の方へと飛んで。

 

「だらッ━━━━━!!!!しゃあああああああああいッッッッ!!!!」

 

直後、黒ペッパーの胸部を衝撃が襲い。視界がぐるんと一回転した。

 

ペッパーが繰り出したのは、単なる『猫騙し』という小技からの聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)&破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)、そして致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オボロサイダン】のコンボで放った、サマーソルトキックによる蹴り上げ攻撃に過ぎない。

 

だが、戦いがハイレベルになれば成る程に、猫騙しといった『小技』による一撃が凄まじい威力を発揮する。其れこそ『勝敗を別つ程の隙』を生み出すのに、数秒の時間が在れば充分で。

 

「【不壊なる激闘打(アンブレイカブル.ディボウリー)】!!!」

 

王撃ゲージを200%消費して繰り出す、装甲破壊と貫通のパリィ不可の渾身の打撃を与えるには、此れ以上無い絶好の一瞬だった。

 

黒ペッパーが砕け、黒ペッパーが持つ装備が砕け。しかし本来から不壊なる激闘打により、確定部位破壊が働いて、破壊される筈の影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)のみが此の場には残され。同時に中世ヨーロッパの劇場が、ステージが、客席が、高所に在るVIP席が、音を立て、其の形を崩壊させていく。

 

「ハァ……!ハァ……!アイトゥイル、ペンシルゴンは!?」

「此方は何とかするのさ!ペッパーはんは、忘れ物をしないようにするのさ!」

「ッ……ありがとう…………!」

 

スキルと白刻閃の効果終了、同時に襲い掛かる疲労感に苛まれながらも、見上げればレッドカーペットの滑り台にペンシルゴンを引き摺って乗せようとするアイトゥイルの姿。

 

其れを見たペッパーは、兎月【暁天】を。足場にして地面に転がった聖盾イーディスを拾い上げ、インベントリに収納した、まさに其の時。

 

崩壊を続ける劇場に響き渡る『歌声』を聞いた。

 

 

『━━━━私は観測者』

 

 

四度に渡るタイトルコールに、戦いを締め括るフィナーレを飾った歌声を、彼と黒兎は聞く。

 

 

『私は唄い、謳い、歌う。私は知り、見つめ、得る。紡ぐ旋律は命の螺旋、叫ぶ歌声に答えが返り、響く言葉に英雄を見た』

 

 

同時に自分が着ているブラックトレンチロングコートが光を帯びて、黒い自分が着ていた其れも同じく光を纏い。強制装備されていたにも関わらず、独りでに己の身より離れて、ふわりふわりと漂いながら、中央に集っていく。

 

()は、貴方を見届けた………。━━━━問いは、戦いを経て……一つの『答え』に至る。だから、だから………!』

 

 

二つの影法師の愉快合羽が、全身が解れて糸になり。糸が束なり、黒地を主体としながら、白の楽譜記号が刻まれた、新しい『トレンチロングコート』と『ベルト』、そして『ズボン』を形成していく。

 

 

『━━━繋ぎ、紡ぐ、世界を駆ける走者。夢幻の地平を走り、流転の運命を変える者。ならば貴方は『大英雄(ブレイバー)』……』

 

 

そうしてペッパーの目の前に、トレンチロングコートが、ベルトが、ズボンが舞い降りて。同時に襲い掛かるは、劇場から去る時に味わってきた倦怠感。

 

 

『私は貴方を待っています………。貴方を導く者を、探して………共に歩み、世界を旅し………。そして、運命と調律の獣に別たれ眠る、彼女の遺産を見付けて。………何時か………私の元へ訪れて━━━━━━』

 

 

崩壊する劇場の中、ペッパーは、アイトゥイルは、意識を失い。深い眠りに落ちるような感覚を受け。意識を失う直前、ペッパーの前にはリザルト画面が表示されたのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は影法師の最終試練を越えた』

『魂の音色は紡がれ、此処に形となる』

『称号【歌姫の旋律(こえ)を知る者】を獲得しました』

『全ての歌は歌われ、影法師の愉快合羽は貌を変える』

『胴防具【影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)】の強制装備が解除されました』

『胴防具【影法師の愉快合羽(グルナー・ト・シェミンコート)】が【奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)】に変化しました』

『シャングリラ・フロンティア内にて、特定の条件を満たすことにより、影法師の試練へ挑戦出来るようになりました』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

 

 

 

 

 

 






ユニーククエストEX、進展




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~進むクエスト、もたらされる報せ~



クエストを越えて、報酬確認




「戻って来れた……か」

「みたい、なのさ………」

 

影法師の最終試練を越えたペッパー達一向は、崩壊する劇場からサードレマ上層エリアの裏路地に戻り、意識を取り戻していた。

 

「そうだ、ペンシルゴン………は?」

「………………」

 

ハッとなって辺りを見回すと、両手で顔を隠し踞ったペンシルゴンが居て。

 

「ッ~~~~~~~!!!!!!/////」

「もしもーし、ペンシルゴーン?」

 

チラッと此方見ては顔を真っ赤にしており、其れを何度も繰り返す奇妙な光景が其処に在り。

 

「………あ、やべ!?胴装備が解除されたから上半身裸になってたんだ!」

 

強制装備状態解除により、上半身に何も装備していなかった事に気付いたペッパーは、インベントリの奥底に眠っていた隔て刃シリーズの胴装備を一旦装備。

 

そして試練を乗り越えた証として『観測者』と名乗った存在━━━━冥響のオルケストラから渡された、新しい装備『奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)』なる物の性能をチェックする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)(ユニーク装備)

 

影法師との四度に渡るセッションを見届けた冥響の歌姫が作り出した、特製の逸品。開拓者の魂の音色を糸に束ね、織り合わせて(かたち)とした其の衣裳は、彼女との約束の証でもある。

 

此の装備は胴・腰・脚の三部位一体の装備であり、体力が0になると破壊され、体力が1以上になった場合に復活する。

 

装備中、プレイヤーの任意によってPNのON/OFFが可能になる。PKされても所持者の手元を離れない。破棄及び譲渡不可。

 

此の装備の合計耐久値は、所持者の歴戦値と同じとして扱われる。

 

此の装備を装備中、一定範囲内に征服人形(コンキスタ・ドール)が存在する場合、此の装備から装備者と征服人形にのみ聞こえる、特殊な音色が発生する。また其の音色と相性値の高い征服人形が聴いた場合、装備者との合流行動を選択肢として取るようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、これヤバい装備だ。ペッパーはそう、一瞬の内に確信する。

 

此の装備や最後に聴いた『歌の内容』で、ユニークモンスター『冥響のオルケストラ』に関わる重大要素や、攻略に必要となる物等に関する記載が盛り込まれた、情報爆弾の権化たる存在が其処には在った。

 

先ず征服人形が如何なるモノかは知らないが、間違いなく冥響のオルケストラを攻略する(・・・・)上で、絶対に『見付け出さねばならない存在』であり、此の装備は其れを探す為の『レーダー』として機能する。

 

そして歌姫が言っていた『彼女の遺産』とは、オルケストラに由来・模倣した一式装備を指し、其れが『運命と調律の獣に別たれ眠って居る』事を知れた為、其の存在を探してゲットすれば、攻略にグッと近付く事が可能だ。

 

(コレは……ライブラリに教えるにしても、征服人形と出会ってからじゃないとヤバいなぁ…………)

 

総じて『今の段階では公に出来ない、爆弾情報満載のヤバい装備』なる形で評価の着地点を作る事にし。と、ペッパーの肩に伝書鳥(メールバード)のハヤブサが一羽、バサバサと羽音を立てながら止まってきた。

 

「ピヨヨ~」

「え、メール?送り主はサンラクで、内容は………え?」

 

其処に記載されていた内容に、ペッパーは目を見開き。そして未だに顔を隠したペンシルゴンに、サンラクが持ってきた内容を話す事によって、彼女も落ち着きを取り戻して漸く元に戻り。

 

そして二人と一羽は何時もの場所となった、蛇の林檎・サードレマ裏路地支店へと全速力で移動するのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サードレマ下層エリア、蛇の林檎・サードレマ裏路地支店。

 

一室を貸切りとして取った室内で、ペッパーとペンシルゴンが座って待っていると、始めに京極(キョウアルティメット)が一番乗りで到着し、ペンシルゴンの様子を見て少し驚いたが、直ぐに何かを察したのかニヤけ顔で微笑み。

 

続いてオイカッツォが随分ゲッソリした顔で部屋に入ってきて、しかしペンシルゴンの表情と京極の顔を見て、悪ノリする形でニマニマし。

 

最後に白頭巾を被ったサンラクが、秋津茜(アキツアカネ)を連れながら合流、京極同様にペンシルゴンの表情を見て一瞬驚くも、京極・オイカッツォと同じようにニンマァァァァ……と笑みを浮かべる。

 

そして……………

 

 

「初めまして!私、秋津茜と言います!サンラクさんとオイカッツォさん、そしてペッパーさんとはベルセルク・オンライン・パッションで出逢いました!シャンフロでは初めましてクランスカウトされたので、すっっっっっごく嬉しいです!よろしくお願いします!」

『グワアアアアアアア!?』

『ギャアアアアアアア!?』

『ンアアアアアアアア!?』

『ウババババババババ!?』

 

 

秋津茜の満ち溢れた純真さから成る『光』に当てられた、外道四人組が纏めて浄化されるアンデッドように悶える姿を見ながら、ペッパーは『本題』に入る前に話を開始する。

 

「さて…………メールで呼び出したサンラクには後で話をして貰うが、先ず此方もクランメンバー全員に共有しておかないといけない事がある。━━━━内容はユニークモンスター・冥響のオルケストラに関する『逸品』を、俺は今日発見した」

 

其の一言で全員の視線が彼に注がれていく。

 

「だが、此の情報は『出来る限り』秘匿しておいて欲しい。もし『手札』を切らなければならなくなった場合、此れを切る事も視野に入れてくれ」

 

そして彼は此迄経験してきた、影法師の愉快合羽に関する情報と、影法師との四度に渡る激闘、そして最後の戦いの後にユニーク装備が渡された事を教えた。

 

「マジか。名前隠しのコートに、そんな秘密が有るなんてな」

「四回の戦闘を越えない限り外れないって、相当厄介だね………。少なくとも乗り越えた後の恩恵(メリット)の方が大きい分、時間帯に気を付ければイベントも起きないと見て良いかも」

「最初の森を走ってたら出逢った『黒い私』、アレが影法師さんだったんですね!全ッ然、歯が立たなくて負けちゃいました!」

「やっぱ名前隠しってオンリーワンの性能だなぁ……」

「さらっと聞き流そうとしたけど、秋津茜ちゃん件の影法師に遭ってるって凄いね………」

 

ある者はユニークいーないーなオーラを立てて、ある者は冷静に愉快合羽を分析し。そしてペッパーはサンラクを見ながら言った。

 

「さて、と。サンラク」

「あぁ。ペッパー・ペンシルゴン・オイカッツォ・京ティメット。今回の話はお前等四人の許可と、ペッパーの持ってる『天王(テンオウ)』の閲覧が鍵を握ってる」

 

そうしてサンラクは、此の場の全員が予想だにしなかった話を。別の世界(ゲーム)で手にした、とんでもない情報を手土産として、シャンフロに戻って来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達、クラン:旅狼(ヴォルフガング)が保有している『手札』。其の一つである『ロボットとSFスーツ』、其れを実際に見てみたいと言うプレイヤーと、ネフィリム・ホロウで出逢った。

プレイヤー名は『ルスト&モルド』。俺達が保有しているロボットの情報と実物を対価に、ユニークモンスター『深淵のクターニッド』に挑戦出来る『ユニークシナリオ』。其の情報を取引材料として提示してきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗てペンシルゴンが言った。次のユニークシナリオに『王手』を掛けているのは自分達だと。

 

そして其の王手から、王将を取る為の道筋(ルート)へと至る方法を、サンラクはクラン:旅狼へと持ってきたのである………。

 

 

 

 






最強種に挑む為のユニークシナリオ




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~創世神は憂鬱、旅狼は旅立つ~



世界を創った神は





同時刻、ユートピア社・地下十階。

 

原典閲覧室━━━━━━シャングリラ・フロンティアの最高機密と言える此の場所で、創世神たる継久理(つくり) 創世(つくよ)は独りで居た。

 

前世代的なアーティファクトたるPCの、其の画面に映るは『ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】』・第四段階の結末と。

 

影法師が、あるプレイヤーにもたらした『試練の果て』を黙読し、深く………そして深い溜息を付いた。

 

「はぁ…………今からワールドストーリーの第四段階を『始源眷属』から『デスゲーム』にでも変えようかしら?」

 

此れは普段ならば『冗談』として吐き捨てるものなのだが、今回に至っては彼女自身『大真面目』にそう考えている。彼女にとっての目の上の『たんこぶ』たる存在が、現在彼女の作り上げた世界(シャングリラ・フロンティア)にて、其の名を轟かせているからだ。

 

其のプレイヤーは『ペッパー』。ユニーククエスト【インパクト・オブ・ザ・ワールド】を受注し、第三段階まで凄まじいスピードでクリア。条件を満たした事により、ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】を解放。

 

七つの最強種を模倣もしくは由来する、神代の大いなる七つの遺産の内、『天覇のジークヴルム』を模倣した一式装備『光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)』、『墓守のウェザエモン』に由来する一式装備『悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)』の二つを入手し。

 

墓守のウェザエモンとの決戦で、初見ながら特殊エンディングへと辿り着き、シャングリラ・フロンティアという世界で初めての『ユニークモンスター撃破』の称号を、第四段階ではポポンガの最終試練の最中、一体どうやったのか【最大高度(スカイホルダー)】を獲得して、世界に名を刻み付け。

 

そして今日、此の日、此の瞬間。彼は影法師の課した四度の試練を乗り越え、冥響のオルケストラに由来する一式装備を探し出す為のヒントを、其の手に掴んだのだから。

 

「………………『オルケストラ』。プレイヤー名『ペッパー』の過去ログを参照し、現時点をもって監視観測を開始。及び『オーケストラプログラム』の精度を、現在より七割以上精密(・・・・・・)にして」

 

近辺の戦闘時点のデータを反映した状態の、影法師による再現すらも退けてみせたプレイヤーである以上、生半可な模倣では乗り越えられてしまう危険が高い。

 

「フフフフフ………ついでにペッパーが挑んでる、ユニーククエストの第五段階の難易度を『もう少し弄って』……最後の一体は確定で『不世出の存在(エクゾーディナリー)』になるようにしましょう………えぇ、そうしましょう。

あぁ其れから、『正典(カノン)』プログラムの方も解禁しておきましょうか?えぇ、きっと其れが一番良いわ………!」

 

 

創世の神が筆を取る。

 

世界の情景が書き変わる。

 

ペッパーに対するメタが取られる。

 

オルケストラのプログラムが書き変わる。

 

「フフフフフ………!アハハハハハ………!」

 

創世の神が笑い、そして世界がゆっくりと動いていく………。

 

だが彼女は知らない。

 

ペンシルゴンが提案・ペッパーがリーダーとして就任した、クラン:旅狼(ヴォルフガング)が同じクランメンバーの一人、サンラクがもたらした情報によって、ユニークモンスター『深淵のクターニッド』に挑むユニークシナリオを手にした事を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達、クラン:旅狼が保有している『手札』。其の一つである『ロボットとSFスーツ』、其れを実際に見てみたいと言うプレイヤーと、ネフィリム・ホロウで出逢った。

プレイヤー名は『ルスト&モルド』。俺達が保有しているロボットの情報と実物を対価に、ユニークモンスター『深淵のクターニッド』に挑戦出来る『ユニークシナリオ』。其の情報を取引材料として提示してきた」

 

サードレマ裏路地に在る、NPC運営のカフェ・蛇の林檎の一室。其処では現在、サンラクがもたらした情報に全員の視線が向けられている。

 

「………………マジか、サンラク」

「大マジだ。俺が嘘言うタマか?」

「外道ではあるよね」

「半裸の変態でしょ?」

「煽る半裸の鳥人間の間違いじゃない?」

「よし決めたわ、其処の三外道。テメェ等にやぁ、ユニークシナリオ参加させてやんねーわ」

『『『すいませんでした、サンラクの兄貴ィッ!!』』』

「喧嘩!よくないと!思います!」

 

秋津茜(アキツアカネ)が止めようとするが、あの四人の口論というか、中指の立て合い(じゃれあい)は一種のコミュニケーションの様な物なので、悪化しない限りは仲裁しなくて良い。

 

「…………でだ、サンラク。其のルストとモルドの二人は、元々シャンフロをプレイしていたプレイヤーなのか?」

「あぁ。シャンフロでプレイヤーが動かせるロボットを探してたらしいんだが、見付からなくて元々遊んでたネフホロに戻ったんだと。因みに其のゲームランキング一位が、ルスト&モルドな」

 

ランキング一位という単語に、ペッパーはあまり良い思い出が無い。シルヴィア・ゴールドバーグといい、レイドボスさんことユラといい、其のゲームで一番を取れる連中というのは『凄まじい強さ』と『頭のネジの外れ具合が半端』ではないのだから。

 

「そうか………。けど其の二人は、何で俺の持っている天王(テンオウ)を見たいと?」

「インベントリアに入ってる『ロボットの元祖』というか『大元』が天王なんだろ?交渉の中で『元になった試作機も在るぞ』って言ったら、ルストが『是非とも見たい!』との事でな」

 

サンラクの発言から、ペッパーはルストなる人物が無類のロボ好きであると考えて。そんなロボ好きなら試作機のロマンも、大好物なのだと察するに至る。

 

「OK、ルスト&モルドは何時頃にシャンフロに来る?時間や交渉の場所は何処でやる?」

「何時にも増してやる気入ってるね?あーくん」

「…………ツッコミしないぞ、ペンシルゴン。そして其処でニヤ付いてる外道三人、交渉とユニークシナリオ参加したいなら笑うんじゃないよ」

 

ニヤニヤニマニマ顔のサンラク・オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)の三人をジト目で見ながら、彼は溜息を吐きながらもサンラクを見る。

 

「交渉場所は『シャンフロ第15の街・フィフティシア』、其の街の『波止場の酒場』。日時は『三日後の午後六時』に行うそうだ」

 

ペッパーは既にフィフティシアに到達しており、アイトゥイルのゲートを通れば簡単に到着出来る。問題はサンラクとオイカッツォ、そして秋津茜がフィフティシアに到着出来ていない事。彼等彼女等をキャリーするにしても、他のプレイヤーに見られて此方の情報が渡るのだけは避けたい所である。

 

「取り敢えず、全員の予定を聞いても良いか?俺は三日分の行動は取れる」

「俺は交渉までの三日、午前中はリアル関係だが大丈夫だ」

「私は明日はお仕事で、其れ以降の夜ならOKだよ」

「俺は明日は用事が入ってて無理、明後日なら何とか」

「私は三日共、午前中は学校や部活で駄目ですけど、夜なら!」

「僕も明日は予定があって駄目だけど、明後日以降ならやれるし良いよ」

 

クランメンバーの状況を確認、ペッパーは簡易的ながらも予定表を作り、秋津茜及び京極とメールアドレス交換をし、全員に圧縮ファイルとして送信しておいた。途中ペンシルゴンがジト目で睨んでいたものの、メンバーとのやり取りには必須だからと言って、何とか矛を納めて貰い。

 

「………よし。明後日の夜、フィフティシアへ行軍だ。カバーは俺とペンシルゴンで行うから、各々武器やアイテムを確り準備して行こう。集合場所はエイドルト。まだ到達出来てない人が居たら、俺が明日の夜にサードレマからフォスフォシエ経由でエイドルトまでキャリーするよ。じゃあ、頑張ろう!」

『おー!』

 

ペッパーが音頭を取り、旅狼は旅立ちへの準備を始める。狙うは七つの最強種(ユニークモンスター)が一角・深淵のクターニッド。其のユニークシナリオを手にする為の、狼達の行軍が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後、シャンフロ第15の街・フィフティシア。

 

旅狼が同盟を結ぶクランの一つ、黒狼(ヴォルフシュバルツ)が付近のMOD狩り(スロート)の果てに建築した『黒狼館』に、ペッパーはアイトゥイルを隠しながらゲートを越えて、ペンシルゴンは使い捨て魔法媒体(マジックスクロール)を利用して、此の場所にやって来た。

 

サードレマから旅立つ前、ペッパーはペンシルゴンに『ある情報の開示』を黒狼相手にぶつける事にしており、彼女も話を合わせると言ってくれた。

 

「御久し振りです、サイガ-100さん」

「此れは此れは、ペッパー君にペンシルゴン君。此所に何用かな?」

 

出迎えたのは黒狼所属のプレイヤー達、彼等彼女等を後ろに従え、サイガ-100とサイガ-0が前に出る。最前線を走るクラン:黒狼のリーダーと、シャンフロの偉大な記録に其の名を刻んだ【最大火力(アタックホルダー)】の現所持者だ。

 

「クラン連盟を結んだ間柄なので、マッシブダイナマイトさんを援軍に送り出してくれた御礼と、黒狼に所属している最大火力のサイガ-0さんの御力添えを頂きたく、こうして此所を尋ねた次第です」

「そーだよー、団長ちゃん。あーくん(・・・・)はこう見えて結構律儀なんだよねぇ………?ゼロちゃんの力を借りたいってのにも、相応の交渉材料を持ってきたんだから」

「ほぅ……?では聞かせて貰おうか、其の交渉材料と言うものを」

 

クラン連盟として結んだ『約束事』を果たす為、ペッパーはペンシルゴンと共に席に着き。サイガ-100とサイガ-0が席に着いた所で、交渉として『フルスイング』の一撃をぶつけてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラン:旅狼は最大火力保持者・サイガ-0さんの御力添えを頂きたいのです。言うなれば、フィフティシア行軍の為の『援軍要請』になります。其れに伴い『クラン連盟の盟約』により、此方からの報酬はマッシブダイナマイトさんの援軍の御礼も含め、俺達が手にしている『ユニークモンスターの情報の提示』…………『無尽のゴルドゥニーネに関する情報』を黒狼に御渡しします」

 

 

 






神の描く未来、ペッパーが見定む先




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~双狼の対談、そして彼女の決断~



会談ヒートアップ




シャンフロ第15の街・フィフティシア。

 

其の一角に建つクラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)が建築した屋敷『黒狼館』の一室では現在、クラン:旅狼(ヴォルフガング)のリーダーのペッパーと、サブリーダーのアーサー・ペンシルゴンが、黒狼のリーダー・サイガ-100と最大火力(アタックホルダー)保持者たるサイガ-0との対談を行っていた。

 

そしてペッパーが初手から繰り出したのは、自身のクランの切札を対価に、ライブラリとの取引で手に入れた未だ公にされていない七つの最強種(ユニークモンスター)の一角・『無尽のゴルドゥニーネ』の情報だった。

 

「………無尽のゴルドゥニーネ、だと?」

「はい。文字通り無尽蔵(・・・)に沸き出るという『全ての蛇の母たる存在』………そんなユニークモンスターが、無尽のゴルドゥニーネです」

 

ふと耳を澄ませば、部屋の外でざわめき声が聞こえてきた。やはりライブラリが言っていた通り、自分達とライブラリ以外知らないらしく、黒狼の団員が混乱しているように思われる。

 

そして当然ながら、対面しているサイガ-100も驚いた顔をしており、まさか旅狼が6体目のユニークモンスターの情報を、此の様な形でもたらしてきた等と予想だにしなかったらしい。

 

「すぅ…………ふぅ…………。すまない、続けてくれ。もたらされた情報が、私達からすれば予想外だったからね」

「解りました。………無尽のゴルドゥニーネは、蛇のユニークモンスター。賢者だろうと愚者であろうと、老いた者や幼い者に男女だろうとも、ありとあらゆる命を━━━━━『森羅万象をも憎悪する存在』です。一説によれば、他のユニークモンスター達も憎んでいる……とか」

 

ヴァイスアッシュとの会話、ライブラリから得た情報を混ぜ合わせ、黒狼の団長・サイガ-100にペッパーはただ真っ直ぐに彼女の目を見て話を続ける。

 

「俺が無尽のゴルドゥニーネの情報を手にしたのは、去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)のエリアボス、オーバードレス・ゴーレムをソロで討伐した時のドロップアイテムからでした。名前は『無尽の偶像』、此れを『あるNPC』に鑑定して貰った結果、七つの最強種の一角たる存在だと知ったのです」

「私も初めて其の話を聞いた時は、本当に驚いたからねぇ……。なぁんで私の知らない所で、私の知らないユニークモンスターの情報を、あーくんが得て来たの?ってさ」

 

呆れ顔を取り繕い、ペンシルゴンが演技を絡めて話をする。彼女自身、ペッパーが石造りのフィギュアから無尽のゴルドゥニーネの情報を得たのは初耳(・・)だった。

 

だが、ライブラリが『同盟を結んだ他のクランにも公にしていなかったから』こそ。ペッパーというプレイヤーが『5クラン会談時に誠意有る対応を見せたから』こそ。其の話は『信憑性』を帯びている。

 

「成程………クラン:旅狼は我々の予想そして想像を『遥かに越えている』様だな………」

「んふふふ………私達こう見えて『色々持ってる』からねぇ?で、どうする団長ちゃん?取引に応じるか………其れとも否か…………」

 

ニヤリと挑発的な視線を送るペンシルゴン、顎に手を当てながら思考を重ねているサイガ-100、ペッパーは此れでも足りないならば無尽のゴルドゥニーネに関する『ある情報』を切ると決意し。

 

三者三様の思惑が交錯する中、先に口を開いたのは。

 

「あの、ペッパー……さん。其のフィフティシアの行軍には『サンラク』さんも、参加されて……いる、でしょうか?」

「え?」

「お?」

「む?」

 

ペッパーでも、ペンシルゴンでも、サイガ-100でもなく。此所まで口を開かなかった、最大火力ことサイガ-0だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイガ-0からの質問、其れによって室内に沈黙が訪れ、空気を支配する。おそらく此所こそが分水嶺であり、そして此の話し合いを左右する戦いになると、ペッパーは予感したのだ。

 

「えぇ。サンラクが『明々後日までにフィフティシアに向かいたい。イレベンタルから先のエリアは未知のエリアだから、案内役を任せられて尚且つ道中の敵に詳しいプレイヤーが欲しい』と、凄まじい注文をしていたので」

「私とあーくんは一度、園長さんと武器狂いにマッダイさんと一緒に通った事は有るけど、大変だったからねぇ………」

 

此れは嘘でもあり、同時に事実だ。あの時は勇者武器関連も絡んでいたし、不世出の存在(エクゾーディナリー)との戦いも在った為に、相応の苦戦を強いられた。

 

だが、サイガ-0が………最大火力がフィフティシア行軍に加わってくれれば、本当に心強い。サンラクを始め、オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)秋津茜(アキツアカネ)をキャリーする上で見ても、最大火力の助太刀は頼りになるだろう。

 

「………姉さ、じゃなくて………クランリーダー」

「何だ、0」

 

そして何よりも、此の話の決め手になったのは。

 

「私からも御願いします。今回の旅狼のフィフティシア行軍、私を参加させて下さい」

 

サイガ-0本人が深々と頭を下げ、サイガ-100に対して願い出た事であった。数秒の沈黙、そしてサイガ-100が答えを出す。

 

「…………解った。クラン:黒狼は盟約に従って、君達の援軍要請に応じ、サイガ-0を派遣する。ペッパー君、武運を祈る」

「ありがとうございます。サイガ-100さん」

 

握手を交わし、サイガ-0との集合場所及び時間を取り決めて。此所に双つの狼による会談は、幕を引いたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………緊張したぁ」

「お疲れ様、あーくん」

 

黒狼館を後にし、緊張で凝り固まった身体を解すペッパーは、ペンシルゴンと並んでフィフティシアの夜の街を歩く。無尽のゴルドゥニーネの情報を対価に当初の目的だったサイガ-0の援軍要請受理と、クラン同士の盟約でマッシブダイナマイトを援軍として送ってくれた礼を、キッチリ果たせたと見て良いだろう。

 

「あ、あの………ペッパーさん」

 

そんな二人の後ろで突如、声が聞こえて。振り向くと其処には白亜の鎧を纏う、サイガ-0が立っていた。

 

「うぉつ!?サイガ-0さん!?」

「おやおや、ゼロちゃん。どうしたの?」

 

片や驚き、片やニヤリと笑い。

 

「実は、折り入って『話』が有りまして………」

 

サイガ-0が口を開き、二人に話の内容を伝えていく。

 

 

 

 

 

 

 

其の内容はクラン:旅狼と黒狼にとって、延いてはシャングリラ・フロンティアに対し、大きな影響を与える事になるのだが。

 

其れはまだ、先の話である…………。

 

 

 

 






嵐の前の静寂




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~雨天に語らう魔王と勇者~



今章のエピローグです




「あー…………疲れた」

 

黒狼との会談を終えてペンシルゴンと別れ、兎御殿に帰還したペッパーは休憩室のベッドでセーブ&ログアウト後、現実世界で梓として目覚め、布団の上で身体を伸ばす。

 

外では雨が降り頻り、水滴が窓にぶつかり、自然がリズムを奏でていた。

 

今日だけでも色々有った。トワセツナの花を探してセツナの墓参りをし、蛇の林檎では永遠の誕生日を祝い、更には影法師の最終試練を乗り越えた結果、冥響のオルケストラ攻略に関わるだろう、ユニークの品を手にして。

 

旅狼(ヴォルフガング)所属のクランメンバーに秋津茜(アキツアカネ)の紹介、サンラクから深淵のクターニッドに続くユニークシナリオの事を聞き、黒狼(ヴォルフシュバルツ)には最大火力(アタックホルダー)サイガ-0の援軍を依頼したりと、本当に色々な事をしたのだから。

 

「サイガ-0さんの『あの話』、どーしたもんかな…………」

 

黒狼との会談後、サイガ-0から話を聞いた時は自分の耳と白亜の鎧に身を包む重騎士を疑ったし、ペンシルゴンに至っては其の話で色々出来ると、其れは其れは生き生きとした表情になっていた。

 

しかも此れが公に成ろうものなら、黒狼とは『どう転んでも激突不可避』の事態に陥る事は避けられない。

 

「何とか穏便に済ませられる様に、立ち回らないと。……よし、夕飯作るか!」

 

クランリーダーとしての務めを果たす為にも、クラン連盟間のゴタゴタは出来る限り避けていきたい。梓はそう決意し、本日の夕食作りを開始。

 

冷蔵庫の中にあった薄切りの豚肉パックと生姜焼きのタレ、1/4残りのキャベツと半玉レタスに卵一個、半分残った人参とピーマン二個とシラスを取り出す。

 

先ず始めにパックのビニールを外して、生姜焼きのタレを適量投入に豚肉を浸けつつ、人参とピーマンを始めとした野菜達を洗い、レタスは一口大サイズになるよう手でちぎり、キャベツは繊切り・人参は薄く短冊切り・ピーマンも短冊切りに。

 

タレに浸けた豚肉の反対側もタレを染み込ませ、其の間に取り出した鍋に適量の水を注いで火を着け、同じく取り出したフライパンに油を敷いて、火が通りにくい人参を投入・炒め始める。

 

鍋の中の水の沸騰具合を見ながら、別の小さな器に卵を割って撹拌しつつ、火を調節。鍋にはレタスを、フライパンにはピーマンを各々入れ、加熱していく。

 

そしてレタスに火が通った所で醤油・塩・胡椒で味を整え、溶き卵を加えて軽く混ぜつつ、最後にゴマ油を一匙加えて、鍋をコンロから外し。フライパンにはシラスを入れて、軽く和える様にしながら火を通して皿に盛り、普段はオリーブオイルを仕上げに使うが、今回は御試しとして一味唐辛子を軽く振り。

 

さっとフライパンを洗い、火を着けて水気を飛ばし。油を敷いて、生姜焼きのタレに浸けていた薄切り豚肉を焼く間、汁椀に作った『レタスと卵の中華風スープ』を、マグカップに『牛乳』を一杯注いで、テーブルに運び。皿に盛った『ピーマンと人参とシラスのピリ辛焼き和え』を、茶碗に炊飯器に残った『白米』をよそって運び。

 

豚肉をひっくり返して加熱を続け、丸皿には繊切りキャベツを乗せ、生姜焼きのタレを追い掛け焼き上げ皿に乗せ。

 

「よしッ……出来た!『豚肉の生姜焼き』!本日の夕食完成!」

 

スマフォで写真を取り、何時ものように「いただきます」からの合掌。キャベツの繊切りを、豚肉の生姜焼きでクルリと巻いて食べ、白米を頬張りながら咀嚼し、野菜とシラスのピリ辛焼き和えを挟み、スープと牛乳で口を直し。

 

そうして15分の食事を終えて、全て食べきって「御馳走様でした」と合掌し、シンクで食器を洗い終えて専用のタオルで吹き上げ、元の位置に戻し。さてシャワーを浴びて二日後のフィフティシア行軍に備え、今日は寝るとしようかとしていた時、突如スマフォが鳴り響く。

 

一体誰からかとスマフォの画面を覗いて見れば、其処には『永遠』の二文字。まだ一週間経ってないのに、電話が掛かってくるとは、一体何を考えてるんだと梓は考えて。だが電話に出なかったなら、彼女がまた面倒な拗らせ方をすると察し、彼は電話に出た。

 

「もしもし」

『お。やぁやぁ、あーくん♪シャンフロ以来だね』

「おぉ、トワか。毎週の火曜日の22:30に電話掛けるとか言っておいて、随分なフライング(・・・・・)をするってのはどーいうこっちゃ?」

『んふふふふ………♪君の声を聴きたくなっちゃったから』

 

永遠の喜色の声が電波として伝わり、梓はシャンフロでのハッピーバースデーとフルーツホールケーキが、相当御気に召したと考えられる。

 

『というのは『本音』でさ、あーくん。私の『本題』は別に有るんだよね?………最大火力(アタックホルダー)ちゃんが言ってた()、君はどう考える?』

 

声が真剣な物に変わる。梓は少々考えて、己の考えを永遠へ伝えた。

 

「………サイガ-0さんの『話』、どうも『サンラク』絡みであると見て良い。フィフティシア行軍の話でクラン:旅狼(俺達)……………ではなく『サンラク一人』を名指ししていた事と、『あの話』から察するに、彼(?)は『サンラクとの繋がり(コネクト)構築を目指している』━━━━━そんな気がした」

『………へぇ?あーくんはそう考えてるんだ?』

「あくまでも『そう感じた』だけで、確信が有る訳じゃ無いからな。………まぁ、公になったら『非常に面倒な事』になりかねない、と俺は見ている」

 

三日後、フィフティシアでの『深淵のクターニッド』に関わる、ユニークシナリオの交渉をしに行かなくてはならないので、可能ならば交渉後に。出来るならばユニークシナリオの後に続く、ユニークシナリオEXの受注後にして貰いたい所だ。

 

『まぁ、あの話は流石にね……。仮に私がクランリーダーでも、アレは私達のクランにとって『鬼札』になるし、同時に『爆弾』にもなる要素。扱い方には注意しないと』

 

旅狼のリーダーとサブリーダーの意見は、サイガ-0の扱いには十分に気を付けねばならない、という見解で一致している。

 

『さて、あーくん。秋津茜ちゃんはまだエイドルトには着いてないらしいから、明日キャリーするのは良いけれど。浮気防止(・・・・)の為に、私も付いて行く事にします』

「浮気って………大袈裟だなぁ、トワ」

『君はちょ~~~………っと眼を離すと、色々やらかしかねないからねぇ?其の防止の為でも有るのだ!』

「解った、解ったから……。ログインして秋津茜に合流したら、連絡入れるから頼むよトワ」

 

フフンと、明らかにドヤ顔しているのが目に浮かびながらも、梓は努めて冷静にやるべき事を確認し。其れから暫くの間、永遠との電話をしたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが梓は知らなかった。此の先で自分達を待っている『出来事』を。

 

シャングリラ・フロンティアというゲームの大きな『転換点(パラダイムシフト)』と成る引き金(・・・)に、自分達の指先が触れていた事を。

 

そして其れが引かれた先で、自分達を待っている運命を、彼等彼女等は想像だにしなかったのだから。

 

 

 

 

 






備える為、話し合い


※次章の骨組み作りの為、二週間程御休みをいただきます。其れと一週間前後を目安に、現在の旅狼に所属しているメンバーのステータス一覧を上げる予定です





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旅狼所属プレイヤーのステータス&軽い紹介



更新です

※第二章終了時点の数値です。あと京極の筋力のステータスが誤りがありましたので、修正しました。理由はレディアント・ソルレイアの装備条件




 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)

 

 

レベル:80

 

 

メイン職業(ジョブ):星駆ける者(スターランナー)

サブ職業(ジョブ):無し(勇者が付いたりする時有り)

 

 

 

体力 130 魔力 50

スタミナ 201

筋力 150 敏捷 160

器用 125 技量 125

耐久力 1051(+1050) 幸運 70

 

 

 

クラン:旅狼(ヴォルフガング)のリーダーで、称号:【最大高度(スカイホルダー)】の現所持者。そして今作の主人公。

 

ステータスはバックパッカーの役割遂行の為、筋力・敏捷・スタミナを中心に振り分け、致命魂の首輪から致命魂の腕輪に代わりながらも、装備し続けて得られたポイントで、耐久以外の数値を伸ばしている。

 

クラン内では現在、素のステータス及びスキルの成長率が随一のプレイヤーであり、主力級スキルの一部が昇華(スタンバイ)の領域に到達した。

 

 

 

 

 

 

PN:サンラク

 

 

レベル:99

 

 

メイン職業(ジョブ):傭兵(二刀流)

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

体力 60 魔力 50

スタミナ 170

筋力 150 敏捷 160

器用 130 技量 125

耐久力 9003(+9002) 幸運 209

 

 

原作主人公であり、旅狼外道衆其の一。リュカオーンとの戦いで善戦を繰り広げて気に入られた結果、半裸の鳥頭となった。おのれリュカオーン。

 

ステータスは敏捷・スタミナ・幸運を中心にした高機動幸運戦士。ペッパーのアドバイスのおかげで、致命魂の首輪に対する理解を得た結果、原作以上のスキル及びステータスを獲得した。

 

最近は猫妖精(ケット・シー)の国・キャッツェリアの宝石匠(ジュエラー)、ダルターニャが製作したアクセサリー達を使いこなすべく、蠍との戦いに明け暮れている。

 

 

 

 

 

PN:アーサー・ペンシルゴン

 

 

レベル:99

 

 

メイン職業(ジョブ):魔槍使い

サブ職業(ジョブ):勇者

 

 

 

体力 300(+130) 魔力 150(+50)

スタミナ 110

筋力 110 敏捷 110

器用 210(+110) 技量 100

耐久力 200(+30) 幸運 100

 

 

クラン:旅狼のサブリーダーで外道衆其の二、そしてペッパーに恋する今作のヒロインにして、ペッパーを「あーくん」呼びしては、周囲に独占欲を発揮しまくるヤベー奴。

 

ステータスは体力・耐久・器用を中心にした、前衛及びサポータータイプで、様々なアイテムと舌戦にフィールドの仕様を利用した搦め手と、時間を掛けて構築した策謀を十八番とする。

 

最近、ペッパーの電話番号及び住んでいる場所の情報を手にして、着々と計画を進行させているらしく……?

 

 

 

 

 

PN:オイカッツォ

 

 

レベル:68

 

 

メイン職業(ジョブ):破壊者(デストロイヤー)

サブ職業(ジョブ):色々、其の都度変わる

 

 

 

体力 170 魔力 70

スタミナ 60

筋力 80 敏捷 70

器用 71(+11) 技量 60

耐久力 216(+60) 幸運 50

 

 

旅狼外道衆其の三にして、総受けの烙印を押されたプロゲーマー。リアルがユニーク連発しまくりで其の振り戻しからか、シャンフロではユニークとは縁遠く、他外道衆からユニーク自発出来ないマンの異名を受ける。

 

ステータスは体力・耐久を主体に振り分け、残りは程好く分配し、職業との兼ね合いによるベストマッチを模索中。

 

此処最近、全一がマンションの隣に引っ越してきたり、プロチームの同僚が隣に引っ越してきたりと、現実のゴタゴタが加速しまくっている。

 

 

 

 

 

 

 

PN:京極(キョウアルティメット)

 

 

レベル:99

 

 

 

メイン職業(ジョブ):剣豪

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

 

体力 120(+50) 魔力 30

スタミナ 40

筋力 85(+25) 敏捷 70

器用 100(+20) 技量 140

耐久力 240(+200) 幸運 40

 

 

旅狼所属の現役PK、外道衆其の四。剣一本で何とかなると信じる時代錯誤の剣格であり、名前が長いという理由からサンラクには『京ティメット』と呼ばれている。

 

ステータスは器用と技量を主体に振り分けた技量剣士であり、剣士系必須となる強化(バフ)と刀系統スキル、現実で培った剣道を絡めた戦いが得意。

 

念願だった不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)窮速走覇(トップガン)をペッパーの協力を経て入手した後は、此のスキルの切り方や使い方に対する理解を深めつつ、他の不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)の捜索を始めたらしい。

 

 

 

 

PN:秋津茜(アキツアカネ)

 

 

レベル:40

 

 

 

メイン職業(ジョブ):忍者

サブ職業(ジョブ):剣士(短剣使い)

 

 

 

体力 30 魔力 70(+20)

スタミナ 60

筋力 21 敏捷 40

器用 30 技量 20

耐久力 20(+10) 幸運 30

 

 

旅狼に新規加入したニューフェイスにして、外道衆全員を纏めて浄化する、光属性の権化たる少女。便秘のドラゴンフライであり、ペッパーとサンラクがユニークシナリオを秘匿する為に誘った所、即答して加わる事となった。

 

ステータスは魔力・スタミナ・敏捷を中心に、他をバランス良く振った前衛魔法職であり、致命魂の首輪を装着している為に更なるステータス向上が見込まれる。

 

リアルラックカンスト+物欲センサー完全無効化という、ゲーマー必須クラスの要素を持ち合わせ、其の成長性は留まる事を知らない。

 

 

 

 

 

 







彼等彼女等のステータス

Q,サンラクだけ耐久おかしくない?
A,金晶独蠍の腰装備をビィラックに作って貰った。名前が金晶腰衣(エクザクロス.ベルト)、月光に当たっている間、体力とMPにリジェネ効果付与





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夜闇を越えて、深淵の街を駆け、煌星達は瞬き輝く
来るはアップデート、変わるは世界




新章開幕




クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)との会談から一夜。梅雨本番となった雨模様の中、梓は大学での講義の後のコンビニバイトに勤しんでいた。

 

「梓くーん、雑誌の入れ替え頼むよー」

「はーい!」

 

今週号の少年誌や青年誌を始め、週刊文集やグルメ情報、そして天音 永遠が大々的に表紙を飾る、ティーン向けファッション雑誌等を、梓は古い物を最新の物へと変えていく中、一冊の雑誌に眼が止まった。

 

タイトルは『ゲーマーズ最前線(フロントライン)』━━━━話題のゲームに関する最新情報が掲載されている此の雑誌は、梓自身もゲーム情報収集時に世話になっている。其のゲーム雑誌にはデカデカと『シャングリラ・フロンティア最新情報』と書かれ、其の下には『神ゲー・シャンフロ、大型アップデート迫る!』の文字が在る。

 

「………あぁ、そう言えば今日の『ツウィッター』のトレンドにも載ってたっけか」

 

 

 

 

 

『6/30。シャングリラ・フロンティアは、大型アップデートを行います』

 

 

 

 

 

今日の0:00、日付変更と同時にシャンフロのゲーム内を含めた、メディア各所にも伝達された一大ビックニュース。トレンドに大きな影響を与えた、運営からの公式発表。

 

要約すると、ワールドストーリーが『第二段階』に進んだ事で、今の大陸の王国…………『エインヴルス王国』が此迄調査を続けていた、フィフティシアから先の海たるフィールド・断絶(だんぜつ)大海(たいかい)の先で『新大陸』を発見したらしく、其処の調査に乗り出す船を造っている。

 

其れがアップデートの日に『完成』し、先見隊として百人のプレイヤーをフィフティシアに駐在する者の中から、抽選・当選者を船で派遣するらしい。其の船も今は一隻だけだが、追加で二隻出来るらしく、急ピッチで造船しているのだとか。

 

そして其の新大陸の何処かに、多くのプレイヤーが待ち望んだ『レベルキャップ解放』を可能にする祭壇が在り、レベル99で足止めを食らい続けて、レベルダウンビルドを行っていたプレイヤー達からは、歓喜の声が上がる程だった。

 

ただ、其のキャップ解放にはレベル99(カンスト)に加えて、自身のレベルの隣に『Extend』なる表記が記載されてなくては出来ないらしく、二日後の小型アップデートで、条件達成プレイヤーには全員漏れ無く、ステータス画面に表示される『仕様変更』を行う━━━━━との事。

 

他にも新職業として『ライダー』が追加されたり、プレイヤーの所持しているスキル・魔法のUIが見易くなったり、プレイヤーが振り分けたステータスに対する恩恵等、変更色々が行われたりするのだとか。

 

「店長、バイトが終わったらゲーマーズ最前線を適切価格で購入しても良いですか?」

「おぉ、良いよー。梓君もシャンフロ興味有る感じー?」

「そうですね、実際プレイしてるので」

「解った。着替え終わったら、レジに持ってきてね」

 

「了解です」と言いつつ、梓は己の仕事を着々とこなし、午後四時にバイトを終えて、ゲーマーズ最前線を購入。帰宅してから熟読する事として、スーパーに向かう。週に一度のタイムセールという、戦場にて安売り食材確保という戦果を手にするべく、向かうのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後六時過ぎ。スーパーでタイムセールという戦場を越えて、雨脚が一段と強くなる中、靴やジーンズが若干濡れながらも、住居たるアパートへ帰って来た梓は、リュックサックの中の雑誌とマイバックの中の食材が濡れてないのを確認して、ホッと一息付いて。

 

冷蔵庫に食材を収納し、手洗いと嗽にシャワーを行い、本日の夕食に焼きおにぎりを作り、10分で完食。食器と調理用具の洗浄して、満を持して購入したゲーマーズ最前線を読み始め、そして幾つか解った事が有る。

 

先ず各種ステータスポイントを振った後の恩恵だが、筋力なら持っている武器の必要ステータスを『2倍以上』上回っていれば、ダメージ上昇補正が掛かり。

 

技量が優れているなら、武器やアイテムの使い方、及びクリティカルに対する補正が入り。

 

スタミナは一定値以上保有しているなら、軽いアクションでの減少が少なくなる等、所謂『極振り』型のプレイヤーに対する恩恵がデカい物だった。

 

特に梓が注目したのが『食い縛り』の発動条件の変更、其れは『幸運値が50以上かつ、自傷及び反動ダメージに限り、確定で体力を1にします』というもの。此れによって、ドロップ率とクリティカル発生に関わっていた幸運が、益々意味を持つようになったと言っても過言では無い。

 

何より甦機装(リ.レガシーウェポン)風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)の必殺技たる超排撃(リジェクト)の反動ダメージを受けても、体力をギリギリ1残して耐えられるようになるので、戦線離脱を防げるのはデカい。

 

「さて、そろそろログインしようか」

 

午後八時が迫る中、布団を敷き、玄関の鍵を掛け、水分補給にトイレの済まし、ヘッドギア型のVR機材のチェックを終えて。梓はEメールアプリで永遠にログインする事を伝えた後、神ゲーたるシャングリラ・フロンティアの世界へ、ペッパーとなって飛び込むのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパーはん、こんばんわなのさ」

「やぁ、アイトゥイル。こんばんわ」

「おぉ、ペッパー殿。目覚められたか」

「あ、ペッパーさん!こんばんわですわ!」

 

兎御殿・休憩室のベッドにて覚醒したペッパーを待っていたのは、コンビを組んでいる黒毛のヴォーパルバニーのアイトゥイルと、秋津茜(アキツアカネ)のパートナーの白毛武者ヴォーパルバニーたるシークルゥ、そしてサンラクの付き兎たるエムルだった。

 

「あれ、シークルゥさんにエムルさん。どうして此処に?」

「ウム。拙者、秋津茜殿が起きるのを待っているので御座る」

「サンラクさん、何時もの『友達』の家に遊びに行くと言って、私は御留守番ですわ」

 

どうやら秋津茜はログアウト中であり、シークルゥは現在待機。サンラクは水晶巣崖で素材や宝石集めに行ったらしく、残されたエムルはやれやれといった表情をしていた。

 

取り敢えずベッドから立ち、ペッパーは拡張したスロットに久方振りの『旅人のマント』を装着。現状五つ解放されていたアクセサリー装備可能分を全て埋めた所で、ベッドに構成される人影『二つ』。

 

片や何時見ても変態ファッションな半裸の鳥頭・サンラク、片や狐の面を頭に乗せた橙色の忍者装束の少女・秋津茜。

 

「あ、サンラクさん。今日は随分速く戻ってきましたわね?」

「そりゃ封雷の撃鉄(レビン・トリガー)の威力を、マブダチ相手に試してたからなぁ。まぁ、最終的には金蠍の甲殻をひッぺがしたが、ぶん殴られて水晶柱のシミになったけど」

「シークルゥさん、来ましたよー!」

「秋津茜殿!待ちわびて居ったで御座る!」

 

各々のパートナーバニーと合流した所で、ペッパーは秋津茜に言う。

 

「秋津茜、此れからペンシルゴンと一緒にサードレマから『千紫万紅(せんしばんこう)樹海窟(じゅかいくつ)』と『奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)』を越えて、エイドルトまでキャリーする。準備は良い?」

「はい!よろしくお願いします、ペッパーさん!」

 

元気よく返事をして、ペッパーと秋津茜はペンシルゴンが待つサードレマに行く為、アイトゥイルが開いたサードレマへのゲートを越えて。

 

サンラクはアクセサリーを使い熟すべく、再びマブダチの元へ向かう為にエムルにエイドルトへのゲートを開いて貰ったのだった………。

 

 

 

 






いざ、踏破へ




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勇者と魔王と蜻蛉が行くは、命煌めく樹海窟



キャリー開始




「やぁやぁ、あーくん。そして秋津茜ちゃん。昨日振りだね」

「はい、ペンシルゴンさん!今日はペッパーさんと一緒にエイドルトまで、よろしくお願いします!」

 

シャンフロ第3の街・サードレマ、アイトゥイルの開いたゲートを越えて、裏路地からエンハンス商会・サードレマ露店通り支部近くにやって来たペッパーと秋津茜は、其処でペンシルゴンと合流し。

 

狐の面を掛けながらも、視線と眩しい雰囲気で頭を下げる秋津茜に、ペンシルゴンが悶える様子を見ながら、今日中にやる事をペッパーは確認する。

 

「ペンシルゴン、秋津茜。千紫万紅の樹海窟、そして奥古来魂の渓谷の2エリアを今夜中に越え、エイドルトまで向かう。あまり時間は無いし、早速移動を開始しよう」

「はい!」

「ん、じゃあ行こうか?あーくん♪」

「…………ツッコミはしないぞ、ペンシルゴン」

「ペッパーさん、もしかしてペンシルゴンさんと『お付き合い』しているんですか!」

「まぁ、色々……な」

「フフ……♪」

 

遠い目をするペッパーと、乙女の顔をしたペンシルゴンに、秋津茜は目を輝かせて爛漫な笑顔になり。三人と二羽は千紫万紅の樹海窟へ向けて、ひた走るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーくんが旅人のマントを着けてると、昔の事を思い出すなぁ~………んふふ♪」

「まぁ、胴装備は隔て刃に旅人のマントは昔着ていた奴だからなぁ……マントに関してはグレートアップさせたいが」

「ペッパーさん、なんかスーパーヒーローみたいな感じがします!」

 

木々が生い茂り樹木が外界の空を隔絶し、薄暗く光灯る苔とキノコが灯り代わりとなるエリアを、ペッパー・ペンシルゴン・秋津茜と、旅人のマントの中に隠れたアイトゥイルに、箱へ擬態したシークルゥは突き進み続けていた。

 

レベルカンストに到達しているペンシルゴンも其れなりに敏捷も有るので速いが、何よりもペッパーの右手に刻まれたリュカオーンの呪い(マーキング)と、秋津茜の頭部に焼き付いたジークヴルムの呪い(マーキング)の二重に放つ気配によって、道中の(エネミー)は我先にと逃げ去り、秋津茜を狙おうとする昆虫達も自身よりレベルの高いペッパーによって、手が出せずに逃げて行く。

 

「まぁ、こうなるよな」

「あーくんの右手に着いた呪いの影響、此のエリアのモンスターじゃ逃げ出しちゃうか」

「でも、凄くスムーズですね!此のままエリ……えっと『エリザベス』に突貫しますか!?」

「其れ女王様だよ………『エリアボス』だね、秋津茜」

「あ、其れです!」

「フフフ……面白いね、秋津茜ちゃん」

 

樹海を駆け抜け、最短でエリアボスに辿り着く為のルートを知っているペッパーは、軽い身のこなしで走って行き。其の後をペンシルゴンと秋津茜が追い掛ける。

 

「其れにしても秋津茜ちゃんは、随分長く走ってるね。ステータスはどんな感じにしてるの?」

「私ですか?職業は『忍者』で、ステータスはマナとスタミナと敏捷に多めに振った、機動力重視です!元々は『盗賊』だったんですが、職業ギルドに行ったら忍者に成れるクエストを受けて、忍者に成れました!」

 

シャングリラ・フロンティアには特定の条件を満たす事で、上位職や隠し職業(ジョブ)に派生進化する職種が幾つか有る。其の中でも『忍者』は隠し職業としての認知度は高いものの、とある理由(・・・・・)からシャンフロ内では『ハズレ職業』なる不名誉な烙印を押されているのだとか。

 

「お、着いたよ。皆」

 

ペッパーの声、其の視線の先にはエリアボス・クラウンスパイダーが待つ、巨大な枯木が在った。そして暗闇の中、此方を見つめる赤い複眼が幾つも蠢き、自分達を見定めている。

 

「さて……此れは俺が空中走って、地上に落とすかな?」

「あの高さまで行けば良いんですね!シークルゥさん、行きますよ!」

「秋津茜殿!?蜘蛛の糸の対策は、一体どうするで御座るか!?」

「え、箱が喋った!?」

「取り敢えず秋津茜はストップ」

 

走り出さんとした秋津茜に、箱へ擬態していたシークルゥが声を上げ。其の声にペンシルゴンが反応して、ペッパーが秋津茜を止め。そして彼は此のゲームの先輩として、彼女にアドバイスを送る。

 

「策無しの突撃も良いが、少なくともフィールドをよく見て攻略するのは大事だ」

 

そして彼は今のフィールドの状態、夜の時間帯を含めた上での攻略指南を伝えた。

 

「エネミーやエリアボスとの戦いは、常に『自分が得意とする領域へ如何に相手を引き摺り込む』かが、鍵を握っているんだ。秋津茜、君の『持ち味』は何がある?」

「持ち味、ですか?」

「そう、持ち味だ。もっと言うなら『必殺技』………其れで敵を倒せると思う状態に、自分と相手を持っていく事。其れを意識するだけでも、見える物が沢山有る」

 

ペッパーからのアドバイスを受け、秋津茜は少し考え。そして何か閃いたのか「やってみます!」と言い。彼女が「シークルゥさん!」と叫べば、背中に背負った箱に擬態していたシークルゥが彼女の隣に立った。

 

「白毛のヴォーパルバニー!?」

「はい!パートナーのシークルゥさんです!」

「ウム、よろしくで御座る」

 

赤甲冑に身を包む白毛の兎に、ペンシルゴンも目を見開いて。そして秋津茜とシークルゥのコンビを連れて、一同はクラウンスパイダーの住まう枯木の中へと入る。

 

「行きます!」

 

秋津茜がフィールドを見ながら走り出し、上空からは落下物が地上に向けて飛来する音が聞こえる。

 

「あーくん!やっぱり暗闇で視認性が悪いね、明るくした方が良い?」

「だな。秋津茜!此のフィールドを明るくしてみるから、其の中で君の描く勝利の形を見出だしてみてくれ!」

「はい!やってみます!」

「アイトゥイル、酔息吹の準備を!」

「任されたのさ!」

 

インベントリから取り出し、握り締めるは投擲玉:炸油。強く握った事で油の匂いが、ペッパーの肩に乗るアイトゥイルの鼻に届き、彼女も瓢箪水筒から酒を口に含み。ペッパーが豪速球投擲スキル『アドヴェイン・スロー』で投げた瞬間、阿吽の呼吸で繰り出した酔息吹が炸油を直撃。

 

舞い上がり昇る炎の柱が、枯木の内側を灼熱と灯火で照らし出し、其の光の中で秋津茜は木の内縁に、人が通れるだけの足場を発見するに至り。

 

「シークルゥさん、登れる場所を見付けました!彼処を駆け上がって上まで行きます!」

「援護するで御座る!」

 

シークルゥを頭に乗せながら、一艘飛び起動と共に内縁へ跳躍し、秋津茜が最上部をクラウンスパイダー目掛けて突撃を敢行。ペッパーとペンシルゴン、アイトゥイルが下でヘイトを集めている隙に、秋津茜はシークルゥと共に自身の足音や走行音を消す『忍者職業(ジョブ)スキル』の『音無足(オトナシアシ)』で駆け上がり、途中の蜘蛛の糸はシークルゥが切り裂き、彼女の道を作り出す。

 

そして一人と一羽は、遂にクラウンスパイダーの近くまで辿り着いた。

 

「やりますよ……『刃隠心得(はがくれこころえ)奥義(おうぎ)』!」

 

狐の面を上げ、現実の素顔を其のまま(・・・・・・・・・・)アバターとした顔を露にしながらも、両手で『印』を結んだ彼女の目の前に、正四方形の紋章が現れる。

 

隠し職業・忍者は、クエストを終える事で複数種の奥義を記した巻物から『一つ』を、修行を課すネームドNPCからランダムで与えられるが、其の奥義は当たり外れが激しく、リセットマラソンこと通称『リセマラ』も不可避な一発勝負の中、秋津茜は見事に『大当たり』を引き当てた。

 

「すぅぅぅぅぅぅぅ………『竜威吹(リュウイブキ)』!!!ッ━━━━ワァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

『刃隠心得・奥義 竜威吹』━━━━━━━其れが秋津茜が修行クエストを終えて、与えられた巻物から習得した此の技は、プレイヤーの肺活量(スタミナ)・MPの総量に依存するものの、其の能力は『自身の記憶に残るドラゴンのブレスを模倣』するという、忍者の秘奥義である。

 

シャングリラ・フロンティアを初めて、秋津茜がプレイした時間は一ヶ月にも満たず、そして出逢ったドラゴンは『たった一匹しか居ない』。

 

其のたった一匹のドラゴンは、七つの最強種(ユニークモンスター)が一角に座する、天覇のジークヴルム。己の顔に強者たる呪い(マーキング)を刻み付けた、金色の龍皇。秋津茜の模倣した其のブレスは、本物の物とは天と地程の圧倒的に掛け離れた物に過ぎない。

 

だが、其のブレスは単純なドラゴンの火炎放射とは、一線を画す『極太のレーザー砲撃』。其れこそ『燃え易い蜘蛛の糸』・『炎属性弱点のエリアボス』・『ヘイトが自身に向いていない至近距離』で繰り出したなら。

 

『ギジャ!!?!??!』

「ワァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

弧を描きながら凪払われた一閃が、枯木に張った巣ごとクラウンスパイダーの頭胸部と腹部を、真っ二つに焼き斬り断ち。

 

「おわっ!?」

「わぁっ!?」

「ほやぁ!?」

 

焼き斬れた半身が地面に叩き落とされ、クラウンスパイダーが落下死によって、其の身を構築するポリゴンが爆発四散する。

 

「ペッパーさーーーーーーん!ペンシルゴンさーーーーーーん!やりましたよーーーーーー!」

 

そして上から、秋津茜の元気な声が木霊して来て。ペッパーとペンシルゴンは互いに顔を見合いながら、こう思わざるを得なかった。

 

 

もしかして自分達は、とんでもないプレイヤーを戦力に引き込んだのではないか?━━━━━と。

 

 

暫くして内縁を使い、秋津茜が下まで戻って来たので、よくやったなと褒めたりしながら、三人と二羽はフォスフォシエに到着したのだった………。

 

 

 

 






レーザーブッパ少女、秋津茜




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駆け走る者達は瘴気満ちる谷を越える



走れ、走れ、走れ




「いやぁ、まさか極太レーザー砲撃が切札だったとはねぇ………。因みに何で顔を狐のお面で隠してるの?」

「はい!『ジークヴルムさんのブレス攻撃』を模倣した、私の切札なんです!ペッパーさんのお陰で、何か『掴めた』気がします!あ、実はジークヴルムさんと戦って逆鱗に攻撃したら焼き払われて、頭に『呪い』が付いてたんです!」

「そ、そうなんだ………」

 

フォスフォシエを越えて、此処は奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)。ペッパーと秋津茜の二人が放つ、最強種の刻んだ呪い(マーキング)によって瘴気とワイバーンゾンビを退けながら、前へ前へと進んでいく一向は秋津茜の持つ切札の竜息吹の威力に、遠い目をしていた。

 

(模倣したとはいえ、アレは火焔放射じゃなくて極太のレーザー砲撃じゃん………ジークヴルムさんのブレスって、アレよりも威力有るの?マジかよ………。じゃあ、光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)のFCBの中にあるレーザー砲撃は、アレより威力有るのか……?えぇ…………???)

 

ペッパーは自身の持ち物にして、天覇のジークヴルムを模倣した一式装備の全種装備時限定能力に有る、レーザー砲撃の項目を思い出して益々遠い目をし。

 

(秋津茜ちゃんのパートナー、白毛のヴォーパルバニーのシークルゥ……。あーくんと一緒に居るヴォーパルバニーのアイトゥイルちゃん……。サンラク君と行動を共にするヴォーパルバニーのエムルちゃん………。もしかして『そういう事』なのかな?)

 

ペッパーの右手に付き、今は自分がオススメしたフィンガーレスグローブを付けた事で隠れている、リュカオーンの呪いを。

 

秋津茜が狐面の下に隠している、ジークヴルムの呪いを。

 

そしてペッパーと同じく、しかし胴体と脚の両方にリュカオーンの呪いを受けた事で、鳥頭半裸の変態スタイルになったサンラクを思い浮かべ、ペンシルゴンは散らばったヒントから、一つの『当たり』を付け始めた。

 

(サンラク君の言ってた、ユニークシナリオの発生条件……致命(ヴォーパル)の名を冠する武器……。確か何処かのヴォーパルバニーが、武器として『槍』を持ってた筈………。エイドルトで解散して、探してみるかな?)

 

誰にも気付かれず、小さく微笑んだペンシルゴンは、念密に作戦を頭の中で練り込み始め。其の道中で現れた喪失骸将(ジェネラルデュラハン)を、ペッパーがアドバイスする中、秋津茜とシークルゥのコンビが十五分の時間を費やすも、何とか討伐するに至り。

 

致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)を装備中の身で在りながらレベルアップを果たすと同時に、喪失骸将の持ち物であった『喪失骸将(ジェネラルデュラハン)の斬首剣』を獲得するという、幸運を発揮して。

 

そして三人と二羽は此のエリアで瘴気が最も濃い場所、即ち瘴気のドームと其の中に居座るエリアボス・歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)が居る場所まで辿り着いた。

 

「さて……アイトゥイル、前回やった『アレ』をもう一回頼めるか?」

「任されたのさ、直ぐ準備するさね」

「前回やった………」

「…………アレ?」

 

取り出しますは焰将軍(ほむらしょうぐん)両刃長剣(ロングソード)・投擲玉:炸油・聖水、ペッパーが炸油を両刃長剣に塗り着けている間に、アイトゥイルが酒の入った瓢箪水筒に聖水を投入してシェイクし。

 

「さぁ皆、討伐に行こう!」

 

そんな奇妙な行動を取る中、一人と一羽は準備万端と言わんばかりに、二人と一羽を連れてドームに突入。其処にはドス黒い瘴気を黒いドレスの如く、其の身に纏った髑髏のエリアボスが居た。

 

「アイトゥイル!」

「はいさ!」

 

戦闘開始と同時、油を縫った両刃長剣に黒兎の吹き放った酔伊吹が直撃。炎熱耐性を持つ赤い刀芯が燃え上がり、暗闇という名の瘴気の中で輝々と燃え盛り、松明の如く此の場所を照らし出す。

 

「出来た……『聖妖炎両刃長剣(カオスバーン・ロングソード)!』

 

剣人闘魂(サムライ・ハート)仙水開蓮(せんすいかいれん)三天無双(さんてんむそう)天壱夢鳳(てんいむほう)の点火。瘴骨魔がドス黒の瘴気を放つも、ペッパーが他のメンバーの前に立ちながら、右手を翳して呪いによって瘴気を退け弾き、守り抜いて。

 

「駆けて、切り裂き、一撃で………倒す!」

 

神謳万雷(しんおうばんらい)による雷の如く爆ぜる速度と共に、歌う瘴骨魔との距離を一瞬で詰め切り。聖水・妖炎・首に対する特効武器、そして繰り出す絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)】と速刃(そくじん)塵晴(ちりはらし)】で迷う事も無く、幕末で研鑽し積み重ねた斬首一閃によって、髑髏の首を一撃必殺で切り落とした。

 

「戦ってくださり、ありがとうございました」

 

剣に付いた炎を薙ぎ払って鎮火した刹那、瘴骨魔を構成するポリゴンば爆発四散。同時に瘴気のドームも消え去って戦闘が終了し、瘴骨魔の居た場所には確定ドロップアイテムが一つ転がった。

 

「ペッパーさーん!凄いですー!」

「一刀必殺、御見事で御座る。ペッパー殿」

「いやぁ、あーくん。君も秋津茜ちゃんに劣らず凄いね………エリアボスを一撃必殺とは」

 

アイテムを拾って駆け足合流してきた秋津茜とシークルゥ。そんな秋津茜を見ながら、君も人の事言えない火力持ちじゃんと言わんばかりに、ペンシルゴンがアイテムを拾いながら言う。

 

「瘴骨魔自身、体力が他のエリアボスより低く設定されてるのと、対アンデット+部位特効武器+武器スキルを組み合わせれば、手数は其処まで掛からないからな」

 

エリアボスのドロップアイテムをどうするか話し合った結果、秋津茜に渡す事になったのだが、彼女から「一撃必殺で撃滅に持っていった、ペッパーさんに受け取って欲しいです!」と言われ、ペンシルゴンが秋津茜をジッ………と見つめるも、ペッパーが宥める形で落ち着き。

 

ペッパーはアイトゥイルをマントの中に隠し、秋津茜はシークルゥを箱に擬態させて背中に背負い、三人と二羽は目的地のエイドルトへ到着したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンフロ第8の街、エイドルト。

 

奥古来魂の渓谷の真上に在る、水晶巣崖(すいしょうそうがい)から溢れた水晶達によって、研磨・加工・研究によって発達した此の街は、ペッパーが御世話になっている『エンハンス商会』の本社が在る街でもある。

 

「ペッパーさん!ペンシルゴンさん!今日はありがとうございました!」

「裏路地だし、他のプレイヤーにも聞こえる可能性が有るから、静かにしようね秋津茜ちゃん」

「ユニーク狙いの連中も居るからな……出来るだけ隠密にな」

「あ、はい……!今日は本当にありがとうございました!お疲れ様でした!」

 

ペコリと御辞儀し、秋津茜と箱に擬態するシークルゥは裏路地の闇の中へ消えていく。おそらくラビッツとエイドルトの間を繋ぐ為、ランドマークを更新する為だろう。

 

「さてと……あーくん、私も此れから『やらないといけない事』が出来たから、行くね?」

「やらないといけない事?」

「うん、ちょっと時間が掛かる感じ。其れと電話だけど、此の間のフライングもあるから『来週』に回す事にするから。ちゃんと出てね?約束だよ?」

「解った解った、ちゃんと出るよトワ」

「ん、よろしい」

 

そう言ってペンシルゴンはペッパーと別れて別行動を開始し、周囲に誰も居ない事を確認したペッパーは、アイトゥイルを連れて別の場所にゲートを開いて貰う。

 

「アイトゥイル、此れから俺はビィラックさんのクエストを済ませる為に、水晶巣崖に居る金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)を討伐しに行ってくる」

「金晶独蠍さね……とっても強力な相手なのさ、十分に注意して頑張ってなのさ」

「あぁ。五時間以内に金蠍を仕留めて、此処に戻ってこれるように挑戦してみるよ」

 

アイトゥイルとパーティーを解消し、ペッパーは単身で水晶巣崖に向かうべく、準備に入る。其の地に住まう孤高なる金蠍を、己の力で攻略する為に………。

 

 

 

 

 






金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)の討伐へ





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蒼天を舞う勇者、黄金の蠍に立ち向かう



月下に煌めく宝を探して




エイドルトにて粗方の準備を整えたペッパーは、単身奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)へと戻り、満ちる瘴気を右手の呪い(マーキング)で弾きながら、ねっとりした気味の悪い岩肌の谷を登り始めていた。

 

「さぁて、彼処に行くのはレベル40台以来かぁ………懐かしい」

 

ペンシルゴンが選んだフィンガーレスグローブによって、手に関するアクション時の補正が若干上がり、ペッパーはロッククライミングをするかのように、軽々と岩肌を登り続けていき、瘴気の濃霧を突き抜けて懐かしき水晶のフィールドへと戻って来たのである。

 

「何時見ても綺麗な場所だ………夜だし、月光も栄えてるし、すっごい幻想的」

 

空気が澄んでいる上、現実世界とは違って街灯が無い事も相俟って、月光と星明かりを遮る物が雲以外無く、水晶の輝きは曇る事も無い。正に神秘の光景である。

 

「っとと、見取れてる場合じゃなかった。本命の金蠍を早いとこ探さなくちゃな」

 

ビィラックは言った。弩弓剣(アーチブレイド)を造るには、三体の強者が必要だと。そして其の内の一体は、月下の水晶を闊歩する孤高なる金蠍だと。

サンラクに聞いた事で確定した、水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の変異体らしき存在こそが、金蠍こと金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)だと。

 

「金蠍も水晶蠍と同じ特性なら、音を立てたら出てくる危険性が高いからな。久し振りに『アレ』を装着するか」

 

インベントリから取り出すは、天覇のジークヴルムを模倣した一式装備・光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)。頭から始まり、胸と腰と脚に次々と装着し、最後に籠脚(ガンドレッグ)を装備。起動の合言葉たる『目覚めよ(Wake up)』と唱えるや、エネルギーが鎧の隅々まで染み渡り、背面と四肢のユニットが展開・エナジーウイングが形成される。

 

「よし、行こう」

 

全種装備時限定能力解放により、無限飛翔が可能となったペッパーはフワリと空中に浮遊し、上空へと舞い上がり。彼は先ず、此の水晶の地雷地帯(フィールド)を観測し始めた。

 

「大小長短太細……足場は最悪、水晶に擬態した水晶群蠍達の突撃圧殺………侵入者を生かして帰すつもり無しだなコリャ」

 

此処で金晶独蠍と戦う場合、先ずは水晶群蠍をどうにかして退かし、一対一(タイマン)状態を作らなくては、環境に邪魔されて戦いの土俵にも立てないだろう。暫く空中に浮遊しながら思考を重ね、ペッパーが出した答えは。

 

「━━━━━先ずは水晶群蠍達を落下させて、フィールドから捌けさせよう」

 

奇しくも其の答えは、嘗て此の地でサンラクがやった作戦と同じ『蠍落とし(スコーピオンフォール)』で。脳内で作戦を構築し、音も無く静かに水晶柱へと着陸したペッパーは、インベントリから『投擲玉:炸音』を取り出し、投擲スキルのアドヴェイン・スローを点火。

 

弾道予測を行って遠くに全力投球し、自身はわざとらしく音を立てながら地面に降り立つや、近辺で擬態していた水晶群蠍が四匹が眠りから覚醒(アクティブ)。水晶を砕きながらペッパーに襲い掛かる。

 

「覚悟しな、水晶群蠍達。あの日に逃げ帰った俺とは、一味も二味も違うって事を見せてやる!」

 

エナジーウイングが煌めき、ペッパーが水晶地帯を低空飛行を開始したと同時に、アドヴェイン・スローで投げていた投擲玉が何処かの水晶柱に直撃して、此のエリア全体を震わせる轟音を鳴らし。

 

其の強大な音が水晶に擬態し眠る、水晶群蠍達を睡眠から叩き起こし、元凶たるペッパー目掛けて襲い掛かった。

 

「さぁ、来い!水晶群蠍!」

 

アサイラムサインで進行ルートを割り出し、金色の鎧を纏う勇者は蠍達を引き連れ、低空飛行で前へ前へと突き進む。前方・左右から襲い掛かる蠍に、じんわりとした冷や汗をかきながらも、目指すは水晶巣崖から瘴気の谷間に続く崖唯一つ。

 

「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

蒼空を舞う勇者が、水晶の地雷地帯を低空飛行で乗り越えて、谷間へと飛び出し。侵入者を追う蠍は崖前で急ブレーキを掛けるも、シャンフロの誇る物理エンジンが成した慣性により、後ろから突撃してきた同胞に押し出される形で次々と落下死の結末を辿っていく。

 

そして何匹かの蠍は、落ちる同胞達を足場にして次々と跳躍するが、ラビッツのヴォーパルコロッセオでレディアント・ソルレイアによる空中戦を幾度も練習し続けたペッパーにとっては、此れを躱わす事は容易であり。

 

水晶群蠍が振るう鋏や針を回避し、物理エンジンからの死刑宣告を受けて、落ちていく彼等を静かに見送っていった。

 

そうして静かになった水晶地帯から、ペッパーは装備を解除。岩肌を伝って瘴気満ちる谷の中に降り、落ちて砕けた水晶群蠍達の亡骸達に合掌後、其の素材を一つ残さずインベントリアに収納して、再び岩肌を素早く登って行く。

 

「此の辺りの水晶群蠍達は、粗方退かした。して御目当ての金晶独蠍は…………!」

 

ヒョコッと水晶の崖から地平を覗けば、閑散とした地雷地帯を闊歩する、一匹の金蠍の姿が。

 

水晶群蠍よりも巨体であり、両鋏や脚に針は更に鋭利かつ攻撃的に進化を遂げ、自分を追い掛けずに水晶へ擬態していた賢い水晶群蠍を見付けては、其の暴力的で荒々しい武器を振るい、捕まえては砕いて捕食し、本能のままに狩りをしている。

 

「アレが金晶独蠍、サンラクが言っていた水晶群蠍の変異体………。そしてビィラックさんが、弩弓剣(アーチブレイド)製作の素材に必要としている、強者の一体か………」

 

水晶群蠍の実力は、ラビッツのユニークシナリオ・実戦的訓練の中で、嫌と言う程味わった。あの硬さ以上ともなれば、討伐するには数時間掛かる。

 

そして何よりも、此れから自分がやろうとしてるのは縛りプレイ(・・・・・)。其れも『格闘・打撃スキルのみ』での、格上相手を討伐するというトチ狂った戦いをしようとしているのだから。

 

「フッ……上等だ」

 

レトロ狩りゲーでもやった、初めて触る武器種でラスボス狩猟の緊張感を思い出しながら、ペッパーは金龍皇装を全種装備として金晶独蠍に声を掛ける。

 

「やぁやぁ、金晶独蠍!俺の金とお前の金!どちらが本物に相応しいか、勝負と行こうぜ!」

 

ペッパーからの宣戦布告をどう受け取ったかは、蠍の心境を知る術を持たない彼には解らない。だが少なくとも、己の狩りを邪魔しに来た『敵』であると金蠍は認識したのだろう。

 

巨体を跳躍しながら鋏を振るって強襲を掛けるが、其の鋏は小さな侵入者の繰り出した『巨大な拳』によって弾かれ、阻まれる。

 

「金蠍、お前を相手にするならば!此の拳を振るうに遜色無し!さぁ、初陣戦だ!思いっきり暴れよう━━━━『風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)』よ!!!」

 

其れは兎の国の若き古匠、ビィラックが作り上げた甦機装(リ.レガシーウェポン)の一つ。颶風の申し子・ティラネードギラファと雷嵐の申し子・カイゼリオンコーカサス、二体の双皇甲虫の素材を用いて神代の技術と織り交ぜ合わせて、現代へ復活させた武器。

 

巨大な左腕となったペッパーと、水晶の地を闊歩する孤高なる金蠍との戦いが、幕を開ける。

 

 

 

 






己の強さを見せ付けよ




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月下に風雷、轟天に覇撃(前編)



双皇の拳 vs 孤高の蠍




水晶地帯に音が鳴る。

 

甲殻と甲殻がぶつかり合う音が響く。

 

「たぁぁぁぁぁ!」

 

拳撃が、脚撃が、金蠍に叩き付けられる。

 

「水晶群蠍よりかは柔らかいが、其れでも硬いのには変わら━━━━━ッお!?」

 

レーザー型の毒液が放たれ、間一髪回避に成功しながらもペッパーは再び至近距離に肉薄し。アガートラムを起動しながら、金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)の頭部を殴り付けて、『三度目』となるヒビを入れることに成功する。

 

「ょしっ!さぁ、取るなら取れよ『回復行動』!其の回復が追い付かないくらいに、殴って蹴りまくってやる!」

 

戦闘開始からおよそ一時間半、ペッパーの挑発を受けながら、金晶独蠍は近辺の水晶柱に跳躍。月光の光を受けながら、頭部に入ったヒビを直しに掛かり。

 

「其の間に尻尾を抉りッ!追撃する!」

 

金龍皇装を纏ったペッパーが夜空を飛び、レディアント・ソルレイアに在るドリルバンテージと共に、連続膝蹴りスキル『グラッセル・ゼイリアス』を金蠍の尻尾の付け根に連続で叩き付けては、水晶と水晶の隙間を穿って穴を広げていく。

 

「お、直ぐに距離を取ってきた。やっぱり一筋縄じゃいかないよな………!」

 

金蠍が距離を取れば、ペッパーが再び肉薄する。そしてペッパーの脳内では、此の戦闘中に得られた情報を元にし、攻略チャートが高速で構築されていく。金晶独蠍と戦った中で、彼が此の金蠍を『戦闘及び継戦能力特化型の水晶群蠍の変異種』という位置付けに収めた要因は幾つか有る。

 

先ずは蠍の主力武器たる『巨大な両鋏』。蟹と同じ甲殻類に属する蠍の其れは、深海の水圧にも耐え抜く彼等とは違って頑強さこそ無いものの、獲物を捕らえる為の道具として用いるなら、十分な硬さと馬力を持ち合わせている。何より金蠍の両鋏(それ)は、水晶蠍達の物とは完全に異なり、切り裂き殺す事に重きを置いた進化を遂げて、下手に受けよう物なら真っ二つに断ち斬られるだけの鋭さを持つ。

 

次に金蠍の全身に纏う『金の甲殻』。実戦的訓練で戦った水晶群蠍とは違い、金晶独蠍の甲殻は若干だが『硬度』を削っており、其の巨体の各所には『僅かな隙間』が出来ている。其の隙間は金蠍を攻略する上で『付け入る隙』でもあるが、同時に金蠍本体の機動力を底上げしており、更には体内の熱を外に逃がす為の放出口としても機能し、熱が籠らない為に動きを阻害しないのだ。

 

そして最後に、蠍型モンスターやエネミーのシンボルたる『鋭利な毒針』。突き刺し・薙ぎ払い・叩き付けの一連のアクションの他にも、金晶独蠍は己の針先から毒液を『放出』してくる。単純な威力に優れた『単発型』、スピードと射程距離では随一の『レーザー型』、攻撃範囲の広さと至近距離はレーアドライヴ・アクセラレートか、裏技(・・)無しでは避けられない『散弾型』の三種類を、其の状況に応じて器用に使い分けてくる。

 

此れだけの文面を見れば、金晶独蠍に対して『コイツどうやって倒すの?』等の声が上がるだろうが、ペッパーは既に勝利へのルートを導き出しつつあった。幾度目かになる金晶独蠍の距離離し、其の尾が『縦横に揺れた』のを彼は見逃さない。

 

「其れ『単発型』の毒液でしょ?」

 

ボン!と飛び出す毒砲弾を回避し、走りながらグラビティゼロを起動。振るわれる鋏で真っ二つになった水晶を足場に、広げたエナジーウイングの加速飛翔で乗り越えて、己の左腕に装着された風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)が、金蠍に振るわれる。

 

指先を『アイスピックの様に束ね』、スタミナの消費量で突発的な加減速や急停止急発進を可能にする、神律燼風(しんりつじんふう)を起動。刹那を弾丸で撃ち抜く射手(ガンナー)が如く、カイゼリオンコーカサスの角を以て作られた指が風と雷を纏いながら、金晶独蠍の右目を『貫手(ぬきて)』の要領で貫き、光を奪う。

 

『ギッギィィィ!?』

「よっしゃ!自己再生は有っても、眼球の回復には時間が掛かるだろう!?」

 

戦いの中でペッパーが気付いたのは、金蠍が毒液を用いた遠距離攻撃をする時に、尻尾の動き方には『差違』が存在している事だった。縦横に揺れれば『単発』・尾が揺れれば『レーザー』・針の根元が揺れれば『散弾』と、一見ランダムに見える遠距離にも、繰り出す前の『予備動作』が在る事に気付き。

 

其の予備動作を軸にして、次に金蠍の至近距離下での攻撃方法を引き出させ、其れを思考に置きつつも敵の動きを『誘発』させながら、少しずつ確実にダメージを蓄積させていく。

 

『ギギギ………!ギィギギギ……!』

「勝利への道筋は、少しずつ。着実に整ってきた………!だが慢心はしない。最後まで気を抜かず、お前を倒すぞ金晶独蠍よ!」

 

戦闘を積み重ね蓄積した風雷エネルギーによって、風雷皇の御手がバチバチとスパークを帯びる。まるで自分の宿した能力を使ってみよと、此方に使用を催促しているかのようで。

 

「此処からギアを上げるぞ、金晶独蠍。付いてこれるなら、付いてきな━━━━━放出せよ(Discharging up)!!!」

 

双皇甲虫の籠手に、風が纏い、雷が迸る。戦いが更なる加速を始める………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甦機装(リ.レガシーウェポン)━━━━其れは生産系(せいさんけい)職業(ジョブ)の一つたる『鍛冶師』の最上位職業:名匠(めいしょう)と、考古学者系統職業の最上位職業と『魔力運用ユニット』の組み合わせる事により、初めて転職が可能になる『隠し職業:古匠(こしょう)』が生産可能とする武器である。

 

通常の武器や防具が、人が獣や龍に『近付く為の物』であるならば、遺機装(レガシーウェポン)甦機装(リ.レガシーウェポン)は獣や龍の力を()が扱えるように、『より強く作り変えた』物なのだ。

 

甦機装(リ.レガシーウェポン)ビィラック・風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)』━━━━━若き古匠・ビィラックが蒼空(ソラ)を舞う勇者・ペッパーの為に作り上げた、双皇甲虫の籠手は彼等が得意とした『風雷の遠距離攻撃』及び『風雷を纏う物理攻撃』を、人の身で行使する器たる武器。

 

其の権能が一つ『放出せよ(Discharging up)』は、装備者が攻撃・防御・移動・パリィの何れかのアクションを行う度に、風雷エネルギーを蓄積。其のエネルギーを籠手全体に行き渡らせる事により、風属性と雷属性の両属性を纏った巨腕へ変わる。

 

「行くぞ!」

 

鳴り止まぬスパークが螺旋渦巻く風に反射して、まるで左腕だけが『雷雲』を従えているかの様に、金蠍には見えて。しかし、あの腕に『当たらなければ』どうとでもなると結論付けるや、己の尾を叩き付けて跳躍しながら、巨大なる左鋏を振り翳す。

 

左鋏を使ったのは、潰された右目と失った視野を補う為。尾を叩き付けて伸ばしたのは、小さな侵入者が己の死角に回り込んだとしても、速攻で感知出来るようにする為であり。

 

「━━━━━お前なら左目で死角を補うと………『信じていたよ』、金晶独蠍」

 

其れすらも『想定していた』ペッパーが、サキガケルミゴコロによる『未来予測』と幕末で習得した『死角と本命の攻撃視線』を加味した、レーアドライヴ・アクセラレートで瞬間移動し、金蠍の首筋近くに現れて。

 

彼は左拳を開いて掌に、金蠍の首裏を水平チョップを叩き付けた瞬間、金蠍の意識が数瞬ブツリと『断絶』させられた。

 

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】、其れがペッパーが金蠍に使ったスキルであり、所謂『首トン』に由来する技なのだが、此の技は攻撃時にクリティカルが出れば、大型モンスターであっても『数秒間の強制気絶状態が付与される』、とてつもない技である。

 

崩れ、前のめりに倒れていく金蠍。其の巨体の真下に再び現れたペッパーは、武装した己の巨大なる左手を拳と変えて、蠍の首に打撃を打ち込む。

 

重ねるは英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)武頼闘気(ぶらいとうき)戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)の三種の強化(バフ)スキル。

 

衝撃によるダメージを一点に集中させる『コンパクト・イステル』、拳をより硬化させる『フルメタルフィスト』、クリティカル時に筋力を参照とした追加ダメージを加える『渾身衝撃(ストライク・アーデ)』を始め、タイフーンランペイジ・ドュヨンペイル・業魔崩(ごうまくず)し・虎崩擊(こほうげき)・アガートラム。

 

そしてイクス・トリクォスとマーシフルチャージャー、最後に致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】の超々至近距離で繰り出した、渾身窮まる寸勁(すんけい)が金蠍の首に突き刺さり。

 

拳を通じて伝わった、クリティカルの感触と共に其の巨体を殴り飛ばしたのだった。

 

 

 






不屈の意思が拳に宿る




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月下に風雷、轟天に覇撃(後編)



衝撃が穿ち、戦局を動かす




致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】による寸勁(すんけい)の直撃。金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)の首部を覆う水晶甲殻が、一点に凝縮・集束された衝撃によって砕け散り。

 

蠍生史上一番の甚大極まるダメージと、強化(バフ)で高められた腕力で振り抜いた、巨大な左腕を持つ小さな侵入者によって巨体が宙を舞い。其の身には風と雷が纏わり付き、其の黄金の威光は倒れ伏す━━━━━━事は無かった。

 

「マジか!会心の一撃だと思ったんだがな……」

 

どうやら攻撃を受けて強制気絶状態が解除された瞬間(・・)、金晶独蠍は防衛本能か、はたまた強者の直感か、自ら後ろに跳ぶ事によってダメージを軽減、即ち『ダメージコントロール』をしたらしい。

 

格闘漫画でもよく描写として用いられる戦法だが、打撃による衝撃とダメージによる致命傷を避ける上で、簡単に出来る+緊急回避方法として効果的なのでオススメだ。

 

だがどうやら今の一撃は、金晶独蠍の『怒り』を買ったようで。潰された右目から、全身の甲殻という甲殻の隙間から、水晶地帯に陽炎を誤認させる程の蒸気を。月光から得て、其の身に蓄えた魔力の息吹きを業火の如く滾らせ、戦場に放出する金蠍が其処に居た。

 

(おそらく一定以上のダメージを与えるor特定の部位破壊で『怒り状態』へ突入かな?)

 

金晶独蠍の『怒り状態』移行の条件には、金蠍のシンボルたる『針の部位破壊』もしくは『体力が一定以下になった瞬間』より突入する。遠からず正解に辿り着いたペッパーは警戒を続けつつも、此の状態時で如何に格闘戦によるダメージを与えるか、脳内で思考を張り巡らせる。

 

(あの蒸気みたいな魔力……。生半可な威力の打撃や格闘攻撃は届かないだろう。フッ、上等だよ……!其の蒸気をブチ抜いて、拳を届かせてやろうじゃないの!)

 

ゲームの中盤以降のボスが持っていたりする『形態変化』に等しい状態を前にしながらも、ペッパーの意志と闘志は業々と燃え盛り、金蠍の纏う魔力にも負けぬ出力を産み出す。

 

ペッパーは今の己が持つ、強化(バフ)スキルを一部残して点火し、隻眼となった金晶独蠍と相対する。戦いは更なるヒートアップを迎えて、最高潮へと昇っていくのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイスピック貫手によって片目を失い、両目が無事だった時よりも、遠距離攻撃の精度が落ちた事で、金晶独蠍は散弾型の毒液『のみ』を使うようになった。

 

其れだけならまだ良い(・・・・)、問題なのは身体から放出される魔力の蒸気が、近接攻撃を仕掛けようとする此方を『押し出して』邪魔をする。

 

そして打撃・格闘縛りという、トチ狂った戦いをしに行った結果、遠距離攻撃を可能とする『針』の破壊が出来ていない為、常に散弾型の驚異に晒され続ける事が確定。

 

何よりも━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

「だぁぁっ!?くっそ、また『使わされた』!やっぱり先に針を破壊しとくべきだったわ!」

 

溢れる魔力蒸気によって散弾型毒液の軌道が『不規則化』する。雨のように降り注ぎ、何処に落ちるかもランダムになった事で、レーアドライヴ・アクセラレート以外の裏技を使わざるを得なくなった。

 

其の名も『インベントリアエスケープ』。MPを対価として安全圏たる格納空間に逃げ込み、散弾型毒液を遣り過ごす方法で、此れを用いた事で双皇甲虫の遠距離攻撃も対処出来た凄まじい技である。

 

当然ながらMPの消費=マナポーション必須の摂理は変わらず、マナポーションの総量=インベントリアエスケープの残存使用回数に直結しており、トワのバースデーケーキを準備する中で、武器の強化に真化・消費アイテムの補充もやって来たが、現在マナポーションがじわじわと減らされていた。

 

「負けらんねぇ………!」

 

マナポーションを一気飲み、掛け声と共に格納空間から現実空間に其の身を戻した勇者は、金晶独蠍と何度目かの対峙。

 

「やぁ━━━━ってやるぜぇ!」

 

金龍王装が唸りを上げる。左手に乗せた鉄拳を、神代の技術者が造り出した遺産の出力で、機動力を無理矢理補いながら、ペッパーは蒼空を舞い上がり。

 

金蠍が放った散弾型毒液の雨を前に、空中で足を踏み出しながら、摩天来蓬(まてんらいほう)頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)咆進快速(フルスレイドル)の三種点火と、星天秘技(スターアーツ)・ミルキーウェイで高速空中疾走から、金蠍の決殺距離目掛けて下り落ちる。

 

そして使用するは真界観測眼(クォンタムゲイズ)。加速する思考と景色の中、振り翳される金蠍の両鋏の位置を認識しながら、飛来。

 

魔力の蒸気で出来た凄まじい壁を、レディアント・ソルレイアの加速と自らの回転によって砲弾となりながら、其れらを吹き飛ばした事で、風雷の拳が金蠍の頭部を直撃。

 

「だらっ………しゃああああああああああああああ!!!!!」

 

クリティカルの感触。頭部へのダメージによって昏倒状態になる刹那、振るわれた金の尾を寸での所で回避し、急速上昇からの空中一回転、ペッパーが金晶独蠍に再度肉薄。

 

フルフェイスヘルメットで頭部を守られながら、敵やモンスターの身体を『レントゲンの様に透視化』して、自身の視覚として認識可能とするスキル『刻痕栓認視界(リュトラスメル・ウラタナ)』。

 

敵の身体に存在する点穴(てんけつ)を可視化し、最も衝撃が炸裂した瞬間に威力が発揮される場所を知る事が出来る『破魔を示す視覚(テトラミュオン・ナルクト)』の視覚の二重スキル点火。

 

透視化された金晶独蠍の身体の中、胴体に存在する点穴が最も輝いたのを、見定めるや一気に加速を開始する。

 

頭部を殴られた事で昏倒する金蠍の身体目掛けて、金龍王装のエナジーウイングとレディアント・ソルレイアの全力加速を乗せたペッパーは、駄目押しとばかりに巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)を起動し。

 

ガード出来ずに無防備になった胴体に、渾身の拳が突き刺さる。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

バキバキバキバキ!と金色の水晶が軋み、皹割れ、砕けていく。風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)の音声認証機能の一つ『放出せよ(Discharging up)』によって、籠手全体に行き渡った風雷エネルギーが、致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】時のクリティカルヒットを受け、金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)の身体に状態異常:帯雷状態が付与されていた。

 

此の状態異常時に打撃(・・)による攻撃が入った場合、其のダメージは対象の肉質及び性質を『無視する』という特性を持ち、致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)によって鍛えられて、昇華(スタンバイ)の領域に足を踏み入れた巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)の一撃が、金色の水晶の性質を無視して衝撃を。

 

刻痕栓認視界(リュトラスメル・ウラタナ)&破魔を示す視覚(テトラミュオン・ナルクト)で見定められた、最もダメージを徹せる点穴(・・・・・・・・・・・・)をクリティカルで打ち抜き、甲殻を破壊して遂に胴体へ風穴を穿つ。

 

其の一撃と身体を貫かれた衝撃に、金晶独蠍はビクン!一際大きく痙攣して。然れど其の針は最期の命が尽きる刹那まで、小さな侵入者を刺し殺さんとして針先を迫らせるも、後数cmの所で其れは力無く崩れ落ち、金色の身体を構成するポリゴンが崩壊を始めた。

 

「金晶独蠍。水晶群蠍を超えた殺戮能力と遠距離攻撃の種類を器用に分ける知性、そして月光を帯びる事で傷付いた身体を修復する再生能力を宿した、完全無欠の孤高なる蠍よ。今回は俺の勝ちだが、俺は金龍王装を纏っていた。次は此の装備無しで殺り合おう」

 

ペコリと一礼した其の瞬間、金蠍を構成したポリゴンが弾け飛び、爆発四散を遂げて。同時にペッパーの前には、金蠍のドロップアイテムが湯水の如く水晶地帯に放出され、レベルアップを告げるSEが鳴り響き。

 

そして最後に二つのリザルト画面が表示される。

 

 

 

 

『月下の水晶を闊歩する孤高なる金蠍は、強き者により討ち鎮められた』

『ユニーククエスト【覇道を刻みて、武は形を成す】が進行しました』

『残された強者は……………一体』

『修練は此処に結実す!』

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】を習得しました』

 

 

 

 

 






想いを乗せた一撃が、金色の王を討つ




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生きる為に走る、そして走馬灯に駆られる



戦いを終えて




「よっしゃあ!討伐完了だ!」

 

格上相手に単独(ソロ)及び、特定のスキル・攻撃方法を用いて、モンスターを討伐する事によって習得出来る『致命極技』。太刀型習得以降、他の技も手札にしたいと考えていたペッパーは、今日此の日此の瞬間、金晶独蠍の討伐によって習得に漕ぎ着けたのだ。

 

「んんん…………ッ!!いやぁ、本当に強敵だったなぁ………」

 

地面に寝転がり、身体を大の字にしながら、ペッパーは息を吐く。見上げれば漆黒の夜空を星々が彩り、半月一歩手前の月が煌々と輝く絶景が在り、まるで此方の勝利を祝福しているかのよう。

 

「其れにしても、凄いや………」

 

暫くして身体を起こし、彼が視線を向けるのは、討伐した金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)のドロップアイテム。ティラネードギラファ・カイゼリオンコーカサスとの戦いもそうだったが、ソロで挑んで討伐に成功した場合に落とす、モンスターの素材は凄まじい大量具合であり、おそらくだが『戦った時の人数』によって、ドロップアイテムの総数や希少素材の入手の可否に変化が現れるのだろう。

 

「鋏、脚、甲殻、尻尾………。部位破壊をしなかったから、針は出なかったけど……うわ『核』有るじゃん。運が良かった……のかな?」

 

出身補正によって、最高レア素材たる『金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)命晶核(めいしょうかく)』が出た事に驚きながらも、其れを拾い上げてインベントリアに他の素材達も収納し。

 

回収し終えたペッパーは、自身のレベルは一体どうなったのだろうと気になった。何せ水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)数十匹と金晶独蠍の討伐をしたのだ、幾らかレベルアップしているだろうとステータス画面を開き。

 

彼は絶句した。

 

「え…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)

 

 

レベル:96

 

 

メイン職業(ジョブ):星駆ける者(スターランナー)

サブ職業(ジョブ):無し

 

体力 130 魔力 50

スタミナ 201

筋力 150 敏捷 160

器用 125 技量 125

耐久力 70003(FCB+15000) 幸運 70

 

 

FCB:無限飛翔・?????・レーザー砲撃

 

 

残りポイント:112

 

 

装備

 

左:風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)

右:リュカオーンの呪い(マーキング)

両脚:レディアント・ソルレイア(耐久力+5000)

 

 

頭:レディアント・ヘルメイト(耐久力+10000)

胴:レディアント・アーセナル(耐久力+20000)

腰:レディアント・オルサーグ(耐久力+10000)

脚:レディアント・クラリオン(耐久力+10000)

 

 

 

アクセサリー

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

格納鍵(かくのうけん)インベントリア

超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)

・旅人のマント(耐久力+2) 

・革のフィンガーレスグローブ(器用補正:小)

 

 

 

所持金:45,170,900マーニ

 

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

窮速走破(トップガン)

偉風導動(リーガルック)

 

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……始ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

致命武技

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)

致命柔術(ヴォーパルじゅうじゅつ)三日月巴(みかづきともえ)】捌式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ヒゲツオロシ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】改備(あらためぞなえ)

致命闘術(ヴォーパルとうじゅつ)朗月正拳(ろうげつせいけん)】玖式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ゲッカケンセキ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オボロサイダン】

致命掌術(ヴォーパルしょうじゅつ)虧月(きげつ)(せん)】陸式→致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウマゼッカイ】

 

 

 

星天秘技(スターアーツ)

 

 

・ミルキーウェイ

・グラヴィトン・レイ

 

 

 

スキル

 

死神の斬撃(デス・マサカー)死神の斬撃(デス・マサカー)昇華(スタンバイ)

終極刺突(グルガ・ウィズ)終極刺突(グルガ・ウィズ)昇華(スタンバイ)

真界観測眼(クォンタムゲイズ)真界観測眼(クォンタムゲイズ)昇華(スタンバイ)

・ブルズアイ・スロー→ブランチャイズ・スロー

・フィーバー・シャイニング→シルヴァディ・スティングレイ

頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)昇華(スタンバイ)

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)昇華(スタンバイ)

冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)昇華(スタンバイ)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)

戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)昇華(スタンバイ)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)

神威光臨進(かむいこうりんしん)

・レーアドライヴ・アクセラレート・昇華(スタンバイ)

神律燼風(しんりつじんふう)神律燼風(しんりつじんふう)昇華(スタンバイ)

十傑斬覇(じゅうけつざんは)獣神斬滅(じゅうしんざんめつ)

神謳万雷(しんおうばんらい)神謳万雷(しんおうばんらい)昇華(スタンバイ)

咆進快速(フルスレイドル)轟烈迅速(ヴスティオ・ファーレ)

・アドヴェイン・スロー→ジャイロヴォース・スロー

乾坤一擲(けんこんいってき)神腕魔擲(しんわんまてき)

・ブレイジングジャンパー→選択可能

天空神の加護(レプライ・ウーラノス)天空神の加護(レプライ・ウーラノス)昇華(スタンバイ)

奮魂絶闘(オーバード・ソウル)奮魂絶闘(オーバード・ソウル)昇華(スタンバイ)

・ドミノチェイン・ストライカー→チューンブレイク・ストライカー

風暴鬼の飛脚(マルトリアス・レッグス)

破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)昇華(スタンバイ)

英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)昇華(スタンバイ)

絶技(ぜつぎ)太陽両断(たいようりょうだん)】→絶技(ぜつぎ)太陽斬覇(たいようざんは)

仙水開蓮(せんすいかいれん)蓮華音穏(れんかねおん)

連刃結(れんじんむすび)九十九(つくも)

刃閃鑼(じんせんら)波狼(はろう)

刻痕栓認視界(リュトラスメル・ウラタナ)刻蓬封点認視界(エディア・キュリス・ウラタナ)

破魔を示す視覚(テトラミュオン・ナルクト)龍脈を映す視覚(ドラスティエル・ナルクト)

速刃(そくじん)塵晴(ちりはらし)】→速刃(そくじん)晴空(はれそら)

・イクス・トリクォス レベル6→エクストライズ・トリデュート

煌軌一閃(こうきいっせん)煌軌連刃(こうきれんじん)

爆芯輪転蹴(メテオ・ドリンラム)

雫波状(しずくはじょう)澄蓮華(スミレンゲ)

・グラッセル・ゼイリアス→ポルータナリッグ・ゼイリアス

・ダイズン・ストンプス→選択可能

拳雨怒濤(けんうどとう) レベル4→レベルMAX

摩天来蓬(まてんらいほう)旭天昇昂(きょくてんしょうこう)

局極到六感(スート・イミュテーション)局極到六感(スート・イミュテーション)昇華(スタンバイ)

居合(いあい)切空(きりそら)

天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)天空の帝王眼(ラトゥルスカ・インペリアイズ)

天壱夢鳳(てんいむほう)天壱夢鳳(てんいむほう)昇華(スタンバイ)

・セルタレイト・ケルネイアー

・フォートレスブレイカー

・スラッシュレイト・フォルテシモ レベル1→レベルMAX

・ドリルピアッサー→グローイング・ピアス

・セルタレイト・ヴァラエーナ

・ボンバーナ・グラップル レベル3→レベルMAX

・アレフ・オブ・エクシード レベル1→レベルMAX

流天翔奏(るてんしょうそう)輪天翔律(りんてんしょうりつ)

秀越なる鎚撃(オルフェイム・タンザライナ)

・アガートラム レベル1→レベルMAX

境鳴絶壊昴打(シューヴェイト・ラプソディ)

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬儀顛(おうざんぎてん)鬼皇刃侵(きおうばしん)】→王斬儀咲(おうざんぎしょう)阿修羅刃理(あしゅらじんり)

刃王斬(ばおうざん)修羅(しゅら)】→刃王斬(ばおうざん)黄泉(よみ)

刃舞(じんぶ)流転(るてん)】→刃舞(じんぶ)廻旋(りんせん)

・メダリオンレッグス→選択可能

・デッドオブスリル→デッドオアサバイヴ

・シャイニングアサルト レベル6→レベルMAX

・マーシフルチャージャー レベル7→ファウラム・チャージング

・グラビティゼロ レベル1→レベルMAX

三天無双(さんてんむそう)四天無双(してんむそう)

・ドュヨンペイル レベル1→レベルMAX

剣人闘魂(サムライ・ハート) レベル5→レベルMAX

・ヴァーテクス・ガーラザイド

・フルメタルフィスト→メダリオンフィスト

・ストロング・キャリアー→マッシライズ・キャリー

・ウェーブ・スライド→シャルク・スライダー

反力調錣(イナトゥム・カウント)反撃衝突(コリージョンカウンター)

虎崩擊(こほうげき) レベル3→選択可能

皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)

・ガードバッシュ レベル3→アンストライク・ビリーブ

・アサイラムサイン→ルーパス・アサイラム

・シールド・スティーブ→シールディア・サフレィト

徹硬鋼突(てっこうこうとつ)

窮戦剋意(きゅうせんこくい) レベル4→レベルMAX

英雄走破(ヒーロースプリント)英雄覇颯(ヒーロースプリーム)

・プロテクト・スマッシュ→盾士の憤撃(レイジングシールド)

・タイフーンランペイジ→ハリケーン・ハルーケン

渾身衝撃(ストライク・アーデ) レベル1→レベルMAX

業魔崩(ごうまくず)し レベル1→レベルMAX

武頼闘気(ぶらいとうき) レベル1→レベルMAX

・スラッシュスレイト→パーティック・スラッシャー

・セルタレイト・スラッシャー

・コンパクト・イステル レベル1→レベルMAX

護り手の献身(ソラティオン・エモニー)守護者の威厳(ヘイルス・ガーディア)

・ティア・セイバー レベル1→レベルMAX

獄貫手(ごくかんしゅ) レベル1

・テンカウンター

・キック・バスター レベル1

眼力適応(ディチューン・アイ)

・ビート・ラン

・ブーストアップ レベル1

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

数十匹の水晶群蠍を落下死討伐に加え、変異種たる金晶独蠍の討伐によって、レベル80だったのがカンスト手前近くに至っていた。準備中の二日間に双皇甲虫との周回戦時に、打撃・格闘スキル以外を使っていたからか、進化を遂げたものや昇華に至ったもの、選択可能にレベルMAXに到達した物が多数。

 

しかしペッパーが震え上がったのは、スキルの変化等では無く、致命魂の腕輪と水晶群蠍達のヤバさであり。経験値半減とはいえ、レベルカンスト付近に上昇させた水晶群蠍と、実質レベル32相当の戦闘経験値をもたらした、致命魂の腕輪の凄まじさ。此れだけの力を秘めたアクセサリーの存在が、ペンシルゴンやサンラク以外に漏れたなら、先ず間違いなく『オハナシ』不可避になるだろう。

 

「ヤバ過ぎだろ、コレ………」

 

立ち眩みに見回れながらも、ペッパーは自身の装備を金龍王装から元の状態に戻して。閑散となった水晶の戦場跡地に残る採掘場所で、鉱石や宝石を掘り出しに行った。

 

フィールドで小鎚を素早く振るいながら、蒼空を舞う勇者は一人、死と危険の混ざる水晶の地で採掘を続けていると、遠くから水晶群蠍達が次々と現れて、死の津波を成しながら此方に迫ってくるのが見え。

 

彼はアイトゥイルとの約束を守るべく、濃密な死の気配に背中を押されながら、残されたスキルの全てを点火して水晶巣崖から命辛々、数度の走馬灯を見て死にそうになりつつも、何とか脱出に成功したのだった………。

 

 

 

 






生きて帰る事も、また大事




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戦い獲られた技能と宝石よ、生まれ変わりて力とならん



戦果報酬を改め直す




「ふぃ~………マジで疲れたよ……」

 

金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)との死闘、そして其の後の水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)と其の更に後方に見えた巨大な水晶群蠍の追跡から、時折走馬灯が過ったりしたものの、何とか五体満足で水晶巣崖から生還を果たしたペッパーは、エイドルトに帰還していた。

 

やっぱり水晶群蠍って凄い奴等だなとか、同胞押し潰してでも侵入者絶許ブッ殺で揺るがない姿勢は敬服するだとか、アレを大親友(マブダチ)って呼べるサンラクってやっぱオカシイわ等、諸々の感情を束ねて水晶群蠍達は凄い奴等だと結論付けた。

 

「さて、エイドルトに戻ってこれたが……やっぱりプレイヤーは居るよね。うん」

 

午後十時を越えて、深夜帯プレイ勢がログインし始める頃でも有り、エイドルトの街は昼間とは違う活気を見せている。街影に隠れながら耳を澄ませると、プレイヤー達の声が聞こえてきて、其の中には「ペッパー………」や「旅狼は………」なる話も、聞こえては通り過ぎていく。

 

自分も随分有名に成ったものだと染々思いつつ、今自分が持ってる物が公になったなら、先ず間違いなく『オハナシ案件不可避』だと肝に銘じつつ、ペッパーはアイトゥイルとの集合場所へ幕末で培った視線を意識した移動で、人々の合間を縫いながら裏路地に辿り着いた。

 

「アイトゥイル、居るか?」

「ペッパーはん!もうちょっと掛かるかと思ったけど、ちゃんと帰って来たみたいなのさ」

 

近くの木箱の中から、ひょっこりと顔を見せたアイトゥイル。風来兎なだけあってか、危険地帯での潜伏方法も心得がある様だ。

 

「ペッパーはん。ペッパーはんのヴォーパル魂が、また一層ギランギランに輝いているのさ」

「水晶群蠍多数と金晶独蠍を討伐したからね。鉱石に宝石、蠍達の素材も大量ゲットした。アイトゥイル、ビィラックさんの所に行こう」

 

「はいさ!」と彼女が開いたゲートを越えて、ペッパーは兎御殿に帰還。其の足でビィラックの鍛冶場へと向かう。

 

「ビィラックさん、金晶独蠍を倒してきましたよ」

「ついでに、水晶群蠍の素材達も大量みたいなのさ」

「おぉ、ペッパーか。どれ、見せてみぃ」

 

仰せのままにと言わんばかりに、ペッパーはインベントリア内に納めた水晶群蠍と金晶独蠍、そして水晶巣崖で採掘してきた鉱石や素材達を、風呂敷から白日の元へ曝す様に、鍛冶場の床一杯に広げる。

 

「ワリャ、どんだけ狩ってきたんじゃ…………」

「金晶独蠍と一対一の状況を作るために、周りの水晶群蠍達も討伐しましたから。おかげで、素材も大量ゲットです」

「成程のォ………金晶独蠍の素材は、うむ。此れだけ有れば、弩弓剣(アーチブレイド)の製作には申し分無しじゃけぇ」

 

広げられた素材の中から、金晶独蠍の素材達を拾い上げたビィラックは、己の持つインベントリの中に仕舞いつつ、残った水晶群蠍の素材達を見ながら言った。

 

「ペッパー。此の水晶群蠍達の素材はどうするんじゃ?」

「そうですね、武器の真化は前にやって貰いましたし………。ビィラックさん。アラミースさんを呼んで貰えませんか?」

「バカミースを?………はっはぁ~ん、ペッパーよ?ダルターニャにアクセサリーの製作依頼をするんじゃな?」

 

ペッパーが単独で金晶独蠍を討伐しに行ったのは、ユニーククエストの進行と同じく、サンラクが手にした強力なアクセサリーの原料を手にする為でもあり。彼が手にした革手袋こと封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)の実力を見た時から、アレも使ってみたいなという欲望が彼の中には有った。

 

「判っちゃいます?」

「顔に書いてあるけぇ、ちょっくら待っとき。おーい、バカミース!ペッパーがワリャを呼んどるぞ!」

『黒き乙女よ!ペッパー殿よ!私を呼んだかい!?』

 

呼び出しから僅か数秒、夜闇と星が覗く空見える窓からアラミースが姿を見せて、空中一回転をしながら見事な着地を決める。

 

「おぅ、バカミース。ペッパーがダルターニャにアクセサリーの依頼をしてきたぞ」

「御久し振りです、アラミースさん」

「御久し振りなのさ」

「御久し振りで御座います、ペッパー殿、黒き乙女の妹君。そして今日も麗しく、強く美しい黒き乙女よ。此のアラミース、一声頂けたなら例え地の果てだろうと、参上してみせよう!」

 

スススと寄ってくるアラミースに、ビィラックはペッパーが採って来た宝石達を見せて。そしてペッパーは後ろに置かれた、水晶群蠍の素材達を見せる。

 

「おぉ……!此れは此れは、立派な宝石達!そして水晶群蠍を討伐してきましたか、ペッパー殿!」

「はい。依頼として、キャッツェリアの宝石匠(ジュエラー)ダルターニャさんに『最高のアクセサリーの製作依頼』を御願いしたいのと、此の水晶群蠍の素材を『糸や生地に加工する事』って出来たりしますか?もし可能なら、持っていってくれて構いません。そしてオーダーとしては、此の『旅人のマント』や『革のフィンガーレスグローブ』に似た形のアクセサリーを御願いします」

 

ペッパーが考えたのはダルターニャが作ったアクセサリーの『形状』であり、宝石を『マントや革手袋』に加工する事が出来るという事は、其れを中間の状態(・・・・・)にする技術を、宝石匠は体得している可能性が極めて高いと睨んだのである。

 

「成程。蒼空を舞う勇者・ペッパー殿からの依頼、此のアラミースが聞き届けました。猫妖精(ケット・シー)の国・キャッツェリア、長靴騎士団副団長にして、吹き荒ぶ風(ワイルドウィンド)の名に誓い、必ずや約束を果たしてみせましょう」

 

そう言ってアラミースは宝石と水晶群蠍の素材達を仕舞って、ビィラックの手の甲に接吻し。其れに対してビィラックが怒号と共に戦闘用のハンマーを振り翳すも、転移魔法によって緊急離脱していった。

 

「此れだからバカミースは嫌なんじゃ………!」

「まぁまぁ………。あ、其れと風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)の修繕御願い出来ますか?」

「おぅ、解った。見せてみぃ」

 

金晶独蠍との戦闘で少なからず耐久値は減ったものの、半日有れば元通りに出来るとビィラックは言い。ペッパーは彼女に風雷皇の御手と必要分のマーニを預けて、アイトゥイルと共にエルクの元に向かうのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらぁ、ペッパーさぁん。そしてアイ姉さん、御久し振りねぇ~」

 

兎御殿・特技剪定所(スキルガーデナー)。ペッパーが醸し出す金の気配を感じたか、寝間着姿のエルクが¥目ならぬ、マーニ目をしながら其処に居た。

 

「エルクさん、久し振りにスキルの合成に来ました。良いですかね?其れからスキルに関して、色々聞いてみたい事が有りまして」

「えぇ、良いわよぉ~♪」

 

先に100万マーニをエルクに渡し、スキル合成をしながら、ペッパーは彼女にこう言った。

 

「致命魂の腕輪の能力で、スキルもかなり育ったんですけど、レベル表記のスキルが進化で別のスキルになるのは解りましたが、一部のスキルはレベルMAXになっても『進化しないパターンが有る』みたいですね。此れって何か『秘密』が有る感じですか?」

「ウフフ………中々良い所に目を付けるわね、ペッパーさん。でもぉ………」

 

あぁ、コレはもう少し金を積まなきゃいけないパターンだ。そう感じたペッパーは1000万マーニをドシンと積んで見ることにした。

 

「ペッパーさんの持ってるスキル、例を挙げると『グラビティゼロ』や『アガートラム』、『ドュヨンペイル』に『ハリケーン・ハルーケン』。其れから『シャイニング・アサルト』を含めたスキルは、『レベル100』を越える事で初めて進化する、所謂『三桁スキル』って物があるのよぉ」

 

大金を積んだ事で、あっさりと白状したエルクにペッパーは引きつつも、思考を続ける。本来6/30の大型アップデートで行ける新大陸での、レベルキャップ解放によって手にする事になるスキルであり、今の時点では其れを破る手段が無いという事だ。

 

なのでペッパーは、続けてエルクに質問をしてみた。

 

「因みに三桁スキル前のレベル表記スキルの合成をした場合は、どうなりますか?」

「擬似的には成るけど、其の能力は『神』や『三桁スキル』に匹敵する物になるわぁ~。ペッパーさんの場合は、自己研鑽を続ければ昇華(スタンバイ)に至れるタイプのスキルが多かったからこそ、今のスキル群に成ってるのねぇ~……」

 

ペッパーが持つスキル達を見ながら、エルクは若干驚いている様な声色をしている様であり。そしてペッパーは『以前手にしたエルクからの御得情報』で得た知識を利用し、彼女に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「エルクさん、前に覚えたスキルって━━━━同じ動きをすれば覚え直せるんですよね(・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、此のシャンフロというゲームはスキル・魔法ゲーではあるのだが、此迄に習得してきたスキルや魔法を『再習得』出来るシステムが存在している。本来ならば(・・・・・)進化時に、『選択可能』と表記されたスキルの幾つか在る可能性を切り捨てて、選ばれたスキルを其の方向へと進ませていく。

 

だがエルクの話によって、もう一度同じスキルを習得・合成元を辿り、ルーツを知る事により初めて、切り捨てた可能性を再構築・進歩する事が出来るのである。

 

「ウフフ……♪えぇ、新しく覚えたレベル表記以外のスキルもやろうと思えば出来るわぁ。けど、同じスキルを習得状態で其のスキルを覚えても、熟練度が上がるだけだから気を付けてねぇ~」

「ありがとうございます、勉強に成りました」

 

そう言ったペッパーは合成するスキル達を決めて、エルクに依頼し。彼女が持ってきた液を一気に飲み干してスキルの整理整頓を行った。

 

其の後、ヴォーパルコロッセオにて一時間掛けて新規習得・新規合成、進化したスキル達の使用心地を確認し、ステータスを振り分けて。

 

ペッパーは本日のシャンフロを終えたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーくんのログインする時間………掲示板の情報ではおおよそ夕方付近に見掛けたパターンが多い…………。となると、彼の帰宅は大体四時から五時付近で、明日は雨………。屋内の撮影時間……、は………大丈夫。明後日はちゃんと、オフの日にしてある…………」

 

そして同じ頃━━━━━━天音 永遠は自宅のマンションにて、旅行で用いるキャリーケースの中に、VR機材や着替え、更には秘密兵器等を詰め込み、一世一代の『大博打』の為の準備をしていた。

 

「フフフ……私の全身全霊を掛けて、君に告白させるんだから♪」

 

揺るがぬ決意を秘めた魔王が、勇者を射止めんと勝負に出ようとしていたのだった………。

 

 

 

 






此れが今の己の力







現時点のペッパー君のステータス


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 


PN:ペッパー【天津気(アマツキ)


レベル:96

 
メイン職業(ジョブ):星駆ける者(スターランナー)
サブ職業(ジョブ):無し




体力 130 魔力 50
スタミナ 213
筋力 160 敏捷 200
器用 135 技量 135
耐久力 1057 幸運 100


残りポイント:0

 

装備

 
左:無し
右:リュカオーンの呪い(マーキング)
両脚:無し


頭:ライノベレーの帽子(耐久力+350)
胴:隔て刃の皮ベスト(耐久力+4)
腰:発掘研磨腰帯【古兵】(耐久力+400)
脚:烈風竜印のズボン(耐久力+300)




アクセサリー


致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)
格納鍵(かくのうけん)インベントリア
超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)
・旅人のマント(耐久力+2) 
・革のフィンガーレスグローブ(器用補正:小)




所持金:33,067,900マーニ

 


不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)



窮速走破(トップガン)
偉風導動(リーガルック)

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……始ノ巻
致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得


 

致命武技



致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】改備(あらためぞなえ)
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ヒゲツオロシ】
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】改備(あらためぞなえ)
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ゲッカケンセキ】
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オボロサイダン】
致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウマゼッカイ】

 


星天秘技(スターアーツ)


・ミルキーウェイ
・グラヴィトン・レイ




スキル


死神の斬撃(デス・マサカー)昇華(スタンバイ)
終極刺突(グルガ・ウィズ)昇華(スタンバイ)
真界観測眼(クォンタムゲイズ)昇華(スタンバイ)
・ブランチャイズ・スロー
・シルヴァディ・スティングレイ
頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)昇華(スタンバイ)
巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)昇華(スタンバイ)
冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)昇華(スタンバイ)
聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)
戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)昇華(スタンバイ)
戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)
神威光臨進(かむいこうりんしん)
・レーアドライヴ・アクセラレート・昇華(スタンバイ)
神律燼風(しんりつじんふう)昇華(スタンバイ)
獣神斬滅(じゅうしんざんめつ)
神謳万雷(しんおうばんらい)昇華(スタンバイ)
轟烈迅速(ヴスティオ・ファーレ)
・ジャイロヴォース・スロー
神腕魔擲(しんわんまてき)
・トゥワイス・ジャンピング
天空神の加護(レプライ・ウーラノス)昇華(スタンバイ)
奮魂絶闘(オーバード・ソウル)昇華(スタンバイ)
・チューンブレイク・ストライカー
風暴鬼の飛脚(マルトリアス・レッグス)
破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)昇華(スタンバイ)
英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)昇華(スタンバイ)
絶技(ぜつぎ)太陽斬覇(たいようざんは)
蓮華音穏(れんかねおん)
連刃結(れんじんむすび)九十九(つくも)
刃閃鑼(じんせんら)波狼(はろう)
刻蓬封点認視界(エディア・キュリス・ウラタナ)
龍脈を映す視覚(ドラスティエル・ナルクト)
速刃(そくじん)晴空(はれそら)
・エクストライズ・トリデュート
煌軌連刃(こうきれんじん)
爆芯輪転蹴(メテオ・ドリンラム)
雫波状(しずくはじょう)澄蓮華(スミレンゲ)
・ポルータナリッグ・ゼイリアス
・タイタニアス・スタンパー
拳掌百手(けんしょうひゃくしゅ)
旭天昇昂(きょくてんしょうこう)
局極到六感(スート・イミュテーション)昇華(スタンバイ)
居合(いあい)切空(きりそら)
天空の帝王眼(ラトゥルスカ・インペリアイズ)
天壱夢鳳(てんいむほう)昇華(スタンバイ)
・セルタレイト・ケルネイアー
・フォートレスブレイカー
連剣秀速迅舞(ソードブレイズ・シュティーア)
・グローイング・ピアス
・セルタレイト・ヴァラエーナ
窮極致超越(アレフ・オブ・トランジェント)
輪天翔律(りんてんしょうりつ)
秀越なる鎚撃(オルフェイム・タンザライナ)
巧運勝闘技(デュエル・トリスティル)
境鳴絶壊昴打(シューヴェイト・ラプソディ)
・セルタレイト・ミュルティムス
王斬儀咲(おうざんぎしょう)阿修羅刃理(あしゅらじんり)
刃王斬(ばおうざん)黄泉(よみ)
刃舞(じんぶ)廻旋(りんせん)
・パウリングレッグス レベル1
・デッドオアサバイヴ
・シャイニングアサルト レベルMAX
・ファウラム・チャージング
・グラビティゼロ レベルMAX
四天無双(してんむそう)
剣王武心(マスラオ・センス)
・ヴァーテクス・ガーラザイド
・メダリオンフィスト
・マッシライズ・キャリー
・シャルク・スライダー
反撃衝突(コリージョンカウンター)
皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)
・アンストライク・ビリーブ
・ルーパス・アサイラム
・シールディア・サフレィト
徹硬鋼突(てっこうこうとつ)
英雄覇颯(ヒーロースプリーム)
盾士の憤撃(レイジングシールド)
・ハリケーン・ハルーケン
渾魂注撃(ストライク・インストーラ)
魔寅王の掌撃(ギルスティーガ・デクタム)
・パーティック・スラッシャー
・セルタレイト・スラッシャー
守護者の威厳(ヘイルス・ガーディア)
獄貫手(ごくかんしゅ) レベル1
・テンカウンター
・キック・バスター レベル1
眼力適応(ディチューン・アイ)
・ビート・ラン
・ブーストアップ レベル1



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━






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魔・王・降・臨 (前編)



タイトル通りです




金晶独蠍との戦闘から一夜、遂に此の日がやって来た。

 

(さて、いよいよ今日だな………。皆も此の時の為、時間を作ってくれた。今日中にエイドルトからイレベンタル経由で、フィフティシアまで行軍するぞ)

 

朝から台風接近に伴って前線から強い雨が降り頻る中、今日の大学での講義とコンビニバイトを終え、雨が降る外の様子を眺め、帰り道に在るハンバーガーショップでチーズバーガーを咀嚼しながら、梓は一人スマフォの時間とクラン:旅狼(ヴォルフガング)に所属していて、自身とメールやり取りが出来るメンバーの状況を確認する。

 

(エイドルトでの集合時間は午後八時、イレベンタルで午後九時にサイガ-0と合流し、三時間以内にフィフティシアに到着。そして翌日の午後六時に目的地の波止場の酒場で、ルスト&モルドとクターニッドに関わるユニークシナリオの取引………って事は七時半にはログインして、皆を待つ感じかな?)

 

夕食を食べ終え、合掌と御馳走様でしたと一言。席を立ち、ゴミを分別廃棄した梓はハンバーガーショップより出て、傘を射して自宅を目指し進んで行く。

 

(兎に角先ずは帰らなくちゃだな。晩御飯はハンバーガーショップで食べたし、シャンフロではスキルにステータスの調整も終えた。後は消費アイテムをエンハンス商会で揃えて、フィフティシアに向かう……!)

 

何処ぞの漫画の頑張るぞいのポーズを取りつつ、其の足取りは軽やかに。然れど強くなり始めた雨の中、彼は歩みを進め続けて己の住まいに帰り着き。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、あーくん。君、けっこー年季の入ったアパートに住んでるんだね?悪いんだけど、此の状態でさぁ…………上がらせてくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

自宅のドアの前に、衣服と髪含めた全身びしょ濡れの、世界に誇るトップオブカリスマモデルの天音 永遠が、旅行で使うキャリースーツケースを持って立っていた事で、全ての思考が木っ端微塵に吹き飛んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、何なんだ此れは。夢か何かか?

 

ドッキリ番組で取り上げられる題材の一つ『雨の日に自宅前に有名人が立っていたら、一体どんな反応をするのか?』ならば、まだ解る。

 

だが周りには誰も居ない、近くには怪しいワゴン車すらも一台たりとて無い。

 

「ドッキリ番組?何で居場所判ったの?」

「ンフフ………あーくんさぁ、最近のスマフォって『逆探知アプリ』が有るの知らないでしょ?」

「おいまさか………『電話で位置を把握』したのか?」

 

「ごめーさつー♪」とニンマリ笑う永遠に、梓は頭を抱えた。全ては自宅突撃を敢行する為の彼女が仕組んだ計画であり、最大の問題点だった居場所特定を電話番号入手による、通話逆探知という形で解消しに来ていて。

 

そして此方のログインと傾向から逆算する事により、大方の帰宅時間を割り出し、尚且つ雨が降る時間帯に被せる事によって、絶好とも呼べるシチュエーションを構築した━━━━━といった所だろうか。

 

「其れよりさぁ、私身体が冷えそうなんだよね。カリスマモデルの天音 永遠が風邪を引いたら、世界は大打撃で、さぁ大変!こんな時、あったかぁいシャワーを浴びれたらなぁ~???」

 

チラッチラッと此方を見る永遠、もう録な未来どころか首に死神の鎌が掛けられてる気分になりながら、梓は深い深い溜息の後、彼女の傍らにあるスーツケースを指差し言った。

 

「……………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。解ったよ、シャワーくらい貸してやる。だが、キャリーケース引っ張って来たって事は、着替えは持ってきてるんだよな?」

「いや、中身はゲームプレイ用のVR機器」

「帰って。今すぐ帰って」

「待って待って、待ってって!?!流石に其れは冗談だから!?」

 

お前が言うと冗談に聞こえないだったり、此の先の自分の人生が思いやられそうだと心底思いながら、ペッパーはアパートの鍵を使って扉を開き、永遠を招き入れて。自分はリュックサックを置き、速攻で行動開始。床にタオルを敷いて水濡れを防ぎ、永遠にバスタオルを渡して水気を取るようにして貰う。

 

「兎に角。大事になる前に、シャワーを浴びたら帰宅してくれよ?」

「えー。でもさぁ、あーくん。そうなるとシャンフロでの待ち合わせに、私一人だけ遅れちゃうんだよねぇ?其れに今日、今夜台風で電車やらの交通機関が軒並み停まるって、今朝の予報聞いたしさ?」

「むっ」

「其れに、あーくんにだって悪い事ばっかりじゃないんだよ?何たって世界に誇るカリスマモデル・天音 永遠様が、こうして一つ屋根の下に居るんだから♪」

「むむむ………」

 

世界の乱数がまるで、此の瞬間は私の味方だと言わんばかりに、永遠がドヤ顔で笑っている。ゲームをしていれば乱数の女神に好かれたり、其の逆になったりと少なからず振り回されて来た。

 

「……兎に角シャワーを浴びてくれ、夕飯は食ったのか?」

「まだ食べてないんだ。シャンフロでの待ち合わせまで時間が有るし、あーくんに夕食を御馳走して貰いたいなぁ~?」

 

図々しいというか、図太いというか。昔から天上天下唯我独尊の女王様ムーヴを、自分と彼女の弟たる久遠相手に擦り散らかし続けただけの事はある。

 

「シャツは貸さんぞ」

「ん、解った」

 

そう言って永遠はキャリーケースの中から防水パックを取り出して、シャワー室に入っていき。梓は冷蔵庫と冷凍庫に有るもので、簡単かつ身体が暖まる夕食を作り始めた。

 

取り出したの冷凍のうどんパックに、人参・大根・玉葱の根菜と、豚バラ肉のパックから数枚。先に根菜は人参と玉葱は半分、大根は1/4だけ切り出して、残りは冷蔵庫に。人参以外を皮を剥き、一口サイズに切り分け、鍋とフライパンを用意。

 

各々に水を適量入れつつ火を着け、鍋には一口に切った根菜達を加え、冷凍のうどんはフライパンの中の水が沸騰してから加え、解して火が通ったタイミングを見計らい、湯から鉄笊で掬い上げ、湯切りの後に器の中へ。代わる形で豚バラ肉を投入、火を通して豚しゃぶを行う。

 

そして豚しゃぶにした豚バラ肉を一口に切り分け、煮込んでいる根菜達と合流させ、火の通り具合を確認。其処へ味噌を加えて味を調節した所で、うどんを入れた器に汁を注いで調理は完了した。

 

「よぉし、出来た」

「お、良い匂い~♪あーくんの作ってくれた夕食、楽しみだなぁ~」

「あぁ、永遠か。飯出来、た………」

 

彼女の声と共にシャワー室の扉が開き、梓の目に飛び込んできた光景は。

 

 

 

 

 

 

 

其の美貌を支える『完璧』と言っても過言ではない、均等に整った身体と透明なフリルが付いた赤い水着(ビキニ)を纏い、スラリと細い腕にはびしょびしょに濡れた自分の衣服を持つ、天音 永遠の姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

思考がフリーズして再起動する最中、永遠は此方を見ながらニヤニヤニマニマしていて。得意気な顔でこう言って来る。

 

「どぉ?似合ってるかな、あーくん?此れ今度の撮影で使う物なんだけど?……あっ~れぇ~?もしかして私の美しさに、惚れ惚れしちゃったかなぁ?」

「……………先ずは飯を食ってからだ。梓特製『豚汁うどん』、お好みで七味唐辛子を掛けて、味を変えながら食べると良い。あと乾燥機使って良いから、服を乾かしなさい」

 

其の美貌を見せ付けるように、妖艶な視線と声と指で己を誇示する永遠を前に、梓は努めて冷静に、心を落ち着かせて、テーブルをサッと水拭きで拭き上げ。箸と七味唐辛子の瓶と豚汁うどんを運んで座る。

 

「どうした?うどんが延びるぞ?」

「………あーくんってさ、鈍感だって言われる事有るよね?」

「積もる話は色々有るが、食事をし終わってからな………」

 

とんでもない事になったと頭を抱える梓と、まだまだ作戦は終わらないゾ♪と言わんばかりに、笑顔と余裕を崩さない永遠。

 

乾燥機がグルグルと回り出すように、男女の攻防戦は始まったばかりなのだから………。

 






仕掛ける魔王、堪え忍ぶ勇者




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魔・王・降・臨 (後編)



攻防戦の続き




さて、此の状況を如何に乗り越えるべきか。

 

自分の住まいとしているアパートに、雨に打たれてびしょ濡れのカリスマモデル・天音 永遠がやって来て。シャワーを借りたと思ったら、本邦初公開の水着を着けていました。

 

しかも今、対面で自分の作った食事を食べている光景を、自分の部屋と言う隔絶空間&己以外の誰にも見られない状況という、圧倒的にヤバい状況に見舞われています。

 

いや、イヤイヤイヤイヤ。コレはどうやってもどう足掻いても、確実に『詰んだ』臭いしかしないな?

 

「あーくん、今の君は『詰んでね?』って考えてるでしょ?」

 

何故バレたし。

 

「何故バレたし」

「フッフッフ~……君が状況打破を考えてる時(・・・・・・・・・・)って、両耳が微弱だけど『ピクピク』動くんだよね。無意識の身体の反応?みたいな奴かな。シャンフロで私を壁ドンした時も、同じ様な反応が見えたからさ」

 

うっそだぁと思って思考を止めずに触ってみると、確かにピクピクと微弱ながら耳が動いていた。いやマジか、初めて知ったわ、そんな反応。

 

「でも、ざぁ~んねん。君は私を家に上げてしまった以上、既に『詰んでるんだよね』?此所で私が警察に通報するって事も出来る。何なら此の状況、私が写真を撮って色々虚言を踏まえたコメントをネットに挙げれば、瞬く間に拡散・君の特定が始まっちゃう。そうなったら、君は人生が終わる」

 

どっち道チェックメイトなのだよ♪と、魔王ムーヴ全開状態の永遠が豚汁うどんの麺を啜り終え、七味唐辛子を汁に掛けながらドヤ顔で宣った。

 

「だがお前は……『其れをする事は』決してしない」

「おや、何故そう言いきれるのかな?あーくんは。こう見えて私の影響力って、結構凄まじいんだよぉ~?」

「………じゃあ、何で━━━━━━」

 

 

 

 

そんな苦しそうな顔してるんだよ、お前は。

 

 

 

 

溜息と共に見た永遠(アイツ)の表情は、今にも泣き出してしまいそうで。本当はこんな事をしたくないと、無言で訴えてる視線を送っていて。

 

「お前は此迄、俺のプレイしたゲームの『完全クリア済のセーブデータ』は削除したりしたが、一度たりとも『進行中のセーブデータ』は消す事はしなかった。

つまりお前はこう考えてる━━━━━『自分に縛り付けるのは簡単だ。だが其れで俺が自由じゃなくなるのが嫌だ。でもこんな方法を使わない限り、もうどうしようもないんだ』………違うか?」

 

梓の指摘に永遠の目が見開かれる。完全に当たりだったらしい。レトロゲームと永遠の悪戯で身に付いた洞察力が、こうも機能してると考えると、やはり全て天音 永遠の掌の上だったのではと、疑いたくなってしまう。

 

「………セツナから『お前の事を大事にして』って、最後の約束をしたからな。ゲームのデータとは言え、無下にする訳にはいかないし」

 

消えたデータとは云えど、其の約束は今も記憶に焼き付き、離れないでいる。だが、自分はまだ就職もしてなければ、学生の身分で在るし、おまけに二十歳すら越えて無い。

 

そして相手は世界に名を刻む、トップオブカリスマモデル━━━━━パパラッチに絡まれたならば、自分や彼女への影響は計り知れない。だが此処で自分の言葉で言わなければ。気持ちを伝えなければ。きっと何も変わらない。

 

だからこそ、梓は。呼吸を調え、自らの意思で彼女の隣に座る。

 

「あーくん………?」

「………俺は今はまだ。『責任』を取れるだけの、『力』も『地位』も持っていない。だけど、責任を取れるだけの力と地位を手にして………いや、違うな………」

 

必死に己の想いを言葉にして引っ張り出そうと、思考を巡らせている梓の耳はピクピクと、微弱に動き続けていている。

 

心臓の鼓動が加速していくのが解る………此の『気持ち』を伝えたら、きっと自分達は『今までの関係』じゃ居られないだろう。だが、其れこそが。人を人足らしめる『感情(モノ)』なのだろう。

 

清歯のネックレスを渡した後に、口走った言葉を。

 

あの日以降も、胸に根付いた感触を。

 

一緒に居た日々で、己が感じた想いを。

 

十年を越えて芽吹いた、感情を。

 

一つの答えにして、梓は永遠に示す。

 

「永遠」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━好きだ。俺の恋人になって欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして梓が出したのは、シンプルで。だが、彼女にとって『一番聞きたかった答え』だった。

 

「………………私も

「永遠?何か言っ━━━━━━」

 

彼女の呟きが聴こえた刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!?!」

「んっ━━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と自分の唇が重なって、艶と熱の両方を含んだ数秒とも刹那とも、はたまた永劫とも言える、そんな長い永い唇同士の触れ合いが続き。

 

「っ………好きだよ、あーくん。ずっと、ずっと……!君が私を犬から助けてくれた、あの時から………私は君を好きになったの……!」

 

唇が離れ喋れるようになった所で、顔と耳を真っ赤な林檎の様に染めた、水着姿の永遠が其処には居て。ファーストキスを取られたやら、いきなり告白された事に頭を混乱させながらも、何とか彼女に話をする。

 

「━━━━━永遠、お前………」

「……………私。此れでも、すっっっっっごく緊張してるんだから………」

 

ジッッッ………と、此方を見つめる永遠の双眸から、暖かな雫が頬を伝い、零れ落ちていく。梓は其れを指で拭い取ると、彼女が再びキスを迫って来たので、彼は後頭部を数回掻いてから、彼女の顔を見つめて。

 

「………永遠。ありがとう」

「っ━━━━━うん♪嬉しい…!」

 

こうなっては、もうどうする事も出来ないと諦めの境地の中で、せめて男として果たすべき責務を果たさねばと、其の心に決意を固めて。彼は彼女の唇に、己の唇を重ね合わる。

 

一組の男女のキスは暫く続き……。

 

「…………やっぱり、ガマン出来ないよ」

「えっ?うわっ!?」

 

此処で永遠の声色が変わる。梓の体が、永遠によって押し倒される。

 

「あーくん、大好きだよ。愛してる………!だから、もう此の気持ちを抑えられない……!」

「いや、あの………永遠?永遠さん……?」

 

彼女の目には光が無く。そして其の瞳はハートのマークが浮かんでいる。

 

「あーくん……私を、貴方のモノにして?」

「ちょ、ちょっと待って!待て待て待て!?おま、何やって!?いや待て!?待ってって!?ちょ━━━━━」

 

そうして一匹の獣となった女が、一人の男を『喰らう』までに━━━━時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あーくん。君とこうして現実世界で手を繋いだのは、十数年振りだったかな?」

 

キスというイベント、そして約二時間の重ね合いを終えて、水着の紐を結び直し、すっかり冷めた豚汁うどんの残り汁を飲み干した永遠が、真っ白になりながら服を着直した梓の隣に座り、彼の左手に自身の右手で触れる。

 

「あ"~…………確かに其のくらい前に、手を繋いだっけか………」

 

彼女の指に己の指を絡めて、御互いの温もりを感じる梓は。

 

「あ………そうだ、永遠よ」

「なぁに、あーくん?」

 

彼女の正面に移動し、梓は正座と両手を床に着け。永遠に向かって、深々と頭を下げて言う。

 

「……此れから、よろしくお願い致します」

「………此方こそ不束者ですが、よろしくお願いします」

 

彼の示した態度に、永遠もまた頭を下げて言い。彼が時計を見ると、時刻は午後七時四十五分を指していて。

 

「やっべ!?シャンフロの集合時間まで、後十五分しか無い!?」

「あ、ホントだ!?あーくん、布団在る!?」

「在るぞ!俺が敷いておくから永遠は先に、花を摘んできて!」

「!うん、解った!」

 

差し迫る時間に追われながら、慌てて二人は行動を開始して。梓と永遠は水分補給とトイレを入れ替わり、立ち替わる形で済ませた後、一つの布団を二人で相合する形にしながら、シャンフロへとログインする事に成ったのであった………。

 

 

 

 






彼と彼女の答え、そしてシャンフロへ




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狼達は水晶に集い、最後の街を目指して進む



八時だよ、全員集合




午後八時の三分前。シャンフロ第8の街・エイドルトの蛇の林檎・水晶街支店の一室にて、リーダーのペッパー及びサブリーダーのアーサー・ペンシルゴンを除く、クラン: 旅狼(ヴォルフガング)のメンバー達が集合していた。

 

「ペッパーとペンシルゴン、未だに来ないんだけど」

「リアルで何か有ったら連絡の一つや二つ入れる筈なんだが………」

「遅れたら厳罰に処す必要があるねぇ……」

「だ、大丈夫でしょうか……」

 

京極(キョウアルティメット)とオイカッツォ、マントの中にエムルを隠したサンラクが、あの二人にどう処罰を与えようかと悪巧みをし、箱に擬態したシークルゥを背負った秋津茜(アキツアカネ)は、純粋に心配していた。此のままやる事も無いし、暇を持て余しているのもと考えたサンラクは、今の自分のステータスとスキルを今一度確認するべく、画面を開く。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

PN:サンラク

 

 

レベル:99

 

 

メイン職業(ジョブ):傭兵(二刀流)

サブ職業(ジョブ):無し

 

 

 

体力 60 魔力 50

スタミナ 170

筋力 150 敏捷 160

器用 130 技量 125

耐久力 9003(+9002) 幸運 209

 

 

残りポイント:0

 

 

 

 

装備

 

左:無し

右:無し

両脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

 

 

頭:凝視(ぎょうし)鳥面(ちょうめん)(耐久力+2)

胴:リュカオーンの呪い(マーキング)

腰:金晶腰衣(エクザクロス.ベルト)(耐久力+9300)

脚:リュカオーンの呪い(マーキング)

 

 

 

アクセサリー

 

 

格納鍵(かくのうけん)インベントリア

瑠璃天(ラピステラ)星外套(せいがいとう)

封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)

兇嵐帝痕(イデア=ガトレオ)(スペリオル)

・ダイナボアドール(スタミナ回復時間短縮:小)

 

 

1,872,611マーニ

 

 

致命武技

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】漆式

 

 

 

 

スキル

 

 

百閃の剣(ヘカトン・スラッシュ)

鋭結点睛(えいけつてんせい)

・フォーミュラ・ドリフト レベルMAX

真界観測眼(クォンタムゲイズ)

・アガートラム レベルMAX

・トライアルトラバース レベルMAX

・マシンガンスタンパー

王壥粉砕(キングス・ドミネイト)

戦鬼の瞳(オーガストアイズ)

・ティルガブレイク レベル1

鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)

・グラビティゼロ レベルMAX

・ダーティ・ソード レベル1

・フリットフロート

月狼の誇り(マーナガルム・プライド)

壱撃双斬(いちげきそうざん)

・ボルテックスムーヴ

狼王の威光(ルゥヴルフ・クルムシス)

全霊喚起(ぜんれいかんき)

・ブラストアップ レベル1

・ドゥームバスター

・ストリームアタック

・アルシャダーム レベル1

・バーンアウト レベル1

・ライオットアクセル レベル1

・ストライクアウト レベル1

・ハリケーン・ハルーケン

・エントラウス・ブロッション

戦極武頼(せんごくぶらい) レベル1

・インスタンス・ディオット

包囲無双(ほういむそう)

・ルーパス・アサイラム

・ニトロテック・チャージ レベル1

一振両断(いっしんりょうだん)

・ウォーロック・ティーン レベル1

突刃追撃(ディア・ガジェット)

劉棍打(りゅうこんだ) レベル1

棍閃先斬(こんせんせんざん)

・パーシスタンド

剣舞(けんぶ)紡刃(ぼうじん)

・メロスティック・フット

・テンカウンター

鎚撃(ついげき)鉄砕(てっさい)

燐砕拳(りんさいけん) レベル1

・パドロン・スロー

・フローティング・レチュア レベル1

・ゲニウス・チャージャー レベル1

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

水晶巣崖での周回の中で、アクセサリーを用いた場合の立ち回りや、合成したスキルの威力・性能確認を続けた事で、来る大型アップデート後のレベルキャップ解放に向けての準備も万端。

 

しかし先ずは、クターニッドに関わるユニークシナリオの攻略からだと、意識を切り替えた其の時。部屋の扉を開けて、息を切らして額に汗を滲ませたペッパーが、ペンシルゴンをお姫様抱っこしながら部屋に入ってきて。ひょこっと旅人のマントの中から顔を出した、アイトゥイルと共に言った。

 

「皆、すまん遅れた!」

「待たせたみたいなのさ」

「遅刻ギリギリだったねぇ、御二人さん。デートしてたのかい?」

「随分進展してるようだがァ~、一体何処まで行ったんだ~~~???ん~~~~???」

「ウフフ…なぁいしょ♪」

「余計気になるんだよねぇ、そう言われちゃうと」

「ペッパーさん、ペンシルゴンさん!待ってました!」

 

ペンシルゴンを下ろし、ペッパーは皆を見つめて言った。

 

「今日の午後九時までに、イレベンタル到着を目指す。そしてイレベンタルのシンボル『朽ちた巨剣像』で、今回の行軍に参加表明を示した『助っ人』と合流、其のままフィフティシアに向かうよ」

「助っ人?プレイヤー?」

「まぁ行けば解るよ、カッツォ君。飛びっきり頼もしい助っ人だからね」

 

パチンとウインクをしたペンシルゴンに、外道三人と光属性少女は首を傾げ。そして世界を旅する気高き狼達は、ユニークモンスター・深淵のクターニッドに続く、ユニークシナリオ受注の為に行動を開始するのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイドルトとイレベンタルの間を繋ぐエリア、去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)を駆け抜ける旅狼一同は、現在運送力に優れたペッパーが其所迄のスピードとスタミナがない、オイカッツォと京極の二人を、自身のスキル『マッシライズ・キャリー』を使って運び。

 

元々走るのが好きだという秋津茜は、未だに箱擬態を続けるシークルゥと共に。機動力に優れたサンラクは、エムルを肩に乗せ。ペンシルゴンはペッパーから預かった、アイトゥイルを頭に乗せながら、機械と戦いの跡地をただひたすらに、道中の敵をガン無視しながら全速力で走っていた。

 

「いやぁ、楽チン楽チン」

此の世界(シャンフロ)でも、人力車みたいなのを体験出来るなんてね。クランリーダー様々だ」

「あーくんが少しでも早く、目的地のイレベンタルに着けるようにする為の方法だから、感謝してね京極ちゃんとカッツォ君?」

「まぁまぁ、早く辿り着きたいのは事実だから……」

 

残骸の大地を駆け抜け、サンラクを先頭に走り続ける一同の視線の先に、円状のバトルフィールドと少し大きな残骸の山が見えてきた。

 

「お、ペッパー!アレがそうか!?」

「あぁ!彼処にエリアボスの、オーバードレス・ゴーレムが居る!」

「巨大ボスって話だけど……実際何れくらいのデカさなの、ペッパー?」

「見れば解る、さぁ行くよ!」

 

全員がエリアボスとのバトルフィールドに入った瞬間、其れは音を立てて競り上がる。其の身に錆びけた鉄や重機を纏い、四足歩行の巨大エリアボスたる『オーバードレス・ゴーレム』が、クラン:旅狼一向の前に其の姿を現す。

 

「で……でけぇとは聞いたが……、コイツはちょっとした『山』じゃねぇか……!?」

「おっきいですわ!御城みたいですわ!」

「うわぁお………、どうやって切り崩そうか」

「何時見てもデッカイねぇ~」

「まぁ、コイツに関しては『最速の倒し方』があるから、そんなに苦戦しないが」

「あぁ……、アレなのさね。ペッパーはん」

「足元から切り崩すしか無いかな、コレは?」

「でっかいアスレチックみたいですね!」

「アスレチック……なるものは解らぬが、登山のようなもので御座るか?秋津茜殿よ」

「想い想いのコメントありがと……全員散開!投擲攻撃が来たぞ!」

 

十人十色の反応を示した直後、オーバードレス・ゴーレムが身体に引っ付いた瓦礫達を、重機クレーンを使って投擲攻撃を開始したのを見たペッパーの一言を合図とし、狼達は散開する。

 

そしてペッパーはオイカッツォと京極を下ろし、一足先にオーバードレス・ゴーレムへと走り出し、エムルを秋津茜目掛けて投擲したサンラクを、全速力で追い掛けて行く。

 

「お、ペッパー!もしかして『アレ』をやるつもりか!?」

「其のまさか、サンラクの言う『アレ』をする!」

「んじゃ、そっちは左側やれるか!」

「任された!右頼むぜ、サンラク!」

 

オーバードレス・ゴーレム最速討伐の為、軽戦士ビルドたるペッパーとサンラクの二人が、両側からエリアボスへと肉薄しに行く。

 

目指す目標は唯一つ。オーバードレス・ゴーレムが出現(ポップ)する度に、必ず(・・)共通して存在する『巨大ホイール』。

 

其れを支える柱を破壊し、シャンフロの誇る物理エンジンによって発生する、重力を用いた大質量の盥落としこと『脳天鉄槌ルート』を完遂させる為に。

 

「行こうか、サンラク!」

「おうよ、ペッパー!」

 

 

 

 

 

『『一分以内でブッ潰すッッッッッ!!!』』

 

 

 

 

 

 






泥人形をブッ飛ばせ




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立ち塞がる泥人形に、絶大なる一撃を



オーバードレス・ゴーレムを解体せよ




『『一分以内にブッ潰す!!!』』

 

オーバードレス・ゴーレムに左右から挟撃する形で肉薄しに行く、ペッパーとサンラクは各々のスキルを点火していく。

 

ペッパーが使用したのは、自身の体力・MPを残り5%に至るまで減少させて、その数値分だけ自身の全ステータスを高める『奮魂絶闘(オーバード・ソウル)』。

 

自身が自傷によるダメージか、エネミー・プレイヤーによってダメージを受けて、残存体力が残り5%を切った場合に全ステータスの上昇と、其の戦闘中に自傷及び反動で受けるダメージを半減する『窮極致超越(アレフ・オブ・トランジェント)』。

 

流天翔奏(るてんしょうそう)から進化し、空中歩走能力の効果時間が『150秒』から、2倍の『300秒』まで延長した『輪天翔律(りんてんしょうりつ)』。

 

重力や風といった外的要因を軽減し、其の身をより高い場所まで到らせる、昇華(スタンバイ)の領域に到達した『頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)』を使い、簡易食糧を齧ってスタミナを回復しつつ、オーバードレス・ゴーレムの巨大ホイールを支える左側の柱を目指して、空中を猛スピードで駆け上がり。

 

 

サンラクは遮那王憑(しゃなおうつ)きより進化し、強化時間こそ変わらないものの、補正値が大幅に向上&細い足場でも、十全に其の力を行使可能となった『鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)』。

 

熟練度MAXに至った『グラビティゼロ』と『トライアルトラバース』による重力の軽減と共に、エリアボスとのバトルフィールドまで走り続けた事で、発動条件を満たした『メロスティック・フット』のスタミナ減少軽減を加え。

 

『夜か暗闇の状態時に』発動する事で、視覚・敏捷・筋力にバフをもたらす『ウォーロック・ティーン』。そしてトルクチャージとアドレラリン・バーストの合成スキルで、同じ系統に属するスキルを『三種類以上連続で使用した時』、此のスキルの熟練度合で『再使用時間を短縮する』という『ニトロテック・チャージ』を使い、オーバードレス・ゴーレムの身体を右側から跳ねて、駆け上がって行く。

 

「うわぁ…………」

「片や空中を駆け上がり、片や不安定な足場を跳ね上がるって、相当じゃん………」

「カッツォ君!京極(キョウアルティメット)ちゃん!瓦礫に注意しなさいな!」

「あっめあめふれふれ、かあさんが~♪わぁ!?」

「秋津茜はん!?歌ってないで自衛するのさ!?」

「ぴゃあああ!?瓦礫飛んで来てますわぁ!?」

 

砲丸投げの如く、重機クレーンから豪速球で放り投げられる瓦礫を、両肩に乗ったアイトゥイルとエムルが何とか迎撃を続けるも、撃ち落とし損ねた一つが秋津茜に迫り。

 

「秋津茜殿!」

 

箱の擬態を解除、彼女の頭より跳ね飛んだシークルゥが刀を取り出し、連続で斬り結んだ瞬間に瓦礫はバラバラに斬り割られた。

 

「わぁ!シークルゥさん、凄いです~!」

「あまり油断なされるな、秋津茜殿よ」

 

パートナーの素晴らしい剣劇に、秋津茜は目を輝かせ。

 

「えっ!?箱がウサギに変わった………?!」

「白毛の武者ヴォーパルバニー、かな?アレ……」

 

秋津茜の背負っていた箱が、まさかのヴォーパルバニーだった事に驚愕する、オイカッツォと京極が居て。

 

其の直後、彼等彼女等の戦うオーバードレス・ゴーレムの頭頂部付近から、一際大きな破砕音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は十数秒程遡る。

 

「到着!」

「よっしゃ、着いたァ!」

 

暗い空中を走り抜け、不安定な瓦礫の道を駆け抜け、ペッパーとサンラクは各々の持ち場に辿り着き、己の武器を装備する。

 

片や双皇甲虫達の素材を贅沢に使った武器であり、風と雷の両属性を利用した機能を持ち、ビィラックへ修繕に出していた物を、集合時間が迫る中で何とか回収した『風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)』。

 

片や水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)の素材を惜しみ無く用い、単純な火力であれば甦機装の中でも上位の破壊力に加えて、サンラクの中では『切札』に等しい必殺技を引っ提げる『煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)』。

 

「一撃で!」

 

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)天壱夢鳳(てんいむほう)、両者共に昇華まで至った物を同時に起動し、左手を振って腕を構え。

 

ドュヨンペイルとアガートラムの合成を行って誕生、幸運と技量の合計数値を参照し、技量が高い程にクリティカル発生が高まり、クリティカル成功時に追加攻撃補正が働く格闘スキル『巧運勝闘技(デュエル・トリスティル)』を乗せて、左ストレートで殴り付け。

 

「ブッ壊す!」

 

発動中の武器による攻撃補正値の強化&武器の耐久値減少を抑制する『戦極武頼(せんごくぶらい)』。マグナマイトギアとチェインズアップの合成で産まれ、格闘攻撃時に自身の筋力数値を、スキルレベルに応じて強化する『ブラストアップ』を加えて。

 

レベルMAXとなったアガートラムとハリケーン・ハルーケン、拳撃スキル『燐砕拳(りんさいけん)』を乗せた、煌蠍の籠手の右手側で渾身の打撃を叩き付ける。

 

『『砕けろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』

 

巨大ホイールを支える左右の支柱金具が、二人の開拓者が纏う武器より放つ、絶大な威力を誇る格闘攻撃により爆砕され。一際大きな破砕音が、バトルフィールドに木霊して。

 

「サンラク!」

「ズラかるぞ!ペッパー!」

 

其の身を翻し、両者共にオーバードレス・ゴーレムの頭頂部から空中に飛び出し。『ダンクシュートだ!』と叫んだ瞬間、巨大泥人形の頭部をホイールが直撃。

 

シャンフロが誇る物理エンジンのもたらす、質量と重力の融合攻撃が炸裂。自身を動かす核を押し潰し、其の身を構成するポリゴンが崩壊・爆発四散を遂げて。

 

同時にオイカッツォと秋津茜のレベルアップを告げるSEが鳴り響き、ペッパーが星天秘技(スターアーツ)・ミルキーウェイを使いながら、下り降りて行きつつ風雷皇の御手をインベントリへ。

 

サンラクは程々の落下位置で空中に踏み留まる『フリットフロート』で落下エネルギーをリセットしながら、続け様にレベル×三歩の空中歩行を可能にする『フローティング・レチュア』で、更に落下エネルギーを取り払いつつ、煌蠍の籠手をインベントリに収納・着地する。

 

「やぁやぁ、あーくん。サンラク君。二人共、オーバードレス・ゴーレムのホイール落とし、お疲れ様だね」

「あぁ。サンラク、さっきの一撃は凄かったぜ」

「ペッパーもな。彼処まで火力出せるたぁ、やるじゃねーの」

 

先んじて走り寄ったペンシルゴンの声掛けに反応しつつ、二人は御互い拳をぶつけ合わせ。両者共健闘を讃え合いながら、パーティーメンバーが駆け寄ってくるのを見つめて。

 

オーバードレス・ゴーレムのドロップアイテムは、クランメンバー同士の話し合いの結果、秋津茜が持つ事となり。旅する狼達は其の脚で再び、全力疾走し。

 

午後八時半過ぎ、彼等彼女等はクラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)の切札にして、シャンフロ最高火力を叩き出した『最大火力(アタックホルダー)』が待つ、イレベンタルに到着したのだった………。

 

 

 






煌めく蠍の籠手と双皇の御手が、泥人形を打ち砕く




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そして旅する狼達は最大火力と接触す



イレベンタルに辿り着き




「此所がイレベンタルかぁ………」

「何て言うかイタリアン的な雰囲気を感じるぜ……」

「綺麗な場所だ………」

「サードレマくらいの大きな街ですね!」

 

シャンフロ第11の街・イレベンタル。現実世界の美食の街・イタリアを思わせる水路と煉瓦造りの街並みに、初めて此所を訪れたオイカッツォ・サンラク・京極(キョウアルティメット)秋津茜(アキツアカネ)は想い想いの声を挙げる。

 

「皆、集合時間の午後九時まで一回解散する。其れまでに水分補給やトイレ、消費アイテムを各自で揃えて、此の街のシンボルである『朽ちた巨剣像』に集合だ」

 

ペッパーが指差す先に魔力のカンテラでライトアップされた、巨大な剣のオブジェクトが見えており。其所に今回のフィフティシア行軍の助っ人、サイガ-0が待って居る。

 

一旦パーティーを解散し、ペッパーとペンシルゴンはエンハンス商会・イレベンタル支店に赴いて。サンラクと秋津茜はラビッツとイレベンタルを繋ぐべく、ランドマークを更新に。京極は水分補給の為に宿屋を探して、オイカッツォは装備を更新するべく、防具屋を目指すのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後九時の五分前。街のシンボルたる朽ちた巨剣像の一角で、一人の『プレイヤー』が静かに立っていた。白い神秘の力を宿す純白の重鎧と、漆黒の大剣を持ち合わせる其のプレイヤーは、此所イレベンタルに到着した他プレイヤーからすれば、見知らぬ者は一体誰かと首を傾げ、見聞きしたプレイヤーは驚愕を顔に現す。

 

名を『サイガ-0』。クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)の切札で有ると同時に、此所シャンフロ内で最高火力を叩き出し、称号【最大火力(アタックホルダー)】を賜った廃人プレイヤーの一人。

 

其れが一時間半前から(・・・・・・・)此の場所で、一歩たりとも動かずに居れば、一体誰と待ち合わせをしているのかと、他のプレイヤー達は気になり。

 

ある者は『最大火力待たせてる奴、どんだけ図太い性格してるんだよ』とか、またある者は『何で此所に廃人プレイヤーが居るんだ?』とか、そんな疑問等を抱いて。

 

其所へ近付いてきたのは、最大高度(スカイホルダー)に廃人狩り、半裸の鳥頭なHENTAIファッションと、金髪ツインテールで女性用発掘研磨シリーズで固めたプレイヤー、そして人斬りの異名で知られる現役PKerに忍者少女の六人という、端から見れば個々のインパクトがあまりにも強過ぎる一団であり。

 

「待たせてしまって、申し訳御座いませんでしたぁ!?!?」

「ア、イエ!イマ、キタトコロ……デス………!」

 

先頭に立つプレイヤー………クラン:旅狼(ヴォルフガング)のリーダーたる者が、非常に気不味い顔をしながらダイナミック土下座を行って、最大火力は棒読みしながら答えるという、そんな光景を目の当たりにして。

 

(ペッパーじゃねーか!?)

(げぇっ、廃人狩り!?)

(なんだあの変態!?)

(ツインテ!ツインテ!)

(うわ、京極居るじゃん……)

(あ、可愛い娘いる………)

(いや嘘付けェ!?)

 

此の場に居たプレイヤー達の心境は、何れが多数を占めるのかは判らず、はたまた別の感情が大半を占める状況かも判らぬ中、旅する気高き狼達は遂に最大火力との接触を果たしたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか一時間半も待たせていたとは……。本当に申し訳ありません………!」

「い、いえ!私としても『サンラク』さんの……延いては旅狼の皆さんの、御力に成れればと……!」

「本当に悪いね、サイガちゃん」

 

サイガ-0を護衛としてパーティーに加えた、旅狼一向はイレベンタルを出立し、フィフティシアを結ぶエリア『無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)』へと歩み始めた。

 

「いやぁ、まさか家のクランリーダーがサイガ-0さんへ、救援要請してたなんてねェ……」

「未知のエリアだし、案内役兼戦闘要員は欲しかったとこだし、良いんじゃないかな?」

「まぁ、サイガ-0さんの攻撃力は黒狼の御墨付きさ。頼りにしてるよ?」

「今日はよろしくお願いします!」

 

黒の色紙に玩具の小型ジュエルをバラ撒いた様な星空の下を、最大火力の案内で旅する狼達はフィフティシアを目指して歩いて行く。

 

(おい、ペッパー……というか、よくまぁサイガ-0さんに応援要請出来たな?一体何やったんだ?)

 

そんな折、サンラクがペッパーに耳打ちするように、最大火力が助っ人に来た理由を聞いてきた。

 

(まぁ簡潔に言うなら、俺達が持ってるユニークモンスター『無尽のゴルドゥニーネ』の名前をちょっとだけ出してね。ペンシルゴンと一緒にライブラリと話をした時、手に入れた情報を黒狼にほんの少し流しただけ。あぁ、流石に『アレ』に関しては教えてないけどな?)

(ってか、ライブラリも無尽のゴルドゥニーネの情報調べあげてたのか……あっちもあっちでスゲェな)

 

ひそひそ話でネタバレをしつつ、サンラクと自分だけが知っている事で話をしていた時である。

 

「あ、あの………サンラク、さん」

「ん?どうしましたか、サイガ-0さん」

 

突如声を掛けてきたサイガ-0に、旅狼の視線が向き。ペッパーは其の手に勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスを握り、周囲警戒を続ける。

 

「えと、その……さ、サイガ-0って名前………姉さ、じゃなくて、あの………クラン、リーダーと被るじゃ、ないですか?な、ので……あの………構わないので、あれば『レイ』の方で呼んで、いただければ……と!」

 

どうやら最大火力のPNは、サイガ-0(ゼロ)ではなく、サイガ-0(レイ)である事を、此の日旅狼の面々は知る事になり。

 

「確かに、同じサイガだと名前被りますもんね。解りました、では此れからは『レイ氏』と」

 

サンラクがそう答えた瞬間、サイガ-0は硬直し。其の瞬間に一同の中で、様々な考察が過る。

 

(あれ、皆サイガ-ゼロって呼んでたけど、サイガ-レイだったのか。………ん?レイ?サイガ?………何か聞いた事有ったような………)

 

サンラクの記憶の琴線に触れて。

 

(そういえばトワが前に、サイガ-100さんの事を『モモちゃん』って呼んでたが、もしかして本名を捩ったPNなのか?)

 

ペッパーは遠からずサイガ-0の名の由来に辿り着き。

 

(へぇ~?私と同じで好きな人に下の名前で呼んで欲しいって感じかなぁ~?百ちゃんの妹ちゃんは)

 

ペンシルゴンは恋愛の匂いを嗅ぎ付け。

 

(なぁ~る~ほぉ~ど~ねぇ?コレはレイちゃんとサンラクの弄り甲斐が出てきたかな?)

 

京極(キョウアルティメット)はニマニマとゲスい笑顔を心中抱き。

 

(もしかしてサイガ-0って女の子かな?だけど体格からして男性アバター使ってる……。確か筋力に関して、男女のアバターで若干補正が変わるとかwikiには在ったし)

 

オイカッツォは同じネカマプレイヤーとして、そしてプロゲーマーとして、サイガ-0のアバターを冷静に分析し。

 

(もしかしてサイガさん、女の人なんでしょうか?)

 

秋津茜(アキツアカネ)は目を輝かせ。

 

(し、ししし、下の名前で呼んで貰えましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

 

当初の目的の一つだった、自身を下の名前で呼んで貰うという目標(タスク)を成し遂げたサイガ-0は、プルプルと歓喜の中で小刻みに震え。

 

其の直後、一向に飛来するストーム・ワイバーンが一匹。

 

「皆!敵襲!ストーム・ワイ━━━」

 

ペッパーが叫んだ刹那、サイガ-0が己の武器であり最大火力何たるかを証明した漆黒の(つるぎ)、ユニークシナリオ『覇天に手を伸ばす魔王』と『覇淵に踏み入る天帝』をクリアして手に入れた、双貌(そうぼう)(よろい)とワンセットたるユニーク武器・神魔の大剣(アンチノミー)を握るや、其の剣芯に轟々とエフェクトが纏い。

 

そして一同の前に躍り出るや━━━━━━

 

断撃(だんげき)破城斬(はじょうざん)】!!!」

 

対城塞クラス(・・・・・・)のモンスターを叩き斬る為の大剣武器攻撃スキルによって、脳天唐竹割を食らったストーム・ワイバーンが、真っ二つの開きになってポリゴンを撒き散らしながら、古城骸の大地に落ち。

 

其れと同時にペッパー・サンラク・オイカッツォは、最大火力の持つスキルの破壊力に「えぇ…………」と、言葉を溢した。

 

「道中の敵は任せてください、何が来ても必ず斬り倒しますので………!」

 

サイガ-0の鎧の下に在る顔は、サンラクから下の名前で呼ばれた事でニッコニコの笑顔だったのだが、其れを知らない旅狼の面々の男性陣は、引き吊った表情で「「「た、頼もしいぃ………」」」と言葉を溢したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパーさん達、フィフティシアに行くのかな………?」

 

そして一向の知らぬ所で、彼等彼女等を見付けた青い魔術師が、其の後を追い掛け始める………。

 

 

 






いざ行かん、フィフティシア




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の一



狼達は進む




「よいしょぉ!」

 

聖盾(せいじゅん)イーディスの金と白の鏡面が、ハードラック・ライノの突進を往なして、速度を殺す。

 

「今だ!攻撃!!!」

「ヨッシャア、ぶちかませ!」

 

オイカッツォの拳が、秋津茜と京極(キョウアルティメット)の斬撃が、サンラクの斬打が、爆走突撃サイの身体に次々とクリーンヒットして。

 

「行きます……!剣神断覇(けんしんだんぱ)!」

 

体力を粗方削り切った所に、サイガ-0の攻撃が其の巨躯を断ち斬り倒す。シャンフロで今も揺るがぬ、最大火力(アタックホルダー)の地位を維持し続ける其の実力は、やはり目を見張る物がある。

 

「わぁ、レベルが上がりました!」

「俺も上がったよ。やっぱり、此の辺りのモンスターは軒並み強い事も有ってか、レベリングが捗る」

「といっても殆どがレベル99超えのモンスターばかりだからな……ハードラック・ライノやストーム・ワイバーンは良い例だし」

「オマケに呪い(マーキング)の影響も効かないときた……」

 

レベルアップで獲られたスキルの確認と、ポイントの振り分けを秋津茜とオイカッツォは行いつつ、モンスターが落とした素材をペッパーとペンシルゴンが一同に分配しながら、フィフティシアへと歩みを進める。

 

「其れに、しても……皆さん凄い、ですね」

 

そんな時、旅狼(ヴォルフガング)の面々を見ていたサイガ-0が彼等彼女等を見ながら言った。

 

「各々がやりたいように、やりつつも……。其の状況に応じて、役割を遂行してる……と言いますか。特にサンラクさん、は………前衛を張っているのに、一度も被弾していないのは……凄い、です」

「まぁ、直撃=死なんで……リュカオーンにマーキングされてから、胴と脚に装備出来なくなりましたし」

 

ユニークモンスター・夜襲のリュカオーンと善戦し、其の身に二ヶ所の呪いを受けたサンラクは、必然的に耐久無振りの機動力特化に成らざるを得なかった。

 

「で、では…早い所……呪いを解呪して貰って、装備出来るように、ならなくては……ですね!」

「あ~……其れなんですが、レイ氏。実は解呪するか否かで、ちょっと悩んでるんですよ」

「え?」

「紙装甲だったり他プレイヤーのバフを受けられなかったり、色々とデメリットは有るんですが………呪い(コイツ)には色々と助けられた場面が有りまして」

 

実際ペッパーも秋津茜も、ユニークモンスターの呪い(マーキング)を受けた身で在る為に、サンラクの言わんとしている事はよく解る。デバフの谷も呪いの力が在ったからこそ、スムーズな攻略が出来たと言っても過言では無い。

 

「まぁ、出来ることなら脚の呪いは解きたい……とは考えてますね。最近は籠脚(ガンドレッグ)なる、脚用の武器がシャンフロに追加された……とか言う話なので」

 

此れはサンラク自身の本音であり、ペッパーが使っているレディアント・ソルレイアを含めた、籠脚による攻撃スキルも獲得してみたいと考えている。ただ今の自分には、呪いを『一時的に相殺する手段』への糸口を手にしているので、今すぐに解呪したいかと言われたなら、悩みに悩んだ果てに『Yes』と答えるが。

 

「そう言えばレイ氏、聖女ちゃんに会えればリュカオーンの呪いを解く事が出来ると、家のクランリーダーが言ってたみたいですが……」

「は、はい……。此のゲームの、世界観における宗教【三神教(さんしんきょう)】の聖女……『慈愛の聖女イリステラ』、ですね。シャンフロでは唯一『全ての呪いを解呪可能なユニークNPC』です。彼女に頼めば、リュカオーンの呪いを解く事も不可能では無いのですが………」

 

口ごもるサイガ-0に、ペッパーが助け船を出す。

 

「彼女を護っている、ジョゼットさん率いる『聖盾輝士団(せいじゅんきしだん)』。通称『聖女ちゃん親衛隊』を含めたプレイヤーやNPC達が立ち塞がっている……と」

「あ、はい。そうです……ペッパーさんは、イリステラさんに会った事が?」

「えぇ、王都・ニーネスヒルで。ジョゼットさんとも其所で出逢いました」

 

詳細は明らかにしない。彼女との約束を含めて、クランメンバー以外にレディアント・ソルレイアの━━━延いては身内にも光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)の情報は、来るべき時まで公開したく無いのだから。

 

「あーくんやサンラク君は目を離すと、すぐ色んな隠し事を溜め込むからねぇ………。定期的に叩いて吐き出させないと、私達も巻き込まれかねないからさ」

「僕もペンシルゴンに同意だね、ほんと叩けば叩く程に知らない情報ばっかり出てくるし」

「ホントそれな」

「俺達ゃ、縛られたくは無いがな」

「其れは同意」

「でも、ペッパーさんもサンラクさんも。サイガ-0さんも、皆さん凄いですよ!」

 

言いたい事を言い合いながら、フィフティシアへと向けて進んで行く。と、サイガ-0はサンラクにもう一つ、彼に質問をしてきた。

 

「あ、あの、サンラク……さん」

「ん?どうしました、レイ氏」

「明日迄に、フィフティシアへ……向かい、たい……と言っていた、そうですが……。ど、ドナカ……との、()()ワセ……シテマスカ?」

 

話の空気が変わる兆候を、ペッパーとペンシルゴン、そしてサンラクが感じ取る。警戒を厳としつつ、周囲の敵が此方に迫ってこないかを見定めながら、成り行きを見守る。

 

「えっ?あ、はい。別のゲームで知り合った『男女』二人組のプレイヤー何ですけど………。此方(シャンフロ)では『まだ会った事が無い』んですよ」

 

サンラクの答えに、果たしてどんな反応をサイガ-0は如何なる反応をするのか………。

 

「ソ、ソウナンデスカ…!………………良かった、まだフレンドじゃない

 

どうやらセーフだったらしく、空気が穏やかに成っていく。しかし同時にサイガ-0から放たれるは、並々ならぬ気迫であり。

 

(まだ、フレンドじゃない……つまり『チャンス』が有る……!此の無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)の攻略で、陽務(ひづとめ)君との距離を、私は絶対に詰めてみせる……!)

 

漫画ならば背景の効果音で、ゴゴゴゴゴゴゴ………!と響く様な其れに、ペンシルゴン・京極・秋津茜以外のメンバーとヴォーパルバニーが、ビクリ!と反応。

 

「あ、皆さん!実は、此のエリアには『エリアボスまでの最短ルート』が在るんです。少し複雑では有るんですが、良ければ御案内致します!」

「えっ!?マジすか!?」

 

そんな中、サイガ-0からの提案にサンラクが反応する。此の危険地帯を、最短でエリアボスまで行ける道程は、武器の耐久値を減らさず済む上に、日を跨がすにフィフティシアに到着出来るなら、好都合な事は無い。

 

「皆、良いか?」

「最短でエリアボス到達なら悪くないね」

「私も賛成、道中の相手と戦わずに済むなら」

「僕も賛成」

「私もです!」

「サイガ-0さん、案内をよろしくお願い致します」

 

全員一致の賛成でサイガ-0が先頭を行き、クラン:旅狼(ヴォルフガング)のメンバーは純白の重騎士の後に続いて行く…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンラク・ペッパー・ペンシルゴン・オイカッツォ・京極・秋津茜は知らない。

 

サイガ-0が此の最短ルートを、虚覚えでいる事を。

 

 

 

 

サイガ-0は知らない。

 

サンラクと少しでも、一分一秒でも長く居たいという気持ちにより、旅狼からの要請を半分裏切っている事を。

 

 

 

 

「ペッパーさん達、エリアボスと違う方角(・・・・)に行ってる……?」

 

レーザーカジキは知らない。

 

今進んでいる其のルートは、本来到達出来る筈のエリアボスから、完全に『離れた方角』に向かっている理由を。

 

彼は、狼達が違う方向に進んでいると伝えるべく、其の脚で追い掛けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼等彼女等は知らない。

 

 

 

 

 

 

此のエリアには既に、『夜の帝王』が来ている事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






夜が来る

夜が、来る

夜が━━━━━来る



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夜天に星を、勇気に灯火を 其の二



フィフティシアへ向かう狼達




一体何れ程の時間が経っただろうか。

 

一体幾つのモンスターと戦っただろうか。

 

エリア攻略開始から数時間、日を跨いだ此の状況に、口を開いたのはサンラクだった。

 

「あの、レイ氏?」

「えっと、確か此の辺りを右に曲がると…………折れた支柱が在りまして、其所を西に向かい………」

「ぶっちゃけますけど…………『迷ってますよね』?」

「イエ、ソンナコト………ナイデスヨ?」

(いや嘘付けェ!!?)

 

片言で話すサイガ-0に、此の場に居た秋津茜(アキツアカネ)と、一人遠くで様子を見守っていたは良いが、話し掛けるタイミングを全く掴めずに居たレーザーカジキ、そして三羽の兎以外のプレイヤー全員が、ほぼ同時に心で声を発した。

 

しかし悪い事ばかりでは無く、此のエリアでの戦闘回数は既に相当数に至り、モンスターの素材や経験値はかなり手に入った事で、秋津茜はレベル45・オイカッツォはレベル74まで上がっている。

 

「その………スイマセン、迷いました………」

「あ、いえいえ。誰にでも道に迷ったり、間違いをする事は有りますから」

「レベリングやドロップアイテムも一杯だし、感謝してるから大丈夫だよ」

 

とはいえ何時までも、此所で彷徨って居る訳にはいかないのは事実であり、早い所フィフティシアには到達したい。

 

「取り敢えず自分達が今居る場所が判れば、フィフティシアへのルートも割り出せるかも………。ちょっと空中走ってみる」

「え?」

 

サイガ-0が疑問を言うより早く、ペッパーは星天秘技(スターアーツ)・ミルキーウェイで空中でのルートを描き、其の両足で夜空を駆け上がる。彼が通った後には、天ノ川に等しい煌めく軌跡が暫く残された。

 

「ヘルメスブートとも違う……?マナを集束させて、空を駆けてる……感じ、でしょうか?」

「まぁ、そんな所だね。私のあーくんは、アレを朝飯前に出来ちゃうんだから♪」

 

ジャンルこそ違えど、シャンフロにてホルダーを手にしたプレイヤーの実力。其の一端を目の当たりにしたサイガ-0は冷静に分析し、ペンシルゴンは自慢気に胸を張る。

 

「フィフティシアは……今居る場所から東側か。と言うか此所『エリアの端っこ』じゃん……最短ルート所か、滅茶苦茶離れた場所まで来てるし……」

「綺麗な夜空なのさ………あ、ペッパーはん。レーザーカジキはんが居るのさ」

 

そして一人、夜空を駆けたペッパーは遠くに見えるフィフティシアの灯りを観て。情報を伝えるべく、再び地上へ降りようとした時、旅人のマントに隠れていたアイトゥイルが、瓦礫の影からサンラク達や夜空に駆け上がった自分達を見ている、レーザーカジキの姿を目視した。

 

「何で此所に……?レベリングでもして━━━━━」

 

アイトゥイルの見つめる方向を見たペッパーは、疑問を抱き。

 

だが、次の瞬間━━━━彼は恐るべき光景(モノ)を目撃する。

 

レーザーカジキの背後、何の変哲もない巨大な瓦礫━━━━━の()が、独りでに『蠢いた』のを。

 

其の刹那、ペッパーは反射的に咆進快速(フルスレイドル)から進化、最高速度時には『ソニックムーヴ』を纏う『轟烈迅速(ヴスティオ・ファーレ)』と、摩天来蓬(まてんらいほう)から進化して『最高速度』による空中ダッシュを可能とするスキル『旭天昇昂(きょくてんしょうこう)』。

 

そしてマーシフルチャージャーの進化スキルであり、使用したスキルの再使用時間(リキャストタイム)を30%短縮&同じスキルを使う場合に効果時間を延長する『ファウラム・チャージング』の三つを用いて、刹那の中で白いマナの軌跡を描き、レーザーカジキに接近、レーアドライヴ・アクセラレートによる瞬間移動、彼を抱えて再び瞬間移動した僅か一秒後、二人が先程まで居た場所には、巨大な衝撃と轟音が鳴り響く。

 

「うぉ!?何だ今の!?」

「後ろからだ!」

 

サンラク・オイカッツォが反応した直後、レーアドライヴ・アクセラレートで瞬間移動をしたペッパーが現れて。彼の肩にはアイトゥイルが乗っかり、其の左脇にはレーザーカジキが居る。

 

「あーくん!アイトゥイルちゃん!どうしたの!?」

「皆、ヤバイ事になった………!」

 

苦虫を噛み潰した様な、険しい表情をするペッパー。

 

そして彼の見据える視線の先に、ソレ(・・)は……………『顕れる』。

 

瓦礫の山を踏みて、躍り出るは『漆黒の狼』。

 

「嘘、でしょ………!?」

「わぁ……!凄く大きなワンちゃん……ですかね!」

「な、何という事で御座る……!」

 

纏う覇気と殺意は、獲物たる者共に『注がれていて』。

 

「ねぇ、あーくん………コレは夢だったりするの?」

「いいや、ペンシルゴン。コレは現実だよ、とびっきり悪いが着くけども」

「見間違い……では、無いのさね………」

「えっ、えっ………!?」

 

其の右眼は、まるで『黒く塗り潰された』ように、其所には光が無く。唯其所には『黒の闇が在るのみ』で。

 

「あわわわわわわ!?サンラクざァん?!サンラクざんッ!?」

「エムル、ステイ!…………って言われても無理だよなァ………『アレ』を観ちゃあよぉ!」

「アレが………サンラクやペッパーの言ってた、ユニークモンスターか…………!」

「こんな時に、現れるなんて………!」

 

喉を鳴らし、彼女(・・)は見つめる。

 

嘗て弱き身ながらに、己が片眼を切り裂いた者を。

 

嘗て独り身ながらに、己の体にクリティカルを刻み続けた者を。

 

そして黒い狼は、歓喜(・・)と共に叫び、吠えるのだ。

 

『やっと遭えたね♪』━━━━━━と。

 

 

 

『ユニークモンスター』

 

『夜襲のリュカオーンに遭遇しました』

 

 

 

其れは何の因果か、はたまた運命か、もしくは乱数の女神の悪戯か。

 

ペッパーとサンラクにとって、そしてサイガ-0にとっても。因縁大有りのユニークモンスターとの、最悪の再会であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『タイミングが、あまりにも悪過ぎる』━━━━其れがペッパーとサンラクが、此の状況を一言で表した場合の言葉である。

 

ペッパーにとっては、夜襲のリュカオーンが『夜の時間帯』に『ランダムエンカウント』する特性上、フィフティシア夜間行軍中に『接敵し得る可能性』が少なからず存在する中で、『NPC』と共に行動をしていた事に対してで。

 

何より『シャンフロのNPC達』は、一度死ねば二度とリスポーンしない仕様が有り(・・・・・・・・・・・・・・・・)、此所でアイトゥイル・エムル・シークルゥの中の、誰か一羽でも犠牲になろうものなら、ヴァイスアッシュに何をされるか解らない。

 

一応、エンハンス商会にて『再誕(さいたん)涙珠(るいじゅ)』をクラン:旅狼(ヴォルフガング)の資金でペンシルゴンと共に購入したものの、其の数も有限であり、其れが尽きれば死ぬ事も退く事も許されない、そんな戦いを最強種相手にやらなくてはならない。

 

(あの話を此所でするか?いや、レーザーカジキも居るし、サイガ-0さんの心が変わる可能性だってある………!)

 

 

 

 

 

 

 

サンラクが危惧しているのは、ウェザエモンと同じ『七つの最強種・夜襲のリュカオーン』と戦い。万が一にも倒した場合、案内役を買って出たサイガ-0と、ペッパーが救出したレーザーカジキに『ユニークシナリオEXの発生』という可能性が有る事。

 

何よりサイガ-0(レイ氏)程のプレイヤーがゴロゴロと存在する、シャンフロのトップクランの黒狼(ヴォルフシュバルツ)に、此の戦いで獲得した情報(・・)が渡ったならば、其れを元にした『攻略部隊』を作る事も容易いだろう。

 

情報とは武器だ━━━━━━ペンシルゴンがよく言った言葉であり、クラン:旅狼(ヴォルフガング)は持っている手札達は、其の一枚一枚の破壊力や爆発力は凄まじいものの、あくまで『個々の強さ』でしかない。

 

トランプで例えるならば、数字は強くても役の揃っていない『ブタ』、逆立ちしても『ロイヤルストレートフラッシュ』には勝てず。情報を元に攻略編成を整えた黒狼に、リュカオーンが討伐されようものなら、連盟のパワーバランスは一気に傾く事は避けられない。

 

早い話がサンラクは、空中での機動力に優れたペッパーに、ヴォーパルバニー達を押し付けて退避して貰い、残りのメンバーで『適当な時間稼ぎをして全滅からのエリア攻略やり直し』という、最悪の禁じ手(・・・・・・)を使うべきかと思考する。

 

(どうする……!?あまり時間はねぇ………!)

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

「あーくん」

「サンラク、さん━━━━」

 

 

 

思い悩む二人の戦士に、魔王と重騎士が各々の言葉を紡ぎ。其の言の葉が、彼等の迷いを断ち切った。

 

 

 

 






夜の帝王、再臨




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の三



ヒロインズ、動く




ペッパー(あーくん)の耳が小刻みに動き続けている━━━━━━━七つの最強種(ユニークモンスター)・夜襲のリュカオーンとの突然の遭遇。想定外の事態と、パーティーに居る三羽のヴォーパルバニー達の存在。そしてシャンフロのNPCに掛けられた特性を加味して、どうするかを此の瞬間も一生懸命考えている。

 

(あーくんにとって、幾度も敗れてきた相手とのリベンジ戦なんてシチュエーション━━━━━━━『ゲーム』をしてる時の彼なら、絶対に燃えない訳が無い)

 

梓が様々なレトロゲームをプレイしている姿を、隣や近くで観てきた永遠は、彼のモチベーションが灼熱の如く燃え上がり、唯でさえ深い思考が更に冴え渡る瞬間を、彼女はよく知っている。

 

ある時は、主人公のヒロインを殺した仇敵との因縁にケリを着ける時。

 

ある時は、幾度挑んでは届かなかったライバルとの、真の決着の時であったり。

 

またある時は、世界の命運と全てを託されて、黒幕との最終決戦の瞬間に。

 

そしてある時は、宇宙を滅ぼさんとする剣の師を止める為の闘いで。

 

(だけど、今のあーくんは『燃えていない』。寧ろ『躊躇ってる』様に見える………)

 

情報が渡る事・NPCを失う危険性(リスク)・クランリーダーとしての重責(プレッシャー)…………其れ等が絡み合って、雁字搦(がんじがらめ)の鎖の如く、彼の思考を縛っているのだと、ペンシルゴン(天音 永遠)は感じた。

 

其れは遠からず正解であり。彼女は愛した人に最高のエールを以て、彼のゲーマーの炉心へ火を灯し、焼き尽くす程の業火へと変える。

 

ゲームをしている時の彼は何時だって真剣で、自分はそんな本気で楽しんでいる彼が、彼女は大好きなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイガ-0にとって、リュカオーンとの戦闘は此れで『四回目』だった。

 

最初の出逢いは、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)にも属していない、当時はソロの時に接触して成す術も無く散り。

二度目は装備も整ってきた頃の、野良で組んだパーティーで行動中に接敵し、ボウリングのピンの気持ちを味わい。

三度目はクラン:黒狼に所属・レベル80台辺りに成った頃、今の主力級のメンバー達と共に挑んだが、一分で壁のシミへ変えられ。己の姉のサイガ-100に至っては、リュカオーンに『捕食』されたのを目撃した。

 

(どうしましょう………)

 

此のパーティーには三羽のヴォーパルバニー達が……NPCが居る。旅狼(ヴォルフガング)にとって兎達が大切な存在である以上、此所で退く事は出来ない。

 

そしてサイガ-0にとって、此の場で最も機動力の有るプレイヤーに兎達を任せ避難を促し、残りのメンバー全員で適当な時間稼ぎをしつつ全滅後、もう一度イレベンタルからエリア攻略をし直す……という考えが在った。

 

(━━━━何て浅はかで、酷く恥ずかしい考えだろう)

 

きっとそんな事をしたならば、自分を頼ってくれたクラン:旅狼に。そして何よりサンラクに近付いて、隣に立ちたいと願う自分に対し、あまりに失礼極まりない。

 

何時だって思い出すのは、あの雨の日に見た彼の太陽の様に明るい『笑顔』。宝石や宝物を見付けて、無邪気な子供の様にキラキラと、輝く眩しい笑顔に惹かれ。

 

そんな彼と仲良くなりたいと、強く願って此所まで来たのだから。

 

(陽務君は、此の瞬間を『楽しんでない』。彼の足を、何かが縛って止めている………)

 

目の前に宝石や宝物が在るのに、其れを掴む事に戸惑っている。余計な柵によって、動けなくなっている。遠からず、然して正解に辿り着いたサイガ-0は、未だに迷い。

 

しかし鳥面から見える瞳の奥底で、今此の瞬間も揺るがず燃える、彼の炎を見ながら。彼女は言葉を紡いでみせた。

 

 

 

 

「あーくん。此の瞬間を君はずっと、心の底から待ってたんじゃないかな?強くなった君の実力を、呪いを刻み付けたリュカオーンに見せる絶好のチャンス………思いっきり『楽しんじゃおう』よ?」

 

「サンラク、さん━━━━やりましょう。リュカオーンに出逢えた、今此の瞬間の偶然を。此のゲーム(シャンフロ)を。『全力で楽しみましょう』」

 

 

 

 

 

嗚呼……ちゃんと言えて良かった。此の瞬間をきっと、自分達は忘れることはないだろう。好きな人の迷いを断ち切り、其の背中を押せたのだから。

 

全身を覆った鎧によって見えないサイガ-0と、現実の己と殆ど似せて作り上げたペンシルゴン、二人の微笑みが二人の戦士に向けれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーくん。此の瞬間を君はずっと、心の底から待ってたんじゃないかな?強くなった君の実力を、呪いを刻み付けたリュカオーンに見せる絶好のチャンス………思いっきり『楽しんじゃおう』よ?」

 

「サンラク、さん━━━━やりましょう。リュカオーンに出逢えた、今此の瞬間の偶然を。此のゲーム(シャンフロ)を。『全力で楽しみましょう』」

 

ペンシルゴンの言葉、サイガ-0の言葉。ニュアンスこそ異なるものの、本質は『楽しむ』という事実を突き付けた二人に、ペッパーとサンラクは自分達を縛る鎖が音を立てて壊れ、思考と身体が軽くなったのを感じた。

 

「そりゃあ………そうか」

「………簡単な事だからこそ、解らなくなる時が有る」

 

ゲームとは『楽しんで』なんぼなのだ。確かにプレイ中に後悔したり、反省したりする事は多々ある。其れがゲーマーならば直の事で。しかし其れを理由に、戦いの手を止めたくはないのだ。

 

「はははっ……ふははははは!いやぁ、すいませんレイ氏。俺、そんな『つまんなそーな顔』してましたかね?」

「あ、いえ!そんな事、ありま……せん!」

 

ニヘラっと少し下衆味を含んだ笑顔を鳥面に浮かべ、サンラクが笑い。

 

「…………ありがとう、ペンシルゴン。お陰で今、俺に『やるべき事』が見えた」

「そう、其れで良いんだ。あーくん」

 

ペッパーの眼に灯火が点き、彼は皆に言った。

 

「皆、リュカオーンに警戒しながら聞いてくれ」

 

夜の帝王たる黒い狼は、此方のやり取りの空気を『察して』か、忠犬の如く『お座り』の姿勢をしながら、尻尾をブンブンと振っている姿が見える。

 

「サイガ-0さんは、俺達のクラン:旅狼(ヴォルフガング)への移籍を希望している」

 

其の一言にペンシルゴン・サイガ-0以外の全員の視線が、ペッパー唯一人に向けられた。

 

「えっ、マジ?」

「其れ本当?ガセじゃない?」

「他ならぬ、サイガ-0さん本人が言いました。ですよね?」

「はい。其の通り、です」

 

オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)が疑うも、サイガ-0の口から事実だと証明する事で迷いを払い、同時に今回の戦いで獲られた情報が、黒狼(ヴォルフシュバルツ)に渡る危険性は『ある程度』緩和されたといって良い。

 

クランリーダーの説明、サイガ-0の言葉が、皆の意思を一つに結んだ。此所でリュカオーンを倒すという、満場一致の考えに。

 

「……………やろう、レイ氏。此所で勝って、フィフティシアへ凱旋してやろう」

 

サンラクが其の手に、湖沼(こしょう)短剣(たんけん)湖沼(こしょう)小鎚(こづち)を取り。

 

「戦おう、皆。此の戦いは、絶対に負けられない」

 

ペッパーが其の手に、風竜骨の筋鞭(ストーム・ウィッパー)を取り。

 

其れを見た旅狼のメンバーも、サイガ-0も。レーザーカジキも、ペッパー・サンラク・秋津茜のパートナーたる兎達も、各々の得意なスタイルを成す為の武具を取って。

 

彼等の闘志を、彼女等の意思を。リュカオーンはどう感じたのか、一同には解らない。だが夜の帝王は口角を吊り上げて、僅かに『グルルッ』と喉を鳴らし、前足を大地に叩き付ける。

 

其れを合図として、クラン:旅狼のユニークモンスター・夜襲のリュカオーンとの遭遇戦が、静かなる残骸の荒野にて火蓋が切られた。

 

 

 

「覚悟しろ、夜襲のリュカオーン!」

「あの頃の俺達とは、一回りも二回りも違う……!」

『俺達の力を見せてやる!!!』

 

 

 

 






夜を、闇を、勇気で照らせ




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の四



VS 夜襲のリュカオーン




「うぅおらァ!!」

「そして追撃ッ!!」

 

振り下ろされるリュカオーンの前足攻撃を弾い(パリィし)て、攻撃を往なすサンラクに続く形でペンシルゴンの持つ勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖槍(せいそう)カレドヴルッフを用い、槍武器攻撃スキルの中でも最上位に位置する『日差しの穂先(スピアオブサンレイズ)』で、肉質貫通+熱による追加ダメージを叩き込む。

 

「ッ!?わああああ!?」

 

しかし其のダメージは微々たる物━━━というよりも『無傷』に近い物であり、リュカオーンの剛力なる後ろ足を振り回されて、カレドヴルッフの穂先は夜の帝王からすっぽ抜け、華奢な彼女の身体が夜空に吹っ飛び舞い踊る。

 

「ペンシルゴン!」

「ペンシルゴンはん!」

「あーくん、アイトゥイルちゃん!ゴメン助かった!」

 

地面に叩き付けられる直前、猛ダッシュでスライディングをしたペッパーが、地面に落ちてくる彼女を受け止めて戦線離脱を防ぎつつ、其の身を抱えながら周囲に指示を飛ばしていく。

 

「オイカッツォ!レーザーカジキ!常にフィールドにある『大きな瓦礫の影の位置』を把握するんだ!リュカオーンは其の影から『現れる』!京極(キョウアルティメット)は深追いし過ぎるな、アイツは攻撃にもディレイを絡めてくる!刀武器で受けるのはオススメしない!」

 

ペンシルゴンを戦線まで運んで下ろし、常にフィールドに有る『瓦礫の影』に目を光らせ、文字通りクラン:旅狼(ヴォルフガング)の目となって戦線を支える。

 

「って言った傍から『また』やってきた!」

「今回は俺狙いで来たね、『分身攻撃(ぶんしんこうげき)』!確かに速いけど、瓦礫から距離が離れてるなら━━━━充分に『躱わせる』!」

 

動体視力に優れたオイカッツォが、飛び掛かってきたリュカオーンの分身(・・)による攻撃を、紙一重で避けながらリュカオーンの本体(・・)を見据え、警戒を続ける。

 

時間は約三十分前、レーザーカジキの背後に在った瓦礫の影が蠢き、其の直後に攻撃を仕掛けてきた事で、ペッパーは『夜襲のリュカオーンは影から、様々なアクションを仕掛けてくる』と読み、パーティーメンバーにフィールドにある『影』に気を付けろと、注意喚起を促した。

 

結果として其の予想は見事に当たり、レーザーカジキや京極、ペッパー自身が当たりそうになったものの、此所までプレイヤー・NPC共に脱落者を出さず、ダメージを与えられている。

 

「エムル!」

「はいな!『マジックチェーン』!」

 

エムルの魔術書から魔力を帯びた『鎖』が、リュカオーンの左後ろ足に絡み付き、其の動きを一瞬だけ止める。しかし其の鎖も、夜の帝王相手では僅か一瞬で引き千切られてしまう。

 

「あぁっ!?千切れちゃいましたわぁ!?」

「エムルは秋津茜(アキツアカネ)の所へ退避!レイ氏、今だ!」

「わっかりましたわぁ!」

「行きます……『アポカリプス』!」

 

エムルとサイガ-0が役割を入れ換える(スイッチ)。サンラクの頭から魔術師兎が離れて、京極の頭を経由し、シークルゥが護衛する秋津茜の元に。

 

そしてサイガ-0の持つユニーク武器『神魔の大剣(アンチノミー)』が、リュカオーンの漆黒の毛並みにも劣らない深淵のブラックエフェクトを纏いながら、振り払いのモーションで一瞬生まれた後隙を、細い針の穴に更に細い糸を通すが如く、サイガ-0の持つ黒き刃がリュカオーンの脇腹に、渾身の力で叩き込まれる。

 

其の一撃は伊達ではなく、此方のパリィでも崩せなかった狼の巨体を揺らし、其の体勢を僅かだが崩す程の威力。シャンフロの最大火力(アタックホルダー)の名に陰り無しである。

 

「レイ氏、ナイスクリティカル!少なからず『効いてるぞ』!」

「でも、あんまり『効果』が無いようにも見えますね……」

「このまま押せ押せで行きましょう!」

 

サンラクが叫び、レーザーカジキは冷静に分析、秋津茜がムードを盛り上げる中、リュカオーンの注目(ヘイト)がサイガ-0に向けられる。

 

「アイトゥイルはペンシルゴンの元へ!サイガ-0さん、今度は俺がリュカオーンを引き付けます!そしたら一度作戦会議、全員ペンシルゴンの位置に集合!!!」

『了解!!!』

 

ペッパーが己が握る風竜骨の筋鞭(ストーム・ウィッパー)を振るい、リュカオーンの前足を『抜刀のように横薙ぎ払い』で叩いて注意を引き。

 

視線が移った瞬間にペッパーは鞭から、ビィラックに強化して貰った『クリスタルナイフ【改七】』へ切り替えつつ、嘗ての死闘で得た前足攻撃の適切距離に身を置き、改備(あらためぞなえ)に到達している致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】を使用。

 

其の場に残像(デコイ)にリュカオーンの攻撃を受け持たせ、周囲警戒を行いながらも、全員をペンシルゴンの近くに集める。

 

「ペッパーさん、アレは……?」

「デコイみたいな物だね。まぁ、30秒程で消えちゃうけどな。……………率直に聞くが、皆はリュカオーンを『倒せると思うか』?」

「正直言うと、アレは相当な火力が無いと『ダメージ』が入らないな……」

「少なくとも拳気(けんき)で殴ったけど、効き目は薄い気がするね。最上級装備を繊維にして、束ねた物が毛皮を構成してる感じ」

「刀の通りがどうにも悪いと思ったけど、やっぱり『打撃』の方が効果は有るか」

「私は火力面では力になれませんが、サポートならエムルさんにアイトゥイルさん、そしてシークルゥさん達と協力して頑張ります!」

「私も万が一に備えて、秋津茜ちゃんとレーザーカジキ君と一緒にサポートに回るよ。いざとなったら前衛も張るから」

「敏捷系のバフは有るので、必要になったら言ってください!」

 

其の状況に応じ、フレキシブルに役割を変更する各員の『判断力』。自分達に出来る事を全力で探し、其れをやり抜かんとする『姿勢』。其れがクラン:旅狼(ヴォルフガング)の『強さ』なのだと、サイガ-0は知り。

 

そして彼女は、己の持つ『切札』を。彼等彼女等に開示する事に決めた。

 

「あの、サンラク、さん。そして、皆……さん。もしかしたら、ですが……。リュカオーンに『通用する攻撃』が、私には……有ります。私が『最大火力(アタックホルダー)』を獲るに至った、最高火力………其れを当てられたなら、十分に勝機は有るかと」

 

最大火力の切札の開示に、全員の視線が向き。ペッパーは耳を傾けつつも、リュカオーンの動向を見つめ続ける。

 

「要点を御願いします、サポートしますので」

「最大火力の由縁……!そんな切札が有るんすか、レイ氏!」

「其れは初耳だ。で?どうすれば其れを『発動』出来るんだい、レイちゃん?」

「そんな物があるなら、是非とも賭けてみたいね」

「分の悪い賭けは嫌いじゃないよ、僕は」

「お、お願いします!」

「其れまで、私達が支えますよ!サイガ-0さん!」

 

メンバー全員が興味津々の様子で、しかし勝利に繋げる為に耳を傾けている。サイガ-0は其の切札を発動する為の『面倒な行程』を皆に話していく。

 

「条件は『二つ』……有ります。鎧が今の白い状態時の『魔王天帝(サタナエル)』で使える、ユニークスキル………『アポカリプス』。そして鎧が黒い状態、つまり『天帝魔王(サタン)』の時、其の時だけ使える……ユニークスキル『カタストロフィー』。

此の二つを、各々『五回ずつ』………同一の敵対存在へ攻撃を当てて、初めて使用可能に……なります」

 

先程までのリュカオーンとの攻防の最中、サイガ-0は『アポカリプス』を一度ヒットさせている。詰まる所、アポカリプスは『四回』。カタストロフィーは『五回』、リュカオーンへと叩き込まなくてはならない。

 

「そして二つ目が、アポカリプスとカタストロフィーを、各々五回ずつ与えた後……『長い詠唱が必要』になり………。其れを唱えた『直後』に、与えなくては……いけないん、です」

 

更には攻撃を当てた後は、サイガ-0は『無防備』となる上に、其の攻撃を『確実に当てる』必要がある。無論外せば今までの苦労は水泡に帰す上、勝機も砂上の城のように崩壊するだろう。

 

何よりサイガ-0は、此のスキルを此迄『一度』たりとも、夜襲のリュカオーンを相手に『成功』させた事が無い。其れでも己の切札を開示したのは、サンラクの力になりたい。サンラクと彼の仲間達と共に、リュカオーンを倒したい………そう願ったからで。

 

「良いですね……其の賭け、乗ります!」

「………成程。最大火力由来の切札、そんな魅力的な誘い……其れに乗らない奴は居ないでしょう」

「ヨッシャア!んじゃ条件達成に向けて、此方も気合い入れてやるか!」

「期待してるよレイちゃん。其の切札に私達の命運を賭ける」

「切札発動まで、やるだけやってみよう」

「微力ながら、御力になりますよ!」

「ぼ、僕も頑張ります!」

 

満場一致で切札にベットしてきたメンバー達に、サイガ-0はホッとしながら。

 

「よし!もし切札が失敗したら、俺が全責任を持って皆の離脱を援護する!文句は有るか!?」

『異議無し!』

「其れじゃあ、やるかぁ!!!!」

 

ドンと胸を張って、責任を一身に背負う覚悟を決めたペッパーに、皆が答えて行動を開始するのを見ながら、サイガ-0も双貌の鎧を『天帝魔王(サタン)』状態たる漆黒の姿に染め上げ。

 

其の手に握る神魔の大剣もまた、漆黒から純白へと変えながら、リュカオーンへと攻撃を当てるべく、動き始めたのだった………。

 

 

 

 






勝機は最大火力の切札(ジョーカー)に有り




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の五



勝利の為、道を作る




夜襲のリュカオーン。ペッパーとサンラクが出逢い、其の身に『呪い』と言う名のマーキングを刻み付け、何れ倒すと心に定めた敵。

 

黒狼(ヴォルフシュバルツ)の団長たるサイガ-100が、幾度も敗れても尚討伐への闘志が揺るがず、情熱を燃やし続ける七つの最強種であり、暗闇と共に顕れる『夜の帝王』。

 

夜の影より現れる黒い狼は『単純な近接戦闘能力』の凄まじさに加えて、自身と同じ大きさか其れ以上の『影』から、分身による『飛び掛かり攻撃』を仕掛けてくる。

 

「全く、常に『フィールドの影』に気を付けなきゃなんねぇって……!クッッッソ、面倒な事してくれやがる……!」

「おまけにっ…!分身攻撃の頻度がさっきより『上がって』来てるな、サンラク!ペンシルゴン!ペッパー!具体的に体感一分に三回程度!」

「本体を狙わなくちゃならないのに、分身が其れを『邪魔』してくるなんて……!相変わらず厄介極まりないよ!」

 

分身攻撃を回避しつつ、パリィを続けるサンラクとオイカッツォ。本体の前足薙ぎ払いから逃げ仰せつつも、新たに現れた分身による飛び掛かりを、何とか避けるペンシルゴン。

 

「でも、こうも分身攻撃を見せられれば『色々』と判ってきた事も有る!あの分身攻撃は、必ず『出現時に影が変形』するっていうモーションが『発生する』!反射神経が優れていないプレイヤーは、常に『影から10m以上離れる事』でギリギリになるけれど、回避は可能だ!

そしてフィールドに存在している『影の位置』を意識しながら、一人では対処出来ない『死角』を、他者の視界で補い合えば、攻撃に対処出来ない訳じゃない!」

 

ペッパーが状況を説明しながら、星天秘技(スターアーツ)・ミルキーウェイを使いつつ空中を駆け回り、フィールドにマナ粒子による残光を残し。左手に握るクリスタルナイフ【改七】から、手斧武器のミリア・アティオン【改三】を装備。

 

『上段唐竹割り』の如く、リュカオーンの身体に攻撃を叩き付けるが、其の毛並みは強靭であり頑強。斬撃による攻撃はやはり効果が薄いと認識し、直ぐにギルフィードブレイカーへと装備変更を行う。

 

「わぁ!?今度は此方にも来ました!?」

「いいいいいいいいいいいい!!!??」

「これヤバイですわぁああああ!?」

「シー兄さん、エムル!」

「何としても御守りするで御座る!」

 

レーザーカジキが自身に敏捷強化のバフを施し、秋津茜(アキツアカネ)・エムル・アイトゥイル・シークルゥと共に、分身攻撃から走って逃げ回り、戦線離脱しないように立ち回る。

 

「今だよ、サイガさん!」

「『カタストロフィー』………!」

 

京極(キョウアルティメット)の声が響き、純白のエフェクトを放つ大剣の一撃が、リュカオーンの顔面に叩き付けられ、其の巨体が後方へと押しやり。

 

「そして俺が、後を取るッ!」

「俺も居るんだよッ、リュカオーン!」

 

ノックバックの僅かな隙を、ペッパーが空中を駆けながらにギルフィードブレイカーを振るい、鎚武器系スキル:冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)とフォートレスブレイカーによる打撃を。

 

サンラクが鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)で跳躍しつつ、空中インベントリ操作からの煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)展開・装着と共に、格闘スキルのアガートラム・ハリケーン・ハルーケンで、強烈な格闘攻撃をリュカオーンの顔面へ迫撃。更に後方へ押し込んだ。

 

戦闘開始から五十分が迫る中、最大火力(アタックホルダー)の由縁にして切札たるスキル発動に向けて、『アポカリプス』一回と『カタストロフィー』が二回、リュカオーンにヒットしていた。だが当のリュカオーンは、未だに疲労の色を見せていない。

 

「レイ氏!アポカリプスの再使用時間(リキャストタイム)は!?」

「あと30秒、です!」

「サンラク、オイカッツォ!リュカオーンのヘイトは一旦、俺が受け持つ!万が一に備えて秋津茜とレーザーカジキの方へ援護を!」

「あーくん!其のヘイト受け持ちは、おねーさんも出来るから協力させなさぁーい!」

「解った!けど、涙珠は使えるようにしておこう!」

 

ミルキーウェイの効果終了と同時に、ギルフィードブレイカーを己の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)たる聖盾(せいじゅん)イーディスへ切り替え(スイッチ)。サブ職業(ジョブ)に勇者がセットされ、右手には再誕の涙珠が握られる。

 

其の時、リュカオーンがグルル……!と喉を鳴らして。ペッパーとペンシルゴンの目の前で前足を叩き付け、砂塵を発生させてきた。

 

「ぐっ……!?」

「目眩まし……!けど、距離は……えっ!?」

 

砂埃が晴れるも、リュカオーンの姿が無い。何処に居るのかと辺りを見渡せば、黒から白へ鎧の色が反転したサイガ-0の真後ろの影が蠢き、黒狼の形を作るのが見えて。

 

「レイ氏!後ろだ!」

「!」

 

逸早く気付いたサンラクの声によって、サイガ-0が飛び掛かり攻撃を回避する。だが、其の瞬間。ペッパーのゲーマーとしての直感が、高らかな警鐘(アラート)を鳴らし始め、其の身は我武者羅に走り出していた。

 

彼はずっと疑問を抱いていた。何故リュカオーンが影から出現するのか?何故巨大な影から其の姿を見せるのか?

 

そして━━━━━━

 

 

 

 

 

『リュカオーンの本体も、影移動が出来るのではないのか?』と

 

 

 

 

 

「サンラクさんのお陰で、何とか……避けられまし「もう一回避けろ!そいつは『本物のリュカオーン』だ!」

『!?』

 

ペッパーの声でバッと振り向いたサイガ-0に、リュカオーンは『してやったり』と口角を吊り上げ笑いながら、其の前足を振り翳して。

 

「さっっっっっっせ、るぅかあああああああ!!!!」

 

己の胸に琥珀を叩き付け、封雷の撃鉄(レビントリガー)を起動したサンラクが、黒雷を纏ってサイガ-0をお姫様抱っこから、数瞬速くかっ拐う事で何とか事無きを得て。

 

そしてリュカオーンとの狼達の連合軍の間に、ペッパーが割り込む形で盾を構えて守備に入りつつ、再び一同が合流する。

 

「あ、わわわわ!?ひゃああ………!?」

「ふぅ……あっぶね。間に合って良かった」

「てか、サンラク。其のバチバチしてる黒雷何なの!?めっちゃ速くなったよね!?」

「其れは後でな、カッツォ!全く『とんでもない事』してくれたな、リュカオーンの野郎……!」

「い、いやまさか……えと、本体も影移動出来るなんて……」

「あーくんが気付いてなかったら、レイちゃんが倒されてたかも知れないないね……」

「油断も隙も無いね、本当に……!」

「本当に機敏ですね、リュカ……リュカ……リュカローン!」

「リュカオーンですよ、秋津茜さん………」

「い、命が幾つ合っても足りないですわ……」

「エムル、気張るのさ。ヴォーパル魂を全開に燃やすのさ……!」

「アイトゥイルの言う通りで御座る!」

 

お姫様抱っこされた事でバグり掛けたサイガ-0を下ろしつつ、琥珀を胸に叩き付けて黒雷を散らし、解除したサンラクにオイカッツォが反応してきて。ペンシルゴンと京極、そして秋津茜とレーザーカジキに三羽の兎達も集い、此方の様子を伺い続けているリュカオーンを見る。

 

だが、サンラクはサイガ-0に。延いては此の戦いに関わる、全てのプレイヤーに向けてこう言った。

 

「いいや。リュカオーンの本体が『影移動出来る』ってのは、其処まで『重要な事』じゃない。一番の問題は………『其れ』を意図的に、此所まで『隠していた』って事だ」

「……………?………あ、もしかして『そういう事』……!?」

 

此所で事の重大さに気付いたペンシルゴンが声を出し、サンラクは答えを示す。

 

 

 

 

 

 

 

「俺達はリュカオーンの分身攻撃を見せられ、モーションを刷り込まれ続けた事で。リュカオーンの本体は、影移動が出来ないと━━━━━━━誤認させられていた(・・・・・・・・・)。そしてペッパーは、其の可能性と思考を捨てなかった(・・・・・・)からこそ、あの一瞬に回避の指示を出せたんだ」

 

 

 

 

 

 

明かされたリュカオーンの『狡猾さ』、そしてペッパーの『思考深度』に全員が息を飲む。

 

「…………確かに其れなら、リュカオーンが此所まで分身攻撃を『しつこく続けてきた理由』にも、説明が付くな」

「そうなると此所からは、影移動で『避けられる事』も考慮しないといけなくなるね。今まで以上に当てる事が難しくなる」

「責任重大……ですね」

「僕達で何とかするから、サイガさんは切札の為に準備を続けて」

「私も御手伝いしますよ!」

「その、僕も……!自分に出来る事、頑張ります!」

「や、やってやりますわ!」

「其の意気さ、エムル!」

「うむ!拙者もヴォーパル魂を燃やすで御座るよ!」

 

開示された情報を元に、攻略への道筋(ルート)目標(タスク)が定められた。リュカオーンと狼達の遭遇戦は、更なるヒートアップを遂げていく…………。

 

 

 






ユニークモンスターの本領




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の六



戦いは続く




夜の帝王、ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン。夜の時間帯にフィールドの影より現れて、自由気ままに様々なエリアへと飛び回る、暗闇が狼の貌を持った存在。

 

己の分身を作り出し、多方面からの飛び掛かり攻撃に加え、自らも其の分身に紛れ、攻撃を仕掛けてくるという確かな狡猾さをも、此のモンスターは持ち合わせている。

 

「わあああああ!?」

「ひぃぃぃぃぃ!?」

「レーザーカジキは炎魔法!アイトゥイルは酔息吹(よいいぶき)を頼む!!効かなくても良い、サイガ-0が攻撃出来る隙を作ってくれ!」

「解ったのさ、ペッパーはん!」

「は、はい!」

 

戦闘開始から一時間になる頃。分身攻撃を偽装した本体に、危うく捕まり噛み千切られそうになった、青い魔術師とパートナーのヴォーパルバニーを抱え逃げ、ペッパーが全力疾走で駆けて指示を出す。

 

「すぅぅぅぅぅ………ッ!酔息吹!」

「エンチャント・ヴォーパル!からの……フレイム・ジャベリン!」

 

口に含んだ酒の総量を参照する火炎放射と、兎の国ツアーを完遂して習得した致命魔法と共に打ち出される、火炎属性の魔法の槍がリュカオーン目掛けて飛来する。

 

だが一人と一羽の攻撃は、リュカオーン自身が正面に居た事もあってか、横ステップで躱わされてしまう。

 

「あぁ、外れちゃいました!」

「素早いのさ、夜の帝王は!」

「いや、其の攻撃で………三人の攻撃が届く!」

 

チラリと見つめた先、回避方向に走り込むオイカッツォとサンラク、そしてサイガ-0の姿が在り。

 

「オルゥア!!」

「赤と黄色………重ねて、橙!拳気【大橙衝(だいだいしょう)】!クロス・インパクト………ストレングス・スマッシャー!」

 

サンラクが左前足へ、アガートラムとハリケーン・ハルーケン、そしてテンカウンターの三種同一系統攻撃スキルを使い、〆に戦極武頼(せんごくぶらい)強化(バフ)とニトロテック・チャージの再使用時間(リキャストタイム)短縮、煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)の右型で殴り付け。

 

オイカッツォは左後ろ足に、クリティカル時の威力が上昇する拳気と左フック→右ストレートの連接攻撃、更に筋力を参照したノックバックスキルでぶん殴る。

 

とあるクソゲーをプレイした時にサンラクとカッツォ……其の時は『カッツォマール』が試した、獣型モンスター限定の禁断技『片側膝カックン』。巨大な敵を確定で転ばせ、代償に敵のヘイトを大特価で買い取る大技でリュカオーンの体勢を崩し、其の動きを止める。

 

「アポカリプス………!」

 

倒れて体勢を立て直さんとするリュカオーンの背中に、漆黒を放つ神魔の大剣(アンチノミー)の一振が直撃。リュカオーンは歯軋り立ち上がり、サイガ-0は直ぐに魔王天帝(サタナエル)から天帝魔王(サタン)となって、カタストロフィーをぶつける準備に入る。

 

「レイ氏!あと何発!?」

「アポカリプスが二回、カタストロフィーが三回……です!」

「オーケー!援護するよ!」

 

此所まで順調に条件達成に向けて動けている。だが相手は分身に本物を混ぜ込み、此方を欺いてきたユニークモンスター。そう簡単に崩せる相手かと言われれば、否と言うべきである。

 

そしてシャンフロの天気は、現実と同じように『変化していく』。風が吹き。ゆっくりと雲が流れ、此の『無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)』の端に位置する戦場を、月光を遮る雲が訪れた時。

 

フィールドを『暗闇』が満たしたのを、膝カックンを喰らい起き上がったリュカオーンは見、其の姿が黒の闇の中へと━━━━━━━『消える』。

 

「えっ……!?」

「リュカオーンが……」

「消え、た?」

 

サンラクは知っている。最初の邂逅と戦闘で、リュカオーンが暗闇の中に消えたのを。其の後に背後や真横から『いきなり』現れて、此方を食い殺さんとしたのを。

 

「あーくん!」

「全員、フィールドを警戒!何を仕掛けてくるか解らない、気を付けろ!」

 

イーディスを構えながら、局極到六感(スート・イミュテーション)を起動し、全身の神経を研ぎ澄ませて、フィールドの『音』を聞いたペッパーと、攻略モードに入っていて、普段より五感が敏感になっているサンラク。

 

Animalia(自分の姉)に動物の音声が入ったデスクを受け取り、休みの日に聞いてきたレーザーカジキに、注意深く耳を澄ましている秋津茜の耳に聴こえたのは、僅かに『地面を擦る音』であり。

 

局極到六感によって強化された視覚により、本来なら『目に見えない物』や『耳に捉えて聞こえない音』をキャッチ可能になったペッパーと、其の方角に逸早く気付いた秋津茜の目には。

 

 

 

 

 

 

 

京極(キョウアルティメット)の真横から透明な状態で、大きな口を開き襲い掛かるリュカオーンの姿が、ハッキリと鮮明に見えた』。

 

 

 

 

 

 

 

「京極!前に飛べ!」

刃隠心得(はがくしこころえ)ッ!!!」

「えっ、な━━━━━ガッ!?」

 

ペッパーが渾身の力で駆け出し、秋津茜が忍者特有の指の構えを取った瞬間、京極はリュカオーンと目が合い。次の瞬間に彼女の胴体は噛み千切られて、下半身が其の場に残され、上半身はリュカオーンの剣山に等しい鋭い歯達に貫かれ。

 

「京極!」

「きょ、京極さん!?」

「京極ちゃん!」

京極(きょうごく)ちゃん!」

 

オイカッツォ・レーザーカジキ・ペンシルゴン・サイガ-0が叫び。シークルゥ・アイトゥイル・エムルが、夜の帝王の力を目の当たりにし、目を見開く中。

 

サンラクは一人、ユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの持つ、夜襲の本当の意味(・・・・・)を知った。

 

「『夜に襲って来るから夜襲』なんじゃない………!

夜が襲って来るから夜襲(・・・・・・・・・・・)』なんだ━━━━アイツは!………そしてやっと、『オマエのカラクリ』が見えてきたぜ!」

 

上半身を噛み千切られ、出血のようにポリゴンを撒き散らす京極が、突如『丸太』に変わって転がり落ち。同時に雲が動き、フィールドに月光が射し込んだ事で、透明になっていたリュカオーンが姿を現す。

 

「………へ?」

「丸、太……?」

「だぁはっ!?し、死ぬかと思った!?」

「え、身代わり!?」

「間に合いました!【空蝉(ウツセミ)】です!!」

「凄い、忍者みたい……!」

 

ペッパーとペンシルゴンが声を上げ、レーザーカジキの真後ろに京極が現れた事に、オイカッツォが反応。秋津茜が種明かしで、レーザーカジキが目を輝かせる。

 

そんな中、サンラクが皆に宣言するかのように言い切った。

 

「皆、リュカオーンの『透明化攻撃』━━━そいつを『無効化する方法』を思い付いた。一分、時間をくれ」

「………何か策が有るんだな?サンラク」

「あぁ。頼めるか?」

「任せろ」

 

ペッパーが力強く答え、サンラクが頷いて。連合軍がフォーメーションを変える。ペッパーとペンシルゴンがサイガ-0のカタストロフィー直撃をサポートしに行き。

 

秋津茜は空蝉による緊急回避に、オイカッツォは秋津茜が対処出来ない速度の攻撃へ備え。

 

京極・シークルゥが遊撃、レーザーカジキ・アイトゥイル・エムルがサポートに付き。

 

そしてサンラクは『インベントリア』の中から、三つのアイテムを取り出し、装備していく。

 

「こんな真夜中に叩き起こして悪いが、お前の力が必要になる!さぁ、初仕事だ………『規格外戦術機鳥(きかくがいせんじゅつきちょう)朱雀(スザク)】』!」

 

サンラクがビィラックを育成し、規格外エーテルリアクターを直した後。所持者たるオイカッツォに頼み倒し、更には『便秘百連戦』で手を打ち、死闘を乗り越えた事で『一番乗りの権利』を得ていた。

 

彼はインベントリアから、鳥の頭の形を模した頭機殻(ヘルム)………規格外特殊強化装甲(きかくがいとくしゅきょうかそうこう)艷羽(アデバネ)】。其の頭装備(・・・)を装着し、同じく顕現させた『艶やかなる機械の赤い鳥』へ、修復された動力源を胸に在る挿入口に、力強く装填する。

 

規格外エーテルリアクターから莫大なエネルギーが送られ、四幻獣の一角の名を冠せし赤い機械の鳥が起動。遂にウェザエモンの遺産が永き時を越え、再び動き始めたのだった………。

 

 

 

 






夜襲の意味、状況打開の一手




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の七



紅き翼よ、羽ばたき舞え




規格外戦術機鳥(きかくがいせんじゅつきちょう)朱雀(スザク)】。

 

其れは規格外特殊強化装甲(きかくがいとくしゅきょうかそうこう)艷羽(アデバネ)】と、動力源たる規格外(きかくがい)エーテルリアクターを用いる事によって始めて稼働する、神代の技術の粋を結集して産み出されたSFロボットの『一機』。

 

ユニークモンスター・墓守のウェザエモンの討伐報酬として、ペッパー・ペンシルゴン・サンラク・オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)の五人が手に入れた共通報酬『格納鍵(かくのうかぎ)インベントリア』の中に在る、神代最強の英雄が残した『遺産』だ。

 

「アレがウェザエモンの遺産の一つか…!」

「ええっ!?えっ、大きな……赤い、鳥?いやロボット……!?」

「サ、サンラクさんの頭が、ガチガチの硬いヘルメットになっちゃったですわ!?」

「ほほぅ……。アレが墓守の御人の遺した、遺産なのさね……」

「頭だけというのは、些か奇っ怪な姿で御座るな……」

 

遊撃隊とサポート組が好き勝手に何か言っているが、半裸に成ったのも規格外特殊装甲を纏えないのも、全部引っ括めて彼処に居るリュカオーンが悪い。

 

責任転嫁をやっておこう。おのれリュカオーン!!!━━━━━━と、何時ものデイリーミッションを達成しつつ、サンラクは目の前に広がったデータに一通り目を通していく。

 

「リュカオーンには後で、俺の『必殺技』をぶちかますとして………シャンフロのロボット操作、楽しむとするかァ!」

 

規格外特殊装甲の頭装備たる頭機殻(ヘルム)に宿る能力の一つに、対応する戦術機獣への命令伝達機能を持つ。今回の場合、艷羽に対応している朱雀への指示出し(コントロール)を行えるようなるのだ。

 

『━━━待機(タイキ)命令(メイレイ)(モト)メマス』

「よし、朱雀。お前の武装関係は、大体把握してる。今から伝える事を、お前にやって欲しい。いいか?━━━」

 

サンラクが朱雀に指示を出す中、ペッパーとペンシルゴンは各々の勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)を振るい翳し、夜の帝王の動きを制限。彼は自身が手にしたスキルの一つで、天空の心眼(ラトゥルスカ・アイザイン)の進化した事により、半径50m圏内を『上空から、かつ俯瞰の視点で観る』事が可能な『天空の帝王眼(ラトゥルスカ・インペリアイズ)』を起動しており、フィールドの状況を頭に入れつつも、自身の成すべき事を成していく。

 

「ペンシルゴン、其の位置だと分身攻撃が当たる!2m左側に移動して!」

「あーくん、サンキュ!」

 

ペンシルゴン・サイガ-0の動きにシンクロしつつ、ペッパーがリュカオーンに、前足攻撃を『誘発させる』位置取りを行い。

 

リュカオーンの前足がディレイを絡めて速く振るわれる中、ペッパーは其の攻撃に対し真界観測眼(クォンタムゲイズ)を発動。思考加速と攻撃の波、更には俯瞰の視点で見た事により、其の攻撃位置が『己の頭』を狙ってる事に気付く。

 

「うおりゃあ!」

 

反撃衝突(コリージョンカウンター)』起動。敵の攻撃に、自身の攻撃を当てる事でパリィを行うスキルであり、渾身衝撃(ストライク・アーデ)とコンパクト・イステルの合成で誕生した打撃スキル『渾魂注撃(ストライク・インストーラ)』も使いつつ、打撃によって発生する衝撃を『一点集中』させるスキルで、イーディスを夜の帝王の前足攻撃に、クリティカルのタイミングでぶつける。

 

「ぐぬお!?ッアアァ!!!」

 

イーディスを通して伝わる、リュカオーンの攻撃の『重さ』。よっぽどの筋力と耐久が無いなら、まともに受けずに回避した方が良いと確信しつつ、吹っ飛ばされて地面を転がる。

 

ダメージは受けれど、パリィ自体は成功。再誕の涙珠をインベントリアへ仕舞って、取り出した回復ポーションをガブ飲み、直ぐに立ち上がったペッパーの視界には、バックステップを取るペンシルゴンと、カタストロフィーを後ろ足に直撃させたサイガ-0の姿が映る。

 

「アポカリプスと、カタストロフィー……は、後二回ずつ。此れなら……!」

「あーくん、また『曇ってきた』!」

「っ………こんな時に!」

 

が、此所で夜空に雲が掛かり始め、フィールドには暗闇が満たしていく。再び襲い掛かるリュカオーンの、視認性最悪状態での透明分身攻撃に備え、ペッパーはサンラクの策が状況打開の一手になる事を祈り。

 

「さぁ、朱雀!リュカオーンに味方する『雲』を━━━━吹き飛ばせ!」

 

フルフェイスヘルメットを通じて、サンラクからオーダーを受けた朱雀は、翼と尾羽を模した噴射口(ブースター)から蒼い炎を吹きながら、戦場に暗闇の帳をもたらさんとする雲へと突貫。

 

出力を最大に、旋回軌道を開始した紅い鋼の鳥が、夜空の雲を取り払い、月光を再び戦場へともたらした。

 

「秘技・紅鳥扇風機(べにどりせんぷうき)!!!此れで暫くは透明分身は出せねーぜ!ハッハァー!!」

「ははは……!すっげぇ、雲を物理的に祓いやがった…!!ペンシルゴンとオイカッツォは役割をスイッチ!サイガ-0さんは今の内に切札への準備を!」

「………了解、です!」

「オッケー!」

「ウッシャア!」

 

ウェザエモンの遺産、四幻獣が一角を模したロボットバード朱雀の力を目の当たりしながら、ペッパーは此の機を逃すなと声を張り上げた。同時に、機動力が其処まで高くないオイカッツォが走り始めて、其れなりに有るペンシルゴンがバックステップで前衛後衛を切り替る。

 

ペッパーが持ち前の機動力とキャリースキルでオイカッツォを運びながら、サイガ-0と共に切り込み。途中で分身攻撃が三人に襲い掛かるが、危険なルートを視覚に提示するスキル『ルーパス・アサイラム』で、攻撃を交い潜ってオイカッツォを運搬。

 

「ペッパー!カッツォ!先行ってるぞ!!」

「うぉ!?また黒雷纏ってるな、サンラク!?」

「はっやいなぁ!負けてらんねぇ!」

 

おそらく同じようにルーパス・アサイラムを使い、其処に封雷の撃鉄(レビントリガー)のもたらす力を追加した事で、ペッパー以上の速度を出しながらサンラクが走ってリュカオーンへと肉薄して行き。

 

ペッパーも負けじと、ミルキーウェイと韋駄天顕現(いだてんけんげん)から進化し、15秒という僅かな時間ながら『更なる加速と空中での移動補正が極大化』したスキル『神威光臨進(かむいこうりんしん)』を使用。

 

空中に描いたマナ粒子の道を超スピードで駆け抜け、ペッパー・オイカッツォがリュカオーンの真上を。真正面を煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)を装着し、黒雷を纏うサンラクが取る。

 

「ペッパー!ぶん投げろ!」

「行って来いッ、オイカッツォ!」

 

投擲スキル『ブランチャイズ・スロー』で、リュカオーンの眉間に全力投球。人間砲弾に成ったオイカッツォが、己の掌を重ね合わせ『気』を混ぜる。

 

「拳気の赤と青、合わせて紫!拳気(けんき)紫崑衝(しこんしょう)】!そんでもって……大サービスの『ティルガ・ブレイク』!!」

 

モーションはベルセルク・オンライン・パッションの通常技・飛拳衝(ひけんしょう)。ナックル・ティーガから進化し、虎の(アギト)を想わせる気迫を纏った双拳を放つ格闘スキルで、リュカオーンの眉間をぶん殴り。

 

「顎貰ってくぞ、リュカオーン!!!」

 

サンラクの煌蠍の籠手が、アッパーモーションと共に黄金の軌跡を描きながら、アガートラム・テンカウンター・燐砕拳(りんさいけん)の格闘と拳撃スキルを戦極武頼(せんごくぶらい)で上乗せ、下顎をカチ上げる。

 

『グルァ……!』

「ちぃたぁ効いたか!今だ、レイ氏!」

「はいッ!」

 

頭部に連続で襲い掛かった格闘による衝撃と、アガートラムのクリティカルによる追加ダメージで、リュカオーンが歯軋りする中、サイガ-0は思う。

 

(正直、到底敵わないと……ずっと思っていた)

 

圧倒的な強さ、そして理不尽な力を持つ、夜襲のリュカオーン。サンラクと、そして旅狼(ヴォルフガング)のメンバー達と共に戦う前の自分だったなら、きっと途中で諦めていたかも知れない。

 

(でも、陽務君となら……!そして、旅狼の皆さんとなら……!どんな強敵だろうと、負ける気がしない!)

 

「アポカリプス!!!」

 

漆黒の一撃が、夜の帝王に叩き付けられる。押せ押せのムードが漂う中、リュカオーンは静かに。そしてサイガ-0を、片目でジッ………と『見詰めて』。

 

そして小さく『グルッ』っと鳴いたのだった……。

 

 

 

 






戦い続けろ、帝王を倒す其の時まで。




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の八



戦局変動


※クリスマスプレゼントの三話連続投稿です




オイカッツォ・サンラク・サイガ-0の連続攻撃を受けて、小さく鳴いたリュカオーン。確かに効いている『手応え』は有る、有るのだが…………

 

(………やっぱり変だな)

 

幾度も殴ってきたサンラクとオイカッツォ、フィールドを駆け回って分身攻撃からメンバーを守ったペッパーは、同時にそんな疑問を抱く。

 

(普通ダメージを受けたら、生物・オブジェクトには『ポリゴン』が出るはず何だ。だが此所まで、リュカオーンがポリゴンを溢した事は『一度』だってない)

(仕様なのか、もしくはリュカオーン自身の特性に起因してるのか………。だが、確かな事は『一つ』だけ………!)

(今目の前に居るリュカオーンの『正体』、其れを確かめないとサイガ-0さんの切札が、万が一にも効かなかった(・・・・・・)場合、此方が『詰む』って事だ!)

 

そんな思考を抱く中、リュカオーンがサイガ-0の方を見詰めて。踏ん張りの効かない空中に浮いた重騎士を、前足で裏拳でもするかのように後ろへと殴り飛ばす。

 

「ッ!!」

 

サイガ-0が神魔の大剣(アンチノミー)差し込み防御(インターセプト)するが、リュカオーンの一撃は重く。吹っ飛ばされて、瓦礫に叩き付けられてしまう。

 

「くっ………!」

「レイ氏!」

「サイガ-0!」

「此所は俺が、ヘイトを受け持つ!」

 

ペッパーがミルキーウェイで描いたマナの軌道から降り、シャイニング・アサルトで全力疾走しながら、聖盾(せいじゅん)イーディスを風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)へ変更。スキル『獄貫手(ごくかんしゅ)』点火で、リュカオーンの前足第二関節に貫手を打ち込む。

 

クリティカルの感触と風雷エネルギーの蓄積が指先を通じて伝わるものの、リュカオーンは気に止めもせず。視線をサイガ-0の方に向けるや、其の方角に走り出したのだ。

 

「なっ……俺を無視した!?」

「レイ氏!リュカオーンがそっちに!」

「ッ、はい!」

 

回避行動を始めるサイガ-0だが、リュカオーンは回復する隙も時間も与えんとばかりに、本体と分身を動員した波状攻撃を仕掛けてくる。

 

リュカオーンの突然の行動変更、たった一人のプレイヤーを集中攻撃する動き、其れを見たペッパー・サンラク・京極(キョウアルティメット)の三人は非常に強い『デジャブ』を覚えた。

 

そう、彼等二人と彼女は『コレ』を知っている。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンとの戦いの最中、レディアント・ソルレイアで必殺技を二つ完封して、大立回りをしたペッパーに狙いを絞った時と同じだったが為に。

 

「エムル!ペッパーとペンシルゴンを経由して、此方に来い!んでもって『マナ・シェイカー』の準備だ!」

「は、はいなぁ!」

「マジか!マジかマジか!?サイガ-0一人に狙いを絞ってきた!!」

「ッ、此方の作戦が『バレた』………!?」

 

京極の答えは『正しい』。そしてシャンフロのAIは『凄まじい』。此所までの戦闘を通じて、リュカオーンを構成するAIは、『サイガ-0という白黒に変わる重騎士こそが奴等の砦』だと認識し、其れを切り崩せば瓦解させられると『結論』を出したのだ。

 

(サンラクがヘイトを奪取したとして、エムルさんが狙われたらどうする!?こうなったら『アレ』を使うか!?……いや迷うな!俺がちゃんと生き残れれば、皆を守りきれる!!!)

 

「ペッパーさぁん!」

「エムルさん、いっきます………よっ!」

 

奥歯を噛み絞り、万が一にもリュカオーンのヘイトがエムルに向いた場合に備えて、ペッパーは『鬼札中の鬼札』を切る事も視野に入れつつ、ペンシルゴンの肩を経由して跳躍してきたエムルをキャッチ。其れを砲丸投げの要領で、直ぐ様サンラクの肩目掛けて投げ飛ばした。

 

「ナイス、ペッパー!エムル、準備は良いか!」

「はいなっ!加算詠唱(アッド・スペル)済の……『加算出力(アッドブースト)マナ・シェイカー』!!」

 

通常時の数倍の大きさを誇る『円形波状のエフェクトを持つ白い焔の様な魔法』が、エムルが持つ魔術書から放たれる。

 

サンラクが此の魔法が込められた魔術書を買い、エムルに覚えさせたのは、オプションパーツとしての拡張性の増加が理由の一つでもあり、購入した魔術書の中でも『一風変わった能力』を宿していたからに他ならない。

 

此の魔法は『物理的破壊力は一切無いのが特徴』であり、プレイヤーにぶつけてもダメージを与えられない。何なら『ある特定のモンスター』以外だと、MPを消費しても何も起こらないという始末。

 

 

 

だが、だが。

 

 

 

此の魔法は『ゴースト』、或いは『ポルターガイスト』、或いは『魔力で身体を構成する存在』に。詰まる所『非物質系存在ながら物質に干渉可能なモンスター』に対して、特効レベルの破壊力(・・・・・・・・・)を発揮する。

 

即ち━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

『ガルァッ!?』

「シャア、『ビンゴ』!!分身を産み出し、同じように移動出来るなら、其の身体の構造は分身と『同じ』だよなァ、リュカオーン!!!」

 

そう。夜襲のリュカオーンの様な存在━━━━『闇を魔力で固めて形を作ったモンスター』には、目に見えてダメージが入るのである。

 

身体を構成する毛皮のような『闇』が揺らぎ、此迄如何にダメージを与えても崩れなかった毛並みが、ほんの僅かに。しかし大きな一歩である事を示すように、千切れて崩れ。だが其れも直ぐに再生されて、元に戻ってしまう。

 

(リュカオーンにダメージが入った!そして判ったのは、リュカオーンを相手取るなら『魔法職』の。エムルさんみたいに『霊体系へ干渉可能な魔法』持ちが居ると、ダメージを与えられる事。だがそうなると、判らない点が出てくる………)

 

そう、リュカオーンには『魔法系職種』なら効率良くダメージが通る反面、装備面の脆さと押し切られた場合に立て直しが困難になる事。

 

片や『物理系職種』は、リュカオーンにダメージがあまり通らないものの、装備や防具をガチガチに固められたり、スキルを用いて如何様にも立ち回れる利便性がある事。

 

魔法か物理か………どちらの攻略法を取るかによって、勝利した後の報酬に何かしらの『変化』が現れるのだろうか?

 

『グルルルルル………!!!!』

 

そしてリュカオーンはというと、エムルの加算出力マナ・シェイカーの一撃が、よっぽど腹に据えたらしく。サンラクの肩に乗っかっているエムルを見、歯軋りと喉を鳴らしてグワッ!!と言わんばかりに、飛び掛かりからの前足叩き付け攻撃を放ってきた。

 

「うぉおおおお!?流石だ、エムル!アイツはお前を、此の場で一番危険な兎だと判断したぞ!」

「ぴぃいいいいいいい!?おうち帰りたいでずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

ヘイトがサイガ-0からエムルに移る。当初の狙い通り、サンラクは其のままエムルを乗せたまま、リュカオーンの注意を惹き付け、サイガ-0の切札発動の手助け(アシスト)をせんとして。

 

だがリュカオーンは此所で、驚くべき行動を取ってきた。

 

「ヘイトが移った………今の内に!」

「レイちゃん、分身攻撃!しかも沢山!」

「えっ!?くっ……こんな時に!」

 

サイガ-0が攻勢に転じようとした刹那、リュカオーンの分身攻撃がサイガ-0に襲い掛かり。ペンシルゴンが気付いた事で回避こそ出来たが、次から次に飛び掛かってくる其れにより、攻撃に移れない。

 

「ちょっ、俺達にも仕掛けてきた!?」

「邪魔はさせないって事か……!」

「わあああああ!?」

「レーザーカジキさん、危ない!【空蝉(ウツセミ)】!」

「ぬぅ……!手が出せぬ!」

「暴れ狂う、黒の波……!まるで闇の荒海の如し、なのさ………!」

 

其処かしこから分身攻撃に襲われて、一同が回避に精一杯になる中、ペッパーは此所が『分岐点』であると悟る。其れはパーティーを守り抜き、最大火力(アタックホルダー)の切札発動の援護が出来る事。そして黒狼(ヴォルフシュバルツ)旅狼(ヴォルフガング)の対立は、少なからず『避けられなくなる』という事。

 

だが此所で後悔するくらいならば、やるだけの事をやってから後悔するべきだ。

 

ペッパーは風雷皇の御手を装備解除し、インベントリから『武器』を。嘗てビィラックが自分に言った『約束』を破る覚悟と共に、彼は『星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ』を取り出す。

 

「皆!此れから俺が!リュカオーンのヘイトを『全部』、貰ってくぞ!!!」

 

堂々たる宣言、リュカオーンを含めて皆の視線が集まり。剣身を納めた黒鞘へ彼が右手を当てるや、其処から黒い靄が吸い取られ。くるりと回し、柄を右手で握り締め━━━━━彼は力の限りに引き抜く。

 

銀と空色と僅かな黒が彩り、七つの穴が空いた異質極まる剣が戦場に現れ、其の刀身からは黒の炎に似た『オーラ』が溢れ出す。

 

「さぁリュカオーン…………『鬼ごっこ』しようぜ?」

 

堅い笑顔で、しかし自信が宿る眼と熱を宿し。勇者はあの日、夜の帝王の瞳を切り裂いた『得物』を。

 

其の『真化』した刃の切っ先を、振り翳したのだった。

 

 

 






星の剣を抜き、勇者は囮となる




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の九



剣に込められた『力』の意味




『其れ』 は、『夜の帝王(ワタシ)』を切り裂いた『刃』である

 

『其れ』 は、『(ワタシ)』の光を半分奪った『モノ』である

 

『其れ』 を、見付けたならば真っ先に『(ワタシ)』は殺しにいく

 

必ず、殺す

 

絶対に、殺す

 

どんなになっても、殺す

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

アハッ♪

 

やっと、見付けた♪

 

やっと、逢えた♪

 

さぁ……サぁ……サァ……!!!!

 

 

 

コロシアイマショウ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」

 

戦闘開始から二時間が経過した頃、戦局は大きく動き、変わった。

 

分身が襲い掛かる。本体が襲い掛かる。ペッパーは正直生きた心地がしなかった。

 

(だがッ!『此れで良い』んだ!!!)

 

星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ。夜襲のリュカオーンとの戦いの最中、致命の包丁(ヴォーパル.チョッパー)時代に其の右目を突き刺し、切り裂いた事により、夜の帝王の復讐の誓いたる残照が、刀身にはこびり付いた。

 

墓守のウェザエモンの魂たる『折れたバンガード』を用いて、ヴァイスアッシュの力によって真化に至った剣であり、リュカオーンにとって自分の片目を奪った武器であり、其の持ち主を必ず殺すと誓いを立てた。

 

故にこそ、持ち主であるペッパーに攻撃が集中する。彼を完全に殺すまで、其のヘイトは、其の攻撃は文字通り永遠(・・)に続く。

 

「ヘイトがペッパーに移った……!」

「というか、あの剣から『黒いオーラ』出てない?呪いの剣?」

「あーくんが囮を買ってくれたから、サイガちゃんは今の内に作戦続行!カジキ君は今の最大魔法準備、秋津茜(アキツアカネ)ちゃんは引き続き空蝉での緊急エスケープ。シークルゥちゃん・私・アイトゥイルちゃんで遊撃とサポート絡めるから、京極(キョウアルティメット)ちゃん・サンラク君・エムルちゃん・カッツォ君はサイガちゃんの援護兼アタックお願い!」

 

単身でリュカオーンのヘイトを全て受け持ち、フィールド内で駆け跳ねて、左手に聖盾(せいじゅん)イーディスを握ったペッパーの代わりに、ペンシルゴンが指示を出して皆が行動に移る。

 

「オイカッツォさん!敏捷強化魔法です、頑張ってください!」

「お、ありがと。レーザーカジキも魔法援護、頼りにしてるよ」

「はいっ!大きな一撃、放つ準備します!」

 

距離を維持しつつ、メンバーが動いたのを見ながら、ペッパーもまたリュカオーンに挑発を入れる。

 

「どうした、リュカオーン。俺は此所に居るんだぜ?」

 

サイガ-0が奴等の要だと言うのは『解っている』。だが目の前に在る『復讐対象』を、リュカオーンは無視する事は出来ない。剣の切っ先で手招くペッパーに、リュカオーンが襲い掛かる。

 

幕末や様々なレトロFPSで培った、バトルロイヤルの知識を総動員し、リュカオーンの視線や瓦礫の影の位置を把握、分身攻撃と本体の攻撃から身を守り、そしてメンバーの攻撃を当てられる位置に誘導していく。

 

「アポカリプス……!」

「アガートラム!」

拳気(けんき)火彩色(ヒヒイロ)】!」

 

左脇腹にサンラクとオイカッツォの、左後ろ足にサイガ-0の攻撃が突き刺さり、リュカオーンが体勢を崩す。

 

「サンラクさん、オイカッツォさん、ペッパーさん……!このまま、カタストロフィーを……ぶつけます!」

「了解だ、レイ氏!」

「解った!」

「任された!」

 

分身攻撃の合間を縫い、本体の攻撃を掻い潜り、ペッパーの握りしグランシャリオが、リュカオーンの毛並みを切り裂く。傷は僅かに出来はしたが、其れも直ぐに修復されてしまう。

 

彼の攻撃の御返しとばかりに、分身攻撃が襲い掛かる中、イーディスで往なしてグランシャリオで斬る、パリィ&スラッシュで反撃しながら、ペッパーは思考を止めない。

 

(効果が薄くても良い………!俺が一分一秒でも、リュカオーンから生き残れば!皆を守り、作戦を遂行出来る!)

 

「エムル!マジックチェーンいけるか!」

「はいなぁ!!」

「頼む!んで、リュカオーンよぉ。ペッパーばっかに『オネツ』なら、コイツを食らってやがれ!」

 

煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)の左手側に備えられた機能には、右手側で集めた月光の魔力を用いる事で『晶弾(クリスタルバレット)』を生成出来る。

 

「行くぞ、【発射せよ(Firing up)】!」

 

そして生成された水晶柱は打撃時の威力上昇だけでなく、水晶の砲弾として発射可能なのだ。リュカオーンがペッパーに集中している中、今後(・・)の攻撃を考えた位置と、ペッパーを仕留めようとするリュカオーンの前足攻撃が交錯する其の場所に発射・突き刺し。

 

僅かにリュカオーンの前足が止まった所に、エムルのマジックチェーンが絡み付く。

 

「カタストロフィー!」

 

サイガ-0の攻撃が突き刺さる。切札発動の為の条件の一つ、カタストロフィーを同一対象に当てるという目標は達成し、残すはアポカリプスを一発当てるだけの所まで来た。

 

「あと、アポカリプスを……一回で、条件達成……します!一分、ください……!」

「きっちり生き残ってみせる、よぉっ!!!」

「よっし、このまま一気に『ビーッ!ビーッ!』んぉ、何だ!?」

 

だがそうは問屋が下ろさないとばかりに、悪い事が起きる。サンラクの頭に装着された艶羽(アデバネ)頭機殻(ヘルム)が、朱雀(スザク)のエネルギー残量が5%を切った事をアラートと共に伝えてきたのだ。

 

「ちぃ、マジか!?まだ十分も経ってねぇのに、燃料バカ食いか……!朱雀にゃあ、まだ『大仕事』が残ってるんだ!ブースターを切って、低出力で下降して待機!」

「サ、サンラクさん。一体誰とお話してるですわ……?」

「お空の鳥さん」

「サンラクサン……頭がオカシク………」

「俺は極めて正常だよエムル」

 

何かオイカッツォが遠い目で此方を見ていた。取り敢えず奴には、此の戦いの後でデコピンを叩き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイガ-0さんにサンラクさん、ペッパーさんにオイカッツォさん……皆凄いです………!」

「僕も前線に出たい所だけど、生憎リュカオーンには斬撃は薄いと来た。まぁ、出番と有らば即行動の心構えでは居るけれども」

 

前線を張り続け、最大火力(アタックホルダー)の由来たる切り札発動の為に戦う、四人と一羽を秋津茜と京極は見る。

 

「雲は………まだ大丈夫。後はレイちゃんの切札発動前に曇らなければ、何とかなる………!」

「ペッパーはん、エムル……気張るのさ……!」

「アイトゥイル、拙者達も各々の役目を全うしようぞ」

 

ペンシルゴンが空を見上げて雲と月の状態を確認し、アイトゥイルとシークルゥは来るべき時に備えて。

 

「巡り満たす水よ。暗闇を照らす炎よ。生命を育む土よ。音色を奏でる風よ。四の素と輪廻は廻り、歯車は噛み合い、大いなる力の奔流は出で顕る………」

 

レーザーカジキは今の自分に繰り出せる、最高の魔法を繰り出すべく詠唱を続けていく。

 

 

戦いはクライマックスを迎えようとしていた………。

 






いざ、終幕へ




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の十



ラストダンスに踊れ




「ぬぐぉ!?ッ危……ひおぁ!?」

 

最大火力(アタックホルダー)・サイガ-0、其の由縁の切札発動まで、アポカリプス一発となった状態でも尚、リュカオーンはペッパーの持つ星皇剣(せいおうけん)グランシャリオの力によって、彼への攻撃を続けていた。

 

「とぅあ!ぬおお!?絶対死んで堪るかぁ!!」

 

星天秘技(スターアーツ)ミルキーウェイ起動。其処に致命秘奥(ヴォーパルひおう)ウツロウミカガミも絡めて、空中にマナ粒子の道を作り、己と剣と盾の残像を残し、彼は尚も其の両足でフィールドを駆け続ける。

 

残像にリュカオーンの分身が殺到、僅かな時間ながらペッパーは地面にグランシャリオを刺し、携帯食糧を囓り食らってスタミナを回復。再びリュカオーンとの鬼ごっこに身を置く覚悟を決めて。

 

「御待たせ、しました!」

 

ウツロウミカガミ効果終了直後、サイガ-0がアポカリプスをリュカオーンの尻尾に叩き付け。切札発動に必要な『アポカリプスとカタストロフィーを同一対象に各々五回ずつヒットさせる』条件を達成したのである。

 

「条件達成……です!」

「サンラク、オイカッツォ!タイミングはそっちに任せた!其の時になったら誘導する!」

「OK!」

「任せろ!」

 

ペッパーが突き立てたグランシャリオを右手に再び握り、最後の踏ん張りとばかりに戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)四天無双(してんむそう)剣王武心(マスラオ・センス)を点火、そしてデコイからペッパーに再び狙いを定めたリュカオーンが動き出し、此所に最後攻防戦が幕を開けた。

 

「ペッパーが食べた携帯食糧の個数は3個、と幾つかのバフ………リュカオーンのスピードから………ペッパーは『2分』が限界か!」

「なら目安は大体『70秒』くらいだな………!レイ氏、切札の準備を!」

「はいっ……!『我は混沌を手繰る者━━━━━』」

 

単身でリュカオーンの波状攻撃を凌ぎ続けるペッパー、誘導タイミングを目算と観測で導き出したオイカッツォ、ジャストタイミングで誘導する為計測を始めたサンラク、そして本命をリュカオーンにぶつける為の『暗記した長い詠唱』を開始したサイガ-0。

 

しかし此所で、最悪な事態が起きる。

 

「皆!空が曇ってきた!!!」

「ッ!?」

「えっ!?」

「なぁ!?」

「『━━━━奈落に在りて深淵の底へ潜行す』……!?」

 

ペンシルゴンの声が響く。サンラクが、カッツォが、サイガ-0が見上げた夜空に、分厚い雲が掛かり月の光が遮られ、戦場に再び暗闇が満ち始めていく。

 

(透明分身が俺の所に来るのは良い……!だが俺が殺られて、其の後にサイガ-0さんを狙われたら意味が無い!)

(此所で牙を向くか乱数の女神(クソッタレ)!必殺技を放つしかないか……!?)

(こうなったら玉砕覚悟で俺が過剰黒衝をぶつける……!?)

(詠唱を止めて、全員で回避する……?)

 

足は止めず、動く事を止めず、スリーゲーマー達とサイガ-0は此の状況で、何が正解かを迫り来る時間の中で思考し。

 

「万里を越え、円環の門は開かれる……!潜り抜けし水よ激流へ…!潜り抜けし炎よ爆轟へ…!潜り抜けし土よ鳴動へ…!潜り抜けし風よ暴嵐へ…!雄々しき波動となりて困難を砕く導と成らん━━━━━!【増乗幅響門(パワーゲート)】!!!」

 

完全詠唱を終えて、天に致命の錫杖(ヴォーパル.ロッド)を掲げたレーザーカジキ。其の上空には赤・青・緑・黒の四色で構成された、巨大魔方陣が展開されていた。

 

「っう……!此れに向かって、スキルや魔法の攻撃を放てば………!其のスキルや魔法の、威力とスピード、範囲を……広げられ、ます…!!」

 

MPを使い果たし、倦怠感に膝を着くレーザーカジキは何とか自身の魔法の能力を伝え。其の説明を聞いたペンシルゴンは、秋津茜・アイトゥイル・シークルゥを見て、指示を出した。

 

「秋津茜ちゃん!アイトゥイルちゃん!あの魔方陣目掛けて、持てる火力を撃ち込んで!!あとシークルゥちゃんも、何か燃やせる魔法とか無い!?」

「は、はいッ!」

「了解なのさ!」

「も、燃やせる魔法……!?…………あいや、有る!やってみるで御座る!!」

 

魔方陣が何れ程保つかは判らないが、レーザーカジキは『コレに火炎攻撃を叩き付けて上空の雲を払い飛ばせ』と、そう考えて完全詠唱による門魔法を使い。其の意図を読み取ったペンシルゴンは、直ぐにインベントリアから投擲玉:炸油を握り締めて、力の限り投擲し。

 

「行くで御座る!刮目せよ━━━【タケミカヅチ】!!!」

 

シークルゥが己の得物たる刀を地面に突き刺すや、其処から無数のタケノコが生え出して急速成長、立派は竹林が産み出されて魔方陣の方へと延びて行き。

 

其処にペンシルゴンの投げた投擲玉が当たって、中に内封されていた可燃性の油が、盛大にぶちまけられて竹を濡らす。

 

刃隠心得(はがくれこころえ)奥義(おうぎ)━━━━━【竜威吹(リュウイブキ)】!!!ワァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

「行くのさ!『酔伊吹(よいいぶき)』ィィィィィィィィッッッッッッッ!!!!」

 

印を結び、息を吸い。酒を飲みて、魔力を混ぜ。油が付いた竹林に、灼熱の火焔と極太レーザーが直撃し。其の炎は油と竹の特性を受けて、更に巨大に増幅しながら、レーザーカジキが創り出した増乗幅響門に吸引され。

 

其処から出たのは、秋津茜が呪い(マーキング)を受けるに至った『天覇』の息吹きに比肩し得る、大火力と言わんばかりの『コロニーレーザー』が解き放たれ。天に浮かぶ分厚い雲に風穴を穿ち、此の戦場に再び月光をもたらす一手が成された。

 

「けほっ、こほっ…!や、やりましたぁ!雲を晴らしましたよーーーーー!」

「皆はーーーーん、頑張るのさーーーーー!」

「うわぁ…、すっごいなぁ……ハハハハ」

「ありがと、皆!」

 

透明分身を防ぎ、道を作ったレーザーカジキ・アイトゥイル・シークルゥの一人と二羽に、ペンシルゴンは礼を言う。

 

「やべぇな、オイ……!」

「超極太コロニーレーザーって、シャンフロで初めて見たんだけど……」

「ぷわぁぁぁぁぁ………」

(あんな攻撃、初めて見た……!でもお陰で、空が晴れました……!)

 

そして其れは、前線を張るプレイヤー達も横目に見える程で。とんでもない『奥の手』を隠していた秋津茜とレーザーカジキに、サンラクとオイカッツォは口角が引き吊り、エムルは呆けてしまい、サイガ-0は驚きつつも詠唱を続行。

 

「ペッパーは!」

「生きてるよ!!!ってか、空が晴れるや巨大な光の柱が出たり、とんでもない事起きまくってるし!今日一日で色々有るなぁうい!?!」

 

フィールドから暗闇が消え、月光が降り注ぎ、リュカオーンとペッパーを照らす。彼の右手に握るグランシャリオは月の光に照らされ、其の刀身から黒い靄を業火の如く放ち続けて、リュカオーンは其れを見ては歯軋りと喉を鳴らし、威嚇と攻撃の手を止めない。

 

「エムル、マナ・シェイカーの準備だ!加算はしなくて良い!カッツォは俺が合図したら、エムルを抱えて京ティメットの方に走れ!」

「ぷぅえ!?え、あ、はいなぁ!?」

「よし、解った任せとけ!」

 

サンラクが煌蠍の籠手を握り、エムルが肩に乗り、前へ前へと其の身は走る。

 

「3……2……1……ペッパー!!全速力で此方に来ぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」

「了解ッ!」

 

 

 

此所からの『一分間』が、彼等彼女等の運命を決める。

 

 

 

 






切札達を執行せよ




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の十一



サンラクとペッパーの切札




サンラクの合図を受けて、ペッパーが走り出す。リュカオーンがペッパーを見つめ、周りを見ずに追い掛ける。

 

「さぁ、此所からが勝負!晶弾(クリスタルバレット)起動だ!【成長せよ(Growing up)】!!!」

 

ペッパーが通り過ぎた刹那、サンラクが煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)に宿る機能(ちから)を言霊に乗せて、左側で地面を叩く。

 

地面を媒介に伝わった『振動』が、撃ち込んだ晶弾に伝わるや地面から水晶柱が飛び出し、走ってきたリュカオーンの左前足に直撃。『犬型』であり『狼』を形作るリュカオーンは、自身の転倒を阻止するべく、右前足を踏み込みバランスを取る。

 

「エムル、右前足にブチ当てろ!」

「はいな!マナ・シェイカー!」

 

兎の魔術師が霊体系モンスターに特効レベルで刺さる魔法を放ち、リュカオーンの右前足を攻撃。クリーンヒットした事によってクレーターの様な傷が刻み込まれ、幾ら夜の帝王でも其のダメージは、簡単に修復出来るものでは無いようだ。

 

「やりましたわぁ!」

「良いダメージだ!さぁ、全出力ぶつけに行けや━━━朱雀(スザク)ゥ!!!」

『了解、ポイントマーキング。焼却対魔刃(インシレート・スラッシャー)、起動。攻撃ヲ仕掛ケマス』

 

残されたエネルギーを、ありったけの熱を。噴射口(ブースター)と紅の翼に乗せた朱雀が炎の翼刃を掲げて、夜闇が崩れた右前足を凄まじいスピードと共に焼き斬り裂く。

 

其の一撃たるや、あと残り皮一枚といった所まで深い斬り傷を負わせたと同時に、朱雀のエネルギー残量が0となった事がサンラクに伝えられる。

 

「ナイスファイトだ、朱雀。ゆっくり休んでくれ」

 

フルフェイスヘルメットに隠し、サンラクは朱雀の健闘を讃え。エネルギーを失った赤い鋼の鳥は落ちて、地面を擦る。

 

「エムル!カッツォ!京ティメットの方に行け!」

「はいな!」

「了解!」

 

エムルがサンラクの肩から跳躍し、オイカッツォの手に収まるや、彼女()京極(キョウアルティメット)の方へと走り出す。

 

「次は俺の切札の番だ……あの夜の借り、数百倍にして返してやる!」

 

甦機装(リ.レガシーウェポン):煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)━━━━━月光を右手側で受ける事により、魔力を蓄積・消費する事で左手側から晶弾を生成、発射可能な機能の他に、此の武器には遺機装(レガシーウェポン)同様【超過機構(イクシードチャージ)】と呼ばれる『必殺機構』を備える。

 

ペッパーと入れ替わる形で前に出たサンラクの、煌蠍の籠手の右手側が金色の輝きを放ち、絶大な魔力で満たしていく。

 

煌蠍の籠手の超過機構は非常にシンプル……蓄積した魔力を全て消費し、其のエネルギー量に応じて対象の身体を『水晶へと変質させ爆砕する』というモノ。

 

使用すれば一週間の再使用時間と、装備者と装備には甚大な反動ダメージが返ってくるものの、其れを加味しても絶大窮まる其の一撃は、切札の二文字に陰り無し。

 

「オマエが月を避けるなら、俺が月を叩き付けてやる(・・・・・・・・・)!【超排撃(リジェクト)】!!!!!」

 

小さき開拓者が持つ、神代の技術で甦った黄金の一撃が、立ち上がらんと歯軋る、夜の帝王の顎に突き刺さり。リュカオーンを、黒い狼を構成する闇が水晶に変わり━━━━盛大に()ぜた。

 

「「「「サンラク(サン)!!!」」」」

 

煌蠍の籠手が軋んで砕け、サンラクの身体が反動によってダメージを食らい。しかし『食い縛り』によって耐えて京極達の方向へと吹き飛んでいく中、オイカッツォはサンラクの言った言葉の意味を理解し、バフが切れた中で全力ダッシュ。エムルはマジックチェーンを放ち、吹っ飛んでいくサンラクの足に、魔力の鎖を巻き付けて。

 

京極も、アイトゥイルも、シークルゥも、秋津茜も、レーザーカジキも、ペンシルゴンも。威力を殺して落ちてきたサンラクを身構え受け止めるが、其れでも其のエネルギーは凄まじく、全員がドミノ倒しにされて漸く止まった程であった。

 

「お、おお……スマン助かった」

「とんっっっっっっっでもねぇな、サンラク!?何だ今の一撃!?」

「さっきのアレ、其の籠手の能力なのサンラク君?」

「いやぁ、アレはヤバいでしょ」

「サンラクさん、凄いですよ!」

「良い絵になりそうなのさ」

「凄い……です、サンラクさん……」

「取り敢えずお前等落ち着け!」

 

やんややんやと質問されたりしながらも、サンラクはペッパーとサイガ-0を見つめる。

 

「さぁ、ペッパー!しっかり最後まで頼むぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンラクの切札はヤバい。リュカオーンの顎を粉砕し、動きを止める程の絶大な一撃を前に、思わず息を飲む。しかし止まってはいられないのと、サイガ-0が確実に切札を当てられるようにする為に。

 

ペッパーは聖盾イーディスを地面に突き刺し、空いた左手でインベントリアを操作………其の中から『あるアイテム』を取り出す。

 

「皆、自分に出来る事を最大限にやって来た。ならば俺も!今の俺が持てる『最大火力』を叩き付けてやる!リュカオーン!!!」

 

彼の左手に有るのは『一冊の書物』であり。しかし其の書物は只の物では無い。

 

名を『世界の真理書「墓守編」』。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンを討伐した者に、報酬として与えられた此の世界(シャングリラ.フロンティア)に、たった『五冊』しか存在しない貴重な本。

 

「ウェザエモン・天津気(アマツキ)さん!貴方の絶技━━━━使わせていただきます(・・・・・・・・・・)!」

 

グランシャリオの剣身に真理書を翳した其の刹那、彼の手に在った書物は『空の蒼と桜の桃色の混じった宝玉』に変化し、七つ在る穴の『最も持ち手に近い場所』に納められる。

 

そうして彼は左手にグランシャリオの鞘を持ち、右手の聖剣を其の中に差し入れ、残り一回のレーアドライヴ・アクセラレートで、リュカオーンの右後足を『直線上とする位置』に瞬間移動した。

 

「ペッパー流━━━━━()!」

 

 

 

 

 

晴天流(せいてんりゅう)(かぜ)奥義(おうぎ)

 

 

 

 

目の前に居た筈のペッパーが突如として消え、リュカオーンがグランシャリオの気配を探り、振り向かんとした時。自身の身体がシャンフロの誇る物理エンジンに従って、右へ倒れていく感覚と自身の視界にペッパーが立っている事に気付く。

 

サンラクは、京極は。ペンシルゴンは、オイカッツォは。其の技を知っている(・・・・・・・・・)。風を断つと意味を込められ、名付けられた、ウェザエモンの『絶技』が一つであるから。

 

直線上に在るリュカオーンの右前足……マナ・シェイカーと朱雀の一撃で傷付き、サンラクの一撃に顎を砕かれながらも、再生させていた最中に神謳万雷(しんおうばんらい)よる超加速+グランシャリオの武器に宿った能力による斬撃が、無防備となっていた右後足を断ち斬るに至らせた。

 

星皇剣グランシャリオの能力………其れは『世界の真理書を剣に翳す事で宝玉となってセットされ』、ユニークモンスターの持つ『御業を行使する事が可能になる』というもの。そして『墓守編』は剣に納めた真理書の『数』と、セットした『位置』によって、ウェザエモン・天津気の使用した『絶技』を再現可能とする。

 

ペンシルゴンのバースデーサプライズの準備期間中に、ヴォーパルコロッセオでグランシャリオの秘められた力を探る中で、真理書を翳した事で遂に理解した『真の力』。再現されしは神速の抜刀居合、此の場合では神速の抜剣居合となるが、彼はグランシャリオの剣身を鞘に収めながら、残心と共に『其の名』を放つ。

 

 

 

 

「━━━━━━━『断風(たちかぜ)』」

 

 

 

 

キン……!と小さく剣は鳴り、リュカオーンの巨体がバランスを崩し、地面に再び倒れた。

 

「御願いします!サイガ-0さん!」

 

皆で繋ぎ止めた、此の戦い。

 

最後にして、真打ちたるプレイヤーへ。

 

シャングリラ・フロンティアの最強の攻撃力を誇る最大火力(アタックホルダー)に、彼等彼女等の命運は託されたのだった………。

 

 

 

 






帝王を討て




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夜天に星を、勇気に灯火を 其の十二



リュカオーン戦、此所に終結




「我は混沌を手繰る者。天上に在りて天の果てへ飛翔し、奈落に在りて深淵の底へ潜行す」

 

 

サイガ-0の詠唱と共に、其の身に纏うユニーク装備『双貌の鎧』が、其の手に握る『神魔の大剣(アンチノミー)』が、変化を起こし始めた。

 

白亜の重鎧は色を、輝きを、力を失い、赤土色の本来の姿(・・・・)へと戻っていき。変わりに黒の巨剣には白のエネルギーが流れ込んで、黒のエネルギーが反発。剣身に白黒の『螺旋』を描きながら、互いに其の力を高め合っていく。

 

 

「双貌たる天魔、尚も手を伸ばし極点へと至る」

 

 

 

天帝魔王(サタン)のカタストロフィー、魔王天帝(サタナエル)のアポカリプス。其れ等の二つのスキルを用いて、尚も倒せぬ相手にのみ開示される此の『奥義(スキル)』は、世界観を彩る設定から『切札』とされている。

 

発動までの条件と長い詠唱を必要とするが、其の一撃は『絶大』の一言に尽きる。事実、サイガ-0が【最大火力(アタックホルダー)】を賜るに至ったのも、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)のメンバー達による強化(バフ)も有ったが、一番は此のスキルによる部分が大きい。

 

 

「我が覇道を塞ぐ大敵よ、我が覇たる道の先導は我が他に要らず。即ち我が一撃は塞がる万象を砕く」

 

 

白き聖と、黒き邪。相反する力を二重螺旋に織り込み、交ぜ合わせ、混沌を創り出し。サイガ-0は此のスキルはきっと、此の時の為に在ったのだと確信する。

 

クラン:旅狼(ヴォルフガング)のメンバーが、各々の出来る事を成し遂げて来たからこそ。誰か一人でも欠けていたら、出来なかったからこそ。今こうして自分の持つ最強の一撃を放てるのだと、サイガ-0はそう想うのだ。

 

 

「我が身は天に在りてサタナエル、魔に在りてサタン。双貌一つに混沌を執行()す」

 

 

透明分身は防がれ、復讐の得物の臭いに縛られ、全てが後手に回ったリュカオーンは、斬られた右後足を其のまま『オマエだけは』と、ペッパー目掛けて渾身の力で飛び掛かり、粉砕されていた顎を形作り直して襲い。

 

しかし其の前に立ち塞がったのは、此所まで仲間達の献身と援護により、遂に詠唱を終えて攻撃に漕ぎ着けたサイガ-0の姿。其の両手に握る剣には、混沌の螺旋渦巻く力の奔流が在り。

 

 

始源(ハジマリ)終焉(オワリ)を謳え━━━!【アルマゲドン】!!!!」

 

 

解き放たれるは、白と黒の混沌が紡ぐ二重螺旋。破壊に次ぐ破壊の連鎖を宿せし、力の濁流にして奔流。絶大無比の一言に尽きる、他の追随を許さない最大火力(アタックホルダー)の切札が、リュカオーンの━━━━夜の帝王の顔面に直撃する。

 

アルマゲドン………其れがサイガ-0が称号【最大火力】を取るに到りし切札にして、其の由縁となったユニークスキル。

 

初段の1,0倍の攻撃から始まり、続いて1,1倍率、更に続いて1,2倍率、更に更に続いて1,3倍率、1,4・1,5・1,6・1,7・1,8・1,9の倍率での攻撃を多段式に連ね、最終的には2,0倍率での攻撃を行う━━━━━━━其れ即ち『十段階乗算式十一回連続ダメージ判定を叩き込む』という究極の切札(・・・・・)にして、使用者に勝利をもたらす『必勝の一撃』なのである。

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

『ギ、ガッ……グルァ………!!!』

 

サイガ-0が吠え、リュカオーンの身体を混沌螺旋のエネルギーが削り、リソースを凄まじい速度で削り尽くしていく。大火力と大質量の激突による衝撃波が襲い掛かり、近くに居たペッパーはタンブルウィードの様に転がって、ペンシルゴン達は吹き飛ばないよう近くの瓦礫にしがみつく。

 

「おわああああああああああああ!?」

「ぴゃあああああああああああああ!!!」

「なんつー火力……!コレが、レイ氏の切札……とんでもねぇスキルじゃねーか……!」

「対人戦で、アレは食らいたくないね……!」

「私も同意だよ、カッツォ君!というより、あーくん待ってて今助けに行くよ!!」

「とんでもないね、全く…………!」

「ほわぁぁぁぁ………」

「凄い、のさ……!」

「何という……!」

 

ぶつかり、爆ぜて、轟音が鳴り。十一連撃目━━最後の波動がリュカオーンに当たって、アルマゲドンが終わりを告げた。

 

「す、凄い……!凄いですよ、サイガ-0さん!此れならリュカオーン………も……!?」

 

御決まりなフラグの台詞を秋津茜が言い放ち、砂塵が晴れた先で全員が見たのは。右顔面は完全に崩壊し、右半身はすっぱりと叩き斬られ。本来ならば立っている事等、狼の構造上不可能な筈(・・・・・)であるのに。

 

夜襲のリュカオーンはサイガ-0の前で、戦いに関わった全ての者達の視界に立っていた(・・・・・)

 

「ッ………これでも、まだ足らない………!?」

「レイ氏!」

「サイガ-0さん!」

 

兎月を取り出したサンラクが、ペンシルゴンに受け止められたペッパーが、そして他の者達もリュカオーンの前に膝を付いた、土錆びた重騎士を守らんとして走り出し。

 

リュカオーンはサイガ-0を、走ってくるサンラク達を、最後にペッパーの姿を見つめて。愉悦と歓喜に口元を歪めた後(・・・・・・・・・・・・・)心底愛おし気な視線(・・・・・・・・・)をペッパーに向け、其の身体を崩壊させていく。

 

「リュカオーンが、崩壊していく……?」

「や、やりましたか……?」

 

消え行く宿敵を見たサンラクが、フラグな台詞をサイガ-0が呟く。辺りを見回す一同だったが、此所でエムル・アイトゥイル・シークルゥの三羽のヴォーパルバニー達が、上を見上げて叫んだ。

 

「サ、サンラクさん!まだ、リュカオーンが見てる(・・・)ですわ!」

「ペッパーはん!上に、上にリュカオーンが!」

「秋津茜殿!まだ、夜の帝王は其処に(・・・)居るで御座る!!」

 

兎達の声に皆が見上げた視線の先には『何もない』。だが其処にはハッキリと、リュカオーンの気配が『在る』。小さな開拓者達が力を結集し、自分を打ち倒した事を見届けたかのように、リュカオーンは小さく『笑っていた』。

 

そして彼等彼女等の前に、リザルト画面が表示される。其の中で唯一人、ペッパーだけは『もう一つの項目』も追加されて表示されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『称号【影狼(かげろう)穿(うが)つ】を獲得しました』

『特殊状態【導きの灯火】を入手しました』

『ユニークシナリオEX【夜闇を祓うは勇気の灯火】を開始しますか?【Yes】or【No】』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

 

 

 

 

 

 






影を討ち、ユニークシナリオが現れる




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激闘を越えて、夜の帝王は刻印を刻む



影狼との戦いを越えて




倒した………自分達は夜の帝王、ユニークモンスター・夜襲のリュカオーンを倒したのだと、そんな達成感と後悔をしつつも、此の瞬間にペッパーは夜空を見上げて息を吐いた。

 

クラン:旅狼(ヴォルフガング)全員+α二名が握ったユニークシナリオEX、何れは黒狼(ヴォルフシュバルツ)にもグランシャリオという、此方が持つ鬼札がバレる予感を抱きながら、今だけは其れを忘れて『あの夜のリベンジ』が出来た事を喜ぶとしよう。

 

「ユニークシナリオEX……コレがユニークモンスターを、倒すのに必要な………」

「…………そう。墓守のウェザエモンの時は【此岸より彼岸へ愛を込めて】ってクエストが、ウェザエモンに挑むユニークシナリオだった」

「わ、私にも、ユニークシナリオいーえっくす?ってものが出てきました!」

「ぼ、僕も……でも、良いんでしょうか……?助けて貰ったり、後方支援しか出来てなかったんですけど……」

 

ユニークシナリオEXを受けて良いのか悩むレーザーカジキに、サンラクとペンシルゴンはこう言った。

 

「大丈夫大丈夫、受けた方が絶対楽しいから。受けないで後悔するより、チャレンジした方がダメージ少ないぜ?」

「レーザーカジキ君はあの時、秋津茜(アキツアカネ)ちゃんと合体魔法を放ったでしょ?充分貢献してくれたし、あーくん自身も君の事を既に『旅狼の一員』として見ているんだよ?」

「えっ……?」

「あぁ、支援攻撃や魔法も立派な戦いだ。レーザーカジキ、よく頑張ったな」

「…………!ありがとうございます!」

 

一戦力として認めて貰えていた事に、深々と頭を下げたレーザーカジキを見つつ、ペッパーとサンラクはリュカオーンとの戦いで獲られた称号や報酬を見て━━━━気付く。

 

「………そういう事か」

「あぁ、多分な……」

「えっ、どしたの?あーくん、サンラク君」

「称号の影狼………俺達がさっきまで『本物』だと思って戦ってたリュカオーン、アレも影………つまりは『分身』だったって事」

「マジ?」

「そ、そうなんですか?」

「やってくれるね、リュカオーンは」

 

皆思う所が有りつつも、苦労して倒したリュカオーンが分身だった事に、どっと疲れが襲い掛かる感覚を味わった。

 

「おそらく『本体』は、どっか遠く離れた場所から、分身を遠隔操作して楽しんでるんだろう………ガアアアアアア!!!チクショー!!!!嘗め腐りやがって、あの犬ッころがぁぁぁぁぁ!!!」

 

フルフェイスヘルメットを被ったまま、夜空に向かって怒号を上げたサンラクだったが、此所でリュカオーン戦のMVPというべき活躍を見せたサイガ-0が、彼を見て言葉を紡ぐ。

 

「良いじゃないですか。例え分身でも、偽物でも………誰にも倒せなかったリュカオーンを、サンラクさんと。そして皆さんと一緒に倒せた………私は其れだけでも凄く『楽しかった』ですよ!」

 

そう言ったサイガ-0の表情は、土錆びれた兜に隠されて見えなかったものの、サンラクには『ある女の子の顔』が重なって見えた。

 

「………………………」

「どうし、ましたか?」

「あ、いや………何かチラッと記憶に触れた様な気がしただけですね。…………まぁ、レイ氏の切札も見れたし!リュカオーンにリベンジを果たせたって事だ!」

「そうだな、俺としても大満足の結果だよ。報酬も有るみたいだし、一体ど『ジリッ……』ん?」

 

SEが鳴り、ペッパーの右手とサンラクの胴と脚に刻まれている、リュカオーンの呪い(マーキング)から黒い靄が溢れ出し、空中に漂い纏まり始めている。

 

「ペッパーはんと、サンラクはんの呪いが何か『変』になってるのさ!?」

「何が起きてるの……?」

 

アイトゥイルと京極(キョウアルティメット)が声を上げる中、サンラクは『答え』に辿り着き、そして言った。

 

「そうか、コレは……!俺とペッパーに呪いを着けたのは分身とはいえ、『あの影狼(リュカオーン)』だ!ソイツを倒したから、呪いが解ける……!」

「えっ……あ、確かに……!リュカオーンの分身だが、呪いを刻んだ奴を討伐したから……!」

「つまり俺は、漸く半裸から卒業出来るって訳だ!聖女ちゃんとやらに頼むまでもねぇ!此の変態スタイルからもオサラバ出来るわ!!!」

 

忌々しい呪いと半裸スタイルからの脱却が出来ると歓喜に喜ぶサンラクは、フルフェイスヘルメットから馴染み深くなった凝視の鳥面に切り替える中、変態の自覚有ったのか(ですわ)とオイカッツォ・京極・エムルがポツリと呟く。

 

「さぁ、来い!そして此の忌々しい呪いを解くが良い!!!」

 

ババッと天に両手を広げるサンラクだが、ギュムムムムム!っと黒靄が凝縮されて、一同の前に『リュカオーンの頭』が出現する。

 

『えっ?』と全員が呆気に取られた直後、頭だけの某饅頭じみた姿のリュカオーンが、目の前に居たサンラクを両足の爪先のみ残して、口に含んだかと思えばモグモグと『咀嚼し始めた』。

 

「サンラクさぁぁぁぁぁぁん!!!???」

「えっ、此れ本当に解呪か!?」

「どう見ても解呪じゃないような……」

 

秋津茜・オイカッツォ・ペンシルゴンが見つめる中、ベッとチューインガムの残りカスを吐き捨てる様に、口に含んだサンラクを解放するリュカオーン。そして其の視線は、続けてペッパーの方に向けられていた。

 

「………リュカオーン、俺はお前にリベンジを果たした。だが、俺達は此れで一勝一敗の『イーブン』でもある。本体に伝えてくれ。『必ずお前を探し出して、倒しに行く』………ってさ」

 

突発的な『ロールプレイ』を求められた気がしたペッパーは、頭だけのリュカオーンに対してそう宣言する。果たしてリュカオーンが、自分に何を思ったかは解らなかったものの、ぴょいんぴょいんと地面を跳ねてペッパーに近付き。

 

右手を鼻先で押し上げた後、ペロリペロリと右手を『舐め回し始めた』のである。

 

「えぇ…………????」

「……甘えてる?のでしょうか、リュカオーンさん?」

「サンラク君と扱いに雲泥の差が有って草」

「………何か気に入られた?ペッパー」

「呪いの時点で気に入られてるんだがな………」

 

遠い目をしていると、リュカオーンが舐め回すのを止めて。

 

ペッパーが右手を見ると此迄は『引っ掻き傷に似た模様』を成していた呪いが、『引っ掻き傷こそ其のままに紅い色』に変色していき。

 

ではサンラクはと皆が視線を向ければ、其の呪いは『更に深く』。まるで産まれた時より身体に刻まれたかの様な、『漆黒の黒』へと変化を遂げた。

 

何が起きたのかと、サンラクとペッパーは自身のステータス画面を開き、状態異常をチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュカオーンの刻傷(こくしょう)

 

夜の帝王の分け身を打ち破りし者を、リュカオーンは『餌』として認識しない。其れは自らの手で仕留めるに相応しい『敵』の証明であり、最強種が認めた強者の『刻印』である。

 

魂に刻み込まれた呪いは、聖女の祈りでは解呪出来ず、黒狼の真なる姿を打ち破る他に解く術は無い。

 

 

・リュカオーンの刻傷を持つキャラ以上のレベルのモンスターが積極的に『戦闘』を選択します。

 

・リュカオーンの刻傷を持つキャラ以下のレベルのモンスターは、積極的に『逃走』を選択します。

 

・リュカオーンの刻傷を持つキャラは、あらゆる『呪い』を無効化します。

 

・リュカオーンの刻傷を持つキャラは、NPCとの会話に補正が掛かります。

 

・リュカオーンの刻傷を持つキャラは『改宗(コンバージョン)』が出来ません。

 

・リュカオーンの刻傷が付与された部位には、防具及び武器を装備する事が出来ます。ただし装備したアイテムは『一定時間』で破壊されます。

 

・リュカオーンの刻傷の効果は、『夜の帝王を模倣した神代の大いなる遺産』に限り、効果の対象外となります。

 

 

 

 

 

 

 

リュカオーンの愛呪(あいじゅ)

 

 

夜の帝王に誓い、自らの約束を違う事無く己が分け身を倒した者に、リュカオーンは『餌』という認識を改めた。其れは最強種が見定めし、『寵愛する存在』である。

 

其の身に刻まれた刻印は、聖女の祈りでは解呪出来ず、黒狼の真なる姿を『夜の帝王を模倣した神代の大いなる遺産』と共に打ち破る事でのみ、初めて解く事が出来る。

 

 

 

・リュカオーンの愛呪を持つキャラ以下のレベルを持つモンスターは、本能的に『逃走』を選択します。

 

・リュカオーンの愛呪を持つキャラと同じレベルを持つモンスターは、愛呪を受けたプレイヤーとの戦闘を本能的に『回避』を選択します。

 

・リュカオーンの愛呪を持つキャラは、あらゆる『呪い』を無効化します。此の効果は、愛呪が付与された部位以外にも発揮されます。

 

・リュカオーンの愛呪を持つキャラは、NPCとの会話に大きな補正が働きます。

 

・リュカオーンの愛呪を持つキャラは『改宗(コンバージョン)』が出来ません。

 

・リュカオーンの愛呪が付与された部位には武器・防具を装備出来ません。ただし『夜の帝王を模倣した神代の大いなる遺産』に限り、効果の対象外となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンラクは思った。違う、そうじゃない━━━━━と。

 

 

ペッパーは思った。何故そこで愛ッ!?━━━━━━と。

 

 

 

 

 






与えられたのは、更なる困難への片道切符


刻傷と愛呪の違い



刻傷:コイツは私が認めるくらい強いよ

愛呪:私のモノだから、手ェ出したら殺す。もし手を出したら、何処に逃げようが、何処に隠れようが、絶対追い詰めて必ず死に晒す



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決意を其の手に、我等は荒野を往く



変化したマーキング




違う、そうじゃない。そうじゃないんだよ、リュカオーン。俺は呪いを解けと言ったんであって、呪いを更新しろとは一言も言ってないんだよ。しかも内容の充実や、一定時間経過で装備破壊とか、ギャグやりたい訳じゃない、人としての最低限の尊厳が欲しいんだわ。

 

━━━そんな心の声を挙げてか、青筋を鳥面にビキビキと走らせるサンラク。

 

 

いや、何故そこで愛ッ!?いや何で?なんで??ナンデ???突発的なロールプレイが必要な場面だと感じたから、自分とリュカオーンの勝敗が1:1で有る事実を踏まえて、御決まりの御決まりな台詞でキザっぽく決めたら、リュカオーンの寵愛受けましたって何なの?

 

 

━━━ますますリュカオーンという存在が、何を考えてるのか解らなくなったペッパー。

 

 

 

「「何か悪化してるーーーーー!?」」

「サンラクさんは真っ黒に、ペッパーさんは赤くなってるですわ」

「あ、本当……ですね」

 

そうして台詞がハモった所で、エムルが呪いの『色』を言及し皆の視線が集まる中、当のリュカオーンはまるで『悪戯成功』と言わんばかりに、サンラクとペッパーを見ながら『グルッグルルッル♪』と笑って。

 

「オイゴラ、駄犬!今すぐコイツを取り……アアア!テメ、何勝手に消えようと……いや、待って!待ってってば!ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??チクショー!ぜってークソ犬許さねぇーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

サンラクの悲痛な呼び止めも完全に無視、其の身を崩壊させて夜空に溶け込み、リュカオーンの頭は此のフィールドから気配が消え去って。

 

漸く一同に静寂が訪れる。

 

「…………なんてこった。まさかこんなトラップが有るなんて………」

「何で愛なんだよ………どうしてこうなったし………」

「大丈夫ですか?大声上げて思いっきり走れば、大体の悩みは吹っ飛びますよ!」

「そーゆーのはRTAだけで良い……」

「……一考しとくよ、秋津茜(アキツアカネ)

 

あーだこーだと、何時までも過ぎた事をウジウジ言っても、事態や状況は何も好転しない。両頬を叩いて思考を切り替えながら、リュカオーンを討伐してしまった事について、サイガ-100に報告するか否かをサイガ-0に聞く事にし。

 

リュカオーンの分身を倒し、報酬として手に入れた『特殊状態』なる物を、ペッパーはチェックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・特殊状態【導きの灯火】

 

昏く黒い夜闇の中において、夜の帝王と遺産への道を示す『小さな炎』をその身に宿した状態。

 

闇を束ねるリュカオーンは、逆説的に光を払う事ができる。リュカオーンより授けられた灯火は、リュカオーンの『一部』であり、破棄された『光』である。

 

『ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン』と『夜の帝王を模倣した神代の大いなる遺産』が一定範囲内に存在する場合、其の方向を指し示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(リュカオーンの一式装備と、リュカオーン本体を捜す為の『レーダー』を備えた状態ね。其の範囲が一体どの程度かは知らないが、愛呪を受けた以上はリュカオーン討伐時に絶対必須……。

多分大型アップデートで行ける『新大陸』の何処かに、リュカオーンの『本体』が居る可能性は有るし、あまりモタモタしてはいられないな)

 

現状『夜襲のリュカオーンを模倣した一式装備』と、リュカオーンの本体を捜す為のレーダーを搭載した特殊状態と、『冥響のオルケストラに関する一式装備』の捜索・攻略に必要な征服人形(コンキスタ・ドール)を捜す為の三部位一体の装備を、自分は所持している。

 

改めて思うが、自分はユニークモンスターと縁が在り過ぎている気がしなくもない。其の内ペンシルゴンやクラン連盟側から、漏れ無く『オハナシ』が飛んで来そうだと、ペッパーは心の中で溜息を付く。

 

ふとサンラク達の方を見れば、皆も導きの灯火の能力を見たのだろう、其の瞳の奥に闘志の炎が着いたのを感じた。ペンシルゴンは何か企んでいる感じだが。

 

「取り敢えずレイ氏には感謝を。エリア攻略だけじゃなく、リュカオーンの討伐まで付き合わせてしまって……」

「あ、いえ、そんな………お気になさらず!えっと、この程度の事でしたら、幾らでも付き合いま……付き、合い…………? 付き合う……?…………!つ、つつ、つ…………ぅぁ!!!???」

 

ボスン!と水蒸気爆発に似た音が静寂の残骸荒野に木霊し、サイガ-0が貧相な姿になった己の持つ大剣をぶん回し始め、暴風域ならぬ暴刃域が構築されて近付く物を斬り捨てんとしてくる。

 

「うぉ!?あぶっな!?」

「い、いえいえいえ!!! まだエリアボスを倒してません!ですので、最後までつき、つ、つつ、付き合いますとも!!はい!!!!」

 

やっぱりサイガ-0ってヤバい━━━━━━其れが此の場に居た全プレイヤーとNPCが抱いた感想であり、シャンフロ最強のアタッカーにして最前線を張るクラン:黒狼の切札が、構成員十名にも満たないユニークモンスター討伐一番乗りしただけの弱小クランへ移籍を希望していると、此の世界に公表されようものならゴタゴタ処か最悪『戦争』さえも不可避になるだろう。

 

「あ、そうだ。あーくんとサンラク君の呪いって、どっちも違う感じ?」

「あぁ」

「うん」

 

ペンシルゴンの問いにサンラクとペッパーは答え、各々に刻まれた呪いの効果を説明すると、ペンシルゴンの目からハイライトが消え失せた。其の理由がペッパーに刻まれた、リュカオーンの愛呪による物であり。

 

「へぇ……そうかぁ、そうかぁ………。私の(・・)あーくんにツバ付けるなんて、リュカオーンはよっぽど死にたいと見えるねぇ………?此れはちゃあんと、理解(わか)らせないとだね………あーくんは私の物だって事を、さ?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………と一際ドス黒い、リュカオーンの漆黒以上の黒を纏うペンシルゴンに、一同は引き気味になり。

 

そういえばリュカオーンとの戦いで、今の時間と自分はどうなったのかと思ったペッパーは、聖盾イーディスを拾いつつ、時間の確認と自身のステータス画面、そしてスキルを見て━━━━━口が開きっぱなしになった。

 

「オーマイガー…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)

 

 

レベル:99 Extend

 

 

メイン職業(ジョブ):星駆ける者(スターランナー)

サブ職業(ジョブ):勇者

 

 

 

体力 130 魔力 50

スタミナ 213

筋力 160 敏捷 200

器用 135 技量 135

耐久力 4057 幸運 100

 

 

残りポイント:71

 

 

 

装備

 

 

左:聖盾(せいじゅん)イーディス(耐久力+3000)

右:星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ

両脚:無し

 

 

頭:ライノベレーの帽子(耐久力+350)

胴:隔て刃の皮ベスト(耐久力+4)

腰:発掘研磨腰帯【古兵】(耐久力+400)

脚:烈風竜印のズボン(耐久力+300)

 

 

 

アクセサリー

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

格納鍵(かくのうけん)インベントリア

超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)

・旅人のマント(耐久力+2) 

・革のフィンガーレスグローブ(器用補正:小)

 

 

 

所持金:14,571,500マーニ

 

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

窮速走破(トップガン)

偉風導動(リーガルック)

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……始ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

致命武技

 

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ヒゲツオロシ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ゲッカケンセキ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オボロサイダン】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウマゼッカイ】

 

 

 

 

星天秘技(スターアーツ)

 

 

・ミルキーウェイ

・グラヴィトン・レイ

 

 

 

晴天流(せいてんりゅう)

 

【風】

・晴天流「疾風(はやかぜ)

 

 

 

 

 

スキル

 

 

死神の斬撃(デス・マサカー)昇華(スタンバイ)

終極刺突(グルガ・ウィズ)昇華(スタンバイ)

真界観測眼(クォンタムゲイズ)昇華(スタンバイ)

・ブランチャイズ・スロー

・シルヴァディ・スティングレイ

頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)昇華(スタンバイ)

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)昇華(スタンバイ)

冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)昇華(スタンバイ)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)

戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)昇華(スタンバイ)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)

神威光臨進(かむいこうりんしん)

・レーアドライヴ・アクセラレート・昇華(スタンバイ)

神律燼風(しんりつじんふう)昇華(スタンバイ)

獣神斬滅(じゅうしんざんめつ)

神謳万雷(しんおうばんらい)昇華(スタンバイ)

轟烈迅速(ヴスティオ・ファーレ)

・ジャイロヴォース・スロー

神腕魔擲(しんわんまてき)

・トゥワイス・ジャンピング

天空神の加護(レプライ・ウーラノス)昇華(スタンバイ)

奮魂絶闘(オーバード・ソウル)昇華(スタンバイ)

・チューンブレイク・ストライカー

風暴鬼の飛脚(マルトリアス・レッグス)

破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)昇華(スタンバイ)

英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)昇華(スタンバイ)

絶技(ぜつぎ)太陽斬覇(たいようざんは)

蓮華音穏(れんかねおん)

連刃結(れんじんむすび)九十九(つくも)

刃閃鑼(じんせんら)波狼(はろう)

刻蓬封点認視界(エディア・キュリス・ウラタナ)

龍脈を映す視覚(ドラスティエル・ナルクト)

速刃(そくじん)晴空(はれそら)

・エクストライズ・トリデュート

煌軌連刃(こうきれんじん)

爆芯輪転蹴(メテオ・ドリンラム)

雫波状(しずくはじょう)澄蓮華(スミレンゲ)

・ポルータナリッグ・ゼイリアス

・タイタニアス・スタンパー

拳掌百手(けんしょうひゃくしゅ)

旭天昇昂(きょくてんしょうこう)

局極到六感(スート・イミュテーション)昇華(スタンバイ)

居合(いあい)切空(きりそら)

天空の帝王眼(ラトゥルスカ・インペリアイズ)

天壱夢鳳(てんいむほう)昇華(スタンバイ)

・セルタレイト・ケルネイアー

・フォートレスブレイカー

連剣秀速迅舞(ソードブレイズ・シュティーア)

・グローイング・ピアス

・セルタレイト・ヴァラエーナ

窮極致超越(アレフ・オブ・トランジェント)

輪天翔律(りんてんしょうりつ)

秀越なる鎚撃(オルフェイム・タンザライナ)

巧運勝闘技(デュエル・トリスティル)

境鳴絶壊昴打(シューヴェイト・ラプソディ)

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬儀咲(おうざんぎしょう)阿修羅刃理(あしゅらじんり)

刃王斬(ばおうざん)黄泉(よみ)

刃舞(じんぶ)廻旋(りんせん)

・パウリングレッグス レベル1

・デッドオアサバイヴ

・シャイニングアサルト レベルMAX

・ファウラム・チャージング

・グラビティゼロ レベルMAX

四天無双(してんむそう)五天無双(ごてんむそう)

剣王武心(マスラオ・センス)

・ヴァーテクス・ガーラザイド→ティオ・チャクラ レベル1

・メダリオンフィスト

・マッシライズ・キャリー→ストレングス・キャリアー

・シャルク・スライダー

反撃衝突(コリージョンカウンター)

皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)

・アンストライク・ビリーブ

・ルーパス・アサイラム

・シールディア・サフレィト

徹硬鋼突(てっこうこうとつ)

英雄覇颯(ヒーロースプリーム)

盾士の憤撃(レイジングシールド)

・ハリケーン・ハルーケン

渾魂注撃(ストライク・インストーラ)

魔寅王の掌撃(ギルスティーガ・デクタム)

・パーティック・スラッシャー→スリックランペイジ

・セルタレイト・スラッシャー

守護者の威厳(ヘイルス・ガーディア)

獄貫手(ごくかんしゅ) レベル1→レベル4

・テンカウンター

・キック・バスター レベル1

眼力適応(ディチューン・アイ)

・ビート・ラン

・ブーストアップ レベル1

・メロスティック・フット

・荒割り レベル1

迅横(じんおう)()

・タップステップ

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

彼がそうなったのは、新規習得スキルが少ないからでもなければ、新スキルを試さなかったから変化が少ないでもなければ、Extendの表記が追加されていた事でもない。新たに追加された『晴天流』のスキル欄と、其所に刻まれた『疾風』の二文字が、彼を絶句させたのだ。

 

そして時刻は午前四時半過ぎという、一徹によって朝を迎えた状態………約束の交渉の時間は今日の午後六時とはいえ、半日に差し迫らんとした状態に有ったのだから。

 

「ヤバいぞ、皆……。現在の時刻、朝の四時半です」

「え、マジ!?うっわマジじゃん!?」

「クソ犬と何時間戦ったんだ、俺達……」

「此れヤバいね……取り敢えずフィフティシアに向かわないと」

「一徹しちゃいました……」

「時間を認識したら、凄く眠くなってきた……」

「あわわわ!?学校有るから急がなきゃ!」

「ぼ、僕も学校が有るです!?」

 

サンラク・サイガ-0・秋津茜・レーザーカジキの四人が慌てた事から、彼等彼女等はまだ学生の身分なのだとペッパーは思う。其れにしても若い身で有りながら、あれだけのセンスを発揮する彼等の才能は、本当に素晴らしい限りだ。

 

「取り敢えずエリアボスを攻略する為、移動開始!六時になる前にフィフティシアに到着しよう!!」

『了解!!!!』

 

ペッパーの音頭で全員の心は纏まった。リュカオーンとの戦いを越えて、疲弊した身体に鞭打ちエリアボス討伐に向かったのだった………。

 

 

 

 






いざ、エリアボス討伐へ



Q、ペッパーは何で疾風がスキルに追加されたの?
A、グランシャリオに墓守編をセットし断風を発現+称号【天津気の襲名者】の隠された能力『晴天流を自力習得可能となる効果』により習得に至った



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簒奪者を叩き落とし、もたらされるは神秘



巻きで行こう

※今年度、最終投稿です。大晦日と正月三が日はお休みします




「此のエリアのボスは『簒奪者の竜(ユザーパー・ドラゴン)』……魔法攻撃や、プレイヤーの武器を簒奪………文字通り『奪う事』を得意と、しているモンスター……です」

 

無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)の端っこにて、夜襲のリュカオーンとの遭遇戦を何とか全員生存で乗り切った、クラン:旅狼とサイガ-0・レーザーカジキは、最大火力(アタックホルダー)からエリアボスの攻略情報を聞いていた。

 

「俺とペンシルゴン、レーザーカジキはパーティーで一度戦った事があるけど、殆ど地上に降りてこない影響でグダグダしかけたからなぁ………」

「まぁでも、今回はあーくんが居るから時間掛からないとは思うよ」

「ってなると、純魔のエムルとレーザーカジキは後方待機。秋津茜は物理攻撃主体で、後は袋叩きにすればOKかな?」

「其れで良いと思う、あと魔法物理のオイカッツォも下げた方が良いんじゃないかな?」

「いや、俺普通に拳気バフ入れなくても殴れるから大丈夫だぞ、京極(キョウアルティメット)

「微力ですが、お手伝いします!」

 

そうこうしている内に、エリアボスの居るフィールドに到着。迷彩色の身体を顕にして、簒奪者の竜が現れた。

 

「家のクランメンバーや、協力してくれたプレイヤーがリアルの関係もあるんでね……速攻で叩き落とす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星天秘技(スターアーツ)・ミルキーウェイは、夜の時間帯にだけ使えるようにして正解だったと思う。人がポイポイ空を走れて良いのかって、真面目に声が上がりそうな性能だ。

 

つまり何が言いたいかって言うと━━━━━だ。

 

「やっぱり、空中戦が出来るプレイヤーが一人居るだけで、難易度が変わるって事だよねぇ~」

 

物理遠距離攻撃持ちが居ないと、余裕をぶっこいていたユザーパー・ドラゴンだったが、明け方の夜空を超スピードで駆け上がりながら、ペッパーが炎熱属性が乗った飛ぶ斬撃を放って、翼膜を機能不全に追い込み。

 

飛翔手段を失った竜は地上に落ち、其れは羽を奪われた蝶と同じであり。其所に蟻が群がり狩りをするのは、自然界の定められた不変の摂理だったという事。

 

「斬打ブチコミまーす!」

「殴り込みの時間だゴラァ!」

「切り捨て後免!!!」

「たぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「斬りまくるのさぁ!!」

「行くで御座るよ!」

 

四人と二羽が群がってエリアボスを袋叩きにする光景は、何とも言えない感情を抱くには充分で。

 

「トドメ………!」

 

サイガ-0の必勝の切札・アルマゲドン。あの凄まじい一撃には当然ながら反動………即ちデメリットも在った。其れが発動後、一日の間全ステータス半減及びスキル使用不可という、決して無視出来ない制約を受けている。

 

しかも『ある理由』から、其のデメリットが『倍増』しているのだと言っていたが、其の制約を抱えても尚最大火力(アタックホルダー)の一撃は重く、そして強かった。

 

簒奪者の弱々しい、か細い断末魔を上げながら、其の身が荒野に倒れ伏す。此方である程度ダメージを与えたとはいえ、最後にキッチリ決めるサイガ-0はやはり凄まじいプレイヤーと言えるだろう。

 

ポリゴンの爆発とユザーパー・ドラゴンのドロップアイテムが転がり、誰が持つかと言う話し合いの末、秋津茜にアイテムが渡り。

 

そうしてヴォーパルバニー達は、各々マフラー・箱・マントの中に隠れて移動し。一同は遂にシャンフロ第15の街にして現状最後の、大型アップデート後は新大陸に旅立つ第二の始まりの街となる、フィフティシアへと到達したのである……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィフティシアの門でサンラクが呼び止められたり、ペッパーは自身の右手の愛呪について、NPCの門番から聞かれたりして、少しばかりの足止めを食らったものの無事通る事が出来た。

 

深夜勢がログアウトし、朝方から昼間でプレイするプレイヤーがログインする頃で、NPCも此れから起きて活動する為か、街に居る人々は疎らであったものの、シャンフロの中でも此所は指折りの大きさを誇り、人の往来も其れなりに有る。

 

「サイガ-0さんには御礼を。今回のフィフティシア行軍への御協力、そして御尽力に感謝します。其れと質問なのですが……サイガ-100さんには『リュカオーン』の事を伝えるべきでしょうか?」

「いえ、私も今回の行軍はとても楽しかった(・・・・・)ですから、御気になさらず。其れとリュカオーンの事になると、姉さ………じゃなくてクランリーダーは『面倒臭く』なるので、一週間は言わない方が良いかと」

「成程……ありがとうございます」

 

サイガ-0にクランの代表として頭を下げて、礼を述べつつ質問すると、具体的な回答を出してくれた。確かに此方も、ユニークモンスター・深淵のクターニッドに関わるユニークシナリオの攻略が有る以上、邪魔をされたく無いのは事実だ。

 

「取り敢えず裏路地に入って、其所で解散という形で良いかな?」

 

ペッパーの意見に、皆『さんせーい』と疲労の色を含んだ声で答え。取り敢えず、程好い場所でラビッツに帰還しようとした一同だったが、此所でペッパーが見たのは、裏路地の中腹辺りに胡座を掻き、涅槃のポーズで絨毯に座っている『覚醒の導師アーカナム』を見付け。其のアーカナムの視線は、ペッパー・サンラク・京極に注がれていた。

 

『強きに至りし者……汝が神秘を、覚醒してしんぜよう……』

「あ、アーカナムさんだ」

「えっ、うわ何だあのじーさん」

「覚醒の導師アーカナム……あの、サンラクさん……は、今のレベルは99ですか?」

「俺ですか?今レベル99とExtendですね」

「えっ?」

「え?」

『え?』

 

サイガ-0の言葉にサンラクも疑問で返し。周りの全員も疑問を抱いた後、暫く沈黙が流れる。そしてサイガ-0はアーカナムについてのレクチャーを始めた。

 

「えと、其の………覚醒の導師アーカナム……は、レベルを99まで上げたプレイヤーの前に現れる、特殊なNPC……です。サブ職業(ジョブ)限定で対応する、アイテム状の職業『神秘(アルカナム)』を獲得出来ます」

「神秘?」

「はい。シャンフロにおける職業は、スキルの習得に影響を与えますが………神秘はステータスに直接影響を与えます。例えば、私の場合ですと………『神秘(アルカナム):世界(ワールド)』は……『全ステータスに上昇補正を加える』代わりに『スキル・魔法のデメリット効果を二倍にする』という効果を持ってます」

 

サイガ-0は其れから、プレイヤーが手にする神秘はプレイヤー自身のパラメーター等を参考にして、決定しているのだとサンラクに伝えた。どうやら神秘にも当たり外れが有るらしく、サイガ-0に関しては当たりの部類を引いたと見て良いだろう。

 

「………よっしゃ、ならログアウト前に其の神秘チャレンジとやら、試してみるか!」

『強きに至りし者……汝が神秘を、覚醒してしんぜよう……』

 

ドカッと、アーカナムの目の前に座ったサンラクを絨毯が包み、そうして隔絶された空間の中で、サンラクとアーカナムは向かい合う。

 

『さぁ、汝が神秘は運命が決める……札を引きたまえよ』

 

空間に漂うタロットカード達。其れを見たサンラクは目を閉じて、徐に一枚のタロットカードを掴み取り、呟いた。

 

「………こういうのは大抵イベントフラグを引いた時点で、何れ引いても一緒だわな。決めたぜ、アーカナムのじーさんよ………俺の神秘は『コイツ』にする!」

 

目を開き見れば、其所に描かれているイラストは『半裸の鳥頭と二足歩行の兎が一緒になって歩いている、番号は0番のタロットカード』。

 

「コイツは………『愚者(フール)』のカードか」

『ほう……汝、定住せざる者。其の歩みは放浪か、それとも目的ありし旅か……』

 

ファサァ……と絨毯が開かれ、ぶちまけられたタロットカード達はアーカナムの掌に収まり、両手を合掌するやサンラクが掴み取った愚者のカードは彼の身体に突き刺さり、体内に取り込まれて。

 

此れまで空白だったサンラクのサブ職業に、新たに『神秘:愚者』の項目が追加された。

 

「効果は………スキルの再使用時間の半減!?マジか、大当たりじゃねーか!」

『愚者の神秘は、汝の再起を助けるであろう……』

「おう、ありがとうな!じーさん!!」

『だが………汝は汝の他に、助けを求めることが出来ぬ。故に病は、汝の首により鋭い刃を突きつけるであろう……』

「気を抜くなって事かな……まぁ、インベントリアで回復出来るし、其所んとこは無問題(モーマンタイ)って奴だ!つまり愚者は俺的に大当たりって奴だぜぇ!」

「まぁ、サンラクに愚者は似合ってると思うぞ?クックック………ったぁ!?」

「おう、カッツォ。其れ俺が愚者(バカ)だって言いたいんか?オ?」

「上等だ、掛かってこいやゴラァ!?」

「はいはい、其所の馬鹿二人。遊んでないでイベント見守る!」

 

ギャーギャーと取っ組み合いを始めた、サンラクとオイカッツォをペンシルゴンが仲裁に入る。

 

「次は………京極が行く?」

「レディに譲るって?解ってるじゃないか、ペッパー」

 

果たして京極の神秘は、そしてペッパーの神秘は一体何になるのか。皆が見守る中、京極の神秘チャレンジが始まる………。

 

 

 

 






其れは彼の神秘(アルカナム)



300話記念、情報開示コーナー





超星煌耀宝珠(クロック・スタリオン)


遥か彼方に在る『銀河』の一つであり、星を食らう『獣』であり、其の昔にポポンガによって『結晶』へと姿を変えられたモノ。

凝縮と膨張の相剋にして、相対する力を束ねた命の光。幾星霜の時の流れの中、()の『過去』を知るただ一つの手掛かり。

もしも彼が。光を喪い、生に対する絶望に染まり、星の悉くを亡ぼす『崩星(ほうせい)』となったなら。コレは彼を止める『鍵』になる筈だった(・・・)モノ。

其の可能性は『不滅』の名を冠する最強種との出逢いと、数多の亜人種族との交流の中で薄れ、蒼空を舞う勇者の行動によって、完全に潰えたのだった。







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旅する狼よ、戦いに備えるべし



京極、ペッパーの神秘チャレンジ

※明けましておめでとうございます




「さて、其れじゃあ頼むよ?アーカナムのおじいさん」

『強きに至りし者……汝が神秘(アルカナム)を、覚醒してしんぜよう……』

 

サンラクと同じように絨毯が京極とアーカナムを包み、外界と隔絶し約一分が経った所で、京極(キョウアルティメット)が姿を表した。

 

「おう、京ティメット。オメーの神秘は何だった?」

「僕は『死神(デス)』だった。効果は『PVP時に自身の全ステータスの超上昇』、デメリットは『PK行為をする度にカルマ値の超爆増』があるみたい。まぁ、僕的には『当たり』だと思うね」

 

PKerとしてプレイしている京極にはピッタリな神秘だったようで、大満足といった顔をしている。そして最後の一人となったペッパーは、アーカナムの座る絨毯に正座して向き合う。

 

「アーカナムさん、よろしく御願い致します」

『強きに至りし者……汝が神秘(アルカナム)を、覚醒してしんぜよう……』

 

絨毯がペッパーとアーカナムを包み、外界と隔絶された空間でタロットカード達が浮遊する、奇妙な光景を彼は目の当たりにする。

 

「おおう……こんな風になってたのか」

『さぁ、汝が神秘は運命が決める……札を引きたまえよ』

 

浮遊するタロットカード達を見つめ、ペッパーは自身の神秘が一体何になるのかと思いつつ、此れだと思う物を其の指先で掴み取る。

 

其のカードに描かれていたのは『X』と『車輪に凭れる自分と車輪の上に乗った一羽の黒兎、自分を追い掛けるリュカオーン』。そして四隅には『デフォルメされたヴァイスアッシュとジークヴルムにウェザエモン、オルケストラと思われる歌を謳う女性が各々鎮座』する、イラストの時点で破壊力が有り過ぎる代物だった。

 

「………色々言いたい事は有るけれど、ナンバーはX。……10って事は、確か『運命の輪(ホイール・オブ・フォーチュン)』だったっけ」

『ほう………汝、流転の大河に揺蕩う者。其れまで得てきた物は偶然か、はたまた神の定めた宿命か………』

 

絨毯が開かれ、元の場所へと戻る。ペンシルゴン達が見つめる中、アーカナムはペッパーに神秘:運命の輪のフレーバーを伝える。

 

『運命の輪の神秘は、そなたに新たなる出逢いを与えるだろう………。だが、汝は其の激流に抗う事は許されぬ。其の大導に背きし時、積み上げた栄誉は腐り落ちて、全ての(えにし)は霧散するであろう……』

 

そうして一仕事を終えたアーカナムは、敷かれた絨毯に其の身がくるまれて消え去り。再び裏路地に静寂が訪れる。

 

「あーくん、運命の輪はどんな効果秘めてるの?」

 

ペンシルゴンが気になる様子で聞いてきたので、ペッパーは「ちょっと待ってて」とインベントリに収納、効果確認の為に神秘:運命の輪をチェックする。

 

「神秘:運命の輪………効果は『幸運二倍にレアアイテムのドロップ率倍増』と『武器・防具・アイテムの耐久値減少倍増』………まぁたチグハグな能力で」

 

つまりサブ職業(ジョブ)に運命の輪がセットされれば、幸運とドロップ率は向上するが、採掘にモンスターとの戦闘では武器の消耗が激しくなるという、無視出来ない能力を抱えている。

 

ともあれサンラクは愚者・京極は死神・自分は運命の輪と、皆各々で違う神秘を手にした。此の神秘はプレイスタイル等で手にする物に変化が起きるのか、少し気になったので後でシャンフロのwikiで調べてみる事にしよう。

 

「さて……皆、フィフティシア行軍お疲れ様でした。サイガ-0さん、御協力ありがとうございました。では……解散!」

 

ペッパーが音頭を取って、サンラクとペッパーは同じ方向へ走っていき、オイカッツォ・レーザーカジキ・京極は各々で別々の宿を探しに歩き始める中、サイガ-0はポワポワとした雰囲気を纏っていた。

 

「……………えヘヘ」

 

一晩をゲームの中で共に過ごし、突発的に始まったリュカオーンとの戦いを、ぶっつけ本番で倒しきった充足感は計り知れない。何よりサンラクの……彼の力になれた事が彼女にとっては嬉しかったのだから。

 

「ふぅ………んんんん~。一徹しちゃったかぁ、私もそろそろログアウトしないとだなぁ」

「あ、サンラクさん達はラビッツに戻っちゃったんですっけ?シークルゥさん、私達も『ラビッツ』に行きましょう!」

 

天真爛漫に秋津茜(アキツアカネ)が箱に擬態して背中に背負ったシークルゥに言った時、サイガ-0とペンシルゴンはバッと振り向いて、秋津茜を呼び止める。

 

「あ、秋津茜ちゃん。ちょっと良いかな?」

「あ、あの……少し御伺いしたい事が、有ります!」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、ラビッツの兎御殿。

 

秋津茜よりも先に帰還した、サンラクとペッパーはビィラックの鍛治場を訪れて、武器の修理に来ていた。

 

「バカァァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)をブッ壊すとか、何やっとんじゃサンラクャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?」

「いやな、ビィラックよ。何せフィフティシアを目指して進んでたら、リュカオーンと遭遇してな?協力者の助けが有ったとはいえ、コイツの必殺技叩き込まなきゃ勝てなかったんだよ」

 

破損した煌蠍の籠手を見せられた、ビィラックの悲鳴と怒号が兎御殿に響く中、申し開きをしたサンラクの言葉にペッパーと、各々のパートナーたるヴォーパルバニー達もこくこくと首を縦に振った。

 

「はぁぁぁぁぁぁ………。ワリャは毎度毎度派手に壊しおって………甦機装(リ.レガシーウェポン)の修理は、大変なんじゃぞ!んで、何がしたいんじゃ?」

 

そう言いつつも、彼女は煌蠍の籠手の修理を了承して。サンラクを見ながら問いを投げ掛ける。

 

「そうだな……ログアウトする前に『刻傷』の能力を、キッチリ確認しときたいと考えててな。取り敢えず素材は有るから、作ってくれない?」

 

インベントリアからゴロゴロと素材を取り出し、ビィラックが手頃な一式装備を作り上げ、サンラクに渡した。

 

「ペッパー、時間計測頼むわ」

「OK、任せろ」

 

そして此所から、サンラク主催・リュカオーンの刻傷検証会が開始され。ペッパーが観測、ビィラックが防具作りという分業を始めた。

 

爆ぜる防具達にビィラックの悲鳴が木霊し、金が無いからとピーツの元に走っていったサンラクによってピーツが悲鳴を木霊させ、更にはサンラクが武器や防具を強化したいとビィラックに悲鳴を上げさせたりと、朝っぱらから大騒ぎになりこそしたが、刻傷に関しても色々判明した事も沢山有った。

 

『三分』━━━━━其れがサンラクの身体に刻まれた呪いが刻傷となった事で、装備可能になった防具が破壊されるまでの時間。強弱厚薄問わず一律三分で装備は内側から弾け飛んで破壊される。無論、規格外特殊装甲達も例外無く三分経てば、爆散して同じ運命を辿る事になるだろう。

 

「わ、ワチの作った装備がボロボロじゃあああ………」

「家のサンラクが本当にすいません、ビィラックさん……サンラクの武器が終わったらで良いので、グランシャリオの修復御願いしても良いでしょうか?」

 

黒鞘から剣を抜剣・剣身から宝玉を取り外すと、世界の真理書へと戻り。鞘に納めて持ち手をビィラックに向け、彼は剣を渡す。

 

「解ったけぇ……直ぐに取り掛かる」

 

落ち込んだテンションを何とか戻し、ビィラックは早速サンラクの武器の強化と真化、ペッパーのグランシャリオの修理に取り掛かるのを見届け、サンラクとペッパーは休憩室に移動し、ログアウトしたのだった………。

 

 

 

 

 






動き出す魔王と最大火力




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添い寝の休息は、時に恋愛の最適解だったりする



一徹からの現実戻り




「━━━━━━ん━━━━━あーく…………」

「ん………んんん……?」

 

シャンフロからログアウトして、ペッパーから現実世界に戻った梓は、ゆさゆさと身体を揺らされながら意識を取り戻す。

 

「おーい、あーくん。朝だよー」

 

横向きの布団に上半身だけが乗っかった状態であり、隣には水着姿の天音 永遠の姿。通常なら一体何が起きた!?と混乱するだろうが、生憎昨日の事をよく憶えている。

 

「おはよう、トワ………ふぁぁぁぁ」

「おはよう、寝坊助あーくん♪いやぁ、本当にヤバかったね」

 

身体を起こしつつ背伸びしながら、昨日の事を思い出す。永遠の告白とキス、其れから恋人となった直後に『色々』を経て。シャンフロでは仲間達と共に、ユニークモンスター・夜襲のリュカオーンとの遭遇戦を、一晩掛かった戦いを乗り越えて、NPC含めた全員生存での攻略による達成感……其の大きさは計り知れない。

 

「今日はバイトは無いし、大学の講義は………明日以降に回すかな………」

 

スマフォで予定表とコンビニバイトのシフトを見比べ、確認した後に彼は再び布団に寝転がる。本当に色々と有り過ぎたので、午後五時までゆっくり仮眠を取り、午後六時から始まる深淵のクターニッドのユニークシナリオ交渉に、本腰を入れたいところだ。

 

「おーい、あーくーん。朝御飯、食べよー?」

「……其れもそうか……」

 

眠気の身体に鞭打ち、彼は冷蔵庫や炊飯器の中身を見て、朝御飯はおにぎりを作る事に決めた。

 

手を洗い、茶碗に御飯を一杯分取り、両手には塩の瓶から数振りの塩をまぶし、飯を手に乗せて空気をふんわりと込めるように。三角形に白おにぎりを整形していく。

 

手をもう一度洗って水気を取った後は、同じ工程を一回繰り返して自分の分を作り上げ、彼は更に一度手を洗い、食品棚の中から海苔の入ったパックを出す。

 

おにぎり用にカットされた海苔を二枚取り、コンロで軽く焙って水分による湿気りを飛ばした後、各々のおにぎりに付け。後はマグカップ二つに牛乳を入れ、テーブルに持っていって簡単な朝食は完成した。

 

「トワ、御待たせ。梓作『白米のおにぎり』だ」

「おぉ~。シンプルなおにぎりだね」

 

『いただきます』と合掌し、おにぎりを頬張る梓と永遠。空気を含みふんわりと仕上げた三角米塊は、程好く噛めばホロホロと解れて。白米の甘さと塩っ気が混じり合い、食べる手を促してくれる。

 

「美味しい……!」

「そりゃ良かった。パンも良いが、日本人なら米も食べなきゃな」

 

そうして食の手を進め、十分で完食した二人は『御馳走様でした』と合掌。梓は食器を洗い、歯を磨き、仮眠を取る為に布団を直そうとした矢先、先に歯を磨いていた永遠が布団に寝転がったのだ。

 

「………俺此れから仮眠を取ろうとしてるんだが、何やってんだ永遠?」

「何って?私も同じく仮眠がしたいんだ。何なら一緒に寝る?ほら添い寝だよ、あーくん。恋人同士に成れたし、身体も重ねた。もっともっ~と、恋人としての行為をしようぜ~?」

 

絶対に此方が寝た所を見計らって、美味しく頂くつもりじゃないだろうか?

 

「あーくん、今君さ『美味しく頂くつもり?』って考えてるでしょ?」

「何故バレたし」

「ンフフフ……恋人の考え事くらい、私には御見通しなのだよん♪」

 

寝転がってニヤニヤニマニマと悪い笑顔を浮かべる永遠、相変わらず憎たらしい程に良い笑顔だ。

 

「はぁ……解った。俺も眠たいし、午後六時にはシャンフロでクターニッドのユニークシナリオに関する交渉も有る。今の内に休んで、集中力を取り戻そう。………添い寝って言ったが、逆に俺が抱き着いて寝たり、俺から誘ったとしても………文句は無いよな?永遠」

 

「え?」と言うより早く、梓は布団にダイビングからの永遠を抱き枕のように抱き締める。突然の攻勢に、流石の永遠自身も予想出来なかったようで、呆気に取られた上に顔が真っ赤に染まっていく。

 

「ふぁ、ひゅ……!?」

「嫌だったか?」

 

耳元で囁けば、更に顔や耳が赤く染まっていく永遠。流石にやり過ぎてしまえば、色々としっぺ返しが飛んできそうなので、此のくらいにしておくかと思っていた時である。永遠の両腕が自分の首後ろで交差し、ぐいっと顔に引き寄せてキスをしてきたのだ。

 

「ん……あーくんって時々、私がコレされたら弱いって………気付いてやってるでしょ?」

「さぁ、どうかな?レトロ恋愛ゲーで学んだ可能性だって有るぞ?」

「もぅ……でも、嬉しいよ♪」

 

朗らかに、艶を帯びて笑った永遠の表情は、世界の誰よりも、何よりも綺麗で。今此の瞬間の表情は世界で唯一人、自分だけが見て知っているという、圧倒的な優越感が心に満ちる。

 

「永遠………良い、か?」

「━━━━━うん。………あーくん。いっっっっぱい……私を愛して、ね?」

 

永遠がゴムを渡してきて。

 

二人の瞳は『獣』に変わる。

 

唇を重ね、指が絡み。

 

互いが互いを喰らいながら、時は過ぎていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ♪ピピピピッ♪と、スマフォからアラームが聞こえてくる。時刻は午後四時半、あれからおよそ三時間の交わりと其処から寝た甲斐有って、視界はハッキリ・眠気はスッキリの全快状態だ。

 

「あーくん、おはよう……すっごく『激しかった』ね♪」

「…………おはよう、永遠。お前が『底無し』だとは思わなかったわ………」

 

永遠のおはようのキスで目が覚めると、其処には水着の紐が解けて、大事な場所が見えている永遠の姿が有った。激しい時間だった……互いに燃え、熱を帯び、理性で制御したとはいえ、ゴムを全部使い切るまで重ね合ったのは、正直言ってヤバい。性欲恐るべし……。

 

「フフフ……あーくんってば、けっこー大胆だよねぇ?私を抱いて、おまけにあんなに『熱く』なるなんてさ。でも嬉しいよ?………君の温もりを、君の本気を、君の愛を。私は感じられて、すっっっっっっごく幸せだから♪」

「………晒すなり何なり好きにしろ。俺はもう覚悟は出来てる」

「あーくんが私を大切にしてくれる限り、コミュニティ含めて他には絶対に漏らさない。ちゃんと約束するよ」

 

起き上がりに頬へキスをして、永遠はスマフォを操作して出前を頼む。頼んだのはカツ丼と澄まし汁のセットで、深淵のクターニッドに関わる交渉に勝てるようにと、願掛けの意味を込めた物であり。

 

梓は野菜が足らないと、レタス・トマト・キュウリを使った簡単なグリーンサラダを作り終えて待つこと二十分、部屋に取り付けられたインターホンが鳴って、出前が到着。

 

永遠から金を渡された梓が応対し、サインをして出前を受け取り。二人は昼を飛ばしての、早めの夕食を堪能する。因みに永遠が頼んだカツ丼の出前の御値段は、二人で一諭吉に迫る物だった。やっぱり天音 永遠(トップオブカリスマモデル)のステータス:資金は相応の物である。

 

食事を終え、梓は手洗いと水分補給。永遠は水着姿からシャワーを経て、手洗いと水分補給を行い、なんとバニーガール姿にチェンジし。梓と永遠は一つの布団に二人で寝転がり、VRヘッドギアを頭に装着。

 

梓はペッパーに、永遠はアーサー・ペンシルゴンに変わり、シャングリラ・フロンティアの世界へと飛び込んでいくのである……。

 

 

 






英気を養い、そして出陣




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狼達は波止場に集い、新たな出会いを得る



ユニークシナリオの交渉へ




午後五時過ぎ………兎御殿の休憩室、其のベッドにて(自分)からペッパー(自分)となって覚醒した身体を起こす。

 

「あ、ペッパーはん。こんにちわなのさ」

「こんにちわ、アイトゥイル」

 

パートナーの黒兎の飛び込みを受け止めつつ、ペッパーは彼女にこう言った。

 

「実はなアイトゥイル、此れから俺とサンラクに秋津茜は『深淵のクターニッド』に関わるユニークシナリオの交渉に向かうんだけど………先生は今居ますか?」

「…………ふへぇ!?ク、クククク、クターニッドなのさ!?!?ペッパーはん、クターニッドに挑みに行くのさ!?!?」

 

驚愕で細目が開眼し、此方を見詰める視線を前にしても、彼は変わらず「はい」と頷き答える。

 

「………頭は今、ジークヴルムはんの所に行ってて、兎御殿には帰ってないのさ。でも本当なのさ……?クターニッドに戦いを挑みに行くなんて」

「事実だ。サンラクが其れに関わるユニークシナリオに、俺と他の協力者達の力を借りたいって言っていたからね」

 

格納鍵インベントリア内に在るロボット、天将王装の能力である天王を交渉材料として、挑戦する為のユニークシナリオを手にする為にも、絶対に引き下がれないのだから。

 

「はぁ………ペッパーはんの破天荒振りは今に始まった事じゃ無いのさ。ならワイは、ペッパーはんの付き兎として、其の戦いを見届ける義務が有るのさ」

「えっ?いや、万が一の事を踏まえてパーティーから離脱して欲しいんだけど………」

 

パーティーを解散をしようと、ペッパーがメニュー画面を開くより早く、一つの画面が表示される。

 

『NPC・風来兎のアイトゥイルが、条件を充たすまでパーティーより外せなくなりました』

 

「…………マジかよ」

「ふふん……此れでワイは、置いてきぼりにされないのさ。さぁ、ペッパーはん!クターニッドとの戦いに行こうなのさ!」

 

さっきまで驚愕してたのは、一体何だったんだと疑問を抱くが、オートセーブ下で発生・進行したイベントは、セーブデータごとリセットする以外に除去方法は存在しない。ペッパーは頭を抱えながら、アイトゥイルを旅人のマントの中に隠し、ビィラックの鍛冶場に移動。彼女から修繕して貰った星皇剣グランシャリオを受け取り、一度休憩室に戻る。

 

そして午後五時半頃にサンラク・秋津茜(アキツアカネ)がログインして来て、エムルとシークルゥが合流。サンラクがビィラックに預けていた武器を受け取った後、エムルがゲート開いて。エムルはマフラー・シークルゥは箱に擬態し、三人と三羽はフィフティシアへと向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深淵のクターニッドに挑む為のユニークシナリオの交渉。其れを知っているという、ルスト&モルドのコンビとの待ち合わせ場所として設定された『波止場の酒場』は、フィフティシア・造船所エリアの一区画に在るという。

 

「やぁやぁ、サンラク君・あーくん・秋津茜ちゃん。時間的にも良い感じの所で来たね」

 

サブリーダーのペンシルゴンを筆頭に、オイカッツォと京極(キョウアルティメット)が続く形で造船所エリア入口付近で合流、クラン:旅狼(ヴォルフガング)はレーザーカジキを除いて集合する形となった。

 

「レーザーカジキ君は?」

「そういや居ないな」

「メールバードは送ったが、時間までに合流出来るかどうか………。戦力として加わってくれれば有り難いけど」

 

実際、彼と秋津茜にシークルゥとの合体攻撃魔法は、リュカオーン遭遇戦で雲を打ち払い、透明分身を防いだ実績がある。サポートとしてもメンバー的に見ても、遠距離魔法攻撃が可能なプレイヤーは、此のクランにとって重要だ。

 

と、一羽のフクロウがペッパーの腕に止まって『伝書鳥(メールバード)が届きました』との報告画面。送り主はレーザーカジキで、其の内容は『今ログインしました!回復系のアイテムを買うので、少し遅れます!』との事である。

 

「道具の買い足しをするみたいで、少し遅れてくるって」

「魔法職はマナ管理も大事だからなぁ……」

「先に移動しておこう」

 

後で合流するレーザーカジキを心配しつつ、旅狼一向は交渉場所となる波止場の酒場を目指し、夕闇の空が満ち始めた造船エリアでの移動を開始する。

 

「……にしても、随分と治安が悪いみたいだね」

 

オイカッツォの言う通り、此のエリアの行く先で見えるNPCの男達は前歯が欠けていたり、身体に縫い傷や切り傷等の外傷を抱えていたり、飲んだくれや素行の悪そうな連中ばかりが押し込められた溜まり場の様にも見える。

 

ワールドストーリーが進行し、新大陸へ向かう為の造船が急速で造り始めた影響なのか、以前からこうなっているのかは解らない。だが道行く此方を、NPC達はそそくさと『避けている』気がしなくもないのだが、一体何故なのか?

 

「なぁ、アイトゥイル。道行く他の人達が俺やサンラクを見て避けてるのって、やっぱり『愛呪(あいじゅ)』と『刻傷(こくしょう)』が原因だったりするの?」

「そうなのさ。ペッパーはんとサンラクはんの持っているヴォーパル魂から発せられる気配は、近付く相手を切り裂き引き裂くような威圧感を常に放ってるのさ。並大抵の奴じゃ、近付く事すら出来ないのさ」

 

リュカオーンの分身を討ち果たし、各々に刻まれていた呪い(マーキング)は、サンラクの場合は刻傷へ、自分の場合は愛呪と変貌を遂げた。各々名称や差異は有れど似通った能力も有り、NPCとの会話での補正が掛かるという部分が関係しているのだろう。

 

「っと、指定された場所は此処だな」

 

サンラクが見詰める先、英語で『RESTAURANT』と掲げられ、近くの看板には『波止場の酒場』との掛札が一つある、樽や舵輪の装飾で飾り付けられた、海が隣接する場所に似合う風情溢れる建物が見えて来る。

 

がしかし、そんな一向の目の前で店の木扉を粉砕し、店の外へ吹き飛ばされて転がる、少し大柄な男性NPCが。

 

「くそが、やりやがったな!もう許さねぇ!」

「大丈夫ですか!?」

「あぁ!?気安く喋っ……!?あ、おま……いや、何でもねぇ………」

 

随分ボロボロにやられており、怒り心頭で声を荒げる男にペッパーが声を掛けた所、荒々しい口調で反応し掛けたが、彼の右手とサンラクの胴と脚から放つリュカオーンの気配によって、冷静さを取り戻し。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて『ルスト』!あんまりやり過ぎない方が……!」

「うるさい『モルド』!此れで合っている筈だ!」

 

中から聞こえる騒ぎ声に、ペッパーとサンラク、ペンシルゴンが反応する。ルスト&モルド………数日前にサンラクが伝えた『ユニークモンスター・深淵のクターニッド』に関わる、ユニークシナリオを所持しているプレイヤー達の名前だ。

 

店内を見れば、複数人のNPCが気絶状態にさせられ伸びており、其の内の一人を何度も何度も踏みつける、小柄な銀髪褐色肌のヘソ出し装備を纏った少女と、其の少女を止めんとする頭一つ程背丈が大きな、細身で如何にも魔法使いな装備をした青年。

 

頭上のプレイヤーネームを凝視して見れば、少女には『ルスト』と、青年には『モルド』と表示。どうやらあの二人が件のユニークシナリオ所持者のようだ。

 

「オイオイ何やってんだ、此の場に居る誰よりも気性が荒いじゃねェの、ちっこいクセに」

「え?……あ、もしかして!?」

「何だと貴様ッ!」

 

先陣を切ってサンラクが話し掛けに行き、モルドの方はサンラクの姿を見て気付いたが、逆にルストはサンラクだとは気付かず。走り出すや拳を握り締め、いきなり殴り掛かってきた。

 

「うわっ!?ちょっと待て!?」

「黙れ、半裸の変態!」

 

咄嗟に回避したサンラクの近くに在った木造のテーブルが砕き割れ、乗っていた料理やドリンクが宙を舞う。

 

「ル、ルスト!其の人はNPCじゃないよ!?サンラクだ!」

「何………!?」

 

モルドがルストを羽交い締めにして暴走を止め、彼女がサンラクの頭上を凝視した事で、漸く落ち着きを取り戻し。

 

「………何だ其の格好は。まさか趣味か?」

「んな訳ねぇよ」

 

最早サンラクに対する、御決まりな質問が飛んで来るのだった。

 

 

 

 






ユニークシナリオの受注者




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狼達の前に現れる、大海賊(クソガキ)



ユニークシナリオを受注せよ




「成程……リュカオーンの顎を砕いたら、嫌がらせをされたと」

「リュカオーンって確か、ユニークモンスターだったような……凄いなぁ………」

 

サンラクが半裸になった経緯を説明し、波止場の酒場の一角に席を取った所で、サンラクが軽い自己紹介をしていく。

 

「あ~……ルストモルド、家のクラン:旅狼(ヴォルフガング)のリーダーのペッパーと、サブリーダーのペンシルゴン。んで、バカッツォと京ティメットに秋津茜(アキツアカネ)だ。あとレーザーカジキってのが来るんだが、ちょいと遅れてくる」

「オイカッツォだよ、バカラク」

京極(キョウアルティメット)、バカンラクの知り合いなんだってね?よろしく」

「おっしオマエラ並べや、顎粉砕してやっから」

「初めまして、秋津茜です!」

「サンラク、オイカッツォ、京極の三人ステイ。………コホン。初めまして、クラン:旅狼のリーダー・ペッパーです。本日はよろしく御願い致します」

「やぁやぁ、初めまして。私はアーサー・ペンシルゴン。サンラク君から話は聞いてるよ」

 

サンラクがオイカッツォと京極に食って掛かろうとしたのを、ペッパーとペンシルゴンが引き剥がし、京極は秋津茜が宥めるのを見ながら、ルストがこんな事を聞いてきた。

 

「ペッパー、だっけ………あの(・・)サンラクを従えてるのって、苦労してない?」

「まぁね。でもワイワイしてて、此れぞクランみたいな感じで嫌いじゃないよ」

 

個性派で一癖処か三癖は有りそうな、曲者揃いの面々を纏め上げる青年は朗らかに笑う。そして其の目は真剣な物に切り替わり、ルストとモルドに向かって当初の目的………即ちユニークシナリオの交渉に入る。

 

「サンラクから話は聞きました。内容が俺達のクランが所有している『ロボットの情報』と、ユニークモンスター・深淵のクターニッドに関わる『ユニークシナリオ』で合っていますね」

「はい。えっと、ペッパー………さん?」

「あ、ペッパーで良いですよ。其の方が楽だと思いますし」

 

堅苦しい雰囲気で進めようとしていたモルドだったが、ペッパーの助け船で緊張が解れたのか「そうですね………」と一息付いて話を始めた。

 

「えっと、僕達が受注したユニークシナリオなんですが………最初はルストがNPCに睨まれた事にキレて『片っ端から殴り倒しちゃった』のが始まりだったんです」

 

シャンフロのカルマ値が上昇するのは雑魚モンスターを必要以上に痛め付ける以外にも、NPCやプレイヤーへの危害を加える事でも上昇。そしてカルマ値の上昇はPKerでないにしても、一部施設の機能制限や立入禁止に加え、場合によっては指名手配されたりとデメリットが追加される。

 

つまりは此のユニークシナリオ受注には、シャンフロの『常識』が在るからこそ、其の『盲点』をトリガーとする物であったらしい。

 

「ルストが何人か殴り飛ばした後、僕達の所に『大海賊の使い』と名乗るNPCがやって来て、其のNPCに連れられて、僕達二人は『大海賊スチューデ』の所へ案内されたんです」

「其のスチューデが、ユニークシナリオの」

「はい。でも………」

「何時までもロボットが見付からなかったから、ネフホロに戻った。………デマだったら、許さない」

 

鋭い目付きでサンラクを睨み、ドリンクを飲むルスト。無論デマでは無いし、思いっきり驚かせてやるとしよう。

 

「えっと、じゃあNPCを殴ってたのは……」

「前と同じ条件なら、来ると思った」

「数ヶ月前と同じ事をすれば、イベントが起きるんじゃないかなって、ルストが試したんだ」

 

「成程」と頷きつつも、ペッパーは如何なるタイミングで天将王装と天王を見せるかと、思考を巡らせていた時だった。

 

「はん!騒がしいと思ったら、やっぱりオマエ等だったか!暫く見ないから尻尾巻いて逃げたと思ったぞ!『チビ女』!」

 

店の出入口から聞こえてきた、ガキンチョと言わんばかりの声に、旅狼のメンバー全員とルスト&モルドの視線が向く。

 

其処に居たのは、動きやすさ重視の膝出し短パンと靴を履き、永遠の言葉を借りるなら『服に着られている』かのような、ダボダボの海賊衣裳を纏った小さな身体。

 

ファッションとしての考慮が一切されていない、切っただけのバサボサカットの金髪と、額には赤いバンダナをぐるりと巻き付け靡かせ、右頬には包帯かバンテージの切れ端をくっ付けた、齢十歳程の少年が居た。

 

「何このガキンチョ」

「まぁた何と言うか……典型的な子供だね。この子」

「コッテコテのクソガキだね、アレは」

「すっごい元気ですね!」

「オイオイ、まさかコイツが大海賊の使いじゃねぇだろうな?」

「もしかして御本人だったり?……いや違うか」

 

オイカッツォが、ペンシルゴンが、京極が、秋津茜が、サンラクが、そしてペッパーが。目の前の少年に思い思いの言葉を放つ中、其の少年は堂々と名乗りを挙げた。

 

「使い?いいや、違うね!僕様こそが!赤鯨海賊団の船長!!!其の名を………『大海賊スチューデ』様だ!はーっはっはっは!!」

 

まさかの依頼人自らがやって来るタイプだったらしい。

 

「あいっかわらず『ヒョロノッポ』はホッセーなぁ!肉を食え、肉を!」

「あ、あははは……僕は此れでも文系だから」

「あ?ブンケイ?」

「………スチューデ(クソガキ)め、相変わらず生意気な事しか言わない」

 

ルストの言う事に激しく同意する、オイカッツォ・ペンシルゴン・京極の三人は、コクコクと首を縦に振る。此のスチューデというNPC、典型的な絵に描いた様なクソガキである。まぁ、此れはコレで元気が有って大変よろしいが、あまり過激過ぎれば嫌われるタイプだろう。

 

「んだと、チビ女!」

「おっ。煽り耐性皆無なの、クソガキポイント高いな」

「あ?何だおま……!?お、お前、其れ……!お、おおおおおお、お前のなななななまえを、いちおう……聞いてやらんでも、ないぞぉ!」

 

サンラクの言葉に反応したスチューデだったが、やはり刻傷を見て言葉が詰まって、必死に絞り出しました感満載な台詞を放ってきた。

 

「俺の名はサンラクだ、此方に居るのはクラン……まぁ『仲良し集団』でな。訳有って其処の二人に協力する事になった。そっちの一見フツーそうなのが、クランリーダーの『ペッパー』っうんだ」

「初めまして、サンラクから紹介いただきましたペッパーです。スチューデさん、よろしく御願いします」

 

席を立ち、深々と御辞儀をしたペッパーに、何故かスチューデは更に震え上がって涙目になっている。

 

「…………スチューデさん?」

「ひょ、ひょひょひ、しょうか!け、ケンキョ、だなオマエ!?ぼ、ぼぼぼ、僕様の為に働いたなら………ししし、然るべき『ホーシュー』を支払って、やってもいいい、良いぞ!」

「成程……」

 

そんなスチューデだったが、ピシッとした表情に戻るや旅狼一向とルスト&モルドに向かってこう言ったのである。

 

「よ、よし、お前ら!早速船に案内してやるから付いてこい!」

「船?」

「そうだ!僕様の船で無ければ、パパの………ううん、親父を殺した幽霊船『クライング・インスマン号』を沈める事は出来ないからな!」

 

其の言葉をトリガーとして、パーティーリーダーのペッパーを始めとし、パーティーメンバーの目の前にも『ユニークシナリオ』の受注画面が表示される。

 

 

 

 

 

ユニークシナリオ

深淵(しんえん)使徒(しと)穿(うが)て』

を開始しますか?

【YES】or【NO】

 

 

 

 

「行こう、皆……!」

 

そして狼達は迷う事も無く、YESのボタンに触れるのだった。

 

 

 

 

 






いざ行かん、蛸狩り


愛呪『あんまり調子に乗ってると、どうなるか解ってるかしら?ク・ソ・ガ・キ・ちゃん?』




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狼は旗を掲げる。集うは青の魔術師と最大火力



スチューデの船




「嵐と共に現れる幽霊船クライング・インスマン号…………。ソイツと遭遇した親父はたった一人で船に乗り込んで、死んだ。………子分と船を、守る為に」

 

スチューデに案内されながら、夜闇の帳が降りるフィフティシア造船エリアを歩く一向は、彼から今回のクエストの経緯や色々な話を聞いた。

 

其の幽霊船クライング・インスマン号は嵐の海に現れては、迷える遭難者達を拐い、深海に潜むという『盟主』の元へ━━━━━『ユニークモンスター・深淵のクターニッド』に供物として捧げているのだという。

 

そして先程の話を加えると、スチューデの父親つまり前の船長は、クターニッドから部下と船を守らんと、幽霊船に単身で乗り込み、其の元へ誘われて帰らぬ人になったのだと言うらしい。

 

「成程な、つまりは『親父の仇討ち』って訳か」

「そうだ!親父に代わって、幽霊船を沈める!そして其れが出来た時、僕様は初めて赤鯨海賊団の船長として。そして親父が遺した『スカーレットホエール号』の船長になれるんだ!」

 

案内された先に在ったのは、赤い船体が堂々と聳え立つ一隻の中型帆船。まさに中世時代の海賊船と言わんばかりの立派な船であり、此れを造り上げた船大工や此れを操り海を駆けたスチューデの父親の凄さを、ペッパーは犇々と感じつつも何処か遠い目(・・・)をしながら、小さく「船上戦だよなぁ………」と呟いた。

 

「おぉ、随分立派な船じゃねぇの」

「さぁ!急いで積み荷を運べ!出航は一時間後だ、武器とバリスタの調整も忘れるな!」

『了解!!!』

 

船員が積み荷をスカーレットホエール号に載せていくのを見ながら、ペッパーはインベントリアの中に入れた回復薬やマナポーション、毒消し薬に目薬、活力剤や再誕の涙珠の総数を確認。

 

続けて武器の耐久値の確認をしようとした時、何処からともなく『おうおうおうおう!!!!』と、威勢の良い男達の声が響き、ドタドタと此方に走り寄ってくる。

 

「赤鯨海賊団名物『バレルデリバリー』だ!アンタ宛の荷物だぜ、配達完了!」

 

そう言って大男達が置いたのは、中型の樽と大型の樽の二つであり、何やらペッパー宛の荷物らしい。

 

「あーくん、何か頼んだの?」

「いや、身に覚えが無いんだが……。中身は何、が……」

 

意を決して中型の樽の蓋を開けてみると、其処には目を回した『レーザーカジキ』が入っていた。

 

「レーザーカジキ!?大丈夫か!?」

「きゅ~~~……はっ!あ、ペッパーさん!皆さん!遅れてすいません!……って、あれ?此処何処ですか?」

 

気絶から復活・横倒しにした樽の中から、よちよち歩きで外に出たレーザーカジキ。ならば此のデカい樽の中身は一体何なのかと、蓋に手を掛けんとした瞬間、バキバキバキバキッ!と外壁を圧し割りながら『サイガ-0』が現れたのだ。

 

「えぇ………?何でレイ氏が運ばれてきたんだ??」

「あ、サンラクさん……其れから旅狼(ヴォルフガング)の皆さん。えっと………此処は?」

「此処はフィフティシアの造船エリアですが……何故サイガ-0さんが此処に?」

 

理由が解らない中、レーザーカジキ曰く『フィフティシアでマナポーションや武器の強化をしていた時に、ユニークシナリオ『深淵の使徒を穿て』という表示が出て来て、其れを受注した所に赤鯨海賊団なる大男の集団が店内に乗り込み、バレルデリバリーだとか言いながら詰め込み、気付いた時には此処に着いていた』と言うらしい。

 

そしてサイガ-0曰く『あの後、黒狼館へ帰ったは良いがパーティーを解散するか否かで右往左往し続けて、解消ボタンを押そうとしたら、シナリオ受注のYESボタンを叩き、何処からともなく現れた赤鯨海賊団名物・バレルデリバリーで、樽に詰め込まれて此処まで来た』との事。

 

「つまりどういう事だ………?」

 

イマイチ状況が掴めないペッパーだったが、幾度かパーティープレイをしてきたサイガ-0は、彼にある質問をしたのである。

 

「も、もしかしてですけど……ペッパーさん。フィフティシアに到着した後で、『パーティー解消』を忘れてたり、しませんでしたか?」

「パーティーの解消………ですか?」

「はい。シャンフロのパーティーでは……『リーダー』がクエストやシナリオを受注した場合、同じパーティーメンバーにも……同様の通知が行く、そんな『システム』が有ります」

 

サイガ-0の解説とメニュー画面を開いた事で、ペッパーは初めてパーティーを解消し忘れていた事に気付き。

 

「どうやら、やらかした馬鹿野郎は俺だったみたいだ……」

「ペッパーさん!?」

 

自分の凡ミスでサイガ-0にも、クターニッドのユニークシナリオが渡った事や、黒狼にまたデカ過ぎる『貸し』を作ってしまった事実に頭を抱えて。

 

「えー………ルスト、モルド。此方が後で合流するとサンラクが言っていたレーザーカジキと、旅狼の連盟クランに所属しているサイガ-0さんです。サイガ-0さんに関しては万が一に備えて、援軍として来て貰いました」

 

過ぎてしまった事は仕方無いし、サイガ-0さんはユニークシナリオとは関係無いから帰って等、ペッパーは口が裂けても言えなかった。

 

「は、はぁ……」

「ロボが見れるなら、どーでも良い……」

 

了承してくれたモルドと、今更一人二人増えようとも目的は変わらないとブレないルスト。そしてペッパーは、サイガ-0と相対しながら聞いた。

 

「えっと……大丈夫、ですかね?サイガ-0さん。此のまま俺達、ユニークシナリオに行くのですけど………」

 

全身を鎧に隠したサイガ-0の表情は、ペッパー達には解らない。だがサイガ-0は力強く、そして『己の意思と己の願いの為』に答えたのだ。

 

「………いいえ。全力でサンラクさんに!旅狼の皆さんに御協力致します!」

「は、はぁ………ありがとうございます」

 

何はともあれ強力な助っ人に、旅狼全員集合でのユニークシナリオ挑戦という状況は、此処に出来上がった。

 

「目指すはクライング・インスマン号……!待っていろ、深淵のクターニッド!」

 

強き眼差しと炎を燃やし、ペッパー達一向は赤鯨海賊団の帆船・スカーレットホエール号に乗り込んで行くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンラクさん、サンラクさん。もうそろそろ、お耳が辛いですわ」

「あ~……寧ろ此処まで良くやった。エムル、マフラー解除」

「マフラーが………!?」

「……喋った!?」

 

サンラクの首にマフラーとして擬態し続けたエムルが動いた事で、ルスト&モルドが驚きの声を上げたのは、言うまでも無い……。

 

 

 






助っ人を加え、いざ幽霊船退治




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大海を進みて、魚怪と遭遇(であ)



海原を往け、赤き鯨の船よ




「船長!出航準備整いました!」

「よぉし!錨を上げて、帆を張れ!赤鯨海賊団スカーレットホエール号、出航だっ!」

 

スチューデの部下達が降ろしていた錨を上げて、畳んでいた帆を張り、船が夜のフィフティシアの港から動き出した。逆さ髑髏に赤鯨、尾びれにカトラスを握る赤鯨海賊団を示す帆は、夜風をたっぷりと受けて、恐るるモノ等何も無しと言わんばかりに、堂々と断絶の大海を進んでいく。

 

「わぁ…凄いですね!進んでますよ!」

「ウム、拙者は船に乗るのは初めてで御座………レーザーカジキ殿?」

「武士の兎さん……!」

「確かにすげぇ、モブ(AI)がちゃんと動かしてやがるな」

 

力自慢の男達が縄を引き、風を受ける位置を調節する光景は、海賊を題材とした映画では良くある物だったが、シャンフロともなれば其処に息遣い等のリアリティーが追加され、より臨場感溢れる物に変わっている。

 

船員の話によると、幽霊船が確認された海域までは暫く時間が掛かるとの事で、各自何時でも戦えるように準備せよと言っていた。

 

「此の手の船上戦じゃ『大砲』をブッ放すのが基本なのに、此の世界(シャンフロ)は『バリスタ』が主流なんだな」

「みたいだね、てっきり『火薬』が有るものかと思ったんだけど……」

「念には念を入れておく……」

 

オイカッツォ・モルド・ルストの三人はバリスタの確認や調節をしており、レーザーカジキはシークルゥに、秋津茜(アキツアカネ)は帆船に興奮している。

 

「敵の情報が欲しいが………俺やペッパーの場合、クソ犬が呪いを更新しやがったせいで、NPCが避けるようになったからなぁ……」

「あ、あの……サンラク、さん。敵の情報については……私が聞きました。何でも『魚と人がごちゃ混ぜになった異形の怪物』………と、船員さんは話して、ました」

「おぉ、レイ氏。サンキューです」

「い、いえ!とんでもない……です!」

 

サイガ-0のお陰で、クライング・インスマン号の船員………もといエネミーは『ゾンビタイプのモンスター』であると情報を入手出来たサンラク。そして彼の視線は、此の船上の一角に注がれる。

 

「……で、だ。ペッパーの奴は『どーなってんの』?」

 

サンラクを含め、オイカッツォと京極(キョウアルティメット)の視線の先には、グロッキーな表情で今にも吐きそうになっているペッパーと、其の背中を擦るペンシルゴンにアイトゥイルが居た。

 

「なぁ、ペンシルゴン。ペッパーは大丈夫なのか?」

「あぁ、サンラク君にレイちゃん。実は、あーくん……『船だけは酔っちゃう体質』なんだよね。飛行機や車、電車にバスとかは大丈夫なんだけど、船は波で不規則に揺れるから、平衡感覚とか三半規管をやられちゃうらしくてさ」

「……気持ぢ悪い……空中浮遊ぢだい……」

「此れは本格的に駄目そうなのさ……」

 

日本屈指のプロゲーマー・オイカッツォに思考で読み勝つ、レトロゲーマー・ペッパーの意外な弱点を知れたサンラクは、いつか船上関係のVRゲームで対決する事にし、クランリーダーたる青年に言った。

 

「んまぁ、今は夜の時間帯だし……戦闘が始まったら空中戦は任せるぞ?」

「オーゲー……其れまでに体調を調えと………う"っぷ」

 

サムズアップしながらも、吐く寸前のヤバい顔になるペッパーを見て、サンラクは「こりゃ駄目そうだな」と呟くのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界の大都市とは異なり遮る光が無く、空気も排煙等で汚染されておらず綺麗である為、夜空に瞬く星々は煌美やかに輝き、天ノ川や星雲が彩る宝石箱の様な美しい景色が其処には在った。

 

「いやぁ、こりゃまた絶景だなぁ」

「すぴー……すぴー……」

「そう、ですね……とっても綺麗、です」

 

以前ペンシルゴンに渡された釣竿で釣りをするサンラクは、穏やかな波の揺れで眠ったエムルを膝に置き。其の隣には奇遇(・・)にも、釣竿を購入していたサイガ-0が座っており、二人は並んで船上釣りをしている。

 

「エージェント・オイカッツォ。サンラクとサイガ-0の事を『どう見てます』?」

「エージェント・京極。アレは完全に『ソレ』な流れと見たね」

「ちょ、ちょっと二人共……邪魔しない方が良いんじゃ……」

「………興味が有る」

「ルスト!?」

 

そしてそんな二人を帆船の生命線の一つ、マストの影から覗き見つめるオイカッツォ・京極・ルスト・モルドは其の成り行きを見守っていた。

 

「皆さん、どうしましたか?」

「あの~、皆さんどうしたんです?」

「秋津茜殿、レーザーカジキ殿。此のような場面では『見守る』事が最善手なので御座るよ。ささっ、此方に」

「「???」」

 

一団が固まり、マストの影から何かを見ているのが気になった秋津茜とレーザーカジキだったが、逸早く状況を察したシークルゥが教えて彼等彼女等の所へ案内する。

 

「……なんか、皆マストに集まってない?トワ」

「そうだね、あーくん。はて、一体………おやおや?へぇ~………ンフフフ、コレはコレは………」

「サンラクはんと、サイガはん……なのさね?釣りしてるみたいなのさ」

 

グロッキーな状態ながらもメンバー達の様子に気を配るペッパーと、サンラクとサイガ-0の様子にニヤニヤしているペンシルゴン、一眼望遠鏡で二人を見るアイトゥイルが更に離れた場所で見ており。

 

(こ、こここ、コレって恋人達がやる………『相合釣り』!?おち、おちちちち、落ち着くの!落ち着くのよ玲!大丈夫……!慌てない……!陽務君との距離を詰める、こんな絶好のチャンス……!絶対に物にするの……!)

(うわ!?何かレイ氏興奮してねぇか……釣り好きなのか?)

 

想い人・サンラクの隣で釣りをしている状況に、心中パニックになり掛けるも、幾度も深呼吸を続けてながら、荒ぶる己の感情を凪いだ水面の様にするサイガ-0。だが肝心のサンラクには、サイガ-0が実は釣りキチか何じゃないのか?という誤解を抱かせていた。

 

「う~ん……其れにしても『月が綺麗だ』……」

 

何気無く夜空を、リュカオーンの時には曇りになるか否かを見ているしかなかった月を、徐に見上げたサンラクの呟き。だが恋愛以外(・・)の全てを与えられたサイガ-0(斎賀 玲)には、此れに対する返しを知っている。

 

「!?そ、しょんな……!私、もう『死んでも構いません』………!」

「えっ何で?!?!」

 

驚愕するサンラクだが、此の状況とやり取りを見ていたペッパーと京極、そしてペンシルゴンは其の意味に気付く。

 

(此れは、ほぼ『確定』したかな………?)

(はっはぁ~ん?まぁた『楽しく』なりそうだねぇ??)

(へぇ~~~サンラク君も『春』が来そうな予感だね……フフフフ)

 

三者三様の感情を抱いていた時である。再び夜空を見上げていたサンラクが、逸早く其の『変化』に気付いた。

 

「…………なぁ、レイ氏」

「は、はゅい!?な、何でしょうか!」

「シャンフロってさ………急に『天候』が変わる事って有る?」

「えっ?いえ、其れは……!」

 

どうやらサイガ-0も、サンラクの言葉の意味に気付き。

 

「あ、あれは……!船長、前方!西の空に『あん時と同じ』のが来た!」

「何!?」

 

他のメンバー達も何だ何だと西の空を見る。其処には煌美やかな夜空に、突如として広がる『黒曇』。其れが徐々に広がり、軈てスカーレットホエール号を含めた此の近辺の海域と、星々を遮るように染め上げて。

 

直後大粒の雨が降り始めて、轟々と船体を叩き付けるようなスコールへと変わっていく。

 

「こ、怖くなんか……怖くなんか無いぞ!僕様はパパの息子なんだ!」

「此の手のイベントは『2パターン』ある。霧の中から現れるのと、もう1つのパターンが…………『下』だ!」

 

ゴロリゴロゴロと雲間を照らす白の光、刹那に暗闇を切り裂く落雷の一閃が海面に落ちて、爆音が耳と身体をつんざき貫く。

 

「「わああああああああ!?」」

 

スチューデと船員の一部が悲鳴を上げ、ペッパー達が見つめる先の海面が爆ぜ、水柱と共に起きた大波が船体を揺らした。

 

「皆、掴まれー!」

「わぁ!?」

「うわわわ!?ぎゃん!」

「秋津茜殿!レーザーカジキ殿!」

「くっ……!」

「ルストぉ!」

 

ぐわんぐわんと揺れる船で転がる者に、持ちこたえる者、そして豪雨の中で『其れ』を目撃する者。

 

「アレだ……!アレが幽霊船………『クライング・インスマン号』だ!!!」

 

舵を取るスチューデの叫び声にプレイヤーが、NPCが船首を含めて、船体のあらゆる場所に穴が空いたボロボロの船を視界に収める。

 

いよいよユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】が、本格的に開幕するのであった……。

 

 

 

 






出現、クライング・インスマン号




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荒ぶれ、雄叫べ、我等気高き狼也



開戦




クライング・インスマン号。

 

赤鯨海賊団船長にして自称大海賊を名乗るスチューデ、彼の父親が己の命と引き換えにして単身で乗り込み、部下と船を守り命を散らした其の船は、一言で言い表すなら『異形の船』だった。

 

船体には大穴小穴が空きに空き、マストは折れて何処かに無くなってしまっている。そして何よりあんな状態で海に浮かんでいるのが、異質を極めている。

 

シャンフロの誇る物理エンジンは、物質の重力だけでなく船体を浮かせる『浮力』も同じように働く。ならば船としての浮力等無い筈のクライング・インスマン号が『浮いている』という事実は、一体どう説明を付ければ良いのか?

 

「超常パワーで浮かんでいるのか……其れとも『誰かが浮かして』るのか、ウッブ………気持ぢ悪い………」

「あーくん、しっかり……!」

 

船酔いでグロッキー状態が解けないペッパーを、ペンシルゴンが肩を貸す形で立ち上がらせる。全員の視線が集まるクライング・インスマン号。

 

時折落ちる雷光が照らす、其の船上には無数の人影………否、『魚と人とゾンビがごちゃ混ぜになった』異様な存在(モンスター)達が、此方を見ている。

 

「う、うわああああ!?来るなぁ、この野郎ォ!!?」

「おい、落ち着け!此処から撃っても当たらないぞ、もっと引き付けてから撃つんだ!」

「ちょ、其れは僕様の台詞だぞ!」

「そんな台詞は自分が立ってから言いな!へっぴり腰で親父の敵が討てんのか?」

「ぐっ……チクショウ!」

 

発狂しバリスタを射たんとする船員をオイカッツォが沈め、其れに反応したスチューデをサンラクが奮い立たせていると、クライング・インスマン号が加速して此方に突っ込んでくる。

 

「船長!幽霊船が全速力で突っ込んできます!」

「ッ……正面突破で、引き殺しに来たか!」

「船長!早く避けねぇと!?」

 

部下達が慌てふためく中、スチューデは非力さを噛み締めながら。しかし赤鯨海賊団の船長として、スカーレットホエール号を知る者として、彼は選択する。

 

「……いや、此のまま『迎え撃つ』!下手に回避したら船に穴が開く!其れに幽霊船(ヤツ)は船首がボロボロ……僕様のスカーレットホエール号の頑丈な船首なら、耐えられる!」

 

そう言ったスチューデはサンラクを見て、サンラクもまたスチューデの瞳に宿る炎を見た。

 

「船長が言うなら、そう信じよう。お前ら!確り何かに掴まれ!此のまま激突しに行くぞ!」

『了解!!!』

「各員!衝撃に備えろー!!!!」

 

舵を切り、スカーレットホエール号をクライング・インスマン号の真正面に陣取らせ、スチューデが叫び。皆が縄やマストに掴まって衝撃に備え。

 

「始まる……クライング・インスマン号攻略戦!飛翔せよ(Flying.up)!」

 

レディアント・ソルレイアを両足に装着し、合い言葉と共にペッパーが浮遊した刹那。二つの海賊船が嵐渦巻く夜の元………激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝撃が迸り、物理エンジンによって互いの船が、大きく揺れる。そしてクライング・インスマン号の船上から、マーマンゾンビが梃子の原理でも使われたかのようにぶっ飛び、スカーレットホエール号に打ち込まれる。

 

「わあああああ!?」

「確り掴まれ、エムル!」

 

二隻の船はぶつかった衝撃で船首同士が食い込み合い、ちょっとやそっとでは離れない状態になっていた。

 

「船の損傷確認急げ!!」

 

船長として、船の確認を呼び掛けるスチューデの後ろに、激突時に吹っ飛んできたゾンビが立ち上がり、カトラスを片手に斬り掛かる。

 

「させるか!」

 

が、其れを止めたのはレディアント・ソルレイアの浮遊滑走と、勇者武器(ウイッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスを構えて受け止めながら、蹴りを叩き付けてマーマンゾンビの首を、一撃でへし折って仏侘斬るペッパーとアイトゥイルのコンビだった。

 

「お、お前……!」

「ナイスガッツだ、スチューデさん。此処から先は俺達の仕事!皆、行くぞ!」

「はいさ!」

 

先程までのグロッキー状態は何処へやら、星天秘技(スターアーツ)ミルキーウェイと共に、彼と黒兎は豪雨の夜空を駆け抜けては、船員達(NPC)の救援に勤しんでいく。

 

「お。空中走ってるからか、調子を取り戻したみたいだなペッパー。んじゃ、俺も負けてらんねぇ!」

「アタシも張り切りまくりですわー!」

「アイツばっかり、良い所は持っていかせないよ!」

「僕もリュカオーン戦では活躍出来なかったから、暴れまくるッ!」

「よーし!私も頑張りますよ!」

「秋津茜殿、油断なされるなよ!」

「ぼ、僕も!」

「あーくん達も燃えてるねぇ……よっしゃ、お姉さんも張り切って暴れちゃおう!兎ちゃん達も暴れちゃってぇ!」

 

各々が得物を取り、乗り込んでくるマーマンゾンビ達を次々と打ち倒す。だが、敵はどんどんスカーレットホエール号に乗り込んできて、海に落とせども船体をよじ登って復帰してくる。

 

「落としても登ってくる……!」

「此れじゃキリがない……」

「やっぱり、ちゃんと『倒さない』と駄目っぽいな……!サンラク!エムルさん!オイカッツォ!クライング・インスマン号に乗り込んで、敵の増援を止める事って出来るか!?」

「おっし、やってみるわ!カッツォ、エムル、行くぞ!」

「はいですわー!」

「任せな、クランリーダー!」

 

サンラクは神秘(アルカナム):愚者(フール)によって再使用時間(リキャストタイム)が半減した事により、再び使用出来るようになった鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)を使って、頭にエムルを乗せながらスカーレットホエール号より、クライング・インスマン号に飛び移って。オイカッツォは道中の敵をノックバックしながら、食い込んだ船首を伝って幽霊船に乗り込んだ。

 

「おーおー、熱烈歓迎……って雰囲気じゃなさそうだ」

「俺達が乗り込んできたから、対象を此方に切り替えたみたい」

 

ギギギィ……!と唸り声を上げ、威嚇し包囲するマーマンゾンビ達を睨み、オイカッツォが拳気【赤】を両拳に宿す。

 

「んじゃ、此方も御披露目と行こうかね」

「あ?また新しい武器ー?ユニーク自慢ですかー???」

「フッ、今まで世話になってきた武器を強化したから、初陣に丁度良いなってさ」

 

ユニーク良いなーの視線を横目に、敵の数が多い程に自身の全ステータスが上がる『包囲無双(ほういむそう)』で強化(バフ)を施したサンラクは、インベントリを操作し武器を取り出す。

 

初期より彼を支え続け、硬く頑強さに加え、クリティカルを出せば一定時間、耐久値の減少を半減する能力を持つ『湖沼(こしょう)短剣(たんけん)』と『湖沼(こしょう)小鎚(こづち)』。

 

古匠ビィラックの手により通常強化ではなく、真化によって更なる耐久特化の武器に生まれ変わった、片手剣と片手鎚。魔剣や伝説の武具には届かずとも、弱き刃を重ね合わせ、鍛え紡いだ剛鉄は、英傑が振るうに相応しき強さを得た。

 

「さぁ、初陣と行こうか………『傑剣への憧刃(デュクスラム)』&『傑鉄への鐵鎚(タウスレッジ)』!!!エムル、確り掴まってろ!」

「はいな!」

 

襲い掛かるマーマンゾンビをフォーミュラードリフトで抜き去り、単発威力・クリティカル共に発生率の高い『王壥粉砕(キングス・ドミネイト)』を起動し、一体の頭を傑鉄への鐵鎚で叩き潰す。そして近くに来た奴には傑剣への憧刃でクリティカルパリィにより受けながら、『剣舞(けんぶ)紡刃(ぼうじん)】』起動と共に間髪居れずに三度切り裂いて、クリティカルを発生させていく。

 

傑剣への憧刃・傑鉄への鐵鎚、此の武器達には共通する特徴として『とんでもなく耐久値が高い』事と、『クリティカルを出せば耐久値が減らない』事を『武器の能力』として持っている。高機動幸運戦士を突き詰めたサンラクにとって、長時間戦える斬撃武器と打撃武器は必須であり、ビィラックに頼んで湖沼の短剣と湖沼の小鎚の全て(・・)を、耐久特化仕様に真化を行ったのだ。

 

お陰で煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)の修繕費に、武器四本の真化と他一部の武器改修、刻傷(こくしょう)検証用の防具作成で諸々の資金が吹き飛ぶ事になった為、現在素寒貧(すかんぴん)を越えた超素寒貧になったが、後悔はしていない。一攫千金の金稼ぎはしたいと考えたが。

 

「ハッハァー!斬り潰してオメェ等全員、腐れつみれにしてやるぜぇ!エムル、ぶちかませ!」

「マジックエッジィィィィィ!」

「乗ってるなぁ、サンラクの奴。ととっ、此方も負けてられない……なっと!」

 

斬打が走り、魔法が唸り、拳が荒ぶる。クライング・インスマン号の船上が騒がしくなる中、船の一室にて座っていた一体のマーマンゾンビが目覚めたのを、二人と一羽は知らない…………。

 

 

 

 






旅狼、大暴れ




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ユニークシナリオの本質、真なる形を狼達は知る



各々の戦い




クライング・インスマン号にてサンラク・エムル・オイカッツォが先見隊としてカチコミを掛け、大暴れを繰り広げている頃。スカーレットホエール号では、残ったメンバーがNPC達と協力して、マーマンゾンビ達を倒し続けていた。

 

「たぁぁぁ!」

 

秋津茜(アキツアカネ)が逆手に握る短剣が敵を切り裂き、ポリゴンが溢れる。リュカオーンとの戦闘を越えて一回りも逞しくなった彼女の一撃は、必殺とは行かずとも十分なダメージを与えられている。

 

「高レベルじゃない私でも何とか行けますね!って、わわっ!?」

 

船上戦は常に波による揺れで、足場は不安定になる。ぐらついてバランスを崩した秋津茜に、マーマンゾンビが迫り来るが、其の身体はシークルゥとアイトゥイルの斬撃に切り裂かれ、脚と胴体と首の三分に分かたれる。

 

「秋津茜殿、油断なさるな」

「シー兄さんの言う通りなのさ」

「す、すいません!シークルゥさんにアイトゥイルさん!」

 

二羽の兎によるカバーを受けて、秋津茜は再びマーマンゾンビに突撃していく。

 

「かなり敵が減ってきた……」

「ペッパー、僕達も幽霊船の方に行っても良いかな!」

 

中距離弓使いとしてMP・筋力・技量を中心に、他のステータスをバランス良く振り分けたルストが、魔法弓を握りながら非物質のエネルギーで出来た弦を引いて魔法の矢を放ち。

 

MP・幸運を主体にテンプレートなステータスの魔術師のルストがバフ等を含めて援護しつつ、雨が降る夜空を駆けるペッパーにモルドが声を掛けた。

 

「サンラクとオイカッツォ、エムルさんの援護を頼む!ペンシルゴンはクライング・インスマン号への道を切り開いて、ルストとモルドを送り届けて!」

「オーケー、あーくん!ヘイ二人共、カマーン!」

「解った!ルスト!」

「聞いてる、行くよモルド」

 

勇者武器(ウイッシュド.ウェポン)聖槍(せいそう)カレドヴルッフとも轟雷大槍(ごうらいだいそう)・グラダネルガとも異なる『新しい槍』を━━━━━『致命の槍(ヴォーパルスピア)』を振り回し、嘗て悪名高きPKクランの『阿修羅会』の元No,2にして、今尚『廃人狩り(ジャイアントキリング)』と恐れられるペンシルゴンが、マーマンゾンビの首に風穴を穿ち、薙ぎ倒しながらルスト&モルドの進む道を切り開く。

 

「さぁさ、行っちゃって!御二人さん!」

 

パチンとウインクをして二人を船首まで送り届けたペンシルゴンは再び得物を振るい翳して、マーマンゾンビ達を相手に無双を続ける。

 

「ウインドランス!」

 

マストの見張り台、其の中間部分まで登った青の魔術師たるレーザーカジキは、致命の錫杖(ヴォーパルロッド)を用いて風属性魔法を連射、疎らに広がったマーマンゾンビ達を各個撃破しながら、自分に出来る事を成していく。

 

「くっ……また倒しきれない……!」

「其れ貰うよ」

 

神魔の大剣(アンチノミー)の斬撃を叩き付けて、マーマンゾンビを斬るサイガ-0だが、リュカオーンとの戦いで使った切札『アルマゲドン』の反動と、神秘(アルカナム):世界(ワールド)の影響は未だに彼女の攻撃力を蝕み、普段なら一撃で倒せる敵を倒せずにいて。

 

周りを一掃し、サイガ-0と対峙していたマーマンゾンビを京極(キョウアルティメット)碧千風(そうせんふう)の一閃で首を斬り落とした。

 

「あ、ありがとうございます……其の『京極(きょうごく)』ちゃん……?」

「僕は『京極(キョウアルティメット)』、だよ?斎賀(サイガ)さん?」

 

知り合いか、御互いに現実の名前で呼び合い。京極は周辺のマーマンゾンビを斬り倒して、クライング・インスマン号の方へと向かって行った。

 

(今のままじゃ、神魔の大剣を使いこなせない……!皆さんの、サンラク君の足を、此れ以上引っ張る訳にはいかない……!)

 

サイガ-0はアイテムインベントリを開き、装備を防具を切り替えていく。

 

「大体は倒せた、か……」

 

空中を駆け抜け、スカーレットホエール号の船員達を守り抜いたペッパーは、船上の残りの敵を見ながら呟き。同時に『異様な違和感』を感じ取っていた。

 

(おかしい………余りにも『上手く行き過ぎている』)

 

大多数での攻略に加えて、ペンシルゴンや京極、サンラクと自分に加えて、弱体化しながらも立ち回れるサイガ-0の協力もあって、NPCの被害は少なく済んでいる。

 

(何か……何か俺達は、重大な『見落とし』をしてるんじゃないか?)

 

ゲーマーとしての予感と直感を共に、ペッパーはスキル・天空の帝王眼(ラトゥルスカ・インペリアイズ)を起動。自身を中心に半径50mを俯瞰の視点から見下ろし、スカーレットホエール号とクライング・インスマン号を含めた付近の海をも己が視界に収めて、見落としを探して。

 

揺れる船を転びながらも、クライング・インスマン号を決意の眼差しと共に見つめ、其の手に短剣を握り締めながら進む、自称大海賊を名乗った『スチューデ』の姿を発見した。

 

「………いや、まさか………!?」

 

嫌な予感を抱き、ペッパーはレディアント・ソルレイアを吹かして直行。荒れ狂う海から船体に叩き付けられた波で濡れそうになったスチューデを、聖盾(せいじゅん)イーディスで受け止め守る。

 

「お、お前……!」

「スチューデさん、何してるんですか!?船長ならドンと構えてて下さい!」

「嫌だ!僕様はパパの……親父の仇を取る為に、幽霊船(此処)まで来たんだ……!」

「ッ、待ってください!」

 

ペッパーが止めようとするも、スチューデは其のまま進んでいく。此の瞬間に、ペッパーの思考(ロジック)は散らばっていた要素(ピース)を繋ぎ合わせ、一つの『答え』に辿り着いた。

 

「皆!スチューデさんを護って!此のユニークシナリオは『護衛系ミッション』だ!クライング・インスマン号の敵を一体でも多く減らしてくれ!!!」

 

ユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】━━━━━其の本質は依頼人(スチューデ)を護りながら戦う、所謂『護衛系ミッション』。

 

そして恐らく、スチューデがクライング・インスマン号に乗り込んだ瞬間に、敵のヘイトがスチューデに持っていかれると、彼は考えたのだ。

 

「護衛系ミッション……そう来たか、ユニークシナリオ!」

「対象はスチューデさん……!」

「えっ、えぇっ!?す、スチューデさんを守る感じですか!?」

「承った、ペッパー殿!アイトゥイル、秋津茜殿!いざ参らん!」

「はいさ!」

「了解、です…!」

「ペンシルゴン、秋津茜、レーザーカジキ、サイガ-0さん、アイトゥイル、シークルゥさん!クライング・インスマン号に行ってください!彼が殺られたら、ユニークシナリオ『其の物』が水泡に帰します!」

 

ペッパーの声に、スカーレットホエール号に乗っていたプレイヤー達が一斉に動き出す。戦局は大きく動き始めた………。

 

 

 






護り抜け




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賽は投げられ、盟主が深淵に誘う



状況結実




ペッパーが此のユニークシナリオの本質が護衛系ミッションであり、スチューデを守り抜く事こそが本懐であると気付く数分前。

 

「オラオラァ!どうした、どうした!此のまま全滅させっぞゴラァ!!!」

「サンラクさん、ナンカ何時も以上に荒ぶり過ぎて怖いですわ!?びゃああああああああ!?」

「エムルちゃん、アイツ(サンラク)多分エナドリ飲んでると思うわ!ハイテンションなのは其れが理由!」

 

片手剣二刀流に切り替えて快刀乱麻し、片手鎚二刀流に切り替えて乱打で叩き潰し、ツーハンデット・ソードに切り替えては首を斬り飛ばす。

 

神秘(アルカナム):愚者(フール)が回転、スキルの再使用時間(リキャストタイム)半減によって、攻撃力・機動力が増大したサンラクが次々とマーマンゾンビ達を蹴散らし、荒ぶる彼の頭に乗ったエムルは悲鳴を上げ、其の光景にオイカッツォの表情は引き吊る。

 

と、豪雨と風の中で二人の耳に飛来する何かの音を感知。回避した所に荒々しく叩き付けられるは、所々が錆び付いた船の錨。其れを結ぶ錆びけた鎖の先には、左手首から先を失った状態のウツボのマーマンゾンビの姿が在り、此迄の敵とは明らかに違うボスモンスターの気配が漂っていた。

 

「どうやらボスの御出座しってヤツだな……。カッツォ!」

「えっ、ちょ、サンラクざぁぁぁぁぁ!?」

「うおっ!?サンラク、一人で殺る気か!?」

「エムルを頼んだ!オッシャ、行くぞォ!」

 

頭に乗せたエムルをカッツォにパスして、単身ボスへと突撃するサンラク。エムルを渡されたオイカッツォだったが、周りのマーマンゾンビ達に包囲されて、対処せざるを得なかった。

 

「ルスト、左に三体の右に二体!」

「了解した……!」

 

が、飛来した五発の矢が其の包囲を切り崩す。

 

「あ、ルストにモルド!」

「船の方は粗方片付いたから、此方に来ました!」

「直に他も来る」

「フレンドリーファイヤだけは勘弁してくれよ!」

 

ルスト&モルドの援軍到着により、フィールドは変わり出す。遠距離攻撃の支援を受けて、ボスとの一対一(タイマン)状態となったサンラクと、ある程度の多数対一のオイカッツォが戦い続ける。

 

「やぁ、オイカッツォ。僕も混ぜて貰って良いかい?」

「お、京極。そっちもか」

「京極さんですわー!」

 

其処へ更なる援軍として京極(キョウアルティメット)がクライング・インスマン号に乗り込んで来て、オイカッツォとエムルに加わってきた。

 

「…………というか、かなりサクサク過ぎるね。こんなんだっけ?ユニークシナリオの難易度ってさ」

「う~ん……奇跡的に難易度が低い奴だったりとか?其れは無いか」

(やっぱ妙だ、ユニークシナリオにしては『簡単過ぎる』だろ………まだ大物が控えてるって感じか?)

 

京極が此のシナリオに違和感を抱き、オイカッツォもまた其れに同意する。そしてボスと対峙しながら、大立回りを繰り広げるサンラクもまた、此の違和感を疑問視しており。

 

「サンラク君!カッツォ君!京極ちゃん!クライング・インスマン号のゾンビ達を早急に一掃して!此のユニークシナリオは『スチューデの護衛ミッション』だって、あーくんが言ってたッ!!」

 

秋津茜(アキツアカネ)・シークルゥ・アイトゥイルと共にクライング・インスマン号に乗り込んだペンシルゴンが、ペッパーからの伝言を伝えた事で皆の視線が彼女に向いた。

 

「そういう事か、此の違和感の正体は!んじゃあ、チンタラしちゃいらんねぇ!!!」

「護衛系ミッション……!言われてみれば、確かに納得出来る部分が多い!」

「成程……解った!」

 

二人と二羽が戦闘に入り、マーマンゾンビ達を減らしていく中、遂に恐れていた事態が起きた。

 

「こ、この化物めぇ!僕様がパパの仇を取ってやる!」

 

スチューデがクライング・インスマン号に乗り込んできた、まさに其の瞬間。サンラクと対峙していたボスモンスターが、他のプレイヤー達が戦っていたマーマンゾンビ達が、眼前のプレイヤーをガン無視してスチューデ目掛けて一斉に突撃を始めたのである。

 

「やっぱ、護衛系ミッションだった!」

「うおおおおお!させるかバカヤロー!スチューデはさっさと下がれ!」

「ぼ、僕様だって戦えるんだ!」

「アンタより、石投げた方が戦力になる」

「んな!?」

 

ルストのキレッキレの毒舌が襲うが、人手の多さがマーマンゾンビを食い止め、スチューデに近付かせない。

 

「皆さん、スチューデさんの……援護は、任せて下さい……!」

「其の声はレイ氏か、今まで何……を?」

 

サンラクが見た先に居たのは、東洋の意匠が込められた鎧甲冑、憤怒の鬼を其の身に宿して防具にした、般若の如き形相を模す兜を装着した鎧武者。

 

其の頭上にはサイガ-0と表示され、先程まで土錆び付いた重騎士からフォルムチェンジした姿と共に、其の手に握ったスレッジハンマーをブン回して仕留め損ねたマーマンゾンビ達を、弱体化が消えぬ身体で吹き飛ばしていく。

 

「弱体化は、如何ともし難いですが……此の装備なら、充分戦える……筈です!」

「お、おぉ……」

 

逞しい様な恐ろしい様な、そんな感情を抱きながらもサンラクはボスを惹き付けに行き。皆其々がスチューデを守り戦う中で、最後の歯車を動かしたのは━━━━━ペッパーとレーザーカジキだった。

 

「すまん、皆!レーザーカジキを連れてきた!」

「スカーレットホエール号の皆さんは無事です!」

 

レディアント・ソルレイアのブーストを調整し、クライング・インスマン号にペッパーとレーザーカジキが足を着けた、其の瞬間。まるで世界其の物の時が止まったような錯覚と共に、振り続ける豪雨の雨粒一つ一つの動きが止まる(・・・)

 

「な………」

「雨が、止まっ━━━━━」

 

が、其れも一瞬。プレイヤー達の目に飛び込んできたのは、想像を絶する更なる脅威と混乱。海を貫きて、黒雲に星と月の光遮られた夜空に現れるは、黒い巨大極まる『八つ首の龍』━━━━━否。

 

八本の巨大なる蛸の脚(・・・・・・・・・・)が現れた。

 

「…………は?は!?」

「コイツは………!」

 

プレイヤーが、NPCが、マーマンゾンビ達ですら、其の光景を見上げる中、エムルが恐れ戦き。しかし一番のヘタレであったからこそ、其の『正体』を叫ぶ事が出来たのだ。

 

「サンラクざん!ヤバいですわヤバいですわ!島をも掴む巨大なる御手━━━━━━アレクターニッド(・・・・・・)ですわぁぁぁぁぁぁ!!???」

「な………!?」

「クターニッド!!!???」

 

豪雨の中、走る雷光が照らした其れはリュカオーンの毛並みに匹敵する、漆黒の蛸足達。其れはクライング・インスマン号を絡めて掴み取り、蛸特有の力強い引力で海中に引き込んでいく。

 

「何でユニークシナリオ途中なのに、クターニッドが……!?」

「此のままユニークモンスターと戦闘になるの!?」

「おいおいおいおい!どーなってんだ!?まさか此のシナリオ、EXまで『直通運転』なのか!?そういうのは事前報告するもんだろうがぁあああああああ!!?!!!?」

 

引き込まれていく船にしがみ付くプレイヤー達を他所に、クターニッドは其の脚を更に力強く引き込む。深海へと引き込まれる者達の前に、答え合わせをするように其れは表示され。

 

 

そしてペッパーの前には、四つ(・・)の画面が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニークシナリオEX【(ヒト)深淵(ソラ)見仰(ミア)げ、世界(セカイ)反転(マワ)る】を開始します』

『ユニークシナリオEX【勇ましの試練:聖盾之型】を開始します』

『勇者武器を用いて、強敵を討ち果たせ』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして視界が、世界が、何もかもが。クターニッドによって引っくり返った(・・・・・・・)

 

 

 

 






ようこそ、深淵へ









???『彼の気配が………消えた?いや、引き摺り込まれてる?…………行かなくちゃ』





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招かれし王に、深海の都市は騒ぎ立つ



目覚めた場所は




「うぅっ…………」

 

ログインする時に感じる、自身の感覚が世界に溶け込む様な感触を抱いて、ペッパーが目を覚ます。耳に響くのは波の音であり、掌や頬に付いた砂のざらざらとした其れを感じつつ、彼は身体を起こした。

 

「此処は……?」

 

見渡してみれば幾多に漂着して、座礁船になった船達が連なる船の墓場………其の砂浜の丁度端っこ、砂が残されたエリアに居るようで、後ろからは波の音が聞こえてくる。

 

「やられた……まさかクターニッドに通じるユニークシナリオが、EXまで直通だったなんて……。だとしたら非常に不味い……!」

 

アイトゥイルにエムル、そしてシークルゥの三羽のヴォーパルバニー達にスチューデの存在。NPCのカテゴリーに居る彼等彼女等は、殺られてしまえば二度とリスポーンする事は無い。

 

「兎に角、スチューデさん・アイトゥイル・エムルさん・シークルゥさんとの合流を最優先に、トワ達とも一刻も早く合流して状況を整理しないと………ん?」

 

メニューを開こうとしたペッパーの横に、見慣れない『タイマー』が在り。其れには『特殊状態・深淵の刻限』と称して『167:10:58』とあり、今尚刻一刻と秒針を刻み続けているのだ。

 

「…………要するに『制限時間』って事か」

 

目減りしていくタイマーから逆算し、此処に滞在出来るリミットはおそらく『一週間』である。つまり此のフィールドで、一週間以内にクターニッドを討伐しなくては、自分達はフィフティシアには帰れないだろう。

 

「何にせよ、此のフィールドの情報が欲しい……!何か有れば良いん━━━は?」

 

そう言ってペッパーが見上げた時、彼は言葉を失う。其処に広がるのは、視界一面の黒い空に、瞬く無数の星々。そして━━━━━━━━━空中を泳ぐ選り取り見取りの魚達の姿(・・・・・・・・・・・・・・・・・)だった。

 

「………………………ナニコレ?」

 

普通ならば、魚達は水中でしか生きられない筈であるのに、空中を『泳いでいる』。仮に此処が水中だとするなら、自分達は『呼吸』が出来ている。まるでプレイヤーは『地上』と同じ判定が働き、魚達は『水中』と同じ判定が働いている様な、あまりにも『屁理屈な状態』だ。

 

「いや………いやいやいやいや、どーなってんだ此のフィールドは……???」

 

思考が混乱の坩堝に嵌まり掛け、ペッパーは両手で己の頬をペチンと叩く。じんわりとした痛みに多少体力が削られるが、おかげで正気を保つ事が出来た。

 

「何にせよだ、先ずは合流する事から始めないと話にならない………!」

 

此のフィールドの名前を含めた情報を得るべく、ペッパーは星天秘技(スターアーツ)・ミルキーウェイを起動する。スキルは無事発動出来た事から、此処でも昼と夜の概念は存在しており、昼間ならば空中を泳いでいる魚達にも変化が現れるのだろうか?

 

と、空中を駆け抜けている彼の視界に広がるのは『淡い青色一色の廃れた大都市』と『聳え立つ四つの塔』、其れ等の中心には『巨大な城が一つ』在った。

 

「まるでサードレマと同じ……いや、高低差を除くなら『サードレマ以上』の大都市だぞ………」

 

近くの建物の屋根に降り、周りを見ると至る所の家屋が窓や扉が『封鎖されている』。其れも今見た所の全ての家や、店らしき建物の全て(・・)が………である。

 

「一週間ぶっ通しで攻略………なんて真似は、流石に運営はやらないだろう……。となると『セーブポイント』が作れる筈。候補としては家や店、後は罠っぽい気配しかしない塔か城か…………」

 

空中を走った事で、思考が段々とスッキリしてきたペッパーは、仲間達との合流を目標として動き出そうとした、其の矢先。突如己の真上………………上空が水柱を上げるや(・・・・・・・・・・)、現れたのは『蒼い炎を上体部に纏った、胸鰭・背鰭・尾鰭の全てが水晶で出来た巨大な鯱』だった。

 

「はぁ?!何だあのモンスター!!??」

 

全長300mは下らないであろう泳ぐ飛行船の様な巨大鯱の登場に、此迄優雅に泳いでいた魚達が鯱を目撃した瞬間、一斉に逃げ惑う。

 

そして其の鯱はと言えば、胸鰭の水晶から『蒼い雷を帯びて』。其の30秒後に空気が震え━━━━━━蒼雷を徐にブッ放して『空中放電』を行ってきたのだ。

 

「うおぉ!?」

 

ペッパーは効果時間が残るミルキーウェイで回避する中、雷がフィールドを迸り続けて、逃げ遅れた魚達がウェルダン並の黒焦げになり。同時に其の鯱は、ペッパーを視界に捉えて凝視し、其の身に纏う蒼炎を燃やしてきた。

 

其れを見た瞬間、ペッパーは確信する。此のまま皆を探しに行っても、逆に被害が大きくなるだけだと。此処で奴を……………『蒼炎雷を纏う巨大鯱』を倒さなくては、被害が確実に出ると。

 

「やってやるしか……無さそうだ!」

 

あの巨大モンスターに対抗する為、ペッパーはレディアント・ソルレイアを解除し、インベントリアに移していた『一式装備』を速攻で取り出して、其の身に纏っていく。

 

ユニークモンスター・墓守のウェザエモンことウェザエモン・天津気が生前に纏い、今は自分が継承した、伝説の戦鎧たる『悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)』、そして対応武装『轟斬型(ゴウザンガタ)太刀(タチ)(シキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)』を装備して抜刀。

 

更にインベントリから『星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ』を取り出し、右手に鞘を当ててリュカオーンの愛呪の持つ『装備不可』の制約を一時的に取り除きながら、黒鞘より抜剣しつつ大天咫を構えて、呼び出す為の『合言葉』を唱える。

 

質量転送(エクスポート)及び展開(サモンコール)試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】!!!」

 

空色の魔法陣より飛び出し、家屋を重量によって押し潰して粉砕しながら、機械の騎馬が白い蒸気を放出し、青の都市に力強く降り立つ。

 

『ペッパー、御久シ振リデス』

「天王、こんな時間に呼び出して済まない。今、俺はアイツに狙われてな………。アレを倒さなきゃ、安心して皆と合流出来そうに無い」

 

グランシャリオの剣先で示せば、燃え盛る蒼炎を滾らせる巨大鯱の姿。

 

『成程、シカシ貴方トナラバ……勝テマス』

「頼もしいね………、じゃあやるか!」

 

そうして天王に跨がった侍の王鎧を纏う勇者と、蒼炎と蒼雷の巨大鯱………後に『ある者』によって判明する事になる、深海の王(・・・・)こと『アトランティクス・レプノルカ』の戦いが、幕を開けるのだった…………。

 

 

 

 






王よ、殺し奉る








???『其処に居るんだね?待ってて、今行くから』






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深海を跳ね舞う鳥頭、青の都市にて鮫人に出逢いて、此の世界を知る



其の頃、サンラクは




「……………強制気絶とはな」

 

プレイヤーがゲームにログインする時の感覚と共に、目が覚めたサンラクは上体を起こして、今の状況を確認する。自分が目覚めたのは、先程までマーマンゾンビ達と戦っていたクライング・インスマン号に酷似した、傾いた船の甲板の上、見上げた空は漆黒と無数の星々の煌めきが在る。

 

「クソッ……!完全に想定外だ、此れじゃ護衛ミッションどころじゃない……!」

 

死亡率が極めて高いユニークシナリオ、其れがまさかEXまで直通だったのは、サンラクにとって完全な誤算であり。パートナーのエムルに、彼女の兄のシークルゥと姉のアイトゥイル、更には護衛対象のスチューデを含めて、他の参加メンバーともバラバラにされてしまった。

 

サンラクは『自分達が引き込まれたのは、クターニッドが住処としている、何処かの海底洞窟の中』なのかと考えたが、其の予想は大きく外れる事になる。

 

「兎に角、今居る場所が何処なのか解らねぇと話に………は…………?!?」

 

斜めに傾いた船をよじ登り、己の視界に映る景色を見て、サンラクは自身の目を疑った。彼を出迎えたのは淡い青色一色の廃れた大都市と、四方に聳え立つ四本の塔に中心に鎮座する一つの巨大な城。

 

そして空中を優雅に泳いでいる、選り取り見取りの様々な形をした大小異なる、多種多様な生態系を持つ魚達の姿が在り。目をゴシゴシと擦っても、空中を泳ぐ魚の様子は変わらず、夢かと頬を叩いても、やはり変化は起きなかった。

 

「ナンジャコリャ………」

 

自分は呼吸が出来て、魚は空を泳いでいる…………あまりにも摩訶不思議な光景に、サンラクは気が遠くなる様な目眩に見舞われ。しかしNPC達の存在や彼のゲーマーとしての直感が、一刻も早く合流行動とセーブポイントの確保を行えと、脳内に警鐘を鳴らした事で発狂せずに済む事となった。

 

「取り敢えず行動だ、急げ急げ……!」

 

甲板から飛び降り、地面スレスレでフローティング・レチュアを起動。三歩の空中歩行で落下ダメージを軽減した半裸は一人、青一色の街を走る。走っている中で解ったのは、此の街………否『都市』には人っこ一人とて居ない事と、家屋の扉や窓が封鎖されている事。まるで『此の都市の住人達を外に出さない事』を目的としているかのような雰囲気に、サンラクの警戒心は一掃高まった。

 

他にも、自分に付与されている『深淵の刻限』なる特殊状態。今尚も時間を刻一刻と刻み続けており、逆算から170時間……即ち『七日以内』でクターニッドの撃破をしなくてはならない、タイムリミットが付与されている事が判明した。セーブポイントの確保と、パーティーメンバーとの合流が最優先、そして此の都市の情報の入手が次点………やる事は多い。

 

「おーい!!誰か居ないのかー!!?」

 

声を張り上げるや都市に声を響かせ、己の瞳を閉じて聴覚を研ぎ澄ます。此れで何かしらの反応が有れば良いのだが━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

「…………………はーん………サンラクはーん!

 

 

 

 

 

 

「答えた!ありゃ『アイトゥイル』の声だ!」

 

ユニークシナリオに巻き込み参加した三羽のヴォーパルバニーの内の一羽、ペッパーの相棒の風来黒兎たるアイトゥイルの声がサンラクの耳に届き、半裸の鳥頭は青の都市を駆け走る。

 

グラビティゼロ・鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)・ボルテックスムーヴ・ライオットアクセル・ニトロテック・チャージで強化した機動力により、街と家屋を跳ね飛び舞い、数秒足らずでアイトゥイルの声がした場所に辿り着いた。

 

「アイトゥイル!」

「サンラクはん!良かった、無事だったのさ!」

 

スタッと着地すれば、扉が無事であった少し大きな建物の窓から、アイトゥイルが姿を見せる。取り敢えずNPCの内の一羽が無事であった事に安心しつつ、彼女が居る建物の中に入る。

 

其処で彼を待っていたのは…………

 

「む………鳥人族(バーディアン)、か?いや、羽根は生えてないし………だが頭は鳥……?其れに其の身体の模様は、夜の帝王と戦った事が有るのか!?」

「いや、俺はこう見えて人間だが?」

 

鍛えられた身体に衣服を纏い、靴を履いた二足歩行と四本指の、一般男性よりも一回りか二回り大きな、鮫の魚人が驚きの声を上げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り乱して済まない………俺は『アラバ』、誇り高き『魚人族(マーマン)』の者だ」

 

アイトゥイルが避難していた二階建ての建物、其処に先客として居たのは、ボディービルダー並の体格と筋肉を誇る、アラバと名乗る魚人族の男。クライング・インスマン号に居た腐れ魚人達とは明らかに違う雰囲気に、サンラクは彼が『イベントNPC』である可能性を感じ取った。

 

「俺はサンラク、こんな見てくれだが人間族(ヒューマン)。此方の黒兎は、家の知り合いとコンビを組んでるアイトゥイル。俺達はクライング・インスマン号に乗り込んだが、途中で乱入したクターニッドに散り散りにさせられてな。今は休める場所と、仲間達の合流を目指してる」

「ヴォーパルバニーのアイトゥイルなのさ。よろしくなのさ、アラバはん」

 

即興のロールプレイを絡めて自己紹介と事情を説明した所、成程……とアラバは頷いている。どうやら成功したらしい。

 

「サンラクよ、一つ良いか?」

「ん、どーした?」

「実は此処に迷い込んだ時に、俺は武器(エモノ)を落としてしまってな。鉱人族(ドワーフ)の名工が造ってくれた業物で、此のくらいの大きさの片手剣なのだが……何処かで見掛けなかったか?」

 

質問と共に気になる単語が出て来て、アラバが両手を広げる。目算した所、刀身と柄合わせて1m以上の長さを持つ片手剣らしいが、生憎セーブポイントと仲間との合流を最優先していたので、探す暇が無かった。

 

「いや見てねぇな…………。じゃあよ、アラバ。此処は海底都市(・・・・)か何かなのか?空を魚が泳いでたし………」

 

兎にも角にも、此処での情報は絶対必須になる。そう思いながら問い掛けたサンラクに、アラバはとんでもない事実と共に答えを提示したのだ。

 

「海底都市?………嗚呼、成程。来たばかりでは解らないか………。此処は反転都市(・・・・)、名を『反転都市ルルイアス』。深淵の盟主の力が此の都市全域に影響を及ぼし、都市が海中で『引っくり返った』場所だぞ」

「…………………ん?」

 

あまりにもヤバい情報に、サンラクは一時フリーズ。からの再起動(リブート)で、彼は再びアラバに質問した。

 

「じゃあ、あの天井みたいなのは?」

「アレは『海底』だ、マリンスノーが落ちているじゃないか。更に言うと、此の都市は『重力』も反転している。他にも深淵の盟主は『空気の無い場所を空気が在るように』変えた。そして死せる魚を『生きる人魚』に、生きる魚を『死せる魚人』にも変え、眷属としても使役出来る。何せ━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

深淵の盟主は、死という概念すらも覆すのだ

 

 

 

 

 

 

 

明かされたのは、ユニークモンスター・深淵のクターニッドが持つ『反転』の力。古今東西あらゆるゲームを含めた、マンガやアニメ等でも非常に人気(ポピュラー)にして、反則級のパワーを秘めた能力なのだから。

 

と、其の時。外でバリバリバリバリ!!!とけたたましい『雷音』が響き渡った。

 

「うぉ!?」

「わわわっ!?な、何なのさ!?」

「ま、まさか!?『王』か!?」

 

サンラク・アイトゥイル・アラバが急ぎ外に出てみると、遠く遠い場所に『蒼い光を放つ物体』が見えた。

 

「何じゃありゃ………!」

「な、何という事だ………!!アレは深海の王(・・・・)、『アトランティクス・レプノルカ』!!!狙った獲物を仕留めるまで、決して止まらない『闘争心の塊』のようなモンスターだぞ………!」

 

アラバの説明を受けたサンラクは、一瞬思考した後に肩に乗っていたアイトゥイルをアラバに手渡し、そして言った。

 

「アラバ!アイトゥイルを暫く頼んだ!」

「サ、サンラク!?君はどうするのだ!?………まさか!深海の王を倒す等と、言うんじゃないだろうな!?」

「家のヴォーパルバニーとクソガキが、其のアントカ・レプリカって奴に狙われてるかも知れねぇんだ!黙って隠れてられねぇよ!」

 

バフスキルを全開に、青の都市をサンラクは駆けて行く。目指すはアトランティクス・レプノルカ、其のターゲットを救出する為に………。

 

 

 

 

 






深淵に轟音は鳴り響く




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不屈の刃、星の剣。切り裂き覇たすは王なる鯱



vs アトランティクス・レプノルカ




サンラクがアイトゥイルと合流、アラバから反転都市ルルイアスと深淵のクターニッドに関する情報を入手し、突如として現れた深海の王こと、アトランティクス・レプノルカの元へ急行していた頃……………ペッパーは件たる王鯱との戦闘を開始していた。

 

天王(テンオウ)!人馬形態で行くよ!」

『了解ッ!』

 

悠久を誓う天将王装を纏い、呼び出したロボットホースの天王にペッパーは兜型のフルフェイスヘルメットよりオーダーを送り、其の頭部を変形・自身の前足と胸部が展開して、ペッパーの両足と腰部と合体。

 

ギリシャ神話に登場する、半人半馬のモンスター『ケンタウロス』へと、其の御姿を変える。

 

「ハイヤァ!」

 

四脚となった事で素の機動力が上昇したペッパーは、其の両手に握られた大天咫(オオテンタ)とグランシャリオを振るい翳す。

 

噛み付き攻撃を仕掛けるアトランティクス・レプノルカを躱わし、グラビティゼロ起動と共に家屋の合間を跳ね駆け、七星の剣で胴体と胸鰭の間をすり抜け様に切り裂いた。

 

グランシャリオに宿る刺突及び斬撃攻撃、及びスキルによって発生するダメージ軽減を許さない力によって、胸鰭に斬り傷と、其処から出血するようにポリゴンが溢れる。

 

(グランシャリオの能力は効いてるが、通常武器の場合だと斬撃系統は効果が薄い!此の炎雷鯱には本来、打撃武器の方が有効か!)

 

斬った感触を元に、ペッパーはアトランティクス・レプノルカの情報を精査、自身を含めた生物の身体を流れる『電気信号と気』を可視化出来る『龍脈を映す視覚(ドラスティエル・ナルクト)』を点火、建物付近を駆け、下体部をグランシャリオで切り裂きまくり、ダメージを与えながら王鯱攻略チャートを組み立てていく。

 

(『気』が流れてる事から、蒼炎蒼雷鯱━━━━━アトランティクス・レプノルカは『生物』では在るようだが………身体が燃えてる光景は、怒り状態になった金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)を彷彿とさせるな………)

 

先ず此のアトランティクス・レプノルカは、身体の上半分に『炎によるスリップダメージ』が適応されており、仮にも生身の拳や脚で触ろう物なら、ジワジワと体力を削られて行く上に、本体の巨大さも合わさってか『効果範囲』が兎に角広い。

 

次に此の王鯱の『半径50m以内』は、海洋生物に在るまじき反則と言える、『放雷』による範囲攻撃が襲い掛かる『死地圏内』である事。海中で食らえば、少なくとも電気抵抗装備か絶電耐性装備でなくては、一撃で感電死に追い殺られるのは避けられない。

 

おまけに此のフィールドは、王鯱が得意とする『水中判定』が適応されており、突撃の破壊力に近接での巨体を生かしたヒレビンタだったりと、コイツはどうやったら倒せるんだ?とか、お前本当はユニークモンスターだろ?だったり、そんな事を思い浮かべてしまうだろう。

 

(だが此方は『地上判定』としても『空中判定』としても動ける。そして何より彼方さんは『水中判定』であるという事実。うん………油断しなければ『勝てる』ぞ、此の王鯱に!)

 

突撃からの停止で後隙の生まれた王鯱の下体部を、ペッパーはグランシャリオで斬り傷を付け、其処に大天咫の刃を重ねるようにして斬り裂き、ダメージを立て続けに加えていく。

 

ペッパーが勝利を確信している理由………其れは『此のフィールド』に適応されている『特性』だった。

 

アトランティクス・レプノルカが空中を『泳ぐ』時、其の行動(モーション)には必ず『海泳』が適応される為に、突撃には加速する為の距離(・・)が必要だという事。何より、あれだけの巨体を動かして、進路を変更するには少なくとも『五秒間』、動きが目に見えて遅くなる『隙』が生まれており、特に突撃後の後隙ともなれば、より顕著に現れる。

 

炎のスリップダメージは天王や天将王装が、マグマの中に放り込まれても、装着者を五体満足で守り抜けるだけの耐久を誇る為に痛くは無いし、放雷攻撃は30秒後に放つタイムラグが存在している上に、予備動作も『鰭が電気を纏う』ので目に見えて解りやすく、人馬形態の機動力で範囲外に回避出来るので問題無い。

 

「勝利の道は整った!後は倒しきるだけ!さぁ、アトランティクス・レプノルカ!お前の体力と俺の刀に剣………!どっちが先に砕け散るか、勝負と行こうじゃねぇか!」

 

大天咫とグランシャリオを放り投げ、両手を合掌。一定以上の心拍数を刻んでいた事で、発動条件を満たされた超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)により、暖かく力強い白光で全身を発光させたペッパーが、刀と剣をキャッチして、都市と空を駆け巡る。

 

放たれる雷を避けきり、下体部を斬撃スキル滅多切りに刻み、刺突スキルで幾重にも刺し続け。強化・跳躍・機動系列に属するスキル達を、惜しむ事無く使い潰して、己を強化。夜の反転都市を白い光が超速で舞い躍り、蒼の光を塗り潰していく………。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だあの白光!?滅茶苦茶な動きしながら、アントカレプリカ………いやアントカパプリカ、だっけな?ああーもう、取り敢えず深海の王様染め上げてるって、どーゆーこっちゃ!?」

 

廃墟となった青の都市を走り、家屋を飛び越えながら進むサンラクは、アトランティクス・レプノルカと思われる蒼い光が、突如として光った白い『何か』によって塗り潰されていく様を見て、声を上げつつも進んでいた。

 

「あ、サンラクさん!サンラクさーん!」

「サンラクさぁぁぁぁぁぁぁん!」

「ん、んんん!?エムルにレーザーカジキ!?」

 

と、都市を駆け跳ね進んでいたサンラクの耳に聞こえてきたのは、クライング・インスマン号からクターニッドによって散り散りにされていた、レーザーカジキとエムルの声で。前方の家屋の屋根に乗り、錫杖に巻き付けた青いローブの旗を振りながら、存在を誇示しているのが見えた。

 

「お前等無事だったか!」

「はい!途中でエムルさんを見付けました!」

「サンラクざぁん!」

「ぐべぇ!」

 

フリットフロートで勢いを殺し、屋根に着地した所にエムルが突撃。首にダメージと屋根から落ちそうになるが、何とか耐える事が出来た。

 

「レーザーカジキ、他の皆は?」

「此処に来るまでには、エムルさん以外には……。でも、あの白い光の所に行けば、皆さんと出逢える気がします!」

「同意だ。多分アレをビーコンにして、他の連中も来るだろう。此方はアイトゥイルは見付けたし、セーブポイントと此のエリアの情報も手に入れた」

「サンラクさん!本当ですわ!?」

 

おぅと答えれば、エムルは姉が無事だった事にホッと胸を撫で下ろし。彼女は何時もの場所たる、鳥面の頭に乗っかった。

 

「兎に角あの光の所に行くぞ!レーザーカジキ、ちょいと失礼!」

「はい!お、お願いします!」

「はいな!」

 

レーザーカジキを抱え、エムルを頭に乗せて、サンラクは再び都市を走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………陽務君……皆さん………。………ごめんなさい」

 

そして反転都市ルルイアスの一角に在る、小さな家屋の中では。最大火力(アタックホルダー)の所持者たるサイガ-0がセーブを行い、小さな謝罪と共にログアウトしていったのであった………。

 

 

 






光に集まれ




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王鯱を卸して、勇者は盟主の力を知る



王鯱戦決着




「マジでタフだな……………アトランティクス・レプノルカ!」

 

サムライアーマーと白光を纏い、ペッパーは青の都市の天地を駆け抜けて、蒼炎を燃やして蒼雷を放つ王鯱を相手に一歩も退かぬ戦いを繰り広げていく。

 

アトランティクス・レプノルカの胸鰭が電撃を纏う、範囲攻撃の無差別落雷が放たれんとしている。

 

「雷攻撃はッ、撃たせない!」

 

グランシャリオを握り、スキル『王斬儀咲(おうざんぎしょう)阿修羅刃理(あしゅらじんり)】』を点火。一回の攻撃を斬撃ダメージを与えるスキルが下体部を含め、ダメージを与え続けてきた胴体と水晶胸鰭の間を切り裂き、深い斬り傷を残す。

 

立て続けに星天秘技(スターアーツ)ミルキーウェイでマナ粒子の道を駆け抜け、空中へと跳躍。金晶独蠍との死闘を経た事により体得した、もう一つの星天秘技『グラヴィトン・レイ』を起動。本来ならば(・・・・・)、重力に従って下に落ちる筈の彼と天王が合体したケンタウロスは、空中に残した光の道に重力の『ベクトル』が移り、引っ張られて飛んで行く。

 

其の最中に体勢を変更、局極到六感(スート・イミュテーション)致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】、そして速刃(そくじん)晴空(はれそら)】を用いて、強化された己の動体視力と共に深く刻み付けた鰭を、すり抜け様に大天咫と共に返す刃で切り裂き、胸鰭を切り落として放電攻撃をキャンセルさせた。

 

だが此れだけダメージを加えても尚、未だに倒れない巨体を見ながら、ペッパーは自身のスキルの中でも、今の自分が繰り出せる『斬撃系攻撃最強コンボ』を王鯱にぶつける事に決めた。

 

「勝負ッ!」

 

刀武器スキルで、連続鱠切りの最上位クラスに位置する、其の名の通り『九十九連続』の斬撃を叩き込む『連刃結(れんじんむすび)九十九(つくも)】』。

 

剣武器スキルにして、自身の敏捷のステータスが『攻撃力とクリティカル発生』に直結・其の数値が高い程に総合的なダメージが爆発的に上昇する『連剣秀速迅舞(ソードブレイズ・シュティーア)』。

 

剣や刀と言った斬撃武器での攻撃が、敵に弾かれなくなる『スリックランペイジ』。

 

自身の筋力・技量・器用の合計数値を参照、スタミナを消費して飛距離と威力を決定。剣と刀から『飛ぶ斬撃』を可能とする『煌軌連刃(こうきれんじん)』。

 

特殊状態:白刻閃(はくこくせん)による敏捷数値1.5倍中に、戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)五天無双(ごてんむそう)剣王武心(マスラオ・センス)による上乗せ、そして窮速走破(トップガン)でスタミナの減少無効化に、偉風導動(リーガルック)の風属性付与を、グランシャリオと大天咫に乗せ。

 

最後に神律燼風(しんりつじんふう)による超加速と戻しと、駄目押しに『戦闘開始から十分以上経過』し、同一の敵に『斬撃でダメージを与える場合』に、全ての斬撃攻撃が確定クリティカル発生(・・・・・・・・・・)となる『致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】』をも付け加えて。

 

 

 

 

 

「ふっ━━━━━━━━━!!!!!」

 

 

 

 

 

 

ダメージ軽減を許さない剣と不屈の誓いを立てた刀より、0.1秒に充たない刹那の双刃達が過ぎ去り往き。斬撃の濃霧と鎌鼬の風が、アトランティクス・レプノルカの巨体を襲い、其の身を出鱈目の滅茶苦茶に、木っ端微塵の塵に還るが如く、巨体に無尽の斬り傷を刻み付け。

 

まるで火山が噴火するかの様にポリゴンが爆ぜ、王鯱の残された胸鰭が断絶されて宙を舞い飛び。蒼炎を纏う上体部及び切り刻まれてきた下体部は、より深く更に深い傷を受けた結果、其の巨体は遂に堕ちて。

 

アトランティクス・レプノルカを構成するポリゴンが、崩壊を始めたのだ。

 

『ギッ、ギギギギィィィィィ……………━━━━━━』

「アトランティクス・レプノルカ。蒼き炎と蒼き雷を操り、俺を仕留めるまで決して止まる事の無い、強き王鯱よ。戦っ……!?」

 

崩壊し始める王鯱の身体………其の上体部に纏う炎が膨張し、まるで己の命の風前の灯を燃料に『爆発』し、此の近辺諸とも『道連れ』にでもしようとしているかの様な………。

 

「うおおおおおお!!!!!」

 

人馬形態時の最高速度で逃げ出し、少し離れた建物の影に飛び込んだ瞬間、アトランティクス・レプノルカの膨張した炎が爆弾の如く『爆発』し。熱風と閃光が、王鯱から『半径300m』を一瞬の内に焼き尽くしたのだ。

 

其の威力たるや、並のワイバーンやドラゴンのブレス以上の熱量と破壊力を以て、近辺に在った家屋の壁や屋根の木材部分を焼き払い、石造りの壁は熱によって熔け落ちる程の威力である。

 

「さ、最後まで言わせろよ………!」

 

お前の長ったらしい台詞を聞くくらいなら、自爆してでも道連れにした方がマシだと言わんばかりに、アトランティクス・レプノルカは最後まで抵抗。しかし其の巨体を構成したポリゴンは、遂には爆発四散を遂げて、此処に勝者が決定した。

 

「………………アトランティクス・レプノルカ。蒼き炎と蒼き雷を操り、俺を仕留めるまで決して止まる事の無い、強き王鯱よ。俺はお前を、決して忘れない。戦ってくれて、ありがとうございました」

 

礼を述べた後、ペッパーは天王との合体を解除。サムライアーマーを纏った武人と、機械の騎馬に分かれて戻った。

 

崩壊したポリゴンの後に残るは、アトランティクス・レプノルカの討伐報酬たる、積み上がり重なった素材の山(ドロップアイテム)。300m級のモンスターを討伐しただけあり、辺り一面に王鯱の素材達がゴロゴロと転がっている。一礼して拾い上げてみれば、何れも此もがズッシリと重く、アイテム達は超希少な臭いを漂わせ、自然と笑顔になる。

 

「ありがとう、天王。お陰で王鯱を倒せたよ」

『ペッパーノ実力ガ有ッタカラコソ、倒セマシタ。オ疲レ様デシタ』

 

天王の頭を撫で、大天咫とグランシャリオを共に鞘へ納め、早速アトランティクス・レプノルカのドロップアイテムを回収し始めたペッパー。

 

「冥王鯱の照鏡骨に、冥王鯱の凝触羽。冥王鯱の扇薙鰭と冥王鯱の重頭殻………冥王鯱の剛耐皮、其れから冥王鯱の炎雷器官含めて色々か………フフフ」

「ペッパーか」

「っうぉ!?」

 

インベントリアに素材を入れ、フルフェイスヘルメットの内側で口角を吊り上げ、笑顔になっていると後ろからサンラクの声。振り向くと彼とエムル、抱えられられながら目をキラッキラに輝かせるレーザーカジキが居た。

 

「ペッパーさん!無事でしたわ!アイトゥイルおねーちゃんは無事って、サンラクさんが言ってましたわ!」

「本当ですか!?良かった……!」

「………もしかしてだが、さっきまでアントカレプリカと戦ってたの、お前か?」

「アントカレプリカ………あぁ、アトランティクス・レプノルカね。天王と天将王装、其れと諸々のバフのお陰も有って、何とか倒せたって感じ」

「まぁじか………ソイツ『深海の王様』なんて呼ばれてるって『アラバ』が言ってたんだが………倒したんか」

「アラバ?」

「まぁ、詳しい説明は後だ。多分他の連中も来るんじゃねーかな?」

 

ドロップアイテム達を回収し終えて、ペッパーは先程からキラッキラの純真無垢な視線を向ける、レーザーカジキど同じ視線の高さになるように、其の身を屈めた。

 

「はわわわ……!ペッパーさん、カッコいいロボットスーツを着て、ロボットホースを従えてる……!!」

「此方のユニーク由来の物なんだが、何れ『クラン共有』にするつもりでいる。レーザーカジキも使いたい?」

「あ、僕は……其の、ロボットホースに乗ってみたい……です!」

「良いよ。天王、レーザーカジキを乗せるから、身を屈めてくれないか?」

『了解シマシタ』

「喋った……!?凄い……!!!」

 

魚も好きだがロボットも好きという、実に健全な男の子といった具合に大興奮しているレーザーカジキを見る、ペッパーとサンラク。

 

彼が天王の背中に乗った其の時、彼の視界の端で転がっていた瓦礫達が『独りでに動き始めて』、宙に浮かぶや壊れた家屋に戻っていくのを目撃した。

 

其れだけでは無い。アトランティクス・レプノルカの自爆で焼け落ちた木材も、最初から『何事も無かったかのように』再生し、元の状態へと戻っていく。

 

「な………!?建物が、修復されていく………!?」

「えっ!?えええっ!?な、何ですか、これ……!」

「間違いねぇ………!此の現象、クターニッドの反転の力が働いてやがるんだ……!」

「な………クターニッドの!?」

「反転……ですか?」

「あの野郎………『楽しんだから御片付けくらいはしてやるよ』ってか、ふざけやがって………!」

 

サンラクは奥歯を噛み締め、ペッパー・レーザーカジキ・エムルは唖然となる。ユニークモンスター・深淵のクターニッドの持つ力は、彼等彼女等に想像を絶する理不尽の一端を見せながら、此処に示されたのだった…………。

 

 

 






ハンテンのチカラ




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予定を組み立て、開拓者達は攻略を始める



全員集合(一名除く)




「やぁやぁ私の愛しのあーくんに、サンラク君とレーザーカジキ君、そしてエムルちゃん。無事だったようで安心したよ」

「お、お前等、ぶぶぶぶ無事だったみたいだな!」

 

アトランティクス・レプノルカとの戦闘後、クターニッドがもたらした反転の力によって街が修復された光景から、およそ五分後。ユニークシナリオの護衛対象・スチューデの首根っこを掴まえ、引き摺りながらペンシルゴンが合流してきた。

 

「というか、何であーくんはサムライアーマー纏ってるの?」

「まぁ、簡単に言うと『空から』入ってきた巨大鯱にロックオンされてね。天王(テンオウ)と天将王装使って、何とか討伐したんだ。ドロップアイテムも大量に手に入ったよ」

 

ペッパーは証拠品としてインベントリアから、『冥王鯱の照鏡骨』を取り出してペンシルゴンとサンラク、レーザーカジキとエムルに見せる。

 

「丸いレンズみたいな奴だな」

「大きいですね………」

「とっても綺麗ですわぁ~」

「ん~……コレさ、何か『盾』に使えそうな雰囲気だよね?」

「其れは俺も思った。滞在出来る内に集めたいとは考えてる」

 

本来は海中で戦わなくてならないモンスターと、地上・空中が適応されたフィールドで戦える唯一無二の環境。ユニークシナリオEX終了までにアトランティクス・レプノルカや、他にも居るだろう海の猛者達と戦いたい所ではある。

 

「おーい、皆無事かー!」

「無事で良かっ………ペッパー、其れが例のロボット……?」

「エムル、無事で御座ったか!」

 

続いてオイカッツォ・モルド・シークルゥが合流し、エムルが花が咲くような笑顔で、シークルゥに飛び付く。そしてサンラクが、アイトゥイルも無事だと教えた所、彼はホッと胸を撫で下ろして座り込む。緊張と焦燥で張り詰めた糸が、漸く解れたのだろう。

 

一方のモルドは天王を見上げて、息を飲む。どうやら凄まじいクオリティに、言葉が出なかった様だ。

 

「皆さーん!無事でしたかー!」

「……………………」

秋津茜(アキツアカネ)殿!」

「シークルゥさん!」

「ルスト!良かったぁ、無事だった……!」

 

そして最後に秋津茜・京極(キョウアルティメット)・ルストが合流し、残すはサイガ-0だけとなって。飛び付くシークルゥを秋津茜がキャッチし、心配しながら駆け寄るモルドを無視して、ルストのキラッキラの視線は、ペッパーの纏う天将王装と、彼が呼び出した天王に向けられている。

 

「す……………!」

「す?」

「素晴らしい…………!コレがサンラクの言っていた、原点となった試作機と、其れを操る為のパワードスーツ…………!部品やネジの一つ一つの質感に、エネルギーラインや装甲に加えて、細部を繋げるジョイントも作り込まれてる………!そして戦闘をした後か、鉄に籠った熱と其れが退いていき、冷たさを取り戻していくのを完全に再現してみせたシャンフロ、最高ッッッッ……………!!!」

「ネフホロ世代は其所等辺、妥協してるからなぁ……解らんでも無いのがまた」

 

ペッパーの纏うSFサムライアーマーと巨大ロボットホースに、べったり頬擦りしたり観察しては、大興奮と大満足といった具合のルストを見て、良かったねといった表情をするモルド。

 

一方のペンシルゴンはルストがペッパーにベッタリくっ付いた瞬間に、ハイライトが失われるも台詞によってペッパーではなく、ロボとSFスーツに対する物だった事に気付き、ハイライトが戻った。

 

そして秋津茜も遅れる形になったものの、天王とSFサムライアーマーに目を輝かせた。

 

「凄い………素晴らしい………」

『ペッパー、彼女ハ一体ドチラ様デショウカ?』

「ロボットが………!」

「喋った……!?」

「わぁ………!」

「天王、さっきから撫でたりしてるのはルストで、君に会いたがっていた人。そして此方に居るのが秋津茜、仲良くしてあげて欲しい」

『了解シマシタ、ペッパー』

「会話出来る……素晴らしい………!」

 

ベタベタとくっ付き、頬擦りし続けるルストは一旦置いて、現在集まったメンバーはサイガ-0を待つも、一向に現れる気配は無く。彼等彼女等は、サンラクが見付けたセーブポイントの在る家屋へと、移動を開始するのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっ!?な、何だ其の機械の馬と武人みたいな者は!?」

「ペッパーはん!」

「アイトゥイル!」

 

十数分後、アラバ・アイトゥイルが待つセーブポイントの建物に辿り着いた一向を、彼と彼女が出迎える。

 

「皆、コイツはアラバ。此処の事は少しだけ詳しいから、よろしくな」

「ペッパーです、どうぞよろしく御願い致します。アラバさん」

「私はアーサー・ペンシルゴン、よろしくね?」

「オイカッツォだよー」

「秋津茜です!初めまして!」

「わぁ……!僕、レーザーカジキって言います!初めまして、よろしく御願いしますっ!アラバさん!!」

「ルスト」

「モルドです」

「エムルですわ!」

「アイトゥイルとエムルの兄、シークルゥで御座る」

「ぼ、ぼぼぼ、僕様はスチューデだ!」

 

一通りの自己紹介を経て、プレイヤーをNPCを見渡したアラバはサンラクに言う。

 

「………サンラクよ、何というか……。皆、凄まじく『濃い雰囲気』を持っているな」

「まぁ、こう見えて(スチューデ除いて)全員やれるからな。んじゃアラバ、説明頼むわ」

 

リュカオーンの刻傷(こくしょう)愛呪(あいじゅ)、更にはジークヴルムの呪い(マーキング)が織り成す包囲網に、クソガキ(スチューデ)はチビりまくって震えている。

 

そしてペッパーが天王を収納し、インベントリアに一式装備を収納する中で、アラバの口から此のフィールド………反転都市ルルイアスの事、そして四方には『封将(ふうしょう)』なる存在が居り、内一体が『魔法攻撃』を反射する事が、クラン:旅狼(ヴォルフガング)とルスト&モルドに伝えられた。

 

「なんちゅう出鱈目極まる存在だよ、クターニッド」

「子供の絵空事を現実にするって、滅茶苦茶だね全くさ………」

「聞けば聞く程に複雑怪奇だね」

 

皆各々感想を言い合うも、共通しているのはクターニッドを『如何に倒すか』という所であり。先ずは此のルルイアスを隈無く偵察・情報の収集・専用チャットで共有してから行動するべきと、満場一致の意見に集束する。

 

「一先ず、今後『ログイン』出来る日を予定として伝え、皆と共有する事だな。今日を『一日目』として、二日目から七日目迄の状況を整理しよう」

 

クランリーダーとしてペッパーが音頭を取り、各自の予定が伝えられ。メモアプリに記載された、彼等彼女等のログイン可能日はこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペッパー:二~七日目まで、夕方から深夜手間の時間帯まで休憩挟んでイン可能。三日目と七日目はオフであり一日プレイ可能。ただ五日目は午後十時前にログアウトする。

 

サンラク:三日目は朝と夜に入れない時間がある。ニ日目は一日、残りは夕方から深夜まで、ブッ通しも覚悟してる。

 

ペンシルゴン:二・五日目は仕事の都合でイン出来ない。其れ以外は疎らで昼間に入れたり、夜になったりする

 

オイカッツォ:二・四日目は仕事、六日目はリアルで色々な予定。三日目は昼過ぎから、五・七日目は一日フリー。

 

京極:四~六日目はリアルでの習い事、其れ以外は夕方以降大丈夫。

 

秋津茜:四・五・六日目が部活でログイン出来ない。ニと三は一日、七日目は夕方から動ける。

 

レーザーカジキ:六日目以外は、基本夕方と夜は大丈夫。二日目は一日プレイ可能。ただし姉が色々してきたら、予定がズレるかも。

 

ルスト&モルド:五日目以外は夕方から深夜手前まで休憩挟んでプレイ可能。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうなるとログアウト前に、ルルイアス全域を知っておきたいところだな………」

 

世間が夏休みに入っていれば、もう少しゆっくりと攻略しても良かったのだが、今は梅雨の真っ只中。夏休み迄はまだ遠い。ユニークシナリオの参加プレイヤーは多いが、皆各々に予定や事情が有る。

 

限られた時間と限られた人員で、如何にクターニッドを倒す状況に持っていけるか、クランリーダーとしての腕の見せ所になるだろう。後はサイガ-0のログイン可能な予定が解れば、何とかなりそうだが。

 

「取り敢えず全員七日目はログイン出来そうだから、其所は助かったな…………。クターニッドへの突撃は七日目、絶対に倒す為のヒントが有る筈だから必ず見付けよう」

 

そうして旅する気高き狼達による、反転都市ルルイアスと深淵のクターニッド攻略作戦は幕を開けるのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 






七日間で攻略せよ




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都市の探索、汝見付けるは如何なるモノか?



探索開始




七日間でクターニッドを攻略する為に、ログイン可能な日を皆で共有した後、ルスト・モルド・レーザーカジキ・京極(キョウアルティメット)は休憩の為、二階に在るベッドにてログアウト。NPCはアラバ・アイトゥイルを残して眠りに着き、残されたサンラク・ペッパー・オイカッツォ・ペンシルゴンはルルイアス探索会議を初めていた。

 

「さて、先ずはルルイアスの捜索だが。………結論から言うがペッパー、最大高度(スカイホルダー)取ったお前の力で、上空からルルイアスの『スクショ』撮ってくんね?」

「………いや、何で?」

 

唐突にサンラクから依頼され、ペッパーは首を傾げる。

 

「ペッパー。時間が無い中で、未踏の地の攻略に必要な物って何だと思う?」

「……………………もしかして『ルルイアスの地図』を作るつもり?」

「大正解!さっすが私のあーくん♪冴えてるぅ」

 

どうやら外道三人衆は此処ルルイアスの地図を作り、攻略メンバー全員とチャットを使って共有。其れを用いる事によって、探索を有利にするつもりでいるらしい。

 

「……………確かに限られた時間と人員なら、やれるだけの事はやっておきたいな………。解った、直ぐに準備に入る」

「頼むわ」

 

立ち上がり、スキルの使用状況を確認。建物から出たペッパーは屈伸で準備運動を行い、今あるスキルを点火して跳ね上がり、空中を蹴ってルルイアスの中央の城の真上を目指し、空へと登り上がっていく。

 

「いやぁ何時見てもヤバいな、ペッパーの空中移動」

「さぁて、私達もあーくんばっかりに負担は掛けられないね。手始めに空を泳いでる魚を捕まえられないか、私達で試してみよう。食糧調達はサバイバルじゃ必須だよ!」

「「おー」」

「あ、アラバさ。クソガキとエムル達の御守りを頼むわ。あとお前の探してた剣見掛けたら、知らせに来るぜ」

「………すまん。そうだ!もし魚を採ってきたなら俺に見せてくれ。食べられるか否かくらいであれば、教えられるぞ」

「お、そりゃ助かるわ」

 

ペンシルゴンが音頭を取り、NPCの御守りをアラバに任せながら、サンラク・オイカッツォ・ペンシルゴンは探索兼魚採りに向かうのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりデカいな………ルルイアスは」

 

簡易食糧でスタミナを回復しながら、天空神の加護(レプライ・ウーラノス)で空中ジャンプを続け、攻略拠点としている建物から都市の中心に在る、巨城の上空付近に辿り着いた。

 

「さぁ、もう一踏ん張り!」

 

トゥワイス・ジャンピング、セルタレイト・ケルネイアー、タップステップ、グラビティゼロ起動。安全に着地する為のミルキーウェイを温存しつつ、ペッパーは渾身の力で真上に向かって空中ジャンプ。

 

更に高く、更に遠く、更に上に飛んだ勇者は空を背にして、都市全体をスクリーンショットの視界に納め、シャッターを切る。そうしてアルバムに追加された一枚の写真を見ると、其所には『城を中心にフィールドのほぼ全域が納められた、反転都市ルルイアス』が追加されていた。

 

「よし、ちゃんと撮れてる!」

 

アルバムを閉じて、ミルキーウェイにシャルク・スライダー起動。己の描くマナ粒子の道を滑り降り、落下速度を軽減していた時だ。

 

「…………ん?」

 

彼の視界の先に建つ、アラバが言っていた『封将』が座す四本の塔。其の塔と塔の丁度中間地点らしき場所で、一瞬だが『緑色』の光が見えたのを、ペッパーは目撃する。

 

「何だ………?」

 

見間違いかも知れない、だが見間違いでは無いかも知れない。ならば確かめ無くてはならない、其れが開拓者(プレイヤー)という『種族(いきもの)』なのだから。

 

地面に続くマナの粒子の道を、スロープの様に滑走して下り降り、深淵の都市をペッパーが駆け抜ける。前へ、前へ、前へと。其の足と其の瞳はまるで、まだ見ぬ宝物を発見したかのような、期待に満ち溢れた物であり。

 

そうして都市を駆けて、簡易食糧の食らって、塔と塔の中間地点…………ミルキーウェイで滑走する中で見た、緑色の光の在った場所に青年は辿り着く。

 

「確か此の辺りだったような……………!」

 

撮影と保存しアルバムに入った、反転都市ルルイアスのほぼ全域を納めた写真を見つつ、近辺を隈無く探していると、其所には『明らかに意味深な女性の石像と、額にブリオレットカットが施された掌サイズのエメラルドが埋め込まれた』物を、彼は発見したのである。

 

「……………コレどう見ても、明らかに()の気配しかしないんだが」

 

辺りを警戒し、念には念を入れて局極到六感(スート・イミュテーション)を起動させる。石像の前や後ろ、更には真下に周囲を強化された視覚で見るが、罠らしき物は何処にも無い。

 

「取り敢えず………罠では無さそう」

 

意を決して石像に埋め込まれたエメラルドを引っ張ってみるが、全く外れる気配がない。ならば引いて駄目なら押し込んでみたりもするが駄目、武器で石像を叩いてみたりするも弾かれてしまい。色々と試してみたが外れはしない。

 

「いやこれ、どーしたもんか………」

 

ならばポーションを滴し掛けたり、アイテムを御供えしてみたりと、思い付く限りの方法を試しては、石像相手にやっては見たものの、宝石は一向に変化無しという始末。

 

「…………もしかして『見てるから』取れないとか?いやまさか、な…………」

 

目を閉じて、指先で宝石に触れ。嵌め込まれた縁に指を掛けて力を込めると、此迄の苦労は一体何だったんだと言わんばかりに、あっさりと外れた。

 

ペッパーは早速、其のフレーバーテキストをチェックして━━━━━━━言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑の宝閠(グリーム・ジュエル)

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の胴装備、天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)にセットされ、一式装備を稼働させる為に必要となる、神代の時代に開発された宝石型のエネルギータンク。

 

クターニッドが振るう『━━━━』。其の緑光は生きとし生きる、全ての命の『━━』を反転させる。其の光からは、誰もが逃れる事は出来ない。

 

此のエネルギータンクは『八つ』在る………其等を全て揃え、正しき場所に納めて輪廻させし時に、深淵の盟主と力を分けた鎧は目覚めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(深淵を見定む蛸極王装、其れがクターニッドの一式装備の名前なのね…………。いや、問題は其所じゃないんだわ………此の宝石、緑色は『視界』を遮った事で外す事が出来た。つまりクターニッドは『何かを持っていて』、其れが光ると『何かが変化』するって事。

 

此の反転の能力が『緑=視界』であるとして、其の力が『一つ一つ違うとしたら』、クターニッドは少なくとも『八つの何かを反転させる』事が可能だ。確かアラバさんが言ってた、封将の内の一体が『魔法』を反射するとかって話だが、もしかして『スキル』を反射出来る奴も居るのか………?

 

じゃあ仮に封将とやらを倒さなかった場合、クターニッドは其の『反転の力』を使ってきたり?………いや、封将は大前提で倒すとして、どうやってクターニッドを倒すんだ………?というか、力を分けたって何??まさかクターニッドと蛸極王装って、兄弟だったりするの???)

 

単なる宝石と思われていたアイテムが、まさかの重要情報搭載の爆弾であった事に、ペッパーは一人頭を抱えた。此の情報は間違いなく、旅狼(ヴォルフガング)に知られるだろうし、ペンシルゴンからの『オハナシ』は不可避。

 

ペッパーは取り敢えずインベントリアの方に緑の宝閠を入れ、現在連絡が着くプレイヤー達にEメールでルルイアスのほぼ全域を納めた写真を送り、彼は四つの塔の合間に在るだろう石像を探す為、動き出したのだった………。

 

 

 

 






クターニッドの一式装備のエネルギー源



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深海都市大捜査線~フィッシュハンティング&アビストレジャー~



探索者の視点。




ルルイアス・東エリア。

 

「よっ、ほっ、せいっ」

 

グラビティゼロを起動し、サンラクが青一色の街を跳ね駆ける。ルルイアス探索兼食糧調達の任を、ペンシルゴン・オイカッツォと共に受けた彼は、フリットフロートやフローティング・レチュア等を駆使して、魚を狩りつつ進んでいた。

 

「タイみたいなやつに、ブリとかサバ、カツオに……あとはウツボ含めて色々手に入ったが………。カサゴとかフグは毒有るし、生貝は当たる事の有る連中だしな……。ハリセンボン泳いでたり、普通にタコやらイカやら居たし、軟体含めて魚介天国かよ夜のルルイアスは………」

 

釣りキチの父親から嫌という程仕込まれた、魚の捌き方によって〆め、アイテムとなった魚達が突っ込まれたインベントリアを見つつ、サンラクは改めてルルイアスの空を見つめる。選り取り見取りの魚達の中でも、明らかに大きな魚――――――カジキやマグロが大群を成し、泳いでいるのを見た彼は、昔の嫌な事を思い出した。

 

「マグロ、トロ、油………ウッ頭が」

 

あの日の晩餐は人生史上、上位を争う地獄絵図だった。『ミナゴロシ大戦記』で乱数の女神に嫌われて、トラウマになった『桃』程では無いものの、しばらくマグロが赤身すら食べられなかった程だ。

 

「だがなぁ……。アレ捕まえて、ティークに卸して貰えりゃ、金になりそうじゃねぇか?」

 

嘗て金策としてペッパーも世話になった、ライブスタイドサーモン。サーモンだけであの値段なのだ、きっとマグロも良い値段になるに違いないと。善は急げ、サンラクは早速空中を泳ぐマグロとカツオの大群目掛け、捕まえる為の武器を取り出す。

 

「武器の練習兼スピードの有る相手に攻撃を当てる練習台、そして俺達の食糧と金になって貰うぜ………!」

 

彼が取り出すのは『大剣』、其れも只の大剣等では断じてない。ビィラックが造り出した甦機装(リ.レガシーウェポン)の一つにして金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)の尾を始めとして、水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の素材も使用し作った其の剣身には、『蛇腹剣』の特性を宿している。

 

名を煌蠍の尾鞭剣(ギルタ・アドラスカ)、若き古匠ビィラック作の煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)と並ぶ甦機装だ。

 

「オッシャア、其の赤身を寄越しやがれァアアアアアアアア!!」

 

荒ぶる半裸の鳥頭、食糧確保と金策の為に金色の武器を振るいて、夜の都市を孤高に舞わんとした其の時。上空を破るように『全長500m越えの巨大な虹色のリュウグウノツカイ』が現れて、サンラクが狙っていた巨大カジキを横からかっ浚ったのだ。

 

「はぁ!?何だオモァ!?」

 

危うく交通事故になり掛けるも、神秘(アルカナム):愚者(フール)によって再使用時間を終えた、フリットフロートからの空中跳躍。錐揉み回転で緊急回避を行い、建物の屋上に着地。

 

そして巨大リュウグウノツカイ――――――『アルクトゥス・レガレクス』は、次の獲物としてサンラクに狙いを定め、襲い掛かってきたのである。

 

「うおっと!?へっ、此方を食いたいってか?上等だ……鳥ってのは魚を捕まえて食っちまうんだぜ!」

 

巨体突撃を回避し、バフスキルを全開したサンラクは、金晶独蠍の武器と共に深海ピラミッドの上位に座す、竜王魚を迎え撃つ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルイアス・北西エリア

 

「其れにしても、青一色なのは気味悪いなぁ………」

 

拳気で敏捷と筋力にバフを掛け、手頃な魚を鷲掴みにして捕まえ、アイテムになった物をインベントリアに入れるオイカッツォは、改めて反転都市ルルイアスというフィールドを見つめ直していた。

 

淡い青で統一された不気味な街並みと、空を泳ぐ様々な魚達。アラバという鮫魚人によれば、ルルイアスの昼と夜とでは出現するモンスターや光景が、180度変わるという。

 

「昼間だと『生きてる魚が半魚人のゾンビ』に、逆に『死に掛けてる魚が生きる人魚』になるんだっけ?全く、規格外が過ぎるっての……」

 

盟主の力は死をも覆す――――――アラバが言っていた『ユニークモンスター・深淵のクターニッド』の持つ、恐るべき『反転』の能力。世の『理』を逆さにし、乱し、弄び、狂わせるという、屁理屈極まる力を宿し、行使する超越存在。

 

仮に戦うとして、一体どうやって反転の力を切り崩せば良いのだろうか?考えれば考える程に、思考が坩堝に引っ張られていく。

 

「駄目だな、どっかで割り切らないと」

 

気分転換に都市の合間を走り始めたオイカッツォ。現実と遜色無く動けるアバターでジョギングをしつつ、気の向くままに足を進める。

 

「シルヴィに勝つには、如何にしてアイツのスタミナを削るかだ……。ペッパーがよくやってる思考誘導を絡めれば、上手く行くだろ………ん?」

 

今年の夏に行われる『大会』、シルヴィア・ゴールドバーグ(リアルミーティアス)との戦いで今回こそ勝利をもぎ取らんと画策していた時、彼の視界の先に『意味深な女性の石像と、額にブリオレットカットが施された掌サイズのブルーサファイアが埋め込まれた』物を発見する。

 

「何あれ………もしかして宝か!?」

 

ウキウキしつつも、慎重に近付き。周りに罠が無いか確認したオイカッツォが、ブルーサファイアを引っ張るとスポン!と音が鳴ったように、呆気無く簡単に外れた。

 

「お、外れた外れた。コレ絶対良い値段で売れるだろ、さてどんな名前………は?」

 

誰かに取られてはいけないとインベントリに収納したオイカッツォは、サファイアのフレーバーテキストをチェックして……………………絶句する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青の宝閠(ブルーフ・ジュエル)

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の胴装備、天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)にセットされ、一式装備を稼働させる為に必要となる、神代の時代に開発された宝石型のエネルギータンク。

 

クターニッドが振るう『――――』。其の青光は生きとし生きる、全ての命の『――』を反転させる。其の光からは、誰もが逃れる事は出来ない。

 

此のエネルギータンクは『八つ』在る………其等を全て揃え、正しき場所に納めて輪廻させし時に、深淵の盟主と力を分けた鎧は目覚めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「深淵を見定む蛸極王装………!?マジか、マジかマジかマジか!?ルルイアスにクターニッドの一式装備が在るのか!?コレ一式装備手にしたら、交渉に使えそうだなぁ………!」

 

明らかに重要なアイテムを手にしたオイカッツォは、自分が一式装備を優先して纏う為の交渉に、コイツを用いようかと考える。何せ八つあるエネルギータンクの内の一つを、自分は現時点で握っている為に、コレが無くては鎧は動かせないのも同義なのだから。

 

「って事は、ルルイアスには後七つ別色の宝閠が有るのか………とと、いけない。食糧確保しないと、サンラクとペンシルゴンに何言われて煽られるか、解ったもんじゃ無い……!」

 

ゲーマーとしてコレクトしてみたい気持ちは有るが、今は優先目標を達成しなくてはならない。オイカッツォは少し上機嫌に微笑みながらも、魚の鷲掴みの狩りに戻ったのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルイアス・座礁船エリア……

 

「まぁた、頭悪いモノを見たねぇ」

 

槍投げで魚を狩り、街の探索を続けていたペンシルゴンは、ペッパーがルルイアスにて目覚め、スタートした砂浜を座礁船達が占拠するフィールドにやって来た。

 

魚採りにも飽きてきたので、打ち捨てられたガレオン船でも探索してみるかと、乗り込んだ彼女を待っていたのは、ペッパーがやっていた海賊物を題材にしたレトロRPGにあった、金銀財宝の山が部屋一杯に満たした部屋を発見するイベントだったのだが、今目の前に在るのは其の時と同じ物だった。

 

「コレはあーくんに教えてあげなきゃだね。私の借金肩代わりしてくれた御礼、ちゃんと返さなきゃ」

 

そうしてペンシルゴンは、ペッパーに向けてEメールを送る。題名は『凄いもの見付けた』、本文に『ルルイアスの廃船エリアにヤバい物があった』と一文を添えて送信したのである……………。

 

 

 

 






魚と竜王魚と金銀財宝




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勇者と魔王は金銀財宝を手にして、半裸の鳥頭は竜王魚をブチのめす



各々の戦い




「なぁ、トワ。コレ罠の気配無い?大丈夫?」

 

ペンシルゴンから送られてきたメールを見て、ルルイアスの写真を参考にしたペッパーが青一色の都市を駆け抜け、指定場所たるルルイアス座礁船エリアに辿り着き。

 

彼女が待っていたガレオン船の一室に赴いた彼を、金銀財宝宝箱の山々が積み重なった、頭の悪い絵に描いた様なキンキラキンの光景が出迎えたのだ。

 

「調べたけど周りには導火線だとか、鳴子だとかは一切無かったね。あーくんさ、前に私の借金を肩代わりしてくれたでしょ?其の御礼も含めて、此処に在る御宝全部インベントリアにブチ込まない?」

 

確かにインベントリアがあれば、通常の重力限界を無視して全部持ち出せるだろう。だがペッパーは、コレを全部独占という考えは無かった。

 

「そうだなぁ………他のメンバーにも連絡して、貰っていくってのはどうかな?」

「むぅ……あーくんにだけ渡したいのに」

「多分ルルイアスを探索してたら、何れ誰かに見付かるよ。だったら他のメンバーにも連絡入れて、残ったのをインベントリア持ちの俺とペンシルゴンに、サンラク・オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)が回収すれば、残さず持ち帰れるんじゃないかな?」

 

確かにインベントリアが有れば、理論上は全部持ち帰る事は可能だろうが、ペンシルゴンにとっては愛しの人が喜ぶ顔が見たいのだ。

 

「はぁ……あーくんのそういう優しい所、私も好きだけどさ。君はもっと、自分勝手や自分本意になっても良いんだよ?」

「どんなになろうと、俺は俺で居続けるさ」

 

ゲームをしている時の真剣な表情は変わらず、しかし其れは其れとして目の前に置かれた宝達を見ながら、ペッパー・ペンシルゴンは連絡が着くメンバーにEメールを送る。

 

「うわ、マジか………」

「まぁた、とんでもないと言うべきか……」

「何と言うか……フツーに凄い」

「絵に描いたって感じだね……」

「わぁ………!」

「キンキラキンですよ!」

 

そうして十数分後、連絡を受けたオイカッツォにログインしてきた京極・ルスト・モルド・レーザーカジキ・秋津茜は、目の前に在る宝の山脈を見ては言葉を漏らしていた。

 

「ペンシルゴンが発見したらしくてさ。独り占めは気が進まなかったし、皆でどうかなって」

「インベントリは少し空きが有るし、ちょっと貰って行こうかな?」

「宝箱一個でも、相当な値が付きそう」

 

ルスト&モルドは目に付いた宝箱をインベントリに収納、秋津茜とレーザーカジキは各々の気に入った宝物を選び、そうして残った財宝達をインベントリア持ちの四人が回収する。

 

「さて、と。時間的に深夜が迫ってるし、今日は此処までにしようかな?」

「一応サンラクにも廃船に宝物が在るって、伝えてある。あ、そうだ。皆のEメールアドレスを教えてくれないか?渡したいものがある」

 

そう言ったペッパーに秋津茜達は疑問符を浮かべるも、一斉送信された『其れ』を見て全員が目を丸くした。

 

「コレ………もしかして『ルルイアスの空中写真』…………!?」

「そうだよ。私のあーくん、こう見えて『最大高度(スカイホルダー)』の現所持者でもあるんだ。七日間とは言え、人員も時間も限りがある………少しでも探索を良くしようって事で、一肌脱いでくれたって訳さ」

 

ドヤ顔で胸を張るペンシルゴンを見ながら、ペッパーは微笑み此の場の皆に対して言った。

 

「さて……俺はルルイアスをちょっと探索をしたいが、皆はどうする?」

「俺は明日仕事だし、そろそろログアウトするね」

「僕は明日、塔に居るっていう封将とやらの御尊顔を拝みに行ってくる」

「僕とルストもそろそろ寝るよ。明日は四つ在る塔を偵察しに行く」

「………遠距離攻撃で確かめる」

「ぼ、僕は明日はアラバさん達とお話をしたい………です!」

「私は昼間のルルイアスに出るっていう、半魚人さんが気になりますので、突撃してきます!」

「私は明日動けるし、もう少し廃船探索かなぁ」

「じゃあ、解散と行こう」

 

各々の予定を言い合い、ログアウト組は拠点とする建物へと帰り、ペンシルゴンは引き続き廃船捜索へ、ペッパーは深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)起動に必要な八つのエネルギータンクたる、宝閠探しに出立していく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギガリュウグウノツカイこと『アルクトゥス・レガレクス』との激闘を続けていたサンラクは、此の虹色に輝く竜王魚を相手にしながら、ずっと考えていた事が有った。

 

巨体による大質量の突進攻撃に、縦横無尽に畝る身体と其れを支える馬力、圧倒的な体力とスタミナお化け、更には一定以上の距離を離せばブレスを放つ等、お前もお前で深海の王様かユニークモンスターじゃねーの?と思っていた(・・)のだ。

 

「だがやっぱ、お前の其の強さは『ルルイアス(此処)じゃなければ』の話なんだよな」

 

ウツロウミカガミ起動。建物にヘイトを残して突撃させつつ、ダーティソード・剣舞(けんぶ)紡刃(ぼうじん)一振両断(いっしんりょうだん)の点火で、魚類共通となる弱点部位『エラ』に煌蠍の尾鞭剣(ギルタ・アドラスカ)の刃を荒々しく叩き付ける。

 

『ギギギギギギギギギギ!?』

「お前の行動(モーション)には水中での抵抗が計算されるが、俺には地上での計算が適応される。つまり俺とお前じゃ、速さ(スピード)の度合いが根本から違う!」

 

致命剣術(ヴォーパルけんじゅつ)半月断(はんげつだ)ち】起動、切り裂いて出来た傷の軌跡をなぞる様にして、返す刃でアルクトゥス・レガレクスのエラを切り裂き、其れによってポリゴンが噴水の如く噴き出す。

 

『ギギギギギギギギギ!?』

「そしてお前の最大の不運は、俺が魚の捌き方を熟知してるって事なんだよなァ!?オルァ!!!」

 

蛇腹大剣の特性と重量を活かした、横回転連続斬撃を竜王魚の傷付きまくったエラに駄目押しで叩き付け、ダメージを積み重ねる。

 

『ギギギギギギギギギィィィィィィィ!!??!!』

「やっぱタフだなオイ……!俺は早く金銀財宝を回収してぇんだよ、良い加減に…………沈めェ!」

 

煌蠍の尾鞭剣に宿る能力を、音声認証による合言葉『研磨せよ(Sanding up)』を唱えて切れ味を高め、バフスキルを全開にグラビティゼロでアルクトゥス・レガレクスの身体を駆け走り、黄金の蛇腹剣を突き立て引き摺って、渾身の引き抜きで其の巨体を抉り抜く。

 

遂に竜王魚は力尽き、身体を構成していたポリゴンは爆発四散を遂げたのだった。

 

「シャア!ギガリュウグウノツカイ、単身(ソロ)討伐完了だぁ!いやぁ、しっかしスゲェな煌蠍の尾鞭剣………あんだけ乱雑に扱ったのに、耐久値が全ッ然減ってねぇ!しかも月が出てりゃ耐久回復も出来るから、場合によっちゃ傑剣への憧刃(デュクスラム)達より長持ちするかも知れねぇ……!」

 

傭兵(二刀流)は大剣系スキルを覚えにくいが、夜の時間帯を主にプレイタイムにしている自分と、月が出ている時間での耐久回復可能な煌蠍の尾鞭剣は、相性自体は悪くない。確り使い潰して行けば、何れ他の大剣系スキル獲得に繋がる可能性は大いに有るだろう。

 

視線を変えれば、アルクトゥス・レガレクスを打ち倒し、積み重なったドロップアイテムの山々。あの巨大な体格と幸運値200越えなだけあり、ヒレ・鱗・白身・骨含めて山脈レベルの多さになっていた。

 

「ウヘ、ウヘヘヘへへへへへへへ…………」

 

臨時収入は愚か、埋蔵金を引き当てたレベルの品々を見ながら、サンラクは気持ち悪い笑顔を浮かべて頬を綻ばせた後、インベントリアにドロップアイテムを全回収。

 

そして彼は一路、ペッパーがメールで伝えたルルイアスの廃船エリアに存在する、金銀財宝と宝箱の山を求めて動き始めたのであった………。

 

 






手にする報酬、そして各々の戦い




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勇者は都市を駆ける、そして反転の断片を知る



走り、前へ、ひたすらに




勇者が深淵都市を駆けている。マナの粒子で出来た天ノ川を描きながら、前へ前へと。南東エリアを目指して、其の両足で力強く進んで行く。

 

「俺が緑の宝閠(グリーム・ジュエル)を手にしたのは『北東エリア』だった。おそらく宝閠アイテムが在るのは、ルルイアスの中心の城を基軸として『北西・北東・南西・南東』に一つずつ、そして残り四つは『封将(ふうしょう)』が各種対応の物を持っていると見て良いだろうか………」

 

ユニークモンスター・深淵のクターニッド。反転というシンプルながら反則級の能力を操り、ルルイアス全土を反転都市に変えた怪物。死せる者を生ける者に、生ける者を死せる者へ。空気の無い場所を空気の在る場所に。世界の理を掻き乱し、弄び、逆さに変える超常存在。

 

そんな存在を七日間で討伐するユニークシナリオに挑んでいた最中、ペッパーが見付けた物こそ緑の宝閠━━━━深淵のクターニッドと血を分けたなるユニーク遺機装(レガシーウェポン)深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を動かす為に必要な、宝石型のエネルギータンク。

 

此のエネルギータンクの持つフレーバーテキストによって判明した、クターニッドが振るう何かによって対応した何かが反転…………『緑』の場合は『視界に関係する何かを反転』させる事が解ったのだ。

 

「ルルイアスは広いし、多分他の宝閠も誰かが見付けてると思った方が、気持ちは楽になる。最悪クラン共有にしておけば、先に取られていたとしてもダメージが少なく済む」

 

天将王装の存在がサイガ-0以外のメンバーに知られた以上、そう遠くない先々に蛸極王装の存在もバレるだろう。ルスト・モルドは旅狼(ヴォルフガング)にスカウトする事は確定として、問題はサイガ-0を如何にして黒狼(ヴォルフシュバルツ)から移籍させるかだ。

 

リュカオーン(影)、クターニッドの討伐に関わらせてしまった以上、確実に黒狼からは旅狼に対して何かしらのアクションを仕掛けてくるのは確実として、おそらくウェザエモン関連にも難癖やらを付けてくるだろう。万が一戦争が起きて負けた場合、最悪旅狼は黒狼に『吸収』される可能性も存在している。

 

「………………起きた事はもう仕方無い、問題は如何にリカバリーして穏便かつ、双方が納得の行く着地点を見付け出せるかだ」

 

ライブラリが付いては居ても、相手はシャンフロの最前線を引っ張ってきたトップクラン。簡単にはいかないだろうが、やるしかない事実だけがある。

 

「!アレは…………!」

 

そうして空中を走り続けた先、ペッパーの視界に『紫色の光』が見えて、彼は其の方向へ全力疾走。走り抜いて建物の屋根に降りた彼が見たのは、緑の宝閠と同じ形状の『意味深な女性の石像と、額にブリオレットカットが施された掌サイズのアメジストが埋め込まれた』物を発見した。

 

「間違いない。蛸極王装を動かす為に必要な、エネルギータンクの一つ………!」

 

周囲警戒及び付近に罠が無いかどうかを確認し、壁を伝って着地しつつ接近。此の石像に埋め込まれた宝石達は、特定の条件を満たさなくては其処から外せず、手に入れる事も出来ない。

 

(緑の宝閠は目を閉じながら、引っ張った事で外れて手に入ったが……。紫の場合は、一体何が条件になるんだろう?)

 

先ずは単純に引っ張ってみたり、押し込んでみたりと、石像を殴ったりして試すが、びくともせず。ならばと目を閉じながら押し引きに、アイテムの投擲で石像にぶつけたりもしたのだが、やはり変化はない。

 

ならばと緑の宝閠を取る時に試した、ポーションの振り掛けを行ってみた所、石像がジュワジュワと強酸液を掛けられた鉄が、錆び付き崩れ落ちるように溶けていき、埋め込まれたアメジストが地面に転がり落ちた。

 

「…………………マジか」

 

今回の謎解きによって判明した紫の力、其れは『回復』の反転。ダメージを与える事がダメージを回復させる事に、ダメージを回復させる事がダメージを与える事に変わる。

 

コレは正直言ってヤバい。ダメージを受ける事を是としているオイカッツォみたいな『軽戦士ビルド』や、仲間を護り抜く事を仕事にしている『壁タンクプレイヤー』が此の力を使った場合、其のプレイヤーへの攻撃は単純な回復になり、自傷スキルでのバフはリスク無しの回復&強化という、ヤバ過ぎる物へ変貌する。

 

「コレは伝えなきゃ駄目かぁ………」

 

クターニッド攻略の為にも、蛸極王装の情報は避けておきたいが、場合によっては開示する事も視野に入れつつ、ペッパーは手にした掌サイズのアメジストを拾い上げ、フレーバーテキストをチェックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫の宝閠(パプリオ・ジュエル)

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の胴装備、天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)にセットされ、一式装備を稼働させる為に必要となる、神代の時代に開発された宝石型のエネルギータンク。

 

クターニッドが振るう『━━━━』。其の紫光は生きとし生きる、全ての命の『━━』を反転させる。其の光からは、誰もが逃れる事は出来ない。

 

此のエネルギータンクは『八つ』在る………其等を全て揃え、正しき場所に納めて輪廻させし時に、深淵の盟主と力を分けた鎧は目覚めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(此れで二つ目か…………。そして此処までの事から、俺の予想が正しければ、クターニッドは『性別反転』も出来る可能性が出て来た………。自分含めて、参加メンバーの性別反転した姿がどうなるかは気になるな………。

 

だが、少しずつ解ってきた事もある。おそらくクターニッドの撃破報酬には先ず間違い無く、『世界の真理書』と『八つの要素を反転可能にする何か』を、確定で入手出来る筈だ。そうであるなら、其の中から性別反転に関係する物を選択しよう。

 

ユニークモンスターの一式装備の、女性限定装備を付けられる様にするには、性別反転の力が絶対必須になる………!)

 

インベントリアに紫の宝閠を収納し、ペッパーは一路セーブポイントに設定した建物を目指して走り出すのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、彼は知らなかった。

 

此の反転都市に、更なる驚異が。己が倒した深海の王たる冥王鯱こと、アトランティクス・レプノルカ以上(・・)の強者が、此のルルイアスに訪れた事を…………。

 

 

 

 






紫の力




???『此処に居るんだね?フフフ♪』




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半裸の鳥頭、深淵の都市にて帝王に出逢う



其の頃のサンラクは




ペッパーがルルイアスを探索し、ユニーク遺機装(レガシーウェポン):深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)のエネルギー源となる紫の宝閠(パプリオ・ジュエル)を見付け、セーブポイントに向かって帰還していた頃。

 

「此処が座礁船エリア、ねぇ?」

 

ギガリュウグウノツカイことアルクトゥス・レガレクスを討ち果たしたサンラクは、座礁船が砂浜を占拠するエリアに到着していた。ペッパー曰く此処の船内には金銀財宝宝箱の山脈が在るという話らしい。

 

「やぁやぁ、サンラク君。君も御宝ゲットしに来たのかい?」

 

そんな時に船の上から見下ろし、声を掛けてきたのは自分の所属する旅狼(ヴォルフガング)のサブリーダーにして、別ゲーを支配した実績を持つアーサー・ペンシルゴン。表情が随分とホクホクしている事から、相当な量の金額を手にしたと見える。

 

「こちとらフィッシュハンティングだったり、ギガリュウグウノツカイをブッ倒したり、色々大変だったんだからな?まぁ、臨時収入得られたから良しとはしたが」

 

実際アルクトゥス・レガレクス一匹の討伐だけで、一式装備が作れそうな量のドロップアイテムが手に入った。幸い此方には、深海のモンスターと出逢う手段(・・)は有るので、其れを利用しつつ稼げるだけ稼いでおきたい。

 

人間とは欲深い生き物であると同時に、数という恐怖に敏感な生き物でもある。ゲーマーなら其れは特に顕著であり、狩りゲーをしていて規定数集めたと思ったら、妖怪一足りないに泣かされた………何て言うのもザラだ。故にこそ『海中』でありながらも自分達(プレイヤー)は『地上』として動ける反転都市(ルルイアス)で、素材やらアイテムやらを集めてしまいたいのだ。

 

「ギガリュウグウノツカイ?」

「運が良けりゃ、七日の内に合えるんじゃねぇの?」

 

座礁船をよじ登り、甲板に立ったサンラクは眼前に広がるルルイアスの景色を見る。何時見ても異様な淡い青一色の街並みは、夜の静けさも相俟って不気味さを加速させていた。

 

「さて、私はそろそろログアウトするよ。座礁船はまだまだ沢山在るみたいだし、昼間のルルイアスってのも気になるからね」

「おーう、じゃあなー」

 

船から降りて、セーブポイントの建物へと向かっていったペンシルゴンを見送り、サンラクはニンマァァァ…………と悪い笑みを浮かべる。

 

此れから彼が行うのは、座礁船に残っている金銀財宝宝箱を『全て』。根刮ぎインベントリアにブチ込む事。兎月に煌蠍の籠手を含めて、真化に強化に作成諸々で素寒貧になった懐を温める為に。

 

「んじゃ、やるかぁ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフフフフ………ウヘヘヘへへへ…………!!!」

 

ニ十分後、座礁船エリアに在った船々にありったけ置かれていた、金銀財宝宝箱の山々の『全て』をインベントリアに収納し終えたサンラクは、表示された収納アイテム一覧に並んだ宝石や財宝系アイテムを見て、気持ち悪い笑みと声を溢す。

 

『眠れる宝石』を千近くに『古代のコイン』数万枚、他にも様々な宝系のアイテムを手に入れたりと、一室に積み重なっていた山だけで、小さな城が建てられるレベルの金額が手に入った。

 

座礁船を隅から隅まで探して、財宝を根刮ぎ手にしたので、今の気分はまさに億万長者どころか京兆長者。しかも換金に関して、一つ『心当たり』が在るので、フィフティシアに帰った後が楽しみになってきた。

 

「いやぁ………金持ちになると心がホクホクするなぁ~」

 

ゲームでの力には其のゲーム内の金も含まれる。其れが多ければ多い程、必然的に自分の出来る事が増えていく。資本主義が台頭する世の中、武器の強化をするにも新調等にも、やはり金は居るのだ。

 

「さぁて…………ログアウトする前に、ちょっと反転の力を調べてから終わるかね」

 

深淵のクターニッド撃破の為にも、此処ルルイアスに働く反転の力が如何程かを確かめようと、サンラクが行動を起こさんとした、まさに其の時。

 

ルルイアスの中心の空、空間の水面を穿ち水柱を上げながら反転都市に落ちてきたのは、所々が黒く焦げてボロボロとポリゴンを散らす『巨大鮟鱇』。其の身体から無数の魚群を次々に発艦(・・)させる姿は正に、『深海の空母』と呼べるだろう。

 

「うぉっ、何じゃあのアンコウ!?周りの魚を発射してやがるぞ………!てか、何か瀕死になっ!?」

 

一体何があってズタボロに成ったかは知らないが、漁夫の利を狙う絶好の機会(ビッグチャンス)とばかりに動き出した、サンラクの視界に飛び込んできたのは。

 

ボロボロの巨大鮟鱇の真上の空を突き破り、水柱を上げながら飛び出した、蒼く光輝く突撃槍を想わせる水晶の一角を掲げる、蒼炎を上体部に纏って燃やし、水晶の胸鰭から蒼い雷を帯びる、一匹の『アトランティクス・レプノルカ』が物凄い勢いで突撃。

 

巨大鮟鱇の背中を一刺しにしたかと思えば、鮟鱇の体内が青白く発光して、其の巨体を貫く光の槍が産まれ、ルルイアスの大地に風穴を穿ったのである。其の一撃に瀕死だった巨大鮟鱇はオーバーキルされて力尽き、発艦していた魚達も次々と死に絶えては、ドロップアイテムと成り果ててルルイアスに落ちていく。

 

 

 

 

不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"。

 

 

 

 

ペッパーが討伐した深海の王こと、アトランティクス・レプノルカの中でも産まれつき頭蓋骨が異常発達した結果、突撃槍の如く成長を遂げた個体であると同時に、己の命を、己を満たすマナを捧げ続けるようになる異常個体(イレギュラー)

 

通常であれば脳髄が焼き切れ、廃人ならぬ廃鯱となる末路を辿るが、極僅かだが試練を乗り越える個体が現れる。其の頭角に結集した光によって、深海を貫く『帝王の槍』とした其れは炎雷を滾らし、太陽の如く反転都市ルルイアス全土を照らす。

 

「おいおい、とびっきり『ヤベェ』のが居るじゃねぇか………!コイツは丁度良い、此処ルルイアスに働く反転の検証、オマエで試してやろうじゃねぇの!」

 

巨大鮟鱇を追い詰め、自慢の角で貫き仕留めた怪物を利用し、ルルイアスに蔓延る反転の力を確かめる為、サンラクが動く。そして実験体として彼にロックオンされた冥帝鯱はというと、仕留めた巨大鮟鱇の肉を囓って食らっていて。

 

食事の意識の合間を縫いながら、サンラクが鮟鱇に付き従っていた魚達(ドロップアイテム)を回収、インベントリアにブチ込みつつも、巨大鮟鱇の素材の一部をかっ拐う。

 

「オイゴラ、一角鯱サンよぉ。オメェ、自分の獲物が横取りされても、笑って許してくれるんかい?」

 

ニンマリと笑い、挑発と共に鮟鱇のドロップアイテムを取り出すサンラク。其の行動に、冥帝鯱の上体部が業火・胸鰭は轟雷を帯びて、小蠅たる半裸の鳥頭目掛けて襲い掛かる。

 

「ヨッシャ釣れたァ!」

 

背中に刺さる殺意の濁流に押されながら、サンラクにとってはシャンフロプレイから初めてとなる、不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)との戦闘が幕を開けたのであった。

 

 

 






襲来、深海三強の不世出




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殺意は秒速を越える、威光は音速をも凌駕する



帝王をブチのめせ




アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"。

 

コイツ相手には先ず、真正面から殺り合っても水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)同様に、逆立ちしても敵わないモンスターである━━━━━━其れが十数分近いチェイスの中で、サンラクが此の冥帝鯱(バケモノ)に対して出した『答え』だった。

 

水晶の胸鰭から常にウェザエモンの雷鐘(らいしょう)が如く『蒼雷を撒き散らして爆撃』し、上体後で燃やし続ける蒼炎によってフィールドを照らす事で狙った獲物を『決して逃さない』。

 

至近距離では素の馬力を活かした鰭や巨体による格闘戦に、自慢の角にエネルギーを集めて『突撃』を。距離を離し過ぎれば、角先や口に集めたエネルギーで『ビーム』を放つヤバさを持つ。

 

其の威容は正に『深海の帝王』、或いは『戦略級巨大戦艦』に相違無い。

 

「近過ぎず、そして遠過ぎず!適正距離を維持して『あの塔』まで走る!」

 

バフスキルで己を強化し、降り注ぐ雷の雨をルーパス・アサイラムで掻い潜り、半裸は単身で此処ルルイアスの四方に建つ、塔の内の一つを目指して駆ける。

 

神秘(アルカナム):愚者(フール)の能力によって、再使用時間(リキャストタイム)を終えたウツロウミカガミを点火。数秒とはいえスタミナを回復させる為に冥帝鯱のヘイトを残像(デコイ)に肩代わりさせつつ、おそらくペッパーが万が一に備えて購入・インベントリアに収納しただろう、簡易食糧を取り出し食す。

 

だが、今回も。其の回復は失敗(・・)してしまう。

 

「ちぃっ……回復成功が確率になるってのは(・・・・・・・・・)、地味に面倒だ……!もう一回………駄目!もう一度…………よし、今度は上手くいった!急いで移動だ!」

 

二度目は失敗、三度目は成功。スタミナを回復したサンラクは、再び冥帝鯱との適正距離を維持し、降り注ぐ雷を躱わしながら、塔を視界に進み続ける。

 

神秘:愚者は『スキルの再使用時間半減』という、凄まじいメリットを持つのに対して、其のデメリットもまた凄まじく。サンラクは今まで以上に、封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)の『使用タイミング』を注意しなくてはならなくなったのだ。

 

一つ目が『回復アイテムの使用によって発生する効果が確率』となる事。ポーションやマナポーション、回復効果を内封した魚の食事、スタミナ回復の簡易食糧や状態異常回復の各種薬、果ては再誕の涙珠による蘇生(・・)すらも『確率』となる。

 

二つ目が『スリップダメージの倍増』。毒・火傷・凍傷といった状態異常によって起こる、ありとあらゆるスリップダメージが倍となる其れは、サンラクにとっても無視出来ない代物だった。彼がアクセサリーとして装備する封雷の撃鉄・災は、使用者に絶大な力を与え、場合によっては(スペリオル)を凌駕する能力を秘める反面、過ぎた力は使用者にも牙を向く。

 

其のデメリットが『十秒毎に使用者の体力総量の半分のダメージを与える』という物。そして愚者のデメリットによって、封雷の撃鉄を十秒以上使用した場合のサンラクは、体力が『1』になる。つまり此の状態では転んでも死ぬし、攻撃が掠るだけでも死ぬという、セルフ『背水の陣状態』となるのだ。

 

「うおっと!?あっぶね!?」

 

冥帝鯱が加速し、蒼光に輝く一角を翳して突撃する。地上に建つ青の建築物を、砕氷船の如く粉砕して突き進む姿は、壁タンクでも受け切るのは不可能に近いと思いつつ、グラビティゼロで視線の先に在る建物の壁を蹴り、低空移動で深淵の都市を彼は行く。

 

だが冥帝鯱は此処までのサンラクの動きから、ルートを『予測し直して落雷の軌道を再構築』するや、彼の前に雷を置いて進行ルートを制限、同時平行で自身の上体部を燃やす蒼炎を静め、代わりに水晶鰭より蒼雷を迸らせながら全身のエネルギーを、アンテナたる頭角先端に一点集中。

 

角の先端から蒼いマナの光を煌々と輝かせ、集束された光が放たれる僅か数瞬速く、振り向いた事で其の異変に気付いたサンラクは、サキガケルミゴコロ起動と封雷の撃鉄を胸に叩き付け。同時に右手首を掲げながら叫ぶ。

 

「━━━━ッ!?【転送:格納空間(エンタートラベル)】!!!」

 

刹那、マナを含んだ轟音と爆風がサンラクの居る場所を襲い、地面と近辺の建物の全てが薙ぎ払われ。緊急回避したサンラクは発生した衝撃波によって、格納空間内でゴロゴロと転がった。

 

「ッ━━━はァ!?あぶねぇ、死亡予知スキルが無かったら超高速ビームに蒸発させられて死んでたわ!?!」

 

残り体力は3、このまま格納空間から出ても一角鯱に殺られるだけだと考え、全身に纏う黒雷を解除。サキガケルミゴコロの再使用時間終了+体力及びMP全快になるように、インベントリアに貯蓄された回復アイテムを使う。

 

愚者によって確率となりながらも、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法でゴリ押し、体力とMPをマックスに戻した半裸は『【転送:現実空間(イグジットトラベル)】』の合言葉で、格納空間から元の位置に戻る。

 

周囲を見渡せば、先程のビーム砲撃によって建物は崩壊しており、目標の塔は『一切傷が付かず』に威風堂々と聳え建っていた。

 

「やっぱあの塔、破壊不可オブジェクトなのか━━━━は!?」

 

あれだけの威力を受けて尚、無傷であるカラクリが解らないサンラクだったが、此処で彼が見たのは驚くべき光景であり。格納空間内に引き隠って十数分程隠れていたにも関わらず、冥帝鯱はサンラクを見付けるやシンボルの一角を振るい、真正面から刺突攻撃を行ってきた。

 

此の技は謂わば『待ち伏せ攻撃』……………彼にとって其れ(・・)を使う敵を知っている。

 

「おい、まさか……水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)と同じ『インベントリア対策済』モンスターか!?」

 

紙一重で回避するも、地面を掘り返しながら返す刃の如く、頭角が襲来。フリットフロートで更に跳躍し、フローティングレチュアで体勢を整え直すが、冥帝鯱は尚も速く巨大な口を開き、サンラクを丸呑みにせんと襲い掛かる。

 

「クぅ、うおっ!?!」

 

サンラクには(・・)此れ以上、空中を飛ぶ術は無い。

 

「良かった、間に合った!」

 

だが、蒼空を舞う勇者は彼を見捨てない。金と白の神代製の籠脚(レディアント・ソルレイア)を両脚に、全速力のブーストと共に、深淵の都市を舞い飛ぶペッパーが、間一髪速く冥帝鯱の攻撃からサンラクをかっ拐う事で事無きを得る。

 

「ペッパー!助かった!」

「サンラク、あのアトランティクス・レプノルカ何!?何かイッカククジラとノコギリザメのシンボルが、融合したみたいな頭角持ってんだけど!?」

「多分ソイツの変異体だとは思う!」

 

空中を舞い上がる乱入者たるペッパーに抱えられ、深淵の都市を飛ぶサンラクに、冥帝鯱は彼等を追跡・頭角にエネルギーを集束して突撃してくる。

 

「うおおお!?」

「ペッパー!あんまり高度と距離を放し過ぎるな!100m以上離れたら、超高速ビームをブッ放してくるぞ!」

「何じゃ其のヤベー攻撃!?食らいたくないし、下手したら死ぬぞ!?」

 

レディアント・ソルレイアの出力を全開に、突撃を往なして50m以上100m以内を目算で維持して、死地空間で勇者は飛び回る。

 

と、此処でペッパーに抱えられながら地上を見ていたサンラクは、真下に広がるルルイアスの光景から、此迄掴めなかった『ルルイアスの塔』の特性、そして其れを利用した『冥帝鯱攻略法』を閃いた。

 

「………お前のアシストのお陰で、一角鯱野郎の突破口が見えた………!」

「……………マジ?」

 

獰猛な笑みを浮かべ、サンラクは確信する。

 

此の戦い、俺達の勝ちだ━━━━━と。

 

 

 

 






勝利の道筋




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暴君を打ちのめすは、気高き志と不屈の精神



攻略法開示




「あのアトランティクス・レプノルカを倒す方法だって!?」

 

アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"と半裸を抱えてのドッグファイトを繰り広げる最中、彼が言った言葉に勇者が驚きの声を上げる。

 

「あぁ。ペッパー、お前が空を飛べるお陰で見えた攻略法だ。一瞬で良いから塔の付近の地面を見てくれ」

「………?」

 

チラッと下を見れば、抉り穿った様な『線』が引かれている。おそらくサンラクが言っていたビーム攻撃によって出来たモノであろう。だが不可思議な事に、ビームの痕跡は塔の所で『30度の角度で』、別方向に(・・・・)線が引かれている。

 

「何か反射(・・)されたみたいな跡が………?」

「そう、其処なんだ。此処ルルイアスの四方に聳える塔………ビームを受けても傷一つ付かないのを見て、最初は破壊不能オブジェクトだと俺は思っていた。だがビームの攻撃跡が別方向に伸びている事で、塔は『破壊不可』ではなく『攻撃を反射する特性』を宿していると、答えに至った訳さ」

 

サンラクの説明によって明かされた、塔が持つ能力。其れによってペッパーは、サンラクがやらんとする作戦に気付いた。

 

「……………おい、まさか。其の反射を『真正面』からぶつけて、アトランティクス・レプノルカの変異体にカウンター(・・・・・)を仕掛ける気か、サンラクは…………!!!?」

That's right(其の通り)!だが、此の方法は空を飛べるペッパーか、水中判定で泳げるアラバのどっちかの力が必要になる。アラバはセーブポイントに居るから、まさにグッドタイミングだったって訳さ」

 

そう、サンラクが閃いたのはアトランティクス・レプノルカの不世出(エクゾーディナリー)たる覇頭衝角のビーム砲撃を、塔にぶつけて反射・大ダメージを与えるカウンター戦法。あれだけの威力と破壊力ならば、体に纏っている雷や炎から察するに耐性が有れども、無事では済まない筈だ。

 

「全く……とんでもない事を考え付くな、サンラク」

「だが、現実味は有るだろ?」

「………………OK、作戦を頼む」

「解った、先ず始めに━━━━━━」

 

そうして伝えられた作戦に、ペッパーの表情は引き吊る。何せ此の作戦はスイッチ中に、ペッパーが生き残る事が大前提である為、自分の死=作戦失敗に直結するという状態だった。

 

「━━━━━ってな感じだが、やれるか」

「っ……………ふぅ………!解った、解ったよ!やってやろうじゃねぇの!討伐したらドロップアイテムは山分けな!」

「良いぜ、さぁ作戦開始だ!」

 

空中を飛ぶペッパーが、サンラクを放して上に昇り。

アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"は、ペッパーを無視して獲物たるサンラクを追い。

ターゲットのサンラクは、機動系スキルを数種類点火し、冥帝鯱に宣言する。

 

「二属性一角鯱、いや………アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"!帝王殺しの時間だ!」

 

都市を駆け、建物の合間を飛び抜け、半裸の鳥頭は単身塔を目指して進む。そして冥帝鯱もまた、サンラクを追い掛けて、雷による爆撃を撒き散らす。

 

水晶群蠍(マブダチ)の時もそうだったが、お前等の思考ルーチンってのが、ずっと気になってたんだわ」

 

インベントリアによるエスケープ。例えるなら目の前に居た蠅が突如として消えた時、人は蠅の消えた付近を『見張る』。飛び回られても邪魔な上に、近くに来られたら来られたで不快だからこそ、其れを打ち落としたくなる。

 

だとすれば、だ。

 

アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"の自身に対するヘイトを、何かしらの方法で『誤認』させられたなら。其の待ち伏せモーションは『解除』されるのでは無いだろうか?

 

其れがサンラクの出した、対待ち伏せ&潜伏奇襲への回答であり。

 

「さぁ、答え合わせと行こうや!」

 

傑剣への憧刃(デュクスラム)を手に、再使用時間(リキャストタイム)を終えたウツロウミカガミを起動。己のヘイト『のみ』を置き去りとして、数秒間残存する虚像(デコイ)を産み出すスキルを用い、付近の建物の影に身を隠す。

 

「一分の間、御機嫌取りを頼むぜペッパー!【転送:格納空間(エンタートラベル)】!!」

 

残像に攻撃を続ける冥帝鯱と、上空にて待機するペッパーを残してサンラクがインベントリアへ隠れる。

 

「すぅ……ふぅ……!おい、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"ァ!!!其の角折ってやるから覚悟しな!」

 

大声で宣言したペッパーを、冥帝鯱は見上げるも其の視線はサンラクの残像に戻り、角を叩き付けては攻撃を続けている。

 

「そうかい、そうかい…………じゃあ此れでも食らいやがれ!」

 

サンラクの残像に御熱の様子を見ながら、ペッパーは風暴鬼の飛脚(マルトリアス・レッグス)を起動。三十秒の間任意で、筋力・スタミナ・技量の合計値を参照にした『脚から衝撃波を蹴り放つ』脚撃スキルで、冥帝鯱のシンボルたる頭角を連続で攻撃する。

 

飛ぶ衝撃波を乗せた蹴りを叩き付けられても尚、残像に攻撃する事を止めない冥帝鯱だったが、此処でサンラクの残したウツロウミカガミの効果が終了し、目の前に在った残像が消えて、其のヘイトがペッパーに移り(・・)

 

大口を開きながら一角を振るい、ペッパーに襲い掛かって来た。

 

「よっし、釣れた!!生き残ってやるっ!!!」

 

レディアント・ソルレイアのブーストを吹かし、蒼空を舞う勇者はアトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"と空中鬼ごっこに洒落込む。

 

「━━━━━━━【転送:現実空間(イグジットトラベル)】!」

 

インベントリア内から建物の影に再出現したサンラクは、ルルイアスの空を蒼雷で撒き散らし、ペッパーを撃ち落とさんとする冥帝鯱を見上げながら言った。

 

「よっし!ペッパーマジナイス!運営見てるかァ!お前等の作ったAIとの勝負は、俺とペッパーの勝ちだ!修正はクターニッドをブチのめした後の、大型アップデートでヨロシクゥ!!!」

 

ペッパーにオーダーした一分の猶予で塔を登り、冥帝鯱のビーム砲撃を反射する為に、サンラクはメロスティック・フットを発動してスタミナ減少を半減させ、全力ダッシュで塔の目の前に到着。

 

鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)・グラビティゼロを同時起動。効果が重複する三十秒間で地面を、塔の外壁を跳ね、上へ上へと登る。そして塔の中腹を目指す中、サンラクが見たのは『貝殻を鎧の如く全身に纏うアンモナイト』。

 

ふと塔の外壁を跳ね上がっていくサンラクに気付いてか、アンモナイト━━━否『アンモ騎士』は其の体に似つかわしくない『触手を束ねた』であろう足を畝らせ、腰に指した『レイピア』を抜刀していた。

 

「アレがアラバの言ってた『封将(ふうしょう)』ってヤツか………。いや何つーか、アンモ騎士だな……」

 

魔法を無効化する封将が居るらしいが、果たしてあの封将が『其れ』なのかと気になるも、今は冥帝鯱に集中する事にして。空中でフリットフロートによる跳躍、塔の中腹に着地。反転都市ルルイアスを一望する充分な高さと、視界の内で冥帝鯱とチェイスを繰り広げ、飛び回るペッパーの姿が見えた。

 

「高さは丁度良い、ペッパーも良い距離と位置で飛んでるな…………!後は俺が、カウンターを決めるだけ━━━━━っ、ペッパァァァァァァ!!!其処から高度を下げつつこぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!!」

「サンラク、位置に付いたか!今行くぞ!!!」

 

息を吸い込み、サンラクの声が落雷の雨の渦中に居るペッパーの耳に届く。レディアント・ソルレイアのブースト全開及び、ルーパス・アサイラムのルート割り出しで、蒼雷の雨を切り抜け飛び。

 

そして冥帝鯱はあの時から見失っていたサンラクが、塔の中腹に立っているのを目視するや、ペッパーの真上を超スピードで越えて突撃して行く。

 

「来たぞ!サンラク、武運を祈る!」

 

ペッパーが離脱する中、冥帝鯱は胸鰭に蒼雷を迸らせる。だが其の落雷攻撃はペッパーがヘイトを買い、塔から引き剥がした事で『距離』が足らない。

 

「至近距離は噛み付きや鰭に頭角による格闘や突撃、中距離なら蒼雷を用いた広範囲爆撃、其れも届かない距離だったら……………『出す技は一択しか無いよな』?」

 

冥帝鯱の上体部で燃え上がる蒼炎が静まり、胸鰭の電気がより強く迸り、頭角の先端にエネルギーが集束していく中で、サンラクは右手首のインベントリア・右手の封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)を構える。

 

「気分は『デュエガン』の速撃ちモード・(キワミ)だな。狙った時間を『ピッタリ』撃ち抜くっう、中々にクソな部分も有ったが良い経験になった………!」

 

狙うのは冥帝鯱のビーム砲撃の発射と同時のジャストタイミング。速くても遅くても、作戦は台無しになる緊張感が襲い掛かるが、彼は其れを怖れない。

 

(封雷の撃鉄でドーピングして、サキガケルミゴコロで数秒後の死のビジョンから逆算。真界観測眼(クォンタムゲイズ)を発動し、発射タイミングでインベントリアエスケープを行う……!)

 

集束と膨張を繰り返し、頭角が煌々と蒼く光輝く中、サンラクは己の仕事を成さんとして。数秒の沈黙が永劫にも匹敵する時の交錯から、一瞬蒼い光がより強く輝いた瞬間。

 

超速度の閃光と深海を穿ち貫く『帝王の槍』が、ルルイアスの塔の中腹に立つサンラク目掛け━━━━━━━━解き放たれた。

 

 

 

 






勝負は一瞬




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帝王を穿ち、貫く意志が御業と成る



深海三強の不世出(エクゾーディナリー)戦、終結





アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"の超々火力のブルーレーザー砲撃の刹那、サキガケルミゴコロを発動したサンラクは、自身が『三秒後にレーザーで蒸発死する』未来のビジョンを脳内に発現。

 

封雷の撃鉄(レビントリガー)の親指に在る琥珀を叩き付けて、行動速度をドーピング&重ね掛けるように真界観測眼(クォンタムゲイズ)で攻撃の波を可視化及び行動速度を更に補強して、インベントリアを起動する。

 

サンラクが消え、彼を呑み込む筈だった超々火力のブルーレーザーは塔の中腹を直撃するが、反転都市ルルイアスの塔に施された力は冥帝鯱のビームにも、破損する事無く其の絶大なる一撃を受け止め。

 

そっくり其のままの威力を以て帝王の槍を『反射』、まるでトランポリンに跳ね返ったように飛ぶレーザー砲撃は、冥帝鯱の首周りを直撃。あまつさえ其の巨体を『貫通』して風穴を穿ったのだ。

 

「よっしゃあああああ!直撃、直撃したぁぁぁぁぁぁ!」

 

巨体が空中から落ち、地鳴りを起こしてルルイアスの大地に横たわる。あれだけの破壊力のレーザーを受けて尚、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"は倒れず、あまつさえ起き上がろうとしている。

 

ペッパーは此の機会を逃すまいとレディアント・ソルレイアのブーストを乗せて、一気に冥帝鯱へと肉薄。其処から一秒後、封雷の撃鉄(レビントリガー)による強化を解除したサンラクが、格納空間から現実空間に舞い戻り、墜落した冥帝鯱を見る。

 

「━━━━━ッふぅ…………!ジャストタイミングでブチ込めたみたいだな。と、いけねぇ!まだ終わりじゃねぇ!」

 

攻撃の波を可視化する真界観測眼(クォンタムゲイズ)に、敗北のビジョンを脳内に報せるサキガケルミゴコロ。複数のスキルを組み合わせる事で、切り開ける新しい可能性。ゲームの楽しみ方を思い出しつつ、彼もまた空中に飛び出し、フリットフロートで進路変更を行い、跳躍する。

 

「サンラク!アトランティクス・レプノルカもそうだったが、アイツの皮膚に斬撃武器は重ね掛けて斬らないと『効果が薄い』!やるなら格闘か打撃が良いぞ!」

「解った!なら、煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)だ!」

 

ペッパーが風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)を、サンラクが煌蠍の籠手を取り、バフスキルを全開に起き上がろうとする冥帝鯱の顔面を、渾身のラッシュでタコ殴りにし始める。

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!脳震盪になりやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「はぁあああああああああああああ!!!倒れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

蹴りが、拳が、冥帝鯱に叩き込まれる。ポリゴンが次々と溢れていき、ダメージが積み重なる。

 

「サンラク、全力で叩き込み続けろ!起き上がられたら、もう機会(チャンス)は無いと思え!」

「ならぁ、俺は『フェアカス』にやられた分をエネルギーに変えるわァァァァァァァァァ!!!アアアアアアアアアアアア!!!!あんのクソアマァァァァァァァァァァァ!リュカオーンもぜってぇ許さねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

チリチリと燃える蒼炎によるスリップダメージが、二人の体力をじわじわと削っていく。特にサンラクは神秘(アルカナム):愚者(フール)の影響で、受けるダメージは『倍増』している。あまり時間は残されていない。

 

「なら、格闘の『とっておき』だ。歯ァ食い縛れよ、帝王鯱!」

 

其の宣言と共に、ペッパーは一つのスキルと二つの『致命(ヴォーパル)』の名を冠するスキルを起動する。

 

一つは致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ゲッカケンセキ】━━━━━━自身が繰り出せる最速・最短・最大威力の『寸勁』を叩き付け、相手の肉質や防具を無視した『貫通攻撃』を行う、単純明快な拳撃スキル。再使用時間(リキャストタイム)致命秘奥(ヴォーパルひおう)系列では短い部類に入る、強力な大技。

 

もう一つは致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】━━━━━━此のスキルは『拳撃・脚撃・格闘のスキル発動後』にのみ使用出来、発動した対象スキルの再使用時間を『十倍』にするという重い『制約(デメリット)』を持つ代わりに、其のスキルによって発生するダメージを『十倍』で計算するという、ロマンと破壊力を両立した極技。

 

渾魂注撃(ストライク・インストーラ)による衝撃の一点集中を行い、那由多轍によって十倍の威力と成ったゲッカケンセキを乗せし、双皇甲虫の籠手が冥帝鯱のシンボルたる頭角に直撃。貫通攻撃+一点集中によって衝撃が頭角を通じて脳髄にダイレクトで伝わり、バキン!と大きな音を鳴らして根元から折れて、宙を舞って地面に突き刺さった。

 

「サンラク、フィニッシュ!」

「任されッたぁ!!!」

 

跳躍からのアガートラム、ハリケーン・ハルーケン、テンカウンター、燐砕拳(りんさいけん)の拳撃と格闘スキルを点火。ブラストアップによるダメージ倍率のブースト、ストリームアタックの加速に、アルシャダームの衝撃強化を乗せた、煌蠍の籠手の右ストレートが冥帝鯱の鼻先に炸裂する。

 

「うぉぉ!?」

「サンラク!」

 

衝撃が爆ぜ、冥帝鯱の巨体がビクン!と一際大きく跳ね、其の身体を構成するポリゴンが崩壊を始めて。空中でサンラクが飛び、ペッパーが空中で彼をキャッチした。そして冥帝鯱は崩壊する身体から、蒼炎が漏れ出して膨張を始める。

 

「…………フィールドを味方に付けての勝利、だな」

「………サンラク。取り敢えずアトランティクス・レプノルカは倒したら、最後に『自爆』するから此処から逃げるよ!」

「其れを早く言えェェェェェェェェェ!!??」

 

全速力でダッシュしながら、サンラクは覇頭衝角のシンボルたる頭角を掴み取り、煌蠍の籠手の音声機能による『晶弾(クリスタルバレット)』を放ち。数秒後に冥帝鯱の蒼炎が膨張し爆発、直径『700m』の範囲内を爆炎と熱波が、青一色に染まる街を焼き払った。

 

ペッパーはレディアント・ソルレイアを用い、上空に飛翔。蒼炎が都市を焼き尽くす中で、彼は何とか灼熱の範囲外へと逃げ仰せ。サンラクは晶弾が半分焼き融ける(・・・・・・・)という、圧倒的な大火力を目の当たりにしながら、ポリゴンが崩壊していく冥帝鯱を見て言った。

 

「………成仏しろよ、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"。此の戦い、俺とペッパーのタッグチームの勝ちだ」

 

最後ッ屁に自爆して爆発四散を遂げた、冥帝鯱の跡地には大量の素材が残り。そして此の戦いのフィニッシャーとなったサンラクには、システムコールたるリザルト画面が表示されたのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モンスター不世出(エクゾーディナリー)……解明(クリア)!』

『討伐対象:アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"』

『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』

『称号【帝王終焉(エンペラーエンド)】を獲得しました』

『称号【深海を照らす威光】を獲得しました』

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)破統昇格(プロモスピア)】を習得しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、アイツ不世出だったの?………………………マジで?」

 

 

 

 






其の一撃は頂点の輝き


不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)破統昇格(プロモスピア)

習得条件:アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"を討伐する。

効果:使用時にHPとMPを1になるまで消費し、其の際に消費した数値分のダメージを相手に与える。此の時に発生するダメージは、相手の防具を除いた耐久値を無視して計算される。対象へのダメージ計算後、確定で反動ダメージが使用者を襲う。再使用時間(リキャストタイム)は7日。

己の命とマナを捧げ、乾坤一擲の一撃と共に敵を穿つ帝王の威光。其れこそが不世出の奥義。




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戦いを越えて、勇者は居場所へと帰る



ログアウトまでがゲームです




不世出の奥義(エクゾーディナリー.スキル)。其れは不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)の討伐によって習得出来る、彼等彼女等の出自や生き様、或いは特色を受け継ぎ、技能としてスキル欄に刻まれる物。個々の差こそ有れども非常に強力な性能と、非常に長い再使用時間(リキャストタイム)の二面性を、此等のスキルは有している。

 

例えば窮速走破(トップガン)。ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"を討伐して獲られるスキルであり、九日間という非常に長い再使用時間を対価に、発動から五分間は速度三倍とスタミナ減少無効という、恐るべき力を宿す。

 

例えば偉風導動(リーガルック)。ストーム・ワイバーン"威風堂々(リーガルック)"を討伐して獲られるスキルであり、四日間の再使用時間を対価に三分間手持ちの剣・刀系武器へ、高出力の竜巻を纏わせる付与の力を持つ。

 

では、サンラクがペッパーの協力で討伐した、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"のエクゾーディナリースキルこと『破統昇格(プロモスピア)』の内容は一体何なのか?

 

「……マジかよ、冥帝鯱。お前エクゾーディナリーモンスターだったのか………」

「えっ、マジで?」

 

表示されたリザルト画面、そしてレベル99Extend状態ながら直接習得した新スキルにサンラクが。そして何と無く『冥帝鯱って不世出では?』と予想していたペッパーは、其の予想が当たりだった事に驚いて。改めて其のスキルをサンラクが確認してみると、またコレが『ヤバいスキル』だった。

 

破統昇格は一言で言うなら『槍武器専用攻撃スキル』であり、発動時に『体力とMPを1になるまで消費し、減らした数値が大きければ大きい程、与えるダメージが伸びる』というメリットと、確定で『反動ダメージが襲い掛かる』&『七日間の再使用時間が必要』というデメリットを抱えた大技なのである。

 

「おいおいおい、スキル使用したら『食い縛り』出来なきゃ確定死ってマジかよ………」

「槍先から『反動持ちのビーム砲撃』でもブッ放すつもりかな?」

 

減らした数値をダメージに換算するという能力から、此のスキルはどちらかと言えば対モンスターよりも、対人戦で輝きそうなスキルに見えなくもない。

 

「サンラク、約束覚えてる?」

「約束……あぁ、ドロップアイテムの山分けだっけな」

 

「そうそう」と頷いて、二人は改めて積み重なった冥帝鯱の素材達を見つめる。幸運200越えのサンラクがフィニッシャーとなったからか、戦闘人数がプレイヤー二人だけだったのか、目の前に在る素材の山は其の多さを物語るには充分な物だった。

 

「冥帝鯱の凝触羽………其れがアトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"の(あざな)なのか」

「やっぱ幸運と戦闘時の人数によって、ドロップアイテムが変わる感じだな。お、炎雷機関………こりゃ『エンジン』みたいなヤツか?」

「あ、そう言えば俺がへし折った角。サンラクが貰って良いぞ」

「えっ、良いのか?」

「あぁ。アレは絶対に『槍として使ってねぇぇぇぇぇぇ!!』って言ってるようなもんだし。ラストフィニッシャーはサンラクなんだから、遠慮せずに持っていって」

 

そんな会話を重ねて、冥帝鯱の素材を山分してインベントリアに収納していた時だった。

 

「ん?何だ此の『錆び付いた剣』?」

 

ペッパーが素材の山々の中から見付けたのは、持ち手を含めて『全体が錆びに錆びけた刀身が1m近い片手剣』。剣の形状は『峰に牙の意匠が施されて剣芯は畝った状態』、冥帝鯱の体内に在ったからか生臭さが染み付いており、武器として振るうにはあまりにも心許無く見える。

 

「ん?ペッパー、何だ其れ?」

「武器みたいだけど、随分変わった形なんだよね……」

 

何の武器なのだろうと、彼は武器をチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朽ち果てたアスカロン(英傑武器(グレイトフル))

 

其れは遠く永い時代、誰かが握っていた武器であり、遺された残照でしかない物。されど、嘗て其れは確かに武器として存在し、誰かが命を預けていた物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英傑武器 is 何?

 

ペッパーとサンラクは互いに首を傾げながら、此の武器はどっちが持つという話になったので、ペッパーは『冥帝鯱の素材を全部サンラクに渡すから、此の片手剣くれない?』と交渉した所、悩みに悩んだ果てに『良いぞ』とサムズアップで承認してくれた。

 

そうして二人がセーブポイントへと帰還する途中、遠くで様子を見ていたアラバが大慌てで空中を泳ぎながら、此方へとやって来た。

 

「サンラク!ペッパー!大丈夫か!?」

「おぉ、アラバじゃねーか。此方は無事だぜ?」

「アラバさん、さっき俺達『冥帝鯱』と戦っていたんです」

 

二人は冥帝鯱との激闘を語った所、アラバが目を見開きながら叫んだのだ。

 

「な、ななな……!?君達は『深海の帝王』と戦ったのか!?」

「えぇ、俺とサンラクで。ルルイアスの環境が無ければ、正直勝つのは難しかったです」

「あのビームはなぁ………アレはマジでヤバかったわ」

「そ、そうなのか………」

 

引き吊った顔をしながら、アラバは話をし始める。

 

「万が一、万が一にも深海の帝王と海中で出逢ったなら、己の死を真っ先に覚悟しなくてはいけないのだ。我々魚人族(マーマン)の言い伝えでは、ずっとずっと昔に我等の故郷を『荒ぶる深海の王』が襲った時、当時の英雄『ゲルニカ』が同胞達と共に戦い、己等の命を引き換えにして其の怒りを鎮めた』という伝承が在るのだ。彼は深海の帝王との戦いで命を落とし、彼の唯一の遺品たる『片手剣』も失われたという………」

 

そう言ったアラバに、ペッパーとサンラクはハッとなる。冥帝鯱のドロップアイテムの中に在った、変わった刀身を持つ錆び付き果てた『片手剣』。おそらくアラバの言っていた、魚人族の英雄・ゲルニカが所持していた武器なのだと。

 

「あ、あの~……アラバさん?もしかしてですけど………其のゲルニカさんが持っていたっていう片手剣、名前は『アスカロン』だったりしませんか?」

「む?あ、あぁ……そうだが……?」

「えと……コレ(・・)が冥帝鯱の素材の中に有ったんですが……ウォ!!?」

 

そうしてインベントリアを操作、朽ち果てたアスカロンを取り出して見せると、アラバがペッパーの肩を掴む。

 

「ま、間違いない!!コレはゲルニカが振るった伝説の武器・アスカロン………!ペッパー、サンラク!二人共、よくぞ……よくぞ生き残った………!」

 

環境に助けられた形とはいえ、自分達が成し遂げた事はアラバからすれば相当な偉業らしく、彼からは涙を流して抱き付かれ、背中をバシバシと叩かれた。

 

「あ、あのアラバさん。此の武器、魚人族の宝物ならば御譲りしますが………?」

「本当か!?……確かにアスカロンは我々魚人族にとって『大切な武器』だが……『コレ』は俺では無く、君が手にした物だ。きっと其れには『何か意味』が有る。だから何時か……君達が『魚人族の都』を訪れる事が出来たなら、長たる者に其れを見せて欲しい。約束してくれるか?」

「解りました。何時か必ず」

 

アラバはそう言い、ペッパーに朽ち果てたアスカロンを託し。ペッパーは力強く頷いたのである。そうして無事、セーブポイントを作った建物に帰ったアラバ・ペッパー・サンラクは、ベッドにて眠るヴォーパルバニーズとスチューデを見て。ペッパーは一足先にログアウトすると言うと、サンラクはアラバに食べられる魚かどうか鑑定して貰いつつ、もう少しルルイアスで稼いでくると言って。

 

ペッパーは建物二階に在るベッドでセーブを行い、此の日のシャンフロを終えたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~疲れ………何してんの永遠?」

 

シャンフロの『ペッパー()』から現実世界(リアル)の『自分()』に戻り、VRヘッドギアを外した彼が目撃したのは、バニーガール姿の永遠が自分のズボンを引き下ろし、自分の股に当てているシチュエーションで。

 

「やぁやぁ、あーくん。シャンフロ楽しかったかな?私、明日の早朝に仕事場へ向かうからさ。最後に最高の交わりをしたいのだよ」

 

ドヤ顔&ハート目&頬を赤に染め、バニースーツの胸部分から『ゴムの入った3連袋×5』を引き出して来る永遠は、ペロリと舌舐め擦りして其の内の1つを破り、装着してきた。

 

「…………始発は確認したか?此方は明日バイトが有るから、其れに支障が出ない様にしてくれよ?」

「ちゃあんと確認したよ、あーくん。念には念を入れて、髪型とアイシャドウを含めて変えて帰るからね。其の為の着替えも、ちゃんと用意したんだから♪じゃあ…………『ヤろうか』?」

「…………御手柔らかに、御願いします」

「あーくん………だぁいすき♪」

「俺もだよ、永遠」

 

口付けを交わし、梓と永遠は身体を重ねる。指を絡め、舌を絡め、熱と熱が繋がり。打ち付ける音と共に、淫らな水音と兎の甘声が、静かな室内で鳴る。

 

小さなアパートの一室、一つ屋根の下で一組の男女が、何度目とも言える繋がりに至るのだった………。

 

 

 

 






帝王を倒し、兎が踊る


Q:アスカロンは何で冥帝鯱の体内に在ったの?
A:亡骸に成った当時の冥帝鯱の近くに在ったアスカロンを他の深海生物が取り込んで、其れを他の生物が食べるを繰り返し続けて、現在の冥帝鯱の腹の中に収まってた。

というか単純に消化されたり、砕かれたりする事も無く、ついさっきの自爆にすら耐えて、ペッパーが手にする此の瞬間まで、世界に遺っていたアスカロンの耐久が純粋にヤバい。ずっと昔の片手剣なのに。

因みにアスカロンのモチーフは『バトルスピリッツ』の闇の赤きソードブレイブ『暗黒(あんこく)魔剣(まけん)ダーク・ブレード』の掴んでいる手の部分が、普通の持ち手になっている物












???『次ログインしたら、驚かせよう』




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情景変わる都市、腐れた魚のゾンビパニック



ヤる事をヤって

※ペンシルゴンが向かったのは職場でした。訂正します





「ありがとうございましたー」

 

翌日、都内某所のコンビニにてバイトで汗を流す梓は、若干痩せていた。昨日はヤバかった………ゴムを八個使ってヤり続け、気付いた時には深夜一時。其れから一緒にシャワーを浴びて、仮眠を取った永遠は午前五時に起きて自分の職場へと向かって行った。

 

最後に「クターニッド攻略が終わってゴタゴタが片付いたら、一緒にリアルで御忍びデートや両親に挨拶へ行こう?」と、耳元での囁き&口付けを交わして。

 

「梓君、大丈夫?何かサキュバスに生命力吸われた一般人みたいな感じだけど………」

「え?あぁ、いえ……其の『色々』有りましてね」

「色々」

 

八回ヤるまで満足しなかった、永遠の性欲の底無しさがヤバいのか。体力と性欲も其れなりな中で、八回戦持ちこたえた自分が強かったのか。一体どっちが正解なのだろう?

 

「と………いけないいけない、仕事しなくちゃ」

 

バイトはまだまだ始まったばかり、大学生なれども己の役割を果たして、此の人生を精一杯に生きる為に、梓は今日も戦うのだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ、今日も張り切ってルルイアス攻略と行こうか!」

 

梓がコンビニバイトで忙しく働いている其の頃、迫る一学期の期末テスト勉強を一通り終えた楽朗は、シャンフロにてサンラクとなってログイン。セーブポイントのベッドで目を覚ます。

 

「おぉ、サンラクか」

「よっ、アラバ。今日も元気そうだな」

「サンラクはん、おはようなのさ」

「サンラク殿、目覚めたか」

「サンラクさん、おはようですわ」

「お、おおお、目が覚めたみたいだな」

 

目を開けると自分が討伐し、渡していたアルクトゥス・レガレクスの白身を捌き、ヴォーパルバニーズとスチューデに振る舞うアラバが居た。其の音は静かであり、何よりも『昼間のルルイアス』の特性故に静かにしている……といった所が大きい。

 

「其れギガリュウグウノツカイの肉だっけ?」

「あぁ。淡白だが後味と程好い油が中々旨いぞ、食べてみるか?」

「んじゃ、御言葉に甘えて」

 

丁度良い厚さに切り分けられた刺身状の肉を受け取り、凝視の鳥面の下顎を開いて、口に放り込む。シャンフロに働く味覚制限によって、サンラクに伝えられたのは『口と舌触りは其れなりの、ほんのりフレーバー香るチューインガム』の用な物だったが、咀嚼して飲み込んだ所『味覚制限が一部解除されました』というリザルト画面。

 

「ギガリュウグウノツカイ………お前高級魚なのかよ。あと何つーかなコレ………あぁそうだ『煮込み料理』にしたいわ。酒・味醂・醤油を加えて、じっくりコトコト煮込んだ奴」

「おとーちゃ……コホン。カシラも魚は赤身より、白身が好きだって言ってましたわ」

「酒は解るが、其の名を聞くとは………。サンラク殿は、ミリーンとショーユを知っているで御座るか?」

 

シークルゥの疑問、其れをサンラクは聞き逃さなかった。

 

「えっ?開拓者(俺達)の間じゃ、ポピュラーで偉大な調味料だぞ?」

「昔々に親父殿から聞いた事は有る。確か『伝説の調味料』であり、其れを用いればあらゆる料理を『美味』にしてしまう『魔法の汁』なのだとか……。開拓者から聞いたのは初めてで御座るよ」

 

どうやら此の世界(シャンフロ)には、味醂や醤油は存在していないらしい。自分達の世界では和洋中問わず使われる調味料にして、此処では伝説とまで呼ばれているとか。

 

醤油は偉大だ。新鮮な魚介類を刺身にして食す時に、此れと山葵に花穂や穂紫蘇、ツマや海藻類が有れば口の中の魚の旨味をリセットして、他の刺身を美味しく味わえる。其処に炊きたての白米と味噌汁、漬物と甘味を添えてやれば本格的な刺身御膳にもなる。

 

「イカン腹減ってきた…………アラバ、他にも捌いた魚は有るか?」

「ウム。サンラクが採ってきた魚の中でも、特に一押しの物を用意したぞ」

 

そうしてアラバが持ってきたのは、赤身が二種・白身一種の刺身盛り合わせだった。

 

「我等魚人族(マーマン)では主食として振る舞われる『海の旨味』とも呼ばれし『ノルヴィスクラッツェ』、海中では最高時速300kmを叩き出すともされる別名『海中暴走族』なる『ルージェットマグロ』。そして婚約の儀では、親戚一同に振る舞われる『幸福の象徴』とされる『ボンディングフィッシュ』だ」

 

おそらく鰹・鮪・鯛であろう魚の刺身達を、サンラクは一つ一つ食していく。どれも味覚制限であまり良い味はしなかったものの、三種類の魚を食べてか『味覚制限が一部解除されました』のウィンドウが三つ出てきたのである。

 

「深海マジパネーション…………」

 

シャンフロの海、深海の王や深海の帝王にギガリュウグウノツカイが闊歩する世界に生きる、彼等に感謝の意を示すべく合掌と一連を行ったサンラク。

 

「あ、サンラクさん。シークルゥさん。おはようございます」

「サンラクさん、アラバさん。おはよう……です」

「おぉ。秋津茜(アキツアカネ)にレーザーカジキ、おはよう」

「秋津茜殿」

 

そんな時、二階のベッドからログインした秋津茜とレーザーカジキが降りてきて、サンラク達に『小声』で声を掛ける。

 

「夜は夜でランダムエンカウントだが、昼間は昼間で『ゾンビパニック』だかんなぁ……」

 

夜は『魚達の楽園と化した嘗ての都市』であったルルイアスは、昼間になれば『死せる半魚人が彷徨う冒涜の都市』に変わる。

 

カーテン代わりに窓へと掛けた布を、少しずらして外の様子を一瞬見れば、少し先の通りをクターニッドの反転の力によって眷属へ変えられた『半魚人(ゾンビ)』達が歩いて行く。

 

元々生きていた魚が『人ならざる死せる半魚人』へ、反対に捕食等の食物連鎖によって死した魚は『魚ならざる生ける人魚』へと変えられて、空中と地上問わず歩き回る光景は下手なB級ゾンビホラー映画より、よっぽどリアルな光景だ。

 

「お魚さん達をあんな……!あんな『酷い』姿にするなんて………!クターニッドさんは、ちょっと許せないです………!」

 

怒りに拳を握り締めるレーザーカジキから、彼の姉たるAnimaliaと同じ匂いを感じながらも、サンラクは現状居るメンバーに今日の予定を伝える。

 

「さて、今日は『アラバの片手剣の捜索』。もしくは『魔法無効能力持ち』の封将の討伐を目指そうかと思う。昼間の移動は基本、音と半魚人の視界に入らないように『ステルス』するんだっけ?」

「あぁ。奴等はクターニッドの命令となれば、敵が毒まみれだろうが突撃してくる上に、何処からともなく『大量の津波』となって襲い掛かってくる。擦り潰されたくなければ、隠れて移動する他に方法は無い」

 

クターニッドの眷属となった半魚人及び人魚は、視覚と聴覚を頼りに見定めた敵を見失うまで追跡する。逃走途中で他の眷属達も見付かった場合は、其の連中迄もが襲い掛かって来る為、基本的に撃破ではなく敵との視線を切る事を意識しなくてはいけないのだ。

 

更に厄介なのは人魚達の放つ『歌声』であり、脱力等を始めとしたステータス干渉のデバフオンパレードであり、其れを耳にしたなら幾ら高機動職でも、ゾンビの津波から逃げ切れなくなる危険が出てくる。

 

「ただ大人数で動くと、其れだけ見付かる危険が有るんだよなぁ。……………よし、決めた」

 

暫く思考した後、サンラクは作戦を発表する。

 

「先ずアラバの片手剣探し、此れは機動力とデバフに強い俺と秋津茜で偵察を行いつつ、発見次第アラバを連れて剣を回収。其れが出来たら、アラバ・秋津茜・俺・アイトゥイル・シークルゥで魔法無効の封将をブッ飛ばす。エムルとレーザーカジキには其の間、スチューデの護衛を任せたい。此れは極めて『重大任務』だが………出来るか?」

「はい、任せて下さい……!」

「はいな…!」

「んじゃ……作戦開始と行こう」

 

ルルイアス攻略二日目、アラバの片手剣探しと魔法無効封将討伐が、此処に幕を開ける。

 

 

 






昼間のルルイアスを進撃せよ




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腐れつみれが彷徨う都市、現れ出でるはカイセンオー



隠密行動




「よっせっ、ほいっと………」

 

アラバの片手剣捜索の為、人魚のデバフソング無効可能な秋津茜(アキツアカネ)とサンラクが先んじてルルイアスの外に出て、北と南に分かれて探し始めていた。

 

建物の影から壁を登り、そろ~りと慎重に地上を見下ろせば、三~五体の小隊を組んでいるかのように、クターニッドの眷属とされた半魚人が。空中を見上げたなら、二か三人程の魚に下半身を喰われた様々な髪色をした女性達が、空中を優雅に游いでいる。

 

「しっかしなぁ………見付かっちゃいけねぇっうのは『ステルスゲー』に近いなコリャ。おまけに音を立てたり視界に入っちゃ駄目ともなりゃ、まるで『グラダンⅣ』の鬼畜監視地帯をバグ技無しで抜けた感覚を思い出す………」

 

『ステルスゲー』と呼ばれるゲームジャンルが在る。

 

所謂『かくれんぼ』に該当する物で、敵の視線を掻い潜り、オブジェクトを使いながら、目的地まで移動するという物である。レトロゲーム等のディスプレイタイプの時代では、ダンジョン探索を含めたポピュラーな表現でもあり、俯瞰の視点でキャラクターを操作・必要なアイテムの回収と迷宮制覇といった形が用いられていた。

 

『グランドダンジョンズⅣ ~運命の皇子と竜鬼神の野望~』というゲームがあった。フルダイブ型VRゲームが主流となった現代…………其の黎明期に販売されたゲームタイトルであり、嘗てレトロゲーム界隈を盛り上げたとされる『グランドダンジョンシリーズ』の歴代最多売上(・・・・・・)を更新した作品を、フルダイブバージョンリメイクしたというゲームである。

 

其の内容として、主人公にして世界の命運を託された皇子は、災禍迫る大陸に在るという一度入る度に、無限に地形を変えるダンジョン内を散策。地下へ或いは上層に通じる階段を通り制覇しながら、時に宝や仲間を増やして、時に竜鬼神の軍団と衝突しながら、軈て真の黒幕との世界の存亡を懸けた戦いに挑む…………といった所。

 

では何故、此の話を今のタイミングでしたかと言うと、だ。説明した『グランドダンジョンズⅣ ~運命の皇子と竜鬼神の野望~(フルダイブリメイク)』は、クソゲー(・・・・)になったからだ。

 

フルダイブ型VRゲームの黎明期にはよくあった事だが、映像技術の進歩に追い付けずシステムに問題を抱えた結果、クソゲーの烙印を押されたタイトルは数知れず。何よりも、そう何よりも━━━━━━━此のグランドダンジョンシリーズは、フルダイブ型VRゲームとの相性が致命的に『ミスマッチ』だったのが原因だった。

 

此のグランドダンジョンシリーズはステルスゲーのジャンルであり、見付かれば基本的に終わり=GAME OVER判定が下される、珍しいシステムがある。元々俯瞰の視点で見るからこそ躱わせていた敵の視線が、三次元的なサーチライトやスポットライトで視線が届くともなれば、回避移動はより困難を極め。

 

何よりも其の会社は、人間やモンスターの『視力限界』を徹底的に追求した結果、本来序盤で躱わせる筈な雑魚敵がスナイパー並の視野を発揮するという、まともにクリアさせるつもりがないクソっぷりを発揮した。其の上最終盤のステージともなれば、道中の敵は直感じみたフェイント所か、其所からじゃ絶対発見出来ないだろという、明らかに調整ミスで草食獣と肉食獣の混じったハイブリッドキメラアイズで、プレイヤーを待ち受けるという極悪さ。

 

そうして悪評や非難を浴び続け、ゲーム評価サイトでも堂々の星1という『名作グランドダンジョンシリーズの唯一の汚点』やら、あるゲーマー曰く『グランドダンジョンシリーズ黒歴史』という不名誉で袋叩きにされた結果、販売会社は開発元から裁判請求を受けて多額の賠償金を支払い、最終的に倒産。

 

グランドダンジョンズⅣ ~運命の皇子と竜鬼神の野望~(フルダイブリメイク)は、名実共に『幻のクソゲー』としてフルダイブ型VRゲームの歴史に其の名を刻む事となったのである。

 

「武田氏に去年の誕生日プレゼントで貰ったが、アレは本当にヤバかったな………」

 

正直あのレベル程では無いとは信じたいが、セーブポイントまでモンスタートレインをして、アラバやヴォーパルバニーズ、そしてクソガキ含んだNPCに被害を拡大させる事だけは防ぎたい所だ。幕末で培い会得した、相手の視角を意識しながらの移動を行い、サンラクは昼間のルルイアスを駆け抜ける。

 

途中腐れつみれの半魚人に見付かり、追いかけ回されたりしたが、ウツロウミカガミを用いてエスケープを行いつつ、進撃を続けた先でサンラクは此の都市の一角に居る、一体のモンスターに遭遇した。

 

胴体部の半透明なゲル状の何かと、四肢にコードの如く接続された半透明なコード。よく見れば中心に居る『海月(クラゲ)』の触手によって接続され、頭の代わりなのか首の上には太い珊瑚が生えている。

 

右腕にはカジキのものと思しき、鋭いソードを融合させ。左腕には牡蠣か、牡蠣の貝殻を盾のように装着し。右足には触手、否。吸盤の形状からイカの触手を束ねたモノで。左足には甲殻類、恐らく蟹などに見られる細身の脚。そして股の間には『全長1m越えの片手剣』………ではなく、下手な大剣よりも巨大な『大太刀』がぶら下がっていた。

 

其の姿は正に、其の手のジャンルが好きな人間には堪らない存在。日曜の朝の風物詩の一つ『戦隊シリーズ』で御馴染みの『合体メカ』。そう、此の場合は━━━━━━━!

 

「海鮮物合体カイセンオー……!というか、ヤバい雰囲気だ……………ん?んんん………??」

 

自分より少し高く、墓守のウェザエモンよりは小さな其れは、目算からすれば全長2m前後は在るだろう。よく見れば股の間にぶら下がる『剣』は、半魚人が持っているカトラス型の物とも異なる形状をしていて、持ち手の部分が『半分侵食』され、取り込まれているようにも見える。

 

「もしかしてアラバの言ってた『武器(エモノ)』って…………アレか?」

 

おおよその位置を覚えつつ、ペッパーが撮影したルルイアスの上空写真にポイントを付けたサンラクは、再び其の脚でセーブポイントの建物へと戻るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、サンラクさん!私途中でゾンビ達に絡まれて群がられて死んじゃったんですけど…………そっちはどうでしたか?」

 

セーブポイントの在る建物に帰るまでに、数回ゾンビに気付かれて追い回されたが、どうにかモンスタートレインにさせずに帰還したサンラクを、リスポーンした秋津茜(アキツアカネ)と留守番をしていたレーザーカジキ、そしてアラバ・エムル・アイトゥイル・シークル ゥが出迎える。

 

「収穫有りだな。だが、あのカイセンオー相手には近接だけじゃ、ちょっと心許ない。魔法職含めて少なくとも三か四人は欲しい」

「カイセンオー……?」

「ですわ?」

 

レーザーカジキとエムルが疑問符を浮かべたので、サンラクがカイセンオーの見た目と、大太刀サイズの武器が取り込まれている事を伝えた所、アラバの目の色が変わった。

 

「サンラク其れだ!其の大太刀は俺の武器だぞ!」

「アラバ落ち着け、敵にバレる。場所は覚えてるから俺とアラバが前衛確定として、エムルとレーザーカジキを後衛に連れて行きたい。秋津茜・シークルゥ・アイトゥイルは、スチューデの護衛での待機を頼めるか?」

「解りました!」

「はいな!」

「はい!」

「任せて下さい」

「おぉ!」

 

ペッパー・ペンシルゴンが居ない今、現場を纏めるサンラクはアラバ・レーザーカジキ・エムルのプレイヤー二人・NPC一羽と一匹のパーティーで、カイセンオー撃破に動く。

 

 

 

 






合体ロボは男の子のロマン


グランドダンジョンシリーズ:ディスプレイが主流だった時代に販売されていたゲームシリーズであり、レトロゲーマー界隈でも知らない者が居なかったとされる『名作』。全15作まで在り、4と7と10作目は別キャラが主人公を担当しながらも、ステルスゲーの王道を踏襲しつつ、新しいゲームの形を確立した。

レトロゲームであり、同時にディスプレイだったからこそ、其の強みを発揮したシリーズであった………。


ペッパー「グランドダンジョンシリーズ……其のゲームはレトロゲーマーの界隈で知らない人間は居ない。入る度に、昇降する度に無限に変化するダンジョン。敵に見付かるという危険に晒されながら、フィールドを探索してキーアイテムを探すというドキドキ。そして何よりもストーリーが素晴らしい………。
第1作から張られ続けていた伏線を第12作の最終盤にて回収し、最終となる15作で主人公達が其れを逆手に取った瞬間なんか、此処までシリーズをやり込み続けてきたファンへの、まさにサプライズというべき製作陣の熱量を感じた。
他にも声優陣の迫真の熱演とキャラの理解度、ファンの皆さんの声援に布教も相俟って、此のシリーズは名作と言われるに至ったと断言して良い(以後2時間以上語ったので省略)」






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二人&一羽&一匹 VS 海鮮物合体カイセンオー



アラバの大太刀救出戦




チームを対カイセンオーに再編成し、エムルはサンラクの頭に乗っかる何時ものポジション、アラバはレーザーカジキを俵担ぎする形で、海鮮物合体カイセンオーを確認した位置へと向かう、サンラク・エムル・アラバ・レーザーカジキ。

 

隠密行動によるステルスは当然ながら行うが、やはり厄介なのは空中を泳ぐ人魚達だ。端整な見た目で空を飛び(水中を泳ぎ)、デバフを振り撒くアレはパッと見ではNPCかと間違えてしまう。

 

其の見た目に反して振り撒かれる歌声のデバフは、プレイヤーやNPCの機動力()を奪う実に厄介な物で、歌声を止めない限りはエムルやアラバ、レーザーカジキが動けなくなるので、デバフが効かない&空中戦が出来るサンラクが速急に対処に当たる………という事態が、少なくとも三回は発生した。

 

ある意味『護衛系ミッション』といった形で、割り切りつつ落ち着きながらも、辿り着きますはカイセンオーの居る場所。改めて見ると、本当にゴチャゴチャ合体をしている。

 

「ち○こですわー!?」

「バカ、女の子が大声でそんな事言っちゃいけません!」

「俺の愛刀は恥部ではないぞ!」

 

エムルの発言に、サンラク・アラバがツッコミを入れる。そしてサンラクは此の場に、ペンシルゴンを連れて来なくて良かったと考えた。何せ彼女は下ネタも好んでおり、仮に『見てくれ僕のエクスカリバー(股間)』なんて言った日には、間違い無く噴き出す未来が見える。

 

と、サンラクが視線を移せば、プルプルと怒りに震えるレーザーカジキが、致命の錫杖(ヴォーパル.ロッド)を握り締めており。錫杖の切っ先を翳し、火炎を帯し魔力で出来た炎の槍を無数に展開する。

 

「カジキさんに、イカさんに、カニさんを………!そんな『酷い姿』に変えたのを…………!僕は絶対に、許しません!!!」

「えっ、怒るトコ其処?」

 

展開されたフレイム・ジャベリンの発展魔法たる『フレイム・クラスター』が、カイセンオーに叩き付けられる光景は、嘗てユニークシナリオ【兎の国からの招待】の実戦的訓練で最後に戦った、妄執の樹魔(ルーザーズ・ウッズ)の様々な魔法攻撃を彷彿とさせる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

詠唱破棄がされながらも、其の威力は凄まじく。リュカオーンとの戦いを越えて、レベル95に至った青の魔術師の実力に陰り無く、愛する魚や軟体類に対する侮辱たる異形への怒りに偽り無し。

 

「っ、くぅ………!」

 

そうして彼の魔力(MP)が尽き果てる程に叩き込まれ、砂埃が晴れた先には全身に風穴を空けられ、こんがりと焼き焦げ、倒されたカイセンオー………を動かしていたであろう海月(クラゲ)が、ズタボロにされてのたうち回って。

 

其れは四肢を崩壊させながら、自身は痙攣し続けて。だが最後には、力無く触手を落とし、ゲル状の身体を地面にぶちまけながら、身体を構成するポリゴンを崩壊、爆発四散を遂げたのである。

 

「えぇ………」

「プワァァァ………」

 

サンラクとエムルが、レーザーカジキの攻撃に言葉を溢す。魔法使いの上位職たる魔術師………火・水・風・土の四属性魔法に比重を置き、バフは自身や味方の被弾を抑えるように敏捷関係と、自他の魔法威力を高める物に絞り込んで習得。

 

此の手の魔法職に有りがちな、多種多様の魔法を取り過ぎによる、器用貧乏になる事を防ぎながら、自身の攻撃能力を高めるビルドが『レーザーカジキ』というプレイヤーなのだと、サンラクは感じた。

 

「なぁ、エムルよ。さっきのカイセンオーって、種族的な分類は何なんだ?」

「アレは確か『喰纏種(キメラ)』ですわ。自身が食べたり、取り込んだを自分の身体の一部にするんですわ」

「キメラ、か」

 

ファンタジー物でもポピュラーな存在に納得しつつ、カイセンオーが取り込んでいた大太刀はどうなったのか見れば、持ち手部分にゲル状の液体がくっ付いていたものの、刀身含めて無事だった様であり。大太刀を拾い上げ、アラバが刀身に頬擦りしている。

 

「良かった……!おぉ、良かった……!無事だった!」

「高々武器一本で、随分と大袈裟なリアクションだな……。もしかして其の武器、お前の家の家宝だったりするん?」

 

どうにも気になったサンラクが声を掛けると、アラバは何かを決心したかのように、刀身を此方に見せながら言った。

 

「………あぁ、そうか。紹介が遅れたな。サンラク、レーザーカジキ、此れは俺の相棒の大太刀たる『大海峡(だいかいきょう)』……其処に宿る憑依精霊(イグジステンツ)ネレイスだ(・・・・・)

 

そして刀身からピョコッと現れたのは、『半透明な見た目をした青い肌を持つ女性』で。彼女は此方を見て喋った(・・・)

 

『…………ドウモ』

「う"ぇっ」

「ぴぇっ!?」

「わぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊とはキメラ以上に有名であり、ファンタジー物のゲームではドラゴンや天使に悪魔と並んで、御約束といって良い程に登場する存在だ。

 

シャンフロにおける精霊………所謂『スピリット』はエムルやレーザーカジキの話によれば『意志を持った竜巻』であり、発生すれば後先考えずにエネルギーを使い果たし、何れ消える存在なのだとか。

 

だが時に極稀ながら、自身を構成する確固たる自我に、魔力を自力で得られる術を獲得する事によって、存在を維持出来る者も居る。そういった存在は『ユニークシナリオ』の重要NPCだったり、エリアボスとしての地位に落ち着くそうだ。

 

「ネレイスのように存在が消えかけた精霊を、何らかの方法で消滅を防ぎ、世界に留まる事が出来た精霊。他の者達は存在を得た者達(イグジステンツ)、そう呼んでいる。特に『鉱人族(ドワーフ)』は其処に着目してな………魔力を得られる力が無いのならば、此方から器と糧を与えてやれば良いのではないか、と」

 

アラバの話を聞いていると、サンラクはネレイスなる精霊が、アラバの優しさに浸け込んだ『クズ精霊』であるように思えてきた。

 

「彼女もそんな精霊の一人でな……存在が維持出来ずに消えそうになっていたのだ」

「あ~………成程、おおよその流れが読めた。其のネレイスを放っておけないと鉱人族の所に何とか運んで、其の大太刀の中に封印………いや、話の内容からすると『合意』した上で住んで貰ったって感じかな?」

「……君は俺達を観ていたのか、サンラク!?」

「んな訳あるかい。で、話を聞くに其の大太刀には精霊が宿っていて、使い手が魔力を与える……多分ある程度は武器自体が魔力を集めたり、武器に宿った時点で精霊は魔力供給の術を会得出来る………こんな所か」

 

ボーイミーツガールに、諸々の要素を混ぜたらこんな感じだろう勘だったが、どうやら当たりだったらしく。アラバがパクパクと、口を開けたり閉じたりしていた。

 

「コホン………とは言え、そう簡単に出来る物ではない。消えゆく精霊と同調し、同意を得なければ契約は結べないからな。彼等彼女等を無理矢理武器に封じ込めるのは、流石に無理らしいぞ」

 

どうやら精霊を武器に宿すのも前提条件が有るらしいが、サンラクは此の手の方法を行ったタイプを『ゲーム』で体感した事があった。

 

「あー凄いっぽい。『最終的に大量の精霊を詰め込んで、大量破壊兵器とかにするヤツ』だ」

 

主にフェアカス(・・・・・)が原因で、一種のトラウマを植え付けられたが。だが、此処で反応したのはアラバだけ(・・)では無かった。

 

「「何だって(ですって)!?」」

「落ち着け、ジョークだジョーク………ん?」

 

そう、レーザーカジキだ。彼の視線が真っ直ぐに、サンラクに注がれている。そうして僅かな沈黙の後、先に口を開いたのはレーザーカジキで。其の言葉は『とあるゲーム』を乗り越えたプレイヤーが手にする、共通の『報酬』であり。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの………サンラクさん。……………『三分間』、どうしましたか?」

「!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

其の言葉を聞いた瞬間、サンラクの瞳孔が一際大きく見開かれる。まさかこんな所に………神ゲーにて同郷の、其れも同じ地獄(・・)を潜り抜けた者に、こんな形で出逢えるとは!

 

「俺は『飛び蹴り』からのインファイトを叩き込んだ。お前は?」

「僕は『ドロップキック』を……繋ぐ形でアルゼンチンバックブリッカーから、パイルドライバーに……」

 

御互い言い合いたい事は有るだろう、だが送る言葉はたった一つで良い。

 

戦友(とも)よ……!』

 

明かされた事実。レーザーカジキは『フェアクソのプレイヤー』だったのだ。

 

 

 

 






神ゲーに同郷が居た




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同郷の友、倒すべきはクリオネ



友を見付けて




フェアクソ…………正式名称を『フェアリア・クロニクル・オンライン 〜妖精姫の祈り〜』。悪辣過ぎる敵と御粗末が極まった味方・九割がヒロイン元凶なクソ過ぎるシナリオ・予測不能なバグの三位一体が建てた、クソゲー界のトライアングルピラミッドとまで称される、レジェンドオブクソゲー。

 

此のゲームのヒロインにして『アバスレ』『真なる邪神』『フェアカス』『邪神さん可哀想』と言わ占める『フェアリア』は、語れば語る程に悪辣が極まり当時の記憶で脳が震え。更には意図的にヘイトを薄める『アーク』なる妨害キャラが居たにも関わらず、購入し最後までプレイし、戦いを終えた者やそうでない者達からも『おのれフェアカス!』やら『お前も邪神と一緒に沈め!』と言われる程。

 

クソゲーマー・サンラクにとっても、クソゲー史上最高にクソと言って差し支えないゲームだったが、まさか其の地獄を乗り越えていた者が居たとは、思いもしなかったらしい。

 

「……………新大陸の端から端まで飛ばされた時は、レーザーカジキはどうしようって考えた?」

「沸き上がった怒りを、蓋をするように落ち着かせて、何時か必ず晴らそうって思いました…………。あの三分に、アルゼンチンバックブリッカーへ其の時の怒りを。………サンラクさんは、機嫌直しの三時間はどんな想いを?」

「取り敢えず、飛び蹴りブチ噛ますのは確定したね。後三発腹パン入れてやるってな」

 

同じ地獄を乗り越えた者、其れ故に通じる会話にアラバとエムルは首を傾げる。

 

「サンラクさんは、クリアまでにどの位掛かりましたか?」

「大体一ヶ月かな………シャンフロ早くプレイする為に、怒りを御すのは大変だったわ」

「凄い、ですね………僕は去年の夏休みに。カートで超特価で売られてたので、興味が湧いて………。人生最悪の二ヶ月でしたけど………色々と勉強になりました」

「おぉぅ、よく投げ出さなかったな……」

 

フェアクソをプレイした大抵のプレイヤーは、ログアウト後にヘッドギア等を地面に投げて『二度とやらねぇこんなクソゲー!』と声高らかに叫ぶのだが、どうやらレーザーカジキは其の怒りをコントロールし、報酬の三分間まで折れる事無く、地獄を乗り越えたようだ。

 

「さ、サンラクさん。さっきから何を話してるですわ?」

「お、俺もよく解らんぞ………」

『ネレイスも、ワカらない』

 

ネレイスの自己紹介だった所が、地獄を越えた者同士の会話で完全にすっぽ抜けになってしまった。

 

「兎に角、兎に角だ!良かった、本当に良かったぞ………!」

『アレにタべられたトキは、ホントウにコワかった……』

「やっぱ食べられてたんか、アレ。取り敢えず、ナイスだレーザーカジキ」

「あ、ありがとうございます」

 

見付けるのが遅かったなら、ネレイスの入ったカイセンオーが出来ていた可能性が在った事を思いつつも、取り敢えず目的の大太刀救出を無事完了した事を、素直に喜ぶとしよう。

 

『アリガトウ、トリのヒト。そしてアオいマジュツシさん。ネレイス、おレイするよ?』

「礼ならアラバの武器として、此処からの戦いに加わってくれ。でなきゃ俺達纏めて全員蛸の餌だ」

 

無事に武器が戻った事で、此処からはアラバも戦力に数えられる。プレイヤーは、ペッパー・ペンシルゴン・サンラク・オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)秋津茜(アキツアカネ)・レーザーカジキ・ルスト・モルド、そして姿が見えないサイガ-0の十人。NPCは護衛対象のスチューデを始め、エムル・アイトゥイル・シークルゥ・アラバの五人で、計十五人という一つのパーティーで組める、最大上限人数の大所帯になった。

 

他のゲームならレイドボスにも挑めるだろう此れなら、並大抵の敵に負けない自信が有る。

 

『ワカった。ネレイス、トリのヒトとアオいマジュツシさんとアラバを、マモるタメにガンバる。あと……なんかシロくてヤワいウニっぽいのも』

「ヴォーパルバニーとは呼んでくれないんですわ!?」

 

ネレイスにツッコミを入れたエムルを頭に乗せつつ、サンラク達はフォーメーションを変える為、セーブポイントの建物へと帰還するのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今からアラバが言っていた魔法無効能力持ちの封将を、物理職でブッ倒しに行こうと思う」

「サンラクさん、唐突ですね!?」

「サンラク、君には休むという選択肢は無いのか……?」

「身体が動ける時にやっといた方が良いだろ?」

 

道中でゾンビパニックに三回巻き込まれ、内一回は人魚のデバフでアラバが殺られそうになったものの、何とか危機を乗り越えて帰還した一行は、サンラクの提案を聞いていた。

 

「とはいえだ。先程半魚人に追い回されたりして、疲れたから少し休憩を取るのは勿論の事、魔法無効なのでレーザーカジキとエムルは留守番、動けるのは俺とアラバに秋津茜・シークルゥ・アイトゥイルか………」

 

欲を言えばペッパーが居れば道中は安定しそうなのだが、無い物をねだっても仕方無いのは事実。今有る物で如何に攻略するかを考えるのも、ゲーマーという生き物だ。

 

「エムルとレーザーカジキの二人は、スチューデの護衛を。秋津茜・アラバ・アイトゥイル・シークルゥは、十五分の休憩を挟んで封将討伐に出掛ける。良いか?」

「はい、粉骨砕身で頑張ります!」

「任せて下さい、サンラクさん」

「ホントは一緒に行きたかったですわ………」

「エムル、スチューデを護る事も立派な仕事なのさ」

「其の通りで御座るよ」

 

パーティーメンバーを切り替え、サンラクは一端ログアウト。水分補給とトイレ休憩を経て再度ログインし、秋津茜・アラバ・アイトゥイル・シークルゥと共に、魔法無効能力を持つ四体の封将が一角…………『クリーオー・クティーラ』の討伐に動き始めたのだった。

 

 

 

 

尚、其の封将の居る塔まで八回のゾンビパニックに巻き込まれ、サンラクと秋津茜は何処かに『中継地点のセーブポイント』を作った方が良いと結論するまでに、そう時間は掛からなかったという…………。

 

 

 

 






封将討伐へ




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クリオネと相対するは、一鳥ニ兎に鮫魚人とニンジャ



封将殺しへ

※SEED FREEDOM………良かった。スパロボにもいつか来てくれ下さい





「よ、漸く付いたぞ…………」

「ゾンビ達に追われて大変でしたね……」

「酔伊吹を引き剥がしに使う事になるとはさ……」

「拙者のタケミカヅチは、追い払いの為に使う魔法では無いので御座るが……」

「だが、何とか奴等を巻いて来れた。さぁ、封将を倒すぞ」

 

反転都市ルルイアス・北エリア。アラバの情報によって此処に封将の一角、魔法攻撃無効能力を宿す存在が居ると判明しており、サンラク・秋津茜(アキツアカネ)・アイトゥイル・シークルゥ・アラバの、計五人による討伐隊を編成してやって来た。

 

当然ながら目の前に在る、攻撃を反射させる塔は内部に罠が敷き詰められている可能性が極めて高い、というか明らかに罠な臭いしかしてこない。

 

「えー………という訳で、アラバは秋津茜・シークルゥを抱えて空を泳ぎ、俺はアイトゥイルを頭に乗っけて塔の壁を登ろうかと思います」

「サンラク……やはり君は『鳥人族(バーディアン)』ではないのか?」

「こんな成りだが、人間だぞオレ。理由としては、罠が敷かれてそうな道中を回避したいから。んじゃ、始めようか」

 

アラバが秋津茜を脇に抱えて空中を泳ぎ昇り、サンラクは敏捷系バフを盛り込んで跳躍からの壁蹴りで、一気に塔を駆け上がる。

 

そして一同が塔の外郭から内側を見た時に居たのは、塔の中腹より下の付近に在る広めのバトルフィールドに、まるで『天女』の如く在る人型の、されど明らかに『人』ではない者がいた。

 

ドレスとも羽衣とも見て取れる其れは、優美な貴婦人に見え。其の造形からモデルとなった生物は、流氷の天使やら氷の天使との異名を持つ、クリオネであると一目で此方に伝えてくる。

 

透明な寒天ゼリーに似た素材で、人の形を作ったかのような封将…………『クリーオー・クティーラ』は、此方に降りてきたサンラク・アイトゥイル・秋津茜・シークルゥ・アラバに気付き。ふわりと朗らかな笑みを浮かべ━━━━━。

 

「ヒエッ」

「姿を変えた……いや、違うで御座るな」

「成程『擬態』……なのさね」

「アレが封将、魔法攻撃を弾いてしまう者だ……!」

『アラバ、ガンバる。ワタシも、ガンバる』

「なぁんて言うか、人外好きが萌えそうなモンスターっすね」

 

ぐぱぁ(・・・)と。頭頂部からリンゴを八等分にカットするかの様に、頭部が裂け開き。人の頭部に擬態していた触手こと『バッカルコーン』を八本畝らせながら、空中に浮かんで臨戦態勢を取る姿を目撃、各々言葉を溢す。

 

「…………先ず俺が避けタンクで、あのクリオネ女の攻撃を探ってみる。秋津茜は万が一に備えて空蝉(ウツセミ)の用意、シークルゥとアイトゥイルは秋津茜の護衛を。そしてメインアタッカーはアラバ、お前だ」

「俺がか!?」

「そうだ。此のメンバーの中じゃ、今一番の火力持ちのお前に任せたい………っと!攻撃が来た、全員散開!」

 

作戦伝達の最中、クリーオー・クティーラの八本のバッカルコーンが蠢き、かなりの速度でサンラク目掛けて襲い掛かってきた所を傑剣への憧刃(デュクスラム)でパリィ、パーティーは各々の得物を握って行動を開始したのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリーオー・クティーラ。クリオネをベースにクターニッドの反転の力によって、人の(かたち)へと姿を変えた封将の一角は、水中の特性が働くフィールドを優美に泳ぎながら、頭部に擬態していた八本のバッカルコーンを超スピード、其の上に当然の権利とばかりにホーミングで絡めんとする動きで、此方を翻弄してくる。

 

「うおおぉ!?」

「アラバ、此方に引き寄せろ!此のままじゃ捕まるぞ!」

『アラバ、もうスコしシタに!』

 

空を泳ぎバッカルコーンを避け、大太刀を振るって往なすアラバとネレイスに、サンラクが声を出す。バッカルコーンのスピードは厄介では有るものの、アラバ自身『魚人族(マーマン)の中でも立ち回りであれば、其処等の魚人族には負けん!』とレーザーカジキに豪語していたらしく、其の言葉通りバッカルコーンの攻撃を往なしては、此方に引き寄せてきている。

 

「アラバさん、サンラクさん!攻撃の隙を作ります!」

 

小太刀か包丁か、秋津茜が己の目の前で斬撃の軌跡を描くや、クリーオー・クティーラの背後にて斬撃の『幻影』が炸裂。バッカルコーンを背後に居るだろう新たな『敵』に対して放つが、其処には『何も居ない』。

 

サンラクも使った、致命刃術(ヴォーパルじんじゅつ)水鏡(すいきょう)(つき)】。斬撃の幻影を産み出して、敵の背後にぶつける技だ。

 

「ナイスだ、秋津茜!」

 

バッカルコーンの動きが、クリーオー・クティーラの動きが、水鏡の月によって一瞬止まり。其の一瞬の隙を突く様にサンラクが神秘(アルカナム):愚者(フール)によって再使用時間を終えたグラビティゼロを起動。トライアルトラバースと共に塔の内郭を駆け上がり、傑剣への憧刃を引っ込めて煌蠍の尾鞭剣(ギルタ・アドラスカ)を展開。

 

己の胸に封雷の撃鉄(レビントリガー)を叩き付けて、壁から跳躍。ダーティ・ソード及び一振両断(いっしんりょうだん)のコンボによって、八本のバッカルコーンを荒々しく纏めて仏陀斬る。

 

『━━━━━━━━!!??!?』

「アラバ!両腕と尾鰭を斬り飛ばせ!」

「解った!行くぞおおおお!!」

 

胸に叩き付け十秒手前でサンラクが古雷を解除し、入れ替わる形でアラバが水中を泳ぐように加速。ネレイスが宿る大海峡(だいかいきょう)の三連斬りが、封将の両腕と尾鰭を斬り飛ばし、水中での泳ぐ為のバランスを失ったクリーオー・クティーラが地面に落ちて。

 

「今だァ、全員でフルボッコじゃあ!」

「魔人斬ッッッッ!」

「行くで御座る!」

「たぁぁぁぁ!」

「おおおおお!!!」

 

二羽の致命兎と半裸の鳥頭、一匹の鮫魚人とニンジャが最高火力を叩き付け、クリーオー・クティーラは身体を捩らせた後に、ポリゴンを崩壊させて爆発四散し。後にはクリーオー・クティーラの思われる素材と、『ブリオレットカットが施された掌サイズのペリドット』がドロップする。

 

「ボスドロップするんですね」

「みたいだな……にしても、何じゃ此の宝石は」

 

売れば大層な値段になりそうと思いつつ、サンラクは其れを拾い上げてチェックし━━━━━━言葉を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄緑の宝閠(ラムシア・ジュエル)

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の胴装備、天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)にセットされ、一式装備を稼働させる為に必要となる、神代の時代に開発された宝石型のエネルギータンク。

 

クターニッドが振るう『━━━━』。其の黄緑光は生きとし生きる、全ての命の『━━』を反転させる。其の光からは、誰もが逃れる事は出来ない。

 

此のエネルギータンクは『八つ』在る………其等を全て揃え、正しき場所に納めて輪廻させし時に、深淵の盟主と力を分けた鎧は目覚めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(わぁお。とんでもねぇ重要アイテム拾っちゃったよ………。こりゃアレだな、多分誰かさんのユニークシナリオが反映された結果だろうか…………。だがもっとヤベーのは、クターニッドの『反転』の力は『八種類』在るって事だ。

 

あのクリオネが魔法を無効化するってアラバは言ったから、他にも『スキル』を無効化する奴も確実に居る筈だ………。って事は、コレ以外にも宝閠が在るのか……一応探してみよう)

 

「サンラクさん、どうしましたか?」

「ん?あぁ、うん。此の宝石、結構重要なアイテムみたいでさ」

 

反転都市ルルイアスに在る、八つのエネルギータンク。内四つを封将各々が持っているとして、残りの四つは此の都市の何処に在るのだろうか?

 

其の刹那。クリーオー・クティーラが倒された影響か、塔が大きく揺れ始める。

 

「わわっ!?」

「な、何だぁ!?」

「い、いきなり何なのさ!?」

「此れは一体………!」

 

プレイヤーとヴォーパルバニー達が揺れに驚く中、空中に浮かび上がったアラバが、吹き下ろし部分から塔の内部を見ると、クターニッドの眷属として動く半魚人達がワラワラと殺到して来たのである。

 

「サンラク!奴等が塔の中に雪崩れ込んできたぞ!?」

「中ボス倒したら、此処はもうバトルフィールドじゃねぇってかい………!!ドロップアイテムは拾ったな!?さっさと脱出するぞ!」

 

秋津茜とシークルゥはアラバに抱えられ、サンラクはアイトゥイルを頭に乗せて、クリーオー・クティーラの塔から空中に飛び出し脱出するのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れは他愛もない姉妹喧嘩だった(・・・)

 

報・連・相の欠如からなるモノ。

 

或いは姉より先んじた妹に対するモノ。

 

そして横暴な特権の行使に対する、少なからずの抵抗であり。

 

恋する乙女の恋路を邪魔する者は、等しく馬に蹴られる運命(さだめ)

 

そして馬が居なかった為に、妹がブチギレた(・・・・・)

 

 

 

『玲ッッッッ!』

「私は……!姉さんの付属部品でもなければッ!!リードで繋がった犬でもありませんッ!!!」

 

 

 

其れは他愛もない姉妹喧嘩の筈だった(・・・)

 

だがそれは、漆黒の狼の。シャングリラ・フロンティアの一つの『クラン』にとっての。致命的な破綻であったのだから……………。

 

 

 

 

 






落としたのは、一式装備のエネルギータンク。

そして、頂点が割れる





着電300件でレジギガスちゃんがキレた





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情報を共有し、開拓者達は答えを導く



セーブポイントに帰還して




「どーしよっかなぁ……」

 

魔法攻撃無効の封将 クリーオー・クティーラの討伐、そして深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の起動に必要なエネルギータンクの一つを入手したサンラク一行は、ゾンビパニックや人魚の妨害に逢いながらも、セーブポイントへ帰還していた。

 

「取り敢えずバッカルコーン討伐は報せるとして、だ。他の封将が何を無効化するのかは、確認しとかなきゃ駄目だな」

 

魔法を無効にする事から、先ず間違い無くスキルを無効にする封将は居る。そしてクターニッドは反転の力を行使、理を超越して死をも覆してしまう超常存在。其れに勝つには、残りの塔に座す三体の封将討伐は、絶対必須案件だろう。

 

「スキルと魔法………八つのエネルギータンクに八つの反転………。元々の物を変えられるって事は、奴は何を『対』にして反転させている?」

 

対極(・・)━━━━━其れがサンラクが考えるクターニッドの力の『根幹』に当たる物への『予想』だった。水と油、陰と陽、表と裏、そして磁石の極。反転には『二つの要素』が成立していないと、其の出鱈目極まる超常能力は使えない。彼はそう考えているのである。

 

「サンラクさんが、まぁた変な事をぼやき始めたですわ………」

「ふむふむ……サンラクはんも考えるのが好きなのさね」

「何だかよく解りませんけど、迷ったなら突撃しましょう!」

「死にに行く事は、ヴォーパル魂とは言わんで御座るよ秋津茜(アキツアカネ)殿」

「策無しの突撃はどうかと思いますよ…………」

「ぼ、僕様は一刻も早く此処を出たいぞ!」

「一先ず封将の一角は崩せたが……」

 

今居るプレイヤーとNPCが色々と言っている。

 

「…………俺達が見ている此の視界、其の何かを変えられたりとか?…………出来なくは無いか、クターニッドなら」

 

取り敢えずの結論を出したサンラクは、バッカルコーンことクリーオー・クティーラ討伐の報告をする事とし、秋津茜を含むユニークシナリオ参加メンバーで連絡が着く全員に、新しいチャット部屋『ルルイアス攻略最前線』を作り、パスワードを転送。

 

其の時のメンバーのやり取りが此れである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ルルイアス攻略最前線】

 

サンラク:えー、先程クリオネ女こと魔法無効能力持ち封将 クリーオー・クティーラを俺と秋津茜、アラバ・アイトゥイル・シークルゥの五人でブッ飛ばしてました

 

秋津茜:倒してきました!触手が八本、高速で飛んできました!

 

レーザーカジキ:お魚さんを冒涜するモンスターとも戦いました!

 

ペンシルゴン:おつかれ。どうだった?

 

サンラク:正直に言うとバッカルコーンの絡み付け攻撃が早いだけの紙装甲だったわ

 

サンラク:何て言うか………寒天ゼリーみたいな防御力

 

オイカッツォ:きゅうけーい

 

ペッパー:御昼休憩

 

京極:僕も休憩時間

 

ルスト:防御力は低かったの?

 

モルド:参加です

 

サンラク:お、来たな

 

オイカッツォ:で、クリオネブッ飛ばして何か出たのか?

 

ペッパー:サンラク、説明頼む

 

サンラク:大剣でバッカルコーンは仏陀斬れたし、クリオネ女の本体自体も硬くも無かったわ。ドロップアイテムはクリオネ女由来の物、後は………ルストとモルド、二人はクランに入る気は有るか?

 

ルスト:ん?

 

モルド:へ?

 

ペンシルゴン:ん?

 

京極:おや?

 

オイカッツォ:ん?

 

ペッパー:?

 

秋津茜:サンラクさん?

 

レーザーカジキ:?

 

サンラク:ロボットをクラン所有にするつもりだが、参加するか?あぁ、一言付け加えるならノルマ的な物は一切無い。此の情報は話すにしても秘匿して欲しいんだわ

 

ルスト:つまり、其のクランに入れば………ロボットを扱える、と?

 

サンラク:そゆこと。どうする?

 

ルスト:解った、参加する。其の情報も秘匿する

 

モルド:僕も良いかな?

 

サンラク:という訳なんだが、ペッパー

 

ペッパー:即決かよ………まぁ、スカウトするつもりだったので、歓迎します。で、だ………サンラク。其の情報とは?

 

サンラク:クターニッドの一式装備を動かす為の、八つ有るエネルギータンクの内の一個を手にした

 

ペンシルゴン:うん?

 

オイカッツォ:マ?

 

京極:え?

 

レーザーカジキ:へ?

 

ルスト:一式装備………パワードスーツ?

 

モルド:其れ本当?

 

秋津茜:黄緑色の宝石です!

 

ペッパー:マジか………封将倒すと一個出るのか………

 

ペンシルゴン:………………ねぇ、あーくん。其の口調から察するに、君もサンラク君が手にしたのと同じ宝石を持ってるのかな?

 

オイカッツォ:マジ?

 

ペッパー:相変わらず察しが良い…………。何れにせよ、コレに関しては話すつもりでいたし

 

ペッパー:深淵を見定む蛸極王装、読みをオクタゴラス・アビスフォルガ。クターニッドと力を分けた一式装備で、俺は変な女性の石像に嵌まっていた物からゲットした

 

ペッパー:色は緑と紫、因みに石像の奴は謎解きをしなきゃ手に入らなかった

 

ペッパー:緑はエメラルドで、目を閉じて引っこ抜いたらゲット。紫はアメジストで、回復ポーションを振り掛けたらゲット出来た

 

サンラク:……………紫が想像以上に悪辣過ぎて草枯れたわ

 

オイカッツォ:紫の能力エグくね?

 

京極:ヤバいね、其れ

 

レーザーカジキ:えっと……どういう事ですか?

 

ルスト:…………回復の反転

 

モルド:あ、そうか!そういう事か!

 

ペッパー:そう。紫は回復を反転させる。ダメージを与える行為が回復へ、回復する行為がダメージへ変わる

 

ペンシルゴン:毒とかのスリップダメージもリジェネに変わる感じかぁ……。エグいなぁ、其れは

 

サンラク:となると、回復ポーションは残しときたいな。万が一って事があるだろうし。ルルイアスの魚は食べると回復出来る奴が有るって、アラバの鑑定で判明したからな

 

ペッパー:………でだ。多分なんだがクターニッドを撃破すれば、確定で世界の真理書と八つの要素を反転させられる何かを報酬として貰えると思う。其の中には性別反転も有るかも知れない

 

レーザーカジキ:性別反転……ですか?

 

オイカッツォ:マジかよ、クターニッド

 

京極:女性アバターが男性アバターになるって事?

 

秋津茜:凄いですね!

 

ルスト:モルドの性別変わった姿が気になる

 

モルド:えっと、今判っているのは魔法と視界と回復、あとは………スキルと性別も可能性に?

 

サンラク:其の辺りだな。正直、封将の一角がスキル無効能力だとして、残りは何を無効化してるのか解らねぇから、其れを確かめて見るわ

 

オイカッツォ:………ペッパー。其のクターニッドの一式装備、俺に一番で使わせてくれるなら情報渡す用意が有る………って言ったら。お前はどうする?

 

ペッパー:えっ?

 

ペンシルゴン:カッツォ君?

 

サンラク:お?

 

秋津茜:?

 

レーザーカジキ:へ?

 

京極:うん?

 

ルスト:?

 

モルド:?

 

ペッパー:………解った。話してくれ

 

オイカッツォ:女性の石像に嵌まってた、ブリオレットカットのサファイア、エネルギータンクの一つを俺は持ってる

 

ペッパー:……………マジか、ナイスだオイカッツォ

 

サンラク:青はネカマじゃなきゃ取れなかったタイプか………ユニーク自発出来ないくせに、絡んだら仕事はしやがるの流石総受け魚類だわ

 

ペンシルゴン:いやぁ、ファインプレーだねオイカッツォ君。ユニーク自発出来ないけど、要所要所で良い仕事をしてくれるよ

 

京極:ユニーク自発出来ない代わりに、局地的に仕事が出来るのって大事だもんね?

 

オイカッツォ:お?其処の外道三人組、遠回しで喧嘩売ってる?今なら大特価で買い取ってやるよ?

 

ペッパー:まぁまぁ、落ち着け。取り敢えず、オイカッツォはクターニッドの一式装備を手にしたら、ちゃんと一番乗りさせるから。ただ、装備ステータスが足らない場合が有るかも知れないから注意しといて

 

オイカッツォ:よっしゃ!……とは言い切れない、か

 

サンラク:装備出来ないに一票

 

ペンシルゴン:サンラク君に同意

 

京極:前二人に便乗

 

オイカッツォ:装備出来たら、キッチリ煽ってやるから覚悟しとけよ外道組………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、だ。秋津茜とレーザーカジキは此れからの予定は?」

 

話し合いの結果、クターニッドの反転の力の半数近くが判明した事でサンラクはチャット部屋から退出し、他の封将の能力を確かめるべく動き出す為、今居るメンバーの予定を聞いた。

 

「私は昼食と午後はテスト勉強をしてきます!」

「僕はアラバさんと少し話をします」

「私はサンラクさんに付いていくですわ!」

「ならワイは、シー兄さんと一緒にスチューデはん達の護衛兼留守番をするのさ」

「任せるで御座るよ」

「解った。各自武運を祈る」

 

そうしてサンラクはエムルを連れて、ルルイアスの四方に聳え立つ反射の塔の一つへと向かい、動き出したのだった………。

 

 

 

 

 






戦いは続く




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勇者はルルイアスに降臨し、招かれざる客と出逢う



いざ、シャンフロへ




「くぅぅ………ッ!疲れたぁ……」

 

午後三時半。コンビニのバイトを終えて、帰り道の途中に在るスーパーで買い出しを行った梓は、買い物袋と傘を持って雨が降り頻る中を、住居たるアパートへ向かって歩く。

 

サンラクが立てた、ルルイアス攻略最前線なるチャット部屋にて封将討伐と、情報交換に様々な事実の判明。ルスト&モルドのクラン:旅狼(ヴォルフガング)正式加入に、オイカッツォがクターニッドの一式装備の一番乗り決定等々、色々な事が有った。

 

(夕食迄に少し時間は有るから、シャンフロにログインしてクターニッドの一式装備起動に必要な、エネルギータンクの現物を撮影して、ルルイアス攻略最前線の皆に情報を共有しよう。あとは………座礁船エリアでまた財宝を探してみようかな?)

 

住居たるアパートに辿り着き、自室の扉を開いて鍵を閉める。手と嗽を洗い、トイレを済ませて水分補給から、食材を冷蔵庫に収納。布団を敷いて、ヘッドギアの動作チェックを行った梓は、布団へと寝転がってシャングリラ・フロンティアへとログイン。

 

セーブポイントたる建物の二階にあるベッドにて、梓はペッパーとして覚醒し、薄暗い室内にてゆっくりと身体を起こす。

 

「よっし、今日も今日とてシャンフロ頑張っていきましょうか!」

『ワンッ!』

「ワン?いや、今の鳴き声…………は?」

 

ピシッと頬を叩き、ベッドから降りようとした其の時。彼が耳にしたのは『犬』のような、或いは『狼』に似た鳴き声で。

 

周囲を見渡した先━━━━━━ベッドの近くの『影』に、仔犬サイズの『シベリアンハスキー』に似た黒毛白目のワンコが『おすわり』をしながら、尻尾をブンブンと振り。

 

目が合った自分に『出逢えた事に対する喜び』を表現しながら吠えたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何なのだコレは、一体何がどうなっているんだ?

 

其れがペッパーが、此の状況に対して抱いた感想である。何よりも自分は此の小さなワンコを『知っている』し、何ならつい先日に命懸けの『鬼ごっこ』をした間柄なのだから。

 

「…………アトランティクス・レプノルカ相手に、グランシャリオを使ったのが不味かったか……?何はともあれ、何でお前さんが此処に居るんだ。なぁ━━━━━━『夜襲のリュカオーン』?」

『クゥン♪』

 

タタッと駆け出しながらベッドに飛び乗って、胡座座りをするペッパーの胡座の空間にスッポリと収まった、ユニークモンスター。夜の帝王と謳われてNPCをも震え上がらせ、ワイバーンをおやつ感覚で食い殺し、ゴーレムを道端の小石の如く扱う最強種の一柱。

 

其れが何を思って、クターニッドの本拠地たる反転都市ルルイアスにやって来たのかが、彼には解らなくなり。

 

「ペッパーはーん、目覚めたみたい………な?」

 

そして此のタイミングで階段を跳ね登って、アイトゥイルがやって来て。胡座座りをしている彼のスペースに仔犬サイズのリュカオーンが居る事に気付き、口が開きっ放しになってしまう。

 

「ペ、ペペペ、ペッパーはん!?何でリュカオーンと一緒に居るのさ!?」

「アイトゥイル、実はな………」

 

アイトゥイルの驚愕の表情を前に、彼も頭が痛くなりながらも、努めて冷静に相棒たる彼女へと説明をしていく。

 

「……………という訳なんだが」

「はぁ………ペッパーはんの破天荒っぷりは、今に始まった事では無いのさ。ただ『カシラ』がコレを見てどう思うのかは、ワイも知らないのさね」

「だよねぇ…………」

 

アイトゥイルはペッパーとの付き合いから、もう下手な事では驚かないといった表情で、やれやれと首を横に振って。ペッパーは非常に遠い目をしていると、リュカオーンが『二足立ち』して彼の顔を見つめてくるや、目の前に『画面』が現れる。

 

 

 

 

『夜襲のリュカオーン(分け身)をテイムしますか?【Yes】or【No】』

 

 

 

 

テイム………其れはシャングリラ・フロンティアにおいて、モンスターや動物を手懐け・飼い慣らす事を指す。以前にシャンフロのwikiを確認した所、現在のテイム可能な存在はバディドッグ・バディキャットの二種類のみ。大型アップデートによって『新職業(ジョブ):ライダー』が追加されれば、今まで手出しが出来なかった『大型モンスターや大型動物』をテイム可能になる。

 

「えぇ…………」

「ペッパーはん、どうしたのさ?」

「なんかリュカオーンの分け身を、テイム出来るようになったんだけど」

「えぇ………」

 

ペッパーもアイトゥイルも唖然になりながら、大きな欠伸をして丸くなった、小さな分け身たるリュカオーンを見る。

 

(………というかコレ、分け身とはいえユニークモンスターを『テイム』したって、シャンフロ史上前代未聞の大事件でしょ。……………どう考えてもテイムしなくちゃ、二次被害撒き散らす可能性が高いでしょ………)

 

頭を抱えながら、ペンシルゴンからのオハナシにクラン:旅狼(ヴォルフガング)への説明等、此の先に起こりうる事を想像しつつ、彼はYesボタンをタッチ・リュカオーンのテイムを承認する。そして当のリュカオーンは嬉しそうに『ワンッ!』と鳴いて、ペッパーの身体に自身の身体を擦り寄せてきた。

 

「アイトゥイル、俺ってユニークモンスターに好かれる特異体質だったりするん?」

「ワイにも解らないのさ………多分そういう星の元に産まれてきたと、割り切るしか無いのさね」

 

だよなぁと、ペッパーは遠い目になりながら小さな分け身を抱き上げ。彼はテイムした証たる『名前』を与えた。

 

「名前は……『ノワ』。黒の『ノワール』から取った名前。今日からお前の(あざな)だ」

『ワンッ♪』

 

ペッパーが名付けを行った事がトリガーになったのか、彼の前には新たなウインドウが表示される事になる。

 

 

 

 

『夜襲のリュカオーン(分け身)をテイムしました』

『パーティーに『テイムモンスター・ノワ』が加わります』

『ユニークシナリオEXの条件を満たしました』

『ユニークシナリオEX【黒は始まり、闇皇へ至る】を開始しますか?【Yes】/【No】』

 

 

 

 

 

完全に想定外所か、新たなユニークシナリオの発生によって目眩が生じながらも、ペッパーは此れを受注し、彼は無言で立ち上がると、リュカオーンの分け身───『ノワ』は彼の足元に在る影に飛び降り、寄り添いながら付いて来るのを見た事で、今現在が昼間で有る為に影の範囲内に居ないと、己の存在を維持出来ないのではと考える。

 

其処でアイテムインベントリの中に収納されている奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)を取り出して頭装備以外の全てを変更。小さなリュカオーンが昼間でも動ける範囲を広げる事にした。そして彼は、アイトゥイルとテイムしたリュカオーンと共に、封将攻略へと動き出す。

 

尚、一階に居たアラバ・レーザーカジキ・シークルゥ・スチューデは、騒ぎを聞き二階へ駆け付け。ペッパーがリュカオーンを引き連れてる事に対して驚愕で狂乱し掛けたので、理由を説明した所で全員纏めて引っくり返る事となったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレがアラバさんの言っていた『半魚人ゾンビ』、そして上に居るのが『人魚』、か…………」

「そうなのさ。アレに見付かったら、何処からともなく大量発生して、雪崩れの様に襲い掛かって来るのさ」

 

大混乱のセーブポイントから出て、建物の影やフィールドの死角を縫い、アイトゥイルとリュカオーンをコートの中に抱えるペッパーは、都市を彷徨い歩き続ける半魚人の一個小隊を建物の角から見て、空を優雅に泳ぐ数人の人魚達を見上げて呟く。

 

アラバ曰く『人魚の歌声には足を重くする力が有る』との事らしく、其の歌声に釣られて半魚人が無尽蔵に殺到するという、誰の目にも明らかなハメ殺しと解る『凶悪コンボ』をぶつけてくるらしい。

 

「クターニッド、やっぱりそう簡単に攻略はさせてくれないよな…………。俺の『愛呪(あいじゅ)』にサンラクの『刻傷(こくしょう)』、秋津茜の『呪い(マーキング)』みたいなデバフに耐性を持ったプレイヤーか、対デバフ装備持ちが偵察。人魚を遠距離攻撃で倒したりしないと、正直探索もキツイだろうな………」

 

リュカオーンとアイトゥイルをコートの中に入れ、反転都市ルルイアスの街並みを駆け抜けながら、時折別の建物に身を隠して息を殺し、アイトゥイルの耳や自身の感覚強化系スキルで索敵を行い、彼は移動を続けていく。

 

「さぁて、封将の能力を確かめるとしよう」

「はいさ」

『ワンッ』

 

色々とヤバい爆弾を抱えながらも、ペッパーは其れにも負けないよう、ルルイアス攻略のモチベーションを高める。彼が訪れた塔、其処にはサンラクが遭遇した『アンモ騎士(ナイト)』こと『アンモーン・オトゥーム』が待っている………。

 

 

 

 

 






其れは新たなる混沌をもたらす

小さな分け身を育てて、リュカオーンの本体討伐を目指そう!分け身に対する愛情や関わり合い具合により、ユニークシナリオクリア時の最終的なリザルトに関わるよ!

………なんだこの、超難易度のたまごっち。いやもっと言うなら、パンドラの塔 君のもとへ帰るまでか?






















夜襲『彼をルルイアスに引き込んだそうね?彼は私のモノだから、私の小さな分け身をルルイアスに送り込んだ。ついでにユニークシナリオも起こしたよ』
深淵『途中参加?パーティーの最大人数に押し込んでるんじゃないよ』
夜襲『ハ?アナタガヤッタンデショ?』
深淵『……………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。………あぁもう今回限りの特例で良いよ。代わりにシナリオのクリア難易度跳ね上げるけど、そっちの異論は認めない。OK?』
夜襲『ハ?ドウイウコトカナ?』
深淵『其のままの意味ですが、ナニカ??』
天覇『報酬はどうする気?』
不滅『あんまり難しくするなよ?』
墓守『イレギュラーにも程がある………』
深淵『聖杯を増やすのは確定、あとは………其の聖杯は『アレ』にしよう』
天覇『………あぁ『アレ』か。良いんじゃないか?』
無尽『また母親達に怒られそう…………………』
冥響『……………そうね』








ジズ『何やってんのかね、夜襲のバカチン』
リバイアサン『其れは其れとして深淵からの議題、あっちに送ったよ』
ベヒーモス『ナイス』






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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~神々は揺れる、世界は変わる~



クターニッド攻略の其の中で




ペッパー達一行が、ユニークモンスター・深淵のクターニッドによって反転都市ルルイアスに引き込まれ、其処で様々な出来事に見舞われていた頃。

 

現実世界の(ユートピア)(エンターテイメント)(ソフトウェア)の地下10階に存在する『原典閲覧室』では、シャングリラ・フロンティアという世界を創り上げた創造神・継久理(つくり) 創世(つくよ)がディスプレイを睨み付け。

 

其の世界をゲームとして存在するのに、必要なレベルに落とし込んでみせた調律神・天地(あまち) (りつ)が、苦虫を噛み潰した様な顔をして。

 

そして此の双神の間を取り持ち、ゲームを破綻させない防波堤の役割を担う仲裁神・木兎夜枝(つくよぎ) (さかい)は、胃薬と妻の手料理の『二重の加護』を受けて尚も痛む胃痛と戦いながら、此れで数度目(・・・)の追い胃薬を服用して此の様子を見守っていた。

 

「はぁ………………ペッパー、やはりコイツは『ブラックボックス』に叩き込む事でしか、根本的解決方法は無いのかしら?」

「私情を持ち込むんじゃねェよ神様よォ………。少なくともコイツはリュカオーンとの約束を違わずに、宣言通りに戦い抜いた結果として、其のアバターに『愛呪(あいじゅ)』を受けた。…………其の事実は変わらねぇ、違うか」

原典(・・)にも其れに関する記載は在った(・・・)………でもだからといって、リュカオーンが其のプレイヤーを見続ける為に、己の『小さな分け身』をルルイアスに送り込み、あまつさえ自分からテイムされに行くなんて、完全に想定外の事態(・・・・・・)よ」

 

議題はペッパーにテイムモンスターとして加わり、行動を共にする事になった『ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン』の、小さな分け身の事。赤い刻印を刻み込み、己の所有物と外敵含めて全ての命に拭き込む其れは、ある意味では『シグナル』としても作用する。

 

其れが他のユニークモンスターと接触したなら警報となり、少しでも『ちょっかい』を掛けよう物なら、己の分け身を送り込む程に宿った寵愛の想いは強くなるのだから。

 

「ペッパー…………奴は規則(ルール)破りやチート、グリッチを一切(・・)使っていない。即ちコイツは自身の持つ力量と腕だけ(・・)で、此れだけの事をやって来たってのは『確信』を以て言い切れる。そしてサンラクもな」

 

天地の語る言葉に、創世は益々険しい表情を顕にする。此のままでは、幼稚園児の喧嘩じみたキャットファイトが勃発しかねないと、此処まで話を聞いていた境が口を開き、創世と天地に向けて質問を行う。

 

「………口を出すようで悪いが、ペッパーが手にしている『リュカオーンの一式装備』と『オルケストラの一式装備』を探すヒントに、其のリュカオーンのチビ分身は関係無い(・・・・)。違うか、創世?」

「其れは………そう、だけど」

「天地、チビリュカオーンは何かの『バグ』か何かか?」

「『リュカオーンのサーバー』からは異常は見られず、システムも正常に作動してる。調整班の報告にも全部目を通した」

「………少なくとも、大型アップデート時にペッパーに対する『修正』を加える事にはしておいて、だ」

 

境は大きな溜息を吐き、そして創世と天地に『資料』を渡して、こう言った。

 

「あの二人は『テスター』でも何でもない事も、過去ログ(・・・・)を含めて判明している」

 

其の資料には二人が此迄に購入・プレイしたゲームの一覧と、其処で用いた名前(PN)が在り。そして資料を見ていた天地の表情は、此迄以上に険悪な物へと変わる。

 

「………よりにもよってコレか、クソがよッ………!!!」

「あら、どうしたのアブラムシ…………嗚呼、成程ね。コレ(・・)は傑作だわ……フフフ」

 

其れ(・・)、は天地にとっての『最悪の呪い』であり。

其れ(・・)、は創世にとっては『酒の(ツマミ)』。

 

決して消えない………天地 律(彼女)の『傷』。

 

「で、結局コイツは『何処の出身』なの?」

「………………『μ』、だ」

 

其れは只の『ギリシャ文字』、しかし僅か一文字に込められたのは『裏の存在』を示すモノ(・・)

 

「フフフ……『γのガンマン』に『φの野人』、おまけに『χのアサシン』に続き、此れで四人目ね」

「ぐっ…………!」

 

歯軋りする天地に、笑顔を浮かべる創世を見て、境は再び胃痛を受ける。

 

「気分が良いわ。ペッパーのブラックボックス送りは、一旦『保留』としましょう。其れから、彼等が挑んでいるクターニッド………『其の攻略難易度を上げるべし』とサーバー(・・・・)側から自己申告を出してきたわ」

 

彼女の一言に天地と境の視線が向く。創世はディスプレイの画面とキーボードを操作し、一画面を展開。其れはクターニッドを実装する際に施した、能力の制限を行った『ロック画面』だった。

 

「…………其の最終確認をする為に、私達を呼んだのかよ」

「そうよ。此の中から調律神様にとって、相応しい要素を確認して欲しいのよね」

「見せてみろ…………嗚呼成程な、ただ『新規聖杯解放は一つ』だけだ。他には『クターニッドの一式装備状態じゃない時に発光間隔の変動』、後は『全ての聖杯の耐久値上昇』と第四段階時の『吸引力の増大』だけだ。『形態追加』は無しでな」

「まぁ……………其れなら良いわ」

「一応確認を………よりにもよって聖杯は『ソレ』を選んだか、クターニッドは」

「フフフ……私の可愛いクターニッド、彼等を確り苦しめて頂戴な………」

 

プレイヤー達を招いた、ユニークモンスター・深淵のクターニッド。其れを構成するAIが神々に申請した『ソレ』を見て、三者三様の表情をしながらも『承認』のボタンは押された。

 

同時にクターニッドを構成するAIは、神託を受けた瞬間より『ボックス』に封じた、新たなる『反転の力』を解放するのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






解禁される、隠しコード




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~剣聖勇者と魔王勇者の会話~



其の頃、別の場所では


※少し短いです




シャングリラ・フロンティアという世界の、三つの神々によって世界が書き変わっていった其の頃。都内某所に在る、とある出版会社のカフェテラスでは、一人の女性が紅茶を飲んでいた。

 

彼女の名は天音 永遠━━━━日本が世界に誇るトップオブカリスマモデルにして、ティーンエイジャーの少女達の憧れの的が、プレーン味のスコーンを囓り、残った紅茶を飲み干し。雨が窓硝子を打ち付ける音を聞き、心を落ち着かせる。

 

「あーくん達も皆各々のペースで、ユニークシナリオを攻略しているみたいだねぇ………。あ~あ、私も早く帰ってログインしたいなぁ~……」

 

モデルとして今日の撮影の仕事も、あと少し時間が掛かる。ログイン出来るのは今日の夜になるだろうか?帰宅時間とルートを割り出すべく、アプリを起動した時だった。

 

「相変わらず太々(ふてぶて)しいな、永遠(とわ)

「あら、(もも)ちゃん。御仕事は一段落したのかい?」

「まぁ、な」

 

たゆんっと大きな胸が揺れ、茶短髪と会社のスーツに身を通した女性が一人、永遠に向き合う形で座る。彼女の名は『斎賀(さいが) (もも)』、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)のクランリーダーこと『サイガ-100』其の人である。

 

高校時代からの腐れ縁に当たる彼女()の表情は、何時に無く険しい物で。永遠は此の時点で、百は頭に血が上っている状態(・・・・・・・・・・・)であると確信。同時に嫌な予感を抱いており。

 

「…………夜襲のリュカオーンの『ユニークシナリオ』を、無断で進めたと言うのは本当か」

 

簡潔に直球で問いただしに来た百を見つつ、情報が何処から漏れたのかを永遠は思考する。

 

(確かレイちゃんとモモちゃんは、リアルじゃ『姉妹』だったっけ。となると漏れた可能性が有るのは、クターニッドによって反転都市ルルイアスに引き込まれた時に、レイちゃんだけ集合しなかった『あの時』かな?問題はどうやって『其の事実』を知ったかだけど、其れに関しては今は良い(・・・・)か……)

 

着電300件を叩き付けて聞き出した………等という事実は知らないものの、此の一言だけで九割方の真実に辿り着いた永遠は、鋭い目付きをぶつけてくる百へと、静かに答える。

 

「そうだねぇ、私達が()と出逢ったのは『偶然』でしかなくてさ。逃げても良かったんだけど、彼方さんが逃がしてくれる雰囲気じゃなかったんだよ。最終的にはメンバー全員の御膳立てと、レイちゃんの『切札』を用いて倒せた訳なのさ」

 

実際リュカオーンとの遭遇戦は偶然の元に発生したし、旅狼(此方)のサポート&最大火力(サイガ-0)の切札たるアルマゲドンが有ったからこそ、勝利へと至れたのは否定しない。

 

付け加えるなら戦術機獣の持ち込みに、レーザーカジキ&秋津茜(アキツアカネ)の合体コロニーレーザー砲撃による雲の物理的な取り払いで、理想的なフィールドの構築。

 

そしてペッパーの武器・グランシャリオによるヘイトコントロールと、サンラク&ペッパーの最大火力をぶつけて、アルマゲドン発動に漕ぎ着けた事は、永遠は百に話す事は無い。

 

「其の話は『愚妹』から聞いた………。寧ろ此処から(・・・・)が、私にとっても聞きたい事でもある。━━━━━━『リュカオーンのヘイトを集められる武器』、其れを所持しているのは『事実』か」

 

リュカオーン絡みになると、サイガ-100は誰よりも面倒臭くなる………酒の席で愚痴を幾度と無く聞いてきた永遠であるからこそ、此の話によって『此の先に待ち構える運命』が決定した気がしたのだ。

 

「……………うん。持ってるよ」

「そうか。ならば話が早『渡さないよ』………」

 

永遠の目からハイライトが消え失せる。其の瞳にはリュカオーン以上の漆黒を纏い、親友たる百に向けて宣言したのだ。

 

「彼は『私の彼氏(モノ)』だから。例え百ちゃんが相手でも、彼の持ち物も彼自身も。絶対に『アゲナイ』から」

 

数秒の沈黙、そして百が永遠に対して言った。

 

「フッ………まぁ良いさ。此方も譲るつもりは毛頭無い。『戦争』をしてでも、私の所に引き込むだけだ」

「ヘェ…………?解ってるとは思うけど、御宅等が本気なら此方も此方で徹底的にヤるよ?覚悟は有るのかな?」

「無論だ」

 

そう一言述べて、百は離席して行き。永遠は百が完全に見えなくなった所で、ふぅ………と溜息を付いた。

 

「やれやれ……此れは明日辺りに電話が着そうだねぇ」

 

酒を飲んで寝れば大抵冷静になって立ち直れるのが、斎賀 百の長所である事を天音 永遠はよく知っている。シャンフロをプレイし、リュカオーンと出逢い。幾度も敗れ続けても尚、色褪せる事の無い『打倒リュカオーン』というモチベーションの炎を、時々羨ましいと思う程に。

 

(あーくんはそういうのに(・・・・・・)結構共感しやすいんだよなぁ……。ゲームを人一倍誰よりも真剣に楽しんでる彼なら、モモちゃんからの協力要請に承諾しそうな予感しかしないし)

 

やれやれといった表情で、永遠はクターニッドのユニークシナリオ攻略後には彼女が更に荒れそうだと予感を抱きつつも、夜のルルイアスで出てくるモンスターと戦い、『目標達成』に向けて緻密な計画を構築していくのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、彼女は。ペッパーがとんでもない爆弾を━━━━━『リュカオーンの分け身』をテイムしていた事を『知らなかった』。

 

そして其れが『更なる火種』に成る事を、誰も知り得ないのだから…………………。

 

 

 

 

 






戦争は避けられない




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半裸鳥頭&白兎は藤壺封将に挑む



ルルイアス攻略陣営の動き




ペッパーがログインし、夜襲のリュカオーンの小さな分け身をテイムしていた其の頃。サンラクとエムルはルルイアスの街並みを駆け、四方に鎮座する塔の一角へとやって来た。

 

「此処だな」

「はいな」

 

午前中に魔法能力を無効化する封将『クリーオー・クティーラ』を討伐し、クターニッドの一式装備を動かすエネルギータンク『黄緑の宝閠(ラムシア・ジュエル)』を獲得。ハッキリしたのは、封将全てを討伐並びにルルイアスの何処かに在る、女性の石像に埋め込まれた宝石型のエネルギータンクを探さなくては、起動出来ない事が判明したのである。

 

「さてと、此処に居るのはどんなヤツなのか………行くぞエムル」

「はいな!私も頑張っちゃいますわー!」

 

鞍馬天秘伝(くらまてんひでん)・グラビティゼロを起動、跳躍と塔の外郭を利用した壁蹴りで塔を登り、其の中腹付近にて魔法攻撃無効化封将(クリーオー・クティーラ)が居た場所と、同じくらいの広さのバトルフィールド…………其の中央に固まった『突起型の貝で全身を構築したような群体』の見た目をしたモンスターを、サンラク&エムルは発見した。

 

モチーフから察するに『フジツボ』と思われる封将━━━━『バーシュド=メルナクル』はサンラクを発見するや、全身のフジツボ達を動かし。フリットフロートで降りてきた一人と一羽を、目が何処に在るか解らないながらも静かに見つめている。

 

「アレが封将か………どう見ても『フジツボ』だな」

「全身貝だらけですわぁ……」

「取り敢えず戦ってみなくちゃ、何を『無効化』するのか解らねぇもんなぁ!ヨッシャブチ咬ます!」

 

傑剣への憧刃(デュクスラム)を両手に、バフスキルを点火。エムルを頭に乗せたまま、サンラクが先制奪取とばかりに藤壺群体へ刃を振るうが、突如として貝の口から『藤壺の幼生達』が大量発生、英傑へと届かずとも手を伸ばす其の刃を止めて、本体を守ってしまった。

 

「うえっ!?何其の突発ガード!?エムル!」

「【マジックエッジ】ィ!」

 

至近距離の物理攻撃が効かなかった事から、即座に魔法攻撃の指示をエムルに出し、白兎の魔術師は魔導書を翳して魔力の刃を叩き付ける。だが其の攻撃もまた、他の箇所から発生した幼生達による差し込み(インターセプト)に阻まれ、防がれてしまう。

 

「ダメですわ!!攻撃が届かないですわ!」

「ちぃっ!……って何じゃ其のジェット噴射は!?」

 

バックステップで距離を取ったサンラクに、群体藤壺は背中の貝口から水を噴射。ジェット機に似た加速を乗せつつ、右腕を構成する藤壺達を増殖させながら殴り掛かって来たのだ。

 

「うおぉッ!?」

「ぴぃいいいい!?」

 

回避した二秒後、藤壺の巨大拳が叩き付けられた。増殖した藤壺による攻撃面積の増大、各部の貝口からの水の噴射を用いた急加速、そして近接攻撃を防ぐ藤壺幼生での防御。

 

魔法攻撃の無効にしてきたクリオネ封将より、格段に厄介な相手だとサンラクは思いつつも、何を無効化しているのかを確かめなくてはならないと理解し、エムルに指示を出す。

 

「なろっ、コイツと戯れてろ!エムルは少し離れた場所からマジックチェーンをブチ当てろ!!」

「任せて下さいですわー!」

 

ウツロウミカガミ起動。残像(ヘイト)を置き去りにしながら距離を取り、エムルを離れた所に置いて。群体藤壺の背後に回って斬り掛かるも、三度目の幼生ガードで攻撃が届かない。

 

「嘘だろ、全方位防御完備かよ!?」

「行きますわ!【マジックチェーン】!」

 

幼生ガードに斬撃が阻まれたサンラクに対し、離れた所からエムルが放ったマジックチェーンが、藤壺封将の右腕に飛んで行き。幼生ガードが発生(・・)せず(・・)に、右腕関節部に『絡まり付く』。

 

「やりましたわ、絡まりましたわ!」

 

近接での斬撃や魔法には幼生ガードが発生し、離れたマジックチェーンは発生しなかった…………絡み付いた魔力の鎖を藤壺の増殖で引き剥がそうとする封将と、エムルの間を目算したサンラクは其の距離が『およそ15m以上離れている』事を目撃。

 

「エムル来い、確り掴まれよ!ウツロウミカガミの再使用出来次第、今度は『10m外側』からマジックエッジを叩き込むぞ!」

「は、はいなぁ!」

 

エムルと合流し、ウツロウミカガミの効果が終了。狙いを定め直したバーシュド=メルナクルに、サンラクは両手の傑剣への憧刃を煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)にチェンジ。

 

フォーミュラ・ドリフト起動で回り込み、其処から更に兇嵐帝痕(イデア=ガトレオ)(スペリオル)の起動、加速を重ね掛けながら、藤壺封将を置き去りにする形で一周。アガートラムにハリケーン・ハルーケンを乗せた右ストレートを繰り出すものの、やはり幼生達が発生して攻撃を邪魔される。

 

(至近距離の物理・魔法に幼生ガードが発生したのに、エムルのマジックチェーンにはガードが発生しなかった。いや、もしくは『発生出来なかった』って可能性も有る……エムルのマジックエッジで、其のカラクリを解き明かす!)

 

煌蠍の籠手による至近距離の連撃を藤壺の壁に阻まれながら、神秘(アルカナム):愚者(フール)により再使用時間(リキャストタイム)が半減となっているウツロウミカガミの利用可能を待ち、ジェット噴射と群体増大化した左拳を()わして、ヤクザキックを繰り出すが、此れもまたガードに阻まれる。

 

「ちぃっ……!だが、漸く再使用時間を終えた!エムル!」

「何時でも良いですわ!」

「OK、じゃあ『答え合わせ』の時間と行こうや!」

 

煌蠍の籠手より傑剣への憧刃へチェンジ。ウツロウミカガミの起動と共に、サンラクは目算で『10m以上』の距離を取る。残されたサンラクの残像を殴りまくる、藤壺封将を見ながら、彼は当初の予定通り作戦を決行した。

 

「エムル、やれ」

「【マジックエッジ】!」

 

魔術書から魔力を帯びる刃が飛び、其の切っ先は真っ直ぐに進み、藤壺封将の身体に直撃(・・)して、其の身から裂傷によるダメージが、青白いポリゴンとなって身体から放出される。

 

「サンラクさん!ダメージが通りましたわ!」

「ッシャア、ビンゴ!フジツボ(テメェ)が幼生ガード出来るのは、自分から『10m以内』で放たれた攻撃だけだッ!ザマァ見やがれ!」

 

そう………藤壺封将ことバーシュド=メルナクルを何度も何度も、しつこく至近距離から殴り続けては幼生ガードにより阻まれ、エムルが離れた場所から放ったマジックチェーンとマジックエッジにはガードが発生しなかった事で、サンラクが辿り着いた『答え』━━━━其れが前衛職を否定する『近接攻撃無効』だった。

 

反転というシンプルで凶悪極まり、超常の権能(チカラ)を振るう、ユニークモンスター・深淵のクターニッド。魔法・スキルという表裏一体の要素を無効化する封将が居るように、此の藤壺封将とアンモ騎士に残り一体の封将の何れかが、後衛の物理職・魔法職の存在を否定する、『遠距離攻撃無効化能力』を宿していると結論付けたのだ。

 

「とはいえ、此方は『攻撃の手数』が足らねぇ……!ルスモルコンビか、秋津茜かレーザーカジキの魔法攻撃が欲しい……!エムル、MPは?」

「ポーションが有れば、何とかやれなくもないですわ。でもあの群体貝が、其れを許してくれなさそうですわ………」

 

「だよな」とバーシュド=メルナクルに視線を向ければ、マジックエッジの一撃が相当腹に据えた様で、貝口ジェット噴射をしながらの殴り付けを仕掛け。サンラクは其れを持ち前の動体視力で往なしつつ、煌蠍の籠手を収納。右手に傑剣への憧刃を、左手にインベントリアからマナポーションを取り出し、エムルに渡しながら宣言する。

 

「攻略法が判った状態で撤退なんて、味気無い戦いはしたかねぇよなァ?エムル」

「はいなッ!」

「やってやるよフジツボ、こちとら避けタンクなんだ。遠慮無くテメェをブッ飛ばす」

 

肩に乗せたエムルへとマナポーションを手渡し、サンラクは片手剣の切っ先を向けたのだった………。

 

 

 

 






辿り着いた反転能力の答え




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勇者と獣一行は、巻貝の騎士と刃を交える



一方のペッパー




サンラクとエムルが反転都市ルルイアスの一角に座す、藤壺封将ことバーシュド=メルナクルに戦いを挑み、其の反転の能力に気付いた頃。

 

ペッパーは相棒のヴォーパルバニーたるアイトゥイルとテイムしたリュカオーン(分け身)を抱えて、ルルイアスの別の塔の外壁をグラビティゼロ・頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)、そしてファウラム・チャージングの三種のスキルを点火し、駆け上がっていた。

 

「よっ、ほっ、せいっ………!アイトゥイル、ノワ。相手が何をして来るか俺達は知らないから、気を付けて行こう」

「はいさ」

『ワンッ』

 

外壁を駆け、上へ上へと登って行けば、見えてきたのはバトルフィールド。其の中央に居たのは『全身を貝殻の甲冑で武装』し、頭の部分に『巻貝』を乗せて触覚とも呼ぶべき触手足を畝らせる西洋騎士めいた姿の『アンモナイトの魚人』─────エンカウントした事で『アンモーン・オトゥーム』と名前が表示された。

 

「アレが封将ってヤツなのさね、ペッパーはん」

「みたいだな……何て言うかアンモナイトならぬ『アンモ騎士(ナイト)』か、見た目は」

『ワゥ?クゥン』

 

塔の上側に存在し、外と中を繋ぐ人が一人通れる戸口から中を見下ろし言うと、巻貝封将が此方に気付いた様で、腰から右手にレイピア・左手にカトラスを装備し、戦闘態勢を取ってくる。

 

「レイピアにカトラスの『二刀流』か、なら此方は『四刀流』だ」

 

インベントリアから取り出し、ウェザエモンの一式装備たる悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)を全身に、インベントリアから取り出して両脚に纏うは、更なる強化を施した甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)【改八】。

 

左手には轟斬型(ゴウザンガタ)太刀(タチ)(シキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)を取り出し右腰に差し、右手で星皇剣(せいおうけん)グランシャリオを取りて鞘を握り締め、リュカオーンの愛呪の持つ装備不可の制約を一時的に取り払い、両刃共に引き抜いて巻貝封将に鋒を翳す。

 

「俺が注意を引き付けるから、アイトゥイルは隙を見つつ遠距離から酔伊吹と『アレ』を。ノワは影からあのアンモ騎士の様子を見て、何か変化があったら吠えて教えてくれ」

「はいさ!」

『ワンッ!』

「よし、じゃあ行くぞ!」

 

塔の内部に在る影にノワを置き、ペッパーの肩からアイトゥイルが離脱、ペッパーは巻貝封将のアンモーン・オトゥームとの戦闘を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイピアという武器は、中世ヨーロッパ時代に貴族が決闘の為に用いた武器であり、現在では其の決闘を競技とした『フェンシング』で扱われている。

 

刺突の特性は『点』の攻撃であり、刀や剣の『線』の攻撃とは異なり、其の一撃を受ける場合には凝縮された『一点集中』を面で受ける事になる。

 

其れが鎧の薄い箇所─────例えば騎士兜の視界を確保する部分や、鎧の構造上どうしても薄くせざるを得ない首や手首、足首に膝と肘の関節部で受けようなら、貫かれて内部を抉られてしまう事も有る為、決して侮ってはならない。

 

「暗殺者もターゲットを殺す時、迅速が『モットー』だからな。そう考えると刺突攻撃は『シチュエーション』が整えば、本当に優秀な攻撃手段だ」

 

人体の急所及び関節に食らえば間違いなく死ぬだろうレイピアによる『鋭い刺突攻撃』を刀の棟部分でずらし、其れとは真逆に御世辞にも良いとは言えないカトラスの『生物的なブン回し斬撃』は受けずに回避。

 

「アイトゥイル!」

「はいさ!【華魔威断(カマイタチ)】ッ!!!」

 

ペッパーが隙を作り、アンモーン・オトゥームの背後を取ったアイトゥイルが、己が得物にして薙刀たる嵐薙刀(らんなぎなた)虎吼(とらぼえ)の刃先から、翡翠のオーラを纏う『裂傷確定付与』を宿した、風属性・斬撃魔法が放たれる。

 

ペンシルゴンのバースデーサプライズの準備中に、エンハンス商会の会員エリアで売られていた巻物から購入、アイトゥイルに覚えさせた低燃費高火力を両立。

そこそこの再使用時間(リキャストタイム)を必要とする魔法だが、酔伊吹を使う為の酒が無い時に備え、ペッパーが彼女の戦闘方法拡張に習得させた物なのだ。

 

しかしそんな期待を裏切るように、飛ぶ斬撃の初陣はアンモーン・オトゥームを覆う貝殻甲冑に弾かれて、ダメージを与えられない。

 

「うぇ!?無効化されたのさ!」

「魔法は効かない……。いや、魔法無効化の封将はサンラク達が倒しているし、其の能力が他の封将に引き継がれる可能性が有るのか?」

 

大天咫でレイピアを弾き、グローイング・ピアスを使用。グランシャリオの特性を宿す刺突攻撃がアンモ騎士の貝殻甲冑を貫き、クリティカルと共にポリゴンが溢れ落ちる。

 

「スキルは効いた、じゃあ何でさっきのアイトゥイルの攻撃は効かなかった?」

 

アイトゥイルの攻撃を放った距離はおよそ『13m』は離れていて、対して自分はおよそ『3m』の距離感で巻貝封将と相対している。

 

「アイトゥイルは『10m内側から』酔伊吹を!ノワは俺の近くの影まで移動して!」

「はいさ!」

『ワゥ!』

 

バックステップで距離を取り、10mより外側から風暴鬼の飛脚(マルトリアス・レッグス)を甲皇帝戦脚の爪先に宿る刺突脚撃を飛ばし。アイトゥイルは10m以内から瓢箪水筒の酒を口に含んで魔力と混ぜて、火焔に変えた魔炎を放射する。

 

ペッパーが放った飛ぶ刺突脚撃は『弾かれ』、逆にアイトゥイルの火炎放射は『弾かれず』、触手や身体を焼かれたアンモ騎士がたじろいだ事で、ペッパーは此の封将が持つ『無効化能力』に気付いた。

 

「アンモ騎士……いや『アンモーン・オトゥーム』よ。お前が無効に出来るのは、自分から『10m以上離れた攻撃』のみ。即ち『遠距離攻撃無効』って訳か!」

 

スキルと魔法の二種類の要素を反転させ、無効化する封将が居るように。此のアンモーン・オトゥームと同じく『距離攻撃』を─────残りの二体のどちらかに此方とは比較にもならない、前衛の物理職・魔法職を機能不全に追いやる、『近距離攻撃無効』持ちの封将が居る事になる。

 

「攻略法は導けた、後はコイツを俺達の持てる力で攻略する……!アイトゥイル、ノワ、行くよ!」

「了解なのさ!」

『ワゥ!ワゥ!!!』

 

大天咫とグランシャリオを構え、薙刀を構え、牙を向き唸る。ペッパー達とアンモーン・オトゥームの戦いは、更なる熱を帯びていく………。

 

 

 

 






解き明かした封将のチカラ




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半裸は藤壺を超えて、勇者は真相を知る



各々の決着




反転都市ルルイアスの四方に建つ塔の一角、藤壺封将ことバーシュド=メルナクルと、サンラク&エムルのコンビの戦いは佳境に迫っていた。

 

「はい、其れ()なんだよなぁ!」

 

金晶独蠍の素材を用いて造られた、甦機装(リ.レガシーウェポン)煌蠍の尾鞭剣(ギルタ・アドラスカ)の持つ蛇腹剣としての特性により、伸びた刀身がジェット噴射によって加速する藤壺封将の脚を絡め、ローション床を踏み抜いた様に派手なスッ転びを披露する。

 

「エムル!」

「マジックエッジ!!!」

 

そして無防備となった背中に10m以上離れた場所から、エムルがマジックエッジを放ち、其の背中に魔力の斬撃を叩き付けるや、ポリゴンが飛び散って藤壺封将にダメージが入る。

 

既にエムルのマジックエッジを数発、サンラクの投擲スキルのパドロン・スローにより投げられた、片手剣やツーハンデットソードを受けたバーシュド=メルナクルの背中には無数の切り傷と、突き刺さった剣によりズタボロとなっていた。

 

此の藤壺封将は転倒耐性が『絶無』に等しく、ジェット噴射による突撃時にサンラクがふと、煌蠍の尾鞭剣を脚に引っ掛けてみた所、思いっきりスッ転んだ事で判明。其れによって、効率的にマジックエッジを叩き込める様になり、更にはマジックチェーンの止まった隙を投擲攻撃の練習にも利用出来たのである。

 

「まぁ、タネが判れば封将は前衛後衛一名ずつでも対処可能な感じか………。エムル」

「はいな、デカいのぶつけますわ!」

 

ウツロウミカガミ起動、藤壺増殖ナックルを残像に押し付けつつ、10m以上の距離へと退避。同時に加算詠唱(アッド・スペル)で威力・ダメージ補正・範囲を増大させた、マジックエッジの斬撃が残像の消滅から数瞬の間を置いて放たれ、藤壺封将の背中に一際大きな切り傷とポリゴンの噴出。

 

そして─────ギミックの解き明かしも含め、およそ三十分に渡る戦いの末に、藤壺封将ことバーシュド=メルナクルは痙攣しながら倒れ伏し、身体を構築していたポリゴンが爆発四散。其の場には構成元となったモンスターの素材、そして『ブリオレットカットが施された掌サイズのルビー』がドロップする。

 

「シャア、討伐完了!」

「マナが切れそうでしたけど、私の大活躍ですわー!」

 

ハイタッチ、そして落ちたドロップアイテムを拾い上げるサンラクは、ルビーをインベントリアに仕舞ってフレーバーテキストをチェックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤の宝閠(レッドア・ジュエル)

 

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の胴装備、天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)にセットされ、一式装備を稼働させる為に必要となる、神代の時代に開発された宝石型のエネルギータンク。

 

クターニッドが振るう『────』。其の赤光は生きとし生きる、全ての命の『──』を反転させる。其の光からは、誰もが逃れる事は出来ない。

 

此のエネルギータンクは『八つ』在る………其等を全て揃え、正しき場所に納めて輪廻させし時に、深淵の盟主と力を分けた鎧は目覚めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(此れで俺が二個で、カッツォが一個、ペッパーが二個の合計五個で、内分けが石像三個の封将二個……時間は未だあるから、ルルイアスで稼ぎつつ捜索するとしようか)

 

「よし、エムル。一度セーブポイントまで帰るぞ!」

「はいな!」

 

藤壺封将討伐と、クターニッドの一式装備起動に必要なエネルギータンクを手にし、サンラク&エムルのコンビは意気揚々とセーブポイントに帰還するべく、塔を脱出するのであった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔人斬(まじんざん)ッッッ!」

『ワゥゥ!ガウァ!』

 

そして近距離攻撃無効能力を持つ藤壺封将と、対極の無効化能力たる『遠距離攻撃無効能力』を宿す巻貝封将こと『アンモーン・オトゥーム』に戦いを挑んだ、ペッパー達のパーティー。

 

遠距離攻撃が効かず、至近距離での攻撃は効く特性から、天将王装に身を包んだペッパーがタンクを担い、相棒のヴォーパルバニー・アイトゥイルと、リュカオーンの小さな分け身でテイムモンスターとなったノワが、各々立ち回り続け。

 

戦闘開始から約二十分、アイトゥイルの斬撃で巻貝封将が握るレイピアを持つ右腕を切り落とし、ノワの噛み付きで脚にダメージを与えた所で、ペッパーが静かに大天咫(オオテンタ)を、グランシャリオを鞘に納めて『あるスキル』を使う。

 

晴天流(せいてんりゅう)(かぜ)───始まりの太刀!」

 

其れはユニークモンスター・墓守のウェザエモンも使用した、晴天流の『風体系の奥義の一つ』にして、神速の抜刀居合『断風(たちかぜ)』に至る為の最初の技能(・・・・・)

 

スタミナを全て消費して、其の消費量が多い程に攻撃力・抜刀速度・踏み込みの距離が増大する、必殺の一刀。外したり仕留め損なえば、スタミナ切れで一時的に動けなくなる、そんなハイリスクハイリターンの二面性を宿した大技。

 

其の居合()の名を─────。

 

 

 

疾風(はやかぜ)ッ!!!」

 

 

 

二刀流で繰り出した抜刀・抜剣の渾身たる斬撃が、貝殻の騎士甲冑を打ち破って、アンモーン・オトゥームの身体へ『Xの斬撃痕』を刻み付け。ペッパーの手には封将に致命傷を与えたと、刀と剣が教えてくれた。

 

同時にアンモーン・オトゥームを構成するポリゴンが揺らぎ、身体が崩壊を始めた。

 

「封将が一角、アンモーン・オトゥームよ。風すら貫く高速の刺突は、模倣したいと思う程に凄まじく、そして美しかった。戦って下さり、ありがとうございました」

 

ペッパーの言葉と同時にアンモ騎士の身体は崩壊。そして其の場には『ブリオレットカットが施された掌サイズのシトリン』と『赤い鯨が刻まれたカトラス』、そしてアンモーン・オトゥームの素材と思われる『大きなアンモナイト』がドロップする。

 

「ペッパーはーん!」

『ワゥウ♪』

「二人共、お疲れ様」

 

戦いを終えて、アイトゥイルとノワの頭を撫でたペッパーは三つのドロップアイテムを見ながら、アンモナイトをインベントリアに仕舞いつつ、クターニッドの一式装備を動かす為のエネルギータンクであろう其れを拾い上げ、フレーバーテキストをチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橙の宝閠(オレンス・ジュエル)

 

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の胴装備、天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)にセットされ、一式装備を稼働させる為に必要となる、神代の時代に開発された宝石型のエネルギータンク。

 

クターニッドが振るう『────』。其の橙光は生きとし生きる、全ての命の『──』を反転させる。其の光からは、誰もが逃れる事は出来ない。

 

此のエネルギータンクは『八つ』在る………其等を全て揃え、正しき場所に納めて輪廻させし時に、深淵の盟主と力を分けた鎧は目覚めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(此れで三つ目………。今俺が持ってるのは緑と紫に橙、サンラクが黄緑のオイカッツォが青。八色だとするなら、他には何色が有るんだろうか……?)

 

そう疑問を抱きつつ、最後の一つであるカトラスを手に取ってインベントリアに収納しようとした、ペッパーの動きが止まる。そして徐に其れを持ち手と刃を『逆』にして見た事で、彼は『気付いた』のだ。

 

「何てこった…………!」

 

アイテム名『赤鯨のカトラス』、此処に来る前の『幽霊船 クライング・インスマン号』に乗り込む更に前の、船酔いに悩まされながら朧気に見上げた『海賊船 スカーレットホエール号』──────其の旗印に掲げられた『鯨のマーク』と完全に一致していたのだから。

 

「ペッパーはん………?」

『ワウ?』

「ユニークシナリオEXの連発で薄れていた………!成程成程、やってくれるじゃないか………!」

 

ユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】。其れはまだ終わっておらず。他のシナリオEXと共に同時進行している(・・・・・・・・)のだと、ペッパーは答えに辿り着いたのだった。

 

「こうしちゃいられねぇ………!アイトゥイル、ノワ!一度セーブポイントに帰還するぞ!」

「は、はいさ!」

『ワゥ!』

 

一羽と一匹を抱え、ペッパーは自身のスキルと共に空中を走り出す。仲間達に自分がテイムしたノワの事を、そしてユニークシナリオの事を伝える為に………。

 

 

 






ユニークシナリオは終わっていない




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汝、其のカトラスに何を想う



届けられるモノ




「よしよし、良い感じで戻ってこれたな……」

「はいな、あとちょっとで着きますわ」

 

反転都市ルルイアスの四方に聳え立つ塔、各々に鎮座する特定の能力を無効化する封将にして、近距離攻撃無効化能力を宿す藤壺封将こと『バーシュド=メルナクル』をパートナーのエムルと共に討ち果たしたサンラクは、一路セーブポイントへ帰還する途中だった。

 

徘徊するクターニッドの眷属となった腐れ半魚人達の視覚を掻い潜り、ロップイヤーをピンッと立てるエムルの疑似ソナーで位置を大方予測。三回程見付かったが、建物の影に&ウツロウミカガミのヘイト切りで突破し続け、此処まで来たのである。

 

「周囲に敵影無し、上空………んん?」

 

角から周りを見て、サンラクが上を見上げると。空中を飛び回り、追跡してくる人魚達の首を斬り落とし、向かい側の建物の合間に着陸した人影一つ。SFサムライアーマーを其の身に纏って、腰の鞘に太刀を静かに納めるペッパーに、彼のパートナーたるヴォーパルバニーのアイトゥイル。そして右脇に抱えられた『黒毛のシベリアンハスキー』が居る。

 

「ふぅ………あの人魚め。見付けたら見付けたで、しつこく追い掛けて来る………」

「おぅ、ペッパー。サムライアーマー纏ってどーした?」

 

声を掛けられたペッパーが視線を向けると、同じように建物の合間に潜んでいるサンラクとエムルの姿が。彼は周囲を確認し、目にエフェクトを帯びた後に素早く通りを渡って、サンラク達の方に飛び込む。

 

「実はさっき、遠距離攻撃無効能力持ちのアンモナイト封将………『アンモーン・オトゥーム』を倒してきてな。クターニッドの一式装備起動に必要なエネルギータンクと、ちょっと重要なアイテムを手に入れたんだ」

「そうなのか。此方も近接攻撃無効フジツボ封将を倒して、エネルギータンクの一つ獲得したぜ」

 

どうやら互いに、距離関係の封将をブッ飛ばしていたらしく。サンラクは近接無効を倒して赤を、ペッパーは遠距離無効を倒して橙を、各々で手にしたようである。

 

そしてサンラクの視線は、ペッパーが先程迄抱えていたのを降ろし、今は彼の足元に寄り添いながら身体を擦り当てる、一匹の仔犬に注がれており。

 

「んで、ペッパーよぉ。ソイツ何だ?」

「リュカオーンの分け身。ログインしたベッドの影から俺に寄り掛かってきて、テイムしたらユニークシナリオEXが発生した。因みに名前はノワ」

 

ありのままを伝えた結果、サンラクとエムルはノワを二度見した後にギャグみたいなひっくり返り方をし、頭を強く打ったのだった。

 

尚、当のノワはと言えば大きな欠伸をしながら、ペッパーの足元へと、己の身体を擦り寄せていたのである…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ………。リュカオーンの分け身をテイムって、ペッパーお前マジかよ……」

「夜の帝王の小さな分け身を従えるなんて………私も沢山の開拓者さん達を見てきましたが、おとーちゃ……コホン。カシラでも聞いた事の無い『前代未聞の大事件』ですわ…………」

 

混乱と驚愕を切り替え、立ち上がりながらも大きな溜息を吐いている。

 

「特殊状態:【導きの灯火】が反応してない事から、ノワが本体じゃないのは解ってる。原因は昨日のアトランティクス・レプノルカとの戦いで、グランシャリオを使ったのが発端かも………」

「エムル。ペッパーはんは、本当に面白い御人なのさ………」

『ワゥ♪』

 

サムライアーマーから奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)に着替えて、リュカオーンの分け身・ノワが動ける範囲を広げつつ、ペッパーとサンラク達はやっとセーブポイントに帰還した。

 

「あ、ペッパーさんにサンラクさん!お帰りなさい!」

「秋津茜、ステイ。声がデカいと外の敵に見付かるぞ?」

「そうでした……!」

 

扉を開き、中に入れば秋津茜が元気に出迎え。他には愛刀をメンテナンスしているアラバとレーザーカジキ、シークルゥと遊んでいたが、リュカオーンの気配にビビって隠れたスチューデだった。

 

「ペッパーさん、サンラクさん。何か発見は有りましたか?」

「レーザーカジキ。さっき俺とサンラクは封将を倒してきてね、其の事でちょっと話したい事が有るんだ。秋津茜も良いか?」

「はいっ」

 

スチューデにとっては、残酷な事実に成り得る可能性が高い。そう思える程に、自分が手にした物は重い物なのだから。

 

エムル・アイトゥイルにスチューデ達の足止めを任せつつ、ペッパーは足元から離れないノワを連れ、サンラク・レーザーカジキ・秋津茜の三人と共に二階へ移動。直後、ログインしてベッドから起き上がってきたルスト&モルドのコンビと鉢合わせ、ペッパーの近くに居るノワの事について聞かれ。

 

事情を説明した所、ルストが弓矢を構えて一触即発の大惨事に成り掛けるが、モルドの説得で何とか血生臭い戦いが起きずに済み。そしてペッパーはルストとモルドの二人に関係有りのアイテムを見せるべく、此のまま話へ混ぜる事とした。

 

「え~………コホン。議題は俺が倒してきた封将の一体、遠距離攻撃無効能力持ちのアンモ騎士ことアンモーン・オトゥームが持っていた此方のアイテムです」

 

円を作り、インベントリアから取り出した『赤鯨のカトラス』を中心に置くペッパー。

 

「赤鯨のカトラス?………!」

「えっ、コレって………!」

「成程。そういう事か、ペッパー?」

「あ、もしかして………?」

「えっ、どういう事ですか!?」

 

ペッパーの言わんとした事を読み取った秋津茜以外の全員は、カトラスを見つめて。今一読み切れなかった秋津茜はサンラクからの耳打ちで、漸く事を理解するに至った。

 

「俺達が挑戦している『ユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】』……………此れは未だ終わってはおらず、現在も進行し続けている。そして此のシナリオは、所謂『マルチエンディング』の可能性が非常に高いと俺は読んでいる」

 

マルチエンディング────其れはプレイヤーの行動や選択によって、様々なルートへ分岐・変化が起きていき、其の果てにノーマルやグッド、バッドにトゥルーという様な、複数存在する物語の終わり(エンディング)が設けられている事を指す。

 

ユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】を例に例えるなら、幽霊船 クライング・インスマン号を発見とボスの撃破、そして幽霊船を沈める事が『ノーマルエンド』。

 

護衛対象のスチューデが、クライング・インスマン号との交戦中に死亡、またはスカーレットホエール号が撃沈された場合は『バッドエンド』。

 

プレイヤー全員とスチューデの生存、並びに全対象がクライング・インスマン号に乗り込む事で、ユニークシナリオEX【(ヒト)深淵(ソラ)見仰(ミア)げ、世界(セカイ)反転(マワ)る】の発生条件を満たし、クターニッドが出現&反転都市ルルイアスに招待………といった『ルート分岐』が発生するのだろう。

 

「そして此のカトラスは、スチューデのユニークシナリオをトゥルーエンド………とは行かなくても、グッドエンドへ持っていくのに必要なアイテムの可能性が高い」

「あぁ。そしてカトラスを見せたら、イベントフラグが立つだろうし、本来は依頼主のルストとモルドが持つべきだが、此の場合は『ロールプレイに強い奴』がコイツを渡すべきだと考えてる………ってか?」

 

サンラクの言葉に、ペッパーが頷く。シャングリラ・フロンティアというゲームは、要所要所に置ける『ロールプレイング』を求められている事が多く、其れに成功すれば更なる情報を引き出す事が可能だ。

 

「で………誰が行くよ?」

「うーむ………取り敢えず、俺が渡してみる」

 

呼吸を調え、立ち上がった勇者の背中を仲間達は追い。彼は一階に降りてスチューデの前に立ち、カトラスの持ち手を小さな少年へと向ける。

 

「スチューデさん、此れに見覚えはありませんか?」

「な、何だよ…………って、コレ!お、おま、お前……コレを何処で………!」

 

スチューデがカトラスの、赤鯨のエンブレムを見ながら叫ぶ。目が、声が、真実を求めるように震えていた。今回のロールプレイに求められる目標(タスク)は『自称大海賊 スチューデを奮起させる』、キーワードは『赤鯨のカトラス』・『偉大な父親』・『残された船員達』。

 

数々のTRPGやレトロギャルゲーを通じて鍛えられた、ロールプレイングの真髄─────照覧あれ。

 

 

 

 

 

 






ペッパー、ロールプレイ




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再起と前進のアドバイス



ロールプレイの形




シャングリラ・フロンティアに搭載されている物理エンジンや、AIの制度は同世代所か過去のフルダイブ型VRゲームを凌駕する性能を誇る。

 

アイテムやプレイヤーに状況から『察して』、答えを出せる程に優秀であり、現実世界の会話と殆ど同じように出来るのは、凄まじいの一言に尽きる。

 

「スチューデさん、此のカトラスを御存知で?」

「あ、当たり前だ!此れはパパの………『僕様の親父のカトラスだぞ』……!此れ、を何処で……!」

 

震える手でカトラスを握り、スチューデは言う。持ち主が割れた所で、其の要素を思考に取り入れつつ、ペッパーはスチューデの視線と同じ高さに身を屈め、話を展開していく。

 

「此の都市にはクライング・インスマン号で見た、マーマンゾンビ以外にも『四本の塔』が在ります。そして其のカトラスは封将…………此処では『アンモナイトの騎士に似たモンスター』が、其れを持っていました」

「じゃ、じゃあ………パパは…………」

 

ペンシルゴン(天音 永遠)ならば、こういう時に『嘘』を用いる。嘘に嘘を重ねて、其れをオセロの如く引っくり返し、最終的には本当の事の様に変えてしまう。

 

自分にはそんな真似は出来ない…………故にヴァイスアッシュやジークヴルム、イリステラにも通用したロールプレイをぶつける。大事なのは、彼の『今の立ち位置を明確にさせる』事。向かうべき先を見定めるには、其処から始めなくてはいけない。

 

「スチューデさんの御父様は、アンモナイトの騎士モンスターに戦いを挑み、死んだのでしょう。あのモンスターが其のカトラス持っていたというのは…………そういう事です(・・・・・・・)

「ッ…………」

 

梓のロールプレイには、必ず『揺るがない真実』を含めて話をする。其の匙加減を調節し、話の展開を続け、嘘は『隠し味』として僅かに加えるのだ。

 

カトラスを握るスチューデの手が益々震えている、ペッパーは更に話を加速させにいく。

 

「此の反転都市ルルイアスに引き込まれた、スチューデさんの御父様は、部下を逃がす為にアンモナイトの騎士モンスターと戦い、命を落とした………其れは『何故だと思いますか』?」

「そ、れ……は………」

「──────其れはスチューデさん。貴方と、そしてスカーレットホエール号の船員達の為です」

 

船員達はスチューデの事を船長と認めているかは、自分には解らない。其れでも彼等の反応から察するに、スチューデの事をちゃんと船長として見てくれている。

 

「彼は己の命を賭してでも、貴方と船員達を守り抜かんと、命尽きる其の瞬間まで戦った。貴方の御父様は、偉大な人です…………スチューデさん、貴方はそんな偉大な御方の遺した、スカーレットホエール号の『船長』に成りたい。そう言いましたね?」

「そ、そうだ!僕様は………ッ!」

「なら、貴方が『成すべき事』は何ですか?此処で恐怖に怯えて、家具の下や影に縮こまっている事ですか?」

 

「否ッ」と彼はスチューデに、強く真っ直ぐな瞳を向けて言う。

 

「偉大な御父様を『超える』事。彼が成し遂げ(・・・・)られなかった(・・・・・・)『生きてルルイアスから脱出する事』を成し遂げる……………違いますか?」

「!」

 

子は親の背中を見て育ち、そして何時かは其の背中を越えていく物。そうして人は長い歴史を、血筋を、遺志を。後世に繋ぎ、紡ぎ、継承してきたのだから。

 

「前を進むのが怖いなら、俺やサンラク、秋津茜にルストとモルド。オイカッツォにペンシルゴン、レーザーカジキにサイガ-0さんが。開拓者の自分達が導と成り、其の進む道先を照らす光として、後に進む人達の道となります」

 

そうして静かにペッパーは立ち上がり、彼はこう言ってロールプレイを締め括った。

 

「俺達は数日後………此の反転都市に引き込んだ元凶たる、深淵のクターニッドへ戦いを挑みに行きます。其の時までにスチューデさんは、自分の成すべき事を見定めておいて下さい」

 

勇者は道を示した。後は彼の………スチューデ自身の覚悟と勇気が、鍵を握っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー………お前スゲェな」

 

スチューデを奮起させるロールプレイを終えて、今ログインしている他のプレイヤー達と合流したペッパーは、サンラクから先程のロールプレイに対する評価を受けていた。

 

「ペッパーさん、凄くかっこよかったです……!」

「ああいう感じでロールプレイをするんだ……」

「カッコイイですね!」

 

「進むべき道を指し示しただけだけどね……」と言いつつ、ペッパーはチャット部屋にて赤鯨のカトラスや封将討伐の事を記載し、改めて今居るメンバーに話をする。

 

「今俺達は三体の封将を倒したが………残り一体の封将を倒した瞬間に、クターニッドとの戦いに突入する可能性が少なからず在ると思うんだ」

「確か遠距離・近距離・魔法………残りはスキルだな。奴が『ギミックボス』であるとして、進行には封将の全討伐は必須………か」

 

深淵のクターニッドと力を分けた一式装備、深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を動かす為に必要な八つのエネルギータンク。

 

四体の封将と、ルルイアス内の何処かに在る四つの女性石像の額に埋め込まれた其れを見付け出さなくてはならず、そして肝心要の一式装備本体は何処に在るか解らない状態。其れをクターニッド本人が持っている可能性はなきにしもあらずだが、一先ず置いておく事にしよう。

 

と、此処でルストがこんな提案をしてきた。

 

「ねぇ、サンラク。ペッパー」

「ん?どうした、ルスト」

「今此処には、現状動けるメンバー全員が揃っている」

「はい」

「だから、今。残り一つの女性の石像に埋め込まれてる、一式装備のエネルギータンクを捜索するというのはどう」

「成程………良いかも知れない」

 

オイカッツォ・ペンシルゴン・京極がログイン出来ない今、動けるプレイヤー達で残り一つのエネルギータンクを発見、何時でも最後の封将を討伐可能な状態としてしまう………というのがルストの意見だった。

 

「エネルギータンクの緑はルルイアスの南東、紫は北東の区画に在った。あとオイカッツォは北西で、青を見付けたと言っていたな………」

「という事は、残りの一個は……!」

「ルルイアスの『南西』の何処かに在る、と」

 

モルドとルストの答えに、ペッパーとサンラクは頷いた。

 

「だが、南西エリアに移動して広範囲を探索するとなると、当然マーマンゾンビや人魚に見付かる危険性が高くなるな………」

「あぁ。此処はルルイアスが夜に成るタイミングを見計らって、チーム分けをしよう」

 

話し合いの結果、サンラクをリーダーとする秋津茜・ルスト・モルド・シークルゥのチームA。

 

ペッパーをリーダーとするレーザーカジキ・アイトゥイル・ノワのチームB。

 

アラバ・ネイエス・エムルで、万が一に備えて護衛対象のスチューデを守るチームに分け。一度休憩と夕食を取る為、一度ログアウトしていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………緊張したなぁ」

 

シャンフロのアバター(ペッパー)から現実の梓に戻った彼は夕食として鶏の照り焼きに決め、早速調理に取り掛かろうとした時、自分のスマフォのEメールアプリに一通のメールが届いている事に気付く。

 

「メール………?宛先はペンシルゴンからか。何だろ…………えっ?」

 

一体どういう内容なのかをチェックするべく、メールの本文に目を通した彼は絶句、からの布団に大の字で倒れて。暫くの間を置いて再び立ち上がると、夕食の準備を始めた。

 

其のメールは、ルルイアス攻略後に『二つの狼による戦争をほぼ決定付ける』という、梓にとって最も避けたかった凶報(・・・・・・・・・・)として、もたらされたのだから。

 

 

 

 






最後の女性石像探し、そして凶報




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夜のルルイアスを捜索隊が往き、死の玉座と謁見す



いざ、エネルギータンク探しに南西エリアへ




夕食は鶏肉の照り焼きと白米、葱とわかめと油揚げ味噌汁に胡瓜大根人参のピクルスを作り、食後に片付けとトイレにシャワーを行った後、梓は布団を整え直してVR用のヘッドギアを装着し、シャンフロへとログインする。

 

「お、戻ってきたなペッパー」

「ペッパーさんですわ!」

「ペッパーはん、おはようなのさ」

『ワゥウ♪』

 

梓からペッパーへと戻ってベッドから起き上がった所、サンラクとエムル、アイトゥイルが此方を見て。そしてリュカオーンの小さな分け身にして、テイムモンスターたるノワが自分の身体に飛び乗ってくる。

 

「やぁ、サンラク。エムルさんにアイトゥイルにノワ。夕食作って、食べてたら遅くなった。待たせたか?」

「いんや、俺達も今さっきログインした」

 

ふと周りを見れば、夕方頃にログインしていたメンバー全員に加えて、京極(キョウアルティメット)の姿も在る。其の表情は随分と上機嫌であり、ペッパーを発見するや笑顔で此方に歩み寄って、言ってきたのだ。

 

「やぁ、クランリーダー♪随分と『楽しい事』が起きそうだねぇ?」

「……………『アレ』の事?」

「其れに関しちゃ俺にも届いたし、カッツォにも行ったらしいぜ」

 

にこやか、そして獰猛な笑みを浮かべて、京極は入ったばかりのルスト&モルド、レーザーカジキに秋津茜(アキツアカネ)といったメンバーには聞こえぬよう、ペッパーとサンラクに話している。

 

「フフフ……………『サブリーダー』から僕宛にメッセージが届いてねぇ。ルルイアスから帰ったら、楽しい楽しい『戦争』が待ってるんだってさ」

「……………俺達が『リュカオーンの分け身を討伐&クターニッドのユニークシナリオEX攻略中と、此方の鬼札(グランシャリオ)の存在が黒狼(ヴォルフシュバルツ)のサイガ-100さんにバレた』、と」

「そゆこと。そしてサンラク達が教えてくれた、君がテイムしたって言う其処の『ノワちゃん』。見た目こそ『バディドッグ』だけど『リュカオーンの小さな分け身』何でしょ?サイガ-100なら絶対に『斬り殺し』に来そうだねぇ……フフフ」

 

甘えてくるノワを撫でながら、ペッパーはペンシルゴンに如何に事情を伝えるかを思考する。分け身をテイムした事でユニークシナリオを発生させた等言えば、永遠は非常に面倒臭くなるのは間違いない。

 

「暫くはルルイアスに居たいなぁ……」

「深海で在りながら、地上反転で戦える稀有な場所だからなぁ……。モンスターと戦って、懐を暖めたいわ」

「僕も此処のモンスターには興味が有る。クターニッドの一式装備のエネルギータンク探しの次いでに、侵入してきたモンスターと戦いたいね」

「あぁ、其れとよペッパー。アラバに此の後の事を話したら、スチューデの護衛は俺に任せてくれって言われてな。エムルを連れてけるようになったわ」

「そうなのか、解った」

 

各々の思惑は在れど、目標は変わらず。サンラク率いるチームAにエムルを、ペッパー率いるチームBに京極を加え、開拓者達とNPC達は夜のルルイアスにてクターニッドの一式装備を動かす、エネルギータンクが埋め込まれた石像捜索の為、南西エリアを目指して移動を開始するのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南西エリアに向かう道中、海鮮物合体カイセンオー(呼称:サンラク)数体との交戦が有ったりしたものの、前衛後衛が各々の役割を果たし、戦い抜いた事で被害は出る事は無く、NPC含めて全員生存で無事目的地へと到着。

 

ペッパーがルルイアスの空を飛び回って見渡し、仲間達への伝達や区画毎の探索を進めていく。そして開始からおよそ三十分が経過したタイミングで、モルドから『女性の石像を発見した』との報告を受けたペッパーは、上空や街を駆け回り、皆に集合するよう伝えて。

 

そうして全員の目の前には『女性の石像と額にブリオレットカットが施された、掌サイズのアクアマリンが埋め込まれた』物が鎮座していた。

 

「随分と大きい」

「此れ、幾ら位で売れ……ちょ、ルスト痛い!?冗談だってば!?」

「ペッパー、コイツがそうか?」

「………うん、間違いない。クターニッドの一式装備の『深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)』を動かすのに必要な、エネルギータンクの一つ…………!」

 

インベントリアに収納していた緑の宝閠(グリーム・ジュエル)を照らし合わせた事で、確信したペッパーは皆を見つめながら言った。

 

「此の石像の宝石は、ギミックを解かないと外す事が出来ないようになっている。緑は目を閉じながら、紫は回復ポーションを振り掛けた事で、そして青はネカマのプレイヤーじゃなければ取れなかった」

「此のアクアマリンを取るにも、何かのギミックを解く必要が有ると」

「つまりパズルですね!私、そういうの得意ですよ!」

秋津茜(アキツアカネ)、一旦ステイな」

 

秋津茜の言い分も、サンラクの言い分も、どちらも正しい。夜のルルイアスにはモンスターが入ってくるらしい上、アトランティクス・レプノルカや其の不世出存在(エクゾーディナリーモンスター)だったりが来る事も有るので、早急に解いて退避するのが一番良い。

 

「皆、俺は上空からルルイアスの全域を見て回る。何か有ったら報告するから、何時でも動ける様にしておいて」

 

そう言ったペッパーは、アイトゥイルとノワを肩に乗せて、再使用時間(リキャストタイム)を終えた星天秘技(スターアーツ)ミルキーウェイを起動。マナで産み出された道を駆け上がり、上空からフィールド全体を見渡し始める。

 

『ルゥゥゥゥ………!!』

「フィールドに今の所以上は無し、問題は上から入ってくるモンスターだけど……?ノワ、どうし────」

 

空を駆け上がるペッパーの肩に乗る、リュカオーンの小さな分け身たるノワが天を見据え、歯を剥き出しにしながら威嚇した其の時だった。

 

上空が割れ、水柱を上げながら落ちてくる『一体のヤドカリ』と、其の巨大な背に居着く『一匹の蝦蛄』の姿をペッパーは見て。彼は今繰り出せる最大の声量を以て、仲間達に危機を報せる。

 

『全員、敵襲ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アーコリウム・ハーミット』と呼ばれるモンスターが、シャングリラ・フロンティアの深海には居る。

 

『深海の王 アトランティクス・レプノルカ』・『深海の空母 スレーギヴン・キャリアングラー』と並ぶ、深海三強が一角に座し『己の背にて独自の生態系を構築・産み出された危険生物を用いて狩猟及び戦闘をさせる』という、脅威の生態を持つヤドカリにして、魚人族(マーマン)の間では『海の森』と呼ばれ、ペッパーから見れば『巨大要塞』にも見える。

 

通常は状況に応じて(・・・・・・)背中の生態系を操作し、新しい種を生成し、敵に対するメタを張り続けるのだが、ある個体(・・・・)は絶対的単体………即ち『最強の一個体』を生み出す為に、己の命の全てを捧げる個体が海底に産まれる事がある。

 

肉体的特徴は通常種と変わらず、然して其の思想において『異端』となった不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)、其の名を『アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"』。

 

天を破りて外海より来る巨大要塞が、反転都市の全域を揺るがし、己が死する事を是とする玉座が、此の地に降臨したのである……。

 

 

 

 

 

 






襲来する脅威、深海三強の不世出




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解放されし者走り、捜索隊は玉座と蝦蛄に挑む



舞い戻る




反転都市ルルイアスに存在し、幾多もの淡い青に染まる家屋は、昼間の間は腐れつみれ或いはマーマンゾンビ等と呼ばれる其れ等が徘徊する街並みに塔を、七日間という期間で攻略する為に侵入可能な場所では、セーブ&ログインログアウトが出来る様になっている。

 

其の内の一つ、他と比べれば貧相な街外れの小さな一軒家の扉を丁寧に、壊さない様にゆっくりと開きながら、周囲を確認して(彼女)は外に出た。

 

「陽務君………旅狼(ヴォルフガング)の皆さん…………怒ってる、でしょうか………」

 

夜の帝王との死闘で解き放った、アルマゲドンの反動によるデバフは抜けている。足を引っ張り続けた制約と、自身の恋路を邪魔するゴタゴタは、確りと片付けて来た(・・・・・・)

 

だがしかし、シナリオ開始から無言でのログアウトに加え、ログイン出来ずに半日経過という事態。其れもユニークシナリオEX開始直後からの離脱、そう簡単に許されないと思っている。 

 

其れでも───────此のまま謝らずに彼等の元に戻ろうなら、其れこそ『旅狼の移籍』に大きく関わる事は避けられない。

 

「…………急がないと、謝らなくちゃ………!」

 

ユニーク一式装備・双貌の鎧と神魔の大剣(アンチノミー)がセットで繰り出す究極の切札(アルマゲドン)で仕留められなかった場合に備え、インベントリに収納していた装備………全種装備時に『近接武器による攻撃に大幅な補正を掛ける』能力を持つ『鬼叫甲冑一式』と、大振りのスレッジハンマーこと『致命の大鎚(ヴォーパルスレッジ)改十四』を抱えた開拓者が想い人の元へと走り出す。

 

其の刹那、上空を突き破り水柱を上げながら落ちてくる、巨大なヤドカリと其の背中に乗る蝦蛄が、彼女の視界に映ると共に、一人の男の声がルルイアスに響き渡る。

 

『全員、敵襲ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!』

(今の声、ペッパーさん………!待っていて、陽務(ひづとめ)君………!)

 

敏捷系強化スキルや魔法を使い、最大火力が走り出す。今までルルイアス攻略に加われず、出遅れしてしまった分を、あの巨大ヤドカリと蝦蛄の討伐を御手伝い(サポート)して払拭する為に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何じゃあのヤドカリ!?背中にシャコ乗せてねーか!?」

「でっかいですわ!?めっちゃ大きいですわ!?」

「巨大なお城ですね!」

「何という巨体……!」

「でかい……」

「なにあれ……あんなモンスター初めて見たよ……」

「大きなヤドカリさんに、大きなシャコさん……!」

「あんなモンスターも居んだね……!」

 

ペッパーの声をトリガーに、同時に動いた捜索隊の面々が建物の合間より見たのは、少し離れた位置に着地した、巨大ヤドカリと巨大蝦蛄のコンビ。

 

遠かれど尚も巨大な『動く山』或いは『機動要塞』たる其れは、凝視した事により『アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"』という名前を示し、そしてモンスターの名を見たサンラクと京極(キョウアルティメット)は御互い、同じ感情と意見を抱く。

 

「ねぇ、サンラク。あのモンスターだけどさ……何だったけ?えっと……『えくーぞでぃーなり』ってヤツじゃない?」

「『エクゾーディナリー』な、京ティメット。どうやらモンスターの名前の最後に、四文字が付く奴が其れらしいな」

 

嘗て死火山にてブルックスランバー"最速走者(トップガン)を討伐した京極と、昨夜のルルイアスにてアトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"を倒したサンラクは、エクゾーディナリーか否かの見分け方に気付きつつも、どっしりと鎮座した要塞ヤドカリと、逆に此方へ侵攻してくる巨大蝦蛄を見る。

 

頭部口元を四本の突起物が折り畳まれて収納され、伊勢海老の如く髭と足を備え。赤い血の色に似る表面の甲殻達には如何にも毒と言わんばかりの、無数の紫の小さな棘達が陳列。

 

尾節部分が五つに分かれ、各々が蠍の尾の様に分離した其れは、サンラクからすれば『キメラモンハナシャコ』と呼ぶに相応しく、凝視して見た所『キリューシャン・スフュール"恕志貫徹(ファースリィオ)"』と表示された。

 

「おいおいおい、嘘だろ!?あのキメラモンハナシャコもエクゾーディナリーかよ!?」

「って事は両方討伐すれば、不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)も二つ獲得出来るって事だね。良いじゃん良いじゃん、あのヤドカリとシャコを斬り刻んで倒してあげよう………!」

 

事態を重く見たサンラクとは裏腹に、窮速走覇(トップガン)に匹敵し得る可能性を持つスキルが獲得出来るかも知れないと、武器を手に取り臨戦態勢を整えた京極。サンラクは上空に居るペッパーに、声高らかに状況を伝えた。

 

「ペッパーやべーぞ!あのキメラモンハナシャコも要塞ヤドカリと同じ、エクゾーディナリーモンスターだ!」

「マジかよオイ!?」

 

まさかのエクゾーディナリーモンスターが二体同時襲撃というヤバい事態に、ペッパーもNPCも居る事を踏まえて、パーティーに指示を出した。

 

「アイトゥイルとノワ、エムルさんとシークルゥさんは俺と一緒に一度後ろへ!皆はアーコリウム・ハーミットとキリューシャン・スフュールが何をしてくるか解らない以上、一旦様子見と攻撃モーションの確認から!!敵の攻撃から兎に角生き残る事を最優先に、特にシャコの『パンチ攻撃』は地上としても水中としても扱われてる『反転都市ルルイアスの性質』と、相性が鬼レベルでヤバい!注意して!!」

『了解!』

 

いの一番にやらなくてはならないのが、サンラク呼称のキメラモンハナシャコの進路を変更させる事だ。此のままで進軍を許せば、あの蝦蛄の行く先に在るクターニッドの一式装備を動かすエネルギータンクが埋め込まれた、女性の石像を踏み潰す危険すら有る。

 

特定のアクションをしなければ引っこ抜けず、攻撃も弾かれる反射の力で護られてはいるが、絶対に安心してはいけない。先ずはあの蝦蛄とヤドカリを倒して、脅威を排除する事が最優先事項だ。

 

彼等彼女等のパーティーは、今此の刻此の瞬間を以て『一式装備エネルギータンク捜索隊』を改め、新たに『要塞ヤドカリ&巨大蝦蛄討伐隊』へと(あざな)を変更。二体の不世出の存在との戦を開始したのであった………。

 

 

 

 






強敵を打ち倒せ




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勇者達は強き王と戦う。援軍は(きた)りて、玉座が動く



其の存在は




とあるモンスターの話をしよう。

 

キリューシャン・スフュールと呼ばれる、伊勢海老とモンハナシャコが融合したようなモンスターが居る。

 

深海の水圧と冷気に殺意、そして生存競争が満たす『冥府の深海』で暮らす彼等の肉は程好く引き締まり、甘露かつ此の世の物とは思えぬ美味なる味わいは、かのアルクトゥス・レガレクスやアトランティクス・レプノルカも好んで(・・・)食する。

 

スレーギヴン・キャリアングラーや其の眷属達も狙ってくる他、命辛々アーコリウム・ハーミットの背中の生態系内に逃げ込んでも、其所で暮らしている生物達に狩られる結末が待っていたりと、悲惨にして散々な結果が待ち、成体に成るまでに五体満足で生き残れる個体は極僅か。

 

即ちキリューシャン・スフュールは、深海の食物連鎖のピラミッドの中では『下の上』或いは『中の下』辺りの、言ってしまえば捕食者ではなく『被食者』の側に居る、悲しい生き物でもある。

 

しかし…………散々な目に有っている彼等が無事、成体まで生き残れたのならば。其の突起より繰り出す一撃は深海を貫く轟速の衝撃を放ち、全身に纏う甲殻は強靭を極め抜き、食物連鎖を生き残った危機感知は随一と呼べる程になるのだ。

 

 

 

では。

 

 

 

最強の一個体を育てる為に、己の死を是とする思想を持つアーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"に『王』となるように選ばれ(・・・)、其の背に乗せられて自らの食糧に困る事(・・・)が無く(・・・)、強者に立ち向かう環境に恵まれていたのなら(・・・・・・・・・)

 

選ばれたキリューシャン・スフュールの一個体は、アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"に『感謝』し、其の期待に応えられる様に、自らを『更に鍛えていく』ようになる。与えられたモンスターを食し、其の能力を取り込んで己の身体を大きく、更に巨大に更に頑強にしていくように『脱皮』を繰り返し続け、通常の成体個体を超えて強くなっていく。

 

そうして玉座に相応しき『王』となり、君臨する一個体は深海の王の『威光』に屈する事も、深海の空母が放つ『魅惑の匂い』に惑わされる事も無く、己を育てたアーコリウム・ハーミットの為に戦い、生き永らえさせる為の『最強の戦士』となる。

 

其の揺らぐ事の無い、絶対の王として玉座に座した者を、冥府の深海に住まう命達はこう呼ぶのだ。

 

 

 

"恕志貫徹(ファースリィオ)"……と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソモンハナシャコがーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「サンラク、クールクール!!他のメンバーも攻め過ぎるなよ!」

「というかアイツ、めっちゃ硬いんだけど!?斬撃効かないし!!」

「弓矢も目玉や口辺りにしか刺さらない……」

「加算出力のマジックエッジも効かないですわ……!!」

「物理も魔法も効かない……どうやって倒すの……」

「酔伊吹も魔人斬も駄目さね……」

『グルルル……!』

「こうなったらシークルゥさん達以外全員で突撃しましょう!きっと何とかなりますよ!」

秋津茜(アキツアカネ)さん!?其れは玉砕ですよ!?」

「流石に無謀が過ぎるで御座る!?」

 

キリューシャン・スフュール"恕志貫徹"のヘイトを買ったサンラクが派手に吹っ飛ばされ、危うく死に掛けの身となり。インベントリアにぶちこんでいた魚を頭から貪り食らいながら、怒りの籠った叫びがルルイアスに木霊す。そして他のメンバーもキメラモンハナシャコを相手に各々の感想を言い合いながら、攻略法を思考し続けていた。

 

『海のボクサー』とも呼ばれる蝦蛄は、頭付近にある突起を用いたパンチを放つ事で狩りを行うのだが、其のパンチが先ずヤバい。あのキメラモンハナシャコの突起には『海中に漂うマナを集束・蓄積』させ、元となった生物と同様に『衝撃波』を放つ事が可能だ。

 

至近距離で食らえば強靭なタンクは砕け散る運命が待ち、更に言えば其のパンチはマナと空気を振動させてブッ放す『空気弾』扱いであり、防御やパリィが実質不可能な『ステルス攻撃』という悪辣さと、突起は四本在るので四連射してくる場合もある。

 

幸い其の攻撃には予備動作として、突起を引っ込めた後に頭部の髭を上下に三回振る所謂『プリショットルーティーン』を挟むらしく、其れを見れば『ギリギリ』なんとか躱わせるが、其れをギリギリでしか躱わせなくしている『理由』こそ、五つに枝分かれした蠍の尻尾に似る尾の部分から放つ、超高速ホーミング+当たれば強制数秒スタンを与える『海月の触手による毒攻撃』。

 

此れを食らった直後に、プリショットルーティーンに入られた場合、一秒未満の時間しか無い中で回避をしなくてはならないという、於曾魔しい凶悪コンボとなる。だがしかし、そんな事は(・・・・・)キリューシャン・スフュール"恕志貫徹"を語る上で些細な事でしかないのだ。

 

此のモンスターの最大の特徴にして、真なる強さはステルス空気弾を連続で飛ばす事でも無ければ、超高速と強制スタンの触手攻撃でも無い。全身に纏う甲殻………其の『圧倒的な耐性と耐久力』こそが、キリューシャン・スフュールの『成体』まで生き残れた者達が共通して持ち得る、凶悪極まる力。

 

冥府の深海に置ける幾千の食物連鎖と、外敵達の脅威に晒されながら、何度も何度も脱皮を繰り返し続けて強くなった成体の鎧は、アルクトゥス・レガレクスの巻き付きや噛み付き、果てにはブレスにも殆ど傷が着かず。

アトランティクス・レプノルカの体当たりは、逆にレプノルカ自身がダメージを受け、深海の槍たるビームは流石に無傷とはいかずとも、五体満足で耐え凌ぐ程だ。

 

そして不世出のアーコリウム・ハーミットに王として選ばれた『幸運』と、身体を鍛えられる食事と戦闘の『環境』に恵まれた個体であるが故に、不世出へと昇り至れた"恕志貫徹"の甲殻は成体個体の其れを更に凌駕する、凄まじい頑強さを誇る。

 

(全く……兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】の王撃ゲージ消費で武器に付与した『装甲破壊』は愚か、組み合わせた『装甲貫通』すら殆ど効かないって、何を食ったら其処まで至れるんだよ、此の化物蝦蛄の甲殻は………!!)

 

本来硬い甲殻や装甲を破る為に存在する、装甲破壊や装甲貫通効果だが、キリューシャン・スフュールの不世出には全くと言って良いレベルでダメージが通らない。此のタイプには、ペンシルゴンが持つカレドヴルッフのような『肉質貫通効果』or手元に在るグランシャリオで斬るのが一番有効と言えるか。

 

未だに動かずに、キリューシャン・スフュール"恕志貫徹"の戦いを見ている、アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座"に不気味さを覚えながらも、ペッパーはミルキーウェイで空中を駆け走り、高速ホーミングの触手攻撃を躱わし抜き、頭へ打撃を叩き込みつつ王撃ゲージを増やし、回復から復帰したサンラクもまた己の武器・兎月(とつき)煌枹(こうばち)】を使い、強靭な甲殻を叩き据えては熱を奪い取っている。

 

(しかし『デカイ』な。此のキメラモンハナシャコ………ん?)

 

殴り付け、ステルス空気弾を回避し、強制スタン触手の躱わすペッパーは、刻蓬封点認視界(エディア・キュリス・ウラタナ)&龍脈を映す視覚(ドラスティエル・ナルクト)をコンボで点火。そうして見えてきたキリューシャン・スフュールの『体内構造』を見た事で、とある『疑問』を抱く。

 

(…………どういう事だ(・・・・・・)?いや、何だコリャ?)

 

構造を電気信号を透視で見た事で露になった、キリューシャン・スフュール"恕志貫徹"の構造に、疑問符を浮かべた其の瞬間だった。

 

ゴッッッッッッ!

 

『ギュリリリア!?!?』

 

飛んできた『何か』によって、キメラモンハナシャコの顔面がルルイアスの大地に、思いっきり叩き付けられる。此迄相応のバフや打撃で殴ってきたのを、僅か一瞬で上回った凄まじい一撃。そして──────

 

「見付けました………!」

 

着地と同時にスレッジハンマーの支柱部分を突き刺し、鬼神を思わす一式装備を纏う、シャングリラ・フロンティアの【最大火力(アタックホルダー)】こと『サイガ-0』が、戦場へと到達。

 

そして…………自ら育てた王を一撃で怯ませたサイガ-0を見たアーコリウム・ハーミット"廃罪玉座"もまた、最大の障害となる鬼人を排除するべく、鎮座より動き出したのである………。

 






現着




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動き出した玉座を皆が止め、勇者はブラックズと共にシャコを受け持つ



状況本格始動




最終局面に現れた万全状態のラスボス、または主人公達が追い詰めた手負いラスボスを、背後からの奇襲で倒して真のラスボスが主人公達の前に現れる。というパターンはロボゲーでよく見る展開やシチュエーションなのだが、実際にやられるとなれば話は違う。

 

此処まで打撃武器を持つペッパーやサンラクでは些細なダメージしか出せなかった、キメラモンハナシャコこと『キリューシャン・スフュール"恕志貫徹(ファースリィオ)"』に初めて、明確なダメージを叩き付けてヒーロー着地を決めたのは、数日前クライング・インスマン号に置ける船上戦で、鬼の形相の頭装備に日本風潮の漂う装備を全身に纏ったシャンフロ最強の攻撃力を保持するサイガ-0であり。

 

事情を知らない面々は『今まで何処に行ってたの?』や、事情をある程度知っている面々は『リアル大丈夫?』やら、色々聞きたかったのだが……………。

 

「………………………」

「ヒエッ」

 

最初の「見付けました………!」から無言&背中からゴゴゴゴゴと重圧感溢れるSEを放ちながら、サイガ-0は皆の方を向き。

 

『ギュリラリアアアアア!!』

「黙っていて……………!」

 

しかし其の先の台詞は言わせねぇ!とばかりに、屈辱の土ペロから立ち上がるキメラモンハナシャコを、振り向き様にスレッジハンマーで横っ面を殴り付け、近くの家屋に吹き飛ばす。

 

「えぇ………」

 

其の攻撃を見ていた面々は『やっぱり此の人、人の形をした殲滅兵器じゃないか?』と改めてそう思い。そして件のサイガ-0と言えば、ズン……ズン……と巨人族か何かと言わんばかりの足音を鳴らし、サンラクの方へと歩き。

 

「本ッッッッッ当に………ごめんなさい!!!!!」

 

赤黒いスレッジハンマーをインベントリに収納し、直角90度と言わんばかりの姿勢で、深々と頭を下げてきた。

 

「あ、えーと……レイ氏、リアルとかでゴタ付いてましたかね?」

「本当にごめんなさい……連絡出来ず、に……でも大丈夫、です…………、はい。邪魔(・・)はちゃんと、全部…………片付(カタヅ)けてきましたから」

 

ゾワッと背中に悪寒と嫌な汗が滲んだ感覚が、ペッパーとサンラクを襲う。其れは極道物のゲームでよくある、組の顔に泥を塗った主犯に『ケジメ』を着け終えた様な物であり。

 

其の刹那、此れまで座してキリューシャン・スフュールを見守っていた、アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"が一際大きな地響きと共に動き出し、其の視線はサイガ-0を射抜く程に鋭さを以て、近くの家屋を巨体で押し潰し牽き壊しながら、真っ直ぐ此方へ向かってくる。

 

「ペッパーさん!サンラクさん!ヤドカリさんが動き出して来てます!!」

「ちょ、此れ『サイガさん』狙ってない?!」

「おそらくキメラモンハナシャコをブッ飛ばした事がトリガーになったんだろう………!来て早々だがレイ氏、俺達で援護するからヤドカリ討伐のメインアタッカー、任せられるか?」

「了解、です……!今まで貢献………出来なかった分、此処で確りと……果たします」

 

スレッジハンマーを取り出し、地面に倒してオブジェクト化。一式装備を白亜の鎧へと変え、漆黒の大剣を握りつつ、オブジェクト化させたスレッジハンマーを拾い上げ、戦闘準備を完了させる。

 

「皆、ヤドカリから距離を取りつつ聞いてくれ!」

 

そんな中、サイガ-0を牽き潰さんと迫り来るアーコリウム・ハーミットから離れるべく移動を開始した一行に、空中を駆けるペッパーが、アイトゥイルとノワを抱えて言った。

 

「あのキメラモンハナシャコへ、ダメージを与える『方法』が判った!ただ其の為には、奴を要塞ヤドカリから引き剥がす必要がある!足止めを頼めるか!」

 

其れは虚勢等では断じて無く、勝利に至る為の道筋を確信した瞳であり。

 

「OK、確りダメージ叩き込めよクランリーダー!」

「速攻でヤドカリ仕留めて、シャコもトドメ貰うからねペッパー」

「そりゃ大変だ、さっさと仕事をするとしよう!ルストとモルドはサンラクとサイガ-0さんの援護を、レーザーカジキと秋津茜は合体魔法攻撃準備!エムルさんとシークルゥさんはサンラク達のサポートを!」

「解った」

「うん!」

「粉骨砕身で頑張ります!」

「了解です!」

「頑張りますわー!」

「承った!」

 

兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】をインベントリに収納し、星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ及び甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)【改八】を装着。空中を駆け走り、起き上がったばかりのキリューシャン・スフュールの胴体を致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オボロサイダン】+致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】のコンボスキルで叩き据た。

 

敵に脚撃によるダメージを与えるに加えて、ダメージの数値が其のまま『ノックバックの速度と距離に直結』する秘奥の一撃が、再使用時間(リキャストタイム)&ダメージを十倍にする極技が、キリューシャン・スフュールを吹き飛ばす事によってアーコリウム・ハーミットから突き離して。

 

吹き飛ばされる自身が育てし王を見たアーコリウム・ハーミットは、直ぐに排除対象をサイガ-0からペッパーに切り替えるも、フォーメーションを変えた開拓者達が立ち塞がり、其の行く先を阻みに掛かる。

 

「おぅおぅ、要塞ヤドカリよぉ。あのキメラモンハナシャコんとこ行きたけりゃぁ、俺達全員ブッ倒してから行きな。尚俺達は全力で抵抗するぜ?全員気合入れて行くぞ、作戦名『オペレーション:要塞砕き』だ!」

 

各々が武器を取り、臨戦態勢を整えたサンラク達がアーコリウム・ハーミット"廃罪玉座"に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処まで吹き飛ばせば、良い感じか」

 

そして渾身のノックバックにより、キリューシャン・スフュールをアーコリウム・ハーミットから吹っ飛ばし、引き剥がしたペッパーは、アイトゥイルとノワと共にキメラモンハナシャコと対峙する。

 

『ギュリリリリ………!!!』

『ルゥゥゥゥゥ……!』

「どうやら、やっとこさんも御怒りの様なのさ」

 

歯軋りする様に口を鳴らし威嚇する王に、リュカオーンの小さな分け身たるノワもまた、敵に対して真っ向から威嚇しに行く。

 

「さて、キリューシャン・スフュール"恕志貫徹"。お前の身体の構造を見た事と、ついさっきサイガ-0さんの一撃での反応から、ちょっと『閃いたんだよね』………」

 

そう言って彼はグランシャリオの鞘を右手に当てつつ、鞘をくるりと回して抜剣。更に世界の真理書「墓守編」を蒼桃色の宝石に変え、七つ在る穴の『持ち手から三番目』の位置にセットしつつ、左手には『ヴァンラッシュブレイカー』を装備する。

 

「俺が避けタンクをやる!アイトゥイルは遠距離攻撃、ノワは影を渡りながら俺に釘付けにするよう挑発してくれ!」

「はいさ!」

『ワゥ!』

 

リュカオーンとの初戦で失われた、右手の装備枠。グランシャリオ限定ではあるものの、取り戻された斬打二刀流のフォームを以て、一人と一羽と一匹は巨大蝦蛄へ挑む。

 

 

 






最強の個を倒せ




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幾千を越えて、重なる波濤を此処に



キメラモンハナシャコを倒せ




アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"に王となるように育てられ、豪運故に不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)へと至った、キリューシャン・スフュール"恕志貫徹(ファースリィオ)"と相対する、ペッパー・アイトゥイル・ノワのコンビの戦いは、転換点に入っていた。

 

「よっ、せいっ、そいやぁ!」

 

サキガケルミゴコロ改備(あらためぞなえ)で『触手直撃からのステルス空気弾ラッシュで死亡する』少し先未来を見たペッパーは、加速系スキルでホーミング攻撃を避け切り、ヴァンラッシュブレイカーの『水属性側』で数十秒前に『炎属性側』で叩き、熱された場所を打って急速に冷やす。

 

「ペッパーはん!行くのさ!」

「アイトゥイル、頼む!ノワも()から、蝦蛄にちょっかいを続けてくれ!」

『ワォウ!』

 

アイトゥイルの酔伊吹が放たれ、刹那にペッパーが投げ込んだ投擲玉:炸油にぶつかり、通常以上の炎となって其の身を焼く。そして燃える身体を冷やすように、再びヴァンラッシュブレイカーの水属性側が幾度と無く叩き付けられ、其の身からは蒸気が放出される。

 

『ギュリリリリ……!』

『ワゥ!ワゥ!ワゥ!』

 

ノワが吠えて影へと潜り、ペッパーの後隙を埋め合わせ、再び彼が動けば自身は影を使って消えて。そうしてキリューシャン・スフュールの身には炎の鉄面が、水の鉄面が次々と叩き据えられていき、蒸気が幾度と無く発せられていく。

 

そしてステルス空気弾を強制スタン触手を、何度も幾度も潜り抜けながら叩き付け続けた結果─────バキン!と一際大きな『破砕音』が頭部の堅殻から鳴り響き、キリューシャン・スフュールの巨体が痙攣。亀裂が走り、其所から『たんこぶの様な物』が出現した。

 

『ギュリリリ!?』

「視覚系のスキルでお前の体内構造を見た時、甲殻と内臓の間には『妙な空間』が在った。最初はマナの粒子で内臓を保護していると考えたが、サイガ-0さんのスレッジハンマーによる攻撃を受けた時に、其の空間が『湾曲』したのを見て────判った。

キリューシャン・スフュール……お前の頑強極まる甲殻硬度の秘密は『深海水圧と体内空気によるサンドイッチ』によって成り立っている!」

 

そう……………キリューシャン・スフュールの頭堅殻と内臓の合間には攻撃が重要器官に届かないよう、大きな『空気の膜』を備えている。謂わば重要機材を段ボールで運送する際に、空気が入ったプラスチック製の『エアクッション』を入れるように、其れを用いる事で自身の身体の変形防止と水圧による圧迫強化で、規格外の硬度を得ていたのだ。

 

即ち其のバランスが崩れよう物なら、亀裂は致命的な『弱点』を露出させる未来を決定付けるのである。

 

「アイトゥイル、ノワ!二人は下がって!」

「はいさ!」

『ワゥア!』

 

ペッパーの指示で後ろに下がる一羽と一匹、ペッパーはグランシャリオを地面に突き刺し、キリューシャン・スフュールの放つステルス空気弾を回避。襲い来る触手攻撃をミルキーウェイと機動系スキルで振り切り、自身の速度が一定以上に至った場合に発動すると、動体視力に大きな補正が入る『眼力適応(ディチューン・アイ)』を使い、疾走する己の視界を調整。

 

そうして攻撃を掻い潜り、インベントリアを操作して、取り出し纏うは悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)。人類という枠組みの中、神代最強の英雄と謳われしウェザエモン・天津気(アマツキ)が纏った、伝説の戦鎧。

対応する轟斬型(ゴウザンガタ)太刀(タチ)(シキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)の鞘を右手に握りつつ、左手による抜刀と同時に彼は鋼鐵の騎馬を呼び起こす。

 

質量転送(エクスポート)及び展開(サモンコール)試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】!!!」

 

空色の魔方陣が展開し、全長3m程のロボットホースが出現。巨体がルルイアスに飛び出すや、ペッパーは音声認証を用いて指示を出す。

 

「天王!甲冑形態へ変形、そして合体だ!」

『了解ッ!』

 

天王が其の身を五つの部位へ別ち、右腕・左腕・右脚・左脚・胸部へとパーツを次々に合体。胸部に加わった装甲の中心には大きく『(アマツ)』の漢字を刻む、パワータイプへと形態変化(フォームチェンジ)

 

そうして彼は攻撃が止まぬ空中を走り、地面に刺したグランシャリオを拾い、大天咫を鞘に納めながら、唱えるように述べた。

 

「ウェザエモン・天津気さん!貴方の絶技………再び使わせて頂きます!」

 

グランシャリオが輝き、襲い掛かる触手達の絡み付きも覇撃に秀でた甲冑形態で引き千切り、彼の左手がキリューシャン・スフュール"恕志貫徹"の髭を掴む。

 

世界の真理書「墓守編」をグランシャリオが読み取り、剣を握るペッパーに示すのは、ウェザエモン・天津気───ユニークモンスター・墓守のウェザエモンが使用した、晴天流の奥義達。

 

抜刀居合の【風】、生体を流れる電気信号を増大させる【雷】、投げ技に当たる【波】、吐息に関する【空】といった形で、七つの派閥が存在。世界の真理書を七つ在る穴にセットする事により、持ち手から最も近い場所より風・雷・波・空・雲・熱・灰の奥義を使用出来る。

 

手にした真理書の数と位置が、使える奥義の数と種類に直結する中で、ペッパーが選択・セットしたのは『投げ技に関する絶技』を発現する三番目の位置であり。

 

晴天流(せいてんりゅう)(なみ)】───奥義(おうぎ)!」

 

其れは最速にして剛力の投げ………スキルを使用したプレイヤーの筋力を参照する時に、他よりも突出している程に『対象を投げる速度と投げられる重量が増大する』、晴天流の奥義が一つ。

 

天王との合体、大天咫装備によるブースト、覇撃に秀でし甲冑形態。三つの要素によって増大が成された筋力が、キリューシャン・スフュールの巨体を軽々と掬い上げ、モンスターを投げる時に自身より重ければ重い程、筋力が上昇する強化スキル『皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)』を重ね、其の名と共に絶技は繰り出された。

 

 

 

 

 

大時化(おおしけ)ッッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

ゴジャッ!か、はたまたグヂャッ!か。

 

ゴア表現やグロ表現が此の神ゲーに搭載されていたなら、間違いなくキリューシャン・スフュールに出来上がった、空気膜のたんこぶが破裂して頭部を粉砕していただろう。

 

だが空気膜が潰れ、エアクッションの役割を失った時点で、キメラモンハナシャコに此の衝撃から逃れる術は無く………自身の身体が育ち過ぎた(・・・・・)事による自重を元にした『別枠の衝撃ダメージ』が適応され、其の巨体を構成するポリゴンが崩壊を開始する。

 

此れぞ正真正銘─────『一投確殺』の一撃だった。

 

「キリューシャン・スフュール"恕志貫徹(ファースリィオ)"。見えない飛ぶ衝撃を飛ばし、拘束する超速の触手を振るい、如何なる攻撃をも寄せ付けぬ堅殻を纏う、絶対の王者よ。俺はお前を決して忘れない………戦ってくれて、ありがとうごさいました!」

 

一礼、同時にポリゴンは爆発四散。キリューシャン・スフュールのドロップアイテムたる素材達が積み重なって、ペッパーの前に現れる。

 

「ペッパーはーん!」

『ワォーン!』

「アイトゥイル、ノワ!二人ともよくやってくれた!だが皆はまだ戦ってる、急いで戻ろう!」

 

そうして彼は天王との合体解除と空間へ収納、インベントリアにドロップアイテムを仕舞い込み、直ぐ様奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)に着替えるや、アイトゥイル・ノワを抱えて仲間達の応援に走り出したのである………。

 

 

 

 






戦いはまだ終わっていない




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砕け不世出、継がれる奥義は誰の手に



決着への電撃戦




ペッパーがキリューシャン・スフュール"恕志貫徹(ファースリィオ)"をウェザエモンの絶技『大時化(おおしけ)』による一投確殺で仕留めた頃。要塞ヤドカリことアーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"と他メンバーは今も尚戦い続けていた。

 

「アポカリプス………ッ!」

「オラァ!」

「ハァッ!」

 

サイガ-0・サンラク・京極(キョウアルティメット)の三人が、各々の得物と共に前線を張り、アーコリウム・ハーミットの本体の甲殻に衝撃を与え、ダメージを積み重ねていく。だが其れでもヤドカリは止まらない………山と呼ぶべき巨体は今尚沈まず。

 

暴れ狂う玉座は、ルルイアスの家屋を粉砕しながら突撃し、其所から派生する貝殻に籠っての転がりに繋げるモーションは、単純明快な体格差によるアドバンテージと圧倒的な馬力の違いを開拓者達に見せ付ける。

 

秋津茜(アキツアカネ)!レーザーカジキの詠唱は何処まで進んでる!?」

「2/3辺りみたいです!」

「解った!レイ氏も京ティメットも、もう少し辛抱だ!ルスト・モルドはヤドカリ野郎に近付き過ぎるなよ、巻き込まれたら死ぬぞ!!!」

「大声で言わずとも解ってる」

「そっちも気を付けて!」

 

物理弓では効果が薄く、装備者のMPを参照し威力を決定する魔法弓を構えるルストに、バフを掛けるモルドが建物の上から応答。別の場所に移動しようとする要塞ヤドカリに矢を放ち、進路上に射刺して妨害する。

 

「回転攻撃にはマジックエッジどころかマジックチェーンも歯が立たないですわ……」

「拙者のタケミカヅチも同じく、止まってる数秒で引っくり返さねば、足止めにもならぬで御座る」

 

離れた秋津茜とレーザーカジキを見ながら、エムルとシークルゥは言葉を溢す。避けタンクのサンラクとタンクを担うサイガ-0、前衛の京極が敵の死地圏内(キリングレンジ)で立ち回り、ルスト&モルドのコンビが進路を塞いでいるのは作戦完遂の為であり、此の作戦の中核を担うのはレーザーカジキと秋津茜による『合体魔法攻撃』。

 

レーザーカジキが持つ切札にして、現在の彼が繰り出せる唯一の『門魔法』たる【増乗幅響門(パワーゲート)】に秋津茜が持つ切札の龍威吹(リュウイブキ)を通し、威力を超ブーストさせた上で叩き付けて、アーコリウム・ハーミットを守る巨大な貝殻を焼き溶かし、其の熱力で本体を外へ引き摺り出す事だからだ。

 

「にしても此のヤドカリ、随分と動きやがる……!」

「本体の耐久も………そうですが、やはり……貝殻が一番厄介………ですね」

「腹を外に出せれば、刀でもダメージは通りそうだけどね。一番はやっぱり『動きを止めて確実に当てる事』が正解か………結構難しくない?」

 

秋津茜の放つ極太のレーザー砲撃が、増乗幅響門でコロニーレーザーになった所で、結局当たらなければ意味が無いのは事実。即ち其れを当てるには十数秒の、決定的にして致命的な()を作らなくてはいけないのである。其れも機敏に動ける、此の要塞ヤドカリを相手に……だ。

 

(まぁ、其れに関しては思い付く節が有るんだが………問題はペッパーの到着と、レーザーカジキの詠唱に秋津茜の攻撃、其れが一つでもズレたら面倒な事に成りかねねぇ……!今日ばっかりは大人しく寝てろよ、乱数の女神(クソッタレ)!!!)

 

サンラクの考え、そしてペッパーの到着、乱数に対するお祈りゲーが始まらんとしていた中………動いたのはレーザーカジキだった。

 

「万里を越え、円環の門は開かれる……!潜り抜けし水よ激流へ…!潜り抜けし炎よ爆轟へ…!潜り抜けし土よ鳴動へ…!潜り抜けし風よ暴嵐へ…!雄々しき波動となりて困難を砕く導と成らん━━━━━!【増乗幅響門】!!!」

 

致命の錫杖(ヴォーパルロッド)を掲げ、エンチャント:ヴォーパルのブーストを組み合わせた、完全詠唱による巨大魔法陣が、アーコリウム・ハーミットを直線上とする形で展開される。

 

「っ、くぅ………!皆さん、御待たせしました……!」

「サンラクさーん!門が、門が出来ましたー!!」

「よっしゃ、ナイス!全員圏外退避ィィィィィィ!!!」

 

サンラクの合図を元に、秋津茜とレーザーカジキが居る建物と其の付近を巻き込む射線上から、猛スピードで避難を開始し。後は印を結んでいる秋津茜が龍威吹を放ち、門を通しての威力増大状態で叩き付けるだけだ…………そう思われていた。

 

だが、此処でアーコリウム・ハーミットは秋津茜とレーザーカジキが居る建物目掛けて、真正面より突撃を開始。其の距離がどんどん狭まってきたのである。

 

「な!?アイツ、秋津茜達を押し潰すつもりか!?」

「ッ、そんな………!」

「茜ちゃん!龍威吹を撃って!」

「ま、間に合いません!?」

 

印を一つ結ぶのに数秒、息を吸い込み吐くのに数秒、少なくとも『十秒』はいる。そして要塞ヤドカリの速度から残り『五秒』で到達して、自分とレーザーカジキを轢き殺すだろう。

 

作戦が水疱に帰す…………誰しもがそう思い掛けた、まさに其の時。

 

 

 

 

 

「おい!アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座"!!目玉を見開いて、コイツを確り見やがれ!!!」

 

 

 

 

 

ヒーローは空中を駆けて現れた。

 

両肩には相棒のアイトゥイルとリュカオーンの小さな分け身たるノワを乗せ、ペッパーが両手に持ちて玉座に翳したのは、要塞ヤドカリが育て上げたキリューシャン・スフュール"恕志貫徹"の、甲殻や髭に突起であり。飢餓に見舞われながらも、自身が手塩に掛けた王が素材(無惨な姿)となって現れた事で、其の巨体が急停止する。

 

「ペッパァァァァァァァァ!!!!マジナイスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!秋津茜ェェェェェェェェェェェェェ!!!!」

「いけええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!秋津茜!!!!!」

『いけーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

決定的チャンスの到来をサンラクが、走り駆けるペッパーが、仲間達が叫びが秋津茜の背中を押して。同時に彼女の目から、迷いは消える。

 

「はいっ!刃隠心得(はがくしこころえ)奥義(おうぎ)━━━━━【竜威吹(リュウイブキ)】ッッッッッ!!!!!ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

印を結び、唇を尖らせ、息を思いっきり吸い込み。正四方形の紋章を通じて、模倣されし天覇の龍王がブレスは放たれ、増乗幅響門を通じて夜襲のリュカオーンとの戦いの最中に、雲を払い除けて月光を戦場へ取り戻した、コロニーレーザー砲撃が放たれる。

 

其の一撃は王を殺され、茫然自失となったアーコリウム・ハーミットを。射線上となったルルイアスの街並みを襲い、其の場に在った物を文字通り跡形も無く(・・・・・)焼き払ってしまった。そして…………静寂をもたらしたルルイアスに、秋津茜・ルスト・モルド・レーザーカジキのレベルアップを告げるSEが鳴り響き。

 

キリューシャン・スフュール"恕志貫徹"を投げ殺したペッパーと、アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座"へのフィニッシャーになった秋津茜の目の前には、各々のリザルト画面が表示されたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モンスター不世出(エクゾーディナリー)……解明(クリア)!』

『討伐対象:キリューシャン・スフュール"恕志貫徹(ファースリィオ)

『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』

『称号【剛健(ごうけん)()(さい)】を獲得しました』

『称号【意思より強く、意志より堅く】を獲得しました』

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)守示貫鐵(ファースリィオ)】を習得しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

『モンスター不世出(エクゾーディナリー)……解明(クリア)!』

『討伐対象:アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"』

『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』

『称号【王権簒奪(オウケンサンダツ)】を獲得しました』

『称号【玉座に座する新たな王】を獲得しました』

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)背在極座(ルインスロン)】を習得しました』

 

 

 

 

 

 






此処に決着



不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)守示貫鐵(ファースリィオ)

習得条件:キリューシャン・スフュール"恕志貫徹(ファースリィオ)"を討伐する

効果:使用から3分間、スキル使用者は防具を除いた耐久値が3倍となり、肉質及び装甲貫通と破壊属性による効果を受けなくなる。再使用時間(リキャストタイム)は7日半。

強者の暴意に曝されども、決して屈する事も倒れる事も無い、不屈の精神。其れこそが不世出の奥義





不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)背在極座(ルインスロン)

取得条件:アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"を討伐する

効果:発動時点よりスキル使用者の全ステータス及び与えるダメージを半減する代わりに、使用者の背中に紋章とカウンターが表示される。其の紋章が完成し、カウンターが100まで蓄積された場合、任意でカウントダウンを開始し、1分間使用者の全ステータスを10倍にする。ただし使用から1分が経過した瞬間に、スキル使用者は即死する。再使用時間(リキャストタイム)は12日。

己の死を是とし、変わらぬ運命をも受け入れ、尚も自らの命の輝きを見せる姿勢。其れこそが不世出の奥義。





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修羅場は不世出存在討伐の後に



事を終えて




改めて思うが、龍威吹(リュウイブキ)増乗幅響門(パワーゲート)って『鬼に金棒』レベルのクソタッグだわ。

 

焼き払われたルルイアスの街並みと、アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"のドロップアイテム(超稀少な素材)の一つも残らなかったのを見て、サンラクが思った事である。超々高火力と焼却能力は、苦労して討伐したモンスターの素材をも纏めて焼き払い、最終的に戦利品一つも無しというのは追い打ちとして、凄まじいダメージが入るのだ。主に精神方面(メンタル)的な意味で。

 

「わぁ!レベルアップと、新しいスキルを覚えましたよ!」

「俺もだわ。レベルカンストだからボーナスポイントは入ってないけど………」

「おう、良かったじゃねぇか」

 

不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)の討伐者には、レベルアップ時にステータスポイントのボーナスと、不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)に其のモンスターの素材がドロップする。要塞ヤドカリの素材は焼き払われたのだが、こんな事も有ると寛容を以て許す事も大事だ。

 

「ペッパーと茜ちゃん。二人はどんなスキルを手にしたの?」

「俺は『守示貫鐵(ファースリィオ)』。内容としては使用から三分間は、防具を差し引いた肉体の耐久力を三倍と、肉質及び装甲貫通と破壊属性による効果を受けなくなるらしい。まぁどんなに耐久が上がっても、人間死ぬ時は死ぬからな」

 

肉体其の物の耐久を三倍に、破壊属性による部位破壊を受けなくなるのは単純明快ながら、タンク職の面々が喜ぶスキルだ。サイガ-0の視線がペッパーに向けられている事からも、此れはペッパーではなくサイガ-0が取った方が良かったと、サンラク達は考えた。

 

問題は秋津茜の取った(・・・・・・・)不世出の奥義の方だった。

 

「えっと………私は『ルインスロン』ってスキルでして、一定時間ステータスとダメージが半減しちゃうんですけど、条件を満たせば一分で死ぬ代わりに『全ステータスが十倍』になるみたいです!」

 

彼女が口走った圧倒的な強化倍率に、此の場に居る全てのプレイヤーとNPCの視線が向けられる。ある者は『大当たり枠そっちかよ!?』の驚愕、ある者は『其のスキル欲しいなぁ』の羨望、またある者は『其れが有ればもっと記録を伸ばせるかな………』と期待、更にある者達は『不世出の存在を探してみよう』と決意したり、ある種の混沌が其所には在って。

 

「あ、ペッパーさん。えと………其所に居る『バディドッグ』は?」

 

サイガ-0が指差す先………ペッパーの足元に寄り添いながら、少し大きくなった(・・・・・・・・)黒い毛並みを擦り当てるノワの姿が在って。

 

「あ~…………コホン。サイガ-0さん、此の子の『正体』を秘匿して頂けるならば、御話しても宜しいですが……どうしますか?」

 

一際真剣な眼差しを向けてくるペッパーに、サイガ-0は暫く思考と沈黙の後に「解りました」と頷き。彼は息を吸って吐いた後、事実を以て(彼女)に伝えた。

 

「此の子の名前は『ノワ』。自分が今日ログインしたセーブポイントのベッドの近くに居た、小さなモンスター。正体は『夜襲のリュカオーンの小さな分け身』、自分の目の前に『テイムしますか?』と表示が出たのでテイムしたら、今受けてるリュカオーンのユニークシナリオとは違う『別のユニークシナリオ』が発生したんです」

「へぇ~………?其れは其れは、随分と興味深い話だねぇ???」

 

非常に聞き馴れた声に、バッと振り向いたペッパー。其の視線の先に居たのは、両目のハイライトが完全に消失して、怒髪衝天状態のペンシルゴン&ギリギリギリギリと歯軋りしながら目を血走りさせて、呪詛の如く『ユニーク……!ユニーク………!』と呟きまくるオイカッツォの姿。

 

ペッパーは一瞬の内に理解した、此れはもう逃げられないと。

 

「さぁて、あーくん…………。今からちょっと、アタシと『オハナシ』しようか?」

「アッハイ」

 

ペッパーは直ぐに正座態勢に移行し、ペンシルゴンのオハナシが始まったのだった。

 

尚、其のオハナシは一時間に渡って続いたものの、ペッパー自身が包み隠さずに此処までの経緯を含めて、全て正直に話した事。テイムしなかった場合にNPC含めて甚大な被害を与える可能性が在った事を踏まえ、彼女に説明をしたのでオハナシ『其の物は』三十分で終わった。

 

だが残りの三十分は、ペッパーがノワにベタベタされた事に対する、色々な御説教がペンシルゴンからペッパーに行われる事となり、此の場に居たプレイヤー及びノワ以外のNPC全員は『ペッパーはペンシルゴンの尻に敷かれている』と確信するに、そう時間は掛からなかった。

 

「はぁ~~~~………………あーくんの言い分も、ノワちゃんの事情も、ちゃんと私に包み隠さず話してくれたから許すけどサ」

 

大きな……其れも大きな溜息を付いて。ペンシルゴンは正座をしているペッパーの太腿に乗っている、リュカオーンの小さな分け身へと歩み寄り、身を屈めながら宣言する。

 

「ノワちゃん。あーくんや私達を邪魔しない限りは、君は私達『旅狼(ヴォルフガング)の一員』として認めてあげる。

 

 

 

 

だけどね────────

 

 

 

 

君があーくんに『変な事をしたなら』、私は君を『許さない』から。其の時は私が責任を以て、キッチリ『殺す』よ。………あーくんは『私のモノ』だから…………例え貴女が愛呪(あいじゅ)を以て彼を縛っても、彼は絶対に『アゲナイ』から。─────覚悟しておいてね?」

 

ニッコリと、しかしながらハイライトが無い瞳を以て、一歩も退くつもりも無い事を、リュカオーンの小さな分け身へと宣言するペンシルゴン。対するノワは彼女の意思や姿勢が本物である事を悟ってか、ギロリと白眼で見定めながら、狼特有の喉の鳴らしと共にペンシルゴンを威嚇した。

 

「なぁ、サンラク。ペンシルゴンって結構『独占欲の強い女』だったんだな?」

「だな、カッツォ。というか俺等の前で『そういう』事言えるの、改めて感服するわ」

「…………何と言いますか、とても修羅場……ですね」

「修羅場ですわ……」

「修羅場なのさ……」

「修羅場で御座るな……」

「私も好きな人が出来たら、思いきってやってみます!」

「茜ちゃん、茜ちゃん。其れは真似しなくて良いと思うよ?」

「おっかないなぁ………えっ、何で此方見てるの?ルスト?」

「…………別に」

「あわわわ………あ!」

 

最早カオスという他無い状況、其所で話題の切り替えを作り出したのはレーザーカジキだった。

 

「あの!実は僕達、アイテムを探してまして!捜索、再開しませんか!!!」

 

二体の不世出存在との戦いで吹き飛んでいたが、自分達は本来クターニッドの一式装備にして、深淵の盟主と力を分けたなる存在の深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)、其れを動かす為のエネルギータンクを探していたのだ。

 

「あ、確かに……サイガ-0さん。今から俺達が探している物の情報を『秘匿』して頂けませんかね?他のクランやプレイヤーにバレたら、色々と不味いので」

「は、はい。解りました」

 

コクコクと頷いたサイガ-0、そしてペッパー・ペンシルゴン・サンラク・オイカッツォ・京極・秋津茜・レーザーカジキ・ルスト・モルド・サイガ-0の十人プレイヤーと、シークルゥ・アイトゥイル・エムル・ノワの三羽と一匹の一つのパーティーは、石像に嵌まった残り一つのエネルギータンクを探しに旅立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

尚、クターニッドの持つ反転の力によって、ルルイアスの街並みが修復される光景を見たサイガ-0が驚愕したのは、言うまでも無い…………。

 

 

 

 

 






さぁ、宝石の謎解きへ




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藍色の輝き、悪辣を越えるは廃人の力



謎解きの時間




ペンシルゴンのオハナシ、そしてリュカオーンの小さな分け身たるノワへの宣言という、修羅場な時間を越えた後に一同は当初の目的であるクターニッドの一式装備を動かすのに必要な、宝石型のエネルギータンク探しの為に南西エリアに戻ってきた。

 

「確か此処等辺だった筈……あ、有った!有ったぞ、皆!」

 

ペッパーが発見し、皆を呼び寄せる。彼の指差す先に額にブリオレットカットが施された、掌サイズのアクアマリンが埋め込まれた女性の石像が鎮座していた。

 

「良かった、無事だったみたいだ……」

不世出存在(エクゾーディナリーモンスター)と戦ったからなぁ……。損傷無いようで何よりだわ」

 

エネルギータンク探索隊として捜索していた面々は、戦いで破壊されていたのではないかと内心ヒヤヒヤだったので、ホッと一安心し。

 

「あ、あの……サンラク、さん……コレが?」

「……あぁ、レイ氏。コレが俺達が探している物なんですよ」

「成程………」

 

サンラクの説明でコクリと頷いたサイガ-0を見ながら、ペッパー達は改めて石像に向き合う。

 

「女性の石像に埋め込まれている此の宝石は、各々にギミックが施されている。其れは特定のアクションを行わなくては、外す事は出来ないようになっていた」

「確か緑は『目を閉じて視界を遮る事』で、紫は『回復ポーションを振り掛ける事』………」

「青は『ネカマ』が取らなきゃ外れない、だったっけ?」

「そう。で、最後のアクアマリンは『何のアクション』をすれば取れるか、一切解らない状態で有る訳だが………俺が先に調べてみる」

 

兎にも角にも触らなくては話しにならないと、ペッパーが一番槍として石像とアクアマリンの隙間に指を掛けた、次の瞬間。突如として彼は、己の身体から『力が抜けた様な』気持ち悪い感覚を味わった。

 

「うぉ!?」

「あーくん!?」

 

バッと指を放せば、其の感覚は消えて。何が起きたのかとステータスを開いても、能力や状態に変化は無い。

 

「ペッパーどうした?」

「アクアマリン掴んで引っ張ろうとしたら、気持ち悪い感覚と力を奪われた変な感じを味わった」

「どゆこと其れ?」

「解らん……」

 

そう言ったペッパーに、一同は顔を見合わせて。次は誰が行くかで、じゃんけん大会が勃発しそうになるも、ルストが前へと出て其れを掴む。

 

「あ、ルスト!?」

「ッ…………」

 

ペッパーが言っていた、力を奪われる感覚に襲われながら、彼女はステータス画面を開き。そして藍色の宝石がもたらす『力』を、皆に伝えた。

 

「……『ステータス』」

「えっ?」

「今ステータスを見た。私の筋力と敏捷が入れ(・・)替わってる(・・・・・)

『…………は?』

 

ルストが己の身を以て報せた、藍色の力………其れは『ステータスの反転』。プレイヤーの持つ能力数値を、ランダムに入れ替える其の力は、回復を反転させる『紫』に比肩するレベルの『悪辣さ』を誇る。

 

タンク職から敵の攻撃を受け止める筋力と、耐え凌ぐだけの耐久を奪う事。避けタンクや軽戦士から敏捷とスタミナいう、最大の武器たる足を奪う事。魔法職からMPという、能力を行使する為の力を奪う事。

 

所謂『特化型プレイヤー殺し』の能力を宿した其れは、ペッパー達に衝撃を与えるのに、充分過ぎるものであった。

 

「モルド、バフ」

「あ、うん!」

「ぼ、僕も御手伝いします!」

 

モルド・レーザーカジキのバフを乗せ、ルストがステータスを開きながら引くも、暫くして入れ替わったステータスが『更に入れ替わる』という事態が発生し、ルストは手を放してしまった。

 

「一定時間で取らないと、ステータスを更に入れ替えられる」

「えぇ………」

 

即ち筋力と別ステータスを入れ替えられる中で、速攻で抜き取らなくてはいけない上に、入れ替えられても影響が少ないプレイヤーでなくては、何時まで経っても取る事は不可能だという事実を、開拓者達は突き付けられたのである。

 

「あ、の………サンラク、さん。皆さん………私に任せて、下さい………」

「レイ氏?」

 

そんな中、話を切り出したのはシャンフロ内最強の攻撃力を誇る、最大火力(アタックホルダー)の保持者・サイガ-0。よく見れば複数のバフスキルを同時点火したようなエフェクトが、業火の如く其の身を包み込み。

 

其の指がアクアマリンと石像の間の窪みに掛かり、力強く引っ張り始め、同時に筋力と幸運の数値が入れ替わる。だが─────最大火力という一つの称号を得ても尚、色褪せる事の無い幾多のレベルダウンビルドに加えて、アクセサリーや神秘(アルナカム):世界(ワールド)によって支えられたステータスは、一切の陰り無し。

 

(此処で陽務君の役に立って見せる!彼の隣に立てるようになる為にも!)

 

そうして再び襲い掛かるステータス入れ替えに屈する事も無く、サイガ-0は別のバフスキルで其れすらも捩じ伏せ、ステータス反転を塗り潰しゴリ押した果てに、女性の石像に嵌まっていたアクアマリンは取り外されたのである。

 

「えぇ…………」

「うわぁ…………」

「脳筋此処に極まれり………」

「ヒュー♪」

 

シャンフロのトップクラン、其れも切札ともなれば此処まで極まるのかと一部のプレイヤーは、サイガ-0の実力を目の当たりにする事となり。

 

「あ、の……サンラク、さん。ど、どうぞ……」

「アッ、ハイ。ありがとうございます、レイ氏」

 

スッ……と、テキストを確認する事も無くアクアマリンを手渡してきたサイガ-0より、サンラクが受け取りつつアイテムテキストをチェックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藍の宝閠(アクラシア・ジュエル)

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の胴装備、天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)にセットされ、一式装備を稼働させる為に必要となる、神代の時代に開発された宝石型のエネルギータンク。

 

クターニッドが振るう『────』。其の藍光は生きとし生きる、全ての命の『───』を反転させる。其の光からは、誰もが逃れる事は出来ない。

 

此のエネルギータンクは『八つ』在る………其等を全て揃え、正しき場所に納めて輪廻させし時に、深淵の盟主と力を分けた鎧は目覚めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ステータス反転かぁ……いや紫に青に藍色に、寒色系の反転能力が何れもエグいんだが?んで、だ………クターニッドが操る反転は、魔法・スキル・近距離・遠距離・視界・性別・回復・ステータスの合計八種。てか、此の中じゃ藍色が一番ヤベェ。他のは基本『防御の反転』なのに、コイツだけ『攻めの反転』だ。

 

通常のスタイルを其のままに別のスタイル(・・・・・・)に切り替えれるのは、単純ながら一番恐ろしい物でもある。というかコレ、ステータス極振り連中にとっちゃ『嬉しいんじゃねぇか』?)

 

二種類のステータスに比重を置いて振り分けたプレイヤーからすれば、生命線となるステータスを其のままとして残りを入れ替える事で、別の役割を遂行出来る様になる。

 

何時だかペッパーが話していた、『マッシブダイナマイト』という筋力極振りプレイヤーが、もし仮に筋力と敏捷を入れ替えれば、其の瞬間に超高機動肉弾戦車が完成して突っ込んでくるという、ホラゲーじみた光景が出来上がるだろう。と此処でペンシルゴンが、皆に提案してきたのである。

 

「ねぇ。今此の場に、プレイヤーが全員居るよね」

「あぁ」

「じゃあさ………今から『残りの封将』倒しに行かない?」

「マジで?」

「クターニッドとの戦いに移行するかも知れない、でも逆に移行しないかも知れない。賭けてみる価値は有るんじゃないかな?」

 

ペンシルゴンの言い分も一利有る。現状の魔法攻撃を可能として居るプレイヤー達に、貯蓄しているマナポーションを渡して回復からの、魔法の最大火力で押し切ってしまうのも悪くはない。問題はクターニッドとの戦闘が、封将討伐完了の瞬間から始まるかは誰にも解らない。

 

ならば此処で封将を倒し、残りの日数でルルイアスを泳ぐ回復アイテムたる魚を掴み取り、最終日でクターニッドを攻略…………という道筋(ルート)を取るのも有りだろう。

 

「………皆、連戦になるが大丈夫か?無理だと思うなら、戦闘参加を強要しない」

「俺は行けるぞ、ペッパー」

「残りの封将、スキル無効何でしょ?物理で殴れる魔法職の出番だね」

「私も行けるよ」

「僕は不世出達との戦いで疲れたけど、まだまだ行けるよ」

「私は、行けます……!」

「私はMP回復すれば、竜威吹を放てます!」

「マナポーションで回復しますので、連れて行って下さい!」

「行ける」

「僕も」

「アタシも御手伝いしますわー!」

「ワイもなのさ」

「拙者も行くで御座る」

『ワウ!』

 

NPC含めて、満場一致の答えは出され。パーティーはルルイアスの四方の塔に座す、最後の将にして『スキル無効能力』を宿した封将─────『スレイビール・ダーゴーン&スレイビール・ハイドーラ』こと夫婦魚人が待つ塔へ向かうのだった…………。

 

 

 

 

 

 






夫婦魚人倒しへ




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Q、廃人とは如何なる者か?A、其のゲームを極めた者である(そして大抵何かを犠牲にしている)



夫婦魚人との戦い




Q、廃人とは如何なる者か?

A、其れは人が人としての最低限の時間すらをも、其の一項目に捧げている人間を指す。

 

Q、廃人とは如何なる者か?

A、ゲームで有るならば、システムに許された上限へと至る求道者、または至った者を指す言葉。

 

Q、廃人とは如何なる者か?

A、「◯◯さんからの突破報告待機」等々、取り敢えず『此の人がいれば安心』という期待を背負う者を示す証。

 

Q、総じて廃人が持つ『モノ』とは如何なる事柄を指すか?

A、其の物事に置ける絶対的な揺るがぬ『力』を持つ者。或いは其れを証明した者を指す。

 

そして今宵、旅狼(ヴォルフガング)のメンバーとNPC達は、シャングリラ・フロンティアにて最大火力を賜った者の実力、其の一端を知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反転都市ルルイアスの四方に存在する塔、其の一角に座す最後の封将にして、夫が『黒』の妻が『白』の身体をしながら、全身の全てがヌメヌメした粘液で『物理攻撃』の一切が如何なる原理か滑ってしまい(・・・・・・)、更には塔に近付いた辺りから此方が保有しているスキルの一切(・・・・・・)までもが発動不可能となった、非常に厄介極まる『夫婦魚人』こと『スレイビール・ダーゴーン&スレイビール・ハイドーラ』が、開拓者及びNPCの一団を出迎える。

 

「ヘイヘイヘイヘーイ!どうした、どうしたァ!」

「スキルに物理攻撃は駄目だが、戦えない訳じゃない!」

「魔法や斬撃は効かなくても!」

「ホラホラ、チャンスだよー?」

『ルゥオウ!』

 

サンラクが避けタンクを、ペッパーが聖盾イーディスを構え、京極(キョウアルティメット)・ペンシルゴン・ノワが注意を惹き付け、夫婦魚人の攻撃から仲間達を守りつつ、魔法攻撃が可能な面々が魔法攻撃を仕掛ける。

 

「アイトゥイル!今!」

「【華魔威断(カマイタチ)】ッ!!!」

「エムル、やれ!」

「【加算出力(アッドブースト)マジックエッジ】!!!」

「僕も行きます!【ロック・ジャベリン】!!!」

 

アイトゥイルの風属性斬撃魔法が、エムルの出力増大魔法刃が、レーザーカジキの土属性魔法が、白い身体の妻たるスレイビール・ハイドーラに突き刺さり、絶叫とも呼べる悲鳴が上がる。

 

「おーおー。おしどり夫婦なのは良い事だが………」

「モルド」

「解った!」

「よっしゃ、拳気(けんき)(あお)】ッ!」

 

スレイビール・ハイドーラの悲鳴に、動きが止まるスレイビール・ダーゴーン。其の隙をモルドのバフ魔法を施されたルストが、其の手に握る魔法弓から矢を放ち、眼を射抜いて潰し。死角となった視界を駆けるオイカッツォが、追撃で青を纏うエフェクトと共に顔面を打ち抜く。

 

「焔よ猛れ、其は熱波で喉を震わす猛獣の咆哮。其は光輝にて暗闇を食い破る猛獣の牙。眼に映る敵へ猛れ、高らかなる獣叫(じゅうきょう)は敵を震わせ、轟々たる烈牙(れつが)は敵の喉を食い千切る。焔よ、獣となりて猛れ────【ビースト・ドゥームフレア】!」

 

シャンフロに存在する魔法には『三種類』発動条件が在る。

 

始めに『詠唱』を経た発動。此の場合は詠唱中に動けなくなったり、呪文を一言一句間違えずに唱えなくてはいけないといった、妥当な制約を持つ代わりに『魔法が持つ効果をプレイヤーのステータスが許す上限まで発揮して発動』することが出来る。

 

例を挙げるならレーザーカジキの持つ切札【増乗幅響門(パワーゲート)】を発動する時の詠唱が此れに当たり、長い呪文を間違えずに覚えられるプレイヤーは少なく、モルドのように魔導本……という名の『カンペ』を使うのが主流らしい。

 

次に『詠唱を全カットした無詠唱』による発動で、シャンフロの魔法職のプレイヤー内では、此の方式が一番ポピュラーである。

 

スペルスピードによる即効性が保証される代わりに、効果・火力・射程・範囲等の減少は避けられず、魔法戦士などの詠唱よりも優先すべき事項が在るプレイヤーや、そもそも滑舌的な問題で詠唱自体が不得手なプレイヤーは、此のパターンを多用する。

 

最後に『使い捨て魔法媒体(スクロール)を用いた代理発動』。無詠唱以下の能力減少という致命的なデメリットを食らうが、発動するMPさえあれば猿だろうが、赤子でも使える手軽さに加えて、瞬間転移(アポート)やテレポート等の『火力に依存しない魔法』は、アドバンテージのみ(・・)が手に入るのだ。

 

そしてサイガ-0が使った炎属性の魔法は、あろう事か『完全暗記による詠唱』。其れも魔導書の類いを一切見ずに、何回も『獣』や『猛る』等で混雑しそうな部分が有る中で一言一句を間違える事も無く、流暢な発音と共に詠唱しきってみせたのである。

 

白亜の騎士の掌から凄まじき、火山の噴火に等しい熱がサイガ-0の魔力を一片も残さぬばかりに貪り喰らい、未だ満たされぬとばかりに顕現した炎の獣は、塔を揺るがす咆哮を上げ。ヤバいと感じてか、咄嗟にガードせんとした夫半魚人が食らい付き、其の身を守る粘液が一秒も保たずに蒸発、夫半魚人の絶叫が塔全体に響き渡った。

 

そして追い打ちとばかりに、秋津茜(アキツアカネ)の切札にして、ユニークモンスター・天覇のジークヴルムを模倣した大火力のレーザー砲撃が、夫婦魚人を纏めて焼き払い、燃やし尽くす。

 

「いやぁレイちゃんは、魔法も凄まじいねぇ……」

「前衛も極めれば、魔法職にも届くのか……」

 

こんがりローストにされたスレイビール・ダーゴーン&スレイビール・ハイドーラは、其の身を構成していたポリゴンを爆散させ、後にはドロップアイテムとしての素材と、クターニッドの一式装備を動かす為に必要な『ブリオレットカットが施された掌サイズのガーネット』がドロップする。

 

「ラスト、だな」

 

そう言いつつ、ガーネットに一番近かったペッパーが其れを拾い上げ、フレーバーテキストをチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄の宝閠(イエロム・ジュエル)

 

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の胴装備、天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)にセットされ、一式装備を稼働させる為に必要となる、神代の時代に開発された宝石型のエネルギータンク。

 

クターニッドが振るう『────』。其の黄光は生きとし生きる、全ての命の『──』を反転させる。其の光からは、誰もが逃れる事は出来ない。

 

此のエネルギータンクは『八つ』在る………其等を全て揃え、正しき場所に納めて輪廻させし時に、深淵の盟主と力を分けた鎧は目覚めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(此れで八つ目……深淵を見定む蛸極王装を動かすのに必要な、エネルギータンクは全て出揃った訳だ。残りは一式装備が何処に在るかだが………正直在処に関しちゃ『ノーヒント』な訳だし、残された五日間でルルイアス全土を隈無く捜索しないと……)

 

そうして結論を出しつつ、ペッパーは最後の封将を倒した事で、クターニッドとの戦いに移行するのではと周囲を見渡したが、何も変化が起きなかった。

 

「封将を全部倒しても、イベントが起きるって訳じゃないみたいだな」

「自動的にクターニッド戦に移行しなかったのは、せめてもの救いか……」

 

ユニークモンスター故に初見殺しを仕掛けてくると思っていたが、どうやらそうでは無かったらしい。

 

「となると、ルルイアスの中央………『あの城』にクターニッドが居るだろうな」

 

塔から外を覗き見れば、ルルイアスの中心地に聳え立つ廃れた土錆色(・・・)の城が一つ。四方の塔と城を除き、淡い青色一色の世界でも異質な雰囲気を漂わせている。

 

「さて…………封将は全て討伐したが変化は起きなかったので、残り四日間は各々自由行動にしようと思いますが、異論は有りますか?」

 

ペッパーの問い掛けに、皆『異議無し!』と答えて。封将討伐パーティーは現地解散し、塔の階段を下り降りて、皆セーブポイントへと戻っていく。

 

「ふぁぁ………疲れたァ~」

「お疲れ様ですわ、サンラクさん」

 

皆がセーブポイントへと帰る中、欠伸と共にぐぐぐっと身体を伸ばしたサンラクに、頭に乗ったエムルが彼の肩を揉み解していく。

 

「あ、あの……!サ、サンラク……さん!」

「ん?どうしました、レイ氏」

 

そんな折にサイガ-0がサンラクに話し掛けてきて、指先を当てたり離したりしながら、モジモジしてくる。軈て何かを決意して、彼に話をしたのであった………。

 

 

 

 

 

 






皆各々の戦い




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海鮮ツアー in ルルイアス!



ルルイアスの一日




二日目にして封将全て&深海の不世出存在(エクゾーディナリーモンスター)二体の討伐、リュカオーンの小さな分け身ことノワのテイムに、サイガ-0の帰還とペンシルゴンの御説教と独占欲宣言等々、字面に表し直せば中々にハード&ハイペースな一日を送った、翌日の午前八時。

 

雨が雨戸を打ち付ける音が聞こえる室内で一人、朝食を食べ終えて洗浄から、寝間着より衣服に着替え、歯磨き&顔洗いにトイレと水分補給を終えた梓は、布団を再度引き直しつつ、室内に雨粒が入らないように位置を調節。室内に空気が巡回するよう工夫していた。

 

「さぁて、クターニッドとの一戦まで残り四日……今日中に出来る限り、ルルイアスで採れるアイテムやモンスターの素材を集めまくるぞ!」

 

今日を除けば、七日目以外でまともに動ける時間が無い以上、やれる事を全てやってしまいたいのだ。

 

「アイトゥイルには迷惑を掛けるだろうが……『モンスターを呼び出せる』魔法(?)を所持してるなら、利用しない手は無い………!」

 

パートナーのヴォーパルバニー・黒毛風来女兎のアイトゥイルが持つ『ランダムエンカウンター』。此れを如何に生かして戦うかが、今回の稼ぎで重要になるだろう。未来の為に此処で苦労と苦心を先払いする為に、梓はVRヘッドギアの動作チェックを行い、シャンフロへとログインしたのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鮮ツアー in ルルイアス!本日の進行は旅狼(ヴォルフガング)クランリーダーのペッパーと、付き兎兼モンスター呼び出し要員のアイトゥイル。そしてマスコットのリュカオーンの分け身たるノワが御送りします。

 

「空中は俺の領域でも有るんだよなぁ!!」

「ペッパーはん、今日は何時も以上にやる気に満ちてるのさ………!」

『ワォウ♪』

 

昼間のルルイアスはクターニッドの眷属となった魚達が、マーマンゾンビとして都市内を徘徊する、レーザーカジキ曰く『お魚さん達に対する冒涜』と称した其の街並みを、ペッパー達は駆け抜ける。空は人の上半身に擬態した人魚達が飛び回り、地上は形様々なマーマンゾンビが彷徨いて、時々キメラなるモンスターが産み出したサンラク呼称の海産物合体カイセンオーが現れる。

 

「気分は護衛ミッション+無双ゲー!!良いぞ、楽しくなってきた!!」

 

深海に潜むモンスターと地上判定化で戦える、おそらくシャンフロでも唯一無二の場所・ルルイアス。ゲーマーとして己の成すべき事は、此処で採れる深海のモンスターの素材を採れるだけの採る事を含めて『三つ』在る。

 

其の為にサブ職業(ジョブ)にセットしますは、神秘(アルカナム):運命の輪(ホイール・オブ・フォーチュン)。幸運・レアドロップ確率の倍増&武器・防具・アイテムの耐久減少倍増の、解りやすいメリットデメリットが混在しているタロットカード状のアイテム。

 

確かに武器を用いて、敵やオブジェクトに攻撃をぶつければ耐久値は少なからず減少し、強敵ともなれば損傷は避けては通れない。なので…………素の耐久数値が非常に優れ、かつクリティカルを出せば耐久値が減らないという特性を持ち、まるで『運命の輪と合わせて使ってくれ』と運営が言っているかのような武器────『傑剣への憧刃(デュクスラム)』&『傑鉄への鐵鎚(タウスレッジ)』を中心に用います。

 

元々新鮮な魚が反転の力で変わったからか、腐ったマーマンゾンビを倒せば新鮮な魚の肉や特徴となる素材が落ちる。毒針一つにしても五種類は有るらしく、各々が保有している毒の質もまた異なる上、魚の肉にも食べられる物と食べられない物が有るので、他の使い道を模索する。

 

「はい、其処ォ!んでもって、次ッ!!そしたら『手斧』に速攻切り替えて…………オラァ!」

 

今回の海鮮ツアーの目標(タスク)は、第一がマーマンゾンビや人魚にカイセンオーの素材を集めまくる事。次にルルイアスの何処に在るのか判らない『深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)』の手掛かりを掴む事。

 

そして本命(・・)が、今所持している『武器』を使いまくる事。現状レベル99 Extendの状態で成長が打ち止めされているが、何れ訪れるレベルキャップ解放で新規習得・進化に変化するスキルや、レベル100以上に成る事で使える『三桁スキル』に備えて己を鍛えていく。

 

ラビッツでのユニークシナリオ・実戦的訓練で手に入れ、此の日までインベントリの奥底で眠っていた、ルートエンドミノタウロスの戦斧こと『ダンジョンアックス』を取り出し、オブジェクト化させてから荒々しく振るい上げ、外れにいたマーマンゾンビを脳天から叩き割りながら、何時か造って貰うと決めた『双皇甲虫(そうおうこうちゅう)斧槍(ハルバート)』に想いを馳せて、彼は戦いを続けるのだ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ペッパーも海鮮ツアーか」

「ペッパーさんですわ!」

「おぉ、ペッパー。君もなのか」

『オハヨウ』

 

午前十時、武器の練習と素材集めをしながらルルイアスを駆けていると、同じように人魚を狩っていたサンラク・エムル・アラバ。そしてアラバの剣から出て来た半透明の精霊と、ペッパー達は出逢った。

 

「あ、どうも初めましてペッパーです。此方がアイトゥイルとノワ」

「アイトゥイルなのさ」

『ワウ!』

「あぁ、そうか。ペッパーは初めて出逢ったか。彼女は『ネレイス』、俺の剣に宿る憑依精霊(イグジステンツ)だ」

『ヨロシクね』

 

軽い自己紹介を挟み、ペッパーはサンラクに聞いてみた。

 

「サンラクもルルイアスで素材狩りツアーか?」

「おうよ。クターニッドとの戦いまで時間は有るからこそ、今の内に採れるだけ採ろうって思ってさ」

 

どうやら考えている事は同じだったらしく、サンラクの邪魔にならないように何処等辺で狩りをするか、聞いてみる事にした。

 

「なぁ、サンラク。どの辺りで狩りをする感じ?一応ダブって事故にならないようにしたいんだが……」

「俺等は東側かな、其れから北へ行って一周するつもり」

「そうか。俺達は南に向かって進みつつ、クターニッドの一式装備の在る場所に関する、何かしらのヒントを探すよ」

「成程。んじゃ、此方でも何か見付けたらEメールで連絡入れるぜ」

「頼んだ」

 

こうして話し合いをしたペッパーとサンラクは、各々のメンバーを連れてルルイアスの街並みを駆けて行く。目的を見失わず、成すべき事を成す為に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボーマクロンツォ、ホルタティェル、シャルホーボヤーシュ…………貝を取り込んだカイセンオーからは、食用にするなら良い素材がわんさか採れるんだな」

「火を起こして貝を焼き、酒と一緒に食してみたいさね………」

『ワゥ』

 

サンラク達と別れ、引き続きルルイアス&クターニッド一式装備捜索と武器練習を続けながら南下を続けるペッパー達は、セーブポイントとして侵入可能な家屋に隠れてマーマンゾンビを遣り過ごしつつ、インベントリア内に収納した素材を眺めて呟く。

 

此処ルルイアスで採れるモンスターやアイテムの種類は、大きく分けて三つ。武器や防具に使用出来る物、食糧として食べられる物、換金してマーニに使える物の三種類。昼間の場合はマーマンゾンビや人魚を討伐する事で武器・防具に使える素材が多く、カイセンオーを討伐すれば食糧として使える素材が多くドロップする傾向にあると、彼は少なからず感じた。

 

「行ったみたいだな。よし、続きだ続き……!」

 

目標は出来る限り一撃必殺でマーマンゾンビや人魚を、少ない手数でカイセンオーを倒して、武器の耐久値を保つ事。神秘:運命の輪は武器や防具の耐久減少倍増効果さえ除けば、本当に便利な存在だ。特にゲーム中に一回しか訪れられないだろう特殊フィールド(ルルイアス)ともなれば、其の恩寵は目に見えて顕著になる。

 

「此のまま座礁船の近辺まで向かう、そして道中の敵は無理しない範囲で倒す」

「はいさ」

『ワォウ』

 

青の都市を走り、道中のマーマンゾンビや人魚を速攻で倒し、ペッパー達は目的地を目指して進んで行く……。

 

 

 

 






隈無く、繊細に




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座礁船に潜む秘密、勇者見るは超特急



続くよ、海鮮巡り


※ペッパー君ならアイテム収集するやん………って気付いたんで修正します



「座礁船エリア、無事到着………と」

 

スタート地点から進軍を続け、途中で数体のマーマンゾンビや空を泳ぐ人魚、果ては八か九の生物を取り込んだ『スーパーカイセンオー(ペッパー呼称)』との戦いを繰り広げ、ペッパー・アイトゥイル・ノワのパーティーは、二日前にペンシルゴンが金銀財宝宝箱の山脈を見付けた座礁船が連なる船の墓場に来た。

 

「ペッパーはん、そいえば何故に此処を目指したのさ?」

「一度行った小さな町とかには大体行かなくなるんだが、此の手のゲームだと一回行った場所には、フラグが埋まってたりする事が間々在るからさ。駄目元で散策しようかなって」

 

レトロRPGや横スクロールアクションゲームでは、初回攻略時に訪れた場合、特定アクションやアイテムが無いせいでアイテムが取れず、其れが出来るようになってから再度来訪………という経験がペッパーには有った。もしかしたらクターニッドの一式装備に関わる、重要なフラグが在るかも知れないと考え、彼は此処にやって来たのだ。

 

「行こう、皆」

「はいさ」

『ウォウ♪』

 

手始めに竜骨がパックリと割れて、西瓜割りされたようなガレオン船に乗り込む一向。船内に在る木造の扉を静かに開いて部屋の中を覗き、音を立ててマーマンゾンビを呼び寄せないように静かに行動していく。

 

最初に訪れた時は、金銀財宝宝箱の山に目を奪われたが、改めて船を見てみると、今からずっと昔の造船技術で造られただろう痕跡が残り、一部の部屋には本等を含めて調べられるオブジェクトが幾つか在った。

 

「昔の航海日誌に、医学関係の本、其れから此の近辺の海図………。こりゃ『ライブラリ』にして見れば、金銀財宝以上に価値が有りそうな資料ばかりだな……」

 

世界観を考察・真実を白日の元にする事を活動方針とするライブラリにとっては、当時の船乗りの生活や世界背景を知れるので、此れ一冊でも相当なマーニを取れるだろう。何ならペンシルゴンに本の事を話したなら、非常にニッコニコな笑顔で悪い事を考える気がしなくもない。

 

「とと、いけない………時間は有るとはいえ、他にも船は在るんだ。どんどん探索して行こう」

 

レア物にはならずとも、価値はプレイヤー各々で決まる。航海日誌を含めたアイテムを取れるだけ取り、インベントリアに収納。行く先々でも同様にアイテムをインベントリア内に入れては、船内散策を続けるペッパー達は途中でキッチンや食堂、船医室に入っては本や錆び気た道具等、色々な物を見付けた。

 

『薬剤の調合書』に、日本で言う所の『解体新書』。ティークに見せたなら、驚いて天井に頭を打ち付けそうな『海の食材のレシピ本』等々、取れる物は全て取り。そして何より、彼がガレオン船散策で一番の衝撃を受けたのは。

 

「おおぅ…………」

「凄いのさね……」

『ワゥ~』

 

船内の宝物庫に積み重なっている、金銀財宝宝箱の巨大山脈が彼等を出迎えたのである。二日前にペンシルゴンが見付けた物にも匹敵する量であり、ペッパーは独り占めにするのも悪いと考え、チャット部屋【ルルイアス攻略最前線】にて写真と共にメッセージを投稿。財宝の一部をインベントリアに収納し、次の座礁船を調べる為にアイトゥイル・ノワと共に移動していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………マジか」

 

【ルルイアス攻略最前線】に投稿された、ペッパーの新規メッセージ。其れを見て一際衝撃を受けたのは、ログイン出来ていないユニークシナリオ参加メンバーや、ついさっきログインした参加メンバー……ではなく。

 

二日前に一度、座礁船エリアにて鎮座していた金銀財宝宝箱の山脈を、一つ残らずインベントリアにブチ込んでいた『サンラク』だった。

 

「サンラクさん、サンラクさん。いきなり神妙な顔してどうしたのですわ?」

「サンラク、まだ奴等が付近に居るぞ……!」

 

セーブポイントとして利用可能な建物に隠れ、マーマンゾンビ達を遣り過ごしていたエムルとアラバは、サンラクに声を掛け。そしてサンラクは今後の行動を一羽と一匹に伝える。

 

「エムル、アラバ、悪いが素材乱獲の予定を一部変更だ。今すぐ座礁船エリアに向かうぞ」

「マジですわ?滅茶苦茶長距離移動ですわ……?」

「奴等に見付かるリスクも有るんだぞ……?」

「フッフッフ………。其れに関しても、既に秘策を用意してあるんだよなぁ。アラバはルルイアスを低空水泳、エムルは確り掴まっとけよ………痺れるから

 

首を傾げるエムルとアラバをチラッと見て、ニンマァァァァァ………と、一際悪い笑顔を浮かべたサンラクは、マーマンゾンビが通り過ぎたタイミングを見計らって、一気に行動を起こす。

 

「え、あのぉ~……サンラクサン……?其の手袋叩き付けたらバチバチするのって、乗ってるアタシも巻き込まれそうですわ……?」

「賢いねぇ、エムルちゃん。此の際だから感電初体験もしておこうかぁ~?」

「あ、いえ、アタシは此処でお留守番しピェ!?」

「さぁ行こうぜぇぇぇぇ………!」

「アビビビビビビビビ!?」

「サンラク早いぞ!待ってくれ!?」

 

エムルに逃げられる前に頭を捕まえ、強化(バフ)スキルと機動系スキルを点火、駄目押しに封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)を胸に叩き付けた刹那。彼の全身を黒雷が纏い、エムルの悲鳴をアラームとしてルルイアスの街並みを猛スピードで走り・飛び跳ね・駆け抜け、アラバが全速力の水泳で追い掛け始めたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって座礁船エリア。此処ではペッパーがアイトゥイル・ノワと共に幾多の船達を散策しており、現在はペンシルゴンが財宝を発見したと、自分をEメール呼び出した船にやって来ていた。

 

「…………………………」

 

船内を調べて、非常に『有益な情報』を手にした彼が訪れた部屋には、金銀財宝宝箱の山々。およそ二日前に同じような景色(・・・・・・・)を見たのを、彼は鮮明に記憶している。アレは自分とペンシルゴンにオイカッツォ、そして京極(キョウアルティメット)の四人でインベントリアに分配して収納したが、其れが何故か復活してい(・・・・・・・・)るのだ(・・・)

 

「他の船にも金銀財宝が在ったのは良いとして、此処に有った筈の物が在るってのは、そういう事か………!」

 

他の船でも宝物は一部ずつ、本や資料は全部貰って回収していた時に抱いた、強烈な違和感。其れがペッパーの中で、一気に確信へと変わる。

 

適宜補充(・・・・)されて(・・・)いるんだ(・・・・)。ルルイアスの座礁船エリアに在る財宝達は………!」

 

スパンは判らないが、時期によっては二回手に入る可能性が有る事が判明した、ルルイアスの金銀財宝達。此れは絶対に知らせておかなくてはと、【ルルイアス攻略最前線】にメッセージを送ろうとした時だった。突如船外で鳴り響く轟音と、其の合間に響く『電気音』と『悲鳴』が此の場に居る全員の耳に届いたのだ。

 

「ペッパーはん、エムルの声さ!」

「って事は、サンラクだよな……!一体何が起き………た?は???」

「ペッパーはん、どうしたの………えぇ???」

 

座礁船の外に移動し、外の様子を見たペッパーとアイトゥイルは、其の光景に絶句する。

 

先頭を黒雷を纏いながら『鮭の頭』を付けて走るサンラクと、其の肩に掴まりながら痺れているエムル、更には空中を全力で泳いでいるアラバの姿。そして其の後ろでは大量のマーマンゾンビと人魚に、全長500m越えの巨大な虹色のリュウグウノツカイが一頭、口からビームをブッ放しては其の巨体でゾンビや人魚を轢き殺しつつ、サンラクを食べんとして、此方へ向かってくるのが見えた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ死んで堪るかぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」

「だずげででずばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!??」

「のぉおおおおおおおおお!!!???」

 

死んだ鮭の瞳で走る様を見たペッパーは、ありのままの心情を吐露するように、こう呟いた。

 

 

 

 

「何やってんの?」

 

 

 

 

と。

 

 

 






電車を引き連れ、鮭が来た




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暴走鎮めるは、死神の一振



君はどう対処する?




モンスタートレインと呼ばれる行為がゲームには有る。大量のモンスターのヘイトを連れ回す行為、又は其れを利用してのMOD狩り(スロート)を行い、経験値とドロップアイテムを手に入れる方法にして、フルダイブ型VRゲームが主流となった現代よりも前の時代、ディスプレイを用いてプレイするMMORPGでも使用されたアクションでもある。

 

此れをやる場合に周りには他のプレイヤーが居ない事や、長時間トレインを行わない事等、ゲームエチケットが多数存在する『迷惑行為』の一つとして取り上げられている為、サンラク程のプレイヤースキルを持つ人物が其れ(・・)を起こしたなら、意図的にやっているor余程の事が無ければ起きる事は無い。

 

(問題は何でサンラクの頭に、何時もの鳥じゃなくて『鮭の頭』が着いてるかだよなぁ……。アレは多分ルルイアスで拾ったんだとして、如何なる原因でモンスタートレインを起こしたかだが………。おそらく此方に向かう途中で『鮭の被り物』を見付け、手に入れた所でマーマンゾンビか人魚に気付かれ、逃げてる内にエムルさんとアラバさんを逃がすタイミングを見失った。

で、ウツロウミカガミでヘイトに責任転嫁したけど、周りからの雪崩れ込みに追い込まれて、にっちもさっちも行かなくなったので、最終自衛手段として『ランダムエンカウンター』を使ったって所だろうか?)

 

アイトゥイルやエムルを始め、ヴォーパルバニーや猫妖精(ケット・シー)といった極一部のモンスター達には、自力では『どうしようもない状況下』に置ける自衛の最終手段として、ランダムエンカウンターと呼ばれるスキルを習得している事がある。

 

其の能力は『使用者のスキルレベル×倍以下で尚且つ使用者よりレベルが高く。周囲に存在する非アクティブ状態のモンスターをランダムに一体召喚する』といった効果を持ち、状況に応じては危機を脱する事も破滅をも招くとされる、まさに『一か八かの大博打』に等しい力である。

 

サンラクの叫び声に、エムルとアラバの悲鳴から、奇しくもペッパーは大体の状況を把握するに至って。

 

「ペッパーはん!エムルが!」

「当たり前だ!助けに行くよ!」

「………ッ!はいさ!」

『ウォウ!』

 

右脇にノワを、頭にアイトゥイルを乗せながら、空中ダッシュスキルを全開に、ペッパーがルルイアスの空を駆け出す。

 

「取り敢えず、あのマーマンゾンビ達は巨大リュウグウノツカイが、トレインで轢き殺しているから良いとして………。お、サンラクがウツロウミカガミを使った」

 

傑剣への憧刃(デュクスラム)と思われる片手剣を振るい、ヘイトを切り離しつつ逃げるサンラクと、残された残像に群がるマーマンゾンビに、其れ等を纏めて轢き潰す巨大リュウグウノツカイで一種の混沌(カオス)が出来上がり、付近にはドロップアイテムの数々が。

 

そして逃げたサンラクを見れば、近くの建物の屋根にて革手袋を付けた右手を胸に叩き付けて黒雷を解除、魚を頭からバリボリと貪り喰らいながら、エムルとアラバに思いっきり怒られている。

 

「まぁ……うん、あのリュウグウノツカイと周りのドロップアイテムは貰っていくとしよう」

 

ペッパー的にも此れはあまり好ましくは無いが、エムルを助けるという大義名分を得たので、速攻で倒すに限る。取り出すは『短い白鞘に収まった短刀』。右手で鞘を、左手を逆手に(・・・)柄を持ちて、抜き放った刀身は『白の刃と金の峰』を持つ。

 

「コイツの初陣には『うってつけ』だ……ビィラックさんの元で真化を行い、強く・硬く・軽く成った『白磁(はくじ)短刀(たんとう)』。其の名を『秀刀(しゅうとう)白金(しろがね)】』、一気に決めようか!」

 

秀刀【白金】……『カイゼリオンコーカサスの甲殻』を使い、白磁の短刀の真化を行った此の武器は、武器種は短刀と変わらない反面、逆手持ちでしか(・・・)装備出来ないデメリットを抱えている。だがしかし、ペッパーが其のデメリットを持ちながらも使うのは、其れを被っても尚余りあるメリットが、此の武器には内蔵されているからだ。

 

先ず此の武器の耐久値は『装備者の歴戦値』によって左右され、積み重ねた戦いの重さと潜り抜けた戦いの数が、此の武器の耐久に其のまま直結する。

 

次に装備者の歴戦値が一定値以上の場合、此の武器で繰り出すスキルによる『クリティカルの発生率』が、飛躍的に跳ね上がる。武器の性質上、刀としても剣としても扱われる特性とも相俟って、各種斬撃スキルにも対応している。

 

「サンラク!此のリュウグウノツカイ、俺が貰うよ!!」

「ペッパー!」

 

サンラクに声掛け、ペッパーは二つのスキルを起動する。シャイニングアサルトによるブーストで更に速く、同時に白金の刃が黒いエフェクトを帯びて、リュウグウノツカイ─────アルクトゥス・レガレクスの『首』辺りを切り裂き、彼の手には『クリティカル』の感触が伝わった。

 

「──────死神の斬撃(デス・マサカー)

 

其の一閃を放った後、ペッパーはサンラクの近くに着地。僅かながら落下ダメージを被るも、彼は其れを必要経費と割り切って、インベントリアに収納されている食べられる魚を頭から噛り、咀嚼していく。

 

「内臓の臭みやらが鼻に来るぜ…………」

「おう、ペッパー。今お前、ギガリュウグウノツガイに何したんだ?」

「まぁ見てて、100秒で『決着』が着くから。っと、リュウグウノツカイが来たよ!」

 

巨体を畝りしならせ建物を粉砕し、マーマンゾンビや人魚を薙ぎ払いながら、アルクトゥス・レガレクスがペッパーとサンラクのチームに襲い掛かる。

 

「すげぇパワーだな、ギガリュウグウノツガイ!………いや、アルクトゥス・レガレクス!まるで『暴走列車』だ!」

「まぁ、ルルイアスの環境下じゃなけりゃ苦戦するだろうけど………よっ!」

 

互いにグラビティゼロを起動、建物の合間を跳ね駆けながら、アルクトゥス・レガレクスの十八番たる突撃を回避し、距離を放した所で襲い掛かるブレス攻撃を生き残ったマーマンゾンビや人魚に押し付けて、時間を稼ぐ。

 

そしてペッパーが繰り出したスキルから、丁度100秒が経過した其の瞬間。アルクトゥス・レガレクスの巨体が一際大きく痙攣し、両眼からは光が失われ。泳ぐ力を無くした巨体が地面に落ち、ルルイアスの街を押し潰し、其の身を構成するポリゴンは崩壊を開始して。

 

「アルクトゥス・レガレクス、大いなる巨体を畝り動かし、敵を薙ぎ払う竜王魚よ。次に戦う時は、タイマンで戦おう」

 

ペッパーの言葉の後に、アルクトゥス・レガレクスは爆散。大量の素材(ドロップアイテム)の山脈が形成され、深淵の街に再び静寂が訪れる。

 

「え、死んだ………?」

「うん。死神の斬撃ってスキル、色々と条件が有る代わりに100秒後に一部のモンスターを除いて、確定即死を敵に叩き付けられるんだ」

「マジかよ……致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)やっぱ壊れアクセサリーだわ」

 

ペッパーの説明から、大方の理由を突き止めたサンラクは、鮭の頭の濁った視線で彼の右手首に光る腕輪を見ながら言った。

 

「で、サンラクよ。其の鮭仮面は何なの?」

「コレ?『リッチマン・キング・サーモンの頭面(かしらめん)』ってアイテムでさ。移動途中に此れ着けてた腐れつみれを見付けて、ブッ飛ばして入手したんだが………」

「クターニッドの眷属に囲まれてしまってな……其処でエムルがランダムエンカウンターを使い、あの巨大魚を呼び寄せ、我等は逃げていたのだ」

「ビリビリで死ぬかと思いましたわ!」

 

ルルイアスの限定ドロップアイテムだろう其れを手にする為に、NPCと共に行動しながらもリスクを取ったサンラクは、アラバとエムルに「スンマセン……」と謝っている。

 

彼等彼女等が無事だった事に安堵しつつ、ペッパーは自身が討伐したアルクトゥス・レガレクスの素材を一つ残さず、インベントリアに収納。代わりにサンラクがトレインしてきた、マーマンゾンビの素材は彼に全て渡す事にしたのであった………。

 

 

 






騒動解決




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闘志尽きぬ限り、開拓者は止まらない



休憩は適度に行おう




モンスタートレインをしていたサンラク達と別れて、正午付近に差し迫った頃。ペッパーは近くのセーブポイントへ移動、からの一旦ログアウトで現実世界の梓に戻った彼は、昼食に焼きそばを作る事に決めた。

 

人参・ピーマン・玉葱・キャベツ・もやしを野菜室から出し冷蔵庫からはパック焼きそば麺を二個、冷凍庫からは冷凍挽肉を取り出し、野菜はもやし以外を一人前で食べられる適量分を切り出し、一口大にカット。麺のパックには竹串で、無数の穴を空けてレンジに入れ。

 

其の間にフライパンを用意して油を少量敷き、加熱と共に適温になった所で、冷凍挽肉と切り出した野菜達を入れて強火で一気に炒めつつ、ある程度火が通ったタイミングで中火へ。

 

其処にコップ一杯の水をフライパンに投入し、蓋をして具材を蒸し焼きにしながら、レンジに入れていた焼きそば麺を取り出して袋の縁を切り、付属するソースと共にフライパンに入れられる状態を構築する。

 

水が飛んだタイミングで麺とソースの元を加え、更に隠し味でオイスターソースを一回し入れ、再度強火で一気に絡めて炒めきり、皿に盛り付ければ。

 

「よし、完成……!梓流『野菜たっぷり焼きそば』、良い出来映えだ!」

 

スマフォでパシャりと撮影、牛乳をマグカップに注いで『いただきます』の合掌。熱々の焼きそばをゆっくりと味わい、時折牛乳を飲みながら十五分掛けて完食。『御馳走でした』と合掌後、食器と調理器具を片付けてトイレを済ませ、彼は来週一週間の天気予報を確認する。

 

(来週の中盤辺りに台風が日本に接近……バイトに行ければ良いんだが大丈夫かなぁ………)

 

一抹の不安を抱きながらも、今の自分がやるべき事である、反転都市ルルイアスでの稼ぎと武器の鍛練、そして習得しているスキル達の成熟を行う事。来るレベルキャップ解放に備えて、今の自分にやれるだけの事をやっておく為、彼は再びシャンフロへと飛び込んでいったのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後のルルイアス海鮮ツアーは、アイトゥイルの持つ『ランダムエンカウンター』で呼び出したモンスターとの戦い。読んで字の如くランダムエンカウンター(無作為に呼び出す)であり、召喚されるモンスターもアイトゥイルのレベルと彼女が持つスキルレベルが鍵を握る。

 

「近接型のスーパーカイセンオーや射撃タイプのカイセンオーも居たが、ありゃあ『大物』だ……!」

「で、デカい『アンコウ』なのさ……!」

『グルルル………!!!』

 

今回呼び出された其れは、空中を優雅に。しかし力強く泳ぐ姿を、ペッパー・アイトゥイル・ノワはルルイアスの屋根から見上げて、各々の言葉を溢す。

 

アトランティクス・レプノルカが『泳ぐ巨大戦艦』であり、アーコリウム・ハーミットが『動く巨大要塞』であるならば、彼等の真上を泳いでいる全長350mクラスの巨大鮟鱇の周囲に『沢山の魚達が付き添い』、共に泳いでいるのだ。

 

其の魚達には『鋭い牙を生やされたり』、マンタの体に『ブースターかミサイルの様な巻き貝』が付いていたり、巨大な鯨には『全身に蛸足をドレスアップ』していたりと、キメラじみた改造(・・)が施されている。

 

其れを行った『巨大空母鮟鱇』─────『スレーギヴン・キャリアングラー』が咆哮を上げたのと同時に、付き添う魚達が一斉に、ペッパー達に注目(ヘイト)を向けてきた。

 

「ペッパーはん、敵が来たのさ!」

「やるべきは『速攻』!艦載機()がどんなに多かろうが、空母(帰る場所)が無くなったら全滅の運命は変わらないッッッ!」

 

戦争レトロゲームでやって来た、対空母戦の心得!周りの飛行機は出来るだけ無視、敵軍隊の寝城を集中攻撃して叩き潰す!武器の損耗は神秘(アルカナム)運命の輪(ホイール・オブ・フォーチュン)の効果で倍増しているので、効率良くクリティカルを当ててダメージレースを制する!

 

「ヨッシャ、空母鮟鱇撃沈作戦開始だッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉ、大丈夫かペッパー!?」

「あぁ、オイカッツォか………何回か死に掛けたが、何とか全員生きてるよ~」

「く、草臥れたのさ………」

『ワゥ~……』

 

およそ二時間の激闘の果てに、十数回の走馬灯に駆られたペッパーの繰り出した頭頂部への一撃が、スレーギヴン・キャリアングラーの生命活動の火を絶やし、本体と改造艦載魚達は遂に、ルルイアスの大地に沈んだ。

 

騒ぎを聞き付けてか、此方にやって来たオイカッツォが見たのは、積み重なったスレーギヴン・キャリアングラーと眷属となっていたモンスター達のドロップアイテム(素材の山脈)達の頂上にて、ボロボロのヘトヘトで寝っ転がっているペッパーとアイトゥイルにノワの姿。

 

「ってかペッパー。お前一体何と戦ってたんだよ……滅茶苦茶素材落ちてるじゃん………」

「モンスターの雄個体を自分の眷属にして、改造して獲物を狩る巨大空母の雌鮟鱇………名前がスレーギヴン・キャリアングラーって言うね。滅茶苦茶苦戦したけど、アイトゥイルとノワのお陰で勝てたよ………」

 

此の空母鮟鱇、自身が死ぬと眷属としていた魚やモンスター達も纏めて死ぬらしく、神秘の影響も有ってか鮟鱇本体や眷属モンスター達の希少素材(レアアイテム)が大量にドロップした。

 

しかしアトランティクス・レプノルカもそうだったが、此の鮟鱇も『体力お化け』のモンスターだった。兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】を用いた打撃スキルやバフスキルをてんこ盛り、王撃ゲージを70%消費を一回・100%消費での回復を十三回・専用スキル【不壊なる激闘打(アンブレイカブル.ディボウリー)】を六回、此のモンスターに叩き込んだと言えば、其の脅威が伝わるだろうか。

 

「なぁ、ペッパー。何かリュカオーン………じゃなくてノワだっけ、また『大きくなった』?」

 

オイカッツォが見つめる先、仰向けに素材の山に倒れているペッパーの腹に乗っている、リュカオーンの小さな分け身であるノワ。アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"との戦闘の後から、更に少し大きくなったようだ。

 

「多分テイムモンスターも『レベルアップ』してるんだと思う。じゃないと体格が大きくなるのに、説明が付かない」

 

ペロペロと頬を舐めては、ペッパーに甘えてくるノワ。実際危うい場面で幾度もヘイトを買って出てくれたのが、何を隠そうノワだった為に御褒美の甘える権利は、有って良いとは考えている。ペンシルゴンが見たら、また面倒な拗らせ方をしそうな予感しかしないが。

 

「うわ、希少な素材ばっかりじゃん………やっぱ『運命の輪』の効果?」

「あぁ。武器防具の損耗を加味しなければ、本当にすげぇ効果だよ」

 

シャンフロにおける『クリティカル判定』は、其のプレイヤーの持つ『幸運と技量』の二種のステータスの高さが、直接関係している。結果論だが、神秘:運命の輪と兎月【暁天】のベストマッチであり、王撃ゲージを消費すれば武器耐久値を回復出来る能力と非常に噛み合っていた。

 

「よし、休憩終わり!素材を回収して、一旦セーブポイントに帰るとしよう。オイカッツォはどうする?」

「俺は探索とマーマンゾンビとの戦いかな。カイセンオーって奴に遭ってみたい」

「そうか。気を付けてな」

「そっちもなー」

 

インベントリアにドロップアイテムを全て収納し、ペッパーとアイトゥイルにノワの一向はオイカッツォと別れて、セーブポイントへと向かって行ったのだった………。

 






空母を落として素材大量




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休憩を越えて、反転都市にて勇者は戦う



時間の限り、戦い続けろ




「やぁやぁ、私の愛しのあーくん。ノワちゃんとのデートは楽しかったかなぁ~?」

『グルルルルルルル…………!!!!!』

 

スレーギヴン・キャリアングラーとの大決戦を終えて、ヘトヘトのボロボロになったペッパー・アイトゥイル・ノワはセーブポイントへと帰還し、額に青筋を浮かべながら敵意をノワにぶつけるペンシルゴンと、其の敵意を相手にノワが喉を鳴らしつつ、真正面から相対する。

 

「デートって……ノワはルルイアスでの稼ぎに付いてきただけで、さっきまで巨大空母鮟鱇と死闘を繰り広げてさ」

「ふぅ~ん。証拠は有るのかな~?」

 

「疑り深いなぁ……」とインベントリアからスレーギヴン・キャリアングラーの素材を一部取り出してペンシルゴンに見せると、彼女も落ち着いた様子で深呼吸をする。

 

「どうやら本当みたいだから、君を信じるよ。あーくん」

「あぁ、因みに其の巨大空母鮟鱇って何か周りの生物を引っ張り寄せて、眷属にするとか何とか説明されてるっぽいのよね。多分彼奴等って共通して『雌個体』じゃないかな?其れと本体を倒したら、眷属も纏めて死ぬから稼ぎにオススメだよ」

 

スレーギヴン・キャリアングラーの素材の中には、特殊な『フェロモン』を散布・海中を泳ぐモンスターの『雄個体』を引き寄せて、自身の眷属として取り込んで改造してしまうという、とんでもない生態について記載されていた。

 

「へぇ?其の鮟鱇にフェロモン付けられたのかなぁ、あーくんは?」

「いや、リュカオーンの愛呪の影響で全部弾かれたけど?」

 

そう、ペッパーがスレーギヴン・キャリアングラーとぶっ通しで戦えた最大の理由の一つが、鮟鱇の放つフェロモンの効果を『リュカオーンの愛呪』による守りで一切を受け付けず、権能の悉くを弾く事が出来たお陰で、彼は戦い続けられたのである。

 

「成程ねぇ?結果的では有るけど、ノワちゃんは私の(・・)あーくんを護ってくれたのね。ありがと」

『ワゥルゥ、ウォウ』

 

多分『お前の為じゃないんだが?あと彼はワタシのモノだからな?』とでも言いたげな鳴き声で、ノワはペンシルゴンに答えたと思われる。

 

「あーくん、私もルルイアスで大物探しに行くからね。あとさ───────」

 

そう言って、ペンシルゴンはペッパーに歩み寄って耳元で「今日の夜、君に電話を掛けるから。夜の十時にちゃんと出てね?」と耳打ちし、彼女は己の為の戦いをしにルルイアスへと歩き出して行った。

 

「ペッパーはん、相変わらずペンシルゴンはんは独占欲に満ちてるのさね」

「まぁ何時もの事だから……」

 

遠い目をしながら、ペッパーは二階に在るベッドエリアへ移動し、其の身を横たえる。

 

「一時間仮眠取ってくる、アイトゥイルとノワも其の間に確り休憩を。夕方にルルイアスで狩りをして、夜にペンシルゴンと出掛けてくるよ」

「はいさ!」

『ウォウル!』

 

目を閉じてログアウトをする寸前、ノワが自分の腹に乗っかって丸くなるのを目撃し、シャンフロにおけるペッパーの意識は、現実世界に居る梓の身体へと戻っていくのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、休憩終わりっ!さぁ、狩りの時間だ!」

「ペッパーはん、おはようなのさ!」

『ワォン!』

 

一時間後、現実世界で仮眠を取った事により思考がスッキリした梓は、シャンフロにログインし直してペッパーとして覚醒、開口一番にやる気を顕にする。

 

「お、ペッパーじゃねーか」

「よっ、クランリーダー。ペンシルゴンが随分上機嫌だったけど、何かあったの?」

「ペッパーさんですわ」

「ペッパーさん、こんにちわです!」

「あ、ペッパーさん!」

「ペッパー殿」

 

ふと横を見れば、鮭頭のサンラクにオイカッツォとエムル、レーザーカジキと秋津茜にシークルゥの姿が在り。特にクソゲーマーは身体を揺らし、プロゲーマーはニタニタと随分意味深な表情をしている。

 

「まぁ、色々在ったからなぁ………」

「へー、色々ねぇ?」

「色恋沙汰ですかぁ?お熱いねぇ???」

「…………其処の二人、絶対解った上で言ってない?」

「「其れは無いから安心しろ」」

「うん、絶対嘘だわ」

 

遠い目をしながら、ペッパーは溜息を一つ付いた後に立ち上がって言った。

 

「俺は此れから狩りに行くんだが、皆はどうする?」

「俺は夜のモンスターの素材を稼ぎてぇから行くわ」

「お、んじゃ俺も付いてく」

「僕は学校のテスト勉強が有るので、ログアウトします」

「私もです!」

「解った、レーザーカジキと秋津茜は頑張って」

 

ペッパーのエールに「「はいっ!」」と光面組は答え、ベッドに横たわりログアウトしていった。

 

「さてと、じゃあ行きましょうかね」

「おうよ、インベントリアには素材突っ込みたいからな」

「夕方のルルイアスで稼ぐぞー!」

「アタシも、お供しますわー!」

「ワイもさね」

『ウォウ♪』

 

皆各々の目標を抱え、三人と二羽と一匹は戦いへと飛び込む。セーブポイントから距離を取る為に離れ、マーマンゾンビや人魚の敵の視界を潜り抜けて、ルルイアスの空中写真からバトルフィールドに適したポイントに、彼等は移動する。

 

「此処だな………エムル、アレを頼む」

「またですわ!?またアレをするですわ!?」

「エムルさん、俺達が付いてますから」

「え、何するの?」

 

行間が読めないオイカッツォは首を傾げ、サンラクが何をしようとしているかを読んだペッパーは、エムルにそう言って。

 

「………………ルルイアスから地上に帰えれたら、沢山魔導書買ってやるよ。更にラビッツスペシャルパフェ食べ放題も特典に付けちゃう」

「本当ですわ!?マジですわ、サンラクさん!?」

(相変わらずチョロいなぁ、エムルは)

(食欲と欲望に対してチョロ過ぎる………)

(いやチョロいな)

(エムル、相変わらずチョロいのさ………)

 

サンラクは計画通りとニヤリとゲスな笑みを、ペッパーは大丈夫かなと心配に、オイカッツォは思わずツッコミたくなり、アイトゥイルは我が妹の行く末が気掛かりに、ノワは大きな欠伸をして前足を手入れする。

 

そして当のエムルはと言えば、やる気充分と言った表情で『ランダムエンカウンター』を使用し、ルルイアスにモンスターを呼び寄せ始めた。

 

「お、やぁやぁゲーマー諸君。何か面白い事をしているみたいだね?」

 

そんな折に噂を聞き付けてきたのか、はたまた恋人であるペッパーの気配を感じたのか、ペンシルゴンが屋根を伝って此方にやって来た。

 

「おぉ、ペンシルゴンか。今から俺達でエムルが召集したモンスターを、思いっきりブッ飛ばそうかと思っててな」

「ペンシルゴンもやる?」

「そうだねぇ………サンラク君呼称のカイセンオーとも戦ったけど、ちょっと物足りなかったからね~」

「サンラクさん、来ますわ!」

 

エムルの声に、全員がルルイアスの空を見上げれば水柱を上げて、呼び出されたモンスターが現れる。其の巨大を見たペッパーは非常に見覚えが有った────何せ先程自分とアイトゥイルにノワは、二時間の激闘を演じたモンスターであったが為に。

 

「マジか………スレーギヴン・キャリアングラーかよ……!?」

「アレがあーくんの言ってた、巨大空母鮟鱇か………!」

「あぁ、そう言えば深海の帝王が襲ってた奴に似てると思ったら、ソイツだったか」

「いや、でっっっっっか…………」

 

各々言葉を溢していた時だった。

 

『ルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!ワゥ!!!ワゥ!!!ワォゥウウウ!!!!!』

「ノワ、どうした!?」

 

突如としてノワが吠え出したのだ。其の様子たるや、あからさまに『あのスレーギヴン・キャリアングラー』に嫌悪感を抱いているようにも見える。

 

「なぁ………あの巨大鮟鱇『おかしくねぇか』?」

「えっ?」

「何て言えば良いのかな………『何か死んでる』様な気がしなくもないのよね、アレさ」

「マジで?」

 

サンラクとペンシルゴンが気付いた『異変』。其れはある意味『正しい』。

 

何故なら────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其のスレーギヴン・キャリアングラーは『既に死んでいるのだから』。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして同時に。ペッパーとサンラクの二人には、とあるリザルト画面が表示されたのである。

 

『称号【裏三強謁見(うらさんきょうえっけん)】を獲得しました』

 

彼等は気付く、あのスレーギウン・キャリアングラーは不世出存在(エクゾーディナリーモンスター)であると。

 

 

 

 






呼び出されたのは、死せし巨大空母


称号解説


称号【裏三強謁見(うらさんきょうえっけん)

深海にて、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"、スレーギウン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"、アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"の三体と遭遇する事で手に入る。海底に行く手段が無い限りは、ルルイアスで遭遇する乱数に祈らないといけない。

因みに通常個体三体に遭遇すると手に入るのが【三強謁見(さんきょうえっけん)】。




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死なぬなら 蘇生(おこ)してしまえ ホトトギス



君達は如何に攻略する?




スレーギヴン・キャリアングラー。

 

其れは『冥府(めいふ)深海(しんかい)』に住まい、深海の王 アトランティクス・レプノルカと海の森 アーコリウム・ハーミットと並ぶ頂点捕食者の一体であり、深海三強の一角に座す巨大な鮟鱇のモンスター。

 

此のモンスターは共通して、自分の体内から『特殊なフェロモン』を海中に撒き散らす能力を持ち合わせており、自身と異性の生物をフェロモンによって魅了し、己の眷属として使役し、戦闘に備えて他眷属と合成し、より於曾ましき姿へと改造する事が出来る。

 

そうして眷属として従えた多種多様な生態系と共に、海を泳いで行きながら、更なる生物を取り込んで軍隊とする姿は、まさに『巨大な空母と艦載機』の様相を呈するのだ。

 

 

 

────────────だが。

 

 

 

スレーギヴン・キャリアングラーが取り込んだ異性のモンスター達の中には、極稀ながら『寄生生物』に感染したモノが取り込まれる事がある。

 

其れは巨大な『依り代』を、己の住みかとなる『身体』を求め、食物連鎖を通して次々と『乗り換え』ながら、軈て深海の空母 スレーギヴン・キャリアングラーに辿り着く。

 

身を潜め、牙を潜め、依り代としたモノを『操り』。巨大な空母に接触した瞬間に、其れ(・・)は接触感染或いは媒介物感染を以て、スレーギヴン・キャリアングラーの身体へと潜り込む。

 

其れはまるでカタツムリに感染し、本体を殺して乗っ取る『ロイコクロリディウム』のように、深海の空母の脳を破壊して本体を殺害、己が意のままに生きる為の身体に使い、来るべき時に再び同じ事を繰り返す為に備えるのだ。

 

だが、生命活動を停止したスレーギヴン・キャリアングラーの身体は腐り落ちていき、軈ては深海の世界で朽ち果てて消えていく。死体が消える其の時まで、死した空母は更なる生物達を求めて、フェロモンを撒き散らし続ける『動く厄災』となる。

 

死せるが故に、死なずの怪物──────そうして誕生したモンスターこそが、不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)『スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"』。

 

死を越えた者は殺せない。其れを救えるのは……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!??」

「やべーって!!!何あの『空母』!?さっきから魚飛ばして来てんだけど!?」

「爆撃が止まらないね……!」

「さっきから本体叩いてみてるが、全然ダメージが入ってない!しかもコイツ、多分『死んでる』!!」

「サンラクザン、サンラクザン!?此れヤバいですわ、死ぬ死ぬ死ぬですわぁぁぁぁぁぁ!!」

「エムル、此処がヴォーパル魂の見せ所なのさ!」

『ウォルァア!!!』

 

ペッパーが空中を駆け抜け、刻蓬封点認視界(エディア・キュリス・ウラタナ)&龍脈を映す視覚(ドラスティエル・ナルクト)のダブルスキルコンボを用い、空中から地上に降りてきたスレーギヴン・キャリアングラー、其の不世出存在の体内と電気信号を見たペッパーが叫び、メンバーに状況を伝える。

 

死という一種の『境界線』を越えた事で、フェロモンを効率的に放つといった『タガが外れた』のか、無造作に撒き散らされてた其れによって眷属となり、無作為に改造された生物達が開拓者とNPCに襲い掛かって、ルルイアスの一区画は無差別絨毯爆撃と高速ホーミングによる、地獄の様相を呈していた。

 

しかも厄介な事にスレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"から撒き散らされるフェロモンは、クターニッドの力によって眷属に変えられたマーマンゾンビ達にも適応され、彼等は迎えに来たジャンボジェットマンタによって空母の元へ送られ、其処で改造を施された奴等から順に『特攻爆弾』となって此方に襲い掛かって来る。

 

「此れどーするよ!?アイツ時々降りてくるけど、正直近付ける自信無いんだが!?ウェザエモンの麒麟の方が、まだ勝ち目有りそうなんだけど!?」

「空中移動可能なあーくんか、あーくんが持ってる籠脚(ガントレッグ)で空中戦仕掛けなきゃ、多分近付けないだろうね!」

 

オイカッツォが叫び、ペンシルゴンが答える。嘗て戦ったユニークモンスター・墓守のウェザエモンが呼び出した、戦術機馬(せんじゅつきば)麒麟(きりん)。ビームやミサイルを放っては、縦横無尽にフィールドを駆け抜ける暴れ馬だったが、此の鮟鱇よりも彼方の方がまだ良いと、オイカッツォは言うのだ。

 

「レアエネミーだろうと、ユニークモンスターレベルの理不尽は無いと思いたいけど……!っお、あぶねぇっ!!?」

「おりゃあ!」

「せいっ!」

「はあああっ!!!」

 

ホーミング()に当たりそうになりながら、ペッパーは此れを躱わしつつも、ルルイアスの家屋や地面に刺さるよう誘導し、着弾した所をペンシルゴンやサンラク、オイカッツォにアイトゥイルとエムル、そしてノワが空母に回収されて再利用されないように立ち回る。

 

だが此のままでは、何れにせよジリ貧になるのは目に見えており、何かしらの解決策を導かなくてはならないのは、全員同じ考えに行き着いていた。

 

「全く、気分はウェザエモンさんとの戦いを彷彿とさせる『耐久戦』だな………ったくよ!」

「あっちは飛んでるし、爆撃は仕掛けるし、まともに触れさせるつもりが無いでしょアレは……!」

「クソアンコウがぁ………狩ったら其の素材、色々と利用させて貰おうじゃねぇか………!」

 

ペッパー・オイカッツォ・サンラクが再び空へと上がって行き、眷属として加えたマーマンゾンビ達を改造していくのを見上げながら呟いた時だった。

 

「ねぇ、皆。多分なんだけど私─────あの巨大鮟鱇の倒し方(・・・)が判ったかも知れない」

 

ペンシルゴンが笑う。其の笑みは嘗て無い程に『邪悪』にして、相応に付き合いが有るサンラク・オイカッツォは、額に冷や汗を滴し。そして彼女はこんな『一句』を読んだのである。

 

 

 

「フフフ…………『死なぬなら 蘇生(おこ)してしまえ ホトトギス』………ってね」

 

 

 

と。

 

 

 

 

 






閃いた攻略法




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攻略法は時に当たり前から算出される



此れが彼女のやり方だ




「死なぬなら 蘇生(おこ)してしまえ ホトトギス………てね。フフフ…………」

 

上空を泳ぐ寄生生物によって殺され、死せる故に死なずの怪物と成った不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)、スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"………其れを見上げながらにペンシルゴンが笑う。其れはまるで邪悪なる魔王が妙案を思い付いた時の物と同じであり、サンラク・オイカッツォは額に冷や汗を滴し、ペッパーはゴクリと固唾を飲み込む。

 

「作戦は至ってシンプル。サンラク君、カッツォ君、あーくん、エムルちゃん、アイトゥイルちゃん、ノワちゃん。皆にはあの巨大空母鮟鱇が放つ、眷属達(艦載機)達の囮役を買って欲しい。アレは居るだけ邪魔だし、私がやる事においての最大の障害になる。狙いはアイツが『200m』まで降りて来たタイミングで、近くに有る建物から『再誕(さいたん)涙珠(るいじゅ)を放り投げて』、奴にぶつけるから」

 

ウェザエモンとの決戦でも、撃破に貢献した蘇生アイテムこと『再誕の涙珠』。其の内容から全員は彼女の意図を読み取るに至る。

 

「もしかして………!」

「多分な。あの巨大空母鮟鱇はペッパーの発言を噛み砕いたなら、ウェザエモンと同じ『アンデットタイプ』のモンスターって事になる………!」

「成程………アンデットなら『蘇生』や『浄化』をすれば良いって事ね!」

「そゆこと。頼めるかな?」

 

ペンシルゴンの問いに、スリーゲーマー達は『任せろ!』と力強く答えると同時に、鮟鱇が大きく身を動かして眷属達が一気に地上へと降り注ぎ始める。

 

「サンラクザン!マジでヤバいですわぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

「気張れよ、エムル!」

「アイトゥイルはオイカッツォの援護!俺とノワで、ペンシルゴンの道を切り開く!アイトゥイル、頼んだ!」

「任せてなのさ!」

『ウォルゥ!』

 

爆撃を走り、ペッパーはインベントリアから悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)を全身に装着。左手に轟斬型(ゴウザンガタ)太刀(タチ)(シキ)武装(ブソウ):大天咫(オオテンタ)を握り締め、鞘より抜刀しつつ合言葉を以て機馬を呼ぶ。

 

質量転送(エクスポート)及び展開(サモンコール)………!試作型戦術機獣(しさくがたせんじゅつきじゅう)天王(テンオウ)】ッッッッ!!!こぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!!!」

 

展開する魔方陣、現れる全長3m近くのロボットホースこと天王は、ルルイアスの大地を力強く駆けてペッパーの元へ駆け寄る。

 

『ペッパー、呼ビマシタカ』

「あぁ。天王、起きて早々になるが頼みがある。今俺達は巨大な空母鮟鱇を倒さないといけない。そして戦いの鍵を握っているのはペンシルゴンで、彼女がアイテムを投げられる位置に連れて行かないと、作戦が失敗する。其処で天王にはペンシルゴンの護衛と彼女の脚になって貰いたい………頼めるか」

『了解シマシタ、オ任セヲ』

 

そう言い天王は鋼の四肢と共にルルイアスの大地を蹴り上げながら、ペンシルゴンの元へと走り。ペッパーはノワを右脇に抱えつつも、自身のスキルで空へ駆け上がり、此の戦場で最も危険なスレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"の真正面に登る。

 

「一度死んだ奴を酷使するなんて真似は、生に対する冒涜に他ならない!来いよ、スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"!艦載機なんか捨てて掛かって来やがれぇい!?!」

 

サムライアーマーを装着したペッパーが余程気に入らなかったのか、はたまた一番邪魔な存在だと考えたのか。何にせよペッパーの挑発は成功し、彼を中心に狙いを変えて死した空母はホーミング攻撃を仕掛けに掛かる。

 

「よし、釣れた!サンラク、オイカッツォ!エムルさんにアイトゥイル!爆撃に引っ掛かって死ぬんじゃないぞ!!!!」

「あったりまえだ!エムル、確り掴まれよ!」

「はいなぁ!」

「了解ッ!」

「援護は任せてなのさ!」

 

ホーミング弾を爆撃攻撃に合わせるように走り続け、サムライアーマーを纏ってノワを抱えながらに、空中を駆けるペッパー。

神秘(アルカナム)愚者(フール)の能力によって再使用時間(リキャストタイム)を短縮された機動系スキルで回避する、サンラクと其の肩に必死に掴まるエムル。

アイトゥイルの酔伊吹や華魔威断(カマイタチ)の援護で、撃ち漏らした眷属をノックバック重視の格闘で圧し出し、退けるオイカッツォ。

 

「皆の頑張り、無駄には出来ないね……!」

『ペンシルゴン、御久シ振リデス』

「お、天王ちゃん!良い所に来てくれた!君の脚を貸してくれないかな?」

『オ任セヲ、ペッパーカラモ貴女ヲ所定ノ場所ニ、届ケル事ニナッテオリマス』

「頼もしいね………!目標はおよそ300m先、とんがり屋根の教会みたいな建物!さぁ、頼んだよ天王ちゃん!」

『了解デス!』

 

身を屈めたペンシルゴンが渾身の力で跳躍(ジャンプ)し、天王に股がるや目標地点を目指して走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空母という兵器は時折『動く蜂の巣』と揶揄される。下手な戦力で手を出したなら、物量と言う名の津波に押し潰されて負けるなる意味が込めれており、かの日本も第二次世界大戦中に航空戦力の重要性を軽視、艦隊戦で戦うなる昔過ぎる勝ち方に拘り過ぎた結果、敗北したと言っても良い。

 

まぁ此方と向こうの国力と資源力の圧倒的な格差、物量戦になったなら敗北確定だったので、もしも……なる話は世界線の分岐という話にしかならない訳だが。

 

「つまり何が言いたいかと言えば、あの巨大空母鮟鱇は『空中を飛べる術持ち』か、奴のヘイトを文字通り『全て請け負うプレイヤー』が居ないと、まともに蘇生での討伐も出来ないって事だ」

「ペッパーがそう言うとはね……」

「まぁ、実際其れが可能なのってペッパー除くと、朱雀(スザク)青龍(セイリュウ)くらいだもんな、今の現状。ただソイツが居た所でゾンビアンコウは、ソイツを『集中砲火』するんだよな。倒したらまた絨毯爆撃&ホーミングの嵐」

 

サンラク、解ってくれますか。そう、あの死した空母鮟鱇は『空中を飛んでる奴』を目の敵にしているかのように、集中攻撃を仕掛けてくるのだ。多分前に行われていた『モンスターの行動ルーチン変更』に、此のスレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"と原種も関わっている可能性が非常に高い。

 

おそらくレディアント・ソルレイアを持ち出して飛んだりしたら、あの爆撃やホーミングの飽和攻撃に押し潰される未来が見える。というか見えた。

 

「ペッパーはん!ペンシルゴンはんが、位置に着いたみたいなのさ!」

 

一眼望遠鏡でオイカッツォの頭の上から見ていたアイトゥイルが、伝令を伝えてきた。

 

「よっし、皆もう一踏ん張りだ!気合入れ直していけッ!!」

『応ッ!!』

『ワォーン!』

 

ペッパーの号令、同時に彼は最も危険な空中に其の身を置き、サンラクとオイカッツォにエムルとアイトゥイル、そしてノワも体勢を整え直す。彼は同時に星皇剣(せいおうけん)グランシャリオを取り出し、右手の甲に鞘を当てた後で右手にて抜刀。大天咫を鞘に納めつつ、世界の真理書「墓守編」を取り出した。

 

戦いは、終局に向かい始める………。

 

 

 






不死殺しへ




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空母は墜ちる、魔王は奥義を会得す



終戦へ




ペッパー達がスレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"を惹き付け、改造によって形容し難い姿に成った眷属達による、絨毯爆撃やホーミング弾攻撃に曝されながらも必死に生き残っていた頃。

 

ペンシルゴンはペッパーが悠久を誓う天将王装(フォーエヴァー・ウェザリオ)の力で呼び出した、ロボットホースの天王(テンオウ)と共にルルイアスの街の一角に在る、教会の様な建物にやって来ていた。

 

「天王ちゃん、ありがと」

『ペンシルゴン、御武運ヲ』

 

天王に股がっていた彼女は背中に脚を付け、頭部を走って鼻先から跳躍し、屋根の上に降りて其のまま鐘楼が吊るされた、とんがり屋根の付近まで登っていく。

 

「距離良し、高さ良し、ヘイト管理…………大丈夫!天王ちゃん!私が落ちてきたら受け止めてね!」

『了解デス』

 

インベントリアから取り出し、右手に握るは此の戦いの行方を左右する鍵たるアイテム。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンとの決戦にて、ゾンビアタックをする為に用意した『再誕(さいたん)涙珠(るいじゅ)』。

 

ペンシルゴンは見る。作戦成功の為に動く三人のゲーマーを、二羽のヴォーパルバニーを、一匹のリュカオーンの分け身を。そしてゆっくりと空から降りてくる、一匹の死なずの空母の巨体を。

 

「さぁ、行こうか!」

 

おおよそを計算、投擲時の弾道方向の予測を行い、筋力と器用に関係するバフスキルを全開にしながら、ペンシルゴンが右手に力を込める。

 

「ペッパーはん!ペンシルゴンはんが何か投げようとしてるのさ!」

「ナイス、アイトゥイル!」

 

再誕の涙珠を投擲し、アンデットアンコウを蘇生によって殺す事がペンシルゴンの狙い。そしておそらく、彼方の艦載機達が十中八九、涙珠の飛翔進路を邪魔するだろう。なればとペッパーは、左手に持った世界の真理書「墓守編」をグランシャリオに翳して、七つ在る内の持ち手から『五番目』の穴に宝玉へと変化した書物を納める。

 

「ウェザエモン・天津気さん、貴方の絶技──────使わせて頂きます!」

 

敬意を示すと同時に彼の左手から蒸気が溢れ出し、其れはモクモクと形を作り、巨大な『雲の左腕』と成って現れ始めた。

 

 

晴天流(せいてんりゅう)、【(くも)】─────奥義(おうぎ)!」

 

 

此の技を始め、晴天流の中でも取分『発汗器官による働き』に着目し、其の機能を増長させる事によって産み出された蒸気を用い、形成された『雲』を自在に操りながら敵を倒す此の技能(スキル)は、同じ武術の中に在る【雷】派閥と並んで『魔法』と勘違いされたりもする。

 

トゥワイス・ジャンピングによる跳躍、そして全身を全力で回転。雲の左巨腕を振り回し、彼は叫んだ。

 

入道雲(にゅうどうぐも)ッッッ!!はああああああああああああ!!」

 

襲い掛かる眷属の特攻を薙ぎ払い、彼は白い竜巻と成りながら、ペンシルゴンの投擲進路を邪魔するであろう敵を押し退けながら、上へ上へ飛んで行き。敵のヘイトがペッパーに向いた其の瞬間を見逃さず、ペンシルゴンが屋根より自身のスキル:乾坤一擲を点火し、再誕の涙珠が豪速球でルルイアスの空を飛ぶ。

 

スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"が、其の眷属達がペッパーにヘイトを向けて動き、僅かに出来た隙間を貫いて、死した空母鮟鱇の身体に着弾。同時にエフェクトの展開によって巨体は包み込まれ、浮かんでいた身体が『死亡』によってルルイアスに墜落し、ペッパーを追い掛けていた眷属達も纏めて死に至る。

 

「おぉ………!やりやがった、ペンシルゴン!」

「やっぱゾンビは蘇生か浄化って感じかね………」

「ナイスだ、ペンシルゴン!」

 

空中ジャンプで落下ダメージを軽減するべく、地上に降りてくるペッパーを始め、作戦の立役者兼フィニッシャーとなったペンシルゴンを、サンラク達は見ていて。だが……………スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"の真の脅威(・・・・)は此処からであった。

 

「……ん?ヴォエ!?くっっっっさ!?」

「スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"……ん?は?」

 

一番最初に『其れ』に気付いたのはサンラク。自身の鼻に香るのは、腐敗に満ちた最悪の『臭い』で。続いて気付いたのはペッパーであり、空中から見たからこそスレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"の身体から、『ガス』めいた靄が漂って鮟鱇を中心に、フィールドへ拡がり始めているのに気付く。

 

「エヘヘ~~……『良い香り』ですわぁ~………」

「あぁ~『甘露』なのさ~………」

「エムル!?アイトゥイル!?どうした!?!」

「サンラクぅ~何かあっちから『美味しそうな匂い』がするよ~~………」

「おい、嘘だろ!ってリュカオーンの分け身は!?」

『ウォウ?』

 

フラフラと無気力状態になりながら、エムル・アイトゥイル・オイカッツォがスレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"の墜ちた場所へと歩いていく。

 

だがノワと、呼び出されたロボットホースの天王は『何ともなく』、ふと振り向けばペンシルゴンも此方に向かってフラフラと歩いており、ペッパーが何かの液体が入った瓶を彼女の口に突っ込んだのを見て、サンラクは確信に至る。

 

「ペッパァ!天王呼び寄せて、カッツォ達を救助!あのゾンビアンコウ、此の一帯を腐敗で発生したフェロモンガスで『爆破』する気だ!」

「だよなぁ!?!天王ォォォォォ!サンラク達の所へダッシュウウウウウウウ!!??」

『了解ッ!』

 

ペッパーのアイテムを飲み込んでか、ペンシルゴンが正気を取り戻して距離を取り出し。天王がオイカッツォ達の進路を塞ぎつつ、サンラクが一人と二羽を回収して天王に股がり、ペッパーは猛ダッシュでノワに駆け寄り、抱えながらに全速力で走り。

 

そしてスレーギヴン・キャリアングラーの身体はどんどんどんどん膨れ上がり、其処から放たれ続けるフェロモンによってマーマンゾンビ達が引き寄せられていき。最後には鯨の死体が腐敗によって、体内に蓄積されたメタンガスが弾けるように……………爆発。

 

其の破壊力はルルイアスの一部を粉砕し、轟音が鼓膜を麻痺させ、衝撃波が踏ん張った天王の巨体を後ろに圧す程の凄まじさを見せ付けた。

 

そして……………スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"に再誕の涙珠を投げ当て、蘇生による死を与えるフィニッシャーとなったペンシルゴンには、不世出存在(エクゾーディナリーモンスター)討伐のリザルト画面が。

 

ペッパーとサンラクには別のリザルト画面が表示されたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モンスター不世出(エクゾーディナリー)……解明(クリア)!』

『討伐対象:スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"』

『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』

『称号【制権交代(セイケンコウタイ)】を獲得しました』

『称号【真成之頭首(しんせいのとうしゅ)】を獲得しました』

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)皆来羅身(コンパペット)】を習得しました』

 

 

 

『称号【裏三強撃破(うらさんきょうげきは)】を獲得しました』

 

 

 

 






其れは祭の終わり飾る、花火の如き奥義



不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)皆来羅身(コンパペット)

取得条件:スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"を討伐する。

効果:死亡した瞬間に発動し、10秒間自身を中心としてフィールドに特殊かつ強烈なフェロモンを散布する。其の匂いを嗅いだモンスター及びプレイヤーはシステムによってコントロールされ、対象者に近付く。

10秒後に対象者は自爆し、敵味方問わず周囲に大ダメージを与える。其の際のダメージは対象者の持つMPの総量によって変動する。再使用時間(リキャストタイム)はおよそ3日半。

生物の完成は『死』であり、其の最後の煌めきは時に輝かしく、世界に刻み付ける物で無くてはならない。故にこそ不世出の奥義。





称号解説


裏三強撃破(うらさんきょうげきは)


深海にて、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"、スレーギウン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"、アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"の三体の撃破、もしくは撃破に関わったプレイヤーが手にする称号。

ぶっちゃけると、遭遇から他プレイヤーへの何かしらサポートだったり、ダメージに貢献したりすれば手に入るので其処まで所得難易度は高くない。




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神ゲーから現実に戻り、勇者と魔王は言葉を紡ぐ



戦いの後に




「いやはや、まさか此の私がゾンビアンコウのフェロモンにやられるとはねぇ………一生の不覚だよ」

「マジで助かった、というかアンコウのヤロー………あんな隠し玉(最終手段)持ってるとは思わなかったわ」

 

スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針(コンパペット)"を再誕の涙珠による蘇生討伐。そして最後に繰り出したガス爆発による、道連れ戦術を乗り越えたペッパー達は爆心地へと戻ってきていた。

 

破壊されたルルイアスの建造物達は、既に此処に住まう盟主にして、ユニークモンスター・深淵のクターニッドの持つ、反転の権能(チカラ)で元通りと成っていて。

 

「プレイヤー四人での討伐だからか、相応に有るな……」

 

スレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"……間違いなく不世出の存在(エクゾーディナリーモンスター)たる(エネミー)との戦闘に勝利したという証拠が、目の前に積み重なったマーマンゾンビや改造されていた眷属達、そして本体の素材が其れを、無言ながらに此方へ伝えていた。

 

「アンデットには聖水なんて言うけど、まさか一投400万の蘇生アイテムで倒すなんてね………」

「400万マーニをドブに捨てた気分だぜ……」

 

エンハンス商会の会員限定エリアで買えるとは言え、残機一つを減らしての討伐。此れが後々まで影響しなければ良いのだが………一先ずは不世出の存在を討伐出来た事を、素直に喜ぶとしよう。

 

「あ、そうだ。ノワって普段『何を食べるんだ』?」

『クゥン?』

 

ずっと気になっていた………夜襲のリュカオーンの分け身たるノワにも、空腹という概念が有るのでは……と。

 

ユニークモンスターとはいえ、テイムした以上は責任を持って世話をしなくてはならないと考えたペッパーは、ペンシルゴンのジットリとした視線に背中を刺されながらも、インベントリアに納めていた『食べられる魚肉』を手に乗せて、ノワの前に差し出す。対するノワは魚肉の匂いを嗅ぎ、軈て口に咥えるや地面に置きつつ、噛み千切って食べ始めたのだ。

 

「普通に魚肉もイケるか。食材候補に『魚の肉』をメモ………っと」

「というか、分け身とは言えユニークモンスターの『食事シーン』って、滅多に見られなくね?」

「あ、確かに」

「そういやそうだな……」

 

フラッシュを焚かずに、スクショ機能でパシャリと写真を取ったペッパー・サンラク・オイカッツォ。そして彼等彼女等の議題は、積み上がったスレーギヴン・キャリアングラー"傀儡羅針"を含んだ素材達に移る。

 

「分け前はどうする?」

「まぁ、無難に四当分かねぇ?」

「其れで良いと思う。まぁ、フィニッシャーのペンシルゴンにはレア素材渡すんで良いか?」

「さんせーい」

 

あっさりと決まり、四人はインベントリアに各々分け前(ドロップアイテム)を収納した。

 

「インベントリアってホント便利だわ。限界量無視して素材やらアイテムやら持ち運べるの」

「海底のモンスターと地上判定で戦えるのは、多分此処くらいだもんね」

 

他にも安全地帯の役割を担い、対策されたとはいえどインベントリアエスケープは健在の為、使い様によってはブッ壊れアイテムに他ならない。

 

「さて、皆の予定は?」

「俺はルルイアスで稼ぎ………と言いたいが、一旦抜ける。残り四日とはいえ、地上に帰ってから『妖怪一足りない』に泣かされるのはゴメンだかんな」

「夜のルルイアスで、レベリングと食材とアイテム稼ぎ。クターニッドの一式装備装着の為にも、ステータスポイントは残しときたいしな」

「俺は夕食を食べる為にログアウトするよ」

「私、ちょっと急用思い出したからログアウトするね」

 

そんなこんな話をしてオイカッツォは来る時に備えてレベリングへ、ペッパー・サンラク・ペンシルゴンはセーブポイントへと戻って。帰還した拠点ではアラバが食材を捌き、シークルゥとスチューデに振る舞っているのを目撃する。

 

「おぉ、皆帰ったか。先程甘い香りが僅かに漂ったのだが、大丈夫だったか?」

「スレーギヴン・キャリアングラーのゾンビと戦ってたね。まぁ、ペンシルゴンの機転で勝てたが」

 

アラバの問い掛けに対してサンラクが説明した所、彼の口があんぐりと開きっぱなしになった。

 

彼曰く、スレーギヴン・キャリアングラーなるモンスターは、戦艦鯱のアトランティクス・レプノルカと要塞ヤドカリのアーコリウム・ハーミットに並ぶ、深海頂点捕食者の一角存在らしく、魚人族(マーマン)からは異性の同胞や狩場の獲物を持っていってしまう、所謂『動く厄災』と揶揄されて恐れられているとか。

 

貴重な話を聞けたので、ペッパー・ペンシルゴン・サンラクは二階へ移動。ペッパーは少しインベントリアを確認すると言い、二人がベッドにてログアウトした後を見計らって。ノワに『良い子にしててね』と頭を撫でながら言いつつ、ベッドに横たわってログアウトしたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の夕食は冷凍餃子とサラダに中華スープにしよう。ご飯は炊飯器のあまりを食べれば良いし、食事を終えたら一時間シャンフロをやって、明日に備えよう」

 

シャンフロからログアウトし、ペッパーから梓へと戻った彼は、夕食の献立と今日の残りの予定を決めて、早速準備に取り掛かろうとした、まさに其の時だった。

 

ピロロロロロ……とスマフォの着電アラームが鳴り、表示されているのは『永遠』の二文字。確か今日の夜に電話を掛けるやら何やらペンシルゴンが言っていたが、此のタイミングでかと思いつつ、彼は電話に応じる。

 

「もしもし」

『やぁやぁ、あーくん。貴方の自慢の彼女、天音 永遠だよー?』

「其れ自分で言っちゃう?………んで、トワ。電話を掛けてきたって事は何か有ったのか?」

 

リュカオーンの小さな分け身たる、テイムモンスターとなったノワのベタベタ具合だろうか。其れは其れで面倒な事になりそうな雰囲気しかしないのだが、果たして彼女の用件は如何に?

 

「実はねぇ、あーくん。今日の昼頃に『モモちゃん』から、電話が掛かって来たんだけどさ。クランリーダーの君と、サブリーダーの私に対する『とある打診』を頂いたのだよ。あ、因みにモモちゃんって言うのは『黒狼(ヴォルフシュバルツ)の団長・サイガ-100』の事なんだけど」

「………其の内容とは?」

 

永遠の話から、もう既に嫌な予感しかしてこない雰囲気を感じつつも、梓は固唾を飲みつつ身構える。そして永遠は彼に、打診内容を伝えたのだ。

 

「………………という感じだけど、如何かな?」

「成程ね。どのみち『戦争不可避』なのには変わらないって事、か……」

「そゆこと。実は此の打診に関して、前々から『私宛て』で何回か来てたんだけどさ。今回の一件で、漸く決心が付いたんだって」

 

深淵のクターニッドを倒して、ルルイアスから地上へ帰った後が怖いと思いながら、梓が非常に遠い目をしつつ先々の事を考えていた時だった。

 

「あぁ、其れからあーくんさ。君ってルルイアスの七日目って『一日フリー』なんだっけ?」

「ん?まぁ、そうだが………。ただ、クターニッドとの戦いが控えてるから、終わった後でなら良いけど」

 

永遠の問い掛けに梓は答えて。そして彼女は電話越しにこう言ったのである。

 

「そうか。じゃあさ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空いてる日が見付かったら、私の住んでる部屋に遊びに来てよ

 

 

 

 

 

 

と。

 

 

 

 






其れは魔王からの御誘い




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スリーデイナイツ・ファイナルオベーション



三日目最終追込




「はぁ…………まぁじかぁ……………」

 

フライパンで冷凍餃子を焼きながら、梓は水溶き片栗粉を流し入れて『なんちゃって羽根つき餃子』に仕立てつつ、先程の永遠との電話を思い出す。

 

『空いてる日が見付かったら、私の住んでる部屋に遊びに来てよ』───────まさか日本が世界に誇る、トップオブカリスマモデルの天音(あまね) 永遠(とわ)の住んでいる場所に誘われる等、彼女の熱狂的なティーンエイジャーや神格化している邪教徒にしてみれば、天に召されるに等しい事であり。

 

其れを見ず知らずな上に、こんな至って普通の人間でレトロゲームが好きな野郎が遊びに来た…………なんて事になれば、邪教徒達は自分に詰め寄ってくる事態に成り兼ねないし、何ならSNSで袋叩きや脅迫メールが届くのは目に見えて明らかと言って良い。

 

「おまけに電話が終わったと思ったら、住所だろう『マンションの部屋番号』と『入口のロック解除番号』を載せたEメール送ってくるとか。………何してんのさ、全くもう」

 

仮に誤発信したなら、十中八九というか100%特定班が動いて、住所特定の運び&ストーカー侵入で一大事になるだろう。そんな危険を犯してまで永遠がこうしたのは、単に自分に会いたいからと思いたい。

 

「まぁ当日までに、着替えの服や下着に変装用のアイテムの用意、後はマンション迄のルートを模索しようか」

 

羽根が良い感じに焼けたので、フライ返しで縁を剥がしつつ、用意した皿に乗せて完成。先に作った中華スープを汁椀へ、醤油受け皿に醤油を、マグカップに牛乳を注ぎ。若布やブロッコリーにレタスとプチトマトで作ったサラダ、そして炊飯器で炊いた白米を茶碗に盛れば。

 

「完成、なんちゃって羽根つき餃子膳……!」

 

冷凍食品と云えども、工夫一つで見映えも味も良くなる。其れが料理の面白さだと、梓は思っている。テーブルに持っていき、スマフォで写真を撮った後に「いただきます」と合掌。羽根が付いた事でパリッパリッと歯応えに新たなリズムが生まれ、他のメニューと合わせる事で交響曲(シンフォニー)が食欲を押し上げながら、彼の食の手を進めて。

 

十三分で夕食を完食後に「御馳走でした」と合掌、食器と調理器具を洗浄・水拭き用のタオルで拭き上げ、片付けた彼はトイレをした後にシャワーを浴びて。寝間着に着替えてドライヤーで髪を乾かし、布団を敷き直した彼はVRヘッドギアの動作チェック。

 

三日目のルルイアス海鮮ツアー、其のラストスパートを掛けるべく、シャンフロへと再ログインするのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワゥオン♪』

「ペッパーはん、こんばんわなのさ」

「わととと……こんばんわ、アイトゥイルとノワ」

 

ログインして瞼を開ければ、早々に飛び付いてきたノワと、魚の刺身をつまみに晩酌をしているアイトゥイルの姿が、彼の前に映し出される。

 

「アイトゥイル、ノワの様子はどうだった?」

「アラバはんの切り出してた刺身を食べてたのさ。スチューデはんは、アラバはんやネレイスはん、エムルやシー兄さんにワイと話をしたのさね」

 

どうやら此方の言い付けを守り、ちゃんと大人しくしていたノワ。仮にもユニークモンスター、しかも自由気ままに夜を駆けている帝王がこんなんで大丈夫なのかと、思わずツッコミたくなるのは仕方が無い。

 

「さてと……今日最後はルルイアスでフィッシュハンティングをするよ。アイトゥイル、ノワ、準備は良いか?」

「はいさ!」

『ワォーン♪』

 

ルルイアスに居られる時間は、今日を除けば残り三日。まともに動けるのも、今日が終われば最終七日目しかない。クターニッド戦で対回復反転対策のポーションを残しつつ、此方は体力・MPの回復手段となる魚を夜の時間帯で手に入れておきたい所である。

 

二階から一階に降りれば、やはりというかリュカオーンの小さな分け身たるノワに、アラバ・スチューデはビビり、そそそ……と一歩後ろに下がっているのを見ながら、ペッパーはルルイアスから脱出した後の事が怖いと思いつつ、セーブポイントの建物を出て狩りへと向かう。

 

「しっかし…………改めて見ると、本当に凄いな」

「そうさね」

『ワゥ』

 

反転都市ルルイアスは、昼と夜とでは全く違う姿に変わる。昼間はマーマンゾンビ彷徨う冒涜の街に、夜は魚達が泳ぐ生命の街に様変わり。

 

海底()を見上げれば、選り取り見取りの様々な魚を始めとし、大物ともなればカジキにマンタやマグロ、超大物サイズまで視野に入れたなら鯨にジンベイザメが泳いでいるのを目撃する。

 

「さぁて、狩りをしましょうか!」

「はいさ!」

『ワン!』

 

夜という条件を満たした事で、星天秘技(スターアーツ):ミルキーウェイを起動したペッパーが深淵の都市の空を駆け走り、昼間とは違って影に居ずとも良くなったノワと、相棒たるアイトゥイルを肩に乗せながらに、左手に傑剣への憧刃(デュクスラム)を装備。

 

近くを泳いでいた鯛らしき魚を一撃で倒し、其の両脚は止まる事無く、次なる獲物を狙い澄まして進み続ける。

 

「どんどん狩るぞォォォォォォォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後……………

 

「ん~大量大量………!」

 

鰹らしき『ノルヴィスクラッツェ』、滅茶苦茶速かった鮪こと『ルージェットマグロ』、鯛と思われる『ボンディングフィッシュ』に、巨大マンタの『ヴェールフラウス』。

 

コブタイに似た『ボクトゥスヘッド』、丸々太った寒鰤らしい見た目の『シャクサインドルタ』、消防車の放水ポンプを三倍の太さの巨大穴子たる『トーレスタム・オーロプ』等々、大小様々な深海の食用魚に成り得る物達を狩り、活け締めを行ってインベントリアに収納していく。

 

「やぁやぁ、あーくん。ノワちゃんとデートしてるのかなぁ???ん~????」

『ルゥゥゥゥゥゥゥゥ………!!!!!』

 

そんな折、聞き慣れた呼び名が耳に聞こえて振り向けば、ゴゴゴゴ………なるSEを背中から出して、ノワを黒い視線で睨むペンシルゴンと、ニマニマと笑っている京極(キョウアルティメット)の姿が。そしてやはり『お前を殺す』宣言を真っ向から叩き付けたペンシルゴンに、ノワも白眼と牙を見せながら、喉を鳴らして視線を送り付け、一匹と一人が見えない火花を散らし合っている。

 

「おやおやクランリーダー、此れは修羅場かな?」

「クターニッドとの決戦に備えて、回復能力持ちの魚をアラバさんに鑑定して貰うのと、ノワが好む味を調べてるだけなんだよなぁ……」

 

人間含めて生きる物が、背負う(ごう)たるものが『争い』なのだ。食糧・住みか・領土・豊かさ・宝・地位・女………多種多様な理由は有れども、譲れない者同士が出逢ったならば、片方が相手に譲るか、どちらがを押し退けても主張を通すかの、二択しかない。そうして強い者が生き残り、弱い者は淘汰され、歴史は作られてきたのだから。

 

「あーくんは私のモノだから………!」

『グルルルァ……………!』

(仲良くして欲しいんだけどなぁ………)

 

一人と一匹の争いを遠い目をしながら見つつ、彼は近くを泳ぐ魚を武器の投擲で仕留めて、インベントリアに入れていく。そんな彼を見ながら、京極は一人でニヤニヤと笑いつつも、近くを泳いでいた魚を切り殺してインベントリアに入れたのだった。

 

 

 

 

 

尚、此のバチバチの睨み合いはおよそ三十分続き、其の途中にアルクトゥス・レガレクスが乱入し、ペンシルゴン怒りの滅多刺しと京極の滅多斬りでエラを集中攻撃により沈んだ事を、此処に明記しておく。

 

 

 






恋とは何時だって戦争だ




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四の昼。クソゲーハンター、出逢う



動く、動け




ルルイアスにて三時間に渡るフィッシュハンティングを行い、途中で乱入したアルクトゥス・レガレクスを倒してセーブポイントへ帰還、食べられる魚か否かをアラバに鑑定して貰った後、シャンフロからログアウトした翌日の正午。

 

最近台風が日本本島に接近しつつ有り、時折雨が激しく降っては大学校舎の窓硝子を強く打ち、水溜まりが重なった場所では、小さな海と言っても過言ではない水没状態の様相を呈していた。

 

そんな天気の中、大学の学生食堂にて梓は一人昼飯の食券で一番安いカレーライス(500円)を買い、カウンターにて手渡し。職員が盛り付けたカレーの乗ったトレイを受け取り、セルフサービスの紅生姜とコップ一杯の水を添えて、混雑していない席の端を選んで座る。

 

「いただきます」の合掌と共に、白米とカレーの境目にスプーンを差し込み、其れを口に頬張る。ほんのり辛いカレールーと、ホクホクでちょっと固めに炊かれたライス、此の二種の絶妙なバランスが食事の手を、益々押し上げていく。

 

(ルルイアスは四日目、秋津茜(アキツアカネ)京極(キョウアルティメット)、オイカッツォはログイン出来ない日だ。そろそろクターニッドについて、本格的に調べる必要があるかも知れないな………)

 

ユニークシナリオEX『(ヒト)深淵(ソラ)を見仰げ、世界(セカイ)反転(マワ)る』。ユニークモンスター・深淵のクターニッドの根城にして、都市丸々一つが『反転』の権能(ちから)によって、海中で文字通り『引っくり返った』特殊なフィールド。

 

おそらくプレイヤーが唯一『地上判定』の元、海中に潜むモンスターと戦える此の場所で、七日間の攻略を目指すシナリオであり。現在ルルイアスの四方の塔に居座る、各々が異なる無効化能力持ちの四体の封将(中ボス)を倒し、更には四方の塔の間に在る石像から『あるもの』をユニークシナリオ参加者のペッパー・サンラク・オイカッツォの三人は手にした。

 

深淵のクターニッドと力を分けた一式装備・深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)、其れを動かす為に必要不可欠となる八個のエネルギータンクを。後は装備本体を探し当て、正しい位置にセットする事で動かせる状態まで到達している。

 

(取り敢えずログインしてから、ルルイアスの中心に在る城に行ってみよう。アイトゥイルとノワは留守番、万が一って事が有るだろうし)

 

そうして思考しながら、およそ十分で昼飯を食べ終えた梓は「御馳走様でした」と合掌。午後からのコンビニバイトに備えて、行動を起こすのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、某高校の某クラス。勉学の時間の終わりを告げる鐘が鳴り、一部の生徒達にとっては負けられない……惣菜パン確保戦を告げる、開戦の号砲が高らかに鳴り響く。

 

「んん………やぁっと昼休みだぁ」

 

クラスメイトの大半が学級食堂にて販売される惣菜パン争奪戦の為、我先にと向かうのを横目する他の生徒に紛れ、楽郎は腕を伸ばして首を鳴らし、登校途中のコンビニで買った焼きそばパンを取り出して、封を開いて一口噛る。

 

「………最近のコンビニパンも、中々美味くなってきたな」

 

ソースの濃淡加減が絶妙に、其れをサンドするコッペパンとの相性が良い。炭水化物(焼きそば)×炭水化物(コッペパン)=美味いとは言うが、此れを考え付いた人は素晴らしい。拉麺×ミニ炒飯の組み合わせも捨て難いが。

 

そんな事を考えている彼だが、何故か『視線』を感じていた。

 

「……………………………………」

 

幕末(・・)の世界をゲームで経験している彼は、ある程度になるが周囲から放たれる『気配』を、少なからず感知出来る。一時期上位ランカーをキルするべく、幕末をやり込んだ事が有るので、其の時に身に付いた感覚は今も生きている。

 

(人数は『一人』、場所は………『教室の後ろ側の扉付近』か?)

 

故に『其の方向』は解るし、大雑把だが『人数』も解るので、彼は口に含んだ焼きそばパンを飲み込んで、ゆっくりと気取られない様に立ち上がり、移動する。

 

(あ、居た)

 

扉の後ろに寄り掛かって、深呼吸をしている『茶短髪の学校の制服を着た女子』を彼は見付ける。クラスメイトの会話を己の記憶を引っ張り出してみれば、こんな情報が有り。

 

『同級生で文武両道の高嶺の花と言われる良家の御嬢様。道を往けばナンパ・学校からは男子から告白され、其れ等全てを袖にする強者。名前を斎賀(さいが) (れい)』─────との事。

 

そして自分を見ているのが、其の斎賀 玲であり。一体何を以て此処に来たのか、其の理由は楽郎にも解らない。

 

と、此処で玲と楽郎の目が合った。玲は赤面&バッ!と柔道家みたいな身構えをし、楽郎はいきなりの豹変に心中で「えぇ……」といった具合をし。更に周りのクラスメイトは、二人のやり取りに静まり返り。

 

「あ、あの……陽、務……君」

「エッア、ハイ、何でしょうか?」

 

顔を熟れた林檎の様に、真っ赤なモジモジと指先を突っ付いたり、クルクルと回したりしている姿を見た彼の脳内にカセットゲームの如くセットされ、未だに外れず抜けないトラウマクソゲー(・・・・・・・・)の『ラブクロック』、別名『ピザ留学』の記憶で軋み始めて脳が震え始めたのだ。

 

「ピザは嫌だピザは嫌だピザは嫌だ…………」

「あ、あの!」

「は、はいっ!?何でしょうか!?」

 

教室が静寂になる。そして玲の口から放たれたのは。

 

 

 

 

 

「えっと、その…………放課後に『ロックロール』、で…………私『待ってます』…………ッッッッッッ!?!」

 

 

 

 

行間が色々と吹っ飛ばされ、真意を聞くより尚早く顔を真っ赤にしながら、全力疾走していく玲の姿。そしていきなりの御誘いを受けた楽郎は、パチクリと目を開閉し続けて首を傾げ。

 

そして彼の肩を掴むは、同じクラスの男子勢。

 

「HEY、楽郎。カツ丼奢ってやるよ」

「えっ、何で?」

「何でってそりゃあな?」

 

周囲を見渡せば、男子達がジト目&笑顔で彼の肩を掴んでおり。楽郎は其の瞬間、周りに味方が居ない事に気付く。そして彼は肩を掴む、無数の手を振り払い────

 

「フレに呼ばれたんで部屋抜けますね^^」

「捕まえろォ!!」

 

全力で逃走した。

 

 

 

 






オサソイ(ゲーム屋行き)


※玲は此の後オーバーヒート気味になって、五と六限目は保健室で休む事に。本人は御話と御誘いが出来たので、滅茶苦茶頑張った方



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四の夕。明かされるは高嶺の花の一面



クソゲーハンター、ロックロールへ




「おぅ、楽朗。お前斎賀さんと何時の間にフラグ建てたんだ?」

 

五限目の休み時間。昼休みは逃げ切れたが、其の間にクラスの男子組が結託したのか、包囲網が形成された結果として楽朗は男子勢に尋問を食らっている。

 

「いや、心当たりが無いんだけど……」

 

其れは間違い無い事実である。何があってこうなったのかは、流石の楽朗にも解らないのだから。

 

「裁判長・雑ピ。どう思います?」

「被告人・楽朗、とりま死刑で」

「『麗らかなる紫陽花』の出来はどうですかねぇ?」

「ばっ!?おま、何時から見てた!?」

 

裁判長にしてピアスで耳に穴を空けたら、雑菌が入ったせいで恵比寿様みたいな耳朶になったクラスメイトこと『雑ピ』に、最近作った『ポエム』の事を聞けば、全員の視線が彼の方へと向いた。こういう面倒事は、他者売却でのヘイトコントロールに限る。

 

尚、彼の作った其のポエムは、未完成では在ったものの『詩集に載せても良いんじゃないか?』な評価を得た、歴代最高レベルだった事を記載しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーン…コーン…カーン…コーン─────♪

 

雨が降る空模様に、聴き馴れたチャイムが鳴れば学校という戦場は終わりを告げて、生徒達は各々が所属する部活へと、そうでない者達は自宅への帰路に着く。

 

クソゲーハンターこと陽務(ひづとめ) 楽郎(らくろう)は無論後者の人間であり、技術革新によってフルダイブ型VRゲームが主流となっている今日、彼はまだ見ぬクソゲーを求めては通っている場所が在る。

 

『GAME-SHOP ロックロール』………楽郎が攻略してきたVRゲームの大多数を購入した此の場所で、彼は今日も今日とて『何時もの言葉』を以て店主に言うのだ。

 

「なんかいい感じのクソゲーあったりします?」

「いらっしゃい。相変わらずだねぇ楽郎君、クソゲーを求めるとはシャンフロは辞めちゃったの?」

 

レジエリアにて肩肘を付き、オレンジの半袖と青いジーンズ、店のロゴが入った紺色のエプロンを着けて微笑む女性が居る。彼女は岩巻(いわまき) 真奈(まな)、此のゲームショップを営む女店主である。

 

「いやいや。寧ろ絶賛やり込み中、神ゲーの名に偽り無しっすわ。ただまぁ、今やってるシナリオを終えたタイミングでクソゲーやっとかないと、感覚が鈍りそうなんで」

「へぇ~?君が其処まで言うとはね~」

 

クソゲーをプレイしてきたからこそ、其の対極たる神ゲーをどう思っているかを言い切れる。ゲームを語る楽郎の目は輝き、そして楽しそうな表情を真奈は見ていた。

 

「ところで、楽郎君。今日はどうして此処に?」

「いやぁ……クソゲー探しもそうだったんですが、確か『斎賀さん』って人に「ロックロールで待ってる」とか言われて。先に着いちゃったんですけど………って、どしたんです?」

 

彼の言葉に真奈の目は見開かれる。何せ『彼女』が……件の彼女が、まさか自分の見えない所で一歩前に進もうとしていた事に驚愕していたのだから。

 

「へぇ~………フフフ。此れは此れは………」

「?いや、何すか」

「………楽郎君、君も君で『鈍感』過ぎない?」

 

クソゲーに脳を支配され、ラブクロックのトラウマが抜けない限りは進展しなさそうな『フラグ』の匂いを感じ、ふと真奈は店に入ってきたは良いものの、楽郎を見てか近くの物陰に隠れてしまい、顔を出しては引っ込める斎賀 玲の姿を目撃する。

 

「ハーイイラッシャーイ、ソンナトコデツタッテナイデ、コッチニイラッシャーイ」

「あぅ………」

 

CVをケチった結果、無調教のボイスロイドに読ませた大根っぷりな台詞に、思わずツッコミたくなる楽郎だったが、改めてソソソ………とやって来た斎賀 玲と向き合う。

 

「あ、斎賀さん。昼間はどうも」

「は、ひゃい!昼間はどうも………です………」

「…………………………」

「…………………………」

(いや、何か言ってくれねぇか!?)

(どどどど、どうしよう………シャ、シャンフロでのルルイアス探索しませんかって、そ、そそそそ……其れをいいい……………きょ、きょきょきょ!!!)

 

沈黙が支配する。楽郎にとっては玲が何をしたいのか解らず、玲にとっては緊張で思考回路が再びオーバーヒートを起こし、話が一向に進まない。

 

故に─────数多の『ギャルゲー』を制覇した真奈は、煮え切らない此の状況を打破するべく、楽郎に幾つかの質問をし始めた。

 

「ねぇ、楽郎君。時に『数字の(ゼロ)』って日本語(・・・)でなんていうか知ってる?」

「!」

「えっ?そりゃまぁ『レイ』ですよね」

「フムフム、じゃあその逆に(レイ)英語(・・)にしたら(ゼロ)だね?」

「まぁそうなりますね」

 

此処までやっても尚気付かない楽郎の鈍感っぷりが凄いのか、はたまた目の前に居ながらも切り出せない玲が悪いのか。はぁ………と、真奈は小さく溜息を付いた後、楽郎へと答え合わせをするようにこう言ったのである。

 

「じゃあさ───────」

 

 

 

 

 

 

 

「君の目の前に居る、(レイ)(ゼロ)にしてみたり、その逆にしてみよっか?」

 

 

 

 

 

 

 

真奈の突然の言葉に、玲はバッ!!!と真奈に対して身構えて。対する楽郎は、頭の中で情報の精査が開始される。

 

(名前が斎賀 玲、玲をゼロやレイに変えたりして、で…………あ?斎賀 レイ、サイガ レイ………サイガ ゼロ………?…………!サイガ-ゼロ……『サイガ-0』!?いや、いやいやいや………ユニーク自発出来ないバカッツォや、鉛筆戦士にペッパーだって、流石にPNくらい少し変えるぞ………?)

 

だとしたら、其の正体を確かめるには『ゲーム内の名前』で呼ぶのが、一番の近道ではないか。少なくとも楽郎にとっての、此の場における『最善手』が選択された事により、彼は目の前に居る女の子に向けて言った。

 

「レイ氏?」

「しぁえふぁえんいおぁ!?!?!?」

「えっマジで!?」

 

目の前に居る赤面の美少女にして、同じ高校に通う同級生。リアルで文武両道の良家の御嬢様な高嶺の花は、世界が認める『おま国ゲー』ことシャングリラ・フロンティアに【最大火力(アタックホルダー)】として名を刻んだ、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)切札(ジョーカー)・サイガ-0其の人だったのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斎賀 玲=サイガ-0。

 

ゲームでよくある、ストーリー進行で謎の覆面キャラの意外な正体が解き明かされるのと同じ衝撃が、現在の楽郎を襲っていた。同時に彼の脳内では色々な情報や可能性が過って、精査されていく。

 

(マジかぁ………まさか玲さんがレイ氏だったとは、予想外にも程が有るだろ)

 

「えっと、真奈さん。もしかして玲さんに俺のPN教えたり?」

「ごめんね~。玲ちゃんが『サンラク』ってプレイヤーの事を『熱心』に話に出してきてたから、もしやって思ってね?」

 

ゲームで名前を統一するのは、一種のプレイスタイルではある。だがそうとなると、ますます『解らない点』が出てくるのだ。

 

現在彼女を含め、自分達はクターニッドのユニークシナリオを攻略中であり、シナリオが終わって地上に帰れば間違い無く黒狼との『戦争』が待っている事。

 

そして此のタイミングで、自身のリアルバレという諸刃の剣を突き立ててでも、其れを行ってきた『理由』が楽郎には解らない。

 

だが─────彼女が其の行動を起こした理由を『考察』・『仮説』を立てる事は出来る。

 

先ずサイガ-0は自分とシャンフロにて『フレンド登録』を行っている事、そして自分達のクラン:旅狼(ヴォルフガング)への移籍を希望しているとのクランリーダー(ペッパー)と、他ならぬサイガ-0本人の発言。

 

つまり其処から導き出されるのは──────

 

((サンラク)との『独自のコネクション』の形成、そして他者よりも一歩『先んじる』事か………!)

 

全ては此方の隠し持つ『ユニーク関連』を知る為の布石であり、セカンディルでのフレンド登録に、サードレマの救援信号時の即駆け付け。更にはリュカオーン戦時の全力を含めて信頼させ、最終的に自分のリアルを代償として此方のリアルを解き明かす、とんでもない一手を打ったのだ。

 

おまけに共通の趣味を持ってる者が近くに居ると嬉しいという心理的現象を刺激し、ルルイアスという物理的脱出不可の閉鎖空間という特殊フィールドを逆手に取った、まさに『此の瞬間まで私の掌の上だったんだよ、お前はなぁ!!!』な台詞が脳内再生余裕な事態になったのは、最早言うまでも無い。

 

(成程、やってくれる………!)

 

此処までやられては、スタンディングオベーションの他無い。流石文武両道の高嶺の花・斎賀 玲、全て彼女の計算の内だったという訳だ。

 

「あ~……レイ氏。今日ってシャンフロ出来たりしますか?今日含めると、残りあと四日日しか無いですけど」

「ふぇ!?あ、はい!今日と五日目は夕方から、六日目と七日目は夜から動けます!」

「了解です。あ、あと専用のチャット部屋のID送りますね」

 

一先ず不明であったサイガ-0の予定を聞き出せたので良しとしつつ、楽郎は玲のスマフォへ【ルルイアス最前線】と題したチャット部屋の入室パスワードを送った。

 

「では、玲さん(・・・)。今日六時にシャンフロにて」

「ヒュッ」

 

そうして楽郎はサイガ-0衝撃の正体によって、当初の目的だったクソゲー探しを忘れてしまい、ロックロールを後にする。残されたのは斎賀 玲と岩巻 真奈、そして店内の複数の客のみで。

 

「数年越しの快挙ねぇ~………ありゃ玲ちゃん?」

「───────エヘ、エヘヘ………」

「玲ちゃん、戻っておいで」

「ほぴゃあ!?」

「本当はあの場面、貴女から誘った方が良かったけど、寧ろ同じイベントをやってるって点を加味すれば、今回の成果は『上々』よ。というか、楽朗君も無自覚で玲ちゃんを下の名前で呼んでたし。…………兎に角此処からは間髪入れずに、ドンドン距離を積めていきなさい」

「は、ひゃいっ………!」

 

ニヤニヤと笑う女が赤面する乙女へ、次なる一手を打つべくアドバイスを送っていくのだった…………。

 

 

 

 






同級生は最大火力(アタックホルダー)




※尚、此の後真奈さんは今夜の夕食にドンペリを開ける予定、そして旦那さんの為に真心込めたオムライスを作った。

半熟卵のオムレツとデミグラスソースたっぷりの奴で、境さんの胃は滅茶苦茶回復し、彼は感動の嵐で泣いた。




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四の逢魔時。勇者一向は反転都市の城へ往く



勇者、走る


※原作を読み直したら、色々間違いが在ったので修正します




「ただいまー………って誰も居ないけど」

 

コンビニでのバイトを終えて、住んでいるアパートに帰宅した梓は、玄関に鍵を掛けてリュックサックを置き。シャワールームに入り、手洗いと嗽を行った後に服を脱いでシャワーを浴びて、髪と体を洗う。

 

バスタオルで全身と髪を拭き、腰に巻き付けて寝間着を取り出し、ドライヤーで髪を乾かして着替えた後、脱いだ服を洗濯機へ液体洗剤と共に投入し、スイッチオン。

 

布団を敷き、マグカップ一杯に水道から注いだ水を飲み干し、水分補給を行った彼はVRヘッドギアをチェックし、異常が無いかをチェックした。

 

(今日やる事は、ルルイアスの中央に在る巨大な城。彼処を調べて、クターニッドや其の一式装備に関する情報を、何か一つでも手にする事にある……!)

 

やるべき事は決まった。後は四日目でどれだけの情報を手にする事が出来るか、己との戦い。梓はヘッドギアを頭部に装着、布団へと仰向けになって寝転がり、シャンフロへとログインしていく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、あーくん……!ログインした、よう……だね?……ちょっとノワちゃん、其処私のポジション……!」

『グルルルル、グルルルル…………!』

 

シャンフロにログインし、意識が電脳の世界に溶け込み、此の世界におけるペッパーと成った彼の目に飛び込んだ景色は、押し競饅頭をし合ってポジション争いをしているペンシルゴンとノワ、其れを見つめているルスト&モルドのコンビと、レーザーカジキにエムル・シークルゥ・アイトゥイルだった。

 

「起きて早々何やってんの、ペンシルゴンにノワは……」

「ペッパーさんが起きたら、どっちが横を取るかで争い始めたそうです………」

「えぇ………」

 

レーザーカジキの説明に、顔が引き吊る。あまりにも、実にくだらない争いに頭を抱えるペッパーだが、全部自分が招いたトラブルなので事態の収束に掛かる。彼はベッドに腰掛けつつ、自身の膝をポンポンと軽く叩きながら言う。

 

「ペンシルゴン、ノワ。此方に、膝枕をしてあげよう。二人分有るぞ」

 

其の台詞に反応してか、一人と一匹の視線は彼に向き。ペンシルゴンは右を、ノワは左の太腿に各々頭を乗せてきて。彼がそっと頭を撫でれば、どちらとも安心した様子で笑顔になったのだ。

 

「ペッパーさん、凄いですね……」

「そうかな?」

「膝枕は安心出来る………」

「えっルスト、何で此方見てるの?………もしかして、膝枕したいの?」

「…………………」

「え、何で?」

 

無数の選択肢から的確にクリティカルを引き当てたペッパーに、レーザーカジキは感心しており、ルストは呟き、モルドが意図を察してか声を掛けるも、スッ……と目を反らした。

 

「さて、ルルイアス滞在も今日で四日目だけど………。来る戦いに備えて、中央に在る城を調べてみたいと考えてます」

 

ペッパーの言葉に、今此の場に居る全プレイヤーとNPCの視線が向く。

 

「理由を聞いても良い?」

「今の予定では七日目にクターニッドと戦う場合、ちょっと『時間が足らなくなる』可能性がある。今自分達に付与されている『深淵の刻限』……此れをルルイアスで目を覚ました時から始まっていた。そして此処から先を計算したら、此のままだと『足らなくなる』可能性が高い」

 

そう……ペッパーは数日前にクターニッドによってルルイアスに引き込まれ、目を覚ました時の時間を記憶し、覚えていた。そして其れを先々に延ばしてみると、若干足りなくなる危険性が出てきたのだ。

 

「つまり七日目の夕方に集合しても、タイムオーバーで間に合わなくなる可能性が有る………と?」

「はい。場合によっては七日目に入った『深夜帯』で、クターニッドを攻略しないといけなくなるかも知れない。まだ余裕は有れど折り返しに入ったから、少しずつ動いて良いかなって」

 

レーザーカジキ・京極・秋津茜・オイカッツォは六日目はログイン出来ない。そうなると今の段階からクターニッドと戦う為の準備や、ギミックが有るならば其れを解く時間を設ける事が必須になる。

 

「確かに……今の段階から城を調べて何か発見出来れば、ルルイアス攻略最前線で情報を共有するって感じにして、他メンバーとやり取りをするって形だね?あーくん」

「そうなるな」

 

チャット部屋を開き、話し合いの情報をメッセージに起して送信したペッパーは、ペンシルゴンとノワが頭をぶつけないように、ちょっとずつ動いて立ち。そして皆に言った。

 

「さて、と……。ルルイアスの中央の城へ向かうが、夜のルルイアスでは敵とのランダムエンカウントが予測される。注意して行こう」

 

参加メンバーは、ペッパー・ペンシルゴン・アイトゥイル・ノワ・ルスト・モルド・レーザーカジキ・シークルゥの五人と二羽と一匹のパーティー。

 

エムルはサンラクが目覚めた(ログインした)場合の案内役兼アラバと共にスチューデの護衛係に就き、ペッパー達一向はルルイアスの中心地に聳え立つ、巨大な城を目指して行動を開始したのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルイアスの城へ向けて移動中、スーパーカイセンオー二体と其のスーパーカイセンオーが重武装化したであろう、ハイパーカイセンオーと遭遇し。其の三体全てを怒りに吠えたレーザーカジキが繰り出した、飽和風魔法攻撃により粉砕されるという、彼の持つ戦闘力の一端を目撃しながらも、一向はルルイアスの中心地に建つ城へと辿り着いた。

 

「やっと着いたぁ~………」

「改めて見るけど、デカいね」

「大きいのさ……」

「フィフティシアの最上級ホテルより大きい」

「そうだね………」

『ワウ』

「随分と大きいで御座るな……」

「わぁ………」

 

目の前に立った事で解る、此の城はサードレマの領主の城よりも大きな存在であると。城門を押せば門は開かれ、中庭を通り抜けて城の中へと入っていく。

 

潜入した場内はうっすらと薄暗く、灯されている蝋燭の炎は青白いLEDライトの様で。夕方から夜へと移ろう頃であるからか、リュカオーンの小さな分け身たるノワもペッパーの足下を離れて、自由に動けるようになった。

 

「城の中に入ったが、此の時点で何か起きる訳じゃないか………」

「手分けして探してみる?」

「一番手っ取り早いのは『そう』なんだろう。だが多分だけど、NPCは『待機』させた方が良い気がするんだよな………」

 

此の手のダンジョンでは、何処かに『情報』が有るのは『御決まり』レベルとなっているし、クターニッドが居るとすれば間違い無く『此の城の何処か』と断言出来る。

 

「クターニッドの体格的に考えて城の最上階は『窮屈』だろうから、多分奴は『地下』に居ると思う」

「そうなるとNPC達は、プレイヤーの誰かを付けて一階を捜索、残りのメンバーで上の階を………が良いのかな?」

「其れで良いと思う」

 

メンバー分けをするとペンシルゴンとノワが、ペッパーと行動すると言って面倒な事になりかねないので、彼はペンシルゴン・ノワ・アイトゥイルと共に一階を捜索、ルスト・モルド・レーザーカジキ・シークルゥは二階を捜索する事にして、各々行動を開始したのであった………。

 

 

 






城を調べよう




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四の夜の壱。勇者一向、重要事項を知る



ルルイアスの城、探索




反転都市ルルイアス……其の中央に鎮座する巨城にやって来たペッパー達一向は、二手に分かれての捜索を開始して、既に三十分が経過していた。

 

「ペンシルゴン、そっちには何か有ったか?」

「駄目だね………此の部屋含めて粗方見たけど、使えそうなオブジェクトやアイテムらしき物は、一切見当たらない」

「此方もなのさ」

『ワゥ……』

 

ベッドの下や上、タンスの全引き出しに裏側等を隈無く探したものの、出てきたのは埃と衣服の切れ端と、廊下に立つ錆び付いた甲冑の持つ、此れまた錆びけたハルバートと腰に刺された剣しか無い。

 

(一階に無いとなれば、二階か最上階………。クターニッドは地下に居ると仮定して、城が在るって事は此処を納めていた『王様』が居たと見て良い)

 

ペンシルゴンは言っていた。シャンフロとは世界観を『考察』して、其れを元に『攻略』する事を基本としているゲームであると。ならばクターニッドは何を以て、ルルイアスに居るのか?何故に都市を丸々一つ、深海にて引っくり返しているのか?

 

都市が在るという事は、当然ながら『人』が居た筈であり。此の大都市を支える為、牛やら羊やらの『家畜』も少なからず存在していた。だが都市の家屋には人が営みを形成していただろう、生きていた『証拠』が何処にも無かった。

 

つまり──────

 

「此の城の何処かに誰かが書き遺した『日誌』か、其れに近しい物が置いてある筈だ……!ペンシルゴン、ノワ、アイトゥイル。二階へ行こう」

 

一階では目ぼしいアイテムは無かった……ならば次の階層を探すのが、古今東西新旧問わず探索ゲームに存在する、絶対の醍醐味である。

 

ペッパーの呼び掛けに、一人と一羽と一匹は二階へと続く上り階段を駆け上がり、二階へと急ぎ向かうのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ペッパーさん。一階はどうでしたか?」

 

二階への階段を駆け上がり、廊下を進んでいたペッパー達は近辺を捜索していた、レーザーカジキとシークルゥに出逢う。

 

「収穫は無かったよ………あれ、ルストとモルドは?」

「御二人は最上階を探索すると言ってまして、僕とシークルゥさんで二階の部屋を見て回ってました。でも鍵に成りそうなアイテムは見付からず………」

「かなり広いで御座るからな、此の城は………」

 

やはり複数人で手分けして探すのが正解だったかと考えながら、ペッパーはレーザーカジキとシークルゥに質問をしてみた。

 

「レーザーカジキ、シークルゥさん。此の二階で『王様が自室としていた部屋』を見掛けなかったかな?」

「王様の部屋、ですか?」

「可能性としては其処に『日誌』が置いてあると思うんだ」

「………あ、そういえば。シークルゥさん、さっき通り過ぎた部屋の扉だけ、少し『大きくなかった』ですか?」

「………!うむ、確かに彼処やも知れぬな」

「案内を御願いします」

 

レーザーカジキ&シークルゥの案内の元、二人と一羽と一匹は後に続き、そうして辿り着いた部屋の扉は確かに、走り過ぎて行った他の部屋よりも大きな物であった。

 

罠の可能性を考慮し、慎重に扉を開けて。アイトゥイルの持つ桃燈で室内を照らしながら潜入するも、部屋には人の気配も無く。其の部屋に在ったのは、無数の本棚と机に一冊の本が置かれているのみ。

 

「何というか………『執務室』っぽいね、あーくん」

「そうだな………。一応周囲警戒を怠らずに、読んだらイベント発生の可能性も有るから」

 

レトロホラゲーなら此の手の日誌を読み終えた瞬間、最後の敵との鬼ごっこ開始、捕まればガメオベラ───なんて展開は御約束も御約束だったので、警戒するに越した事は無い。

 

では、読むとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

『海の果てより、忌々しき【青】が来て何れ程の時が経ったであろうか。

 

西に続き既に南の街は【青】に呑まれ、此の島より逃げ出さんとした大臣達を乗せた船は、此の島を蝕むもの以上の【青】によって海の底へと引き摺り込まれた。其の光景は民のみならず、王である我等すらも絶望させるに事足る光景であった。』

 

 

 

(いや待って!?待ってってば!?開幕初手、最大火力で殴ってくるの止めて下さい、死んでしまいます!!?というか何ですか青って、ルルイアスは何かの侵略を受けてたの????)

 

だが其の侵略を行っていたのが、どうやらクターニッドではなく青なる存在だという事が解った。続きはどうだろう?

 

 

 

『もはや街は【青】の占有物と化した。【青】に呑まれた民や家畜は、其の身を【青】の一部にされてしまう。

 

だが幸か不幸か、つい先日まで城の大部分に一族郎党で居座っていた潔癖症の大臣達が退去した事で、我々は後の憂い無く民を城へと避難させる事が出来る。今日此の日を以って城は、民に対して門を閉ざす事は無い。』

 

 

 

「此の青って一体何なんでしょう………」

「見る限りヘタレの王様って感じだねぇ」

「其れは言わんでやってくれ、ペンシルゴンよ………」

「其れにしても、青なる存在は中々に危険な雰囲気なのさね………」

 

ページを捲って解ったのは、青なる存在は『有機物』だろうが『無機物』だろうが『取り込める存在』であり、多分だが『触れたら一発でアウト』と断言して良いと思われる。

 

 

 

 

『【青】に挑み、奴の一部と消えた兵達の損失を差し引いても、この城は今生き残っている全ての民を収容できてしまった。本来ならば、此の数十倍は民がいたというのに【青】に対し、何も出来ずにいる己が恨めしい。

 

代々継承してきた輝かしい王冠の威光と、何れ訪れる救世の神を象る鎧を納めた箱は、私に資格が非ずように開く事は無い。其の二つ健在なれども、来たりし災厄に対して何も意味も成さなかった。』

 

 

 

「鎧………もしかして───!」

「おそらく、深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)と見て良いと思う」

「続きが気になります………!」

 

王冠と救世の神を象る鎧、此の二つは此処ルルイアスを統治していた王様の権威の象徴であった事。此れが何か、意味を持っているのは間違い無い。

 

ペッパーは其の手で、次のページを開く。

 

 

 

『じわじわと追い詰められていく焦燥と、大臣達が食料の大部分を持って船に乗り込んだのが、今も夢に出る程に酷く恨めしい。百余人の民の食い扶持を支えるには心許ない食料庫の光景が、絶望を積み重ねていく。我等はやはり此処で死ぬしかないのだろうか。』

 

 

 

「最終的に内ゲバ起きて全滅パターンだね、コレは」

「でも、部屋には争った形跡は在りませんでしたよ?」

「拙者もそう思うで御座る」

「ワイもシー兄さんに同意なのさ」

 

少なくとも青なる存在に捕まって取り込まれた……という訳では無いらしい。まだ続きは有るので、其れを読めば何か解るだろうか?

 

 

 

『嵐だ、全てを捩伏せ海へと還すような酷い嵐が此の国を襲った。だが国に深く根付いた【青】を洗い流す事は出来ない……。私を含めて、誰もがそう思っていた。』

 

 

 

おや、流れが変わったようだ。

 

 

 

『しかし───荒天を纏い、海より伸びた【青】を引き千切って其れは現れた。其の姿を如何に形容すればよいのか………其れは人を、家畜を、家屋すらをも呑み込んだ【青】を。

 

破滅をもたらす手招きを、唯々力尽くで振りほどき、逆に蝕み滅ぼす姿。其れはまるで、八つの首を持つ巨大な龍の様相であった。』

 

 

 

「八首の龍………クターニッドの事だね」

「でも、クターニッドって確か『大きな蛸さん』でしたよね?本体含めて触手と合わせたら『九頭龍』じゃないですか?」

「九頭龍で御座るか………あいや確かに」

 

(九頭龍……きゅうとうりゅう……きゅとぅりゅー……くとぅりゅー………『クトゥルー』?確か『クトゥルフ神話』の中にそんなヤツが居たような………あ、クターニッドのモチーフって『クタニド』か?)

 

TRPGをやった事が有るペッパーは、クトゥルフ神話について調べた記憶を引っ張り出した時、其の名前が浮かんだ。其の時の文面では確か、クタニドはクトゥルーの従兄弟であり、見た目こそ同じ姿をしているものの、本質は『人間達を守りたいと願う』強く優しい神なる存在だとか。

 

そうなるとクターニッドの行動に関しては、見方が変わってくるだろう。

 

 

 

『窮した我々にとって例え其れが【青】を制した後に、我等を蹂躙するものであったとしても。私が幼き日に壁画で見た、救世の神と異なっていたとしても。其れでも我等にとっては、正しく救いの神であった。

 

我等は其の威が我等に向く事に怯えながらも、蹂躙してきた【青】を打ち砕く神に声援を送り、願い、祈った。』

 

 

 

壁画という単語、何か重要な情報を秘めている可能性が有るが………其れよりもクターニッド 対 青、其の決着や如何に。

 

 

 

 

『そして遂に────【青】は沈黙した。神が【青】に勝利したのだ。最早街並みが我等を喰らう事もなく、誰が命じたわけでもなく、城門は開かれた。我等は誰が命じたわけでもなく神の前へと跪き、問い掛けた。貴方の名は………と。

 

果たして神は、我等の言葉に答えを返した。神は仰った。我が名はクターニッド、深き淵に座する者。神ならざれど、神なる力を振るう者と。

 

神は我等を救った見返りに、神は此の国と己と力を分けた鎧を欲した。』

 

 

 

「此れがクターニッドの盛大な『マッチポンプ』なら笑うしかないねぇ?」

「流石に其れは無いと思いますけど………。でもだからと言って、お魚さん達を酷い姿に変えたのは許せません………!」

「レーザーカジキ、其の怒りはクターニッドとの戦いにぶつけてやれ。今は其の時じゃない」

 

ペンシルゴンならやりかねないと、頭の片隅にて思いつつも、ペッパーは思考する。滅びの危機を止めた見返りとして、都市と己の鎧を取引した。少なくともクターニッドには、何かを要求出来るだけの『知能』が有るらしい。

 

 

 

『神は国と鎧を……我等のいないルールイアをこそ所望した。民の中にいた幼子が、無知故の蛮勇をして神へと問いを投げた。我等を追い出すのか、と。

 

神は怒らず、そして答えた。此の地は既に人が住むに適わぬと、死して尚地に染み付いた【青】……神曰く『狂える大群青』は何時の日か再び、全てを喰らわんとして蘇る。故に此の島其の物を、私が海の底へと持ち帰る。滅びの運命を是とするならば、勝手に住まえば良い─────と。』

 

 

此処までで判ったのは、三つ。

 

少なくとも、ユニークモンスター・深淵のクターニッドの行動は『善側』の行いである事。

 

嘗てルールイアを全滅寸前まで追い詰めた青こと、狂える大群青は『ヤバい存在』だという事。

 

そして此の狂える大群青は確実に『フィールドギミック』として、自分達に襲い掛かる可能性が在るという事だ。

 

 

 

『此の日記が誰かに読まれる事は、恐らくないであろう。だが私は此の日誌を、此の城へと遺す。此の世界には嘗て、ルールイアという国があった証であり、私がルールイアの王であった残滓である。

 

我等は生き残った民と共に島を去る………船出の刻は近い。我等は神に永遠の感謝を捧げるであろう。此の王城は既に、神によって要石と成った。玉座に在りし要の碑と共に在る神を象る鎧こそが、ルールイアの新たなる統治者の証であり、私は王の権威を誓いと共に譲り渡した。』

 

 

 

此の文面でハッキリと判った。此の城の何処かに在る王冠と、クターニッドと力を分けた一式装備こと深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)は、ルルイアスの反転の権能(チカラ)を成す要石でも有る事。

 

即ち此の二つを蘇らせた瞬間に、クターニッドとの戦闘が始まる可能性が高い。

 

 

 

『最後に………王権の継承の時に、私が父と母より語られた言葉を書き示す。

 

気高き心を持つ者よ、箱の前に立ちし時に其の重扉は開かれる。納められしは、救世の神を象る一式の鎧と円大盾、八の煌めきと共に刻む時を逆廻させ、其れは目覚める。

 

名を───深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)。幼子の私が最上階の天井壁画で見た、ルールイアを救う神の化身を示した(あざな)である』

 

 

 

此のページを最後に日誌は終わりを告げた。ペッパー・ペンシルゴン・レーザーカジキの三人は、互いに顔を見合せて。同時に同じ事を考えるに至った。

 

(((コレ、ヤバくない???)))

 

──────と。

 

 

 

 






重要情報てんこ盛り




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四の夜の弐。半裸と兎と重騎士は城へと向かい、勇者一向は合流す



其の頃、サンラク達は


※原作を読み返した所、ミスを発見したので修正します





時間はペッパー達が、反転都市ルルイアスの中央に建つ巨城に辿り着いた頃。

 

午後六時─────セーブポイントとして利用している建物の、二階に在るベッドから起き上がったサンラクが空中一回転から地面に着地する。

 

「よっし、今日も今日とてシャンフロをやっていくとするか!」

「あ、サンラクサン!やっと目覚めましたわ!」

「おう、エムル。何せ今日は、俺だけじゃ無いんだぜ?」

 

握り拳を掲げるサンラクと、彼の目覚めの声に反応したエムルが鳥面に飛び付く中、其の視線がベッドの一つに向けられる。そうしてポリゴンが収束し、覚醒(ログイン)するは鬼武者と言える衣裳を纏った、シャンフロの最前線を走るクラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)の切札、最大火力(アタックホルダー)のサイガ-0だった。

 

「レイ氏、此方から時間指定してすいませんでした。大丈夫ですかね?」

「あ、いえ!はい、大丈夫……です!」

 

本日の夕方に判明したサイガ-0の正体。あの瞬間まで尻尾を出す事無く、自分(サンラク)の正体を突き止めてみせた頭脳は、此方のクランリーダー・ペッパーにも負けず劣らず。

 

あの瞬間の衝撃たるや脳内のシャンフロアバターのサンラク達が、満場一致のスタンディングオベーションをした程だ。

 

「サンラクさん、サンラクさん。ペッパーさんから伝言を受け取ってますわ」

「ペッパーから?」

「はいな。『ルルイアスの滞在期間が折り返しを迎えたので、中央の城を探索してクターニッドに関する情報を集めてくる』って言ってましたわ」

 

慎重ながらも先々のログイン状況を考えて行動しているペッパーは、現状クターニッドが居る可能性が高い巨城を調査する選択を取ったらしい。

 

「ありがとな、エムル。レイ氏、俺達も城へ行きましょう」

「はいっ!護衛は任せてください!」

「エムル、準備は良いか」

「はいなっ、私にお任せですわ!」

 

半裸の鳥頭と純白の重騎士そして致命兎の魔術師は、先に巨城へ向かった一団を追い掛けて、夜へと移ろい行く淡い青一色の街を駆け抜けて行く。

 

 

 

尚、其の道中にて襲い掛かってきた八種類の魚に、甲殻類や珊瑚に骨を取り込んだ『スーパーカイセンオー』や、サメの身体にカエルの手足と全身から生えた針金のような硬毛によって魚を引っ掛ける特性を持つ『ディープフィッグ』は、サイガ-0のスレッジハンマーでコアとなるクラゲや、頭部から始まり頸椎と内臓を連鎖破壊して一撃粉砕。

 

最大火力(サイガ-0)の援護の下、二人と一羽の進軍は更に押し進められたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや此の情報ヤバくないか?

 

ルルイアス…………嘗てはルールイアと呼ばれていた国の王城にて、王様か女王が残した手記を読み終えたペッパー・ペンシルゴン・レーザーカジキの三人が抱いた感想である。

 

クターニッドの一式装備起動方法を始め、戦闘突入への条件、そして狂える大群青なる激ヤバな存在が記載された、情報爆弾の権化たる手記。自分達以外の誰かが訪れた場合に色々と説明追及される事を防がんとし、何とか手記を持ち帰れないか、あれやこれやと試してみた。

 

だが此の手の『イベント用アイテム』は、次に来た挑戦者が『詰まないように対策』がされており、置かれていた机に手記其の物が『固定』されていた為、持ち運ぶ事は出来ないようになっている。

 

「………特定エリアとはいえ、ライブラリのおじいちゃんに見付かったら、色々ヤバいねホント………」

「仮に此のユニークシナリオが『周回可能』だったら、ヤバい事にしかならんよ………。『独占』なんて事態が起きたら、第二第三の阿修羅会出現なんて事にも成りかねない」

 

エリアとして存在している以上、他のプレイヤーも来訪出来る可能性は存在しているし、其れは其れとしてライブラリのクランリーダー・似非魔法少女のキョージュへ、如何に状況説明を行うかが鍵となる。

 

「そういえば、ルルイアスの街の家屋の窓は塞がってたり開きっ放しだったりだったが、此の城の窓は其のまんまだな………」

 

青……狂える大群青の包囲に迫られていたとはいえ、外の様子を見る為に敢えて封鎖しなかったのか、今となっては理由は解らない。だが窓を塞がなかった事で、外の様子を見る事が出来たからこそ、ペッパーは窓枠に歩み寄って開ける事が出来たからこそ。

 

「おーい!」

「ん?……んんん?」

 

此方に向かって走ってくる、サンラク・エムル・サイガ-0の姿を目視確認出来たのである。

 

「サンラク!」

「ペッパー!城の探索はどうだー!」

「重要情報を見付けた、ルストとモルドが今最上階に行ってる!」

 

ペッパーはそう言いつつ、インベントリからロープを取り出し窓から伸ばして、サンラク達が城の入口と階段の経由をショートカット出来るように立ち回る。

 

自身のスキルで壁を駆け上がったサンラクと、其のロープを使い登るサイガ-0が、漸くペッパー達と合流した。

 

「此処何処の部屋だ?」

「旧名ルールイア、現在のルルイアスの王様か女王の執務室って所かな。此処に在るのが、クターニッドに関する重要情報てんこ盛りの本」

 

サンラクとサイガ-0が読めるように皆移動し、二人は本を読み始めて。およそ十数分にはなったものの、読み終えた二人が此方を向く。

 

「取り敢えずアレには、ヤバい情報しか書かれてないってのは判ったわ」

「クターニッドの一式装備……とても気になります」

 

各々思う所が有るようだが、先ずやらなくてはならない事がある。

 

「えっと、サイガ-0さん。クターニッドの一式装備に関する情報の秘匿、御願いしますね」

「了解、です」

 

地上に帰ったら黒狼との戦争が待っているし、此れ以上の火種は作らないに越した事は無い。と、そんな時である。

 

「あ、居た居た。皆、最上階の探索を終えたよ」

 

最上階に向かっていたとレーザーカジキが言った、ルストとモルドが探索を終え、部屋に入って来たのだ。

 

「何か収穫は有りましたか?」

「最上階探索チームは城の最上階でモンスターと遭遇して、倒したら『コレ』をドロップしたんです」

 

モルドが指先に視線を向けると、ルストの頭の上に『見窄(みすぼ)らしい王冠』が一つ載っかっていた。元々其処に宝石が納められていた其れは、宝石が無くなった為か空洞となった上に、経年によって青カビなどによって変色した、嘗ての権威の象徴だった一品の影すら無い。

 

間違い無い…………ルストが持つ王冠がルルイアスの要石の一つであり、元の姿に戻す事でクターニッドとの戦闘が始まるのだ。

 

「コホン……ルスト、モルド。一応此処に在る本を読んで欲しい。大事な事なので」

 

そう言ったペッパーに二人は顔を見合せた後、ルールイアの王が書き記した本を読み。最終的に王冠と箱の中身を知るに至った。

 

「さて、と………今から最上階と玉座を探しに行こう。其処にクターニッドの一式装備と起動に関わるヒントが有る」

 

開拓者達は動き出した、クターニッドの一式装備を手にする為に…………。

 

 

 






いざ最上階へ




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四の夜の参。勇者一向、鎧の尊顔を拝む



置かれし箱に眠る秘宝


※原作を読み返した所、ミスを発見したので修正します。





執務室にて様々な情報を手にしたペッパー達はサンラク・サイガ-0・エムル・ルスト・モルドと合流し、現時点で動けるプレイヤーとNPCが揃った所で、ルルイアス………嘗てルールイアと呼ばれた国の王城、其の二階から三階、三階から上へと続く階段を上り、一向は最上階へとやって来ていた。

 

「此処に壁画が在るらしいが………」

「ペッパーはん!上、上に何か描かれてるのさ!」

「サンラクさん!上に何か有りますわ!」

「皆の衆、上を!」

 

周囲を見渡すメンバーに、三羽のヴォーパルバニーの呼び掛けて。ペッパー達が視線を真上に移せば其処には『巨大な壁画』が描かれ、まるで『古代エジプト文明が栄えて居た頃の様な』、独特なタッチで描かれた物が在り。

 

描かれているのは『圧し寄せる青の波を、黄緑から始まり青・赤・藍・黄・緑・橙と続き、最後に紫の計八色の触手。其の一本一本に様々な武器を握って、青へ振り翳し引き千切って打ち砕く、円盾を掲げる者。其の後方には、沢山の人が手を合わせて勝利を祈る様子』を描いた物だった。

 

「アレが手記を書いていた王様か女王が見た、ルールイアを救う神の化身………」

「スゲェなありゃ、あの押し寄せてんのが『狂える大群青』か?」

「ライブラリのおじいちゃんが見たら、引っくり返りそうだねぇ………」

「クターニッドだけに?」

「ぶふっ………反転、引っくり返る………フフフ………」

 

しょうもないギャグでモルドが笑ったが、起動するに当たって此の壁画は重要な情報と確信しているペッパーは、スクショ機能を使って天井に描かれた壁画を撮影。

 

そして一同は三階へとやって来た。此処には休める部屋とベッドルーム以外に、此の城の中では城門を除くと『最も大きな扉』が在り、扉を開けてみると『王達が座るであろう二つ玉座』が在る、そんな大広間が一行を出迎えた。

 

「何だありゃ………」

 

玉座の間の最上段、二つ在る玉座の片方………おそらくだが『女王』の方に座るようにして、全身が『クリスタル』で出来た人型が存在していた。其の瞳は『ルビー』で出来ていたり、ネックレスには『ダイヤモンド』や『トパーズ』、指輪に『エメラルド』が嵌められており、様々な宝石で彩られてキラキラと輝いている。

 

「ペッパーさん、アレ!彼処に『箱』が!」

「あ、本当だ」

 

レーザーカジキが指差す先、玉座と玉座の間の少し後ろに鎮座している、一つの箱。神代の鐵遺跡やサードレマ大公の城の地下にて目にした、一式装備を納めているカプセルと同じ形状だったので、間違い無くあの中にクターニッドの一式装備・深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)が入っている。

 

「こりゃ人型のクリスタルだな………」

「綺麗だねぇコレ」

「大きいですね………」

「だな………ん?」

 

サンラク・ペンシルゴン・レーザーカジキ・ペッパーがクリスタルに目を向ける中、ある事に気付く。

 

「なぁ、此のクリスタルだけどよ……何か『見覚え』有るよな?」

「………あ、確かに。セッちゃんの服装によく似てるね」

「確かに似てるが………此の女性、額にエネルギータンクを埋め込んでた像と『酷似』してるんだよ」

「言われてみれば………!」

 

クターニッドにとって此の女性は一体どのような存在で、何を意味するのか気になるが考察する為の情報が少な過ぎるので、また別の機会にしておく。

 

そうして箱の方へといったタイミングで、彼の動きが止まり。再び人型のクリスタルへ視線を向ける。

 

「あーくん?」

「…………二階で見た手記には『王権の譲渡』と有った。そして宝石が無い王冠と宝石が散りばめられているクリスタル」

「………あぁ、成る程なペッパー?」

「………………………あ、そうゆう事ね」

「解った」

 

ペッパーが気付き、サンラク・ペンシルゴン・ルストが納得し。彼等彼女等は人型のクリスタルから、宝石達を取り外し始めたのだ。突発的に始まった暴挙にモルドとレーザーカジキにサイガ-0、そしてヴォーパルバニーズがフリーズし、ノワは興味が無さそうに欠伸をしながら、ペッパーの足下で身体を擦り当てている。

 

「ペッパーさん、サンラクさん、ペンシルゴンさん!!?」

「ちょ、ちょっとルスト!?」

「サンラク、さん…………?」

 

クリスタルから宝石を全て取りきり、自分が取った分を持ちながら、サンラクは言う。

 

「王権の移譲…………此れが政治的な意味(・・・・・・)ではなく、象徴的な意味(・・・・・・)で王を王たらしめるものと言えば?」

「あ……!王冠を、直す事が………王権の復活に、繋がる………!」

「正解だ、レイ氏。此の王冠に宝石を納めた時、クターニッドとの戦闘に移行する可能性が極めて高い」

「だから、何時でも行けるようにしておく」

 

ルルイアスの反転を支える要石の解き方が解った所で、ルストが王冠と宝石達を所持する事となり。遂に本命となるクターニッドの一式装備が入った箱に、皆が視線を移す。

 

「此の中にクターニッドの一式装備が……」

「えぇ。レイ氏、くれぐれも此処で見た事は内密に頼みます」

「了解、です」

 

サンラクがサイガ-0に口添えをし、ペッパーが箱の前に立つ。同時に箱から響いたのは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………高潔度、確認──────規定値クリア。個体、ペッパー【天津気(アマツキ)】………確認──クリア。ロックを解除します…………気高き魂を持つ貴方に、幸在らん事を祈る』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箱に施された鍵が外れ、重扉が開く音が玉座の間に響き渡る。其の中に入っていたのは、全体が『薄黒色』で統一されて、至る部分に『八亡星』を想わせる意匠が施された鎧が一つ、静かに鎮座している。

 

頭鎧はまるで『蛸の頭』か或いは『宇宙服のヘルメット』の様な円みを帯びて、上半身下半身共にマッシブさが溢れながらも、鎧としての体を成した姿。

 

胴装備だろう部分の背中側に有ったのは、無色透明な『サッシュ状の八本の蛸足の様に先端が尖ったマント』、そして鎧の前には立て掛けに掛けられた、白と黒の勾玉模様を合わせて『太陰太極図(たいいんたいきょくず)』とした、大きな盾が一つ。

 

サイズはペッパーが持つ、勇者武器(ウィッシュドウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディスより一回り小さな、其れでもタワーシールドに匹敵する大きさを誇っていた。

 

そして周囲から色々な視線を向けられながらも、ペッパーはオイカッツォとの約束の為、自身のインベントリへと一式装備を収納。無言でフレーバーテキストを読み取り─────頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)【ユニーク遺機装(レガシーウェポン)】:神代の時代において、限定的現実改変特性の付与実験の過程で産み出され、反転権能が施された特殊な鎧。

 

人の身で強力無比なる改変能力を振るうリスクを想定し、装着者が行える能力を反転のみに絞り、かつ其の能力に大幅な制限と範囲を限定する事により、運用可能と成った。

 

此の鎧は装着した者の体格を読み取り、最適な形を構築・自己変化を行う。其れは前へ進む事を恐れず、己の進化を止めなかった人類と同じく。

 

故にこそ人の意志が紡ぐ限り、此の鎧が砕ける事は無い。

 

 

 

頭装備:天輪界道(テンリンカイドウ)導羅(ドウラ)【EMPTY】

胴装備:天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)【EMPTY】

腰装備:天輪界道(テンリンカイドウ)導生(ドウセイ)【EMPTY】

脚装備:天輪界道(テンリンカイドウ)導鬼(ドウキ)【EMPTY】

 

六道極円盾(リクドウキョクエンジュン)天獄(テンゴク)

 

 

 

FCB:無限潜航

 

FCB:巨剛触手

 

FCB:状況改変

 

 

 

無限潜航(むげんせんこう):一式装備を装着中の装備者は、装備を通じて地上・海中・深海から酸素を取り込む。装備者は水中と海中を自由に潜行可能となり、潜行中に溺死せず、水圧によって圧死しない。

 

巨剛触手(きょごうしょくしゅ):天輪界道・導人の八本のマントを触手に変換・伸縮自在に展開し、装備者の意思で操る事が出来る。此れは装備者の腕と脚としても扱われ、武器を装備可能となる。ただし武器の種類によって、使用する触手の本数が変動する。

 

状況改変(じょうきょうかいへん):半径30m内を対象に装備者の言霊を用いる事によって、30秒の間、物体・環境・マナに干渉・反転を行う。既に状況改変を行った場合、其の効果が終了するまで状況改変は使用出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(限定的現実改変特性の付与実験って何?神代の時代で人類は何をやってたの?狂える大群青みたいな敵を倒せる技術を確立しようとしてたのか?というかコレ、装着者の体格に合わせて自己変化するって、やっぱり生きてるの?

 

無限潜航って事は、スキューバダイビング可能なダイバースーツと酸素ボンベがワンセットになってるみたいな感じ?えっ、凄くない?

 

状況改変って能力もシンプルにヤバいし、巨剛触手も一式装備固定になるが、やり方によっては円盾含めた他武器で十刀流すら可能って事?いや、寧ろまたこんな戦力爆弾掴まされたのは不運でしょ………嗚呼ホンッッットにどーしよ……)

 

一式装備の説明文を読み終え、ペッパーは此の装備もまた、天覇や墓守の一式装備とも別ベクトルで異なる、ヤバい存在だと確信するに至り。同時にまたしても自分に対する爆弾が積まれた事を嘆いたのである。

 

そして当然ながら、ペッパーの前にはクターニッドの一式装備を手にした事で、リザルト画面が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者は深淵の盟主と力を分けた鎧を手にした』

『太古の残照は此処に陽の目を見る』

『称号【力分ける者】を獲得しました』

『称号【叡智の残光】を獲得しました』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

 

 

 






其れは嘗ての時代を知る鎧



深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)

反転都市ルルイアスとなる前のルールイアを統治する王家が所有し、代々継承してきていた神代のタイムカプセルの中に封印されていた、ユニーク遺機装(レガシーウェポン)

王冠と並ぶルールイアの権威の象徴であり、何れ此の地を襲う災禍を祓うと言われし、救世の神を象ったとされた一式装備と円大盾である。

深淵のクターニッドと力を分けたユニーク遺機装であり、全種装備状態(フルカウルモード)となる事で、秘められた能力が解放される。

深淵を見定む蛸極王装の機能は『水中や深海環境下での活動を可能にする特殊な装甲』と『装備者の意思にて操れる八本のアーム&レッグ』、そして『短時間かつ限定的な範囲内で行使可能な反転能力』がある。

モチーフは『仮面ライダーガッチャード・クロスユーフォーエックス』の頭部に、上半身は『デュエル・マスターズ』のオーバーレアの一体『邪闘シス』から、背中の飾りや副腕に触手を無くし、下半身は『仮面ライダークウガ・ライジングアルティメット』で、全身のカラーリングを薄黒色に変更して八芒星の紋様が全身に存在させた物。

マントは『仮面ライダーギーツナイン』の物の九本ある中から一つを除いて八本にし、エネルギーが無い状態では無色透明、エネルギーが送られていると『仮面ライダーギーツワンネス』の様なカラフルになる。また色は、左から順に黄緑・青・赤・藍・黄・緑・橙・紫の八色。

天獄のモチーフは太陰大極図を円盾にした物。






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四の夜の肆。オハナシ&ルルイアス怪獣大決戦



オハナシの御時間だゴラァ!




「さてさて、あーくん。今から私と『オハナシ』しようか?」

 

ルルイアスの中心に建つ巨城、其の最上階に在る玉座の間にてユニークモンスター・深淵のクターニッドと力を分けた存在たる一式装備『深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)』を手にした一向は現在、ペンシルゴンが主導となってペッパーに対する質問審議が執り行われようとしていた。

 

ペッパーは正座し、リュカオーンの小さな分け身たるノワが彼の太股に座ろうとしたのを、ペンシルゴンが回収して抱き抱え。サンラクがペッパーを逃がさぬと両肩を掴まえて、ルスト・モルド・サイガ-0・レーザーカジキ、そしてシークルゥ・アイトゥイル・エムルが見守る中、オハナシは開始される。

 

「あー………議長ペンシルゴン。貴女の聴きたい事は如何に?」

「あーくんが何で『頑固者のウェザエモン』と『セッちゃん』────『遠き日のセツナ』と同じ名字(・・)を持っているのか。後はリュカオーンの影との戦いで『断風(たちかぜ)』を、ゾンビ空母鮟鱇との戦いで『入道雲(にゅうどうぐも)』を放てたのか。其の理由を詳しく説明して欲しいのさ」

 

まぁ其処で来るよなと、ペッパーはどう説明していくかをバラバラになったパズルのピースを組み立てるように、脳内で思考を構築し直して説明を開始する。

 

「えっと……話す前に約束して欲しいが、此処で見た事や聞いた事を、他のプレイヤーに話すのは控えてくれ。其れが出来るなら、ちゃんと説明する」

「………家のクランリーダーの意見らしいが、レイ氏は大丈夫か?」

「はい」

「約束します!」

「私も」

「僕も」

「と、まぁ今居る全員が約束してくれたから、パパッとやってね?あーくん」

 

全員からの了承を得て、ペッパーは説明を始める事となった。

 

「墓守のウェザエモン………ウェザエモン・天津気(アマツキ)さんとの戦いを終えた後、ステータスを確認したら自分のプレイヤーネームに『天津気』って文字が追加されていた。称号を調べたら『天津気の襲名者』って項目が在ったので、おそらく其れが理由かと」

 

ペンシルゴンの視線が突き刺さり、逆にノワはペンシルゴンから逃れようとするが、確りと抱き抱えている為に逃れる事が出来ないでいる。多分影移動やら影潜行すれば抜けられると思うが、敢えて言わない事で自ら考えて成長を促すのだ。

 

「断風に入道雲が放てた理由に関しては、コレを見た方が解りやすいと思う」

 

そう言いつつペッパーがインベントリアから取り出したのは、星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ。右手に憑いたリュカオーンの愛呪による装備不可能力を、黒鞘に触れる事で一時的に取り除き、失われた二刀流を可能にする彼の為の剣。

 

左手で剣を引き抜けば、剣身に在る七つの穴の内と持ち手から五番目の位置に蒼桃の宝玉が収まっており、シャンフロ廃人たるサイガ-0や其れなりにプレイしてきたペンシルゴン、そしてサンラクにレーザーカジキ、復帰勢のルスト&モルドも一目見ただけで、此の武器の『異質』さを感じ取るには充分過ぎた。

 

「剣の()はグランシャリオ。コイツにはリュカオーンの呪いや刻傷、そして愛呪による装備不可の能力を一時的に取り除く以外に、特殊な能力を備えている」

 

そう言って彼は納められていた宝玉を取り外すと、其れは一冊の本へ───世界の真理書「墓守編」へと姿を戻し、皆の前に提示され。やはりというか皆の視線がペッパーを含め、グランシャリオと真理書に向けられた。

 

「世界の真理書は『ユニークモンスター』を攻略した後に、確定で手に入るアイテムだ。本来は使い道が無い『攻略本』だけど、此の武器は真理書をセットする事で、ユニークモンスターの使用した『技』をプレイヤーが行使出来る能力(・・・・・・・)が備わっている。尤も其の威力は、プレイヤー自身の能力値に左右されるけどね」

 

ペッパーの説明に全員が目を丸くする。無理もないだろう。真理書が必要な代わりに、ユニークモンスターの使用した攻撃を再現出来る力は、現状は秋津茜(アキツアカネ)の切札たる龍威吹(リュウイブキ)の様な『限られた方法』以外に無いのだから。

 

「えっと、あーくん。コレ私達の持ってる、真理書翳しても変わったりする?」

「いや……試してないな」

「ふぅ~ん………あ、変わった。ねぇ、サンラク君」

「えっ此方まで巻き込むなよ、俺やんないよ?」

 

グランシャリオを握り、世界の真理書を翳せば宝玉に変わったので、彼は其れを持ち手から『二つ目の穴』にセット。其の様子を見ていたペンシルゴンは、自分が持っている真理書を取り出し、剣に翳してみると宝玉に変化したので『五番目の穴』に装填した、まさに其の時。

 

反転都市ルルイアスの上空を『三つの巨大な水柱』が破りて、冥府の深海に出現するモンスターがクターニッドが根城とする箱庭へと迷い込み、其の衝撃がルルイアスの空気を震わせ、開拓者やNPCに危機を報せる事となる。

 

「わわっ!?」

「な、何だ!?」

 

一体何事かと、玉座の間から王城のテラスに移動した開拓者達が見たのは、衝撃の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

一つは蒼い炎を上体部で燃やし、水晶の鰭からは蒼い雷を纏いながら空を泳ぐ、深海の王にして戦略級巨大戦艦たる鯱こと『アトランティクス・レプノルカ』。

 

一つは巨大な貝殻を其の巨体に背負い、背中の独自の生態系を構築・外敵に対するメタを随時更新し続ける、巨大要塞ヤドカリこと『アーコリウム・ハーミット』。

 

一つはフェロモンを操り、ありとあらゆる異性の海洋生物を眷属に変え、其れ等を改造して付き従えさせる巨大空母鮟鱇こと『スレーギヴン・キャリアングラー』。

 

何れも深海食物連鎖の頂点に立ち、各々が三竦みの関係に在る事で、深海に蔓延る争いの火種を摘み合う事で守られている平和は、此処ルルイアスでは関係が無いと言わんばかりに、互いが互いを睨み合い。

 

各々の持つ武器を以て、此処に真のトップを決めんとする、大決戦が幕を開ける。そして此の場に居た全てのプレイヤーには、とある『リザルト画面』が表示される。

 

 

 

 

 

 

『称号【三強謁見(さんきょうえっけん)】を獲得しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして当時、其の光景を見て戦いに飛び込んだ旅狼(ヴォルフガング)のメンバーは、後にこう語る。

 

 

『あれはルルイアス怪獣大決戦だった』

 

 

────────と。

 

 

 






深海三強全員集合、そして戦争




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四の夜の伍。災禍の中に混沌、故に狙うは一斉討伐



襲い掛かる脅威




自分達は今、地獄を見ている…………………ルルイアスの中心地、ルールイアと呼ばれた都市の巨城のテラスから見た景色に、此の場に居た全ての開拓者とNPCが思った事である。

 

アーコリウム・ハーミットの背中の貝殻から産み出された新たな生物達が、アトランティクス・レプノルカへと突撃し。其の生物達をスレーギウン・キャリアングラーがフェロモンを使って、諸とも強奪して自身の眷属化させんとし。

 

だが其の眷属や生物を一匹残らず、蒼い雷を振り撒き撃ち抜いて、感電死させながらアーコリウム・ハーミットに噛み付き、其のままアーコリウム・ハーミットにぶつけてサンドイッチにするアトランティクス・レプノルカの姿。

 

「シャンフロにも『MVM』の概念は有ったか……。いや其れにしたって『アトランティクス・レプノルカ』があの中じゃ群を抜いて強い………か?」

 

MVM、通称『モンスター(MONSTER) (VS) モンスター(MONSTER)』。

 

MMORPGでは時折見掛けるが、縄張り争い等でモンスター同士が対面した時に起きる現象の一つであり、其れによって環境に甚大な被害が及ぶ事もある危険な状態でもある。

 

空母鮟鱇を要塞ヤドカリにぶつける戦艦鯱、だが背中の貝から産み出される生物達が鯱の身体に食い付き、対戦艦鯱用にチューニングされた毒が次々と流し込まれて。しかし其れにも屈する事無く、鯱は噛み付いた鮟鱇の巨体を掲げて叩き付けんとした所に、貝殻を砲弾としながら突貫したヤドカリにカチ上げられ、鮟鱇を放してしまう。

 

「ナニアレ」

「大乱闘………なのかな?」

「ねぇ。サンラク君、あーくん。アレはどーゆー状況?」

「鯱がアトランティクス・レプノルカ、ヤドカリがアーコリウム・ハーミット、鮟鱇がスレーギウン・キャリアングラー」

「うん、モンスターの名前じゃなくてね?」

「まぁ……ルルイアスに迷い込んだ、としか言えないよなァ」

「ふぁあああ…………!」

 

あの場所は深海の世界が産み出した頂点捕食者による頂上決戦であり、ノワを除くNPC達はあまりの光景に呆けてしまい。だが此処でペンシルゴンが見付けたのは、此方に向かってくる小さな『二つの点』であり、其れは段々と大きくなって近付いて来て。

 

「アラバさん!」

「全員居るか!」

『スチューデ、ナかない』

「お、お前等!無事だったか!?」

 

空を泳ぎ、ネレイスと共にアラバと。彼の脇に抱えられて、泣きべそで顔がぐちゃぐちゃになり掛けながらも、何とか堪えるスチューデが来たのである。

 

「まさか深海の頂点捕食者達が、一同にルルイアスにて介するとは………!」

『ネレイスも、こんなコウケイは………ハジメテみる』

「いきなり雷が降ってきたと思ったら、変な魚まで来たんだぞ!何なんだよ、アレは!?」

「クソガキの意見に同意する」

 

ルストの言葉にペッパー含めた此の場に居る全員が、コクコクと首を縦に振って同意して。そして今も尚遠くで暴れまくる三体を見て、ふと皆の顔を見た時にサンラクだけが何かを思い至っているように見え。そしてサンラクもまた、此の場に集まった動ける面々の中でペッパーだけが、違う感情を抱いているのに気付く。

 

「おぅ、ペッパー。もしかしてだが『やる腹積もり』か?」

「奇遇だな、サンラク。実は俺も『同じ事』を考えてたわ」

 

同じ考えを抱くが故に通じる会話に、他の面々は首を傾げる。そしてペッパーはアラバに一つ質問をしてみた。

 

「アラバさん、アトランティクス・レプノルカとアーコリウム・ハーミット、其れからスレーギウン・キャリアングラーの『好物』………よく『好んで食べる魚』って有りますかね?」

「好んで食べる、か。………其れならやはり『キリューシャン・スフュール』だろうな。アレは深海の珍味と呼ばれる『シャコ』なのだが、成体まで生き残れた個体の肉は絶品に等しく、其の甲殻は並の鐵すら足下に及ばぬ強靭な素材になるのだ」

 

アラバの説明からペッパーはインベントリア内を確認、ニンマリと笑って。そして同じく深海三強たる鯱・ヤドカリ・鮟鱇の姿を見つめるサンラクと共に、皆に言った。

 

「今から俺とサンラクで、彼処で暴れ散らかしてる深海の頂点捕食者達を倒してくる。アラバさんのお陰で、ちょっと『攻略法』を思い付いた」

「アラバ達は四方の塔に避難しておいてくれ、多分鯱のビームや雷を反射出来る場所に居た方が安心………とまではいかないが、身を守るには最適だろうぜ」

 

見ているだけでヤバいというのが解る筈なのに、何を根拠にして『勝てる』と言うのか。其れは生還手段も無い中で、死地に赴く事と同じではないか。

 

「な、何で……お前等、怖くないのかよ………?」

 

そしてやはりと言うべきか、スチューデが震えた声で問い掛ける。だからこそ此処で、スチューデに対して行ったロールプレイ(・・・・・・)を重ねて示すのだ。

 

「スチューデさん。きっと貴方の御父様も、こんな気持ちだったのでしょうね………」

「えっ……………?」

「自分の後ろや隣に、大切な人や守りたい者が居る。自分が死ぬかも知れない中で、己の命以上に守るべき存在が在るなら。自分という『存在を賭けて』、敵に立ち向かえるんだって…………そう思うんです」

 

スチューデの父親が一体どんな人物だったかは定かではないものの、部下と息子を守って死んだのならば。きっと『そういう事』なのだろうと、自分は考えられる。

 

「あーくんが其処まで言うなら、私も無関係の知らんぷりで撤退…………って訳にはいかないんだよねぇ?」

『ワウ!ワウ!ワウ!』

「フフフ………其の通りなのさ、ペッパーはん」

「私だって、サンラクさんの御手伝いをしますわ!」

「わ、私も………です!」

 

ほんのり頬を赤らめながらもペンシルゴンがペッパーの隣に立ち、頭にアイトゥイルが乗り、ノワは『私もやるよ!』と吠えながら彼の足下に歩み寄って。サンラクの隣にサイガ-0が、頭にはエムルが飛び乗った。

 

「ぼ、僕は先にシークルゥさん達を、塔に避難させてきます!」

「モルド、私達でクソガキ達を護衛」

「う、うん!」

「ペッパー、サンラク……くれぐれも無茶はするなよ!」

『キをツけて』

「アイトゥイル、エムルよ。絶対に死ぬな……!」

「お前等…………!」

 

パーティーは此処に、二つへ分かれた。

 

ペッパーやサンラクを始めとする、攻撃力・機動力の有るメンバーが深海三強討伐組へ。遠距離攻撃手段を持ち合わせ、ヤドカリの産み出した生物や鮟鱇の眷属を遠距離から叩けるメンバーが、スチューデの護衛組に回って動き出す。

 

此処に三強落としにして、ルルイアス怪獣大決戦が幕を開ける…………!

 

 






特選隊、往く




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四の夜の陸。食欲は生物の行動根幹



ブチのめそう、モンスターズ




「近くまで来たが………ヤバいね」

「ヤバいのさ………」

「其れな」

「ぷわぁぁぁぁぁ………。い、今更ながらアタシ帰りたいですわ………」

「何というか………モンスターの争いに堂々と飛び込む私達って相当だよね」

「あはは……」

『グルッ』

 

夜のルルイアスにて出現した三体のモンスター、アトランティクス・レプノルカ&スレーギウン・キャリアングラー&アーコリウム・ハーミット、深海三強による怪獣大決戦の会場付近までやって来た、プレイヤー四人とヴォーパルバニー二羽とリュカオーンの分け身一匹は、真の頂点捕食者を決めんとして暴れ狂う者共を見ながら、各々言葉を紡いだ。

 

雷の雨が降り、魚や甲殻類に軟体類が産み出され、改造された魚共が空中を飛び回って。其れが雷に撃ち落とされ、蒼炎に燃やされて、魚同士が喰らい合うという、端から見ても地獄かディストピアと表現出来てしまう凄惨な惨状を目の当たりにする。

 

「作戦は移動中に伝えたが、再度確認する。囮は俺が、サンラクがアトランティクス・レプノルカのビーム反射。アイトゥイルとエムルさんにノワは援護、ペンシルゴンとサイガ-0さんは最高のタイミングで攻撃を叩き込んで。兎に角最優先撃破対象は『アーコリウム・ハーミット』、奴が魚達を出し続ける限りは戦いが終わらない」

 

全員が頷き、皆行動を開始。全員が所定の位置に着くのを見計らいながら、ペッパーは一人インベントリアの中に在る『アイテム』を見つめ。サンラクがEメールアプリで報せた瞬間に、彼は其れを取り出して高らかに掲げて叫んだのだ。

 

「御機嫌麗しゅう、深海の頂点捕食者達よ!互いが互いに争って、そんなに楽しいのか!」

 

そんな彼の声と其の方角から香る『匂い』に、三体の怪物や眷属達の視線が集まる。彼が両手に持ち上げ掲げるは、先日大時化を用いて投げ殺した、キリューシャン・スフュール"恕志貫徹(ファースリィオ)"の『肉』。

 

成体まで生き残った事で、大振りに育った其の身は巨大かつゼリーの様にプルンと震え。食環境に恵まれた為に、通常種の成体以上に旨くなり。一撃で〆た事と(ワタ)を取り除き、鮮度が保たれて雑味の無い其れは、怪物達には喉から手が出る程に『極上の一品』と言っても過言では無く。

 

「コイツが欲しいか?だったらくれてやる!ただしッ!俺を仕留められたらなぁ!」

 

そう宣言してインベントリアに仕舞った瞬間、深海の頂点捕食者達が一斉に。我先にと言わんばかりに、ペッパー目掛けて突撃を開始。産み出した生物を向けつつも自らも動き出したヤドカリに、眷属を差し向けつつも直ぐに食べられるようにする鮟鱇に、其れ等を薙ぎ払い除けては雷の爆撃で打ち倒し迫る鯱と、ペッパーの背中に絶大な殺意が乗し掛かり襲う。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!絶対死んで堪るかァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

星天秘技(スターアーツ)ミルキーウェイ起動。空中を走りながら、スレーギウン・キャリアングラーのAIが得た『空中の敵を最優先で狙う』という特性を活かし、眷属として改造された魚達を惹き付けつつ、其の足はアーコリウム・ハーミットの方へと駆け寄り、其のまま塔の方角へと進む。

 

当然ながらアーコリウム・ハーミットも産み出した生物達を迎撃に掛かるが、スレーギウン・キャリアングラーの放つフェロモンによってコントロールを奪われ、防衛戦が崩壊。殺到する眷属達が貝殻を砕かんとして牙を突き立てるが、其れを自らの巨体を回転させることにより、其れ等を全て薙ぎ払った。

 

そしてアーコリウム・ハーミットとスレーギウン・キャリアングラーが激突した最中、逸早く抜け出したアトランティクス・レプノルカだったが、ペッパーが更に速度を上げて走って100m以上離れたのを見た事で、深海の威光たる『ビーム砲撃』を使う事を決意する。故に蒼炎を鎮めて、口に電撃を集め、空中を駆けるペッパーに狙いを定める。

 

「戦艦鯱の位置、自分の高度と塔の角度、そして要塞ヤドカリの位置、………今ッ!サンラク、頼んだ!」

 

インベントリアでエスケープしたペッパーに変わり、サンラクがインベントリアを通じて取り出すは、キリューシャン・スフュール"恕志貫徹"の肉であり。

 

「オイゴラ二属性鯱野郎が!コイツが欲しくねぇのかぁ!!」

 

サンラクが掲げる其の肉に、アトランティクス・レプノルカの『攻撃対象』が変わる。だがビーム砲撃は既に発射モーションに入っている、故に急な変更は出来ない。サンラクは肉をインベントリアに入れ直し、インベントリアと封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)を構え、サキガケルミゴコロと真界観測眼(クォンタムゲイズ)のコンボスキルを点火。

 

放たれたビームをジャストタイミングで回避した刹那、ルルイアスの塔に施された『反射』の力によってビームが跳ね返り、スレーギウン・キャリアングラーとゴタゴタしていたアーコリウム・ハーミットの貝殻を直撃。要塞たる宿にはヒビが走り広がって、ポリゴンが溢れていき、遂には貫通して体内にまで攻撃が届いたのである。

 

「ッシャア!ヤドカリに大ダメージ入ったァ!ペッパー、次だ次!」

「任された!アトランティクス・レプノルカ、さぁ着いてこい!」

 

再び現れたペッパーがキリューシャン・スフュールの肉を持っている事で、戦艦鯱の注目(ヘイト)がサンラクからペッパーへと移り。ペッパーが空中ダッシュスキルで空を駆け抜け、ルルイアスの都市を走りながらスレーギウン・キャリアングラーの方へと走りつつ、今度は50m以上100m未満の雷撃圏内を維持、空母鮟鱇に肉薄しに往く。

 

そして其の頃、アトランティクス・レプノルカの反射されたビームによって、巨大な貝殻は致命的と言える傷を負ったアーコリウム・ハーミットは自身の傷を治さんととして生態系を操作、修復を基礎とするモンスター達を産み出そうと貝殻の内部に在る『無数の卵達』に情報を送り、卵を孵化させて新たな生態系を創らんとし。

 

「な・る・ほ・ど・ねぇ~?君はこうやって背中のモンスターを増やしていた訳だぁ~?へぇ~??」

 

『自分の貝殻の中から響いた声』に、要塞ヤドカリの巨体がビクリと跳ねる。

 

「サンラクさんの……皆さんを一番邪魔をする………存在は。先に、倒します………じゃなくて、倒させて……貰う!」

「さぁ、ヴォーパル魂を見せてやるですわ!」

「暴れまくりなのさ!」

『ワオーウ!!!!』

 

二人と二羽と一匹の声が死神の高笑いの如く響き、アーコリウム・ハーミットの体内にて衝撃と斬撃と刺突が襲い掛かり。生態系を産み出す卵が潰れる音を始め、要塞内部が砕き割れる音に、重要器官を破壊される音がドミノ倒しの如く爆音で響き、要塞ヤドカリは此の世の物とは思えない断末魔の悲鳴を上げる。

 

『ギュリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!?????』

「アッハハハハハハハハハハ!!!ホラホラァ、君の悲鳴でコーラスを奏でてあげようかぁ!!!!」

 

中でも要塞ヤドカリを内部から倒すのに、一番(・・)テンションとバイブスが跳ね上がっていたのは、ペンシルゴン其の人であり。シャンフロでは『廃人狩り(ジャイアントキリング)』と言われる程に実力上位のプレイヤーやクランを、其処に在る環境やアイテムに武器を多彩に駆使し、幾度もブッ潰して来た。

 

特に『とあるクラン』が造った要塞を、自身が潰してケジメを付けた当時の阿修羅会の上位ランキング組と共に、知略計略用いて一晩で攻め落とした時は其れは其れは『本当に楽しかった』し、其の一件以来自分に二つ名(廃人狩り)が付いたので、満面の笑顔になった記憶が有る。

 

バフスキルを全快にした致命の槍(ヴォーパルスピア)を振るい、槍武器系最上位スキルの『日差しの穂先(スピアオブサンレイズ)』で内臓を突き刺し、クリティカルを叩き込み続けるペンシルゴンはトドメとばかりに、槍武器攻撃スキル『黒闇と白夜の泡沫(ダース・ホォル・フロース)』を叩き込むと同時に、他のメンバーも今繰り出せる最大火力をブチ込んで。

 

其の瞬間、アーコリウム・ハーミットの巨体を、宿たる貝殻を構成するポリゴンが爆発四散して崩壊。NPCを除いた最終的な討伐プレイヤーが二人だったからか、ペンシルゴンとサイガ-0の目の前には要塞ヤドカリの素材達(ドロップアイテム)が、チョモランマ火山の如く積み上がった。

 

当然ながらヤドカリの背で育った生き物達は、宿が死んだ事で帰る場所を失って総崩れとなり、空母鮟鱇のフェロモンに囚われて眷属に成るか、戦艦鯱の雷に撃たれたり轢かれたりして死ぬか、無事に戦場から逃げ延びるかの三択しか残されていなかったのである………。

 

 

 

 






モンスター無限沸き絶許、死すべし慈悲は無い。




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四の夜の漆。戦艦鯱と空母鮟鱇に終わりを与えん



海底の猛者へ贈る鎮魂歌(レクイエム)




アーコリウム・ハーミットが撃破された。

 

アトランティクス・レプノルカとの落雷攻撃による死地圏内の鬼ごっこ&スレーギウン・キャリアングラーの眷属弾幕に飽和攻撃をされながらに走るペッパーは、遠くで崩壊した要塞ヤドカリを見てグッと拳を握り。サンラクはサイガ-0とペンシルゴンが戦っているだろう方角へと、サムズアップを送りながらも、都市を駆けるペッパーを見ながら次の塔を目指して走っていた。

 

次は二属性戦艦鯱へ、ルルイアス初日で冥帝鯱相手に行ったカウンタービームを叩き付けて墜落させ、自分がバフスキル&格闘・打撃スキル全開で倒し、其の間にペッパーが昨日アルクトゥス・レガレクス相手に見せた、死神の斬撃(デス・マサカー)なるスキルで空母鮟鱇の首を斬って100秒決着を付ける──────其れが今回行う『深海頂点捕食者三体撃滅作戦』の大まかな内容である。

 

真界観測眼(クォンタムゲイズ)再使用時間(リキャストタイム)終了まで愚者(フール)込みでも、相応の時間は掛かるか。……進化したからといって、やっぱ無視出来ない代償だよなぁ」

 

真界観測眼────フラッシュカウンターから始まり、ジャストパリィにレペルカウンターを越えて、パリングプロテクトを経由し、セツナノミキリの選択の先に在る瞬刻視界(モーメントサイト)の先に至った、視界系最上位クラスのスキル。

 

サブ職業(ジョブ)にセットされた神秘(アルカナム)愚者(フール)の効果で再使用時間半減という状態でも、長期戦になった場合に一回もしくは二回使えるかどうかという、長い再使用時間を抱えている。一応コレ無しでも攻撃を躱わしたり出来るが、有ると無しとでは前者に軍配が上がるのは明白だった。

 

しかもペッパー曰く、此のスキルは昇華(スタンバイ)なる領域が存在しており、特定条件を満たせば其の先の進化形態に成るらしく、其処に至るにはレベルキャップ解放が必須になるが、其れよりも前にやらなくてはならない事も沢山有る。

 

(問題は一回ビーム反射をしたから、二属性戦艦鯱が警戒する可能性が有るって事だ。お前ならこんな時どうする?ペッパー)

 

思考を切り替え、少し離れた位置でサンラクは状況を見守りつつも、鯱と鮟鱇に追い掛けられる彼を見ながら、レトロゲーマーの実力拝見とし。

 

(実はアトランティクス・レプノルカに対して、ちょっと『試したい事』が有るんだよ………ね!)

 

一定速度での走行アクション中に自身の敏捷が上がる『ビート・ラン』、夜限定で空中に己が描いたマナの道を駆けられる『星天秘技(スターアーツ)・ミルキーウェイ』、15秒という短時間ながら加速と空中での移動補正が極大化する神威光臨進(かむいこうりんしん)、最高速度時にソニックムーヴを纏う轟烈迅速(ヴスティオ・ファーレ)の起動。

 

其の圧倒的加速でアトランティクス・レプノルカから100m以上の距離へと逃げ延びてみせ。同時に二属性戦艦鯱もまた、自身の繰り出すビーム砲撃の条件を満たしたペッパーへ向けて、蒼炎を静めて雷エネルギーを口の中へ集約させながら、其の一撃を高め続けていく。

 

だがペッパーは此処で、とんでもない行動を起こした。アトランティクス・レプノルカがビーム砲撃モーションに入った瞬間に、空中ダッシュの方向を反転。あろう事かアトランティクス・レプノルカ目掛けて真正面から突撃し始めたのである。

 

「オイオイオイオイ!マジか、ペッパーの野郎!ビーム放つ前に顎をカチ上げて、アレを奴の体内で『暴発させるつもりか』!?」

 

そう、サンラクが気付いたペッパーの狙い。ビームによる衝撃波と破壊範囲を考慮しつつ、其の威力を放った本人に全てブチ当てるという、サンラクでも試した事の無い一手をやろうとしているのだ。

 

ペッパーの目と全身が輝き出す其れは、サイガ-0と同じく様々なバフスキルを点火したのと同じであり、エネルギーの膨張が最高潮に達し、後は放つだけの状態になった瞬間。空中を超スピードで駆けるペッパーが、二属性戦艦鯱の顎まで、残り5m圏内に突入した瞬間。

 

アトランティクス・レプノルカの目の前から、小蝿が突如として消え去った刹那に、下顎を襲う凄まじい衝撃と共にビームを放つ為に集めた、膨大なエネルギーが体内へと逆流して──────()ぜた。

 

使用者は瞬間移動(アポート)じみた挙動を可能にする『レーアドライヴ・アクセラレート』。

 

凄まじい威力を備えながらも、積み重ねたバフの総数が総合的なダメージ総数に計算される『聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)』。

 

脚撃によるダメージを与えるに加えて、ダメージの数値がノックバックの速度と距離に直結する『致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オボロサイダン】』。

 

そして蹴りによる攻撃時に、スキルレベルが高い程に衝撃ダメージを上乗せ出来る『キック・バスター』を掛け合わせたサマーソルトキックの要領で、アトランティクス・レプノルカの下顎先端を蹴り抜き、梃子の原理でカチ上げてエネルギーを押し戻したのだ。

 

「やりやがった……!ハハッ、マジかあの野郎!やりやがった!!ペッパァ!二属性戦艦鯱は任せろッッッ!お前は空母鮟鱇をブッ潰せ!!!」

 

体内から黒煙を吐きながら、ルルイアスへと墜落していくアトランティクス・レプノルカに、サンラクが叫び。ペッパーは効果が残るミルキーウェイでスレーギウン・キャリアングラーへと肉薄、襲い掛かる改造眷属の飽和弾幕をレーアドライヴ・アクセラレートで越えて、刻蓬封点認視界(エディア・キュリス・ウラタナ)龍脈を映す視覚(ドラスティエル・ナルクト)で首の位置を確認。

 

秀刀(しゅうとう)白金(しろがね)】を取り出して左手に装備しながら、一定以上の心拍数を刻んだ事により合掌。発動条件を満たした超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)で白光を纏いて、ミルキーウェイの効果切れからスイッチするように最後の一押しと旭天昇昂(きょくてんしょうこう)を起動。白く輝く一番星の輝きを放ちながら、其の手に握る短刀に宿るは、文字通り生命(いのち)を狩り取る死神の斬撃(デス・マサカー)

 

「フッ─────!」

 

一閃、まるで冥界の霊気でも籠ったような一瞬の斬撃。だが確かに、ペッパーの握る刀身には致命の一撃(クリティカル)の感触が刻まれて、彼の足は空中を駆け降りてルルイアスへと着地する。

 

ふと遠くではサンラクが、アトランティクス・レプノルカをサンドバッグにするかのような、怒濤の拳撃を叩き込みまくっており、時折『フェアカスがあああああああああああああああ!!!』や『ミナゴロシがああああああああああああ!!!』なる声が聞こえてきたが、気にしない事にする。

 

そして当然ながら、スレーギウン・キャリアングラーは眷属達を差し向ける。死神の斬撃の効果適用までの時間は90秒、インベントリアに入れた食べられる魚達を食らって、ペッパーはスタミナを回復。同時に温存していたレベルMAXの『グラビティゼロ』を起動して、此の最後の攻防戦に臨む。

 

「さぁ、来いッ!!!」

 

スレーギウン・キャリアングラーの眷属特攻包囲弾幕を、自身に対するヘイトを残像に肩代わりし置き去りにする、ウツロウミカガミの起動にてやり過ごし、残りおよそ一分弱を休ませてくれと叫ぶシナプスに、踏ん張れと鞭を打って走り続ける。

 

家屋を飛び越え、壁を蹴り上げ、リアルミーティアス(シルヴィア・ゴールドバーグ)がやった超挙動をシャンフロエンジンと、ペッパーというアバターを用いて再現しながら、制限時間に食らい付く。

 

そして………………空母鮟鱇の視界には命の終わりを与えに死神が訪れ、振り抜かれた鎌の漆黒の斬撃エフェクトによって即死判定を下し、一瞬にしてタフネスたる其の体力を0(HPをゼロ)に変えた。其れは同時に、スレーギウン・キャリアングラーによって眷属と成った生物達の終わりにして、本体が死ぬ事は彼等の死でもあり、次々と死に絶えて鮟鱇共々ルルイアスの大地に墜落し倒れたのだった。

 

時同じくしてサンラクもアトランティクス・レプノルカを殴り殺す事に成功してか、巨体を構成するポリゴンが火山噴火の様に崩壊を開始し、物凄い形相で避難したと同時に二属性戦艦鯱が自爆。周囲を焼き払うが、逃げ延びたサンラクを巻き込めなかったのを惜しむように、其の巨体は完全に崩壊した。

 

「深海の王、アトランティクス・レプノルカよ。深海の空母、スレーギウン・キャリアングラーよ。深海の森、アーコリウム・ハーミットよ。皆各々の強さと脅威を俺達は此の日、嫌と言う程に思い知らされた。俺達は決して、お前達の名を忘れない。戦ってくれて───ありがとうございました」

 

ペッパーの言葉を最後に、スレーギウン・キャリアングラーの巨体を、改造された眷属達を構成したポリゴンは、此処に完全崩壊。

 

彼がサブ職業(ジョブ)にセットした神秘(アルカナム)運命の輪(ホイール.オブ.フォーチュン)の効力によって増大した幸運により、積み上げられる素材の山々(ドロップアイテム)は彼等の勝利を称える報酬と成り。

 

そして討伐に関わった、ペッパー・ペンシルゴン・サンラク・サイガ-0にはリザルト画面が表示されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『称号【三強撃破(さんきょうげきは)】を獲得しました』

 

 

 

 

 

 

 






深海三強撃滅完了




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四の夜の捌。戦い終え、賑わい満ちる



終幕後の賑わい




「……………………ぷふぇ~~~………。まぁじで、疲れたぁ…………!!」

 

アトランティクス・レプノルカ、スレーギウン・キャリアングラー、アーコリウム・ハーミットの三体を討伐し終え、緊張しきった身体を弛緩するように仰向けで地面に倒れたペッパーは秀刀(しゅうとう)白金(しろがね)】をインベントリに収納、両手を合掌して超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)の効果を解除。

 

呼吸を調えれながらに辺りを見れば、スレーギウン・キャリアングラーと眷属と成った魚達の、ドロップアイテムが其処かしこに積み重なっており、神秘(アルカナム)運命の輪(ホイール.オブ.フォーチュン)の能力の凄まじさを物語っている。

 

「やぁやぁ、あーくん。お疲れ様『ワゥワゥ♪』だね!?えぇ、ノワちゃん?私の(・・)あーくんに引っ付くの止めてくれないかなぁ???」

 

そんな折、此方へ走ってやって来たのはペンシルゴンとサイガ-0、アイトゥイル・エムル・ノワであり。仰向けで転がるペッパーの胸に真っ先に飛び付くノワと引き剥がして起き上がらせるペンシルゴンの、早速バチバチな雰囲気になり始めて彼は遠い目をした。

 

「おーおー修羅場だなぁ、ペッパーよぉ?」

「出来れば仲良くして欲しいんだけど……取り敢えず、ペンシルゴンとノワにアイトゥイル。頭を撫で撫でしてあげよう。おいで」

 

ペッパーの掌を翳せばノワが右手に、ペンシルゴンが左手に頭を寄せて来たので、撫でつつ「よしよし」とすれば両者共に御満悦となり。そしてアイトゥイルもまた撫で撫でによって、嬉しそうな表情になった。

 

「………………私も、陽務君に撫でて欲しい、な……………」

「レイ氏?」

「い、いえ!?な、何でもありません!はい、大丈夫ですッ!サンラクさん!!」

「お、おぅ………解りました」

 

其れを見たサイガ-0が何かを呟いたが、何を言ったかは討伐メンバー達には解らずに終わり。其れから二十数分後に避難していたメンバー達が戻って来て、積み上がったスレーギウン・キャリアングラーの素材の山に、あんぐりと口が開きっ放しになってしまう。

 

「ペッパー、スレーギウン・キャリアングラーを倒したのか、君は………」

『ツヨいね、ペッパーは』

「凄いです………!」

「天晴れで御座るな」

「空母鮟鱇だっけ、凄いなぁ………」

「メカで空を飛ぶか、海中で戦ってみたい」

「お前ら………スゲェな………」

 

皆驚きや称賛の視線を向ける中、ペンシルゴンとノワはムッフンと言わんばかりにドヤ顔をしていて。

 

「フッフッフ……其れだけじゃないんだよぉ~、アラバちゃん?」

「応よ。よぉく見やがれアラバ、コレが成果だ!」

 

インベントリアを操作して取り出し、此の場の一角に積み上げるは、ペンシルゴンがアーコリウム・ハーミットの、サンラクがアトランティクス・レプノルカの素材の極一部(・・・)。討伐した時のプレイヤーが少なかった状態が理由なのか、手に入った量が多いのである。

 

と此処で、サンラクがペッパーとペンシルゴンに対し、こんな質問をしてきた。

 

「無事深海頂点捕食者三体の討伐が出来た訳だが……。ペッパーとペンシルゴンよ、素材を『トレード』したりって出来るか?」

「トレード?」

「要塞ヤドカリや、空母鮟鱇の素材が欲しいの?サンラク君」

「あぁ、ただ『冥王鯱の照鏡骨』だけは要交渉だけどな。どうする?」

 

ルルイアスの初日にアトランティクス・レプノルカを討伐していたペッパーは、其のドロップアイテムが『盾』に使えると睨んだので、サンラクは其れを使った新たな武器に盾を作りたいと考えている、と思考する。

 

「良いぜ。此方も他の素材が気になってたんだ」

「私も良いよ」

 

話は決まり、ペッパー・サンラク・ペンシルゴンによるドロップアイテムの交渉が始まり。其の話し合いの中、ペッパーの提案で他のメンバーも欲しい素材を、此処で手に入れた金銀財宝宝箱を用いた取引をする事となって。反転都市ルルイアスの王城に戻った上で、交渉による市場が開幕、ペッパーやサンラクにペンシルゴンは各々の素材を出し合って、交渉し合いながら欲しい物を手にしていく。

 

「要塞寄居虫の甲殻、山脈巻貝の欠片………キリューシャン・スフュールにも負けず劣らず、何れも此れも堅そうだ」

「あ、そうだ。ねぇあーくん、要塞ヤドカリの『一番レアアイテム』が有るんだけどさ。空母鮟鱇の『一番レアな素材』と取引するなら、トレードするけど……………どうする?」

 

そうしてペンシルゴンが取り出したのは、『要塞寄居虫の楔甲殻』と呼ばれる、現実のヤドカリで言う所の『尾節と尾肢』が融合し、先端部分が研ぎ澄まされた『剣』の形状をしている物だった。

 

「良いよ、トレードに応じるね」

 

そう言ったペッパーはインベントリアの中から、スレーギウン・キャリアングラーの最も希少な素材である、宝石のような臓器を取り出す。

 

「大王鮟鱇の醇宝器官……スレーギウン・キャリアングラーが放つフェロモンを生成する、所謂『重要器官』らしい。多分コレ『アクセサリー』に使えるんじゃないかな?」

「お、良いね。トレード成立って事で」

 

御互いに欲しい物を取引・握手を交わし有った後、ペッパーはサンラクの方を見る。どうやらサイガ-0と話をし終えたようであり、続いてレーザーカジキと話を始めようとしていた。

 

「どうもです、サンラクさん」

「どうも、レーザーカジキ。なんか欲しい素材有るか?」

「あ、いえ。ちょっと質問が有りまして」

 

そう言ったレーザーカジキは、サンラクに対して至極当たり前な。しかしながらサンラクには、絶大な衝撃を与える質問をぶつけたのだ。

 

 

 

 

 

「サンラクさんって、其の……………『総身勇姿の護符(ヒロイック・フルボディ)』を、付けてたりするのでしょうか?何と言いますか、回避特化に見えたので……」

 

 

 

 

 

其の問い掛けにサンラクは首を傾げ、ペッパー達も首を傾げて。

 

「何だ其のアイテム、ユニーク由来か?レーザーカジキよ」

「えっ?」

「え」

「え……………?」

 

沈黙、そして其れを破ったのはシャンフロ廃人こと、最大火力(アタックホルダー)のサイガ-0であり。

 

「総身勇姿の護符………聞いた事、有ります。確か、シャンフロの『アクセサリー』の一つ、でして………。装備一つに付き、装備した防具の『合計耐久数値』が、えっと『装備されてない部位の耐久値』になる…………、アクセサリー、だったと思います」

 

其の説明にサンラクの脳内が強制シャットダウン、直ぐ様再起動からのビックバンを引き起こし。

 

「レイ氏、レーザーカジキ」

「ふえっ!?」

「ひょっ」

「ありがとう、二人は俺にとっての神だ」

 

自分達の目の前でいきなり何を言い出すんだとか、ペンシルゴンがノリノリでスクショを撮ろうとしたので止めたりだとか、レーザーカジキがエヘヘ……と凄い良い顔をしてたりだとか、其の時は色々な感情が在ったものの、やはり一番の衝撃を受けたのはサイガ-0であり。

 

ホヒュッなる声を出した瞬間、ボスン!と水蒸気爆発に似た音が鳴り響き、其の巨体なアバターが引っくり返って後頭部を強打したのだ。

 

「サイガ-0さん!?」

「サンラク、お馬鹿」

「えっ何で?!」

「コレは救えないねぇ………」

「無自覚にも程が有るわ……」

「いや、何で怒られてるの……?」

 

サンラクの鈍感っぷりも、極まれば此処まで至るのか。はたまたサイガ-0が恋愛に対して、あまりにも貧弱過ぎるのが悪いのか。何にせよ何処かしらでサンラクかサイガ-0に対して、少しアドバイスをしてやるかと、ペッパーとペンシルゴンが思うのに、そう時間は掛からず。

 

其れから暫くトレードは続き、皆各々で欲しい素材を宝箱やらで交換した後、ペッパーはクターニッドは地下に居る可能性が高く、接触すればヤバイかも知れないとNPCを含めて、此の場に居る全員へ注意喚起を行い。

 

現在ログイン出来ていない他参加メンバーにも、ルルイアス攻略最前線のチャット部屋にて情報交換を行い、城内に在るベッドルームへと移動。ノワに食べられる魚肉を与え、頑張ったなと撫で撫でし、一足先に本日のシャンフロを終えたのであった………。

 

 

 






(半裸にとっての)神アクセサリー




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五の日にて、攻略戦は動き出す



状況変動




※ちょっと短いです





クターニッドの一式装備の発見、そして深海の頂点捕食者三体との戦闘にドロップアイテムのトレードを行った翌日。

 

朝からコンビニバイトに勤しむ梓は、外で今も尚強く降り続ける雨をガラス越しに見て、早く梅雨が開けないかなぁと心の内にて溜息を溢す。

 

(今日でルルイアスの滞在は五日目……クターニッドに挑む為のギミックは解ったし、オイカッツォに京極(キョウアルティメット)秋津茜(アキツアカネ)に情報は伝達済だ。問題は六日目の夜に、レーザーカジキ達がログイン出来るかだけど………)

 

六日目はレーザーカジキやサイガ-0がログイン出来ないらしく、六日目と七日目を跨いだ深夜帯にクターニッドの討伐を狙うか否か考えつつも、店頭に並べるコロッケを揚げて油を切っていた時であった。

 

「梓君。揚げ物が終わったらで良いから、ちょっと来てくれない?」

「えっ、はい。解りました」

 

店長からの呼び出しに、梓は疑問符を浮かべながらも調理を続け、メンチカツを揚げ終えたタイミングで他の店員に仕事の引き継ぎを依頼し、休憩室に向かい。

 

「えっ、明日は『臨時休業』にするんですか?」

 

店長の口からそう言われて、目をパチパチとさせる事になった。

 

「そうなんだよ。梓君は『天気予報』は観てるかい?」

「最近発生した大型台風が、いきなり進路を変更したとは聞いてますが………もしかして?」

「あぁ。『従業員の安全』と『店の売上』を天秤に掛けた時に、店は壊れても別の場所に建てられるけど、人はどうにもならないからね。()から何か言われるだろうが、全責任を店長の私が背負う。故に梓君も、自身の安全を守るようにしてくれ」

「解りました………ありがとうございます、店長」

 

少子高齢化に拍車が掛かり、人口の減少による職業事情が目まぐるしく変わる現在において、コンビニ店長としての判断と決断からは、自身のクビになるリスクを負おうとも店員を守らんとする『覚悟』が伝わってくる。

 

ならば此方も其の覚悟を無駄にしないよう、答えなくてはならない。其れが礼儀と言う物なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ルルイアス攻略最前線】

 

ペッパー:皆、天気予報は観てるか?

 

オイカッツォ:観てるぜー。なぁんか、台風が進路を変更したらしいじゃん?しかも大型の奴

 

サンラク:昼休み入ったわ

 

サイガ-0:お昼休み、です

 

秋津茜:お昼です!

 

ペンシルゴン:仕事が一段落したよ

 

ルスト:昼

 

モルド:台風接近のニュースは聞いてるよ。何か凄いんだってね……

 

京極:ルートからして、僕の所にも影響が出そうなんだよね………。はぁ~………

 

レーザーカジキ:お昼ごはんを食べました!

 

サンラク:で、台風だっけ?此方は明日臨時休校になったわ

 

サイガ-0:実は……私も、です

 

秋津茜:私も明日の学校、お休みになりました!

 

ルスト:私達も、同じ

 

モルド:僕達の所も同じで……

 

ペンシルゴン:予想以上に影響が出てるねぇ………

 

レーザーカジキ:僕の学校も同じです………

 

オイカッツォ:都内や近辺諸々休校ってヤバない?

 

ペッパー:家のバイト先も臨時休業なんだよなぁ……

 

サイガ-0:予想以上、ですね

 

京極:そっちもヤバい感じかぁ………習い事も明日は念には念を入れて、休みにするって言われたからなぁ……

 

ペッパー:………皆。六日目の夕方から夜に、シャンフロへログイン出来るか?

 

サンラク:ペッパー、もしかして………やるのか?

 

オイカッツォ:マジで?

 

ペンシルゴン:ほほぅ……

 

サイガ-0:クターニッドに挑戦、ですか?

 

ペッパー:あぁ。六日目と七日目を跨ぐ深夜帯に行こうかと考えたが、寧ろ此のタイミングで行くのが一番じゃないかと思ってさ

 

ペッパー:ただ、時間は決めておかないと厄介になりそうだから、入れる時間を教えて欲しい

 

サンラク:俺は一日動くつもりで居るぜ

 

サイガ-0:私も、サンラクさんと同じ……です。ただ食事や休憩を挟むと、夜は八時にログインするかと

 

オイカッツォ:明日のスケジュール見たけど、夜八時より後になりそう。九時までには入るよ

 

ペンシルゴン:私は御仕事の予定が変更になっちゃってさ、夕方六時以降かなぁログイン出来るの

 

ルスト:私達は一日行ける

 

モルド:ルストと同じく

 

レーザーカジキ:僕は家の都合が有りますが、午後八時くらいから入れます!

 

秋津茜:私はテスト勉強するので、午後七時以降です!

 

京極:僕は一日行ける。ただ夕食食べるから、入れるのは夜八時以降になりそう

 

ペッパー:…………解った。皆のログイン可能な状況から、クターニッドとの戦いはルルイアスの六日目、午後九時に決行する。オイカッツォ、今ルルイアスのどの辺りに居る?

 

オイカッツォ:セーブポイントで世話になってる、ルルイアスの家屋付近だね。もしかして移動した方が良い?

 

ペッパー:うん。ルルイアスの中心に在る城にセーブポイントを変更している。秋津茜と京極も、作戦決行当日に備えて城へセーブポイントを移動して

 

京極:オッケー

 

秋津茜:解りました!

 

ペッパー:残された時間は無いけれど、ルルイアスでやり残した事が無いようにしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日の九時………かぁ」

 

反転都市ルルイアス某所、セーブポイントで休息とチャットを見ていたオイカッツォは呟く。

 

「クターニッドの一式装備が、ルルイアスの反転を支える要石の一つ……ねぇ。こりゃあ明日まで待たないと、着られない感じかぁ……」

 

ペッパー達がルルイアスの中心地に建つ巨城を調べ、判明した様々な事実は、オイカッツォもチャットを通じて知るに至っていた。

 

故にこそ、彼女()のやる事は変わらない………今日中にレベルを上げられるだけ上げて、ステータスポイントを増やす。クターニッドの一式装備が起動した際に、不足分に振り込めるように備えるのだ。

 

「よっし、休憩終わり。さぁて、レベリング再開と行きますか………!」

 

オイカッツォは戦う。クターニッドの一式装備装着一番乗りを目指す為、装備出来ないに投票した外道三人組(馬鹿野郎共)に一泡吹かせてやる為に………。

 

 

 

 






作戦決行は六日目の夜




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五の夕時。勇者は街を三度駆け、忘れ物を見付ける



最後の追い込みへ




午後三時半過ぎ。

 

コンビニでのバイトを終えて、朝よりも強くなった雨の中を歩き、住まいたるアパートへと帰って来た梓は、手洗いと嗽を行って布団を敷き、VRヘッドギアの感度等をチェックして寝転がり、シャンフロへとログインする。

 

「さぁて、シャンフロやりますかね」

 

本日の彼の目的は二つ有る。

 

一つはルルイアスの座礁船エリアに在る、金銀財宝宝箱を余さず回収し、六日目の夜にユニークシナリオ参加メンバーに分配する事。此れは一定期間を置く事で、座礁船内に適宜補充されている事が判明しており、全て持ち帰るのは事実上不可避な物。

 

無限インベントリこと格納鍵インベントリアが在れば話は別だが。

 

「ペッパーはん、おはようなのさ」

『ワン♪』

「アイトゥイル。ノワ。おはよう」

 

相棒(パートナー)のヴォーパルバニー・アイトゥイルと、テイムされたユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの小さな分け身たるノワが、此方の目覚め(ログイン)に気付いて駆け寄って来て。アイトゥイルは肩に乗り、ノワは胡座姿勢の空間に各々収まる。

 

「ペッパーはん、今日はどうするのさ?」

「そうだな………アイトゥイル。アラバさん達は居るか?」

「シー兄さんとエムル、アラバはんにスチューデはんは隣のベッドルームに居るのさね」

「解った。大事な話をしておきたいと思っていたからさ」

 

アイトゥイルとノワを連れ、ペッパーは隣のベッドルームへと移動。其処には各々が武器の手入れをする、アラバとシークルゥにエムルとスチューデの姿が在った。スチューデはノワとペッパーの姿を見て、直ぐ様隠れてしまったが。

 

「皆さんに大事な話が有ります。俺達は明日の夜九時に、クターニッドへ戦いを挑みに行きます」

 

ペッパーの宣言に皆の視線が集まる。其の表情はいよいよ決戦かと身構える者や、漸くルルイアスから脱出出来ると、安堵しているようにも見えた。

 

「ルルイアスに滞在出来る時間は少ないですが、各々の成すべき事を成しましょう。そして必ず………クターニッドを倒して、全員生きて地上に帰りましょう」

 

彼の言葉にNPC達も『応ッ』と答える。パーティーの気合を入れ直した、後は自分も此処でやれる事をやりきるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反転都市ルルイアスの中心地に建つ巨城から、アイトゥイルとノワを両脇に挟み走るペッパーは、遠距離攻撃無効能力を備えていた封将こと、アンモーン・オトゥーム在た塔近辺まで進軍、セーブポイントとして使用可能な家屋内部に侵入しては目視確認し、別の家屋を調べるを続けていた。

 

(多分此の近辺に有っても『おかしくない』んだがな……)

 

彼の目的はもう一つ。其れはスチューデの背中を押す為に必要な、最後のピース(・・・・・・)を探す事。レトロゲーマーとしての直感とユニークシナリオを『トゥルーエンド』に持っていく為に、絶対に確かめなくてはならない『物』なのだから。

 

(おっと敵だ)

 

近くに在った家屋内部に逃げ込み、物音を立てずにやり過ごす。クターニッドの持つ反転の権能(チカラ)によって産み出されたマーマンゾンビ達は、音及び光に対して敏感で有り、僅かな物音や火による明るさに反応して其の方角へと接近していく特性を持っている。

 

「アイトゥイル、ノワ。物音を立てると、敵が寄ってくるから静かにね?」

「はいさ」

『ワゥ……』

 

マーマンゾンビが通り過ぎるのを待ち、周囲に敵の気配が無い事をアイトゥイルの聴覚や、ノワが影を渡りつつ探知する事によって索敵を行い。そうして、十七件目の家屋に入った彼等が目撃したのは。

 

 

 

机に置かれた『鯨とカトラスを重ねた海賊帽子』に、『カトラスが納められそうな鞘』。そして遺書か手紙か『一通の封書』が置かれていた。

 

 

 

「明らかに異質、なのさね…………」

『ルゥウ……』

「多分此れだな」

 

遺された物に手を合わせ、彼は帽子を取って埃を丁寧に払い除け。内側に何か書かれていないかを調べるも、特に何もなく。アイテムとして入手出来た物を調べれば『赤鯨の船長帽子』と書かれている。

 

(ビンゴ!スチューデさんの親父さんの帽子!)

 

封書は頑張れば読めるかも知れないが、ペッパーは其れを読む事はしない。船長帽子から察するに『遺書』である可能性と、コレと鞘に帽子をスチューデに届けたならば、十中八九『死体が在る此処まで連れて行って!』と依頼され、護衛系ミッションに発展する可能性が極めて高い。

 

(やるしかないよな……一応オイカッツォに連絡して、一緒に動けるか確かめてみよう)

 

Eメールアプリを起動し、ペッパーはオイカッツォへと連絡を入れる。内容としては『スチューデのユニークシナリオをトゥルーエンドに持っていく為の、重要なフラグを発見した。護衛系ミッションになる可能性が高い、協力してくれないか?』といった簡潔な内容であり。

 

其れから三分後、オイカッツォから連絡が帰って来て。『マジで?!解った、場所はルルイアスの中心地の城でな!』と返信が帰って来た。其れを見届けたペッパーは『赤鯨の船長帽子』・『赤鯨のカトラスの鞘』・『海賊の手紙』なる三つのアイテムをインベントリアに収納。

 

アイトゥイルとノワを再び両脇に抱え、マーマンゾンビや人魚の視界を掻い潜り抜けて、ルルイアスの巨城を目指し、猛スピードでUターンするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

およそ一時間後、ルルイアス中心地巨城に戻って来たペッパー・アイトゥイル・ノワは、先に到着していたオイカッツォと合流。其の足でスチューデ含めたNPC達が居る、ベッドルームへとやって来た。

 

「スチューデさん。少し御話が有るのですが……よろしいでしょうか?貴方に関わる、大事な事です」

「な、何だよ……?」

 

愛呪の力にビビりながらも、そう言ったスチューデにペッパーはインベントリアを操作、赤鯨の船長帽子と赤鯨のカトラスの鞘、そして封を開けていない海賊の手紙を彼の前に出す。

 

「えっ……!?コレ、パパの帽子に……カトラスの鞘……!!其れに……パパの手紙……!!コレ、何処で………!?」

「スチューデさんに以前話しましたが、アンモナイトの騎士モンスターが居た塔の付近を探し回った時、とある家屋の中の机に置かれていた帽子とカトラスの鞘、そして其の手紙が在りました」

 

そうしてペッパーはスチューデに其れ等全てを手渡し、小さな海賊は遺された手紙を開き、内容を読み始める。ペッパー・オイカッツォ・アイトゥイルが身構え、護衛系ミッション突入に備える中、スチューデの両目から涙がボロボロと溢れて零れ出して。時折「パパ……パパ……!」と言葉が漏れる。

 

「おいおいおいおい、コレ大丈夫かペッパー……」

「大丈夫、と思いたいが…………」

 

NPC達も何だ何だと心配する中、スチューデはゴシゴシと涙眼を擦って涙を振り払い、何かを『決意』するように。自身が被る帽子に父親の赤鯨の船長帽子を重ね着、カトラスの鞘へカトラスを納めて、堂々と宣言したのである。

 

「僕様は………いや俺様(・・)は『二代目スカーレットホエール号船長のスチューデ』………!偉大なる親父を超える、海賊になる男だ!」

 

スチューデから迷いが消え、其の背筋からはナヨっている気配が取り払われた。其れは謂わば『前へ進む覚悟』を決めた、一人の男の出で立ちにも見えていて。

 

「ペッパー、お前のお陰で覚悟が決まった。………ありがとう」

「ど、どういたしまして……」

 

遺書一つで人は此処まで変われるのかと、若干心配になりつつも、あれ?護衛系ミッションの流れじゃないのコレ?と思ったが、そうはならなかった事に内心少しだけ安堵したのだった………。

 

 

 

 






無くし物を見付け、小さな海賊は一皮剥ける

















遺書の内容



スチューデへ


お前がコレを読んでいるって事は、オレは既にくたばったんだろう。クライング・インスマン号に乗り込んで、此の薄青の都市に引き込まれた後、塔の一つに居るアンモナイトの騎士に挑んで────オレは負けた……。

戦いで致命傷を食らった以上、正直もう長くはねぇ…………。何よりアイツ等との、約束の証のカトラスを奪われちまったのが、オレとしては唯一の無念だ。

だがな………オレはコレでも満足はしてるんだ。スチューデや、アイツ等を。スカーレットホエール号の仲間を、船長として守り抜けた事がな。

最後に一つ………スチューデ。スカーレットホエール号二代目船長は、お前だ。任せたぜ……





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五の逢魔時から夜。勇者は座礁船へ向かいて宝を探し、現実にて魔王と言葉を交わす



スチューデのイベントの後先




「おぅ、ペッパーにカッツォ。何かクソガキ『変わったか』?」

「何と、言いますか……あの子、は……ちょっとだけ『大人』っぽくなった、気がしますね……」

 

ユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】における重要NPC・自称大海賊スチューデの変わり様をログインで見たサンラクと、続けてログインしたサイガ-0が、成り行きを知っているだろうペッパーとオイカッツォに話し掛けてきた。

 

「実はさっき、アンモーン・オトゥームの居た塔の周りの家屋を調べてさ。スチューデさんの御父様の帽子とカトラスの鞘、遺書を発見してね。届けたらああなったんだよ」

 

キリッとした目付きでカトラスを抜き、刃零れが無いか入念なチェックをして、時々擦れ落ちそうになる帽子のポジショニングを戻す小さな海賊は、ルルイアスに引き摺り込まれて来た時と違い、明らかに成長を確信させる出で立ちをしていた。

 

「成程な。あの時ペッパーが見せたロールプレイの続きを、キッチリやったって訳か」

「そうだね。多分、スチューデさんは大丈夫」

 

今の彼の瞳の奥には、覚悟と勇気いう名の火が重なり、炎と成って灯っている。此の二つが有れば人間大抵の事は何とか出来ると、RPGやシミュレーションゲームでは相場が決まっているのだから。

 

「ロールプレイ……ですか?」

「簡潔に説明するとですね、レイ氏。始まりは───」

 

サンラクは簡潔に事情を説明、サイガ-0とオイカッツォは其れを聞いて、ユニークシナリオが同時進行している事と、ペッパーがロールプレイもイケるタイプのプレイヤーであると納得するに至る。

 

「─────という事なんですが………」

「成程、です」

「TRPGしてみたいなぁ………」

「VRでも出来るソフト有るのか?」

「応よペッパー、今度其れ教えるわ」

「マジで?」

 

ほんの少しだけ盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルイアスの巨城でのイベントや会話を経て、時刻は午後六時半過ぎ。現在ペッパー・オイカッツォ・サンラク・サイガ-0・アイトゥイル・ノワ・エムルは、ルルイアスの座礁船エリアに在る、ガレオン船の一つに来ている。

 

「サンラクさん、コレは……?」

「レイ氏は初めて来ましたか。ルルイアスに在る座礁船、此処には財宝が在るんですよ」

 

サンラクの案内でやって来た、船内の一室。目の前に在るのはキンキラキンに輝く、金銀財宝宝箱の山。彼の事だから三日目の午前中に根刮ぎ取りきったのかと思っていたが、サイガ-0の為に残していたのだろうか?

 

「あの、コレは貰っても……?」

「えぇ。残ったのは俺達が回収しますんで、好きなだけ持ってって下さい」

 

ニッコリと微笑むサンラクにサイガ-0は暫し考えた後に、(彼女)は「では少しだけ」と輝く宝の山脈から、自身のインベントリの重量限界を加味して少々貰い。残った分はサンラク・オイカッツォ・ペッパーで分配、インベントリアへと収納しているとサイガ-0が質問してきた。

 

「サンラク、さん。オイカッツォさんと、ペッパーさんの……手首に着いてる、其れ……は?」

「コレっすか?簡潔に言うと『無限インベントリ』でして………。ユニークモンスター・墓守のウェザエモンの討伐報酬なんですが、オンリーワンって訳じゃなくて汎用アイテムらしく。神代に関係有るらしいので、何れ手に入る可能性が有るかと」

「成程………」

 

此れってよくよく考えれば、無限インベントリ持ちが三人居る時点で、座礁船内に在る大抵のアイテムは根刮ぎ地上に持って帰れるのでは?─────とでも考えているオイカッツォだが、座礁船エリアに有る本や海図やらは、三日目の時点で粗方回収してるんだよなぁ………と思うペッパー。

 

「あ、そうだ。どうせなら座礁船に在るアイテムも、全部地上に持って帰るなんてどうだ?」

「おっ、其れ良いね。骨董品で売れるヤツ有りそうだ」

「宝探しは……私も、好きでは……あります」

「食器とか持って帰るつもりか?」

「宝探しですわね!私頑張りますわぁ~!」

「フフフ……ワイも張り切るのさ」

『ワゥン♪』

 

サンラクの提案で始まった、座礁船宝探し。部屋の内部を探しては、遺された本に食器や雑貨を見付けたりしながら、当時の船乗り達の生活風景や残り香を感じつつ、近くに居るマーマンゾンビや人魚に気付かれぬよう、他の船も捜索。およそ一時間程の探索の果て、無限インベントリを持つペッパー・サンラク・オイカッツォは、骨董品と思われるアイテムを次々と入れていった。

 

そして午後八時を回る頃、ペッパーは探索メンバーに「明日の決戦に備えて先に上がるよ」と伝え。夜に移ろい変わったルルイアスの街並みを、アイトゥイル・ノワを肩に乗せながら星天秘技(スターアーツ)ミルキーウェイで駆け抜けて行き。

 

途中巨城に程近い家屋に入り、一羽と一匹へ隠れておくように指示を出した後、アイトゥイルには酒を贈呈し、ノワには食べられる魚肉を与えて思いっきり撫で撫でした後、セーブ&ログアウトを行って此の日のシャンフロを終えたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「晩御飯はパスタにしよう。確かペペロンチーノ用に買って置いた、ニンニクと鷹の爪が冷蔵庫に在った気がする………」

 

シャンフロからログアウトし、ペッパー()から()へと戻った後、VRヘッドギアを頭から外して布団から起き上がる。主菜はパスタとして副菜は何にしようかと考えていた其の時、スマフォに着信電話が掛かってきた。表示は『永遠』の二文字があり、彼は直ぐに電話へと出る。

 

「もしもし、永遠」

『やぁやぁ、あーくん。シャンフロは楽しんでるかなぁ?』

「まぁまぁだな。さっきまでサンラク達と一緒に、座礁船エリアで骨董品らしきアイテムを物色して、インベントリアに収納してたよ。財宝関係は一定期間開ければ出るけど、其れ以外は『一回限り』な気がしてね。此のまま持って帰らないのは、勿体無いかなって」

 

金銀財宝宝箱は代わりが有るからこそ、何度でも入手出来るが、本や海図に資料といった『情報』というアイテムは例外だ。ましてや昔に執筆されて何らかの理由によって消失、残された本が一冊限りとも成れば、其処に乗せられた『付加価値』は計り知れない。

 

『ほほぅ?あーくんは其れを使って、何かしようとしてるのかね?ん~?』

「フフフ……内緒」

『可愛い彼女に教えてくれたって良いじゃーん?あーくんのケチ~』

「御楽しみは何時だって、最後に取っておくもんだぜ?」

 

そんな何気ない会話を重ねている時間は、自分の彼女になった永遠との会話は普段会えないからこそ、こうして話せるのが特別な時間だと思えるのだから。

 

『いよいよ明日、だね』

「あぁ。明日の夜九時に、クターニッドの一式装備の起動とオイカッツォへの装着、そしてルストに渡した王冠を元の姿に戻して、ユニークモンスターとの戦闘へ行こう」

 

旅狼(ヴォルフガング)のリーダーとサブリーダーとして、ユニークモンスター・深淵のクターニッドへの会議をし合う。其の先には黒狼(ヴォルフシュバルツ)との避けられぬ戦争が待ち構えている。だが今はクターニッドへ集中し、先々の事は頭の片隅に置いておく事に。

 

 

 

 

 

 

そして────────決戦の日はやって来る。

 

 

 

 

 






運命の時は来る




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倶なる天に(シメ)証明(ホシ) 其の一



決戦日




時は遂に来た。ルルイアスに引き込まれてから六日目、とうとう此の日がやって来たのだ。

 

「今日の夜九時に、クターニッドとの決戦か……」

 

朝から台風による強風がロックを掛けた雨戸をけたたましく揺らし、降りしきる雨が激しさを物語る中で、一人朝食を食べ終え、トイレ・シャワーを浴び終えた梓は寝間着から服に着替え、櫛とドライヤーを使い髪を乾かす。

 

「最終調整はしておきたいよなぁ……。便秘か、ギャラクシーヒーローズか………。いや、今回みたいに反転の力を『選択肢』のように叩き付けてくるなら、彼処の世界(・・・・・)が適任か」

 

チャットを見れば、オイカッツォは昨日の深夜帯までレベリングを続けてレベル95まで至ったり、サンラクとサイガ-0は夜のルルイアスにてキリューシャン・スフュールと戦って勝利したり、ペンシルゴンはカイセンオーが五体合体してなるウルティマカイセンオーと戦闘したりと、ログイン可能なメンバーは皆各々やるべき事を成したらしい。

 

ログイン出来ていないメンバーも、今日のログインに備えて体調管理やスケジューリングをした事が、チャットを通じてユニークシナリオ参加メンバーに知らされていた。

 

「さてと………久し振りに行きますかね」

 

VRヘッドギアを頭に装着し、布団に寝転がる。起動するのはダウンロードした辻斬(つじぎり)狂想曲(カプリッチオ):オンラインこと、通称『幕末』。

 

一瞬たりとも気を抜けない、常時取捨選択を突き付ける、味方は己だけの蟲毒といった、文字通りの江戸時代末期の血と争乱と暴力が支配する世へと、ブラッドペッパーとなった梓がログインする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ログイン天誅!」

「ログボ天誅ッッッッ!!」

「すいません、其れは知ってますので!」

「グワー!?」

「余韻天ッベェ!!?」

「後先も考えてますがね俺?」

 

ログイン早々に幕府勢力からの天誅攻撃、初段を逆手抜刀で胴抜きからの、刀を投擲で頭にブッ刺して倒す。久し振りのログインだが、此の独特で殺伐とした空気は集中力を引き出させてくれる。

 

「天誅ーーーーー!」

「おっと、危ない」

「ぶべぅ!?」

「な、何で避けられ────」

「強いて言うなら………『天が教えてくれたから』。以上、天誅」

「と、問屋に装備を卸ギャフ!?」

 

他のプレイヤーを返り討ちにしてゲットした、大小異なる刀を握り、魔法の言葉を唱えてプレイヤーを倒す。今の気分は剣豪・宮本 武蔵の『二刀流』だ。受けて返す・手数で攻める・重ねて受けると言った、攻防一対にして流れる連撃を可能にする戦術は、一撃の『破壊力』こそ一刀流に劣るものの、敵を『休ませない』という観点では負けない。

 

最も此のスタイルが『シャンフロ』でも出来れば良いのだが、生憎リュカオーンの愛呪(あいじゅ)によって右手の装備枠は封じられている。グランシャリオは鬼札中の鬼札なので、嬉々として使えない………そうなるとやはり一時的とは言え、自由に装備を切り換えられるようにする為には、『ユニークモンスター・無尽(むじん)のゴルドゥニーネ』の毒が必要不可欠だ。

 

そんな事を思考の片隅に置きつつ、次々と襲い掛かるプレイヤーや時折忍者らしきNPCを切り捨てていると、プレイヤーの誰かが大声で叫んだ。

 

「皆逃げろォ!?レイドボスが来たぞォォォォォォォォォ!!?!?」

「ぎゃああああああああああああ!!!?」

「グワーーーーーーー!?!」

 

レイドボス………幕末において其の名を冠するプレイヤーは、唯一人しか存在しない。幕末最強にしてランキング一位のプレイヤー・ユラ、彼が今此方に向かってきているのだ。

 

「ユラさんが来てるのか……。五分持ちこたえるのを目標に挑戦してみよう」

 

決めたなら、其の足はもう止まらない。取り敢えず逃げてきたプレイヤーを次々に切り捨てて、声のする方角へと進み続けるブラッドペッパー。

 

「ゲェッ!?『血煙』じゃねーか!?」

「よりにもよって、何でコイツが此方来てるの!?」

「あ、どうも!先輩方、元気ですね!というか血煙って何ですか天誅!!」

「お前の『二つ名』だよ!天誅ッッッッ!!!」

「其れは見た事ありますんで、いただきます!」

「ぐべぇ!?」

 

何時の間にか自分に物騒な二つ名が付いていた事に驚きつつも、ブラッドペッパーは自身に向かってくる他のプレイヤー達を切り捨てては、武器やアイテムを回収していき。

 

「あ、ブラッドペッパー」

「ユラさん。御久し振りです」

 

此処は大江戸の町並み、大通りの一つにて真正面より対峙するは双雄。

 

「やる?ブラッドペッパー」

 

片や幕末の不動にて最強たる絶対王者。

 

「えぇ、待った無しで」

 

片や幕末環境に超速度で適応した鬼才。

 

「「…………………………」」

 

静寂一瞬。幕末の町から声が途切れた────其の刹那。

 

『天ッ誅────!!!』

 

双雄共に瞳に修羅を纏い、レイドボスと血煙は今再び、大江戸の町にて激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赦菜(シャナ)という幕末のプレイヤーが居る。辻斬・狂想曲:オンラインを初めて一年を迎えた中級者たる彼女は、とあるプレイヤーが考案した『ログイン天誅』を用い、幕末に飛び込んできた初心者(ニュービー)達を狩り、レベリングを行っている幕府軍所属のプレイヤーの一人だ。

 

「くっ………またブラッドペッパーを仕留められなかった………!」

 

思い出すのは何時だって『あの日』だ。何時もの如くログイン天誅を狙い、何も知らない初心者に幕末の世界を味わわせようとし、彼女は他のプレイヤーに混じって其のプレイヤーに斬り掛かった。

 

「やっぱり『リスキルやスタート地点待ち伏せタイプ』で来たか!」

(は?えっ、どういう事!?)

 

疑問を唱える事すら遅く、彼女はログイン天誅に初見ながら対処してみせた新規プレイヤー、ブラッドペッパーに斬り殺されてリスポーンした。

 

其れからまた彼女は、ブラッドペッパーのリスポーンやログインを狙って天誅を敢行したものの、彼からは「其れは知ってますので!」と爽やかな笑顔で、悉く返り討ちにされたのである。

 

二度目のログイン・リスポーンを繰り返しながらランカーなら余裕で対処可能な天誅たる、上空肉盾貫通型奇襲式袋叩き天誅をも越えたブラッドペッパーに、再び赦菜はキルされて。復讐に燃えて、何としてもブラッドペッパーをキルせんとし……………『あの戦い』を目撃した。

 

幕末ランキング一位・ユラと、幕末ランキング圏外・ブラッドペッパーの世紀の一戦を。僅か一分という、あまりにも短く。しかし僅か一分の中に濃密な、呼吸すら忘れてしまう戦いを見た。ブラッドペッパーが天誅を唱え、錆丸の斬撃に突貫し。右腕を両足を斬られ失いながらも、最後の最後にユラへ一太刀届かせた瞬間を。

 

「あ………」

 

そして今日、彼女は再びユラとブラッドペッパーの決戦を目撃する。

 

錆光の斬撃が飛び、様々な刀が投げられて。銃声が鳴り響き、研ぎ澄まされた(はがね)同士のぶつかる音が木霊し。後ろから迫った別のプレイヤーに首を斬られ、リスポーンの為に意識が落ちる最中の彼女が最後に見たのは。

 

 

 

 

 

誰よりも笑顔で『此の瞬間を楽しんでいるのは俺達だ!』と主張する、ユラとブラッドペッパーの二人の。狂喜と殺意を内封した瞳と、純粋無垢で全力で遊戯(ゲーム)に興じる笑顔だったのだ…………。

 

 

 

 

 






修羅に通じる者


※今回のブラッドペッパーの生存時間

対レイドボス 記録3:15:03





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倶なる天に(シメ)証明(ホシ) 其の二



幕末を終えて




「やっぱり強いなぁ、ユラさん………」

 

幕末ランキング一位で不動の絶対王者たるユラに挑み、五分切りの目標達成は出来ずに三分近くで斬り殺されたブラッドペッパーは、其の後も幕末の世界にて斬った張ったの繰り返しを続けて、得られた小判や大判を使い武器やアイテムを購入。

 

其れ等を用いた戦いで自身のプレイスタイルを磨き、午後一時にログアウトした。

 

「昼は……焼きおにぎりを作ろうかな」

 

昼食のメニューを決めた梓はふと、サンラクに幕末での出来事を報告しておこうと、Eメールアプリを開いて文章を打ち込み、メッセージを送信する。

 

以前作った焼きおにぎりの制作行程を思い出しつつ、今回は普通の醤油ではなく、フライパンに醤油を加えて熱し、焦がし醤油にしてから一人前分の白米に入れて、おかかと摩り胡麻を加えて混ぜ込み。

 

ふんわりと空気を加えるように握って形を整え、フライパンに油を敷いて強火で焼きつつ、もう片面も同様に焼き上げて、色が付いたタイミングで皿に盛り付け。

 

マグカップには牛乳を、付け合わせには市販の沢庵を添え、梓流焼きおにぎり(アレンジバージョン)が完成した。と、此処でサンラクから返信メールが届いたので確認すれば、驚愕に駆られた文面が返ってきていて、梓もまた其のメールに対して返信。

 

ペッパーとサンラクによる、メールのやり取りは次のようになっている。

 

 

 

 

 

 

 

件名:幕末楽しい

from:ペッパー

to:サンラク

 

サンラクが奨めてくれた幕末なんだが、凄く楽しいわ。天誅も天がやれと申すから天誅って意味だったり、銃とか竹槍とかシャンフロじゃ使わない武器使ったりして、新鮮な戦いが出来てる。

 

後、幕末ランキング一位のユラさんに出逢ったり、三分くらい善戦したら名前覚えられたりしたんだが、やっぱりあの人は強いね。錆光って刀でのクリティカルの出し方だとか、武器取り出し偽装だとか、常時ソナー備えてるのってくらいに索敵範囲広かったり、正直単身で勝つのはかなりキツい。まぁでも、何時か必ず天誅するって自分で宣ったから、必ず天誅してみせるけどさ。

 

其れと上空から袋叩きにする天誅の後ろから、別のプレイヤーが天誅してくるアレって何なのかな?対処出来たんたが、かなり危なかったよ…………

 

 

 

件名:Re幕末楽しい

from:サンラク

to:ペッパー

 

??????????????????????????????????????????????????????????????????

 

ちょっ…………と待ってくんねぇか?…………………ペッパー、お前ユラさんと戦ったの?ランキング一位の?三分持ちこたえたってマジ?

 

あと、総ログイン回数は何回?ログイン天誅とかログボ天誅にリスキル天誅、上空肉盾貫通型奇襲式袋叩き天誅を越えたってマジなの?

 

 

 

 

件名:ReRe幕末楽しい

from:ペッパー

to:サンラク

 

あ、リスキルとかも天誅有るのか………勉強になります。

 

順を追っていくと、総ログイン回数は今日の午前に入ったので三回目、ログインログボ天誅は一回目のログイン時に周囲警戒してたら襲ってきたので返り討ちに。其の後も他のプレイヤーの奇襲とかで割りと死んだりしたし、斬り倒したりもした。

 

二回目のログインで、上空のヤツに対処しきってある程度戦ってたらユラさんに遭遇と御茶に誘われて、会話してたら襲撃者のせいでスイッチが入ったので、全力で抵抗してたら天が『避けろ』って教えたんだよね。其所で天誅の意味が解ったって感じ。

 

一度目は全力出して一分、二度目はさっきで三分。まぁ多分だがユラさん自身、全く本気を出してない気がするんだよね………遊ばれてるのかは知らないけどさ。

 

 

 

 

件名:いや化物か?

from:サンラク

to:ペッパー

 

あの人が名前覚えるって相当だぞ?というか、ログイン一日目でログイン天誅やログボ天誅に対処出来るヤツって、初心者じゃ一握り程度しか居ないんだぞ?

 

あと上空肉盾貫通型奇襲式袋叩き天誅はランカー組でも下手したらキルされる技法だからな?其れ対処するって事は既に、幕末度100%越えの感染者の仲間入りしてるからな?

 

数分とは言えレイドボスさん相手に持ちこたえられんのって、相当な事態だからな??まぁ、あの人を天誅するならランキング二位の勇者と、千人弱のプレイヤーは絶対必須だ。単騎で殺り合ったら普通に死ぬ。

 

 

 

 

件名:Reいや化物か?

from:ペッパー

to:サンラク

 

マジかよ…………というか勇者?当千ってプレイヤーだっけ?

 

 

 

 

件名:ReReいや化物か?

from:サンラク

to:ペッパー

 

そうそう。

 

ランキング十位以内の連中は、軒並み幕末末期患者だらけだ。全員が歩く厄災で暴力装置、金魚鉢の中の鮫だし、人間性を完全に捨ててる。

 

 

 

件名:勉強になります

from:ペッパー

to:サンラク

 

金魚鉢の中の鮫かぁ………食い合いで水が赤黒に染まってそう。

 

 

 

件名:Re勉強になります

from:サンラク

to:ペッパー

 

既にペッパーも其の沼の中に嵌まってるんだよなぁ………。天誅の意味が解った上で、自分のスタイルを確立してるプレイヤーは、ランキング上位を目指して行けるからな。

 

因みにペッパーは、幕府と維新のどっち側に着いたんだ?

 

 

 

件名:ReRe勉強になります

from:ペッパー

to:サンラク

 

俺は維新側だね。銃と刀の戦闘スタイルを、何時かシャンフロでも試してみたいって考えててさ。サンラクはどっち?

 

 

 

件名:ReReRe勉強になります

from:サンラク

to:ペッパー

 

俺は幕府だ、出逢ったら天誅してやるから覚悟しとけよなぁ~~~?

 

 

 

件名:ReReReRe勉強になります

from:ペッパー

to:サンラク

 

其の時は御手柔らかに御願いします

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンラクにとっては自分がやった事は相当な事であり、文面が真剣だった事からもマジであるらしい。

 

(重たい矢印向けられてるなぁ俺、はぁ~…………)

 

天音 永遠といい、レイドボスことユラといい、リアルミーティアスことシルヴィア・ゴールドバーグといい、ユニークモンスター・夜襲のリュカオーンといい、自分はどうにも重い感情を向けられやすい体質なのだろうか?

 

そんな事を考えつつも焼きおにぎりと沢庵を食べ、牛乳を飲み干して。食器と調理器具を洗ってトイレを済ませた梓は、布団に寝転がる。

 

(夕食はカップ麺で、シーザーサラダを付け合わせにして午後八時にログインして、アイトゥイルとノワと共にルルイアスの巨城に戻る。そしてオイカッツォにクターニッドの一式装備を着させた後、ルストに預けた王冠を蘇らせてクターニッドに挑む。予定はこんな感じかな………)

 

来るべき決戦の時を見据え、梓は幕末で疲弊したシナプスと脳を休める為に、スマフォで午後六時にアラームをセットして、数時間の仮眠を取るのだった………。

 

 

 

 

 

 






仮眠を取りて、備えておく




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の三



時は来たれり




午後六時、ピピピピッ♪ピピピピッ♪と決戦を告げるアラームが鳴り響く。

 

幕末で使った脳を休ませるべく仮眠を取っていた梓は、布団から身体を起こして其の足でシャワーを浴び、寝間着に着替えてドライヤーで髪を乾かし、小さなケトルで湯を沸かしながら、カップ麺とシーザーサラダ用の野菜達を冷蔵庫の野菜室から取り出し用意。

 

水菜は根元を確り洗って5cm幅、レタスは使う分だけ外して手で千切り、プチトマトは四等分に切って分け、ベビーリーフはさっと洗い、レタス→水菜→ベビーリーフの順に皿へ、プチトマトを縁に盛り込み。

 

湯が沸いた所で火を消しカップ麺に湯を注いで、シーザーサラダの仕上げにはクルトンを一まぶし、シーザードレッシングを掛けて完成させた。そして三分が経過した事でカップ麺も出来上がり、梓はテーブルに夕食達を持って行って「いただきます」と合掌。

 

カップ麺を啜りつつも、サラダの野菜達を咀嚼して栄養バランスと満足感を促しながら、およそ十分で完食。スープは炊飯器に残った白米でおじやにしようかとも考えたが、塩分も多く此の後の『決戦』も踏まえてた結果、勿体無いが棄てる事に。

 

そうして梓は再び布団に寝転がる、時刻は午後七時過ぎ。集合時間まで二時間を切った中で、彼はシャンフロへと帰還する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパーはん。こんばんわなのさ」

『ワンッ♪』

「アイトゥイル、ノワ、待たせたね」

 

昨日のガレオン船捜索後にセーブポイントで使った家屋のベッドからペッパーが起き上がり、其れに気付いたアイトゥイルが頭に乗っかって、ノワは胡座をする彼のスペースにすっぽりと収まる。

 

「二人共、今日は決戦の日だ。準備は良いかい?」

「はいさ!」

『ワンッ!』

「よし、じゃあ行こうか!ルルイアスの中心地にある巨城へ!」

 

家屋の外へ出て周囲を確認し、星天秘技(スターアーツ)ミルキーウェイを起動。暗闇の中をマナで描いた道を駆け走り、空中という自由なフィールドを一羽と一匹を乗せて、勇者は走り抜け。

 

途中ミルキーウェイの効果は切れるものの、其れを加味しても移動距離をかなり稼げた。残りの距離はレベルMAXまで育成したグラビティゼロを起動、建物の壁を足場に高速跳躍移動を行って、ペッパーはルルイアスの巨城まで帰還する事に成功。

 

最後にトゥワイス・ジャンピングを利用して、NPC達が居る二階のベッドルームが在る部屋のテラスに、彼等は降り立った。

 

「お。やぁやぁ、あーくん。ちゃんと戻ってきたみたいだね?」

 

先ず声を掛けたのはアーサー・ペンシルゴン。にこやかながらもノワを見た瞬間にキッと睨んで怖い顔をして、ノワもまたペンシルゴンに対して喉を鳴らしながら威嚇する。

 

其の後ろにはサンラク・サイガ-0・ルスト・モルドのプレイヤーと、エムル・シークルゥ・アラバとネレイスにスチューデの姿が在る。

 

「皆、集まってくれて本当にありがとう」

「何改まってんだよ、ペッパー。お前が決めた事だろうが」

「ユニークモンスターとの戦いかぁ。うぅ……緊張してきた」

「モルド、シャキッと」

「いよいよですわ………!」

「うむ……遂に此の時が来たで御座る」

「深淵の盟主との戦いか……負けられん……!」

『ネレイスも、ガンバる』

「俺様だって!」

 

皆、気合十分の気炎万丈な様子であり、決戦を前に気圧された様子は無いらしい。

 

「えー……では決戦前に一つ、やっておきたい事があります。クターニッド討伐のチームと討伐作戦の名前を決めましょう」

「チームと作戦名ねぇ………」

「オイカッツォと京極(キョウアルティメット)秋津茜(アキツアカネ)にレーザーカジキが合流するのを待ちつつ、緊張を解したいんだよね」

 

そんなペッパーの提案から、ユニークシナリオ参加メンバーでのチーム&作戦名の話し合いが始まり。

 

「チーム依気陽々(イキヨウヨウ)、作戦名はオペレーション・サンライズ」

「ルスト、其れだと文面から内容が伝わらないと思うよ………。えっと、じゃあ僕からはチーム・タコハンター、作戦名クターニッド撃破作戦……って、流石に安直過ぎるかな?」

「いや、安直なのでも良い。そうゆうのも欲しい」

「じゃあじゃあ、チーム名が致命的突撃団(ヴォーパルアサルト)でも良いですわ!?」

「エムル、其れだと玉砕しそうだから却下。俺はそうだな……チーム不倶戴天の作戦名天体観測」

「えっと私、は………ごめんなさい、思い付いてない、です……」

「チーム名ユニークキラーズ、作戦名タコ焼パーティー」

「………クターニッドって食べられるのかな?チーム名は逆天殺の、作戦名天地開闢」

 

ワイワイと話し合い、多数決の果てに『チーム・不倶戴天&作戦名・天地開闢』に決定。そうして午後九時に近付いた辺りで、オイカッツォ・京極・秋津茜・レーザーカジキの残りのメンバーがログインしてきた。

 

「お、待った?」

「遂に来たね」

「お待たせしました!」

「すいません、待たせてしまって」

「いやいや、チーム名と作戦名を考えてたから大丈夫」

 

プレイヤーが全員揃った所で、ペッパーは早速行動を起こす。自身のインベントリから取り出すは、クターニッドと力を分けた一式装備こと深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)と、対応武装の六道極円盾(リクドウキョクエンジュン)天獄(テンゴク)、そして自身が手にした四色の宝石型のエネルギータンク。其れを見たサンラクとオイカッツォも、各々が持つエネルギータンクを取り出して、ペッパーに預ける。

 

「クターニッドの一式装備は、此のルルイアスの最上階に在る天井壁画が、起動のヒントになっていた」

 

スクショで撮影した写真を他のメンバーに見せながら、彼は其れを参考にして、エネルギータンクを装填出来る場所を探し。背中の八本のマントの根元に存在する『ブリオレットカットの空間』を発見した。

 

「手記には正しい場所にエネルギータンクをセットし、刻む時を逆廻させる事で起動するように出来ている。つまり─────エネルギータンクを各々正しい場所に嵌めて、最後に逆廻………『反時計回り』で此のマントを回せば起動するって事になる」

 

壁画通りに左から順に黄緑・青・赤・藍・黄・緑・橙・紫とセットし、最後に彼は背中に着くマントをグルリと、反時計回りに回して其れを逆廻させた。

 

同時に鎧には八色の光が伝わり、八亡星の模様には八色の色がオーロラの如く移ろい変わり、背中のマントにはセットされた宝石の色で各々が染め上がる。彼等は彼女等は同時に確信した、此所に深淵を見定む蛸極王装は蘇り、再び稼働したのだと。

 

「さてと、待たせたなオイカッツォ。約束の一番乗りだ」

「ヨッシャ!」

 

青の宝閠を交渉材料に、一式装備一番乗りの権利を得ていたオイカッツォが、其の装備に身を包んでいく。頭を胴を腰を脚を、次々と一式装備に取り替えていけば、鎧はプシューと音を立てて彼女()の身体に吸い付き、其のプレイヤーが『最も本領を発揮しやすい最適な形』へ成る様にと、形を変えていく。

 

「クターニッドの一式装備……何だろうね、装備者の体格に合わせて変化してるのかな?」

「またとんでもねぇな、此の一式装備は………」

 

頭・胴・腰・脚と全てを纏い、残すは盾の装備だけとなって。

 

「レベリングでポイントも稼いで置いた……さぁてどうな『ブブーッ』……うんまぁ知ってた、足んないだ………は?」

 

盾を装備せんとしたオイカッツォが必要ステータスが足らない事に気付いて、ポイントを振り分けようとして項目を見た瞬間、其の身はビタリと停止して視線がペッパーの方へ向き。こんな一言を呟いたのである。

 

 

 

 

「ペッパー…………『高潔度(こうけつど)』って、何?」

 

 

 

まさかの装備条件に提示された、聞き知らぬ単語に全員が顔を見合わせて。そして全員が『…………は?』と呟くのだった。

 

 

 

 

 






隠しステータスという罠




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の四



一式装備に隠された秘密




高潔度(こうけつど)…………其れはシャングリラ・フロンティアにおける『ヴォーパル魂』や『歴戦値』と並ぶ、ステータス画面では確認出来ない(・・・・・・・・・・・・・・・)謂わば『隠しステータス』の一種に当たる要素である。

 

此の世界を生きるNPCやプレイヤーに対して、如何に『真摯』に接する事が出来るか、自身と戦うNPCやプレイヤー、モンスターに対して如何に『敬意』を持てるかが鍵となる数値。

 

簡単な挨拶等でも真剣に行ったり、プレイヤー・NPC・モンスターとの戦闘でも、『今からお前を倒す』や『戦ってくれてありがとう』等で敬意を敬えば上昇し、煽りを行えば下落するように出来ているのだ。

 

「ペッパー、ちょっと高潔度の数値の上げ方教えてくんない?」

「いや、高潔度って……まさか装備条件なの?」

 

「うん」と頷くオイカッツォに「えぇ……」とペッパーは遠い目をして。

 

「ヘイ、オイカッツォ~???一番乗りしようとしてステータス足らなくて、結局装備出来なかった気分はどーだ~???んんん~~~???」

「ちょっ、サンラク君魚頭で煽るの止めて吹きそうだから………プフッ」

「というか異様に生臭いんだけど………後死んだ魚の目向けないで笑いそうになるから」

「同情するなら高潔度寄越せ外道三人衆………!!!」

 

何時の間にか頭装備をリッチマン・キング・サーモンの頭面(かしらめん)に切り替えていたサンラクが火蓋を切り、ペンシルゴンと京極(キョウアルティメット)がオイカッツォを囲んで煽り、オイカッツォが歯軋りしながら三人を睨む姿を見ながら、嗚呼こりゃ四人とも高潔度がダダ下がりしてるなぁ………と、そう思わざるを得なかった。

 

「因みに六道極円盾(リクドウキョクエンジュン)天獄(テンゴク)の要求ステータスってどんな感じなの?」

「………………体力100・筋力80・器用100、そんで高潔度300」

「…………マジかぁ。取り敢えずクターニッドとの戦闘が終わったら、挨拶してみたらどうかな?」

 

装備に隠しステータスを要求してくるというトラップは知っていたが、まだ見付かっていない他の一式装備の中に、隠しステータスを必要とする可能性を考慮しつつ、自身のステータスを開いた所、規定値を充たしている事を確認して安堵する。

 

他のメンバーを見れば、ステータスが足らずに凹む者や装備出来るとホッとしている者の二極に分かれ、混沌の気配が漂う中でオイカッツォは纏っていた装備を外して、自身は着替えながらペッパーに返してきた。

 

「今回一式は装備出来なかったけど、優先順位は俺が一番だからな。覚えとけよペッパー」

「解ったよ、オイカッツォ」

 

オイカッツォから受け取り、装備を脚から取り替えて。最後に意を決して天獄を左手で握ると、ちゃんと装備出来たので一安心となり。一体どんな状態なのかとステータスを開き…………目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

PN:ペッパー【天津気(アマツキ)

 

 

レベル:99 Extend

 

 

メイン職業(ジョブ):星駆ける者(スターランナー)

サブ職業(ジョブ):神秘(アルカナム)運命の輪(ホイール.オブ.フォーチュン)

 

 

体力 50130(FCB+50000) 魔力 50

スタミナ 213

筋力 160 敏捷 200

器用 135 技量 135

耐久力 50003 幸運 200

 

 

残りポイント:71

 

 

 

 

装備

 

左:六道極円盾(リクドウキョクエンジュン)天獄(テンゴク)(耐久値+10000)

右:リュカオーンの愛呪(あいじゅ)

両脚:無し

 

 

頭装備:天輪界道(テンリンカイドウ)導羅(ドウラ)(耐久値+10000)

胴装備:天輪界道(テンリンカイドウ)導人(ドウジン)(耐久値+10000)

腰装備:天輪界道(テンリンカイドウ)導生(ドウセイ)(耐久値+10000)

脚装備:天輪界道(テンリンカイドウ)導鬼(ドウキ)(耐久値+10000)

 

 

 

FCB:無限潜航・巨剛触手・状況改変

 

 

巨剛触手:無し

巨剛触手:無し

巨剛触手:無し

巨剛触手:無し

巨剛触手:無し

巨剛触手:無し

巨剛触手:無し

巨剛触手:無し

 

 

 

 

アクセサリー

 

 

致命魂(ヴォーパルだましい)腕輪(うでわ)

格納鍵(かくのうけん)インベントリア

超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)

・旅人のマント(耐久力+2) 

・革のフィンガーレスグローブ(器用補正:小)

 

 

 

所持金:10,941,210マーニ

 

 

 

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)

 

 

 

窮速走破(トップガン)

偉風導動(リーガルック)

守示貫鐵(ファースリィオ)

 

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ)

 

 

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):太刀型(たちがた)晴謳(ハレウタイ)】……次ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):闘撃型(とうげきがた)那由多轍(ナユタワダチ)】……始ノ巻

致命極技(ヴォーパルヴァーツ):爆鎚型(ばくついがた)断層激震(ダンソウゲキシン)】……未習得

 

 

 

致命武技

 

 

 

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【タチキリワカチ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウツキノアカシ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ウツロウミカガミ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ヒゲツオロシ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【サキガケルミゴコロ】改備(あらためぞなえ)

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【ゲッカケンセキ】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オボロサイダン】

致命秘奥(ヴォーパルひおう)【オウマゼッカイ】

 

 

 

 

星天秘技(スターアーツ)

 

 

・ミルキーウェイ

・グラヴィトン・レイ

 

 

 

晴天流(せいてんりゅう)

 

【風】

・晴天流「疾風(はやかぜ)

 

 

 

 

 

スキル

 

 

死神の斬撃(デス・マサカー)昇華(スタンバイ)

終極刺突(グルガ・ウィズ)昇華(スタンバイ)

真界観測眼(クォンタムゲイズ)昇華(スタンバイ)

・ブランチャイズ・スロー

・シルヴァディ・スティングレイ

頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)昇華(スタンバイ)

巨人兵の大厳撃覇(ジャイアント・インパクト)昇華(スタンバイ)

冥土神の裁き(ヘカーティエ・ジャッジメント)昇華(スタンバイ)

聖攣の神覇業(ウルク・フォルセティ)昇華(スタンバイ)

戦帝王の煌炉心(オライオン・スピリッツ)昇華(スタンバイ)

戦神の心構え(モンチュ・レ・プライド)昇華(スタンバイ)

神威光臨進(かむいこうりんしん)

・レーアドライヴ・アクセラレート・昇華(スタンバイ)

神律燼風(しんりつじんふう)昇華(スタンバイ)

獣神斬滅(じゅうしんざんめつ)

神謳万雷(しんおうばんらい)昇華(スタンバイ)

轟烈迅速(ヴスティオ・ファーレ)

・ジャイロヴォース・スロー

神腕魔擲(しんわんまてき)

・トゥワイス・ジャンピング

天空神の加護(レプライ・ウーラノス)昇華(スタンバイ)

奮魂絶闘(オーバード・ソウル)昇華(スタンバイ)

・チューンブレイク・ストライカー

風暴鬼の飛脚(マルトリアス・レッグス)

破戒神の舞脚(カルナダーハ・シヴァ)昇華(スタンバイ)

英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)昇華(スタンバイ)

絶技(ぜつぎ)太陽斬覇(たいようざんは)

蓮華音穏(れんかねおん)

連刃結(れんじんむすび)九十九(つくも)

刃閃鑼(じんせんら)波狼(はろう)

刻蓬封点認視界(エディア・キュリス・ウラタナ)

龍脈を映す視覚(ドラスティエル・ナルクト)

速刃(そくじん)晴空(はれそら)

・エクストライズ・トリデュート

煌軌連刃(こうきれんじん)

爆芯輪転蹴(メテオ・ドリンラム)

雫波状(しずくはじょう)澄蓮華(スミレンゲ)

・ポルータナリッグ・ゼイリアス

・タイタニアス・スタンパー

拳掌百手(けんしょうひゃくしゅ)

旭天昇昂(きょくてんしょうこう)

局極到六感(スート・イミュテーション)昇華(スタンバイ)

居合(いあい)切空(きりそら)

天空の帝王眼(ラトゥルスカ・インペリアイズ)

天壱夢鳳(てんいむほう)昇華(スタンバイ)

・セルタレイト・ケルネイアー

・フォートレスブレイカー

連剣秀速迅舞(ソードブレイズ・シュティーア)

・グローイング・ピアス

・セルタレイト・ヴァラエーナ

窮極致超越(アレフ・オブ・トランジェント)

輪天翔律(りんてんしょうりつ)

秀越なる鎚撃(オルフェイム・タンザライナ)

巧運勝闘技(デュエル・トリスティル)

境鳴絶壊昴打(シューヴェイト・ラプソディ)

・セルタレイト・ミュルティムス

王斬儀咲(おうざんぎしょう)阿修羅刃理(あしゅらじんり)

刃王斬(ばおうざん)黄泉(よみ)

刃舞(じんぶ)廻旋(りんせん)

・パウリングレッグス レベル1

・デッドオアサバイヴ

・シャイニングアサルト レベルMAX

・ファウラム・チャージング

・グラビティゼロ レベルMAX

五天無双(ごてんむそう)

剣王武心(マスラオ・センス)

・ティオ・チャクラ レベル1

・メダリオンフィスト

・ストレングス・キャリアー

・シャルク・スライダー

反撃衝突(コリージョンカウンター)

皸旒投刹(くんりゅうとうせつ)

・アンストライク・ビリーブ

・ルーパス・アサイラム

・シールディア・サフレィト

徹硬鋼突(てっこうこうとつ)

英雄覇颯(ヒーロースプリーム)

盾士の憤撃(レイジングシールド)

・ハリケーン・ハルーケン

渾魂注撃(ストライク・インストーラ)

魔寅王の掌撃(ギルスティーガ・デクタム)

・スリックランペイジ

・セルタレイト・スラッシャー

守護者の威厳(ヘイルス・ガーディア)

獄貫手(ごくかんしゅ) レベル4

・テンカウンター

・キック・バスター レベル1

眼力適応(ディチューン・アイ)

・ビート・ラン

・ブーストアップ レベル1

・メロスティック・フット

・荒割り レベル1

迅横(じんおう)()

・タップステップ

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

全種装備状態時には巨剛触手による装備欄が追加されたりだとか、六道極円盾:天獄の耐久値が勇者武器の聖盾(せいじゅん)イーディスの三倍だとか、色々と言いたい部分も有るが、一番は体力が『五万』も上昇するという衝撃の事実であり。

 

此の体力の具合からユニークモンスター・深淵のクターニッドはスレーギウン・キャリアングラー達以上の『体力お化けモンスター』であると、ペッパーは予測する。

 

「あれ………?ねぇ、あーくん。私さらっと流してたけど、君クターニッドの一式装備装着出来るんだよね?」

「ん?あぁ…………へ?」

 

そしてそんな中、ペンシルゴンだけがクターニッドの一式装備の『特殊性』に気付き。ペッパーも時間を置いて、其の能力に気付くに至った。

 

「あ、もしかして………!」

「うん。クターニッドの一式装備、コレ条件を充たせば『男女どっちでも着れる装備』なんだ………!」

 

女性アバターのオイカッツォと、男性アバターのペッパーが装備出来た事で発覚した、ユニーク一式装備の深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の特色。其れは七つ在る神代の大いなる遺産達の中で、唯一無二(・・・・)の男女兼用装備が可能だったのだ。

 

「マジで?」

「マジ」

「マジかぁ……そりゃ夢が広がるな!」

「ぼ、僕も着れる……でしょうか?」

「必要ステータスを満たせば行けるはずだ」

 

ワイワイと盛り上がる中、一旦話を切り上げて。いよいよ本題たるルストに渡していた、王冠を復活させる方向へとシフトする。

 

「さて、宝石を王冠に嵌める訳だが………」

「あれ、嵌まんない……ッ!」

「サンラク貸して、こう……!」

「いやいや、こうでしょ……っと!あれ?」

「こりゃ壊すのが正解か?」

「私!パズル得意ですよ!」

「微力ですが、御手伝いします……!」

 

サンラクとルスト、オイカッツォが挑んでいるが宝石は一向に嵌まらず、秋津茜(アキツアカネ)とレーザーカジキに王冠と宝石を託され。カチャカチャと弄っている内にレーザーカジキが宝石を反転させた事で、ガッチリと嵌まったのを切っ掛けに、次々と宝石が王冠に埋め込まれていく。

 

「クターニッドが反対にしてたんでしょうか……?」

「反対にしたら嵌まりましたね……あ、王冠が……!」

 

レーザーカジキが王冠を前に出せば、まるで黄金が這うようにして青カビを覆い尽くし、十数秒もしない内に金色に輝く王権の象徴が其処には在った。

 

「このままクターニッドとの決戦か……?」

「どうだろう、まだ解らない…………」

 

取り敢えず未だなのかと思い、城を探索せんとした、まさに其の時。ルルイアス全体(・・)が大きく揺れた。其の揺れはルルイアスのほぼ中央に居る、プレイヤーもNPC達も例外ではなく、漏れ無く全員が其の大規模な揺れによって体勢を崩される。

 

「うおわ!?」

「おいおいおいおい!?まさか、時間差か!?」

「このままクターニッド戦に直行ッ!?」

「……その可能性は、高い……!」

「ルストォ!!」

「ッ………動けない、です」

「わわわっ……!」

「くっ………来るか、クターニッド………!」

「全員警戒!何が起き………!?」

 

 

皆各々の武器を取り出しながらも、立っていられないほどに揺れ始めたベッドルーム。しかし一向に最初に牙を剥いたのは、自分達が居る空間其の物で(・・・・)

 

ペッパーがいの一番に気付き、視認したのはプレイヤーやNPC以外の全てのオブジェクトに、砂嵐に似た『ノイズ』が走っているのだから。だがしかし、他のメンバー全員に伝えるよりも速く───────

 

 

「うわっ!?」

「は?」

「って!?」

「はいっ!?」

「へ?」

「な………」

「え?」

『ワゥ?』

「わっ」

「ちょっ」

「ひゃあ!?」

「うおぉ!?」

「ぬぉあ!」

「ひゃう!?」

「はう!?」

「まっ!?」

 

 

まるで、いや文字通りぐるん(・・・)、と──────『天地が逆さまに引っくり返った』。

 

先程まで足元にあった筈の床が遥か上に、代わりに足元には天井が驚く程に近くに在った。

 

「全員ッ衝撃に備えろォォォォォォォォォ!!!」

 

ペッパーの声が城内で響き渡る中、世界は再び反転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不倶(ふぐ)戴天(たいてん)と呼ばれる言葉が在る。

 

其の意味は絶対的な『敵対』であり、同じ(そら)に存在することすら許容出来ぬ『憎悪』であり、水と油が決して『相容れぬ』が如く、互いが弾かれる様を指す言葉である。

 

遠き時代に人が種族が、世界に蔓延り満ちる『始原』の存在達の驚異に晒されながら生きていた時代。ルールイアを襲った、狂える大群青の暴意を撃ち破った其れ(・・)は、死して染み付いたルールイアの街を監視し、招かれた者達の戦いを見定める為に座していた。

 

全ては()とルールイアの間に交わした契約の為に。

 

だが天地は、摂理は。要の石たるルルイアス(ルールイア)の王権を手放した事で、何もかもが反転(・・)した。故にこそ────────深き海の底で盟主として君臨していた其れ(・・)は、開拓者達との相対を決意する。

 

嘗ての彼等が、彼女が遺した未来を。何でもない明日を迎える為に『世界』と戦った、偉大なる神人の者達。其の後継者達は、自らの足で前に進めるのかを推し量る為に立ち上がる。

 

 

 

 

そして────────『もう一つ』。

 

 

 

 

『墓守の御人』に名を、魂を、鎧を。其の身に託された勇者(・・)が、己と力を分けた鎧を託すに相応しき者であるかを、此の目で見極めんとする為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユニークモンスター』

 

『深淵のクターニッドに遭遇しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深淵は今ここに、再び(とも)なる(そら)を戴きて、開拓者達に立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 






いざ、開戦




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の五



対決、クターニッド




ドラマなんかでよく有る、父親がちゃぶ台返しで机を引っくり返えした時の料理達は、こんな気持ちだったのかと思う浮遊感と共に、地面……否天井に叩き付けられた一向だったが『痛い』と思うだけでダメージによる体力減少は無かった。

 

「皆、大丈夫か!?」

「顔打ちましたわ………」

「俺等は大丈夫だ!」

『ワゥ!』

 

自分を含め全員無事だった事を確認していると、フィールドに変化が起きている真っ最中で。此所まで探索していた街並みやルルイアス(ルールイア)の巨城がブロックのように分解(・・)され、何かへと作り替えられている過程(・・)を自分達は早送りで見せられている様であり。

 

「皆さん、上を!」

 

レーザーカジキの声で全員の視線が上を向く。其処には満天の星空と天ノ川、そして月が煌々と光輝きながら、自分達をフィールドを照らし続けているのだ。

 

「六日振りか……?空を見たのは」

「フィールドが変わっていきます……!」

 

柱が等間隔に、煉瓦が階段を作り、中心地が擂り鉢状になっていく。今自分達が居るのはまるで『観客席』の中腹地点、中央に広がる野球ドームクラスの広さを誇る其れは、まさに『イタリアのコロッセオ』を彷彿とさせていた。

 

「コレあれですね、イタリアの肝っ玉!」

「其れ、は………コロッセオ、ですね」

「其れです!」

 

『ッ』以外合ってないじゃんとツッコミたくなったが、今はそんな事を言っている場合じゃない。

 

「取り敢えず、ボス戦に入ったのは間違い無いとしておいて………だ。クターニッドは何処に居る?」

 

観客席を見回してもルルイアスの街並みをコロッセオに再構築するという、超常極まる御業をやってのけたクターニッドの姿が影一つとて無い。一定の地点まで行かないと現れないタイプか?

 

だとすれば、コロッセオの中心に向かうのが正解だろうか?そう思考を巡らせていた時だった。

 

『示せ』

「ん!?」

「びえっ!?」

『ワゥ?』

 

其れ(・・)は突如として響き渡る。まるで大量の錆びた釘に泥を混ぜて黒板に叩き着けた様な、形容し難い異質な声で。奥歯の裏を指で押し付けられて掻き混ぜられる様な、ヘリウムガスで変声された方が未だマシ(・・)なレベルの音声なのか声なのかが、頭の中に『直接』響いてきた。

 

だがそんな事はどうでも良いんだ、今は重要な事じゃない。もっとヤバイのはプレイヤー以外のNPC…………ユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの小さな分け身たるノワを除き、見渡せばシークルゥ・アイトゥイル・エムル・アラバとネレイス・スチューデが『恐怖』に陥って上を見上げ、其の場から一歩たりとも動けなくなっている事が一番ヤバイ。

 

クターニッドの声にはNPCの行動を封じる特殊な状態異常────仮称とするなら『恐怖状態』を付与するのか?というか『恐怖』の感情を振り撒けるクターニッド、滅茶苦茶ヤバイ。

 

まさかとは思うが現在のクターニッドの状態と対極(・・)は、NPC全員に『ガンガン行こうぜ!』みたいな状態異常を振り撒けたりするのか?

 

『示せ。継がれし遺志を、受け継いだ名を』

「何て?」

「だぁーっ!? ヘリウムガスでも良いから、もう少しマシな声質で喋れやクターニッドォ!!」

 

サンラクの意見には同意するが、今クターニッドが物凄い『フラグ』じみた事を言った気がするのは、気のせいでは無い筈だ。受け継いだ名を───此れは間違い無く『自分に対して向けられた』言葉。

 

ウェザエモンが使った晴天流(せいてんりゅう)の絶技や、星王剣(せいおうけん)グランシャリオの力を自分に見せよ、とでも言いたいのか?

 

「サンラク、さん…!…上、です……!」

 

サイガ-0の言葉に全員の視線が上に向く。見上げた上空には、展開された『八芒星(オクタグラム)の魔法陣』から目玉と触手が生えている『何か』としか形容出来ない、そんな奇天烈極まる姿をしたクターニッドが居る。

 

六日前に自分達をルルイアスへと引き込んだ、巨大な蛸の姿とまるで『異なる姿』を見ながら、ペッパーは参加メンバーに指示を出し始めた。

 

「一先ずアラバさん達を別の場所に避難させよう、此のままだとサンドバッグにされる可能性が高い」

「其れに関しちゃ、俺も同意見だ」

「僕が避難誘導しておくね」

「あ、僕も御手伝いします!」

 

モルドとレーザーカジキが、アラバ・スチューデ・シークルゥを避難させる中、サンラクはエムルを頭に乗せ、ペッパーはアイトゥイルの胴体に巨剛触手を巻き付け、自身の近くへと寄せると、ノワもペッパーの足元へと走り寄ってきた。

 

ペッパーはサブ職業(ジョブ)にセットされていた神秘(アルカナム)運命の輪(ホイール.オブ.フォーチュン)を外し、インベントリアから勇者武器・聖盾イーディスと星皇剣グランシャリオを取り、イーディスを巨剛触手に装備した事で、サブ職業に勇者がセット。

 

グランシャリオを納める黒鞘に右手を触れて、リュカオーンの愛呪による装備不可能力を一時的に取り除き、右手に勇者の剣は装備される。

 

「あの高さじゃ、近接職は届かないだろうね」

「私のスキルや魔法も同じく」

「剛弓でも距離減衰で届かない……」

 

流石に手の届かない場所にクターニッドが何時までも居るとは思えないが、其れにしたって距離が離れている。そんな中、サイガ-0はペッパーと秋津茜を見て言った。

 

「恐らく今の参加者の中で、最も高く飛べるのはペッパー、さんの……『ミルキーウェイ』に、最長射程の魔法は……秋津茜、さんの【竜威吹(リュウイブキ)】です。ペッパーさんは、最大高度(スカイホルダー)を取った実力なら、行ける……筈です。秋津茜さんが、もしも『ユニークモンスター・天覇(てんは)のジークヴルム』の、ブレスをそのまま模倣した、なら……多分、届きます」

「私の出番ですか!?」

「茜ちゃん、一旦ステイ。OK?」

「…………秋津茜、ステイ」

 

早速行動を起こさんとした秋津茜を、京極(キョウアルティメット)とルストが止めに入るが、二人の意見には同意だ。彼女が持つ切札とレーザーカジキが持つ切札同士による合体魔法攻撃は、深海三強が一角たる不世出存在(エクゾーディナリーモンスター)アーコリウム・ハーミット"廃罪玉座(ルインスロン)"を一片残さず、文字通り焼却し切った程の威力が有る。

 

サイガ-0のアルマゲドンを『万が一』にも耐えられた場合のサブフィニッシュ手段として、絶対に温存しておきたい手札だ。

 

と、そんな此方の作戦がある程度整ったのを見計らっていたのか、はたまた『待つ』という制限時間を超過したのか。魔方陣の『角』から出てきたのは『八本の巨大な蛸足達』、其れが一斉にプレイヤー達へと襲い掛かる。

 

「全員散開!蛸足が来たぞッ!!!」

 

ペッパーの声に、此の場にいた全員が其の場から離れる。其の刹那にプレイヤー達が居た場所に、蛸足達が襲来して突き刺さったかと思えば、其の八本の蛸足から一本に付き『十数本の細い触手』へと枝分かれ、其れ等が『槍』の如く地面に突き立てられていく。

 

「おいおいッ!?枝分かれに加えて、当然の権利みたいに『ホーミング能力』搭載かよ!?」

「っお、あぶねっ!?」

 

ウェザエモンの断風(タチカゼ)や、リュカオーンの前足振り抜き程では無いにせよ、其れでも中々に速い。地面を這い、襲い来る其れは一種の恐怖を内封している上、あの触手達の攻撃属性は刺突による『点』の攻撃、幾ら体力と耐久が一式装備によって増えたとはいえども、受けるのは宜しくないとゲーマーの直感が叫んでいる。

 

「さて、どうやって攻略しようか………!」

 

大元が八本の枝分かれが十数本、恐らく百近いホーミング触手攻撃に晒されながら、ペッパー含めて今戦っているメンバー全員が、思考を巡らせていた其の時。再び脳内にクターニッドの声が響く。

 

『揺るがぬ心で進め、さすれば届かぬ高みは無く』

「あぁもぅ、集中力が削がれるなぁ……!」

「うるせぇ……!」

「頭に響く………!」

 

ペンシルゴンにオイカッツォにルストも、クターニッドの放つ台詞に不快感を示している。秋津茜もサイガ-0も回避するそんな中、メンバーの中で唯一人だけ……サンラクは此の触手攻撃を見ながら、投擲スキル『パドロン・スロー』で傑剣への憧刃(デュクスラム)を枝分かれしていた、細い触手の一本目掛けて投擲する。

 

彼には予感が有ったのだ………ラビッツの実戦的訓練(ユニークシナリオ)で戦った十体のモンスターの中に居た、蛸足が分裂するヒョウモンダコこと『リップルオクトパス』と同じなのでは?………と。

 

剣は飛んで行き、触手に突き刺さった其の瞬間。新品の掃除のコードが、巻き取りボタン一つで凄まじい速度で戻る様に、投擲攻撃を受けた其の分裂触手が上空の魔法陣に吸われて引っ込んで行ったのを視認し、サンラクの脳内で攻略への道筋(ルート)が構築される。

 

「触手だ!あのクターニッドが放った触手を攻撃して、魔方陣の中に返送するんだ!」

 

サンラクの言葉に皆動き出した。攻略法が見付かったなら、一気に行くべし!

 

 

 

 






触手を追い返せ




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の六



次の形態へ




サンラクによって判明した現在のクターニッドの攻略法、其れは八本を大元に十数本の細く枝分かれする触手を攻撃し、魔方陣へと送り返す事だった。

 

「アイトゥイル、俺の肩に掴まって!」

「あ、あわ、わわ………」

「ッ……思った以上に重傷だな……!ノワは無茶し過ぎるな、オイカッツォと京極(キョウアルティメット)にサンラクはギリギリまで細い触手を引き付けるんだ!」

「大体十二本目が地面に刺さったら、ギリギリ回避で五秒は殴りたい放題だ………!」

 

震えながら肩に移動するアイトゥイルに襲い掛かる細触手達を、イーディスと天獄(テンゴク)の鏡面を滑らせる様にして受けつつ、グランシャリオを握った右手と、兎月(とつき)暁天(ぎょくてん)】を握った左三本目の巨剛触手(きょごうしょくしゅ)を振るって細触手を叩き。同時に異質な『違和感』をペッパーは抱く。

 

サンラクや秋津茜(アキツアカネ)、オイカッツォにペンシルゴンが引き付けながらにカウンターを叩き込んで押し戻し。ルストは離れた場所から剛弓で触手を打ち抜き、京極(キョウアルティメット)とサイガ-0はバフスキルでブーストしながら触手を斬り捨てる中、ペッパーはグランシャリオの剣先を天に掲げながら述べる。

 

「ウェザエモン・天津気(アマツキ)さん───貴方の絶技、使わせていただきます!」

 

現在グランシャリオにはペッパーとペンシルゴンの、各々の世界の真理書「墓守編」が二番目と五番目の穴に、宝玉と成って納められており、其の内の二番目に収まった宝玉が光り、グランシャリオの剣身に『蒼い雷』が迸る。

 

「皆、落雷注意だ!」

 

晴天流(せいてんりゅう)の中でも『体内電流』を増大させて、自力発電する事に特化させた流派であり、同流派内の【(くも)】と並び『魔法』と勘違いされる()を保有している。

 

「アレか!レイ氏にルストに秋津茜は一旦退避!」

晴天流(せいてんりゅう)(かみなり)】────奥義(おうぎ)ッ!!」

 

夜空に放つ蒼光一筋。其れは『帯電』し、ゴロゴロと鳴り響きながら『増幅』し、ペッパーの右手に握るグランシャリオの鋒と共に『誘導』し、大地へと落ちる。

 

「いけ───『雷鐘(らいしょう)』ッッッッッ!」

 

夜空から落ちた蒼雷がコロッセオに叩き付けられ、其の一撃で現在プレイヤーやノワに襲い掛かっていた細触手の内の十本が雷に打たれて、上空に在る魔方陣の中へ戻っていく。

 

「ウェザエモンの雷鐘…………、何時見ても魔法って勘違いするって────のッ!」

「す、ごい……ですね。負けて……られま、せん……ッ!!」

「やっぱ雷鐘の攻撃範囲は広いね……お陰でかなり触手も疎らになってきた!」

「ペッパーさん、凄いです!」

 

ウェザエモンの保有していた晴天流、修練を重ねた果てに到達した七つの絶技が一つによって、触手達は押し戻されていき。

 

「ラストォ!」

「コレで最後!」

 

オイカッツォが拳気(けんき)赤衝(せきしょう)】を、ペンシルゴンが致命の槍(ヴォーパルスピア)で細触手を貫き、八本から枝分かれて十二本の合計九十六本の触手達を魔方陣に送り返した事で、クターニッドの声が頭に響く。

 

『届かぬ高みはなく、然れば至りて後に人は何処へ征く……』

 

まるで『今挑戦してるゲームをクリアしたら、其の後はどうするの?』とでも問い掛けているかのようだが、そんなもの最初から決まっている。

ストーリーモードを終えたなら難易度を上げてもう一回、其の次は収集要素の完全制覇、其れも出来たならボス戦タイムアタックに縛りプレイ、そしてRTAやAny%RTAをやる、其れがゲーマーという生き物なのだから。

 

『信ずる己を見出せ。世界が変わり果てようが、根幹は決して揺るがない』

 

クターニッドの言葉と共に、八芒星(オクタグラム)が動き始めた。模様が光り蠢き、平面(・・)であった図形が膨れ上って立体(・・)へと変形するかの様に、魔法陣を構成する文字達が夜空を這い、輪廻するかの如く廻り巡りながら、平面より触手と目が飛び出させて、クターニッドは自らの姿を変貌させていく。

 

平面が立体となり、立体が明確な形を作り、角ばっていた巨体は滑らかな『蛸』の姿(フォルム)へと洗練されるのを見て、ペッパーは漸く『違和感の正体』に気付く。クターニッドの能力を把握した時から、今の今まで思考してきた其れは、此所に漸く合点が行く迄に至った。

 

屁理屈を無理やりひっくり返して実行してしまう怪物を、一体どうやって倒せば良いのか?そもそも中身が無いクターニッド(・・・・・・・・・・・)を、一体どうやって攻略すれば良いのか?─────と。

 

「今さっきまで見えていた魔方陣………アレはクターニッドが産み出した物じゃなくて、クターニッドの本体(・・)な気がしてきたよ………」

「あぁ、ペッパーの予想は合ってる。多分クターニッドは魔法生命体か、もしくは生命魔法体の可能性が高い」

 

サンラクが同意した事から、どうやら同じ結論に到りつつあるらしい。ふと見上げれば、巨大な蛸の形に変形を完了した立体的な『魔法陣(クターニッド)』が地面へと降り立ってくる。

 

見上げるほどの巨体であるクターニッドの着地に対して、シャンフロエンジン下ならば砂埃や風圧といった『重量』を感じさせるような、一連の現象が起きる所の其の一切が起きなかった。

 

「来ます、私が前に……!」

「クターニッドの一式装備、タンク職みたいな事も出来るから俺も前に出るよ」

「はっ!ペッパーはん!?」

「あ、アイトゥイル。気が付いたようだね」

「サンラクザン!?クターニッドが居るですわ!?」

「おぅ、エムル。やっと正気に戻ったか」

『ワゥ』

 

サイガ-0がスレッジハンマーを取り出し、ペッパーとサンラクが共に前に出る形でクターニッドを見つめる最中、おそらく恐怖状態が解除された事で正気を取り戻したであろうアイトゥイルとエムルが、各々のパートナーに声を掛ける。

 

「ペッパーさん!大丈夫でしたか!?」

「避難は完了したよ。其れにしてもクターニッド、何か変に成ってない?」

「あ、レーザーカジキさんにモルドさん!クターニッドは何か変形して、最終的にこんな姿になりました!」

 

此所で魔法職の二人が避難誘導から帰って来て、秋津茜がザックリと状況説明を行う。

 

「取り敢えずルスト、先にバフを掛けておくね。他の人は………」

「モルド。気持ちは有り難いが、俺やサンラクに秋津茜は呪いが引っ付いてるので、弾いてしまうんだ」

「私は……自力のバフで、何とかなりますので……ごめんなさい」

「私も何とかなるかなぁ」

「アッハイ」

 

モルドはガックリと肩を落とすも、オイカッツォがバフくれオーラを放ったので、彼はルストとオイカッツォへとバフを施し、レーザーカジキも其れに続く形で二人にバフを付与していく。

 

「レイ氏、前に出て大丈夫ですかね?間違いなく触手攻撃が有りそうですけど……」

「はい、タンク系のスキルに……『反撃衝突(コリージョンカウンター)』という、物が在りまして。……多少ダメージは受けますが、耐えられます」

「盾とか武器をジャストタイミングで当てて、攻撃を押し返すスキルだったな。俺も習得しているし、今の状態なら何とかなるだろう」

 

さらっとペッパーが述べた台詞に、サイガ-0とサンラクの視線が向く。サイガ-0はマッシブダイナマイトから聞いていたが、ペッパーは数回レベルダウンビルドを行ったらしく、其の修練も独特な物である事は耳にした。

 

此のスキルは本来『相当な回数の戦闘経験』を通した果てに、初めて手にする事が叶うスキルであるが故に、サイガ-0もまたレベルダウンビルドの末、三回目のレベル99到達で漸く自身のスキル追加されたのだから。

 

そんな一同の感情を知ってか知らずか、クターニッドが動いた。

 

「皆さん、クターニッドが!」

「動いてます、何かぐわんぐわんって!」

 

レーザーカジキと秋津茜の言葉で、全員の視線がクターニッドへと向く。其処には八本の触手を上へと掲げたクターニッドが居り、各々の触手の先端が黄緑・青・赤・藍・黄・緑・橙・紫の、異なる八色に輝きを放つ。彩る八つの輝き達は輪郭を経て形と成り、顕れるのは『リュクルゴスの聖杯』のステム部分が長くなり、装飾を取り除いた様な『ワイングラス』。

 

だが、其れをクターニッドが掴んだ瞬間、八つ在った輝きの内の黄緑・赤・黄・橙の四つが崩壊して消えて行き、其れを見たクターニッドは空いていた触手に光を集め、新たに『白のワイングラス』を創り出したのである。

 

「は、えっ!?ちょっ」

 

いきなりの特殊行動にペッパーやサンラクが叫ぶより早く、白の聖杯が光輝き。一同の視界が真っ白に染まる。

 

そしてクターニッドによって、何もかもが─────引っくり返った。

 

 

 

 






襲い掛かる未知の反転




黄緑の聖杯:魔法無効
青の聖杯:性別反転
赤の聖杯:近距離無効
藍の聖杯:ステータス反転
黄の聖杯:スキル無効
緑の聖杯:??反転
橙の聖杯:遠距離無効
紫の聖杯:ダメージ反転
白の聖杯:????反転


ぶっちゃけると此の中で悪辣TOP3を上げるなら……

1位:白
2位:藍
3位:紫

えっ何で白かって?ゲームしてた時に体験する事………有りますよね?






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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の七



其の力は




クターニッドが創り出した白のワイングラスこと、白の聖杯。其処から放たれた白の光が、プレイヤーとNPCを例外無く包み込む。然して其れも一瞬、真っ白になった視界は元の状態へと戻り、開拓者は瞼を開く。

 

「皆、大丈夫───か、へ?」

 

今自分は確かに声を掛けた筈だ、だが現に『オカシイ』事が起きている。何で自分は今……………秋津茜の身体で声を放っているんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「えっ、コレどうなって………えぇっ!?何で私が居るんですか(・・・・・・・・)!?」

「は?えっ、嘘だろ!?」

 

前を見れば深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を纏う自分(ペッパー)が居る。そして混乱した様子と声からは、明らかに自分とは違っていた(・・・・・・・・・)

 

「んじゃこりゃああああああ!?」

「えっ、何で俺半裸になってんの?!」

「いや、槍の使い方解らない………」

「此方は弓の使い方知らないんだけど」

「な、何ですか……コレ………!?」

「えっと………重装備、初めて振るいます……」

「コレどうなったの……?というか、杖……」

「刀は経験無いんだけど……」

「な、何がどうなってるのさ……えっワイ?」

「アタシどうなってるですわー!?ってエエエエエ!?」

『ワゥ?』

 

十人十色の反応、そして各々から放たれた声を聞いた事で、彼女()は白の聖杯が持つ悪辣極まる『能力』に気付く。

 

「作戦会議だ!全員一回此所から退避ッ!!!」

 

ペッパーの声が響き、一同はレーザーカジキとモルドがNPC達を避難させた場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『助けてで御座る』

「サンラク、此れはどういう事だ!?」

「俺様とアラバの身体が入れ換わってるぞ(・・・・・・・・)!?」

「ネレイス、ウサギのカラダ……ハジめて」

 

アラバからスチューデの声が、スチューデからアラバの声が、そして大海峡(だいかいきょう)依代(よりしろ)としている存在を得た者達(イグジステンツ)たるネレイスからはシークルゥの、逆にシークルゥからはネレイスの声が聞こえる。

 

「おおよそ正解です、スチューデさん。俺達はクターニッドが新たに創り出した『白の聖杯』で『アバターを入れ換えられている』状態に在ります。解りやすくするなら、キャラクターAを動かしているプレイヤーαとキャラクターBを動かしているプレイヤーβが、操作キャラを交換した感じ」

 

何かしらの条件を満たしたのか、其れともノワをテイムした事が原因なのか。何にせよプレイヤーの中身を入れ換える力は、ステータスを入れ換える『藍』、性別を反転させる『青』、ダメージを回復に変える『紫』が霞んでしまうレベルの悪辣さを誇る。

 

「えっと……今入れ替わってるのが、アラバとスチューデに」

「サンラクと俺ことオイカッツォ」

「ペッパーさんと私秋津茜(アキツアカネ)!」

「ルストとペンシルゴン、アイトゥイルとエムル、ネレイスとシークルゥ」

京極(キョウアルティメット)と僕ことモルド……」

「私と、レーザーカジキさん……ですね」

 

混乱するのは目に見えて明らかだ、使い馴れたキャラクターをボス戦闘の途中、しかも別のキャラクターに変えられるというのは、悪辣極まりないヤバさを持つ。更に言うと此の入れ換えは、パーティー全体を『混沌(カオス)の方面』へと加速させる。

 

「うぅ……大剣が使い辛い………」

「えっと、其の……ごめんなさい」

「ペンシルゴン、弓はないの?」

「私、槍武器メインなんだよねぇ~」

 

慣れないアバターを扱う場合、どうしても『ステータスやアイテム』、其のアバターが装備している武器や防具、其れ等の性能を確認しなくてはならない。ともなれば、パーティー間での『トラブル』が起きるのは必然であり。

 

「うわ、何だ此のアイテム………てかサンラク、インベントリの水晶や鉱物アイテム何?」

「だぁー!?人様のインベントリを勝手に覗くんじゃねぇよ、バカッツォ!?」

「ハァー!?減るもんでもないし、教えたって良いじゃん!」

「ハイハイ其所のバカ一号と二号落ち着く!」

『ぎゅえ!?』

 

案の定サンラクとオイカッツォが、ユニークモンスター戦にも関わらず、緊急事態下で喧嘩に発展しそうになったので、ルスト(inペンシルゴン)が二人の脛に思いっきり蹴りを叩き込み、物理的に静かにさせた。

 

が、そんな最中に一向を『緑色の光』が襲い、世界がクターニッドによって再び引っくり返る。

 

「っ!?」

 

緑色の光が収まると共に、一同の視界が開かれれば。青いコロシアムが『赤く』、皆の肌は『青白く』、見上げる空とノワは『白』で、輝く星と月は『黒く』見えていた。

 

「な、ナニ………コレ……?!」

「レイ氏、落ち着いて。コレ色調(・・)が反転してるだけだ」

「色調………た、確かに……」

「あぁ、見覚えが有ると思ったら其れか」

 

オイカッツォ(inサンラク)がレーザーカジキ(inサイガ-0)を落ち着かせ、魔神の丸薬(イヴィル・フォース)によって擬似的な色調反転を経験したサンラク(inオイカッツォ)は冷静に思考を続ける。

 

「取り敢えずは、クターニッドの持っている杯が光ると、何かが起きるのは確定と断言して良い」

「白はノワちゃんを除いての、プレイヤーはプレイヤー、NPCはNPCの『アバター』の入れ換え。緑は『色調』で青は『性別』、紫は『ダメージ』の藍色は『ステータス』だな」

「ルルイアスでの一式装備の宝閠(エネルギータンク)探しで判明したとはいえ、いざやられると此所まで厄介とはね………」

 

八種類だけと思われていた反転が、実は隠し要素でもう一つ有りました!なんて事はゲームでは有り得るパターンやハプニング、そして修正可能な範疇の誤差だ。

 

大事なのは今現在のクターニッドが持つ、五つの反転能力を発動する聖杯の『優先破壊順位の確定』をしなくてはいけない。でなければ、何時までも状況は好転しないのは明白なのだから。

 

「先ずは白と緑を破壊しよう。白はぶっつけ本番のアバターでボス戦を戦うのはリスキーだし、緑は色調が反転しているから何れが何れだか解らなくなる」

「後は発光の間隔だな。流石に引っくり返したまま進めるとは考えにくい、反転する以上は何処かしらで『元に戻るタイミング』が有る。其所を狙って杯を破壊するぞ!」

 

秋津茜(inペッパー)が最優先破壊対象を定め、オイカッツォ(inサンラク)が発破を掛けて、一同が動き出す。何にせよ、白と緑の聖杯各々の耐久を確かめる必要が有る。

 

他のメンバーが違うアバターに馴れるまでの間、ペッパー(in秋津茜)&秋津茜(inペッパー)にサンラク(inオイカッツォ)&オイカッツォ(inサンラク)が前に出て、異様に白くなったクターニッドの持つ杯を探そうとしたが、此所で重大な要素に気付く。

 

「あ!?そうだ、色調反転してるから何れが緑か解らないじゃん!?」

「白は一番奥の『黒い奴』!緑は……『マゼンタっぽい』の!」

「先ずは緑からですね!」

「よっしゃ、ぶちかませ!」

 

そう、色調反転の能力は何もプレイヤーだけに襲い掛かる物ではない。クターニッドが持つ反転の能力を宿した聖杯の色もまた、色調反転によって対極の色へと変貌するのだ。杯を傷付けない様な挙動と共に、迫る開拓者目掛けて触手の叩き付けを行うクターニッド。其れを回避しながら降りてきたマゼンタ色になっている緑の杯を、各々のアバターが持っている武器で叩く。

 

「ダメージはどうだ!?」

「くっそ、思った以上に硬いぞ!?」

「でもちゃんと、ダメージは入ってます!」

「よし、一度退避だ!色調とアバターが正常に戻った所を狙って、もう一回攻勢に転じる!」

 

緑の杯に攻撃を加えた事で、クターニッドの目玉がギョロリと四人に向いてくる。秋津茜(inペッパー)が直ぐに撤退指示を出して、オイカッツォ(inサンラク)が殿を行いつつ避難場所へと移動する。

 

だが其の時、クターニッドが持つ『黄緑色の杯』が輝き、世界が再び引っくり返された。

 

「今何が光っ!?………は?!?」

 

殿を買ったサンラクが見た物……………其れは先程ダメージを与えた『マゼンタ色の杯』、つまりは『緑の杯』を地面に荒々しく叩き付ける、クターニッドの姿であり。僅かに傷を与えた杯の傷痕を修復する(・・・・・・・)という光景だったのである。

 

其れを見たサンラクは脳内にて『色調反転下の黄緑=紫』という方程式の完成と、今の心境を叫ばざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

『おのれクターニッドォオオオオオオオオオ!!!』

 

 

 

 

 






反転の嵐、混乱する一同




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の八



越えて、越えろ




紫の聖杯によるダメージ反転が働いている間、クターニッドはダメージを受けた杯を『自傷によって再生させる特殊行動を取る』。

 

アバターと色調が反転する最中に緑の聖杯を叩きに行き、一時撤退する最中に其れを目撃したオイカッツォ(inサンラク)によりもたらされた情報は、集合地点に居たプレイヤーやNPCの顔色を、困惑や憤怒に疲弊で色付けていく。

 

「…………取り敢えず現状確認だね。今発動してる反転はアバター反転の白、色調を反転させる緑」

「後、ダメージを回復に変える紫」

「そう。しかも厄介なのは、クターニッドが持っている杯の効果は『重複』する上に、発動中に破壊したら戦闘終了まで『継続』される可能性が高い」

 

光った杯の種類を覚え、反転が元に戻った所を見計らって、杯を壊さなくてはならない。更には破壊する順番やタイミングによって、此の後に控えているだろう別形態(・・・)での戦闘に影響が出るのは明らかだ。

 

と、此のタイミングで『黒い光』が放たれ、プレイヤーやNPCを包み込む。

 

「うわっ!?」

「今のって何色!?」

「色調反転中だから………白、だって……おぉ?!」

 

視界に秋津茜(・・・)が映っている。掌を見れば、深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を装着する自分の姿(・・・・)が在る。

 

「も、元に……戻った……?」

「成程、クターニッドが持ってる杯は『ランダム』に光るが、同じ杯が光れば効果が切れて『元に戻る』って訳だ………!」

 

自分が製作・育成した元々の身体(アバター)に戻った事に、一同は安堵する。そして現在のクターニッドを攻略する上で、一番必要だった情報がエムルがもたらしてきた。

 

「サンラクさん、大体『30秒』間隔で光が来ましたわ!」

「よし、ナイスだエムル!」

 

アバターや色調、ダメージが回復に変わろうとも、時間を計ったエムルによって、クターニッドが持つ杯の発光間隔が割れた。其れによってペッパーの思考が、ある攻略法を導き出すに至る。

 

「皆、今装備してるクターニッドの一式装備には発光間隔と同じ時間だけ、装備者から半径30m内限定の反転能力を行える機構が有る。其れを使ってクターニッドの反転の能力に対抗出来ないか、少し確かめてみたい」

「OK。頼んだぞ、リーダー!」

 

一同が動き、ペッパー・秋津茜(アキツアカネ)・オイカッツォ・サンラクは三度になるクターニッドとの対峙をし、他のメンバーも色調反転とダメージ反転の効果が継続する中で、インベントリアを所持するサンラク・オイカッツォ・ペンシルゴン・京極(キョウアルティメット)は其の中から『回復ポーション』を取り出した。

 

「色調反転中の白の杯は『黒色』!」

「紫の発光前に出来るだけ削り切る、やるよ三人共!」

「了解だよ、ペンシルゴン!」

「ペッパー、囮は頼むぞ!」

「任せとけ!アイトゥイル!ノワ!ルストとモルドの援護を頼む!」

「はいさ!」

『ワゥ!』

 

ペッパーが深淵を見定む蛸極王装の能力の一つ『無限潜航(むげんせんこう)』で、空中で在りながら水中(・・)としての判定が残る夜空を自在に泳ぎ、クターニッドの周りを目障りな蝿の様に飛び回って注意(ヘイト)を集め。其の間に移動した四人が降りてきた黒の杯………元は白の杯目掛けて、小学生の運動会の玉入れじみたポーションを投げ当て始める。

 

回復の力を納めた液体の入った硝子瓶が、黒の杯に当たって砕けて割れて。黒の杯にブチまけられた液体(中身)が、硫酸が鉄を溶かすが如くアバターを反転させる白の杯を、ジュクジュクと蝕むようにダメージが入っていく。

 

「ペッパーが見付けた攻略法、まさに此の時の為に取っておけって事だったか……!」

「今ダメージ反転中だから、間違っても誰かに誤爆するのだけは止めてよ三人共!」

 

初見殺しも甚だしいが、其の初見殺しに備えてポーションを買い込んでいたペッパーもヤバい。実際回復をポーションではなく魚で代用したからこそ、此の局面において白の杯に明確なダメージを与えられているのは事実。

 

だが此所でクターニッドはペッパーに対し、黒の杯をぶつけに行くという荒業に出たのだ。其れも回復ポーションを大量浴びた状態であり、何よりも反転効果が働く此の状態は毒液まみれに等しい物であり。

 

「ッ、危な!?」

 

下手すれば自分の纏う鎧を溶かされると、咄嗟のガードではなく反射的に回避の選択肢を取ったペッパー。そして『お前なら其の行動を取るよな?』と言わんばかりに、クターニッドの目が喜悦(・・)による弧を描いて笑うのを見て。

 

同時にプレイヤーとNPCが見ている視界が、一瞬で『黄緑色の光』に包まれる。

 

「ダメージ反転が元に戻った!レーザーカジキとルスト、そしてエムルにアイトゥイルは遠距離攻撃で白の杯を狙え!」

「回復ポーション投げ中止!今なら普通にダメージが通るよ!」

「────射抜く!」

「【加算出力(アッドブースト)マジックエッジ】ッッッ!」

「行きます【アクアクラスター】!」

「【華魔威断(カマイタチ)】!」

 

サンラクとペンシルゴンが、クターニッドの注意を惹くペッパーをサポートするように、メンバーに指示を出し。ペッパーが注意を惹き付けた事で、安全に移動出来た魔法と物理の遠距離攻撃手段持ち達が、一斉に色調反転した黒の杯────即ち白の杯に持ち得る最大火力による集中攻撃を、此れでもかとばかりに叩き込む。

 

バフをモリモリに盛られた剛弓から放たれた一矢が、加算詠唱による威力上昇を施した魔法刃が、雨のように叩き付ける水の槍達が、旋風に乗って敵を裂き斬る妖の名を乗せる風魔法が、黒の杯へと打ち込まれ。再びアバターの反転なんぞさせんとばかりに、ある種の憤怒が籠った怒濤の攻撃達によって杯には致命的な亀裂が迸り。

 

「貰うよ、白の杯!」

 

振り下ろされる触手の合間を潜り抜け、次の発光まで残り五秒といった所で、京極の繰り出した風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】の太刀先による牙突が、走った亀裂に駄目押しを叩き込んで刺し。

 

「オイカッツォ!」

「はいっ───よぉ!」

 

同じく其所へ全力でダッシュし、京極が作った種火(きずぐち)をオイカッツォが渾身の混合拳気(こんごうけんき)火緋彩(ヒヒイロ)】で柄を拳で殴り付け、パイルバンカーの一撃が業火(はかい)に変えて。遂に黒の、色調反転下でアバターを反転させる『白の杯』を打ち砕いた。

 

「よっしゃあ!白の杯ブッ壊」

「30秒ですわーーーーー!!!」

「何でくっ………!?ステ────」

 

黒の杯が存在を維持する力の根幹()を失って消える最中に、世界を『黄色の光』が塗り潰し。ペッパーが言霊を放たんとするも一歩遅く、次の瞬間には左手に握る六道極円盾(リクドウキョクエンジュン)天獄(テンゴク)と、右手に握る星皇剣(せいおうけん)グランシャリオ。

そして兎月【暁天(ぎょくてん)】が重くなり(・・・・)、同時に巨剛触手が機能停止(・・・・)した事で装備を維持出来なくなって武器が溢れ落ち。同時に彼の目の前のウィンドウは『装備出来ません』の表示が現れたのだ。

 

「な──そうか、色調反転中の黄色は『藍色』か!!何が入れ替わって!?」

 

ステータスを要求しない勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)聖盾(せいじゅん)イーディス以外の武器全てが装備出来なくなったペッパーの、確認の言葉を遮るようにクターニッドの触手が襲い掛かる。

 

天獄が装備出来なくなった事で、一式装備時限定能力が封じられたペッパーは、ミルキーウェイを起動。グランシャリオを、巨剛触手より離れて地面に落ちた武器達を、速攻拾ってインベントリアに入れ込み、更に回収したイーディスを構え、突差に弾い(パリィし)て受け流すが、クターニッドの触手の圧倒的な力によって押し飛ばされ、地面をゴロゴロと転がされてしまう。

 

「あーくん!今確認したけど、入れ替わったのは『筋力と耐久』だよ!」

「敏捷かスタミナだったらヤバかった………!」

 

ペッパーが立ち上がった其の刹那、まだ『20秒』しか経っていないのにも関わらず、クターニッドが持つ『橙色の杯』が瞬き輝き、視界を『橙色の光』が開拓者達とNPCを包み込む。

 

 

 

今再び、クターニッドによって世界が引っくり返された。

 

 

 






反転地獄に躍り狂う




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の九



反転すれば、また地獄




「うわっ、元の色は何色だ!?…………んんん!?」

 

色調反転下での橙色の杯が持つ、橙の輝きが世界を染め上げる。同時に自分の声が『異様に変声』した事と、深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)がまるで『呼吸』をするかのように膨らみ、そして吸い込んだ息を吐くようにして、鎧の形を変化させ始めたのだ。

 

其れはまさに女スパイ(・・・・)が着る『レザーキャットスーツ』のような形状と、身体の輪郭を強調するスタイルへと自己変化を行ったのを、ペッパーは目撃し。空いた右手で自分の胸を触れば『膨らみ』が在った事で、ペッパーは色調反転下で何が起きたのかを知るに至ったのである。

 

「橙色=青色………!全員一回撤退して、もう一度作戦を建て直すッ!!!」

 

最大の障害たるアバター反転の白は破壊こそ出来れど、尚も残るは悪辣極まる紫と藍色、そして青に緑の四色の杯。だが其れでも、開拓者達は挫けない。熱意の焔が、己の瞳に燃え続ける限り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~うん。色調反転状態だが、一応点呼を取るよ。先ず鮭頭はサンラクだよね?」

「どうも。(ワタクシ)大トロの女神ですわ」

「ぶふぉう!?」

「ふっくくくく……鮭じゃん、鮪じゃないじゃん……」

「サンラク、あんまり笑わせるなよ………」

 

不意打ちで笑わせてきたサンラクだが、身長150cmの身体まで縮んだだけでなく、胸にはハンドボールサイズの膨らみが二つ付き、晒しのような物が巻かれている。

 

「あーくんも170cmくらいかね?ちょっと縮んだかな?」

「あぁ、ペンシルゴ………ン?」

 

目の前に乙女ゲーム内の攻略対象で、眼鏡が似合いそうな気取ったイケメンが立っている。元々のキャラメイクが凝ってるからか、性別反転しても似合っているのは、天から与えられた物の格差で、時折神様は無情だと思うのだ。

 

「いやぁ、コレ凄いよね。クターニッドの青い杯は、僕達の『性別』どころか『声帯』も反転させるみたいだ。コレは僕的に『大当たり』だよ」

「まぁじかぁ………俺『生えた』だけなんだけど」

「えっと、オイカッツォ……だよな?あと女性陣が居る中で、其れは流石にデリカシーが無くない?」

 

昔の戦国無双レトロゲーの耽美系イケメンに成ったからか、益々着物と袴が似合う明治時代風な姿をしている京極(キョウアルティメット)は、笑顔でウキウキとしていて。逆に見た目こそ変わってないが、声色には『若干の渋さ』が出たオイカッツォが、非常に遠い目をしている。

 

だが見た目が変わらないというのは、一件『デメリット』にも見えるが、逆に見れば自身の身体を動かす事にプレイスタイルの比重を置いているオイカッツォには、全く問題無いと見れるのだ。

 

「クターニッドにすら『受け』認識されるって、相当じゃないのカッツォきゅん?いや、今はカッツォ君だったか………」

「うるせー。ばるんばるん胸揺らしてないで、服着ろって………あぁ、リュカオーンのせいで着ても、ギャグみたいに破砕されるんだっけな?サンラクちゃん?」

「90スレ突破おめでとう」

 

サンラクのカウンターにスン………と目が死んだオイカッツォ。そして一同の視線は、他のメンバーに向けられる。

 

ギッチギチの忍者服に浮かび上がった筋骨隆々の、言い方を変えれば脂が乗っているガチムチな筋肉と、額には狐の面をちょんと乗せた、カイゼル髭のおっさんフェイスの秋津茜(アキツアカネ)

 

少女漫画のイケメンを実体化させたかのような八頭身の男が、ぱっつんぱっつんの女性用服を着ているという、何とも形容し難い状態になったルスト。逆に男物の魔術師衣服に身を包んだ、少女漫画のヒロイン並の背丈まで縮んだモルド。

 

だが何故だろう、今の姿の方がルストとモルドが似合っている、此の不思議な感覚は………。

 

「な、なな…………」

「ぼ、僕どうなってるんですか……!?」

 

高校生の背丈まで縮んで纏う白亜の鎧がブカブカに成った上に、作っているボイスが『元の物』に戻っているサイガ-0と、逆に身長180cmでボンキュボンのスタイルになったマリリン・モンローフェイスのレーザーカジキという、これまたおかしな方向で性別反転が起きているプレイヤーが居たり。

 

が、そんな最中に『マゼンタ色の光』が襲い掛かり、今まで反転していた色調が元の状態に戻った。

 

「やっと戻ったか……面倒な事しやがって」

「さっきのは緑だね……色調反転から潰す?」

「ザンラグざん!なんか、なんか生えてるですわぁ!?」

「エムル、ステイ!」

『ワゥ?!ワゥ!?クゥン!』

「ペッパーはん、コレって!?」

「ノワ、アイトゥイル落ち着いて。深呼吸、吸って……吐いて……」

 

サンラクがエムルを、ペッパーがアイトゥイルとノワに落ち着くように指示を出す最中、今度は紫の光が世界を包み込んだのだ。

 

「今のって……!?」

「回復反転の紫、でもまだ『10秒』しか経ってないぞ!」

「サンラク、ペッパー!クターニッドはまだ実力の一片しか、我等に見せてなかったという事か!?」

「そういう事だと思います!」

『ワタシ、トクにカわってナい』

「性別が無いって事だろ!次!」

「俺様どうなっているんだ!?」

「少年から少女になっただけです!」

「ぐぉぉぉぉ……此のような辱しめを……!」

「はいはい、くっころくっころ!」

 

マッシブな鮫魚人が細身の鮫魚人になったアラバに、年相応の海賊少年は逆に海賊少女となり、精霊のネレイスは変化無く、逆に女に変わった事でシークルゥがヘタレたりと、カオスはカオスを呼び込んで面倒な事態になっている。

 

そしてそんな中で再び紫の光が放たれ、ダメージ反転が解除される。再び『10秒』という時間を置いて───である。

 

「いや、どうなってるんだ……?白の杯を壊したから『発狂モード』に入ったとか?」

「其れ面倒な事態になりそうな雰囲気しか無いんだけど?」

「理由は何だ、一応時間を測ってみるか?」

 

一定間隔で発光する筈が、いきなり『不規則化(ランダム)』になった理由を探るべく、一度攻撃を行わずに待機する一同。そして先程の紫の発光から、今度は『20秒』経過した瞬間に『藍色』が光輝き、ステータスの反転が元の状態に戻った。

 

ペッパーは直ぐにインベントリアに入れていた六道極円盾(リクドウキョクエンジュン)天獄(テンゴク)を左手に装備して一式装備状態を復活させる。そして待つ事『30秒』、ペッパーが無限潜航(むげんせんこう)によって夜空を泳いだ最中に、クターニッドが緑の杯を掲げたのを見逃さず、彼は一式装備状態限定能力の一つたる『状況改変(じょうきょうかいへん)』の効果を、言霊に乗せて言い放つ。

 

「『色調反転』」

 

放たれる緑の光に同じく反転の力がぶつかり合い、ペッパーを中心に半径30m内の色調は『其のまま』、他全てが色調反転が施された状態へ変わる。

 

「うわぁ……マジかよ」

「クターニッドの一式装備、反転の能力同士で相殺出来るみたいだね」

「時間は!」

「はいな、今ので『30秒』ですわ!」

 

ランダムになっていた間隔、安定していた時の状況。其れ等を元にして、サイガ-0が『答え』に辿り着く。

 

「もしかして、ですけど………。コレ、って……クターニッドの、一式装備を『纏ってない』と、発光の間隔………は、10秒と20秒、そして30秒のランダム(・・・・)になるんだと、思います………!」

 

つまり現状、此のメンバーの中で安定して一式装備を着け続けられるのは、ペッパーとサイガ-0だけだという事実。そしてクターニッドの藍色の杯で、ステータスが変動された場合に其れを維持出来なくなる可能性が在る事。

 

其の要素を加味して、十人のプレイヤーは此の瞬間に『満場一致』の結論へと至る。

 

 

 

 

 

『藍色の杯を最優先でブッ壊そう』─────と。

 

 

 

 






戸惑い、混乱し、其れでも往く




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十



勝筋を見付けたなら




「だぁー!!!ぐわんぐわん畝って、高い高いしてるんじゃねぇーよ、クターニッドォォォォォ!遠距離攻撃持ち、追撃頼むわ!」

「マナ回復しました!任せてください!!」

 

クターニッドの一式装備を纏っていない状態では、発光間隔が安定しないという事実の発覚によって、藍色の杯によるステータス反転からの装備不可を避けるべく、近距離攻撃可能なサンラク・ペンシルゴン・京極(キョウアルティメット)・オイカッツォが降りてきた藍色の杯に集中攻撃を仕掛ける。

 

だがダメージを与えるも、もう少しで破壊といった所で再び高い場所へと行ってしまった其れを見上げながらに、青の杯の力で女性に性別が変えられたサンラクが高音で叫びながら怒りを顕にする中、クターニッドが掲げるは崩壊まで近付いた藍色の杯。

 

此処までアバター反転の白の破壊に成功したものの、破壊後には色調反転の緑を七回・ダメージ反転の紫を四回・性別反転の青を六回挟んでからの、三度目のステータス反転の藍色が再び、開拓者とNPC達に襲い掛からんとする。

 

「3…2…1……今ッ!『ステータス反転』!藍色の杯への攻撃は一時中断、色調反転の緑を狙う!一回で壊そうと考え無くて良い!紫の『ダメージ反転』を使わせたら、他の色の杯をポーションで攻撃して、着実にダメージを与えていこう!」

 

放たれるステータス反転の力宿る藍色の光を、ペッパーは其の身に纏う深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の一式装備限定能力たる『状況改変(じょうきょうかいへん)』によるジャストタイミングで相殺。

 

巨剛触手で握る星皇剣(せいおうけん)グランシャリオに納めた自分の墓守編を、彼は『五番目の穴』から『四番目の穴』へとセットし直しつつ、右手に持ち替え直してサンラク達の援護に走る。

 

「レイ氏、青の杯にダメージを与えに行きます!」

「サンラクさん、私が攻撃、を……行ます……!…上手く、引き付けて……下さい!」

「よっしゃ、やってやろうじゃねーか!ペッパー!近接職組を出来るだけ、効果範囲内に押さえてくれ!ルスト・モルド!ステータスは今何が入れ替わってる!?」

「技量と器用!」

「今回はセーフ」

「把握した!ペッパー、カッツォとペンシルゴンと京ティメットの援護!俺は此のステータス反転は問題ねぇ!」

「解った、けど油断するなよ!」

 

無限潜航(むげんせんこう)によって夜空(ソラ)を泳ぎ、スポットライトの如くオイカッツォ・ペンシルゴン・京極(キョウアルティメット)が戦う青の杯が在る範囲を納め、クターニッドが放ったステータス反転の力を中和。

 

正常な状態に書き換え直しつつも、振り翳される巨大な触手に対処しながら、彼はある『言葉』の意味を思考していた。

 

(クターニッドが言っていた『ポエム』………もしかして俺達に対する『ヒント』だったりするのか?)

 

『届かぬ高みはなく、然れば至りて後に人は何処へ征く……信ずる己を見出せ。世界が変わり果てようが、根幹は決して揺るがない』

 

色調が変わり、見ている景色が変わり果てても。己の鍛えた筋力が、例え頑丈さに置き換わろうと。自身の操るアバターが、他者が作り上げたのアバターになろうが。自分という存在(・・・・・・・)は、絶対に変わらない。

 

クターニッドは形態移行時(・・・・・)にポエムを放っていたが、よくよく噛み砕いて考えれば其れは、自分達へ攻略に関する『ヒント』を出しているのだ。

 

「つまり『此の状態』のクターニッドの攻略法は唯一つ………!」

 

九つの杯がもたらす妨害を掻い潜り、正常に戻ったタイミングを狙って壊す。其れが今の自分達が、クターニッドに対して行う事なのだ。

 

「全部の反転が正常に戻った所で、晴天流(せいてんりゅう)『最大攻撃判定技』をぶちかます……!」

 

高い場所にある緑の杯へ肉薄し、グランシャリオの鋒を牙突の構えと共に終極刺突(グルガ・ウィズ)を起動。単発しか出せない代わりに、現在判明している刺突属性攻撃の中でも最上位クラスの威力を誇る上、槍武器にも使える大技でもある。星の刃が緑の杯へ突き刺さり、僅かながらピシリ……と鈍い音が耳に響く。

 

「そして追撃!」

 

グローイング・ピアスを起動、ドリルピアッサーからの進化によって発現した多段ヒットする刺突スキルにして、ヒット回数に応じて威力に補正が入る技であり、特に刺突攻撃によって刃を敵に突き刺した後に繰り出せば、ミキサーの如く敵の内部を攻撃する為、破壊力が桁違いに上昇する。

 

緑の杯に走った亀裂がグローイング・ピアスによって押し広げられ、ダメージが積み重なっていく。

 

「30秒になりますわー!」

「っと、そろそろか!何でくる…………『青』か!」

 

青の杯が光を放ち、性別反転が元に戻る。未だステータス反転が残っているが、此の30秒で青へ集中攻撃を仕掛けて破壊しなくては、NPCが露骨にヘタレてしまって全体的攻撃力(DPS)が一気に落ちてしまう。

 

「『ステータス反転』!青と緑の杯を集中攻撃して破壊しよう、今は元に戻ってる!」

「よっしゃ、ぶちかませ!」

 

剣撃・槍撃・拳撃に加えて、魔法や矢による射撃と斬打突による怒濤の追撃が青の杯にダメージを重ね。

 

「決め、ます………ッ!」

 

フィニッシュはサイガ-0、振り上げたスレッジハンマーの一撃が、遂に青の杯に作った傷口にめり込み、杯の原型を打ち砕いて破壊するに至り。

 

「レイ氏、俺達で紫にダメージを!」

「はいっ!」

「ペッパー、アラバァ!そっちは緑を頼む!」

「任せろ、向かっている!」

 

休む間も無く、夜空を泳ぎながらに緑の杯へと先んじて肉薄するは、ペッパーとアラバ。

 

「アラバさん!剣武器で杯を狙うなら、斬るよりも刺突の方がダメージ入ります!」

「解った!やってみよう………うおっ?!」

「させるかっ!」

 

巨剛触手を動かし、握り直した聖盾(せいじゅん)イーディスで受け流(パリィ)しながら、アラバの進む道を切り開く。

 

象形剣(しょうけいけん)棘珊瑚(いばらさんご)”!!! 」

 

ゴズッ!っと重い一撃が緑の杯へ走り、致命的な亀裂が生じた事から、アラバ自身の筋力は凄まじい物だと理解するに至り。

 

「アラバちゃん、ラストは任せて!」

「頼んだ、任せるぞ!」

「ペンシルゴン、俺の触手を足場に使え!」

「オッケー!」

 

巨剛触手で作った道を利用し、ペンシルゴンがバフスキルで強化を施しながらに、マサクル・バイトを使って疾走と跳躍。ペッパーとアラバが作り出来上がった亀裂へ、致命の槍(ヴォーパルスピア)を振るいて『日差しの穂先(スピアオブサンレイズ)』と共に連続刺突を叩き付け。

 

「はああああああああああッ!!!駄目押しッッッッッ!!!持ってけぇ!!!」

 

グローイング・ピアス起動、突き刺した亀裂へ荒々しく螺旋のエネルギーが打ち込まれ、緑の杯を穿ち貫いて破壊する。

 

「緑の杯、破壊完了ッ!」

「後は藍色と紫だけだ!」

「あと少しで30秒ですわー!」

 

エムルの声が響く、一同が身構える中で起きたのは紫の閃光。

 

「乱数ァーーーーーッ!!!!」

「『ステータス反転』!回復ポーションを持ってる人は用意、藍色と紫を次の反転で壊せる程度まで削る!」

 

万が一に備え、回復ポーションをインベントリア内に貯蓄しておいて正解だったと思いつつ、其れは其れとしてダメージコントロールを行い、此の形態での決着を着けに行くのだった………。

 

 

 

 

 







戦う事は示す事





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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十一



蛹を破り、蝶は舞う




「させるかバカヤローーーーーーーーー!」

 

紫の発光を経てダメージと回復の関係が正常に戻った所を破壊し、藍色の発光による正常化からの残り十秒で、藍色の再発光が迫り来る中において、サンラクはフリットフロートによる跳躍と共に、傑鉄への鐵鎚(タウスレッジ)を振るい翳して鎚武器スキル・王壥粉砕(キングス・ドミネイト)の渾身の一撃を叩き付ける。

 

紫によるダメージ反転の中でポーションによる玉投げ合戦により、既に限界一歩手前に近付いていた藍色の杯は、当初の予定とは異なり一番最後になってしまったものの、漸く破壊するに至り。其の光はクターニッドへと吸収されたと同時に、プレイヤーやNPCの全員の頭に声が響く。

 

『世界が変わり果てようと根幹は揺るがず、されば人は星の海を未だ泳ぐのか……』

 

全ての杯が破壊され、九つの輝きを失ったクターニッドだが、其の巨体と共に在る触手が静かに『折り畳まれ始めた』。先程まで杯を砕かんとした自分達と戦っていた、クターニッド(・・・・・・)がである。

 

「マジかよ……」

「あれが普通の蛸なら滑稽なんだがな……」

「……身動ぎだけで、私達を殺せる蛸相手に下手に笑うのは厳しい」

 

ルストの言葉にサンラクが頷いたし、何なら自分も頷ける。滑稽な行動………幼稚園児の絵空事の様な事態すら、実力が伴っている場合にやられた場合は怯えや恐怖に憤怒の感情の方が勝るのは、人間なら誰しも良くある事なのだ。

 

有機的な蛸の形をしていたクターニッドの触手が、立体かつ直線的に胴体へと折りたたまれていくのを、メンバー達は目撃した。コンピュータ上でグラフィックを作る際の直線同士を繋ぎ、そして作る『モデリング』の其れを無理やり折り畳んでいく感じに。

 

巨大な触手が、眼球までもが、胴体へ折り畳まれて。其れはまるで、出来損ないのリンゴの貌をした『黒い塊』へと変わったクターニッドは、内側からぐむぐむと。まるで『クターニッド』という()を突き破らんとして、円の輪郭を不気味に歪めていく。

 

『遠く、遠く、遠くまで来た。私は彼女の故郷を知らない。私の故郷は星の海と同胞と彼女の笑みであった』

「ポエムが来た、次の段階か?」

「いや、長文だな………『最終形態』か、其れとも……」

 

警戒するに越した事は無い。武器を構えつつ、膨張していくクターニッドを見ていると、いきなり其の膨張はピタリと停止し。僅かな時間を置いて、クターニッドに起きたのは『収縮』………しかも身体が萎むのでは無く、サイズだけが小さく圧縮され始めたのだ。

 

『此の世に()りて、されど此の世に()らざるもの。我が身に肉は無く、我が身に骨は無く、我が身に血は流れぬ』

「まぁ骨が無いって蛸ですもんね!」

「ばぶっふぅ!」

「確かに軟体類なので骨は無いですけども……」

秋津茜(アキツアカネ)ちゃん、ステイ」

 

モルドが盛大に吹き出して、ペンシルゴンが槍の柄で秋津茜の頭を軽くコツンと叩いた。そしてレーザーカジキは生物的な解説をするのは良いが、出来るだけ気を緩めないで欲しい。

 

「だ、大丈夫だから……そんな目をしないで………」

 

サンラク・ルスト・オイカッツォ・ペンシルゴン・京極のジト目がモルドへ突き刺さる。ゲーマーというのは基本、損切り感情が出来る人間でもある。

 

戦力にならないなら全力で切り捨てに行くし、そうじゃなくても上手い理由を着けて避難させたりと、当たり前のように出来る。自分の場合は其れを加味した上で、どうやって攻略するかを思考するが。

 

『であれば、私は妄想を事実とし、幻想として生じ、空想より出でて想像と成らん。故にこそ、故にこそ我は仮想と成りて、血肉と骨を求む』

焼肉が食べたい(・・・・・・・)って事でしょうか?」

「秋津茜、ステイ」

「ご、ごめんなさい!」

 

オイカッツォが秋津茜を止めるが、今のポエムはクターニッドの『合計の形態数』及び『次の形態で成すべき事』の大きなヒントになる。

 

おそらくだが、ルルイアスへと招いた触手を振るう姿が『妄想態』。要石のギミックを解除した事により、魔法陣から九十六本の触手で、高速ホーミング攻撃を仕掛ける『幻想態』。其れ等を全て返した事で、九つの反転能力を宿した杯を持つ『空想態』に変わり、今は血と肉と骨を求めている『仮想態』という事になる。

 

そして各々の形態は『ミニゲーム』のような物を経て、少しずつ『実体』へと迫りつつある事。即ち最終形態であろう『想像態』に向け、自分達が何をしなくてはならないかが、秋津茜の放った何気無い台詞によって、ペッパーは『ハッキリ』と判った。

 

「全員周囲警戒!NPCの安全を最優先で確保しつつ、敵の攻撃に備えて!今のクターニッドは『腹を空かせてる』、だから出前(・・)を頼むつもりなんだ!」

「は、出前!?」

「出前………?………!サンラク、さん!」

「レイ氏の考えてる事は多分『正しい』、全員周囲を警戒しろ!一気に来るぞッ!」

 

サンラクの声の直後、縮小と圧縮の成れ果ての末に空間に空いた、光をも呑み込む漆黒の穴(ブラックホール)と化したクターニッド、其の周囲に────否。此のコロシアムに数十もの、非常に見覚え(・・・)の有る『魔法陣』が無造作に展開される。

 

「マジか…………!」

「アレって………『ランダムエンカウンター』!?」

「オイオイオイオイ!?!」

 

ペッパー・サンラク・オイカッツォがクターニッドがやらんとする事に気付き、クターニッドは其の答え合わせをするが如く声を放った。

 

『命脈の波濤に抗え、闘争こそが命の本質故に』

 

同時に起動したクターニッド専用に調整されたランダムエンカウンターが発動、其処からコロシアムへモンスター達が一斉に解き放たれたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クターニッドの眷属と成ったマーマンゾンビに人魚、二十体合体のハイパーウルティメットカイセンオー、深海の強者達が集うという此の状況を表すならば、まさに『地獄』の二文字こそ相応しい。

 

「死ぬですわーっ!?此れ絶対死ぬですわーっ!?!」

「エムル、泣き言はラビッツに帰ってからだ!兎に角腐れつみれ含めた敵を、一体でも多く倒せ!よっしゃモンスタートレイン逝くぞオラァ!」

「其れだと死ぬですわァァァァァァァ!?」

 

ゾンビゲーと無双ゲー、格ゲーに狩りゲーを全て足して割らなかった様な、一週周って世紀末の様な光景にエムルの悲鳴が木霊しながら、現れたギガリュウグウノツカイことアルクトゥス・レガレクスをモンスタートレインしたサンラクが、マーマンゾンビと人魚の軍勢に押し付け倒していく。

 

「………なにこれ」

「所謂『仲間を呼ぶ』コマンド!マーマンゾンビを一体でも倒さないと、クターニッドの最終形態の体格にも関わる!一体でも多く倒して!」

「………解った、モルド」

「うん!」

「レーザーカジキ!複数体を狙える魔法を使って、マーマンゾンビと人魚達を攻撃してくれ!魔法は増乗幅響門(パワーゲート)を一発放てる分だけ残せば良い、思いっきり咬ましてやれ!」

「はいっ!」

『ルゥガァ!!!』

 

モルドのバフを受けたルストが矢を放ち、レーザーカジキはフレイムクラスターを降らせながら、マーマンゾンビや人魚達を次々と討ち取る。オイカッツォやペンシルゴンを始め、近接職業のメンバーも現れた敵を倒しては次の敵にも同じ事を繰り返す。

 

クターニッドが行ったランダムエンカウンター……言い換えるなら『真・ランダムエンカウンター』と言える其れにより呼ばれたモンスター達は、現れてから『15秒が経過』すると黒い穴に成ったクターニッドに吸い込まれ消えて行く。おそらく仕留められず吸い込まれた敵が其のまま、クターニッドの食事にされるのは間違いでは無い。

 

「ウェザエモン・天津気(アマツキ)さん!貴方の絶技────使わせて頂きますッ!」

 

右手に握るグランシャリオ、真ん中に納められた蒼桃色の宝玉が輝き、ペッパーは無限潜航(むげんせんこう)にて戦場へと飛び上がり、大きく……大きく息を吸い込む。

 

(晴天流(せいてんりゅう)(そら)】──────奥義(おうぎ)!)

 

晴天流の派閥の中でも其れは、取分『吐息』によって吐き出される空気の振動へ着目し、空気中を満たすマナ粒子を振動させる事により、不可視の攻撃を可能とする技でもある。

 

彼が再現せんとする絶技(其れ)は、七つ有る奥義の中で『最大の攻撃範囲』を誇り、仮に其の発動を許したならば周囲の敵は、マナ粒子の振動(・・)によって電子レンジの如く『沸騰して弾け飛ぶ』が、発声の出力と波長を調整する事によって、敵のみ(・・)を爆発させる芸当も可能としている。

 

水中というダイレクトに衝撃波が襲い掛かる特性、そして空中及び地上でもあり更には水中としても判定が働く、此のルルイアスの環境。其れ等を存分に活かして利用した、其の奥義の名は。

 

 

 

 

 

 

 

天鬼夜咆(てんきよほう)

 

 

 

 

 

 

 

人間やNPCとノワを除き、敵にのみ届く波長と音域で放つ、ウェザエモンの絶技。其の一喝が、襲い掛かる海の猛者達へと叩き付けられた。

 

 

 

 






荒れ狂う者共へ一喝




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十二



未来への咆哮




ユニークモンスター・墓守のウェザエモンことウェザエモン・天津気(アマツキ)が使用した七つ有る晴天流(せいてんりゅう)の一つにして、吐息によって生じる空気振動を利用した【(そら)】系統の奥義、そして発声と同時に不可視の衝撃波によるフィールド全域に渡る超広範囲攻撃『天鬼夜咆(てんきよほう)』が、クターニッドの真・ランダムエンカウンターで呼ばれた眷属や人魚、そして深海の猛者達を相手に炸裂する。

 

ペッパーが放つ息と衝撃波は、プレイヤーやNPCにリュカオーンの小さな分け身たるノワを傷付けず、かつ呼び出されたモンスターにダメージが与えられるように、音量調節を施しながらコロシアムを、クターニッドが浮かぶ空間を揺らし、マナ粒子の震えが眷属のマーマンゾンビや人魚に呼ばれたモンスターの身体を爆発させていく。

 

(天鬼夜咆の効果時間は、発動者の『スタミナ』と吸引した『空気』が尽きるまで継続する……!あのランダムエンカウンター、15秒ペースで発生しては15秒で吸引していく、かなり『特殊なタイプ』みたいだ!なら発声する際の出力を抑えつつ、一定のペースを刻みながら放ち続けろ……!此の状態だと、持って『二分』が今の俺が出せる天鬼夜咆の総合時間ッ!!)

 

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)窮速走破(トップガン)を使えば、もう少し時間を延ばせるだろうが、後に控えているだろうクターニッドの最終形態たる『想像態』に備えるべく、此処では使わない選択肢を取った。

 

「空気を………違う、空気の中に含まれてるマナを振動させて、僕達がダメージを受けないで敵がダメージを受けるようにしてる……?」

「多分………そうだと、思います………。あんなスキルが有るなんて………」

「墓守のウェザエモンの使う、七つ有るスキルの一つ『天鬼夜咆』。ペッパーがウェザエモンの晴天流を使えるってペンシルゴンから聞いたけど、成程こういう原理だったか」

 

天鬼夜咆の能力は本来『大声を出して相手を怯ませる猿叫的な発声法(・・・)であり、同時に息を吐き出しきって大きく吸い込み、酸素をより多く補給する為のリセット技(・・・・・)』でしかない。だがウェザエモンレベルとも成れば、発声ですらもマナに干渉・其れを利用した攻撃方法へ転用出来るのだろう。

 

ランダムエンカウンターが続く中、およそ二分弱に渡り空気中のマナを振動させて、敵を爆発させながら倒していったペッパーだったが、此処で天鬼夜咆の効果が終了。腹から声を出し、スタミナが切れた事で動けないリーダーに代わり、皆も現れた手頃な敵を倒してクターニッドに食事を与えない事が大事になる。

 

「ペッパーがマーマンゾンビ共を粗方ぶちのめしてくれた!デカいのは最初(ハナ)から倒せるとは思ってねぇ、兎に角敵の数を減らして!減らして!!減らしまくれ!!!」

 

呼び出されたアルクトゥス・レガレクスは吸い込まれ、何回目かのランダムエンカウンターで呼ばれた、空母鮟鱇ことスレーギヴン・キャリアングラーの注目(ヘイト)をサンラクが集めて、艦載機となった眷属達を引き寄せた所をオイカッツォ・ペンシルゴンが叩き、討伐する。

 

だが15秒が経過してスレーギヴン・キャリアングラーは残っていた艦載機眷属共々、クターニッドの口の中に吸い込まれてしまい、エネルギーを与える事になってしまう。

 

「くっそ、一体何時になったらランダムエンカウンターは終わるんだよ………!」

「一分で四回ペース、此処まで四分越えの計十九回……!」

「武器の耐久もそろそろヤバいね……槍も切り替えなくちゃ」

「カッツォは良いよな、拳でぶん殴れるから武器消費しないの」

「いやいや、此れでもめっちゃ疲れるんだが?」

 

雑魚敵が如何せん多い上に、耐久減少や耐久回復の武器を全員が持っている訳ではない。弓系統の武器は矢を放つだけで耐久値が減り、魔術師にとってMPの枯渇は死刑宣告と同義である。素手で戦う・武器の耐久減少無効・特定の方法で耐久回復等が無ければ、最大で七日間という長期戦を戦い抜くのは不可能に近いのだから。

 

「二十回目……来ます!」

 

クターニッドのランダムエンカウンターが発動、現れるは『超巨大な魔法陣が三つ』。其処から出てきたモンスター達は、ペッパー・サンラク・ペンシルゴン・サイガ-0・ルスト・モルド・レーザーカジキにとって、数日前に見たあの光景に等しく。

 

「ピェッ!?」

「何てことなのさ………!?」

「嘘だろ!!?全員今すぐコロシアムから退避!スチューデさん達NPCを守り抜いて!!早くッッッッ!」

 

最後のランダムエンカウンターにて呼び出されたのは、二属性鯱のアトランティクス・レプノルカに、要塞ヤドカリのアーコリウム・ハーミット、そして空母鮟鱇たるスレーギヴン・キャリアングラーという地獄絵図。

 

『称号【三強謁見(さんきょうえっけん)】を獲得しました』

 

深海三強に初めて出逢ったプレイヤーには、新たな称号が追加されて。そしてルルイアス大怪獣決戦の再演は、アトランティクス・レプノルカが放った蒼い大放雷と共に、コロシアムは愚か他の強者に対して喧嘩を吹っ掛けた事で開幕し、ペッパー達は其のとばっちりを諸に食らう羽目に成ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………皆~、生きてるか~………」

コレ(・・)がどう見れば大丈夫と思うか?」

「マジで死ぬかと思ったですわ………」

「デスヨネー………アイトゥイル~、ノワ~……生きてるか~」

「何とか………なのさ………」

『ワゥ……』

 

ランダムエンカウンターにて呼び出された深海三強達による、コロシアムを舞台にした大怪獣決戦は二属性鯱が放電をぶちかまし、空母鮟鱇が艦載機達を無作為にブッ放し、要塞ヤドカリが生物を無造作に産み出してぶつかり合うという、此の世の終末か何かと言える状況を創り出してコロシアムを壊滅状態まで追い込み、最終的には全員仲良くクターニッドの口の中に吸い込まれて消える結果となった。

 

「スチューデさん達は……!」

「大丈夫、です……!」

「俺様は無事だぞ……!」

「俺もネレイスも無事だ、ペッパーにサンラクよ……!」

『ヨカッタ………』

「僕もルストも無事です……!」

 

声がする方を見れば、サイガ-0がスチューデを抱えて現れ、アラバとネレイスにルスト&モルドが瓦礫の後ろから現れる。横に視線を移すと其所には、ペンシルゴンに抱えられる京極(キョウアルティメット)とシークルゥが、近くの瓦礫を押し退けてオイカッツォが這い出し、秋津茜(アキツアカネ)にレーザーカジキが続く形で現れて、全員の無事が確認された。

 

「カフェインが切れて来やがった………」

「俺もちょっとヤバい………」

「エナドリ飲んだのか二人共」

 

此処までサンラクとオイカッツォが機敏に動けていた理由が判った所で、クターニッドは待ってくれはしない。何よりも此の先の決戦を踏まえて、やらなくてはならない事が有る。

 

「スチューデさ「言うな!」…………」

 

其の言葉を言うより早く、スチューデはペッパーの言葉を遮った。

 

「解ってる……解ってるんだよ……!俺様は弱いから!此処に居たら、お前等の足手纏いになるだけって事くらい!だから………ッ!俺は『船を用意する』!船長だからな!!」

 

皆の視線がスチューデに向く。小さな海賊は己の成すべき事を見付け、そして行動を起こさんとし。

 

「だから……良いかッ!お前等は『絶対にクターニッドを倒せ』!此れは『船長命令』だ!囓り付いてでも倒して、絶対に『全員で』!生きて此処から脱出するんだ!解ったか!?」

 

今にも泣き出しそうになりながら、他力本願と言わんばかりに絞り出した発破だった。だが、其れでも────小さな海賊の言葉は開拓者達とNPCの闘志に、確かな炎を灯したのだ。

 

「全く……クソガキが、一丁前な台詞を吐きやがって……!」

「コレで負けたら、一生の恥になる。────なので、負けるつもりは……無い」

「勿論です………!」

 

全員、力強く夜空を見上げて立ち上がる。スチューデの発破が予想以上に効いたらしい。涙を見せず、スチューデは地上へ帰る為の船を取りに、ほぼ全壊状態のコロシアムから外へと走り出す。

 

「レイ氏、リュカオーンを相手にやった『アレ』…………行けますか」

「はい…。……同じ手順は……必要、ですが……いけます」

「秋津茜、レーザーカジキ。二人にはアルマゲドンが万が一にも耐えられた場合に備えて、竜威吹(リュウイブキ)増乗幅響門(パワーゲート)の準備をして欲しい。クターニッドの一式装備の特徴から、体力お化けのモンスターの可能性が高い」

「はい………!」

「了解しました!」

 

視線の先には、漆黒の穴が佇む夜空とブラックホールが在り。其の黒き重力渦は光すら呑み込み、万物を押し潰す。無限に続く其の先には奥行きを視認する事、確かめる事は出来はしない。

 

だが、穴の(フチ)より伸びる()が掴み。深い淵より出で現れる姿は、まさしく其の名を体現している。

 

「深淵のクターニッド……………!」

 

深淵より這い出る蛸の頭と人の胴体を合体させた、旧神(クトゥルフ)を統べし神の化身たる其れは、血の赤色をした筋肉剥き出しの巨躯を持ち。

 

生命体魔法存在(・・・・・・・)であるからか、自身の魔法を皮膚の代用としているからか、黒い模様や文章と思しき羅列で全身を覆いつつ、自らがランダムエンカウンターにて呼び出した生物達を喰らい、己の身体へと作り変えて顕れた。

 

生きた魚や海生物をぐちゃぐちゃに混じらせ、継ぎ接ぎにして魔法を糸の様に縫い繋げたからか、潮の匂いの中で血と死の嫌悪感が混じり満ちた臭いが鼻を擽り。背中には喰らった生物達の骨で作った、仏像の後光の如く『円』と枝に実る果実に似た八つの異なる色の『宝石』が、怪しげな光を放ち。

 

そして聞こえてくるのは、クターニッドが放っているはずだというのに、複数人が一斉に喋っているかに聞こえる『声』だ。

 

 

『人よ、(あまね)く生まれ広がる一つ目の奇跡よ。人よ、前へ進み暗闇を照らす二つ目の奇跡よ。お前達は何を成す、何を為した。示せ、示せ、示せ。

天より撒かれし種よ、お前達は根を伸ばしたのか。私はクターニッド……………(とも)なる(そら)を戴く者、深き淵より世界を見遣(みや)る者、偉大なる軌跡の残照を知る者。

示せ、命の価値を。彼等の願いは、そして彼女の願いは、果たして叶ったのかを』

 

「えぇ、見せてあげますよ………俺達人間(・・)の持つ、可能性の()を!証明と言う名の()としてッ!!」

 

『闘争こそが命の本質故に、されば汝等…………そして勇者(・・)よ、証明せよ(・・・・)!』

 

チーム:不倶戴天 対 クターニッド第五形態にして最終形態たる『想像態』。此処に火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 






ラストバトル




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十三



最終決戦




ユニークモンスター・深淵のクターニッド。反転の能力を振るい、世界の持つ(ことわり)を意のままに操り狂わせ、弄び引っくり返す理不尽窮まる其の怪物は、仮想態での血肉と骨を得た事で、最終形態の想像態に移行した。

 

「デカい………!」

「吸収した輩が大物ばかりだったからな……。腐れつみれ共は粗方処理したが」

「デカい………けどまぁ、人型に成ったのは僥倖っちゃ僥倖かな?」

 

処理出来なかったマーマンゾンビや人魚、ハイパーウルティマカイセンオーにアルクトゥス・レガレクス、深海三強を吸収した其の結果、全長10m越えの巨躯─────もっと言うなら『蛸頭のゴリラ菩薩』とでも形容する見た目に成ったクターニッドを見上げながら、しかし皆の闘志は臆する事は無い。

 

「対巨人戦の心得!先ずは忠実に敵の足を崩して、頭を集中的に狙う!行こう皆、タンクは俺もやる!」

 

クターニッドの一式装備・深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を装着したペッパーは、全種装備時限定では有るもののタンク職の役割を担えるだけの装備耐久と、五万越えの体力を獲得している。

 

左手に六道極円盾(リクドウキョクエンジュン)天獄(テンゴク)を、左側の巨剛触手(きょごうしょくしゅ)秀刀(しゅうとう)白金(しろがね)】・兎月(とつき)暁天(ぎょうてん)】・風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)

右手に星皇剣(せいおうけん)グランシャリオを、右側の巨剛触手に傑剣への憧刃(デュクスラム)風竜骨の筋鞭(ストーム・ウィッパー)聖盾(せいじゅん)イーディス。

 

巨剛触手二本を用いて通常では装備出来なかった、両手武器のダンジョンアックス。両脚には甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)を装備した、所謂『完全武装状態(フルアーマーモード)』となったのである。

 

「あーくん!?何其の姿!?」

「うわ、ペッパー其の触手武器持てるの?」

「あぁ。やりようによっては、コレ『盾十刀流』とか出来るぞ」

「スゲェなオイ………」

「……対人戦で、相手したくは……ない、ですね……」

 

クターニッドの一式装備の能力が陽の目を見た事で、オイカッツォはユニークいいなーオーラを全開に、サンラクはコレで両手武器四刀流もイケるか?と思考し、サイガ-0は戦闘スタイルのキメラとの戦いは嫌だなと思い。

 

そんな中クターニッドの巨躯から豪腕による右ストレートが襲い掛かり、ペッパーはサキガケルミゴコロを使って紙一重のギリギリで回避し、其れをゴングとして全員が一斉に動いた。

 

サンラクは超過機構(イクシードチャージ)再使用時間(リキャストタイム)が経過していない煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)の代わりに煌蠍の尾鞭剣(ギルタ・アドラスカ)を手に取り、ペッパーはクターニッド巨躯の足下へ走り込み、左脚の小指にショートメイス・籠手・鞭・斧の各々に対応したスキルによる、渾身の攻撃達を叩き付ける。

 

VvvvvvvvoooooooooAAAAAAAAA!!!!

 

「タンスの角に小指をぶつけたら痛いですよね?良かったじゃないですか、生きてる内に一度経験出来て」

 

アレは人間誰しもが一度は経験するし、例外無く滅茶苦茶痛いと感じる。そして当然ながら、其れを開拓者からやられればクターニッドのヘイトは、此れを行った相手に向くのは必然であり。

 

「うわっと!?よっし、よし良いぞ!俺にヘイトが向いた!」

 

繰り出されたストレートパンチを無限潜航(むげんせんこう)で水中判定下の空中に飛んで避け、文字通り空中を泳ぎながらクターニッドの視線を一身に背負って、星満ちる夜空を勇者は一人舞い踊る。

 

「おぅ、クターニッド。夜空ばっかり見上げてるなら、土ペロさせてやろうじゃねーか!レイ氏、カッツォ!」

「応ッ!」

「行きます…………!」

 

星空を踊り、チクチクとダメージを加えるペッパーに御執心になったクターニッドの膝裏に、三つの影が高速で飛来。サンラクは金色の蛇腹大剣・オイカッツォは紫の炎纏う拳を握って右膝裏を、サイガ-0は漆黒の大剣で左膝裏を狙い。

 

一振両断(いっしんりょうだん)!」

拳気(けんき)紫崑衝(しこんしょう)】!」

「アポカリプス………!」

 

渾身の一刀両断・装甲貫通の拳・黒の重斬撃によって強烈な衝撃(膝カックン)が入った事で、10m越えの巨体が膝と両手が地面に着いた。

 

京極(キョウアルティメット)ちゃん!左手首を集中狙いするよ、頭を地面に叩き付ける為の事前投資だ!」

「オッケー、ペンシルゴン!」

「ワイも御手伝いするのさ……!」

『ガルルァ!』

 

左手首に肉薄し、翡翠の斬撃で手首の関節部を秘剣スキルで切り裂く京極と重ね掛けて斬るアイトゥイル。切り裂いた事で生まれた隙間に槍の穂先を穿ち込み、追撃のグローイング・ピアスで内部を抉ってダメージを重ねるペンシルゴンと、腕に噛み付いて歯形を刻むノワ。

 

「後頭部を貰うぞ、クターニッド!奥歯を食い縛れ!」

「ペッパー、タイミング合わせろッ!」

「任されたぁ!!!」

 

空中を泳いで接近するペッパーと、クターニッドの背中を駆け抜けながらに、蛇腹大剣から大型の籠手に切り替えるサンラクが声を掛け。

 

拳掌百手(けんしょうひゃくしゅ)渾魂注撃(ストライク・インストーラ)巧運勝闘技(デュエル・トリスティル)、ファウラム・チャージング………!」

戦極武頼(せんごくぶらい)、パーシスタンド、アルシャダーム、燐砕拳(りんさいけん)、ブラストアップ………!」

 

片や夜空を泳ぎ、片や最強種の背中を走り。バフや打撃に拳撃のスキルを拳に乗せて、二人が狙うは後頭部の真ん中唯一つのみ。

 

『ハリケーン・ハルーケン!!!』

『アガートラム!!!』

 

巨剛触手の持つ風雷皇の御手と共に、筋力・敏捷を参照する打撃スキルが。右手が持つ金色蠍の籠手に、幸運値を参照する格闘スキルが。後頭部に強烈無比な一撃となって叩き付けられ、クターニッドは誰の目から見ても解る土下座姿勢になった。

 

「よっしゃ!」

「ハッハー!土下座土ペロの気分はどーだ、クターニッドォ!」

 

渾身の一発が入った事がトリガーとなったのか、はたまたサンラクの煽りがトリガーになったのか。クターニッドが膝立ちになるや、腹から声を出したように吠えて、同時に背中に生えた骨輪に在る八つ宝珠が光を放ち、輪から分離。

 

其れは高速で飛来しながら、ペッパー・ペンシルゴン・秋津茜(アキツアカネ)・アラバ・レーザーカジキ・モルド・エムル・アイトゥイルのプレイヤーとNPCの頭上へ移動して停止する。

 

「いきなり何だ!?」

「クターニッドの特殊行動か!?」

『───Analysis(アナライシス).』

 

分析(アナライズ)に似たフレーズと共に、選ばれた八人を八つの宝珠達は光輪を作り、頭上から爪先に掛けて『検査』でもするが如く光を照らした後、クターニッドの背中の輪へと舞い戻って行った。

 

「何だったのさ………?」

「奇っ怪な光で御座るな……」

『───Reflexus(リフレクス).』

「えっ、ちょっと待って!?」

「な、嘘なのさ!?」

 

背輪に在る橙色の宝珠がクターニッドへ注がれ、巨躯は橙色に染まり。同時に其の手に巨躯たる体が振るうに相応しい『薙刀』が握られる。何よりも───ペッパーは其れを幾度も見てきた(・・・・)し、アイトゥイルに至っては衝撃其の物なのだから。

 

「マジかよ、クターニッド………!?アイトゥイルのプレイスタイルを分析(・・・・・・・・・・)から、其のスタイルを自分に反映したのか(・・・・・・・・・)!?ッうおぁ!?!?!」

「ひぃえぁ!?」

「あっぶななのさァ!?」

 

薙刀とは棒術と槍術の融合でもあり、同時に斬・打・突・近・中・遠のあらゆる戦局(シチュエーション)に対応し、敵を斬り裂き・穿ち貫き・薙ぎ払う。しかも其れが現時点で10m越えの巨躯を持つクターニッドであるならば、薙刀を主戦法として己を磨いたアイトゥイルならば、其の攻撃範囲と破壊力は文字通り『桁違い』に尽きる。

 

たった一度の薙ぎ払いでコロシアムの観客席の中腹を回転斬りにした挙句、振り回した際の衝撃波によって発生する爆風で、レーザーカジキやルストにモルドが吹き飛ばされた。

 

「うわぁぁぁぁ!?」

「今八つの宝珠にコピーされたの誰!?」

「ペッパーさんとペンシルゴンさんに………」

「秋津茜とエムルとアイトゥイルとアラバ!」

「あとはモルドとレーザーカジキか………!?」

 

クターニッドの手から薙刀が消える。変わりに取り出されたのは、左手に小鎚と両脚に籠脚(ガンドレッグ)を纏うクターニッドの姿。

 

「今度はペッパーじゃねーか!?」

「全員距離を取れ!というか、飛ばせて堪るかぁ!」

 

無限潜航によってペッパーがクターニッドの上を取り、地上から空に逃がさぬように立ち回る。振り翳される小鎚を回避し、クターニッドの眉間にショートメイスを叩き付け、更には連続キックで追撃しながらヘイトを自分一人に絞り込ませる。

 

クターニッド想像態の特徴…………其れは背中に在る八つの宝珠を利用し、プレイヤーやNPCの中から八人をランダムに選択、最も得意とするプレイスタイルを自身に反映する能力。其の上コピーしたスタイルを、クターニッド本体の任意で切り替えられるとくれば、現在八つの形態を持っているに等しい状態だ。

 

「全く、流石は七つの最強種(ユニークモンスター)だ…………!最終形態でも気が抜けないな………!」

「大事なのは、筋力や耐久が優れていないプレイヤーやNPCのスタイルに切り替わった瞬間を狙おう」

「具体的には!?」

「魔法職のレーザーカジキとモルド!」

「確かにそうですけど!?」

「物理は弱いし、仕方無いですから!」

 

兎に角やるべき事は決まった。先ずは此の高機動になった、自分(ペッパー)のクターニッドのスタイルを凌ぐ!

 

 

 

 

 






分析と反映を越えろ




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十四



行け、戦え




クターニッド・想像態。背中に存在する八つの宝珠を用いて、プレイヤーとNPCの中から『八人』をランダムに選択・分析する『Analysis(アナライシス)』と、分析したプレイスタイルを自身に反映する『Reflexus(リフレクス)』という能力を持っている。

 

クターニッドとの戦闘開始から二時間三十分、想像態との戦闘開始から四十分が経過した現在、今の形態で良悪含めて『幾つかの事実』が判明した。

 

Analysis(アナライシス)

「くっそ、また(・・)やって来やがった!」

「コピーされたのは京極(キョウアルティメット)・ルスト・エムルさん・シークルゥさん・サンラク・オイカッツォ・サイガ-0さん・ペンシルゴンだ!」

「今回の初手は誰で来る………!」

 

先ずクターニッドがコピー出来るスタイルの上限は、合計で『八つ』だけという事。どんなにやっても一律『八つ』のみであり、其れ以下でも其れ以上でもない。しかし其のプレイスタイルのコピーが、厄介な上に『問題』でもあった。

 

Reflexus(リフレクス)

「あの構え、は……オイカッツォさん、です………!」

「ごりっごりの近接だハズレ!!」

「ルスト、弓は!?」

「剛弓は限界………魔法弓は射てる」

「マナ回復のポーションと魚は有るから、バフが必要な人は言って!」

「ハイハイハイ俺頼むよ!終わったら前に出るから!」

「飛び込みつつ反射出来ないかやってみる!」

 

クターニッドは討伐戦参加者が『八人以上』の場合、プレイスタイルの分析と反映を『八分毎に一度』の間隔で随時更新(・・・・)してくる事。プレイスタイルの一新と再編成を仕掛け、此方を休ませないのは厄介極まる。プレイヤーにNPCの戦闘スタイルのコピー………成程確かに(・・・)厄介だ。

 

「ただまぁ………其のスタイルコピーには、応用(・・)が無いんだよねクターニッド」

 

戦闘を通じてクターニッドのスタイルコピーを観察し、収集していたオイカッツォが一人、モルドの潤沢なバフを受けて前に出る。対するクターニッドは拳を打ち付けて、オイカッツォへ繰り出されるストレートを左に身体を傾けながら回避して、肘関節を裏拳で殴り付けた。

 

「やっぱりだ………ある程度スタイルの『コピー』が出来るだけで、動きは単調(・・)でしかないみたいだね。今の時点で大体の情報は仕入れたから、此処から避けタンクは俺がやる!」

「サンラクとペンシルゴンは右足首、京極と秋津茜(アキツアカネ)とノワは左足首を狙って!俺とアラバさんは空中と時々オイカッツォの援護、ルスト・モルド・アイトゥイル・シークルゥさん・エムルさん・レーザーカジキは定期的に遠距離で攻撃を射し込んでください!」

「頼むぞカッツォ!其の間にキッチリ削ってやらぁ!」

 

データを収集する程に強くなるオイカッツォにとっては、今の(・・)クターニッドは『プレイスタイルのコピーは出来れど、応用が無く決まったパターンでしか動かない、体力お化けの巨大ボスキャラ』という評価が出されていた。

 

最も其れは『現時点のクターニッド』に対してであり、バフ有りとはいえど攻撃に当たれば即死は変わり無く、大前提として避ける事には変わりない。

 

 

Vuuuuvoooooooo!!!!!

 

 

「『ブ』なのか『ヴ』なのか『ボ』なのか解らないけどさ、俺はこう見えて人型相手に此の距離間だと『八割方で勝てるんだよね』?」

 

拳を回避し、バク転しながらに挑発するオイカッツォへ、クターニッドが左足を前に踏み込む。

 

「左足首集中攻撃だ、シークルゥ!」

「承った!【タケノミカヅチ】!!!」

 

サンラクの声と共にシークルゥが刀を突き立てれば、地面から急成長し無数に生える竹林達、其れがクターニッドの左足の踏み込みの重力バランスを崩し、其の巨体が左側へと傾く。

 

「レイ氏!」

「カタストロフィー…………!」

 

自身に施したバフスキルや魔法の輝きが霞む程に輝く、純白の大剣を握る漆黒の騎士の一撃に、クターニッドが派手にスッ転んだ結果、其の巨躯が観客席を、コロシアムを粉砕する。

 

「ヨッシャア!クターニッドが起き上がるまで、フルボッコタイムだオラァ!」

「アポカリプス……打てるように、します……!」

「最高の攻撃スキルや魔法は惜しむな、此処で削って『アルマゲドン』に繋げるぞ!」

 

巨大な巨人相手に小人が群がる姿は、かの童話『ガリバー旅行記』を彷彿とさせるが、人間の祖先たるホモサピエンス達も昔はマンモス狩りにおいては、多人数で戦っていたのだ。

 

「其処ォッ!!」

 

他のメンバーが頭や腹、腰や足首等の箇所へ攻撃を掛ける中、ペンシルゴンの槍の一撃がクターニッドの右目を突き刺さり、赤いポリゴンが放出。思わぬ一撃にクターニッドの巨躯がビクン!と跳ねて、アグレッシブな具合に立ち上がったのだ。

 

「ッわぁ!?」

「ペンシルゴン!!!アラバさん、サイガ-0さんの援護を!俺がペンシルゴンを助けに行く!」

「ペッパー!?流石に無茶だ、危険過ぎるぞ!」

「だからって、此のまま放って置く訳にはいかない!」

 

槍を深く突き刺したからか直ぐには抜けず、ペンシルゴンが高い場所まで連れて行かれた。暴れ始めたクターニッドによって握り潰されかねない、危険な状態だと感じたペッパーはアラバの制止を振り切り、彼にサイガ-0の援護に行くよう指示。

 

自身は無限潜航(むげんせんこう)で空中を泳ごう(飛ぼう)とした其の時。

 

『ワゥル!』

「えっ、ノワ!?」

『ワゥ!ワゥル、ルゥル!』

 

なんとリュカオーンの小さな分け身たるノワが、ペッパーに飛び付き、着いて来てしまったのだ。まるで『私を置いてきぼりにしないで!』とでも言っているかのように。

 

『ワゥ!ワゥル!』

「…………解った、左の脇に入って!ノワ、確り掴まってろよ!」

『ワン!』

 

ダンジョンアックスの武装を空中で解除し、武器をインベントリへ。ノワを左脇に入れるや暴れるクターニッドの周囲を高速で走り、ペンシルゴンがぶら下がる場所まで来た。

 

「ペンシルゴン、危ないぞ!槍から手を放すんだ!」

「あーくん、其れだけは駄目!此処に来る前にやっと手に入った大切な槍………!放したくないの!」

 

どうやら大切な武器であるらしく、色んな物を犠牲に出来るペンシルゴンがそうまで言い切る理由は気になったが、クターニッドが片目ながらに此方を把握するまで、そんなに時間は無い。

 

彼はイーディス以外の全ての武器をインベントリアに入れ、巨剛触手の一本をペンシルゴンの腹部に巻き、残りの六本全てを刺さった槍に巻き付けて、自身の筋力関係のバフスキルを全力解放するや、クターニッドの動きに合わせて視界に入らないように全力で泳ぎ。

 

「うおおおおおおおおおおお!抜けっ────ろぉあ!!!!」

「アポカリプス!」

 

最後の一押しにサイガ-0の一撃が呼び水となって、深く刺さった槍の穂先が引っこ抜け。同時に此の戦いを左右する、最大火力(アタックホルダー)の『切札』───其の第一段階が完了した。

 

「条件、達成………しました!何時でも、いけ……ますッ………!!」

「よし!さて問題は、クターニッド相手に『どうやって隙を作るか』、だが………」

「サンラク、コイツを使ってくれ!!」

 

片目を潰されたクターニッドが全身に力を込める様を見て、サンラクが思考を重ねる。一番の懸念材料はアグレッシブに動けるクターニッドの巨体を、数秒間でも止める為の方法だった。

 

そんな最中、クターニッドは其の手に槍を持ち。ペンシルゴンを無事救出したペッパーが、彼に『ある武器』を────片腕型の巨大籠手(ビッグスケールガンドレット)たる『風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)』を渡してきたのだ。

 

「ペッパー、コレお前の武器だろ!良いのか!?」

「アルマゲドン当てるにはデカい隙が必要だ!まだ煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)アレ(・・)再使用時間(リキャストタイム)、終わってないんだろ?」

 

ペッパーが睨んだ通り、サンラクのフェイバリットウェポン・煌蠍の籠手は必殺技が使えない状態に有った。

 

「其れに………此処で『全力を出さなくっちゃ』クターニッドに……ううん。クターニッドさん(・・)に失礼だからな。何らかの『とっておき』を持ってそうだけど、調べるにしてもダメージを与えなきゃ話にならない」

 

ペッパーのユニークモンスターを呼ぶ時の口調が、呼び捨てから『~さん』に変わったのを、サンラクは聞き逃さない。アレはおそらく、ユニークモンスターに対する『何か』を理解した時のペッパーだと。

 

「フッ………良いぜ、ペッパー。やってやろうぜ!」

「あぁ、皆!サイガ-0さんの切札・アルマゲドンを当てに行きます!」

 

作戦の次段階にして最難関、サイガ-0の切札たるスキル『アルマゲドン』を確実にヒットさせるが────始まる。

 

 

 






開拓者よ、往け




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十五



ブチカマス




ペンシルゴンの槍撃により片目を潰された、クターニッドの怒号がコロシアムを揺るがす。全身に力が込められて、明らかに強烈な一発が飛んで来そうな予感がある。

 

其れでもペッパーには『避ける』という選択肢は存在しない。サイガ-0は詠唱へ入った、サンラクは作戦遂行の為に位置に着いた、他の皆も万が一に備えて退避させた。

 

「スゥ──────フゥ……………!」

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の力で鎧を通しての呼吸を行いながら、ペッパーは目の前に立つ巨人(クターニッド)に向き合う。聖盾(せいじゅん)イーディスを近くに突き立てオブジェクト化し、他の武器もインベントリアやインベントリに収納している。

 

此れで心置き無く、六道極円盾(リクドウキョクエンジュン):天獄(テンゴク)の必殺技………【超過機構(イクシードチャージ)】に必要な条件たる『巨剛触手に武器を持っていない』が達成出来た事で彼は白黒の勾玉同士がくっ付いた盾を構え。

 

同時にクターニッドが雄叫びと共に、槍撃を繰り出したのは、ほぼ同じタイミングだった。

 

VVVVVVVoooOOOOOOOOOooooooooaaaaaaAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!

 

「ッ……………さぁ来い!『ヘイト集束』!」

 

紡がれた勇者の言霊を蛸極王装が読み取り、状況改変(じょうきょうかいへん)が起動。自身の領域内に入ったクターニッドの一転に凝縮された刺突が、ペッパー『唯一人』に向けられる。

 

「行こう、天獄!────────超過機構(イクシードチャージ)!!!」

 

白と黒、陽と陰、光と闇。二つの要素を反転させ、一時的という条件の元に『世界の理』を変える力を、人の身で執行可能とする神代技術の輝きが、クターニッドへ解き放たれる。

 

「貴方がルールイアに!いいえ………ルルイアスの塔に施した権能(チカラ)!其の身で体験して下さい─────【完全反射(フルカウンター)】!!!」

 

刺突が直撃し、ペッパーは貫かれて────いない。彼はインパクトの瞬間、背中に在る八本の巨剛触手を自身の背後に在る地面に突き立て、身体が吹き飛ばないように『固定』していたのだ。同時に天獄は、クターニッドが放った刺突の『衝撃』を独りでに吸収、白い部分が眩い光を放ち始めた。

 

六道極円盾:天獄には特殊な超過機構(ユニーク・イクシードチャージ)として、敵の攻撃エネルギーを吸収・何倍もの威力にして瞬間的に打ち返す機能………【完全反射(フルカウンター)】が備わっている。

 

恰かも其れは蛇口から注がれた水が、ホースを通じて押し出され放出されるのと同じように。理論上は『如何なる敵の攻撃も一発限り』にこそなるが、敵の攻撃を倍以上の火力で打ち返せるのだ。

 

「サンラクッ!」

「行くぞ、クターニッド!ギックリ腰になりやがれ!超過機構ッッッッ!!!」

 

ペッパーの叫びとほぼ同時、クターニッドの背面に回ったサンラクが左腕に装着した、風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)を握り構えながらに、コロシアムの壁をグラビティゼロにて走り、腰目掛けて跳躍する。

 

翡翠と黄金の大型籠手には既に『放出せよ(Discharging up)』が施されており、クターニッドとの戦いで蓄積し続けたエネルギーが、荒ぶる風と雷と成って音を立てているのを、サンラクは耳にし。

 

「ブチ咬ます──────【超排撃(リジェクト)】!!!」

 

出力85%による一撃、更にはクリティカルでの直撃。其の刹那を見抜いての、ペッパーが握る天獄の黒の部分が光って。次の瞬間には深淵のクターニッド・想像態の全身を自身が放った攻撃エネルギーと雷による衝撃、更には風によるノックバックが襲い掛かり、其の巨体に帯嵐状態と帯雷状態の二種の状態異常が付与されて。

 

同時にサンラク自身にも、超排撃による反動ダメージが襲い掛かり、籠手がミシャ……!と嫌な音を立てて『破損状態』となって、幸運による食い縛りが発動。体力を1残して、其の身が夜空へと吹っ飛ぶ。

 

「壁じゃなければラッキーだ!アラバ~!たーすーけーて~!!!」

「友よ、どうして自信満々で情けない台詞を叫べるんだ!?」

 

吹き飛んだサンラクをキャッチし、溜息を付くアラバ。

 

「あ、クターニッドは!?」

 

雷と風による一撃で腰を打たれ、自身が放った攻撃をカウンターされ、クターニッドの巨躯が倒れる光景と。

 

 

Vo,VoaaaaaAAaaaaaaaaaaa…………!!!

 

 

 

「サイガ-0さん!俺を踏み台に!」

「はい!始源(ハジマリ)終焉(オワリ)(ウタ)え────!【アルマゲドン】!!!」

 

 

自身を踏み台として切り、彼を使って跳躍したサイガ-0が握る大剣に、白と黒の二重螺旋のエネルギーが迸りながら、クターニッドの眉間に最大火力の究極にして必勝をもたらす一撃が、クリティカルヒットする瞬間だった。

 

「ッ!?」

 

螺旋状のエネルギーが一発……二発……三発と多段ヒットを続けて、六段目に入った其の瞬間。クターニッドの背中に生えて接続されていた骨輪から、いきなり八本の巨大な触手が展開。其れ等が高速で飛び出したかと思えば、アルマゲドンのエネルギーに絡み付き……『七段目から先を絞り上げて爆砕したのだ』。

 

「嘘だろ、よりによって『ダメージストップ』!?」

「そ、んな………っう!」

 

ボスキャラで良く有りがちな、一定体力以下になると其れ以上のダメージを止めてしまう、謂わば『システムトラップ』が存在している。まさかクターニッドが其れをやって来るとは思いもしなかった上に、完全に虚を突かれる事になるとは。

 

しかしながらアルマゲドンを磨り潰し、破壊するという荒業をやってのけたクターニッドも、タダでは済まなかった。荒々しく振るっていた八本の触手達は力無く、だらりと垂れてはコロシアムの客席を粉砕していき、六段目までにはなるが顔面で受けたクターニッド自身も、今までとは目に見える程に消耗している。

 

そしてサイガ-0にとっては、必勝を約束する切札にして究極の一撃を以てしても、敵を仕留め損ねた事実と代償が、一気に襲い掛かって来た。

 

アルマゲドンで万が一敵を倒せなかった場合(・・・・・・・・・・)に、発動者は『幾つかのペナルティ』を負う。

 

其れは使用プレイヤーは戦闘終了までの間、スキル及び魔法の一切までもが『発動を封じられる』事を始めとして(・・・・・)、装備者のステータスには『軒並みデバフ』が乗し掛かる上に、武器防具の全数値は『1/50』まで減らされた挙句、装備を『外す事も着替える事すら不可能』になり、謂わば『戦力外通告』を受けるのと同義となるのだから。

 

「ペッパァ!レイ氏を連れて、コロシアムの外に出ろ!作戦会議だッ!!」

「解った!失礼します、サイガ-0さん!」

 

巨剛触手を操ってサイガ-0の腹部に触手を絡め、無限潜航と共に浮かんで全力水泳をしたペッパーは、アラバに抱えられたサンラクと共にコロシアムの外に待つ、仲間達の元へと避難するのだった………。

 

 

 

 

 






早急に立て直せ




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十六



何度目かの作戦会議




「マジかぁ…………クターニッドの奴、ダメージストップ持ちだったのか」

「アルマゲドンでイケるかと思ったら、まさかの初見殺しだね………」

「一応予想はしていた…………が、いざやられるとなると話が違うよ」

 

アルマゲドン発動、そしてクターニッドが展開した蛸足触手による爆砕行動でのダメージストップが、サイガ-0を運搬したペッパーと、アラバに抱えられたサンラクにより、避難していた参加メンバーと帰りの船を取りに行ったスチューデ以外のNPC全員に伝えられた。

 

「ごめんなさい……いきなり、触手が出てきて……狙いが逸れて、しまい……」

「いや、サイガ-0さんは悪くない。アレは俺が少しでも反応出来てれば、触手の一本か二本を止められた」

「二人共……『そういうの』は無し。此処からどうするかを、私達は考えるべき」

「ルストの言う通りだ、あの場面でペッパーもレイ氏も、やるべき事をやった。予定通り行かないなんて、ゲームやってりゃ日常茶飯事さ」

「そうそう。寧ろ『そういう事態』すら楽しんで、突発的な策練ってクリアするのがゲーマーでしょ?」

「…………だな。よし、此処からは『サブプラン』に移行する」

 

アルマゲドンによる討伐………クターニッドに施されたダメージストップという名の、システムトラップによって阻まれてしまった今、此処からはサブフィニッシュとして用意した『竜威吹(リュウイブキ)&増乗幅響門(パワーゲート)』の合体砲撃魔法で焼却するプランに切り替える。

 

「秋津茜、レーザーカジキ。二人は必殺技を撃てるだけのMPは有るか?」

「はい!サンラクさん達が集めてくれた魚と、自前のマナポーションを使えば『一発』は確実にいけます!」

「僕もマナポーションは有りますが、多分切札の増乗幅響門は使えて『一回』………マナ回復の魚を頂ければ『二回』は放てます」

「成程………ルストとモルド、エムルさんにシークルゥさん、アイトゥイルはMPは足りるか?」

「矢が五発しかないから剛弓は其れで打ち止め、魔法弓は打てて二十発が限界」

「自前のマナポーションでも、ルスト一人にバフするのが限界だね………」

「アタシはそろそろ、マナが尽きそうですわ……」

『ワゥル、ルルゥア』

「いざとなれば剣術で斬りに行くで御座る」

「ワイは酒がもう無いのさね……酔伊吹(よいいぶき)はもう繰り出せないのさ、ペッパーはん」

「俺の大海峡はマナを与えれば、ネレイスが武器の耐久を回復してくれる。何とか戦えるぞ」

 

武器は耐久に優れた物でも、何十何百の敵を倒していればボロボロになる。耐久減少無効や耐久回復能力を備える武器は少なく、アラバの大海峡はネレイスが居る為にMPを使えば耐久を回復出来る能力が有るらしく、全員の視線(ガチな奴)が向けられた。

 

まぁ此方には鉱物系アイテムを砕けば希少度合で耐久値が回復するユニーク小鎚三兄弟や、王撃ゲージを100%消費で耐久値が回復する能力持ちの兎月(とつき)暁天(ぎょくてん)】が居るので、下手すれば色々と言及されかねないので黙っておく。

 

「…………解りました。アラバさん、マナ回復の魚が有るので早急に捌いて、食べられる切身に分ける事って出来ますか?」

「お、おぅ!任せてくれ!」

「ありがとうございます。モルド、万が一に備えて購入したマナポーションを使って、ルストにありったけの強化を」

「あ、うん!」

 

魔力もカツカツの限界が迫る中、ルルイアスに招かれてからの食材確保の為に狩ってきた魚達が、此の局面で役に立つならばと、ペッパーは其れを喜んで擲つ。活け〆にして生物からアイテムにした事で条件を満たし、インベントリアに収納していた魚と、事前に購入したマナポーション達を取り出して、彼はアラバとモルドに渡していき。

 

そんな中、サンラクはクターニッドにアルマゲドンを当てるも、仕留められなかった事でペナルティを負い、此の場の誰よりも弱くなってしまった、最大火力(アタックホルダー)保持者のサイガ-0と向き合う。

 

「ぶっちゃけ……どうですかね、レイ氏?」

「………多分、私が行っても……『足手纏い』だと、重々………承知して、ます………」

 

暫しの沈黙。廃人故に今の自分がどんな状態に在るか、(彼女)はよく解っている。だが廃人であるからこそ、確固たる『根拠』を以て最大火力はサンラクに答えた。

 

まだ戦えます(・・・・・・)

「解った」

 

サイガ-0の意思をサンラクが聞き届けた直後、轟音と共に迫り来る音がする。おそらくアルマゲドンの衝撃でダウンしていたクターニッドが復帰し、此方へと迫って来ている音だろう。

 

「ペンシルゴンと京極(キョウアルティメット)、武器の耐久は大丈夫?」

「私はカレドヴルッフやグラダネルガも含めて、全力で使うつもりで居るよ」

「僕はちょっと刀がキツいかな………予備は有るとはいえ、そう何回も秘剣系スキルは切れないよ」

「一撃でも良い、特大の一撃をクターニッドへ叩き込んでくれ」

「解った」

「よし………全員注目!」

 

ペンシルゴンの、京極の言葉を聞き届けたペッパー。そして皆を見ながらに、彼はクランリーダーとしての号令を放つ。

 

「作戦名『天地開闢』も最終段階、サブフィニッシュプランまで使う羽目になった!勝っても負けても………何て生温い台詞は無し!事前報告も無いまま、シナリオEX開始から六日間!俺達はクターニッドさんの『遊び』に付き合わされた!………全員、蛸足に噛り付いてでも勝つよ(・・・)!」

 

応ッ!と全員が答えた其の瞬間、コロシアムを粉砕して現れるクターニッド。想像態との戦闘突入時よりも、明らかに背中に生える骨輪は巨大化、八つの宝珠より巨大極まる蛸足達を展開して、其れを脚代わりに使い歩く姿はさながら、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『ウィトルウィウス的人体図』の如く、巨躯が宙に浮いている様にも見える。

 

「……レオナルド・ダ・ヴィンチの」

「………あ!確か大の字で寝っ転がってる、変なおじさんの絵ですね!」」

「ぶふっ!?って痛い!大丈夫だから、ルスト痛い!?」

「あぁ……秋津茜が言わんとしてる事は解るわ」

 

こんな状況でも笑えるモルドの笑いの沸点の低さを、ちょっと羨ましく思う。と、そんな中でサイガ-0が動いた。

 

「もしもの時の………最終手段(・・・・)、私の………大盤振る舞い(・・・・・・)、です!短い時間では有りますが……戦え、ます」

 

プレイヤーとNPCの視線を集める先、使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)が次々と使うサイガ-0の姿が。明らかに『超高額』な匂いと能力発揮によるバフエフェクトを、土錆の重騎士が其の身に纏う光景はブルジョワの具現化に等しい。

 

サイガ-0が使ったのは何れも『強化魔法によるバフ』であり、自身の『全ステータスを大幅に上昇させる』能力を持つ【獅子なる側の栄光(レグルス・グローリア)】を初めとし、バッドステータスの『数と質』に比例してステータスバフを付与する【幾度となき再起(リーオーバー・ウェイク)】。

 

自身よりも『巨大な敵』との戦闘する場合に、自身の『全ステータスを大幅に上昇させる』という【小さき掌に大きな勇気(イグザージェレーション・ブレイブ)】。体力・魔力・スタミナなどの『消費されるステータスの数値が減少している程』に、消費されない筋力・耐久・幸運を初めとした『ステータスを上昇させる』能力を持つ【精霊の報酬(フェアリワード)】。

 

そして魔法媒体によって獲られる『能力上昇の効果倍率と効果時間を超上昇』させる効果を内封する【覚醒と調律の咆哮(ガルシウル・アウェイキング)】等を、サイガ-0は惜しむ事無く使用している。アルマゲドンの発動によるペナルティは『スキルや魔法の発動』だが、使い捨て魔法媒体は『記憶した羊皮紙が代理で発動している』。なのでペナルティに引っ掛かる事は無いという訳だ。

 

「因みに御値段は………」

「えっと……『八桁』くらい、は………します」

 

ブルジョワジーですか、資本主義の賜物ですよ。そんな事を心の内に留めていれば、バフ魔法を乗せきったサイガ-0が立ち上がり、近くに立て掛けてオブジェクト化させていたスレッジハンマーを手に取る。

 

成程、クターニッドを万が一にもアルマゲドンで仕留められなかった場合を想定し、武器や防具を外せないデメリット等の諸々を見越して別の武器を用意していたのだろう。流石は最大火力、勝利の道筋を今尚見失っていない。

 

「クターニッドさん………俺達の底力はまだまだこんな物じゃ無いですよ。見せてあげます!」

 

天獄を地面に刺し、グランシャリオを取り出したペッパーは、剣身に収まる蒼桃色の宝玉達を外して、七つ在る穴の内『鋒に最も近い七番目』と其の下の『六番目』へとセットし直す。

 

想像態・第二形態へ突入したクターニッドと、チーム不倶戴天の最終決戦が──────始まる。

 

 

 

 






決着へ往かん




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十七



最終局面




竜威吹(リュウイブキ)&増乗幅響門(パワーゲート)』の合体砲撃魔法で焼却する─────アルマゲドンが万が一にも、何らかの形でクターニッドを倒しきれなかった場合に備えて用意した、サブフィニッシュプランは先ず何よりもクターニッド本体の『十秒近く動きを止めなくてはいけない』という、絶対必須条件が存在している。

 

そう、ペンシルゴンの槍撃で片目を潰された際には、跳ね起き上がった挙動を見せ、今は八本の触手達を振り回しまくるクターニッドを相手に……だ。

 

「奴を止める手段……先ずはあの暴れ狂ってる『巨大な八本の触手達』を、何とかする!ルストはバフが終わり次第『背中に在る宝珠』を狙い撃って!近接組は適正距離を維持、突っ込み過ぎたら触手の薙ぎ払いにやられかねないぞ!」

 

Voaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!と怒号を上げて、しっちゃかめっちゃかに触手を叩き付けるクターニッド。質量なんぞ何処へやら、自分には重さの概念なんざ存在しないとばかりに、暴れ散らかしまくる光景は見方を変えれば、クターニッド自身が追い詰められているとも取れる。

 

そんな状況を見つめる中、サンラクがペッパーにこんな事を言ってきた。

 

「ペッパー。レイ氏がクターニッドを『跳ね飛ばしたら』、俺を触手に巻き付けて空まで急速で飛んでくれ。奴の真上を取ったら、急降下しつつ『俺をぶん投げろ』」

「…………策が有るんだな?」

 

無言、然れど力強く頷いたサンラクを見て、ペッパーもまた覚悟を決めた。

 

「解った。先ずは俺が、奴の動きを少しでも止めてみる。作戦決行のタイミングはサンラクに任せる」

「任せろ」

 

地面に刺した天獄(テンゴク)を握り直しつつ、ペッパーは口上を述べる。

 

「ウェザエモン・天津気(アマツキ)さん!貴方の絶技を二つ─────使わせて頂きます!」

 

グランシャリオの鋒と其の次の場所に納めた宝玉達が、煌々と光りて輝き出す。彼が使わんとしている『其れ』は、七系統在る晴天流(せいてんりゅう)の中でも唯一『ワンセット』として扱われる、【熱】と【灰】の絶技であるが故に。

 

晴天流(せいてんりゅう)(ねつ)】──────奥義(おうぎ)!」

 

晴天流の【熱】系統は、刀を足元へ垂直に刺して敵の攻撃に対して踏ん張る『防御の型』が本来(・・)の姿なのだが、ウェザエモンは此れに『体内と体外のマナ粒子を操作・振動による熱を発生させて』、得物を通じて『地面に送り込んで火柱(・・)を発生させる』という、超常たる『(ワザ)』に昇華させたのだ。

 

クルリと回した鋒が、クターニッドが作り上げたコロシアムへと突き立てられる。同時にペッパーの体内から発せられる『熱』が増大しながら、腕から指先に送られて行き、其れが剣へと通じて地面に流入し膨張。地面という『檻』を内側から食い破る様にして、顕れ出でるは『三つ首を想わす赤龍達』。

 

「走れ──────『火砕龍(かさいりゅう)』!!!」

 

真っ直ぐに、クターニッドへと伸びる火の龍達。ペッパーが再現して見せた其れを見たクターニッドは、巨大触手を振るいて龍を払いに掛からんとし。だが其の龍達はクターニッドを無視して、夜空へと昇り上がりて交わるや赤い『熱』は、暗雲と共に『灰』へと転じる。

 

晴天流(せいてんりゅう)(はい)】──────奥義(おうぎ)!」

 

晴天流において【熱】とワンセットの関係を持つ【灰】の技達は、熱から転じた『煙』を攻撃へ転用し、火元から離れると空気より重くなる特性を元に、敵を包囲・窒息へと追い込む。そうして生まれた、晴天流【灰】系統の奥義の『一つ』こそが。

 

「囲い包め──────『灰吹雪(はいふぶき)』!」

 

グランシャリオの鋒を振り上げれば、黒雲染まる天より落ちる発動した火砕龍と同じ形の、黒煙と化した火砕龍達がクターニッド目掛けて雨の如く降り注ぐ。だがクターニッドも見上げて殺られる程、甘い思考(AI)はしていない。

 

襲い掛かる火の龍と黒煙の龍を、背中の巨大触手で片っ端から叩いて砕き、狭まる包囲網を己の巨躯を回転させる事によって、ウェザエモンの【熱】と【灰】の絶技二つを真正面から力業で捩じ伏せ、上空の黒雲すらも吹き飛ばす。

 

「フッ………クターニッドさん、確かに火砕龍と灰吹雪の対処法としては正しいです(・・・・・・)。けれど其れは同時に間違いでもあります(・・・・・・・・・)

 

クターニッドは現在『蛸足』を軸に回転している。当然此程の回転を成すには相応のスピードとパワーが必要不可欠。

 

「汝、縫い留めしもの。我、繋ぎ止めしもの。万象に寄り添い、しかして相容れぬ万有の黒を穿つ─────【黒楔の槍(シャドウ・ウェッジ)】!」

 

月光によって照らされながら回転し、暴れ狂うクターニッド──────光に照らされ残る僅かな『影』に、肉薄したペンシルゴンが勇者武器(ウィッシュド.ウェポン)にしてメインウェポンとする聖槍(せいそう)カレドヴルッフと、強過ぎるが故に弱体化(ナーフ)を受けた魔法(硬直)を打ち込む。

 

ビタリと回転が止まる、耐久に優れたカレドヴルッフの穂先が、柄がビギリと嫌な音を立てる。元々耐久力に秀でる勇者武器がクターニッドを相手に、一秒足らずで耐久値を大きく減らしたという事実がヤバいのか、僅かな時間でも敵を止められた黒楔の槍が凄いのか。

 

「カッツォ君!京極(キョウアルティメット)ちゃん!シークルゥちゃん!エムルちゃんにアイトゥイルちゃん!クターニッドの軸蛸足を掬うよ!」

「赤・青・黄色!三色混合────拳気(けんき)過重黒衝(かじょうこくしょう)】ッ!!」

秘剣(ひけん)獅子(しし)()りッ!」

「最後の一発!【加算出力(アッドブースト)マジックエッジ】ィィィィィィ!」

「食らうのさ、ワイの【華魔威断(カマイタチ)】!」

「魔力を振り絞った此の一撃!御覧有れ、深淵の盟主よ!我が【タケノミカヅチ】をッッッ!!!」

「私もぉ!!!!!」

 

黒雷を纏う衝撃が、格上を切り裂く斬撃が、巨大な魔法と風を乗せた斬撃が、竹林を産み出す魔法が、そして致命の槍と共にエフェクトを纏う刺突が、クターニッドの回転に用いた軸足の後側を渾身極まる力で穿つ。

 

カレドヴルッフが砕かれ折れて、反動で動けなくなったオイカッツォを引っ張り、プレイヤーがNPCが一目散に避難を開始。同時にクターニッドの巨躯が、バナナの皮でも踏んづけた様に、つるんと背中から地面に落ちていく。

 

だが───────クターニッドは自身の触手を二本使い、倒れ込む巨躯を支えて背中から落ちるのを防いだのだ。

 

「な……『ワゥルァ!』……ん!?」

 

クターニッドの執念の凄まじさを目の当たりにし、触手を何とかせんとした一同を間を速く走り抜け、夜空へと跳躍する一つの影を見る。

 

「えっ、ノワ!?」

 

そう、ペッパーがテイムしたユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの小さな分け身、テイムモンスターのノワが夜空と月光が輝く中で右前肢を掲げ、次の瞬間には闇を集束・巨大な『狼の右手』を作り出した。

 

『はぁ!?!?』

 

サンラクやペッパーを始めとして、此の場に居た全員が驚愕する最中、ノワの右前肢がクターニッドの顔面に叩き付けられる。其の速度は刻傷(こくしょう)愛呪(あいじゅ)を刻んでいった『あの』リュカオーン程では無いものの、狼という生物の『狩猟本能』故か完全にクターニッドの不意を突く一撃として、倒れ掛けていた巨躯を押し込み、背中を地面に着けさせた。

 

そしてノワは勢いを其のままに、空中で数回の回転の後にコロシアムの観客席へと着地。自らの存在を示してか、はたまた今だと言うてか高らかに遠吠えをしたのである。

 

「ペッパー、俺を運んで夜空へ!レイ氏、今だ!!!」

「了解ッ!」

「行きます……【巨神の崩撃(ティタノマキア)】!!」

 

サイガ-0が持つ使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)の中でも最高額にして、時価『5億マーニ』を記録した『最強の魔法』が、(彼女)の意思をトリガーとして封じ込めた魔法を解放する。

 

現在判明している土属性魔法の中でも最上位に匹敵し、ある程度の範囲に『地面が在る事』を条件として発動出来る其れは、元々のルルイアス(ルールイア)が『島』であった事で発動条件を満たした。

 

大地が鳴動し、クターニッドが作り上げたコロシアムを破り顕現するは、巨神を思わせる『巨大な土の拳』と皹割れた拳の奥に宿るは、赤く光り輝く灼熱を帯びた『光』であり。巨神の一撃が青天井に倒れたクターニッドの背中を、夜空の星と月が輝く真上へと思いっきり殴り飛ばす。

 

其れは無限潜航によって夜空を泳ぎ、インベントリアから聖盾イーディスを取り出し、巨剛触手にグランシャリオ共々握りながら、納めた宝玉の位置を変更しつつ、昇り上がるペッパーと。巨剛触手に巻かれながら、共に往くサンラクを追い抜いた。

 

皆が成すべき事を成した、此処からは彼女(・・)の仕事だ。

 

「「ルスト!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして同じ頃、コロシアムから離れた場所にて二人のプレイヤーが。此の戦いの成否を分けるフィニッシャー達が、漸く『補給』の時間を終えた。

 

「アラバさん、ありがとうございました!」

「お陰でマナも完全回復しましたよー!」

「礼には及ばない!二人共、頼んだぞ!」

『ガンバッて、フタリとも』

 

アラバがレーザーカジキと秋津茜を、コロシアムへと運び始めた。決着は迫っている。

 

 

 

 






各々の成すべき事




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十八



ルストの役目、レーザーカジキの役目、秋津茜(アキツアカネ)の役目




彼女は夜空を見上げていた。視線の先には土製の巨大な拳に背中からカチ上げられたクターニッド、其れを追う様にして夜空を泳ぐクターニッドのパワードスーツを纏うペッパーと、其の触手に巻かれながら共に往くサンラクの姿。

 

シャンフロのロボとSFスーツ、更には其の原点(オリジン)となったサムライアーマーとロボットホースを、彼女は今すぐに扱える訳ではない。だが来るべき装着の為に此処で己の成すべき事を成して、信頼を勝ち取る事は決して無駄では無い。

 

ふと視線の先にはアラバと名乗った鮫の魚人が、レーザーカジキと秋津茜を連れて来て。レーザーカジキは錫杖らしき杖を手に取りながら詠唱を開始し、秋津茜は例の必殺技を放つ為に待機している。

 

「すぅ…………ふぅ…………」

 

聖幽柳の弓(ラール・ウィロー)………ルストがシャンフロをプレイする際に『遠距離の物理攻撃がやりたい』との理由で弓を使い始め、ある程度のエリアを乗り越えてNPC鍛冶職人に作って貰った『魔法弓』であり、MPに依存するものの『非物質の矢を物理要因に干渉されずに、ビームの要領で動きながら射てる』という理由で使っていたメインウェポン。

 

ネフィリムホロウのランキング1位・不動のチャンピオン『ルスト』として君臨している彼女にとって、復帰してからのユニークシナリオへの参加、ルルイアスでのレベリングにクターニッドの決戦まで良く持ちこたえたと、手に持つ弓を見ながら思う。

 

モルドがありったけのバフ魔法で強化したが、其れも永遠には続かない。今の自分が置かれている状況は、ネフホロのミニゲームの一つ『制限時間内で決められた弾数で、決められたターゲットを撃ち抜く射的』だと感じつつ、ルストは弓を構えてコロシアムの観客席を駆ける。

 

「狙い辛い…………けど、射つ」

 

『弓矢による攻撃時に命中補正』を与えるという、シンプルイズベストな弓系攻撃スキル『天眼の一矢』起動と共に宙を舞うクターニッドの背中に在る、八つの宝珠の内の一つを狙って射抜く。

 

魔法弓から放たれた矢は風を切り裂き、光の一閃が宙を高速で飛びながら着弾、バフによって強化された一射が見事に深淵の盟主の宝珠を一撃で砕く。同時に宝珠の在った触手は根元から崩壊し、ボロボロに崩れて失われるのを見た事でルストは確信する─────今の自分なら『八発』有れば、全ての宝珠を破壊出来ると。

 

「次」

 

弓矢による射撃時に『貫通力高めるスキル』たる、『噴流の螺矢(ストリーム・アロー)』と共に第二射を発射。砕け散った宝珠の破片を掻き分け潜り抜けながら、別の宝珠を貫いて粉砕する。

 

「次、次、次…………」

 

『鶴瓶射ち』・『跳ね馬の騎射』・『一矢二鳥』。シャンフロを離れるまでの間に培ってきた弓系スキル達を一射毎に点火、魔力で作られたが故に非物理的な(つる)と矢での射撃は、剛弓のように力を込めて弾く必要が無い。

 

其れ即ち、凄まじい勢いで連射を可能となった矢達が、クターニッドの背中に生えた宝珠達に直撃し、地面に落ちるまでの僅か数秒の間に次々と破壊していく。

 

「後、み─────!?」

 

だがクターニッドは、指を咥えてタダで殺られぬと謂わんばかりに、残された三つの触手の内の二つを振るい翳す。まるで其れ等を強く鞭の様に地面を叩き、跳躍でもしようとしているの様に。

 

だが振るわんとした二本の触手達は、自身が振るうよりも速く、根元から『崩れ落ちたのだ』。そして深淵の盟主は自身の背中に着地し、同時に二つの『風』を仮初めの肉体に感じ。

 

頭を動かして無事な左目で見れば、自身の鎧を纏う勇者と半裸の鮭頭が、各々の剣を抜き放ちながら立っていて。勇者が「クターニッドさん」と言葉を放った。

 

 

 

「貴方の鎧を身に纏ったからこそ、其の触手達は貴方からすれば『軽く』。逆に俺達からは『重く』作用していた。きっと貴方ならば、何処かの局面で『残った触手を使って位置調整を仕掛けてくる』と─────信じてました(・・・・・・)

「まぁ、俺の作戦勝ちって奴だクターニッド。最後にもう一回、遠慮無く土ペロしな」

 

 

 

オーダー通り夜空を泳いで昇り上がったペッパーは、真上を取った瞬間にサンラクを晴天流(せいてんりゅう)(なみ)奥義(おうぎ)大時化(おおしけ)』で、筋力バフを加えた状態でぶん投げ。自身も星天秘技(スターアーツ)ミルキーウェイで夜空を駆け抜けながら、晴天流(せいてんりゅう)(かぜ)奥義(おうぎ)断風(たちかぜ)』をグランシャリオの斬撃と共に宝珠の一つへ。

 

サンラクは兎月(とげつ)白上弦(びゃくじょうげん)】と兎月(とげつ)紅下弦(こうかげん)】を一つに重ねて、紅白の大剣なる合体状態:皇弦月(おうげんげつ)の専用スキル【致命の煌月(イルザムーン・ヴォーパル)】で宝珠の一つを斬り割った。

 

双刃一閃の衝撃が、クターニッドの巨躯を再び地面へ落とす。衝撃で巨体が跳ね上がる中、魚を囓りまくるサンラクを巨剛触手で胴へ巻いて離脱したペッパーが、言霊を紡ぎて『状況改変(じょうきょうかいへん)』の機能を執行する。

 

 

「『無重力』」

 

 

本来ならば重力によって地面に落ちる筈だった巨躯が、自身と同じ『反転』の権能(チカラ)によって『引っくり返り』、世界の律より身体が解き放たれる。

 

「ルスト、やれェ!」

 

サンラクの言葉と同時に、ルストが放った空間を射抜く魔の矢が迸り、最後の宝珠を貫き砕く。漸く此処まで至った、此処が『王手』だ。

 

「レーザーカジキ!」

「秋津茜!」

 

『さぁ──────ぶちかませッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四の道は無数への可能性、四の光は夢幻への道筋を示すもの…………。水は渇きを癒し、火は温もりを与え、土は芽吹きをもたらし、風は揺蕩い命を運ぶ」

 

 

 

『門魔法』と呼ばれる魔法が、シャングリラ・フロンティアには在る。其れは特定分野に属する魔法を極めた者のみが習得可能な魔法であり、此の世界(ゲーム)にも多く存在するが、ある種の『究極系』として存在する魔法群を指す。

 

魔法ギルドに属し、水・火・土・風の四属性を極め抜き振るう魔法使い…………其れを目指してレベリングやクエスト、時にシナリオをクリアしながらプレイしていたレーザーカジキは、ある時『ユニークシナリオ』と出会った。

 

名を『フォースオブエレメント』。水・火・土・風の四属性の魔法を持つ、一定レベル以上の魔法使い系列職業プレイヤーが対象となる其れは、幾つかの試練と御使いをこなした果てに、レーザーカジキへ報酬として渡された『一冊の魔導書』から習得した魔法────其れが『増乗幅響門(パワーゲート)』である。

 

 

 

 

「巡り満たす水よ。暗闇を照らす炎よ。生命を育む土よ。音色を奏でる風よ。四の素と輪廻は廻り、歯車は噛み合い、大いなる力の奔流は出で顕る………」

 

 

 

 

 

増乗幅響門の発動には、先ず前提条件として『詠唱』を、其れも『完全詠唱』で行わなくてはならない。他の魔法と違って無詠唱による『妥協』を許さず、プレイヤーに対して『フルパワー』以外の能力行使を認めない。

 

だが此の門魔法の厄介な点は、完全詠唱だけでは無い。詠唱時に『一定のリズム・発声・読み上げ速度』で唱える必要が有り、其の何れか一つでも(・・・・・・・)乱れれば、其の時点で魔法は失敗。更にはMPの全損と24時間発動者が習得している魔法の全てが軒並み弱体化という、生半可ではない代償を負う。

 

 

 

「水と火は弾きて、土と風もまた弾き。水と土は交わり、火と風もまた交わり。水と風は融けて、火と土もまた融ける。四にして偉大なる素、其の理は我と共に在らん…………!」

 

 

 

しかしながら、レーザーカジキが此の門魔法を成功出来た理由には、一重に『フェアクソ』をプレイし、最終的にはクリアまで至る中で鍛えられた、彼自身の『不動の心』による部分が大きかった。

 

御機嫌取りの三時間、大陸の端から端への転移、ポンコツ極まるAI等々………襲い掛かる理不尽の数々で、煮えくり変える寸前だった怒りのマグマに、静かに蓋をして落ち着かせる事で、調べて得られた『報酬の三分間』の為に堪え忍び。

 

其の時に得られた経験が、彼の増乗幅響門発動成功率を飛躍的に向上させる事となったのだ。

 

 

 

 

「万里を越え、円環の門は開かれる……!潜り抜けし水よ激流へ…!潜り抜けし炎よ爆轟へ…!潜り抜けし土よ鳴動へ…!潜り抜けし風よ暴嵐へ…!雄々しき波動となりて困難を砕く導と成らん━━━━━!【増乗幅響門(パワーゲート)】!!!」

 

 

 

開かれた門魔法にして、彼の切札。同時に回復していたMPを一瞬で持っていかれた事による、圧倒的な倦怠感が少年の身体に乗し掛かる。

 

其れでも彼は倒れない──────皆が繋いだ此のバトンを。最後のアンカーたる少女へと託すまでは、絶対に此の身は倒れてなるものかと、彼は誓ったのだから。

 

「秋津茜、さん……!……御願い、します───!」

「はいっ!」

 

狐面の忍者少女が前に出た。目の前には門、其の先には触手を失い無重力の中に浮かぶクターニッド、上にはペッパーとサンラクが自分に向けて叫んでいる。隠した呪い刻まれし顔を晒しながら、一生懸命に覚えた印による手の動きを完遂、思いっきり息を吸い込む。

 

繰り出す奥義の名を『竜威吹(リュウイブキ)』、嘗て出逢った一体の黄金に輝く龍王にして、今尚記憶に深く刻まれしユニークモンスターの一体『天覇のジークヴルム』が放ったブレスを模倣した其れは、此処ルルイアスでのレベリングや深海の猛者達との戦闘によって、更なるパワーアップに至った。

 

 

 

 

 

「ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」

 

 

 

 

放たれた天を()す龍王のブレスが、増乗幅響門に吸い込まれ。増大と乗増が一瞬で行い、其の一撃は天覇が『本気で繰り出したブレス』に比肩し得るだけの、凄まじい威力に等しく。

 

まるで極太のコロニーレーザーか何かと、見間違うだけの熱と速さと破壊力を秘めたまま、逃げる手立てを失ったクターニッドへと叩き付けられ。

 

想像態たる深淵の盟主を。盟主の後ろに在ったコロシアムの観客席を。唯等しく、文字通り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焼き尽くした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






残響を掻き消して




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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の十九



深淵の盟主は見届ける




嘗て私は『そう在れ』と生み出された

 

今の私は『そう在る』事に不満を感じた事は無い

 

であればこそ………私は彼等の、彼女等の前に立つ

 

其れは此の『名』が持つ使命でも無く

 

其れは此の『身』が持つ理由でも無い

 

 

 

ただ、此処に在る私がそう想うのだ(・・・・・・)

 

 

 

だから、だから今此の瞬間は

 

彼等を、彼女等を称賛しよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーザーカジキと秋津茜(アキツアカネ)の合体砲撃魔法攻撃。極太のコロニーレーザーと言うべき、其の一撃の直撃と照射の果てに、戦闘開始からクターニッドが放ち続けていた『重圧』が、ゆっくりと霧散していくのを感じた。

 

其れ即ち、クターニッドを撃破した………という事なのだろう。

 

「勝った…………のか?」

「一応警戒しておこう、万が一も有る」

 

『想像態の次段階が有ります!』みたいな雰囲気では無かったので、其の線は薄いとは思うが用心するに越した事は無いだろう。無限潜航で地上へと降り立てば、他のメンバー達もコロシアムへと集合してきていた。

 

「やぁやぁ、あーくんとサンラク君。二人共御疲れ様だね」

「皆も本当に御疲れ様、一応まだ何か有るかも知れないから気を付けよう」

 

警戒を続けつつコロシアムを見渡せば、蛸頭ゴリラ菩薩だったクターニッドが崩壊して。そして其の中から現れたのは、クターニッドの本体と思われる魔方陣。

 

「深淵のクターニッドさん。世界の理を変える絶大なる反転の力と、強靭無類で剛力無双の蛸足を振るう、偉大なる深淵の盟主よ。俺達は貴方との戦いを、決して忘れはしません。俺達の事を見定めていただき(・・・・・・・・)…………本当にありがとうございました」

「えっと…………ありがとうございました」

 

ペッパーの言葉、オイカッツォの言葉の後、魔法陣はゆっくり夜空へと浮かんで行って。ある程度の高さまで昇ったと同時に、全員の頭にクターニッドの声が響く。

 

其の声は此処まで戦っていた時に聞こえた、形容し難い『嫌悪感に満ちた声』とは違う、まるで『落ち着いた優しい声』であった。

 

『生命の輝き、(しか)と見届けた』

「倒したのかな?」

「………つ、かれたぁ~………」

「ルスト、御疲れ様」

「待て待て待て。深夜帯だし眠いかもだが、何か有りそうだから我慢してくれ」

 

魔法陣に目や口は無い。見上げる先に居るのは、複雑な模様の魔法陣であり、其れが歯車が回り続ける様に、唯々動いている…………『其れだけ』なのだ。だが『其れだけ』である筈なのに、確かに視線(・・)を感じたのは気のせいでは無い。そして他のメンバーもクターニッドに『見られた』と感じたらしく、魔方陣を見上げている。

 

其の視線はプレイヤー達一人一人を見て、アラバにネレイスを始めとしてシークルゥ・アイトゥイル・エムルの三羽を、リュカオーンの小さな分け身のノワを見て、そしてペッパーが其の身に纏う深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を見た後、最後に何処か遠くを見て──────僅かな沈黙の後に言葉を紡いだ。

 

『連なる二つの奇跡。相反する事も無く、共に在る事……喜ばしく(・・・・)、そして誇らしい(・・・・)

「ん?」

「おっ」

「どうし、ました………か?」

「いや、ちょっとね」

 

おそらくだが、自分達はクターニッドを相手に『何か条件』を達成した可能性が高い。墓守のウェザエモンの例を挙げるなら『天将王装を装備して、セツナの墓に祈りを捧げる事』で辿り着ける特殊ルート。そして『晴天大征(せいてんたいせい)の最終奥義たる天晴(てんせい)を、破天光(はてんこう)で受け止めつつパリィする事』でのみ到達可能な特殊エンディングみたいな物だろう。

 

だとすればクターニッドの特殊エンディング到達条件は『蛸極王装の復活させて装備し、NPCと一緒にクターニッドを撃破する』事だろうか? そう考えればアラバがルルイアスに居た理由にも説得力が出てくる。

 

だがよくよく考えてみれば、スチューデとの出逢いがフラグと成り、此処ルルイアスに引き摺り込まれたのも……つまりは『そういう事』なのだろう。

 

『遠く、遠く……遠くへ来た。星の海は最早遠く……然れど見上げた先の、あの海こそが私の故郷である。星の大海を征く旅人よ……滅べども其の旅路は継がれ続く……。人よ……人よ……偉大なる祖を持つ、其の栄誉を誇れ』

 

星の海に旅─────此の言葉を噛み砕くなら『元々神代の人類達は宇宙船に乗って、銀河や宇宙を旅していた』と捉える事も出来る。何れ『其の神代の人類が乗ってきた宇宙船』でも出てきそうだが、今はクターニッドを撃破した事を素直に喜ぶとしよう。

 

そしてアレ(・・)に対する警戒も、決して忘れずに。

 

『人よ、力を示せし人よ。其の旅路の一助を授く』

「シャア!報酬キタ!」

 

サンラクの歓喜とほぼ同時、宙に浮かんだ魔法陣(クターニッド)が異なる形の魔法陣に変形した其の瞬間、全員の前に『九つの光』が花開くように円を描き、周囲を回り始める。其の光は輪郭を得て形を成し、正体は『空想態のクターニッド』が持っていた『九つの杯』と同じ形状、同じ輝きを放っていた事から、報酬が何であるかを察する事が出来た。

 

『我が九の光輝、其の断片を二つ授けよう……』

「九つの中から二つ………か」

 

何故か『周回要素』の臭いを感じたのは、ゲーマーの勘か或いは気のせいだろうか?周りをクルクルと緩やかに回転する九つの光達、よく見ればアラバの周りにも在る。

 

此の杯は当然ながら、プレイヤー用にダウングレードしては居るだろうが、近距離の赤・遠距離の橙・スキルの黄色・魔法の黄緑・性別の青・色調の緑・ダメージの紫・ステータスの藍色・アバターの白と、各々の要素を反転可能とするアイテムの価値は、一言では言い表せない程に絶大だ。

 

青で性別を切り替えれば女性限定装備の神代の大いなる遺産を装備出来るし、白でプレイスタイルが似てるプレイヤーと身体(アバター)を交換、藍色で耐久と何かを入れ替えつつ守示貫鐵(ファースリィオ)で『高機動タンク』として役割を遂行したり。

 

他にも土壇場で距離無効の赤や橙を使う事で一時的な無敵状態の確保や、紫によってダメージを回復に転換。緑の色調反転でフィールドギミックを探したり、黄緑や黄による対純魔・対脳筋へのメタを張る事も出来るので中々に面白い。やはり反転とはシンプルかつ、強大な力なのだと常々思う。

 

そして─────ペッパーには『ある確信』が有る。おそらくクターニッド相手に『其れが出来る』という確信が。だがペッパーが口を開くよりも早く、先に動いた者が一人居た。

 

「タコさん! これ『四つくらい』貰えないんですか!!」

「秋津茜!?」

「茜ちゃん!?」

「秋津茜さん………?」

 

秋津茜だった。何か根拠や策が有る訳では無いが、其の度胸は一体何処から湧き出しているのかと、此方が聞きたいくらいの度胸を以って、彼女はクターニッドに『直談判』をしたのだ。

 

いや、寧ろグッジョブ(・・・・・)と言っても良い。

 

『…………』

「せめて『三つ』欲しいです!」

「秋津茜、お前……勇者かよ」

 

沈黙によって、静寂が訪れた。プレイヤー達は『さっきまで殺し合った相手に、よくそんな要望言えたな』と驚愕し、NPC達は『神にも等しい相手に、よく気軽に話し掛けられるな』と驚愕する。

 

そしてペッパーはクターニッドという『存在』を考えれば確実に『通る』と、此の『交渉』は成功すると睨み。

 

『三つ授けよう』

 

完全に予想が的中した。

 

「やった!ありがとうございます、タコさん!」

「嘘だろオイ!?」

「嘘でしょ!?」

 

交渉が成功した理由…………其れはクターニッド自身が『TRPGのゲームキーパー』の様な、そんな立ち位置に立っている事。そして『最大の山場を越えた事で、多少の要求ならば通る程に寛容になっている』とペッパーは予想したからだ。

 

ルルイアスというクターニッドが用意した『盤上』を、招かれた開拓者()が進み。四体の封将(中ボス)を倒して、城の要石の謎解きを行った果てに最終試練たる己を越えた者へと、反転の杯という『報酬』を与える事を、深淵の盟主は『楽しんでいる』と考えて。そして反転の力を使うが故に、報酬を減らす事は『反転』すれば報酬を増やす事であると、そう確信したのだ。

 

此れはあくまでも、クターニッドとTRPGの特性を踏まえただけでしか無いので、正解は『世界の真理書』を見なくては解らないだろう。だが其れ以上に、秋津茜というプレイヤーがヤバイ。天運と天賦の才能の合わせ技というべき、そんなリアルラックの完スト具合がヤバイ。

 

「何をどうやったら見付けられるの」と言いたくなるような隠し要素すら、発見出来るゲーマーは確かに存在する。特定の場所・特定のアイテム所持・特定の呪文・特定のアクション──────そんな『特定』の多重奏を突破し、隠し要素を見つけるタイプだろう。

 

(というか俺も、インパクト・オブ・ザ・ワールド見付けてるじゃん。秋津茜の事言えないわ)

「いや、まさか直接値切りするとは思わなかったが、でかした……と言っておこう……うん。よくやった秋津茜」

「はい! 以前サンラクさんがリュ……リュカ、ローン? リュカ()ーンに話しかけてたのを思い出したので!」

「リュカ()ーン……ですね」

『グルッ』

 

そう考えれば、サンラクも人の事が言えなかった。皆の視線がブッ刺さり、青筋を浮かべている事から『おのれリュカオーン』とでも、心で叫んでいるのか。

 

何にせよ秋津茜のファインプレーで、報酬が更に一つ増えたので九つ在る杯を見る。一つは確定として、個人的に気になっていた杯が『二つ』有るので、残りはコレとコレを選ぶ。

 

そして────嗚呼やっぱりだ(・・・・・)

 

「皆、直ぐに立って!クターニッドさんの討伐アナウンス(・・・・・・・)は、まだ響いてない!!」

『!』

 

ペッパーが叫び、周囲警戒を開始し。墓守のウェザエモンの討伐に関わった、サンラク・ペンシルゴン・オイカッツォ・京極(キョウアルティメット)は直ぐに警戒へ。続けてサイガ-0とレーザーカジキが周囲を見て、ルスト・モルド・秋津茜が疑問符を浮かべた────まさに其の時。

 

 

 

 

 

 

 

ルルイアスの【青】が蠢いた。

 

 

 

 






帰るまでが遠足だ



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倶なる天に示す証明(ホシ) 其の二十



青、覚醒す




其の【青】を、ペッパーとペンシルゴンにレーザーカジキ、サンラクとサイガ-0、ルストとモルドは知っている。嘗てのルールイアと呼ばれた国を、全滅寸前まで追い詰め。しかしクターニッドによって滅ぼされ、街全域を汚染し染み付いた『狂える大群青』と呼ばれる存在。

 

非活性(・・・)ならば、おそらく『大丈夫』という淡い期待を抱けども、此れが『触れたら一発アウトのフィールドギミック』である以上、そう経たずに此処も『安全圏(セーフゾーン)』では無くなるだろう。

 

「エムル、頭に乗れッ!速く!」

「は、はいなぁ!」

「アイトゥイル、ノワ!」

「はいさ!」

『ワゥル!』

「此れってアレだよね!?」

「まさかとは思うけど………!?」

「ペンシルゴンとモルドの予想通りだと思う!兎に角絶対に『触れるな』!足に自信が無い人は、俺が触手で運送する!」

 

探索系ゲームでは御約束も御約束な『脱出パート』。制限時間以内に脱出出来なければ、即GAME OVERが待ち構えている。オイカッツォも、京極(キョウアルティメット)も、眠気に襲われるルストも、秋津茜(アキツアカネ)も、レーザーカジキも、そしてアラバも立ち上がり、ペッパーは全員脱出を成し遂げるべく聖盾(せいじゅん)イーディスをインベントリアに、空いた八本の巨剛触手(きょごうしょくしゅ)を広げて、運送の用意をしていた時だった。

 

『忌々しい始源の亡霊め』

「えっ?」

「何だって?」

 

クターニッドが重要な事柄を言った。始源の亡霊………おそらく狂える大群青を指すだろうが、深淵の盟主は其れを親切丁寧に教えるつもりは無いらしい。

 

『人よ。私と力を分けた鎧を纏い、力を示した勇者(・・)よ。汝に其の鎧を託す(・・)。此の場は再び深淵へと沈む……。危機は近い、努々忘るる事無かれ………』

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を継承する事が決まったと同時、此の場にいる全員が同じ方向を示されたように、其の方角へ視線を向ける。

 

『行け、旅は続く………此の世界に生きる人よ、バハムート(・・・・・)達を見付け出せ(・・・・・・・)

「なっ─────」

「お前、其れは………」

 

ウェザエモンを倒し、消え行くセツナが遺した其の『単語』を、再び耳にする事になろうとは。そうなると『ドラゴン』なのか、そうでないのかが解らなくなってくる。

 

現在(いま)は継がれし『人』の物である。然らば、抗い戦うのもまた現在(いま)を生きる者……』

「よく解らないけど、何時か狂える大群青みたいなヤバイ奴等が現れるって意味か………!?」

「くっ……!ロケートが出されたなら従ってやるよ、走れる奴は走れ!アラバは空泳いで、足が遅いのはペッパーの触手に運んで貰え!此処から脱出するぞ!」

「わ、解った!」

「タコさん、御元気で!」

 

崩壊した街並みを更に壊して喰らい潰す、荒波の如く暴れ狂う【青】の………狂える大群青が活性化していく街並みの中、クターニッドが整えたのか不自然な程に保たれた道を、サンラクと秋津茜が各々のパートナーのヴォーパルバニーを乗せて走り、ペッパーは触手に仲間達を抱えて、アラバと共に夜空を泳ぎ行く。

 

 

『────────』

「えっ………?あ、えと………はい」

 

そんな中、サイガ-0がクターニッドと話をしていたかと思えば。

 

 

『────────』

「クターニッドさん?………解りました」

 

ペッパーの頭にも直接声が届き、唯々彼は頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂える大群青。例えるなら其れは『スライム』の様な不定形さを持ち、ある意味では『海波』の様に押し寄せる物で、だがまるで『霧』の如くフィールドを満たしていき、そして何かが悍しい程に蓄積している『存在』という事だけは解る。

 

文化の残滓と人の営みが残り、嘗ての栄光を感じられたルルイアス。しかし今は青に青と青が、乱舞して暴れ狂う地獄の一丁目、まるで蛇が獲物を補食するが如く、走り続ける者と空を泳ぐ者共を食らい尽くさんと襲い掛かる。

 

「此の道何処まで続いてるんでしょうか!?」

「ふぉおっ!?」

「多分、島の外………」

「海を泳ぐの!?」

「流石に此のままじゃ青に潰される………!」

「スチューデが、船を用意してれば良いけど!」

「信じましょう、スチューデさんを!」

『ワウ!』

 

道を駆ける者、空を泳ぐ者。不安を抱えながらも開拓者達は、NPC達は進み続け。彼等彼女等は遂に、海岸線へと到達した。

 

「ゴール!」

「こっからどーすんの!?」

「最悪アラバにエムル達を任せるつもりで!」

「俺にか!?」

 

押し寄せる【青】。NPCの命は重く、プレイヤーは死亡してもリスポーン出来る。時間は無い、決断の刻が迫っていた──────まさに其の時。

 

「お前等ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

出逢った時は絵に描いた様な『クソガキ』であって、ルルイアスに引き込まれてからの彼は、唯ひたすらにビビり散らかしまくっていた。

 

しかし六日間のサバイバルの中で、父親のカトラスと遺された手紙によって、前に進む覚悟と勇気を得た事により、一皮剥けて成長した少年の様な声色が、振り向いた開拓者とNPC達の視界に移る。

 

其処にはクターニッドのモノであろう、巨大な漆黒の触手に掴まれながら、此方へと近付く随分と真新しい巨大な帆船。まるで六日前に嵐の海で出逢った『クライング・インスマン号』を反転(・・)の力で元に戻しただろう物に乗り、船首には赤鯨のカトラスを振り回しながら、声を張り上げては手を振るスチューデの姿が在った。

 

クソガキ(スチューデ)か!」

「スチューデさん!」

「というか其れ(・・)どうなってんの!?」

「俺様に解る訳無いだろ!?兎に角、船は見付けて来たぞ!早く船に乗り込め!」

「皆、さぁ行って!」

「アラバ!お前はすっとろいんだから、先に行け!」

「サンラク、お前はどうするんだ!?」

 

甲板から海岸線に投げられる縄梯子、ペッパーは巨剛触手を操りつつ、船の甲板へ急いで仲間達を乗せながら、アラバにエムルを預けたサンラクと合流する。

 

「俺は滅茶苦茶強いからな。死んでも(・・・・)生きて帰るんだよ!」

「其れに死ぬつもりは毛頭無い……!脱出までの時間稼ぎは任せとけ!」

「………!解った、死ぬなよ二人共!!」

「あーくん!絶対に戻ってきてよ………!!」

「当たり前だ………!」

 

迫り来る【青】の脅威。津波の如く押し寄せる中、サンラクをおんぶしたペッパーが、夜空を飛ぶ。其れを見た【青】はペッパー達を喰らわんとし、重なり合いながら夜空へと昇り上がる。

 

「やっぱりコイツ等、お前を『最優先』で狙って来てるな」

「だろうね。クターニッドさんの力が施された鎧だからか、取り込んで力にしたいのかもね」

 

狂える大群青………おそらく此の存在は『群態タイプのモンスター』の可能性が高い。有機物だろうが無機物だろうが食らい、増殖・侵食・侵略するエイリアンか何かだと言われても納得出来る。

 

だからこそ、脱出する味方の安全確保の為に離れた。其れは同時に『反転の力』を、敵にぶつけられるようにする為でもあり。

 

「『狂える大群青同士で食い合え』!」

 

ペッパーの言霊によって、状況改変(じょうきょうかいへん)が効果を発揮。自身を中心に半径30m内に居た【青】が、ヘイトを別の【青】と向け、物量差の中での共食いを始める。

 

「ペッパー!サンラク!」

「サンラク、確り掴まれよ!」

「あいよぉぉぉぉぉっ!」

 

青の波の中をルーパス・アサイラムと真界観測眼(クォンタムゲイズ)の点火と共に飛び抜け、状況改変の効果で【青】同士が食らい合う、魑魅魍魎の空間を飛び抜ける。

 

そして【青】の荒ぶる空間を抜けきった其の時、近くの海面が轟ッ!と水柱を上げたかと思えば、何かが飛び出して【青】に『無色透明な触手』を叩き付けて、島の内側へと押し返すのをサンラクは見た。

 

しかも其れは彼にとって『見覚え』が有る上に、何なら自分の手で一度『討伐』した相手だったからこそ……

 

「何故生きてるバッカルコーン!!!」

 

そう叫ばざるを得なかった。そんな事は露知らず、ペッパーは一目散に皆が待つ帆船まで泳ぎきって、サンラク共々無事に生還するに至り。

 

「あーくんッッッ!」

『ワゥルア!!!』

「ペッパーはん!」

「うおぁ!?」

「サンラクさぁぁぁぁぁぁん!!」

「ぐべぇ!?」

 

ペッパーにはペンシルゴン・ノワ・アイトゥイルが、サンラクにはエムルが抱き付き、二人共に少なからずのダメージを食らって。

 

「見て下さい、アレ!」

 

レーザーカジキが指差す先、四つ在る塔の一つの頂上にて二体の封将の姿。他の塔にも同じく封将達が立ち、内側に押し込められた【青】達が、クターニッドの巨大な触手達に叩き潰され、瓦礫と合挽肉(ミンチ)にされていく姿を目の当たりにした。

 

「凄い………」

 

クターニッドの一式装備を継承した者として、大本の存在が成した凄まじい戦いを目に焼き付け、グランシャリオをインベントリアに入れたペッパーは、空いた右手を胴装備の中心にて握る。

 

此の戦いを忘れない事を、受け継いだ者としての責務を果たす事を、甲板の上で船酔いに襲われながらクターニッドへと誓い。そんな中でモルドが気付いて、皆にこう言ったのだ。

 

「ねぇ……皆。コレ………『投げられる寸前』じゃない?」

 

クライング・インスマン号に似た帆船は、クターニッドの巨大触手に掴まれている。そして触手は力を込めていると言わんばかりに、ギチリ……ミチリ……と膨張と力瘤を作り上げながら。まるで紙飛行機でも飛ばすかのように、船は斜め上に傾いており。

 

ふと視線を向けると、ペッパーとサンラクと交代したクリオネの封将………『クリーオー・クティーラ』が此方を、其れもサンラクに視線を向けた後に『あっかんべー』をしていて。其の瞬間、サンラクが叫んだ。

 

「全員船にしがみつけぇーっ!?!」

 

刹那に強烈極まる慣性が、プレイヤーとNPC達に襲い掛かり。本来なら海を進む筈の船が、(そら)を爆速で飛んで往く。

 

猛烈にして驀進───────遠くへと離れ行く中で、ペッパーとサンラクが最後に見たルルイアスは、躍り狂う【青】を潰して覆い尽くし、そして島の全体へと広がる、クターニッドの巨大な触手と共に輝く四つの塔。

 

島を喰らいて、破滅を齎す大群青の波濤を塞ぐは、威風堂々と聳え立つ防波堤。クターニッドが放つ揺るがぬ威光と共に在りて、ルルイアスは再び海底という深淵へと消えていったのだった…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『深淵のクターニッドは再び倶なる天より別たれた』

『勇者は深淵の盟主より己と力を分けた鎧を託された』

『狂える大群青は再び封じられた』

『ユニークシナリオEX【(ヒト)深淵(ソラ)を見仰げ、世界(セカイ)反転(マワ)る】をクリアしました』

『小さな海賊は明日を恐れぬ勇気と前に進む覚悟を得た』

『ユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】をクリアしました』

『称号【深淵からの生還者】を獲得しました』

『称号【トゥルー・シーカー】を獲得しました』

『称号【フライング・インスマンズ・クルー】を獲得しました』

『称号【赤鯨海賊団名誉船員】を獲得しました』

『称号【継承の証明】を獲得しました』

『称号【力分ける者】が【盟主の威光を授かる者】に変化しました』

『称号【道は違えど心は同じ】を獲得しました』

『称号【一目置かれたアウトロー】を獲得しました』

『一定の条件を充たしたプレイヤーが、称号【一攫万金(ミリオンゲッター)】を獲得しました』

『一定の条件を充たしたプレイヤーが、称号【一攫億金(ビリオンゲッター)】を獲得しました』

『一定の条件を満たしたプレイヤーが、称号【一攫兆金(トリリオンゲッター)】を獲得しました』

『アイテム【青色の聖杯】を獲得しました』

『アイテム【緑色の聖杯】を獲得しました』

『アイテム【白色の聖杯】を獲得しました』

『参加者全員がアクセサリー【深淵の警鐘】を獲得しました』

『参加者全員がアイテム【深淵の雫】を獲得しました』

『参加者全員がアイテム【世界の真理書「深淵編」】を獲得しました』

『ユニークシナリオEX【勇ましの試練:聖盾之型】をクリアしました』

『ユニークシナリオEX【勇ましの試練】が進行しました』

『勇者武器を持つ者と雌雄を決するべし』

『ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】が進行しました』

『ワールドクエスト【シャングリラ・フロンティア】が進行しました』

 

 

 

 

 

 






世界がまた動く




称号紹介


赤鯨海賊団名誉船員:ユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】を、スチューデを再起&父親の遺品全てを発見して届けた上で攻略した場合の隠し称号。所謂『トゥルーエンドトロフィー』。


盟主の威光を授かる者:クターニッドの一式装備・深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を装備し、条件を達成してクターニッドを撃破する事で獲得出来る称号。類似称号は『天津気の襲名者』。







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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~種火は業火と変わり、軋みは断裂に変わる~



鳴り響く鐘の音




カラーン……!カラーン……!

 

シャンフロの世界の各地にて、黄金の鐘楼が現れては荘厳なる鐘の音を深夜に轟き鳴らす其の光景を、深夜帯を主戦上とするプレイヤー達は見上げていた。

 

約二ヶ月前、プレイヤー達に衝撃を与えた『ユニークモンスター・墓守のウェザエモン討伐』時の其れと同じである為に、ある者は「いやいやまさか………」と身構えて、またある者は「大型アップデート内容決定か」と淡い期待を抱き。

 

そして公表された内容に、またしても。そして等しく。衝撃を受ける結果となった。

 

『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様に御知らせ致します。現時刻を持ちまして、ユニークモンスター………『深淵のクターニッド』の撃破を確認しました』

 

「マジで!?」

「ウソだろオイ!?」

「深淵のクターニッド!?」

 

深淵のクターニッド……………以前であれば、ランダムエンカウントするリュカオーンやジークヴルムに次いで広く名が知れ渡っていた、ユニークモンスターの一体。

 

大型アップデート後の新大陸と、今自分達が冒険している大陸の中間の海底にいる『らしい』という事以外、其処へ『どうやって行く』のかまでは判らない状態だった存在が、今宵此の瞬間に討伐された。

 

そして其の栄誉を獲得したプレイヤーの中には、ある人物の名前が在る。

 

『討伐者プレイヤー名は『ルスト』・『モルド』・『アーサー・ペンシルゴン』・『秋津茜(アキツアカネ)』・『オイカッツォ』・『京極(キョウアルティメット)』・『サイガ-0』・『サンラク』・『ペッパー』・『レーザーカジキ』の十名です。

 

さらにユニークモンスターの討伐に伴い………ワールドストーリー【シャングリラ・フロンティア】が進行しました』

 

「またペッパーだ………」

「最大高度が討伐に関わってるのか……」

「ペッパーさぁ…………」

 

ペッパー…………夜襲のリュカオーンにより右手に呪い(マーキング)を施され、天覇のジークヴルムに接触し、墓守のウェザエモン討伐に関わったプレイヤー。黒毛のヴォーパルバニーを連れ歩き、慈愛の聖女 イリステラとも関わりを持つだけでなく、つい最近にシャンフロプレイヤーで最も高い場所へ到達した【最大高度(スカイホルダー)】の称号を手にした人物。

 

そして今此の瞬間に、彼は深淵のクターニッドを撃破したという新たな伝説を、シャングリラ・フロンティアという世界へ己の名を刻み付けたのだ。

 

だが、其れ以上にプレイヤーの間で物議を呼び起こしたのは……………

 

「クラン:旅狼(ヴォルフガング)の現状判明してるメンバー全員じゃねーか!」

「って事は、既にクターニッドへの行き方を手にしてたって可能性が……?」

「いや、じゃあ何で黒狼(ヴォルフシュバルツ)の切札・最大火力(アタックホルダー)まで同伴してるんだ?」

「ルスト・モルド・秋津茜ってプレイヤーは知らないが………レーザーカジキは確か胡椒争奪戦争に出没してたプレイヤーだ」

「廃人狩りに人斬り、胡椒(・・)さんとツチノコ(・・・・)さん、そして金髪ツインテの五人だっけ?初期メンバー」

 

ウェザエモン討伐を成した五人が作ったクラン、其のクランメンバー全員が今回のアナウンスで報告(しら)された事で、プレイヤー達の話し合いは活発化していく。

 

そして当然ながら、彼等彼女等との接触を果たさんと動き出す者達も………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャングリラ・フロンティア内・某エリア。

 

其処では『あるクラン』が翌日に控えた戦いに備え、訓練をし終えて休息を取っていた。クランの名は『SF-Zoo』………シャンフロに存在する動物やモンスターを生態含めて、徹底的な観測と観察を行って触れ合う事を活動目的としている。

 

当然ながらシャンフロ全域にユニークモンスター・深淵のクターニッドの撃破報告アナウンスは流れていた為に、彼等彼女等も其れを耳にする事になった。

 

「………………………………………」

「あ、あの…………園長(・・)?」

 

唯一人(・・・)、そう唯一人は『全く別の感情』を抱いていたのだ。彼女は『Animalia』、今回のクターニッド撃破プレイヤーの一人たる『レーザーカジキ』の実の姉(・・・)たる彼女の目は現在、怒り(・・)の感情によって底冷え&ハイライトがロストしていた。

 

そして呼び出したのは伝書鳥(メールバード)の中でも『夜』の時間帯にしか使えない代わりに、ハヤブサ以上の速度でメールを届けられる『フクロウ』。しかも其の数は数十羽は呼び出しており。

 

「皆。ちょっと私用事(・・)が出来たから、明日はエイドルトに集合ね」

 

そうしてフクロウを一羽、二羽、三羽とレーザーカジキに送り、飛んだ方角を見ながら彼女は走り出して。他のメンバー達は互いに疑問符を浮かべ、首を傾げたのだった……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怒髪衝天という言葉がある。

 

怒りのあまり髪が逆立ち天を衝かんばかりの怒りの感情……不倶戴天とは違うものの、最終的には『お前を殺す』といった殺意で落ち着くという意味では、似たような言葉では有る。

 

そして現在、此の瞬間。クラン:黒狼の中で唯一人、髪の毛が蛇となって暴れ狂いそうと思える程の怒りを抱き、自身が座るテーブルに『ヒビ』を走らせた人物が一人居た。

 

クラン:黒狼の団長にして、修正前剣聖(・・・・・)として名を馳せる『サイガ-100』。黒狼の切札であり、シャンフロに名を刻みし【最大火力】こと『サイガ-0』の実の姉(・・・)である。

 

「あ、あの……『何だ』あ、いえ!な、何でも無いですッ!?」

 

表面上は冷静に見えて、しかし冷やされた感情であり。触れれば肉を焼き尽くす『熱さ』は無く、触れるだけで肉を微塵に斬り刻む『鋭さ』を内包した視線……………其れも『眼球だけを動かしての返事』を前に気圧された団員はそそくさと撤退。

 

大慌てで安全圏まで逃げ戻った彼は、小声で他メンバーと相談し始めた。

 

「無理無理無理無理! リアル上司より怖いわ?!」

「頼む! 今居るメンバーの中で、団長にコミュニケーションできるのお前しか居ないんだって!」

「壁タンクのお前が前に出ろよ!俺達の守って!」

「ほら、俺は精神攻撃系の対策してないから……さ?」

「ちょっと!?「じゃあ魔法職に行ってもらおう」みたいな顔でこっち見ないで!?」

 

クラン「黒狼」では現在、ほぼ確信を以って語られる噂がある。『リアル(・・・)で姉妹関係にあるという『サイガ-0』と『サイガ-100』が大喧嘩(・・・)をした』という噂が。

 

二人の関係は決して『悪く』は無かった。多少強引なれども無茶をしない程度で団員達を引っ張っていくサイガ-100と、其れを火力面で支えるエースにして切札のサイガ-0。

 

端から見ても良好だった二人の関係は、此処最近のサイガ-100の様子や反応の変化が、如実に現れていたのだ。まるで『常に刃のような冷たさを纏い、サイガ-0の話をすると露骨に機嫌が悪くなる』…………といった具合に。

 

人間関係という物は、永遠に『仲良し』という形では続かない。外的要因や内的要因で突如『親密』や『破綻』、もしくは『終焉』等も有り得る事態だ。

 

姉妹喧嘩等と今更格別に珍しいものでも無いだろう………。そう結論付けて事態の沈静化を謀ろうとしたメンバー達だったが、よりにもよって今日此の瞬間に出されたのは『同盟関係に有るクラン:旅狼がサイガ-0を引き連れて、ユニークモンスター・深淵のクターニッドを撃破した』という、あまりにも間の悪過ぎる凶報(・・)だったのだから。

 

「コレ………不味い雰囲気だよね?」

「解る、ちょっとじゃ済まない事になりそう」

「………黒狼、どうなるんだろう………」

 

シャンフロのトップクランに所属するプレイヤー達は、素人が大半という訳では無い。シャンフロが『初MMO』なサイガ-0だったり、団員達含めて誰も知らないが『VR初挑戦』のペッパーと、驚異的な才覚を発揮する手合いが存在する。

 

しかしながら大抵は『他MMOを経験者』が多いし、ゲーム内の『マナー』や『行動』に責任や、正しい認識を持っている。そして当然ながら、ゲーム内における『人間関係の悪化』が終焉の始まりと成る事も、少なからず心得ている。

 

クランやギルドは仲良しの組合以前要に団体行動であり、例え優秀なプレイヤーが幾人所属していたとしても、自分達の活動(・・)を阻害するなら『害悪以外の何物でも無い』。突発的にユニークシナリオが発生する事もある此のゲームでは、何もかも予想通りに事が起きる事は決して無いのだ。

 

だが其れでも、此のゲーム内(シャングリラ・フロンティア)で七体のみの。其れも『再戦不可能』のユニークモンスターを、クランとは別メンバー(・・・・・)でクリアしてしまった事』はとんでもなく不味い。

 

何よりもトップクランの黒狼が、旅狼というポッと出のクランに、ユニークモンスターを先んじて攻略されているのも、非常に不味い以外の何物でもない。

 

トップクランであっても……トップクラン『だからこそ』。其処には非常に『面倒臭いプレイヤー達』が居るのだから………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンフロ、某所。此処では現在、あるプレイヤーが一人クエストを受けていた。其のクエストを漸く終えて『盗賊ギルド』へと帰還した彼は、ユニークモンスターの討伐アナウンスを聞いていた。

 

「アズサ兄………姉貴……………」

 

彼の名は『オルスロット』。今は亡きPKクラン・阿修羅会(あしゅらかい)を率いていたプレイヤーであり、廃人狩りとして名高いアーサー・ペンシルゴンの実の弟(・・・)である。ペッパーからのアドバイスを受け、彼は一度は抜けた盗賊ギルドへと再び身を置き、自身が抱えた途方も無い賠償金をコツコツと返済し続けていた。

 

(『相手の動きを見る』事。ずっと俺が解らなかった事。そして俺のビルドは『敵の攻撃を耐え忍び肉薄戦で勝つ』事。………今なら俺がやりたかった事が、ちゃんと出来る………!)

 

己を見詰め直し、ずっと解らなかった『答え』に辿り着けた事を、何時か二人に見せて見返してしてやろうとし。深夜になったので今日は此処までにしようと、ベッドルームへ向かうべく歩き出し。

 

『もし、其処の者よ』

「ん?」

 

オルスロットが見たのは『メンポを着け』、あからさまに『忍者』と思われる装束に身を包む、今まで盗賊ギルド内には居なかった『NPC』。

 

『御主、『忍者』にならないか?』

「……………は?」

 

新たな出逢いは、突然に訪れた。

 

 

 

 






各々が修羅場、青年は出逢う




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~珍獣大捜査線白熱化~



轟くニュース


※掲示板回です





 

 

 

 

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【珍獣】サンラク追跡スレ part8【捜索隊】

 

 

 

……………………

…………………

………………

 

731:ピリパティ

サンラク is ドコ

 

732:弦武

見当たらんな

 

733:チャック

やっぱりツチノコで良いんじゃない?

 

734:クォーラ

賛成

 

735:タロー・XX

賛成

 

736:GU-S

まぁじでアイツ何処行ったし

 

737:テトラ

それなー

 

738:緋弾

エイドルトで見掛けたとか有ったけど、全然見付からんのよね

 

739:ルキトバス

サンラクはさっさとユニークの情報を吐くべき

 

740:ガンガルダ

同感。いい加g

 

741:白夜

えっ

 

742:シャッコ

アナウンス?

 

743:クォーラ

ゲーマスアナウンスか?

 

744:ベルダンティ

なぁんか嫌な予感

 

745:ナッシュ

いや、いやいやいやいや………そんなわ

 

746:ライス十九世

 

747:弦武

ぶっ!?!?

 

748:オートロ

!?

 

749:猫マムシ

はぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

750:タロー・XX

やりやがった……!?マジかよサンラク、やりやがった!?

 

751:マーチャン

深淵のクターニッド撃破!?

 

752:ピリパティ

うっそだろオイ!?

 

753:ガンガルダ

ファァァァァァァァァァァァァァ!?!?

 

754:ダービー

エエエエエエエエエエエエ

 

755:GU-S

まぁじ?

 

756:チャック

おいおいおいおい!?

 

757:ブラサース

過疎ったと思いきや、またしても活性化要素が飛んで来ましたよコルレハ………

 

758:ゲルピオン

わかりみ

 

759:オートロ

しかし墓守に続き深淵か、報酬が気になるな

 

760:アップル

海に関係あるモンスターなのかな

 

761:ディープスローター

ウフフフフ…………サンラクくぅん、また凄い事ヤッたんだねぇ!ボクぁ嬉しいよ………フフフフ

 

762:サバイバアル

カカカ!まぁた先を越されちまったなぁ………!

 

763:チャック

あ、ディプスロさんチース

 

764:白夜

サバさん!

 

765:プラク・デェイ

クターニッドの撃破かぁ………ユニーク絡めて良いなぁ

 

766:ヴァツ

愚痴言っててもしゃーない、此処からどうするかを俺達は考えるべきだ

 

767:オートロ

それはそう

 

768:デコット

メールバード使って、スパム方式で所在を炙り出すか?

 

769:シャッコ

賛成

 

770:ディープスローター

でもオイラ達、サンラク君のフレンドじゃないんだよね…………

 

771:バライヲン

あっ

 

772:ライス十九世

 

773:シャッコ

 

774:ローラ

駄目じゃん

 

775:タロー・XX

\(^o^)/《オワタ

 

776:猫マムシ

はい解散

 

777:ダービー

ダメダコリャ

 

778:チャック

メール出来ないわ…………

 

779:弦武

打つ手無し………って事!?

 

780:オートロ

アババババ

 

781:ルキトバス

ノォォォォォォォォォォォォォォォォ

 

782:サバイバアル

………わりぃ、ちょいと用事が出来た

 

783:デコット

アッハイ

 

784:白夜

サバさん、おつかれっす

 

785:ガルガンダ

どーすんの…………

 

786:ディープスローター

いいやぁ、此処は初心に帰って人海戦術で位置を割り出してみようぜぇ……。案外こういうのが、サンラク君には効いたりするんだぁ………

 

787:ナッシュ

人海戦術か………だとすると、何処等辺を張った方が良いんだ?

 

788:ゲルピオン

先ずはサードレマだろ?後はエイドルトに人員割いて、他の箇所も疎らに配置してみるか?

 

789:ピリパティ

良いと思う!

 

790:ベルダンティ

とりまフレンドに連絡取って情報収集しますわ

 

791:クーリャン

俺達も出来る限りの事をやろう

 

792:ローラ

さんせーい

 

793:デコット

よっしゃあやったるで!

 

794:ルキトバス

おー!

 

795:バライヲン

いくぞぉ!

 

796:オーレット

サンラクの功績

 

・スペクリ事件で黒幕討伐

・リュカオーンの呪い二ヶ所持ち

・最大火力を救難信号で呼び出せる

・阿修羅会潰しの一計を担う

・墓守のウェザエモン討伐

・深淵のクターニッド撃破→New!

 

797:ガルガンダ

絶対見付けてやる………!

 

 

 

 

…………………………

………………………

……………………

 

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プレイヤー達の活性化




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~胡椒争奪戦爆熱す~



彼を探す者達


※掲示板回です





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【情報】胡椒争奪戦争 part13【急募】

 

………………………

……………………

…………………

 

 

643:ベンシャミン

胡椒さん何処だよ

 

644:クリュステン

胡椒さん………あぁ、ペッパーの事か

 

645:亜乗孥

ツチノコさんと被ってね?

 

646:国茶民

片や黒い宝石と呼ばれる胡椒、片や珍獣ですよ

 

647:一寸亡

あの人もサンラクさんも何処に居るのか……

 

648:優麗

廃人狩りと一緒にいる場面を見たって情報は有るっちゃ有るが、其れにしたって見付からない

 

649:クロス

何処を活動拠点にしてんだ………?イレベンタル?

 

650:海パン7世

サーティードまで行ったのかな………

 

651:ピーセント

イレベンタルやフィフティシア見張ってるけど見付からん

 

652:DOONボヤージュ

やっぱ転移系スクロール常備してるだろ

 

653:シルキー

可能性は無きにし

 

654:魔富裕

ん?

 

655:マスル・ハーリ

アナウンス?

 

656:バンキッシュ

おや?

 

657:フェイロ

ゲーマスアナウンスか

 

658:バッツ・リーガル

嫌な予感す

 

659:アルα

!?

 

660:アクタール

ファッ!?

 

661:ウォーレ

クターニッド!?

 

662:四侖

ユニークモンスター撃破ァ!?

 

663:ゲル

ウソだろ!?

 

664:ピーセント

墓守に続き深淵………

 

665:海パン7世

!?

 

666:一寸亡

マジ!?

 

667:ウルカ

ペッパァァァァァァァァァァァ!?

 

668:exa

なん……だと……!?

 

669:シオン

速報:ペッパー、深淵のクターニッド撃破メンバーの一人になる

 

670:B-堕魔神

ええっ………

 

671:クリステン

廃人狩りに人斬り、ツチノコさんにオイカッツォ!?

 

672:八助

まぁた伝説つくってらぁ………

 

673:魔富裕

ペッパーさぁ………

 

674:アルα

旅狼メンバーと攻略したのか………

 

675:DOONボヤージュ

てかレーザーカジキ!?

 

676:TXS

シャンフロの光!期待のニューフェイスがユニークモンスター撃破に関わった!?

 

677:マリモン

マジかよオイ!?

 

678:ベンジャミン

てかペッパー、此の時点で夜襲・天覇・墓守・深淵の四体と接触に撃破に関わってるじゃん………

 

679:優麗

あ、確かに

 

680:バンキッシュ

なぁにやったらユニークモンスターと、ポンポンポンポン遭遇したり関わったり出来るんですかねぇ……

 

681:アクタール

わかりゅ

 

682:exa

それな

 

683:八助

もしかして別のユニークモンスターと既に関わってたり?

 

684:B-堕魔神

いやいや流石に其れは……………

 

685:バッツ・リーガル

無いだろ…………とは言い切れないんだよね

 

686:海パン7世

関わってるに一票

 

687:ウルカ

流石に無いだろ

 

688:ジャック

というかペッパーは自分が抱えてるユニークの情報をさっさと吐き出すべき

 

689:魔富裕

其れはそう

 

690:バーミヤ

一人で何個秘密を隠してるのか………

 

691:四侖

兎に角捜さなきゃ話にならん

 

692:一寸亡

そうだな………

 

693:アルα

テンバート周辺捜してみるわ、ジークヴルムと接触してるなら関わり持ってる筈だし

 

694:DOONボヤージュ

サードレマ捜索するわ

 

695:国茶民

ペッパーの持ち物・肩書き・偉業

 

・夜襲のリュカオーンに関する情報

・ユニーク小鎚

・天覇のジークヴルムの呼び出しが出来るアイテム(?)

・黒毛のヴォーパルバニー

・サードレマ上層エリアに行けるアイテム

・慈愛の聖女イリステラと遭遇

・救難信号で最大防御呼び出し

・名前隠しのコート

・墓守のウェザエモン討伐

・クラン:旅狼のリーダー

・最大高度の保持者

・深淵のクターニッド撃破→New!

 

696:バッツ・リーガル

胡椒の価値がエグいしヤバい………

 

 

 

 

…………………

………………

……………

 

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沸き立つ




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~シナリオは終わる、戦は始まる~



件の者達は




ユニークモンスター・深淵のクターニッドとの激戦を終え、狂える大群青の再活性化にクターニッドによってルルイアスから脱出を成し遂げたペッパー達は現在、クライング・インスマン号に似通った帆船の甲板にて、びしょ濡れになりながら引っくり返っていた。

 

「戻ってこれた………うづぷ、ぎもぢ悪い………」

「夜と潮風……帰って来たのさね」

『ワゥ!』

 

波に揺られて船酔いに襲われながらに見上げれば、六日振りの海上と本物の夜空、そして夜風の冷たさと潮の匂いに満ちる海の真ん中に自分達は居る。

 

夜の闇に慣れてきたからか、回りを見れば他のメンバーも引っくり返ったり、サンラクが帆船のロープに足を絡めて宙吊りになったり、オイカッツォが空樽に頭から突っ込んでたり、レーザーカジキの周辺に数十羽のフクロウが飛来して来たりと、ツッコミ出したら止まらない光景が広がっていて。

 

そんな中、ロープから抜け出して夜空から落ちてきたサンラクが、空中関連のスキルで落下速度を殺して甲板に降りて来る。皆も立ち上がる中、ペッパーも船酔いに苦しみながらも此処まで纏い続けた深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)とグランシャリオをインベントリアへ収納。

 

代わりに奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)へ着替えて、フラフラと立ち上がるや『進行任せた』とサンラクに音頭をアイサインで頼んだ。

 

「いやー……まぁ取り敢えず皆。ユニークシナリオEX、六日間の戦いお疲れ様です。俺達はこのゲームを誰よりも早くプレイし、誰よりも速くクリアした。此れは快挙だ、俺達が一番乗りだ」

「だね。いやぁ………六日は長かったよ」

「……………眠い」

「ふぁあ………僕も、眠いや」

 

ルストがうつらうつらし、モルドも欠伸をしている。オイカッツォもペンシルゴンも、サンラクやサイガ-0や京極(キョウアルティメット)秋津茜(アキツアカネ)、そしてレーザーカジキや自分にアラバ達NPCも全員疲労困憊の様子で、激闘を物語るには充分だった。

 

と、ペッパーやサンラクの頭や肩を含めて『音も無く降り立った』のは、白や黒の羽毛を持った『フクロウ』達であり、其れが一羽や二羽ではなく数十羽の大群となって、帆船の至る所に止まって来たのである。

 

「お、お前等大丈夫か!?」

「アハハ……っぷ、知り合いからの連絡みたいな物なので………ぐっふ、ぎもちわりゅ………」

「うわぁ……あの似非魔法少女かよ………スパムメールならぬスパムフクロウって………」

「僕もですね…………」

『ウルァァ……』

 

一羽のメールを見れば、やはりというかキョージュからで。ペッパーとサンラクは共通内容として『是非とも深淵のクターニッドの真理書を拝見したい』と書かれていた。

 

「取り敢えず、ミルキーウェイ使って………つぷ、船酔い状態から脱却、しよう」

 

星天秘技(スターアーツ)ミルキーウェイ起動。船の甲板から離れつつ、ペッパーは『世界の真理書「深淵編」』を黙読し…………絶句。

 

「皆。疲れてる所悪いが、今すぐに世界の真理書を読んで欲しい。とんでもなく(・・・・・・)ヤバい情報が記載されてる。後ペンシルゴン、世界の真理書「墓守編」を返しておく」

 

直ぐ様皆に声を掛けてインベントリから報酬たる攻略本と、インベントリアからグランシャリオを取り出し、嵌まっていた宝玉の一つを書物に戻してペンシルゴンに手渡し。そして他のメンバーも真理書を黙読、其の内容に眠気やらが吹き飛ばされた。

 

「…………ヤバくね?」

「ヤバすぎるだろ………」

「不味い………ですね、コレ………」

「うん、流石にヤバいね。………情報規制というか、開示は控えて貰わないと色々厄介な事に成りかねない」

 

言葉に出さずとも満場一致で『そう易々と開示は出来ない』という意見で纏まった。何せコレを開示しよう物なら、確実に独占(・・)というMMOでは『やってはいけない』事態が起きる。最悪の場合、第二第三の『阿修羅会』が現れる事は避けられなくなってしまう。

 

「はぁぁぁぁ……………クリアしたと思ったら、また別の問題が出てくるなんて………」

「ログアウトしたら寝るわ………」

「取り敢えず、寝る………」

「僕も………」

「賛成~………あぁスチューデ。ちゃんと帰れそうか?」

「此の方角と星の位置………大丈夫!フィフティシアに帰れるぞ!」

「くれぐれも迷う………なんて事はしないでよ?」

「安全にお願いします!」

 

舵を握り、着水した衝撃で開いた帆に目一杯の夜風を受けながら、帆船は海路を進んでフィフティシアへと向かって行く。

 

「そういや、皆は聖杯何色選んだ?」

 

ミルキーウェイの効果が切れて、再び船酔いに襲われた頃に、サンラクがクターニッドの報酬である『反転の聖杯』について質問してきた。皆各々が選んだ色を言っていき、最終的にはこのようになっている。

 

 

 

 

 

ペッパー:青・緑・白

 

サンラク:青・藍・白

 

ペンシルゴン:青・赤・白

 

オイカッツォ・青・紫・藍

 

京極:青・藍・黄緑

 

秋津茜:青・紫・赤

 

サイガ-0:青・紫・白

 

レーザーカジキ:青・赤・橙

 

ルスト:青・緑・赤

 

モルド:青・黄・紫

 

アラバ:赤・黄・橙

 

 

 

 

 

 

アラバを除き、全員が性別反転の青を取ったのは何かの偶然なのか、其れとも如何なる理由が在るのか。まぁ十中八九『性別専用一式装備を装着する』………という目的の為だろう。

 

メンバーの中で唯一『魔法無効』の黄緑を選んだ京極や、オイカッツォが選んだ色が『割りとガチな方向』だったり、ペンシルゴンが白を使ったら『絶対にヤバい事』しか起きないだろと思わざるを得ない。

 

他にも報酬は有るのだが、如何せん船酔いで頭がヤバ─────「ペッパー!サンラク!レーザーカジキ!」

 

「うぉ、どうしたアラバ?」

「アラバさん?」

「いや、俺はそろそろ故郷へ帰ろうと思ってな」

「………あぁ、ルルイアスから出られ……っぷ、から………ですよね?」

「でも、深夜ですよ………?念には念を入れて、明日の朝まで待ってからが良いと思います!」

 

シャンフロのモンスターの種類は、夜の方が圧倒的に狂暴な連中が多い。タダでさえ視認性が悪い海中の中を泳ぎ、故郷へ帰ろうというのはリスクが高過ぎる。

 

「うむ、そうか………だが………」

「大丈夫……ですから……っぷ………ちゅらい……」

「ペッパーは取り敢えず休んどけ。流石に帰る途中で他のモンスターに食われたら、俺達も目覚めが悪いって話だ。其れに船で一泊するくらい問題ねぇよ」

 

パチンとウインクに、右手でサムズアップを行うサンラク。其れを見たアラバはニッと笑い、一人一人に握手をしながら包容して背中を叩いてきた。まるで気分は、ハリウッド映画の別れの挨拶に似てる。

 

「ペッパー、サンラク、レーザーカジキ。そして勇敢なる仲間達よ。俺もネレイスも皆と出逢わなければ、とっくにルルイアスで『クターニッドの眷属』と成り果てていた」

『ミンナ、ホントウに………アリガトウ』

「もし……君達が『鉱人族(ドワーフ)のガンダック』という者に会う事が有れば、俺の名を出すと良い。アイツは腕の良い鍛冶師だ、きっと力を貸してくれるぞ」

 

好感度が高い状態でシナリオをクリアしたからか、アラバから耳寄りな情報をゲット出来た。鉱人族……ファンタジー物のゲームで御馴染みの種族の一つであり、酒と鍛冶に精通した異種族、そして森人族(エルフ)魚人族(マーマン)に並ぶポピュラーな存在だ。

 

「鉱人族ねぇ………因みに『エルフ』とは居るのかい?」

「あぁ。森人族(エルフ)獣人族(ビーストマン)、後は………鳥人族(バーディアン)の名は聞いた事がある」

「おぅアラバ、今何で俺の方をチラッと見た?」

 

京極の質問に対し、アラバは何時の間にか鮭頭を鳥頭に変更したサンラクを一瞬見、其れに対してサンラクが首を鳴らしつつ、ニッコリ笑顔を向ける。

 

戦いを終えて、ルルイアスから脱出を果たしたプレイヤーとNPC達を乗せた船は、夜空の下を進んで行く。目指すは六日振りの陸地にして、旅立った港が待つフィフティシアだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして─────────『戦争』が直ぐ其処まで迫っている。

 

 

 

 






思いを馳せて、船は往く




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インパクト・オブ・ザ・ワールド ~神は衝撃に痛み、創世の神は仕組む~



クターニッドの撃破が伝わる


※短い&今章のエピローグです






同時刻、現実世界・ユートピア社の地下10階の原典閲覧室。

 

シャングリラ・フロンティアという世界の、全てを知る()が居る此の場所には、会社内でも限られた者達しか入る事が許されない。

 

シャングリラ・フロンティアの創世神たる継久理(つくり) 創世(つくよ)。此の場所に入る事を許されている彼女は、現在深い深い溜息と怒りの感情を纏っていた。

 

「………………はぁぁぁぁ………………。コレでも(・・・・)攻略しきる、か」

 

深淵のクターニッドの撃破によるクリアリザルト画面には、堂々の『S』の表記が映る。クターニッドのサーバーからの『新しい聖杯の解放と難易度上昇の申請』を受けて、水と油より仲が悪い調整神(アイツ)と、自身とアイツの間を取り持つ仲裁神の。

 

二人による承認によって力を解き放ったクターニッドは、十人のプレイヤーと五人のNPCに一匹のイレギュラーにより、此の瞬間を以て討伐された。よりにもよって、大型アップデートが残り『一週間後』に控えている状況下に………………である。

 

「ペッパー………やはりコイツは『危険』な存在だわ」

 

年代物のディスプレイ、其のキーボードをカタカタと叩きながら、画面に表示するはクターニッドを相手に深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を纏い、仲間達と共に立ち向かうペッパーの姿。

 

ワールドストーリーを動かす為に、開拓者(プレイヤー)が越えなくてはならない試練、ユニークモンスター。ウェザエモンを倒し、クターニッドを満足させた事で、彼等から鎧の継承者(・・・)として認められた其の男は、現時点で天覇・墓守・深淵の三つの、神代の大いなる遺産を入手している。

 

「ただ今回の戦いで『深淵を見定む蛸極王装を纏った状態のペッパー』のデータは手に入った。『オルケストラ』にも観測データは蓄積積み………えぇ、えぇ………『良い感じね』、フフフフフ…………!」

 

ペッパーへの対策としてデータを書き換え、オルケストラサーバーに封印していた『正典(カノン)プログラム』に、今回の一戦のデータが入った。

 

「本来は影法師の試練時点で躓かせたかったけど………。進行した物は戻らないし、やるなら徹底的にやると決めた以上、抜かりはしないわ」

 

何時の日かペッパーが『冥響のオルケストラ』へと挑む時、奴がどんな感想を抱くのかと北叟笑みつつ、彼女はディスプレイを操作して『あるアイテム』を見、そして『あるモンスター』へと語り掛ける。

 

「フフフフフ…………。クターニッドを此の時点で倒されたのは、私からしたら割と不快なのだけど…………アップデート前に第三段階へ進められたのは、ほんのちょっとの『幸運』かしらね?」

 

彼女の視界には『金色の龍王』と『五色の竜』、そして『SFチック漂う瞳のアイテム』が映っている。其のアイテムの名を『別天律(ことあまつ)隕鉄鏡(いんてつきょう)』…………シャングリラ・フロンティアでの『生配信が可能になるアクセサリー』である。

 

成り損ないの竜達(・・・・・・・・)、此の世界を彩りなさいな。そして頑張って頂戴な『ジークヴルム』、私の無聊を慰める為に………沢山のプレイヤーを屠ってね?」

 

創世の言葉に、ジークヴルムは静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は再び前へと進んだ。

 

深淵の盟主を越えた事で、此の世界に生きる全ての命は『試練』の刻を向かえた。

 

開拓者に、世界に立ち塞がるは、金色の龍王。

 

来るべき時まで人類の『守護者』として世界を巡り、世界に蠢く『始源の胎動』を封じ続けた孤高なる『王』が、人の巣立ちを前に己の全身全霊を以て確かめんと動き出す。

 

そして其れに乗じる形で、五体の竜達もまた動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後にシャングリラ・フロンティアの歴史に語られる、世界に生きる全ての命を巻き込んだ『竜災大戦』が………幕を開ける。

 

 

 

 

 

 






世界は英傑を求める





※新章の骨組みの構築の為、二週間程御休みをいただきます。大体一週間前後を目安に『世界の真理書「深淵編」』を投稿、新章は4/10から開幕します






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世界の真理書【深淵編】



真理書です



※カゲマスコラボガチャでペンシルゴンを無事御迎えしたので、感謝感激の繰り上げ投稿します






 

 

Loading………

 

 

深淵のクターニッドの適性攻略人数は『8人以上』です。また攻略時には、パーティメンバーの職業を『少ない種類』にすることが推奨されます。基本的にどの職業でも問題有りませんが、パーティーメンバーに『壁タンクが2~3人』居れば、クターニッドの最終形態である『想像態』での戦闘が幾分か楽になります。

 

ただし今回、ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】の受注プレイヤーが存在する為、ユニークシナリオEXの難易度及び『反転の要石』の解除ギミックが変更されます。

 

クターニッドのユニークシナリオEXの発生条件は、初回限定でユニークシナリオ【深淵の使徒を穿て】を受注し、同シナリオ内でクライング・インスマン号と接敵後、依頼主であるNPC『自称大海賊スチューデの生存』及び『スカーレットホエール号が沈没していない事』、そしてクライング・インスマン号に『スチューデとパーティーメンバー全員が乗り込む』という条件を達成する事で、クターニッドが出現・ルルイアスへ引き込む事で移行条件を満たします。

 

また、初回クリア以降は『クターニッド撃破から2週間が経過』及び『フィフティシアで発生する嵐の日に海に船出するNPCの『ユニークシナリオ』を受注する事』を条件とする事により、クターニッドが遣わす幽霊船とエンカウントする事が可能になります。

 

 

 

 

 

 

 

反転都市ルルイアス概要

 

此の特殊エリアでは、昼間と夜間で出現するモンスターが変化します。

 

昼間:深淵のクターニッドによって、生きる魚を死せる魚人とした『深淵の眷属』及び、死せる魚を生きる人魚とした『深淵の偽人魚(ぎじんぎょ)』に成ったエネミーが主に出現します。

 

夜間:深海エリア『冥府の深海』に出現するモンスターがランダムで出現します。

 

またルルイアス内部には多くの廃屋が存在しており、建物内に存在する『無事なベッド』が在れば、基本的にどのベッドでも『セーブ並びにログアウト』が可能です。

 

反転都市ルルイアスの四方には『四つの塔』が存在し、各々に特殊エネミー『封将』が居り、後述するクターニッドの特殊能力と対応した『能力』を保有しています。各々の封将を倒す事で、クターニッドの持つ対応した能力を封じる事が出来ます。

 

また、反転都市ルルイアスの四方の塔の間に存在する『楔の石像』には、深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の起動に必要なエネルギータンクが埋め込まれており、ギミックを解く事で入手可能です。

 

各々の封将が一つずつと石像の四つを合わせて、合計『八つ』のエネルギータンクがルルイアスには点在しています。

 

 

 

 

 

中央のルールイア城の地下空間には『深淵のクターニッド』が居ますが、『ギミック』を起動するまでの間、クターニッドは『妄想態』の状態を維持しています。また妄想態のクターニッドを倒した場合は、ユニークシナリオEXは『強制終了』となり、参加プレイヤー及びNPCは、シャングリラ・フロンティア内のエリアへランダムに転移させられます。

 

ルルイアスの中心地に建つルールイア城には、通常の部屋とセーブポイントになる寝室以外に『王の執務室』・『要の玉座』・『望郷の最上階』が存在します。

 

王の執務室には『妄想態のギミック解除』と『深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)を起動する為のヒント』となる『女王の日誌』が存在します。

 

要の玉座にはクターニッドの妄想態を破る為のギミック『反転の要石』と、クターニッドと力を分けた一式装備・深淵を見定む蛸極王装が納められた『箱』が存在します。

 

望郷の最上階にはクターニッドの破る為のギミックアイテム『かつての栄光』と『救いの神を描いた天井壁画』が存在しますが、入手と閲覧には『虚飾の鮫怪』を倒す必要があります。

 

反転の要石に嵌め込まれた宝石をかつての栄光に戻す事、及び深淵を見定む蛸極王装を起動する事でギミックが作動し、自動的にクターニッドは妄想態が解除され、戦闘に移行します。

 

 

 

 

 

 

封将攻略

 

クリーオー・クティーラ

 

クリオネの姿をしたモンスターで、プレイヤーとNPCの『魔法』を封じる能力を持っています。触手による隙の無い攻撃を仕掛けますが、近距離or遠距離の片方のみの攻撃である為、対処は容易。

 

ただし純魔のプレイヤーやNPCは、攻撃手段の九割が無効化されるので撤退推奨。

 

 

 

スレイビール・ダーゴーン&スレイビール・ハイドーラ

 

二体で一体のボスにして、二対の半魚人のモンスター。此のモンスターは『物理攻撃』の無効化、及び『スキル』の発動を全て封じる為、攻略難易度は封将中最高といえます。

 

しかしボス自体のスペックはそこまで高くはなく、さらに攻撃は防御可能なので、魔法職を主力として動けばあっさり倒せます。

 

 

 

バーシュド=メルナクル

 

群体モンスターであり、体表から生み出される大量のフジツボの幼生が本体の身体に纏わり付く事で、自身に対する『近距離攻撃』を封じてきます。

 

ただし此の封将は『とてつもない近眼』であり、自身から『10メートル以上離れた遠距離攻撃』であれば、幼生ガードが発生しません。

 

更に『転倒耐性』が絶無に等しく、オブジェクトや縄等による『バランスを崩す圧力的な攻撃』を加えれば、其処まで苦戦はしないでしょう。

 

 

 

アンモーン・オトゥーム

 

騎士の決闘に飛び道具は無粋であり、プレイヤーやNPCの『遠距離攻撃』を無効化する、近距離による真正面からのタイマンが攻略法の、アンモナイトを模した騎士型のモンスター。

 

近距離肉弾戦のセオリーが通用する、封将の中でも『一番戦いやすい存在』ではありますが、高度な行動を相応に取るので、油断しているとレイピアで心臓や頭を一突きにされて、呆気無く殺されます。

 

 

 

 

 

深淵のクターニッド攻略

 

特殊エリア『反転都市ルルイアス』に入った時点から『七日間』が滞在可能な制限時間であり、七日以内に深淵のクターニッドの【妄想態】または【想像態】を撃破する事で、シナリオクリアになります。

 

 

 

 

 

深淵のクターニッド・各形態別情報

 

 

 

【妄想態】

 

初期状態、巨大な漆黒の蛸に『見えるだけの姿』。其の実態は『クターニッド』の認識で作用する『幻像』であり、厳密には『クターニッド』では在りません。

 

此の状態時、クターニッドは自身と遭遇したシナリオ参加NPC全体に対し、常時【呪い】を振りまく特殊行動『深淵錯視(フェイク・アビス)』を発動。影響下にあるNPCはクターニッドが産み出した『偽想態』に対して、積極的に戦闘を仕掛けるようになります。

 

此の形態でのクターニッドは偽想態としての判定である為に打倒する事は『不可能』で、城内に存在する『王権のギミック』を解除する事により、初めて『幻想態』へと移行します。

 

偽想態の主な攻撃手段としては、触手を使った薙ぎ払いに叩き付けを用います。

 

 

 

 

 

【幻想態】

 

第二形態、八芒星の魔法陣から触手と目玉が生えた『異形の姿』であり、戦闘開始と同時にシナリオ参加NPC全体に『恐怖』を振りまく特殊行動『深淵凝視(グレア・アビス)』を発動します。

 

此の形態中のNPCは実質『行動不能状態』と言っても過言では無く、クターニッドの攻撃に晒される事となる為、フィールドからの避難が推奨されます。

 

此の形態では、攻撃に用いられる触手全てに一定ダメージを与えると解除され、次の形態へと移行します。

 

主な攻撃手段としては、触手を枝分かれさせてプレイヤー及びNPCに、高速かつ軽度のホーミング攻撃を行います。

 

 

 

 

 

【空想態】

 

第三形態、魔法陣を組み合わせて作った中身の無い『ハリボテの蛸のような姿』。此の形態では八本の触手が持つ杯がそれぞれ異なる特殊能力を発動・其れに対応した『反転効果』が、プレイヤー及びNPCに適用されます。

 

ただしユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】の受注プレイヤーが居る状態で開始していた為、聖杯が『新たに一つ追加された状態』で始まり、一式装備を纏っていない場合は『発光間隔がランダム』になります。

 

また追加された聖杯と発光間隔は、一度でも『クターニッドのユニークシナリオのクリア者が参加した場合』でも、同様に適応されます。

 

 

・赤:近距離無効化の効果によりクターニッドから10メートル以内の座標から放たれた攻撃全てを無効化します。

 

・橙:遠距離無効化の効果によりクターニッドから10メートル以上離れた座標から放たれた攻撃全てを無効化します。

 

・黄:物理攻撃無効化の効果によりクターニッドに対して物理、およびスキルによるダメージの一切を無効化します。

 

・黄緑:魔法攻撃無効化の効果によりクターニッドに対してMPを消費する魔法によるダメージの一切を無効化します。

 

・緑:色彩反転の効果によりプレイヤーおよびNPCの視界の色調を反転します。

 

・青:性別反転の効果によりプレイヤーおよびNPCの性別を反転します。体型や年齢等はステータスやプレイヤー及びNPCの行動ログから生成されます。

 

・藍:ステータス反転の効果により、ランダムに選択された二種のステータスの数値が反転します。

 

・紫:ダメージ反転の効果により、クターニッドおよび『聖杯』に対して与えられるダメージは回復効果に、回復効果はダメージに反転します。

 

・白:プレイヤーはプレイヤー、NPCはNPCのアバターがランダムに選択され反転します。此の状態時のアバターの操作は、反転したプレイヤー及びNPCが行います。

 

 

全ての触手が持つ、もしくは上記の四体の封将達を倒す事で『聖杯』は破壊出来、全て破壊する事によってクターニッドは次の形態へと移行します。また此の形態での反転効果は、後述するクターニッド・想像態:第二形態との戦闘が終了するまで『継続』します。

 

此の形態時の主な攻撃としては、触手による叩き付けや薙ぎ払い攻撃くらいですが、紫の聖杯を使用後に限り、クターニッドはダメージを受けた聖杯を地面に叩き付けて、ダメージを修復する『特殊行動』を行います。

 

 

 

【仮想態】

 

第四形態、周囲の生物を吸い込む『ブラックホールのような漆黒球体の姿』。

 

5分間、魔法【ランダムエンカウント】を無差別かつ無尽蔵に発動し続け、30秒ごとに召喚されたモンスターを吸収します。

 

ただし、ユニーククエストEX【七星の皇鎧よ、我が元に集え】の受注プレイヤーが居るか、クターニッドのユニークシナリオのクリア者が一人でも参加している場合、クターニッドは【ランダムエンカウト】を15秒毎に発動・15秒で対象を吸収する『変則ルーティーン』を仕掛けるようになります。

 

此の形態時に吸収したモンスターの『総数』によって、想像態時の『体力数値』が変動します。また此の状態でのクターニッドはプレイヤー及びNPCに対して、自ら攻撃を行う事はありません。

 

 

 

【想像態】

 

最終形態、仮想態で吸収した血肉を基底とし『仮初めの実態』を得た、蛸頭人体の姿を持つ深淵の盟主。

 

想像態のクターニッドは『二段階の行動パターン』を持っており、第一段階では背中に在る『深淵宝玉』によって、ランダムに選出されたプレイヤーおよびNPC8名のモーションログを参照、自身の行動パターンに反映させる『Analysis(アナライシス).』及び『Reflexus(リフレクス).』を使用します。

 

また参加プレイヤーとNPCが『8名以上』存在する場合は、上記の参照と反映行動を『8分毎に一度の間隔で随時更新』を行ってきます。

 

想像態・第一段階のクターニッドは5つの『ダメージアーマー』が備えられており、一定以上のダメージを与える事によってアーマーが一つずつ解除され、最終的に全てのアーマーが解除される事により、想像態・第二段階へと移行します。

 

第二段階では八つの深淵宝玉を基点として、クターニッドは八本の『巨神触手』を展開します。此の段階ではクターニッドの背中に在る、八本の巨神触手を振るい翳しながら、プレイヤー及びNPCに攻撃を仕掛けてきます。

 

攻略するには、背中で展開する『深淵宝玉』を全て破壊し、其の後『一定量のダメージを与える事』で、クターニッド・想像態は撃破となり『戦闘終了』となります。此の『一定量のダメージ』は一人のプレイヤーで達成可能な量であり、実質『八つの宝玉を破壊した時点』で、クターニッドの撃破は成功と言っていいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

深淵のクターニッドのストーリー的設定

 

大前提として深淵のクターニッドの価値観は人間の其れとは大きく異なっており、クターニッドは人間を『個』としては識別せず、人間という『種族』という枠組みで認識します。

 

クターニッドは自身の出自から、人間という種族に対して『敬意』の感情を持っており、ある理由から拠点としているルルイアスへ『一号計画』及び『二号計画』の産物たる人類を誘い、其の力を観測しているのです。其の為にユニークシナリオEXの『全て』が、クターニッドによる壮大な『盤上遊戯』に過ぎず、ゲームキーパーたる『己』が課した苦難を乗り越え、最後の試練(ボス)を打倒した者達を讃え、報酬を与えるのです。

 

既に御気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、まさしくクターニッドは『TRPGのゲームキーパー』其の物…………嘗て己を、自身と同じ力を持った鎧を創り、そして生み出した優れた『人類達』。滅びに対して絶望に打ち拉がれながらも、然して其の歩みを決して止める事の無かった偉大なる『人類達』。

 

其の後継達を見極める事こそ、クターニッドの『根本原理』で在ると共に、彼の生き甲斐(・・・・)なのです。

 

 

 

 

 

 

クターニッドの正体は、神代の時代に行われた『二号計画』における前提実験である『一個体における限定的現実改変特性の付与』………其の被験体として選ばれた『一匹の蛸』です。

 

第一、及び第二の実験で得た『術式』が肉体に施された状態で、無差別な現実改変を一個体の制御化に置く為の処置が施され、其の結果としてクターニッドは『反転』という条件の元、己の意思で自在に『現実改変』が可能となりました。

 

しかし副作用としてクターニッドは肉体を喪失、自身の意識・思考能力・記憶を転写した『自律魔法術式』。其れが、深淵のクターニッドという『存在』なのです。

 

言うなれば『生きた魔法』………そして魔法とは、世界に刻まれた『概念』。火によって物質が変質する概念を『燃焼』と、上に投げた林檎が下に落ちる概念を『引力』と呼ぶ様に、クターニッドという反転の現象其のもの(・・・・)こそが『深淵のクターニッド』という『概念』なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)

 

六道極円盾(リクドウキョクエンジュン)天獄(テンゴク)

 

其れは神代の時代における、限定的現実改変特性の付与実験の過程でクターニッドと共に産まれた鎧であり、人が人の身で反転という『力』を行使し、人類を護る為に産み出された『物』───────謂わば此の鎧はクターニッドにとって、自身と同じ力を分けた『兄弟』の様な存在であります。

 

クターニッドが鎧を守り続け、そして何時の日か己が見定めた盤上に勇者(・・)が招かれた時に、其の者が()に鎧を託すに相応しきかを、クターニッドは様々な『試練』を以て確かめんとします。

 

勘の良い方は気付いたでしょう…………ルルイアスでの夜に現れたモンスターが、何故強敵達ばかりだったのか。何故クターニッドは変則的かつ、攻略難易度を上げたのかを。

 

其れは嘗て、困難に直面しながらも前へと進み、人という『種族』を未来に繋げてみせた者達と同じく。勇者と、其の者と共にルルイアスへ招かれた者達に対して、クターニッドは其の力を『証明せよ』と叫ぶのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてもう一つ、クターニッドという存在を語る上で欠かせないキャラクターこそが要の玉座に在る『反転の要石』と、ルルイアスの四方の塔の間に存在する深淵を見定む蛸極王装の起動に必要な、エネルギータンクが埋め込まれた『楔の石像』……人の女性を象った其れこそが、クターニッドが唯一『個』として認識する人物。

 

其れは『二号計画』における全権限を持ち、また『一号計画』とは異なるアプローチで『人類という種族』を未来へと繋げた『アリス・フロンティア』を象った物なのです。其の詳細は『世界の真理書「不滅編」』にて記述されています。

 

 

 

 

───以下、ワールドクエスト第四、第五段階で解放───

 

クターニッドがルルイアスを拠点とし、深淵に座す理由はルルイアスに存在する女王の手記にも記されている通り、ルールイアを滅ぼさんとした『狂える大群青』を封印する為です。

 

そもそも『狂える大群青』の正体は[──────]の[───]であり、即ち神代よりさらに前の時代の『始源』の胎動を指しています。

 

嘗ての時代…………神代の人類が総力を挙げて抵抗した[─────]の脅威は未だ根絶されておらず、クターニッドは現在の人類を見極め、警鐘を鳴らすのです。

 

───意思亡き『始源』は胎動せり。人類(ひと)よ、嘗て成しえなかった抵抗を成せ。

 

 

 

 

 






ヤバい情報だらけの本


Q,つまりペッパー達が挑んでたクターニッドって、どうなってたの?

A,シャンフロの神様達とシステムがリュカオーンの小さな分け身到来に対する、セルフクリア済再挑戦時の難易度に引き上げた状態だったし、クターニッドも自身の鎧を継承するクエスト持ちのプレイヤーがやって来たので、結構マジ(・・)で来てた。



Q,クターニッドはサイガ-0とペッパーに何を話したん?

A,其処の恋愛雑魚雑魚のヘナチョコモナカ、お前滅茶苦茶キーパーソンだから色々覚悟しとけ。あと俺の鎧を託した其処のお前、取り敢えず絶対にコレとコレは期限までに見付けとけよ。






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龍の大戦は幕を開け、双狼の戦は人心を揺らす
デュアルウルフ・イグナイト




新章開幕




深淵のクターニッド撃破の日の翌日。大学の講義を終えて、昼休みに昼食という心休まる時間を手にした梓は現在、スマフォを近くに置きつつも冷たい蕎麦を啜っていた。

 

「……………はぁ」

 

彼が調べていたのは、シャンフロ関連掲示板にSNSといった情報であり、其の中でも『あるクラン』に関する物を中心に検索していたのである。

 

勿論クターニッドの撃破に関する事や、自身のアバター『ペッパー』に関する記事も見たが、まさに典型的な『悪目立ち此処に極まれり状態』だったので、彼は其の内見る事を止めた。

 

そして調べたクランに関しては、やはりというか『大事』になっており、彼は一人深い深い溜息と共に頭を抱えたのである。

 

(まぁじで、どーすんの『コレ』…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレンド登録したキョージュからのスパムフクロウは、深夜帯であったので目立たないと思った矢先、フィフティシア近辺に近付いた頃に再び襲い掛かった。まるで渡り鳥の大移動の如くフィフティシアの街中をフクロウが飛んで行けば、人間其処に一体何が在るのだろうと気になる生き物だ。

 

クターニッドとの戦いを終えて、スチューデの操舵でフィフティシアまで無事帰る事が出来たペッパー達は、ヴォーパルバニーを各々擬態させ、アラバには船内に隠れさせつつ、一番の大問題に成りかねないノワを影に擬態させて降りた先、多数のプレイヤーとNPC達に出迎えられる事となったのだ。

 

「やぁ、ペッパー君にサンラク君。深淵のクターニッドの討伐おめでとう」

「キョージュさん。えっと、ありがとうございます」

 

初見では絶対に吹くだろう、幼女の身体から激渋男性ボイスと共に、ペッパー達へと話し掛けたのは考察クラン:ライブラリのリーダー・キョージュ。其の後ろには複数の、ライブラリ所属のプレイヤー達の姿も在る。

 

「やぁやぁ、おじーちゃん。私達今すっごく疲れててさ、オハナシなら暫く後にしてくれるかな?」

「フフフ……まぁ確かに、彼等彼女等を見ていれば解るとも。かなりの『激戦』だったようだね」

 

チラリとキョージュが見れば、参加したプレイヤー達にも疲労の色が見えており、語らずとも考察と予測は可能だった。そんな中、プレイヤー達の視線を集めたのは『二人のプレイヤーの相対が二つ』起きていた事であり。

 

 

『…………………………………』

『…………………………………』

 

シャンフロ最高峰の呪術師にして、クラン:SF-Zooの園長(リーダー)Animaliaと、レーザーカジキ。

 

『…………………………………』

『…………………………………』

 

シャンフロの最前線を走るクラン:黒狼のリーダー・サイガ-100と、クランの切札にして最大火力(アタックホルダー)のサイガ-0が、各々向き合い無言で睨み合っているのだ。

 

「うわぁ、凄まじくギスってら」

「何言ってんのサンラク君。レイちゃんに関しては、君にも『責任』が有るんだからね?」

「はぁ?何でさ」

 

疑問符を浮かべるサンラクに対し、ペンシルゴンは説明を開始した。

 

「そりゃあ、仮にも自他共に認めるトップクランの黒狼が、二度もユニークを逃した訳だしィ? しかも二度の討伐アナウンスの両方に聞いた事無い名前が出てたら、そりゃあ当事者達は気に食わないでしょ?」

「えぇ…………」

 

だとすると解らないのは、サイガ-100やAnimaliaが此方をターゲティングしないのは何故か。記憶を掘り返してみればサイガ-0とサイガ-100はリアルでは『姉妹』、Animaliaとレーザーカジキはリアルでは『姉弟』だった事を思い出す。

 

「…………コレ、もしかして『アレ』か?弟や妹にユニークモンスターを『先取り』されたのが、よっぽど許せないって『怒りの感情』だったりするのか?」

「あーくん、正解だよ。『姉より優れた妹や弟なんざ存在しない!』ってね?」

「お前………何時か『クオン』に刺されても、文句言えないぞ………」

 

我が恋人ながら人間関係で一悶着有りそうだと心配になっていると、ペンシルゴンが二つの睨み合いに対して仲裁へと入った。

 

「ハイハイ、其処の二組さん。こんな所でバチバチにやり合ってないで、自分達の所でやって頂戴な」

「………トワ(・・)コレ(・・)もお前の手の内か?」

アーサー(・・・・)ペンシルゴン(・・・・・・)だよ『100(モモ)』ちゃん。生憎だけどね、此の件に関しては以前に『レイちゃん』から相談を受けていたのさ」

 

互いに互いのリアルネームを呼び合う仲か、そんな矢先にサイガ-100とAnimaliaの視線がペッパーへと向けられる。深呼吸で眠気を押さえて向き合いながら、彼は仲間を護る為に立つ。

 

「先ずは謝罪を。サイガ-0さんとレーザーカジキさんを六日間、此方の都合で巻き込んでしまい申し訳御座いませんでした」

 

初手謝罪は日本人の美学、兎に角穏便に済ませなくてはいけない。

 

「サイガ-100さん、御先にどうぞ?」

「そうか。では単刀直入に聞かせて貰うとしよう……『夜襲のリュカオーンのユニークシナリオを発生させ、リュカオーンのヘイトを集められる武器を所持している』………其れは事実か?」

 

他のプレイヤー達がざわついている。ふと視界の端にはサイガ-0がペッパーとサンラクを見ながら、申し訳なさそうに頭を下げていた。ペンシルゴンや京極からは聞いていたものの、予想以上に事は大きく成っていたらしい。

 

「えぇ、持っています」

 

簡潔に事実を述べれば、またしてもプレイヤー達がざわめき立ち。

 

「ほほぅ……………其れは実に(・・)興味深い事を聞きましたよ、ペッパー君?」

 

バッと視線を向けた先には、クラン:ウェポニアのオーナーにして『武器狂い』の異名を持つ『SOHO-ZONE』がニチャア……と。そう表現するしかない笑顔を向けて、歩み寄ってくる。

 

「リュカオーンのヘイトを集められる武器………シャンフロ内でも見た事も聞いた事も無い、私の知らない未知の武器………!一体どんな姿をしているのでしょうか……!是非、是非、是非ともっっっ!私に見せて頂きたいのですが………ペッパー君宜しいか?」

「相変わらずだなぁ…………」

 

こんなドが付くような修羅場の中、通常運転処かテンションフルマックス状態で話せる旧友が、今此の瞬間だけは羨ましいと思う。対するサイガ-100は鋭い視線を………例えるなら『剣の鋒』を首筋に突き付ける様なプレッシャーを放ち、Animaliaは動物を傷付ける者に対する絶許のオーラを放ち。

 

だがそんな彼女等の怒りの矛先も、武器狂いのニヤケ顔も、キョージュの考察も、其れ等を全て吹き飛ばす一撃が『サイガ-0』、そして『レーザーカジキ』の口から放たれた。

 

「其の前に、話が有ります姉さ………。────いいえ。クランリーダー」

「……今一度聞いてやる」

「Animaliaさん。僕からも貴女に話が有ります」

「…………何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、クラン:黒狼から脱退し。新たにクラン:旅狼への加入を考えています」

「僕はクラン:SF-Zooからのスカウトを断り、クラン:旅狼に入らせていただきます」

 

サイガ-0の其れは、以前に聞いた話では『移籍』の方向だった事。しかし提示されたのは、まさかの『脱退からの加入』であった事。其れを聞いた瞬間、プレイヤー達のざわめきはどよめきへと転じ、ペッパーは唖然となり、ペンシルゴンはサンラクの顔面を徐にぶん殴ったのである。

 

最早カオス以外の何物でもない光景、プレイヤー達のどよめきやサイガ同士の対立に加えて、レーザーカジキとAnimaliaの睨み合い。後のシャンフロの歴史において『狼双戦争(デュアルウルフウォー)』と呼ばれるクラン対クランの序章が、深夜のフィフティシアにて起こったのだった………。

 

 

 

 

 






触発の火花は、闘争の業火へ変わる




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リュカオーン・オブ・ジ・アンサー



やらなければならぬ事




ユニークシナリオを攻略したメンバーの一人・レーザーカジキがクラン:SF-Zooからのスカウトを蹴って、クラン:旅狼(ヴォルフガング)へ所属しようとしている事。

そしてシャンフロ最高アタッカーのサイガ-0が、黒狼(ヴォルフシュバルツ)を脱退して旅狼(ヴォルフガング)への加入をしようとしている事。

 

此の二つの内、話題性といえばサイガ-0の方が勝るが、レーザーカジキの方も少なからず注目されている。大手クランからのスカウトを断るとは、どんだけ度胸が有るんだと言わんばかりに。

 

(今日はバイトは無い………午後三時には帰れるから、今の内に『アレ』を買っておこう)

 

スマフォを操作、ネットショップを開いて検索キーワードを打ち込む。

 

「確か………『デュエル・ガンナー』っと、おっ有った有った」

 

パッケージには青年が『ガン=カタ』のポーズを取り、文字の所々には弾丸で撃ち抜かれた様な意匠、そして謳い文句として『一発の弾丸で勝負を決めろ!』と掲げている

 

シルヴィア・ゴールドバーグへのリベンジの為、ブシカッツォに聞いた所奨めてきたゲームであり、プレイ動画やレビューで調べてみた結果、此のゲームには『ログインボーナス』や『初心者推奨ミニゲーム』に『ミッション』で手に入る『ゲイン』というゲーム内通貨を使う事で、使用出来る銃のパーツや防具に弾丸の購入・武器の改造が出来るそうだ。

 

特に初心者推奨ミニゲームは、反射神経に其処まで優れていないプレイヤーの練習場や、先ず何をすれば良いか解らない新規勢の勉強の場。そして復帰勢の現段階の状況確認等々の様々な役割を持ち、かつ稼げるゲインも多くデイリーミッションがてら一周するだけでも、戦闘に必要になる物資の調達が出来る親切設計となっている。

 

オンラインも、無差別マッチとランクマッチといった形で区分・ゲームコンセプトの『速打ち決闘方式』が取られており、純粋な反射神経と抜き撃ち、弾丸一発が心臓か頭に直撃すればプレイヤーは負け扱いという、まさに『一発の弾丸で勝負を決めろ!』を体現したゲームなのだ。

 

(要するに『正確』かつ『迅速』に、かつ相手より『速く』弾丸を対象の『頭か心臓』に撃ち込めるか……其れが鍵って事なんだな)

 

取り敢えずゲームをやってみない事には何も始まらないので、梓は早速『デュエル・ガンナー(パッケージ版)』を購入、翌日には到着するので其れを待ちながら、蕎麦を再び啜るのだった……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後四時過ぎ。

 

大学の講義を終えてスーパーの食材タイムセールの波に揉まれ、住まいたるアパートへ戻った後に冷蔵庫へ食材や牛乳を、冷凍庫へ冷凍食品を収納した梓は、手洗いと嗽を行って布団を敷き、シャングリラ・フロンティアへとログインする。

 

「あ、ペッパーはん。目覚めたのさ」

『ワゥ♪』

 

現時点で最後の街であり、来る大型アップデートでは新大陸への旅立ちの港となる『フィフティシア』。其の某宿にて目を覚ま(ログイン)したペッパーは、相棒のヴォーパルバニー・アイトゥイルに、ユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの小さな分け身であるノワと対面していた。

 

「やぁ。………さて、アイトゥイル………『先生』には事情は伝えてくれたか?」

「はいさ。御頭はペッパーはんから直接話を聞きたいのと、ノワを連れて来てくれって言ってたのさ」

「だよね」

 

先生…………其れはペッパーが世話になっているヴォーパルバニーの国・ラビッツの頭を張る存在たる『ヴァイスアッシュ』の事であり、アイトゥイルの父親。そしておそらくだが………『ある存在の一角』である可能が高い最強のヴォーパルバニーだ。

 

「………よし、アイトゥイル。ラビッツの兎御殿に門を繋げてくれ。俺はもう覚悟が出来た!指詰めだろうが切腹だろうが、何だって責任を取ってみせる!ドンと来やがれってんだ!」

「いや何でそうなるのさ!?」

 

其れくらい空元気にならないと、自分を奮い起たせられないからだよ。アイトゥイルやエムルにシークルゥまでも、クターニッドとの戦いに巻き込んだ。其れくらいやらなくちゃ、自分の中では納得しないし男の名折れだと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うはははははははは!はっはっはっはっはっはっはっはっはっは!こりゃあまぁた、面白い事をやったなぁペッパーよぉ!うはははははははははは!」

 

いざヴァイスアッシュと対面し、リュカオーンの小さな分け身をテイムは愚か、クターニッドとの戦いにアイトゥイルを巻き込んだので、指詰め切腹ケジメ案件を受けます──────そう示した所に飛んで来たのは、ヴァイスアッシュの豪快な笑い声。

 

其の笑いは嘲笑では無く、寧ろ驚愕や面白いといった感情を含み、自分と御座りしているノワに対して笑っている様な感じだった。

 

「いやぁ……しっかしまぁ、ションベン掛けられた犬ッコロにぃ『溺愛』されるに留まらず、ソイツと一緒に『行動を共にする』たぁな。オイラも随分(なげ)ェ事生きてるがぁよ、お(めぇ)さんみたいな開拓者(ヤツ)ァ見た事がねぇ」

「先生…………」

 

そう言って煙管を口に加えつつ、ヴァイスアッシュは言った。

 

「お前さんなら(・・)大丈夫たぁ思うが………其の『チビ助』の手綱ァ、確り握ってやんな。其れと『ノワ』、ペッパーに免じて『オイラの国の敷居』を跨がせてやるがぁもし『手ェ出したなら』…………解ってるよな(・・・・・・)?」

 

背中にじんわりと嫌な脂汗が出てきたし、目の前にいるヴァイスアッシュが閉じた右目を開き、睨みを効かせたのにゾワリと毛という毛が逆立ったし、ノワはジッとヴァイスアッシュを見つめた後に一鳴き『ワンッ』と応えたり、一歩間違えたら腹切りケジメ案件まっしぐらだった。

 

取り敢えず大事な局面を乗り切ったので、此処からは色々と更なる報告をしよう。

 

「先生、実は先生に見て欲しい『物』が有ります」

「見せてみな」

 

そうしてインベントリアから取り出すは、クターニッドの一式装備『深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)』、そして『朽ち果てたアスカロン』の二つを取り出し、ヴァイスアッシュの前に置く。

 

「深淵のクターニッドさんから託された、彼と力を分ける一式装備の深淵を見定む蛸極王装、そして彼が根城としている反転都市ルルイアスで討伐したモンスターの中から出てきた、魚人族(マーマン)の英雄・ゲルニカが振るったという英傑武器(グレイトフル)アスカロンです」

 

どうやらクターニッドとの死闘を演じ、戦いの果てにペッパーが深淵の盟主の鎧を手にした事に、ヴァイスアッシュはまた驚かされた様子で。

 

「ふはははははははは………!はっはっはっはっはっはっはっはっはっは!そうか、そうか!クターニッドに認められるだけの力を示したかぁ!はっはっはっはっは!!」

 

バシバシと自分の膝を叩きながら、実に天晴れ!とでも言いたげな表情をしていた。そして彼の視線は朽ち果てたアスカロンの方へと向く。

 

「…………成程なぁ、コイツァ今は(・・)ただの(ナマクラ)だぁ」

「………ん?今、は………?」

「おぅよ。そうだな………」

 

そう言ってヴァイスアッシュが立ち上がる。其の瞳はまるで『付いて来い』と無言で言っている様であり。彼と共にペッパー・アイトゥイル・ノワは、ビィラックの鍛冶場へと向かって行った……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尚其の道中、ノワと出逢ってしまったピーツは泡を吹いて気絶してしまい、他のヴォーパルバニーに医務室へと運ばれる事となったのである。

 

 

 

 






責任重大




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ウォーズ・トゥ・メイキング



修繕と新規製作




「お、ペッパー。其れにヴァッシュの兄貴」

 

ヴァイスアッシュに連れられて、ペッパー・アイトゥイル・ノワが兎御殿のビィラックの鍛冶場に向かう途中、サンラクとエムルに出逢った。

 

「おぅ、サンラクよぉ。ペッパーから話は聞いたぁ、クターニッド相手にエムル達をよく守りきった」

「へぇ……兄貴は此れからどちらへ?」

「ビィラックの鍛冶場にな。サンラク、ちょいと付いてきな」

「解りやした」

 

サンラクとエムルもヴァイスアッシュに付いていく形で歩き、一度はビィラックの鍛冶場に到着。そして案の定、彼女はリュカオーンの小さな分け身たるノワを見て、顎が外れた様にあんぐりと口を開けっ放しになってしまう。

 

そしてノワのテイムの経緯や、クターニッドと戦ってきた事を伝えた所──────

 

「かぁぁぁぁぁぁぁ…………ワリャ等、馬鹿じゃ馬鹿じゃと思っとったが、此処までなるたぁなぁ………」

 

はぁぁぁ…………と言わんばかりの、ビィラックの大きな。其れも兎生最大の大溜息だった。

 

「幾ら通常運転なサンラクさんでも、流石にアレは予想外でしたわ………」

「そうさね、ビィ姉さん。シー兄さん含めて全員五体満足で帰って来れた、其れだけで儲けものなのさ」

『ワゥ』

 

エムルとアイトゥイルの言っている事は事実であり、死んだら甦らず世界から消えるNPCを、死亡率が高いユニークシナリオにユニークモンスターとの戦闘で、大怪我無く乗り越えられたのは、本当に奇跡だったと言える。

 

「………で?わちん所に来たんは、武器の修理じゃけ?其れに何故にオヤジも居るん?」

「まぁ、先に武器の方の修繕からだなぁ」

 

アスカロンの事をビィラックに話すつもりだろうと考えつつ、サンラクとペッパーは各々の武器や防具達を取り出していき。そしてインベントリアを通じ、ペッパーに所有権が戻った『破損状態の風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)』を見て、彼女は顰めっ面になった。

 

「まぁ、クターニッドと殺り合ったんじゃ。ある程度は覚悟しとったけ………。にしても、クターニッドと力を分けた一式装備たぁ、またとんでもない物を託されたの」

「色々とヤバいですよ本当に………」

「まぁな。あぁ、そういやヴァッシュの兄貴。昨日やって来た『SF-Zoo』……あいや、以前ラビッツから叩き出した連中はどうなりやした?」

「あぁ、奴等か………。キッチリ『蛇共』を全部倒して行ったぜ」

 

サンラクの問い掛けにヴァイスアッシュが答える。どうやらAnimalia達は依頼通りに、沸き出てきた『兎食の大蛇』を一匹残さず倒しきったらしい。

 

「ビィラックさん。今渡した武器や防具の修繕の後で良いので、新しい武器や防具を御願い出来ますか?マーニや素材は潤沢に在りますので」

「ふむ、そりゃ構わんが………見せてみぃ」

 

ビィラックが指先でクイックイッと合図をしたので、ペッパーとサンラクはインベントリアから素材達を取り出していく。そうしてどんどん取り出して出来た素材の山々に、ビィラックがストップを掛けた。

 

「待て待て待てェ!?ワリャ等、どんだけ戦っとんじゃ………?!?」

「俺もペッパーも、まだまだ有るぞ」

「あはは……」

 

思えば深海三強や其の不世出(エクゾーディナリー)、他にも様々な猛者達と、ルルイアスの環境下で六日間随分と戦ってきた。本当は七日間フルで戦いたかったのだが、過ぎた事はもう仕方無いと割り切るに限る。

 

「全く…………こがいな時は手順を『逆』にするんじゃけぇ。ワリャ等は何の武器が欲しいか言うてみぃ」

「何の武器、か…………」

 

インベントリア内と取り出した素材達を見つめつつ、ペッパーとサンラクは思考してか暫く沈黙。其の果てに彼等は各々の欲しい物を、ビィラックにオーダーした。

 

「俺はそうだな……。先ずは『頭と腰のを含めた一式装備』と、其れから『拳武器』に『片手剣』。後は…………『槍』と『盾』、其れから『小鎚』だ」

「ビィラックさん、俺が欲しいのは『一式装備』と『盾』と『鞭』に『籠脚(ガンドレッグ)』。そして『ハンマー』と『雑種剣(バスタードソード)』が欲しいです」

「ちょい待ち………槍と盾じゃと??」

「あぁ」

 

ビィラックからすると、サンラクというプレイヤーの戦い方からして剣や拳が主流。其れが如何なる理由で守って突き刺すのカウンター戦法をしようとしてるのか、解らない様子だと見て取れる。

 

だがゲーマーという生き物は、狩りゲーでも主力とする武器以外に、様々な武器を使いこなす。ある人曰く『秀でた者程、其の実力は(よろず)に通ず』とは言うが、超一流のスパイは辺境の国の言葉も流暢に話し、食事や社交会でのマナーにも抜かりが無いのだから。

 

「…………成程な。ワリャ等の(ツラ)を見りゃ、大体言いたい事は解ったけ。ちゃんと使いこなしてやるってこっちゃろ?」

 

テレパシーか何かかとツッコミたくなったが、言わない方が良い気がしたので黙っておく。そしてビィラックが二人のオーダーした武器に必要な素材を積み重なった山から各々漁って、遠くに捌けていた最中で『其れ』を見てはニンマリと笑ったのである。

 

「ははーん………。二人が盾に、ペッパーがハンマーと籠脚の、サンラクが槍欲しい言うたんは『コレ等』が理由か」

 

彼女が手に持つは『冥王鯱の照鏡骨』、そして『冥帝鯱の轟覇頭骨』に『要塞寄居虫の大前鋏』、更には『大剛嚴蝦蛄の堅業殻』。片や深海三強の一角ことアトランティクス・レプノルカの素材、片や其のアトランティクス・レプノルカの不世出存在のシンボル。そしてペンシルゴンとトレードして手にした、深海三強の一角たるアーコリウム・ハーミットの前鋏にキリューシャン・スフュールの不世出個体の甲殻達だ、盾や槍を初めとしてハンマーに籠脚としたならば、きっと良い物が出来そうだと思っていた。

 

「バレてたか」

「解っちゃいます?」

「こんなん見れば鍛冶師なら盾と槍、ハンマーと籠脚を作りたくなるけぇ。しかしまぁ、此等の素材達からは金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)に匹敵、もしくは上回る生命力を感じるの」

「深海の頂点捕食者達と、アラバはんが言ってたのさ……」

「ルルイアスに集った時は死ぬかと思ったですわ……」

「武器と防具の修理は『大体』三日で終わらせるけ、ただ『双皇甲虫の籠手』は一週間掛かる」

「解りました。よろしく御願い致します」

 

実際ルルイアスの環境下で無かったら、先ずアイトゥイル達がタダでは済まなかったし、最悪死んでいたのは間違いない。武器や防具に必要な素材を粗方インベントリアから出して、ビィラックへと預けた終わったタイミングを見計らったか、ヴァイスアッシュが動いた。

 

「さぁて…………ペッパー、サンラク、ビィラック。お前さん等に『コイツ』の事を話すとしようか」

 

ペッパーが渡した『其れ』は、錆び付きて朽ち果てた、変わった形状を持つ『片手剣』。しかして嘗ては魚人族(マーマン)の英雄・ゲルニカが、己の命を預けた唯一の武器。武器種を『英傑武器(グレイトフル)』、(エモノ)(あざな)を『アスカロン』と呼ぶ。

 

「オ、オヤジ……!?こ、こここ………コレって英傑武器(グレイトフル)じゃけ!?ま、まさか………お、おおおお、教えてくれるって………事じゃけ!?」

「おぉよ。耳をかっぽじって、確り聞きなぁ……」

 

そう言ってアスカロンを金床へと乗せ、二人と一羽へ語り始めた。

 

英傑武器(グレイトフル)はぁ、大抵『本来の力』を損なっちまってるもんだぁ……。だからこそ俺等(おいら)達みてぇな鍛治師は、英傑武器が求めているもの(・・・・・・・)理解し(わかっ)てやらにゃあ、いけねぇんだ」

 

『朽ち果てた』とだけあり、此の武器は力を失った状態………そして武器には再び『輝きを宿す事』が必要だそうだ。

 

「アスカロンはよぉ、焔の熱(・・・)海の冷気(・・・・)の二つが必要だぁ………。焔は『地の底より雄叫びを伴いて天をも燃やす炎』が、海の冷気は『冥府よりも尚深い海の底の冷気』がなぁ………」

「地の底…………もしかして『火山』ですか?」

 

活火山の大噴火ならば、確かに雄叫び天を燃やせる。だがシャングリラ・フロンティアに在る其の火山は現在『死んでいる』。名を『栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)』、ブルックスランバー"最速走者(トップガン)"と出逢った場所。

 

だがあの場所は確か『死火山』とか云われて─────いや待て。取り出したのは、栄古斉衰の死火口湖の火山内で採掘した『炎水剛岩(ブルレットロック)』を使い、マッドネスブレイカーを強化した『ヴァンラッシュブレイカー』。

 

其の時に掘り出した鉱石の『フレーバーテキスト』を思い出した時、ペッパーは『答え』に辿り着いた。

 

「先生、もしかして………?」

 

ペッパーが辿り着いた答えに、ヴァイスアッシュはニヤリと笑い。

 

 

 

 

「おぅよ。あの山なら『まだ死んじゃあいねぇ』ぜ?」

 

 

 

 

────────と、そう答えた。

 

 

 

 

 






アスカロンは火と水を求める





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太陽の如く燃え、飛躍の翼は焼き落ちない



焔の在処




栄古斉衰(えいこせいすい)死火口湖(しかこうこ)』。

 

ヴァイスアッシュ曰く、あの火山は『極めて強引な物理的理由』によって火山では無くなってしまった………との事らしい。情報が少ない上に、どういう事かさっぱり解らない中、サンラクとの共同ロールプレイでヴァイスアッシュと交渉してみた結果、何とか情報を引き出せたのだが、其の『内容』がまた凄まじい物であった。

 

先々代(・・・)『赤竜』をジークヴルムが物理的に『()』にして、地中深くまで押し込んだぁ??…………えぇ???」

「ジークヴルムさん、そんな事が出来るんですか………」

「意味が解らねぇだろうなぁ……。だが其れが『出来ちまう』のが、彼奴(アイツ)なんだよう」

 

『赤竜』なるワードに、竜に先代等の概念が在ったり、ジークヴルムって凄いだったり、色々な感想が出て来た。そして問題なのは彼処が『水中』であるという事で、通常(・・)潜水しても湖の底へ辿り着く前に酸素切れで溺死するだけ。浮力の都合上、身体に重り等を巻き付けて沈むしか方法が無い。

 

 

───────そう、通常ならば(・・・・・)

 

 

深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の全種装備時機能なら行けるじゃん………」

「カカカ、まぁアイツの装備なら到達出来るだろうなぁ」

 

クターニッドの一式装備の能力で、水中や海中での呼吸問題は解決出来る為、死火口湖の蓋の先に居る『炎』や冥府の深海よりも更に深い所の『冷気』を手に出来るだろう。

 

「あぁ、そうだ……ビィラック」

「んあ?どうしたけ、オヤジ?」

「アスカロンの修理……おめぇさん、やってみな」

 

ヴァイスアッシュからの言葉で、5mは有ろう天井まで飛び、頭を打ち付けたビィラックに、サンラクは『やっぱエムルの姉だわ』と思い。

 

「そしてペッパー、サンラク。今のお前さん等ぁ、キッチリ到達(・・)したみてぇだな。約束通り、身体に引っ付いた犬ッコロのマーキング……ソイツを一時的に無効化する『無尽のゴルドゥニーネの毒』、取らせる手筈をオイラが整えてやろう」

 

二人にとって、漸く装備が少しだけ自由になる時がやって来たのである…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魚人族の英傑・ゲルニカが振るった片手剣アスカロン。其の修理をヴァイスアッシュから任されたビィラックは、興奮やらで頭を打って現在気絶状態に有る。クターニッドとウェザエモンの装備は修復するまで使えないので、ペッパー・アイトゥイル・サンラク・エムルの二人と二羽は、一度休憩室まで移動しようとしていた。

 

「あぁ!麗しの黒き乙女!今僕のキスで目覚めを与えよう!」

「あ、アラミースさん。御久し振りです」

『ワゥ』

 

部屋の上空で転移の魔法陣が開かれ、現れたのはビィラックに恋する黒猫にして、猫妖精の国・キャッツェリアでも指折りの実力者たるアラミース。ビィラックの気絶がトリガーになったのかと見れば、其の片手には美しい装飾の施された『大きな箱』を持っており。

 

ペッパーが声を掛けて、彼の影からリュカオーンの分け身たるノワが顔を出せば、アラミースの視線が移った刹那に身体が硬直した。

 

「ぺ、ペペぺ………ペッパー殿?な、何故、リュカオーンが此処に……………?」

「えっとですね……………」

 

混乱するのも仕方無い事なので、ペッパーがノワと出逢ってテイムするに至った経緯や、ヴァイスアッシュにも特例中の特例で、自分の国の敷居を跨がせて居る事を伝えるや、アラミースは口が開きっ放しとなって。

 

「………………という事なんですが」

「な、成程………事情は概ね、理解……しました」

 

流石に色々とヤバ過ぎる事をしているので、ノワにも色々と教えて認識を持って貰おうと考えていた所、アラミースが衣服等の身なりを整えるや、片手に持っていた箱を差し出してきた。

 

「コホン………。してペッパー殿、貴方から依頼された『アクセサリー』と『注文の品』を、此のアラミースが持って参りました」

「アクセサリーと注文の品………もしかしてダルニャータさんが作ってくれた物ですか?」

「はい」

 

そうして彼が開いた箱の中には、水晶の様に綺麗な『透明の糸と布』に、タンチョウの白翼の如く『真っ白な翼と白夜の空の蒼をイメージしたマント』、そして『漆黒の左手用の革手袋』。其の親指には『琥珀』が埋め込まれていた。

 

「リュカオーンに認められし、蒼空を舞う勇者たるペッパー殿へ。其の武勇に敬意を示し、キャッツェリアが誇る最高の宝石匠(ジュエラー)・ダルニャータが作り上げた極上の逸品達を御渡しします。此方の『糸と布』は、水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の素材を加工した物。糸の名は『スコルスタ・ストリング』、布の名が『スコルスタ・ヴェール』。

そして此方の二つが、ダルニャータが作りましたアクセサリー…………『アトロフォスの白蒼翼(はくそうよく)』と『封熱の撃鉄(ニュウショウ・トリガー)(スペリオル)』で御座います」

「アラミースさん、そしてダルニャータさんとキャッツェリアの皆様に感謝致します。もし何か困難や危機が有ったならば、先生やサンラクだけでなく自分も頼って下さい。力に成ります」

 

ロールプレイを心掛けて応答すれば、アラミースも力強く首を縦に振って応えた。そしてペッパーは改めて、ダルニャータに依頼し完成した品々を見てみる。スコルスタ・ストリングとスコルスタ・ヴェールは文字通り、水晶群蠍の水晶を糸の状態と布の状態に加工した物であり、此れを用いれば色々なアクセサリーや装備に作り替える事が出来そうだ。

 

「ペッパー、そりゃマブダチ達の素材から作ったヤツか?」

「ダルニャータさんに御願いして、糸と布にして貰ったんだ。エフュールさんに渡せば、多分『水晶群蠍の人形』を作って貰える気がする」

 

彼女程のアクセサリー職人なら、其れが出来そうな気がする…………ある意味ゲーマーとしての直感だ。そして本命は此の二つのアクセサリー、片や白鳥やタンチョウ等の非にもならない美しい白と蒼の翼、片やサンラクの右手を覆う封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)と同形状の革手袋。

 

其の性能たるや如何に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アトロフォスの白蒼翼(はくそうよく)

 

『宝石織』の技術によって産み出された、清廉なる輝きと白夜の蒼空を映した翼。澄み渡る空を飛翔する鳥の様に、風と共に空を往く力を装備者に与える。翼がもたらすは、空を羽ばたき駆ける力。風を掴み天を舞うは鳥の如く、空の元に踊り煌めくは天女の如し。

 

此のアクセサリーを装備中、装備者は機動系・跳躍系・疾走系スキルによって発生するスタミナの減少量は1/5となり、アクセサリーの対象となるスキルの再使用時間(リキャストタイム)は40%減少する。

 

スキルや魔法によってスタミナが0になる場合、MPを0にする事でスタミナを其の数値分回復する。此等の効果は職業(ジョブ)・アクセサリー・スキル・魔法によって重複しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

封熱の撃鉄(ニュウショウ・トリガー)(スペリオル)

 

 

左手を覆う琥珀の装飾を持つ手袋。左親指の琥珀部分を指で打ち鳴らす事で、琥珀に封じられた効果が発動する。更に装備者に一定時間【特殊状態:古熱(ニュウショウ)(スペリオル)】を付与する。

 

『密封の琥珀』シリーズは、琥珀の中に封じ込められた属性の他に封じ込められた物の危険度でクラス分けがされる。クラスは【(クルード)】【(デンシティ)】【(ピュア)】【(ハザード)】【(スペリオル)】の五つに分けられ、其の中でも極級は雑味無く、過密であり、純粋で、災禍の言葉ですら不足する究極の凝固である。

 

琥珀の撃鉄(ハンマー)引き金(トリガー)は使い手の意思。

 

 

・特殊状態:古熱……対象は全身に緋色の炎を纏う。追加効果として『範囲内に居る攻撃対象全てへのスリップダメージ』『攻撃対象の防具及びアクセサリーの熱耐性超低下』を付与する。

 

・追加効果【(スペリオル)】……効果発動中、自身に極放熱(ウルティマヒート)効果を付与する。極放熱状態時には一定以上の速度で移動中に、自身に対するヘイトが付与された陽炎を残す事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、コレヤバいアクセサリー達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 






其れは翼、其れは灼熱

Q,つまり封熱は使うと使用者はどうなるん?

A,熱による耐性を落としまくり、敵にDOTを撒き散らすトラ◯ザムみたいな事が出来る。












400話記念、設定開示コーナー





ゲルニカ



魚人族(マーマン)の御伽噺に伝わる英雄。ザトウクジラの魚人であり、生前は魚人一の剛力と豪胆な性格と酒豪として知られており、当時の鉱人族(ドワーフ)の王との交流も持っていた。彼の数多有る其の伝説の中の一つに、魚人族の都市を襲ったアルクトゥス・レガレクス十匹の大群を単身で討伐し、平穏を取り戻した事が有る。

彼が握った『────アスカロン』は彼の生涯唯一の(エモノ)であり、当時の『──』を自らが旗手となって討滅した事によって、彼が『魚人族の英雄』と成るに至った。そして英雄となり、魚人族の都市を守っていた彼は『荒ぶる深海の王』が襲来した時、彼は仲間と共に戦いに赴き……………帰らなかった。

彼は同胞と共に己等の命を対価に、深海の王を退けたのだ。そうして彼の剣『────アスカロン』は彼の死と共に喪われた──────そう思われていた(・・・・・・)。其の剣は長く……永い……遠い時間を掛けて、他の生物達に取り込まれ。命の輪廻の果ての果て………更なる果ての其の先で、蒼空を舞う勇者の元へと流れ着いた。

因みにゲルニカの見た目は、バトルスピリッツのXレアの一枚『七海大名(しちかいだいみょう)シロナガス』の御腹周りをスマートにして腹筋をバキバキにした感じ。





















朽ち果ての剣に、再起の火を灯せ。

朽ち灯る剣に、深層の冷気を灯せ。

朽ち照る剣を、炎水剛岩(ブルレットロック)を用いて治せ。

我が示す道は、二つに一つ。

払拭か、決別か。

選べ、お前の道を。







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レッドでバーンな深淵の報酬



依頼、性能チェック、そして確認




「おや、おいでやす。エムルにアイトゥイル、ペッパーはんに鳥の人」

「御久し振りです、エフュールさん」

 

アラミースから品を受け取り、やって来ますは兎御殿のドールフロント。何時見ても中々な愛嬌やリアリティを含んだキーホルダー型の人形達を、針と糸で縫って商品棚に載せる彼女はアクセサリー作り……もっと言うと宝石匠(ジュエラー)とは違う方向の職人だ。

 

「エフュールさん。早速なのですが、此れを使って水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の人形を作る事って出来ますか?」

 

インベントリアを操作して取り出したのは、サンラクがマブダチと呼ぶ蠍達の水晶を使い、ダルニャータが加工・糸と布の状態にしたスコルスタ・ストリングとスコルスタ・ヴェール。其れをエフュールは受け取り、職人として品定めするかの様に肌触り、そして品質をチェックを行い。

 

「凄まじいどすなぁ……水晶群蠍の素材のみ(・・)で結った糸と編まれた布……。あても此の道でやってますが、こんな極上品は初めて見ますわ」

「其れじゃあ……!」

「えぇ、此れなら文句無し。最高の逸品が作れますわ」

 

エフュールのニッコリ笑顔に、ペッパーがダルニャータへ心から感謝していた時だった。

 

「時にペッパーはんと鳥の人、あんさんら『中々面白い品』を持ってますな?」

「面白い………」

「品?」

「えぇ。一つ一つ言ってきますと『鯱の頭蓋』に『鮟鱇の結晶』、そして『ヤドカリの剣』って所な」

 

エフュールのヒントを元に、サンラクとペッパーはインベントリア内を捜索、取り出したのは『アトランティクス・レプノルカの照鏡骨』・『スレーギウン・キャリアングラーの宝臭器官』・『アーコリウム・ハーミットの接続剣尾』。ペンシルゴンとのトレードや、ルルイアスでの狩りで手にした品々ばかりだ。

 

「サンラク、もう一個手に入れてたんだな」

「お前もな。因みに此の三つで何が出来るんだ?」

「フフフ、此の三つが有れば『水圧に潰される事が無くなります』さかい、其れで『深海の更に下』の場所まで行けるようになりますわ」

「本当ですか?」

 

「えぇ」と頷いたエフュールに、ペッパーとサンラクは顔を見合わせる。そして暫くの沈黙の先、二人は素材をエフュールへと手渡した。

 

「加工には何れくらい掛かるか?」

「大体『一週間』くらい貰えれば、全部拵えられますな」

「よろしく御願い致します」

 

こうしてペッパーとサンラクはエフュールにアクセサリー用の素材を預け、キーホルダー型のドールを一部購入。其の脚でヴォーパルコロッセオと向かって行く………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗てサンラクやペッパーが激闘を繰り広げ、スキルやアクセサリーの使用感を確かめ、近い将来に秋津茜(アキツアカネ)が此処で十体のモンスターと戦いを繰り広げる事に思いを馳せつつも、今回は自分がアクセサリーの性能チェックとして使う場所だ。

 

サンラクにアイトゥイルとノワを預け、コロッセオに設置されたベッドにてリスポーン地点を設定、中心地に立ちつつ何やかんや呪い隠しから御世話に成って、愛着が湧いている旅人のマントと、後学の為に買ったフィンガーレスグローブを取り外し、新たに手にしたアトロフォスの白蒼翼(はくそうよく)封熱の撃鉄(ニュウショウ・トリガー)(スペリオル)を装備する。

 

「なぁ、サンラク。今の俺ってどんな風に見えてる?」

「黒衣服に白い翼が生えた天使」

「堕天使じゃないのね……」

 

奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)の上にアトロフォスの白蒼翼を着けてる姿を、サンラクの言葉でイメージ出来たペッパーは、白蒼のマントは黒だと凄まじく目立つので移動時は外しておく事にしつつ、検証の為にシャイニングアサルトを使用。

 

高速でヴォーパルコロッセオを駆け抜けて、効果終了後の再使用時間(リキャストタイム)と消費スタミナを確認した結果、回転率・燃費共に自身が予測した以上の凄まじい改善が成されていた。

 

(えっぐ…………、此れヤバいな。超星時煌宝珠(クロック・スタリオン)とも併用したら、脚回りが文字通り『ヤバい』レベルになる。というかサンラクが使ったら、本当に『鳥人間』になるのでは?)

 

白と蒼の翼に、サンラクの被るトレードマークの鳥面を見ながら考えていると、サンラクがジト目を向けてきた。なので一旦気持ちを切り替えて、外す事が出来ないアクセサリーを除いて外し、封熱の撃鉄に注目する。

 

「えっと、起動条件は指を鳴らす事か………指パッチンとかでいけるのかな?」

 

予想からの実証、左親指と左中指に力を込めて指パッチンを行えば、まるでライターが着火する時のシュボっという音から、緋色の炎が内側から発生・全身を包んでペッパーに纏わり付く。

 

「燃えた!?」

「燃えてますわ!?」

「ペッパーはん!?」

『ワォウ!?』

「いや、コレスゲェ………!!何か内側から、熱い物が込み上げてきて、何かスゲェ!?」

 

語呂力が死ぬ程のパワーを犇々と感じるペッパー。実際第三者視点からペッパーを見ると、緋色の炎の火元がペッパーの様にも見えており、身体は燃えてこそ有れども衣服やアクセサリーには影響が無く、耐久にも変化が無い。

 

英雄覇颯(ヒーロースプリーム)を起動し、全速力かつ全力全開でコロッセオ内を駆け回れば、炎が後ろに引っ張られる感触を背中に受ける。ふと気になったので後ろを見れば、緋色の炎が作った『自身の陽炎が複数』コロッセオに残っており。

 

「あ、やべぶる!?」

 

注意一秒怪我一生、脇見運転ならぬ脇見走行をしていたペッパーは、コロッセオの壁に真正面から激突し、自身の顔面が潰れて死亡。意識が途切れる前にペッパーが耳にしたのは、サンラク達の声であった。

 

「ペッパァァァァァァァァ!?」

「ペッパーサァァァァァァ!?」

「ペッパーはぁぁぁぁぁん!?」

『ワォーーーーーン!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、やっぱり凄いな…………ダルターニャさんが作ったアクセサリー………」

「そうだなぁ……」

 

ヴォーパルコロッセオの控室のベッドで目覚め、胡座の空間にスッポリ収まったノワと、アイトゥイルを頭に乗せながら、ペッパーは改めてアトロフォスの白蒼翼と封熱の撃鉄を見る。

 

片や機動力と再使用時間の回転率を高めるマント、片や緋色の灼熱を纏いながら陽炎を残せる革手袋、どちらも使いこなし手にした物と併用する事で、今まで以上の挙動や戦闘スタイルを確率出来るだろう。

 

「あ、そうだペッパー。一時的で良いんだが、其のマントと手袋貸してくんね?」

「実際に使ってみたいの?」

 

「応っ」とサンラクがストレートに答えたので、ペッパーは少し考えた後に「解った」と、承諾して二つのアクセサリーを一時的にサンラクへと譲渡する。

 

「よっしゃ、やってやるぜぇ!」

 

随分ハイテンションなサンラクを見つつ、ペッパーはエムルを預かり。サンラクが検証を終えるまでの間、クターニッドとの戦いで獲得した報酬を確かめる。今回自分が手にした品は、青・緑・白の三つの『反転聖杯』と『世界の真理書』。深淵の名を冠した『雫』に、ヤバい気配の漂う『ベル』の合計六つ。

 

先ずは反転の聖杯達だが、青は『性別反転』・緑は一定時間プレイヤーの色調反転……ではなく『周辺色調』の反転、そして白は自身を含むプレイヤーの『アバター反転』。性別反転は文字通り男を女へ、女を男へと変える上に『声質』も反転させる事が可能なアイテム。此の世界の何処かに在る夜襲・無尽・冥響の女性用一式装備を纏う為に、必要不可欠な代物だ。

 

白は一定時間、自分以外のプレイヤー同士の反転が出来たり、自分を別のプレイヤーとアバターを入れ替えたり出来るので、色々と面白い事が出来る気配が漂う。ただ其のデメリットも厄介で、アバター反転中に入れ替えた片方が死亡した場合、もう片方も死亡するという所謂『一蓮托生』状態になる。青も同様に死亡してリスポーンするまで、元の性別には戻れないデメリットを持つので、使うタイミングに気を付けなくてはならない。

 

最後に緑。藍色か紫を選んでも良かったのだが、プレイヤーの周辺色調を変えるという、変わった(トリッキー)な能力に惹かれたので選択した。色調を変える事で『何か』が起きなくもないのだが、其れが何時になるかは定かでは無いので、もっぱら『探索用』として役立つだろう。

 

世界の真理書「深淵編」。ユニークモンスター・深淵のクターニッドの誕生の経緯や攻略法、クターニッドの一式装備・深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)の詳細、そして公には開示出来ない『一番ヤバい情報』が記載されている情報爆弾の権化。

 

「さて………残り二つはっと」

 

取り出すは『外側が青く中心が黒い雫の宝石』と『海色の鈴』。どんな能力を持っているか、ペッパーはフレーバーテキストをチェックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深淵の雫

 

深淵の盟主から贈呈された結晶。見えざる物を見る力を宿す其れは、表の世界を裏に映し、裏の世界を表に映す。

 

此のアイテムでステータス画面を見る事で、持ち主の隠しステータスを確認出来る。武器の真化に使用可能。

 

 

 

 

 

 

 

 

深淵の警鐘

 

其れは深き淵より送られた警鐘、迫る危機を感知し告げる海色の鈴。[ワールドクエスト四段階目で解放]に反応し、持ち主に危機を告げる。

 

嘗ての人々は失敗した、次はお前達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(片や真化の素材にして隠しステータスの確認可能なアイテム、片やヤバい事しか書かれてないアイテムなんだが?此の鈴の書いてる事、どう考えても戦争ゲームの中盤辺りに『強大な第三陣営』が介入してくるヤツじゃん。其れで争ってた二つの陣営が対抗する為に同盟結ぶ『激アツ展開』作るヤツじゃん………。

えっと確か、ウェザエモンさんとクターニッドさんを倒した時のアナウンスで、シャンフロの『ワールドストーリーが進んだ』とか言ってたから、現時点が『第三段階』。あと一体のユニークモンスターを倒したら、此の鈴が『何かの到来』を報せてくるって事か)

 

テキストを其のまま読めば、警報(サイレン)としての役割を持つ鈴。おそらく『狂える大群青と同じ存在』で、不意打ちに襲来する『ステルスタイプ』の危険な存在の接近を報せる為のアイテムと、普通ならば読み取る事が出来る。

 

だが此のアイテムをクターニッドがやったように見方を『反転』させたのなら?其れは警報から探知機(レーダー)としての役割を持つ事になる。

 

(とはいえ、現時点じゃ情報があまりにも少ない……。何か考察の鍵になる物が、見付かれば良いが………)

「ウハハハハハハハハ!!!!ヤッベェ、スッゲェ楽しいわ!!アッハッハッハッハァー!」

「サンラクさん、一周回って頭がオカシク……」

「大丈夫だと思うよ………多分」

「あからさまに大丈夫じゃないのさ………」

『クァ………』

 

アイテムをインベントリアへ収納し、ペッパーはヴォーパルコロッセオで二つの撃鉄によって、緋色に燃えて黒雷を纏いながら、ハイテンションで大立ち回りをするサンラクを、エムル・アイトゥイルの姉妹と共に見るのであった………。

 

そしてノワは大きな欠伸をし、ペッパーの胡座の空間にて丸まったのだった………。

 

 

 






其れは盟主よりの贈り物




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食材は鮮度が命、故にこそ相応の対価を



確認完了の後に




「ペッパー、返すぜ」

「受け取った」

 

撃鉄二つ同時並行・アトロフォスの白蒼翼(はくそうよく)を装着し、コロッセオで暴れに暴れまくったサンラクは封熱の撃鉄(ニュウショウ・トリガー)とアトロフォスの白蒼翼をペッパーに返してきた。

 

二人は現在兎御殿に在る食事処に向かい前進、ルルイアスで採った食材(魚や貝)を店主のティークに卸して貰い、マーニへの換金や食事効果の検証をする事にしている。

 

「ティークさーん」

「よぅ、ティーク。久し振りだな」

「おぉ、ペッパーにサンラク………!?なんで、リュカオーンと一緒に居るんじゃあ!?」

「実は…………」

 

当たり前と言えば当たり前だが、やはりリュカオーンの小さな分け身たるノワが居る事で、事情を知らないヴォーパルバニーは混乱する傾向に有るらしい。いや、普通に混乱しない方がおかしいのだろう。

 

「…………という訳でして」

「な、成程………特例中の特例ってな訳か。んで、今日は何をしに来たんか?」

「はい。ティークさんに食材を卸して貰いたいと思ってまして」

「スゲェぞ、大量だ」

 

そう言いつつ二人は、インベントリアからカウンターへと活〆にした魚達に貝を取り出し始めるや、ティークの目の色が一気に変わった。

 

「は?……う、旨味の殿堂と知られる『ノルヴィスクラッツェ』に、海上で釣り上げるのが至難の技とされる『ルージェットマグロ』………!?ちょ此方に有るんは幸福の象徴たる『ボンディングフィッシュ』に、万能食材のマンタたる『ヴェールフラウス』!?此方にゃあ白身魚の王様『ボクトゥスヘッド』と刺身と煮物で極上品『シャクサインドルタ』に、蒲焼き一つで1万マーニは下らん『トーレスタム・オーロプ』!?しかも幻にして究極、一生に一度合間見えられるか否かの『キリューシャン・スフュール』……だと!?此方は貝の頂点『ヴィナンシュシェル』に、汁物のファンタジアなる『ドッズファオン』、おまけに旨味の究極たる『アトリアクリーム』まで………!?」

 

驚愕と共に魚介類に貝類の名前を言い当てる様を見たサンラクは、嘗て自分が採掘・採取した宝石や鉱物、水晶群蠍(クリスタル.スコーピオン)の素材でビィラックが大興奮していたのを思い出し、やっぱりティークも同じタイプの血が流れていると確信する。

 

「おうよ、まだまだ有るぜ?」

「サンラク。気持ちは解るが一旦落ち着け、ティークさん此れって何れくらいで卸せますかね?………ってティークさん!??」

 

其れは其れとして更なるラッシュを掛けんとするサンラクを止めたペッパーが見たのは、ニチェラ……かニチャアか………凄まじい気持ち悪い笑顔を浮かべ、愉悦に浸るティークの姿が其処には在って。

 

「あは、あはは……あははははは…………オイは今日死んでも悔いはない……。魚、貝、さかな、かい、サカナ、カイ……はぁぁぁぁ………」

「おう、ティーク。さっさと目覚めるのさ!」

「ぎゃぶん!?」

 

目の前に有る魚や貝は彼からすれば、金銀財宝宝の山脈と何ら代わり無いと思いつつ、取り敢えず現実に呼び戻さんとしたが、アイトゥイルが薙刀の柄の部分で頭を叩き、正気に戻した。

 

「えっと……大丈夫、ですか?」

「すまん、取り乱した。ウォッホン………さて食材を卸すんやったな。皆、仕事だ。ペッパー、サンラク。持ってる食材、卸す分だけ出しな」

「おう!」

「はいっ!」

 

ティークの言葉に彼と共に働くヴォーパルバニー達が魚や貝を確認し、次々と厨房へ運送していき。ペッパーとサンラクはインベントリアより、ルルイアスで狩ってきた魚に貝を取り出していき、ペッパーはノワの食事として渡す魚の切り身を残す為、捌いた一部を引いて貰うようにした。

 

厨房では魚を捌いて骨を分け、貝殻を外して綺麗にしながら、ノワ用にスーパーで見る『小分けサイズ』にするヴォーパルバニーと、魚や貝の種類やサイズを見て勘定をするヴォーパルバニーとに分かれ、各々分担して進めていき一時間が経過した頃。

 

「ペッパー、サンラク。勘定が済んだ……活〆も確りやっとったし、鮮度も申し分無しだの。んで値段なんじゃが………こんくらいじゃけん」

 

そう言ってスッと、おそらく銭ゲバ兎のエルクに気付かれない様に、表札で値段を伝えて。其れを受け取り、確認したペッパーとサンラクは唖然となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペッパー様、買取総額・15億4130万マーニ

 

サンラク様、買取総額・13億6880万マーニ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮪の競りで『億』に届く事が有ると聞いた。確かに今回大量の魚をルルイアスにて狩りをしたのだが、此処までともなると逆に怖くなってくる。

 

「ティークさん……あの、十億越えの理由って……」

「一番は『キリューシャン・スフュール』じゃ。アレは『成体』まで生き残れたん奴っちゃ、滅茶苦茶希少でな。浅瀬に逃げ延びたヤツが水揚げされても、王族に献上されてまって市場には『裏ルート』以外で『粗悪品』しか出回らん。

しかも不世出個体(ふよしゅつこたい)ともなれば、其の価値は絶大の一言じゃ済まんのよ。二人に提示した其れが、買取に対するオイ達の『正当な報酬』ってこっちゃ。ドーンと胸を張り、おめさん等は其れくらいスゲェ事をしたんよ」

 

クターニッド戦を終えて、称号に十兆(・・)越えの金銭を手にしたなる物が追加されていたが、此れもまたとんでもない事をやったのだと、実感するには充分で。同時に彼と同じ厨房で働くヴォーパルバニー達が、ずっしりと重いマーニ入りの革袋をえっほえっほと運搬し、各々の目の前に置いてきた。そしてペッパーには、切った魚の切り身を防腐効果か含まれた魔法紙に包み、渡してきたのである。

 

「ほい、ペッパーとサンラクの各々の買取金に切った魚の切り身や。マーニ一文の誤差もない袋詰めにした、遠慮せず持っていき」

「お、おぅ……ありがとなティーク」

「ありがとうございます……あ、そうだ。ティークさん、御世話になっている貴方に此方を『御譲り』します」

 

そうして彼がインベントリアから『数冊』を取り出し、ティークに手渡す。其れはルルイアスの座礁船にて回収していた『古い時代の本』であり、其処には遥か昔の人類が書き遺した『料理のレシピ本』である。

 

「こりゃ、昔の料理本か……!?」

「はい。ティークさんならばもっと美味しい料理を作れると思いますので、どうぞ御受け取り下さい」

 

和は文句無しの出来映えなので、他にも作れる種類や幅が広がれば、もっと良い物を作り出せる筈だ。コレは謂わば、ティークに対する先行投資でもあるのだから。

 

「よぉうし、皆!今日は魚介の宴だ!張り切って良い物を作るぞぉ!!!!」

 

厨房勤務のヴォーパルバニー達が気合を入れ、調理を始める所を見ながら、ペッパー・サンラク・アイトゥイル・エムル・ノワの二人と二羽と一匹は、食事処を後にしたのだった…………。

 

 

 

 






大金を手にして




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エルクが示す物、其れは更なる力の道標



豊かになったなら




「いらっしゃあ~い。あらぁ~、ペッパーさんにサンラクさ~ん。御久し振りねぇ~」

 

ティークに卸した魚や貝で、文字通りの億万長者……いやルルイアスでの金銀財宝宝の山を回収したので、既に億万長者……………否、兆億長者(・・・・)になっていたペッパーとサンラクは、更なる収入を得た事で取り敢えず何に使おうかと思った矢先、エルクが仕掛けた転移によって特技剪定所(スキルガーデナー)へ強制移動をさせられていた。

 

そして目の前にリュカオーンの小さな分け身・ノワが居ながら、一切ビビる様子が無いエルクの度胸が凄い。

 

「エルク………また(・・)なのさ」

「うふふふ~………アイ姉さ~ん、ティークが随分興奮してたし~………マーニ、沢山持ってるんじゃなぁい?」

「流石エルクおねーちゃんですわ……お金の匂いに敏感ですわ………」

 

銭ゲバの嗅覚は警察犬並かと思いつつ、エルクの目的を聞き出してみる事にした。

 

「エルクさん、もしかして秘伝書を購入して欲しいのでしょうか?」

「ふふふ~………秘伝書も良いのだけれど~。実はねぇ、御二人に『耳寄りで御得な情報』を渡しておきたいの~」

「耳寄りな情報、ねぇ」

「其れは?」

「うふふふ~………」

 

肝心な部分で営業スマイル、流石銭ゲバ兎のエルク。そう思いつつペッパーはインベントリアを操作、五億マーニが入った革袋をズシンとカウンターに乗せた。

 

「あっはぁ~毎度有り~♪」と¥目では無くマーニ目になったエルクが、幸せそうにマーニの山に頬擦りし。そして真剣な顔付きで話し始めた。

 

「ペッパーさんとサンラクさん、二人は『秘法(ロウ)』に関して興味は有るかしらぁ?御二人はお金の成る木だからぁ~、先に教えますよぉ?」

「追加払いしないと駄目?」

「ペッパーさんが大奮発で、五億マーニ払ってくれたからぁ~。大丈夫よぉ~サンラクさ~ん」

 

ポスポスと手を鳴らせば、何処からともなく現れたヴォーパルバニー達が五億マーニを御輿に乗せて、わっせわっせと運んで行くのを見て。そしてエルクは二人に話し始めた。

 

「もし二人が今の限界を越えて、三桁の領域に立ったならぁ~……。私の秘法でスキルを合体・分離が出来るようしてあげるわぁ~」

 

通常習得したスキルは『合成・進化』によって『変化・消滅』するのが常識(・・)だが、彼女の持つ秘法はスキル同士を『連結』して別のスキルへ変えたり、好きな時に『分離』させて元の状態に戻せる物。エルク曰く其れを『同調連結(ハイコネクション)システム』と呼ぶのだとか。

 

特徴としてスキルの連結総数に上限(・・)が存在しない事であり、最低で二連結だったり十連結も実質可能だ。但し『晴天流(せいてんりゅう)』や『星天秘技(スターアーツ)』のように、一部連結出来ないスキルも存在しているが、大抵のスキルは『連結可能』だという。

 

次に此のスキル連結には、強化・攻撃・防御・機動力・跳躍・視覚等々多種多様にカテゴリー分けがされたスキルを、種類や兼ね合いを『一切気にせず連結する事が可能』であるらしい。

 

そして最後に剪定師が秘法を行使する場合、プレイヤーは連結数に応じた『経験値』…………即ち『レベル』を対価として要求されるが、彼女の場合は経験値とは別に、連結毎に『一億マーニ』を支払えば行ってくれるのだとか。

 

「ただぁ~………連結には三桁に至った子が『より強くイメージした技』を見ないとぉ~、失敗しちゃうのよぉ~」

「イメージはプレイヤーやNPC、もっと言うとユニークモンスターの『技』でも良いのか?」

「えぇ~……勿論大丈夫よぉ~」

「じゃあ仮にウェザエモンさんの『断風(たちかぜ)』みたいな居合攻撃も、居合攻撃系スキルの連結で再現出来るように成る……と」

 

三桁より先に存在している、更なる強化要素・同調連結。一億マーニで一連結なので、今持っているスキルがレベルキャップ解放の先で、如何なる進化を遂げるのかや、三桁スキル同士を連結させたなら如何なる進化を遂げるのか、気になって仕方が無─────

 

「────はっ!?」

「うふふふ………」

 

何という事だ。エルクは『お前ならこんな要素を見逃すわけ無いよね?』と見越して、同調連結という今まで隠していた要素を提示してきたのだ。三桁スキルやスキル再習得というシステムを教えたのも、全ては此処に持っていく為の布石。

 

何より水晶巣崖(すいしょうそうがい)で狩りや稼ぎが出来る開拓者(プレイヤー)ともなれば、懐は温もりに満ち溢れていると見て取れる。

 

「悪魔的策略ッ……………!」

「うふふふ~」

 

商魂逞しいと思いつつ、エルクから同調連結に関する粗方の情報を聞き、ペッパー達一向は特技剪定所を後にしたのであった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同調連結………三桁の先に在る隠し要素か」

「俺も初めて聞いたよ……しかし、合成じゃなくて連結とはな」

 

エルクの元で同調連結を教わり、兎御殿を歩くペッパー達は自分達が次のステージに至った先に待つ、新たな力に想いを馳せて。そしてペッパーは、サンラクに問い掛ける。

 

「サンラクは此の後の予定は?」

「俺はヴァッシュの兄貴の御使いクエストの『三つのΔ装置』を探しに行く前に、ラビッツの街でエムルにスペシャルパフェとパイを奢りに行くわ」

「サンラクさん!覚えててくれたですわ!」

「おうよ、ルルイアスじゃ頑張ったもんな。ペッパーはどうする?」

 

ヴァイスアッシュから課せられた『世界の真実』を知る為に必要な、三つのΔ装置探し。彼に言われてから既に二ヶ月が過ぎようとしている状況、そろそろ動き出しても良いだろう。

 

「俺はシクセンベルトに行って『雲上流編(うんじょうりゅうへん)雲海地(うんかいち)』を越えて、テンバートまで進めてからだな。後、夕飯食べてとかないと不味い」

「そうか。雲海地(アソコ)は滅茶苦茶足場が危ないから、移動には気を付けろよ」

「サンラクも他のプレイヤーに気を付けてな」

 

各々がやるべき事を見定め、サンラクはラビッツの街へ続くゲートを、ペッパーは一度訪れたシクスブルクへのゲートを開き、各々のパーティーと共に冒険へ出発したのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、彼等は知らなかった。

 

自分達と入れ替わる様にして兎御殿に、新たに三人(・・)の開拓者が招かれた事を。

 

 

 

 

 






目指すは雲海の道




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イケ女はツラいよ



ペッパーの秘策




シャンフロ第六の街・シクセンベルト。

 

サードレマから行ける三つのエリアの一つ『神代(しんだい)鐵遺跡(くろがねいせき)』を越えた先に在る街にして、王都ニーネスヒルへ向かう『翔風楼結(しょうふうろうけつ)大河(たいが)』の河渡りルートと、シャンフロ内で最も高い位置に在るテンバート行きの『雲上流編(うんじょうりゅうへん)雲海地(うんかいち)』の二つの道に分かれる。

 

今回ペッパーが目指すのはテンバート。ルルイアスで手に入れた本に記された『ある情報』に従い、後日に備えてランドマークを広げるのが狙いだ。

 

「御待たせしました。此方が【アクティブソナー】の使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)でございます」

「ありがとうございます」

 

雲上流編の雲海地は、シャンフロのゲーム内エリアでも五指に入る『攻略難易度の高さ』を誇り、其の最たる理由こそがエリア全体に満ちる『雲』が原因でもある。

 

道中のモンスターは雲の中を泳いだり、雲の下に生態系を構築している為に、思わぬ所から奇襲を受けやすい。パーティーで行動してたら、何時の間にか数人脱落していた…………なる嘘か真か、そんな話も有ったり。

 

そして神ゲーたるシャンフロにも、当然『救済措置』は用意されている。シクセンベルトの売店の一つに使い捨て魔術媒体を売っている場所が在り、此処で購入出来る『アクティブソナー』こそが、魔法職でない開拓者(プレイヤー)が雲上流編の雲海地を攻略する上で必須となる。

 

「ありがとうございました」と店員に見送られ、ペッパーは夕方のシクセンベルトの街並みを歩き出す。

 

(コートの中に隠したアイトゥイル用の酒も購入し終え、回復ポーションやマナポーションの補充も完了。ノワは影に擬態させてるから、一応大丈夫………とは思いたい)

 

帽子を深く被り、流離う様に向かうは雲上流編の雲海地。なのだが────────

 

「あ、あのッ!」

「ん?」

「すっごく格好いいですね!御名前は…………アレ?名前が無い(・・)?」

「もしかして『NPC』じゃない?」

 

其の途中、此れで実に『十五回目』の女子プレイ(・・・・・)ヤー(・・)からの声掛けに、ペッパーは内心困った顔をしていた。

 

(ぶっつけ本番で使った『青の聖杯』、まさか此処までの威力とはね………)

 

使用後に一度鏡を見て確認したのだが、其処に居たのは『黒いコートを身に付ける美形の男装麗人』であり、奏でる者の旋律羽衣(ダ・カーポ・シェイルンコート)の効果でPNを非表示にし、シャンフロのNPCの一人として歩く姿が相当絵になっていたらしい。

 

彼女等も今まさに声を掛けたNPC(と思われている)が、此の世界でユニークモンスターを二体討伐し、四体(・・)と接触。内一体には寵愛を受けた、ゲーム内レコードの【最大高度(スカイホルダー)】を持つペッパー等と、夢にも思わないだろう。

 

「あ、もし良ければ『スクショ』でも……!」

「ごめんなさいね、麗しき御嬢さん。御気持ちは有難いですが、先を急いでますから」

 

丁重にスクショを御断りして歩き出せば、後ろで『はあぁ~………♪』なる声が聞こえたので、聞かなかった振りをする。影からノワの小さな威嚇声が聞こえ、もしペンシルゴンが今の事を知れば、絶対に面倒な雰囲気にしかならないので、さっさと目的地のテンバートを目指して前進するのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲上流編の雲海地。シクセンベルトより旅立ち、更に高所へと続く道を登った先に在る、濃密な白雲が大地一面を覆い、大気の流れによって『白い毛糸が編まれ、大河で洗濯されて漂っている』ようにも見える流れを成している。

 

其の光景たるや、誰もが一度は夢見る『雲の上に立つ』という物を叶えてくれたりするが、人はスキルや戦術機無しでは空を飛べはしないのだ。よく見ると木や岩が雲の海から突き出しているし、自身の腰まで雲が迫っていたりしているが、其れでも神秘的なのには変わり無い。

 

「ペッパーはん、雲で濡れたのさ……」

『ワゥ!ワゥ!』

愛呪(あいじゅ)の影響で不意打ち強襲は無い………と言いたいが、用心するに越した事は無いか」

 

雲によって下半身が見えないというのは、アクティブソナー有れども事故の元に成り易い。ならばどうするか?実は其の答えをペッパーは既に思い付いている。

 

「アイトゥイル、ノワ。少し離れてて」

「解ったのさ」

『ワゥ』

 

一羽と一匹が離れ、愛呪の効力がギリギリで残る『8m』まで離れ。左手に在る封熱の撃鉄(ニュウショウ・トリガー)の影響を受けない距離に移動した所で、指パッチンで撃鉄を起動。

 

ペッパーの全身を緋色の炎が纏いて包み、其の身より放つ熱が雲という雲を焼き尽くし、自身から『10m』の範囲の雲海を蒸発させながら、足元を含めて道を灯し照らしたのだ。

 

「アイトゥイル、ノワ、熱くないか?」

「此のエリアの気候と合わせれば、そんなにでも無いのさ」

『ワォウル♪』

「解った、其れじゃあ行こう」

 

足元が安定したので、アイトゥイルとノワの移動スピードに歩幅を合わせつつ、ペッパーは進軍を再開。

 

道中では雲海を泳ぐ『ヒレが刃物の飛魚のモンスター』や『巨大な白肌の河馬』が愛呪に反応、反転して逃げ去って行く様子や、雲を纏う事で其の巨体を雲海へ擬態させる『クラウダイブ・エレファント』の家族が、仲睦まじく雲を操る術を子供に伝授する光景を見掛けたり(スクショを撮った)と、新しいエリアだからこそ見える景色が沢山有った。

 

『ルゥゥゥ……!』

「あぁ、さっきから『羽音』が聴こえると思ったら……こんな所に生息してたんだな」

 

エリアを移動中、局極到六感(スート・イミュテーション)で全身の感覚を強化し、進んでいた時から気になっていた『蜂特有の羽音』。其れも此の感じは『蜜蜂』では無く『雀蜂』の其れと同じだ。

 

前にエンパイアハニーを卸した時に、ティークが言っていた『ドミニオン・ホーネット』、帝蜂蜜(エンパイアハニー)と並ぶ甘味たる皇蜂蜜(ドミニオンハニー)を巣に溜め込み、配下や用心棒(・・・)を使役する支配力を持つ蜂であるらしい。

 

甲皇帝戦脚(エクスパイド.ウォーレッグ)の強化素材を取りに、寄り道しても良いんだが…………今はテンバートを目指すのが最優先だ」

 

其の内に此のエリアで採れるモンスターの素材や、雲の下に在る鉱石資源等々を探したいと考えつつも、今は最優先で目的地へ向かう事にし、効果が切れた封熱の撃鉄を再発動。

 

ペッパー達は一路、雲上流編の雲海地のエリアボスにして、周辺に漂う雲を『毛皮として纏う』特性を持ち、雲に隠れて氷結砲弾による砲撃を行う難敵『アイシクル・シープ』の元へと向かうのだった………。

 

 

 

 






エリア攻略は迅速に


※青の聖杯を使ったペッパーの姿は、身長170cmの剣城あきら似の王子様系女子。バストはCで、声も女性ながら力強さが有り、刺さる人には滅茶苦茶刺さる。

例えば股に膝を挿し込み、壁ドンからの耳元で『悪い子だ………仔猫ちゃん』の台詞を吐いた場合

ペンシルゴン:骨抜きにされて雌の顔

ジョゼット:ワンパンされて過呼吸

男アバターでプレイしてる女子:「ミ"ッッッッッッ」と叫んで引っくり返る

つまりは無自覚で色気を振り撒く、魔性の女殺し&天然バ美肉発見機………!






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女勇者は半裸と仲間と共に、骸の城へ向かう



此処からはハイライトだ




雲上流編の雲海地のエリアボス、アイシクル・シープ。雲を毛皮として纏い、角を媒介として空気中の水分とマナを取り込みながら氷結させ、天然の砲弾を産み出し放ってくる。

 

弱点となる火属性による攻撃も水を操って防いで来る上に、此のボスは体力のラインが一定を切ると露骨にプレイヤーから距離を離して、雲に隠れて氷結砲弾を放つ『引き隠り狙撃こと芋スナ化』してくるという厄介極まる難敵である。

 

「アイシクル・シープ、お前さんは中々の強敵だった。封熱の撃鉄(ニュウショウ・トリガー)が無ければ、倒すのに相当な時間を取られていたよ」

 

緋色に燃える身体で雲を掻き消し、雲を焼かれて払われた事で攻撃手段を失い、アイトゥイル・ノワによって首筋を噛み千切られ、斬り落とされた氷の羊が大地に横たわると同時にポリゴンが崩壊。

 

アイシクル・シープと表皮と巻き角がドロップしたのを確認して、撃鉄を解除してからアイトゥイルの頭を撫で撫でしつつ、ノワにはティークが捌いた魚の切り身を与え、撫で撫でを行い。

 

そうしてアイトゥイルをコートに、ノワを影に擬態させ、ペッパー達一向は夜空に成りつつある空の下、シャンフロ第十の街にして、大陸最高高所の街たる『テンバート』へと到着したのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

テンバートにてランドマークの更新を行い、宿屋にてセーブ&ログアウトを行ったペッパーは現実世界の梓に戻りつつ、今日の夕食はラーメンを作る事にした。

 

先ずは冷蔵庫の野菜室から人参・ピーマン・玉葱・もやし・貝割れ菜、冷蔵庫からは麺を一玉分と醤油ラーメンのスープの元、冷凍庫から冷凍豚挽き肉を取り出し。

 

野菜は一人前分切りつつ、残りは野菜室に戻して、フライパンと鍋を取り出して、フライパンには油を敷きつつ、鍋には茹でる分の水を加えて加熱。豚挽き肉を先に炒めて皿に移し、其の後に人参・ピーマン・玉葱を炒めて、もやしと豚挽き肉と合わせて炒める。

 

沸騰したタイミングで麺を投入して湯掻き、丼に付属のスープの元を入れ、適切な歯応えとなった所で火を止め。丸底の鉄笊を使って軽く湯切りを行い、スープの元が入った丼の中に入れて湯掻きの汁とゴマ油を一匙アクセントに加えて。

 

最後に挽き肉の野菜炒めと貝割れ菜を添えれば………。

 

「…………よっし、完成だ!梓流『五種野菜の醤油ラーメン』!」

 

スマフォで写真を撮影、いただきますと合掌して熱々の麺を啜り、野菜をスープに浸して食べる。敢えて生の状態の貝割れ菜がピリ辛のアクセントとなり、胡椒や辣油を加えずとも野菜を取れる小技だ。

 

今回はスープまで飲み干し、十分で完食して御馳走でしたと合掌。食器と調理器具を洗い、トイレを済ませてシャワーを浴びた梓は、寝間着に着替えて布団を整え直し、再びシャンフロへとログインする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、シャンフロ頑張りましょうか。というかログアウトしても、青の聖杯の効果は切れてない………か。本格的に一回死んでリスポーンしないと駄目なんだ」

「ペッパーはん!」

『ワゥル』

 

テンバートの宿屋。ペッパーとして覚醒(ログイン)した梓は、目覚めて早々に自分の身体(アバター)を確認するも、女性状態のままだった事を知って思考しつつ胡座座りの姿勢になるや、一緒に宿へと入ったアイトゥイルとノワに出迎えられられる。

 

「やぁ、アイトゥイルにノワ。良い子にしてた?」

「はいさ」

『クゥン』

 

アイトゥイルが頭に、ノワが胡座で出来た空間に収まり、ペッパーは開始早々サンラクにEメールアプリを使って、何処に居るのかを確かめる。其れから数分後、サンラクからのメールで彼は休憩を挟み、さっきまでフィフティシアにて他の開拓者達に追い掛け回されたらしく、エムルと共にイレベンタルへとゲート移動を行ったのだとか。

 

「えっと………『サンラクへ。俺達も此れから、イレベンタルへ向かう。念の為に時間差でイレベンタルを出つつ、無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)の城みたいな建物へ集合しよう』………と、送信」

 

サンラクにEメールを送り、ペッパーは其れから十分程アイトゥイルやノワを撫で撫でしつつ待ってから、アイトゥイルにイレベンタルへのゲートを繋ぐように頼み、補充したマナポーションと濁り酒を渡して。其れを受け取ったアイトゥイルはゲートを開き、ペッパーはアイトゥイルをコートの中へ隠し入れ、ノワを自身の影に擬態させた後、扉を開いてイレベンタルの路地裏へと転移する。

 

夜の時間帯になった為に人通りは夕方の比では無い物の、逆に人が多くなったからこそ動くには丁度良い時間であり、ペッパーは其の脚で無果落耀の古城骸へと続く門へと向かって行く。其の途中でもやはり女性プレイヤーから声を掛けられたり、挙句人生初の軟派に遇い掛けたりと、青の聖杯の威力の凄まじさに内心ビビり震えながら、何とかイレベンタルより脱出。

 

人の気配が近辺に無い場所まで移動後、ノワの影擬態を解除及びアイトゥイルをコートの外に出し、物陰に隠れながらにサンラクへEメールを送信して情報共有。其れから数分後、サンラクがエムルを頭に乗せてやって来た。

 

「ようペッパー………って、青の聖杯使ってるのか」

「あぁ。何故か女子プレイヤーから声掛けられたり、挙句男子プレイヤーから軟派され掛けた」

「あ~………女子受け良さそうだもんな、其の見た目」

 

ライノベレーの帽子・黒コートを纏う其の姿は、性別反転によって益々アダルティさがマシマシとなっており、ヒロイックなプレイスタイル故にベタな台詞を吐こう物なら、女プレイヤー達を問答無用でノックアウトしに来るだろう。中身は男ではあるが。

 

無事に合流を果たした二人と二羽と一匹は、目的地を目指して進み続け────────。

 

「到着、だな」

「此処か」

 

外壁は戦闘なのか衝撃なのか、おそらくは外的要因によって破壊され、原型こそ輪郭を持てどもズタボロになった城が建つ。パーティーはエントランスだろう正門を潜り抜けて、城内へと足を踏み入れる。

 

すると薄暗い城の内部………先ず間違い無く『神代時期の建物』だろう内部は、来客を『もてなす』が如く証明を灯して、廊下やエントランスを明るくしてきた。

 

「わわっ!?」

「明るくなった………のさ」

「どうやら外郭は壊れてても、施設自体はまだ『生きてる』みたいだな」

「設定的に『神代時代の遺跡を大昔の国が城として使って、何やかんや有って滅びた』……そんな感じかね」

「はいな、確か『とうーいつせんそー』………?だったかで使われてたって、おとー……コホン!頭から聞いた事が有るですわ!」

 

ライブラリに質問すれば色々と答えてくれるだろうが、多分数時間の長話になるとは思う。話を聞くのは嫌いでは無いのだが、人間という生き物は自分の興味の無い文言を、脳が受け付けないように解釈する生物でもある為、短く簡潔に纏めてくれた方が助かったりするのだ。

 

「多分、可能性が有るとしたなら『地下』………だよな」

「だろうな。先ずは地下に続く穴や吹き抜けを探そうか。後レイ氏から聞いたが『コントゥアル・ナイト』なる、固定エンカウントの『線画の騎士』が居るらしい。何でも魔法を吸収して、自分を強化するとか」

「純魔御断りか………俺とサンラク、アイトゥイルとノワで前衛を張って、其の騎士を倒そう」

 

作戦は決まった、一向は此の城の地下に在るだろう『三つのΔ装置』を探す為、探索を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの人、格好良いなぁ…………」

「というか、あの半裸誰よ?変態?」

「あ、行っちゃった……というか速!?」

「兎ちゃん達に黒いバディドッグ連れてたね……」

「こんな時こそ、他のプレイヤーさん達に聞いてみようよ」

「そうだね!スクショも撮ったし!」

 

 

 

彼等は知らない。

 

二人の気付かぬ場所で、新たな問題が起きようとしていたのを…………。

 

 

 

 

 

 

 






火種は何時何処から出るか解らない




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ブラックウルフ・バーストアンガー



掲示板回です




ペッパーとサンラクが無果落耀(むからくよう)古城骸(こじょうがい)に在る、古代の城の内部を前進し続けていた其の頃…………シャンフロ掲示板では、大きな動きが起こっていた。

 

此れは其の時に起きた、プレイヤー達によるやり取りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*********************

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【聖女ちゃん】シャンフロ雑談掲示板 part1843【可愛い】

 

 

 

……………………

…………………

………………

 

 

431:レイティ

親愛なる開拓者の皆様。こんばんわ、実はさっきこんなNPCを見掛けました。あと半裸の変態とバディドッグに兎ちゃんも居て気になってます。どうすればヴォーパルバニーやバティドッグを仲間に出来ますか?

 

【画像】

 

432:森弓

新大陸にはレベルキャップ解放イベントあるんやろ?今から楽しみだぜ……

 

433:ジャクソン

やっとレベル100の領域に立てるわ

 

434:プリズンナー

一部のスキル、レベルダウンビルドしても変化しなかったのって、そういう事なのか?

 

435:炎灰夜

レベルキャップ解放……仮称するなら三桁スキルって感じかね

 

436:ホリー

ん?何だこりゃ

 

437:リンリン

うわwwww半裸の鳥頭wwww変態やんwwww

 

438:アルティース

あれ、コレ………サンラクじゃね?

 

439:メメント

………ちょっと待てサンラクゥ!?

 

440:ガッヅ

えっマジで!?

 

441:P-ENT

マジ?いやマジじゃん!?

 

442:アレックス

というか、隣のコイツ誰だよ!?名前無しって事はNPC…………か?

 

443:冠呉

兎……というかヴォーパルバニー………

 

444:釈鍋

えっ、て事はサンラクは何かのフラグを建ててるとか?

 

445:ヴォイジャー

白と黒のヴォーパルバニー?

 

446:ヘクトール

あれ………此の黒い方、ペッパーと一緒にジークヴルムの手に乗って、空飛んでた奴じゃない?

 

447:マナベル

えっ?

 

448:ケルド

マ?

 

449:ルクルク

マジで???

 

450:ギームズ=ギャペロン

あー………そういやあったな、そんな事

 

451:ペソポタミア

コレか?

 

【画像】

 

452:ダイナマ

助かる

 

453:弦武

ホントだ、確かにペッパーと一緒に居た黒毛のヴォーパルバニーだ

 

454:ヴィルティッシュ

じゃあ仮に名無しがペッパーだとして、噂の名前隠しのコートか?

 

455:SOHO-ZONE

いいえ、違いますね。実際此の目で見ましたが、彼が以前着ていた物とは形状が異なってますし、何なら胴だけでなく腰と脚も装備されてました。やはり気になる………追及したいというのに………

 

456:海パン七世

うわ武器狂いやん………

 

457:シオン

武器防具徹底的に解明するヤベー奴

 

458:ベンジャミン

ペッパー、まぁた狙われてら………

 

459:メロウ

というかコレ許可取った?盗撮じゃね?

 

460:レイティ

えっ………そうなんですか?

 

461:タロー・XX

…………マジで?

 

462:ウルカ

うわぁ………

 

463:B-堕魔神

オイオイオイオイ

 

464:DOONボヤージュ

ネチケット皆無で草ァ!

 

465:シロー

な、なぁ皆………此の黒いバディドッグ変じゃね?拡大と画質処理してみたんだが………

 

【画像】

 

466:ミンガム

ん?

 

467:マーチャン

目が……白い?

 

468:勝穣

バディドッグにこんな奴居たっけ?

 

469:ライス十九世

有能

 

470:オートロ

グッジョブ!

 

471:ガッデム

助かる

 

472:マーシャル

新種か?

 

473:ハル

いや、バディドッグにしてはでかくない?

 

474:

レベルシステムはバディモンスターにも適応されてるぞ?

 

475:海パン七世

じゃあ何だコイツ

 

476:Animalia

…………どういう、事…………?何で、リュカオーンが居るの?

 

477:魔富裕

 

478:エグリスタ

は?

 

479:ギームズ=ギャペロン

ファッ!!?

 

480:白夜

マ?

 

481:exa

えっ、どゆこと!?

 

482:ベンジャミン

というかちっさくね?此のリュカオーン

 

483:エモニア

大きさ変えたり、そんな事可能なの?

 

484:B-堕魔神

確かリュカオーンって滅茶苦茶デカかったよな……?

 

485:Animalia

リュカオーンは調査班組の報告には目を通していたけど、此の画像の二十か二十五倍の大きさはしている…………。他に言うとしたら、何で二人に付いてきてるの?というか、何で二人はこんなに落ち着いてられるの???

 

486:国茶民

俺達が聞きたいわ!?

 

487:マーチャン

同感

 

488:シオン

ワケワカンナイヨー!?

 

489:白夜

何でやろか?

 

490:一寸亡

…………もしかしたら、何だけどさ。ペッパーかサンラク、リュカオーンをテイムした…………可能性、有ったりします?

 

491:アス・タイル

えっ

 

492:ルクルク

へ?

 

493:ローラ

マ?

 

494:エグリスタ

は?

 

495:シャッキー・リュー

有り得…………るのか?

 

496:Animalia

は?って事は………旅狼はリュカオーンを独占、してる?

 

497:ガルシア

マジ?!大事件じゃん!!?

 

498:魔富裕

エッ!!?

 

499:exa

マジかよ最低だな!

 

500:ヒルク=アハト

速報:リュカオーン、千紫万紅の樹海窟にてランダムエンカウント

 

501:ミンガム

!?

 

502:国茶民

え!?

 

503:バッツ・リーガル

なぬ?!

 

504:Animalia

え、リュカオーンがもう一体!?どうゆうこと!?

 

505:アクタール

いや、俺達が聞きたいんだけど!?

 

506:八助

リュカオーンが二匹………どうゆうこっちゃ……???

 

507:ケルド

どっちか本物、どっちか偽物だったり?

 

508:ゲッツ

可能性としては有り得るが……其れにしたってリュカオーンの分身か本体か従えてるって、ペッパーorサンラクはヤバくない?

 

509:マーチャン

それよ

 

510:シオン

何をどうしたらそうなるんですかねぇ………

 

 

 

 

…………………………

………………………

……………………

 

 

 

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「…………………………………………」

 

其れは突然にもたらされた。彼女(・・)にとってリュカオーンは『自身のプレイする原動力』其の物だった。幾度も挑めども敗れ続け、時に其の身体(アバター)呪い(マーキング)が付与された時もあった。

 

だが其の黒い狼の討伐は()に先を越され、あまつさえ宿敵を身近に置き、懐柔した者(・・・・・)に対する怒りが沸点を飛び越え、底冷えしながらも敵を切り裂き木っ端微塵に出来る程の、そんな鋭さを保ちながらに彼女は『ある人物』へ電話を掛ける。

 

(モモ)ちゃんどうし』

永遠(トワ)、一体コレ(・・)はどうゆう事だ?!」

『わぁ、ビックリした!?というか『どうゆう』とは?』

「とぼけるな……!ペッパーとサンラクが、リュカオーンをテイムした等と、私は聞いていないぞ……!」

『……………取り敢えず、情報ソース何処?』

「シャンフロの掲示板だ!」

『ちょっと待ってね~……………見てきたよ。ネチケットなってないなぁ……』

「其れよりも、だ………!何故『此のような事』が起きたのか、キッチリ説明して貰おうか!」

 

息を荒々しくしながら、百は電話越しの永遠へと言葉をぶつける。そして永遠はと言えば、電話越しの現在の百が絶賛面倒極まる方向に、感情や思考が行ってしまっていると確信しながら、取り敢えず後でペッパーとサンラクに『オハナシ』をしようと決意。

 

そして彼女は己の得意とする交渉の領域で、百を嵌めるべく話し始めたのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、事態は彼女達が思う以上に深刻な物となり始めていた事を、知る由も無かったのである…………。

 

 

 

 

 

 






戦 争 不 可 避




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線画の騎士越え、骸城駆けるは我等の脚



探索は基本




古城と思われる内部、神代(しんだい)鐵遺跡(くろがねいせき)でも見た事があるSFチックな廊下を、青の聖杯で女になっているペッパーと、通常の性別であるサンラクは互いのパートナーのヴォーパルバニーに、リュカオーンの小さな分け身たるノワを連れて、地下へと向かう道を探している。

 

「サンラクさん、サンラクさん。此の先に気配を感じますわ………!」

「ペッパーはん、此の先に敵が居るさね」

『グルル……!』

 

エムル・アイトゥイル・ノワの反応に耳を傾けつつ、辿り付くは其れなりの広さの『エントランス』に似た空間、其の中心地に『其れ』は居た。

 

「サンラク、アレが件の?」

「あぁ、レイ氏の言ってた『コントゥアル・ナイト』だ」

 

まるで透過背景に線だけで書かれた事で、嘗てはよく見掛けた『ジャングルジム』のような点と線だけで、騎士という形を形成した不自然さを持っている、中身が無い『線画の騎士』というのは確か。

 

だが其の見た目の貧弱さとは裏腹に、点と線だけで描かれただろう『両手で振るう大剣(ツーハンデット・バスターソード)』が大きく、そして重い『風切り音』を立てたのだ。あの騎士を形成する線は、叩けば折れる非力な骨組では無いと、二人が理解するには充分な要素であり。

 

「成程。どうやらあの騎士は『一対一(タイマン)』が御望みらしい」

「ペッパー、コイツは俺が相手するわ。エムル達を頼むぜ」

 

頭に乗せたエムルを手渡し、サンラクがマッドネスブレイカーを二刀流として構え、前に出る。一瞬の静寂、そして双方共に激突する。

 

「ッ!」

 

騎士が振るう大剣を躱わしつつ、サンラクが懐に飛び込み肉薄。腕を叩き、続け様に胴を叩けば、騎士が『怯む』。其れでも細く華奢な腕から、下手に受けよう物なら押し潰される威力を以て、刃が荒々しく襲い掛かる。

 

何より此のモンスター、対モンスターの様に明確に設定された()が皆無に等しく、敵に攻撃を加え続けて休む暇を与えない、ある種の『対人戦』を仕掛けてくるモンスターでもあった。

 

「中々に手強い………!だが『物理攻撃』が効くなら、負ける気がしねぇんだよ!」

 

ペッパーがウェザエモン戦でやっていた、攻撃引き付け→回避→攻撃という『ヒット&アウェイ作戦』を、自身の戦法『見様見真似(なんちゃって)』で行いつつも、サンラクは線画の騎士へ次々と攻撃を当てていく。

 

「てか、コレ効いてんのかなぁ!?」

 

レベル99、其れもExtendまで到れども、やはり終盤エリアのモンスターとだけあって、簡単には倒れてはくれない。だが其れでも、サンラクは見様見真似ヒット&アウェイ作戦を展開、コントゥアル・ナイトを殴り続け。

 

「良い加減ッ────沈め!」

 

胴体を思い切りぶん殴った所で、線画の騎士は怯んだまま硬直し、細身を構成するポリゴンを爆発させた。

 

「御見事、サンラク。ヒット&アウェイ作戦を真似てたようだが………よく出来てたよ」

「やっぱ気付くか、ペッパー」

 

ドロップアイテムは無し、だが対人戦を想定して挑むならば、此のモンスターは悪くないだろう。

 

「先に進もう」

「あぁ」

 

地下へと続く道を探し、二人と二羽と一匹は進み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コントゥアル・ナイトというモンスターは、バリエーションに富んだモンスターでもある。身体付きは同じでも、モーニングスターを振り回す個体だったり、巨大な斧槍(ハルバート)を叩き付ける個体だったり、全く同じ盾を二刀流にしてシンバルみたくブチ咬ます個体だったりと、何種類居るのか気になる程だからだ。

 

「まぁ全員共通して魔法は効かないというのは、事実だった訳だ」

「多分だがコントゥアル・ナイト、アレは『魔力』を媒体として動く『バルーンアート』みたいなモンスターだろうね」

「あぁ、其れだ。ずっと気になってたが、名前が出てこなかったわ」

 

サンラクが試しにエムルにマジックエッジの指示を出し、コントゥアル・ナイトへ攻撃を当てさせた所、線画の騎士は華奢だった身体が肥大化・強化される光景を目撃した事で、其の手のタイプであると気付き。同時に魔法さえ吸収させなければ斬撃・打撃でも、其れなりにダメージが通るモンスターだと結論付けた。

 

『ワゥ!ワゥ!ワゥ!』

 

と、此処で影に潜んでコントゥアル・ナイトとの戦いから離れ、フィールドを探索していたノワが戻ってきた。其の鳴き声は、何かを『発見』したようにも見える。

 

「ノワ、何か見付けたのか?」

 

『ワン!』と吠えて駆け出すノワを追い掛け、辿り着いたのは『壁と一体化したかのような破損具合』の、初見では見付かりづらい『エレベーター』であり。エムルやアイトゥイルの、ヴォーパルバニーが一羽でなら通れるくらいの小さな穴からは、隙間風が吹き込む音が鳴り聞こえて来る。

 

「此の下………だろうな」

「あぁ。間違い無くな」

 

恐らく何処かに在る『階段』を見付け、地下に向かうのが『正解』なのだろう。そしてサンラクは近くに落ちていた錆びた剣を拾い上げ、穴の中へ突っ込み押し込むや、聞き耳を立て。其れから暫くしてカラーン………と小さな音が鳴ったのを聞き、先に在る穴は相当な深さだと確信する。

 

「よし、降りるか」

「まぁ、階段探し…………サンラク何て?」

 

だがそんな中で、サンラクのトチ狂った発言に耳を疑い、全員の視線が半裸の鳥頭に向けられた。

 

「言葉通りだ。此のまま降りる」

「いや、通れないだろ此の穴じゃ」

「フッフッフ………今の俺は『魔法使い』にだって成れるんだぜ?」

 

そう言いつつサンラクがはためかせたのは、以前ダルニャータが製作し、アクセサリーとして彼に渡された品の一つ『瑠璃天(ラピステラ)星外套(せいがいとう)』であり。

 

「…………?……………!…………?!?!」

 

そして唯一羽、サンラクがやろうとする事に気付いたエムルが、白毛の顔を真っ青にする中で、彼は種明かしをしてきた。

 

「此のマントってさ、魔法を吸収(コンバート)して設定(セット)出来る能力を持ってるんだよな。で、現在コイツには短距離転移魔法の【瞬間転移(アポート)】を備えてる」

「…………………マジでやる気?」

「マジだ」

「……………解った、取り敢えず『おんぶ』しとく。アイトゥイル、ノワ。確り掴まっておいて」

「は、はいさ!」

『ワゥル』

 

サンラクをおんぶし、アイトゥイルとノワをエムル共々サンラクの肩と頭に乗せ、そして叫ぶ。

 

「瞬間転移ッ!」

 

魔法エフェクトと共に一瞬の、しかし固まった二人と二羽と一匹の座標が、5mという短距離でこそ有れども、壁を通り抜けて穴の中へと移動する。眼下には深淵のクターニッドの第四形態・仮想態時の漆黒重力穴(ブラックホール)に似た暗闇のみ、落ちれば漏れ無く全員死ぬ運命(さだめ)が待っているだろう。

 

「お、落ちッ………!?」

「ペッパー!」

「任せろ!」

 

漆黒という空間、故に発動条件を充たした星天秘技(スターアーツ)・ミルキーウェイと、自身に対する重力の枷を解き放つ頂天律驚歩(ヌフールァウォーク)、そして運搬スキルのストレングス・キャリアーの三種スキルの起動。

 

シャンフロにて最大高度(スカイホルダー)を取った其の実力は伊達や酔狂に非ず、ペッパーが思い描くマナで作られた道が、彼等彼女等の落下死という運命を断ち切り、空中をゆっくりと駆け出していく。

 

「ペッパーさん、凄いですわ………」

「サンラクには劣るよ……あんまり時間は無いから、ちょっとペースを上げるね……!」

 

アトロフォスの白蒼翼(はくそうよく)によって燃費や回転率は上がれども、スキルは永久には続かない。効果が切れ、途中からはグラビティゼロを用いての壁蹴り降下をペッパーは続けて。

 

そしてパーティーは最下層へと到着したのだった…………。

 

 

 

 






進む意思は誰にも止められない




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地の底にて知る、恐るべき事



辿り着いた場所




エレベーターが通るであろう縦穴を蹴り跳ねて、数百メートルは下らない穴の中を壁を伝い、下に下にと降りた最果てでペッパー・サンラク・エムル・アイトゥイル・ノワを出迎えたのは。オート点灯により光が灯り、地下の果ての在る此の場所は、地下深くに作られた『研究所』みたいな物であり。

 

てっきり『地上からの襲撃を想定した司令本部の様な物』が在るかと思われたが、予想が外れた。更に此の空間を見渡せば、既に地下数百メートルの位置から『更に地下へと掘り進められた穴』と、掘削作業を成す為のドリルやシャベルといった『現代でも見る大型重機』の数々だった。

 

「コンピューター………だよな?」

「あぁ………つーか、四か五段階くらい過程をスッ飛ばした気分だわ」

 

おんぶしていたサンラク達を下ろし、聖盾(せいじゅん)イーディスを装備。ペッパーが先頭に立って警戒態勢を敷き、サンラク達がフィールドを見渡しながら、一同は探索を開始する。

 

「此処に居た人は地下にロマンを求めてたのか、其れとも………」

 

降りてきた側の穴とは別の穴からは、死の気配がプンプンする。一定距離に近付いた瞬間に敵が出現、問答無用で取り込まれてガメオベラ………といったレトロ探索ホラゲーでは、十八番パターンがあるので注意するに越した事は無い。

 

「サンラクさん!ペッパーさん!上、上に何か刺さってますわ!」

 

そんな折、エムルの声で一同の視線が彼女の指差す方へと向く。其処に在ったのは『設計上想定された別々の機材に接続されて、其々が合体して一つの何かに成りそうな、全部で三本の三角形の筒』が挿さっていた。駄目押しに其々の筒には『Δ』のマークが。

 

「Δ装置やんけ!」

「先生が言ってた、御使いの品の!」

「やりましたわ!見付けましたわ!」

「エムル、よく見付けたのさ」

『ワン!』

 

エムルの頭を撫でるアイトゥイル、其れとは裏腹にペッパーとサンラクは警戒しつつこう言う。

 

「一応注意しよう………アイトゥイル、ノワ。二人とも何時でも脱出出来るよう、準備をしておいてくれ」

「解ったのさ」

『ワゥ』

「だな………エムル、アイトゥイルとノワと一緒に、直ぐ動けるようにしてろよ」

「は、はいな!」

 

探索ゲームでも重要アイテムを入手したら、脱出イベント開始は良くある事なので何時でも心構えをしておく。取り敢えず『三つのΔ装置』がイベントフラグであり、同時にトラップアイテムという可能性を加味して後回しに、先ずは周辺機材の調査を行う。

 

「電源……電源………あ、在った。よし、入れるぞ」

 

サンラクがスイッチを入れれば、ホログラムの画面が彼の目の前に浮かび上がるや、数度の起動プロセスを経由した後に『三つの映像ファイル』が表れた。

 

おそらく『タッチパネル式キーボード』だろう其れを動かしながら、サンラクが調べるものの三つのファイルの中、前二つは『破損』していて閲覧出来ない状態であり、唯一『三番目のファイル』は無事である事を確認する。

 

「わわっ!?サンラクさん、其れ動かせるですわ!?」

「フッフッフ~……宇宙の果てから別次元まで、数多のSFを潜り抜けてきた俺に掛かりゃ此の程度、御茶の子さいさいって奴よ」

 

ゲームならではの自慢だろうか。何にせよ調べてみよう。ファイルをダブルクリックし、皆が注目する中で映像は再生される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やった! やったぞ! 遂に……!遂に僕は、根元に到達したァ!』

 

 

 

映像に映し出されたのは、コッテコテの台詞に加えて、性格の悪そうな顔・貧弱な身体・ロクな事しかして無いだろう喜び方のスリーストライクなキャラクター。ゲームでも物語上で大抵やらかしをする『マッドサイエンティスト』、或いは『大体コイツのせい』に当たる人物だろう。

 

 

 

『地上では今も雑兵共が消費されている頃だろうが……ふっ、ふふふ……!ククク……!褒めてやっても良いだろう、何せ此の僕の、偉業の礎となったんだからなぁ……!』

 

 

 

「サンラクさん、アタシ此の人キライですわ」

「まぁ待てエムルよ。人は見掛けで判断しちゃいけない」

「サンラクの言う通りですよ、エムルさん。穏やかそうな味方ポジションに見えて、実は裏切り者でしたってパターンを、何回か見た事が在りますので」

「そんな奴居るのさね………」

『グルル』

 

細目キャラ+特定の声優=強キャラ&裏切りポジとはアニメやゲームでは良くある事だ。さて、此の男は如何なる存在なのか確かめなくてはいけない。

 

 

 

『何が継承だ、何が次世代だ!天津気(アマツキ) 刹那(セツナ)の理論だけは認めてやってもいいが……アイツらだけはッ!アイツらだけはッッッッ!』

 

 

 

「……セツナさん!?」

「…………もしかしてコイツ、結構重要人物だったりする?」

 

聞き覚えのある人物(ウェザエモンの妻)の名前を男が口走った事で、ペッパーとサンラクのマッドサイエンティストに対する注目度と評価が変動していく。

 

 

 

『馬鹿馬鹿しい!馬鹿にも程がある!!今!此の瞬間を生きる我々が死んでは、何の意味も無いだろう!?アリス・フロンティアも! ジュリウス・シャングリラも!!奴等はイカれているッ!!!そうだ……!嗚呼そうだとも……!人類の救世主は、此の僕だ……!』

 

 

 

「ちょっと待って!?とんでもない台詞吐いたぞ此の人!?」

「待て待て待てェ!?お前噛ませ臭さハンパ無いのに、ガチ設定垂れ流しまくるのやめーや?!」

 

サンラク共々思わずツッコミをしてしまった。何より『アリス・フロンティア』なる存在は、クターニッドの真理書にも記載されていた『名前』であり、クターニッドが『人類』という種族の枠組みの中で、唯一『個』して認識している女性。此の男は少なくとも、アリス・フロンティアとの面識を持っていたらしい。

 

映像の続きは気になるし、確か前にエンハンス商会で見掛け、購入していた物の中に『録画』を可能にするアイテムが在ったので、録画して自分用の鑑賞の為としたり、ルルイアスで手にした本とペンシルゴンの交渉と合わせたなら、ライブラリを相手に相当な価値で取引出来る筈。

 

さて、続きはどうだろうか?

 

 

 

『僕等は()からやって来た、故にこそ空は僕等の領域だ!……天に神は居ない、神は僕達の下に居る(・・・・)んだ……!』

 

 

 

「今の表現は中々面白いな。要するに『宇宙』から彼を含めて人はやって来…………ん?」

「ペッパー、どうした?」

「いや、何か引っ掛かったんだよな……」

 

何かが、何かが『繋がる』気がする。だが触れてこそ有れども、考えれば考える程に答えに辿り着かなくなる気がするのだ。今は一旦置いておき、続きを見よう。

 

 

 

『本来ならば、もっと西で実験を行いたかったが……まぁいいだろう、接続に問題は無い。僕は奴等みたいに悲観主義じゃないぞ……!此の災禍の根本を、僕がぁ……此の手で……!』

 

 

 

直後、映像にノイズが走る。ホログラムによって立体的な映像が途切れ、しかし音声が無事で有る為に聴こえてくるのは明らかに『悲鳴』のような声、金属が『破壊』される音、明らかに人のモノでは無い『咆哮』だ。

 

 

 

『い、嫌だ! 嫌だぁぁ! 僕はっ! 僕が……っ! 違う、僕はこんな、畜生……!!』

 

 

 

「サンラクさん!?何が起きてるですわ!?」

「なんだろうなぁ……まぁ、見当はつくけどさ」

「ペッパーはん!?何か危険な予感がするのさ!?」

「アイトゥイル、落ち着いて。静かにね?」

『ルゥゥゥ………』

 

此の手のタイプは『サブキャラのバッドエンドかデッドエンド』の映像だろう。其れが思い入れのあるキャラの死に様ならば、精神面(メンタル)のダメージが相当な物になるのだが。

 

 

 

『くそっ! くそっ! くそおおお! ただで死んでたまるか畜生! 記録……ああそうだ、記録だ! よく聞け、誰だっていい! いいか、全ては()だ! 空を見上げたって代わり映えのない宇宙があるだけだ、時間の無駄でしかない!!がっ…………!?う、腕が……!?此のッ、化け物めッ……僕を、引き摺り込むつもりか……! クソ、掘削アーム起動! 時間を稼げ─────ッ!?!?ワァァァァァァァァ!?!?死にたくない……!死にた……くそッ!?うぐぅ……!?いいか、()なんだ! ジズは……ダメだ……!リヴァイアサンとベヒーモスなら、良し……良が、うがぁぁぁぁ!!?』

 

 

 

ガタンゴトン!!ズガンドガン!!と、肉と金属が激突し合い、明らかな異常である事を『音』という現状無事な要素が、視聴者である者達に告げている。

 

そうして少し離れた場所で、何かが爆ぜたのだろう爆発音が肉と金属の音を掻き消し響き続けた後─────。僅かだが、途切れた映像が回復して。

 

「ぴぇっ!?!?」

「ひゅきゅ!!?」

「ッ!?」

 

 

体の半分を何かに(・・・)よって、進行形で喰われている男の姿が映されたのだから。

 

 

 

例えるならば其れは『ミミズ』の、言い換えるなら『触手』の、或いは『蛆』の様な。グズグズな腐敗と蠢き動くモノを足して二で割った、そんな中間のような動きと共に、男の左半身を侵食している。

 

其の光景は男の右半分の無事な顔から涙や鼻水を垂れ流してまくり、表情を歪ませているのを見れば、想像するに容易いだろう。

 

何よりも『インベントリアに入れていた深淵の警鐘』が、映像の『アレ』に対してジャンジャンと。其れは其れは『けたたましく音を鳴らしている』事からも、ヤバい存在だと判断出来る。

 

 

 

だが、それでも。

 

 

 

自分が此処で死ぬのだと自覚した其の男の目は、まだ死んでいなかった(・・・・・・・・)。絶望に塗り潰された瞳には、まだ『炎』が灯っている。諦めない、最期まで抗ってやる………そんな『決意』を宿していて。

 

 

 

『もう此の際ジュリウスでもアリスでもいい!良いか!お前たちがやろうとしてる事は、糞尿に消臭剤を散布しただけに過ぎないんだ!『根本の解決』に成って無いんだよッ!Δに僕のプログラムを入れた!癪だがお前達に『託すぞ』!』

 

 

 

彼は『繋げる』事を。自分の積み重ね、本当は己独りで成そうとした研究を。誰かに託すという、そんな『選択』を取ったのだ。

 

 

 

『痛い!痛い!痛い! くそっ! 役立たずのポンコツ共が!綱引きすらも満足に出来ないのか!まだだ、まだぁ……!嗚呼、畜生……こんなものッ、外に出せる訳が無い、だろう……ッ!クソッ、なんでこうなるかなぁ……!!だけど、それでも僕は……………!!起動コード「反物質の終幕(ナキマ・スクエ・スウデ)」! 限界までアレに近づかないと……ひぃっ!?むぐぉ!? お、ご、ごげぎっ! ぐ、おおおおおああああああ!!』

 

 

 

悲鳴という名の断末魔と共に、穴へと引き摺り込まれて行く男。暫くグチュリグチュリと音が鳴った後、響き渡る轟音と閃光によってホログラムは塗り潰され────映像は終わった。

 

総評を出すなら、男がやったのは『盛大な自滅行為』であり、しかしながら『自分でやった事の落とし前を自らの手で行った』と、そう判断するに至り。

 

そして此の映像を見届けた、サンラクとペッパーは顔を見合わせ、そして互いにこう思った。

 

 

 

 

コレ、ヤバくない?─────と。

 

 

 

 






其れは一人の男の終わりの記録




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天啓とは何時如何なる時も平等に降り注ぐ



映像を見終えて




城の地下深く、最下層に在った研究室にて見た、一人の男の終わりの映像記録。クターニッドの撃破報酬として手にした『深淵の警鐘』が、インベントリアの中からジャンジャンと警報を促した其れを見て、本来は(・・・)『アレ』が明確に『敵』として顕れてから、此処を訪れるべきだったのでは?と、サンラクとペッパーは思う。

 

「まぁ、なんだ……。エムル、評価はソイツが何を成したのかで決めるもんだ」

「はいな……あのいけ好かない人、最期の所はヴォーパル魂を感じたですわ……」

「そうさね……確かにあの男は、最期に中々なヴォーパル魂を見せたさね」

 

エムルとアイトゥイルの発言から、ペッパーはヴォーパル魂という隠しステータスは『強敵に怖れず立ち向かう姿勢』だったり、自身の死地に置いても『自らの存在と力を示す事』であるような気がしてきた。

 

自身よりもレベルの高い敵─────金晶独蠍(ゴールディ.スコーピオン)相手に単独戦闘と勝利した時に、アイトゥイルがヴォーパル魂が上がっていた的な事を言ったので、おそらく合っているだろう。

 

「何にせよ、だ。取り敢えず此処が『危険地帯』って事は確かだし、Δ装置を取ったら一気に脱出しちまおう」

「穴の方は俺が警戒しておく。サンラクはΔ装置の回収を、エムルさん・アイトゥイル・ノワは脱出準備を」

 

役割分担、聖盾(せいじゅん)イーディスを構えるペッパーと、挿っていた三本のΔ装置の一つを引き抜いたサンラクが、男が得体の知れない存在に引き摺り込まれた穴の方を見つめる。十秒程経過するも特に何も起こらず、サンラクは一応引き抜いたΔ装置を戻してみたが、特に何か起こる訳でも無かったので、三本を回収してインベントリアへ収納した。

 

「てか冷静に考えたら、あの科学者誰かに装置を渡そうとしてたんだから、自爆装置起動したらギャグか……」

「あ、確かに………」

 

警戒を厳にしていたのは何も悪い事ではない。レトロゲームでは一撃で操作キャラが死亡するトラップだったり、詰みポイント的なギミックが在ったりと、厄介極まる要素が大量に散りばめられている事が多々ある。

 

トゥルーエンドに辿り着くには全操作キャラの好感度をMAX、かつ最終章時点で全員生存とキャラクター個別の誓いを聞き届けるという、全レトロRPGでも屈指の難易度&フラグ管理が厄介なタイプが在ったのを、ペッパーは思い出した。

 

「もう一度来た時には、あのゲロミミズが待ち構えてる………なんて可能性も在るしな。此処でパパパッとやっとくか。エムル、ちょっと静かにしてろよー」

「は、はいな!」

 

そう言ってサンラクが取り出したのは、ペッパーも購入した『録映の眼珠』という『録画アイテム』。昔は回数制限が設けられていたらしいが、プレイヤー側の猛烈な抗議によって現在は無制限になったという、稀有な事例を持つアイテムである。

 

再生される男の最期の記録、時折エムルが「ひゅ?!」や「ぴょえ!?」と叫んでは居たものの、録画としては及第点だったようであり、サンラクは頷きながらにインベントリアへと録画アイテムを収納していく。

 

「じゃあ俺も録画しておこう」

 

三度目の再生、映像を記録しながらに男が述べた台詞を、ペッパーは考える。

 

(『アリス・フロンティア』と『ジュリウス・シャングリラ』………此のゲームのタイトルが『シャングリラ・フロンティア』である以上、彼女と彼が『アダムとイヴ』的な関係なのか?)

 

名字にあるフロンティアとシャングリラ、少なからず関係が有るとして、何を以て『繋がり』が在るのか。

 

(そういえばウェザエモン・天津気(アマツキ)さんは、最終盤面で晴天大征(せいてんたいせい)を繰り出す前に、確か『アリス』と『二号計画(セカンドプラン)』って言っていたし、クターニッドさんの真理書には『二号計画の全権を持っていた』と在る。なら、ジュリウス・シャングリラが『一号計画(ファーストプラン)の全権を担ってた』とか?)

 

可能性は無きにしも非ずだが、やはり考察出来る情報が現時点でも少ないのが現実で。此れに関しては一旦、思考の片隅に退けておく事とした。

 

(空からやって来た………宇宙………方舟………ん?)

 

バチリ………と、脳内でスパークが走った。彼が言っていた『空からやって来た』という台詞、空は小説等で時々『宇宙(そら)』とルビを振られる事が在る。そして人が宇宙を進むには、宇宙外に出ずとも生きられる『酸素と食事と住まい』が必要不可欠な『要素』。

 

そして其れ等を成すには『宇宙船』が絶対に要る。

 

(セツナさんが言っていた事………クターニッドさんが言っていた事…………どちらも共通していたのは『バハムート達』という単語…………!)

 

単体では無く複数形。映像の中で言っていた『ジズ』・『リヴァイアサン』・『ベヒーモス』。此れが仮にバハムートであり、宇宙船だとしたならば─────彼の話と破綻する事無く『結び付く』。

 

(そしてクターニッドさんの言葉の中には『人よ大いなる祖を持つ栄誉を誇れ』と在ったから、二号計画の俺達開拓者(プレイヤー)を産み出した神代の人々は、三機のバハムートに載って宇宙を旅して此の星にやって来た。そして彼の言った地に在る『神』なる存在と激突し、戦いの果てに多大な犠牲を得た果てに、僅か一時の平和を勝ち取った。

けれどクターニッドさんが言ったように、狂える大群青を含めた『始源の胎動』は終わっておらず、再び驚異が世界に襲い掛かろうとしている………という事かな)

 

現時点で得てきた情報を纏めた『仮説』では有るが、其れでも説得力の有る物に成っただろう。

 

「其れにしても便利だな、録映の眼珠。持ち運び(・・・・)出来て(・・・)、やろうと思えば『ビデオレター』とかもやれなくないか」

 

改めて此のアイテムの凄さを再確認し、ペッパーが何気無く眺めて呟いた言葉。其れがサンラクの脳に電流を走らせた。

 

「ん?…………んんん?データを入れて、持ち運ぶ………ゔぉっ!?」

「サンラク、いきなりど『だぁぁぁあぁぁあぁあああああああ!!』!?」

「ぴゃああああぁぁぁぁあああぁぁあ!?」

 

其れは彼にとっての『天啓』であり、ずっと今迄──────強いて言うならば『格納鍵(かくのうけん)インベントリア』のインパクトに掻き消されていたある物(・・・)を、此の瞬間に思い出したのである。

 

「嗚呼クソッ!?スロット(・・・・)……スロットは『何処』に在んだッ!?やっぱ超未来だと、物理的にぶっ刺さないのか!?いや『片割れ』は持ってんだ、形状から推測出来る……!」

「サ、サンラクサンどうしたですわ!? かつてないほどにやべー顔してるですわ!」

「やべー顔にもなるわ! ああくそ、今の今まで完ッッッ全に忘れてた!!」

 

サンラクのインベントリ(・・・・・・)の中に放り込まれたまま、ずっと存在を忘れていた物であり。取り出したのは、角の取れた正八面体の青い光のラインが通う半透明の『記憶媒体』──────名を『晴天流奥義書(せいてんりゅうおうぎしょ)』。

 

ユニークモンスター・墓守のウェザエモンを討ち果たし、サンラクと京極(キョウアルティメット)の元へ報酬としてもたらされたキューブであり、其の中には彼からすれば『見様見真似(なんちゃって)』でしか再現出来なかった、晴天流の絶技の心得が入っている。

 

「戦術機獣は駄目だった………!アイツ等は携帯端末みたいなモンで、本格的な作業は出来ないんだろう……!だがコイツならどうだ!?」

 

ホログラムを再生していた筐体を、嘗め回す様にサンラクは探し回って。出力する場所にあった窪みを発見、意を決してサンラクが其処にキューブをセットした瞬間に、光が満ち溢れて彼の瞳から脳に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

技能(スキル)の一覧に『晴天流』の絶技へ至る『一の太刀』たる【疾風(はやかぜ)】が直接(・・)刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






解放される絶技、掴む真実の断片



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地を出て、業火と喧騒に追われる



探索の後に




「俺は今、神となった」

「サンラクさん、やっぱり頭がオカシク……」

「武術的なじゃなく、多方面的な神だよ」

 

キューブをセットしたら光って、地下の研究室を脱出してからのサンラクは、まるで悟りでも開いた様な清々しい表情をしている。

 

「当初の目的は果たしたし、此のまま帰るか………」

「だな。万が一って事が有るし、一応感覚強化スキルで探知してみるよ」

 

局極到六感(スート・イミュテーション)点火、自身の感覚を超強化して眼を閉じ、聴覚と触覚で空気と音を掴み取らんとしたペッパーは──────『恐るべき事』を知る。

 

「………………サンラク、エムルさん、アイトゥイル、ノワ。落ち着いて聞いてくれ…………今俺達が居る此の城が、他のプレイヤーに包囲(・・)されてる」

「……………マジか?」

「あぁ」

 

ペッパーの強化された聴覚が察知したのは、自分達が入ってきた出入口及び周辺を、プレイヤー達が包囲している事。其れも数十人規模では無い、百越えの二百未満に近い大人数での包囲という、よりヤバい物なのだ。

 

(思い当たる節は何だ…………まさかノワが撮影されたとか?サンラクと合流した時に?)

 

スクショによって情報が漏れた─────という辺りまでは正解だが、其れを撮影したのはネチケットが疎い女子プレイヤー達だった事を、ペッパーは知らない。何よりも問題なのは、包囲しているプレイヤー達が『何処の所属』なのかが一番の問題なのだ。

 

ソロでは先ずこんな大人数は集まらない、そうなると大規模クランに候補は絞られる。名の知らないクランなら良いが、一番最悪なのは『黒狼(ヴォルフシュバルツ)』が他のクランを抱き込んで包囲しに来た────になるか。

 

「エムル、取り敢えずマフラーに擬態だ」

「は、はいなッ」

「アイトゥイルはコートの中へ、ノワは俺の影に」

「はいさ」

『ルゥグ』

 

今やるべき事は、自分達を包囲しているプレイヤーの所在を明らかにする事。そして此方からは手を出さずに、形成された包囲網を突破する事の二つだ。

 

「サンラク、包囲時に取るべき行動は何だと思う」

「一番良いのは混乱に乗じた正面突破だな」

「そうだな……相手が其れを許してくれそうにないなら、どうしようか」

「俺が瞬間転移で包囲網を突破、其所からは全力ダッシュで引き剥がす」

「其れで行こう」

 

取り出しますは、投擲玉:炸光。所謂閃光玉の様な物であり、ペンシルゴンがサードレマの城門前にて光と煙を使い、自身の得意とする戦闘領域を構築したのを真似する。音を立てずに、抜き足差し足忍び足で進んで、自動扉の付近にまで着いた。

 

ペッパーは炸光を力強く握り、着弾の瞬間に起動出来る状態を作って、サンラクもスキル:ライオットアクセルを点火、体力を代償に敏捷・筋力を強化したのを横目に、女勇者状態のペッパーは自動扉の前に立ち、反応範囲へ入った事で扉が開いた刹那を狙い、炸光を投擲。同時にレーアドライヴ・アクセラレートで5m後方へ瞬間移動。

 

敏捷関連スキルを点火し、帽子で目元を隠してサンラク共々走り出した其の直後に閃光が炸裂。強烈な光が夜空の元に包囲していたプレイヤー達を照らし出し、悲鳴や驚愕の声が上がる。

 

視線を僅かに上にして光の中に動く輪郭を見渡せば、正面の時点で二十人近く居り、おそらく城の付近にも居ると考えたなら、光の影響を受けなかった連中も先ず間違いなく居るだろう。

 

「サンラク、御姫様抱っこさせて!拒否権は無い!兎に角空中走って逃げるわ!」

「ファッ!?」

 

サンラクの驚愕より尚早く、ペッパーはサンラクの真後ろを取るやダッシュスキルを全開に彼を抱え上げ、扉を出た瞬間にミルキーウェイと共に切札たる窮速走破(トップガン)を使用。己の描かれたマナ粒子の道を駆け走り、包囲網の真上を取って飛び越える。

 

「越えられた!?」

「ッ、待てェ!!」

「逃がすな、追い掛けろッ!」

 

下から包囲網参加プレイヤーの悲鳴や驚愕に怒号が木霊すが、そんなモノで二人は止まらない、止まる訳が無いのだ。

 

「ペッパー、奴等を越えたぞ!御姫様抱っこは充分!其れとエンブレムが『黒狼』の連中のだった!」

「解った!そしてナイス!」

 

地面に下り降りつつ、サンラクも空中で途中下車&フリットフロートによる姿勢制御を行い、二人はイレベンタル方面へ荒野を走り抜ける。

 

「止まれ!其所のサンラクって奴!」

「待ちやがれ、ペッパァァァァァァ!!」

「だーれがそんな殺意マシマシで剣やら持ってる奴等の言う事聞くと思いますぅ~?」

 

サンラクの言う通り黒狼のメンバー達は現在、如何にも高価な武器を握りながら、此方をロックオンして大挙とも雪崩とも捉えられる状態で迫ってきている。

 

そんな黒狼の輩を、サンラクは全力煽り&ダッシュ、そしてバックステップからのバク転跳躍空中逆回転しながら、後方に居るプレイヤー達を『スクショ』で撮影して証拠を獲得した。

 

「よぉし、ペッパー!奴等の写真は撮った!」

「助かる!此処からはイレベンタルかエイドルトで二手に分かれよう!」

「OK 何時もの(・・・・)場所でな!あぁ其れとエムルを預かってくれ、ちょいとマブダチの所に遊びに行ってくる!」

「了解した!」

 

ペッパーはエムルを受け取りつつも、両者足を止めず。サンラクはメロスティック・フットを発動し、御互いにイレベンタルのゲートを目指して、力の限り走り続ける。

 

「くっそ、はえぇ………!!」

「だが問題ねぇ!イレベンタルの前にも人員を当てといた!」

「勝ったな」

 

そして黒狼の団員達は逃げ去るペッパーとサンラクを追い掛け、此のままイレベンタル前で挟み撃ちに出来るかと思っていた。

 

「バイバイ」

「【瞬間転移(アポート)】!」

 

片やレーアドライヴ・アクセラレート、片や短距離転移魔法で、またしても構築していた包囲網を突破され、イレベンタルへ逃げ込まれる。

 

サンラクはエイドルト目指して爆進を続けるべく進み、ペッパーはエムル・アイトゥイル・ノワと共に、安全圏たるラビッツへと帰るべく裏路地へと逃げ込む。

 

黒狼の団員達はサンラクを追う者とペッパーを追う者に分かれて走り、路地裏に逃げたペッパーを追跡する。だがしかし、常に追われる身として裏路地での移動を心得ているペッパーにとっては、夜間帯の暗く入り組んだ路地移動は朝飯前であり。

 

彼等彼女等が路地裏に迷った挙げ句、ペッパーを完全に見失った其の頃には、彼はサンラクから預かったエムルが開いたゲートを潜り抜け、兎御殿へと帰還したのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………あまりにも大事に成ってるなぁ………」

「はいな………ペッパーさんもサンラクさんも追われてて、セカンディルで追われていたのを思い出しましたわ………」

「あの開拓者達は、見境が無さ過ぎるのさ……」

『グルゥル』

 

兎御殿に無事エスケープしたペッパー・エムル・アイトゥイル・ノワは、一度休憩室へと戻ろうとしていた。

 

「お、アイねーちゃんにエムルねーちゃん、其れにペッパーは─────ひょえっ!?」

 

そんな時、彼女達のピーツが走ってきて。リュカオーンの小さな分け身たるノワにビビって声を挙げた。

 

「おや、ピーツ。どしたん?」

「はっ!そうや、ペッパーはん!実はとんでもない事が起こってな!」

 

そう言ったピーツはペッパー達に説明していく。其の内容というのが…………

 

「兎御殿に新たに『三人』やって来た………本当ですか!?」

「せやで!そんで『二人』は、前にラビッツを訪れた事が有って、内一人は『深淵の盟主の目玉を穿った』っちゅう、中々なヴォーパル魂を持った御方や!」

 

ピーツの言った二人の内、其の一人をペッパーは『知っている』。何なら其の局面を、自身の手で『救出』した覚えが有り。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お。やぁやぁ『あーくん』。いや、今は『あーちゃん』かな?君はずぅ~~~~と『こんな所』に隠れ住んでいたんだねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも『聞き慣れた』、そして忘れる訳が無い『恋人の声』に、ペッパーが振り返れば。

 

ニッコリ笑顔で目が笑っていない致命魂(ヴォーパルだましい)首輪(くびわ)を着けた、クラン:旅狼(ヴォルフガング)がサブリーダーたるアーサー・ペンシルゴンと、足下には『ロリータ』な見た目をした灰色のヴォーパルバニーが一羽、隠れながらに見て居たのである。

 

 

 

 






お ま た せ




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人は時に絶対的な憤慨を以て事を成す



魔王がやって来て




「ククククク………今日は良い気持ちだ───!俺は成し遂げたのだ………!」

 

兎御殿にてリスポーンし、ベッドから起き上がったサンラクは現在晴れやかな気持ちの中に居た。交渉の『こ』の字も理解出来ていない黒狼(ヴォルフシュバルツ)の連中から逃げ仰せ、エイドルトとフォスフォシエの間に在る水晶巣崖(すいしょうそうがい)にて、彼は死闘(・・)を演じ。

 

最終的には死亡したものの、欲しかった『目的の物』が手に入った事により、非常に上機嫌な状態である。

 

「さぁて、ペッパーとエムルは無事に戻れたか……一応確認しに行くか」

 

用心深くあらゆる事態を想定している彼の事なので、上手く逃げ仰せただろうが、確認は大事であり。サンラクはエムルを探しに、兎御殿の中を行き。

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、サンラクくぅーん!まさか君もこんな所に隠れ住んでるとはねぇ~?」

 

 

 

 

 

畳が敷かれた広間にて、首に致命魂の首輪を着けた黒幕魔王たるアーサー・ペンシルゴンが、ニッコリ笑顔と笑っていない視線を向けながら、此方に挨拶をしてきた事で彼の機嫌パラメーターは一瞬の内に底辺まで爆下がりしたのである。

 

後方には正座をさせられているペッパーと、其の両肩にはエムルとアイトゥイル、そして正座する太腿にはリュカオーンの小さな分け身たるノワが座り、回りには大量の『ハヤブサ』。そして彼女の足下にはヴォーパルバニーが一羽居る。

 

「ペンシルゴン、何故此処に!?」

「フッフッフ……実は私、クターニッド戦で『致命武器で盟主サマの片目を穿ったんだよね』。其れがトリガーだったらしくて、昼間辺りに『ケーニ』って子に此処へ案内されたのだよん。因みにソースは、以前君から教わったユニークシナリオ発生条件と、秋津茜(アキツアカネ)ちゃんのヒントを元にさせて貰いました♪」

 

ドヤ顔を噛ましつつ、ペンシルゴンは自身の足下に隠れている小さな灰色毛並みのヴォーパルバニーを前に出す。着ている服装はコッテコテの『ゴスロリ』衣裳で、其の見た目や幼さから『ロリータ』と形容出来る存在だった。

 

「此の子は『ゼッタ』、私に付いてくる事になったヴォーパルバニーちゃんだよん。ささっ、おにーさん達に挨拶しようね?」

「は、はじめまちて………ゼッタ、でしゅ。しょの………あぅ」

 

恥ずかしいのか人見知りなのか、ゼッタはペンシルゴンの後ろへ隠れてしまう。そんなゼッタに対して「よぉく出来ました♪」とペンシルゴンは身を屈めながらに、チビ兎の頭を撫でて。其れを見たサンラクは、驚愕と共に言葉を発する。

 

「ば、馬鹿な………!?セツナ以外に、ペンシルゴンがNPCと談笑している…………だと?」

「はい其所の鳥頭。取り敢えず一回死んどく?」

「殺れるもんなら殺ってみろやゴラァ!!」

「二人共落ち着け!?此処で暴れたら、先生に何言われるか解らないぞ!?」

 

『事の発端を作った人間が何言ってるのかな~?』オーラを全開にして、ペンシルゴンの視線がペッパーに突き刺さり。其の視線に反応したノワが『グルルルルルル………!』と喉を鳴らして、あからさまに威嚇を仕掛けてくる。

 

「さて、あーちゃんにサンラク君。ちょっと私と『オハナシ』をしようか?」

「誰がそんな死刑宣告に付き合うかァ!?」

 

此処からが本番と言わん表情でニッコリ笑顔になったペンシルゴンに、サンラクは即刻逃げようとしたのだが、ペッパーの肩に乗ったエムルがマジックチェーンを放ち、足首に絡めて転倒させる。

 

「エムルゥ!?ペッパー、お前かぁ!?」

「違うぞ」

「私が指示しました♪」

「おのれペンシルゴン!?!?」

 

ガシリッと首根っこを捕まえて、サンラクとペッパーをズルズルと引き摺りながら、ヴォーパルバニー達にノワと食事処にペンシルゴンは移動していく。

 

「おぅ、ペンシルゴンにゼッタ!そしてペッパーとサンラク、エムル姉ぇにアイトゥイル姉ぇ!卸した魚と炙った貝で『海鮮盛り合わせ』を作ったでぇ!」

「やぁやぁ、ティークちゃん。二人を連れてきたよん♪」

 

上機嫌な様子で陶磁器に盛り合わせられた、彩り豊かな魚の刺身と炙られ香ばしい匂いを放つ貝の切り身、そしてホカホカの熱々に暖められた熱燗が、席に付けられた三人と一羽、エムル・ゼッタ・ノワには熱燗以外の同じ海鮮盛り合わせが運ばれて。そしてペンシルゴンによる、大切な『オハナシ』が始まったのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒幕魔王、説明中……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー………つまり『俺達のどっちかがユニークモンスター・夜襲のリュカオーンをテイムした』という情報が、野良プレイヤーを通じて拡散されて、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)のサイガ-100さんがブチギレた。そして黒狼が主導となって、クラン同盟の質問審議名目の談合通告(オハナシ)が来た……と」

「まぁ、具体的にはそんな感じだねぇ~。ぶっちゃけると黒狼とは『完全敵対コース』に入っちゃってさぁ………。ライブラリのおじーちゃんが一応同盟クランへの通達に、情報屋ギルドに渡りを付けて前々から黒狼の内部に『探り』を入れてたんだ」

 

既にペンシルゴンから『ある事』についての話を聞いていたペッパーは、当初の目的から外れないでくれと祈り。同時にウェザエモンの一式装備の極秘開示を対価に、ライブラリを味方に付けていた事が此の緊急事態で活きた事に安堵した。

 

そして敵対状態に在る黒狼の内情を、サンラクは嘴を開けて鳥面を奥に在る口に刺身を運んで食し、ペンシルゴンに問う。

 

「んで?結果はどんな感じさ?」

「簡潔に言うと、黒狼は元々『リュカオーンを倒せればOKな穏健派』が多数を占めていたクランなんだ。でも100(モモ)ちゃんのド派手な(・・・・)戦い方(・・・)に入団者が殺到、大規模クランになったのは良いんだけど、段々『トップクランで居続けたい強硬派』が現れてから、意見が真っ二つに分かれていてね。其れが今回のサイガ-0ちゃんの黒狼脱退と旅狼(ヴォルフガング)加入声明、オマケにリュカオーンの分け身のノワちゃんのテイムバレが一押しになっちゃって、強硬派が勝っちゃったんだよ」

 

やれやれ具合な表情をしながら、御猪口に熱燗を注ぎ入れて飲んでいるペンシルゴン。そんな時サンラクは何かを閃いてか、自身が撮影した『スクショ』を彼女に見せる。

 

「ペンシルゴンよ、コイツを使えば面白い事になりそうじゃね?」

「どれどれ………ははぁ~ん、コレは中々面白い事になるねぇ?談合時に100ちゃん相手に『責任追及』出来そうだ。フフフフフ………」

「実際俺とペッパーは『巻き込まれた側』だからなぁ。………なぁに二人で事情説明すりゃ、どっちが『悪』かは明確だろうて…………」

 

ゲスい笑みを浮かべ、クックックと笑うサンラクとペンシルゴン。やはり外道故に、考えてる事が同じ場所に行き着くらしい。

 

「一応カッツォ君や京極ちゃんにも連絡を入れたし、他のメンバーには事が鎮静化する迄、シャンフロには入らない方が良いとも伝えてある。レーザーカジキ君は園長さんとの交渉があるから残って貰うし、談合に関してはライブラリを通じて100ちゃんから『今週の日曜日午後九時に黒狼館で話をしよう』って言ってきたんだ」

「んじゃ、俺達は何するんだ?戦争に備えてメンバー募集するか?」

「メンバー募集はしないよ。代わりに他のクラン(・・・・・)を引き込み(・・・・・)、頭数を用いて黒狼を虐め抜く」

 

つまりは談合に備えて他のクランを旅狼側に付け、話し合いの場面で盛大なネタばらし言う名の、爆弾を盛大に起爆するのだろう。しかも其れがたった一人(・・・・・)に対して向けられているのだから、ターゲットには『御愁傷様』としか言えない。ペンシルゴンにロックオンされたのだから仕方無いが。

 

「となると、SF-Zooやウェポニアにも交渉するとして、他は何処を巻き込むつもりだ?ペンシルゴンよ」

「其処等辺は既に決めててね………『午後十時軍』に『聖盾輝士団』辺りも巻き込んじゃおうかなって」

「聞いた事あるクランだな……」

「其れくらいやんなくちゃ、今回の一件は解決しなーいの。今日は一旦解散にするけど、サンラク君とあーちゃんには後で『チャット部屋』に来て。其処で作戦会議(悪巧み)をするから」

 

そう言ってオハナシは終わりを告げ、ペンシルゴンはEメールアプリを使ってチャット部屋のパスワードが付与されたメールを送る。

 

ティークが卸し、調理した魚と貝は何れもとても美味であり、全てを食べ終えた其の瞬間、サンラクは称号【美食舌】を獲得した。

 

ティークに御礼を述べた後、ペンシルゴンは一足先に休憩室にゼッタと共に向かって行き、ペッパーとサンラクもまた、ヴァイスアッシュにΔ装置を渡さんと捜しに、兎御殿を回ったものの見付ける事は叶わず。二人は此の日のシャンフロを終えたのだった……。

 

 

 

 






戦争準備




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狼達は企みて、作戦成就に動き出す



悪巧みをしよう




シャンフロからペッパー(アバター)より、現実の自分へと戻った梓は、静かに息を吐く。

 

「はぁ………まさかペンシルゴン、いや永遠が兎御殿に来るなんて………」

 

サンラクと秋津茜(アキツアカネ)の出したヒントを元に、ユニークシナリオの発生まで漕ぎ着けてみせた彼女の執念は、生半可な物ではない。

 

「其れに永遠以外にもう二人、か。………顔見知りなら良いんだけど……」

 

不特定多数にシナリオの開示が行われよう物なら、サンラクと自分の優位性は瓦解し兼ねない。兎に角先ずは、シナリオ受注者と接触をしなければ、話にならないだろう。

 

「さて………ペンシルゴンの送ってきたチャット部屋はコレか」

 

アプリを開いてパスワードを打ち込み、入室する。其の部屋のタイトルには【裏旅狼の溜まり場】と、随分と物騒な文字が書かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【裏旅狼の溜まり場】

 

 

鉛筆騎士王:オッス旅狼の構成員諸君! 皆のゴッドマーザー・ペンシルゴン様のありがたいお話だよ!

 

サンラク:但し明らかに闇討ちor作戦参謀的なメンバーのみの秘密チャットの模様

 

京極:で、何時黒狼襲撃するの?ペンシルゴン

 

胡椒:やだ此の子怖い。戦争確定になったからって、血の気マシマシになってる………

 

鉛筆騎士王:京極ちゃんからすれば大っぴらに敵を斬り果たせるんだ。そりゃテンションも上がるよねって

 

オイカッツォ:リアルがゴタ付いてて、クターニッド戦以降ログイン出来てないんだが、何起きたって掲示板漁ったら、ノワちゃんのテイム情報がネチケット皆無な奴のせいで出回ったんだって?

 

サンラク:あぁ。他にも黒狼のネチケット無しの馬鹿共に、ペッパー………あいや、ペパ子共々追い回された。逃げ切ったけど

 

京極:ペパ子?

 

胡椒:青の聖杯を使ったんだ。一応隠れて進む為にね

 

鉛筆騎士王:因みに歌劇団の花形女優みたいな姿になってたよ。うーん格好良かった

 

胡椒:ただ青の聖杯の厄介さは、ログアウトしても性別が戻らないって所でさ。本格的に一回デス&リスポーンしないと戻れなさそう

 

サンラク:マジか

 

オイカッツォ:厄介だな

 

京極:維持してたら色々誤解が生まれそうだね

 

鉛筆騎士王:まぁ、程々が一番って奴

 

胡椒:あぁ。そういえばカッツォよ、ログイン出来なかった理由ってのはリアルに関係有ったりするのか?

 

オイカッツォ:其の理由はペッパーのせいだからな……

 

オイカッツォ:おかげで当初の計画に大幅修正しなくちゃいけなくなったんだよ…………

 

鉛筆騎士王:オヤオヤ?私のあーくんに文句が有るのかなー?ん~????

 

オイカッツォ:まぁ、ぶっちゃけても良いか

 

オイカッツォ:シルヴィがシャンフロにデビューした

 

胡椒:……………………………マジ?

 

オイカッツォ:マジ

 

胡椒:やだ

 

胡椒:関わりたくない……

 

胡椒:絶対に関わりたくない………

 

胡椒:AZがシャンフロやってるって知ったらどうなるか………

 

オイカッツォ:まぁ十中八九追っ掛け回されるだろうなぁ…………

 

京極:シルヴィ?

 

サンラク:全米一位最強の格ゲーマー、とカッツォが言ってた

 

鉛筆騎士王:因みにギャラクシーヒーローズ:バーストで、其のシルヴィの最も得意とする持ちキャラにダメージを与えたのが、何を隠そう私のあーくんなのだよん♪

 

京極:調べたけど、此の白いミーティアス相手に戦った、黒いミーティアスがペッパー?

 

【映像】

 

オイカッツォ:早いな、というか随分有名になったじゃないかぁペッパーくーん?

 

胡椒:誰のせいだよ…………

 

オイカッツォ:エーダレダローナー

 

胡椒:お前じゃい!

 

鉛筆騎士王:はいはい。作戦会議するんだから、漫才も此の辺りで御開

 

鉛筆騎士王:では改めて……………黒狼を虐め倒す、楽しい愉しいオハナシを始めようか

 

鉛筆騎士王:先ずはライブラリに関して。あーくんと私が交渉して、肩を持ってくれる事になったから大丈夫。ただ裏切らないとも限らないので、防止策としてクターニッドの真理書に書かれた『あの情報』を餌にして確固たる物にするよ

 

サンラク:アレ、かぁ………ぶっちゃけ不特定多数にゃ開示出来ないもんな

 

胡椒:独占を防ぐ意味でも、後は確定した情報は快く開示しているライブラリだからこそ、渡しておきたいって所でも有るからな……

 

京極:ライブラリの交渉は誰が行くの?

 

鉛筆騎士王:あの爺様相手には私が行く事にするよ。あの人相手には、舌と頭のキレる人じゃないと勝てないから

 

胡椒:くれぐれも気を付けてな、ペンシルゴン

 

鉛筆騎士王:ありがと、あーくん。

 

オイカッツォ:仲睦まじいねぇ~御二人ィ~。何処まで進展してるのかなぁ~???

 

サンラク:ヘイヘイヘーイ、其処んとこ詳しい説明有るんじゃないの~?

 

京極:28282828

 

胡椒:ノーコメントで

 

鉛筆騎士王:次にSF-Zooとウェポニア何だけど……ぶっちゃけどう?交渉上手く行くと思う?

 

オイカッツォ:レーザーカジキの件有るしなぁ……

 

京極:ウェポニア嫌い、前に僕の持ってる刀に関して色々聞かれたら面倒臭い

 

胡椒:まぁソウちゃん………SOHO-ZONEさんは武器に関して真剣なのは知ってるから。ただ度が過ぎるだけで。まぁ、彼に関してはちょいと秘策が有るし、園長さんに関してもノワのスクショとかで、レーザーカジキを引き取れる気がする

 

胡椒:一応四人に聞いておくが、インベントリアの中に在るアレを、ソウちゃんに見せるけど良いかな?

 

オイカッツォ:…………もしかしてアレを?マジ?

 

サンラク:絶対面倒になるだろ………

 

京極:刀じゃないから良いけど、アレを見せるのはヤバくない?

 

鉛筆騎士王:ん~………元々此方の貯金を少しばかり切り崩すつもりだし、既得権益獲得にリスクは付き物だからね

 

鉛筆騎士王:武器狂いとウェポニアに関しては、元々シャンフロに存在してる武器の捜索・生産・解明を徹底的に探求・追及するクランだから、アレを見せればまぁ確実に此方側に付くとは思うよ

 

鉛筆騎士王:後は午後十時軍と聖盾輝士団の二つ……何だけど、聖盾輝士団に関してはあーくんがジョゼットちゃんとフレンドだし、聖女ちゃんとも面識有るみたいだから多分何とかなりそう

 

鉛筆騎士王:ライブラリと可能なら午後十時軍との交渉は私、サンラク君はSF-Zoo、あーくんは聖盾輝士団とウェポニアを。カッツォ君は可能ならサンラク君達のサポート、京極ちゃんにはちょっとした任務を後で与えるから、用意しておいて

 

鉛筆騎士王:そして今週末の日曜日、黒狼との談合で私達五人は各々の役割を果たして貰うよ。具体的に進行役は私、あーくんにはユニークモンスター関係と黒狼に対する通告、サンラク君は黒狼のサブリーダー………もといメインターゲットの強硬派と其のリーダーを煽り倒して、冷静さを奪う事。京極ちゃんは任務関係、カッツォ君は戦争への提案をする事。詳しい事はEメールで送るから、各自確認してね?

 

サンラク:了解

 

胡椒:了解

 

オイカッツォ:了解

 

京極:了解

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「京極への任務って何なんだろうなぁ……、血生臭い事にならなければ良いんだが………」

 

積もる不安を抱えながらも明日以降、ウェポニアと聖盾輝士団へ此方側に付ける交渉に備える事にし。眠りの床へと着こうとした梓が、スマフォの目覚ましアラームを設定していた時に永遠からのEメールが届き。

 

其の内容を確認した後、大きな溜息を付いて眠るのであった…………。

 

 

 

 

 

 

 






やるなら徹底的に




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道は険しく、故に人は苦難を選ぶ



交渉に向けて




ペンシルゴン主催の作戦会議(悪巧み)から一夜が明けた。まだまだ梅雨が続き朝から雨が降る最中、コンビニのバイトで精を出した梓は、午後三時に上がり。手渡された月末の給料明細書を見終えて、傘を指した後にホッコリ笑顔となっている。

 

(今月頑張った分の給料が入ったし、一部はゲームの購入費とゲーセンのプレイ費に回して、残りは食費と貯蓄に………。あぁ、レトロゲームで安いの探してから実家………いや待てよ?永遠を連れて行ったら、恋人紹介になるな?)

 

父親は母親とも今も盛んであり、自分の嫁と孫を見たいと強欲タラタラだったので、一応良い報告にはなるのだろうか。

 

(まぁ…………天音 永遠が俺の彼女ってなったら、兄弟姉妹が色々言いそうだもんなぁ。兄や姉は主に『弄り』、弟や妹はクラスメイトに『自慢』する予感しかしないし………)

 

梓の実家には父母を除くと『八人の兄弟姉妹』が居る。上には兄が一人の姉が二人、下には弟が二人と妹が二人居り、梓は五条家の『次男坊』にして四人の弟妹の『兄』なのだ。

 

(兄貴や姉貴は家から出た後の事は詳しく聞いてないが、親父が月に一回は実家に顔出してるとか言ったし。チビ達も元気にしてるかなぁ………)

 

実家の自分の部屋には鍵をして、室内の攻略済みゲームソフトが弟や妹に触れられないようにと、梓は事前対策をしている。其れも父親と母親に対し、大学進学とアパート住まいを前に、血眼かつ念押しで伝えた程だ。

 

(ウェポニアとソウちゃん、聖盾輝士団とジョゼットさんへの連絡は伝書鳥(メールバード)で行うとして……。あぁ、そう言えば今日『デュエガン』が届くんだったか……一応動き方やミニゲーム確認だけにして、シャンフロでの交渉に行くとしようそうしよう)

 

予定を脳内でスケジューリングし、其の両足でアパートを目指して歩く。

 

「あ、そうだ……此の近辺にゲームショップは無いのかな。在ったらレトロゲームを買って、実家に戻った時にやれるようにしたいが」

 

善は急げとよく言うので、通行の妨げに成らぬ様にと道の端に寄って、早速スマフォで周辺一帯のゲームショップを検索すると、検索結果として一件のゲームショップがヒットする。

 

「何々………『ロックロール』、か。よし、行ってみよう」

 

都心部から程好く離れたゲームショップには、時に思わぬ『掘り出し物』が眠っていたりする。ゲームカセットやソフトとは時折『化石』に例えられ、誰かに見付けて貰えなければ記憶から忘れ去られ、他のゲームで作られた地層の中に埋め立てられて、人知れず消えていく。

 

ゲーマーという生き物は、そんな地層から種類やジャンルを問わず、宝物を掘り出し当ててゲット、其れを攻略して棚に飾り、また再びプレイして楽しむ………此の繰り返しをしている者達なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後四時に迫る頃、スマフォの地図アプリで大まかな位置を把握した梓は雨天の中を歩き、視界の先に『GAME-SHOP ロックロール』を発見した。

 

「彼処か」

 

大きさは程々、外観も綺麗な事からも『数年以内にオープンしていた』と予測。人の出入りも有るので、そこそこ賑わっている様である。

 

「ロックロール………何れ程の実力か、見定めさせて貰おう」

 

そしてあわよくば、未だ見ぬレトロゲームをゲットするチャンスを!────そんな意気揚々に扉の前へ立ち、自動ドアが開いて梓を客として迎え入れる。

 

「いらっしゃいませー」と声を掛けるブロンドヘアーの女店主。軽く会釈による一礼を行い、先ずはレトロゲーマーの主戦場たる『レトロゲームエリア』の棚を、梓はチェックする。

 

(グランドダンジョンシリーズ、ハイスピード・イグニッション、スローファームシリーズに、エントロピー・パーティー……。成程、一通りのレトロゲームも取り揃えている感じか。お、アサシンズプライドやウルティマ・ウォーズ、其れにビーファイター………!コアな所も確り押さえてる、あの店主さん─────『出来る』な!)

 

『レトロゲーマーのツボを押さえている、かなり『やり手』の店長が居るゲームショップ』。其れがレトロゲーマーたる梓の評価としてロックロールに付けられた物だった。そして彼は『本命』となる、セールカート内をチェックし始める。

 

(ゲームショップの掘り出し物………其の最たる楽しみが此の『セールカート』!中古品だったりクリア済みだったりするが、此の中には俺達ゲーマーが知らないゲームが埋まっていたりする。目当てのカセットやソフトを発見した時の喜び。あの感覚が、俺は堪らなく愛おしく嬉しい………!)

 

暫く探していた時、彼の目に止まったのは『一つのゲームソフト』。ディスプレイ専用ゲームであり、其のタイトルには『戦場のヴァルキュリア』とロゴが振られていた。

 

(マジか!?夢…………じゃない!?ソフト……有る!マジか本物だ!ヨッッッッッ─────シャア!!)

 

ずっと探せど見付からず、中身を確認すればソフトが有り。欲しかった逸品を発見した事に、レトロゲーマーの彼からすれば至福の時間を過ごせ、満足気なホッコリ笑顔を浮かべていた時だった。

 

「なんか良い感じのクソゲー有ったりします?」

 

聞き慣れた声が耳に飛び込む。視線を移せば半袖半ズボン姿の男の子、そして其の顔はコンビニでよく見ている顔だった。そして其の背後には、入ろうか入らないかで迷う、白い半袖とロングスカートを着けた女の子が一人居る。

 

(あ、楽朗君だ。彼も此のゲームショップを利用してるのかな?)

 

大戦果を挙げた事でウッキウキになりつつも、表面では冷静を保ちながらにレジへと向かうと、楽朗が梓に気付く。

 

「あ、コンビニのお兄さん」

「やぁ、楽朗君。君もゲーム探しに?」

「そんな所っすね。お兄さんも?」

「うん。レトロゲーム探しに、近所にゲームショップ無いかなって検索したら此処がヒットしたんだ」

「何々?二人共知り合い?」

 

そんな二人に反応してか、女店主が声を掛けてくる。

 

「近所のコンビニで働いてる人ですね。其れと俺の所属してるクランのリーダーしてます」

「初めまして、梓って言います。よろしく御願いします」

「そうなんだ。私は真奈(まな)、此処の店長。よろしくね、梓君」

 

御互いに軽い自己紹介をした所で、真奈は楽朗のオーダーに対する回答をしようとした時、自動ドアが開く音が鳴り。先程まで入ろうか否か迷っていた女の子が入ってきて、楽朗を見た瞬間にサッと商品棚の影に隠れてしまった。

 

「ハーイイラッシャアーイレイチャーン。ソンナトコデツタッテナイデ、ハヤクコッチニラッシャーイ」

「あ、あぅ………」

 

顔を赤らめてモジモジしながら楽朗を見つめる、レイなる女子学生。楽朗が会釈した事から二人は知り合いなのかと梓は考える。

 

「えっ、何すか其の棒読み」

「CVに妥協は絶対許しちゃ駄目だよ」

「解りますわ、其れ。特にゲームの一枚絵だとしても、声優さんの熱演で化ける────なんて事、多々ありますから」

「お、よく解ってるじゃん」

 

乙女ゲーでも其の手抜きのせいでストーリーが台無しになったパターンは有るので、やはりキャラに声という命を吹き込む声優は偉大なのだと染々思う。

 

「で、クソゲーだっけ?クソゲーって訳じゃないけど、其のゲームの裏ボス(・・・)が誰にも倒せないって評判のが有るんだ」

「ゲームの裏ボス?」

 

楽朗の問い掛けに真奈が頷き、取り出したのは『龍宮院富嶽全面協力! VR剣道教室・極』という、所謂VRゲームの中でも教材(・・)に分類される物だった。

 

「まぁ良いや、ハウマッチ?」

「4210円だよ」

「結構安いっすね………斎賀さん?」

 

五千円札を対価に購入した楽朗、其の教材をじっと見つめる『斎賀 レイ』なる少女。此の時、梓の脳裏には何か記憶の琴線に触れたのだが、答えには至らなかった。

 

「あ、ごめんなさい!えっと……実は私も、此のゲーム持ってまして………」

「え、そうなの?」

「は、はい………実は私でも、其の………『裏ボス』を、倒せてないので…………」

「…………俄然興味が湧いてきたな。よっしゃ、其の裏ボスとやらに挑んでやるぜ………!」

 

クックックッと笑い、楽朗の瞳にモチベーションの炎が瞳に灯ったのを、梓と玲は感じた。

 

「真奈さん、其の教材って購入しても良いでしょうか?」

「おや、梓君も?」

「えぇ、ゲーマーとして気になったので」

 

戦場のヴァルキュリアのソフトをカウンターに置きつつ、教材を追加購入した梓は五千円札一枚と千円札三枚をカウンターへ乗せた。

 

「其れじゃ斎賀さん」

「あ、あの!ひ、陽務君!」

「ん?」

「………えっ、と………実は……其のっ…………」

 

顔を真っ赤にしながら、何か言おうとしている少女。梓は其の空気を察知してか真奈へ一礼した後に、そそそっと店を後にするのだった………。

 

 

 

 






其れを手にして、君は何処へ向かう?




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ガンズ・アンド・デュエル、セットアップ



やるべき事をやろう




GAME-SHOP ロックロールにてずっと探していた『戦場のヴァルキュリア』のソフトを見付け、更にサンラクが購入した物と同じ『龍宮院富嶽全面協力! VR剣道教室・極』と共に八千円の出費をコストに手にした梓は、自身の住まいたるアパートへと帰って来た。

 

「お、ちゃんと防水加工で届いてるな」

 

玄関の扉と一体化したポストには、昨日注文した『デュエル・ガンナー』のソフトが郵送で届いており、梅雨の時期に対応した防水包装状態で入れられているのを見ながら、其れを手に取ってから鍵を開けて部屋に入り、鍵とチェーンを掛け。リュックサックを置き、手洗い&うがいをして、梓は早速夕食の調理を始めた。

 

食材としてレタス・水菜・ピーマン・人参・大根を野菜室から、別区画に置いた油揚げと味噌に、生鮮食品室から鮭の切り身を一切れ取り出し。野菜達は一人前分だけ切り出した後に冷蔵庫へ戻し、水洗いを行った後にレタスは手で一口サイズに千切って、水菜は三センチ間隔のピーマン・人参・大根の三種類は千切り。

 

器に千切り済の野菜達と少量の水を入れ、レンジで一分の加熱をする間にレタスをサラダ皿に乗せつつ、フライパンと味噌汁用の鍋を取り出して、一人前分の水を加えてカット乾燥若布を鍋に、火を掛けながら蓋をする。そしてレンジでチンした野菜は取り出して水気を切り、レタスが乗った皿にパラパラとまぶした後、オリーブ油を一回ししてサラダは完成。

 

俎を洗い、油揚げを短冊切りにして鍋の中へ、フライパンに油を敷いて火を付け、熱が巡ったタイミングに空かさず鮭を投入・表面を焼きつつ、味噌汁の鍋には味噌を溶かし味を調整。鮭は引っくり返して焼きながら御碗に味噌汁、茶碗には炊飯器に残っている白米を全て盛り、マグカップには牛乳を一杯注ぎ入れれば。

 

「よっし、完成!」

 

献立は焼き鮭・野菜のサラダ・牛乳・油揚げと若布の味噌汁・白米の計五品からなる、和を主体とするヘルシーな物となった。スマフォで撮影し「いただきます」と合掌。十五分掛けて完食した後に、彼は「御馳走様でした」と合掌してから調理器具・食器を洗い、米を磨いで炊飯器に入れて朝六時に炊ける様に予約し。

 

布団を敷いて、トイレとシャワーを浴び。寝間着に着替えて、ドライヤーで髪を乾かし。水分補給を行い、彼はいよいよデュエル・ガンナー………通称『デュエガン』をプレイする。

 

「さぁて………プレイアバターの決定とキャラクリに、初心者推奨ミニゲームをプレイしてから、シャンフロに戻って交渉に赴かないとな。時間は有限、手際良く行こう」

 

ヘッドギアの確認や水分補給用の水を近くに置き、シャンフロのソフトからデュエガンのソフトへ切り替える。説明書を一通り読み、そして布団に仰向けになった梓は、シルヴィア・ゴールドバーグへのリベンジに向けて、新たなる修行場へと飛び込んで行く。

 

デュエガンの利用規約を閲覧しサイン、そして梓はキャラメイク画面と相対する。

 

「さて、どんなアバターでプレイしようかな………」

 

アバターの性別は無論男性で決定、続いてアバターの製作に入る。此のゲームは体格は勿論だが、何よりも『筋力のバランス』が銃の抜き撃ちに直接(・・)関わるらしく、単純なゴリマッチョでは銃を速く抜いて撃てないし、逆に細過ぎる身体では銃の重さに悩まさせれて銃撃の領域にも立てない。

 

そして此のゲーム、何とまさかの『フルスクラッチ推奨』という厄介さを秘めている。一応ゲーム側で用意されたモデリングを採用し、実際に操作してからプレイする事は出来るものの、やはり本格的に勝ちに行くのであればフルスクラッチが絶対条件………もとい『通過儀礼』の様な関門でもあるのだ。

 

「フルスクラッチかぁ………一応苦手なプレイヤーの為の措置として、体格を読み取って基礎形体をしてくれるとはいえ、其れに任せっきりって訳にもしたくないし………。うん、後学の為と思ってやってみるか!」

 

 

 

 

 

 

一時間半経過─────────

 

 

 

 

 

「まぁ、うん………此れで良いかな?」

 

リアルの自分を鏡写しにした顔立ちだったので、右頬と左顔面には斬り傷痕、右目は青で左目は白のオッドアイ。身長170cmで細身な男、筋肉は程好く付き腹筋は割れ、初期装備を装着している姿をした、デュエル・ガンナーの世界に置ける己の分身(アバター)が出来上がった。

 

「次は銃……選べるのはハンドガンか、リボルバーか」

 

アバターを製作し終えた所で、続いて表示されるのはアバターが使う此の世界(ゲーム)の武器の選択。ポイントを稼げば色々なパーツが解放されて、カスタマイズや新型の銃が増えていくのだが、初期段階でプレイヤーが使えるのは、早撃ちに秀でたハンドガン or 破壊力に秀でたリボルバーの二種類のみ。

 

だが此の二つの銃種はオンライン対戦モードでもレギュレーションとして使われ、月に数回行われるゲーム内の大会イベントでも此等を基準に戦うといった形で、プレイヤーの間では非常に深く浸透しているのだ。基本であるが故に奥深く、単純であるが故に使い手の技量が物を言う。そういう銃達なのだ。

 

「早撃ちだけならハンドガン一択なんだろうけど、生憎俺はロマン思考も有るんでね………!」

 

彼が選択したのはリボルバー、弾丸を発射する口径が大きければ『弾道変化』は少ない。ましてやハンドガン、其れも弾速に絞り込んだ『スピード一極タイプの銃弾』ならば。側面でぶつかり合ってもブレたり、明後日の方角へ飛んで行く事も防げる。

 

今の自分に………否、初心者にとって何よりも大事なのは、速さ以上に先ず確実に(・・・)弾丸を対象に届かせる事、此れに尽きるのだ。

 

「銃や弓の早撃ちはアルバイトと『同じ』だ。先ずは速さよりも時間が掛かって良いから『確実性』を求め、其処から速く動けるようにしていく事が重要になる」

 

アバターと使用武器が決定し、最後に決めるのはプレイヤーネーム。だが、此れに関しては何にするか決めている。

 

「プレイヤーネームは『ペッパー・ミニョネット』。よし、決定………!」

 

全ての制作行程を終了、VRゲーム共通の注意表記が表示され、其れを読んだ後に梓の身体は電脳世界の、デュエガン世界の『ペッパー・ミニョネット』となっていく。

 

同時に始まるのはオープニング。スキップ機能は有るのだが、やはり世界観を知って理解を深めるにはスキップは勿体無いと、其のまま流していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

此処は別次元に存在する、チキュウと呼ばれる惑星。

 

人間の発展と共にサイバーテクノロジーの発展が、人類とチキュウに更なる進化をもたらした。高層建築が建ち並ぶ超未来の都市の数々、人の手で作られたロボットにより、世界は新次元に到達していく。

 

だが行き過ぎた発展は貧富の差を広げ、犯罪の横行や環境破壊を押し進めた。富める者に虐げられた者達は、立ち上がる。争いの火種は水面下で燻り、発展の影に崩壊への足音が静かに鳴り響く。

 

君は何者にも成れる…………世界を破壊する事も、世界を守る事すらも。

 

其の引き金を、お前は誰の為に引く?

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼は、此の世界に生まれ落ちた。

 

 

 

 






いざ行こう、新たなる世界に




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