序章 瓦礫と死と世界を越えた邂逅 (ふぃーねお嬢様)
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序章 瓦礫と死と世界を越えた邂逅
この国では、大きな戦争があった。国は瓦礫で溢れ、たくさんの身寄りも名前も無い子供が生まれた。フィーネ・フェニキア、彼女もその1人であった。
瓦礫の中で産声を上げ、見知らぬならず者に育てられたその少女はならず者から生き物を傷つけるすべを身につけた。
最初はスラムに掃いて捨てるほどいるネズミを狩り、食料としていたがある時通りかかった金持ちを殺せば、ネズミよりもいいものがたらふく食べられる。そう気づいた。
それからというもの少女はこの近辺では恐れられる追い剥ぎとなった。ある男が少女の足をはね、地面に転がしたが、次の瞬間地面に転がっていたのは男の生首、そんなおぞましい噂も経つほどだった。
彼女が生まれてから15回目の冬が過ぎた頃、ならず者の男は死に、彼女は寒いボロアパートで1人だった。冬は少女のようなまともな住いも無い者にとって過酷だ。たまにこの街の外れや大通りを通る車を襲い、去年までは過ごすことが出来ていた。
しかし今年は大寒波が例年より酷く、人も少なかった。そんなある日、今まで見たよりも豪華で、多くの男たちに守られた車が通りがかる。彼女ははこれを好機と捉える。
車が止まったタイミングで窓ガラスを割り、中の男を引きずり出す、屈強なボディガードが数人降りてくる。瞬く間に囲まれてしまったが少女は素早く相手のうち1人の懐に潜り込み、ナイフを突き刺す。大きな体が崩れ落ち、地面に倒れ込む。
その後も2人ほど刺し殺した所でライフルを持った男たちに囲まれてしまい、豪華な服を着た男の前に連れていかれる。
男は「面白い」そう一言だけ呟き、ナイフを取りあげる。
「君のような少女なら、もっといい稼ぎ方がある。危険だが、受けると言うなら生活は保証しよう。」
少女には選択肢は無かった。断れば死ぬだけだと分かっていたから。
それから数年、少女は国1番の暗殺者と知られるほどに成長していた。男は、政府の諜報機関の高官だったようで、彼女を御用達の暗殺者として雇い、数々の政敵やテロリストのリーダーを抹殺して行った。
ある時、高官の男の訃報を聞いた。彼は暗殺されたのだという。そして彼女は気付いた。自らにも死の恐怖が迫っていると。彼女はそれからというもの、存在も定かでは無い自分を狙う存在に怯えながらも民間、政府問わず仕事を受け続け、殺すことで自分が殺されるようなヤワな人間では無いと自分に信じ込ませ続けていた。
男が死んでから2年ほどだった頃、彼女はフリーランスでボディガード業と本職の暗殺をしつつ、表の仕事として清掃業のアルバイトで生計を稼ぐようにようになった。
ある依頼を終え、帰路に着く途中彼女は気づけば、見知らぬ酒場にいた。この場所での邂逅が、彼女に何をもたらすのか…。
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