灼焔の呪術師 (辛味噌の人)
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炎の天才

メインの小説を書かずに別のを書く作者の屑


 

 

 燃える、燃える、燃える。

 

 赫々とした炎が燃える。昏い帷の内で、真っ赤な炎がめらめらと輝く。

 その炎が照らし出すのは、無惨にも焼却され灰となった残骸の群れと、その中心に立つ男。

 

 

 「ク、クハハ、クハハハハハ!アーッハッハッハ!」

 

 

 男は笑う、嗤う。狂ったように笑う。屍の山の上で笑う。

 まさしくこの世の地獄、その顕現。地獄の業火に包まれる中、ただ男の狂気の雄叫びだけが響き渡っていた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アーッハッハッハ!!よっしゃこれで俺も1級術師じゃあっ!2級呪霊の群れと1級呪霊複数体がなんぼのもんじゃい!あっもしもし五条センセ!?聞こえてますかー!?任務終わりましたよーっ!いやっホーイ!!」

 

 『えっなにそのテンション、怖いんだけど』

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 俺が呪術というものにふれたのはちょうど物心ついたくらいの頃だったと記憶している。ようやっと言葉が話せるようになった俺が、時々視界に映る気持ち悪いナニカ──呪霊について父親に尋ねたとき、父親がとんでもなく驚いていたのはぼんやりとだが覚えている。

 

 これは後から知ったことなのだが、俺の祖父はそれなりに腕のある呪術師だったらしく、現役の頃はかなり有名だったらしい。しかし一人息子だった父親は呪術の才能がこれっぽっちもなく、呪術師として生きるのを諦めて一般人の母親と結婚したのだとか。

 呪術師の息子にも関わらず呪霊もろくに見れない才能なしの自分と正真正銘一般人の嫁から生まれてきた息子が呪霊が見えていると知った時の父親の驚きは推してしるべしと言ったところか。実際、俺の上には姉が2人いるのだが、どちらも呪術師としての才能はカケラもなかったらしい。

 

 

 それからというものの、俺は祖父に引き取られ、呪術の才能を磨く日々が始まったのだった。父親は猛反対したらしいが、祖父が俺を一人前の呪術師にすると言って聞かなかったらしく、無理矢理連れて行ったそうな。とんでもない人でなしである。その結果として、俺のそれ以降に家族と会った回数は両手の指で数えられる程度しかない。

 

 そんなわけで俺は家族というものにとんと縁がなかった。唯一長い付き合いのハゲジジイは祖父というより師匠の面が強かったので家族カウントはしていない。というかしたくない。

 

 まあそんな生活も半年ほど前、正月早々だってのにも関わらずハゲジジイがあっさりくたばったことで終わったのだが。

 てっきり父親が引き取りに来るものだと思っていたが、俺を引き取りに来たのは謎の白髪目隠し男──五条悟だった。

 

 「やあはじめまして。君が茜屋 刃(あかねやじん)くんでいいかな?」

 

 俺が五条センセと初めて会った時の印象は「なんだこいつ性格悪そう」というなんともアレなものであったが、事実でもあった。今となっては第二の師匠として慕ってこそいるものの、俺の中での評価はこの日から一度たりとも変わっていない。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 「おっかえり〜、どうだった?1級昇格試験兼ねた任務」

 

 「楽勝……とまではいかなかったけど余裕持っていけましたよ。今更1級呪霊複数に苦戦するわけにもいきませんし」

 

 「それは良かった。……ところであの電話の時の謎のテンションなんだったの?やたらとテンション高かったけど」

 

 「そこは突っ込まないでくださいよ。若気の至りは見逃すのが大人ってもんでしょう」

 

 任務を終えて帰投した俺を待っていたのは、五条センセの労いとからかいだった。

 いやあの異様なハイテンションは熱やら興奮やらにやられたせいで一時的に頭がおかしくなっていたのだと思う。できることなら忘れてもらいたいものだが、この性悪男にはそれは望めないだろう。

 

 

 「刃、任務お疲れ。一級昇格おめでとう……俺も早く追い付かないとな….」

 

 「おっ伏黒じゃん、おっすおっす……どっか任務でもいくのか?」

 

 「ああ、ちょっと仙台にな」

 

 ちょうど声をかけてきたのは現状では俺含め2人しかいない呪術高専一年のもうひとり、伏黒恵だった。なにやら物々しい雰囲気で、遠出の任務にでもいくのかと思ったが、俺の予想は当たっていたようだ。

 

 「へー、何しにいくの?結構重要な任務っぽいけども」

 

 「ああ、特級呪物『両面宿儺の指』の回収だ」

 

 両面宿儺と聞けば呪術界で知らないヤツはモグリだと言われる程の超大物、その指の回収とあってはいくら呪物化して周囲に害は及ぼさないといえども二級術師である伏黒が行くのは妥当と言ったところか。……まあ、それはそれとして。

 

 「へ〜、そうなんだ。……ちょっと面白そうだな。五条センセ、俺もついて行っていいスか?」

 

 「アッハハ、相変わらず好奇心強いねえ。いいよ……って言ってあげたいところだけどダメだよ、任務の報告はちゃんとしないと。一級昇格とり下げられちゃう」

 

 「ちぇー、仕方ないっスね」

 

 実物は俺も見たことがなかったので同行させてもらおうと思ったものの、あえなく却下されてしまった。まあ俺もせっかく掴み取った昇格チャンスをふいにするのは流石に憚られるので、大人しく引き下がっておくが。

 

 「そんじゃあまあ俺は報告行ってきますわ。センセはまた後で、伏黒も気張っていけよ」

 

 「んなこと言われなくてもわかってる」

 

 そうして俺は踵を返し任務報告へと向かった。胸中に残る謎のモヤモヤが消えないままに。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「呪術師になってから半年で1級昇格……やっぱ天才ですよあいつ」

 

 「まあそれ以前から活動してたのを差し引いても天才だと思うよ、僕ほどじゃないけど。それにそれは恵だって同じことでしょ?あんま気にせず任務頑張っていこう!」

 

 「……はい」

 

 

 

 

 「あっお土産もらってなかった、後でもらいに行こう」

 

 「色々台無しですよ」

 

 




五条と伏黒のエミュむずすぎんだろ!


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呪術師ってのはキャラが濃い

モチベとアイデアがあるうちにできるだけ投稿していくスタイル


 

 

 「……すいません、もう一回言ってもらってもいいですか」

 

 「一般人の虎杖悠仁君が宿儺の指を飲み込んで呪術師になった」

 

 「──なんて?いや何言ってるかはわかるんですけども」

 

 しばらく任務がないと言うことで休んでいた俺の元を訪れたのはやけにボロボロの伏黒となんか悪巧みしてそうな五条センセ、そして面識のない人の良さそうな青年だった。ついでに衝撃のニュースも。

 

 「んまあ飲み込めないのも無理はないと思うけどね。と言うわけでこちらがその虎杖悠仁くんでーす!」

 

 「はいどうも虎杖悠仁でーす!好みのタイプはジェニファー・ローレンス!よろしくな!えーと……」

 

 元気に挨拶してくる青年……虎杖を見て、俺は警戒するのも馬鹿らしくなってため息をついた。宿儺の器と聞いて気を張っていたものの、少なくとも虎杖自身に警戒すべき悪性は見られない。

 

 「はあ……茜屋刃だ、茜屋でも刃でもいい、好きに呼んでくれや」

 

 「おう、よろしくな茜屋!同級生……でいいんだよな」

 

 「ああ、同じ呪術高専の一年生だ。仲良くやろうぜ、虎杖」

 

 こうして俺と虎杖は友人となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「ところでなんで宿儺の指なんて飲み込んだんだ?」

 

 「いや伏黒がピンチだったから咄嗟に……」

 

 「勇気あるな〜お前」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 翌日、俺たちは原宿駅に来ていた。五条センセ曰く、もう1人の一年生を迎えにいくのだとか。

 

 「というか、こんなことしてていいのか1級術師」

 

 待ち時間にマックで買ったハンバーガーを食っていた俺に伏黒が話しかけてくる。ちなみに虎杖は仙台出身なこともあって東京に憧れがあったらしく、あっちへふらふらこっちへふらふらとしながら、目についたものを買い食いしていた。

 ちなみに俺は一応東京郊外出身でこそあるものの、ハゲジジイに引き取られて以降山で暮らしていたので、東京に出てきたのは半年前が初めてだった。まあ、利便性もクソもない山の中で育ったとはいえ都会のことなんかほとんど知らなかったもので、都会生活に憧れこそなかったものの、半年前に東京都心に行った時は大層驚いたものだ。

 

 「1級昇格直後だからまだ任務入ってなくてヒマなんだよね。あと何日かしたら忙しくなるとは思うけど」

 

 「ああ、なるほど」

 

 「おーい何の話してんの〜?」

 

 その後は、アイスを咥えた虎杖も交えてしばらく雑談をしていたところ、五条センセがやってきたので、迎えにいくことになった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「釘崎野薔薇、喜べ男子、紅一点よ」

 

 「俺虎杖悠仁、仙台から」

 

 「伏黒恵」

 

 「茜屋刃だ、よろしく」

 

 (これはまた濃いのがきたなあ〜)

 

 俺たちが出迎えたのは、何やらモデルのスカウトに自分を押し売っていた女だった。いやまあ呪術師なんて大なり小なりイカれてないとつとまらないのはわかっているけどもさあ、なんかベクトル違くない?

 当の本人といえば何やら俺たちの顔をジロジロと品定めをするように観察した後に、

 

 「私ってつくづく環境に恵まれないのね」

 

 と呟き、ため息をついた。聞こえてんぞ。

 

 「……んで?俺まで呼びつけたってことはどっかいくんスか五条センセ?」

 

 「そりゃあね、一年4人集まってしかもそのうち2人はおのぼりさんでもう1人も都会歴半年ときた。いくでしょ、東京観光」

 

 五条センセの言葉に虎杖と釘崎は大喜びしているものの、俺にはわかる。あれは人をおちょくる時の五条センセだ。半年の付き合いとはいえ散々振り回されたからなんとなくわかる。伏黒も最初は驚いていたものの、六本木に行くと五条センセが言い出したあたりで察しがついたのか、呆れたような顔をしていた。

 

 「「……はあ」」

 

 どうせ呪霊退治でもいくんだろう、俺と伏黒は顔を見合わせてため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 「というかアンタも田舎者なのね」

 

 「出身は東京だけどね、山で生活してた」

 

 「へー、なんて山?」

 

 「あっそれ俺も気になる!」

 

 「知らん」

 

 「「ええ……」」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 はいということで到着しました廃ビル!んなこったろうと思ったよ。

 

 「「嘘つきー!!」

 

 虎杖と釘崎は期待を裏切られて叫んでいる。かわいそう……あっでも虎杖はすぐ立ち直って質問してる。切り替えが早いのはいいことだ。

 

 「ちょっと待ってこいつそんなことも知らないの」

 

 「実はかくかくしかじかで……」

 

 釘崎が虎杖の無知に疑問を抱いたようなので、俺が説明する。話を聞き終わった釘崎は……

 

 「きっしょ!ありえない衛生観念キモすぎ!」

 

 「んだと?」

 

 「これは同感」

 

 うん、俺もどうかと思った。

 

 そんな訳で廃ビル内には虎杖と釘崎が入ることになった。まあ俺や伏黒がどうこうするようなレベルの呪いではなさそうなので妥当だとは思われるが。

 そしてまだ呪力の扱いに慣れていないらしい虎杖には五条センセが屠坐魔を渡していた。……あれ真希パイセンのやつだよなあ、壊したらどうすんだろ。

 

 そんなことを思いつつ俺は廃ビルに入っていく2人を見送ったのだった。

 

 

 

 

 「……これ伏黒と俺来た意味あります?」

 

 「顔合わせって大事でしょ?終わったら飯奢ってあげるから」

 

 「俺モスバーガーで」

 

 「お前はそれでいいのか?」

 

 たわいもない雑談をしながら待機する俺と五条センセと伏黒。五条センセ曰く、今日は釘崎のイカれっぷりを確かめたいのだとか。まあ変人であることとイカれていることは別ものだとは思うが。

 

 田舎の呪霊と都会の呪霊ではレベルが違うと語る五条センセ。確かに俺が山にいた頃の呪霊はでかい獣みたいなやつが多かったが、都会の呪霊は狡猾だ。

 

 そうこうしている間に呪霊が廃ビルの壁を通り抜けて飛び出して来た。この程度の呪霊なら術式を使うまでもないと拳を構える俺だったが

 

 「いいね、ちゃんとイカれてた」

 

 その前に空中で消滅する呪霊。おそらく釘崎の術式だろう。そして俺たちは廃ビルから出てくる2人を出迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「子供は送り届けたよー、今度こそご飯行こうか」

 

 「ビフテキ!」「シースー!」「モス!」

 

 「アンタ何もしてないでしょ!というかモスって」

 

 「うるせえなジャンク好きなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

記録──2018年7月

    西東京市 英集少年院

         運動場上空

 

 

    特級仮想怨霊(名称未定)

    その呪胎を非術師数名の目撃で確認

    緊急事態のため高専一年生3名と増援一名の計4名が派遣され

 

 

    内1名 死亡

 

 




釘崎(顔こそいいけどなんか泥臭そう、きっと鹿とか猪とかとっ捕まえて生で食うんだわ)



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呪胎戴天

感想をくれー!評価もだー!(承認欲求モンスター)


 

 

 「あー1級術師って忙しいなあ!」

 

 廃ビルの一件からしばらく経って、俺は凄まじく忙しい毎日を送っていた。西へ東へ飛び回り、多種多様な任務をこなす日々。準1級であった時と比べて倍以上の任務には流石にストレスも溜まる。五条センセはさらに忙しい日々を送っていると考えると尊敬の念も湧く。

 

 幸いというべきか、今のところ任務の数はともかく質は昇格前と大差ない。おそらく新米であるが故にある程度配慮してもらっているのだろう、ありがたいことだ。まあ、大したことのない任務ばかりで術式を使うことすらほぼないのは少々退屈であるが。 

 

 

 とまあ2級呪霊の大群と準1級呪霊二体を祓い、高専に戻った俺を待っていたのは。

 

 

 

 

 「──は?特級案件?」

 

 ──最悪の報せであった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「はあ!?なんであいつらが特級案件なんざ行ってんだよ!?」

 

 「お、落ち着いてください茜屋さん」

 

 補助監督をとっ捕まえて事情を聞いたところ、1級以上の術師は皆出払っていて、動けるのが虎杖伏黒釘崎しかいなかったそうな。

 

 「せめて俺が帰投するまで待てば良かったのに……!おい!俺を現場に連れて行ってくれ!」

 

 「に、任務の終了報告は」

 

 「んなもん後でいい!早くしてくれ!」

 

 (頼む……間に合ってくれ……!)

 

 補助監督に無理を言って車を出させている間、俺はひたすらに三人の無事を願うのだった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「伏黒!釘崎!」

 

 「茜屋!?なんでここに……」

 

 現場の少年院に到着した俺を待っていたのは、負傷し伊知地さんの車に乗せられた釘崎と、無事な伏黒だった。

 

 「良かった2人は無事だったか……虎杖は?」

 

 だが残り1人の虎杖がいない。伊知地さんを帰らせてから伏黒に聞くと、虎杖は宿儺を出すと言って時間稼ぎに中に残ったらしい。

 

 (あの馬鹿……!)

 

 虎杖は確かに強いが特級相手は厳しいどころの話ではない。救出に向かおうとした瞬間、領域が消えた。

 

 「生得領域が消えた!特級が死んだんだ」

 

 伏黒の言葉から考えるに、虎杖が宿儺に代わって特級呪霊を殺したと言うことなのだろうが……何か嫌な予感がする。

 

 「ッッッッ!!」

 

 瞬間、俺の背筋に凄まじいまでの悪寒が走る。本能に従い振り向いた先には……

 

 

 

 「虎杖(ヤツ)なら戻らんぞ」

 

 「両面……宿儺……!」

 

 体に紋様を浮かび上がらせ、髪を逆立てた虎杖……両面宿儺がいた。

 声を出したのに反応して伏黒も遅ればせながら振り向き、構える。

 

 濃密な死の気配。長いこと呪霊やらなんやらを相手にしてきたが、ここまで明確な「死」を感じたのは()()()()以来だ。

 

 「そう怯えるな今は機嫌がいい。少し話そう」

 

 俺と伏黒が動きかねていると、両面宿儺が語り出した。

 

 「何の縛りもなく俺を利用したツケだな。俺と代わるのに少々手こずっているようだ」

 

 「しかしまあそれも時間の問題だろ。そこで俺にできることを考えた」

 

 そういうと両面宿儺はおもむろに服を破り捨て──

 

 「虎杖(こぞう)を人質にとる」

 

 虎杖の心臓を、抉り出した。

 

 (クソッタレ!これで虎杖と俺たちのどちらかの死亡が確定した!悪辣な野郎……!)

 

 「俺は心臓(コレ)なしでも生きていられるがな、虎杖(こぞう)はそうもいかん」

 

 「俺と代わることは死を意味する。更に──駄目押しだ」

 

 そういうと宿儺は指を取り出し、飲み込んだ。おそらく殺してきた特級呪霊が取り込んでいたものだろう。感じる圧がさらに高まったような気がする。これで俺たちの生存はさらに絶望的になったと言っていいだろう。

 

 「さてと、晴れて自由の身だ。もう怯えていいぞ」

 

 「殺す、特に理由はない」

 

 「……あの時と、立場が逆転したな」

 

 伏黒の呟きの意味は、俺には理解できなかった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 「虎杖は戻ってくるその結果自分が死んでもな。あいつはそういうやつだ」

 

 「買い被りすぎだな。こいつは他の人間より多少頑丈で()()だけだ。先刻も今際の際で脅えに脅え、ごちゃごちゃと御託を並べていたぞ」

 

 伏黒と宿儺が会話している間、俺は考えをまとめていた。俺たちが唯一完全勝利できるルートは、宿儺に虎杖の心臓を治させること。そのためには少なくとも心臓なしでは勝てないと思わせる必要がある。

 

 (できるのか?いくら不完全とはいえ呪いの王相手に?)

 

 いいや、できるできないの話ではない。

 

 (やるんだよ!)

 

 「合わせろ伏黒!」

 

 術式解放 柳炎煌火(りゅうえんこうか)

 

 「ほう、炎か」

 

 術式の開示はしない。今必要なのは火力ではなく意外性だ。

 

 「シッ!」

 

 拳に炎を纏わせ、伏黒と共に近接格闘を仕掛ける。伏黒が掴みかかった隙に一撃入れるものの、大したダメージにはなっていないようだ。

 そうしているうちに伏黒が吹き飛ばされたので俺も一旦距離をとる。瞬間地面に展開された伏黒の影から大蛇が飛び出し、宿儺を拘束する。

 

 「構うな茜屋!大蛇ごとやれ!」

 

 十種影法術は一度破壊された式神は再生できない。故に俺は大蛇ごと攻撃するのを躊躇ったのだが、伏黒当人が言うならば遠慮はいらない。

 

 「了解!」

 

 灼焔赫砲(シャクエンカクホウ)

 

 両の手を合わせた間から、超高温の火炎砲をぶっ放す。その火炎は宿儺を拘束している大蛇ごと飲み込んだ。しかし──

 

 「ッ、伏黒!後ろだっ!」

 

 「んなっ」

 

 「火力はなかなかだが……足りんな」

 

 宿儺は瞬間的に伏黒の背後に回り込んでいた。ところどころ黒く焦げているが、大したダメージにはなっていなさそうだ。

 宿儺はそのまま伏黒を引っ掴むと放り投げ、追撃に跳んだ。

 

 「くそッ、伏黒!」

 

 1人取り残された俺は、呪力強化全開で後を追うのだった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「あー悪い、そろそろだわ」

 

 「伏黒も茜屋も釘崎も、五条先生……は心配いらねえか」

 

 「長生きしろよ」

 

 

 

 

 

 

 「……クソッタレ」

 

 




初の本格戦闘が負けイベのオリ主がいるらしい


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雨上がり、涼しい夏

むずいよーエミュむずいよー


 

 

 「長生きしろよって……自分が死んでりゃ世話ないわよ」

 

 「同感だ。カッコつけやがってあの野郎」

 

 少年院での一件の後、呪術高専にて。全快した伏黒と釘崎と共に、俺は反省会のようなものを開いていた。

 

 「……アンタ達仲間が死ぬの初めて?」

 

 「同級生(タメ)は初めてだ」

 

 「同じく」

 

 呪術師をやっている以上犠牲には慣れっこだが、同い年の奴が死ぬのは初めてで流石に堪える。

 

 「その割に平気そうね」

 

 「死ぬときは死ぬ。覚悟なんざとうに決まってるからな」

 

 「ああ……というか、お前もな」

 

 「出会って2週間の男が死んで泣き喚くほどチョロい女じゃないのよ」

 

 釘崎はそう言うが、強がりが入っていることくらい俺にもわかる。というか15で完全に割り切れるやつがいたらぜひお目にかかりたいものだ。

 

 「暑いな」

 

 「そうね、夏服はまだかしら」

 

 「いやいやむしろ涼しいくらいだろ」

 

 「「えっ」」

 

 「えっ」

 

 

 …………

 

 

 「おいおいお前がそんな面してるなんて珍しいな刃。お通夜かよ」

 

 「真希パイセン」

 

 しばらく黙り込んでいた俺に声をかけてきたのは2年の禪院真希パイセン。俺が一番仲良くしている先輩で、よく一緒に特訓をしたりしている。真希パイセンは等級でいえば4級術師だが、それは実家がらみの云々のせいで、実際の実力は2級〜準1級クラスはあると俺は思っている。おそらくそう的外れでもないはずだ。

 

 「なんだ?なんか悩みでもあるならとりあえず一発闘「真希!真希!」

 

 心配の仕方がだいぶ脳筋な感じの真希パイセンの発言を遮ったのは──

 

 「マジで死んでるんですよ、昨日!1年坊がひとり!」

 

 「おかか!」

 

 パンダパイセンと狗巻パイセンだった。なんか木の幹に隠れてるけどなぜ……?

 

 「早く言えや!これじゃ血も涙もねえ鬼みたいだろ!」

 

 「実際そんな感じだぞ!?」

 

 「ツナマヨ」

 

 そのまま漫才みたいなやりとりを始めるパイセンたちに思わず笑みがこぼれる俺。なんだかパイセンたちに救われたような気がする、気のせいかもしれんが。

 

 「何あの人(?)たち」

 

 「2年の先輩」

 

 「呪具の扱いなら学生一の真希パイセン、語彙がおにぎりの具しかない呪言師の狗巻パイセン、パンダのパンダパイセン」

 

 「あとひとり乙骨先輩って唯一手放しで尊敬できる先輩がいるんだが」

 

 「乙骨パイセンいま海外にいるんだよなあ……」

 

 「アンタらパンダをパンダで済ませるつもりか」

 

 いやだってパンダパイセンはパンダとしか言いようがないし、ねえ?

 釘崎にパイセン方を紹介しているうちに漫才が終わったのか、パイセンたちがこっちにくる。そしてパンダパイセンが手を合わせて謝りながらも提案を寄越してきた。

 

 「いやーすまんな、喪中に。だがお前たちに『京都姉妹校交流会』に出てほしくてな」

 

 「毎年恒例の京都にある姉妹校との交流会なんだが……」

 

 「でも2・3年メインのイベントですよね?」

 

 だから俺たちの出番はないと踏んでいたんだが……

 

 「その3年のボンクラが停学中なんだ。人数が足んねえ、オマエら出ろ」

 

 「2日間かけて行われる団体戦と個人戦なんだ」

 

 真希パイセンとパンダパイセンの説明に釘崎は驚いて、呪術師同士で戦うのかと尋ねる。まあ田舎だとそもそも術師が少ないだろうしそういうこともないだろうし、戸惑うのも無理はない。だがこれは殺し以外なんでもありの楽しい楽しい呪術合戦だ

 

 「まあそんなわけでお前たちがうっかり殺されないようにミッチリしごいてやろうってわけだぜ」

 

 「ちょうど忙しい時期も終わるしな、刃の予定も空くだろうよ」

 

 おおっようやくまとまった休みがもらえるのか!ここ最近働き詰めで休みのやの字もなかったからありがたい限りだ。

 

 「1級術師ってのは忙しくてなあ……」

 

 「「イヤミか」」

 

 事実だよ。

 

 「で、やるだろ?」

 

 「仲間が死んでんだもんな」

 

 ……ああそうだ。俺はもっと強くならなきゃいけない。あの場で一番戦えたのは俺だ。俺がもっと強けりゃ宿儺をどうにかして虎杖を治療させることだってできたかもしれない。

 

 「「「やる」」」

 

 ──己の無力を思い知るのは、一度で十分だ。

 

 「いいねえ、そんくらい生意気な方がやりがいあるってもんだ、なあ?」

 

 「おかか」

 

 そうして俺たちは、それぞれの決意を胸に、強くなることを誓うのだった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「さて、なんかいい感じに決意してもらったところ悪いが……一つ問題がある」

 

 「なんですか一体」

 

 せっかくいい雰囲気だったのに水を差してくるのはパンダパイセン。問題と言われても特に心当たりはないのだが、伏黒や釘崎がなんかやったのだろうか。

 

 「なんか知らん顔してるけどお前のことだぜ、刃」

 

 えっ俺!?おかしいな何も悪いことなんか、悪いことなんか……してないはずだが。

 

 「いやさあ、強くなるのは結構なことなんだけどもさ、現状今一番強いのお前なんだよね」

 

 「しゃけしゃけ」

 

 「あっ」

 

 言われてみればそうだった。なんか流れでパイセンたちにしごいてもらうつもりであったが、俺より強いの2年だと乙骨パイセンしかいないんだったわ。

 

 「えっなにアンタそんな強かったの」

 

 「1級なめんなって話だよ。しかしどうすっかなあ、五条センセも暇じゃないだろうし、他の1級の人たちは忙しいだろうし……どうしたもんかね」

 

 真希パイセンと近接格闘の特訓でもするか?いやしかし近接格闘でも大体互角だから教えられることないだろうしなあ……あっそうだ。

 

 「じゃあ俺はこっちで勝手にやることにしますよ」

 

 「そりゃあいいけどよ、何すんだ?」

 

 いやなに、あのハゲジジイの遺産に頼る時がついにきたと言う話だ。癪なことこの上ないが、使えるものは全て使って強くなると決めたからな。

 

 「地獄の山籠りですよ。死にかけてでも強くなってきます」

 

 「へえ、面白そうじゃん。私も混ぜてくれよ」

 

 えっ真希パイセンも!?

 

 




次回、真希さんとのドキドキ()夏合宿!ポロリもあるよ!


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地獄の山籠り合宿with真希さん

真希さんのエミュむずいむずいね

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 「おいおいどこまで行くんだよ、車も使わずに」

 

 「山ですよ、山。俺が育った、ね」

 

 どんな手を使っても強くなると誓った翌日、俺は真希パイセンと共に俺が育った山へと向かっていた。東京の郊外にある件の山は、ハゲジジイが構築した結界が張ってあって、一般人は立ち入れないようになっているのだとか。死後も残留する結界を張れるあたり、ハゲジジイの呪術師としての能力の高さが窺える。

 

 「というか山籠りっつったってなにすんだよ、呪霊狩りでもするのか?」

 

 「まあそれは見てからのお楽しみということで……ほら、つきましたよ」

 

 山登りを始めてからおよそ1時間、俺と真希パイセンはようやく俺の育った家へと辿り着いたのだった。

 

 「ここが俺の生家です」

 

 「なんともまあしょぼい家だなおい。平成の世にあっていいもんじゃねえだろこれ」

 

 禪院家出身がそれを言うのか……

 まあ真希パイセンがそう言うのも無理はない。日本昔ばなしに出てきそうな木組みの家に、薪にする用の丸太と薪を作るための切り株と斧。ここで10年以上暮らしてきたとかまあ普通ありえないよなあって。

 

 「んでここで何すんだよ、薪割りでもすんのか?」

 

 「真希だけに?」

 

 「は?」

 

 「すんません」

 

 

 

 

 

 

 ……おほん。

 気を取り直して、俺は真希パイセンを連れて家の中に入る。うっわ扉めっちゃ軋むじゃん。明日にも倒壊しそうだなこの家。

 

 「なんだ?茶でも出すのか?」

 

 「いやいやな訳ないですよ。というかろくなもん出せませんし……よっこいしょ」

 

 真希パイセンと軽口を叩きながら、俺は一つだけ色の違う床板を引っぺがす。するとそこには……

 

 「地下通路……?似合わねえもんがあるなおい」

 

 俺もそう思うよ、うん。

 謎の地下通路に2人で入っていく。不親切なことに灯りがないので術式で火を灯し光源を確保する。こういう時炎って便利だよね。

 

 「サンキュー、でもこんな閉鎖空間で火なんか出したらそのうち酸欠になるんじゃねえの?」

 

 ふむ、ここにいるのは真希パイセンだけ。術式の開示なんざ軽々しくやるもんじゃないが、まあいいか。

 

 「俺の術式『柳炎煌火』で発生させる炎は酸素を消費しませんし二酸化炭素も出しません。消費するのは呪力だけの超クリーン術式です。すごいでしょう」

 

 「地球にやさしい術式、ね。でもそれ戦闘じゃ特に意味ないだろ。こう言う時ならともかく」

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほら開けてきましたよ、あそこが目的地です」

 

 「おうなんか言えや」

 

 そんな漫才をしながら到着したのは学校の体育館ほどもある広い空間。その奥には何やら檻のようなものがある。普通こんなもん山の地下につくれないよなあ……。やっぱハゲジジイの結界術やばいよなあ……。

 

 「んで?結局ここは何するとこなんだよ。組み手なら高専でもできるだろうに」

 

 「とりあえずこれ見てください」

 

 そう言って俺が真希パイセンに手渡したのはハゲジジイの遺言状、その一部。その内容を要約すると、

 

 『もし儂が死んだ後力不足を感じたのなら家の地下にいけ。そこで帳を下ろせば命をチップに強くなれるぞ』

 

 と言う内容であった。ハゲジジイは人格はともかく指導者としての能力は超一流だということは俺が一番よく知っているので、今回こうして頼ることにしたのだ。真希パイセンがついてきたのは想定外だったが。

 

 「へえ、面白そうだな。修行内容は?」

 

 「知りません」

 

 「はあ?」

 

 真希パイセンが呆れたような声を出すが、知らないものは知らないのだ。遺言状にも修業としか書いておらず、肝心の修行内容は一切書かれていなかった。

 まあとはいえ予想はつく。このだだっ広い空間といい、奥の方にある檻といい、十中八九飼い殺しにしていた呪霊でも出てくるのだろう。

 

 「まあ強い呪霊でも出てくるんじゃないですか?知りませんけど」

 

 「そんなんで大丈夫かよ……」

 

 まあ……大丈夫でしょう。元々1人用想定だったっぽいし、真希パイセンと2人がかりならまあ死ぬことはないと思われる。

 

 「じゃあ帳下ろすんで、構えててください。『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』」

 

 

 俺が帳を下ろすと同時に、真希パイセンが持ってきた呪具を構え、檻が消える。そして檻があったところの暗い奥の方から、地響きのような唸り声のようなものが聞こえてきた。

 

 

 

 「やっぱ呪霊か。1級上澄みか、特級クラスか……」

 

 「いや待て刃、なんかおかしい」

 

 予想通りだと思い目標の強さを測ろうとする俺の言葉を真希パイセンが遮る。何かがおかしいとのことだが、俺にはさっぱりだ。

 

 「なんですか真希パイ──んなっ」

 

 「◾️◾️◼️◾️◾️◼️──!!」

 

 どういうことかを尋ねようと隣に立つ真希パイセンの方を向いたのが良くなかった。一瞬注意を逸らした俺に黒い巨大な塊が激突する。

 

 「がはっ─!」

 

 「刃!うおっ!」

 

 突撃をモロに喰らった俺は思いっきり吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。見た感じコンクリートなんかよりはよっぽど頑丈な素材でできているように感じた壁がが大きく凹み、空間が揺れる。

 

 (クッソが!あばら2、3本やられたし防いだ右手も使い物にならん!明らかに特級、それもかなり強い!俺の感覚が間違ってなければ少年院で戦った両面宿儺とそう差はないレベルだ!ハゲジジイめ、とんでもないもの残しやがって!)

 

 内心で悪態をつきつつ、なんとか立ち上がった俺の目に映ったのは。

 

 「大丈夫か刃!気をつけろ、こいつ呪霊じゃない!」

 

 必死に防戦する真希パイセンと、5メートルを超えるような大きさのあまりにも巨大な──

 

 「◾️◾️◼️◾️◾️◼️──!!」

 

 「化け物グマだ!」

 

 熊であった。

 

 




修行回もむずいし2人だけで会話回すのもむずいよー
大人しく原作通りにすれば良かった…


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クマと炎と天与呪縛

戦闘描写って難しいね……

あとお気に入り200人超え及び赤バーありがとうございます、今後ともよろしくお願いします



 

 

 「クソッ、なんでこんなのがいるんだよ!」

 

 猛然と振り回される熊の剛腕をなんとか回避しながら悪態をつく真希パイセン。結果論だが、真希パイセンがついてきたのは助かった。ひとりだったらそのまま追撃されて最悪お陀仏だった。

 

 (あばらへの反転は大体回し切った。あとは右腕が半分程度か。もう少し持ってくれよ真希パイセン……!)

 

 熊に目をつけられないように息を潜めながら反転術式を使って最初に食らった傷を治していく。

 今回真希パイセンが持ってきたのは刃渡り短めの刀なので、5メートル超えの熊相手にはリーチが少々足りない。故に回避するしかないというのが現状だ。このままではジリ貧である、と思っていたのだが。

 突き出された腕をぎりぎりで回避し、そのまま懐に潜り込んで……

 

 「シッ……オラァッ!」

 

 おお、見事な一本背負い。

 

 「おい大丈夫か刃!」

 

 「もう大丈夫です。時間稼ぎありがとうございました」

 

 地面に叩きつけられた熊から慌てて距離をとりながら真希パイセンが心配してくるので応える。パイセンの時間稼ぎのおかげで腕までばっちり回復済みだ。

 

 「あいつパワーとスピードこそあるが知能はそこまでだから単調な攻撃しかしてこねえからそこをつけばなんとかなりそうだ。……というかお前反転術式使えたのか」

 

 「任務から帰ってきた時怪我してるとこ見たことなかったでしょ?」

 

 「まあ確かに。つくづく天才だなお前……」

 

 「でへへそれほどでも」

 

 「うわ気持ちわるっ」

 

 ……

 

 

 

 術式解放 柳炎煌火

 

 「いきますよ真希パイセン!!」

 

 「……おう」

 

 熊が起き上がり突っ込んでくるのを散開して躱し、牽制の火炎弾を放つ。まあ牽制と言っても2級呪霊程度ならそれだけで倒せるような威力なのだが…

 

 「◾️◾️◾️……!」

 

 「おいおいちょっと焦げただけかよ……」

 

 茶色い毛皮が少し焦げて煙が上がった程度で、大したダメージにはなっていないようだ。

 

 「こっちだオラァ!」

 

 こちらを睨みつける熊の後頭部にパイセンの蹴りが突き刺さる。そのおかげでこちらに向いていた熊の意識が分散された

 

 (生半可な攻撃じゃ通用しねえな……ほんとに熊かこいつ。リーチにビビって遠距離戦続けても埒が開かん!高威力撃とうもんならワンチャン崩落するかもしれんし、近接で攻める!)

 

 緋炎拳(ひえんけん)

 

 「刃!合わせろ!」

 

 「了解!」

 

 長い腕を掻い潜り、懐に潜り込んでふたりでラッシュを仕掛ける。

 燃える拳が腹を抉り、鋭い脚撃が喉を突く。赤い手刀が脇を裂けば、無骨な刃が胸を斬る。

 

 しかしそれでも熊は倒れなかった。

 

 「パイセン下がって!」

 

 「チィッ!」

 

 体全体を使った猛撃に俺と真希パイセンは後退を余儀なくされる。

 

 「タフなやつだぜ……!おい刃!なんかないのか!」

 

 「熊の弱点は眉間です!どうにか突けるといいんですが……」

 

 「高いな……」

 

 そう、5メートルを超える熊の眉間はとても高い位置にある。届かせるだけなら容易だが、敵の目の前でジャンプするなど攻撃してくださいと言っているようなものだ。俺の炎で攻撃してもいいが、ただ撃つだけでは避けられるのが関の山だ。速くて威力は高いが規模は小さいなんて都合のいい技は持ち合わせていない。

 

 で、あるならば。

 

 「弱点関係なしに近接でぶっ殺すしかねえよなあ……!」

 

 焼尽截鉄(しょうじんせってつ)

 

 手から出した炎を剣のようにして構える。本来の炎であればあり得ない形ではあるが、俺の術式による炎は自由自在だ。

 

 「っしゃオラァ!」

 

 間髪入れず前傾姿勢からの突撃を行う俺。振り下ろされる爪をかわし、食いちぎらんと襲いくる顎を逸らし迫る。瞬時に懐に潜り込んだ俺は、一呼吸のうちに熊の両脇と太ももを切り裂いて、即座に熊の背後へと転がって離脱する。

 

 今までの攻撃とは比べ物にならない威力と火力の前に、熊の頑強な毛皮はパックリと裂け、肉はジュウジュウと焼け焦げる。

 

 「◾️◾️◾️◾️◾️……!」

 

 「ったくそんなもんがあるなら早いとこやれよ!」

 

 激痛に叫びを上げる熊の隙をつき、ついでに悪態もつきながら真希パイセンも突撃、俺が攻撃した太ももと同じ箇所を通り過ぎざまに切り裂く。

 

 「◾️◾️◾️……」

 

 「よっしゃ今がチャンス!」

 

 大きなダメージに崩れ落ちる熊をみて好機と見た俺は再び突撃。熊の背中を転がって前側に回り込み、渾身の力を込めて炎の剣を熊の眉間へと突き刺した。

 

 「◾️◾️◾️◾️◾️!」

 

 「よっしゃ見たか!ってうおっ」

 

 致命傷を受け、雄叫びを上げて崩れ落ちる──様に見えた熊だったが。

 

 「◾️◾️◾️◾️◾️……!」

 

 「嘘だろまだ生きてんのかよ……!」

 

 むしろ今まで以上に大暴れを始めたのだ。もはや周りも見えずに狂乱する熊。大昔にハゲジジイが『手負いの獣ほど厄介なものはない』と言っていたのを思い出す。

 

 「だが確かに致命傷だ!一気に決めるぞ!」

 

 「了解!」

 

 暴れ回る熊にとどめを刺すべく、俺と真希パイセンは息を合わせて熊に飛びかかるのだった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 「ハア、ハア……やっとくたばりやがった」

 

 「クソッ、タフにも程があるだろオイ」

 

 結局その後、やったか→いやまだだ!の流れを4、5回ほど繰り返してようやく熊は沈黙したのだった。

 長いこと戦ったせいで熊の死体はもはやズタボロだ。片腕は切断され、両足は潰れ、頭には深い傷が追加で三つほど刻まれている。それでも死なず、真希パイセンがボロボロの呪具を心臓に思いっきり突き立てたことでようやく死んだ。こいつほんとに熊か?

 

 「あーもうだめだ、呪力すっからかん」

 

 「最初にパワーとスピードが脅威だと言ったがありゃ間違いだな。こいつの一番の強みは耐久力だ」

 

 事実俺はもはや呪力は尽き、真希パイセンもボロボロで得物も壊れてしまった。最初のうちは割と余裕あったのにどうしてこうなった。

 

 「あーくそ疲れた。刃、風呂かせ」

 

 「今すぐには無理ですよ。川まで行って水汲んでから薪で沸かさないと……」

 

 改めてクソ不便だなこの家……都会の暮らしに慣れた今、二度と暮らしたくねえや。

 

 「うわマジかよ。どうするかな、もういっそ帰るか」

 

 「それでもいいんですけど合宿じゃなかったんですか」

 

 「知らん、疲れた。というか色々と掴めるもんあっただろ、もう十分じゃねえの」

 

 「それはまあ……そうなんですけど」

 

 まあ長きにわたる激闘の末色々と身についたものはある。刻一刻と迫る呪力切れに少しでも対応するために呪力の節約精度が大幅に上がったし、体力が尽きる中で身のこなしも上手くなった。身のこなしに関しては真希パイセンも同じだろう。確かに得るものはあった、あったが……

 

 「日帰りは流石に企画倒れすぎません?」

 

 「……それもそうか。しゃあない、一泊だけして帰ろう」

 

 「そうですね、そうしましょう」

 

 とまあ色々あって、地下を出る……前に、地下空間をいろいろ探索してみる。ハゲジジイが遺したものだし、何かいいものがあると踏んだのだが、その考えは正解だったようで、何やら無銘のナイフと刀が出てきた。感じる呪力からして特級クラスの代物だろう。

 

 「刀の方は真希パイセンにあげますよ」

 

 「いいのか?お前のじいちゃんのもんだろ」

 

 「俺は術式で出せますし、今回ので刀壊れちゃいましたし、構いませんよ」

 

 「じゃあありがたくもらっとくぜ、サンキュー」

 

 そうして地下空間から引き上げた俺たちを待っていたのは……

 

 「うわあ綺麗な夜空」

 

 「うっそだろもう夜なのか」

 

 満天の星空だった。地下に入ったのは10時ごろなので、10時間は地下にこもっていたことになる。あの熊タフすぎるだろ……

 

 「そう思ったら腹も減ってきたな」

 

 「そうですね……あっ真希パイセン。ご飯にします?お風呂にします?それともお・れ?」

 

 「お前で」

 

 「えっ」

 

 えっ

 

 「冗談だよ、風呂にする。水汲んでくるから火おこししといてくれ」

 

 ……

 

 

 

 あーびっくりした。というか率先して力仕事するなんてやだ……イケメン(トゥンク

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 そうして真希パイセンが水を汲んでいる間に火をおこした俺(呪力切れなのでわざわざ原始的な火おこししなきゃいけなかった。クソオブクソ)は、帰ってきた真希パイセンが風呂に入っている間、先ほど手に入れた呪具を検分していた。

 

 「こっちのナイフは切れ味と……痛っ」

 

 うっかり手に刺さった瞬間、血がかなりの勢いで流れ出てきた。慌てて反転術式を回すも、いつもより治りが遅い。火起こしした後しばらく休んでいなかったらまた呪力切れになっていただろう。

 

 「あーびっくりした、強制出血と回復阻害か」

 

 いやほんとに冷や汗かいたわ。刀の方は同じく切れ味の良さと、刺した相手の呪力を奪うというものだった。おかげさまでまた呪力がすっからかんだ。

 

 「おーいあがったぞー」

 

 そうこうしているうちに真希パイセンが風呂から出てきたので、俺も入ることにする。

 

 (この風呂に入るのも久しぶりだなあ、半年ぶりかあ)

 

 風呂にゆっくり浸かって疲れをとる間に、この家で過ごしていた日々を思い出す。思わずノスタルジックな気分に、気分に……

 

 「ならねえな、碌な思い出もねえ。明日になったらとっとと帰ろう」

 

 そうして風呂から上がった俺は、真希パイセンと共に持参していた保存食を食い、パイセンにハゲジジイが使っていた布団(硬い)を貸し、自分で使っていた布団(クッソ硬い)で眠りにつくのだった。

 

 

 

 正直気が気じゃなかったです、はい。

 

 




キャーマキサンイケメーン!

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1級勝負と女の趣味

UA10000超えてる!ありがとうございます!


 

 

 「よお伏黒、釘崎。ただいま」

 

 真希パイセンとのドキドキお泊まり会の翌日、高専に帰投した俺は真希パイセンと別れ、伏黒と釘崎のもとを訪れていた。

 

 「ああ、おかえり」

 

 「あら早かったじゃない、1週間はいないもんだと思ってたわ」

 

 「いろいろあってな……」

 

 本当に色々あった。熊とか、熊とか、熊とか。

 

 「それで収穫はあったの?1日で帰ってくるってことはなんか掴めたんだろうけど」

 

 「ああ、今までの俺とは一味も二味も違うと思ってもらっていいぜ。呪具も手に入ったしな」

 

 そう言って手に入った無銘のナイフを見せる。そういえばこれが五条センセに見つかったら変な名前つけられそうだから早いとこ名前つけとかないと……

 

 「……すげえなそれ、特級呪具か?銘は?効果は?」

 

 伏黒はナイフが気になったのかまじまじと見ながら質問してくる。まあ特級呪具ともなれば当然か。

 

 「多分特級。銘はない、効果は出血強要と回復阻害だな。結構便利そうだ」

 

 と言うかほんと早いとこ名前つけないと……ハゲジジイめ、名前くらいつけとけば良かったものを。

 

 「じゃあ俺とりあえず部屋に一回帰るから……保存食だけで腹減ってんだよ。なんか適当にガッツリしたもん作って食うわ」

 

 そう言って俺は自分の部屋へと帰ったのだった。銘どうしようかなあ……

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 カツ丼うめうめ。

 

 昼飯を食った俺は自販機でコーラを飲んでいた。コーラいいよねコーラ。ハンバーガーとフライドポテトとコーラを発明したやつはマジの天才だと思う。

 

 飲み終わったコーラをゴミ箱に捨てた俺は、予備のコーラを二本ほど買って部屋へと戻ろうとした時、伏黒と釘崎と出会った。

 

 「お前らもコーラ買うのか?コーラいいよなコーラ」

 

 「アンタのその謎のコーラ推しはなんなのよ……私たちは真希さんのパシリ」

 

 「は?」

 

 パシったのか……?俺以外のやつを……?

 

 

 

 まあそんなこんなで伏黒たちと別れ、のんびりと部屋に向かっていると……

 

 

 「があっ!」

 

 

 伏黒の声が聞こえた。

 

 「っ伏黒!」

 

 (何があった!?呪霊?それとも呪詛師?ありえん、高専内だぞ!)

 

 思考をめぐらしつつ、慌てて駆け戻った俺が見たのは。倒れ伏す伏黒と、半裸の大男だった。

 

 「大丈夫か伏黒!」

 

 「あ、茜屋か」

 

 「茜屋……?お前が茜屋か」

 

 慌てて伏黒を助け起こした俺に、半裸の男が話しかけてくる。何もんだこいつ……?

 

 「いかにも俺が茜屋だが、お前こそ何者だ?伏黒に何をした」

 

 「俺は京都高専の3年の東堂葵だ、怪しい者ではない。伏黒は退屈なやつだからそうなった。見た目で判断せずにわざわざ質問した俺の優しさを踏み躙ったからな」

 

 「……話の流れがわからんが、お前がおかしい奴だということはわかった」

 

 東堂葵……確か1級術師だったか。以前の『百鬼夜行』において1級5体と特級1体を祓ったと言う話を聞いたことがある。

 なんとなくわかる。こいつハゲジジイの同類だ。人の話を聞かず自分ルールを押し付けてくるタイプの異常者、ある意味呪術師に最も向いているタイプの人間。おそらく伏黒の何かがこいつの地雷を踏んだのだろう。面倒なやつに絡まれたな……。

 

 「俺はお前にも興味があるぞ、茜屋。お前が乙骨や3年の変わりたり得るのかを。と言うわけで質問だ。どんな女がタイプだ?」

 

 ほらなんか変な質問してきた!この手のやつは大体そうだ!

 

 「質問に答える理由がねえな、なんで初対面のやつにんなこと話さなきゃなんねえんだ」

 

 「お互いに名乗ったんだ、もうお友達だろう。性癖にはソイツの全てが反映される。 女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん。俺はつまらん奴が嫌いだ。だから早く答えろ」

 

 厄介なやつだなあ……とっととおかえり願いたいものだが。

 

 「断る、と言ったら?」

 

 「なら仕方ない……叩きのめしてでも聞くとしよう!」

 

 (来る!かなり速い!)

 

 高速でこちらへと突っ込み、ラリアットをかましてこようとする東堂をいなし、後方へと投げ飛ばす。しかしさすがは1級、容易に空中で体勢を立て直し、着地と同時に再び突っ込んでくる。今度は拳を突き出してくるので、こちらもあわせて相殺する。

 

 「フッ!」

 

 「シッ!」

 

 ここからは超至近距離での高速格闘。パワーではあちらが上だが、スピードではこちらが上だ。いかに捌くか……!

 

 

 「うおおおおおおおっ!!」

 

 「ハアアアアアアアッ!!」

 

 相手の打ち込みをそらし、叩き落とし、時には拳をぶつけ合って相殺する。至近距離での拳の打ち合い、そこに優劣はなく、互角の殴り合いが展開される。

 

 「フンッ!」

 

 「オラァ!」

 

 だが拮抗はそう長くは続かない。お互いがお互いの隙をみて全霊の拳を放った結果、その軌道は交錯するように、互いの頬へと突き刺さり大きく吹き飛ばす。

 

 「なかなかやるな、茜屋。1年生唯一の1級術師だけのことはある」

 

 「そっちこそ……さすがは噂の怪物3年生」

 

 俺と東堂は互いを褒め称える。だが、男の殴り合いは終わらない。熱く燃える心のままに、第二ラウンドの合図が──

 

 

 

 『動 く な』

 

 

 

 瞬間、東堂の動きか完全に停止する。

 

 「何やってんのー!」

 

 そしてその直後、どこからともなくやってきたパンダパイセンの見事なパンチが東堂の頬に突き刺さり、たたらを踏ませる。

 

 「狗巻パイセン、パンダパイセン」

 

 「……久しぶりだなパンダ」

 

 ヒートアップしていたのが少し落ち着いた俺たちは、パイセンたちの乱入によってひとまず拳を下ろす。

 

 「東堂も東堂だけど茜屋も茜屋だ。なんで交流会まで我慢できないかね。ほら帰った帰った」

 

 「そうしよう。どうやら退屈し通しでもなさそうだしな」

 

 そう言ってポリポリと頭を掻き、上着を探し始める東堂。こちらも頬を反転術式で治し、大きく伸びをする。

 

 「だが乙骨には伝えておけ、『オマエも出ろ』とな。」ではさらばだ」

 

 そう言って踵を返す東堂だったが、すぐに足を止め、俺の方を見てくる。

 

 「そういえばお前の性癖を聞かずじまいだったな茜屋。どんな女がタイプだ?ちなみに俺は(ケツ)身長(タッパ)のデカい女がタイプだ」

 

 結局その質問をするのか。まあ殴り合った仲だし、周囲にレディもいないから話してもいいか。

 

 「筋肉質でスタイルの良い女性が好みだ。あと年下はお断りだ、できれば年上がいい。イケメンのな」

 

 「なるほど、いい性癖だ。交流会でまた会おう、友よ」

 

 「ああ、また今度会いましょう、東堂パイセン」

 

 そう言って手を上げて去っていく東堂パイセンに、こちらも手を振りかえして見送るのだった。なんだか東堂パイセンとの間に友情が芽生えた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 「……そういえば伏黒は?」

 

 「あっ」

 

 「おかか」

 

 「俺を忘れるな……」

 

 ごめんちゃい。

 

 




東堂……恐ろしい男……
あと今回ライブ感すごかった気がする。

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幼魚と逆罰【裏】

お気に入り500突破アンドUA20000突破ありがとうございます

オリジナル回って難しいね……


 

 

 「はあ、特級任務ですか」

 

 始まりは、俺の間の抜けた声からだった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 「廃病院で確認された推定特級仮想怨霊及び多数の1級呪霊の殲滅、ですか」

 

 『そうそう、1級術師複数人であたるような任務なんだけどね、ほとんどの1級術師が出払ってるんだよね〜』

 

 「で、俺にお鉢が回ってきたと」

 

 『そゆこと〜』

 

 出張中の五条センセからの電話に出た俺は、またなんか厄介ごとに巻き込まれたと言うことを即座に理解した。

 

 「で、なんで任務の話が五条センセからくるんです?」

 

 『ほんとはねー、僕が行ってパパパッと終わらせてくる予定だったんだけどねー。出張してる間に成長しちゃうかもってことだったから誰かに行ってもらわなきゃいけなくなっちゃったんだよね』

 

 それで俺にお鉢が回ってきたということか……特級と1級の群れねえ……勝てないことはないだろうが、厳しいことになりそうだ。だがまあ、それもいい経験か。

 

 「わかりましたよ、承ります。なんか注意事項とかあります?」

 

 『特にないよ。気をつけてねー、お土産買ってくるからねー」

 

 あっ一方的に切られた。

 

 ……

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 「と、いうわけでして。誰か同行してくれます?1人か2人。流石に1人じゃ手に余るんで」

 

 その後高専へ出た俺は、皆に相談を持ちかけていた。1級術師複数で当たるような任務に俺1人というのはいささか厳しいものがある。

 そういうわけで皆に話を持ちかけたのだが……

 

 「すまん俺ら任務ある」

 

 「しゃけしゃけ」

 

 「あっ私も」

 

 と、いうわけでパンダパイセンと狗巻パイセンに釘崎は任務があるとのことで無理だった。まあ他2人はともかく釘崎に関しては特級案件に行くには実力不足なのでちょうど良かったが。しかし狗巻パイセンには同行して欲しかったなあ……

 

 「じゃあ真希パイセンお願いしていいですかね」

 

 「おう任せろ、こいつの試し斬りにもなるしな」

 

 俺が以前譲渡した無銘の刀を見せながら快く引き受けてくれた真希パイセン。ありがたやありがたや……

 

 「……俺も同行していいか」

 

 そこに声をかけてくるのは伏黒。ううん、伏黒か。実力不足気味ではあるが……

 

 「一応言うが、命の保障はできんぞ?」

 

 「何を今更」

 

 それもそうか。

 

 「じゃあこの3人で行こう。準備して1時間後に出発な」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 そして到着しました○○県××市にある廃病院。

 

 「いるな」

 

 到着と同時にかなりヤバめの気配を感じる。危険なので補助監督さんには帳だけ張ってもらってとっとと離れてもらった。

 

 「玉犬」

 

 伏黒の召喚した玉犬が先行して索敵を行う。それについていきながら、俺たちは今回の任務の確認を始めた。

 

 「今回の任務の内容は特級呪霊一体と多数の1級呪霊及び2級呪霊の殲滅だ。各個撃破されるのを防ぐためにまとまって行動すること、特級とやり合う時は無理せず場合によっては撤退すること。OK?」

 

 「おう」

 

 「了解」

 

 安全確認を行ってから廃病院へと入っていく俺たち。中は特級の生得領域になっているものとばかり思っていたが、いざ入ってみれば普通の廃病院のままであることに少々驚かされる。

 

 「お出ましだぜ」

 

 真希パイセンの声にそちらを振り向けば、2級呪霊と思しき芋虫人間のような呪霊が3体こちらへ向かってきていた。きっしょ。

 

 「ここは俺が……」

 

 そう言って指を組み式神を呼び出そうとする伏黒だったが……

 

 「シッ!」

 

 いきなり突貫した真希パイセンが手にした刀でずんばらりんと3体まとめて両断してしまった。かっこよ……

 

 「いいなこれ、気に入った」

 

 「……」

 

 「ドンマイ伏黒」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 まあそんなこんなで最初は順調だったものの、次第に暗雲が立ち込めていくこととなる。

 

 「おい恵!これで何体目だ!?」

 

 「1級2級合わせて40超えてます、それに1級の比率が上がってる……!」

 

 探索を進めれば進めるほど呪霊がわんさか湧いてくるのだ。事前調査によると1級が6、7体に2級が20体弱とのことだったはずだが……。

 

 「わんさか出てきやがってクソァ!」

 

 1級呪霊を炎で吹き飛ばしつつ、悪態をつく俺。1級呪霊の強さも上がってきており、最初の方はカスみたいな術式のやつしかいなかったものの、だんだんと厄介な術式持ちのやつが増えてきたので見つけ次第俺が瞬殺するようにしている。ちなみに今のやつは腐食系の術式持ちだった。

 

 「伏黒!余裕あるか!?」

 

 「まだいけるが長くは持たない!」

 

 ……これ以上長期戦になるのは避けたい。撤退するのにも体力を使うのを考えると、一度ここらで退いて作戦を練り直したほうが……

 

 「ッ──!禪院先輩!茜屋!」

 

 伏黒の声にそちらを向くと、そこにはボロボロになった玉犬を回収する伏黒。そして、

 

 

 ずるり、ずるり

 

 

 「ジュジュツシ、カ」

 

 

 「特級、呪霊──!」

 

 まずい、いやしかし不幸中の幸いだ。多少の消耗はあるとはいえ、こちらはまだまだ十分に余力を残している。それにこの呪霊は感じからして特級の中では大したことのない部類に入りそうだ。多分スペックならこないだの熊の方が高いだろう。

 

 「伏黒は後方支援!パイセン合わせてください!短期決戦で──」

 

 しかしまあ、現実はそううまくはいかないもので。

 

 「ジュジュツシ、コロス……」

 

 ずろおぉ……

 

 「んなっ」

 

 こちらが攻めようとした瞬間、ハエと芋虫と人間が混ざったような姿の特級呪霊は、その醜悪な口を開くと……。

 

 「呪霊を、吐き出しただと!?」

 

 口の中から1級と思しき呪霊を吐き出したのだ。おそらく謎の呪霊大量発生はこれが原因だろう。これがこいつの術式か。

 

 「マジでさっさと決めないとマズいぞ!」

 

 1級呪霊を前に一旦退く真希パイセン。迂闊に突っ込んでいい相手ではない……が。

 

 ずろぉ……ずろぉ……ずろぉ……

 

 そうこうしている間にも凄まじい勢いで増えていく呪霊。そいつらの術式と思しき炎やら氷やらも飛んできて、だんだんと追い詰められていく俺たち。

 

 「クソッタレ、数が多すぎるだろ……!」

 

 「どうする茜屋、このままじゃ──!」

 

 際限なく増えていく呪霊を前に、控えめに言って俺たちは窮地に立たされていた、

 

 

 

 

 

 「チッ、仕方ないか。切り札を切る!」

 

 というわけではなかった。

 

 




一般通過クソ厄介な特級呪霊

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幼魚と逆罰【裏】–弐

オリジナルの話って難しいね(2回目)
三人称視点も難しいね


 

 

 無限に呪霊を産む特級呪霊を前に、茜屋一行は苦戦を強いられる。多勢に無勢の状況、少なくとも禪院真希と伏黒恵は多数の1級呪霊を前に勝つことのできる手段は持ち合わせておらず、また祓う速度よりも生まれる速度の方が早いことも相まって、このままでは多勢に無勢で押し切られることが目に見えていた。それどころか、仮に本来の適正メンバーである1級術師複数が来ていたとしても結果は変わらなかったであろう。

 

 

 「チッ、仕方ない、切り札を切る!」

 

 

 ──だが、ここに例外が存在する。

 

 「切り札!?そんなもんあるのかよ!」

 

 「切り札のひとつやふたつやみっつもなしに1級術師やれるかってんだよ!」

 

 茜屋刃は祖父である茜屋仁太郎(あかねやじんたろう)のもと、幼い頃から呪術師としての修練を積んだ結果、高専1年生にして1級術師にまで上り詰めた。しかしそれは努力のみではなく本人の才覚あってのものである。五条悟や乙骨憂太が『異能』であるなら、茜屋刃は『天才』に分類される人間だ。

 

 「真希パイセン!伏黒連れて下がってください!巻き込んじゃうんで!」

 

 「何する気か知らねえがやるなら思いっきりやれ!恵下がるぞ!」

 

 「うおっ」

 

 茜屋の声を聞いて伏黒を引っ掴み全力で後退する真希。それを確認した茜屋は不敵に笑う。

 

 「ここ最近なんかツキが悪くてなあ……色々と不完全燃焼だったんだよ。こないだの熊のときだって真希パイセンにいいとこ見せたかったのにやたらと苦戦しちまったし……まあ何が言いたいかって言うとだな」

 

 まあつまるところ、本来並の1級術師が束になっても苦戦は免れないこの母体呪霊が相手であったとしても──

 

 

 

 「ストレス発散&真希パイセンにいいとこ見せるためのサンドバッグになれや」

 

 茜屋刃にとってはものの数ではないということである。

 

 

 

 

 領域展開

 

 

 煌劫屍燎原(こうごうしりょうげん)

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 燃える、燃える、燃える。

 

 赫々とした炎が燃える、真白く輝く太陽の下で燃える。

 現れたるは死の荒野、あらゆる生命の生存を許さぬ地獄の大地。

 

 地平線は炎に包まれ、砂漠のそれより熱い日差しが地面を焼く。

 その中央に立つのはこの領域の主、茜屋刃。

 

 そしてこの領域に巻き込まれた多数の呪霊たちは……皆、業火にその身を焼かれていた。

 

 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

 

 茜屋刃の術式、柳炎煌火は、色々と省いて言ってしまうならば、己が呪力を燃料とすることで、自由自在に操ることのできる超高温の炎を発生させるというものだ。

 そして、この領域『煌劫屍燎原』の内部では、その性質が茜屋以外にも適用される。

 

 すなわち、呪力の燃焼である。流石に一種の領域である体内には手出しできないものの、呪力というものはどう足掻いても()()()ものだ。そしてその漏れた呪力はこの領域内では素晴らしい燃料となる。

 まさしく必中必殺、呪力を持つものが彼の領域に侵入することは、全身にガソリンを浴びた状態で火災に突っ込むことと同義である。

 

 「おーおーよく燃えるねえ、絶景かな絶景かな」

 

 燃え盛って消えていく呪霊たちを眺める茜屋。その表情は晴れやかでスッキリとしたものであった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 「ふう、一丁あがりってわけよ」

 

 呪霊全てが燃焼しきるまでおよそ1分弱、領域を解除した茜屋は伸びをしつつ周囲を見回す。

 そこに一度退いていた伏黒と真希が近づいてきた。

 

 「やったな茜屋……お前領域展開とかできたのか」

 

 「手の内はできるだけ隠すのが呪術師ってもんだろ?伏黒もなんか切り札あるなら軽々に使ったり言いふらしたりはしない方がいいぜ、余計なお世話だろうけどな。できれば今日見たことも口外しないでもらえるとありがたい」

 

 「……そうだな」

 

 茜屋の軽口に何やら意味深に頷く伏黒。その不審な様子に、茜屋は少し問い詰めようとしたが、その前に真希が遮った。

 

 「お疲れ、さすがだな刃」

 

 「あっ真希パイセン!どうです見てました俺の勇姿!どうでしたかカッコよかったですか惚れましたか!?」

 

 「ああ、惚れ直したよ。流石は私の刃だ」

 

 「えっ」

 

 労いの言葉に冗談半分半分本気半分の軽口で返したところ、想定外の答えが返ってきて硬直する茜屋。

 

 「でもまあ……」

 

 その間に真希は茜屋の後ろに回り込んで、手にした刀で一閃。

 

 

 

 「油断は禁物、だな」

 

 そして茜屋の背後から忍び寄ってきていた呪霊を一刀両断した。おそらく領域展開した時にはあの場にいなかった個体だろう。

 

 「うおっ油断してた……クソーッまたなんか締まらねえ〜っ!」

 

 「まあ次も頑張れよ、ちゃんと見といてやるから、な?」

 

 「は、はい!」

 

 悔しがって叫ぶ茜屋を宥める真希。稀代の天才も憧れの先輩の前ではただの可愛い後輩に過ぎなかったのだった。

 

 

 

 「……?」

 

 ちなみに玉犬をモフモフしながらそのやり取りをずっと後ろから見ていた伏黒は宇宙の真理を目撃した猫のような顔をしていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちなみに領域の中にいたわけじゃないからお前が何してたかは私たちからするとよくわかんなかったりするんだな」

 

 「なん……だと……!?」

 

 「ドンマイ茜屋」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 任務の帰り道、茜屋のトイレ休憩中にて。

 

 「禪院先輩ちょっといいですか」

 

 「真希って呼べって。んで、なんだよ」

 

 「なんで茜屋にはあんな感じなんですか?まさかガチ惚れしてるわけでもないでしょう」

 

 「ハハッ、あいつの反応面白いからなあ、先輩風吹かせるのも楽しいし。それにまああいつもガチで言ってるわけじゃないだろうしな。()()()()()()を後輩とやるのもなかなか楽しいんだよな、これが」

 

 「そう、ですか……」

 

 (これかなり無慈悲な話じゃねえか……?)

 

 愉快そうに笑う真希を相手に、茜屋の内心をなんとなく把握している伏黒は微妙な顔をするしかなかったのだった……

 

 




 ちなみに主人公の術式より領域展開の方を先に思いついてたりする。(設定おかしかったりしないよね、大丈夫かな?)

 真希さんにいいようにあしらわれる?主人公の恋路の行方はどっちだ!?

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反省、そして合流

オリ主を盛りすぎたかと思ったけどこれくらいしないと活躍どころか生き残ることすらも怪しいから仕方ない本当に仕方ない


 

 

 「なっ、なんで皆手ぶらなのー!?」

 

 例の特級呪霊退治からしばらく、ついにやってきた姉妹校交流会。その日、釘崎は何やら大層な荷物を持って集合場所にやってきていた。なんでぇ?

 

 「お前こそなんだよその荷物」

 

 「何って……これから京都でしょ?」

 

 あーなるほど、釘崎は京都()姉妹校との交流会を京都()だと勘違いしていたのか。道理で最近話が妙に噛み合わないと思った。

 

 「去年勝った方の学校でやるんだよ」

 

 「勝ってんじゃねえよ!!」

 

 り、理不尽……

 

 「去年は俺たち出てねえよ、憂太が参加したんだ」

 

 「『里香』の解呪前だったからな、圧勝だったらしいぞ。私たち京都行ってねえから見てねえけど」

 

 「許さんぞ乙骨憂太ー!!会ったことないけど

 

 可哀想な乙骨パイセン……ひとえにアンタと「里香」とやらが強すぎるせいだが。

 

 

 「おい、来たぜ」

 

 真希パイセンの声にそちらを向くと、そこには──

 

 

 「あらお出迎え?気色悪い」

 

 「乙骨いねえじゃん」

 

 東堂パイセンをはじめとした京都校の面々が到着していた。相変わらず口悪っ。

 

 「うるせえ早く菓子折り出せコラ。八ツ橋くずきりそばぼうろ」

 

 「しゃけ」

 

 「腹減ってんのか?」

 

 こっちもガラ悪っ。そして狗巻パイセンと釘崎を一緒にしないでくれ、狗巻パイセンに失礼だろ。

 

 「怖……」

 

 「乙骨がいないのはいいとしテ、一年3人はハンデがすぎないカ?」

 

 うわあ魔女っ子とロボだ。呪術師……呪術師か?

 

 「呪術師には歳は関係ないよ、特に伏黒君。これは禪院家の血筋だが宗家より余程できがいい「チッ」何か?」

 

 「別に」

 

 やっぱみんなガラ悪いよー京都人怖いよー。まともなのがなの水色髪の人しかいなさそうだよー。

 

 「はーい内輪で喧嘩しない、全くこの子らは。で、あの馬鹿は?」

 

 そう言いながら現れたのは準1級術師の庵歌姫センセ。幾度か任務で一緒になったことはあるが、呪術師にしては珍しい常識人だった。ただ五条センセにまともにとりあうのはやめた方がいいと思うの。あの人の相手なんてテキトーがちょうどいいんだからさあ。

 

 「悟は遅刻だ」

 

 「(バカ)が時間通りにくる訳ねえだろ」

 

 「五条センセのことはほっといた方がいいですよ庵センセ」

 

 「誰も馬鹿が五条先生のこととは言ってませんよ」

 

 いやだって……ねえ?

 

 「おまたー!」

 

 おっと噂をすれば五条センセ。何やらでかい手押し車を押しながら爆走してきた。デカい子供……。

 

 「やあやあみなさんおそろいで。私出張で海外に行ってましてね」

 

 「急に語り始めたぞ」

 

 そう言いながら何やら怪しげな人形をお守りと称して京都校の面々へと渡していく五条センセ。大丈夫?へんな呪物だったりしない?

 

 「そして東京都の皆にはコチラ!」

 

 「ハイテンションな大人って不気味ね」

 

 ねー。

 

 そして謎の手押し車の蓋が音を立てて吹き飛ばされ、中から出てきたのは──

 

 

 

 

 

 「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」

 

 「はい!!おっぱっぴー!!」

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 

 

 

 「……おいなんか言うことあるだろ」

 

 「生きてること黙っててすんませんでした……」

 

 

 

 

 ゆるさん。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 東京校サイドミーティング。最悪のサプライズをかました虎杖は罰として遺影の枠を持たされて部屋の中央に正座させられていた。発案者は釘崎。

 

 「あのぉ〜これは……見方によってはとてもハードなイジメなのでは……」

 

 「うっせぇ火葬すんぞ」

 

 まあ俺も同情する気はないというか残当だとは思っている。どうせ五条センセの差し金だろうけどそれにノった虎杖も同罪だ。五条センセはさっき夜蛾センセにボコられてたから許した。

 

 「まぁまぁ事情は説明されたろ、許してやれって」「喋った!」

 

 「しゃけしゃけ」「なんて?」

 

 いい反応するなあ虎杖。リアクション芸人目指したらどう?

 頭にハテナマークを浮かべた虎杖に伏黒が狗巻パイセンの呪言について説明する。パンダパイセン?パンダパイセンはパンダだし……

 

 「んなことより悠仁。屠坐魔(とざま)返せよ」

 

 あーそういえば真希パイセンの呪具借りてたんだっけ。うらやま〜。

 

 そんなことを考えつつ虎杖の方を向くと、何やら冷や汗を流しまくっていた。うん?

 

 「五条先生ガ……持ッテルヨ……」

 

 「チッあのバカ目隠し」

 

 壊したな(確信)。多分少年院の特級の時かな?ほら伏黒もジトっとした目で見てるしやっぱ壊したろこいつ。

 

 まあ?真希パイセンには新しい呪具が?()()()()()呪具があるからあ?大した問題じゃないだろうけど?それでも人に借りたもんは大切に扱おうね。

 

 「でどうするよ。団体戦形式は予想通りとして、メンバーが増えちまった。作戦変更か?もう時間ねえぞ」

 

 「おかか」

 

 微妙な雰囲気になったところで真希パイセンが話を変える。

 ちなみに人数オーバーの件に関しては向こうが「別に1人増えた程度どうということは無い」的なこと言ってたから気にしなくていいらしい。まあ真希パイセンの妹さんとか魔女っ子とか水色髪の人とかはいやそうな顔してたけど。ドンマイ!

 

 「それは悠仁次第だろ。何ができるんだ?」

 

 「殴る蹴る」

 

 「そういうのは間に合ってんだよなあ……」

 

 そういえば俺虎杖が戦ってるところ見たことないんだよな。廃ビルの時は外にいたし、少年院の時は到着した時には宿儺が出てたし。

 

 そう考えていると伏黒が口を開いた。

 

 「……虎杖が死んでる間何してたかは知りませんけど、東京・京都校合わせて全員()()()()で戦ったら虎杖が勝ちます」

 

 ほーん……えっマジ?呪力なしで真希パイセンに勝てるの?いや伏黒の目は信用に値するし嘘つくような奴でもないからマジなんだろうけど……

 

 「マジ?」

 

 「マジ」

 

 「マジかあ〜……おい虎杖」

 

 「なになに?」

 

 「期待してるからな?」

 

 「うわっなんか圧がすごい!」

 

 真希パイセンより強いと豪語するならそれなりの活躍はしてもらわないとなあ……?(虎杖は言ってない)

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 「虎杖。大丈夫か?」

 

 ミーティングの後、試合に向かおうとしたところで伏黒が虎杖に声をかけた。

 

 「おーっ大役っぽいけどなんとかなんべ」

 

 「そうじゃねえ、なんかあったろ」

 

 「そうなのか?」

 

 俺にはよくわからんが伏黒がそう言うならなんかあったんだろう。

 

 「あ?なんもねーよ。……あった」

 

 ほんとにあったのか、すげえな伏黒。というか……

 

 「本当に大丈夫か?」

 

 「ああ、大丈夫なのは本当だよ。むしろそのおかげで誰にも負けたくねーんだわ」

 

 「……ならいい。俺も割と負けたくない」

 

 おお、伏黒にしては珍しい発言。クールぶってても熱いとこあるよなこいつ。

 

 

 

 「何が割とよ一度ブッ転がされてんのよ!?圧勝!!コテンパンにしてやんのよ!!真希さんのためにも!!」

 

 「……そーいうのやめろ」

 

 「明太子!!」

 

 「そう!!真希のためにもな!!」

 

 「よっしゃ真希パイセンにいいとこ見せるぞー!!」

 

 「お前はいつも通りで助かるぜ……ああ、期待してるからな、私の刃」

 

 「えっあっハイ!!」

 

 「ヘヘッそんじゃまぁ……勝つぞ」

 

 

 

 

 

 「何仕切ってんだよ」

 

 あっ蹴られた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 「……うん?」

 

 「……はあ?」

 

 「どうした虎杖、釘崎」

 

 「いやさっきの2人どういうことだよ!?」

 

 「えっ真希さんと茜屋ってそういう関係だったの!?」

 

 「ああ……。あれはそうだな、悪女に誑かされる哀れな子犬みたいなもんだ」

 

 「「ええ……」」

 

 




いかん真希さんに茜屋を揶揄わせるの楽しくなってきた

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京都姉妹校交流会【開戦】

交流会前半のオリ主の活躍させにくさは異常だと思う。


 

 

 『それでは姉妹校交流会、スタァートォ!!

 

 『先輩を敬え!!ピーガガ』

 

 ついに始まった姉妹校交流会。庵センセは強く生きて……。

 

 それはさておき初動、俺たちは伏黒の出した玉犬を先頭にひとまとまりになって走っていた。

 

 「例のタイミングで索敵に長けた恵班とパンダ班に分かれる、あとは頼んだぞ悠仁」

 

 「オッス!」

 

 いいなあ虎杖、俺も真希パイセンに頼られたい。

 と、そこで玉犬に反応があった。前方を見てみると、そこには蜘蛛型の呪霊が木からぶら下がっていた。きっしょ。

 

 「雑魚だな」

 

 先頭に近い位置にいた真希パイセンが呪具を構え、まずは一体目、といくところだったのだが。

 

 「先輩ストップ!!」

 

 索敵担当の伏黒が声を上げて制止する。その直後だった。

 

 

 バキバキバキバキィ!!

 

 

 「いよぉーし全員いるな!!まとめてかかってこい!!」

 

 半裸の変態(東堂パイセン) が あらわれた! なんで脱いでんの……?

 まあ総力戦を望んでる東堂パイセンにじゃ悪いけど……

 

 バキィッ!

 

 「散れ!」

 

 虎杖の飛び膝蹴りが東堂パイセンの顔面に突き刺さったのを視認してから、真希パイセンの号令と共に散開する。痛そー……

 

 「東堂一人でしたね」

 

 「やっぱ悠仁に変えて正解だったな」

 

 「俺がやっても良かったんですけどねえ」

 

 真希パイセンと伏黒と共に走りつつ、俺は開始前にやった作戦会議を思い出していた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 「東堂は確実に直で私たちを潰しにくる。真依も私狙いで便乗してくるかもな」

 

 「禪院パイセンはともかく東堂パイセン。ありゃバケモンですよ。全員で相手しても苦戦するどころの話じゃなさそうです。元々は俺かパンダパイセンが相手する予定だったんですけど……」

 

 そう言って俺と真希パイセンは虎杖の方を見る。

 

 「虎杖、お前に任せる。索敵できるやつ減らしたくねえし

 

 俺?と言う顔をして自分を指差す虎杖。そうお前だよクソサプライズ野郎。どうせ五条センセの差し金だろうけど。

 

 「勝たなくてもいい、できるだけ時間を稼げ」

 

 「でも大胆に行けよ、じゃないと無視されかねん。というかお前は元々戦力カウントしてねえからな、やってくれるんなら火葬はチャラだ」

 

 「ひっでぇ……えっガチでやる気だったのお前」

 

 まあ軽く燃やしたくらいじゃ死ななそうだしなお前。服は犠牲になるだろうけど。

 

 「悪いな恵に刃。お前らも東堂とやりたかったろ」

 

 「いや別にどっちでも」

 

 「いえ真希パイセンのお願いなら喜んで!」

 

 「お前らぶれねえな」

 

 いやいやそれほどでも……

 

 「でも先輩、やるからには勝つよ、俺」

 

 へえ?頼もしくて何よりじゃん。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 「変です」

 

 東堂パイセンを虎杖に任せて離脱した俺は、その後真希パイセンと伏黒と共に呪霊探しを行なっていた。伏黒お前単独行動しない?ダメ?そう……

 

 「どうした恵」

 

 「京都校がまとまって移動してます、位置は虎杖と別れたあたり。京都校全員いますねこれ」

 

 「呪霊もそっちいるのか、強襲でもかけるか?」

 

 東堂パイセンは厄介そうだけど逆にいえばそれ以外の奴らはなんとかならんこともないからな、どうにか分断すればいけるだろう。

 

 「いや二級程度ならよほど狡猾でもない限り玉犬が気づくはずだ」

 

 「それもそうか。まあそれにそういうタイプなら京都校の奴らが見つけてるのも不自然だ。うーむ……」

 

 なんだ?何がある?各個撃破でもするつもりか?いや可能性なら一つ考えつくが、しかし……

 

 「あいつら、虎杖殺す気じゃないか?」

 

 マジか、やっぱそうか……まあそうだよなあ、普通にありえるよなあ……多分楽巌寺センセの指示かなあ、庵センセはんなことするタイプじゃないし、そんな度胸もなさそうだし。

 

 「ありえるな……よし、戻るぞ恵、刃」

 

 「はい!」

 

 「……すみません」

 

 別に謝ることじゃねえと思うんだがなあ……

 

 「何謝ってんだバカ。仲間が死んだら交流会も勝ち負けもないだろ」

 

 キャー真希パイセンイッケメーン!一生ついていきます!

 

 「いやお前は残れ、呪霊狩りする人員も残しときたいからな」

 

 「ええーっ!?今の流れで!?」

 

 そんなあ……いいとこ見せられないじゃん……

 

 「お前にしか頼めない。頼んだぞ、私の刃」

 

 「はい!了解しました!」

 

 よーし頑張っちゃうぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 「こういうとき刃は私の言うことなんでも聞いてくれるから助かる」

 

 「……人の心とかないんですか?」

 

 「いやいやあいつも遊んでるだけだろ、ノリいいからなあいつ」

 

 (哀れ茜屋……)

 

 

 




今回は短めな上いつもより拙いです、申し訳ない

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京都姉妹校交流会【乱入】

遅くなりました、申し訳ありません
交流会前半にオリ主を活躍させる機会がねえな?


 

 

 『ゔゔゔゔま゛ゔぁ』

 

 「は〜あこれでようやく一匹目、と」

 

 虎杖の救援に向かった伏黒と真希パイセンと別れた俺は、真希パイセンの言う通りに呪霊狩りを続けていた……のだが。

 

 「なかなか見つからねえもんだなおい。玉犬って便利だったんだなあ」

 

 最初こそ真希パイセンにいいとこ見せようと思っていたものの、肝心の呪霊が見つからずに苦戦を強いられていた。一家に一匹欲しいわ玉犬。

 森歩くのは慣れてるんだけどね、弱い呪霊だからその分ちっさいせいで木の影とかに隠れてなかなか見つからなないんだなこれが。罠でも仕掛けてみるか?道具なんかねえけど。それかいっそのこと森ごと燃やすか……ルールで禁止されてねえよな?

 

 「二級呪霊(ほんめい)さえ見つかればあっさりクリアなんだけどなあ……三級(ザコ)ですらなかなか見つからねえんだもん」

 

 いやまあ流石にそんなことしないけどね?こうも見つからないとイライラしてくるのよ。それで強いやつと戦えるならともかく三級だろうが二級だろうが相手にならねえことだし。俺も京都校の人とやりたかったなあ……今頃伏黒や真希パイセンはバチバチにやり合ってるんだろうなあ……いいなあ……

 

 

 

ちっがーう!! ちっがーう!! ちっがーう!!

 

 

 

 「うおっ!?この声は東堂パイセンかあ……何やってんだあの人」

 

 計画通りなら虎杖とやり合ってるはずだが……いやほんと何があったし。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 その後も俺は追加でもう2体呪霊を祓ったのだが、それ以降がトンと見つからない。べつに呪力感知が下手というわけではないが、そう遠くまで探れる訳ではないし、雑魚になるとめちゃくちゃ近くにいないと察知できない。おそらく本命はかなり遠くにいるのだろうが……そう考えつつ木の上などを重点的に探していたのだが。

 

 

 ムニッ

 

 

 ムニッ?

 

 「ってうおわあびっくりしたあ!?」

 

 足に妙な感触を覚え、思わず飛び退いた俺。すわ敵襲かと思い構え、目線をやったその先には。

 

 「……水色髪の人じゃん。確か三輪霞……だっけ?なんでこんなとこで寝てんだ?」

 

 そう、俺が踏んづけてしまったのは、なぜか地面に寝っ転がってすうすうと寝息を立てていた京都校唯一の常識人(推定)こと三輪霞……そういえば先輩だったなこの人。三輪パイセンであった。踏んじゃってごめんなさいね。

 それはさておき余程の変人でない限り交流会中に踏んづけられても起きないほどにグースカ寝るなんてことはしないだろう。いや三輪パイセンが実は変人だった、と言うこともあり得るのだが、まあ手に持った携帯から察するに……

 

 「狗巻パイセンの仕業かこれ、さっすが狗巻パイセン頼りになるぅ♪」

 

 大方狗巻パイセンが電話越しに呪言で眠らせたのだろう。ということは少なくともこれで二名は脱落か。いやまあ相手さんの携帯電話だけぶんどったという可能性もあるが……。

 

 「というかこの人どうするかなあ……置いていくのもなんか不安だし……背負って京都校の誰かに押し付けるか?奇襲くらいそうであんまやりたくないんだが……」

 

 呪言食らって爆睡してるとなると低級呪霊でも脅威だ。特にこの人あんま強くなさそうだし。

 さてどうするかと思考を巡らし、とりあえずエリアの端まで運ぼうと背負おうとした、のだが。

 

 

 

 「なっ、あれは──!!」

 

 

 突如として空の一部が黒く染まったかと思えば、かなりの速度で広がっていくのが視界の端に映った。これは──

 

 (帳!誰の仕業だ!?京都校?いや違うな、一部ならともかくこの規模はエリア全体を覆う規模だ、理由がない。となると考えられるのは──)

 

 侵入者、と見るのが自然だろう。即座に俺は呪力感知に全力を注ぐ。高専に侵入できる時点で手練れであることは間違いない。特段感知に長けているわけではない俺でも位置の割り出しくらいは可能だろう、と踏んでのことだったのだが。

 

 (ッ、明らかにやばいのが一体!感じからしておそらく特級!しかもめちゃくちゃ強い!)

 

 わざわざ感知を鋭敏にするまでもなく引っ掛かった。大物中の大物、俺が出会った奴の中でも一、二を争うレベルの輩。それゆえに感知は容易かったが、到底喜べるわけもない。

 

 (いかん、間違いなく俺以外の誰かが遭遇したら死ぬ!平時でも危ういのに皆消耗しているであろう今となってはよりまずい!)

 

 帳が降りている以上即座に外からの増援は見込めない。目的は不明だが高専に襲撃をかけてきた以上、五条センセ対策の一つや二つくらいあるのだろうし、外部に頼るのは不可能と見た方がいいだろう。ならば、俺のやるべきことはひとつ。

 即座に俺は三輪パイセンをほっぽり出し(その際「ぐえっ」と言う声が聞こえてきたのは無視した。起きない方が悪い)、やばい気配の方へと全力で走った。

 

 (気配の主の元へと行く!帳が上がるまで時間を稼ぐのが目標だが、万が一上がらないこともありうる以上祓うのが最上だ!とにかく全員の安全確保するだけの余裕を作る!)

 

 決意を胸に、俺は呪力強化全開で気配の下へと走るのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 見事な連携プレーによって特級呪霊──花御にダメージを与えた真希と伏黒。しかし今は一転して大ピンチに陥っていた。

 伏黒の腹には寄生植物が根を張り、動揺した真希も致命傷は避けたものの左肩を貫かれてしまう。

 

 “もう呪術は使わないほうがいい。アナタに打ち込んだ芽は呪力が大好物、術を使うほど肉体(からだ)の奥深くへ根を伸ばす”

 

 「ご親切に……!どうせ殺す気だろ」

 

 “説明した方が効くのが早いらしい”

 

 術式の開示という縛りによる術式効果の底上げ、という概念すら理解し使いこなす花御は、確かに今までの呪霊とは格が違っていた。

 もとより2人ではどうしようもない相手。肩を貫かれてもなお果敢に挑みかかる真希だったが1人では到底歯が立たず、あえなくその首を木の根に捉えられる──

 

 

 ゴオオオオッ!!

 

 

 その直前。森の奥から噴き出してきた炎が真希の首に絡みつかんとする根を一瞬で焼き尽くした。突然のことに驚いた両者は飛びすさり、森の奥──そこから歩いてくる人影に目を向ける。

 しかし両者の反応はバラバラであった。警戒をにじませる花御に対し、真希の表情はどこか安堵しているかのように見える。

 

 「ったく……遅えんだよバカ」

 

 瞬間、猛スピードで突っ込んだ人影の飛び蹴りが花御の胴に突き刺さり、後退りさせる。

 

 

 「テメェ……真希パイセンと伏黒に何してやがる……!燃やすぞ雑草ヤロー……!!」

 

 

 人影──茜屋は、腰を落とし、片手には呪具を握りながら、怒りに満ちた表情でそう言い放った。

 

 




三人称視点って難しいね。

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