混沌世界のプロローグ―好き勝手準備後自滅した神様転生者のせいで全方位魔改造されるけど、おっぱいドラゴンが新たな仲間と共に頑張る話・第二部 (グレン×グレン)
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設定資料集 メインキャラクター編

はいどうもー! ついに設定資料集に手をつけれる段階と判断した、グレン×グレンでっす!

まぁ今回はメインキャラクターを主体としたメンバーに限定しますが、そこはご容赦を






2023年10月15日 初投稿


◎極晃衛奏者

 

◇九成和地

 

 ご存じ本作の主人公にして狂言語り。瞼の裏の笑顔に誓い、涙の意味を変える旧済銀神(エルダーゴッド)たる涙換救済(タイタス・クロウ)

 眉目秀麗文武両道を高水準でまとめ上げた優良物件。愛する女に対しては、高い包容力を持ちながらも時々精神年齢がダダ下がりするのが愛嬌か。

 

 第一部において極晃弄奏者どころか、後に続くだろう全極晃に通用する衛奏という勝利を見せるも、その裏面である「極晃が必要な時にも効果を発揮しきれない」点を考慮。それなしでもやっていけるようにする為、そして民衆にそれを見せる為にもアザゼル杯参戦を決意している主人公。

 同時に様々な出会いやとんでもない金もあり、苦労する時はかなり苦労している少年。恋愛でも暴走するが、大金を払える機会でも暴走しそう。

 

 全体的に非常に優秀な男だが、原作主人公たるイッセーや真主人公たるカズヒに比べると、異常や特例に近い札がない男。反面両者では不向きな神器の新境地、残神を前提とした、装備による禁手の切り替えで両者に追随する戦力価値を誇る、守り手としての高いポテンシャルが持ち味。

 あまねく極晃を封じる衛奏もあり、世界の英雄が一角であることは揺らがない。ゆえにこそ、その責任を果たすべく刃を研ぎ澄ませ、彼は往く。

 

 

◇カズヒ・シチャースチエ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ご存じ本作メインヒロインにして真主人公。瞼の裏の笑顔に誓い、正義を奉じる必要悪たる悪敵銀神(ノーデンス)たる悪祓銀弾(シルバーレット)

 気合と根性で物理法則に喧嘩を売る、女光狂いのガチ勢。正義の味方で邪悪の宿敵。ただし恋愛ではドストレートデレ。

 

 前世からの最大の業たるミザリ打倒を成し遂げるも、その残滓や残された被害を踏まえ、自分が和地達と共にいることを容認してもらう為にも日々精進。その一環として独自にアザゼル杯に参戦する。

 また血の繋がらない年上の実子というややこしすぎる幸香のこともあり、苦労に対して覚醒しながら頑張り続ける宿命が残りまくりでもある。

 

 本作光狂い筆頭なだけあり、物理法則を覚醒で乗り越える光極めちゃってる女傑。ただ自分が特例枠なのを自覚している為、それなりのブレーキをかけれる異端のガチ勢。

 衛奏と弄奏を共に奏でた者として、今の世界に対して責任を果たす。鋼の女傑は愛を持つが故に、それに恥じぬ己を目指し続ける。

 

 

◎ヒロインズ

 

◇リーネス・エグリゴリ

 前作における苦労人筆頭枠、ついにヒロイン枠に掲載

 最も前世の因縁を意識し、立ち回り続けた陰の功労者。またアザゼルが隔離結界領域に旅立った今、D×Dの技術畑筆頭枠。

 

 前世の記憶継承関係もあり胃痛枠であり、またそれゆえに恋愛弱者。加えて和地が保護者フィルターをかけていたが、それを乗り越えヒロイン認定されることに成功した。

 恋愛面において鶴羽張りにポンコツになりながらも、それ以外は大事な技術顧問。カズヒのチームに属しつつ、その未来に幸あれと願っている。

 

 

◇南空鶴羽

 前作におけるポンコツ筆頭枠、ある意味で最も和地と付き合いの長いヒロインでもある。

 本作においてもリアクション担当であり、最近は某ローグのシャツのように、奇声が定番となっている。

 

 本作においてもカズヒの親友として、彼女のチームに参戦。固有結界の特性もあり、割と本気でチームのエース格だったりする。

 

 

 

◇枉法インガ

 和地にとっての近所のお姉さん枠、メイド業務も大絶賛進行中。

 本作においては和地のチームに参戦し、割と油断できない実力を発揮。メイド業務もだいぶ慣れており、割と安定したポジション獲得中。

 戦力面でも割と優秀。ハイマニューバ接近戦スタイルは、決して油断できない実力者であります。

 

 

◇リヴァ・ヒルドールヴ

 和地にとっての女教師枠。ムードメーカーかつ最年長者は伊達ではない。

 本作においては和地とは別チームで参戦中。元々基本性能はトップな上、おちゃらけているようで油断できない策士ムーブも可能なエク〇レンポジション。ゆえに攻められると意外と弱いよ?

 

 

 

◇ベルナ・ガルアルエル

 和地が縁薄くてもオトしたある意味で第一部ヒロイン異例枠。お嫁さん願望がメイドスキルに繋がってエース格。

 お姉さん問題もあって比較的苦労人枠。今後の決着もきちんと考え中です。

 本作においては和地のチームに参戦中。高い機動力を生かした射撃戦主体で、大暴れの余地は十分ある。

 

 

 

◇成田春奈

 和地の幼馴染枠たる武闘派ヒロイン。ついに神器が神滅具になりました。

 原点を思い出したがゆえに、和地と並び立てる女傑目指してメイド業務と並行努力中。また心の師匠たるカズヒもいる上、主の名もあり自己研鑽に陰り無し。

 本作においては主の命に恥じぬよう、別チームで参戦。迷走を終え昇華した、その灼熱はエースそのもの。

 




 とりあえず、今回はこんな感じで。今後も追記修正はするのでよろしくね?


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設定資料集 各種星辰光編

 はいどうもー! そこそこ星辰光も出てきたので、まずこっちから出していこうと思ったので、出しまっす!!


2024年3月12日 投稿


◎チームD×D

 

〇オカルト研究部協力者

 

 

☆アルティーネ・スタードライブ

 

紅星の砲火、道を違えても悔いはなく(ブーステッドカノン・オーバードライブ)

基準値:AA

発動値:AAA

収束性:B

拡散性:B

操縦性:AA

付属性:AA

維持性:AA

干渉性:D

 

 

 アルティーネ・スタードライブが振るう独自の星辰光。

 振るう能力は星砲創生運用能力。星剣と同種の力を持つ星砲を作り出し自在に運用する能力。

 

 星砲は弾丸の種類も自由自在であり、ある程度の仕立て直しで連射性や口径を切り替えることが可能。基本的には歩兵携行が可能なレベルだが、それ単体を自在に使役できる都合上自身が持つ分、尚更に無茶のある仕様にできる。ただし使役能力がその高性能に反比例するかのように低下しており、拡散性を補佐的な運用にしか回せないのが欠点。

 更に溜めを必要とすれば、超大型の多段加速式電磁投射砲といった無茶も可能。第三宇宙速度を超える初速を放つこともでき、その破壊力は魔王クラスに通用する。

 

 更に彼女はその付属性を持つことで、疑似的に一体化することも可能。本来は使い勝手が悪くなるが、ここにきて自由な発想でそれを扱う。

 奇襲に使うのではなく、瞬間炸裂型の大反動にすることで、全身に固体ロケットを搭載するかのような加速装置として運用可能。これにより空中戦から瞬間的な攻撃力も上昇など、銃の具現化とは思えない対応力を獲得する。

 

 星と共生する王族として生れ落ちながら、彼女は星の肌を荒らす人類という虫と共生する。

 

 それはきっと、その可能性に光を見出したから。手を取ってくれた赤き龍と共に、彼女は星の海を目指す。

 

 

★詠唱

 創生せよ、地より溢れし星辰よ―――我らは煌く星の使徒。

 

 紅の衝撃は我が身を貫き、面白き世を伝えてくれた。

 星の歴史の僅か数刻。ただそれだけの短き者が、世界に彩りを示してくれる。

 

 眺めて笑うが真徒の価値なら、私はそれを投げ捨てよう。

 踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊りたいと、私はそこに飛び出した。

 

 無限の夢持つ赤き王道。その道はまるでパレードで、誰もが笑顔を浮かべている。

 私もそこに混ざりたいと、心の底から思うから。気品を投げ捨て無邪気に笑い、笑顔で明日を迎えよう。

 

 我、星の共生たることを誇らぬもの。ゆえに一つの誠を誇る者。

 

 我が前に立ちふさがるもの、その一切を撃ち抜かん。

 

 超新星(メタルノヴァ)——紅星の砲火、道を違えても悔いはなく(ブーステッドカノン・オーバードライブ)

 

 

 

 

◎味方陣営

 

〇デュナミス星騎士団

 

 

☆ストラス・デュラン

 

祈りの守護者、聖なる勇士は此処に(パワーズ=フォース・ガーディアン)(括弧内は禁手発動時)

基準値:D(B)

発動値:(AAA)

収束性:(AAA)

拡散性:E

操縦性:E

付属性:C

維持性:C

干渉性:E

 

 

 ストラス・デュランの星辰光。能力は動作高速化。

 

 極まって高い収束性による突破力を持ち味とし、文字通り行動速度を大幅に強化するという単純故の強固さを持ち味とする星辰光。

 単純に早くなるという分かり易い星であり、また動作が早くなるだけで反応速度が速くなるわけではないという、単純故の弱みも存在。しかしそれを補う技量を持ってれば、圧倒的なポテンシャルを発揮する星辰光。

 

 単純に早いということは、攻撃を喰らいにくく質量攻撃が強化され、反応が間に合えば質量攻撃の威力を殺すこともできる。シンプルゆえに扱うには優れた技量が必須であり、シンプルゆえに使いこなせば絶対に強力になれる星辰光。

 

 更に禁手の恩恵により、彼は自力で魔星の領域へと到達。極限に到達した出力と収束性は、あらゆる敵を圧倒する武の極限へと近づいた。

 

 強き決意と精神力をもって、信仰の敵を打ち砕く。ストラス・デュランの星辰光である。

 

★詠唱

 

 創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌く流れ星

 

 主の愛に応えるがために幾年月、磨き上げたはこの力。代行として悪を討つ、天の武は此処に参上する

 

 怒りの裁き。慈愛の許し。矛盾を併せ持つ威光こそ、我らが主の輝きなり。

 

 汝が罪を悔いるなら、今が改める時である。決してたやすくない贖罪、我らが支えとなろうとも。

 

 恥じぬというなら是非も無し。代行されし裁きによって、お主を審判へと送り出そう。

 

 僭越なる代行の重さを背負い、聖なる騎士がここに立つ。主の裁定が下るその時まで、恥じぬ生き様見せようぞ

 

 超新星(メタルノヴァ)祈りの守護者、聖なる勇士は此処に(パワーズ=フォース・ガーディアン)

 

 

 

 

◎敵対勢力

 

〇禍の団

 

●洗殺隊

 

☆アルグラブ・スタードライブ

 

星の重みは神罰が如き、砕け散れ(アースメイス・スーパードライブ)

基準値:

発動値:AAA

収束性:AA

拡散性:B

操縦性:AA

付属性:D

維持性:AA

干渉性:D

 

 アルグラブ・スタードライブが振るう星辰光。

 振るう能力は星槌創生運用能力。自分を丸ごと隠せるサイズの星槌を複数具現化し、自在に操って攻撃する星辰光。

 

 高い出力は合計十五の星槌を生み出すこととなり、更に収束性・拡散性・操縦性・維持性の四つがもれなく非常に優秀以上であり、隙の無い自在な攻撃を可能とする。

 一撃一撃の重さは、文字通り隕石の直撃に匹敵。それを広範囲かつ自由自在に振るう権能は、攻防一体の体現者。スタードライブは素の性能が魔王クラスであり、この星は単独で眷属の群れを作るが如き異能となる。

 

 シンプルイズベストを地で行く星であり、

 

 その猛攻はまさに圧殺。羽虫の如く敵を叩き潰しながら、そこに高揚は一切ない。

 害虫を駆除するに快楽は不要。ただ不快感を払うが為に殺すのみ。

 

★詠唱

 創生せよ、地より溢れし星辰よ―――我らは煌く星の使徒。

 

 青き宝珠、命育む奇跡の星。今ここに、その輝きを代行せん。

 無尽に広がる星の海。その砂粒の一つにある、この奇跡に宿る我らが幸運。そこに感謝を捧げよう。

 

 故に星敵粉砕あるのみ。星の重みで押し潰されろ。

 この一撃こそ星の代行。大地を汚すというのなら、その業に立ち向かうが義務である。

 

 汝、星に挑む価値はあるか? 能わるのなら、砕け散れ。

 

 超新星(メタルノヴァ)——星の重みは神罰が如き、砕け散れ(アースメイス・スーパードライブ)

 

 

☆通常真徒

 

畏敬に能う母星の輝き、平伏せよ(アースセイバー・フルドライブ)

基準値:C

発動値:

収束性:B

拡散性:B

操縦性:AA

付属性:D

維持性:AA

干渉性:D

 

 

 それは、星と繋がる共成体。世界に刻まれた異端の反動。

 生物としての完全上位種。その力、人に対して牙を向く。

 

 基本的な真徒が保有する星辰光。能力は星剣創生運用能力。星の力を宿した星剣を作り出し自在に操作する星辰光。

 星剣は優れた切れ味と強度を保有しており、聖剣創造や魔剣創造の下手な禁手を超える性能を維持。基準値でも二本創造し、発動値では五本同時に扱うことが可能。

 

 高い収束性と拡散性により、頑丈なそれらを広範囲で使役可能。更に極まって高い操縦性と維持性により、長時間正確に運用可能。星剣は自在に操作できる為持つ必要がなく、それにより斬撃・刺突といった攻撃だけでなく、巨体による受け止めや受け流しによる防御も可能。

 総じて強大な星であり、これ単体で下手な上級悪魔を眷属事蹂躙可能。また星辰体と感応して発動する都合上、星そのものは星辰体と感応できるなら地球外でも燃費が変わらないという利点がある。

 

 総じて圧倒的な星であり、単独で魔星を相手どれるだけの星辰光。

 全ては地球と繋がる共成体としてのみ振るわれる刃。星敵とみなされれば最後、斬撃の檻は万象を断つ

 

★詠唱

 

 創生せよ、地より溢れし星辰よ―――我らは煌く星の使徒。

 

 青き宝珠、命育む奇跡の星。今ここに、その輝きを代行せん。

 無尽に広がる星の海。その砂粒の一つにある、この奇跡に宿る我らが幸運。そこに感謝を捧げよう。

 

 抜刀せよ、星の刃。その煌きは至宝の如く。その一閃は神仏魔王に傷をつけると保証しよう。

 ゆえに我らが怨敵よ、その愚行を悔いるがいい。この刃、汝を屠る得物足りえると知るがいい。

 

 汝、この星の敵であるか? その真偽、(つるぎ)によって審問する。

 

 超新星(メタルノヴァ)――畏敬に能う母星の輝き、平伏せよ(アースセイバー・フルドライブ)

 

 と、通常の真徒はこんな感じ。人造惑星と比べると若干見劣りがするような星ですが、割と万能に設計しております。

 そして真徒はこれ以外にも様々に強力な存在なので、割と勝ちでヤバめっすね。地球上ならツーマンセルでイッセーを抑え込める程度には強いです。

 

 

〇ハーデス陣営

 

☆マークツヴァイ(阿武隈川人)

 

勝利掴め、人界制す魔剣軍(ミッドガルズ=ソード・アンリミテッド)

基準値:

発動値:AA

収束性:AA

拡散性:

操縦性:AA

付属性:D

維持性:

干渉性:

 

 

 マークツヴァイの星辰光。振るう星の名は魔剣創造多重再現能力・独立具現型。

 魔剣創造という神器を、魔剣を振るう騎士という亜種の形で多重に再現する能力。

 

 もとよりこの系統の神器は魔剣を振るう騎士を複数具現化して操る禁手を保有しており、ある意味で上位互換となる。何故なら複数の騎士を多重再現することで運用するばかりか、禁手を同時に複数展開することが可能である故。強いて言うなら亜種として具現化した性質上、騎士に渡してもらわなければ当人は魔剣を振るえないのが難点だが、至ればそれで済む話なうえ、当人が強力なので欠陥というほどではない。

 また禁手そのものに干渉しあうことで、複数の禁手を組み合わせた隙の無い戦闘も可能になるのが利点。基本的には多種多様な魔の武装で攻め立てる魔剣の騎士団を呼び出しつつ、聖魔の昇華を果たした己の準神滅具を武器に魔剣の騎馬で一撃離脱の各個撃破を狙うのが基本戦術。応用することで遠隔地から魔の弾丸を放つ機関銃の飽和戦術をとることも可能など、ただでさえ手札が多い創造系神器をさらに拡張する戦術をとることが可能。

 マークツヴァイ自身も英才教育を受けている為、複数を組み合わせた戦術をいくつも使用できるところが驚異的。条件反射レベルで複雑な禁手の組み合わせを行うことができるがゆえに、彼は最高出力で劣りながらも同僚の人造惑星で最強クラスを自負できる。

 

 ……翻って、既に彼の力量は円熟に到達している節があるのが唯一の欠点。彼自身が殻を破らねばここから先の成長は見込めず、それゆえに星辰奏者の時点で聖血宿さぬ九成和地相手に、準神滅具二つというマウントをとれながらも同等の力量に甘んじていた。

 人生の悟り、勝利の答え。極晃星に到達した、涙換救済は魔星の完全上位互換。ゆえに彼が雪辱を晴らすには、次元の違いに食らいつく、心の輝きが必要となる。

 

 殻を破ることができるのか。それこそが無尽斬撃の命題である。

 

★詠唱

 創生せよ、天に描いた守護星よ———我らは鋼の流れ星。

 

 今ここに、我らは神に見初められん。約束された破滅に挑む、黄昏の戦が約束された。

 

 栄光の死により俗世を飛び立ち、迎えられるは神域の楽園。約束されるは英雄の座。汝は人界に留まる器でないのだと、荘厳たる神々が、我が身を褒め称えてくれたのだ。

 故に我、凡俗を超えた傑物なり。幾千の敵が集まろうと、有象無象が我を討つこと能わず。この身が示す魔剣の群れが、鎧袖一触、一騎当千の威光を示して屠るのみ。

 

 故にこそ、恨めしいのは我が宿敵。汝の守りが忌々しい。

 

 絶対なる救済。嘆きの変換。涙の意味を変えるという、妄言こそが我が怨敵。

 幾千の刃も聖なる一閃も、汝の守りを切り裂けぬ。あろうことか絶対なる絡繰りの仮面すら預けられる、面従腹背が苛立たしい。

 

 故に、我が栄光は汝の死の先にある。

 苦渋にまみれ、絶望せよ。それこそが我が黄昏の先にある新世界にほかならぬ。

 

 超新星(メタルノヴァ)——勝利掴め、人界制す魔剣軍(ミッドガルズ=ソード・アンリミテッド)

 

 

 

〇その他敵対勢力

 

☆カイザー・ヴォルテックス

 

星穿つ大いなる渦、顕現の時(ヴォルテックス・ブレイカー)

基準値:B

発動値:

収束性:B

拡散性:C

操縦性:B

付属性:C

維持性:C

干渉性:B

 

 カイザー・ヴォルテックスが振るう星辰光。星辰体回転運動発生能力。星辰体そのものに干渉し、回転運動により発生した渦で戦闘を行う能力。

 星辰体そのものに干渉する関係上、対星辰奏者・人造惑星に対して絶大な対応力が持ち味。星辰体に由来する戦闘においては乱れが生じる為、敵対する星辰奏者や人造惑星は大きな不調を背負った状態で挑む必要が生まれてしまう。

 

 基本的にはドリル上にしての近接攻撃が基本だが、足に展開しての高速移動・高速飛行・高速潜航も可能。また渦の回転運動は攻撃を受け流すことにも長けており、攻防移動と隙が無い汎用性を誇る。

 

 全ては大いなる渦に世界を呑み込ませるが為。

 

 禍すら超える渦を齎さんとする悪鬼、カイザー・ヴォルテックスの星辰光である。

 

 



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序章 第一話 悪魔の未来を担う者達

 ……ハイどうもー! 感想も高評価も、いずれは推薦ももらいたいし、捜索掲示板でも紹介してくれるとすっごい嬉しい感じなグレン×グレンでっす!

 そういうわけで第二部突入! アザゼル杯編に関わる話に突入し始めておりまっす!

 ここまでこれたのは本当に久しぶりです。自分の癖というか性質を見抜けたこともそうですが、応援してくれた方々が心の支えとなってくれました。

 ……かなり低評価も多かったですが。少し評価が上がったと思ったら1がすかさず叩き込まれるのなんだったんだろうか。

 まぁ、低評価した人達が第二部にまで入ってくるわけないでしょうから、第二部は平均評価も上がるでしょう! ……上がるよね!? コメント必須にするけど、一言応援してくれればいいだけにとどめるし……イケるかな!?

 まぁそれはともかく、序章の始まりでっす!


Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冥界における観光都市の最先端。レーティングゲームの聖地であるアグレアス。

 

 ここにあるホテルの一室。有力貴族をメイン層としたホテルの会議室を借り切って、数人の悪魔が集まっていた。

 

「……すいません。このメンツに私がいることが不思議なんですが」

 

 そう緊張というより、げんなりというべき感情を隠しきれていないのは、マルガレーテ・ゼプル

 

 魔王ベルゼブブの血が先祖返りしたが、その価値観から魔王の血族として生きることを望まない女性。

 

 そんな彼女がこの場の傑物が集まっている一室に入っていることに、げんなりするのは当然だろう。

 

 だが同時に、この場を作った者は安心させるように微笑んだ。

 

「君はただの護衛だよ。シュウマ殿の一件があるから、ティラでは少々邪推されるかと思ってね。この場に後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)を連れてくるわけにはいかないだろう?」

 

「なるほど。まぁ、あいつらはその辺りは弁えてくれるからいいんですけど」

 

 その答えに納得したのか、マルガレーテは一歩後ろに下がるとそのまま直立不動になる。

 

 同時にいつでも戦闘に移れる力具合であり、それを見た二名の悪魔は素直に評価の感情を浮かべている。

 

 万が一を考慮して構えるのは護衛としては妥当な判断。むしろここまで優れた資質を見せていることに評価を示したい。

 

 だが同時に、彼女の地雷を指摘する可能性を悟っていたので、二人は揃って言及は避けていた。

 

 そしてそれが偶発的につつかれることが無いよう、フロンズは小さく苦笑をしながら話を始めることにする。

 

「今回はお呼び立てして申し訳ない。ただ今後の冥界の未来を左右するとはいえ、ある意味では与太話なので、お茶でも飲みながら出構いませんよ、グレイフィア殿」

 

「……では失礼して。……なるほど、いい茶葉ですね」

 

 そういう対応をとるのは、グレイフィア・ルキフグス。

 

 隔離結界領域に向かうサーゼクス・ルシファーが遺した唯一の眷属。最強の女王(クイーン)銀髪の殲滅女王(クイーン・オブ・ディザウア)と呼ばれる、魔王クラスの純血悪魔である。

 

 同等とされたロイガン・ベルフェゴールが不正を明かし処罰を受け、魔王セラフォルー・レヴィアタンが隔離結界領域に旅立った今、彼女は女性悪魔最強そのものだ。

 

 そんな彼女をあえて呼び出しながら、フロンズは最低限の礼節をとりながらも余裕だった。

 

 分かっているのだ。グレイフィアはこの場でこちらを害することはないし、害する気にさせるつもりはこちらにないし、万が一にも満たない可能性が起きたとしてもマルガレーテがいれば、外にいる警備班が来るまでは余裕でしのげると。

 

 そしてそんな彼は、表情を鋭くするともう一人の人物に視線を向ける。

 

「そちらも飲むと良い。というより、入れた侍女が気にするだろうから、飲めとすら言いたいのだがね」

 

「……罪人が、こんなところで茶をたしなむわけにはいかないだろう」

 

 そう返すのは、ディハウザー・ベリアル。

 

 皇帝(エンペラー)の異名すら持つ、レーティングゲーム不動のトップ。純血悪魔が誇る、魔王クラスの傑物。

 

 ビィディゼ・アバドンが不正の結果である駒を封印され、ファルビウム・アスモデウスとサーゼクス・ルシファーが隔離結界領域に旅立った今、彼はアジュカ・ベルゼブブに次ぐ最強格の純血悪魔。真っ向勝負でもグレイフィア・ルキフグスと渡り合えるだろう。

 

 そんな冥界でも指折りの戦士を前にして、フロンズは冷たい表情を浮かべている。

 

「いいから飲みたまえ。罪人なら尚更、飲めと言われたものを拒むわけにはいかぬと思うが?」

 

「……そういわれると断れないな。……ふむ、確かに茶葉だけでなく入れたものも良いものだ」

 

 その二人を見てから、フロンズも改めて紅茶を一口飲む。

 

 そのうえで、彼は二人に対して本題を告げる。

 

「さて、前置きをするとこの場の話は、アジュカ・ベルゼブブ様及びゼクラム・バアル様のお二人にも許可を得ている。そういう大前提で進めてもらいたい」

 

「構いませんが、どういう話ですか?」

 

 そう切り込むグレイフィアに、フロンズはこともなげに告げた。

 

「単純明快に言いましょう。……私が主導で推し進めている九大罪王制度、その枠についてもらいたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、地球のある一角。

 

 アジュカ・ベルゼブブが個人的に持っているビルの屋上庭園。

 

 そこでアジュカは、破壊神シヴァと語らいをしていた。

 

「ふふふ。国際レーティングゲームの準備は滞りなく進んでいるようだね」

 

「大王派の主導権をフロンズ・フィーニクスが握ってくれましたからね。彼は中々バランスを考慮して動いてくれているので助かります」

 

 そう語る彼らの視線の先には、タブレットに表示された各種データがある。

 

 それは「国際レーティングゲーム大会「アザゼル杯」」の文字が浮かんでいた。

 

 もとより、レーティングゲームの国際化は冥界でも進められていた。

 

 レーティングゲームそのものに各勢力が興味を持っていることが一つ。和平によって溜まるだろう、不満のガス抜きに代理戦争じみたものを用意したかったことが一つ。またレーティングゲームの不正をどうにかする手法として、数多くの勢力が目を光らせられるようにしたかったこともある。

 

 ディハウザー・ベリアルが隠し立てせずに大きな公表をした時には肝が冷えた者も多かっただろうが、おかげでいいきっかけになったところはある。

 

「シヴァ様がご協力してくださったことには感謝しています。お互いに思惑を叶える為に共存共栄といきましょうか」

 

「そうだね。まぁ、ブラフマーやヴィシュヌ、その他の隔離結界領域に向かった者達に恥じる真似はしないと約束しようか」

 

 そう語り合いながら、シヴァは同時に興味深そうな表情を浮かべ、モニターを操作する。

 

 そこに映るはフロンズ・フィーニクス。

 

 その下に移る「最上級悪魔」の階級に、彼は笑みを深くする。

 

「政治の分野の功績を中心としての最上級悪魔。分家出身の若手でありながら、現在の大王派は彼が取り仕切っていると聞いているよ」

 

「もとよりフィーニクス家は、冥界の出生率問題に多大な貢献を果たしていますからね。大王派から多発する不正問題において、シロの者達を上手くまとめ上げた手腕に、俺たち魔王派や初代バアル殿たち旧家の価値観を配慮して、上手く中継点となっていることが大きいもので。それに見合った地位につけないわけにはいきませんよ」

 

 そう告げるアジュカは、流石に少し苦笑気味だった。

 

「……正直少し不安もありますがね。まぁ、当面は問題ないとは思いますが」

 

「九大罪王制度だっけ? 大王派主導で進めていた計画なのに、初代罪王に傘下はおろか大王派寄りの者を一切入れないように動いているそうじゃないか」

 

 その対応は、スタンスの表明といえるのだろう。

 

 当面、大王派は魔王派より下でいい。発言力が低下しているが、それを罪王で補おうとは考えない。

 

 この対応は殊勝と捉えられ、魔王派からもそれなりに安心感を生んでいる。

 

 とはいえ、ここにいる者は楽観的には動いていなかったが。

 

「抜け目なく、そんな罪王達が配慮せざるを得ない地位には何人か滑り込ませようとしていますがね。まぁ、こちらが強く出そうになる前に引く程度の行動ですが」

 

「発言力が得られればいいけど、それで敵を作るような真似をしてまではしないか。これはあれだね、既に数百年ぐらい先を見越しているようだ」

 

 そう評価するシヴァは、そのうえでタブレットを操作する。

 

「……ただし、血統や歴史を重視する大王派として相応の策は取っている。この提案はそういう事かな?」

 

 そう尋ねるだけの一手。

 

 それはフロンズが直々に「初代罪王の有力候補」として提案した、二名の悪魔。

 

 映し出されるは、グレイフィア・ルキフグスとディハウザー・ベリアルの二名だった。

 

「……奇手ではあるけど、同時に効果的だ。グレイフィア(彼女)は今も昔も魔王クラスで、魔王の妻でもあったからね。ベリアルの方は元々大王派だけど、この流れで大王のシンパと思われることはないだろう」

 

「大概的には恩赦にしつつ、実態としては処罰として強制させるようですがね。冥界の未来に効果的な一手を入れつつ、皮肉を極めて私怨もぶつけているようです」

 

 ことディハウザーに関していえば、そう言うほかない。

 

 今頃その話をしている頃だろうし、ディハウザーは渋い顔になっているはず。

 

 そう思いながら、アジュカは少しだけ彼に同情した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一応言っておくがディハウザー殿。貴殿においては強制であり、拒否権はない。アジュカ様とゼクラム様双方に話も通しているのでね」

 

 ディハウザーが拒否されるより早く。フロンズは前もって釘を刺す。

 

「私を魔王の後継にするなど、民意が納得するのかね?」

 

「するさ。そういうお膳立ては既に準備をしているからな」

 

 そう切り返すと、フロンズは機器を操作して後ろのモニターに情報を展開する。

 

 そこに映し出されるは「アザゼル杯」の文字とその概要だった。

 

「貴殿の告発に対するある種のアンサーとして、よりクリーンなレーティングゲームの取り組みとして、このような催しが行われる予定となっている。アジュカ様たちは同様の催しをかつてから起こしたがっており、貴殿の()()()()を上手く利用し、ここから各勢力の目が光るレーティングゲームを作り上げたいようだ」

 

 そしてモニターを操作しつつ、いくつかの情報をピックアップしていく。

 

「しかしレーティングゲームというルールがあるとはいえ、この催しが起こればプロのプレイヤーでも上位に入れるかは分からない。そしてそれは場合によっては、悪魔側の不満に繋がりかねないだろう」

 

 そう告げ、そしてフロンズは指を鳴らす。

 

「だからこそ、それなりの方法は必要なのだよ。「彼でもできないなら仕方がない」か「神が相手でも彼なら勝てるんだ」のどちらかがね?」

 

「……今更私に、ゲームの英雄と成れというのか?」

 

 ディハウザーの視線は鋭くなるが、フロンズも鋭い視線でそれに対応する。

 

「不正はさせん。貴殿が実力で負けたのなら民も諦めがつくし、貴殿の実力が届けば民の希望となる」

 

 そう告げるフロンズの表情は、しかし鋭さを通り越して一種の敵意があった。

 

 それはディハウザーが魔王クラスであろうと変わらない。むしろそんなことは問題ではない。

 

 相手は現状罪人であり、政治の場において自分は冥界でも指折りの発言力を持つ。そして護衛は彼が本気を出しても対応する余地がある。

 

 直接勝てなくても、それ以外の形で引きずり落とせる。政治という自身の強みを自覚しているがゆえに、フロンズはディハウザーと真っ向からにらみ合える。

 

「分かりやすく言い換えよう。悪魔にとってのレーティングゲームの価値を大きく減じた行動を償え。レーティングゲームにとっての悪魔の価値を守る為に生きることでな」

 

 そのうえで、しかしフロンズは更に続けて()()()()

 

「貴殿が性急かつ乱暴な真似をした所為で、出なくてもいい()()が多数出ているのだ。……それなりの報いは受けてもらわんとこちらも気が済まんのだよ……っ」

 

 怒気は隠し切れない。

 

 フロンズ・フィーニクスにとって、シュウマ・バアルを失ったことはそれだけの重みをもっている。

 

 そして、彼のように不正をさせられた者達を思えば、彼らに温情を与えきれないこの流れは不快感すら覚えていた。

 

 ゆえに、フロンズはベリアル家そのものが大王派寄りであることを踏まえてなお、ディハウザーを罪王候補として推薦した。

 

 既にベリアル家が大王派から離れて言っていることを踏まえてなお、余計な疑心が生まれるリスク込みであえてこの嫌がらせを行ったのだ。

 

「ちなみにベリアルは傲慢の大罪を司るとされているが、私は憤怒か怠惰にするよう求めているよ。激情に駆られて段取りと根回しを省略した貴殿に、これほど相応しい罪は無かろう?」

 

「……フロンズ様、しなくてもいい戦いはしたくないのですが……」

 

 思わずマルガレーテが苦言を呈するほど、フロンズからは珍しく毒が漏れている。

 

 今の発言からもよく分かる。要はベリアル家に相応しい罪には就けず、自分の愚行に相応しい罪で生きていけと言っているのだ。段取りを踏まえることを切れた勢いで怠けたことを背負い続けろと。

 

 そしてその毒と怒気に、ディハウザーは渋面を浮かべながらも引く構えを見せた。

 

「……道化となってでも冥界に光を齎すこと。その為の人身御供になることが、私の罰か……」

 

 その流れである種の区切りができたと判断したのか。それともこのまま二人に話させると暴発が起きると踏んだのか。

 

 グレイフィアは此処で、飲んでいた紅茶のカップをあえて音を立てて置く事で、意識を自分に向けさせる。

 

「その流れだと、私の場合は強制ではないという事かしら?」

 

 それはルシファーに使えるメイドのグレイフィアではなく、サーゼクスと愛し合う妻のグレイフィアとしての顔。

 

 その顔で、グレイフィアは確認する。

 

 ディハウザーに関しては拒否権がない。むしろそれをもって罰とする。それはすなわち、グレイフィアにとってはそうではない。

 

 そしてそれを、フロンズは素直に頷いた。

 

「貴殿に関しては強制の余地がありません。最も、アジュカ様もゼクラム様も貴女が罪王に就任するだけの資格があるとみていますがね」

 

 当然だろう。

 

 大王派をまとめているとはいえ、フロンズの権限ではグレイフィアに対して何かを強制できる立場にない。

 

 しかし同時に、アジュカ・ベルゼブブもゼクラム・バアルも認めているのだ。女性純血悪魔で最強の彼女は、罪王に就任するだけの箔と説得力があると。

 

「魔王クラスの力量を持ち、サーゼクス・ルシファーと愛し合う妻。貴女なら、夫が一万年を賭けてでも繋げた冥界の未来を支える王となることは、ディハウザー殿の贖罪に並ぶ美談です。ゆえにまとめて話を振らせていただきました」

 

「なるほど。ディハウザーとだけ話すのは、不安要素があったようですね」

 

 その切り返しを、フロンズは否定しない。

 

 毒が漏れることを事前に想定して、ディハウザーも自分も最低限の冷静さが取れる状況を作る。なのでまとめて話をするのも兼ね、グレイフィアをストッパー役に据えているという事だろう。

 

 それをあえて意に介さずグレイフィアは目を伏せ、少し考えこんだ。

 

 数秒、それだけで彼女は考えをまとめて目を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その返答に、フロンズもディハウザーもマルガレーテも目を見開いた。

 

 そしてフロンズは―

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、ではこういう流れが必要なのですが―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからくる話し合い。それを聞いたディハウザーとマルガレーテは、こう思ったことを身内に語っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―胃が痛くなる話し合いだった―

 




【悲報】フロンズ・フィーニクス、最上級悪魔就任【大王派復活の兆し】

インフレバトル界に政治力で立ち回る若手悪魔、大王派の事実上の運営役としてふさわしい地位に到達。

 そんな彼の動きから始まる第一話。とりあえずいろいろと動くことになりました。

 フロンズはあくまで冥界の発展も踏まえているため、アジュカやゼクラムにきちんと許可をとったうえで活動中。そして冥界発達の一環として、新しい統治者である罪王関連で立ち回っております。

 今の大王派が権限をごり押しするわけにはいかないので、罪王候補から大王派は意図的に排除。その上で隙あらばある程度の発言力を狙いつつ、冥界全体の未来にふさわしい奴を数人ノミネートさせたいという考え。

 そこでノミネートされたのがグレイフィアとディハウザー。魔王クラスの戦闘能力を持ち、民衆からの人気が莫大だろう二人です。

 ディハウザーに関しては当人が隠しきれてない通り、ある種の嫌がらせも兼ねた強制です。同時に「英雄派やヴァーリチームが堂々と表を歩けるのだから、この男がそれぐらいになっても何の問題もないだろう」という認識もありますが。とにかく「馬車馬の如く罪王として忙殺されるがいい」といったぐらいですね。指定した地位も皮肉極まりないのを選んでおりますし。

 逆に要請にとどまっているグレイフィアに関してですが、原作を知っているなら予想できるある理由もあっていろいろと動きが。

 ……原作とはいろいろと異なる展開を少しずつ入れようかと思っております。びっくりしてね?


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序章 第二話 久しぶりの安らぎ

 ハイどうもー! 感想も高評価も推薦も捜索掲示板の紹介も欲しているグレン×グレンでっす!

 いやぁ、第一部では「完結もしているし、評価をよくしているけどこっちではまだしてない人もいるし、完結記念期待できるかなぁ?」などと思ってたけど、逆に下がっているのがこの予約投稿段階。ちょっと凹んでるぜぇ……。

 まぁいい! 毎度毎度カウンターの如く出てきた1評価に関しては、第二部になってからわざわざ入れる物好きだらけなわけがない! さすがに上がるだろうから、気合入れ直そう!







 そういうわけで、インパクト重視の第一話と異なり、序章第二話は主人公たちも出てくるぜぇっ!!


 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はまどろみから目を覚ますと、人肌のぬくもりを感じて苦笑を浮かべた。

 

「……ぇへぇ……天ぷらぁ……いっぱぁぃ……」

 

 好物の夢を見ながら、よだれを垂らして寝言をつぶやく鶴羽。

 

「……すぅ……ぅ……~」

 

 転じて静かに寝息を立てているのはカズヒ。

 

 うん、こういうのも平和でいいんだろう。イッセーから時々嫉妬の視線を向けられるけど、悪質な嫌がらせはされてないからいいだろう。男としては色々最高です。

 

 ただそれは置いといて。

 

 俺は左右で眠る二人を見てから、真ん中で震えている最後の一人に向いた。

 

「……おはよう、というより……寝れたか、リーネス?」

 

「い、一時間に五分は……っ」

 

 全然寝れてないな。これは恥ずかしくて、寝たくても寝れなくて寝てもすぐ起きてしまうパターンかぁ。

 

 おいおい、今日は学校あるぞ。

 

 やはり学校がある日の夜にこういうのはダメな奴だったな。……人数が多いから、こういう時もそこそこ入れないとダメなんだった。

 

 まぁスケジュール調整はしながらやっているし、今後調整するべきだろう。ただリーネス、教室が違うからフォローしきれないんだよなぁ。

 

「というより、だ。なんでカズヒも鶴羽もリーネスの初夜を完全サポート体制なんだ。初夜が4〇とか、客観的に考えてアブノーマルすぎないか?」

 

 俺もカズヒも鶴羽も、性体験が独特ではある。独特ではあるけど、これは流石に客観視してアレになるだろう。

 

 ちょっと頭痛を覚える中、リーネスも思い出して更に恥ずかしくなっているのか、またプルプル震えてるし。

 

「御免なさぁい。その、待ちきれなくて……睡眠不足気味で……」

 

「ああ、だから退院祝いでいきなりこの流れになったのか」

 

 実は昨日まで、俺とカズヒは入院中だった。

 

 色々滅茶苦茶なことをしていたので検査入院的なあれだ。おかげでだいぶ引っ張られた。

 

 なので、リーネスの告白に正しく答えている暇もなかったわけで……うん。

 

「リーネス」

 

「え……っ!」

 

 俺はそっと、リーネスを抱きしめる。

 

 抱きしめて、リーネスのすぐ近くで深呼吸。

 

 うん。大丈夫。

 

「大丈夫。俺はリーネスのことをそういう意味で好きだと思えてるし、これからもっと思えるって確信できた」

 

 だから、俺はぎゅっとリーネスを抱きしめる。

 

「落ち着いたら、デートしような?」

 

「え……ぁ……は……ぃ」

 

 わぁい。すっごい可愛いリーネスが堪能できましたぁ。

 

「と、いうわけでそろそろ起きていいぞ~、二人とも」

 

「「……う゛」」

 

 ちなみに、途中からカズヒも鶴羽も起きていることは気づいてました。

 

 こういう時に親友に気遣えるのなら、そもそも初夜の完全サポートとかいった暴走はしない方がいいのでは。俺はちょっと首を傾げてしまったりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 降りてきた九成達と朝食を食べるけど、朝の話題は一つになってる感じだな。

 

「マジか、国際レーティングゲーム? この時期に?」

 

「そうなんだよ。俺もついさっきレイヴェル達から聞いたばかりでさ、結構驚いてる」

 

 九成も流石に知らなかったみたいで、俺達もちょっと話が弾んでるな。

 

 なんでも、アジュカ様にインドの破壊神シヴァ様を筆頭としてそんな話になったらしい。

 

 こんな時期にって気もするけど、同時にこんな時期だからかもしれない。

 

「この一年は色々と大変だったからなぁ。そういう意味だと、民衆の心を慰撫する感じなんだろうなぁ」

 

 なんとなくだけど、俺もそんなことが分かるようになってきた。

 

 龍神化の反動とかで全然できてないけど、こういう時こそおっぱいドラゴンの公演とかを冥界でした方がいいじゃないかって思うしな。その一環なんだろう。

 

「そうですね。和平が結ばれてから禍の団との闘いが何度も起きてますし、このままだと和平に負の印象が生まれるかもしれませんし」

 

「ありえますね。和平そのものが多くの混乱のきっかけになったと、そういう風に考えてしまう者はいるでしょうし」

 

 ルーシアとロスヴァイセさんも、朝食を食べながらそんなことを言ってくる。

 

 なるほど。そういう風に考えてしまう時もあるのか。

 

「それはそうですわね。領民達の心を慰撫することも王の仕事、そういうイベントを用意するのもまた必要な業務ですわ。イッセー様も、追いついたらおっぱいドラゴンのイベント要望が来ておりますのでいくつかは受け入れてくださいませ」

 

 そして敏腕マネージャーのレイヴェルからも、厳しくも頼もしい意見が飛んできた。

 

 うん、やっぱり出てくるか。

 

 俺も頑張らないとな。おっぱいドラゴンはこういう時こそ、冥界の子供達に笑顔を届けないと!

 

 気合を入れて朝飯を食べるけど、母さんと父さんがなんかしみじみといった表情だった。

 

「お父さん、イッセーが、イッセーがなんか広い視野で物事を語っているわ。……成長、したのねぇ……っ」

 

「ああ、母さんや。俺達の息子が世界とか国家とか、そういう規模のことを考えるようになったんだ……っ」

 

 そんな光景を見た九成は、俺の方とちらりと見た。

 

「親孝行、きちんとしろよ?」

 

「はい」

 

 色々親関係がアレな九成が言うと、何も言えない。

 

 さて、こういう時はカズヒとかも一家言とかありそうだけど―

 

「「「「「……卵かけご飯、お代わりっ!!」」」」」

 

 ―今日は卵かけご飯だった! こりゃ無理だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ま、そんなこんなで俺達は、それなりに平和を取り戻しながらも、変化を少しずつ見つけて言っている。

 

 そう、変化と言えばだ。

 

「そろそろ、俺達も進級だし、卒業式もあるんだよなぁ」

 

 もう二月。ならすぐに三月だ。

 

 俺達も三年生で、リアス達は卒業なんだよなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どの国家も色々と動いているみたいだね」

 

 なんとなく、僕は休み時間にそんな話をしていた。

 

 話をしているのは、ジュースを買いに行っている時に出会った匙君だ。

 

 流石に禍の団との闘いも当分は鎮まるだろうと思っていたのもあり、ちょっと話がはずんでいる形だね。

 

「ああ、特に日本は大変だぜ? なんたって、皇族が変態達にターゲットにされたわけだしな」

 

 匙君は少し頬を引きつらせているけど、仕方ないところもあるだろう。

 

 日本という国において、天皇一族は象徴として、今現在においても凄まじく重い要素だ。そんな彼らが寄りにもよって、「全人類を淫乱な変態にする」なんて言う思想で動く組織に害されるところだったわけだしね。しかもその過程で東京都心が戦場になったんだから、それは衝撃的だろう。

 

 アポプスが率いたトライヘキサと邪龍達で、ただでさえ自衛隊には被害が出ている。その再編は復活を考慮していたこともあって、日本は国防強化に凄まじく力を振るっているようだし。

 

「しかもほら、あいつらの置き土産というかなんていうか……あれだろ?」

 

「そうだね。あんなものを手に入れたら、国家も大きな動きを加速させるだろうさ」

 

 お互いに苦笑するけど、これもまた衝撃的だろう。

 

 大欲情教団の地下性都と呼ばれた拠点。その、本部ともいえる地域。

 

 禍の団との闘いなどもあって壊滅的で、回収できた技術や設備は僅かではある。ただ同時に、周囲を含めた土地そのものは得られている。そして、それは聖墓によって作られている。

 

 現世聖域の墓標(カテドラル・グレイブ)。神の子が埋葬された聖墓に由来する聖遺物。地脈や地殻変動の力を利用して、地形を変動させるだけでなく優れた加護を与える聖別された聖域を作り出す神滅具。

 

 彼らは教主が宿したそれを基点として、神器をそうとは知らずに研究して、再現まで行った。そして教主もそれを使い、地下性都を作り上げた。

 

 その所為だろう。彼らは来るべき全世界変態化における橋頭保としても性都を作り上げていたのか、周囲の土地にも影響を与えていた。

 

 おそらく、地球という大地の地下深くにある資源だ。それを世界各地に作り上げているだろう地下性都や拠点の地脈及び地殻変動を使い、集めたんだ。

 

 本部中の本部であることもあってか、地下性都近辺は何時の間にか鉱脈の宝庫となっている。

 

 そこはもはや、鉱脈の見本市。金や銀といった貴金属、ダイヤモンドやルビーといった宝石類、更にいわゆるレアアースまであり、最低でも*1一世紀は輸入を必要としないどころか、小銭稼ぎ程度の輸出も狙えるとされている。間違いなく国家財政的に莫大な恩恵を与えるだろう。

 

 それもあって、防衛費に国内GDP比率の大幅引き上げは確定。まずそこに注力しているようだけど、大欲情教団が暴れたこともあって国内外を問わず問題視されていない。

 

 とはいえ、かなり思い切ったことを進めているようだけどね。

 

「確か、憲法九条の解釈を大幅に変えているとかニュースで見たよ」

 

「「友好国が侵略されれば間接的に自国も侵略される。ゆえに、自国の為に()()()()()()()()()()()ことも国防活動である」だったな。まさか型落ちとはいえ兵器の輸出やライセンス生産って話まで出るなんてな……」

 

 匙君も遠い目をしているね。

 

 ……日本の自衛隊は、他国の軍隊と比較しても質は高い方だ。独自に攻撃潜水艦を開発し、第三世代戦車を国産で運用しているしね。

 

 それに伴い、最新型に刷新されていく一世代前の兵器に目を付けたらしい。他国のさらに質で劣る兵器の刷新にそれらを使い、場合によってはライセンス生産まで許すという対応をとっているそうだ。

 

 はっきり言ってかなりこじつけに近いけど、大欲情教団対策は世界的な急務。その一環としての側面もあり、今のところ国内外問わず反対意見はさほどない*2

 

 というより、どこの国もそんな余裕はないだろう。

 

 ……回収することができた僅かな情報から、大欲情教団の拠点である地下性都は、国連加盟国全体で見れば平均1.5はあるとされている。国土や人口から逆算すれば、複数国で一か所という場合も想定される中で、だ。

 

 更に彼らによって連合艦隊で数多くの兵器が奪取された。中には戦略原子力潜水艦もあり、つまり彼らは核兵器を手にしてしまっている。

 

 結果としてどこの国も、軍事面でとにかく強化が必須。どこかの国が制圧されて性都ならぬ性国になったら目も当てられないとして、殆どの国家はまず自国及びシンパの国の軍事力強化を重視。対立国に対しても「自分の身を変態から守れるようにしろ」というスタンスらしい。

 

 結果として、日本のこの行動も容認されている。うるさく言いそうな中国も、空母を奪われるという大損害で余裕がないようだしね。

 

 そういう意味だと色々と大変ではあるけれど―

 

「……まぁ、ここから持ち直していくべきだろうさ。僕らもね?」

 

「だな。流石に当分は禍の団も動けないだろ」

 

 ―それを平和に繋げるのは、未来を担う僕達の仕事でもあるだろうさ。

*1
つまり、十中八九もっと長く続く

*2
そんな余裕がないとも言う




 とにもかくにも、大戦乱を潜り抜けた異形側。とんでもないテロに巻き込まれながらも、まぁ何とか乗り越えている人間側。

 どちらにしても、この第二部においてはどちらかと言えば準備期間といえる感じです。どの勢力にとっても……ね。


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序章 第三話 お久しぶりねの平和な学園♪

 ふっふっふ。書き溜めはまだ100kb以上あるぜぇ!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ二月だと寒くはあるけど、だからこそ屋上には人が少ないわけだ。

 

 そして寒い中で温かい飲み物を飲むのはある意味で格別ではある。

 

 そしてそんなことを考える俺は、今日は屋上で昼食を食べるようになっているわけだ。

 

「……あ、ああああ~ん」

 

「うん、あ~ん」

 

 ただし、リーネスと二人っきりである。

 

 ちなみにお膳立てをしたのはカズヒと鶴羽。既に数日前から準備をしていたらしく、人払いの魔術的措置をぶちかましていたらしい。

 

 正直何をやっているんだと言いたい。いや、親友を思う気持ちは尊いし、俺もそこは尊重したい、でもやりすぎである。

 

 まぁ、そういう状況下だからこそできる余地ってものもある。

 

 具体的には―

 

「しっかりこの拡張ユニット天才的だな。俺や木場が使えばいろんな意味で省スペースが確立されるし」

 

「そ、そうでしょぉ? 実は元々、私はこっち方面の研究に手を出していたのよぉ」

 

 ちょっと自慢げなリーネス特製の手袋をつけた俺は、今創造した鍋でチーズフォンドゥを食べている。

 

 学校の屋上でチーズフォンドゥ。教師陣に知られればツッコミが入りそうだが、調理器具を持ち込んでないから悟られない。ちなみに牛乳やソーセージなどは小型の保冷バッグを分散で隠し持って持ち込んだ形だ。

 

 いやぁ、チーズフォンドゥ美味しい。下茹でしてた野菜とかソーセージとかだけだけど、チーズを含めていいものばっかり持ち込まれてるから美味しい。

 

 そしてこの手袋はリーネスが研究していた、神器の拡張ユニット。

 

 ある意味でパラディンドッグの前身ともいえる技術だが、これにより俺の魔剣創造は発展し、剣どころか刃物でもない物を至ることなく創造している。コンロ無しで一定温度を維持する鍋とかだ。

 

「しっかしごめんな、入院長引いて? 本当ならまずデートが先だとは思ったんだけどさぁ」

 

 いやぁ、そこは困ったもんだ。

 

 退院タイミングもあったので、数日はデートに行っている暇もない。

 

 この屋上チーズフォンドゥは、つまるところ代用に近いその場しのぎだ。俺達が二人でいちゃつける空間を作って、少しだけ……って形なんだろう。

 

 まぁ、週末には流石にデートするけどな。リーネスはクラシックや雅楽主体で音楽鑑賞が趣味だから、そういったものが楽しめるカフェとかを巡りつつ、昼飯は卵専門店で卵かけご飯を中核とする飲食店をチェック済みだ。

 

 色々俺が鈍感で、メンタルに負荷もあったろうからなぁ。その分は頑張ってカバーさせてもらいますよっと。

 

 で、俺がチーズの管理をしつつリーネスがチーズを搦めてあーんする流れを続けていると、小さくリーネスが息を吐いた。

 

「……あ、お腹いっぱいになったか?」

 

「いいえぇ。そうじゃなくて……その……ねぇ?」

 

 ちょっと言いにくそうにしているので、俺は無言で微笑みながらそれを待つ。

 

 そしてちょっと言い難そうにしていたリーネスは、ふと空を見上げた。

 

「思ってなかったものぉ、こんなことぉ」

 

 そう呟いたリーネスは、感慨深い表情になっていた。

 

 今の自分が信じられないような、そんな表情。

 

 ただ、その雰囲気は悪くない。

 

「ずっと……ずっと、日美子達とまた会えるかもと、会えた時居場所が作れるようにと思ってたからねぇ? だから、私が彼氏を作るとか、考えてなかったもの」

 

 そうか。うん、そうだな。

 

 リーネスは、亜種聖杯で転生者を悟る魔眼まで作った。そうまでして、道間日美子(カズヒ)や、道間七緒(鶴羽)や、道間乙女(お袋)や、道間田知()を探していた。

 

 神の子を見張る者で頑張ってたのも、きっと居場所を作れる立場を得る為だったんだろう。そこをずっと頑張ってきて、そして今度は道間誠明(ミザリ)の件だ。付け加えるなら、道間乙女分裂問題とかもだろう。ヒマリとヒツギが共にいた時の、リーネスの精神状態はちょっと同情したくなる。

 

 だからこそ、自分が幸せを得る側になったことで困惑しているわけだ。

 

 だから、俺はそっとリーネスを抱き寄せた。

 

「……ありがとうな、リーネス」

 

「え……え、えぇ……っ!?」

 

 慌てるリーネスだけど、これは本心だ。

 

 いや、これだけじゃ駄目だな、うん。

 

「頑張ったな。本当によく頑張ったよ、ありがとう」

 

 ああ、これが本心だ。

 

 リーネスは本当に頑張ってくれた。俺達の居場所を作ろうとして、本当に作ってくれた。

 

 リーネスが色々と動いていなければ、俺は今頃カズヒと会えなかった。というか今頃死んでるしな。ついでに言うと、インガ姉ちゃん達を救えなかったとも思う。

 

 ああ、それにいろんなものをリーネスが用意してくれた。それがあるからこそ、俺達は生き残れた。

 

 今ここに俺がいるのは、リーネスのおかげだ。

 

「だから、思う存分俺で幸せになってくれ。これから俺は、リーネスを幸せにすることも頑張るから」

 

 ああ、確信した。

 

 俺はリーネスが好きになった。愛することができたし、これからもできる。

 

 だから、今はそっと抱きしめる。この気持ちが、少しでもリーネスに伝わるようにと。

 

「……ええ、よろしくねぇ」

 

 体重を少し預けてくれる、リーネスにちょっとはしゃぎそうになったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ちょっとぐらいはしゃいでいいのよぉ?」

 

「あれぇっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでバレてるっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は昼休み中にある呼び出しを受け、そしてその申し出を受けることにした。

 

 受けることにしたのはいいのだけれど……。

 

「イッセー、ちょっと相談があるわ。いえ、愚痴があるわ」

 

「俺最近なにかしたか!?」

 

 思わぬ展開と指名ビビられたわね。

 

「いや待ってくれ。本当にあれから覗きはしてないしエロ本だって学校じゃ見てないし、エロ話も人に聞こえないようにしてきたぞ!」

 

 本気で泡を食っているのは流石にショックだ。

 

「一応言っておくけど、それは日本の公序良俗よ。いえ、貴方の煩悩だと大変なのは分かっているけど」

 

 とりあえずそこは釘を刺しておく。

 

 イッセーにとってそれがどれだけ精神的に負荷がかかることであろうと、その所為で心因性のひきつけを起こそうとだ。あまりの頻度に今までヘイトをためていた女子生徒すら若干同情するようになっているとはいえ、そこは問題である。女子生徒の警察が知ったらガチで動くレベルの過剰報復とトントンにしたとはいえ、本来なら警察署に文字通り叩き込むことを考える問題行動だからだ。

 

 だがまぁ、今回はそこではない。

 

「説教じゃなくて愚痴よ。これに関してはイッセーの責任はほぼないわ」

 

「……何があったんだよ? あと九成には言わないのか?」

 

 イッセーもいぶかしげな表情をするけれど、それはそれよ。

 

「今はリーネスと二人の時間を楽しみ合うことが先決。まぁ、どっちにしてもオカ研に言うけれど」

 

 とりあえずそろそろ本題に入るとしよう。

 

「風紀委員会から助っ人要請がなされたわ。……具体的には今生徒会用の特務部隊を、隊長として結成してほしいと言われたわ」

 

「…………なんか、ごめん」

 

 イッセーはそれだけを絞り出した。

 

「いえ、あのバカが聞かないのは今に始まったことじゃないわ。ただでさえドアノブや寝相でそっちも疲れるでしょうし、そこまで説教するほど鬼じゃないわ」

 

「……なんでゼノヴィア達は、ドアノブを使うタイミングがおかしいんだろうか。あと寝相の悪さが俺にばかり集中するのもなんで?」

 

 そこは同情するわ。

 

 まぁ、つまるところそういう事だ。

 

 ゼノヴィアが生徒会長になってから、駒王学園高等部の生徒会は大きく変わったと言ってもいい。

 

 具体的には暴走超特急。しかもアザゼル先生に話を通すという不正一歩手前の搦め手を使い、不良高校に殴り込むという真似までしてきやがった。

 

 前会長であるソーナ先輩も、割と放任主義というかなんというか。もうちょっとビシっと言ってほしいのだけれど、生徒会長を退任したから深く突っ込まない主義のようね。

 

 ただし、不良高校に殴り込みに言ったら世界全土で活動する犯罪組織*1な大欲情教団の構成員が出るという大騒ぎ。しかもそれが遠因で奴らがカウンターを叩き出して世界各国の連合艦隊が大打撃。同時に皇族すらターゲットにした東京都心での大戦闘。結果として世界全土に影響を及ぼすは、戦略核がそのまま取られるわと、大騒ぎになっている。

 

 なので、正式にお目付け役をつけたいということになったらしい。アザゼル先生が隔離結界領域に行ったことは、これを止めない要素になったでしょうね。

 

 ただし、問題があまりに数多い。

 

「ただ現実問題、今の生徒会って武闘派集団でしょ? だからこっちも戦力になる連中を中心にするつもりだし、兼任になるからオカ研にばかり顔を出せないのよね」

 

「……お前も大変だな。ミザリの件が片付いたばかりだってのに」

 

 そうなのよね。

 

 ただまぁ、誠にぃを……ミザリを倒せたことでけじめをある程度はつけれたわけだ。その分少しは余裕もあるだろう。禍の団も当面は活動を自粛するでしょうし。

 

 だからまぁ、受けることにしたわけだ。

 

 そしてその為、色々とこちらも動いている。

 

「対策として、未だ法律面で色々と不鮮明なのを逆手にとって星辰奏者(エスペラント)の適性持ちを探してスカウトする予定だわ。最悪の場合は仮想敵という名目で勇ちんのPMCに就職を斡旋する予定」

 

「マジでそれぐらい必要なのが酷いよなぁ」

 

 本当にそれぐらいは必要というのが、あれなのよね。

 

 まぁ、そういうわけで―

 

「松田と元浜に適性があったから誘ってみるわ。あとオカ研からも、兼任してくれる人がいないか聞いてみるわね」

 

 ―そういった仕事もするということになるわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええええええええええっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで驚かなくても。いや、耳が……っ

 

*1
対外的にそう説明するしかない




 仮に第三部までもつれ込んだら、イッセーが京都の痴漢多発現象の基点だったことを知り、被害者の松田がフルパワーで吹っ飛ばす展開を作りたい。そんな野望があって仕込んだ、松田&元浜魔改造。

 まぁ実際問題、地雷原を思いっきり起爆させた前科もあることから、学園側もゼノヴィア達にストッパーをつけさせたいという判断になりました。イッセーたちが三年生になることには、オリキャラを二名ほど追加させる予定でそっち側主体になるかと思っております。


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序章 第四話 問題続くよどこまでも

 高評価も感想もお気に入りも捜索掲示板での紹介も、いずれは推薦も期待していますよグレン×グレンです!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何がどうしてああなった……っ」

 

「落ち着けイッセー。いや、カズヒがなんかごめん」

 

 その日の午後、俺はイッセーと一緒にハンバーガーショップでだべっていた。

 

 こういう男同士の馬鹿話にカズヒ達は理解を示してくれている。同性同士でないとできない、馬鹿極まりない話とか、異性をダシにした同性同士のグチとか、そういうのが世の中にはある。

 

 なので、カズヒが女性陣を監視してくれるそうだ。あとでなんか買って帰ろう。

 

「まったく。なんか体も凝ってるなお前。あとでツボでも押してやるから元気出せ」

 

「いやだってさぁ? 松田と元浜が星辰奏者だぜ? ツッコミ追いつかないっていうか、意味不明っていうかさぁ?」

 

「星辰奏者の適性は、ピンキリ問わなければ数%ぐらいはあるだろうからな。ま、お前は意味不明な星辰奏者なんだからおまいう案件だからな?」

 

 イヤホンと、サーヴァントと一緒に体を作り直して、二人で一つの星辰光(アステリズム)って意味不明だからな?

 

 そんなことを言い合いながら、俺達はまぁくだらない話に移行する。

 

「そういえば九成、三年になる頃に外国から留学生が来るって知ってるか?」

 

「三年生になってから? またタイミングとしては不思議な気がするな」

 

 俺がそれを返すと、イッセーはちょっと目をキラキラさせている。

 

「なんでも本命は大学部の方らしいんだけど、日本に興味があるのとそっちのハイスクールで必要なカリキュラムを全部終えてるってことで、一年早く来るらしいんだってさ。……そういう子って、やっぱ可愛いだろ?」

 

「フィクションと混同するなフィクションと。後俺もお前もモテまくってるんだから、がっつくな」

 

 悪目立ちしなければいいんだがとか、そういうことを懸念しちまうな。

 

 まぁ、覗きの常習犯なイッセーが警察に突き出されないわけだからな。その辺りは心が広い奴が多いし大丈夫か。……いや、それが死んでもおかしくない私刑(リンチ)なのはどうなんだ。

 

 ちょっとため息をつきたくなるが、まぁそれはそれとしてだ。

 

「というかお前、ついに上級悪魔なんだってな。……凄い出世速度じゃないか」

 

「だよなぁ。前代未聞らしいぜ、転生して一年、それもプロデビュー前って」

 

 イッセー自身軽く困惑している出世速度だ。

 

 まぁ、手柄だけで言ったら十分すぎるからな。

 

 上級悪魔と一対一の決闘で勝つ。最上級堕天使に襲われながらも、主や仲間達と一緒に死者一人出さず生還する。魔王の血を引く完全上位互換状態のライバルを打倒する。悪魔になってから数か月でこれだ。

 

 更に禍の団がガチになってからは、魔王血族三人がかりだの、悪神によるクーデター騒ぎだの、神滅具保有者が何人も所属する連中との一戦だのを潜り抜け、中級悪魔に昇格。

 

 リゼヴィムが動いてからは、龍王クラスの邪龍なんて代物まで出てきたわけだ。そこに龍神化に到達し、超越者やら天龍クラスすら打倒してのけた。

 

 とどめに俺がメインだったとはいえ、極晃星(スフィア)を相手にして打倒したわけだ。むしろ最上級悪魔でもお釣りがくる。

 

 ま、同時に若手極まりないからな。ある程度の段取りはあるに越したことはない。

 

 一応段階を踏んでいる。ただその程度のことだろう。間違いなく、近いうちに最上級悪魔昇格が確定する。

 

「まぁ頑張れ。下手するとお前、数十年ぐらいしたら罪王にノミネートされるぞ」

 

「……いや、まさか」

 

 そんな答えを返すイッセーだが、それはちょっと自分の理解が足りてないな。

 

 あとはまぁ環境だろう。普通に考えれば、人間世界基準だと以上だろうしな。

 

 ただ、イッセーは今や異形や異能の世界に生きているわけだ。

 

「異形や異能の世界を人間界のそれとごっちゃにするなよ? まぁそれにしたって特例の極みだと思うが、俺達はやっていることが特例の極みだからな?」

 

「……あ~。確かに、セラフォルー様とか魔王なのに、映画の主演とかもやってるしなぁ」

 

 納得してくれて何よりだ。

 

 そういえば、魔法少女レヴィアたんは今後どうするんだろうか。

 

 そんなことを思いながら、俺らはもうちょっとだべろうとしたが―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―イッセー、和地、聞こえる?』

 

 通信用の魔法陣が緊急展開。

 

 この瞬間、俺達は意識を切り替える。

 

『―バラキエル副総督から、日本国総理大臣との連名で緊急の協力要請があったわ。すぐに戻って頂戴』

 

 また、とんでもないことになりそうだなオイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから五分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家の地下、ブリーフィングとかで使っている多目的室。

 

 そこで俺達オカルト研究部メンバーに、シトリー眷属及びグリゼルダさんが呼び出されていた。

 

 そして足早に入ってくるのは、朱乃さんの父親でもあるバラキエルさん。

 

 一見すると堅物に見えるような偉丈夫だが、生粋のドMで堕ちた人だ。まぁMと親バカ以外はかなりまともな人なので、とても信頼できる人物だ。今は繰り上がりじみたところもあるが、神の子を見張る者の副総督を務めている。

 

 裏を返せば、娘がいるなどの縁があるとはいえ、副総督が自ら出てくるレベルの事態という事なんだがな。

 

「……急に呼び出して済まない。だが少々急ぎなので、本題から入ろう」

 

 緊張感のある表情で、バラキエルさんはUSBメモリを機材に挿入すると映像を映し出す。

 

 展開されるのは関東地方のマップ。そこで駒王町に近い都市部分と、比較的離れた山間部がチェックされている。

 

 この二か所で、俺達の力を借りたい問題が発生した。つまるところそういう事なんだろうが、類似性が思いつかないんだが。

 

 内心首を傾げていると、バラキエルさんは眉間にしわを寄せながら、俺達を見渡す。

 

「単刀直入に言おう。緊急性のあるまったく別の問題が発生し、更に脅威度が図りづらいときている。その為奥の手として君達の力を借りたいと日本政府から要請が来たのだ」

 

 なんか、妙な雰囲気だな。

 

「お父様、緊急性があるのに脅威度が図りづらいとは? それに異形に関与するなら、朱雀姉様から話が届くのでは?」

 

 朱乃さんがそう尋ねると、バラキエルさんが頷いた。

 

「そこが問題だ。今回起きている二つの事件、どちらも異形や異能が関与しているにしてはその辺りの対応がずさんなのだ」

 

 そう告げると、バラキエルさんは更に情報を開示する。

 

 まず映し出されたのは、近くにある都市部。

 

 学校が映し出されると、その隣に数人の男女の写真も映し出される。

 

「……まずこちらの方だが、神の子を見張る者(我々)が確保した神器保有者、その中で常々異能や異形と関わらない暮らしを求めていた者達が多く通っている付属高校だ」

 

 なるほど。

 

 和平が結ばれる前から、神器関係の見過ごせないトラブルは堕天使側の責務となっていた。各勢力間での暗黙の了解であり、神器保有者の保護や、未熟や悪意による神器使いの暴走を殺してでも止めるなどだ。

 

 正直いい気分がしないこともあるが、和平が結ばれてない状況では仕方ないことが多すぎる。イッセーもこの件で暗殺され、それが妙な流れでリアス部長の眷属になったりとかだ。人間世界の各国からも堕天使の責務という暗黙の了解があり、日本では数年前にやらかし案件があるので尚更手が抜けない。

 

 そしてそれらは堕天使側で保護している形である為、和平が結ばれるまでは不自由を強いることもままあるものだ。仕事をするなら給料も支払うから、協力してくれる人たちは問題ないが、誰もが異形や異能で神器の力を使うことを良しとするわけではない。だが和平前に野に放つのは、技術の流出もあって流石に難しい。

 

 それが和平が結ばれたことで、だいぶ緩和されたとは聞いている。元々日本は神話側も緩いというか穏健なので、かなり制約が緩んでいるのは知っている。

 

「そしてこの学園では、その辺りの記憶を消した者達が通っている寮もある学園なのだが……ここ数週間、学園生徒や教員の様子がおかしいという通報や相談が多発していた」

 

 そういうと、バラキエルさんは映し出されている写真をピックアップする。

 

「彼らは公安から派遣された調査員及び、保険として我々や五大宗家が派遣した調査員だ。異形や異能が関わっている可能性は低かったが念の為……だったのだが、状況が変わった」

 

 その表情が鋭くなると、更に新しい写真やデータを映し出す。

 

 データの方は何やら妙な数値やグラフになっており、写真では拘束具でベッドに縛り付けられた彼らが映っている。

 

「……単刀直入に言おう。彼らは特殊な薬物を投与される形で洗脳された。それにより一部の情報を、洗脳した者達に送っていることも判明している」

 

 おいおい、マジかよ。

 

 しかも薬物? 異形や異能のやり口にしては、多少違和感を覚えるな。

 

「ヴァレリー・ツェペシュの検査をしている時に、物のついでで聖杯の調整試験対象にした結果アタリを引いたのだ。慌てて他のメンバーも総当たりで調べたら、全員だと判明した」

 

 そう語るバラキエルさんは、顔に苦い色を思いっきり浮かべている。

 

 まぁそうだろう。薬物投与で洗脳とか、かなりアレだ。それも異形や異能の者達までいる状態でされるとか、その時点でヤバいだろう。

 

 追加で言えば、そんなことを成立させれる連中がいるのも厄介だ。そしてそうなっているということは―

 

「ゆえに可及的速やかに部隊を派遣する必要がある。……加えて面倒なことに、夫従妻隷会の関係者とマークされている者が多数部外者なのに出入りしているという情報も掴めたのでな」

 

「……また、面倒なことになりそうだな」

 

 思わず俺はぼやいたよ。

 

 夫従妻隷会。「妻という存在は夫の奴隷として服従すべし」という価値観に基づいて行動する、()()主体犯罪組織。

 

 行っていることは、薬物投与などによる男女問わない人格改造や、夫による妻の使役を妨害する者の破滅や支配。それに伴い妻を使役する夫に物資や金銭などの支援も行っている。

 

 かつて性犯罪者抹殺私刑団体である、アルテミスの鉄槌と共にこの辺りも含めた範囲で激しく戦っていた連中だ。あの頃は松田と元浜がエロを抑えてノイローゼを起こしており、エログッズ購入を黙認されていたので俺が護衛したりもしたな。カズヒはカズヒで変態どもを含めた4つ巴になっていたはずだ。

 

「つまり、犯人は夫従妻隷会と」

 

「その可能性がどうも低い」

 

 と、木場の確認にバラキエルさんはいぶかしげな表情だった。

 

 低いのか。どういうことだ?

 

「というのもだ、使われている薬物は全てが科学的に合成されたものかつ、まったくの新種だ。そのうえ、これまで夫従妻隷会が使っていたものとは比べ物にならない効果の高さと副作用の低さだ」

 

「……それは確かに、おかしいわね」

 

 リアス部長がいぶかし気になるし、カズヒも眉間にしわを寄せる。

 

「それだけの代物、先進国の専門機関でも投入するべきレベルだわ。いきなり誰にも感づかれず、それだけ大量に薬物を開発できるとは思えないわ」

 

「そもそも、調査チームが全員洗脳されるまで、緊急連絡ができないともいうのも考えづらいですね。夫従妻隷会が如何にレイダー技術を持っているとはいえ、五大宗家や神の子を見張る者(グリゴリ)のエージェントまでいてそれは手際が良すぎます」

 

 ソーナ先輩もそれに頷いており、バラキエルさんも頷いた。

 

「それもあって士気にも揺らぎがあってな。戦力確保と士気向上を兼ねている」

 

 そう告げてから、更にバラキエルさんは山間部のモニターを操作する。

 

「……そして、こちらの方が大きな問題だ」

 

 そう言いながら映し出されたものを見て、俺達は一瞬絶句した。

 

 スマホでとったと思われる映像は、空から降ってきた何かが直撃した人間が、急にうずくまる映像だ。

 

 そして次の瞬間、その体は変化する。泡立つかのように膨れ上がったり変色したりし、気づいたときにはホラーゲームのクリーチャーみたいになっている。

 

『ナグリタイ……ナグ……ルゥウウウウウッ!?』

 

 そして飛び掛かる光景と共に、映像は途切れる。

 

「……これが三十分前の映像だ。そして、同様の現象がその小さな町で起こっている」

 

 おいおい、どういうことだ?

 

 異形や異能による、人体改造ともとれる。だがそれにしてはやり方がずさんだ。

 

 異形や異能は人間界に秘匿することを選んでいる都合上、その手の対策や手段も確立している。こんな簡単にスマホで映像が流れるなんて早々ない。そもそもさせないように立ち回るからな。

 

 まるでアポプスやアジ・ダハーカが暴れていた時のようだ。だが、それにしたって妙だ。

 

 なんだあの、TとかGとかCとかのウイルス案件じみた変貌は。しかも空から降ってきた何かに当たったとか、まず間違いなくそれが原因だろう。

 

 やり方も雑だし、隠す気もない。なら都心部でやるぐらいでもいいだろうに、何故か微妙なところでやっている。

 

 寒気というか違和感が強すぎるが、これもまずいな。

 

「現在その町は緊急封鎖。自衛隊と五大宗家がこちらも対応しているが、状況は刻一刻と悪くなっている」

 

 そして映し出される映像には、なんかファンタジーゲームとかで出てきそうな、悪の拠点っぽいものが出てきている。

 

 所々が生物のようになっており、その意匠が似通っているところから、たぶんさっきの化け物と同系列。

 

 ……これも、やばいってのか。

 

「正直緊急度ではこちらも高いが、どちらも決して時間をかけるわけにはいかない。なので済まないが、緊急用の待機班を含めて三つに分かれて手伝ってもらいたいのだ」

 

「そうね。これだけの事態、早急に止めないとどこにとっても悪いことになるわ」

 

 リアス部長がそう言うと、グリゼルダさんも頷いていた。

 

「デュリオ達D×Dの別動隊にも連絡をしておきましょう。万が一の可能性があります」

 

「では、夫従妻隷会は私達シトリー側が立ち回りましょう。むしろ派手な動きをとっている方は、リアス達も動きやすいでしょうし」

 

 ソーナ先輩も頷いて動く中、俺はちょっと寒気を覚えていた。

 

 ……禍の団が動いている。おそらく誰もがそう考えているだろう。

 

 だが、それにしたって違和感が大きい。

 

 禍の団は今間違いなく大打撃を受けているはずだ。というより、組織を再編させる余裕があるのかもわからない。

 

 初期において主導権を握っている派閥は、殆どすべてが壊滅している。象徴にして力の供給源だったオーフィスも、その後釜であるリリスもこっちが確保した。更に切り札であるトライヘキサや極晃も失い、どう考えても組織力で大打撃を受けている。

 

 そんな状態で、これだけの騒ぎを起こせるか? それも、D×Dの主力である広義的リアス・グレモリー眷属が集まっている東京近辺で?

 

「……妙なことが起こっているわね。変な事態にならなければいいのだけれど」

 

 小さく、カズヒがそう呟いたのが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして恐るべきことに、この戦いはある意味でとてつもない蛇足になる。

 

 具体的には、禍の団と戦った時のロキに近い戦闘。

 

 ろくに関与しないややこしい出来事。そういうほかないのだから。

 




 序章はこれにて終了。

 次回から、「これから大きなイベントあるけど、面倒な奴らは少なからず出てくるんだよね~」的な事実を示しながら第一章が始まります!

 そして第一章ラストは渦の団との戦いもあります。魔改造しまくる予定ですが、これもまた「面倒な連中はいつの時代もいるんだよ」的な暗示にしていこうかと!


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第一章 新期来訪編
新期来訪編 第一話 負の欲望は尽きることなく


 はいどうもー! 感想・高評価・推薦・捜索掲示板の紹介を常に欲しているグレン×グレンでっす!

 というわけで、本格的に第二部スタートです!

 とりあえず第二部一章は導入編にして「余計な影響でいろんなことが起こるよ!」を伝えるための話になりそうです。

 さて、いきなりバトル展開だぜぇ……?


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山間部の町で起きた、謎の魔獣化事件。

 

 僕達オカルト研究部が増援として派遣されたこの事態は、少しややこしいことになっているね。

 

「……くっ! 止まれっ! 止まらないと―」

 

「ウルサイ……ジャマ……コロォス……ッ!」

 

 牽制として威嚇射撃を行う、自衛隊のバトルレイダー。

 

 だけど、魔獣化した存在は苛立たしげな様子を向け、逆に殺意を込めて殴り掛かる。

 

 ―それを、僕は四肢を切り裂くことで無力化した。

 

「ためらえばそちらが殺されます! せめて四肢を砕いての無力化は割り切ってください」

 

「……すまない」

 

 やはりこれはまずいね。

 

 東京都の自衛隊は、変態達や数多くのテロリストとの戦闘で経験を積んでいる。だからこそ、腹をくくれば殺し合いに対応するだけの割り切りは持てる。

 

 だけど、魔獣化した存在は民間人だ。

 

 民間人を守るのが彼らの仕事だ。それに映像に映された通り、意図的になったわけではない被害者がこの魔獣ともいえる。戻せるかどうかも分からないけど、それは戻せるかもしれないところはある。

 

 だからこそ、自衛官は躊躇してしまう。

 

 ……そういう意味では、僕らはまだ割り切りができるだろう。

 

 倒さずに済ませるなら済ますべき相手と何度も戦い、そういった余裕を持ちこめない経験も何度もしてきた。英雄派に操られた神器保有者や、聖杯で邪龍になった者達がいい例だ。

 

 そういった者達を殺すことを選ばねば、大切な仲間や守るべき者達が被害を受ける。それは分かっていても、ためらいが生まれることはあるだろう。

 

 だからこそ、ここはそれを乗り越えた僕達がフォローするべきだろう。

 

 幸い、この魔獣化した者達は中級悪魔なら余裕をもって対処できるレベルだ。下級悪魔でも、相応の戦闘経験やセンスがあれば一対一で不覚をとることはまずないだろう。

 

 性能は相応にある。全体的な耐久力は戦車の正面装甲より劣る程度だが、それゆえに対物狙撃銃や重機関銃では急所を狙ってもびくともしない。膂力は戦車をひっくり返せる程度にはあり、存在によってはちょっとした榴弾レベルのオーラを放つなど遠距離攻撃ができる個体もいる。移動速度も一世代前の戦車レベルはあり、跳躍することもある為、機動力は高い方だろう。

 

 総じて、普通の軍隊が相手をするなら第三世代戦車に重装備の随伴歩兵が一個分隊以上は欲しい。そうでないと倒すのは難しいだろう。

 

 だが、倒すのではなく足止めなら、歩兵数人でもできるだろう。

 

 なにせ、こいつらの判断は衝動的だ。

 

 それぞれがうわごとのように一つの行動に拘り、それを邪魔する存在に突発的に攻撃を仕掛けると言っていい。それゆえに、陽動などは比較的簡単なんだ。

 

 食事に関するうわごとを繰り返す者は、手当たり次第に食べられそうなものを食べる。そして胃の容量が限界になったと思えば、今度は吐き出してからにしてからまた食べる。そんな感じだ。

 

 なので、それに類するものを用意することで陽動することは可能だ。性欲に関するうわごとを呟く個体に至っては、幻術の要領で複数を融合し、消すと同時に一つだけアダルト雑誌を置くと、同士討ちを始めている。

 

 弱い者いじめの類を呟く個体は戦闘部隊から逃げるような動きをするが、これも弱い者いじめをしたいからなだけだろう。徒手空拳や異能主体な小猫ちゃんやレイヴェルさんは、それぞれが囮と大技を交代し合うことで、そういった手合いを引き寄せて殲滅していっているぐらいだ。

 

 つまり行動アルゴリズムが単調すぎる。理性が無いどころか、知性に至っても賢い動物はいくらでもいるレベルだ。どちらかというと、本能の手綱を握れていないというべきか。

 

 だからこそ、慎重かつ冷静に行けばすべてを捕縛することもできるだろう。死人を出さずに鎮圧することも、この魔獣だけなら不可能ではない。

 

 問題は、だ。

 

 僕はちらりと、ある方向を確認する。

 

 そこには巨大な、魔獣で出来た城とでも形容するべきものが出来ていた。

 

 この距離から確認する限り、高さは80mほど。四方の編は200mぐらいの、巨大建造物といえるだろう。

 

 あれが出現してから、更に魔獣の出現率が増えている。更に言えば、人々を魔獣化させる結晶体も飛散している。

 

 既に朱乃さん達が撃ち落としを試みている為、そちらに関しての被害は少ない。だが同時に多少はおり、更なる魔獣となってしまう事態になっていた。

 

 ……レイダー部隊が主体になっているのも、装甲で防げるということが重要だからだ。更に異能持ちは魔獣化を防げるようで、当たり次第一旦下がって、異能で切除する方向になっていた。

 

 とはいえ、だ。

 

「この戦力で、これだけの規模の事態を引き起こす? 不可解だね」

 

 推測するに、大欲情教団と同種の存在と考えるべきだろう。

 

 異形や異能について相応の知識があるのなら、これだけの事態をこの程度の戦力で起こすリスクは分かり切っている。となると逆算して、それが分かってない者達が動いているとしか思えない。

 

 まったく。禍の団が大打撃を受けたというのに、世の中には困った者達が数多くいるものだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったく。大欲情教団系列の秘密結社的な連中がまたしても出てくるとはな。

 

 しかも、射出して当たったら化け物にするような技術なんてろくでもない物を。TとかGとかCとかいったウイルス系列とは言うが、即化け物かと考えればCが最適だろう。ろくでもなさすぎる。

 

 そんなものが飛んでくるとか、危なくて外に出るのも困難だ。だが建物に籠っていると、魔獣化した者達に襲撃されかねない。

 

 というわけで、俺は今カバーに回っている。

 

 警察から用意してもらった機動隊用の装甲車。それを自衛隊が戦車やレイダー部隊を前衛にして引き連れ、俺がそれに随伴。その車列で住宅街などを回り、俺が障壁でカバーをしつつ乗せて離脱。

 

 このパターンで俺達は避難を進めていた。

 

 俺を抜きしたメンツもいるが、その場合は安全性を考慮する為少人数になるほかない。その分どうしても時間がかかるわけだ。

 

 だが俺がいるグループは、俺の星辰光で大きくカバーができる。だから車列は十台以上。その分一回の移動で回収できる人数が多いわけだ。

 

 これもまた、俺が極晃に至った恩恵だ。

 

 極晃に至った俺の星は、性能も大幅に向上している。

 

 これにより、俺の障壁展開能力は数段上に進化を遂げた。上面に大きく傘のように障壁を展開しつつ、建物から出て車両に入る避難民を数人ずつに絞れば、更にすっぽり被さる様に障壁でカバーができるわけだ。

 

 ぶっちゃけ、ディフェンディングタートルやチャージングリザードを使う必要がない。どっちも今の俺なら普通にできるからな。

 

 とてももったいないので、あとで何とか改善策を考えよう。文明の発達とは時にこんなもんだが、それでもなぁと思ってしまう。

 

 とはいえ、だ。

 

「ありがとう、少年! 一旦後方に移動して避難を進めるよ」

 

「了解です」

 

 サポートに回っている機動隊のレイダーと言葉を交わし、周囲を警戒する。

 

 幸か不幸か魔獣共は、心を鬼にすれば自衛隊で十分対応可能だ。レイダーなら装甲もあって魔獣化されることはないし、俺達はカバーに回るだけで済んでいる。

 

 そしてその過程で、カズヒが本丸と思われる謎建築物に突貫している。

 

 フォロー担当としてゼノヴィアやイリナ、アニルも参加しているが、対応力を重視してリアス部長まで向かっている。

 

 このレベルの戦力が基本なら問題はないだろうがな。問題は精鋭を出し惜しみしているとかの場合だが。

 

 まぁ、だからこそカズヒまで参加しているわけだ。本当にやばくなる前に、連絡は来るだろう―

 

「……ほんとにもう。やりたいことを邪魔しないでっ!」

 

 ―その瞬間、後ろから迫りくる魔力砲撃を俺は障壁で素早く逸らす。

 

 斜め上からだったので、障壁も減衰用まで用意し、いくつも展開して何とか上に逸らす。

 

 余波でマンションの上半分が吹き飛んだが、避難が完了した直後だったのが不幸中の幸いだ。

 

 厄介な出力だな。直撃してればこの辺り一帯吹き飛んでるぞ。

 

「……は?」

 

「い、今の威力は―」

 

「すぐに避難してください! こいつは格が違いすぎる!!」

 

 呆気にとられる人達に怒鳴りつけ、俺は素早く魔剣を展開する。

 

 ヤバイヤバイヤバイ! 思った途端に大粒が来やがった。

 

 今の魔力砲撃、最上級悪魔の領域に届いていたぞ。それもおそらく本気じゃないし、グレンデルレベルの脅威とみなすべきだろう。

 

「急いで! こっちもちょっと余裕がない!」

 

「わ、分かった! 全員走れ!!」

 

 慌てて避難が進む中、俺は素早く足を踏み込む。

 

 これはガチで動いた方がよさそうなんでな。俺もすぐに対応するさ。

 

『BLANCE SAVE!』

 

 パラディンドッグを装填する中、相手の姿を確認する。

 

 薄いシースルー素材に見える、薄っすらと内側が透けて見える素材を多用した、煽情的な衣装を纏った女。

 

 青紫の長い髪をポニーテールにした彼女は、手に絶大な魔力を纏っている。

 

 その表情はイライラしているようで、こちらに殺意を向けていることが丸分かり。目の辺りが隠されて対象にも関わらず、それが分かるほどの怒りが見えている。

 

「折角好きなことだけして生きれるのに、邪魔するなんて無粋なことをしないで頂戴」

 

「なるほどな。そういうことか」

 

 今の発言を記録しながら、俺は何となくを理解する。

 

 つまるところ、こいつらの目的は衝動の開放といったところか。

 

 他にも色々聞きたいが、まず言いたいことを言わせてもらう。

 

「ふざけるな。ただそれだけの化け物にすることを、善行だとでもいうつもりか?」

 

 ふざけるなとしか言えないが、それに対して相手から、呆れといった感情が透けて見える。

 

「そうでしょう? 我慢して好きなことをしないなんて可哀想だもの。……素敵な世界を広めたいって、そう思うからしてるのよ?」

 

 そう言いながら、女は結晶体を何時の間にか展開すると投げつける。

 

 それを素早く光力とショットライザーで撃ち落としながら、俺はため息をついた。

 

「こんな形で使うとは。―禁手化(バランス・ブレイク)

 

 その言葉と共に具現化するのは、魔剣ではなくバイク。

 

 疾走車輪(ソニック・チャリオット)。俺が持つ新規の一つ。一言で言うなら、めっちゃ凄いバイクを具現化するというシンプルな神器だ。

 

 そしてそれが禁手(バランス・ブレイカー)に至ったことで、かなり大型のバイクに変化。その外見の通り、馬力を中心として更なる進化を遂げている。

 

 だが、それは余技と言っていい。ぶっちゃけ今の俺なら、バイクを積極的に使う必要はないからな。

 

 そしてその本領を、自動で走りながら具現化する。

 

 同時に、俺は更なる追加も完了した。

 

残創(コスモス・メイク)

 

『ASSALT SAVE!』

 

 装填されるサルヴェイティングアサルトドッグプログライズキー。そして同時に、バイクは瞬時に変形する。

 

 現れるは、二つのローターで飛行する人型の従者。サルヴェイティングアサルトドッグの影響で武装を展開し、銃撃で砲撃を打ち落としながら、車列を援護する。

 

 同時に、俺はパラディンドッグで仮面ライダーマクシミリアンに変身。対応準備を完了させた。

 

「なによ……気分が悪くなるじゃない!」

 

「その反応、やはりモグリの類か」

 

 俺は冷静に判断しながら、俺自身の力をカバーする。

 

 俺が至った疾走車輪の亜種禁手。それはバイクそのものを大型化して強化するのみならず、有事に人型に変形しての戦闘支援が行える禁手。その名も、戦場駆ける従士の戦車(ウォー・チャリオット・サーヴァント)

 

 更に最初から残神をセットで運用するように設計しており、プログライズキーと装填することで従士の機能を拡張させる従士纏う数式装甲(チャリオット・ライドライザー)を残神として保有している。

 

 さて、俺もいい加減進化を遂げまくっている。

 

 さて、目隠しをしているので表情は読み切れないが、この際それはどうでもいい。

 

「覚悟しろ。お前らの目的は知らないが、お前は此処で足止めし、可能なら倒す」

 

 星魔剣の切っ先を突き付け、俺は此処に宣言する。

 

嬉涙旧済(グッドエンド)で今日を終えるぜっ!」

 

「こっちのセリフよ! 気持ちよくやりたいことをやって終わるわっ!!」

 

 そして、俺達は激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 ったく、いきなりこんなことになるだなんてな!

 

 俺は町の上空で、魔獣達を上から攻撃していた。

 

 俺がオフェンス向きなのは自他共にってやつだしな。魔獣達の中には空を飛ぶ奴もいるし、思う存分暴れて吹っ飛ばすのが理に適ってる。

 

 ただ、そんなことをされれば相手だってうんざりする。

 

 だから来たよ、強敵が!

 

「邪魔しないでよ! 皆が可哀想でしょ!」

 

 放たれる蹴りを俺は受け止め、十メートルぐらい後ろの吹っ飛ばされた。

 

 不意打ちだったけど、重い蹴りだな。グレンデルが本気で殴りつけてきたぐらいってところか。結構やるな。

 

 それはそんな風に感触を確かめながら、相手を確認する。

 

 ……ビキニみたいな衣装で、結構大きいおっぱいがとっても気になる女の子だ。赤紫の髪はツインテールで、目元は布を巻いて隠している感じだな。

 

 っていうか、俺を相手に女の子が出てくるってことは、敵はやっぱり大欲情教団みたいな感じか。異形の知識はあんまりないっぽいな。

 

『おそらくはな。だが万が一もあるし、後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)のように対策があるかもしれん。気を抜くなよ?』

 

 分かってるって、ドライグ。

 

 漸く禍の団を倒せたんだ。こんなところで終わる気はないさ。

 

 それに、俺達が住んでいる近くでこんなことをしやがったんだ。相応の報いは受けてもらう。

 

 俺達の平穏を乱す敵は、絶対に潰す。相手が女の子とでも容赦しないぜ。

 

「……可哀想」

 

 と思ってたら、なんかすっごく同情された!?

 

「な、何が可哀想だ!」

 

 いきなり酷いことを言うやつだな! 出会い頭になんでそんなこと言われなきゃならないんだ!

 

 そりゃぁ俺は、おっぱい一杯夢いっぱいなところとかを残念扱いされることもある。自分でも覗きや学校でエロ本を読むのを我慢するだけで、ひきつけを起こすのはどうかと思う時もある。残念扱いされることは仕方ない。

 

 だけどなぁ、俺のことをさっぱり知らないだろう奴に、出会い頭で言われる筋合いはねえよ!?

 

 っていうか、泣きそうな表情になるなよ。どんだけ同情してんだ!

 

「……そんなに強い欲望があるのに、押さえつけてるなんて。もっと素直に解き放った方が素晴らしいのに……っ」

 

 ……俺の煩悩が察知されている!?

 

 っていうか、そっち方向の同情かよ。大欲情教団の関係者なのかと思いたくなるな。

 

「こっちに来ない? 君のその欲望を、解放しよう?」

 

 なんか右手まで差し伸べてきてるんだけど。

 

 っていうか、左手で上着を引っ張って生乳を見せてきたぞ!?

 

 うぉおおおおお! 非常時だけどそれはそれとしておっぱい! 脳内保存、急げ!!

 

 何とか戦闘態勢をとったままで俺が鼻血を流していると、その女の子は小さく微笑んだ。

 

「素直になろう? 私もちょっとムラムラしたし、いっぱい入れて出してい・い・よ?」

 

 俺は、一瞬息を吸い込んだ。

 

「………断る!」

 

 そしてはっきり言い切った。

 

「……なんで? そんなに我慢したいの?」

 

 不思議がられるけど、対した理由じゃねえよ。

 

シャルロット(あいつ)に、リアス(彼女)に、胸を張る。それが俺の生き方なんでな」

 

 そうさ、理由なんてそんなもんだ。

 

 だけど、それで十分さ。

 

 だから俺は言い切れる。俺達の下で起きている光景を前に言い切れる。

 

「……あんな姿になるなんて、まっぴらごめんだ。それじゃぁ二人に、皆に、子供達に、顔向けなんてできやしねえ!」

 

 ああ、それに―

 

「あんなもので、俺達の平和を踏みにじろうっていうんだろ? だったら容赦なく、滅ぼしてでも倒してやるさ!」

 

 ―あんな光景、子供達に見せられるかよ!!

 

「……はぁ」

 

 そして目の前の奴はため息をついた。

 

「なんでそんなにつらく生きるのかな? 苦しいだけじゃん、可哀想」

 

 心からそう思っている言い方をしたうえで、その子は足にオーラを籠める。

 

 ……問題は、そのオーラそのものだ。

 

 魔力に近い、その力。そしてヤバいと思うぐらいに、その質を俺は良く知っている。

 

 なんたって一回マジで殺されている。死に物狂い、いや決死でだ。おかげで体が一回完全にダメになって、オーフィスや歴代の協力、そしてたまたまグレートレッドが通りがかってなきゃヤバかった。

 

 そう、それは―

 

「……シャルバッ!?」

 

「何それ。ゲームのボスキャラ?」

 

 首を傾げるその子は、そのまま蹴りを叩き込んでくる。

 

 そしてそのうえ、こっちのことを本気で憐れむ表情までしてきやがった。

 

「したいことしないなんて可哀想。見てて辛いから死んじゃって!」

 

 なんか滅茶苦茶なこと言ってくる奴だな。

 

 シャルバ……いや、マルガレーテさんを思い起こすところもある。っていうかこの魔力の質、かなりやばくないか?

 

 なんか妙なレベルでアレだけど、なら尚更容赦しねえ。

 

 このままこいつらの好きにさせたら、たくさんの人が魔獣になる。

 

 もし冥界の子供達が、駒王町の人達がああなったら。そう想像しただけで、俺が戦う理由には十分だ。

 

「容赦はしねえよ。遠慮なく、吹っ飛ばす!!」

 

 滅ぼしてでも倒してやる、覚悟しな!!




 そんなこんなで、いきなり意味不明の謎存在発生。この調子なら第三部によるオリジナル展開が確定なので、ほぼ高確率でそこまで引っ張る予定です。

 そしていつの間にやら疾走車輪を禁手にしていた和地。モチーフはもちろん555の奴です。

 いっそのこと、疾走車輪をパラディンドッグで変質させるときはバイクであることも含めてライダー系の再現で統一してみるかとか考え中。


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新期来訪編 第二話 末裔大発掘

 ふっふっふ。今のところ一話に対するPVは150そこら。……やはり第一部よりは減ってるなぁ。

 さすがに増える方向にはいかないだろうし、そこはちょっと凹み気味。まぁ、100人以上見てくれているのは事実だし頑張るぞ! おおー!!


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 避難誘導はだいぶ済んでいるけど、被害も比例して大きくなっている。

 

 魔獣達の戦闘能力は、戦車と随伴歩兵がいるレベルだけど、そんな存在が遠慮なく暴れれば被害は甚大になって当然だ。

 

 魔獣化した者達の数は、少なく見積もっても千を超えている。元々山間部で人口が少ない町だったこともあり、人口比でかなりの割合が魔獣になっている計算だ。

 

 死者だって少なくない数が出ているし、この町は放棄に近いことになるだろう。状況が把握しきれない以上、当面は封鎖して調査に徹するべきだしね。

 

 しかし、下手人は一体誰だ?

 

 この地区は奇跡的に異形が関わっていない空白地帯。とはいえ目と鼻の先に東京がある以上、半端な組織が関わっているとも思えない。

 

 となると、組織の統制が取れなくなった禍の団が暴走したと考えるべきか?

 

 そう思った時、空に影が差す。

 

 見上げればそこに在るのは、強襲突撃ユニットを搭載したサンタマリア級が一隻。

 

 更に上からデビルレイダー部隊が多数降下し、魔獣達との戦闘を開始した。

 

「どういうことだ?」

 

 ここで大王派がわざわざ出てくる必要はない。それに疑問を思った時、素早く着地する悪魔が一人。

 

 随伴にデビルレイダーも一個小隊規模が降下するが、更に降りる存在の姿に僕は目を見開いた。

 

「おや? グレモリーんとこの聖魔剣くんじゃないさね?」

 

「そういえば援軍として要請されていたな。急いできたので通達が間に合わなかったか」

 

 女王であるティラ・バアルを従え、フロンズ・フィーニクスが降下して来ている?

 

「……いえ、通達は届いておりますわ。ただ乱戦ゆえに行き渡ってないだけです」

 

 そこに、レイヴェルさんが来ると鋭い表情を向ける。

 

「ですが詳細はこちらにも届いておりません。「その地に重要な存在がいる故、保護を兼ねて援軍を送る」とだけ伺っておりますわ」

 

 どういうことだ?

 

 先も言ったが、この町は異形や異能においてはある種の空白地帯だ。

 

 裏を返せば、下手にどこかの勢力が関わると揉める。高天原や五大宗家ならともかく、悪魔側が何の話も通さないでいると、文句の一つも飛んでくるだろう。

 

 僕が周囲を警戒しながら怪訝な表情を浮かべていると、フロンズ氏は手を前に出しながら首を横に振る。

 

「誤解しないでもらいたいが、大王派はこの地にはノータッチだ。ただ別件で動いていた情報から、無視できない存在が二人もおられることが判明したのでね。こうして慌てて飛んできたわけだよ」

 

 ……どうやら、彼らにとっても寝耳に水な案件のようだね。

 

「それで、フロンズさん? そのお二方とはどのような?」

 

 そうレイヴェルさんに尋ねられ、フロンズ氏は苦笑いを浮かべる。

 

 苦笑いとは、どうも判断に困る―

 

「アスモデウスとベルゼブブのハーフだよ」

 

 ……え?

 

 思わずきょとんとする中、フロンズ氏は肩をすくめた。

 

「当人はそのことを知らないそうだ。だが、無視するわけにもいかないだろう?」

 

 ……どうやら、世界にはまだまだ火種が多く残っているようだね……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なろぉっ! 思った以上に強い!

 

 魔力を込めた蹴り主体の相手は、出力が高くて結構手古摺っている。

 

 戦い方は拙いところもあるし、戦闘技術も粗削り。たぶん我流で鍛えた感じだな。はっきり言ってこれだけなら、俺達だって苦戦はしない。

 

 だが基本性能がやばい。最上級悪魔クラスはあると思ったけど、下手すると魔王クラスはあるんじゃないか!?

 

 しかも―

 

「よっしゃ触った! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)

 

「……何かした?」

 

 ―こっちも効かないのかよ!?

 

 対策してると思ってたけど、俺の乳技が通用しない。

 

 乳語翻訳(パイリンガル)も試してみたけど、これまた通じてない。ちなみに透過は込めているけどこのざまだ。

 

 どうなってんだよ一体さぁ! あの反応だと、そもそも何かを無効化しているってことにも気づいてないぞ!?

 

『二重の意味で妙だな。何かが決定的にかみ合っていない』

 

 どういうことだ、ドライグ?

 

『まず相手の反応だが、間違いなく相棒についての知識が足りていない。そもそも乳技を使われているという反応すらないからな』

 

 あ~なるほど。そっちの方がしっくりくるな。

 

 ベルゼブブって言葉についてもさっぱり分かってないみたいだし、もしかして異形や異能について知識が無いのかもな。

 

 大欲情教団みたいなあれなんだろうか。そう考えると色々としっくりくるけどな。

 

 で、もう一つあるみたいだけど?

 

『相棒の乳技が効いてない方だ。あれはむしろ当てた途端に吸収されている印象がある』

 

 吸収?

 

 また凄い方向から来たな。

 

 俺の乳技、魔力を煩悩で変換している所為で、対策が色々大変なところがある。

 

 乳語翻訳とかがいい例だ。質問をおっぱいに応えてもらうこの技は、読心術とかの対策が全く通用しない。

 

 そして弾く対策をしても、赤龍帝第三の力である透過ですり抜ける。

 

 だからこそ、未だに有効的な対策は数少ない。後継私掠船団が開発した「煩悩を見せる形で勝手に使う」アプローチぐらいしか天敵がいない。

 

 だけど吸収か。

 

 つまり、俺が流し込んだ煩悩が込められた魔力を力に変換しているってことか。確かにそれなら、力を与えるだけになりそうだな。

 

 確かに、ちょっと妙な気もするな。

 

『そうだ。これだけの力持ちながら相棒を知らない事といい、相棒の乳技を吸収するという謎の現象。……乳神と似ているようでまた別の異様さを持つな』

 

 ってことはあれか? もしかして、異世界案件?

 

『かもしれんな。リゼヴィムはグレートレッドを異世界侵略の邪魔者とみなしていたが、侵略規模の軍勢でなければ出し抜くことはできるだろう。乳神の使いもそう取れるしな』

 

 ……その予想、念の為にアジュカ様達に伝えた方がいいかもな。

 

 もっとも、それはこれを生き残ってからなんだけど!

 

「はあぁっ!」

 

「おらぁっ!」

 

 蹴りと拳がぶつかり合うけど、これはちょっと不安だな。

 

 というのも、なんか空を飛ぶ魔獣がゴロゴロ出てきやがった。

 

 飛龍を出せば対応できるけど、このままだとちょっと懸念事項が―

 

「イッセーか!?」

 

 ―九成か!

 

「助かった、手助けしてく……れぇっ!?」

 

「……すまん、俺も戦闘中……だ!」

 

 九成は九成で、魔力攻撃を捌いてこっちに来ているだけだった!

 

 ってことは二対二か! 九成を手古摺らせるとか相当だな。

 

 ……そっちにいたのもまたエロイ格好の女の子だ。歳は俺と同じぐらいか?

 

 お互いに並び立つ形になると、相手の方は困り顔になっていた。

 

亜香里(あかり)も苦労してるの? 素直になれない人がこんなに強いなんて」

 

「そうだね。でも一緒なら勝てるでしょ、有加利(ゆかり)ちゃん」

 

 仲が良い感じだな、これ。

 

 だけどなぁ!

 

「だったらこっちも連携だ! やっちまおうぜ、九成!」

 

「同感だな。それならこっちの方が有利だろ」

 

 なめられたもんだぜ。

 

 相手はまだ場慣れしてない。なら、経験豊富なこっちが有利だ。

 

 連携戦闘の訓練だってしているんだよ、あんまりなめるな!

 

 そう思いながら構えると、相手は小さく微笑んだ。

 

「でも、私達だけじゃないんだよね?」

 

「素直に生きてる子達だからこそ、手伝ってもくれるのよ?」

 

 二人がそんなことを行ったとき、少し離れたところで何かが起き上がった。

 

 ……デカい! あれ、魔獣化したにしたってデカくないか!?

 

「どうなってんだ!?」

 

「あ~……魔獣達が融合して、なんかデカくなってる」

 

 俺が面食らっていると、プログライズキーでセンサー類も強化されてる九成が、微妙にげんなりした様子になった。

 

 融合ってマジか。どんだけクリーチャー!?

 

『『『『『『『『『『オンナ……オカス……オカシタイ……』』』』』』』』』』

 

「「もちろんいいよ♪ でも、その前に手伝って♪」」

 

 畜生マジか。流れがエロゲーの世界じゃねえか!?

 

 っていうかそんな流れでオッケーなのですか!? え、マジで!?

 

 いや落ち着け。その流れだとエッチするにはあんなことにならないといけなくなる。どう考えてもアウトだ。

 

 童貞卒業は惜しいけど、リアスやシャルロット達に顔向けできない卒業は我慢の子ってなぁっ!

 

「……いろんな意味でバイオでハザードなウイルス案件だな、おい」

 

 九成もげんなりしながら魔剣を構える。

 

 っていうかそんなことまでできるのなら、更に手古摺りそうで―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―おいおい、手柄の一人占めはよしてくれや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―その瞬間、絶大な魔力砲撃がそのデカブツを一撃で吹き飛ばした。

 

 しかも砲撃を放った方向から、飛び掛かるように二人の女に切りかかる姿が!

 

「わっ!? また邪魔者ぉ?」

 

「困ったものね!」

 

 反撃を回避してこっちに下がってきたのは、デカい剣を持った姉ちゃんだ。俺達よりちょっと上なぐらいだな。しかも動きから見て強そうだ。

 

「初めましてだな、おっぱいドラゴンに涙換救済(タイタス・クロウ)! アタシもちょっと混ぜてくれよ?」

 

「「どちら様で?」」

 

 思わずハモって尋ねると、その姉ちゃんは歯を見せて笑った。

 

 そして同時に悪魔の翼を広げると、凄い魔力を纏い始まる。

 

 ……いや、ちょっと待ってもらえます?

 

 もしかして、これって―

 

後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)所属、先日新たに筆頭戦力となった新参だ!」

 

 ―ヴァーリやリゼヴィム、ミザリと魔力が似通ってないか!?

 

「先祖返りの魔王血族! 黄金恒星(サンライト・ルシファー)、ラムル・ルシファー・ゴールドリバーだ!」

 

「嘘だろオイ!?」

 

 ここに来てまたルシファーかよ!?

 

 ヴァーリやらミザリやらリゼヴィムやら、俺はどんだけ魔王ルシファーと縁があるんだ。サーゼクス様もルシファー襲名しているから、リアスだってルシファーの妹だし! ここに来て後継私掠船団までルシファー持ったの!?

 

 俺がちょっと面食らっていると、ラムルって人がこっちに視線を向け直す。

 

「因みにフロンズの旦那から指示があるんだが、鰐川亜香里(わにがわ あかり)望月有加利(もちづき ゆかり)って女、この町にいるんで保護しとけって言われてんだが知ってるか?」

 

 ………え?

 

 あかりとゆかり? いやちょっと待ってくれ。

 

 俺と九成は目を見合わせると、そのまま相手の方を見る。

 

 さっきあの二人、お互いのことそう呼び合ってなかったっけ?

 

「名字違いってこと、ない?」

 

 九成がか細い希望を託して尋ねるけど、目の前の二人は不思議そうな表情だった。

 

「なんで私と亜香里の名前を知ってるのかしら?」

 

「どちらさま?」

 

 あ、当たりだ。

 

「……おいおいまじかよ。最悪じゃねえか、悪魔的に」

 

「悪魔的にってなんだよ。状況がさっぱりだから、手短にできる範囲で説明してくれ」

 

 ちょっと困り顔になってるラムルに九成がそう促すと、ラムルはちょっと考え込む感じだった。

 

 そしてまず亜香里って言われたこの方に指を刺すと。

 

「あっちがベルゼブブのハーフ」

 

 で、今度は有加利の方に指を向ける。

 

「でもってアスモデウスのハーフ」

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁああああああああああっ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どういう状況なんだよぉおおおおおおっ!!!




 後継私掠船団も当然増えます。基本、和地ヒロインに比例して増えるようなものなので頑張って設計しないと。


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新期来訪編 第三話 突然の終幕

 ……少しずつPVも増えていく中、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 自分は就職関連の動きに進展があり、うまくすれば来月から違う環境になりそうです。

 ただ就業時間も変わるので、投稿頻度が多少遅くなるかもしれないことをご了承ください。


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス部長やイリナ、ゼノヴィアにアニルと一緒に、私は謎の建造物に突入していた。

 

 ……アダルトゲームとかで出てくる雰囲気がありすぎて、正直女主体で来たのは反省している。

 

 とはいえ、今の私達なら手早く片づけられる手合いだらけなのは安心だ。油断は禁物だけれど、いつでも離脱できるように後続の自衛隊も退路を確保してくれている。

 

 そして私達は、敵を撃破しながら中心部に到達する。

 

 そしてその光景を見て、思わず一瞬絶句してしまった。

 

「……惨いな、これは」

 

 ゼノヴィアが吐き気を催しながらそう呟くと、アニルは目を閉じて十字を切る。

 

 イリナもまた、思わず主に祈りを捧げるほどだ。これは酷い。

 

「なんてマネを……許せないわ……っ」

 

 リアス部長が拳を血がにじむほどに握ってしまう。

 

 それほどまでに、目の前の光景は酷かった。

 

 ……肉と半ば一体になり、人間として歪になっている存在。

 

 そしてそれに群がり犯す化け物となった生物達。

 

 それを素早く仕留めながら、私は内心でため息をつく。

 

 直感的に入った方がいいと判断してよかった。リアス部長達だけでは、動揺が激しくなっていただろう。万が一の油断に繋がりかねない。

 

 ただ、そんな中で一人だけ丁重に扱われている姿があった。

 

 一糸纏わぬ状態にされ、触手と一体化している要素は確かにある。そして同時に、彼は年若い少年であることがちゃんと分かる状態だった。

 

 だが、上半身は確実に人間のままだった彼は、ゆっくりと見上げると私達に気づく。

 

「……誰、だい?」

 

「生存者か!」

 

「待ってゼノヴィア! 釣りかもしれない、慎重によ」

 

 慌てて駆け寄ろうとするゼノヴィアを制し、私は聖墓を展開しながら慎重に探りつつ近づく。

 

 聖墓の影響に抵抗している辺り、相応の力があるようだ。まだ私が慣れてないとはいえ、中々に厄介ね。

 

「ゼノヴィアは、イリナやアニルと一緒に周囲の警戒をお願い。私とカズヒで調べるわ」

 

 リアス部長が素早く指示を出し、そして星を発動する。

 

 彼女の星は、長い時間同調した味方の異能を発現する。必然として自分の眷属や親密に付き合っている者の異能は再現しやすく長くできる。その中には、仙術使いの小猫や治癒の力を持つアーシアも当然含まれる。

 

 その力と同調して解析をするけど、……芳しくないわね。

 

「生命活動がこの辺りと一体化しているわね。私の再現じゃ、聖杯でも切り離すのに時間がかかるわ」

 

「鶴羽は別件の方に注力しているし、となると小猫とアーシア、それにヴァレリーが欲しいところね。連絡するべきかしら」

 

 思った以上に状況は悪いが、同時に彼はまだ人間だ。

 

 生命活動に置いてどうにかする余地があれば、助けられる可能性はある。

 

「……よかった、これで……」

 

 ほっとした様子の少年だけど、まだそれは早い。

 

 救助する余地があることと、救助できるかどうかは全く別。ここから安全地帯に運べるかがまず問題で、そもそも運べるようにするのに相当の時間がかかるだろう。

 

 だからこそ、それは暗部()が言うべきだ。

 

「まだよ。状況が色々と切迫している以上、悪いけど助けられる確約は―」

 

 できない。

 

 その言葉を言うとした時だった。

 

「―助け……られる」

 

 彼は、自分のことを対象にしていなかった。

 

 そして同時に、強い力の発動を感じる。

 

「これは、禁手化(バランス・ブレイク)!? 神器(セイクリッド・ギア)保有者だったの!?」

 

 リアス部長が面食らうけれど、彼はそれに力なく微笑む。

 

「……そこは良く、分からないです。ただ、僕は……ずっと待ってました」

 

 そう返す彼の顔色はどんどん悪くなる。

 

 咄嗟に私は解析の方向性を変え、すぐに理解した。

 

 この禁手は、正気!?

 

「やめなさい! 分かっているの? 貴方は今、自分の命と引き換えに一発限りの博打を撃とうとしているのよ!!」

 

「え、何が起きてるの!?」

 

 私が思わず怒鳴り、それに反応したイリナが慌てて振り返る。

 

 とにかく分かりやすく説明した方がいいわね。

 

「要は覇を疑似的に再現した禁手ってこと! ……いい、貴方は今、自分の命と魂を炉にくべて出力を強引に高めているの。自爆技なのよ!?」

 

 そういう方法はあり得るだろう。

 

 神器が想いに応えるのなら、禁手を命と引き換えにするような真似は不可能じゃない。というより、ありえないような進化を齎すのならそれぐらい入るというべきか。

 

 それは例えるなら、通常状態から一足飛びにD×Dに至るようなものだ。短期間とはいえ段階を踏んでいたイッセーですら、多臓器不全を引き起こした。命が繋がったのはオーフィス達がいたからと言っていい。

 

 それがない彼がこんな状況ですれば、確実に死ぬ。

 

「……分かってる、でも……助け、たいんだ……」

 

「いったい何を!? 誰を助けたいの、言ってくれたなら私達が―」

 

 何とかすると部長が言う前に、彼は首を横に振る。

 

「……無理、です。普通じゃ……だから……」

 

 そう呟く彼の体は、少しずつ終わっていく。

 

 分子結合を保ってられないのだろう。水分が抜け、変色し、そのまま砕けて散っていく。

 

 更に彼を経由して生命力を吸われているからか、この建築物そのものが同様の風化を遂げて行っている。

 

「まずいっすよ! このままだとここも崩れちまいます!!」

 

 アニルがそれに気づいた時、彼は苦笑した。

 

「その……お願い、が、ありま……す」

 

 その言葉に、私達は誰もが意識を耳に集中する。

 

 彼はもう助からない。助かることを放棄して、誰かを助けようとしている。

 

 それに配慮ができないほど、私達は情が無いわけでは断じてない。私でもそうなのだから、部長達なら尚更だ。

 

「言って頂戴。何を願うの?」

 

 部長がそう尋ねると、彼は消えかける光を目に取り戻す。

 

「……亜香里と、有加利を。鰐川亜香里……と、望月有加利を、助け……て、くだ……さ……い……」

 

 そう告げたのが、彼の最後の力だった。

 

 その後一瞬で彼は風化し、上半身の殆どが崩れ落ちる。

 

 残されたのは、化け物と一体化した下半身。そして周囲の建築物もまた崩れ落ち始めている。

 

 ……おそらくだが、これが決定打になるだろう。

 

 だから、こそ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、急に二人は体を抱えて苦しみ出す。

 

「あぁ、ぁ……あああああああっ!?」

 

「何、が……うわぁああああっ!?」

 

 彼女達は急に闇に包まれていくと、それが肉の塊となっていく。

 

 な、何があった!?

 

「おいおいなんだよ!? こりゃあれか、ゲームみたいにデカくなった奴がボスなのか!?」

 

「いや、そんなベタなこたないだろ。今までの敵だってそんなこと無かったし」

 

 ラムルとイッセーが困惑するが、俺はとりあえず周囲を確認。

 

 周囲の魔獣達にも同様の事態が起きているが、その数は少ない。ただし、デカい建築物に関しては急激に風化し崩壊し始めている。

 

 カズヒ達が中枢をぶち壊したとかか? いや、それにしても連絡が全くないのが気になるな。自衛隊の後続もいるから、連絡ゼロってことはないだろうが。

 

 どういうことか分からないが、とりあえず状況は俺達に有利に働いている。

 

 周囲の状況を確認しながら、その辺りの状況を把握していると通信がつながった。

 

『……その場にいる全ての者に、リアス・グレモリーから指示を出します』

 

「リアス? 一体なんだ?」

 

「どうなってんだ?」

 

 イッセーとラムルが首を傾げたその時、今度はカズヒの声が飛んできた。

 

『鰐川亜香里と、望月有加利が分かるのなら、何があっても真っ先に保護しなさい。それが、私達にできるせめてもの誠意よ!』

 

「「「はぁっ!?」」」

 

 正直状況が分からない中、目の前のそいつらは不思議な現象を起こす。

 

 闇が液体のように落ちると、そこには一糸纏わぬ姿の二人の少女がいた。

 

 どちらも敵対したそいつらだろうが髪の色が大きく変わっている。

 

 青紫だった望月有加利は、鮮やかな水色の髪に。

 

 赤紫だった鰐川亜香里は、鮮やかな桃色の髪に。

 

 二人はそのまま、崩れ落ちるように落下し始め―

 

「九成右!」

 

「ああ!」

 

 ―慌てて俺達はそれを受け止める。

 

 ああもう。何が何だか分からないが、とりあえず危険性はなさそうだ。

 

 敵意がないどころか意識がない。なら警戒を解かなければ問題ないだろう。

 

「ったく! カバーするからサンタマリア級にまで下がれ! どうせ狙いはそいつらだから、検査と看病はしてくれるだろうよ!」

 

 ラムルがカバーに入ってくれたので、俺達は素直に従うことにする。

 

 周囲を警戒しながらだが、既に魔獣達は一斉に崩壊。残りは僅かだから、五大宗家でも余裕すぎるだろう。

 

 それを把握しながら離脱していると、通信が届いた。

 

『……和地』

 

 この声は鶴羽か。

 

「どうした? 正直こっちも、今色々とありすぎて余裕がないんだが」

 

 俺は周囲の警戒を解かない範囲で促した時だった。

 

『……リーダーが……っ』

 

 その言葉に、俺は流石に肩が振るえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、世の中に問題が尽きることはまだまだなさそうだという事か。

 




 とある町での戦いはこれにて終幕。

 だが、その裏で行われていたもう一つの戦いが、更なる波乱を運んでくる……っ


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新期来訪編 第四話 真魔王計画

 序盤の魔獣騒ぎもひと段落つき、ここからは「旧魔王派が復興するかも!?」問題になります! 一話です!


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サンタマリア級のブリーフィングルーム。

 

 その一つで、私達D×Dメンバーはフロンズ達から事後説明を受けることになった。

 

「……手間を掛けさせてすまないが、ある程度の情報交換は必要だろう」

 

 そう前置きしたフロンズは、そこから話し始める。

 

「とりあえずあの町と学園に関しては、星辰奏者を主体とするテロ組織によるテロ被害により閉鎖という形となる。……町の方々の移住先については、こちらも手配を支援しよう」

 

 そうなるわけね。

 

 流石はフロンズ・フィーニクス。現大王派の実権をほぼ握っているとも言われる、大王派が誇る新任最上級悪魔。(まつりごと)で頭角を現すだけのことはあるわね。

 

 素早い事後処理。おそらく重要な判断をするもの以外は多数確保。場合によっては一から教育をしている可能性もあるでしょう。できる手合いが対立派閥とか、数百年後は大変でしょうね。

 

 まぁ、幸香達にとってはこういった上司を持てるのはいい事でしょうけど。

 

「そうね。そして説明もしてもらえるのでしょう?」

 

「無論だとも、リアス嬢。それぐらいの責任は理解しているとも」

 

 リアス部長に促され、フロンズは軽く肩をすくめる。

 

「……既に魔王様方には了承してもらっているが、我々は幸香達がかつていたという繋がりを通じ、旧魔王を中心に禍の団に対する寝返り工作を進めていた」

 

 なるほどね。

 

 敵対勢力に対する寝返り工作。戦争や対立では古今東西よく行われている手段だわ。

 

 窮地になったから手の平を反す手合いは信用できないけれど、前もって手順や作法や段取りを踏まえているのなら一定の信頼は置ける。そういった手法は当然どこの時代でも行われるもの。当たり前の手法だわ。

 

 もちろん種族まで違うと警戒も出るけれど、種族が同じならある程度はあり得る。そして幸か不幸か、悪魔は禍の団においても大きな派閥と化している。

 

「……旧魔王派を取り込めるの? ヴァーリはどちらかと言えば現魔王派(私達)寄りよ?」

 

 リアス部長はそこを指摘する。

 

 実際問題、ヴァーリ・ルシファーは魔王派と大王派のどっちかと言えば魔王派だ。というより、奴はあまり魔王ルシファーとしての責任までおいたがらない。旗頭にすることが困難といえるだろうし、家柄の沽券とかを特に重んじる大王派とそりが合わない。

 

 だから部長の質問は正当だ。担ぎ出せない神輿を利用して、価値があるのかと質問は必須だろう。フロンズが分かってないはずはないだろうけど、確認は大事だもの。

 

 そしてフロンズもそこまで読んで、小さく微笑むほどだった。

 

「だからこそだ。崇める神輿がないのなら、弁護と多少の保障で抱き込める余地はありそうだろう?」

 

「……あぁ。今の吸血鬼に近いんですね……」

 

 ギャスパーが遠い目をしているわね。

 

 まぁ、権威のよりどころや権威を失ったというのは思うわね。自棄を起こして暴れたり、無いものに縋って暴走したり徒もあり得る。だけどそこを指摘したうえである程度の保証を示すことで、「負けたけど守れるものはある」という逃げ道を用意したと。

 

 まぁ、魔王派は基本的に平和主義者でお人好し。平和的に解決できるならそれを選ぶし、殲滅戦は好まないもの。私だって必要性が薄い悪行まで好き好んでやらないし、それはいいでしょう。

 

 ただ、フロンズは少し渋い顔をしている。

 

「取り込みは進んでいる……が、同時に困ったことがいくつかあってね。今回もその一環といえるのだが……困ったことがあってね」

 

 眉間にしわが寄っているわね。

 

 いったい何があったのか。逆に興味が湧いてきたわね。

 

「……いったい何を引き当てたの? シャルバ達が目論んでいた代物とか、その時点で嫌な予感がするわね」

 

 リアス部長が凄く嫌そうな顔で言うと、フロンズは何故か首を横に振る。

 

「いや違う。奴らは何一つ知らない地雷だ」

 

 別の意味で嫌な予感がしてきた。

 

 とりあえず、立ち位置とかを考えないと面倒くさいことになる相手なので、リーネスやイリナに視線を向ける。

 

「……もしかして、人為的に魔王を作ろうとぉ?」

 

「どういう事かしら? 人為的に魔王って作れるの?」

 

 リーネスがあえて意図的に最悪な予想を語り、それにイリナが引っかかる。

 

 そしてまぁ、説明のとっかかりとしてリーネスは頷いた。

 

「魔術的な手法なら、人工的に生物を作り出せるわぁ。それで悪魔を作ることも、理論的には可能といえるから、それでよぉ」

 

「安心したまえ。流石にそういう方向ではない」

 

 フロンズはそう前置きし、そして続けたわ。

 

「どうも内乱で負けてから、ある計画が進んでいたのだ。……今の魔王血族が現魔王に負けたのなら、勝てる魔王血族を生み出せれば……とね」

 

 ああ、なるほど。

 

 私達全員がほぼ納得したわ。少なくとも、奴らがそういう事をするということはね。

 

 軽く引き気味の空気に、フロンズは同意を肩をすくめて示した。

 

 そのうえで、彼は話を続ける方向に持ち込んでいく。

 

「シャルバ達に反対されていたが、魔術回路保有者を抱き込んで内密に進めていたようだ。……それが良くなかった」

 

 苦笑交じりで両手を広げると、フロンズはそのまま続ける態勢に入る。

 

「その過程で「多種族とあえて掛け合わせていいとこどり」などという発想もあったようで、それらが原因で因子が流出したこともあったらしい。まだ確定はできないが、ユーピやマルガレーテはそのケースと思われる」

 

 少しため息交じりだが、これは仕方がないところもあるだろう。

 

 ある意味でこれは地雷の発掘だ。いきなりこんな情報が出てくれば、フロンズ達も困っていたことだろう。

 

「そして彼女達もまた、そのケースと?」

 

「亜種聖杯を利用した托卵。それにより引けた当たりが彼女達だ」

 

 肩をすくめてリアス部長に応えるフロンズは、げんなりしている様子だった。

 

「交渉が成立したのは数時間前だ。アジュカ様達も同席しているから確認してくれたまえ」

 

 ため息をついたリアス部長に、フロンズはそう返す。

 

 ……どこもかしこも大変ねと言うべきかしらね。

 

「……ちなみに、純血の者達もいるという事かしら?」

 

 そこは確かに厄介だ。

 

 もし魔王血族、それも純血の者がいれば旧魔王派は盛り返す。そうなるとかなり面倒なことになる。

 

 ただし、こちらが確保できれば切り崩すには十分すぎる。そういう意味では、諸刃の剣というべきだろう。

 

 不安と期待が混ざり合う視線が、フロンズに集まっている。

 

 その上で、フロンズは複雑な表情を答えにする。

 

「一応、数名を保護することはできた。ただそれで終わっているかどうかについては、今の情報では断言できん」

 

「……厄介なことね。それで、保護した方々は?」

 

 渋い表情になりながらも、リアス部長は話を進める。

 

 それに対し、フロンズは少し視線を逸らしながらも話す態度ではあった。

 

「アジュカ様、ゼクラム様、そして破壊神シヴァ様が満場一致で「この者が預かるなら」と納得してくれた者に一旦預けている。その者の要望で語れぬが、まぁ太鼓判ぐらいはアジュカ様とゼクラム様に確認できる立場だろう、貴女は」

 

 どうやら、これ以上は聞き出せなさそうね。

 

 リアス部長で繋ぎをとれる、アジュカ・ベルゼブブ様にゼクラム・バアル。この二人が納得しているのなら文句のつけようがないわ。

 

 フロンズもその二人には気を遣っているでしょうし、これ以上は無理そうね。

 

 だからこそ、私は此処であえて言う。

 

「……つまり、件の二人は魔王血族という事かしら?」

 

 そこは重要な情報だから、嘘偽りは認められない。

 

 その意志を込めた視線に、フロンズはしっかりと頷いた。

 

鰐口亜香里(わにぐち あかり)はベルゼブブ、望月有加利(もちづき ゆかり)はアスモデウス。どちらも托卵じみた方法で生み出された、計画の産物だよ」

 

 なるほどね。

 

 それなりにツテを独自に持っていたと。そういう事で納得するしかない、という事でしょう。

 

 そしてそれを知った時には、彼女達の住んでいる町は大惨事。慌てて保護できる余地を確保するべく、艦艇を派遣して突貫したと。

 

「……そして面倒なことだが、魔獣化事件はややこしいことになっているようだな?」

 

 そうフロンズが確認するように問うと、ロスヴァイセさんが頷いていた。

 

「ええ。魔獣化した者達のオーラなどは全くの新種でした。結晶体の破片などからは、ある意味で神器に近い性質が見て取れましたが」

 

「……もうぶっちゃけるとねぇ? あの結晶体は埋め込まれた者の欲望に呼応し、肉体と精神を変質させるのよぉ」

 

 引き継いだリーネスが、素早く魔法陣を操作して映像を映し出す。

 

「埋め込まれた者達が強く持ち抑え込んでいる欲望。それを解放して欲望のままに動く生命体に変質化させる。言葉にすれば単純だけど、聖杯に匹敵する所業ねぇ?」

 

 悍ましい話も、あったものね。

 

 こんな下劣なやり方で人間を破壊する。流石にちょっと納得できないわ。

 

「リーネス、それで治療の余地は?」

 

 私がそれを確認すると、リーネスは首を横に振った。

 

「正攻法では不可能ねぇ。例えるなら、吸血鬼の城下町で邪龍になった者達と同じってところかしらぁ」

 

「……それは、酷い話ですわね」

 

 朱乃さんが眉をしかめるだけのことはある。

 

 あそこまで作り変えられれば、もう元に戻せない。例え元の形と精神性を取り戻せたとしても、ある種のスワンプマン問題といえるでしょう。

 

 きっと、彼はそこまでは思い至らなかったのかもしれないわね。

 

「それでリーネス。例の亜香里に有加利といった少女達はどうなんだ?」

 

 ゼノヴィアが、そこについて指摘する。

 

 彼女も、彼のあの最期を見ているものね。そんな彼の、最後の頼みに思うところはあって当然でしょう。

 

 そしてリーネスも頷くと、素早く映像を移し替える。

 

「……厳密には、彼女達は元に戻ったわけじゃない。強引に元の状態に戻そうとしたことが理由でしょうけれどぉ、各種生命機能があまりに衰弱していたわ。……だから」

 

 そう区切り、リーネスは視線をフロンズに向ける。

 

 それに対し、フロンズは苦笑すると肩をすくめた。

 

「堕天使化で延命を図ったというところかね?」

 

 なるほどね。

 

 割と火急の事態でもあった。だからこそ、手持ちに手段で即座に対応。その結果が堕天使化、と。

 

 フロンズ達からすると、面倒ごとになるかもしれない。そういった懸念を前に、フロンズは気にしていない。

 

「マルガレーテの件もあるが、相手の意思が魔王の血族として生きないことであるなら仕方がない。まぁ、それに神器という聖書の神が持たした奇跡を、魔王の血を継ぐ者が持ち、堕天使として新生するのは良い事だ。和平的に美談だろう?」

 

「前向きな考え方で良い事だわ」

 

 警戒心を少し出しながら、リアス部長がそう返す。

 

 まぁ、フロンズ達は魔王を「かつて支配者だった一族」にとどめる方針だものね。だからこその九大罪王制度。別に魔王血族にハーフがいる程度はどうでもいいと。

 

 あくまで旧魔王派の抱き込みの一環だったのでしょう。だから、堕天使になる程度は問題ではない、と。

 

 それらを聞いたうえで、フロンズは小さく頷くと立ち上がった。

 

「……彼女達については、当面貴殿らに任せた方がよさそうだ。もし魔王血族として生きるというのなら、その時はこちらが引き受けてもいいがね」

 

 どうやら、そのレベルでいいという事ね。

 

 フロンズ達からしてみれば、決して無視はできないけどその程度。魔王として生きるにしても生きないにしても、旧魔王派の神輿にさえならなければいい。そういう感覚なのでしょう。

 

 フロンズはそのまま帰り支度を進めるけど、その視線がイッセーの方に向いていた。

 

「そういえば赤龍帝、貴殿と共に二人を保護した涙換救済(タイタス・クロウ)は?」

 

 お前達ならこの場に連れてくるだろうに。

 

 その程度の疑問ではあるのだろうが、フロンズはそこに首を傾げている。

 

 ……その時、私達は少し雰囲気が重くなった。

 

 そしてフロンズはそれを妙な方向に勘違いしたらしい。

 

「もしや不調かね? 試作型の堕天使化を使った弊害……なら、そちらの悪祓銀弾(シルバーレット)も休んでいるか。深手でも?」

 

「いいえ。彼自身はしっかり無傷でしのいでいたわ」

 

 リアス部長がそう訂正したので、私も言っておくべきでしょうね。

 

「昔の身内が()()でまずいことになっていてね。今はそっちに向かっているわ」

 

 ……まったく。禍の団が当分何とかなったと思ったらこれとか、勘弁してほしいのだけれどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 神の子を見張る者が保有する、日本国内にある医療設備。

 

 そこの一室に横になっている少女がいた。

 

 年齢は俺より一つ上。灰色の髪を持つ彼女は、ただ目を開いていた。

 

 そして俺達の方を見ると、無表情で口を開く。

 

「自覚範囲内での体調は良好。ご命令を下さいませ」

 

 ……その何も映し出されていない反応に、俺は拳を握り締める。

 

 そのうえで、崩れ落ちそうになる鶴羽の肩を抱き寄せて支える。

 

「……名簿で見つけて、もしかしてと思って探してた……」

 

 そう小さく語る鶴羽は、明らかに消耗していた。

 

「想像以上に激戦で、死人も出てるから容赦もできない。学生が、教師が、改造されて死も恐れない兵士になってて……」

 

 そして俯く鶴羽は、涙を一つ落としてしまう。

 

「リーダー、胴体から断ち切られてて、私、慌てて、聖杯で……治したのに……っ」

 

「もういい、鶴羽……っ」

 

 俺は鶴羽を抱きかかえる。

 

 目の前にいる少女を、俺達は知っている。

 

 名前は緋音(あかね)・アフォガード。なんでも先祖代々結構な割合で死因が溺死だとかで、戒めの為にそんなファミリーネームを名乗っている、イタリア系のクォーター。

 

 そして俺達と同じザイアに拾われた孤児で、俺達のリーダー役だった。

 

 突出した異能はなかったが、非常時に強い精神性もあってレイダー部隊の隊長格候補。もしあのままザイアが動いていたら、俺とヒマリのサポート部隊として鶴羽を率いていただろう。割と頼りがいのある人だったしな。

 

 ただ同時に、だからこそ自分にできないことは難しいことは理解できる人だった。平時では割と緩いところがあるからか、異形たちの共存を自分が選べる自信がないといって、記憶操作を受けることを自ら決めた人だ。

 

 思えば、常に頼りがいがあるのはザイアという環境だったからかもしれない。ザイアという環境が異常だと、無意識で察していた可能性がある。だから、常に非常時に強い精神性が働いていた。

 

 記憶消去を自分から受け入れたのも、そういう事だろう。ザイアの異常性を悟っていたが、同時に影響を受けていたから。そこから至った結論が、記憶消去だった。

 

 その後はある程度の監視がつく形で、堕天使側が動いていたのは知っている。和平が結ばれた以上、より自由に動ける環境に移されるとの想像もついたはずだ。

 

 ……バラキエルさんはあえて黙っていたのだろう。万が一の可能性があったし、他にもリスクはあったからな。

 

 ただ、鶴羽はおかげでかなり参っている。

 

 聖杯を無理して使うぐらいで対応しているが、それでもこのざまだ。

 

 緋音さんは、元に戻すことが不可能かもしれない。

 

 不可逆の加工を受けている。例えるなら、ブドウをワインにしてまたブドウに加工するようなものだ。それはもう、別物だろう。

 

 そして同様の改造人間が多数確認された。それが、例の学園で行われていた事態だった。

 

 状況次第で自爆まで敢行する、脳を中心に改造を施された元人間。それが、夫従妻隷会の新たな手法。

 

 どこからこんなレベルの改造技術を手に入れたのか。世界はいくらでも悪意が転がっているが、こうして目にすることになるのはやはりきつい。

 

 ……本当に、ふざけるな……っ

 

 緋音さんには本当に世話になった。ヒマリの面倒とかで助けられたことも多いし、ダウナー気味だけど社交性は割とあった。戦術の座学とかでも指摘はしっかりしていたし、そういう意味でも、感謝している。

 

 ったく。それが、こんな―

 

「……ん?」

 

 ―ふと気づくと、なんかどたばたという騒がしい足音が聞こえてきた。

 

 首を傾げて振り向いた時、盛大にドアが蹴破られる。

 

「お待たせしましたの! 切り札を引っ張ってきましたわよ!」

 

「「ヒマリ!?」」

 

 思わず鶴羽と一緒に声が出るけど、ヒマリが額に汗して誰かを引っ張っている。

 

 ……ってちょっと待て。

 

 その人は―

 

「む~。お姉ちゃんってば強引なんだからぁ」

 

「「そういうのいいから」」

 

 このタイミングで子供ぶらないでください。状況分かってないからだろうけど、割りとイラってくるから。

 

 そんな殺意が微妙に漏れたこっちの反応に気が付いたのか、彼女は雰囲気を本来のものに切り替える。

 

「……ふむ、借りは返すつもりではあったが、医療設備(こんなところ)に引っ張り込むとは……そういう事でよいのじゃな?」

 

 すぐにある程度の状況を理解する当たり、やはり傑物であるからこその地位か。

 

 まったく、いないと思ったらこんなことしてたんだなヒマリ。

 

 行動力の高さに脱帽だ。確かに、これはどんでん返しレベルの鬼札(ジョーカー)だとも。どうにかできる余地が見えそうだ。

 

「そういうわけで、ちょっと相談がありますわ、藤姫さん!」

 

「ふむ。安請け合いはせぬが話はまず聞いてやろうではないか」

 

 道間家のご意見番。原理血戒(イデア・ブラッド)を宿す祖たる死徒。

 

 道間藤姫。ここで来るか!

 




 グレン×グレンお得意の手法、「オリジナルの魔王血族」をついに投入した感じとなる今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか?

 今回に関しては亜種聖杯を使用したりなどいろいろやっておりバリエーション多種多様! 最低でも「純血」「混血」「先祖返り」を原作とは別に一セットずつ用意したい所存です! 原作も最低でもアスモデウスは出すだろうしね! ほら、純血につながる異能が名前出てきてるから!






 それとは別に、致命的な改造を受けている形で和地の旧知がさらに登場。前回のリーダーは彼女です。デュリオがD×Dのリーダーなので誤解を招くことを失念しておりました。マジすいません。

 ちなみに和地ヒロイン関係ですが、いろいろ考えて「カズヒ1:第一部ヒロイン5:第二部ヒロイン5」もしくは「カズヒたち前世組3:懲罰メイド4:なんかすごい系ヒロイン4」にする感じにするつもりです。ちなみにリーネスは終盤で告白したので第二部に属する感じで。

 ……つまり、ここで祖の藤姫が来た。……つまるところそういう事です。

 かつてtappeさんに相談もしているので、それ以外の底上げも考慮中です。さて、久しぶりにメッセージを確認し直すかぁ……っ!


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新期来訪編 第五話 治しようがないなら一度死なせるとかいうパワー治療……治療?

 はいどうもー! 土日でだいぶ書き溜めも増えており、書き溜めで渦の団編に突入しているグレン×グレンでっす!

 さぁ、今週も頑張って書いていくんで、よろしくね!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は、ちょっと落ち着いてから神の子を見張る者(グリゴリ)の医療施設に来ていた。

 

 亜香里や有加利って子達もだけど、九成達のザイア時代の先輩も運ばれているからな。様子ぐらいは見とかないと。

 

 まったく。漸くミザリやリゼヴィムも倒して、少しは平和になったと思ったらこれだ。世の中嫌なことはいくらでもはびこってるんだな。

 

「……九成達、大丈夫かな?」

 

 俺がつい呟くと、隣を歩いているシャルロットが頷いた。

 

「心配ですね。和地君はともかく、鶴羽さんは相当沈んでそうです」

 

「そうね。ソーナの話では相当取り乱していたそうだもの」

 

 ソーナ先輩から話を聞いているリアスも、顔をしかめている。

 

 匙も慌てて止めに入るぐらい、聖杯を過剰使用してたみたいだしな。下手したら精神汚染が酷いことになっていたかもしれない。

 

 ……ったく。禍の団が収まったと思ったら、訳の分からない事態に夫従妻隷会。やってくれるにもほどがあるぜ。

 

「そういえば、今回の事態はどういう風にまとめるのかな? 国際レーティングゲーム大会にも影響は出るかもしれないけど」

 

「それはないみたいよ。今回の件、異形が絡んでいるけど大きな関係はないってことになるみたい。ほら、国家間の紛争があってもオリンピックとか開催される時があるっていうのと同じ感じで」

 

 木場の懸念にイリナがそう答えると、リーネスもそこは頷いていた。

 

 ちなみに今のリーネス、俺達駒王町における堕天使のトップだ。アザゼル先生から直々に駒王町における後任にするという書状があったらしい。それに今のリーネス、神の子を見張る者でも結構な権限を持つ準幹部ポジションになってるし、適任だ。

 

 悪魔はリアスとソーナ先輩。堕天使はリーネス。天使や教会側はイリナ。彼女達が駒王町方面でのトップ役になるみたいだな。

 

 そして俺ももうすぐ上級悪魔。なんていうか、俺の周りって凄い人が多いし、俺も凄い事になってるよな。

 

 ただ、そんな凄い奴が揃っても、出来ないことはある。

 

 いろんなところで悲劇は起こってるし、それを俺達だけで全部どうにかすることはできない。禍の団は大打撃を受けているけど、禍の団だけが悪い奴らってわけじゃない。世界中に悪い奴はいっぱいいる。

 

 分かっちゃいるけど、こういう経験をするとちょっと嫌な気分になっちまうよなぁ。

 

「……はぁ」

 

「イッセーさん……」

 

 ついため息をついてしまうと、アーシアに心配されちまった。

 

 いかんいかん! アーシアを心配させてどうするんだ。ダメだろそれは。

 

「俺達に出来ることがあるか分からないけど、なんかできることがあったら、全力でサポートしようぜ?」

 

「そうですわね。私も微力ながらお手伝いしますわ、イッセー様」

 

 レイヴェルも頷きながら、その辺りを確認する為かメモを取り出して確認を始める。

 

 さて、そろそろ九成や南空さんの先輩がいるっていう病室の方だけど―

 

 あれ、誰か出てきたぞ?

 

 看護師さんでもお医者様でもない感じだ。というより、見かけだけだと俺達より小さい子供っぽい。でも雰囲気とかから見ると、たぶん結構生きてる異形の人っぽいな。

 

「……藤姫?」

 

 カズヒがなんか怪訝そうな表情を浮かべている。

 

 えっと、藤姫ってどっかで聞いたことがあるような?

 

 俺が首を傾げていると、朱乃さんが思い出したのか一礼する。

 

「お話は聞いております。道間のご意見番たる、死徒の祖であられる道間藤姫さまですね?」

 

 ああ、それだ!

 

 アザゼル先生と波長の合う、死徒のトップとかいう!

 

 俺がそれを思い出していると、藤姫って人は不敵な笑みを浮かべながら、なんかポーズをとった。

 

 もうこの時点で確信したよ。この人、アザゼル先生と気が合うし、何ならサタンレンジャーにゲストとして参加したがるタイプだ。

 

「い・か・に・も! 儂こそ道間のご意見番たる死徒の祖が一角! 道間ぁ……藤姫なのじ―」

 

「―申し訳ありません。ここは病人の方も多いので、共用部分であまり騒がしいことはお控えください」

 

 そして後ろから看護師さんに怒られた。

 

「……これはすまぬ。以後気を付けよう」

 

 そして素直に謝ったし。

 

 なんか流れがしまらないなぁ。

 

 そんな感じで俺達がちょっと反応に困っていると、看護師さんを見送った藤姫さんはこちらに振り返った。

 

「済まぬ済まぬ。適度にふざけるのが心を若くするコツじゃが、空気を読まな過ぎたわ」

 

 あ、この人アザゼル先生やリヴァさんと同じタイプだ。

 

 それとなく後ろを確認すると、みんながリヴァさんを囲んでいざという時取り押さえられる状態になっていた。

 

 リヴァさん。口元が引きつってるけど自業自得っす!

 

「……それで、藤姫様はこんなところで何をなさっているのですか?」

 

 リアスが代表して聞くと、藤姫さんはちょっとだけ首を傾げた。

 

 それにこっちが首を傾げたくなっていると、何かに思い至ったのかはたと手を打った。

 

「……ヒマリの奴め、思い付きの独断で儂を引っ張ってきおったか。中々愉快な奴よのぅ」

 

「……なんかごめんなさい」

 

「すいませんでした……っ」

 

 ヒツギとオトメさんが即座に謝ったよ。

 

 とりあえず、ここに藤姫さんを連れてきたのはヒマリなのか。

 

 あいつは一体何を考えてるんだ?

 

 俺達がちょっと戸惑っていると、藤姫さんはなんて事のないように小さく微笑んだ。

 

「まぁよい。儂も少し用事がある故、詳しいことはあ奴らに聞くがよいぞ?」

 

 そういうと、藤姫さんはそのまま外の方に向かっていく。手の平をひらひらと降ってくる辺り、中々豪快な人だな。

 

 そんなことを思っていると、藤姫さんはこっちに顔だけを振り返る。

 

「まぁ、今後ちょくちょく顔を合わせることもあるじゃろうて。あ奴に関しては、道間に対して意見を通せる故丁重に扱うのじゃな?」

 

 ……ん~?

 

 正直よく分からず、俺達はみんなして顔を見合わせる。

 

 ただ、カズヒとリーネスは別の意味で顔を見合わせていた。

 

「……まさか、ヒマリってそういうことを?」

 

「……ありえそうねぇ……なんて荒業ぁ……」

 

 な、なんだ?

 

 とりあえず、魔術的に何かしたとかそんなことなんだろうか。

 

 俺達がよく分からないでいると、二人は意を決して病室に足早に向かっていく。

 

「……はっ! も、もしかして?」

 

 そして乙女さんが何かに気づくと、すぐに追いかけていく。

 

 うん。とりあえず、魔術回路的なあれが大いに関わる何かをしたってことでいいんだろう。そう考えるべきなんだろうなぁ。

 

 俺達はそれを悟ると、小さく頷き合った。

 

 たぶん、ツッコミとか絶叫とかが出てきそうなことになってくるぞぉ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は意を決すると、ドアをノックしてから返事を待たずに入ることにする。

 

 道間藤姫。彼女がこの状況下で連れてこられたということは、一つの可能性を暗に示している。

 

 それを確かめることも踏まえて部屋に入ると。

 

「……ぁ……ぅ……ぉぇ…っ!」

 

「大丈夫。俺も鶴羽もヒマリも、今ここにちゃんといるし受け止めるから」

 

「そうですわ。緋音さんは、今でも大好きな先輩ですわよ」

 

 えづく少女を前後から労わる、和地とヒマリの姿があった。

 

 そして同時に、その少女が人ならざるものになっていることも理解できた。

 

 ……なるほどね。

 

「あ~、なんかごめん。説明してからの方がよかったわよ……ね?」

 

 と、少し離れたところで洗面器を洗っていた鶴羽が、気まずそうな表情を浮かべている。

 

 私は安心させるように、軽く肩をすくめるにとどめておく。

 

「ま、それぐらいは和平も結んでるし問題ないでしょう。説教が必要ならリアス部長達がするでしょうしね」

 

「それもそうねぇ。それに、考えようによってはいい機会かしらぁ?」

 

 そうリーネスも笑顔で言っているし、なら問題はないでしょう。

 

 第一、説教するならまずはヒマリでしょうし。

 

「……えっと、つまりその子……死徒になっちゃったの?」

 

 と、遅れてきたオトメねぇがそこの確認を一応する。

 

 それに対し、鶴羽がしっかりと頷いて……そっと視線を逸らした。

 

「「「待ちなさい」」」

 

 当然だけど、私もリーネスもオトメねぇも、そこに関してはしっかりと指摘する。

 

 死徒化を治療の一環として使う。それはそれとしてアレではあるけれど、そこはいい。

 

 死徒化と言ってもいくつか種類がある。死徒が血を吸って人を殺す際、自らの血を送って死徒にする場合。もう一つは魔術的措置で自ら死徒となる場合。まぁどちらもリスクはあるし、そもそも死徒の不老長命は悪魔とか異形のそれに比べると多々問題も大きいものだ。

 

 自我を確立させているところから見て、藤姫はかなり厚遇をしたらしい。まぁヒマリはある意味で道間家の管理行き届きが思いっきり被害を与えているし、相応の条件なら引き出せるでしょう。藤姫も借りは返すという旨を言っていたし。

 

 問題は、その時点で顔を背けるのならともかく、その後で背けることだ。

 

 階梯の問題かしら?

 

 確か死徒として上級である第Ⅶ階梯に届かなければ、死徒は親の命令に絶対服従。そういう意味では私たちが彼女を抱える際、政治的というか謀略的にまずいことになる。

 

 だけどそれをやれば不興を買うと藤姫だって分かっているはず。

 

 つまり、どんな手段を使ったかはともかく死徒として上級は確定。親に対して反抗することができ、場合によっては下克上もワンチャン領域たる上級死徒でないとややこしくなる。第Ⅶ位階に到達していると考えるべきなのだけれど、どういう事?

 

 私がその辺りで怪訝に思っていると、リーネスはにっこり微笑みながら鶴羽の方を見た。

 

 その視線を、鶴羽は直視できていない。

 

 冷や汗すら流しながら逸らしている。

 

「えっと、何があったの?」

 

 イリナがその辺りを切り込み、鶴羽も覚悟を決めたらしい。

 

 盛大に肩を落とすと、手を伸ばして彼女の方に向ける。

 

「紹介するわ。彼女は緋音(あかね)・アフォガードさん。ザイア時代で私のチームでリーダーになってた人で―」

 

 そして、凄い遠い目になった。

 

「今は藤姫さんの後継者。……第Ⅷ階梯の死徒よ」

 

「「「ぇえええええええええっ!?」」」

 

 冗談でしょう!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、なんか騒がしいことになっている。当然だけど。

 

「ど、どういう事なんだ? 何が凄いんだ!?」

 

 イッセーがよく分かってないので素直に尋ねると、お袋が苦笑い気味でそれに頷いた。

 

「そのね? 死徒っていうのは人から外れる呪いの深度で、階梯があるの。 で、第Ⅷ階梯っていうのは祖の証明である原理血戒(イデア・ブラッド)を継承できる領域に至っている段階で……つまり死徒の世界における最高峰。頂点のすぐ下なの、その子」

 

「……つまり、あの人って死徒版の最上級悪魔とかそんな感じ?」

 

 イッセーがその辺りを解釈するが、たぶんちょっと違う。

 

「どちらかというと、聖書の神()が存命時のミカエル様達セラフの立場が近いわね」

 

 カズヒがその辺りを修正するけど、まぁそういう事だ。

 

 俺も正直ビビっている。

 

 道間藤姫、こちらに対する厚遇にもほどがあるだろうに。

 

 これ、藤姫に何かあった場合に俺達オカ研が藤姫の死徒集団を乗っ取ることが理論上可能になったぞ。いくら詫びだからって、そこまでするか? やるやらないの問題じゃないとすら思うんだが。

 

 正直俺も軽く戦慄しているが、今はそこは置いておこう。

 

 俺はそっと、いまだえづいている緋音さんをそっとなで、落ち着かせる。

 

「大丈夫。少なくとも、ここにいる人達は緋音さんに危害を加えるつもりなんてないから、さ」

 

「……ぅ……ん」

 

 そう答える緋音さんは、それでも震え、吐き気を殺しきれてない。

 

 ついさっきまでは、吐くものなんて何もないのに無理やり粘液を吐くほどに精神が追い詰められていた。

 

 まだ震えるその体。それだけで、彼女がどんな目にあったのか察するに余りある。

 

 察してやりたいが、きっと俺達が察しているレベルを遥かに超えるレベルで酷い目に遭ったんだろう。死徒とかしたこととは別の意味で、その体が冷たく青い、酷い状態だ。

 

 だからこそ、俺とヒマリはそっと抱きしめる。

 

「大丈夫。俺は緋音さんのことを信用している。ここは緋音さんを守ってくれるところだから、な?」

 

「そうですわ。悪魔の方々も多いですけど、みんないい人ですわ。大丈夫ですわよ」

 

 後ろから抱きしめて宥めるヒマリも、優しい微笑で緋音さんを受け止める。

 

 そして、緋音さんは少し儚く、だけど小さく微笑んだ。

 

「……うん。大丈夫……ううん、まだ大変だけど、ちょっと落ち着いた」

 

 そうか。

 

 素直でよろしい。そっちの方が俺としても向き合いやすい。

 

 ……と思っていたら、なんかちょっと騒がしいな。

 

 なんだなんだと思っていると、看護師さんが急に入ってきた。

 

「た、大変です! 九成さん達は……リーネスさんもいましたか!」

 

 慌てているその看護師さんは、そのまま転げそうになりながら部屋に入ると、声を上げる。

 

「申し訳ありません! 鰐川亜香里と望月有加利の二名が、脱走しました!」

 

「……はい?」

 

 え、ちょっと待って。

 

 今度は何だよ本当に!

 

 ひと段落突く間もなくトラブル発生かぁああああっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おお、アジュカ殿か。映像越しとはいえお初にお目にかかる」

 

『こちらこそ。サーゼクスやセラフォルーと会えば意気投合しそうな方のようで』

 

「それで、他の祖が大王派を経由して送った神血についてはどうじゃ?」

 

『残念ながらと言っておこう。あの血はあまりにも価値がある物だが、今の我々では代用品を作ることもできないだろうね』

 

「なるほどなるほど。他の派閥の祖はついてないようじゃ。……ま、それなら悪い事にはならぬじゃろうて」

 

『……リアスのところにいる、ヒマリ・ナインテイルから頼みを受けたと聞いたが』

 

「うむ。死徒化を回復の手段にするなどどうかしておるが、あれはそうでもなければ無理じゃったろうて」

 

『データは見ているが、やはり凄まじい改造だな』

 

「薬学投与でどうにかなるものではない。死徒化により復元呪詛が働いたが、あれは脳があまりにいじくられていたというほかないのぉ」

 

『そんな技術力はどこの世界にもない。……魔獣化も含めて、調べる必要がありすぎるな』

 

「大変なことじゃ。見舞いに酒でも差し入れよう」

 

『それはありがたい。だが、そんな神血を気軽に使ってよかったのか?』

 

「お主に言われるとはのぉ?」

 

『大王派を経由して聞いている。道間の死徒達が源流のいた時から持ち出した切り札となる特殊な血液。千年経とうと劣化せず、その血は小瓶一つ分で千年の蓄積に匹敵する質を持つと』

 

「そう。道間の祖が温存し、第Ⅷ位階(後継者)と見定めた新参者や人間にのみ使う虎の子。それを使わせてもらったのじゃから、今後の付き合い方には配慮願うぞ?」

 

『それはもう。こちらが強硬手段で道間の派閥を一つ乗っ取れる余地をあえて作ったのだ。その覚悟と大判振る舞いには応えるとも』

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、こちらは当面見物といういくか。……わざわざ乗っ取りができる余地を作ることで借りの利子まで返す勢いでやったのじゃからな。見せてもらうぞ、緋音・アフォガードよ」

 




 前回書いたと思いますが、和地ヒロインについては「カズヒ」「一部ヒロイン五名」「二部ヒロイン五名」、もしくは「転生者三名」「メイド四名」「なんかすごいの四名」に区分けできるようにしていこうと決意しました。ある種のバランス調整です。

 そして緋音・アフォガードは「なんかすごいの」に属します。主神の娘であるリヴァ側です。最終的に原理血戒を取り込んで祖の領域に到達させる所存。
 もちろんそんなことは初手から普通は不可能に近いため、それに対するギミックとして立ち上げたのが「神血」です。その名の通り神祖という名の転生者どもがかかわっております。

 裏を返すと、和地ヒロイン「なんかすごいの4名」はどいつもこいつもそんなクラスです。神話世界的にやばいのになる予定となっております。


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新期来訪編 第六話 モテる男にはモテる男の苦労がある。

 はいどうもー! 書き溜めは結構あるけど、水曜と木曜は忙しくなるのでもっとためておきたいグレン×グレンでっす!

 さて、今現在の書き溜めは渦の団とやり会っている真っ最中です。一章は「第三部まで踏まえた布石」的な感じになりそうで、いい機会なので渦の団の連中を強化する方向性でいろいろとやってみたいところですね。たぶん今の流れだと、ヴァーリに強大な試練が迫ることでしょう……!


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうこと? 詳しく説明して頂戴」

 

 リアス部長が促すと、呼吸を整えていた看護師さんは我に返る。

 

「は、はい! つい五分前に意識が戻ったのですが、記憶が曖昧だったのか混乱状態で、その状態で二人が再会したことで……」

 

 そこで言いよどみ、だけど言い切った。

 

「……結界を張っていたことが仇になりました。魔王血族に由来する魔力で吹き飛ばされ、死者こそいませんが全員が昏倒しており、対応が遅れました」

 

 頭を抱えたくなるというしかない。

 

 思わぬところで魔王血族がいて、それが妙な魔獣化事件で魔獣になり、一人の少年の決死の自己犠牲で{確証はないがそう形容するほかない}でどうにかなった。そして説明を受けて一旦こちらで預かる流れになったと思ったらこれだ。状況が錯綜しすぎている。

 

「とりあえず、まずは周囲の捜索ねぇ」

 

「そうね。魔王血族だって情報が洩れてたら、絶対よくない輩が探りを入れているわ!」

 

「……旧魔王派だってもはや一枚岩じゃない。祭り上げる神輿を探している可能性は大きいわ」

 

 リーネスにイリナにリアス部長の、駒王町側の代表三名がすぐに動く体制になっている。

 

 その際、視界の隅で和地が少し考えこんでいた。

 

 まぁ分かるわ。

 

 彼女達を保護したのは和地とイッセー。彼らならその辺もあって、探しに行きたいと思うでしょう。

 

 ただ同時に、アフォガードのことを考えると、自分が動く余裕がないことも悟っている。

 

 ……これは、私がカバーするパターンよね。

 

 まだ名も知らない彼に託されたのは私達である以上、むしろ私達こそが動くべき。和地にはまだ彼女を優先した方がいいでしょうし、これが妥当。そういった役割分担は大事よね。

 

「和地、こっちは任せて―」

 

 任せて頂戴と、言おうとした時だった。

 

「―行って……きなよ、和ちゃん」

 

 それより先に、アフォガードがそう告げる。

 

 あと和ちゃんって……和ちゃんって……。

 

「……ははぁん?」

 

 そしてリヴァ、何に気づいたのかしら?

 

「いや、緋音さん。今は緋音さんの―」

 

「大丈夫、とは言わないけど、今は……だいぶ落ち着いているから」

 

 和地の反論を遮って、アフォガードは力なく微笑んだ。

 

 小さく肩は震えている。ただその上で、彼女は確かに微笑んだ。

 

「私は一応……リーダーだからね。君を……きちんと活かすやり方を考えてるから」

 

 そこに在るのは、確かな信頼。

 

 流石は、私の愛する救済者。

 

 割と本質は分かりやすい。つまりはそういう事なのかもしれないわね。

 

「足引っ張るのも……趣味じゃないから。まず気になること片付けてから、私の相手をしてくれる?」

 

「……分かった。ちょっと待っててくれ」

 

 和地も珍しく根負けしたみたいね。まぁ、メンタルがゴリゴリ削れている相手に無理押しはできないし、仕方ないかしら。

 

「イッセー、付いて来てくれ。念の為に先回りしておきたいところがあるから、そこの確認だけしておきたい」

 

「……分かった。ま、俺もほっとけないし行かせてくれ」

 

 イッセーもこういう時判断が早いわね。

 

 なら、私達もやることをやっておくべきね。

 

「なら私達は周囲ね。そこからまずは―」

 

「いやいやボォス。私らは先にやらなあかんことありますでぇ?」

 

 なんか関西弁擬きでリヴァが肩にのしかかってきたんだけど。

 

 え、この状況でそっちする。

 

「……まぁ、別に全員で行くことはないわね。緋音(彼女)についておくメンバーも必要でしょうし」

 

 リアス部長、即座に納得しないで。止めて頂戴。

 

「あ、じゃぁリーネスと鶴羽も残してくれる? ほら、それなら検査的なのもできるし一石二鳥って感じで」

 

 なんだそのメンツ!

 

『『『『『『『『『『……ああ~』』』』』』』』』』

 

 しかもほぼ全員納得しやがった!?

 

「え、なに……これ?」

 

 アフォガードがついて行けてないし!? どういう事になってるのよ!?

 

「………ま、まさか!?」

 

「……そういう事なんだろうな。……おのれ九成、お前は何度俺の先を行く……っ」

 

 和地が愕然とし、イッセーがなんか悔しがっている。

 

 え、これ、そういう事?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々な後処理もあるので、俺達は用意してもらっていた車で移動する。

 

 そしてその中で、俺はぽつりと呟いてしまう。

 

「……緋音さん、俺のこと好きだったのか……」

 

「うん、お前本当に年上を落としすぎだからな?」

 

 イッセーに呆れられてしまった。

 

 いや、あの反応とかこの流れ、そう考えるべきだろう。

 

 なにせリヴァ先生が察し、あの場にいたカズヒやリーネスや鶴羽を意図的に残したんだ。これはもう確定的に明らか。あの人、緋音さんの異形に対する抵抗心を恋バナで緩める気だ。

 

 頑張れ緋音さん。あとカズヒとリーネスは何とかリヴァ先生の手綱を頼む。鶴羽は……ドンマイ。

 

 しかし、俺ってそんなにモテてたのか。これはむしろ、気づいてないことを心から反省するべきではないのか?

 

「……イッセー、モテるって大変なんだな」

 

「……ちょっと分かるかもしれない」

 

 俺達はちょっとだけ俯いた。

 

「いや本当に、ゼノヴィアの寝相でよくベッドから落とされてるんだよ俺だけ。……起きて俺のいないベッドで仲良く眠っているリアス達の姿を見ていると、新しい性癖を開拓しそうになる」

 

「ゴメンそれ方向性絶対違う」

 

 なんでそういう方向性なんだよ。そこじゃないんだよ。

 

 あとお前、ゼノヴィアの寝相を何とかする手段模索しろ。というより、流石に頻度が多いならきちんと指摘して対策を立てるべきだろ。

 

 ゼノヴィアもなんで器用にイッセーだけ蹴落とす。お前もうイッセーと同じベッドで寝るな。

 

「いっそのこと、SFみたいにドームで包まれる系統のベッド作ってもらったらどうだ? 神の子を見張る者(ウチ)なら喜んで作ると思うぞ?」

 

 創造系神器の要領で、人工神器的にできると思うんだが。

 

 ただイッセーは、なんか真剣に俯き始めた。

 

「突き破ることになったらどうするんだよ。絶対痛いだろ?」

 

「もうそれは、ゼノヴィアと一緒に寝ることを放棄するべきじゃね?」

 

 寝相は本人の意思ではどうしようもない。だが実害が出ているのなら、文句を言う権利はある。一緒になることを禁止する権利はあるだろう。

 

 笑い話とかそういうの抜きで、もろに実害が出ているなら少しは対策とかいろいろ考えた方がいいだろう。

 

 ……まぁ、寝相なんてどうしようもないからな。最悪ゼノヴィアだけ寝返りが打てないように拘束するとかぐらいか?

 

 ………。

 

「イッセー。ゼノヴィアなら「寝相で蹴り落とされてるから」って理由で拘束させても文句出なさそうな気がしてきたぞ?」

 

 あいつ、というか教会組、毎度毎度へんてこりんな方向に行っているからな。

 

 天界が堕天使の協力を受けて開発した、天使が子作りできる部屋に繋がるドアノブ。あの使い方があいつら致命的に間違ってる。そして間違い方から考えると……イケるんじゃないか?

 

 真剣にイケそうな気がしてきた。素直に理由まで言えば、割と成功しそうな気がしてきた。

 

 だってあいつら、ドアノブの使い方がおかしいからな。

 

 普通に誘って使うなりすればいいものの、何故か「夜中トイレに起きた時」だの「たまの一人の時間にプラモ創ろうとした時」だのを見計らっている。しかもコスプレをしてだ。

 

 当人に珍しくその気がない時を狙ってどうする。しかもそんなタイミングにアブノーマル要素を出すな。それではできるものもできないとなぜ分からん。桐生もアドバイスを遊び半分にしすぎだ。天然にからかいを混ぜるとややこしいことになるとなぜ分からんのだ。

 

 カズヒが説教するのも仕方がないだろう。何故あいつらはあいつらで、アドバイス対象を寄りにもよってそっちにする。

 

「……確かに」

 

 イッセーも真剣に考えこみ始めているし。

 

「……いや、脱線しすぎだろ! 今は脱走した子達の方をだって!」

 

 イッセーが我に返ってツッコミを入れるけど、まぁそうか。

 

 思わぬ方向からのラブ発覚に、俺もちょっと混乱してたな。反省反省。

 

 とはいえ、だ。

 

「可能性の一つを確認するだけだがな。まぁ、先回りできる余地があるならあそこぐらいだろう」

 

「……あの町、か」

 

 イッセーもすぐに思い当たるが、実際それぐらいしか当たりをつけられるところがない。

 

 ただ、心当たりがある場所を探すならそれぐらいだ。他にないと言ってもいい。

 

 彼女達が生まれた時から住んでいたというあの町。そして、彼女達自身が壊したと言ってもいいあの場所。

 

 今の彼女達の状況がどうなっているのか、俺達はすべてを理解できることはない。殆ど分からないと言ってもいい。

 

 だが、あの状態が異常であることは分かる。そして、死んだという少年はそれを元に戻そうとした。そこから考えれば、答えは三つだ。

 

「一つは、結局精神は戻ってないので同じことをする為の脱走。これなら遠慮する理由はない」

 

 これならいい。いや、悲しいことだが容赦する理由が無い。

 

 ただ、そうでない場合は……だ。

 

「二つ目。己の所業を信じたくないから、否定の為の確認。そして三つ目は―」

 

「―記憶そのものがないから、確認せずにはいられないってことか」

 

 イッセーもすぐに理解してくれたようだ。

 

 まぁ、そのどちらかであるなら……いる可能性はあるだろう。

 

 なにせ、あの町には駅がきちんとあったからな。駅名を覚えていれば、向かうことは不可能じゃない。その程度の距離しかない施設だったし。

 

 だからこそ、俺達は車で運んでもらっている。

 

 ただ、もしそうだとするのなら。

 

「……ショック、だろうな」

 

「そうだな。きっと……っ」

 

 正直、俺もイッセーも気持ちは沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は、目的地に到着したんで車を降りた。

 

 運転してくれた人に待機と感謝を告げて、そこに足を進める。

 

 もう時刻は夜だけど、俺達は異形になっているから夜目は効く。月明りもあるし星も見えているから、割と分かっている感じだ。

 

 ……つまり、そういう状況でないなら周りが見えないぐらい暗くなる環境だ。

 

 元々周囲が山に囲まれていて、ちょっと閉鎖している感じな立地だった。だから、星明りが多い夜でなければ周りが見えないかもしれない。

 

 いや、こんなに暗いからこそ星明りが見えているのか。そういえば、都市だと街の明かりが強すぎて星が見えないっていう話を聞いたことがある。

 

 その町だった場所には、明かりなんて灯ってない。

 

 少し離れたところ、駅のあった場所には自衛隊の人達がキャンプを作っている。まだ何があるか分からないから、五大宗家の人達まで含めての仮設基地になっている。

 

 車もそこに止まっている。あと仮設基地の人に話を聞いたけど、流石に駅の近くには来ていなかったらしい。

 

 ……ただ、この光景を見たら足が止まりそうだよな。

 

 山に囲まれているから、山の上から見るってこともできるだろうし。恰好が入院患者用の服だったはずだし、駅は使ってない。異形の身体能力も確立しているだろうし、走ってきた可能性はある。

 

 だとすると、探すのも大変だな。

 

 そう思えるぐらい、目の前の光景は色々酷い。

 

 街灯とかが灯ってないのは、電線が破壊されていて電気の殆どが流れてないからだ。

 

 住居も、商店も、道路や塀も多くが壊れている。中心部の方には小さめだけど病院や図書館もあって、そういった施設も大半が被害に遭っている。

 

 結局のところ、魔獣化した人間の数は人口の一割に近かったそうだ。そこに魔獣化した人達に襲われたり、パニックになって事故を起こしたり。全体的な犠牲者は、確認されている死者だけでも人口の三割だとか。行方不明者まで含めれば半数を超えているらしい。

 

 ……酷い話だよ。

 

 はぐれ吸血鬼とかがたまに街そのものを支配とかでも、割合的には同じぐらいの被害が出ることもあるらしい。それも和平によって対策もできるだろうことを考えれば、これは最近稀に見る被害なんだろう。

 

 これを、彼女達が主導したってことになるんだよな。

 

「なぁ、あの子達って記憶あるのかな?」

 

「そこまではまだ分からないさ。もっとも、どっちだとしても相当ショックだろうな」

 

 九成も痛さを堪えている様な表情だ。俺もだろうけどさ。

 

 いっそのこと、あのままって感じなんだったら気持ちはましなのかな。

 

 でも、それじゃ駄目だ。少なくとも俺はそう思うし、九成だって似たようなことを思ってるだろう。

 

 俺も九成も会ってない。だけど、リアスやゼノヴィア、イリナやカズヒ、アニルの前で命を捨ててまであの子達を救おうとした奴がいる。その気持ち、俺も痛いほど分かる。

 

 それぐらい大事だったんだ。友達なのか、家族なのか、それとも恋人だったのか。誰であったのだとしても、本当に大事だったんだ。

 

 だから、だから……っ

 

「……イッセー」

 

 俺が拳を握り締めていると、九成が遠くを見つめて俺に声をかける。

 

 その視線の方を見れば、遠目にだけど桃色の髪と水色の髪をした女の子の姿が、もう一人の女の子と一緒に見える。

 

 あれは、あの二人か……?

 

「とりあえず行ってみるぞ。違ったならその時はその時だ」

 

「分かった。急ごうぜ!」

 

 俺達は確認しなきゃいけないし、急いで駆け寄っていく。

 

 ちょうど、その時―

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―上から、魔力の砲撃が降ってきた!?

 




 お金持ちにはお金持ちの、権力者には権力者の苦労がある。ならばモテる男にはオテる男なりの苦労があるでしょう。

 たとえ自分が経験として持ってなくても、想いを馳せ知識を集めることでいったんぐらいは理解できるようになる。それが平和への未知なのかもしれないなぁ……と、ふと思ったりしました。


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新期来訪編 第七話 荒事一段落

 花粉が……きついっ!!

 そんな苦痛に耐えつつ、頑張って書いております!

 応援よろしくね?


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 なんでいきなり魔力が襲い掛かってくるんだよ!?

 

「……そういう事か、急ぐぞ!」

 

「なんか分かったのか!?」

 

 九成が慌て始めるけど、まぁ俺も正直ヤバいことは分かってる。

 

 だってあの子達の方にも攻撃が入っているしな! あと、何人か仮説キャンプの方に飛んで行っているし!

 

 これ完璧に敵襲だろ! それも、悪魔関係の!!

 

「なんか分かったのか!? こいつら、どこの連中だ!?」

 

「おそらく旧魔王派だ! 仮説だが、内輪もめが起きている!」

 

 内輪もめ?

 

 俺は走りながら鎧を展開すると、九成もショットライザーで素早く変身しながら続けてくれる。

 

 攻撃が意外と激しいから手間取ってるけど、これぐらいならそんなに時間はかからねえな。

 

「で、内輪もめってなんだよ!?」

 

「こっち側でもあるだろ! 純血に拘る連中ってのが!」

 

 ああ、なるほど!

 

 そういえば、サイラオーグさんの眷属にも人間との混血とかがいたけど、旧家の連中は嫌ってるって話があったな!

 

 お貴族様ほど純血とかに拘る印象があるけど、つまり―

 

「ハーフの魔王血族なんて勘弁ってか!?」

 

「話によれば、純血の末裔が本命で、混血は隠してたりしてたらしいからな!」

 

 なるほど。そういうことか。

 

 フロンズさん達が交渉でその情報を確保したけど、あの人達が掴めたなら当然魔王派の知らない連中だって掴めるはずだ。

 

 そして旧魔王派とか、混血のことが嫌いっぽいしな。だからなかったことにしたくて襲撃を仕掛けたってか!

 

 だったらさっさと安全を確保しないと! 絶対に死なせられるかよ! 

 

「保護は任せた、涙換救済(タイタス・クロウ)! 道は俺が突き破る!」

 

「よし任された! 頼りにしてるぜ、おっぱいドラゴン!」

 

 

 九成の予想通りなら、間違いなく抹殺狙い。

 

 だから、さっさと駆けつけて九成を護衛につけるのが一番だ。防衛戦なら九成はD×Dでもトップクラスだからな。

 

 だからこそ、開幕速攻!

 

「開幕速攻、ドラゴンショットッ!」

 

 俺がかなり力を込めたドラゴンショットをぶっ放す。

 

 放たれる弾幕を吹っ飛ばし、彼女達の少し上を通るようにぶっ放す。

 

「先行け九成! カバーする!」

 

「任せとけ!」

 

 そう言うなり、九成は素早く飛び出した。

 

 ミザリとの決戦で無茶しすぎて死に、リーネスのおかげで堕天使化した九成は、黒い翼を広げてすぐに飛ぶ。

 

 ……もうあんなに飛べるようになってる。こんな事態じゃなけりゃぁ凹んでるぜ、俺。

 

 だけど、後ろを追いかけて俺達は―

 

「よし確保ぉ!」

 

「間に合った!」

 

 ―何とか付けたぜ!

 

「きゃっ!?」

 

「ひゃっ!?」

 

 九成が抱き寄せる様に水色の髪の子を庇う様に前に出て、俺は後ろの方にいた桃色の子をキャッチする。

 

 あ、一緒にいたのは後継私掠船団のラムルか!

 

「誰かと思えばお前らか? まだ呼んでなかったんだけどよ?」

 

「脱走した病院にたまたまいてな。慌てて探してたんだよ」

 

 九成がそう言う中、ラムルは小さく頷くと、そのまま一歩前に出る。

 

「ま、そういう事ならさっさと安全圏に下がりな。まずは要救助者の安全確保ってな」

 

「え、いいのか?」

 

 俺は流石にそう返す。

 

 いっそのこと俺達も参戦した方がいいんじゃないか?

 

 そう思うけど、ラムルはため息をつきながら肩をすくめる。

 

「あんまり人の仕事をとるなって話だよ。それに、場慣れしてねえ奴を殺し合いの現場に置くのもあれだろうが」

 

「なるほど正論。……イッセー、離脱するぞ!」

 

「お、おう! でも自衛隊の方は?」

 

 俺はその辺ちょっと気になったけど、その時足音が聞こえてきた。

 

「敵部隊及び要救助者発見! これより戦闘に移る!」

 

「野郎、人様の国で好き勝手してるんじゃねえ!」

 

 自衛隊の人達か? なんか見慣れないレイダーになってるな。

 

 そういえば、独自開発のプログライズキーを作るって話になってな。あれか!

 

「なめるな人間風情がぁっ!」

 

「猿め、さっさと死ぬがいい!」

 

 旧魔王派の連中も攻撃を加えようとするけど、その時あらぬ方向から撃ち抜かれた。

 

 あ、あの人達囮か。

 

 いつの間にか十字砲火になってるし。やっぱり訓練している本職なだけあるな。

 

「流石はプロの自衛隊。世界的に実力を認められてるってだけあるな」

 

「同じ日本人として尊敬するよなぁ。いや、元だけど」

 

「……流れるようにノールックキルしながら言うか?」

 

「「……え、えっと……?」」

 

 俺も九成もラムルも、とりあえず寄ってくる連中を吹っ飛ばす程度はできるんだけどね。

 

 やっぱこう、積み重ねが生む深みっていうの? ベテランの人達だからこその強みってあるよなぁ。

 

 特に俺、戦闘訓練とか一年もしてないし。なんなら実戦を経験した方が早いし。

 

 そんでもって、ラムルは肩をコキコキならしながらニヤリと笑う。

 

「ま、そういうわけだからこっちは十分だ。つか、アンタらが暴れると手柄が上げれねえから下がれマジで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際、十分で撃退したみたいだ。それも死者無しで。

 

 ……装備さえしっかりしてれば、やりようはあるんだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自衛隊の仮説キャンプで、俺達は一旦待機することになっていた。

 

 まぁ事態が事態なので、事情聴取の必要がある。鰐川亜香里と望月有加利は、勝手に閉鎖地帯に入っているから厳重注意も込みだ。これでもかなり厚遇されている方だろう。

 

 で、俺は今リアス部長に報告中だ。

 

「……と、いうわけで俺達は一旦待機中です。一時間ぐらいしたら戻れると思います」

 

 ちなみに、その間に晩御飯までごちそうになる流れだ。俺達の立場とか状況を分かってくれている方々だったので、心遣いに感謝して甘えることにしている。

 

 自衛隊って食事も結構いけるらしいしな。今日の晩御飯は五目御飯・鰤大根・ごぼうのきんぴら・豚汁だそうだ。美味しそう。

 

 とりあえず鎮圧が終わっているのも含めて報告し終え、聞いたリアス部長は軽く安堵の息を吐いているようだ。

 

『分かったわ。イッセーは今、あの子達についているのね?』

 

「それはもう。誰かついておくに越したことはないですしね」

 

 どっちが報告するかについては若干悩んだが、俺の方がこういった作業に長けているということで決定した。

 

 あとはまぁ、イッセーの方がこういう時向いているだろう。

 

 あいつは体当たりでぶつかっていくことしかできないところはあるけど、純粋な人柄ゆえの強みっていうのがあるからな。

 

 理知的に立ち回るのはあとでもいいさ。今は、あの二人も落ち着く時間が欲しいだろうしな。

 

 ただ同時に、通信の向こうでため息が聞こえてくる。

 

 ……言いたいことは分かる。

 

「フラグ、立ちそうですよね」

 

『あなたも含めてよ』

 

 畜生、ぐうの音も出ない。

 

 可能性はあるんだよなぁ。イッセーはもちろん、俺もハーレム野郎だし。

 

 いやまったく。我ながらこういう時に女殺しになるというか。クソ親父との血の繋がりをこんなところで感じてしまうというか。

 

 まぁそれはともかくだ。こっちも言うべきことは言ったし確認しとこう。

 

「……ちなみに、緋音さんは大丈夫ですか? いえ、そのままの意味でもあるんですけどリヴァ先生的なところが」

 

 その辺りの確認は必須だろう。

 

 本当なら、まずは緋音さんについていたいというところもある。

 

 あの人はそもそも、ザイアの教育を結構受けていた人だからな。だからサウザンドディストラクション後、自分は無理だと記憶消去を望んでいたんだ。異形に対する抵抗はかなり強いだろう。

 

 更にとち狂った犯罪集団によって改造までされているうえ、自分が死徒という異形に成り果てた。何故そうなったのかについては分からないところも多いが、どう考えても精神的に負荷が大きいはずだ。

 

 そういう意味だとリヴァ先生は、ある意味適任だろう。あの人、良くも悪くも空気をユルくするのが割とできるだろうからなぁ。あの気質もあるし年季も違うから、たぶんリアス部長達が接するよりは気楽になれるだろう。

 

 ただ同時にトラブルメーカー気質だ。いや、その辺りの見極めはちゃんとしたうえでやるのがタチ悪いんだけど。だからこそまぁ塩梅はしっかりできると思うけど。

 

 ……ただ、色々あった直後だし、あんまり疲れさせるのはダメだよなぁ。

 

 ザイアの影響がデカ目の人物だし、異形が刺激を与えるのは避けた方がいいのが実情だ。自分が異形に成り果ててしまったこともあると、尚更精神的に不安定だろう。できればゆっくりしてもらいたいから、事情聴取以外は控えめに願いたい。

 

 そこがちょっと不安だったんだけど―

 

『そこは大丈夫ね。意外と話は弾んでいるわ』

 

 ―お、そうなのか。

 

 それは正直ほっとした―

 

『今は貴方を話のタネにして盛り上がっているわね』

 

 ―どういう展開!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自衛隊の仮設キャンプ。その一角で、ラムル・ルシファー・ゴールドリバーはコーヒーを片手に休んでいた。

 

 旧魔王派の横やりといったトラブルはあったが、今回も後継私掠船団はしっかり仕事をした。

 

 大王派……否、フロンズや幸香としても寝耳に水の事態だったが、最低限の仕事はしっかりと果せている。

 

 魔王血族が軒並み死亡したことで、理念の存続が不可能になったと思われた旧魔王派。彼らの寝返り工作で組織力の強化と禍の団に対する死体蹴りを試みようとしたら、発掘された人工的な魔王後継者の製造という地雷原。そこにわざと混血まで作るという暴挙じみた手法だ。

 

 これが明かされたことで、割とフロンズは忙しくなっている。

 

 魔王血族というのは、旧魔王派にとって象徴に等しい。

 

 その準決闘が尽く死に、ハーフや先祖返りとはいえヴァーリ・ルシファーや、自分にユーピが現政権側についている*1。この状況では魔王血族を尊ぶ彼らにとって、精神的に不安定かつ抱き込む余地があると思うのは当然だ。

 

 だが、純血の魔王をこの後()()()()されればややこしくなる。ハーフであっても尚更だ。

 

 そういったこともあり、フロンズは既存の対象を現政権が確保するべきと既に要望しているころだろう。

 

 問答無用の抹殺はない。敵対を決定するなら最悪殺すこともやむなしだが、問答無用で魔王血族を殺せば悪魔社会の民意が反発を起こす。ただでさえ現魔王の過半数が隔離結界領域に行っているのに、そんなやり方は下の下だろう。

 

 逆に協力を選んでくれるのならば、旧魔王派を切り崩す手段になる。こちら側に協力するのならそれなりの待遇を約束してもいいとフロンズは思っており、実際ラムルもそれなりに恩恵を受けている。今の悪魔社会から見ても、魔王血族が共にあるというのはそれだけでプラスに働く。

 

 マルガレーテのように魔王血族として動かないという事でも構わない。旧魔王派の手に落ちない備えは必要だが、その辺りさえ良しとするなら、不都合分の対価は支払う価値がある。

 

 そして、別にそれはフロンズの手元でなくていい。

 

 手元に二名*2もいるのだから、やりようは十分確保している。だからフロンズは自分達でなく、現魔王政権側なら誰でもいいと思っている。それこそ堕天使だろうと天界や教会だろうと、最悪別の神話体系や異形勢力でも構わない。

 

 なのでスカウトはしなくていいと指示を受けている。何故ならD×Dが接触しているからとも。

 

 なので、ラムルはコーヒーブレイクをしながらのんびりできる。

 

「……さて、あいつらはどう生きるかな?」

 

 ただし、彼女なりに少しは気にかかっている。

 

 なまじ魔王に縁のある者として、意識を全く向けないわけではない。また妙な縁で話をしてしまったので、少しだけだが持論を語ってしまった。

 

 無視するのならどうでもいい。そんな奴に意識を向けるだけ時間の無駄だ。

 

 だが、もしそれをきっかけに化けるのなら―

 

「好敵手の一人や二人はいないと、怠けちまいそうだからな」

 

 ―挑み超えるに値する、そんな存在になってほしい。

 

 そう、彼女は後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)。その筆頭戦力。

 

 掲げた字に近い、先達に勝利することを選んだ者達。己がまだまだ矮小だと、ゆえにこそ大いなるものを超えることを望む覇道の徒。光を目指す邁進者であり、断じて聖人君子ではない。

 

 ゆえに彼女は天を仰ぎ、その星空に歯を剥いた。

 

「超えて見せるぜ、ルシファー共。死んだリゼヴィムも、隔離されたサーゼクスも、アタシの格下にしてやるよ……!」

 

 そう、彼女が超えんとするのは、初代ルシファーにあらず。

 

 神器無効化能力(セイクリッド・ギア・キャンセラー)の体現者。クリフォトを率いた扇動の鬼才。リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

 滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)の使い手。冥界を導いた紅髪の魔王。サーゼクス・ルシファー。

 

 ルシファーの字を名乗るのならば、超えるべきはたかが魔王にあらず。

 

 そんなを関す超越者。彼らを超えなければ話にならない。

 

「国際レーティングゲームにはぜひ参加だな。てめえも出るんだろう……ヴァーリ・ルシファー……!」

 

 そして、天龍に並ぶ邪龍たるアジ・ダハーカを滅ぼした者。

 

 明星の白龍皇、ヴァーリ・ルシファーが第一弾だ。

 

 まずは超越者にまだ認定されてない奴を超える。それこそが彼女の掲げる第一歩。

 

「いい世の中になったもんだ。超越者、真っ向から超えてやるぜ!」

 

 それこそが、光に狂った異常者としての彼女の在り方。

 

 黄金恒星(サンライト・ルシファー)。ラムル・ルシファー・ゴールドリバーの目指す覇道である。

 

*1
マルガレーテは制約もあるので除外

*2
マルガレーテは当然除く




 とりあえず戦闘はいったん終了となります。


 ……ただし後半にバトルはあります。



 そう、戦いの渦が沸き起こる!!


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新期来訪編 第八話 

 ……本日は割ると疲れております。具体的には職業関連でいろいろやっておりまして。

 もし成功すれば給金は跳ね上がるのですが、時間も増えるので更新速度はさすがにちょっと遅くなるかもといった形です。


 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、イッセーがついていた方がいいしゆっくりできるに越したことはない。

 

 そんな判断で、俺は戻る前に晩飯を貰って運んでいる。

 

 向こうも育ちざかりに気を遣ってくれたのか、多めに擁してくれたからな。残さず食べるのが礼儀というものだろう。

 

 ただ、食欲がなさそうな人が二人もいるしな。その辺り、俺が頑張るしかないだろうなぁ。イッセーも引っ張られて食が細りそうだしなぁ。

 

 そんなことを考えながら俺達に充てられたテントに向かえば、すすり泣く声が聞こえてくる。

 

 やはりお通夜じみたムードになるか。そう思ったが何かが違う。

 

 違うというのは声の質だ。

 

「おい、まさか―」

 

 俺は少し足早になるとテントに入る。

 

「……う゛……ぐずっ……ひっぐ……っ」

 

「なんでお前が号泣してるんだよ!?」

 

 床に手をついて涙をこぼすイッセーに、俺は盛大にツッコミを入れた。

 

 晩飯を入れているコンテナをゆっくりと置くと、投影魔術の応用で張銭を出して張り倒す。

 

 スパァン、といい音を出して俺は盛大にイッセーの頭を張り倒す。

 

「何すんだバカ野郎! 俺はなぁ、俺はなぁ!!」

 

「お前が盛大に泣いてどうするんだ! みろ、二人が複雑な表情で泣くに泣けてないだろ!!」

 

 鰐川亜香里と望月有加利をなんだと思っている!?

 

 涙の意味を変えるのが俺の心情とはいえ、このやり方は問題だろうが。

 

 部外者が自分達以上に泣きはらしている所為で、泣くに泣けない。涙を止める理由としてこれは何というかあれだ。他になんかなかったのか。

 

 しかもイッセーのことだから、天然でやっている。間違いなく天然で号泣している。

 

「……あ~、すまない。イッセーは情に厚い男だから、その……感情が振り切れたんだろう」

 

 俺がとりあえず二人に謝ると、二人とも戸惑いながらも頷いてくれた。

 

「……あ、でも……助かりました。私達だけだったら、もう我慢ができなかったかもしれないですし」

 

 水色の髪の、望月有加利の方がそう返してくれる。

 

 つまるところ、それほどまでにきつい話になるという事だろうか。

 

「あの、大丈夫? 落ち着いた?」

 

「ああ、落ち着いたっていうか、引っ込められたっていうか」

 

 桃色の髪をしている鰐川亜香里の方も、イッセーの方に気づかいを向けている。

 

 感情的になっている人間を落ち着かせるには、同じ方向でもっと感情が振り切れている奴を見せることとか聞いたことがあるが……当たりだな。インパクトが違う。

 

 さて、ある程度の詳しい話は聞いていたからなんだろう。それを改めて話すのもあれだな。

 

「とりあえずだ、イッセー。お前が聞いた話を聞きたいからちょっと顔貸せ」

 

 俺はそう言いながら、自衛隊の方から貰った晩御飯を広げる。

 

「あまり繰り返したくない話だろうし、俺はこいつからのまた聞きで十分だ。ただ、後々の事情聴取はすることになるから―」

 

「……ううん、話すよ」

 

 ―俺の言葉を遮って、鰐川亜香里の方がそうしゃべった。

 

 俺はそれを受け止め、真っ直ぐに向き直る。

 

 その表情は、少しだがしっかりとした意思が籠っている。

 

「いいのか? きついことをしゃべらせると思うが―」

 

「―構わないわ。私も同じ気持ち」

 

 そう、望月有加利も続けて告げる。

 

「……私達も、歩人(あゆと)君が助けてくれたのなら……あの子に恥じない生き方がしたいもの」

 

 そう、自分自身に頷きながら告げる言葉に、俺は理解を示すしかないだろう。

 

「……その覚悟に敬意を。なら、聞かせてくれ」

 

 俺は腹をくくると、折りたたみイスを開いて座ると同時に、録音機材も取り出した。

 

「あまり何度も話させるのも酷だし、録音内容を提出すれば事後確認だけで済むかもしれない……いいか?」

 

 ここから、かなり凹むような話になりそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 D×Dは各勢力の連合部隊といえる為、全員が集まることはあまりない。

 

 ただ、今回の事態は無視できない。結論として、それぞれのチームのリーダー格が集まって軽い会議を行う流れになっている。

 

 僕はリアス部長の護衛兼補佐として、その会議に参加していた。

 

「……まさか予備まで用意していたとはね。中々に小賢しい連中のようだ」

 

 そうぼやいたのは、白龍皇ヴァーリ・ルシファー。

 

 かつて禍の団にいた時、旧魔王血族が尽く打ち取られた時に色々と言われたみたいだね。

 

 当時の彼らは多方面から酷評されていたしね。半ば自業自得だけど、相当苛立ちが漏れている。

 

「……奉じる家柄の者から、より優れたものを生み出そうとする。古来よりどの種族でも行われてきたものだが、嘆かわしいな」

 

 そう吐き捨てのは、黒髪の偉丈夫であるサイラオーグさん。

 

 バアル宗家でありながら、生まれつき魔力を持たないゆえに冷遇され続けてきた人物だ。この価値観には思うところがあるだろうね。

 

 それに対し、ソーナ先輩は眼鏡の位置を直してから、ため息をつく。

 

「夫従妻隷会も論外ですし、旧魔王派のやり口も警戒です。……しかし、同じぐらい謎の魔獣化現象も危険でしょう」

 

 そう話を切り替え、会長は映像を映し出す。

 

 ……何度見ても、この映像は嫌な気分になるね。

 

 ホラー映画。それも近年よくあるウイルスなどによる変貌が近い。もはや質量すら半ば無視していると思えるレベルだ。

 

『ムカツクナグルゥウウウウウ……ナグルムカツゥウウウウクゥウウウウウ……ッ!』

 

 そんなうわごとを叫びながら、明後日方向に走ると拳で建物を殴りつける。

 

 そんな魔獣と化した人間の姿を見て、誰もが眉をしかめる。

 

 人間が無残な姿になって殺戮や破壊を巻き起こす時点できついものがある。また、まるでクリフォトが作り上げた量産型邪龍を思い起こさせるところもある。不快感が増していくよ。

 

「……やっとることもえげつないがの。そもそも効率が悪そうじゃな」

 

 そう冷静に批評するのは、サブリーダーの初代孫悟空殿だ。

 

 長い年月を生きて戦っているだけあって、こういう時でも冷静さを保っている。そして優れた仙術の使い手でもある故、だからこそ分かることもあるだろう。

 

「効率が悪いって、どんな感じなんスかね?」

 

「これだけの力があるのなら、もっと制御性や安定性が見込めるはずじゃ。性能にばらつきはあるし半ば暴走しておるしで、侵略活動や虐殺が目的にしろ、もっとやりようがあるはずじゃて」

 

 リーダーのデュリオに対する孫悟空殿の説明に、確かに納得できるところはある。

 

 確かに、クリフォトの量産型邪龍に比べれば、個性がありすぎるともいえる。

 

 そうみると違和感が多い。無駄と粗が多すぎるというか、

 

「……設計コンセプト、もしくは戦略ドクトリンが違うのでは?」

 

 そう、僕達の意識を集める発言をしたのは、シーグヴァイラ・アガレス様だ。

 

 ここ最近は生粋のロボマニアとTF(トライフォース)ユニットのかみ合わせばかりが目立つけど、彼女のまた若手四王(ルーキーズ・フォー)の一角。

 

 その意見には価値があると、誰もが耳を澄ませ―

 

「……そう、例えるならガンダ〇00劇場版のELSです」

 

 ―しかしやはりロボだった。

 

「御免なさい。私達はまだ履修してないから、もっと分かりやすくして頂戴」

 

 そしてリアス部長、もしかして布教されてます?

 

「簡潔にまとめれば、彼らがこの行動を行った目的もしくは手段を、私達は敵対勢力に対する攻撃活動だと思い込んでいる……という事です」

 

 な、なるほど?

 

 ちょっとよく分からない感覚でいると、ICPOから出向しているカズヒの前世の友人である引岡さんがぽんと手を打った。

 

「……つまるところ、アレか? ピースドラッグの大都市麻薬散布計画的な?」

 

『『『『『『『『『『……ああ!』』』』』』』』』』

 

 あの作戦には殆どのメンバーが参加したからか、今のですぐに納得できた。

 

 そうか、その可能性はあるね。

 

 ピースドラッグは世界的な人口密集地に麻薬の散布を試みた。だけどそれは、都市機能をマヒさせるとか無差別攻撃とかではない。

 

 ただ単に、麻薬を吸ってもらいたかった。麻薬の良さを知って、人類すべてが麻薬を恒常的に堪能できる世界を作る為の布教活動だった。根本的に善意で動いていたし、害をなくそうという発想がまずなかった。

 

 それと同じ。というわけではないだろう。

 

 人間を化け物に変えて周囲に被害をもたらす行動に悪意がないとは言えない。だけど同時に、根本的な目的が違う可能性は十分にある。

 

 あの魔獣化現象は、直接的な戦力の確保が目的ではない。戦力を得る為に魔獣に変えるのではなく、魔獣に変えたら戦力もついでに増えた。そう考えれば納得できる余地はある。

 

 世界にはそういうケースは数多い。クリフォトの量産型邪龍に例えてたけど、リゼヴィムやミザリも近しいところがあるから納得しやすくなった。

 

 ただ、問題は―

 

「……情報があまりに少ないこと。これがネックですね」

 

 ―そう、シスターグリゼルダが厳しい現実を告げる。

 

 そう、今回の事態は僕達が深く真相に関与する前にどうにかなってしまった。

 

 中枢と思われる地点が完全崩壊した所為で、現状では解析も困難といえる状況だ。

 

「……まぁ、その辺りは儂らがやることじゃなかろうて」

 

 そこで、孫悟空殿がまとめに入る。

 

 若手が殆どの僕達の中で、年季が入っているからこその説得力がそこに在る。

 

「ここから先は、現場で動く儂らの管轄じゃないぜぃ? 他所の仕事を奪うより、自分のことを考えるってのも重要じゃろ? 一発屋で終わることもあるじゃろうしな?」

 

「……確かに、この流れだと本当に壊滅ってこともありそうだよねぇ」

 

 デュリオも同意を示しながら、しかし少し暗い顔をしていた。

 

「ただ、例の二人の女の子がちょっと不安だね?」

 

 確かに、彼ならそこは気にするだろう。

 

「なんていうかこぉ、幹部みたいな感じだったんだろ? 日本で言うと……基本着ぐるみばかりな特撮の敵集団に、生身のまま出てくる類の敵幹部みたいな?」

 

 そう続けるデュリオは、資料を確認する。

 

「……正気に戻ってるのかどうかは分からないけどさ、戻ってるのなら、キツイだろうねぇ」

 

 確かにそうだね。

 

 実際、意識を取り戻した直後はだいぶ混乱していたみたいだ。おそらく、精神的な状態は真っ当に戻っているだろう。

 

 そして、自分達が引き起こした事態を知れば……察するに余りあるだろう。

 

 ただ、同時にそこに関しては心配しすぎてはいないんだ。

 

「……大丈夫ですよ、デュリオ」

 

 僕はその根拠を持っている。

 

「あの二人がついてますから。そう悪い事にはならないでしょう」

 

「そうね。その点において、イッセーと和地は信頼の塊だわ」

 

 リアス部長も頷くけど、その時に鳶雄さんが首を傾げていた。

 

「そういえば指摘はしてなかったけど、リヴァさんはどうしたんだい?」

 

 まぁ、そこは気になるだろう。

 

 彼女はアースガルズの先代主神オーディンの娘であり、現主神ヴィーザルの妹だ。立ち位置的にもビッグであり、また慧眼の持ち主でもあるから、こういう時に出てくる人物だ。

 

 ただ、僕とリアス部長は少し苦笑いするしかなかった。

 

「……恋バナをしてるわ」

 

 部長の苦笑交じりの答えに、誰もがきょとんとなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、緋音・アフォガードさん。カズ君のどこが好きになったのかなぁ~?」

 

「えっと……どういうこと?」

 

 わざわざスーツを着てマイクを向けるリヴァに、アフォガードは救いを求める目で質問を飛ばしてきた。

 

 うん、言いたいことはよく分かる。その目をするのもよく分かる。

 

 だからまぁ、言うべきことは一つね。

 

「諦めなさい。この状態のリヴァは無敵よ」

 

「え、そういう……結論?」

 

 とても面倒くさいけど、そう言うしかない。

 

 鶴羽やリーネスも視線をそっと逸らしているし。

 

 まったく。こっちはこっちでやることがあるし、何故やるのかの理由もなんとなく分かる。

 

 要はアフォガードのメンタルケアね。話を聞く限り、ザイアの偏向教育で異形に抵抗感が強いわけで、更に死徒という形で異形に落ちているわけだし。それなりのメンタルケアというか、ある程度の開き直りに持ち込む必要はある。

 

 ……まぁ、自発的に「無理っぽい」として記憶消去を選んでいるのなら致命傷にはならないでしょう。インターバルやそこに関する保護もあるし、慣れる余地はある。

 

 実際、アフォガードは割と普通に話してくれている。隣にまだ純人間な鶴羽がいるからでもあるけれど、少し警戒したり怯えたりする時もあるけど、会話はスムーズだ。

 

 そう思っていると、リヴァは何故か私の後ろに回って両肩に手を置いてきた。

 

「さぁ~、キリキリ白状なさい! あとボスが頂点だってことは覚えておくこと、序列マジ大切!」

 

「ボス言うな」

 

 言葉だけのツッコミで感謝しなさい。アイアンクローぐらいは入れてもバチ当たらないでしょ、これ。

 

 流れるように私がハーレム(群れ)正妻(ボス)だと牽制球まで勝手に入れてきたわね。いえ、そういうのはある意味で大切だと分かっているけど。

 

 勢いよくブッコンで勢いで緊張感を吹き飛ばす作戦ね? 相変わらずバカやってるようで考えてることで。

 

 まぁいいわ。相当精神的にキてたみたいだし、ここは私もカバーした方がいいでしょうね。

 

「まぁそういうわけで。私が和地の告白に「来るもの拒まず去る者創らずのハーレム野郎」を条件にしたことが大きいから。有言実行している男だからその辺りは覚悟して言い寄りなさい」

 

 そこは条件といえるから、私の口から直々に言っておく。

 

 ……ただ、アフォガードは十秒ぐらいぽかんとしていた。

 

 ふむ。やはりハーレムは抵抗があって当然よね。名前からして一夫一妻の文化体系出身でしょうし、一夫多妻には抵抗があってしかるべきだわ。そこはさっせれる。

 

 ただ今更ナシってわけにはいかない。今後彼女が和地とどう向き合うかはともかく、惚れた張れたのノリになるのならそこは弁えてもらわないと。

 

 さて、返答は如何に。

 

「えっと……その、よろしく?」

 

「完璧に勢いにのまれてるわね」

 

 とりあえず、あとで冷静になってから聞き直すか。

 

「ボス、ボス。インガ達も呼んじゃいます?」

 

「ボス言うな。あと既にキャパオーバー気味だから後にしなさい」

 

 それとなく「他にもいるよ?」な追加情報を、私に提言する形で伝えてくるわね。

 

 直接かける言葉だけでなく、周りの会話からも情報を拾えるようにする。リヴァ、恐ろしい女……っ。

 

「とりあえず、和地の先輩さんだったのよねぇ? ……つまり、和地とその……しちゃった?」

 

 そしてリーネス達も話を振ってくるけど、こっちもこっちでテンパってるわね。

 

 今はその対応は間違ってると思うのだけれど。

 

「それはもう。私とリーダーがいれば、和地を左右からとっかえひっかえイチャイチャイチャイチャできるってわけよ!」

 

 そして鶴羽は鶴羽で乗っかるし―

 

「そうだね。ヒマリ……もいれば凄い事できるしね?」

 

 ―あ、そういえばその情報は共有してるわけがなかった。

 

「「「……ぐぅ……っ」」」

 

 胃が、私もリーネスも鶴羽も胃が痛くなっているっ。

 

「え? どうしたの……急病!?」

 

 アフォガードが困惑して当然ね。

 

 ザイアが壊滅してからすぐに記憶消去を受けているなら、その手の情報が入ってくるわけがないか。

 

 リヴァもすぐに思い至ったのか、ちょっと苦笑いで手を横に振る。

 

「あ~違う違う。実はそこに、そちらさんが予想できるわけがない核地雷が埋まっておりまして……そこから説明、いる?」

 

「絶対必須でしょ……っ」

 

 というより、ハーレムや序列よりこっちが一番ハードルがデカいわね。

 

 くっ! 和地に来るもの拒まず去る者作らずなハーレムを要請しておきながら、私が一番のハードルになるとは。

 

 やはりこれは誠意案件! 可能な限り誠意を見せて、別方向から去る者が作られる事態だけは防ぐ!

 

「……では、詳しい話をするわね」

 

「「「はい、待った」」」

 

 ……床に正座しながら説明を試みたら、即座に止められたわ。解せない……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぅ。何度聞いても涙が出てきそうな話だ。

 

「……OK分かった。要約しよう」

 

 話を聞き終わった九成も、渋い表情を浮かべている。

 

 ため息を一度ついてから、九成はそれをまとめている。

 

「……記憶に関してはいくらか穴や薄れているのも多いが、何かと戦っている記憶はある。自分達が悪魔の血を引いていると伝え、戦いを支援した者もいる。そしてある一点からぼやけている記憶が完全に飛び、気づいたら病院にいたわけだな?」

 

「ええ。信じてくれない話でしょうけど、そう言うしかないの」

 

 望月さんはそう言うけど、九成は軽く肩をすくめるだけだった。

 

「その心配はいらない。イッセーが女相手に信用できるというのなら、嘘はないとみて間違いないだろう」

 

 おお、九成はその辺りめっちゃ信用してくれてるんだ……あ。

 

「御免九成。俺まだ乳語翻訳(パイリンガル)使ってない」

 

「……前言撤回。信用できるかとりあえず確認させてくれ」

 

「何がどういうことなの?」

 

 鰐川さんの方が首を傾げてるけど、いやちょっと待ってほしい。

 

 作っておいてなんだけど、乳語翻訳は女受けがかなり悪いからなぁ。初めて使った時は全方位からツッコミ喰らったし。

 

 おっぱいと対話できるのは素晴らしい技だと思うけど、まぁ煩悩100%かつおっぱいがないストレスで限界に近かった精神状態で作った業だからな。俺のおっぱいを求める心は常人の非じゃないから、常人だときついんだろう。

 

 あれ? これ使ったら凄い勢いでヘイト稼ぐんじゃないか? 俺に慣れてない子にいきなり使うの、流石にまずいんじゃ?

 

 俺はちょっと不安になってきたんだけど―

 

「安心してくれ。精神を蹂躙された小国元首クラスの人物を、かの孫悟空が力を貸すことで半日程度で当たり前に外出できるレベルに回復した技だ。昏睡状態だった貴族の女性にアプローチとして掛けるよう依頼された時なんて、僅か数日後に生霊が叱咤激励したり更に少しして意識が回復するという現象が起きた、霊験あらたかな技といえるだろう」

 

 ―いい得て妙だな!

 

 九成の言ってることは間違ってないけど、確かにそこだけ聞くと凄いありがたい力に見えそうだ。おっぱいに飢えすぎていたことが理由で会得した技なのに、本当に大活躍しすぎだろ。

 

 いやでも、なんていうか……ね?

 

「……それって、凄いのはかけるように促せる人達の方じゃね?」

 

「……方向性が違う。いやまぁそっちも発想力は凄いというか、仕える主の母親にかけてほしいとか、決断力とか胆力とかが尋常じゃないとは思うが」

 

 九成もそこはフォローしなかった。

 

 でもそうだよね。冷静に考えるとどう考えても凄いことしてるよね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シヴァ様。報告は届いていますか?」

 

『アジュカかい? ああ、旧魔王派も色々とやっているみたいだね。……それで保護は?』

 

「ええ、イッセー君と九成君が保護してくれたようです。今は自衛隊と共に、捕縛できた旧魔王派を尋問しています。ただ、問題が一つ」

 

『なんだい? 今回の一件、下手人はフロンズと内通していない旧魔王派だと思ったけど……違うのかい?』

 

「はい。全てが真実は断言できませんが、どうも旧魔王派の者達は便乗した要素があるようです」

 

『というと?』

 

「まず前提としてですが、どうやら今回の襲撃は同士討ちに近いところがありました。計画を知らない者達に混血までいることを知られ、血統主義者が抹殺を敢行。それを止めようとした計画の者達もいたので比較的容易かったと」

 

『彼らも細かいところに拘るものだね。それで、本題はどういった感じなんだい?』

 

「計画推進派は鰐川亜香里と望月有加利の両名が、例の魔獣化した存在……それも、小動物が変化しものと遭遇したと語っていました。それを接触する機会を図っていた者が補佐する形で撃退したのが始まりということです」

 

『……つまり、例の魔獣化騒ぎは旧魔王派とは無関係ということかい?』

 

「はい。彼らが言うには、性能が低かったので引き込む為の餌にする形で誘導したと。……両名及び、よく行動している少年は異形の知識がないので、上手く口止めしつつ誘導し、戦闘訓練として利用していたようです」

 

『旧魔王派も業が深い。木っ端魔法使いの外法研究か何かだと思ったんだろうけど、地雷を踏んだようだ』

 

「そのようです。その後、望月有加利が一足早く行方不明になり間髪入れず鰐川亜香里と先の少年……海峯歩人(かいほう あゆと)も行方不明に。一月ほど捜索していたようですが、事態が動くまで上手く進まなかったようですね」

 

『現場で動いていた小物を利用しようとして、逆に自分達が小物だと気づかなかったという事か。策士策に溺れる……とも言い難い、愚策の極みだね』

 

「口から出まかせと思いたいですが、その辺りの供述は誰もが統一されています。信憑性は高いでしょう」

 

『藪をつついて蛇が出ると日本(そこ)では言うけど、とんだ大蛇の群れが出てきたようだ。……こちらからも人材を派遣しよう。そこは閉鎖しつつ、徹底的に調べるべきだ』

 

「ええ。サーゼクス達が死力を尽くしてくれた世界、むざむざ汚させるわけにはいきません」

 

『ところで、可能性はいくつ考えている?』

 

「いくつものですが、最悪の可能性がありそうですね」

 

『……異世界の存在か。今回の規模から逆算して、下手人はそこまで多くないだろうけどね』

 

「だからこそ、こちら側の事情を把握しきれずに動いた結果がこれでしょう。問題ですね」

 

『そうだね。これで向こうの警戒するだろうし、今回のように尻尾を出す真似は避けるだろう。最も、こちらも捜索に人員を割くから意外と見つかるかもしれないけど』

 

「その時は、貴方自ら破壊しますか?」

 

『それも一興だね。……ただ、同時に起こった一件も含めて警戒は必須だろう』

 

「ですね。……異世界E×Eだけでも厄介というのに、トラブルが頻発するようで」

 

『幸か不幸か、規模が小さいから国際レーティングゲームはどうにかなるだろうけどね。ハレのイベントで民衆の心をしっかり慰撫し、本格的に問題が起こるまでに備えておかないと。それに……』

 

「それに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……僕も、直接兵藤一誠とは会ってみたくてね。ことが大ごとになれば彼の承認式が取りやめになって、挨拶に行く口実が無くなるところだったから、さ?』

 




 ……とても疲れているためあとがきに時間を掛けれません。

 とりあえず、今現在第三部にすることを大前提として書いておりますとだけ。


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新期来訪編 第九話 新たな一歩を

 ……ふぅ。この調子でいけば職関連は一歩前に進みそうですが、慣れるまでは更新が少し滞るかもですね。

 まぁ、書き溜めは多いのでまだ可能性段階ですが。


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改めて、乳語翻訳(パイリンガル)で確認をとったので大丈夫だろう。

 

 乳語翻訳はその性質上、手探りで新しく対抗術式を用意しなければならない存在。それも透過ですり抜けられるという、敵からすると嫌すぎるコンボ。流石に欺瞞情報を送り込むなど、異形歴新米にできることじゃない。

 

 と、いうわけでこれで最低限の保証は確立したな。

 

 だが同時に、情報源としては頼りないことは間違いない。

 

 だがそれも仕方がないだろう。

 

「……不可逆の変貌を強引に戻すなんて離れ業を、幽世の聖杯(セフィロト・グラール)抜きにするなんて神の御業すら超える所業だろう。結局それ単体では生命活動すら困難で、堕天使化という追加が必要だったしな」

 

 俺はフォローも兼ねて、その辺りをはっきり言う。

 

 実際問題だが、あれは変貌というより加工に近い。

 

 その性質上不可逆であり、例え幽世の聖杯があったとしても元に戻すのは不可能だろう。禁手になればあるいわといったところで、それにしたって簡単ではない。

 

 だからこそ、記憶に障害が残って仕方がない。おそらく回帰は不完全で、様々な部分が欠落した状態だった。記憶が物理的に消失している可能性だってあるわけだしな。

 

「そして乳語翻訳で裏も取れた。今の君達に厳罰を下すのは、少なくとも三大勢力(ウチ)のトップ陣は良しとしないだろうさ」

 

 後天的に堕天使となり、聖書の神が作りし神器を持つ、魔王の血を引く少女達。

 

 この時点でいろんな価値がありすぎるし、何より心神喪失に近い状態だ。シェムハザ総督もアジュカ・ベルゼブブ様もガブリエル様も、温情を出すことが必須になるだろう。

 

「そうだな! よかったじゃんか、二人とも!」

 

 イッセーがほっとしてそう声を上げる。

 

 ただ、鰐川も望月もいい顔はしてなかった。

 

 まぁ、それは分かるだろう。

 

「でも、いいの?」

 

 鰐川の方が、小さく呟いていた。

 

 その肩は震えているし、顔色も悪い。

 

 そして、俺達も分かっているその理由を、望月も言葉にする。

 

「……この町を壊して、たくさんの人を死なせたのは……私達だった者がしたことでしょ」

 

 そう、このテントの外にある廃墟と化した街並み。

 

 それは間違いなく魔獣化した存在が起こしたことで、その先駆けとなっていたのは二人がなってしまっていた存在だ。

 

 そして、二人も気づいているんだろう。

 

「お父さんもお母さんも、もういないよ……?」

 

「それに、学校のみんなも、私達が……っ」

 

 鰐川も望月も、悟ってしまっている。

 

 この町を破壊し大量の死者を生んでしまったのなら、当然だが自分達と縁のある者達も多数滅ぼしてしまっている。その事実を悟っている。

 

 重いだろう。真っ当感性なら抵抗を持って当たり前の所業だ。それをしてしまったという確信があるのなら、心をきしませるのには十分だ。

 

 ……だからこそ、だろうな。

 

「だとしても、だ」

 

「ああ、そうだ!」

 

 俺は静かに。イッセーは力強く。

 

 そこに手を差し伸べる。そういう性分なんだよ、俺達は。

 

 誰かの笑顔を守る赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)と、嘆きの意味を変える救済者(タイタス・クロウ)

 

 そんな俺達がどうするかなんて、そこは決して揺らがない。

 

「悲劇を齎してしまった以上、いやでも背負うしかないことはある。君達が罪悪感を持っているというのなら、そこに対して筋を通してケジメをつけるに越したことはない」

 

 俺はそう前置きし、そして胸を張って告げる。

 

「……その為の手伝いぐらいならさせてもらうさ。なにせ、最愛の銀弾が受け取った願いだからな」

 

 ああ、そこに関しては明言できる。

 

 カズヒ・シチャースチエが助けることを請け負った。その時点で俺も無視する道理は欠片もない。

 

 正義を奉じる必要悪。邪悪の宿敵、祓魔の銀弾。それがカズヒ・シチャースチエの在り方だ。そう生きてこう死ぬと近い、それを実行し続ける女だ。

 

 そんな彼女が、助けることを請け負った。なら俺も助けに動くさ、当然だ。

 

 そして、請け負ったのはカズヒだけでもない。

 

「そういう事さ! リアスやゼノヴィアだって聞いてそうするって動いたんだし、俺だって力は貸すさ!」

 

 心の底から当たり前のようにはっきり言って、そのうえで少し憮然とした表情になる。

 

「それに二人は悪くないだろ? 悪いのは、二人を魔獣にしてそんなことをさせた奴だ。……もし戦うことになったのなら、絶対に俺が倒してやるさ」

 

「ま、実際諸悪の根源はそいつだろうな。しっかり落とし前はつけさせてやる」

 

 俺もそこには全面に賛成したうえで、ただ言うべきことは言っておく。

 

「まぁ、それでも背負わずにはいられない物はあるだろうしそこは止めない。……ただし!」

 

 そう、一番言うべきはこれだ。

 

「背負う意義が欠片も無い物を背負ったり、許容量を超えて潰れるような真似まではしなくていい。それじゃぁ二人を助けた歩人(あゆと)ってやつが報われないさ」

 

「だな! 文字通りその歩人って人が二人を助けて見せたんだ。しっかり幸せになったって報告できるように生きないと駄目だって! 出なけりゃそいつが可哀想じゃねえか」

 

 イッセーも同調して、二人はともにきょとんとしてから、力なくだけど微笑んだ。

 

「……そうね。ずっと沈んだままだったら、歩人君が泣いちゃいそう」

 

 望月がそう寂しげに笑うと、鰐川の方もうんうんと頷いていた。

 

「分かった! とりあえず、しっかり眠ってから頑張ります!」

 

「うん、そういうのは俺好みだ! 二人とも色々大変だったんだし、まずしっかり休んでから考えよう!」

 

 イッセーが鰐川に同調しかけているけど、まぁそれはいいだろう。

 

 それはそれとして、俺は望月の方に近づくと隣に座る。

 

 私見だが、鰐川はどちらかというと責任感が強いからこそ前向きになれるタイプだろう。イッセーみたいなタイプと絡めば、真っ直ぐ進めるはずだ。

 

 ただ、望月の方は気負っている。これは責任感が強いからこそ抱え込んでしまうタイプと見た。

 

「……さっきも言ったが、背負いすぎるなよ。人にはそれぞれ許容量ってものがある」

 

 だから俺は、釘を刺す。

 

 はっとなる望月に、俺は目を見てはっきりと告げる。

 

「責任を背負うことはいい。だが背負えない重荷を無理に抱え込んでも、誰かを巻き込んで自滅するだけだ」

 

 大抵の存在には許容できる限界がある。そしてそういうものは、限界を超えれば破裂するなり押し潰すなりするものだ。

 

 そして、場合によっては周囲を巻き込んで大きな悲劇を生み出しかねない。そういうケースは腐るほどある。何より、俺はそんなケースで生まれた存在だ。

 

 だからこそ、これははっきり言っていい。

 

「無理に限界を超えようとしなくていい。カズヒねぇもリアス部長もゼノヴィアもイッセーも、そして俺もそこまで求めない。……無理して倒れる前に、ちゃんと誰かに……いや」

 

 ここまで行ったのなら、最低限の責任は取らないと。

 

「俺に言え。肩ぐらいは貸してやる」

 

 その言葉に、一筋の涙が零れる。

 

 ……まずい、言いすぎたか?

 

 俺はちょっと冷や汗が出てきそうになった。

 

「その、プライド傷つけたのならすまない」

 

「……ううん。そういう事言われたの、あまり記憶になかったから」

 

 あ~。なんというかしっかり者の印象があるしな。

 

 まぁ、それが悪いってことはない。ないが、それはそれで苦労があるだろう。

 

 だったら―

 

「……ま、縁があったら少しは頼ってくれ。こっちも常に何でもかんでもできるとは言わないけど、頼めば力貸してくれる人達も多いんでな」

 

 ―少しぐらい、肩の荷を下ろせる場所があった方がいいだろう。

 

「……ええ、ありがとう……っ」

 

 うん。

 

 泣くことそのものは否定しないし、悲しい時に泣きはらせないのも問題だ。

 

 だけどやっぱり、涙の意味は笑顔(こっち)がいい。

 

 少し止まらなさそうだし、ちょっと待ってあげるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしくお願いします……ボス」

 

「リヴァに感化されないで頂戴」

 

 話をし終えた後の、アフォガード……もう緋音でいいか。

 

 緋音の第一声がこれか。リヴァの影響を悪い意味で受けてないかしら。

 

「そうよリーダー。ややこしくなるからカズヒをボスと呼ぶのはたまにだけ!」

 

「駄目だよ。むしろややこしいから……リーダーは終了」

 

 鶴羽のズレた反論になんかズレてそうなツッコミを緋音はしている。

 

 その上で、リーネスが用意した特別製の輸血パックから血をチューチュー飲み始めた。

 

 まぁ、死徒は血液の補充が必須だものね。効率的なところをも魔術的に対応したリーネス印の加工済み輸血パック。これさえあれば血液関連は問題なさそうだわ。

 

「で……ボス。その……ありがとう?」

 

「いえ、お礼を言われるようなことしたのかしら?」

 

 正直突拍子もないお礼な気がするのだけど。

 

 そう思っていると、何故かリーネスやリヴァが苦笑している。

 

「瞼の裏の笑顔の誓い。あれがあるからこそぉ、和地は今の和地なのにねぇ?」

 

「いやホント、カズヒには感謝感激雨あられ。おかげで素敵な共有ダーリンをゲットしちゃいましたー!」

 

 そ、そう返されるとちょっと反論しづらいわね。

 

 私にとっても和地にとっても、あの日の笑顔に交わした誓いは原点だ。あれがあったからこそお互いに頑張れたし、成長できた。極晃星(スフィア)にすら到達できた。

 

 あの日私を救ってくれた笑顔の君。彼もまた、私の笑顔に誓って生きて、私を再び救ってくれた。その笑顔が、多くの人を救ってきた。その笑顔で、多くの悪を祓い続けた。

 

 自然と、私の頬は染まって少し緩んでしまう。

 

「……ええ。私達は互いの笑顔でここまでこれたもの。存分にご相伴に預かりなさい」

 

 思わず胸を張ってそんなことを行ってしまう。

 

 ただ、それを見るリーネスも鶴羽も、安堵している笑顔を浮かべていた。

 

 いつもいつも、心配かけて悪いわね。大事な私の二人の親友。

 

 これからも思う存分、和地と一緒に生きていきましょう。これからも胃に悪いことをすることになりそうだし、それぐらいはさせて頂戴。

 

「……ちなみに昨夜、鶴羽とボスが完全サポートでリーネスの初夜をエスコートしてました」

 

 と、一瞬のスキをついてリヴァが余計なことを緋音に告げやがった。

 

 視線が、視線がもの凄く微妙なものを見る目つきに!

 

「それはどう……なの? いや、ザイアでもそういう事あるから……鶴羽がいるならトチらないけど」

 

「余計なこと言ってくれたわね」

 

 アイアンクローをそろそろリヴァにお見舞いしたくなってきた。

 

 まぁ、それはともかく。

 

「とりあえず、異形には慣れそうかしら?」

 

 私はそこを確認する。

 

 かつてザイアの偏向教育を受け、異形を受け入れきれないと記憶を自ら消去することを選んだ緋音。

 

 正直そこが懸念だったけれど、思ったより割り切れているのかしら。

 

「……私も、似たような経験が……あるの」

 

 そう告げる緋音の頬は、複雑に歪んでいた。

 

「私の家族は……異形と思われる強盗殺人で殺された。でも、私だけは……助けが間に合った」

 

 その言葉に込められた感情は、本当に複雑に入り乱れているのだろう。

 

「一生懸命守ってくれて……間に合わなかったことを泣きながら謝ってくれた、あの人。彼女みたいになりたいと……ザイアに入ってから頑張ってた」

 

「……そっか。その大前提が崩れそうになれば、それは耐えられないかもしれないわね」

 

 リヴァがそうしんみり語る中、緋音はそれでも表情を微笑に傾ける。

 

「うん。きっと、和ちゃんのことが好きなったのは……同じなんだ」

 

 なるほど、ね。

 

 直感的に悟っていたのでしょう。

 

 和地が瞼の裏の笑顔に誓ったように、彼女も己の在り方を誓った過去がある。

 

 それは大前提の崩壊で崩れそうになったけれど、でも結論として、取り戻せた。

 

「私は、やっぱり私みたいな人を……減らしたい。その為に……この新しい人生を、使いたい」

 

 胸に手を当てて思い出すのは、きっとあの日の原風景。

 

 己の原点を取り戻せたのは、異形に対する抵抗心を、異形によって救われ異形になったことによるショック療法かもしれないわね。

 

 なら、私が言うことは一つだわ。

 

「あまり言えた義理ではないけど、無理と思ったら素直に伝えて」

 

 ああ、私も感謝したい。

 

「和地の大事な先輩なら、和地は絶対力を貸す。私だって、手が空いているならちょっとぐらいサポートするわ」

 

 この人は、きっと和地にいい影響を与えてくれた人だ。

 

 なら、私も彼女を守りたい。和地がそう思っているだろうからこそ、私も手が空いている時ぐらいは手伝おう。

 

 その想いをもって、私は緋音に手を差し出す。

 

「貴女が手を取ってくれるなら、私達は貴女を歓迎するわ」

 

 その手を、緋音は一瞬の躊躇を振り切って取ってくれた。

 

「よろしく……ね、リーダー」

 

 その決意に敬意を。そして、これからの貴女に幸いを。

 

 さて、和地はそろそろ帰れるようになるかしら。

 

「……あ」

 

「「「「あ?」」」」

 

 四人揃って疑問符を上げるけど、私は今壮絶な事実に思い当った。

 

 今和地は、責任を取る形で鰐川亜香里と望月有加利を探している。

 

 そして、同行しているのはイッセー。

 

 それが今かみ合って、結論が出た。

 

「……新入りはもう一人できるかもしれないわね」

 

「「あぁ~……」」

 

 リーネスと鶴羽が心底納得し、天を仰いだ。

 

 相当メンタル参っている可能性があるあの二人が、よりにもよってイッセーや和地に接触する。

 

 これはあり得る。かなりあり得る。場合によってはどっちも一人でという可能性があるけれどね。

 

「覚悟してね、後輩ちゃぁん? カズ君は天然女ったらしの権化だから。前世の父親からすけこましの才能だけを受けついた超優良物件の権化だから」

 

「あ~。和ちゃん、ザイア時代でも女子人気凄かった……からね」

 

 でしょうね。

 

 ふっ。むしろここでそれぐらいできなくて何が和地か。

 

 やってしまえ涙換救済。私の男ならそれぐらいはやってのけてこそと示してみなさい!

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとテントから出て、俺は鰐川さんと歩いていた。

 

「よかったのか? 望月さんを置いといて」

 

 それとなく袖を引っ張ってきた鰐川さんについてきたけど、つまりそっとしておいた方がいい的な感じかもしれない。

 

 だけど、ちょっとした素振りで分かるぐらいにお互い仲がいい感じだったけど。

 

「ん~。なんとなく、弱いところをちゃんと出してほしかったからかな? ……自分でも意外なぐらい、そう思ったの」

 

 そう答える鰐川さんは、自分でも不思議そうだった。

 

 ただ同時に、そこに迷いない感じだ。

 

「私や歩人くんにとって、有加利ちゃんはお姉さんって感じで、いつも甘えてたの。……でも、それだけじゃいけないって、今は強く思うんだ」

 

 そう言いながら、鰐川さんは空を見上げる。

 

 その表情は自分でも不思議そうで、悩んでいる感じだ。

 

 ただ、同時に強い決意が見えていた。

 

「……うん。きっと、歩人君が遺してくれたんだね」

 

 そう呟くと、鰐川さんは急に両手で自分の頬を叩く。

 

 気合を入れている。そういう事なんだろうな。

 

 実際、それを終えた鰐川さんの雰囲気はもっとしっかりしていた。

 

「うん、頑張る! 歩人君が繋いでくれたのなら、私はちゃんと頑張らないとね!」

 

「……そうだな」

 

 ああ、俺もそう思う。

 

「その歩人ってやつのことは知らないけど、命を捨ててでも二人を助けようとしてくれたんだろ? だったらその分、いっぱい頑張って笑顔でいられるようにならないとな!」

 

「そうだよね。……うん、頑張ってそうなれるように生きてみるよ!」

 

 元気いっぱいで頷いた鰐川さんは、そのままふと顔を逸らしている。

 

「あの人にも言われたしね! 結構厳しいけど、実際そうだと思うから」

 

「……ラムルの奴か」

 

 後継私掠船団の新しい筆頭戦力。それも、ルシファーの先祖返りとかいうとんでもない奴。

 

 そういや、一緒にいたな。

 

「何言われたんだ?」

 

 なんつーか、あれで妙に影響力あるからなあいつら。ちょっと変なこと言われてないといいんだけど。

 

 そんな気持ちで聞いてみると、鰐川さんはちょっとすすけているような雰囲気になっていた。

 

 そんでもって、なんというか顔の雰囲気がラムルっぽい感じになった。

 

「……身内が泥被ってまで命繋げてもらったんなら、笑顔で墓参りできるように生きるべきだろ。それが嫌だっつーんなら、さっさと死んで否定しろ……って」

 

「き、キッツいこと言うなぁ」

 

 前半はちょっと納得できちゃうのがあれだ。

 

 俺もまぁ、似たようなことするしそのあと笑顔でみんなを支えて生きてほしいとか、リアス達に思ってるしな。ちょっと否定できない。

 

 いや、後半はどうかと思うけど。ようは「残りの人生ウジウジ生きる方が失礼だし、そもそも無意味だろ」って感じなんだろうけど? それにしたって乱暴すぎるだろ。いや、後継私掠船団らしい気がするけど。

 

「でも、そうなんだよね。歩人君が命を捨ててでも助けてくれたのなら、歩人君が笑顔になれるような生き方をしないと……さ?」

 

「そうだな。そこは本当にそう思う」

 

 だから、俺はもう一度言っておいていいだろう。

 

「そんな奴からリアスが君達を託されたっていうなら、俺ももちろん力になるぜ」

 

 ああ、ここは絶対約束だ。

 

 リアスが託されることを受け入れたっていうなら、俺は当然その力になる。それだけさ。

 

 拳を握って突き出して、俺は鰐川さんに約束する。

 

「約束だ! 今度似たようなことになるのなら、俺が必ず助け出す!」

 

 鰐川さんは一瞬きょとんとしてたけど、目に涙を浮かべながら笑顔で頷いた。

 

「うん! その時は、お願いねっ」

 

 安心してくれ。俺は約束は守る男だからな。

 

 おっぱいドラゴンはそこは裏切らないさ。例え死んでも守るからな!

 

『……あまり相棒を焚きつけるな。こいつは本当に死んでも守ろうとするからな』

 

 ドライグ、空気読んでくれ―

 

『『『『『『『『『『……きゅー?』』』』』』』』』』』

 

 ―ん?

 

 俺と鰐川さんが、急に聞こえてきたたくさんの声に首を傾げる。

 

 え、どこから?

 

『……なるほど、これもまた縁というやつか』

 

 ドライグ、どういう事?

 

『その娘が持っている神器、ドラゴン系の準神滅具だ。ヒツギやヒマリより格上のな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「えぇええええええええええっ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず揃って大絶叫して、周囲を騒がせてしまったよ。

 

 おいおい、マジで準神滅具かぁ。世界は広いのか狭いのかって感じだな、オイ。

 




 とりあえず、前半はこれにて終了。いったん原作の展開に戻ります。


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新期来訪編 第十話 新たな始まりの予感

 ……最近の就職関連ですが、今日が本格的な面接です。

 景気づけに今日は普通に投降しますが、受かった場合は忙しくなるので投稿速度が遅れるかもしれないです。

 ……就職を気に更新速度がごっそり遅れたり更新停止になるケースは割とあるし、少し不安だぜぇ……っ


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、たまには一人の時間を思ったら匙に遭遇した。

 

「……そういえば、そっちも一部昇格の話があったらしいな」

 

「まぁな。ま、上手くいけば俺も教師になれる{悪魔で教師になるには中級悪魔以上である必要があるらしい}段階ってこった」

 

 そんな感じでだべっていると、ふと少し前のことを思い出す。

 

「結局なんだったんだろうな、あの魔獣化騒動」

 

「あぁ、俺達が夫従妻隷会とやり合った時の奴か?」

 

 あの魔獣化騒動。規模が小さい町一つにとどまったとはいえかなりアレだからな。ある程度のぼかされた人間界でも海外でニュースになったほどだ。異形世界ではもっと大きな話になっている。

 

 生物が魔獣化するということで、真っ先に思い起こされるはクリフォトによる各種テロ活動。特に吸血鬼側で起きた事件が類似しているだろう。

 

 その所為で、吸血鬼側はツェペシュもカーミラも割と騒がしいらしい。まぁ、思いっきり被害を受けているわけだしな。

 

 だからこそ、真っ先に考慮するべきは英霊召喚もしくは亜種聖杯。それによって幽世の聖杯(セフィロト・グラール)を利用できるようになった可能性。当然、各勢力もその可能性を第一に調べている。

 

 だが、俺は少し懸念がある。

 

「……嫌な予感が一つある。一応上にも具申しているし、他にも思っている奴はいるけどな」

 

「なんだ?」

 

 匙が首を傾げる中、俺はその予感を語る。

 

「まったくの新顔。その可能性だ」

 

 そう。俺はそれを考えている。

 

 今回起きた二つの事件。どちらもそれぞれ別の違和感がある。

 

 先進国の専門機関が必要なレベルの新薬が多数。戦略的観点から見てどうも違和感しかない場所の選定。どちらも方向性は別だが、違和感がぬぐえない。

 

 あとでリアス部長から聞いた話だが、シーグヴァイラ・アガレスは魔獣化の方で「そもそも相手の目的や手段が勝つ為ではない可能性」があった。

 

 もしそうだとするなら、最悪の可能性は―

 

「……ザイアみたいな「どこから取り出したそれ」みたいな新技術や異能が、また出てきたんじゃないかってことだ」

 

 ―まったくの未知。その可能性だ。

 

 未知とはそれだけで脅威だ。知らないというのは対策が分からないという事だ。世の中あらゆるもので、前例のないものが大きな影響を与えたものは数知れない。

 

 もし、もしもだ。

 

 もし今回の事例が、まったく想定外のところから来た未知の手段だとするのなら。

 

「……覚悟しとけよ、匙。俺達は既に知っているだろう」

 

 それは、その時点で大きすぎる脅威になる。

 

 俺はその緊張感と戦慄を、隠すことができなかった。

 

 何故なら―

 

「この世は異世界が存在し、おっぱいを司る神がいる。つまりどんなへんてこりんな奴が出てきてもおかしくないってことだ」

 

 ―前例が前例すぎるからな。

 

「……なんだろう。緊張感がごっそり減った気がするぞ、九成」

 

「全部前例の所為だよ畜生!」

 

 前例が本当に酷過ぎる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二月も後半。そろそろ進級のシーズンだ。

 

 そしてそれは進学のシーズンであり、当然だけど卒業のシーズンでもある。

 

 リアス部長がその地位をアーシアさんに預けてから、もう数か月と形容できる。部長は朱乃さんと一緒に、生徒会長を降りたソーナ先輩達と話をしたりする時間が増えている。その為、顔を出さない時もある。

 

 最初の頃はアーシアさんは流されるままだったけど、最近はだいぶまとめられるようになってきている。

 

「……はい。では二月のまとめを行いながら進めていきましょう」

 

「そうだな。……二月……バレンタイン、チョコレート……」

 

「………まずカズヒにお礼するべきだよな、俺達」

 

 アーシアさんが議題を進行しようとして、イッセー君と九成君が少しマジ顔になったりはしたけど、だいぶスムーズに話は進んでいる。

 

 ちなみに二人だけど、カズヒが主導でまとめたことで、全員で協力して小さめのチョコケーキをそれぞれ贈るということで収まったらしい。

 

 もしそうでなかった場合、チョコレートの群れが襲い掛かるだろう。あとイッセー君の場合、どんなチョコレートが来るか正直予想がつかない。カズヒは本当にいい仕事をしているね。

 

 まぁ、そんな脱線もほんの僅か。僕達は一通り終わらせると、雑談に移っていく。

 

 ……とはいえ、少し真面目になってしまうけどね。

 

「ま、パン屋は当分やめておけ。趣味で作る分なら問題ないだろうが、天界の仕事に慣れるまではあんまり多方面に手を出さない方がいいだろ」

 

「……やっぱりそうよねぇ。って、慣れたら副業って手があったのよね! ナイスよ九成君!」

 

 九成君がそれとなくフォローを入れていたけど、イリナさんの場合がそうだろう。

 

 ミカエル様のAであるイリナさんは、彼が他の御使いと共に隔離結界領域に向かったことで、これから相応の立場につく。

 

 私人としてパン屋に興味があるイリナさんだけど、そんな余裕がなくなるかもしれないと言われていた。

 

 ……一時的にとはいえ、僕達は大きなものを失った。そして、多くの者にとって一時的ではない喪失を経験した者もいる。

 

 そしてそれを終えたとしても、前回の事件のように何が起こるか分からない。それほどまでに、この世界は数多くの混乱の種に溢れている。

 

 禍の団だってそうだ。主だった大派閥は壊滅したとはいえ、疾風殺戮.comといった中堅どころの派閥は健在だ。更に旧魔王派に至っては、新たなる魔王血族が台頭しかねない。

 

 そういう意味では、僕達チームD×Dはこれからも忙しいことになるだろう。

 

 とはいえ、悪い事ばかりではないさ

 

「……そういえば、国際レーティングゲームについて聞いたかい?」

 

 僕は気分を上げようと、そちらに話を振る。

 

 それに対し、沈んだ雰囲気を悟っていたヒツギさんも乗っかるように手を打った。

 

「結構集まってるみたいじゃん? ヴァーリ達は絶対参加するだろうし、リアス先輩も出張るかもね。そうなったらイッセー達も……って感じかな?」

 

「そうねぇ。リアス先輩が出るなら、眷属悪魔が出ないわけないわよねぇ?」

 

 リーネスがそこを振ると、そこから話が弾み始める。

 

 当然ではあるね。

 

 リアス部長は、元々レーティングゲームの各種タイトルを掴み取ることを目標としていた。そこにレーティングゲームの国際大会となれば、興味を持たないわけがない。

 

 国際レーティングゲーム大会は、試験的な要素もあるからだいぶ遊びがあるらしい。

 

 発表当初は流石に反対意見もあった。邪龍戦役は被害が大きく、また喪失も多いことから不謹慎とも言われた。

 

 だけど同時に、須弥山の帝釈天を含めてかなりの参加希望者が出てきていた。更にムスペルヘイムの巨人スルト等、世界に名だたる遺された強者が次々と参戦を表明したのだ。この勢いが反対意見を超えたのが現状だ。

 

 また優勝賞品として、「世界に混乱を齎さない範囲で、運営側が願いを叶える」という盛大なものが提示された。同時に運営資金は運営側のポケットマネーで行い、チケットなどの利益は復興資金に充てられるというチャリティー事業の側面があることも大きい。

 

 そういう、名だたる強者が参戦する一大イベント。リアス部長なら絶対に参加を表明するだろう。

 

「そうなると、眷属としては大忙しだね。イッセー君はどう思う?」

 

「……あ、ああ。誰が相手だろうと、勝つ為に全力出さないとな! 部長にも相手にも失礼さ!」

 

 僕はそう振った時、イッセー君は少しだけ反応が遅れていた。

 

 ……ん?

 

 みんなが少し首を傾げたその時だ。

 

 ドアがノックされ、少ししてから一人の少年が顔を覗かせる。

 

「……生徒会の者です。ゼノヴィア会長はいますか?」

 

 と、そこからを顔を見せた少年に、小猫ちゃんが声をかける。

 

「コーチン、仕事?」

 

「……そうなんだが、コーチンはやめてくれって言ってるだろ?」

 

 微妙に嫌そうな表情を浮かべる彼に、ルーシアちゃんとアニル君が両手を合わせる。

 

「すいません、百鬼(なきり)くん。ゼノヴィア先輩は特別風紀委員というカウンターの存在に反論をしに行って、今カズヒ先輩と死闘を繰り広げています」

 

「因みに、一般生徒の構成員にゼノヴィアの脅威度を体感させる為にわざと長丁場にしてるってよ」

 

 その説明に、百鬼と呼ばれた彼は、天を見上げた。

 

「あ~……。あれはやりすぎたかぁ」

 

 その何とも言えない感じに、ギャスパー君とレイヴェルさんも少し同情の色を見せている。

 

「う、うん。どっちかっていうと、そのあとだよね……」

 

「世界各国の海軍戦力を奪いに奪った組織ですものね。百鬼さん達の安全も考えているのでしょう」

 

 う、う~ん。それは確かに。

 

 ちょっといたたまれない空気になったけど、彼は気を取り直すとこちらに一礼する。

 

「っと、生徒会書記、一年生の百鬼勾陳黄龍(なきり こうちん おうりゅう)です。勾陳は海外で言うミドルネームのようなもので、出来れば百鬼か黄龍でお願いします」

 

「……長いな。日本人だと珍しくないか?」

 

「戦国武将か。……いや、百鬼ってことは、もしかして五大宗家?」

 

 イッセー君と九成君も反応するけど、それに対して百鬼君は小さく苦笑した。

 

「実は俺、五大宗家の百鬼家で黄龍を襲名した次期当主なんですよ」

 

「朱乃さんや椿姫先輩と同じ、五大宗家の方なんですか」

 

 アーシアさんが感心するけど、中々の人物が来たものだね。

 

 五大宗家。日本の異能者を代表する組織。朱乃さんが生まれた頃は色々と保守的すぎたけど、和平の影響や次期当主の代替わり、また数年前にヴァルプルガなども関わっている事件もあって、だいぶ変化しているらしい。

 

「勾陳? コーチンってイッセーみたいな感じの愛称なんですのね?」

 

「……すいません、その呼び名はやめてください。……名古屋コーチンみたいでいやなんで」

 

 ヒマリさんの邪気のなさにちょっと困りながらも、しっかり念押しをしてから彼はイッセー君を見る。

 

「赤龍帝の兵藤一誠先輩ですね。俺、貴方を目標にしているので一度挨拶をしておきたかったんです」

 

「……え、俺?」

 

 きょとんとなりながら自分を指刺して確認するイッセー君に、百鬼くんは頭まで下げる。

 

 ただ、分かる気がするね。

 

 黄龍とは霊獣の龍。その力は間違いなく高位であり、龍王や伝説の邪龍とも並び立てる、優れた龍だ。

 

 それを宿す存在として、歴代最優の赤龍帝と呼ばれるようになったイッセー君は、ある意味で憧れの存在になりえるだろう。

 

 とはいえ、少し真に迫る者があるね。

 

「神滅具を宿しているとはいえ、貴方はただの一般人。それが僅か一年足らずで神や魔王すら倒せる存在になった。俺も貴方の様に、運命すら超えられるような強さが欲しいと思っています」

 

 ……凄い目だ。ここまで強く尊敬するというのも中々ない。

 

「……そ、そうか? ……ま、そういうなら」

 

 ちょっと戸惑っているイッセー君だけど、軽く笑いながら百鬼君に手を差し伸べる。

 

「これからゼノヴィアやカズヒをよろしくな。ま、俺でよかったらちょっとぐらいは」

 

「……はいっ!」

 

 ふふ。イッセー君はこういうところが凄いんだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあった日の夜、俺にお客さんが来た。

 

 主のリアスにマネージャーのレイヴェルが付き添うけど、これがびっくりする相手だった。

 

「……タンニーンさんの息子さんっすか!」

 

「ああ。結構びっくりしたぜ」

 

 久しぶりに男同士で水入らずがしたかったんで、俺は別館の男風呂の方に来てた。

 

 そこでサウナに入りながら、アニルや九成にそのことを話したんだ。

 

 タンニーンのおっさんに子供がいたことにも驚いた。っていうか三男が来たってことは、兄が二人はいるわけだ。

 

 ただ内容も内容だったよ。

 

「臣下になりたいって跪いてきてさぁ。ちょっとびっくりだったなぁ」

 

「臣下? 眷属じゃなくて?」

 

 サウナ用のドリンクを飲もうとする手を止めて、九成がそこに食いついた。

 

 そもそも眷属になりたいっていう方向の発想が出るのか。俺、昇格は確定したけどまだ中級なんだけど。っていうか眷属志望がわざわざ来るような奴だと思われてるのか。

 

 ……いやまぁ、冷静に考えると来るのか?

 

 そこはいいとして、俺はとりあえず頷いた。

 

「そうなんだよ。俺が眷属で最高のハーレムを作りたいってところまで知っててさ。それを邪魔しようなんて考えないって。只の部下、一人の兵でいいってぐらいでさ?」

 

 正直かなり戸惑ったなぁ。

 

 なんていうか荒くれ者で有名らしいけど、むしろ礼儀正しいぐらいだったし。ついでに言うとおっさんの子供で一番強いらしいのに、俺に対してすっごい下につく方向だったし。

 

「……まぁ、異例の進化を遂げる赤龍帝っすしねぇ? そりゃ舎弟願望の連中だって出やがりますって」

 

「同感。タンニーン氏も変にイキるような真似を見逃しはしないだろうし、グレンデルやアポプスを倒す実力すら否定する阿呆に育ってはいないだろうさ」

 

 アニルと九成はむしろ納得してるんだけど。

 

「ま、本当に魅力的な人物ってのは、性別関わらず人に好かれるもんでさぁ」

 

「ここ最近は迷惑行為もしてないし、ひきつけの頻度も一日数回から週数回にまで減ってるしな。成長を認めるやつはきちんといるさ」

 

 二人はそんな風にうんうん頷いているけどさぁ?

 

「……俺、男にモテても嬉しくねえよ!?」

 

 思わず絶叫するからなぁ!?

 




 ようやっと百鬼とボーヴァを出せた。こいつらが出てくるまで続くD×Dの二次創作ってめったにないですよね。


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新期来訪編 第十一話 釣り場での一幕

 うっかり先日は投稿を忘れていました!

 面接も合格し、今週から職関連が新しくなります!

 収入は増えるけど労働時間も増えるので、更新速度は遅くなるかもしれないけど頑張ります!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本の海に浮かぶ無人島の一つ。

 

 俺達は今、そんな場所に来ている!

 

「さぁ、聞きたいことがあったら教えてあげるからね!」

 

「はいですの! この時期はどんな魚が連れそうですの?」

 

 ノリノリの五郎さんに、元気よくヒマリが手を挙げて質問する。

 

 そして俺達は今日、五郎さんの発案で釣りに来ていた。

 

 俺も久しぶりに釣りをするなぁ。ふふふ、最近は釣りはしてなかった。

 

 ちょっと前に厄介なことも起きたけど、最近はだいぶ平和な方だからな。こうしてオカ研総出で釣りに行けるなんて、そうそうないだろう。

 

 そして万が一が起きたとしても、ここにはオカ研が勢揃い。当然だがこの戦力なら、ちょっとやそっとでは倒されない。しかも五郎さんはヴァーリにまで誘いをかけていたらしい。その結果としてヴァーリチームまで参戦という、アッセンブルな戦力となっている。

 

 油断は禁物だが、気を張りすぎるのもあれだ。息を抜ける時に抜くのも仕事のうち。

 

 何より―

 

「……では新人の皆様。周囲の警戒を行いつつ、ご夫妻のサポートを交代制で行うように」

 

『『『『『『『『『『はい、メリード様!』』』』』』』』』』

 

 ―懲罰メイドの人員が増えている!

 

 ……というのも、夫妻が誘拐されるわオーフィスが襲撃されるわといったこともあり、警備関係の更なる強化が必須となった。

 

 初期の懲罰メイドはディオドラ関係が多かったが、その後の禁手バーゲンセール問題で暴発した一件や、王の駒やゲームの不正で起きた各種暴動、もしくは不正によって主の巻き添えを喰らった者達から入念な審査を経て、追加人員が結構増えている。

 

 それに伴い、兵藤邸の移転が決定。道間家やそれ以外から魔術回路保有者も集め、土地の選定からまとめて更なる強化を行う予定だ。建築資材も徹底的に選別したうえで、カズヒが持っている聖墓まで使ってフルで組み立て直すらしい。

 

 ……最も、先任メイドはそっちの作業に追われているので、春っちやインガ姉ちゃん、ベルナが来れてないのは残念だ。釣った魚でなんか作るとするか。

 

 ちなみに俺は寿司と刺身が好きだ。ベルナも日本食をだいぶ鳴らしているしその方向で……いや、カルパッチョという案もあるな。

 

 そんなことを考えこんでいる間に、みんなはそれぞれ思い思いの場所に行っているようだ。

 

 それに気づいた時、メイドの一人がアイスボックスを手に持って俺に近づいていた。

 

「九成様。よければ私が荷物をお持ちいたします」

 

 そこにいるのは、短めに切り揃えた髪のメイドさん。

 

 外見は二十代前半といったところだけど、ちょっと困った。

 

「え? ……あ~、お名前……は?」

 

 いかん。結構な増員だったので、まだ名前を完璧に把握できてない。

 

 これからもそれなりに顔を合わせるわけだし、名前と顔を一致させるぐらいはしておかないと。反省反省。

 

 ただメイドの方は気にしてないのか、小さく笑うと一礼する。

 

「自己紹介が遅れました。私は本日より懲罰メイドに追加補充された、行舩三美(ゆきふね みつみ)と申します」

 

 へぇ……。綺麗な人だな。

 

 明るい茶髪をした彼女は、どこか儚げな印象を与えつつも、強いという印象を与えている。

 

 間違いなく鍛えている。動きにもムラやアラがない。それにおそらく、星辰奏者だろう。

 

 っと。値踏みみたいなことはしない方がいいな。

 

「ありがとうございます。でも、俺も一応鍛えているので」

 

「存じ上げていますが、私達はメイド、それも懲罰で派遣された身です。こき使ってくれるぐらいでちょうどいいですから」

 

 と、言われてもな。

 

 確かに相応にハードな業務であるべきだが、しかしある意味で温情でもあるしな。そこまで深く考える必要はないんだが。

 

 それに―

 

「どっちかというとメイドはサブで、本筋は警護なんですから。俺、一応かなり強い方ですよ?」

 

 ―そういうことなわけだからなぁ。

 

「……そう、ですね。では、私達は三希様と五郎様の方を護衛して―」

 

 と、素直に受け取った三美さんは振り返る。

 

 そして俺も視線を向けると、そこには思った以上に人が多かった。

 

 考えてみれば、メイドの人達も今回かなり多かったからな。

 

 と、そこで執事服を着た男の方が振り返る。

 

 ……これまた、どこかすすけたと言うか虚ろな雰囲気があるな。最も態度はしっかりしているんだが、どこか虚無を感じるというかなんというか。

 

「三美は反対側のカバーを頼む。君なら一人で行けるだろうが」

 

「かしこまりました」

 

 三美さんは素直に指示を受けるが、これはこれは。

 

「……どうなさいましたか?」

 

 俺の苦笑に気づいた三美さんに、肩をすくめて答えるしかないな、これは。

 

「いや、俺も裏の方で釣りする気だったんで」

 

 人が多すぎると分母の問題があるから、あまりいなさそうなところで釣りをするつもりだったんだ。

 

 そのちょっとした運命の悪戯に、三美さんも小さく苦笑していた。

 

「……では、和地様の釣りの腕を見学させていただきます」

 

 ……久しぶりなんだけど、これは釣れないと恥ずかしい流れに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 このいい機会。久しぶりに満足いくまで釣るとしますか。

 

 私はこれでも、卵かけご飯の次に刺身が好物。ストリートチルドレン時代は禄に食えてなかったし、ここで釣りに釣って食べまくるぐらいでいきましょう。

 

 昆布締めやしょうゆ漬けにするというのもオツね。ふふふ、皮算用だけど釣りがいがあるわ!

 

「……かなり楽しそうね」

 

「それはもう。趣味と実益が揃ったイベントですから」

 

 たまたまポイントが被ったリアス部長にそう答えながら、私は既に釣り糸を垂らす。

 

 魔術的な調整も行いつつ、いくつかのパターンを切り分けて……ヒット!

 

「獲ったぞ獲物ぉっ!!」

 

 よし! 刺身でいける魚ゲット!

 

 一瞬で〆た上で、素早く魔術で保護しながら氷に沈める。

 

 ふっふっふ。この調子で釣りまくってくれる!

 

「楽しそうで何よりだわ。さて、私も……それっ!」

 

 部長も釣りを始め、三十分もする頃には少しは釣れている。

 

 そこで私もだいぶ落ち着いたので、少し世間話をすることになった。

 

「……はぁ。ヴァーリ・ルシファーが最上級悪魔に、ですか?」

 

「ええ。と言っても、当人も一度は断ったけど押し切られた形よ?」

 

 即座に部長がそれなりに捕捉してくれるけど、冥界政府もよくもまぁ。

 

 仮にも和平という大きな出来事にテロリストを手引きした奴なんだけど。……まぁ、かのディハウザー・ベリアルが罪王最有力候補になっているし今更かしら。

 

 この辺り、やっぱり人間界とノリというか価値観がずれてるわね。秘密にする方針は最適というほかないわ。すみ分けは割と大事だもの。

 

「因みにアザゼルが強い要望を残していたそうよ?」

 

「あの親バカ先生は。……まぁ、処罰は与えているしその上でなら引くべきですかね」

 

 ため息をついていると、リアスはこちらをまじまじ見ると苦笑する。

 

「……でも、別に私に敬語を使わなくてもいいんじゃないかしら? ほら、実質的には貴方の方が年上でしょう?」

 

 ああ、そういえば。

 

 実質的には私は四十手前と言ってもいい。それに立ち位置的にも、過度にへりくだる必要はない。

 

 と、言われてもねぇ。

 

「もう慣れてますからね。それに、年功序列っていうのはそれに伴うノウハウや技量があってこそでしょう?」

 

「なら問題なさそうだけど?」

 

 ……言い方を間違えたわね。

 

 自分で言うのもなんだけど、真っ向勝負なら高確率で競り勝てるわね。

 

 私は少し考える。

 

 冷静に考えれば、プライベートなら一つ二つの歳の差で必ずしも敬語は使わない。それはそうだ。

 

 なら、いいか。

 

「なら、今後は少しずつならしていくわ。良いかしら、リアス」

 

「ええ、これからはそっちの方でよろしく……っと」

 

 あら、リアスもまた釣れたわね。

 

 そして私も更に釣り、話はまた移り変わっていく。

 

「そういえば、国際レーティングゲームもだいぶ形になっているわね。リアスはやっぱり参加?」

 

「もちろんよ! こんな機会は中々ないし、私達がどこまで強くなったのかを確かめる、いい機会だわ」

 

 なるほど。

 

 そしてアザゼル杯と呼ばれるだろうその試合では、信じられないような優勝賞品が出る。

 

 ……そうね。少し聞いてみるべきかしら。

 

「リアス、その試合で私が参加して……優勝は狙えると思う?」

 

 その質問に、リアスは少し目を丸くした。

 

 まぁ、私が競技試合に勢いよく参加するというのはイメージがかみ合わないでしょうね。自分でもそう思う。

 

 ただリアスはすぐに考えこむと……なんか凄く真剣になったわね。

 

「個人に限定すれば凄まじい強敵ね。そもそも神や龍に対する特攻を持ち、短期決戦に特化した禁手を保有。ルール次第では帝釈天の喉元を食い破れるかもしれないわ」

 

「想像以上に高評価をしてくれてありがとう。自分のことながら大概よね」

 

 まぁ実際、事実なんだけど。

 

 並みいる強敵を倒すべく、私もかなりの鍛え方をしてきたわけだ。その結果として、対神や対龍の手段すら獲得。ロキやクロウ・クルワッハ相手に単独での戦闘もできた。

 

 更にそこで禁手もある。短期決戦に特化した銀弾の決戦兵装(エンド・ザ・リボルバー)は、それだけで魔王にすら届くと自負している。

 

 とはいえ、リアスはすぐに表情を引き締める。

 

「でも、相手はチームで挑んでくる。相応の戦力を用意しなければ圧殺されるし、ルール次第では絡め取ることは可能だわ」

 

「……ですよね」

 

 敬語が戻ったけど、実際そこもそうだった。

 

 レーティングゲームは集団による競技試合。ルールはきちんと守る必要がある。

 

 転じて私は暗部部隊。ルール無用の殺し合いに長けており、そういう意味では不利ともいえる。

 

 競技試合と殺し合いの強さは別物といえるもの。この辺りを考えると、色々と考えた方がいいわね。

 

「でも意外ね。参加したいの?」

 

 まぁ、リアスからすればそう思うわね。私はそういうことを言うのが意外と思われるような生き方をしているわけだし。

 

 ただ、ね。

 

「……復興支援金に優勝賞品ぶっこみたいのよ。ほら、私は色々やらかしているから、そういうことは隙あらばしていく方がいいでしょうし」

 

「うるさい人が出てくるわよ? 売名行為とか」

 

「地獄への道は善意で舗装されている。善意は使わねば地獄に落ちる時に無駄に落ちて敷石になるだけですから」

 

 私はそう返すと、同時に獲物がかかったことを察知する。

 

「ふっ。釣って極楽食って供養とは言わないから、精々恨むといいわ!」

 

 さぁ、私の刺身になるといい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 割と釣れるな。

 

 これは刺身以外も考えるべきだろう。焼き魚も良し、煮つけも良し。洋風でムニエルやアクアパッツァもいいだろう。天ぷら、フライ、南蛮漬け……夢が広がる。むしろアニルもいるし、燻製という手法もよだれが出そうだ。

 

 よし、この調子で釣りまくるか。

 

「……凄く釣れていますね。ここまで釣りがお上手でしたか」

 

 三美さんは感心してくれているけど、そういうわけでもない。

 

 下手の横好きでもないが、そこまでずば抜けた技量があるわけでもない。基本的には趣味の範疇。特技というほどでもないわけだ。

 

「場所と時期がいいんでしょうね。普段ならここまで釣れませんよ」

 

 俺はそう返すと、次の仕掛けを考えながら小さく微笑む。

 

「まぁクックスもいますし。皆さんの分も釣って見せるぐらいの勢いでいきますかね」

 

「……ご配慮、ありがとうございます」

 

 冗談交じりで言うと、クスリと笑顔で返される。

 

 とはいえ、世間話はしたいところだな。

 

「そういえば、兵藤邸(こっち)に派遣されるってことは、罪状はそこまで重くならなかったわけですよね? 差し支えなければ伺っても?」

 

 うっかり地雷を踏みつけるわけにもいかないからな。後でさわりぐらいは把握しておくべきだと思っていた。

 

 こんな形で縁ができているし、いっそのこと自発的に聞いてみるべきだろう。今後の関係性は考えないといけないしな。

 

 そして三美さんは、特になんてことがないような苦笑を浮かべている。

 

「たいしたことではございません。かつての主がゲームの不正に関与していた、それだけのことです」

 

「……なるほど」

 

 かなり根が深い問題だったらしいからな、ゲームの不正。

 

 相当金が動いていたらしいし、スキャンダルの連続でゲームのランキングが一気に変動しているとも言われている。ごっそりとランキング上位がいなくなり、繰り上がり昇格が進んでたとか。

 

「とはいえ、主は利権と引き換えに作戦内容を相手に伝えておくという手法でして、リアリティを重視して私達には言わなかったこともあります。おかげでこちらも被害者に近いとみなされましたが、その……」

 

 少し遠い目になりかけているので、俺から言った方がいいだろう。

 

「外聞が悪すぎて、将来がまずかったと」

 

「……はい。流石にこれからの人生も長いので困っていたのですが、そこで今回の選定に適い、こうしてメイドを務めさせていただいております」

 

 なるほどなるほど。

 

 やはりまぁ、懲罰メイドもそういう事だ。

 

 苦労しているという事だろう。なら、俺が言うべきことは一つだな。

 

「ま、当面は安心してくれていいですよ」

 

 そう、これだけは確約できる。

 

「仕事はきついしトラブルはやってくるでしょうが、使い潰すようなことはしません。リアス部長はそういう人ですし、俺達もそんなことは望みませんから」

 

 そう、そこに関しては胸を張って断言できる。

 

 俺達はそういう生き方をしているし、その為に頑張っている。カズヒだって、好き好んでそんな真似をする奴では断じてない。

 

 だからまぁ、その辺りは気楽になっていた欲しいものだ。

 

 それに対して、三美さんは笑顔を浮かべてくれる。

 

「……そうですね。そこに関してはありがたいと思います」

 

 ……。

 

 その表情が、どこかかつてのインガ姉ちゃんを思わせる。

 

 これは、色々とある人なんだろうな。

 




 増員や増築など、今後を踏まえた伏線になる部分も増やしていきます!


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新期来訪編 第十二話 度の超えた金とけた違いのお偉いさんはメンタル壊れる

 ふぅ。今日から新しい職場で頑張ります!

 それはそれとして、イッセー達も新しいステージです!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬ももうすぐ終わる頃、俺達には大きなイベントがやってきた。

 

 ……兵藤一誠の上級悪魔昇格式典である。

 

 異例と言えば異例中の異例だ。イッセーは悪魔になってからまだ一年に足りていない。転生悪魔制度が始まった時期に転生してなお、下級悪魔止まりな者だっているのだから、この出世は極めて希少と言ってもいい。

 

 だが同時に、それだけのことをしている。魔王血族、神滅具保有者、伝説の邪龍相手に大立ち回りをし、その殆どで勝利に多大な貢献をした。更には悪神ロキという神の中でも名実ともに上澄みの存在を、いくつもの要素が絡んだとはいえ打倒したこともある。更には極晃奏者ミザリ・ルシファー討伐において、俺の衛奏に匹敵する趨勢を傾ける一手を成し遂げたのだ。

 

 ヴァーリ・ルシファーも最上級悪魔になるそうだが、ぶっちゃけイッセーが最上級悪魔に就任してもおかしくない。流石にそこまでの前例は出さずに済ませるに越したことはないので、こうして段階を置いた形だ。

 

 そんなわけで俺達は式典会場に向かっているが―

 

「……はぁ」

 

 ―俺は別件でため息をつきたくなっていた。

 

「すまんイッセー。心労と緊張感で吐きたくなってきた」

 

「俺より緊張と心労を背負うなよ。別件だけど」

 

 イッセーにも言われるが、かなり困ったというかなんというかだ。

 

 俺はそんな感情のまま、何度目か分からない金額を確認する。

 

 ……かなりギリギリだが、一千億に届いている。ドルでなくて円ではあるが、それにしたって異常の極みだ。

 

「大丈夫かい? いきなりこの金額が手元に入るとか、色々大変だろう?」

 

 心配してくれる五郎さんには感謝しかない。この金額は金銭感覚がぶっ壊れる。

 

 そんなげんなり気味の俺は、その元凶ともいえるプログライズキーを起動させる。

 

『SAVE STAR!』

 

 そんな猟犬のライダモデルが組み込まれたプログライズキーの名はサルヴェイティングハウンドプログライズキー。

 

 このプログライズキーは、極晃星(スフィア)のある性質が利用されている。

 

 極晃星は規格外の星辰光であり、到達にはいくつもの条件があることは知っての通り。そしてもう一つの特性がある。

 

 それは、到達するのと比較した場合より簡単に接続することができるという点。具体的には、到達と同種の思いを他者と共有するなどすれば、接続することができるのだ。

 

 もちろんそれも楽ではない。だが星とはすなわち祈る物。極晃星は祈りが届けば無条件で力を貸してしまう危険性がある。

 

 初代極晃である弄奏は「失う先に見つけた勝利という光。それに全てを賭ける思い」が引き金になる。最もミザリにしろカズヒにしろ、かなりアレなので同種の想いを抱くのは困難だろう。

 

 だが衛奏の場合は「極晃星という力から守ろうとする願い」である為、極晃星が脅威として現出すればカウンターとして眷属が多数出てくる余地がある。とはいえ、他の条件もあるので絶対ではない。

 

 当然だが、新しい極晃星が出てくる可能性はある。そしてどの勢力も、手に入れられれば凄まじい恩恵があるが、性質上やらかす危険性がありすぎる上にやらかした場合の影響力がデカいから、危険だとも分かっている。喉から手が出るほど欲しいが、同時にとても恐ろしい代物と分かっているのだ。

 

 結論として、どの勢力も「対極晃装備」はいろんな意味でほしい。結論として、衛奏を人為的に利用できる状態を整えたいのだ。俺がすぐに到着するかどうか分からないし、眷属が偶然できる可能性に頼って被害が増えるのも嫌だろうし。

 

 そこでリーネスが開発したのがコレ。これを使って実装すれば、ほぼ確実に極晃相手に衛奏眷属となれる対極晃星用プログライズキーだ。

 

 技術限界もあって焼き切れるから使い捨てだが、俺が協力すれば大量生産の余地がある。その上で買いたたかれたり酷使されるのを避ける為、一つ一つに対してライセンス生産かつ年間契約にしている。それはある意味で、各勢力に対するある種の権勢も兼ねての動きだった。

 

 ……が、ミザリがやりすぎていたことから世界各国各勢力はこぞって契約。結果として、俺とリーネスの資産は一千億をギリで超えた。

 

「ふ、ふふふ……。これはもう、専用の宇宙ステーションと巨大潜水艦でも作らないと……」

 

「あ、その時は俺も資金出すから」

 

「リーネスも和地も落ち着いて? 無理に使おうとしないでもいいよ?」

 

 リーネスと俺がすすけた表情で話を勧めようとすると、お袋が慌てて止めてくれた。

 

 あ、これヤバい。金が多すぎると返って苦労することも多いだろう。

 

「……前向きに考えましょう。女性を大量に抱えるのなら、それなりの資産は必須よ。石油王とかがハーレム作れるのと同じ理屈よ」

 

 カズヒ、そういう次元の金額じゃないだろこれ。

 

「そこに誓いの人間力と、鍛え上げられた体力もあって完璧状態! くー! そんな和地に痺れて憧れるー!!」

 

「待ってリヴァ! それだと和地が悪党になるから!」

 

 ノリノリのリヴァ先生を鶴羽が抑えてくれるけど、もう困ったもんだなオイ。

 

 いやぁ、本当に困ったもんだ。俺の胃は割と痛い。

 

「……リアス部長ぉ。ノーベル賞じみたものを作って、お金を使うところを作りたいんですけど。ほら、お金は使って回さないといけないでしょ?」

 

「とりあえず、グレイフィアにも話しておくから水を飲みなさい。顔色が悪いわよ?」

 

 リアス部長が気を回してくれているけど、イヤホンとこれ……どうしよ?

 

 ちょっと冗談抜きで人生観狂うぞ。それに経済的にもある程度は使っておかないと。第一俺の主義信条から言っても、ここまで金があるのなら相当数は義援金とかに回さなければ。

 

 と、とりあえずこれは……あれだ!

 

「そうだイッセー! 共同出資だ!」

 

 俺は閃いたぞ!

 

「俺達で冥界の孤児院とかに、国際レーティングゲームのチケットを贈るんだ! お前子供のヒーローなんだし、そういうチャリティー事業にも手を出すべきだ!!」

 

「そ、そうだな! 俺もおっぱいドラゴンの興行収入がちょっと多いし、人生観狂いそうだったし!」

 

「……そういう事なら、あとでお父様にも話しておくべきね。グレイフィアもそこに文句は言わないでしょう」

 

 俺達が盛り上がっていると、リアス部長もそこに頷いてくれている。

 

 ……と、そろそろ着くな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドレスはあまり気慣れていないので、タキシードを着させてもらうことにした。

 

 とはいえこれ、オーダーメイドね。流石はグレモリー宗家の調達というべきかしら。

 

 白というよりは白銀。豪奢な装飾はなく、シンプルにまとめられている。その上で高級感がしっかりとあり、王侯貴族の隣にいても違和感がないようにできている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……ありがとう、リアス。これ、魔術的に保管しておくわ」

 

「ええ、次の機会にはドレスを用立てるわ」

 

 そう微笑みと共に返されると、流石に断れないわね。

 

 まぁ、当面の礼服はこれで十分。とはいえ、今後和地と一緒にパーティに参加するかもしれないし。ドレスもいずれは用立ててもらうことになりそうだわ。

 

 まぁ、今回はあくまで参加するだけ。主役はイッセーに主のリアスとなるわけですけど。

 

「とはいえ、教会に属する暗部部隊だった私が悪魔の上級昇格式典に傘下とはね。和平が結ばれるまでは流石に想像できなかったわ」

 

「そうね。私も、コカビエルの件で貴方達と顔を合わせた時は考えもしなかった」

 

 お互いに苦笑を浮かべるが、しかしこれは意外というしかないだろう。

 

「……こういうのを合縁奇縁と日本では言うのだろうか。とはいえ、私もタキシードを用立ててもらうべきだったかもね」

 

「ゼノヴィア先輩なら確かに似合いそうですね」

 

「確かに、男装が似合うタイプよね」

 

 ゼノヴィアが私を羨ましそうに見ている中、ルーシアや鶴羽が茶化す光景。

 

 それを見ると、私は少しおかしくなって笑ってしまう。

 

 ええ、この光景は和平があってこそのもの。そして、私はそれを悪くは思ってない。

 

 その中に私が入れるというこの奇跡に、私は感謝しよう。

 

 納得できない者はいるだろう。私に敵意を持つ者もいるだろう。それはもう仕方がないし、自業自得というほかない。

 

 だからこそ、これからも私は私でい続けよう。

 

 邪悪の宿敵、正義を奉じる必要悪。誰かの勝利(笑顔)を守る為に、命を懸ける悪祓銀弾(シルバーレット)旧済銀神(エルダー・ゴッド)を導いた、瞼の裏の悪敵銀神(ノーデンス)

 

 だけどまぁ、今日に限っては一人の客として祝福しましょう。

 

 歴代最弱から歴代最優。そして前代未聞を形にし続けた赤龍帝。

 

 誇りなさい、燚誠の赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)。兵藤一誠。

 

 今この式典こそ、貴方が形にして見せた、一つの勝利の結果でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 式典は問題が起こることなく終わり、僕達はこの後のパーティまで小休止となっていた。

 

 途中で何人か客人が来訪し、その中にはフェニックス夫人やヴェネラナ様も。そこでイッセー君はトレードを行い、アーシアさんにゼノヴィア、レイヴェルさんを己の眷属とする。

 

 途中でフェニックス家夫人に耳打ちされていたけど、まぁ今後を踏まえると婚姻関係か、将来的な眷属としての扱いだろう。

 

 そして僕たちもそろそろパーティに行こうとした、その時だった。

 

「失礼するよ。赤龍帝は此処かな?」

 

 そう告げながら入ってくるのは、僕らより年下に見える少年。

 

 ……その時、僕達は戦慄を覚えた。

 

 今までたくさんの敵と戦ってきた。当然、強者とされる者も数多い。

 

 そんな僕達だからこそ分かる。そんな僕達が動けない。

 

 そんな、トライヘキサやグレートレッドとも質が違う、強大な存在が目の前の人物だ。

 

 戦闘態勢や警戒すら取れない。畏怖の感情があまりに高まる。

 

 間違いない。目の前の人物は、グレートレッドやトライヘキサに通用する。勝つことはできなくとも、単独で戦えるだろう存在だ。

 

 そんな存在に僕らは、間違いなく気圧され―

 

「失礼ですが、どこかの神話の神でおられますか?」

 

「今日は祝いの場ですので、悪ふざけはおやめください」

 

 ―そんな中でも、彼らは違った。

 

 九成君とカズヒは、素早く前に出るとカバーの大勢に入る。

 

 特に状況が掴めていない、イッセー君のご両親は確実にカバーできる位置だ。九成君がガードしながら下がらせ、カズヒが迎撃しながら攻撃できる。

 

 ……というより、既にショットライザーを装着してプログライズキーも装填している。カズヒに至っては瞬時にアヴェンジングシェパードを装填済みだ。

 

 態度こそにこやかだけど、いざとなったら本気で戦闘ができる状態でもある。

 

 こういう時、この二人は本当にブレないから頼もしい。

 

「……あ、よければお菓子食べます? 新規事業のおっぱいドラゴン牛乳で作った牛乳プリンですよ~?」

 

 ……そんな空気が全部吹き飛んだね。

 

 青い髪を綺麗にまとめてドレス姿だったリヴァさんが、そんなことを言いながらお菓子の入った箱を少年に差し出している。

 

 なんという胆力だ。もしくは仕掛けないと見抜いたのか? どちらにしても、主神の娘は伊達ではない……いや、リヴァさんが特殊なだけかな?

 

「……ふふっ。オーディンは子供に恵まれているね。それに極晃衛奏者(スフィアディフェンダー)も卓越した胆力だ。もちろん、他の者も十分すぎるほどだけどね」

 

 そう返す少年は、その絶大な気配を霧散させる。

 

 思わず僕らが息を吐く中、カズヒはジト目をリヴァに向ける。

 

「……ナイスフォローというべきか、ハリセンで叩くべきか微妙に悩むわね」

 

「まぁまぁボス。連れてきた人が人なんだし、ここで荒事はしないっしょぉ♪」

 

 呆れ半分のカズヒに、リヴァさんは笑顔でそういうと外にウインクをして見せる。

 

 同時に、遅れて入ってきた人がアジュカ様であることに安堵する。

 

 ……アジュカ様が客人として連れてきたのか。なら、あくまでこれは悪戯か試しだろう。今の悪魔のトップがいる中であまり無体なことをするわけがないし、する人物を前置きもなく連れてこないだろう。

 

 とはいえ、いったいこの少年は?

 

 僕達の疑問を悟っているのか、アジュカ様はその少年に手を向けると、僕達に見渡した。

 

「紹介しよう。こちらはインドの破壊神シヴァ様だ。現状のインド神話を束ねておられる方だよ」

 

 その名前を聞いて、僕達は改めて戦慄する。

 

 インドの破壊神、シヴァ。龍神格や極晃星を除けば、最強といえるだろう存在。

 

 あの帝釈天が目の敵にしているだろう、超上の極み。トライヘキサが封じられ、更に極晃星に衛奏という枷が欠けられた以上、常態では彼がこの世界で頂点に立つ。まごうことなく頂点に立てる存在。

 

 ……衛奏であっても、彼には勝てない。いや、衛奏だからこそ彼には勝てない。

 

 極晃という概念を、世界に過ぎた力とみなし、だからこそそれに対する枷となった衛奏。それは極晃にのみ通用するからこそ、極晃全てを抑え込める枷になる。ゆえに、シヴァ神には決して通用しない。

 

 つまり、単純な戦闘能力なら彼はアジュカ様すら超える最強だ。僕達が総力を挙げてなお、彼は全てを薙ぎ払るだけの力を持つ。

 

 その上で―

 

「……とりあえず、アザゼル先生みたいな悪ふざけはやめてもらえません? ここ祝いの場なんで」

 

「今後は同様の事態に備え、相打ち後用の遺書を携帯することにします。お気を付けを」

 

 ―この二人、ブレないなぁっ!?

 




 つ 極晃眷属化プログライズキー(使い捨て

 こんなトンデモ兵器が大量に世界各国に広まることで、世界は対極晃が盤石と言えます。それでも難易度は高いですが、打倒の余地が大幅に上がっております。

 ……そして、けた違いの至近が和地に入ってきました!

 世界的に影響力が高すぎて、めっちゃ金に困らない生活が確約! ただし和地は金遣いが荒くないので、ぶっちゃけメンタル的にかなりキッツい!!





 そしてオチはシヴァ神とブレない二人で〆ました!


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新期来訪編 第十三話 責任

 ……とりあえず、本格的に新職場でスタートするので様子見もかねて投稿頻度を下げつつやっていこうかと思っております。とりあえず平均24時間周期から36時間周期ぐらいを一つ。



祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インドの破壊神、シヴァ。

 

 今のこの世界においてある種の頂点。そんな人物までもが挨拶に来るとは、イッセー君も凄まじいことになっている。

 

 更にアスラ神族の王子であるマハーバリ氏まで挨拶に来ており、イッセー君のことを気に入っているようだ。

 

 最も―

 

「どうだろう赤龍帝。そして比翼の極晃衛奏者(スフィア・ディフェンダー)。僕の元に来ないかい?」

 

 ―イッセー君達をスカウトするとは思ってなかったけどね。

 

「……私は一応、教会に属する者ですが」

 

 即座にカズヒがそう応対するけど、シヴァ神は微笑を崩さない。

 

「シヴァ様。確かに私が用意できるものを用意するとは言いましたが、それは流石に」

 

 アジュカ様も苦言を呈しているが、シヴァ神は冗談は言っていないようだけど真意を悟らせない態度のままだ。

 

「別に三大勢力から抜けろとは言ってないよ。ただ、インドラも裏で色々と動いているからね。彼が動くような時は、僕と共に戦ってくれないかってだけさ」

 

 ……インドラ、か。

 

 またの名を帝釈天。彼は英雄派首魁である曹操の存在を知っていながら、あえて隠していた節がある。

 

 その後もイッセー君達が曹操を追い込んだのをいいことに、彼を捕縛して冥府に送り付けた。それらは奪い取った神滅具を保有する為の言い訳だったが、曹操達が帰還してからも自分の監視下に置く形で動いている。D×Dの準メンバーにすることである程度の折り合いはつけているが、やはり油断できない。

 

 元々インドラはシヴァに敵意を見せており、アザゼル先生も暗躍の根幹はそれだと見当をつけていた。

 

 なら当然、シヴァ神が警戒して備えるのは当然。

 

 帝釈天はシヴァ神でも、確勝ができるような相手ではない。さらに、人が振るえる最強の神殺したる聖槍の担い手たる曹操がいる。対抗馬として曹操を打倒したイッセー君を求めるのもある意味で当然か。

 

 更に今後の世界において、決して無視できないだろう極晃星。それに対して圧倒的な対応力を誇る極晃衛奏者。九成君とカズヒを引きこもうとするのも理解はできる。

 

 ただ、やはり僕ら如きでは底が読めない。そこがどうしても、こういうところでは不気味に思ってしまう。

 

「……そう言われましてもね。会ったばかりの人物、それもあんな悪戯をされた直後にスカウトをされても即答はできませんよ?」

 

 九成君もそう返すけど、流石に少し警戒しているようだ。

 

 相手は今の世界におけるある種の頂点。あまり事を荒立てるわけにもいかないし、僕らもうかつに口がはさめない。

 

 とはいえ、これはアザゼル先生がいないとイッセー君にも―

 

「……貴方は、帝釈天と戦争がしたいんですか?」

 

 ―その時、イッセー君はシヴァ様にそう尋ねる。

 

 彼なりに一生懸命考えた。その上で、尋ねなければならない質問だと思ったんだろう。

 

 彼も今や上級悪魔。どうやら、僕達が思いもよらぬところで成長したようだ。

 

 そしてシヴァ様は、その質問に微笑んだ。

 

「いい質問だ。悪くはないが、ドロドロの大戦争をしようとは思わない。……うん、もっと面白い趣向で済ませたいところだと言っておこうか」

 

 けむに巻いているように見えるが、しかし嘘は言っていないようにも思える。

 

 数千年を生きる神に対して、僕らがそこを見抜こうというのも愚かな話だろう。

 

 そんなシヴァさまは、イッセー君を見ながら人差し指を立てる。

 

「……一つ、燚誠の赤龍帝に明言しよう。これから、君や極晃衛奏者が相対する者は、敵味方に関わらず神クラスが多くなるだろう。それだけの存在であり、それだけのことをしてきたことは認識した方がいい」

 

 そう語るシヴァ神の目は、いったい何を見ているのか。

 

「少なくとも、帝釈天達は既に「次」を見ている。そしてそれを見ている者は君達を無視できない。そういう存在になってしまっているんだよ」

 

 そう告げるシヴァ様は、その上でイッセー君を見据えている。

 

「……おそらくだけど、今の君は強者(つわもの)が好きになっているだろう。女体を欲し、平和を望むのは真実だろう。しかし、強き意思をもって強くなってきた者達に触れ、君はそこに惹かれていると思っている」

 

 その指摘に、イッセー君は答えない。

 

 それを気にすることなく、彼はイッセー君の背中をぽんぽんと叩く。

 

「そしてそろそろ始まる国際レーティングゲーム。僕も運営として参加するアザゼル(カップ)。指をくわえて見ていられるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シヴァ神には困ったものだと、俺は内心でため息をついた。

 

 悪戯好きな神様には苦労する。振り回される方はたまったものじゃないのに、振り回されるほかない。厄介なことだ。

 

 パーティにあまりのめりこめなかったのは、それが理由だろう。

 

 ……アザゼル杯か。

 

 国際レーティングゲーム。あまねく勢力から様々な強者が参戦する、世界規模のレーティングゲーム。

 

 列車の窓から景色を見つつ、俺はそれに思いをはせる。

 

 好き好んで殺し合いをする趣味はない。権力にさほど興味はないし、金が多すぎることに困っている身としては優勝賞品をもってして何かを望む必要性も薄い。……まず自前の金でどうにかできるかを重視するべきだしな。

 

 ただ同時に、俺は一つの懸念を持っている。

 

 極晃星(スフィア)は、今の世界には過ぎた力だ。だからこそ俺は衛奏を手にしたし、その判断は今でも変わってない。

 

 惑星環境をたった二人の祈りで塗り替える。言葉にすれば素晴らしいようにも聞こえるが、つまり極々僅かな人間の願いで世界が書き換えられることを意味している。

 

 まして出力が天元突破すれば、理論上は太陽系を吹き飛ばすことが可能。そんな力、今の地球には過ぎた力にもほどがある。だからこそ、俺はカズヒと衛奏に至れたんだ。

 

 だがそれは、もし極晃星でなければどうにもできない力を相手にした場合、なすすべもなく蹂躙される恐れがあることを意味している。

 

 ないとは言い切れない。あまりに広すぎるこの宇宙において、俺達はあまりに小さすぎる空間しか見ていない。宇宙現象ともなればそれこそ太陽系を吹き飛ばす事態が起こりえるだろうし、そう考えれば惑星環境の改変なんて小さな規模だ。

 

 ……だからこそ、責任は取らなければならない。

 

 俺は自分の意思で、極晃を否定した。ならその責任は取らないといけない。

 

 取れるだろうか。そう自問する。

 

 取りたいと思う。そう回答する。

 

 なら、せめて無理だと確信できるまではやってみよう。

 

 そう決意し、俺は振り返る。

 

「……いい目をしてるわね。決意を決めた人の目だわ」

 

 そこに立っていたカズヒは、微笑みながら拳を伸ばす。

 

「私は私で参戦するわ。和地はどうするの?」

 

 カズヒはアザゼル杯に参加するのか。

 

 その理由はあえて問わない。ただ、彼女がそういった催しごとに自ら参加することに、どこか嬉しくなっている自分がいる。

 

 だから、素直に答えることにする。

 

「俺も俺で参戦するさ。……うん、やってみたいことが増えた」

 

 ちょっと不敵な笑みになってるよな、俺も。

 

「俺は強くなりたいし、強さをきちんと見せる必要がある。……極晃星(スフィア)という可能性を閉ざした者として、それが無くても世界は進めるのだと、示す責任があるからな」

 

 そう、それは俺が生涯かけて成すべきことだ。

 

 極晃星という力。その本質を閉ざす衛奏を紡いだ者として、責任という物がある。

 

 俺はそれを成す為に参加する。俺自身が世界に責任を負える強さを得る為に。そして皆に、世界は極晃が無くてもやっていけるのだと、ほかならぬ俺が示す為に

 

 そして、俺にはもう一つ理由がある。

 

「……カズヒ。俺は俺のチームで参戦する。カズヒのチームに挑戦する」

 

 拳を突き付け、俺は最愛の伴侶に宣言する。

 

「カズヒの全力とぶつかり合いたい。惚れた女に並び立てる、そんな男でいたいからな」

 

 俺のそんな言葉に、カズヒも小さく頷いた。

 

「そうね。そういえば、貴方とはスパーリング程度しかしてなかったもの」

 

 だろう?

 

 どうせなら、思う存分大舞台でやってみたい。

 

 老若男女が見ている前で、俺はカズヒと向き合いたい。

 

 心の底から、俺がカズヒを愛していると、愛しているから並び立ちたいと、声高らかに宣言したい。

 

 だからこそ―

 

「その時は、手加減無用でよろしく頼む」

 

「遠慮はしないわ、覚悟しなさい?」

 

 ―拳を軽くぶつけ合わせ、俺達は激突を宣言した。

 




 そういうわけで、和地もアザゼル杯に参戦です。

 ……和地をどういった流れで参加させるかは考えておりましたが、最終的に「今後極晃に頼れない世界を作った責任」という観点と、「カズヒに対する挑戦」という願望の二つを持って参戦です。

 極晃星の猛威を徹底的に抑え込める衛奏は、すなわち世界に極晃が必要になった場合呪いにしかなりません。極晃の性質上、和地たちの敵対者が衛奏に接続する恐れはありますもので。

 だからこそ、和地は世界が極晃無しでやっていけることを証明する責任がある。極晃無しで世界がやっていけるように尽力する責任がある。そう考えると思ったのです。

 そしてもう一つ。カズヒ・シチャースチエと対を成す存在として、男の意地をもって挑戦します。

 惚れた女と並び立てる。それぐらいの男の意地は彼も持っているのですよ。


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新期来訪編 第十四話 卒業式。そして新たなる―

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 卒業式の日。俺は校舎裏で緋音さんに電話をしていた。

 

 聖杯で可能な限り回復させるだけでなく、死徒化まで併用することで何とか自我を取り戻した緋音さんだが、元々異形に対する抵抗を消しきれなかったから記憶の方を消していた人だ。

 

 最終的には「そこまでしたなら責任も持ちなさい」と俺達で面倒を見ることになったが、それまでに慣れが必要だと判断されている。

 

 ……兵藤邸はメンバーの異形率が半端ないからな。記憶を消した数年間が抵抗を和らげ、死徒化がショック療法としても機能した。それでも抵抗が全くないわけではない。

 

 だからこそ、改めて異形の側や異能の側から人間と異形についての関係性を見つめ直している。それがあれば、ある程度は行けるだろうとカウンセラーからも判断されている。

 

「……それじゃぁ、もうすぐ退院できるのか?」

 

『うん。まだ異形には慣れないけど……良い人達だね』

 

 その返答に、俺はホッとしつつも安堵する。

 

 緋音さんならイッセー達とも良い付き合いができるとは思っている。ただしザイアで刻み込まれた異形=邪悪という図式が邪魔をしている形だ。

 

 それを分かっているから、緋音さんは記憶消去を選んだ。それはつまり、理性でそれが間違いだと分かっても感情が納得できないという事。知識としては理解はできているからこそ難儀な問題だ。

 

 それが純人間の組織にあんなことになり、異形に救われる形で異形になった。正直精神面においては不安すぎたが、結果的に上手くハマってくれたようで良かった良かった。数年間の記憶を消した日々がインターバルにもなったわけだ。

 

「それで、退院後はそのままか?」

 

『どう……だろ? 少しだけ……ならしてからの方が、いいかな?』

 

 まぁ確かに。

 

 刷り込み的なものはだいぶ薄くなっているが、いきなり異形との生活は心労が酷いだろう。兵藤邸は純粋な人間が殆どいないからな。割ときついか。

 

 となると、ある程度のお試し期間がいるか。その辺りも考えておかないと進められるものも進められないな。

 

 ただまぁ、思ったよりスムーズに進んでいるようで何よりだ。

 

「緋音さんが、前向きに異形になれてくれて良かったよ。あいつら基本的に、困ったところはあっても良い奴だからさ」

 

 だから、それはホッとしている。

 

 ……あれ? 返事が返ってこない?

 

『だ……だって、和ちゃんも異形に……なってるし』

 

 ………。

 

 ああ、なるほど。

 

 そういえば俺との再会から俺が堕天使化したことについて、インターバルあったな。

 

 あれが効果的ってことか。そっかそっか。なるほど。

 

「っしゃぁ!」

 

『何を……大歓声してるの!?』

 

 いや、だってさぁ?

 

「愛の力が心の縛りを解き放つとか、テンション上げずにどうしろと?」

 

 いやぁ~。モテる男はつらいな~。

 

 そっかそっかー。俺ってば、俺に惚れることで潜在意識レベルの苦手すら克服に尽力しちゃうか~。無自覚に人の心をときはなっちゃうか~。

 

 よっし! この調子で日々成長! カズヒにもインガ姉ちゃんにも春っちにもリヴァ先生にもベルナにも鶴羽にも、誰に対しても胸を張れるように頑張るか!

 

『もう、その辺に……して。ほら、そろそろ学校も……始まるでしょ?』

 

 うん。これは顔が赤くなっている緋音さんの雰囲気が分かる分かる。

 

 実際そろそろ教室に戻った方がいいしな。とりあえずこの辺にしておくか。

 

「確かに、今日は卒業式だしな。先輩方に悪いし準備をしておくよ」

 

 ……ここに来てからは半年そこら。だが濃密な時間だった。

 

 なんだろうか、感慨深く感じてしまう日になったもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 式直前で体育館に移動する前に、念の為に用を足しておいた。

 

 そして手を洗って改めて向かえば、見知った顔を見つける。

 

「……サイラオーグ・バアル?」

 

「カズヒ・シチャースチエか。リアス達の節目なので祝いにな」

 

 まぁ、親戚ではあるからいいのかしら。

 

 しかし彼までくるとなると、これは相当のメンツがきそうね。

 

 ……アジュカ・ベルゼブブ様まで来たりするのかしら。いえ、流石に彼は来ないでしょう。仕事忙しでしょうし。

 

「ちょうどいい。既に兵藤一誠にも言ったが、お前にも伝えておこう」

 

 そう前置きすると、サイラオーグ・バアルは強い意志を込めた目で私を見る。

 

「国際レーティングゲーム大会。俺も出る。お前達も出るといい」

 

 何も取り繕わない、シンプルな宣言。

 

 彼なら出るとは思っていたけれど、まさかこんなことを言うとわね。

 

「こんな機会は滅多にない。神々も出るだろうからこそ、その力をぶつけ磨くいい機会だろう。何より、お前のような強者がぶつかり合ってこその催しだろう」

 

「安心しなさい。一応出るつもりではあるわ」

 

 私はそれを素直に返すと、その上で小さく微笑んで見せる。

 

「言っておくけど、優勝を狙っているから。私に挑むのならそれぐらいする気概で来ることね」

 

「それはいい。あのヴァーリ・ルシファーすら下して見せたお前となら、滾る戦いができそうだ」

 

 なるほどね。

 

 まぁ、別に問題はないでしょう。

 

 お祭り騒ぎは楽しまないと。同じ阿保なら踊らにゃ損と。

 

 だから私も言うべきね。

 

「お互い楽しんでいきましょう。バカ騒ぎは笑って楽しんでこそよ?」

 

「……面白い。なら、勝利の大笑を上げるとするさ」

 

 そう言葉を交わし合い、私は先に体育館に向かう。

 

 そして少ししてから始まった卒業式。

 

 予想通りというべきかしら。かなりのメンツが集まっていた。

 

 グレモリー夫妻、バラキエルさんといった卒業生の親族が、泣いたり笑ったりとしている。

 

 そこのグレイフィアさんの姿もあって、少しほっとした。彼女は最近姿を現してなかったから、引き籠ってないのは良い事だもの。真剣な表情なのがちょっと気にはなったけれど。

 

 だけど、私はとても感慨深いものを感じていた。

 

 ……私も来年、卒業式に出るのだろう。

 

 かつて私は出れなかった。最後の月に誠にぃは行動を開始し、私はそれから瞼の裏の誓いが為に全てを賭けた。

 

 それでも結局、たくさんの人達を道連れにして破滅した。私の業は背負うしかなく、だから卒業式なんて行けなかった。

 

 私は来年、そこに居ていいのだろうか。そう思う。

 

 そこに居てもいいだろうと、せめて容認されるような生き方をしよう。そう願う。

 

 だから、私は卒業証書を受け取る彼らの姿を目に焼き付ける。

 

 来年はそこに私がいる。それを、成し遂げることを決意する為にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ……ぐずぅっ! ひぃ……っぐ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し離れたところで感極まりまくっている、鶴羽にはあとでティッシュを渡しに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 卒業式を終え、卒業証書を持ったリアス部長と朱乃さんは門から外に出た。

 

 それを出迎えた俺たちは、三人の決意を見届ける。

 

「……リアス姉さん」

 

「リアス姉様……」

 

「り、リアスお姉ちゃん!」

 

 そんな風に部長を呼ぶのは、木場に小猫にギャスパー。

 

 初期からリアス・グレモリー眷属であり、リアス部長から家族として接されてきた三人。

 

 少し前から二人以外のメンバーは相談されており、俺達は賛成している。

 

 ……あ、リアス部長感激している。

 

「ふふ、もう一度呼んで頂戴?」

 

「あまりからかわないように。これでだいぶ緊張してるのよ?」

 

 ちょっとはしゃいでいるリアス部長をカズヒがたしなめるが、まぁこれぐらいはいいだろう。

 

「……あらあら。なら私も呼んでくださいません?」

 

「あわわわわっ! い、今はリアスお姉ちゃんだけで限界ですぅううううう!?」

 

 あらら。朱乃さんの方までは無理だったようだ。ギャスパーはそろそろ限界っぽいな。

 

 ま、それはいいだろう。

 

「ふふふっ。三人とも、前から覚悟してきてましたものね?」

 

「そうですね。朱乃さんもとなると、また覚悟する期間が必要そうです」

 

 ヒマリやルーシアが小さく笑うと、皆に笑いが伝染する。

 

 そんな中、イッセーがこれまた緊張した様子で一歩前に出る。

 

 俺達がちょっと見守る体制に入っていると、視界に割と何人か見てきてる人が見えている。

 

 ちょっと気を利かせて気配遮断の結界でも張った方がいいだろうか。そう思った俺は、その直後に目を見開いた。

 

 ……金の髪と薄紫の髪の二人の少女。こちらではなく学園を見ている子達だけど、仲が良い外国人だと一瞬思う。

 

 問題は薄紫の方。俺はその少女を見た時、思考が真っ白になりかける。

 

 そのまま去っていくその少女は、まるでカズヒのようで―

 

「……和地? どしたの?」

 

 ―その声に、ハッとなって振り返った。

 

「なにやってんのさ? 今盛り上がってるよ?」

 

 ヒツギがこっちにいぶかし気な表情を向けている。

 

 ……ちらりと視線を戻すと、もう姿はなくなっている。

 

「悪い、ちょっと疲れてるのかな?」

 

「おいおい勘弁してくれよ。俺今、一大決心した宣言したんだぜ?」

 

 イッセーに憮然とされるが、愛の告白とかなんて再確認だろうに。

 

 そう思った俺だったが、アニルがちょっと慌て気味だった。

 

「和地先輩。イッセー先輩、自分のチームでアザゼル杯に出るそうですぜ!?」

 

 え、マジか。

 

「……そのあと本格的に愛の告白だってしてたってのに、お前完全スルーとか疲れすぎだろ」

 

「すまんイッセー。だが思い切ったなぁ」

 

 俺は何というか感心したけど、だがなんていうか……面白くなってきたな。

 

「実は俺も、アザゼル杯に参加したいって思ってるんだ」

 

『『『『『『『『『『おぉ』』』』』』』』』』

 

 ちょっとびっくりされるが、まあそうだろう。

 

「何というか、極晃を否定した責任? 極晃が無くても世界を守れるように、俺自身がどこまでできるか試すいい機会と思ってな」

 

「因みに私とも競い合いたいそうよ? ふふ、少し楽しみだわ」

 

 カズヒも乗っかってくれるけど、これは実に楽しそうだ。

 

 ああ、今年もきっと騒がしく、だけど楽しい時のある一年になりそうだ……な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、シルファちゃん」

 

「何でもないわ、お姉ちゃん」

 

「そうなの? さっきどこか別のところを見てた気がするけど」

 

「いえ、視線を感じたような気がしたから。……でもまぁ、日本は単一民族国家だから私達目立つわよね」

 

「それもそっか。でも、駒王学園は他国からの留学生も多いんだって。ちょっと楽しみかも」

 

「飛び級入学せず、年齢通りにハイスクールの三年から転入するものね。……私はお姉ちゃんがいればそれでいいけど」

 

「もぉ~。そういう事ばっかり言ってたら駄目だよ? 折角の新しい世界なんだから、楽しまないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから頑張ろう? ザンブレイブ・チルドレンだからこそ、日本に留学できたんだし」

 

「そうね。ハルトナイン・オーシャン様様だわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……アジュカ。それで彼女達はどうするのですか?』

 

「結局のところ、駒王町の結界には引っかからなかったが油断はできません。シェムハザ総督もガブリエルも、最低限の警戒は怠らないように」

 

『そうですねぇ。あの二人が無関係でも、ハルトナイン・オーシャンがサウザンドフォースと無関係であることは意味しませんし』

 

『そうですね、ガブリエル。……アキシオン同盟及びナインハルト・コーポレーション。直接的な繋がりはサウザンド・ディストラクション後ですが、だからこそ、調べる必要があります』

 

「アザゼル元総督がイッセー君の子供達と接触したことで、この世界における大きな異分子があることを知れた。そこから逆算したいくつかの要警戒対象」

 

『アキシオン同盟とハルトナイン・オーシャンは可能性としては中堅ですが、サウザンド・ディストラクション後に同盟を結んでいることから警戒対象から外れせません』

 

『他の方々も調べてくれますけど、わざわざハルトナイン・オーシャンのザンブレイブ・チルドレンが駒王町に来るのなら、そこを調べるのは私達ですよねぇ』

 

「オカルト研究部の者達にも情報はある程度統制しなければね。……杞憂で済めばいいが、万が一があるから……な」

 




 いろんな連中がいろいろと動き出す伏線も張りつつ、卒業式は無事終了。

 ……さぁ、ここから激戦と爆笑の渦が巻き起こるぜ……っ!!


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新期来訪編 第十五話 渦の胎動

 はいどうもー! 今日は新職場の疲れが出たのか、昼に三時間ぐらい寝ていたグレン×グレンでっす!

 ただ書き溜めもそこそこあるので、今の連投タイミングは維持できるかも?


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 駒王学園も学年末の修了式が終わり、三月も下旬となった。

 

 俺達は明日から春休み。その春休みが始まる前から、俺達は旅支度をしている。

 

 ……そう、俺達新旧オカ研メンバーは、リアスさんと朱乃さんの卒業旅行で日本横断ツアーに出る。

 

 北の北海道から始まり、南の沖縄まで一週間の観光地巡りツアー。ふっふっふ。テンションが割と上がるというものだ。

 

 そして俺は既に旅支度を終えている。男はこういう時身軽な傾向があるからな。緊急の出立に備えて最低限の備えはしているし。

 

 去年の暮れから今年の初めまで、俺達は激闘に次ぐ激闘だった。リゼヴィムとミザリのルシファー血族には苦労させられたものだ。

 

 だからこそ、俺達はここで一気に慰安旅行も兼ねて楽しむんだ。禍の団も大打撃を受けて落ち着き始めた今の異形世界なら、それぐらいはできるわけでな。

 

 そんなわけで、俺はやるべきことをしっかりやっとかないとな。

 

「……で、メイドの皆さんはお土産何がいいですかー? 逐一郵送で送るし資金面は数億円になっても問題なく俺のおごりですけど、手続きの手間がかかるので一人基本一つまでとしておりますのでー」

 

 そう、メイド達に対するお土産の準備だ。

 

 結構な人数のメイドさんがいるわけだしな。折角日本の観光名所を巡るんだし、お土産は用意してあげるべきだろう。……あと金が溜まり過ぎているので、少しぐらい使って経済を回したい。

 

 事前にどこ行くかは張り出しており、そこから欲しいものをそれぞれ伝えてもらう方針だ。流石に処理容量の限界もあるので気品は一人一つ。ただし春っち達にはもう一つぐらい用意する感じで決定している。俺の女にぐらいサービスするからね?

 

「あ、じゃぁ私ここの地酒!」

 

「はーい! ご当地カップラーメン!」

 

「サーターアンダギー!」

 

「八つ橋!」

 

「イッセー様達が持って帰ってくれた京野菜の漬物がまた食べたーい!」

 

「棒ラーメンを……ご当地棒ラーメンを……っ」

 

 ……消え物が多いな。まぁ、個人で使えるスペースも少ないから当然か。

 

「で、インガ姉ちゃん達は?」

 

 大体まとまったし、そろそろインガ姉ちゃん達の方も聞かないとな。

 

「そこはとりあえずメモにまとめてるから、これを読んでおいて?」

 

「店の住所まで書いてるから、まぁ迷わねえだろ」

 

「時間に余裕がないなら自分達優先よ。ほら、私達って一応罪人でもあるわけだからさ?」

 

 流れるように進めてくれているものだ。俺はいい女を持った。

 

 ……ゆえに、真っ先に別行動でメモに書かれている土産物を購入することは決定だ。何が、何でも、購入する!!

 

「……三人とも、和地様がやる気になっているだけですが?」

 

「あ、メリード」

 

 と、呆れ顔のメリードがこちらに一枚紙を渡してきた。

 

「ちなみに私めはこちらを要望します。……最近使っている下ごしらえ用の包丁が小さくなってきているので、有名な職人の逸品を買ってきていただけると」

 

「おっけーおっけー。……ここのなら九重に聞けばある程度の融通は利きそうだな。任せとけ」

 

 メリードにも世話になっているしな。可能な限り最高峰の逸品を購入しよう。九重の言伝があればアコギな真似はされまい。

 

 さて、メイドさん達の要望であと聞いてないのは―

 

「……すいません和地様。まとめるのを悩んで遅くなりました」

 

 ―あ、三美さんだ。

 

「珍しいですね。ここに来てから時間の遅れは一切ない貴女が遅れるとは。……慣れが油断に代わってますか?」

 

「どれにするか少し悩みすぎまして……では、こちらをお願いします」

 

 と、メリードに素早く釈明をしてから三美さんはメモを渡す。

 

 ……これ、画材?

 

「京都のあそこはいい画材が揃っているんです。昔修学旅行で買ったことがあるのを思い出しまして」

 

「へぇ~。三美さんって絵を描くんですね?」

 

 春っちが興味深そうに覗き込むと、三美さんは苦笑する。

 

「一流の芸術家には劣りますけどね。三流どまりと悟ったので、そちらの道には進まなかったんですけど……たまにやると凝り性になってしまって」

 

 苦笑いというか寂しそうな笑みだけど、嘘は言ってないだろう。

 

 懲罰メイドは個人の空間や収納スペースはそう大きくない。その上で欲しいというのなら、それぐらいに思い入れはあるんだろう。

 

 なら、しっかりと買っておくか。

 

「分かりました。きちんと覚えておくので、安心して待っていてください」

 

 ……さて、他のメンバーはどんな感じかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事前の打ち合わせも兼ねて、今日は僕とギャスパー君も兵藤邸に来ている。

 

 この一週間の卒業旅行に合わせ、兵藤邸の移築はほぼ決定。禍の団が大打撃を受けたとはいえ、更なる脅威が生まれないとも限らない。イッセー君のご両親が誘拐されオーフィスが深手を負った事態を避ける為、土地の霊脈すら考慮した特別製の新生兵藤邸が作られる予定になっている。

 

 その際は簡易的な礼拝施設まで作るというプランもある。他にもある程度の神話専門知識がすぐ集められるように、専用の書庫を作ることもある。

 

 そして九成君側専用の別館を作るプランもあるそうだ。九成君は「その場合は建築こっち持ちで」と言ったそうだ。どうやら、集まりすぎている金銭を使って経済を回すべきだと思っているようだ。

 

 さて、それはともかく……あ、いたいた。

 

「やぁ。そっちも準備は万端かな?」

 

 ヒマリやヒツギ達がいたので声をかけると、みんなが振り返った。

 

「祐斗ですの? 早めに来るとは流石優等生ですのー♪」

 

「まあね。僕も結構楽しみにしていたからさ」

 

 ヒマリに挨拶をしながら、みんなの様子を確認する。

 

 どうやら準備はまとまっているようだね。誰もが落ち着いている。

 

「……準備万端です。食べつくします」

 

「ほどほどにしなよ? 小猫が食べつくしたら他のお客さんの迷惑じゃんか」

 

 小猫ちゃんを軽く茶化すヒツギだけど、彼女の割と楽しみにしているようだ。

 

「いやー。私って乙女の影響出てるけど、その辺り半端じゃん? 知ってる気がして全然知らない、不思議な感覚だから楽しみでさ?」

 

 そうウキウキしているヒツギに、ロスヴァイセさんも頷いている。

 

 ……ただし、雰囲気がガチだ。

 

「そうですね。日本には数多くの観光名所やパワースポットがあると聞きます。京都ではなかったですが……確かお金を洗うと倍になるという場所もあるとか」

 

 ロスヴァイセさんはちょっと真剣みが凄い。

 

 周囲がちょっと引く中、ルーシアさんがため息をついた。

 

「落ち着いてください、ロスヴァイセ先生。普通に高給取りなんですから、そんなに真剣にならなくても」

 

「そんなことはありません! お金というのはいつなくなるか分からない物ですから、常に大切にしてなければいけませんよ?」

 

 ルーシアさんに力説するロスヴァイセさんだけど、かなり引かれている。

 

「いや、私一応信徒なので……清貧を尊びたいです」

 

 あ、あはは……。

 

「まぁまぁ。ロスヴァイセさんもイッセー君の眷属として、資金面でもしっかりと面倒を見る必要があるからね。少しは厳しくもなるさ」

 

 そう、ロスヴァイセさんはイッセー君の眷属となった。

 

 リアス姉さんの判断だけど、確かにイッセー君との相性は良さそうだ。

 

 厳密なリアス・グレモリー眷属は古参のメンバーだけに戻ったけど、それでも僕達が広義のグレモリー眷属ではい続けている。アザゼル杯では戦うこともあるだろうけど、それはそれとして大切な仲間だしね。

 

「……でも、ヴァレリーも連れて行かせてくれてよかったなぁ。いっぱいいろんなところを見せて上げれるから」

 

 ギャスパー君がそんなほっこりとした様子で言うと、みんなも少し優しい表情になる。

 

 トスカとヴァレリーも連れて行けるのが良い事だ。二人とも外界との接触が少なかったし、これを機に色々な場所を見せてあげたいね。

 

 ただまぁ、オーフィスとリリスは流石に連れていけないのが難点だけどね。

 

 まぁ、事情を知らないとはいえ九重さんが見てくれるというし問題はないだろう。今頃はイッセー君やリアス姉さんにお土産をねだっていることだろう。

 

 ふふ。ここ最近は本当に忙しかったしね。これが終わればアザゼル杯に備える必要もあるし、また別の意味で忙しい。

 

 この旅行、ゆったりと楽しんでいきたいものだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新旧オカルト研究部員達が呑気なことを考えている時、日本近海の孤島で暗躍する者達がいた。

 

 孤島に建設された秘密基地。その集会場に大量の人々が集まっている。

 

 黒ずくめの戦闘員。そう形容するほかない集団は、壇上の首領に対し両手を突き上げ大きな声を張り上げる。

 

『『『『『『『『『『ヴォルテーックスゥッ!!』』』』』』』』』』

 

 集会場を響かせるその合唱が収まるのを待ってから、首領の男は声を張り上げる。

 

「……諸君! つい先日、我々の名前を勝手にパクって幅を利かせた禍の団(カオス・ブリゲート)は大打撃を受けた! 今こそ我ら、渦の団(ヴォルテックス・バンチ)が世界を征服する時である!!」

 

 そう、彼らの名は渦の団(ヴォルテックス・バンチ)。禍の団とややこしいが、彼らより古くからある秘密結社である。具体的には十倍ぐらい昔からある秘密結社である。

 

 だがオーフィスという旗頭がないこの組織は、異形社会に対して名を知られた存在もいなかった。その為活動は細々とこっそりであり、そこに禍の団が出てきたことでお互いの行動が逆になって伝わるなど、ある意味で迷惑をこうむってきたと言ってもいい。

 

 だが、その禍の団は大きく崩壊した。

 

 旧魔王三人が打倒されたことで、旧魔王派は大きく弱体化。英雄派も曹操達筆頭が打倒され、何時の間にか現政権側に大半が吸収。クリフォトのリゼヴィムは滅ぼされ、極晃奏者ミザリ・ルシファーも戦死した。

 

 それに伴い禍の団は大打撃中の大打撃であり、とてもじゃないがすぐに大規模作戦を動かせる状態ではない。

 

 だからこそ、ここで渦の団が動くべきだという流れになったのだ。

 

「ふっふっふ。我が改造技術とサウザンドディストラクションで流れた技術がかみ合えば、もはや世界は我らの手中に収められるも同然!」

 

 得意げな態度を隠しもしない、渦の団首領カイザー・ヴォルテックス。

 

 彼は此処で宣言する。

 

「今ここに、我ら渦の団は日本征服作戦を敢行する! 数多くのテロで浮足立っている今こそ好機! そして大欲情教団とかいう、訳の分からない勘違いで発展した連中の技術も我らが奪い取るのだ!」

 

 そしてカイザー・ヴォルテックスは首位を見渡し、Vの字ポーズをする。

 

「ヴォルテーックスゥッ!!」

 

『『『『『『『『『『ヴォルテーックスゥッ!!』』』』』』』』』』』

 

 この渦の団独特の敬礼と共に、悪の組織が人知れず動き出していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謎の着ぐるみ集団?」

 

 俺が首を傾げると、教えてくれたレイヴェルは頷いた。

 

「ここ最近、日本の観光地で着ぐるみを着た集団が悪戯をしているという報告が相次いでおります。私達……特にイッセー様はそういうトラブルに巻き込まれやすいので、お気を付けくださいませ」

 

「……本当ね。なんでこんな格好でそんなことを……?」

 

 リアスが気になってタブレットで画像を検索すると、確かに着ぐるみやコスプレな連中が嫌がらせをしている。

 

 なんでこんな妙な格好で、こんなちんけな悪行してるんだ?

 

 間違いなくコスプレや着ぐるみの方が金がかかってそうなんだけ……ど?

 

 リアスと俺は顔を見合わせて、首を傾げる。

 

「……それなりに気を付けた方がいいのではないでしょうか?」

 

 と、そこでアニルと話していたシャルロットが話に入ってくる。

 

 いや、確かに因縁つけてきそうだけど。特に俺、こういう変人とか変態とやけに縁があるけど。

 

 でもちんけ過ぎない?

 

 俺はそう思うんだけど、シャルロットはちょっと真剣だった。

 

「大欲情教団の例もあります。バカみたいな人達が馬鹿みたいに強かった……なんて事態、私達は何度も経験してますからね?」

 

 なるほど。

 

 言われてみるとその通りだ。俺がよくぶつかる特急の変態は、シャレにならない奴が多かったからなぁ。

 

 俺もド変態で前人未踏だから、ちょっと反論できない。おっぱいで前人未踏の進化とか、一般人からすると異常扱いされるみたいだし。

 

 同列扱いは嫌だけど、気をつけるぐらいはした方がいいか。

 

「……リアス先輩! 日本の燻製文化に、野菜があるって本当っすか?」

 

「そうね。でもいぶりがっこは秋田県の名産。ここは普通に鰹節から入ることにしましょうか」

 

 お、アニルも割とはしゃいでるな?

 

 こりゃ、俺も負けてられないぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、リーネス。各地の卵はちゃんと調べてある?」

 

「もちろんよぉ。オトメも、ここ数日は卵我慢したぁ?」

 

「うん。コレステロールはちょっと解禁だね。いっぱい食べよう!」

 

 サウナで一息つきながら、私達は含み笑いを隠し切れない。

 

 鶏卵と一口に言っても、各地でそれなりにブランドがあったりするものだ。

 

 ここで食べ比べよ。違いが判る女でありたい私達は、ここでその第一歩を踏み出すのだから!

 

「邪魔する輩は筋が通る範囲内で殲滅するのみ。……食べるわよ、皆!」

 

「「ええ!!」」

 

 さぁ、楽しみだわ日本横断ツアー!!

 




 ふっふっふ。これからも忙しいぜぇえええええっ!!


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新期来訪編 第十六話 原付バイクは二人乗り禁止だから銀〇の真似はしちゃだめだぞ?

 さて、今日から一週間フルで本格的になるわけで、今週を参考に今後の連投速度も考えとかないとッて感じです。

 それはそれとして、これから渦の団編本格スタート!!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 北海道、新千歳空港。

 

 俺達は今、旅行のスタートを形から入る為に飛行機に乗って到着した! あとは魔法陣のジャンプになるけどな!

 

 とはいえ、空港でメンバーは解散となる。それぞれが行きたい場所にい趣、夕方に予約してあるホテルに集合。まぁ北海道は二泊の予定だけど。

 

 さて、それじゃあ俺はカズヒを誘って―

 

「行くわよ皆! 既に電話予約もしているわ!」

 

「「「「ご当地卵かけごはーん♪」」」」

 

 ―既に走り去る、カズヒを先頭とする卵かけご飯フリークの姿を俺は見た。

 

 ………俺は公衆の面前であることを忘れて崩れ落ちた。

 

「よっしゃぁ! ほっけの燻製を買いに行きましょう! ついでに工場とか見学できますかね!?」

 

「おっけ♪ 私も今日の夜のおつまみゲットの為に引率するわね? 免許は持ってるから車でドライブよ~」

 

 ………そして落ち込んでいるうちにリヴァ先生がアニルについていった。

 

 いかん。俺はいきなり出遅れた……っ!

 

「大丈夫か、九成?」

 

 と、そこにゼノヴィアが寄ってくれた。

 

「大丈夫、九成君? 主のご加護いる?」

 

「こ、こんなことでせびったら罰が当たりそうだからいい」

 

 イリナも気遣ってくれるが、俺は何とか起き上がると気を取り直す。

 

 仕方ない。ちょっと疾走車輪の練習も兼ねてツーリングでもするか。……ついでに寿司屋によってやけ食いしてやる。

 

 そう思っていると、ゼノヴィアがなんかバイクのキーを見せてきた。

 

「タイミングを逸したのなら、私達とツーリングをしないか? 免許を取ったので広い北海道を走る予定なんだ」

 

 あ~。そういえば免許取ったとか言ってたな。

 

「ちなみに私はゼノヴィアの後ろに乗せてもらう予定よ! 北海道の風を切って走るの!」

 

 ……ん?

 

「ゼノヴィア、お前教習所で座学受けたか?」

 

 何を言っているんだろうか、こいつらは。

 

「日本でバイクの二人乗りは、免許所得から一年以上経ってからだぞ? お前取ったの最近じゃなかったっけか?」

 

「「え?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いなイッセー。そういう事でイリナのおっぱいを背中で堪能させてもらう!」

 

「許してイッセー君、私、今日はバイクに乗せてもらう気持ちを抑えきれないの!」

 

 んなこと言いながら、九成の後ろに乗ったイリナがバイクで去っていく。

 

「すまないイッセー。座学でうっかり聞き逃した私を恨んでくれ……っ」

 

 そしてゼノヴィアもそんなことを行ってから、走り去っていく。

 

 え、どういう事?

 

 九成に限って不倫とかないし、不倫なんてしたらカズヒも絶対けじめをつけさせるだろうから心配してないけど。

 

 というより、九成の奴背中にクッションはりつけてたし。めっちゃくちゃ気づかいしてくれているから、俺も冷静にその辺考えられるし。

 

 でも、確かイリナはゼノヴィアの後ろに乗るって言ってたはずだ。イリナだって女の子だし、割とそういった意識は強いから好き好んで俺以外の男に抱き着いてバイクはしないだろう。九成だってその辺りの気は使えるやつだったはずだ。

 

 何が何だか分かんねぇなぁ。

 

「……何があったんでしょう?」

 

「いや、俺に言われても……?」

 

 二人して首を傾げていると、声が掛けられてきた。

 

「……バイクの二人乗りは、所得一年以上じゃないと日本じゃ無理だからよ。教習所で親戚がバイトをしていたから教わっているわ」

 

 振り返ると、そこには水色の髪をポニーテールにした女の人。

 

 あれ? この人来てたの?

 

「望月さん? なんでこんなところに?」

 

 この人、今は冥界の施設で経過観察のはずなんだけど……?

 

 そう思っていると、後ろから鰐川さんも顔を覗かせる。

 

「兵藤さん見つけた! ……あ、これジオティクスさんって人から」

 

 そう言って手紙を渡してくれたけど、なんだろう。

 

 どれどれ?

 

―リアスと婿殿へ。ホテルの予約はしておいたので、彼女達も連れてやってくれ。あと、来年度から駒王学園に転入させるので、面倒も見るように。ジオティクス―

 

 俺が読んでいると、二人は不思議そうに首を傾げていた。

 

「あの、もしかして話が通ってないんですか?」

 

「あれ? ……こういうのって普通話すよね?」

 

「……すいません。異形の文化は人間と異なっており、あとグレモリー家はどうもサプライズが好きなようでして」

 

 ロスヴァイセさんがそう説明するけど、それはともかくまあいいか。

 

「……その、どうしますロスヴァイセさん?」

 

「……仕方ないですね。他の人はもう出発してますから、私達と一緒に来てください」

 

 ははは、これは……うん、にぎやかになるな。

 

「ま、そういうわけでよろしくな! ……あ、もしかして年上だったりする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耐えろ私、耐えるのよ私。

 

 私はこれまでにない心を追い詰める圧力に、私は気合と根性で耐えている。

 

 耐えるのよ。私はそれが取り柄でしょう……っ

 

「まだだ、まだだ。まだ耐えろ……お代わりは、厳禁……っ!」

 

 卵の食べ過ぎはコレステロールがアレよ。他の場所でも食べるのだから、帰った後当面食べないにしても一日二杯で耐えるの、カズヒ!

 

 私は涙を呑んで己の欲望を抑え込みながら、付け合わせの方を頼んで強引に胃を膨らませて乗り越える。

 

「ごちそう様……っ」

 

 リーネスも

 

「お代わり二杯で、ごめんなさい……っ」

 

 オトメねぇも

 

「とても美味しくて……名残惜しいですのっ!」

 

 ヒマリも

 

「今度友達が北海道(こっち)来るなら……お勧めしとくからっ」

 

 ヒツギも

 

 みんな耐えているのだから、耐えるのよ……っ

 

「きょ、恐縮、です」

 

 気圧されている店員さんからお釣りを受け取り、私達は店を出る。

 

 名残惜しい。名残惜しいけど、卵かけご飯は他にもある。

 

 耐えるのよ。コレステロールの過剰摂取は健康に悪いのだから。

 

 上を見上げて零れそうになる涙を堪えながら私はみんなに宣言する。

 

「温泉行くわよ! 気分をリフレッシュして、この衝動を乗り越えるの!!」

 

「「「「うん!」」」」

 

 みんなの決意を受け、私も一歩を踏み出し―

 

「……え? 鮭が怪人でサケハラスメント?」

 

「なんだそりゃ?」

 

「いや、今夜うちに泊まる遠くの親戚が、バーベキューしてたら無理やり鮭を食わされそうになってるとか」

 

 ―なんか変な事件が起きているわね。

 

 イッセーとかが巻き込まれてなければいいけど。イッセーって、そういう変なトラブルに巻き込まれやすいところあるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャーケッケッケ! こんがり焼けるがいい……食技、切り身焼き三枚おろし!!」

 

 振るわれる一対の斬撃を、俺は素早く氷の魔剣でしのぐ。

 

 くっ。氷の魔剣をもってしても熱が消しきれない。これむしろただの人間なら焦げるぞ。

 

 というか何なんだこの鮭の化け物。着ぐるみかと思ったら異形の化け物ってなんだそりゃ。

 

 バイクで走ってるとキャンプ場が騒がしくて、念の為様子を見たらこの騒ぎ。

 

 鮭の怪人と昭和の戦闘員みたいな連中が、バーベキューで鮭を強引に押し付ける謎犯罪。

 

 とりあえず警察でどうにかできるわけじゃない敵でもあるので、自衛隊に連絡しながら俺達が対応しているが―

 

『『『『『『『『『『ヴォルテックス……ビームッ!』』』』』』』』』』

 

 なんか両手を斜め上に広げてビーム放つんだけど、この戦闘員!

 

「させるかぁ! 俺の防御を舐めるなぁ!」

 

 咄嗟に障壁を張って被害を抑えるが、威力が中々あるな。

 

 ちょっとした対戦車ロケットクラスの破壊力がある。こんなものを当たり前にぶっ放すとか、やってることのわりに戦闘能力が高すぎる!

 

「連絡したよぉっ! あと十五分で来るってさぁ!」

 

「でかした鰐川! そこまでしのぐぞ!!」

 

 鰐川がこっちに声を張り上げてくれたので、俺も対応する。

 

 これはガチの軍隊が必須のレベルだ。コイツら、嫌がらせ集団のくせして武力がありすぎる。

 

 だが、こっちだって甘くはない!

 

「させると思うか!」

 

「アーメン!」

 

「まとめて吹き飛ばします!」

 

 ゼノヴィアとイリナが敵を切り伏せ、ロスヴァイセさんが制圧射撃ならぬ制圧砲撃。

 

 そして俺がカバーする間に、イッセーが素早く殴り掛かる。

 

「いい加減にしやがれ、鮭野郎!」

 

 それを鮭は躱しながら、瞬時の何かを投擲。

 

 それがイッセーに当たった瞬間、香ばしい香りと音が響き渡る。

 

 だが次の瞬間、それを炎で焼き払ってイッセーは再び殴り掛かる。

 

「油で揚げるんじゃねえ! なんだよその技は!!」

 

「シャケーッ!? 我が食技をこうも振り払うとは!」

 

 今なんて言った?

 

 いや、そういえばさっきの斬撃もそんな技を言っていたな。つまり鮭の三枚おろしを焼く感じの技か。

 

 今のはつまり鮭を揚げる……サーモンフライか!

 

 冷静に考えると、そこはかとなくごま油の香りが……ごま油でいいのか?

 

「この必殺奥義、サケフライごま油が効かぬとは。……ええい、こうなれば!」

 

 その瞬間、鮭の周囲で凄まじい白もやみたいなものが発生する。

 

 俺たちまで呑み込んで……冷たいうえに煙い!?

 

「ゲホゴホッ!? な、なんだこりゃ!?」

 

「なんで煙が冷たいんだ!? あと鼻に匂いが!?」

 

 イッセーとゼノヴィアが困惑するが、その時俺は閃いた。

 

「スモークサーモンに由来する技だ! スモークサーモンは冷やした煙で燻すって聞いたことがある!」

 

 俺は聞きかじった知識で、この技がどういうものか悟ってしまった。

 

 正直凹む。変態になった気分だ。

 

「なんですかその技は!?」

 

「すべてが全部鮭料理に繋がっているわね? ヴァーリと同様の存在なのかしら!?」

 

 ロスヴァイセさんがツッコミ、イリナが感心する。

 

 いやホンと、なんだこれは!

 

「あの、なんかさっきの人達が凄い速度で逃げてるんだけど!?」

 

 マジですか望月!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことをイッセー君達が経験したらしい。

 

 少し疲れた表情のみんなを出迎えた僕達は、においを落とす為に先にお風呂を浴びてきた彼らのグチを聞いて苦笑していた。

 

「……まさか例の着ぐるみ集団。ですがやっていることがただの悪戯なのに、いざ戦闘になればそこまでとは、質の悪い集団ですわね」

 

「大変だったね、皆。田知も……大丈夫? 今日の晩御飯、鮭はやめとく?」

 

 レイヴェルさんが凄く微妙な表情をし、オトメさんは少し凹み気味の九成君を撫でて慰めている。

 

 そして九成君は本当に虚ろな表情だった。

 

「……今日は、本当に……疲れた……っ」

 

 いや、本当にお疲れ様!

 




 とりあえず、渦の団は超強化されています。

 そして本格的に亜香里と有加利のコンビも参加し始めています。サプライズはグレモリーの定番パターン!!


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新期来訪編 第十七話 初日の夜に

 はいどうもー! とりあえず今のところは何とかなっているグレン×グレンでっす!

 この調子なら、連投のペースを落とさずに行けるかもしれんなどと考えてしまうほどです。書き溜めは200kb前後といったところですしね。

 さて、本日は箸休め会となっております


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ~疲れた。なんていうか疲れた。

 

 なんだったんだ、あの鮭怪人。実力はそこそこあるけど、やってることが悪行としてもしょうもないというかなんというか。

 

 だけど本当に強かった。そう思うと、なんかまた疲れてきた。

 

 とりあえず鮭の匂いが消えきれてない気がするから、とりあえずもう一回温泉に入る。

 

 流石に混浴風呂はないけど、だからこそ普通に温泉を堪能できる。

 

 ……何のトラブルもない温泉に、なんか心が洗われる。

 

 うん、リアス達と一緒に入るお風呂もいいんだけど、たまにはこういう時間があるといいよね!

 

 そんな風にリフレッシュしてから、俺は温泉を出る。

 

 こういうところは、待合室的なところでくつろげるのがいいよなぁ。

 

 アイスとか飲み物も自販機で売ってるし、食べ物も売ってる。

 

 ちょっと胃がこなれたし、少しだけ食べるってのもいいかも。

 

 そんなこと思いながら出ると、浴衣姿で涼んでいる鰐川さんがいた。

 

「よ、鰐川さん」

 

「あ、兵藤さん」

 

 俺は何となく、飲み物を買ってから隣に座る。

 

 鰐川さんも牛乳を買っていて、少し天井を見上げてから苦笑した。

 

「なんかごめんね? 全然話が行ってなかったって思ってなくって」

 

「気にすんなって。……冷静に考えると、リアスの家ってそういうところが多いっていうか」

 

 俺は本気でその辺りに納得しているし、どっちにしたって鰐川さん達に文句を言う理由もないしな。

 

 いや、本当にリアス含めて、リアスの実家ってそういうところあるよなぁ。サーゼクス様もアザゼル先生に「女子全員イッセーの家で住んでね?」なんてしてきたし。

 

 うちの改装も、一回目は俺が寝てる間にだったしなぁ。アーシアのホームステイも俺なに一つ聞いてなかったし。シリアスなのも含めると、リアスの結婚を強引に進めたりとか。

 

 ……うん、俺達今後もサプライズされそう。カズヒがキレて説教させたりしなけりゃいいんだけど。あいつ常に切腹して詫びになるなら問題ナシって思考だしな。なんかやらかしそう。

 

 ちょっと真剣に家族会議した方がいいかもしれない。特にリアスには前もって相談しておかないと。カズヒだし、カズヒだし。

 

「どしたの?」

 

「いや、ちょっと今後の正座説教が、ね」

 

 気を取り直そう。

 

 とりあえず、ここにいるっていうなら鰐川さんも温泉に入ってたんだろう。

 

「一人で入ってたのか? 望月さんは?」

 

「あ~。有加利ちゃんはまた別。私はこの時間帯に入っておきたかったから」

 

 ん、そうなのか。

 

 二人はとっても仲が良さそうな気がしたけど、それでもってことなのか。

 

 なんだろう。拘りってやつか?

 

 俺がそう思っていると、鰐川さんは凄い真剣な表情になっていた。

 

 だけどおかしい。これ何かがおかしい。

 

 例えるなら、俺が乳語翻訳(パイリンガル)を初めて使った時のような。もしくはファーブニルがパンツを揚げて邪龍が改心した時のような。もしくは、ヴァーリが作った拉麺で結界を張るたくさんの父兄さん達の姿を見た時のような。

 

 そう、当人は真剣だけど周りが真剣になれないような感じがするぞ。

 

「……あんまり遅いとよく眠れないし。これぐらいが私のゴールデンタイムだから」

 

 ………よし、聞こう。

 

「えっと、つまりよく眠る為に?」

 

「もちろん! 安眠大好き、趣味はお昼寝、今日は忙しかったから、夜の睡眠で取り戻します!」

 

 真っ直ぐな目だった。

 

 心の底から本気の目だった。そういえば、この子もドラゴン系の神器持ってたっけ。

 

 そっかぁ。そういう事かぁ。

 

「ちょっと聞くけど、ラーメンが大好きすぎて変な悟りを抱くのはどう思う?」

 

「大好きなものが関わると、人間ってどうしても変なことになるよね。経験あるよ」

 

 そっか。ヴァーリ(そっち)は大丈夫か。

 

 じゃあ本題だ。

 

「……ちなみに、男がおっぱいを求めるのはどう思う?」

 

「男の子ってそういうものでしょ? 歩人くんも、つい視線が向いて慌てて顔を赤くしたりとかあるもん」

 

 そっか。

 

「……鰐川さん、ドラゴンの才能あるよ! 君は絶対強くなれる!」

 

 たぶんだけど、俺やヴァーリと同じ領域に踏み込める!

 

 持ってるのが神滅具だったら、D×Dの領域に行けたかもね!

 

「え、そうなの? 強くなれちゃう?」

 

「なれるなれる。おっぱい()だって強くなれたし、ラーメン(ヴァーリ)だって強くなれた。ならきっと、お昼寝(鰐川さん)だって強くなれるさ!」

 

 うん、確信すら覚えてきたぜ!

 

「そんでもって、強い奴ってのはたくさんの人も守れるもんさ。大丈夫、鰐川さんは歩人って人に胸を張れるって絶対!」

 

 ま、魔王の血を引いた準神滅具保有者だしな。

 

 そんじゃそこらのやつじゃ相手にならないぐらいに強くなれるだろ。モチベーションもあるし大丈夫だな。

 

 ただ、いきなり言われたから鰐川さんはちょっと困惑している。

 

「そ、そっかな? ……大丈夫、かな」

 

 どこか不安っぽいけど、俺ははっきり言ってやれる。

 

「大丈夫だよ。俺も一緒に手伝うからさ」

 

 その辺ははっきり言っとかないとな。

 

「俺は馬鹿だからあんま細かいこと言えないけど、鰐川さんみたいな心意気を持った才能ある人なら、絶対に強くなれる。そういうやつを、俺は何人も見てきたからな!」

 

 太鼓判を押してやると、鰐川さんはちょっとだけはにかんだ。

 

「……ありがと。ちょっと、安心したかな?」

 

 頬を搔きながら、鰐川さんはちょっと照れ臭そうだった。

 

「あ、でもこれから面倒をみられるなら……兵藤さんっていうのもあれだよね? 一誠さんでいいかな?」

 

「それもそうか。ちなみに、親しい奴はイッセーって感じで呼ぶんだ。そんな感じで頼むぜ」

 

 あんまりかしこまったりされるのも苦手だし、そんぐらいでいい感じだな。

 

「オッケー。なら、私のことも亜香里でいいよ、イッセー」

 

 そう言うと、鰐川……いや、亜香里は牛乳のパックを手に持って少し掲げる。

 

 俺はちょっと戸惑ったけど、すぐに分かったんで自分の牛乳パックを手に盛った。

 

「「これからよろしくっ」」

 

 これからの、歩人って人に胸を張れるようになる亜香里の人生に乾杯!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふぅ。たまには一人の時間もいいもんだ。

 

 俺はホテルの最上階にある展望台でくつろいでいた。

 

 この時間帯なら人は基本いないし、気分転換には最高だろう。

 

 なんていうかわけの分からない連中がゴロゴロいたからな。なんだあの怪人軍団。

 

 まったく。禍の団が大打撃を受けて、少しは静かに過ごせると思ったらあれだ。謎の魔獣化騒動に夫従妻隷会の人体改造。更にリアス先輩達の卒業旅行に行けば初手であれだ。

 

 軽く凹む。というより、イベント事に合わせて妙なことが起こりやすいオカ研のパターンから踏まえると、卒業旅行中にことごとく変な連中と出会いそうだ。凹むぞ本当に。

 

 常在戦場。死を想え(メメント・モリ)。何が起こるか分からないから、何が起こっても瞼の裏の笑顔の誓いは裏切らないよう生きている。生きているが折角の旅行でトラブル起きれば凹むぞ普通に。

 

 しかも今回、サプライズで追加要素があるってのに。勘弁してくれ本当に……っ。

 

 ため息をついたうえで、俺は下で買ってきたジュースをぐびぐび飲む。

 

 成人になったら酒浸りになりそうだ。星辰奏者(エスペラント)は肝機能も向上するから、俺って酒量がかなり多い奴になるかもしれん。休肝日ぐらいは作っておこう。

 

 そう思った時、足音が聞こえた。

 

 たぶん一般客の一人だろう。星辰奏者の五感を基準にしているわけがないし、適度なスルーが肝要だよなと。

 

「……あ、九成さん?」

 

 と思ったら、聞き覚えのある声がかけられた。

 

「おや、望月さん」

 

 振り返りながら答えると、望月さんはバツが悪そうにしながら、頬を掻きつつ近くの椅子に座る。

 

「今日はごめんなさい。連絡が行ってないとは思ってなくて」

 

「お構いなくお構いなく。グレモリーの宗家ではよくあることだし」

 

 サプライズ好きだから悪気ないだろうしな。少なくとも望月さん達は悪くない。

 

 なので手を横に振って応えると、望月さんは苦笑しながら外を見る。

 

 流石に夜も遅いので、辺りは暗い。周囲の風景を見るのは、星辰奏者や異形でもなければ難しいだろう。

 

 だがその分満天の星空だ。これはこれでいい景色だと思う。

 

「そういえば、望月さんはなんでここ……あ、周囲が騒がしかったか」

 

「ううん。そういうわけじゃなくて」

 

 そう返す望月さんは、やがて笑顔を隠し切れずにうつむいた。

 

「……本当に、こんな楽しくていいのかなって」

 

 ああ、なるほど。

 

 俺があえて沈黙で促すと、望月さんは少し口元を歪めている。

 

「周囲の人達も私を責めたりしないし、ある意味で被害者だと言ってくれる。でも、私はやっぱりこの手で多くの被害を生んでしまったから」

 

 なるほど、な。

 

 やっぱり気にしてしまうか。気にしないでいるのも、それはそれで大変か。

 

 俺はどうしたものかを考えて、そして彼女ならこうすると確信できた。

 

 きっと、彼女なら言えというだろう。自分から言うだろう。そういう人だと知っているから、俺は極晃を彼女と描けた。

 

 だから、言っていいだろう。

 

「……二十年ほど前、一人の少女が過ちを犯した」

 

 俺は、大きくはないがよく通るような声で、それを語る。

 

「その十年以上前から、小学校に上がる前から外道に犯され続けてきた少女は、最初に侵される直前で軽くあしらわれた想いを醸造させ、そしてふとした時にそれを抑えきれなくなり悪意のままに振舞った」

 

 初手からかなりアレな話だ。大雑把にまとめているだけの話でもかなりきつい。

 

 実際、望月さんは顔色が真っ青になってる。まぁ、女性の立場なら尚更そう思うだろうしな。

 

 だからこそ、俺はあえて続ける。

 

「歪みに歪んだその想いを叶える為、彼女は自分を犯し続ける連中の弱みを握り、家族同然に育った女性を犯させた。そしてその女性の心が壊れ、下種の子供が孕んだタイミングで、その事実を想いを寄せる男に明かし、心を砕いて自分に縛り付けようとした」

 

 本当に、雑にまとめればえげつない。

 

 間違いなく少女は悪鬼と成り果てた。間違いなく悲惨で同情すら買える事情があろうと、そこから動いた行動が悪辣すぎる。

 

「……だがその結果、男は最悪の性質を自覚。結果として、世界は危うくたった一人の男によって涙嘆地獄(バッドエンド)を押し付けられそうになったほどだ。事情を知っている異形と人間界にとって、心臓が止まるほどの非常時だった」

 

「……それは、酷いね」

 

 そう呟くことしか、望月さんには言えなかった。

 

 そうだろう。これだけ聞けば、どう考えても好意的に見れば抵抗が出てくるだろうしな。

 

「……そして彼女は、それがきっかけとなって己の在り方を悟り絶望し―」

 

 目を伏せ、俺はあの日を思い出す。

 

「―そこで、一つの救いを得て残りの人生を生きると誓った」

 

 その言葉に、望月さんはきょとんとなる。

 

 だが俺は思い出せる。

 

 あの誓いを、その笑顔を。そして、そんな彼女と共に成し遂げてきたことを。

 

「瞼の裏の笑顔に誓い、約束された勝利を刻む」

 

 この言葉を、俺はいつだって胸に宿している。そしてそれはカズヒ(彼女)もそうなんだ。

 

「その決意を胸に、彼女は多くの邪悪を祓い、多くの嘆きを救い、涙嘆地獄(バッドエンド)を打倒して、世界に大きな希望を齎した。……彼女は、誰かと一緒にいることを容認され、そしてそこで満足せずに成せる範囲の成すべきことから、成したいことを続けている」

 

 俺はそうまとめ、そして望月さんに微笑んだ。

 

「それに比べれば望月さんは十分マシさ。だから、俺達と一緒にいる時ぐらい笑っていればいい」

 

「……うん、ありがとう」

 

 そう答える望月さんは、ちょっとほっとした表情だった。

 

 まぁ、それにそんなものじゃないからな。

 

「第一、国際テロ組織の頭張っていた奴やら趣味の一環で育ての親裏切ってそんなテロ組織に入ったバカが、堂々と国際競技に参加することが認められてるからなぁ、この業界。望月さんレベルで気にしてるとやってられないぞ?」

 

「そ、そうなの!? それはその、それでいいの?」

 

 戸惑っているところ悪いけど、事実なので諦めてくれ。

 

「因みに後者は望月さんとは別の魔王のハーフだ。よく兵藤邸(うち)に来るから覚悟しとけよ? 絶対絡まれるぞ?」

 

「え、ええ!? それって別の意味で大丈夫なの!?」

 

 動揺しまくっている望月さんだけど、まぁ肩の力は抜けているらしい。

 

「ま、そういう時は俺を呼んでくれ。カバーぐらいはしてやるさ」

 

 そういう風にまとめると、俺は立ち上がる。

 

「さ、そろそろ戻ろうぜ? 明日もはしゃぐから休んどかないとな」

 

 そう促すと、望月さんはふっと笑った。

 

「……有加利よ」

 

 ん?

 

 俺が首を傾げると、望月さんは苦笑していた。

 

「これからは、名前で呼んでくれる? いえ、あなただけじゃなくて、これからお世話になる人達とは、あまり壁を作りたくないから」

 

 それはきっと、第一歩。

 

 彼女が胸を張って、歩人という人に感謝の言葉を伝えられるようになる為の。その、第一歩。

 

 だから俺は―

 

「OK、有加利さん。みんなにも言いに行こうか」

 

 ―その決意に、敬意を払おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうやら、我らの前にはまだ恐るべき敵がいるようだ」

 

 渦の団(ヴォルテックス・バンチ)の集会場で、カイザー・ヴォルテックスはそう告げる。

 

 渦の団が誇る怪人の中でも有数たる、サーモン・キング。そのバーベキュー妨害が撃退され、彼らは冷や水を掛けられた。

 

 禍の団が大打撃を受けてなお、渦の団には強敵がいる。その事実に誰もが戦慄する。

 

 そして、カイザー・ヴォルテックスは目を見開いた。

 

「ゆえに行け、四覇将よ! 同時にお前達に配下として、サーモン・キングに並び立つ五蹂士を差し向ける!!」

 

 その言葉に、壇上にいる男達が頷き、更に四人のフードが寄り添った。

 

「行け、四覇将よ! そしてこの国を我らの手にするのだ……ヴォルテーックスゥッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『『ヴォルテーックスゥッ!!』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オカルト研究部と、渦の団。

 

 彼らにとっていくつもの不幸な出来事は、まだまだ終わらない。

 




 亜香里は準神滅具のドラゴン系神器を持っている。

 そして魔王ベルゼブブのハーフでもある。

 あとイッセーはドラゴン系神器がめっちゃ強化されちゃう乳技を持っている。







 ……あとは、分かるな?


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新期来訪編 第十八話 死闘、四覇将&五蹂士!

 はいどうもー! 最近はだいぶ慣れてきているグレン×グレンでっす!

 この調子で頑張って書いていこうと思っております。

 ……そして、壮絶な戦い()が始まります……っ!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス先輩達の卒業旅行三日目、京都に転移した俺は―

 

「悪いわね九重! 私達はまず卵かけご飯を食べる!」

 

「そもそも私達、前世(まえ)の中学で京都行ってたからねぇ?」

 

「そんな時から続いている卵かけご飯のお店……っ」

 

 カズヒ及びリーネス及びお袋。ブレることなく卵かけご飯の店に特攻。

 

「よっし今度は俺も行くぞぉおおおおっ!!!」

 

 それに対し、俺も今回はついて行く。

 

 全力疾走。今回は俺も絶対について行く。

 

「お、和地も卵かけご飯に惹かれたのですわね?」

 

「いや、絶対違うと思うじゃんか」

 

 ヒマリよ。俺との付き合いは長いのにヒツギにツッコまれるな。

 

 いや、卵かけご飯は美味しいけど。美味しいけどそうじゃないんだ。

 

 デートしたいんです! いやデートになってないけど! 折角の旅行だからカズヒと一緒の時間が欲しいんです!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後

 

 

 

 

 

 

 

「……くぅっ! おかわりは……我慢っ!!」

 

「「「「我慢……っ」」」」

 

「あ、すいませんお会計。あとあのTKGフリークはスルーしていただけるとありがたいです」

 

 とりあえず発狂しかけているカズヒ達の代わりにお題を払っていると、なんか外が騒がしかった。

 

「おい、何時になったら警察は来るんだよ!?」

 

「何があったっていうんだ!?」

 

 なんだなんだ?

 

「……どうしました?」

 

 俺が尋ねると、外で騒いでいた人が泡を食ったような表情で振り返った。

 

「そ、それが銀行強盗が起こってるのにお巡りさんが来ないんだ!」

 

「もう通報もしてるし、そもそもここから一分もしないところに交番があるのに!」

 

 それはまずいな。

 

 このまま放っておけばややこしいことになりかねない。というか、通報を受けておきながら最寄りの警察官が来ないってどういうことだ?

 

 場合によっては俺が出張る必要があると考えている中、少し離れたところから慌てて人が駆けつけてきた。

 

「大変だ! 警察官がみんなして寝転がってる!?」

 

 ……はい?

 

 俺が思わず面食らっていると、その人は信じられないようなレベルで狼狽していた。

 

「それも警察署までだ! みんな揃って殴り飛ばしても「きょうだるーい」しか言わないんだ!」

 

『『『『『『『『『『はぁああああああっ!?』』』』』』』』』』

 

 そりゃ当然だが大絶叫だ。

 

 いったい何が―

 

「……ぎ、銀行強盗だと!? 交番が目と鼻の先にいるのによくそんな恐ろしい真似を!?」

 

 ―と、なんか変な格好の男がびっくりしている。

 

 ……というか、そいつの周囲にいる連中に見覚えがありまくる。

 

「なんとおそろしい。警察を相手にそこまでのことをするとは、五蹂士たるサボタージュ子爵ですらそこまでのことはしないぞ」

 

「警察官の親にしたくもない勉強をされた恨みを具現化した、警察官を怠惰にさせる怨術。サボタージュ子爵の奥義をこんなことで悪用させるとは……っ」

 

「だがペンタグラム伯爵によって京都を恐怖に落とす為にも、ここはとどまるわけにはいきませんぞ」

 

「そう、京都全ての寺社仏閣で落書きを行い、縁起を悪くする為には……っ」

 

 ………。

 

 俺は、どこからツッコめばいいんだ。

 

 特にアレなのはあれだ。規模と能力に比例しない、やることのショボさだ。警察を無力化までしてしてやる悪事が、落書きってお前ら。

 

 え、こいつら何考えてるの? 馬鹿なの?

 

「とりあえず、そのヘキサグラム男爵を含めて何とかするしかないか」

 

 ため息をつきたくなるけど、とりあえず動くしかないだろうさ。

 

「……そうね。どうやら腹ごなしにはちょうど良さそうだわ」

 

 あ、カズヒが来てくれた。

 

「リーネスが銀行強盗、オトメねぇ達が別動隊を潰しに行ったわ。私達は奴らを叩きのめすわよ?」

 

「OK。まぁ、人間世界()の法律に配慮しつつでいくか」

 

 さて、少し暴れるとするか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おのれぇっ!! 四覇将たるペンタグラム伯爵と、五蹂士たるサボタージュ子爵が倒されるとは!!」

 

 渦の団(ヴォルテックス・バンチ)の集会場で、カイザー・ヴォルテックスは拳を打ち付けるほどに悔しさを覚えていた。

 

「サボタージュ子爵の怨術とペンタグラム伯爵の陰陽道により、京都府警の警察全てをさぼらせることはできましたが、よもやICPOから増援が派遣されるとは……っ」

 

「警視庁ではなくICPOからとは。いったい誰が連絡を……?{カズヒがディーレンに連絡した結果である}」

 

 戦闘員達も戦慄するが、しかしそこでとどまる者達ばかりではない。

 

「ならば次だ! 次は大阪に向かうのだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ。大阪には美味しいものが多い。

 

「……はふっ……イザイヤ、この美味しいのはなんていうの?」

 

「ああ、それはたこ焼きだね。大阪の名物とまで言われているよ」

 

 トスカも気に入ってくれたようで何より。

 

 大阪となれば食べ歩き。きっと小猫ちゃん達も楽しんでることだろう。

 

 あ、九成君からメールが来てる。

 

―卵かけご飯終了。俺はカズヒとインスタントラーメン記念館に行ってくる

 

 ……そういえば、インスタントラーメンは大阪が発祥だったらしい。

 

 伝説の始まりはチキン〇ーメン。その後、海外展開を進めている時にカップ〇ードルを閃いたとか。

 

 世界とは本当に広いものだね。

 

 そう思っていると、何やら周囲が騒がしいことになっていた。

 

 な、なんだなんだ?

 

「フハハハハハッ! 大阪に来たのならば道頓堀に落ちるがいい! 道頓堀に飛び込まずに大阪を語る者には落書きあるのみ!」

 

「ぎゃああああっ!? 全身に水性マジック……って油性じゃないの!?」

 

「道頓堀で流すのだ! さぁ、道頓堀に飛び込むまで奴らにマジックを塗り続けろ戦闘員よ!」

 

『『『『『『『『『『ヴォルテーックス! 全ては道頓堀少佐の命じるままに!』』』』』』』』』』

 

 ……な、なんだろう、あれ?

 

 軍服のコスプレを着た中年男性が、変な格好の集団と共に水性マジックで通行人を塗り付けている。

 

 しかも進路妨害までしているね。……なんだろう、あれ?

 

 あ、警察官が来た。

 

「警察だ! いったい何を……あいつか!?」

 

「週一で道頓堀に落ちる意味不明な奴め! 人にまで強制するな!」

 

 な、なんか凄い迷惑な人だった。

 

 そのまま警察官は取り押さえようとするけど、数が多いこともあって水性マジックを塗り続けられる……え?

 

「な、なんだ!?」

 

「道頓堀川の水が、うわぁあああっ!?」

 

 道頓堀川から水が上ると、周囲の人々を強引に道頓堀に落としていく。

 

 そして少ししたら打ち上げられていく。そこまでがワンセットか!?

 

「これぞ我が心顕術! ついに我らが渦の団(ヴォルテックス・バンチ)の本格活動を前に、解禁あるのみ!!」

 

「おお! 道頓堀少佐の心顕術が解放されたぞ!?」

 

「毎週一回必ず道頓堀に落ちること一年。道頓堀少佐は約120時間の間、道頓堀川の水を操ることができるのだ!!」

 

 何その意味不明な能力!? 道頓堀川限定って、微妙だ!?

 

 かといってあれは見過ごせない。というより、道頓堀川って水質がよくないはずでは? いや、改善運動が進められてたっけ?

 

 と、とにかく止めないと。警察の方々も苦労しているし、何より数が違いすぎる。

 

「トスカは待っていてくれ。僕はちょっと……あのへんな人達を止めてくるよ」

 

「う、うん。無理はしないでね……?」

 

 ああ、分かっている。

 

 すぐに片付けるさ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タイガー監督と道頓堀少佐がやられただと!?」

 

 その報告に、カイザー・ヴォルテックスは渦の団本部の会議室で愕然となった。

 

「くっ! タイガースが優勝した年ならこんなことには……っ!」

 

「渦の団屈指の心顕術の使い手たる、道頓堀少佐がついていてもだとは……っ!」

 

 構成員も戦慄するが、しかし彼らは諦めない。

 

「ならば次は九州だ! 豚丸骨大将と出島仮面を向かわせろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えええええええっ!?」

 

 俺は思いっきり驚いた。

 

 九州の福岡についた途端に、俺達はホテルで待機することになった。

 

「どういうことなの? ここで待機していてほしいだなんて?」

 

 リアスが転移場所を用意してくれたホテルの人に尋ねると、ホテルの支配人はだらだら汗を流しながら、凄く困惑の表情を浮かべていた。

 

「申し訳ありません。皆様が転移する二分前に、謎の巨大生物………生物?……が現れて、自衛隊の出動が決定したばかりなのです。ここは緊急避難先になっておりまして、状況が分かるまでは出すわけにはいきません……」

 

 巨大生物?

 

 え、怪獣映画みたいな? でも生物に疑問がありそうだったぞ?

 

 俺達が首を傾げていると、リーネスとカズヒが何かを取り出して操作する。

 

「……魔術式高速飛行ドローンを射出したわぁ。これですぐ見えるはずよぉ?」

 

「………見えたけど、ナニ、コレ?」

 

 なんか、カズヒがもの凄く困惑している。

 

「いや、何が出てきたんだ……よ……?」

 

 覗き込んだ九成も、なんか凄い顔になってる。

 

「何があったんですか、先輩方」

 

 小猫ちゃんに指摘され、リーネスがモニターを操作して音声も流れるようにした。

 

『ラァアアアアアアアアメェエエエエエエエエン!』

 

 ……………………………………………。

 

 俺達の思考が真っ白になった。

 

 イヤ、ナニコレ?

 

 ラーメンで出来た、全高30mぐらいあるイソギンチャク?

 

 そんな存在が、麺とスープで出来た触手で何かを叩き落そうとしている。

 

 よく見ると、それは豚の獣人となんか四角い仮面をつけた男に、どこかで見たような格好の集団。

 

 ……そして、ヴァーリだった。

 

 あと周囲を確認していると、そんな集団を含めた不特定多数の者達が一心不乱に何かをしている。

 

『『『『『『『『『『捏ねる……捏ねる……捏ねる……』』』』』』』』』』

 

『『『『『『『『『『チャーシュー……いっぱい……』』』』』』』』』』

 

『『『『『『『『『『豚骨……スープ……コッテリ……濃厚……』』』』』』』』』』

 

 ……ラーメンを作っていた。

 

 虚ろな目でラーメンを作り、そして食べる。

 

 え、なにこれ?

 

『砕け散るがいい、麺技、豚骨顕正ぉおおおおおおっ!!』

 

『拉麺とは人と共にある物。人を支配する物ではない! 顕現せよ、麺龍皇帝……グレンデルッ!』

 

 更に拉麺で出来た巨大な豚の群れと、ラーメンで出来たグレンデルが出現し、怪獣大決戦の要素を見せてやがる。

 

 ……本当に、なんだこれは!?

 

『なめるなぁ! 二つの改造技術で培った、出島の力を知るがいい!!』

 

 そしてあの仮面って出島だったの!? 何そのチョイス!?

 

 俺達が唖然としていると、なんかどたばたと音がしてきた。

 

「……来てたわね!」

 

「……助かりました!」

 

 あ、黒歌とルフェイ!

 

「やばいわ! 突然現れた拉麺のイソギンチャクが、一般市民をラーメンを作り食すだけの存在に変えて行ってるニャン!」

 

「ヴァーリ様は「ラーメンの在り方を冒とくしている」と激昂してしまっているうえ、謎の獣人が率いる武装勢力が参戦して、収拾がつかなくなってしまいました……」

 

 うん、もう見てる。

 

 えっと、これ、あれ?

 

 正直困惑しまくっているけど、リアスはため息をつきながら気合を入れていた。

 

「……とりあえず、ヴァーリに加勢するわよ。短期決戦で終わらせなければ、人間界に無用の混乱が広まってしまうわ」

 

「わ、分かった! 俺、頑張るよ!」

 

 こうなったら自棄だ畜生!

 

 俺達の観光の為、旅行の為、そして何より九州の人々の為!

 

 ラーメン何するものぞぉおおおおおおおっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尽く幹部達が撃退される事実に、渦の団は八割方お通夜のような雰囲気となっていた。

 

 だが、それも怒りのオーラに塗り潰され、周囲の装飾物に罅が走った。

 

「もう我慢ならん! こうなれば我が自ら出てくれる!!」

 

 カイザー・ヴォルテックスは激怒した。

 

 必ず怨敵たるこの日本を征服せねばならぬ。征服の為にまず破壊しなければならぬと決意した。

 

「……ならば、私めが破壊を成す首領を守護するしかないようですな」

 

「ふぉっふぉっふぉ。ファイナル・デスシーサー様が出るのなら、儂も出るしかありませぬなぁ?」

 

 その後ろにつくは、四覇将最後の一人ファイナル・デスシーサー。そして五蹂士最後の一人、那覇仙人。

 

「おお、他の四覇将お三方が同時に攻撃してもなお崩せぬ守護の極み。ファイナル・デスシーサー様が首領と共にあるのならば……っ!」

 

「そして沖縄でのみ活動を行う代わりに、那覇仙人は沖縄限定で四覇将に並ぶ強さを発揮する。……これならば!」

 

 その二大巨頭の姿に、誰もが戦慄と自信を覚える。

 

 そして、そこに一人の怪人が並び立つ。

 

「シャーケッケッケ、ならば私も汚名を返上する時!! 五蹂士二人と四覇将がいるのなら、我らに敗北はない!」

 

「おお! サーモン・キング様も戦列に復帰なさるのか!」

 

「これならば、これならば!!」

 

 沸き立つ配下達の姿に、怒りに震えたカイザー・ヴォルテックスも落ち着きを取り戻す。

 

「ふっふっふ。那覇仙人の本領を発揮する沖縄なら、これまでのような敗北はない! 何より沖縄を守護するシーサーが破壊を齎せば、その恐怖は瞬く間に日本全土に浸透するだろう!」

 

 そして、誰もが両手を天へと掲げるのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『ヴォオオオルゥウウウウウウテェエエエエエエエエエックスゥウウウウウウウッ!!!!』』』』』』』』』』』

 




 わけのわからない現象とあほみたいな悪事のつるべ打ちがオカ研を襲う!! ネタ晴らしはもうちょっと待っててね?


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新期来訪編 第十九話 自分が一番不幸だと思い込む奴は、たいてい視野が狭いものである。

 ハイどうもー! 前から気になっていた喫茶店で昼食をとったグレン×グレンでっす!

 味はいいけど「喫煙者OK」な喫茶店だったので、一緒に食べた人は「二度目はちょっと……」なのが残念でした。喫煙者OKってある種のウリではありますけど、匂いと副流煙が人を選びますよね。

 まぁそんなことを昨日やりましたが、今夜も話を投稿するぜぇえええええっ!!!


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 がばりと起き上がるその相手に、私はペットボトルのスポーツドリンクを押し付ける。

 

「飲みなさい。凄い汗よ」

 

「……え、と……カズヒさん?」

 

 目を丸くしながら受け取る望月有加利は、しかし喉が渇いていたのかとりあえずそれを飲んだ。

 

 私はそれを確認しながら、備え付けのユニットバスの方を顎でしゃくる。

 

 と、ちょうどいいタイミングで鰐川亜香里も出てきたわね。

 

「あれ……? 有加利ちゃんも……?」

 

「亜香里……。そっか、そうだよ……ね」

 

 二人揃って調子が悪いけど、まぁそうでしょうね。

 

「とりあえずあなたも飲んでおきなさい。吐くとミネラルが消耗するものよ」

 

 スポーツドリンクを鰐川の方に渡しながら、私は心底同情する。

 

「まぁ、あの惨状と今の精神状態から見ればそうなると分かってたわ。和地もそれなりに気にしていたけど、連続はなんなんで今回は私が引き受けたわ」

 

 なんだかんだで、私達はそれとなく何人か交代で二人を気にかけていた。

 

 あの魔獣化騒動からひと月近く立っている。だけど、それはたったひと月という場合だってある。

 

 だから一応、それとなく気にはしていた。当人たちがなまじ善性だと分かったからこそ、絶対にまだ気にしていると分かっている。トラウマになっている恐れだってあった。

 

 それもあって、この卒業旅行に二人を連れていく形になったのでしょう。精神的なリフレッシュを試みていると、そういう事になるわけだ。

 

 ……とはいえ、これはこっちでもやるべきね。

 

「時間も時間だし、今から寝直すよりは気晴らしをした方が良さそうね」

 

「え?」

 

 キョトンとする亜香里に、私は肩をすくめながら小さく笑う。

 

「いい機会だから腹を割って話しましょう。もう温泉の方は空いているし、汗を流しながら……ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回泊まったホテルは、温泉付きだったりする。ついでに言うとサウナまでついている。

 

 軽く汗を流して温まってから、私達はサウナに入った。

 

 そして息を吐きながら、私は二人の様子を確認する。

 

 汗を流してリフレッシュしたことで、とりあえず二人とも落ち着いてはいるようだ。

 

 とはいえ、それは落ち着いただけ。やっぱり色々と思うところはあるでしょう。拭いきれないトラウマが刻み込まれていると、それぐらいは分かっている。

 

 悪夢を見て飛び起きる。トラウマに由来する形で吐く。どちらにしても、心に刻みついた傷があることの証明だ。

 

 いきなり何とかしようとは思わない。そういったものは基本的に短期でどうにかしない。時間をかけて、段階的に、ゆっくりと治していくのが肝なのだ。

 

 とはいえ、このままってのもあれでしょう。私達との旅行でリフレッシュしてほしいけど、突発的にフラッシュバックする光景はかなり酷いと見たわ。

 

 ……なら、ここは私の出番でしょうね。

 

「気にするな……と言っても、気にしてしまうでしょうね。そこは理解するわ」

 

「……分かるんですか?」

 

 有加利の方がそう返すけど、少し険もある。

 

 まぁよくある話ね。酷い目にあった者が「気持ちが分かるとか言うな!」なんていうのは常套句。言いたくなる奴は当たり前にいるだろう。

 

 ただ、理解まではできないわけじゃない。

 

「共感じゃなくて理解ならできるわよ。知識を集め、「自分がそうなったら」を想像する。そもそも相互理解と寛容は融和に必須である以上、異形勢力間の和平を進めるのならそうあらんとしなければならないでしょう?」

 

 そう前置きしたうえで、私は更に続ける。

 

「……銃の操作を誤り、暴発で仲間に怪我を負わせた新兵」

 

 あえて唐突に語る私の例えに、二人はちょっと固まった。

 

 それをあえて無視して、私は更に語り続ける。

 

「操縦をミスして味方をひき潰した戦車兵。司令部の撤退命令で同胞を何人も見捨てた歩兵部隊。機体の不調を見逃し、マシントラブルで機体ごと顔見知りが爆散したと知った整備兵。戦局を冷静に判断したがゆえに、一部の部下を生贄にする命令を下した指揮官」

 

 目を閉じてつらつらと語り、私はその光景を思い出す。

 

 それは、私が独立戦争に少年兵として参加した時に実際にあったこと。

 

 そして同時に、そういった件は悪魔祓いになってからも数多い。

 

「何人も見てきた。乗り越えた者も背負い続ける者もいれば、割り切り無感動になった者いるし、それができず逃げ出した者も狂った者も見てきた。……そして、規模に限定すれば貴女達がそれ以上の重いものを背負っていることぐらい理解できる。……心中ぐらい察するわよ。でなければ様子を確認したりなんてしないわ」

 

「そう……よね。ごめんなさい、八つ当たりになるわよね?」

 

 気圧され気味で謝る有加利に、私は肩をすくめて見せる。

 

「気にすることはないわ。追い詰められている者が周りに気を使うのは大変だもの。むしろ頑張っている方でしょうに」

 

 そう告げたうえで、私は腹をくくる。

 

 どうせ誰かが言っているとは思うけど、あえて自分から言うべきだ。

 

「唐突だけど、私には前世の記憶があるわ」

 

「「……え?」」

 

 きょとんとするけど、私はそこで構わず続ける。

 

 ……知っている者達も多いから割愛するが、我ながら本当に碌でもない。

 

 兄に対して告白し振られた、小学生にもなってないその時から始まった地獄。

 

 心がマヒし、どこかが歪み腐っていくなら、それでも救いだった日常。

 

 それが大きく削れ、ふとした瞬間に反転した自分。

 

 その果てに壊した姉同然の乙女ねぇ。そして決定的な本質を自覚してしまった、愛しい誠にぃ。

 

 そして生まれた子供にいけしゃあしゃあと幸せの香りなんていう意味を込め、そして決定的な破綻を自覚したあの爆発。

 

 ……そして、それからの私を決定づける笑顔の誓い。

 

 それでも私は遅すぎて、結局は何もかもが手遅れで死ぬ。それでも、私を友と呼んでくれた二つの救い。

 

 そして気づいた二度目の生。そこから歩む、悪祓銀弾(シルバーレット)の生き様。

 

 そして互いに知らぬとはいえ再会し、涙換救済と共に戦い、そして再び彼に救われた。

 

 そして、取り返せないはずだった運命の淑女(ベアトリーチェ)との邂逅を経て、私は弄奏と衛奏を導き、そして皆の力を借りて決着をつけた。

 

 そこまで語り、私は言うべきことを言う。

 

「……自分のことが許せないのはいいの。そこまで強制しないわ」

 

「え、ええ!?」

 

 亜香里の方が困惑するけど、実際そこは止めない。

 

カズヒ()(日美子)を許さないもの。どんな惨劇という過程があろうと、私は踏みにじってはならない物を踏みにじった。しかもそれが原因で世界が涙嘆地獄(バッドエンド)に染まりかけた」

 

 そう、私は私を許さない。その事実は変わらない。

 

「カズヒ・シチャースチエは道間日美子を許さない。それをすれば私はまた腐るとすら思っている」

 

 そう、それが私という女。

 

 それでも、もう一つの絶対がある。

 

「だけど、和地が……鶴羽が……リーネスが……オトメねぇが。更にイッセー達も含めて、誰かが私を許してくれることは受け入れた」

 

 そう、それはもう一つの絶対だ。

 

 自分で自分を許せない人がいるように。被害者が罪人を許さないことがあるように。その逆もまたあり得るのだと、私はそれを受け止めた。

 

 その否定はしてはいけないことだ。私が私を許さないからとしても。誰かが私を許さないとしても。それがむしろ当然だとしても。

 

 私を許してくれる誰かがいることを、私が否定してはいけないのだ。

 

「……だから、貴女たちもそこは許してあげなさい。……貴女たちが自分を許せなくても、貴女たちと向き合ったうえで許してくれる誰かを否定してはいけないわ」

 

 そこまで言ったうえで、私は軽く苦笑する。

 

「まぁ、私がそれを認めれたのはつい最近なんだけどね?」

 

 そういう意味だと、説得力が薄いかしらね。

 

「………貴女が、あの……人?」

 

 ぽかんとしながらつぶやく有加利だけど、どうやら和地はぼかして言ったみたいね。

 

 なら、隠す必要もないでしょう。

 

「まぁそういうわけで。貴女達が下であることと、それより下に私がいることは矛盾しないわ。嫌になったら私を思い出しなさい?」

 

 もっと酷い奴でも許してくれる奴がいるんだから、貴女達を許してくれる人もいるんだとね。

 

「……さて、そろそろサウナは出た方がいいわね。汗を流したらみんなと合流して、朝食にしましょうか」

 

 これで、少しは気晴らしになればいいんだけど……ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流石にここまでくると少し暑いわね」

 

「そうだねっ。なら水着も持ってきたらよかったかも」

 

「水着のレンタルはあると思うわよ、お姉ちゃん」

 

「あ、それもそっか。……じゃ、今日は色々観光して、明日は一緒に泳がない?」

 

「私はお姉ちゃんの行きたいところでいいわ。そんなに意見を聞かなくてもいいのよ?」

 

「だめだめ! 一緒に楽しみたいんだから、シルファちゃんもちゃんと意見してよね?」

 

「……ふぅ。分りました、ヴィーナお姉ちゃん」




 相互理解や把握は共存共栄に超重要。ぶっちゃけ得たいが知れない奴や理解できない奴より知れるし理解できる相手の方が近くにいても怖くない。

 少なくとも、そういう姿勢はある程度必要だと思う今日この頃。金が入ったらまず食文化から知るべきだと思い、意外と世界ではメジャーらしい昆虫食にも最終的に試してみたいグレン×グレンです。……蛇やカエルや鳥っぽい味だから試してみてもいいけど、イナゴの佃煮はエビっぽいらしいんだよなぁ。自分、甲殻類苦手だけどどこから手を付けたものか……。

 そんなわけで、我らがボスたるカズヒが過去話で下に下を見せつけて気を楽にさせる話でした。えげつなさすぎるから、嫌われる可能性を無視すれば不幸自慢じみた鬱を黙らせる特効薬にはなりそうですよねぇ。


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新期来訪編 第二十話 たいしたことないと思っていた連中が実はやばいとは割とよくある展開

 ふっふっふ。書き溜めは200kbを超えているので、連投速度をちょっと上げてみるグレン×グレンです。……昨日のは誤投稿ですが。


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ~。さんぴんお茶うめ~」

 

 俺は沖縄についた後、貸し切りのプライベートビーチに行かずに少し離れた茶屋でさんぴん茶を飲んでいた。

 

 あ~。流石に沖縄は暑いなぁ。まだ海で泳げるレベルの気温だよ。

 

 はぁ。だけどこれぐらいならちょうどいい。残り二日間はまったりして過ごしたいなぁ~

 

 でも多分出てくるだろうな~。あの変人軍団とまた戦うんだろうな~。ここまでの道程で一か所一回戦ってるし、絶対一度は戦うんだろうな~

 

 あ~。ちょっとげんなり。

 

 俺がそんな感じで凹んでいると、足音が聞こえてきた。

 

「あれ? ここにいたんだ?」

 

「泳いでないと思ったけれど、どうしたの?」

 

 と、そこにいたのは有加利と亜香里。

 

 ただ、二人ともちょっと困り顔というか疲れている印象がある。

 

 ……やはり予感は当たったか。

 

「今頃オカ研の女子達が半分以上、トップレス状態の奴までいる形でイッセー争奪戦を繰り広げているからだよ」

 

「……付き合い、長いのね」

 

 有加利が労わる視線になったので、俺は半目になりながら肩をすくめる。

 

「そしてそういう場面において男は弱者なんだ。巻き込まれないよう当分は安全圏に避難することにしたのさ」

 

「た、大変だね……」

 

 亜香里に同情されるけど、もはや慣れた。

 

「覚えておけ。オカ研もしくはグレモリー眷属において、アレは日常茶飯事となる」

 

 何かしらの対応を考えておかないと、かなり疲れることになる。覚悟しておいた方がいい恒例行事だ。

 

 特にこの二人、今後を考えると経過観察も兼ねて新生兵藤邸で預かることになるだろうからな。直のことになるだろう。

 

 さて、今朝は前よりもすっきりした感じがしたけど、そこからこれは割ときついだろう。

 

 ……フォローするか。

 

「ちょうどいい。どうせ数時間は騒がしいだろうし……ちょっと別の場所行くか? 奢るぞ?」

 

 あれは色々疲れるから、初手から数時間も経験させるのもあれだ。先達として後進に気を使わねばな。

 

「いいの? あまりお世話になるのも―」

 

「―むしろ使わせてください俺の心の平穏の為に」

 

 そしてごり押しで俺が払う方向に持っていかねば。

 

 頼む金を使わせてくれ。金は集まってくる分使って経済を回さねば……!

 

 俺のその隠し切れない強迫観念を悟ったのか、有加利も亜香里も一歩を引いていた。

 

 あ、これ別の意味でまずいかも?

 

「……お願いします。想定外の形で金が入りまくっていて、一切使わないで経済を滞らせるのはメンタルに響くんです……っ!」

 

「土下座!? そんなにお金を使いたいの!?」

 

 ドンビキしないでくれ亜香里。俺にとって、許容範囲外過ぎる大量の金は控えめに言って地獄だ……っ

 

「わ、分かったから! じゃぁ……沖縄料理! そういえばあまり食べたこと無いし、思いっきり食べてみたいわね……っ」

 

 有加利が気を利かせてくれてありがたい。

 

 お金を、お金を使わねば……っ

 

「なら、私も参加していいかしら?」

 

 そ、その声は!?

 

「カズヒか! 奢られてくれるのか!?」

 

 ちょっと涙が出てくるぐらいありがたい。いや本当に。

 

 身の程を超えた金は心を病ませる呪いになるんだ。割と真剣にメンタルをゴリゴリと削ってくる……っ

 

 涙すら浮かびそうな俺に、水着姿のカズヒは軽く引き気味の表情を浮かべている。ちなみにラインの引かれた競泳水着は似合ってます!

 

「水着も似合ってるし最高か! 女神かやっほぅ!」

 

「……誉め言葉は素直に貰っておくけど、とりあえず身の丈に合ってない金に振り回されすぎよ。……素直に奢られてあげるから落ち着きなさい」

 

 カズヒは軽くため息をつくと、肩をすくめながらパーカーを肩にかける。

 

「いったん着替えるから待ってなさい。ほら、そこの二人も外に出るなら私服に着替えること」

 

 きっちりまとめてくれるカズヒに大感謝だぁあああああっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ。食った食った……。

 

「沖縄料理美味いなぁ~。ニンジンシリシリはあとで俺も作ってみようか」

 

「それ以外も美味しかったわね。沖縄文化、なめたものじゃないわ」

 

 和地も感心しているけど、沖縄文化も舐めたものじゃないわね。

 

 異文化交流とはこういうものね。やはり見聞を広めるのは悪い事じゃないわ。

 

 沖縄料理に舌鼓を打った後、私達はホッと一息をつきながらバスに揺られる。

 

 目的地は水族館。まぁ大した理由はないけれど、たまはこういうのもいいでしょう。

 

「……すぴ~……っ」

 

 ただ、隣でこっちが眠くなるぐらい気持ちよく寝ている亜香里は何なのか。

 

「まぁ、昨日はあまり寝つきがいいとは思えなかったけれど」

 

「ご、ごめんなさい。亜香里ってはお昼寝が趣味だから……寝れるチャンスを逃さないところがあって」

 

 有加利がその辺り恐縮するけど、まあ悪いことを言っているわけではないわね。

 

「まぁいいさ。色々あって疲れも溜まってるだろうし、水族館まではぐっすりということで」

 

 和地もそう言っているし、なら別に問題ないでしょう。

 

「最悪私や和地なら抱えて運べるでしょうしね。……いえ、この場合和地以外が運ぶとまずいわね」

 

 そんなことを言いながら、私は苦笑交じりでふと視線を動かす……と。

 

「……何してるの、シャルロット?」

 

「う、気づかれてしまいましたか……」

 

 まったく気づかなかったけれど、シャルロットが後ろにいたわね。

 

 気配遮断スキルをフルに使ってまで隠れなくてもいいでしょうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、アジュカ。君も忙しいだろうに、いきなり直接来るとはね」

 

「申し訳ありません、シヴァ様。考慮するべき事態が発生しまして」

 

「その表情、隠し切れない緊迫感があふれているね。どうしたんだい?」

 

「……ここ数日、神の子を見張る者(グリゴリ)を含めた各勢力がそれなりに捜査していたテロ組織、渦の団(ヴォルテックス・バンチ)の構成員を連続して捕縛あるいは撃破に成功しています」

 

「ああ、あの禍の団(カオス・ブリゲート)と紛らわしい悪戯軍団。目の上のたん瘤がいなくなって、他の小物達と同様に動くんじゃないかと諜報部が言っていたね。また赤龍帝達かい?」

 

「はい。リアスの卒業旅行で日本横断ツアーをしていたところ、行く先々で遭遇しているそうです。……問題は、その渦の団にありまして」

 

「どうしたんだい? 彼らが禍の団より危険とは思えないけど。極晃星(スフィア)にでも到達したとか?」

 

「ある意味では、それ以上に厄介な事態です」

 

「それはまた。どういうことだい?」

 

「リアス達と遭遇した者達は半分以上がこれまでにない力を振るっていました。そこに重点を置いて尋問をしたところ……」

 

「したところ?」

 

「……首領の実験で一時的に転移した、異世界の力を振るったとの報告が」

 

「異世界? まさか、E×E(エヴィー・エトゥルデ)かい?」

 

「それが別枠です。どの世界も何かしらで荒廃しているようですが、どの世界でも相応の力を持つ独自の力が確立されているようでして」

 

「……先日の魔獣化事件、それもかい?」

 

「共通点は発覚してません。ですが、ここまでいくつもの異世界が関わっているのなら……更に一つや二つ増えていてもおかしくないでしょう」

 

「そうか。……面白いと言いたいところだけど、アザゼル杯が始まるという時に余計な仕事が増えるのは困ったものだね」

 

「そしてアザゼル元総督と接触した、異なる並行世界におけるリアス達の子供達。彼らからもたらされた異世界関連に、そういった情報はありませんでした」

 

「この世界は、どうやらその並行世界とは比べ物にならない事態が起きそうだね。……破壊神としては、壊しがいがあることを欲したいね」




 ちなみに第三部になった場合、「ガチの多重クロスオーバー」&「オリジナルのプチ世界を複数」の作品にする予定。まぁ中ボスレベルではありますが。

 そんな感じで渦の団の魔改造方向性がこんなことになってしまった。さすがに渦の団のオリジナル要素をほとんど即興にしたのは勢い余ったか……?

 いっそのことミルたんが異世界に言っている設定も拾って、数種類の魔法少女世界をさらにぶっこもうか考え中です。……D×Dだし近年の鬱い方向のは避けるべきだな……。


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新期来訪編 第二十一話 行く先々でトラブルに巻き込まれる、これもまたご都合主義にして主人公補正なり

 書き溜めがどんどんたまってしまっており、投稿速度をガチで早めたいグレン×グレンです。でも早くしすぎるとそれはそれで大変だしなぁ。


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、貴女なんでこんなところに?」

 

 シャルロットと思わぬ遭遇に、とりあえずその辺を突っつくことにする。

 

 そもそもなんで一人でバスに乗っているのかしらね。

 

 今頃、イッセーハーレムは壮絶な戦い*1をやっているはずなのだけれど。

 

 ただシャルロットは気分を落ち着ける為のアイスティーを飲むと、平静を取り戻していた。

 

「いえ、そもそもイッセーなら最終的に全員してくれるでしょうから。そこまで順番に拘らなくてもいいですし」

 

 あっさりと言い切ったわね。

 

「圧倒的余裕ね」

 

「もはや正妻の貫禄だな」

 

 私も和地も軽く戦慄したわね。

 

 余裕というかなんというか。圧倒的にマウントをとっているオーラすら感じるわ。これが相棒の貫禄か。

 

 ……いえ、冷静に考えれば私と和地も似たようなものね。驚く必要性はさほどなかったかも。

 

「つまりシャルロットはイッセーにとってのカズヒという事か」

 

「そういえば、私達が知り合ったのも同じ時期だったわね」

 

 なんだろうか、これはむしろほっとするわね。

 

 私も和地もあの頃に再会し、その時期にシャルロットも召喚された。

 

 そしてその地を管理するリアスの眷属であったイッセーと共に、共闘して危機を乗り越えた。そして合同部隊として活動し、更なる修羅場を乗り越えた。そして連合部隊であるD×Dの中核メンバー。

 

 ここに至るまで一年も経ってないわね。ふふ、濃密な数か月を過ごしたものだわ。

 

 ………。

 

「前世の業がこんな形で清算を求めたのかしらね……っ」

 

「か、カズヒ? 大丈夫? なんていうか……色素が薄く!?」

 

 ごめんなさい、有加利。割とメンタルが珍しく削れたわ。

 

 いえ、冷静に考えると本当にアレよね。

 

「……そういえば、俺ってば神話級の相手と戦ったのってコカビエルが最初だったなぁ」

 

「そしてそのコカビエルですら、私達が戦ってきた大物で比べれば中堅レベルってのが酷いわね」

 

 和地も私も少しすすけたわね。

 

 いえ、コカビエルは間違いなく神話級の敵なんだけどね。神の子を見張る者(グリゴリ)最高幹部の一人である時点で、下手な最上級悪魔を軽くひねれるレベルの強者なのよ。

 

 控えめに言って、魔王クラスでも本来手古摺るのよ。つまり英雄派の幹部達でも、一対一で倒せる奴は極僅か。ヘラクレスやジャンヌ・ダルクが相手ならコカビエルの方が強いはず。

 

 ただ、魔王クラスの力量を持つ者がゴロゴロ出てきたものね。間違いなく平均をはるかに上回る上澄みレベルだけれど、上澄みの中ではそこそこというか、一枚落ちるというか。そこから上がシャレにならないというか。

 

 オーフィスの蛇で強化された魔王末裔達なら割と戦えそうだけれど。曹操とかヴィールとかリゼヴィムとか、あとミザリとかトライヘキサとか。

 

 ……本当に、一年未満の戦いでどれだけインフレしているのよ。

 

「一昔前のバトル系少年漫画か……っ!!」

 

「俺達の壮絶な高校二年生、物語になるなら絶対見所あるだろうなぁ」

 

 和地も少し遠い目をしてきているわね。

 

 ふふふ、世の中とんでもない試練が起こるものね。天運が悪すぎるわ……っ。

 

「それで、なんでシャルロットはこんなところに?」

 

 有加利が凹んでいる私たちに代わって、シャルロットに本題を聞き直す。

 

 そしてシャルロットは、小さく微笑んだ。

 

「ええ、イッセーはリアスと一緒にドライブデートをしているので、様子を見てみようかと」

 

 ………。

 

「シャルロット」

 

「はい?」

 

 私に尋ねられてきょとんとしているところ、悪いけれどね?

 

「それはストーカーのやることよ?」

 

「……暇だったんです」

 

 正直でよろしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん! いい感じのお昼寝タイムだったーっ!」

 

 伸びをする亜香里だが、寝起きいいな。

 

 バスが着いたと思ったらスッキリ起きた。起きるタイミングを計っているのかと言いたくなるが、直前までぐっすり眠っていた気がするんだが。

 

 とはいえ、ここは水族館。そしてイッセー達が来ているはずの場所でもある。

 

 さて、デートの邪魔をするのも無粋な気がするが……ん?

 

「何か、騒がしくない?」

 

 有加利も気づいているから当然俺達も気づいている。

 

 水族館の方だが騒がしい。というか、悲鳴まで聞こえてきてないか?

 

 俺たちは顔を見合わせて頷き合う。

 

 これはあれだな。また訳の分からない連中が出てきているな。

 

 嫌な予感を覚えた俺達は、警戒しながら足早に水族館に接近する。

 

 すると、水族館の方からなんか急に人が走ってきてるな。それもたくさん。

 

 ん? なんか後ろの方に見覚えのある女子二人がいるぞ。

 

 ……あ。ちょっと前の卒業式の日に見た、カズヒに雰囲気が似てる女子と、一緒にいた金髪美少女!?

 

「……急いでいいけど慌てないで! ここで転ぶと酷いことになるわよ!」

 

「大丈夫、まだ来てないから! 来てもこっちが抑えるから!!」

 

 なんか知らんが避難しているとかそういう感じだぞ!? なんだなんだ!?

 

「……そこ! 状況を説明して、早く!」

 

 そこでカズヒが携帯を取り出しながら、しんがりを務めている二人の少女に吠えた。

 

 ああ、それは分かる。それだけの事態だと分かる。

 

 これは明らかに緊急避難の領域だ。間違いなく、水族館の中では荒事が起こっている。それも、不良の喧嘩とは次元が違う領域の事態がだ。

 

「……え? え、その―」

 

 それに金髪の少女が気づいて困惑するが、それに合わせるようにもう片方が声を張り上げる。

 

「―中で変態みたいな連中が暴れているわ! 約二名が対応しているけど、はっきり言って分からないことが多い!」

 

 反応が早くて助かる。

 

 つまるところ―

 

「イッセーとリアス先輩か」

 

 ―あの二人が対応しているという事だ。

 

 それがわかれば十分。俺達がやる事は分かり切っている。

 

「……イッセー、詳細報告を!」

 

 シャルロットが念話で素早く話を進める。

 

 シャルロットはイッセーのサーヴァント。龍神に由来する肉体を得たとしても、イッセーとの魔力的なつながりは決して消えない。分かっているなら連絡が取れるわけだ。

 

 だからこそ、俺達はそこからの対応を踏まえて動ける。

 

 そのとき、シャルロットはハッとなって上を見上げる。

 

「……あそこが吹き飛ばされます! 対処を!」

 

 その声に、俺とカズヒは速攻で判断する。

 

 飛び上がるカズヒに、俺は素早く星魔剣を創造しながらカバーに入る体制をとる。

 

 その瞬間、水族館の壁が吹き飛ばされた。

 

「え……?」

 

「……は?」

 

 有加利と亜香里が困惑する中、俺達は無言で連携を行う。

 

 カズヒが素早く迎撃し、破片を粉砕する。

 

 そこに俺が障壁を展開し、避難していた人達に当たらないようにカバー。

 

 そして安全を確保した次の瞬間、イッセーとリアス先輩が着地する。

 

「助かるシャルロット! 九成とカズヒもありがとな!!」

 

「でも追撃が来る、迎撃準備を!」

 

 イッセーとリアス先輩が声を飛ばすと共に、破壊された壁からたくさんの連中が飛んでくる。

 

「ふははははははははっ! ヴォルテーックゥスゥウウウウウウウウッ!!!」

 

『『『『『『『『『『『ヴォルテーックスッ!!』』』』』』』』』』』

 

 ああもう! この卒業旅行散々だな!!

 

*1
棒倒し



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新期来訪編 第二十二話 意外と大変な戦い

 書き溜めが250kbほどあって戦慄。……投稿速度は当分今まで通りでよさそうです


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー、どうなってるんだあれは!」

 

 九成が俺達に駆けつけながら聞くけど、俺も正直分かんねえ!

 

 ただ、色々と言っていたことから判断すると、言えることがある。

 

「俺達の行く先々で迷惑行為をしていた連中、そのボスがあのおっさんみたいだ」

 

 そして沖縄でついにボスとか、どんな展開なんだろうな。

 

 ちょっと俺も文句を言いたいけど、それより先に戦闘員っぽい連中が怒り出した。

 

「おっさんとは失礼な!」

 

「我ら渦の団(ヴォルテックス・バンチ)の長、カイザー・ヴォルテックス様に無礼な!」

 

禍の団(カオス・ブリゲート)とかいう新参のパチモン集団がいなくなったと思えば! 最高幹部の四覇将と筆頭戦力の五蹂士が尽く倒される非常事態。……こっちも苛立っているのだぞ!!」

 

 知るかって言いたい。

 

 ん? なんか九成が額に手を当てて頭痛を堪えている感じだぞ?

 

「どうした?」

 

「いや、京都で警察官をサボらせていたアホが、五蹂士とか呼ばれていたような」

 

 ……つまり、俺達の行く先々で変なことしてた連中が、最高幹部とか筆頭戦力と。

 

 いや、んなバカな―

 

「……シャーケッケッケ! 雪辱を晴らす機会が来るとはなんと好都合!!」

 

 ―と思ったら、北海道で取り逃がした鮭の怪人が出てきた。

 

「サーモン・キング! では五蹂士の一角たる貴様を妨害したのは……奴らか!!」

 

 カイザーとか呼ばれてたおっさんが、驚いた後凄く睨んできた。

 

「おのれ! 四覇将たるペンタグラム伯爵、タイガー監督、豚丸骨大将。五蹂士たるサボタージュ子爵、道頓堀少佐、出島仮面。……そしてサーモン・キングを撃退したのはすべてが奴らだというのか!?」

 

「おそらくは。我ら渦の団の日本征服計画、その各作戦を妨害した者が、総帥による破壊すら邪魔をするとは……許せん!」

 

「「馬っ鹿じゃねえの!?」」

 

 怒りに燃えるおっさんと鮭に、俺と九成は一斉に突っ込んだよ。

 

 あんなアホな嫌がらせで日本征服とか馬鹿なの? ただ無駄に強いのも納得だよ。

 

 ったく。かといって見過ごすのもあれだ。言っちゃなんだけど、あの鮭とおっさんは警察官には荷が重すぎる。

 

 俺達でぶっ飛ばす。それしかねえ。

 

「イッセー、あまり目立った戦闘は避けるべきです。短期決戦で吹き飛ばしましょう」

 

 シャルロットが駆け寄ってきたけど、確かにその通りだ。

 

「分かってる。開幕速攻、星辰光(アステリズム)決着(ケリ)をつける!」

 

「だな。あれならまだ目立たない」

 

 九成も俺に頷いて、素早く星を開帳する。

 

「「創生せよ、天に描いた双星を―――我らは双子の流れ星!!」」

 

「天衛せよ、我が守護星―――鋼の笑顔(誓い)で涙を変えろ!!」

 

 俺達は星を具現化しながら、おっさんに向かって突撃する。

 

 大将首、速攻で―

 

「……創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌く流れ星」

 

 ―な、に……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぅっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

 ……和地とイッセーが吹き飛ばされた!?

 

 あの二人を純粋な星辰光で弾き飛ばすとか、あの男化け物?

 

 いえ、そんなことを言っている場合でもないわね。

 

「ふぉっふぉっふぉ。この程度ではのぉ?」

 

 私の攻撃を素早く捌いて、オーラの砲撃を放ってくる老人。

 

 この強さ、ステラフレームの自我覚醒体すら打倒できるわね。

 

 基本性能に限定すれば魔王クラス。D×Dでも単独で打倒できるのは少数派。

 

 不幸中の幸いは、私の星が効果を発揮する点ね。

 

 そう判断しながら、私はノールックでカイザー何とかに射撃を放つ。

 

 宝石魔術を込めた悪殺の瘴気。直撃すれば、自他共に求める悪の組織なら通用する。

 

「ぬるいわぁっ!」

 

 流された?

 

 ……まさか、そういう事―

 

「考え事をする余裕があるのかのぉ?」

 

 ―チッ!!

 

 熟考する余裕はない。目の前の老人はそれだけの実力者だ。

 

「馬鹿め! 五蹂士筆頭たる那覇仙人を相手に他所見ができるか!」

 

「その通り! 那覇仙人は沖縄でしか力を発揮できない代わりに、沖縄での性能が大幅に向上する心顕術の持ち主!」

 

「沖縄限定なら四覇将ですら一歩劣るのだ!」

 

「沖縄で那覇将軍に勝てるのは、カイザー・ヴォルテックス様を除けば四覇将最強たるファイナル・デスシーサーのみ!!」

 

「デスシーサー様がはぐれていて良かったな! そうでなければ今頃貴様らは壊滅だ!!」

 

 外野がうるさい。

 

 あとしんけんじゅつ……とかいうのは初耳ね。それと一人はぐれたのか。正直地味に助かるというか、何やってんだ四大幹部っぽい奴というべきか。

 

 どこからツッコミを入れたものかと真剣に考えるけど、この際それは置いておきましょう。

 

「そこ! 私を忘れないで頂戴!!」

 

『『『『『『『『『『ぐあぁああああああっ!?』』』』』』』』』』

 

 とりあえず、うるさい外野はリアスに任せれば何とかなる。

 

 あの和地とイッセーを相手に、単独であそこまで渡り合えるとは……カイザー・ヴォルテックスとかいうのは面倒だわ。

 

 こちらも場所が場所である以上、隔離が完了するまで異形の本領を見られないってわけにはいかない。それでも手古摺りそうな連中なら、尚更苦戦必須だ。

 

 なるべく早く避難が完了してくれないと―

 

「……シャ、シャケー!?」

 

 ―ん?

 

 悲鳴が聞こえたと思ったら、こんがり焼けた鮭のいいにおいがするわね。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「五蹂士たるサーモン・キング様が……倒されただとぉ!?」

 

「あ、こっち来た……ぐわぁあああああっ!?」

 

 戦闘員共がうるさくなると共に打ち上げられ、そこから飛び出した二人の影が目の前の那覇なんたらに蹴りを叩き込む。

 

「……ふぉっ!?」

 

 弾かれる那覇仙人がこちらに睨み付ける中、着地した少女二人がこっちに視線を向ける。

 

「避難誘導は完了したけど。そっちは大丈夫?」

 

「……とりあえず、この助太刀は日本の法律的にOKかしらね?」

 

 ……確か、避難で殿を務めていた女二人ね。

 

 今にして思えば、この二人は星辰奏者(エスペラント)だわ。

 

 とはいえ、どの辺りまで情報を明かせばいいのか。

 

 それを考えていると、薄紫の髪の女がこっちに視線を向ける。

 

「……ナインハルト・コーポレーション民間警備部門暫定所属、シルファ・ザンブレイブよ。とりあえず、非常時なので助太刀するわ」

 

「同じヴィーナ・ザンブレイブだよ。その、もしかして異形関係者かな?」

 

 ……どうやら、ある程度は知っている連中のようね。

 

「チームD×D所属、カズヒ・シチャースチエよ。元教会の悪魔祓い(エクソシスト)と言った方が分かりやすいかしら?」

 

「あ、そうなんだ。確か対テロリストの合同部隊だっけ?」

 

 ヴィーナの方が腑に落ちる中、シルファの方は鋭い表情で那覇の爺さんを警戒する。

 

「とはいえ、こんな事態に巻き込まれるなんてね。留学記念に日本旅行に行ったらこれとか、幸先が悪すぎるわ」

 

 ため息をつくシルファに、ヴィーナの方も苦笑いを浮かべている。

 

「そうだねぇ。思いきらずに東京にしとけばよかったかも。……凄い事になってるよね」

 

「それは大変ね。駒王町近辺に住んでいるのなら、トラブルバスターに使える便利な人達は紹介するわよ?」

 

 多少は同情するけど、ま、その程度ぐらいにしておくべきね。戦闘中だし。

 

 ……そして二人とも、目を丸くするな。

 

「……あ、駒王学園高等部に進学します」

 

「因みに、元々は大学部予定だったけど高等部三年から転入予定よ」

 

 ……マジか。

 

「なるほど。なら気のいい同年代を紹介してあげるわ。……こいつらを沈黙させてからだけど」

 

 さて、こうなれば気合を入れるしかないわね。

 

 さっさと、この場で、叩き潰す!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次の話と幕間で、第一章は終了です


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新期来訪編 新たなる世界の予兆

 はいどうもー! 最近の執筆速度がむしろ増しており、何かしらでセーブを掛けた方がいいのではないかとすら思っているグレン×グレンでっす!

 第一章の最終話を思ったより早くお届けできる中、皆様いかがお過ごしでしょうか? 自分は新たな職場でも頑張っており、いろいろとノっている可能性もあります。


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「和地! 外野を片付けたらそっちに行くからしのいで!」

 

 カズヒから声が届くと共に、カイザーなんとかの攻撃が襲い掛かる。

 

 ったく。カズヒの声ぐらい堪能させろっての!

 

 こっちの障壁をまるでねじ切るように突破してくる攻撃を、俺は素早く回避する。

 

 間違いなく手練れなうえ、星辰光に強い相性を持っている。

 

 これは流石に厄介だが……なめるな!

 

 既に聖血もある程度は慣れている以上、俺はこの程度一人でも対応できる!!

 

 そして―

 

「「もらった!」」

 

 ―戦っているのは俺だけじゃない!!

 

 横合いから殴り掛かるイッセーに、それを陽動として死角から迫るシャルロット。

 

 その攻撃を何とか回避するカイザー何とかだが、鎧に明確に傷をつけれた。

 

「おのれぇぇええいぃっ!! 小僧共がここまでやるか! 我が星穿つ大いなる渦、顕現の時(ヴォルテックス・ブレイカー)をもってしてもしぶとい!!」

 

 やはり星辰奏者か。油断できんな。

 

 だが、禁手を使って魔星化している俺や、比翼連理のイッセー達にすら迫るとはどういう仕組みだ?

 

 懸念を覚える俺の耳に、カズヒの声が飛んできた。

 

「解析は大雑把に済んでいるわ! そいつの星は星辰体(アストラル)そのものに回転運動を巻き起こしている! その影響で相手の星を捻じ曲げているのよ!!」

 

「はぁ!? ふざけんなよ!?」

 

 イッセーが思わずぼやく内容だな。

 

 星辰体そのものに影響を与える星ならば、当然星辰体の影響で具現化する星辰光全体に相性がいいわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイザー・ヴォルテックス

 

星穿つ大いなる渦、顕現の時(ヴォルテックス・ブレイカー)

基準値:B

発動値:

収束性:B

拡散性:C

操縦性:B

付属性:C

維持性:C

干渉性:B

 

 

 

 

 

 

 

 

 厄介な星だ。

 

 通常の星辰光ってのが酷い。これが極晃なら、俺の衛奏でどうにかできるってのに。

 

 どうしかけたものかと思った時、更にカズヒの声は飛ぶ。

 

「そして避難は終了している。ここに残っているのは異形を知る者だけ……意味は分かるわね!!」

 

「「……なるほどな!!」」

 

 その意味を悟り、俺達は勝機を悟った。

 

 確かに、あのカイザー何とかは強いだろう。

 

 ……だが、俺達を舐めるなよ?

 

「なら、決めるしかないよなぁ!」

 

「まったくだ! そろそろこっちも本気出すかぁ!!」

 

 俺はショットライザーを構え、イッセーも籠手を具現化させる。

 

 ……相手が星辰光にめっぽう強いのなら、星以外で勝負するのみ。

 

「……我、目覚めるは―――王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!!」

 

 イッセーが真女王の詠唱を告げる共に、俺もショットライザーを突き付ける。

 

「覚悟してもらおうか、渦の団。……お前達の渦が齎す悲劇は此処で終わる」

 

『ASALLT SAVE!』

 

 悪いが、俺の前で悲劇は一切必要ない。

 

「そろそろ終わらせてもらうわ、こっちは息抜きに来てるのよ」

 

『CRY!』

 

 カズヒもハウリングホッパーを装填し、ショットライザーを構えている。

 

嬉涙救済(グッドエンド)で、今日を終えるぜ!!」

 

「貴様を邪悪と……断定する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

「……ハーデス様。またチームD×Dが功績をあげたようです」

 

『ファファファ。忌々しい連中ではあるが、その実力は本物だからな。うかつに手を出せばそうもなるだろう』

 

「問題は、その打倒された勢力である渦の団です。……アジュカ・ベルゼブブたちの告げる内容によれば、独自に異世界の技術を取り込んでいたと」

 

『フン。異世界の存在が実証された以上、それは構わん。問題はそれにどう対処するか……じゃ』

 

「……ハーデス様! 朗報でございます!!」

 

「どうした騒々しい! まだ私が報告をしている最中だ―」

 

「あの者達が、コキュートスで例の施設を発見いたしました!!」

 

『……ほぉ? で、例の存在は?』

 

「現在はまだ探索が進んでおりませんが、設備の規模と内容から見て間違いないとのことです」

 

『なるほど。どうやら対策の余地はありそうだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか疲れたなぁ。

 

 何とか頑張ってあの連中を打倒した後、俺達はそいつらを追っていたらしい鳶雄さんに後を任せて休むことにした。

 

 助太刀してくれた人達を含めて、有加利達は近くの喫茶店で一息ついている。

 

 ……有加利達も駒王学園に転入することになるだろうし、そういう意味では合縁奇縁だ。

 

 まったく。ま、明日は流石にゆっくりできそうだな。

 

 そう思っていると、俺の隣にカズヒが座る。

 

「……まったく。とんだ卒業旅行になってるわね。リアスも大変だわ」

 

「俺らも大概大変だったけどなぁ」

 

 苦笑しながら頷き合って、俺はそのあと喫茶店の方をちらりと見る。

 

「そういえば、あの二人ってナインハルト・コーポレーションのザンブレイブチルドレンってやつか」

 

 ナインハルト・コーポレーション。第二次大戦後にめきめきと発展を遂げた海運業、ハルトナイン・オーシャンを中核とする大規模複合企業。海運から始まり造船を中核とする重工業部門を設立、そこから海賊対策の施設群を母体とするPMCや、その経験をもとに海軍装備を開発する軍需部門。更に近年では医療部門や漁業部門まで手広く広げているとか。

 

 そして彼らは大規模な児童養護グループとして「ザンブレイブ・チルドレン」というものを保有。独自の奨学金制度や企業向けの専門教育で大学卒業まで完全サポートし、在学期間分系列企業で就労すれば奨学金の返済が完全免除。そして専門教育もあって愛着や成功を得た大半の子供達は、そのまま企業に属するという流れらしい。

 

「そうらしいわ。二人とも星辰奏者だという事から、PMC部門の就職がほぼ確定。ただあそこ、国際企業だから海外留学を進めているのよ。で、日本の駒王学園大学部狙いだそうよ」

 

「……その前の慣らしで高等部ってわけか」

 

 中々やるなぁ、ハルトナイン・オーシャン。

 

 ただ、カズヒはちょっと目を細めていた。

 

「ただ、最近あそこはアキシオン同盟との密接な提携を結んでいるのが不安ね」

 

 ……ああ。

 

「中規模国家四か国が中心となった、軍事・経済・研究における同盟の事だろ? 更なる参加国を属国とする形で、かなり発展しているとか」

 

「ええ、盟主たる四か国は大きく発展を遂げ、参加国も更なる進歩を遂げている。同盟全部を敵に回せば、単独では常任理事国も厳しいと言われているわ」

 

 軍需部門との提携を結び、海軍力が大幅に強化されたとも言われている。

 

 元々陸軍の兵器は時代を先取りしているって噂だけど、そこの海運業の優たるハルトナイン・オーシャンか。そういえば、本社のある国は同盟に参加してたな。

 

「……まぁ、表の内容に異形側が首を突っ込みすぎるのもあれよね。その辺りの分はわきまえないと」

 

「そうだな。俺は戦災孤児の保護とかに金を回すぐらいが限界か」

 

 ま、駒王町に住んでいるなら問題ないだろう。あそこは結界があるから、こちらに悪意があるなら気づけるだろうし。

 

 油断は禁物。だが臆病になりすぎるのもあれだしな。

 

 ただ、その二人の方なんだが気になるな。

 

「……ただシルファって方、カズヒとなんか似てないか?」

 

「世界中を探せば、そっくりさんは二人は見つかるっていうでしょう? 気にしすぎじゃない」

 

 まぁそうなんだけど。

 

 似ていると言っても雰囲気とかだしな。ちょっと気にしすぎか。

 

 ……なんとなく、俺は飲んでいたさんぴん茶のペットボトルをカズヒに向ける。

 

「カズヒ。アザゼル杯じゃ容赦しないぜ?」

 

「急に何を言うかと言えば。……それは私もよ」

 

 そう返すと、カズヒもボトルをもって俺のそれに軽くぶつける。

 

 ……これが終わって少しすれば、俺達も高校三年生。そして更に、アザゼル杯という大きな祭りが始まる。

 

 ああ、そうなったら今度はどんなことが起こることやら。

 

 楽しみにしつつ、警戒もしつつ、その上で、しっかりいつも通りやるとするか。

 

 視界の隅では、イッセーとリアス先輩がゼノヴィア達に詰め寄られている。どうやらいなくなったことに気づいて追いかけていたらしい。

 

 ……なんとなく口元が綻びながら、俺はさんぴん茶を口に運ぶ。

 

 さて、これからも楽しみだ。

 




 さて、いろいろな要素をぶち込み、今後が大変になることを予感させる感じで〆させていただきました。


 とりあえずは、カイザー・ヴォルテックスの星辰光から行きましょう。

カイザー・ヴォルテックス

星穿つ大いなる渦、顕現の時(ヴォルテックス・ブレイカー)
基準値:B
発動値:
収束性:B
拡散性:C
操縦性:B
付属性:C
維持性:C
干渉性:B

 カイザー・ヴォルテックスが振るう星辰光。星辰体回転運動発生能力。星辰体そのものに干渉し、回転運動により発生した渦で戦闘を行う能力。
 星辰体そのものに干渉する関係上、対星辰奏者・人造惑星に対して絶大な対応力が持ち味。星辰体に由来する戦闘においては乱れが生じるため、敵対する星辰奏者や人造惑星は大きな不調を背負った状態で挑む必要が生まれてしまう。

 基本的にはドリル上にしての近接攻撃が基本だが、足に展開しての高速移動・高速飛行・高速潜航も可能。また渦の回転運動は攻撃を受け流すことにもたけており、攻防移動と隙が無い汎用性を誇る。

 全ては大いなる渦に世界を呑み込ませるがため。

 禍すら超える渦を齎さんとする悪鬼、カイザー・ヴォルテックスの星辰光である。







 と、こんな感じです。星辰体の螺旋運動により星辰光をねじ切ることが理論上可能という、ある意味においてはヴェンデッタの下位互換でありつつも、星辰体の渦により直接的な戦闘を行うという意味では反則級の星でもあるわけです。

 本当はもっとネタに走り、ヴォルテックスタツマキとかヴォルテックススピンとか、ヴォルテックスギガドリルブレイクとか、竜巻ヴォルテックス脚とかかまそうかとも思いましたが、さすがにネタに走りすぎかと思い断念しました。






 そして独自の異世界技術まで取り込んでいた渦の団。これらは第三部になってからの混沌度合いを加速させるための一手ですね。

 第三部になった場合、本格的にいろいろな作品をクロスオーバーさせようと思っている感じです。現在いろいろと熟考しておりますが、この作品が根幹的に三つの作品群を組み込ませていたので、大まかにジャンル分けしてそれぞれ三つずつ……という流れにしたいところ。

 そして同時に、オリジナルの異世界とその技術を組み込むことで更なる混とんを齎したい。これらはその一環と言えます。





 そしてハーデス達、原作よりはるかに早くリリスを発見。もうアザゼル杯序盤からリリス・チルドレンを出すことを踏まえつつ、暗躍させていきたいと思っております。

 第二部は脳内プロットにおいて最終決戦をオリジナルでサウザンドフォース打倒に回したいところ。ハーデス達との決戦は第三部に持ち込ませようと思っております。なので盛りに盛れるぜぇええええええっ!!






 そして第二部ラスボス担当のサウザンドフォースも暗躍です。もうさっさとばらしますしバレバレですが、ナインハルト・コーポレーションのトップはサウザンドです。

 転生者どもは阿保と優秀の狭間を行ったり来たりするような奴であり、幸香やはやてに後ろからぶっされる致命的ポカをするまでに、世界的に見て強国なサウザー諸島連合を作れる連中です。

 その過程で用意したサブプラン的なものがアキシオン同盟及びナインハルト・コーポレーション。サウザンド・ディストラクション後にそちらの管理をしている連中が動いており、少しずつ動きを見せているわけですね。




 ……さて、それはともかく次回は幕間。

 とはいえ変態達は壊滅的打撃を受けているので、第二部は経路を変えたいと思う今日この頃です!


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新期来訪編 幕間 準備期間は大事にしよう

 はいどうもー! グレン×グレンでっす!

 ……とりあえず幕間ですが、第二部においては変態は小休止です。

 ただし第三部に続いた場合、むしろ本編にがっつり出てくることになります。


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春休みも終盤。僕はリアス姉さん達がいる新生兵藤邸にお邪魔していた。

 

 今後を考えると、アザゼル杯に備えた会議も必要だしね。イッセー君達が別のチームで出るなら尚更だ。

 

「……なるほど。彼にオファーをするのですね?」

 

「ええ。思ったより交渉はスムーズに進んだわ」

 

 リアス姉さんも中々思い切った判断をするね。ただ、その思い付きを交渉で繋げるのが凄い。

 

 そして彼なら、イッセー君が抜けた穴を埋めることはできる。正面戦闘なら今のイッセー君を超えるだろうし、シャルロットとの連携で来られても勝算がある。レーティングゲームだとシャルロットは使い魔扱いで運用に制限があるから、今回においてはイッセー君以上の戦力になるかもしれない。

 

 最もイッセー君は日々成長する人物。龍神化こそ悪影響が多すぎて使えないけれど、近いうちにそれを克服する可能性は大きいしね。もし戦うとなったら面白いことになりそうだ。

 

「うふふ。ガブリエル様達から勧められた方とも話は済んでますし、優勝も狙える陣営になりそうですわ」

 

 朱乃さんが微笑みながらそのことについて語れば、小猫ちゃんが少し嘆息する。

 

「……イッセー先輩達が驚きそうな方ですけど」

 

 だね。僕も話を聞いた時は驚いたさ。

 

 まぁ、顔を合わせた段階では大丈夫だろう。ガブリエル様達だけでなく、アジュカ様やシェムハザ総督も連名で太鼓判を押しているしね。

 

 さて、それはともかくとして。

 

「リアス姉さん。イッセー君達は此処には?」

 

 来たけどイッセー君とその眷属に移った人達は誰もいなかった。ついでに言うと、九成君やカズヒ達もいなかった。

 

 彼らもそれぞれのチームでアザゼル杯に参加するからね。それぞれがチームメンバーを探している。

 

 こういったのも、国際レーティングゲームという一種のお祭り騒ぎだからこそだね。ふふ、僕たちも含めて面白いことになりそうだ。

 

 だけど、新生兵藤邸は一段階進化を遂げているようだね。

 

 建築物も増えているし、部屋の面積も全体的に広がっている感じがある。これも僕達が成果を上げたこともあるだろう。

 

 それを実感しながらお茶を飲んでいると、リアス姉さんもお茶を飲みながら微笑んだ。

 

「イッセー達も色々と動いているわ。ふふ、この調子なら楽しい催しになりそうね」

 

「はぃいいい! 僕達も、負けてられないですぅ!」

 

 ギャスパー君も心強いことを言ってくれるようになった。

 

 ふふ。これは今から腕がなるね……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、鶴羽は緋音と一緒に住むの?」

 

 ある程度の話を終えてから、休憩中に私はそれを聞く。

 

 鶴羽もそこは分かってるから、ぼりぼりと煎餅を食べてから頷いた。

 

「まぁね。流石にいきなり、異形がたくさんいる兵藤邸はまずいでしょ?」

 

「そういうわけで、鶴羽の堕天使化はもうちょっと先ねぇ」

 

 リーネスもそういうし、まぁそういうものでしょう。

 

 ショック療法じみたことである程度慣れたとはいえ、元々異形に対する潜在的な抵抗感を持ってしまったもの。そう簡単に二十四時間一緒にいるのはきついでしょうね。

 

 そういう意味だと、気心の知れたメンツが一緒に住むのはいい事でしょう。無理に強引な真似をする必要もないし、当面はそれでいいでしょうね。

 

 ……それはそれとして、こっちのチーム構成もある程度は進みそうね。

 

「あ、そういえばカズヒってアテがあるって言っていたけどどうなったの?」

 

 オトメねぇに振られて、私はちょっと苦笑した。

 

「全員快諾。特にカズホなんて、デュナミス聖騎士団の選抜を事前に断ってまで来てくれるって言っていたわ」

 

 まさかそこまでストレートに来るとは思ってなかったわね。

 

 正直、一人や二人は断ると思ってた。それぐらいの過去を私は持っているし、自分達側のメンツがメンバーを募集することもあるでしょうし。

 

 でも、誘った皆は全員快諾してくれた。むしろ楽しみになっているようだった。

 

 ……本当に、私はあまりにも恵まれているわね。

 

「……そういえば、アンタの男友達は? あの二人参加しないの?」

 

 鶴羽が効いているのは勇ちんとディーレンね。ま、そこも言ってくるとは思ってたけど。

 

「ディーレンは残念だけど無理だったわ。ほら、あいつは仕事が色々あるしね」

 

 ICPOはいまだ忙しいってことね。勇ちんは逆に、職場のいい宣伝になりそうだったからいい感じだった。

 

「ちなみに勇ちんからは部下の訓練にも使えないか提案があったわ。兵士(ポーン)はそっちで埋めれば……満タンにできるわね」

 

 時間的に余裕が出来ている節もあるし、その辺りは大まかな作戦プランを立てる方向でどうにか出来そうだわ。ちょっと助かるわね。

 

 鶴羽もオトメねぇも、そこに関しては感心しているし。

 

「おお~。思ったより凄い事になるわね、それ」

 

「……プロのPMC、それも星辰奏者(エスペラント)主体からかぁ」

 

 ええ、言いたいことはわかるわ。

 

 リーネスもお茶を一口飲んでから、にっこり微笑んだ。。

 

「人数も手札もかなり豊富に揃えれるわねぇ。これは、優勝も狙えるかしらぁ?」

 

「やるなら狙うわよ。そもそも、優勝賞品が狙いだもの」

 

 そう、私の狙いは優勝賞品。運営側の神仏魔王によって、世界に混沌を齎さない範囲で願いを叶えるというもの。私はそれを狙っている。

 

 その優勝賞品を使い、私は禍の団関連での復興資金を上乗せする。ポーズで済ませるような半端はしない。

 

 瞼の裏の笑顔に誓い、約束された勝利を刻む。その決意は私を闇から引っ張り上げた。だからこそ、それを形にし続ける。

 

 それに、私は和地と共にありたい。せめてそれは容認させてみせる。そのためにはやることはやっておかないと。

 

 ミザリ・ルシファーの所業。その責任の大きな要素を持つ者として。かつて邪悪に染まり、下劣な悪意を振りまいた責任を取る。それは私の人生における必要経費。

 

 だから、こそ。

 

「頼りにしてるわ。……力を貸してくれる?」

 

 この言い方は卑怯かしらね。

 

 ええ、だって―

 

「「「もちろんっ」」」

 

 ―分かり切っているもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はレイヴェルと一緒に、いろんなところに行ってメンバーになってくれないか探ってみてた。

 

 見てたけど……思ったより芳しくないな。

 

「どうする、レイヴェル?」

 

 俺がその辺を聞いてみると、レイヴェルも少ししょげた雰囲気だった。

 

「そうですわね。イッセー様は指折りの実力者となっておりますから、そのチームというのは気後れするのも当然でしたわ」

 

 なるほどなぁ。

 

 俺って、もはや神すら倒せる冥界の英雄になっちゃってるからなぁ。やっぱ、その一員になるっていうのは心理的に負担がデカいのかぁ。

 

 うぅ~ん。できればそれなりの形にしておきたい。レイヴェル達眷属メンバーも十分頼りになるけど、多いに越したことはないからなぁ。

 

 さて、どうしたもんか?

 

「……ヒマリに断られたのが……きついな」

 

「ヒツギさんが先に確保してましたものね。……そっちになる可能性は十分ありましたわ」

 

 そうなんだよなぁ。

 

 あ~! 何とかしたいけど、これは俺達が頑張っただけでどうにかなるものでもないし!

 

「くっ! 九成達は、今頃ハーレム軍団とか作ってるんだろうなぁ~! 羨ましい!!」

 

 俺は思ずぼやくけど、ただレイヴェルは首を横に振った。

 

 あれ? 違うの?

 

「そう簡単には行きませんわ。あの方々も、色々とありますもの」

 

 そ、そうなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まず、二人が参加してくれたのはマジで助かる。助かるけど……っ」

 

 俺はちょっと崩れ落ちかけていた。

 

「だよね。うん、あの二人がアウトなのはキツいよね」

 

「ま、カズヒ達が別チームなのは分かり切ってたけどなぁ?」

 

 そう、カズヒが別チームを率いる以上、鶴羽に期待はできなかった。

 

 ただ問題は―

 

「リヴァ先生と春っちが、それぞれ別チーム参戦なのがキッツイ!」

 

 ―あの二人が、アウトなのはキッツイ。

 

 それもこれも、あの二人はそれぞれ別口のチームにスカウトされて承諾してしまったからだ。

 

 リヴァ先生は立場が立場だから予想もできていたが、春っちは想定外だ。

 

 というか―

 

「……冥革連合がチーム作るとか、想定外だろ!?」

 

「あいつら分かりやっすいから信用がおけるもんなぁ」

 

 ベルナが言う通り、とても分かりやすいところがあるからな。

 

 はっはっは。まさか監視役がつくとはいえ、アザゼル杯に問題なく参戦とはな。

 

 ま、ヴァーリもヴァーリで参加するらしいしな。それも監視役なしらしいし、なら尚更か。

 

 これは、割と始まる前から大変なことになりそうだなぁ……うん!

 




 第二部の幕間はこんな感じで、次の章に絡める形で小話に近い感じにしていこうかと思っております!


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第二章 大会開幕編
大会開幕編 第一話 ニューフェイスも色物です!


 はいどうもー! ちょっと疲れがたまっていますが、それでも200kb以上余裕であるからゆとりすらあるグレン×グレンでっす!

 ……さぁ、これより第二章! 22巻後編を巻き込む形で始まる物語でっす!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~……っ」

 

 始業式も一通り終わり、俺は一人で少し伸びをする。

 

 ついに俺も高校三年生。ふぅ、なんというか感慨も多少はあるな。

 

 それはそれとして俺も色々と忙しいけど。主にアザゼル杯関係で。

 

 思わぬところで足元躓いているからな。チームメンバー関係で。

 

 いや、結構なメンツが参加を決定していたうえ、安全牌だと思っていたヒマリがヒツギにとられたのが痛い。

 

 さて、となるとどうしたものか。まだ時間はあるけど、どうせ参加するなら優勝の可能性ぐらいは欲しいからなぁ。

 

 その辺を考えていた時だった。

 

「てめえ、ふざけんなよ!?」

 

「あ? んだとコラァッ!!」

 

「ちょっとそこ、喧嘩はやめなさいよ!!」

 

 ……喧嘩か? 聞きなれない声だが、一年生か?

 

 入学でテンションが上がった時に、イラっときてどんどんヒートアップってところだろうか。あまり大ごとになるのもな。

 

 仕方がない。止めに行くか

 

 俺は足早に近づくと、喧嘩の現場に辿り着く。

 

 男子数名と女子一名。見る感じだと、男子の一人が複数人と揉めていて女子が止めに入った感じか。

 

 そして流れるように割って入る女と、揉めている男子一名の動きが違うな。これ、結構身体能力が高そうだ。

 

 とは言っても、殴り合いになりそうだからそろそろ止めるか。見る限り一年生だけだし。

 

「おいそこの一年生共。入学式早々から喧嘩するな~」

 

「……先輩の方っすか? 関係ないでしょすっこんでてくれませんすか?」

 

 お~。一人で揉めてる方は中々に言ってくれる。

 

 ただそういうわけにもいかなくてな。

 

「後輩が校内で喧嘩してたら困るだろ。というか、喧嘩の原因は何だよ?」

 

 入学式早々で暴れられても困るしな。とりなせる範囲内でとりなさないと。

 

 と、複数人側がこっちに勢いよく振り返る。

 

「この野郎が因縁つけてきたんだよ!」

 

「そうだよ! 別に悪いこと難もしてねえのにいきなり「クズ共が」とか言いやがるし!」

 

「で、文句言ってきたら「クズの群れが吠えるな」とか言い返すんですよ!?」

 

 ……。

 

「そこだけ聞くと100%お前が悪いが、反論はあるか?」

 

 想いっきり喧嘩を売ってるじゃねえか。

 

 声の大きさによってはどう関わるが、この調子だと堂々と言っているみたいだな。周囲の一年生も少し引き気味だし。

 

 なんだこいつ。いきなりそれとか、いったいこの連中は何をしたんだと―

 

「……女を見て鼻を伸ばす奴は屑以外の何物でもねぇだろうが!!」

 

 ―ん?

 

 なんか相当キレてるが、え、どういうことだ?

 

 最近多いツイフェミとかそういう手合いだろうか。あれ、男女問わずいるとか聞いていたけどここにもいたのか。

 

 まずいな。特にイッセーとか松田とか元浜とかが不安だ。絡ませるとまずい。

 

 悪い意味で有名人から良くも悪くも有名人止まりになっているんだが。絶対この手のタイプはあれな気がするぞ。

 

「いや、あのさ? ちょっと落ち着きなって」

 

 と、割って入っていた女子の方が宥める様に手を前に出している。

 

「落ち着こうよホント。可愛い女の子見てちょっとテンション上がってはしゃいでただけじゃん? 女子だってかっこいい男見かけたらテンション上げるって、普通」

 

 おお、大人な意見。

 

 これに乗っかる形でとにかく宥めようと思ったが、その瞬間風が吹いた。

 

 あ、スカートがめくれそうだから視線を逸らさないと。

 

 そう思った瞬間、目の前の男が凄い勢いで顔面を殴りつけた。

 

「煩悩抹殺っ!!」

 

『『『『『『『『『『うわぁああああああっ!?』』』』』』』』』』

 

 あまりに勢い良すぎて、思わず一斉に大絶叫だよ。

 

 しかもそう思ったら、どこからともなく警棒を出すと自分のまたぐらを全力で叩きだした。

 

「煩悩完殺! 煩悩全殺! 煩悩確殺!!」

 

「落ち着けバカ! 全力で落ち着け!!」

 

「よっし落ち着こう! 冷静にね!?」

 

 慌てて女子と共に組み付いて止めたが、その瞬間、そいつは更に震えると。

 

「……欲情絶殺ッ!!」

 

 舌を噛もうとするなぁああああああっ!!!

 

「何やってるの?」

 

「ふはっ!?」

 

 あ、カズヒ。

 

 流れるように抜き手を胸部に叩き込んで、その勢いで沈黙させたよ。

 

「……え?」

 

「今、何が……?」

 

 唖然とする男子生徒達に、カズヒはパンパンと手を鳴らした。

 

「風紀委員特別部隊の三年生、カズヒ・シチャースチエよ。肺の空気を吹っ飛ばして失神させただけだから安心して。あと生徒会長が変なことしてたら、そっちが専門だから呼んで頂戴?」

 

『『『『『『『『『『生徒会長専門の風紀委員!?』』』』』』』』』』

 

 うん、はたから聞いたら困惑確定だよなぁ。

 

 あ、ゼノヴィアも来た。

 

「なんだなんだ? どうしたカズヒ」

 

「あらゼノヴィア……生徒会長。それが自殺未遂が起きたみたいで」

 

 ゼノヴィアとカズヒが話始めたので、俺も情報を提供した方がよさそうだろう。

 

「なんかそこの男子達が可愛い女子見てはしゃいでたら、ツイフェミかお前はってぐらいの勢いでこいつが罵倒してきたみたいでな。止めてたら急に自傷行為を始めたんだよ」

 

 イヤホンと、ちょっとついて行けてない。

 

 ただちょっと嫌な予感が。

 

「……なるほど。なら起きたら私が立ち会うので拳で決着をつけるといい」

 

『『『『『『『『『『なんで!?』』』』』』』』』』

 

 一年生総ツッコミだよ。

 

 ただゼノヴィア、割と真面目に言っているから始末に負えない。

 

「本気でぶつかり合えば意外と仲良くなるものだ。私も当初はイッセーとは嫌いあっていたが、今ではあいつ以外の子供を孕みたいとは思わないからな」

 

『『『『『『『『『『え、えぇ……?』』』』』』』』』』

 

「ゼノヴィア。ストレートにそういう事言うのやめなさい」

 

 カズヒがさらりとツッコミを入れてから、パンパンと手を叩いて再び注目を集める。

 

「とまぁ、うちの生徒会長は善良だけど暴走特急なの。つい先日は不良高校に殴り込みして国際テロ組織の本部を発覚させたこともあるから気を付けてね?」

 

「うん。弟が不良に自転車とられたなんて騒ぎからどんなピタゴラスイッチなんだろうな」

 

 俺もその辺は本当に頭が痛い。

 

 そしてもう、一年生達はドンビキ状態だし。

 

「おお~っ! 漫画みたいな展開ですね! え、ここはバトル漫画の世界なんですか!?」

 

 女子の一年生は割とノリがいいな。それはそれで困るんだが。

 

 今後はないことを願いたい。いや、ありそうで怖いけど。

 

 ただカズヒは肩をすくめると、ゼノヴィアの方に振り向いた。

 

「そうそうゼノヴィア。生徒会長の貴女に頼みたいことがあるのよ」

 

「なんだ、カズヒ。どうかしたのか?」

 

 ん? なんだなんだ?

 

「どうしたんだ、カズヒ?」

 

「いえ、勇ちんとディーレンから頼まれたことがあって。それなら生徒会長のゼノヴィアに聞くのが手っ取り早いから―」

 

 俺にそうカズヒが応えた時……だ。

 

「……勇ちん? その人が接木勇儀のことなら、もしかして私の事ですか?」

 

 なんか女子の方がそんなことを言ってくる。

 

 え、どういうこと?

 

 俺とゼノヴィアが思わず顔を見合わせていると、カズヒがはたと手を打った。

 

「貴女が勇ちんの娘、接木優華(つぎき ゆうか)さん? ……となると、あとはディーレン側の窪川蓮夜(くぼかわ れんや)と接触すればいいわけね」

 

 おお、勇儀さんの娘さんか。

 

 なるほどなるほど。そりゃカズヒに一言言っておくよ。

 

 しかも引岡さんの子供もここに来たのか。名前からすると男っぽいけど、誰なんだろう。

 

 そんなことを思っていると、周囲の一年生達から手が上がった。

 

「あ、あの……」

 

「あら、貴方が?」

 

 カズヒが聞くと、その少年は首を横に振る。

 

 ふむ。つまり知っている奴がいたという事か。

 

 なら誰がと思ったら、その少年は指をこちらに向ける。

 

「……窪川はそいつです。今先輩が鎮圧した奴……です」

 

 俺達は、視線を集める。

 

 この茶髪を坊主頭にした、こいつが?

 

「すいません。そいつ性的にもの凄く潔癖な癖して根がスケベで。ラッキースケベに巻き込まれそうになると凄い勢いでそういうことするんです」

 

 ………。

 

 俺は、ふと空を見上げた。

 

 今年も、色々と騒がしい学園生活になるな、これは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~。たまの休日に昼酒……最高……っ」

 

「へいへい。お前もしかして苦労してんのか勇ちん」

 

「ったり前だろディーレン。こっちは大絶賛起業直後なんだよ、忙しいんだよ!」

 

「そりゃたまの休日ははしゃぎたいか。……こっちはこっちで面倒なことになっててなぁ……お姉さん、ビール三杯ぐらい持ってきてくれ!!」

 

「……何があった?」

 

「息子の方がかなりこじらせててなぁ。あいつツイフェミじみてるというか、潔癖症こじらせて去勢が合法になることを絵馬に書くぐらい追い詰められててなぁ?」

 

「いろんな意味でヤバいなオイ。確かそろそろ高校生だろ? どこ行くんだ?」

 

「……駒王学園高等部」

 

「お前のもか。うちも娘の一人がそこに決まっててなぁ?」

 

「そっかぁ。苦労かけそうだな」

 

「ま、あいつはトラブルメーカーじみてるがいい奴だからな。今度それとなく言っておくよ」

 

「……」

 

「……」

 

「……やっぱ頼んだか? 日美っちに」

 

「……ああ。だっているじゃん?」

 

「「……頼んだぞ、日美っち……っ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、暴走した窪川蓮夜及び、ついてきた接木優華を連れてきたのはオカ研部室がある旧校舎。

 

 っていうか窪川か。一応離婚してたから引岡じゃないんだな。

 

「……で、申し開きはあるかしら?」

 

「女に情欲の視線を向けるやつは屑です。そんな奴は虐げられなくてはいけないでしょう?」

 

 カズヒに真っ向から見られながら、堂々と言い返す根性はあるようだ。

 

 そしてその目には強い意志がある。これは何か言ったところで受け入れないだろう。そういう意思が見えている。

 

 そして真っ直ぐに向き合ってカズヒを見据え―

 

「煩悩根絶っ!!」

 

 ―そのまま頭を床にぶつけるな!

 

「……なんか私、一週回って面白くなってきましたっ」

 

 優華の方はもう楽しそうになってきてるな。はたから見てる分には確かに面白いかも。

 

 ただ間違いなくこいつを放っておくと、ややこしいことになるだろうなぁ。

 

「落ち着きなさい。今ので煩悩出てくるとか正気?」

 

 カズヒもストレートに突っ込むけど、蓮夜の奴は真っ直ぐに目を見て反論の構えだった。

 

「当たり前です! スカートがあるから角度的に見えないけど確かにスカートがあるという事実。視覚距離からくるチラリズムに煩悩がわかなくてどうするんだ!!」

 

「お前実はスケベだろ!!」

 

 俺はもの凄くツッコミを入れてしまった。

 

 おい、こいつ絶対スケベだろ。性欲ありまくってるだろ。

 

 今の状態でそっちに意識が向くとかスケベに決まっている。

 

「当たり前だ! 俺の親父は、母さんだけで性欲を発散しきれない性欲の奴隷なんだぞ!!」

 

「真顔で言うか?」

 

 俺はストレートにツッコミを入れるが、蓮夜の奴は絶望の表情すら浮かべている。

 

「俺もいつかは性欲に呑まれて醜態をさらすかもしれないんだ。……それを断ち切る為にも、少しでも欲望が生まれない環境を作って去勢したいってのに……なんで、なんで「学費とバイト許可が欲しいなら、女子が多い高校に進学しろ」なんて言うんだ、母さん……っ」

 

「「「それ絶対ショック療法!!」」」

 

 俺達全員、一斉に突っ込んだよ。

 

 完璧にあれだ。父親に対する反抗心と自己嫌悪が絡み合って、徹底的なレベルで反発が強くなっている。

 

 折り合いを何とかつけさせないとまずいな、これは。

 

 つまるところ、引岡さんの方がカズヒに頼ったのはそういう事かぁ。

 

 自発的に去勢を目指すとか、こじらせてるなぁ。坊主頭なのはあれか、当初は仏教系学校行って僧を目指すという事か。

 

「……はぁ」

 

 あ、カズヒはため息をついた。

 

「阿呆の極みね。そんな方法ではいずれ暴発して余計な被害を生むか、心病んで不幸な死を迎えるわ」

 

 そう言い切ったカズヒは、その上で胸を張って宣言する。

 

「そんなに己を超えたいのなら、私が性根を叩き直してやる!! 特別風紀委員隊に入りなさい!!」

 

「……え?」

 

 思わずきょとんとする蓮夜だけど、カズヒははっきりと断言する。

 

「特別風紀委員隊は、教室で堂々とコンドームを取り出し、まず子作りの練習をしようとほざいた実績を持つバカを止める為の部隊。あんたにとっても尊敬できるところがあるでしょう」

 

「そんな煩悩の権化が生徒会長っ!? そんな、あの女性ってそんな馬鹿なんですか!?」

 

 反論できない……。

 

 頭はいいし勉強はできる。だがどこか天然で馬鹿なことをよくするんだ。

 

「貴方は貴方が立ち向かうべきものを見直しなさい。全てはそこからよ」

 

「……いいでしょう。その真意、見定めさせてもらいます!!」

 

 ………。

 

「大丈夫なんだろうか?」

 

「いやぁ。見てる分には面白い毎日になりそうですよ?」

 

 優華ちゃんは呑気だねぇ。

 

 俺は俺の最愛の女性が苦労することを考えると、気が気じゃないってもんですよ……はぁ。




 そんなこんなで、一年生のオリキャラも追加です。

 接木勇儀と引岡=F=ディーレンの子供が登場! 今後もチョイ役ですが毎回顔出しさせたいところです!


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大会開幕編 第二話 忘れられがちだが、駒王学園は偏差値高いのである。

 ハイどうも! 職場変わってひと月のしないうちに、仕事が思った以上に舞い込んで残業が確定したグレン×グレンです! ちょっと使えて書き溜めは消費気味ですが、まぁまだまだあるからそこはご安心を!

 本日も日常フェイズとなっておりまっす!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことがあった」

 

「始業式早々疲れたわ」

 

「……お疲れさんっ」

 

 教室の席でダレる九成とカズヒに、俺はそう言うしかなかった。

 

 引岡さんと接木さんの子供が来てるってのはともかく、引岡さんの子供が曲者すぎる。

 

 え、マジで? 年頃の男のくせして、なんでそんなに潔癖なの?

 

 自分から性欲を断ち切る為に、去勢を目指す? もう発想から理解できないしドン引きだよ。

 

 あ、でも見えないんだけどきわどい角度のスカートが生むエロさには賛同する。あれは納得だよ。

 

「……まとめるけどさ。それって自分のエロさと折り合いつけててないだけじゃね?」

 

「でしょうね。このまま拗らせて変な方向に行くか、逆にプッツンいって馬鹿なことするかの二択になりそうだわ」

 

 カズヒが俺の意見にそういうと、すっごい溜息をついた。

 

「いやはや。また今年の一年生は……濃いのが来たね、色々と」

 

 木場もなんか苦笑してるし。

 

「一昨年入学して少しした時の、イッセー君関連の騒ぎを思い出すよ。いや、真逆だけど」

 

「悪かったな、エロくて」

 

 ま、あの頃は俺も色々と周りが騒がしかったなぁ。

 

 ……まぁ確かに、冷静になると騒がしいな。最近はめっきり嫌われなくなったけど。同情の視線は向けられている気がするが。

 

「それはそうじゃん? 流石に公序良俗の類は無視したらダメだって。……ひきつけ起こして倒れるほどってのもあれだけど」

 

「ふふん。男の子は基本的にエロですわよ? 男女関係に限らず、共存共栄は相互理解と配慮と寛容が必要なものですの」

 

 ヒツギに呆れられてヒマリにフォローされるけど、逆に言うとそのレベルかよ。

 

 なんか凹むなぁ。

 

「酷くね、全員」

 

 俺はちょっとむくれて机に突っ伏すけど、ゼノヴィアはなんか思い出したのかうんうんと頷いていた

 

 

「ふむ。確かにかつての生徒会関連で資料を見ると、イッセー達に対する警戒度合いは酷かったね」

 

 え、マジかよゼノヴィア。そんなに俺って悪目立ちしてたのか。

 

 世界って、スケベに厳しい……っ!

 

「あ、ダーリンが更に凹んでる。大丈夫、おっぱい揉むって日本じゃいうのよね?」

 

「そ、そうだったんですか!? い、イッセーさんしっかりしてください」

 

 なんか妙な日本文化にイリナとアーシアが動きそうになるけど、その後頭部をカズヒが素早くハリセンで張り倒す。

 

「落ち着け阿呆信徒共。それはネットだけの特殊文化と心得なさい」

 

「いやぁ。だったらアーシア達が現実に示して痛い痛いイタイ!? ちょ、容赦なくアイアンクローやめて!?」

 

 あ、カズヒの説教をまぜっかえした桐生が撃墜された。

 

 カズヒもそろそろ堪忍袋の緒が切れかけているのか、割と容赦なくなってきたな。相手が一般人なんで、かなり加減はしてるけど。

 

「桐生? いい加減なアドバイスはそろそろ本気でやめなさい。何度も言うけど今後アドバイスをしたのなら、自分で実践して映像記録を見せて解説しろと何度言えば……っ」

 

「その辺にしときなってカズヒ。いやまぁ、一回ガチで〆た方がいい気もするけど」

 

 キレかけてるカズヒを南空さんが宥めるけど、いやホントに騒がしいなコレ。

 

 ……とまぁ、三年生になってクラス替えもあり、俺達も色々と変わっている。

 

 今後、D×Dでの活動も考慮したクラス替えだ。俺達オカ研側の二年生は一か所に集まってるし、シトリー眷属は隣のクラスに集められている。南空さんも九成のこともあったから、こっち側に切り替えられた感じだ。

 

 ま、松田や元浜もいるんだけど……あれ?

 

「イッセー、聞いているか? このクラスに転入性が来るらしいぞ?」

 

「可愛い子かな? ふふ、ちょっと楽しみだぜ」

 

 と、俺より先に耳寄りな情報を持ってきただと!?

 

 おいおいまじかよ。可愛い子だといいな……イタイイタイ。

 

「イッセーさん。スケベなことなら私達がいるんですよ?」

 

「そうだな。周りに目が行く前に、まずは私達にぶつけるといい」

 

「まったくですの! ほら、おっぱいに触れて落ち着きますのよ~?」

 

 うぉおおおお! アーシアが嫉妬してゼノヴィアが説教してヒマリがおっぱいをおおおおおおおおっ!?

 

「「糞が……っ!」」

 

「落ち着けお前ら、いやマジで」

 

 松田と元浜に殺意を向けられるけど、九成がそこを止めてくれた。

 

 ただ九成、割と頭痛を堪えてないか?

 

「落ち着け。人生初生〇〇〇を見たばかりだろうがお前ら」

 

 九成がそう言って、松田と元浜を宥めてくれた。

 

 ………ん?

 

 ちょっと状況がついてこれなくて、教室が固まった。

 

 え、どういう事?

 

 と、そこで二年生の時から同じクラスだった奴が手を挙げる。

 

「……そういえば、シチャースチエさん。転校時の挨拶で二人に行ったこと……マジでやったの?」

 

『『『『『『『『『『あ』』』』』』』』』』

 

 それで俺達は思い出し、九成は額に手を当てると少し俯いた。

 

 そういえば、転校して教室で挨拶した時そんなことになってたな。

 

 血判状作ってイリナに控えを持たせてまで、「二年生の残り時間で覗き関係をやめ続けたら、パンツの中を顔面に押し当てるって。

 

 そうそう。そんなこともあったけど、知らない奴はやはりいるか。クラス替えしてるから、直接聞いてない生徒の方が今の教室には多いだろうし。

 

 そしてカズヒはさらりと頷いていた。

 

「当然、私は信徒よ? 職務上つかざるを得ない時以外に嘘は言わない。……特別風紀隊でも頑張ってくれているし、手もサービスで使ったわね」

 

 さらりとそう言うけど、九成はため息をつくと缶ジュースを煽った。

 

「ま、きちんと前もって相談したうえでなら文句は言わないさ。あんまり偉そうなこと言える性遍歴じゃないし」

 

 ま、九成って性遍歴がアレだけど。

 

 ただまぁ、知らない奴もいるし知ってるにしてもマジでやったわけだし。

 

 だから沈黙が響くその時だった。

 

「まぁそうですわね。和地ってばそっちのテクも優秀で、とっても人気ありましたもの……ね、鶴羽?」

 

「あ~ま~大人気ではあった……わぁらぁばぁっ!?」

 

 余計なことをヒマリが言いやがった。

 

 そしてノリツッコミならぬノリ卒倒を南空さんがかました。どうやら流れるように言われたので、つい素直に言っちゃったんだ。そして我に返って恥辱で失神したんだ!

 

 ……俺達が頬を引きつらせながら周囲を確認した、その時―

 

「―ん? となるとイッセーは将来的に和地の穴兄弟ですの?」

 

 ―天然で何首を傾げちゃってますかヒマリさん!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『ええええええええええええっ!?』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、流石にまずいので記憶操作が施されることになった。

 

 あとヒマリはあとで一時間ぐらい説教された。当然だよね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、騒がしいことになったけど始業式のホームルームもそろそろ始まる。

 

 流石に始業式だからすぐに終わるけれど、これからを考えるとこういった節目は大事だしね。

 

「はい、皆さん静かにしてください。始業式です、三年生の始まりですからね?」

 

 そう言いながら入ってくるのは、この教室の担任となったロスヴァイセさん。

 

 この辺り、オカ研側が活動することを徹底しているとも言えるね。もっとも、彼女は勤勉で優秀だから担任となるに相応しいけれどさ。

 

 さて、これから一年を過ごすクラスメイト達との始まりだ。僕も気を引き締めて迎えるとするかな。

 

「……それでは、早速ですがこのクラスは転校性を二人迎え入れます」

 

 ロスヴァイセさんはどこか戸惑いながらそう言うけれど、少し違和感があるね。

 

 おそらく、この流れならリアス姉さんが手を回したんだろう。つまるところ、鰐川亜香里と望月有加利の二人が転入してくるはずだ。

 

 これまでの定番パターンだしね。リアス姉さんならそうするだろうし、相手が魔王血族ならなおのことだ。

 

「では、入ってきてください」

 

 そうロスヴァイセさんに促され、教室のドアが開く。

 

 ……あれ?

 

 そこに入ってきたのは見覚えのない二人。

 

 ただ、一人はどこかカズヒに似た雰囲気を持っている。

 

 二人は仲良さそうに隣だって教卓の前まで来ると、チョークをもってきれいな日本語を書いた。

 

「初めまして、これから一年間お世話になります、ヴィーナ・ザンブレイブです。よければ今度、みんなで遊びに行きましょう♪」

 

「……シルファ・ザンブレイブです。同じく一年お世話になります」

 

 ……あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一つ聞きたいんですけど、もしかして有加利と亜香里って学年違いました?」

 

 俺はそっと席を外すと、リアス先輩にそれを確認する。

 

 てっきりサプライズをまたやるのかと思ったら、思わぬ展開でちょっとびっくり。なので少し確認のために電話をしたわけだ。

 

 すると電話の向こうで、リアス先輩が苦笑している雰囲気だった。

 

『……落ちちゃったの』

 

「はい?」

 

 俺が聞き返すと、リアス部長はちょっと言いにくそうな雰囲気だったが―

 

『亜香里の方は落ちちゃったのよ、転入試験』

 

 ―と、中々な情報をぶっこんでくれた。

 

 いや、冷静に考えれば驚くほどのことではないな。

 

 冷静に考えると駒王学園高等部は名門校だ。そりゃ普通の落ちる連中も出てくるだろう。

 

『ちなみに有加利は当時三年生だったから、大学入試試験を受けさせたら合格したの。私達が面倒を見ることになるわね』

 

「あ、そうなんですか。じゃ、あとでその辺りもつつきますか」

 

 いやいや、まさかそういう流れになってたとはな。

 

 ……なるほど、落ちたか。

 

 カズヒも苦労しているしなぁ、それだけ難易度が高いというか。駒王学園は勉強ができるやつの場所というか。イッセーも平均点ぐらいは取れているから、高校生の全体で言うなら上側なんだよなぁ。

 

 ちなみに俺はかなり優秀側だ。自慢じゃないが英才教育を真剣に受けているから、ポテンシャルは高い。日本の国立大学に受かる自信がある。

 

 ちょっと自分に自信を持ちながら入ってくると、既に教室はザンブレイブの二人に集まっている。

 

「二人ってもしかして姉妹なの? ちょっと似てないけど……二卵生の双子とか?」

 

「あ、義理の姉妹ってところかな? ちょっと説明すると時間がかかるから……またあとでね?」

 

「なるほど、義理の姉妹。……興奮すベハッ!?」

 

「そこ、お姉ちゃんに変な色目を使わないで」

 

 ……とりあえず色々と人が集まっているな。

 

 と、俺やカズヒの方に視線が合うと、二人とも会釈をしてくれる。

 

 ま、この流れだとちょっと話をするってタイミングでもないな。後で時間を作るとするか。




 あんまりそういった部分が指摘されないけれど、駒王学園に入学するのが大変だったとイッセーが原作で語っております。

 そんなわけで、転入試験に落ちた亜香里。地方の普通の高校出身なので、駒王学園高等部はレベルが高かったといったところです。

 


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大会開幕編 第三話 無自覚に口説き倒す男とは大概面倒である

 はいどうもー! 最近忙しくてちょっと投稿速度が滞っていたグレン×グレンでっす!

 まだ不通に書き溜めは200kb以上ありますので、そこはご安心を!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、俺達オカ研は部室ではなく、町内の喫茶店を事前に貸し切っていたリアスの呼びかけて集まっていた。

 

「……と、いうわけで私達も新年度からの心機一転を祝って、ちょっとしたパーティといきましょうか」

 

 そうリアスが前置きしたうえで、みんながグラスを持つ。

 

『『『『『『『『『『かんぱーい!』』』』』』』』』』

 

 そしてグラスを打ち付け合って、みんなで色々とパーティの始まりだ。

 

 いやぁ、俺も駒王学園に入学した時はこんなことができるだなんて思ってなかったぜ。

 

 ……あの頃は、ハーレム王を目指していたけどできるビジョンが全然浮かばなかった。それが上級悪魔になって眷属も持ってるからなぁ。人生何があるか分かったもんじゃねえ。

 

 ま、俺も今日は楽しむかって感じだけど……。

 

「……うぅ~。あの試験難しすぎだよぉ~」

 

「あはは……。ま、ドンマイ」

 

 割と凹んでいる亜香里のフォローもしないとな。

 

 テーブルに突っ伏して落ち込んでいる亜香里だけど、ま、兵藤邸の世話になることに変わりはない。

 

 変わりないのがキツいのか。ま、自分だけ別の高校ってメンタルが削れそうだなぁ。

 

 ただ、駒王学園って偏差値高いからな。俺も一生懸命煩悩の炎で頑張ったけど、基本的に成績は赤点回避とか平均点とかだし。リアス達のような才媛には負けるぜ。

 

 ま、だからってそこまで気にする必要はないさ。

 

「あんまり気にすんなよ。学校が違うぐらいでそこまで酷いことにはならねえさ」

 

 あんまりうまいことは言えないけど、そこは安心してほしい。

 

 だってそうだろ? 友達が進学する学校が違うなんて、そんなに珍しい事でもないし。それに一緒の家に住むなら、それぐらいのことで大きな変化はないって。

 

「俺は亜香里の友達さ。もうなってるんだから、学校が違うぐらいで態度なんて変えねえよ。そんなに器用じゃないし」

 

 うん。そんな難しいことをする気はないし、したいとも思わないし。

 

 ……それを言ったら、既に大学に行っているリアスとかどうなるんだよって話になるしな。

 

 うんうんと自分で自分に頷いていると、なんか亜香里は急にうずくまってる。

 

 あれ、なんか気にしちゃったか?

 

「そ、そういうの、当たり前に言ったら駄目だと思うよ?」

 

 ……あれ? なんか顔を赤くしてるぞ?

 

 え、俺そんな怒られるようなこと言ったっけ?

 

 ちょっと戸惑っていると、後ろから勢いよく抱き着いてくる感触が!

 

 このおっぱいの感触は、ヒマリか!

 

「ふっふ~ん! イッセーったらハーレム王街道に妥協が無さすぎですよの?」

 

「え、どゆこと!?」

 

 なんでそこでハーレム王の道が出てくるんだ!?

 

「むぅ。これがイッセーという事なのじゃな? 油断も隙も無いとはこういう事か」

 

「……ええ。本当に、油断も隙も無いところがあるのよ」

 

 九重がなんか感心しているし、リアスもなんか呆れてるし。

 

 え、俺なんで責められ気味!? フォローしただけでそんなこと言われるとか、酷くない!?

 

 畜生、マジでなんでだ!?

 

「……なんか、イッセー君がごめんね?」

 

「気を付けてください。イッセー先輩、こうなんですぅ」

 

 木場とギャスパーまで亜香里にフォローを入れてるし。俺のフォローをしてほしかった……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか、イッセーを基点として話が盛り上がる中、亜香里は顔を真っ赤にしながら一旦距離をとっていた。

 

「有加利ちゃ~ん。ちょっとその、なんか……う~っ!」

 

「はいはい。亜香里も大変ね」

 

 そのまま有加利に逃げ込むと、有加利も苦笑しながら頭をなでて落ちつかせる。

 

 うんまぁ、ナチュラルに口説いてたな。

 

 ああいう事が言えるから奴はモテる。そして情に厚いから何とかする為に体も張る。なので惚れ直す。以下無限ループ。

 

 本当に、スケベの度が過ぎるというガントリークレーンが無ければ優良物件すぎる。駒王学園高等部に入学して赤点回避し続けてるし、能力も優秀なんだよ。

 

 ……まぁ、我慢するだけでひきつけを何度も起こすレベルのスケベだしなぁ。周知されているうえにその上で我慢し続けている昨今、イッセーの評価が大幅に上がるのも当然と言えば当然か。

 

 俺はその辺りを紅茶を一口飲みながら考えると、あえて踏み込むことを考えてみる。

 

「因みにイッセーはハーレム王を目指し、ハーレムを作る為に上級悪魔を目指した男だ。性格上頑張って全員愛そうとするだろうし、その為の努力は惜しまない」

 

 うん、改めて言うが中々に良物件ではある。

 

 一年足らずで上級に昇格した時点で、能力はある。子供に大人気のおっぱいドラゴンなんて存在でもある以上、魅力も財力も十分ある。

 

 もはやハーレム王の道は確定だ。間違いなくハーレムを作れる男だ。

 

 割とお勧めできる男ではあるわけだ。

 

 その辺り、ちょっと聞いてみよう。

 

「その辺どうなんだ? 少なくとも、一緒になれば全力で愛してくれる男だぞ?」

 

「あ~、そうなんだけどね~」

 

 お、顔が赤くなってるところもあるし、これは脈ありか?

 

 ただ、亜香里だけでなく有加利も含めて、少し雰囲気が沈んでいた。

 

「歩人君のこともあるから、まだそんな気になれない……かな?」

 

 ……なるほど、な。

 

「……そうよね。歩人君も町も皆も、あんなことになったしね」

 

 有加利も少し沈んでいるが、それもそうだ。

 

 自分達が深く関与する形で、多くの人達が失われた。更に、仲の良かった男子が自分達を助ける為に犠牲になった。

 

 つまるところ、歩人って奴は二人にとって大事な人だったんだろう。だからこそ、尚更重い。

 

 そうだな。そこは時間が必要だろう。必要な時間だと、そう思う。

 

「分かった。ま、無理に推し進めるような真似はしないさ」

 

 俺はそう言ってから、話を打ち切る前に一つだけ。

 

「ま、あいつは本当に基本は優良物件だからさ? 気に入ったんなら迫ってもバチは当たらないぞ? ハーレム願望を叶える男だから、増員は大歓迎だろうし」

 

 その辺りは安心してほしい。いや、日本人としては安心できないかもだが。

 

「……君もだと思うけどね」

 

 ちなみにぽつりとそんな有加利の言葉が聞こえてきた。

 

 うん、俺はまぁ……大歓迎ではないけど無理に追い払ったりはしないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ。で、大学生活はどうなの?」

 

「始まったばかりだけど楽しみだわ。ふふ、新しくサークルを立ち上げようと思ってるの」

 

「ふっふっふ。その時はお世話になっちゃおうかな~? 先生もお世話になっちゃおうかな~?」

 

 と、私が話を振るとリアスもリヴァもノリノリで返してくる。

 

 リヴァも大学進学を考えていたけれど、これを機に実行。ノリノリで大学生活を楽しもうとしている。

 

 まぁ、本命は私達が入学してからになるでしょうけど。タイミングをそっちに合わせるつもりかと思ったけれど、この女最悪留年してもいいとか思ってそうね。

 

 ま、それはいいでしょう。

 

「で、どうするのかしら? どうも我らが二大巨頭、またしてもフラグを立ててるけれど」

 

 私は肩をすくめるけれど、なんかジト目が向けられた。

 

「「カズヒが言う?」」

 

 失礼な。

 

「私はむしろ大歓迎よ。自分の発言には責任持つわよ、私」

 

 そもそも和地がハーレム作ってるのは、そういう事でしょうに。

 

 しかもメンツは全員、日美子()過去(真実)を知っても受け入れてくれている。感謝することこそあれ、文句をつける理由はない。

 

 ええ、和地にとってとっても幸い。私にとっても悪い話じゃない。

 

 なら問題ないというか、問題が思いつかない。

 

 何より―

 

「それを受け入れられる私でいたいと、かつての経験から強く思ってたもの。素直に受け止められる自分に感謝したいわ」

 

 ―それが私の本音だ。

 

 この価値観を、考え方を、あの時持てていれば何かが違ったろうか。

 

 いえ、私は今の自分を投げ捨ててまで過去をやり直そうとは思わない。なら、私にとってはそれで十分だ。

 

 だから、私はグラスを向けると笑みで答える。

 

「そういうわけで、今年度もよろしくね?」

 

「ふふっ。そういう事ならこちらこそ」

 

 リアスがグラスを打ち付けてくれるけど、その瞬間に後ろから抱き着くリヴァが。

 

 この女、何時の間に!?

 

「くぅ~! ボスってば感激すること言ってくれるんだからぁ~っ!!」

 

「はいはいボスいうな~」

 

 まったく、これは困ったものね。

 

 ……ん?

 

 急にリアスが真顔になったわね。

 

 どうしたのかと思ったら、こちらに複雑な表情で振り向いてきた。

 

「……フロンズから連絡が来たわ。なるべく早く会って伝えたいことがある……って」

 

「「……うわぁ」」

 

 面倒ごとの予感に、私とリヴァは同時にうめいてしまった。




 は~い、次回はちょっとシリアスですよー!


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大会開幕編 第四話 想定外の事態はいつ起こるかわからないから想定外である。

 はいどうもー! 童貞卒業も見えてきており、これらの作品でのエロ短編を作ってみることも視野に入れているグレン×グレンでっす!

 感想返信でかましましたが、その方向性の妄想の結果「赤龍帝達と乱交した衝撃で、前世が恋人同士だと思い出した実の姉弟」という、突拍子もないオリ主の物語を思いつており、われながらとんでもないネタを思いついております。

 何度も挫折したけど一度やってみたいこともありますし、機会があったら書いてみたい今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日の夜、思わぬ形で来客が現れた。

 

 と言っても、数日前から「少し話すべきことがある」と前もって通達はあったようだ。

 

 で、地下に俺達が集まったうえで話をするのは―

 

「……まぁ、手短に済ます努力はさせてもらう」

 

 ―フロンズ・フィーニクスだ。

 

「兵藤一誠の上級就任祝いなどもするべきだろうが、私達は世間話をする間柄でもないのでね。それは書状にして送り、ここでは要件からさせてもらう」

 

 そう前置きするフロンズは、少し疲れている表情だった。

 

 いや、こいつはここ最近とにかく忙しいだろう。大王派の実権を殆ど握っており、その分の仕事は多い。その上で、万が一にでもひっくり返されたりしないように内にも外にも対応をしているわけだ。

 

 その上で、わざわざこっちに来て伝えることがあるという。嫌な予感がする。

 

「……想定外の事態が起きて、厄介な連中が発言力を増してしまった。そちらにちょっかいをかけるかもしれないので、気を付けてほしいという事だ」

 

「どういうこと?」

 

 リアス先輩が促すと、フロンズは頷いて魔法陣を操作する。

 

「実は和平直前に滑り込むように、大王派である計画が進められていた」

 

 そう言いながらフロンズが映し出す文字は、「サウス計画」

 

「……南? どういう名付け方だよ?」

 

「いや違う。これは略称で正式名称はこう書くのだ」

 

 イッセーにそう訂正しながら、フロンズは魔法陣を器用に操作すると、映像に文字が映し出される。

 

「……正式名称、サウザンド=スレイヤー計画。時間流を操作した特殊結界領域内で鍛錬を積み、一騎当千の実力者になる……という名目で作り上げた計画だ」

 

「ってことは、本命の目的は別にあると?」

 

 俺がその辺を突っつくと、フロンズはためらうことなく頷いた。

 

「ああ、はっきり言えばただのガス抜きだ」

 

 ガス抜き、か。

 

 つまり何らかの不満を抑え込む為、はけ口となる禿口を立てることで思考を誘導したという事か。フロンズらしいやり口だな。

 

 そしてフロンズは肩をすくめる。

 

「どの勢力にも過激派はいる。特に和平においては「結ぶにしても悪魔有利にすべきだ」という意見が大王派(こちら)の若手に多くてね。……我が一族の尽力により、悪魔の出生率が右肩上がりなのが仇になった」

 

「なるほどね。悪魔そのものの復興が加速しているのなら、和平をするにしてもそれを後ろ盾に自分達が支配する形にしたいというわけね」

 

 リアス先輩がそう呟くと、フロンズは頷いた。

 

 なるほど、な。

 

 フロンズの家が行った数多くの手法により、全体的は発言率が大王派寄りになるほど大王派主体で出生率が向上した。

 

 必然、若手悪魔はそこから生まれた世代。言い換えれば、種の存続すら危ぶまれた時代を知らない。復興が始まり、これからどんどん富んでいくという安心感ばかりがあるわけだ。

 

 となれば、貴族であることもあって傲慢になる者もいるだろう。そういう連中からすれば、教会や堕天使と和平をする必要性すら思い至らない者も出るかもしれない。むしろ、自分達に少しでも優位にしたいというある種当たり前の方向でとどまっているだけ感謝すべきぐらいだろう。

 

 だが、何よりも絶滅戦争の再開を避けたい側からすれば困ったことだという事か。

 

「そこで私は口八丁手八丁で、そういった貴族達を現実時間で半年ほど隔離させてもらったのだ。……もっとも、手違いで更に三か月ほどかかってしまったがね」

 

 絶対手違い違う。計算づくだ

 

 ほぼ全員の心が一つになっていると理解できる。いやマジで。

 

「……手違いねぇ? 誰かが設計段階からいじってたのかしらぁ?」

 

 リーネスがさらりとつついてみるけど、フロンズは微笑みで受け流す。

 

 その上で素早く操作をして、結界の情報を明かしていく。

 

「因みに説得内容は「無能のサイラオーグがバアル次期当主の座を掴めたのなら、真に才能ある者が同じように鍛えれば、もっと短い時間でそれ以上になって当然。その力を見せつければ天界や教会、神の子を見張る(グリゴリ)も跪くだろうさ」と言ったのだ。彼を引き合いに出せばプライドの折れてない純血悪魔は乗せやすいものだ」

 

 わぁ、凄い冷笑。

 

「あらあら。簡単に踊ってくれるなんて可愛らしい方々ですわね♪」

 

 ドSな笑顔でいじりがいのありそうなやつを見つけた朱乃さんが怖い。

 

 とはいえ、だ。

 

 本来は、フロンズもこれで成果が出るなんて思ってなかったんだろう。むしろそれにより、結界から出た連中にマウントをとるのが目的かもしれない。

 

 なにせサイラオーグ・バアルの鍛錬は、奴の精神力が卓越しているからこそのものだ。生半可な奴では到底耐えられないような心身をいじめる所業、そう簡単にできることではない。

 

 だから結界が解除されたとしても、奴を打倒できるものなどまずいないだろう。九か月で鍛え上げられる前のサイラオーグにすら劣る連中が出てくる()()と踏んでいた。

 

 つまるところ、半分詐欺だ。最初から「これは無理だろう」という条件を付けたうえで、「出来たらいいよ♪」とかいうようなものだ。むしろこれで失敗してもらうことで、「できなかったからダメ」という為に言質とったようなものだろう。

 

 元々純血上級悪魔とは、生まれ持った才覚を自然な成長で高めていくもの。それができるからこそ、それ以外をする発想がまず出ない。D×Dに参加している若手四王(ルーキーズ・フォー)や、あの手この手で組織力を高めるフロンズ達みたいな、優れた努力家の方が少ないわけだ。

 

 だから、こそ。

 

 俺が悟っている内容を、リアス先輩も思い至ったらしい。

 

 小さく冷や汗を一筋流し、リアス部長は真っ直ぐにフロンズを見る。

 

「……成果、出てしまったのね?」

 

「……痛恨の、失敗だといえるな」

 

 ああ、それは確かに問題だ。

 

 何より時期が悪い。具体的には、「運営側の神仏魔王が、願いを叶える」って優勝賞品のあるアザゼル杯が悪い。

 

 世界の混乱をもたらす願いは叶えないだろう。だが、混乱を齎さない範囲で各勢力に冥界政府への従属を命じる可能性はある。例えそうでなくても、そんな奴らが大手を振って暴れればある程度面倒なことになりかねない。

 

 フロンズもかなり困っているのか、額に手を当てて俯きだした。

 

「彼らの暴走を避ける為、和平に伴う各種情報を物資と共に定期的に送っていたことが仇となった。応用すれば、人員を輸送することも可能だと気づいた時には遅かった……っ」

 

 おいおい、なんだそれは。

 

 何がどうしてヤバくなったと言いたい。

 

 ただ、そこで額に手を当てたのがロスヴァイセさん。

 

「……なるほど。つまり後天的な強化もしてしまったのですね?」

 

 こ、後天的な強化?

 

「それって、まさか(キング)の駒……?」

 

 木場がそう呟くが、俺達が戦慄するより先にフロンズが首を横に振る。

 

「それは安心していい。ゼクラム殿も、暴発しかねない連中に王の駒によるブーストは危険と判断していたようだ。その辺りは禁止を厳命する文書が送られている。……問題は、英雄派や、彼女だ」

 

「……へ?」

 

 そう言ったフロンズは、視線を給仕を担当している春っちに向ける。

 

 え、どういうことだ? 春っちも困惑してるし。

 

 俺達が戸惑っていると、盛大な溜息をルーシアがつける。

 

「……つまり、マルガレーテさんの経験を人為的に行ったと?」

 

 あ。

 

 俺達が全員納得していると、フロンズが小さく頷いた。

 

「計画はデコイとはいえ大王派の主導故、当時の私ではカバーしきれなくてね。マルガレーテの情報は何とかシャットアウトしたが、外の支援者達が英雄派の人為的禁手と成田春奈の禁手の併用を考えたのだ」

 

 そう告げるフロンズは、素早く魔法陣を操作すると幾人もの人間の情報を映し出す。

 

 その彼らは一様に神器(セイクリッド・ギア)を保有していると書かれている。

 

「ここに書かれている者達は、一部の大王派がリストアップしていた神器保有者だ。彼らは荒事への抵抗や種族の拘り、神器という異能に対する忌避から誘いを断っている」

 

 そう前置きしたフロンズは、その上で肩をすくめる。

 

「だが何かが転べば代価を用意して交渉する余地があるだろう。そう踏んでリストアップされていた彼らの存在。それが英雄派が広めた禁手の到達方法と成田春奈という前例を踏まえ、思い至ったのだよ」

 

 盛大にため息を一旦吐いてから、フロンズはげんなりをした表情で告げる。

 

「……己の神器を他者に適合する形に仕立て直して植え付ける。そんな禁手に至らせれば、他種族を転生させる必要もない。そんな発想に至ったのだ」

 

 あ~なるほど。それはやる。そういう連中出てくるよ。

 

 どの種族にも純血主義や他種族嫌いはいるだろう。人間だって外国人や人種の違いを嫌悪する連中はいるし、種族がマジで違うなら当然いる。悪魔ってそういう奴らが割と多いし。

 

 だからこそ、神器に価値を感じて転生悪魔にすることがトレンドであるからこそ思い至った。

 

 神器さえ代価を払って受け取れれば、その方がいいじゃないかと。

 

「……フロンズさん」

 

 そこでイッセーが、少し冷えた声で声を出す。

 

 状況次第じゃ、殴り込みをしかねない雰囲気だ。

 

「その人間の人達、大丈夫なんですか?」

 

 緊張感が、増した。

 

 確かにそこは警戒するべきだ。

 

 その人達は無事なのか。もしそうでないのなら、大王派にとってのスキャンダルでは済まないかもしれないし、俺達にとっても無視できるものではない。

 

 ただ、フロンズはしっかりと頷いた。

 

「流石にその心配は杞憂だ。そもそんなことをする連中なら、強引に無理やり転生させているだろうに」

 

 なるほど。どうやらその心配はないと。

 

 俺はちょっとほっとするが、だが問題はそこではない。

 

 それを改めて告げるように、フロンズは眉をしかめている。

 

「神器の移植と体感時間で一年か二年の拘束。それに伴い彼らは日本円換算で平均一億円以上が約束された。……転生悪魔にして何百年も囲うよりは安上がりだからな」

 

 なるほど、つまり―

 

「そいつら、どいつもこいつも生身のサイラオーグ・バアルを倒せる連中だらけということか?」

 

 ―そういう事だと、俺は当たりをつけた。

 

「……大半は勝算すらない者止まりだ。割合で言えば一割以下で、更にその大半が不利を強いられるだろうな」

 

 フロンズはそう否定するが、そういう事だ。

 

 つまるところ、一割はサイラオーグ・バアルでも生身だと苦戦するレベルという事か。

 

「成功といえるのは二十名いるかいないか。だが全員が素で最上級悪魔を超えている。神器含めてなら魔王クラスは、条件付き三名を含めて合計七名……うち一人は、超越者になりうるとされている」

 

「……うわぁ」

 

 誰が言ったかは分からないが、まさかそれほどの連中が過激派とは。

 

 大王派がディハウザー・ベリアルの告発で大きく発言力を下げていてよかった。でないと本当にややこしい。主導権をフロンズが握っていることもありがたい。

 

「……流石に他の者達に刺激を与えたくない故、情報は絞る。だがある程度の情報を前もって伝えておくので……メタを張ってでも叩き潰してくれ。鼻っ柱を折ってくれないと私達もだが君達にも不利益になりかねん」

 

 ……この男がここまで言うほどか。

 

 控えめに言って、かなり最悪なんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冥府の底にて、ハーデスは資料を確認していた。

 

 そしてその近くには、二人の女性がいる。

 

「……どうでしょうか、ハーデス殿。この調子なら一年もかければ50万体は用意できますが?」

 

 そう語る鎧を着た女性に、もう片方の刀を刷いた女性はため息をつく。

 

「……あまりそういう言い方は好きませんね。悪魔である以上ある程度の罪はあれど、幼子相手には加減するべきでは?」

 

 その言葉に、鎧の女性は肩をすくめる。

 

「それは失礼。とはいえ、容赦がないのはそちらも同じでは?」

 

「でなければハーデス神の配下とはならないさ。私はお前達の価値観は好かないと知っているだろう?」

 

 棘のある言葉の応酬が繰り広げられるが、ハーデスがぽんと資料を置くとそれを遮る。

 

 両者は共に理解している。自分達はそりが合わないが、しかしハーデスと手を組むことを選んだ事実は変わらない。そしてお互いに利用できる関係でもあると。

 

 ゆえに、ハーデスがまとめてくれる分には従うことを互いに決めている。

 

『……三か月だ。三か月で少しでも性能が高い者を生み出せるか?』

 

「いいのですか? そうなると限界を超えて壊死する可能性があります。治療して持ち直すにしろ、一年は安全を確保したいですが」

 

『構わぬ。あまり多くてもこちらが管理できぬしな。何より、数より質の方が重要だ』

 

 その言葉に、提言をした鎧の女性は一歩を下がる。

 

 その上で、刀を刷いた女性はハーデスを真っ直ぐ見据える。

 

「ハーデス殿がそう言うのなら構いません。ですが、その数で世界の覇権を握れますか?」

 

 その質問は、彼女にとって最も重要な点だ。

 

「私は、貴方以外に世界の覇権を握る()()ものがいないと判断したからここにいます。そしてチームD×Dやほかの神々が油断できない実力者だというのも、忌々しいですが認めています」

 

 そこまで告げ、そして真っ直ぐに問い詰める。

 

「勝てますか? それで」

 

『……勝つ為だ。奴らほどの実力があるのなら、有象無象を集めたところで勝率は上がらぬ』

 

 ハーデスははっきりと断言する。

 

『最優先するべきは質じゃ。魔王クラスを増やさねば意味がない』

 

 その言葉に、女性は一歩を下がる。

 

「承知しました。なら、私も神滅具保有者を倒せるように己の牙を研ぐとしましょう」

 

 その言葉を受け、ハーデスは頷いた。

 

『うむ。……まずは例の祭りだ。いい機会ゆえ、奴らの力がどれほどか身をもって体感するとよい』

 

 そう語り、そしてハーデスは鎧の女に視線を向ける。

 

『そして貴様は準備をせよ。……人造惑星(プラネテス)とサーヴァントは不本意だが、貴様がそれをもってして力を成すのならそれを借りるとしよう』

 

「承知しました。では、いずれロキ様を迎える為にも勝たせていただきます」

 

 そう返す女性に頷き、そしてハーデスは含み笑いを漏らす。

 

『戦力は相応にある。ゆえに……動き出す準備をするとしようか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、ヴァーリ・ルシファーは兵藤一誠にある言葉を語った。

 

―君にとっての平和が苦痛に感じる者もいるという事さ。

 

 その真理が、牙となって彼らに向けられるのも時間の問題だった。

 




 サウス計画。元ネタは木星帝国のサーカスと言えばわかる人にはわかるでしょうか?

 またそれとは別に、ハーデスたちもいろいろと動いていますし強化されてもいます。

 組織力が大幅に強化されている形であり、構想段階ですが「原作も踏まえると出そうな集団」をいくつか想定しております。何チームかは出したいところですね。かなり前からコンセプトは思いついており、ぜひ出したいと思っているのもありますもので。

 ……そんな連中との戦いもある、アザゼル杯予選です。ふふふ、激戦必須ですぜぇ?


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大会開幕編 第五話 新たなる出会いは(敵味方問わず)突然に

 はいどうもー! 最近は忙しくて疲れが取れなかったのか、ちょっと執筆速度が遅くなっていたグレン×グレンでっす!

 忙しい部分は今日終わったので、疲れが取れるころには速度もマシに……いや、GWは本買いまくる予定だから逆に時間かかるか?

 本日より、変化球をぶち込んだオリジナル要素を投入することになります。まぁ、今回はその前兆とでも言うべきものですが。


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、俺は目を覚ますと伸びをする。

 

「あ~。よく眠れた」

 

 そう言いながら左右を見ると、そこには一糸纏わぬ姿で眠る、春っちとリヴァ先生。

 

 うん、俺って本当に酒池肉林。

 

 まぁそれは置いておいて、だ。

 

「……そろそろ、ガチで参加メンバーを探さないとなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新生兵藤邸は色々な意味で拡張されている。

 

 本館は五階建てになり、敷地面積も二倍を超え、棟数も増えている。

 

 イッセー達が暮らし基本的な設備がしっかりとある本館。五郎さんと三希さんが住まう離れ。上にヘリポートまで用意しているガレージ。加えて他のメンツが住まう別館。

 

 ……そして、俺用の第二別館が設定された。

 

 どこから突っ込めばいいというか、とりあえず俺とカズヒを含めた俺達用のスペースだ。追加されることを前提として設計されている三階建て。どこに力を込めているんだオイ、と言いたい。

 

 ちなみに一階にはある程度の共有スペースがあり、LDKや風呂まである。まぁ本館で食べたりした方がまとまっていいから問題ないが。

 

 とはいえ使わないのもあれなので、たまに作ったり食べたりしているわけなんだけど―

 

「……チーム構成、マジでどうしたもんか」

 

 ―俺は卵かけご飯をかき込んでからため息をついた。

 

 いや、本当にチームどうしよう。

 

 他のメンバーは他のメンバーで動いているけど、さてどうしたものか。

 

「ゴメンねカズ君? 私も私なりのしがらみってのがあってねぇ~」

 

「いやホントゴメン、和っち。ちょっと冥界の上級悪魔がケンゴさん達との連名で要請してきて」

 

 と、一緒に食べながら二人が謝ってくるけど、それはいい。

 

 誰だってしがらみや関係はある。当然、俺以外の関係を持っていて当然だ。

 

 リヴァ先生は世界各地を渡り歩いているし、主神の娘。春っちは春っちで冥革連合にとって相応の強い人物でもある。二人とも俺以外にも関係があって当然だ。

 

 そっちが先に接触すれば、それは呑むだろう。俺がこういうことをするという印象が無いのも当然だろうしな。これは仕方ない。

 

 ただ、俺は一体どうしたものか。

 

 カズヒはカズヒで独自にチーム作ってるし。他の頼れるメンツも凄まじく他でチームを作ってるし。

 

 これマジでどうしたもんか。

 

「……で、どうすんだよ? アタシらだけで出るってのは舐めプだろ?」

 

「ああ。絶対勝てない」

 

 神まで出てくるんだぞ? レーティングゲームの指折りプレーヤーまで出るんだぞ? 勝てるか。

 

 そもそも俺の参戦コンセプトは「極晃を否定した者としての責任」だからな。参戦するからには遊びじゃなく、可能な限り勝利を目指さねば。カズヒに勝てるチームを目指したいしな。

 

 つまるところ、頭数はある程度揃えたい。もちろん質も揃えたい。

 

 でもどうしたもんか……っ

 

「流石に緋音さんを異形まみれの戦いは避けた方がいいしなぁ」

 

 あの人はまだ異形慣れしてないし、その辺りを気を付けないと。異形まみれの国際レーティングゲームとか、避けた方がいいだろう。メンタルがゴリゴリ削れるはずだ。

 

 ただオカ研のメンツはほぼ壊滅。殆どのメンツが埋まっている以上、俺達はどうしたもんか。

 

 さて、どうしたものか。

 

「いっそのこと募集でもしたらどうだよ? お前絶対人気あるし、募集すりゃ集まるんじゃねえか?」

 

「う~んどうだろ? 只集めればいいわけじゃないでしょ? コンセプトに則って、優勝も狙えそうな質も考えないとさ」

 

 ベルナとインガ姉ちゃんがああでもないと言い合うけど、実際どうしたもんか。

 

「優秀な人物でかつ協力してくれる人か。そう簡単には探せないよな……」

 

 真剣に悩みどころなんだが、どうしたものか。

 

 ただ集めるだけでは優勝は狙えない。だが優勝が狙えて俺達とは別の連中にいる実力者は、当然別のチームに参加するだろう。

 

 困ったものだ。さて、どうしたものか。

 

 真剣に悩みだす俺達に、足音が聞こえてきた。

 

「……お早う。そっちは早かったのね」

 

 と、カズヒが下りてくると素早く流れるように卵かけご飯を作り出す。

 

「おはよぉ。……さて、卵かけご飯を」

 

 そしてリーネスも下りてくると、これまた流れるように卵かけご飯を作り出す。

 

「そういやお前らはチーム完成したのか? いや、夜更かししてんならできてねえのか?」

 

「いえ、夜遅くまでしてたのはゲームの研究ね。チーム人員はリザーブ枠まで確保しているわ」

 

 さらりとベルナに返すカズヒは、逆にこっちに首を傾げる。

 

「そっちはまだ集まってないの?」

 

「そうだね。オカ研のメンバーがほぼ埋まってるから」

 

 苦笑するインガ姉ちゃんだけど、実際これって困っている。

 

 カズヒもカズヒで少し首を捻ってくれている。

 

 というより、割と困り顔だ。

 

「それは困るわね。流石に歯応えの一つは欲しいし、どうしたものかしら」

 

 なんだよなぁ。

 

 真剣にどうしたものか。流石に三人で参加とか舐めプすぎる。勝算という概念は流石に欲しい。

 

 う~ん。朝食が楽しめないぐらい悩みどころなんだが。

 

 困っていると、リーネスもこっちに視線を向けて首を傾げている。

 

 リーネスも流石にちょっと困るってことで―

 

「なら、懲罰隊の人達からスカウトすればぁ?」

 

 ―と思ったら提案だった。

 

「……大丈夫なのか? ぶっちゃけ、メイドの連中って私らが三強でぶっちぎりだろ?」

 

 ベルナがそう言うけど、リーネスは小さく首を横に振る。

 

「増員組は戦力も考えられているわよぉ? それにこれまでの件があるから、実力が相応になるメンツから選ばれているしねぇ」

 

「……あ~なるほど。その手があったか」

 

 面接はきっちりしているから人格面は保証がされている。そういう意味では安全牌。

 

 そして増員は基本的に、五郎さんと三希さんの護衛も兼ねている。当然だが戦力として考えられており、同時に俺達の戦ってきた敵を考えている。つまり実力のあるメンツも少なからずいる。

 

 ……うん。これ、案外いけるんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしたもんか」

 

 俺はちょっと悩んでいた。具体的に言うと、アザゼル杯でのチーム構成だ。

 

 とりあえず、俺の眷属とボーヴァが確定。というより、ボーヴァの押しに負けたって言った方がいいな。

 

 ただし、それでも合計で六人。ちょっとこの人数で国際レーティングゲームに出ても優勝はきついよなぁ。

 

 出るからには優勝するぐらいのつもりでいきたい。少なくとも、神が相手だろうと無様な試合はしたくない。

 

 できればあと一人か二人は欲しい。それも、強い奴なら尚更いい。

 

 ……だからこそ、俺は決意した。

 

 ただ―

 

「なんでお前までこっちに来てるんだよ?」

 

「俺にだって事情があるんだよ、事情が」

 

 半目で返す九成だけど、こいつまでアジュカ様のところに行くとは思わなかった。

 

「……まさかと思うけど、チームメンバー候補の当てがないか聞くんじゃないだろうな?」

 

「誰がそこまでするか。候補にしたいメンツ関連で、一応許可をとった方がいいかと思っただけだ」

 

 そう返す九成は、肩をすくめた。

 

「で、アポイントメントを取ろうとしたら来たらどうかって言われたんだよ。お前もそんな感じだろうに」

 

 あ~。こいつもそう言われたのか。

 

 なんでも、今日はシヴァ様と話をしているけど、半分世間話で短いからちょっと会ってみたらどうかって感じらしい。

 

 俺、シヴァ様に気に入らているみたいだしな。なら話をする機会が増えてもいいだろうって感じなんだろう。

 

 電車を降りて駅から歩きつつ、俺達は世間話をしながら話している。

 

「で、そっちはチームメンバーでどうするんだ? 俺は家の懲罰人事な人達からスカウトするって方針になっているけど」

 

「あ、そういう方法があったか。……俺もそっちにした方がいいのかな?」

 

 なるほど。その手があったか。

 

 ならそういう方向で話を持っていった方がいいだろうか? アジュカ様から紹介してもらうより、よっぽど角が立たない気がするし。

 

 あ、でもアジュカ様が紹介できる人なら絶対頼れるしなぁ。そういう意味だとちょっともったいないか?

 

 う~ん。ちょっと迷うな―

 

「……なんでダメなのぉおおおおおっ!!」

 

 ―なんか絶叫が聞こえて、俺達は視線をそっちに向ける。

 

 なんか、自販機の前ですっごく苛立ってる女の子がいるな。

 

 金髪の女の子だけど、どうしたんだ?

 

「こ、こうなったらぶっ壊してでも―」

 

「「待った待った!!」」

 

 なんか物騒なことを言っているから、俺は思わず止めに入ったよ。

 

 いやなんだよ全く。むしろ怖いって!

 

 慌てて割って入って止めると、なんていうかすっごく可愛い。

 

 人形かってぐらい整ってるその女の子は、こっちをまじまじと見ると目を丸くした。

 

「……うわっ!? え、なになに?」

 

「何々じゃねえよ。何物騒なこと言ってるんだよ」

 

 九成がツッコミを入れて、俺もちょっと首をかしげる。

 

「どうしたんだい、君? 自販機が壊れたとか?」

 

 本当に何なんだろうと持ってると、女の子はお札を一枚突き付けた。

 

「これ! 入れても買えないし出てくるの!」

 

 俺達はそのお札を見て、納得した。

 

 ああ。なんかお嬢様的な感じなんだ。

 

「……自販機って、基本的に千円札までだぜ? それ一万円札だし」

 

 一万円札OKな自販機って少ないからなぁ。

 

 それで反応しなくで出てきてたりを繰り返して、我慢ができなくなってたりしたってわけか。

 

 九成も納得したのか後ろを向いて、うんうんと頷いていた。

 

「ああ、これは五千円札までだな。どっちにしても無理だ」

 

 あ、そうなのか。

 

 女の子の方もお札を見てから、愕然となっている。

 

「ガーン!? そんな、コーラっての買って飲んでみたかったのに!?」

 

 本当にお嬢様なんだな。コーラを飲んだこと無いのか。

 

 俺はそっと財布を確認すると、千円札が二枚あった。

 

「九成、あとで返すから三千円貸してくれよ。お札で」

 

「ん? ……あぁなるほど」

 

 納得して千円札三枚ほど渡してくれたので、俺も自分の二枚を足してそれを女の子に向ける。

 

「ほら、これとその五千円札を交換してくれ。そうすりゃ買えるから」

 

 ま、これぐらいならいいだろ。

 

 お金の総額は変わってないしな。問題ない問題ない。

 

 そう思ってると、その子はぱぁっと笑顔になった。

 

 うん、女の子は笑顔が一番―

 

「わーい! ありがと、赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)涙換救済(タイタス・クロウ)!」

 

 ―え?

 

 俺達はちょっと顔を見合わせるけど、まぁそれもそうか。

 

 異形って意外と人間界でも活動してるからな。俺達だって有名人だし、そりゃ知って―

 

「「――ッ!?」」

 

 ―そう思った瞬間、凄まじい寒気を感じた。

 

 なんだこのオーラ。間違いなく、最上級悪魔とかそんなもんじゃないオーラだ。

 

 低めに見積もっても魔王クラス。下手すりゃ、武闘派の神様に匹敵するんじゃないか?

 

 しかもそいつ以外にも複数はいるだろ、コレ。まずくないか!?

 

「……イッセー、行くぞ! そこのアンタはここで待ってろ!!」

 

「分かってる! 危ないから追いかけちゃ駄目だぞ!!」

 

 九成と俺は女の子に釘を刺すと、急いで走り出す。

 

 オイオイオイオイ!

 

 こんなタイミングでアジュカ様に襲撃とか、いったいどんな連中だ。

 

 ワンチャン勝ち目があるかもってオーラなのが不味い。まさか禍の団か!?

 

 ああもう! なんだってこんなタイミングで!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ちょ……いっちゃった」

 

 少女はそう唖然とすると、その上で首を傾げる。

 

「でもこの気配、そういう事だよね……ボクが行った方がいいかな?」

 

 そう考える少女は、しかし更に首を捻る。

 

「でも、追いかけちゃダメとか待てとか言ってたし……どうしよう~っ!!」

 

 頭を抱えて困る少女だが、この数分が問題を更にややこしくすることに繋がるとは、まだ誰も気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界のまだ見ぬ強者達が集う、アザゼル杯。

 

 その中でも最も驚愕を持って語られるだろう少女が、そのきっかけを掴むことになることをまだ誰も気づかない。

 




 神様転生が刺激となって、いろんなところにいろんな変化が訪れるのがこの作品。

 今回、ある種の実験作となっておりまっす!


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大会開幕編 第六話 真徒顕現(前編)

 はいどうもー! 最近ちょっと寄り道をしてしまい、投稿速度が遅れてしまいましたグレン×グレンでっす!

 いやぁ、先週は忙しくて寝不足気味で疲れ気味で。やはり執筆速度にもかなり影響しますなぁ。









 それはそれとして、第二部におけるある意味最大のインパクトポイントがこの庭で明かされます。

 ……まぁ衛奏よりは大丈夫と思うけど、かなりクセの強い手法だからちょっと心配でもありますなぁ。


Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ。赤龍帝と涙換救済(タイタス・クロウ)が来るのかい?」

 

「ええ。どうやらアザゼル(カップ)でのチームメンバー集めに苦労しているようで」

 

「それ、僕達があまり口利きできないんじゃないのかい?」

 

「そうなのですが、彼らも苦労しているのでしょう。もっとも、九成君は面白い発想を得ているようですが」

 

「なるほどね。それはちょっと気になるけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、まぁ当然気づくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……三人も入ってくるとはね。ここの結界もそれなりに強化したはずなんだが」

 

「悪いが無駄だ、アジュカ・ベルゼブブ。立地が悪すぎる」

 

「へぇ? つまりこの立地が君達の侵入に手を貸している……と?」

 

「その通りだ、破壊神シヴァよ。もっとも、あまり多用できる手段ではないがな」

 

「それで、君達はどちら様かな? もっとも、友好的ではないようだが」

 

「そうだね。まさかと思うけどハーデスの配下とかかい?」

 

「いや、私は禍の団の()()()象徴をすることになった者だ。……今日の用事だが、一つは交渉だ」

 

「へぇ。あの禍の団に新たな象徴が着くとはね。……リゼヴィム皇子ですらリリスをもってして制御に難があったのに、よくやるものだよ」

 

「それだけの存在という事でしょう、シヴァ様。それで、交渉とは」

 

「いわゆるダメ元というやつだがな。ある条件を飲んでくれるのなら、私達は禍の団から手を切ってもいい。……まぁ、確実に無駄だろうがな」

 

「なるほど。いったい何だろうか? 聞くだけ聞いてみるとしよう」

 

「単純なことだよ、アジュカ・ベルゼブブ。各勢力との折半でいいので、この地球という星から人類の九割九分を引き取ってほしい」

 

「……論外だね。それをするには人類全体に異形を明かす必要があり、それはまだ時期尚早だと僕達は判断している」

 

「だろうな。まぁ、万が一を考慮した者のついでだよシヴァ神。では本命に移らせてもらう」

 

「「……ほぅ?」」

 

「流石に悟るか。では本命の目的たる、私が主神や超越者と比較してどれだけの性能があるかを試させてもらおう」

 

「……一つ聞いてもいいかな? 君達は、いったい何だい?」

 

「気を付けてください、シヴァ様。……俺の覇軍の方程式が悟っています。奴らはこちらが知るどの存在とも違う。近しいのは死徒ですが、根本からして完全上位互換だ」

 

「ふむ。実を言うと我々も全てを分かっているわけではないが、まぁ生物とはそういったものだ。……なので、雑に答えておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我らは真徒。星と繋がる共生者にして代行者。そして―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この力は……っ」

 

「アジュカ、最初から本気で挑んだ方がいい。この力は、有限となったオーフィスに迫るだろう……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そしてその一派たる人類の裁定者。疾風殺戮.comの後援者、洗殺隊と名乗っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだこの気配は。シャレにならない……っ

 

 急いで走っているが、近づくごとに気配がやばいことになっている。ついでに言うと、結界で一般人は分からないだろうが凄まじい戦いが巻き起こっている。

 

 なんだこの超絶バトルは! 下手すると俺達とミザリの最終決戦に匹敵するぞ!?

 

「どうすんだよ九成! これ、アジュカ様と戦ってるやつは今のオーフィスやリリスに匹敵するだろ!?」

 

 イッセーが言いたくなるのも分かるが、間違いなくまずい。

 

 この時期にこれだけの強者が、アジュカ様に攻撃を仕掛けている。どう考えても致命的にまずいっ!?

 

 間違いなく非常事態だ。こんな時期にそんなことをするバカは誰だ!?

 

 俺達はちょっと混乱しながらも、急いでアジュカ様のいるビルに走っていく。

 

 とにかくこんなことを察知した時点で、動かないわけにもいかないだろう。ああもう、なんだこの事態は!

 

 とにかくビルは見えて――ッ!?

 

「イッセー!」

 

「分かってる!!」

 

 俺とイッセーはすぐに反応し、素早く迎撃の大勢をとる。

 

 瞬時に障壁を俺が張り、イッセーが飛龍をつけることで倍加を発動。

 

 圧倒的に高まった障壁は、放たれた攻撃を受け止めた。

 

 氷塊、だが絶大な力が籠っており、おそらくタングステンすら超える強度だろう。それも、大型のダンプカーに匹敵するサイズだ。

 

 それが同時に十数個。それも亜音速で飛んできた。

 

 質量、強度、速度の全てがやばい。直撃すれば最上級悪魔でも悶絶することは間違いなく。受け止め損ねれば周囲の被害も大きいだろう。

 

 それを、俺は上手く受け流す。

 

 器用に流れるように障壁を張り、レールのように使うことで速度を殺す。

 

 結果として真上に飛んだそれは、地面に着弾する前に消滅した。

 

 ……投影魔術か? いや、それにしたってこれは効率が悪いしいろんなものがおかしい。

 

「……いきなり何しやがる!! っていうか誰だ!!」

 

 既に禁手の鎧を纏いながら、イッセーが吼える。

 

 そして俺が素早く変身していると、姿を現す者がいた。

 

 ……まるで芸術品のように美しい、眉目秀麗な男が二人。こちらを興味深そうに見ていた。

 

 同時に警戒心も見える。どうやら、あれで仕留めるつもりだったようだ。

 

「なるほど、これが燚誠の赤龍帝と涙換の救済者。殺せるかは望み薄だったが、こうもたやすくしのぐとはな」

 

「この様子では、明星の白龍皇や悪敵の聖銀弾も相当の者達だろうな」

 

 関心と評価をする連中だが、コイツら、まずいな。

 

 間違いなく性能がやばい領域だ。おそらくグレンデルやラードゥンでも手古摺るレベルだろう。

 

「悪いがここから先は進ませんよ。我らが王が試しを行っているのでな」

 

「かの超越者や破壊神に、我らが力がどこまで通じるかは把握するべきでね」

 

 声も間違いなく美声だが、問題はそこではない。

 

 コイツら、アジュカ様やシヴァ神を相手に一戦交えるのが目的だと?

 

 この情勢下でそんなこと、まともな勢力なら絶対にしない。その瞬間に全勢力を敵に回すからだ。ハーデスですら、もうちょっと考えて立ち回るだろう。

 

 つまるところ、ろくでもない連中だという事か。

 

「ふざけやがって! お前ら一体何者だ!!」

 

禍の団(カオス・ブリゲート)の残党か? それにしたって無謀だと思うがな」

 

 俺とイッセーにそう言われ、目の前の連中は戦意を滾らせる。

 

 そして同時に冷静だ。こちらの足止めはできると踏んでいるのか。

 

「我らは洗殺隊。疾風殺戮.comの後援者というところだ」

 

「そして我らが王こそ、禍の団の新たな盟主にて象徴となる方でもある」

 

 なるほど、な。

 

 毎度毎度ボコられたにも関わらず、禍の団のトップにまたなろうとするやつが出てきたわけか。

 

 しかも盟主だけでなく象徴も兼任。リゼヴィムですら同時は不可能であり、星辰弄奏者(スフィアルシファー)になったミザリで漸く両立できた立ち位置。無限のオーフィスの代役となりえる存在。

 

 そんな奴がこの世界にまだいたとはな。まだ見ぬ強者が多すぎるだろう。

 

 まったく、奴らもいい加減懲りてほしい物なんだがな。

 

「ふざけやがって。どんだけ平和が嫌だってんだ」

 

 イッセーも苛立っているが、しかしだからこそ遠慮は無用だ。

 

 俺達が市街地から出てきたにも関わらず、遠慮なく直線に攻撃を叩き込む連中だ。遠慮なんて考えはないだろう。

 

 だからこそ、遠慮なく相対する。

 

「やるぞイッセー、叩き潰す!」

 

「分かってるって、ぶちのめす!!」

 

 俺達は頷き合うと、同時に仕掛ける。

 

 そして相手もまた同時に動く。

 

 感応される星辰体(アストラル)。間違いなく高い出力のそれは、星辰光(アステリズム)の発動だ。

 

 ただ、この力は……なんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「創生せよ、地より溢れし星辰を―――我らは煌く星の使徒」」

 

 その起動詠唱(ランゲージ)は、今までに聞いたことがない。

 

 だけど、間違いなくヤバイ。

 

「「青き宝珠、命育む奇跡の星。今ここに、その輝きを代行せん」」

 

 現れたのは四本二対の剣。それがこっちの攻撃を迎撃してくる。

 

 頑丈だな。たぶんだけど、聖剣創造や魔剣創造の禁手クラスはある。それも、発動値(ドライブ)になっていくから更に増している。

 

 しかも数まで増えている。間違いなく本気モードってか。

 

「「無尽に広がる星の海。その砂粒の一つにある、この奇跡に宿る我らが幸運。そこに感謝をささげよう」」

 

 増える剣は大きく固い。更に早く精密に動くことで、俺と九成の動きを制限する。

 

 しかもこいつらの戦闘能力もヤバい。デカい氷を固くして超高速で放ってくるから、その迎撃も必要だ。

 

 撃ち漏らせば街に当たるように撃ってきやがる、しかも手元から離れた地点で作って放つこともあるから、気が散りまくる。

 

「「抜刀せよ、星の刃。その煌きは至宝の如く。その一閃は神仏魔王に傷をつけると保証しよう」」

 

 こいつら、人間を巻き込むことに躊躇がない。ただ、殺意を感じないのはなんでだ?

 

 まるで命を奪うんじゃなく、飛んでいる虫に殺虫剤を巻いている感覚だ。

 

 シャルバ達が人間に向ける感情とも違う、機械的な排除思想。そんなものを、奴らは人間に向けている。

 

「「故に我らが怨敵よ、その愚行を悔いるがいい。この刃、汝を屠る得物足りえると知るがいい」」

 

 得体の知れないその力に、寒気が走る。

 

 間違いない。コイツら、何かがやばい。

 

「「汝、この星の敵であるか? その真偽、(つるぎ)によって審問する」」

 

「「超新星(メタルノヴァ)――畏敬に能う母星の輝き、平伏せよ(アースセイバー・フルドライブ)」」

 

 その瞬間、十本二対の刃が俺達に襲い掛かってくる!!

 

 間違いなく、こいつら本気で強敵だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スーパー……真徒……キィイイイイックゥウウウウウウウウッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思ったら、なんか蹴り飛ばされた!?

 




 こんな感じで引きです! とりあえず次回は早めに投稿します……まて、次回!!


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大会開幕編 第七話 真徒顕現(後編)

 はいどうもー! 疲れも取れてだいぶ進められているグレン×グレンでっす!

 そういうわけで後編です! 細かい説明が多いのでそこはご容赦を!!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 な、なんだなんだなんだ!?

 

 っていうかあの女の子……さっきの子か!?

 

 自販機で五千円札使ってた女の子。なんでこんなところに!?

 

「あ、ごめんね? 追いかけちゃダメって言われたけど、やっぱボクの方が適任だし?」

 

「え、どういう事? どちら様!?」

 

 俺はもうわけわからないっていうか、マジで何なの!?

 

 と、とりあえずさっきの連中も思いっきり警戒して下がっているけど、なんだこりゃ。

 

「……そう来ますか、姫君」

 

「王に反旗を翻す、という事ですか」

 

 なんだなんだ? 知り合いなのか?

 

 いや、そんなことを言ってる場合じゃない。

 

 あの子は今、俺達を助けてくれた。理由は分からないけどそれで十分だ。

 

 今ここで俺達を助けてくれたんなら、俺だってあの子を助けるさ。

 

「……助かった! ただ危ないから、気を付けとけよ?」

 

 俺は割って入ると、目の前の二人に拳を突き出す。

 

 ……ただ、向こうの連中はかなり警戒しているな。

 

「……え、と、ありがと?」

 

 あれ? なんか後ろの子、戸惑ってる?

 

「……そういうところだぞイッセー」

 

「どういうことだよ!?」

 

 九成も呆れてる雰囲気だし! 仮面越しで分かるぐらいの雰囲気だし!

 

 え、ええい。この際そこは置いておこう。

 

 今は目の前の事態をどうにかする、そっちが優先だ。

 

 気を取り直して俺が拳を握り締めた時、なんか急にオーラが近づいてくる。

 

 そしてすぐに俺達の目の前に、新たなる姿が何人も現れた。

 

「……なるほど。これが超越者、そして破壊神か」

 

 そういうのは、これまた芸術品じみた美しさを持つ男。

 

 雰囲気で分かる。あいつ、目の前の連中と同類で、連中より遥かに強い。

 

 なんて奴だ。あんな強者が禍の団に残ってるってのか。

 

「さて、いきなり狼藉を働いたのはこちらだ、何か質問があるなら守秘義務の範囲内で答えるが……ふむ」

 

 その時、そいつは後ろの女の子を目ざとく見つけていた。

 

「なるほど、お前はそちらに着くか。……なら、我々の種族的なものは質問に入れない方がいいだろうな」

 

「ま、そっちはちゃんと説明するよ。兄さま」

 

 に、兄さま?

 

 ってことは、つまり兄妹ってことなのか?

 

 いや、そんなことより―

 

「……なら一つ聞こう。君達は何故禍の団に協力する?」

 

 ―シヴァ様の言う通り、こいつらの目的だ。

 

 そして目の前の男は、特に気負うこと無い態度でシヴァ様達に向き直る。

 

「そうだな……風呂や蚊取り線香といったところか?」

 

 な、なんだと?

 

 言ってる意味がさっぱり分からない。なんだそりゃ?

 

 ただ、アジュカ様はその言い分を理解したのか、かなり興味深そうな表情になっている。

 

「なるほど。つまるところ、君達にとって人間とは汚れや蚊と同じような感性なのかな?」

 

 な、なんだそりゃ!?

 

 俺がイラっと来ていると、男達は平然とした様子で頷いていた。

 

「地球にとってというべきだな。当然の判断だろう?」

 

 笑みすら浮かべて、そいつははっきり言い切った。

 

「地球の歴史から考えれば、四十代後半になった日の午後に現れた蚊も同然なのが人間だ。大量に繁殖して全身に虫刺されができているが、それだけで死ぬことはまずない」

 

 そんなこと言う野郎は、肩すらすくめている。

 

「どうせすぐに死ぬし十数万年(数日)も経てば治るだろう。しかし人間はそのまま刺されっぱなしで放っておかず、蚊取り線香を焚き薬を塗る。そしてそんなことに命を懸けるのは酔狂な奴だけだ」

 

 こいつ、本気で言ってやがる。

 

 なんていうか、視点が違いすぎる。今までの連中とは全く違う視点で人間を語ってやがる。

 

 シャルバは明らかに見下していた。曹操は自分を人間だからと誇っていた。リゼヴィムは悪意を向けて弄びながら、自分と比較して評価もしていた。

 

 だけどこいつらは違う。害虫扱いじゃなく、本気でうっとうしい羽虫とみなしている。

 

「……ただ、個人的に皆殺しは望まない。だが同時に、極晃星(スフィア)という概念を踏まえれば命を左右する脅威になってしまっている」

 

 そう肩をすくめ、そいつは俺達に宣言する。

 

「だから地球には数億人も必要ない。そして異形(君達)が自分の世界に引き取らないのなら、そこまで駆除して減らしたい。……ゆえに、疾風殺戮.comに支援をするのが我らの基本判断だよ。……蚊取り線香やキン〇ョールを提供しているだけさ」

 

 こ、この野郎……っ

 

 今まで禍の団を動かしてきた連中とは、何もかもが違う。

 

 アジュカ様やシヴァ様も、興味深そうにしているけど同時に警戒している。たぶんに周囲にいるのはアジュカ様の眷属で、彼らはかなり警戒している。九成や俺も、当然警戒している。

 

 目の前にいるのはたったの五人。だけどその五人は、その気になれば俺達の多くを道連れにするぐらいのことはできる。それを避けたいからこそ、俺達もすぐには手が出せない。

 

 こいつらは、間違いなく最大クラスの脅威だ……っ

 

 ただ、そいつらはそのまま小さく微笑んだ。

 

「まぁ、そういう事なので命大事にだ。今日は失礼するよ」

 

 その瞬間、そいつらはそう言って一瞬で消えた。

 

 なんか一瞬冷たい風が吹いたけど、いったいどこに消えやがった!?

 

「アジュカ、探れるかな?」

 

「いえ、今の段階では全く探れません。……俺の方程式で探れないとはどういう転移だ?」

 

 アジュカ様やシヴァ様がいぶかし気にしていると、後ろの女の子がポリポリと頬をかいている。

 

「……あ~。たぶんかなり寒いところに転移したと思うよ? シベリアとか南極とか?」

 

「な、なんで分かるんだ?」

 

 俺が聞くと、その子は何でもないような雰囲気になった。

 

「寒い空気が流れてたでしょ? あいつらはそこの空気と自分を入れ替えたんだよ。で、体積が五人分なのに冷たい空気がこっち来たから、相当寒いところって感じで当てずっぽう」

 

 お、おう?

 

「置換魔術の応用か? それにしたって距離的に異常だがな」

 

 九成が納得してるようで納得してない奮起になる辺り、魔術的なあれなのか。

 

 ただ、相当無理があるって雰囲気だな。

 

 でもその女の子は、何故か自信満々に胸を張る。

 

「しっかり感知さえできれば、時間を掛ければできるのがボク達真徒だからね! ま、やるようになったのは最近だけど!!」

 

「ふ~ん。よく分からないけど、お前ら凄いんだな……ん?」

 

 俺は感心してから、ちょっと首を傾げたくなった。

 

 そういえば、あいつらもこの子がいれば種族の説明はしなくていい的なこと言ってたけど……ん?

 

「さて、我々の英雄たる二人に対する助太刀に感謝し、荒っぽい真似はしないで尋ねよう」

 

 と、アジュカ様が割と真剣な雰囲気でその子に向き合った。

 

「君達は、いったい何者かね? その辺りの説明をお願いしたいのだが」

 

 うん、それは必要だよなぁ。

 

「オッケー。じゃ、まずは自己紹介からが礼儀だよね?」

 

 そう返した女の子は、小さく微笑みながら頭を下げる。

 

「アルティーネ・スタードライブと言います! 種族は真徒とボクらは呼称してるよ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍の団が保有する移動拠点。トルネード級神器力潜水艦。

 

 搭乗員全員を使用者とする形で起動する人工神器。その力で原子力潜水艦サイズを原子力潜水艦並みの運用で、更なる省スペース化を確立して運用できる。禍の団の誇る移動拠点である。

 

 その新造された一隻で、疾風殺戮.comの一人であるハヤテは苦笑すら浮かべながらデータを確認していた。

 

 そして同じように確認していた一人の男が、面白そうな表情を浮かべている。

 

「……で? 奴さん達が神祖の言っていた真祖って連中か? ……ややこしいな」

 

 そう尋ねるのは、混沌回帰旅団を率いるオイケス・ハン。

 

 禍の団に残留する英雄派のトップである彼は、今の禍の団において明確な有力者。このトルネード級も彼が確保している。

 

「少し違うな。神祖が定義する真祖と、彼らはだいぶ異なっている」

 

 そこに間借りするハヤテは、それもあって雑な対応はしないでいる。

 

 思想は相容れないが、しかし過程に共通するものがいくつもある。そんな関係だからこそ、余計な軋轢を避ける対応は心がける。

 

 そういった対応をしながら、ハヤテはモニターを操作してオイケスと情報を共有する。

 

「そもそも真祖とは死徒の源流とのことだ。だがザイアに関与する死徒は、神祖達が独自の方法で確立させていたもの」

 

 そう語るハヤテは、いぶかしげな表情を浮かべてしまう。

 

「だから何故、神祖は真祖の存在を仮定し、「生まれているかもしれない」などと思ったのかがさっぱり分からん。だが、地球を生命としてその存在に死を齎す存在を迎撃する彼らなら、交渉次第で疾風殺戮.com(我々)とは共闘できると考えていた」

 

「……で、見つけたのが真徒って連中だったと?」

 

 オイケスがそこをつつくが、ハヤテもそこは頷くしかない。

 

「ああ。彼らは明星戦乱とタイミングを同じくして、急激に自我を確立させたらしい。それまでは自我が薄かったので自覚はないが、千年近く無為な生命活動を送っていたそうだ」

 

 その説明に、オイケスは眉をしかめる。

 

「原因は極晃星(スフィア)って奴か? タイミングよく高位次元と直接繋がる連中が出てきて、バグったとか?」

 

「さてな。データがないから分からんが、結果としては好都合だ」

 

 オイケスにそう返しながら、ハヤテは小さく微笑んだ。

 

「彼らは人間の大半を、人間にとって皮膚炎を発症させる存在として見ている。いうなれば酷い汚れや蚊のような虫だ」

 

「お~酷い酷い。霊長類様の事をなんだと思ってんのやら」

 

「地球の半生に合わせれば一日未満の歴史なぞ、彼らにとってはその程度だろうさ」

 

 嫌味に対して皮肉で返し、ハヤテは更に話を進める。

 

「だが、人間だって死なない程度の皮膚炎だからと無視はしない。そういう対応を選んだ数十名が後援者になることを表明し、極晃星に対する警戒もあって割と力を貸してくれているよ」

 

 冷笑を浮かべるハヤテは、それだけの確信を持っている。

 

 彼らがいれば、禍の団はまだまだ終わらないという確信がそこに在った。

 

「……ま、奴さんの力は認めるさ」

 

 つまらなさそうにオイケスはそう答えるが、しかし真剣さがそこにはある。

 

「一人一人の戦闘能力は、()()()でも最上級悪魔クラス。しかも地球で戦う分には、そこに眷属フルメンバークラスの上乗せといっていい異能が振るえる。……魔王クラスでも最低レベル一人に手古摺るだろうさ。至った神滅具保有者並みに頼れるねぇ?」

 

「そういう事だ。そして王族スタードライブ、その頂点にて協力者筆頭のアルファルスは、推定完全性能はアジュカ・ベルゼブブでも眷属を総動員するレベルだと証明された」

 

 そう語り合う中、トルネード級は少しだけ揺れる。

 

『浮上完了。これよりアルファルス様との合流を開始する』

 

 そのアナウンスを聞き流しながら、二人は小さく微笑んだ。

 

「……ま、俺らは別に地球でなくてもいいんでな。当分は力を借りるとすっか」

 

「それでいい。我々も地球から人類の大半を駆逐できるなら問題ない」

 

 それこそが、新たなる禍の団の方向性。

 

 ……(わざわい)を齎す集団は、未だ消え去ってはいない。

 

 真徒王族が頂点、アルファルス・スタードライブ。

 

 地球上に限定すれば龍神に次ぐ存在が、禍を統括し人類に牙をむく日は、遠くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って感じなのがいるんだけど、みんながみんなそうじゃないんだよ?」

 

 と、コーラを飲みながらアルティーネとかいう真徒は説明する。

 

「っていうか殆どの人達って引きこもりだし? 「別に人類が暴れて自滅しても、一億年もすればほぼ回復するっしょ?」って感じなんだよね~。でも積極的に人類駆逐しようぜって連中が勝手に動いてる感じ?」

 

「なるほど。どうやら我々と視点が異なりすぎているようだね」

 

 と、アジュカ様はうんうんと興味深そうに頷いている。

 

「個人的に無責任なことを言えば非常に興味深い。是非データを取りたいところだが、君は何故独自に行動しているのかね?」

 

 そう踏み込むと、アルティーネは何というかげんなりした雰囲気になる。

 

「いや、なんていうかさ? こんなに面白いことが広がっている人間の世界に何も思わないって……ないわーって思って? それで、なんとなく見えた人達と会いたいからそれっぽい雰囲気の場所に来たってわけ」

 

 そう言いながら、アルティーネはふと何かに気づいて慌てだす。

 

「あ、お金は本物だよ? なんか不良? っていうのが変なこと言ってきて追っ払おうとしたらキレて来て、怪我しない程度に懲らしめたら急にお札渡してきたの。「もうしないのでこれで勘弁をー」って」

 

 ……どこから突っ込んだ方がいいのか。

 

 そもそもその程度の金額で命乞いするって、不良にしても金がないだろ。カツアゲするならもっと持ってるだろ普通。

 

 絶対なんちゃって不良だ。イキがって暴走して懲りた感じだ。

 

 そのまま折れてくれた方が平和だな。相手も変な一線を踏み越えないよりましだろう。

 

「そっか、お前も大変だったな。不良にからまれるとか」

 

 イッセーはイッセーで同情してるけど、まぁそこはいいだろう。

 

「そ、そう? えへへ……なんか新鮮かも」

 

 なんというか、イッセーになついてるな。

 

 ま、こいつは俺達と違って普通の女の子として扱っている感じはするな。

 

「ちょっとはマジになっとけよイッセー。っていうか話を聞いたら千歳いってるっぽいぞ?」

 

 もうちょっとシリアスというか、警戒心を持っても罰は当たらないだろう。

 

 ただイッセーは特に気にしてない感じで、むしろちょっと憮然としている。

 

「いや、オーフィスやリリスみたいなもんだろ? それにこいつ自身は利用されてもないんだから気にできるかって」

 

「いやまあそうなんだが、もうちょっと慎重になっても罰は当たらないだろ」

 

 俺はどう突っ込んだらいいか分からなかったが、まぁ……いいのか?

 

「えへへ~。でも僕強いよ? 真徒の中でも上澄みだよ?」

 

「関係ないって。俺達のことを助けてくれた女の子だぜ? そりゃ俺だって助けるって」

 

 ……ナチュラルに口説いてやがる。そしてなつかれてやがる。

 

 まぁ、こういうのがイッセーのいいところなわけだが。ついでにいうと、それが大きな要因となってオーフィスやリリスを平和的に取り込めたところはある。

 

「どうします?」

 

「そうだね。彼女自身に敵意がないなら、ある程度の監視はつけるが平和的に済ませるべきだろう」

 

 アジュカ様に聞いたらこんな感じだし、ならいいのか。

 

「……そうだ。真徒全体を排斥する運動を避けるに越したことはない。将来的に平和的な対応ができる為のアクションとして、イッセー君のチームになってアザゼル杯に参加させるのはどうだろうか?」

 

 そしてそうなるかぁ。

 

 あ、イッセーもアルティーネもなんかいい感じの表情だ。

 

「いいんですか!? いやぁ、ちょうどチームメンバーで困ってて……いいか?」

 

「オッケオッケー♪ あれ面白そうでやってみたかったんだー」

 

 そしてとんとん拍子で話が進んでいる。

 

 まぁ、リアス先輩もそういう時に文句は言わないだろう。アジュカ様から許可が出てるなら尚更か。

 

「でもいいんですか?」

 

「構わないさ。それのイッセー君のこれまでの実績なら、彼女を平和的に取り込めるだろうしね」

 

 あ、割とシビアな判断もしてたみたいだ。

 

 ま、それでいいなら俺もいいか。

 

 少なくとも今すぐこっちをどうにかするってわけでもないしな。俺達D×Dの精鋭で見とけばいいだろう。

 

「……で、実は俺もチームメンバー関係で相談があるんですよ」

 

「ほう? どういう事かね?」

 

 とりあえず俺も相談しておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、ここに関しては許可をしっかりとることができた。

 

 ただ、二つほど問題も発生している。

 

 一つは俺が厄介ごとをついでに頼まれた点。

 

「……これはあとでリアスにも説明する予定だったが、彼女達を君達の視点で見定めてほしい。まぁ、誘ってみて了承されたらの話だが」

 

 なんてこと言っていたが、中々困ったことになりそうだ。

 

 そしてもう一つは―

 

「あ、サンプル欲しいんだって? じゃ、これでいいかな?」

 

「「うわぁっ!?」」

 

「……アルティーネ。死徒の上位種なら復元呪詛もあるのだろうが、いきなり腕を引きちぎるのはやめておきたまえ。周囲の心象によくない」

 

 ―アルティーネの世間知らずは、後々ややこしいことになりそうだということだ。

 

 異形と関係ない場所で天然でやらかさないよう、しっかり釘を刺しておかないとな。

 




 はい、そんなこんなで独自要素として登場した真徒の集団「洗殺隊」。禍の団の新たなる主導派閥であり、象徴でもあります。

 こいつらの登場についてはいろいろありまして―

1:最初は死徒関連から神祖登場の提案もあったので、出すとするならどうするかを考慮。

2:ただし情報の刷新などを行う限り、この作品で真祖そのものを登場させて禍の団に参加させるのは無理があると判断。

3:とはいえ禍の団の新たなる盟主としてヤバいレベルの連中は欲しい、どうしようと考える?

4:ある種の揺り戻しというか帳尻合わせとして、クロスオーバー要素の結晶体として真徒を設計。

 ―といった感じです。

 さすがに極晃を否定した状態で大陸ピンボールを理論上可能とする連中は無理があると判断しましたし、味方側に真祖を出す展開は自分の作品的スタンスからちょっと無理と判断しました。

 そこから派生する形で設計した真徒ですが、真祖の設定を元にある程度煮詰めており、ピンキリはありますがどいつも協力。

 ちなみに基本性能は

 頂点「アルファルス・スタードライブ」:超越者クラス

 王族「スタードライブ」:魔王クラス

 それ以外:ピンキリあれど最上級悪魔クラス

 といったところ。ただし条件付きでこれに眷属分ぐらいが上乗せされるため、条件が成立する環境でしか戦う気のない洗殺隊のヤバさはガチでヤバいです。




 そしてそんな異端児集団洗殺隊よりさらに異端児なアルティーネ。イッセーヒロイン追加枠であり、なんかやばい枠です。

 真っ向勝負なら基本性能で魔王クラス。そこに特定条件下なら眷属総力分のポテンシャルが加わるため、マジでワイルドカードとなっております。


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大会開幕編 第八話 どいつもこいつも準備中♪

 はいどうもー! ゴールデンウィークということで、今夜は蒸し鶏・漬けまぐろ・きんぴらごぼうといったおつまみけいを自作してみたグレン×グレンでっす! 料理は趣味の範疇内なら多少は作れるのですよ。

 個人的には新しい職場の近くで蕎麦掻が売っているのを見つけて、今度機会があれば寄ってみたい今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか?

 今後もグレン×グレンは頑張っていきたいところなので、皆様の感想・高評価・捜索掲示板での紹介といった応援を心よりお待ちしています♪


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 三年生になってから、もう二週間は経つ。

 

 私達はそれぞれ、アザゼル杯で別のチームとして参戦する。つまるところ競争相手であり、お互いある程度の情報を隠す必要がある。

 

 とはいえ友人同士であり仲間達。それぞれ別々の時間は増えたけれど、割と問題なく過ごせている。

 

「……で? イッセーと和地は一通りの準備は整ったと?」

 

「ああ。まぁこちらは最低限の形になったといったところだけどね。無様な試合にはならないと思うよ」

 

 ゼノヴィアとその辺りを話しているけど、まぁうかつにボロを出したりはしないわね。

 

 ま、なんだかんだで単独行動だってしているゼノヴィアだもの。これぐらいのことはできるでしょう。

 

 さて、これで競争相手としては終了。これからは友達兼お目付け役として話をするべきね。

 

「それはそれとして、本来校則で暴力沙汰は厳禁だから。なるべく非暴力的な競争で決着をつけさせる方向にしてくれない?」

 

 部活同士のもめ事殴り合いで解決とか、生徒会長としてどうなんだまったく。

 

 かつてはアザゼル先生に話を通すという無自覚の鬼札を切っていたようだけれど、私が監視担当になったからにはそれは論外。まぁ、先生もいないしいてもまとめて鎮圧するけど。

 

 この辺りはきっちりしたいところだけど、ゼノヴィアは不満がありありな表情になっている。

 

「君は割と暴力的に仲裁するだろうに」

 

「失礼ね。余程のことがない限り、一般的な日本人が持つ権利の範疇内よ」

 

 正当防衛と現行犯逮捕になるべくとどめているわ。その辺りが日本における一般人の限界だし。

 

 というか、勘違いをしているんじゃなかろうか。

 

「言っておくけど、それ以上になる時は補導覚悟でやってますから。状況だってちゃんと判断したうえでよ?」

 

「生徒から補導される者が出るのも問題なんだけどね」

 

 ある意味で正論なのが腹立つわね。

 

 ま、なるべく筋は通せるようにしているつもりだけど、荒っぽい手段はとっているから仕方がないか。

 

 とはいえ、ここは言っておかないと。

 

「言っておくけど、殴り合いで解決とか腕っぷしの強い奴や武道経験者が圧倒的に有利すぎるわ。生徒会ならせめて、フェアな勝負を用意しなさい」

 

 あまりに一方的な条件で決着をつけさせるわけにはいかないわね。その辺りはちゃんと考慮してもらわないと。

 

 ゼノヴィアもそこは納得したのか、反発感情は消えている。

 

 さて、どう出るのかしらね。

 

「つまり格ゲーか! なるほどね」

 

 ……それでいいのだろうか?

 

 凄く悩ましいけれど、改善の意思を見せているのなら少しはこちらも譲らないと……とりあえず様子を見ますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はオカ研を休み、俺は緋音さんに会いに行った。

 

「あ、和ちゃん。鶴ちゃん……ナイス」

 

「ふっふーん! これぞ最高のお土産って奴よ!!」

 

 だいぶ回復している緋音さんに、鶴羽も胸を張って自慢げになっている。

 

 俺もその辺りを考え、お土産も持ってきた。

 

「お土産ってわけじゃないけど、カップ豚汁を買っといたよ。好物だったろ?」

 

 ザイア時代、豚汁がメニューに出るとちょっと嬉しそうになってたしな。

 

 コンビニのカップみそ汁だが、まぁ高校生が家に来た時のお土産には十分だろう。

 

 実際割とテンションが上がっているしな。

 

「うん。味噌と……豚肉の組み合わせは神だよね」

 

 そのレベルなら味噌カツとか肉の味噌漬けも行けるかもしれん。

 

 いっそのことちょっと頑張って練習するか。愛する女性達の好物ぐらい作れるようになっておきたい。

 

 ……卵かけご飯を上手に作るコツってなんだろう。やっぱりあれか、ご飯を上手く炊いたうえで適度な温度で卵を落とせばいいのか。

 

 ……うん? 案外奥が深いのか?

 

「和地戻ってきなさい! それ絶対に深淵を不用意に覗き込んでるから!!」

 

「和ちゃん? それ、たぶん……踏み越えたらいけないところだと思うよ?」

 

 はっ!

 

 鶴羽と緋音さんが止めてくれなければどうなっていたか。

 

 うかつに踏み込んではいけないところに踏み込んでいた。油断大敵だ落ち着け落ち着け。

 

「……ゴホン。じゃ、とりあえず近況報告から行こうか」

 

 とはいえ、さほど複雑な話をする気はない。

 

 緋音さんも今はリハビリ中。とりあえず、血液を摂取して対応力をつけながらの日常生活だ。

 

 さて、どんなくだらない話でお茶を濁すか。

 

「そういえば……何かの大会に出るんだっけ、二人とも?」

 

 と、緋音さんが話を振ってくる。

 

 そういえば言ってなかったな。

 

「ああ。悪魔の競技でレーティングゲームってのがあるんだけど、それが国際大会になってな」

 

「いろんな種族が参加できるお祭り企画で、私達も別々のチームで参戦するのよ」

 

 そう鶴羽と共に返しながら、俺はふと考える。

 

 ……そういえば、他の連中はどんなことをするんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、一通りのチーム構成はこれでいいだろう」

 

「ふむ。妾はこれで構わんが、よいのかフロンズよ」

 

「仕方あるまい。如何に私が大王派の実権を握っているとはいえ、奴らは不正に全く関与していなかったのでな。お目付け役を仕込むぐらいしかできんよ」

 

「……そうではない。例の魔王血族、あの者に丸ごと預けてよいのかと聞いておる」

 

「構わんさ。そもそも魔王血族など古い王族()()()者なだけだ。お飾りとしての仕事をしてくれるのなら、問題を起こさない限り貢物を捧げてやるとも」

 

「はっはっは! 流石は妾の同盟者、中々にやり手なようで何よりじゃ! ……じゃが、()()()()はあくまで妾の団員じゃからな?」

 

「分かっているとも。直下に置けずとも間接的に配下に数人も魔王血族がいるのなら、政治的な手段としては十分だとも」

 

「ならばよい! ……しかし、中々に面白い趣向といえるのぉ? これなら堂々と神々と一戦交えられるし、腕試しには都合がよい。ヴァーリの奴も楽しみにしておることだろうて」

 

「そうだな。そもそも殺し合いなど、合図を待ってフェアプレイで行う力の比べ合いではない。むしろルールに乗っ取って競い合うレーティングゲームの方が、ヴァーリにとっては好ましいだろうさ」

 

「……そして、その裏で着々と根回しを行うと? まったく、ろくでもない奴じゃのう?」

 

「こういう時、ネットスラングでは鏡を見るよう勧めるそうだ」

 

「おっと、一本取られたわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……幸香ぁ~! 俺も参加していいってマジ? ありがとう愛しているぅっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……済まぬなフロンズ。成果に見合った褒美のつもりが、話の腰が折られたわ」

 

「この程度は構わないさ。しかし、少し毛色が違う筆頭戦力がいたものだね」

 

「そうなのか? 妾はむしろ、貴様を連想する子が多いのじゃがのぉ、フロンズよ」

 

「……ふむ、第三者の視点と自分の俯瞰では違うという物かね?」




 まぁどの勢力のいろいろと準備しておりますが、当面は大規模戦争じみたことは起こりえませんです。ただし小規模な対テロ戦は起こります。

 それはそれとして、和地追加ヒロインは一通り完成。対を成す予定のメンバーはまだ確立はしていない形ですが、大半の大筋とあやかりもとはできております。

 そしてそれとは別に新キャラも出す予定で、ここで布石を出しておきます。


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大会開幕編 第九話 準備完了♪

 はいどうもー! 最近困ったことがあるグレン×グレンでっす! 内容は昨日の活動報告で書かれておりまっす!







 実は少し前に読んだ漫画で「実戦は「よーいドンの競争」じゃなくて「どっちも鬼のかくれんぼ」だ」という言葉があったのですが、その観点で言うとヴァーリやクロウ・クルワッハは競技選手の方が望美に近いのではないかと思う今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 実はその観点で「互いが互いを討ち取るため、相手の全力を出させずにからめとる狩りをしたい」という独自派閥を思いついたりしております。まぁこの作品で出す必要性はありませんが。


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、ちょっとした時間に僕達は世間話に移っていた。

 

「そういえば、接木さんと引岡さんの子供達、どんな感じなんだい?」

 

 僕が尋ねたのは、補佐として特別風紀隊に名義を貸しているルーシアさんだ。

 

 彼女は彼女で各勢力の若い人を集めてチーム参加するそうだけど、それはそれで楽しそうだね。

 

 ただ、ルーシアさんもちょっと疲れた表情になっていた。

 

「一年生から参加者が出たのはいいんですが、彼……その……発作が、かつてのイッセー先輩並みに酷いです」

 

 凄い遠い目だった。もの凄くすすけていた。

 

 どうやら凄く問題児らしい。いや、話は聞いていたけどね。

 

 まぁ、年頃の少年ってそういう事になったりするよね。自分の性欲に自己嫌悪して、性的なものに潔癖になる的なことが。そういうケースは間違いなくあるはずだ。

 

 ただ、彼の場合はかなり行き過ぎているようだけど。

 

 たぶん引岡さんがノイローゼで入院したのが理由だろう。妻に操を立てたのはいいが、それでエロを封印した結果心因性の要因で倒れるとか、滅多にない事態だろうし。時期から逆算して、性的なものに目覚めやすくなっている頃合いだから悪いかみ合わせだったんだろう。

 

 実は既に有名だしね、エロアンチとかそんな風な噂があったはずだ。

 

「凄い頻度で発作的に自分に打撃を入れるんです。松田さんと元浜さんの紹介をした時とか、彼を止めるのに説明時間の八割を使いました……」

 

 そこまでか。

 

 いや、まぁあの二人は色々とエロ方面で問題を起こしていたからね。カズヒもエロで上手く釣って更生させたようなものだし、彼にとっては刺激物という物ではないだろう。

 

 ただ大変なんだろう。ルーシアさんの様子を見るだけで、かなり理解できてしまった気がする。

 

 たぶんあれだ。イッセー君のおっぱい関係に近い。明後日の方向に何かをやらかしている気がする。

 

「バク転の応用で後頭部を強打しようし、三点飛びで天井に叩きつけられようとし、最近ではどこで調べたのか自爆装置の開発を試みていました」

 

 ……かなり大概の人物だね。

 

「そうなんスよね~。いっそショック療法でイッセー先輩と二人きりって案も出たんスがね? それやったらバーサーカーが誕生しそうなんで白紙にしやした」

 

 と、アニル君も戻ってきて僕に補足説明までしてくれる。

 

 どうやらとても大変らしい。かなりクセのある後輩ができたみたいだね。

 

「……その、たまには愚痴を聞かせてもらうよ?」

 

 いや、本当に頑張ってね?

 

 本心で同情したけど、同時に二人は何故か不敵な笑みを向ける。

 

「……まぁ、その鬱憤晴らしも兼ね、アザゼル杯では暴れさせてもらいます」

 

「そん時は容赦しないっすよ?」

 

 ……なるほどね。

 

「大丈夫。競う相手に容赦はせず、全力で挑むことを礼儀にするのがグレモリー眷属だからね?」

 

 その時は、お互い全力で挑もうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はふと、匙に会ってちょっと駄弁っていた。

 

「で、そっちはどうなんだ? アザゼル杯でのチーム構成」

 

「たいしたことはねえよ。普通に俺達はシトリー眷属主体だからな。一人スカウトしたぐらいさ」

 

 匙が俺の質問にそう答えると、逆に俺の方を向いてちょっといぶかしげな表情になっていた。

 

「つーか、そっちはどうすんだよ? リアス先輩の眷属も半分になってる感じで、メンツが集まってないんじゃないか?」

 

 ま、そこはそうなんだよな。

 

「ま、そこは安心してくれよ。どっちも無様をさらさないぐらいのメンツはできてるしな」

 

 ふふん。匙もそうだったけど、俺もうかつに内情を話したりはしないのさ。

 

 なにせ匙とも戦うんだからな。下手に話すと、ソーナ先輩が戦術を組み立てそうでちょっと怖いし。

 

 あと絶対レイヴェルに叱られる。うん、尚更言えない。

 

「……ま、新メンバーについては今度紹介するさ。っていうか、事情があって紹介しないといけないって感じでな」

 

 アルティーネについては、OKは出たけど事情が事情だからある程度の情報は伝えないといけないし。もしかすると、開催前に紹介ってことになるかもしれないし。

 

 うん。禍の団の新たな象徴と同種だからなぁ。どう考えても言わないとまずいっていうか、言っておかないと何言われるか分からないっていうか。

 

 そんな俺の様子に、匙はなんかげんなりした様子で一歩後ろに引いた。

 

「今度はどんな奴を引き当てたんだよ。まさか、乳神の使いとかいうんじゃないだろうな?」

 

「いや、一応この世界の存在です」

 

 実際この地球の共成体だしな。何も間違ってない。

 

 嘘は一切言ってないんだけど、匙の視線は全然変わらなかった。

 

「……つまり、この星にはまだまだ未知があふれてるってことか。世も末だな」

 

 畜生、俺の信頼はどこに行った!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緋音さんと別れて、俺はあるビルに入る。

 

 流石にゲームのミーティングを、同じ屋根の下で行うのもリスクがあるだろう。盗み聞きする奴らではないだろうが、たまたま聞こえて戦術に組み込まれるのもあれだしな。

 

 そんなわけで、無駄に金がある俺が金を出して買ったマンションの一室。そこに入ると、既に俺以外は全員集合していたようだ。

 

「お、漸く来たな?」

 

「遅かったね。とりあえず、ミーティング中に食べるご飯は用意できてるよ?」

 

 と、ベルナとインガ姉ちゃんが食事の用意までしてくれてた。

 

 簡単なサンドイッチになっているが、紅茶はいいのを使っていることもあっていい匂いだ。入れ方も日々成長しているってことなんだろうな。

 

 そして、俺は追加メンバーとしてアジュカ様のツテで呼んだ二人の方に視線を向ける。

 

「……さて、依頼内容は確認しているわ。本社にもちゃんと許可を貰っているもの」

 

「異形の情報を得ることも兼ねて、アザゼル杯に参戦してくるように。きちんと命令されてるからね?」

 

 すました表情と苦笑交じりの笑顔。

 

 相対的な表情を浮かべる二人に、俺は小さく微笑みながら挨拶をする。

 

「ああ、よろしく頼む。シルファ・ザンブレイブとヴィーナ・ザンブレイブ。……そして、そっちも頼むぜ?」

 

 そう、残りのメンバーに声をかけたうえで、俺はリビングのテーブルに手を置いた。

 

「さて、それじゃあ最初のミーティングを始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし中々思い切ったね、アジュカ」

 

「そうでもないですよ。所詮彼女達は末端の星辰奏者(エスペラント)ですから、ナインハルト・コーポレーションが黒でもできる範囲があります。それに駒王町に入って何日も結界に反応しない以上、クロの可能性はほぼないでしょう」

 

「だけど、ナインハルト・コーポレーションそのものがシロを意味しない」

 

「ええ。なので的中してたら腹の探り合いです。……もっとも、最大の理由は外れですがね」

 

「……悪魔のハーフと先祖返り。ただそれだけなんだって?」

 

「ええ。ザンブレイブ・チルドレンの性質上、たまたま拾ったといったところでしょう。彼女達が自らの意思で駒王学園を選んでいることようですしね」

 

「……例の真魔王計画。紛争と同時発生した異形のいざこざが原因で行方知れずになった、ルシファーのハーフ。……候補だったようだけど外れだったわけか」

 

「遺伝子の採取をしたうえでですからね、まぁ、彼女達は優秀なうえ、真意はともかく彼らは異形との交流をある程度進める方針のようですしね」

 

「サウザンド・フォースのフロント企業、その候補であるナインハルト・コーポレーション。さて、これが腹の探り合いになるのか、只の無駄骨に終わるのか」

 

「さて、かけた労力が無駄骨になると笑えないので、当たってほしいぐらいですが……ね」

 




 次回、アザゼル杯開幕!


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大会開幕編 第十話 アザゼル杯、開幕です!

 はいどうもー! 連休で割と眠ってしまうグレン×グレンでっす!

 本日より、アザゼル杯も開幕となります!


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日は来た。

 

 アザゼル杯の開会式。冥界魔王領に新設された、超巨大スタジアムで私達は集まっている。

 

 ……集まっているのだけれど、いないメンツが割といるわね。

 

 イッセーがいないわね。イッセーの性格なら間違いなく自分が参加するでしょうし、女王役にスカウトした者だけを開会式に参加ってことはないでしょう。

 

 まぁいいでしょう。遅刻するようなら情けなさすぎるけど、同情ぐらいはしてあげるわ。

 

「お、そこにいたのかカズヒ」

 

 と、和地がこっちに気づいて片手をあげてくれる。

 

 私も片手をあげるけど、それはともかくとしてメンツが少ないわね。

 

 というより―

 

「……転校生のヴィーナとシルファって、疑似姉妹丼する趣味があったの」

 

「酷い誤解だ!?」

 

 ―軽いジョークのつもりだったけど、思ったよりドンビキだったわね。後で本気で謝っておきましょう。

 

 でもまぁ、ちょっと意外だったわね。

 

 チーム構成で苦労していたとは聞いていたけど、まさかそういう方法で来るなんて。

 

 でもまぁ、渦の団との一件で実力はあると理解している。これは油断できないかしら?

 

「……う、うわぁ。これだけの人がみんな、異形なの?」

 

 ヴィーナは割と困惑しているわね。まぁ、異形に慣れてないのなら当然かしら。

 

 人間そっくりで人間じゃない異形。人間からだいぶ離れている異形。異形と一括りにまとめても、多種多様すぎるものね。

 

 慣れないと抵抗がある物もいるでしょう。それは仕方ないことだと分かっているけれど、やっぱりこの数はちょっと抵抗があるかしら。

 

「落ち着いて、お姉ちゃん」

 

 ……あら、シルファの方は平然としているわね。

 

「仕掛けてくるなら倒せばいい。それに競技試合の開会式なら、来てる人はいきなり暴れたりしないでしょう」

 

 なるほど。その当たりについて落ち着いているわね。

 

 と、シルファの言葉に納得したのかヴィーナも落ち着きを取り戻しているわね。

 

「それもそっか。むしろ今のうちに慣れた方がいいかな?」

 

 と、適当にきょろきょろしていると私の方を見ていた獣人に手を振り始めた。

 

 そして近づいてちょっと離すと、なんというか和やかな雰囲気で色々と会話をしている。

 

「……凄いわね、貴方の姉」

 

「ええ。自慢のお姉ちゃんだもの」

 

 私が感心すると、シルファは静かにいい微笑を浮かべている。

 

 って、ちょっと待ちなさい。

 

「そういえばあなた達だけ? 他のメンバーは?」

 

「あ~。今回来てるのは俺達だけなんだ」

 

 和地はちょっと視線を逸らすけど、すぐに腹をくくったみたいだ。

 

「……アジュカ様に許可取ったうえで、懲罰メイドと従者の人達から集めたもんで。全員揃って開会式は自粛ってことになった」

 

「……英雄派とヴァーリチームは爪の垢を煎じずそのまま飲んだ方がいいわね」

 

 納得したけど、私は割と離れたところにいる英雄派とヴァーリチームを見てそう呟いた。

 

 双方共に「勝つのは俺だ」的な感じで軽い火花が散っている。そして周囲はずば抜けた強者の遊び半分な睨み合いに若干引いている。

 

 ただし、その視線は畏怖だけじゃない。仮にも同じ大会に参戦しているだけあって、乗り越えるべきライバルという視線もある。そして同時に、ある種の崇拝や尊敬の視線もあるようだ。

 

 いえ、運営も許可を出しているし、どうも下馬評で人気もあるようだけれど。それはそれとしてもうちょっと、なんかないのかしら?

 

 文化の違いという形で納得するしかないのでしょうね。この辺り、道理は強者に従うというか、妙なところで野生の理というか。

 

 少しため息をつきたくなった時、感じた気配に私は視線を向ける。

 

 そこにいたのは一つのチームと思われる団体。ただ、その構成にどうも違和感を覚える。

 

 多種族混合の複合チーム。これは少なからず存在しているからいい。だが、その構成員に違和感がある。

 

 ……死神に人間、そして悪魔や堕天使?

 

 死神だってある種の神だ。本質的に死した人間の魂を迎える存在であり、崇拝する人間がいるのは構わない。そこまではいい。

 

 だが死神と同じチームに悪魔や堕天使がいるというのは違和感がある。ハーデス神は三大勢力嫌いであり、わざわざ迎えるとは思えない。

 

 死神も一枚岩ではない。それだけの規模で構成される集団だとは分かっている。だけど、それでも妙な違和感を感じる。

 

「……どうやらこの大会、波乱の一つや二つはありそうね」

 

 そんなこと呟き、私は気合を入れ直す。

 

 ただのお祭り騒ぎとも、私が和地と共にある為のケジメの一環とも思いきらない方がいい。

 

 まったく、どうもややこしいことになりそうだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーは遅刻しているなぁとは思っていた。

 

 それでも何とか間に合わせるだろうとも思っていた。

 

 ただ、この登場は想定外だって。

 

 会場の真上に浮かぶ空飛ぶ船。

 

 そこから飛び降りたイッセー達は、とても目立っていた。

 

 既にリアス先輩達が集まっているけど、そろそろ開会式だし集まりすぎは禁物だな。俺が挨拶するのは終わってからでいいだろう。

 

 そう思っていると、近くから盛大にため息が聞こえる。

 

「……本当に、異形の世は末ね」

 

 その声に視線を向ければ、そこにいたのは女侍。

 

 いや、格好は別に侍ではない。普通の格好、というより、国際大会の開会式であることを反映した礼服の類だ。

 

 だが、その雰囲気はまるで侍。

 

 常在戦場、そういえばいいんだろうか。

 

 近しいものがあるとするならそれはカズヒ。もしくは俺。

 

 まとめるならば、いつ死んでも悔いが無いよういつでも死ねる生き方をしている。どう生きてどう死ぬか決めた者の気配。そういう、ガチ勢というか覚悟ガンギマリといった雰囲気の女だった。

 

 少し警戒心が立つ中、その女はつまらなさそうに鼻を鳴らすと離れていく。

 

 同じ空気もなるべく吸いたくない。そういう感情を俺は察した。

 

 そして彼女が向かう先には、数名の死神と思しき連中がいる。その多くは、イッセー達に敵意を感じさせる視線を向けていた。

 

 ……先を見据えて動いている、か。

 

 かつてシヴァ神が言ったことを思い出すが、やはりという事か。

 

 ハーデス神からすれば、仕掛ける理由のないグレートレッド以外の頂点格が消え、数多くの和平側の強者が旅立ち、更に極晃星という特急の力を得られる可能性を知ったことで動き出す余地を悟ったようだな。

 

 速攻で動くことはないだろうが、動き出す余地を見出しているか。

 

 禍の団も真徒とかいう連中の力を会得している以上、これからが油断できない。

 

 ……ま、ならば尚更動かないとな。

 

 極晃星を否定した者として、極晃が無くてもやっていける世界を証明する責任が俺にはある。それはそれとして、D×Dとして抑止力足りえる存在でなければならないだろう。

 

 これは気合必須だな。やる気を出していかないと。

 

「どうやら、異形関連の騒乱は収まり切ってはいないようね」

 

 と、ため息交じりでシルファが漏らしているが、反論できない。

 

 ぐうの音も出ないところがあったが、ヴィーナの方は宥めるように微笑んでいる。

 

「まぁまぁ。人間側だって、探せばどこかで争ってるしね? むしろこれぐらいで住んでる異形の方が平和じゃないかな?」

 

「まぁ、分母も圧倒的に違うしな」

 

 結局どっちもどっちという事だろう。適度に理解と妥協をし合い、住み分けるのが吉ってやつだ。

 

 共存共栄に相互理解は必須。理解できないにしてもある程度の住み分けで尊重する。これが重要だってことだろう。

 

 ま、その一環としてこのお祭りは効果的かもな。

 

 なにせ参加メンバーの種族があまりに多すぎる。多種多様すぎるからこそ、どの種族がどういう感じかを調べるのにもいいかもしれないな。

 

「……そうだな。ま、その辺りも踏まえて少しずつ頑張っていくさ」

 

 俺はそう結論すると、肩をすくめる。

 

「じゃ、まずは並ぶとするか。人数が少ないからこそ、悪目立ちは避けないとな?」

 

「了解です。ほら、そろそろ並ぼうシルファちゃん」

 

「それもそうね。さて、あそこだったかしら?」

 

 さて、この大会はどんなことになるのやら―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい! あそこ!!」

 

「え? あ、マジか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―なんか騒がしいな。

 

 って、おいおいまじか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか向こうが騒がしくなってきたので振り向いたら、凄い事になってる!?

 

「ぐ、グレイフィアさん!?」

 

 思わず叫んだけど、あそこにいるのはグレイフィアさんだ。

 

 おいおいまじかよ。あの人も参加するのか!?

 

「……お義姉様?」

 

 リアスも驚いている辺り、これもしかしてリアスも知らなかったって感じかよ!?

 

 しかも率いている連中、誰も彼もがオーラが凄い。

 

 あそこにいる人達、もしかして半分以上が最上級悪魔クラスなんじゃないか?

 

「……悪いな。フロンズがその辺りの演出を担当してるもんでよ」

 

 ちょっと離れたところから声が欠けられた。

 

 振り返るとそこにはノア・ベリアルがいた。

 

「どういうこと、ノア。私の義姉に変なことをそそのかしたと、そう受け取っていいのかしら?」

 

 リアスはキレかけてるけど、俺も気持ちは分かる。

 

 あのグレイフィアさんが、何の通達もなしにこんなことするとは思えない。

 

 しかもノアが知っているってことか、フロンズ達も知っているってことでいいだろう。

 

 何か吹き込んだと思うのは当然だ。嫌な予感すら覚えてきた。

 

 ただ、ノアは両手を前に出すと首を横に振る。

 

「おいおい、むしろフロンズは無茶振りされた側だよ。多少こっちに色を付けたのは事実だが、そっちに恥じることはないwin-winの関係ってやつだぜ?」

 

 ……嘘はなさそうだな。

 

 ただ、相手があのフロンズだからな。

 

「では、どういうことなのか簡単にでもいいので説明をしてほしいですね」

 

 おお、木場がナイスな質問をした!

 

 確かに時間もないし、事情をある程度教えてくれないと困るってもんだ。

 

 と、ノアもそれは分かっているのか肩をすくめながら頷いた。

 

「……簡潔にまとめると、フロンズがグレイフィア殿に九大罪王就任を要望して彼女が交換条件を出した。それを大王派(俺達)だけでできるか自信がなかったんで、手段としてアザゼル杯での活躍を持ちだしたって寸法だ」

 

 ……今のフロンズ達にできないことを、グレイフィアさんが要望した?

 

 その時点でちょっと意味不明だけど、前半は何となく分かる。

 

 グレイフィアさんは魔王クラスであって不正もしていない上級悪魔だ。セラフォルー様と同じぐらい魔王レヴィアタン候補で、最強の魔王でもあるサーゼクス様の妻。今残ってる純血悪魔で考えると、問答無用で女性最強の純血悪魔だ。

 

 平等主義者じゃないって明言している大王派のフロンズ達からすれば、グレイフィアさんが九大罪王の一人になってくれるのは都合がいいんだろう。グレイフィアさんは魔王派だけど、フロンズ達は大王派の不正もあるから強引に罪王は狙わないとは俺でも考えつくし。むしろ納得できる人を王様に据えようって目論見なんだろう。

 

 それでグレイフィアさんが交換条件を出すってのも分かる。タダでフロンズ達の要望を叶えてやる必要もないだろうし、どうせならなんか交換条件を引き出した方が得だ。今のフロンズは大王派のナンバー2だし、出来ることは多い。

 

 で、そのフロンズとグレイフィアさんが組んでも無理なことってなんだ? アザゼル杯での活躍ってことは、最悪優勝賞品で願えばどうにかできることってことだろうけど。

 

 流石にこれ以上は教えてくれないだろうし、問い質す時間もないな。

 

「ま、大王派全体はともかく俺らからするとそこまで悪い話じゃねえ。だから相応のバックアップをさせてもらうんでな。苦労するだろうが頑張っといてくれや」

 

 そう言うと、ノアは片手をひらひらと降りながら歩き去っていく。

 

 ……こりゃ、この大会も結構荒れそうだな。

 

「リアス、俺達って今年も苦労するんだろうか?」

 

「いやでもイベントが豊富なんでしょうね、今年も」

 

 返事はため息だった。

 

 ああもう! 勘弁してくれよぉおおおおおおおっ!!

 




 グレイフィアが全く別のチームでアザゼル杯に参戦。これはなかなか変化球となるでしょう。

 そしてハーデス達も動いている。燃え上がるお祭りだが不穏要素も少なからずといった感じにできたと思っております。


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大会開幕編 第十一話 若手悪魔の大激戦(前編)

 ハイどうもー! 久方ぶりにこっちを書いてみたら結構進んだので、一話を投稿するグレン×グレンです。

 働き口にもだいぶ慣れており、もうそろそろ給金も入ってくるころです。だいぶ増えたのでタブレットを新調したいところですね。

 そういうわけで、いきなり激戦、開幕です!


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アザゼル杯が開催するに伴い、ある程度の情報戦略もかねて勇ちんの起業したPMSCの会議室を使ってミーティングを行っている。

 

 そして今回、大会が始まってから少ししている。

 

 このアザゼル杯。予選は1500のレートを勝敗で増減させるという流れになっている。

 

 試合をしたい時に登録しておき、そういった者達で運営がマッチングをして行う。そして予選終了時のポイント数で、16チームによる本戦に参戦できる者達が決定する。

 

 無駄にたくさん試合をしても、その分負けては意味がない。だからある程度の休憩期間などを用意する必要がある。

 

 こういった戦略的なやり方を踏まえれば、戦術的に不利でもやりようはある。そういったところも試されるのだろう。

 

 そして参加チームはかなり莫大。更に質でもまずいのが数多い。

 

 帝釈天は四天王を引き連れて堂々参加。初代孫悟空も昔馴染みを集めてこれまた参加。更にアースガルズとオリュンポスの次期主神たる、ヴィーザル神とアポロン神が、魔獣達の頂点に立つテュポーンと組んで参戦。北欧の巨人スルトも配下を引き連れて参戦しているという悪夢。

 

 もれなく優勝候補。神クラスのチームが参加を断念するそうそうたるメンツとなっているわ。

 

 悪魔側も負けず劣らず、ディハウザー・ベリアルが堂々参戦。更にグレイフィア・ルキフグスまでもが、魔王派・大王派・更に冥革連合はおろか旧魔王派の投降者まで参加させての悪魔ドリームチームの王となっている。

 

 どちらもフロンズの目論見がありそうだけど、これは良しとしましょう。

 

 ……まず現状はどのチームも一試合目。そこでいきなり大波乱が起きている。

 

「んじゃ、試合内容の確認はいるぞー」

 

「うーっす!」

 

 勇ちんが声をかけ、社員の星辰奏者が応じて映像が映し出される。

 

 ただ、正直困りそうね。

 

「……で、これが例の試合ってわけね」

 

「そうでしょうね。こっちが危うく負ける所だった試合と同時タイミングのよね」

 

 鶴羽と私はそう言い合い、軽くため息をついた。

 

「……まぁ、あれは仕方がないでしょう。いきなりテクニカルなルールに当たり、プロのプレイヤーを相手に勝てたことが僥倖です」

 

 眼鏡を付け直しながらディックがフォローを入れるけど、まぁそこはそうなのよね。

 

 いきなり複雑なルールを相手に、プレイヤーの上級悪魔数名の連合チームとぶつかってしまった。おかげでかなりぎりぎりだった。

 

 如何に敵を倒さず目標となるブロックを多く発見して破壊するかとかいう糞ルール。慣れてない私達が勝てたのは奇跡と言えるでしょう。

 

 これがレーティングゲームという事ね。洗礼を乗り越えれたのは好都合だといえるかしら。

 

 ……そして、これが同時タイミングで行われた衝撃的な試合。

 

『――さぁ、ついにかのヴァーリ・ルシファーがレーティングゲームという大舞台に突入です!!』

 

 実況がテンションを上げて始まるは、ヴァーリ・ルシファーが率いる明星の白龍皇チームの初戦。

 

 ……そしてこの試合がいきなり大波乱となる戦いの始まりでもある。

 

『さぁて! 本日の試合はかのヴァーリ・ルシファー選手のレーティングゲーム初試合! 対戦相手は大王派の若き悪魔達が集まった、魔道の継承者チームとなっております!』

 

 そう、その魔道の継承者チームが曲者だ。

 

 フロンズ・フィーニクスが伝えていたサウス計画の成功者達。

 

 サウザンド=スレイヤー。すなわち千の敵を滅ぼせる一騎当千を成せる者に鍛え上げる計画。

 

 本来フロンズ達が過激派を黙らせる為に、心をへし折る為のハードトレーニング。それを潜り抜けて成功してしまった連中の、更にその上澄みで構成される化け物達。

 

『そして解説として、大王派を取りまとめる若き俊英のフロンズ・フィーニクスさんに来ていただいております!』

 

『ご紹介に預かりました、フロンズ・フィーニクスです。魔性聖剣のオーダーメイド等はこちらの通信にお繋ぎ頂きたい』

 

 さらりとコマーシャルをぶちかましたフロンズは、その上で軽くため息をついた。

 

『さて、この度は我々大王派の馬鹿が色々と炎上騒動を起こすでしょうが、色々な意味で申し訳ない』

 

『……いきなり凄い事をおっしゃいますが、彼らはそんな者達なのですか?』

 

 実況が軽く引くと。フロンズは盛大にため息をついた。

 

『はっきり言いましょう。魔道の継承者チームは私目線で言えば、全員もれなく問題児です。はっきり言って胃が痛いです』

 

 フロンズがはっきりという中、モニターが試合の土俵となるフィールドを映し出す。

 

 廃墟の都市を模したフィールドで、向かい合うのは二つのチーム。

 

 ルールはゴーレム型のドローンが大量に展開され、その中の本体を探して破壊した者が勝利するといった者。

 

 そして、ヴァーリ達を前にして、魔道の継承者チームは―

 

『では行くぞ!』

 

『あたぼうよ!』

 

 ―何故か二人ほど向かい合って拳を握り締めていた。

 

『……何のつもりかね?』

 

『フハハハハハ! すまんな凡人ヴァーリよ。ミーティングで決まる前に時間が終わってしまい、どっちがお前を倒すか決まってないのだよ!』

 

 首を傾げるヴァーリに、ユーピ・ナーディルがそう言うけど……頭が痛くなりそうね。

 

 そして壮絶なじゃんけんが繰り返され―

 

『……負けたぁああああああっ!?』

 

『……勝ったぁああああああっ!!』

 

 ―男女の戦いは、男の方が勝利した。

 

『畜生が! 今日は全部そっちに任せるからな!』

 

『フハハハハハっ! 悪いがヴァーリ打倒は俺達が先にもらう! 残念だったな!』

 

 捨て台詞を残して離れて座り込む女に勝ち誇ってから、悪魔の男は指を突き付ける。

 

『さぁて、貴様が我らがいない間に暴れてイキっている旧魔王血族だな?』

 

 もうこの発言だけで、クセの強さが嫌というほど分かったわね。

 

『ああ、君も後継私掠船団(そいつら)のように俺をバカにしているのかな? 思い上がりもここまでくると反吐が出そうだ』

 

『まさか? ちょっとしたハンディキャップだよ。駒を全部埋めているこちらと埋めてないそちらの差を埋めなければ、勝ってもいいわけされそうでね』

 

 お互いに挑発的な笑みを浮かべながら、ヴァーリと目の前の奴は睨み合う。

 

 ……とはいえ、もの凄く不満げになっている女を除いて全員が臨戦態勢となっている。

 

 どうやら、ここからが本番らしいわね。

 

 とはいえ、駒価値分のバランスは整っているけど人数的にはヴァーリチームが有利。

 

 さて、そして大波乱の試合はどうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『激しい睨み合いの中、今ここで試合が始まります!!』

 

 実況が声を上げる中、試合が勃発する。

 

 その瞬間、双方ともに正面から激突を開始する。

 

 どうやら挑発もあって、まず敵を叩き潰してからゆっくり倒すというノリのようだ。実際それでも勝てるのなら、選択としては十分だろう。

 

 そしてどこでも激突が激しく鳴り響くが、真っ先に激しい戦いになっているのはユーピ・ナーディル・モデウだ。

 

 アスモデウスの先祖返りだと判明した彼を相手にするのは、明星の白龍皇チームの女王(クイーン)、フェンリルだ。

 

 圧倒的な速度に、神すら殺す牙と爪。その二つを持つフェンリルは、チーム全体で見ても屈指の強者。天龍と並び立てる魔獣は伊達ではない。

 

 だが、それに対してユーピは真っ向から渡り合っている。

 

 星辰光による聖槍をもって、フリッカースタイルで攻撃を捌くユーピ。更に魔力と光力の波状攻撃で、フェンリルに反撃を仕掛けていく。

 

 フェンリルの高い機動力で回避し続けるが、猛攻を回避しながらゆえに動きが牽制され、攻撃を捌かれ続けていく。

 

『流石はかのフェンリル。こちらも手を抜いているとはいえ、よく我が才能に手加減しながら渡り合えるものだ!』

 

 高笑いしながら挑発をするユーピに、フェンリルは苛立たし気にうなりながらも、激昂して仕掛けることはない。

 

 それだけの相手であるということを理解しているのだろう。

 

 当然と言えば当然だ。ユーピ・ナーディル・モデウは間違いなく才能の権化。才能だけならヴァーリすら足下に及ばない才覚の権化だ。

 

 それに対し、互いが互いにけん制を仕掛ける形で食らいつく。封印を解除されてないとはいえ、あのフェンリルを相手に手を抜いて互角とは脅威というほかない。

 

 そして同時に別の場所で、凄まじい戦いが繰り広げられている。

 

『……忌々しいですね。まさか聖王剣と切り結ぶとは……っ』

 

 振われるコールブランドが、ゴーレムや廃墟をたやすく両断する。

 

 余波で尽く斬撃の渦を生み出すアーサーの剣劇は、しかし相対する敵を切り裂けない。

 

 それどころか、素早く振るわれる一対の魔力が、逆にアーサーの服を軽く切り裂く。

 

 そして双方の刃がぶつかり合い―

 

『なるほど。流石は音に聞こえしコールブランド。振るう相手が手練れなら尚更か』

 

 ―真っ向から、つばぜり合いを成立させた。

 

 睨み合い、競り合い、そして距離が開けた瞬間に斬撃の嵐が巻き起こる。

 

 一瞬で廃墟群が微塵切りのように刻まれ、そしれ塵のようになっていく。

 

 恐るべし剣士達の戦いだ。アーサー・ペンドラゴンが才気あふれる剣士なのは知っていたが、それと競り合える刃を振るうのは、スライズ・ベルフェゴール。

 

『おぉおおおおっ! 凄まじい剣士達の戦いです! フロンズさん、かのアーサー・ペンドラゴンと切り結ぶ彼はどんな方ですか?』

 

『奴はスライズ・ベルフェゴール。ベルフェゴール家の分家に連なる悪魔だ』

 

 実況に応え、フロンズ氏が話を進めていく。

 

『天魔の王剣と称す奴の本質は、ベルフェゴール家の特性たる「斬撃」を剣の形で凝縮。それにより近接戦闘に限定して魔王クラスのポテンシャルを発揮する、近接戦の極致。むしろ魔王クラスとまともに切り結べるアーサー・ペンドラゴンとコールブランドを流石というべきか』

 

 そう語るフロンズ氏の視線の先、スライズ・ベルフェゴールはその上で小さく微笑んだ。

 

『……だが、貴様は俺には勝てんぞ?』

 

『ほぉ? 根拠はどこにあるのですか?』

 

 切り結びながら、アーサーは微笑みすら浮かべて余裕の態度をとった。

 

 それは自分が戦えているということからくる自負だろう。

 

 おそらく、アーサー・ペンドラゴンはまだ本気を出していない。

 

 だが、情報が正しければ―

 

『人間でありながら神器を宿せぬ貴様が、悪魔でありながら神器を手にした俺相手に勝てると?』

 

 ―彼らは、神器を宿しているからだ。

 

 そして同時に、別の個所で爆発が鳴り響く。

 

 その爆発から飛び立つのは、ルフェイ・ペンドラゴンを抱えたゴグマゴグ。

 

 だが追撃するように飛び出した騎兵が、回り込んで素早く魔力を放っていく。

 

 それをルフェイが魔法で迎撃するが、その瞬間魔法を突き破って投げ槍が飛んでくる。

 

 ゴグマゴグはそれを迎撃するが、投げ槍は装甲に突き立った。

 

 質の差で砕け散る投げ槍だが、そんな代物でゴグマゴグの装甲を傷つけるとは。

 

 そして瞬時に攪乱する相手は、四方八方を回りながら魔力攻撃や手に持った投げ槍でゴグマゴグを攻撃。ルフェイを庇い切るゴグマゴグだけど、破損は少しずつ確実に進められていく。

 

 その事態に、アーサーは一瞬目を見開く。

 

 その瞬間振るわれるスライズの斬撃を、咄嗟にしのぎながらも余裕が削れかけていた。

 

「……うっわぁ。ジークのセンセもびっくりな剣士対決ですなぁ。チャンバラ頂上決戦っすかコレ」

 

 そう感心しているのは、ミカエル様達の推薦もあって迎え入れた、リント・セルゼンさんだ。

 

 セルゼンの姓名を聞いた時はちょっと驚いたし、イッセー君達も知ったら驚くだろう。

 

 だけど、この試合映像の剣戟の方が驚くことは間違いないね。

 

「リントが驚くのも無理はないわね。祐斗でも苦戦するだけの剣士であるアーサーを相手に、あそこまで渡り合えるスライズは化け物だわ」

 

 リアス姉さんもいうだけのことはある。

 

 アーサーの剣士としての力量は間違いなく傑物だ。僕も残神込みなら勝ち目はあるだろうけど、裏を返せばアーサーは自分の才覚だけで僕と同格だ。神器を至らせグラム以外にも四本の魔剣を持つ僕と互角というのは、自分で言うのもなんだけどかなりの難行だろう。

 

 それと真っ向から渡り合える、スライズ・ベルフェゴール。

 

 何が怖いかというと、あの魔道の継承者チームで参戦したサウス計画の成功者では、弱い部類だという事だ。

 

 彼はあくまで接近戦()()魔王クラス。つまるところ、それ以外なら最上級悪魔の領域でしかない。

 

 だがあそこでルフェイとゴグマゴグを苦戦させているのは、正真正銘の魔王クラス。

 

 胸を張れる傑物。それこそが―

 

『奴の名はバーズ・フールカス。正真正銘魔王クラスに到達した、機動戦闘の猛者だ』

 

 ―フロンズが語る最強格の純血悪魔。

 

 これが、明星の白龍皇と相対する魔道の継承者。その壮絶な前哨戦の始まりだった。

 




 開幕速攻からヴァーリチームが担当する激戦です。

 ……ただ、自分はそのつもりはないのですがヴァーリチームのヘイト創作扱いされやすいのが実情。新作はその当たりを踏まえた対応もしているのですが、まぁこの作品でそこを一気に変えるのもあれではある。

 とりあえず次回の決着はいろいろとひねりましたが、さてどうなるかがちょっと不安ですねぇ。







 それはそれとしてサウス計画の成功者たちが大暴れの前編です。

 サウス計画の連中は「モブ寄りのめーむど(ただし強敵)」が基本コンセプト。そしてD×Dのこの時系列を考える場合、魔王クラスでも苦労するレベルが欲しいのが実情で作りました。前にも書いたかもですが、発送元はガンダムシリーズに出てくるサウザンドカスタムです。

 その一環にしてある意味コンセプトが違いのがスライズ。己の特性を徹底的に近接特化で極めることで、近接戦闘限定で魔王クラスという化け物です。

 サウス計画の連中のなかでは弱い部類ですが、互いに全力ではないと言えアーサーと切り結べるレベル。この作品は魔改造を敵味方問わずやらかしますが、そろそろヴァーリチームも底上げしたいのでカンフル剤にもしたいです。


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大会開幕編 第十二話 若手悪魔の大激戦(後編)

 はいどうもー! とりあえず連投しているグレン×グレンでっす!

 ちなみにちょくちょくこっちも書いているので、また近いうちに一話ぐらい投降できるかもです!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のっけから壮絶な戦いが繰り広げられている。

 

 あのヴァーリが。全員粒ぞろいのヴァーリチームが、真っ向から渡り合え()()()いる……っ

 

「あれが、魔道の継承者チーム。サウス計画の成功者って奴かよ」

 

「同感だね。アーサーと切り結ぶスライズ・ベルフェゴール。あれが成功者全体では上の下レベルというじゃないか」

 

 俺が唸るとゼノヴィアも続く。

 

 そして、それ以外のところも壮絶な戦いが始まっている。

 

『……フン。目立たない男だと聞いていたが、もうバテたのか?』

 

『ん、んだとこらぁ! てめえこそ貴族の癖に、スタミナがありまくりじゃねえか!?』

 

 美猴と渡り合って、体力の差を見せつけているのは赤毛の悪魔。

 

 確かフェクス・グレモリー。大王派側についたグレモリー分家の出身らしい。

 

 そいつはスライズ・ベルフェゴールよりも弱いらしいけど、それでも上の下側の成功者だ。

 

 そして奴はその本領を見せつけることなく、美猴と渡り合い追い込んでいる。

 

『我々はサイラオーグ・バアルを打倒することを目標にしているのだぞ? 奴と同格の修練を積むことを前提としたサウス計画被験者の成功者は、誰もが基礎体力も絶大と知るがいい!』

 

『なろうが! だったら物量だぜぃっ!!』

 

 美猴が痛いところを突かれて、毛をちぎるとそれを分身にして一誠に襲い掛からせる。

 

 だけどフェクスは肩をすくめると、ポケットからキラキラ輝く宝石のようなものを三つ取り出した。

 

 そしてそれを砕くと投げつけ―

 

『うぉおおおおおっ! 謎の粉末を作り出したフェクス選手、美猴選手の分身を薙ぎ払ったぁああああっ!!』

 

 ―実況がびっくりするぐらいの大破壊を巻き起こした。

 

『あれがフェクスの極めた魔力運用、魔の宝物。フェクスは魔力を結晶体に加工することで、宝石魔術のように限界以上の魔力を扱えるのです』

 

 どう考えても反則だよなぁ。

 

 つまり時間さえかければ魔王クラスどころか、超越者クラスの魔力を何発も放てるようになるわけじゃんか。俺で言うならロンギヌス・スマッシャーをなん十発も打てるようにできるわけじゃん。反則だろ。

 

 しかも美猴の後ろから、更に人が増える。

 

 その瞬間、美猴が咄嗟に動きを止めた。

 

 そして頬がから血がにじむ。

 

『……て、てめえ……っ!』

 

『なるほど気づくか。まぁ、それぐらいはしてもらわないとな』

 

 そう呟いたのは、どことなくサイラオーグさんに雰囲気が見えている男。

 

 確かバアル分家の奴だったな。

 

『お、おぉ? 何が起きたのか分かりませんが、美猴選手に傷をつけたのは彼でしょうか? タグマザイラ・バアル選手ですね』

 

『タグマザイラはバアルの特性たる消滅の魔力を扱うが、かのサーゼクス様とは別の意味で精密かつ複雑な制御を得意としているのだ。そしてこの映像を更に解説するとこうなる』

 

 フロンズが素早く操作すると、美猴の周囲の映像がかなりズームされる。

 

 よく見ると、魔力のようなものがめちゃくちゃ細く展開されている。それも、美猴を囲むように何本もだ。

 

『このように、極細のワイヤートラップを瞬時に展開することで仕留める算段という事になる。密度も壮絶に高い故、迂闊に突っ込めば重傷は免れなかっただろう』

 

 フロンズの解説だけど、これ俺達にとって厄介だな。

 

 美猴を倒せるかもしれないワイヤートラップとか、引っかかった瞬間にやられかねない。これが魔王クラスの精密制御ってことか。

 

「う~ん。これは私が光力で相手をするべきかしら?」

 

 イリナが首を捻るけど、たぶん無理だと思う。

 

 いや、イリナもワイヤーみたいに戦えるけど、ワイヤートラップみたいな前は俺達に向いてないし。

 

 ただ美猴は絡めとられそうになっているけど、素早く分身を出しながら攪乱に入っている。

 

 結果的に魔王クラスとやり会える連中二人を足止めとか、かなりやばいよなぁ。美猴が一番活躍してないか?

 

 そして逆に、離れたところでは猪八戒と沙悟浄を襲名した二人が追い込まれている。

 

『……もっと、もっときれいなお姉さんにいたぶられたいけど……いぃ!』

 

『ふむ、イシロ・グラシャラボラスもそうだがマゾは厄介だな。まぁ、消耗戦ならこちらも得意なんでな』

 

 マゾの豚な現猪八戒相手に。負傷を炎をまき散らして快復させる悪魔が真っ向から削り合いをしている。

 

『彼はカーパー・フィーニクス選手。フロンズさん、弟の活躍はいかがでしょうか?』

 

 そう、あの悪魔はフロンズの弟! カーパー・フィーニクス。

 

 あいつも魔王クラスとか、政治の化け物なフロンズといい、フィーニクス家は化け物だらけかよ。

 

 ただ、解説のフロンズはため息をついていた。

 

『脳筋かつ武断派だからな。あれぐらいはしてくれないと損益が増すというものだ』

 

 フロンズとしてはあんまりな奴らしいな。

 

 ま、フロンズはサウス計画の連中に困ってるみたいだしな。弟だからって容赦するような奴でもなさそうだし。悪魔の貴族とかそういうのよくある印象だもんな。

 

 そして沙悟浄の方を相手にするのは、ある意味最もとんでもない姉ちゃんだ。

 

『あっはっはっはぁっ! お互い陸地じゃ本領が発揮できない者同士、思う存分暴れましょうか、河童ちゃん!』

 

『河童っていうなぁあああああっ!!』

 

 ブチギレてるのは現沙悟浄ちゃん。まだ中学生で、沙悟浄代々そうらしいけど河童扱いされるとキレる女の子。沙悟浄って仙人の類で河童は日本の創作らしいとかなんだとか。

 

 そしてそんな逆鱗でタップダンスしながら真っ向勝負しているのは、サウス計画じゃなくて後継私掠船団の方。

 

 新しい筆頭戦力らしいけど、問題はそいつの名前が―

 

『そっちこそ、レヴィアタンなら蛇じゃないですか! やーい、龍の完全下位互換!』

 

『ふっ。本来のレヴィアタンは龍なのよねぇ!』

 

 真っ向から返す女は、もうそのアレっぷりを壮絶にかましている。

 

 そう、あの女はレヴィアタンの先祖返りだと判明した後継私掠船団の筆頭戦力。

 

『そしていずれ最強の女悪魔になる後継者(ディアドコイ)! エペラ・ルキフゲ・レヴィアタン!!』

 

 堂々と名乗りを上げた奴は、大量に蛇状の魔力を具現化させながら吠える。

 

『魔王クラスになってから出直してきなさぁあああいっ!!!』

 

 吠えるエペラの猛攻を、沙悟浄ちゃんはギリギリでしのいでいる。

 

 ……そしてエペラ・ルキフゲ・レヴィアタン。言い分から分かるだろうけど後継私掠船団のメンバーらしい。

 

 癖が強すぎるよ、勘弁してくれ。

 

 総合的に戦いは白熱しているけど、問題はここからだ。

 

 そして俺たちが一通り確認した直後、盛大に区画の一つが吹き飛んだ。

 

 そこから現れるのは、通常の鎧を纏ったヴァーリ。

 

 所々破損している鎧が修復する中、追撃するように姿を現す男女が現れる。

 

『行くわよダーリン! ここで油断なんてしないからね!』

 

『そう通り! まだD×Dどころか白銀の鎧すら出してないだろうしなぁ!』

 

 連携攻撃でヴァーリを追い立てるけど……これが曲者らしい。

 

『……あれ? あの方は使い魔の契約をされていたのでしょうか?』

 

 実況の人も困惑するけど、隣のフロンズはもっと酷い。

 

 何とも言えない表情で、凄く色素が薄くなっている感じがする。

 

 ……うん。俺も話を聞いた時耳を疑ったもん。

 

「あれがイッセーと同じ領域に至った、超越者候補か」

 

「イッセー君と同等の領域、下手をするとそれ以上の変態さんだなんて」

 

「い、いいえ! イッセーさんならきっと真似ぐらいは……しないでほしいですぅ」

 

 ゼノヴィアもイリナもアーシアも酷い。

 

 そして俺がショックを受けていると、フロンズは意を決したらしい。

 

『あれは、兵藤一誠と同格の領域に至った存在だ』

 

『……と、言いますと?』

 

 聞き返す実況の言葉を遮るように、ヴァーリは苛立たし気に拳を握り締める。

 

『そのふざけた技にあの鎧を使えと? 心外だね』

 

 そうとういらってきているみたいだけど、男の方は首を傾げた。

 

『何を言う。お前なら理解できないとおかしいだろうが!!』

 

 そう吠えるやつは、本当に心外って感じだ。

 

『お前は高々天龍止まりという現実に屈せず、圧倒的格上たる赤龍神帝グレートレッドと並びたつ、白龍神皇になるという理想を目指している!!』

 

 そう指を突き付けた奴は、その上で自分を親指で指示した。

 

『俺は現実に縛られた女に屈せず、超越者が如き異能で理想を目指す俺に並び立てる理想の女を具現化した! 俺達は同種の存在だろうが!!』

 

 ………。

 

 うん、聞いているだけで酷い。

 

 そして実況の人も唖然となっていると、フロンズはため息をついて意を決したらしい。

 

『王たるオトー・ヴァプラは、己自身が魔王クラスの性能を発揮するのみならず、魔王クラスの力を持つ理想の伴侶を創造する異能を持つ。……力が解除されると塵と化すが、DNA検査の結果は毎回同じだがオトーとは全く異なる悪魔だった』

 

 ………。

 

 うん、地味に酷い。

 

 俺ですら、命が危険な時でも当たり前のように裸の女の子達が語りかけてくる妄想をした時は自分に引いた。

 

 だけどあれはそれ以上だ。よりにもよって、国際大会の初戦で堂々と出すだなんて。

 

「イッセー様。おそらく乳語翻訳も大概ではないかと思いますわ」

 

 レイヴェルのツッコミが酷い!?

 

 ただ、ヴァーリは何か戦慄を覚えている。

 

『……そうだな。俺は理想のラーメンをもって、不可能を可能にしてきた。お前もまた不可能という理想を具現化した者である以上、俺の発言はあまりに無粋だったか』

 

 え、そっち?

 

『……ダーリン、あの子も分かってくれたみたいね』

 

 そしてニーハが涙まで浮かべている。

 

 自分のことをラーメン扱いされてそれかよ。それでいいのかと言いたくなる。

 

『そうだな。いや、俺も指摘する部分が間違っていたな、すまん』

 

 そしてオトーもなんかヴァーリに謝っている。

 

 お前はそれでいいのか。自分の理想の嫁が、ラーメンと同列に語られているのに怒らないのか。怖いぞ。

 

『気にすることはない。それに君も神器を会得したのだろう? 上乗せするというのはどうかとも思うが、加減をしているのはお互い様じゃないか』

 

『それは違うな。生まれついて宿そうが神器は聖書の神が作ったもの。たまたま生まれ持った才能で宿していたか、生まれ持った家の財力で買い取るかの違いでしかないだろう?』

 

 なんか二人とも、言い合った後理解し合う笑顔を浮かべているし。

 

『なるほど、俺には理解しがたいが、自らの生まれ持った才覚を利用して会得した力なら問題ないか。ラーメンとアルビオンの力をもってラードゥンやグレンデルの力を再現する俺が言う事でもないな』

 

『そういう事だ。いずれお前ならラーメンでグレートレッドを再現できるかもしれん。ならば俺達は二人揃って超越者になるぐらいでちょうどいいかもしれないな』

 

 ……なんか分かり合っている。

 

『『『『『『『『『『『……えぇ~』』』』』』』』』』』

 

 そして両チームともに軽く引いている!

 

『ふっ! ならダーリンと共に進むべく私も成長するのみ! さぁ、そろそろ始めましょうか!』

 

 そしてニーハが魔力を凝縮して攻撃を放つ。

 

 あ、普通にやばい火力だ。

 

『例え魔王クラスだろうと!!』

 

 そしてヴァーリがそれを、拳で弾き飛ばす。

 

『なんの! ニーハの力は無駄にはせん!』

 

 それをオトーが掴み取って、更に魔力を込めて放つ。

 

 っていうか、俺でも分かるぐらい魔力の種類が違うな。これ本当に理想の伴侶を具現化しているのか。

 

 ……え? 俺ってこれと比較対象になるの?

 

「うぅむ。我が主ならば、主ならば! いずれこれ以上の力を具現化するはず!!」

 

「ほうほう。なら私も理想のコーラとかやってみた方がいいかも?」

 

 ボーヴァとアルティーネはボケないでね!?

 

 と、その攻撃をヴァーリが弾き飛ばし、魔力か四散する。

 

 そして周囲を盛大に吹き飛ばしていって―

 

『……馬鹿、そこはダメにゃん!!』

 

 ―なんか黒歌が慌てだした。

 

 っていうかどこにいたんだって感じなんだけど、上手く隠れてたのか?

 

 でもなんでと思ったとき、なんか急にブザーが鳴り響いた。

 

『……オトー選手の魔力によりターゲットの破壊を確認。魔道の継承者チームの勝利です』

 

 あ、そういう事か。

 

 これが色々とアレな内容の正体だ。

 

 ……なんか戦っている最中にうっかり勝利条件が成立したみたいらしい。

 

 より具体的に言えば、ヴァーリが対応していたオトーの魔力が、たまたまターゲットを壊してしまったということになる。

 

 このゲーム、大量のゴーレム型ドローンから、ターゲットとなるゴーレムを打倒したチームが勝つというルール。

 

 ルール上これが勝ちなんだよなぁ。

 

『………勝っちゃいましたね』

 

『冷静に考えると、このルールで真っ向勝負をする方がおかしいのだ。……双方ともに負けているようなものだが、ルールガン無視に真っ向勝負で戦ったのだから自業自得だろう』

 

 実況もフロンズも、何とも言えなくなっている感じだ。

 

 ステージのメンバーも、誰もがなんともいえない雰囲気になっている。

 

 そんな中、バーズ・フールカスは馬から降りた。

 

 その瞬間、乗っていた馬が泡を吹いて痙攣しながら倒れる。

 

 そしてバーズは魔力を紐にして吊り下げると、苦笑交じりで微笑んだ。

 

『……さて諸君、ここで宣伝を挟むとしよう』

 

 そういいながらテロップを出す。

 

―サウス戦勝馬肉シチュー。一食分日本円換算五千円。

 

 俺達がテロップの文字を呼んでいると、バーズは小さく頷いた。

 

『さて、今回俺が使用した馬だが、この後捌いたうえで一日煮込んでレトルト販売することを宣言しよう。このサイズなら50食限定となるのでお早めに』

 

 なんかつらつらと凄い事言っているんだけど。

 

『……待て。そんなもったいないことをしていいのか?』

 

 ヴァーリも流石に呆気に取られてツッコミを入れたよ。

 

『そ、そうですよ! ゴっ君と互角に立ち回れるお馬さんなんて貴重です、もったいないです!』

 

 ルフェイも傷だらけでツッコミを入れるけど、バーズは得意げにほほ笑みながら首を横に振る。

 

『いやいや、ウチで育てている()()の一頭だ。戦わせる分肉質が劣るので上質なものでカバーしているが、この程度なら毎日二頭は捌けるとも』

 

 ……そう、信じられないことにこれがマジらしい。

 

 既に今日、郵送されているらしい。ちなみに下処理の段階で色々頑張っているらしく、値段相当の味はしているとかレビューされてた。

 

『ちなみに本当だ。バーズは魔王クラスの力をもって、駄馬を使い捨てにする代わりに最上級悪魔クラスに強化する『焼魔の命』と呼ぶ異能を振るうのだ』

 

 凄く頭を痛そうにするフロンズに同情する。

 

 ……濃い。滅茶苦茶濃い。

 

 戦闘に使った食用馬を戦勝記念シチューにして売る魔王クラスに、脳内妄想の女を具現化して二人の魔王クラスとして戦う超越者クラス。この調子だと他の連中もヤバいだろう。残りは後継私掠船団だし。

 

 俺達、もしかするとあんなのと戦うことになるのかなぁ?

 

 俺達がちょっといろんな意味で戦慄していると、レイヴェルが時計を確認してはっとなる。

 

「イッセー様、そろそろ九成さん達の試合が始まりますわ!」

 

「マジか! もうそんな時間かよ!」

 

 ヤバイ、意外と熱中してたな!?

 

 ……ついに九成達も試合を始めるのか。

 

 さて、あいつはどんな試合をするのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ和地の試合ね」

 

「そうねぇ。和地ってどんなチームにしたのかしらぁ?」

 

「私達はもちろん、春奈やリヴァも別チームなんでしょ? どうすんのかしら?」

 

 思わずそんなことを言い合っていると、オトメねぇが小さく微笑んだ。

 

「どうしましたか?」

 

「うん。三人とも恋する乙女の顔だなぁって」

 

 ……ディックに聞かれてそんなことを言ってくるけど、まぁ惚れた男の試合だしね。

 

「アファファファファファ! ちょ、恥ずかしいこと言わないでよ!?」

 

「あ、あうあうあうあうあうあうあうあ~」

 

 鶴羽とリーネスが瞬時にバグったわね。

 

「まったく落ち着きなさい。そんなことで一々慌てる年齢でも……前世込みならないでしょう」

 

 私がそういうと、勇ちんもしたり顔でうんうん頷いている。

 

「まったくだ。そういう照れくささはさっさとぶっ飛ばして、初めてイチャイチャできるんだぜ?」

 

 いまだ倦怠期は来てないようね。これが義理の姉を妻にして子だくさんの男の強みか。

 

 私も感心しているけど、カズホやラトスも関心の表情だった。

 

「既婚者の発言は重みがありますね。……お姉さまもいずれはそうなるのでしょうか」

 

「すげぇ。これが立派な父親って奴か……っ」

 

「皆さん。本当に試合が始まりますよ?」

 

 おっと、ディックが指摘してくれなかったら脱線したままだったわね。

 

 さて、和地はどんな試合を見せてくれるのかしら。

 

 ふふ。ちょっと楽しみになってきたわね。

 

「……見せてもらうわよ、涙換救済(タイタス・クロウ)のゲームという物をね」

 

 さぁ、見せてもらうわよ、愛しの旧済銀神(エルダーゴッド)

 

 貴方の果たす責任を、この目に焼き付かせて頂戴!

 




 決着! 互いにガチバトルにこだわった結果、流れ弾で勝利条件が付いた事実上のドロー!!






 ……ヴァーリチームという比較対象にぴったりな奴を出しつつ、ヘイト創作にならないように頑張ったのですがいかがでしょうか? ちなみに黒歌一人だけがまじめに試合内容にのっとって頑張っていたことで、人数的なバランスでも互角になっていたという感じに収めております。

 互いに本気を出さないうちに決着がついて、どちらも不完全燃焼。さて、これがどう動くかはまだ考えてなかったり。


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大会開幕編 第十三話 涙換救済(タイタス・クロウ)の初試合!

ハイどうも―! 土日はしっかり休んで英気を養ったグレン×グレンでっす!

さぁて、それでは和地の初レーティングゲームとなっております! 派手に行きますよぉ?


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁて! 今回の試合は目玉試合! 我らが英雄、旧済銀神(エルダーゴッド)、九成和地さんが王として参戦する、涙換の救済者チームの初試合だぁあああああっ!!』

 

『『『『『『『『『『わぁあああああああああああっ!!』』』』』』』』』』』

 

 大歓声が鳴り響く中、九成君達が試合会場に入ってくる。

 

 ……メンバーに関してだけど、九成君が王を務めているのは予想通り。

 

 そこにインガさんが騎士、ベルナが僧侶となっていて、更に追加メンバーが多数参加している。

 

 リヴァさんや春奈が別チームに行ったこともあり、そこでアジュカ様に許可をとったうえで、懲罰メイドや従者の方々からスカウトをしたらしい。

 

「……もしかして、九成くんってメイドが好きなのかしら?」

 

「……本人は否定してるけど、ちょっと怪しいと思ってるよ」

 

 ヴァレリーさんとギャスパー君がそういうことを言い合っているけれど、ある意味そういう誤解を招く環境ではあるね。

 

 九成君の女性達は、半数近くがメイドだからね。最近更に増えているから比率は減っているけどね。

 

 ただ今回、九成君は本気で対策をとっていたらしい。

 

 青いフライトジャケットを主体とした、動きやすく頑丈な格好で統一している。これならメイドがたくさんいるとは思われない。

 

『さて、本日の解説としてお招きしたのは、和平により存在が明かされた、多種族を中核とする教会の特殊部隊であるプルガトリオ機関! その長官を務めるクロード・ザルモワーズさんです!』

 

『よろしくお願いします。今回の試合は両チームともに知り合いがいますので、フェアに解説ができると思います』

 

 クロード長官が解説を担当するのか、これは意外だね。

 

 かつては教義上明かせない人物が多く在籍する部隊。それもあって暗部部隊も数多く存在するプルガトリオ機関。そんなプルガトリオ機関が限定的にとはいえ姿を明かせるようになるなんて、これも和平の成した一つの形だろうね。

 

 そして九成君達と戦うのもまた、各勢力からの合同チーム。

 

 悪魔はもちろん、人間の術者や神器保有者、更に仙人まで参加している。かなりの多種族複合チームで、これもまた和平の形だろうね。

 

「あらあら。五大宗家から複合チームに参加する者が出てくるなんて」

 

「吸血鬼からもいますぅ。和平も進んでますねぇ」

 

 朱乃さんやギャスパー君が感慨深くなるほど、鎖国的な集団からも参加者がいるのか。

 

 これも和平が進んだからこそだろう。アザゼル杯は和平の象徴にもなっているね。

 

 そしてリアス姉さんは微笑みながら、紅茶を一口飲む。

 

「さて、和地達は実戦でいくつも成果を上げている。……さて、どうなるかしらね?」

 

 ああ、そこは僕も気になっているよ。

 

 彼らは見事な戦いを成し遂げてきた。だけど、レーティングゲームは必ずしも実戦の強みが活かせるわけではない。

 

 さて、彼らはどういう戦いをするのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は九成の試合を確認する為、チームメンバーで集まっていた。

 

「さて、今回の対戦チームは「一忌倒千」チームですわね。かなり様々な勢力から集まっているようですわ」

 

 レイヴェルが集めた情報を教えてくれるけど、本当にたくさんいるな。

 

 五大宗家の術者、ツェペシュの吸血鬼、神器保有者に仙人と、かなり色々な種類の連中がいる。

 

 さて、どんな試合になるのかな?

 

 ルールはシンプルな「ライトニング・ファスト」。一時間で終わるってだけのゲームだ。

 

 時間が短いだけあって、フィールドも割と狭い。そういう意味だと戦い用はシンプルだな。

 

 さて、フィールドに転移もしたし、九成達の初試合はどうなる―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『行くぞ禁手化(バランス・ブレイク)ゥウウウウウウウウウッ!!!』

 

『行くぜ分身ぅううううううううううううっ!!』

 

『出ろ、式神ぃいいいいいいいいいいいいっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―あの、なんかフィールドが酷い密度になったんだけど。

 

『ふはははははははっ! 戦いは数! 頭数の差が多い方が基本有利なのだ!!』

 

『そしてレーティングゲームは多くて本来十六人! つまり桁が多くすれば我らの勝利!』

 

『半数がルールに抵触しない範囲で物量戦術を可能とする者達で構成されたこのチーム! 圧倒的に……有利ッ!』

 

『そして残り半数で彼らを守る! あとは物量が潰すのみ!』

 

『そう千は一を打倒する! 忌となるがいい、少数よ!』

 

 なんか凄く胸を張っているよ、相手チーム。

 

「……真理ですわね。競技試合で合法的にそれを成すのは不可能に近いのですが」

 

 感心しているのかちょっと引いているか分からないレイヴェルの評価だけど、これ本当に無体だよなぁ。

 

 そう思いながら見ていると、試合が本格的に始まっていく。

 

 そしてそのまま大量の軍団が襲い掛かり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『甘いな。異形の世界は量より質だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―すれ違うように、一人の男が突貫する。

 

 すり抜けるように走りぬくその男は、迎撃する相手をすり抜けていく。

 

 動きに無駄もないし判断も早く正確な対応をしている。間違いなくできる人だし、ちょっと見たことがあるかも。

 

 ……確かどこかのゲームの試合だったな。最上級悪魔同士の試合だったかも?

 

「動きが早いし、あの攻撃は聖なるものだな」

 

「そうね。神器かしら……?」

 

 ゼノヴィアとイリナが気にしている中、走り抜ける男に攻撃が集中しようとした時、後ろからデカい剣が何本も飛んできた!

 

 男の方に警戒が集中していた所為で、一忌倒千チームの物量がごっそりやられた。

 

 そして踊るように飛んでいる大剣の中心には、二十歳ぐらいの女性が一人。

 

 あ、あの人メイドの人だ。っていうかめっちゃ強いな!

 

 あの二人は敵の海をすり抜けながらかき回していく。

 

 そのままフィールドを二人で走り回りながら、残りのメンバーは残った連中を相手に防衛戦を展開している。

 

「……なるほど。おそらくあの二人はゲームの玄人でしょう。動きと立ち回りに隙がありませぬ」

 

 ボーヴァも感心する動きだけど、あのままだと削り倒されないか?

 

 数があまりに多すぎて、九成達も本体を狙えてない。それにあの二人も、流石にあのままだと最終的に押し潰される。

 

 っていうか既にフィールドの端に追いつめられてるな。……まずくないか?

 

「おぉ~。あんだけ強くても追い込まれるんだ。レーティングゲーム、怖……っ」

 

「そうですね。九成さん達があそこまで苦戦するなんて」

 

 アルティーネやアーシアも、不利になっている雰囲気なのを悟っている。

 

 ただ、俺はちょっと違和感を感じるんだよなぁ。

 

「なぁ、なんか九成達の動きって妙じゃねえか?」

 

 なんか妙な雰囲気があるっていうかなんて言うか。

 

「……そうですね。あの二人以外のメンバー、数に押されているにしても動かなさすぎです。何人かは戦闘に参加していないようですし」

 

 ロスヴァイセさんも同意してくれるし、俺よりよく把握している。

 

 そうなんだよな。なんていうか、動きが消極的すぎる。

 

 あの二人だけでも勝てる……ってわけでもないだろうしな。なんていうかおかしさが強い。

 

 そうこうしていると、二人で戦っている男女がかなり追い詰められている。

 

 フィールドの端の端に追い込まれる中、相手チームの王が二人の前に姿を現す。

 

 ちゃっかり数十体の護衛をつけている状態で、そいつは不敵な表情を浮かべている。

 

『ふはははははっ! いきなり振るわれるとは中々に厄介だったが……そろそろ終わりというものだ!』

 

 そういう王の周囲に、更に何人も姿を現すチームメンバー。

 

『その通り、やはり世界は質より量!』

 

『数が多い方が勝つ、これ基本!』

 

『物量の圧殺こそ正義なのだ!』

 

 なんていうか調子に乗っている雰囲気だけど、なんだかんだで警戒はしているから即座に倒すのも難しいな。

 

 これは九成達、まずいかなぁと思った時だ。

 

「……まさか」

 

 レイヴェルが急にハッとなって素早くメンバー表を確認し始める。

 

 俺達がそれに首を傾げていた時だった。

 

 追い詰められているはずの二人が、小さく笑った。

 

『ん? 負け惜しみでも―』

 

『―未熟者が釣れたとはこういうんだな』

 

 そう割って入ると共に、男が消えた。

 

 その瞬間その場にいたのは、パラディンドッグに変身している九成の姿。

 

 そしてその手には銀に輝く剣が振りかぶられて―

 

誓約成す勝利の銀剣(カリブリヌス・シルバーレット)ォッ!!』

 

 ―カウンターで一気に薙ぎ払われたぁああああああっ!?

 

「……やはり。伝えるのが間に合いませんでしたが、あの二人は戦車(ルーク)で登録されてますわ」

 

 レイヴェルがそう言うけど、それってつまりそういう事か。

 

「……キャスリングですか! その手がありましたな」

 

「なるほど。あの二人はかく乱すると同時に、大技を最適に叩き込む為の位置確保が役目だったのか」

 

 ボーヴァとゼノヴィアも思い当って声を上げる。

 

 キャスリング。チェスの駒を模した悪魔の駒についている、戦車の駒と王を入れ替える機能だ。

 

 レーティングゲームでも一回だけ認められているけど、それが狙いだったのか。

 

「……えっと、つまりどゆ事?」

 

「えっとね? 多分あの二人で敵をを引き付けている間に防戦して、少しでもチームメンバーがいそうな場所を探してたのよ」

 

 首を傾げるアルティーネに、イリナが様子を見ながらそう説明する。

 

 俺もそうだと思うけど、これってつまりだ。

 

「そしてそっちに注意が引かれている間に、他のメンバーは防衛しながら本体の位置を探ったんだ。そして、タイミングを見計らってからキャスリングからの砲撃で奇襲を仕掛けたって感じだろうさ」

 

 俺もそれぐらいは分かる様になってきたんだよなぁ。

 

 既に試合は趨勢が決まっている形だ、

 

 人海戦術を担当するメンバーの殆どが今のでごっそり吹き飛ばされ、あとは実力差でひっくり返せる状態になっている。

 

 慌てて集中攻撃で九成を潰そうとしている相手チームだけど、難しいだろう。相手は九成だし、カバーしている女の人も手練れだしな。

 

「……思い出しました。あの戦車(ルーク)の方々、武山黒狼(たけやま こくろう)さんと行舩三美(ゆきふね みつみ)さんですわね」

 

「知ってるのか、レイヴェル?」

 

 いや、懲罰関連の人達なのは知ってるけど、詳細まで知ってたのか。

 

 レイヴェルはすぐに頷いて、タブレットを操作するとデータを移す。

 

 ……あの、最上級悪魔候補とか書かれているんだけど。

 

「不正を働いて逃亡した最上級悪魔、お二人はその眷属であり、上級昇格を成されていますわ。逃亡後は他の配下や眷属を宥めて投降に貢献してくださったこともあり、人格に問題なしとして配備されました」

 

 なるほどな。つまりゲームにも慣れている二人と。

 

「二人とも神器と星辰奏者の資質を併せ持ち、行舩さんは準神滅具、武山さんはずば抜けた星辰光の才覚をもって、最上級悪魔到達も狙えるとされた逸材です。あれで何年もゲームをしておりますし、これはかなりの戦力となりえますわ」

 

「……なるほど。ベテランがいるというのはそれだけで強みだね」

 

「そうですな。実力もある経験者となれば、戦術においても力になりえますからな」

 

 ゼノヴィアやボーヴァが、レイヴェルの説明に舌を巻く。

 

 ああ、これは……九成、凄い事になるんじゃないか?




 キャスリングを利用したカウンター攻撃により、物量戦術、瓦解!

 キャスリングを攻撃的に運用する。これは王の戦闘能力が高い場合も多いレーティングゲームだからこその手法ではないだろうか。いや、チェスはさほど知らないからわかんないけど。

 レーティングゲームという二けた同士の戦いに三桁で挑む無体な戦術を仕掛けた相手チームでしたが、数を一気にな義原瀬る手段があれば質の優勢になるという感じですね。



 あと事前に情報提供が足りてなかったですが、ディオドラの眷属とかに対する救済措置が強かった懲罰メイド隊とは異なり、戦力的観点とターゲット層から増員には男もいたりします。

 ついでにメイドスキー疑惑を払しょくするべく、共通のフライトジャケットを採用する涙ぐましい努力を和地はやっておりました!


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大会開幕編 第十四話 ブラフや引き抜きも立派な戦略的手段である。

 ハイどうもー! 新職場での給金も入りまして、久しぶりに本とか買いまくったグレン×グレンでっす!

 職場を変えてから食生活がちょっと乱れて腹が不安なので、低糖質作り置きレシピ本を購入しました! 朝食や昼食で糖質を少し削り、緩くダイエットを続けていきたいです! 筋トレでより消費しやすい体質にしたり、ある程度歩く機会を増やしたりもしてきたいところ!

 ついでに言うとここ最近は土日の投稿はあえて控えめにしておりました。これはこれまでの経験上、土日に投稿してもPVの伸びが悪かったことによるものです。労働時間も増えたので毎日投稿も厳しいしね。

 ただ本日あることに気づいたので、活動報告の宣伝もかねて投稿します! ぜひ見てね?


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは、十中八九で涙換の救済者チームの勝利ですね』

 

『そうですか? 今だ数では一忌倒千チームが有利ですが?』

 

 解説隻のクロード長官の言葉に、実況は疑問符を浮かべている。

 

 ただ、これは観客に理解させる為の段取りでしょうね。趨勢は大きく傾いているのは、プロの選手や武闘派なら分かるはずだし。

 

『残念ながら、場の流れが完全に傾いています。一忌倒千チームも士気が一気に崩れ、連携も取れていませんしね』

 

『なるほど。数の優位を活かせる環境にない……という事ですか』

 

「むしろ、あの状況では足かせになってますね。この密度で統率が乱れれば、相手の攻撃から逃れるのも困難ですし」

 

 ディックは眼鏡をかけ直しながら、クロード長官達の会話に頷いた。

 

 勇ちんも納得しているので、同情の視線を相手チームに向けているぐらいだしね。

 

「あ~。数が多すぎると無駄が増えるしな。乱れればそれが一気に邪魔になるし、こりゃマズいわ」

 

 同感。数の多さが完全に混乱を生んでいて、和地達は端から削り取り続ければいいだけといった流れね。

 

 物量の差は確かに脅威だけど、有効に機能しなければ無理がある。相手が考えて立ち回れるのなら尚更ね。

 

 だからこそ、数で劣る時は如何に連携させずに減らすかが肝。何より恐慌状態や混乱状態で統率が取れなければ、逆に足の引っ張り合いになるから削り放題になりえるわ。もちろんそれができる実力あってこそだけど、それなら和地は完璧にできる。

 

 物量による圧殺。本来なら人数が制限されるレーティングゲームで反則に近い手段。間違いなく、一忌倒千チームは勝率も高いでしょうし相応の評価がされるでしょう。

 

 ただ、マッチメイクの運が悪かったようね。

 

 数の利をひっくり返される経験。それをそのまま一気に潰しに行けるチームとの戦いで思い知らされる。これでは持ち直す余地もないでしょう。

 

「……っていうか、和地ってつまり……プロのゲームプレイヤーを引き込んだってわけ!?」

 

 と、鶴羽がはっとなって画面に視線を戻す。

 

 もはや決着はついたと言ってもいい中、和地達は確実に敵の数を減らし続け、更に敵チームのメンバーを打倒している。

 

 そしてその動きを補佐しているのは、四人の追加メンバー。

 

 兵藤邸の懲罰メイド及び従者からスカウトされている以上、レーティングゲームの経験者でもある。

 

 もっと早く気付くべきだったわ。これ、レーティングゲームの特殊ルールに対する対応力で私達は負けていると言ってもいいわね

 

 ……これは、中々面白いチーム構成になってるじゃない。

 

「和地……頑張ってるね……っ」

 

 オトメねぇは感極まって涙目だし。まぁ、実際頑張っているわけだけどね。

 

「ふふ、競いがいがあるのかしらねぇ?」

 

 リーネスのその微笑に、私も笑顔を抑えきれずに頷いた。

 

「ええ、とても楽しみだわ……っ」

 

 待ってるわよ、激突する、その日を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか全員無事で相手を全滅させての勝利。俺達「涙換の救済者」チームは初試合を大金星で飾ることができた。

 

 いきなりあの大量の敵が出てきた時は正直困ったが、経験者の提案もあって逆に圧倒することができた。

 

 これがレーティングゲーム。実戦とは違った戦い。

 

 まぁ、何はともあれ初勝利。俺がリーダーである以上、言うべきことは決まっている。

 

 控室に戻ってから、俺は振り返ると腕を突き上げた。

 

「何はともあれ初勝利! お疲れ様でした!」

 

「「「「「「「「「お疲れ様でしたー!」」」」」」」」

 

 一斉に返事も返ってきて、俺達はとりあえず一息をつく。

 

「とりあえず和地様。まずは水分補給にしましょう」

 

 そう言いながらスポーツドリンクを人数分取り出すのは、今回俺がスカウトしたメンバーの一人。

 

 便宜上の懲罰で新生兵藤邸を守ってくれる男性従者。最上級悪魔すら狙えると言われた、若き上級転生悪魔*1

 

 名前を武山黒狼(たけやま こくろう)。はっきり言って、このチームにおけるブレイン一号だ。

 

「いやホント、助かりました。素早く作戦まで提案してくれなきゃ、ストレート勝ちは流石に無理でしたしね」

 

「いえいえ、ああいうパターンはこちらも慣れてませんから。……それと敬語は無しでいいですよ」

 

 感謝の言葉に頷きながら、武山さんはそう釘をさしてくる。

 

「貴方はこちらのリーダーですし、私達は罪人です。それにあなたは神の子を見張る者で上級堕天使相当の地位にいるのですから、正真正銘の目上ですから」

 

 正直少し慣れないが、いうなれば「上下ははっきりしておく」という一種の儀礼だろう。

 

 少し気後れするけど、筋は通ってるな。

 

「……OK、黒狼さん。まだ慣れないが、その辺りは気を付ける」

 

「ええ。少しずつ慣らしてください」

 

 ……外見は俺とさほど変わらないけど、異形だから外見年齢はあてにならない。資料を確認はしているけど、人間としては今から三十年少し前に生まれているしな。

 

 そういう意味でも敬語を使いたいが、異形社会で十数年程度の年齢差は、階級より軽いという事だろう。こういうところは実力主義だ。

 

 慣れた方がいいんだろうが、まぁ大変ではあるよなぁ。

 

 そんなことを思っていると、後ろから背中をバンと叩かれる。

 

「ま、そういう事でお願いしますねっと! でも和地様、あの一撃ヤバイですよね!」

 

「……貴女はちょっと軽すぎるわよ、文香」

 

 三美さんがたしなめるのは、文香(ふみか)・ヴォルフ。

 

 黒狼さんや三美さんと同じ悪魔の眷属で、二人とはそれなりの付き合いでもある。

 

「その辺にしときなよ? 文香はもうちょっと礼儀作法に慣れた方がいいって」

 

 と、更にたしなめるのもまた同じ眷属の大上文雄(おおがみ ふみお)

 

 いっそのこと実力と連携を踏まえ、同じ眷属関連だった人達からある程度スカウトした結果、とりあえずこの四名が選ばれた形だ。

 

 状況次第では更に増やすこともあり得るが、それをやるのもリスクが大きい。そもそも兵藤邸や夫妻の警護が主眼だからな。

 

 だからこの人数だが、しかしおかげで助かった。

 

「それで、今後もこの構成が主体なのかしら?」

 

 と、そこで汗を拭いていたシルファ・ザンブレイブが髪をかき上げながら振り返りの質問をする。

 

兵士(ポーン)の駒担当をとにかく埋める方針で進んでいるけれど、戦略的には他の駒を埋めた方がよくないかしら? メンバーの入れ替えは可能なんでしょう?」

 

「あ、それアタシも思った」

 

 ベルナもそれが疑問だったのか、軽く首を捻る。

 

「慣れてるやつの意見だからスルーしてたがな? 昇格に手間がかかる奴より最初っから強化される駒に人回した方がいいんじゃねえか? 女王(クイーン)も空きにしてるだろ?」

 

 ま、それはそうだろう。

 

 今回、俺達のチーム構成はこんな感じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

王:九成和地

女王:未登録

戦車:行舩三美

戦車:武山黒狼

騎士:未登録

騎士:未登録

僧侶:ヴィーナ・ザンブレイブ

僧侶:ベルナ・ガルアルエル

兵士(2駒):枉法インガ

兵士(2駒):シルファ・ザンブレイブ

兵士(2駒):大上文雄

兵士(2駒):文香・ヴォルフ

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにかく兵士の駒を全部埋め、次に戦車の駒を埋めるといった形だ。

 

 正直、俺も最初は疑問だったんだ。ただし、今は違う。

 

「いや、おそらく着眼点はそこじゃない。だろ、黒狼」

 

「はい。これはより戦略的な視野をもって動いてのものです、和地様」

 

 黒狼はそう言うと、俺達全体を見回した。

 

「……とはいえ質問に答えよう。まぁ、今回の試合を経験すればこういえば分かるだろう。……このチーム構成は()()()()()()を視野に入れたものだ」

 

 王である俺以外相手ということで、年長者としてため口で語るのは、今回のゲームを大きく揺るがした一手だ。

 

「戦車と王を入れ替えるキャスリング。これは王のリタイアが即敗北となるゲームにおいては間違いなく大きな要素となる。一度のゲームで一度しか使えないが、一度は決定的な敗北を吹き飛ばせるという事だからな」

 

「……あ~、なるほど。つまり兵士を増やせば増やすほど、いざという時戦車(ルーク)にできる人が増えるんですね? それで、選択肢を増やすと」

 

 ぽんと手を打ったヴィーナの言葉に黒狼は頷いた。

 

「その通り。付け加えるなら、このチームにおける最大火力は和地様のあの禁手。キャスリングと組み合わせれば、一撃で戦局をひっくり返す戦略的手札を奇襲に運用できる」

 

 黒狼の主眼はそういうことか。

 

 俺の制約成す勝利の銀剣(カリブリヌス・シルバーレット)は、間違いなくこのチームにおける最大火力。キャスリングと組み合わせれば、瞬間的に発射箇所を変えて奇襲じみた運用が可能になる。

 

 いざという時、最も守るべき王の安全確保が可能。場合によっては決定的一撃を効果的に叩き込める。そういう意味ではキャスリングは、一回しか使えない代わりに下手な戦力以上の価値がある。王が火力を誇っているのなら、それもまた一つの方針といことか。

 

「最重要防衛対象かつ最大防御力と攻撃力の持ち主を、必要時に一度だけだが瞬時に移動させれるキャスリング。これを如何に運用するかがどれだけ戦略的に価値があるか。今回のようなちゃぶ台返しじみた相手との闘いでは尚更重要だ」

 

「……つまり、神クラスと戦うことも踏まえた戦術を最初から念頭に置くと?」

 

 インガ姉ちゃんも理解したらしい。

 

 俺ははっきり言って、優勝するぐらいの心持ちでやるつもりだ。そこに関して意をくんでくれている。

 

 だからこそ、帝釈天やらテュポーンやらスルトといった、頂点中の頂点格すら倒すことを踏まえなければならない。

 

 黒狼はその点まで踏まえて、当初の頃からその為の戦術に慣らす予定という事か。

 

 ありがたい。つくづく俺はいいメンバーを持った。

 

「OKだ。つまり今後も、可能ならキャスリングをあえて使って慣らしとブラフに使うってことだな?」

 

 一割ぐらい冗談で言ってみると、黒狼は微笑みながら頷いた。

 

 ……あ、そういう事も使うんだ。

 

「はい。手札というのは「使うかもしれない」と思わせるだけでも効果があります。場合によっては和地様より有利に戦えるメンバーを、和地様を囮にして寄せるということも可能ですしね」

 

 怖いぞこのブレーン。最重要護衛対象たる王を囮にすると宣言しやがった。

 

 ま、それぐらいの腹積もりでなければ主神を打倒するなど不可能という事だ。

 

 よし、それで行くべきだな。

 

 ……ま、今は勝利を祝うとするか。

 

「じゃ、初試合初勝利を祝って打ち上げだなっ」

 

「おぉぅ!?」

 

「うわっ!?」

 

 俺はあえてはしゃぎ気味で、ベルナとインガ姉ちゃんを抱き寄せながらそう提案。

 

 それに対して、他のメンバーもハレの雰囲気で話が進んでいく。

 

「……そうね。なら高級な日本食を紹介してくれると嬉しいわね」

 

「いやいや、シルファ? ちょっとリーダーに金をゆすりすぎじゃない? 文雄もなんか言ってやりなさいよ」

 

「別にいいんじゃないかな? ほら、和地様って最初に「金を使う手段があるなら言ってくれ。むしろ数億円は使わせてくれ」とか言ってるし」

 

「あ、あはは……。でもちょっと気になるかも?」

 

 文香と文雄の言葉尻を捕らえたヴィーナに苦笑されるけど、そこは勘弁してほしい。

 

 とはいえ、シルファを皮切りに打ち解けた会話が弾む。そんな中、俺はちょっとだけ視線を黒狼に向ける。

 

 黒狼も、それを悟って小さく頷いてくれた。

 

 ……このメンバー構成は、俺がアテにしていたメンツを他に取られたことが大きい。

 

 だが同時に、アジュカ様からある依頼を受けていたからだ。

 

『――事情の多くは情報統制もあって言えないが、()()()()()()()()()()()にはかの真魔王計画で生まれたルシファー関係者だった疑いがあった

 

 それそのものはこっそりした検査でハズレだったが、どうもトップ達は何かしらの懸念を持っているらしい。

 

『彼女達を見定めて、可能ならナインハルト・コーポレーションからこちらに引き抜けないか試してほしい。もちろん、リアス達にはあとで俺から言っておく』

 

 どういう意図かは分からないし、無理強いをするようなこともしない。

 

 ただ、それなりの何かがあるのだろう。それも、俺の立場では情報統制が敷かれるレベルの可能性が。

 

 ……まったく。色々と忙しいお祭りになりそうだな。

*1
ただし悪魔水準




 そんなこんなで、和地たちはてこずりましたが勝利を掴みました。

 レーティングゲームという最大人数に制限があるルールを半ば踏み越えた反則級チームとの戦いでしたが、戦力を戦術でひっくり返して勝利です!

 今後も和地たちのチームは「キャスリングの変則的運用」を視野に入れた戦術プランにしたいところです。まぁ真面目な話、和地たちのチームは王である和地が最高の防衛力に広域制圧力を併せ持っているので、攻撃的な手段に転用可能なのです。

 そしてそれはそれとして、シルファ・ザンブレイブに魔王血族疑惑(解消済み)がありました。その当たり、長年ザイアで雌伏していた腹芸も可能だった和地に白羽の矢が立った形です。

 幸いすでに解消されていますが、ナインハルト・コーポレーションそのものがサウザンドフォースの配下である以上、ある意味でリモート爆弾になりかねない。そしてその警戒だけはアジュカたちもしている状況です。

 ……さて、今後どうなるかもうちょっと待っててね?


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大会開幕編 第十五話 蟒蛇は星を宿す

 はいどうもー! 全ての作品の評価にコメント必須にした方がいいような気がしているグレン×グレンでっす!

 いえ、本当に低評価の理由は知りたいものですからねぇ。どう改善するかどころか、そもそも改善する部分かどうかもわからないですから。……実際、意味もなくなんとなく低評価してるとしか思えない奴には寄ってきてほしくないですし(ボソッ


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタジアム近くの飲食店で祝勝会をすることになり店を見繕った。

 

 選んだのは高めの焼き肉店。この辺りなら金も使えて騒がしくても問題ない。日本風だから色々あるだろうしな。

 

「……なるべく高いのを注文してくれ! むしろ俺の為を思って注文してくれ!! あ、お姉さん値段が高い順に肉を三種類人数分お願いします! カードで!」

 

「落ち着け! 違う意味で金に振り回されてっぞ?」

 

 ベルナに後ろからツッコミを入れられるが、この程度で揺らぐ金じゃないから安心してくれ。

 

 今年だけであの量なんだ。来年からも定期的に入る以上、金を使わないと経済の流れが滞ってしまう。

 

 何としても金を使わないと、困る!

 

「……そうだ、出資しよう。日本の後継者不足とかに悩んでいる中小企業や町工場に土下座して、一億円ぐらい出資させてもらうんだ」

 

「……本当に落ち着こう。やるのはいいけど、ちゃんと報告、連絡、相談しようね?」

 

 インガ姉ちゃんにもツッコミを喰らった。

 

 う~ん。そこまで言われなければならないというのか。

 

 さて、試合があったコロシアムの近くなだけあり、割と混んでるな。

 

 これは隣の席の人とかいるだろうから、その辺りを気を付けないと―

 

『『『『『『『『『『あ』』』』』』』』』』

 

 ―ヴァーリチームがいたのかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから三十分後。

 

「……うっぷ……っ!?」

 

「トイレはあっちよ、早く行きなさい」

 

 黒歌にため息をつかれながら、美猴がトイレに向かって足早に向かっていく。

 

「……だから異能込みにしろって言ったんだ」

 

 俺はそうため息をつきながらジョッキを置く。

 

 事の発端はヴァーリチームと席が隣り合った状態で焼き肉をすることになったことだ。

 

 この辺りは飲酒可能年齢が17歳。それもあって美猴から飲み勝負を持ちかけられた。

 

 あまりにしつこかったので、俺の飲める限界を図るのも兼ねて付き合った結果、美猴が敗北した形になる。

 

 異能抜きというルールになったのが仇になったな、阿呆め。仙術で調律すればまだ勝ち目はあったろうに。自爆したとしか言いようがない。

 

星辰奏者(エスペラント)は基本的にザルなんだよ。異能なしで時速100km以上走れる奴がザラにいるレベルの強化が、臓器に対しても働くからな」

 

 だからこそ異能ありにしたかったんだが、美猴が拒否ったからこの結果だ。

 

 それでも酒に弱い奴はいるらしいが、まぁ基本的にはザルだ。なので度数が高い酒が主体になりやすいわけだな。だってそうじゃないと酔えないし。

 

 ま、割と回っているからこの辺にしておこう。まだ味に慣れてないし、残りはウーロン茶でいいだろう。

 

「……念為為にシジミの味噌汁頼んでてよかったな。飲んでおこう」

 

 肝臓の負荷もあるので、念の為民間療法。

 

「……う、うん……そうだね……?」

 

 と、そこでヴィーナが戦慄を覚えた表情になっている。

 

 というより、俺の飲んでいるシジミの味噌汁に戦慄を覚えている感じだ。

 

「ああ、味噌汁って外国人は引くこともあるとか?」

 

「う、うん。色がその……ちょっと引くかな?」

 

 異文化コミュニケーションは大変だってことだろう。

 

 念の為さっさと飲んでおくか。他人の食欲を削るのはマナーとしてあれだ。

 

 ……あれ? 更に味噌汁がこっちに来たぞ?

 

「豆腐の味噌汁のお客様は―」

 

「―あ、私です」

 

 何故かシルファがそれを受け取った。

 

「し、シルファちゃん……凄いね」

 

「いえ、日本じゃメジャーだし慣れた方がいいでしょう? ……なるほど、こんな味なのね」

 

 と、ヴィーナが感心している中、シルファは割とあっさり飲むと満更でもない感じだった。

 

「何というか、味が複雑に混ざり合っているわね。これがオリエンタルジャパンってものなのかしら?」

 

「だよなぁ? 最初見た時は面食らったが、日本の伝統調味料って中々イケるぜ?」

 

 と、こちらはこちらで味噌汁を頼んでいたベルナがうんうんと頷いた。

 

 ……まぁ、焼き肉店で味噌汁はメニューにないことも多いんだが。日本風の焼き肉店だが冥界のそれなので、ちょっと誤解もあるのだろう。

 

 ただ味噌汁は割と美味い。腕もいいし理解もあるといったところか。

 

「ちょ、ちょっと味見を。……あ、美味しいかも?」

 

 そしてヴィーナも試してみたけど、意外と気に入ったらしい。

 

 この辺り、素直というかなんというか。やっぱいい子だな。

 

 そして、そのきっかけを作ったシルファもいい奴なんだろう。異文化コミュニケーションに積極的というか、自発的に歩み寄ってるな、意外と。

 

「そういえば、そっちの初戦は大変だったね」

 

 と、インガ姉ちゃんがヴァーリチームに話を振る。

 

 ヴァーリもそこには同意だったのか、苦笑交じりで肩をすくめている。

 

「勝ち負けはともかく不完全燃焼だね。俺達もまだ出し切っていないが、相手もそうだから尚更だよ」

 

 そういうヴァーリは、その上でこっちに視線を向けてくる。

 

 なんというか目がキラキラしている。面白そうなおもちゃを見つけた目だ。

 

「そして、勝利おめでとう。中々歯応えのある相手だったけど、見事に絡めとって撃破したじゃないか」

 

 その視線は、黒狼さんの方にちらりと向く。

 

「そちらの提案かな? キャスリングというゲームのルールを上手く使った策だと思うよ」

 

「まぁ、ゲームだからこその策だという自覚はあるさ」

 

 そう返す黒狼さんは、ちびりと焼酎を飲んでさらりと流す。

 

 ヴァーリは逆にそれに面白そうな表情を浮かべるが、やがて小さく頷いた。

 

「面倒な制約もままあるが、強者相手に邪魔を入れられることなく戦えるのはいい機会だ。もとより君とは戦ってみたかったし、いずれ戦う機会がくることを願っているよ」

 

「そりゃどうも。ま、俺も天龍打倒ぐらいはできないとって感じなんで容赦はしないがな」

 

 俺はヴァーリの挑戦的な言葉に、あえて挑発的な言い方で返す。

 

 実際問題、極晃を否定した責任を取るのが俺の目的の一つだ。その点を考えるのなら、チーム単位でなら龍神をいなせるだけの成果を上げれるに越したことはない。天龍如きにビビっているわけにはいかないのだ。

 

「なるほどねぇ? ヴァーリや赤龍帝ちんと真っ向からやりあえないとってのが目標なのかしら?」

 

「ふふ、それは面白い。いえ、それぐらいの気概が相手に欲しいと思っていたところです」

 

 乗っかる黒歌やアーサーをスルーしながら、俺は水を飲んで口の中をさっぱりさせる。

 

 ……さて、あんまりピリピリした雰囲気で食べるのも論外だ。

 

 よし、ここからはもっとはしゃぐか。

 

 ちょうどよく肉も焼けているので、俺はそれを箸でとり―

 

「……よし、インガ姉ちゃん、あーん」

 

「……はえぇっ!?」

 

 ―インガ姉ちゃんに差し出してみる。

 

 その瞬間、後頭部をベルナに張り倒された。

 

「何やってんだ、カズ!?」

 

「待ってくれ。俺も順番は考えたが、アルコールも回ってるし掴み取った順番という感じにしたんだ! ちゃんとするから!」

 

 素早く俺は弁明するが、今度は左右から同時に張り倒される。

 

「「そっちじゃない!!」」

 

「じゃあなんだ!?」

 

 あれぇ? なんか会話がかみ合ってないぞ!?

 

「……ねぇ、もしかして割と酔いが回ってません?」

 

 美文にそんなことを言われるけど、そうなんだろうか?

 

 う~ん。酒そのものに慣れてないからそのあたりの感覚がさっぱりわからん。

 

「むぅ。分った、あーん(これ)は明日の朝食とかにした方がいい感じだな」

 

 とりあえず、酔いがさめたときにやった方がいいか。

 

 でもお昼とかだと学校だし、ベルナやインガ姉ちゃんにするタイミングがなぁ。

 

 そのあたりを悩んでいると、なんか全員があきれている雰囲気だった。

 

「あ、これ天然だわ。酔いとか関係ないわ」

 

 文香酷い。天然って何がだよ。

 

「ふふっ。愛されてますね、お二人とも」

 

「正直、愛され方に困るときがあるかな?」

 

「まぁ、これもカズの味って奴なのか?」

 

 ルフェイに応える二人の言い分に、何かが釈然としない。

 

 むぅ、なんかやらかしてしまっているんだろうか俺は。

 

「……文香」

 

 と、そこで何か考え込んでいた文雄が美文の声をかける。

 

「え、なに?」

 

「あ~ん」

 

 と、振り返った文香に箸でつかんだ肉を向けた。

 

「……あむ。……うん、焼き加減はもうちょっと緩い方がいいかも」

 

「そっか。僕はウェルダンの方が好きだから、ちょっと焼きすぎたかな?」

 

 ………。

 

 なんか妙な沈黙があるな。

 

「やっぱり問題ないだろ、これ」

 

「「あるから」」

 

 ベルナとインガ姉ちゃんのシンクロツッコミは釈然としないなぁ。

 

「……和地様、あの二人は参考にしない方がいいですよ?」

 

 三美さんがなんか苦笑しているけど、そんなにダメか?

 

「……どうなんだろうか?」

 

「いや、俺に言われて困るが?」

 

 ……ヴァーリに聞いたのは確かに間違いだな。まずこいつはエロ作品で興奮できるようになってからが重要だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、アザゼル杯の別の試合が行われていた。

 

 その試合は注目株。優勝最有力候補たる、帝釈天が率いるチームの戦いである。

 

 隔離結界領域に向かっていない神々の中では最強格とされる神々。間違いなく最強格の力を持つ神仏の筆頭。その力は間違いなく絶大であり、相手になるチームは初戦敗北が間違いないとすら称されていた。

 

 ……だが、その結果は逆となる。

 

「HAHAHAHAHA! レーティングゲームを舐めてたZE! ルールに絡めとられたとはいえ負けるとはな!」

 

 ゲームは熾烈を極めたが、その結果は帝釈天の敗北。この事実に、多くの観客が大きな歓声を上げる。

 

 それは大いなる結果はもちろんだが、冥界の悪魔領で行われたゲームであることも大きい。

 

「まぁ、特殊ルールでしたからね。もっとも真っ向勝負でも勝ち目は十分ありましたが」

 

 そう答えながら、勝利の決定打となったボールを拾いつつ、グレイフィア・ルキフグスがそっけなく答える。

 

 この勝利における大きな要因な二つ。

 

 一つはランペイジ・ボールというルールそのもの。ファール行為有の球戯といえるこれは、一時的に戦闘不能になってリタイアしても復帰できる。その為、直接戦闘能力が決定打になりにくい。

 

 初手のルールでこの特殊なゲームになったことが、帝釈天にとって大きく不利な展開となった。

 

 そしてもう一つの要因。それは人員の質である。

 

 直属の四天王を引き連れた帝釈天は、間違いなく最強格の質を揃えている。

 

 だがグレイフィアのチームもまた、ずば抜けた者達が揃っていたことでこの差を埋めきっていた。

 

「……ご苦労様、皆。おかげで助かったわ」

 

 振り返りながらそう告げるグレイフィアに、チームメンバーの一人が小さく微笑みながら頷いた。

 

「なぁに。これぐらいはできないと、冥界の民に顔向けできませんからね」

 

 そう返す男に、グレイフィアではなく帝釈天が苦笑いを浮かべる。

 

「……まさか、純血の魔王血族に生き残りがこんなにいるとな。HAHAHA! これは面白い戦いになりそうだぜ!」

 

「おかげで助かりました。貴方を私と彼の二人がかりで抑え込めたからこその勝利ですからね」

 

 そう答えるグレイフィアは、しかし表情を厳しいもので維持している。

 

 所詮この勝負は勝利の一つでしかない。予選がレートの取り合いである以上、勝数が多ければいいという物ではない。

 

 無理な連戦や不利な相手との勝負で負担をかけ、連敗に繋がることは避けねばならない。また同時に、勝利を何度も積み重ねてレートを増さなければならない。

 

 その調整こそが必須である以上、優勝候補を一度の試合で倒した程度では油断ができない。

 

 それだけの決意を籠め、グレイフィアは真っ直ぐに帝釈天を見据える。

 

「天は二人もいらないと、貴方はアザゼル元総督に仰ったそうですね。……その通り、そして冥界において天の帝を名乗っていいのは、断じてあなたではないのですよ」

 

 その言葉で、帝釈天は一端を悟る。

 

 そして面白そうに口元を歪める。それだけの内情を彼は掴んでいた。

 

「……なるほどNA! あの坊主は権威欲はそこまでないみてぇだし、フロンズの坊主と連名で推薦しても辞退されるって踏んだのか」

 

 政治の傑物であり、大王派の実権をほぼ握ったフロンズ・フィーニクス。現ルシファーの妻であり、レヴィアタンの襲名者候補でもあったグレイフィア・ルキフグス。この二人の連名で要望を掲げれば、悪魔側が拒否できることはそうそうない。

 

 だが、当人が辞退すれば話は別。そして、そうするほどのことがいくつかある。

 

 それをあえて、グレイフィアは帝釈天にだけ聞こえるように告げる。

 

「兵藤一誠こそ、この冥界で天の帝を名乗るに相応しい存在。彼を罪王にすることこそ、私の使命です」

 

 その宣言と共に、彼女は後ろを振り返る。

 

 そこには、あくまで構成される彼女のチームがいる。

 

 彼女自身の努力とフロンズの支援で集まった、元魔王派・大王派・冥革連合投降者で構成されるチーム。

 

 そして、戦力において中核となった三人の悪魔。

 

「ルシファー、ベルゼブブ、そしてアスモデウスの末裔をもってして、私は赤龍帝を悪魔の王にする。……貴方はその為の踏み台です。断じて邪魔は、させはしない……っ」

 

 今ここに、「光掴む殲滅女王」チームは、最も鮮烈なるデビューを飾ることとなった。

 




 ゴメンね? 題名はギャグです。




 そして終わりの方はシリアスです。

 ……イッセーは原作でも「魔王になるなら仲間たちと自力でなります!」って言ってのけた奴ですので、そのあたりをプロファイリングできる奴なら、外からの要望だけでなると判断しない可能性は十分にあります。そしてフロンズはその上で「ならどうすれば断れないか」を考えるやつです。

 結果として、この時期余裕がないグレイフィアと違い、冷静にそのあたりを踏まえたうえで「優勝賞品を使って連名で要望すれば、いくらなんでも断れない空気になるだろう。民衆も賛同するだろうし」といった感じですね。

 で、そのついでにいろいろやっている感じです。詰まるところ、余裕がない要人から難易度の高い要望をされたので、協力するついでにいろいろさせているといった感じです。

 そして今回はゲームのルールを利用した形ですが、そこで終わるわけがないんだよなぁ?


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大会開幕編 第十六話 恋する乙女とマッチング!?

 はいどうもー! パソコンの性能がそろそろ世界に追いついてなさそうなグレン×グレンでっす!

 タブレット新調にはまだ時間がかかるけど、とりあえず繋ぎをいったん買うのもありかもしれぬ。スマホはうっかり使いすぎそうだから、ソシャゲはタブレットかPCでやると決めているので……。

 まぁそれはそれとして、いったんは締め休め回です!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バリボリと煎餅を食べながら、俺達はレーティングゲームの試合映像を見ている。

 

 ……それはグレイフィアさんが王を務めるチームである「光掴む殲滅女王」チームが、帝釈天が率いる「ヴァジュラ」チームと競い、そして勝利している映像だ。

 

 ルールは一回入れるごとに転移するゴールにボールを入れ、そのポイントで勝敗を決める「ランペイジ・ボール」。

 

 このルールでは撃破されたプレイヤーもある程度の時間が経てば復帰できる為、直接的な戦闘能力が決定打になりにくい。それも勝利に繋がっているとは思う。加えて「ヴァジュラ」チームはメンバーの性質上人数が少ない為、このルールだとかなり不利ではある。

 

 だが、それを踏まえても「光掴む殲滅女王」チームはヤバイ。

 

 何よりヤバいのは、相手チームの王である帝釈天をたった二人で抑え込んでいることだ。

 

 グレイフィアさんは魔王クラス。そして帝釈天は、かつての四大魔王が全員で挑むべき相手とされる。つまり真っ向勝負ではグレイフィアさんでも分が悪すぎる。

 

 それを、足止めに徹したとはいえ二対一で完全に抑え込んだ。

 

 連携があまりに卓越しているわけではない。光掴む殲滅女王チームは急増が否めない故、帝釈天と直下の四天王で構成されるヴァジュラチームの方が数段上の連携だ。

 

 だが、帝釈天がたった二人に抑え込まれているのに引っ張られ、四天王が出し抜かれることも多かった。単純な人数差がもろに出たこともあるが、これも大きい。

 

 ……そう、戦えているのだ。

 

 帝釈天をたった二人で抑え込んだうえ、残ったメンバー同士もある程度の要素が絡んだとはいえ戦いになっている。これが怖い。

 

「なんていうか、あの女王(クイーン)の人……やばいね」

 

「同感。あれ、スペックだけならグレイフィアさんより上じゃないか?」

 

 緋音さんに同意する俺だが、これはまずいだろう。

 

 単純にスペックがやばい。おそらく純粋な性能に限定すれば、奴はグレイフィアさんを超えている。女王に配分されていることもあるだろうが、それを踏まえても魔王クラスはある。

 

 俊敏な動きで帝釈天の攻撃を回避し、魔力で牽制しながらの打撃は帝釈天に手傷を負わせている。

 

 更に他のメンバーも中々だ。

 

 グレイフィアさんに集った魔王派。フロンズが根回しして集めた大王派。更に双方が手を回した冥革連合の投降者。これだけの各勢力から悪魔を集めているわけだ。

 

 本来、そんな複合部隊で即座に連携が組めるわけがない。お互いに価値観が違う以上ギスギスしてもおかしくない。

 

 それでも戦えているのは、誰もが高い練度を誇っている点。そして四天王を一人で足止めできるだけの性能を誇る奴がいる点だ。

 

 それは二人。どちらも一対一で四天王の一人を足止めしている。

 

 帝釈天をグレイフィアさんと共に抑え込んでいる奴も含めた三人。その三人が活躍すれば活躍するほど、グレイフィアさんが活躍するのと同じぐらい悪魔側の士気が高まっていく。

 

 そして時間が終わり、ポイント差で勝利が確定。それに伴い悪魔側を中心に、大きな歓声が上がっていく。

 

 そう、何故なら―

 

『試合終了ぅううううううううっ!! 新たなる魔王の血族と、我らが銀髪の殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)が、かの帝釈天を下して初試合を勝利で飾りましたぁああああああああっ!!!』

 

 ―その三人は、もれなく魔王血族なのだから。

 

「……フロンズの奴、しかるべき人物に魔王血族を預けてると言ってたが……グレイフィアさんとはな」

 

 思わずぼやくが何をもってして契約が結ばれたのやら。

 

 ただ一つだけ言えるのは。あのチーム配分はフロンズの策でもあるんだろう。

 

 まず一つ。メンバー構成。

 

 大王派、魔王派、冥革連合。この三つの混合チームにしているのは、悪魔が融和を進めていることのコマーシャルとしては十分すぎる。更に魔王血族までいるのだから、旧魔王派とも折り合いをつけていいと思っているいい証拠となるだろう。

 

 もう一つ。魔王血族を三名も、グレイフィアさんの下につけている点。

 

 これはかつてルシファーに仕える一族だったルキフグス家、その配下として魔王血族を入れることによる印象操作だろうな。魔王血族はもはや悪魔を従えるものではなく、実力があれば逆の形になると思わせたいんだろう。

 

 そして三つめが、おそらくグレイフィアさんの目的だろう。

 

 まだ噂の段階だが、あまりにも早く広まる形で「光掴む殲滅女王チームは、全員がグレイフィア・ルキフグスに優勝賞品を使わせる為に集った」と流れている。おそらくフロンズの仕込みであり、的外れではないだろう。

 

 つまるところ、大王派のメンツも魔王派のメンツも冥革連合のメンツも納得できる、そんな目的をグレイフィアさんは持っている。全員がそうとは言わないが、各派閥から納得できるやつが出るような目的を持っているわけだ。

 

「なんていうか、とんでもないことになってるもんだ」

 

「そうなの? あの人……それだけの人ってこと?」

 

 緋音さんはその辺り、まだ慣れてないだろうな。

 

 ただ、グレイフィア・ルキフグスとはそういう人だ。

 

「最強の魔王の妻にして側近であり、当人も魔王につけるだけの人物だ。おそらくフロンズは、九大罪王の一人についてもらいたがっているだろうからな」

 

 俺もそれぐらいの予想はついている。というか、まず間違いなくそうだろう。

 

 純血悪魔、それも名門一族であり、女性悪魔としては現状最強の存在。九大罪王を認定する場合、フロンズからすれば絶対に入れたい相手だろう。

 

 そしてその交渉の結果がこれなんだろう。グレイフィアさんは条件を出し、フロンズは「アザゼル杯の優勝を支援するので優勝賞品で」といった形で叶えることにしたんだろう。最もそのついでに、真魔王計画を踏まえたいくつかの目論見も併用しているといったところだ。グレイフィアさんもそこは分かっていながら、それで目的成就を目論んでいる。

 

 そういう風に考えるべきだろうけど、また凄い事になっているな。

 

「……優勝賞品をフロンズにいい様に使われても叶えたいグレイフィアさんに、相当の支援をグレイフィアさんにしてでもフロンズが叶えていいと思った願い。いったい何なのか」

 

 思わず俺はそう愚痴るけど、そこで同じようにテレビを見ていた鶴羽が首を傾げる。

 

「でもさ、グレイフィアさんの願いをフロンズがオッケーするなら止められる悪魔っていなくない?」

 

 言われてみればその通りだな。

 

 大王派の実権を殆ど握っているフロンズと、魔王派にとって相当の発言力があるだろうグレイフィアさん。

 

 この二人が連名で願いを言えば、余程ろくでもない願いでもない限り悪魔社会なら通るだろう。それこそ拒絶するならアジュカ様とゼクラム・バアルが連名で出張る必要がある。そしてそれだけのレベルなら、世界に相応の混乱をもたらしかねないからアザゼル杯では無理のはずだ。

 

 あの二人ならその辺りは読みはできるだろう。それぐらいのことはできる二人のはずだ。

 

「「う~ん……?」」

 

 なんか訳が分からなくて、俺も鶴羽も首を傾げてしまう。

 

 そんなとき、緋音さんがそっと手を挙げた。

 

「あの、もしかすると……断らせない為かも?」

 

「「え?」」

 

 思わず振り向くと、緋音さんは自信なさげな雰囲気だった。

 

「悪魔社会は、よく分からない……けどね? 二人がかりで頼んでも、相手が断ることって……あるでしょ? だから断れないようにってことじゃ……ない?」

 

 ふむ、なるほど。

 

「えっと、つまり? 世界に混乱は生まないけど、普通に頼んでも二人の頼みでも断りそうな人にお願いごとを飲ませる為ってこと?」

 

 鶴羽はかみ砕いて理解して、尚更首を傾げた。

 

「どこの誰にどんな願い事するのよ? もしかして、隔離結界領域からサーゼクス様を引っ張り出す研究とか?」

 

 また突拍子もないこと思いついたな、鶴羽の奴。

 

「あ~、そんなこと願うかはともかく、それならアザゼル杯の優勝賞品レベルはいるか?」

 

「よく分からないけど、旦那さん……だっけ? 一万年も……離れ離れなら、確かに願っちゃうかも?」

 

 俺も緋音さんも、そうだとするならそれぐらいいるとは思う。

 

 ただなぁ~。俺からするとそれはないだろとは思う。

 

 だって、フロンズにしたってグレイフィアさんにしたって、理性でそれはしない方がいいと思うだろう。そしてフロンズは感情でそこまでする理由が無いから、なんか理由をつけて諦めさせるぐらいすると思うし。

 

 世界そのものに混乱は生まないだろうが、リスクがデカいし各勢力から反発も出るだろう。その当たりのことは考え突きそうだしなぁ。

 

 むぅ。さっぱり分からん。

 

 いっそのこと直接聞くべきだろうか。でも、言って素直に教えてくれる願なら俺達に誘いをかけるだろうしなぁ。

 

 そんなことを思っていると、インターホンが鳴った。

 

「あ、来たかも?」

 

 そう言って鶴羽がインターホンを確認しに行く。

 

 俺も時間を確認すると、ちょうどいい時間帯だな。

 

 と、ドアも空いてちょっとがやがやしてきたら、扉を開けて部屋に入ってくるカズヒが。

 

「お待たせ。色々買ってきたわよ?」

 

 さて、今日はその……俺のハーレムでちょっとしたパーティだ。

 

 緋音さんの異形慣れも兼ね、本格的に始めることになったわけでな。

 

 さて、みんな仲良くやれるよう、俺もしっかり頑張るか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっは~! とりあえず全員全チーム、初戦は勝ったからお酒が美味しい~!」

 

「……はいはい。飲みすぎないでね?」

 

「ま、もうちょっと飲んでもいいだろ。ほら、リヴァ先生もインガ姉ちゃんもビール注ぐぞー」

 

 一気飲みする前からテンション高めのリヴァにインガがそれとなく抑えをかけ、そんな二人のグラスに和地が流れるようにビールを注ぐ。

 

 とりあえずちょっとしたプチパーティだけど、まぁ今のところはいい感じのようね。

 

 そしてこっちも無事終了。

 

「はいはい。本命のパエリアもできたわよ。……ま、もうちょっと色々作りたかったけれどね」

 

「全員分作るにゃ流石にキッチンが足りねえしな。出来合いのもんも美味いしいいバランスだろ」

 

 と、私とベルナで作ったパエリアを持ってきて、ここからが本番。

 

 交流会というか親交を深め、かつ緋音に異形慣れを進める為にこうしてちょっとしたパーティを開くことにしたけど、掴みはいいかしらね。

 

「でも、レーティングゲームの試合は初めてだけど……凄いね」

 

「いやいや、アザゼル杯はお祭りだから。流石に普通のゲームはもっと地味よ?」

 

「そうねぇ。質が凄まじいというか、本来参加しないレベルの強者もどんどん参加しているものぉ」

 

 緋音にそう春奈やリーネスが語るけど、実際凄まじい戦いが始まっているわね。

 

 ……既に途中退場を表明したチームもいるみたいだし、それほどまでに壮絶な戦いが始まっているわね。

 

 既に映像は色々と変わっているけど、やばいチームは初手から目立ってきているようだわ。

 

「例の真魔王計画とサウス計画といい、この調子だと更なる強者が姿を現しそうね」

 

「冥革連合としては、純血悪魔で強いのが増えるのはいい事なんだけどね。師匠としては頭痛い?」

 

 春奈にそんな返しを受けるけど、まぁそうね。

 

「グレイフィアさんが首根っこを掴んでくれるだろう魔王血族はともかく、サウスの連中は困った奴ら多そうだもの。元々タカ派の連中でしょう?」

 

 その辺りがとても危険ね。

 

 元々和平の必要性をあまり持っていない連中を押させる為の策だったもの。それが寄りにもよって成功してしまっている連中である以上、和平に対していい印象を持っている気がしないわ。

 

 変に勝ち続けられると増長しそうだもの。暴走でもされたらいい迷惑だわ。

 

「ま、こんな催しにわざわざ参戦するなら余程の阿呆はしないだろ。神クラスを負かしたらボロッカスに言いそうだがな」

 

「ま、その時は私達の誰かが負かしてボロッカスに言い返してあげましょう! 身内の暴走を止めるのも、D×Dの仕事のうちってね?」

 

 和地が同意するように苦笑するけど、そこにリヴァが割って入って明るく言う。

 

 ……ま、それもそうね。

 

 それに緋音を不安にさせるのも問題でしょう。明るい話題にするべきだったわね。

 

 失態を内心で恥じ、私は話を切り替える。

 

「さて、リアス達も大体のメンバーは初戦を勝ちで飾っているわね。……誰かどこかと当たるチームってないの?」

 

 そういうのも含めてがこのお祭りだしね。ちょっとその方向でずらし見るべきだわ。

 

 実際、鶴羽もすぐに乗っかって首を傾げてるし。

 

「ん~。確かそろそろ発表になるんじゃなかったっけ? どうなの、その辺?」

 

「そうねぇ。……あ、ちょうど発表みたいよぉ?」

 

 と、リーネスが番組表を確認し、そしてチャンネルを変える。

 

 と、そこではスロットのような形で新しい試合の発表が進んでいた。

 

 一応私達は全員登録しており、そしてメンバーが切り替わっていくけれ……ど……。

 

「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」

 

 思わず、そのマッチメイクに声を上げてしまった。

 

 試合が確定したチーム名は。「涙換の救済者(タイタス・クロウ)」と「王道の再興者」のチーム。

 

 涙換の救済者チームは当然、和地が率いているチーム。

 

 そして王道の再興者チームとは、王の駒を正式採用することを要望している、悪魔が率いているチームだ。

 

 つまるところ―

 

「……いいじゃない。ちょっと楽しみになってきた」

 

「……そうか? 俺はちょっと戸惑ってるぞ?」

 

 ―和地と春奈が激突する。そういう事になったのだ。

 

 そして、春奈は和地とは異なり嬉しそうだ。

 

 ちょっと戸惑っている和地に対し、春奈はだけど笑顔を向ける。

 

「私の誓いは変わってない。……ううん、思い出したことでもっと強くなった」

 

 それは、戦意。そして好意。

 

 ふふ。和地も大変なことになりそうね。

 

 何故なら―

 

「……和っちに胸を張れるぐらい強くなりたいもの。だから、思いっきり全力で挑んであげるわ」

 

 ―恋する乙女は、ヤバいわよ?




 さて、大会開幕編のラストバトルは和地VS春奈となります。

 壮絶な戦いにしたいところですが、まぁ待っててね?


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大会開幕編 第十七話 睡眠の覚醒

 はいどうもー! 最近こっちの方が進んでいるちょっと困ったグレン×グレンでっす!

 それはそれとして、とりあえず大会開幕編は本編書き終えました。あとは幕間です!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は気分転換も兼ねて、地下のトレーニングルームで汗を流していた。

 

 トレーニングに関しては専用の異空間をオカ研は持っているけど、こういうところで軽く運動するのはいい感じだ。気分転換なら風呂場も近いしこっちの方が便利な時もあるよなぁ。

 

 軽く体を動かさないと、ちょっともやもやしそうだったからなぁ。

 

 と、そんなことを思ってるとトレーニングルームに入ってくる人がいた。

 

「あら、イッセーくん?」

 

「あ、有加利さんですか」

 

 トレーニングスーツを着た有加利さんが、俺に気づいて声をかけてくれる。

 

「ふふ。最初の頃は普通に話してくれたのにね?」

 

「いや、あの時は年上だって気づかなかったから」

 

 色々あって分かってなかったけど、年上だったとは気づかなかったぜ。

 

「それで、有加利さんはどうしてここに?」

 

「うん。ちょっと体を動かしておこうかと思って……ほら、強くなりたいから」

 

 そう苦笑する有加利さんは、静かに自分の手を見つめている。

 

「……何かできるようになりたいっていう、強迫観念かな? そうでないと、自分を許せないから」

 

「……大変っすね」

 

 いろんな意味でだ。

 

 色々な意味で被害者といえる有加利さんだけど、実働として被害を増やしてしまっているからな。白い目で見るやつもいるし、罪悪感も出るんだろう。

 

 しかも魔王血族で、準神滅具の保有者。力を持っているというしかない。

 

 ……そう思われたことも、こうなってる理由なんだろうな。

 

「で、検査の結果はどうでした?」

 

「……それがさっぱり。準神滅具のはずなのに、性能が明らかに低いって」

 

 そうなんだよなぁ。

 

 亜香里や有加利さんは、魔王の血を引いているだけでなく準神滅具まで持っている。はっきり言って滅茶強い人のはずなんだ。

 

 ただ、検査してみると性能が明らかに低いと出た。アザゼル杯換算だと精々が4駒レベルで、魔王血族と準神滅具のコンボだと思えないぐらい低いってなっている。

 

 元々かなり特殊なこともあって、戦場には出さない方がいいとは言われている。言われているけど、それとは別の意味で不安にはなる。

 

 なんだろう。堕天使化までしているんだから、もっと強くてもおかしくないはずなんだけど。

 

 ……う~ん、分からん!

 

「よし! こういう時は鍛えましょう!」

 

「そ、そういうものなの?」

 

 ちょっと困惑されるけど、難しいことは俺には分からんしな。

 

「とりあえず、体は鍛えておいて損はないです! 基礎体力がある方が日常生活も楽ですし、やせやすいし疲れも溜まり難く取りやすいですから!」

 

「やろう!」

 

 俺が経験則を言うと、凄い勢いで食いついた。

 

 え、どこのそんな食いつくところが……あ。

 

 日本人女子なら、大半が食いつく部分があったな。

 

「……いえ、出るところ出てるだけでむしろすらっとしてますけど?」

 

 セクハラかもしれないけど、とりあえず思ったことを言ってみる。

 

 そしたら有加利さん、そっと目を逸らした。

 

「イッセー君。私、これでも結構体重には気を使ってこれなの……っ」

 

 じょ、女性に体重の話は降らない方がいいな。知識じゃなくて経験で実感したよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気分転換も兼ねて本館の屋上にいたら、妙なものを見つけた。

 

 魔力で出来た綿のような物体。それが二メートル強の潰れたラグビーボールみたいな形で屋上に鎮座している。

 

 控えめに言ってなんだこれ。得体が知れなさすぎる。

 

 何の通達も警報も無いから敵ではないだろうが、こっちの警戒網が優秀だろうと、敵がそれ以上ならすり抜けられるだろうしな。

 

「……すまん皆。なんか妙な物体を本館屋上で見つけた」

 

 俺はショットライザーを展開しながらそれを伝え

 

『―もこもこした物体だったら安全よ?』

 

『―あ、それならたぶん亜香里だと思うよ?』

 

 ―そんな、リアス先輩と有加利の返事を聞いた。

 

 ……ん~?

 

 俺は首を傾げながら、念の為確認をするべく近づいてみる。

 

 そ~っと覗くと、なんていうかいい寝顔の亜香里がそこにいた。

 

「……すぴ~……っ」

 

 見てるこっちがほっこりするほどの寝顔だな。

 

 訳も分からず微笑みそうになったが、すぐにその寝顔がうなされる様になっている。

 

 これ、起こした方がいいかもな。

 

「おい、亜香里起き―」

 

「……ひゃぁっ!?」

 

 言い終える前に飛び起きた。

 

 そして見事にその額に迫りくる。

 

「うぉっとぉっ!?」

 

「……はえ?」

 

 だがその前に高速バク転で俺は回避。これまでの経験を積み上げて鍛錬を重ねてきたことが、俺にこの回避を可能とした。

 

 素早く一回転しながら後退すると、着地して周囲を念の為確認してから俺はホッとする。

 

 亜香里も亜香里で困惑しているが、周囲を確認するとこれまだ一安心のようだ。

 

「あ、ごめん。三回に一回ぐらい、まだこんな感じで」

 

 まぁ、嫌な夢を見てしまうのは仕方がない。それにあんなことがあったんだし、トラウマにもなっているだろうしな。

 

 ただ、お昼寝が趣味なのに嫌な夢をよく見るのは大変だろう。そこは同情する。

 

「あぁ、それはいい。それより聞きたいのはだな?」

 

 それより俺が聞きたいのは、だ。

 

 綿状になっている、謎の物体で亜香里は寝ていた。そしてリアス先輩と有加利の返信から、これが亜香里によるものだと推測できる。

 

「……それ、何?」

 

 真剣に俺はそこを質問する。

 

 凄く気になる。とっても気になる。

 

「あ、これ? イッセー達から魔力について教わってたら思いついたの」

 

 亜香里はそう言うと、ちょっと自慢げに微笑んだ。

 

「ふんわり柔らか、それでいて気温も調整します! これぞ、お昼寝用に作った私の魔力!」

 

 ……お、おぉう。

 

 ついに睡眠欲が魔力で技となったか。

 

 イッセーの性欲、ヴァーリの食欲、そこに続くは睡眠欲。

 

 ……この女、いずれは第三の天龍になるかもしれん。

 

 ちょっと戦慄覚えながら見ていると、亜香里はポンポンと魔力を広げながらその部分を叩いてみる。

 

「寝てみる? すっごい眠れるけど?」

 

「…………あ、じゃぁちょっと試しに」

 

 俺は素早くアラームを30分設定したうえで、気になったので試してみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づいたら眠っていた。なんだこの安眠誘発力は……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は兵藤邸のリビングで、一息をついていた。

 

 特別風紀隊としての仕事もこなしつつ、低い学力で何とか駒王学園の勉学についていく。その上でD×Dとしていざという時に備えた鍛錬を積み上げつつ、アザゼル杯の準備も行っている。

 

 やることが多いわね。イッセーやリアスは此処に上級悪魔としての各種活動もあるというのに、よくやるわと言いたいわ。

 

 なんとなく感心していると、私の空になったコップに水が入っていく。

 

「お疲れ師匠。どう、次の試合の準備は?」

 

「ありがとう春奈。まぁ、及第点は貰えるレベルかしらね」

 

 何時の間にか水を持ってきてくれた春奈に礼を言いつつ、私はそう返す。

 

 まぁ、小規模とはいえ一PMCをメンバーに加えられたのは大きい。バックアップ体制が割と大きいから、こういう時は比較的手間が少ないもの。

 

 そういう意味では、春奈達の方が最高でしょうけどね。

 

「で? 王の駒を限定的にでも正式採用させる為のチーム様は、どれぐらい頑張っているのかしら?」

 

「ふっふぅん。仮にも現役の上級悪魔様が何人も参加してるからね。そういう作業は簡単にできる土壌が万端って感じ?」

 

 春奈がそう返すけど、実際面倒なものね。

 

 春奈が参加しているのは、王道の再興者チーム。

 

 ディハウザー・ベリアルによる告発で負の側面が大量に明かされ、それゆえにガレシオンといったTFユニットの採用すらちょっと文句が出ているレベル現状。それを打開する為に結成されたチームだ。

 

 最も文句が出ている止まりのTFユニット採用を超え、ある程度の条件をクリアした者に限りとはいえ、純血悪魔に直接使うことを前提としている。優勝賞品クラスを使わなければ難しいのが現状でしょう。

 

 そんな目的をもって、冥革連合及び彼らの監視役も兼ねた現政権の若い上級悪魔が中心となったチーム。現状においては連戦連勝で、有力チームの一つとなっている。

 

 冥革連合からのメンバーは王の駒を停止させられているが、それでもあのヴィールに付き従う者達。練度は非常に高く、既に弱体化した自分にも慣れている。停止されているのが王の駒だけなので、神聖血脈というアドバンテージは残されていることもあって、全員が最低でも上級悪魔の上位レベルだものね。

 

 そして若い悪魔達も、冥革連合が共闘を選ぶだけあって練度は高い。きちんとした才能をちゃんと高めているうえで王の駒を使うといった形のようだ。

 

 ……冥革連合は自粛もあってチーム構成で半分程度だけど、彼らがコーチとなる形でブートキャンプをやっているらしい。その為練度が試合ごとに高まっており、神クラスが参加しているチームすら打倒している。

 

 もっとも、打倒の要は春奈と双竜健也だったけれど。

 

「それで、神滅具化した神器の検査とかも終わったのよね? どうなったの?」

 

「それはもう。完全上位互換って感じで、将来的に神滅具認定は確実って感じね!」

 

 私が振ると、春奈はそう言って胸を張る。

 

「その名も赫焔女帝(ブレイズ・エンプレス)! ま、神滅具化したことで禁手がリセットされてるけど、つまりまだ伸び代があるってことだしね」

 

「……また難敵が誕生したという事かしらね」

 

 ちょっと苦笑するレベルでだけれど、かなり難儀な相手になりそうね。

 

 とはいえ、これまでの手合わせとかも含めてとにかく強い事だけは分かる。

 

 神滅具は二つの特性を持つことが多いけれど、春奈の場合は割とシンプルだ。

 

 全身を基点とする形で高出力の炎を具現化する。そして炎の運用方法を特化した特殊な形で高効率・高出力で放つ「焔技」の発生。

 

 つまるところ、かつての禁手の機能を拡張発展させている。加えて一つの統合されたことで、赤き炎の腕を取り込んだ数とは無縁になったと思われ、手数においては破格と言っていいでしょう。

 

 まったくもって末恐ろしいわ。大概ね。

 

 そして上位神滅具たる双竜健也と共に、王道の再興者チームの切り札となっている。まったく、ヴィールもこれは誇らしいんじゃないかしら。

 

 まぁ、それと激突することになる和地は大変でしょうけど。

 

「で、和地との試合を前にどんな感じ?」

 

「冥革連合側は燃えてるわよ? ヴィール様が聖血を託した男との戦いだしね」

 

 なるほど。それは大変ね。

 

「ま、和地も和地で手は抜かないでしょう。お互い、悔いが残らないような試合をすることを期待するわ」

 

「もちろんよ!」

 

 春奈はそう胸を張るけど、少しだけ神妙な雰囲気になった。

 

「……まぁ、万が一和地が無様な試合をしたらキレそうだけどね……皆」

 

「……する気は流石にないでしょうけど、ゲーム慣れしてないものね、和地」

 

 冥革連合、どいつもこいつもなまじ意識が高いから、その点は不安ね。

 

 いえ、和地は間違いなく自己研鑽を欠かさないけれど。その辺り、本当は問題なんて欠片も無いんだけれども。

 




 ついに出た! 乳技、麺技に続く、眠技!

 今回はどこでも出せる快眠装置といったところですね。今後どうするかは現状未定。

 それはそれとして、春奈の神滅具の名称を出したりなど、多方面で交流を進めております。こういうのも必要ですからねっと♪


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大会開幕編 第十八話 連・戦・直・前

 はいどうもー! 最近収入面が上昇したので、本日ちょっと高めの昼食を外食で食べたグレン×グレンでっす!

 ちなみに台湾料理でした。今後は機会があれば多種多様な海外の料理に挑戦してみたい。……昆虫やエスカルゴは自信ないけど、ヘビとウサギぐらいは試してみたい今日この頃。ちなみに今度の給金で馬刺しを試そうか思案中。


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 非常にいい睡眠がとれた。亜香里の奴、ちょっと怖いぐらいセンスがあるな。

 

 おかげで今日のトレーニングもしっかりとできそうだ。むしろ調子がいいから効率も上がってるかもな。

 

 魔剣を創造し、魔術で補佐をしながら、素早く振るう。

 

 仮定する難易度は高めに設定しつつ、現実的に攻略の余地があるレベルに設定。ここを誤ると都合のいい展開を妄想しそうになるし、何より本当にやばい時に引き際を見誤る。

 

 その上で全力を振り絞ること数十分。俺は一息を入れるべく、休息をとる。

 

 取れる時にきちんと休む。そもそも取れる時間をとる。これができるやつが普通は勝つ。そして普通でない方法は普通無理だからこそ、参考にしない。

 

 そういう異常は異常であると、きちんと理解して自制しないといけない。これが曖昧になると人に押し付けるからな。人は自分にとっての当たり前を、他人にも当たり前だと思い込みたがる悪癖があるしな。

 

 だからこそ、過酷ではあっても異常ではない範疇内で収めた訓練でまとめつつもだ。そこから先を踏まえる必要もある。

 

 残念なことに、世界初の残神到達者であり、二番目の極晃到達者は普通ではない。となると俺の今後を踏まえた場合、普通ではない領域も考慮して立ち回るべきだ。

 

 ……そして残酷なことに、次の試合は色々と懸念事項が多すぎる。

 

「……はぁ」

 

 思わずため息をついた時、だ。

 

「……どうしましたか、和地様?」

 

 ジャージ姿の三美さんが、トレーニングルームに入ってきた。

 

 さらりと他に人がいないか確認している辺り、そこを考えてトレーニングを積んでいたんだろう。気遣いできる方だ。

 

「あ~、どうも三美さん。いえ、ちょっと次の試合で気が重くて」

 

 隠すのもあれかと思い、俺は素直にその辺りを白状することにする。

 

 ストレッチで体をメンテナンスしながら、基礎取れをしている三美さんの横で、俺は素直な不安を吐き出した。

 

「次戦う王道の再興者チームは、冥革連合の参加者が数多いチームです。……いろんな意味で、俺は彼らが意識する奴ですからね」

 

 そこは考えないといけないわけだ。

 

 なにせ、冥革連合盟主であるヴィールは、俺達が打倒した。更にその前には春っちを貰い受けており、春っちの評価は冥革連合でも高い。とどめに奴からは鮮血の聖別洗礼(パプテマス・ブラッド)を植え付けられており、別途で神聖血脈の余地を一つ上乗せされる大盤振る舞い。

 

 冗談抜きで、無様を見せるようなら俺は奴らに殺される。あいつら基本生き方がガチだから、情けないところは見せられない。

 

 つまるところ、俺がヴィールを打倒するだけの価値があることを証明することは必須だ。いうなれば、小姑軍団を相手にすることになるわけだからな。気合を入れねばならんだろう。

 

 だからこそ、だ。

 

「……俺、聖血の方はまだまだな状態なもので。焦ってはいませんが懸念事項でして」

 

「なるほど。冥革連合にとって、聖血(それ)は重いですからね」

 

 理解してくれてありがたいです。

 

 敬愛する盟主の使っていた神滅具。それも、その盟主自らの意思で託された男が使っている。これを軽く考えるとは思えない連中だらけなチームだからな。

 

 まして春っちとの正面戦闘だ。春っちも俺を意識するだろうし、冥革連合なら尚更だろう。

 

 それなりのものは見せるべきだし、俺も見せたいとは思っている。

 

 だからこそ、だ。

 

「相応のものを聖血をもって成したい。だが現状では難しい……と、そういう事ですか」

 

 三美さんはすぐに納得してくれてありがたい。

 

 そう、出来ることならあいつらには、俺が聖血をヴィールから託されるに相応しい男だと納得してもらいたい。

 

 まだ数か月しか経ってないとはいえ、数か月経っていることも事実だ。

 

 せめて本体側の神聖血脈は掴めないと、あいつらも失望するし春っちも思うところが出るかもしれん。

 

 そう思うとなぁ、ちょっとなぁ。

 

 そんな感情が実は渦巻いているわけだが、基礎取れを終えた三美さんは小さく微笑んだ。

 

「……何も、力の発現に拘る必要はないと思いますよ?」

 

 その言葉に、俺ははっと気が付いた。

 

「そうか、神聖存在への変化はある程度はできてるんだ」

 

「はい。鮮血の聖別洗礼は、自己の肉体を神聖存在という形で聖遺物化しての強化及び、神聖血脈という固有の異能を獲得させる神滅具です。片方ができているのなら、それを研ぎ澄ますだけでもだいぶ変わるでしょう」

 

 俺に頷く三美さんは、そして寂しげに微笑んだ。

 

「生物はできることしかできません。無理にできることを増やすより、出来ることをより研ぎ澄ます選択肢はあります。冥革連合とは何度か戦っておりますが、自分なりに力を研ぎ澄ますことだけでも評価する者が多い印象がありますから」

 

「あ、戦ったことあるんですね」

 

 だとすると苦労しただろうなぁ。

 

 あいつら、全員もれなく強いからなぁ。貴族だから上級悪魔で才能ある。意識高いから鍛錬も欠かさない努力家だし。とどめに当時は、(キング)の駒か真魔(ディアボロス)の駒も使っているわけだし。

 

 マジで戦って生き残っているとか、本当に優秀な人だよなぁ。最上級悪魔の眷属なだけあって、トレードされないだけのポテンシャルはあるんだろう。

 

 ……それはそれとして、本当に大変だったろうに。心底同情するぞ。

 

 俺のその感情が分かっていたのか三美さんも少し苦笑していた。

 

「自己研鑽を欠かさないので、取り逃がすと必ずそれ以上の手合いに化けるんですよね……」

 

「……人のことは言えないけど、敵に回すととても厄介な連中だ」

 

 俺達もそんなところがあるから、戦っていた奴らからするととても厄介だろう。こんな形で敵の気持ちが分かるとは思わなかった。

 

 そうだな。基本的にはそれだろう。

 

 土壇場で限界を超えるのではなく、限界を鍛錬で拡張し、出来ることを増やして磨いていく。基本はそれがベターであり、俺はそれが人より卓越しているタイプだ。

 

 ならまずはそこだ。一足飛びに進化する必要はない。

 

 ……いかんな。ちょっと迷走してたか。

 

「ありがとうございます、三美さん。おかげで少し頭が冷えました」

 

「いえ、チームリーダーのサポートもメンバーの務めですから」

 

 イヤホンと、割と本気でありがたいってもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は呼吸を整え、そして四肢を振るう。

 

 想定するのは和地の卓越した守りの動き。そしてミザリの圧倒的な理解と反応に裏打ちされる対応だ。

 

 二人はそれぞれ別の意味で、ディフェンス面で鉄壁といえる。本質的にオフェンスに特化している私だからこそ、この二人を超えるイメージトレーニングは必須だろう。

 

 ……同時に、自分に都合のいいことを考えずに突破する光景を見抜けないのも難点だ。

 

 まったく。私が愛する男はどいつもこいつも守りが固い。妙なところで相性がかみ合っているというかなんというか。

 

 そしてニ十分ほど繰り返していたが、都合のいい妄想無しで防御を突破するイメージは結局掴めなかった。

 

 さすがにイメージとの模擬戦で覚醒はできない。裏を返せば、覚醒しての急成長無しで二人の対応を突破することは今の私にはできないという事だろう。

 

 だからこそ、ネックはそこだ。

 

 覚醒という手段は断じて当たり前のことではない。そもそも意志の力で急成長を遂げ、肉体までそれに引っ張られるのは異常事態。不可能はできないから不可能であり、限界は超えられないからこその限界であり、超えてできればそれが致命に繋がるはずなのだ。

 

 それができるやつは特例でしかない。そんなものを基準にしてはいけない。

 

 だからこそ、覚醒は使わずに済むなら越したことはないものでなければならない。必要な時に使うことは変わらないが、必要としない力を得る努力が必要なのだ。

 

 だからこそ、私は己を鍛え続ける。

 

 覚醒せずに耐えられる力を得る為に。それを成す努力もないくせに、覚醒でどうにかしようというのもそもそも問題だろう。

 

 ……ゆえに、私は必ず強くなる。

 

 かつての愚かな自分を戒め、和地に誇れる、みんなと共にあれる自分でい続ける為に、必ず成長して見せる。

 

 その決意と共に、私は拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、準備はできた。

 

 やるだけのことはいつもやってる。鍛錬は毎日積んでいる。

 

 その上で、俺達はいつもそれ以上を目指してきた。

 

 次の試合、相手は雷光チーム。バラキエルさんとの闘いだ。

 

 バラキエルさん。朱乃さんのお父さん。

 

 ハーレム王を目指すに当たって、いろんな意味で攻略しなくちゃいけない相手だ。腹もくくるし準備もするさ。

 

 そしてその上で、俺は勝つ。

 

 色々と複雑になるかもだけど、競うのならば本気で挑むべきだ。それが相手への礼儀だと、俺は思ってるし思っている相手とばかり競ってきた。

 

 だからこそ、俺もここからが本番だ。

 

 最初から数試合しているけど、俺達は色々と言われている。

 

 戦闘能力はあるけど、ゲームの特殊ルールに引っかかることが多い。その所為でテレビでも色々と言われている。

 

 だからこそ、ここからだ。

 

 レイヴェルが示したとんでもないアンサーを、俺が形にして見せる。

 

 ああ、勝つし示すぜ、俺達は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……三人とも、気合が入っているようですよ?」

 

「そうね。むしろそれでこそだわ」

 

 僕がそれとなく探った情報を聞いて、リアス姉さんは微笑んだ。

 

 競い合う仲間達が、全員本気で先を目指している。その事実がたまらない。

 

 だからこそ、僕も目指す。

 

「ではリアス姉さん。僕達も目指しませんとね」

 

「ええ。だからこそ……示してみないといけないわね?」

 

 そう微笑み、リアス姉さんは戦意を見せる。

 

「ええ、示して見せるわよ。……私達が並び立てるのだとね」

 

 そしてリアス部長はそれを見せ―

 

「私もまた、それに恥じない仲間だということをね?」

 

 ―完成度を増した新技を、見せつけるのさ。

 




 というわけで、そろそろ大会開幕編も終盤です!


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大会開幕編 第十九話 悪魔重鎮胃痛案件

 ハイどうもー! 最近興味深いD×D作品もちょくちょく出てきて、この調子で非アンチ・ヘイト作品が増えるといいな~なグレン×グレンでっす!

 ただ長続きさせれるかは別ですからねぇ。自分も大変ですからねぇ? ……何とか自分も頑張るか!


イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁて、今日は色々と忙しいぞー!

 

 リアスのチームも俺のチームもカズヒのチームも九成のチームも暴れるからな! 更に九成のチームは成田さんがいるチームと激突するし、本当に忙しい!

 

 試合はなるべく全部観戦したいし、俺もバラキエルさん達に勝ちたいし。とにかくやることが多いぜ!

 

 そんな感じで、ちょっとリビングで気を静めながら今日のことを考えていると、掃除機を持った成田さんが入ってきた。

 

「……あ、イッセー。そっちは準備いいの?」

 

「そっちもだろ、成田さん。メイド業務までしてていいのかよ?」

 

 むしろそっちこそ休んでいた方がいいと思うんだけどなぁ。

 

 だって、メリードは従者として色々厳しいというかなんというか。リアス達は基本的に家事を手伝う分、メリードは仕事を目ざとく探して何とかしてるからな。

 

 壁の掃除や、町内会のボランティア活動に参加するとか色々やってるし。割と重労働だと思うんだけど。

 

 ただ、成田さんはどうってことないように肩をすくめる。

 

「一応私、メイドが今の基本よ? そもそもガチでテロってたわけだし、きちんとこなしてからやんないとね」

 

 う、う~ん。確かに言ってることはあってるけど。

 

「ヴァーリとか曹操とか、普通に出てるしいいんじゃないか?」

 

「いや、あそこまで神経太くないわよ?」

 

 おお、容赦ない。

 

「私達だって、それなりの後見人や身元保証人としてしっかりとした貴族様達がついているからこその参加だしね。それだって納得してない奴は多いだろうしね」

 

 あ~、確かに。

 

 冥革連合って、禍の団の同盟組織だったしな。それもかなり大規模で一大派閥レベルの発言力もあったし。王の駒も裏の事情があったのを知っていた上でやっていたわけで、考えようによってはもみ消しじみたことを狙ってたわけだしな。

 

 そういう意味だと、やっぱり不満や敵意を持っている奴は多そうだな。

 

「特に、監視役が参加してないヴァーリチームは不安ね。一応和平会談の時だって、死傷者は一桁じゃきかないでしょ? 監視役ゼロで参加って、ヘイト稼がない?」

 

「どうなんだろ。アザゼル先生達が連名で推して最上級悪魔だし、案外何とかなるんじゃないか?」

 

 実際問題、冥界では英雄の一人だしな。

 

 実際ヴァーリがいなかったら、ミザリの打倒はもっと被害が大きかったはずだし。アジ・ダハーカの打倒だって、ヴァーリが挑まなけりゃもっと被害が出てたはずだ。

 

 だから大丈夫だと思うけどなって思っていると、成田さんは掃除機を掛けながらため息をつく。

 

「因みに、王道の再興者(ウチ)は脅迫状とか送られたわよ? 私も名指しで殺害予告とかされてるし」

 

 え、マジかよ。

 

 俺がちょっと引いていると、成田さんは肩をすくめる。

 

「ま、私の場合は神器を強引に簒奪して強化したクチだしね。……相手は選んでるけど、そんなことした奴が一度はテロまで起こしてたら当然でしょ」

 

「……あ~、それもそうか」

 

 確かに、言われてみるとそうなんだよなぁ。

 

 神器を強引に摘出すれば、基本的に死に至る。神の子を見張る者の技術でもそうなるから、やっぱり成田さんの件もそうなるわけか。

 

 ただ、そこは安心ではないけど確信はあるんだよ。

 

「でも成田さん、っていうかヴィールの監修ありだろ? 罪もないただ毎日を生きている人から強引にって想像できないんだけど」

 

 あのヴィールで、その眷属の成田さんだからなぁ。

 

 レイナーレとかコカビエルなら分かるけど、ヴィールがそういうやり口を選ぶとも思えないっていうか。あいつのことだから、下劣な手段はしてないと思うんだよ。

 

 その眷属であることを今でも誇っている成田さんなら、こっそりそういうことをするっていうのも無いと思うし。だから今まで、その辺りを突っつく気にもならなかったんだよなぁ。

 

 俺がそんなことを考えているのに気づいたのか、成田さんも肩をすくめる。

 

「……ま、そこはあってるけど。敵対したちんけな犯罪者集団を叩き潰すついでにかき集めたって感じね。……あれはついていると言っていいのかしらね」

 

 犯罪者集団か。

 

 人間側でも、お国柄でそういうのの容赦とかが変わるしな。異形社会は遠慮なくその場の判断で殺せる時とかも多いし、尚更か。

 

「因みにどんな犯罪者集団だったんだ?」

 

赤き炎の腕(アーム・ファイヤ)保有者だらけで構成された、金を貰って放火を繰り返す連中よ。割とこっちの関係者も被害受けてて、そいつらを壊滅させたことがヴィール様にとってかなりの評価になっていたわね」

 

 ……凄いな、オイ。

 

 神器って本当に悪用されることが多いな。聖書の神様が死んでることもあって、教会も堂々と神器を公表できないってのがキツいのかもな。

 

 ただ、赤き炎の腕保有者だらけか。

 

 成田さんは十個以上の赤き炎の腕を統合して、最近には禁手通り越して神滅具級の進化まで遂げたけど、凄い数だよな。

 

「赤き炎の腕だって、神器全体で見たら比較的凄い方なんだろ? 使い手ばっかりたくさん集められるのか?」

 

「ボスも禁手に至ってたのよ」

 

 成田さんは嫌なことを思い出した感じの表情で、ちょっと遠い目になった。

 

「赤き炎の腕を保有している奴を感知する、索敵機能に特化した禁手ね。で、放火して金稼いで人口密集地に言ってスカウトして更に放火して金稼いで……の無限ループ」

 

「うっへぇ」

 

 そりゃ大変だ。

 

 つまり、神器保有者が十数人もいる連中なわけだ。しかも神器の性質が性質だから、警察だと放火の道具が見つからないってことになる。

 

 また面倒な奴もいたもんだな、オイ。

 

「……ま、それは別として冥革連合が反乱を起こしたことは事実。自らの意思でそれをしたのなら、業は背負えるだけ背負わないとってことね」

 

 そういうと、成田さんは掃除機をかけ終わったので片付け始める。

 

 そして、俺の方を向くと拳を握り締めて突き付けた。

 

「そういうわけだから、ぶつかる時はお互い遠慮なしよ。我が主ヴィール様の最後の命に賭け、悪魔の富国強兵を目指す私達に容赦はないわ」

 

「……もちろんさ。お互い試合の場では全力でぶつかるのが礼儀ってもんなんでな」

 

 ああ、成田さん達が相手の時だって容赦はしない。

 

 全力で挑んで、必ず勝つさ。

 

 ま、九成もいるし大丈夫だろうけど……な?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、オカ研主体のチームが軒並み試合とは意外な展開ね」

 

「そうですね。それにどのチームも強者ですし、偶然にしろ意図的にしろ、お姉さま達の力を見せなければいけない日ではないでしょうか?」

 

 私の呟きにカズホが応えるけど、実際そうね。

 

 私達と相対するのは、悪魔祓いの中でも対上級を優先的に拝命する手練れだらけのチーム。

 

 リアスと相対するのは、レーティングゲームのランキングでも上位をキープする強豪。

 

 イッセーと相対するのは、現堕天使副総督であり純血堕天使としては最強格のバラキエルさん。

 

 そして和地は、春奈を擁する王の駒正式採用を目指す、若き悪魔達のチーム。

 

 全てのチームが現段階で連戦連勝。本戦出場も不可能ではないとされるチームが激突する試合だらけだ。

 

 誰が勝つかは分からない。ただ、誰が勝ってもおかしくない。

 

 そういう、三大勢力の実力者達同士のぶつかり合い。どの試合もかなり注目されていると聞いている。

 

 だからこそ。無様な試合は見せられない。

 

 ……とはいえ、面倒なことも多いようだけれどね。

 

「で、私宛の脅迫状ってきたの?」

 

「……いきなり何を意味不明なことを?」

 

 意味不明なことを言われて困惑しているように言うけれど、動揺が隠せてないわね。

 

「誰が何と言おうと、道間誠明(ミザリ・ルシファー)の始まりに道間日美子(カズヒ・シチャースチエ)は深く関与している。その時点でヘイトなんていくらでも生まれるでしょう」

 

 だからこそでもある。

 

 今後も私が和地と共にいることを容認してもらう為には、相応のことをする必要がある。

 

 ただ同時に、あれだけのことが起きた以上どこまで行っても私に負の感情は向けられる。そういう奴は必ず出てくるし、感情の問題だから嫌悪を完全に消すことも現実的じゃない。

 

 だからこそ、復興支援金目的と堂々と公言したところで嫌悪感は向けられるでしょう。偽善者とか売名行為とか言われるでしょうしね。

 

 だからまぁ、そこは実感しておくべきだものね。

 

「……七通ほど来ていたようです。数枚にはカミソリや血文字まであったと」

 

「……それだけ? 少なすぎないかしら?」

 

 本音が出たら信じられないような視線を向けられた。

 

 ……ミザリ関連の被害や日美子のしたことを考えれば、桁が二つは少なくないかしら?

 

「……おいおい、マジか?」

 

「うっそぉ……」

 

「「え?」」

 

 と、少し離れたところで今回のメンバー達がなんかどよめいているわね。

 

 何かあったのかと覗いてみれば―

 

「……また、面倒なことに……っ」

 

「お姉さま、気を確かに! いえ確かに大問題ですが!!」

 

 真剣に胃が痛くなる事態が乱れ撃ちに……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩れ落ちるは、三大勢力の精鋭達。

 

 神の子を見張る者が擁する、準神滅具を宿すハーフ堕天使。

 

 教会から参加した、上級クラスの異形相手に動かれる、精鋭悪魔祓い。

 

 そしてレーティングゲームのレートでも3000に届くレベルの最上級悪魔。

 

 和平により意気投合する機会を得た者達で構成されるチームは、ここに至るまで連戦連勝。優勝候補とは言わないまでも、好成績を収めるだろうと確信すら持たれていた。

 

 ……そのチームが、誰一人倒すことなく全滅して敗北した。制限時間が八割も残っている段階での決着である。

 

 まさにワンサイドゲーム、完全試合。圧倒的な勝利をもって、そのチームは会場に帰還する。

 

 そのチームはあまりにも特殊だった。

 

 王がここに至るまでフードを被っていたチームは、これまた連戦連勝ではあったが目立たなかった。

 

 それは参加チームの中では下馬評が低い者達とばかり当たっていたこともある。そしてその試合運びも、決して圧倒的とは言えないような立ち回りだった。

 

 それゆえに下馬評では圧倒的に相手が上。それがこの圧倒的完封勝利。観客は誰もが戦慄すら覚えている。

 

 ……そして、一部の者はこれが演出だと感づいていた。

 

 おそらくは、マッチメイクで強いチームとぶつかるまで本気を出さなかった。そしてそれが巡りめぐって、想定以上の成果を上げている。

 

 これまでパッとしなかったチームが、強者と認められたチームを相手に圧倒的な勝利を飾る。これはどうあがいても強い衝撃を与えるものであり、必然として有名になるだろう。

 

 ……そして問題はその王。

 

 フードを取り払ったその男は、悪魔だった。

 

 中性的な容姿を持つその悪魔は、何故か手を傷つけると血を採取する。

 

 その奇行に観客の注目が集まる中、彼は宣言する。

 

「改めまして、初めまして……諸君っ! 我が名はラツーイカ・レヴィアタン! 初代レヴィアタンの血を引く、純血悪魔なり!!」

 

 その宣言に、会場は思わず沈黙する。

 

「嘘だと思われないよう、ここに血液を提供するのでぜひ調べてほしい! そして同時に……私は此処に二つを宣言する!」

 

 そう言いながら血を入れた小瓶を掲げ、そしてラツーイカは胸を張る。

 

「私は、偉大なる主ハーデス様に相応しくなる為、九大罪王の一角を狙う! 優勝の暁にはその地位を要求させてもらうと、これを見る全ての神仏に誓約する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その映像をたまたま見ていたフロンズは、思わず腹部に手を当てていた。

 

「……やってくれたな……ハーデス……っ」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「しっかりせい。ポーズの意図が全く感じぬぞ?」

 

 近くにいて話をしていたノアと幸香が思わず気遣うほど、フロンズは精神的にキている。無自覚に胃を心配しているほどにキている。

 

 彼は大王派の実権を握っているも同然であり、同時に暴発による内乱を防ぐ為に責任も苦労もしょい込んでいる。そしてそれだけでもない。

 

 グレイフィア・ルキフグスの要望を叶える為の潤沢な支援を確保する為の手腕。

 

 サウス計画の成功者達を何とか収める為の各種暗躍。

 

 そして幸香達と共に目論む願望成就の為の根回し。

 

 全てにおいて多大な苦労が必須であり、フロンズ・フィーニクスは多忙の権化だ。シュウマ・バアル亡き現在では彼は大願成就の為の集団の長にもなっており、はっきり言って忙殺されてもおかしくない。

 

 圧倒的に優れた手腕と根回しによる分散対応でしのいでいるが、過労で倒れても驚かれない程度には仕事をしている。

 

 そこにこの一手を撃ち込まれたことで、フロンズは無自覚に胃痛を気にするレベルに達していた。

 

 実際、フロンズはノアや幸香の言葉を聞いていなかった。

 

「くっ! シャルバをそそのかせたことから言って、旧魔王派にコネがあることは分かっていた。真魔王計画も掴めるだろうし、一人や二人確保されている可能性は覚悟していた。……だがここで堂々と切るとは……っ」

 

 フロンズは入念に思考し、二手三手先を読んで動く男だ。真魔王計画を知った時点で、禍の団やハーデスが先に一人二人を確保することは想定していた。

 

 だが、ハーデスがここまで素早く切るとは思っていなかった。札として使うのなら、本格的に三大勢力と激突するそのタイミングで使っての動揺を誘うと踏んでいた。

 

 ……老獪な老人を常に出し抜けるほど、フロンズも経験が足りていない。つまるところそういう事だ。

 

 フロンズも冷静さを取り戻しながらそれを身に刻むが、幸香はその時首を傾げている。

 

「思い切ってはおるのぉ。ここぞというタイミングで切っても良さそうじゃが」

 

 幸香の意見はまさにフロンズも思っていたことだ。

 

 そしてその時、ノアはピクリと肩を震わせる。

 

「……あ~、俺なんか嫌な予感がする」

 

「「というと?」」

 

 思わず二人同時に問いかけてしまえば、フロンズは冷や汗を一筋垂らす。

 

「戦闘でこれ使うならどうするかって考え方なんだがな? 奴さん、本命じゃない可能性があるぜ?」

 

「……なるほど。インパクトが強いのを良いことに、そちらに意識を向ける為の陽動が奴の役目ということか」

 

 幸香が速やかに納得する中、フロンズは小さく考えこむ。

 

 ……確かに、ラツーイカ・レヴィアタンの戦闘能力は、魔王クラスにはまだ届いていない。

 

 最上級悪魔としては上位クラスだが、神仏魔王と一対一で真っ向勝負ができるかと言えば疑問が残る戦い方だった。おそらくだが、シャルバやカテレアと同程度……といったところだろうか。

 

 それでは、血筋による強みぐらいしか札としての価値がない。そしてそれだけでは現悪魔政府をどうにかするには力不足だ。シャルバ達旧魔王派は蛇で強化してなお惨敗を喫したことから、それはうかがえる。

 

 そして、そう仮定した場合が更に怖い。

 

「……つまり、本命があるという事か?」

 

「少なくとも戦力的にはアテがあるんだろうさ。でなけりゃこんな挑発行為は流石にしねえだろう」

 

 フロンズに応えるノアは、画面に映り派手に身振り手振りを見せるラツーイカを見据える。

 

「こんなことすりゃ警戒されるのは目に見えてる。例えそれが本命を隠すブラフにしろ、意味もなく警戒心を高めるような奴じゃねえだろ、あの骨は」

 

 その言葉に、フロンズは呼吸を一つ入れながら一瞬の思考を入れる。

 

「……なるほどな。よし、ではこちらも派手に動くべきだろう」

 

 そう語り、フロンズは視線を幸香に向ける。

 

「こちらは手はず通り動く。そちらも次の試合では、相手に関わらず本気を出してくれ」

 

「よかろう。私掠船団の本領、相手に関わらず見せてやるとしようではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どの勢力も、先を見据えて一手を出し続ける。

 

 そしてそれが更なる相手の一手を引き出し、世界は揺らぎ続ける。

 

 三大勢力の和平と禍の団の決起。その二つをきっかけに動き始める世界は、いまだ止まる様子を見せないでいた。




 そんなこんなで胃痛案件「ハーデスシンパに魔王血族」が投入されました。

 もう堂々とハーデスのシンパを名乗って優勝したら罪王の一人になりたいとぬかす奴。しかも魔王血族で優勝賞品を使う場合、悪魔社会的に無視もできない。フロンズも無意識で胃に手をやる案件です。

 そして実際問題、ハーデスの本命はリリス・チルドレン。……胃痛案件だぜぇ!


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大会開幕編 第二十話 光狂いとは覚醒する前から強くなり続けるからなおヤバい

 はいどうもー! 最近風邪気味でストレスが溜まっているグレン×グレンですぅ。

 熱はないし軽い風邪なんですが、鼻の調子が悪いったらありゃしない。夏に差し掛かると明け方に目が覚めるから眠りも浅いため、地味にイラついています。

 ただ食欲不振もあって普段より腹がすかないので、逆手にとって痩せれないか思案中だったり。職場が変わって昼の食生活が変化したので、最近腹がさらに出てきたんだよなぁ……っ


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか今日の試合、初っ端から凄いの出たなぁ。

 

「やっぱり真魔王計画って奴か? それもハーデスが確保ってのはヤバいよなぁ」

 

 正直バカだからよく分からんけど、それでもやばいのは分かる。

 

 だって、堂々とハーデスに仕えているなんて言ってたからなぁ。

 

 レイヴェルも眉間にしわが寄るぐらい警戒しているし、絶対まずいだろう。

 

「そうですわね。純血の魔王血族であることも判明されたようですし、これは警戒が必須ですわ」

 

 あ、そうなのか。もう判別できたんだ。

 

 見ればレイヴェルはタブレットで素早く情報を確認していた。こういう時できる子だよね。

 

 ただ、ハーデスの配下に純血の魔王血族かぁ。これって絶対やばいよなぁ。

 

「う~ん。でもさ、今の政権って魔王血族を何度もぶちのめしたり迎えたりしてるんでしょ? 一人嫌ってる奴に仕えてる程度でそんなに問題?」

 

 と、アルティーネはちんぷんかんぷんな様子で首を傾げている。

 

 あ~、確かに。

 

 俺も馬鹿だからだと思うけど、今更魔王血族が一人ハーデスにいるだけならそこまでって思いたくなる。

 

 ただなぁ……。

 

「魔王血族って、純血の悪魔にとっては凄い有名なブランドみたいなもんなんだよ。ほら、悪魔って寿命が長いから初代魔王に従っていた人がたくさん現役にもいるみたいだし」

 

 俺は馬鹿なりそこは分かってる。だからちょっと心配だ。

 

 実際、性格が糞の権化だったリゼヴィムが動いただけで内通者も出てきてたしな。ディハウザーさんも王の駒の告発をする時、リゼヴィムの野郎を後ろ盾にしたからこそあそこまで効いた感じだったし。

 

 となると、純血の魔王血族がいるかいないかって意外とデカいと思うんだよなぁ。

 

「確かに。家柄という物はそういうのが尊ばれる文化であればあるほど、それだけで強力なものだ。悪魔は貴族主義の階級社会である以上、その影響力は無視できんだろう」

 

「そうですな。名門貴族の出ならそれだけで価値を見出すものは数多いものです。初代魔王の子孫、それも純血ならば純血悪魔にとって畏敬の対象となりましょうぞ」

 

 ゼノヴィアとボーヴァも頷くけど、やっぱり油断できないか。

 

 レイヴェルもかなり真剣に唸っているし、相当のヤバいかもな。

 

「……レイヴェルに具体的に聞くけど、どれぐらいヤバいと思う?」

 

「そうですわね。ややこしいヤバさとでも言いましょうか」

 

 俺に応えるレイヴェルは、モニターに図を起こしながら説明してくれる。

 

「まずラツーイカ様が堂々とハーデスに仕える者として名乗りを上げた今の段階ですが、この時点でそれなりの影響力は避けられませんわ」

 

 そう語りながらレイヴェルは。魔王血族と大きく書いて、+の記号を挟んで冥府と書く。

 

「この時点で冥府は冥界に対して交渉カードを確立しています。もし冥府が悪魔に戦争を仕掛けた場合、ラツーイカ様が堂々と協力を表明し悪魔側の説得や懐柔を試みるだけで従う者は増えるでしょう。場合によっては禍の団残党の旧魔王派を引き込むことも可能ですわ」

 

 なるほどなるほど。

 

 やっぱりそれだけの価値があるってことか。魔王血族は侮れないな。

 

 更にレイヴェルはラツーイカの下に「大義名分」「説得力」とまで書いている。

 

「王族の血を確かに引く者が柱となって反乱が起きれば、その王国はそれだけで大きな危機を迎えることになる。これは人間界の歴史でもままあることです。国に対する反乱に見合った御旗があるかどうかは大きな差となります」

 

 ……あとで歴史を勉強し直そう。たぶんだけど、古い悪魔と関わる時にも役立つだろうし。

 

 ただその上でレイヴェルは、まるの下に-の記号を入れて「悪目立ち」と書いた。

 

「ですがこのタイミングはデメリットも多いです。事前のコマーシャル活動にはなっておりますが、それはすなわち対応する立場に警戒や対処の余裕を与えることにもなりますもの」

 

「それもそうね。和平前に堕天使や悪魔に大司教がこっそり内通していたなんて知られたら、それだけで教会は大規模作戦を起こしたでしょうし」

 

 イリナが即座に納得すると、レイヴェルはしっかりと頷いた。

 

「ただでさえ冥府は反和平姿勢で禍の団にも協力しています。ことポセイドン派と内乱まで起きていたことを踏まえれば、ここで敵対方向に懸念されれば相応の準備期間をこちらに与えてしまう悪手となるでしょう」

 

 そういえばそうだ。

 

 ポセイドン様が酷い目に遭ったっていうのに、ハーデスはその元凶の禍の団を利用して暗躍していた。むしろ清々したなんて言う言質まで取られたもんで、ポセイドン派が冥府に乗り込んで内乱になったぐらいだ。

 

 そういえば、その内乱が収まった……というより、冥府側が事実上勝ちを拾ったって形で収まってたな。

 

 ハーデス直下の星辰奏者部隊が大暴れしてポセイドン派が壊滅的打撃を受けた上、回復したポセイドン様がとりなして収まったとか。ポセイドン派も戦う力が残ってなかったらしい。

 

 ……そもそもそれだけのことが起こった時点で、既にハーデスは警戒されてるわけだ。

 

 そんな状態で余計な警戒心を招けば、内乱というか軍事的侵略が勃発しかねない。

 

「ここまで考えれば、ヤバイようでいてヤバくない。……ハーデス側にその意志があるならこんな手は打たないと熟慮できる者は考えられます」

 

 なるほど。でもレイヴェルは危険視している。

 

「つまり、どういう事なんだ?」

 

「私が警戒しているのは、ラツーイカ様はブラフ。既に確立された本命がある可能性ですわ」

 

 本命。つまり魔王血族以上に価値のある切り札を持っているってことか。

 

「……本命って、いったい何なのでしょうか?」

 

 アーシアがそう尋ねるけど、レイヴェルは静かに首を振る。

 

「分かりませんわ、アーシア様。忌々しい事ですが、ハーデス達冥府は老獪ですもの。……ですがことを起こす前提なら、相応の切り札が別に無ければこんな目立つマネは致さないでしょう」

 

 なるほどな。

 

 つまり、もっとやばい切り札をハーデスは持っている可能性がある。だからこそあえて囮として、ラツーイカを見せたってことか。

 

 ……上等だ。

 

「そん時はそん時だ。むしろ分かり易くなってスッキリするさ」

 

 俺はそう言って、拳を握る。

 

「ハーデス達が俺の大事なものに危害を加えようっていうなら、その時は誰が出てこようと叩き潰す。その為に今からしっかり鍛えておけばいいって、ただそれだけだ」

 

 今更だ。

 

 ハーデス達とはいつか決着をつけるだろうし、相手だって勝つ為の備えは当然する。当たり前のことだ。

 

 なら、俺達だって当たり前のことをする。

 

 何時仕掛けられてもいい様に、備える。そして仕掛けてきたのなら、返り討ちにしてぶちのめす。

 

 ただ、その前に―

 

「―とりあえず、まずはバラキエルさん達との試合だよな」

 

 そっちも大事だしな。

 

 相手も本気で来るだろう試合だ。俺達も本気で挑まなきゃ失礼ってもんだ。

 

 俺達はいつもそうだしな。まずは目の前の問題にぶつかっていくのが先ってもんだ。

 

「それもそうだね。いくらハーデスでもいきなり仕掛けはしないだろう。まずは目の前の問題に対応しようか」

 

「そうですわね。これまでの行動から見て、ハーデスは動きが遅くなるでしょうからすぐ何かとはいかないでしょう」

 

 ゼノヴィアとレイヴェルも納得してくれたし、ならこっからは試合だな。

 

「俺達は後回しだけど、必ず勝つぜ……皆!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかハーデスが面倒な一手を打ってくれた。

 

 純粋な魔王血統を確保するとかやってくれる。それも、優勝賞品で「九大罪王就任」を求めるような奴だ。

 

 アレは色々と騒がしくなるだろう。リアス先輩とかフロンズとか、考える立場は胃が痛くなってもおかしくない。

 

 ……ただ同時に、俺は試合に見入っていた。

 

 今見ている試合は、カズヒが挑む新たなゲーム。

 

 日本の土地神が王として参加しているチームとの戦いだが、中々な妙手を打ってくれた。

 

 その土地神は風水師などを参加させることで、レーティングゲームのフィールドを自分に有利な土地に変えるという芸当をかましている。前回のゲームで固有結界使いと戦ったが、土地そのものに加護を与えることで結界の発動を阻害して勝っていた。

 

 そういう意味でかカズヒにとっては相性が悪い。土地の支配で勝負されると固有聖域が使えないし、固有結界封じはできるからな。実際、実際の体験で更に煮詰めて強化している。

 

『ふふふ。如何に神仏すら打倒する悪祓銀弾であろうと、その本領を抑えれば勝機はある。神を打倒することが本当に困難だということを、改めて知るといい!』

 

 そう吠える土地神の猛攻を、カズヒはしのいでいる。

 

 対神特化のアヴェンジングシェパードを使ったうえでの戦い。しかししのいでいる止まりだ。

 

 それほどまでに、土地の支配権を奪われたのは痛い。

 

 地の利を完封する聖墓だが、それに対してメタを張られている。更にカズヒは植え付けられているうえに、適合値は気合と根性で補っているだけで実はそこまで高くない。習熟期間が短いこともあり、実は苦戦中だ。

 

 至るほどに習得すれば話は別だろうが、今の段階ではきついという事か。

 

 他のメンバーも土地神の加護を与えられた者達が相手なので、手古摺っている。というより相手のチーム、土地神が(キング)なだけあってそういった者達が主体。土地を守護する場末の霊獣や精霊が多く、割と有望なチーム構成だ。

 

 正直ちょっとハラハラしているし、下馬評で不利と言われていたので一人でこっそり見ている。変な声が出そうだからな。

 

 くっ! カズヒが、カズヒがこんな序盤で敗北を経験するのか……っ。

 

 そんな不安に駆られた、その時だった。

 

『なるほど、確かにこれは相性が最悪ね』

 

 そう、カズヒが呟いた。

 

 一見すると負けを認めたかのような発言。

 

 だが、付き合いが深い俺は気づいた。

 

 彼女の表情は、負けを認めたものでは断じてない。

 

 むしろその逆。あれは―

 

『……ついてないわね。最初の試合で仕掛けていれば、私を倒せたでしょうに』

 

 ―勝機を見出している表情だ。

 

『ほぅ? 確かに固有結界だけが貴殿の本質ではないがね』

 

 そう語りながら、土地神は絶大な力を放つ。

 

 覚醒により急成長を遂げられるカズヒに対して、長期戦は実は微妙な策だ。

 

 覚醒の連発にだって限界はある。覚醒による急成長は急成長ゆえに、必然として肉体が先に音を上げる可能性があるからだ。意志の力が肉体を凌駕する故の欠点ともいえる。

 

 だが、カズヒは微笑みすら浮かべている。

 

 あれは違う。覚醒じゃない。

 

『ここで潰せばそれで終わりだ!!』

 

 その瞬間、嵐のような土地神の猛攻がカズヒに迫り―

 

『いいえ、一手遅いわ』

 

 ―その瞬間、猛攻をカズヒが突き破って一撃を叩き込んだ。

 

 驚愕を覚えるのは、一撃そのものではなくカズヒの姿。

 

 仮面ライダーシルバードーマなのは変わらない。

 

 だが同時に、その全身に外套を纏っている。

 

 毒々しい色の禍々しさを基調としながら、真逆の印象を与える銀の細工が浮かぶ外套。

 

 どこかあやふやなそれを纏ったカズヒは、間違いなく動きが変わっていた。

 

 体勢を立て直して迎撃する土地神だが、しかしカズヒはその上を行く。圧倒的な猛攻が、土地神の猛威を弾き飛ばしていく。

 

 え、ちょ、あれ何ぃいいいいいいいっ!?

 




 策士レイヴェルはラツーイカがブラフだと当然推測していたり。もっとも、リリスなどという反則級の爆弾なんて想定するのがまず困難ですが。

 それはそれとしてカズヒの試合が開始。

 何年も前から思いついていた、新技を此処でついに出せるぜええええ! 待て、次回!!


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大会開幕編 第二十一話 女傑大暴れ

 はいどうもー! 風邪が一気に鼻に来ていて困りまくりのグレン×グレンでっす!

 ……鼻水がでてこまるったらありゃしない。初日はのどに来ていたので、こうも鼻が苦しい状況は勘弁してほしいところです。


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついてないにもほどがある。

 

 私じゃない。相手チームのタイミングの悪さに、私はちょっと同情している。

 

 今回の戦い、間違いなく難敵といえる。相性が悪いにもほどがある。

 

 固有結界対策。間違いなく相手を選ぶけれど、決まれば勝ち目が見える類の戦術だ。実際に一回勝っている。

 

 固有結界は短期決戦を押し付けるとはいえ、短時間なら圧倒的有利な空間を作り上げることができる。魔術の最秘奥と称されるに値する奥義。それを封殺できるというのは、その時点で厄介だ。

 

 固有結界最大の利点は、瞬間的に展開できるという点にある。要は己の力を最大限に発揮できるホームをどこにでも作れるという事だ。これは大きい。

 

 固有結界の性能そのものは、確かに強大だけどそれだけだ。超一流の魔術回路保有者なら、時間・資材・立地の三つを用意できれば、同様の効果を発揮する拠点を作ることは不可能じゃない。むしろ一度作ってしまえば持続が楽である為、その方法の優位性もある。

 

 だが固有結界は、それだけの代物が必須な空間を瞬時に作り出せる。仮説だけれど、鶴羽の固有結界を施設として再現する場合、資金だけでも数億や数十億円でも足りないだろう。国家プロジェクトや国際機関レベルの事業になるのは間違いない。

 

 だからこそ、固有結界は強力なのだ。それだけの代物を瞬間契約(テンカウント)で出せるのは絶大だ。

 

 ……ただし、固有結界はその性質上当たりはずれもある。

 

 私の場合はある意味でそれだ。確かに強力極まりない固有結界だけれど、固有結界にする必要性が薄い点がある。私個人の魔術回路を超強化するだけである以上、劣悪な燃費を齎してまで世界を侵食する必要性は実は薄い。

 

 ゆえに固有聖域という裏技を確立したけれど、時間をかけて幾人もの協力者と練った固有結界封じはそれすら防ぐ。

 

 だからこそ、タイミングの悪さにちょっと同情してしまう。

 

 ……寄りにもよって、固有結界の()()()()アプローチが完成した直後にぶつかるのだ。かませ犬になる為に出てきたと思うレベルで同情する。

 

 そしてその力により、私は全力で相手を殴り倒す。

 

「ぬぉおおおおおおっ!? 馬鹿な、これが覚醒……ッ!?」

 

 なんていうか、既に覚醒が固有スキル扱いされているのにちょっと引くわね。

 

 いえ、幸香とか後継私掠船団も含めてでしょうけれど。それにしたってなんかツッコミどころが豊富すぎるというか。それでいいのかと思う。

 

 第一これは違うし。

 

「いいえ、これは普通に魔術で殴り倒しているだけよ!」

 

 そう、固有結界の強化魔術で殴り倒しているだけ。今のところ、覚醒を遂げる必要もない。

 

 そしてそれゆえに、ここからが本番だ。

 

 ……私の固有結界は、その性質上固有結界にする意義が薄い。これはさっきも語った通りだ。

 

 私の魔術回路を絶大に強化するだけなら、広域フィールドを莫大な魔力を消費してまで展開する意義が薄い。空間転移という魔術回路の利用で行うのは神業レベルの所業をポンポンできるのは利点だけれど、それだけだ。

 

 だからこそ、研究の果てに編み出したのがこの新たなる奥義。これは固有結界のある種の裏技の発展形だ。

 

 固有結界はその性質上、魔術的に最も外界からの影響を受けない自身の体内に展開するのが最も低燃費だ。それもあり、固有結界使いは固有結界を展開しなくても固有結界に由来する魔術特性に長ける。私の場合、属性が極めて希少かつ価値のある五大属性(アベレージ・ワン)な点もある。

 

 それを利用した裏技として、本来大規模な準備を必要とする魔術を自身の体内で完結させることで、便利な小技として使用するという物もあった。これはその発展形だ。

 

 つまるところ、浸食する世界を己の極々周囲に限定しての展開。能力強化率を下げる代わりに、固有結界の燃費を大きく改善する。結果として、私は外套を纏っているように変化している。

 

 これが、個人戦闘に意識を向けた固有結界の新たなる運用方法。

 

「外套型固有結界……固有外套とでも名付けようかしらね!!」

 

 ちょっと得意げになりながら、私は土地神を殴り飛ばす。

 

 悪いわね、私は常に進歩するのよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどぉう。こういうやり方もあぁるのかぁぁあああああっ!」

 

「……お主、もうちょっと聞きやすい話し方出来ぬか?」

 

「……独り言だとしても、それならトーンを下げてくれ」

 

「あ、すいません団長にフロンズ様。つい癖で」

 

「幸香。後継私掠船団(君の部下)なら癖は強いだろうが、ある程度は世渡りを意識してくれ。私がフォローするにも限度がある」

 

「承知した。あまりに阿呆な理由で敗れるのは、流石にゴメン被るのでな」

 

「いや本当にすいません。とっても参考になったもので、テンションが上がりまして」

 

「確かに。あの技は(わらわ)にとっても興味深い……が、お主はそういう意味で言ったのではなかろう?」

 

「無論です、団長。私の神器を利用すれば、面白いことができるとは思ってたんですよ……ふふふ、インスピレーションが広がるなぁ」

 

「ふむ、今後のアイディアになるかもしれんな。リザーネに時間を作るよう言っておこう。それはそれとしてだ」

 

「どうしました、フロンズ様?」

 

「君の研究を推し進める為、話を通した上級悪魔が何人かいる。……(キング)の駒に代表されるゲームの不正は、こういう時に役立つな」

 

「それは助かります。私で十代目になりますけど、一代で一つも増やせないのは残念だったので」

 

「構わんさ。いい機会だし、次の試合で本格的に動くといい。……と、私が言う事ではないか」

 

「構わぬ構わぬ。そろそろ歯応えのある相手と戦えるのでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆえに団長として命を下すぞ、道間・禅譲・信姫(どうま・ぜんじょう・のぶひめ)。……掲げる(あざな)に見合いし力、次の試合までに会得して振るうがよい」

 

「承知です、団長。……次の試合、七天魔王(オダ・サタン)の真なるデビュー戦にして見ぃせぇえええまぁすぅっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いや、口調」」

 

「はうあっ! す、すいません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙に寒気がするね。風邪でも引いたかな?

 

 このゲームでということはないだろう。何故なら、今回の対戦相手は火を得意とする者達が中心だからね。

 

 最上級悪魔だけでなく、火の魔獣や精霊などが中心となった混合チーム。炎での戦いを押し付ければ、高位の神にすら通用するだろう。

 

 だが、その炎はもはや風前の灯火だった。

 

「……温いわ。イッセーやライザーに比べれば、まるでぬるま湯のように熱さが足りないわ」

 

 そう告げるリアス姉さんは、ため息をつく余裕すらあった。

 

 残念に思っていることだろう。これでは本気を出す必要すらない。

 

 それほどまでに僕たちは強くなった。もはや、神クラスですら無策では半端な存在は試金石にもなりはしない。

 

 どうやら、今回は隠し玉を見せる必要すらないようだ。

 

 ……イッセー君。僕達はここまで己を高め、そして勝利を積み重ねてきているよ。

 

 僕達は知っている。君達のチームが酷評されているという、中々に困ったことを。ゲームという環境では、その突破力は生かせない。そんなことを言われているということを。

 

 だけど僕達は知っている。君は僕達の想像もつかないような方法をもってしてでも、そんな困難を乗り越え続けてきたことを。

 

 見せてくれよ、イッセー君。リアス・グレモリー眷属のエースたる君は、この程度で終わるようなものではないのだと!!




 かなり前から思いついていた、固有結界の変則的手法……固有外套。

 もちろんそう簡単にできる技ではありませんが、いろんな世界の技術を盛りに盛っているこの作品ならある程度はねじ込める余地があると判断しました!


 そして後継私掠船団もメンバーはどんどん増やしていきます。

 道間家からのネームドの増やそうかと思っていたので、思い切ってブッコンで見た道間家出身の後継私掠船団。道間・禅譲・信姫。奴の出番は次章になるでしょうが、かなりやばぁいことをさせる予定だったり。




 そしてリアス、あっさりストレート勝ち。

 強くなりすぎて隠し玉を見せる暇もありませんでした。こちらも新たな札は次章をお待ちください。


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大会開幕編 第二十二話 世界公開大告白(第一弾)

 はいどうもー! 花の調子がまだ悪いグレン×グレンでっす!

 どうも風邪と鼻は無関係とのことで、ある程度様子見をしてからまた行くことになりました。かなり久しぶりの耳鼻科でしたねぇ。


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合終了後、僕達は続いて開始されたイッセー君達の試合を観戦している。

 

 イッセー君とバラキエルさんの試合だけど、やはりイッセー君は苦戦しているね。

 

 今回のゲームは「オブジェクト・ブレイク」という特殊ルール。指定されたオブジェクトを探し出し、過半数を壊すことができた、もしくは王を撃破したチームが勝者となるゲームだ。

 

 現段階では、バラキエルさん達が多めにオブジェクトを撃破。その上でイッセー君達にちょっかいをかけ、集中させないようにしている。イッセー君達は主導権を握られがちだ。

 

 直接戦闘ではイッセー君達が若干有利だけど、このゲームでは直接戦闘が決定打になり難い。ゲームはともかく戦闘での経験値が圧倒的に上回っていることもあり、バラキエルさん達が主導権を握っているようだ。

 

 事実、ゲームのルールを生かした戦術である「投獄(インプリゾンメント)」を逆手に取り、この作戦の要であるロスヴァイセさんを潰しにかかっている。

 

「……流石は、神の子を見張る者(グリゴリ)の現副総督。かつての大戦から生きている、歴戦の堕天使なだけあるわね」

 

「あうぅ……イッセー先輩……」

 

 リアス姉さんは感心し、ギャスパー君はイッセー君を心配している。

 

 確かに、イッセー君はこの試合でも絡めとられ気味だ。ここ最近、試合では本領を発揮しきれず酷評され気味でもある。これは批評家が厳しい意見をまたつきつけそうだ。

 

 そして、情勢はどんどん不利になっている。

 

『グリィイイイイイゴリィイイイイイイッ! その程度の魔法など恐るるに足らず、神の子を見張る者のアンチマジックは、異形一ぃいいいいいいいっ!』

 

『くぅっ! ここまでとは!』

 

 ロスヴァイセさんを押し込んでいるのは、神の子を見張る者でアンチマジックを研究している、最高幹部のアルマロスさん。

 

 バラキエルさんのチームで女王(クイーン)を担当していることもあり、その力量は絶大。更にアンチマジックを想定した装備を生かし、ロスヴァイセさんの魔法を逐一破壊している。

 

 ロスヴァイセさんはこのゲームにおいて、探知魔法を用意するなど要に近い。投獄をどうにかするにはキャスリングが必須とはいえ、そこまで読んだハメ手になっている。

 

 このままではまずい、そんな時だった。

 

『スー………パー……』

 

 ん?

 

 なんか、大きな声が聞こえて―

 

『……地球、キィイイイイイックゥウウウウウウウッ!!!』

 

 ―なんか飛んできたぁ!?

 

 ロスヴァイセさんの後方から飛んできた誰かが、防御態勢に入ったアルマロスさんをそのまま押し込んでいく。

 

 一瞬で数百メートルも押し込まれたアルマロスさんは、しかし斧の一撃で強引に振り払う。

 

 振り払われた存在は、しかし着地するとともに後ろに手を突き出し―

 

『ぉ、ぉおおおおおおお!? 突如として割って入ったアルティーネ・スタードライブ選手。突如として自分とロスヴァイセ選手の後ろに、巨大な氷の壁を作り出したぁああああ!?』

 

 氷山というべき巨大な氷をもって、ロスヴァイセさんへの道を阻んだ。

 

 その光景に誰もがびっくりしている中、無邪気な笑顔を浮かべたアルティーネ・スタードライブは勢いよく拳を突き出した。

 

『ふっはっはー! こっから先に進みたいなら、この私を倒してからにするがよーい!』

 

 その表情は余裕のそれであり、まだ本気を出してないことの証明だ。

 

 そして、アルマロスさんも目を見開いてから、ものすごく悔しそうな表情を浮かべている。

 

『おのれ! 格好の好機に割って入り、ものすごく邪魔をする悪役ムーブ! このアルマロスへの挑戦と見たぞぉ!』

 

 そっち?

 

『……フハハハハハハハ! 脆弱な堕天使如きが、この赤龍帝の女王に挑まれるなどー、おこまが……がら……とにかくしいぞー!』

 

 相手も乗っかって悪役ムーブを取り出した! でも色々と残念だ! あと答えはおこがましいだと思う!

 

 だが次の瞬間、更に壮絶な戦いが繰り広げられる。

 

 先ほどまでのイッセー君とバラキエルさんの戦いすら超えるだろう、圧倒的な規模。しかも、それはアルティーネ・スタードライブにアルマロスさんが挑む構図となっている。

 

 ……これが、イッセー君が巡り合った星の共成体。真徒の姫君。

 

「ふふ。イッセーの巡り逢いも、ここまでくると異次元の領域ね」

 

 リアス姉さんは面白そうに言うけれど、僕はどっちかというと苦笑いだよ。

 

 禍の団の新たな盟主として名乗りを上げた、未知なる存在。星の共成体、真徒。

 

 その王族というべき存在。その一角がイッセー君を気に入ってくれるとはね。本当、イッセー君はどこに向かっているのか。

 

「あいやー。なんか超人バトルになってますな~。これ、自分なんかが割って入って大丈夫なんすかね?」

 

「リアス姉様と共に戦うのはそういう事です。頑張ってください」

 

 と、面白そうにしているリントさんに、小猫ちゃんがポップコーンを渡しながら告げる。

 

 うん、このレベルの出来事って意外と多いんだよね。

 

 ただ、白熱した試合は続いていく。

 

 さて、イッセー君はどうやって切り抜けるのか。それともバラキエルさんに呑み込まれるのか。

 

「…………」

 

 ずっと無言で朱乃さんが見守る中、試合は続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また凄い事になっているな。

 

 イッセーとバラキエルさんの試合だが、ちょっと戦慄を覚えている。

 

 固有結界にメタ張った敵を、新技で打倒したカズヒ。

 

 安定して強い敵を地力で明確に凌駕したリアス先輩。

 

 そして続いてがイッセーの試合だけど、これまたやばいことになっているな。

 

 今回の試合における特殊性を的確に生かしてハメてくるバラキエルさんに対し、イッセーは超大技でフィールドごと大雑把にターゲットをぶち壊すことで対応した。

 

 フィールドの広範囲をまとめて吹っ飛ばすことで、そこに点在して隠されているターゲットをごっそり破壊。これにより王手をかけたと言ってもいい。

 

 バカも極めればなんとやらとかいうけれど、極めすぎだ。散々パワーバカ言われて酷評されたうえでこれだ。脳筋というかなんというか。

 

「……これ、イッセー君のアイディアかな?」

 

「いや、たぶん違うんじゃないか?」

 

 インガ姉ちゃんが首を傾げるけど、俺はそれに八割ぐらいの確信を覚えている。

 

 イッセーは割と、不利な状況やデメリットを逆手に取ることもある。基本的には熱血一直線だけど、そういう方向に発想が浮かぶこともあるから厄介なんだ。

 

 だが、これはちょっと方向性が違うだろう。発想の方向性が違う感じがある。

 

「……おそらく、レイヴェル様の発案ではないでしょうか?」

 

 と、黒狼が俺達に聞こえるように呟いた。

 

「どういうこと?」

 

 シルファが問い返すと、黒狼は小さく頷いた。

 

「実はかねてより、相手の思考をプロファイリングする為兵藤邸の方々とは機会があればその日の試合について話をするように努めておりまして」

 

「……抜け目ねぇな、オイ」

 

 ベルナがちょっと引き気味の関心をするけど、俺は褒めた方がいいんだろうか。

 

 というより考えたな。ゲームそのものの手札や戦力の開示は互いに避けているが、他者の試合での感想とかなら話になる可能性はあるか。

 

「その際戦術的な視点で話を振るように努めておりましたが、レイヴェル様には他にない要素がありました」

 

 そう前置きしたうえで、黒狼は息を吞んでいた。

 

 戦慄、そう形容した方がいい表情だ。

 

 それに俺達が息を呑んでいると、黒狼は得意げな表情になっているレイヴェルに視線を向けている。

 

「己の強みによる全域の制圧。敵エースでも敵チーム全体でもなく、そもそもゲームの流れたるルールすら、自分達の力で押し通す。……ある意味で覇者の思想が見受けられました」

 

「な、なるほど。確かにそんな印象がある戦術だね」

 

 ヴィーナが感心しながらゲームの映像を確認するけど、確かにその通りだ。

 

 今回のゲームは、広大なフィールドに隠されたオブジェクトを一定数破壊した方が勝利になるゲーム。その性質上、戦術などで格上に勝つチャンスが多いゲームでもある。

 

 その大前提を、隠されているフィールドごと薙ぎ払うことで強引にぶち壊す。これは確かに覇者の思想だろう。

 

 ルールにのっとる気がなく、破らない範囲内で無体な真似を遠慮なくする。相手と競う合うようなスポーツマンシップやリスペクト精神が皆無。劣るのならば支配されろといわんばかりの圧政者思想。イッセーの精神性とはなんか異なっている。

 

 正直、本質を見抜いた者はドンビキするかもしれないな。

 

「お気を付けください、和地様」

 

 俺達が少し戦慄を覚えていると、黒狼は俺達全員に聞こえるようにそう告げる。

 

「レイヴェル様はこちらに合わせるつもりはないでしょう。ゆえに赤龍帝チームとのゲームは、ルールそのものは片隅に置くぐらいでちょうどよいかもしれません」

 

 ……怖い怖い。

 

 レイヴェル・フェニックス。フェニックス本家の長女であり四子。兄の眷属としていくつかのゲームを経験し、イッセーの眷属となった少女。

 

 とんでもないのが控えていたもんだ。これは要警戒だな。

 

 と、思っていたら。

 

『朱乃はいったいどうなると!?』

 

 ……なんか展開が白熱してきたな。

 

 壮絶な殴り合いなんだが、これ試合中に別件が始まっている気がする。

 

 既に流れは大将戦も同然。王手をかけられたバラキエルさんは、流れから言ってイッセーを潰すのが最善主と化している。

 

 そしてイッセー達だって、ゲームをきちんと理解しているはずだ。王が王を打倒して勝つというのは、基本的にゲームでも受けがいい展開ではある。

 

 そういったこともあって王同士の最終決戦と化しているが、流れが微妙というか。

 

 先ほど、バラキエルさんはイッセーを誘導する為の思考ジャミングを兼ねて、戦いの流れを娘の恋人と父親という流れにもっていった。だが、今回はマジな流れだ。

 

 まぁ、父親としては心配なんだろう。

 

 それを俺は悟りつつ、そっとインガ姉ちゃんの手を握る。

 

 それに気づいたインガ姉ちゃんはちょっとびっくりしていたけど、そっと握り返してくれた。

 

「……ありがとう、和地君」

 

 ああ、気にしないでくれ。むしろ余計なお世話かもしれないとちょっと不安だったし、俺が礼を言いたいぐらいだ。

 

 親子問題では非常に難儀なことになっているインガ姉ちゃんに気遣いをしたつもりだったから、ちゃんと受け取ってくれたのはありがたい。

 

 そして、それはそれとしてだ。

 

「杞憂だろ」

 

「杞憂だね」

 

「杞憂だな」

 

 俺もインガ姉ちゃんもベルナも、ほぼ同時に言うしかなかった。

 

 いや、男親で妻と死別している身としては、娘の未来を案じたいってのは当然だと思う。はたから見ても考えて当然だと思うのは当たり前だ。

 

 当たり前なんだが、イッセーにその辺の指摘は杞憂というほかない。

 

 周りのメンツはちょっときょとんとしているけど、しかし実際杞憂だからなぁ。

 

 イッセーが? 惚れた女を? 切り捨てる?

 

 そんなことが必要でもできるような奴なら、むしろ俺達は苦労してないっていうかなんて言うか―

 

『―なら、俺は朱乃さんを愛します!!』

 

「「「ほらこう言う」」」

 

 ―そこで全員何とかするっていうのがイッセーがイッセーたる由縁だからなぁ。

 

 うん、これ絶対朱乃さんが感極まり流れだ。

 

「全員幸せにするだろハーレム王だぞとか言うに一億円」

 

「賭けになんねぇだろパス」

 

 ちょっと冗談を言ったらベルナにすっぱり切られたし。

 

 と、その間にもイッセーは力強い言葉を拳をもって宣言する。

 

『責任取るし誰にも渡さん! 俺はハーレム王、兵藤一誠!! リアスもみんなも全員まとめて幸せにしてやりますよ!!』

 

 凄いぞこいつ。国際生中継の競技で、父親の前で娘をめとるハーレム王宣言ぶちかましている。いうと思ったけどまじで聞くとクるものがあるな

 

 見ているこっちがなんかにやけて恥ずかしくなる。そんなレベルで宣言したよ。

 

 そして勢いよくバラキエルさんを殴り飛ばしたイッセーは、そのままクリムゾンブラスターの体勢に!!

 

『朱乃さんの幸せは、俺がこの手で保証します!! 嫁に来てくれ朱乃さ……朱乃!! 大好きだぁあああああああっ!!』

 

 ヤバイなんか凄いとしか言えない。

 

 俺が戦慄すら覚える中、クリムゾンブラスターは狙い違わずバラキエルさんを包み込む。

 

『……朱璃。朱乃は、良い連れ合いを持った―』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷光(ライトニング)チーム、(キング)のリタイアを確認。燚誠の赤龍帝チームの勝利です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、なんか……こう……。

 

「見ているこっちが恥ずかしくなるな、これ」

 

 俺は素直な感想を言うしかなかった。

 

 ただその瞬間、左右から後頭部を勢いよく張り倒される。

 

「「どの口が!?」」

 

 しかも口でも言われた。

 

 酷いぞベルナ、インガ姉ちゃん!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イッセー、これで()()()()()()笑えなくなったわね」

 

 私は素直な感想を呟いたわ。

 

 和地も大概、恋愛ごとが絡むと変な方向に行くけれど……イッセーもイッセーね。

 

 元々アグレアス攻防戦の一件で、割と素直に告白プロポーズをしていたりとかやらかしていたけど。それにしたってこれはスケールアップしてないかしら?

 

 いえ、正真正銘命がけの激戦と、安全に配慮した競技試合はまた別の観点だけど。それにしたって限度があるというか、なんというか。

 

「すっげぇな、オイ。いろんな意味で度胸ありすぎだろ」

 

「同感っすわぁ。同じドラゴンとして、感心っすわぁ」

 

 勇ちんとラトスも戦慄しているけれど、これはもう凄い事をしているわね。

 

 他のメンバーも大なり小なり戦慄しているけれど、いや本当に凄い事しているわね。

 

 世界生中継の試合真っ最中で、ハーレム王宣言。それも相手の父親がいる目の前で、ピンポイントの告白までしている。

 

 凄まじいことをしているわ。珍プレー大百科とかいう特番があれば、絶対に何度も選ばれる内容だわ。

 

 そして、私は一つの確信を覚えている。絶対に起きると言い切れる、そんなことを思い至っている。

 

「絶対、近い試合でゼノヴィアが便乗した逆プロポーズをしてくるわね」

 

「あ、確かに」

 

 鶴羽が素直に感心しているけれど、そうなのよね。

 

 これは確実にする。あの女はそういうことする。むしろイリナとアーシアを巻き込んでしかねない。

 

「そ、それはどうでしょうか? その、感極まりそうですけどそれ以上に恥ずかしいですよ?」

 

 カズホがツッコミを入れてくれるけど、相手はゼノヴィアだもの。

 

「……あ、あはは……。凄いね、イッセー君」

 

「そうですね。勢い任せのようでいて、覚悟を持ってのことでしょう。……並みの胆力ではできません」

 

 オトメねぇやディックも感心しているけれど、さてこれはどうしたものか。

 

「リーネスとしてはどんな感じ? カズヒと同じぐらいイッセーとつきあ……ぃいぃぃっ!?」

 

 急に鶴羽が慌て出したけど、何かあったのかしら?

 

 この部屋、相応に警備もしているのだけれど。あとリーネスがどうしたの?

 

 と、振り返って見て私は呆気にとられた。

 

「あ、あわぁ……」

 

 凄い顔を真っ赤にして、なんかあらぬ方向を向いて悶えている。

 

 私は呆気にとられたけど、しかしすぐに思い至った。

 

「……確かに、和地もやらかしそうね。これは覚悟しておいた方がいいかしら」

 

「……え゛? そ、そうなの?」

 

 戦慄しているオトメねぇには悪いけれど、和地ってそういうことするから。

 

 その辺りは素直に考えた方がいいわね。作戦とか無関係に、感極まってゲーム中に連続告白プロポーズとかあるわね。和地はそういうことを意外とするのよね。

 

 これは、その辺りのフォローを最初から作戦に組み込んでおくべきかしら。

 

 いえ、それより―

 

「は、ハバララララララララ……ぁっ」

 

 ―奇声をあげながらバグってる、鶴羽を正気に戻しましょう。

 




 ……アザゼル杯の試合中に告白をぶちかます男、兵藤一誠。

 だがしかし忘れてはならない。この世界には事恋愛ごとになると天高らかに歌い上げずにはいられない、旧済銀神というおバカがいることを……っ!


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大会開幕編 第二十三話 戦いの直前

 はいどうもー! 鼻の調子もだいぶ回復しているグレン×グレンでっす!

 とはいえまだまだ悪いですが。それでもだいぶ回復しているのでマシにはなっているのですよねぇ。


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よっし! 何とか勝った!

 

「お疲れ様でしたわ、イッセー様」

 

「ああ、レイヴェルもありがとな」

 

 差し出してくれたタオルを手に取りながら、俺はレイヴェルにお礼を言う。

 

 今回のゲームで勝てたのは、レイヴェルの策があったからだ。

 

 イヤホンと、怖いこと企むなぁレイヴェルは。

 

 俺達がパワーバカだから、そのパワーで小細工ができないぐらいフィールドを破壊するとか、発想が凄い。

 

 そのぶんちょっと戦慄をもするけどな。俺の眷属になってくれて感謝感激って感じだけど、怖いところもある。味方で良かったよ本当に。

 

 俺が上級悪魔に昇格し、レイヴェルを眷属としてトレードしたときのことを思い出す。その時レイヴェルの王だったフェニックス夫人から、釘を刺されていたからな。

 

 ―レイヴェルの本質は覇道です

 

 確かに、今考えれば納得だ。今回の試合運び、その戦術から言ってそういう気質を感じる。

 

 番外戦術を通り越して、盤面そのものを半ば破壊する戦術。これはなんていうか、圧政者というかそんな感じの奴がする戦い方だ。

 

 ……昔レイヴェルに、グレモリー眷属の戦い方で新鮮な指摘をもらったことも思い出す。

 

 力押し主体でテクニックタイプが少ない。レーティングゲームでは無からず苦手な敵が出てくるタイプ。策に絡めとられやすい。

 

 俺もリアスも理解していて、改善をしなければいけないと思っていた。だけどレイヴェルは違う観点だった。

 

 苦手なタイプが出るのはどのチームも同じ。短所のカバーにリソースを割くより、長所を伸ばし続けて強引に突破できるぐらいがいい。そんな感じの評価だったと思う。

 

 そして、レイヴェルは赤龍帝眷属としてその持論を形にしようとしている。

 

 ……怖いところもあるけど、ちょっと楽しみだ。

 

 俺はリアスの眷属だけど、リアスとは違う自分の眷属も持っている。リアスが自分やアザゼル先生の持論を元に戦術を組み立てるのなら、俺はレイヴェルの持論を体現するってのもいいかもしれない。

 

 ちょっとだけど、リアスとの試合が楽しみになってきた。

 

 ま、それはともかく次の試合の方が大事だよなっと。

 

「それでレイヴェル。九成達の試合はどれぐらいなんだ?」

 

「予定ではニ十分後ですわ。まずはシャワーを浴びて、汗を流してもよろしいと思いますわよ?」

 

 そうか、意外と早いな。

 

 今日、俺達オカ研メンバーの殆どが何らかの形で試合をしている。

 

 カズヒは新技で派手に勝った。リアスは成長した地力で堅実に勝った。俺もレイヴェルの作戦勝ちで、何とか勝った。

 

 そして最後は九成だ。それも、相手は成田さんが参加しているチームだ。

 

 (キング)の駒を積極的に採用させる為に参戦したチームだけど、だからこそ士気の高い上級悪魔が揃っている。

 

 冥革連合からも手練れが結構参加していると聞くし、大王派はもちろん魔王派からも王の駒の正規使用を求める人達が何人も参戦しているとか。

 

 全員が相当の実力者。雷光(ライトニング)チームと同等以上の下馬評だ。

 

 ……これは、九成達も苦戦しそうだな。

 

 でもちょっと見ものかもな。

 

 なんたって、相手は新規神滅具候補の成田さんに、上位神滅具保有者の双竜健也だ。他のメンバーも純血の手練れが揃っていて、戦力の質はもれなく高い。

 

 それを九成がどうしのぎ、勝利を狙うか。

 

 ヤバイ、ちょっと楽しみになってきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう見ます、リアス姉さん」

 

「そうね、やはり和地がどう動くかによるでしょう」

 

 リアス姉さんはそう呟きながら、下馬評を確認している。

 

 冥革連合から手練れを多く招き入れている、王道の再興者チーム。彼らにとって九成君は、無視できない存在だ。こと冥革連合からのメンバーにとって、重要視されるだろう。

 

 冥革連合盟主たる、ヴィール・アガレス・サタンを討ち取ったものの一人。そして彼の眷属たる成田さんを娶った男。さらには、彼が会得した神滅具である聖血の新たなる宿主でもある。

 

 あらゆる意味で、無視できる相手ではない。むしろ情けない姿を見せれば、高確率で殺しにきかねないだろう。

 

 ……まぁ、彼のことだからそこは大丈夫だろうけど。

 

「神滅具保有者二名、それをどう切り抜けるかですわね」

 

「そうですね。九成先輩のことですし、何か新技を用意してそうですぅ」

 

 朱乃さんとギャスパー君も思っているだろうけど、そうだろう。

 

 パラディンドッグによる禁手の切り替えは、それをもってしても超高等技能。少なくとも、あれだけの数の禁手を適宜入れ替えるなどということは想定以上だったはずだ。

 

 更にゾーンの到達や、前人未踏の領域たる残神(コスモス・ボルト)の発現。イッセー君も色々と前人未踏に到達しているけれど、やろうと思えば他の人でもできることをいくつも成し遂げている彼も大概だ。

 

 問題は、その彼がどうやって勝利を掴むかだ。

 

 王道の再興者チームは、王の駒の正規採用を優勝賞品で願うことにしているチームだ。それはすなわち、王の駒を正規運用していない現状に配慮していることを指す。

 

 ゆえに冥革連合からの参加者も王の駒を停止させている。しかしそれを踏まえてもなお、最上級悪魔に届く者達が何人かいる精兵だ。油断ができる相手ではない。

 

 特に純血でないにも関わらず参加している主力の二人、双竜健也と成田さんは間違いなくエース。神滅具保有者とはそれだけの価値がある。

 

 それをどう絡めとるか。これが最も重要だろう。

 

「……問題は、相手チームがどう動くかですね」

 

「そうね、小猫。最上級悪魔候補の上級転生悪魔二人を擁し、更に神滅具を宿す和地がいる。そんなチームを相手にすると分かっていて、無策で挑む者ばかりじゃない」

 

 リアス姉さんは小猫ちゃんにそう言ったうえで、小さく微笑んだ。

 

「でも、大まかな方針はある程度読めてはいるわ」

 

 そう、リアス姉さんははっきりと宣言する。

 

「ほほぉう? リアスさんは相手の方針を読み切っちゃってるんですねぇ? 自信のほどはどれぐらいでぇ?」

 

 リントさんが面白そうに軽口を叩くけど、リアス姉さんは自信満々に頷いた。

 

「少なくとも、冥革連合側がどんな提案をしているかは読めているわ。それを王が認めるかどうか……ね」

 

 その言葉に、僕達の多くは何となくだけど納得した。

 

 納得しているメンバーは、僕を含めたリアス姉さんの眷属と、もう一人。

 

「……なるほど。確かに冥革連合の者達なら、どう動こうとするかは読めるな」

 

 そう答える、ミスターブラックで登録された最後のメンバー。

 

 今回の試合に興味があったことから、試合終了後とはいえこうしてミーティングに来てくれたこともありがたい。

 

 そして彼もまた納得できるだろう。むしろ彼の方が納得できるといえる。

 

 なぜなら、彼はある意味で僕たち以上に冥革連合を知っている。

 

 だからこそ―

 

「「――――――」」

 

 ―リアス姉さんと同時に告げる彼の推測は、異口同音ゆえによく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和地の試合開始まであと少し。私は何とか、事前に予約していた席に辿り着くことができた。

 

 最も、割と人気があったことから出遅れたこともあり、小さなボックス席。メンバーは最小限だけど。

 

「おぉおおおおお……っ。和地を応援したいけど、春奈も応援したいしちょっと迷うぅ~!」

 

 鶴羽が既にハラハラしているけど、まぁそこはそうね。

 

 私も素直に和地を応援するけれど、春奈にも頑張ってほしいと思うもの。そこは同感だわ。

 

 それはそれとして、冷静に俯瞰している者もいるけれど。

 

「和地がどんな禁手を用意できたか。そして春奈がどれだけ赫焔女帝(ブレイズ・エンプレス)に習熟しているか。その当たりが勝負を分けそうねぇ」

 

 リーネスは冷静にその辺りを踏まえて俯瞰しているけど、まぁそうでしょう。

 

 私もちょっとは思うところがあるけれど、それ以上に試合を参考にしつつ楽しんで観戦したいところね。

 

「流石に聖血を至らせてはいないでしょうし、それ以外をどう仕上げたが和地側の要点でしょうね」

 

「そ、そうなの?」

 

 オトメねぇが私の言葉に反応するけど、実際そうなのよ。

 

 あの和地に限って、今の時点で聖血を至らせているとは思えない。流石に至らせているのなら、リーネスは知っているでしょうしね。

 

 そして和地だってそこは想定できるはず。まずやるべきことをやる男だからこそ、至らせるより他の習熟にリソースを回すでしょうし。

 

「う~ん。私は素直に和地の応援だけど、必ず勝てるって相手じゃないもの。不安ね……」

 

 オトメねぇとしてはそうなるでしょうね。

 

 私達にとっては春奈はハーレム仲間だけど、オトメねぇにとっては息子の恋人だもの。息子と相争うんなら、この場合は素直に息子を応援するでしょう。

 

 とはいえ、流れの予想はできているわ。

 

「まぁ、どんなルールになるとしても、十中八九方向性は読めているわ」

 

 私はその辺り確信ができている。

 

 何故なら―

 

「あのヴィール・アガレス・サタンの遺志を組んだチームと言っていいもの。なら和地に対する挑み方は、ほぼ確実に一つでしょうね」

 

 ―それだけの男の配下だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それはそれとして、卵かけご飯の準備はできているわよぉ」

 

「「待ってました!!」」

 

「いや、冥界来てまで卵かけご飯……そもそも大丈夫なの?」

 

 



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大会開幕編 第二十四話 試合開幕、和地VS春奈(その一)

 ハイどうもー! ちょっと指が痛いグレン×グレンでっす!

 いやぁ、マメとかはできてないですけど、微妙に痛い感じです。

 まぁ痛い部分がちょっと違うので、執筆作業には支障がないのでご安心を!



和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁあああぁて皆様、お待たせいたしましたぁっ!! 我らが英雄、チームD×D!! その中核たるリアス・グレモリー様達駒王学園オカルト研究部!! その中核メンバーが続けざまに試合を続けるこの日のトリを飾るのはぁ! 我らが守護者! 旧済銀神(エルダーゴッド)!! 涙換救済(タイタス・クロウ)がやってきたぁ!!』

 

『『『『『『『『『『わああああああああああああっ!!!』』』』』』』』』』

 

 す、凄い事になってる。

 

 そんなちょっとびっくりぎみな感情を隠しながら、俺は小さく微笑みながら片手を突き上げてパフォーマンス。

 

 こういうのを期待しているだろうし、俺も世界の命運を左右しかねない立場だからな。それなりの責任は果たすとも。

 

 ……まぁ、ちょっと困惑気味の人も多いけど。

 

「……これは、結構緊張するわね?」

 

「大丈夫、シルファちゃん? えっと、日本だとこういう時に漢字で人と書いて呑み込むといいんだって」

 

「誰だよそんなの教えた奴。……私も呑むか」

 

 シルファやヴィーナだけで収まらずベルナまで。やはり慣れてない組は緊張するか。

 

 となると、レーティングゲーム経験がある者ならまだ……あ、ダメだ。

 

「あ、えっと……うわぁ」

 

 ダメだ。インガ姉ちゃんも経験数が少なすぎるからちょっとテンパってる!?

 

「落ち着いて、インガ。ほら、私の言う通りに深呼吸して」

 

「試合が開始したら少しの間はこっちが先に動くから、その間に気を取り直してね?」

 

 と、ヴォルフと大上がフォローしているけど、俺もフォローしたい。

 

 フォローしたいけど、そんなみんなと俺との間には三美さんと黒狼が!

 

「心配なのは分かりますが、ここはぐっと我慢してください。(キング)が困惑しているとあること無いこと書かれます」

 

「相手チームもその方が威圧されるでしょう。まぁ相手が相手なので気休めでしょうが」

 

「……了解。経験者のアドバイスは反映します」

 

 まぁ、俺って結構目立っているから妙なことすると変なのが湧いて出てきそうだ。

 

 これも有名税っていうのかねぇ? 今後対策チームとか、上がった権限で用意してもらうべきだろうか?

 

 そして俺達がスタジアムの半ばに進んでいく中、実況は更に声を張り上げる。

 

「そして迎え撃つはぁ! 冥界の未来を憂い富国強兵を願う者達! 王道の再興者チームだぁああああっ!!!」

 

『『『『『『『『『『わぁああああああああっ!!』』』』』』』』』』

 

 そして入ってくるのは、春っちを連れた悪魔達の集団。

 

 王の駒を正式に採用させる為、それを優勝賞品に願って参戦したチーム。若き悪魔達による、富国強兵を目的とするチームだ。

 

 今のところは互いに連戦連勝。そして下馬評ではこっちが少し不利といったところか。

 

 リザーブメンバー含めてかなりの人数がいる相手の方が、まだメンバーに空きがある俺達より厚みで上回っているからな。これは仕方がない。

 

 とはいえむざむざやられる気はない。全体の傾向から大筋の戦闘プランは黒狼が考えてくれている。俺も事前にある程度探ったうえでいくつかの提案はしている。特に今回、ある予感がしたのでそこについてはかなり話し合った。

 

 そして確立した大筋は決まっている。サブプランの類もいくつか擁している。その上で参戦を決定しているわけだ。

 

 さて、鬼が出るか蛇が出るか、だな。

 

『今回のゲーム、特殊ルールの一つである「アナザー・キング」で行われることとなっております!』

 

 そう、懸念点はこのルール。

 

 レーティングゲームのこの特殊ルール。このルールを相手がどう対応するか、そこが懸念だ。

 

『改めてこのルールを説明しますと、このルールでは各チームともに、王と同じように討たれれば敗北が確定するメンバーを一人選出することになっております』

 

 そう、これがこのゲームの中々に面白いところだ。

 

 誰にするかの裁量はそれぞれのチームに明かされており、基本的に教えることもない。だが同時に、王以外に絶対に倒されてはいけないものが出てくる。これが厄介だ。

 

 タクティクスの面である種の縛りをつけられる為、そこの揺らぎが生まれないようにするのが難点だ。犠牲(サクリファイス)戦術を基本とするものは気づかれやすい。そうでなくても、普段より倒されてはいけないと悟られやすい為、勘づかれるリスクは生まれやすい。

 

 そういう意味では、気づかれないような絶妙な塩梅でいつもとは違う戦術を組み立てる必要がある。戦術面での対応がとても重要になる特殊ルールらしい

 

 幸い、いくつもゲームを経験している黒狼達がいる。

 

 大筋は彼らに任せれば十分だ。俺もリーダーゆえにある程度は手綱を握るべきだが、ある程度で十分。できるやつを見出して任せるのも、リーダーの仕事の方法だろう。

 

 このルールで普通にやる分にはそれでいい。俺はゲームに慣れてないから、一から十までやるのにだって限度があるしな。

 

 だが、それはあくまで普通にやればの話であり―

 

「……試合開始までに、まず言っておくべきことがある」

 

 ―ヴィールの薫陶を受けた者だらけの、この試合では通用しないと思っていた。

 

 相手チームの王がそう告げたことで、俺の予感は確信に近くなる。

 

 そして、相手チームは一斉に春っちに視線を向けてから向き直った。

 

「我々、王道の再興者チームはコアの担当に成田春奈を選出する」

 

 ほら、こうなった。

 

 会場がざわめくが、俺は正直想定していたので驚かない。俺のチームメンバーも、開始前のブリーフィングで俺達{インガとベルナ含む}が告げていたので、さほど動揺はない。

 

『な、ななななんとぉ! 王道の再興者チームは、コア役を開始前に発表したぁああああ!? こ、これはブラフでしょうか!?』

 

 実況が困惑するけど、俺は言いたいことは分かっている。

 

 ああ、それにだ。

 

「言いたいことは分かった。……つまり、俺と春奈で一騎打ちしておいてくれってことだろう?」

 

「そういう事だ。その間に、我々は残りのチームを全滅させる気概で挑ませてもらうがね」

 

 俺の確認にあっさり頷いてきたし、まぁそういう事だ。

 

 王道の再興者チームは、ある意味でヴィール・アガレス・サタンの薫陶を受けている。

 

 そのヴィールの眷属であり、俺が貰い受けた春奈の心情を配慮したのだろう。で、このルールならそういう事にするつもりだったと。

 

 なので、俺は後ろを振り返ると肩をすくめる。

 

「悪い。打合せ通りになった」

 

「あ、あはは……。頑張ってね?」

 

 苦笑まみれな中、一人応援はしてくれているヴィーナにちょっと涙が浮かびそうかも。

 

 ある意味そっちの方が大変だろうけど、頑張ってな?

 

「ま、そういうわけだ。いい機会だしぶつかっとけよな?」

 

「ええ、思いっきり胸を借りる……いえ、吹っ飛ばすぐらいのノリでいくわ」

 

 春っちは春っちで、ベルナに激励されて物騒なこと返してるし。

 

 え、俺、胸を吹っ飛ばされるの?

 

「……ま、頑張ってね、和地君」

 

 インガ姉ちゃんが肩を叩いてくれるけど、ちょっと物騒なこと言われてたんですが。

 

 いや、レーティングゲームは死なないだけで殴り合いだしな。物騒なぐらいでちょうどいいか。頑張ろう。

 

 さて、ならそろそろ気合を入れないと……な!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『な、ななななんとぉ!? 今回のレーティングゲーム、アナザー・コアのルールを逆手に取った一騎打ち!! 九成和地選手と成田春奈選手の一騎打ちが始まりましたぁあああああ!!』

 

 実況が驚愕する中、僕はリアス姉さんに振り向いた。

 

「お二人の予想通りになりましたね」

 

「でしょうね。まぁ、それはそれとして容赦なく残りを潰しに行くでしょうけど」

 

 優雅に紅茶を飲みながら、リアス姉さんはそう言って微笑む。

 

 ヴィール・アガレス・サタンと何度も戦い、更にグレモリー家次期当主として色々な悪魔を見てきた。その経験が生きたのだろう。

 

 同じように見抜いた彼もだけど、禍の団に少なからず関わっていたこともあるんだろうね。

 

 そしてスタジアムからゲームのフィールドに転移する両チーム。

 

 その様子を見ながら、リアス姉さんは真剣な表情に切り替わっていく。

 

「問題はここからね。今のチーム全体で見るのなら、王道の再興者チームが数段上手よ」

 

 実際、その評価は間違っていないだろう。

 

 なにせ相手チームはフルメンバー。更にリザーブ枠も多数擁している。その上、成田さんと同じく数少ない転生悪魔として参戦しているのは、上位神滅具にノミネートされるだろう双竜健也だ。

 

 勝ち筋を見出すのなら、九成君が上手く障壁を生かしての全体カバーを担う必要がある。そうでない場合、圧倒的に不利となりえるだろう。

 

 それをあえて排除した状態で、果たしてどこまで立ち回れるのか。

 

 ……いうまでもなく、九成君が成田さんを早い時間で打倒できるかどうか。それが勝敗を左右するだろう。

 

「さぁ、どんな試合になるか楽しみにしながら見せてもらうわよ?」

 

 微笑を浮かべるリアス姉さんは、この先を見通しているのか。

 

 そんな気持ちになりながら、僕は始まった試合を観戦する。

 

 見せてもらうよ、成田さん、九成君。

 

 君達の、並び立つ為の戦いを……!




 そんなこんなで、和地と春奈は別口でタイマンとなっております!

 さぁ、ちょっと巻いていくぜぇっ!


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大会開幕編 第二十五話 試合開幕、和地VS春奈(その二)

 はいどうもー! お給金が入ってきて電子書籍をいっぱい買ったグレン×グレンでっす!

 覇界王と俺ツイを電子書籍で購入し始めております。この調子でクロスできそうな作品を増やしていくぜぇ! 


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィールドに転移する両チーム。そして大歓声を上げるスタジアム。

 

 俺も結構ドキドキしているぜ。こうなるんじゃないかって気持ちもあったけど、そうなったか。

 

「……面白い展開になったものだね。あの二人が一騎打ちか!」

 

「愛する者同士の競い合い。これも一つのロマンかしら!」

 

 テンションが上がり気味のゼノヴィアとイリナだけど、俺もちょっと興奮してる。

 

 流石はヴィールの配下や感銘を受けた連中だ。心配りまでしっかりしてやがる。

 

 このルールなら、成田さんが九成と一騎打ちをすることで勝利を争うこともできる。そしてそれはそれとして、真っ向から残りを潰しに行く算段か。

 

 俺が感心していると、成田さんはデカい火柱を上げながら一人離れていく。

 

 そして別の映像では、九成がそれを悟って疾走車輪(ソニック・チャリオット)に乗って走り出す。

 

 そりゃそうだ。この流れで一騎打ちそのものを投げるようなら、俺だって文句をつけるだろうしな。

 

『黒狼さん、そっちは任せる!!』

 

『かしこまりました。ご武運を』

 

 なるほど。最初のゲームもそうだけど、あの黒狼って人が参謀役でブレーンか。

 

 となると、俺達が戦う時は黒狼さんを真っ先に潰すべきだな。

 

 と言っても他にも三人ぐらいゲームを何度も経験している人がいる。残りの三人がどこまで指揮が取れるかは不明だけど、九成も馬鹿じゃない。ある程度の参考意見があれば色々できそうだな。

 

「皆はどう思う? いや、九成と成田さんの一騎打ちじゃなくて、残りの対決」

 

「単刀直入に言えば、王道の再興者チームの方が有利になりますわね」

 

 レイヴェルが即答で俺に応える。

 

 やはり俺達のブレーンなだけあって、作戦指揮には適任だな。

 

 もうレイヴェルには先の流れも見えているようだ。

 

「……そもそも平均的な質では王道の再興者チームが上ですわ。戦術的に対応できない差ではありませんが、涙換の救済者チームの戦術プランはキャスリングを念頭に置いているので、九成さんが動かせない状況では戦術面で不安が残ります」

 

「なるほど。つまりそれ以外の戦術プランを練ってない限りは不利のまま……か」

 

 ゼノヴィアがレイヴェルの意見に納得しているけど、となるとやっぱり九成と成田さんの決着が早く付くのが条件か。

 

 ただ、成田さんが九成に勝つ可能性だって十分にある。そういう意味だと、総合的に見て九成達が不利ってことになるな。

 

「……失礼ながら、王道の再興者チームの発言がブラフという可能性はありませぬか?」

 

「あ、確かに! 素直に鵜呑みにするって大丈夫なの?」

 

 ボーヴァとアルティーネはそう言うけど、それはたぶんないだろう。

 

 俺達全員が首を横に振る中、レイヴェルも頷いている。

 

「あのヴィール・アガレスの薫陶を受けた者達が多い中でそれはありませんわ。そんなことを決定すればチームが空中分裂するでしょう。ヴィール・アガレスは必要な腹芸はしても、競技試合でそんなやり方は好まない御仁でしょうし」

 

「そういうこった。あのヴィールの眷属や配下が何人もいるなら、こんな状況でそんな騙しはしないだろうさ」

 

 腹芸はするし策略もある。実際、王の駒を自分達が開発したように見せかけていたしな。

 

 でも、競技試合で真っ向勝負を挑んでおいて、その大前提が全部嘘……なんてマネはしないだろう。

 

 誇り高く苛烈な男。そんなヴィールの配下や眷属が、そんな真似まで肯定しない。そして無理にしたところで、本領なんて発揮できない。

 

 そういう心をないがしろにする奴が王なら、むしろ九成達が圧倒的に有利。だけどそうでないから厄介なんだ。

 

「頑張れよ。九成、成田さん」

 

 俺も、どっちも健闘することを願ってるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでは想定通り。

 

 ヴィール・アガレス・サタンは真っ直ぐな気性の男だった。腹芸も政治の世界で学んでいるけれど、粋な計らいもできる男。そんな男の薫陶を受けた者達こそが、王道の再興者チーム。

 

 だから、どんなルールであっても春奈を和地と一騎打ちさせる方向に持って行くでしょう。その可能性は十分すぎるほどあった。

 

 それに序盤なら、一敗ぐらいしてもリカバリーの余地はある。下馬評で有利であることも踏まえれば、それぐらいの真似はするでしょうし。

 

 とはいえ、ここからが本番ね。

 

『前に出るぞ、文香、文雄!』

 

『『了解!』』

 

『三人をタンクにして対応してください。多少の流れ弾は自力で対応できる人達ですので、遠慮なく』

 

 なるほど、あの4人は付き合いがあったわね。その辺りの連携は出来ていると。

 

 ……どうやら和地を生かせない状態でのある程度の戦術プランは練っていたようね。対応速度も比較的早い。

 

 ただ問題は、あのヴィールの薫陶を相手が受けているという点ね。

 

『突っ込む、援護を!』

 

『『『『承知!』』』』

 

 上級悪魔四人の魔力砲撃を援護に、その射線ギリギリを縫うように冥革連合の男が突貫する。

 

 ちょっとずれれば上級悪魔の本気の砲撃が当たる、そんな弾幕をガードレールじみた形にすることで、冥革連合は一人切り込んだ。

 

 名前はケンゴ・ベルフェゴール。京都ではホテルの方に仕掛けてアザゼル先生達とやり会った奴。更にアグレアスではヴィールに率いられ、アーサー・ペンドラゴンと切り結んだ経験もある。

 

 間違いなく冥革連合のエースね。王の駒は封印されたとはいえ、その実力は最上級悪魔クラスが確実にある。

 

 真っ向から切り結ぶ場合、相手も相応の力量が必要になるけれど―

 

『……させない!』

 

 ―迎撃できるだけの戦力はいるようね。

 

 突貫したのは、涙換の救済者チームで戦車を務める行舩三美。

 

 確か最上級悪魔すら狙えるとされる、準神滅具保有者だったわね。

 

 そしてその手に具現化された大剣が、ケンゴ・ベルフェゴールと切り結ぶ。

 

 ……なるほど。反応も動作もかなり上質。当然として、優秀故に迎撃を成立させている。

 

 私が感心していると、隣のリーネスも興味深そうな表情になっている。

 

「そういえば、あれはどういう神器なのかしら?」

 

「準神滅具、大剣乱舞(バスター・ダンシング)。見ての通りの大剣だけど、ここからが凄まじいわよぉ」

 

 そうリーネスが応えた瞬間、行舩三美は弾き飛ばされる。

 

 だがその瞬間、ケンゴ・ベルフェゴールに二本の大剣が叩き込まれた。

 

 防御こそギリギリ間に合っているけれど、かろうじてのレベル。その為勢いを殺しきれず、盛大に吹っ飛ばされていく。

 

 更に大剣は、そのまま飛翔すると戻ってきた三美が持つ一本と共に、王道の再興者チームを引っ搔き回していく。

 

「あれが大剣乱舞の本領。大剣そのものが飛翔能力を持っていてぇ、それを複数本具現化できるのよぉ」

 

「あ~なるほど。オールレンジ攻撃したり、手に持っての動作を補助したりとかできるわけね」

 

 感心している鶴羽の横では、オトメねぇが少し分かってない風だった。

 

「えっと、それって持っている意味あるの?」

 

 まぁ確かに、それなら持たずに全部オールレンジに使えばいいとも思うでしょうね。

 

 ただ、あの戦い方は上手いというほかないわ。

 

「準神滅具じゃ限度があるってことよ。……おそらくだけど、小技の類は手持ちで出来る技ね」

 

 そう答える私の視線の先、三美はコンパクトな連撃を叩き込みつつ、オールレンジ攻撃で生まれた隙に大振りを叩き込んでいる。

 

 大剣とは文字通り、大きな剣だ。必然的に質量も重心も、小技を入れるのには向いていない。

 

 それが片手持ちで出来ているのは、ひとえに大剣乱舞の性能あってのもの。その飛翔特性の応用だ。

 

 飛翔特性と手による動作を組み合わせることで、本来軽量な片手剣でないとできないような動きすら可能としている。大剣でそれを振るわれるというのは、理解できる奴なら震えるレベルだろう。

 

 ただ、オールレンジ攻撃でそれはできていない。そこが準神滅具としての限界。そういう事だ。

 

「大剣乱舞の飛翔能力は、飛ばして使う場合慣性の影響を殺しきれないわぁ。でも、身体能力の動作でも大降りになるのが大剣だからぁ、合わせた場合はああなるのよぉ」

 

「流石は準神滅具。そしてそれを十全に使える才覚と技量ですね」

 

 リーネスの解説にディックも感心している。

 

 そう、若干大振りだが多角的に対応できるオールレンジ攻撃。そして本来大剣ではありえない動作で戦える手持ち攻撃。その二種類こそがあの準神滅具の本領。

 

 純粋に剣としての性能も、聖魔剣に切り結べるぐらいはあるようだしね。あの多角的対応力は十分な脅威だわ。

 

 ……そして、他のメンバーも上手くしのいでいる。

 

 インガとベルナも頑張って迎撃しているわね、やるじゃない。

 

「お? 日美っち、旦那がそろそろ戦うみたいだぜ?」

 

 と、勇ちんが指摘して私は別の映像を確認する。

 

 そこでは和地が春奈と合流している。

 

 なるほど、どうやら二人の戦いはあそこからが本番のようね。

 

 ……さて、見せてもらうわよ?

 

 二人の戦い、高みの見物とさせてもらうわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、みんなは今のところしのいでいるようだな。

 

 となれば、俺は俺のやることをしっかりこなすか。

 

 疾走車輪(ソニック・チャリオット)から降り、俺は星魔剣を創造する。

 

「待たせたな、春っち」

 

「問題ないわ、和っち」

 

 そして着地する春っちも、炎を刃として構えている。

 

 思えば、俺も惚れこまれたものだ。

 

 何年間も、その本来の意味を忘れても、心の底から消えることがなかった願い。

 

 俺と胸を張りたい。その一念を持って、彼女はここまで強くなった。

 

 その果てに辿り着いた境地。後天的に神滅具化した、焔の具現。赫焔女帝(ブレイズ・エンプレス)

 

 俺もまた、それに応えたい。向き合いたい。

 

 その想いを朽ち果てさせること無く進んできた先にある彼女に、俺も胸を張りたいと思うから。

 

 だからこそ、俺は遠慮なく刃を構える。

 

「行くぜ、春っち。……互いに遠慮は一切無しでだな」

 

「行くわ、和っち。……今の互いを包み隠すことなく」

 

 そして、俺達は互いに微笑み合い―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……はああああああっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―真っ向から、互いと競い合う。

 

 振われる炎の群れに、俺は魔剣を持って対応する。

 

 切り裂き、いなし、受け流す。

 

 その炎は龍王の一撃に匹敵するが、俺はそれを全力で迎撃して潜り抜ける。

 

 そして、一太刀を俺は叩き込んだ。

 

「まだよ!」

 

「まだだ!」

 

 そして反撃を搔い潜りながら、俺も反撃を開始する。

 

 急激に覚醒を遂げたりはしない。俺達はそんな柄じゃない。というより、カズヒの専売特許だからな。

 

 ただし、春っちには神聖血脈による不死性がある。限度はあるが、それはフェニックスを打倒するレベルの難易度。俺の手札で一撃必殺など、させてくれるわけがない。

 

 そして俺もまた、ゾーンに入る。

 

 微弱ではあるが常に行われる最適化。それにより攻撃を更に掻い潜り、そして攻撃を入れ続ける。

 

 神聖血脈による不死性で押し切るか、ゾーンによる最大効率で追い抜くか。この戦いは現状、その形だ。

 

 だが甘い。そんなことは分かっている。

 

「……やるわね和っち。なら、ギアを上げるわ!」

 

 その瞬間、春っちの周囲に大量の火炎弾が生成。一斉に俺に向かって投射される。

 

 だが甘い。俺とてその程度は想定している。

 

「撃ち落とせ!」

 

 既に疾走車輪は禁手に到達。更に当然だが残神(コスモス・ボルト)も発動させ、サルヴェイティングアサルトドッグを装丁させている。

 

 その援護射撃で弾幕を多分に相殺。更に星辰光の障壁でいなし、安全地帯を作り上げる。

 

 ここまでは互いに予定調和。それぐらいは分かっている。

 

 だから、こそ!

 

「「ここから先が……」」

 

 本番だ!




 一つの試合を複数の視点で見据える作戦、これ行けそう。

 これなら原作通りの試合も、独自色を見せれるからな。ありがとう、お気に入りに入れた作品の作者さん……っ!


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大会開幕編 第二十六話 試合開幕、和地VS春奈(その三)

 どうもー! 最近執筆速度が低下気味なグレン×グレンでっす!

 収入が増えたことで購入した書籍類が多くなったのが一番の要因ですね。……勝ったのならちゃんと読まんとイカンですから。

 もともとD×Dとの親和性が高いとアニメ見て思っていた俺ツイを本格的に電子書籍で購入しており、呼んでいるとマジで親和性高いんじゃないだろうかと思っております。この作品、第三部は本格的に多重クロスさせる予定ですが、俺ツイは大欲情教団のテコ入れにも使えまくりなのでほぼ確定でしょう。……ツッコミ役を増強せねば、過労死が確定する……っ


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は本当に激しくなっている。

 

 王道の再興者チームは容赦なく攻めかかり、涙換の救済者チームはそれを凌ぐ。

 

 ただ、このままだと競り負けるのは間違いない。

 

 だからこそ、九成達が勝つには成田さんとの一騎打ちに九成が勝つ必要がある。

 

 ……ただ、それにしたってと思う展開が起きている。

 

「これは、中々な展開になりましたわね」

 

「そうですな。おそらくレーティングゲームの歴史でも滅多にないのではないでしょうか?」

 

 レイヴェルとボーヴァが感心しているけど、この二人は悪魔歴長いからな。ゲームもたくさん見てるだろうから、尚更新鮮なんだろう。

 

「……イッセー、今度私と模擬戦をしないか? 羨ましくなってきた」

 

「あ、ずるいわゼノヴィア! ダーリン、私もお願い!」

 

 ゼノヴィアとイリナは赤面しながら、俺の方をチラチラ見てきている。

 

 まぁうん。こんなの見たら、そういう気持ちにもなるかもな。

 

 そう、今二人は―

 

『な、ななななぁんとぉおおおおおお! 九成和地選手と成田春奈選手、互いに互いを強化しながら、真っ向勝負だぁぁああああ!?』

 

 ―お互いにバフをかけながら戦ってる!!

 

 いや、二人ともそういう技持っているよ? ヴィールとの最終決戦でも、相互に同調しているよ?

 

 でもそれはお互いの共闘だからだ。断じて互いが互いを倒す為に使ってるわけじゃない。

 

 だからまぁ、今観客席もちょっと沈黙している。「え、マジで?」って感じだ。

 

 ただ、画面に映っている二人はマジだ。

 

『どうした春っち! エンゲージフレアは絶好調だぞ? その程度か?』

 

『こっちのセリフよ! 焔技・熱愛をもってしてその程度? 本気?』

 

 お互いに挑発すらしながら、二人の戦闘はどんどん激しくなっている。

 

 な、なんか燃える展開だけど、同時に凄いことしているからちょっと困惑している。

 

「……なるほど、お互いがお互いを高め合いながら競い合う。恋人でありライバルだからこそなのでしょうか」

 

 と、俺の隣でシャルロットはちょっと困惑しながらも微笑んでいる。

 

 いや、俺に言われても困る。

 

 とはいえ、どんどん観客の人達も我に返って興奮して喝采している。

 

 俺もどんどん燃えてくるっていうか、見てて震える試合ってこういうの言うんだろうなぁ。

 

「おぉおおお! そこ、パンチ……いやキック……うわぁ炎!?」

 

 アルティーネも楽しんでるようで何よりだな。

 

 と、シャルロットはみんな様子を見ながら、俺を見て微笑んだ。

 

「リアスさんとの試合でやってみます? 二人なら相互ブーストできると思いますよ?」

 

「あ、確かに」

 

 俺の赤龍帝の籠手はそれができるし、リアスもおっぱいの力で俺をいつも高めてくれた。

 

 なら、俺達も似たようなことができるかもしれない。

 

 ちょ、ちょっとやってみたいかも―

 

『……やめておけ、相棒』

 

 ―ドライグの、悲しそうな声がそこに待ったをかける。

 

『目に見えるようだ。相互強化によってごっそり減ったリアス・グレモリーの胸を見て、落ち込む相棒の姿が本当に見えるぞ』

 

「「「「「「「「……あ」」」」」」」」

 

 思わずみんなで声が出たよ。

 

 そうじゃん! あ、危なかったぁあああああっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の戦闘は白熱している。そして、接戦となっている。

 

 春っちの優位性は不死特性だ。神聖血脈による不死特性、不崩壊之主柱(こわれずのみはしら)と名付けられたそれは、フェニックス家の不死特性に匹敵する。

 

 更に赤き情熱の憧憬(ライダー・オブ・ファイヤ)の焔技版である焔技・情熱により、真っ向からこっちに迫りくる。

 

 それに対し、俺は既にパラディンドッグで対応中。サルヴェイティングアサルトドッグを使用させている従者との併用で、多角的に対応している。

 

 更に神聖存在のポテンシャルを可能な限り煮詰めて磨き上げることで、俺の基本性能は向上している。この発想に至ったのが三美さんとの会話がきっかけだから時間は短いが、それでもだいぶ何とかできた。

 

 そしてこの戦いが注目されるだろう最大の点は、俺達がお互いにバフをかけながら戦っている点。

 

 俺は春っちサポート用に開発したエンゲージフレアを展開しているし。春っちも赤き熱愛の餞別(マリッジ・オブ・ファイヤ)の焔技バージョンである焔技・熱愛で俺を強化している。

 

 そしてそれゆえに、俺達は双方のチームで最強戦力が確定している。周囲の環境を溶岩に変え、それを断ち切りながらの戦闘が継続中だ。

 

 そんな真っ向からの、互いに塩を送り合いながらも激突。だが同時に、それこそが俺達にとって望むところだ。

 

 だってそうだろう?

 

 春っちがここまでこれたのは、俺に胸を張りたいからだ。

 

 俺に守られるだけが嫌だった。今度は俺と守り合いたいと願った。それを幼さゆえに成長と共に忘れながらも、その根幹は決して消えなかった。

 

 俺が道間日美子(カズヒ)の笑顔に誓い、その本質を半ば忘却しながらも進んできた道。笑顔に誓った勝利を刻む、その為の人生。それと極めて酷似した、その成長。

 

 ヴィール・アガレス・サタンによって朽ち果てることから救われ、そんな男の元で鍛え続けてきたこの成長。

 

 同胞達にも、俺達にも、決して情けない姿など見せられない。

 

 ああ、だからこそ―

 

「惚れ直したぜ、春っち!」

 

 ―その決意と共に、更に上を行って見せる!

 

 ゾーンの集中力と感覚で見切り、一撃を入れる頻度を少しずつだが上げていく。

 

 もちろん相手の反撃も研ぎ澄まされるが、それを俺は捌いていく。

 

 時として、紙一重で。時として、大振りで。また時として、わざとタイミングをずらして当たることで。

 

 そんなばらつきのある回避パターンで、なれと突破を許さない。

 

 そして、その上で―

 

「こっちのセリフよ、和っち!」

 

 ―成田春奈は、俺に一撃を入れていく。

 

 ゾーンで高まっていく俺の戦闘に、再生力によるごり押し込みで春っちは食らいついていく。

 

 負けられない。追いつきたい。むしろ前を歩くぐらいの気概で挑む。

 

 それが感じられ、俺の胸は熱くなる。

 

 きっと、春っちもそうなんだろう。

 

 だからこそ!

 

「これで終わると思うか、春っち!」

 

「当然ないでしょう、和っち!」

 

 更にギアを上げていく。

 

 ……本当に、本当に強くなったな。見違えたよ、春っち。

 

 どこか感動すら覚え、俺は攻防を繰り広げる。

 

 真っ向から振るわれる炎を、炎特攻の魔剣で掻い潜るという手法もあっただろう。

 

 だが、あえてそれを選ばない。

 

 俺は真っ向から春っちと競い合う。そうしたいと願うし、そうすべきと悟っている。

 

 ここまで鍛え上げるほど、俺は想われている。俺を思う気持ちが、ここまで春っちを高め上げた。

 

 もちろん迷走もあったし、結果として血も流れた。その責任はあるし、これからも背負い続けていく業だろう。

 

 だからこそ、せめて俺は成果だけでも受け止めよう。

 

 俺を想い、そして磨き上げ辿り着いた到達点。そしてその先を行くだろう道筋。

 

 俺は、そこに並び立てるだろうか。

 

 その疑問を、俺は踏み込むと共に突破する。

 

 並び立つのではない、共に歩き続けるんだ。

 

 振われる炎の斬撃を、俺は掻い潜る。

 

 追撃の魔剣を春っちは瞬時に迎撃するが、俺はその瞬間に魔剣から手を放す。

 

 再度魔剣を創造する。そして、俺はそれを掴まずに踏み込んだ。

 

「っ!」

 

 とっさに迎撃の体勢をとる春っちだが、しかしその隙は大きい。

 

 ああ、創造系の神器は瞬時に武器が作れる。当然だが、破損されてもすぐに魔剣で対応することが可能だ。まして、あえて一旦手を離したことでそれによる隙を狙ったものと思っただろう。

 

 だからそこをついた。

 

 フェイントをかけての攻撃と見せかけて、それこそが本命のフェイント。

 

 俺はその瞬間、指先にリングで保持する形の爪状の魔剣を瞬時に創造。そのまま抜き手で春っちに一撃を叩き込む。

 

 悪いな春っち。俺はザイアで、魔剣創造以外の戦闘手段も徹底的に叩き込まれている。ついでに言うと、俺自身しっかり真面目に講習は受けている。

 

 神器は確かに凄い力で、増して俺の魔剣創造は強力な部類だ。だからこそ、それ以外の戦闘手段を持つことは戦術の幅を広げる。

 

 ショットライザーを中心とする射撃戦闘は当然。剣以外の武器においても、一通りのものは習得済み。そして徒手空拳の技術だって当然収めている。

 

 それらを魔剣創造と組み合わせての攻撃。要は五本抜き手を主体とする打撃戦ならぬ爪撃戦。

 

 だがその上で、春っちは瞬時に突っ込んだ。

 

「舐めんなぁ!」

 

「まさか!」

 

 最高出力のジェット推進で、春っちはそのまま俺に組み付いた。

 

 瞬時に全身から炎が具現化する。赤き炎の腕では到底できないだろう全身からの火炎放射も、今の春っちなら到達できる。

 

 当然俺の従者で攻撃の体勢をとるが、春っちは高速軌道と俺を盾にするような立ち回りで、攻撃を許さない。

 

 ならば、俺が自力でどうにかするしかないだろう。

 

「……甘いな春っち。この程度なら!」

 

 俺はその瞬間、応用で全身に魔剣を展開する。

 

 リング状のパーツで固定する形で、全身に魔剣を固定。それをもってして、強引に春っちの拘束を断ち切った。

 

「ぐ……それでも……っ!」

 

 折れないな、春っち。

 

 ただこっちも結構きつい。というより、はっきり言って全身火傷だ。

 

 あまり長期戦は避けるべきだろう。そろそろ、決着をつけるべきか。

 

 それを覚悟し、俺は瞬時にショットライザーをベルトに装填する。

 

 同時に、春っちも全身に炎の装甲を纏って突貫する。

 

『BALANCE SAVE!』

 

 プログライズキーが起動し、俺の脚部に魔剣創造の流用で強化装甲ユニットが展開。

 

 そして、一旦離れた俺達の間合いは一気に迫る。

 

「和っちぃいいいいいいいいいっ!」

 

 放たれる蹴りは、赤き情熱の憧憬(ライダー・オブ・ファイヤ)を昇華した焔技・情熱によるもの。

 

 それに合わせるように、俺もまた迎撃の蹴りで真っ向から迎え撃つ!

 

「春っちぃいいいいいいいいいっ!」

 

『パラディンブラストフィーバーッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラストフィーバー

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶつかり合う蹴りの激突は、周囲に破壊をまき散らしながら一時的な拮抗を齎す。

 

 だが、俺が一手早い。

 

『BALANCE SAVE!』

 

 素早くプログライズキーを起動させつつ、俺はショットライザーを引き抜いた。

 

 更に魔剣と障壁を大量に展開し、春っちに迎撃と回避を許さない状況にもっていく。

 

 その詰み手に対し、春っちは小さく微笑んだ。

 

「まだこのぐらいか。……待ってて、絶対追いつく」

 

「ああ、先に行きながら待ってるぜ」

 

 俺はそう応え、そして引き金を引き絞る。

 

『パラディンソードブラスト!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パ

 ラ

 デ

 ィ

 ン

  ソードブラスト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれる魔星剣の一斉射撃が、春っちに全弾突き刺さった。

 

 悪いな、春っち。

 

 今回は俺の勝ちだ。次に備えて、牙を磨き続けてくれ。

 

 お前が胸張って並び立ちたい俺を、俺自身磨き上げて待ってるぜ?




 死闘、決着。乙女心の一念は、しかしまだ先があることが示された。

 とりあえず、あと二話で大会開幕編は終了です。


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大会開幕編 第二十七話 決着とこれからと

 ハイどうもー! 調子に乗って電子書籍買いまくったグレン×グレンでっす!

 とりあえず気になるシリーズ関連のほとんどは第一巻を購入。ここからは当面続刊を中心に買い集めて行こうかと思っております。

 それと執筆速度も土日は復活しております。この調子なら書き進められるでしょうと思っている感じですね♪


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転送の光に包まれる春っちは、そのまま俺の方に倒れこむ。

 

 それを俺が咄嗟に支えると、彼女はその赤毛を揺らしながら、大きく息を吐いた。

 

「……まだ届かないかぁ。これ、ケンゴさんたちに謝らないとなぁ」

 

 そう苦笑交じりに呟いた春っちは俺の顔を覗き込む。

 

「でも、結構強かったでしょ。……強く、なったでしょ?」

 

 そんな、ちょっと自信なさげな春っちに、俺は愛おしさと軽い怒りがあふれてくる。

 

 こんなに彼女は強くなった。迷走もあったし、原点を見失ったこともある。だが、取り戻し俺を此処まで苦戦させるぐらい強くなった。

 

 俺がずっとずっと強くなり続けて、そんな俺を苦戦させたってのに。

 

 春っちは自信なさげなのかよ。ちょっとそれは怒るぜ?

 

 だから、俺は行動で示す。

 

「春っち」

 

「……んっ!?」

 

 その唇をしっかりと奪うと、俺は春っちを抱きかかえて宣言する。

 

「お前は俺の強くて可愛いお嫁さんの一人だろうが! 今ここで証明しときながら、そんな態度は春っちにだって認めないさ!」

 

 俺ははっきりと宣言し、この試合を見ている全員が分かるように宣言する。

 

 まったくもって失礼な。今更そこで弱気になるんじゃない。

 

 そして俺は変身を解いて、まっすぐに顔を突き付けながら言い切った。

 

「ここまで言わせるだけのことを、春っちはしっかりしてのけたんだ。……胸を張ってくれよな?」

 

「……こ、こ、ここここここ……」

 

 ん、なんかもの凄く真っ赤になって―

 

「……このおバカぁあああああっ!?」

 

 ―消えるその瞬間、もの凄く勢いの乗った拳が俺に叩き込まれた。

 

 ……ホント、春っちは強くなったなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 な、なんて奴だ。

 

 あの場で堂々と嫁さん宣言して、公衆の面前で愛していることを突き付けるだと!?

 

「や、やりやがったな九成っ!」

 

 見てるこっちが恥ずかしいぞ!

 

「「「「「「「……………え?」」」」」」」

 

 なんか全方位で「お前が言うな」の視線が集まった!?

 

 ……そうだね。俺も似たようなことしたばっかりだったよ。

 

 でも、お義父さんの前で嫁にする宣言するのと、本人を抱え上げてお嫁さんだと紹介するのはちょっと違うと思うんだ。

 

 ただ、俺のそんな気持ちを察したドライグから呆れの気持ちが向けられている。

 

『相棒、日本には目くそ鼻くそを笑うという比喩があるはずだぞ?』

 

「チョイスのセンスがひでえよ!?」

 

 なんでだぁああああ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『王道の再興者チームのコア、リタイアを確認。涙換の救済者(タイタス・クロウ)チームの勝利です』

 

 ……呼吸を整えて残心をとっている中、アナウンスが鳴り響く。

 

 まぁないとは思っていたが、ブラフだった可能性を踏まえるとこれで安心という事か。

 

 ほっと息をついたその瞬間、俺はぐらりとふらついた。

 

 思わずへたり込むが、これはかなりダメージが入っているな。

 

 防衛特化と再生能力。性質上ある種の消耗戦を強いられるわけで、競り合いで勝った以上は消耗も大きい。ひいき目抜きで互角の競り合いだったからな。こうもなるだろう。

 

 というより、全身火傷状態だ。星辰奏者ゆえに放っておいても治るだろうが、回復するに越したことはない。

 

 とりあえず魔力量ごり押しの治癒魔術で気休めをしつつ、俺は大きく息をついた。

 

「まったく。強くなりすぎだよなぁ、春っちは」

 

 思わず呟くと、つい苦笑してしまう。

 

 その理由が俺に胸を張りたいなんだから、男冥利に尽きるって奴か。モテる男はこういう時苦労するわけで、何とか乗り越えないといけないわな。

 

 さて、祝勝会は必須だけど、いっそのこと王道の再興者チームも巻き込んでの健闘パーティにするのもありだろうか。

 

 そんなことを思っていると、なんかこっちに凄い勢いで近づいていく。

 

「あ、あそこです!」

 

「……和地様!」

 

 って、三美さんとヴィーナか。

 

 三美さんが抱える形でヴィーナを運び、そして俺の隣に着地する。

 

「……勝利したようで何よりです。こちらも凌ぎがいがありました」

 

 三美さんはそう言うと、その上で周囲を見て小さく頬を引きつらせている。

 

 まぁ、言われてみると被害が甚大だな。

 

 地面はごっそり削れているし、ところどころ赤熱化している。というより、溶岩みたいな状態になっているところもあるしな。

 

 我ながら、こんな戦いをして勝つんだから強くなったもんだ。

 

 ま、これでもまだまだだろうけどな。

 

 最低でも主神や超越者と張り合えるようにならないと、極晃を否定した責任なんて到底背負えない。

 

 今後も精進だな。色々と考えておくとしよう。

 

 ま、それはともかくだ。

 

「ありがとう、二人とも。みんなで祝勝会しようか」

 

 こういうことはしっかりやっとかないとな。金あるし。

 

 そんなことを思っていると、頭の上から液体が墜ちてくる。

 

「それより早く治療しないと! ほら、全身火傷してるしね!?」

 

 ヴィーナがそう言ってかけてくる液体を浴びると、痛みが引いて傷もどんどん回復していっている。

 

 アーシアの神器に比べれば微々たるものだが、確かに効果が見えているな。

 

「本当に凄いですね、ヴィーナさん。……悪魔の私達にも回復が作用していますし」

 

「まぁ、再生治療の応用というか延長線上ですから。悪魔の方でも効果があるんじゃないでしょうか?」

 

 三美さんにそう返すヴィーナは、今金属の盃を持っている。

 

 妖精の杯(フェアリー・カップ)。赤龍帝の籠手に対する龍の手(トゥワイス・クリティカル)幽世の聖杯(セフィロト・グラール)、ある程度の生態調整能力を持つ神器だ。

 

 それを応用し、高速で再生治療が起きる薬液を生成している。それによる回復がヴィーナの編み出した神器の扱い方だ。

 

 流石に神器そのものとの同調もあってのことだが、やろうと思えば薬の大量生産ができる。……一財産築けそうだな、オイ。

 

 だけど、三美さんも含めて本当に頼れる戦力だ。これならやりようはいくらでもありそうだな。

 

 うん、素直に感謝をするべきだろう。

 

「美人で頼れるチームメンバーが来てくれて、いや本当に感謝だな」

 

「「え!?」」

 

 ……いかん、今のはアカン。

 

 なんというか、意味もなくフラグを立てたかもしれない。

 

「……いや、シルファや文香も含めてだけどね!? それに黒狼や文雄も頼れるし! インガ姉ちゃんはベルナも愛してますから!?」

 

 よし、これでフォローできたはず―

 

「……あ、そうだよね! シルファちゃんって、勘違いされがちだけどいい子だし! 可愛いもん!」

 

「和地様。文香は文雄がいますから、落ち着いてくださいね?」

 

 ―違う方向にヤバイ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんというか、凄いね彼ら」

 

「兄さんも大概その枠に入っていると思うんですけど?」

 

「いや、ルーシア? 俺はまた方向性が違うけどね?」

 

「……」

 

「ど、どうしたのかな?」

 

「いえ、兄さんが人と違うことを当たり前に認めているのが新鮮でして」

 

「ま、俺も反省はするし改善はするさ。というより、それが取り柄だしね」

 

「ふふ、そうですね。なら私も、ルーシア・オクトーバーとして私なりに頑張ります」

 

「ああ、そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハ! お主の連れ合いと息子は、素晴らしいではないか! 主よ、見ておられるのでしたらどうか慈しみを!」

 

「ちょ、団長!? 恥ずかしいから勘弁してください!」

 

「よいではないか! 愛とは本来尊ばれるものだぞ? 誰かを愛して慈しみ、そしてよりよく共にあろうとするのは善なるものではないか」

 

「そうですけどね!? そうですけどね!? いや、マジ勘弁してくださいよ~」

 

「……まぁ、相対するのなら中々に難敵だがな。特に今回、我らはリュシオンを欠いておるしのぉ」

 

「その割には、残念そうに見えないですね」

 

「当然だとも、ヒツギよ! リュシオンが更に一歩を踏み出し、そして民草を顧みれるようになった証ではないか! 祭りの参加者な時ぐらい、家族の願いを優先しても罰は当たらぬだろう! 否、与えるような邪神など認めるわけにはいかんのである!」

 

「……そうですね。なら、私ももうちょっと楽しんだ方がいいですかね?」

 

「もちろんである! デュナミス聖騎士団が新たな一歩を踏み抱いたことを示しつつも、しっかり楽しんで交流せねばならぬぞ?」

 

「了解です、我らが団長、ストラス・デュラン殿!」




 神滅具の完全下位互換神器、今後も似たようなのを出し続けたいと思っておりますです、ハイ


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大会開幕編 第二十八話 秘密のお話

 はいどうもー! 自分の悪癖とアザゼル杯編が思ったより相性が悪いと悟り始めたグレン×グレンでっす!

 だってさー。なにせさー。十人以上のチームどうしがたたかう試合だからさー。全員をネームドにする必要はないけど、どうしてもある程度は新キャラを組み込む必要性もあるからなー。

 ちなみにこれを投降した後は、五人以上の新キャラを作る予定です。チョイ役も多いですが、何人かは星辰奏者にする必要もあるのでまた時間がかかるかも……。


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 バラキエルさんとの試合も終わって、ちょっと経ってからだ。

 

 俺と九成は、アジュカ様に呼び出されて冥界の施設に到着していた。

 

「何があったんだろうな?」

 

「さてな。ま、悪い事じゃないだろうさ」

 

 九成はそう言うけど、俺はちょっと首を傾げる感じなんだよなぁ。

 

 アザゼル杯も慣れてきているし、最近はトラブルも少ないけど。月に一回あるかないか程度だし。

 

 ……いや、月に一回もトラブルに巻き込まれるのは多いのか。多い時は一か月に二回ぐらい大きめのトラブルに巻き込まれるから、感覚がマヒしているかも。

 

 ああもう! 平和にエッチな毎日が送りたいだけなのに、なんで毎回毎回大規模トラブルの方がこっちに来るんだよ!

 

 思わず文句を言いたくなるけど、そこは我慢我慢。

 

「とはいえ、わざわざ俺達だけってのは気になるな。人数を絞っていると考えるべきなんだろうが」

 

 九成は首を傾げているけど、本当に何なんだろうか。

 

 そう思いながらも、待機するように言われた部屋で待っているとアジュカ様が入ってくる。

 

「待たせたね、イッセー君、和地君」

 

 そういったアジュカ様は、素早く魔法陣を操作すると映像を映し出す態勢に入っている。

 

「手っ取り早く本題から入ろう。……ちょうど休憩時間なのでね」

 

 休憩時間?

 

 俺達が首を傾げたその時、映像が映し出される。

 

『よう、和地にイッセー! 元気してるか?』

 

『久しぶりだね、和地君。イッセー君も、最後に見たのが倒れた状態なので心配だったよ』

 

 あ、アザゼル先生にサーゼクス様!?

 

 隔離結界領域に旅立ったはずの二人が、なんで映像に映ってるんだ!?

 

 いや、そもそも―

 

「なんでマッサージチェアーに座ってるんですか!?」

 

 ―滅茶苦茶ゆったりしているぅううううう!?

 

 浴衣を着てマッサージチェアに座っている。いったいなんでどうしてそうなった!?

 

 俺が絶叫していると、九成も面食らっていたけどなんかため息をついた。

 

「そんなものまで持ち込んでたんですか? まぁ、一万年も娯楽無しなんて無理だとは思ってましたけど」

 

「あ、そういう事か!」

 

 俺は咄嗟に納得した。

 

 そりゃ、一万年間もトライヘキサと戦い続けなんて無理があるよな! 心も体も()たねえよ。

 

 食料とかは突っ込んでるだろうし、当然息抜きの道具とかも持ち込んでたのか。

 

 そう納得した俺達だけど、アジュカ様は小さく首を横に振った。

 

「いや、そもそも物資と情報のやり取りはある程度可能に設計していたんだ。長期戦を考慮するなら兵站は無視できないし、情報のやり取りでより短期間で打倒できる方法も確立できそうなのでね」

 

 な、なるほど。

 

『……ただし、その辺りは最小限の人数に絞ることは確定でね。すまないが、リアス達にも伝えないでくれたまえ』

 

 サーゼクス様がリアスにも言わないでって、大変だな。

 

「つまり、休憩用の設備とかも準備してたんですか?」

 

 俺はそこも気になったので質問する。

 

 と、そこでサーゼクス様もアザゼル先生も苦笑していた。

 

 ん、なんなんだ?

 

『休憩設備は事前に用意したというよりは、流用だな』

 

 先生がそんなことを言うけど、一体どういう事なんだろうか?

 

「……まさか、フロンズ案件ですか?」

 

「半分正解と言おう。この件に関して彼らにはなるべく伝えないようにしていてね」

 

 と、アジュカ様が九成にそう答える。

 

 え、どゆこと?

 

 首を傾げていると、アジュカ様が追加で魔法陣を操作。別の映像が映し出され、そこにタンカーみたいなデカいユニットが見えた。

 

 あ、内部図解も出てきたけど……なんか豪勢だな、オイ。

 

 お風呂やサウナだけでも数種類ずつ。更にプールやフィットネスジム、バッティングセンターといったスポーツ系の娯楽設備でいい汗も流せる。加えてシアタールームや図書室、自然豊かな中庭といったインドア系の娯楽設備も完備だ。

 

 更に食生活も万端にしているのか、野菜工場や小規模だけど牧場に養殖場まである。これなら新鮮な食事もとり放題。

 

 なんだこの豪華客船。

 

『フロンズの野郎が王の駒が明かされた瞬間に色々動いてたのは知ってるだろ? その一環の交渉材料として、サンタマリア級艦首ユニットの一つを無償で提供してきたのだよ』

 

『で、コンセプトが「移動可能かつ長期間無補給で運用できる居住区」だったんでな。ちょちょいと改造して俺らの生活拠点にしたって寸法さ』

 

 サーゼクス様と先生がそう言うけど、ちょちょいとできることなのか……?

 

「え、そんな簡単にできるの?」

 

「冥界驚異の技術力すぎるだろ……」

 

 俺もだけど、九成も結構困惑してるな。

 

「フロンズ・フィーニクス達大王派の実権を握る者。……革新衆と呼ばれ始めている彼らには情報を絞っているが、遅かれ早かれ伝えることにはなる」

 

 と、アジュカ様がそう告げる。

 

『ユニットの長期間持続を踏まえると、いずれ話すしかないからね。もう少し時間を置く予定だが、これはもう仕方がない』

 

 サーゼクス様も少し残念そうだけど、まぁ必要だよなぁ。

 

 今、フロンズは大王派の実権を握っている。権限だけならアジュカ様の次ぐらいには高い人だ。いつまでも黙ってるわけにはいかないってわけか。

 

 ちょっと不安になるけど、先生も苦笑い気味で肩をすくめている。

 

『ま、対龍神クラスを念頭に置いた兵器であるGF(ギガンティック・フォートレス)の相手にはちょうどいいのがトライヘキサだ。……今後を踏まえると、あるに越したことはないんでな』

 

「ぶ、物騒なことを言わないでくださいよ~!」

 

 俺は思わず文句を言ったよ。

 

 漸くここまで来れたってのに、そんなポンポン龍神クラスの脅威が出てきてたまるかよ!

 

 極晃星(スフィア)だって九成のおかげでだいぶ何とかなったんだから。流石に当分あのレベルの事態は起きないでほしい。

 

 ……あのレベルじゃなければいくらでも起きそうだけど。

 

 禍の団はまだ結構組織として残ってるし。むしろ新しい象徴もできてるし。ついでに言うと、サウザンドフォースとかもいるし。

 

 それにハーデスや帝釈天もあれだしなぁ。どっちかは絶対なんか企んでるだろうしなぁ。

 

 ……あれ? もしかしてまだまだ世界は大ピンチ?

 

「そ、それで! 今日俺達を呼んだ理由は、なんなんですか!?」

 

 俺は気分を切り替えるように、そう元気よく訪ねた。

 

 と、そこでサーゼクス様がもの凄く真剣な表情になる。

 

『要件は三つだ。まずはイッセー君に対する、ちょっとしたお願いから解決しよう』

 

 お、俺に対するちょっとしたお願い?

 

「……これは以前から考えていたことだが、将来的に我々は、人間界でいうCIAやMI6のような組織を作ろうと思っている。裏の世界で連携を取り、不穏分子を動き出す前に探り当て摘発する組織をね」

 

 な、なるほど。

 

 そういう組織も、国家クラスとなるとやっぱり必要だよな。世の中、本当に大変っていうかなんて言うか。

 

 アジュカ様の言葉にそんな感想を持っていると、今度は先生が俺に視線をしっかりと向けた。

 

『で、だ。俺達としてはイッセー、お前にその長官を務めてほしいと思っている』

 

 先生がそんなことを言うと、サーゼクス様も頷いていた。

 

『簡潔に言うのなら、今後世界に害をなすだろう組織を未然に止める、そういった組織の中核になってほしいのだよ』

 

 え、俺が、秘密組織の長ぁ!?

 

「……いや、そういうのはカズヒみたいな奴の得意分野では? イッセーに向いてると思いませんけど」

 

 お、九成良い事言った!

 

「同感です! っていうか、そんな重大な組織の長とか、世界の命運を左右する善悪の判断とか、自信なさすぎます!!」

 

 自分で言うのもなんだけど、俺に向いてると思えないんだけど!?

 

 俺も九成もそんな感じだけど、アジュカ様達は違った感想らしい。

 

「そうだろうか? サーゼクスのような超絶な力とアザゼル元総督の顔の広さを両立するのなら、君が適任だろう」

 

 え、ええ、マジですか?

 

 アジュカ様の評価に俺が困惑していると、先生も力強く頷いた。

 

『別にお前ひとりでやれとは言わん。ただ、EXE(エグゼ)と呼ばれるだろうその組織は、お前達が結果的に動かしてほしいと思っている』

 

『君にもやりたいことや叶えたい野望があることは理解している。ただ、同時に脅威となりえる者も数多い。……どうか君の夢の一つに、世界を守る役目を含めてほしい』

 

 サーゼクス様までそんなこと言うけど、マジか。

 

 上級悪魔にもうなれたってだけでもちょっと困惑なのに、下手な最上級悪魔でもなれないような大役を期待される。

 

 いや、自信全くないんだけど!?

 

「……個人的にはどうかと思いますがね。イッセーのようなタイプは、デュナミス聖騎士団のような立ち位置につけるべきと思いますし」

 

 と、九成はそうたしなめるように言ってくれる。

 

 おお、持つべきものは友だ!

 

「……まぁ、やるとするならもっと堂々と動く国際連合部隊のエースってとこですかね。ちなみに俺は、NGO団体の顔役ぐらいがいいです」

 

「ちゃっかり自分の要望ねじ込むなよ!?」

 

 思わずツッコミ入れたよ。ちゃっかりしてるなオイ!

 

 と、とりあえずこれは保留でいいだろう。すぐなれってことでもないし、そもそも発足させるのもまだ先みたいだし。

 

「それで、残り二つは何なんですか?」

 

 とりあえず話を変えよう。そこが重要だよな、うん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろう。イッセーに暗部は向いてないと思う今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

 異形は何足の草鞋を履くのが当たり前っぽい感じだけど、もうちょっと年功序列を考えてもいい気がする。年季の厚みって大事だと思います。

 

 ま、俺に関しては牽制球は入れたから当分は大丈夫だろう。スポンサーならともかく、そういうのは俺の柄じゃない。

 

 ま、そこは一段落をつけて次の話になるわけだが、サーゼクス様の表情は少し暗いな。

 

『はっきり言えばこちらは私事だ。……グレイフィアのことだよ』

 

 あ、あ~。

 

 確かに、なんというかかなり妙なことになっているからな。夫としては気になるだろう。この人愛妻家だし。

 

 フロンズの後援を受ける形で、アザゼル杯に参戦したグレイフィアさん。

 

 旧魔王の血を引く者達を従えて、帝釈天をルールを活かしたとはいえ下したその大活躍は、冥界でも大騒ぎになっている。

 

 ただ同時に、違和感を覚えている識者も多い。リアス先輩もその一人で、多少なりとも付き合いがある俺達も違和感がある。

 

 ただ、いい様にフロンズに使われる人でもないはずなんだがなぁ。

 

「……その件なんですが、一ついいですか?」

 

 俺はそこで思い出したことがあるので、ちょっと話題に出してみる。

 

「……旧知の仲な女性が、「フロンズとグレイフィアさんの連名で要望しても断りそうな人物に、アザゼル杯の優勝賞品で願いを強制させたいのでは」といった趣旨のことを言っていました。……心当たりは?」

 

 緋音さんの推測が必ず当たっているとは言い難い。

 

 ただ、決して頓珍漢でもないと思う。

 

『……ふむ。少なくとも、彼女にそこまでさせるような願いは託した記憶はない。できればミリキャスの傍に居てほしいぐらいなんだけどね』

 

 サーゼクス様も心当たりがないか。となると、どこでどうなったのやら。

 

「う~ん。言っちゃなんだけどフロンズって大王派の顔だし、そこにグレイフィアさんが連名で頼めば、悪魔なら断ることってめったにないんじゃないか?」

 

 イッセーも首を傾げているんだが、魔王様二名の連名で伝えた要望を保留にしているからな。説得力が。

 

 ……まぁ、その辺もおいおい探っていけばいいだろう。

 

 となると、だ。

 

「……気を取り直しまして。三つ目は何でしょうか?」

 

『ああ、簡単なことだよ』

 

 と、そこでサーゼクス様は本心から微笑んだ。

 

『君達が助け出した初代魔王の血を引く二人だが、仲良くしてあげてほしい』

 

 そう、心の底から人のいい微笑みで彼は言い切った。

 

『一悪魔として魔王の血を引く者がこちら側に来てくれるのはありがたいということもあるが、私は親で兄なのでね。妹とそう変わりない年の少女には、真っ当な青春を送ってほしい』

 

 サーゼクス様はそういうと、俺達に向かってほほ笑んだ。

 

『そういう意味では、君達は適任といえるだろう。……まぁ、別の意味で少し不安だけどね』

 

「「どういう意味ですか!?」」

 

 思わずシンクロで突っ込んだよ、俺達は!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どう思いますか、リアス姉さん」

 

「そうね。これはこれで面白い展開だわ」

 

 通達が起きた新しいマッチング。今現在僕らが予定を入れている期間にどんな相手と試合をするかが通達される。

 

 そして僕たちは、とても注目されるだろう試合を痛感する。

 

 燚誠の赤龍帝チームVSデュナミスの新生チーム

 

 悪祓の聖銀弾チームVS光掴む殲滅女王チーム

 

 リアス・グレモリーチームVS巨人達の戯れチーム

 

 涙換の救済者チームVS若人の挑戦チーム

 

 僕達オカルト研究部同士の激突もあれば、僕達が神話に名を残すレベルの相手と戦う試合もある。

 

 これがアザゼル杯。国際レーティングゲームというお祭りの側面。

 

「うふふ。私達も大物と戦うことになりそうですわね」

 

「まったくね。まさかここまでの大物と、こんな早い時期に相まみえるなんて。……震えるわ……っ」

 

 朱乃さんにそう答えながら、同時にリアス姉さんは注意の色を顔に浮かべる。

 

 何故なら―

 

「そして、お義姉さまがカズヒと戦うのね。……読めない戦いが起こりそうだわ」

 

 ―リアス姉さんと縁深い、二つの銀色が激突する。

 

 この戦い、本当に何が起こるのかが分からなくなりそうだよ……っ!




 フロンズも意図せぬ形で、隔離結界領域の、居住性が増した!!

 まぁこれは小ネタですが。

 そんなこんなで次章より、いろんなチームでの戦いが本格的に増えていく予定です。

 ぶっちゃけ自分の「設定を煮詰めすぎると燃え尽きる」という悪癖故、少しずつ設定を小出しで作っていくため時間はかかるでしょうが、頑張って進めていきたいので感想・高評価・推薦などは常々お待ちしております!


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大会開幕編 幕間 激戦の予感

 はいどうもー! 明日から三連休で書き溜めの増やしたいグレン×グレンでっす!

 俺ツイを電子書籍で読み続け、やはりD×D(ただしギャグ回)との相性が半端ない気がする今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか?

 本日は幕間となっており、小休止になっております


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日を感じて、俺は目を覚ます。

 

 そして小さく顔を動かすと、胸元で眠っている春っちを見つけ、微笑んだ。

 

 ……ここ数日、俺は春っちとばっかり寝ている。というより、周囲がもの凄くそういう方向で進めている。

 

 ついで言うと、メリードは当面の間春っちを俺の専属メイドとして重点的に立ち回らせている。この俺用別館をそういう方向にしようとしているが、インガ姉ちゃんやベルナを入れずにしている。

 

 なんというか、空気読みすぎだろうに。

 

 ただまぁ、悪い気はしないから乗っかってるけど。

 

 赤い髪をそっと手ですきながら、俺は寝ている春っちを見て小さく微笑んだ。

 

 ああ、俺と一緒にいて、そんな顔をしてくれるんだな。

 

 男冥利に尽きるってもんだ。いやほんと、もうちょっと寝顔を見させてもらおうかって感じだ。

 

 ……ちなみに時計を見て、既に9時ぐらいになっていることに気が付いた。

 

 あれ、他のメンツは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいそれでは! カズ君ハーレム親睦会(ただし公衆告白された春奈は除く)を行いまっす! ……拍手っ!」

 

「「「「「「「あ、はい」」」」」」」

 

 もはやいつも通りのテンションで騒ぐリヴァに、私達はちょっとついて行けずにまばらな拍手をする。

 

「も~。そんなんじゃ、春奈に負けない告白をさせてもらえない……ZO?」

 

「い、いえ。そんなことされたらぁ……死ぬわねぇ」

 

 茶目っ気たっぷりなリヴァには悪いけど、その時点で顔真っ赤になっているリーネスは既に死にそうね。

 

 控えめに言って、死んでもおかしくないぐらい揺らついているし。いえ本当に大丈夫?

 

「……こ、告白……試合中に、告白……うぉろろろっろろ!?」

 

 鶴羽は鶴羽でバグッているし。落ち着きなさいよ(中身)年長組。

 

 駄目ね。ここは私が動くしかないでしょう。

 

「あの告白は食らう側もきついでしょうに。というより、たぶんあなたも喰らったらテンパるでしょうに」

 

 私が当然の指摘をすると、ズビシと指が付きつけられる。

 

「それはそれとして欲しい! 誰もが見ている中で、自分への愛を向けてくれるって、なんか最高じゃない?」

 

 う、う~ん。

 

 確かにある意味ロマンチックね。乙女心がときめくシチュエーションと言ってもいいわ。

 

 でも実際にされたらキツいでしょうね。真っ当な感性なら恥ずかしすぎてパニックになりそうだわ。下手すると逆に分かれる理由になりそう。

 

 つまるところ、ぶっ飛んだ感性を持つ者同士でないと、OKできそうにないでしょうね。

 

 見えるわ。実際にやられてパニックを起こす、顔を真っ赤にするリヴァの姿が。

 

 よくはっちゃけているけれど、リヴァは基本的に計算ずくだもの。いわば計算されたボケをウリにする芸人であり、だからこそ天然が過ぎるとどうしようもない。はっきり言って、常識も良識もわきまえている側だもの。

 

 こんなこと言っているし本音ではあるでしょうけど、言われたら絶対にパニックを起こして顔が真っ赤になるわね。

 

 そんなことを想いながらお茶をすすっていると、何故か周囲から一斉に半目を向けられた。

 

「……なに? いえ、私はたぶん受け止める女だとは思うけれど」

 

 反論すると、何故かほぼ全員に盛大な溜息をつかれた。

 

 ……もの凄く失礼なことを思われている気がするわね。

 

 そう思っていると、緋音がポンと手を打った。

 

「あ、されてるんだね?」

 

「……そうだったかしら?」

 

 私がそう返すと、また盛大にため息をつかれた。

 

「ぶっちゃけて言うがな? あいつはリアルタイムでお前に愛を謳いすぎだろ?」

 

 ベルナが半目でそんなことを言ってくる。

 

「同感。自然体でカズヒに愛を謳い続けてるし、時々カズヒもやってるよね?」

 

 そこにコンボを入れるようにインガまで言ってくる。

 

 ……このイッセーのレベルでやってると思われているのかしら?

 

 反論しようと思ったけれど、そんな私の両肩を左右から掴むのは鶴羽とリーネス。

 

「流れるように学園でもいちゃついてるしぃ? 魔獣事件が終わった直後とか、割と頻繁に騒がしかったじゃない」

 

「そうねぇ。カズヒも平然と受け止めているものねぇ? ……怖いわねぇ」

 

 そんなことを言い合いながら、二人は顔を見合わせて身震いする。

 

 ただ、普通そういうことをすると青い顔なのに、真っ赤になっている。

 

 ど、どういう身震い?

 

「……えっと、なんで顔が真っ赤なの?」

 

 首を傾げる緋音に、ベルナとインガが首を横に振りながらぽんぽんと肩を叩く。

 

「決まってんだろ。何かの拍子に自分も学園で愛をささやかれるかもしれねえからだよ」

 

「二人とも駒王学園生だからねぇ。そこはほら、私達より危険というか」

 

 あ、なるほど。

 

 私は思わず納得したけれど、確かにそうね。

 

 流石に日本の事情もあるから、まだその辺りは制御していたわね、和地も。

 

 ただ、リアス達の故郷が一夫多妻OKだということもある物ね。いつ八茶けるか分かったものではないわ。

 

 フォローの準備はしましょう。変なやっかみは鎮圧しなければ。

 

「ヘイボース。たぶん明後日の方向に気遣い向けてますぜぇ?」

 

 え、そうなの?

 

 リヴァのその発言に、何故か緋音以外の全員が頷いていた。

 

 ええい、なんか集中砲火がきつい!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふ……うふふふ……イッセー♪」

 

 ニコニコ笑顔の朱乃さんに、僕達はちょっと苦笑気味だ。

 

 隣でリアス姉さんがピキピキしているのと対照的だ。軽く寒気を感じている。

 

 きっかけはもちろん、先日の試合だ。イッセー君がバラキエルさんと戦い、そして倒す直前の発現だろう。

 

 国際大会の真っ最中に、嫁に来てくれ宣言だからね。あのレベルの愛の告白は、そういう点で乙女な朱乃さんにとってストライクだろう。

 

 しかも朱乃さんは不倫狙い。なので婚約の必要もなく、ここ最近は完ぺきに妻ムーブだ。リアス姉さんとしては面白くないだろう。

 

「ふふふ……朱乃? 私のイッセーにちょっとときめきすぎよ?」

 

「あらあら……リアス? 不倫は妻が相手にいるから成立するのよ?」

 

 僕らはそっと距離をとる。

 

 というより、これ以上近づくと僕達に盛大な被害が生まれそうだ。具体的には大火力攻撃に巻き込まれる感じの。

 

 ミスターブラックこと我らが最終兵器すら、興味深そうにしているけど距離はきちんと開けている。今のあの二人の喧嘩に巻き込まれれば、火傷では済まないと悟っているらしい。懸命だね。

 

「いやぁ~。こちとら恋愛経験零っすけど、恋愛って凄いっすね。痴情のもつれで死人が出るのも納得ですぜ」

 

「……気を付けて。時々、本当に壮絶な戦いになるから」

 

 目を丸くしているリントさんに、小猫ちゃんがそう指摘する。

 

 うん。この二人は喧嘩する時、時々攻撃が本格的になるからね。僕達全員強くなっているから、結果として攻撃もシャレにならないし。

 

 うん、二人は置いておいてちょっと先を見据えておこう。

 

「そういえば、ギャスパー君に小猫ちゃん。ルーシアちゃんやアニル君は、どんな感じなんだい?」

 

 僕はその辺りを建設的に進めることにした。

 

 僕達がこれから激突する相手。現段階のマッチメイクで最も注目しているのは、若人の挑戦チームだ。

 

 アニル君やルーシアちゃん、各勢力の若者達。平均年齢十五歳程度の、若い者達で構成されるチーム。

 

 ただ、このチームは二つの意味で注目されている。

 

 一つは、メンバーの(キング)がリュシオン・オクトーバーだという事。

 

 ルーシアちゃんが珍しく食い下がってお願いしたらしい。……本当に珍しい。

 

 あの子は筋が通ってない真似はあまりしないからね。まして自分のわがままで、しつこく食い下がるようなことはしなかった。それも、チーム構成の骨子から外れている助っ人要請はしない印象がある。

 

 ただ、それもある意味で彼女の成長だろう。兄に甘えたり我が儘を言うことを覚えたのは、あの子にとって成長だと思う。うん、先輩としても仲間としても、ちょっとは温かく見守りたい。

 

 ただ、間違いなくその所為で戦力の平均値は引き上がっている。というより、神クラスが参戦したチームを打倒した戦績は、間違いなくリュシオンさんのものだからね。

 

 そしてもう一つの意味は、それまではリュシオンさんは出張ってこなかったことだ。

 

 基本的には助っ人枠。可能な限りチームの理念に会ったメンバーで挑み、なるべく彼らだけで勝とうとする。そして実際、今のところリュシオンさんが出る必要になった試合は神クラスが出てきた一回のみ。

 

 ……僕達もそうだけど、各勢力にも若手が育ってきているという事だろうね。

 

 だからこそ、油断できない。

 

「うふふ。実は里からも若い子が参加してるらしいの。ギャスパーは知ってた?」

 

「え、そうだったの!?」

 

 ヴァレリーさんがギャスパー君を驚かす情報を伝えているけど、本当に油断ができない。

 

 子供は思い込みが激しい時もあるけど、時として先入観がない時もある。だからこそ、彼らは時として喧嘩をしながらも上手くまとまっているらしい。

 

 そういう意味では和平の象徴になりそうなチームだ。基本的にはエンジョイ勢だけど、腕利きも多いし油断できない。

 

「さて、僕達もしっかり鍛えておかないとね」

 

「……同感です。負ける気は、ありません」

 

 小猫ちゃんと言葉を交わし合いながら、僕達も戦意を滾らせる。

 

 さぁ、楽しませてもらうからね……二人とも!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぉいいわ! 表に出なさい、朱乃!」

 

「いいですわ! 来なさい、リアスッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その前に、そろそろ二人を止めるとしようかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおお! この、こなくそ!」

 

「おーい、リロード忘れてるぞー」

 

 俺はゲームセンターで、アルティーネとゾンビゲーをプレイしている。

 

 アルティーネは自我をしっかり確立させてから日が浅い。そういう意味だと、オーフィスに近い子供っぽいところがある。

 

 オーフィスが純真無垢なら、アルティーネは天真爛漫って感じだろうか。元気いっぱいでいろんなことを試したがっていて、まぁ責任もって俺が色々と紹介しています。

 

 なんていうか、ここまで毎日を楽しめるってのも才能だよなぁ。俺も見習おう。

 

 それはともかく、俺達は頑張ってノーミスで全クリに成功した。

 

 ま、俺達って戦い慣れしているからな。反応速度とかも凄まじくなっているし、動体視力だって人間離れだ。リロードのタイミングさえしっかりしてれば、民間人がプレイする前提のゲームはノーミスクリアも狙えるだろう。このゲーム、どこを狙っているか分かるようにできているタイプだったし。

 

「面白かったー! ねぇねぇ、他にもいろんなゲームがあるんだよね、ここ!」

 

「おう! ゲームセンターはデカい筐体が使えるからな。家庭用とは違った味があるぜ!」

 

 そんな感じで、俺はアルティーネと次のゲームを探そうとする。

 

 そんな時、ボックス型になっているタイプのゲーム筐体から、二人組が出てきた。

 

「……兄さん兄さん、次はあれやりましょう!」

 

「分かった分かった。……おや?」

 

 その二人組が俺達に気づいて、俺達も気づいてちょっと面食らう。

 

 はしゃいでいる妹に引っ張られる兄。そんな二人組だった。

 

 問題は、その妹の方。あと兄の方もよく知っている。

 

 っていうか、ルーシアにリュシオンさんじゃねえか!?

 

 そう思っていると、後ろの方から声が聞こえてくる。

 

「あ、あっちも終わったみたいよ?」

 

「そうか……って、イッセー先輩?」

 

 俺達に反応するその声に振り向くと、そこにはアニルが年上の女の人を連れていた。

 

「……アニル、お前彼女が!?」

 

「戦慄しないでくだせぇ。あと誤解でさぁ」

 

 俺が衝撃を受けているけど、アニルの言い分だと誤解らしい。

 

 ってことは、どちら様―

 

「そういや紹介してなかったッスね。……俺の姉貴ですぜ」

 

 ―なにぃ?

 

 俺がちょっと困惑していると、その人はにっこりと微笑んでいる。

 

「いつも弟がお世話になっており、宗家の兄妹がご迷惑をおかけしました。……ペンドラゴン分家に連なる、メローナ・ペンドラゴンです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな美人の姉貴がいたなんて!?」

 

「本っ当にブレないっすね、先輩」

 

 悪かったな、おい!!




 まさかのルーシア、鬼札投入。

 ルーシアの成長により、最終決戦兵器たるリュシオン・オクトーバー、妙なところで参戦。

 そしてメローナ・ペンドラゴン登場。メローナはアーサー王の娘にそんな人物がいたことによる採用です。

 かなり昔から大筋の設定はしていましたが、出す機会に恵まれずこうして第二部までかかってしまいました。今後もチョイ役としてちょこちょこ出していきたいところでございます……。


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第三章 戦愛白熱編
戦愛白熱編 第一話 新たなる戦士たち(前編)


 はいどうもー! 書き溜めもだいぶ増えたグレン×グレンでっす!

 本日より始まりますは、第二部の三章! 即興で考えました戦愛白熱編という題名です!

 恋もバトルも絶好調なハイスクールD×Dらしく、お祭り騒ぎで告白乱舞を約束いたしましょう!!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は呼吸を整えながら、ランニングを介している。

 

 たかがランニングと思うなかれ。星辰奏者(エスペラント)のランニングは、一般人で言うドライブに相当する。つまるところ、車レベルの速さで走れるわけだ。

 

 まして俺は、堕天使化までしているわけなんでな。必然としてその走行速度は、高速道路で走る車のそれといっていい。神聖存在にまでなっているから、もはや普通に時速100kmを超えている。

 

 とりあえず、そういった強化された身体能力に慣れておくに越したことはない。基礎体力は維持するに越したことはないし、毎日基礎トレをきちんとする蓄積は、それだけで力になる。

 

 できる範囲内ですべきことをきちんとやる。これが意外と難しいが、こなすことができれば相応の手合いにはなれるだろう。だからこそ、きちんとやり続ける。

 

 そしてとりあえずいつもの時間をこなし、俺はランニングを終了。

 

 軽くストレッチをしてから汗を流そうと風呂に向かっていると、きゃいきゃいと声が聞こえてきた。

 

 ん? なんだなんだ?

 

「うふふふふ。イッセーったら、本当に……もう♪」

 

「ふぉおおおおおお! 和地バリにやってますの。やってますのよ!」

 

「あ、あわわ。いつ見てもドキドキするじゃんか」

 

 ……朱乃さんを筆頭に、ヒマリやヒツギまでいる中で録画されたイッセーの試合を見て楽しんでいる女性陣だ。

 

 よし、女子の時間は邪魔しないでおこう。

 

 俺は流れるようにそのまま移動すると、そのまま風呂に入ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はシャルロットと一緒に、ちょっとした外出をしていた。

 

 ……デート扱いされているから、間違いなく帰ってから忙しくなるな。というより、そろそろ皆ともデートに行かないと。

 

「それで、今日は人に会うんでしたね。それも、アニル君のお姉さんと」

 

「ああ、ちょっと前に会ったんだけど、個人的に話があるんだってさ」

 

 とはいえ、一人で女の人と会いに行くとなんか言われそうだからな。そこで相棒であるシャルロットに頼むことにしたわけだ。

 

 アニルの姉のメローナ・ペンドラゴンさん。どうも俺と話がしたいみたいだけど、リアスの情報が欲しいとかだろうか。

 

 いくら試合とはいえリアスを売る気はない。というより、アザゼル杯の件もあるからあまりそのあたりの情報は出してないところもある。まぁ、アニルのお姉さんならそんなことをするというイメージもないけど。

 

 ……ま、その辺りのフォローもシャルロットに頼みたいけどな。俺はその、腹芸とか苦手だし。

 

「情報戦とか、そういうの苦手だから頼んだぜ?」

 

「アサシンのサーヴァントはそこにも向いてますけど、私も腹芸は苦手ですよ?」

 

 でも俺よりは大丈夫だと思うから、そこは任せるよ。俺はもうちょっと真っ直ぐにぶつかる方で。

 

 と、合流箇所に指定された喫茶店で、メローナさんがいた。

 

 気づいて小さく手を振ってくれたので、俺も手を振り返してそっちに行く。

 

「すいません。お待たせしました?」

 

「あ、いいのいいの。時間より早いから気にしないで」

 

 そう朗らかにいうメローナさんは、店員さんを呼んでメニューを頼み始めている。

 

 俺とシャルロットはコーヒーを頼んで、メローナさんは小さく苦笑した。

 

「……いつもアニルがお世話になってます。あと、宗家の兄妹がご迷惑をおかけしました」

 

「あ、いえいえ! アニルにはむしろ世話になっているぐらいです。アーサーさんは苦手だけど、ルフェイは俺の大事な契約者だから大丈夫っす!」

 

 素直にそう答えると、メローナさんはちょっときょとんとしながら小さく笑った。

 

「ふふ。聞いていた通りの誠実な人で良かったわ」

 

 そういってから、メローナさんはちょっと居住まいを直すと―

 

「今日は、アーサー・ペンドラゴンについての見解を聞きたかったの。……あの男、手段と目的がこんがらがっている節があるもの」

 

 ―俺はその時、アーサーのことを思い出す。

 

 確か、恋人関連も理由の一つだったな。メイドのエレインさんとの関係がばれると、家柄的な理由で引き離されそうって話だったっけ。

 

 ……あれ、もしかしてとっくの昔にばれてる?

 

「……ちなみにどんなこんがらがりだと?」

 

「持っていくものを取り違えているのが特にね。いえ、家宝持ちだしてテロでもすれば、廃嫡してくれると思ったのかしら?」

 

 あ、これバレてるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っぷしっ!」

 

 と、隣で小さくくしゃみの音が聞こえた。

 

「どうかしたのかしら? 噂話をされるとくしゃみが出るそうだけど」

 

「……ふむ、出来れば優れた剣士として噂されたいですね」

 

 と、私の隣でくしゃみをしたアーサーが首を傾げる。

 

 自分でも何が何だかという取り合わせだけれど、たいしたことではない。

 

 ここは教会関係者の星辰体研究設備。私は基本的に教会暗部だったこともあり、時折顔を出したりはする。

 

 今回は新型技術のテスターが募集されており、その一環で来たわけだ。

 

 そしたら偶然こいつに出会った。そして今は待合室で待機中だ。

 

「……もしかして、星辰奏者(エスペラント)にでもなるつもりなの? 意外ね」

 

 まぁ、ここに来る理由なんて星辰体関連でなければおかしいのだけれど。

 

 もしかすると敵情視察も兼ねているかもしれないけれど、わざわざ研究施設に出向くタイプでもないだろうに。

 

「言わんとすることは分かります。今までの私は、この剣の才覚とそれによってコールブランドの性能を引き出すことを主眼としていたもので」

 

 そう返すアーサーは、ただ表情を変えていた。

 

「……ただ、先日のことがありましてね。私も少し視点を変えるべきかと思いまして」

 

 ……ああ、なるほど。

 

「そういえば、先日の試合で貴方だけ負けてたわね。……ああ、なるほど」

 

「ええ、流石にあれは堪えました。そういう意味では迷走かもしれませんね」

 

 私が聞くと素直にそういうあたり、思うところはあったみたいね。

 

 初戦でいきなり馬鹿の群れと阿保な戦い方して間抜けな負け方をしていたけれど、それ以外においてヴァーリチームは連戦連勝。間違いなくハイスペックな集団であることを証明している。

 

 ただし、アーサーだけが一試合だけ撃破された。その件があるのだろう。

 

 試合内容はダイス・フィギュア。かつてリアス達がサイラオーグ・バアルと競った特殊ルール。

 

 そこでアーサーは相手の騎士(ナイト)と一騎打ちになり、敗北。それ以外はすべてヴァーリチームの勝利であり、まぁ凹みたくもなるでしょう。

 

 しかも負け方が酷い。

 

「……まぁ凹みたくもなるでしょうね。聖王剣再現能力の星辰奏者にやられるとか……プライドが地に落ちているわね」

 

「ええ、屈辱的敗北です」

 

 いろんな意味で死にたくなる敗北よね。

 

 まぁ、神滅具の再現能力が星辰光で出てきているもの。当然だけど、聖王剣の再現を星辰光で出来てもおかしくない。当然と言えば当然ね。

 

 だが星辰光の再現能力には限度がある。魔星ではなく星辰奏者だとするなら尚更だ。流石に現物の聖王剣コールブランドと同格は難しいでしょう。

 

 ……つまり、あらゆる意味で下位互換の相手に星辰奏者というアドバンテージで負けたわけだ。流石にショックは受けるでしょう。

 

「元々、黒歌からも誘いはかけられていたのですよ。ただ私としては、ヴァーリのように持った力を研ぎ澄ましたかったのですがね」

 

「……家宝を持ち逃げしてそれっていうのは、個人的にどうかと思うけれど」

 

 まぁ、個人差があるからこの程度にしておきましょうか。

 

「ま、ここ最近とんでもない星辰奏者が多く出ているものね」

 

 いえ本当に、最近はとんでもないのが出てきているから……困るわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々に厄介なことになっているね」

 

 僕は私的に、気になった番組を確認して内心で警戒する。

 

 アザゼル杯で出てきた星辰奏者特集だけど、中々に興味深い。

 

 ユーピ・ナーディル・モデウの神滅具再現能力。アーサー・ペンドラゴンを破った聖王剣再現能力。そして、更に恐るべきは―

 

『貫かれるがいい……弓張月ッ!』

 

 ―その宝具によって敵を討つ、一人の星辰奏者。

 

 ……間違いない。あれは源為朝。その宝具だ。

 

 星辰奏者として大勝利を収めたこの力。恐るべしというほかない。

 

 そう、あの星は間違いなく英霊・源為朝再現能力・弓兵型。

 

 クラスカードと同等の英霊再現を、自らの星でやってのける。

 

 星辰奏者も世界的に広まっている。これは更に注目されそうだ。

 

 ……この大会、今後もかなり荒れそうだね……っ!




 こういった作品だからこそできる星辰光をいろいろ考えたりしており、そんな感じでいくつかネタを出してみました。

 第三部ではより多数の作品とクロスする予定でもあり、当然ですがそういったネタも増やしたいところでは……あります!


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戦愛白熱編 第二話 新たなる戦士たち(中編)

 はいどうもー! D×Dと俺ツイの親和性の高さに、短編一つぐらい作ってガス抜きしようか悩んでいるグレン×グレンでっす!

 それはそれとして話を投稿します!


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暇を持て余して顔見知りに会ったので、一緒にお茶をすることになった。

 

 ……まぁ、こいつらも処罰は受けさせたしそれぐらいはいいでしょう。むしろ半分ぐらい監視する気概でいくべきでしょうしね。

 

「で、星辰奏者(エスペラント)になりたくて来たわけ? それともただ研究の為?」

 

「両方ですね。ほら、悪魔側はまだ適性を持つ志願者全員がなれたわけではないでしょう?」

 

 なるほどね。

 

 アーサーはおそらく、敵情視察も兼ねているのでしょう。今後星辰奏者になる悪魔の中で、アザゼル杯に参加する悪魔の中でどこまで出てくるか。そういう、化ける可能性を考慮している。

 

 星辰奏者はその点、かなり面倒なところもあるからね。

 

星辰感応奏者(エスペラント)は文字通り、星辰体(アストラル)と感応して奏でる者。その性質上、駒価値が変動する可能性は薄いしね」

 

 つまるところ、星辰奏者の才能がずば抜けているだけの人間を転生させた場合、準神滅具級の星辰光(アステリズム)を持っていても一駒で転生できる可能性がある。

 

 アザゼル杯において駒価値がだいぶ緩く設定されている場合でも、それは変わらない。実際、件の星辰奏者はアザゼル杯では駒価値一だったので歩兵(ポーン)で登録されていた。

 

 そしてそれは、かなり駒価値が緩くなっているアザゼル杯の騎士(ナイト)なら、もっと確実だ。つまりアーサーは星辰奏者になっても、騎士枠一つで参加できる。

 

「……神クラスが適性を持っていれば、このタイミングにここぞとばかりになるでしょうね」

 

「それはそれで面白いですが、強い存在であっても星辰奏者になれるわけではないのが難点ですね」

 

 ま、その辺りが痛し痒しだ。

 

 星辰奏者の適性は、戦士になりうる存在かどうかで決まるわけではない。星辰奏者になれるからって、必ずしもなりたいわけではない。なることでそれなりの責任や注目が齎される以上、嫌がる者だって多いものだ。

 

 そしてなりたいからと言ってなれるわけでもない。なれたからと言って、喜べる力が必ずしも得られるわけではない。

 

 出力格差が三段階あると、使った後が酷いことになるものね。その情報だってだいぶ広まっているだろうし、博打嫌いは避けたがるでしょう。私みたいな特例メンタルは少数派なのだから、尚更だわ。

 

「とはいえ、貴方は適性があるのならやるのでしょう?」

 

「そうですね。今のままではと思ってしまっていますし……思うところはあるのですよ」

 

 そう返すアーサーは、小さく微笑んだ。

 

「ヴァスコ・ストラーダ殿。あの一瞬の煌きは、剣士達の憧れでしょう」

 

 そう、夢見る乙女みたいな雰囲気で納得できる言葉が返された。

 

 ストラーダ猊下。今はまだ、アザゼル杯には参加していない。

 

 けれど、それを多くの者に望まれているのは事実。スカウトしたがっている者も数多くいるでしょうし、教会としても参加して入ったチームを勝ち上がらせてほしいでしょう。こと、神聖糾弾同盟(ネオ・ディバインクルセイダーズ)案件で大活躍だったし。

 

「正真正銘の全盛期、更に星辰奏者としての強化が上乗せされた状態。一瞬とはいえ、私はそれを味わいたい」

 

 アーサーはらんらんと燃える渇望を覗かせながら、小さく微笑む。

 

「だからこそ、私も同じ領域に到達したいのですよ。であるのなら、一切の気後れなくその刃は振るわれるでしょうからね」

 

「戦闘狂も大変ね」

 

 私はそう返すと、軽く肩をすくめる。

 

 さて、猊下はこのまま不参加を決め込むのだろうか。

 

 それとも、誰かが猊下を口説き落とすのだろうか。

 

 もし口説き落とす者が出るのならば。

 

 ……私も、本気の競い合いを願いたくなるわね。

 

 星によって一瞬だけとはいえ蘇る、かつての極点。教会の生ける伝説の戦士。あまねく教会の戦士達を感動させるだろう、あの一閃。

 

 かつて私は、間違いなくそこに到達しなかった。

 

 その一閃をもってようやく倒せた男。そいつに対し、私は二人がかりで後れを取った。

 

 今、私はその域にどこまで近づけたのか。

 

 その域に近づけなければ守れない者は数多い。そして私は、近づいて守れるようになることを誓っている。

 

 だからこそ―

 

「そうね。その光景だけは私も見てみたいものだわ」

 

 ―私が振るわれる側でもいいと、そう思いながら返しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろんなことを話しながら、結構時間が経ってるな。

 

「ルフェイの方は落ち着いているようね。……正直、そのままかどわかしてくれている方がありがたいわ」

 

「まぁ、一族の者としては頭が痛くなることをしていましたからね」

 

 苦笑しているメローナさんに、シャルロットも苦笑している。

 

 ……特にアーサー、色々とテロってたからなぁ。

 

 最近はカズヒがちょくちょく目を光らせているから、だいぶ落ち着いているけどな。なんというか、自由気ままな連中だよ。

 

 俺もどう反応したらいいかちょっと困ってると、メローナさんは小さく息を吐く。

 

「まぁ、人づての情報はここまででいいわね。あとは剣士として、剣で語りますか」

 

 その言葉に、俺はちょっと面食らった。

 

「……アザゼル杯に参加するんですか?」

 

「ノミネートはしていたわ。仕事の都合でまだ参加はしてないけどね」

 

 な、なるほど。

 

 アザゼル杯は普通のレーティングゲームと違い、チームメンバーを入れ替えることが可能だ。もちろん複数のチームに名義貸しすることはできないけど、チームに登録されたメンバーを交換することはできる。

 

 例えば、最初の試合で騎士だったメンバーを戦車にするってこともできる。その為リザーブメンバーが用意されることもあるわけだ。

 

 そして同時に、俺は記憶を洗い出す。

 

 ヴァーリチームの試合予定もある程度は把握している。そして、確実に決定している試合で教会関係者が出てくるとなると、だ。

 

「……聖都守護連隊。その一人でしたか」

 

 シャルロットが真っ先に気づいて、メローナさんは小さく頷いた。

 

「因みに最年少ね。あそこ、基本的にベテランが配属されるから」

 

「そうだったんですか!」

 

 すげえええええ!

 

 俺も詳しくは知らないけど、聖都守護連隊ってバチカンの警護を担当する異能の部隊だったはずだ。確か、去年の夏に話を聞いたよ。

 

 アニルもできるやつだけど、お姉さんもマジすげえ!

 

 本家のアーサーやルフェイも凄いし、ペンドラゴン家、すげえ!

 

 俺が割と感心していると、メローナさんはちょっと照れ臭そうにしながらも自慢げな笑みを浮かべている。

 

「ま、そういうわけだから―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―ちょっと真剣に剣で語る気なのよね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まったく、胃が痛い事態がこうも早く出てくるとはな」

 

「ま、同情はしてやるぞ? ハーデスも相応に札を持っておるようだしのぅ?」

 

「同情するなら悪目立ちは避けてくれ、幸香」

 

「よく言うわ、フロンズ。お主も相当の札を切っているではないか?」

 

「おやおや。我々はノアをもってしても勝率は7割程度だぞ?」

 

「公式ルールの方じゃ。そろそろ手回しが始まるのじゃろうて」

 

「といってもな。アジュカ様達の監修は入っているし、えこひいきをさせないよう厳命もしているが?」

 

「そんな次元でもなかろうに。……とはいえ、ハーデスは今後どう動くのかのぉ?」

 

「ラツーイカ・レヴィアタンがデコイなのは間違いない。問題は、動かざるを得ないデコイに人手を割いて、本命を悟れるとも思えん点だ」

 

「主はどう思っている? いくつか推測はしておるのだろう?」

 

「……あり得る可能性としては、アザゼル杯で何人かをスカウトする、というところだろう」

 

「なるほど。全員もれなく和平マンセーなわけでもなかろうし、そういった手合いを探す手段としていくつかチームを送ったと」

 

「ラツーイカも誘蛾灯を兼ねているのだろう。もっとも、あからさまに警戒を促しているのだからそこによるようでは有象無象止まりだろうがね?」

 

「……ふむ、これは思ったより戦の始まる時は早そうじゃのぉ?」

 

「そうだな。色々と懸念点も多いことも踏まえて、だ」

 

「……例の件、裏が取れたのか?」

 

「ああ。かつて英雄派が誘拐・洗脳・投入し、後継私掠船団(君達)情報提供(迷惑料)で死を免れた、生きて捕縛された英雄派のメンバー。その何割かがハーデスによっている」

 

「……なるほどな。現政権の対応では納得がゆかぬと」

 

「人間、だからな。人類社会の法律ならば、少年少女であることを踏まえようと、一年経たずに国際競技大会参加は緩すぎる……と感じるだろう」

 

「異文化コミュニケーションは理解と寛容が肝心。だが、寛容になれるわけがない相手を理解せよと言われても無理があるか」

 

「何人かはハーデスの息がかかったチームに参加し、既に大会で動いている。……ラツーイカのチームにも数人が確認された」

 

「……ふむ。妾としては迷惑料程度でしかなかったがな。憎悪はモチベーションとしては強力であるうえ、その英雄派によって至る方法は確立された」

 

「更に英雄派はここ最近、異能関係者()の人間を中心に人気が高まっている。これは激突すると考えるべきだろう」

 

「……やれやれ。こんなことが起きるのなら、ザイア共の価値観もある意味で道理なのかのぉ?」

 




 とまぁこんな感じで、対英雄派ピンポイントマッチメイク相手などを考案しております。同様のパターンをほかにも数人は出したいところでもあります。

 ……ハーデス側のテコ入れはかなり重要ですからね。あいつら側に極晃星を出すかどうかはともかく、第三部にもつれ込むことも視野に入れているので相応の強化は必須ですから。


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戦愛白熱編 第三話 新たなる戦士たち(後編)

 はいどうもー! 新しいパソコンが家に入ってきたグレン×グレンでっす!

 ただし、いろいろと引継ぎ的なものがあるのでまだ切り替わってはいませんが。


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、朱乃ったら……私のイッセーを独占しすぎだわっ」

 

 リアス姉さんが少しピリピリしているけど、それでもきちんと仕事はしている。

 

 その点は、今日の補佐を担当している僕としても気が楽だね。イッセー君関連の女性問題は、ちょっと距離を置いた方が安全だし。

 

 ……物理的に危険だからね。下手をすると流れ弾を喰らって大怪我を負いかねない。オカ研の女子は基本的に、男子に負けず劣らず武闘派だし。

 

 不幸中の幸いは、あまりに酷くなるようならカズヒが止めに入る点だ。あの鋼の女傑はこういう時もブレないから、とっても頼りになる。

 

 まぁ、それはともかくだ。

 

「……祐斗。どう思うかしら?」

 

「そうですね。やはり要警戒かと」

 

 僕達が確認していたのは、これまでのアザゼル杯で行われた、星辰奏者(エスペラント)が関わる試合の数々。

 

 元々、星辰奏者の本質たる星辰光(アステリズム)は千差万別。人工的に作られた魔星でもない限り、同じ星は存在しない。そしてその性質上、人造惑星(プラネテス)でもない限りは駒価値も変動はまずない。

 

 ゆえに、星辰奏者の勝ちは爆増し、多くの星辰奏者がこの大会にも参戦している。

 

 千差万別。それは分かっている。分かっている……つもりだった。

 

「……なんでもありすぎですよね」

 

「そうね。ここまで多種多様だとは思わなかったわ」

 

 僕のリアス姉さんも、そう言うほかない。

 

 神器の再現。英霊の再現。更に伝説の武器を再現することもあり得る。これでは他にどんな異能が出てくるか、分かったものではない。

 

 分かってはいた。星辰光の極限……いや、限界突破ともいえる極晃星(スフィア)。その文字通り次元違いの凄まじさすら体感しているのだから。

 

 だが、この特性は千差万別にもほどがある。戦慄すら走ると言っていい。

 

 ……これは、僕達もうかうかしていられないね。

 

 大会で活躍する星辰奏者。あまりにも多種多様で、信じられないような力すら発現する星辰光。

 

 星々の瞬きといえるその光景を見たことで、自らもそれを欲する者は多いだろう。きっと、星辰奏者になることを希望する者は大幅に増えていく。

 

 これから、異形の時代は大きく動くかもしれないね……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂上がりに戻ってみると、まだやっていた。

 

「もうイッセーたら♪ あんなところで言ってくれるなんて……うふふ♪」

 

「羨ましいですの! 今度の試合では逆プロポーズで迫りますわよ、ヒツギ!」

 

「ちょ、ちょっとまって!? こ、心の準備が一年ぐらい!?」

 

 ……とりあえず、ヒツギの援護をした方がいいだろうな。

 

 なんだかんだで勢い任せで引っ張られそうだが、とりあえずここで押し切られたりするのはかわいそうな気がする。

 

「はいはいその辺にしておきましょうねー?」

 

 仕方ないのでそう言いながら場に入ると、視界には繰り返し流される、つい先日の試合の映像が。

 

「っていうか朱乃さん? もうちょっと恥ずかしがってもいいと思いますよ?」

 

 その映像はイッセーがバラキエルさんを倒す直前。つまるところ、嫁に来てくれ宣言のあたりだ。

 

 まぁはたから見ればとてもテンションが上がりそうだが、当事者だと恥ずかしくて死ぬんじゃないだろうか。

 

 そんな指摘だったけど、帰ってきたのは三人がかりでの半目だった。

 

「「「……え?」」」

 

 もの凄くシンクロされた。今までの空気が全部吹き飛ぶぐらいのシンクロぶりだった。

 

 まるでクジラが空を飛ぶんだと言われ、実際に飛んでいるクジラを見せつけられているかのようだ。空前絶後をその目に焼き付けてしまったかの如くだ。

 

 あまりの流れに、正直俺は一歩後ろに下がる。

 

 そしてため息をついたヒツギが、ポンと俺の肩に手を置いた。

 

「……人のこと、いえないじゃんか」

 

 五秒ほど、俺は自分を思い返す。

 

 ……まぁ、確かに。

 

「実はあの後、もう一発張り倒された」

 

「ですよね」

 

 うん、ヒツギの発言が真理かもしれない。

 

 嘘なんて何一つない本音だけど、言われる側は恥ずかしいんだろう。後悔は何一つないけれど、反省はした方がいいのかもしれない。

 

 でもなぁ。心の底からの意見だしなぁ。むしろあの場で言った方がいい気がするしなぁ。

 

 あんなところであんなことを言われたら、あんな返しをするしかないだろう。衆人環視の場で言われた以上、言い返すのも衆人環視にするべきだ。周囲の認識が関わっている以上、きちんと周囲が認識できるようにするのもありだしなぁ。

 

「あらあら。あんな素敵なことを言われたのに、照れ隠しにしても酷いですわ」

 

「気にすることありませんの! もっと、もっと勢いよくやるぐらいでいいですのよ!」

 

 ただ、朱乃さんとヒマリがダブルで言っているけど、それはそれでどうなのか言われそうだ。

 

 ポニーテールが二人がかりで襲い掛かる。

 

 う~ん。たぶん状況次第でやっちゃうだろうけど、俺はどうもこの辺を問題視されているしな。勢いに呑まれるのもあれかもしれん。

 

 ……それ以前に、この流れだと公開告白タイムに持ち込まれそうでヒツギが顔真っ赤にしているし。

 

「とりあえず落ち着こうか。……それに、あまりはしゃいでばかりでもいられないし」

 

 というわけで、話を変えよう。

 

「具体的にはハーデスとか。絶対何か企んでるだろ、あれ」

 

「「……そうですわね」」

 

 よし、話を逸らせた。

 

 ありがとうハーデス。もの凄い癪だが、今ここで心の中でお礼を言っておこう。

 

 ……まぁ実際、それ以外にも警戒対象はいるんだろうがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 交代制で少しずつトライヘキサを削りながら、俺達は一旦小休止のついでに情報の受け取りを行っていた。

 

『……というわけだ。グレイフィア・ルキフグスは圧倒的な勝利を誇っている。夫としては鼻が高いか?』

 

「そうだね。とはいえ、今の流れだと不安も覚えるがね」

 

 今回はサーゼクスとアジュカが、グレイフィアの現状について話し合っているのが主題だがな。

 

「しかし、どういう事なのでしょうか? こういう言い方はあれですが、フロンズ・フィーニクスと彼女が結託すれば大抵の要求は通りますよね?」

 

 ミカエルもそこは気にしているが、本当にな。

 

 的確なかじ取りで上役を納得させていることもあり、大王派の実権をほぼ握っているフロンズ。

 

 今や数少ない純血の魔王クラスであり、かつてはレヴィアタン候補でもあったグレイフィア。

 

 民衆の後押しも含めりゃ、大王派と魔王派の2番手同士が結託している状態だ。アザゼル杯の優勝賞品を使うまでもなく、優勝賞品の制限である「世界に混沌を齎さない」にかすらない願いは要望できる。優勝する必要もないはずだ。

 

 グレイフィアだってそれぐらいは分かるだろうし、フロンズなら尚更。むしろフロンズならリスク管理もあり、わざわざ優勝という手段で博打を打つわけがねえ。

 

 にも関わらず、大御所まで連れて参戦とか、何を考えてやがる?

 

「……しかし、グレイフィアもだが暗躍してるやつが多いってのも不安だな。ハーデスのシンパを堂々と名乗るレヴィアタンの末裔までいるんだろ?」

 

 そこばかりってわけにもいかねえのが、やっぱり難点なんだよな。

 

『そうですね。ラツーイカ・レヴィアタン。あの存在により、冥界も揺れている点は多いです』

 

 アジュカも困り顔だが、まったくだ。

 

 ハーデスの爺が冥界を敵に回したとしても、ラツーイカがいる所為で世論の一割ぐらいはハーデスにつきかねない。そういうヤバい状況になりやがった。

 

 あの爺のことだ。既に何らかの寝返り工作はしているかもしれねえしな。そうなりゃ奴が動いた場合、冥界は対外戦争じゃなく内乱に陥りかねない。

 

 そして、あの爺がここまで見え透いた真似をしているのが不安を誘う。

 

 賭けてもいい。あの爺は他に切り札を持っている。出なけりゃ、こんな早すぎるタイミングでこんなでかい札を切ったりはしねえ。

 

 ……懸念事項はラツーイカか。

 

 奴がどんなことを考えているかで、難易度が数段変わるぞ畜生が……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで、話をつけることはできたのか?』

 

「ええ、数人程度ですが。……素晴らしい新時代のエインヘリヤルになってくれそうです」

 

『……ふん。まぁよい。儂は英霊(サーヴァント)魔星(プラネテス)も好かんが、お主との協力体制がある故、お主の手勢に限っては許そう』

 

「承知しました。まぁ、機嫌を損ねすぎないよう気を付けます」

 

「……おや、そちらはもう終わりですか?」

 

『ラツーイカか』

 

「はい。一通りの仕事と鍛錬はこなしましたので」

 

『ファファファ。言いぐさに比べれば真面目に働いでおるではないか?』

 

「そんなことはありません。私はボロ儲けしかしたくないので、報酬未満の仕事しかいたしませんとも」

 

「それはまた。でも報酬はその程度でいいのかしら?」

 

「どうやら勘違いを成されているようですね」

 

「と、いうと?」

 

私は()()()()がしたいのです。……20の努力で80の対価を得たいのです。100の対価のために100の努力がしたいのでも、10の対価で我慢して10の努力で済ませたいのではないのです」

 

「……変わってるって言われない?」

 

「それが何か? 私は労力の数倍ほど対価が貰えるのなら、その為の努力はいくらでもします。……努力に見合わない大きな対価が得たいのですよ」

 

「……ハーデス様、こいつ味方にしていいんですか?」

 

『構わぬ。少なくとも、アジュカ・ベルゼブブ達三大勢力ではこやつの目論見は叶えられんだろうしな。魔王血族を引き込めるだけで冥界に楔を打ち込めるのなら、これぐらいの手間賃は安い物よ』

 

「そして我が労力は更にその数分の一。……ふふふ、努力の甲斐がありますねぇ」

 




 多方面でいろいろな形で、ハーデス陣営を強化していきたい今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 そして危険人物ラツーイカの正体は……かなりアレな奴でした。

 コンセプトとしては「傀儡カモン! 楽して儲けたい!!」な感じです。それをベースとしてハーデス陣営に迎え入れられそうな塩梅を踏まえた結果、「濡れ手で粟な立場のためならばいくらでも努力できる」という、実態を知らなければ意味不明な奴になった感じです。


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戦愛白熱編 第四話 テスト明けの日常

 はいどうもー! 第三部のネタがたまりすぎてどうしたもんかと思っているグレン×グレンでーっす!

 ちなみに第三部はスパロボみたいな多重クロス作品要素が高まります。イメージとしてはファンリビに近い流れにしたいところ。

 現段階において新規クロスする候補は覇界王や俺ツイ。資金面がだいぶ克服されたこともあり、電子書籍ではありますが原作を購入して追いかけております。かつてケイオスワールドで参加させたストブラやなのはシリーズも改めて入れる余地はありますし、ほかにも参加させたいところ。
 ……まぁ、それぞれの作品から少数ずつが主体になりますが。ただ敵のテコ入れやトリプルゼロの便利っぷりから、主要チームメンバーとしてはともかく参加はかなり多く成りえます。

 その場合はハーデス陣営や禍の団もいろんな作品を取り込んで強化することでしょう。まぁ、自分の性質を考慮して脳内にとどめておりますが。


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大会はまだまだ予選が続くが、俺達は学生でもある。

 

 そんなわけで、ただ今中間テストをこなした直後。ほっと一息つきながら、まったりとした時間を過ごしている。

 

 ふっふっふ。日々毎日勉強をしている俺にとって、無理のない偏差値の高校で赤点をとるなど無理な話。既に自己採点ですべからく高得点を確立しているので、こうしてのんびりとした空気でまったりと過ごせるのだ。

 

 ちなみに、カズヒは凄く苦労していたので打ち上げに行っている。これまたリーネス採点で補習回避は確実視されているので、かなりはしゃいでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっし! 四人で歌う歌をつるべ打ちで入れるわ! 歌いまくるわよ!」

 

「「「おぉーっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろう。もしかするとちょっと見応えのある姿を見逃したかもしれない。

 

 ま、気の置けない親友達との時間は大事だろう。俺はその辺り、ちゃんと気を使える男でいたい。あと母親のプライベートをずけずけ踏み荒らすのもアレだろう。

 

 それにまぁ、一人の時間ってのも大事だからな。

 

 ふふふ。ちょっとシャレた喫茶店で、こうして一人で優雅なティータイム。なんだろう、意識高い系がこういうところで仕事をしたくなる気持ちも分かりソうだ。

 

 だが、俺はそんな自己アピールはしない。しっかり全てを終えているからこその優雅な時間を楽しませてもらうとしよう。

 

 そう思いながら、紅茶のお代わりを注文しようとした時だった。

 

「……へぇ、こんなところにしゃれた喫茶店がある物ね」

 

「そうだね。うん、いい香りだし期待できそうかな?」

 

 と、入ってくるのは見知った顔。

 

「「「……あ」」」

 

 思わず顔を見合わせていると、今度は外の方で振り返る気配が。

 

「「「「……あ」」」」

 

 そして更に顔を見合わせると、外の奴が指さした。

 

「お前、ついに姉妹丼か!?」

 

「死にたくなければ我が身を振り返れコラ」

 

 とりあえずイッセーに釘を刺しておいて、俺はため息をついてから軽く振り返る。

 

「奇遇だな、シルファにヴィーナ」

 

 これは、一人の時間は終了っぽいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとなく一人で散歩をしてたら、九成がザンブレイブの二人と一緒にいる所を見つけちまった。

 

「お前モテるから、てっきり今度はそういう事かと思ったぜ」

 

「……黒歌にモーションかけられているお前が姉妹丼とかいうな。お前の方がよっぽど狙えるだろうが」

 

 九成が鋭い視線で俺を睨んでくるけど、悪かったな畜生。

 

 コーヒーを飲みながら俺がその視線を交わしていると、コーヒーを同じように飲んでいたヴィーナが首を傾げる。

 

「姉妹どん? 親子丼のお仲間かな?」

 

「まぁそうだな。似たようなもんだな」

 

 俺はそういうけど、直後に九成から肘うちが叩き込まれる。

 

 咄嗟にガードするけど、割と鋭い本気気味の一撃だなオイ!

 

「なんだよ! 間違ったこと言ってねえだろ!?」

 

「間違ってるからな!? 意味が違うぞ!!」

 

 え、そうなの?

 

「……ふむ、肉も絞めるタイミングで味が変わるというけど、そういうのを楽しむ料理が日本にはあるのね」

 

 あれ? シルファがなんか変なことを……ハッ!?

 

 俺はぎこちなく九成の方を向くと、露骨に顔を背けられた。

 

「無自覚セクハラの責任は自分でとれ」

 

 そ、そんな!?

 

 いや頑張れ! 俺は女子の着替えを覗き続けてきた男。今更顰蹙を買う程度、なんのそのだ!

 

「……すいません下世話な話です! す、スラング的な!?」

 

「え? ……ん~……どんなスラング?」

 

 ヴィーナの視線が痛い! 悪意がないからこそ、俺の心が痛い!

 

「……お、親子丼は鶏肉()鶏卵()を同時に食べる料理だろ? そ、そこから転じたスラングがあって、姉妹丼ってのはそのスラングからさらに転じたスラングで……」

 

 うぉおおお! 恥ずかしい、これは恥ずかしい!

 

 芸人が滑った芸の笑う点を説明するのってこんな感じなんだろうか。いや、バレた後の冷たい視線を考えると、もっときついかもしれない。

 

 まずい、ここ一年近くひきつけと戦って築き上げてきた、わずかながらの信頼がここから崩れるかもしれない。

 

 シャルロットになんていえばいいんだ。畜生、俺の周りの女の子って、どんどんエロエロに理解を示してくるから……感覚がマヒしていたかもしれない。うかつだった。

 

 え、ええい! こうなれば気合を―

 

「……ああ、そういう事」

 

 ―入れようとしたその時、シルファの方が何かに気づいたらしい。

 

「つまり、私とお姉ちゃんが和地のお手付きになってしまったのかと邪推したわけね?」

 

 おっしゃる通りでございます。

 

「なんかごめんなさい!」

 

 とりあえず俺は勢い良く頭を下げる。

 

 と、なんか急に慌てだす雰囲気が。

 

「え……え、ええええ!? そ……ちょっと兵藤君!?」

 

 あ、ヴィーナの方が顔真っ赤になってるな、これ。

 

 九成は九成で、隣でため息をついてるし。

 

 いや申し訳ない。エロエロで申し訳ない。スケベな発想が真っ先に出て申し訳ない。

 

「男と女は基本的に、別の生き物なんだからな? そんなだからお前、女子から顰蹙を買ってたんだろうが」

 

 いや、なんか本当にごめんなさい。

 

「……というより、これでよくモテてるわね」

 

「奇人変人でもなければ只の人間にはモテないけどな。リアス先輩達は……ほら、文字通り人じゃないし」

 

 シルファに九成がそう言うけど、悪かったな。

 

 ただ、俺の悪魔としてのお得意様って変人が多いからな。そういうのを考えると、反論が全然できやしない。

 

 ……いい人は多いんだけどなぁ。ただ、へんてこりんなんだよなぁ。俺も変態な自覚はあるけど、そういう側なんだろうか。

 

 首を傾げていると、シルファはため息をつきながらコーヒーを一口飲んだ。

 

「とりあえず、お姉ちゃんにセクハラをするのはやめて頂戴。張り倒すわよ」

 

「はい、気を付けます!」

 

 かなり視線がマジなので、今後気を付けます!

 

 シャルロットに顔向けでもできないしね、そこは頑張るよ!

 

「まぁ、変態が過ぎるようなら言ってくれ。俺がとっちめるから」

 

「う、うん。……悪い子じゃないみたいだけど、ちょっと大変かな?」

 

 九成とヴィーナもごめんな? 今度は気を付けるからっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ。テスト上がりは天国の気分だわ。

 

 久しぶりにカラオケを思う存分謳ったら、だいぶスカッとしたわね。

 

 やはり、多少はストレス発散をするに越したことはないようだわ。

 

「ふぃ~。四人で一緒に歌ったのって、何年ぶりだったっけ?」

 

「かなり前だよね。ほら、七緒とアイネスが英国に行く前だから……二十年超えてるよね」

 

 鶴羽とオトメねぇがそんなことを言い合うけど、本当にね。

 

 ……今でも苦いものがあり、ケジメはつけても背負うべき私の業であることに変わりはない。それが、かつて道間日美子がなした所業の責。

 

 ただ、そんな私を彼女達が支えてくれること。その事実は否定しない。私は、私を許してくれる人がいることは許すと決めた。

 

 だからこそ、私は目を伏せて決意する。

 

 瞼の裏に焼き付いた、私の運命がくれた笑顔。

 

 道間田知の、九成和地の、比翼連理の旧済銀神(エルダー・ゴッド)

 

 瞼の裏の笑顔に誓い、約束された勝利を刻む。

 

 尊ばれるべき勝利(笑顔)の為に、守り戦い死んでいこう。

 

 その誓いがあったからこそ、私はここまでこれたのだ。そう信じているし、これからもそうあり続けたいと思っている。

 

「ふふっ」

 

「あらぁ? どうしたのかしらぁ?」

 

 小さく笑った私に、リーネスが首を傾げてくる。

 

「いえ。二周目が孤児から始まった私が、こんなところではしゃげているのも中々驚くべきことかと思ってね」

 

 実際問題、そういうほかない。

 

 政情不安定なソ連圏で生まれ、ストリートチルドレンをまとめて何とか生活を確立。ストリートチルドレンが多い地域では害獣扱いされやすいことを踏まえれば、それだけでもよくやったといえるだろう。

 

 その後内乱において、腐敗した政権を打倒するべく少年兵として参加。決着がついた後、教会に拾われて暗部部隊を選び、その結果としてここに来た。

 

 ……波乱万丈な第二の人生ね。最初の人生もそうだけど、我ならが驚天動地の人生を送りすぎと言いたいわ。

 

「……そういえばぁ、カズヒって孤児だったのよねぇ」

 

「ええ。我ながら引きが悪いと思うわね」

 

 肩をすくめるけど、まさにそうだ。

 

 世界中を探せば孤児は多いけれど、それにしたって限度はある。

 

 前世のやらかしに見合った来世と言えばそうだけれど、ついてないとは言えるのかしらね。

 

 そう思っていると、リーネスは少し考えこんでいた。

 

「ん? リーネスってばどうしたのよ?」

 

 鶴羽が気づいてそう尋ねると、リーネスは小さく頷いていた。

 

「いえねぇ? カズヒの今生の家族について考えてたのよぉ」

 

 そのリーネスの言葉に、私はちょっと首を傾げる。

 

「……正直今更なことよ? やむを得ない事情があるにしても、今更前世の記憶持ちでしかもやらかしている娘とか……重いでしょうし」

 

 私としてはそういうほかない。

 

 孤児という物は環境が生む要素が大きい。学も財も無い方が、望まぬ妊娠は多いからだ。

 

 性教育を早くに受けている方が、意図しない妊娠が少なくなるという話を聞いている。それに学が無ければ、確実な避妊法を試みなかったり、避妊具の必要性をよく理解しないこともある。

 

 また財が無ければ中絶を受けることも困難だし、避妊具を購入するのも気後れするだろう。そして財が無いからこそ娯楽が少なく、手っ取り早い性交に走りやすくもなる。金に困った女性が風俗店で働くというケースがままあるのも一種の形だろう。

 

 つまるところ、貧困はそういった負のスパイラルを生み出しやすい。そんな中では、綺麗ごとを言い切れないこともあり得てしまうのが難点だとは分かっている。

 

 だから、やむを得ない理由で子供を手放すしかない場合もあるだろう。できることならしたくない者もいれば、したことを悔やむ者もいるだろう。そこは否定しない。

 

 私においても幸香のケースはある意味で近いだろう。まぁ、実の兄との子供を高校生の時から育てるとか、あらゆる観点から見てややこしくなるからまた違うかもしれないけど。結果的に捨てたと言ってもいいようなことになってしまったのは事実だ。

 

 ……とはいえ、だ。

 

 世界の命運を真剣に揺るがした男が誕生したきっかけ。闇に落ちて迷走した末に、親友を地獄に引きずり込んだ悪女。道間日美子は業が深すぎるがゆえに、並みの人間では支えきれない。

 

 今更今生の家族と再会したとしても、はっきり言って重荷過ぎるだろう。私もそれぐらいの気遣いはできるし、避けた方がいいとは思うのだけれど

 

 だから別に探さなくてもいいのだけれどとは思うけれど、リーネスは少し違うらしい。

 

「こう言っては何だけれどぉ。カズヒって星辰奏者(エスペラント)の才覚が凄まじいでしょぉ? ……なんというか、その点においてはある程度強大に……なりかねないかなぁと思ったのよぉ」

 

「……そこは盲点だったわね」

 

 思わず唸ってしまった。

 

 星辰奏者がどのような星辰光(アステリズム)になるかは、完全に千差万別だ。

 

 血を分けた双子だろうと同じ星を振るえることはないとされており、実際現状では確認されていない。

 

 ただ、ある程度のは肉体の影響も出るらしい。血筋的に近しい者が類似性のある星を振るうことはある。また、強力な星辰奏者をよく輩出する一族というのもあり得る話だ。

 

 ……ハーデス辺りが余計な知恵を振るう可能性はあるわね。

 

「そうね、ならちょっと調べてみようかしら。……ただ、意味もなく明かしたりはしないでよね」

 

 そこはしっかり釘を刺しておかないとね。

 

 自分が手放した娘が、前世でもの凄くやらかしており、世界の危機に間接的に関わっている女傑です。

 

 そんなことを言われたら、並大抵の奴はキャパオーバーを起こすのは見えているもの、ね。

 




 とまぁ、こんな感じでシンプルな日常回でした。


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戦愛白熱編 第五話 魔王の血筋も、大変です!

 はいどうもー! 最近は暑くて疲れ気味なグレン×グレンでっす!

 いやぁ、のどが渇くったらありゃしない。水分は本当に必須ですし、熱中症で運ばれたくないので気を付けたい今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 それはそれとして、ちょっとした箸休めなお話です!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぷしゅ~……っ」

 

「だ、大丈夫ですか、亜香里さん?」

 

 家でちょっとなんとなく歩いてたら、アーシアに介抱されている亜香里がいた。

 

 なんというか、頭から湯気が出てるような感じだ。知恵熱でも出てるのかもな。

 

 でもどうしたんだ、一体?

 

「どうしたんだ、二人とも」

 

「あ、イッセーさん」

 

 俺に気づいたアーシアに続いて、ゆっくりと亜香里が振り返った。

 

「て、テストが……テストが……っ」

 

 ん、ん?

 

 うわ言の様に呟く亜香里に、俺はちょっと首を傾げる。

 

 さっぱり分からないでいると、アーシアが困り顔で苦笑していた。

 

「亜香里さん、中間テストでいっぱいいっぱいのようなんです」

 

 あ、なるほど。

 

 中間テストって言っても、どの高校でも全く同じってわけじゃないか。俺達はもう終わったけど、ちょっと時期がずれるぐらいならおかしなことでもないだろう。

 

 で、テスト勉強やテストそのものでもういっぱいいっぱいと。

 

「う~……。テスト嫌い~……難しい~……頭使うのやだ~……」

 

 相当いっぱいいっぱいらしい。なんというか、ヘタレてる。

 

 あはは……。こりゃ、勉強でかぁなぁりぃ……疲れてるな。

 

「ま、テスト勉強とかテストって面倒に感じるやつも多いよな」

 

 俺は近くのソファーに座りながら、ちょっと同情。

 

 イヤホンと、テストってのは学生にとって嫌なことだよなぁ。テスト勉強とか面倒くさいし、テストそのものが嫌な奴も多いだろうし。

 

 亜香里はそういうタイプなんだろうさ。珍しくもないか。

 

「っていうか、イッセー達はなんでそんな平気なのさ? いや、有加利ちゃんも割と平気でやってるけど」

 

 亜香里からは八つ当たり気味にそんなことを言われるけど、ま、そんなことを言われてもなぁ?

 

「ま、俺は駒王学園の高等部に試験を突破して入学したからな。女の子が多い環境に行く為、一生懸命頑張って偏差値を上げたもんさ」

 

 ああ、俺のあの時の頭で、よくぞ入学できたってもんだよ。

 

 あの時は、松田や元浜と共に頑張ったもんだ。偏差値を一生懸命上げて、やっとの思いで合格したもんだ。

 

 今でもテストは基本的に、赤点は取らないけど平均値を引き離す高得点でもない。言っちゃなんだけど、オカ研だと俺は頭悪い組だ。

 

 ま、それでも毎日勉強するようにしているけどな。

 

「悪魔やってると、覚えなきゃいけないことも多いからな。馬鹿だからって頓珍漢なことを言ったらリアスに恥をかかせるし、俺を婿にする気満々のグレモリー家から教師をつけられてみっちり勉強させられたこともあるし」

 

 うん、あの頃はなんでそこまでするんですかって感じだったよ。

 

 でも、馬鹿だからって何も知らないままでいいわけでもないからなぁ。リアスはグレモリー家の次期当主で、俺はその眷属だし。いつの間にやら上級悪魔な上、いろいろと偉い人とも縁があるからなおさら覚えることも多いし。

 

「まぁ簡単に言えば、頑張る理由があるからかな? それにテストでいい点とったりするとリアスが誉めてくれるし……ぐふふっ」

 

 おっぱいで包み込んでくれたりとか、そういうご褒美もあるから尚更頑張れるってものです。

 

 うん、今後も頑張って勉強するよ。だっておっぱいが待ってるし!

 

 っと、いかんいかん。こんなところでそんなこと言ったら、アーシアちゃんが拗ねてしまう。

 

 実際ちょっとむくれてるし。これはあとで謝っておかないと―

 

「り、リアスお姉さまじゃなくても、私もご褒美出せますからね!? その……パンツはファーブニルさんにあげるので、ブラジャーでどうですか?」

 

 ―なん、だと!?

 

「……え、ええええええっ!?」

 

 亜香里なんてこの発言に真っ赤になってるし!

 

 ああ、なんてことだ! 最初の頃はまさにシスターだったアーシアちゃんが、リアス達の影響でエロエロに!

 

 これはこれでいい……いいけど、絶対に教育には悪いよ! でもブラジャーは欲しい!

 

 ……じゃない。これは亜香里に言っても意味ないし!

 

 とりあえず話を戻すか。

 

「魅力的な提案はいったん置いとくとして。勉強ってのはしたくなる理由が無いとやる気は出ないもんな。そういうものを見つけないことには大変だよなぁ」

 

 そっちが大変だからなぁ。

 

 いや、だってさ? 亜香里にとってはこれからいっぱい学ぶことが増えるわけだし。

 

 たぶん、並みの高校で中間テストをするだけでへばってると大変になるぞ。

 

「……真面目な話、お前や有加利さんは色々これから学ぶことが増えるぞ?」

 

「え、なんで!? テストでもないのにお勉強するの!?」

 

 割とショックを受けるけど、でも絶対やらされるぞ。

 

「俺も去年の夏休みは、リアスの眷属ってことで色々といっぱい教育を受けたからな。冥界の一般常識や言語、あとテーブルマナーに社交マナーとかも」

 

「そんなのもされたの!? え、私も!?」

 

 思いっきり驚かれてるけど、そんなもんじゃないだろ。

 

「いや、むしろ当時の俺よりやらされると思うぞ? ほら、亜香里ってベルゼブブの末裔だし」

 

 冥界、悪魔にとって魔王の血族ってかなり重要だしな。

 

 なにせ、悪魔って血統とかとっても重要視されてるからな。魔王の血族は特にブランドと言ってもいいから、こちら側に引き込めるのなら引き込みたがっている。ヴァーリが最上級悪魔になってるのもそこに在るしな。

 

 で、亜香里はベルゼブブだ。

 

「……内乱で追放したとは言っても、今の悪魔にとっても魔王の名は重要なんだ。特にベルゼブブはマルガレーテさんが徹底的に固辞してる上、フロンズがそれを了承して取り立てているから尚更って感じだろうし」

 

 奇跡的に発見された、ベルゼブブの末裔。

 

 いくら大王派がベルゼブブの末裔を確保しているとは言っても、多いなら多いに越したことはないだろう。魔王派としてはフロンズの息がかかってるかもしれない奴とか別の意味で不安だろうし。

 

 真魔王計画でどれだけの魔王血族が新しく生み出されたか分からないし、ハーデスの下にレヴィアタンの末裔がいるし。保護を通り越して、お飾りでもそれなりの地位につけられるのならそれに越したことはないだろう。

 

「覚悟しとけよ? まとまったお休みが手に入ったら、みっちりスパルタで教育期間が始まるぜ?」

 

「うえぇえ~? やだなぁ、それ……」

 

 俺が前もって伝えておくと、亜香里は絶望の表情でテーブルに突っ伏した。

 

 イヤ、本当にそうなるだろうからな? 冗談じゃないから覚悟しとけよ?

 

 ……そういえば。有加利さんの方はどうなんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス達とお茶をすることになって、話になったのは最近の勉強事情。

 

 特に高等部は中間テストなので、基本的には私の苦労話になっているわね。

 

「……それにしても苦労しているのね。二周目だからもう少し楽にできそうだけれど」

 

「体感時間で十年以上前の領域、それも十年以上経って洗練されてるし、そもそも基準となる偏差値が全然違うのだけれど?」

 

 勉強できる側と一緒にすんな。

 

 今生がどれだけ勉学面で困難かを考慮してほしいわ。むしろストリートチルドレンから、先進国の名門校で最低限やっていけるレベルまで持ち堪えれたことを誉めてほしいぐらいよ。

 

 十年以上昔の授業の内容を、あっさりと思い出せる奴だって少ない方でしょう。少なくとも多数派じゃないはずだわ。……ないわよね?

 

 ま、それはともかくとしてね。

 

「そういうリアスはどうなの? 大学となると羽目を外す阿呆とか出てきそうだけれど」

 

「イッセーがいる身ではしゃぎすぎたりはしないわ。それに、サークルは自力で作っているから尚更ね」

 

 行動力があってよかったわね。

 

 ま、それはともかく。

 

「……そういえば、鰐川亜香里と望月有加利はどうなのかしら?」

 

「そうね。今のところは順当に学生生活を満喫しているわ。……それが問題と言えば問題かもだけれど」

 

 その辺りの認識は一致しているようで何よりだわ

 

「実際問題、魔王血族がこうもつるべ打ちになっているものね。他の連中が懸念事項が多い以上、確実にこちら側が擁立できるものがいてくれるに越したことはないわ」

 

 そう、そこが最大の問題点。

 

 真魔王計画やそれ以外もあり、壮絶なレベルで魔王血族が増えている。

 

 グレイフィアさんに預けられているのは三人。それぞれ純血だけれど、安心はできない。大王派、それも革新衆と称されるフロンズ達が見つけて保護したのだ。グレイフィアさんがフロンズ達と何を目論んでるのかも分からない以上、手放しで味方扱いはできない。

 

 挙句、ラツーイカというやつはハーデスの配下。元々旧魔王派の計画である以上、禍の団に一人ぐらい残っていてもおかしくない。控えめに言って頭痛の種だ。

 

 だからこそ、魔王派にも魔王血族を擁しておきたいと思う者は多いだろう。ヴァーリは一応こちら側と言っていいが、元テロリストなあげく性格的に向いていない。もう一手欲しいのが本音でしょうね。

 

 実際、現魔王であるアジュカ様も同意見のようだし。

 

「取り込みをするにしても、ろくに異形も知らない以上は今後の教育が必須ね。その辺り、大丈夫かしら?」

 

「そうね。個人的にはある程度は普通に生活させてあげたいけれど、来歴が来歴だしある程度は学んでほしいわ」

 

 リアスからしてもこの意見だもの。三大勢力全体から見れば拒否の余地もない。

 

 さて、今後二人はどうしたものか。その辺りも気にしていかないとね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。彼らの教育は順調かね、ハッシュ?」

 

「そこは安心していい。なにせ、直接面倒を見ているのが彼女なのだからな。こちらも相応の教育体制を用意している上でだ」

 

「それは重畳。仮にも魔王血族であり、純血なあの三人。今後の為にはそれなりの出来になってくれないと困るのでね」

 

「よく言うな、フロンズ。お前からすれば旧王族に頼らない社会制度の確立が本音だろうに」

 

「現実を考慮すれば無視はできんよ。なまじ寿命が長く血統の影響がもろに出る悪魔社会は、どうしても血統主義がはびこりやすい。純血の王族はそれだけで影響力が大きいからな」

 

「確かに、九大罪王に移行しても、無視できない影響力がありえるわけだ。……だからこそ、か」

 

「そう。罪王の一角となるグレイフィア殿、それも本来魔王ルシファーの配下だったルキフグス。彼女の配下としてルシファー含めた純血の王族をつければ、いやでも民衆の無意識に刷り込めるものがある。魔王は()()()の王族だ、とね」

 

「まったくもって恐ろしい限りだ。最も、こちらも教育制度の過程で旧王族直系がどういうことをしたのかの啓もうは広めているがな」

 

「もっとも、それをもってしても完全に初代魔王の威光を消すことはできぬだろうがね。しかし、その時は後継私掠船団だ」

 

「アスモデウスの先祖返りたるユーピ。ルシファーの先祖返りたるラムル。レヴィアタンの先祖返りたるエペラ。ベルゼブブ(マルガレーテ)は契約上擁立できんが、これだけいれば十分だろう。……あの三人も、可能なら取り込みをかけるのだろう?」

 

「可能ならな。……とはいえ、旧王族を頼りにするのは革新衆のやることではない。ゆえに―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらも少しずつ動くぞ? いい機会だ、マーケティングやデータ取りを徹底的に行うとしよう」

 

「了解だ。補佐はやる故、主導してもらうぞ?」

 




 魔王血族のオリキャラを大量に作り上げておりますが、この回では意外とヒューチャーされることも多くなるでしょう。

 まぁ第二部中に亜香里と有加利は戦闘にも慣れさせたいところです。第三部になってからだと遅すぎるしね?


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戦愛白熱編 第六話 穏やかなテスト前

 はいどうもー! 現在金欠一歩手前なグレン×グレンです!

 いやですねぇ。給金は増えたけどまだ増えたばかりなので、調整に苦労しています。しかもタブレットPCは逝ったので、遅かれ早かれ出費は増えるし。

 まぁ、慣れていこうと思っております!


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テストそのものが終わって少し経つけど、そろそろ帰ってくる時期でもある。

 

 とりあえず、自分達で自己採点した分では赤点はない。カズヒにおいても赤点は回避できただろうし、なら全員大丈夫だろう。

 

 だからこそ、ある意味で空いた時間帯に自己鍛錬は欠かさない。

 

 大きな戦いは何とか終わらせたけど、アザゼル杯で情けない姿を見せる気はない。

それにハーデス神や帝釈天は懸念事項だ。禍の団もまた持ち直しているらしいし、サウザンドフォースも不穏要素。そうでなくても、D×Dは今後も対テロ部隊として動くときがあるだろうしね。

 

 とはいえ異空間でするほどじゃないトレーニングもある。例えば体を動かす基礎トレとかは、地下室でも十分だ。

 

 もしかしたら、他のチームで参戦しているメンバーもいるだろう。最近はアザゼル杯のこともあり、手札をある程度隠す為にそれぞれが別の場所で重要なトレーニングをすることが多いからね。

 

 基礎トレぐらいは普段通りにみんなでしたい、そういう時もある。そんな期待で動いていた。

 

 すると、既に何人かがトレーニング機材を使ってトレーニングを進めていた。

 

「お、木場じゃねえか。お前さんもトレーニングか?」

 

「……お疲れ様です、祐斗さま。お先に失礼しています」

 

 と、そこではトレーニングウェアを来たベルナが、もう一人とランニングマシーンで走っている。

 

 もう一人の方は、確か行舩三美(ゆきふね みつみ)さんだったね。最近入ってきた懲罰人事の人で、今は九成君のチームで戦車(ルーク)をしていたはずだ。

 

 同じチームということは、親睦を深める意味もあるのだろう。僕はそう納得する。

 

「他の人達はいないのかい? 特にインガさんとか」

 

「他のメンツは仕事があってな。手が空いてるメンツだけでも基礎トレしとこうかって話になったんだよ」

 

 ベルナは僕にそう答えると、ちらりと行舩さんの方を見る。

 

「ま、他の業務もあってアタシらだけだがな?」

 

 そう振られ、行舩さんも小さく苦笑した。

 

「そういう事です。そういう祐斗様も、お一人ですか?」

 

「たまにはチームメンバー以外ともしたくてね」

 

 僕はそう答えると、そのまま隣のランニングマシーンを起動させて走り出す。

 

「そういえば、そちらも連戦連勝だね。お互い勝ち進んでいるようで何よりだよ」

 

「そちらこそ。もっとも、序盤から勝ち進むと警戒され、一度の敗北で大きく点を取られそうですが」

 

「ま、勝ち続けてりゃぁポイントは溜まるし、一回二回負けてもリカバリーは聞くだろ?」

 

 そんな風に他愛のない話をしながら、僕達は基礎体力向上の為のトレーニングを進めていく。

 

 うん。こういう日常もいいものだね。

 

 過酷な戦いを何度も乗り越えているけれど、やはり平和な日常があってのものだ。こういったものを守る為にこそ戦いたいよ。

 

「そういえば、ふと気になりましたが」

 

 と、行舩さんが僕の方をちらりと見る。

 

 なんだろうか。そう思った時だ。

 

「祐斗様は、恋愛に興味はないのですか?」

 

「……どういう意味かな?」

 

 思わず、こけそうになった。

 

 いきなりなんでこんなことを言われるのだろうか?

 

 本当に突拍子もないというかなんというか。

 

 ただ、隣のベルナはむしろ凄く納得したかのように頷いてる。

 

「そういやそうだな。なんでお前、付き合ってるやつとかいねえの?」

 

 なんでそんなことを言われなければならないのだろうか。

 

 というより、イッセー君はイッセー君で真羅先輩を僕とくっつけようとしているところがあるし。いったいなんだというのだろうか。

 

「特に積極的に付き合いたいという人はいないね。今はそれより、アザゼル杯の方が大事だよ」

 

 これが僕の素直な感想だ。

 

 ただ、二人は顔を見合わせると微妙な表情になっている。

 

 あれ、答えがおかしかったかな?

 

 いや、これはさっさと話しを切り替えた方がよさそうだ。下手に手を出さないでいると、ややこしいことになるかもしれない。

 

「そんなことより、終わったら休憩するだろう? チーズケーキを焼くつもりなんだけどどうかな?」

 

「そうですか。……では、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」

 

 行舩さんはすぐ乗っかってくれた。

 

 うん、手作りの料理を味わってもらうのは中々にいい気分だしね。その流れで話も逸らすとしよう。

 

 ただ、ベルナの方はちょっとだけ沈黙している。

 

 えっと、どうしたのかな?

 

「因みに、あとでイッセーにも食わせるのか?」

 

「もちろん! イッセー君はチーズケーキが大好物だからね。腕によりをかけて作るとも!」

 

 力強く頷きながら即座に応えてみたら、顔を見合された。

 

「……こういうやつなんだよ」

 

「そうなのですか……」

 

 な、何か酷いことを言われている気がする……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テスト終わりの比較的楽な時間帯、俺は何となく散歩をしていた。

 

 ここに来てからまだ一年も経ってないから、土地勘もあまり育ってない。一応結界を常々張って更新もしているが、俺達相手に動く連中は毎度毎度潜り抜けてくるからな。いざという時に備えると町に慣れておくに越したことはない。

 

 とはいえ、今日はちょっとした買い食い程度にとどめておくか。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、視界の隅に見覚えのある女性の姿が。

 

「どうも、有加利さん」

 

「あ、九成君?」

 

 俺が挨拶すると、有加利さんも俺に気が付いた。

 

「かしこまらなくてもいいのに」

 

「ま、一応年上相手なんで」

 

 そんな風に軽く言葉を交わしてから、俺は有加利さんの様子を見る。

 

 少し顔が青いな。やはり完全な回復はまだ先……か。

 

 ただ、その手にはいくつか荷物があった。

 

「買い物ですか?」

 

「ええ。少しはこの町にも慣れたかったから、散歩のついでにいくつか買い物をね」

 

 そう答える有加利さんは、やはり少し表情が厳しいな。

 

 俺はそれを確認したうえで、荷物をいくつかひったくるように持つ。

 

「え、九成君?」

 

「いくつか持たせてください。ほら、男の沽券的にも俺のスタンス的にも、女の子にばかり荷物を持たせるのはアレなんで」

 

 ちょっと早口で俺がそう言うと、有加利さんはちょっと考えてから小さく微笑んだ。

 

「ありがとう。男の子だね、うん」

 

 ……この感じだと、気遣ったことにも気づかれてそうだな。

 

 ま、素直に持たせてくれるならいいか。いくつか残しているからこそ、本人も比較的素直に受け取れたということにしておこう。

 

 その後は、それとなく何でもないような話をしながら一緒に帰路に就く。

 

 ただ、一つだけ確信できることがある。

 

 笑顔で相槌を打ってくれる有加利さんの表情は、やはりどこかに影がある。

 

 それほどまでに失ってしまった。それほどまでに深く傷ついた。そう、分かってしまう。

 

 だからこそ、俺も色々と考えてはいるわけだ。

 

「有加利さん、よければ少し鍛えますか?」

 

 と、俺はそれとなく話を振る。

 

「そうね。……ダイエットにもなるし」

 

 かなり真剣な答えが返ってきたが、女性に体重関連の話はかなりリスキーなのであえてスルー。

 

 いやまぁ、それはそれでいいんだけどそうじゃない。

 

「こう言っては何ですけど、魔王血族ってかなり偉業にとって重要ですからね。俺達もカバーしますけど、護身の技術は持っていた方がいいんですよ」

 

「そうなの? 一応……心得は持たされているけど」

 

 あ、そういえばそうだったな。

 

 真魔王計画の関係者が、色々と騙して経験を積ませていたのは聞いていた。

 

 もっとも、旧魔王派らしく結局とんでもないことになったのが今なわけだが。あいつら基本的にスペックだけはある無能だよなぁ。

 

 ま、それは置いといてだ。

 

 それなりの心得はあるだろう。だがしかし、だ。

 

「……この町の現状って割と重要地点なので、潜り抜けてやらかす手合いって、基本的にどいつもこいつも精鋭なんですよ。……なんで、数段上ぐらいにはなった方がいいかと」

 

「……大変だね、君達も」

 

 そうなんです。

 

 ま、それは半分ぐらいだ。

 

 もう半分、本命はちょっとした考え方の切り替えだ。

 

 今のままだと、やはり半分ぐらい塞ぎ込んでいる。自己嫌悪に呑み込まれるリスクもあるだろう。

 

 だからこそ力をつけて、何らかの貢献をもってして心を切り替えさせたい。

 

 かつて道間田知()が、何気ない心配と笑顔で道間日美子(カズヒ)の心を照らしたように。その後、カズヒ・シチャースチエが誓いをはたして邪悪を穿つ銀の弾丸となったように。

 

 強い決意とその実績は、支えになることがある。

 

 治療の過程で堕天使化も施された以上、有加利さんや亜香里は永い人生を生きることになる。その長い人生を、俯いてばかりというのはやはりどうかと思う。

 

 それは、俺としても見過ごせない。

 

 瞼の裏の笑顔に誓い、約束された勝利を刻む。嘆きで流れる涙の意味を、笑顔に変えて見せると決めた。この、俺達の勝利の答えに誓って。

 

 俺は、俺達が助けた女の子達に、笑顔で生きれる可能性を渡したい。

 

「ま、あれですよ。世の中ないよりある方がいいことが殆どで、強さってのもその一つですから。……その強さが、嘆きを切り開く力になればなおいいんですけどね」

 

 なんとなく、俺のスタンス明言的な感じでそんなことを言った。

 

 ただ、ちょっと夕日が逆光になって見にくくなっている彼女の表情はきょとんとしていて―

 

「……そうね。私も、前を向いて歩きたい……わね」

 

 ―どこか華やぐ笑顔に変わったそれは、少しだけ安心できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃぁ! その調子だ!」

 

「うんオッケー! 頑張るよ!」

 

 俺が馬鹿なりいろいろアドバイスした結果、亜香里は高難易度のドリルを高得点でクリアーした。

 

 いやぁ、勉強って大変だけど、しないといけない立場も多いからな。魔王の血を引いていると、いやでも面倒ごとが起きそうだし。最低でも悪魔の一般常識や知識は及第点が取れないとまずいし。

 

 なので、そういった転生悪魔用の一般常識の資料とかを渡して一緒に勉強会をした見たけど、何とかなったか。

 

「案外できるじゃん。俺がその部分を覚えるの、もっと長かった気がするぜ?」

 

「そうなの? え、じゃぁ来年まで頑張れば、駒王学園の大学部とか……いける?」

 

 あ、俺が褒めたらちょっと調子に乗っている。

 

「いや、一般常識と勉強はまだ別口だし。……あとたぶん、亜香里達はダンスとかの練習もさせられるだろうし」

 

 大学の合格はまた別だからなぁ?

 

「ダンスかぁ。……体育でもあれは選びたくないなぁ」

 

「いや、創作ダンスじゃなくて社交ダンスな? 転生悪魔の俺でも教えられたし、魔王血族の亜香里だと必須科目だと思うぞ?」

 

 うんうん。転生悪魔ってそういう事をする場合もあるから大変だ。いやまぁ、リアスの眷属であり、あの時点で婿候補と見なされていたからこそってところもあるけど。

 

 ただまぁ、王族ってことだし、亜香里もそれなりにやらされるかもしれないしな。

 

「ま、相手役なら俺だけじゃなくて、木場やギャスパーもできるから。事前にちょっと練習しておくといいぞ?」

 

 俺がそう言うと、亜香里はちょっと顔を赤らめていた。

 

「……イッセーでいいかも」

 

 え、俺でいいの?

 

 う~ん。ギャスパーはともかく、こういうのは木場の方がいいような気もするけど。いや、イケメンに可愛い女の子が取られるのはまだたまにイラっと来るけど。

 

 いや、俺も結構踊りには慣れてるからな。その当たりを直感的に感じたのかもしれない。……本当に、結構色々踊ってるよなぁ。

 

 よし、そういわれたのならやって見せるか!

 

「よっしゃ、任せとけ! これでも結構練習させられたし、魔王様から直々に及第点はもらってるんだ!」

 

 いや、及第点だとやっぱダメかな?

 

 そんなことを思ったけど、亜香里はクスリとほほ笑んでくれた。

 

 よ、よく分からない女心だな。

 

 ま、いっか!

 

「ただいまー! お土産買ってきたぞー!」

 

「亜香里はいる~? 好きそうなのを買ってきたわよ?」

 

 お、九成と有加利さんの声だ。

 

 二人とも別々に出てたはずだけど、たまたま出くわしたんだろう。

 

 ……おのれ九成、年上キラーめ。あいつはなんで無自覚に年上の好感度を稼ぐ。

 

 思わず嫉妬心が燃えているけど、なんか入ってきた九成は俺に半目を向けている。

 

「そういうところだぞ、イッセー」

 

「どういうところだよ!?」

 

 思わず絶叫したよ!



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戦愛白熱編 第七話 姉妹がわかるテスト返還!

 はいどうもー! タブレットPCの画面が死んでるグレン×グレンでっす!

 タブレットPCの新調は金が入ってからにする予定でしたが、とりあえず格安のを一時しのぎ用に購入することも考えるか……。童貞卒業も踏まえると、果たしていつになることやら。貯金は大事だからなぁ……。


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中間考査のテストが返却される日になった。

 

 こういう時、学生はドキドキしたりするものだね。僕も自己採点は終わっているけど、ちょっと気になる時もある。

 

 だから、もの凄く平然と受け取って平然と戻ってくる九成君達には感心するよ。

 

 九成君、ヒマリさん、南空さん。この三人は本当に平然として受け取って、そのままあっさり戻っていく。

 

 ザイアの英才教育のたまものだろうか。比較的テスト勉強をしない側で、その上で点を取ってくる。こういうところは優秀なんだなぁ、彼ら。

 

 とはいえテストもほぼ返却され、その流れでクラスメイトはそこかしこで雑談を始めている。

 

「……ふふっ。ふふふ……補習は回避……平均点もいくつかは取れたぁっ!!」

 

 そしてバグッているカズヒは、多くの者が暖かい笑みを浮かべて流している。

 

 学習法面においては劣悪な環境にいるだけあって、彼女は赤点回避で苦労している側だ。テンションがおかしなことになるので有名で、いい加減学友は慣れている。いちいち驚くこともないというわけだね。

 

 ただまぁ、慣れてない人からすると違和感も大きい光景なわけで―

 

「……その、大丈夫?」

 

 ―ヴィーナさんは素直に心配して駆け寄っていた。

 

「……大丈夫、大丈夫よ」

 

「その間は!? 本当に大丈夫か違和感しかないよ!?」

 

 気恥ずかしくなった所為でカズヒの反応が遅れ、ヴィーナさんは更に心配になったようだ。

 

 うん。普段とは全く違う雰囲気というか、妙な悲壮感が漂っているからね。

 

 見ていて凄く、引くよね。僕も最初は戦慄すら覚えたよ。

 

 ただまぁ、「勉強関連で弱いから、こういう時おかしくなる」とは言いづらい。なので回りも指摘する雰囲気が出せないでいる。

 

 ただ、誰かは指摘しないといけないだろう。そろそろ九成君辺りが動くと思うけど、場合によっては僕も動かないといけないかもしれない。

 

「……落ち着いて、お姉ちゃん」

 

 と、その時シルファさんがヴィーナさんの肩に手を置いた。

 

 思わぬ展開になってきたと、思わず僕達は息を呑んで―

 

「たぶん勉強ができない人なのよ。だからこぅ、負担からの解放でハイになってるの。察してあげて」

 

『『『『『『『『『『『お前がカズヒの気持ちを察しろよ!?』』』』』』』』』』』

 

 凄い人数が凄くツッコミを入れたね。

 

 うん、察して止めてくれるのはいいけれど、それを言ったら台無しだと察してほしいかな?

 

 ただ、シルファさんは肩をすくめて気にしてない。

 

「見る限り、大体知っているメンツのようだから大丈夫と踏んだわ」

 

 その通りだけど、はっきり言うんだ。

 

「そうね。言い難いところを言ってくれる人はありがたいわ。私は勉強が苦手なのよ、ストリートチルドレン上がりで、優れた教育環境の時期が短いから」

 

「そうね。私も割と貧しい時期があったから、その辺りは少しは分かるわ。勉強がいっぱいできるって、本来いい事よね」

 

 そしてカズヒとシルファさんは何か分かり合っている。

 

 それでいいのか、カズヒ。いや、カズヒはむしろそこはいいと思うタイプか。

 

 うん。ちょっとシルファさんは引かれているけど、悪い人じゃないよね。ある意味カズヒに似ているっていうか。

 

 ただ、ね?

 

「………………っ」

 

 タイミングを逸して、妙なポーズになっている九成君には触れないであげてくれることを願うよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、俺は今回学食の方でお昼をとっていた。

 

 毎回毎回お弁当を用意してもらうこともできるけど、学食にも美味しそうなものがあるからな。たまに食べるのはいいものだ。

 

 そう思っていると、珍しくヴィーナが一人でお昼をとっている。

 

 ヴィーナは人当たりが良い事もあって、学園内でも急激に人気を伸ばしている。その為、割といろんなクラスメイトとお昼を共にすることが多い。

 

 それが一人とは、珍しいな。

 

「近く、いいか?」

 

「あ、九成君」

 

 ヴィーナはすぐに気づくと、微笑んで頷いてくれている。

 

 ……ただ、俺の感覚が少しかぎ取ったものがある。

 

「何か悩みがあるのなら、少しぐらい愚痴も聞くぞ?」

 

 俺は、それに対して素直にそう答える。

 

 俺個人の主義信条として、嘆きに対して無頓着でいる気はない。またチームメンバーである以上、コンディションに影響するだろうことはなるべく解決したい。

 

 と、いうわけでその辺りを軽く聞いてみる。

 

 断られる可能性はあるだろう。俺とヴィーナはそこまで親しいわけでもないし、プライベートなことは深入りできない関係だろうしな。

 

 とはいえ、ちょっとぐらいの愚痴でスッキリする程度の貢献はしたいんだが。

 

「……そうだね。ちょっと、相談してもいいかな?」

 

 と、ヴィーナの方から踏み込んでくれた。

 

 それとなく、俺は魔術で意識誘導などを行い、踏み込んだ相談も聞けるようにする。

 

 そして、ヴィーナは思いっきり俯いた。

 

「その、ね? 私、いっつもシルファちゃんに引っ張ってもらってるの」

 

 ……ふむ。

 

 俺は短いながらも見てきた、ザンブレイブ姉妹の関係性を考えてる。

 

 ある意味で対照的な姉妹であり、一見するとヴィーナがシルファをとりなしている風にも見える。というより、大半はそう思っているだろう。

 

 ただ、あえて俯瞰的に見ると少し違う可能性にも思い当れる。

 

「つまり、シルファはわざとあんな対応をとっているってことか?」

 

「……半分ぐらいかな? シルファちゃんって、素がああいう感じだから。ザンブレイブチルドレンでも、友達は少ないし」

 

 なるほど。

 

 雰囲気と言い外見と言い、カズヒに近いところがあるからな。孤高の雰囲気を思わせるところはある。

 

 当人も陽キャのノリはあまり好んでないだろう。頭を空っぽにして多人数で騒ぐよりは、実のある内容を少人数でもできる方が好んでそうだ。

 

 ただし、意図的に自制をしてないのなら話は少し変わってくる。

 

「……私はさ、周りが思うより固いんだ。周りの人達と仲良くしたいのは本当だし、歩み寄ろうとも思っているけど。ただ、想像のできないことを見たりすると、二の足を踏んじゃうの」

 

 言われてみると、確かにそういう事もあったな。

 

 なるほど、柔らかいようで固いのか。そういう人は確かにいるな。第一印象や外見からの雰囲気と、異なる本質があるっていうのはよく聞く話だ。

 

 それがチャームポイントになる場合もあれば、逆に引かれる理由になることはある。そういう意味では、ヴィーナがここまで人気があるのはもしかするとおかしいかもしれない。

 

 なまじ最初に好感度が高まっていると、そこから反転したことになる場合がある。それなりに付き合いが長くなっても無理なこともあるし、時期的にそこのカバーが難しいところもあるだろう。

 

 こういっては何だが、日本は文化的に中々特殊なものも数多い。まぁ世界全土を見ればどこも似たようなところはあるかもしれないが、ただでさえ島国なんだ。八百万の神々信仰や鎖国の影響もあり、ネットでは日本面{日本独自の技術的魔改造による、迷走もしくは革新的影響のことを指す}なんて言うスラングまである。卵かけご飯とか、間違いなく独特だしな。

 

 だが、それは―

 

「……そっか。つまり、シルファはそれぐらいヴィーナのことが好きなんだってことか」

 

 ―それぐらい、シスコンな妹がいるってことなんだろう。

 

「え、そういう方向なのかな!?」

 

「そういう方向だろ。つまるところ、シルファはヴィーナが引かれないよう、わざと機先を制して注目を集めてるわけだしな」

 

 なるほど納得。そういう意味では、いい妹を持っているものだ。

 

 ま、そういう事ならやることは一つだろう。

 

「他人事の無責任な言い方かもしれないが、ならヴィーナもシルファをフォローしてやればいいさ。お互いがお互いをフォローすれば、そういう隙間もなくなるんじゃないか?」

 

「だ、大丈夫かな? シルファちゃん、とっつきにくいというか、割とずけずけ踏み込んじゃうのは素だし、治す気なさそうだし」

 

 ヴィーナはちょっと不安そうだけど、まぁそこは大丈夫だろう。

 

「大丈夫大丈夫、カズヒで慣れてる人も多いし」

 

 カズヒに比べればまだ緩い緩い。

 

 あの女傑はそういうところがすさまじいからな。あれで慣らされている分、俺たちはまだ比較的慣れている。

 

 というわけで、俺は安心させるように微笑んだ。

 

「その辺り、駒王学園(うち)はだいぶ緩いぜ? それに、だ」

 

 駒王学園はその辺りが妙に緩い。……覗きの報復で集団リンチ(凶器有)で解決させるのは緩いというより問題な気もするが。さっさと裁判を起こせよ、集団私刑にしろ過剰防衛にしろ、やればそっちも捕まりかねんぞ。

 

 まぁ、そんな奴らが多いからか、割と緩いところは徹底的に緩いからな。まず間違いなく普通の一般人間社会よりは異形に近い。癖の強い連中にもある程度の融和性はあるはずだ。

 

 そして、それとは別の意味で言い切れることもある。

 

「……それに、ヴィーナが良い奴であることも変わらないしな。だったらどっちかが泥を被るより、一緒にフォローしあう方が、気分的にもいいんじゃないか?」

 

 ああ、短い付き合いだが彼女が良い奴なのは分かっている。

 

 よほど悪意を持って隠しているのならまた別だが、さっきの言いぐさや普段から考えると、そんなこともないだろう。

 

 だからまぁ、そういう方向性がお互いにためになると思うけどな。

 

 そう思ったんだが、なんか急に顔が赤くなってる。

 

 ……よし、予防線を張っておこう。後ろから誰かに刺されるような真似は避けたいしな。

 

「言っておくが口説いてないからな? 素直な感想だからな?」

 

「も、もっと酷いよ!?」

 

 そんな!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は何となく一人の時間を満喫していると、シルファと出くわした。

 

「あら、あの子達と一緒じゃないのかしら?」

 

「ん? ま、俺以外にも付き合いがあるからな」

 

 俺達にだってそれぞれの人間関係とか、あるからな?

 

 ま、それはともかく……どうしたもんか。

 

 あんまり話す関係でもないからなぁ。ちょっとこぅ、なんていうか……?

 

 そう思っていると、シルファは俺の方をちらりと見る。

 

「そういえば、ヴィーナお姉ちゃんは大丈夫かしら?」

 

「ん? どういう意味だ?」

 

 俺がそう問い返すと、シルファはちょっと言いづらそうにしていた。

 

「お姉ちゃんは、優しいし一歩前に踏み出そうと思える。でもその……見ていて危なっかしいところとかがあるの」

 

 もの凄く言いづらそうだけど、そういう物なんだろうか。

 

 う~ん。俺はこういう時、馬鹿だからさっぱり分からん。

 

 ただまぁ、これは言っていいだろ。

 

「つまり、シルファは本当にヴィーナのことが大好きなんだな?」

 

「……そうだけど、はっきり言うのね」

 

 なんか真顔で言われたけど、変なこと言ったか?

 

 なんていうか、普段の態度にしても今の言いぐさにしても、シルファはヴィーナのことが本当に大好きだって思えるしな。

 

 だからおかしなことは言ってないと思うけど、まぁいいか。

 

「いや、だってお前ヴィーナ大好きじゃんか。俺も大好きな人の為ならいくらでも頑張れるしさ、親近感が湧くけどさ」

 

 うんうん。俺も愛するリアス達や信頼する仲間達の為にも、一生懸命頑張ってます。

 

 もちろんハーレム王になることも目指しているし、だいぶいいところまで来ているとは思ってる。ただそれはそれとして、仲間の為なら命賭けられるからな。

 

 あ、でも一つ言った方がいいことがあったな

 

「ただ経験論だけど、あんまり自分を誰かの為に犠牲にすると怒られるぜ? 俺も何度もやって、説教されたり泣かれたりしてるからなぁ」

 

「……常習犯が言っても、説得力に欠けてないかしら?」

 

 ぐ、痛いところを突かれた。

 

 ただ、説得力に欠けるのは違うと思うぜ?

 

「自分にできないことも、誰かならできることってあるだろ? カズヒもそういうところはしっかりしてるから説得力があるしな」

 

 カズヒは本当にそうだからな。

 

 気合と根性で限界を超越するし、隙を見せれば毎度毎度やらかすし。

 

 うん、その上で説教されてなお説得力があるしな。

 

 ま、これは経験しているかどうかもあるだろうし、いいか。

 

 今言うべきは―

 

「俺はしないで済むように頑張ってるけどする羽目になってることが多いしな。お前もヴィーナのことが好きなら、ヴィーナが大好きな自分のこともちょっとは気にしてやろうぜ?」

 

 ―うん、これだ。

 

 これからも俺は、自分が腕一本捨てるとか代償を払うことでみんなが助かるのなら、やっちまうだろう。

 

 ただ、好き好んで命を捨てる気はない。生き残る目がほかにないこともあるし、一度盛大に皆を泣かせてるからな。そこは気合入れて何とかしてきたいです!

 

 だから、その為に大事なことをしないとな。

 

「……皆で頑張りゃ、一人だけじゃできないこともできるってもんだ。まずはヴィーナ()頑張ることから始めようぜ?」

 

 実際、そこは大事だよな。

 

 やっちまうにしても、そこまでの心構えはしっかりしないと。カズヒもよくやるけど、あれでしないように気を使ってるところはあるし。……しててあれだけど。

 

「ま、それでもまずいんなら俺や九成に相談してくれ。九成は色々できるし伝手もあるし、俺も腕っぷしと伝手には自信があるからさ?」

 

 なにせ神様からスカウトされたり、いろんなところのお偉いさんに気に入られているからな。

 

 この調子ならグレモリー次期当主(リアス)のお婿さんだし、コネもヤバいぜ、絶対。

 

 そして、シルファもなんか小さく噴き出すと、小さく苦笑してきた。

 

「そうね。ま、その方がヴィーナお姉ちゃんの為になるなら……そうするわ」

 

 その笑顔はなんていうか、晴れやかだな。

 

「お、普段からそんな風に笑ってる方が、絶対可愛いぜ?」

 

 うん、こういう笑顔はいいことだよな。

 

 可愛い女の子の可愛い笑顔。もはや栄養素だぜ!

 

 と思ったら、なんか急にすまし顔になった。

 

 ただ顔を赤くしているけど、風邪か?

 

「……そういう事ばかり言ってるから、そういう事なのね」

 

「どういうことっ!?」

 

 言ってることがさっぱり分からん!?

 




 こんな感じでザンブレイブ姉妹のついての紹介回となりました。

 シルファは「固いようで意外と柔らかい」、ヴィーナは「柔らかいようで意外と固い」といったタイプ。お互いがうまくかみあえる余地がありますが、姉妹だけだとうまくいかないところもある。

 まぁここまで見ればわかると思いますが、ザンブレイブ姉妹は和地とイッセーのヒロインとして設計したキャラクターです。どっちにするかはいろいろと考えましたが、現状は和地はヴィーナの方にする予定です!

 そして日常回はまだ続くのじゃよ


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戦愛白熱編 第八話 男子会と女子会

 ハイどうもー! ついに逝ったタブレットPCの新調を決心しているグレン×グレンでっす!

 とりあえず本格的なのはもうちょっと(半年ぐらい)溜めてからにしますが、とりあえず繋ぎをいったん購入する予定。……そもそもだましだまし使って何年も使ってたから、まぁ逝ってもおかしくなかったよなぁ。


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あ~……っ」」」

 

 俺はイッセーやアニルと共に、別館のサウナで一息ついていた。

 

 男同士のゆったりとした空気、最高……っ!

 

 同性同士で阿保をやることでしか得られない心の栄養素はある。確かにあるんだ。

 

 そう思いながらまったりしているけど、こういう時間は必要だよなぁ。

 

「あぁ~。日頃の疲れが熱さで溶ける~」

 

 俺が思わずそう告げれば、イッセーも頷いている。

 

「ほんとにな~」

 

 そんな風にイッセーも呟き、アニルも頷いていた。

 

「ッスねぇ。競技試合は実戦とはまた違うっすねぇ~」

 

 アニルもそう言うほど、俺達は意外と疲れている。

 

 実戦に比べれば死亡のリスクは大きく減じているが、それでも鍛えられた者達との闘いだ。やはり疲れる時は相応に疲れる。しかもインターバルも短いしな。

 

 それに衆人環視というのも、また意識の上で負担があるものだ。競技試合だからこその感覚と言えばいいんだろうな。

 

 そもそも実戦と競技試合では、強さの種類が違うところもある。その辺りも、実戦に慣れ切っている俺達には負担になっているだろう。

 

 ルールに則った戦いには、則った戦いにしかない負担もある。つまるところはそういう事だ。

 

 だからこそ、こういう休息も大事なんだろうなぁ。

 

「で、とりあえずは俺達連戦連勝なわけだ。ま、手古摺ることも数多いけどな」

 

「ほんとになー。ゲームはやっぱり、実戦とは違うところも多いよなぁ」

 

 俺もイッセーもついついぼやくけど、実際なんとか勝っていることも多いわけだ。

 

 ま、リザーブメンバーも用意できるのがアザゼル杯。にも関わらず俺達は、駒をまだ全部埋めてもいないわけだからな。駒を全部埋めていたり、ゲームに習熟している奴らなら付け入るスキはあるだろう。

 

 ポツポツとだが、予選の段階でリタイアを表明しているチームも出てきている。今後は心身ともに精強なチームが残っていくわけで、更に苦戦することにもなるだろう。

 

 いや本当に、大変ではあるよなぁ。

 

「でもま、オカ研主体のチームはほぼ連戦連勝だよな。アニル達も全戦全勝だし」

 

 イッセーがそう誉めると、アニルはちょっと苦笑していた。

 

「王がリュシオンさんですぜ? そりゃそう簡単にはやられないでさぁ」

 

 なるほど確かに。

 

 神の子に続く者(ディア・ドロローサ)。新規神滅具の保有者であり、前人未踏の至った状態から至ってない状態に戻ることができる化け物。歴史に残る枢機卿から、直々に傑物中の傑物と証明された男。

 

 間違いなく教会の歴史に残る手練れであり、現役の戦士に限れば片手の指が余るほどの上位だろう。

 

 そんな人物が(キング)である以上、王を倒す必要のあるルールにおいてはめっぽう有利。とはいえ、時間切れで判定負けもないわけだが。

 

 つまるところ、他のメンバーも高水準なものが多いという事だ。基本的に若手の戦士達が主体でありながらこれは……控えめに言って凄いだろう。

 

「ま、口さがないものはワンマンチームというだろうが、リュシオン抜きの質も全参加チームで中堅じゃないか? よくもまぁ、そんな若手が集まったもんだ」

 

「そうだなぁ。アニルもルーシアも頑張ってるし、俺も鼻が高いぜ」

 

 俺とイッセーが口々に誉めると、アニルもちょっと照れ臭そうだった。

 

「ま、そういう連中の言い分を否定できるぐらいのこともしたいっすけどね。激戦でちょっと心が折れかけてるメンバーもいやすんで、その辺りの交代も含めて頑張りますわ」

 

「あ、そうなのか。……いや、そりゃそうだな」

 

 俺はちょっと首を傾げたが、すぐに納得する。

 

 二代目主神やら巨人の王やら天帝やら、名だたる神話の頂点達が参加しているしな。

 

 それ以外にもやばいのも多い。俺やイッセーも大概だし、神滅具使いがゴロゴロ参加しているし。

 

 たぶんだけど、神クラスが参加していてもさほど有力でない神のチームは、俺達なら勝ち目は十分あるだろう。実際カズヒとか勝ってるし。

 

 案外、D×D主力メンバーが多ければ本戦出場チームになれるところもありそうだな。ヴァーリチームとか、ほぼ確実にできるのではないだろうか。

 

 ……だからこそ、俺達も色々とするべきだろうな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとなくリビングの片隅にいたメンツで、ちょっとお茶会をすることになった。

 

「……とはいえ、意外なほどに勝率が高いのよね、D×D参加チームって」

 

 話のネタはアザゼル杯。その中でも、私たちD×Dが関与するチームの勝率だ。

 

 流石に神クラスが出張ると負けるチームも多少はいるけれど、そういった場合でない時は基本的に連戦連勝。そして神クラスが相手でも手古摺らせるケースが多い。総じて勝率の高いチームとして評価されている。

 

 おそらくだけれど、本戦出場チームは結構な割合がD×Dが関与するチームでしょうね。神クラスが所属するチームも多いでしょうけれど、それを踏まえてもかなりの数を占めることになるでしょう。

 

「そういう事ね。とはいえ、ある意味では当たり前でもあるのでしょうけれど」

 

 そう返すリアスは、少し遠い目になってカップを見つめている。

 

「それだけの戦いを潜り抜けたのだもの。今となってはコカビエルが弱い部類といえるほど、私達の敵は強大な者達が筆頭となっていたわ」

 

 カップ越しに見ているのは、それだけの敵達。

 

 堕天使最高幹部で数少ない武闘派でもあるコカビエル。思えばオカ研が他勢力混合集団となったのは、あいつが余計なことをしたからでしょうね。

 

 そしてオーフィスの蛇や亜種聖杯で強化された、旧魔王血族三人。神滅具保有者を三人も擁し、主力は全員至っている英雄派。その間にはあらゆる要素で底上げされた、北欧の悪神ロキ。

 

 クリフォトとの戦いも同レベル。戦闘特化型の人造惑星ステラフレームや復活させた伝説の邪龍。それを率いる超越者リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。かすめ取った天龍クラスの邪龍や超越者クラスたるヴィール・アガレス・サタンとの、トライヘキサを巡る三つ巴。

 

 そして、極晃奏者ミザリ・ルシファー。……誠にぃとの戦いは、文字通り熾烈だったわ。トライヘキサを核とした隔離結界領域全てを力に変えたあの男の弄奏を、衛奏抜きで打倒するビジョンはいまだに見えない。

 

 冷静に考えると、戦闘型でない神クラスならタイマンでも負けかねない連中ばかりが筆頭になっている。

 

 間違いなく、奴らがチームを率いれば、アザゼル杯でも高い勝率を誇ったことでしょう。それほどまでの難敵だと今でも確信できる。

 

「……勝率が高くて当然ね。そうでなければ私達は死んでたわね」

 

「そうね。異形の歴史を振り返っても、一年足らずでここまで驚異的な難敵を戦闘を繰り返した者は極僅かでしょうし」

 

 私とリアスが思わずため息をつくと、参加している最後の一人が苦笑していた。

 

「アハハ……。その、オカルト研究部に参加していて、よく私が生きてたなぁって思えて来ました」

 

 ルーシアはそう言うと、少し額に冷や汗を浮かべている。

 

 まぁそうでしょうね。一手は何だけれど、ルーシアって私達全体で見るとその……戦闘面での強みが薄いわけだし。

 

 神器を持っているわけでもないし、星辰奏者(エスペラント)の適性もない。加えて魔術回路や異能の特性も無い以上、本当にスキルはある悪魔祓いの若手でしかない。

 

 ……よくぞ、心病まずに生き残れたわね。

 

「「本当に、頑張ったわね」」

 

「同時に言わないでください。自分でも納得ですけど」

 

 言いたくなるわよ。

 

 まぁ、終盤で夢幻召喚(インクルード)を獲得してからはだいぶ底上げされたけれど。それにしたって、よくぞここまでついてこれたわ。

 

 むしろリュシオンの歪みが漸く対応され始めて、一皮むけたところもある。そういう意味では、ブラコンというのも大変ね。

 

 ……本当にそこは大変ね。

 

「私も毛色は違うけれど経験があるから分かるわ。こじらせたブラコンをよく持ち直したわね」

 

「すいませんカズヒ先輩。カズヒ先輩と比べられるのは、もの凄く失礼な言い方ですけど何かが違います」

 

 ……本当に言うようになったわね。ド正論だから反論しないけれど。

 

「ふふふ。ルーシアも人間として成長しているようね。うかうかしてられないんじゃないかしら、カズヒ?」

 

 追加でよく言ってくれるわね、リアス。

 

「ふふふ。コンプレックスがつかない程度の兄大好きで済んでるからって、あまり偉そうにしないでくれるかしら?」

 

「ふふふ。知ってますよ、隔離結界領域が隔離したあと、それとなくサーゼクス・ルシファー様の写真が載った雑誌を多く見るようになってるリアス先輩のことを」

 

 私の切り返しに乗ったルーシアに、リアスの頬が若干引きつった。

 

 ほんと、いい性格になっているわねルーシアも。

 

 ま、あまりぎすぎすした空気もあれね。

 

 そんなことを同時に思ったのか、三人揃って紅茶を一口。

 

 さて、再び共通の話題に戻るとしましょうか。

 

「で、それぞれ規模の大きな戦いになるわけだけれども、どうなのかしらね?」

 

 今後の試合に関しての話が、一番穏便に済みそうね。

 

「……そうね。オリュンポスとアースガルズの二代目主神が敵なうえ、その王は魔物達の王テュポーン。……こちらも切り札を用意するべきでしょうね」

 

「ミスターブラックさんの投入ですか? たぶんですけど、全盛期の天龍クラスはありますよね。……誰かという以前に、どこから見つけてスカウトしたのかが気になりますね」

 

 ルーシアが若干呆れ気味の表情を浮かべるけれど、まぁ確かにその通りね。

 

 アザゼル杯の駒価値で兵士八駒全部埋めるとか、どんな化け物なんだか。魔王クラスでも八駒は極僅かだし、それこそ主神クラスの化け物にはなるでしょう。

 

 その上で、いやでもイッセーと比べられるポジション。心理的な抵抗もあることを踏まえれば……誰も参加したくないわね。複数人ならともかく、たった一人でだもの。

 

 とても気になるけど、リアスは微笑むだけ。

 

「ふふ。それは試合を見るまで待って頂戴。彼も流石に、次期主神や魔物の王を相手にするなら出てきたがるでしょうしね」

 

 なるほど、かなり自由にやらせているようね。

 

 裏を返せばそれだけの実力者が揃っているという事。……今後が気になるわね。

 

 まぁ、それはそれとして。

 

「ルーシアは和地が相手でしょう? ……勝ち目、あるかしら?」

 

 と、リアスはそう伺うように聞いてくる。

 

 まぁ実際問題、和地はかなりの強敵ね。

 

 神器を二つ宿し、魔術回路を持つ、星辰奏者。更に神滅具を新たに宿し、極晃星に至っている。

 

 間違いなく最高峰のポテンシャルを持っている。如何にリュシオンとて、和地が守りに徹すれば崩すのは困難でしょう。

 

 そして人数ではフルメンバーを揃えられる若人の挑戦チームが有利とはいえ、涙換の救済者チームは手練れが多い。数では有利をとれても質では有利をとられることになる。

 

「和地は強いわよ? さて、どう挑むのかしら?」

 

 そう挑戦的に私が告げれば、ルーシアは小さく微笑んだ。

 

「ご安心を。こちらも無様な試合をする気はありませんので」

 

 ふふ、戦える自信はあるようね。

 

 なら、深く聞くのは野暮ということにしましょうか。

 

 そう思っていると、今度は二人の視線が私に集中する。

 

「そういうカズヒ先輩こそ、あのグレイフィアさんが相手ですよ?」

 

「そうね。魔王血族を従え、更にフロンズの支援まで受けているもの。……何を考えているのかしら、お義姉さまも」

 

 ルーシアもそうだけれど、特にリアスはやはり渋い顔ね。

 

 まぁ、そうでしょうね。

 

 政治的には対立していると言ってもいい、大王派の実権を握ったフロンズ。

 

 それを魔王サーゼクス・ルシファーのシンパを丸ごと抱きかかえることもできるだろうグレイフィアさんが協力する形で、チームとして参戦している。

 

 疑念が多すぎて頭を抱えたくなる。そういう事態なのは分かっているけど―

 

「まぁいいわ。最近話をさせてもくれないのでしょう?」

 

 ―なら、私のやることは一つだろう。

 

「乱暴な言い方だけれど、拳で語り合うとするわ。……大丈夫、私は荒事に強いもの」

 

 いい機会だし、リアスの心配の種を減らせないか試してみてもいいでしょう。

 

 ……覚悟しなさい、グレイフィア・ルキフグス。

 

 ちょっと暴走が過ぎていると、ここで教えてあげるわね。

 




 次回より、再びの連戦スタートです!


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戦愛白熱編 第九話 聖騎士と激突です!

 はいどうもー! とりあえずタブレットを新調したグレン×グレンでっす!

 まぁ、本格的に貯金がたまってないので当座のしのぎ用に安いのですが。まぁ一年持てばいいレベルで勝っておりますので、本格的なのはまた次の機会ですねぇ。

 まぁそれはともかく、大規模バトルの始まりとなります!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 よっし、新たな試合の幕が上がるぜ!

 

 気合を入れてスタジアムの控室を歩いているけど、やはり緊張感の一つや二つは湧いてくるな。

 

「さて、相手はデュナミス聖騎士団か。……ふふふ、腕がなるね」

 

「そうね、ゼノヴィア。教会武闘派の顔たるデュナミス聖騎士団、彼らなら相手に不足がないわ!」

 

 ゼノヴィアとイリナが戦意満々だけど、本当になぁ。

 

 相手はデュナミス聖騎士団。しかも、今後の和平を考慮して、各勢力から星辰奏者をスカウトしての複合チームだ。

 

 ヒマリがヒツギにスカウトされたのも、それが大きい。神の子を見張る者(グリゴリ)のエージェントだから、堕天使側の担当になっているそうだ。

 

 いろんなところに属している星辰奏者をスカウトしているらしいし、面白いことになりそうだよなぁ。これも和平の成果って奴か。

 

「主、この戦いも勝ち、主の名を更に知らしめましょうぞ!」

 

「その通りですわ。デュナミス聖騎士団の方々には悪いですが、先の試合で掴んだ勢いを次でいきなりなくすわけにはいきませんもの」

 

 ボーヴァとレイヴェルがそれぞれ戦意満々なことを言うけど、そう簡単にはいかねえだろ。

 

 なにせ相手は教会の精鋭部隊。色々あって人も減ったようだけど、だからこそ心技体揃った実力者が残っている。それも、各勢力から星辰奏者が参加しているぐらいだしな。

 

 間違いなく強敵だ。これは油断できないぜ。

 

 ……そして、ヒマリとヒツギがいるんだよなぁ。

 

 ヒマリ・ナインテイルとヒツギ・セプテンバー。道間乙女から分かれた二人の生まれ変わりで、俺によって準赤龍帝といえる状態になった子達。

 

 外側だけ見ると口調もあってお嬢様に見える時もあるけど、元気いっぱいで天然が入っているヒマリ。

 

 一見するとギャルっぽい雰囲気を持っているけれど、振り回され気味でしっかり者のヒツギ。

 

 二人が二人としてしっかり確立しているからだけど、結果的に仲が良すぎる凸凹コンビ。ま、そんなところも愛しく思うけどさ。

 

 そんなわけで、あの二人の連携攻撃はかなりヤバイ。星辰光も仮面ライダーも連携前提になっているから、タッグ状態なら神クラスにも届くだろう。

 

 つまり、強敵ってわけだ。

 

 俺の周りって、本当に強くて可愛い女子が多いって思うなぁ。いや、ホント。

 

「ヒマリさんとヒツギさんを、何とか引き離せれば有利になりますか?」

 

「そうですわね。ですが、相手だってそんなことは承知ですわ」

 

 アーシアが思いついたことを言うけど、レイヴェルがそれを認めたうえで首を横に振る。

 

「デュナミスの新生チームは、デュナミス聖騎士団のメンバーが連携を補佐する形で他のメンバーを生かしております。数においては明確にこちらが不利ですので、なおのことそれを崩すのは困難でしょう」

 

 そうなんだよなぁ。

 

 デュナミスの新生チームは、今後新生させることも含めたデュナミス聖騎士団のチーム。だからこそデュナミス聖騎士団が主力だし、彼らの高い練度が俺達にとって脅威になる。

 

 そしてそれを踏まえても入れていいと判断した他勢力の星辰奏者。つまり、それだけの価値があるメンバーで構成されているわけだ。

 

 油断できるわけがない。間違いなく、強敵だ。

 

 だからこそ―

 

「勝つぜ、皆」

 

 ―俺は、それを言ってのける。

 

 振り返り、俺を見てくれる皆に拳を突き出して見せる。

 

「俺達はいつだってそうだった。相手が全力で来るなら、俺達も全力で挑むだけだ。それが礼儀で……勝つ気でいくぜ!」

 

 その言葉に、皆も力強く頷いてくれる。

 

 ああ、挑ませてもらうぜ二人とも。

 

 俺は、俺達は……勝つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 関係者コーナーにうかつに入れないので、俺は一人で近くの自販機コーナーにいた。

 

 と、そこに飲み物を買いに来た二人組。

 

 期待通り。来てみて正解だったな。

 

「よっ、二人とも」

 

「あ、和地ですの」

 

 俺が手を挙げると、真っ先にヒマリが反応する。

 

「もしかして応援?」

 

 と、ヒツギの方がそう言うけど、まぁそういう事だ。

 

「どっち中心で応援するかは悩んだけど、イッセーの方が比率は多いだろうしな。俺は元相棒達を応援させてもらいます」

 

 冗談交じりでそういうと、ヒマリは小さく首を傾げる。

 

「んもう? 何回も何回もS〇Xした仲ですのに―」

 

「「シャラップ」」

 

 素早くヒツギと共に、俺はヒマリの口を塞いだ。

 

 そうだけど。そうだけどね? そういうのはもうちょっと隠しなさい!

 

 俺とヒツギが視線を合わせて肩を落とすと、ヒマリはそこから抜け出した。

 

「あ、ごめんなさいですの」

 

 お、珍しく反省―

 

「ヒツギは一回だけでしたわね。今のは説明がおかしい」

 

「「そこじゃない!」」

 

 ―してるけどそうじゃない。

 

 嗚呼全く。こいつザイアの生活が長すぎて、この辺の感性がぶっ壊れているなホント。

 

 この辺りの矯正ができなかったのはきつい。いや、本当にきつい。

 

「今後とも、イッセーと一緒に苦労させると思う。……いざとなったら手伝うから呼んでくれ」

 

「りょーかい。期待してるからマジで頼むじゃん?」

 

 半目でヒツギと同情しあってから、俺は肩をすくめつつ二人を見る。

 

「ま、どっちが勝つか分からないけど……胸張れる戦いを目指すんだな。それなら無念はあっても悔いはないだろ」

 

 なんというか、ありきたりのない言葉になったかもしれない。

 

 ただそれでも、胸を張って戦えたといえるのなら、割とすっきりした結果になるだろう。

 

 やらずに後悔するならやってから後悔した方がいい。そんな言葉がある。

 

 やって後悔するぐらいなら、最初からしない方がいい。そんな反論もある。

 

 そのどちらにも言い分はあるんだろうが、俺が言えることは一つある。

 

 全てに勝つなんて不可能に近い。負ければ嫌な思うもするだろうし、無念も出るだろう。ただ、悔いは残らないように戦い抜くことは、競技試合ぐらいならできるだろう。

 

 なら、大事な仲間にそういった試合ができることを願いたい。俺はそう思う。

 

 だから、まぁな?

 

「……思う存分頑張ってこい。そこは間違いなく応援できるからさ?」

 

 ああ、そこははっきり断言できる。

 

 なんたって―

 

「仲間の健闘を願うのは、当たり前のことだしな」

 

 ―そう、心の底から言えるから……さ?

 

「もちろんですわ! むしろイッセーの首級を上げるぐらいでいきますわよ!」

 

 元気いっぱいの笑顔でヒマリはそう言ってくれるけど、首級を上げるな。

 

「たはは……。ま、変に出し惜しみはしないじゃんか。ほら、イッセーが相手だし?」

 

 そう言ってくれると助かるぜ。ヒツギはそれぐらい冷静な方がいいだろうしな。

 

 ああ、そこは心から応援してるからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、アザゼル杯もそろそろ序盤は終わり、激闘は更に激しくなります!』

 

 スタジアムに響き渡る、実況の声。

 

 そしてそれに呼応するように、対を成す入場口から選手たちが舞台に向かう。

 

『さぁ! みんなのアイドルおっぱいドラゴン率いる、燚誠の赤龍帝チーム! そして教会の誇るデュナミス聖騎士団を中核とするデュナミスの新生チーム!!』

 

『『『『『『『『『『わぁあああああああああっ!』』』』』』』』』』

 

 鳴り響く大歓声に応えながら、舞台に上がる二つのチーム。

 

 双方が笑みと共に向き合う中、それを見据える者達も数多い。

 

「さて、教会の顔役たるデュナミス聖騎士団に、D×Dの顔たるおっぱいドラゴン。双方ともにどんな戦いをするか、見ものだね」

 

「個人的にはデュナミス聖騎士団に注目ね。アマゴフォースも彼らと同じで星辰奏者(エスペラント)が中核だから、戦術には参考にできる点が多そうだもの」

 

 並び立ってそう語り合うは、英雄派の曹操とサイリン・アマゴ・ドゥルーヨダナ。

 

 共に英雄派でありながら、比較的自由に動けるメンバーでもある。

 

 ゆえに、直接試合会場まで足を運んでの試合観戦。

 

 今後の難敵となりえるだろう者達を調べるのは、対策として当然。こと敵を調べ上げてから挑む傾向のある英雄派にとって、それは何らおかしなことではなかった。

 

 と、そこに足音が響く。

 

「……ほぉ? おぬしらも来ておったのか?」

 

 視線を向ければ、そこに歩み寄るは九条・幸香・ディアドコイ。

 

「やぁ。フロンズの子飼いは自由みたいだね?」

 

「天帝の子飼いも自由のようじゃのぉ?」

 

 軽い皮肉の応酬をするが、双方ともに本題はそこではない。

 

 そのまま視線を向ければ、そこでは試合のフィールドに転移される両チームの姿が。

 

 かつて英雄派という同じ組織に属していた者として、強者との戦いに心躍る精神性が双方にある。

 

 ゆえにこそ、まごうこと無き強者であるおっぱいドラゴンとデュナミス聖騎士団。

 

 その競い合いに心が躍る。

 

「さて、この試合はどう動くのかしらね?」

 

 そう、二人の反応を見るようにサイリンが話を振った時―

 

「……ふっ。さぁ幸香、呼ばれる前からビールを買ってきたぜ?」

 

 ―滑り込むように、一人の男性が曹操と幸香の間に割って入っていた。

 

 曹操もサイリンも目を見開く。それは、男が高速で割って入りながら必要以上の空気の揺らぎを生んでないという事実。

 

 手に持っているビールもこぼれていない。それは、彼が超高速域で高いバランス感覚を保てるからこその力量。

 

 その一瞬で、この男は手練れであることを無意識に証明した。

 

「うむ! だがこの程度で妾の心は射抜けぬぞ?」

 

「もちろんさ! この程度で射抜ける安い女に惚れてないぜ?」

 

 そして同時に、変人の類出であることも理解した。

 

「……蓼食う虫も好き好き、と君の故国では言うんだっけ?」

 

 曹操のその皮肉に、幸香は苦笑しながら頷いていた。

 

「ふっ。その蓼はこの世で最も美味だからな。そこらのハンバーグでは足元にも及ばないだろうさ」

 

 そして男の方は、頓珍漢な返答を返していた。

 

「……で、どちら様かしら?」

 

後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)筆頭戦力新メンバー! いずれ幸香と添い遂げる男、一橋(ひとつばし)幸雄(ゆきお)・ディアドコイ! 帝国船長(キャプテン・マケドニア)と呼んでくれ!」

 

 サイリンが尋ねれば、無駄に濃い自己紹介が返ってきた。

 

 五秒、曹操とサイリンは沈黙する。

 

 そして胸を張ってどや顔になっている幸雄をちらりと見てから、幸香は微笑んだ。

 

「モテる女はつらいものでな。そうは思わぬか?」

 

「「自分で言うのか……」」

 

 当たり障りのない返答が返ってきた。

 

 とりあえず、曹操とサイリンは五歩ほど二人から距離をとったことを明言する。

 




 ようやく出せたぜ、帝国船長。

 かなり前から設計をしていましたが、本格的に出すタイミングを逸し続けてきた男です。第三部ではかなりガチなポジションになる予定。


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戦愛白熱編 第十話 激突! デュナミスの新生チーム(その1)

 ハイどうもー! 病院に言ったらなんか一部の数値が跳ね上がっていてちょっとビビったグレン×グレンでっす!

 最近の筋トレが要因みたいで、たいした問題ではないようですが。肝心な部分は横ばいなのでまぁ大丈夫でしょう。

 それはそれとして、白熱の戦いが始まります!


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 イッセー君達が転移される中、実況の人はルールの解説を行おうとしている。

 

 さて、今回はどんなルールだろうか。

 

 半端な特殊ルールやテクニックなら、問答無用で吹き飛ばす。イッセー君達はそれができるチームであり、下手な神クラスより強大な存在だ。

 

 だがデュナミス聖騎士団も、まごうことなき精鋭集団。

 

 純粋な個の性能ではイッセー君に劣るだろうけれど、連携でそれに対応可能だろう。何より、状況次第では神クラスとの戦闘も視野に入れた部隊のはずだ。イッセー君が相手でも苦戦させれるぐらいの戦闘は可能だろう。

 

 そんな彼らがどう出るか、それはとても気になることだ。

 

『さぁ、皆さんお喜びください! 今回のルールはアザゼル杯が初運用になる特殊ルール! その名も、サード・スコードロンだぁああああっ!』

 

 その実況の言葉に、僕は少し驚いた。

 

 アザゼル杯がお祭りであり、また新しい形のレーティングゲームの模索であるとは知っている。だからこそ、アザゼル杯だけの特殊ルールや新しいルールのテストもするとは思っていた。

 

 ただ、映される映像に多少の予想外が生まれている。

 

 そこに移されるのは、30人前後のデビルレイダー部隊。それも、三か所に投入されている。

 

「……フロンズの発案?」

 

「なるほどなるほど~? あの大王派肝いりのレイダー部隊をどっちが早く全滅させるかっすかね? あ、でもそれだと部隊の数が多いですなぁ」

 

 小猫ちゃんとリントさんが首を傾げる中、解説映像が展開される。

 

『ルールは簡単。第三勢力の介入を想定した特殊ルールとなっており、デビルレイダー一個中隊が存在するフィールド内で、彼らとも戦いながら敵の王(キング)を撃破するという、ある意味では単純なゲームとなっております!』

 

 その説明に、観客の皆は湧き始める。

 

 デビルレイダーは、フロンズ達大王派の若手が提供した新兵器だ。一体一体の性能はさほどではないが、共通の星辰光(アステリズム)を連携で運用することで、高い戦闘能力を発揮できるようになっている。

 

 彼らを第三勢力とした状態での、乱戦を模したルール。実際その通りなのだろう。

 

 実戦の練習を兼ねている側面。ゲームにまだ残っているその部分を重点的にしたものだろう。フロンズ達の意見が入っているんだろうけど、彼ららしい。

 

 僕が感心していると、リアス姉さんは少し渋い顔をしている。

 

「そういう事ね。……やってくれるじゃない」

 

 ん?

 

 確かにフロンズらしいルールだけど、渋い表情をするほどだろうか?

 

 そう思っていると、朱乃さんも少し考えこむ表情になっている。

 

「もしかして、本命はそういう事かしら?」

 

「……そういう事だろう」

 

 と、朱乃さんに呼応するように、ミスター・ブラックが感心している。

 

「レーティングゲームに実戦の練習という側面がある。それを逆手に取り、一個中隊のデビルレイダーに乱戦の経験を積ませるのが狙いか」

 

 そうか。その手があったか。

 

 レーティングゲームは実戦の練習という側面もある。ゲームだからこそのルールもあるけれど、シンプルなルールなら実戦練習の要素も多分に含まれる。

 

 つまるところ、このルールの本命はデビルレイダーの実戦練習。それも多勢力が入り乱れる乱戦を視野に入れた練習になるわけか。

 

 確かに、和平が結ばれたこともあり勢力が入り乱れる乱戦は少なくなる。またデビルレイダーは十数人程度で運用するコンセプトになってない為、レーティングゲームでは実戦練習にしにくい側面もある。

 

 それを、レーティングゲームの敵役として出すことで克服したとは……っ

 

「ルールを逆手に取ったんですか。あの人達、いつものことですけど抜け目がなさすぎですぅ」

 

 ギャスパー君が感心するけど、同時にちょっと引いている。

 

 それもそうだね。

 

 彼らが根本的に政敵であり、背中を預けきれる手合いではないことはすでに僕らもわかっている。

 

 そして政敵ということは、万が一の場合は内乱の形で殺し合いになる可能性もあるという事だ。

 

 その際、少数精鋭の部隊として運用されるだろう王と眷属による編成。それに慣れたデビルレイダー部隊が多数投入されれば。相当の被害がデビルレイダー部隊だけでもたらされることになるだろう。

 

 背筋に寒気が走る。フロンズ・フィーニクス達はどんな可能性まで視野に入れているというのか。

 

「これは、私達もうかうかとしていられないという事ね」

 

 リアス姉さんはため息をつきながら、そう言い切った。

 

「気合を入れ直すわよ。次の試合、私達もそろそろ本気でいきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは、試合開始は五分後となります! 両チームともに準備をお忘れなく!』

 

 実況のアナウンスを聞いてから、俺達は集まって会議を開く。

 

「で、どうするんだこれ?」

 

 俺が真っ先にレイヴェルに聞くと、レイヴェルも少し考えこむ様子を見せた。

 

「さほどの問題はありませんわね。要はデビルレイダー一個中隊が第三勢力であり、優先目標でもないのですから」

 

 お、レイヴェルは強気な意見。

 

 不敵な笑みすら浮かべて、レイヴェルは指を立てる。

 

「デビルレイダーの一個中隊程度、イッセー様やアルティーネさん、ゼノヴィア様やイリナ様なら鎧袖一触ですわ。アーシア様もそれぐらいの数から捌き切れるでしょうし、私やボーヴァさんでも圧殺されることはないですから、鬱陶しい以外の何物でもないかと」

 

 容赦ないけど、確かにその通りだ。

 

 デビルレイダー部隊は数と連携で挑んでくる戦力。だけど中級悪魔の十や二十程度なら、俺やアルティーネならまとめて吹っ飛ばすこともできる。ゼノヴィアやイリナでも、手古摺りはしても倒されることはないだろう。

 

 だからこそ、一個中隊のデビルレイダーはそれだけなら物の数じゃない。

 

 それに、ルールを確認する限りデビルレイダーの撃破は明確なポイント変動もない。いうなれば、「目的とは関係のない邪魔者部隊」にとどまっている。

 

 つまりだ。旨味のない第三勢力がいるという、ただそれだけの特殊ルール。レーティングゲームが最大でも30人前後の戦いになるから100人を超える乱戦になりえるこのルールは目立つけど、それだけなんだ。

 

 というよりだ、たぶんだけどフロンズ達の狙いはそこにないだろう。

 

 細かいところはリアスやレイヴェルが考えるだろうし、俺はゲームに集中するか。

 

「となると、相手チームを潰すことに集中してればいいんだろうか?」

 

「そうですわね。もちろん横からつつかれると邪魔ですが、それは相手も同じこと。あまり深く考えない方が得策でしょう」

 

 なるほどなるほど。まぁ、俺も深く考えるのは苦手だしな。

 

 要は乱戦。それも優先順位が低い。そこだけ考えて惑わされるなってことか。

 

 ああ、それなら分かりやすい。

 

「皆。ぶっちゃけて言うとフロンズは相いれないけど、それでも一応味方だ。なんか企んでいるだろうけど、むやみやたらと冥界を揺るがせたりはしない。……そこはちゃんと考えていいだろう」

 

 俺は皆を見渡すと、そこをまず告げる。

 

「あいつらが何を企んでるかは今はいい。それは分かる人達に任せて、俺達はこの試合に集中するぜ!!」

 

 待ってろよ、ヒマリにヒツギ。

 

 デュナミス聖騎士団。相手にとって不足は……ない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 俺は敵情視察も兼ね、一人試合会場に足を運んでいる。

 

 なるほど、実戦を主眼に入れた特殊ルールという事か。そこにデビルレイダー部隊の訓練を踏まえている、と。

 

 フロンズも抜け目ないことで。まぁ、今回のメンツならさほど問題はないだろうがな。

 

「それで、どう思うんだ?」

 

 よく知っている気配がしていたので、俺はそんなことを口に出す。

 

「第三勢力が増えた程度でやることは変わらんだろう。俺ならただ殴り倒すだけだな」

 

 そう返すのは、俺と同じで敵情視察に来ていたのだろうサイラオーグ・バアル。

 

 そして同時に、ちょっと見知った人も来ていた。

 

「お久しぶりだな、サイラオーグ。……それと、マグダランさんも」

 

「ああ、久しぶりだ」

 

 そう返すマグダランさんは、眷属を含めてサイラオーグ・バアルのリザーブメンバーに収まっている。

 

 どうやら兄弟関係はそれなりに修復できたようだ。例のバアル城襲撃事件が、お互いに腹を割るいい機会になったんだろうとしておこう。

 

 それはそれとして、だ。

 

「フロンズも色々と動いているようだが、バアルとしてはどれぐらい掴んでいる?」

 

「軍事力の刷新に力を入れているようだ。使われている技術の見直しを進め、技術面でもコスト面でも古く遅れている分野を更新しているな。あと、浮いた分の数割を給金にも回しているようだぞ」

 

 サイラオーグ・バアルもやることはやっているようでありがたい。そして、フロンズ達も動いているな。

 

 これまで旧態を維持したうえで利権を独占する方向が強かったのが大王派。だがフロンズが大きく実権を握ったことで、一気に改革が進んでいる。

 

 王の駒やゲームの不正で、大王派の古い権力者が大きく失脚したことが大きい。更にフロンズがバアル本家の危機を救ったこともあり、残った大王派に対する影響力が大きくもなっている。そこのフロンズの立ち回りもあり、生き残った旧家もあまり反発しないでいるしな。

 

 それを利用して、変えれる部分を急激に刷新。その空いたリソースを人心掌握に回している。やり手なようで何よりだ。

 

 今回のゲーム新ルールもその一環。おそらくだが、サンタマリア級を攻めるミッションやGFを仮想敵とするミッションも提出しているだろう。

 

 ……きな臭いところもあるが、同時に冥界全体に益が出る動きでもある。政敵の範疇を出ない程度の立ち回りだな。

 

 まぁ、各勢力が和平で大体まとまっているのが現状だ。衛奏により極晃星(スフィア)というちゃぶ台返しも難しくなっているしな。フロンズも馬鹿なことをする発想はないだろう。

 

 冥界の未来を自分なりに考えている。その一点においては間違いはない。俺もそこは考えている。

 

 とはいえ、だ。

 

「政敵ってのは、完全に背中を預けられるものでもないからな。隙あらばどこかにとてつもない権益をねじ込みそうなやつらだし」

 

「そうだな。悔しいが、ソーナ抜きでは政では俺達は苦戦必須だろう」

 

 だろうな。

 

 ソーナ先輩、前回の自爆戦法でフロンズのボーダーラインを感覚的につかんだらしい。ギリギリの塩梅でせめて、向こうとやり合っているとか。

 

 あの人本当に頼りになる。戦力部分では一歩劣るが、頭脳面ではD×Dの主力だしなぁ。

 

 ま、それは置いておいてだ。

 

「ま、兄弟仲はましになったようで何より。血の分けた家族が変にいがみ合うのも嫌な話だしな」

 

「……その節は、心配をかけたようだな」

 

 マグダランさんは悪い人じゃないだろうし、サイラオーグ・バアルも合わないところはあるが好漢だ。

 

 面倒な家に生まれて面倒なことが多いだろうが、ま、これぐらい仲がいいならこっちが援護すればある程度は乗り越えられるだろう。

 

 フロンズに関しても考えすぎは良くない。奴は政敵だが、政敵の範疇内に収まっているのなら敵の敵ではあるし歩調もある程度は合わせてくれる。

 

 サウザンドフォースは底が見えないし、禍の団も新たな盟主を獲得した。流出した技術による各種テロリストはもちろんなこと、ここ最近は出所不明の技術までもが現れている。

 

 注力するならそこであり、そして今はそこでもない。

 

「ま、今は素直に試合を観戦するか。ちなみに俺は今回、デュナミス聖騎士団側につかせてもらうがな」

 

「俺はもちろん兵藤一誠だ。あの男に魅せられた者としてそこは譲れんのでな」

 

「……とはいえどちらも凄腕。果たしてどちらが勝つのやら」

 

 さて、素直に試合を楽しむとするか。

 




 新ルールは割とフロンズ達が絡んでくることが多いです。GFを利用したモンハンじみたルールを作ってみたいところですなぁ。


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戦愛白熱編 第十一話 激突! デュナミスの新生チーム(その2)

 うん。活動報告関連はいい感じな反応でよかったと思っている、グレン×グレンでっす!




Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばよ? サード・スコードロン、初試合がおっぱいドラゴンとデュナミス聖騎士団だとよ?」

 

「そうか。それは実にありがたい」

 

「ありがたいぃ? どう考えてもちょっと邪魔な雑魚どまりだろ? ある意味デビルレイダーの価値が下がるんじゃね?」

 

「あれは化け物に負けさせる経験を積ませるのが目的だと言っただろう? むしろ調子に乗って暴走させないよう、神クラスが出てくるような試合を経験してもらいたかったのでな」

 

「……ま、あれは一個中隊や一個大隊、それこそ連隊規模や師団規模の運用を視野に入れてるからな。統率をとる集団戦術に変な野心はあると困る」

 

「そう。デビルレイダーはいうなれば、雑兵の蹂躙や人海戦術による圧殺が本命だ。つまるところ、野心や功名心で変な動きをしない者達に与える武装なのでね」

 

「だからこそ、少数でヤバい連中に挑むなんて考えを捨てさせるってか? 怖いねぇ、フロンズは」

 

「ふふ。分ったうえで兵士を調子に乗らせたのは君だろう、ノア」

 

「後継私掠船団みたいな光極めたメンタルならともかく、有象無象は鼻っ柱が粉砕されるような挫折経験があった方がいいだろ。命令を順守して余計なことをしないってのが、数担当の連中には必要だからな?」

 

「そういうわけだ。精々、冥界の英雄と教会の精鋭集団には彼らの増長するリソースを削ってもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が見守る中、ついに試合は始まった。

 

 デビルレイダー部隊はそれぞれ分隊に分かれつつ、外周を囲むように展開し中央部に向かって動いていく。

 

 包囲の形をとることで、あえて乱戦を避ける狙いだろう。またこの形式が本質的に二チームの争いである以上、イッセー達やデュナミス聖騎士団は連携をとるという選択肢は取りにくい。その心理的圧迫も含めているな。

 

 やはり、このルールはデビルレイダー部隊の訓練を兼ねているな。そうでなければ、二チームが決着をつけることを重視しない自分達が両方倒すような策はしないだろう。

 

 さて、イッセー達はどう動くかと思ったとき。デュナミスの新生チームに動きがあった。

 

『おぉっとぉ!? デュナミスの新生チーム、全力で後退しております!? どういう動きでしょうかぁ!』

 

 デュナミスの新生チームは凄い勢いでフィールドの端に移動している。

 

 ……なるほど、そういう事か。

 

「背水の陣、という事か?」

 

 サイラオーグ・バアルも気づいたようだが、おそらくそうだろう。

 

 ただ、マグダランさんの方は首を傾げている。

 

「背水の陣は知っていますが、レーティングゲームでする意味がありますか?」

 

 言いたくなる気持ちは分かる。

 

 レーティングゲームは限られたフィールドでお互いが競い合う競技だ。背水の陣以前に逃げることがほぼ不可能であり、態々そんなことをする意味が薄く感じるだろう。

 

 だが違う。あれにはもっと意味がある。

 

「マグダランさん、実は背水の陣は堅実な策なんです」

 

 そう、あの策は案外理に適っている。

 

「元になった逸話では、あれは敵を城からおびき出すのが目的の一環。その後別動隊で城を落としたそうです」

 

 そう、背水の陣は逃げ道を断って気合を入れさせるだけではない。

 

 むしろ川を後ろにするということは、逃げることができない代わりに敵に後ろをとられる余地も薄くなる。そうなれば集中して戦うことができ、別動隊が城を落とすまでしのぎやすい。

 

 そう、フィールドが制限されるということは、後ろをとられない場所をとれるということになる。

 

 加えて―

 

「自分達は後ろをとられない中で、攻めに転じた兵藤一誠達と攻撃を仕掛けるデビルレイダー部隊が入り乱れたところを攻撃できる、という事だろうな」

 

 サイラオーグ・バアルはその辺りをしっかりと読んでいる。

 

 自分達が乱戦になることを避け、敵の仕掛けてくる方向を制限する。ある意味で正当な作戦だろう。

 

 さて、イッセー達はどう出る―

 

『喰らえ∞ブラスタァアアアアアッ!』

 

 ―と思ったら、盛大に大火力砲撃がいきなりぶっ放された!?

 

 そして砲撃はそのまま一片を吹き飛ばす。

 

 巻き込まれたデビルレイダー部隊は瞬く間にリタイアし、安全地帯が完成してしまった。

 

 大味な作戦だが、これは読み切れなかったかもしれないな。

 

 なにせ、疑似龍神化は一分も持続できない切り札中の切り札。可能ならある程度取っておきたいと思うだろう。雷光チームとの闘いでも、速攻で使ったりはしなかった。

 

 だからこそ、速攻の発動は想定外になる。

 

 そして一方向を盛大に吹き飛ばしたことで、イッセー達も安全地帯を確保したようなものだ。

 

 既にそこに向かい進軍してから、時計回りにチーム一丸になって走っている。

 

 やっぱりあの火力、反則じみているな。

 

 今後イッセー達のチームと戦うのなら、あの火力をどうにかする手段かイッセーを完全に抑え込める戦力が欲しいところだ。出なければ、圧殺されるのが目に見えている。

 

 となると、俺達の場合は俺がイッセーを抑え込むしかないだろう。しかしそうなると、俺とキャスリングの組み合わせをブラフにすら利用する俺達のチーム的に扱いが難しいところはある。

 

 やはり人材の確保は急務か。今後を踏まえると、俺一人が極点ではいけないということは確定的に明らかだしな。

 

 そんなことを考えていると、どうやら各チームはそれぞれが集まっているな。

 

 二個分隊ほど吹っ飛ばされたデビルレイダー部隊は、あえて圧殺される可能性を覚悟して一回合流。そのまま移動を開始する。

 

 イッセー達はそのまま時計回りに移動し、しらみつぶしでデュナミスの新生チームを探している。

 

 さて、既に待ち構える形のデュナミスの新生チームはどう動くか。

 

 そんなことを考えながら、俺はちょっとだけ目を閉じる。

 

 ヒマリ・ナインテイルとヒツギ・セプテンバー。俺の母親たる道間乙女の成れの果てともいえる、二人の少女。

 

 長年ザイアで相方になっていたヒマリや、出会ってからすぐに苦労人な感じで同調していたヒツギ。二人の少女がイッセーに恋い焦がれていることは分かり切っている事実だ。

 

 だからこそ、俺は二人の方を応援している。

 

 勝ち負けはこの際置いといて、悔いが残るような無様はさらすなよ。そう願う。

 

 さて、どうなるかな?

 

 そう思った時、デュナミスの新生チームも動きを見せた。

 

 ……へぇ、そう来るかっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合は序盤から大技が飛び出すような、インパクトのある展開になっている。

 

 最もそこから少し落ち着いているけれど、デビルレイダー部隊を含めた全チームが集まり、そこからといったところね。

 

「……デビルレイダー部隊に引っ掻き回されることを避けた、といったところかしらね」

 

 私が映像を見ながらそう呟くと、隣の鶴羽も頷いている。

 

「ま、複数勢力が入り乱れるなら挟み撃ちとかは避けたいしね。当然っていえば当然?」

 

「安全地帯を確保してから、そこまで集まって囲まれるリスクを減らす。ま、適格だわなぁ」

 

 勇ちんもそう言うけれど、まぁそう来るわね。

 

 ……レイヴェルの作戦傾向は、自分達の強みを如何に押し付け続けるかに集約されている。

 

 弱みをカバーする為にリソースを割くより、長所を押し付け続ける為にリソースを集中する。一つの選択肢ではある。

 

 まぁ実際、明確な強みがあるならそれを押し付け続けるのは有利だもの。それを押し付け続ける戦術ドクトリンはある意味で正道。覇者の在り方といえるだろう。

 

 態々相手の土俵に付き合ってやる義理はない。どちらかと言えば私よりだけれど、そこにどう折り合いをつけれるかが今後を分けるかもね。

 

 そう思いながら試合を見つつ、私は視界に映るオトメねぇに意識を向ける。

 

「で、オトメねぇはどう? 大丈夫?」

 

「その言い方は、おかしくないかな?」

 

 ちょっと不満顔だけれど、この辺りは色々と考え込まざるを得ないから仕方ないもの。

 

 ヒマリとヒツギは、かつての乙女ねぇが分かたれて生まれた存在。そしてイッセーはそんな二人の心を射止めている。

 

 だからこそ、気にしないのも無理があるだろう。というより、少しは気にして当然だ。

 

「ま、どう転ぶかは分からないけどねぇ? それでも、イッセーの場合は安心よねぇ」

 

 リーネスもそう言うけれど、オトメねぇは寂しげに笑いながら首を横に振る。

 

「彼はその……そういう風には見てないから。いい子なのは分かるけどね?」

 

 ふぅん。

 

 ま、誰も彼もがイッセーに夢中になるわけじゃない。というより、普通の人間にはモテてるわけじゃない。

 

 とはいえ、もうちょっと気にしてもいいかと思ったけれど。

 

 思わずまじまじと見つめていると、オトメねぇは少し俯き気味だった。

 

「私には、ちょっと明るすぎるかな?」

 

 ……。

 

 誠にぃは落ち着いているタイプだ。イッセーとは反対の方向性といえる。

 

 そんな誠にぃを愛していた乙女ねぇからすれば、イッセーは食指が動かないのかもしれない。私が和地というまた違ったタイプと添い遂げたことから、ちょっと失念していたかしら。

 

 そう思っていると、映像の方で湧き上がるような大歓声が響き渡った。

 

 視線を戻すと、デュナミスの新生チームも激突を選んだらしい。既に燚誠の赤龍帝チームとぶつかり合っている。

 

 やはりやるわね。というより、大火力砲撃を封じればデュナミス側の勝率は大幅に上がるもの。

 

 更なる追加砲撃がくるより先に、一気に接近して制圧にかかる。そういう判断に映ったという事でしょう。

 

 さて、イッセー達はどう動くかしら?

 

 今後の参考も兼ねて、しっかり見させてもらうわよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 くっ! そう簡単に思い通りにはいかねえか!

 

 デュナミスの新生チームは俺達に対して真っ向勝負を仕掛けてきやがった。それも、文字通り全チームでだ。

 

「そう来ましたか。確かのこの位置取りなら、デビルレイダー部隊が仕掛けてきても乱戦になりにくい。こちらより早く気付きましたわね」

 

 レイヴェルも歯噛みするけど、なるほどな。

 

 俺達は今フィールドの外延部にいる。一方向だけでもシャットアウトすることで乱戦になりにくくする為だけど、相手もそれを考えて動いていた。

 

 そして俺の∞ブラスターで部隊も三分の二になっているから、デビルレイダー部隊は全方位からの圧殺なんてしたくてもできなくなる。純粋に戦力を分散させて対応できる質じゃないからだ。

 

 そしてこの試合は俺たち2チームのどちらかが勝つかという戦いだ。なら、比較的危険度が少なくなったこのタイミングで仕掛けるのは当然。

 

 こっちもゆっくり時計回りで移動しながら対応するつもりだったけど、対応はあっちの方が早かった。

 

 流石は精鋭部隊が母体のチーム。こういう時なノウハウや経験の差が出るってか。

 

 だけど、なぁ!

 

「真っ向勝負は望むところさ!」

 

 俺達の戦いは、そっちの方がやりがいがあるからな!

 

 真正面から打ち破る。いいじゃねえか、お祭り騒ぎにはもってこいだ!!

 

 だからこそ、俺は拳を握り締める。

 

「行くぜ皆! こうなれば、小細工無用でいくべきだ!!」

 

「そうだな! こちらの方が私達らしいというものだ!!」

 

「ははぁっ! 我が主達の望むとおりに!!」

 

 俺に応えるように、ゼノヴィアとボーヴァもついてくれる。

 

 ああ、この方がいいってもんだろうさ。

 

 勝つ為の作戦は大事だ。だけど、やるなら真っ向勝負の方が性に合っている。

 

 それに、俺もぶつかるべき相手ってのがいるだろうしな!!

 

「さぁ、かかって来いよ……ヒマリ、ヒツギ!!」

 

 俺はそう言い、そして拳を握り締めて突っ込んでいく。

 

 そんな俺に、小さく微笑んでいるのが分かる二人組。

 

 ヒマリとヒツギがそこにいて、そして―

 

「よかろう! だがこの戦いはチーム戦である!!」

 

 ―降り立った騎士団長。ストラス・デュランさんがメイスを振り上げる。

 

「何より貴殿は、女体相手にはめっぽう強い! 一人ぐらいは補佐がおらんとな!!」

 

「ぐうの音も出ないのでOKです!!」

 

 ああ、それぐらいはかまわないさ。

 

 何より相手も(キング)なんだ。それぐらいはなぁっ!!

 

 さぁ、本格的な戦いを始めようか!!

 




 勘違いされる傾向が多かったのですが、このルールの本命は「トップクラスの連中がいかに化け物か、実戦前に体に叩き込む」なフロンズ達です。

 ボトムアップされた軍勢こそがデビルレイダー部隊なので、調子に乗って独断行動をとられる可能性は避けたい。そしてレーティングゲームは基本的に少数精鋭の戦術を視野に入れている。

 これによりトッププレイヤーやその眷属という、「精鋭の集団」相手を一個中隊如きのデビルレイダー部隊で挑むのは大変なんだよと、死なない形で骨身にしみこませるのがフロンズ達の定めたこの特殊ルールの真相です。

 フロンズ達はかなり先を見据えて動いており、よほどのことが無ければ派手なことは起こしません。ただ相当のブレイクスルーがあれば事を起こすことも視野に入れているため、調子に乗らない統率のとれた軍勢は少しでも多く欲しいところ。

 ……精鋭? 何のためのGFと後継私掠船団だと?


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戦愛白熱編 第十二話 激突! デュナミスの新生チーム(その3)

はいどうもー! これが乗るころには活動報告も更新しているだろうグレン×グレンでっす!

さぁて、白熱の戦いはつづいていくぜぇえええええ!


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌く流れ星ぃっ!!』

 

 その瞬間、ストラス・デュランは星辰光を発動する。

 

 両手の拳を握り締めて攻撃を仕掛けるイッセー君に対して、彼はメイスを巧みに操ってそれら全てを裁いて見せた。

 

『主の愛に応えるがために幾年月、磨き上げたはこの力。代行として悪を討つ、天の武は此処に参上する』

 

 早い。その対応速度はあまりに早く、それゆえに異常すら感じてしまう。

 

 そもそもメイスとはその性質上、小ぶりの連続攻撃には向いていない。攻撃を当てる打突部が大きくなる性質上、慣性の法則や重心のバランスが一撃に重視しているからだ。

 

 だが、その上で言える―――早い。

 

『怒りの裁き。慈愛の許し。矛盾を併せ持つ威光こそ、我らが主の輝きなり』

 

 真女王状態のイッセー君は、単独で魔王クラスの力を保有する。それはスピードも尋常ではないということで、龍神による肉体がそれを後押ししているのは言うまでもない。

 

 そんなイッセー君の戦闘技術は、かなり高まっている。初代孫悟空殿の教えを受けて力の配分を上手くコントロールできるようになり、無駄もだいぶ省けた。つまり、動きがスマートで流れるようになってきている。

 

 だからこそ、両手に蹴りまで入れた連撃をメイスで捌き斬るのは不可能に近い。

 

『汝が罪を悔いるなら、今が改める時である。決してたやすくない贖罪、我らが支えとなろうとも』

 

 そう、ゆえにそれが彼の星。

 

『恥じぬというなら是非も無し。代行されし裁きによって、お主を審判へと送り出そう』

 

 それすら補う動作の速さ。それこそが彼の星の性質だ。

 

『僭越なる代行の重さを背負い、聖なる騎士がここに立つ。主の裁定が下るその時まで、恥じぬ生き様見せようぞ!!』

 

 動作高速化能力。とても分かりやすい星辰光(アステリズム)が具現化した。

 

超新星(メタルノヴァ)祈りの守護者、聖なる勇士は此処に(パワーズ=フォース・ガーディアン)ッ!!!』

 

 更に、その力は瞬く間に増大する。

 

 発動値(ドライブ)に到達したうえで、さらに感応する星辰体(アストラル)が増大化する?

 

 まさか、これはつまり―

 

人造惑星(プラネテス)化する禁手って、ありなんですか!?』

 

『前人未踏を何度も行うよりは妥当である!』

 

 ―正論でイッセー君を切って捨て、今ここに恐ろしいまでの力が具現化する!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストラス・デュラン

 

祈りの守護者、聖なる勇士は此処に(パワーズ=フォース・ガーディアン)(括弧内は禁手発動時)

基準値:D(B)

発動値:(AAA)

収束性:(AAA)

拡散性:E

操縦性:E

付属性:C

維持性:C

干渉性:E

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その豪快かつ俊敏な連撃は、イッセー君を縫い留めるだけでなく翻弄する。

 

 更にそれを掻い潜るように、一対で挑む紅の仮面ライダーが割って入る。

 

 間違いない、クリムゾンラクシュミーにクリムゾンナジェージダ。連携戦闘を絶対とする代わりに、大きな進化を遂げた二人の仮面ライダーだ。

 

 ただし、それを無条件で許すわけがない。

 

 そう、そこに滑り込むは二人の剣士。

 

『三対一とは無粋だな!』

 

『ふふ、私達も混ぜて頂戴!』

 

 ゼノヴィアとイリナさんが割って入り、戦闘は三対三の様相を示していく。

 

「……流石はかのデュナミス聖騎士団。相応の者でなければ選ばれないとは分かっていたけど……ね」

 

 リアス姉さんがそう呟くと、素早くタブレットを操作する。

 

「彼の神器は公表されているわ。準神滅具(ロンギヌス)である現世を照らす十の宝玉(セフィラ・スフィア)

 

 準神滅具。教会が誇る精鋭部隊の団長なら、それぐらいはあっても不思議じゃない。

 

 僕が感心していると、ギャスパー君が唸るようにその戦闘を見つめている。

 

「僕もある程度聞いてます。幽世の聖杯の下位互換といえる神器で、()()の生命と魂を強化する神器だって」

 

 なるほどね。

 

 幽世の聖杯と違い、自分だけを対象にしているという事か。

 

 とはいえ、それはすなわち必要に応じて適した存在に己を作り変えるという事。

 

 その禁手ともなれば、己を人造惑星にする程度はできるだろう。やってくれるね。

 

 これは中々厄介そうだ。彼も本当に大変だね。

 

 だけど、そう簡単にやられるような人じゃないだろう?

 

 さぁ、見せてくれイッセー君。僕達が最も信頼する赤き龍の帝王を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは激しくなり、更にデビルレイダー部隊まで合流しての三つ巴へと変化していく。

 

 どちらのチームもそちらに人員を割く必要ができ、必然として激しい戦いは混乱の様相を見せていく。

 

『うおりゃぁあああああ! 地球ぅ……パンチッ!』

 

『甘い! 正面から競り合うな!』

 

 アルティーネが絶大な力をもってして暴れれば、それをデュナミス聖騎士団が、数人で上手くいなしている。

 

 燚誠の赤龍帝チームとは違い、デュナミスの新生チームはメンバーの数が多い。数人を割いて対応する程度は余裕でできるという事か。

 

 さて、それを踏まえても質ではイッセー達が有利に見えるのも実情。なにせD×Dの中核たるオカ研は、俺が言うのもなんだが若手の化け物揃いだからな。

 

 星辰奏者の完全上位互換たる人造惑星を同時に複数相手どれる連中だ。もう一手ぐらいは欲しいところだろう。

 

 だが同時に、そこにデビルレイダー七個分隊が襲い掛かっている。

 

 位置取りから一面を抑え込むのが限界だが、それでも嫌がらせには近いわけだ。

 

『ぬぅん! 我が主の戦いを邪魔はさせんぞぉっ!!』

 

『我が隊は奴らを止めるぞ! 天然ものを舐めるなよ!!』

 

『『『『『『おおっ!』』』』』』

 

 ボーヴァや騎士団がデビルレイダー部隊に対峙するが、あっちも連携戦闘でいやらしい立ち回りをしている。決着がつくのにはかなりの時間がかかるだろう。

 

 さて、その状況を抑え込む要たるは、アーシアだ。

 

 レイヴェルがカバーをしながら上手く回復をかける中、それを割って入るように突っ込んでくる少女がいる。

 

 彼女は悪魔の翼を広げながら、黒い狗に跨りつつ槍を持って攻撃を開始する。

 

『フェニックス本家の令嬢とはいえ、試合ならば容赦はしません!』

 

『何者かは知りませんが、それでよいのです! これはレーティングゲームなのですから!』

 

 高い不死性のレイヴェルと鬼回避のアーシアをもってしても、その攻撃は油断できない。

 

 槍そのものは聖なるオーラを纏っており、更に乗っている大きな狗を基点として刃が生えて迎撃している。

 

 それをカバーするべくロスヴァイセさんが魔法のフルバーストを放とうとするが、そこに残っている騎士団が仕掛けてきて、それも叶わない。

 

 これは、二人が勝てる可能性も決して薄くないな!

 

「よっし! それぐらいはやってくれないとなっ!」

 

「なるほど、君は今回あちらを応援していたのか」

 

 俺が思わず歓声を上げていると、マグダランさんにそう言われる。

 

「ま、イッセーには悪いですけどね。俺としてはどっちかになるならあの二人の方が重いんで」

 

「……色々と珍妙な関係と聞いている。だが、そういうのもいいのかもしれないな」

 

 マグダランさんとそんなことを言い合っていると、サイラオーグ・バアルは腕組みをしながら小さく笑みを浮かべる。

 

「だが、兵藤一誠もこの程度で終わるわけがない。まだ乳技を放っていないだろうしな」

 

 ま、そこはそうだろう。

 

 女の衣服を粉砕する洋服崩壊。着用物なら素手で壊すよりよっぽど効果的にぶち壊せるのが恐ろしい。

 

 おっぱいと対話して相手のことを知る乳語翻訳。心を読まずにおっぱいに話してもらうというアプローチがやばい。

 

 その二つはイッセーの代名詞。実際、老若男女の観客からも発動を願う声が聞こえている。……男女問わないのがちょっと引く。

 

 それゆえにイッセーは対女がやばい。敵も基本的には女をぶつけない方向でいくからな。マジでやばい。

 

 だがしかし、俺はため息と共に首を横に振る。

 

「残念だが、アンタはヒマリを舐めている」

 

 俺はそこに関しては言い切れる。

 

 ああ、だって―

 

「というより、俺達がどれだけトチ狂った環境で育ったか分かってない」

 

 ―その大前提がやばいから。

 

 ほら、今イッセーが鼻血を吹いて倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬だが、鼻から大量出血したのでちょっと意識が途切れた。

 

 クソッタレ! いやな予感はしていたけど、出し惜しみもヤバいのでやっちゃったよ。失敗だよ!

 

『おぉっとぉおおおおお!? 乳技を発動したかと思いましたが、おっぱいドラゴンが急に血を流して倒れたぁあああああ!?』

 

『これは、まさか……?』

 

 実況の方に続いて、解説の人が何かに気づく。

 

 俺はそれに反応する余裕もなく、追撃の攻撃を躱してゼノヴィアとイリナがカバーできるところに行くのに精いっぱい。

 

 ただその間に、解説の方が考えをまとめたみたいだ。

 

『かつて後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)は、おっぱいドラゴンの乳技の力を逆利用する形でエロ動画を彼の脳内に流し、力を勝手に消費させることで無力化したと聞きます』

 

 そう、あいつらはそんなことをやってのけた。

 

 恐ろしい力だ。俺は自撮りエロ動画を見れてそれはそれでラッキー。だけど効果がないから実はピンチ。そんな技を振るってきたからだ。

 

 それは後継私掠船団だからこその、トチ狂った連中だけができる技だと思っていた。

 

 トチ狂った技だと思ってたのに――

 

「なんで二人でエロいことしてるんだぁああああああっ!?」

 

 ――お前らが使ってるんだよぉおおおおおお!?

 

 特にヒツギ! お前なんでそんなことしてんの!? お前はそんなキャラじゃなかっただろ!?

 

 クソッタレ! そんなに追い詰められてんのかこら! お祭りの試合でそこまでするってのか!?

 

「ふ、服はちゃんと着てるじゃんか! イッセーしか見ないからって、それでもできることそんなないんだからね!?」

 

 顔が真っ赤になっているのは間違いないヒツギがそう反論する。

 

 あ、それもそうか。

 

 いやそういう問題じゃないと思うんですけど!?

 

「ちょっとストラスさん!? 疑似姉妹レズ動画を人の脳内に送るって、信徒的にどうなの!?」

 

 いや、天使も俺が天使とエロいことする為の部屋とか開発していたけど!

 

 一応貞淑とかが美徳ですよね!? リアルでそれやっていいの!?

 

「がっはっは! 産めよ増やせよというではないか! 愛がある睦言を全否定するほど、狭量な信徒ばかりではないぞ?」

 

 豪快に笑ってあっさり肯定したよ、ストラスさんってば。

 

 あ、ダメだ。この人も天然だ。結局はこちら側の人間だったのか。

 

 も、もう前向きにいこう。エロい映像を見れて満足ということで行こう。

 

 ただ、ゼノヴィアとイリナから、ちょっとピリピリとした雰囲気が。

 

「おのれヒマリ! 私でもそんなものを見せることができないのに、そんな方法で一歩先を行くとは許さんぞ!」

 

「その通りよ! あと一歩まで行って*1いる状況で、疑似双子プレイで出し抜くなんて酷いわ! ヒツギって最低!」

 

「風評被害じゃんかぁああああっ! 私は服着て揉まれたりしただけだし! バニーガールで胸揉まれて気が狂いそうだったのにぃ!」

 

「おほほほ! エロとは脱ぐだけではございませんのよぉおおおおおっ!!」

 

 そしてそのまま、それぞれ別の相手と戦闘しながら口論に。

 

 あれぇ? 信徒との試合って、こんなエロい会話をしてていいのぉ? 怒られないぃ?

 

 ま、まぁエロ動画とはいえ、ヒツギは裸にはなってなかったな。

 

 バニーガールのヒツギを逆バニー姿のヒマリが、胸を揉み合ったりしている程度だ。いや、ヒマリはかなりきわどい映像とかを見せてたけど。見せてたけどまぁ……ヒツギはそこまでは。

 

 でも、これでいいのか教会ぃいいいいいい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……やってくれる………っ」」」

 

 凄まじい三人分の殺気に、僕達は涼しい部屋なのに汗をかいている。

 

 最終兵器たるミスターブラックですら、*2戦慄の表情を浮かべている。

 

 イッセー君とヒマリさん、間違いなく後が怖いことになるよ。

 

 ヒツギさんは……流石に庇うしかないね。八割被害者だろうし!

 

*1
と思っているだけである

*2
リアス達に




はい、そんなわけでまだまだ続きますよ?

そしてそれはそれとして、ストラス・デュランの星辰光の紹介です。








ストラス・デュラン

祈りの守護者、聖なる勇士は此処に(パワーズ=フォース・ガーディアン)(括弧内は禁手発動時)
基準値:D(B)
発動値:(AAA)
収束性:(AAA)
拡散性:E
操縦性:E
付属性:C
維持性:C
干渉性:E


 ストラス・デュランの星辰光。能力は動作高速化。

 極まって高い収束性による突破力を持ち味とし、文字通り行動速度を大幅に強化するという単純故の強固さを持ち味とする星辰光。
 単純に早くなるというわかりやすい星であり、また動作が早くなるだけで反応速度が速くなるわけではないという、単純故の弱みも存在。しかしそれを補う技量を持ってれば、圧倒的なポテンシャルを発揮する星辰光。

 単純に早いということは、攻撃を喰らいにくく質量攻撃が強化され、反応が間に合えば質量攻撃の威力を殺すこともできる。シンプルゆえに扱うには優れた技量が必須であり、シンプルゆえに使いこなせば絶対に強力になれる星辰光。

 さらに禁手の恩恵により、彼は自力で魔星の領域へと到達。極限に到達した出力と収束性は、あらゆる敵を圧倒する武の極限へと近づいた。

 強き決意と精神力をもって、信仰の敵を打ち砕く。ストラス・デュランの星辰光である。

★詠唱

 創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌く流れ星

 主の愛に応えるがために幾年月、磨き上げたはこの力。代行として悪を討つ、天の武は此処に参上する

 怒りの裁き。慈愛の許し。矛盾を併せ持つ威光こそ、我らが主の輝きなり。

 汝が罪を悔いるなら、今が改める時である。決してたやすくない贖罪、我らが支えとなろうとも。

 恥じぬというなら是非も無し。代行されし裁きによって、お主を審判へと送り出そう。

 僭越なる代行の重さを背負い、聖なる騎士がここに立つ。主の裁定が下るその時まで、恥じぬ生き様見せようぞ

 |超新星―祈りの守護者、聖なる勇士は此処に(パワーズ=フォース・ガーディアン)





 う~ん、シンプル! そんな感じにまとまりました。

 これに関してはモデルキャラから大きく逸脱しない方向性にすることも考えており、第一部の前半あたりを書いているあたりで能力の方向性は確立していました。状況次第では聖教震撼編で出すつもりでしたが、タイミングを逸してここまで伸びましたねぇ。

 ただそれだけだと、疑似龍神化などの札を持つイッセーに押し切られると判断し、詠唱を考えながら禁手による人造惑星化をさらに追加。出力と収束性だけを強化することで、もはや並みの最上級悪魔では手が付けられない主の裁きを代行する者となりました!


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戦愛白熱編 第十三話 激突! デュナミスの新生チーム(その4)

 はいどうもー! 最近睡眠不足気味で、ちょっと投稿をし損ねたグレン×グレンでっす!

 まぁほかにも理由はいくつかありますが。短編でオリジナル書いてみようかなーと思ったり、地球防衛伝説の再設計を真剣に考慮していたり。

 でも200kb近く書き溜めはあるので、連投を怠ったのは完全にミスです。すまんかった!


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………でも、本当に私だったのか不思議なぐらい強いよね」

 

 と、オトメねぇはそう感嘆の声を上げる。

 

 ちなみに少し遠い目になっている辺り、三割ぐらい現実逃避ね。うかつにつつくのも危険だし、ここは関与しないことが優しさでしょう。

 

 まぁそうね。オトメねぇは武闘派って印象からかなり離れてるし。ベアトリーチェの力をもってして、漸く戦闘を可能としているし。

 

 そういう意味でも氏より育ちというべきかしら。

 

「ま、ザイアは思想がトチ狂ってるけど教育のスキルは凄まじいし。……だからヤバいんだけどね」

 

「それに、教会の戦士育成機関も相応に優秀よ? つまりオトメねぇも、頑張ればそれなりにできると思うわね」

 

 鶴羽と私が続けざまにそう言うけど、まぁそう思うところはある。

 

 かたや、対異形組織の主力候補。かたや、教会の顔役部隊の一員。

 

 どちらも無能がなれるような領域ではない。環境もいいうえに努力もしたとはいえ、才能が皆無で至れる領域ではないでしょう。

 

 実際、3VS3の戦いは白熱している。

 

『さぁ、行きますわよグリド達!』

 

『甘いぜ、いけ、白龍皇(ディバイディング・)の妖精達(ワイバーン・フェアリー)!!』

 

 駆け巡り地龍と飛び回る飛龍。その群れが激突し、戦場をかき回す。

 

 だが同時に、そこを縫うようにいくつもの砲撃が放たれる。それらが更に連携を難しくし、イッセー達は押し込まれていく。

 

 連携戦闘を前提にしたクリムゾンユニットにより、ヒマリとヒツギの連携戦闘はかなり優勢。更に本来の目的である、神器の調律により更なる力を現状発揮できる。

 

『クッ! 更にできるようになったな!』

 

 ゼノヴィアが強引にデュランダルとヘキサカリバーでかき分けようとするけれど、砲撃の半分が収束されたことでそれも難しい。

 

 思わず愚痴るゼノヴィアに、素早い斬撃でヒツギが仕掛けていく。

 

『ま、こっちも正式に準神滅具に登録されたんでね……っと!』

 

 真っ向からの打ち合いは当然のように避けつつ、ヒツギは聖剣から手を放しての射撃でゼノヴィアに傷をつける。

 

 ……そう、ヒツギとヒマリの神器は、この度正式に準神滅具に認定された。

 

 龍の外装(ドラグナイト・メイル)龍の咆哮(ドラグレイ・カノン)。八面王とリントドレイクを封印したそれは、イッセーの赤龍婚乳(バス・トライク)により変化を遂げ、全く別物へと進化してしまった。

 

 その名も、赤妾龍の鎧群(ブーストメイル・ギア)赤妾龍の砲兵(ブーストカノン・ギア)

 

 自身は龍のオーラを纏い、更に鎧で出来た龍の群れを率いる赤妾龍の鎧群。背中に八つの龍の砲門を展開し、更に八つの龍が絡みついた大砲を具現化する赤妾龍の砲兵。

 

 共に本来の状態なら禁手でも片方ぐらいの代物を、同時に展開する進化形態。そこに常時覇を発動できる二人のポテンシャルが加われば、龍王クラスと真っ向から渡り合える性能に到達している。

 

 如何にイッセーがゼノヴィアやイリナと連携しているとはいえ、準神滅具クラスが三人もいればそう簡単には倒れない。

 

 ……さて、とは言えここで終わるほど甘い男でもないでしょう?

 

 そんな男にヒマリとヒツギを託すのは不安だもの。もうちょっと見せてもらうわよ。

 

 どの口が言うと言われそうなことを思いながら、私はこの戦いを見守っていく。

 

 さぁ、見せて頂戴。燚誠の赤龍帝、兵藤一誠。

 

 あんたの煩悩と根性と努力と予想外の爆発力、この程度で済むわけがないでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぬぅうううううううん!!』

 

『おりゃぁあああああっ!!』

 

 高速で振るわれるメイスと打撃による攻防は、いまだに激しい。

 

 時として距離が開けてもすぐにつまり、更に龍の群れと砲撃が入り乱れる。

 

 時として相手が入れ替わることもあるが、基本はストラスさんがイッセーを相手にしている形だ。

 

 援護しようとするゼノヴィアとイリナだが、多重砲撃と大量の龍が邪魔になる。

 

 そして、そこを機敏に動きながらヒマリとヒツギが相手を目まぐるしく変えつつ戦闘を行っている。

 

 ……これ、勝てる可能性かなりあるだろ。

 

 何よりストラスさんがこの連携を乱していないのが大きい。結果としてイッセー達は連携面で割って入ることができず、ポテンシャルの差を押し返されている。

 

 うん、これはちょっと手に汗握る。

 

 何より連携面が上手くいっているな。あれが大きい。

 

「……意外だな。あのマッチメイクなら、連携は兵藤一誠達の方が有利だと思ったが」

 

 サイラオーグ・バアルも首を傾げるけど、確かにな。

 

 一年前後とはいえ、極めて密度の高い死線を潜り抜けてきたイッセー達の連携はいい感じになるだろう。

 

 ただ、ストラスさんとヒマリがここまで連携をかけれるかというと……そこがなぁ。

 

 あの二人、殆ど縁がないからすぐに連携ができるとは思えない。いくらなんでも連携がスマートすぎる。

 

 だからこそイッセー達もここまで苦戦しているわけだ。そして二人を応援する俺にとっても好ましい。それは変わらない。

 

 だけど、それにしたって何か違和感があるんだよなぁ。

 

 う~ん。これ、もしかすると意外なところに地雷が埋まってるか?

 

「……頑張れよ、二人とも」

 

 俺はそう、聞こえないのを分かっていても言うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは互角になっているけれど、人数の差もあってデュナミスの新生チームが若干有利といったところか。

 

 イッセー君を抑えらえているのも痛い。その状況下では大火力で戦略的に塗り替えることも難しい。またイッセー君が抑え込んでいるからこその状況ゆえに、キャスリングを使うわけにもいかないだろう。

 

「……やはり、懸念点はあの連携ね」

 

 そう呟くリアス姉さんもまた、怪訝な表情になっている。

 

「他の戦闘を見ていても分かるけれど、デュナミス聖騎士団とそれ以外とでは、どうしても連携に揺らぎが生まれている。……だけどイッセー達は完全に連携で抑え込まれているわ」

 

「そうですわね。完成度が高い連携になっているのは違和感がありますわ」

 

 朱乃さんも考えこむほどに、あの連携は完成されている。

 

 仮にも何度も死線を潜った、イッセー君達の連携が高い練度なのはいい。だけどチームに入ってから日も浅い状態で、ヒマリとストラス団長がここまで高い連携をとれるのか?

 

 それが気になる中、声が響く。

 

「なるほど、そういう絡繰りか」

 

 そう呟くミスター・ブラックの言葉が響く。

 

「だが、そろそろ赤龍帝なら気づくだろう。……ここからが本番だ」

 

 その言葉と共に、戦局は動き出す。

 




 ようやく出せたぜ、準神滅具とかした二人の神器!

 そして総合的にみるとちょっと不利なイッセー達。その肝は三人がかりの連携の差ですが、そこがまずおかしい。

 それにイッセー達が気づいてどうにかできるかが最も重要! さぁ、次回どうなる!


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戦愛白熱編 第十四話 激突! デュナミスの新生チーム(その5)

 はいどうもー! 最近体重を下げたいけどなかなか下がらないグレン×グレンでっす!

 気を抜いていたら体重が70kgをちょっと超えてまして、少し筋トレの量を増やしたりしていますがなかなか大変です。炭水化物は減らしすぎると反動が怖いし、きつい食事制限は別の意味で反動が怖いし。徐々に少なくして立ち回りたい今日この頃です。

 それはそれとして、ついに決着となります!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、イッセーの動きが切り替わる。

 

 相手の攻撃を強引に無視し、相当の被弾を覚悟のうえで―

 

『そういう事かぁあああああああっ!!』

 

『やば、気づかれた!』

 

 ―ヒツギに向かって突貫した。

 

 放たれる砲撃も回避すらせず、文字通りの強引な突破。

 

 その体当たりが、ヒツギをそのまま数百メートル押し飛ばす。

 

 そしてその瞬間、連携が確かに乱れた。

 

『ッ! 今だイリナ!』

 

『オッケー……っ!』

 

 そしてそれを逃さず、イリナとゼノヴィアが連携でストラス騎士団長を抑えにかかる。

 

 それに対し、ヒマリの対応は迷いが見えた。

 

 そういう事か。なるほどな。

 

「……これは、連携が乱れた? どういう―」

 

「―単純な話だ。基点が抑え込まれたという事だろう」

 

 マグダランさんにサイラオーグ・バアルが答え、俺もそれに頷く。

 

 ああ、答えはシンプルだ。

 

「あの三人の連携は、ヒツギを基点とすることで初めて高い完成度を持っていたわけだ」

 

「互いに縁のないヒマリ・ナインテイルとストラス・デュラン。その二人の共通の知り合いであるヒツギ・セプテンバーこそが連携の核だったのだろう」

 

 俺もサイラオーグ・バアルも、見たことでそれに気が付いた。

 

 ヒツギ・セプテンバーは、人に気を使える人物で立ち回れる少女だ。

 

 その少女が連携の基点となることで、本来完成度の高い連携をとれない二人を繋いで連携を組み込んでいた。

 

 裏を返せば、あの二人だけでは連携の完成度は低い。タネさえ分かれば付け入るスキは十分ある。

 

 最も、イッセーレベルの使い手が他にハイレベルな連携で戦っている時だけの手段だけどな。

 

 さて、このままだとデュナミスの新生チームが不利。どう出るか。

 

『行け、ヒマリ・ナインテイルよ!』

 

 そう思った時、ストラス団長は声を張り上げる。

 

 ゼノヴィアとイリナの連携を真っ向から押し返しながら、ストラス団長はヒマリに声を投げかける。

 

『ここにきて臆するな! ヒツギと共に挑むがよい!!』

 

『え、ええ!? でも大丈夫ですの!?』

 

 思わずヒマリも動揺するが、ストラス団長は震脚を思わせる踏み込みでそれを断ち切る。

 

 その勢いでイリナとゼノヴィアを弾き飛ばし、その上でヒマリに振り返る。

 

『行くのだ! いい機会だろう、お主達二人の想いを、思う存分赤龍帝にぶつけるがよい!!』

 

 その張り上げるような声に、小さく微笑む音が俺に聞こえる。

 

『同意見だ! かつて教会の戦士だった者として、音に聞こえしデュナミス聖騎士団の団長に胸を借りさせてもらう!』

 

『その通り! むしろ邪魔しないでくれると嬉しいわね!!』

 

 ゼノヴィアとイリナすら答えるその声に、ヒマリは一瞬躊躇し、そして走り出す。

 

 ……ここが大一番だな。

 

 見てるぞ、二人とも。

 

 そしてイッセー。見せてくれ。

 

 その二つの願いを持ちながら、俺は試合の流れを見据えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 趨勢が僅かにイッセー達に傾く中、戦いは二つの二対一が左右する状況になったといえるわね。

 

 ヒマリとヒツギがイッセーをどうにかするか。ゼノヴィアとイリナをストラス団長がどうにかするか。そのどちらが先かで状況は変わる。

 

 他の戦いが二つの戦いに割って入る余裕を作っていない以上、この戦いはそのどちらかに集約されると言ってもいい。どうにかすることが出来なければ、三対一になってしまうだけだから尚更ね。

 

 だからこそ、私はヒマリとヒツギの戦いを意識する。

 

 合流したヒマリはヒツギと素早い連携で、イッセーとの戦闘を敢行する。

 

 クリムゾンユニットは二人及びイッセーを同調させることで、バグを起こしていた二人の神器を制御する為のユニット。最近はだいぶ落ち着いてきたけれど、それでも連携戦闘特化型のあれを使った状態が一番強い。

 

 そしてイッセーは乳技を封じられた以上、その力をもって突破するしかない。

 

 押し寄せる龍の軍勢と砲撃の嵐。それを縫うように振るわれる、二人の連携。その二重の猛攻を突破しなければ、兵藤一誠に勝利はない。

 

 そしてイッセーはそれを性能で強引に突破しようとしながら、しかし突破しきれない。

 

 当然でしょう。訓練の年季が違う以上、技量でイッセーが二人を圧倒することはまずない。そして以下にイッセーの真女王と言えど、二人がかりの連携ならば通用されてしまう。

 

『……本っ当に! 強いよなぁ、二人とも!』

 

『当っ然!! それに相手がイッセーだしさ!』

 

『頑張りますわよぉおおおおおおっ!!』

 

 笑顔で言ってるのが分かる言葉を交わし、その上で二人は一気に仕掛ける。

 

 イッセーの拳をヒマリが左の聖剣で受け流し、そして構えられるはショットライザー。

 

『『クリムゾンブラスト!』』

 

 至近距離からの射撃を喰らい、イッセーは鎧をへこませて血を吐いた。

 

 その隙をついて、二人がかりの連携攻撃は一気に攻勢に転じていく。

 

 それを真っ向から食い止めるイッセーは、感極まったんだろう。

 

『本当に……俺の女は強いのが多いよなぁ!』

 

 そんなことを口にした。

 

 天然でしょうけど、これはヒツギ辺りがバランスを崩しそう。いつもの流れだとそう思う。

 

 だけど、今回だけは違う。

 

『そうだね……愛してくれるんだよね、イッセーは!』

 

 ヒマリが何かを言うより早く、ヒツギがそれに応えつつ攻撃を放つ。

 

 意外に思う中、ヒツギは吹っ切れたように猛攻を追加していく。

 

『こんな面倒なものしょい込んでる私達のこと、私達として愛してくれるって……なんつーかもう、惚れちゃって当然じゃんか!』

 

 至近距離からの砲撃で、イッセーを余波による衝撃が縫い付ける。

 

『そういう事ですわね!』

 

 そこにグリドを筆頭とする鎧の龍が押しかかり、イッセーの動きを縫い留めた。

 

『『FREE BOOST』』

 

 そして飛び上がり、必殺技の構えを見せる。

 

 真女王と言えど、あの拘束を一瞬で吹き飛ばすことはほぼ不可能。回避は許されず、受けるしかない。

 

『だから言うよ……言っちゃうじゃん!』

 

『イッセー……本気で愛してますの!』

 

 その上で、二人の攻撃は完全にシンクロする。

 

『『勝ったらお嫁さんにしてください!!』』

 

『『クリムゾンブラストフィーバー!!』』

 

 だ、ダブル告白キック!?

 

 思わぬ展開に呆気に取られてると、そのまま蹴りが叩き込まれる。

 

 お嫁さんにするつもり満々なところに、二人が勝ったらという条件付きの攻撃。

 

 これは回避しづらいし耐えるのもメンタル的にきついわね。

 

 そう思ってると、視界の隅にオトメねぇの顔が映る。

 

 もう二人の自分といえる者達のタッグ告白攻撃に、オトメねぇはちょっと顔を赤くしているかと思ったけれど、それは違った。

 

「……うん、それでいいよね」

 

 そう寿ぐように、だけどどこか寂しそうな表情だった。

 

 それを聞こうかと思った、その瞬間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『違うだろ、馬鹿野郎!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、画面越しでも分かるようなオーラの奔流が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はちょっと我慢しきれず、その蹴りを受け止めながら大声を張り上げる。

 

 ったく。いい加減にしてくれよな。

 

「二人が色々ややこしいことは俺も当然知ってるし、本気で言ってくれてるのは分かる」

 

 放たれた一対の一撃を、俺は右腕を盾にして受け止めていた。

 

 衝撃は強い。鎧にも骨にもヒビが入っている。だけど、受け止めれた。

 

 真女王では無理だ。疑似龍神化は消耗が激しく、出すのは危険だ。

 

 だけど、俺はその種明かしより前にはっきり言う。

 

「勝ったらじゃねえよ! 関係ねえよ! 俺が惚れた女二人を嫁さんにするのに、そんな条件なんて必要ない!」

 

 少し力の入りにくい右腕に、左手を添えて力を籠める。

 

 ああ、ふざけんな―

 

「どっちが勝とうが負けようが、ヒツギもヒマリも俺の嫁さんになってくれなきゃ……困るだろう……がっ!」

 

 ―そんなことぐらい、いちいち言わせんなっての!

 

 そして俺は強引に、龍を振り払って飛び上がる。

 

 そして俺の姿を見つめたヒツギが目を見開いた。

 

「右腕だけ……龍神化!?」

 

 そう、俺の鎧は右腕だけが龍神化の鎧になっている。

 

 圧倒的な力を持つ、俺の到達点。それがD×D(ディアボロス・ドラゴン)(ゴッド)。龍神化の鎧はそれだけの強大な力を持っている。

 

 だけど、それは人間のままなら赤龍帝の籠手を暴走させると断言されるレベルで才能のない、俺にとってはあまりにも強すぎる力だった。

 

 限定的に発動し、それでも一分も持たない疑似龍神化という形が精一杯。だけどあまりにも短すぎる。

 

 だからこそのもう一つの方法。それがこの偽りではなく寸刻の時。部分龍神化だ。

 

 リゼヴィムですら生身では壊せないこの鎧。いくらクリムゾンユニットと言っても、一撃で粉砕できるほど甘くはない。

 

 俺はアスカロンを込めた左腕と、部分龍神化の右腕で二人と撃ち合う。

 

 二人はどちらも龍を封印した神器保有者。更に赤龍婚乳(パス・トライク)で赤龍帝化している。

 

 なら右腕の疑似龍神化と同じぐらい、アスカロンのオーラが籠った左腕も強力だ。

 

 渾身の一撃を押し返し、流れは掴んだ。

 

 ああ、この際だ言ってやる。どうせバラキエルさんとの試合で、思いっきり言ってるからな。

 

「俺は二人を愛している! だから勝ったらなんて遠慮をすんな! っていうか負けても嫁に来てもらうから覚悟しろよな!」

 

「へ、あ、わわわ……っ!」

 

 迎撃している二人だけど、ヒツギはもう慌ててどんどんペースが乱れている。

 

 それでも連携で仕掛けるけど、今の状態なら通用しない。

 

 俺は一気に弾き飛ばすと、クリムゾンブラスターの体勢に入る。

 

 動揺しまくり顔真っ赤のヒツギじゃぁ、対応は間に合わない。

 

「これが俺のプロポーズだ! 二人まとめて……嫁にこぉおおおおおおおっい!!」

 

「え、いいの!? やった……あ」

 

 喜んでから我に返るヒツギだけど、もう遅い。

 

 俺のクリムゾンブラスターは発射された。今からじゃヒツギの迎撃は間に合わない。

 

「呆けてたぁああああああ!?」

 

 絶叫やヒマリと共に、ヒツギは砲撃に呑み込まれていく。

 

 そして、クリムゾンラクシュミーの装甲が砲撃に吹き飛ばされ、ヒマリの顔が見える。

 

 ……おお、涙目で頬を赤らめているのはちょっとレアかも。

 

「ふふふ。言質は取りましたのよ……」

 

「ああ、こんなことで嘘なんて言わねえよ……」

 

 砲撃を撃ちながら、砲撃を撃たれながら。

 

 俺達は小さく笑いながら頷き合う。

 

 そして砲撃は遠くまで延び、二人はリタイアの光に包まれていった。

 

『デュナミスの新生チームの僧侶二名、リタイア』

 

 アナウンスを受け取る勢いのまま、俺は試合中だけど感慨深く、そっとフィールドの上を見上げている。

 

 ったく。この調子だとマジで九成のことを笑えねえぜ。

 

 でもまぁ、嘘は何一つ言ってないから……さ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺達は流れを掴み、一気呵成に相手を責め立て―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了。勝者、燚誠の赤龍帝チームです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか、勝つことに成功したぜ。




 激闘、決着!






 原作より早いタイミングでの部分龍神化。勝利する流れに説得力を持たせるため、ここで開帳しました。

 アスカロンⅡもそのプロトタイプのない状態だと、対龍に限定すれば左腕が右腕より明確に上なので、右腕を龍神化させることでバランスをとって押し切った形です。


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戦愛白熱編 第十五話 激戦の余韻

 ハイどうもー! 最近筋トレを欠かさず行うようにしているグレン×グレンでっす!

 とりあえず、最近かなり太り気味でしたが2kgぐらい一週間そこらで痩せました。この調子で60kg代前半を目指したいところです!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合終了により歓声が響く中、俺は小さく息を吐きながらも微笑んでいた。

 

 試合そのものは二人の敗北だけど、あれはあれでいい結果だろう。

 

 たぶんだけど、ストラス騎士団長もそれを考えての発言だったのだろう。だからこそ、この決着には価値がある。

 

 ふっ。イッセーのことだからこの言葉を嘘にするなどありえない。命がけで幸せにしてくれるだろうさ。

 

 俺はたまらず拍手すらしながら、試合内容をまとめるようにダイジェストになっているモニターを見る。

 

 他の戦いも熾烈を極めていたが、イッセーがフリーになったことが大きな要因となったのは間違いない。

 

 今のイッセーは魔王クラスや半端な神に通用する領域。ついでに言えば、その中でも上位側だ。

 

 更に部分龍神化。あんな隠し玉まであるのでは、魔王クラスや半端な神では、むしろ不利といえるだろう。

 

 真っ向勝負で有利に戦えるのは、主神や超越者クラスだろう。それほどまでに、今のイッセーは強くなっている。

 

「……ふっ。いい試合を見たものだ」

 

 サイラオーグ・バアルもそう告げながら、小さく拍手をしていた。

 

「そして俺達は超えて見せる。その気概を持って挑もうというのだ。……そうだろう?」

 

「まぁな。龍神化無しのイッセー相手に、後れを取っては意味がないしな」

 

 この一点においては、俺達は意気投合できる。

 

 さて、俺も帰ってトレーニングをするかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ~。何とか勝てたぁ。

 

「しのぎ切りました。あのデュナミス聖騎士団相手に、何とかしのぎ切れましたなぁ」

 

 ボーヴァも息を吐くけど、本当に大変だったぜ。

 

「ホント疲れたー。あの人達とっても強いよね~」

 

 アルティーネも疲れてるのか、ベンチにへたり込んでいる。

 

 ああ、強かったよなぁ。

 

 教会武闘派の顔ともいえる、デュナミス聖騎士団。更にそこから別勢力の星辰奏者まで迎えてるんだ。強いわけだぜ。

 

 でも、今回も勝てた。

 

 ルールが比較的シンプルなのも良かったな。俺達って、特殊ルールだと未熟が祟って色々とぼろが出るし。

 

 今回は素直に褒められそうだなぁ。うん、ちょっと気分がいいかも。

 

「しかし、少しズルく感じてしまうな。一度ならず二度までもとは」

 

「そうね。なまじ味方だから、言われる機会があまりないのよねぇ」

 

 なんかゼノヴィアとイリナは凹んでる気がするけど、ある意味大金星だろうに。

 

「俺がいない間、ストラスさんを真っ向から押さえてたのは二人だろ? 凹むこと無いじゃねえか」

 

 俺が合流してからも粘られたしなぁ。連携にミスがあったら、一人ぐらい倒されてただろうし。俺だったら敗北じゃん。

 

 そんな中、よく頑張ったと思う。本当に助かったしなぁ。

 

 ただ、何故か俺に同情の視線が向けられた気がする。

 

 あ、あれ?

 

 首を傾げていると、ドアがコンコンとノックされた。

 

 この辺りは関係者以外立ち入り禁止だし、タイミングも早いな。

 

 たぶん相手チームなんだろうけど、誰だろう?

 

「おそらくヒマリ様がヒツギ様ですわね。……どうぞ、お入りください」

 

 レイヴェルが推測しながら声をかける。

 

 ま、流れ的にはそうなるのか。

 

 ……いや、ヒツギがいきなり入れるか? たぶんまだ動けない可能性だってるけど。

 

 そして実際、ドアが開くと覗き込んだのは別人だった。

 

「……えっと、デュナミスの新生チームの方ですよね?」

 

 アーシアが首を傾げながらそう言うと、その子は小さく頷いた。

 

「はい。今回の女王(クイーン)を担当した、ロルル・エルーシアと申します。燚誠の赤龍帝様の胸を借りれ、この上ない栄光を得られました」

 

 な、なんか恭しいな。

 

「……え、俺ってそんなに敬わられる人なの?」

 

 思わず後ろを振り返りながら、そう聞いてしまう。

 

 いやいや、そんな王様とかそんな凄い人に傅いているわけじゃないんだし。

 

 ただ、レイヴェルはむしろ呆れ顔だった。

 

「イッセー様。グレモリー本家の跡取りたるリアス様の婿同然では、人間でいうなら王配に値しますわ」

 

 え、そんなレベル!?

 

 いやいやいやいや。そんなこと言われてもなぁ。

 

「お、俺はまだただの上級悪魔だし……?」

 

「主よ。上級悪魔はその時点で偉いお方ですぞ?」

 

 反論しようとしたけどボーヴァにそう言われる。

 

 そ、それもそうか。

 

 上級悪魔って、基本的に貴族だもんな。それに俺は転生してから一年足らずでなってるから、異例の出世頭だし。

 

 転生悪魔からしたら、憧れる対象なのかもしれないな。

 

 まだ一年ちょっとしか転生悪魔をやってないから、こういう時なんかずれてるなぁ。

 

「そもそもイッセーは英雄以外の何物でもないだろう。超越者であるリゼヴィムの打倒など、悪魔全体でもできる者はサーゼクス様やアジュカ様ぐらいだろうしな」

 

「更に邪龍アポプスを討伐し、極晃奏者ミザリ・ルシファー討伐の立役者が一人ですわよ? 注目しないでいる方が難しいですわ」

 

 ゼノヴィアとレイヴェルにそう言われるけど、なんだかなぁ。

 

 俺は一生懸命頑張ってきただけだし、アポプスはともかくリゼヴィムとミザリは一人でやったわけじゃないし。

 

 ……倒した奴の一人ってだけで、十分ってことなんだろうか。まぁ、最上級悪魔クラスでも余裕で倒せるような連中とばっかり戦ってはいるけど。

 

 う~ん。一年足らずの異形歴だから、まだまだ実感が足りないところが多いってことか。でもそこまで崇められてもなぁ。

 

「ロルルさんだっけ? そっちだって、デュナミス聖騎士団の正規構成員を差し置いて女王の担当になったんだろ? 十分凄いと思うけどなぁ」

 

「……いいえ、私達のチームは割とメンバーの交代や役職替えが多いですし。本来は恐れ多いですから」

 

 俺の言葉にそんな暗い顔をするけど、何かあったのか?

 

 そう思っていると、レイヴェルがそっと俺の袖を引いて耳元に口を近づける。

 

「立場もあるのでしょう。ロルル・エルーシアさんは、つい最近になってからロスト・ミドル・デビルズに入られた方ですので」

 

 そう耳打ちするけど、とっても申し訳ないけどすぐに思い当たらない。

 

 う~ん。ここも悪魔になって―というより異形に関わって―まだ一年ちょっとっていう弊害だな。悪魔の最低限度の常識や基本的な異形知識はともかく、ちょっと離れたところになると苦しいところが多い。

 

 ただ、ロストってついてるのがな。ちょっと不吉というか、嫌な印象を覚えている。

 

 ただ、その耳打ちをロルルさんは聞いていたらしく苦笑している。

 

 ……星辰奏者って、五感も強化されるからなぁ。小さい声でも近くならすぐ聞こえるってことか。

 

「……冷遇ではないですけど、参加者が参加者ですから。自信にはできませんし、まだちょっと割り切れてないんです。あ、教えてくださって結構ですよ?」

 

 ロルルさんがそう言うけど、レイヴェルもボーヴァもちょっとバツが悪そうだった。

 

 あとゼノヴィアやイリナ、ロスヴァイセさん達異能に前から関わってる組も首を傾げている。つまり、悪魔のあまり広まってない立ち位置なんだろう。

 

 う~ん。ちょっと申し訳ないけど、素直に聞いた方がいいような気もする。人によっては逆鱗になりそうなことだろうし。

 

 俺がそう思ったのに気づいたのか。それともレイヴェルに言わせるよりはいいと気遣ったのか。ボーヴァがコホンと咳払いをした。

 

「ロスト・ミドル・デビルズは、あのシュウマ・バアルが魔王様に提案したことで結成された組織です。戦いで()()()()()転生悪魔から、試験を受けて合格した者が属する特殊部隊です」

 

 ……あ~、なるほど。そりゃ言い難い。

 

 あとシュウマ・バアルの発案って時点で、なんていうか裏事情が分かった気がする。

 

 主を守れなかった転生悪魔とか、大王派とかが冷遇しそうだ。そしてサーゼクス様は何とかしたいと思うだろう。シュウマ・バアルはフロンズを見守り育ててきた人だし、その辺りも聡いはずだ。

 

 だからあえて大王派の自分から提案することで、魔王様に恩を売りつつ、大王派がいい印象を持てるようにしたんだろう。ゼクラムさんならその辺りを読めるだろうし、上手く大王派を説得してwin-winにできたと思ってそうだ。

 

 ま、ある程度厳選されてそうだけど。その辺りはうるさいだろうしなぁ。

 

 ただ、その一因になるってことは二つ分かる。

 

 ロルルさんが優秀だという事。そして最近になって入った以上、少し前に主を失ったってことだ。

 

「その、ロルルさんの主は……?」

 

「明星戦乱の時に、ステラフレームとサテライトフレームの軍勢に押し込まれまして。……私は奮戦で同胞を守った功績で推薦されましたが、肝心の主を守れなかったので、自信は持てないです」

 

「……そっか」

 

 それは、きついだろうな。

 

 俺はちょっと考え込むけど、軽く屈みこんでロルルさんに視線を合わせる。

 

「怒られそうなことを言うけど、ちょっと気持ちは分かると思う」

 

「……そうですか?」

 

 かなりきょとんとされたけど、少しぐらいはわかると思う。

 

「……なんだかんだでリベンジマッチで何とかしたけど、俺もリアスを守れなかったことがあるしさ。それに近い経験も多いから、ちょっとぐらいは分かるさ」

 

 ほんと、俺ってそういう経験が多いからなぁ。

 

 婚約者騒動のレーティングゲームでは、そのあとサーゼクス様の計らいを活かせたから良かった。でもゲームそのものは俺達の負けで、リアスは一度泣いた。

 

 それにアーシアを助け出そうとした時は、リアスが悪魔の駒を使う決断をしなければ意味がなかった。それが無ければアーシアは死んだままだったろう。

 

 それに、俺達の戦いってそういう事が多いからなぁ。最終的に何とかひっくり返せたけど、仲間達が傷つき倒れたことは数多い。完勝できたことの方が少ない気がするしな。

 

 それに、だ。

 

「そもそも、邪龍戦役ではアザゼル先生やサーゼクス様を犠牲にしたようなもんだ。傲慢な言い方かもしれないけど、俺がもっと強ければ……そう思うことはよくあるよ」

 

 だからこそ、俺達の平穏を邪魔する奴は、絶対に倒す。例え滅ぼしてでもだ。

 

 だからこそ、俺は言える。

 

「冥界の英雄なんて言われる俺でもそうなんだ。ロルルさんも、深く考え込みすぎないように……な?」

 

「……歴代最優、燚誠の赤龍帝にそこまで言われると、そうしないとって思えちゃいますね」

 

 まだ寂しげだけど、ロルルさんはそう微笑んでくれる。

 

 うん、ちょっとぐらい気休めになるといいけど―

 

「イッセー様。誰彼構わずそういうことをしては……後ろからいつか刺されますわよ?」

 

 ―俺のマネージャーはこういうところも厳しい!!

 

 

 

 

 

 

 

「あ、それで……サインください!」

 

 あ、ロルルさんはそういう目的だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、流石は燚誠の赤龍帝。やってのけるのぉ?」

 

「同感だな。神滅具を持つだけの凡人でありながら、あの高みにまで至るとはな」

 

「ほぉ、ユーピも流石に気になるのか?」

 

「当然だろう、幸香。気になるさ」

 

「まぁそうよなぁ。……前人未踏の禁手の先を、何度も切り開いた男。気にならぬわけがない」

 

未開(明日)をかける俺達が、後塵を拝するのも困難ではな。……とはいえ、いつまでもとはいかないだろう」

 

「それは当然。いずれ必ず極晃星を掴むように、禁手のその先も会得せねば話にならぬ」

 

「で、その辺りはどうするんだ、幸香」

 

「お主こそどうするのだ、ユーピ?」

 

「知れたこと。俺に関しては一つ当てがある。だが、お前はどうなんだ?」

 

「ククッ。残念ながら手探りじゃ。だが……必ず掴む」

 

「そうだな。後継私掠船団は、そうでなくては話にならないのだからな……」

 




 本日はここまで!


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戦愛白熱編 第十六話 祝勝会も、大騒ぎ!?

 はいどうもー! 最近腹が出てきているので、腹筋を中心に筋トレを行ったりしているグレン×グレンでっす!

 食生活もある程度は見直した方がいい感じです。お給金が入ってきたばかりなので、ついつい食べ過ぎそうだけど気を付けないと……。

 それはともかく、祝勝会です!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、試合は何とかイッセー達の勝利になったレーティングゲーム。

 

 ただ俺達はそこで一緒に住んでいる。そして試合内容も中継されたわけで―

 

「そういうわけでぇ……拍手!」

 

『『『『『『『『『『『わぁああああっ!』』』』』』』』』』』

 

 パチパチパチパチパチッ!

 

「マジ勘弁じゃんかぁああああああっ!」

 

 ―こうしてみんなで拍手され、ヒツギが顔を真っ赤にしているわけです。

 

「もぅ、ヒツギったら! ここはイッセーの膝に座って甘える所ですのよ?」

 

「え、俺の膝ってそんな広くないよ!? 二人がかりはきついよ!?」

 

 と、ヒマリはヒマリでニッコニコでイッセーの膝の上に座っている。

 

 器用に半分開けているので、本気で言ってるのが丸分かりだ。

 

 頑張れイッセー。普段頑張って無理をしているんだから、そのぐらいはできないと逆にまずいぞ?

 

 そんなことを思いながら、リヴァ先生がノリッノリで司会を務めるパーティを俺は眺める。

 

 ま、あの激戦の後であとくされなくこれができるのもいい事か。主役はあの三人だろうし、俺はわき役に徹しようか。

 

「……ま、よかったな」

 

 と、俺は思わず小さく呟いた。

 

 ヒマリ・ナインテイル。ザイア時代の俺の相方であり、いろんな意味で公私を共にしてきた間柄。ある意味で妹のようであり、姉のようである。そして前世の俺のお袋が前世だ。

 

 そんなヒマリが本気で幸せそうにしているんだ。相手も文句なしな男でもある。

 

 ……うん。心の底からほっこりできる。

 

 なんだかんだでザイアの影響も大きいからな。いい相手ができるかどうかちょっと考えたこともあった。その時は知らぬとはいえ前世のお袋だから、どうしても恋愛の目線で見れなかったし。

 

 それに、ヒツギとは割と気も合っている。ヒマリとも仲が良いしこれまた前世のお袋だし、幸せを願うぐらいは当然する。

 

 だからまさに、これは良い事だ。

 

 俺は心から祝福しつつ、ジュースを一口。

 

 ああ、これがいい人に恵まれた家族を見送る気持ちかぁ。

 

 うん、良いものだ。

 

「……おんやぁ? カズ君ってば、歳に合わない顔してるわねぇ?」

 

 と、何時の間にやらリヴァ先生に気づかれたようだ。

 

 すっと寄られるとそのまま抱き寄せられ、頭を撫でられる。

 

 ……うん、これはこれでいいかもしれない。

 

「う~ん。小姑のジレンマかもしれないなぁ。素直に祝福してるんだけど、複雑かもしれないな~」

 

「わぁおぅ。これで照れないってこの子マジで傑物」

 

 甘えたらなんか戦慄された。

 

 え、これ俺が悪いのか? なんか照れて動揺してなかったら減点なのか?

 

 勘弁してくれ。好きな人に甘やかされるってのは、たまになら人生の彩りだってのに。

 

 っていうか、少なくともリヴァ先生にそんなことは言われたくないぞ。

 

「甘えさせてくれるんじゃなかったっけか?」

 

 そんなことを言ってたはずだけどなぁ。いや、もう半年以上前のことだけど。

 

 甘えていいと言われてるんだから、甘えてもいいじゃないか。俺だって、甘えたい時の一つや二つぐらいある。

 

 ただリヴァ先生はちょっと詰まりながらも、もの凄く顔を赤くしている。

 

「そうなんだけどね? この甘えっぷりはとても戦慄が走っちゃうかなぁ? ジゴロの才能あふれまくりよ、カズ君」

 

 そんなに凄い事をしているのか。まったく分からんが、人からそう言われる余地はあるんだろう。

 

 ジゴロの才能か。持ってても別に嬉しくないというか、悪用の余地があふれすぎている。前世のクソ親父を思い出すし、悪用するとああなるんだろうと納得してしまった。

 

 うん。絶対に悪用しないように気を付けよう。

 

「心の底から気を付ける。それはそれとしてもうちょっと」

 

 しっかりと思考を整理したうえで、悪用しないという決意と共に俺はリヴァ先生に頬ずりを。

 

 あ~。普段とは違う感じで癒される。この人時はなんだかんだで貴重だぁ~。

 

「う~ん。戦慄しまくりだけど役得役得。このポジションは死守しないとね」

 

 リヴァ先生もなんかほっこりしているけど、微妙に冷や汗が流れている。

 

 そんなに戦慄することなのか。自分ではさっぱり分からないけど、とりあえずリヴァ先生相手の時だけにしておこう。

 

 そういえばイッセーはこういう事を、リアス先輩達によくしているな。なるほど、確かにいいものだ。

 

 よし。そこそこ堪能して、今度イッセー達と駄弁る時のネタにしよう。

 

 俺はそんなことを思いつつ、まったりとした空気を味わうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 あいつ、俺達の視界に映ってるって自覚あるんだろうか?

 

 九成がリヴァさんから来たのを良い事に、かなり甘えている。まるでリアスや朱乃さんに甘やかされている俺のようだ。

 

 なんだろう。はたから見ていると分かる衝撃というかなんというか。俺ってば、周囲からこんな感想を思わせるようなことをしてもらっていたのか。

 

 ……なんというか優越感だな! 九成はリヴァさんぐらいにしかあんな感じで甘やかしてもらえないだろうけど、俺はリアスと朱乃さんの二人だ。つまり俺は九成より上か!

 

 ……その分、取り合いになるとちょっと怖いけど。一歩間違えると巻き添えで痛い目を見そうだし。二人とも、ヒートアップすると魔力や雷光が出てくるんだよなぁ。

 

 うん、そう考えると嫉妬が湧いてくるよな。九成ならこういう時、変な争いに巻き込まれないし。俺とは大違いだ。

 

 何故だ。俺と九成の何が違う。俺だって最近はハーレム王秒読み段階だというのに、あいつと違っていまだに女の子とエロいことができないし。

 

 いや、あいつはかなり特殊だからそれは別にいい……わけないな。今の段階でもエロエロできるのは本当に羨ましいぞ!

 

 どうしてだろう。何故か、凄い敗北感と共に涙が出てきたぞ……?

 

「むむ? イッセーってば和地に嫉妬してますの?」

 

 そんな俺に気づいて、ヒマリは俺をぎゅっと抱きしめてくれる。

 

 ああ、側頭部に当たるおっぱいの感触……。俺の心から負の感情を取り除いていく……っ。

 

 感動で涙を流していると、ヒマリは隣でガチガチになっていたヒツギを掴むと、そのまま俺に引き寄せる。

 

 左右でおっぱい。左右でおっぱいが! おっぱいが……ぁっ!!

 

 高ぶってくる俺の耳元に、ヒマリが顔を近づけた。

 

「……いい機会ですし、今夜はたっぷり女の子を教えてあげますわ♪」

 

 ……………なん、だと?

 

 今、俺の耳がとんでもなく最高な提案を聞き取ったような―

 

「ちょっと待ちなさい、ヒマリ! 聞き捨てならないことを聞いたわよ!!」

 

 ―と理解するより早く、リアスが聞きつけて消滅の魔力を滾らせているぅううううううううううっ!?

 

 俺は速攻で命の危険を覚えるけど、ヒマリは俺を力強く抱きしめながらムッとした表情になった!

 

「いいではありませんの。私は半年以上もお預けされてて溜まってますのよ! 嫁にしてくれるって言質も取ったのですし、それぐらい構いませんわよ!」

 

 真っ向から反論するヒマリに対し、リアスはしかし引かなかった!

 

「私達を差し置いて独占だなんて納得いかないわ! 朱乃、貴女の方が先に言われてるんだから文句を言いなさい!」

 

 朱乃さんとの連携で仕掛ける流れだ! 判断が早い!

 

 そして朱乃さんも既に状況を把握しており、バチバチ雷光をたぎらせている!

 

「まったくですわ。婚約者のリアスや先に言われた私の方が優先されるべきでは?」

 

 ニコニコ笑顔でキレている朱乃さん、怖い!

 

「ちょ、ちょちょちょちょ!? まって、これ私も巻き添え喰らう流れになってるじゃん!?」

 

 我に返ったヒツギが顔を真っ青にしているけど、ヒマリは引かなかった。

 

「いまだに及んでないそちらの落ち度ですわ! 足の引っ張り合いで何年もお預けなんて嫌ですの!」

 

『『『『『『『『『『うぅっ!?』』』』』』』』』』

 

 女性陣の多くが痛いところを突かれた!?

 

 た、確かに。俺としてはぜひ手を出したい据え膳が来ても、誰かが突入してきてもめたりするから俺はまだ童貞だ。

 

 ヒマリの言う通り、このままだと俺が童貞を卒業するのは何年たつのかさっぱり分かったもんじゃない。

 

 い、いやだ! ハーレム王の道筋がほぼ見えてるのに、このまま何年も童貞なんて嫌だ!

 

 九成なんて別館をもらってますますお盛んだってのに、俺はまだ童貞なんだ。いい加減俺だって卒業したい!

 

 そんな衝撃的な真理を突き付けたうえで、ヒマリはさらに俺を抱き寄せながら追撃する構えだ。

 

「それに私が最初なのはだれにとっても得ですわよ!」

 

 な、なんか自信ありげだ。なんでだ?

 

「そもそもイッセーは童貞で、リアスさん達も処女じゃありませんの! ザイアで教わってますけれど、そんな状態ではグダグダになりますの! どちらかだけでも講習を受けた方が得ですわ! 経験値が積んだ方が上手くなるから、むしろ後の方が処女はお得ですわよ!!」

 

「「なに教えてるのザイア!?」」

 

 思わず、至近距離の俺とヒツギが絶叫したよ。

 

 そ、そういえばそうだった。ザイアで育てられた子供達は、エッチ方面も実技込みの英才教育を受けてるんだった。

 

 九成もヒマリも経験豊富だ。っていうか、相方は基本的にそっちも相方になってるはずだ。……冷静に考えると俺は九成と穴兄弟*1かよ!?

 

「……け、経験があるのと教えるのが上手なのは違うはずだ!」

 

「残念ですわね! 教官から「未経験者を導けてこそ真の経験者」として、教え方も受講可能ですの! しっかり受けてきてますから、イッセーが最初トチっても問題ナッシングですわ!」

 

 ゼノヴィアの反論に華麗な切り替えしが!

 

 っていうかちょっと待て! 言ってることは筋が通ってるけど、めちゃくちゃ頓珍漢なこと教えてるんだなザイア!

 

 みんなの視線も思わず九成や南空さんの方に向くけど、何時の間にか九成の姿はない。

 

 野郎、止めるの無理だと判断して逃げやがったな!?

 

 しかも逃げたってことは、間違いなくそこまで本当だな。……なんて倒錯的な教育環境なんだ。

 

 思わず誰もが何も言えなくなっていると、ヒマリは勝者の余裕すら見せて胸を張る。

 

「多人数プレイの講習も受けているので、まずはイッセーに技術を教えてあげますわ! それができるのはきちんと講習を受けていろんな人と実際に経験をこなしてきた、このヒマリ・ナインテイルですの!」

 

「ぐ、ぐぐぐ……っ」

 

 反論を封じられ、リアスがものすごく歯噛みしている。

 

 っていうか、それを隠すことなく堂々と言うのか。それでいいのか、ヒマリ!?

 

 け、経験者とだからこそできるエロもあるのか。というか、確かに失敗するのはそれはそれで嫌だから、経験値やスキルを積めるのならそれはそれでほしいとは思う。

 

 エッチな女の子に手取り足取り教えられますか。教えられちゃうのか。リアス達をとろけさせる手練手管の類を教えてもらっちゃうのか!?

 

「「あ、あわわわわ……っ」」

 

 至近距離でそんなことを聞かされているからか、俺とヒツギはもう困惑状態だった。

 

 ヒツギはがくがく震えてるし、俺は鼻血がだくだくと流れている。失血で倒れないようにしないと。

 

「お、おおおお落ち着いてください! 座学、座学で済ますという手もありますよ!」

 

 しゃ、シャルロットが普段とは違う方向性で反論を!?

 

「残念ですわね。百聞は一見に如かず。そして一の実戦は百の訓練に勝ると言いますわ。増してイッセーは、実戦の爆発力と地道な鍛錬で鍛え上げてますのよ? 経験値はあるに越したことないですの」

 

 そしてヒマリの理論武装は完ぺきだ。

 

 これは、今度こそ俺は童貞を卒業できるのか? ついにチャンスをこの手に掴めるのか?

 

 そんな期待をした、その時だった。

 

「……それはもう、いろんな経験値を積ませて見せますわ。いっそのこと和地に頼んで、目の前で実践演習も―」

 

「―それはやめてぇええええええええええッ!?」

 

 頓珍漢すぎること言わないでくれ、ヒマリ!

 

 思わず心の底から大絶叫したよ、俺は。

 

 あ、九成はそこまで読み切って逃げたな。覚えてろあの野郎!!

 

*1
意味は自己責任でお調べください




 けっきょくグダグダ。

 はい、告白を受け取られたこともあり、ヒマリはさらに暴走特急に。ここからどうなる!?


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戦愛白熱編 第十七話 地下室、死闘中!

 ハイどうもー! 体重を少しずつ落としていきたいグレン×グレンでっす!

 日々の主食を蕎麦に置き換えるといいとか聞いたけど、実家暮らしだとそれも厳しい。約一名そばが嫌いな人がいるのでなおさらで、運動もしつつ何とか試行錯誤です。


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今頃、ヒマリが暴走特急になってる頃だろうなぁ」

 

 俺はそっと抜け出し、そしてため息をついた。

 

 地下の方が騒がしくなっているし、間違いなく当たりだろう。

 

 ザイアの教育は特殊なのは、俺は体感しているし客観視もできる。

 

 特に問題なのはエロ方面。精通や初潮が始まれば、近いうちに経験人数が二ケタ到達もあり得る。そんな環境は特殊すぎる。

 

 むしろ、幼少期からそんな環境にいてトチ狂ってない俺がどうかしている。普通は価値観歪むだろう。瞼の裏の笑顔に交わした誓いが、よくここまでしのぐことを成し遂げた。

 

 なんだろう、自分でも少し戦慄を覚えてきたぞ。性的観念が確実に歪んでないとおかしいだろう、俺。

 

 ま、それはともかくだ。

 

「なんか疲れたし、ちょっと水を飲むか」

 

 地下には当分戻れない。まず間違いなく騒がしいことに巻き込まれるからだ。

 

 君子危うきに近寄らずと言うし、見えている爆撃地点に近寄る気はない。嘆きの涙が流れないと分かってるからな。

 

 いや、別の意味で流れるかもしれないな。後でイッセーの愚痴ぐらいは聞いておくべきか。

 

 そんなことを思いながら、俺はキッチンに向かう。

 

 ……ちょっと食い足りない感じでもあるな。いっそのこと、簡単な料理でも作るか?

 

 そんなことを思いながらキッチンに入ると―

 

「あ、和地様」

 

「三美さん」

 

 三美さんが作業をしているところに出くわした。

 

「一人で作業ですか?」

 

「いえ、ちょっと練習をしようかと思いまして」

 

 俺の質問にそう答えると、三美さんは死角にあったものを取り出した。

 

 ……飾り切りの練習をしてたのか。

 

「仮にもこの家は、グレモリー本家のご令嬢が住んでいるのです。この手の技法を用いるべきではないかと思いまして」

 

 なるほど、確かに。

 

 日本の本州に匹敵する直轄領を持つ、名門グレモリー本家の次期当主。それがリアス先輩だ。

 

 そんなリアス先輩がホームステイをする、事実上の婚約者の実家。当人がいる状況下なら、そういう芸術的手法も考慮するべきかもしれない。

 

 クックスは確かに超優秀な料理人だ。だがザイア、それも俺達実働部隊の料理担当だったこともあり、料理そのものはともかく芸術的付加要素はさほど慣れていない。精々が食欲を誘う盛り付けレベルだ。

 

 その観点を踏まえたのか。考えてるな三美さん。

 

「上手ですね。芸術に造詣があるのは知ってたけど」

 

「いえいえ。独創性には欠けてますから」

 

 苦笑交じりで俺の賞賛に返す三美さんは、どこか寂しそうだった。

 

「昔からそうなんです。模倣は得意でも独創性に欠けてまして」

 

 それは、かつてを懐かしむ旅人のようだった。

 

 同時に、過ちを告白する罪人のようだった。

 

 そんな雰囲気を纏う三美さんは、どこか寂しそうだった。

 

「……割り切って、自分に見切りをつけれればよかったんですけどね」

 

 その言葉に、俺は何を返すべきだろうか。

 

 さっぱり分からない以上、迂闊なことは言えない。だが同時に、彼女が俺の愛する人達を思わせる。

 

 己自身が辿ってきた旅路、その過程の出来事。それに振り回され、嘆いているように見えた。

 

 だからこそ。

 

「少なくとも、俺から見える今の三美さんは素敵な人です」

 

 これだけは、言っておこう。

 

 真っ直ぐに彼女を見据えたうえで、俺ははっきりと告げる。

 

「今現在の、今に至るまでの道を歩いてきた貴女は素敵な人に見えます。少なくとも、貴女が助けを求めれば助けたいと思えるぐらいに」

 

 今、俺が彼女をどう見えているか。それは言ってもいいだろう。

 

 嘆きで生まれた涙の意味を、笑顔に変えると掲げた誓い。

 

 かつて道間日美子が嘆き、カズヒ・シチャースチエとして歩き出せた出来事。彼女が俺の笑顔に誓い、俺も彼女の笑顔に誓った、その決意。それは決して揺るがない。

 

 だから、これだけは言っておく。

 

 俺が、九成和地が、道間田知が。涙換救済(タイタス・クロウ)から至りし旧済銀神(エルダーゴッド)。その俺が掲げた揺るがぬ誓い。

 

 瞼の裏の笑顔に誓い、約束された勝利を刻め。

 

 その決意は、俺が俺である限り揺るがない。

 

 そして、それは俺だけじゃない。

 

「あと、イッセーもリアス先輩も、当然カズヒも助けますよ。貴女達はそうされていい人だと、俺達は思っていると確信してます」

 

 そういう人だけが、いくつもの審査を潜り抜けて懲罰従者に選ばれる。

 

 それを俺たちは知っている。だからこそ、俺達はそういうことをする。

 

 それだけは、信じてほしい。

 

 俺たちはそういう連中だ。貴方達はそうされるに値する。そういう者だけが、この屋敷に住む資格を得るのだと。

 

「……そう、ですね」

 

 そして、それは届いたようだ。

 

 小さく、どこか華やかに微笑む三美さん。

 

 その上で、三美さんは小さく苦笑いをする。

 

「よければ、愚痴を聞いてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「もちろん」

 

 チームリーダーとして。オカ研の一人として。

 

 そして何より、涙換救済である俺として。

 

 それぐらいはさせて欲しいぐらいだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で、壮絶な死闘が繰り広げられている。

 

 ヒマリさんが勢い任せでイッセー君と初夜を迎えようとしたのがきっかけ。だけど方向性が頓珍漢なことになって、揉めに揉めている。

 

 ……ザイアの教育環境、本当に碌でもなかったんだね。九成君はむしろ、なんであそこまで高水準でまとまっているんだろうか。

 

 彼、前世の経験は二年あるかどうかレベルのはずだけど。当人も前世という明確な判断ができないレベルだったのに。

 

 むしろカズヒの影響力として考えるべきだろうか。良くも悪くも強烈だから、記憶や潜在意識に残りそうではあるしね。

 

 まぁ、いい方向に向かっているならいいんだろう。そういう感じに割り切ろう。

 

「覚悟しなさいヒマリ! イッセーの初夜は渡さない!」

 

「落ち着いてくださいリアスさん! いえ、争奪戦は興味が……その……」

 

「譲りませんわよー! イッセーの初夜はトチらせませんのよぉー!」

 

「「誰か助けてぇえええええっ!?」」

 

 リアス姉さんとシャルロット相手に、ヒマリは真っ向から立ち向かい、イッセー君とヒツギは悲鳴を上げている。

 

 ……現実逃避も難しくなってきたしね。

 

 死闘がそろそろ、かなり本気になってきている気がする。

 

 中心部で巻き込まれているイッセー君とヒツギの悲鳴も、かなり深刻になっているしね。そろそろ攻撃に加減が無くなってきている。

 

 止めたいけど、あの人数は命を覚悟しないと。まして主たるリアス姉さんを止めるのだから、遺書をしたためてからにするべきだろうか。

 

「落ち着きなさい、祐斗」

 

 と、カズヒがちょっと遠い目をしながらそう言ってきた。

 

 見ると、かなり魔力を滾らせている。

 

「とりあえず固有結界で安全地域を作るわ。そこである程度ガスを抜いてから鎮圧しましょう」

 

「鎮圧するのは確定事項なんだね……」

 

 リアス姉さん達とイッセー君には同情しよう。

 

 これは物理的に鎮圧される流れだ。せめて、イッセー君とヒツギが被害を受けない形にする努力はするべきだろう。

 

 盛大にため息をついているカズヒは、その上で拳を握り締める。

 

「ウォーミングアップは整えておいて。ニ十分は暴れさせておくから」

 

「その、無理はしなくていいよ?」

 

 固有結界って、十分や二十分持たせるのも大変らしいけど。そんな長時間使っていいのかな?

 

 いや、カズヒの固有結界は展開するだけなら長時間できるけど。それにしたって負荷が少なくはないと思うんだ。

 

 そんな時間、態々待ってあげる必要があるんだろうか。

 

「……不完全燃焼させると、明日も揉めそうだもの。ある程度発散させるべきよ」

 

 僕の視線に気づいたカズヒはそう言うと、更に肩をすくめる。

 

「ま、ガスは抜く機会を無視する必要はないのよ。……溜め込んでいると、碌なことにならないもの」

 

「説得力があふれるのが、なんていうかね」

 

 彼女のかつての人生を知る者として、ぐうの根も出ない結論だね。

 

 実際、鬱屈した物を正しい意味で発散できなかったからこその彼女の所業だ。肯定することも無条件に容認することもあり得ないが、そうなってしまったことに説得力がありすぎる。

 

「まぁ、九成君がいるなら君は大丈夫なのかな」

 

「イッセーも別の意味で大丈夫でしょうけどね」

 

 そんなことを言い合いながら、僕達は事態の鎮圧を行う為に準備をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は休憩スペースのスパでゆったりとしながら、ふと勘が働いた。

 

「今、イッセー達がからかいがいのあるバカ騒ぎをしている気がする!」

 

「……それは残念じゃのぉ。リヴァと共にいれば引っ掻き回しがいがありそうじゃろうに」

 

 オーディンの爺も酒を飲みながら、馬鹿にせずに受け答えしてくれる。

 

 ありがたいぜ。ミカエル辺りだと呆れを全身で表しながら切って捨てそうだからな。

 

 あ~畜生。是非ともこの目で見たかったぜ。きっとめちゃくた見てていて面白い展開になってるんだろうなぁ、残念だ。

 

 ま、それはともかくとして、だ。

 

「あんたの娘も息子も、今のところは連戦連勝だな。鼻が高いんじゃねえか?」

 

「ほっほっほぅ。お主の教え子共もじゃろぉ? お互い様じゃ」

 

 そう言い合いながら、酒の入ったグラスをぶつけ合う。

 

 ま、アジュカの好意でアザゼル杯の試合とかもある程度は見れるからな。

 

 流石にリアルタイムは無理だが、ある程度まとめたうえで送ってくれる。あとはこの施設のシアタールームで、休憩時間にまとめた映像を見るぐらいはできるわけだ。

 

 サーゼクスなんて記録映像だってのに、手に汗握って応援してるからな。セラフォルーも我を忘れて応援してるほどだ。

 

 今のところ、チームD×Dが中核となってるチームはどこも好成績だ。純粋な勝率なら神が参加しているチームにも引けを取らないのが大半。この調子なら、本戦出場チームの大半はチームD×Dか神々のチームになるだろうさ。

 

「戦を司る神々としちゃぁ、参加できなくて残念だったな」

 

「構わんわい。当分は若いもんに幅を利かせてやらんとな?」

 

 おぅおぅ。減らず口叩いてるなぁ?

 

 俺はもちろん、アンタが参加しても本戦に出るのは苦労するだろうに。それぐらい、強者がゴロゴロ参加してるじゃねえか。

 

 ま、フロンズやハーデスの息がかかった連中もその強敵に入ってるのがあれだがな。

 

 フロンズは足並みをある程度は揃えてくれるだろうが、問題はハーデスだ。

 

 奴らは間違いなく強敵で警戒対象だしな。特にハーデスは、俺達にとって最大の懸念事項だ。

 

 俺達という抑えが無くなった以上、動き出すリスクが一番デカい。フロンズ達や帝釈天はまだましだが、あの爺は確実に動きを見せるだろう。実際、既に牽制球は入れてるしな。

 

 ただ本命はまだ別にありそうだ。ラツーイカ・レヴィアタンなんて言う爆弾を、こんなに早く見せてるから間違いない。

 

「あの爺さんには勘弁してほしいぜ。大昔の勢力争いの恨みつらみなんて、今のガキどもを巻き込んでまでするんじゃねえっての」

 

「確かにのぉ。うちのロキと手を組まなかったことだけは感謝じゃわい」

 

 そんなことを愚痴り合いながらも、俺達はそれを酒の肴にする余裕はあった。

 

 なんだろうかねぇ。今のイッセー達に喧嘩を売って、ハーデス達がただで済む姿も見えないってのが理由だ。

 

 ……懸念はしてる。だが、心配しすぎる気はしない。

 

 大会でも実戦でも、あの爺さん達に見せつけてやれ、イッセー。

 

 お前達が困難を乗り越えて到達した地平は、例え冥府の神でもどうにかできるものじゃないって……な!

 



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戦愛白熱編 第十八話 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば、ちょっとした飲みの席になっていた。

 

 最も酒はないが。俺も三美さんも、年齢や立場もあるからジュースにしている。

 

 で、適当に用意したスナック菓子を摘まみ代わりに、俺は三美さんの過去語りを聞くわけだ。

 

 うん、しっかりと聞いて、しっかりと受け止めたいところだな。

 

「私の家は、昔から芸術家志望が多いうえ、実際になる人も多い家です」

 

 そう言うと、三美さんはメモ帳にさらさらと綺麗な字を書く。

 

 行舩→ゆきふね→雪舟

 

 その図式を書くと、小さく苦笑していた。

 

「平民が苗字を名乗れるようになった時に、こんな感じでつけたと言われてます」

 

「……ああ! そういうことか!」

 

 ちょっと反応が遅れたけど、何とか思考が追い付いた。

 

 確か、涙でネズミを書いたら本物と間違われたとかいう絵の得意な坊主だったな。雪舟(せっしゅう)って!

 

 雪舟の文字をゆきふねと読む形で捻った苗字なのか。芸術だけじゃなく勉学にも理解がある人だったんだなぁ、三美さんの先祖って。

 

 そこから芸術家の多い家柄になるってことは、倒幕や明治維新の前からある程度は力があったのかもしれないな。まぁ、今現在になるまでに色々あるだろうからそこはいいか。

 

 名字の由来も眉唾物だろうし。話のタネとかその程度でだしたって考えるべきだな。

 

 なので頷くことで促して、俺は話を先に進めてもらう。

 

「……私が生まれた時も、父も母も芸術が縁で結ばれて生まれたので期待はされました。名前の由来も、そういうところが大きいみたいですね」

 

 まぁ確かに。三美……美が三つだしな。

 

 そんなに珍しくなるような名前でもない気がするけど、考えてみるとインパクトも大きく成りえる名前だ。芸術家一族がそんな名前を付けたというなら、その辺りの願いは強かったのかもしれないな。

 

 それが転生悪魔、それも武闘派か。

 

 何があったのか分からない。そして、それをこれから語るんだろう。

 

 その上で、こんなことで語る以上は重いものがあるとは察していた。

 

 だからこそ、下手に続かずに話を聞く。

 

「芸術って独創性とかが必要ですけど、その辺りが全くなかったんですよ……私」

 

 そう言う三美さんは、さらさらとメモ帳に絵を描く。

 

 シャープペンシルで綺麗に書いている気もするが、どことなく……コピー機のような印象を感じた。

 

「昔から、風景画や模写ばかりが得意でして。芸術には独創性は重要ですけど、その辺りが全然駄目でして」

 

 ああ、なるほど。

 

 つまりこの絵も、どこまで見たものを正確に再現しているだけなのか。

 

 そういえば、そんなことを言っていたような気もするな。

 

 これはこれで凄いとは思うけど、芸術家という観点で見れば凹むところはあるか。

 

 芸術家とは、作る者だ。オリジナリティが多分に重要視される業界である以上、ある物の模倣ばかり上手では自信はつかないだろう。

 

「父も母も、残念には思っても愛してくれたんですけどね。……ただ、生まれた時から感極まって、「未来の三美」なんて言うシリーズを作られていたので……ちょっと重く感じてました」

 

「それは、プレッシャー感じそうですね」

 

 何やってんのご家族の方々。

 

 しかもシリーズって、いくつも作ってたのか。まさかと思うが一歳ごとに未来予想図を作ってたのだろうか。下手したらグレるぞそれは。

 

 正直ちょっと頬が引きつっているが、三美さんは気にせず話を進める構えだ。

 

「今でも電話で話すぐらいには、繋がってはいるんですけどね。一念発起して武闘派(転生悪魔)に切り替えたことで、私も家族も踏ん切りがついたので」

 

 そう空気を変える様に、三美さんは言う。

 

 ただそれは、そこまでしないと生き方を切り替えられなかったという事だ。

 

 実際、今でも気にはしているみたいだしな。長年のコンプレックスだろうし、人は気にしてしまうことはある物だ。仕方ないとは言えるだろう。

 

 だからあえて深く聞かず、俺は小さく頷いた。

 

「……踏ん切りがつくまで、大変だったでしょう」

 

 家族関係も、ギグシャクしていた時期があったのではないだろうか。

 

 そんなことを思いながら俺は労り、三美さんも頷いた。

 

「幼馴染の子とか、中学から付き合いのあった後輩は才能があったので尚更ですね。表に出さないぐらいはできましたけど、我慢できずに海に向かってバカヤローって叫んだりとか本当にしちゃったこともあります」

 

「……想像するだけでメンタルがゴリゴリ削れそうですね」

 

 自分が欲してやまない物を、近くの人達が何人も持っている。

 

 想像するだけでストレスが溜まりそうだ。実際、そういった理由で腐る人も多いだろう。

 

 考えようによっては、カズヒ(道間日美子)もそうだといえる。

 

 カズヒの方がどす黒いし、呪われているといえる。これはどう客観的に見てもそうなるだろう。

 

 だが、カズヒ自身が言っていたことがある。それは、俺のような立場にとっても大事なことだ。

 

 ―下には下がいることと、今下にいるという事実は別のこと。

 

 それはとても大事なことだ。より不幸な者がいるのなら、今不幸にいる者をないがしろにしていいわけではない。何故なら不幸であることは変わらないのだから。

 

 涙の意味を変える者として、そこはないがしろにしていいわけがない。それは、とても大事なことだ。

 

 少なくとも、三美さんは鬱屈した感情を抱えそうになる状況だった。それはまごうこと無き事実だろう。

 

 それを胸に刻み込んだうえで、俺は真っ直ぐに三美さんの独白に向き合う。

 

 それぐらいしかできないからこそ、そこをいい加減にはしないでおこう。

 

 その意識をもって、俺は彼女に向き合う。

 

「……ただ、色々あって限界がきて、美大は自主退学しました。その時にかつての主と会って、自分を変える為に転生悪魔になったんです」

 

「そう、ですか」

 

 思い切りが良すぎる気もする。例えるならゼノヴィアみたいだ。

 

 ただ、ゼノヴィアにとっては聖書の神が実は死んでいるという事実の直後だ。精神的にかなりの衝撃を受けていたことは間違いない。

 

 だからこそ、三美さんにとっても大きな衝撃が走っていたのかもしれない。そう思えてしまう。

 

「……今日はこの辺にしましょう。その、寝る前に聞いていい気になる話ではないですから」

 

 そう、三美さんは話を打ち切る。

 

 こっちを気遣っているのか。それとも、話す勇気を持てないのか。もしくはそのどちらかか。

 

 まぁ、俺も強引にしなくていいところを強引にするのはちょっとな。

 

 気長に少しずつでいいだろう。少なくとも、今急ぐ理由が無いのならな。

 

「ええ、今度時間が空いた時にでもじっくり聞きます」

 

 俺はそう返すと共に、しっかりと時間を空けておくことも決めている。

 

 最低でも週に一時間は開けておこう。それをしているかどうかでだいぶ変わるだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つ、疲れた。

 

 もう今日は一人で寝る。たまには一人の時間が欲しいから。

 

 それぐらい、壮絶な死闘だった。命の危機を感じそうになったよ。

 

「大丈夫かい、イッセー君」

 

 木場がそう言ってくれるけど、本当に大変だった。

 

 リアスもヒマリも星を振るうし、互いに高ぶったのか「「専用異空間()出ろ!」」なことを言い出すもん。他の子達も参戦状態で、シャルロットすらちょっと冷静じゃなかったし。

 

 最終的にカズヒ降臨(いつもの展開)で収まり、罰としてヒツギ以外は俺との接触を今夜禁止されることに。

 

 そしてヒツギはヒツギでオーバーヒート気味で、俺と同じで一人で寝たい状態だった。

 

 ……お互い、今夜は大変だったな。

 

 ベッドに倒れこんでいるだろうヒツギを思い、俺は共感して涙した。

 

 そして今夜も結局、俺は初体験無し。まぁそんな精神的余力もないけど。それはそれとしてまたお流れかぁ。

 

「俺、何時になったら童貞を捨てれるんだろう」

 

 ぽつりと、俺はそんなことを言ってしまう。

 

 おっぱいいっぱい夢いっぱい。ハーレム王に俺はなる。そして、出来ることなら最強最高のハーレムを。

 

 それが俺の夢だ。色々あって他にもいろんな願いや決意はあるけれど、この願いは割と根幹で悪魔をやっている。

 

 でも童貞だ。

 

 そして俺は今、嫁に来てくれる子達まで何人もいる。グレモリー本家の婿もほぼ確定だ。九割がた、この夢は叶っていると言ってもいい。

 

 でも、童貞

 

 むしろ俺を取り合い、最初に俺とエッチをしたいと考える女の子達は数多い。男としては処女にロマンを感じることもあるし、もはや夢とロマンにあふれた日常を過ごしているかもしれない。

 

 でも……童貞なんだ……っ。

 

 周りのお偉いさんも割と応援してくれている節がある。グレモリー家は今になって考えれば、かなり前から俺を婿にする方向で話を進めてたし。天界だって、天使であるイリナが俺とエッチしても問題ないよう、専用のアイテムを作り上げた。堕天使側だってそれをコピーし、朱乃さんが持っている。むしろ俺の周り、お偉いさんが俺のスケベに理解を持ってくれるどころか、かぁなぁりエロエロな人も多い。環境は整っている。

 

 でも……まだ……童貞なんだ……っ

 

 俺は耐え切れず、崩れ落ちた。

 

「イッセー君!? 大丈夫だよ、絶対時間の問題だから!」

 

「具体的にどれぐらいなんだよ。教えてくれ……っ」

 

 分かってるならまだ耐えれる。

 

 でも分からないんだ。いつか来るって、何時なんだ。教えて……くれよ!

 

「畜生。きっと今頃、九成は女の子といい雰囲気になってるんだろうなぁ。そして、俺の住んでいる家の敷地内でエッチしてるんだろうなぁ」

 

「いや、九成君は決してそこまでがっついてないし、一人の時間もちょくちょくとってるからたぶん大丈夫じゃないかな?」*1

 

 そういうことを言ってるんじゃないんだよ、木場ぁあああああっ!!

 

 うわぁああああん! 早く非童貞になりたぁああああっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう本当に、いい加減にしなさい」

 

 正直いい加減にうんざりなので、私はハッキリ言っておくことにする。

 

 いや本当にいい加減にしろ。なんで童貞を捨てたい男と、そんな男とエロいことをしたいと考える女がゴロゴロいてこうなのか。

 

「イッセーが可愛そうでしょう。まず順番を決めなさい。そしてそれを順守しなさい」

 

「え~? それを横からかっさらうのがオツなんじゃなットォッ!?」

 

 妄言を吐き散らかそうとした黒歌に魔力弾を叩き込んでおく。

 

 まったく。もうちょっと秩序を保ちなさい、アンタら一応政府側でしょうが。

 

 これはもう、釘を刺しておくべきかしらね。

 

「あんまりグダグダやるようなら、和地の許可をとったうえで私がイッセーの童貞を食べるわよ」

 

「な、なんだと!? お前正気か!?」

 

 ゼノヴィアがなんか絶叫するけど、なんでそんなことを言われなければならないのだろうか。

 

 なんで全員全裸になってイッセーと一緒にエロゲをするなどという、変態としてもハイレベルな行為をする奴に言われないといけないのかしら。……あ、真剣に殺意が湧いてきそう。

 

「まぁ別に私じゃなくてもいいのだけれど。このままだと拉致があかないからハニートラップ専門部隊と連携をとるって手段もあるし」

 

「え、ちょっと待って!? 私初耳!?」

 

 イリナが話に割って入ろうとするけど、私は流れるように華麗にスルー。

 

 世界規模の組織となると、綺麗ごとだけでやっていくのは困難なのよ。人数も多ければ腐敗もあるし、そういった手段は持っておくに越したことはない。清濁併せ呑む度量を今後とは鍛えることね。

 

 っていうかダーティジョブ専門部隊があるなら、ハニートラップ専門部隊だってあるでしょうに。想定しなさい。プルガトリオ機関は幅広いニーズに応える暗部組織なのよ。

 

 まぁそこは置いといて。

 

「そもそも未経験同士の初夜なんて、トチってもおかしくない定番だもの。更に初物を取り合って不毛な争いで無駄に時間をかけている以上、原因を取り除きつつ失敗のリスクを減らすのは理に叶っているでしょうに」

 

 その当たり、はっきりと釘を刺しておく。

 

「言っておくけど、本気でシャクってるからね? 実際初体験がグダグダになってギクシャクするって話もあるし、いっそのこと気持ちのいい初体験を得るためにいさかいの元を排除してもらうのはありでしょう?」

 

「そんな! イッセー君の童貞を頂きながら処女をささげたいのに!?」

 

 朱乃までそんなことを言うけれど、ロマンにあふれすぎて現実を見てないわね。

 

「事前学習無しの未経験に夢を求めすぎよ。誠にぃだって、私が童貞を頂いた時はされるがままで割とすぐ出るんだし。経験と知識と技術はある程度あるに越したことないのよ!」

 

「こちらに非があるのは事実ですが、なんか素直に受け取れないですね」

 

「……ヘビーすぎる過去を持ち出さないでください」

 

「経験に基づく意見ですが、その経験は出さない方がいいと思います」

 

 比較的良識のあるシャルロットや小猫にロスヴァイセさんがそう言うけれど、だったらもうちょっと滑らかなルート構築をしてもらいたいものだな。

 

 こっちだって人のエロ関係にここまで強引に割って入るのは不本意よ。なんでそんな下世話なことをしなければいけないのか。

 

 グダグダかつ騒がしいのが悪い。もうちょっとこう、滑らかに進める為の努力をしてほしい。

 

「ったく。次の試合は色々と頭が痛いってのに、こっちに頭痛の種を増やさないで頂戴」

 

 そういうと、周囲が一瞬静まり返った。

 

 まぁ、確かに静まり返るわね。

 

 次の試合で私のチームは、あのグレイフィアさんの率いるチームと戦うことになっている。

 

 純血の魔王一族を三人も加えたチーム。フロンズの手が入った、グレイフィアさんのチーム。

 

 あの人も一体何を考えているのか。ガブリエル様達も思惑が掴めず、対応に苦慮していると聞く。

 

「……お義姉さまは、一体何を目的としているのかしらね」

 

 リアスも苦慮しているのは分かる。

 

 私にとっても、あの人はただの他人ではない。それなりに付き合いもあるし、気になることは数多い。

 

 だからこそ、だ。

 

「ええ、いい機会だし拳で語り合ってくるわ。……そういう意味ではいい催しね」

 

 まったく、勘弁してほしいわよグレイフィア・ルキフグス。

 

 貴女の真意、探らせてもらうから覚悟しなさい。

 

*1
現実は非情である




 次回より、カズヒVSグレイフィア編……というべき流れになるでしょう。


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戦愛白熱編 第十九話 魔王、超集合

 はいどうもー! 体重があがったり下がったりで、今のところは下がる方が優勢なグレン×グレンでっす!

 最近はこっちのモチベーションが高まっているので、当面は書き溜めこみでだいぶ続きそうです!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冥界のバアル領で行われる、カズヒとグレイフィアさんのレーティングゲーム。そんな日がやってきた。

 

 俺達は早めに来て、それなりにゲームの名所で有名なこの町の観光とかもやっている。みんなで分散して、試合を見る前に楽しんでる感じだ。

 

 それぞれが思い思いでグループに分かれてるわけだけど、他にも色々あったりするわけで―

 

「へぇ、君達が……ね」

 

「「……え、っと……」」

 

 ―俺は今、ヴァーリのオーラに気圧されている亜香里と有加利さんのフォローをすることになっている。

 

 どうせいつかは会うだろうしということで、冥界の体験学習も兼ね二人を連れてきたわけだ。

 

 冥界にも慣れておいた方がいいと思ったから、ここに関しては満場一致。で、冥界の英雄で子供の人気が莫大な俺なら万一の護衛にぴったりってことになった。もちろんレイヴェルも補佐についている。

 

 ただ、ついでにヴァーリと顔合わせするって流れはちょっと不安だった。

 

 自分に流れるルシファーの血を誇り、最強の白龍皇を超えてグレートレッドに並ぶ白龍神皇になろうっていうヴァーリだ。おかしな状態だと俺や九成と渡り合っていた二人に興味津々だろう。読めていたからこそ、フォローができるタイミングで合わせることになった。

 

 ただ、威圧してはいないだろうけど興味津々すぎなんだよ。

 

「そこまでだぜ、ヴァーリ。色々訳が分かってないから、当分戦闘はさせられないんだからな?」

 

 一応釘は差して置いたけど、やっぱりだけど意に介してないな。

 

 ドラゴンって、基本的に自分のペース。ヴァーリチームは全体的に自由人だし、こういう時はやっぱり自分のペースになるか。

 

「分かってるさ。だが俺と同様の魔王血族と二人も出会えたんだ。気になって当然だろう?」

 

 ま、そりゃそうだろうけどな。

 

 自分の血と宿った力を誇り、それを極めようとしているのがヴァーリ・ルシファーという男だ。必然的に魔王の血筋、それも神器を宿したハーフってのは気になるだろ。

 

 まして、魔王の血は神器に対するドーピング剤に仕える。実際ヴァーリは、龍神の肉体を得た俺とは違い己の血筋と友情でD×D(ディアボロス・ドラゴン)に至った。ドーピング剤はシャルバの血が材料だったろうし、特に亜香里には興味があるだろうなぁ。

 

 流石に今のヴァーリなら、俺の時みたいに変な喧嘩を仕掛けたりはしないだろう。ただ、妙なちょっかいはかけそうだしなぁ。

 

 安心半分不安半分でいると、レイヴェルがゴホンと咳払いをした。

 

「ヴァーリさん。カズヒさんから念の為、伝えておくようにと言われたことを伝えておきますわ」

 

 ん? そんなこと言ってたっけ?

 

 俺が首をかしげていると、レイヴェルは再び咳払いをしてからまっすぐにヴァーリを見据えた。

 

 だ、大丈夫なのか、レイヴェル。半端な出任せはヴァーリには通用しないぞ。

 

 そう俺が思う中、レイヴェルは口を開いた。

 

「妙なことをするようなら、五感が察知した瞬間に知覚するより早くアナフィラキシーになるレベルのラーメンアレルギーになる呪詛を開発ちゅ―」

 

「―この世全てのラーメン、そして白龍皇アルビオンと魔王ルシファーの名において誓おう。この場でそちらの二人に余計なちょっかいは一切かけない」

 

 食い気味でヴァーリが力強く宣言した。

 

 な、なんてあほくさい呪詛なんだ。ヴァーリに効果覿面なのが悪質だけど。

 

 っていうか、ラーメンの後にアルビオンとルシファーの名を出すって、慌てすぎだろヴァーリ。アルビオン、泣くぞ? 魔王ルシファーも草葉の陰で泣くぞ?

 

 なんだろう。効果覿面だけど、微妙な気分になるなぁ。

 

『言っとくが相棒。おそらくその呪詛、相棒のおっぱいアレルギーから着想を得たと思うぞ?』

 

 いろんな意味で最悪だ……!

 

「え、おっぱいアレルギー? 何それ?」

 

「アレルギーって色々なものがあるけど、おっぱい……?」

 

 亜香里と有加利さんも困惑している。

 

 ですよね! 自分でもショックは受けるけど、それはそれとして聞くだけだと訳が分からないと思うよ。

 

 でも最悪の事態だった。見ることも触ることも口に出すこともできなかったからなぁ。あれが続くようなら、俺の心は死んでいた可能性があるレベルだしなぁ。

 

 あ、思い出しただけで涙が……?

 

「お、あれは噂の赤龍帝じゃね?」

 

「お、赤龍帝に……お前らもか!」

 

「ほぉ? こんなところで赤龍帝とはなぁ」

 

 ん?

 

 なんか声をかけられたので、思わず振り向いた。

 

 振り向いたけど―

 

「初めまして、赤龍帝。血族が迷惑をかけたね」

 

 そんな風に片手を挙げて挨拶するのは、グレイフィアさんのチームにいる魔王血族の一人。

 

 確かベルゼブブの人だけど、後ろにルシファーとアスモデウスの人もいる。

 

「よっす、赤龍帝! それに望月に鰐川だっけか?」

 

 亜香里と有加利さんにまで挨拶してくれるのは、以前であった後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)のラムル。

 

「ほぉ? 凡人達もいるとは、面白い趣向だな?」

 

「そういうわけじゃないんじゃない?」

 

 そしてユーピ・ナーディル・モデウに、あとレヴィアタンの人もいる。

 

「ふふ。噂の赤龍帝や白龍皇と会えるとはね。ハーデス様から話は聞いているとも」

 

 更にフードをおろしながらそういうのは、ハーデスの参加だと堂々明言したラツーイカ・レヴィアタン。

 

 俺はちょっと深呼吸をして、空を見上げる。

 

 ふふふ、紫の空にもだいぶ慣れたなぁ。じゃ、もういいっか。

 

「旧魔王の血族、大集合じゃねえかぁあああああああああっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか今、イッセーの絶叫が聞こえた気がする。

 

「……まずいわね、こんな時に幻聴なんて」

 

 そして隣にいたカズヒも聞こえたらしい。

 

「もしイッセーの声だったら、本当に叫んでたのかもな」

 

「彼、巻き込まれツッコミ属性だものね。後で念の為に連絡しておきましょう」

 

 そう言いながら俺達は、シャワールームに入るとそれぞれお湯を浴び始める。

 

 観光もそこそこに、俺はカズヒのウォーミングアップに付き合って軽い組み手をしていた。

 

 これでもザイアでは色々な戦闘技術を教えられてたんでな。格闘戦もお手の物だ。星辰奏者(エスペラント)のポテンシャル込みなら、素手で戦車ぐらい壊せます。

 

 そして汗をかいたので、そのまま待機ブースのシャワールームを使っているわけだ。いい汗かいたぁ。

 

「試合までないなら、ちょっといたしてもよかったんだけどね」

 

「男のスケベ心をそそらせることを言ってくれるねぇ」

 

 そんな他愛のない会話をしながら、俺達は汗を流してリフレッシュ。

 

 ただ、やはり試合が気になるな。

 

「で、勝算のほどは?」

 

「4:7ぐらいで私達が不利ね」

 

 厳しめだけど、間違いない想定はしているってことか。

 

「総力戦だと年季の差で押し切られかねない。やるなら短期決戦で、私がグレイフィアさんを叩きのめすべきでしょう」

 

「一対一でか。ま、仕方ないところはあるな」

 

 グレイフィアさんが率いるチームは、基本的に純血悪魔の集団だ。

 

 固定メンバーとしてはグレイフィアさん及び魔王血族。それ以外は相手チームの傾向に応じて、中級悪魔八人に上級悪魔から最上級悪魔の四名というのが基本パターンだ。

 

 初期の段階で帝釈天が率いるチームを打倒したが、あれは戦闘の勝利が試合の勝利に直結しにくいランペイジ・ボールだったことも大きい。とはいえ魔王クラスが率いる魔王血族のチームであり、間違いなく平均水準が強い。

 

 グレイフィアさんとフロンズがその気になれば、最上級悪魔だけでチームを組ませることも可能だろう。とはいえあまりそれをすると、余計な勘繰りを催すはず。だから数を用意できるギリギリのラインで戦力を集めたって推測がある。

 

 とはいえ、たいした実力がない連中では帝釈天が率いる四天王はしのげない。この時点で、率いている連中が強いのは間違いない。

 

 ……だから、カズヒが厳しめの評価をしているのは当然だ。

 

 カズヒは聖墓を宿しているし、鶴羽は聖槍・聖杯・聖十字架を使う余地がある。聖遺物が四つもあるなら悪魔相手にマウントが取れるが、それだけだ。

 

 中級悪魔と星辰奏者ならほぼ同格。八人がかりは抑え込めるだろう。

 

 とはいえ残りが全員、最低でも最上級悪魔クラス。そうなると、リーネスとお袋は言って劣るのが難点だな。

 

 ……となれば、勝率を上げる札はカズヒによる大将同士の一騎打ちに誘導すること。

 

 国際大会というお祭りなら、これを使えばグレイフィアさんも無視はできないだろう。彼女の立ち位置ではそれをガン無視し続ければ、色々とまずいことになる。それはフロンズも避けたいだろう。

 

 ……それも踏まえての勝率だがな。今のカズヒは超越者に届くミザリに勝算があるとはいえ、グレイフィアさんは年季が違う。決して楽に勝てる相手ではないだろう。

 

 真っ向勝負で負ける可能性はある。更に、誰か一人でも落とされれば魔王血族が援護に来かねない。そしてお袋とリーネスが先に落とされる可能性は高い。

 

 う~ん。リーネスもお袋も弱くはないんだけどなぁ。最上級悪魔クラスが相手だと、一対一はきついからなぁ。

 

「どうする、カズヒ。新兵器の一つや二つぐらいは欲しい感じだけど」

 

「流石に今は隠し玉はないわね。気合と根性でごり押しするのは避けたいし、不利は否めないわ」

 

 ま、そんな簡単に新兵器の一つや二つなんて用意できないか。

 

禁手(バランス・ブレイカー)はどうなんだ? まだ二つ残ってるだろう?」

 

 思いつくのはその当たりなので、一応聞いてみる。

 

 禁手。神器(セイクリッド・ギア)の究極とされる段階。それをカズヒは、まだ二つ残している。

 

 広大な異空間に物体を収納し任意で取り出せる、異界の蔵(スペイス・カーゴ)。そして現世聖域の墓標(カテドナル・グレイブ)

 

 三つも神器を持つというアドバンテージに、後天的に獲得したのは神滅具(ロンギヌス)という反則具合。俺が敵ならふざけんなと言いたくなるレベルだ。まぁ、俺もなんだけど。

 

 全部至らせることができれば、その時点で下手な魔王クラスを超える戦力になるだろう。カズヒの基本的な戦闘能力込みなら、超越者相手でも真っ向から渡り合える性能になるはずだ。勝ち目は一気に増えるだろう。

 

 ただ、カズヒは少し考えてから首を横に振った。

 

「気合と根性を入れれば至れる自信はあるわ。でも、こういうのはきちんと考えたうえで至りたいのよ」

 

「……なるほど」

 

 勢い任せじゃなくて、真剣に先を考えたうえでどう至らせるかを考慮した仕様にするのか。確かにそれは、大事だろう。

 

 禁手はその性質上、土壇場での覚醒があり得る。だがそれは後先を考えている余裕がない状態になりやすく、長い目で見るとリスクもある。リュシオン・オクトーバーみたいなマネは特例枠だろうしな。

 

 となれば、真剣に考えて吟味したうえで至らせるのも一つの手だ。

 

 英雄派がろくでもないことをしたおかげで、意識的に至らせることは十分可能。まして光極めてるカズヒなら、至らせようと思えばいつでも至らせられる余地はある。なら慌てることもない、か。

 

「……競技試合で勝ちたいからって、事実上不可逆の進化を遂げるのもね。その辺りはもっと慎重かつガチな事態を考慮して至りたいわ」

 

「となると、現状の手札でやりくりするしかない、か」

 

 ガチのダーティジョブを担当していたカズヒとしては、競技試合に勝つ為の禁手を用意するのは抵抗がある。そういう事か。

 

「となると、かなり苦戦しそうだな。勝算も低いみたいだし」

 

「ええ。まぁ、負けたとしても深刻な事態にならないもの。今ある手札でどこまでできるか、真剣に考えてやっていくわ」

 

 ま、そこは止めることでもないか。

 

 ……とはいえ、それをもってしても見ものな試合ではある。

 

 あの銀髪の殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)と、悪祓銀弾(シルバーレット)の激突。

 

 チームD×Dとも縁が深い、二人の銀の激突。

 

 ま、俺がこの場合どうするかなんて決まり切っている。

 

「応援してるぜ、カズヒ」

 

「ええ、貴方に恥じない試合にするわ」

 

 応援してるぜ、カズヒ。

 

 ……それはそれとして、なんか微妙な胸騒ぎがするな。後でイッセー達に連絡を取っておくか。

 




 半分ネタ、半分キャラの深堀を兼ね、魔王血族を一か所に集めました♪

 そしてカズヒはカズヒでガチモード。死闘となることをお約束いたしましょう!


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戦愛白熱編 第二十話 スーパー魔王フェスティバル

 はいどうもー! 今日も今日とて体重計との戦いが待っているグレン×グレンです!

 どうしても炭水化物が欲しいし量も欲しいがドカ食いはまずい。そこでメインをこんにゃく面にしたラーメンライスという手段を考えました。


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は観光ではなく、リアス姉さんの護衛として立ち回ることにした。

 

 一応、リアス姉さんに護衛はいるだろうからね。流石にすぐに禍の団が動くことはないだろうけど、警戒はしておくに越したことはないだろうし。

 

 それに、だ。

 

 今回、詰問の為にリアス姉さんは動いている。荒事にならないとは思うけれど、眷属としては護衛の一人は欲しいところだ。

 

 だからこそ、こうして顔を合わせている義姉妹の気配に、僕は戦慄を少し覚えている。

 

「……お義姉様」

 

「リアス……」

 

 静かに互いを見据えるのは、リアス姉さんとグレイフィアさん。

 

 既に仲間達との連携で圧倒的な力を振るえるリアス姉さんは、実力的には魔王クラスに近い。

 

 対し、グレイフィアさんは正真正銘魔王クラス。セラフォルー様が襲名していた魔王レヴィアタン。その襲名も可能だと言われている人物だ。

 

 その二人が、義理の姉妹でもあるのに睨み合いに近い状態になっている。まるで一触即発といえる雰囲気に、ピリピリしたものを僕は感じている。

 

「……深くは聞きません。でも、こんなことをする必要があるほどの願いなのですか?」

 

 メイドとお嬢様の関係ではない、姉妹としての関係でリアス姉さんはそう尋ねる。

 

 それに対し、グレイフィアさんは真っ直ぐにリアス姉さんの目を見た。

 

「ええ。冥界の未来、その為になると信じています」

 

 はっきりと、彼女はそう宣言した。

 

 そこに嘘は何一つない。そして、誰かにそそのかされた者が持たないだろう、強い決意すら感じる。

 

「フロンズ・フィーニクスの要望、その交換条件を叶える為の策がこれです。それ以上を聞きたいのなら、分かってるわね?」

 

「ええ。挑むとなれば、その時は遠慮はしないわ」

 

 そう見据え、二人は踵を返す。

 

 僕はそれに続きながらも、これでいいのかと考える。

 

 もう少し聞き出すべきではないだろうか。そして、内容次第では説得するべきかもしれない。

 

「……よかったんですか?」

 

 だから聞くが、リアス姉さんは首を横に振った。

 

「頑なになっているもの。問い質すのなら、こちらにもそれなりの覚悟と力がいるわ」

 

 そう返し、リアス姉さんは拳を握り締める。

 

 後ろについている僕には、リアス姉さんの表情は見えない。伺うことも今はしない。

 

 

 ただ、悔しい想いを感じていることは間違いない。

 

「お義姉様、貴女がすることは本当にそれなの……っ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何がどうしてこうなった……?

 

「ほぉ? これは中々素晴らしい感触ですね。眠る為の魔力行使とは、意外性のある発想です」

 

「え、えへへ……。そうですか?」

 

 亜香里が魔力で作ったよく眠れる繭。それを、グレイフィアさんが率いているベルゼブブの末裔が興味津々で触れている。

 

 べ、ベルゼブブの末裔がベルゼブブの末裔を誉めている。なんだこの状況。

 

 亜香里と有加利さんをヴァーリに会わせていたら、なんかこの大会に参加している魔王血族が軒並み集まってきた。

 

 なんなんだ、この状況。もう俺はどう反応していいかさっぱりだ。

 

「レイヴェル。場違いなんだけど帰っていいか?」

 

「待って、ここから離れないで。この空気に耐えられないからいて、お願い」

 

 レイヴェルに聞いてみたけど、それより早く有加利さんが冷や汗をかきながら割って入る。

 

 まぁ確かに。王族だって言われても実感ないだろうし、そこに王族がゴロゴロ集まってきたって、キツい人にはきついだろう。

 

 俺は何というか、もう慣れた気がする。そういうのが分かる前にお偉いさんと縁がありすぎたからなぁ。今じゃ俺も貴族だし。あと魔王血族なんて、殴り倒し慣れてるし。

 

 ま、冗談交じりで言ったからそれは別にいいんだけど―

 

「温度と感触……つまりは触覚に特化していますね。なら次は別の五感に手を出してみては?」

 

「え、ど……どうする……んですか?」

 

「魔王血族同士ですし、堅苦しくなくて結構。あと例えるなら、眠る時に音楽を流したりアロマを焚く場合もあるので、それを魔力でしてみるのです」

 

「あ、そっか。快眠グッズでもそういうのはあるよね。でも、どんなのがいいかな?」

 

「例えばですが、そこの赤龍帝は女性の乳房と対話する技を魔力で作り上げました。その応用で、触れた者の聴覚と触覚に、眠れるそれを感じさせる魔力の散布というのは?」

 

「おぉおおおお! いいね、それやってみたい!」

 

 ……話が弾んでるなぁ。あのベルゼブブ達。

 

「でも勉強とか訓練とか多そうだし、正直ちょっと苦手かも。頑張るけど」

 

「気の持ちようでだいぶ変わりますよ。例えばあなたは眠るのが大好きなのでしょう?」

 

「え、うん。お昼寝とかは大好きだけど、それが?」

 

「良質な睡眠には適度な疲労が効果的です。つまり勉強の目的をよく眠れる為に疲れることを主眼に置いてみては? モチベーションは上がるでしょう」

 

「……そっか、そうだね!」

 

 話が弾んでいて、割って入るのも大変だね。

 

「はっはっは。ベルゼブブの末裔達が仲良くあるのは、冥界にとってはいいことだね? さ、お近づきの知るしにジュースでも」

 

 と、ハーデスに仕えているレヴィアタンが、何時の間にか面白がりながらジュースを買ってきてくれた。

 

 確かラツーイカだっけ? えっと、いいのかこの人。ハーデスのシンパだろ?

 

「あ、どうも」

 

 とりあえず受け取って少し舐めてみるけど、普通に売ってるジュースだ。

 

 なんというか微妙になっていると、今度は純血のルシファーの人がこっちに頭を下げてきた。

 

「連れがすいません。彼、知識欲に忠実で貴方の乳技やそちらの麺技に強い興味を持っていたので」

 

「ほぉ? ならラーメンをごちそうするか」

 

 ヴァーリが妙なところで食いついたし。

 

 ただ、すぐに視線をルシファーの方に向けてきた。

 

「確か、ブンガーといったね? 君もルシファーの血を継いでいるなら、もっと覇気を持った方がいい」

 

 あ、そうだそうだ。ブンガー・ルシファーって名前だった。

 

 ヴァーリも自分の親戚になるし、やっぱり興味があるか。

 

 なんというか、借りてきた猫のような雰囲気だしなぁ。そういう意味でも気になるのかも。

 

 同じくルシファーの末裔っぽい、ラムルも複雑な表情だし。

 

「ったくだ。王族の末裔で、しかも純血なんだろ? もうちっと胸張ってくれよ、こっちの肩身まで狭くなるじゃねえか」

 

 文句を言ってくるけど、ブンガーさんは困り顔だった。

 

 ま、確かにちょっと分かるかもな。

 

 純血の魔王末裔って、俺が知ってる限り皆偉そうだったし。むしろ根拠のない自信まであるぐらいだし。

 

 カテレアにしろクルゼレイにしろシャルバにしろ、どいつもこいつも自分は偉くて他人は下って感じだ。リゼヴィムも超越者の自負や扇動のセンスもあって、こっちは一応見合っている感じはそれなりにある。何ならヴァーリやラムルもそうだし。

 

 むしろこの場の魔王末裔って、誰もかれも自信があるっていうか、みなぎってるって感じがするし。いきなり知らされて自覚の薄い亜香里と有加利さんより弱いブンガーさんは、むしろ弱気すぎだろ。

 

「失礼ながらブンガー様。もしかして、魔王の末裔だと教えられずに育てられましたか?」

 

 レイヴェルも気になって聞いてみたけど、ブンガーさんは首を横に振る。

 

「いえ、僕達は皆、魔王の血筋であることを教えられたうえで育っています」

 

 ふぅん。ならなんでだろう。

 

 あの旧魔王派の連中なら、育て方だって偉そうになる方向だろうに。「貴方は純血の魔王であり、すなわち悪魔を好きにしていいはずなのです! なのに偽りの魔王が擁立されて……」とか吹き込んでそう。そんなところばっかり見てきてるし。

 

 ただブンガーさんは、思い出したかのように辟易の表情になった。

 

「本当にうんざりな生活でした。……仕え捧げてくれる民を、使い捨てても勝手に増える雑草のように考えているのが丸分かりでしたから」

 

 おぉ。滅茶苦茶まともな人だ。

 

 確かに、シャルバってそんなところがあったな。そういうやつを崇めているなら、そういう教育になるんだろうなぁ。

 

 思い出したらなんかイライラしてきた。あいつ、本当に碌でもなかったからなぁ。

 

 そんな俺の様子を見て、ブンガーさんはなんか力強く頷いていた。

 

「そういう感じなので、何とか抜けれないかとは思ってたんです。それにグレイフィア様を見れば、僕達如きが偉そうにできる社会じゃないってすぐ分かりますよ」

 

 確かに、グレイフィアさんって強いしなぁ。魔王クラスは伊達じゃない。

 

 でもまぁ、そんなグレイフィアさんのチームメンバーとして、名前負けしてないのがブンガーさん達だ。実際、帝釈天相手では結構戦えてたし。

 

 そんなに低く扱うこともないと思うんだけどなぁ。

 

 ヴァーリもそんな感じなのか、ちょっと眉間にしわを寄せているし。

 

「シャルバ達も大概だが、君も別の意味で大概だね。そこは改めるといい」

 

 ヴァーリはため息をつきたそうな表情で、ブンガーさんにそう突き付ける。

 

「誇り高い血を持つのなら、生き方も誇り高くするべきだ。シャルバ達も論外だが、君のその卑屈さも問題だぞ」

 

 自分の血と宿した力を誇っている、ヴァーリらしい言い方だな。

 

 ただ、そんなヴァーリの言葉にブンガーさんはすぐに反応し……肩を落とした。

 

「ええ。正直そんな来歴とか荷が重くて胃が痛いです」

 

 お。おおう。凄く嫌そうに自分の血について語ったなぁ。

 

 多分だけど、この人ってマルガレーテさんと気が合いそう。

 

 たぶんあれだ。王族の生き方とかに興味がない人だ。偉くなるとかそういうことに、興味を持ってない。むしろ面倒ごとが多いから嫌がりそうなタイプ。

 

 しかも責任感はあるから、むやみやたらに投げ出したりしない人だ。苦労人って感じをひしひしと感じてきたぞ?

 

「覇気がねぇなぁ。夢とかこじんまりとしてたりするんじゃねえか? 豪遊とか興味ねえだろアンタ」

 

 ラムルも悟ったのか、そんなことを聞いている。

 

 そしてブンガーさんもすぐに頷いていた。即答のレベルだった。

 

「資産や地位は皆無でも大変ですし、ちょっとぐらいは遊びたいですけどね。ただ、僕としてはたまに有休をとっても怒られないぐらいの地位と能力で十分です」

 

 そういったうえで、ブンガーさんはどこか遠くを見ながらすすけた表情になる。

 

「そこそこの生活を平穏に送れるのが一番で、辺境で静かに暮らしていろとか言われたかったなぁ……はぁ」

 

 そして思いっきり肩を落として俯いた。

 

 もう嘘偽りない本音だってことがよくわかる。心の底から苦悩しているトーンだ。ガチの発言だ。

 

 これ本気で言ってるよ。シャルバ達みたいになりたくないし、見合った能力を得るのも責任が重いから嫌だって感じだ。向こうからのスカウトなら、飼い殺しでも多少は遊ばせてくれるだろうからいっかぁ……って感じで誘いに乗ったんだ。

 

 それが国際レーティングゲーム大会で、魔王の後継者最有力候補の率いるチームに魔王の末裔として登場だもんなぁ。良くも悪くも注目の的だよ。想定外にもほどがあるよ。

 

 心の底から、現状より低いところを望んでるみたいだなぁ。

 

「……真面目な話なんですけど、僕の地位と血統を欲しがっている野心家の実力を持つ女性っていませんかね? 必要な時以外は静かに暮らさせてくれるのなら、余程の悪条件が無ければ即婚約したいんですが。……代わりに背負ってくれる配偶者が欲しい」

 

 死んだ目でそんなことを言ってくるけど、これどうしたらいいんだよ!?

 

「ふっ。心根が凡人寄りではそうもなろう。安心するがいい、ブンガー・ルシファー」

 

 と、そこでユーピが憐憫の表情を浮かべながらそう言ってきた。

 

 お、思わぬところから助け船が来たのか?

 

「最近は後継私掠船団も多種族化が進んでいるのでな。冥界でのし上がる為に爵位持ちの旦那と政略結婚したい純血女悪魔をリストアップしておこう。同胞が彼方(明日)を掴む手伝いも、たまにはしてやらんと―」

 

「―本当ですか?」

 

 その瞬間、音もなくブンガーさんはユーピの目の前に立っていた。

 

 で、できる!? でもこんな形でそんな素質(ところ)を見せなくても!?

 

 あまりの勢いとその理由に、ユーピはもちろん誰一人として動けなかった。

 

 あと、ガラスに映っているブンガーさんの血走った目にちょっと怖くてツッコミを入れられないのが俺だったりする。

 

「虚言じゃないですねリストもらえますねお見合いできますよねこの面倒の塊を欲してますよね……!」

 

「ま、まだだ! その程度で終わらせん!」

 

 こんなところで覚醒するなユーピ!

 

 いや、ブンガーさんに気圧されそうになるの分かるけど!

 

 怖いよこの人! 自分の血筋を重荷に感じてる上、マルガレーテさんと違ってちょっとは俗世的な欲望あるから、結果的に結婚願望の奴隷になってるよ!?

 

 カズヒばりの光を極めてるやつでも気圧されてるよ! ラムルとエペラすら一瞬気圧されてたし!

 

「細かい条件を送るがいい! 適切なものを見繕ったうえ、順位付けしてリストアップしてやろう!」

 

「ありがとうございます! では時間が許す限り説明を!」

 

 ……あ、また別の方向に話が進んでいく。

 

「……あの、イッセーくん」

 

 と、有加利さんが俺の方を向いてきた。

 

 冷や汗が流れている上、なんというか戦慄を感じるような顔だった。

 

「魔王の血族って、こういったのが基本なの?」

 

 ……………。

 

「すいません、否定できないです」

 

「イッセー様! 頑張ってくださいまし!」

 

 レイヴェルが俺をたしなめるけど、無理だよ。

 

 だって魔王血族って、どいつもこいつもアレだもん!

 

 ぶっちゃけヴァーリですら比較的常識人だよ! マルガレーテさんは良識はあるけど、妙なところでぶっ飛んでるところあるし! 残りはぶっちゃけあれな奴らばっかりだし!

 

 シャルバはもちろん、カテレアとクルゼレイもどっこいどっこいなろくでなしだったし! あとリゼヴィムも別の意味であれだったし! 何なら襲名しているだけの、サーゼクス様達も変人って方向性でアレだったし!

 

 ぐうの音も出ない。魔王の(あざな)を持つ人達って、アレという形容詞をつけたくなる人格してる奴らばっかりだ。反論したくでもできやしねえ。

 

「……落ち着けよ。そうなると、自分も同類って言っちまうことになるぜ?」

 

「そう思いそうだから、聞かずにはいられないの……っ」

 

 ちょくちょく会ったことのあるラムルがそうたしなめるけど、有加利さんはそう呟いて崩れ落ちる。

 

 あ、そっか。魔王血族が揃いも揃ってアレだと、血を引いている自分もそうなるって考えちゃうのか。

 

 ただでさえ、メンタル的に結構追い詰められてるところがあるからなぁ。だいぶましになったけど、まだ負担も大きいだろうし。

 

 亜香里みたいにちょっとはっちゃけられるところがまだ出てきてないからなぁ。むしろ現在進行形で、トロイド・ベルゼブブさんにノリノリで新たなる睡眠技の開発研究をしてるし。ヴァーリの麺技のノリだ。

 

 ……あれ? その流れだと、乳技を使う俺も同類?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、どうかしたのかしら?」

 

 エペラに声をかけられて、俺はショックで崩れ落ちていたことに気が付いた。

 

 いや、だって……さぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ時間ね」

 

 私はシャワー浴び終え、既に控室に向かっている。

 

 相手は間違いなく、今までで最強のチーム。不利なのは間違いなくこちらの方だった。

 

 私がちょっとほっこりする彼氏との会話をしている間にも、この試合に参加するメンバーは思い思いの時間を過ごしているでしょう。

 

 シリアスなこともあるかもしれない。コメディじみたこともあるだろう。そして、私は間違いなくいい時間を過ごせた。

 

 ええ、だからこそ一つだけ言える。

 

「無様な姿は見せられないわね」

 

 呼吸を整え、意識を切り換える。

 

 まぁ大丈夫。私はそもそもそれが得意だ。

 

 常在戦場、覚悟完了。想いを力に変換し、限界を超える覚醒を遂げる。

 

 それでも負けることもあるけれど、死力を尽くすのだけは得意だから。

 

 だからこそ―

 

「相手をしてもらうわよ、グレイフィア・ルキフグス……っ」

 

 ―全力でぶつからせてもらうとするわ。

 




 大体魔王の字を持つ奴は、純血襲名の区別なくアレという評価がつけれると思う今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?


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戦愛白熱編 スーパー才能フェスティバル(料理編)

 はいどうもー! 久しぶりに執筆速度が上昇中のグレン×グレンでっす!

 現在は連続試合の和地編を書き始めているころです。前から要望のあった部分も、ちょっとした趣向を踏まえて手を付けているので、そのあたりの番外編とかで進みそうといったところですのでお楽しみに!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ! まだ前半ながら熱い試合の多いアザゼル杯予選! 今回の試合は注目のカードだぁっ!』

 

 実況の人が声を張り上げる中、観客の人達もテンションが高い。

 

 まぁ、俺もちょっとテンション高めに見ているけどな。

 

『我らが冥界が誇り、そして新統治者制度たる九大罪王の最有力候補! 銀髪の殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)! グレイフィア・ルキフグス選手率いるぅ……光掴む殲滅女王チームがまず入場ぉおおおおおおっ!』

 

『『『『『『『『『『わぁあああああああああああっ!!』』』』』』』』』』

 

 大歓声が鳴り響く中、グレイフィアさんを戦闘に、何人もの悪魔が入ってくる。

 

 あのグレイフィアさんがチームを率いて参戦した。しかも初戦であの帝釈天率いるチームを打倒した。純潔の魔王血族を三人もチームメンバーに入れている。

 

 注目を集める要素しかないチームだから、これも当然。まして冥界の悪魔領で行われる試合だ。ホームも同然だから大歓声になるだろうさ。

 

 だが、相手チームに対する注目だって負けてない。

 

『対するはぁっ! 悪を穿つ聖なる銀弾! かのチームD×Dが誇る女傑の代表格! 音に聞こし悪敵銀神(ノーデンス)、カズヒ・シチャースチエ選手率いる悪敵の聖銀弾(シルバーレット)チームも入場だぁあああああっ!!』

 

『『『『『『『『『『ぉおおおおおおおおおおっ!!』』』』』』』』』』

 

 さっきに比べれば一段劣るが、これまた大歓声が鳴り響く。

 

 カズヒは堂々として入場しているけど、内心苦笑い気味だろう。

 

 大活躍しているのは事実だけど、特に大きなのはミザリの打倒だ。だがミザリ・ルシファーがああなったのは、道間日美子が道間誠明の起こしてはいけない性質を目覚めさせたことに由来する。

 

 マッチポンプじみた理由で大人気とか、内心複雑だろう。もうちょっと批判的な発言とかが来てもいいだろうにとか思ってるはずだ。

 

 ま、殺害予告も来ているわけだけど。流石にこんなところでブーイングを鳴り響かせるほどではないらしい。

 

 俺達と共にいることを容認してもらう為にも頑張っているカズヒとしては、この大人気はどんなものやら。結果に関わらず、ちょっとゆっくり甘やかすかね。

 

 そんなことを思いつつ、並び立ち睨み合う両チームを俺は観察する。

 

 おそらくだが、殲滅女王チームはまだ本腰を入れていない。

 

 帝釈天の打倒は確かに偉業だが、その試合はランペイジ・ボール。幸か不幸か戦闘の勝敗が試合の勝敗に直結しないからな。

 

 そこも踏まえて、この試合がどう動くか。

 

 しっかりと見据えさせてもらうぜ、お二人さん。

 

「………和地。シリアスな雰囲気のところ悪いけど、サイリウム両手に応援体勢をとってたら台無しよ」

 

「え、マジですか!?」

 

 嘘でしょ、リアス先輩!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕達はそっと、九成君から視線を逸らす。

 

 今回僕達は都合もついたので、オカ研メンバー全員が応援に集まっている。

 

 そして九成君はアイドルのコンサートに集まる親衛隊のような恰好で準備万端になっている。

 

 うん、彼ってこういうところあるよね。

 

「なるほど。では私もイッセーの試合はそれで行きますわ!」

 

「やめてあげてください。イッセー先輩にツッコミの労力を使わせないでください」

 

「……むしろ試合妨害です」

 

 ヒマリが何かしら感銘を受けているけど、そこはルーシアちゃんと小猫ちゃんの頼れる二年女子達に任せよう。

 

 それはそれとして、今回の試合はどう動くのかが気になるね。

 

 努めて九成君から視線を逸らしつつ、僕はモニターに注目する。

 

『本日の試合は……ライトニング・ファスト! ルールはシンプル、制限時間が一時間で行われる通常ルールとなっております!』

 

 ……へぇ。

 

「あらあら。グレイフィアさんも今回はついてませんわね」

 

「これはカズヒ達に圧倒的有利だろう。特に、カズヒにとっては最良ともいえるね」

 

 朱乃さんやゼノヴィアがそう呟くけど、さもありなん。

 

 カズヒが唯一至らせている、剣豪の腕(アーム・ザ・リッパー)の亜種禁手。銀弾の決戦兵装(エンド・ザ・リボルバー)。今回あの禁手(バランス・ブレイカー)に有利すぎるルールが適用されたしね。

 

 銀弾の決戦兵装は、聖遺物系神滅具を五つも保有しいくつも至らせていた、ミザリ・ルシファーの打倒を考慮したもの。能力は六つの亜種禁手を任意で切り替える、ある意味で破格の能力。だが通常神器でそれを成す為、禁手の継続時間を一時間きっかり、完全回復のインターバルを僅かに長い66分きっかりと、リソースの収束を行っている代物だ。

 

 本来禁手とは、神器の上位形態。僕が至り立てで数時間が限界と聞いた時、研究の最先端にいるアザゼル先生はあっさり切って捨てるほどの短時間と見なしている。そして要求された持続時間は三日であり、比較対象として告げられたヴァーリの持続時間は月単位。数日レベル扱えて、漸く真っ当に使えているレベルなんだ。

 

 神器の頂点たる神滅具を五つも疑似的に保有する、ミザリ・ルシファーを最悪一人でも何とかする。そもそも種族的地力の差ゆえ、長期戦が危険な奴を相手にだ。その圧倒的高難易度を大前提としたカズヒが、元々有無を言わせぬ短期決戦が求められやすいダーティジョブの観点をもってすれば、当然長期戦を捨てるだろう。その思想の結実があの禁手だ。

 

 ゆえに長期戦が必須な状況では、適度に至るのをやめてインターバルを挟む必要がある。そういう必要性がある時は味方との連携か、徹底的にゲリラ戦に近い戦いをする必要があると踏んではいただろう。だが数時間が当たり前のレーティングゲームでは、多少リスクがある手札ではあった。

 

 だけど、一時間で終わるライトニング・ファストなら話は違う。

 

 このルールは間違いなくカズヒに有利だ。一時間だけ頑張ればいいのなら、遠慮なく速攻で至らせてから挑めるわけだ。

 

「このルールなら、カズヒ先輩に有利です! 勝てるかもです!」

 

「そうですね。とはいえ、その程度であっさりやられるようなチームではないでしょう」

 

「あの帝釈天をチーム戦で負かしたわけだしね。一筋縄でいくわけがないわ」

 

 ギャスパーくんもロスヴァイセさんもイリナさんも、関心が高まっている。そういう状況だ。

 

 相性の良すぎるルールを追い風に、カズヒが速攻で押し切れるか。

 

 向かい風をものともせず、グレイフィアさんがしのぎ切るか。

 

 双方をよく知る者達が殆どである以上、やはり興味深いというほかない。

 

 ただ、懸念事項もある。

 

 先ほどあったグレイフィアさん。どこか思い詰めているような、据わった眼をしていた。

 

 あんな状態の彼女が、フロンズ・フィーニクスと手を組んでいる。ましてフロンズとて、グレイフィアさんが負けることは望んでないだろう。更にフロンズ達革新衆には、魔剣を鍛えるブレイ・マサムネ・サーベラや、聖槍を作り出すトバルカインことティバールがいる。

 

 どんな隠し玉を持っているか分からない。そういう意味では、やはりグレイフィアさんの有利は動かない……か。

 

 そんな僕の内心と、ほぼ同じことを思っている者は多いだろう。

 

 VIPルームの空気は重くなっている。

 

「……雰囲気が不思議ね。どうかしたのかしら?」

 

 首を傾げるヴァレリーさんに、ヒツギとアニル君がちょっと苦笑を浮かべていた。

 

「あ~。まぁ私達、基本的に戦闘要員だからね?」

 

「まして身内同士なわけで、やっぱり……ねぇ?」

 

 そうだね。それもあって、どうしても雰囲気は微妙になってしまうね。

 

 とはいえ、アザゼル杯は基本的にお祭りだ。

 

 この空気のままというのも問題があるし、そろそろ何かしらで空気を換えないと―

 

「……そういやぁ、おっぱいドラゴンの旦那とマネージャーさんはまだですかぃ?」

 

 ―そう思った時、首を傾げたリントさんがそう言った。

 

 あ、そういえばまだだね?

 

「……あの焼き鳥、まさか抜けがけ……っ」

 

 小猫ちゃんが軽くキレかけているけど、それに対してロスヴァイセさんが首を横に振る。

 

「いえ、あのレイヴェルさんに限ってこの流れでそれはないでしょう。彼女はマネージャとして敏腕かつ真面目ですから」

 

 確かにそうだ。それに、あの二人は望月さんと鰐川さんも連れている。

 

 イッセー君は鰐川さん相手にフラグを立てているけど、望月さんとフラグを立てているのは九成君だ。また二人を連れている理由もある種の護衛的立ち回りである以上、イッセー君とレイヴェルさんで抜けることはないだろう。ゼノヴィア辺りだとちょっと不安になるけど。

 

 とはいえ、ならどこに?

 

「……イッセー? もう試合は始まってるけど、どうしたの?」

 

 と、すでにリアス姉さんは電話をしていた。

 

 マネージャー業務をそつなくこなすレイヴェルさんもいるし、人に気を使えるイッセー君なら鰐川さんや望月さんにきちんと気を使って遅れないように頑張るだろう。

 

 それなのに、なんで遅れてるだろうか?

 

 そう思っていると、リアス姉さんは何故か真顔になっている。

 

 え、なんというか雰囲気がおかしいですけど、どうしたんですか?

 

「……ぜ、全員集合したノリ? そ、そうなの? ええ、分かったわ」

 

 そう語ってから電話を切ると、リアス姉さんは凄く微妙そうな表情で振り返った。

 

「今、ラツーイカ・レヴィアタンのVIPルームに、ユーピ・ナーディル・モデウ達と一緒にいるそうよ? 抜け出せそうにないみたいだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『……え?』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず全員が真顔になったよ。

 

 イッセー君。君はどれだけ人を引き寄せるんだい? 彼自身分からないだろうけど言いたくなるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合開始前の作戦時間は十分! それでは、試合開始まではこれまでの試合内容のダイジェストをお楽しみください』

 

 実況の人がそう言って、画面にはカズヒやグレイフィアさんがこれまでアザゼル杯でこなした試合の映像が流れていく。

 

 ただ、俺にはそれを見る余裕がない。

 

「美味い! お代わりしてもいいかね!?」

 

「いいとも! はっはっは! 才能がこんなところにもあって本当にすまない!」

 

 そんな感じで、流れるように握るユーピの寿司を食べたラツーイカが大絶賛してお代わりを求めている。

 

「……どうして、こうなった……っ!」

 

「あ~、なんか悪いな」

 

 ラムルがそれとなく謝ってくれるけど、お前は別に悪くないしなぁ……。

 

 なんていうか、試合よりこの部屋の方がキッツイ!

 

 どうなる、これから!?

 

「……むぅ! うどんと蕎麦でここまでのものができるとは! ラーメンは、ラーメンはどうなるのだ、ユーピ・ナーディル・モデウ!?」

 

「ふははははっ! 我が才能が豊富すぎて本当にすまない! 作ってやるからしばし待つがいい、ヴァーリ・ルシファーなる凡人よ!」

 

 ……本当にどうなる!?

 




 全方位才能マン、ユーピ・ナーディル・モデウ。今後はどんな方向に才能を見せてやろうか現在思案中!


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戦愛白熱編  第二十二話 死闘開幕!! 速攻波乱!?

 はいどうもー! ちょっと舐素き気味なので早く寝たいグレン×グレンでっす!

 さて、そろそろ銀の女傑対決が始まります!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、美味しい。このお寿司は本当に美味しい。美味しいのが腹立つ……っ。

 

「どうしたのかな、赤龍帝?」

 

「味を堪能しながら苛立つのか?」

 

 ラツーイカとユーピが続けざまにそう言うけど、苛立つさ。

 

 なんで俺は、リアス達に囲まれながら試合を観戦するはずがこうなっている。魔王血族がゴロゴロいる環境に放り込まれながら、魔王血族が握った寿司を食べている。リアス達がいない中で寿司だけ食べながらここにいる?

 

 なんか泣きたくなってきたし。食わずにやっていられるか……っ

 

「しかし、混血や先祖返り込みとはいえよくぞここまでの者達が集まってるとはね?」

 

 寿司を食べながら、ラツーイカはそんなことを言ってエペラの方をちらりと見る。

 

 同じレヴィアタンの末裔として、やっぱり気になってるんだろうか。

 

 ただ、エペラの方はさほど気にしてないみたいだ。どちらかというと、映像の方を気にしてる感じだな。

 

「きょ、興味があるんですか?」

 

 と、有加利さんがそう尋ねる。

 

 恐る恐るだけど、ここで変なちょっかいは仕掛けてこないと判断したんだろう。

 

 ま、その時は俺が前に出るけどね。

 

 俺だって上級悪魔の端くれで、冥界の英雄。これでもお偉いさんとのコネは豊富だし、アジュカ様に会いに行くこともできる。魔王血族が相手だろうと、ちょっとぐらいは何とかなるさ。

 

 ただ、エペラは特に気にすることなく頷いた。

 

「ええ、私の超える対象は彼女だもの」

 

 ……それはつまり、グレイフィアさんか。

 

「意外だな。初代レヴィアタン様を超えるとか、そんなつもりだと思ってたぜ」

 

 俺がそう言うと、エペラは小さく首を振りながら、挑戦者みたいな表情を浮かべる。

 

「超えるべきは今の最強。ロイガン・ベルフェゴールが王の駒を封印して退き、セラフォルー・レヴィアタンは隔離結界領域へと去って行った。なら、今の女悪魔で最強たるはグレイフィア・ルキフグスただ一人」

 

 ああ、それは確かに。

 

 かつての冥界、女悪魔で魔王クラスは三人。超越者クラスは一人としていない。

 

 そしてエペラの言う通り、今冥界でその座に残っているのはグレイフィアさんだけだ。そういう意味では目標といえるだろう。

 

 ただ、エペラの目にはそれだけじゃないぎらついたものを感じる。

 

「私の目標は超越者の頂。だからこそ、まずはグレイフィア・ルキフグス(魔王クラス)を超えるのよ」

 

 ……超越者、か。

 

 サーゼクス様、アジュカ様、そしてリゼヴィム。その三人だけが称される三強。悪魔という種族かどうかすら怪しいとされる、文字通り超越した強さを持つ存在。

 

 リゼヴィムは間違いなく一枚落ちるだろうけど、それでもやばい強敵だった。そしてその頂に、新たに目指そうとする者がここにいる。

 

 後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)らしい奴だよ。まったくもって油断できないってな……っ!

 

「さぁて、次は中華といこう。―麻婆豆腐とラーメンお待ちぃ!」

 

 ユーピの奴はいつまで作ってんだよ!?

 

「ほぉ? 痺れるこの辛味……四川風かい?」

 

「その通り! ふふふ、我が才能は戦闘だけに止まらぬのでな!」

 

「ふふふ、甘いぞラツーイカ。このラーメンも中々というほかない……やはり豚骨ラーメンはある種の至高……っ。侮れないな、第三征王(ナーディル・イスカンダル)!」

 

 ……ユーピの相手はラツーイカとヴァーリに任せよう。

 

 あ、本当に痺れる辛味だけど美味しい。

 

 あとラーメンもうまい。なんというか、麻婆豆腐の後に食べると舌に辛みが残らなくなる感じがする。そこまで考えたのかな?

 

「にしてもよぉ? グレイフィア・ルキフグスは何考えてんだ?」

 

 と、同じように麻婆豆腐を食べながら、ラムルは首を傾げている。

 

 あれ、こいつらも知らないのか?

 

「フロンズの提案じゃなかったのか? なんで知らないんだよ?」

 

「あのなぁ? 後継私掠船団は、契約を交わしたそれなりの繋がりっつっても元テロリストだぞ?」

 

 と、俺に対してラムルが言い返す。

 

 その上で調理器具を洗いながら、ユーピもしっかりと頷いていた。

 

 ちなみにエペラも頷いている。あ、こいつら全員知らないのか。

 

「ま、幸香まで知らぬかは知らんがな。だが対外的には下った懲罰部隊が我々後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)だ」

 

「機密情報関係は、あまり聞かされないし聞かないようにしないとね」

 

 と、口々にユーピやエペラがそう言うと、ラムルもしっかりと頷いた。

 

「ま、そういうこった。聞き出せないかってんなら残念だったな」

 

 そっか。ま、仕方ないか。

 

 フロンズは政敵だけど政敵で止まっているし、グレイフィアさんはその点は信用できるし。ま、冥界に悪影響は出ないだろうさ。

 

 ま、それなら俺も試合を観戦するか。リアス達とじゃないのは残念だけど、あの二人の試合は気になるし。

 

 と、俺はその上で亜香里と有加利の方に振り向いた。

 

 ちょっと緊張している状態だけど、ま、そこは大丈夫だろう。

 

「よく見とけよ。間違いなく、三大勢力で最強女傑決定戦になるだろうから」

 

 いや、割と冗談抜きで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、デザートのチェリーパイも焼きあがったぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全方位万能の料理人か何かか、ユーピ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 有加利さん達、大丈夫だろうか。

 

 魔王血族とか、癖の強い性格ばっかりな印象だからなぁ。囲まれるとか精神的にきつそうだ。

 

 試合が終わったら強引にでも連れ出すか。イッセーを含めてもメンタルがごりごり削れそうだ。

 

 ただ、事態はそこから更に動いている。

 

『お待たせしました、皆様! ついに試合開始となります!!』

 

 さて、そろそろが本番か。

 

「和地はどう思う? お義姉さまとカズヒなら、お義姉さまの方が有利だとは思うけれど」

 

「同じく。ちなみにカズヒ自身もそう踏んでましたね」

 

 リアス先輩にそう答えながら、俺は中継される映像を確認する。

 

 展開されるフィールドは小島。それも集落そのものといえるような地点だ。

 

 直径は精々が2kmほど。短期決戦を前提とするライトニング・ファストだからこそ、フィールド全体も小さく設定されているのだろう。

 

 そして試合が開始するとともに、動きはシンプルだった。

 

『全員プラン通りに! 本丸は私が対応する!』

 

 そう言うなり、カズヒは全力疾走を行いつつシルバードーマに変身。それに追随するように、ある程度の距離を開けながらお袋達は駆けだしている。

 

 チーム全体の総合力なら、現段階では間違いなくグレイフィアさん側が有利。本気で勝ちを狙うなら、カズヒたちはグレイフィアさんに収束しての短期決戦ぐらいしかない。それは双方の認識だろう。

 

 そこに速攻が求められるライトニング・ファストのルールがあれば、こうなることは双方ともに読めている。

 

 だからこそ、グレイフィアさん達も迎撃が早い。真っ向から魔力弾が放たれ、カズヒ達をぶちのめそうと襲い掛かる……が。

 

『甘い!!』

 

 それを、カズヒは正確に撃ち抜いて突破口を作り上げる。

 

 銀弾の決着兵装(エンド・ザ・リボルバー)に装填される六つの亜種禁手、射手の慧眼(シュート・ザ・スナイプ)。射撃武装を強化することに特化し、更にどこに飛んでいくかを感覚的に理解させる。

 

 そこにカズヒのポテンシャル、更にアタッシュショットガンが加わった結果はこの通り。弾幕であろうと突破口を作る程度の撃ち落としは可能となる。

 

 そしてぶつかり合う両チーム。ここからは一気に乱戦になるだろう。

 

 そして、カズヒは目標と接敵する。

 

『挑ませてもらうわ、グレイフィア・ルキフグス!』

 

『掛かってきなさい……カズヒ・シチャースチエ』

 

 突貫するカズヒに、静かに迎撃を返すグレイフィアさん。

 

 その瞬間、一歩間違えれば巻き込まれて両チームにリタイアが出るような戦闘が開始された。

 

「うっひょ~! なんというか、三大勢力が誇る女傑同士、死闘っすなぁ」

 

「凄い戦いね。あんな戦いができるの、ツェペシュの里にいたかしら?」

 

 比較的慣れてないリント・セルゼンとヴァレリーが感心するが、まぁそうだろう。

 

 どちらも魔王クラスと真っ向勝負ができるレベルの女戦士だ。はっきり言って、この大会でも女選手に限定すれば上澄みレベルに到達するだろう。

 

 その二人の真っ向勝負、果たして一体どうなるか。いろんな意味で気になる試合だ。

 

 とはいえ、問題はそこだけでもない。

 

 なにせチームの総合力的に、グレイフィアさんの方が有利だ。押し切られてから圧殺というのも十分あり得る。

 

 とはいえそれは、勇儀さん達も分かってるだろう。防戦よりでしのいでいく方向になる。

 

 幸い、基本的にグレイフィアさんのチームは魔王血族以外は兵士を中級、騎士と戦車を上級にするのが定番だ。おそらくだが、魔王血族をある程度目立たせる為に最上級悪魔は最小限にする形なんだろう。その辺りはフロンズの立ち回りかもな。

 

 だから、鍛えられた星辰奏者(エスペラント)との連携もある。リーネスやお袋は戦闘がメインじゃないけど戦える。あとは主力になりえる鶴羽や勇儀さんが上手くカバーすればいい。

 

 そう思った、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『……え?』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この部屋だけじゃない。

 

 観客席にいる多くの者達。そして実況や解説。

 

 その全員が、一瞬で吹き飛んでいく小島の自然や建築物に、呆気にとられた。

 



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戦愛白熱編 第二十三話 九大罪王の王冠

 はいどうもー! 今現在、和地編の激戦を書いているグレン×グレンでっす!

 いろいろと趣向も凝らしたので、ぜひ期待してくださいねー!


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう隠し玉よ!」

 

 思わずそうぼやきながら、私はグレイフィアさんと真っ向から競り合う。

 

 魔王クラスの基本性能に、歴戦の経験による立ち回り。

 

 性能のごり押し込みならミザリが上でしょう。だけど経験値に物を言わせる戦い方の厚みが、彼女を強敵として完成させている。

 

 そして、状況は完ぺきにこちらが不利。光掴む殲滅女王チームは、悪祓の聖銀弾チームを完全に圧倒している。

 

 信じがたいわね。中級悪魔クラスが相手なら、星辰奏者だってやりようはある。対異形を踏まえた訓練も受けているし、そう簡単に後れは取らない。その上で圧倒されている。

 

 理由は単純。攻防速が明らかに跳ね上がっている。

 

 もはやあれは、上級の上澄みか最上級の底辺といったところ。最上級悪魔換算で言うなら雑魚だろうけれど、最上級悪魔クラスは大半の雑魚にとって悪夢でしかない。

 

 更に上級悪魔四名も中堅に届くかどうかレベルの最上級悪魔になっている。

 

 攻撃が強い。防御が固い。動きが早い。単純にすべての性能が強化されたことで、私達のチームは圧倒されている。

 

 あれでは、一時間持たずに大半がやられる……!

 

 明らかにおかしい。異常事態だ。

 

 アザゼル杯はレーティングゲームの延長線上に位置する。その性質上、メンバーの強さは駒価値による制限を受けると言ってもいい。つまり、強さに応じた人数制限を受ける。

 

 神クラスでもなければ複数にならない、僧侶(ビショップ)戦車(ルーク)騎士(ナイト)はいい。それぞれが一駒ずつ使っているが、それはつまり神や魔王でもない限りはそれで済む。実際、ブンガー・ルシファーとトロイド・ベルゼブブは、それぞれ僧侶一駒で済んでいる。

 

 だが兵士の駒は別だ。昇格のシステムもあって厳しめに設定されており、上級悪魔クラスになると複数必要。最上級悪魔クラスなら三駒か四駒は必要になる。中級悪魔クラスが一駒で収まるギリギリのラインといえるだろう。

 

 八人も最上級悪魔と競り合える性能を設置できるわけがない。これは明らかにおかしい。

 

 駒関連は潜在的なものを含めた性能がものを言うとはいえ、テクニックで出力をあそこまで底上げできるわけがない。

 

 そして反則はまずない。堂々とこのレベルを見せて言い逃れは無理だ。グレイフィアさんが不正を良しとする性格とは思えないし、フロンズも好き好んで不正をする手合いでもない。そもそも競技試合で不正する思考回路が双方にないでしょう。

 

 つまり、結論は一つ。

 

「……バッファー前提のチーム構成、そういう事ね!」

 

 言いながら飛び蹴りを叩き込み、同時に光力の槍を乱れ撃つ。

 

 おそらく魔王血族の誰かが、バフ系の札を持っている。それもかなり強力なレベルだろう。

 

 そして蹴りをはじき光力を撃ち落としながら、グレイフィアさんは頷いた。

 

「ええ。そして強化率や効率を考えると、中級中位から上級下位の悪魔が最も有効なのよ」

 

「それがチーム構成の理由ってわけね!」

 

 考えられたものだわ。

 

 そしてフロンズらしい判断ね。おそらく、魔王血族のデモンストレーションを行いつつ、それをグレイフィアさんに従う形でさせる。それによる、民意の調整が狙いかしらね。

 

 しかしまずい。その特性は反則一歩手前に近い。

 

 レーティングゲームの制限を疑似的に崩壊する、そんなバフの極限じみた特性。シンプルに最上級悪魔クラスばかりで構成されたチームとか、半端な神クラスのチームなら力押しで圧勝すらできる。

 

 ぬかった。こんな札を帝釈天相手じゃなくて、こちらに対して使うとはね。

 

「危険視されてる。そう受け取っていいですか!?」

 

「惜しいわね。インドラとの試合では、性能を底上げする必要はなかっただけよ」

 

 なるほどね。

 

 ランペイジ・ボールは倒されてもある程度経てば復帰できる。ファールありとはいえ球戯止まりだから、性能の底上げで真っ向勝負をする必要はなかった。だからあえて伏せていたのね。

 

 その後の試合も、そこまでする必要がなかった。だから使わなかった。

 

 フロンズもそれを了承した。おそらく、インパクトが強い戦いまで取っておきたいとも思っていたでしょう。

 

 ……確かに効果的でしょうね。

 

 悪鬼明星(ルシフェル)たるミザリを打倒した私は、間違いなく注目されている。それが相手の真っ向からの競り合いなら、見せるだけの価値はあるってことかしら。

 

 ただ、あまり舐めるなよ?

 

「つまり真っ向から、貴女を打倒すれば済む話よ!」

 

 まだ持つ。少なくとも鶴羽と勇ちんはしのげる。

 

 その間に、一気に押し切れば済む話。そして私はそれができる女。

 

 フルスロットルで一気に―

 

『シンドライバー』

 

『ENVY!』

 

 ―その瞬間、私は視界にとんでもないものを見た。

 

 高貴な装飾が施された、しかし最新科学技術で作られたと一目で分かる変身デバイス。そして、悪魔の姿が象られたプログライズキー

 

 うかつだった。考えてみれば当然だ。

 

 元々大王派、それもフロンズの提案もあって進められたのが九大罪王。

 

 そこに、フロンズが手掛ける技術が一切ないわけがない。

 

「……変身」

 

『デビルライズ』

 

 魔力がライダモデルに纏わりつき、オーラの塊となってグレイフィアさんに装着される。

 

 だからこそ、私は一歩を踏み込む。

 

「させるかぁっ!」

 

 その瞬間、私の蹴りが吸い込まれるが、しかし相手もさるもの。

 

 腕でそれを受け止め、吹き飛ばされる腕のオーラ。

 

 だがその瞬間、それ以外は装着される。

 

「デビルライズが完了される前を狙ったのは見事。ですが―――私をあまり舐めないで欲しいわね」

 

 その瞬間、魔力攻撃が私を弾き飛ばし、空いた腕に装甲が展開される。

 

『インヴィディアデビル! It's a king of envy』

 

 あ、これまずい。

 

 私は見た瞬間にそれを悟る。

 

 間違いない。断言できる。

 

 目の前の化け物は―

 

「では、仮面ライダーシンインヴィディアの初陣といきましょう」

 

 ―冗談抜きでリスタートで挑むべき化け物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、かの悪祓銀弾でも厳しいかな?」

 

 ラツーイカ・レヴィアタンがそう言うけど、旗色が悪くなったのは間違いない。

 

 まさか、まさかグレイフィアさんが仮面ライダーに変身するなんて想定外だ。しかも、九大罪王なんたらドライバーって……罪王専用兵装かよ!

 

 間違いなくフロンズの肝入りだ。まず間違いなく、罪王の専用装備として開発されている。採算度外視で最強戦力にするぐらいの超兵器だろ、あれは。

 

 寒気が走る中、グレイフィアさんは即座にカズヒに猛攻を開始する。

 

 カズヒも素早くアタッシュナイダーで迎撃するけど、まず間違いなくグレイフィアさんの方が動きが早い。

 

 いや、早すぎるだろうあれ。走って音速を超えてないか!?

 

 むしろなんでカズヒは対応できてるんだ。ソニックブームとかでそれどころじゃないだろう!?

 

『ま……だだぁっ!』

 

 その瞬間、猛攻を覚醒して弾き飛ばしたカズヒは固有結界の展開を試みた。

 

 なるほど。空間転移も結界内ならできるから、それで高速移動に対抗するはらか。固有聖域や固有外套だと、そこまではカバーしきれてなかったからな。

 

 ただ、グレイフィアさんもそんなことは分かっている。

 

 瞬間的に距離をとると、そのまま遠距離から圧殺にかかる。

 

 かなり距離をとっての砲撃で、カズヒは固有結界の展開を一回諦めて対応する。あそこまで離されると、奇襲でも成立しなければ取り込められないと判断したんだろう。

 

 おいおい、ここでそんな隠し玉が出てくるのかよ!?

 

「え、ちょっと……カズヒやばくない!?」

 

 亜香里もそんなことを言うけど、俺はまず確認しないといけないことがあるのを思い出した。

 

「……知ってたか、これは?」

 

 後ろを振り返って、俺はユーピ達をちょっと見据える。

 

 そしたらエペラ・ルキフゲ・レヴィアタンがちらりとユーピを伺うように視線を向けた。

 

 ユーピはそれに気づいてから、軽く肩をすくめている。

 

「まさか。先ほども言ったが、我々の立ち位置は微妙なのでな」

 

 そっか。

 

 ま、隠してたからなんだってわけでもないけどな。まぁ、隠せるぐらい知ってるならそれはそれで懸念材料になった気もするけど。

 

 俺はため息をついて、視線を試合映像に移す。

 

『ちっ! バッファー系ならバフ役さえ落とせばいい! 動きで大体読めるってもんだが―』

 

『させないよ。面倒だけど、わざと負けるのは問題だしね』

 

 勇儀さんが、トロイド・ベルゼブブがこの強化現象の担い手だと踏んで仕掛ける。そしてそれを、ブンガーさんが迎撃していた。

 

 やっぱり強いな、ブンガーさんも。最上級悪魔の上位、タンニーンのおっさんとも戦えそうなレベルだ。勇儀さんでもこれを突破したうえで、おそらく同格だろうトロイドさんを倒すのは難しいか。

 

 つーかトロイドさんがバフ役かよ。それも最上級悪魔クラスにまで底上げ可能とか、レーティングゲームのルールだと反則に近いぞ。

 

 俺も似たようなことができるけど、人数制限はあっちの方が圧倒的に上だ。たぶん同じ土俵だったら数で押し切られる。

 

 そして問題は―

 

『こ……のぉっ!』

 

『甘いなぁ! その程度で俺は倒せねえ!』

 

 ―南空さんを追い込んでいる、フェイザーさんだ。

 

 あの人滅茶苦茶強い。さっきから聖十字架で押し切ろうとしている南空さんを、真っ向から跳ね飛ばしている。

 

 あの人本当に強いな。マジで超越者も狙えるんじゃねえか? リゼヴィムが相手でもいい勝負できそうだよ。

 

 他のメンバーはごり押しで、既に何人か倒されている。

 

 このままだと、カズヒも押し切られるしマジでやばいだろ。

 

「……これが、魔王クラスの戦い、なの?」

 

 有加利さんが戦慄を覚える中、戦闘は更に激しくなっていく。

 

『上等! だったら!』

 

『抜くか、固有結界を! そう来なくっちゃなぁ!』

 

 その瞬間、フェイザーさんは距離を取り、そしてにやりと笑う。

 

 その瞬間、周囲が僅かに光っている。

 

 いや、あれはっ!?

 

『おぉっとぉ!? 周囲の光……星辰体の反応だとセンサーが感知しているようです! 可視化するレベルで星辰体と感応するとは、どれだけなのかフェイザー・アスモデウス選手はぁあああ!』

 

 冗談、だろ?

 

 そんなの、極晃星レベルのヤバさじゃねえか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、グレイフィアさん側に趨勢が傾ききったな。

 

 冷静に、客観的に、俺はそれを理解する。

 

『流石に強い。だけど、その程度ならやりようはあるわ』

 

『こ、の……まだぁっ!?』

 

 カズヒとグレイフィアさんの戦いは、完璧にワンサイドゲームになっている。

 

 よりにもよって、覚醒するそのタイミングに正確な攻撃が突き刺さって出鼻を崩され続けるという、恐ろしい真似をカズヒはされている。

 

『この程度か! なら、負けるわけにはいかねえなぁ!』

 

『この……どんな星よこれは!?』

 

 鶴羽も圧倒的に不利だ。フェイザーが星を開帳した途端、固有結界を使ってなお圧倒されている。

 

 展開される英霊の影が、触れてもいないのに薙ぎ払われる。更に死角からの攻撃すら瞬時に回避し、これまた強化されすぎている身体能力に魔力の波状攻撃が鶴羽を襲う。

 

『数が……展開が、追いつかない……っ!』

 

『クッ! 回復が間に合わないとは……っ』

 

 更に最上級悪魔の群れに襲われているメンバーもまずい。

 

 お袋が火星天で兵団を作って数でカバーするのも、ディックが味方を立て直すのも追いついていない。

 

 最上級悪魔が駒の数だけ集まればどうなるか。その結果が、このタイミングで実証されてしまっている。

 

 そして敵の要ともいえるトロイド・ベルゼブブは崩せない。

 

『ったく! 波状攻撃を全部捌くんじゃねえよ!』

 

『ぬぉおおおお! 此畜生がぁ!』

 

 勇儀さんはもちろん、戦力をある程度収束させるという判断で参戦したラトスの二人がかりでも、ブンガー・ルシファーはトロイド・ベルゼブブに攻撃を届かせない。

 

 余裕を持って動いている。そう感じるぐらいにかなり動きがいい。

 

 蛇抜きなら、シャルバ達でも一対一なら負けるだろう。そのぐらい、三人の純血なる魔王血族が強かった。

 

 しかもおそらく、まだ全員全力じゃない。

 

 変な手抜きはしてない。それはグレイフィアさんが許さない。だが、余力を残したうえで本気を出した戦闘をしている。そういう立ち回りだ。

 

 だがその瞬間、あらぬ方向から光が飛来する。

 

「これなら、どうかしらぁ?」

 

 なるほど、リーネスによる奇襲か。

 

 リーネスは戦士としての総合力なら最弱に近いが、超一流の魔術回路保有者だ。更にプログライズキーもあって、回避や迎撃に徹すればしのぐ余地はある。それにより、この奇襲をねじ込んだ。

 

 如何に魔王血族とはいえ、光力なら多少の特攻は入る。

 

 これなら揺らぎが見えるか。そう思ったが―

 

『悪いね。(それ)は効かない』

 

 ―その瞬間、光の槍は速度を急激に落としながら明後日の方向に曲がっていく。

 

 そしてその方向には、どこからともなく巨大かつ広大な光の玉があり、直撃。

 

 途端、光の巨大な槍が形成される。

 

 ……なんだと?

 

「ど、どういうことだ? 悪魔も支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)を再現したのか?」

 

「……いえ、悪魔ですし覇軍の方程式(カンカーラ・フォーミュラ)を再現したのでは?」

 

 ゼノヴィアと小猫が口々に怪訝な表情を浮かべながら推測する。

 

 ただ、俺は違うと思う。

 

「ならそれ以前にも使っているだろう。光力だけってのが気になるな」

 

「そうだね。他の攻撃や異能に対して使う機会は多かったはずだよ」

 

 俺と木場がそれぞれ口に出せば、リアス先輩は眉間にしわを寄せながらもため息をついた。

 

「……そういうこと。流石はリゼヴィムの血縁という事かしらね」

 

 その言葉に、俺達の注目が集まった。

 

 その上で、リアス先輩は画面越しにブンガー・ルシファーを見据える。

 

 その視線は、間違いなく恐るべき相手を見ている者のそれだ。

 

「おそらくは光力の運用。それも限定的に自分以外のそれすら干渉できる。そういう事ね」

 

「……確かに、あのリゼヴィム・リヴァン・ルシファーを思い起こさせますわね」

 

 朱乃さんも戦慄するが、おそらくリアス先輩の推測で当たりだろう。

 

 恐ろしいな、ルシファー一族。

 

 ルシファーの血を引きながら、聖書の神が作り出した神器の究極たる神滅具を宿すヴァーリ。

 

 その神器を基本的に完全無効化できる、超越者が一角たるリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

 そこに悪魔の天敵にして神の使いの力たる、光力を支配するブンガー・ルシファー。

 

 ルシファーの血はアンチ聖書の神に特化でもしているのか。そう言いたくなる錚々たるメンツだった。

 

 そして、そんなメンツを率いるグレイフィアさんもまた、カズヒを圧倒している。

 

 覚醒のタイミングを正確に狙い撃ち、限界突破を妨害する戦術。更に仮面ライダーとしてもシャレにならない力を纏った、魔王クラスの力量。そこに数百年はあるだろう積み重ねを用いて、グレイフィア・ルキフグスという女傑はカズヒ・シチャースチエを圧倒する。

 

『まだだ……まだ!』

 

 カズヒは何とか反撃を試みようとするが、それをすり抜けるようにグレイフィアさんは懐に潜り込む。

 

『いえ、これで終わりよ』

 

 その瞬間、魔力を纏った拳がカズヒに直撃。

 

『ま……』

 

 覚醒して乗り越えようとした瞬間、更に展開していた魔力が滅多打ちにする。

 

『……だ……』

 

 それでも覚醒を試みるカズヒに、魔力のひもが拘束してさらに放出される魔力で削りにかかる

 

『さっきも言ったでしょう。これで終わりよ』

 

『ENVY!』

 

 そしてそれをカズヒが突破するより早く、グレイフィアさんはプログライズキーを起動し、蹴りの大勢にはいる。

 

『……だ―』

 

 そして拘束を覚醒して無理やり破ったその瞬間。

 

 それを正確に、グレイフィアさんは狙い打った。

 

『インヴィディアペナルティ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イ

 ン

 ヴ

 ィ

 デ

 ィ

 ア

  ペナルティ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その蹴りがカズヒの胸部を正確に入り、その瞬間、カズヒは血反吐を吐く。

 

『やりすぎとは思うけれど。貴女を殺さずに無力化するにはこれぐらいする必要があるの。悪いわね』

 

 そう告げるグレイフィアさんに、カズヒはしかし一歩を踏み込む。

 

 拳を握り締め、そしてしっかりと踏み込んだ拳は、しかし届くことなく光となって消える。

 

 それを冷静に判断したのか、グレイフィアさんは静かに見据えるだけだった。

 

 ……残り45分。想像を絶する短期決戦。

 

 (キング)一人が真っ先に落とされて終了という、想像を決する短期決戦が終了した。

 

「……リアス先輩」

 

「勝手にしなさい」

 

 まだ本題に入ってないのに、リアス先輩は俺の発言を切って捨てた。

 

「どうせ、カズヒを慰めた方がいいのかとかそんなことでしょう? カズヒも気合で乗り越えず、それなりにひたることを選ぶかもだし、バカップルののろけは勝手にすればいいのよ」

 

「リアス先輩に言われたくないです。バカップルはそっちもでしょう!?」

 

 思わず反論したよ。

 




 殲滅女王チーム、圧勝。さすがにこれは予想できた人がいないかもですね。

 光狂いには「意志の力を逆手に取り、肉体が限界を迎えるまで覚醒させ続ける」「殲滅特化の性質を利用し、守るべき対象を狙い防御をおろそかにさせる」などの対処法がありますが、今回は「覚醒すら許さず圧倒的性能差による短期決戦」「覚醒のタイミングを狙って潰す」といったところです。歴戦の実力者であるグレイフィア向けと思い対応しました。

 もちろんそれでも困難ですが、そこで仮面ライダー化となっております。もともと九大罪王専用の仮面ライダーを設計する予定であり、フロンズ一派もグレイフィアを魔王にして代価を成立させるために助力はしているという事ですね。

 そしてシャレにならないポテンシャルで残りを圧倒した魔王血族三名。こいつら全員、基本的にポテンシャルが高い強者です。






 魔王血族として特性がさっぱりわからないので盛りが困難なアスモデウス家は、ある発想に至り、フェイザーはめっちゃ持ってます。超越者クラスであり、ぶっちゃけると特異点接続状態の戦闘特化型アメノクラトと真っ向から競り合えます。

 トロイド・ベルゼブブは根本的にバッファー。モブメンバーを全員最上級悪魔クラスに性能底上げができるという、通常のレーティングゲームどころかアザゼル杯でも反則級のポテンシャルを保有しており、あるいみでチームの生命線と言えます。

 そしてブンガー・ルシファーはあまり目立ちませんでしたが、光力を操るという意味で反則級。ルシファーは原作でもヴァーリやリゼヴィムという反則級の連中だったので、もう開き直って特殊能力を発現させる一族にでもしようかと思っております。


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戦愛白熱編 第二十四話 銀の激突の後に

 死闘終了。

 そして小休止の時間です。


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 す、凄い短期決戦で終わった……。

 

 思わず戦慄するほどの戦いだったけど、掛かった時間は十五分そこら。間違いなく、ライトニング・ファストであることを踏まえても短時間で決着がついただろう。

 

 強者同士の戦いだと、逆に一瞬ってのがあるらしい。これってつまり、そういう事なんだろう。

 

 なんというか、衝撃的すぎてちょっと何も言えなかった。

 

 後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)の連中も、割と沈黙してるからな。コイツラに沈黙させる試合とか、そうそうないだろ。

 

「……え、っと……凄い戦い……なの?」

 

「ああ。割とマジで凄いな」

 

 亜香里が訪ねてきたので、俺はそこは答えておく。

 

 思わずラムルとかが頷いている辺り、やっぱり後継私掠船団も衝撃を受けているんだろう。

 

 いや、壮絶な戦いだった。というより、あのカズヒを一蹴とか信じられない。グレイフィアさん、マジでスゲェ……。

 

「フロンズ殿も面白い物を用意したわね。九大罪王そのものは魔王派中心にしつつ、その専用武装でこっそり発言力……かしらね」

 

 エペラがそんなことを言うけど、それを聞いて納得だよ。

 

 フロンズの奴、ちゃっかり発言力を高める為の動きはしていたってことか。いや、もとからそのつもりで開発研究は進めさせていたんだろうな。あいつはそういうことをする奴だ。

 

 本当に、本当に油断できない! あの男本当に油断も隙もないな!

 

「まぁ、それぐらいできなければ困る。あの幸香の名目上とはいえ主になっているのだからな。こちらも超えがいがないものだ。……さて、食後のコーヒーだ」

 

 そしてユーピはしたり顔で頷きながら、そっと俺達にコーヒーを渡してくる。

 

 ……なんだろう。よく分からんが美味いというか良い香りというか。第三征王(ナーディル・イスカンダル)って、どんだけ才能があるんだよ。

 

「あの、良い香りですけど……もしかして豆から?」

 

「そうだろうね。豆そのものより挽き方がいいね」

 

「まったくね。こんなところも優秀だなんて」

 

「だな。こいつ才能ありすぎだろ」

 

 と、有加利さんもラツーイカもエペラもラムルも感心している。

 

「そんなことはあるとも。ふふふ、才能が豊富すぎて本当にすまない」

 

 こいつ、いろんな才能ありすぎない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ~。負けたぁ~。

 

 思うところはあるとも。負けて悔しいことある。

 

 ただ、全力でぶつかり全力で叩き潰された。その過程により、分かったこともある。

 

 彼女が本気だという事だ。

 

 おそらくだが、フロンズは彼女に引っ張られる形で協力している。推測するに罪王就任、その要望に応える対価として要請されたことをアザゼル杯の成果によって叶える形だ。

 

 それが確信できただけでも、十分価値がある。勝てなかったのは残念だけど、あのグレイフィアさん相手に負けるのは客観的に見ておかしなことでは断じてない。

 

 むしろ、帝釈天相手で使わなかった隠し玉。それを使わせたのなら価値がある。それぐらいは分かるのが私だ。

 

 状況は色々と変わるが、それでも使わせたことに意義はある。少なくとも使わせたという事実だけで、分かる識者には評価もされるだろう。

 

 だから総合的にはマイナスではない。ゆえに、無念はあれど悔いはない。

 

 もとより私はそういう女だ。精神論でどうにかなることは絶対にどうにかできる。気合と根性で精神的な負担は大概どうにかできる女だ。

 

 とはいえ、そんなことが良い事なわけがない。

 

 どんなことも精神論でどうにかする。そんなことはできる方が少数派で、大半の者はできないのだ。それを当たり前に行使し続けることは、目にした他人に悪影響を与えかねない。

 

 だから、リフレッシュする機会があるならきちんとするべきだ。私個人で見ればマイナスが目立っても、皆にとってはそちらの方が健全かつプラスに働くと確信している。

 

 だからこそ―

 

「こういう時の温泉の元ね。あ~、癒される~」

 

「俺は癒されすぎて何かがプッツンしそうだけどね!?」

 

 ―和地と一緒に、温泉の元を入れてお風呂に入っている。

 

「ぱらっぱらららららら……ぁ~」

 

「あ、あうあうあうあうあうあ~」

 

 ちなみに鶴羽とリーネスはバグを起こしかけている。一人で入るのはちょっと悪いと思ったけれど、この二人にこれは刺激が強すぎたかしら。

 

 それとなくバグっている二人を溺れない様に位置を変えつつ、和地は軽く苦笑してきた。

 

「ま、そういうところもしっかりしてるけどな。とはいえ、これは俺にとってこそメリット多すぎないか?」

 

「win-winならそれに越したことはないでしょう? ま、お礼をしなくていいのは気が楽ね」

 

 そう苦笑しながら向き合う形でお風呂でぬくもる。

 

 世間一般のバスタブより面積が大きいからこそ、温泉の元も二袋ほど入れている。まぁ、おかげでリフレッシュはできているわね。

 

 とはいえ、こういう時間はいい物でしょう。

 

「で、そちらは準備できてる? 相手がリュシオンだと苦戦は必須よ?」

 

 私は今回負けた。それはまぁいいでしょう。

 

 ここから立て直す余地は十分ある。だから問題はその次だ。

 

 そして和地達にも試合はある。それも、あのリュシオンという、壮絶な試合が確定する相手だ。

 

 他の皆だって、楽な戦いばかりなわけがない。今後は神クラスやそれに類する相手との戦いも増えるだろう。ある意味で本番はまだ先なのだ。

 

 それを思いながら湯に浸かっていると、和地も天井を見上げながら微笑んでいた。

 

「ま、そこは俺なりに頑張っていくさ。……負える責任は背負いたいからな」

 

「そうね。私もここで止まる理由はないしね」

 

 小さく、互いに苦笑を交わし合う。

 

 互いに難儀な理由で参戦したけれど、それが私達であることに否はない。

 

 だからこそ、半端で済ますつもりはない。私達が私達として、これからこの世界を生きる為。それを成すことに意義はある。

 

 極晃星(スフィア)を否定した責任。それを必要とした責任。そこから逃げることを私達は良しとしない。

 

 極晃星抜きで世界はどうにかなると示す為。罪人が今の世界を生きることを容認してもらう為。互いが互いに考えた、その上での決断だ。

 

 だからこそ、私ははっきりと宣言しよう。

 

「お互い、まだまだここからね」

 

「ああ、まったくだ」

 

 さて、そろそろ難しい話はしないで素直にいちゃつくとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 そう、小さく息を吐く。

 

 兵藤邸のリビングの片隅で、九成オトメは一人ゆったりとしていた。

 

 ちびりちびりとお茶を飲みながら、クッキーを食べる。

 

 そんな一人のティータイムだったが、お茶を飲みほしたことに気が付いた。

 

 お代わりを入れようと思った時、お茶の葉とはまた違った香が届く。

 

 見上げると、そこには男性が一人ティーポットを持ちながら近づいていた。

 

「これ以上は眠りにくくなります。ハーブティーを入れましたので、こちらにするべきかと」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 微笑みながらそれを受け取っていると、更にリビングを覗き込む人がいる。

 

「お? オトメじゃありませんの」

 

 ヒマリ・ナインテイルが二人に気づき、ニコニコしながらリビングへと入ってくる。

 

「あと黒狼さんですわね? 和地がいつもお世話になってますの」

 

「あ、それもそうだね。……本当にお世話になっております」

 

 その言葉に、オトメもそれを思い出して微笑みながら会釈をする。

 

 武山黒狼は、涙換の救済者チームの戦車。すなわち、和地が率いるチームに属しているメンバーだ。

 

 相応にゲームの経験もあることから、チームのブレーンを担当しているところもある。その観点で言えば、和地と縁が深い二人からすれば、お礼の言葉の一つは言うべきだった。

 

「いえいえ。私達は懲罰従者ですし、和地様は優秀な方ですから」

 

 そう返す黒狼は、その後少し寂しげな表情を浮かべている。

 

「それに、何かしらの目的を持てるのはいい事ですから。虚無的な人生を送るよりはね」

 

 その言葉は、意識的に出したものではないのだろう。

 

 だが何かが溜まっていて、それがふとした拍子に少し漏れ出てしまった。つまるところはそういう事だ。

 

「どうしましたの? お悩みでも?」

 

 ヒマリがそれに悟ったか否かはともかく、何かを感じ取って首を傾げる。

 

 そこで初めて、自分が言ったことに気が付いたのだろう。黒狼はハッとなる。

 

 ただ、黒狼はそこで小さく苦笑を浮かべていた。

 

「お忘れください。燻った物を、別の何かで発散しようとしているだけです」

 

 それで話を終えるつもりだった。彼にとってはそのつもりだろう。

 

 ただ、それをオトメは良しとできなかった。

 

「……聞かせてください」

 

 そう、彼女は自然と口にする。

 

 それに黒狼とヒマリがきょとんとする中、オトメはカップに視線を落としながらも言葉を終わらせようとしなかった。

 

「息子のチームで要といえるあなたが悩んでいるのは、いい事じゃないですし」

 

 そこまで語り、しかしオトメは首を横に振る。

 

 今のは誤魔化しだと、そう自分をたしなめる動き。嘘ではないが、もっと重要な理由があると、自分を見直す動作。

 

 それをとったうえで、オトメは小さく寂しげな微笑を浮かべる。

 

「たぶん、この眩しすぎる所では言い難い事ですよね? 私もありますから、お互い愚痴って発散しましょう?」

 

 そう。それが本音だ。

 

 普段抑えている本音を、語り合える相手かもしれないと思った。だからまず、自分の方から聞くべきだろう。そういう理由だ。

 

 ヒマリはキョトンと首を傾げるが、黒狼は小さく微笑むとソファーに腰を落とす。

 

「そうですね。ぜひ、話をさせてください」

 

 その言葉に、オトメもまた小さく頷いた。

 



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戦愛白熱編 第二十五話 目の前でする自傷行為はもはや脅迫である

 本日、日常編です!


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレーボール……飛び上がる女子……揺れる乳房……煩悩壊滅!」

 

「おーい! また窪川の奴が自傷行為始めたぞー! シチャースチエ先輩呼んできてぇええええっ!!」

 

 そんな大声が続けざまに起き、僕は小さくため息をついた。

 

 カズヒが特別風紀隊のメンバーにした、引岡さんの息子。窪川蓮夜君。

 

 そして僅か数か月。彼の発作的な自傷行為は、イッセー君のひきつけに匹敵する駒王学園高等部の名物となっている。

 

 日常の些細な言葉や出来事から、瞬く間にエッチな要素を見出す。そしてその煩悩を断ち切るべく、多種多様な方法で自らに苦痛を与える。多ければ一日数回、少なくとも週数回。

 

 イッセー君のひきつけと同レベルのこの事態に、イッセー君のひきつけで訓練された二年生以降はすぐ慣れた。

 

 ただ一年生はそうもいかないらしい。一度PTAが彼を呼び出して説教を試みたと聞く。

 

 もっともすぐに諦められたらしい。スーツ姿の妙齢の女性達を見た瞬間「PTAの呼び出し……すなわち熟女の分からせ系逆レ〇プ……煩悩虐殺!」と瞬時にやり出したことで、関わり合いになりたくないという本能が刺激されたそうだ。子供達には「近づいちゃいけません」で済ませたと思われる。

 

 既に彼においては、二年生は「兵藤先輩達の亜種」ということで納得しているそうだ。彼らはイッセー君の煩悩抑制によるひきつけを洗礼の様に見せられていた。だからこその同類認定だろう。

 

 三年生はもうちょっと穏やかではある。イッセー君が覗き行為を頻繁にやっていた時期もあり、「同類だろうけど印象としてはまだマシ」になったようだ。実害の方向性が割合的に違ったのが、いい方向にかみ合っているらしい。

 

 窪川君はイッセー君達に敵視一歩手前の感情すら浮かべているけど、頑張って自制していることからとりあえずは様子見にとどめている。ただ二人が近くにいる時に同時に起きたこともあり、周りがなるべく接触させない方向で行っているようだ。

 

「なんていうか……一年生も凄い子が入ってきたよね」

 

「それは同感でさぁ。いや、俺らの方が苦労してやすがね?」

 

 と、僕の呟きにアニル君が反応する。

 

 まぁそうだろうね。

 

 対ゼノヴィア生徒会長特化型、風紀委員特別部隊。通称特別風紀隊。

 

 カズヒを迎え入れた精鋭部隊であり、ゼノヴィア達が目に余る暴走をした際に武力をもって鎮圧する集団だ。

 

 ……うん。対生徒会に特化した風紀委員の精鋭ってなんだろうね。字面にすると意味不明すぎるよ。

 

 そしてそのメンバーとして、オカ研と複合する形でアニル君とルーシアちゃんも属している。更に勇儀さんとのコネなどを使い、一般生徒から星辰奏者の適性持ちを引っ張り込むなど、かなり本腰を入れた精鋭部隊になっている。

 

 それぐらいしないと取り押さえられないのが、現生徒会だけどね。ゼノヴィアはもちろんだけど、百鬼君とか間違いなく最上級悪魔クラスと渡り合えるだろうし。

 

 そしてその一人として、窪川君も属している。

 

 引岡さんから頼まれたこともあり、彼女が面倒を見ている形だ。窪川君も性格上、自由人には口うるさくなるタイプなので割とかみ合っている。少なくとも、特別風紀隊としての活動は真面目にやっているらしい。

 

 ただし、当人が性的なものに潔癖かつ根がスケベすぎる所為で、日常ではトラブルも多いようだ。些細なことから凄くエロスを感じるタイプらしく、自傷して血まみれになりながら相手をしかりつける所為で、駒王学園に妖怪が住んでいるという、笑えない都市伝説となりかけている。

 

「……大変だよね、本当に」

 

「いや、本当にまったくでさぁ。ま、カズヒ先輩が可能な限り受け持ってくれてるんですがね?」

 

 カズヒも大変だろうね。

 

 今度、特別風紀隊に手作りのケーキでも差し入れしよう。ゼノヴィアに苦労させられているという点では、僕も大概なところがあるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、窪川君はとっても癖の強い方なんです。……イッセー先輩がまだマシと思えますね」

 

「俺、比較対象になるんだ」

 

 たまたま会ったルーシアの愚痴に付き合っていたら、とんでもないことを言われたよ。

 

 え? 俺ってそんなレベルで問題児だったの?

 

 男がエロを、女の子を求めることがそのレベルなのか。いや、シャルロットに顔向けできないとは思っているけど、そこまでとは思わなかった。

 

「変態性がストレートで、変に捻くれてない点。あと犯罪行為が軽犯罪寄りなのがあれですね。女子生徒の報復も大概なので、結果的に学園内では釣り合いが取れてるんです」

 

 そう言うと、ルーシアは紅茶を一口飲んでからため息をついた。

 

「逆に窪川君は、変態性が捻くれて潔癖ですから。自己嫌悪に基づく自傷から排他的な罵倒及び説教なので、分かりやすい報復を与えづらいのも問題かと」

 

 な、なるほど。

 

 俺が学園内に残れたのは、女子に報復させられていたこともあったのか。

 

 ……そうでないとやばかったのか。本当に反省した方がよさそうだなぁ。

 

 この程度のことでそこまでしなくても、というような考え方はやめた方がいいんだろう。実感は沸かないけど、知識として知っとくだけでもだいぶ変わるかも。

 

「まぁ、あれはあれで集団リンチで警察が動きそうですけどね。捕縛した相手を法治機関の関与なく、しかも集団かつ武器を使って暴行とか、真っ当な法治国家なら裁判所に送られてもおかしくありません」

 

 ルーシアはそう言うと、もう一度ため息をついた。

 

「結論から言えばどっちもどっちです。カズヒ先輩もそこまでは喧嘩両成敗にしたというより、生徒が数十人警察に連れていかれ、更に学園そのものが行政処分を受けて和平の象徴たる駒王学園に修復困難な深手を負わせるのを躊躇したからだと思います」

 

「本っ当に申し訳ありません!」

 

 真面目なルーシアに説明されて、初めて分かるやばい事態だったよ!

 

 ヤバイ。下手すると学園そのものが取り潰されることもありえたのか。流石にそんなことになると、俺もかなり心が傷つきそうだ。

 

 畜生。人間世界はエロに厳しすぎるぜ。

 

 そこまで考えて、俺はふと思ったことがあった。

 

「……なぁ、だったら俺と木場をホモ同人にするのも大概問題じゃねえか?」

 

 女子に変えるなら、まんま同じ格好の女の子達でレズの同人誌を書いてばら撒くようなもんだよな?

 

 これも大概じゃねえか。脳内でエッチな対象にするだけならまだ顰蹙で済むけど、周囲に分かる形でばら撒いたらアウトじゃねえか?

 

 と、ルーシアもそっと視線を逸らした。

 

「……元々同人業界は、原典側が法的措置を取らないことで成り立っているグレーゾーンですから。もし訴えれば、肖像権の侵害で先輩に圧倒的勝率があります」

 

 あ、そうなんだ。

 

 ただルーシアは言いづらそうにこっちをチラチラ見ながら、気分を落ち着ける為か紅茶を再び飲む。

 

 そして、凄く言いづらそうな表情で真っ直ぐ俺を見る。

 

「ただ、下手に司法を介入させるとイッセー先輩達の狼藉とそれに対する違法報復が明るみに出かねません」

 

 ……それは、最終手段すぎる。

 

 核戦争の引き金を引くような大惨事になりそうだ。すっごい躊躇するんだけど。

 

「因みに、平和的に解決する余地はあるか?」

 

「……実は、ならいっそのことイッセー先輩と文芸部達できちんとした取引にさせるという案はありました」

 

 取引?

 

 俺が首を傾げてると、ルーシアはちょっと顔を赤くしている。

 

「性欲が強すぎるイッセー先輩にネタを提供することで、肖像権の侵害ではなく使用料を払ったモデルという形にするという案です。この場合、お互いが裸になったりすることは確実でそれ以上もありえたかと」

 

 ……真剣にその取引は考えたい。

 

 ただルーシアは今度は青い顔になった。

 

「ただその案が発生した際、文芸部で「兵藤一誠が木場きゅん以外と絡むの介錯違い」といった形で内乱が勃発し死人が出そうになりました。あとリアス先輩達が割と露骨に圧力をかけており、別の意味で血が流れそうになりました」

 

 ……俺は、童貞卒業できるんだろうか。

 

「俺から突っつくのは、本当に最終手段にした方がよさそうかな?」

 

「そうしてください。おそらくですが、カズヒ先輩でも対処しきれない規模になってしまうかと」

 

 ははは。俺が言えたことじゃないけど、駒王学園って変態の巣窟じゃね……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別風紀隊に与えられた部屋で、私は必要な書類仕事を頑張って終わらせている。

 

 学力において駒王学園では下側の私だが、書類仕事も苦労している。

 

 最も、他のメンバーが協力してくれるからそこまで苦労はしないけれどね。

 

「で、窪川に対する苦情は今日で八件目?」

 

「厳密には同じことも含めてだから三件ぐらいだけどな」

 

 と、元浜が私を捕捉してくれる。

 

 特別風紀隊のメンバー案件で苦情の対応をするとか、本末転倒になってきているわね。

 

 頭痛を感じながら、私はまとめられた苦情内容を確認する。

 

 1:目の前で自傷して血まみれになってから説教してくるのが怖い。むしろ気持ち悪いのでやめて欲しい。

 

 2:友達が生理関係で相談した瞬間に、教室の隅から隅なのに聞きつけて頭を壁に叩きつけるのが気持ち悪い

 

 3:昼休みにお経を唱えながらお灸をするのをやめて欲しい。怖いし匂うし夢に出る

 

 ……イッセーでもここまで頓珍漢ではなかった気がする。

 

「性癖をオープンにせず抑制しようとすると、こうなるのね」

 

「俺達ってむしろ健康的だったんだな」

 

 松田と共に思わず戦慄を覚えたわ。

 

 ディーレンの血を色濃く引いている潜在的スケベ。それを肯定せず、全否定する為に人生を捧げるとこうなるのね。流石の私も軽く引くわ。

 

 あいつ、そろそろ精神崩壊で入院するんじゃないかしら?

 

「いっそのこと、あいつの童貞を真っ先に卒業させるべきかしらね」

 

「「ちょっと待った!?」」

 

 と、私の呟きを聞き咎めた二人が真っ先に食いついた。

 

 あ、勘違いしているようだから訂正しないと。

 

「流石に私はしないわよ。ただ伝手でそういうことに長けている人達がいるから」

 

 流石にこれ以上相手を増やすのは、和地のメンタル的になるべく避けたい。

 

 そうなるのなら、まぁ伝手を使うというのは妥当な手でしょう。実際にあるから問題ないし。

 

 具体的に言うとプルガトリオ機関関連ね。

 

 暗部組織なだけあり、リマ部隊である私達ほどではないとはいえ、それなりのグレーな部隊は存在する。

 

 例えば、異形案件の事件を表ざたにしない為のチャーリー部隊がそうね。リゼヴィムが野放しにした馬鹿が駒王学園に仕掛けてきた時とか、彼らのおかげでなんとか異形が知らしめられることは防げたわけだし。

 

 そしてNATOフォネティックコードのSを冠するシエラ部隊。この部隊はハニートラップを専門としている。

 

 性欲という物は種族で個体差がある、中には発情期がある種族だってある。また、過去の経験で貞淑に生きたくてもできないぐらい性欲に悩まされるものだっている。そういう者達が集まってできた、毒をもって信仰を守る部隊だ。

 

 個人的な知り合いがそこにいるし、幸か不幸か日本人と来ている。最悪の場合、真剣に相談するべきでしょうね。

 

 ……今思えば、最初から頼んだ方がよかったのかしら?

 

 ふとそんなことを思う。ただし、私は発言には責任を負うタイプだ。有言実行を超え、徹底的にやりたいぐらいだ。

 

 と、なると―

 

「二人とも。4Pに興味ある?」

 

「「あるけど落ち着け」」

 

 ―おかしい、何故かエロで二人にツッコミを入れられたわ

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろう。カズヒがまた妙な暴走をした気がする。

 

 光極めちゃってる精神性に、前世での壮絶な経験。二つの癖の強さが絡み合って、ことエロが絡むと変な暴走をしでかす悪癖があるからなぁ。

 

 俺はそんなことを思いながら、コーヒーを一口。

 

 うん。手軽にコーヒーや紅茶が飲めるのは、中々いい文化だ。

 

 そんなことを思っていると、人の気配が近づいてくる。

 

 ちょっと忍び足なのが気になるな。気配を隠すそぶりもない以上、異形や異能関係者ではなさそうだが……。

 

 そんなことを思いながら、俺は偶然を装う形で振り返る。

 

 と、そこには一人の少女がいた。

 

「あ、九成先輩! ちわっす!」

 

「……優華か」

 

 勇儀さんの娘である、接木優華。

 

 窪川と同じタイミングで知り合った、一年生。

 

 窪川と違い、ノリが割と駒王学園に近いからか、割と評判はいいらしいけど、一体なんだ?

 

 まぁ、インパクトのある窪川の方が記憶に残ってるけど。……いや、本当にインパクトがなぁ。

 

 で、今度は一体何があるのやら……?




 窪川蓮夜、大絶賛暴走中(汗

 我ながらよくもまぁこのレベルの変人を作れたものだと感心すら覚えています。


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戦愛白熱編 第二十六話 伝統は時代とともに仕立て直されるものなり

 はいどうもー! ここ最近は執筆速度が上がっているグレン×グレンでっす!

 なるべく常連さんの感想は待ってから投稿しておりますが、あまりたまりすぎるのあれですし場合によってはスパンを短くするのもありカモと考えております!


和地SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では先輩! お話を聞いてもらうお礼に焼きそばパンです!」

 

「いや待て落ち着け」

 

 速攻で頭下げながら渡された焼きそばパンを、俺はそっと押し返す。

 

 話を聞くともまだ言ってない。いや、少しぐらいなら聞く気だったけど返事してないから。

 

 きちんとお礼を用意するのはいいことだが、学生関係だということもあるとちょっと不安になるな。

 

「話は聞くから、とりあえず速攻で報酬を渡そうとするな。まず話を聞いてからもらうかどうか決めるから」

 

「分かりました! で、相談なんですけどね?」

 

 ふんふん。なんだ?

 

「オカ研に入りたいんですけど、どしたらなれます?」

 

 ……ん、ん~?

 

 こりゃまた難題が来たな。

 

 オカルト研究部。俺達が所属している部活であり、広義的なリアス・グレモリー眷属と言ってもいい。

 

 そんな実態があるからか、基本的に裏に関わらない人間は入れない。その辺りはある種のボーダーラインであり、最低限の筋というべきものかもしれない。

 

 勇儀さんは俺達の事情を知っているけど、その娘さんまで伝わっているかが気になるな。

 

「因みに理由は? やっぱり木場狙いとかか?」

 

 女子だとやはりそこだろうか。

 

 ギャスパーは女装趣味もあって彼氏にする方向性は薄い。イッセーはイッセーで、最近こそひきつけや後輩の面倒で評価を上げているが、犯罪行為(覗き)上等の変態迷惑野郎だったのが後を引いている。

 

 アニルや俺という線もあるが、まぁ最有力候補は木場だろう。

 

 ただ、優華はそれには首を振った。

 

「いえいえ。確かにイケメンですけど、顔は金があれば美容整形で割と誤魔化せますから」

 

 身もふたもないが確かに正論だな。

 

 勇儀さんはもともと腕利き……を通り越して、人造惑星相手でもいれば勝算がデカいスーパー星辰奏者。かなりの高給取りは間違いない。起業してからもD×D関連で儲けているし、家に金はあるだろう。

 

 そしてこの世の中、金があれば大抵のことはどうにかなる。美しさに対しても、美容整形である程度は補うことが可能ではある。

 

「私が男に求めるのはぁ……一緒にいて楽しいかですね。それさえあるなら、大抵のことは寛容になれるんで」

 

 なるほど。確かに一理あるかもしれない。

 

 ただ同時に、無責任になったり悪の道に行ったりしたらヤバイ思考でもある。

 

 勇儀さんの娘さんなら心配は薄いけど、血縁が善良ならそれだけで善人とはいいがたいしな。ちょっと様子を見た方がいいかもしれない。そのあたりもあってカズヒに目をかけるよう伝えたのかもな。

 

 ならまぁ、俺も目をかけておくべきで―

 

「で、話を戻すけど理由はなんだ?」

 

 ―そこはしっかりと確認しないとな。

 

 わざと見抜くような見方をして、相手に意識を誘発させながら俺は尋ねる。

 

 なんでオカ研を選ぶのか。そこはしっかり確認しないと、アーシアに話すのもはばかられる。

 

 元々根っこがいい子で争いを好まないからな、あの子。俺達も気を使える部分は少しは気遣っておかないと。

 

 入りたがってる子を断るのも、心苦しく感じそうだし。俺としても、しなくてもいい苦労を人にしょい込ませるのは好まない。

 

 だからこそ、見定めるつもりで俺は優華を見つめ―

 

「めっちゃ面白そうだからっす!」

 

 ―迷いないその言葉を聞いた。

 

 うん、凄く澄んだ目だ。隠し事があるような濁りを全く感じない。

 

 人間、ここまで真っ直ぐな目でこんな何も考えてないような目ができるんだ。俺、素直に感心してるぞ。

 

「部活動するんなら、とにかく楽しく毎日が送れる部活がしたいんです! あとトラブルに巻き込まれた時に頼れる人が多いみたいですし!」

 

 人を見る目があるな。

 

 まぁ、悪魔って何でも屋みたいなことしてるからトラブル対応もお手の物だろうし。そもそも俺達、国際的な対テロ部隊だから後ろ盾としてはかなりのレベルだし。お人好しが多いから、身内に襲い掛かる理不尽には断固撃破になるだろうし。

 

 あとトラブルに巻き込まれること前提な辺り、自分のことも分かってるっぽいな。ちょっと不安になるところがある考え方だし、自分を客観視して備えるのはいいことだよな。

 

 その辺りを踏まえて俺が考えていると、優華は何かを勘違いしたらしい。

 

「あ、もちろん後輩として先輩に尽くすっすよ? これでも楽しくやりたいエンジョイ勢だけど運動部だったんで、パシリぐらいはお手の物っす! コーヒーも三分以内に買ってきます!」

 

 そして対価をキチンと払う主義らしい

 

「いや、オカ研(うち)は紅茶が出るから。茶葉から入れるから」

 

 これは、もはや伝統だろう。たぶん来年も続くだろうし。

 

 ま、それはともかくだ。

 

 ……勇儀さんの娘さんが相手なら、ある程度話す余地はあるだろう。

 

 勇儀さんに直接聞く必要もあるだろうが、まぁそれを踏まえても話を通すぐらいはしてもいいか。

 

「分かった。とりあえず今日の部活で議題に挙げてみる。……ただし却下されても恨むなよ?」

 

「やったぁ! 先輩ありがとうございまっす! お礼に胸も見ます?」

 

 それはやめろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなことになっているんだけど」

 

「どういう展開だよ」

 

 九成がそんな話を持って来て、俺は思わずツッコミを入れたよ。

 

 いや、オカ研って事実上の異形の集まりだぞ? 一般人を入れるのはややこしいことになるだろ。

 

 リアスの時だってそれはしてなかったし、やるんだったらそれこそ異能に関わらせた方がいい気もする。

 

 ただ、異能に関わらせると余計な火種もきかねないんだよなぁ。俺たちと同じ部活とか、変な連中のターゲットにされそうだし。

 

 駒王町は和平成立の地だから、結界の強度や数は重要拠点レベルだ。それを突破してくるような連中は基本的に手練れといっていい。そして厄介なことに、そんな奴らがあの手この手で侵入してくる。

 

 コカビエルしかり幸香しかりユーグリッドしかりニーズホッグしかり。どいつもこいつも異形社会で言うなら上澄みレベルの化け物だ。俺達、よく毎度毎度生き残ってるよなぁ。

 

 そりゃそんな連中は相手を選ばないけど、だから開き直ってうかつに危険な橋を渡らせるってのもなぁ。

 

「どうする、アーシア。俺は断るのも手だと思うけど」

 

 俺がそう言うと、九成も紅茶を一口飲んでからあっさりと頷いてきた。

 

「ま、俺もダメ元だから断っていいぞ?」

 

 あ、流石にそうなのか。

 

 ま、そりゃそうだ。オカ研はある意味でグレモリー眷属の拡張と見なされてるからな。参加するだけで注目レベルは上がるだろうし。

 

 九成ならそりゃ言うだろ。この件も、独断で動いて変な食い違いが出ないようにするってだけだろうし。

 

『しかし、あのおっさんの娘さんですかい? ちょっと会ってみたいですぜ』

 

「私も接木勇儀さんにはお会いしましたけど、兄やヴァーリ様が興味を引く方ですよね? 実はお強いのでは?」

 

「むぅ~。初等部や中等部からも来ておるのじゃし、一人ぐらい民間人がいてもよくないか?」

 

 新入りのベンニーアやルフェイ、九重はそう言う。

 

 まぁ、あの接木さんの知り合いなら絶対強いとは思うけど。思うけどさぁ?

 

 凄い人の血縁だからって、必ず同じような凄さが得られるとは限らないし。サイラオーグさんや、同列に語りたくないけどディオドラがそんなわけで。

 

 俺はその辺りの意見が聞きたくて、三年生組や二年生組に視線を向ける。

 

「難しい問題だね。少なくとも、リアス姉さんの代なら断っていただろう」

 

「……そうですね。異能や異形に全く関与してない人を入れるのは避けるはずです」

 

 木場と小猫ちゃんは反対よりの意見か。

 

「私はいいと思うわよ? これを機に信仰も広めたいわね」

 

「その辺にしとくじゃんか。……ま、あの人の娘さんなら別の意味でマークされてるだろうしさ? いっそ巻き込んで鍛えるのもありかも?」

 

 イリナはノリノリで、ヒツギは安全の面から逆に賛成意見だな。

 

「よく分かりませんので、ここの判断は譲りますわ!」

 

「ぼ、僕も判断できる気がしないですぅ」

 

 ヒマリとギャスパーは判断を保留か。二人らしいというかなんというか。

 

「そうねぇ。逆に一種のモデルケース……という考えもあるかしらぁ?」

 

「ま、入れるならレイドライザーぐらいは護身用に持たせた方がいいかもね」

 

 リーネスと、前生徒会の解散もあってオカ研にきた南空さんは、入れる入れないではなく入れる場合のアイディアを入れてくる。

 

 九成は話は持ってきたけど断られると踏んでいたし、俺はちょっと断った方がいい感じと思っている。

 

 ゼノヴィアは生徒会、リアスと朱乃さんは大学を今回は優先。カズヒもアニルもルーシアも、ちょっと窪川の奴がやらかしたみたいで今回は特別風紀隊としての活動に注力している。

 

 と、なるとだ。

 

 俺は残るメンバーと顧問の、レイヴェルとロスヴァイセさんを見やる。

 

 この二人がどうするかで話は大きく変わりそうだけど……。

 

「あえて保留しますわ」

 

「私もです」

 

 あら、二人とも保留か。

 

「え、保留でいいんですか?」

 

 アーシアもきょとんとしているけど、二人は真面目な表情をアーシアに向ける。

 

「私は顧問ですが、大体皆さんの意見は良しあし含めてまとまっています。ならやるべきは指針を決めるのではなく、決めた後どうするかに回るべきでしょう」

 

 と、ロスヴァイセさん。

 

 なるほど。顧問はあくまで顧問として部をわきまえる的なあれか。まじめだから今回反対に回りそうだったけど、教師らしいなぁ。

 

 で、レイヴェルはどうなんだろうか?

 

「個人的にはリアス様と同様に一般からの入部は避ける方がいいと思います」

 

 そう前置きしてから、しかしレイヴェルはアーシアの方をもう一度見る。

 

「ですが、今後は人間との付き合い方も変わるはず。それに純粋な只の人間である桐生さんも、事情を知ったうえで時折顔を出してますしね。それも半ば入部しているようなものです」

 

 あ、確かに。

 

 生徒会選挙の時が中心だったけど、桐生は年末からゼノヴィアのお得意様だ。それなりに事情を知ったうえで、時々顔を出している。

 

 それも考えると、確かにありなのか?

 

「その上で、部の全体的な方針になりえます。なら決めるのはアーシア部長ですわ」

 

 と、レイヴェルはそう言ってアーシアの方を向いた。

 

 思わず俺達全員の視線が集中する。

 

 アーシアはどうするんだろう? 

 

 俺から何か言うこともできるけど、レイヴェルの言い分も正しいし、あんまり深く言うのもあれか。

 

 ただアーシアは、部長としてはまだ議事進行役ぐらいだしなぁ。少しずつでいいとは思っているけど、結構重要なこの決断は大変じゃないだろうか?

 

 ただ、アーシアは少し俯いて考えこむと小さく頷いた。

 

「……では、試用期間を設けてみてはいかがでしょうか?」

 

 し、試用期間?

 

 俺達は続きを促すと、アーシアは俺達を見回した。

 

「まずは週一日だけ、接木さんを呼んで表向きのオカルト研究部の活動をする日にします」

 

 な、なるほど。

 

 異形とかを表に出さない、表向きの活動なら連れてきてもいいのか。

 

 その上で、アーシアは自分自身で考え直しながら続けていく。

 

「一学期の間続けてみて、私達の事情を話すかも接木勇儀さんとも話し合って考えましょう。それなら、丸く収まると思います」

 

「……なるほど、その手があったか」

 

「考えましたね。それならこちらも無理がありません」

 

 九成とロスヴァイセさんが感心しているけど、確かに。

 

 毎日事情を隠し続けることは難しいけど、週一日の部活動ならやりようはある。最初から彼女と一緒にすることを前提にしたりとか、やれるしな。

 

 その上で接木さんと一緒に話し合って、二学期以降から今後どうするかを決める。それならやりようはあるかもな。

 

 それだけ期間を設けてダメっていえば、諦めもつくだろうからカドもたたないだろうし。

 

 うん、いいかも。それならいいか。

 

 周りを見渡せば、この案に反対意見はなさそうだ。

 

「来年以降は今のメンバーの半分以上が抜けますし、場合によっては事情を知らない方々を入れないと存続できないかもしれません。そう言ったことも踏まえ、、新しいオカ研の形を考えればいいと思いますが……どうですか?」

 

「「「「「「「「「「異議なし!」」」」」」」」」」

 

 う~ん。これがアーシア新部長のやり方かぁ。リアスとはまた味が違うなぁ。

 

 俺の愛するアーシアちゃんの成長に、なんか感慨深いなぁ。

 

 接木優華さんか。いい機会をくれたことには感謝しないとな!

 

 よっし! 俺も先輩としてきちんと面倒みるとするか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで勇儀さんの娘さんを試験入部させることになったんだ」

 

「なるほどね。来年以降を踏まえた色々なテストを兼ねるのね。……できるようになったじゃない、アーシア」

 

 と、俺の事後報告にカズヒは感心していた。

 

 ゼノヴィアの方にはイッセーが行っており、それなりに伝えておくという流れだ。

 

 ちなみにルーシアとアニルは、今後の予定についてオカ研の方に聞きに行っている。入れ違いになったけど、まぁあっちから連絡するだろうし問題はないだろう。最悪カズヒが言うか。

 

「で、そっちはどうなんだ?」

 

「割と頭が痛いわね。とりあえず指摘の方向性とかを見直させたいけれど、思考が硬直気味なのが厄介だわ」

 

 なるほど。窪川蓮夜の方は苦労していると。

 

 松田や元浜クラスの煩悩を、自己嫌悪するとああなるんだろう。自分の特性にコンプレックスを感じるという点では、朱乃さんや小猫が近いのかもしれないな。

 

 と、俺はふと思いつきがあった。

 

「いっそのこと、オカ研の試験入部を窪川にさせるのはどうだ?」

 

「……イッセーと直接相対させるの? 憤死しそうね」

 

 まぁそうなんだけど。

 

 ただ、ああいうのは違う価値観を受け入れさせるのがある意味で重要だ。違うものを受け入れるには、理解と寛容が必要不可欠。

 

 言っちゃ悪いが、もっと癖が強いのに慣れれば結果的に寛容になれるかもしれない。性欲が強すぎて変な方向に暴発する点では、イッセーも窪川と変わらないし。

 

 それにまぁ、早々酷いことにならないだろう。

 

「松田や元浜ともそれなりにやれているんだろ? ならいきなり大暴れってことはないだろうさ」

 

 あの二人だって、イッセーほどじゃないが覗き常習犯の超スケベだ。エロ達数週間でノイローゼを起こしてるしな。

 

 そんな二人と一緒の特別風紀隊として活動を共にすることもあるのなら、まぁそこまで酷い事にはならないだろうし。

 

 そう思ったのだが、カズヒはなんかさっきより三割り増しぐらい深刻な表情になっている。

 

「致命的な事態にはなってないけど、複雑な感情は向けてるわね。……どっちも」

 

 ふむ。

 

 まぁ、直接的に罵倒や危害を加えてないなら大丈夫の部類か。まぁイッセーはその上を行くからそこは不安だが。

 

 ただ、もう一つ気になる点もある。そっちの確認はしておこう。

 

「どっちもってことは、あの二人もか?」

 

「ええ。おそらく同類の気配をかぎ取っているわ。猥談がしたくて堪らなくなってる様よ」

 

 なるほど。それは不穏だ。

 

 猥談なんて吹っ掛けられたら、窪川の奴がどんなことをするか予想がつかない。

 

 むしろショックで失神ぐらいはしそうだな。奴ならあり得る。

 

 ……待てよ?

 

「ならやはり入れるべきじゃね? アーシアとレイヴェルがいるなら、脳出血を起こしても何とかなるし」

 

「……本格的に絡ませるまでに、先にもっと酷いのでショック療法ね。一理あるわ」

 

 もっと酷いのを経験すれば、まだマシという意識が働く。

 

 ある種の錯覚だけど、余計な被害を避けるためにもそれぐらいはした方がいいかもしれない。

 

 カズヒも同じことを考えたようで、苦笑気味にうなずいた。

 

「まずはディーレン達に確認をとるわ。そのあとでなら、荒療治もありでしょう」

 

 ま、そうだな。

 

 あのレベルは人生に悪影響しかもたらさない。この場で何とかするのも一つの手法と断言できるだろうさ。

 

 その上で、カズヒはちょっと申し訳なさそうな表情になりながらも微笑んだ。

 

「いつも済まないわね。本当に助かるわ」

 

「いいってことさ。もっと頼られたいし」

 

 お互い、足りないところは補う方向でいくべきだろう。

 

 愛を交わした比翼連理。衛奏を奏でる極晃の担い手。

 

 そんな二人が互いの力を借りて頑張るのは、むしろ当たり前のことだろう。

 

「それに、リーネスも鶴羽もお袋も、オカ研のみんなだって力を借り合っているさ。必要な時は素直に頼ってほしいぐらいだと思うぜ?」

 

 そう言ったうえで、俺はちょっと茶目っ気を入れることにする。

 

「ま、愛する女性の力になるんだから、ちょっとご褒美が欲しいとは思うけど―」

 

 その瞬間、俺の唇はカズヒの唇で塞がった。

 

 ………わぁいっ!

 

「……前金は払ったわ。残りは今夜ね?」

 

 え、マジで!? いやっほぉおおおおおおう!

 

 俺は声を上げずにガッツポーズをする。

 

 こういうところは最高だぜ、カズヒぃいいいいいいいいいっ!!




 おそらく次章から、二人がちょくちょくオカ研に顔を出すことになるかと思っております。


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戦愛白熱編 第二十七話 悪魔の微笑み

 はいどうもー! ちょっと腹の調子が悪いグレン×グレンでっす!

 まぁとりあえず、今回は


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけなんだけど」

 

「正気か日美っち」

 

 真顔でディーレンに言われたけど、割と真剣ではあるのよ。

 

 だってあいつ、曲者すぎるし。

 

「真剣にショック療法を考慮中だわ。あれは何とかしないと」

 

 拗らせているにもほどがあるうえ、真剣に苦情が多い。特別風紀隊に寄せられる苦情のほぼすべてが、現状窪川に集約しているもの。

 

 癖が強すぎる現生徒会に対抗する為の特別風紀隊。そんな組織にたった一人で対抗できる癖の強さがあっては本末転倒。風紀委員会からもそろそろ要請が来そうだしね。

 

 一つの手段でどうにかできてないのなら、アプローチを変えるのは当たり前の対応。他に取れる手段があるのなら、手を変え品を変えるのは極めて当然。一行に成果のでない手段に拘るなど愚の骨頂。

 

 そろそろ新しい手段に切り替えるでしょうね。

 

「……で、ウチの娘も試験入部ってか? なんか悪いな」

 

 と、こちらの話を聞いていた勇ちんも、ビールを煽ってからそう話す。

 

 ま、そっちは私はノータッチだけれど。それが基点ではあるからね。

 

 私は比重としては特別風紀隊に寄っているし、部長のアーシアが決めたことなら、筋が通っているなら文句は言わない。

 

 実際、いつまでもいつまでもリアス・グレモリー眷属の関係者がオカ研に入るわけでもない。何年も後のことを考えれば、そういうことも考えるべきでしょう。

 

 だからまぁ、そこは構わない。

 

「場合によっては、二人には異形についても話すことにはなるわ。その辺に関してはいいかしら?」

 

 とはいえ、そういうことを考慮しないといけない。

 

 今後の方向性を考えるにしろ、完全に区分けした形にするのもあれだしね。

 

「ま、いいんじゃねえか? 俺は会社が異形と密接だし、今後は家にお呼びすることもあるだろうしよ?」

 

 勇ちんはそう言うけど、ディーレンはちょっと俯き気味だった。

 

「……こっちは大丈夫かねぇ? 異形のノリはあいつにはきつすぎねえか?」

 

 ま、それはそうね。

 

 老若男女が集まる競技試合の会場で、ストリップが行われる世界*1だもの。

 

 窪川にとって刺激が強すぎるのは間違いない。控えめに言って、ショック死の可能性を真剣に考えるレベルね。

 

 と、言ってもねぇ。

 

「あれは何としても矯正しないと、絶対ダメなことになるでしょうし。荒療治は分かっているけれど、それぐらいしないと折り合いすらつけれそうにないわ」

 

「……だよなぁ」

 

 私がそう言えばディーレンもげんなりしながら頷いたわね。

 

 まぁ、ディーレンの息子が性的に潔癖になったらあり得る話ではあるでしょう。

 

 だって―

 

「「操を立てるのに心が耐え切れなかったし」」

 

 ―思わず勇ちんとハモるレベルで断言できるもの。

 

「シスコンブラコンを拗らせたお前らに言われたくねえよ!?」

 

「拗らせてねえよ!? 正統進化系だよ、俺は!!」

 

 反論と反論の反論は聞き流しながら、とりあえず今後について考え始めるわね。

 

 ……そういえば、和地とリアスは試合の準備とかできてるかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、俺達も次の試合について考えないとな」

 

 そんなことを思わず呟きながら、俺は次の大一番について考える。

 

 参考の為に見ている映像では、かなり大暴れをしている低年齢な様々な人物が暴れている。

 

 人間が主体だが、悪魔や堕天使もいるし、何なら吸血鬼や妖怪もいる。

 

 それが若人の挑戦チーム。あのリュシオン・オクトーバーをあまり動かさずに、一応連戦連勝を遂げている連中だ。

 

 まぁ、神クラスと激突したりでメンタルが限界気味の人もいるようだけど。元々ある種の挑戦も兼ねていた為、予選途中でリタイアすることも視野に入ってると思われる。

 

 ……だからこそ、有終の美を飾る為にも勝ちを狙うだろう。

 

 今後の予選期間や本戦を考慮しなくていい以上、全部を出し切ることだってできるはずだろう。そこも考えると、やはり難敵といえるだろう。

 

 まして、最難関であるリュシオンがなぁ。よりにもよって(キング)だからなぁ。

 

 無体過ぎませんかねぇ、ルーシアさんや。遠慮とか加減ッて概念を知っておられるはずでしょうに。

 

 ま、それはともかくとしてだ。

 

「……お、試合映像か?」

 

「……ベルナか。ま、そうなんだけどな」

 

 と、何時の間にかお茶を持ってきていたベルナが、お茶を擁してから隣に座る。

 

「で、どうすんだ? リュシオン・オクトーバーの奴」

 

 そう、そこがとても厄介だ。

 

 あのカズヒと並び立てる傑物。デュナミス聖騎士団の最強戦力。間違いなく、人間の区分で言うなら最強に近い立ち位置だ。

 

 神にすら通用する戦闘能力。人間性で先天的なずれがあったが、自覚したことで成長中。何より、文字通り戦闘中に強くなり続ける成長性の怪物だ。

 

 本気で勝つなら、相応に気合を入れる必要がある。準備はしっかりと整えたい。

 

「……さて、これは俺も新技を確立させるべきか」

 

「毎度毎度確立してる気もするけどな」

 

 ベルナ。真実な気もするけど言わないで。

 

 ただ、ベルナは試合映像を見ながら呆れ顔になっている。

 

「ま、奴さんもそれができるのがやばいんだがな」

 

「それだよな~」

 

 至った状態から至ってない状態に戻して、別の禁手に至る。

 

 俺が知る神滅具保有者は誰も彼もがやばい連中だけど、リュシオン・オクトーバーは間違いなくその中でも上級レベルでヤバい。

 

 D×Dの域に到達した二天龍とは別次元。そしてそれを自覚したことで、更なる成長すら見込めるやばい手合いとなっている。

 

 ……俺も大概でヤバいとは思うけど、それとは別次元でヤバいからな。

 

 と、言うかだ。

 

「最悪、リュシオンも残神を使えるようになっている可能性があるからな……」

 

「……それな」

 

 口に出したうえで、ベルナと一緒にため息をついた。

 

 俺が編み出した新たなる神器の可能性。残神(コスモス・ボルト)。禁手に至ったがゆえに余ったリソースを組み立てる、神器使いの新たなる手札。

 

 使える手合いは極僅かだが、リュシオンなら絶対に到達するだろう。既に習得している可能性だって普通にある。

 

 はぁ。これってもしかすると、かなり難易度が高い試合になるんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、リアス・グレモリーは一人の老人と向き合っていた。

 

「お久しぶりです、ヴァスコ・ストラーダ助祭枢機卿猊下」

 

「はっはっは。リアス嬢も久しいですな」

 

 にこやかに言葉を交わし、リアスは小さく苦笑を浮かべる。

 

「まさかクーデターを起こした咎が降格で済むとは、ウルバヌス二世はここまで読んでいたのかしらね?」

 

「そうですな。よもや枢機卿の一人として残れたなど、信じられませんぞ」

 

 ……クーデターの旗振り役となった者達は、三人そろって降格処分にとどめられた。

 

 司教枢機卿だったテオドロ・レグレンツィ及び司祭枢機卿だったストラーダは助祭枢機卿にとどまった。助祭枢機卿だったエヴァルド・クリスタリディこそ枢機卿を除名されるが、それでも立ち位置としては高い水準を位置している。

 

 これはひとえに、クーデターが全く異なる異常レベルの事態になったことが大きい。ことストラーダとエヴァルドは、事態解決の為に動いてくれたこともあって減刑が大きく働いていた。

 

 あまりにもウルバヌス二世が大ごとにしてくれたこともあり、結果的にヘイトまで殆ど持っていった形なったのも大きい。残された戦士達の慰撫を兼ね、戦士達の尊敬を集めるストラーダやクリスタリディを残す選択肢をとったこともある。

 

 ……だが同時に、両者はアザゼル杯に参戦していない。

 

「さて、私をスカウトにしたということでよろしいかな?」

 

 そう告げるストラーダは、しかし寂しげに首を横に振った。

 

「だが、私は参戦する気はないのだよ。今の強い若人との戦いに、心が沸くほどには戦士ではあったのだが―」

 

「―それに向き合える状態ではないと、そうおっしゃっていると伺いました」

 

 リアスが遮るように、その理由を語る。

 

 そしてその上で、リアスはアタッシュケースを取り出すとそれを開く。

 

 そこに在るのは、デュランダルと酷似した一本の聖剣。

 

 それを見て、ストラーダは僅かに目を見開いた。

 

「これは、デュランダルⅡの改良型かね?」

 

「いえ、改悪型といえるでしょう」

 

 リアスは首を横の振りながら、そう告げる。

 

 意図を理解しきれないストラーダに、リアスは苦笑を浮かべていた。

 

「各勢力の星辰体(アストラル)研究技術。祐斗の聖魔剣の力。更に朱乃を経由して協力を取り付けた神道の鍛冶神に、小猫の仙術やギャスパーの魔法知識を掛け合わせ、完成したデュランダル・メテオと名付けました」

 

 そう語るリアスは、表情でストラーダに握ることを促す。

 

 デュランダルメテオを助かめるように、ストラーダは柄を握って軽く確かめる。

 

 本来のデュランダルのように手に馴染む。それを理解したストラーダは、しかし次に悟った事実に戦慄すら覚える。

 

「……もしや、これは……っ」

 

「その通り。これがあれば、貴方は自分の懸念を乗り越えられると思いませんか?」

 

 

 

 

 

 

 のちにストラーダは、これを「悪魔の微笑」と語ったという。

 

*1
最低限の画像修正はしている




 さぁて、この章も折り返し地点を超えたあたりです!


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戦愛白熱編 第二十八話 驚天動地の隠し玉!

 はいどうもー! 最近は平日に一回、日曜に一回が基本的な投稿頻度。ただ書き溜めが200kb超えており、ちょっと消費した方がいいと思って早めに投稿です!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで今度はリアス先輩の試合だ。

 

 相手は「巨人達の戯れ」チーム。このアザゼル杯における優勝候補の一角だ。

 

 アースガルズ二代目主神ヴィーダル。オリュンポス二代目主神アポロン。更に魔獣達の王たるテュポーン。そんなとんでもない連中がチームで参戦した、欧州の地獄軍団。

 

 ……もうちょっと手加減という概念を覚えろというか、次からはアザゼル杯に階級制を設定するべきではなかろうか。これ、どう考えても反則一歩手前だろ。

 

 お祭りと言っても限度がある。この点、異形は緩いからなぁ。人間社会とは一線を引いた付き合いが求められそうだな、オイ。

 

 そしてそんな試合を―

 

「しっかし、リアス先輩達は勝てるのかね?」

 

「どうかしらね。まぁ、そう簡単には負けないでしょう」

 

 ―カズヒと一緒に見ようとしている!

 

 ちなみにお風呂だ! 二人して裸だ!

 

 わーい! こういうのすっごくやってみたかった! うっわーい!

 

 もうテンションが爆上がりである。こういうのを凄くやってみたかった感じがある。

 

 今日は我が世の天国だーい! ノリノリで試合観戦しちゃいまっす!

 

 そんな風に俺がはちきれんばかりの幸福感に震えていると、カズヒがこてんと俺の方に頭をのせてきた。

 

 ……いやっほぉう!

 

「さて、相手は主神クラスが合計三名。他のメンバーも相応のポテンシャルがある以上、優勝候補になるのも当然ね」

 

 そんなことを言いながら、体重を預けてくれることに感謝感激雨あられ。

 

 だが実際、優勝候補は伊達ではない。

 

 同じく優勝候補最有力のヴァジュラチームも、帝釈天及び四天王の鬼畜コンボだ。……もうちょっと容赦とかありませんか、これ?

 

 次回以降はもうちょっとチーム編成に厳しいところが来そうだな。もしくは強力すぎるとハンデが発生するようにするべきか。

 

 改めて言うけど、これ絶対階級制というかランク制度を作った方がいいだろう。今後においては必須かもしれない。

 

 ま、それはともかくだ。

 

「それをリアス先輩がどう食い破る気なのか……見ものだな」

 

「同感ね。例のミスターブラックといい、伏せ札の一つ二つは明かす必要になりそうだけれどね」

 

 そこは同感。

 

 ミスターブラックは未だ試合に参加していないが、流石に優勝候補との戦いでは出さないとまずいだろう。

 

 どうも、リアス先輩たちで余裕をもって勝てると踏んだ試合は参加しない方針と思われる。裏を返せば、相当のバトルジャンキーという事だろう。その上でアザゼル杯換算の8駒といい、主神・天龍・超越者クラスといったところなのだろうか。

 

 そう思った時、会場に両チームが入ってきた。

 

 ……………。

 

 数秒間、俺は目を疑ったりしている。

 

 ついでに言うと、カズヒも二度見していた。

 

 え、どういうこと!?

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうなってんだぁああああああああっ!?」

 

 俺は思わず、VIP席で絶叫した。

 

 え、ちょっと待って? マジでちょっと待って!?

 

 ちなみに、VIP席にいるチームメンバーも、大なり小なり驚いている。

 

 いやいやいやいやと言いたくなるっていうか、ちょっと待ってほしい。

 

「クロウ・クルワッハ殿ですと!?」

 

「げ、げげげ猊下ぁ!?」

 

 ボーヴァとゼノヴィアの絶叫も当然だよ。

 

 二人も出ている上に、二人ともヤバいんですけど!?

 

『な、ななな……なんとぉ!? リアス・グレモリーチーム! メンバーに伝説の邪龍たるクロウ・クルワッハと、教会の伝説たるヴァスコ・ストラーダ枢機卿を引き連れたぁあああああっ!?』

 

 実況の人も驚きを隠せてない。そりゃそうだろう。

 

 え、何あの取り合わせ。というより、相手の方々も結構面食らってるし。

 

『……ガッハハハハハハハハッ! 我らと戦うなら札がいるとは思っていたが、楽しませてくれるではないか!』

 

『なるほど。ミスター・ブラックの方はクロウ・クルワッハということか。確かに天龍の域に届いたとされる彼なら、この大会でも駒価値8は狙えるだろう』

 

『いいじゃねえか。思った以上に楽しめそうだな、こりゃ』

 

 テュポーン、アポロン神、ヴィーザル神の三名は気を取り直して楽しそうにしているけど、周りのメンバーはちょっと引いている人もいる。

 

 ですよね~。いやちょっと待ってって感じだよ。

 

 というより、土壇場であのストラーダ猊下を引き入れたのか。リアスって商談が上手だと思ってたけど、よくできたもんだよ。

 

「うっそ~。猊下って教会や天界のチームから要請されても断っていたっていうのに?」

 

 イリナが信じられない感じになっているけど、まさにそんな感じだ。

 

 どういう方法で了承させたんだよ。俺の主にして恋人は、ちょっと怖いぐらい才能を見せておりませんか!?

 

『……おっと。試合ルールはこれまたライトニング・ファストとなっております! これはどうなるか見ものです!』

 

 そして速攻勝負! これ、ちょっととんでもないことになるんじゃないか!?

 

 

 

 

 

 

 

祐斗side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合時間が短いだけあり、インターバルになる時間も短い。

 

 とはいえ、だ。

 

「では、貴方は誰と戦いたいかしら?」

 

「では、テュポーンにさせてもらう」

 

 リアス姉さんが尋ねれば、クロウ・クルワッハは即座に答えた。

 

「フェンリルと並び称される魔獣の頂点。いうなれば魔獣における二天龍の領域だ。俺が天龍の域に届いているか、試すにはちょうどいい相手だろう」

 

 クロウ・クルワッハはチームメンバーだけど、彼を細かく指示で縛ることはできない。

 

 そういう契約だし、リアス姉さんもその方が本領を発揮すると考えている。

 

 彼が兵士の駒なのも、昇格を使わなければ駒の影響を受けないからだ。彼は駒の力を利用するより、それに縛られない己の強さだけで挑むことを要望したからね。

 

 それでも十分すぎるだろう。ドラゴンの高みは縛ろうとしても上手くいかないしね。彼ほどの戦力を得られるのならば、それが最適解だし必要経費でもある。

 

 そして、リアス姉さんは次にストラーダ猊下の方に向く。

 

「猊下は誰がいいかしら?」

 

「ふむ。私はあくまで貴殿が率いるチームのメンバーだ。方針ぐらいは示してくれたまえ」

 

 と、こちらはリアス姉さんを立てる方針だ。

 

 ただ同時に、それだけではないだろう。

 

 配下をどううまく使うか。そういう面を見てるとともに、鍛える方針でもあるようだ。

 

 ふふ、こちらもなかなか厳しいようだね。

 

 そんな風に促され、リアス姉さんは口元に指を当てる。

 

「……順当にいけば、二代目主神であるヴィーザル様かアポロン様ね。となると……」

 

 そして少し考えこんだリアス姉さんは、口元に笑みを浮かべた。

 

「……よし、決めたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その方針を聞いて、僕達は苦笑を浮かべた。

 

 どうやら、グレイフィアさんに意趣返しをするつもりらしい。

 

 僕らの主は、強く頼もしくそして恐ろしいところもあるお方だね。

 




 今回は短めでした。

 だが、カズヒも二度見する超越レベルの隠し玉二人。しかも片方はちょっと魔改造されておりますですハイ。

 さぁ、次回はもうちょっとお待ちください!


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戦愛白熱編 第二十九話 対神激戦絶好調

 はいどうもー! 感想とか好評価とかを常に欲しているグレン×グレンでっす!

 さて、もらえるように頑張るぜー!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアスお姉さまにストラーダ猊下、それにクロウ・クルワッハさんが共闘なさるなんて……」

 

 アーシアが感心というか戦慄しているけど、本当だよなぁ。

 

 というか、邪龍最強とデュランダル使い歴代最強。そんなのをどうやって味方につけたんだよ。リアス、恐ろしい女性(ヒト)……っ

 

 ま、それはともかくだ。

 

「それでも確勝はないって思えるのが、相手のヤバいところだよなぁ」

 

 リアスを心から応援してる俺でも、そう言っちゃうぐらいの難敵だもんなぁ。

 

 二代目主神が二人に、リーダーは魔獣の王。はっきり言って優勝候補で、この試合もリアス達が圧倒的に不利だと判断されている。

 

 もちろん、ミスター・ブラックがクロウ・クルワッハで、更にストラーダ猊下が参戦しているなら勝率は上がる。それでも、向こうの方が有利なのは間違いない。

 

「リアス達だと、どうやれば勝てるんだろうな」

 

 俺は思わず、ぽつりと呟いた。

 

 俺達が戦っても、勝ち目が薄い相手なんだ。当然、どうやれば勝てるのかは考えてもいる。

 

 だからこそ、リアス達はどう戦うのかが知りたい。

 

「……巨人達の戯れチームは、神やそれに類する者が多い優勝候補ですわ」

 

 レイヴェルは、そんな俺をちらりと見てからそう答える。

 

「裏を返すと、突き抜けた強さと立場を持つ為、それぞれの連携は難しいでしょう。特にテュポーンは気性も龍に近い為、滾る相手を囲んで倒すことに強い嫌悪感を抱いているでしょうから」

 

 なるほど。つまり連携で挑めばいいと。

 

 ただ、レイヴェルは小さく首を横に振る。

 

「ですが集団でのテュポーン撃破は、リアス様のチームでは不可能でしょう。何故ならテュポーンほどの相手がいるとなれば―」

 

 そう言いかけた時、試合が始まる。

 

 その瞬間、たった一人が凄い速度でリアス達の本陣から飛び出してきた。

 

『戦ってもらうぞ。魔獣の王、テュポーン!』

 

『そう来ると思ったぞぉ! 邪魔をするなよぉっ!!』

 

 クロウ・クルワッハを迎え撃つように、テュポーンも真正面から飛び出していく。

 

 その瞬間、他のメンバーの戦いを邪魔しないつもりか、中央部でぶつかった二人はそのまま横に移動していった。

 

「―クロウ・クルワッハがこういうことをするでしょうから」

 

「……なるほど。だが、テュポーンに真正面から勝てるのは猊下以外なら奴だけでもある。奴が兵士であることを踏まえれば、十分な一手ではあるな」

 

 ため息交じりのレイヴェルに、ゼノヴィアはそう言ってうんうんと頷いた。

 

 ただ、問題が一つ。

 

「でも、二代目主神二人に女神様もいるんだぜ? 流石に……厳しいよな」

 

 そう、そこだ。

 

 主神の次代に指名される以上、あの二柱が弱いわけがない。たぶん、リゼヴィムでも生身だと勝ち目が薄いぐらいだろう。そしてアポロン神の妹であるアルテミス神も、相当強いはずだ。

 

 それをまとめて相手にする。それって、かなり厳しいんじゃないだろうか。

 

 でも、だからこそ俺達にとって価値がある試合だ。

 

 あのリアスが、みんなが、負けること前提で挑むとは思えない。勝つつもりがあって、その為の準備だって整えるはずだ。

 

 だからこそ―

 

「……見せてくれよ、リアス。主神の倒し方って奴をさ」

 

 ―期待してるぜ、愛しのリアス!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、サーゼクス。タイミングがあったのでリアスの試合を生中継したぞ」

 

『……リーアたんが! リーアたんが主神と激突だって!? まだ早くないかい!?』

 

『落ち着いてください、サーゼクス。レーティングゲームのシステム上ですから、まぁ安全でしょう』

 

『諦めろミカエル、シスコンは理屈じゃねぇ。っていうかアジュカ、お前もうちょっとマッチメイクいじれなかったのか』

 

「無理を言わないでください、アザゼル総督。俺が下手に干渉するのはこのアザゼル杯の趣旨に反してしまいます」

 

『ほっほっほ。にしてもヴィーザルの奴が相手とはのぉ? ……死ぬんじゃないか?』

 

『リアスぅうううううううっ!?』

 

『おい、オーディンのジジイ! 余計なこと言って刺激すんな!』

 

『……オーディンとサーゼクスはアザゼルに任せるとして、この試合はどうなると思いますか、アジュカ』

 

『ミカエルてっめぇええええええっ!!』

 

「そうですね。勝算が低いのは事実ですが、無いわけではないのも事実ですね」

 

『アジュカぁあああ! てめえもスルーするなぁああああ!』

 

『大丈夫なんだね!? リアスは大丈夫なんだね!? あとグレイフィアは落ち着いたかね!?』

 

「落ち着け。ゲームのルールにのっとる範囲内で問題は起こさせん。あとグレイフィアは待ってくれ。フロンズと限定的に同調している以上、今の発言力は俺に匹敵するからうかつに刺激できない」

 

『聞けぇええええええええええっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、クロウ・クルワッハはあれでいいだろう。

 

 そこまで分かった上でのスカウトだしね。彼なら単独でも勝算はあるだろうし、万が一負けてもただでは済まさないだろうさ。

 

 だからこそ、僕達は僕達の仕事をしないとね。

 

「……なるほど、私達全員をあなた方で足止めですか」

 

「大盤振る舞い、というのかしら?」

 

 僕達を睥睨するは、巨人達の戯れチームの僧侶と騎士。

 

 オリュンポス二代目主神アポロンの妹、アルテミス。そして戦乙女のリーダーを務める、今代のブリュンヒルデ。

 

 更に兵士として選出された魔獣達が、僕達を睨みつけている。

 

 そうそうたるメンツだろう。はっきり言って、勝算は極小というほかない。

 

 ……だけど、それがどうしたというのか。

 

 圧倒的不利な相手や、神仏に匹敵する存在とは何度も戦ってきた。そして、何とかしたり何とかする為に頑張ってきたのが僕達だ。

 

 だから、これはその程度。

 

「あらあら。生贄前提の作戦だと思われてますのね?」

 

「……なめられたものです」

 

 朱乃さんと小猫ちゃんがそう言い返し、そして僕も頷いた。

 

 なめられては困る。だからこそ、僕も相応の札を見せるとしようか。

 

「では、その油断を此処で断ち切らせてもらいましょう」

 

 そう呟いたうえで、僕は残神を展開しつつ夢幻召喚も併用。

 

 三本のエクスカリバーと五本の魔剣を格納した鎧を身に着け、その上で聖魔剣を展開する。

 

 そのオーラを察知し、アルテミス様の表情が鋭くなる。

 

「神殺し……っ」

 

「その通り。神を相手にするのなら、当然の備えです」

 

 まともな成長では、僕でもまだその領域には到達していないだろう。

 

 ただ幸か不幸か、九成君という段違いのテクニックタイプがいるおかげでね。これぐらいはできるようになってしまったのさ。

 

 そしてそれを、八本の伝説の剣で底上げする。

 

 それはもはや、至ってない状態の黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)に匹敵する神殺し。翻って、神であるアルテミス様と半神である今代ブリュンヒルデさんにとって特攻となる。

 

 これを基点にすれば、勝算はある。抑え込むだけなら十分すぎる確信となる。生き残るだけなら、一切の問題がないだろう。

 

「うっひょ~! まさか神の中でも指折りの方々がいるチーム相手に、勝っちゃえるかもって怖いっすねぇ! 調子に乗りそうですな~」

 

「うふふ。ツェペシュは男系一族だけど、これなら少しは自慢できるかしら?」

 

 リントさんにヴァレリーも、この勝算にはテンションが少し上がってしまっているようだ。

 

 そう、僕達が残りのメンバーを抑え込むことは十分可能。これは確定的に明らかだ。

 

 だからこそ、だ。

 

「覚悟してもらいましょう。この戦いの決着に、貴方達は関与できないと知るがいい」

 

 ……勝利のカギは、僕達以外が握っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、面白い試合になりそうだな、幸香」

 

「ほぉ? お主がそんなことを言うとはのぉ?」

 

「当然だろう。将来面を考えれば、懸念もあるがそれ以上に得られるものが多すぎる。二代目主神二柱に、魔獣の王が追い込まれる姿などは特にな」

 

「フロンズ。確かにあの調子なら勝ち目はあるが、そこまではっきり言ってよいのか?」

 

「いいだろうさ。公然の発言でなければ問題ないし、この場の防諜体制がたやすく抜かれるのなら、我らの大願は成就せぬよ」

 

「……まぁ道理よな。こちらとしても楽しみな試合じゃからのぉ?」

 

「その割には、少々困り顔な気もするが?」

 

「別件だ、別件。……ユーピがデートをすると聞いて、少し困惑しておる」

 

「………どうやら、少し疲れているようだ。お互い休暇をとろう」

 

「ユーピがデートをすると言ったのだ。真実じゃ真実」

 

「真実か。あの男、お前にばかり夢中な気がしたのだが。人生万事塞翁が馬とはよく言ったものだ」

 

「そこまで言うか。まぁ、妾も少し驚いたがのぉ?」

 

「まぁいい。仕事に支障をきたさぬように気を使うのなら、こちらも関係が破綻しないよう気を使うとしよう。有給申請は早めにするように言ってくれ」

 

「うむ。できるのならばホワイト企業にするべきじゃからな!」

 




 木場、地味にパワーアップ。対神特攻獲得。ちなみに和地もやろうと思えばできます。

 共に別の意味でイレギュラーじみており、かつ相互でノウハウを共有できるので一気に開発が進んだ感じです。ハーデス一派とやり合う時はかなりの獲物となるでしょう。


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戦愛白熱編 第三十話 超常大激戦

 つい、新作を投稿しちゃっておりますグレン×グレンです。ちなみに方向性もあり、多重クロスで原作にしていますがD×Dはきちんとあるのでご安心を。

 とはいえ、当分睡眠時間が削れそうなので、投稿速度は落ちるかもしれません。いい加減気づいたのですが、寝不足気味だと設定はともかく物語を組み立てる能力が低下するみたいでして。

 まぁ、こちらは書き溜め200kbまだ超えてるので。当分安心してくれてオッケーです!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壮絶な戦いになってきたな」

 

 思わず、俺はそう呟いた。

 

 というほかない。というか、約四か所で行われる戦いはその殆どが激戦となっている。

 

 一ヶ所目、残りメンバー同士の激突。こちらは下馬評を大きく覆す戦いの一つだ。

 

 木場が神殺しの聖魔剣を作れるようになっていたことで、オフェンス面が確立。全員がそのフォローを意識したことにより、巨人達の戯れチームは中々手こずっている。

 

 というより、魔獣達が既に全滅している。どいつもこいつも上級悪魔クラスはあったが、相手が悪すぎるというほかない。

 

 なにせ伝説級の邪龍やその量産型を何度も撃退してきたメンバーが多いからな。神クラスが相手だとしても、戦い方次第でどうにかなる余地がある。

 

 そこに神殺しという手札があるから、その神もうかつに手が出しきれない。これを活かせば立ち回りは十分すぎるほどできるというわけだ。流石は俺の仲間達。

 

 そして、問題となる戦いは壮絶すぎる。

 

『ガハハハハハッ! お前も星辰奏者になれば、勝てたかもしれないぞ!』

 

『いらん。俺は俺の才覚のみを鍛え上げ、その領域すら超えるのみだ』

 

 壮絶な雷鳴が鳴り響く中、テュポーンに真っ向から言い返すクロウ・クルワッハ。

 

 なんという事でしょう。魔獣達の王であるテュポーンは、星辰奏者(エスペラント)となっていたのです。

 

 ……うん。無体過ぎる。

 

 ただでさえ超越者クラスはあるだろう魔獣の王が、更に星辰光(アステリズム)のポテンシャルをぶちかましている。ついでに言うと、星辰奏者になった超越者とか反則だろう。

 

 まぁそれはいい。今のところはクロウ・クルワッハがちょっと押され気味だが、すぐにつく決着とも思えない。

 

 そしてもう一つの死闘もマッチメイクされた。

 

『これが、神が許した暴力か。私の力すら断ち切るとは恐れ入った』

 

『驚くことではありますまい。デュランダルは全てを切れるのですから』

 

 ヴァスコ・ストラーダ助祭枢機卿が相対するは、オリュンポス二代目主神たるアポロン神。

 

 アポロン神は高いポテンシャルと権能でまともに渡り合っている。そう、渡り合っている。

 

 そう、戦況は互角に近い。

 

 ……なんなのあのご老体?

 

 正直ちょっと二度見する。十度見ぐらいしたい。

 

 人間のはずだ。ついでに言うと老体のはずだ。もう一つ言うと引退しているはずだ。

 

 何主神クラスと真っ向勝負して、戦慄させているんですかあの人!

 

 アポロン神も真っ向から渡り合っているし、何なら傷一つ負ってない。ただし放った攻撃の全てを切り伏せられているから、正直押されている感すらある。一応ストラーダ猊下は軽い火傷とかあるけど、たぶん間合いに入ったら勝っちゃうだろあれ。

 

「……流石は、私とリュシオンの同時攻撃を一蹴したパラシュラーマを打倒した猛者ね」

 

 カズヒも戦慄しているし!

 

 というか、だ。

 

 ストラーダ猊下の姿だが、さっきから五十代のままだ。

 

 あの人にとって、自分の全盛期はそれぐらいだとは聞いている。ただし、その姿になることは極僅かでしかない。

 

 既に80を超えており、信徒ゆえに聖書の教えに由来しない人の異能は心得がない。星辰光で若返ることはできるが、ハイロウの調整ができない星辰奏者の限界及び操縦性の低さもあって、あの人は星を発動させると二十歳前後にまで若返ってしまう。

 

 真の意味での全盛期に到達できるのは、星が切れて元に戻る直前。そういう意味では、ここまで難儀な人もそうはいないだろう。

 

 それが当たり前のように、50そこらの姿で主神を渡り合っている。

 

 ……勘弁してくれ。どんな手品を使った?

 

「どう思う、和地。おそらく、その手段を確立したことをネタに交渉したと思うけれど」

 

「交渉よりもどうやって作ったのかが疑問だな。まぁ、冷静に考えるとできそうなやつが多いけど」

 

 俺達はそんなことを語り合う。

 

 実際問題、冷静に考えると不可能ではないだろう。

 

 生命と霊魂を調律する幽世の聖杯。生命エネルギーに干渉する仙術。更に神道や日本の神々に由来する術式。そこに聖剣や魔剣の創造技術。

 

 リアス先輩の手元にはそれだけの技術がひしめいている。応用すれば、確かに一つや二つはそれを可能とすることもできるだろう。

 

 相変わらず交渉が上手いな、リアス先輩。あの人ポテンシャルがやっぱり高い。

 

 そして、だからこそだ。

 

「問題はここからだな」

 

「ええ。リアスはある意味一番重要なポジションだわ」

 

 殆どのメンバーのマッチメイクは完了した。だからこそ、リアス先輩は大変だ。

 

 今浮いている札は、両チームともに二つずつ。

 

 リアス先輩とギャスパー。ヴィーザル神とミドガルズオルム。

 

 どういうマッチメイクになるかが不明だが、間違いなくこの四人戦いが趨勢を決めかねない。

 

 ……リアス先輩、勝てるんだろうか。

 

「今すっごい失礼なことを考えた。謝った方がいいだろうか?」

 

「いえ、それはある意味で正論でしょう」

 

 カズヒは俺が何を考えていたのかも読んだ上で、そう言い切った。

 

 画面を見る目つきは厳しく、戦いが厳しいことを現害に告げている。

 

 そう、何故ならば。

 

「相手は二代目主神に龍王。リアスも最上級悪魔の上位かつ神滅具保有者を従えているけれど、流石に一段劣っているわ」

 

 そうなるよな。

 

 リアス・グレモリーは間違いなく傑物だ。才色兼備の女傑であり、加えて努力家。そのポテンシャルは、並みの最上級悪魔が相手なら返り討ち確定といったレベルだろう。

 

 だが相手が悪い。なにせ、龍王・神滅具・主神が戦う状況だ。言っては何だが、最上級悪魔クラスの上位では一歩劣りかねない水準といえる。

 

 とはいえ、だ。

 

「それをどう底上げするかが見ものだよな」

 

「ええ、少し楽しみね」

 

 あの人が、そこまで分かっていて何も用意してないわけがない。

 

 アザゼル先生からも「自分自身がそこまで強くなろうとしなくていい」と言われた上で、それでも自分自身も強くあろうとしていた人だ。そのままで終わるような無体をさらすつもりはないだろう。

 

 だからこそ、ここからが本番になる。

 

 そういう意味では、本心から期待してますよ、先輩?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 フィールドの片隅で、リアス・グレモリーはギャスパー・ヴラディを伴い、ヴィーザルと対峙していた。

 

「……一応、妹が世話になってるというべきかな?」

 

「いえいえ。妹さんには色々とお世話になっています」

 

 そう小さく交わし、そして戦闘は開始される。

 

「仕掛けるわよ、ギャスパー!」

 

『はい、リアスお姉ちゃん!』

 

 闇の獣と化したギャスパーと共に、リアスは消滅の魔力で攻撃を開始する。

 

 それをヴィーザルは蹴りによって迎撃しつつ、小さく歯を剥いた笑みを浮かべる。

 

「やるな! 流石はあのリリン達と戦って生き残っただけはある!」

 

「そうよ! 私は貴方を……倒す!」

 

 その瞬間、凄まじい攻防が繰り広げられる。

 

 リアスとギャスパーは連携で果敢に攻め立て、ヴィーザルはそれを魔法を纏った蹴りで迎撃する。

 

 戦局そのものはヴィーザルがゆとりを持っているが、かといって無駄に油断ができる戦闘でもない。

 

 だが同時に、このままなら一時間は確実にしのげる。そういったヴィーザル側に有意な戦況となっている。

 

 そして、その上でヴィーザルは警戒心を見据えている。

 

「この程度じゃないだろう? 噂のD×Dの主力が、なにも無しとは思えねえ!」

 

 振われる更なる蹴りが、リアスとギャスパーの攻撃を一気に砕く。

 

 その瞬間、リアスは紅の全身鎧を纏って突貫する。

 

 周囲に停止干渉を行いながらの魔力攻撃。これだけで並みの上級悪魔なら群れて仕掛けても返り討ちに遭う。それこそが、リアス・グレモリーの応用技たる紅爵礼装(ガモリー・サーコート)

 

 それをもってしてすら、ヴィーザルは巧みな攻撃でしのいでいく。

 

 油断はしていない。だが同時に、想定外に対する余力を残した配分で戦っている。

 

 その事実を、リアスは悔しさこそあれど冷静に受け止めていた。

 

 主神を継げるとはそういう事だ。あくまで例えるなら超越者クラスは確実にあり、全盛期の二天龍でも圧勝は困難だろう。最低でも魔王クラスでなければ、悪魔でも話にならない。

 

 ゆえに、星を全力で振るうリアスですら届かないのは当然。それはまごうこと無き事実であり、本来悔しがる必要もない。

 

 だが悔しい。素直にそう思う。

 

 最愛の兵藤一誠は、超越者が一角のリゼヴィムや、天龍に届いたアポプスとも真っ向から戦えた。現状では命の危機すらある故封じているが、それでもある程度は渡り合えるだろう。

 

 にも関わらず、主であり恋人の自分は油断されなければあしらえる程度にとどまっている。

 

 認められるか? いいや、否。

 

 ゆえに、リアスも一切容赦しない。

 

「やるじゃねえか! これなら、一時間はしのげるんじゃ―」

 

「―その程度なわけがないでしょう?」

 

 ゆえに、ヴィーザルの賞賛を切って捨てる。

 

「ここからが……本番よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を、俺は見た。

 

『……見せてあげるわ、これが()()()切り札よ!』

 

 リアスから紅のシズクが飛び散り、そしてそれが固まって生まれる、紅の龍。

 

 その突撃は、ヴィーザルさんを放った蹴りごと吹っ飛ばした。

 

「あれはまさか―」

 

「―残神(コスモス・ボルト)か!?」

 

 イリナとゼノヴィアが刮目する中、態勢を整えたヴィーザルさんにリアスとギャスパーが龍と共に襲い掛かる。

 

 その趨勢は、間違いなくヴィーザルさんが不利になっている。

 

 というのも、龍が速いし固いし攻撃力もある。後ついでに、龍からも闇の獣が現れて数の圧殺まで仕掛けている。

 

 あれ、どう考えても下手な神器の禁手を超えてる。その気になれば、一対一でグレンデルとも戦えるんじゃないか?

 

「うぉおおおおっ! すっご! マジですっご!!」

 

 その光景にテンションを上げてるアルティーネも、こっちを輝かせた顔で振り返ってきた。

 

残神(コスモス・ボルト)って、確か裏技だったよね? それなの!?」

 

「おそらくは。ただ、かなり特殊な仕様でしょうが」

 

 と、レイヴェルがアルティーネにそう答える。

 

 うん。俺も正直ちょっと分かってないし、解説お願いします。

 

「……リアス様の星辰光(アステリズム)は、ある程度の繋がりを持つことで他者の異能を再現するという物。そしてそれにはもちろん限界があり、神滅具クラスの異能は完全再現が困難です」

 

 うん、それは知ってる。

 

 ただリアス本人のポテンシャルもあって、シャレにならないしな。

 

 アーシアの回復も使えるし、小猫ちゃんの仙術もある程度は使える。何なら朱乃さんの雷光すら、ある程度は使える。しかも木場の禁手を両方とも再現できるし、ゼノヴィアの聖剣使いの適性すら再現できる。

 

 仲間がいるほど強くなる。リーダーにとってとっても最適な星だろう。しかもリアスは眷属の巡り合わせが凄まじいから、サイラオーグさんの眷属達を思いっきり圧倒してたしな。

 

 ただ、俺もちょっと気になる。

 

「残神って、基本的に裏技どまりだろ? それだけであそこまでの性能が出るのか?」

 

 レイヴェルにそう尋ねるけど、そこが疑問だ。

 

 残神はいうなれば「禁手のあまり」を組み立てて一つの異能にする超高等技能だ。性質上、禁手よりは劣った性能になる。

 

 ヴィールは最初っからワンセット運用だったし、九成も割とそういう傾向が多い。木場は二つの神器を持っているようなものだし、更に伝説の剣を大量に併用する前提だからこその性能だ。

 

 だけどリアスの場合、明らかに出力が高い。あれはちょっと、残神だけでは説明がつかない気がするんだけど。

 

「答えは単純でしょう。おそらくは」

 

 そう言って一旦切ったレイヴェルは、ちょっと呆れた目を映像のリアスに向ける。

 

「イッセー様達四名以上の神器を再現し、それを残神で統合して再現しているのですわ」

 

 ………。

 

「あ、あ~、なるほど」

 

 俺はちょっと納得したけど、ちょっと待ってほしい。

 

 え、つまり……全部盛り?

 

「言っちゃ悪いけど脳筋じゃね!?」

 

 何やってんの、リアスぅううううううっ!?

 




 はい、どこもかしこもどっちかが盛られております。

 星辰奏者になったテュポーン。星辰奏者のまま五十代で暴れるストラーダ。そして残神をもってしてス〇ンド使いになったリアス。そりゃ木場だって神殺し持ってこないといけないインフレ具合です。ヴァーリチームも魔改造を進めるつもりだから、これぐらいはしておかないとね♪

 


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戦愛白熱編 第三十一話 新たなる神魔の大戦

 はいどうもー! 執筆欲に負けて新作書いているグレン×グレンでっす! 多重クロス作品なので原作も多重クロスにしております、ご了承くださいね??


Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、これはこれはこれはぁあああああ! なんという事でしょう! リアス・グレモリーチーム、互角以上に渡り合っているぅうううううっ!!』

 

『『『『『『『『『『わぁあああああああああああああああああっ!!!』』』』』』』』』』

 

 実況が驚愕の声を上げる中、会場は大歓声に包まれる。

 

 当然と言えば、当然だろう。アザゼル杯における優勝候補、巨人たちの戯れチームを相手に、リアス・グレモリー達が互角以上に戦っているのだから。

 

 優勝候補、それも短期決戦の真っ向勝負という搦め手の使いづらい状況下。下馬評では圧倒的不利であり、どこまで食い下がれるかが焦点だった。

 

 それが裏を返せば、損害を受けているのは魔獣達を失った巨人達の戯れチーム。更にその状況を維持しつつ、真っ向から渡り合えている。

 

 競技試合で、このジャイアントキリング一歩手前の状況に湧かないわけがない。

 

 クロウ・クルワッハとヴァスコ・ストラーダがそれぞれテュポーンとアポロンと渡り合う。更にアルテミスとブリュンヒルデを相手に、リアス・グレモリー眷属を中心としたメンバーが抑え込んでいる。

 

 そして、ギャスパー・ヴラディを連れたリアス・グレモリーはヴィーザルと真っ向から競り合っている。否、押していると言ってもいい。

 

 下馬評が覆される戦いぶりに、会場の者達は誰もが沸き立つ。

 

 そんな中、一人静かに試合を観戦している者がいた。

 

「……なるほど。これは厄介ね」

 

 その表情は、高揚していない。

 

 その目は、どこまでも冷めている。

 

 そんな異質すら感じさせる中、その女は誰にも気づかれないようにため息をついた。

 

「こんな連中が活躍していれば、ハーデス様も肩身が狭いわけだわ。……反吐が出そう」

 

 そう呟き、その女は踵を返すとトイレへと向かっていく。

 

 そして個室に入り……本当に軽く吐いた。

 

「……まったく。これは相応の備えと準備が必要不可欠ね。異形ってのは基本、ああいう気質が基本なのか―」

 

 その瞬間、彼女は腕を振るう。

 

 そして、舌打ちをすると虚空を睨んだ。

 

「覗き見はやめてくれる? 次は当てるから」

 

 そう吐き捨て、そして歩き去る。

 

 その直後、角から一人の男性が姿を現した。

 

「……ふむ、やはり斥候や偵察は専門家に任せるべきか」

 

 そうため息をつき、フロンズ・フィーニクスはため息を吐く。

 

 小さく頬から炎が飛ぶのは、彼が小さく負傷をしている証だ。

 

 そして女の歩き去っていった方向を見て、視線は鋭くなる。

 

「ラツーイカのチームメンバーだったな。見せ札だとは思っていたが、それでも今までは加減をしていたようだ」

 

 そう呟き、フロンズは小さく肩をすくめる。

 

「不自然だったので少し様子を伺ったが、どうやらハーデス以上にこちら側に批判的らしい。もう少し情報収集の頻度を上げるとするか」

 

 そう呟いたうえで、フロンズは踵を返す。

 

 同時のその表情は、鋭く険しい。

 

 それは当然と言えば当然だろう。

 

「……幸香、どうやら要警戒対象が出てきたようだ。諜報員の準備もしておきたい」

 

 警戒に値するべき難敵が発見された。ならば警戒し対応するのは当然なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、そろそろどう出るか、だな」

 

「そうね。もう一波乱ぐらいはあるでしょう」

 

 俺とカズヒは水分を補給しながら、戦闘を継続して確認する。

 

 どの箇所も一進一退。熾烈な争いを繰り広げていると言っていい。

 

 神殺しの聖魔剣を軸に、女神と半神を抑え込む木場達。

 

 雷鳴の結界内部で激闘を繰り広げる、クロウ・クルワッハとテュポーン。

 

 逆に音楽芸術を思わせるような、魅せる戦いを繰り広げるストラーダ猊下とアポロン神。

 

 そして、戦いの大一番を担っていると言ってもいい、リアス先輩及びギャスパーの、ヴィーザル神を相手にした戦い。

 

 間違いなく、壮絶極まりない戦いがそこで繰り広げられ―

 

『……なら、こっちも切り札ってのを切るとするか』

 

 ―そう、ヴィーザル神が呟いた。

 

「そう、リアスはそこまで主神を追い込んだのね」

 

 心からの敬意を持ったカズヒの言葉は、しかし苦い物を見せている。

 

 まぁそうだろう。

 

 裏を返せば、ヴィーザル神に奥の手を切らせてしまった。それができるほどの戦いとはいえ、つまりはここからが本番だという事だ。

 

『契約通りだ、ミドガルズオルム! そろそろ出番だぜ?』

 

『……えぇ~、出番が来ちゃったの? 面倒だなぁ』

 

 宝玉を取り出したヴィーザル神の隣に、ミドガルズオルムの幻影が浮かぶ。

 

 それをリアス先輩はあえて妨害しない。

 

 ……いや、違う。

 

『そう来るのね。なら、こちらも行くわよ、ギャスパー』

 

『はい。ここからが本番ですね、リアスお姉ちゃん!』

 

 あ、これ二人もまだ札を隠し持っている流れだ。

 

 思わずちょっと戦慄する中、ヴィーザル神は宝玉を脚甲に装着させる。

 

『抜けよ、リアス・グレモリー。お互いに本領発揮でやろうじゃないか』

 

『ありがとうございます、ヴィーザル様。ですが容赦はありませんので……っ』

 

 そう語り合い、そして双方が変化する。

 

 ヴィーザル神は、どこかアザゼル先生がファーブニルを利用して展開した人工禁手の鎧に。

 

 リアス先輩は、闇の獣となったギャスパーと同化し、闇の獣人とでもいうべき姿に。

 

 そして分かるのは、どちらもが圧倒的なオーラを纏っているという、その一点。

 

『準神族兵装、終末大帝の龍装(ラグナロク・アース・ベルセルク)。世界樹の力をグリゴリの研究と合わせて作った、アースガルズ版の人工神器ってところかねぇ?』

 

『ふふ、素晴らしい力ですわ。ですが()の再興到達点たる、禁夜と(フォービドゥン・)真闇の(インヴェイド・)滅殺獣姫(バロール・ザ・プリンセス)も相応にできますよ?』

 

 それぞれ誇りながら、その瞬間更なる激突が生じる。

 

 ギャスパーと一体化したリアス先輩は、消滅の魔星すら超える出力の消滅の魔力を強引に軌道を変え、ヴィーザル神の鎧を確実に削っていく。

 

 だがヴィーザル神もその蹴りをもってして、少しずつだが確実に二人の闇を削っていく。

 

 もはやその戦闘は、フィールドを余波だけでやすやすと吹き飛ばしていく。その勢いは、それぞれ別の場所で戦っていた者達すら、思わず視線を向けるほどの戦いとなっている。

 

「……あの人も怖いよなぁ、本っ当」

 

「同感ね。まさか、そう来るとは思わなかったわ」

 

 お互い苦笑い気味で、俺達はその戦いを見守っていく。

 

 さて、これはどうなることやら……な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すげぇえええええええっ! リアス、すげぇええええええええっ!!!

 

 俺は愛する女の戦いぶりに、そろそろテンションが限界に達しそうだ。

 

 だって、北欧アースガルズに二代目主神相手に真っ向勝負だぜ? それも、アザゼル先生みたいに龍王の鎧まで纏われてるのにだ。ギャスパーとのタッグとは言っても戦えてるのが凄いって!

 

「……なるほど。イッセーとの連携技たる深紅の滅殺龍姫を参考にしましたね?」

 

「お~すっげー! あれって普通に主神に匹敵しない?」

 

 シャルロットやアルティーネも、目を見開いて感心している。

 

 実際フィールドがそろそろ限界を迎えそうだ。そんなレベルの死闘なんて、アザゼル杯でもそうそうお目にかかれない。

 

 いや本当に、あれはマジヤバいって。仮面ライダーになったグレイフィアさんとも真っ向勝負できるだろ。

 

「凄まじい力だ。マスターリアス、あそこまで到達するか」

 

「流石は私達のリーダー! 私達も負けてられないわね♪」

 

「お姉さま、頑張ってください……っ」

 

 ゼノヴィアも、イリナも、アーシアも。それぞれがそれぞれの感想を思い浮かべながら感心している。

 

 ああ、これが俺達のリーダー。オカ研初代部長のリアスだ。

 

 俺が先に進んでも、負けじと追いかけ続けてくれる。その果てに、超越者クラスにも通用する力をついに獲得してのけたんだ。

 

 ああもう! 俺ってば本当に愛されてる! 生きててよかったぁ!

 

「流石はグレモリーの次期当主ですな。我々も精進しませんと」

 

「そうですわね、ボーヴァさん。ですが、このままだと……」

 

 ボーヴァが感心していると、レイヴェルはどこか真剣な表情で深刻そうな雰囲気になる。

 

 それに俺達が首を傾げた時、事態は動いた。

 

『そろそろ時間も限界ね。これで終わりとしましょう』

 

 そう告げながら、リアスは消滅の魔星とは比べ物にならない巨大な消滅のオーラを集め、投擲する。

 

 それに対し、ヴィーザルさんは回避をとらない。

 

 真っ向から迎え撃つのってか? できるのか?

 

『いいだろう。なら、俺も必殺技ってのを見せてやる』

 

『Maximum Charge』

 

 宝玉から音が鳴り響き、そしてヴィーザルさんは蹴りの構えを取り―

 

『フィンブルヴェトル、ショット』

 

 ―その瞬間、真っ向から消滅のオーラを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フィールドの大破を確認。試合続行は困難と見なし、この時点での判定を行います』

 

「凄いことになったのぉ」

 

 他人事そのものの態度で、オーディンの爺さんは顎を撫でつけながらそうまとめる。

 

 ああ、試合フィールドが蹴り壊された消滅のオーラで丸ごと吹き飛んだからな。凄い事にはなってるだろ。

 

 っていうか、どっちも大概じゃねえか。

 

 テュポーンの奴は星辰光(アステリズム)だろう。面白半分で手を出したんだろうが、凄いことになってるじゃねえか。

 

 リアスもストラーダを参戦させるとは中々すげえな。クロウ・クルワッハと言い、交渉上手で何よりだ。

 

 そしてそのリアスとヴィーザルの激闘。どちらもタッグを組んでの合体形態だが、その力は下手な主神を返り討ちにするレベルだろう。間違いなく、現段階における頂上決戦の一つだろうな。

 

「……うぅ……。立派になったな、リアス……っ」

 

 サーゼクスはサーゼクスで男泣きしてるし。

 

 こいつ、シスコンで親バカで愛妻家と、逆に大変になるぐらい苦労してるなおい。

 

 さ~て。あの破壊、オーラがデカすぎて巻き添えで何人か吹き飛んでそうだよなぁ? それ次第で勝敗が分かれる感じだが―

 

『……判定が出ました! 先ほどの破壊による被害者を踏まえて、2ポイント差でリアス・グレモリーチームの勝利です!』

 

 ―お、ぎりぎり逃げきったな。

 

「うぉおおおおおおおっ! リアスぅうううううっ!」

 

「ほっほっほ。ヴィーザルの奴もまだまだじゃのぉ?」

 

 父兄は楽しそうで何よりだが、確かに凄い試合だったぜ。

 

 正直、ハーデスとか帝釈天とかが心配だった。あいつら、何かしらの動きをしでかしそうだったからな。

 

 だが杞憂になりそうだ。期待してるぜ、お前らよ?




 リアスチーム、ぎりぎりで競り勝ち。しかしここからがやばいぜぇ?

 なにせ自分、魔改造は広い範囲でする主義ですので。ここからいろんなチームが強化されてくぜぇ……?


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戦愛白熱編 第三十二話 リアス祝勝会(前編)

 書き溜めは結構あるので、こちらも週一ぐらいで投稿を続けたい今日この頃。

 それはともかく祝勝会の始まりです!


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、リアスの勝利を祝って……乾杯っ!」

 

『『『『『『『『『『乾杯っ!』』』』』』』』』』

 

 イッセー君が音頭を取り、僕達は祝勝会を開いていた。

 

 何度も何度もやっていると疲れるけど、大一番を超えた時ぐらいはね。それも優勝候補相手なんだし、これぐらいはした方がいいだろう。

 

 二代目主神二柱に魔獣の王。そんな規格外の戦力を相手に、僕達は判定勝ちに持ち込めた。

 

 できることから真っ向から打ち倒して勝ちたかったけど、流石にそれは望みすぎだろう。

 

 でもまぁ、いい気分だ。

 

「やったじゃねえですか、祐斗先輩! 女神アルテミスに今代のブリュンヒルデを相手にしてオフェンスで翻弄とか、尊敬しますぜ!」

 

「そうですね。先輩達が戦果を挙げると、私達もそんな人の後輩で少し鼻が高いです」

 

「ありがとう、二人とも」

 

 僕はそう答えると、注いでくれたジュースを飲みながら二人のコップにもジュースを注ぎ返す。

 

「そういえば、二人はどうなんだい? 次は九成君達との試合だけど」

 

 僕がそう返すと、二人とも不敵な笑みを浮かべている。

 

「無様な試合はしやせんぜ? なにせ、俺もルーシアもオカ研のメンバーなんですからねぃ?」

 

「兄に頼り切るような無体はしません。勝つ気でいきます!」

 

 二人とも、本当に成長しているよ。

 

 これまでの戦いでも強くなり続けてきたし、これはいい試合が見れそうだ。

 

「楽しみにしているよ。いい試合が見れると期待してる」

 

 僕はそう返しながら、ちらりと視線を離れた方に向ける。

 

 向こうでは九成君が、ギャスパー君と話している。

 

 このあと少しすれば、今度は九成君の試合だ。

 

 教会が誇る最強格の一人、リュシオン・オクトーバー。

 

 ルーシアさんやアニル君も更に強くなり、全体的に強化されている。

 

 そんな中、彼はどう戦うのだろうか?

 

 ふふ、我ながら少し楽しみになっているね。

 

「健闘を祈るよ。まぁ、九成君に対してもだけどさ」

 

 さて、彼らはどう戦うのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、中々大健闘だったじゃない」

 

「ええ、ありがとう。最も、歯切れの悪い決着だけどね」

 

 と、カズヒにジュースを注がれながら、リアスはちょっと苦笑していた。

 

 まぁ、フィールドが破壊されたことによる判定に移行してたからなぁ。そういう意味だと、ちょっと歯切れも悪くなるか。

 

 でも、十分なんてレベルじゃない戦いぶりだった。判定とはいえ、優勝候補にギリギリで勝利したわけだしな。

 

「リアスは十分凄いよ。今の俺だと、チームでも勝てるビジョンが浮かばないからね」

 

 ホント、言ってる場合じゃないんだけどまずいんだよなぁ。

 

 正直、本当に頭を抱えたい。

 

 だって、優勝候補の本気バトルを最近見せつけられてるもん。主神クラスが出張るレベルの激突を見せられると、俺たちが勝てるのかちょっと不安になるし。

 

 仮面ライダーになったグレイフィアさんや、龍王の鎧をつけたヴィーザルさん。真っ向から戦って勝てる気がしないっていうか、返り討ちに遭うビジョンがありありを見えるぐらいだしなぁ。

 

 いや、俺もリゼヴィムやアポプスを何とか打倒したけど。でもそれは龍神化あってのことだ。命の危険があるからとても使えない現状だと、手札がない。

 

 せめて疑似龍神化がもっと長ければいいんだけどなぁ。一分も持たない状態だと、どうしようもないところがある。部分龍神化でも限界があるからなぁ。

 

 何とか新技か新境地に到達したい。俺もだけど、仲間達も更に強くなる必要があるんだよなぁ。

 

 そう思うと、ちょっとしんみりしてしまう。

 

 う~ん。ここは新しいアプローチでもした方がいいんだろうか。一度真剣に、教会の戦士達に師事でも仰ぐべきかなぁ?

 

「……ま、大活躍なのは本当だよ。俺もなんかお祝いした方がいいかな?」

 

 と、俺が気づかれないうちに誤魔化すのも込みで言った時だ。

 

「なら処女でも貰っておきなさいよ。周りの妨害は私が潰すから」

 

 ……何をおっしゃってますか、カズヒ様。

 

「またその話? ちょっとごり押し気味じゃないかしら?」

 

 リアスも半分呆れてるけど、ちらちら俺の見てきているのは半分乗り気ですよね?

 

 俺も乗りたいビッグウェーブですけど! そろそろエッチしたいですけど!?

 

「……一応聞くけど、本気か?」

 

「本気よ本気。というか、遅いぐらいでしょうに」

 

 俺にため息で返したカズヒは、割と真剣な表情だった。

 

「いつまでもイッセーが童貞なのもあれでしょう。私達も気が引けるから、回数控えめだし」

 

 ………あ、そっか。

 

 俺、童貞。九成、非童貞。それが現実だった。

 

 五秒後、俺は崩れ落ちた。

 

「ほら。イッセーも刺激したら落ち込むんだからさっさと互いに卒業しなさい」

 

「カズヒ、貴女って最近なりふり構わなくなってないかしら」

 

 俺だってなりふり構いたくないよぉおおおおおおおっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奮闘、おめでとうございます猊下」

 

「凄かったです猊下! ああ、主よ!」

 

 子供のようにはしゃぎながら、自分の健闘を褒め称えるゼノヴィアとイリナ。

 

 その姿に微笑みを浮かべながら、ヴァスコ・ストラーダは二人の頭をなでる。

 

「ふふふ、これぐらいはしないといかぬからな。鳴り物入りで、超常の戦いを憂いなく行わせてくれるのだから」

 

 そう語るストラーダは、持ち込んだ新たなる愛剣もなでる。

 

 デュランダル・メテオ。ストラーダ専用にリアス達までもが手を貸して完成させた、新しいデュランダル。

 

 その刀身を見て、ゼノヴィアはふと気づいたことがある。

 

「その剣、デュランダルとは材質が違いますね?」

 

「本当ね。これ……どんな合金かしら?」

 

 二人が首を傾げるのも当然だろう。

 

 デュランダル・メテオはストラーダ専用に鍛え上げられた、新たなるデュランダル。必然として、その材質の違いこそが最大の肝といえるのだから。

 

 そして、ストラーダからしても隠すほどのことでもない。

 

「このデュランダル・メテオは、星辰奏者たる私ように設計された物でな。簡単に言うと、新たなる星辰体感応合金といえるものだ」

 

「そうなのですか? ですが、新しい星辰体感応合金ならもっと広まりそうですね?」

 

 イリナがそう反応するが、ストラーダは静かに首を振る。

 

「そうはならぬだろう。この合金は、アダマンタイトと比べても星辰体との感応面では劣っているのだから」

 

「「え?」」

 

 思わず首を傾げる二人の後ろから、覗き込む姿があった。

 

「……あぁ。そうい事ですかぁ」

 

 リーネス・エグリゴリは、一目見たことでその本質を掴み取った。

 

「つまりこの剣は、猊下の星辰光を弱体化させる星なんですねぇ。」

 

「ど、どういうことだ!?」

 

 一瞬で理解したリーネスに、ゼノヴィアは思わず詰め寄った。

 

 アダマンタイトを使う時よりも星辰体が弱体化してしまう。それに意味があるのかどうか。

 

 だが、リーネスは小さく苦笑をしながら指を一本立てる。

 

「簡単に言うとねぇ。この剣は所有者の星の出力や収束性を下げることで、効果を落としているのよぉ」

 

 その言葉に、ゼノヴィアもイリナも一瞬分からなかった。

 

 だが、すぐに思い至る。

 

 そもそも、ストラーダの星は肉体を若返らせる。これにより二十代の肉体を取り戻すという点で、ストラーダが使う際の凶悪性が際立つと思われている星だ。

 

 だがストラーダにとって、二十代の若さは精神に悪影響を与える物。彼はそれを全盛期とせず、精神と肉体の釣り合いをとれる50代が最適と見ている。だが、星の出力調整ができないアダマンタイトでは、50代の肉体は星の持続時間が切れた一瞬だけの奇跡だった。

 

 つまるところ、このデュランダル・メテオは「ストラーダにとって微妙な星を、弱体化と引き換えに最適化させる発動体」としての機能が盛り込まれている。

 

 それに気づいた二人に、ストラーダは苦笑を浮かべながら頷いた。

 

「この剣は、正真正銘私に最適化された改悪型だ。ただ発動体としての機能を組み込んだモデルや、純粋に新しく作られたデュランダルではない」

 

 そう告げ、しかし笑顔をもって断言する。

 

「だが、このデュランダル・メテオなら私はすべてを切れるだろう。……そう、インドラであろうと諸君が愛する赤龍帝だろうと、な」

 

 その言葉に、二人はすぐに意識を切り替える。

 

 そこに在るのは明確な戦意。挑戦者としてのそれではなく、対抗者としてのそれだ。

 

「「では、その時は容赦なく」」

 

 その返答に、ストラーダは力強い頷きをもって返す。

 

「よかろう。お互いに死力を尽くそうではないか?」

 

「あららぁ。では、私も新型プログライズキーでも用意しましょうかぁ」

 

 リーネスも楽し気に微笑みながら、和やかな時間は過ぎていった。

 

 

 




 逆に考えるんだ。「出力が調整できないから若返りすぎてしまう」のなら「いい感じの年齢になるように出力そのものを下げればいいんだ」とね?

 ということで、ストラーダ弱体化による超強化。

 ストラーダの星はストラーダにとって「若返りすぎる」という点で微妙な星辰光。なので若返る度合いそのものを下げるために、アダマンタイトの下位互換を用意するという暴挙によって解決を図ったのがこのデュランダル・メテオです。
 普通なら弱体化以外の何物でもありませんが、ストラーダにとっては真の全盛期を長時間維持できるという点でそれを補って余りある。ついでに言うと星辰光を発動し続けているので、当然ですが原作より一歩上となっております。


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戦愛白熱編 第三十三話 リアス祝勝会(後編)

 本日はちょっと短めとなります!


 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでカズヒの奴、遮音魔術張ってるんだ?

 

 ただ指摘するとややこしくなりそうだ。俺は気づかないふりしてスルーしておくことにする。他のメンバーもスルーしているしな。

 

「因みに、お前はいいのかヒマリ?」

 

「この際、始まりが決定すればいいとしますの。そのあとは経験値の差でアドバンテージ確保ですわ」

 

 強かなことで。

 

 ま、ヒマリがスルーしているのならスルーしていいだろう。

 

 いい加減イッセーに童貞卒業してほしいし。冷静に考えると、なんで家主の息子が童貞の家で、俺は女とエロいことしているんだろう。

 

 真剣にイッセーに殺されそうな気がしてきた。むしろ全力でフォローした方がいいぐらいだし、今度真剣に計画を立てるべきだろうか。

 

 ま、それはこの際置いとくとしてだ。

 

「さて、俺はそろそろルーシアやアニル達との闘いか」

 

 どうも、あいつらメンバーの多くが割といっぱいいっぱいで途中リタイアの可能性があるしな。

 

 有終の美を飾るべく、気合を一気に入れてくるだろう。本来なら予選がまだまだゆえにセーブするところもなく、全力投入されると更に不利だ。

 

 とはいえ、こっちもわざと負けてやる気はない。こういう時は全力で応えるのが礼儀ともいえるしな。

 

 そこも踏まえて、ちょっと気合を入れるべきか。

 

 そういえば、今イッセーにリアス先輩がカズヒと話してるわけだ。

 

 既に先発がそれぞれ激闘を繰り広げた後。なら俺は、それに恥じない戦いぶりをしないとな。

 

 まぁアニルやルーシアも同じこと。これは凄い競い合いになりそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。では今回のマッチメイクが終わり次第、このチームはリタイアを表明するんですね、リュシオン・オクトーバー」

 

「そうなるね。ルーシアやアニルはいいんだけど、他の子が流石にメンタルに限界を迎えているみたいだからさ」

 

「そうですか。いえ、最上級悪魔クラスがいくらでもいそうな者がいるなら、心折れるのは当然でしょう。私の手の者もかなり憔悴している者がおりますし」

 

「昔の俺なら、「コツさえつかめば簡単だよ」と言いそうだね。いや、本当に知識として知ることが出来て良かったよ」

 

「なんというか、貴方も色々と難儀なお人なんですね」

 

「あはは、お恥ずかしい。……ただ、だからこそ次の試合は全力で行こう。カーミラとしても、その方がいいんだろうしね」

 

「そうですね。カーミラとしても変革の証となるこのチーム参戦。それなりの成果というか、活躍を見せないといけないですから」

 

「他人事みたいだね。もしかして乗り気じゃないのかい?」

 

「まぁ、そうです。……正直、変革の顔みたいに扱われるのは不本意でして」

 

「そちらも大変みたいだね。今度、愚痴でも聞こうかい?」

 

「お気持ちだけ受け取っておきます。ですが、次の試合により本気で挑んでいただけると幸いですわ、神の子に続く者(ディア・ドロローサ)

 

「ふふ、カーミラの吸血鬼、それも大貴族に言われては断れないね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと一息を入れる為、私は外の空気を吸っていた。

 

 さて、連戦の激闘もあとは一つ。和地がリュシオンと競い合う試合が残っているだけね。

 

 間違いなく、壮絶な激闘になるでしょう。

 

 ただ、もう一つ言えることがある。

 

 あの和地が、無様な試合はしないという事ね。

 

 きっと伏せ札の一つぐらいは明かすでしょう。その上で、恐ろしいレベルの競り合いをするかもしれないわ。

 

 そう思うと、少しドキドキワクワクする自分がいる。

 

 ふふ、私が誠にぃ以外の男に胸を高鳴らせるなんて。人生二周目は伊達じゃないわね。

 

 そう思いながら空を見上げていると、隣に立つ人影があった。

 

「……オトメねぇ」

 

「どうしたの、カズヒ? 一人で黄昏てるなんて」

 

 どうやら、少し失敗したのかもしれないわね。

 

 こんな風にオトメねぇに心配されるのも、悪い気がしないのも意外だわ。

 

 ええ、失ったものは多いし、背負った業も数多い。

 

 だけど、この関係を取り戻せた。そのことは、嬉しい出来事だ。

 

 ……ありがとう、和地。

 

 だからこそ応援しているわよ。

 

 相手はあのリュシオン・オクトーバー。だけどあなたは、この世界から極晃(邪神)を祓った旧済銀神(エルダーゴッド)

 

 神の子に続く者(ディア・ドロローサ)の道を、妨げてみなさい。私の愛しの涙換救済(タイタス・クロウ)

 




 祝勝会と言いつつ、ガチバトルの導入みたいになってしまった……。


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戦愛白熱編 第三十四話 リュシオンという壁

 はいどうもー! 久々にこっちの更新するグレン×グレンでっす!

 いやぁ、最近はシェイキング・ワールド・ハザードにモチベーションが傾いていたし、何なら別の方向でアイディアが出すぎて困ってますが、こっちも書き消えてはいませんのでまだ安心してください! 書き溜めも150kb以上あるしね!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと数日で試合が始まる時、俺達はミーティングを進めていた。

 

「……と、これまでの試合情報などから算出されるメンバーそれぞれのポテンシャルはこんな感じだな」

 

 と、俺が映像資料を見終えた後に告げる。

 

 それに対し、黒狼は更に資料を確認しながら立ち上がる。

 

「リュシオン・オクトーバーがずば抜け過ぎている為ワンマンチームに思われることもあるが、メンバー全員が同年代で言えば上位に届く者達だ。この大会全体においても、平均より上のチーム構成といえるだろう」

 

 そう、若人の挑戦チームはなんだかんだで高水準となっている。

 

 間違いなく手練れが多い。経験値の少なさゆえに隙が無いではないが、それをつくのも中々大変といえる。

 

 若手の優秀な者達が集まったチームゆえに、経験を積むことで更に腕に磨きがかかっているしな。ある意味で俺達オカ研と同様のパターンというべきか。

 

 そして、今回厄介な点はそこだけではない。

 

「最大の難点は、このチームがリタイアをそろそろ考えているという点だ」

 

 そう。若人の挑戦チームは大会を途中退場する方向に向いている。

 

 腕利きの若いメンバーが集まっていたが、神クラスすら跳梁跋扈する大会ではメンタルが追い付かなかったようだ。精神的にいっぱいいっぱいのメンバーも多く、そろそろ限界だと判断されたらしい。

 

 ただ、それは俺達にとって安心理由には全くならない。

 

「つまるところ、後先を考えず全力を出せるという事だ。相手も有終の美ぐらいは飾りたいだろうし、こちらとしては更に厄介な相手になっているのを理解した方がいい」

 

 そう黒狼はまとめ、その上で資料を確認しながら少し苦笑している。

 

「とはいえ、和平があってこそのチーム構成だろうな。三大勢力が主体だが、それ以外の勢力からも何人か参加しているのが困ったものだ」

 

「……確かにな。下手すりゃD×Dバリの異種族混合チームじゃねえか」

 

 と、ベルナがそれに同意する。

 

 ま、そこについて反論は欠片も無い。

 

 神の子を見張る者が保護した神器保有者。教会の育成機関で学ぶ悪魔祓い見習い。更に悪魔の子供など、三大勢力も多い。

 

 だが、そこにヴァルキリー見習いがいる。妖怪の子供がいる。あろうことか吸血鬼までいる。

 

 若い者達を中心にした異種族混合チーム。そういうと、確かにD×Dを思わせるな。

 

 ちょっと感慨深くなっていると、シルファが資料を確認したうえで頬杖をついた。

 

「……とはいえ、最大の難点は王のリュシオン・オクトーバーでいいのかしら? 相当化け物らしいけれど」

 

「そうだね。なんていうか、別格?」

 

 と、インガ姉ちゃんが苦笑しながら頷いた。

 

 まぁ、実際そうなんだが。

 

 神の子に続く者(ディア・ドロローサ)の異名は伊達ではない。

 

 空前絶後を思わせる、至ってない状態に戻ってから任意で別の禁手に至り直す真似ができる男。俺やイッセーも大概バグじみているが、それを踏まえても奴はヤバイ。

 

 勝つというなら、あの男を倒すことを考慮する必要はしっかりある。

 

 そして問題は―

 

「このメンバーで勝てるとすると……やっぱり和地君だよね?」

 

「だね。一対一でという条件は付くけど」

 

 インガ姉ちゃんが俺に視線を向けると、文雄もそう言って頷いてくる。

 

 まぁ、そうだろう。

 

 神滅具の保有者であり、当人の前人未踏レベルの傑物。必然的に、対抗戦力は神に対応することを主眼にするべきレベルだ。

 

 となると、単独では絶対に俺になるわけだ。

 

「ま、一対一に限定すればだけどね。四対一ぐらいなら勝ち目はあるんじゃないかしら?」

 

「そうね。私達なら連携でマスターにも勝算はあるし、勝ち目がある程度はあると思うわ」

 

 文香と三美さんがそう話し合う中、ヴィーナは映像を再確認して冷や汗をかいている。

 

「でも、この人凄すぎだよね? 神クラスにも勝ってるんでしょ?」

 

「まぁそうなんだよなぁ」

 

 俺は引きつっているヴィーナにそう言うと、とりあえず天井をなんとなく見上げた。

 

「更に俺の手の内も知っているルーシアとアニルがいるわけで、間違いなく今まででもトップクラスの難敵だぞ」

 

 思わずため息をつきたくなるが、まぁそこはいい。

 

 勝算を捻り出す為、もうちょっと会議を進めるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、九成達が勝つ場合どんな感じになると思う?」

 

 俺はリアスやシャルロットと、そんなことを話していた。

 

 オカ研主体チームの連続大一番。その最後の試合となると、やっぱり興味はある。

 

 なんでお菓子を食べながらそう言うと、リアスも考えこんでいる。

 

「リュシオンを足止めしての判定勝ちが基本でしょうね。最も、彼は一人で戦局をひっくり返しかねないもの。倒すことを主眼に入れるべきではあるけれど」

 

「他のメンバーも片手間にどうにかできるわけではないのがネックですね」

 

 シャルロットもそう言うと、真剣な表情を浮かべている。

 

「急成長を遂げているメンバーが多い以上、油断はできません。それは私達も同じなのでよく分かることでしょう」

 

 確かに。

 

 俺達も、まだゲームデビュー前としては凄いってレベルが、何時の間にやら神クラスとの闘いまで主眼に入れた精鋭チームの一角だしなぁ。

 

 そういう意味だと、俺達が強くなっているんだから似たようなケースがあってもおかしくない。

 

 ただ、そんなチームが途中退場かぁ。

 

「もったいないよなぁ。予選終了までやってたら、絶対もっと強くなってたろうに」

 

 俺は心底そう思うけど、それも大変なんだろう。

 

 割と精神的に追い詰められていたり、消耗が大きいってのが理由らしいし。神クラスや最上級悪魔が何人もいるチームとの戦いで、心身共に疲弊しているそうだ。

 

 心が折れると再起するのは大変だから、そうなる前に手を引くってのは一つの手段なんだろう。そこは俺もわかる。

 

「やっぱり、普通は神話の戦いなんてきつすぎるってことなんだろうか」

 

「それはそうね」

 

 と、俺の言葉にリアスが即座の肯定をする。

 

「当然のことだけど、熾烈な争いや命の危機は強いストレスを与えるわ。それに耐えられず心を病むのは、例え心構えを鍛えていてもあり得るもの」

 

 そう言うと、リアスは俺の頬を撫でた。

 

 その顔は、すっごい誇らしげなそれだ。

 

「だから、悪神ロキや超越者リゼヴィムとも戦って、心折れず戦えるイッセー達のような眷属を持てた私は幸せ者ね」

 

 くぅ~! 嬉しいことを言ってくれるぜ!

 

「それはリアスさんも同じでしょう」

 

 と、シャルロットはリアスに微笑んでいる。

 

「むしろまとめる側として更にストレスがあるでしょうに。十代でそんな責任をきちんと背負おうとしているリアスさんも、主として持てるなんてイッセー達は幸運ですよ」

 

「ふふっ。褒められるのは悪い気はしないわね」

 

 うんうん。リアスは最高の主様ですとも!

 

「つまり、最高の主様と最高の相棒を持つ俺は超幸せってことか!」

 

 俺ってかなりついてるんだなぁ! テンション上がるぜ!

 

 ……と、リアスもシャルロットもちょっと顔を赤くしてため息をついていた。

 

「間違いなく、今年も増えるでしょうね」

 

「ですね。というより、増えて当然ですから」

 

 何の話?

 

 俺が首を傾げていると、二人は気を取り直したのか話を戻したようだ。

 

「そして三大勢力だけでなく、各神話や異形の勢力からも参加者がいる。それも若い才能あふれる子達が主体」

 

「相応に注目されてますね。だからこそ、途中退場は惜しまれてますけど」

 

 あ、それは確かに。ヴァルキリー見習いや妖怪、吸血鬼の貴族様もいるらしい。

 

「確か、吸血鬼はカーミラの貴族だっけ?」

 

 エルメンヒルデを思い出すな。何度か会うこともあったけど。

 

 あいつも最近、だいぶ丸くなってたよなぁ。最初の頃はめちゃくちゃ高圧的だったけど、カーミラが大打撃を受けてからはそういうのも見えなくなったし。

 

 プライドに拘ってる場合じゃないってこともあるだろうけど、それだけでもない気がする。それならシャルバみたいな方向にもなるだろうし。何か別の理由があるのかも。

 

 ルーシア達のところにいる子はどんな吸血鬼なんだろうか。吸血鬼からも参戦者がいるみたいだけど、ちょっと気になるな。

 

 そう思ってると、コンコンとドアがノックされる。

 

「あ、どうぞー」

 

 俺が促すと、ドアが開いて入ってきたのはアルティーネだった

 

「やっほー! 暇だから構って?」

 

 素直だなぁ。

 




 リタイアを決めたからこそ、厄介になっているリュシオン達。出し惜しみをする必要がないというのは、それだけで面倒なところがあるのです。


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戦愛白熱編 第三十五話 性能が高い=強いとならないときがある

 はいどうもー! 最近いろいろと脱線的になっていて困っているグレン×グレンです……。

 いやぁ、モチベーションで話を書くタイプのもの書きなので「書きたい」欲求に振り回されるのが困ったものだ。……そろそろ童貞卒業も見えてきているので、R-18作品にも手を出したくなってきておりますしね……。

 ま、それはそれとして一話出します!


 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、言うわけだからそれとなく気を付けてくれるかしら?」

 

「なるほどね。これは苦労を察してしまうよ」

 

 と、僕はカズヒから受け取ったレポートを確認する。

 

 内容は窪川蓮夜君についてだ。厳密に言えば、数多くの奇行の数々をレポートとしてまとめたものだ。

 

 接木優華さんと窪川蓮夜君。カズヒの前世たる道間日美子の友人であり、今でも変わらぬ友情を持っている接木さんや引岡さんの、それぞれ娘と息子だ。

 

 優華さんの方は大丈夫だろうけど、窪川君の方は警戒必須だからね。こうしてカズヒが、問題点をまとめてくれたことになる。

 

 しかしまぁ、かなりの荒療治というかショック療法というか。

 

「というより、僕より先にアーシアさんに渡した方がよくないかい?」

 

「そこについてはシンプルよ。……あの子だと窪川が反発しそうだもの」

 

 そう答えるけど、そんなことがあるだろうか。

 

 性的なことに非常に潔癖で過剰反応するところは知っているし、資料でも嫌になるぐらい書かれている。

 

 むしろ今まで警察のお世話になっていない。イッセー君に近しいレベルで問題児だ。

 

 これはこれで、中々に癖の強い人物だよ。

 

 そしてそれで、僕が適任扱いされた理由がよく分かる。

 

「アーシアさん達はイッセー君にぞっこんだからね」

 

「そういう事。余計なもめ事を避ける場合、イッセー以外の男が最適なのよ」

 

 なるほど確かに。

 

「でも、僕だってイッセー君のことは大好きだよ?」

 

「あいつは割と保守的だから、ゲイはもちろん性欲関係なく男に夢中ってのも理解が遅れるでしょう」

 

 手厳しい意見なことで。

 

 まぁ、それならそれでいいだろう。

 

 とはいえ、そこで話を終えるのもね。

 

「それで、九成君の試合はどうなると思うかい?」

 

 そこは割と気になっている。

 

 相手はなにせ、あのリュシオン・オクトーバーだ。

 

 九成君もかなり強いけれど、彼の強さはある意味で常軌を逸している。

 

 勝算は決して高くないだろう。そういう戦いだ。

 

 だからこそ、割と最近までリュシオンさんのその性質を問題視していたカズヒの意見を聞きたかった。

 

 そして、カズヒも少し考えこみ気味だが小さく微笑む。

 

「勝ち目はあるわ。そして、それは決して小さいものではないと思う」

 

 その根拠を、彼女は僕が聞くより先に答えてくれた。

 

「和地は今までの全てを肥やしにしている。そこから生まれる強さは、決してリュシオンに届かないレベルじゃないのだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュシオンって、ルーシアのお兄ちゃんだっけ? なんかすっごいんだってね?」

 

 と、お茶菓子をもぐもぐと食べながらアルティーネはそう言った。

 

 俺たちの話を聞いての答えだけど、まぁそうなんだよなぁ。

 

 あの人、ある意味で俺達よりやばいもん。最近は自分のヤバさを実感したみたいだけど、それまで全く実感してなかったってのも凄い。

 

 ただ、裏を返せば精神的に成長したってことだしなぁ。たぶんだけど、俺達と共闘した時より成長してるだろう。あの人常時成長してるし。

 

「実際凄まじい実力者よ。おそらくだけど、教会の若い戦士で彼の右に出る戦力はいないんじゃないかしら?」

 

「おぉ! つまり教会最強ってこと?」

 

 リアスに反応してちょっと表情が明るくなるアルティーネだけど、そこにはリアス含めて俺達全員が首を傾げる。

 

「いえ、ストラーダ猊下とかクロード長官とか、凄まじい人物は他にもいますので……」

 

 シャルロットが言い難いところを言ってくれたけど、本当にその通り。

 

 いやぁ、教会も層が厚いよなぁ。

 

 それにアルティーネは興味ありげに聞いていたけど、その視線が再びリアスに向いた。

 

「ストラーダって、リアスがメンバーにしてたよね? どうやってスカウトしたの?」

 

 あ、そこは気になる。

 

「たぶん、あの星辰光の調律だよな? どうやったんだ?」

 

「簡単……ではなかったわ。ただ、彼が参戦しない理由を仮定して、それを攻略する手段として教会と合同開発したのがあのデュランダルよ」

 

 リアスはそう言うと、魔法陣を出して映像を映し出した。

 

 そこに浮かぶストラーダ猊下のデュランダルと、ゼノヴィアの使っているオリジナルのデュランダルが映し出される。

 

 ほぉほぉ。あのデュランダルは星辰体感応合金を使用しているのか。

 

「あれは、元々猊下用に教会が作ったデュランダルⅡの発展形であるデュランダル・メテオ。発動体としての機能を持ち合わせている猊下用のデュランダルだけど、再調整の際にわざと改悪させているの」

 

 そう言うと、リアスは更にグラフを出して性能差を比較させてくる。

 

 

 

 

 

 

枢機の聖騎士よ、堕天を断ち切れ(カテドラル・オルランドゥ)(カッコ内はデュランダル・メテオ使用時)

 

基準値:E

発動値:C(D)

収束性:C(E)

拡散性:E

操縦性:E

付属性:D

維持性:C

干渉性:E

 

 

 

 

 

 

 なるほど。本当に性能が下がってるんだな。

 

「総合性能は数段墜ちているわ。ただあの星はストラーダ猊下を若返らせるという点に特化しているし、その上で星辰奏者(エスペラント)のポテンシャルは与えられるから……ね?」

 

 なるほどぉ。

 

 そういえば、猊下って「自分の全盛期は10代や20代じゃない。精神と肉体のバランスが取れた50代ぐらい」って言ってたな。

 

 そうか! 猊下はそんなアンバランスな状態で最高の戦士達と戦うことに引け目を感じていたのか!

 

 武人の拘りってやつだな。

 

「流石リアス! 交渉術では本当に参考になるぜ!」

 

 俺が感心して褒めちぎると、シャルロットも感心して頷いている。

 

「クロウ・クルワッハを引き入れたことと言い、リアスは本当に交渉がお上手です。私も参考にさせてもらいます」

 

「うふふ。おほめにあずかり光栄だわ」

 

 リアスがそう自慢げに微笑むと、アルティーネもよく分かってないなりにぱちぱちと拍手している。

 

「そういえば、そのストラーダって人とリュシオンが戦ったら、どっちが強いの?」

 

「「「間違いなくストラーダ猊下」」」

 

 即答で一緒に答えれたよ。

 

 いや、だって……なぁ?

 

 そのリュシオンが、よりにもよってカズヒと二対一で仕掛けて返り討ちになったパラシュラーマ。それを相手に真っ向から戦い、全盛期になった一瞬で逆転勝利したしなぁ?

 

 今の状態のストラーダ猊下なら、リュシオンでも一対一じゃ厳しいだろ。

 

 ……とはいえ、そのリュシオンを相手に九成は挑むわけだ。

 

 あいつ、どう戦うんだろうなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、作戦は一応決まった。

 

 とはいえ、それに甘えてばかりでもいられない。

 

 そういうわけで、俺は今トレーニング中だ。

 

 ……リュシオン・オクトーバー。教会が誇る神の子に続く者(ディア・ドロローサ)。若手悪魔祓いにおいて、おそらく最強と言えるだろう傑物。

 

 札は用意したが、まだ足りない。こちらにも相応の一手が必要になるのは間違いない。

 

 だからこそ、だ。毎日のトレーニングは決して欠かしてはならない。

 

 結局、日々の積み重ねはいざという時に物を言う。基礎というのはしっかりとしておくことで窮地においても中々崩れなくなる。突破力とは違う、骨格の強さというべきか。

 

 俺はかつてのリュシオンの動きを想定したトレーニングを行い、その上で少しずつレベルを上げていく。

 

 日進月歩を二十四時間三百六十五日常に続けているあいつは、間違いなく難敵だ。

 

 更にアニルとルーシアも油断できない。むしろずば抜けた札を持たずに俺達の戦いについてこれた、あの二人は間違いなく優秀なんだ。

 

 そして、いっぱいいっぱいになっているとはいえ若手として優れている期待のホープ達が何人もいる。そこも苦戦必須の部分といえるだろう。

 

 だから、こそ。

 

「加減はしないし容赦もしない。全力でいかせてもらうぜ、リュシオン・オクトーバー」

 

 俺はそれを成すべく、更に動きを先鋭化させていく。

 

 待っていろ、リュシオン・オクトーバー。

 

 カズヒも見ているんでな。無様な真似はさらさない……っ!

 




 ストラーダ専用デュランダル、デュランダル・メテオ。その性質はストラーダの星を弱くすることで、彼が長時間全盛期でいられるようにする聖剣である!








 ……自分で書いててなんだけど、本当にこれの方が強くなるってのが怖い。

 何が怖いって弱体化しているけど星辰奏者で星辰光振るってるから、原作より明確に上なんだってこと。そこに原作通りの全盛期確立で、安定して隙も粗もない強さを発揮するから割と無体だ。……自分でやっててなんだけど、これ、そうやって倒そう……?


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戦愛白熱編 第三十六話 カズヒの故郷

 はいどうもー! 最近再びこっちのモチベーションが上がってきました、グレン×グレンでっす!

 さて、そろそろ戦愛白熱編も佳境となっておりますよ~?


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は今、外国に来ている。

 

 元ソ連圏の小国、シルヴァスタン共和国。

 

 なんでも独立成立の過程にはソ連時代の大手異能勢力と現地の異能勢力の軋轢もあったとかで、今現在においても異能勢力との交渉を巧みに生かした独立維持が行われているとか。

 

 今回は魔法使いの隠れ里にコロシアムを設立し、異形関係での外貨と後ろ盾の獲得を目論んだそうだ。色々と困った隣国がいるからこその対策だろうな。

 

 大欲情教団によって大打撃を受けて対策必須なうちに、国防面での強化を図ったってところなんだろう。抜け目がない国家だなぁ。この試合会場がある異形の区画、首都が目と鼻の先にあるらしいし。

 

 で、だ。

 

「九成達はもう、控室で待機だっけ?」

 

「みたいね~。まぁ、カズ君のことだから準備は万端じゃないかしら?」

 

 と、リヴァさんが俺の質問に軽く答える。

 

 ちなみにビールと揚げパンを既に購入している。抜け目がねえ。

 

 まぁ、俺達はいうなれば買い出しだ。

 

 試合が始まる前に、色々と買っておいて食べたりしながら観戦する。つまりそんな感じ。くじ引きでペアが決まりました。

 

 ……リアス達の壮絶な視線を笑顔一つでスルーする。リヴァさんって、本当に強者だなぁ。

 

「アニル君やルーシアちゃんも、その辺りはそつなくこなしてるでしょうね。結局、あと三試合ぐらいで中途退場(リタイア)だったっけ?」

 

「そのようですね。思った以上にメンバーの多くが精神的に消耗していて、これ以上は健康に悪いと判断されたようです」

 

 と、食材関係なので付いてきたクックスが、その辺りも把握していたのかそう教えてくれた。

 

 っていうか、クックスが一番詳しいんだ。ちょっとびっくり。

 

 そんな視線を俺とリヴァさんが向けてたのに気づいたのか、クックスは少し苦笑していた。

 

「気晴らしに美味しい食事を出したいとのことで、相談を受けてまして」

 

「「あ~」」

 

 納得。すっごい納得。

 

 クックスって料理担当のヒューマギアだから、作るのも教えるのも上手だし。地味に兵藤邸の料理長だもん。

 

 アニルはいいとこだからシェフにツテもあるだろうけど、それを差し置いて相談されるのも納得だよ。

 

 で、アニル達も試合の準備は万端なんだろうな。

 

 むしろ中途退場が決定しているからこそ、思いっきり全力を出せる所もある。気負う部分が減ると、逆に勢いが出るってこともあるだろうしな。

 

 こりゃ九成も大変だ。相手にはあのリュシオンさんもいるからなぁ。

 

 なんてことを思っていると、ちらほらと耳の部分が特徴的な機械の人とすれ違った。

 

「……この辺り、ヒューマギアも多いのね」

 

 リヴァさんがそう言うけど、確かにヒューマギアのモジュールだな。

 

「少しずつですが、ヒューマギアの流通も再開しているようですね」

 

「そうなのか? 駒王町ではあまり見ないけど」

 

 クックスに言われても、俺は思い返して特にヒューマギアを見かけた記憶がない。

 

 なんとか思い出そうと首を捻っていると、クックスは苦笑していた。

 

「まだ部分的ではありますから。近年では異形関係者での販売が広まっているそうですね」

 

「なるほどねぇ。基本性能が違ううえ、多種族に慣れてるから抵抗が薄いってことね。……アースガルズ(ウチ)も提案してみるべきかしらね」

 

 と、クックスの捕捉にリヴァさんはガチなトーンになっている。

 

 でも納得だな。シンギュラリティに到達したヒューマギアの扱いとかが抵抗の元らしいし、元から自分達の種族でない自我を持つ人達に慣れてる異形の方が抵抗は薄いのか。

 

 こんな形でヒューマギアの普及が進むとか、作ってたザイアの連中も思ってないだろうなぁ。もともと異形を嫌ってる連中が多いはずだし、もしかしてサウザンドフォース的には苛立ち案件かもしれないな。

 

 ま、それはともかくだ。

 

「そういやカズヒはどうしたんだろうな? なんか別行動らしいけど」

 

 九成の試合だし、一緒に観戦するかと思ったら「ゴメン」の一言でそそくさと移動したし。

 

 あいつのことだし、九成をないがしろにするとは思えないんだけど。っていうか、外国に単独行動する理由ってあるのか?

 

「あぁ。イッセーは知らなかったわね」

 

 リヴァさんはなんかしたり顔だ。

 

 なんだなんだと思っていると、リヴァさんはちょっと苦笑していた。

 

「カズヒ、ここが出身国よ?」

 

 ……

 

「え、そうなの!?」

 

 マジか! ここがカズヒの生まれ故郷!?

 

 そういえば、旧ソ連圏で独立した国家のストリートチルドレンって話だったっけ。ここかぁ。

 

「現首都アルドーラが生まれ故郷らしいし、色々と思うところがあるんでしょうね。ま、あとで合流した後色々お話ししましょうか」

 

「なるほどなぁ。観光旅行ができればいいけど」

 

 でもこの国、観光資源はあんまりないらしいしなぁ。

 

 ま、まずは九成達の試合だよな。

 

 楽しみにしてるぜ、皆!

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 この辺りも、だいぶ様変わりしているわね。

 

 かなり近代化が進んでいるというか、ほぼ別物。

 

 日本に比べると警察の重武装化が進んでいるというか、パトカー代わりに軽装甲車両が運用されているのはあれだけど。元々政情不安定地帯だったからそこは仕方ないわね。

 

 むしろ良くやっている方でしょう。当時圧政を強いられていたことを逆手に取り、生活の改善をあえて一気に進めず小さく段階を踏むことで、余剰資産を確保。少しずつ確実に良くすることで、民衆の支持を確実に維持し続けた。

 

 そしてそれで空いたリソースを地盤に財源や人材確保にいそしみ、それが成功したことで国家として確立するレベルの水準は確保できた。

 

 積極的にストリートチルドレンを保護し、基礎教育を受けさせることで国民全体の識字率や就職における幅を確保することに成功。学力のある子供の海外留学や技能研修生に手厚い援助を行い、国外流出されること無く技術を国に持ち帰ることにも成功。あと、星辰奏者技術を早期に確保したうえ、研究面での転用に力を注いだことも大きかったでしょうね。

 

 最近では地下資源そのものではなく、加工品の輸出も進んでいる。食料自給率も留学から帰ってきた農業学校生により上がり始めており、最近では源泉の確保に伴う観光産業も行っているとか。

 

 どこの国も、今は他国に軍事的なちょっかいをかける余裕もない*1し、この調子で発展してもらいたいものだわ。

 

 ま、それはそれとして……。

 

「お姉さま。様変わりして困惑しましたが、そろそろ付くはずです」

 

 カズホが地図を見ながら確認してくれたけど、私達は目的の場所につけそうだわ。

 

 あんまり時間もかけれないけど、とりあえず顔を出しておきたいしね。あと、今日を貸し切りにできないかどうかも考えないと。

 

 試合終了後に打ち上げになるか反省会になるかはともかく、折角だから美味しい物を食べてもらわないと。味に関しては太鼓判を押せるから―

 

「「……あら?」」

 

 ―あ、これまずいかも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー君達はもうすぐ着くそうです。ただ、カズヒが「トラブル発生。いつ着くか分からなくなった」とのことですね」

 

「そうなの? カズヒのことだし、地元のギャングやマフィアと一戦交えているのかしら?」

 

 僕がメールを確認すると、リアス姉さんはそう推測した。

 

 ありえそうなのが怖いね。でも政治的権力が生かせる状況なら、カズヒもリアス姉さんに相談ぐらいはするだろうし、たぶん大丈夫かな?

 

 とはいえ、九成君が知ったら残念がるだろうね。試合を見てもらえないこともそうだけど、力になれないことも。

 

「でも何があったのかしら? 徒歩で向かってたし、危ないものは持って行ってないから警察に捕まったってことはないでしょうけど」

 

 イリナさんが首を傾げると、ロスヴァイセさんも考えこむ形になっている。

 

「元々反乱軍が制圧して独立した国家ですが、その来歴がある割には盤石国家ランキング*2で上位に入ってませんからね。その手の独立国家としてはかなり成功している国家ですし、治安もそこまで悪くないはずです」

 

「……あえて改革を段階的かつ少しずつ進め、それでできたゆとりで国力の獲得を勧めたそうですわね。おかげでその失敗国家ランキング、年々順位を下げている*3そうですわ」

 

 朱乃さんも同意するけど、リアス姉さんは少し違うようだ。

 

「でも、裏を返せばそういう治安の悪い地域になる可能性もあった国家。それに、悪意という物はどこに転がってるか分からないもの」

 

 そう、それは確かに。

 

 だからこそ、リアス姉さんは少し気を引き締めた表情で僕らを見回す。

 

「終わっても合流しないようなら、こちらから向かうわよ。今更カズヒだけに負担をかける趣味は無いもの」

 

『『『『『『『『『『はい!』』』』』』』』』』

 

 僕達はみんなで返事をしたうえで、意識を切り替える。

 

 カズヒは色々とやらかす側ではあるけど、味方の支援が必要な時ならきちんと頼ってくれる人だ。だからすぐにどうにかなることはないだろう。

 

 ……さて、なら彼女の分も試合を見届けるとするかな?

*1
大欲情教団が原因

*2
旧名:失敗国家ランキング。国家として破綻しきっているかどうかの度合いをランキング形式で行う者。北朝鮮ですら二十位代

*3
高い方がヤバい




 ようやく出せたぜカズヒの故郷!

 いろいろ頭をひねりましたが、まぁ「まだまだ政情不安定だけど、順調に真っ当な国家になっている状態」といった感じでまとまりました。異能関係者をうまく生かす形で、最低限の安全確保などをかましております。


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戦愛白熱編 第三十七話 フォートレス・ハンティング

 はいどうもー! こっちに対する熱意がだいぶ戻ってきたグレン×グレンでっす!

 この調子でこっちを少しずつ進めていきたいと思っております!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、始まりましたぁあああ! 本日行われる予選試合の大一番!』

 

 実況が声高らかに宣言し、会場の人達が沸き立っている。

 

 ま、今日ある試合ではこの試合が一番派手になるだろうしな。当然か。

 

 俺達も正直ワクワクしてるし、どうなるかって本気で思ってるぜ!

 

『まさに世界の救世主! 旧済銀神(エルダー・ゴッド)ぉっ! 九成和地選手率いる、涙換の救済者(タイタス・クロウ)チームの入場です!』

 

『『『『『『『『『『『わぁあああああああああああっ!!』』』』』』』』』』』

 

 沸き立つ会場。そして入場する九成達。

 

 それに呼応するように、反対側からルーシア達が入ってくる。

 

『対するは、教会の誇る悪魔祓い!! 神の子に続く者(ディア・ドロローサ)、リュシオン・オクトーバー率いる若人の挑戦チィイイイイイイイッム!!』

 

『『『『『『『『『『おぉおおおおおおおおおおおおっ!!』』』』』』』』』』

 

 そしてこちらも大きな声が上がり、両チームは中央で向き合っている。

 

「流石にどっちも慣れてきてるな。ま、何度も試合をやってるんだし当然か」

 

「そうですね。とはいえ、それが油断に代わるような者達でもないですが」

 

 俺のつぶやきをシャルロットが肯定しながら、でもしっかり気を引き締めてくれている。

 

 さて、九成達はルーシアにアニル、そしてあのリュシオンさんにどう立ち向かうのか。

 

「ほぉおおおおっ! 美味しい! このパン美味しい!」

 

「あ、本当! もう一個♪」

 

「二人はもうちょっと見てあげようね!?」

 

 ヤバイ、買ってきたパンの美味さに亜香里とアルティーネが夢中になってる!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 さて、今回のルールは一体どうなるか、だな。

 

 ある程度のパターンは組めたが、ルールが豊富すぎてそれ以上は無理だ。多少アバウトになるので、都合のいいパターンになってほしいんだが。

 

 そんな気持ちを持ちながら、俺はルールが決定する瞬間を見守った。

 

 そして設定されたのは―

 

『おぉっとぉ! 今回のルールは試験採用された新規ルール、フォートレス・ハンティングとなりました!?』

 

 ―聞いたことのない新ルールだった。

 

 会場でも騒めきが出るが、それが静まるのを待ってから実況が話を再開する。

 

 同時に映し出される映像には、何やらデカい機械が映っていた。

 

『フロンズ・フィーニクス様提案のこのルール、彼ら大王派の革新衆が提供してくださったこのGF(ギガンティック・フォートレス)をターゲットとする奪い合いとなっております!』

 

 フロンズの奴、色々手広くやっているみたいだな、おい。

 

 正直ちょっと呆れたくなるというか、予算的に問題がないだろうか、それ?

 

 内心で首を傾げながら、俺は気を取り直して説明に耳を傾ける。

 

『もちろん、相手チームの王を打倒することでも勝利となります。当然ですが妨害も自由自在であり、そういう意味では囚われすぎないことも重要な要素となりえるでしょう!』

 

 なるほど。その辺りの比重をどう配分するか、それも大事となるわけだな。

 

 となると、俺達がとるべき選択は―

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、亜香里。パンくずが頬についてるわよ?」

 

「あ、ごめん有加利ちゃん。……あと、食べ過ぎたかも……」

 

「美味しかったー! 帰りにもお土産に買って欲しいかも~」

 

 有加利さんがそれとなく宥めて、二人とも戻ってきてくれたようだ。

 

 とはいえ、今回は特殊ルールとなるだろうね。

 

「問題は、相手がGFという事だわ」

 

 リアス姉さんも既に考え込んでおり、実際困ったルールといえるだろう。

 

 このルール、最大のポイントは倒す対象がGFだという事だ。

 

 GF。それは大王派が開発した、対龍神を将来的な目標とする大型兵器群の総称だ。

 

 数体から百体以上。それらの大型兵器の軍勢で、龍神クラスを圧殺する。その設計の元開発された大型兵器群。

 

 必然としてコストも馬鹿にならないはずだが、こんな運用をフロンズが行うとは思えなかった。

 

 それを分かっているからだろう。比較的経験の長いオカ研のメンバー達は、程度はともかく困惑している。

 

 ただ、リアス姉さんは何かに気づいたようだ。

 

「そういう事ね。やってくれるじゃない、フロンズ」

 

「どういうことだい、リアス?」

 

 イッセー君が首を傾げると、リアス姉さんは苦笑いを浮かべている。

 

「要は一種のテストよ。相応の手練れが集うアザゼル杯で実働データをとり、更なる後継機の礎にするってこと」

 

「……なるほど、それなら少しは納得します」

 

 ロスヴァイセさんがそれを聞いて、小さく頷いていた。

 

「GFはまだまだ発展途上であり、それだけで龍神クラスを倒せるほどではない。だからこそ、相応の力量を持つ者達とのデータを取りたいという事ですか」

 

「かなりの大金が飛ぶでしょうが、それだけの価値があると判断したのでしょうね。……大胆な手を打ちますわね」

 

 朱乃さんも呆れ気味だけど、確かに有効な一手ではある。

 

 ……とはいえ、あれだけの大型兵器となると相当の資金が飛ぶだろう。如何に異形の技術なら修繕費などは比較的軽いと言え、呆れたくなる一手とは言える。

 

「その、よく分からないけど……何を考えているのかしら?」

 

 と、僕らの話を聞いていた有加利さんがそう尋ねる。

 

「なんていうか、それを聞くと少し怖い気がするわ。少なくとも、この大会を盛り上げる為じゃ、無いってことでしょう?」

 

「……私達が聞きたいぐらいです」

 

 小猫ちゃんがそう返すけど、それが本音だろう。

 

 フロンズ・フィーニクス。大王派革新衆と呼ばれ始め、今の大王派を掌握した傑物。

 

 あの男は、一体何を見て行動している……?

 




 フロンズ発案の新ルール。まぁ大体予想はつくでしょうが、奴のことなので先を踏まえた計略です。


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戦愛白熱編 第三十八話 激突、GF撃墜戦(その1)

 はいどうもー! 最近書き溜めがどんどん増えているグレン×グレンでっす! ……ほかの作品も書きながら発散しないとなぁ……。

 まぁそれはそれとして、戦愛白熱戦もクライマックスとなっておりまっす!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんつーか、ちょっと雰囲気が暗くなったな。

 

 フロンズの奴、政敵であって味方とは言いづらいところがあるから当然か。本質的に相容れないし。

 

 ま、俺はその辺が馬鹿だから考えすぎてもあれか。というより、今はそこじゃないだろうし。

 

 よっし、ちょっと気分変えるか!

 

「その辺は、D×D全体やアジュカ様もいる時に考えようぜ! まずは九成達の試合を応援しないとさ!」

 

「そうだな。暗い顔で応援しては、九成もアニルもルーシアも喜べまい」

 

 ゼノヴィアが真っ先に反応してくれて、いい感じで応えてくれる。

 

「ま、それはそうよね? カズ君達の試合をしっかりも届けないと」

 

 リヴァさんもそう言って、缶ビールの蓋を開けるとグイっと一気飲み……一気飲み!?

 

「ぷっは~っ! じゃ、思う存分楽しみながら観戦しましょ~っ! 色々買ってるから、好きな感じで楽しんで……ねっ♪」

 

 ウインクまでするリヴァさんに引っ張られるように、場の雰囲気も明るくなっていく。

 

 こういう時、すっごい助かるなぁ。リヴァさんマジですげぇ。

 

 ……そのリヴァさんを射止めた九成、恐ろしい奴っ!

 

「……人のことは言えませんよ、イッセー先輩」

 

 小猫様!? 人の心を読むのが本当に上手ですよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始と同時に、俺達は移動を開始する。

 

 ある程度グループを分けて散開し、距離を互いに保った状態で、相手のGFを捜索する。

 

 派手に動いているので位置は分かっているが、それは相手チームも同じこと。このルール、基本的に短期決戦(ブリッツ)を主眼に置いているな。

 

 となるとすぐに乱戦となる。それを考慮しつつ、ある程度の即応性と一網打尽にならない安全性を考慮した形となる。

 

 ちなみに俺が率いているのはベルナとヴィーナ。これはキャスリングを配慮したメンバー構成にしていることと、王の俺に対する安全を回復役であるヴィーナを配置して対応したといった形になる。

 

 さて、相手はどう出るかと考えたとき。いきなり来た。

 

「右斜め上に流す、回避!」

 

 声を上げると同時、俺は素早く障壁を多重展開。同時に左下に落ちるように回避行動をとる。

 

 直後、正面の景色を吹き飛ばす勢いで砲撃が放たれた。

 

「……きゃぁあああっ!?」

 

 あまりの威力にヴィーナが悲鳴を上げるが、しっかり回避態勢は取っていたので無事だ。流石だな。

 

 だがやってくれる。もう少し感づくのが遅かったら、今のでこっちも大打撃を受けていただろう。

 

 実際、逸らした方向にある山の上半分がえぐられている。単純火力ならイッセーの真女王に喧嘩を売れるな。

 

 俺がそう感心していると、今度は若人の挑戦チームを狙ったのか別方向に砲撃の余波が飛んでいる。

 

『若人の挑戦チーム、兵士二名リタイア』

 

 向こうは捌ききれなかったらしい。そういう意味では幸先がいいか。

 

「勘弁してくれよあの旦那は! とんでもないものを量産しようとしてるなぁ、おい!」

 

 ベルナがフロンズに悪態をつくけど、そこに関しては本当に同意見だ。

 

「だな。どこから金と資材を集めたんだか」

 

 大型兵器を作るのは簡単なことじゃない。どんなものでも物体なら金と資材と時間がかかる。異能使いたい放題なら時間はだいぶましだろうが、金と資材は一瞬で湧いて出てくるわけでもないだろう。それを集めるのにまず時間がかかる。

 

 戦闘機ですら新品なら百億円を超える場合がざらにあると聞いている。製造工程を異能で省略できるならそのあたりは安く済ませられるだろうが、資材を用意する関係上、あのサイズなら数百億円はかかるだろう。維持にだって金がかかるはずだ。レーティングゲームで壊していいような安物なわけがない。

 

 その辺りの絡繰りも気になるな。あの野郎に限って捕まるような不正は可能な限り避けてるとは思うけどな。ほら、表立った活動で不正をするタイプじゃ断じてないし。

 

 とはいえ、金も資材もありすぎだろ大王派。絶対何かしらの裏があるだろ、あれ。

 

「……よ、余裕だね。あんな砲撃が飛んできたのに」

 

 ヴィーナがちょっと呆れてるけど、ねぇ?

 

「あれ以上の火力持ちが、俺達の近くに何人いると思ってるんだ?」

 

 イッセーとか、リアス先輩とか、ゼノヴィアとか。あとリヴァ先生もやろうと思えば一発ぐらい撃てそうだしな。

 

「クリムゾン・ブラスターぐらいなら模擬戦でも使う時あるからなぁ?」

 

 ベルナもちょっと遠い目をして言うと、ヴィーナは軽く引いている。

 

 いや、模擬戦でも大技を撃っておいた方がいいからな。使い慣れるのはいいことだし、大火力攻撃に慣れておくと敵が撃ってきても対応しやすいし。

 

 ……まぁ、イッセーのクリムゾン・ブラスターとかを比較対象にできるというのがシャレにならないんだが。

 

 さて、それは置いておいてだ。

 

「そろそろ接敵するぞ、気合入れろ!」

 

 俺はそう叫びつつ、障壁を展開。

 

 そこに攻撃が当たっていくが、やはり若人の挑戦チームが動いていたか。

 

 相手は俺達より格下が多いだろうが、それでもアザゼル杯で更に鍛えられている。そこに出し惜しみなしで出し切る姿勢がある以上、脅威になりえることは間違いない。

 

 油断は禁物。気合を入れていくとするか。

 

 そう思った瞬間、上空から何かが飛んでくる。

 

 あ、これルーシアだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、両チーム接敵! GFを狙いつつ互いが互いを妨害する戦いが始まりましたー!』

 

 実況の方が声を張り上げ、そしてフィールドで戦闘が激しく展開される。

 

 双方ともに戦いの練度は高く、熾烈な争いが繰り広げられる。

 

 若人の挑戦チームはいつも通り、リュシオンさんはすぐに介入しない大勢だ。

 

 この段階でどこまで若人の挑戦チームが消耗しないか。それが戦いのカギを握るだろう。

 

 もっとも、リュシオン・オクトーバーは単独で戦局をひっくり返しかねない。彼はある意味で光を極めた精神性とは異なる極限。あの場においては間違いなく最強戦力といえる。

 

 九成君のグループは、一番数が多い相手と接敵している上、更に別のグループが合流している。

 

 ただし、戦局は優勢……というより、完全にしのげている。

 

「ルーシアの支援砲撃、完全にしのいでましたね」

 

「だよなぁ。全部障壁を間に合わせて流すとか、相も変わらず九成は防衛に長けすぎだろ」

 

 小猫ちゃんとイッセー君が感心するやら呆れるやらだけど、レイヴェルさんは警戒の色が濃い。

 

「いえ、あれは味方が合流する隙を作る為の陽動ですわね。あえて目立つ撃ち方をして気を引いてますわ」

 

 なるほど。九成君達を最も警戒し、それに見合った対応をしているという事か。その辺りはルーシアさんらしいね。

 

 そしてそのルーシアさんは、アニル君と一緒にそれぞれ一班を組織して、九成君達の別動隊に迫っている。

 

 どうやら足止めを主体として動いているようだ。まぁ、最上級悪魔も見えた行舩三美と武山黒狼がいる以上、手練れが出るほかないだろう。

 

 そして、GFの方には若人の挑戦チームの女王が動いている。

 

 確かカーミラ側の吸血鬼だったはずだ。上級吸血鬼でありハイデイライトウォーカー。確かエルトーナ・バルトリだったか。

 

 GFの猛攻をしのぎながら、打たれ強いメンバーで散発的に攻撃を当てている。

 

 現状は様子見なんだろう。問題は、現在は膠着状態に近いところがあるという点だ。

 

「さて、リュシオン・オクトーバーをどうやって投入するかが肝でしょうね」

 

「そうですね。流石に九成君レベルとなると、リュシオン・オクトーバーが必要ですわね」

 

 リアス姉さんと朱乃さんが分析するが、確かにそうだろう。

 

 GFの性能は間違いなく高い。真っ向から撃破するとなれば、両チームともに九成君やリュシオンさんが必須となるだろう。

 

 だが、どのタイミングで出すのだろうか。

 

『運がいいのか悪いのか。全て撃ち落とします!』

 

『特筆無しにあのメンバーと肩を並べただけはあるっ!』

 

 ルーシアさんは行舩さんの準神滅具のオールレンジ攻撃を、全て砲撃で弾き飛ばして膠着状態に持ち込んでいる。

 

『やるじゃねえですかい! つーか、絡繰りあるっすね?』

 

『まぁ、そうですね。だからこそ最上級悪魔候補でしたので』

 

 アニル君はヘキサカリバーをもってして切りかかるが、武山黒狼はそれを素手でいなしている。

 

 聖剣を悪魔が素手でいなすとは、当然絡繰りがあると考えるべきだ。

 

 双方ともに膠着状態。さて、どちらもどう出るか。

 

 そう思ったとき、動きがあった。

 

『……なら、そろそろ出番かな?』

 

 その言葉と共に、フィールドに広がる大きな力。

 

 素粒子そのものが展開され、GFが余波で一瞬揺らぐ。

 

「ここで来るのか」

 

「意外と早いわね」

 

 ゼノヴィアと成田さんが気配を鋭くさせる中、光となって突貫した存在は、GFの前に立ち塞がる。

 

「……いい機会だし、目に焼き付けると良いですよ」

 

 シャルロットは、そうアルティーネや、亜香里さんに有加利さんを促した。

 

「あの男こそ、教会が誇る最強戦力の一角。神の子に続く者(ディア・ドロローサ)ことリュシオン・オクトーバーです」

 

 降臨する、あの場における最大戦力。

 

 リュシオン・オクトーバーが、ここに君臨した。

 




 さぁて、最強戦力が割と早期に投入! それだけのポテンシャルを和地たちが持っているからこそですが、ここからいきなり大激戦ですぜぇ?


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戦愛白熱編 第三十九話 激突、GF撃墜戦(その2)

 はいどうもー! 最近肩こりに悩み気味なグレン×グレンです。

 そういうわけで、VSリュシオンチームとの戦いは続きますよー?


 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を、フロンズ・フィーニクスはVIP席で観戦していた。

 

 そのVIP席は彼のものではなく、九条・幸香・ディアドコイのものだ。

 

「さて、そろそろ実証実験に適切になってきたようじゃのぉ?」

 

「ああ。現段階では神滅具使い相手でもそれなりの足止めはできるレベル。だが、それぞれの神滅具が相手となると簡単にデータは取れないからな」

 

 幸香と共に、フロンズはそう検証の姿勢を隠さない。

 

「……まぁ、エルゴン・クラブ単体で至った神滅具使いを倒せるなんて考えないけどね。流石に毎度毎度やられているのを見るともうちょっと頑張ってほしい気はするよ」

 

 そう返すのは、フロンズに連れられた妙齢の女性。

 

 彼が眷属として抱える腹心。名をリザーネという。

 

「美しいものが汚れ朽ち果てるのは好きじゃない。必要とはいえ、毎度毎度だと心が痛むものさ」

 

 そう役者ぶった身振り手振りで語るリザーネに対し、幸香は首を傾げて見せた。

 

「……美しい? むしろ無骨に見えるがのぉ?」

 

 幸香の言い分も当然だろう。

 

 今回投入されたGF(ギガンティック・フォートレス)。エルゴン・クラブと呼ばれたそれは端的に言ってごつい。

 

 はっきり言って芸術品とは見えない機体だが、リザーネは首を横に振ると自慢げな表情すら見せている。

 

「美しいさ。芸術的な美と機能性の美は異なるものだ。あれはある意味で機能美の体現者といえるからね」

 

「まぁ、その辺りは置いておこう。問題はリュシオン・オクトーバーだ」

 

 フロンズはとりなしながら、その上で鋭い表情を浮かべている。

 

 映像越しのリュシオン・オクトーバーは、エルゴン・クラブを相手に終始優勢に立ち回っている。

 

 胴体の左右から放たれる砲撃をいなし、両腕のクローによる攻撃を弾き飛ばす。エルゴン・クラブはさらに全方位からのオールレンジ攻撃を仕掛けるが、これすら足止めにしかなっていない。

 

 エルゴン・クラブは、対龍神級用兵器であるGFの一種である。

 

 三胴型の機体であり、左右の胴体は丸ごと疑似反物質粒子であるアザトースによる砲撃ユニット、更に挟むようにして大型のクローが装着されている。

 

 もとより大型異形用で、人間サイズとのタイマンは用法からずれる。だが、下手な最上級悪魔なら押し潰せる性能がある。

 

 更にそれらの対処の為、最大36機のスケイルビットを展開可能。一機一機がデビルレイダー三人分の戦力となり、その援護で有象無象を捌きつつ、大火力で圧殺ができる。

 

 だが、それをもってしてもリュシオンは慎重に立ち回っている。

 

 自身が王ゆえに慎重さが必須。だからこそもっているだけというほかない。

 

「……やはり複数機による連携が必須か。コンセプト上仕方ないとはいえ、神の子に続く者相手ではこれが限界のようだね」

 

「仕方ないねぇ。ま、そこから先は要研究ということですかな?」

 

 互いに苦笑を浮かべながら、フロンズとリザーネはそう結論付ける。

 

 だが、同時にそれで終わらない。

 

「さて、かの涙換救済(タイタス・クロウ)はどう出るかな?」

 

「同感だ。彼は中々インスピレーションを刺激するから、楽しみだよ!」

 

「ふふ、まぁそうじゃのぉ」

 

 今度は幸香も加わりながら、彼らは試合を見守っていく。

 

 未来を見据え、勝利を望む。

 

 大王派革新衆は、今この時も牙を研ぎ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずいな。リュシオンがGFと接触したか。

 

 撃破されるのは時間の問題。これは気合を入れて対応を考えるべきだ。

 

 厄介なのは、メンバー全員がリュシオンやGFに近づけていないという事。その辺りも考慮した立ち回りをされていたようだな。

 

 ようは、キャスリングをされても問題ない位置取りの確保。どこにキャスリングされようと、問題点が変わらないのなら対応できる。そういう戦術だろう。

 

 ……なるほど。なら、シンプルにいこう。

 

「総員、プランBに移行!」

 

 俺は声を張り上げ、そして素早くショットライザーを装着。パラディンドッグを使用する。

 

 リュシオンをどうにか抑え込む。これは俺達にとって必要最低条件といえる勝利の方程式だ。

 

 単純に奴が強すぎる。そして抑え込めるのは俺ぐらいであり、だからこそ、俺が出張る必要があるという単純すぎる要素だ。

 

 ゆえに、こちらも遠慮はしない。

 

「ベルナ、ヴィーナ! 黒狼達と合流してプランBどうりに! 俺はリュシオンを抑える!」

 

「OKだ! 行ってこい!」

 

「が、頑張ってね!」

 

 ベルナとヴィーナの声を受け、俺は即座に対応する。

 

 ……さて、遠慮なくやらかすとしますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと気づいた時、リュシオンさんの近くに九成が迫っていた。

 

 え、速い!?

 

 俺達すら気づくのが遅れる、超高速移動。リュシオンさんすらまだ気づいてない。

 

「――ッ!?」

 

「――チッ!」

 

 ぎりぎりでリュシオンさんが気づき、九成の奇襲は防がれる。

 

 ただ、九成も速度に振り回されていたところがあるな。だからこそ、気づくのに遅れながらリュシオンは捌けた。

 

 裏を返すと、あの九成が速度に振り回されたわけで。どんな方法で移動したんだよ、あいつは!?

 

「パラディンドッグということは、禁手かしら?」

 

「……問題は、どの禁手を使ったのかという事ですわ」

 

 リアスとレイヴェルが推察する中、九成は体勢を立て直すとリュシオンさんと真っ向勝負を繰り広げる。

 

 流石に戦えているけど、リュシオンさんだって歴戦の猛者で傑物中の傑物だ。九成の攻撃を的確に捌き、打撃と素粒子で反撃を加える。

 

 九成も障壁でしのいでいるけど、完全に九成が抑え込まれている状態だな。

 

 ……苦し紛れってわけじゃないだろう。ただ、どうするのか。

 

 そう、思った瞬間だった。

 

『じゃぁ、もう一つ行くぜ!』

 

 ―その瞬間、九成とリュシオンさんの姿が消える。

 

 え、え……なに!?

 

「なんだなんだ!? 強制転移!?」

 

 思わず俺は声を上げるけど、実況が応えるように素っ頓狂な声を上げたのはその直後だ。

 

『こ、これはぁ!? 映像を展開します!』

 

 そう慌てた様子の実況が伝えると、そこに新たなる映像が映し出される。

 

 ……え、ちょ、これは―っ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少し前、リュシオン・オクトーバーは間違いなく驚愕していた。

 

 傑出しすぎているその精神性ですぐに冷静さを取り戻しているし、動揺している時も十全の対応準備は取れている。だが、それでも驚愕に値する。

 

 そこは、レーティングゲームのフィールドではない。

 

 まるで青天の昼間のように、青く輝く星空。

 

 幻想的とすら思える、銀に輝く雪原。

 

 それが広大に広がる、寂しさのない誇らしさすら感じる世界。

 

 そこに、九成和地はリュシオン・オクトーバーと向き合い構えていた。

 

 リュシオンは、そのずば抜けた精神性ですぐに思考する。

 

 そして、すぐに答えが出た。

 

鮮血の聖別洗礼(パプテマス・ブラッド)の禁手かい?」

 

「厳密には、残神との合わせ技だな」

 

 そう返す九成和地は、星魔剣を創造すると素早く構える。

 

 どこかもの悲しさを覚えてもおかしくない世界で、しかし寂しさは感じない。

 

 それは、この風景がどこまでも前向きな思いに満ちた心象風景だからだろう。

 

 そう、これこそが九成和地の固有結界。

 

 鮮血の聖別洗礼という、所有者を強化する神滅具。その禁手と残神により作り出される、涙換救済(タイタス・クロウ)の更なる真骨頂。

 

 今ここに、壮絶な決戦の幕が上がる。

 




 【カズヒLOVE】和地、比翼が好きすぎるあまり固有結界を疑似生成【超極まった】

 いやぁ、対リュシオンなら隠し玉の一つぐらいいるよなぁと思ったら思いつきました、神器の力で疑似固有結界!


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戦愛白熱編 第四十話 激突、GF撃墜戦(その3)

 はいどうもー! ちょっと早起きしまくっているグレン×グレンでっす!

 さぁ、戦闘も佳境に差し掛かっておりますよー!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 結構前から考えていたことがある。

 

 カズヒのように、俺も固有結界を使いたい。

 

 好きな女とお揃いになりたいという、まぁシンプルと言えばシンプルな考えだ。

 

 だが困難だ。ほぼ不可能と言ってもいい。

 

 固有結界はほぼ先天的異能といってもいい。似た様な結界を構築するだけなら可能だが、瞬間的に発動して世界を塗りつぶすとなると、才能の世界だ。

 

 だから悩みに悩んで諦めようとはしていたが、状況が変わった。

 

 鮮血の聖別洗礼(パプテマス・ブラッド)。固有の異能を与え、所有者を進化させる神滅具。

 

 これを応用すれば、疑似的に固有結界と同等の異能を発動することはできるのでは。俺はそれを思いついた。

 

 更に残神という手段を俺は使えるということを思い至り、割と数か月考え続けていた。

 

 問題はただ一点。自力で至るのは困難に極大が付くレベルだという点。

 

 だがそこで、俺は発想を転換した。

 

 自力で至れないのなら、人工的に至ればいい。

 

 神の子を見張る者的には、やはり天然の心の覚醒を尊びたいだろう。その方が可能性があるとは思う。

 

 だが人工的な方法は、メソッドが確立されているがゆえにやり方さえ再現すれば至れる。そしてそれは、考えようによっては狙って禁手を選ぶ余地だってある。

 

 ゆえに、これでもずっと考えてきた。

 

 資料を探り、調べ続け、一生懸命頑張って、メソッドを確立。

 

 ……さぁ、お披露目だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 す、すげえええええええええっ!?

 

「ファァアアアアアアアッ!?」

 

 あ、南空さんが面食らってめっちゃ大声を上げてる。

 

「え、ちょ、固有結界!? なんで!?」

 

「落ち着いて、鶴羽。うん……私も驚いてるけど」

 

 慌てまくっている南空さんをオトメさんが宥めてる中、俺もちょっと困惑しているので後ろを振り返る。

 

「できるの、そんなこと!?」

 

 固有結界って、基本的に先天的才覚オンリーの技なはずだけど。

 

 そもそも固有結界を出せる魔術回路じゃないとできないし、魔術回路がほぼ先天的な要素。だからできない奴は一生できない。そういう才能重視の世界だったはずだ。

 

 九成って、固有結界ができる魔術回路じゃなかったはずだけど。

 

「……なるほど、そういう事ねぇ」

 

「分かったの、リーネス?」

 

 リーネスがしたり顔になっているのにリアスが気づいてくれた。

 

 流石は天才的研究者のリーネス。元々名門魔術回路保有者だったしな。むしろ専門家だった。

 

「おそらくは、鮮血の聖別洗礼(パプテマス・ブラッド)ねぇ」

 

 鮮血の聖別洗礼か。

 

 ヴィールが倒した褒美と成田さんを任せる為に押し付けたと言っていい、神滅具の一角。

 

 九成は無理やり移植されたからちょっと手古摺っているけど、神滅具だからかなりやばいよなぁ。

 

 で、それが何なんだ?

 

「いきなり固有結界なんてできんの?」

 

 俺はちょっと分かんないで首を傾げるけど、リーネスも考えながら頷いていた。

 

「おそらくは、魔術回路の強化にリソースを振った禁手ねぇ。残神も併用して使ってるとみていいわよぉ」

 

 なるほど。

 

 禁手を魔術回路に割り振った禁手にしたのか。それならまぁ、出来るのか。

 

 神滅具の禁手ってやっぱりすげえよなぁ。九成もやるじゃん。

 

 そしてそんな九成は、リュシオンさん相手に激戦を繰り広げていた。

 

 というより、九成のポテンシャルがなんか強化されてないか?

 

 なんていうか、打撃力とか機動力とか防御力が数段上に跳ね上がっている。

 

 更にリュシオンさんが素粒子砲撃を放つけど、九成は障壁でそれを防いでいる。

 

 ……結構デカい威力な気がするけど、抜き打ちの二枚で捌いたぞ。

 

「あの固有結界、カズヒを参考にしているのかしら?」

 

 リアスがそう言うと、リーネスも頷いている。

 

 あと、なんか苦笑してるし

 

「ありえるわねぇ。たぶんだけどぉ、あの禁手か残神は、固有結界が使いたい(カズヒとお揃いになりたい)が根幹でしょうしねぇ」

 

『『『『『『『『『『あぁ~』』』』』』』』』』

 

 みんなで納得したよ。

 

「カズ君ったら、こういう所は素直に可愛いんだから~」

 

「和っちって、こういうところ……その、凄いわよね」

 

 ニッコリ笑顔のリヴァさんも、ちょっとむっつりしている成田さんも、顔が結構赤くなってる。

 

 これが、モテる上にヤレる男の強みというのか……っ

 

 思わず戦慄を覚える中、俺の視界の中でリュシオンさんと九成の戦いは更に激しくなっている。

 

『ならこれでいこうかっ!』

 

 そう吠えるリュシオンさんは、九成が展開した障壁を断ち切って突貫する。

 

 それを九成は星魔剣で受け流すけど、少し星魔剣が削れている。

 

 素早く取り換えながら対応するけど、リュシオンさんは素粒子の放出をスラスターにしている。あれでは今の九成でも突破は難しいか。

 

 というより、さっきのような大出力を発揮してないな。

 

「そういや、固有結界は魔力消費が激しすぎるんだっけか?」

 

 俺はふと思い出したことを呟いた。

 

 燃費が滅茶苦茶悪いのが欠点だったよな。なんでも、結界の維持だけで魔力消費が尋常じゃないとか。

 

 九成は魔力量が絶大だけど、固有結界の維持には限度があるってことなんだろうな。流石にそんなに無体なことはできないか。

 

 カズヒの固有結界も、魔力量だって大きくするけどそんなに全力戦闘はできないしな。

 

「固有結界。確かに強大な力だけど、限界はあるという事か」

 

 ゼノヴィアも納得しているのか頷いているけど、なんか首を傾げている人もいる。

 

 南空さんやリーネス、ロスヴァイセさんだな。

 

 三人ともそういうのに詳しい側だけど、もしかして間違ってたのか?

 

 俺が首を傾げた時、更に戦線は大きく動いていた。

 

 あ、なんか凄いことになってる!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 九成君とリュシオンさんの戦いに気を取られていたけれど、他の戦いも大きく動いている。

 

 最強戦力が隔離されたことで、双方のチームが戦術の変更を強いられている。そしてそういう状況において、即座に対応できるのはそれを想定しているチームだ。

 

 結果として涙換の救済者チームは一時的に若人の挑戦チームの足止めを突破。GFを巡っての争奪戦に近い様相を示していた。

 

『なめんじゃねえってね! こうなりゃ俺が切り捨てる!』

 

『させないよ! 君の足止めは必須だからね!』

 

 アニル君が援護を受けながらGFに切りかかろうとするけれど、割って入った枉法さんに妨害を受ける。

 

 おそらく、火力的にGF撃破の可能性が最も高いのは、隔離された二人を除けばアニル君だ。

 

 ヘキサカリバーの持ち主である彼は、単純攻撃力ならあのチームで三番手。更にヘキサカリバーの性質上、対応量は凄まじいと言っていい。

 

 だからこそ、当然だけど妨害を受ける。

 

 枉法さんは星辰光の性質上、機動力において非常に優れている。だからこそ、その俊敏な機動性能でアニル君を足止めしている。

 

 足止めしているけど、何かが妙だ。

 

 振われる二刀流の刺突攻撃だが、当たると共にアニル君を大きく弾き飛ばしている。ヘキサカリバーで受けることはできているにも関わらずだ。

 

 枉法さんは確かに腕は立つけれど、攻撃力は決して高い方ではない。あそこまでアニル君を弾き飛ばせるノックバックを生み出せるのだろうか?

 

 ……これは、他にも多数の隠し玉がありそうだね。妙な違和感もあるし。

 

『気を付けて、砲撃くるよ!』

 

『分かった、ヴィーナお姉ちゃん!』

 

 そしてGFも両チームを狙い、大火力の攻撃を逐一入れている。

 

 両チームが警戒担当を用意するなどして対応しているが、当たれば一撃でリタイアするような攻撃が飛んでいる。

 

 ザンブレイブ姉妹がそれに気づいて動いているが、これは厄介になりそうだ。

 

 ……個の質の平均なら涙換の救済者チームが上だ。だが数で若人の挑戦チームが上だし、連携で十分カバーができている。

 

 どちらのチームも決定打を与えきれず、GFにも意識を割かないといけないので決定打を入れられていない。

 

 この戦い、やはり長引きそうだね。

 

「……そういえば、なんでリスタートは使わないですか?」

 

 その時、ギャスパー君が首を傾げてそう言った。

 

 そういえばそうだね。

 

 仮面ライダーリスタート。九成君とカズヒが到達した、新たなる仮面ライダー。

 

 間違いなく強大な力を秘めており、二人の最強形態と言っても過言ではない。

 

 それをいまだに使っていない。言われてみると、確かに違和感が大きいな。

 

 開発者のリーネスにしても、少しは使って欲しいと思ってもおかしくないだろう。

 

 そう思って振り返ってみれば―

 

「え? 使えないわよぉ?」

 

 ―リーネスはそうきょとんとして返していた。

 

 え?

 

 僕達が首を傾げていると、リーネスが逆に首を傾げ直す。

 

「どういうことですか、リーネスさん」

 

「いえ、だからリスタートバックルが使える状況じゃないわよぉ?」

 

 レイヴェルさんにそう答えるリーネスに、南空さんがふと気づいてその肩に手を置いた。

 

「あの、リーネス。もしかして言ってないんじゃない?」

 

「……あ~。そういえば状況が状況だったから、説明が足りなかったわねぇ」

 

 南空さんの言葉で気づいたのか、リーネスはポンと手を打った。

 

「リスタートバックルはクリムゾンユニットと同じで、相互連携必須の追加ユニットなのよぉ」

 

「あ~、そりゃ無理じゃん」

 

 と、リーネスの説明でヒツギさんが納得の表情を浮かべていた。

 

「ゲームのフィールドが違うレベルで離れてたら、クリムゾンユニット使えないし。まして今、カズヒは全然別の場所にいるもんね」

 

 ちょっと苦笑い気味で、ヒツギはクリムゾンユニットを取り出しながらそう言った。

 

 なるほど。相互に同期させることで、初めて機能するユニットだったのか。それは使えない。

 

 あのユニット、そんな弱点があったとは。

 

「……また不便な制限だね」

 

 ゼノヴィアは少し同情の表情を浮かべているけど、リアス姉さんやレイヴェルさん、リヴァさんは違った表情だった。

 

「なるほど、コンセプトがそもそも今回の状況に合致してないのね」

 

「根本的に対ミザリ。カズヒさんがミザリと決着をつける為の切り札であり、攻撃特化の彼女に防御に長ける和地さんを組ませての戦闘が基本だと」

 

「まさかアザゼル杯で、二人揃って別のチームの王になるなんて前提を立ててるわけがないわね~」

 

 なるほど確かに。

 

 九成君とカズヒは、ポテンシャルが上手くかみ合っているからね。

 

 安定性と防御性能の九成君。爆発力と殲滅性能のカズヒ。二人は方向性が正反対ながらも、相思相愛の関係であり、連携させる時のかみ合いが凄まじい。

 

 そのタッグで、カズヒにとって最大レベルの目的ともいえるミザリ打倒を踏まえた決戦兵装を用意する。それが仮面ライダーリスタートの本質か。

 

 つまり、アザゼル杯でリスタートは使えない。

 

 連携で使用するのなら、アザゼル杯で使われることはまずないだろう。これはちょっと残念かな?

 

 そう思った時、更に戦場は大きく動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づいた時、九成は大きく弾き飛ばされていた。

 

 星魔剣は断ち切られ、仮面ライダーの装甲も浅くだが切り裂かれている。

 

 それを成したのは、リュシオンさんが持つ二振りの剣。

 

 二人は揃って着地して睨み合うけど、状況が大きく動いているのは間違いない。

 

 っていうか、ちょっと待て。

 

 あれは、あの剣は……っ!?

 

『な、な、なんとぉおおおおおっ!? あれは、デュランダルだぁああああああああああっ!?』

 

 なんでデュランダルが、二本も!?




 意思の覚醒で至れないなら、人工的に至ればいいじゃない!

 そんな発想で、和地、ついに固有結界の疑似再現!



 それはそれとして、長らく指摘されていた「試合でリスタート使えば?」案件についての説明も。

 リスタートバックルは基本的に「和地とカズヒが連携で敵に相対する」状況を大前提にしているので、まったく別の戦場で戦っている場合は使えないという欠点があるのです。
 なので、基本的に二人が別々の試合で頑張っているときにリスタートは出てこないです。

 ……というか、リスタートが完全上互換なので、リスタートばっかりにならないようにするにはこういう細工が必要不可欠なのです。二人が別々のチームで参加する、メタ的な理由の一つでもあったり。




 そしてリュシオンもただではやられない!

 悪夢のデュランダル二刀流!


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戦愛白熱編 第四十一話 激突、GF撃墜戦(その4)

 はいどうもー! 今書き溜めは「そろそろ敵も動き出すよね」的な展開になっているグレン×グレンでっす! いろいろ悪の組織もがんばっちゃうぜー!

 それはともかく、VSリュシオンの戦いもそろそろ終わりが見えてきたぜぇええええ!


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振るわれる斬撃が、九成君の障壁と魔剣を切り裂いていく。

 

 振われるその猛攻をしのぐ九成君は、しかし防戦一方になっているのが実情だ。

 

 当然だろう。素粒子による圧倒的な砲撃。そこにデュランダルという圧倒的暴力が追加されているのだ。

 

 デュランダルの性能は、間違いなく真に迫る。当人の気質と素質もあってゼノヴィアやストラーダ猊下ほどの切れ味を発揮していないが、それでも圧倒的な攻撃力だ。並みの最上級悪魔なら秒で撃破されているだろう。

 

 そんな攻撃を前に、凌いでいる九成君が凄い。圧倒的な防戦能力は、あの猛攻を前にしても凌ぐことができている。

 

 だが、それでも状況が不利になっている。

 

『……やってくれますね。ありえそうな禁手なのがまた厄介ですよ』

 

『まぁね。こちらも新技の一つ二つは用意するさ』

 

 苦笑いを浮かべる九成君に、リュシオンさんも微笑で応える。

 

聖剣の超錬成(オルランドゥ・デュランダル)。見ての通り、デュランダルを聖剣因子ごと疑似的に作り出す禁手でね』

 

 そう語るリュシオンさんは、デュランダル二刀流という、ある意味で悪夢を実現している。

 

 デュランダルは伝説の聖剣であり、攻撃力に限定すれば魔帝剣グラムや聖王剣コールブランドという、頂点に位置する伝説の剣と並ぶ。反面、両者と異なり更に一手の特殊性が無いため、聖王剣に最強の聖剣という称号は譲っている。

 

 裏を返すと、純粋な剣としての性能なら最強と同等という事だ。十分以上に恐るべき力だろう。

 

 そんな剣戟を、九成君は何とか捌いている。

 

 これは九成君の対応手段である障壁と星魔剣が、無尽蔵に作り直せる点も大きい。

 

 あの神の子に続く者(ディア・ドロローサ)相手に、真っ向から防衛戦を成立させる。これがどれだけの偉業かなんて、このアザゼル杯を見ている者ならすぐわかる。

 

 神クラスすら打倒し、常に成長し続ける傑物。それに防戦に徹しているからとはいえいまだ通用している九成和地も、涙換救済(タイタス・クロウ)の面目躍如といったところだろう。

 

 いや、旧済銀神(エルダー・ゴッド)なんていう大仰な異名が追加されている以上、これぐらいできなければ話にならないといったところか。

 

 とはいえ、このままだとジリ貧か。

 

 そして固有結界外の戦闘も大きく動いている。

 

『……とったぁっ!』

 

『……くぅっ!?』

 

 アニル君の渾身の一撃が、枉法さんの星魔剣を断ち切った。

 

 これで趨勢が確実に傾くだろう。このままいけば、九成君たちの決着がつく前に終わる可能性もある。

 

 それを、九成君も悟ったのだろう。

 

 彼は一呼吸を入れると、禁手を切り替える。

 

 制約成す勝利の銀剣(カリブリヌス・シルバーレット)。九成君の手札における、最大火力といえる切り札だ。

 

 九成君でも連発困難な魔力消耗と引き換えに、絶大極まりない魔力斬撃を放つ対城宝具クラスの魔剣を創造する。絶大な魔力量を誇る九成君だからこその禁手。

 

 リュシオンさんもそれを理解し、迎撃の体勢に切り替える。

 

 互いが互いに向き合い、そして呼吸を整え―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、戦闘の趨勢がひっくり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この瞬間を、待っていた!

 

 俺はためらうことなく固有結界を解除。それと同時に、念話で確認済みの対応をとる。

 

「キャスリング!」

 

 その瞬間、俺の視界に映るのは若人の挑戦チームの姿。

 

 それを理解したうえで、俺は躊躇することなく振り返る。もちろん背中は従士にカバーさせたうえでだが。

 

 そしてその方向には、しっかりと見えるGFの姿が。

 

 判断は一瞬。躊躇することなくぶっ放す。

 

「制約成す勝利の銀剣ぉおおおおおおおおっ!!」

 

 放たれた魔力斬撃は、一瞬でGFの片腕を断ち切った。

 

 これがプランB。つまるところ「俺を囮にした俺を本命にする作戦」だ。

 

 囮と本命を王に同時進行させる頭のおかしい作戦だが、あらゆる意味で俺のポテンシャルを前提にした作戦といえる。

 

 まず、自分で言うのもなんだが防御性能が高いこと。事前に準備をしまくった上、隠し玉も複数切った足止めだ。かのリュシオン・オクトーバーであろうと、数十分はしのげると判断された。

 

 次に攻撃手段だ。そもそも根本的な問題として、俺たちのチームで最もGFを打倒できるのは俺の制約成す勝利の銀剣。いくつかの伏せ札もあるにはあるが、圧倒的にこれが一番効果的だ。

 

 そして三つ目が、隠し玉である固有結界そのもの。固有結界によりリュシオンを俺事完全に隔離できるのは大きい。更に固有結界解除に関しても、ある程度は融通を利かせる余地がある。

 

 つまり作戦はこうだ。

 

 プランBに移行し次第、俺は強引にでもリュシオンに接敵し固有結界で隔離。

 

 その間に位置取りを変更し、キャスリングして振り返ればGFが狙える位置取りを誰かが確保。その後、インガ姉ちゃんが星魔剣を弾かれるなり破壊されるなりを演じることで俺に合図を送る。

 

 それに合わせて固有結界を解除してキャスリング。従士を盾にしつつ俺が制約成す勝利の銀剣で一気に仕掛けに行く。

 

 見事にはまり、俺はこうして一撃を当てることに成功。ここまでくれば一気に仕掛ける。

 

 だからこそ、一気に仕掛ける!

 

「速攻で、畳みかける!!」

 

 俺はそう吠え、そして一気にGFに接近する。

 

 従士は後ろの連中の足止めに残しつつ、一瞬で足止めの攻撃を回避し、攻撃端末を引き離した。

 

 そして一呼吸を入れ―

 

「もう一発!」

 

 ―制約成す勝利の銀剣、二発目。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二発目ぇっ!?」

 

 思わず、俺は思いっきり素っ頓狂な声を上げた。

 

 え、二発目? もう二発目!?

 

 九成の魔力量でも、それはちょっと難しいんじゃないか!?

 

 だって、固有結界をさっきまで使ってた後だぞ!? そんな状態で更にもう一発とか、間違いなくガス欠になってるだろ!?

 

「チャージ速度が速すぎるって! あいつ、この試合で死ぬ気!?」

 

「どういうこと? 魔術回路はその性質上、そんな簡単に供給量を増幅できるわけじゃなかったはずよ?」

 

 南空さんもリアスも動揺している。っていうか、俺達だって動揺している。

 

 ただ、動揺してない人も何人かいた。

 

「まさか……そういうことぉ?」

 

 特にリーネスは、別の意味の動揺って感じがしている。

 

「な、何か分かったのリーネス!? 田知……和地は死なない!?」

 

 気が気でない様子で、オトメさんがリーネスの方に振り向いた。

 

 そりゃお母さんだしな。息子が死にそうになってたらそうなるだろ。

 

 顔もちょっと青いし。無謀なことをしてる風に見えるから、そりゃ血の気も引くって。

 

「だ、大丈夫なの!? 武山さんなら無茶はさせないと思うけど……大丈夫!?」

 

「はいはい落ち着いてー。たぶん大丈夫だからね、マァマ?」

 

 と、慌てているオトメさんをリヴァさんが宥めている。

 

 さらりとママ扱いしているけど、こんな調子だからちょっと気が抜けるのがいいところだよなぁ。

 

「そうですね。流石は九成君というか、そう来たかというか……」

 

 ロスヴァイセさんの方は呆れ気味だ。まぁこの辺りは性格の違いが出るよなぁ。

 

 でもロスヴァイセさんが呆れるとなると、多分だけどかなり滅茶苦茶なことしてるんだろうなぁ。

 

 で、答えは?

 

 そんな視線をリーネスに向けてみると、リーネスは苦笑を浮かべた。

 

「簡単に言うと、固有結界は禁手じゃなくて残神の方ってことでしょうねぇ」

 

「どういうことですか?」

 

 アーシアが首を傾げると、リーネスはちょっと肩をすくめる。

 

「推測だけれどぉ、和地が至った聖血の禁手は「魔術回路中心の大幅強化」でしょうねぇ。戦闘中に攻防速が時折強化されていたあたり、魔力生成と魔力放出に特化したと思われるわぁ」

 

 まりょくほうしゅつ?

 

 俺達が首を傾げていると、リーネスは更に小さく頷いた。

 

「要は魔力のジェット噴射。瞬間的に魔力で能力を増強するといったところねぇ」

 

 なるほど、瞬間的にブーストをかけているのか。

 

 で、リーネスはそこで更に指を一本立てる。

 

「そして、その増強された桁違いの魔力量なら固有結界にも対応できる。だから残神で固有結界を作ったのよぉ」

 

「固有結界は確かに強力ですが、燃費の問題もあって粗もあります。だから禁手でまとめて固有結界を得るのではなく、残神で固有結界を会得することを大前提とする禁手にしたという事でしょう」

 

 ロスヴァイセさんが補足するけど、そういう事かぁ。そりゃ呆れる。

 

 っていうか、固有結界になってから魔力放出を使ってた辺り……リュシオンさんも騙すつもりだったな。

 

 最初から固有結界は足止め目的で、解除して油断したところで更に戦術的に畳みかけると。怖いな、あいつ。

 

 それとも、武山さんが思いついたのか? 歴戦のゲームプレイヤー、怖っ。

 

 残神って超高等技能扱いされているんだけど、あいつポンポン作りすぎだろ。というか、思いついてからのあいつは禁手と残神が最初っからワンセット運用するレベルだし。あれ、アザゼル先生が呆れるぐらいの超高等技術なんだけどなぁ。

 

 さっすが先駆者。あいつ、俺のこと笑えないよなぁ。

 

 そしてリヴァさんは、小さく微笑みながら九成を見る。

 

「ふふ、頑張れ男の子。青春の青さってのは勝手に減っていくんだしね♪」

 

 恋するお姉さんの顔だぁ。九成、罪作りな男っ

 

 ただそう思った瞬間、俺の横っ腹に拳が入った。

 

「人のことは言えませんよ、イッセー先輩」

 

 ……相変わらず、俺の心を読むが得意すぎですね小猫様。

 




 本格的に解説を入れつつ、戦いも終盤に突入です。

 和地たちはキャスリングを主眼に置いた作戦を主体にする方針にしておりますが、今回はそれを利用した「足止め役が時間と距離を稼いだ上で、キャスリングでGF撃破ん回す」といったものです。

 これは和地が長時間リュシオンを抑えられる可能性を持っていることと、GFを最も撃破しやすい手札を持っていること。そしてリュシオンが相手チームにとってのそれであることを逆手に取った作戦です。可能なら同様の手段を取らせないため、相手チームの戦車を撃破もしくは引き離しておくとモアベター。

 素直に和地が過労死しかねない作戦ですね。最強戦力と最高防御と王を全部兼ねそろえちゃってるからこそのポジションです。





 そして和地の禁手と残神についての外野解説タイムも入りました。

 まぁ実際のところ「禁手で固有結界を扱える余地を含めて魔術回路を強化」したうえで「残神で疑似的に固有結界を獲得」です。性質としては「王の軍勢」みたく、当人の魔術適性の完全開放ではなく固有結界という形を持った別個の奥の手に近いでしょうか……いや、王の軍勢も一人二人なら未展開で呼び出せるし、そうでもないか?

 そして次回、決戦ラストバトルです。本当は一話にまとめるつもりでしたが、盛り上げるためにあえて二話に分けてみました!


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戦愛白熱編 第四十二話 激突、GF撃墜戦(その5)

 はいどうもー! パソコンが新調されまして、ならしている最中のグレン×グレンでっす。

 それはそれとしてちょっと体の節々が痛い。何かやばい病気だとまずいし、ちょっと病院行って検査受けてみるか。収入増えたし。


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想像を絶する禁手と残神を利用した戦術を見せられたけど、そこからの戦闘も激しくなっている。

 

『ヤバイヤバイヤバイ! 押し切られるっ!?』

 

『兄さん! ここは私達で押さえます、かすめ取ってください!!』

 

 アニル君とルーシアちゃんが慌てて状況を立て直そうとするけど、そう簡単に行けるわけがない。

 

『そういうわけにはいかねえなぁ!』

 

『ここは通しません!』

 

 高速移動で動き回りながらのベルナさんの砲撃が足を止め、そこに行舩さんが準神滅具で攻撃を仕掛ける。

 

 これによりルーシアさんは砲撃を味方ごと足止めされ、手一杯。

 

 更にアニル君に対して、シルファ・ザンブレイブが突貫を仕掛ける。

 

『足止め任せたよ!』

 

『任せて! 期待には応えるわ!!』

 

 他の相手を機動力で担当する枉法さんに答え、シルファ・ザンブレイブはマチェットを引き抜いてアニル君を抑えにかかる。

 

 アニル君はヘキサカリバーの天閃担当ゆえに機動力は高い。更にラッシングチーターを併用している事もあり、機動力なら最高峰。

 

 ……だが、シルファ・ザンブレイブはそこで本腰を入れた。

 

『創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌く流れ星!』

 

 その瞬間、シルファ・ザンブレイブは一気に加速し、抜き去ろうとしたアニル君を食い止める。

 

『速いっ!?』

 

『悪いわね、期待に応えるのは得意なのよ!』

 

 更に全方位から刃が迫り、アニル君は支配を利用しながらも足止めされる。

 

 ……そして、鬼札であるリュシオンもまた抑え込まれた。

 

『創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌く流れ星』

 

 星を開帳した黒狼さんが、真正面からリュシオンさんの素粒子を弾き飛ばし、デュランダルの斬撃すら凌いでいく。

 

 というより、瞬間的な打撃に強い聖なるオーラを感じる。あれがヘキサカリバーとも打ち合った仕組みの正体か。

 

 聖なるオーラに関係する星辰光。これは大きな要素となるだろう。

 

 リュシオンさんもすぐに対応し続けるけど、武山さんはそれを強引に押し切っている。

 

 打たれ強いな。戦車の駒で転生していると聞いているが、それにしても頑丈だ。星辰奏者(エスペラント)であることを踏まえても、もう一つぐらい絡繰りがありそうだね。

 

『この力……まさかっ!?』

 

『ほぉ? ぜひ後程に説明を伺いたいところですね!』

 

 リュシオンさんですら、あれを突破するのは難しい。

 

 実際相当に驚愕している。武山さんはそれを逆に興味深そうにしているぐらいだ。

 

 そして、他のメンバーも殆どが抑え込まれている。

 

『……できれば、有終の美を飾りたいのですがね!』

 

 女王であるエルトーナ・バルトリが突破して仕掛けるが、九成君は魔力放出で掻い潜りつつ、ショットライザーで牽制を仕掛けている。

 

 更にボロボロのGFが残った腕で打撃を繰り出し、二人は別々に回避して距離が開ける。

 

 そんなエルトーナに、迫る相手が二人。

 

『和地様! ここは任せて頂戴!』

 

『短時間なら抑えられます! 行ってください!』

 

『任せる、文香、文雄!』

 

 大上文雄と文香・ヴォルフ。

 

 九成君のチームに属する二人が、連携でエルトーナ・バルトリに対して時間稼ぎを敢行した。

 

 エルトーナは即座に反撃するが、それをごり押しするように二人は突貫して足止めを仕掛ける。

 

 ……やはり固い。耐久力に特化した能力のようだけど、これは足止めにおいては効果的だ。

 

 強い相手に倒されない。戦術的にこれはいやらしい。特に、強引にでも突破したい時にはクるね。

 

 そう思った時、九成君は素早く三回目の魔力斬撃の構えに入る。

 

 だが、その時状況は動き出している。

 

『読めてきた……これなら!』

 

『そうはいかない!』

 

 リュシオンさんの適応が上回り始め、武山さんはどんどん押し込まれている。

 

 その瞬間デュランダルのオーラが弱まっているが、武山さんが何かしているようだ。

 

 だが、微々たるものだから突破は時間の問題。

 

 更に、GFもまた砲撃体勢を完了している。

 

 ……この瞬間、九成君の勝敗が決定する一瞬になっている。

 

 さぁ、どうするんだい、涙換救済(タイタス・クロウ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一瞬に、俺はためらうことなく攻撃を選択する。

 

 チャンスは一瞬。これを逃せば、リュシオン・オクトーバーの適応が俺達を追い抜く。

 

 だから、こそ!

 

『制約成す勝利の銀剣ッ!』

 

 俺は斬撃、GFが砲撃を放つより早くぶっ放した。

 

 そしてその瞬間、GFはそれに対応する。

 

 まだ残っている片方の腕。それを俺の斬撃にぶち当てる。

 

 拮抗は数秒。すぐにでも腕は断ち切られるが、威力が殺され時間も稼がれる。

 

 そして、弱まった斬撃を相手の砲撃が吹き飛ばす。

 

 だが斬撃により砲撃は殺された。

 

 ゆえに、判断は一瞬。

 

「なめるなぁ!」

 

 俺は障壁を張り、同時に抜き打ちで銀剣を解放。

 

 威力は大きく減衰するが、障壁で威力を殺されたことで、何とか弾き飛ばせる。

 

 だがその瞬間、砲撃の反動を殺さなかったGFは一気に後退する。

 

 俺は攻撃の反動ですぐには追いかけられない。

 

『和地様、抜かれました!』

 

 更に凶報。黒狼が抜かれた。

 

 リュシオン・オクトーバーが本気で移動を試みれば、到底黒狼では追いきれない。つまり、ほぼ詰みに近い状況が迫っており―

 

『BALANCE SAVE』

 

 ―俺が、一手早い。

 

 既にショットライザーは起動済み。狙いをつける余裕は、ぎりぎりで間に合った。加え、GFには腕がないから防御も困難。

 

 パラディンドッグは禁手を切り替えるが、その際ショットライザーによる必殺技も切り替わる。

 

 ただ、制約成す勝利の銀剣の場合、威力的な問題から必殺技というよりは保険に近い。魔力斬撃が追い付かない時に、抜き打ちで対応する為レベルの威力しか出ないからだ。

 

 だが、今この瞬間なら十分すぎる。

 

「……一手もらったぁっ!」

 

『パラディンシルバーブラスト!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パラディン

 

 

 

      シルバー

 

 

 

          ブラスト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その銃弾は、狙い通り。破壊された装甲の割れ目に吸い込まれるように着弾した。

 

 瞬間、機能を停止して崩れ落ちるGF。

 

 まさにその瞬間、俺の視界にリュシオンさんが現れる。

 

 視線が合った時、俺はちょっと自慢げに笑みを浮かべてしまったのを許して欲しい。

 

「悪いですが、一手の差で俺の勝ちです」

 

「……そうだね。ちょっと悔しいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『GFの機能停止を確認。涙換の救済者チームの勝利です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのアナウンスと共に、俺はかろうじて逃げ勝ったことを確信した

 




 ギリギリで和地たちが逃げ切り勝ちした形になったこの戦い、いかがでしたか?

 それはそれとして、今現在は次の章もだいぶ進んだ段階です。

 ちょっと今までと毛色が違う方向性になりますので、そこのところご容赦を!


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戦愛白熱編 第四十三話 衝撃! カズヒのコネクション!?

 はいどうもー! ちょっと体調を崩しまして、胃薬の世話になっているグレン×グレンでっす!

 とりあえず、戦愛白熱編はこれが最終話となっております!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が終わり、俺達は控室で一休みした後イッセー達と合流する。

 

 するとそこには、既にアニルやルーシア達がいた。

 

「……グス……ッ」

 

 ってルーシアが半泣き!?

 

 あれ、これまずい!? 俺が怒られる奴!?

 

 ちょっと俺は慌てるけど、俺に気づいたルーシアは涙をぬぐうと後ろを向いた。

 

「……お見苦しいところを、お見せしました」

 

 気まずそうにそう言うと、なんか急に小走りになると角の向こうに抱き着いた。

 

 と、そこで気まずそうな表情のリュシオンさんが片手で謝る姿勢をとりながら現れた。

 

 あ、付いて来てたのか。

 

「御免ね。八つ当たりをするような真似はしないから安心していいよ?」

 

 うん。良いお兄さんやってるよなぁ、リュシオン・オクトーバー。

 

 ルーシアもいい傾向と見るべきかもな。甘えられる時に甘えるのは悪い事じゃないし、若い時の特権ともいえるし。

 

 さて、それじゃあそろそろ始まりそうだな。

 

「……それで九成君。あの新技はどういったものなの?」

 

 ほら来た。

 

 イリナが興味津々で聞いてくるし、他のメンバーも似たり寄ったりの注目だ。

 

「まったくですわよ。あんな新技があるのなら教えて欲しいですの!」

 

 ヒマリもプンプンしながら言ってくるが、まぁ相応の新技だったしな。

 

「まぁまぁ。今は競い合う関係だし、出し渋りぐらいは仕方ないじゃん?」

 

 と、ヒツギが宥めてくれているうちに答えとくか。

 

「予想出来てるだろうが、聖血の禁手と残神だよ」

 

 ああ、あれが俺の新技だ。

 

「禁手は魔術回路の強化を行う、血筋に依らぬ魔導聖人(アンチェイン・パプテスマ・プライド)。残神はその状態を活かして疑似的な固有結界を展開する、絶対なる守(アブソリュート・ディフェンダー)とつけてる」

 

 そう、それが俺の隠し玉。

 

 鮮血の聖別洗礼(パプテマス・ブラッド)の禁手と残神。

 

 鮮血の聖別洗礼は、簡潔にまとめれば自己強化と異能の獲得だ。それを利用し、俺は俺に宿る魔術回路の強化を行った。

 

 更にその強化が施された魔術回路を活かすことで、残神で固有結界を作っている。

 

 ……ずっと固有結界を持ちたかった。カズヒと同じ固有結界持ちになりたかった。

 

 ただ、固有結界を獲得してもしっかりと運用できないとあれだったからな。魔剣創造(ソード・バース)疾走車輪(ソニック・チャリオット)だとそこが不安だった。

 

 なので、神滅具の力を積極的に借りたわけだ。おかげでいい感じに効果的になったと断言できるな、うん。

 

 まぁ、冥革連合関係者にちょっと突っ込まれないか不安だけど。思いついた時は「固有結界は魔術の最秘奥だし、問題ないよね♪」と思ったけど。実際性能は凄いけど、動機が動機だからなぁ。

 

 ちょっと不安だ。後でお伺いを立てておこう。もしくはパラディンドッグでの別パターンを徹底するかだな。

 

「因みに、魔術回路は魔力放出の再現と魔力貯蔵量及び供給量の増大に特化してる。あまり複雑にしても戦闘だと使いづらいと思ってな」

 

「なるほど。固有結界そのものは別能力ってことだね」

 

 木場が納得してくれたし、まぁ解析はされるだろうからネタ晴らしもしていいだろう。

 

 本来の固有結界は、得意とする魔術の発展形になることが多い。というより魔術回路の性質上、固有結界を体内のみに展開する縮小版が最も燃費がいいという方が近い。

 

 ただし俺の場合は残神による疑似固有結界なので、この縛りは無視できる。ということでそこはスルーする方向に向いた。

 

「絶対なる守の能力は「神器・魔術回路・星辰光を統合した障壁展開」だ。まだまだ慣れてないが、使いこなせれば結界系魔術回路保有者の頂すら狙えると思ってるぜ?」

 

 ふっふっふ。これを考えるのは苦労した。

 

 いやぁ! これで俺も固有結界持ちかぁ! 疑似的なものとはいえ持っちゃったかぁ! すっごいテンション上がりそう!!

 

「とはいえ、固有結界は相手を異空間に取り込む技ですからね。数を相手にする場合は難しいところもありそうです」

 

「仕方ないでしょうねぇ。まず最初に「カズヒとお揃い」があってからの肉付けだものぉ」

 

 ……ロスヴァイセさんとリーネスの解説は勘弁してくれ。

 

 それぞれ別のポイントで痛いところをついてくるから、正直ちょっとダメージが入ってるから。

 

 欠点をしっかり指摘されたうえ、男の純情をつついてくるんだもの。メンタルが、メンタルがごりっと削れる!

 

 正直ちょっと顔が赤くなるけど、ええい押さえろ俺!

 

「ふふぅん。ボス大好きっぷりが透けて見えるいい残神ですなぁ。ああもぅ! カズ君ってば青春してるんだ・か・ら♪」

 

 リヴァねぇが! リヴァねぇが更につついてくる!

 

 助けを求めたいところだけど、そんな隙を作らずに春っちまで引き寄せた!?

 

「春奈も頑張りなさい? 幼馴染特権じみた専用禁手まで仕立ててくれてるからって、油断してるとアドバンテージとられちゃうから?」

 

「ちょ!? こっちまで巻き込み……いや、そうだけど!?」

 

「否定する気は全くないけど! 加減、加減プリーズ!?」

 

 春っちも俺も顔が真っ赤になってるだろうなぁ。

 

「こ、固有結界でお揃い……おそろろろろろろろろろろろっ!?」

 

 そして鶴羽がバグッている!?

 

 固有結界は鶴羽も持ってるから、バグって当然か。後でフォローしないと。

 

 あれ? これってもしかするとリーネスにもフォローがいるか?

 

 俺はふとお揃いであることに気づいたリーネスをちらりと見る。

 

「……はわぁっ!?」

 

 あぁああああ! 気づいたのか顔を真っ赤にして倒れそうになってるし!?

 

「お袋フォロー! リーネスが倒れる!?」

 

「きゃ、リーネス!?」

 

 慌ててお袋に助けを求めて置いたけど、今の俺は堕天使だからね。リーネスとお揃いだからね。

 

 しかもリーネスからした形だ。リーネス的にはかなり顔を真っ赤にする案件だろう。後でどうフォローを入れたらいいんだ。

 

「リヴァねえ、その辺にしてくれ。被害が甚大になる」

 

「え~? だって先生、そういう意味だとお揃いにならないし~?」

 

 あ、これもしかしてちょっと拗ねてる!?

 

「仮面ライダー繋がりだろ!? ほら、お揃い!」

 

「デバイス違いますー。エイムズショットライザーと神具アスガルドライバーは全然違いますー」

 

 おお~い! この人が珍しく拗ねてるんだけど~!? 誰か、せめてアドバイスを!?

 

 正直ちょっとパニくっているけど、その瞬間、リヴァねぇはにっこりと微笑んだ。

 

「だ、か、ら♪ 今度お揃いのファッションでもしましょうか? ほら、先生大人だから学生服があれだしね?」

 

 あ、そういう方向にもっていきますか!?

 

 クソッタレ。拗ねてるところもあるけど、これをネタに一時間ぐらいからかう気だな!?

 

「……ちょっとトイレ行ってたら何やってんだよ?」

 

「それなら、ウチのメイドをバイトでやったら? 私達とならお揃いだよ?」

 

 ベルナとインガ姉ちゃんが来てくれた!? でもそういう方向じゃなくてさぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、一時間ぐらいこれをネタにからかわれた。この辺りの計算もしっかりできるから困ったものだ。可愛いけど。

 

 でもまぁ、リヴァねぇとお揃いってのもいいかもなぁ。今度何かできないか考えてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとカズヒが見てくれてないことを知って、俺は二時間ぐらいガチで凹んだ。

 

 落ち込むだろこれはぁあああああっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漸く問題を片付けたと思ったら、その時点で和地達がみんなで来てしまった。

 

 くっ! 長丁場になってくれれば後半は間に合うかと思ったけど、短期決戦になったみたいね。

 

 あとでしっかり謝っておかないと。これならさっさとリアスの力を借りればよかったかしら。

 

「……とりあえず勝ちました。あと出番あるか?」

 

「見れなくてごめんなさい。しかもちょうど終わったところだわ」

 

 ちょっと気まずいけど、ここは私の責任が重いからしっかり謝らないと―

 

「おめでとうボースッ!」

 

 ―ここでリヴァが和地を巻き込む形で私に抱き着いてきた。

 

 え、何がおめでとう!?

 

 珍しくちょっとパニ食っていると、ニヤニヤしながらリヴァが私をつついてくる。

 

「鶴羽も込みでお揃いになっちゃたわねー。堕天使繋がりだとリーネスを含めたお揃いよねー。う~らやまし~っ♪」

 

 ……あ、確かにリーネスとは堕天使繋がりになるのか。

 

 で、なんで鶴羽込みでお揃い?

 

「御免、状況がさっぱり分からないんだけど」

 

 和地が何かしたんでしょうけど、正直さっぱり分からない。

 

 っていうか、後ろから追いついた鶴羽とリーネスが顔真っ赤だし。完全にオトメねぇがフォローに回っている状態だし。

 

 え、本当に何が起こったの?

 

「っていうか、カズヒって試合を全然見てなかったのか?」

 

 イッセーが指摘するけどそうなのよね。

 

「ついさっき問題が解決したばかりなのよ。それまでかかりっきりだったわ」

 

「そうなの? いっそのこと呼んでくれればよかったのに」

 

 リアスがそう不満げに言うけれど、ちょっと気が引けたのよね。

 

 リアスの社会的立ち位置を利用すれば問題は解決するけど、異形関係を使ったごり押しはちょっと横紙破りな気がするし。そこは最終手段としておきたかったわ。

 

 まぁ、その前に取ったこの手段も反則級だけど。この国限定なら最終決戦兵器と言っていいものね。

 

 まぁ、そういうややこしい事態だったのよ。

 

「……お? どうしたカズヒ?」

 

 あ、落ち着いたようね。

 

「店内は落ち着いた、店長?」

 

「おう、一通り片付いたぜ! で、そちらさんは?」

 

 そう。ならまあいいでしょう。

 

 と、いうわけで私は一回リヴァを引きはがすと、二歩後ろに下がって紹介することにした。

 

「皆。彼は私がストリートチルドレン時代にお世話になった、このレストランの店長よ。店長、こちら、私の……大切な友人達」

 

 ちょっと照れそうになったけれど、ここは素直に言うことにした。

 

「……そうか。お前がこんなに友達をなぁ」

 

 なんか涙ぐみかけているんだけど、店長。

 

 ちょっと納得している自分がいるわね。おかげで突っ込めないわ。

 

 と、そこで和地が我に返ったのか、急に店長に近づくとかなり真剣な表情になる。

 

 ん? 何かあったのかしら―

 

「初めまして。私はカズヒさんと付き合っている九成和地と申します」

 

 ―ん?

 

「事実上の養父ともいえるあなたには一度お目にかかりたかった。以後お見知りおきを、そしてよければ今後のスポンサーにならせて下さ―」

 

「総員確保ー! カズ君大暴走よー!」

 

 リヴァの掛け声が出るまで、流石の私も一瞬反応が遅れたわ。

 

 え、ちょっと!?

 

「何してんのおバカ! っていうかここには今―」

 

「―どうしたのかね?」

 

 と、そこで質が悪いことに、私の今回の最終手段が出てきちゃった!?

 

「……え゛」

 

 そして一目見たリアスが目を丸くしてしまっている。

 

 あ、これは隠しようがないわね。

 

 私が思わず天を仰いだ時、リアスが珍しく素っ頓狂な声を上げた。

 

「ピョートル・サハロフ首相!? なんでシルヴァスタン共和国(この国)の元首がここに!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『……ぇええええええええええっ!?』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、これ今夜は頭痛案件だ。

 




 いやぁ、なかなか出す機会がなかったカズヒの恩人たち、ここでようやく出せました。

 独裁政権に対抗しての独立紛争に参加したのは知っての通りですが、そのあたりの過去話はあまり語れてなかったですからね。できればピョートル首相は一部で出したほうがいいとは思ってましたが、ここまでもつれ込んでしまいました(汗

 ただ、こういった機会で出すことができたのもいい感じです。長期連載だからこそのリカバリーといえますね。

 この章の幕間は、この後の祝勝会といった感じです♪















 ……ただし、ちょっと波乱もあるよ?


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戦愛白熱編 幕間 酒の席で武勇伝を語るものは数多く、思い出したくない過去も数多い

 はいどうもー! 最近はこっちの執筆意欲が底上げされているグレン×グレンでっす!

 さぁて、戦愛白熱編も幕間に突入! 今回はカズヒ関連で作ってはいたものの、あまり明かせなかった少年兵時代の武勇伝となっております!









 そして、次章を踏まえた導入部分も出てきますよー?


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~。本日ご利用のお客様に嬉しいお知らせがあります」

 

 と、九成が立ち上がりながら、レストラン全体に響く声を上げた。

 

 なんだなんだとちょっとざわつくお客さん達の注目が集まった時、九成は手を上に掲げる。

 

「……喜べ! こちらのお祝いも兼ね、今回の代金は俺が全部持つ!」

 

『『『『『『『『『『……ぉおおおおおおおおおっ!!』』』』』』』』』』

 

 一気に店中が沸き立つ中、九成は涙を浮かべながら店長さんに振り返った。

 

「……ありがとうございます、俺に……俺に……、お金をいっぱい使わせてくれて! とりあえずお酒飲めるお客さんに高い酒出してあげてください。浴びるほど出してあげてくださいませ!!」

 

「お前さん、なんか疲れてねえか?」

 

 店長さんが軽く引いている中、カズヒが苦笑いを浮かべながら九成を後ろに引っ張った。

 

「御免なさい、店長。ちょっとこの人お金に振り回されすぎてて」

 

「まぁ、払えるってんならいいんだがな? それでいいのか?」

 

 店長さんすいません。

 

 九成、数千億もお金を持っていてちょっと情緒不安定なんです。お金を使わないといけない強迫観念に縛られてるんです。

 

 まぁ、この店の値段とかを見る限り余裕だろ。高級店というよりは大衆向けって感じだし。

 

 さて、文字がちょっと不安だから、メニューを適当に見ないようにしないとな。

 

 と思っていると、なんかさらりと日本語で書かれたメモ帳が差し出された。

 

「簡単に日本語訳を用意したよ、使いたまえ」

 

 ……国家元首がメモくれたよ。親切過ぎません、この人。

 

「ありがとうございますわ、サハロフ首相。親日家と伺っておりますが、日本語もお上手ですわね」

 

 流石リアス。こういう時も手慣れたもんだ。

 

 そしてこの首相、親日家だったのか。そういえば、日本語も綺麗に書かれてるしな。

 

 サハロフ首相も、にっこり微笑みながらメニューを確認する余裕があるぐらいだ。

 

「日本には留学経験もあるのでね。あの経験があるからこそ、何とか国家を運営することができたものさ」

 

 へぇ~。日本の留学で国家運営ができるぐらいに成功したのかぁ。

 

「君達の国にも問題がないわけではないが、それでも世界的に見て極めて高い水準のいい国だ。私達もそれを参考に、一歩ずつ目指したいと思っている」

 

 そ、そんな風に言われると少し照れるな。

 

 ……でも、そうだよな。

 

 悪魔社会や吸血鬼の里、そういったところを見てると、俺って結構恵まれた生活をしていたんだって思い知る時は多い。

 

 寝る時に凍死する心配までするなんて、俺には考えもつかないしな。

 

 でも、この国だと数年前までそんな心配をする人達が何人もいる。

 

「その、俺って結構馬鹿なんで上手いことは言えないんですけど」

 

 ほんと、その辺りは困ったもんだっていうかなんて言うか。

 

 まだ二十年も生きてないガキで、知らないこともいっぱいある。それなのに上級悪魔になるとかで、ちょっとついて行けてないところもある。

 

 だけど、思ったことははっきり言った方がいいかもな。

 

「そんな良い国に生まれた者として、まぁ世界に恥じない奴になりたいって、そんな気持ちになりました」

 

 う~ん。自分でもどういったらいいのかちょっと悩む。

 

 でも、俺達の国を良い国だっていうのなら、そんな良い国に住んでる人としては恥ずかしい真似はしない方がいいよなぁ。

 

 そんな気持ちを何とか言葉にしてみたけど、これでいいんだろうか。

 

「……リアス嬢。良い連れ合いに恵まれましたな」

 

「ええ、自慢の愛する男です」

 

 よかったみたいだ。よかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、蕎麦掻もこんな風にするとこんな味になるんですね」

 

 小猫ちゃんが一心不乱に、洋風にアレンジされた蕎麦掻を食べている。

 

 実際、実に美味しい。元々ロシア近辺は蕎麦粉を使っていることが多いとはいえ、ここまで美味しく仕上げるとはね。

 

 確か、カズヒが貰った蕎麦粉で蕎麦掻を作ってたところから発想を得たと聞いている。それでここまで美味しい料理を作れるのだから、才覚も努力もしっかりと持っているんだろう。

 

 この味はとても参考になる。今度アレンジしてリアス姉さんやイッセー君に食べさせてみよう。

 

「……それで店長? カズヒってばその頃はどんな感じだったんですか?」

 

「写真とか取ってあったりしません? あるならちょっと見せて欲しいんですけどぉ」

 

 と、その美味しい料理を作った店長は南空さんとリーネスに絡まれていた。

 

 ……この国の法律上、ここなら二人もお酒を飲める。なので飲んだ結果、からみ酒になったようだ。

 

「お、おう? まぁあるっちゃあるが……そんなに気になんのか?」

 

「「もちろん!!」」

 

 完全に押されているね。これはフォローを入れた方がいいのだろう。

 

「二人とも? あまりご迷惑をかけないように。……カズヒもキレるよ?」

 

 本当にキレそうだし、きちんと釘を刺しておいた方がいいだろう。

 

 カズヒにとって義理の親ともいえる人物。更にそんな彼らしか知らないカズヒの姿がある。となれば、二人がテンションをおかしくしてしまうのは仕方がない。

 

 そこに酔っ払いのテンションがあればこうもなる。だから少しは見て見ぬふりをした。

 

 ただ、これ以上はカズヒが怒りかねない。そうなる前に止めてあげるのが人情という物だろう。

 

「そうだよ。二人とも、ちょっと落ち着いてね?」

 

 と、そこでオトメさんも止めに入ってくれる。

 

 困り顔だけどムッとしており、ちょっと怒るようにたしなめてくれた。

 

「「……ぐぅっ」」

 

 二人揃って、オトメさんにまで言われたら強くは出れない。

 

 しぶしぶ引き下がるのを確認してから、オトメさんは店長に頭を下げる。

 

「二人がすいません。カズヒのことが大好きなので、ちょっと抑えがきかなくなったみたいです」

 

「まぁ、そういう事ならしゃぁねえか。で、アンタは気にならないのかい?」

 

 と、店長はそう切り返す。

 

 オトメさんもまた、カズヒのことを大事に思っている。それをなんとなく察しているのだろう。

 

 ただ、オトメさんは小さく首を横に振る。

 

「気にはなっています。でも、感謝している人に失礼な真似はできませんから」

 

 その言葉に、後ろでリーネスと南空さんがもの凄く気まずそうな表情になっているのが見えた。

 

 カズヒがストリートチルドレン時代、酷い犯罪行為に手を染めることなくやっていけたのは、ひとえにこの店のおかげともいえる。

 

 相応に気を使ってくれた。より厳密に言うなら、一人の従業員として可能な限りちゃんとした待遇で扱ってくれた。その一本筋の通った接し方があったからこそ、カズヒ達は人として一線を引いた生活が送れたのだろう。

 

 すなわち、彼はカズヒにとっての大恩人だ。オトメさん達が感謝するのも当然。無体な真似は本来できない。

 

 そういうわけでオトメさんは二人を引っ張っていったので、僕はフォローに回ることにした。

 

「本当にすいません。二人はカズヒのことが大好きなので、色々と聞きたくてたまらなかったんでしょう」

 

「そうか。……ま、それは良い事だな」

 

 そう返すと、店長は離れたところで何やら人に囲まれているカズヒを見た。

 

 ……九成君達の対応で、今回この店での注文は全部九成君が持っている。

 

 たまには大金を使わせないと、九成君がバグりかねない。なので、こういった形でお店の売り上げに貢献する方法をとったらしい。

 

 そして、そんなことになっている間に来たグループが、カズヒをもみくちゃにしている。カズヒの方も、無理やり引き離そうとしない当たり知った仲のようだ。

 

「彼らは?」

 

()()()()()()うちの元従業員だよ。独立して以来、孤児の類に支援事業が広まってんだ」

 

 そういう事か。

 

 教会も手を差し出したようだけど、政府からも支援がなされているわけだ。

 

 そして、その結果が目の前の人達だ。

 

「大抵の連中は手に職つけてるんだが、結構な頻度でわざわざ食いに来てくれてんだ? おかげでこっちも潤ってるぜ」

 

 ……流石はカズヒが面倒を見ていた子達だ。

 

 かつての恩義を忘れず、更に世間様に恥じないような生き方もしている。

 

 ふふ、それはもみくちゃになるわけだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふぅ。

 

 ニ十分ぐらいもみくちゃにされたけど、久しぶりに旧交を温めるのは良い事だわ。

 

 もう少し頻繁に来るべきかしら? とりあえず、何もなくても夏休みには一度戻ってきた方がいいでしょうね。

 

 そんなことを思いながら、私はちょっと一息をついている。

 

 ……でも、今日は良い日ね。

 

 そう思いながらほっと一息ついていると、空いたコップにウォッカが注がれた。

 

「良いダチに恵まれてんな、カズヒ」

 

「店長」

 

 店長の方を振り向いていたら、テーブルの空いた部分に適度なつまみの盛り合わせまで置かれたわね。

 

「同意見だ。少しほっとしているよ」

 

「首相まで」

 

 こ、これは困ったものね。

 

 何かしらこれ。成人した子供が親にからかわれている図に近いわね。

 

「君を見ていると思い出すよ。こんな足になった時、命まで失わなかったのは君の奮戦あってのものだ」

 

 首相にそう言われると、少しこそばゆいわね。

 

 あれはこの国の独立紛争。そこに少年兵として活動していた時。

 

 たまたま配属部隊が近かった為、私は何度か革命軍幹部だった頃の彼を何度も見かけていた。

 

 首相は政治的な立ち位置を重視しながらも、独立紛争後の支持率などを踏まえ、同志達と共に歩兵部隊に分散配置して戦っていた。同時に色々な国家や人と繋ぎをとり、例え直接的な協力が得られなくとも、様々な視点や知識を得続けていた。

 

 革命というのは起こしたら終わりではない。その後、政情をまとめて国を動かしていくことまでが必要だ。残念なことにそれを失念した反乱は数多く、幸運なことにシルヴァスタン共和国はそれを考慮した独立運動が起きていた。

 

 後先を考え、それを成せるように官僚となる者達を海外に留学させる。同時に彼らから知識を得たり、諸外国の識者達と繋ぎを作って初期の中枢に座る者達は学んでいた。

 

 その筆頭が彼だ。日本に留学経験がある彼は、歴史も学んだことでそれに気づいていた。だからこそ、革命後の政情をまとめる準備をしながら、そもそも革命を成功させ、まとめ役となる者達が支持を得られるように戦っていた。

 

 そんな彼が、ビルの一階付近で機械化歩兵部隊*1に追い詰められていた。私はそれを、隣のビルの五階ぐらいから見つけていた。

 

 私が所属していた分隊がビルの制圧を試みていた時であり、部隊が壊滅的打撃を受け、練度の問題もあって恐慌状態で散り散りになっていたのだ。可能な限り呼吸を整えて冷静さを取り戻している時に、私は隣のビルが奪還され返されたのに気づき、首相の窮地を悟った。

 

 足を吹き飛ばされ身動きが取れず、随伴する兵も壊滅寸前。そして彼を失えば、勝った後が上手くいくか不安になる。

 

 なので、私は魔術まで併用して奇襲を仕掛けた。

 

 こっそり神器に蓄え、宝石魔術用に魔力を込めてた小ぶりの宝石。それまで仕込んで奇襲を仕掛け、歩兵戦闘車(BTR)の砲塔及び履帯の片側を破壊。動揺している隙をついて、三人ぐらい一気に始末。結果として敵部隊は戦意をほぼ喪失し、増援も間に合った。

 

 もっとも、足を骨折したりしたのでぎりぎりだったけれど。割と大博打を打った自覚はあるわ。

 

 流石に足を失ったこともあり、首相は反乱軍からは除籍。他国との折衝で支援を取り付ける側に回り、そして最終的にこの国の首相に選ばれた。

 

 ちなみに私は勲章ものだけど、本職の方々が嫉妬に燃えても困るので辞退した。首相達も、少年兵が現実に英雄になるとリスクがあると判断し、了承してくれた。

 

 そこに至るまで、息抜きの場としてこの店を紹介したらこれだもの。流石に忙しくて一年ぶりみたいだけど、釣っかかってきたバカも馬鹿なことをしたものね。

 

「しかしだ。まだまだ国家としての盤石性は緩く、ギャングに全力は出せなかったとはいえ、この店に目をつけるとは。これからはもう少し頻繁に来るとしようか」

 

「面目ねえ。最近になって急に幅を利かせてきやがってな? 相談する前に突っかかられちまってなぁ」

 

 ほんと、どこの世界にも阿呆の一つぐらいはいるものね。

 

 首相も店長も頭を抱えているけど、いきなり出くわした私も頭を抱えたいわ。

 

「まぁ、安心して頂戴。大雑把な事情を把握したリアス達がフォローするみたいだから。……あのギャング達、もう終わりでしょうね」

 

 リアスは金も権力も豊富だし、何より基本的に正義の人物だ。あからさまな外道に容赦をするタイプでは断じてない。

 

 あのギャングはもうおしまいでしょう。おそらく近いうちに、合法的に壊滅するわね。

 

 ……まあ、手伝う気も満々だけれど。我が古巣に邪悪が仕掛けて、只で済むなどありえない。悪敵銀神(ノーデンス)らしく神罰でも下してあげるわ。

 

 でも、それはまた今度。

 

「まぁいいわ。さて、店長に首相」

 

 私はそう言うと、微笑を消しきれないまま周りを向く。

 

 そこにいるのは、私の大事な仲間達のどんちゃん騒ぎ。

 

 ええ、もう一度言ってあげてもいいでしょう。むしろ言いたくなってしまう。

 

「凄いでしょう? 私の自慢の仲間達よ」

 

 彼らを自慢したくなる。そんな気持ちに嘘はいらないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ~。

 

 ちょっとアルコールが回ってきていたので、俺は外の空気で冷ましていた。

 

 日本より遥かに北に位置するこの国は、必然的に気温が低い。だからこそ、外の空気で涼むこともできるわけだ。

 

 やっぱり、酒は気を付けて飲まないといけないな。ことスクリュードライバーは呑みやすくて、割と飲みすぎたかもしれない。

 

 酒は呑んでも吞まれるな。今後も気を付けた方がいいよなぁ。

 

 とりあえず、一度二日酔いになるセーフラインは見極めた方がいい。そうしないと、酒を楽しむのもちょっと苦労しそうだしな。

 

 ただ、俺っては星辰奏者だしなぁ。基本的に蟒蛇化しているだろうし、二日酔いになるまで飲むのも大変だ。うっかりすると急性アル中だし、調整がとても大変だろ。

 

 そう思いながらため息をつき、とりあえず涼めたので戻ろうとした、その時だった。

 

「………な……っ」

 

「……え………?」

 

 そこには、小柄な少女と向き合って、互いに絶句している三美さんの姿があった。

 

 あ、これもしかすると結構あれな展開?

 

*1
戦車に随伴可能な移動手段を持つ歩兵部隊




 そういうわけで、戦愛白熱編もこれにて終幕。終わりは次の不穏をにおわしてとなりました。






 割と大暴れしているカズヒ少年兵。まだ十代前半のそれまた前半レベルでありながら、魔術+神器ありとはいえ先進国製の機械化歩兵分隊を単独でぶちのめしました。

 本当は戦車及び随伴歩兵部隊をまとめて相手取る予定でしたが、さすがにこの段階だとやりすぎ&目立ちすぎと判断して下方修正。滅亡剣が星辰奏者になる前から戦車を肉薄して撃破したのをオマージュしております。









 そして、和地が見かけた不穏のかけら。

 次章の予告とも言えますが、次の章は今後の敵といった不穏要素をチラ見せまくる章にする予定。後継私掠船団も、そろそろ試合を見せたいです。


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第四章 闇動神備編
闇動神備編 第一話 兵站とっても重要です


 はいどうもー! 新章開幕でっす!

 即興で作ってみました闇動神備のネーミング。いろんな敵対勢力が動いたり準備したりする回となっておりまっす!

 ちょっとアザゼル杯の要素は薄まるけど、まぁちょっとだけだから安心して! ハーデスやフロンズがいるから、アザゼル杯でも見せれるしね?


Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 邪龍戦役と明星戦乱。禍の団に関わる二つの大きな戦いは、人間世界にも無視できない傷跡を残したと言ってもいい。

 

 邪龍達による人間世界への侵攻。明星戦乱による極晃星(スフィア)の脅威。この二つは、今後の世界の未来において大きな布石となったことは言うまでもない。

 

 そして、その間にもう一つの脅威があった。

 

 大欲情教団。彼らと多国籍軍による睨み合いだ。

 

 世界各地で都市規模の淫行を繰り広げる、エロの秘密結社。ひょんなことから本拠地が日本にあることが分かり、いくつもの国家が叩き潰すべく連合軍を組織。

 

 だが、先手を打ったのは大欲情教団。世界各地に存在し、何なら当時の米国大統領の娘までもが構成員だったことにより、カウンターを喰らってしまう。日本に至っては皇族すらターゲットにした淫行が行われようとしていた。

 

 先の二つの事態もあり、殆どの国家が軍備強化と対大欲情教団が国策とした。

 

 日本も同じ。否、皇族をターゲットに都心に大規模侵攻を受け、そもそも本拠地が日本にあったことが、日本人の危機意識をこれでもかと底上げした。大欲情教団が蜂起した本部近辺が、超大規模の鉱脈になっていたことも大きく後押ししている。

 

 自衛隊に回される予算は二倍を超え、自衛隊に志願する者達は例年の倍を超える。その後の振るい落としやそもそも育成の為の人材確保もあるが、自衛隊の規模と質は凄まじいことになるだろう。

 

 兵器開発が推し進められていることで経済も多少盛り上がっており、にわかな好景気も生かされている。

 

 そしてその一環として、日本政府はある搦め手を行った。

 

 大欲情教団のそれを解析した形なら、異形側も認めた人工神器技術。日本政府は軍事兵器を国際共同開発しつつ、独自に開発を進めている物があった。

 

 それが工業開発技術。すなわち「より早く兵器を作ることができる下地」である。

 

 工業製品は毎日多数製造されることも多いが、それは工業製のラインに流し続けるからこそ。自動車一つを製造するのに掛かる時間は、ひと月ほど掛かる場合もある。

 

 だからこそ、より早く兵器を開発する技術は早急な軍備増強の必要不可欠。ここに日本は目を付けた。

 

 そして同時に、日本政府は真っ先にスペインと交渉を開始。

 

 目的は、スペインの海軍旗艦ともなっている一隻の船。ファン・カルロス一世。

 

 戦略投射艦とスペインは呼称し、あらゆる貨物に対応できるよう設計された格納庫と、それに比例しての多用途任務に対応できる対応力。そこに目をつけ、オーストラリアやトルコでも準同型艦を運用する、優秀な設計を施された、事実上の強襲揚陸艦。

 

 日本政府はわざと割高な代金の提供及び、ある程度の技術提供を引き換えにライセンス生産を取り付ける。

 

 そして格納庫を再設計し、武装を自衛隊のそれに合わせて設計。ある程度形になった工業用人工神器と併用し、ついに一隻を完成させた。

 

 それこそが、たけしま級戦略護衛艦。その一番艦であるたけしま。

 

 現在、スキージャンプ甲板を生かしてのUAV運用など、今後の技術発展を想定した技術試験艦として運用が行われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな自衛隊の最新兵器に、チームD×Dからオカルト研究部を主体とするチームが同乗していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……自衛隊って、やっぱり女性がまだまだ少ないんだなぁ」

 

「ま、基本的に男社会っすからね。人間世界側の軍事組織ってのは」

 

 俺は食堂でお茶を飲みながら、アニルとそんな感じでだべっていた。

 

 ロボットアニメみたいにたくさんの女の子が出てくる世界は、まだまだ先のことなんだなぁ。

 

 そんなことをしみじみ思ってから、俺はそろそろ本題に入ることにする。

 

「つーか、自衛隊との合同任務って凄い事になってるよな」

 

「同感でさぁ。ま、仕方ないところもありやすがね」

 

 うん、本当に凄い事になった。

 

 今回に作戦だけど、大欲情教団が無人島に作り上げた軍事施設の強襲作戦だ。

 

 日本の首都である東京を、皇族までターゲットにして侵攻した大欲情教団。俺も日本人の端くれとして、呆れると同時に憤ったりもする。

 

 そして日本はこれを機に、軍備拡張が一気に図られている。自衛官志望も例年の倍を超える勢いだ。

 

 そんなわけで、対大欲情教団という意味では日本はタカ派の極みだ。うっかり大欲情教団と勘違いされたなら、殺人の理由になりかねない。

 

 流石にそれはまずいとしているけど、だからこそ「政府がしっかり大欲情教団を取り締まっている」と思わせる必要はある。

 

 と、いうことで。

 

 一生懸命日本政府や冥界政府が頑張って見つけた、大欲情教団の秘密基地。これを自衛隊が大手を振って制圧するのは当然ともいえるわけなんだな。

 

 お上がきちんと仕事をしてるっていうのは、国民にとって安心感が違うってことだ。そういうのは、俺も冥界のヒーローになってるから少しは分かる。慰問のヒーローショーもその一環だしな。

 

 だからこそ、日本政府はこの作戦でしっかり成果を上げたいらしい。

 

 ただ、大欲情教団は異形の大組織に匹敵する勢力。ついでに言うと、核兵器や原子炉の技術を獲得している。自衛隊でも大部隊を率いて返り討ちに遭いかねない。

 

 だから対策として、日本政府は各国に対して協力を要請。以前から進めていた新型プログライズキーの試験も兼ね、連合部隊で仕掛けるつもりらしい。

 

 たけしま級戦略護衛艦はその旗艦。だけどたけしま級に刷新される予定のおおすみ級とかも投入し、かなりの大舞台になっている。在日米軍からも増援が派遣されている。

 

 そして、異形からも戦力が派遣されることになった。

 

 その結果、「最も大欲情教団と関わっている」という理由で、俺達オカ研に白羽の矢が立ったそうだ。実力も申し分なく、地元での事態なのも一役買ってる。

 

 ……本当に、あいつらとは切っても切り離せない関係になったなぁ。

 

「あいつら、最近は大人しかったけど絶対強くなってるよなぁ」

 

「同感でさぁ。そういう連中はきついッスからねぇ」

 

 俺もアニルもちょっとため息をつく。

 

 そして、俺達にとってため息をつく理由は他にもあったりするわけで。

 

「アニル」

 

 俺は、アニルが腰に携えている()()()()()を見る。

 

 それは、以前カズヒが言っていた「量産型のコールブランド」。

 

 ついに完成し、アニルに提供された、新しいアニルの力だ。

 

「頼りにしてるぜ?」

 

 本心だ。

 

 アニルはここまで、ずっと俺達の戦いについてきてくれた。

 

 特筆する異能の才覚こそなかったけど、聖剣を与えられたことでそれも補われた。そしてそれにおごらず、基礎をしっかりと鍛えている。

 

 間違いなく、アニル・ペンドラゴンは頼りになる戦力だ。

 

 そして、アニルもその自覚がしっかりとある。

 

「もちろんでさぁ。頼りにしてくださいよ?」

 

 ああ、期待してるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はリアス姉さんの護衛として、たけしま級のブリーフィングルームで、ある一人の男性と話をしている。

 

「ハッハッハ! 一目見ただけで分かる、修羅場を潜った良い目をしてますな!」

 

「そちらこそ。次期大統領候補の一角は伊達ではないと、雰囲気で分かりますわ」

 

 リアス姉さんと笑顔で握手をし合うのは、合衆国大統領候補。

 

 アメリカ合衆国上院議員、ニールセン・キングスマンだ。

 

 僕らが修学旅行で京都に来ていたのと同時期に、日本に来日してたこともあって、遠目に見たことがある。あの時はイッセー君の可能性が京都に痴漢の嵐を巻き起こしており、そこに連なる形だったから忘れてない。

 

 ……なんというか、申し訳ない気もしないではない。

 

「しかし、在日米軍から参加する部隊の激励をしに来られるとは、フットワークが軽いのですね」

 

「当然ですとも! これから殴り返されるのを承知でろくでもない連中を殴りに行く戦士達が彼らだ。まして前大統領の敵と言っても申し分ない奴らが相手なのですからな! 声援と陣中見舞いを届けずにはいきますまい?」

 

 リアス姉さんのそう言った通り、彼は今回の作戦に関わる在日米軍の応援に来てくれていたようだ。

 

 米国陸軍に在籍し、「戦う上院議員」を公言。今回で初の実践投入となる、国際共同開発のプログライズキーにおいても、合衆国で最大レベルの後援者ともいえる。こと政治的な部分では多大に貢献したそうだ。更に星辰体(アストラル)研究にも尽力しており、被検体として参加した結果という意味では、米国最初期の星辰奏者(エスペラント)ともいえる。

 

 過激派ではあるが国防に繋がる政策を行い、合衆国の富国強兵を推し進める人物。その一環で同盟国である日本国の強兵化も積極的であり、自衛隊の増強を狙っている政治家と密接に繋がり交流を行っていると言われている。

 

 ……過激ではあるが、だからこそこういう時は頼りになる。今回においては裏もないだろう。

 

 とはいえ、だ。

 

「しかし、よろしいのですかな? 新入りを多数投入すると伺っておりますが」

 

 そう、伺うようにニールセン氏はリアス姉さんに指摘する。

 

 それに対し、リアス姉さんも真剣な表情に戻り、真っ直ぐに向き合った。

 

「……ええ。おそらく今後も関わることになるだろう、大欲情教団。不意打ちで関わるより、意識的に関与するこのタイミングの方がフォローが聞くと判断しましたわ」

 

 そう、僕達は今回、ちょっとした博打じみたことをしている。

 

 その危険性を理解したうえで、リアス姉さんは微笑みすら浮かべた。

 

「日本政府から了承は得ましたし、責任はこちらで追いますわ。在日米軍の方々に迷惑は駆けませんので、ご容赦を」

 

 さて、この一手、吉と出るか凶と出るか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて! オカ研の戦いを経験していないひよっこども!! ウォーミングアップは終わったか!」

 

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

 鬼教官みたいなムーブで、私は今回の作戦に参加する、新しく入ったメンバーに檄を入れる。

 

 何よりいうべきことはシンプル。これが一番大事!

 

「今回の作戦で絶対に頭に入れるべきことはシンプル!」

 

 そう、これはしっかり言っておかないといけない。

 

 この心構えがあるかどうかが、本当に死線を分けるといっていい。そんなレベルの重要すぎる情報。

 

 そう、それこそが―

 

「性癖でどんなことが起きても思考を停止するな! そういうものだと割り切りなさい!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「「「「「…………え?」」」」」

 

 返答は二種類。

 

 懲罰人事で来た行舩達四名に、割と天然なアルティーネがしっかりと返事。

 

 それ以外のメンツが返答するのも忘れて困惑している。

 

 ま、これは仕方がない。

 

 仕方がないけど無視はできない。

 

 だからこそ、準備は万端。これがあるなら大丈夫。

 

「困惑するのも当然。だけど現実を見せるしかないから覚悟しなさい」

 

 そう言ったうえで、私は記録映像を流す。

 

 題名は、「おっぱいドラゴンとおパンツドラゴンの異業」

 

 偉業ではなく異業なのがミソよ。

 

 ここをしっかり教えておかないと、マジでまずいものね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大丈夫かなー、皆。

 

 そんなことを思いながら、俺は甲板でウォーミングアップをしていた。

 

 軽く走ったうえでイメージトレーニングを体を動かしながらし、ストレッチをしてから水分を補給する。

 

 相手は大欲情教団。それも基地レベルだ。油断ができる相手ではない。

 

 そしてそんな連中をガチで相手する以上、ファーブニルも割と速攻で出す予定だ。毒をもって毒を制するアレだ。まず共食いで数を減らしたいともいう。

 

 なにせ相手は、あの大欲情教団だ。

 

 ひと月に一回ぐらいの割合で、俺に大打撃を与え続けてきた強大な組織。ここ数か月は教主と本部を失い静かにしていたが、必ず牙を研いでいると確信していた。詰まるところ、ヤバイ相手だ。

 

 日本政府もそれを分かっている。だからこそ、総統の戦力をもって打倒を考慮しているという事だ。俺達にお呼びが掛かっている辺り、かなり戦力を集めていると見ていい。

 

 だからこそ、俺達も本気で仕掛けないといけないわけなんだが少し困ったものもある。

 

「……三美さん、大丈夫だろうか」

 

 とりあえず、ここ数日はおかしな様子はない。

 

 ただ同時に、あの時の顔面蒼白になっていた一瞬を俺は知っている。

 

 それが気になっているが、タイミングを逸している為、迂闊に聞けないのが難点だ。

 

 見てしまったのを理由に聞き出すことはできるし、必要ならそれをするべきだとも思う。

 

 だが同時に、彼女の深いところに踏み込みかねないからな。

 

 タイミングを計りたいが、それを逸している。もうこうなっては、最低でもこれを終えてからでないと無理といったところだ。

 

 それとなく気を使っておこう。万が一にでも足元をすくわれれば致命傷になりかねない。

 

 とはいえ、戦力だけなら十分すぎると思うが。

 

 想定される敵基地は、無人島の地下に作られているらしい。空洞化している地下基地であり、体積に限定するとこのたけしま級二隻分とのこと。

 

 つまり、戦力は数においてはそこまで多くはないわけだ。ここをつければ勝ち目はある。

 

 日本も異形に積極的な支援をもらっており、五大宗家・妖怪・日本神話からも相応の援助を受けている。そこに変態慣れしている俺たちD×Dオカルト研究部メンバーが、変態の経験値を積ませるべく新参メンバーを集めて参戦。他の異形からも増援が来ているらしい。

 

 そういえば、吸血鬼からも増援が来ていたはずだ。

 

 最近イッセーのチームに入れて欲しいといってきた、エルメンヒルデが仲介役になっているらしい。この後作戦開始前のブリーフィングで顔合わせをする予定だが、どうなるんだろうか。

 

「……ふぅ~。海の上って、こんな感じなんですね」

 

「そうなんすわ。吸血鬼はこういう時大変やから、珍しい機会ですわ」

 

 と、思いきやいきなり吸血鬼か。

 

 純血の吸血鬼は、流れる水の上を移動できない。だが、それなりに術式を利用して克服しているそうだ。今回はそのテストも兼ねているとか。

 

 和平って凄いなぁと思いつつ、俺は近くにきているのなら挨拶するべきだろうと思い振り返ると―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの時の!?」

 

「はぁ!? な、なんやいきなり!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時三美さんに会っていた人ぉおおおおおおおっ!?

 




 領海と所有する島が多い都合上、日本もそろそろ海兵隊を増強するべき名気がする今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか?

 いやほんと、どっかの国という大河を挟んだ対岸が何年もドンパチさせられてますし、隣国は怪しいしジャイアン相当はなんかアレそうだし。……言っちゃなんだけど、景気を考えるより国防考えるほうが先なんじゃないだろうか? 日本って国際的に考えるといい国側ですよ?

 そんな意識もあり、毎度毎度軍事力強化されまくりな自作品の日本。ついに強襲揚陸艦獲得です。





 そしてそんな強襲揚陸艦に乗り込み、対大欲情教団のサポートを行うオカ研メンバー。

 大欲情教団は本拠地を失っておりますが、支部の類は無事残ってるので隙あらば出したいところ。第三部になったら俺ツイと絡ませる予定だしNE♪


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闇動神備編 第二話 どこもかしこも大変です。

 はいどうもー! 仕事納めで、年末年始の休暇が入っているグレン×グレンでっす!

 とはいえ金が余ってるわけではないですからね~。時間は余っているわけですし運動不足は健康に悪いですし、町内会の清掃活動的なものでもないか考えているところです。

 ……久しぶりに映画館で映画を見るってのもいいよなぁ。最後に見たのって何年前だったっけ……?


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が与えられた休憩スペースに行くと、そこには結構集まっていた。

 

「あ、イッセー。そっちはもういいの?」

 

「おう! そっちもいい感じみたいだな」

 

 成田さんと言葉を交わし合うけど、全員準備万端っぽいな。

 

 と、いうかだ。

 

「九成ハーレムが揃ってんなぁ」

 

「カズヒ先輩はいないっすけどね」

 

 俺とアニルがそう言うぐらいには、休憩スペースには九成の女達がカズヒ以外全員集合だった。

 

 リーネスも南空さんもいる。ベルナもリヴァさんもいる。成田さんも枉法さんもいる。

 

 本当に、結構なメンツが揃ってるって感じだなぁ。

 

 これで全員強い側だ。そして可愛い。

 

「……九成が、九成が憎い!」

 

 崩れ落ちるぐらい完璧度合いのあるハーレムじゃねえか!?

 

「う~ん。人のこと言えない完璧おまいう案件かな?」

 

 そうですよリヴァさん! 俺も大概ハーレムですよ!

 

 でも羨ましいんだ! それとこれとは別なんだ!?

 

「……ま、男ってのはそういうところあるよな?」

 

「このレベルはまぁ、マシすぎるぐらいだしね」

 

 ベルナと枉法さんがうんうん頷いているけど、喜んでいいのか分からない!?

 

 そもそもマシすぎるって、つまりどっちかというと下ってことだし。

 

 あれ? 俺ってそんなに評価が低いの!?

 

 みんなと知り合った時は、もう覗きも我慢していることなんだけど。ひきつけを起こしながら頑張ってたんだけど。

 

 これが、男女関係の現実なのか……っ

 

「悶えてるところ悪いんだけど、仕事大丈夫なの?」

 

 成田さんにそう言われるけど、まぁそこは大丈夫。

 

 俺だっていい加減、荒事に慣れてるからな。既にしっかり仕上げています。

 

「ま、何かあった時にすぐ動ける状態だから。そこは安心していいぜ?」

 

 それなりにウォーミングアップもしてるからな。

 

 俺達オカ研は基本的に、毎日自己研鑽は欠かしてない。トレーニングを常に積んでいるのが強みの一つだしな。

 

 毎度毎度トラブルに巻き込まれているし、奇襲にも慣れている。常在戦場とまではいわないけれど、急に襲われても割と早く対応に回れるぐらいには心構えもできてるし。

 

 それに、だ。

 

「相手はあの大欲情教団だしな。変な油断はしてられないぜ」

 

「「「「「「確かに」」」」」」

 

 満場一致で納得されたよ。

 

 ただまぁ、実際俺達にとっても強敵だしなぁ。

 

 あの変態達、士気も練度も技術力も高水準だし。毎度毎度頭が痛くなるぐらい色々優れてるし。何ならどいつもこいつも、覚悟ガンギマリで活動してるし。

 

 ……本当に、気を抜いてられないしな。

 

 俺達は今回、どっちかと言えば後ろで待機する後詰部隊だ。

 

 でも、オカ研はほぼ全員が参戦だしな。それぐらいは保険をかけておいた方がいい。

 

 そしてまぁ、同時に大部隊で一気に潰すつもりなのも事実だ。

 

 かなり大部隊だし、想定される敵戦力の六倍ぐらいで仕掛けるみたいだしな。マジ本気って感じだ。

 

 だからこそ、俺達もそれなりの手札は取ってる。

 

「そういえば、カズヒは大丈夫なのか? アルティーネや亜香里達を監督するんだろ?」

 

 そう、今回俺達は、新メンバーともいえるみんなも連れて来ている。

 

 正直ちょっと心配だったけど、ある意味で適任なのが大欲情教団だ。

 

 敵として厄介だし、変態すぎて厄介だし、要は二重の意味で面倒な連中だ。強敵とも変態とも縁のある俺達の戦いに付いてくる場合、こいつらで慣れておくと後が楽になるしな。

 

 ま、ちょっと不安ではあるけど。

 

「そこは大丈夫よ。緋音さんは実戦こそ経験してないけど、訓練でいくつも統率訓練もしてるし、大丈夫じゃない?」

 

 南空さんはそう言うけど、アフォガードさんだったっけ……できる人なのか。

 

 ま、あの九成とチームを組む前提らしいしな。間違いなくできる人になるんだろうさ。それも、サポートとはいえ部隊のリーダー担当だったみたいだし。

 

 ヒマリもかなり出来る側だしな。南空さんも、出来る側……ではあるし。

 

「……今なんか失礼なこと思わなかった?」

 

 なんで心読むかなぁ?

 

「まぁ、全員能力はあるしぃ、訓練でも成績優秀だから大丈夫よぉ」

 

 リーネスもそう言う辺り、なら大丈夫なのか?

 

 それに、その上でリーネスは更に微笑んだ。

 

「それに、出来る補佐官も雇ってるしね?」

 

 ……それ初耳!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで! 今回は今後私達と関わるにあたり、起こりうる事態に経験値を持ってもらう為のものよ」

 

 と、私は作戦の概要を説明してから大事なことを伝える。

 

「あくまで見学。戦闘は自衛に徹して、能動的な戦闘はしないこと。あと自衛隊の方々に迷惑がかかるようなことは控え、ゴミはきちんとゴミ箱に入れるか持って帰ること。家に帰るまでは実地見学です!」

 

「はーい!」

 

 元気よくアルティーネが返事するけど、全体的に緊張感が強いわね。

 

 ま、実戦経験を積んでない者も多いから当然でしょう。そうであっても、ガチで異形や異能が関わるレベルの戦いになるでしょうし。

 

 ま、それぐらいでちょうどいい。

 

 ガチガチで固まるのもあれだけど、何の緊張感もないのもあれだわ。世の中には気を張るべきところがあるもの。

 

 ……このタイミングでの大欲情教団は、正直に言って渡りに船だ。

 

 今後を踏まえると、皆にはある程度の経験が必要になる。戦力を揃えたうえでそれができるというのは、間違いなく幸運と言ってもいい。

 

 大欲情教団に感謝することになるとは思ってなかったわ。

 

 ま、とは言っても緊張しすぎでミスしてもあれね。

 

 そろそろフォローの準備をするとしますか。

 

「ま、と言っても今回はあくまで見学。安全には配慮しているから安心して?」

 

「それはいいけれど、どういった形で配慮しているのかしら?」

 

 と、シルファがそう指摘する。

 

 ふふ、いい質問ね。

 

「リアスが私費で、その辺りのフォローをしてくれたわ。……勇ちん、入って」

 

「あいよっと」

 

 そう、今回の安全配慮は、そういったことをやってのけれる人材の追加補充。

 

 友情価格ではなく、きちんと仕事に見合った対価を{リアスが}用意しての、PMCの投入だった。

 

「よっす! 大抵の連中と顔合わせは初めてだな? 日美っちが世話になってるぜ!」

 

「……えっと、お世話になりっぱなし……ですけど……?」

 

 緋音が困惑気味なので、そろそろ紹介するとしますか。

 

「紹介するわ。こいつは接木勇儀って言って、私の前世の悪友。今はD×Dが恒常の下請け契約をしているPMCをやってるの」

 

「ま、そういうこった。今回のフォロー役を担当する。ま、実力はアザゼル杯で分かってくれてるだろ?」

 

 軽口交じりで話すけど、なんか急にぽかんとされたわね。

 

 何かやらかしたかしら?

 

「……気の置けない間柄なんですね」

 

 有加利に言われて、納得したわ。

 

 確かに、普段とはちょっと私の態度が違ってたわね。

 

「昔が懐かしくてね」

 

 苦笑しながらそう言ったうえで、改めて大雑把に確認なども行っていく。

 

「お~! 筋肉固い! しかもおっきい!」

 

「すっごーい! 実際強いけど強く見える!」

 

「鍛えてっからな! ほぉれ力こぶぅ!」

 

 亜香里やアルティーネ相手に、中々いい感じになってるわね。流石子持ち。

 

 ま、それはそれとして。

 

 ……少し様子を確認するけど、どうやら近くに来てないみたいね。

 

 ちょっと意外だったわね。それとなく様子でも見てくるかと思ったけれど。

 

「カズヒ様」

 

 と、武山黒狼が私にだけ聞こえるように小さい声で語りかける。

 

「和地様、来られてないようですね?」

 

「……ええ。信頼されてるのは事実ではあるけどね」

 

 聡い人がいると助かるわね。

 

 あれで天然でマメなジゴロだから、それとなく緋音達の様子を見に来るかと思ったんだけど。

 

 何より―

 

「日本生まれの日本育ちで、PMCのエースを張っていたなんで凄いですね! そう思いません、行舩さん?」

 

「………え、あ、そうですね! 凄いですね!」

 

 ―三美の様子が微妙におかしいところを、気にしていると思ったのだけれど。

 

 勇ちんに感心しているヴィーナに話を振られたのに、どうやらほぼ聞いてない雰囲気。

 

 少し前からそういうところが見えていたようだけど、大丈夫かしら?

 

「ま、PMCってのも基本は警備業務とかが多いんでな! フォローは任せてくれていいぜ? ……な?」

 

 と、周囲に太鼓判を押したうえで、勇ちんはそれとなくこちらに視線を向けている。

 

 気づいてくれていて何よりね。その辺、頼りにしているわよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、あまり人のいないところまで二人を連れたうえで振り返る。

 

「……こんな場所に引き込んで失礼。ただ、ちょっと話をしたいことがありまして」

 

 振り返り、俺はアニル達と組んでいた吸血鬼のほうを向く。

 

 エルトーナ・バルトリ。カーミラ側の吸血鬼、その名門貴族の一角を継いだ少女だ。

 

 クリフォト、そのトップであるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーの悪意ある姦計にはまり、吸血鬼はその里で大きな被害を受けた。

 

 クーデターを実行したツェペシュはもちろん、対応したカーミラにもいた内通者。そいつらが改造邪龍になって暴れたことで、双方ともに甚大な被害を受けた。更にそれによって貴族の多くが失われ、その事実もあって引退する者や心を病んだ者も出てきている。

 

 バルトリ家もその一つであり、今後方針を変換するしかない吸血鬼側も事情もあって選ばれて、要は元から解放的な人物だと聞いている。

 

 実力も結構あったしな。黒狼や三美さんと渡り合えるレベルであり、間違いなく強者側だろう。

 

 どの勢力も、若手が強くていいのか悪いのか。将来性は間違いなくあるけどな。

 

「……もしかして、白雪のことですか?」

 

 と、俺の視線に気づいたエルトーナはすぐに悟ったらしい。

 

 なるほど、こういう判断力もあるからこそ、ルーシアもチームメンバーに入れたってわけかもしれないな。

 

「ま、そういう事です。先日の試合後、ちょっと気になることがありましてね」

 

 俺はそういったうえで、視線を白雪と呼ばれた女性に向ける。

 

 小柄ではあるが、少女とは言えない外観だ。おそらく大学生レベルであり、しかも吸血鬼になっている以上、年齢がその通りだとは言えないところもある。

 

 そして俺が視線で促すと、白雪はちょっと肩をすくめた。

 

「見られとったってことですか。ま、あの時は周囲気にする余裕なんてあらへんかったから当然ですけど」

 

 関西人か。少しなまっているが、まぁそれはいい。

 

「ああ。あれ以来三美さんの様子がどことなくおかしくてな。……チームリーダーとしても個人としても、ちょっと無視はしたくないんだ」

 

 本音を言ったうえで、俺は真っ直ぐに向き直ったうえで頭を下げる。

 

「問題のない範囲で構わない。三美さんが、過去に一体何を背負っているのか、教えてくれないか?」

 




 ま、今回は箸休め会といったところですね。

 年末にもう一回ぐらい投稿したいところ。……ただヘビーな部分になるからなぁ。あえて自重したほうがいいのかもしれないなぁ?


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闇動神備編 第三話 下半身関係の失敗談は割と尾を引く

 あけましておめでとうございます! グレン×グレンです!

 ……まさか正月早々に震度7の地震が来るとは思いませんでした。手持ちの金も増えてきたし、義援金に札入れるか、支援物資用に使い捨てカイロでも用意しておくか。

 とはいえ、書き溜めも200kb超えているので少しずつ投稿していこうと思っております。


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はリアス姉さんと共に、許可をもらったうえで揚陸部隊の様子を見学している。

 

 たけしま級はファン・カルロスを母体としつつ、ある程度の改修が行われたライセンス生産型の揚陸艦だ。付け加えるなら、ファン・カルロスが諸外国でも評価され、日本以外でも採用している国家がある名船舶といえる。

 

 その見学は、興味が無くても悪い事にはならないだろう。そういう判断だ。

 

「なるほどね。人間界の軍艦はこういう仕様になっているのね」

 

 リアス姉さんも感心しながら見ているけど、その上でちらりと視線が兵員の待機室に向けられる。

 

 そこには今夏の主力となる、多国籍で構成されるレイダー部隊が、実装前の状態で準備を整えていた。

 

「……日本を中心に開発された、新型プログライズキー。ついに実践投入されるのね」

 

「日本も色々と被害を受けましたからね」

 

 昨今のテロ活動は、ザイアが余計な仕込みをしていた所為で一気に質が危険域に到達している。

 

 特に大量生産されたプログライズキーが、技術ごと流出しているのが痛い。その所為で規模の小さいテロ組織ですら、戦車や攻撃ヘリを投入する必要性もある。

 

 だからこそ、どの国家も同じように流出した白兵戦力を大幅拡張する技術―すなわち星辰奏者やプログライズキー―に強い関心を持っていた。

 

 そして、日本でいくつもの大規模テロが起きたことにより、日本国は一気にその事業に参入。更に大欲情教団がらみの一件で、国民意識の刷新と地下鉱脈の獲得まで行われた。それが、一気に加速させたと言ってもいい。

 

 僕達が来たのも、ある意味ではその技術の見学と言っていい。

 

「リアス姉さん。これから、人間は一気に力を増していくんでしょうね」

 

 そう、僕は思わず聞いてしまう。

 

 悪い事とは言わない。だが、懸念事項がないでもない。

 

 異形や異能を一般人に広めていないのは、人間がそれを爆発的に進化させてしまうかもしれないからだ。事実、英雄派は神器を魔王の血を使って強化するなどという、恐ろしいことをしでかしているしね。核兵器も、考え方によっては恐ろしいものだ。

 

 これから、人類は果たしてどこに向かっていくんだろうか。

 

 そう、少し寒気に近いものを感じてしまう。

 

「そうね。人間の悪意は時として、私達悪魔すら超えることがあるもの。懸念はしてしまうでしょう」

 

 リアス姉さんもそう言い、しかし小さく微笑んだ。

 

「でも同時に、人間の善意も馬鹿にならないわ。私達は、それだって知っているもの」

 

「……そうですね」

 

 ああ、確かにそうだ。

 

 懸念はある。だけど、希望もある。

 

 あとはその天秤が懸念に傾かないよう、僕達も頑張って動いていく。ただそれだけかもしれないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

「……元々、ウチと三美は同じ大学の同じサークルにおったんや」

 

 と、白雪さんは話始める。

 

「芸術系の大学だったのは知っとるか? 海外で起きとる最近の芸術関係を調べたり真似してみるサークルだったんやけど……」

 

 と、そこでなんかちょっと言いよどんだ。

 

 なんだなんだ?

 

 俺とエルトーナが首を傾げたその時だった。

 

「……裏でヤリサーやってん」

 

「また!?」

 

 思わず絶叫したよ。

 

 え、またヤリサー案件? え、マジで?

 

 おいおい、インガ姉ちゃんの件でちょっと腹いっぱいだぞ!? 二度目ぇ!?

 

 思わず天を仰ぐが、白雪は慌てて両手を間にして降っている。

 

「勘違いせんといてな!? 基本的に任意でやってるグループさかい! 女子も十人以上おったサークルやけど、ヤリサーやっとったのは六人ぐらいやったし」

 

 ……とりあえず、その比率ならえぐいことはしてないのか?

 

 まぁ、この状況下で嘘を言うことはないだろう。その点なら安心か?

 

 ただ、そこで更に白雪は視線を逸らしている。

 

「で、でな? そのサークルには三美だけやなくて、その幼馴染もおってな?」

 

 嫌な予感が再発してきたぞ?

 

 えっと、どっちかがヤリサーに属していたことが原因でおお揉めしたとか?

 

 俺は覚悟を決めることにした方がいいんだろうかと、割と真剣に思えてきた。

 

「三美は二年の夏前から参加しとってな? で、幼馴染の秋冷充(しゅうれい あてる)っちゅう奴がその年の冬から参加しとってん」

 

 ん~。それがどうしたんだろうか。

 

 ヤリサーとはいえ任意参加なら、流石にやばい事にはならないと思うが。

 

 ただ、気まずいかもしれないんだが。

 

「……ちなみに、秋冷は後輩と学生結婚しとってなぁ。夫婦仲良く、入籍前に同時参加しとったわ」

 

「とりあえず、俺の過去に匹敵するレベルで性的に倒錯してるな」

 

 どんな関係だ。退廃的というか倒錯的というか。

 

 別の意味で不安になるが、大丈夫なんだろうか。

 

「ただ妊娠後も普通に新入生を食ったりしてから誘っとったりしとってなぁ。後輩のその子もたまに愚痴っとったわぁ。あいつ、前は秋冷だけって形やったし」

 

「……仮にも貴族なので、正直頭痛がするんですが」

 

 エルトーナは真剣に頭を抱えている。

 

 まぁ、吸血鬼の価値観的に、無節操にふしだらな性事情は抵抗があるかもしれないな。女系主体だと尚更か。

 

 しかしまぁ、はしゃぎにはしゃいでるなオイ。俺も大概性遍歴が酷いが、三美さんも八茶けてた系だったのか。

 

 あとその結婚した奴ってのも大概だな、前はってことは後ろはウェルカムなのかよ。

 

「……で、二人はそれが黒歴史だったのに、出くわして気まずくなったとかそんな感じですか?」

 

 白雪さんにそこを確認する。

 

 そういう事なら、そこまで気にすることでもないだろう。というより、つついてしまって申し訳ない気持ちが更に溢れてくる。

 

 あとで謝っておくべきか、胸にしまっておくべきか。真剣に悩む。

 

 ただ、白雪はそこで表情に影を差させた。

 

「そうやない。つーか、かなりアレなことになっとってな?」

 

 ……どうやら、更に何かあるようだ。

 

「……貴方を下僕にした、その時のことが関わっているのですか?」

 

 エルトーナは心当たりがあるようだ。

 

 エルトーナは、俺の方を振り向くと、苦い表情を浮かべていた。

 

「バルトリ家は里の外側、食料となる人間の確保もあり、人間側の衰退した貴族の後援者となりつつ、そこを拠点の一つとしていました」

 

 ふむ。

 

 まぁ、いくら里に引き籠っているか追放されて暴れるかの二択が多いとはいえ、人間の血を糧とするならそういったこともあるか。

 

 少なくとも、現在においてはあからさまな違法行為はしてないだろう。ならばそこはいい。

 

 問題は、そこからだろう。

 

 視線で俺は促し、そして周囲をそれとなく警戒する。

 

 三美さんはいないな。それに、近くに他の人もいない。なら、少し深く聞いても大丈夫か。

 

「私が白雪を眷属としたのは、その貴族が保有する海岸線の別荘に、死にかけている彼女を見つけたからです。たまたま私がそこにいて、日本人が珍しい地域だったこともあって、憐憫半分興味半分で助けた形ですね」

 

「そこから衣食住もしっかり用意してもらって、心の底から感謝しとります」

 

 説明するエルトーナに感謝の意を改めて示してから、白雪は複雑な表情を浮かべる。

 

「三年の夏に、海外に行って大当たりしたOGの提案でな? クルーザーに乗って思いっきり羽目を外すってことになったんや? ただ、その前に三美の奴、急に自主退学してんねん」

 

 なるほど、な。

 

「三美さんは、自分に独創性が欠けていることから、芸術の道を断念したとかいう話だからな。そこは問題ないと思うが」

 

 そういう俺だが、しかし少し思うところがある。

 

 なんというか、懸念事項があるな。

 

 話の流れ的にどうも不穏を感じる上、俺の経験上尚更不安を覚える。

 

 どうもオカ研関係者は、過去に悲劇を抱えている奴が多くいるからな。加えて、カズヒや春っち、インガ姉ちゃんと下半身関係でトラウマになってもいいレベルの傷を持っている手合いも数多い。

 

 なんだろう。表向きの事情とは別に裏があるという、そういったえげつない可能性を察してしまった。

 

 つまるところ、三美さんが芸術の道を諦める決心となった、そのきっかけ。それが芸術にあるという、そんな保証があったか?

 

 いや、流石にこれは憶測が過ぎる。

 

 俺はそこはあえて振り切り、とりあえずは白雪の話を聞くことにする。

 

「……その後にクルーザーに乗って大はしゃぎしとったんや。ただ、ウチが一休みで外の空気を吸っとったら、急に衝撃が来て意識が飛んで……その後、気づいたら吸血鬼になっとった」

 

 そう語る白雪は、その時のことを思い出したのか、寒気を感じているように震えていた。

 

「分からんねん。あの後調べたけど、誰一人見つかっとらんのや。あそこは、そんなに陸地から離れ取らんかったのに……っ」

 

 思った以上に闇が深い。そんな印象を感じた。

 

 異形が関与しているのか、それとも人間側の何かしらか。

 

 ただ一つ、なんとなく思ったことがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、三美さんは……心で泣いているんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今、崩れ落ちた。

 

 畜生……畜生!

 

「今夜もエッチなことをするんだな、九成の奴!?」

 

 リーネス達と話してたら、もうそれがすぐに分かっちまうよぉおおおお!

 

「うっせぇよ! ってか、いい加減アンタらはしろよな!?」

 

 ベルナがマジでツッコミを入れるけど、俺だって文句を言いたいぐらいだっての。

 

 なんでエロエロな毎日を送りたいのに、むしろほぼハーレムが完成しているのに、俺はいまだに童貞なんだ。

 

 泣いていいか? 泣いていいか? マジ泣きしていいか!?

 

「……悪かったわね! いいじゃん、愛し合っている男女がエロいことても! っていうかしなさいよアンタ達も!」

 

 南空さんが半泣きで言い返すけど、俺だってそうしたいっての!?

 

 なんでか上手くいかないんだよ。俺は、童貞を卒業したくてたまらないのにだ。

 

 してほしい時にしてくれない。してくれても、邪魔が入る。とどめに珍しくする気じゃない時に限って、邪魔が入らない形でアプローチしてくる。

 

 泣いていいかな? 泣いていいかな!?

 

「……何を泣いているのよ、イッセー」

 

 って、カズヒ?

 

「あ、終わったの?」

 

「まぁね。あとは少し休憩をしているだけね」

 

 南空さんに答えてから、カズヒはこっちに呆れた視線を向けてきた。

 

「この状況でギャグやれるとか、天然で先任軍曹とかに向いてそうね」

 

「うっせえよ! 当たり前にエッチができるやつに、今の俺の気持ちは分からねえ!」

 

 俺が涙を浮かべてそう絶叫すると、カズヒはちょっと視線を逸らした。

 

 気まずいよな? なら気遣ってくれ! 主に俺の童貞を卒業させる手伝いをしてくれ。

 

 なんで俺はいまだに童貞なんだ。俺はもちろん、リアス達だってオッケーなところがあるのにだ。なんで俺は、童貞なのに同居人達はエッチしているんだ。

 

 ちょっと殺意が漏れそうになるけど、カズヒは静かに頷いてた。

 

「そういう事なら任せなさい。こちらもそろそろ準備を進めておくわ」

 

 ………え?

 

「ちょっとカズヒぃ? 流石にそれは……ねぇ?」

 

「やりすぎだって。和地君泣くよ?」

 

 リーネスと枉法さんが悟ったのかたしなめるけど、カズヒは首を横に振った。

 

「私じゃないし、いきなりではないわ。……一つ手を思いついたのよ」

 

 一つの手?

 

 俺は、俺は―

 

「期待していいのかな!?」

 

「う~ん。絶対頓珍漢な形で失敗しそう」

 

 俺の期待を後ろから破壊しないでくれ、リヴァさん!?

 

「……つってもどうすんだよ。いや、いい加減ステップを踏めって言いたいけどよ?」

 

「簡単にいきそうだけど、全然いかないもんね」

 

 ベルナも成田さんも、怖いこと言わないでくれ!

 

 でも、希望があるなら頑張れる。

 

 そう、俺は一歩を踏み出せるかもしれないんだからな!

 

「俺は、この戦いが終わったら童貞が卒業できるんだ!」

 

「「「「「「「……嫌な死亡フラグ!?」」」」」」」

 

 なんて失礼な合唱なんだ!?

 




 グレン×グレンがヒロインを利用して発散する衝動は知っているな? つまりそういうことだ。

 さて、それはそれとして、イッセーの童貞問題もいろいろ切り込みたいところ。原作がこのままだとエタるんじゃないかと不安なぐらい続報も出てきてないし、終盤はオリジナル展開で乗り切るつもりで頑張ります!


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闇動神備編 第四話 攻略戦は順調です

 はいどうもー! 自分も新年初仕事を終えたグレン×グレンでっす!

 さぁて、新年もこれから頑張っていきますよー


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦開始と共に、私は使い魔を飛ばして戦場を確認している。

 

 奇襲に近い形だったけれど、やはり対応はされている。大欲情教団、やはり練度が高くて厄介ね。

 

 性欲に連なる高い士気。更にそれを訓練に回すことによる練度も相応。そして天才をこじらせた変態どもにより、優れた技術力。

 

 大欲情教団は強大な組織であり、厄介以外の何物でもない。

 

 展開されるのは、何度も見てきた小型の人型兵器。

 

 股間部にコックピットブロックを持つ、股幅と肩幅の広い人型フレーム。しかも股間から砲撃が放たれるとかいう、ツッコミどころの塊。

 

 しかも忌々しいことに、奴らの人工神器技術は性欲に呼応して力を引き出す設計らしい。結果として性欲が人体的に最も集まる股間部に使用者を搭載することで効率化が図られている。そして性欲において奴らが低いわけがない。

 

 ……地味に中級悪魔でも手こずるレベルだ。本来、自衛隊でも勝てる相手ではないわけだ。

 

 だが、今回は違う。

 

「全部隊、戦闘開始!」

 

 自衛隊の部隊長が声を張り上げ、同時に反対側から攻撃が当たる。

 

 囮作戦は見事に成功し、敵部隊は先制で被害を受けている形ね。

 

 そして、今回その戦いを優勢にする切り札が突貫した。

 

「GOGOGO!!」

 

 正面から突貫するのは、イノシシのライダモデルが装着された新型レイダー。

 

 敵の攻撃を重装甲で無理やり押し切り、両肩の砲撃で逆にダメージを与えていく。

 

 米国政府が合同開発プロジェクトから発展形として開発した、パーシングボアレイダー。

 

 コストパフォーマンスは若干悪いが、国力と技術力を生かした力押しによる突破が持ち味。パーシング戦車の名を冠しているだけあり、正面装甲の分厚さと両肩のガウスキャノンによる砲撃能力を誇る、戦車を人型にしたと言ってもいい戦闘兵器だ。

 

「米国に負けるな! 続けぇええええ!」

 

『『『『『『『『『『『ぉおおおおおおおっ!!』』』』』』』』』』

 

 それに続くように集団で戦闘を仕掛けるは、ネズミのライダモデルを装甲にした、国際開発型のレイダー部隊。

 

 今回参加する部隊としては練度が明確に低いはずだが、それを感じさせない戦い方で、大欲情教団と渡り合っていく。

 

 あれが国連合同開発による、普及型のレイダー。ジャパニングラットレイダー。

 

 日本主導の開発研究に伴い、それらの普及型として開発されたレイダー。それに伴い、戦闘用ではあるが欧州が東洋の漆器を模倣した結果生まれた技術を意味するJapanningを冠している。

 

 兵士の練度や国家の技術力が低くても運用できるよう設計されており、正規軍レベルの訓練課程を終えている必要がある負荷と引き換えに、戦闘支援システムを利用した底上げを可能としている。

 

 そして、彼らが正面から激突する中、流れるように戦っていく忍者の如きスマートな攻撃が、敵人工神器兵器を破壊していく。

 

「……次だな」

 

「了解……っ」

 

 あれこそが、日本政府が合同開発の果てに生み出した最新兵器にして、反撃の切り札。

 

 ジャパニングディアレイダー。鹿のライダモデルを利用した、日本自衛隊の切り札だ。

 

 総合力ならパーシングボアレイダーと同様だが、その在り方は正反対。

 

 豪快に敵と激突するパーシングボアレイダーに対し、ジャパニングディアレイダーは流れるように敵の猛攻を受け流し掻い潜る、仕事人のような雰囲気を持つ。

 

 設計思想の違い……いえ、お国柄の違いかしらね。日本と米国では技術の使い方に違いもあるし。

 

 この調子なら、この戦闘は連合軍が有利。それは間違いない。

 

 奇襲を受けた上に隠し玉も貰っているものね。圧倒的に大欲情教団が不利でなければいけないでしょう。

 

 とはいえ、あいつらも無能ではない。

 

 ここからが本番になる。それは確実だわ。

 

 さて、私達が派手に出張る必要が無ければいいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は激しいけれど、今のところは僕達が積極的に動く段階ではない。

 

 後詰の一環として参加しているけど、この作戦は基本的に人間側の作戦だしね。異形の僕達は積極的に関与できないといってもいい。

 

 ただ、不穏な感覚も覚えている。

 

「意外と、抵抗が大きくないですね」

 

「そうですね。なんというか、拍子抜けですわね」

 

 そう、朱乃さんと同意見になるぐらいには、あの変態達は脅威ではないのだ。

 

 これまで戦ってきた彼らは、もっと脅威に感じていたと思う。

 

 それがどうしたというのか。なんというか、圧力があまりない。

 

 僕達がこれをやったのなら、僕らが強くなったと勘違いしていたかもしれない。

 

 だが、対抗しているのは人間の軍隊だ。

 

 言っては何だが、彼らと僕達なら僕達の方が個では圧倒している自覚がある。客観的に見ても断言できる。

 

 それが、数で圧倒しているとはいえ大欲情教団を相手にこうも戦えている。これに違和感を覚えてしまう。

 

「大欲情教団にも、ピンキリがあるっていう話でしょうかぁ……?」

 

 ギャスパー君がそう考えこむけど、もしかするとそうなのかもしれない。

 

 僕達が今まで戦ってきたのは、大欲情教団にとっても精鋭だった。そう考えればつじつまも合うだろう。

 

「……単に、本部と教主を失って士気が下がったのかもしれません」

 

 小猫ちゃんの言い分もあり得るだろうね。

 

 相当カリスマだったようだし、本部である地下性都も、日本政府が今獲得している。神滅具や地下鉱脈を考えれば、失った影響力は絶大だろう。

 

 それも考えると、心身共に弱体化している可能性は確かにある。

 

 だからこそ、それなりの警戒はするべきだろう。

 

 そういう手合いが暴発したときは、単純な強弱とは別の意味で面倒なことになる。クリフォトが実権を握り切る前、駒王学園が襲撃を受けたガス抜きの件もあるしね。

 

 ……少し、警戒心を強く持った方がよさそうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達兵藤一誠眷族は、外側の方を警戒する動きになっていた。

 

 なにせ、俺達って基本的に派手だからね。

 

 赤龍帝の鎧はレイダーとは毛色が違いすぎて注目を浴びるだろう。ゼノヴィアのデュランダルも破壊力が大きいから目立つだろうし、レイヴェルの不死が発現すると、衆目を集めてしまうだろうし。

 

 なので、俺達離れたところで外周を飛びながら様子を確認している。

 

「……島ごと吹き飛ばせればすぐ終わるのですが、そういうわけにもいかないのが難儀ですわね」

 

「だな。久しぶりにまずデュランダル砲を放ちたいぐらいだ」

 

 パワーを如何に叩きつけるかのレイヴェルと、基本的には力こそパワーなゼノヴィアが物騒だ。

 

 うん、レーティングゲームとか疑似フィールドならともかく、ここ日本だから。やったらいろんな人に怒られるからね?

 

 ただ、あいつらが相手だとそれぐらいしたくもなるよなぁ。

 

 俺も大概変態だけど、あいつらには絶対負けるし。

 

 俺やファーブニルもたまにやるけど、変態ってはたから見ると意味不明なとんでもないことをたまにやるからなぁ。その辺りを考えるとちょっと怖い。

 

 気づいた時には何かが起きる。そしてそれで戦局がひっくり返る。

 

 ……本当に、俺って実践しているから警戒しちまうよ。

 

 俺がリアスのおっぱいで何かやるのが、グレモリー眷属の必勝パターンなんて言われてるし。実際言われた時には形勢がひっくり返ったし。

 

 あの変態達だって神器持ちが何人かいるわけで、それを考えると本当に警戒しないとなぁ。

 

 それに、他にも警戒することはあるだろうし。

 

 大欲情教団は、俺達がロキや禍の団と三つ巴で戦った時に第四勢力として引っ掻き回せるだけの部隊を送り込めた。

 

 神聖糾弾同盟との一件でも、他勢力が入り乱れる大乱戦の一角だった。

 

 つまり、あいつらは俺達だけでなく禍の団やサウザンドフォースも警戒する組織なんだ。

 

 もし、もしもだ。

 

 奴らのどちらかがこの作戦を知ったとしてだ。

 

 何もしない、そんな虫のいい話があるんだろうか?

 

「……ロスヴァイセさん。外の方の警戒もお願いします」

 

「分かっています。とりあえず、今のところは大丈夫ですよ」

 

 ありがとうございます。俺達だと、それが一番できるのがロスヴァイセさんなので頼ってます。

 

 頼もしいロスヴァイセさんに心から感謝していると、シャルロットが少し目を細めて島の方を見ていた。

 

「イッセー、念の為他のメンバーと連絡を取ってみますか?」

 

 ん、どういうこと?

 

「相手はあの大欲情教団です。もしかすると我々に気づいている可能性もありますし、一度情報交換して再確認……ぐらいなら問題ないと思いまして」

 

「なるほど。それぐらいなら問題ないか」

 

 そうだな、その方が―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、現状はいい感じだけど、今後はどうなるかだな。

 

 相手は大欲情教団であり、油断は禁物。

 

 少し前には意味不明な現象も多かった以上、トラブルが発生する可能性もあり得る。

 

 壊滅的打撃を受けたとはいえ、禍の団は新たな象徴を得て立て直しを図っている。

 

 そして、サウザンドフォースに至ってはいまだ健在。

 

 何か起きても不思議ではない。その辺りは真剣に考慮するべきだ。

 

 だからこそ、呼吸を整え、常に対応ができる状態を。

 

 そう思った時、通信が繋がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みんなヤバイ! 海からなんか来てる!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセー?

 

 その声に、俺はイッセー達がいる方向を確認した。

 

 そして、軽く眩暈を覚えた

 




 攻略作戦は順調。

 だが、順調では物語がつまらないのです。

 さて、九成和地にめまいを覚えさせる事態とはいったい!?


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闇動神備編 第五話 ギャグみたいな事態で死屍累々になる事態が本当にある

 はいどうもー! 最近書き溜めも進んでいるグレン×グレンでっす!

 さぁ、和地たちを襲う事態は一体何なのか!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が、目が痛い!

 

 具体的にはスパイスで目が痛い!!

 

「くっ! なんだあれは!?」

 

 驚愕してるゼノヴィアだけど、俺達もうかつに手が出せない。

 

 だって、あれを倒したら海洋汚染確定だし!?

 

「な、なんだあれは!?」

 

「麻婆豆腐のクジラだと!? っていうかでかっ!?」

 

 自衛隊の人達も困惑してるけど、本当にそれなんだよなぁ。

 

 全長90mぐらいの、巨大すぎる麻婆豆腐でできたクジラ。そういうしかない物体が、海面から飛び上がった。

 

 そして海にまた戻るけど、影響で大津波が発生したし。

 

「上に登れぇえええええええっ!?」

 

「ぎゃあああああああ!?」

 

「ジーザァアアアアアッス!?」

 

 もうどこもかしこも大混乱だし!

 

「な、なんか分からんが今だ! 離脱するぞ!!」

 

「麻婆豆腐か……ありだな!」

 

 あと逃げようとしてる大欲情教団が、変なインスピレーションを得ている!?

 

 ああもう、どうしろってんだ!?

 

「迂闊な攻撃はしてはいけません! おそらくあれは、九州に出てきたラーメンのイソギンチャクと同じものですわ!」

 

 レイヴェルが慌てて声を出すけど、やっぱ似たようなものか、中華料理だしね!

 

 あれは本当に大変だった。

 

 人々をラーメンの奴隷にするラーメンイソギンチャク。あと渦の団の最高幹部らしいラーメンの豚軍団を操る怪人。立ち向かうのもラーメンでグレンデルを再現したヴァーリで、ラーメンのゲシュタルト崩壊だった。

 

 そして倒した後も結構大変だった。

 

 倒されたイソギンチャクは豚骨ラーメンに戻り、十メートルを超える巨大なイソギンチャクを構築していた体積のラーメンが、町中に津波となったからだ。

 

 死人が出なかったのは幸いだけど、後始末が大変だったらしい。

 

 ……ラーメンの津波ってなんだよ。今でもそう思う。

 

 だから奴を倒した場合、そのまま麻婆豆腐が海に流れ出すかもしれない。

 

 あのサイズの刺激物が海に流れ出したら、割と笑えない海洋汚染だ。

 

 なので、俺達は今魔法が使えるメンバーが集まって、空中に打ち上げる準備中。そのあと、俺が∞ブラスターで吹っ飛ばし、リアスが三つぐらい消滅の魔星を出して残骸を掃除する予定だ。

 

 ただ暴れ出すは周りで何人か麻婆豆腐を作り出そうとする話で、結構大変。動きも早いし波も出るしで、割と無視できない。

 

 そして何より―

 

「……そっち行ったぞぉ!」

 

 自衛隊の方が教えてくれたので、俺はすぐに拳を握り締めると飛び出した。

 

 そこから出てきたのは、自我未覚醒体のステラフレーム。

 

 ……どうやら禍の団の残党、こいつを追跡してたみたいだ。

 

 自我未覚醒体と言ってもステラフレームは虎の子だろうけど、俺達がいるのに気づくのが遅れたんだろう。逃げる為に奥の手を出して、状況を引っ掻き回そうとしてるんだと思う。

 

 ったく。ステラフレームは真女王でも手こずるからな。疑似龍神化は∞ブラスターに取っておかないとだし、厄介だな……ったく!

 

「……なんだと!?」

 

 と、そこで自衛隊の人が驚愕してた。

 

 今度は一体何が―

 

「たけしまに敵襲! 今、迎撃している最中だそうだ」

 

 ―マジかよ!?

 

 くそ、こうなったら強引にでも―

 

「と思ったらもう終わったぞ!?」

 

 ―あれぇ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、撤退は何とか完了いたしました!」

 

「そうか。例の通信装置は大丈夫か?」

 

「はっ! 無事に回収を完了しております!」

 

「それは不幸中の幸いだな。……我らの雌伏は、すべてこの通信装置が大事なのだから」

 

「移設が可能だと判明したのは行幸でした。ですが、何時になるのでしょうか?」

 

「それは分からん。だが、決して忘れてはならないことがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界をみだらで包むことこそが我らの、世界の本懐。ならばそれは、この世界だけに留まってはならないのだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ。危ないところだった。

 

 念の為、事態が動いてからたけしまの護衛に回ってて良かったな。出ないと死傷者が結構出たかもしれないな。

 

「おーっし! お前ら無事かぁ? 点呼!」

 

「は、はい! 一番、鰐川です!」

 

 ……とりあえず、新参メンバーは無事だな。カズヒが勇儀さんを付けていてくれて良かった。

 

「ったく。ステラフレームの一機は足止めに回し、もう片方を旗艦に差し向けて攪乱させる狙いか?」

 

 そうぼやきながら、俺は真っ二つにしたステラフレームを軽くつついてみる。

 

 既に自壊プログラムは機能しているようだが、とりあえずは一安心だろう。

 

 他にも襲撃を仕掛けてきたやつはいたが、俺がステラフレームの撃破に成功したら即座に撤退した。

 

 ……まったく。やっとこさ倒せたのかと思うと苦労するな。

 

 ま、流石に一瞬で倒すのは難儀な奴なんだが、今回はこっちが圧倒的有利だったからな。

 

「久しぶりのリスタートだけど、まぁ行けたわね」

 

 と、カズヒも周辺警戒をしながら、リスタートのままで念の為待機している。

 

 今回、自衛隊の被害も考慮してリスタートバックルを使って一気に仕掛けた結果がこれだ。

 

 リスタートのポテンシャルがそもそも高く、更に俺とカズヒの極晃を描いた親和性もあり、タッグで仕掛ければヴァーリが魔王化を使っても押し切れる。

 

 それを相手に速攻を駆けられれば、ステラフレームでも自我未覚醒体がどうにかするのは不可能に近い。単独なら尚更だ。

 

 最も、手際のいい撤退だったのでそれ止まりではあるわけだが。

 

「……どう思う、カズヒ?」

 

「ま、ついでにちょっかいでしょう」

 

 どうやら同意見みたいだな。

 

 禍の団はおそらく、あの麻婆豆腐鯨を追いかけていたってところだろう。しかし鯨は俺達と大欲情教団の戦いに入って行ってしまった。禍の団残党は虎の子のステラフレームを出して、潰せるならそれでいいかとちょっかいをかけたわけだ。

 

 ま、この調子なら今から探すのは無駄骨になるだろう。逃げに徹した潜水艦は厄介だしな。

 

「とはいえ、ステラフレームをこんな使い捨てじみた真似ができるだけ持ってるみたいね」

 

「そこだよなぁ。ミザリ無しで増産できるか疑問だけど、自我覚醒体がクソ親父達で打ち止めって確信もないし」

 

 そういう意味だと、まだまだ禍の団は厄介なんだろう。

 

 自我覚醒体のステラフレームは、D×Dでも多少手古摺ることはあり得るレベルだ。人造惑星の星辰光もあるし、場合によっては足元をすくわれかねない。

 

 もし複数が初見殺しを同時多発でぶちかませば、俺達だってやばいかもしれない。

 

 そういう意味では、今後も備えておく必要がありそうだ。

 

 なんというか、互いにため息をつきたいところだな。

 

 そう思いながら、残敵が潜んでないか念の為確認していると、やばいのが見えた。

 

「………っ」

 

 三美さん、顔色が真っ青を通り越して真っ白なんだが。

 

 ………。

 

「和地」

 

 と、そこでカズヒが俺に声をかける。

 

 何事かと思い振り返ると、カズヒは苦笑気味の様子で肩をすくめていた。

 

「あの条件はまだ消えてないわ。増やすならしっかり守り切りなさい。手伝いはしてあげるわ」

 

 ……敵わないというかなんというか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジョンの奴から報告来たぜー。例の異世界案件、表の連合部隊+チームD×Dの大欲情教団潰しに突っかかったってよ」

 

「……そうか。我々が渡したステラフレーム、役に立ったか?」

 

「ま、陽動ぐらいにはなったみたいだぜ? もうちょっとちょっかいをかけたかったが、今のグレモリー眷属相手は荷が重かったな」

 

「攻撃潜水艦サイズに備え付けられる数だからな。まぁ仕方がないだろう。とはいえ、別動隊もある以上慌てる段階ではないな」

 

「怖いねー。旧魔王派の連中もだが、アンタも立ち直り早いんじゃね?」

 

「当然だ。新たな象徴も据えているし、旧魔王派も英雄派もある程度は残っている。ならこちらは研究のし甲斐があるともさ」

 

「……やぁ、オイケスに美緒さん。どうも面倒になってるみたいだね?」

 

「「……(あてる)か」」

 

「僕がテストで貸した人形も、戦闘を経験したみたいだね。よければ話を聞かせてくれるかい?」

 

 

 

 




 設定の仕立て直しも行いつつ、少しずつちゃんと進めております。

 なので皆さん、これからも応援していただけると幸いです!


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闇動神備編 第六話 冥府、腰を上げる

 はいどうもー! 新年も少し経ってきたので、いろいろと職業関連で動いているグレン×グレンでっす!

 それはそれとして、ハーデスたちもそろそろ動くぜぇ? 題名に偽りないぜぇ?


 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時はどうなる事かと思ったし、作戦も逃げられた者が多いから微妙な結果だけど、何とか乗り切れた。

 

 禍の団が動いている事といい、乱入者だったあの食品による獣は油断できないだろう。というより、最悪の場合は笑えない環境汚染になりかねない。

 

 イッセー君とリアス姉さんが跡形もなく吹き飛ばしてくれたけど、あの鯨は四川風麻婆豆腐で出来ていたみたいだしね。あの刺激物がそのまま海に流れるのは、ちょっと笑えない被害になりそうだ。

 

 とはいえ、一旦帰ってこれたし後のことは後で考えるべきか。

 

 まだ時間は日が沈んだばかりだけど、アザゼル杯の試合もあるしね。そろそろ部室に行って合流した方がいいかな?

 

 そう思った時、携帯に電話が来た。

 

 確認すると、匙君からだ。

 

「……どうしたんだい?」

 

 僕が電話に出ると、何やら様子がおかしい。

 

 息を呑んでいるというか、戦慄しているというか。

 

 ただ、もし戦闘系のトラブルで呼ぶのなら携帯ということはないだろう。

 

 どこかでそんなレベルの試合があったのだろうか? 特に注目するレベルの試合はなかった気がするけど。

 

『おい、今すぐ「西遊記」チームと「黒」チームの試合を確認しろ』

 

 その声には、明らかに緊張感がにじみ出ている。

 

 一体何が……いや、そうだ。

 

 確か黒チームと激突しているのは―

 

『どっちも負けかけてるぞ。ハーデスの息がかかったチームにだ!』

 

 ―偉大なる冥府神の従僕チーム。ラツーイカ・レヴィアタンの率いるチームじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら非常事態というほかないようだ。

 

 俺は試合会場に到達し、思わず目を疑いそうになった。

 

 試合を映像で観戦していたシトリー眷属から、連絡を受けたのが十分ほど前。

 

 そしてそこから俺達が分散。イッセー達が西遊記チームに向かっている間、黒チームの方に俺達が向かってくるまでの時間に、試合は終局へと向かっていた。

 

 西遊記チームはD×Dのサブリーダーでもある、初代孫悟空殿が王を務めるチーム。メンバーは僅か五名ながら、優勝候補の一角と呼ばれる手練れ中の手練れだ。

 

 また黒チームもまた優勝候補。アースガルズと対立していた北欧の巨人達。その王たるスルトが率いる、これまた優勝候補レベルの凄腕揃い。

 

 その優勝候補が、どちらも苦戦を通り越して追い込まれている。そんな連絡が来たわけだ。

 

 既にさらりと確認したが、懸念事項はどちらもハーデスの息がかかっているだろうこと。西遊記チームとかち合っているのは、上級死神であるゼノとやらが率いているチーム。名前は「ブラックサタン・オブ・ダークネス・ドラゴンキング」とかいう長いチーム名だ。何かの嫌味だろうかと勘繰りたくなる。

 

 そして問題は、黒チームの相手。

 

 そいつらは「偉大なる冥府神の従僕」チーム。

 

 そうだ。あのラツーイカ・レヴィアタンが率いる、ハーデスに仕えていると明言しているチームだ。

 

 優勝候補とは言わないレベルだが、それでも三大勢力の手練れが集まったチームを撃破し、そのタイミングで名乗りを上げたことで一躍注目されているチーム。目立ちすぎてデコイではないかと思いたくなるが、なんだかんだで実力者が集まっており、手加減してわざと目立たない試合運びまで出来る辺り、まごうことなく精鋭だろう。

 

 だが、これは流石に予想外すぎる。

 

 優勝候補の一角を相手に、ラツーイカ達は熾烈な戦いを成立させていた。

 

 そして俺達が到着した時、決着はついた。

 

 ラツーイカはボロボロで苦笑いをしている。そしてカバーをしている二人の()()は、満身創痍。

 

 だが、その眼前でスルトが消滅の光に包まれ倒れ伏した。

 

 それ以外には誰もいない。そんな、熾烈な戦いの後。

 

 かろうじてフィールドが残っている状態。そんな、今見ただけで壮絶な戦いが起きたのだと分かる状況。

 

 それを見守っていた観客達は、誰もがその光景に目を奪われている。誰一人として、声を上げることができない。

 

 だが、スルトがリタイアの転送を終えた直後。ラツーイカは微笑みながらゆっくりと動く。

 

 伸びた手が、握り締められたその時―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『……うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―そこが冥界の悪魔領だったこともあり、大歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が来た時、既に決着はついた後だった。

 

 誰もがボロボロになっているが、「ブラックサタン・オブ・ダークネス・ドラゴンキングチーム」は、半分近くが残っている。

 

 そして相手の西遊記チーム。何人かがリタイアし、最強戦力である哪吒大使も膝をつく中、初代孫悟空の爺さんが倒れ、リタイアした。

 

『……これが噂の初代孫悟空さんね。最初っから一人じゃ厳しかったかも』

 

 そう、ボロボロだけど爺さんを倒したお姉さんが、面白そうに微笑んでいた。

 

『……倒しきれなかったか。流石という事か』

 

『……何者だ、貴様は……っ』

 

 そして哪吒大使は、ボロボロになりながらもまだ立っている男の方に畏怖の表情を浮かべている。

 

 そりゃそうだ。あのチームを相手に、半分近くが残っている。そして、勝っている。

 

 観ている俺も戦慄するけど、これは現実だ。

 

 ハーデスの配下が王を務めるチームが、優勝候補の一角を打倒した。

 

『な、なんという事でしょう! 突如として多数の新規メンバーを連れた、「ブラックサタン・オブ・ダークネス・ドラゴンキング」チーム! 優勝候補の一角たる、「西遊記」チームを撃破ぁあああ! これまでパッとしなかったチームが、ジャイアントキリングを達成しましたぁあああああ!!』

 

『『『『『『『『『『『ぉおおおおおおおおおおおっ!!』』』』』』』』』』』

 

 どよめき交じりの大歓声が響くけど、これは笑えない。

 

 だってあのチーム、上級死神が王なんだぜ?

 

 下級死神が兵士のチーム。だけど、そんな彼らの支援を受けた新規メンバーが大暴れし、西遊記チームを激戦の末に撃破した。

 

 正直信じられない。信じられないけど、信じるしかない。

 

 そして何より信じたくない事実。それは、新規メンバーが揃ってある種族だという事だ。

 

「……あのメンバー、全員、悪魔……?」

 

 リアスが戦慄しながら呟くけど、本当に戦慄するレベルだ。

 

 女王の男と、僧侶二駒の女。そして戦車と騎士を担当している四人。

 

 その新規メンバーが全員揃って、間違いなく悪魔だってことだ。

 

 おいおい。悪魔であれだけの連中が、なんでそろってハーデスの傘下に!?

 

「……来ていたか、リアス・グレモリー眷属」

 

 と、近くから声がかかる。

 

 振り返れば、そこには見たことのある上級悪魔が一人。

 

 あ、確かバーズ・フールカスだったっけ。

 

「バーズだったわね。貴方達も見に来ていたの?」

 

「ええ、リアス嬢。流石に、あれだけの純血悪魔がハーデスの傘下にいるなど無視できませんよ」

 

 と、リアスにバーズは答えている。

 

 どうも考え込んでいるし、奴らにとっても無視できないのか。

 

「問題は、何故ラツーイカの傘下にしなかったのか。それなら旧魔王派から奴が引き抜いたことにできる分、余計な疑念も抱かずに済むだろうに」

 

 バーズは考え込んでいるけど、確かにそこも妙だな。

 

 と思っていると、足音が響いた。

 

「……おそらくは、あっちが本命なんだろうよ」

 

 あ、ノア・ベリアルだ。

 

「来ていたのか、ノア」

 

「あんたが来てる方が驚きだよ、バーズ。ま、調子乗って油断しないでくれんのは助かるがな」

 

 バーズとちょっと話してから、ノアは勝利したことで映像が流れている、ハーデス陣営のチームを見据えている。

 

「ラツーイカは、おそらく本命を探る力を少しでも削る為のブラフだ。そして本命が用意できたから、テストを兼ねて試合に出した。……問題は、あれで全部って言いきれないところだな」

 

 ……おいおい、勘弁してくれよ。

 

 あいつらが、ハーデスにとっての本命だって?

 

 それだけの力があるのは分かる、分かるけど―

 

「……なんで、囮も本命も悪魔なのよ……」

 

 ―リアスがため息をついていいぐらい、悪魔だらけじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ファファファ。初陣はそこそこのようじゃのぉ?』

 

「ええ。あの西遊記チームが相手なのは都合がいいですし、ラツーイカに送ったメンバーも大暴れをしてくれたようで何よりです」

 

『超越者クラス二体に魔王クラス()()。そしてこちらには、それぞれ一体ずつ残しておる。十分すぎる戦力だ』

 

「それはもう。意外とたくさん作れて二十万体、その大半を上級以上にできましたし。ま、壊死が酷いので当分は製造できませんが」

 

『構わぬ。中級以下はお主が好きに使い潰せばよい。十分だろう?』

 

「個人的には、もっと時間をかけてみたかったんですけどね? でもまぁ、今後魔王クラスを狙える者達は八体もいますし……動くに足るだけの戦力にはなりましたね?」

 

『うむ。これだけの戦力があれば、勝の目も十分ある。それならば呼応する者もおるじゃろう』

 

「私は既に、アースガルズに連なる者達にスカウトをかけております。もっとも、ヘル様は睨まれているので難しいでしょうけど」

 

『構わぬ。それに数だけあっても意味がない。超越者や主神を相手どるのなら尚更だ』

 

「了解です。では、私は精鋭を用意する準備に入ります」

 

『……例の連中か』

 

「はい。強敵にメンバーが心折れ、チームがリタイアした者達から順番に」

 

『先も言ったが、儂は死者を素体とする人造惑星も、死者の影法師を呼び出す英霊召喚も好まぬ。貴様に与えた裁量が許す範囲内にとどめておけ』

 

「承知しております。貴方の機嫌を損ねるのは、私としても御免被りますので」




 原作より早い時系列で、リリス・チルドレン投入。さらに別動隊も優勝候補を撃破し、インパクトを増しております今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 ハーデス陣営との決着は、第三部を予定はしております。ですが顔出しはそこそこしておこうと思っているので、こうして本格登場です。

 さぁて、今後もいろいろとやっていくぜぇ……?


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闇動神備編 第七話 一度やらかすと一生恨まれることもままあるもの。

 はいどうもー! 最近病院に行ったら、肝臓の数値がよくなっていたグレン×グレンでっす!

 


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、俺達は一旦イッセー達と合流した。

 

 どうやらあっちの試合も終わったようで、西遊記チームは敗北したそうだ。

 

「リアス。こちらも大概だったけれど、そっちはもっと大概みたいね?」

 

「ええ。あれだけの力量を持つ悪魔が、ハーデス達についている。この時点で厄介なことだわ」

 

 カズヒもリアス先輩もため息をついたけど、問題はそこに終わらない。

 

「……特に、あの悪魔達を私達が一切知らないこと。あれだけの力を持つ悪魔が、今の今まで姿を見せてないなんておかしいわ」

 

 そう、リアス先輩の指摘が最重要。

 

 神クラスの中でも武闘派の集まりである、西遊記チーム。その西遊記チームを相手に、優位性を保った状態で勝利した、ブラックサタン・オブ・ダークネス・ドラゴンキングチーム。

 

 その戦力の中核を担う、明らかに異常な強さを持つ悪魔達。

 

 俺も映像をさらりと確認したが、どう考えても全員魔王クラスはある。特に二名はリゼヴィムと真っ向勝負ができるだろうポテンシャル、超越者クラスに到達しているだろう。

 

 それだけの力量を持つ悪魔が、今の今まで見つかっていなかった? そして寄りにもよって、あれだけの人数がハーデスにスカウトされて日の目を見る?

 

 違和感だらけだ。何かあるとしか思えない。

 

「個人的にはとても面白いけどね。あそこまで戦える未知の悪魔がいるなんて、とても戦いがいがありそうだ」

 

「正面からの戦いなら、リゼヴィムを凌ぐ者もいるからな。是非とも戦ってみたいものだ」

 

 ヴァーリとクロウ・クルワッハがバトルジャンキーらしいことを言ってくれるけど、そこで終わっていい話でもない。

 

 なにせ、違和感しかないわけで―

 

『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』

 

 ―その瞬間、俺達のほぼ全員が戦慄を覚えた。

 

 振り返れば、廊下の向こうから何人かが連れ立って歩いてくる。

 

 それは、さっきまで話していた悪魔達だけではない。偉大なる冥府神の従僕チームすらいる。

 

 奴らがハーデス側なのは分かっている。だから、合流したという事か?

 

 ただ、目の前にすることでそのオーラの質に、俺達は戦慄を覚えている。

 

「……これはどうも。優勝候補相手の大金星、おめでとうというべきかしらね」

 

「ども、ラツーイカさん。大勝利っすね」

 

 カズヒとイッセーがそう挨拶をすると、ラツーイカは微笑んだ。

 

「いや全く持ってその通り。これでハーデス様にも覚えがよくなるだろうし、優勝に一歩近づいたと思うよ?」

 

 そう返すラツーイカだが、その隣の女が様子がおかしい。

 

 こちらの格好を見て、なんか無意識レベルで手を腹に充てている。

 

 体調が悪いのだろうかとも思ったが、その時後ろでリアス先輩と朱乃先輩が妙な雰囲気になった。

 

「貴女は……」

 

「……あら?」

 

 ん、お知り合いか?

 

 と思ったけど、それより先に一歩前に出る人物が出てきた。

 

 俺達の前に出ると、その女性は礼儀正しい動きで一礼する。

 

「お初にお目にかかります、グレモリー次期当主リアス・グレモリー様。及び天使長ミカエル様の(エース)、紫藤イリナ様」

 

 そう一礼する女性は、その上でにっこりを微笑んだ。

 

「私、サンブック王国第二王女のエカテリーナ・ロド・サンブックと申します。以後お見知りおきを」

 

 その挨拶に、真っ先に警戒の色を濃くしたのはリアス先輩でもカズヒでもない。

 

「……あ~、そういうこと~」

 

 リヴァねぇだ。

 

 意味深に笑みを深めると、エカテリーナとかいう女性も笑みを深くする。

 

 その上で、エカテリーナは胸を張った。

 

「隠し立てする理由はありません。我々サンブック王国は、公式にハーデス様の活動を支援することを表明する予定です。私はその名代として、こうしてラツーイカ殿のチームメンバーとして活動しております」

 

 ……っ

 

 思わず警戒心を浮かべるが、仕方がないだろう。

 

 国家の王族が、こうして堂々と、国を挙げてハーデスを支援すると宣言する。

 

 事実上、遠回しな宣戦布告だ。ハーデスと決着をつける時に矢面に立つだろう俺達の前で言う辺り、自分達が相手になるという意味にとれる。

 

 そんな警戒心を齎すが―

 

「……ふふ、エカテリーナも豪胆ね」

 

 ―問題は、近くの二人だ。

 

 オーラが割とシャレにならない。間違いなく、こいつは超越者クラスだ。

 

「初めまして、チームD×Dの皆さん。私はヴェリネ、隣はバルベリスっていうの」

 

「……」

 

 凄まじいオーラを放つ男女悪魔。

 

 ただ、どこか無邪気な雰囲気を感じるのは気の所為だろうか。

 

 ……なんだろう、オーフィスを思い出すな。

 

 あいつも無邪気な子供じみているし、性能はシャレにならない。この二人も同じレベルだろうから連想したんだろうか。

 

 俺以外も戦慄しているな。ヴァーリですら多少戦慄しているぞ。

 

 そしてヴェリネの方は、それを面白そうに見ている。

 

「ちなみに、私達二人は超越者クラス……だそうよ?」

 

 ……やはりか。

 

「グレシル達も魔王クラスって話だし、きっとあなた達ともいい勝負ができるかも? その時はよろしくね?」

 

 ……やはりかぁ。

 

 魔王クラス四人に、超越者クラス二人。それだけいれば、人数が僅か五名の西遊記チームをどうにかする余地もあるだろう。

 

 問題は、ハーデスがどうやってそんなメンツを引き入れたのかってところだろう。

 

「ま、これ以上のおしゃべりはハーデス様も怒りそうだ。今日のところはこの辺で……ね?」

 

 ラツーイカがそう切り上げ、そして全員を連れ立って去っていく。

 

『……あれだけの悪魔が、今まで隠れ潜んでいただと……?』

 

『……まったく、この時代はどうなっている……っ』

 

 ドライグとアルビオンも戦慄している。

 

 本当に、どういった事態になっているんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アジュカ。ハーデスは僕らが思っている以上に力をつけているみたいだね」

 

「ええ。リアスから報告がありましたが、魔王クラスや超越者クラスの悪魔を擁し、更に人間世界の国家が直接ハーデス派であることを表明しました」

 

「やってくれるというかなんというか。これがきっかけで、新たに協力する人間世界の国家も出かねない」

 

「その件ですがシヴァ様。その可能性が大きくなりかねない事態になっているようです」

 

「……そうなのかい?」

 

「はい。ハーデス達につくことを表明、もしくはそう取るしかない者達が多数確認されています。どうやら、我々に対する不満を抱いている者達が焚きつけられているのでしょう」

 

「へぇ。ハーデスが人間達にまでスカウトの手を広げるとはね。そういうのは最小限にしているものと思ったけど」

 

「裏で手を貸している者達がいるのでしょう。そのものの発案だとすれば、納得もいきます」

 

「あとで、ヴィーザルやアポロンとも話した方がいいかもね。特にヴィーザルには、ヘルの監視を強めてもらわないと」

 

「ロキの娘である彼女は、かなりの懸念材料ですからね。こちらからも監視の要員は派遣しましょう」

 

「ふふふ。こういうのは不謹慎だけど、ハーデス達も思った以上に切り札を持っているようだ。ここで見せてない札も、いくつかあるかもね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい! ではこれより、対策会議を始めます!」

 

 と、リヴァさんが音頭を取る形で、急遽集まれたメンバーが会議をすることになった。

 

 議題は、初代の爺さん達のチームやらスルトが率いる黒チームを打倒した、ハーデスの配下と思われるチームについて。

 

 特にリアスたちと、曹操達が話すことがあるらしいので集まれるメンバーが全員集合した形になる。

 

「とはいえ、対策といえるものは現段階では難しいので、情報共有に留まるでしょうが」

 

 と、ソーナ先輩が口火を切った。

 

 そして映し出したのは、偉大なる冥府神の従僕チームの一人。

 

 僧侶の駒を担当しているエカテリーナと、騎士の駒を担当している女の人。

 

 どっちもラツーイカと共に、黒チームを全滅させた時も残っていたメンバーだ。

 

 特に騎士の駒の方は、俺達を見てから胃の辺りを抑えてたな。

 

 で、この二人について心当たりがいる人がいると。

 

「まずは騎士の方ですが、彼女は元駒王学園生です」

 

「え、本当に!?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げたけど、俺さっぱり知らないんだけど。

 

 あ、でも年上っぽかったし、俺が入る前の人かも?

 

 そう思っていたけど、ソーナ会長は割と困った様子で眼鏡を治していた。

 

「彼女の名前は、壱崎虎美(いちざき とらみ)。元駒王学園高等部所属でしたが、三年の春に自主退学をしています」

 

 じ、自主退学?

 

 駒王学園って、偏差値も高い方だし自分から辞める理由はなさそうだけどなぁ。

 

 首を傾げていると、何故か卒業生の人達の視線が苦笑い気味に俺に向けられた。

 

 えっと……何事?

 

「……その、彼女は自主退学前に当時の風紀委員・生徒会・校長にある直談判をしておりまして。間違いなくそれが通らなかったことが理由で退学……いえ」

 

 と、ソーナ先輩は俺の目を真っ直ぐ見た。

 

「素直に言いましょう。貴方の退学処分及び刑事告訴を止められたことが理由で、彼女は除籍願を出したうえで学園を去りました」

 

 …………はい?

 

 五秒ぐらい考えてから、俺は頭の中でかみ砕いた。

 

「俺の所為ですか!? あ、いやまぁ確かに起こりそうですけど!?」

 

「まぁ、私達と会う前の貴方なら、そうなるわね」

 

「それにしたって過激派な気もしますが、起こりますよね」

 

 うぉおおおおおお! カズヒとシャルロットに言われると納得するしかねぇええええっ!

 

 そ、そうか! 俺のかつての狼藉は、そこまで酷い事だったのか。

 

 そこまでですか!? 俺を警察に叩き込めないのなら、学園から追い出せないのなら、いた事実すら嫌になるぐらいですか!?

 

「まぁ、彼女自身は被害を受けておらず、被害を受けた女子側も「ボコったんだしそこまでしなくても」と言っていたからこそ止められたわけですが。どうもその反応の方が耐えがたかった雰囲気でしたし」

 

 ソーナ先輩はそう言うけど、そこまでか!?

 

 いや、だからってハーデスにつくほど!? そこまでぇ!?

 

「……思い出したわ。彼女、確かかなり苛烈な性格で知られていたわね」

 

「駒王学園ではかなり珍しいタイプでしたわね」

 

 リアスと朱乃さんもそう言うけど、そこまでっすか!?

 

 いや、相手が苛烈なだけだと思いたい。いくら何でもそれだけでハーデスにつくなんて、そっちの方が問題だと思いたい!

 

「……そしてもう一人。エカテリーナ・ロド・サンブックについてです。彼女についてはまず、サンブック王国について説明するべきでしょうね」

 

 ソーナ会長がそう言うと、一旦後ろに下がって今度はグリゼルダさんが前に出た。

 

「では、比較的知識が多い側である私が。……サンブック王国は地中海内のいくつかの島々が集まってできた、数年前に独立した国家です」

 

 なるほど。シルヴァスタン共和国みたいなものだろうか。

 

 ただ、今のご時世で独立って中々難しいと思うんだ。特に人間世界で王国って、かなり大変だろうに。

 

「サンブック王家は千年ほど前に小国を興していた一族です。その彼らが地中海の島々で新たに独立国を興そうとしましたが、これには大きな要因があります」

 

 というと?

 

 首を傾げてると、グリゼルダさんは俺達を見渡した。

 

「サンブック王家はサウザンドディストラクション後有数の速さで星辰奏者(エスペラント)を軍事採用した国家です。これによる陸軍戦力の圧倒的優勢の確保と、浮いたリソースで対空兵装を重質化させたことが大きいでしょう」

 

「……これは仮説ですが、サウザー諸島連合は地中海における対異形の橋頭保確保として、サンブック王家を利用したかったのではないでしょうか? その一環として星辰奏者技術を使ってコントロールを図っていたところにサウザンドディストラクションが起き、サンブック運営陣が結果的に武力を獲得して動く理由になったと」

 

 ソーナ先輩が仮説を立てるけど、なるほどぉ。

 

 サウザー諸島連合って色々考えていたようだし、対異形を踏まえてそんなことをやっていた可能性はあるのか。他にも色々とありそうだな。

 

「……確か、海軍戦力もサウザー諸島連合から調達していましたね。サウザンドディストラクション後の混乱をついたとはいえ、かなり安く早期に揃えていたので、なおさら間違いないでしょう」

 

「あ~。最初っからもらう予定だったから、そのコネで一気にゲットってかんじかぁ」

 

 小猫ちゃんやデュリオがそんなことを言い合う中、グリゼルダさんは咳払いで俺たちに意識を向けさせる。

 

「話を戻しますが、エカテリーナ・ロド・サンブックは現国王の二女です。王家は革命及びその後の安定化まで、直接活動しない婦女子を離縁して、諸外国に避難させていたのです……が」

 

 ここで、グリゼルダさんは小さくため息をついた。

 

 え、ここからが重要ってこと?

 

 でも何が起きたんだろう。そんなことを思っていたら、曹操が苦笑いをしながら立ち上がった。

 

 え、関係者?

 

「そこから先は元凶の俺達が話そう。……簡潔にまとめると、知らずに実験の為に誘拐したというわけだ」

 

 ……あ、なるほど~。

 

 そういえば、英雄派って禁手到達の方法を確立させる為に色々やってたな。

 

 手当たり次第に異形側が確保してない神器保有者を誘拐。洗脳したうえで、神器にブーストして保有者が死んでもおかしくない負荷をかける蛇を投与。その後俺たちのように強い異形の者達と戦わせて、命がけの戦いで禁手の覚醒を促す。

 

 その結果、英雄派は殆どのメンバーが禁手に到達していた。洗脳されていたメンバーは後継私掠船団の情報提供で助かったけど、それはあくまで捕縛できた人だけだ。中には自分から曹操達の力になる為に実験台になった奴もいたけど、死者がそいつらだけってわけでもないだろうしな。

 

 ……でも一応、曹操達って処罰を受けてるんだけどなぁ。

 

「まぁ、イッセーに対する対応と同じで足りてないと思ってるんでしょうね。これに関しては、言いたい奴が出るのは仕方がないでしょう」

 

 と、カズヒがため息交じりでそう言った。

 

「危うく自分達は操られたまま殺されるところで、同じように死んだ者達がたくさんいる。公開処刑でも生ぬるいと考える奴だっているでしょう。イッセーに関しても、実際刑事訴訟を受けたり退学処分になってもおかしくないわけだし」

 

「痛いところをついてくれる」

 

「うぅ。こんなところで火種になるなんて……」

 

 曹操も俺もついボヤいてしまう。

 

「え~? でもハーデス達って、大昔のことでこっちにぐちぐち言ってる来てるでしょ? 正直あんなクレーマーにつく奴らなんて、遠慮する必要なくありません?」

 

 と、シトリー眷属の仁村さんが言ってきた。

 

「ま~確かにですなぁ。それにおっぱいドラゴンの旦那も、英雄派のお方々も色々戦ってくれてますし、その分でちょっとぐらいチャラにしていいと思いますがねぇ?」

 

 うぅ。リントさんも庇う事を言ってくれるし、ありがたいぜ。

 

 カズヒも言い分は理解してるのか、ちょっと笑ってくれてる。

 

「ま、それは言っていいでしょうけどね。言うだけ言って譲れないのなら、もう互いに遠慮は無用でしょう」

 

 あ、結構割り切った意見だった。

 

 ……っていうかあれ?

 

「そういや九成は?」

 

 よく見ると、全然見当たらないんだけど?

 

 と、カズヒはこれまた小さく笑いながら肩をすくめる。

 

「別件を重視するように言ってるわ。あいつは実働だから、別に方針を決める会議はあとでもいいでしょうしね」

 

 別件……ってなんだ?

 




 さてさて、ハーデス陣営側の情報を少しずつ出していくターンでした。

 ハーデス側もいろんな人員を抱え込み、ハーデスが取らない手段を献策する輩がいるからこその事態です。かなり複雑な情勢になる予定。





















 そして次回、和地スケコマシタイム


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闇動神備編 第八話 和地「もはや定番になっている……っ」

 はいどうもー! 題名ギャグっぽいけど、シリアスになっているグレン×グレンです!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺も会議に参加するべきかと思ったが、カズヒの言い分ももっともだ。

 

 ……あと、大半の女達が俺に対して生暖かい視線を向けてきたしな。なんだあの視線の集中砲火。自分で言う事でもないけど、その方向性はおかしくないか?

 

 ま、それは置いといてだ。

 

 俺はある人を探していると、どうやらいつも通り従者としての業務をしていたとメリードから報告を受けた。

 

 で、今は大浴場の掃除をやっているとのことだったので向かってみるんだ……が。

 

「なんで水着祭り!?」

 

 清掃作業をしているメンツ全員が水着だったので、思わず絶叫ツッコミを入れたよ。

 

「あ、和地様だ」

 

「ども! 持ってる水着を無駄にしない為、こうしてたまに着てます!」

 

「どうしました? は、まさかお手付き狙い!?」

 

 メイドさん達ノリが軽いな!

 

 いや、前向きに生きれているならいいことだけど。それはそれとしてツッコミ入れたいけど。

 

 ま、それは置いといて、だ。

 

「三美さん、こっちだって聞いたけど」

 

 ……自分で言うのもなんだけど、これ八割ぐらい勘違いされないか?

 

 そう思った通り、従者たちの反応はもはや黄色い悲鳴だった。

 

「あ、やっぱり! 行舩さん、おめでとう!」

 

「八割逆玉だよね! 頼れる仲間もいるし、よかったじゃん!」

 

 なんか凄い事になってるけど、それはこの際置いといてだ。

 

「……和地様?」

 

 三美さんはいつも通りの格好で仕事をしていたけど、それはこの際いいだろう。

 

 とりあえず、俺がやるべきことは一つだ。

 

「時間はメリードに許可をもらって休憩時間を作りました。……ちょっと時間ください」

 

「……あ、これ告白とかお手付きじゃないかも?」

 

 後ろうるさいな!?

 

 あとなんで二人だけの場所を用意しようとしたのに、勘違いが治るのかな!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、プライベートが確保できるだろう場所を考慮。その上で変な勘違いが無いよう、俺の部屋にはしなかった。

 

「……なんでカズヒ様の部屋なんですか?」

 

「変な誤解をされないようにする為だからね!?」

 

 だってこれぐらいしないと絶対誤解されるし。カズヒもその辺を考慮しているから、部屋貸してくれるっていったし。

 

 ちなみに、いくつかの場所にぬいぐるみが置いていある辺り可愛らしいワンポイントができてる。この辺り、今からでも頑張っているんだろうなぁ。

 

 だけど今は落ち着こう。そこにテンションを上げている場合じゃない。

 

「……単刀直入に聞きます。たけしま級に襲撃してきた奴に、知り合いでもいたんですか?」

 

 もうその辺はすっぱりと行こう。

 

 大欲情教団殲滅の際に、謎の食べ物怪獣と追跡していた禍の団が混ざり合ったあの乱戦。

 

 あの時、禍の団が陽動狙いかたけしま級に仕掛けてきた。そしてその後、様子がおかしくなっていた。

 

 しかも三美さんだけじゃなく、白雪の方も様子がおかしかった。

 

 おそらくだが、共通する知り合いの姿を見たとかそんなところだろう。

 

 ……撤退されたから確証が持てない、そういったところだと踏んでいる。

 

「……白雪ちゃんから、なにか聞いてますか?」

 

 と、三美さんから探るような言葉を聞いた。

 

「……昔大学でヤリサーにいたとか、三年で自主退学したとかは聞いてます」

 

 ここは素直に言った方がいいと判断し、俺は白状する。

 

 それを聞いたうえで、三美さんはどこかほっとした様子だった。

 

「そっか。なら、白雪ちゃんは何も知らないんだ……そうだよね」

 

 あ、これかなりヤバイ地雷が埋まってる。

 

 俺はそれを悟るが、もうこうなったら仕方がない。

 

 腹をくくり、気合を入れる。

 

 そして、俺は真っ直ぐに三美さんに向き合った。

 

「白雪からはヤリサーは任意だと聞いてますが、ケースバイケースだった……ってことでしょうか?」

 

「……はい。私の場合、新歓コンパで……無理やりされたのが最初でした」

 

 ……あ~も~……っ!

 

 俺の周りの女性って、なんでそういうトラウマ案件が多いんだ。茶化して言えるタイプの黒歴史じゃなくて、元ネタ同様の忌まわしきレベルの過去じゃねえか。

 

 というか、白雪は多分知らないな、これ。ギグシャクしてたのはこれも原因だな。三美さんは悟ってたから、尚更言いづらかったとかそんな感じだろ。

 

 とはいえ、それは本題からずれている。

 

 とりあえず、言い難そうだしあえて俺からずばずば切り込もう。最悪俺が恨まれればそれでいい!

 

「大体分かりました。つまりそんなことした下種野郎が、何故か禍の団にいたという事ですか?」

 

「いいえ、違うんです」

 

 ……というと?

 

 俺がちょっと首を傾げていると、三美さんは顔を蒼くしながら少し肩を抱いていた。

 

(あてる)の、秋冷充のことは聞いてますか?」

 

「……幼馴染だとは聞いてます」

 

 彼がいたというのか?

 

 そう仮説を立てる俺だが、三美さんは俯き気味でそうではなかった。

 

「……いたんです」

 

 その表情に、俺は呼吸を整える。

 

 そして、三美さんは震える声で、それでも言った。

 

「お姉さんが。充の、お姉さんが禍の団にいたんです……っ」

 

 ……そういう事か。

 

 衝撃を受けるには十分な理由だ。加え、色々と懸念材料でもあるだろう。

 

 白雪の話では、例のサークルで現役だった者は行方不明になっている。それも、生存が絶望的な状況下で、だ。

 

 最も、それが何で禍の団にってことになると疑問だ。全員とも限らないだろうがな。

 

 ただ、間違いなく何かがある。それだけは間違いない。

 

 だからこそだ。

 

「三美さん」

 

 俺は、ここを違えるつもりはない。

 

「困ったことや力が必要なことがあるなら、俺()にちゃんと伝えてください」

 

 これは、はっきり言っていい。

 

「え、でも――」

 

「というか、勝手に無茶するようなら俺達も勝手に助けに行きますから。足並み乱れるんで、なるべく報連相はしっかりしてくれるとありがたいです」

 

 そこははっきり言っておこう。

 

 ま、個人的な問題がゴロゴロあるだろうからな。言いづらいのは当然だろう。

 

 それでも、言えることはあるわけで。

 

「もう三美さんはこの家の一員です。なら、本当に困ったことがあるなら、力になりたいと思うのが俺たちなわけで」

 

 安心させるように微笑んだうえで、俺はちょっと苦笑する。

 

「というか、ここにいる連中は甘やかすタイプが多いですから。カズヒだって、こうして部屋を貸すぐらいの気遣いはしてますからね?」

 

 そういう連中がゴロゴロいるからなぁ、兵藤邸。

 

 うん、勝手に三美さんが先走ってヤバくなったりなんてしたら、結構な連中が動き出すのが目に見えてる。

 

 ……うん、逆にそっちの方がグダグダになりそうだ。きちんと報告してくれるとありがたい。

 

 それに、だ。

 

「第一、涙の意味を変える男が、チームメンバーの涙を放っておけるわけないでしょう? 愚痴ぐらいは聞きますし、やむを得ない鉄火場ぐらいは全力でカバーさせてください」

 

 嘆きで生まれた涙の意味を、笑顔に変える救済者。

 

 瞼の裏の笑顔に誓い、約束された勝利を刻め。

 

 俺の根幹は、一切たりとも譲らない。こればかりは命がけで断行する。

 

 ああ、そうだ。

 

 それに言わなきゃいけないこともあっただろう。俺としたことが忘れてたな。

 

「三美さん、それと後二つ言っておきます」

 

 俺はそう前置きして、三美さんの目を見て言う。

 

「勝手に過去を探ったことは謝ります。そして、もう一つ」

 

 ある意味こっちが本題だ。

 

「その過去において、貴女は間違いなく被害者だ。そこは誰にも否定させないし、されるわけがない」

 

 そう、彼女は被害者だろう。

 

 もしかしたら、そこから転じて加害者側に回ったことがあるのかもしれない。

 

 でも、起点は被害者だ。それは決して違わない。

 

「貴女がその過去の中で罪を犯したのなら償うべきですが、同時に貴女が悪意に翻弄された被害者である事実も変わらない。なら、俺はそこには手を伸ばしたい……いや」

 

 言葉を切り、俺は言い直そう。

 

「手を伸ばさせてもらう。貴女の涙は、俺が変える」

 

 ……言ってから、これ半分告白じゃなかろうかと思った。

 

 だがまあいい。こうなったら覚悟を決めよう。

 

「……っ」

 

 っていうか、泣かれた!?

 

 あれぇ!? もしかして失敗!?

 

 くそ、こうなれば土下座するしかないのか。謝り倒す覚悟がいるという事か!?

 

 ちょっと混乱するけど、三美さんはその後小さく微笑んだ。

 

「ありがとうございます、和地様。その言葉だけでもだいぶ救われました」

 

 そ、そう?

 

 ちょっと安心したけど、そこで終わるのはあれだな。

 

「言葉だけで済ますつもりもないですよ? もし今後何かあるようなら、どうせイッセー達も動きますから俺もきちんと考えて動くんで、そこはよろしく」

 

 どうせ、イッセー達も動くだろうしなぁ。

 

 あいつら身内のピンチには全力投球だろうし。まぁ俺は政治とか国際情勢とか考えるけど、それにしたって、何もしたくないなんて考えじゃない。

 

 彼女は理不尽な悪意に翻弄された被害者であることは事実だ。もしそのあと、彼女が他者に悪意を向ける手伝いをしたというのなら、その償いに手を貸すぐらいはしたいと思う。

 

 だってそうだろう。この懲罰従者として関与しているということは、己の罪を償うという意思があるか、被害者であるという事実が根底にあるからだ。そこは上層部を信頼するしな。

 

 その上で、少ない時間だが付き合いがあるからこそ、それを言っていいだろう。

 

 だから、俺は彼女の味方側だ。容赦はなくても情けは持つ。

 

 自分の考えをきちんとまとめていると、三美さんはまだ涙を浮かべてはいるが、その上で俺の方を見る。

 

「なら、一つ甘えてもいいですか?」

 

「具体的に? 相当の無茶振りじゃないなら頑張りますよ?」

 

 さて、何が出てくるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 う~ん。ハーデスも戦力を拡張させていってるんだなぁ。

 

 俺達もきちんと備えながら、アザゼル杯を乗り越えていかないとなぁ。

 

 そんなことを考えながら、上級悪魔としての書類仕事をやっている。

 

 リアスはスパルタだから、こういう時積極的に教えてくれたりはしない。苦労しながら自分で覚えなさいって感じだ。

 

 正直大変だけど、頼れる敏腕マネージャーのレイヴェルがいるから何とかなっている。

 

「イッセー様、そちらの資料の束は主でなくても処理できます。半分は私が受け持ちますわ」

 

「オッケー。半分は俺の書類仕事の練習って感じだな」

 

 敏腕すぎて、俺を休ませてくれないところはあるけどね。

 

 ま、一年足らずで上級悪魔になったのは困惑だけど、上級悪魔は目標だったしな。遅かれ早かれ書類仕事もやることになってるか。

 

 こういうのも日々の一環ってね! 頑張るか!

 

 そうやって気合を入れていると、ドアがノックされた。

 

「お茶をお持ちしました」

 

 入ってきたのは、エルメンヒルデだ。

 

 少し前から俺のチームに入りたいって言ってきたんだけど、レイヴェルはマネージャー活動に終始させてる。

 

 どうも理由に隠し事があるみたいで、レイヴェルもそこを懸念してるんだろう。ま、最初に会った頃は色々言われたし警戒もするよな。

 

 ただまぁ、最初に会った頃とは雰囲気がかなり変わってるからな。……あと、シーグヴァイラさんが色々布教してるらしい。ちょっと大変だなぁと思ってしまう。

 

「……そういえば、今日九成和地から頼まれごとをしたのですが知っていますか?」

 

 と、エルメンヒルデはそう指摘する。

 

 ん~、あれのことかな?

 

「九成のチームメンバーがなんか悩んでるみたいだったけど、それかな?」

 

 カズヒもその辺気にしてて、色々気を回してるしな。

 

 そして九成はこういう時動くから、きっとフラグも立ってるんだろうなぁ。

 

 ちょっと嫉妬心は燃えるけど、ま、何かあるなら俺も手を貸すか。力が必要なり大ごとになりそうなら、あいつならちゃんと言うだろうし大丈夫だろ。

 

 でもエルメンヒルデに頼み事? なんかあるのか?

 

「どういった内容ですか?」

 

 レイヴェルがそう言うと、エルメンヒルデも首を傾げている。

 

「バルトリ家当主になった、エルトーナ・バルトリと連絡を取りたいそうでした。一応茶会は社交パーティで何度か会っているので、繋ぎを取りましたが、なんだったのでしょうか?」

 

 ん~?

 

 エルトーナっていうと、確かルーシアやアニルのチームにいた、女吸血鬼だったな。

 

 ちなみに若人の挑戦チームは、先日リタイアを決定してアザゼル杯から途中退場した。

 

 多くのチームメンバーが、精神的にいっぱいいっぱいになったみたいだしな。他にもリタイアしているチームはいるみたいだし、まぁ大変なんだろう。

 

 なにせ神クラスも当たり前に参戦している大会だしなぁ。戦うだけで精神的にギリギリになる人もいるんだろう。ヴァーリみたいに強い奴でワクワクする奴らばっかりでもないだろうしさ。

 

 ま、それはともかくだ。

 

 ルーシアやアニルじゃなくてエルメンヒルデなのは、単純により付き合いがありそうな方だからってことだろう。

 

 問題は、なんでかってことか。

 

 まぁ、九成なら必要ならちゃんと言うだろうし、聞けば余程のことがない限りちょっとは答えてくれるだろう。

 

 おそらく行舩さん絡みだけど、そこまでは今の俺だと分からない。

 

 ……ま、大丈夫か。

 

「気になるなら直接聞いてもいいと思うぜ? それとも、そのエルトーナって人と仲悪いのか?」

 

 俺がそんな風に世間話的なことを言うと、エルメンヒルデはちょっと複雑な表情になった。

 

「エルトーナ・バルトリは元々変わり者でしたから。もっとも、現状は主流派になっているとも言えますが」

 

 ふ~ん。

 

 まぁ、クリフォトのテロで吸血鬼は大打撃を受けている。

 

 それまでの圧倒的な自主族優位主義や選民思想が一気に崩れ、他勢力に頭を下げて援助をもらっている状態だ。

 

 つまり、エルトーナは元々多種族に寛容な方だったという事か。

 

 ……最初に会ったエルメンヒルデのことを思うと、絶対そりが合わなかったろうな。

 

 ま、これ以上深く聞くのも野暮か。

 

 そう思ってると、通信が繋がった。

 

『イッセー、そろそろ時間よ?』

 

 おっと、そういやもうそんな時間か。

 

 今日は、曹操達がラツーイカ達が試合する日だった。

 

 ……大丈夫かなぁ、曹操達。

 




 次回より、天帝の槍チームVS偉大なる冥府神の従僕チーム。


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闇動神備編 第九話 激突、冥府派VS英雄派!

 はいどうもー! 今日はちょっと疲れ気味ですが、書き溜めは100kbを超えているのでまだ問題ないグレン×グレンでっす!

 さぁ~て、そろそろ本格的にハーデス側の猛威を示しますよ~?


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつら、殺されないと良いんだけど」

 

「カズヒカズヒ、物騒なことを言わないで?」

 

 オトメねぇに指摘されるけど、正直その辺が心配になるわ。

 

 なにせ偉大なる冥府神の従僕チームには、英雄派がテロの一環で誘拐・洗脳・実験を行った者がいるということが判明しているわけで。

 

 そりゃもう恨み骨髄でしょう。私としてもそれはまごうことなく事実であり、否定する気はない。

 

 例えしっかり刑罰を受けていようと、だから被害者が加害者を許して仲良くしろと言われてできるかと言われれば別問題。刑罰を受けたという事実をもって生活を容認するのはともかく、友として肯定しろとまで言うのは困難だろう。相手が刑罰に納得いってないのならなおのこと。

 

 元々三大勢力が中心になって保護していたにも関わらず、その三大勢力の潜在的な敵であるハーデス達冥府についているわけだし。納得いっているわけがない。下手をしなくても、今の英雄派幹部に対する対処の不満があるだろうから、三大勢力も嫌いでしょうし。

 

 だからまぁ、試合にかこつけて「ぶっ飛ばす!」と気合を入れるぐらいは私だって許容する。ただし―

 

「競技試合でも死者や重篤な後遺症を患う事例がないでもないし、レーティングゲームでも同じことだしね」

 

「あ~。勢い余って殺してしまう系の事例を悪用して、どさくさに紛れて殺せないか試す可能性はあるかも?」

 

 鶴羽もそう言うけど、本当にそこが懸念なのよね。

 

 まぁ、恨まれるのは曹操達の自業自得。実際にそれで無法を働くのなら私も止めるけど、嫌悪や憎悪を向けるのまでは止める気はない。

 

 だからまぁ、きちんと試合をしてくれるのなら問題ないけれど。

 

 ……映像越しでも分かるぐらい、一部メンバーがピリピリしてるわね。

 

「……一応ねぇ? 今回、審判や監視役を増員しているのぉ」

 

「あ、やっぱり?」

 

 リーネスが裏事情を明かして、鶴羽も納得しちゃってるし。

 

 ま、どうせこの位置だと何もできない。

 

 精々頑張りなさい、英雄派。ほぼほぼ自業自得だけど、刑罰案件はこちら側にも責任はあるから試合の外では手伝ってあげるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はみんなにも色々予定があったので、久しぶりに外食中。

 

 ……回らない寿司をみんなで食べるという、俺が金を使う為の努力をしている!

 

 ちなみに異形を知っているお店なので、個室を借りてレーティングゲームの試合も観戦可能。今日は此処で試合を見る予定だ。英雄派が試合をするらしい。

 

 で、今回誘ったメンツは、だ。

 

「その、よかったのですか? 私まで誘っていただいて」

 

 三美さんも連れてきた。色々いっぱいいっぱいだったろうしな。

 

 それに他にも数名は連れているわけだ。

 

「うっす先輩! ゴチになります!!」

 

「ありがとうございます、先輩。ふふ、いっぱい使わせてあげますね?」

 

 アニルとルーシアの後輩信徒。更に―

 

「ひっさりぶりのお寿司ですのー!」

 

「おー。回らない寿司、豪勢じゃん?」

 

 ―ヒマリとヒツギも連れてきた。

 

 三美さんのメンタルケアも兼ねているけど、あくまでメンタルケアと金の消費が目的だ。勘違いされないようにそういう方向にならないメンツを集めている。

 

「ささ! 三美さんは成人ですしお酒どうぞ! お酌します」

 

「あの、和地様? 一応私従者なので恐れ多いというか……?」

 

「なら私がおしゃくしますのー♪」

 

 こういう時、ヒマリがいるとありがたい。

 

 ま、それはそれとしてだ。

 

「とりあえず全員大トロに―」

 

「先輩。とにかく値段高い順から頼もうとしないでください」

 

 ルーシアの鋭いツッコミはありがたいけど、お願いだから高いものを頼んで欲しい。

 

 正直お金を使ってないと不安になるんだ。国家予算クラスの金額がどんどん利子で増えていくこの状況下。俺としては心をゴリゴリ削っていく。思わぬ強敵参上だ

 

 一応義援金の類を提供できるようにしているが、安定して供給できる設計にしているので増殖が若干上回る。

 

 どうすれば使える、どうすれば?

 

 もうテンションぶち上げて、俺専用のTFユニットでも開発してもらおうか。神の子を見張る者(ウチ)ならワンオフ機体とか作ってみたいだろうし。世界の英雄用ワンオフ機体とか、ロマンだらけで乗っかりそう。

 

 いや、問題はそのノリだと別の方向から予算が出てくるかもしれん。……まぁ、維持費は意地でも俺が出せばいいか。

 

 それはともかく、そろそろ試合だな。

 

 テレビに異形のチャンネルを通して、試合会場の映像を確認する。

 

 結構大盛り上がりだが、相手であるラツーイカのチームはピリピリしているのが多いな。

 

 ま、メンバーの中に英雄派の被害者がいるから当然か。そういった方面から人員を確保するとか、ハーデスもやはり侮れない。

 

 とはいえ、現状大人気チームの一角が英雄派による天帝の槍チームだ。罪状に関しても処罰を受けて復興支援金を常に送っている以上、こちらにも言い分はあるからな。

 

 向こうもこの場で堂々と罵倒するような真似はしないみたいで良かった良かった。まぁ、このタイミングだとハーデスが言わないように言い含めるだろうがな。

 

『さーて! 今回のルールはシンプルなもの! 試合時間は三時間で、フィールドはそこそこの広さとなっております!』

 

 良かった良かった。この時間で三時間なら、この店で食べたり飲んだりしてたら問題なく終わるだろうさ。

 

 さて、この後はどうなるかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーティングゲームのフィールドで、曹操はチームメンバーを散開させながら冷静に状況を俯瞰していた。

 

 偉大なる冥府神の従僕チームには、自分達がテロ活動の際に誘拐・洗脳・投入をした、民間の神器保有者がいる。

 

 相当恨まれているだろうが、そこを付け入る隙にできるだろう。

 

 恨み骨髄の相手なら、どうしても前のめりで攻撃的になりやすい。その隙をつけば突き崩せる隙も生まれるだろう。

 

 だが同時に、相手は優勝候補である黒チームを打倒したチームだ。

 

 ハーデスにとっては一種のブラフだったのだろうが、それでも有数の実力者が揃っている。そうでなければ、巨人の王たるスルトを打倒するなどできるわけがない。

 

 だからこそ油断できないチームであり、ゆえに相手に付け入るスキがあるのなら付け入るべきだ。

 

 そもそもテロリストをやる時点で恨まれて当然。如何に処罰を受けていようと、呆れるぐらい自由があるので思うところもあるだろう。

 

 むしろ納得すらしているので、試合のついでに恨みを晴らしに行くことは構わない。ただ、それができるのならといったところだ。

 

「さて、そろそろ接敵するだろうが、どうなる?」

 

 一人ごちると、通信が繋がった。

 

『曹操、こちらペルセウスだ』

 

 テロ活動をする前に離れ、アザゼル杯参加に伴い戻ってきた盟友。ペルセウスの魂を継ぐ者が通信をつなげる。

 

『出くわしたぞ。まずは手札をッ見ながっ!?』

 

 そして、すぐに通信が途切れる。

 

 怪訝に思い問いただそうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天帝の槍チームの騎士(ナイト)一名、リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと?」

 

 そのあまりにあっさりとしたリタイアに、曹操は耳を疑う。

 

 ペルセウスは、ジャンヌやヘラクレスと肩を並べるほどの使い手だ。どう少なく見積もっても、最上級悪魔クラスにだって通用するだろう。

 

 そのペルセウスが、接敵した直後に倒された。

 

 想定外の事態に、曹操はしかしすぐに警戒態勢を取る。

 

 何より、ペルセウスの位置は自分に一番近い。

 

 ゆえに即座に至り、七宝も展開。

 

 その上で呼吸を整えた時、殺気を感じた。

 

「あら、もう終わりになるのかしら?」

 

 切りかかるのは、兵藤一誠に敵意を持っているだろう壱崎虎美。

 

 英雄派を恨んでるわけではないだろう彼女がくることを意外に思いながら、曹操は女宝をまず展開する。

 

 一定以上の力量を持たない女の異能を封印する。とはいえ、スルトを打倒した時に無事だった彼女に効くとは考えづらい。

 

 これは異能封印をデコイにした攻撃。瞬時に槍の形にして貫くのが狙い。

 

「甘いわね」

 

 だが、彼女は拳でそれを弾き飛ばした。

 

 そのあまりの光景に、曹操も目を見開いてしまう。

 

 だが同時にいくつかの可能性を踏まえつつ、防御の為に槍を構え―

 

「だから甘い」

 

 ―その刃は、バターを切るように聖槍を断ち切った。

 




【悲報】ペルセウスカマセ化【瞬殺】





 すまぬ、お前出番が少ないから出番が創りづらいうえ、神器の性質上虎美相手に初見で勝つのが不可能だったので、つい……

 ちなみに壱崎虎美がペルセウスを一瞬で片づけたのには明確な理由があります。単刀直入に言うと完璧に初見殺しを叩き込まれたパターンです。出なければ英雄派主力クラスならもうちょっと戦えます。


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闇動神備編 第十話 神器の否定者

 さぁて、壮絶な戦いとなりますよぉ!


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景に、僕達は目を疑った。

 

 壱崎虎美の獲物は日本刀だ。異能を併用して強化しているようだが、伝説の剣のような性能はない。

 

 それが、曹操が持つ最強の神滅具をたやすく両断した。

 

 ありえない光景に目を疑い、同時に曹操の敗北を予感する。

 

 だが、そこに曹操の姿はいなかった。

 

「……例の転移の七宝ッ」

 

 リアス姉さんが悟ると共に、曹操はすぐさま壱崎虎美の眼前に現れてから攻撃を仕掛ける。

 

 壱崎虎美は曹操を探すように周囲に意識を向けていた為、あえてさっきいた場所から現れた曹操に反応が遅れていた。

 

 だがその粗のある受け流しでやすやすと聖槍はいなされる。

 

 ありえない。あの日本刀、映像を見る限りは異能で強化されてるにしても大したことはない。

 

 それが聖槍を断ち切りいなす。それも、いなした時は本領を発揮しきれてないにも関わらずだ。

 

 そんなあり得ない現象に、曹操は確かめるように聖槍を振るいながら何かに納得する。

 

『……なるほど。信じられないが、現状そう考えるほかなさそうだ』

 

 なんだ?

 

 曹操はあの一瞬の攻防で、一体何を掴んだと―

 

『君、リゼヴィムの真似事ができるね?』

 

 ―なんだって?

 

 思わず困惑する中、リアス姉さんはどこか納得している様子で画面を見ている。

 

「……女性の力を封じる七宝がたやすく突破され、その前には仲間が一瞬で倒された。まさかその一瞬で、その可能性を踏まえた試しを入れることを決めるなんてね」

 

 どうやら、リアス姉さんの推測では曹操の立ち回りはその確認の為だったようだ。

 

 なるほど。最初から突破される前提で聖槍を防御に回し、同時に転移の七宝を使うことで確認と回避を同時進行したのか。そして更に念押しする為に、あえて一撃を防御させたと。

 

 納得はできる。だが、信じられない。

 

「あのリゼヴィムと同様のことを? 人間がしたというのですか?」

 

「信じられません」

 

 朱乃さんと小猫ちゃんも困惑しているけど、それはそうだろう。

 

 どう考えてもイレギュラーだ。信じられないと言ってもいい。

 

 超越者リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。その真骨頂と言ってもいい、神器無効化能力(セイクリッド・ギア・キャンセラー)。D×Dの領域で漸く突破できる、あの恐ろしい絶対性。

 

 それを、人間が使ったというのか? 流石に信じられない。

 

 ただ、曹操と壱崎は互いに距離を保ちながら、肩をすくめ合っていた。

 

『神滅具クラスは完全無効化できないようだけど、ペルセウスがやられるわけだ。あいつの神器は盾だから、この初見殺しはきついだろう』

 

『流石は英雄派の長なだけあるわ。神器の性能頼りではないわけね。……ま、玩具ではしゃぐだけの子供じゃないのは良いことだわ』

 

 互いにそう言葉を投げかけ、その上で曹操は苦笑する。

 

『ふふ。人間という異形に比してちっぽけな存在から、英雄なんて目指すんだ。これぐらいはね?』

 

 曹操はそう言いながらも、七宝をあえて拡散させたうえで槍を油断なく構えている。

 

 壱崎虎美が本当に神器の力を殺せるのなら、神器を保有する英雄の末裔が主体の天帝の槍チームは、圧倒的に不利だ。

 

 真っ向から戦って有利に立ち回れるとすれば、監視役として女王の配役を受けている、関羽殿ぐらいだけどそうもいかない。

 

『はっはっは! 悪いが、邪魔はさせられないのでね!!』

 

『……彼さえ押さえれば、こちらが有利!』

 

『ほぅ。これだけの猛者が多数いるとは』

 

 ラツーイカが一人を連れ、抑え込んでいるからだ。

 

 ラツーイカ・レヴィアタンは蛇を使っていない旧魔王派トップの一人と同程度。イッセー君なら真女王なら余裕を持って対応できるレベルだ。最上級悪魔クラスではあっても、その上澄みというレベルではない。

 

 だがもう一人も優れた実力者だ。聖なるオーラを持った左腕の鎧と、飛翔する四つの盾が関羽殿の攻撃を凌ぎ、ラツーイカが溜めに溜めた攻撃で抑え込んでいる。

 

 他の部類でも熾烈な争いが起こっており、曹操に増援を送る余裕はないだろう。

 

 必然、曹操がピンチということが確定した。

 

『……まぁいいわ。とりあえず仕事をするとしましょう』

 

『怖い怖い。油断してると切り捨てられそうだ』

 

 そう互いに呟いたうえで、互いに距離を一瞬で詰め―

 

『『―――ッ!!』』

 

 ―壮絶な攻防が繰り広げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず寿司を食べる手が止まるレベルの、壮絶な戦いが流されていた。

 

「……なんすかあの戦い。え、マジで?」

 

 アニルが唖然となっているけど気持ちは分かる。

 

 神器の力を削減し、聖槍すらただの異能付与日本刀で断ち切る女。元駒王学園生、壱崎虎美。

 

 そんな手合いに対し、曹操が選択したのはシンプルイズベスト。

 

 ……相手の攻撃を一切接触しない回避に徹底しつつ、溜めたオーラによる攻撃での撃破。

 

 信じられないことに、壱崎虎美は剣技に限定すればアーサー・ペンドラゴンやエヴァルド・クリスタリディの領域にあるだろう。

 

 しかも動きが明らかに早い。反応速度に取捨選択、それらまで全てが早いが故の、素早すぎる対応。あらゆる動作が早いがゆえに、曹操の攻撃をすべて回避か受け流しで捌き、傷一つつかずに反撃を行っている。

 

 そしてそれら全てを回避だけでしのぎながら、曹操は反撃すら入れている。

 

 人間水準、それもテクニックなら同年代でも上澄みの中の上澄みだろう。真剣に参考になる。

 

 そして、互いに攻撃を一切喰らうことなくギアが上がっていく。

 

 なんだこの猛攻。現状、神器に対してマウントが取られている曹操が不利ではあるのだが、それで互角に渡り合っている時点で曹操が化け物であることが証明されているぞ。

 

「……あれが、英雄派盟主の曹操ですか……」

 

「相変わらず、本当に人間か分からないんですけど……」

 

 三美さんもルーシアも、戦慄すら覚えている。

 

 ただ、それとは異なる視点の者もいる。

 

「むむむ~? でもどうやって神器を無効化してますの?」

 

 ヒマリが首を傾げているけど、確かにその通りだ。

 

 種がさっぱり分からん。神器無効化能力とか、デッドコピーであっても簡単にできることではないはずだ。少なくとも、超越者の特性を再現なんて下手な上級悪魔でも不可能だ。

 

 現実問題どうすればできる? 敵の力を封印するタイプの神器を禁手にしても、あそこまでできるとは思えないんだが……。

 

「あ、仕切り直した」

 

 と、ヒツギの言葉に画面を見れば、互いに千日手になると気づいたのか飛び退って距離を置いている。

 

 様子を伺いながら、呼吸を整えつつ、どうすればいいかを考えている。そういう睨み合いだ。

 

 とりあえず今のうちに寿司を食ってお茶飲むか。

 

 ただ、他の戦いも結構白熱しているな。

 

 ただし、既に一人倒している偉大なる冥府神の従僕チームが、防戦主体で戦っている感じだ。

 

 最悪このまま逃げ切る算段か。たった一人でそれをやる辺り、英雄派を舐めてないのは間違いない。準エースクラスを速攻で倒した余裕を生かしているともいえるな。

 

 となると、神器の無力化は誰にでもできるような代物ではないようだ。おそらく、現状の前置き付きだが壱崎にしかできないんだろう。

 

『時間稼ぎ代わりに、一つ聞いていいかしら?』

 

 と、壱崎は曹操に質問をした。

 

 一体何を―

 

『貴方達って、なんで神器を誇らしげに使ってるの?』

 

 ―ん?

 

 ちょっと何を言っているのか分からない。というか、それって時間稼ぎにしても今聞くことなのか?

 

 ただ、壱崎は本気で言ってるようだ。

 

『神器って、聖書の神が作ったシステムで()()()()()()()だけでしょう? 貴方の遺伝子にも鍛錬にも絡んでない、外野が勝手に押し付けたガチャ運程度で、なんでそこまで自分が誇らしいものと思えるのかがよく分からないのよ』

 

 お~キレッキレ

 

「……あいつ、異形側の信徒全員を敵に回す気?」

 

「遠回しに主を罵倒してないでしょうか、アレ」

 

 ヒツギとルーシアがドンビキしてるけど、それはまぁ確かに。

 

 さっすがハーデスの配下。あの状況下でよく言えるな、オイ。

 

 半分ぐらい呆れてると、曹操は苦笑を浮かべている。

 

『そんなに気にすることかい? 神すら屠る力をその身に宿し、その力を磨き続けてきたんだ。少しぐらい自慢にしてもいいと思うけどね?』

 

 曹操はそう返すが、壱崎はつまらなさそうに息をついた。

 

『……やっぱり理解も納得も共感もできないわね』

 

 そう、吐き捨てるように言い切った。

 

『私の人生に、そんな余計な設定なんていらないわ。私の人生は私の努力と生まれ持った血の恩恵で十分。慕っても崇めてもない神様に、生まれる前から勝手に押し付けられた()()()()()()なんて思われる。それのどこがいいのかさっぱりだわ』

 

 心底からうんざりしている。それが分かる。

 

 おそらくだが、壱崎虎美も神器保有者だ。その上で、彼女は神器の概念そのものに否定的だ。

 

 何かが引っかかる中、壱崎は刀の切っ先を突き付ける。

 

『だから私は、神器なんて使わないし必要ない。そしてそんなもので得意げになっている連中風情なんかの好みなんかに合わせない。……私の前で、神器で争おうなんてさせないわ』

 

 何かが二重に引っかかる。

 

 彼女の言いぐさもだが、同時に何かそれ以外が気になって仕方がない。

 

 そう思う中、壱崎は息を吐き―

 

『最強の神滅具大いに結構。切り捨てればいい見せしめね』

 

 ―その瞬間、壱崎は戦法を切り替えた。

 

 高速で移動しながらの一撃離脱。だが反転速度が速いがゆえに、半端な奴の連撃に匹敵する攻撃頻度と化している。

 

 元々、壱崎の攻撃は聖槍で防げない。加えて曹操は人間故に、防御においては脆い。そして斬撃とは基本、直撃すればそれで勝負が決まる系統だ。

 

 それを理解したが故の戦法だが、それにしたって動きがおかしい。

 

 さっきまでの動きから読めるような身体性能じゃない!?

 

「なんだよあの動き!? プログライズキーでも切り替えたみたいな動きじゃねえですかい!?」

 

 アニルが目を見開くけど、確かにそうだ。

 

 何かが決定的入れ替わっている。そう思わせるほどの動きの違い。それが曹操にも戸惑いを与え、かすり傷を与えていく。

 

 だがなんだ? あの動きは明らかに……っ!

 

「……呼吸……?」

 

 俺達が戦慄していると、三美さんが首を傾げた。

 

 思わず視線が集まる中、三美さんは映像を見て怪訝な様子になる。

 

「……呼吸の仕方が、明確に切り替わってます。まさかそれが……?」

 

 当人も半信半疑だが、ただそれだけであそこまで変わるのだろうか?

 

 いや、呼吸法は割と色々と効果があるとは聞いたことがある。リラックスの為の深呼吸しかり、出産の為のラマーズ法しかり。だがそれにしたって変わりすぎなんだが。

 

 いつからここは鬼滅の世界になった。全集〇の呼吸とか、あれって半分ぐらい異能の領……域……っ

 

「「「まさか!?」」」

 

 思わず、ヒツギやヒマリとハモって大声を上げてしまった。

 

 思いついた。だが、出来るのか?

 

 ……いや、奴自身が言っていたことだ。

 

 ―私の努力と生まれ持った血の恩恵で十分―

 

 それが、俺達に一つの答えを連想させる。

 

 あいつ、あいつはまさか―

 

『……なるほど、そういう魔術か』

 

 ―そして、それに曹操も思い当った。

 

 ここから、形勢は更に変わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なるほど、そういう事。

 

「……呼吸のリズムそのものを魔術詠唱とする、特殊調律された強化魔術、その手があったわねぇ」

 

 リーネスが感心しているなら、十中八九間違いない。それほどまでに、リーネス・エグリゴリことアイネス・ドーマの魔術回路保有者としての見識はずば抜けている。

 

 そして問題はそこじゃない。

 

 呼吸のリズム。それを魔術詠唱とするのはいいでしょう。

 

 音楽を利用した魔術や踊りを利用した魔術はある。芸術を利用した魔術だって存在する。ならば、呼吸のリズムや呼吸度合いで魔術を行使するのもありだろう。

 

 もちろん、一代でできるかと言われれば別問題。何世代も研鑽を詰み、最適化された魔術回路と継承した魔術刻印があってこその完成度。更に、その恩恵を生かせるだけの下地を鍛え続けてきたからこその力でしょうね。

 

 そしてそれだけでは曹操は倒せないでしょう。しかしそこに神器を弱体化させる力がかみ合った結果、曹操ですら一対一では苦戦必須の化け物が誕生している。

 

「おいおいやべぇなあいつ。どんだけ鍛えてんだ?」

 

 勇ちんが感心しているけど、まさにその通りね。

 

 あそこまで鍛え上げるのはそう簡単にはいかない。人より己を限界まで鍛え上げることに長けているからこそ、あそこまで鍛え上げることがいかに困難かはよく分かる。

 

 壱崎虎美。どうやら思った以上に気合と根性がやばいレベルの相手なようね。

 

 私みたいにそこを突き抜けているわけでも、ヴィールみたいに異常なレベルに突き詰めて言うわけでもない。だけど、十分すぎるほどのポテンシャルを限界ぎりぎりまで磨き上げている。

 

 だからこそ、曹操は追い込まれている。

 

 ただ神器の力を弱体化させているだけなら、奴ならやりようはいくらでもある。

 

 だけどあいつは、神器の無力化を手札の一つにとどめるレベルでハイスペックだ。ゆえに、曹操でも搦め手で嵌めることができてない。

 

 ……認めるしかない。壱崎虎美は間違いなく強い……っ

 

『そろそろ終わりにしましょう。というより、あんた程度に苦戦するわけにもいかないわ』

 

 壱崎は、そう言い捨てる。

 

 曹操は間違いなくハイスペックであり、才能があり、鍛えている、実力者だ。

 

 だが、彼女にとっては決して最高の到達点ではない。

 

『所詮、アンタは神器を普通に高めているだけ。貰い物で粋がってるだけの馬鹿にかかずらっているようじゃ、あいつらには遠く及ばない』

 

 ……なるほど、ね。

 

 あの女、超えるべき対象はあくまで兵藤一誠達クラスという事ね。

 

 ま、イッセーは本来禁手で終わりの神器の極みを、二段階も切り開いている。間違いなく、壱崎の対神器能力でも決定打にならないでしょう。

 

 そんな新次元に到達しているわけでもない曹操を、壱崎は舐めてはいないけどイッセーの下と判断している。だからこそ、あいつにとってこの戦いは試金石止まりだったのでしょう。

 

 ……ただ、それはちょっと甘く見すぎじゃないかしら?

 

『なるほど。確かに、俺はいまだに禁手どまりだからね。仕方がないか』

 

 曹操は確かに、阿呆というほかない迷走をしていたクソガキだ。

 

 それで大規模テロまでやっているのだから救えない。そして文字通り死んでも根本が治ってない。そりゃぁ馬鹿と見切るのも一つの判断でしょう。

 

 ただし―

 

『ただし、こっちは使えるんだよ?』

 

 ―スペシャルであることは事実。そこに対する危機感が欠けているわね。

 

 蒼い飛沫を放つ曹操を見ながら、私はこの戦いがまだまだ終わらないと確信した。

 




 虎美の種は「アンチ神器能力」といったところです。彼女も神器を保有しておりますが、生涯使わないので高位神器である以外の設定は作る気がありません。

 ペルセウスが初見頃されたのは石化攻撃ガン無視で虚を突かれ、意味のない楯防御をしてしまったことです。種が分かればしないし避ける体制も取れたので、勝算もありました。

 そして曹操相手に真っ向から渡り合うのは魔術回路。イメージとしては「全集中
の呼吸」でしたが、これをパワーバランスをつりあわせられる自信がないので、鬼滅を入れずに再現するにはどうするか……で、別件での発想から派生する形で「呼吸の仕方とリズムそのものを魔術詠唱とする一族出身」という形になりました。

 そして曹操、ついに残神。

 テクニックタイプの高みでなければ扱えない超高等技術たる残神。こいつが使えぬわけがねえ!!


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闇動神備編 第十一話 熾烈なる大激戦

 はいどうもー! 最近どうも執筆速度が低下しているグレン×グレンでっす!

 でもまぁ、書き溜めはあるしこういうことも間々あるもの。当面は職場関連のほうに注力しつつ、書ける時に書いていこうと思っております!


Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英雄派の長、曹操は天才である。

 

 これについては多くの者が認めることだろう。曹操はまごうことなく、人間の中では上澄みに属する存在だ。

 

 最強の神滅具は確かに彼の大きな要素で、彼にとっても自身の根幹であった時期が長い要素だ。最強の聖遺物であり最強の神殺し。聖槍の保有者とはそれだけで一目置かれており、それをもっていくつもの鉄火場を潜り抜けてきた自負はあって当然だ。

 

 まして、曹操は聖槍を独自の禁手に至らせている。本質を半分以上使わずに。歴史上永遠に最強の白龍皇となりえるヴァーリ・ルシファーに覇龍を使わせるほどの猛者。そして全てを使うことなく、単独でオカルト研究部の殆どを相手取った事実もある。

 

 だが同時に、彼はある意味で普通だった。

 

 かつて帝釈天は「普段はB級だが本気出せばS級」と、曹操を形容した。それはある意味で誉め言葉だが、彼の視点からすれば決して珍しくはあっても探せば見つかる程度でもある。そしてその上で「普段も本気もB級だが、必要な時にSSSを叩き出す」と兵藤一誠を形容し、それこそを評価していた。

 

 そして兵藤一誠とヴァーリ・ルシファーは、神器保有者の歴史でも類を見ない、禁手や覇のその上に到達した、イレギュラー中のイレギュラーである。

 

 覇を克服し、禁手のその先に至った兵藤一誠。覇を超越し、更なる高みに至ったヴァーリ・ルシファー。そして両者は、二天龍と分かり会い、龍神と絆を結んだことで、更なる高みであるD×Dへと到達した。

 

 それに比べれば、禁手どまりの彼は確かに普通だろう。比較対象があまりにイレギュラーなだけだが、確かにそこまで飛び抜けてはいない。

 

 普通という表現が正しくないなら、特別、というべきだろう。それは確かに優れているが、あくまで優劣という直線上。文字通りの異常たる現二天龍には遠く及ばない。

 

 ……だが、それをもって曹操が弱いとするなら、それは目が曇っているか視点が違いすぎるだけである。

 

 曹操は神器について大した知識もなく、目覚めた直後に異形を打倒した。

 

 曹操は幼い身で世界を放浪し、数多の勢力に目を付けられながらも潜り抜けてきた。

 

 曹操はいまだ若い青年でありながら、寄る辺なくした英雄の末裔や後継足ろうとする者達が集う、英雄派の長である。

 

 間違いなく、「世界最強の人間」を決めるとすれば名が挙がる人物。そして超常の存在を超えんとする、英雄派の長。

 

 止まるわけがない。留まっているわけがない。

 

 ゆえに、当然彼は作り上げるのだ。

 

 旧済銀神(エルダーゴッド)涙換救済(タイタス・クロウ)。かの九成和地が編み出した、聖書の神が想像もしていないだろうイレギュラー。禁手の残滓をもって創り出す異能、残神(コスモス・ボルト)

 

 テクニックタイプの極みが到達できるその新境地。その筆頭たる曹操に、到達できぬ道理なし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼い飛沫を放った曹操は、それを作り出した。

 

 またがっているのは一台のバイク。そして、腰には独特な形だけど間違いなく一つの機能を持っているベルト。

 

 それを見た壱崎も、警戒の色を濃くしていた。

 

『到達していたのね、それに』

 

『まぁね。これぐらいは到達しないと、英雄派のトップは名乗れないんだよ』

 

 そう返し、曹操はアクセルを吹かしながらプログライズキーも取り出した。

 

『CHALLENGE!』

 

『変身』

 

 装填したプログライズキーが解放され、ライダモデルが装甲を具現化。

 

 その瞬間、曹操は仮面ライダーに変化する。

 

 そう、あれは仮面ライダー。レイダーとは異なる、より洗練された戦闘プロテクター。

 

 神滅具の力で到達した、曹操の為の仮面ライダー。

 

『仮面ライダー孟徳、参る』

 

『Let’s go beyond the mountain』

 

 その瞬間、戦闘は一気に曹操有利に進展する。

 

 バイクにまたがった曹操は、壱崎よりも素早い動きで一撃離脱戦闘を開始。壱崎も防御とカウンターに徹底した切り返しを行うけど、曹操の方が読みが早い所為で、追い込まれていく。

 

『変身デバイスとバイク。なるほど、防御と移動をカバーする残神という事かしら?』

 

『ああ。俺の残神(コスモス・ボルト)覇王の聖装具(トゥルー・ドライブ・スプリンター)。要はあれだよ、聖槍や現代に見合った形で、武将の騎馬と鎧を残神で作り出した形だね』

 

 互いにすぐに分かりながら、でも攻撃は更に一方的になっていく。

 

 曹操は素早い切り返しの一撃離脱戦闘をこなしながら、壱崎虎美を追い込んでいく。

 

 すげえ。リゼヴィムみたいな対神器能力を持っている相手に、曹操があそこまで戦えるなんて。

 

 やっぱりあいつ、強いよなぁ。

 

「……むぅ、よもや奴までもが残神に到達するとはな。また強くなっていくな」

 

 ゼノヴィアが困り顔になっているけど、一応今は味方だし大丈夫だろ。

 

 それに、あいつが簡単にやられるところを見るのはちょっとな。

 

「なるほど。これは地味に厄介な残神ですわね」

 

 でもレイヴェルも感心気味だったり。

 

 ま、バイクと仮面ライダーってのはそれなりに凄いとは思うけどそこまでか?

 

 俺はちょっと疑問だけど、レイヴェルからするとかなり脅威らしい。

 

「彼の欠点は種族的な弱みによる、耐久力と持続力の相対的な低さ。ですがそれをプログライズキーとバイクにより改善している上、プログライズキーの併用が前提故に残神としても高性能ですわ」

 

 な、なるほど。

 

 つまり、残神としても高性能で、更に曹操の弱みをカバーしてるってことか。

 

 更にプログライズキー分が強化されているから、なおのこと強くなっている。曹操らしい、隙のない構成だな。

 

 そしてその隙のない構成は、壱崎を間違いなく追い詰めている。

 

 かすり傷が少しずつだが増えていく中、曹操は決めるつもりらしい。

 

 振われる攻撃は刀をすりむけるように振るわれ、そして壱崎に迫り―

 

『それを待ってたわ!』

 

 その瞬間、槍を吹き飛ばしながら壱崎は曹操に組み付いた。

 

 ……あの女、今の今まで加減してやがったのか!?

 

 たぶんだけど、曹操に隙を作らせる為。その為に、壱崎は神器無効化を弱くしていた。

 

 たぶん、武器だけじゃなく生身にも全力で組み込むことができた。だけどそれで曹操が警戒する可能性を見越して、あえて出力を弱くしてかすり傷ができる程度にとどめたんだ。

 

 そして曹操が決めに来たところに全力で突貫して、決定打を与えられるようにした。

 

 おいおいまじかよ。あいつ、どんだけ戦いで頭が回るんだ!?

 

「……曹操が、負ける……?」

 

『な、なんと!?』

 

 イリナとボーヴァが戦慄する中、曹操の背中から刀の切っ先が生える。

 

 急所は避けてるけど、あの刺突は深手だ。

 

 あいつが負ける、負けるってのか?

 

『私の勝ちよ』

 

 静かにそう告げる壱崎は、左手に脇差を抜いて叩ききる体制に入り―

 

『いや、そうでもない』

 

『CHALLENGE!』

 

 ―その瞬間、曹操もまだ諦めてないことを示した。

 

 七宝の球体がベルトを動かし、起動するプログライズキー。

 

 壱崎が気づいてすぐに攻撃に入るけど、曹操の動きは一瞬だが早い

 

『トラベリングジャッジメント!』

 

 ト

  ラ

   ベ

    リ

     ン

      グ

       ジ

        ャ

         ッ

          ジ

           メ

            ン

             ト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間一髪、曹操の蹴りが早い。

 

 壱崎もそれに気づいて状態を逸らすけど、威力を殺しきれず宙を舞う。

 

『どうやら、出力を徹底的に高めれば貫けるようだ』

 

 そう悟った曹操は、聖槍を構える。

 

『悪いが、ここは俺の勝ちだ』

 

 そしてそのまま切っ先を壱崎に向けて―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いえ、私()の勝ちよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―壱崎は勝ち誇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、俺達は気づいた。

 

 曹操が決定打を討とうとしたその瞬間、ほかの英雄派と戦ってたメンバーのうち、四人が即座に曹操に向かって突貫している。

 

 誰もが、深手を負うことになろうとかまわず曹操に突貫することだけに集中する。気づいた英雄派のメンバーが止めようとするけど、他の連中が援護までしている所為でリタイアまでには届かない。

 

 そして同時に、ラツーイカが微笑んだ。

 

『更にダメ押し!』

 

 その瞬間、ラツーイカが四つの蛇を生み出し飛ばす。

 

 それは四人のメンバーに絡みつき、そして絶大な力の上昇を齎した。

 

 オーフィスの蛇を参考にした強化かと思った。だがそうではないとすぐに気づいた。

 

 増幅されるオーラは神器のものだ。つまりあれは、神器の増幅に特化している。

 

 そしてラツーイカ・レヴィアタンは魔王末裔。

 

 ……おいおい、冗談だろ。

 

業魔人(カオス・ドライブ)だったか?」

 

 英雄派が魔王血族の血液を用いて開発した、神器のドーピング剤。

 

 確かにあり得る。魔王の力を流し込むことで神器を強化するのなら、絶対に血液でないとダメってことはないだろう。

 

 だがそれにしても、そう来るのか。

 

 曹操も気づくが、しかしわき腹を刺されているため反応が一手遅れる。

 

 四方からの一斉攻撃。それを裁く余裕は曹操にない。

 

 曹操最大の欠点は、耐久力の低さ。

 

 最上級悪魔クラスどころか、上級悪魔クラスの攻撃ですらクリーンヒットが致命的。仮面ライダーとなることでだいぶ克服できただろうが、残念なことに壱崎の攻撃はそれをすり抜けた。

 

 ゆえに、曹操にそれを防ぐことはできず―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天帝の槍チーム、王の退場を確認。偉大なる冥府神の従僕チームの勝利です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―その戦いは、曹操の敗北に終わる。




 曹操、勝負に勝って試合に負ける。チーム戦であることを念頭にプランを練っていたラツーイカたちの作戦勝ちといえます。

 ラツーイカの隠し玉。業魔人が魔王の血を持って作られているのなら、こういうことも可能かと思って出してみました。これを速攻で使うのではなく、タイミングを見極めて一気にたたきつけられたことで曹操は敗北。

 だがしかし、一瞬とはいえ袋叩きにされてようやくという事実は変わらない。曹操の非サウザー系仮面ライダーはかなり前から考慮しておりましたが、リモートライザーを使わせる予定だったのを残神の思い付きもあってそっち重視に変更いたしました。


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闇動神備編 第十一話 もはや何でもあり

 はいどうもー! 今日も頑張っているグレン×グレン! さらなる飛躍を目指して試行錯誤をしております!

 本日は、ちょっと変化球になりますね!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい! ではこれよりD×D大会議! 「ハーデスあんた何集めた?」をはじめまっす!」

 

 リヴァさんがあえてお茶らけて言うけど、ま、それぐらいがちょうどいいよな。

 

「いやホント、どれだけの人材を集めたんだろうねぇ、あの神は」

 

 曹操がちょっと苦笑気味でノるけど、真面目にそれなんだよなぁ。

 

 ハーデスの息がかかってると断言できる、いくつかのチーム。そのメンバーが変わったかと思ったら、勝率が一気に跳ね上がってきてる。

 

 特にヤバいのが「ブラックサタン・オブ・ダークネス・ドラゴンキング」チーム。優勝候補の「西遊記」チームを打倒して、一気に注目を集めている。

 

 また、メンバーの交代が少ないチームも活躍してきてるから困ったもんだ。

 

 こっちで特にヤバいのが「偉大なる冥府神の従僕」チーム。ラツーイカ・レヴィアタンが王を務める、人間が多く構成されているチームだ。

 

 壱崎虎美は俺のことが嫌いだし、エカテリーニって人は英雄派を恨んで当然だし。ある意味俺達のことが嫌いな連中だけで構成されてるな。

 

 それで英雄派や、優勝候補の「黒」チームまで負かすんだからやばいって。ラツーイカ自体は割とフレンドリーだったけど、演技の可能性もあるしなぁ。油断できなさすぎる。

 

「まぁそんなこんなで、超越者クラスが二人もいたり、神器の力を無力化したりブーストしたり。そんな連中がゴロゴロ出て来て先生もちょっとマジ顔になりそう。っていうか思わずグラス落として高い酒飲めなかったわね」

 

 あ~。リヴァさんもかなり驚いたんだ。

 

 ま、それは確かに。

 

 あれは本当にビビったというか、あんな切り札まで持ってたのかよっていうか。

 

 ラツーイカが魔王末裔であることを考えれば納得だけど、それにしたってだ。

 

「……問題はいくつもあるけれど、問題はラツーイカと例の超越者ね」

 

 リアスが困惑しているのも無理はない。

 

 西遊記チームを下し、会った時のオーラと戦闘映像から超越者なのは間違いない、バルベリスとヴェリネっていう二人の悪魔。

 

 曹操達に奇襲をかける四人の神器を、大幅に強化したラツーイカの業魔人じみた所業。

 

 どちらも、ハーデスと敵対した際に武力として脅威になる。

 

 まして超越者が二人いて、魔王末裔を神輿に据えれる。政治に詳しくない俺でも、冥界が揺れることが分かる。

 

 ……使い方によっては、冗談抜きで冥界政府から多数の造反者が出かねない。

 

「……出所のついてはこちらが探る予定だよ。諜報を担当する者は当分忙しくなるだろうね」

 

 鳶雄さんがそう言うけど、そこはそうなるよな。

 

 真魔王計画なんてのが知られている、そこ出身のラツーイカはいい。だけど超越者クラス二名はそれとは別の意味で厄介だ。

 

 あのリゼヴィム級の純血悪魔が二人いるだけでも、ハーデス達の戦力は大きく底上げされている。ただでさえ隔離結界領域に主力となる神々を送っている俺達だと、懸念事項が多すぎるぐらいだ。

 

「懸念事項は他にもあります。壱崎さんのあの異能です」

 

 そしてソーナ先輩の言う通り、そこも大変なんだろうなぁ。

 

「神器の無力化か。リゼヴィムを思い出すね」

 

「あれほどの絶対性はないようだが、無力化が出来なくても弱体化が狙えるようだな」

 

「使い勝手は増しとるのぉ。今の二天龍でも影響は受けそうじゃ」

 

 ヴァーリもサイラオーグさんも孫悟空のじいちゃんも、その辺りを評価している。

 

 壱崎虎美か。俺のことめっちゃ嫌いだろうし、俺が相手をするのかもな。

 

 そういう意味だと、神器の力を弱体化させるあいつは厄介だ。乳技で押し切る手もあるけど、たぶん対策ぐらいは立てるだろうしなぁ。

 

 ただ、気になることが多すぎるな。

 

「でもどんな方法でやったんですかね? 禁手や残神にしたっておかしくないか?」

 

 「どうやって」が気になる。

 

 神器の力を削る異能。どうやって作ったんだろうか?

 

 あの言い草だと神器の力を積極的に使うのも嫌だろうし、禁手や残神ってことはないだろう。

 

 そもそも、禁手や残神にしたって限度はあるだろ。あんなどんな神器も弱体化させるような異能になるとも思えない。

 

 俺はその辺が気になって質問してみたけど、誰もが首を傾げている。

 

 事実上の技術顧問二代目であるリーネスも首を傾げているしなぁ。それだけの難行ってことなんだろうさ。

 

 ……いや、本当にどうやって?

 

 首を傾げているその時だ。

 

「そこについては、こちらが仮説を立てれます」

 

 その言葉と共に、入ってくる人がいた。

 

「……クロード長官?」

 

 カズヒが困惑しているけど、クロード・ザルモワーズさんだ。

 

 プルガトリオ機関の長で、かつて召喚されて受肉した、教会が用意した偽ジャンヌ・ダルクのクロード・デュ・リスのサーヴァント。

 

 プルガトリオ機関とはちょくちょく関わるけど、ここで来るのか。

 

「お久しぶりっす、クロードさん。で、どうしてここに?」

 

 D×Dのリーダーでもあるデュリオが挨拶すると、クロードさんは軽く苦笑しながら頷いた。

 

「こちらで受け持っている案件で、その説明が出来そうなことがありまして」

 

 なるほど。

 

 プルガトリオ機関は大きい組織だし、色々と動いてるからな。何か知っててもおかしくないのか。

 

 そしてクロードさんは映像を映し出し―

 

『『『『『『『『『『ヴォルテーックス!!』』』』』』』』』』

 

 ―なんか変な映像が出てきた。

 

 っていうかツッコミたいんだけど。

 

「……なんで渦の団(ヴォルテックス・バンチ)ですか!?」

 

 俺達オカ研が、春休みの日本横断旅行で何度もかち合ったテロ組織。禍の団とややこしく、色々混同され合ってたらしい渦の団。その戦闘員達が敬礼している映像だった。

 

「残念ながら、彼ら渦の団が大きく関与しているのです」

 

 クロードさんは真面目な顔で俺達を見回した。

 

 え、これってマジな話? 真剣にしないといけない話なの?

 

 もう頓珍漢な連中だった。俺のお得意様にも変人は多いけど、勝るとも劣らない幹部達だった。

 

 地味に強かったからなぁ。なんていうか、頭が痛くなるっていうか。ファーブニルが敵に回ったらあんな感じなんだろうかって感じ。

 

 ……俺も敵から見るとあんな風に見えるんだろうか。

 

 ちょっと落ち込みたくなっていると、クロード長官も目元をもんでから、頭痛を堪えた表情になる。

 

「単刀直入に言います。彼らは実験により異世界に一時的に転移。それによって得られた力を振るっていたのです」

 

 …………。

 

 え?

 

「長官、長官。まさか乳神案件ですか!?」

 

 カズヒが珍しく慌て気味で問い質すけど、クロードさんは首を横に振った。

 

 あ、違うのか。安心したらいいのかどうなのか―

 

「残念なことに、どれ一つとて乳神の出身世界とは異なるとみられています」

 

 ―どれ、一つ!?

 

「待ってください! ってことは、いろんな世界からいろんな技術を引っ張り込んだっていうんですか!?」

 

 思わず大声で聞いちゃったよ。

 

 おいおい、俺達が乳神様の異世界に困惑してたり侵略云々している間に、この世界はどれだけの異世界と接触を持ってるんだよ。

 

 ヤバイ。リゼヴィムが異世界侵略を目指して頑張っている間に、なんか訳の分からない軍団が何度も異世界に行ってたなんて。

 

「どうやら限定的な転移だったようですが、そこから技術を取り込み扱えるものまで用立てる。渦の団は思った以上に難敵だったようですね」

 

 マジですか!? あいつら、そんな凄いことしちゃってましたか!

 

 あ、でも訳の分からない技を使ってたらしいしな。それがそういう事だったのかぁ……。

 

 俺達が何とも言えない空気になっていると、クロード長官は映像を移し替えていく。

 

 そこにはかつて九州で現れた拉麺のイソギンチャクに、つい先日戦ったマーボー豆腐の鯨がいた。

 

「例えばこちらの食物で出来た生物ですが、これらは渦の団が「食界」と定義した世界の異形のようです。食文化の違いで世界大戦が起きて荒廃した世界のようで、その過程で生まれてしまった異形こそが、この食獣(しょくじゅう)とのことです」

 

「すいません。ツッコミどころが多いのですが」

 

 思わずカズヒがツッコミを入れるけど、クロード長官は目を伏せて首を横に振った。

 

 あ、ここからが本番だ。

 

「そしてその食獣の根幹といえるものが、特定の食に対する強い思いを糧に発現する異能、食技(しょくぎ)。……概念的にはヴァーリ・ルシファーの麺技と同じです」

 

「なるほど。例の鮭怪人が振るっていたのはそれか……一戦交えてみたかったね」

 

 ヴァーリ、クロード長官が頭痛を堪えてるのに、そんな真剣な表情で興味深くならないでくれ。

 

 なんていうか頭痛がしまくる状態な気もするけど、この際それは置いといて。

 

 それ以外にも色々あった気がするけど、本当に頭が痛くなりそうだ。

 

「また、人体改造技術が異常に発達した世界もあったそうです。どうも世界征服がなされていたようで、迂闊な介入は避けたようですが」

 

 そう前置きしたうえで、クロード長官は本題とばかりに映像を変えた。

 

 九成達がぶつかった、京都の警察官を怠けさせた奴。木場が懲らしめた、道頓堀川の水を自在に操る奴。

 

「……彼らはそれぞれ、何かしらの縛りを入れる誓約を己に科すことでそれに見合った異能を得る誓約術が確立した世界及び、憎悪や怨恨を核とすることで他者を害する異能を振るう怨術という物が確立された世界の異能を会得していました」

 

 ……どこから突っ込んだらいいんだろう。

 

 毎度毎度道頓堀川に落ち続けることで、少しの間道頓堀川の水を操る異能って、限定的すぎるし。

 

 なんなら警察官を怠けさせるだけの術ってなんだよ。警察官を恨むにしても、もうちょっと異能の方向性があったんじゃないだろうか?

 

「おそらくですが、壱崎虎美が振るったのは前者でしょう。彼女の駒価値から逆算して、高位の神器を持っているようですから」

 

 クロードさんの説明に、リーネスと孫悟空の爺さんが納得顔になった。

 

「なるほどねぇ。神器を不要とする価値観に、更に生まれ持つ神器そのものを一切使わないという縛りがあれば―」

 

「―その分、神器の力を削減する異能として使える。そういう可能性はあるのぉ」

 

 技術顧問とサブリーダーが言うなら、可能性は高いか。

 

 そして、リーネスは小さくため息をつく。

 

「問題は怨術ねぇ。間違いなく、英雄派に恨みがあるなら対英雄派に特化した怨術が得られるでしょうしねぇ?」

 

「……中々厄介な話だね。自分の尻は自分で拭けと言われるだろうが、拭きたくても相性が悪すぎるんだけどね」

 

 曹操がそうため息をつくけど本当になぁ。

 

 ちょっと反応を確かめたくてカズヒの方を見るけど、カズヒは割としたり顔だった。

 

「ま、囮ぐらいは死に物狂いでやって頂戴。それぐらいは責任を負ってもらわないと困るわね」

 

 あ、意外と優しい。

 

 ちょっと意外に思っている人達の視線を浴びていると、カズヒはつまらなさそうに肩をすくめる。

 

「起爆剤になったのはこちら側の沙汰その物でしょうしね。できないことまで無理にしろとは言わないわ」

 

「……言ってくれるね。君達を出汁にしつつどうやってあいつらを止めるか、試したくなってきたよ」

 

 二重の意味でなるほどなぁ。

 

 ま、カズヒもきちんと処罰されてる奴に言いすぎることはないか。ただし、曹操達を挑発してやる気スイッチを入れるぐらいはすると。

 

 曹操も分かったうえで乗っているみたいだし、ま、必要なら協力するか。

 

 ……俺の場合、壱崎の相手で手いっぱいになるかもだけど。

 

「一ついいですか?」

 

 あ、九成が手を挙げた。

 

 なんだなんだ?

 

「相手が何をしたのかに仮説は立てられましたけど、このままってわけにはいかないでしょう? 俺達も対策を立てたり、こちらも流用するというのも考えるべきでは?」

 

 あ、なるほど。

 

 確かに、相手にばっかり強い力を使われるってのもあれか。

 

 怨術はともかく、食技はヴァーリが学んだらもっと凄いことになりそうだしな。誓約術も、ある程度なら使えるかもだし。

 

 俺が納得していると、クロードさんも頷いていた。

 

「その通りです。……なので、既に作戦を立てています」

 

 そういうと、クロードさんはマップを映し出した。

 

 えっと、山奥っぽいけど?

 

「渦の団残党の拠点を確認したので、各種資料を獲得することも狙い強襲作戦を仕掛ける予定です。もしよければ、何人かサポートに貸し出してくれると助かります」

 

 あ、意外とちゃっかりしているんですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて諸君、仕事の時間だ」

 

「なんだよ大将。また俺らをこき使う気か?」

 

「はっはっは。ここ最近は訓練ばかりで暇だろう? たまには給料分の仕事をしてくれないとね?」

 

「……ケッ! ま、食わせてもらってる分の仕事はしてやる。それで?」

 

「簡単に言えば、とある悪の組織の秘密基地を襲撃してほしい。中の資料もいただきたいが、それは随伴部隊がする仕事だね」

 

「例の渦の団ってか? なんか妙な手品を使うみたいだが、そんなに必要かね?」

 

「もちろんだとも? 分かる者には宝の山だ。……最も、今度の作戦は手古摺るかもだろうが」

 

「ぁん? 木っ端テロリストの残党如きに、俺が負けるとでも思ってんのか? 人造惑星(プラネテス)舐めてんじゃねえぞ?」

 

「はいはい。ま、その辺りは期待してるよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーデス様、いいですか?」

 

『ふむ、虎美か。何ようだ?』

 

「技術顧問のランドアングリフですが、どこかに行ったのですか? ……今後を考え、ある程度の装備調整はしてもらいたかったのですが」

 

『怨術や誓約術の更なる研究の為、子飼いを連れて残党狩りをしておる。ある意味ではおぬしにとっても都合がよかろう』

 

「それはそうですね。ただ、現状の装備だといざD×Dに挑む際、押し切られる余地があったので」

 

『……まぁ、おぬしらDスレイヤー及び、エカテリーニ達カウンターポイズンは、チームD×D(あやつら)に対するネガティブキャンペーンというものを踏まえておるからのぉ? 実力も踏まえてチームに送ったが、限度はあるか』

 

「自画自賛になりますが、Dスレイヤーで最強の私ですら、相性で勝っていながら曹操にあのざまです。カウンターポイズンが総出で潰せたのは行幸ですが、先を考えるとそれなりの強化武装が欲しいところですね」

 

『ふむ。確かにあっさり潰されれば「大したことがない」と思われるだけか。よかろう、あとでランドアングリフに伝えておこう』

 

「……礼を言います。やはりあなたぐらいしか、人類を託せる神が現状おりませんので」

 

『ファファファ。ランドアングリフが提言せねば、儂は人間の力を積極的には借りはせぬかったろう。そこは感謝しておけよ?』

 

「承知しました。……すべてまとめて、いずれあいつらと挑む時に勝つことで返させていただきます」




 第三部を踏まえていろいろ準備をしているのは、前に何度か言っている通り。

 第三部は多重クロスに舵を切る方針ですが、其れとは別に毛色を変えた手法として「オリジナルの荒廃した異世界」を出し、それぞれの特徴を出した要素をからめ手動く予定でもあります。

 実は以前「三つの異世界がすでにD×Dの世界につながっている二次創作」を想定したことがあるのですが、こちらは異世界関連の設定を煮詰めたことで「設定を完成させすぎると燃え尽きる」という我が悪癖が引っ掛かり挫折。

 今回はその対策として「色々あって壊滅的打撃を受けて荒廃している」という大前提をはり、あえて細かい情報を煮詰めさせないことで対応しました!

 渦の団との戦いは、渦の団底上げとこの伏線巻き。及びテストの類ですね。

 敵の強化から味方の底上げなど、いろんなことをこれでどうにかしたいと思いながら作成を続けたいと思います!!


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闇動神備編 第十二話 たまたま同じ目的で出くわすと、気まずいよね

 はいどうもー! 最近スランプ気味のグレン×グレンでっす!

 就職関係も動きがある昨今、ちょっと休むのも一つの手かもしれない。

 新西暦サーガで一作作ってみたい欲もあるし、アイディアもある。オリジナルで一作考えるのもありかもしれないと、追放もので思いついたアイディアもある。ハイスクールD×Dで長期ネタにできるわけがないネタがあるから、短編を作るのも手ではある。

 ……まぁ、まだ100kb以上書き溜めはあるんだけどね!!


other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼いたします、ベルゼブブ様」

 

「クロード長官か。ご苦労、まずは座ってくれ」

 

「ありがとうございます。そして、ロキに同調していた者達の件で追加報告が」

 

「直接来るとは、それなりに懸念事項ということか」

 

「はい。……どうも、ロキはPMCのいくつかを買収して子飼いの戦力にしていたようでして。残党といえる者達も存在しているようです」

 

「……狙いは星辰奏者。そして、現代の英雄を取り込む為か」

 

「そのようです。良くも悪くも国軍からだと、人間界との折り合いや和平前の各勢力を気にすることになりますからね。我々も表向きのカバーとして、そういった企業を設立することを踏まえておりました」

 

「厄介な話だ。あのロキのことだし、デコイもいくつかあって本命は探しづらいだろう」

 

「はい。またPMCではなく違法な傭兵企業や私設軍隊なども考慮すれば、相当時間がかかることでしょう」

 

「……そして、そのいくつかがハーデスと繋がっている可能性は大きいな」

 

「接触することができれば間違いないでしょう。ハーデスとロキは思想の面から同調しやすいです。残党はハーデスの支援を受ければロキの奪還も狙えますし、ハーデスも現場で動く部隊として徴用可能ですし」

 

「更に、ロキを倒された復讐という形にすれば、ハーデスとの直接の繋がりを探り難い形で襲撃も可能。いや、別の残党をそそのかす形で動かすことも可能か」

 

「頭が痛いですが、この手の類はプルガトリオ機関(我々)の専門ですから。続報が入り次第、追って連絡します」

 

「分かった。……それと、チームD×Dが何人かそちらの作戦に協力するとか」

 

「はい。カズヒが借りれれば儲けもののつもりで提案したのですが、意外にも頼れる人達が多くて逆に困りました」

 

「はははっ。彼らはそういう者達だと知ってるだろうに。まぁ、そろそろ例の異世界技術も取り込みたいところだしね」

 

「……偉大なる冥府神の従僕チームですが、間違いなく使っているでしょうね」

 

「ハーデスにしては人間を積極的に徴用しすぎているし、おそらくロキ残党辺りが提案したのだろう。負の側面を見せつけるのは、大衆向けのコマーシャルとしては有効だろうしね」

 

「既にエカテリーニ・ロド・サンブックの情報は漏れ始めています。おそらく意図的に流すことで、潜在的に不満層を増やす算段かと」

 

「既にサンブック王国からも抗議声明が送られているからね。「いくら何でも元テロリストを放し飼いにしすぎている」とね」

 

「……現状異形からは抵抗がないですが、被害者の会でも結成されるとやりづらいですね。特にジャンヌ・ダルクに関しては教皇猊下が下した沙汰ですから」

 

「まったく。禍の団(カオス・ブリゲート)も早々に復興の兆しが見えていることといい、厄介なことが多いものだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、俺達はこうして渦の団(ヴォルテックス・バンチ)残党の討伐作戦に参加することとなった。

 

 とはいえ、D×Dはあくまで助っ人扱い。加えて多くの参加表明者にはアザゼル杯やそれ以外の業務もあったので、全員参加というわけではないんだけどな。

 

 ……ただ、渦の団相手に過剰戦力気味でプルガトリオ機関が動いていることもある。だからこそ、戦力としてよりこれを利用した慣らしを目論んだ構成になっている。

 

 で、そのメンバーだが—

 

「はっはっは。俺も死徒とは戦ったことがあるが、まさか最高位の直下とはな! それに動きも鍛え上げられた者のそれだ、いざという時は頼りにしてるぞ!」

 

「ど、どう……も」

 

 —サイラオーグ・バアルが参加しているうえ、緋音さん達も参加している。

 

 異形アレルギーがある緋音さんが参加しているのは不安かもだが、これはちょっとしたリハビリを兼ねているからだ。

 

 今回の作戦はプルガトリオ機関や五大宗家が主体。それで本来は終わらせる予定であり、俺達はあくまでゲストだ。

 

 だからこそ、緋音さん達の慣らしにもなるだろう。そういう判断である。

 

 もちろんイレギュラーの可能性もあるが、それを気にしていたらもう何もできない。ある程度はリスクに目をつむる必要があるのが世の中であり、問題はその辺りにどう折り合いをつけるか。そういう話だ。

 

 幸か不幸か、サイラオーグ・バアルやバアル眷属がいるのならだいぶましだ。彼らは若手悪魔としては異例なレベルの戦力であり、アザゼル杯でも連戦連勝の高い勝率を誇っている。これ以上の戦力を求める場合、それは国家予算を投じても必ず得られるようなレベルでは無いと断言できる。

 

 ならこれで十分だ。あとは俺が頑張ってフォローするべきところだろうさ。

 

 ……と、いうわけで。

 

「お前はお前で頑張れイッセー。俺は俺で頑張るから」

 

「悪かったな畜生!」

 

 俺は一緒に参加しているイッセーに、割と残酷なことを言い放っておく。

 

 ツッコミは飛んできたが、こればっかりは仕方がない。

 

 異形アレルギーがまだ完全に治っているわけではない緋音さん。そのフォローになるべく徹しつつ、有加利さんのフォローも入れるべきだからな。ちなみにザンブレイブ姉妹も参加している。

 

 俺もカバーできる範囲に限度はある。主にアルティーネに関しては、イッセーに任せたい今日この頃だ。

 

 ……っと、作戦が始まったな。

 

「じゃ、様子を確認しつつイレギュラーに備えるということで。サイラオーグ・バアル、そっちもあくまでゲストなのを忘れないようにな」

 

 その辺りは釘を刺しておこう。

 

 俺達だけで何でもかんでも解決すると、他のメンバーが育たない。俺達と真っ向から渡り合えるだけの戦力なんて早々いないが、どう考えてもハイローミックスのハイなんてレベルじゃない質である自覚はある。点の突破力とでも形容するべき、まさに精鋭部隊の類なんだよ俺達は。

 

 それと同じぐらい、面の制圧力と形容するべき範囲をカバーするメンツは重要だ。ハイローミックスのローは、数を揃えたうえである程度の質も必要だからな。ただの有象無象の人海戦術では駄目だろう。

 

 基本的にフロンズ達の領域だが、政敵に全部頼るのも冥界政府的にあれだろう。フロンズ達だって後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)で、点のカバーをしているわけだし。

 

 というわけで、実戦経験を多くの者達に積んでもらうことが重要だろう。俺達は想定外の事態に対する備えで十分。ワーカーホリックは避けるに越したことはないのです。

 

「さて、何事もなく終わってほしいもんだ—」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—チュドォオオオオオオッン!—

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「—と思ってたんだがなぁ」

 

 なんか、明後日の方向から戦闘の音が聞こえてきたんだけど?

 

 なんでこう、俺達ってば高い確率でトラブルに巻き込まれる……っ

 

「本部、想定されてない箇所で戦闘が起きているようだが? 何があったか報告してくれ」

 

 サイラオーグ・バアルが確認をとっているけど、まぁある程度は予想できるので俺は周囲を確認。

 

 さて、この位置ならいきなり強襲されることはない。俺達D×Dメンバーが来ていると分かっているのならともかく、そうでないなら戦術的優位性が薄いこの地点を真っ先に狙う可能性は薄いからだ。

 

 なので、呼吸を整えて周囲の様子を確認する余裕はある。

 

「サイラオーグさん、もしかして禍の団ですか!?」

 

 イッセーが当たりをつけるけど、サイラオーグは首を横に振る。

 

「いや、どうやら全く異なる集団らしい。人造惑星(プラネテス)が四機確認されているそうだ」

 

 ついに全く別口のテロ組織まで、当たり前のように人造惑星を投入するようになったのか。

 

 サウザンドフォースではない。奴らは量産型の大型兵器や艦艇まで持っているからな。

 

 だからこそ、この事態は歓迎できない。

 

 どんな勢力が出てきたのかは知らないが、魔星を当たり前のようにこんなところに投入するとか勘弁してほしい。控えめに言うまでもなく、今後の世界の治安に悪影響だ。

 

 まぁいい。奴らが来る前に最低限の情報確認と意思疎通を—

 

「……なんだと!? 気をつけろ、一体がこちらに向かって真っすぐ突っ込んでくるぞ!」

 

 —なんでピンポイントなんだよ!?

 

 思わずぼやきたくなるがそんな時間もない。

 

 瞬時にパラディンドッグを起動して変身。魔星剣を展開して防衛体制を万全に。

 

 その瞬間、森から飛び出すように一体の敵が飛び出してくる。

 

 そいつは俺達の迎撃を素早く躱しつつ、俺達を視認。

 

「……チッ」

 

 ……あれ? なんか舌打ちされてないか?

 

 心当たりがなかったのだが、殺気が俺に対して真っすぐ突きつけられる。

 

「てめえかよ、九成和地。木っ端信徒や退魔師しかいないんじゃなかったのか」

 

 名指しされてる。

 

「まぁいい。なんか気になったんで来てみれば都合がいい。……ここでぶち殺すとするか!」

 

 因縁ある感じだけどー

 

「すいませんどちら様ですか!?」

 

「殺すぞクソガキィッ!?」

 

 —顔が見えないから誰だか分からねえ!?

 

 ブチ切れられても困るぞ!? マジで誰ですかぁああああ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか九成が因縁つけられてる!?

 

 ええい、いったい誰だか知らないけど、九成に何の恨みがあるってんだ。

 

 とにかく、ダチとしちゃ放っておけない。というか、こっちに仕掛けてきた敵なんだから容赦する必要もない。

 

 遠慮なくぶち倒す、そう思った時だ。

 

『緊急連絡! ガトリンガルと思われる戦闘兵器を確認! 禍の団が参戦したと思われます!』

 

 おいマジかよ!?

 

 ここで禍の団だと!? タイミングが—

 

『こちら第十三班! 突如として施設内の非戦闘員が怪物に変貌! 先日の怪物化現象と同様の存在と思われる!!』

 

 —悪すぎだろ!?

 

 っていうか、例の怪物化現象って亜香里や有加利さんのケースか!? おいおい、勘弁してくれよ。

 

 あれは結局、大きな情報が掴めないまま収束していた。だから再発の可能性はあるし、にも関わらず対策を立てるのが難しいところもあった。

 

 だからってこのタイミングかよ!? どんだけ—

 

『こちら北部中隊本部! 内部において別勢力と思われる存在を確認! 渦の団と戦闘が行われている模様!!』

 

 —本当にどんだけだよ!?

 

 ああもう! 渦の団の残党を潰すだけかと思ったら、謎の魔星に禍の団に怪物化現象に更に別勢力!?

 

 敵が、敵が多いぃいいいいいいいっ!!

 



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闇動神備編 第十三話 星の戦槌

 はいどうもー! 書き溜め増えてないけど、区切りも悪いしちょくちょく区切りがよくなるまで投稿しようと思っているグレン×グレンでっす!

 ぶっちゃけると面接までちょっと暇だったりしてるのですよ。やはり感想が欲しくなるぜー!

 あ、あと今後の作品展開にもかかわる相談的な活動報告を乗せているので、よければ一言あるとうれしいです!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 なんか急にたくさん出てきたなぁ、おい!

 

「千客万来にもほどがある! 乱戦にしたってやりすぎだろ!」

 

 星魔剣を振るって魔星に一撃を叩き込もうとしながら、俺はぼやく。

 

 それに対して、魔星は聖なるオーラを持つ剣を構えると、俺の攻撃を受け流しながら愉快そうに笑う。

 

「面倒な仕事だが悪くねえ! 薪は多い方が騒がしくなるしなぁっ!!」

 

 俺の相手に集中したいってか。厄介なファンに好かれたもんだ。

 

 舌打ちをしたくなりながら迎撃するが、敵の動きに何となく覚えがある。

 

 ……というか、ザイアで教えられた剣術モーションに近いな。関係者か?

 

 しかし様子見や探りを入れている余裕もない。何せ事態は厄介なほどに乱戦だから、いちいち魔星にかかずらっているわけにもいかない。というか、パラディンドッグの持続時間が厳しい。

 

 流石に一時間ぐらいなら問題ないが、あまり長期戦ができるわけでもないからな。

 

 なのでこちらも容赦はしないと思った時、魔星を起点に大量の敵影が出現した。

 

 いや、数がいきなり増えるとか勘弁してくれ。

 

 こちらも禁手を切り替えて対応したいが、それより先に動きが変わる。

 

 魔星が更にギアを上げると共に、手に持った聖剣に魔のオーラがまとわりつく。

 

 その瞬間、奴の剣が聖魔剣へと変貌した。

 

「なんだと!?」

 

 咄嗟に躱してしのぐが、これは想定外だ。

 

 木場の聖魔剣は相当のイレギュラー。簡単に真似できるものではない。

 

 禁手によるものといえど、簡単にできるわけがない。それをこうもあっさり?

 

 警戒度を跳ね上げた方がいいな。こいつ、かなり研鑽を積んでいる!

 

 そう思った時、渦の団残党の方から何かが接近してくる。と思ったらオーラの弾丸やエネルギー弾が飛んできた。

 

「「ちっ!」」

 

 同時に舌打ちして、俺達は互いを蹴り飛ばすようにして距離を開ける。

 

 直後、放たれた攻撃が俺達のいた地点を通り過ぎる。

 

 そこから乱戦の形で現れるは、かつて見た欲望のままに動く魔獣達と、それに対応する謎の集団。

 

 衝動のままに暴れる怪物達を相手するは、まるで機械のように無感動かつ無感情な動きで連携攻撃を仕掛ける集団。

 

 と思ったら、今度はガトリンガル・ゴリラとか言われていた人工神器兵器までもが出現する。

 

 ああもう、数が多すぎるだろうに!

 

 これは短期決戦でどうにかなるレベルじゃない。これは、パラディンドッグを使うタイミングを間違えたな。

 

 俺は意を決して禁手を解除すると、サルヴェイティングアサルトドッグにプログライズキーを変更する。

 

 禁手で畳みかけるのは、状況の変化を考えて立ち回る時だ。まずは長期戦を視野に入れてしのぐしかない。

 

 だが、魔星の方は俺のその態度に苛立ちをあらわにしている。

 

「禁手もなしに俺をどうにかできると? ……なめてんじゃねえぞ、狂犬!!」

 

「失敬な!」

 

 狂犬扱いは不愉快だな。俺はむしろ逆方向だぞ!!

 

 百歩譲ってカズヒやイッセーなら分かるが、俺をピンポイントに狂犬扱いとは失礼な。愛する者に正気無し(アメンテース・アーメンテース)とかいうラテン語の格言を聞いたことはあるが、それにしたって失礼な。

 

「寄りにもよって狂人扱いか! 流石に苛立つな」

 

 吐き捨てながらミサイルを発射。同時に機銃掃射を行って、乱戦の中注意を俺に引き付ける。

 

 まだリハビリ中の緋音さんや、戦闘慣れしていない有加利さんがいるんだ。ここはしっかりフォローしておかないとな。敵の注意はこちらに引き付けるぐらいでちょうどいい。

 

 実際問題、まず一体に集中して撃破するのは乱戦だと有効でもある。そういう意味では乗っかってくれやすいだろう。

 

 そして、無感動な連中は攻撃の優先順位を俺に向ける。欲望の怪物も、俺に攻撃を受けたことで俺の対する攻撃に意識を向けている。魔星は当初から俺狙いなので分かり易く乗ってくれた。

 

 ガトリンガルは乗っかってくれてないが、そこはイッセー達に任せるとするか。

 

 そう判断しつつ、俺は一呼吸を入れてギアを切り替える。

 

 普通に考えれば、とりあえず共通の敵に集中攻撃をするのは理に適っている。高確率で集中攻撃により撃破できるだろうしな。

 

 だが、俺の場合は別だろう。

 

 極晃に到達しているが故のポテンシャルを全力で振るい、俺は防衛戦を開始。

 

 障壁で攻撃を受け流し別の敵にあて、接近戦は捌きつつ敵同士が邪魔になるように誘導。そのうえで魔術も踏まえて攻撃を入れることで、更に浮いた敵を始末していく。

 

 生憎防衛戦は得意なんでな。ここでしっかり仕事をさせてもらう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九成はやっぱりこういう時強いな!

 

 ちょっと感心したけど、そればっかりでもいいわけがない。

 

 すぐに俺は真女王になり、接近してきた敵を殴り飛ばす。

 

 同時にサイラオーグさんも獅子の鎧を身に纏い、敵を殴り飛ばしていく。

 

 亜香里達はサイラオーグさんの眷属もいるし、当分は大丈夫。まずはペースを取り戻す!

 

「サイラオーグさん! 右は任せました!」

 

「ああ、行くぞ、兵藤一誠!!」

 

 サイラオーグさんと共に敵を殴り飛ばし、とりあえず全員が合流できる場所を開ける。

 

 乱戦だからな。まずは合流して陣形をとれるようにする! これも戦術の内だ!

 

 とにかく固まって対応できるようにしてから、分散して倒せばー

 

「なるほど、これがチームD×Dのフィジカル二大巨頭というものか」

 

 -その瞬間、目の前に男が現れた。

 

 なんだ、これは。

 

 高速移動? 空間転移?

 

 いや、それとも何かが決定的に違う。寒気すら覚えるほどに、何かが決定的に違う。

 

「イッセー気を付けて!」

 

 思わず俺達が面食らっていたのに気づいたのは、離れたところで乱戦をどうにかしていたアルティーネの大声だ。

 

「そいつはアルグラブ! 僕と同じでスタードライブの真徒だよ!」

 

 マジか、こいつもスタードライブ!?

 

 構えをとるその時、更に真徒と思われる奴が二人ほど現れる。

 

「お前達はアルティーネを頼む。こちらは俺が引き受けよう」

 

「「承知」」

 

 アルティーネに向かっていく真徒二人。

 

 俺もサイラオーグさんも対応したいけど、それは相手が許さない。

 

「悪いが魔王クラス以上が相手ならば、こちらも手加減は一切ない」

 

 その言葉と共に、相手はいきなり抜き放つ。

 

「創生せよ、地より溢れし星辰よ―――我らは煌く星の使徒」

 

 その瞬間、いくつもの球体が出てきた俺達に襲い掛かってきた。

 

「青き宝珠、命育む奇跡の星。今ここに、その輝きを代行せん」

 

 俺もサイラオーグさんも拳で迎撃するけど、硬くて重い。

 

「無尽に広がる星の海。その砂粒の一つにある、この奇跡に宿る我らが幸運。そこに感謝を捧げよう」

 

 巻き込まれた敵が文字通り跡形もなくぶっ飛ばされる中、アルグラブとかいうのは冷静だった

 

「故に星敵粉砕あるのみ。星の重みで押し潰されろ」

 

 殺気すら感じない。それが逆に寒気を感じちまう。

 

「この一撃こそ星の代行。大地を汚すというのなら、その業に立ち向かうが義務である」

 

 こいつ、本当にアルティーネと同じ種族か?

 

 そう思うぐらい、目の前のこいつからは相手を殺す気負いってのが感じない。

 

「汝、星に挑む価値はあるか? 能わるのなら、砕け散れ」

 

 どこまでも無感動なのが、思わず振るえそうになるぐらいになる。

 

 俺が例え滅ぼすことになろうと、皆と過ごす平和を汚すやつを倒すという決意を持ったのと真逆。そう言いたくなる。

 

超新星(メタルノヴァ)——星の重みは神罰が如き、砕け散れ(アースメイス・スーパードライブ)

 

 こいつらは、本当に掃除感覚で人間を間引くつもりなのかよ……っ!

 

 

 

 

 

 

アルグルス・スタードライブ

 

星の重みは神罰が如き、砕け散れ(アースメイス・スーパードライブ)

基準値:

発動値:AAA

収束性:AA

拡散性:B

操縦性:AA

付属性:D

維持性:AA

干渉性:D

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が星槌、果たしてお前はしのげるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見て、アルティーネは舌打ちを仕掛けている。

 

「あ~もう! 厄介なのが来るしなぁ、もう!!」

 

 この状況はめっぽうまずい。

 

 真徒はその性質上、地球上では戦闘能力が大幅に向上する。

 

 あくまで例えるなら、自身の力量と釣り合った眷属フルメンバーを従えるに等しい。そしてスタードライブの名を冠す真徒は魔王クラスであり、当然だがそれに比例する眷属フルメンバーを敵に回している状態だ。

 

 如何にイッセー、そして肩を並べられる戦士がいるとはいえ、今のアルグラブはそう簡単には倒せない。

 

 そもそも真徒は命を懸けるつもりはあまりない、害虫駆除やごみ掃除の感覚で動いているのだ。その状態で魔王クラスすら打倒できるあの二人を相手にする以上、更に札を持っていると考えるべきでもある。

 

 必然として、アルティーネは気合を入れる。

 

 イッセーといる毎日は楽しい。

 

 無感動な日々は好きじゃない。

 

 それは断言できる。

 

 なら、戦える。

 

 だから、こそ—

 

「創生せよ、地より溢れし星辰を———我らは煌く星の使徒」

 

 ここで、やるべきことは決まっている。

 



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闇動神備編 第十四話 革命の真徒

 はいどうもー! とりあえず頑張っておりますグレン×グレンでっす!

 まぁそういうわけで、とりあえず一話投稿しますよー!


カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プルガトリオ機関が活動することもあり、私も参加していてよかったと思う。

 

 何故ならば、目の前のやつを相手にできるのは上澄みだけだ。自分で言うことでもないけれど、私以上の使い手はプルガトリオ機関でも両手の指なら余りが出るという確信がある。

 

 そしてその大半は神が参加するエクストラ部隊。となると、更に太刀打ちできるものは限られる。

 

 振るわれる攻撃は神殺し。更に絶大なる聖なるオーラを纏い、こちらを殺さんと振るわれる。

 

 それをこちらも聖なるオーラを使っていなしながら、私は仕切り直しを兼ねてため息をついた。

 

「……今回の作戦、人類の間引きには程遠くないかしら? 疾風殺戮.com!」

 

「こちらも組織人なんでね。特に首魁の動きともなれば、補佐必須だろう?」

 

 そう言い返すのは、確か疾風殺戮のリクだったわね。

 

 聖槍の再現、それも肉体と一体化させる方向性の亜種で発現させる星辰光(アステリズム)。更に独自に仮面ライダーに変身する。

 

 間違いなく、現存の禍の団ではトップクラスの実力者。まだまだこういうのが残っているのだから、禍の団もしぶといわね。

 

 そして、別の意味で厄介なのがいる。

 

「-俺を忘れるんじゃねえぞぉっ!」

 

 振るわれる攻撃を、私達は互いを足場にする形で飛び退って回避。

 

 現れたのは、虎のような意匠がいくつか見える謎の存在。

 

 プログライズキーとはまた違った科学的な装備を纏っており、身体性能もサイラオーグ・バアルクラス。

 

 今私達は、三つ巴の戦いになっている。

 

 ……最初は渦の団の怪人かと思ったけれど、どうも毛色が違う。

 

 それにこいつを見つけた時、離れたところに似た格好の奴がいた。

 

 おそらくは、渦の団の技術を狙った別勢力。結果的に四つ巴状態であり、外側で更に別件と思われる勢力もいる以上は五つ巴と言ってもいい。

 

 千客万来過ぎて渦の団残党は泣いてそうね。

 

 とはいえ、これ以上好きにさせるのは論外だ。

 

 上手く敵を押し付けつつ、まとめて屠れる機会を探るべきだろう。ただし、それは相手も考えているみたいだけれど。

 

 そんなことを思っていると、更に状況は悪化する。

 

「……へぇ? 疾風殺戮に悪祓銀弾(シルバーレット)、更に妙なのが出てるじゃないか」

 

 その声と共に、更なる攻撃が別方向から放たれる。

 

 私含めて三者三様で捌くけれど、周囲が更に破壊された。

 

 既に岩盤すら破壊されて外の様子が見える中、其れを成した奴は肩をすくめながら現れる。

 

「あらら、全部対処されてんのか。……本気出したつもりなんだけどなぁ~」

 

 そうおどける相手は、おそらく人造惑星(プラネテス)と思われる存在。

 

 外観から見える印象から見て、おそらくこれまでとは全くの別口。そして、戦闘特化型であり高性能でもある。

 

 頭が痛くなりそうだわ。これが終わったら、シルヴァスタン共和国まで行って店長のところで酒とつまみでもかっ食らおうかしら。

 

 和地も誘いましょう。あの子、金使いたくてたまらないもの。奢らせてあげるのも女の甲斐性かしらね。

 

 ま、それは後で考えるとして。

 

「まったく、とんだパーティ会場ね」

 

 私はそう愚痴ってから、意識を素早く切り替える。

 

 どいつもこいつもあれな連中なのはほぼ確実。ならば容赦の必要なし。

 

 悪祓銀弾(シルバーレット)、なめるなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振るわれる攻撃を素早くさばきつつ、何とか緋音さん達と合流したいがそうもいかない。

 

 今俺は、人造惑星に粘着されている真っ最中。こいつを連れて行くのは気が引ける。

 

 ただ、そうも言ってられなくなっているな。

 

「……九成、こっち気をつけろ!」

 

 イッセーの声が飛び、直後流れた攻撃が俺を襲う。

 

 素早く伏せつつ障壁でカバーも入れると、その上を巨大な球体が通り過ぎた。

 

 ……なんだあれはと言いたいが、厄介な攻撃なのは確定的に明らかだ。

 

 直撃すれば肋骨ぐらいは粉砕される。それだけの質量が高速で動いており、しかも抜き打ちではどうしようもない強度もあると見た。

 

「チッ! 鬱陶しい邪魔が入りやがるか。……まとめてぶち殺してやればいいってか?」

 

「ふむ、面倒な邪魔者がいるようだ。……まぁ、次いで殺菌すればいいだけだがね」

 

 相手はどっちもまとめて相手取る気満々か。

 

 これをつけ入る隙にすれば、そう思いたいが……。

 

「和ちゃ……ん!」

 

 その時、緋音さんの声が聞こえる。

 

 振り返れば、緋音さんがフォローする形でみんなを連れてきていた。

 

「とりあえず、陣形で対応しない……と!」

 

「確かにな。まとまってくれた方が守りやすい」

 

 ここは動き回らず、まとまって身を守る方向にした方が好都合か。

 

 問題は、急な散会ができるほど戦い慣れてない人がいることだけどな。

 

「亜香里、有加利さん! 俺や九成から離れないでくれよ!!」

 

 イッセーも気を付けているけど、さてさてどうするかー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、ボクに任せて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -そんな声が、響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルティーネ・スタードライブは真徒の姫君。

 

 そんな敵に対し、真徒は二人がかりでかつ足止めに徹することで対応を図る。

 

 二人がかり、それも足止めに徹したのならばそれができる。そういう判断がなされていたからこその選択。

 

 ただし、そこに判断ミスが一つ存在していた。

 

 それはすなわち、「前提条件がかつてのアルティーネを前提としている」ただ一点。

 

 真徒達はその全員が、「アルティーネが成長している可能性」を考慮していなかった。人間達と手を取り合うことで、アルティーネが成長するなどありえないと思っていた。

 

 故に、彼らは瞠目する。

 

「創生せよ、地より溢れし星辰よ―――我らは煌く星の使徒」

 

 起動詠唱こそ、真徒共通。

 

 だが、そこからは彼女だからこそ至れる劇的な変化が浮かび上がる。

 

「紅の衝撃は我が身を貫き、面白き世を伝えてくれた」

 

 笑顔と共に告げる詠唱。それは、真徒達の基本形にあらず。

 

「星の歴史の僅か数刻。ただそれだけの短き者が、世界に彩りを示してくれる」

 

 真徒の詠唱に、あやかる伝承は必要ない。

 

 彼らにとって、己とは星の共生体。ゆえに、伝承ではなく地球にあやかるが当然の摂理。

 

「眺めて笑うが真徒の価値なら、私はそれを投げ捨てよう」

 

 だからこそ、そのくびきを解き放ったアルティーネは、僅かにあやかる伝承がある。

 

 感情が乗り、祈りが籠る。それを祝福のように受け取りながら、アルティーネは星を成す。

 

「踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊りたいと、私はそこに飛び出した」

 

 踊るように扱い戦いは、星のように輝く銃砲。

 

 振るわれる剣を打ち落とし、有象無象をあえて巻き込みながら、アルティーネは真徒二人を圧倒する。

 

「無限の夢持つ赤き王道。その道はまるでパレードで、誰もが笑顔を浮かべている」

 

 歌い上げるは赤龍賛歌。燚誠の赤龍帝を歌い上げ、その王道に続きたいと心の底から願っている。

 

 故に遠慮は一切ない。敵対するなら容赦なし。

 

「私もそこに混ざりたいと、心の底から思うから。気品を投げ捨て無邪気に笑い、笑顔で明日を迎えよう」

 

 その砲撃は戦場そのものを制圧するかの如く、敵の尽くを吹き飛ばしていく。

 

「我、星の共生たることを誇らぬもの。ゆえに一つの誠を誇る者」

 

 それこそが、アルティーネ・スタードライブの星辰光。

 

「我が前に立ちふさがるもの、その一切を撃ち抜かん」

 

 星の力を銃砲とし、敵を穿つ星の権能。

 

超新星(メタルノヴァ)——紅星の砲火、道を違えても悔いはなく(ブーステッドカノン・オーバードライブ)

 

 星砲創生運用能力、ここに顕現。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルティーネ・スタードライブ

 

紅星の砲火、道を違えても悔いはなく(ブーステッドカノン・オーバードライブ)

基準値:AA

発動値:AAA

収束性:B

拡散性:B

操縦性:AA

付属性:AA

維持性:AA

干渉性:D

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして突貫する対象は、アルグラブ・スタードライブ。

 

 己と同様にスタードライブの名を冠す存在。すなわち真徒の王族。

 

 そしてアルグラブもまた、瞬時にアルティーネに敵意を向けて対応する。

 

 ……真徒はそれ自体が魔星に匹敵する星辰体運用能力を保有する。そしてその方向性は、星の力を宿す武装の創造と操作に集約される。

 

 大半の真徒は共有のそれであり、星剣を振るうというものだ。それ自体が強力な剣であり、それを複数同時に宙に浮かべて操ることで、敵を切り刻むのが基本形。

 

 そしてスタードライブとは、それを隔絶する独自の武装を具現化して使役する、強化星辰体運用個体といっても過言ではない。

 

 アルグラブが振るうは星槌創造運用能力。星の力を宿すメイスを具現化して振るう力。

 

 操作する性質上柄が必要ない為、一見すると鉄球にも見えるのが特徴。だが強度・速度・質量のすべてが高水準であり、魔王クラスですら破壊は困難。身を隠すほどの大きなそれを、同時に十五も生み出し操ることで、アルグラブは圧倒的な破砕力を保有する。

 

 対してアルティーネが振るう星砲創生運用能力は、星の力を宿す砲撃兵装を創造して運用する能力。

 

 性質上付属性が高いこともあり、反動をほぼ無視した運用が可能。ただし投射攻撃を可能とする代わりに、遠隔操作能力が失われている。

 

 故に戦闘は一瞬で拮抗。襲い来る星槌を迎撃することで、回避する隙間を作っての膠着状態に突入する。

 

 それに対し、他の真徒達は躊躇なく介入を決定する。

 

 アルティーネの成長は危険であり、そこまでして人類の駆逐を阻害するのならばもはや容赦をする理由もない。

 

 これ以上成長する前に殲滅するという、極めてシンプルな回答をもって制圧が試みられる。

 

 造反者を、脅威度が高まる前に撃破する。これ自体は戦略としては当然。また、優位性を獲得している状態で倒すのも、戦術的には何ら間違っていない。

 

 間違っているとするのならば、それをこの状況でなせると考えることそのものだった。

 

「させるかよっ!!」

 

 横合いから拳を握り締めて殴り掛かるは、兵藤一誠。

 

 星剣を砕き星槌を弾き飛ばした彼は、紅の鎧をもってアルティーネに並ぶ。

 

「やるじゃんアルティーネ! かっこいいぜ!!」

 

「……うんっ! そうでしょそうでしょ!」

 

 満面の笑顔で応えるアルティーネに、兵藤一誠もまた笑顔をもって返す。

 

 そして囲む周囲の真徒を見据え、互いに背中を合わせて迎撃の姿勢に入る。

 

「……じゃ、ここで一気に叩き潰すか!」

 

「オッケー! やっちゃうよー!」

 

 今ここに、戦いは更に加速する。




 真徒の星辰光ですが、基本設計として「星の力を受け止め振るう武装の具現化」を基本設計としております。

 これは真徒が基本的な規格を合わせていることに由来しており、まぁリチャードとルーファスの星辰光が「雷撃」という点で同一なのに由来しているようなものです。

 そこから独自の武装を具現化できるようになっているのが、スタードライブの星辰光における特徴とお考えいただければよろしいかと。


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闇動神備編 第十五話 因縁つけるのに理由はいらない

 最近は執筆意欲も回復しており、執筆速度も上昇しております。

 あと面接受かりました。大手ゲーム会社の障碍者雇用枠です。残念ながらスパロボのメーカーではありませんが。

 ま、スパロボの小説は「設定を入念に考える必要がある」ので無理ですが。個人的には機神飛翔デモンベインを入れたオリスパを書きたいんですけどねぇ。SEEDを持つ者はUXのヒーローマンみたいなきっかけがあったり、コーディネイターが純粋種イノベイター発生の過渡期を乗り切るためにイオリアが用意していたプランの一環とか、外なる神々や旧支配者が脳量子派の天敵とか、ネタはいろいろ思いついているんだけどなぁ……。

 ま、それはこの際置いておきましょう! では次の話をどうぞ!!


和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、この状況はまだましといえるだろう。

 

 真徒達がアルティーネ及びカバーに回ったイッセーに集まっているが、あいつらやばいからな。

 

 単純計算で魔王クラス一名最上級悪魔クラス四名に、眷属5セット分の敵だ。はっきり言って相手にするには苦労するのが確定といえるだろう。

 

 イッセーならまだまだもたせるだろうから、今のうちにこっちで持ち直してからカバーすればいい。

 

 幸いこっちにはサイラオーグ・バアル眷属もいるからな。やりようは十分にある……けど!

 

「乱戦なのは変わってないんだよな!」

 

「まったく、こうも入り乱れるとな!」

 

 主力であると俺とサイラオーグ・バアルで、入り乱れる戦いを何とかしのいでいる。

 

 乱戦になっていたら何時の間にかこうなってたよ。いやいややばいやばい。

 

 不幸中の幸いは、サイラオーグ・バアルの眷属は間違いなく全員が上側であるという点。

 

 彼らがいるなら、比較的安心ができるだろう。厄介な真徒連中もイッセー達に注力しているしな。

 

 このチャンスを逃さず、一気に状況をひっくり返す。

 

「まずはそこの人造惑星(プラネテス)! そろそろぶちのめすぞ!!」

 

 俺は重装備を一斉に投射しつつ、魔剣を創造して切りかかる。

 

 それに対して、相手も応じる体制だ。

 

 魔剣を振るう騎士団を大量に出して攻撃に回しつつ、俺が放った攻撃は障壁を張って無効化。更に聖剣を具現化すると切りかかる。

 

 ……なんだ、この動き?

 

 慣れてくると、何故か相手がどう動くかが何となく読めてくる。慣れてきたにしても読めすぎているぐらいだ。

 

 しかも相手も、こっちの動きをある程度先読みした対応をしている。結果的に先日手に近い状態だが、付け狙ってきたことといい俺を知っているということになる。それにしても、読みすぎな気もしないでもない。

 

「つくづく忌々しい奴だなぁ? だったら……こうだ!」

 

 その瞬間、人造惑星は聖剣に魔のオーラをまとわせる。

 

 更に同様のオーラを纏った鎧を展開。更に押し切るようにこっちに猛攻を仕掛けてくる。

 

 俺は聖血も展開してしのいでいるが、こいつやばいな。

 

 ……人造惑星といってもピンキリはあるが、奴は間違いなく上位側だ。

 

 こっちに対して苛立ちを向けて執拗に仕掛けているが、動きに無駄がない。

 

 人造惑星は性質上、いくつか欠陥がある。

 

 適当にふるうだけで強大な星を持ち、さらに強い衝動で神星鉄を制御するのが根幹設計。そのため魔星というのは基本的に、テクニックタイプになりにくい。

 

 糞親父達が典型例だろう。元々厳しい訓練を積んでいるわけでないところに、細かい技術を習得しなくても強力な異能の獲得。そこに絶大な衝動が重なり、戦術や技術に対するモチベーションが持ち辛く、そもそも戦闘中に意識し難い性質を持つ。ステラフレームは基本フレームなどにプログラミングすることで対応しているようだが、それだって補佐が主体となる。

 

 死者を素体として衝動をもって制御するという、基本設計そのものからして兵器であって戦士じゃない。プログライズキーや禁手で補正をかけている俺達が特殊であり、星辰体関連技術だけでこれを克服するのは絶大レベルに困難だ。

 

 外観から見て、奴が第一世代を基本理念としているのは間違いない。にも関わらずあれだけの戦闘技術。それに細かいところで都合のいい流れに相手を誘導しようとする、駆け引きのようなものも感じている。

 

 間違いなく、素体の段階で戦闘巧者。それも入念な訓練を受けているそれだ。

 

 厄介な敵だな。サルヴェイティングアサルトドッグでは押し切りづらいか?

 

 かといって、パラディンドッグはいまだ限界時間がある。タイミングを見計らわなければ、半端な使用は敗北に繋がるだけだ。

 

 チッ! 面倒な—

 

「和ちゃ……ん! 638!」

 

 -その声に、俺は条件反射で対応した。

 

 ザイアで散々叩き込まれた連携戦闘パターン。俺はそれに従い射撃に切り替える。

 

 連携戦闘での運用を想定した、射撃による誘導。

 

 俺が陽動側で、それに合わせた本命の射撃が行われる。

 

 だが、それを相手は完璧に回避した。

 

 ……俺の攻撃を回避したうえ、回避の移動距離が絶妙に本命担当が狙いづらい位置にとどめている。

 

 それを見て、俺は正直目を見開いた。

 

 おい、ちょっと待て。完璧すぎる対応にもほどがあるだろう!?

 

「やっぱ……りね」

 

 そう呟きながら、指示を出した緋音さんが俺の隣に並ぶ。

 

 そして緋音さんは、微妙な表情を浮かべていた。

 

 この反応。もしかして、知り合いか?

 

「緋音さん。もしかしてあいつ……ザイア関係?」

 

 サウザンドフォース側だろうか?

 

 そう思っていると、緋音さんは俺の方をちょっと呆れた目で見てきた。

 

「……阿武隈さんだよ。ほら、いっぱい突っかかってきた」

 

「……あ~……。思い出したくなくて記憶から引っ張り出せなかった」

 

 思い出したー。そうだよ動きが似てるし、俺の動きも想定しやすいわぁ~。

 

 本当に思い出した。というか、思い出したくなかったのかもしれない。

 

 阿武隈川人(あぶくま かわと)。AIMSにいた日本人メンバーであり、俺達とは別のチームだった年長者。

 

 俺が仮面ライダーに認定される前から食って掛かってきて、合計千回以上模擬戦をする羽目になった記憶がある。

 

 そういえば動きがそっくりだった。そして俺と戦い慣れているから、そりゃ俺の動きにある程度の先読みや誘導ができるわけだ。

 

「てぇめぇ……っ! 思い出すのが遅すぎだろうが! 取るに足らない木っ端だとでも思ってんのか!?」

 

「いやそこまでは言わねえよ。そもそも模擬戦の勝敗はそんなに大差ないだろうが」

 

 大体600回ずつ勝ちと負けがあって、ぴったり50引き分けだった。

 

 総合的にはトントンレベルだと思うんだけどなあ。

 

 ま、それはともかくとしてだ。

 

 ……まさか人造惑星になっているとはな。誰が施術したのかは知らないが、因縁がこんなところで出てくるとは。

 

 AIMSのメンバー全てが堕天使の世話になっているわけじゃない。多くは何らかの形で庇護下に入っているが、サウザンドフォースに流れたやつも多いだろう。

 

 だが、おそらくあいつは別件。

 

 これは気合を入れ直さないと……なっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は乱戦になっている。

 

 時折相手を入れ替えながら、私達は素早く戦闘をし続ける。

 

 油断と不運が死に繋がる。その緊張という鎖を気合で引きちぎりながら、私は何度目かの新顔との戦いに入る。

 

「砕け散れやぁああああ!!」

 

 振るわれる爪に対し、私は素早く反撃を叩き込む。

 

 比較的狭い空間であることから、私は大型の防御プレートを異界の蔵(スペイス・カーゴ)から転送。そのまま魔術で加速させて叩きつける。

 

 だがその瞬間、防御プレートは粉砕された。

 

「脆いぜ!」

 

 虎擬きのSF野郎は、あろうことか噛み砕いた。

 

 ……あれ、イッセーでも通常禁手じゃ一回殴った程度で壊れたりしないプレートなんだけど。ついでに言うとかなり高いんだけど。

 

 警戒度を上方修正しつつ、私はその種を観察する。

 

 迫りくる大型物体相手に、あえて噛み付きで対応する。その不可解に、私はある仮説を立てる。

 

 おそらく噛み付き攻撃こそが、奴にとっての最強手段。そう考え、しかし外れている可能性も決して捨てない。

 

 そのうえで、私は相手の猛攻を捌いていく。

 

「ウラウラウラァッ!! このクラッシュタイガー様に勝てるかよお!!」

 

 ……クラッシュタイガー。また安直な気もするけど、コードネームと考えるべきね。

 

 虎をモチーフとした、破壊力特化型。そういう方向とみるべきか。

 

 渦の団としてはネーミングセンスに乖離がみられるけど、とりあえず敵なのは確定。

 

 結論は、すぐに出る。

 

「いいでしょう、ならもっと相応しい装いで対応してあげるわ!」

 

『BURST!』 

 

 私はプログライズキーをダイナマイティングライオンに切り替え、再び変身。

 

 そして後退し—落ちた。

 

「間抜けがぁ!」

 

 吠えるクラッシュタイガーは私を追撃する。

 

 そこは戦闘で崩落した通路。そして落ちた個所は小さな倉庫。

 

 逃げ場がないと判断した奴は、躊躇なく噛み付き攻撃を行使する。

 

 ……ええ、馬鹿でよかったわ。

 

「……まだだっ!」

 

 気合と根性を入れ、私はあり得ない体制から瞬間加速で突貫。

 

 掻い潜り、すり抜けるように、私は上下を切り替える。

 

「知ってるかしら? 狭い空間だと機動力より出力重視が有利らしいわよ?」

 

 狭い倉庫は小さい空間。つまるところ、爆圧の逃げる道がない。

 

 逃げ道側から爆圧を発生させれば、それは高出力で敵に襲い掛かる。

 

 故に、この火力は恐ろしい。

 

「圧殺されなさい!」

 

『ダイナマイティングディストピア!!』

 

 その瞬間、奴は逃げることを許されず爆圧に押しつぶされる。

 

 ……残心をとりつつ、私は思考を回転させる。

 

 渦の団残党施設を狙う、多数の勢力による乱戦。それがこの状況の簡潔な説明だ。

 

 つまるところ、奴が渦の団とは別口である可能性は十分すぎるほどにある。

 

 まったく。終わったら終わったらで頭が痛くなりそうだこと。

 

 

 

 

 




 そんな感じで正体発覚。

 ちなみに阿武隈にはモデルキャラがいます。というか、そのモデルキャラを知ったことから作ったキャラともいえます。


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闇動神備編 第十六話 不穏増大

 はいどうもー! 最近は懸念だった就職関係が一気に好転し、そのせいか筆も進んでいるグレン×グレンでっす!

 そんなわけで、久しぶりに早いスパンで投稿するぜー!!


 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阿武隈川人が俺に突っかかる理由は、いくつか想定できる。

 

 まずあいつは日本人であり俺より年上。だがしかし、奴はレイダーどまりで俺は仮面ライダー。

 

 その前から突っかかられていたが、それ以上に突っかかられたのでそれもある。

 

 それと性質がかぶっている。

 

 俺は転生の影響で神器を二つ持っている。対して奴は、生まれ持った神器だけじゃなく、聖十字架のように宿主を渡り歩く性質の神器も宿している。つまるところ神器二つ持ちでかぶっているわけだ。

 

 元々阿武隈はチンピラ気質なところもあるからな。年下の同系統が自分のアドバンテージを食ってるのが気に食わない、そういうこともあるだろう。

 

 ……そして厄介なことに、あいつ強いんだよ。

 

 そして思い出したけど、あいつの星辰光(アステリズム)がまた厄介だ。

 

 それが、人造惑星にって勘弁してほしい以外の何物でもないんだが!

 

「創生せよ、天に描いた守護星よ———我らは鋼の流れ星」

 

 そして、それを本格的に開放してくるわけだよ!

 

「今ここに、我らは神に見初められん。約束された破滅に挑む、黄昏の戦が約束された」

 

 先制攻撃で潰そうとするが、それは障壁で阻まれる。

 

 宿主を渡り歩く性質を持つ準神滅具。形状変化可能な高出力防御障壁を展開する、結界系。その名も、流浪者の楽園(パライゾ・ストレンジャー)

 

「栄光の死により俗世を飛び立ち、迎えられるは神域の楽園。約束されるは英雄の座、汝は人界に留まる器でないのだと、荘厳たる神々が、我が身を褒め称えてくれたのだ」

 

 更に何発か突破しても、奴は聖剣と同等のオーラを持つ聖なる鎧で弾き飛ばす。その余裕が、更に妨害を困難にさせていく。

 

 奴が生まれ持つ準神滅具。強大な聖なるオーラを纏った剣と鎧を具現化する属性系。その名を聖騎士顕現(パラディン・バスタード)

 

「故に我、凡俗を超えた傑物なり。幾千の敵が集まろうと、有象無象が我を討つこと能わず。この身が示す魔剣の群れが、鎧袖一触、一騎当千の威光を示して屠るのみ」

 

 そして具現化され襲い掛かるは、十体近い魔剣の騎士。

 

 それぞれが別の魔剣を振るいながら迫りくるが、発動値(ドライブ)に到達している以上、そこで留まっては魔星じゃない。

 

「故にこそ、恨めしいのは我が宿敵。汝の守りが忌々しい」

 

 まず、単純に数が増えた。六倍ぐらい増えた。

 

 更に武器が魔剣だけじゃなくなる。楯も構えた。

 

 それどころか、何体化は銃剣付きの重火器に持ち替えている。サイズから見て軽機関銃だ。

 

「絶対なる救済。嘆きの変換。涙の意味を変えるという、妄言こそが我が怨敵」

 

 それらの、単独の禁手とは思えない波状攻撃。俺はゾーンに到達し、更にパラディンドッグに切り替えることで何とかしのぐ。

 

 温存する余裕もタイミングを見計らうゆとりもない。つまるところ追い詰められているからこその対応なんだが、これを見た奴は更に敵意を燃やしている。

 

「幾千の刃も聖なる一閃も、汝の守りを切り裂けぬ。あろうことか絶対なる絡繰りの仮面すら預けられる、面従腹背が苛立たしい」

 

 まごうことなき殺意。俺を殺したくて殺せないという、苛立ちをこれでもかと奴は放つ。

 

「故に、我が栄光は汝の死の先にある」

 

 その怒りに呼応して、魔剣の軍勢は更に猛る。

 

「苦渋にまみれ、絶望せよ。それこそが我が黄昏の先にある新世界にほかならぬ」

 

 それこそが、魔星となって凶悪化した、阿武隈川人の星辰光。

 

超新星(メタルノヴァ)——勝利掴め、人界制す魔剣軍(ミッドガルズ=ソード・アンリミテッド)

 

 魔剣創造多重再現能力・独立具現型。

 

 数の暴力に多様性を併せ持つ、割と反則じみた星辰光(アステリズム)が俺達に襲い掛かる。

 

「覚悟してもらうぜ? この俺は—」

 

 その全身から殺意を滾らせ、阿武隈川人だった魔星は突貫する。

 

「人造惑星マークツヴァイ……無尽斬撃(アンリミテッド)だぁああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マークツヴァイ

 

勝利掴め、人界制す魔剣軍(ミッドガルズ=ソード・アンリミテッド)

基準値:

発動値:AA

収束性:AA

拡散性:

操縦性:AA

付属性:D

維持性:

干渉性:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上等だよ、この野郎

 

 そこまで俺をぶちのめしたいのなら、こっちだって容赦はしない。

 

 極晃奏者、なめるなよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フロンズ。面倒なことになったようだ」

 

「どうしたのかね、ハッシュ? このタイミングだと、確か渦の団(ヴォルテックス・バンチ)案件と思われるが」

 

「どうやら多種多様な勢力が狙っていたらしい。禍の団(カオス・ブリゲート)の真徒も出てきているようだ」

 

「……大盤振る舞いだな。まぁ、赤龍帝一行なら乗り切りそうだが」

 

「そこは同意見だが、増援を送った方がいいのではないか?」

 

「それはいいだろう。というより、少し忙しい事態が発生している」

 

「というと?」

 

「禍の団から亡命者を出せないか行っている最中だろう? だが、その中に面倒な連中がいるようでね。……いまだにこちらが接敵してないのが懸念点だ」

 

「どういう連中だ?」

 

「疾風殺戮.comの下部組織とでもいうべき同盟組織だ。奴らが人類の間引きを目的としているのは知っているな?」

 

「ああ。それがどうかしたのか?」

 

「どうやら、彼らはその一環で「間引かない人間」の選定もしていたらしい。そういう組織があるようだが、疾風殺戮と連携をとってないことが疑念点でね」

 

「なるほど。それは確かに懸念点だ」

 

「チームD×Dの手柄を奪うより、こちらはこちらで独自に利益を得られるのならそれはそれでいいことだ。対応するべきポイントがあるなら、尚更だろう?」

 

「まったく。世の中は厄介なことが思った以上に多いものだ」

 

後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)ならこういうだろうね。……だからこそ、挑みがいがあると」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、例の連中が接触を試みたと聞いたが、どうしたのだ?」

 

「むろんだな、幸香。この才能の権化がたかが神の因子を覚醒させただけの下らぬ手合いに媚びるとでも?」

 

「まぁ、おぬしならそう言うだろうて、ユーピ。だがしかし、奴らは少数チームとしては異例なほど禍の団に貢献しておる」

 

「確かにな。特に曹操達の見つけた禁手到達のメソッド化。あれにより一気に化けた者が数多い」

 

「組織的活動としては三下だったが、被害は決して無視できぬ。フロンズには伝えておるだろうが、逃げ切られる余地はあるだろうて」

 

「同意見だ。そもそも奴らは至らぬ時点で、各勢力のそれなりの要人も暗殺しているしな」

 

「曹操達の実験のどさくさにまぎれ、最上級悪魔を眷属ごと滅ぼしたそうじゃしのぉ? とはいえ、根っこの性根がくだらなすぎるが……どう動く?」

 

「分からんよ。とはいえ、流石に奴に関してハーデスにとやかく言われたくはないが」

 

「それは当然。そも恨むのなら、弟の種蒔きにこそ告げるべきじゃろうて」

 

「同感だ。なにせ―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「メンバー全員がゼウスの血を引く特殊チームと来たものだ」」

 




 ちょっと文字数稼ぎも兼ねて、不穏な敵勢力情報を載せたりしました。

 まぁ、詳細は後程になるとは思いますけど……ね?







 それはそれとして、星辰光紹介です!!









マークツヴァイ

勝利掴め、人界制す魔剣軍(ミッドガルズ=ソード・アンリミテッド)
基準値:
発動値:AA
収束性:AA
拡散性:
操縦性:AA
付属性:D
維持性:
干渉性:


 マークツヴァイの星辰光。ふるう星の名は魔剣創造多重再現能力・独立具現型。
 魔剣創造という神器を、魔剣をふるう騎士という亜種の形で多重に再現する能力。

 もとよりこの系統の神器は魔剣をふるう騎士を複数具現化して操る禁手を保有しており、ある意味で上位互換となる。なぜなら複数の騎士を多重再現することで運用するばかりか、禁手を同時に複数展開することが可能である故。強いて言うなら亜種として具現化した性質上、騎士に渡してもらわなければ当人は魔剣をふるえないのが難点だが、至ればそれで済む話なうえ、当人が強力なので欠陥というほどではない。
 また禁手そのものに干渉しあうことで、複数の禁手を組み合わせた隙の無い戦闘も可能になるのが利点。基本的には多種多様な魔の武装で攻め立てる魔剣の騎士団を呼び出しつつ、聖魔の昇華を果たした己の準神滅具を武器に魔剣の騎馬で一撃離脱の各個撃破を狙うのが基本戦術。応用することで遠隔地から魔の弾丸を放つ機関銃の飽和戦術をとることも可能など、ただでさえ手札が多い創造系神器をさらに拡張する戦術をとることが可能。
 マークツヴァイ自身も英才教育を受けているため、複数を組み合わせた戦術をいくつも使用できるところが驚異的。条件反射レベルで複雑な禁手の組み合わせを行うことができるがゆえに、彼は最高出力で劣りながらも同僚の人造惑星で最強クラスを自負できる。

 ……翻って、すでに彼の力量は円熟に到達している節があるのが唯一の欠点。彼自身が殻を破らねばここから先の成長は見込めず、それゆえに星辰奏者の時点で聖血宿さぬ九成和地相手に、準神滅具二つというマウントをとれながらも同等の力量に甘んじていた。
 人生の悟り、勝利の答え。極晃星に到達した、涙換救済は魔星の完全上位互換。ゆえに彼が雪辱を晴らすには、次元の違いに食らいつく、心の輝きが必要となる。

 殻を破ることができるのか。それこそが無尽斬撃の命題である。

★詠唱
 創生せよ、天に描いた守護星よ———我らは鋼の流れ星。

 今ここに、我らは神に見初められん。約束された破滅に挑む、黄昏の戦が約束された。

 栄光の死により俗世を飛び立ち、迎えられるは神域の楽園。約束されるは英雄の座。汝は人界に留まる器でないのだと、荘厳たる神々が、我が身をほめたたえてくれたのだ。
 故に我、凡俗を超えた傑物なり。幾千の敵が集まろうと、有象無象が我を討つこと能わず。この身が示す魔剣の群れが、鎧袖一触、一騎当千の威光を示して屠るのみ。

 故にこそ、恨めしいのは我が宿敵。汝の守りが忌々しい。

 絶対なる救済。嘆きの変換。涙の意味を変えるという、妄言こそが我が怨敵。
 幾千の刃も聖なる一閃も、汝の守りを切り裂けぬ。あろうことか絶対なる絡繰りの仮面すら預けられる、面従腹背が苛立たしい。

 故に、我が栄光は汝の死の先にある。
 苦渋にまみれ、絶望せよ。それこそが我が黄昏の先にある新世界にほかならぬ。

 超新星《メタルノヴァ》——勝利掴め、人界制す魔剣軍(ミッドガルズ=ソード・アンリミテッド)









 とまぁ、こんな感じとなりました。

 魔剣創造を独立具現型の亜種として大量に出すことで、事実上禁手を同時に複数できるという可能性においてはパラディンドッグの上位互換じみた真似が魔剣創造限定で可能。

 さらに禁手到達のメソッド化もなされた現状では、それを思う存分使えるという点でまさに超強い奴です。

 超強いのです。ただ和地がさらにやばいだけなのです。

 ……さぁ、奴は化けることができるのか……?



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闇動神備編 第十七話 欲望の姫君

 はいどうもー! ちょっと愚痴交じりの報告を活動報告に挙げたグレン×グレンでっす! +の報告もあるので、その紹介も兼ねて一話投稿します!!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真徒どもは本当にやばい連中だ。それは分かっているつもりだった。

 

 アルティーネは俺達のチームで女王(クイーン)だ。そしてその力は、アルマロスさんと真っ向から渡り合えるほど強いから明らかだ。

 

 その、つもりだった。

 

「如何に君といえど、私だけならともかくこの数で勝てるかな?」

 

「負ける気はないよ! イッセーもいるもん!」

 

 それにしたって強すぎだろ!?

 

 地球の共生体。その言葉の意味を改めて実感したよ。

 

 こいつら、地球上で戦うとマジ強いな!

 

「食らっとけ!!」

 

 速射でドラゴンショットを放ったその瞬間、狙っていた真徒の眼前に岩山が立ち塞がる。

 

 ただの岩山じゃない。まるで神の加護を受けた霊峰のようなそれは、ドラゴンショット二発で何とか消し飛ばせる程度の頑丈さ。それがいくつも出てきた。

 

 精々50mほどの岩山を壊すのに、真女王の俺がドラゴンショットを使う。これがやばくなくて何だってんだ。

 

 甘かった。俺達は、まだどこか真徒をなめてかかってた!

 

 そう思った瞬間、今度は氷山が真上にできた。

 

 更にそこに蔦が絡みつき、俺に向かって振り下ろされる。

 

 回避……はアルティーネの方にも向かう。なら答えは単純だ!

 

「赤龍帝をなめんじゃねえぞ!」

 

 拳を握り締め、撃鉄を起こす。

 

 そして全力で殴りつけ、一気に氷山を粉砕する。

 

 そして壊れた氷山の向こうから、合計十本の剣が襲い掛かる。

 

 真徒が使う星真光で振るう剣だ。聖魔剣とも打ち合えるだろう、やばい性能なのはもう分かってる。

 

 だからこそ、なめんな!

 

「オールレンジ攻撃は俺にもある!」

 

 飛龍を操って迎撃し、俺はそのうえで真徒の一人に突っ込んだ。

 

 殴り掛かかられた真徒は素早く後退するけど、それはもうお見通しだ。

 

「アスカロン!」

 

『BLADE!』

 

 瞬時にアスカロンを展開し、奴の首を切り飛ばす。

 

 これで一人。そう思ったけど寒気を感じた。

 

 次の瞬間、ツタが伸びて首と体を繋げた途端、跳ね飛ばされた真徒の手が動き、応じるように溶岩が現れた。

 

 すぐに後退して安全圏に到達するけど、その時にはその真徒は首を繋げ、まだ血がこぼれているけどすぐに体の調子を確かめている。

 

 ……首を跳ね飛ばしたぐらいじゃ死なないってか。フェニックスもびっくりな不死性だな。

 

『まったくだ。こんな連中が数十も息を潜めていたのだから、この世界も大概魔境だな』

 

 そうだな、ドライグ。でも戦えている。

 

 確かに厄介だ。でも、普通の真徒相手なら同時に複数相手にしても、俺でもしのぐぐらいはできる。

 

 ま、燚誠の赤龍帝なんて言われている俺が、数体相手にするだけで苦労してるってのはやばいんだけど。それでも、俺クラスなら無銘の真徒複数程度ならしのぐことができる。

 

 ならやれる、戦える!

 

『今の相棒は魔王クラスすら打倒できる、いうなれば準超越者クラスだ。疑似龍神化なら超越者クラスに届く以上、見極めれば奴らも殺せるさ』

 

 ああ、その辺はドライグさまさまだ。

 

 ドライグだけじゃない。アザゼル先生にアジュカ様、オーフィスにグレートレッド。そしてもちろん、リアス達俺の大事な愛する女と頼れる仲間達。

 

 みんなと続けてきたこれまでの日々が、俺に奴らに対抗する力を与えてくれる。

 

 なら負けない、負けられない!

 

「こいつらは抑える! やっちまえ、アルティーネ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現状、阿武隈川人こと、人造惑星マークツヴァイ。コードネーム無尽斬撃(アンリミテッド)と戦闘中。

 

 乱戦状態ゆえに緋音さんとはぐれ、今はサイラオーグ・バアルと共に戦っている。ちなみに阿武隈は放置できないので、残神による疑似固有結界で隔離している。

 

人造惑星マークツヴァイ。こいつは間違いなく強敵だ。

 

 準神滅具を二つ保有。更に魔剣創造を多重に再現し、そのすべてが独立具現型で更に至っている。

 

 魔剣創造は創造系神器故、多重に保有するメリットが禁手の同時展開以外にないという無駄がある。だが魔剣の騎士という独立具現型で再現することで、その無駄を省いている面倒な星を振るうことになる。

 

 多重に再現して更に組み合わせることで、奴は軽機関銃による集中攻撃を敢行。しかも何体が離れていたのか、汎用機関銃による遠距離制圧まで加えている。

 

 とどめに、準神滅具の一つが聖なる武装だったことから、聖魔の融合まで成し遂げている。簡単にできることではない以上、マークツヴァイが強敵であることは間違いない事実だ。

 

 だからこそ、一気に仕掛ける。

 

「サイラオーグ・バアル! 畳みかけるぞ!!」

 

「任せておけ!」

 

 俺はサイラオーグと共に、猛攻を仕掛ける。

 

 もとよりパラディンドッグは時間制限必須。ならやることは決まっている。

 

 全ての神器を禁手にし、更に残神まで展開。波状攻撃で圧殺を仕掛ける。

 

 サイラオーグ・バアルも覇を解き放ち、既に仮面ライダーレグルスに変身済み。

 

 全力で、一気に、撃破あるのみ。もとより戦闘特化型魔星相手に、長期戦は基本として愚策だからな。

 

 とにもかくにも一点特化。数で圧殺される前に押し切ればいい。

 

 故に、こちらもどちらも遠慮は無用。今後の粘着は殺し合い前提が確定的だし、ここで終わらせるぐらいの勢いで叩き潰す!

 

「覚悟してもらおうか、阿武隈ぁ!」

 

「我らの前に立ち塞がるなら、容赦せん!」

 

 左右から猛攻を仕掛け、更に固有結界を生かした複合障壁により防御も加える。

 

 この多重攻撃に、マークツヴァイは防戦一方。

 

 当然だ。如何に戦闘特化型魔星とはいえ、神滅具の禁手が左右から襲っている。

 

 更に片や二つも神器を別に持つ極晃奏者。片や若手悪魔最強と称され、生身で下手な最上級悪魔を返り討ちにできる肉弾派悪魔の頂点クラス。

 

 同時に相手をしてしのげている、マークツヴァイが十分すぎるほどにやばいだけだ。

 

 故に逃げられるとまずい。必然として、ここで一気に叩き潰す!

 

「クソがぁっ! 魔力を使えない欠陥悪魔との連携だけで、ここまでやるってのか……っ!!」

 

 マークツヴァイも善戦しているのは認めるが、それが限界。

 

 一対一ならやばいところもあるだろう。だが二対一なら押し切れるレベル。

 

 油断はしない。遠慮もしない。躊躇なく、このまま押し切-

 

『カズちゃんまず……い! 敵の増援!』

 

 -る直前、事態が急展開を迎えている。

 

 ここで外側が非常事態。

 

 躊躇する時間もなく、故に迷いはない。

 

 躊躇うことなく、俺は固有結界を解除する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 固有結界を解除した九成和地は、躊躇することなく後ろに下がる。

 

 同時に魔剣創造の禁手を切り替え、星を振るう騎士団を具現化し、マークツヴァイ相手に遅滞戦術を開始。

 

 眷属から通信を聞いていたサイラオーグもまた、振り返り味方のカバーに入る。

 

 そしてそこには、大量の欲望のままに暴れ回る魔獣達の姿があった。

 

 それにイッセー達が気づいた時、更に割って入るように突貫する存在がいた。

 

 それらはサイラオーグ・バアル眷属の猛攻をいなし、一直線にターゲットを見据えて狙う。

 

 敵との乱戦。だがしかし、彼らは瞬時に判断した。

 

「奴は抑えるっ!!」

 

「今すぐ行って!!」

 

 声を上げるサイラオーグとアルティーネ。

 

 それと全く動じのタイミング。それを半ば予期していた、二人が一気に突貫する。

 

「させるかぁあああああっ!」

 

「なめるなぁあああああっ!」

 

 一瞬でかけるは、兵藤一誠と九成和地。

 

 かろうじて距離を間に合い、互いが示し合わせるまでもなく庇う相手を選択。

 

 突貫する攻撃を受け、迎撃を成立させる。

 

 そしてその瞬間、守った二人と()()()()()()は、目を見開いた。

 

 そう、何故ならその姿は—

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……嘘……っ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -驚愕するまでに、望月有加利と鰐川亜香里に瓜二つ。

 

 そう、かつて戦った時の二人に、あまりにも似通っていたのだから。

 

 

 

 



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闇動神備編 第十八話 窮地、何とか潜り抜ける

 はいどうもー! 最近蕎麦ダイエットとやらを始めているグレン×グレンでっす!

 一日一食、酒食を蕎麦にするダイエットだそうです。蕎麦は食物繊維豊富で糖質の吸収が穏やかなため、三食置き換えると一週間で3kg以上痩せる人も出るとか。さすがに飽きるし別情報だと「つゆの問題で塩分とりすぎ」のようなのでそこは抑えめで。

 それはそれとして、活動報告も更新したのでよければどうぞ!!







 ……そこでも書いたけど、AIイラストはやはり難しい……っ!! 和地、意外と大変……っ!!


 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 そっくり、すぎないか?

 

 思わず面食らうぐらい、瓜二つ。

 

 というか、目の前の奴は雰囲気からして、かつて戦った時とほぼそのままな雰囲気だ。

 

 でも、後ろには亜香里もいる。有加利さんもいる。

 

 え、なんで……二人がもう二人!?

 

「ちっ!」

 

 九成が咄嗟にショットライザーを抜き打ちして、仕掛けてきた方を迎撃する。

 

 距離を開けさせたうえで障壁を張りながら、九成も戸惑っているようだった。

 

「……クローン? それとも英霊召喚を流用した? いったいどういう仕組みだ?」

 

 九成で分からないなら、俺が考えても多分無理だろうな。

 

 そこはもう、頼れる人に後で頼むしかない!

 

「九成! とにかくまずは何とかするぞ!」

 

「……確かに、後で考えるべきだな」

 

 納得が早くて助かるぜ。

 

 おかげで凄く頼れるけど、問題はそこじゃない。

 

 後ろをちらりと確認するけど、亜香里も有加利さんも顔色が真っ青だ。

 

 当然といや、当然か。

 

 ただ、今考えても仕方ない。とにかくここを乗り切らないと—

 

「なめんじゃねえぞ、ガキぃいいいいいっ!!」

 

「くっ!!」

 

 ってサイラオーグさんが押し込まれた!?

 

 あの人造惑星、結構できるな!

 

 何とか頑張らないといけないってか!

 

「……ぅああああああっ!!」

 

「いい加減にしてよ!」

 

 そう思った時、亜香里と有加利さんが大声を挙げて、戦闘態勢をとった。

 

 しまった。こんな事態になって精神が限界に入ったのか!

 

 目いっぱいになると大変だけど、これって大丈夫か!?

 

「イッセー、二人は任せるあっちは俺が!!」

 

「分かった、そっちは任せたこっちは任せろ!」

 

 九成とすぐに意識を切り替え、そして俺は飛び出した。

 

 既に我慢の限界を超えた二人は、神器を具現化して攻撃を仕掛け—

 

「すっこんでろ雑魚どもが!」

 

 ―一瞬で弾き飛ばされた。

 

 ただ、あっちはあっちで片手間に相手をした感じで、そもそも殺すまでやる気が感じられない。

 

 ならカバーできる!

 

「大丈夫ですか!!」

 

 カバーして拾うけど、相手の人造惑星はこっちに意識を向けているだけだ。

 

 そのまま直行して、魔獣状態のそっくりさんと戦ってる九成を狙っている。

 

「和ちゃ……ん!」

 

「分かってる!」

 

 アフォガードさんが声をかけるのとほぼ同時に、九成は魔獣の二人を飛び越えるようにして人造惑星の攻撃を回避。そのまま回り込むようにこっちに戻ってくる。

 

 上手い! 面倒な奴を全員まとめて押し付けやがった。

 

「九成ぃいいいいいっ!!」

 

 人造惑星は魔獣状態の二人を相手にしながら、かなりイラついている。

 

「こんな擬き神器なんぞで、俺の邪魔をするんじゃねえぞぉおおお!!」

 

 おお、善戦してる。

 

「一旦離脱だ! 別動隊と合流して立て直すぞ!!」

 

「お、おう……いいのか!?」

 

 ちょっとためらうけど、九成は他のメンバーも動かしてすぐ離脱する体制だ。

 

 ああもう! 付いて行くしかないってか!?

 

「ったく! で、どうするんだよ!?」

 

「そうだな。まだ乱戦は続いているぞ」

 

 サイラオーグさんも合流してそう言うけど、九成はどうやら既に考えているようだった。

 

「とりあえずアルティーネだ。どうせ阿武隈の奴は追いかけてくるだろうし、そのまま真徒どもも巻き込んで潰し合ってもらう!」

 

 ……えっげつねぇ。

 

 というかその判断がすぐ出るって、お前どんな経験とか訓練とか受けてきてるんだよ。

 

 割と真っ向勝負が多いから、その手の戦いにはちょっと困惑するぞ俺。

 

「だ……ね。乱戦時はとにか……く、敵対勢力同士で潰し合わせるのは手だし」

 

 緋音さんもそんなこと言ってるよ。これ絶対ザイアの教育だな。

 

 でも、アルティーネも一人で戦うには限度がある。まず合流するのは良い事だ。

 

 そう思って俺も納得して走り出すと—

 

「イッセーごめん、ちょっといっぱいいっぱい!?」

 

「うわぁああああっ!?」

 

 -なんか凄い速度でアルティーネの方が来たぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合流するつもりが合流された。

 

 いや、それは仕方がない。仕方がないけど微妙に窮地だ。

 

 ちょっと状況が混乱だったので、俺が考えたのが敵同士潰し合わせる作戦だ。

 

 この手の乱戦において避けるべきは、複数の勢力から集中的に攻撃を受けること。裏を返せば自分が一勢力を複数勢力で戦える状態にするのがある種のベスト。俺が考えたのはその応用で、敵同士を潰し合わせてこっちは安全圏に到達するというものだ。

 

 だが、その為には俺達が乱戦からちょっと離れなければならない。間違っても別勢力同士が挟み撃ちする状態になってはいけない。

 

 ……つまり、この状況はなってはいけなかったわけだ。

 

 あ、これやばいかも。

 

 そう思った時、上から何かが近づいてくる。

 

 今度は一体何だと思った時、心強い存在が姿を現した。

 

『騎兵隊参上ぅううううううううううっ!!』

 

『無事か? 無事だな!? 無事でよかった!!』

 

『なんか久しぶりな気がするぜぇええええ!!』

 

 あ、あれは!!

 

「「トライデンⅢ!!」」

 

 イッセーと共に声を上げれば、可変したトライデンⅢが盛大に暴れ始める。

 

 トライデンⅢ。神の子を見張る者(グリゴリ)が人型兵器としての人工神器をことごとく投入されたことに刺激を受け、対禍の団用に開発した、人型人工神器であるTF(トライフォース)ユニットの第一弾。

 

 ここで来るか、あいつらが!!

 

「……追いついたぞ。面倒なのが来ているようだが、お前はここで排除する」

 

 と思ったら、今度はアルグラブが真徒を連れてこっちに向かって来ているな。

 

 ええい、こうなれば短期決戦。一瞬が勝負を分ける。

 

「アルティーネ、もうひと踏ん張り頼む! 具体的にはあいつらの後ろに全員で回り込む!!」

 

「え、そうなの!? ……頑張る!」

 

 素直でありがたい!

 

「そういうことなら、こっちも出し惜しみはもうなしだ!」

 

 イッセーも気合を入れてくれているようで何よりだ。

 

 とはいえ、追いつかれるまでにそれができるかはちょっと不安だが—

 

「和地!」

 

 -それも今、吹き飛んだ。

 

 横合いから駆けつけてくれたのは、愛する我が比翼。悪敵銀神(ノーデンス)こと、銀弾カズヒ・シチャースチエ。

 

 ここでカズヒが来たのなら!

 

「こっちも出し惜しみ無しだ! カズヒ!」

 

「なるほど、分かったわ!!」

 

『『リスタートバックル!』』

 

 実戦で使うのはこれで二度目か。気合入れるぜ!

 

『『Let’s re start』』

 

 展開されるバッタと犬のライダモデル。

 

『『It’s re start』』

 

 真徒達は気づいて攻撃を仕掛けるが、ライダモデルがそれを弾き飛ばしていく。

 

『『I’m re start』』

 

 呼吸を整える。

 

 意識を切り替える。

 

『『You’r re start』』

 

 さて、変身だ。

 

「「変身!」」

 

『『Kamen rider re start!!』』

 

 ここから、一気に形成をひっくり返す。

 

 真徒達もすぐに仕掛けようとするが、しかしこのタイミングでは致命的に遅い。

 

 仮面ライダーリスタートは、マクシミリアンやシルバードーマより性能が数段上。必然として、それに対応するには相手もギアを数段上げる必要がある。

 

 故にこの一瞬で、真徒二名に深手を負わせて更に蹴り飛ばす程度のことはできた。

 

「早いが甘い」

 

 その瞬間、既にアルグラブ・スタードライブは攻撃を仕掛けている。

 

 球体をドーム状に配置して、俺とカズヒを同時に狙う。

 

 回避させず確実に当てる。そこから巻き返しをする判断だろう。

 

 だが、甘いのはそっちだ。

 

「……おい、こっち忘れんな」

 

 既にイッセーは、疑似龍神化に到達してるぞ?

 

 俺達に気をとられたその瞬間は、あまりにうかつ。

 

 振り返ろうとするより早く、イッセーの拳がアルグラブの顔面に叩き込まれる。

 

 一瞬で数十回回転しながら吹き飛びながら、アルグラブは体勢を整える。

 

 無駄にしぶとい。だが—

 

「おっしゃ一発かまぁあああっす!!」

 

 -その瞬間、アルティーネが追いついた。

 

 もの凄い轟音が出たと思ったが、アルティーネの姿を見るとその理由に気づく。

 

 あいつの背中から十本ぐらい、短砲身大口径の砲門が生えている。しかも煙を吹いている状態でだ。

 

 反動のでかい砲弾、それもすぐ爆発するタイプをあの状態で発射して加速したのか? 核パルスエンジン的なアレか?

 

 また凄いことを考えたと感心しつつ、俺達は既にショットライザーを構えている。

 

 突貫したアルティーネが蹴り上げ、アルグラブは更に吹き飛ばされる。

 

 それに俺とカズヒは照準を合わせる。

 

 反応の隙など、与えない。連携に言葉は必要ない。

 

 極晃を共に描き、連携戦闘前提のリスタートとなっている。今ここに、極晃衛奏者は卓越した連携精度を確立した。

 

『パラディンメガブラストフィーバー!!』

 

『リスターティングメガブラストフィーバー!!』

 

 リスターティングメガブラストフィーバー

                    パ

                    ラ

                    ディ

                    ン

                    メ

                    ガ

                    ブ

                    ラ

                    ス

                    ト

                    フィ

                    |

                    バ

                    |

 

 その一撃は、まごうことなくアルグラブの全身を包み込み—

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうはいかないね」

 

 その瞬間、割って入る者が出てきた。

 

 かっさらうようにして、アルグラブを回収。そのまま俺達から距離をとるように着地体制をとる。

 

 むろん逃がす気はかけらもなく、俺とカズヒはショットライザーで射撃を慣行。

 

 だが相手はそれを意に介すことなく受け止め、無傷で着地する。

 

 ったく! この状況下で新手かよ。

 

 内心で舌打ちしたくなるが、そいつは軽く肩をすくめると真徒達の方を見る。

 

「情報収集で死亡は流石に避けてほしいね。そろそろ撤退だよ」

 

「……そのようだな。礼を言おう、絶芸家(ピュグマリオン)

 

 引くのか?

 

 正直このまま逃がすのは思うところがあるが、余裕がないのも事実だろう。

 

 と、そこに更に着地する影が。

 

「なるほどね。やはりチームD×Dは、片手間で相手をしていい相手じゃない、か」

 

「おやおや。マークツヴァイは苦戦してるのかい?」

 

 戦闘をしながら来たといった感じで現れたのは、疾風殺戮.comのリクだったか。

 

 そして更に、阿武隈の知り合いと思われるなんかサイボーグじみた魔星と思われる奴が出現。

 

 互いに睨み合いの体制になりつつ、更にトライデンⅢの戦闘で、状況はシッチャカメッチャカになっていく。

 

 ……残念だが、ここは逃がすしかなさそうだな。

 

「……クソが! 次だ……次こそぶち殺してやるからな……っ!」

 

 吐き捨てると、阿武隈達は煙幕を撒いたうえで飛び退っていく。

 

 更に真徒達も集まると、リクや追加の奴を巻き込むようにして転移で離脱。

 

 ……まったく、とんだ残党狩りだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マークツヴァイ相手にあそこまで戦えるとは、流石は涙換救済」

 

『ほぉ? 意外と買っているようだな?』

 

「当然ですよハーデス様。彼はそこらの死神相手なら、人間だった頃から無双できる逸材。性格はしょっぱいですが実力は本物です」

 

『確かに、あ奴を単独で相手どれる死神は、タナトス達に類する域が必須。ハルベルトでも何人いるか分からぬな』

 

「そういうことです。性格の大小と力量の大小は別なのですよ。それに、ああいう性格の方が扱いやすいですし」

 

『なるほどな。とはいえ、どこまでできるのか』

 

「ま、彼は彼で本当に役立ちますよ? 他のメンツももれなく優秀ですから、その辺りはご安心を」

 

『……問題は、あのチームD×Dに通用するかどうかということじゃ』

 

「……それは確かに。あの手合いは、予測不可能なところが数多いですから」




 思わぬ大苦戦を何とか潜り抜けた和地たち。だが不穏は大きいということだ!





 それはそれとして、真徒たちの星辰光を乗せるとします。……アルティーネの持ち技となるアレを乗せてからにしないとって感じで伸びてすいません!




通常真徒

畏敬に能う母星の輝き、平伏せよ(アースセイバー・フルドライブ)
基準値:C
発動値:
収束性:B
拡散性:B
操縦性:AA
付属性:D
維持性:AA
干渉性:D


 それは、星とつながる共成体。世界に刻まれた異端の反動。
 生物としての完全上位種。その力、人に対して牙をむく。

 基本的な真徒が保有する星辰光。能力は星剣創生運用能力。星の力を宿した星剣を作り出し自在に操作する星辰光。
 星剣は優れた切れ味と強度を保有しており、聖剣創造や魔剣創造の下手な禁手を超える性能を維持。基準値でも二本創造し、発動値では五本同時に扱うことが可能。

 高い収束性と拡散性により、頑丈なそれらを広範囲で使役可能。さらに極まって高い操縦性と維持性により、長時間正確に運用可能。星剣は自在に操作できるため持つ必要がなく、それにより斬撃・刺突といった攻撃だけでなく、巨体による受け止めや受け流しによる防御も可能。
 総じて強大な星であり、これ単体で下手な上級悪魔を眷属事蹂躙可能。また星辰体と感応して発動する都合上、星そのものは星辰体と感応できるなら地球外でも燃費が変わらないという利点がある。

 総じて圧倒的な星であり、単独で魔星を相手どれるだけの星辰光。
 全ては地球とつながる共成体としてのみ振るわれる刃。星敵とみなされれば最後、斬撃の檻は万象を断つ

★詠唱

 創生せよ、地より溢れし星辰よ―――我らは煌く星の使徒。

 青き宝珠、命育む奇跡の星。今ここに、その輝きを代行せん。
 無尽に広がる星の海。その砂粒の一つにある、この奇跡に宿る我らが幸運。そこに感謝をささげよう。

 抜刀せよ、星の刃。その煌きは至宝の如く。その一閃は神仏魔王に傷をつけると保証しよう。
 ゆえに我らが怨敵よ、その愚行を悔いるがいい。この刃、汝を屠る得物足りえると知るがいい。

 汝、この星の敵であるか? その真偽、(つるぎ)によって審問する。

 超新星(メタルノヴァ)――畏敬に能う母星の輝き、平伏せよ(アースセイバー・フルドライブ)

 と、通常の真徒はこんな感じ。人造惑星と比べると若干見劣りがするような星ですが、割と万能に設計しております。
 そして真徒はこれ以外にもさまざまに強力な存在なので、割と勝ちでヤバめっすね。地球上ならツーマンセルでイッセーを抑え込める程度には強いです。




続けてアルグラブ

アルグラブ・スタードライブ

星の重みは神罰が如き、砕け散れ(アースメイス・スーパードライブ)
基準値:
発動値:AAA
収束性:AA
拡散性:B
操縦性:AA
付属性:D
維持性:AA
干渉性:D

 アルグラブ・スタードライブが振るう星辰光。
 ふるう能力は星槌創生運用能力。自分を丸ごと隠せるサイズの星槌を複数具現化し、自在に操って攻撃する星辰光。

 高い出力は合計十五の星槌を生み出すこととなり、さらに収束性・拡散性・操縦性・維持性の四つがもれなく非常に優秀以上であり、隙の無い自在な攻撃を可能とする。
 一撃一撃の重さは、文字通り隕石の直撃に匹敵。それを広範囲かつ自由自在にふるう権能は、攻防一体の体現者。スタードライブは素の性能が魔王クラスであり、この星は単独で眷属の群れを作るがごとき異能となる。

 シンプルイズベストを地で行く星であり、

 その猛攻はまさに圧殺。羽虫のごとく敵を叩き潰しながら、そこに高揚は一切ない。
 害虫を駆除するに快楽は不要。ただ不快感を払うがために殺すのみ。

★詠唱
 創生せよ、地より溢れし星辰よ―――我らは煌く星の使徒。

 青き宝珠、命育む奇跡の星。今ここに、その輝きを代行せん。
 無尽に広がる星の海。その砂粒の一つにある、この奇跡に宿る我らが幸運。そこに感謝をささげよう。

 故に星敵粉砕あるのみ。星の重みで押しつぶされろ。
 この一撃こそ星の代行。大地を汚すというのなら、その業に立ち向かうが義務である。

 汝、星に挑む価値はあるか? 能わるのなら、砕け散れ。

 超新星(メタルノヴァ)——星の重みは神罰が如き、砕け散れ(アースメイス・スーパードライブ)


 これがアルグラブとなります。

 本文で解説しましたが、真徒全体が「星の力をダイレクトに受け取るオールレンジ武装」で共通。そこにスタードライブとなった場合は「独自の武装に変化しステータスも変化」という傾向で決定しました。詠唱も韻というか大筋は同じといった感じになっております。

 アルグラブはシンプルに攻撃力増大化という感じになっております。

 そしてラストのアルティーネです。




アルティーネ・スタードライブ

紅星の砲火、道を違えても悔いはなく(ブーステッドカノン・オーバードライブ)
基準値:AA
発動値:AAA
収束性:B
拡散性:B
操縦性:AA
付属性:AA
維持性:AA
干渉性:D


 アルティーネ・スタードライブが振るう独自の星辰光。
 振う能力は星砲創生運用能力。星剣と同種の力を持つ星砲を作り出し自在に運用する能力。

 星砲は弾丸の種類も自由自在であり、ある程度の仕立て直しで連射性や口径を切り替えることが可能。基本的には歩兵携行が可能なレベルだが、それ単体を自在に使役できる都合上自身が持つ分ならさらに無茶のある仕様にできる。ただし使役能力がその高性能に反比例するかのように低下しており、拡散性を補佐的な運用にしか回せないのが欠点。
 さらに溜めを必要とすれば、超大型の多段加速式電磁投射砲といった無茶も可能。第三宇宙速度を超える初速を放つこともでき、その破壊力は魔王クラスに通用する。

 さらに彼女はその付属性を持つことで、疑似的に一体化することも可能。本来は使い勝手が悪くなるが、ここにきて自由な発想でそれを扱う。
 奇襲に使うのではなく、瞬間炸裂型の大反動にすることで、全身に固体ロケットを搭載するかのような加速装置として運用可能。これにより空中戦から瞬間的な攻撃力も上昇など、銃の具現化とは思えない対応力を獲得する。

 星と共生する王族として生れ落ちながら、彼女は星の肌を荒らす人類という虫と共生する。

 それはきっと、その可能性に光を見出したから。手を取ってくれた赤き龍と共に、彼女は星の海を目指す。


★詠唱
 創生せよ、地より溢れし星辰よ―――我らは煌く星の使徒。

 紅の衝撃は我が身を貫き、面白き世を伝えてくれた。
 星の歴史の僅か数刻。ただそれだけの短き者が、世界に彩りを示してくれる。

 眺めて笑うが真徒の価値なら、私はそれを投げ捨てよう。
 踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊りたいと、私はそこに飛び出した。

 無限の夢持つ赤き王道。その道はまるでパレードで、誰もが笑顔を浮かべている。
 私もそこに混ざりたいと、心の底から思うから。気品を投げ捨て無邪気に笑い、笑顔で明日を迎えよう。

 我、星の共生たることを誇らぬもの。ゆえに一つの誠を誇る者。

 我が前に立ちふさがるもの、その一切を撃ち抜かん。

 超新星(メタルノヴァ)——紅星の砲火、道を違えても悔いはなく(ブーステッドカノン・オーバードライブ)






 と、アルティーネはこんな感じ。詠唱はほぼほぼ直前レベルで即興作成しました。もうちょっと真徒共通型に似せることも考えてましたが、イッセーの影響を強く色濃く受けた形になっております。

 そのため運用スタイルもかなり変化……というか、元々変わり者なので星もオールレンジ性能が低下している感じです。そこにイッセーに影響を受けた結果、ノックバックを利用する瞬間加速能力獲得。多分ですが、クロスボーンガンダムシリーズのアンカーV4とかの影響もうけてますね。

 アグレッシブに大暴れするスタイル確定。さて、派手になりますよぉ……♪


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闇動神備編 十九話 あえて空気読まない人がいると、時として気分が切り替わる

 はいどうもー! 障碍者雇用が確定したこともあり、まぁある程度余裕も出てきたグレン×グレンでっす!

 あ、設定資料集も追加したので、よければどうぞ!!


祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渦の団の残党狩りを行った戦闘部隊が、他勢力による乱戦に巻き込まれた。

 

 当然だけど、参加しているイッセー君や九成君も巻き込まれたらしい。禍の団から真徒が五人も出てきたようだし、聞いた時はちょっと心配になってしまったよ。

 

 とはいえ、全員無事に生還だ。増援が間に合ったこともあり、殆どの勢力は撤退を選んだみたいだしね。

 

 現地で残存勢力に対する掃討作戦も行われているけれど、そこは後続の部隊に任せることになったそうだ。イッセー君達の奮戦が士気向上を果たしたことで、後は任せて引き上げることになったらしい。

 

 なので出迎えたけど、誰もが何か落ち込んでいる様子だった。

 

「イッセー、みんな。おかえりなさい」

 

「ああ。ただいま、リアス」

 

 リアス姉さんにイッセー君は微笑むけど、その表情は少し暗い。

 

 鰐川さんや望月さんの方をチラチラ見ているし、何かあったのだろうか。

 

 カズヒや九成君も渋い表情だし、かなりの大ごとになっているようだね。

 

 と、その時ジャンプする人影が。

 

「カズ君おっかえり~!」

 

「わっぶ!?」

 

 リヴァさんが空中でムーンサルトまでしながら、九成君に抱き着いた。

 

 突拍子もなさすぎて誰もがちょっと呆気に取られるけど、器用に着地したので九成君も倒れてない。

 

 そして着地の勢いを利用して横に一回転もしているほどだ。

 

「色々大変だったみたいだけど、とにかく無事生還してひっと安心! 先生もちょっと心配だったけど、ま~ず~は~!」

 

 と、九成君の頬をつまむとムニムニ動かしている。

 

「……笑顔でただいまって言ってほしいな~? 暗い顔はだーめーよ?」

 

「……そうだな。悪かった」

 

 九成君はその言葉に、肩の力を抜くとリヴァさんと微笑み合う。

 

「ただいま、リヴァねぇ。色々あって疲れた~」

 

 そして体の力を抜き、もたれかかるようにリヴァさんに抱き着いた。

 

「もう色々ありすぎだよも~。とりあえず飯食って風呂入りたいな、うん」

 

「オッケオッケー! じゃ、メイドチームはお夜食作ってー! 私はカズ君をお風呂で甘やかしまーす!」

 

「「「……しまった」」」

 

 抜け駆け状態のリヴァさんに、成田さん達が若干悔しそうになっていた。

 

 しっかり空気を緩ませ、更に気分転換を進めながらも美味しいところをゲットする。

 

 これが主神の娘か。やはり抜け目がなく、油断できない御仁だね。

 

「……そうね。こっちは死人ゼロでしのいだんだし、まずはリフレッシュしてから話すとしますか」

 

「確かになー。汗もかいたし泥だらけだし、疲れておなかも減ってるし」

 

 カズヒもイッセー君も、小さく笑ってから肩の力を抜いている。

 

 ふふ。頼りになる女神さまに好かれているよね、九成君は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ~。風呂上りにフルーツ牛乳。更に夜食にお茶漬け。

 

 疲れた体にいろんな意味で染み渡るぜー。

 

 汚れを落として腹を満たして、ちょっと心も軽くなったな。

 

 その辺りはリヴァさん様様だぜ。頼りになるなー、あの人。

 

 さて、それはそれとしてだな。

 

「……さて。そろそろ聞いてもいいかしら?」

 

 リアスも切り出したし、話を進めないとな。

 

 俺達はそれぞれがあの戦いであったことを話し、みんなも真剣に聞いてくれた。

 

 あの欲望の獣と化した亜香里や有加利さんとそっくりな存在。

 

 九成達の古馴染みらしい、人造惑星。

 

 更にカズヒが遭遇した、新手の敵。

 

 どいつもこいつもやばいな。特に新手の敵ってのがきつい。

 

 三つ巴で疾風殺戮の幹部やカズヒと競り合い、ガチで潰しに行ってもカズヒが手古摺るレベルだぜ? あくまで渦の団残党の私設ってことを考えると、新顔だとすれば更に上がいるか、同格が複数いるか。

 

 どんな事態になってるんだよ。軽く怖いんだけど?

 

「……とりあえず、データに関してはある程度集まってるようねぇ? 私にも回ってきたけど、新発見の事実があるようだわぁ」

 

 と、リーネスがタブレットでデータを確認しながらそう切り出した。

 

 流石、アザゼル先生が隔離結界領域に旅立ってから、事実上の技術顧問をやってるだけあるな。そういえば魔術回路保有者の一族の天才で、独自のプログライズキー開発や星辰体研究までしているうえ、人工神器の研究もしてた見たそうだし。技術力ありすぎだろ。

 

 ただ、表情が渋いところを見るにやばい案件っぽいなぁ。

 

「まだ確証が言える段階じゃないけれどぉ。例の欲望のままに動く生物について、判明したわぁ」

 

 その言葉に、俺達は全員が鋭くなる。

 

 二度に渡り戦った、欲望に飲み込まれて化け物になった存在。そして、それを半ば強制的にしてくる結晶体。

 

 それが渦の団の残党案件で出てきた。完璧に異世界案件だ。

 

「……どうやら、欲望を力とする技術が生まれた世界があるようねぇ。ただ、それが行き着いた結果欲望のままに動きそれにあった存在へと変貌する事態が発生。ほぼ知的生命体が全滅しているようだわぁ」

 

「……なるほどね。つまり、その存在が何らかの事故でこちらに来てしまったのが、あの事態の原因と見ていいでしょう」

 

 リーネスの説明にリアスが頷くけど、ただ少し眉間にしわを寄せてもいる。

 

「問題は、かつての亜香里と有加利のように知性を持っている個体がいることかしら」

 

「知性はあっても、欲望の手綱を握る理性がないのよぉ」

 

 リーネスはリアスの意見にそう言うと、目を伏せる。

 

「欲望のままに動くことは事実。ただ同時に、それを効率的に成すにはどうするかを考える知性を持っているかどうか。それが重要でしょうねぇ」

 

「……他にも警戒するべきことは多いけどな」

 

 と、今度は九成だ。

 

「禍の団にも新顔が出ているし、別途で出てきた敵も危険だ。……阿武隈が人造惑星になってるってのもなぁ 」

 

 と、九成は盛大にため息をついた。

 

 そうそう。新顔の人造惑星、一人は九成の知人らしいな。

 

「阿武隈さんがいましたの? あの人、強いですものね」

 

「え、マジで阿武隈? あいつ魔星になっちゃったの?」

 

 ヒマリと南空さんも反応するけど、ちょっと微妙そうだよなぁ。

 

 と、そこでお茶を持ってきたメリードが咳払いをする。

 

「……僭越ながら、私が説明いたしましょう」

 

 あ、そっか。

 

 メリードは元々、ザイアのヒューマギア。AIMSの世話をする従者型のヒューマギアだったな。

 

 なら当然知ってるか。そっちの方が分かり易いかも。

 

阿武隈川人(あぶくま かわと)。AIMSに拾われた少年の一人で、準神滅具を生まれ持った物と宿主を渡る歩く物の合計二つを保有。更に魔術回路と星辰奏者適性を併せ持つ、戦闘面におけるトップクラスの逸材でした」

 

 え、マジで?

 

 準神滅具二つって、それもう神滅具持ってるようなもんじゃん。めっちゃ強いじゃん。

 

 しかも星辰光使えるうえ、魔術回路もあるとかオールレンジじゃん。下手したら、当時の九成より上じゃん。

 

 ちょっと引くんだけど、その上でメリードは目を伏せると首を横に振った。

 

「……ですが、残念なのです」

 

 残念なのか。

 

 俺達の視線が、南空さんやイリナに集まった。

 

「「ちょっと!?」」

 

 二人同時に反論しそうだけど、メリードは完全にスルーの構えだった。

 

 いや、ごめんね? でも二人とも、なんていうか残念だから。別の方向性だとは思うけど!

 

「煽り耐性が低いうえにチンピラ気質で、かつ口が軽く守秘義務という概念を理解できていないところがありまして。当時の教導官達は満場一致で「責任ある立場や重要なポジションには付けさせられない」「現場の優れた戦力どまり」と認定していました。なので要素がかぶり気味な和地様に対して因縁をつけていたのですが、仮面ライダーに正式認定されたことで一気に増加してしまったのです」

 

「ちなみに600回ぐらい勝ったり負けたりしてますの」

 

 ヒマリからも補足説明が入るけど、また凄いな。

 

 神滅具を持ってないし禁手にも至ってないとはいえ、あの九成相手に600回も挑んで結構勝ち負けが多いのかぁ。

 

 十分できる奴だな。でも残念だからポジションは高くないと。で、高いポジションの九成に因縁をつける……確かに、残念って言っていいかもなぁ。

 

「ちなみに勝ちと負けがそれぞれ600以上ずつで、引き分けも数十回あるからな?」

 

 九成がげんなりした様子でそう言った。

 

 え、つまり千回以上突っかかられたのか。大変だな。

 

 でも勝ち負けに対した差がないってのは厄介だな。やっぱり強いってことじゃん。

 

「ちなみに星辰光は魔剣創造の亜種発現を多重発動する奴だ。魔剣を振るう騎士を一体具現化するスタンド的な感じの独立具現型」

 

「おそらく禁手も至れるだろうと言われてましたし、実際魔星になってからは至ってるようですわね」

 

「あいつ、能力()高いからね。それが魔星って、私らでもタイマンで勝てる奴多くはないわよ?」

 

 ヒマリと南空さんも九成に乗っかって高評価してる辺り、能力はあるんだろうなぁ。

 

 それが仮面ライダーにはならない。……言っちゃ悪いけど、ヒマリって意外にそういうのはきっちりできるんだなぁ。

 

 いや、阿武隈の方が致命的に悪いってことかもしれないな。俺はあんまり分かってないけど、沸点が低い印象はあったし。

 

 ただ、そいつだけでもないってのがあれだよな。

 

「カズヒは阿武隈の同僚っぽい奴とやりあったんだっけ?」

 

 九成がカズヒに尋ねるけど、カズヒは首を横に振った。

 

「残念だけど、疾風殺戮.comのリクに押し付けた形だから詳しくは。……別件の奴はある程度データも取れたのだけれどね」

 

「あ~。そっちも警戒必須だよなぁ」

 

 結構厄介らしいしなぁ。

 

 最上級悪魔クラスを単独で返り討ちにできるレベルのようだし、油断はできないレベルだろう。

 

 と、カズヒはメモリースティックを取り出した。

 

「ちなみに記録映像は取ってあるわ」

 

 あ、そうなのか。

 

「一応ダーティジョブ専門部隊だったわけで。音声とか映像とか、重要なデータの記録ぐらいは取っておいた方がいい時もあるもの。未知すぎるので念の為……ね」

 

 そう言いながらカズヒはコンピュータにメモリースティックを差し込み、映像を映す。

 

 ……ん~。なんていうか、SFのボディスーツ的な感じだなー

 

「……え……っ」

 

 ……あれ?

 

 急に立ち上がる人がいて、俺はそっちに視線を向ける。

 

 アフォガードさんが、目を見開いて顔も真っ青になっていた。

 

「う……そ……っ」

 

「緋音さん!?」

 

 ふらついたアフォガードさんを九成が素早く支えるけど、アフォガードさんはそれに気づいていない。

 

 よ、よっぽど衝撃を受けてるけど……まさか!?

 

「知り合いなの、緋音さん?」

 

 様子を確認しながら、南空さんもそれに思い至ったらしい。

 

 ただ、アフォガードさんは首を横に振りながら、それでも顔色を悪くしたままだ。

 

 えっと、知り合いじゃないなら、一体?

 

「知ってるのは、格……好」

 

 か、格好?

 

「……あの格好、知ってる……知って……るの……っ」

 

 お、思わぬところから思わぬ展開が!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドクター。クラッシュタイガーが倒されたようです」

 

「ふむ。奴は中々性能も完成度も高かったのだがね。誰に倒されたのだ?」

 

「星辰奏者の仮面ライダーのようです。やはりこの世界、表に出ていない特殊組織に戦力が偏っているとみるべきかと」

 

「なるほどな。効率が悪い気もするが、まぁ平均的な文明レベルではそうなる可能性もあるか」

 

「で、どうします? そろそろ突くつもりと伺っておりますが」

 

「そうだな。では、例の放火魔達とコンタクトをとれ」

 

「かしこまりました。で、人員は誰に」

 

「ラピッドとヴェノムが適任だろう。奴らはそういった交渉向きだ」

 

「餌で飼いならすのが得意ですからね。では、連絡しておきます」

 

「さて、第一歩からして、思った以上に波乱万丈になりそうだ……」

 

 

 

 

 

 

 

「……嬉しい誤算だ。これなら、更なるインスピレーションが湧いて出てくるだろうさ」




 阿武隈、残念な男。

 つまるところ阿武隈は「仮面ライダーというフラッグシップ」にはあらゆる要素が向いていないと判断されたというわけです。実力は本当にあるのですが、そこで足を引っ張る人間性の残念さよ……。





 そして少しずつですが、異世界情報を明かしてくスタイル。少しずつ戦闘とかも本格的にさせたいところですね!


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闇動神備編 第二十話 シエラのSはシャムハト(聖娼)のS!の

 はいどうもー! 障碍者雇用枠の提出書類も届き、秒読み段階となっているグレン×グレンでっす!

 少し執筆速度も増してきており、これからも今ぐらいの調子で投稿を続けたいと思ってまっす!


Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アジュカ、この内容は本当かい?」

 

「ええ、シヴァ様。少なくとも映像は本物です」

 

「かつて君は、僕が異世界に破壊をもたらしたいと考えて牽制を入れた。だけど異世界の方からこの世界にちょっかいをかけてくるとはね」

 

「どうですか? 直々に出て彼らを破壊することで無聊の慰めとなされては?」

 

「それもいいけれど、今の段階だと情報が少なすぎるからね。僕が動くと余計な揉め事になりそうだ」

 

「まぁ、俺が大きく動いても騒がしくなるでしょうからね。今は配下を動かして対応している最中です」

 

「仕方ない。ヴィーザルやアポロンには僕から伝えておこう。ガブリエルやシェムハザには頼むよ?」

 

「それは既にしております。帝釈天にはD×Dを経由して伝わるようにしております」

 

「こういう時、曹操が準メンバーとして出向しているのは便利だね。……と、それで思い出した」

 

「どうしましたか?」

 

「元英雄派だった、後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)ってのがいるじゃないか? フロンズ達、大王派の……革新衆とか呼ばれている奴らの子飼いになった」

 

「どうやら、相当前から根回しが済んでいたようですね。かなり気が合っているのか、連携が取れています」

 

「能力的にもかみ合ってるよね。革新衆は全体の面を強化しているし、そこに点と質がずば抜けている私掠船団だ」

 

「……少しは牽制球を入れたいのですが、そうもいかないのが実情です」

 

「そうかい? 確か例の後継覇王(アレキサンダー)、負けたって聞いたけど?」

 

「一敗したのは事実ですが、その相手が寄りにもよってバベル・ベリアルですから」

 

「なるほど。フロンズ達大王派が強制出撃させた皇帝(エンペラー)か。元々ベリアル家は大王派寄りだったし、あまり心理的なダメージにはならないと」

 

「とはいえ、あまり油断していい相手ではないですからね。フロンズは足並みを揃えているので改革もスムーズですが、腹に何かを抱えている気がしまして」

 

「確かにね。例のGF(ギガンティック・フォートレス)も、僕ですら楽しめそうな代物だ。玩具とは流石に言い難いかな?」

 

「それをどうやってあそこまで大量に、それこそアザゼル杯で使い捨てることを踏まえて用意できたのかが謎ですね。懸念事項は色々ありますが、上手くかわされているのが実情です」

 

「フィーニクス家か。悪魔の出生率向上に大いに貢献した、分家筋としては最高峰の家柄だと聞いているよ」

 

「大王派に限定すれば、フェニックス本家を超える発言力を持ってますからね。彼が手綱をとっているからこそ、魔王派の改革を進められるので仕掛けづらいのが実情です」

 

「……そういう意味だと、今回の試合は楽しみだね」

 

「まぁ、見方によっては代理戦争になりそうですがね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないな、リーネス。そっちも用事があるだろうに」

 

「いえいえぇ、バラキエル様。事情を説明しないといけませんものぉ」

 

「……緋音・アフォガードからの情報提供か。……真実なのか?」

 

「少なくとも、嘘は言ってませんわぁ。当人も冷静に話せる自信がなかったのか、イッセーの乳語翻訳までかけてましたしねぇ」

 

「なら、少なくとも彼女の記憶通りということか。そして、例の謎の武装勢力に助けられた、と?」

 

「そのようですねぇ。彼女はその時、異形について何も知らなかったのでぇ、異能保有者が異形から守ってくれたと思っていたようです」

 

「……相当前から、未知の脅威は我らの世界に巣食っていた。そう考えるべきだろう。渦の団が異世界技術を手にしたのも、かなり昔で時期はあっているしな」

 

「となると、昨今の改造技術と思われる事態はぁ―」

 

「―本腰を入れ始めた。そう考えるべきかもしれんな」

 

「……面倒ごとは多いですね」

 

「そうだな。だが、今のお前たちにはもっと明るい話題に集中したいだろう? データの共有が済んだら、転移の準備をしているからすぐに向かうといい」

 

「ありがとうございますぅ。あ、朱乃先輩にお土産でも持っていきましょうかぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに、この時が来ちまったな。

 

 俺は人の試合だってのに、緊張感に包まれ気味だ。

 

 だってそうだろ?

 

 なんたってー

 

「……和地と幸香が試合とはねぇ……」

 

 -あのカズヒがげんなりする展開だからだ!!

 

「まぁまぁ。競技試合だし、そこまで気にしなくても?」

 

「そうですわよ? どっちも応援するぐらいで行きますの!」

 

 と、南空さんとヒマリが励ましてくれているけど、まぁ頭が痛くなりそうだよなぁ。

 

 血の繋がらない年上の実の娘とかいう、情報量が多い奴だし、幸香って。

 

 ……う~ん。ミザリが打倒されてなお、このカズヒが頭を抱える業の深い関係よ。真剣に同情するぜ。

 

「ま、あんまり気にしてもあれだろ? 他のことでも考えたらどうだ?」

 

 俺もちょっと励ますけど、これでいいかな?

 

 考えてもどうしようもないところがあるし、だったらそういう方向で切り替えるってのはありだと思うんだけど。

 

 ただ、カズヒは俺の言葉にちょっとハッとなったらしい。

 

「そういえばそうね。ええ、忘れてたこともあったし」

 

 お、それはよかった。

 

 そう思ってたら、カズヒは俺の方を向いてきた。

 

「イッセー。プルガトリオ機関には色仕掛け専門部隊のシエラ部隊ってのがあるの。まぁ男もいるけど」

 

 ……何言ってんの?

 

「来歴的にガチ鬼畜ゲーみたいな経験した人が多くて、お互いがお互いのフォローをする結果、夜伽の技術がフルスロットルで磨かれているわ。それこそ同性愛者や両性愛者もターゲットにした、1on1から大乱●まで、あらゆるシチュエーションを日々磨きあって訓練しているの」

 

 …………いきなり何言ってんの?

 

 大欲情教団とS〇Xバトルでもする気かよ。この世界はエロゲーじゃないはずだぞ?

 

「その過程で、うっかり経験して道を踏み外しそうな童貞や処女の性教育をしたり、結婚している聖職者相手の技術講習会とかもやっているわね。潔癖な貞淑主義には嫌われ気味だけど、コアな応援者もいるわ」

 

 ……………………だからいきなり何言ってんの?

 

 ま、教会って教え的に貞操観念も強そうだし、嫌ってる人はいてもおかしくないな。

 

 ……天界が俺がエッチなことを天使とできるドアノブを用意したとか知って、心を病んでないだろうか?

 

「貴方真剣に講習を受けてみない? 邪魔者は私が鎮圧するわよ?」

 

 …………………………………………………だから、何-

 

 その瞬間、俺は思考回路が音速を超えた。

 

「マジですガッガガガガガガガガガガッ!?」

 

 ぐあぁああ引き付けがぁあああああああっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分間、壮絶な死闘*1がコロシアム前で起き、試合開始が三十分は遅れる事態が起きたことをここに表記する。

 

 ちなみに起こした者達はグリゼルダ・クァルタの正座説教を受け、武士の情けで本番*2は試合後に行われる運びになった。

 

 だが、それは試合前の興奮を更に高めることに繋がっていく。

 

 三大勢力の英雄。極晃衛奏者(スフィアディフェンダー)、九成和地。

 

 後継私掠船団の長。後継覇王(アレキサンダー)、九条・幸香・ディアドコイ。

 

 魔王派側についている世界の英雄と、大王派に仕える*3英雄派の雄。

 

 その戦いが注目されるのは当然であり、立見席まで埋まるほど。

 

 その興奮が更に高まる時間が与えられ、そして爆発寸前になる。

 

 代理戦争とみなしている者もいる。ただ単に英傑同士の戦いを待ちわびる者もいる。

 

 そしてもちろん、情報収集として見る者もいる。

 

「……さて、曹操ですら厄介だったけれど、今度の連中はどうなのかしらね」

 

 壱崎虎美は俯瞰する視点で、試合を観戦する。

 

「曹操を見限った女に、曹操すら警戒する男。その激突となれば、見応えも情報もあるでしょうけど」

 

 そして彼女は刮目する。

 

 チームD×Dと後継私掠船団。

 

 世界の命運を狙うに辺り、決して無視できぬ組織。

 

 その筆頭格同士が激突し―

 

 

 

 

 

 

 

 ―失笑が飛び交うことになる戦いを。

 

 

 

 

 

*1
キレたリアスたちを迎撃するカズヒの形

*2
最低でも二時間の予定

*3
風に見せている




 ……これを投稿する段階でふと思ったけど、自分の作風的にシエラ部隊は今後もメインで作ったほうがいいのではないか? グレン×グレンは訝しんだ。


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闇動神備編 第二十一話 死闘()、幕開ける

 はいどうもー! 新しい職場で新生活始めました、グレン×グレンでっす!

 結構疲れましたが、まぁここから。新生活を進めていこうと思っております!!


 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何やってんだ、カズヒ達」

 

 俺は試合が遅れる連絡を受け、内容を察してため息をつきたくなった。

 

 カズヒがこんなタイミングで乱闘とは珍しい。変な暴走をしてリアス先輩辺りがキレたとかそんな感じか?*1

 

「……どうすんだよ。幸先悪くねえか?」

 

 ベルナが結構ゲンナリ気味でそういうけど、まぁ気持ちは分かる。

 

 相手が幸香達のチームなんだが、そのメンツが問題だ。

 

 ちなみにこんな感じだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王:九条・幸香・ディアドコイ

女王:九条・梔子・張良

戦車:一橋・幸弥・ディアドコイ

戦車:リーン・ヴァプラ

騎士:ナシュア・バアル

騎士:アーネ・シャムハト・ガルアルエル

僧侶:シュメイ・バアル

僧侶:道間・禅譲・信姫

兵士:氷塊星辰眷属(エンキドゥ)8名

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たまにメンバーが変わることもあるが、今回は基本的主体になっているな。それなりに堅実に挑むつもりだろうか。

 

「……どう思います?」

 

「そうだな。和地様相手に奇策を仕掛けて崩し損ねるより、真っ向勝負で地力による凌駕を狙う方が堅実と踏まえたのだろう。事実、リザーブメンバーは絡め手に長けている者が多いからな」

 

 三美さんと黒狼が冷静に考えているようだが、なるほど確かに。

 

 幸香達は基本メンバーで敵の圧倒を試みつつ、絡め手が必要と判断すればリザーブメンバーを投入するのが基本的な手段だ。

 

 ……それがないということは、どうやら真っ向勝負がお望みなのだろう。

 

 まぁ、自力ではこちらが下回っているのなら尚更だ。格上が格下に合わせるのは、基本的にハンデにしかならないからな。

 

 そして問題は、俺達が素直に乗るわけがないということを相手だって理解しているはずだ。

 

 こっちが絡め手を仕掛けてきても圧倒する。そういう手段を持っている可能性があるだろう。

 

「黒狼。相手チームで俺達相手に、誰がどう出るか判断できるか?」

 

「そうですね。彼女達「進軍制覇の覇王」チームは、大きく分けてパターンが二つに分けられています」

 

 そう、黒狼の言うとおりだ。

 

 九条・幸香・ディアドコイが率いる「進軍制覇の覇王」チーム。このチームは全体的にチームメンバーの傾向が二分されている。

 

 一つ。九条・幸香・ディアドコイが率いる後継私掠船団のメンバー。

 

 一つ。フロンズ達が指名した、大王派の上級悪魔達。

 

 これは、まず間違いなく各勢力に対する配慮だろう。

 

 後継私掠船団は、元々禍の団の構成組織である、英雄派の特殊チームだ。英雄派に見切りをつけフロンズ・フィーニクスに下った*2風に見えているわけだが、それにしたって元テロリストではある。

 

 その辺りを配慮して、お目付け役を配置する。そういう手法をとったということだろう。まぁ、実体はそうでもない可能性が高いがな。

 

 それはともかくとしてだ。

 

 お目付け奴ということになる以上、相応の人材を用意する必要がある。つまりはそういうことだ。

 

 ハッシュ・バアルの弟達である、ナシュア・バアルとシュメイ・バアル。こいつらは最上級悪魔に昇格しており、間違いなく実力者だ。

 

 更にリーン・ヴァプラ。こいつは()レーティングゲームの上位に位置する()最上級悪魔。

 

 王の駒こそしていないが、実家の意向もあって不正に関与していたそうだ。もっともそこで暴れることなく、暴走した不正プレイヤーの鎮圧に回っていたわけだが。

 

 おそらくだが、奴は幸香達における参謀役だ。レーティングゲームの経験値が高いことを理由に、その辺りが浅い幸香のフォローを担当しているんだろう。

 

 三人揃って、警戒に値する相手だ。特にリーン・ヴァプラが隙を埋めている以上、なるべく真っ先に潰したい相手でもある。

 

 そして、後継私掠船団は当然脅威だ。

 

 誰もがカズヒのように光を極めた精神性を持つ。ゆえに追い詰めればそれを理由に覚醒し、限界を超えて文字通り強くなる。筆頭戦力ともなれば、最上級悪魔クラスは最低でも到達しているとみるべきだろう。

 

 九条・梔子・張良

 

 アーネ・シャムハト・ガルアルエル

 

 二人の筆頭戦力は、それぞれがかなり強い。こちらとしても三美さんや黒狼をぶつけるべき相手だろうが、光を極めた連中に慣れているインガ姉ちゃんの方がいいかもしれない。ベルナはアーネにぶつけるべきか迷うが、俺が出るべきだろうか。

 

 九条・幸香・ディアドコイが一番やばいのは言うまでもない。あの圧倒的な面制圧力とカズヒに匹敵するレベルの極まった光は、レーティングゲームのシステムを生かして絡めとりたいところだ。

 

 そして比較的警戒が薄くなる、要注意担当は二人。

 

 道間・禅譲・信姫と、一橋・幸弥・ディアドコイの二人だ。

 

 こいつらに関しては情報が薄い。しかし兵士以外の駒を担当している以上、相応の価値は間違いなくあるだろう。実際、活躍しているしな。

 

 一橋・幸弥・ディアドコイは真っ向勝負で相手チームのエース格を乗り越えているし、道間・禅譲・信姫は、多種多様な力を振るって相手の戦力を屠っている。

 

「ったく。何がやばいって、あいつら自己研鑽を欠かさないから何してくるか分からないしなぁ……」

 

 さて、あいつらはあいつらで何を考えているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……母上とリアス・グレモリー達が一戦交えた?」

 

 報告を受けた幸香が困惑するのも無理はない。

 

 自分の試合の直前に、試合会場の前で、チームD×Dが内輪もめをする。

 

 字面だけ聞いたら九割意味不明だ。流石の光を極めた者であろうと、困惑しないわけがない。

 

 だが、幸香はあえてそれを気にしないことにした。

 

 意味不明すぎるが、だからこそフロンズも動くだろう。自分が考えるのは試合が終わってからで十分だ。

 

 そう判断したうえで、幸香はブリーフィングに意識を切り替える。

 

「……まぁそれは置いておくが、おぬしらはこの試合に対する気合は十分か?」

 

 九成和地は間違いなく強者だ。その彼が率いるチームもまた、難敵と言っていい。

 

 個人としてはこれまでで一番の強敵。チーム全体でも難敵に値する。ゆえに、当然だが、気合を入れる。

 

 勝利を欲し、敗北を忌む。負けたからこそ価値があったなどという考えそのものを嫌い、負けて得られる経験など、勝ち続ける気概で補える。すべて勝ち取り、肥え太り、輝く明日を駆けるが為に。

 

 その後継私掠船団をベースとするこのチームに、負けていいという考えは必要ない。

 

 それに対し、片手をあげる者がいた。

 

「むろん、負けなければならない理由はないから勝ちに行くのに異存はない。……だからこそ、やはり確認をしたい」

 

 そう語るのは、このチームにおける参謀役としてフロンズが派遣した男。リーン・ヴァプラ。

 

 不正に関与しつつも、フロンズのアドバイスによって潜り抜けた元最上級悪魔。レーティングゲームでレートも高く、いくつかの大会でもトップに立ったことがある凄腕だ。

 

 その彼が指摘する内容は、少なくとも一考の価値がある。

 

 故に、誰もがその続きを無言で促した。

 

「……既に話は終わっているが、あのチーム最大の隙は「作戦の基点にキャスリングを据えている」点だ。理由も語ったが、ルール上一回しか使えないキャスリングが起点である以上、それさえ乗り越えれば難易度は間違いなく下がるからな」

 

 その経験が、つけ入る隙を見出している。

 

 涙換の救済者チームは、キャスリングを攻撃的に運用するのが特色だ。

 

 これにより一気に形成をひっくり返した試合も一度や二度ではない。かの神の子に続くもの(ディア・ドロローサ)すら出し抜いた手腕も見事。

 

 九成和地という最大火力と最硬防御を併せ持つ、あのチームだからこその持ち味ではある。だが同時に、参謀である竹山黒狼がそれを最大限活かしたたプランを立てているのも効果的だろう。

 

 だがしかし、長所は時として短所と表裏一体になる。

 

 キャスリングという特殊ルールは、一試合につき一つという回数制限がある。必然として、救済者チームは特徴的かつ効果的な手札を一回しか使用できない。

 

 一回きりの手札を如何に使うか。そこに縛られるがゆえに、それを踏まえれば絡めとる手段はいくつもある。むろん対策もないではないが、策による戦いを得意とするチームならば、無駄うちは無理でも効率を低下させることはできる。

 

 そしてしのげば、後は普通に強いものが何人かいる程度のチームだ。戦力の低下さえ下げることができれば、こちらならゴリ押しでも十分勝ち目がある。

 

 そのうえで、リーンは懸念の視線をある人物に向ける。

 

「態々マークを付ける必要はやはり薄いだろう。それに、彼でいいのか?」

 

 その視線の意味は疑念。

 

 だが、向けられた少年はそれに対して不満を見せはしない。

 

「ま、言いたくなる気持ちは認めるさ。俺はこのチームメンバーだと弱い方だしな」

 

 同意すら示したうえで、だが少年は立ち上がると拳を握り締める。

 

「だが、俺はあいつと向き合わなけりゃならねえ……そう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後継覇王(アレキサンダー)と添い遂げる、帝国船長(キャプテン・マケドニア)にも意地ってもんがあるんでな! この機会に奴と戦えないなんて、流石に我慢ができないぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一橋・幸雄・ディアドコイ。

 

 あえて幸香と同じミドルネームをつけた男は、胸を張って宣言する。

 

 それに対して、呆れもあるし関心もある。

 

 それぞれがそれぞれの感想を態度で示す中、幸香は小さく微笑みながら幸雄を見る。

 

「ならば示して見せるがよい。(わらわ)を射止めんというのなら、それぐらいはやってのけよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 説教を受けている、リアス姉さん達は間に合うだろうか?

 

 壮絶な死闘が試合前に起きた結果、今リアス姉さん達は運営スタッフにマジギレされている。

 

 まぁ当然だね。これに関してはその、いつものノリで動いたリアス姉さん達が悪い。

 

 まぁ、一番悪いのは空気を読んでなかったカズヒだけど。多分、九成君と九条・幸香・ディアドコイの激突で冷静さが欠けていたんだろう。

 

 イッセー君に関してはほぼ被害者だね。久しぶりに引き付けが酷いらしく、医務室に送られているようだし。

 

 九成君も知ったら落ち込むだろう。理由が前回とは異なっておバカな感じがするのが猶更ね。

 

「ふふふ。彼はみんなに好かれてるのね?」

 

「そうなんだ、ヴァレリー。……でも、怖かったなぁ……」

 

 ヴァレリーさんに頷いていたギャスパー君も、あの熾烈な戦いに寒気を感じて振るえていた。

 

 うん、あれはとても怖かった。

 

「カズヒがごめんなさい。最近少し考えこみ気味だったけれど、あんなところで言うなんて」

 

「あ~。まぁ言うタイミングを逃していたみたいなだけで、多分どっちにしても言う気満々だったわよ、アレ」

 

「どうせ実行したら凄いことになると分かり切っていたからぁ、感覚がマヒしてたのかもねぇ」

 

 オトメさんが謝る横で、南空さんとリーネスが少し呆れ顔になっている。

 

 まぁ確かに、イッセー君の貞操関係問題は地雷原だしね。どうせどこで言っても爆発すると分かり切っていたから、爆発そのものを防ぐ配慮が欠けていたんだろう。

 

 そしてそこに疲れがあって、うかつなことをしてしまったんだろうね。

 

「……にしても、和地の坊主と日美っちの娘が激突か。俺は直接会っちゃいなかったが、アーネとかユーピとかみたいなのばっかりなんだよな?」

 

 勇儀さんが懸念点を語るように言うけれど、実際そこはそうだからね。

 

 僕は頷いたうえで、試合を盛り上げる為の今までの両チームのダイジェスト映像に視線を向ける。

 

 後継覇王、九条・幸香・ディアドコイ。

 

 カズヒの娘名だけあって、凄まじい光の極め具合だ。グレイフィアさん達ルシファー眷属が総力を挙げても倒しきれなかった超獣鬼(ジャバウォック)を、片目を失いながらも圧殺したのだから。

 

 間違いなく、彼女は最強クラスの人間だ。単独では魔王クラスでも危ない、それだけの戦闘能力を誇る。フロンズ・フィーニクスの懐刀といえるだろう。

 

 間違いなく、現大王派にとって最強戦力の一角。フロンズ・フィーニクスが政において大王派で二番手の立ち位置についているのなら、彼の派遣を守る武の筆頭が彼女と言ってもいい。

 

 ボトムアップを中心とした軍備強化を進めているフロンズだが、彼女たちがいることで個の戦力でも有数となっている。事実後継私掠船団主体のあのチームは神クラスがいるチームや複数の最上級悪魔が集まったチームすら打倒している。

 

 間違いなく優勝候補の一角とされており、数少ない現状無敗のチームだ。

 

 優勝候補筆頭とされる帝釈天といった指折りの存在が率いるチームが、思わぬ敗北を喫していることも多いからね。現状無敗という点ではグレイフィアさんの率いるチームもだけど、こちらも大王派の息がある程度はかかっている。

 

 平均的なチームの勝率という点ではD×D関連チームが上だけれど、個の勝率なら大王派革新衆も負けてはいない。それほどまでに、後継私掠船団とサウス計画は凄まじい実力を持つ者達を呼び寄せたのだろう。

 

 そんなチームに、同じく現状無敗のチームD×D側の九成君が挑むわけだ。

 

 一部の権力者は、これを魔王派と大王派の代理戦争と位置付けている。

 

 だから注目はかなり集まっている。実際、双方ともに強者だから尚更だろう。

 

 ……ただ、僕は心のどこかで不安を覚えている。

 

 なんだろうか、この胸騒ぎは。

 

 

 

 

 

 

 

 例えるなら、イッセー君がおっぱいで何かするような、そんなことが起きる予感がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして試合が開始され、僕はその胸騒ぎが()()()()()的中したことを思い知ることになる。

 

*1
経験に基づく大正解

*2
事実上は盟友に近しい




 さぁ、次回から壮絶バトルがはじまるぜぇえええええ!!


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闇動神備編 第二十二話 死闘(当事者にとっては)、勃発!

 はいどうもー! とりあえず新職場の一週間目は乗り切ったグレン×グレンでっす!

 ……朝がきついので少し体力をつけたほうがいいかもしれぬ。久しぶりの近くのスポーツセンターにでも行ってみるか……?


Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合会場に集まる両チーム。

 

 そんな彼らが互いに見据える中、試合のルールが発表される。

 

『今回のルールはワンデイ・ロングウォーとなります!』

 

 ワンデイ・ロングウォー。それは文字通り、一日を制限時間とする長期戦のレーティングゲーム。

 

 制限時間に比例してフィールドも広大であり、戦術的な立ち回りが求められることも多いルールといえる。

 

 そしてチームが互いに転移した、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『開幕速攻ぉおおおおおおおおっ!!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を埋め尽くす爆薬の群れと、それを断ち切る魔力斬撃が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギリギリで解放されたと思ったら、試合開始から凄いのが出たなおい!!

 

「あいつら馬鹿なの!? 何考えてんの!?」

 

 思わず俺は面食らうけど、隣のリアスはなんか納得顔だったりしてる。

 

 え、あれおかしくないの? おかしなことになってない?

 

 一日かける長期戦だよ!? 開幕速攻からなんで大技を連打してるの!?

 

 と思ったけど、何故か隣のリアスは感心してる感じで頷いている。

 

「……確かに、人員数で劣り、更に長期戦での爆発力にかける和地にとって、このルールは意外に不利だわ。ならば「長期戦」というルールの裏を突いた開幕速攻は理に適っているわね」

 

 そうなのか。

 

 ただ、リアスもだけど隣のカズヒも苦い顔をしている。

 

「とはいえ、幸香もそこは読んでいたようね。開幕速攻で大火力を放出することで散らしているわ」

 

 あ、確かに。

 

 あの大量の面制圧を薙ぎ払う方向に回ってる所為で、九成は幸香達の殲滅が出来ないでいる。

 

 最初の一撃も当たらなかったみたいだし、これはきっついか?

 

『凄まじい光景です! あれは終末戦争(ハルマゲドン)か何かでしょうか!? フィールド上空が破壊の嵐に包まれております!!』

 

 実況の人も、まるで戦争とか大災害の様子を報告するかって感じになってるし。試合の言い方じゃないよ。

 

 ただ、九成がこのままだとジリ貧になるな。

 

 そもそも面と線の勝負だと、面が包み込めるからな。禁手まで併用した魔力量によるごり押しでしのいでるけど、禁手の持続時間がかなりやばいし。

 

 それに、幸香の火力って星辰光だけじゃないわけで―

 

『捕えたぞ、涙換救済(タイタス・クロウ)!!』

 

 ―って、もう出すのかよ!?

 

 何時の間にか飛び上がっていた幸香が、天に手を突き上げ。

 

 それに呼応するように、魔力が浮かび上がって集まっていく。

 

 そして突き出す手に従い、魔力の奔流が押し寄せる。

 

『正面対決と行こうか———我、焦がれ目指される夢也(アレクサンドロス・ドリーマー)

 

 出たよ超大技!!

 

 サーヴァントのアレクサンドロス大王が保有する、対城宝具。

 

 普通に俺でもロンギヌス・スマッシャーとかで迎撃しないとやばいレベルの火力なんだけど!?

 

 ……あれ?

 

 九成の奴、反撃する気配が見えないけど?

 

 ……え、ガス欠?

 

「九成ぃいいいいいいいっ!?」

 

「……今夜は添い寝でもするべきかしら?」

 

 俺は絶叫するし、カズヒも天を仰ぐし、これ勝敗決定してないか?

 

 試合が始まってから30分も経ってないよ!? え、これで終わり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『パラディンシルバーブラスト!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―その瞬間、幸香の真下から九成の必殺技がぶっ放された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『え?』』』』』』』』』』

 

 みんな一斉に呆気に取られたけど、何事!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よっし! ここまでは想定通り!

 

 今回の試合において、俺達は速攻でキャスリングを使うことを決定。

 

 その方向性は「囮である俺で奇襲を行う」という、これまた頭がどうかしているようなプランだ。

 

 なにせ幸香達を相手にする場合、長期戦ではジリ貧になる可能性がある。しかし幸香達からしても、俺達がそう考えることは想定ないだろうから短期決戦で潰すことも考えられる。

 

 ゆえに―

 

 1:俺が誓約成す勝利の銀剣(カリブリヌス・シルバーレット)で奇襲を仕掛ける。

 

 2:それに呼応して幸香が反撃している間に、それを目くらましにしてチームメンバーを分散させる。

 

 3:幸香に奇襲を仕掛けられそうな位置に三美さんを配置。

 

 4:押し切られたと思わせつつ、キャスリングで転移して奇襲を仕掛ける。

 

 ―というプランが建てられた。

 

 ちなみに三美さんは、ぎりぎりで回避が間に合ったらしい。大剣乱舞(バスター・ダンシング)を推進機器代わりにして、ぎりぎりでしのいだらしい。

 

 とはいえ、これで深手を負わせられればそれは好都合だが、そう甘くはないだろう。

 

「まだだぁっ!」

 

 強引に斬撃で威力を殺し、反撃を叩き込んでくる。

 

 俺はガス欠防止で禁手を解除。サルヴェイティングアサルトドッグに切り替え、疾走車輪(ソニック・チャリオット)で離脱を試みる。

 

 いや、これまずいな。

 

 どちらかというと誘い込まれている。

 

 俺がそこに気づいた時、正面から突貫してくる奴がいた。

 

 全身に氷の鎧を纏い、氷のランスチャージを仕掛けてきたのは、一橋・幸弥・ディアドコイだったな。

 

 俺はジャンプしてそれを交わしつつ、反撃に炎の魔剣を叩き込む。

 

「まだだ!」

 

 それを覚醒した攻撃で強引にしのぎ、一橋は俺と向き合う。

 

 ……周囲から敵がいる気配はない。どうやら、一騎打ちがお望みらしい。

 

 数でも相手が勝っている。ならば、囲んで叩くというある種の王道はやりようがある。そしてやるなら(キング)である俺に使うのが最適のはずだ。

 

 態々俺と一騎打ちにさせる。メリットではなくロマンが理由だろうか―

 

「初めましてだな、お義父さん!」

 

 ―と思ったら、なんか頓珍漢なこと言ってきたぞ?

 

「……誰がお父さんだ?」

 

「あんたに決まってるだろう?」

 

 え、真顔で返されたぞ。

 

 一橋の奴は、胸を張って自分に親指を向ける。

 

「俺は、後継覇王(アレキサンダー)、九条・幸香・ディアドコイと()()()必ず添い遂げる男! 帝国船長(キャプテン・マケドニア)、一橋・幸弥・ディアドコイ!!」

 

 そして今度は俺に指を突き付ける。

 

「あんたは、悪敵銀神(ノーデンス)、カズヒ・シチャースチエと愛し合う比翼の極晃衛奏者(スフィアディフェンダー)! 旧済銀神(エルダーゴッド)、九成和地!」

 

「ああその通り。で?」

 

 当たり前のことを言われてもなぁ。

 

 それでどういう意味なんだか。

 

「……つまり! あんたは幸香のお義父さんだ! まず親御さんに挨拶するのは仁義ってもんだろうが!!」

 

 ……。

 

 あ、なるほど。

 

まったくもって()()()()だった! すまん義息子(むすこ)!」

 

 ()()()()

 

 そうだよ、俺つまり幸香の義理の父親じゃん! まだ籍は入れてないけど、九割以上パピーじゃん!?

 

 そんな幸香に惚れてるならそりゃそうだ。確かに両親に挨拶回りをするのは当然の礼儀だ。

 

 わきまえてるな、帝国船長! これは俺が甘かった!

 

「……いいだろう。つまりアレだな? 義娘(むすめ)に相応しいか武力だけでも見せつけたいと」

 

「当然だろう、義親父(おやじ)殿。それぐらいはしないと駄目ってもんじゃねえか、おい」

 

 互いに不敵な笑みが自然と出てくる。

 

 ふっ。幸香もそれを分かっていたからこそ、あえて俺を陽動したのか。

 

 これはいい一手だ。こんな勝負を申し込まれたら、俺も断るわけには一切いかないわけだしな。

 

 すまん、黒狼。ごめんな、皆。

 

 俺は、この戦いから逃げるわけにはいかない。

 

 呼吸を整え、構えをとる。

 

 互いに視線をぶつけ合い、俺達は一気に踏み込んだ。

 

「いくぜ義親父(おやじ)ぃいいいいいっ!!」

 

「こいや義息子(むすこ)ぉおおおおおっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『『………』』』』』』』』』』』

 

 俺達はみんなで沈黙して、ちらりとカズヒの方を向いた。

 

「………っ」

 

 何とも言えない表情で、カズヒは天を仰いでいた。

 

 う、うわぁ。

 

 なんか知らないけど、年齢差がほぼない親子対決が始まってる。

 

 これ、カズヒ的に大丈夫なんだろうか?

 

 ちょっとフォローしてあげたいと思っていると、誰かが崩れ落ちる音が響く。

 

「……ま、孫……孫が、できちゃってた……」

 

 オトメさんもやられた!?

 

 あ、そうだよね!? オトメさんの視点からすると、そういえば幸香は義理の孫だよね!?

 

 だって九成とカズヒってラブラブだもん! 義理の孫になるよね!?

 

「だ、大丈夫ですか!? その、元気出して!」

 

「えっと、血の繋がりはないよね? なら別に大丈夫じゃない?」

 

 亜香里とアルティーネがフォローを入れてるけど、そういう問題じゃないと思うんだよなぁ。

 

 九成、後でオトメさんに謝った方がいいと思うぞ~

 

 えぇ……っていうかなにこれ? いきなり親子対決? 娘さんを俺にください的な感じになってる?

 

 まぁ、俺も似たようなことはしてる。バラキエルさんを前に啖呵を切ったし、後悔もしてない。

 

 してないけどなんだろう、この微妙な空気。

 

 俺は今、心の底から「一緒にされたくないなぁ」って思ってる。

 

 会場もなんていうか、沈黙してるし。空気が微妙だし。

 

『な、なんと……ぉ? 試合中ですが、刃が飛び交う親子の戦……い?』

 

 実況の人も困惑してるし。これ、迷う方の迷勝負にランクインするんじゃないか?

 

 ただ、九成も一橋ってのも、かなり本気で戦っている。

 

『まぁだだぁあああああっ!!』

 

『そうだなまだだな、知ってるよ!』

 

 猛攻を仕掛ける一橋に、九成は素早く攻撃を回避しながらちびちびと反撃を入れている。

 

 急激に追い込んで覚醒されることを防ぎつつ、余力を残すことで覚醒されても対応できるようにする戦い方だ。九成の奴、本気で倒すつもりだな。

 

 ……でも、なんか微妙な空気だよな……。

 

『負けるものか! 惚れた女が繋げてくれた戦いだ! 必ず……勝ぁつ!』

 

 一橋が気合と根性を振り絞ってるのは分かるんだけど、なんでだろう?

 

 俺達はちょっと、首を傾げながら試合を見続けていた。

 




 はい。そういうわけで当事者にとってはものすごく真剣な戦いが始まりました。

 一橋・幸弥・ディアドコイを出した以上、和地やカズヒと激突させるべきなのは明白。そして和地は恋愛ごとにおいて精神年齢と知能指数が突発的にダダ下がりする場合があるので、当然こうなりました。

 ちなみに、第三部にもつれ込んだ場合は幸弥は極晃に至らせる予定。当初は光狂いらしく収束性EXの因果強制能力でヘリオス相手に性質から攻撃をごり押して渡り合う方向性にする予定でしたが、冷静に考えて「ちょっとその方向性に至らせるのは無理がある」と思い直し、操縦性EXに修正する予定だったり。


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闇動神備編 第二十三話 (当事者にとっての)死闘、並列侵攻!

 はいどうもー! 新しい職場もいろいろ慣れてないので苦労していますが、頑張っているグレン×グレンでっす!

 睡眠のタイミングが結構ずれたのでまだ慣れてませんが、まぁ頑張っていこうと思っております!


Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 この試合は、珍試合として認識されることとなる。

 

 何故なら、何故か帝国船長(キャプテン・マケドニア)こと一橋・幸弥・ディアドコイと、涙換救済(タイタス・クロウ)こと旧済銀神(エルダーゴッド)九成和地が、婿と(しゅうと)じみた戦いをしてしまったからだ。

 

 似たような試合が割と頻発しているのがこのアザゼル杯予選だが、しかし毛色が違うと誰もが認識していた。

 

 観客の大半は若干引いており、空気は微妙になっていると言ってもいい。

 

 だが、フィールドの試合はまごうことなく真剣そのもの。

 

 後継私掠船団を主体とする以上、幸香たちはこの程度のことで戦意を失ったりはしない。必然として、共に戦う悪魔達や、対抗している黒狼たちも真剣にならねばやられてしまう。

 

 ……そしてそんな戦いは、同時多発的に激しくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忘れてた! カズは時々馬鹿になるんだったぁああああっ!!」

 

 頭を抱えるベルナはしかし、高速機動での戦闘を一切解除していない。

 

 幾度となく熾烈な争いに巻き込まれた。更に意味不明な事態が何度も起きた。窮地と珍事に慣れてしまった本能は、この程度の事態で困惑して停止するという行動を許さない。

 

 加え、今ベルナは最もたくさんの敵を相手にしていると言ってもいい。

 

 何故なら―

 

「さて、光から背を向け得た者が、どれほどのものか見せてもらうわよ?」

 

 ―アーネ・シャムハト・ガルアルエルが率いる氷結星辰眷属(エンキドゥ)達を一手に相手にしているからだ。

 

 これは貧乏くじを引いたというより、アーネの意をメンバーが酌んだと言ってもいい。

 

 ……アーネ・シャムハト・ガルアルエル。ベルナの姉であり、光を極めた聖継娼婦(シャムハト・セカンド)。疑似的な星辰奏者たる、氷結星辰眷属を作り導く星辰奏者(エスペラント)

 

 そしてベルナは分かっている。

 

 九条・幸香・ディアドコイ。魔術をもって己を魔星(プラネテス)に到達させた、礼装型人造惑星。

 

 それを、先駆者がいる状態で、後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)の筆頭戦力が、会得してないはずがない。

 

 そしてアーネはその先駆けと言ってもいい。まごうことなき、礼装型人造惑星の先発組。

 

 その力量。高まった力。そのすべてをもってして、アーネはベルナに問いかけているのだ。

 

 今まさに無様をさらしていながら、それが本当に幸せなのか。

 

 それを分かっているからこそ、アーネは一歩を踏み出した。

 

「少なくとも、テロってるよりは悪くねえなっ!!」

 

 発動するは水蒸気爆発による推進力。更に氷塊による実体攻撃に、高圧水流による斬撃を併用。

 

 一対九という状況下において、ベルナは獅子奮迅で食らいつく。

 

 それに対し、アーネは悲しげな表情になっていた。

 

「そう、その程度なのね」

 

 心の底から憐憫だ。哀れみがあると言ってもいい。

 

 光を目指し、彼方を目指し、駆け抜けるが後継私掠船団。

 

 大きく異なれどどこか似ている、大王派革新衆と共に、願いを叶えるべく目指すこの道。

 

 それと対を成せる生き方になっていると、ベルナは全力をもって示している。

 

 ()()()()()

 

 なら、その思い上がりは打ち砕かねばならないだろう。

 

 その決意をもって、アーネは本腰を入れ始める。

 

「天進せよ、我が守護星———鋼の未開(あした)を駆けるが為に」

 

 全体的に性能が向上したアーネの星は、それゆえに隙の無い猛威となる。

 

 三種類の星辰眷属は強化され、己は統合した星をより高い出力で振るう。

 

 ただでさえ数で押している状況下で、質を高めることで圧殺の構えとなる。

 

 総合力を高めるという無慈悲な猛攻をもって、アーネはベルナに問い質す。

 

 お前は本当に、そこまで価値ある道を進めたのかと。

 

 そして猛威はそのままアーネを飲み込もうとし―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうはいかないぜ、お義姉様ってな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―彼女を救い上げた救済は、黙ってみたりはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 危ない危ない。流石に全包囲攻撃は危なかったな。

 

 滑り込むように障壁で攻撃を捌いてから、振るわれる幸弥の攻撃を迎撃する。

 

「てっめぇっ! 男と男の勝負にいい加減なことするか!?」

 

「悪いが参謀に怒られてな。やりたいなら並列作業でと言われてしまったんだよ!」

 

 黒狼が厳しいけど、結果的にはオーライオーライ!

 

 振るわれる攻撃を連撃でしのぎながら、俺はサルヴェイティングアサルトドッグの内蔵武装で氷結星辰眷属をけん制する。

 

「カズッ! マジかお前、あのままボケ倒すかと思ってたぜ!」

 

「いやホントゴメン。俺としてもボケ倒す気満々でしたごめんなさい!」

 

 信頼が厚くてちょっと泣きそう。いや、確かにまず一橋に集中したかったけど。

 

 だが黒狼から怒られた。「せめて同時進行でやってください」と言われてしまった。ついでに一番向かってほしいところとしてベルナの位置を指定された。

 

 ま、これはこれでいいだろう。というか、いい機会だ。

 

「……悪いな義息子(むすこ)! お前が義親父(おやじ)に挨拶したいように、俺だって義姉貴(あねき)に挨拶しておくべきだってことで一つ!」

 

「チッ! そう言われると文句が言えねえ!? っていうか、俺ってつまり星継娼婦(シャムハト・セカンド)の甥っ子⁉」

 

「なるほどね。なら、尚更彼方(明日)を目指してもらわないと!」

 

 とりあえずすぐに納得してくれてよかったよかった。アーネも納得してくれたので問題ないな、うん。

 

「それもそうだな! あっちもこっちも立てるに越したことはないってか!?」

 

「勝ちなさい、帝国船長(キャプテン・マケドニア)! 聖継娼婦(シャムハト・セカンド)も見せてやって!」

 

「行け、アーネ! 彼方を駆ける光を、思い出させてやるんだ!」

 

「やっちまいな、ディアドコイ! そのまま一気に添い遂げろ!!」

 

 氷結星辰眷属達も、テンションが高いようだ。

 

 まぁ、俺としてもテンションを上げていきたいがな!!

 

「……いや、別の意味でツッコミがキッツいぞ!?」

 

 どうしたベルナ!?

 

「ツッコミする暇なんて与えるか……そう、まだだぁああああっ!!」

 

 うぉおおお義息子の猛攻が特に激しいっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズヒSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、あれね。

 

 和地がボケ倒しているわね。

 

 ……………

 

「とりあえず、あとでベルナには一杯おごるとするわ」

 

「うん、オトメにもしたげて?」

 

 そうよね、鶴羽。

 

「……あは……はは……孫と子供がいっぱいだなぁ……ぁ」

 

「しっかりしてオトメ。いえ、本当にしっかりしてぇ……その……」

 

 既にオトメねぇが真っ白になってるし。リーネスも励ましてるけど、生憎該当している*1からちょっと弱いし。

 

 この試合、こんな形で波乱を生むことになるなんて……っ!

 

「私は誰を()めればいいのかしら? いえ、私ごと……?」

 

「誰か! カズヒもマズいから気付けを持ってきなさい!?」

 

 リアス、私はまだ大丈夫だと思うのだけれど?

 

*1
立場的に義理の娘が一人




 和地「この戦いは! この戦いだけはさせてくれ!」

 黒狼「……せめてほかにも同時にやっていただきたい」

 こんな感じで酷使される王、九成和地!!


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闇動神備編 第二十四話 星辰光、(本当に真面目に)開帳

 はいどうもー! 最近蕎麦をメインで食べることを多くしているグレン×グレンでっす!

 いやぁ、蕎麦が調べれば調べるほど健康にいいだろうこれという事実が発覚して以来、なるべくそばを食べる機会を増やしたいグレン×グレンです。太りにくい肝臓に言い糖尿病予防する成人病も防いでくれる関節痛も和らげてくれるといいことづくめで、なるべく二八蕎麦を一日一回は食べるようにしたいグレン×グレンです!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか俺達のVIP席が酷いことになってる!?

 

 オトメさんのダメージが一番でかいけど、カズヒも割と喰らってるし。

 

 というか、試合が始まってから一時間で派手な戦いが連発してるんだけど。これワンデイ・ロングウォーだよね!?

 

「……なるほど。別に制限時間が一日とはいえ、数時間で終わらせてもかまわないといえばかまいませんわね」

 

「いやぁ~。評価的にはどうなのかなって、先生思っちゃう?」

 

 レイヴェルが怖いことを言ってるけど、とりあえずリヴァさんが抑えてるからいいのかな?

 

 俺のマネージャーは辣腕参謀すぎて、結構派手なことやとんでもないことするからなぁ。今度俺達がワンデイ・ロングウォーをした時、「開幕速攻∞ブラスターで即殺」なんて提案しそうでちょっと怖いぞ。

 

 ……別にいいのかも? あれ、混乱してる?

 

「気を取り直しますけど、和地先輩達って大丈夫っすかね?」

 

 と、アニルが首を傾げていた。

 

 ま、確かに。ベルナと二人で10人を同時に相手してるわけだしな。

 

 しかも全員光極めちゃってる系。殆どが氷結星辰眷属(エンキドゥ)だけど、あいつらも大概強いからなぁ。

 

「まぁ、九成が防御に徹していれば当分大丈夫だろう。その間にどれだけベルナがどれだけ削れるかが重要だな」

 

「そうですね。ただ和地先輩は禁手の持続時間が低いですから、主力が一気に畳みかけると押し切られるリスクはあるかと」

 

 ゼノヴィアとルーシアが冷静に推測しているけど、それが問題だよな。

 

 ワンデイ・ロングウォーにおいて九成達が最も不利なのは、九成の禁手持続時間だ。

 

 ……まだ一時間できないぐらいだったっけ? 俺でも至ってからこれぐらい経ってると、数時間は持続できるんだけどなぁ。

 

 あいつ、本当に禁手の才能がないんだなぁ。パラディンドッグを使っても、これってやばくね?

 

 ただ、ベルナと連携をとった九成は、十人がかりの猛攻を至ることなく捌き切っている。

 

 高速機動を得意とするベルナが撹乱しつつ、それを九成が障壁でフォロー。この戦法でしのいでるな。

 

 同時に、九成は一橋、ベルナはアーネを中心に相手をしてる。それで戦えてるんだから、やっぱすげえよ。

 

 でも、それ以外でも戦闘は頻発してる。

 

 ……勝てるかな、あいつら……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武山黒狼にとって、現状は比較的好都合といえる。

 

 想定外のマッチメイクとなっているが、和地が「一対一の決闘」を「対多数戦闘の支援」を片手間にしつつ戦えているのが特にいい。おかげで、相手のアドバンテージである数の差を防ぐことができているからだ。

 

 黒狼にとって光を極めた者達は慣れていないが、それでも言えることはある。

 

 半端に圧殺を試みてはいけない。そうなれば、文字通りその場で上回られる。

 

 各種データや経験者の聞き取りにより、黒狼はそう結論付けている。

 

 本来、心身の消耗ゆえに弱体化し続けるのが常である前線での戦闘継続。それを意志の力で困難を乗り越えることで、彼らはあっさりと捻じ曲げる。

 

 必然、あの手の手合いに対応するには「圧倒的確殺を一気に叩き込む、有無を言わせない必殺」が最適解。そういう意味では、レーティングゲームという競技では相手をしたくない手合いといえる。

 

 だが同時に、その覚醒は「より強い存在を乗り越える」という形で発揮されやすい。

 

 つまるところ、遅滞戦術や受け流しによる消極的な戦闘では本領を発揮しづらい。

 

 その点において、防衛戦闘に長ける和地は間違いなく最適解。

 

 彼がベルナと連携して、相手チーム18名中10名を足止めしているのは、間違いなく数で劣るこちらにとって圧倒的有利。

 

 その間に何人かを各個撃破できれば、初手のプランが失敗したこちらの勝算が取り戻せる。

 

 問題は―

 

「さて、貴様の相手は妾がしよう」

 

 ―自分が、九条・幸香・ディアドコイを足止めできるかどうかだ。

 

 超獣鬼(ジャバウォック)の単独撃破。魔王クラスであるグレイフィア・ルキフグスですらできなかった難行を成し遂げた、後継私掠船団の長。

 

 まごうことなく化け物であり、そんな彼女が王であることそのものが、彼女達と相対するにおける最難関。

 

 つまるところ、初手のプランが失敗した時点でこの戦いは「幸香以外を可能な限り減らしての逃げ切り勝ち」か「戦力を集中投入しての後先を考えないごり押し勝ち」の二択だ。

 

 それを成すには、当然だが彼女に各個撃破される現状だけは回避しなければならない。

 

 ……つまるところ、ここが正念場である。

 

「……創生せよ、天に描いた星辰を———我らは煌く流れ星」

 

「天進せよ、我が守護星———鋼の未開(あした)を駆けるがために」

 

 全力で星を開帳。それをもっての防衛線。

 

 

 

 

 

 

 

 

 歯を食いしばり、死力を尽くす戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両チームは、最重要人物が二人いる。

 

 最強戦力でもある王は当然。だが、その上でのもう一人も共通項。

 

 それは、経験豊富なブレインである。

 

 互いにレーティングゲームは経験が浅く、専門的知識も豊富ではない。実践では圧倒的に強くても、ゲームはゲームで勝手が違う。

 

 故にこそ、それを補えるブレインがあってこその快進撃ともいえる。

 

 和地たちにとって黒狼が担うそれを抑えられれば、こういった戦術プランが無視できないルールにおいて有利になる。

 

 必然、準最強戦力である行船三美が、進軍制覇の覇王チームのブレインを潰しに向かうのは当たり前の戦術だった。

 

 対策が施されることは想定していた。その上で、食い破る必要があることも理解していた。

 

 やることは奇襲速攻。リーン・ヴァプラという光を極めていない悪魔が相手なら、勝ち目は十分すぎるほどある。

 

 ……だが、ここで想定外が起きる。

 

『見つけました。その手は喰いません』

 

 かけられたのは、通信ではなく念話。

 

 魔術的に直接届けられたメッセージに対し、三美は全力で警戒。

 

 その瞬間、幾重もの魔術攻撃が放たれた。

 

 瞬時に大剣乱舞(バスター・ダンシング)を展開し回避と迎撃を敢行。

 

 だがその瞬間、周囲の地面が隆起し、そこから魔力が迸る。

 

 初手の奇襲で気を引き、そのタイミングでこちらを包囲して圧殺を狙う。

 

 戦術としては一理ある。可能ならば行けるだろう。

 

 だが、これをかなり離れたところから行うのがどれだけの難易度が。

 

 魔術回路保有者は時として奇跡の真似事すらできる。だが、これだけの行動は超一流の回路と練度をもってなお、周辺に緻密な加工を施す必要がある。

 

 レーティングゲームで扱えるような能力ではない。あり得ない。

 

 だが、現実にそれを成している以上は対応するしかない。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を———我らは煌く流れ星」

 

『天進せよ、我が守護星———鋼の彼方(あした)を駆けるがために』

 

 今ここに、張越最良(チョウリョウ・エボリューション)が開帳する星に立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして同時期、約三名が致命的に追い込まれていた。

 

「ふぅうううううううっはっはっはぁああああああああっ!! この程ぃいいいいいいい度ぉおかぁあああああああっ!!」

 

「いやうるさいから!?」

 

 ―特に耳が酷い事を、インガの大声が証明した。

 

 枉法インガ、ヴィーナ・ザンブレイブ、シルファ・ザンブレイブ。この三人は聴覚を中心に追い込まれていた。

 

 アザゼル杯において、フェニックスの涙は使えないが回復ポイントがそれぞれに設置されている。だが、それ以外の手段で回復してはいけないなどということはない。

 

 そしてヴィーナ・ザンブレイブの神器を利用した回復は、霊薬を製造するがゆえに悪魔にも通用する。これは大きなアドバンテージだ。

 

 だからこそ、当然敵だって妨害する。

 

 それを読んでいたからこそ、二人も護衛を配置していた。

 

 だが、この方向性で攻撃してくるのは予想外だ。

 

 そして何より、相手の攻撃も予想外といえる。

 

「さぁああああああくらえぇえええええええいぃっ!!」

 

 放たれる消滅の魔力を、インガは素早く回避する。

 

 そう、消滅の魔力。だが同時に、相手はシュメイ・バアルでもナシュア・バアルでもない。

 

 後継私掠船団の一人、道間・禅譲・信姫(どうま・ぜんじょう。のぶひめ)。純粋な人間だ。

 

「なんで!? どうやって!?」

 

「教えぇえええるぅううかぁああああ!! さぁぐるぅううううがよぉおおおおおいぃいいいいいっ!!」

 

 そして謎の巻き舌で声が大きい。地味にうざい。

 

「馬鹿なの? 特殊な馬鹿なの!?」

 

 シルファもげんなりしているが、こちらも発動体を構えながら対応している。

 

 だが、消滅の魔力は密度が高い為、うかつに弾けば発動体が消滅する。

 

 そして問題は―

 

「とったよ!」

 

「あまぁああああっいぃいいいいいいいいいっ!!」

 

 ―ヴィーナが一撃を叩き込んだ瞬間、炎と共に負傷が回復される。

 

 ……そう、この回復方法はフェニックスの不死に近い。

 

 目の前にいる女、道間・禅譲・信姫は、あろうことか悪魔の力を振るっている。

 

 そういう系統の神器が一切ないわけではない。だが禁手に至っているとしても不自然な進化を遂げている。

 

 何か裏がある。だが、それが分からない。

 

「探ってみぃいいいよぉおおおおおおお! 当てれるぅうううのなぁああらぁっ!! 褒めぇてやるぅうぞおおおおおおお!!」

 

「「どうやって!?」」

 

 インガとヴィーナは思わず同時にツッコミを入れた。

 

 状況が意味不明すぎて、現状ではどうしようもない。そもそもなんでもありな星辰光も存在する以上、探りようがない。

 

 だが―

 

「いいわ。それがあなたの望みなら」

 

 ―そこに、一手を叩き込める者がいる。

 

 力強く宣言するシルファに、信姫は面白そうににやりと笑う。

 

「ほぉおおおっうぅううううう! 探れぇええるぅううかぁあああああ!!」

 

「お望み通り当ててあげるわ。ま、粘れられればになるけれどね!!」

 

 手段を、一人だけは持っている。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を———我らは煌く流れ星」

 

 今ここに、更に星が開帳される。

 




 割と壮絶にガチバトルが起きているところもあるのです。()等つかないのです。


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闇動神備編 第二十五話 (たま)じゃないよ、(かい)だからね?

 はいどうもー! 薬の飲み忘れをいい加減どうにかしたいグレン×グレンです。

 いえ、基本的には飲めるんですけどね? 週に一回ぐらいついつい飲み忘れることがありましてね? 飲まないとすぐにガクンと悪化するタイプの持病じゃないので、そのまま忘れっぱなしになることがありまして。

 一年以上続いている服薬となると、チリも積もれば山となるって感じで、かなり余ってるなぁという事態に我ながらちょっと呆れ気味というかなんというか。

 まぁそれはともかく、題名を念頭に置いて本編をご覧ください!!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が見守る中、シルファが星を開放した。

 

『創生せよ、天に描いた星辰を———我らは煌く流れ星』

 

 発動体のナイフを構えながら、道間・禅譲・信姫に接近戦を挑んでいく

 

『愛しきを守り、憎きを滅ぼす。矛盾に満ちた願いを胸に、今銀塊は鍛えられん』

 

 信姫も魔力を放つけど、それを回避しながら攻撃を開始。

 

『鋭き刃に壊れぬ硬さ。しかし願いは千差万別。全てを叶えることなどは、いかなる鍛冶にも出来ぬだろう』

 

 鋭いナイフだけじゃなく、神器も使いながら仕掛けていく。

 

 あいつの神器は手裏剣みたいな刃をいくつも出して、それを操って攻撃する物。

 

 見た感じ、行船さんの大剣乱舞の下位互換。だけど、小さいからか小技が利いてるし見つけにくい。

 

『故にこそ、千すら超えて鍛え直さん。その結論こそ我が祈り』

 

 それを回避する信姫の顔面に、シルファの蹴りが放たれた。

 

 信姫はのけぞって回避するけど、そこに神器が襲い掛かる。

 

『愛しき貴女の笑顔が為に。貴女の輝く未来のために。私は千度の窮地も乗り越えよう』

 

 かすり傷は回復されるけど、シルファは少しにやりと笑ってる

 

『そして此度の窮地を断ち切る、銀の刃はここにある』

 

 そして、一旦距離を取りながらシルファは再び武器を構えた。

 

『絶叫せよ悪しき者よ。汝を断ち切る刃は、我がこの手に握られた』

 

超新星(メタルノヴァ)———祈りを宿して放たれよ、煌く銀刃(オーダーメイド・シルバーダガー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 シルファ・ザンブレイブ

 

超新星(メタルノヴァ)———祈りを宿して放たれよ、煌く銀刃(オーダーメイド・シルバーダガー)

 

基準値:C

発動値:

収束性:C

拡散性:

操縦性:D

付属性:B

維持性:C

干渉性:E

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれが、シルファの星辰光か?

 

 見た感じ、特になんか能力は纏ってなさそうだけど。

 

「……なんでしょうか、あれ」

 

「そういえば、前に見たけどよく分かんなかったよね」

 

 シャルロットとアルティーネが首を傾げるけど、そういやそうだな。

 

「俺、追いつかれたりしましたけどあれなんだったんすかね?」

 

「走力強化能力……とかかな? シンプルだけど、そういう星もあるだろうさ」

 

 アニルと木場もそういう感じに推測してるけど、そうなんだろうか?

 

 九成達がルーシア達と試合をした時、確かにシルファは星を開帳して足が速くなった。

 

 ただ、そういった感じでもなかったんだよなぁ。なんていうかシルファの言い方が気になる。

 

 確か、期待に応えるのは得意……だったっけ?

 

 ちょっと意外な気もしたよなぁ。

 

 なんていうか、あいつヴィーナ以外に関してはちょっと関心が薄いというか、お姉ちゃん大好きっ子だし。どっちかっていうと、ヴィーナが関係ないところだと「期待に応える」って感じじゃない。

 

 それがちょっと気になるけど―

 

「ま、シルファもここからが本番ってことだな」

 

 ―そう簡単にはやられないだろ。

 

 俺がそう言うのと同じタイミングで、シルファは信姫とやりあってる。

 

 信姫の相手をシルファがメインで引き受けてるから、インガさんもヴィーナも持ち直した。

 

 そして、シルファはある程度切りあってからため息をついた。

 

『……反則でしょ、その魔術』

 

 お?

 

「道間の時点で予想はしてましたが、やはり魔術回路を利用した魔術ですか」

 

「問題は、どんな魔術ってことよねぇ」

 

 ロスヴァイセさんとリーネスは納得しているけど、それでも首を傾げてる。

 

 ま、魔術回路を使用した魔術って色々やばいからな。一人につき出来ることに限度はあるけど、バリエーションが豊富で何でもありになってるし。

 

 っていうか、今ので分かったのか? マジかよ!?

 

『なるぅうううほぉおどぉおおお! そうぅううううう言う星ぃいいいいかぁあああああっ!!』

 

 あと信姫の方もなんか分かったっぽい!?

 

 っていうか、一体どういう―

 

『肉体に悪魔の性質を宿す魔術……何でもありよね、本当に!!』

 

『他者の願いを受け、それを叶えられるように己を変質させるぅううううううっ!! 面白ぉぃいいいいいい星だなぁああああああっ!!』

 

 同時に言いながら、二人は攻撃を躱し合う。

 

 ……えっと、どういうこと!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。そういう星か」

 

「分かったのかい、アジュカ?」

 

「ええ、シヴァ様。似たような星を知っていますので」

 

「似たような星か。名前の響きは悪祓銀弾(シルバーレット)に近いけどね」

 

「その通り。シルファ・ザンブレイブの星はある意味類似した性質を持っています」

 

「と、いうと?」

 

「簡潔にまとめれば、あの星は、他者の願いを受けて自身を変性させる星。いうなれば願望憑霊・自己変性能力……といったところでしょう」

 

「なるほど。要は星辰体(アストラル)をもってして、劣化型の亜種聖杯みたいなマネをしているのか」

 

「自分自身を他者の願いが叶えられる様にする。それも、星の性能がもたらす限りでの能力強化でといった形でしょうね。限度はあるでしょうが、戦い方によってはかなりの特性があるかと」

 

「今回は洞察力などを強化した形かな? とはいえ、相手も中々に恐ろしい」

 

「魔術回路保有者の魔術の中には、獣の性質を己に取り込む魔術や再現するといった者もあるようですし、その応用かと。……最も、人格に破綻をきたしたり発狂するリスクも多く、極めるのは困難なようですが」

 

「そういう意味でも妙手だろうね。知的生命体なら、獣よりはまだ人の性質に悪影響がなさそうだ」

 

「まぁ、それだけで乗り越えられる難易度とも思えませんがね。……例のアレでしょう」

 

「あれだろうねぇ。そう、まだだ! ……いつもの如くそういった真似をして、一気に花開いているとかそんな感じなんだろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で繰り広げられる、多角的な戦闘。

 

 各地で行われている戦闘は、間違いなく激しい。そして、後継覇王(アレキサンダー)達が優勢だ。

 

 総じて人数が多いのが利点になっている。チームメンバーをフルに揃えている相手側と、空きが多い九成君では、その点で差ができているからだ。

 

 もちろん、眷属をフルに揃えていない者達も数多い。だがしかし、フルに揃えている方が優勢になる場合は多いということだ。

 

 少しずつだけど、確実に追い込まれている。

 

 追い込まれているんだけど―

 

『まだだ、親父! 俺を見ろぉおおおおおっ!!』

 

『見たいのは山々なんだがな!? こっちもゲームだからやること多いんだよ!!』

 

 ―九成君と一橋・幸弥・ディアドコイの戦いが微妙だ!!

 

 既に一時間経過しているけど、九成君は持ち堪えている。頑張って持ち堪えている。

 

 圧倒的な防衛戦闘能力と、カズヒとの鍛錬で気づいた光を極めた者達が覚醒するタイミングを察知する判断力。それをもってして、上手く外すことで覚醒の連発を阻害し、合わせた戦い方に仕立て直すことでしのいでいる。

 

 それで可能な限り粘っているけど、このままだと削りきられるだろう。

 

 座して負けるような真似はしないだろう。とはいえ、ここでどうやって仕掛けるかが重要だ。

 

 さて、どうするんだろうね。

 

「……先に一人落とされれば、そこから一気に崩れるわね」

 

「そうね。流石は後継私掠船団(ディアドコイ・プライベーティア)といったところかしら」

 

 カズヒとリアス姉さんも表情が険しい。それほどに不利ということだ。

 

 ぶつかるタイミングが悪かったともいえる。明らかに、九成君達が不利になっている。

 

 初手の作戦で倒せなかったのが大きいね。このままいけば削り殺されるのは九成君たちだ。

 

 必然として、どこかで大勝負に出る必要がある。

 

『なめるな! 娘を駆けた決闘ぐらい、一対一(タイマン)しろや男だろ!!』

 

『……いや、確かに俺も一対一をしてやりたいけどタイミングが悪かったというか、実際怒られたというか、冷静に考えると別に幸香の夫選びに意見を言う立場でもないような……?』

 

 ただ、あそこまで粘着されると厳しいね。

 

 二人で十人を相手にしているのは十分すぎる働きぶりだ。ただ、このままだと負けるだろう。

 

「……そういえば、シルファの星と道間・禅譲・信姫の魔術ってどういうことだ?」

 

 と、ゼノヴィアが首を傾げる。

 

 それに対し、考え込んでいたリーネスがため息をついた。

 

「獣性魔術というのがあるわぁ。獣の性質を取り込む魔術というものだけれど、強大であれば強大であるほど、その影響で人間性が失われたり発狂する為、使い手は少ない魔術よぉ」

 

 聞くだけで物騒な魔術といえるね。

 

 ただ、リーネスは興味深いのか戦闘を行っている信姫を観察するように見ている。

 

「彼女はその対象を、獣ではなく悪魔にシフトしたのねぇ。知的生命体である悪魔の性質なら、獣を対象にするより遥かに安全性を獲得できるかもしれないわねぇ。……最もぉ、難易度も絶大に上がるでしょうけれどねぇ」

 

 そういうことか。

 

 つまり、彼女はバアルとフェニックスの特性を取り込んで再現している。

 

 簡単にできることではないだろう。だが、魔術刻印とやらに光を極めた精神性がかみ合えば、戦闘中に複数の切り替えすら可能になるということか。

 

 後継私掠船団筆頭戦力なだけはあるということか。

 

「それで、シルファさんの方などうなのかしら? その信姫が「願いを受けて叶える」とか言っていたけれど?」

 

 イリナさんが首を傾げると、これまたリーネスは興味深そうに立ち向かっているシルファさんの方を見る。

 

「可能不可能で言うならあり得るわねぇ。というかぁ、類似例はそこにいるじゃなぁい」

 

 そう言って、リーネスはカズヒの方を見る。

 

 ……確かに

 

『『『『『『『『『あぁ~』』』』』』』』』』

 

「ま、バリエーションまで用意できるのは私ぐらいでしょうけどね」

 

 全員納得する中、カズヒも涼しい顔で肯定する。

 

 そういえば、カズヒの星も「自分を呼び水に他者の想念を集めて強化する」というものだった。

 

 そういう意味では、確かに類似した星ではある。

 

「もっとも、応用性が幅広い代わりにそういった特性の力はそこまで強くないでしょうけれどねぇ。本来は多数の似た想念を集めて、それで補強する形式なんでしょうねぇ」

 

「なるほどねぇ。ま、あまり無茶はできないけど、かなりの補強はできるってことかしらね」

 

 リヴァさんがそう結論付けると、そのうえで九成君の方に視点を戻す。

 

「問題は、そこまで頑張ってるシルファちゃん達にカズ君が応えられるか……でしょうけれど」

 

 確かに。そこが一番重要だろうね。

 

 全体的に九成君達は追い込まれている。このままだと、誰かが倒された瞬間に一気に総崩れになるだろう。

 

 また覚醒を避ける為、全員が防衛戦闘主体になっている。守りを固めるのはいいけれど、そこから反撃に転じきれてない。

 

 九成君以外で主力なりえる、武山さんや行船さんも追い込まれ気味だ。

 

 片や、幸香の圧倒的猛攻を聖なるオーラで強引に弾き飛ばしてしのいでいる、武山さん。

 

 片や、遠隔地から魔術攻撃を仕掛ける梔子相手に、大剣で弾き飛ばししのいでいる行船さん。

 

 どちらも星を振るってしのいでいるけれど、このままでは削り殺されるのが見えている。

 

 後継私掠船団団長とその妹。その力量は圧倒的だということだろう。つくづく油断できず、猛威以外の何物でもない猛攻だ。

 

 九成君。君はここでむざむざやられるのかい?




 そんなこんなで大激戦!

 道間・禅譲・信姫の戦闘スタイルは、獣性魔術を応用した悪魔の固有特性の再現が主体となっております。
 このレベルとなると発狂して当然レベルというのが原作の獣性魔術のようですが、「人に近い知的生命体」+「光狂いのまだだ!」によってあっさり克服しているのが信姫。ぶっちゃけると信姫の代で一気に進歩を遂げております。


 それは置いておいて、久々の星辰光紹介、行ってみよう!!







 シルファ・ザンブレイブ

祈りを宿して放たれよ、煌く銀刃(オーダーメイド・シルバーダガー)
基準値:C
発動値:
収束性:C
拡散性:
操縦性:D
付属性:B
維持性:C
干渉性:E

 シルファ・ザンブレイブの星辰光。

 振るう星の特性は、願望憑霊・自己変成能力。人の願いを自分に集めることで、それに見合う形で自己を変成させる星辰光。

 願望の種類や願望を持つ人たちによって変成の仕方が変貌するのが最大の特徴。例えば戦闘においては「勝ちたい」という味方の願望を受け取って自己を強化するのが基本だが、敵が戦闘狂の場合は「歯ごたえのある敵が欲しい」という願望の重ね掛けによって更なる強化が可能。反面この場合は基本的に「負けたくはない」ため単独勝利は困難だが、味方によって補うことができる。
 このため願望の指定と対象次第で、能力が大きく変化する。例えば料理のできない者が「美味しい料理が食べたい」と願っても不発に近いが、優れた料理人が「美味しい料理を作るための助手」を求めていればその知識と感覚を疑似的に再現することができ、重ね掛けにより限りなく一時的に優秀の料理人となることができる。

 性質上、自分を害さず相反しない能力をうまく集めて重ね掛けするのが最適解であるため、拡散性と操縦性が特に重要。ただし拡散性は非常に優れているが操縦性が並みであるため、重ね掛けできる種類は多くて三つが限界であり、人が多い環境では大雑把にすることで多少の効率を捨てて量を集める必要がある。
 加えて人の願望を受け取らなければ出力に見合った性能強化しかもたらさず、それゆえに習熟においては難点が目立つ。総じて癖の強い星となっている。

 その上で、シルファはこの使いづらい星を振るうべき時に躊躇しない。
 愛する義姉、そして肩を並べられる仲間たち。さらにはいまだ見ぬ想い交わせる者たちと、紡ぐことができる未来。
 それを邪魔する闇を足す、銀の刃が手元にあるというのだから。

★詠唱
 創生せよ、天に描いた星辰を———我らは煌く流れ星

 愛しきを守り、憎きを滅ぼす。矛盾に満ちた願いを胸に、今銀塊は鍛えられん。

 鋭き刃に壊れぬ硬さ。しかし願いは千差万別。全てを叶えることなどは、いかなる鍛冶にも出来ぬだろう。
 故にこそ、千すら超えて鍛え直さん。その結論こそ我が祈り。

 愛しき貴女の笑顔が為に。貴女の輝く未来のために。私は千度の窮地も乗り越えよう。

 そして此度の窮地を断ち切る、銀の刃はここにある。
 絶叫せよ悪しき者よ。汝を断ち切る刃は、我がこの手に握られた。

 超新星(メタルノヴァ)———祈りを宿して放たれよ、煌く銀刃(オーダーメイド・シルバーダガー)





 といった感じです。この話を投稿する段階で「銀塊って銀魂と字が酷似してるから勘違いされそうだな」と思い、メタ題名となりました。

 イメージ元としてはシルヴァリオよりは有名だろうLight作品の神座シリーズのあれです。某戒律を参考にしました。想念を集める系統の星辰光をシルファのそれにするのは決定事項だったので、多用途に仕える余地があるのを参考にしたいとは思っていたのです。

 詠唱におけるネタといえるのは、神話伝承というより銀そのもの。古来より退魔とかお守り的に使われることも多い銀という鉱石の言い伝えそのものを詠唱のラインに据えた形ですね。

 広範囲の願いを取捨選択し己に付属させることで願いをかなえるための己に変性させる星辰光。想念を集める形の異能ではカズヒやモデルバレットがありますが、あれに比べると突破力に大きくかける代わりに対応力がずば抜けているといった感じです。


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