ロキファミリアの4人目 (暇人M.MAX)
しおりを挟む

ファミリア生誕
小人族との邂逅と発足


だいぶ端折ってます。
リハビリで描いたます。


世界を放浪して早数年。

異世界転生したので世界を旅したいと思った。

しかも、エルフに転生したので時間は有り余るぐらいある。

閉鎖した里を抜け出し自由気ままに過ごしてきた。

旅を続けてきても満たされないこの身は何を望んでいるのだろうか。

旅を続けて気づいたことがある。

この世界は異世界でも、ダンまちの世界だということに。

 

「今日も鍛錬かフィン?」

 

「ああ、アリス。今日は神探しだよ。鍛えれる限界までは鍛えたつもりだ。あとは名を上げるだけだ」

 

農村プレブリカで出会った黄金色の小人族、フィン・ディムナと出会った。

ロキファミリアの団長となる男性は14歳。つまり、原作の20年以上も前になる。

なんで、こんな中途半端な時期に転生したのやら。ちなみに私は14歳です。村を飛び出したのは10の時。

同じ宿屋に泊まっているため顔を洗いに宿の裏手にある井戸

まで来たら先客としてフィンがいた。

 

「それなら今日近くの森で光の柱を見た。あれは神が降りてくる時か、帰る時のものと酷似してた。もしかしたらもう村の中にいるかもしれない」

 

「それは良い知らせだ。親指も疼いてるから当たりかもしれない」

 

「頑張りたまえ。私は森で狩りをしてくるよ。メリサに兎の肉を頼まれてね」

 

「なら今日の晩御飯は期待できそうだね」

 

軽く話それぞれの目的地へと向かって別れた。

 

●●●●●

 

兎を数匹狩り、血抜きと解体を済ませて村へと戻り目的の酒場に足を踏み入れた。

 

「だひゃひゃひゃひゃひゃひゃー‼︎」

 

店に入ると下品な笑い声が聞こえてきた。

 

「あっ、アリス。いらっしゃい」

 

「ああ、メリサ。これ頼まれてた兎肉だ。それよりなんだこの騒ぎは」

 

私は兎肉をメリサに渡してこの喧騒の理由を問いただす。

 

「あ、ありがとう。フィンが念願の神様を連れてきてね。フィンの話が面白かったらしくて大笑いしてるの」

 

「へぇー、ちょっと挨拶するかな」

 

「フィンならあっちの席よ」

 

メリサはフィンのいる方に指を指す。私は礼を言ってフィンがいる方へと足を運ぶ。

 

「やぁ、フィン。どうやら神を見つけたらしいな」

 

「今朝ぶりだねアリス。君の言った通り、まだファミリアを作ってない神を見つけてね」

 

「それはよかった。しかし、その女神が君の主神か?」

 

「いや、まだ入団を認められてなくてね面談中と言ったところかな」

 

雑談をしている中、先ほどまで大笑いしてた神、ロキは私の方を見て固まっていた。

 

「び」

 

「「び?」」

 

「美少女エルフ来たーーーーーーーー‼︎」

 

この酒場にいた全員が耳を塞いだ。

 

●●●●●

 

「なぁなぁ、アリスたんもうちのファミリアに入ってぇな」

 

同じ宿屋のため帰り道は一緒になる。その際に、私はロキに絡まれていた。

 

「生憎だが、誰かに束縛される気はないんだ。他を当たってくれ」

 

「そう言わずに、今ならうちを独り占めやぞ」

 

「君には先約のフィンがいるだろう」

 

「フィンは男や。うちは女の子に興味があるんや。男女は別の部屋に寝泊まりするやろ。なら夜はうちとアリスたんの2人っきりや」

 

原作で知ってたが、無類の女好きロキはしょっちゅう好みの子を勧誘しているらしい。私もどうやら彼女のお眼鏡にかなったらしい。嬉しくないが。

フィンは苦笑いしながら着いて来ている。

 

「はぁ、ファミリアに入るつもりはない。世界を旅してる途中だし、フィンの野望も知っている。最終的にオラリオに住み着くなら世界を見て回ることはできないだろう」

 

「ええやんか、いつかはオラリオに行くけどすぐに行くわけじゃないし」

 

「入らないったら入らない」

 

宿屋に着くまでこの話は平行線を辿り続けた。

 

●●●●●

 

フィンが恩恵を受けた次の日。

私とフィン、ロキは近頃モンスターの動きが活発になっていて困っていると商人から依頼を受けて山の中腹まで来ていた。

 

『グガァ⁉︎』

 

フィンから放たれた一閃によりモンスターは絶命する。

何度かフィンの戦闘を見てきたが、これまでとは比べ物にならないほど冴えていた。

 

「これが『神の恩恵』か、なるほど良いね」

 

フィンは腕試しのためモンスターの群れを相手に戦い続ける。

 

「凄まじいな、これが恩恵の力か」

 

私はその光景を見ながら戦慄する。

故郷の森はモンスターが発生しやすい、そのため里の戦士たちも十二分に強かった。しかし、その者たち以上に今のフィンは強い。

 

「いーや、うちらの恩恵は促進剤。ただのきっかけに過ぎん」

 

「つまり、どう言う意味だ」

 

「あれらはフィンの中にあった可能性や。本来なら目覚めるかも分からなかった力。うちはそれをちょっと叩き起こしただけや」

 

私はロキを守りながらフィンの戦闘を見守り続けた。

 

●●●●●

 

戦闘は終わりフィン達と雑談をしながらモンスターの処理をしていく。魔石を取り出して、灰の中からドロップアイテムを取り出す。

 

「しかし、アリスたんも強いな。恩恵を授かっていないのにかなり戦えるやん」

 

「私の里は辺鄙でな。モンスターが生まれやすい。人類の生存域の境界線ギリギリに位置してる。そのためか里のエルフはそれなりに強いんだ」

 

「ん?うちあんまり下界に興味なかったからそう言う情報に詳しくないんやけど」

 

私の話をいまいち理解できずに首を傾げるロキ。そんなロキに助け舟を出すフィン。

 

「エルフの里はウィーシェの森を除いて普通は排他的でね。森の奥地に里をつくり外部との接触を極力控えてるんだよ。だから、あんまりエルフの里の情報は少ない」

 

「フィンの言う通りだ。外の人間を近づけさせず限られたやり取りで済ませている。私の里は物心つくと訓練を積ませる。5歳で戦場に立たされ、10を超える前に死ぬ子供が多い。」

 

「5歳って、どんだけ戦闘集団なんや。でも、なんで里を抜けたんや?」

 

「戦闘の度に誰かが死ぬ。話したことのない同胞が死んだ、少し挨拶した者が死んだ、友が、親が、兄弟が、大切な仲間が死んだ。それでも外部に助けを求めない同胞達、そんな毎日に嫌気がさしたのか、それとも恐怖したのか。今では思い出せないが、外の世界に興味があったのも事実だったしね」

 

少し辛気臭い話になってしまった。話題を変えるためにフィンへと話をふる。

 

「それよりも、フィン。どう思う、このモンスターの異常に」

 

「多種のモンスターが多すぎるね。同一種なら納得が行くんだけど」

 

「縄張り争いか、それとも」

 

「「強大なモンスターによって群れが率いられてるか」」

 

大きな音がこだまする。

私とフィンは急いで崖を駆け上がり音の発生源を確認する。

村の方から煙が上がっている。

城壁は破壊されモンスターが雪崩れ込んでいる。

 

「どうするんや?」

 

ロキは私達に問う。

 

「「そんなの決まっている」」

 

私とフィンの声が重なる。

 

「「行こう。村を救ける」」

 

●●●●●

 

急いで村へと戻る。

メリサが襲われそうなところを間一髪でフィンが助けた。

 

「これは手遅れだな。住民の避難が済むまで持ち堪えるしかないなフィン」

 

ここにくるまで何体ものモンスターを屠ってきた。それなのに一向に減る気配がない。いずれこちらが消耗して負けるのは目に見えてる。

 

「何を言ってるんだい、アリス。モンスターを殲滅する。これは決定事項だ」

 

後ろ向きな私の意見に反対するフィン。

敗北必須なこの状況にフィンはただ1人勝利を見据えていた。

 

「待って。フィン!」

 

そんなフィンを止める声を発するメリサ。

 

「先に行ってる、フィン」

 

私は駆け出す。幼き頃から繰り返してきたモンスターの殲滅。この世界に転生して絶望した。物語で見た華やかな世界とは違い破滅に向かう灰色の世界だった。故郷は破滅を食い止めるために戦う戦場。里を抜け出し平和な街を見つけた。その街へ二度目の訪問をするとモンスターに滅ぼされていた。

旅を続けために道を歩けばモンスターに襲われる。

どこにも平和は無く、力なき者は淘汰され涙を流す。

行く当ても無く彷徨ってこの村へと来た。そして、光に出会った。

 

『こんな小人族ごときに後れを取って良いのかい?異種族の同胞達よ』

 

貧弱であるはずの小人族の発破を聞いた。

いずれ最強の長となる勇者と出会った。弱さを知り、絶望を知り、恐怖を知っているはずの男はそれでも勇気を手放していなかった。

状況は一変した。フィンの鼓舞により立て直した戦士達はモンスターを確実に倒していた。戦力は拮抗したように見えた。

 

「う、うぁぁぁぁぁー!」

 

悲鳴が響いた。

6メートルを超える巨体が1人の戦士を投げ飛ばした。

一撃が多くの戦士達を屠る。

あれを倒さなければ勝利は無い。しかし、倒す手段が無い。

黄金の光が赤い小さな光を放ちモンスターへと突進する。

 

「フィン!」

 

いつもの冷静なフィンと違い。荒れ狂ったようにモンスターを殲滅する。

絶望に見えた巨大なモンスターを追い詰め。多くのモンスターを屠る。

しかし、爆炎がフィンへと襲いかかる。

 

「なっ⁉︎フィン⁉︎」

 

フィンの激変により勝ったと思った。

じきにモンスターは倒し尽くせると、そう思ってしまった。

 

「飛竜だと!なんでこんなとこに!」

 

里でも数えるほどしか見たことのない強敵。

しかも、数が尋常ではない数十匹の群れ。

 

「竜の谷からだいぶ離れてるぞ。神の眷属達は何をしている」

 

地上にて竜種が発生しやすい場所、竜の谷。

そこは地上に多くの被害を与えている場所と言ってもいい。

神の眷属達が常に警戒をしていると聞いている。何匹かは取り逃しているのだろうがあの群れは多すぎる。

本来ここにはいるはずのない強敵。ダンジョンのモンスターではないとはいえポテンシャルは高いモンスターの群れを相手に消耗し切った戦力ではジリ貧だ。

フィンも辛うじて塞いだようだが所々怪我が見られる。

 

「ちぃ⁉︎このままでは全滅だ」

 

私は逆転の一手を見出すため、とある人物の元へと走り出す。

 

●●●●●

 

「ファミリア結成からヘルモードすぎんか?なんやねん、初っ端から飛竜って。天界でのうちの行いが災いしたと考えても不幸すぎるやろ」

 

巨体のモンスターをフィンが魔法を使って倒し歓喜したのも束の間に飛竜によるブレスがフィンを襲った。

フィンの凶戦士化に恐怖していたメリサはその光景に絶望していた。

ロキもまた、フィンの敗北を予期した。

 

「ロキ!」

 

「アリスたん、どないしてこっちへ⁉︎」

 

前線で戦っている筈のアリスの来訪に驚く。

 

「空を飛ぶ飛竜に逃げることは出来ない。あれを倒さなければ全滅だ。戦力の要であるフィンも空を飛ぶ相手には槍の投擲以外手が出せない。それをするにも数が多すぎる」

 

「そんなのわかっとるわ!」

 

事実を突きつけられてロキは叫ぶ。

退屈な天界を去り、未知を求めて下界へと降りてきた。しかし、こんなヘルモードを味わうために来たわけでもない。

 

「ああ、ジリ貧だ。だからギャンブルだが、逆転の一手が欲しい」

 

「?自分、何言ってるんや?」

 

「魔法だよ、ロキ。私に恩恵を授けてくれ」

 

「⁉︎」

 

唯一の打開策は広範囲高威力魔法での一網打尽。

それが、アリスが出した答え。

 

「でも、確実に魔法が目覚めるか分からんで?」

 

「ああ、たしかにギャンブルだ。しかし私は魔法種族であるエルフだ。魔法を発現する確率は高い、あとはこの戦場を打開できる魔法であるかだ」

 

「良いんかうちで?」

 

「構わない」

 

「なら場所も選ぶ時間はない。はよ背中をみせい」

 

早速、恩恵を授ける準備をする。

ロキは指に針を刺し血を出す。アリスは背中をはだけさせロキに背を向ける。

 

(フィンも希少だったけど、アリスたんはフィン以上のレアものや、魔法が3つ発現にスキルも複数所持やと)

 

刻まれたステータスに驚愕するロキ。

魔法種族であるエルフでもせいぜい一つの魔法の発現が当たり前、なのにアリスは最初から3つ発現していた。それも3つともチート級のレアマジック。

そして、スキルもレア中のレア。

 

(直接的な攻撃魔法はないけど、これならこの戦場を打開できる。何より、この魔法はとってもうちの眷属らしいやん)

 

「ええか、アリスたん。ステータスを映す暇はないから、あの飛竜の大群を思い浮かべて、うちの言葉に続けて言うんやで」

 

「ああ、わかった」

 

3つのうちの一つ。この戦場を打開するための魔法をロキは選択する。

 

「創生」

 

「創生」

 

ロキの言葉に続けて詠唱。

超短文詠唱と呼ばれるそれはたったの二言。

 

『オフレスキャ・レイコウス』

 

紡がれた魔法は、怪物創造魔法。

自身の思い浮かべた怪物達を魔力によって形成する魔法。

アリスが創造するは飛竜の大群。

本来なら精神力が足りずに不発に終わる筈の魔法はレアスキルによって精神力の消費を限りなく抑えている。

 

異界精神(エリアン・スピリッツ)

転生者たるアリスは世界を超えた強固な魂を持つ。故に、他の者達よりも強固な精神を併せ持つ。

アリスとその他の精神力とは質そのものが違う。本来なら消費する筈の精神力を大幅に削減できるレアスキル。

 

「行け、飛竜」

 

アリスは自身が作り出した飛竜達に命令を下す。

飛竜達へと襲いかかる。飛竜対飛竜により空の対処は済んだ。後は地上のモンスターのみとなる。

ロキとアリスはフィンへと目を向ける。

そこには苦戦しているフィン。魔法の効果は切れており、先ほどのブレスにより穂先の折れた槍でなんとかモンスターを倒している。

 

「ロキ、他に魔法はないのか⁉︎」

 

「あるで!次は最強の槍を思い浮かべるんや」

 

「「創造」」

 

思い浮かべるは前世で観たアニメの青い槍兵が持つ真紅の槍。

 

『スミーダ』

 

武器創造魔法。

自身が思い浮かべる武器を魔力にて形成する魔法。

第一級武器、特殊武器、異界の武器だろうと作り出す。

 

「受け取れ、フィン!」

 

ありったけの力でフィンへと投げつける。

 

●●●●●

 

ジリ貧だ。

空にいる飛竜は仲間割れをしたのか飛竜同士で争っている。

状況は振り出しに戻った。魔法は切れた、武器は破壊された。それでもなんとか喰らいつける。しかし、倒し切る前に他の者達が死ぬ。

 

「受け取れ、フィン!」

 

はるか後方からアリスの叫び声が聞こえる。

それと同時に飛来する魔槍。咄嗟に身を翻しながらそれを掴む。

少し、長いが扱えないほどではない。ましてや、今まで使ってきた槍とは比べ物にならないほどの業物。持っただけでわかる。これはただの槍ではないと。

 

『グガァーーーー!』

 

2体目巨体のモンスター『アイレン』が雄叫びを上げた。

絶望に続く絶望。モンスターの大群、モンスターを率いる強敵、竜種の強襲、そして2体目のラスボス。まさに絶望的な試練。

1人ならフィンはここで詰んでいた。だが、フィンは1人ではなかった。魔槍からアリスの魔力を感じている。

 

「その槍の名前は『ゲイ・ボルグ』、真名を叫べば力を発揮する」

 

(僕は君と出会えた幸運に感謝するよ。ここから始めよう、僕たちの英雄譚を)

 

アイレンの猛攻を交わしながら前へと進む。

 

「貫け!『ゲイ・ボルグ』!!」

 

必殺の一槍。

赤い光が穂先に集中する。

自身を殺しうる一槍にアイレンは回避しようとする。

ステータスを強化してないフィンの動きならアイレンは躱せる筈だった。

 

『グガァ⁉︎』

 

しかし、躱したはずの一槍がアイレンを刺し穿いた。

因果逆転の一槍。当たったと言う事象を先に決めつける必中の槍。それがゲイボルグの真価である。

 

モンスターは全滅しアリスが創り出した飛竜も消滅する。

フィンの手にあった槍も消えた。

 

●●●●●

 

あの後、フィンは何も言わずに村を出ていた。

ロキと私はフィンの後に続き村を出た。

 

「よかったのか、フィン?」

 

あの戦闘の後、私達。フィンに向けられたのは賞賛ではなく畏怖だった。

フィンが魔法を使った後の戦闘はまさに凶戦士そのもの。英雄譚で語られるような華やかさはなく、泥臭さもない虐殺に近いそれは人々を恐れさせるには十分だった。

怪物を創り出した私にもフィンほどではないが畏怖を向けられた。

 

「良いんだ、アリス。僕が居たらかえって気を使わせるからね。このまま次の村、あるいは町に向かうよ」

 

「そうか。なら、私も同行させてもらおう」

 

「?良いのかい?」

 

「ああ、何よりロキの恩恵を受けちゃったからな。最低でも一年は同行するよ」

 

「そうかい。なら改めてよろしく、アリス」

 

「ああ、よろしくフィン」

 

「うちもよろしくな」

 

「「ロキもよろしく」」

 

握手を交わす私達。

 

この出会いは果たして良運だったのかは分からない。本来の未来とはかけ離れた結末を迎えるかもしれない。それでも、私はこの出会いが終末を防ぐ希望の一欠片だと信じている。

世界は滅亡へと歩んでいる。今の平和は紙一重でいつ崩れるか分からない。プレブリカでの戦闘で少なくない死者が出た。共に酒を飲んだ者がいた、共に語らいあった者がいた。

明日死ぬのは自分か、それとも大切な者か。

死ぬのは怖いし、誰かが死ぬのは見たくない。

でも、今日確かに希望を見た。勇気という、光を見た。

今は小さな光かもしれない。でも、勇気と言う病に魅せられた猛者達が奮い立ち明日へ駆け出す。

 

「英雄の船、アルゴノゥト」

 

「「?」」

 

「なんでもない」

 

唐突な呟きに2人は首を傾げる。

フィン、貴方は英雄候補として名乗りをあげた。そして、今日確かに英雄の片鱗を見た。その勇気は人工なのかもしれない、偽物なのかもしれない。でも、今日貴方の勇気に魅せられて突き動かされた者達が確かにいた。次代の英雄は君なのか、それとも今日の猛者達の誰かか。でも、その英雄の中にもきっと君が持つ勇気がある筈だ。

勇気に偽物も本物も関係ない。

アルゴノゥトという光に魅せられて英雄達は生まれた。

なら、フィンと言う勇気が新たな英雄を生むかもしれない。

最後の英雄は、未知か勇気、風、猛者、それ以外なのか。

私には分からない。それでも確かに勇気と言う光は明日へと向かって走っている。

 

1人は一族の復興のため。1柱は未知を求めて。

そして、私は明日へと向かって旅立った。

 




もし、フィンがメリサと結ばれたらティオネはどうしたたのだろう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハイエルフの姫君

リヴェリア回です。


「次はハイエルフがええんや!それも王女な!」

 

もう何度目かになるロキの提案にフィンは苦笑いを浮かべる。

カルーナと言う宿場町に着いた私達は暫く町に滞在し次の目的地を決めるための情報収集と路銀稼ぎに勤しんでいた。

そんな中、ハイエルフの里近くを通る辻馬車があると聞いたロキは毎度の如く私達に提案してくる。

 

「ロキ、何度も言うがハイエルフはやめた方がいい。まず、国際問題になるのは間違いない。世界中のエルフを敵に回せる余裕は無いんだ。あと、気難しいエルフの中でも特にハイエルフは輪にかけて誇り高いんだ。神でさえ見下すと聞く」

 

「気難しいと言われてもなぁ〜」

 

ロキがこちらを見てくる。

2人の会話を聞き流しながら食事に勤しんでいた私を見てロキはエルフと言う種族を再度考え直す。

 

「にゃんだ?」

 

口いっぱいにスパゲッティを含み。口回りにはケチャップが付いている。

気難しいエルフではなく食いしん坊エルフである。

 

「ロキ、世の中には例外もある。アリスは特にエルフらしく無い。僕と出会った時だって見下さずに接してくれた変わり者だよ」

 

「ゴクン。まあ、私が変わり者なのは否定しないよ。普通なら里を飛び出してないからね。とは、言えこの近くのハイエルフと言えばアールヴの血族か。なら可能性はゼロじゃ無いかもね」

 

「「?」」

 

「あの一族の女性達は外に憧れる風潮があるんだよ。実際に飛び出して英雄譚に名を残した人もいるし。たしか、今の王女は70を超えたあたりの若いほうだからまだ諦めてないと思うよ」

 

「70ってババァやないか」

 

一般のヒューマンからしたら70は高齢だけど不老長寿であるエルフ達からしたら70歳は10代半ばみたいな者だ。

 

「それ本人の前で言わないほうがいいよ。王女様の名前はリヴェリアだったかな?噂によると父王によく反発してるお転婆姫って話だけど」

 

「?二つほど疑問があるんだけど、アリスはエルフとしての意識?と言うのかな。王族へと敬意が低い気がするだんけど」

 

「あー、フィンだから言っても大丈夫だよねロキ?」

 

「んー、あのことかいな?まぁ、無闇矢鱈に広めないなら大丈夫やろ」

 

ロキから許可も降りたので、説明するのに手っ取り早いのでステータスの写しを見せる。

 

アリス・グレイ

レベル1

力:254

耐久:299

器用:325

敏捷:416

魔力:728

アビリティ

破邪:B

 

「随分と成長が早いんだね。ここに来るまで1ヶ月くらいしか経ってないよ。僕の最高ステータスでも器用が200を越してるぐらいだし」

 

フィンは私のステータスを見て目を見開く。

ステータスの成長は1日そこらで上がらない。プレブリカでの死闘でもステータスのトータルは30を超えるぐらいだったのだ。

移動用の足として魔獣を創り出しているとは言え異常に伸びているのだ。

 

「私としてはもう少し均等に上げたいんだけど。まあ、贅沢な悩みかな。スキルを見て貰えば納得すると思うよ」

 

フィンは私の言葉に目を下に下げ続きを見る。

 

魔法

『オフレスキャ・レイコウス』

詠唱「創生」

怪物創造魔法

自身のイメージした怪物を魔力によって形成する

イメージが不確かな場合は不発する

精神力の消費量及び本人のレベルによって怪物の強さ、数が変動する

自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内での創造が可能

 

『スミーダ』

詠唱「創造」

武器創造魔法

自身のイメージした武器を魔力によって創造する

イメージが不確かな場合は不発する

精神力の消費量及び本人のレベルによって武器の質、強さ、能力が変動する

自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内での創造が可能

 

『ラグナロク・ハイリヒトゥーム』

詠唱「黄昏の時、空を染め尽くせ」

結界魔法

自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内に結界を構築する

結界内で任意での事象を起こす

 

「うん、魔法も相変わらず規格外だね」

 

「まあ、その分本来ならごっつい精神力を使うんやけど。スキルが程よく相殺してくれてるしな」

 

スキル

【異界精神】

精神汚染への高耐性

精神力消費量の超削減

獲得経験値量の増大

 

【異界超越】

必要経験値の増大

ステータスの限界突破

 

【精神変換】

精神力を消費する代わりにステータスの向上

 

【魔力放出】

精神力を消費して武具の性能を向上

 

【妖精剣舞】

戦闘継続時間に比例してステータスの向上

 

【妖精歌唱】

任意にて詠唱文の追加を行い魔法の効果を激上、変化させる

 

【聖女祝福】

任意にて発動

聖属性と光属性の付与

自動にて治癒、解呪、解毒

発動時間に応じてステータスの超向上

アビリティ破邪の獲得

 

「バグやな」

 

「どれもすごい効果だけど最初の二つは別ものだね」

 

ロキは知っていたがあまりにも規格外に遠い目をする。

フィンはあまりの規格外に苦笑いを浮かべる。

 

「スキルに書いてるように私は異界での精神。つまりは魂を宿してる。簡単に言えば異界で人間と過ごした魂がこの世界に流れ込んできたんだ」

 

あまりの規格外の話にフィンはロキを見る。

 

「嘘は言ってへんで。うちは魂を見通す事はできひんけどアリスたんが異常なのはわかる」

 

「幻滅したか?」

 

異界の存在、それはこの世界の住民達とは別の存在。神に近い存在とも言える。

 

「いや、納得はしたよ。君は僕が知るエルフ達とはかけ離れている。でも、エルフとしてではなく人間としての魂を持っているなら価値観が違うのも納得する。でも、だからどうした?」

 

「えっ?」

 

「アリス・グレイは僕の友で戦友だ。そして、同じ恩恵を授かったファミリアだよ」

 

余りにも気にしない様子に面食らう。

異質な存在は人々から忌み嫌われる。実際、里では女の戦士というだけで異質だったのに価値観すら合わなかったせいで孤立していた。

 

「全く、フィン。君はつくづく私の予想より斜め上を行くな」

 

「まあ、アリスたんの事情もわかったやろ。それでフィンもう一つの質問はなんや?」

 

「ああ、アリスって実質何歳なんだい?」

 

ロキはこいつマジかよと余りにも無遠慮な質問に破顔する。

先ほど歳のことに関して注意されたばかりだ。

だが、いくら精神が大人びていてもフィンは14歳の子供だ。まだ、女性の扱いはお子ちゃま並みなのだ。

 

「ん、言ってなかったか?私はフィンと同い年の14だが」

 

「「・・・」」

 

アリスの返答に固まる2人。

2人とももっと年上だと思っていたのだ。

 

「えぇーーーー。そのいやらしいボディで14ってえぇーー⁉︎そのいやらしいボディで14ってえぇーー⁉︎」

 

ロキの絶唱が店内にこだまする。

その内容を聞き店内の人達が私の身体を見てくる。

少し恥ずかしく身に纏うマントで体を隠す。

 

「う、2度もいうな。確かに昔からよく食べてたせいか身体の成長は早かったが、そこまでいやらしく無い!」

 

身長が伸びるのは嬉しい、胸が確かに大きいのは認める。しかし、そこまで言われるほどでも無いはずだ。

 

「いやいやいや、14でフレイヤ並みにはあるやん!てか、まだ成長途中やろつまりはドチビを抜いてデメテル並みにもなるんか⁉︎」

 

ロキは歓喜し、そして自分に絶望した。14の子供に負けたのだ。

 

「うぅ〜〜〜。うちが揉んで育てたる!」

 

ロキは泣きながら飛びついてくる。

 

「やめろ」

 

「うぐっ⁉︎頭が割れる」

 

拳骨を落としたことによりロキは床でのたうち回っている。

 

「どうした、フィン?」

 

いまだに固まっているフィン。

 

「いや、まさか同い年だと思わなくて」

 

「まぁ、前世の記憶もあるから精神年齢はもっと上だ。あながち年上と言うのも間違ってない」

 

「そう言うわけじゃ無いんだけど」

 

●●●●●

 

「うおぉーー!来たでハイエルフの森。待っとれよ可愛いエルフたーーん!!」

 

結局、ロキのハイエルフへの夢を諦めさせる事はできず目的地へと来てしまった。

アルブの王森と呼ばれる樹海は自然の迷宮。平原からではその全容が見れず、案内が無ければ遭難するのは間違いない。

 

「で、どうするんだロキ? 私もフィンも里に入る手段を持ち合わせてないが」

 

「そこは同族のアリスたんがどうにかしてくれへんか?」

 

まさかの他力本願だとは思わなかった。

だが、一つ困ったことがある。

 

「無理だロキ。私たちの血族はエルフ達から少し敬遠されている」

 

「なんでーや!うちのエルフたんはどうするんや」

 

誰もロキの物になってない。

 

「それは初耳だね。なんでだい?」

 

「うちの里はかなり危険地帯で死者数も多い。それなのに一族が繁栄してるのは数が減らないからなんだ。本来、長寿のエルフの出生率は低い。しかし、うちの里は年にかなりの同胞が生まれる」

 

まあ、10を超える前に死ぬことが多いんだが。

 

「なんや、どういうことや?」

 

「身ごもりづらい筈のエルフがなんでそんなに?」

 

二人の疑問もごもっとも。

 

「数打てば当たる、と言えばいいかな」

 

「「・・・」」

 

絶句。

まさかの予想斜め上どころか場外ホームランな発想に二人は絶句する。

 

「性に旺盛なんだよ。あの里は食う寝る戦う交じり合うの4拍子そろった魔境だった」

 

戦士として才能があったのが幸いして性教育は施されなかったが同い年の子が異性の下の世話をしているのを見た事がある。

 

「なんやそれ。エルフじゃなくてエロフやないか!フィン、ハイエルフを仲間にしたら次は常闇の森へ行くで。待ってろやエロフたん!」

 

「ロキ、話が進まないから少し黙ってくれ。あと、エロフならアリスがいるだろう」

 

「と、言う訳で潔癖なエルフからは少し敬遠されているんだ。私たち血族は一般的なエルフと違って肌色や髪色が白に近いからすぐばれる。あと、私はエロフじゃない」

 

通常のエルフ達よりも白すぎる肌と白に近い金髪、白金色をしている私は他のエルフとも見分けがつきやすい。

 

「まあ、アリスたんがエロフなのかは置いといて。フィン、何かおもろいことがおきてそうやで」

 

「ん・・・?エルフ達が・・・?」

 

ふと真面目な顔になって指さすロキに導かれ、視線を向けると、森の入口にいた守り人達が騒然としていた。

かなりの慌てぶりで森の中に入っていった。

 

「いくで、フィン、アリスたん」

 

にんまりと笑うロキにわたし達はため息交じりに森へと入る。

 

●●●●●

 

守り人の跡を追うとそこには二人の女エルフを襲うエルフの戦士たちがいた。

 

「運が良いのか悪いのか。まさか王女の脱走事件の最中とは」

 

「アリスにはハイエルフがわかるのかい?」

 

「エルフという種族のせいなのか知らないけど、今叫んでるのがハイエルフの王女様で間違いないよ」

 

「うひょーまじもんのハイエルフや。フィンはよ助け」

 

「関わりたくないんだけどなぁ」

 

渋々駆け出すフィン。

私としては絶対に関わりたくない。ここで関われば居場所が里にばれる。呼び戻されることは間違いない。

 

「待っててな。ハイエルフたん」

 

「ちょ、ロキ。危ない」

 

戦場へと駆け出すロキ。

流れ弾でも喰らえば無能なロキが死ぬのは間違いない。

それなのになんの躊躇いもなく走り出した。

 

「加勢の必要はないか」

 

一方、フィンの方は無双状態だった。

近くのエルフは槍で薙ぎ払い。魔法を発動しようとしているエルフには小石の投擲にて防ぐ。

しかし、数が多いし殺さないように手加減してるためか数が減らない。

 

「ロキ、何してる・・・?」

 

背中を晒すハイエルフと恩恵を刻んでいる神を見た。

 

(やりやがった。ハイエルフを眷属にした)

 

2人のやり取りを見ていないが確実に円満な契約ではないことだけはわかる。

だって、ハイエルフが屈辱に塗れた顔してるんだもん。

その後、ハイエルフが使った魔法らしい魔法によりエルフ達は氷漬けになった。

 

●●●●●

 

「ふへへぇ〜!ハイエルフの王女様ゲットやで〜。見たか、フィン、アリスたん」

 

「まさか本当に仲間にするとは。脱帽だよ」

 

「これで私たちはお尋ね者だ」

 

大喜びしてるロキと苦笑いするフィン、そして頭を悩ませる私。

そんな私たちを見ている緑髪の2人のエルフ。

 

「なんて愚劣な存在なんだ。噂には聞いていたがあんなのが神とは信じられない・・・」

 

「リ、リヴェリア様、そのようなことおっしゃっては・・・。気持ちはわかりますが・・・」

 

2人は余りにも下品な神にカルチャーショックを受けていた。

確かに、下品極まりない神は多いけど。尊敬に値する神もいるから、アストレアとかアルテミスとか、あとはアテナとか。うん、委員長属性ばっかだ。

 

「まぁ、そう言わないで。私はアリス・グレイ。ハイエルフに出会えたことを光栄に思う」

 

「あぁ、リヴェリアだ。しかし、貴様は他の同族みたいに畏まらないのだな」

 

「ん?そっちの方がいいか?」

 

「いや、砕けた感じで構わない。そちらの方が新鮮だ」

 

「私はアイナと言います。よろしくお願いしますアリスさん」

 

「よろしくアイナ」

 

いまだに喜び続けるロキとそれを宥めるフィンを置いて私は2人に挨拶をする。

 

「しかし、最奥の森のエルフが森を抜けて神の眷属になっていようとはな」

 

「里を抜け出したのは私だけだから、エルフの中ではかなりの変わり者だと思う」

 

「うちも混ぜてぇーな!」

 

話し込んでいるとロキが混ざってきた。

アイナに触ろうとしてリヴェリアに杖を向けられたりしていたが2人から事情を聞き出した。

そして、リヴェリアとアイナの関係やリヴェリアの思いを聞いた。

 

「ふへぇへぇ、百合やぁ〜。本物の百合やぁ〜。しかもえらい別嬪のエルフ同士の〜。たまらんでぇ〜、たまらんでぇ〜

グヒヒ」

 

「「黙れ」」

 

「ぐひぃ⁉︎」

 

話が拗れるためフィンはロキの腹に肘鉄を、私は頭に拳骨を落とす。

 

「取り敢えず、自己紹介を済ませようか。もうロキとアリスの紹介はいいだろう?僕は「黙れ」」

 

そしてお約束の小人族アンチ発言をかますリヴェリア。

アイナはおろおろしている。

まあ、今まで会ってきたエルフとは必ずこうなっていたからフィンも大人の対応をするだろう。

 

「・・・」

 

「2人とも落ち着いてください」

 

ならなかった。

フィンも14歳の若僧にすぎない、買い言葉に売り言葉。

リヴェリアの言葉に軽く怒ったフィンは言い返したのだ。

それにリヴェリアは怒り言い返す。怒りを表しているリヴェリアと涼しい顔で言い返すフィン、なんとか2人を宥めようとするアイナと未だ悶えてるロキ。それとなんか面倒くさくなってきた私が居た。

その後、復活したロキによって宥められた2人はやっと自己紹介が終わった。

 

●●●●●

 

追手から逃げるため森を抜けようと歩き始めたアリスたち。

ここまでくるのに目印をつけてきたフィンの後を続き、来た道を引き返している。

ロキは念願のハイエルフであるリヴェリアに構い倒している。それに叫ぶリヴェリアと宥めるアイナ。

 

「さて、アリス。これからどうしようか。エルフと敵対なんて僕はごめんだよ」

 

「私もごめんだ。他のエルフに追われれば私の存在もバレる。無断で里を抜け出したのは私も同じだから連れ戻される可能性もあるんだよ」

 

「最悪の場合は、リヴェリアを残してみんな殺される可能性もあるよ」

 

「リヴェリア本人になんとかしてほしいけど、そこまで頭が回るなら追われてもないよね」

 

いまだに怒り狂ってるリヴェリアを見て頭を悩ませた。

問題にならないように立ち回れるならロキの眷属になんてなっていないだろう。

 

「「はぁ〜」」

 

アリス達はこれからの未来に頭を悩ませた。

 

『オオオォォォ‼︎』

 

突如、野蛮な怪物の雄叫びが森にこだました。

 

「えっ、モンスターやん!この森におるの⁉︎」

 

「嘆かわしいことにな。エルフの戦士達が定期的に駆除してるが奴らはどこからか湧いて出てくる。昔は竜種も住み着いていたと聞く」

 

「敵は追手だけじゃないか・・・。ひとまずは森を抜けよう、これじゃあ話もできない」

 

アリスとフィンはロキを庇いながら前へ出る。

 

「アイナ、弓を」

 

「はい」

 

アイナから弓矢を受け取ったリヴェリアは次々と矢を放ちモンスターを退治する。

応戦しようとしたアリス達だったがリヴェリアの弓捌きに脱帽する。

 

「お見事」

 

「ふん、低俗な小人族。貴様は弓を使えんのか?」

 

いまだに喧嘩腰なリヴェリア、それにフィンは余裕を持って言い返した。

 

「見てろ。あの程度、私1人で片付けてやる」

 

褒めて載せる。

 

「チョロいね」

 

「うわぁー、腹黒やなフィン」

 

「腹黒」

 

リヴェリアに怪物を押し付けたフィンはロキに近づいて呟く。

先ほどの一件で無駄に言い争う事になると学んだフィンはリヴェリアをうまい具合に利用することへシフトチェンジしたのだ。

 

暫くリヴェリアの戦闘を見守っていた。フィンとアリスは一応は加勢できるようにしていたがそれも杞憂に終わり怪物達は全滅した。

 

「馬蹄の音」

 

異変にいち早く気づいたアリスは呟く。

 

「まずい、走れ!」

 

その呟きを聞いたリヴェリアはすぐに状況を理解して叫ぶ。

走り出したアリス達。しかし、相手は馬に乗っている、速度の違いからあっさりと補足されてしまい追いつかれた。

 

「見つけたぞ、リヴェリア!」

 

「父上・・・」

 

「おっめっちゃイケメンやん」

「ロキ、黙って」

 

親子の再会。家で王女とそれを追いかけてきた父王。

そんな2人にロキを入れたら絶対に話が拗れるに決まっている。

そこからは、盛大な親子喧嘩の言い争い。

王族としての務めを叫ぶ父王と世界を見たいと叫ぶリヴェリア。

 

「私は、貴方達が嫌いだ。この里が大っ嫌いだ!」

 

「・・・」

 

「貴方の押し付けた鳥籠なんて私は要らない!」

 

「・・・」

 

「私は、貴方の『人形』なんかじゃない!」

 

リヴェリアの叫びを黙って聞く父王。

これはリヴェリアの決別だ。

 

「それだけか? リヴェリア」

 

しかし、父王には響かない。誇り高きエルフの王にとって自由を求める娘の想いなど気にしていないのだ。

 

「この時代に我らハイエルフが偶像にならねばならんのだ。誇りを失えばエルフに待っているのは破滅だ。なぜわからん、我らには責務があるのだ」

 

娯楽を求めて下界に降りた神々の存在に世界は激変した。

英雄の時代、そんな中で魔法を使えるエルフは重宝されてきた。故にエルフは傲慢な態度でいられたのだ。

しかし、フィアナと言う希望を失い堕落した小人族のように、魔法と言う希少価値を無くしつつあるエルフはハイエルフと言う偶像のみが拠り所なのだ。

 

「なんや、政治のことはうちにはさっぱりわからん。神々から言わせればもっと気ままに生きればええやんと思うんやけど」

 

リヴェリア達の会話を聞き入っていら抑えてロキがいつのまにかリヴェリア達の前にいた。

 

「まぁ、王様、うちが今言いたいのはそんな事じゃあらへん。もっと単純や」

 

ロキは父王に向かって腰を直角に曲げて頭を下げる。

 

「あんたの娘さんをうちにください!!必ず幸せにします‼︎」

 

空気が凍った。

皆が顔を引き攣らせている。

フィンのみが笑みを噛み殺していた。

そして、父王を怒らせた。

 

「王女を捕えろ!他は殺して構わん!」

 

こうなった。

 

「この数に開けた場所で戦うのは不利だ。森に引き返す」

 

フィン達は獣道に引き返しエルフを迎撃する。

 

「近づいてきたエルフは僕が倒す。アリスは魔法を使って牽制してくれ」

 

「わかった」

 

「【黄昏の時、空を染めつくせ】」

 

「【ラグナロク・ハイリヒトゥーム】」

 

世界が黄昏に染まる。

ドーム状に魔法陣が展開する。

フィンはエルフに接敵し槍を振るう。そんなフィンに向けて矢が放たれる。

 

「【防げ】」

 

しかし、その矢は光の壁によって防がれる。

アリスの三つ目の魔法、ラグナロク・ハイリヒトゥームは結界魔法。

その効果は範囲内に任意の事象を起こす。

つまりは結界内ならありとあらゆる魔法を使えるチート魔法。

その分、デメリットが存在する。結界発動中は常に精神力を消費し、起こす事象によって精神力を消費する。そして、本来の魔法ほどの効果を発揮できない。

リヴェリアの魔法ほど高威力高範囲な事象を起こすことはできないのだ。

しかし、それらデメリットを補うスキルをアリスは持っている。

異界精神にて精神力消費を抑える。

妖精歌唱にて結界内での追加詠唱を行い高威力高範囲高性能な事象を起こすことができる。

フィンの槍が、リヴェリアの矢と魔法が、アリスの魔法が次々とエルフ達を戦闘不能にしていく。

 

『オオオォォォ!』

 

咆哮が森に響いた。

先ほどの怪物達とは比較にならないほどの大絶唱に皆が動きを止めた。

 

「うぅわぁぁぁ⁉︎」

 

そして、森が爆ぜた。

後方に控えていたエルフ達が吹き飛ばされた。

 

「なっ⁉︎」

 

「あれは『竜』⁉︎」

 

リヴェリアとフィンが驚愕の声を上げる。

 

「『木竜』⁉︎」

 

10mを超える紛れもない竜種。

ダンジョンの中層にて生息する階層最強と呼ばれる怪物。そのポテンシャルはフィン達を圧倒する。

フィンとリヴェリアが固まる中、アリスは駆け出した。

 

「あぁぁぁ!」

 

恐怖にて逃げ遅れるエルフ。それを見逃すほど木竜は甘くない。エルフに向かった腕を振り下ろす。

 

「逃げろ!」

 

木竜の攻撃を刀にて弾き飛ばす。

 

(重い、手が痺れる。怪物や武器を生み出すにも戦闘中はまだ無理だ)

 

アリスの二つの魔法は超短文詠唱。しかし、イメージが明確じゃないと発動しない。戦闘に意識を向けながらイメージをするのは魔導士の平行詠唱並みかそれ以上の技量が要求される。

 

「【爆ぜろ】」

 

したがって使えるのは今発動してるラグナロク・ハイリヒトゥームによる魔法行使。

詠唱なしなら速攻魔法程度、短文詠唱なら単発魔法並み、それ以上なら本職と変わらない程度の魔法行使ができる。

この状況でアリスが選択したのは短文詠唱。

 

「ちぃ、硬いか」

 

致命傷は与えられなかったが明確なダメージを与える事に成功する。

確かな痛みに暴れ出す木竜。

 

「早く逃げて」

 

エルフ達を庇いながらアリスは木竜の猛攻を防ぐ。

 

「おおおおおおおぉっ!」

 

突如黄金の光が木竜を襲う。

 

「フィン⁉︎」

 

赤い瞳をしたフィンが木竜を抑え込む。

そして、後方から魔力の激流を感じたアリスはすぐに理解する。

リヴェリアの魔法での殲滅。

それを理解したのはアリスだけではない。木竜も自身を倒す存在に気づいたのかフィンとアリスに目をくれずにリヴェリアへと向かおうとする。

 

「させない!」

 

一閃

スキルによる身体強化と武具の性能向上。

二つが合わさった居合い切りを放つアリス。

その一撃は木竜の足を切り落とす。

 

「避けろ2人とも!」

 

リヴェリアの叫びを聞きアリスとフィンはその場から離脱する。

 

「【レア・ラーヴァテイン】‼︎」

 

炎の一柱が木竜を貫く。

その柱はアルヴの王森に大きな穴を開けた。

 

「これがリヴェリア・リヨス・アールヴ」

 

片鱗を見た。

いずれ最強の魔導士と呼ばれる者の魔法。それはレベル1の魔法の域を遥かに超えたものだった。

 

●●●●●

 

「少し待ってくれ同胞よ」

 

リヴェリアと父王の決別を済ませて旅立とうとした時、アリスを呼び止める声があった。

 

「なに?王様」

 

リヴェリアの父親、その人がアリスを呼び止めた。

他のエルフは負傷者達に手当てをしながら帰還の準備をしていた。

 

「貴殿は最奥の森出身、アリス・グレイで違いないか?」

 

「確かに私はアリス。でも、里は抜け出した」

 

「やはり、最奥の英雄か」

 

「私は英雄なんかじゃ無い!」

 

父王の言葉に叫び返すアリス。

事情を知る父王はばつの悪い顔をする。

 

「里長から伝言を預かっている」

 

「⁉︎」

 

その言葉にアリスは身構える。

 

「『すまなかった。お前に全ての責任を押し付けて本当にすまなかった』と」

 

「・・・」

 

アリスは予想と違った言葉に目を見開く。

 

「私も事情は聞いている。確かに貴殿は数多くの命を救えなかったのだろう、でも数多くの命を救ったのだ。あの里が滅んでいれば世界に混沌を撒き散らしていた。貴殿は戦い、戦い抜いたのだ。そのことを誇っていいのだ。貴殿は我々の誇りだ」

 

「・・・」

 

涙が流れた。

アリスの苦悩は晴れない。それでも、その言葉は確かにアリスに響いていた。

 

「っ、もう行く」

 

アリスは涙を拭う。

 

「それと、娘を頼む。あの小人族や愚劣な神は信頼できないが貴殿なら娘を安心して預けられる」

 

「大丈夫。リヴェリアは大切な仲間だから」

 

「ああ、よかった」

 

アリスは見た。

王としての顔ではなく親としての父王の姿を。

アリスにとってそれはとても眩しくて羨ましい光景だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドワーフの炭鉱夫とアリスの過去

ガレス回
個人的に1番面白かった話です。
なので、原作にはほとんど触れません。
ぜひ、14巻読んでください。


「なぁなぁ、アリスたん。アルヴの王森から辛気臭い顔しとるけど何かあったんか?」

 

「別に」

 

カルーナと言う宿場町に戻ってきた一向。

町に着いて興奮するリヴェリアと見惚れるアイナ、それに関心していたフィン。ロキはロキで念願のハイエルフをゲットした事にはしゃいでいた。

町でリヴェリアと他エルフによる一悶着があったが隠れるように場末の酒場へと逃げ込んだ。

少し落ち着いたら、あまり元気がないアリスにロキが話しかけた。

 

「父上に何か言われたのか?」

 

森を抜ける時に父王と話していたことを知っているリヴェリアは問いかける。

 

「王様は関係ない。これは私個人の問題、ごめん疲れたから今日は先に宿に戻っている」

 

アリスはそう言って酒場から出る。

その後、リヴェリアによるドワーフとの一悶着があったのだが。

 

●●●●●

 

4年前

 

「お見事アリス」

 

「リュート兄さん、そっちは終わったの?」

 

森の中にいた怪物の群れの最後の一体を倒した10歳のアリスの背後から1人の青年が声をかける。

青年の名はリュート・グレイ、アリスの兄である。

 

「ああ、そこまで強いモンスターはいなかったからね。他の兄弟達もそろそろ切り上げるらしい。僕たちも帰ろうか」

 

最奥の森、そう呼ばれるアリスの故郷は辺境も辺境の大樹海の奥地に居を構えていた。陽の光が入りづらく常に薄暗いそこは魔境そのもの。

人類域の境界に接するそこは常にモンスターが溢れており、太古の昔から里の戦士達によってモンスターの進出を食い止めていた。里のものは皆兄弟と言う考え方を持ち確固たる絆で結ばれていた。

エルフの誇り高い戦士と呼ばれる最奥の戦士達。恩恵を授からずとも鍛え抜かれた肉体は千の魔物を倒し、研鑽された魔法は万の魔物を屠ると言われている。

その中でも、アリスは鬼才だった。齢五で戦場に立ち、齢8にして戦士の中でも上位に食い込み、齢10にして最強と言わしめた。

しかし、エルフの習慣に染まらないアリスは里では異端児だった。父と兄リュートはアリスに気をかけていたが、他の兄弟はアリスの鬼才に畏怖し、母はアリスの異端さに軽蔑していた。

 

「あんまり帰りたくない」

 

「そう言うな、アリスが帰らないと僕がアリサ姉さんに怒られるんだよ」

 

里でアリスと仲がいいのは父とリュート、そして姉であるアリサのみである。

 

「・・・仕方ない」

 

「ほら、行くよ」

 

モンスターの処理を済ませて里へと帰還する。

里へ帰ると2人は報告のため戦士長たる父の元へ向かっていた。

 

「ただいま戻りました父上」

 

「・・・」

 

室内に入るリュートに続いて黙って室内に入る。

 

「おお、戻ったか2人とも。早速で悪いが報告してくれ」

 

「・・・」

 

室内には父ゼノンと長兄アランがいた。

父は2人の帰還に喜び、兄はアリスを睨みつける。

 

「部隊は軽い怪我だけで大きな負傷者もなかったよ。でも、魔物の数が多かったのは気になるかな。まあ、アリスが前線で戦ってくれたおかげで大丈夫だったけど」

 

リュートは今日の報告をしながらアリスの頭を撫でる。

ゼノンは末娘の活躍を聞いて誇らしげになる。一方のアランは忌々しくアリスを見る。

 

「戦うことしか脳のない異端児なだけだろう」

 

「兄さん!そんなこと言うなよ!」

 

いつもの言い争いが始まろうとした時、ドアを蹴破る音が響く。

 

「アリスちゃーん。怪我はない? 綺麗なお顔に傷がついたら大変だよ!」

 

扉を蹴破った姉アリサはアリスに抱きついてくまなくアリスの身体を調べる。過剰なほどの過保護。

男兄弟の多い中で紅一点だったアリサの待望だった妹はアリサにとって溺愛対象そのものだった。

そのアリサに続いて入ってきたのは母アリヤが入ってきた。

 

「リュート、無事だったので。母に顔をよく見せて」

 

アリヤはリュートに近づき顔を掴み心配する。アリスには目もくれずに。

 

「母上、アリスも居ますよ」

 

「そう、無事でよかったわアリス」

 

「・・・」

 

アリヤはアリスに少し目を向けて一言言う。その後すぐに目線をリュートへ戻す。

 

「ちょ!母さん、その言い方は!」

 

そんな態度にアリサが怒ろうとしたのをアリスが腕を引っ張って静止する。

 

「私、疲れたから先に帰って寝てるね」

 

アリスはそう言って部屋から出ていく。

 

「貴様達、アリスは家族なんだぞ。その言い方は無いだろう」

 

一家の大黒柱たるゼノンはアリヤとアランの態度に怒る。

しかし、2人は反省の色を見せない。

 

「確かにアリスは私の娘です。でも、あの子は里では異端すぎる。いずれ私達とは決別する。なら、最初から突き放したほうがあの子と私達のためじゃない」

 

アリヤは異端なアリスを軽蔑こそすれど、娘としてはちゃんと愛している。でも、きっとアリスは自分の手から離れると思っている。ましてや、ここに居てはアリスのためにならないとさえ思っていた。それゆえにこちらから突き放す態度をしていた。

 

「私も同意見です父上。あの愚妹は異端にて異才すぎる。里の風習に染まらず異端であり、強すぎるほどに異才。いずれこの里に混乱を招き入れる。里のためにも愚妹のためにも里から放逐するほうがいいのです」

 

アランにとってアリスは畏怖対象だった。

幼き妹の鬼才を見た。齢五にしてモンスターを蹂躙する姿は数多くの戦場に立ったアランに強い印象を与えた。その時からアランの中で妹を里から出す考えは決まっていた。

 

「だからと言ってあそこまで邪険に扱う必要はないでしょ!」

 

「そうだよ2人とも、アリスはまだ10歳になったばかりの子供なんだよ!」

 

アリサは2人の考えに叫ぶ。

それに同調するようにリュートも言い返す。

 

「こら辞めんか」

 

家族の問題を言い争っていると静止の声が響く。

 

「長老」

 

静止したのは里の長たるバルーサ・ザバサ。古代より生きながらえている老齢のエルフである。

 

「アリスの処遇を決めるのは今の現状を打開してからじゃ。あの怪物を倒すにはアリスの力が必要じゃ」

 

「アリスをあの怪物にぶつけるのですか⁉︎」

 

ゼノンが叫ぶ。この森の最奥に潜む魔物、闇竜ジャバウォック。古代より生息する黒い魔物、それがつい最近また活動を始めたのだ。

 

「アリスだけじゃ無い。里の全勢力を持ってジャバウォックを倒す。それが無理ならアリサの力を使うしかあるまい」

 

「外の冒険者に助けを呼ぶことは出来ないのですか?」

 

「お主達も知っておろう。この森は生きており、神を嫌っている。むかし、神が足を踏み入れた時に森が怒り狂った」

 

「・・・、わかりました。決行はいつにします」

 

●●●●●

 

「ねぇねぇ、今日は何の肉?」「にく〜?」

 

幼きドワーフの姉妹ナルルとノルンがアリスに話しかけてくる。

 

「今日は猪だ。森で見つけた」

 

「にく〜」「にく〜」

 

ドワーフの集落『ロンザ』。

ドワーフの男、ガレスを勧誘するためここロンザに滞在しているロキ一向。フィンはガレスを勧誘するために策を練り、リヴェリアはドワーフの主婦達に仕事を手伝わされ、アイナは未知の料理に舌を肥やして、ロキはドワーフの酒を飲み明けていた。

そんな中、アリスは村に馴染めず良く森や平原に行って狩りをしていた。

貧乏なロンザにとって肉を定期的に下ろしてくれるアリスは歓迎されたがただ村にいずらいから狩りをしていたアリスにとっては複雑な心境だ。

 

「何や、アリスたん。難しい顔して、悩みがあるなら聞くで?」

 

「何だロキ?ガレスの勧誘はいいのか?フィンがサウナで倒れたと聞いたが」

 

「あー、ガレスと根比べしたらしくてな。2人とも意地張ってサウナで倒れたんや。あまりの馬鹿さに笑い回ったわ」

 

そんなことになっていたのかとアリスは思った。

 

「それより、ほれほれ、うちに話てみーや?子の悩みを聞くのも親の勤めちゅーもんや」

 

「・・・、この村にいると故郷を思い出すんだよ」

 

話さないとウザ絡みをし続けるだろうとふんだアリスは仕方なく口を開く。

 

「故郷って、リヴェリアが言っていた最奥の森って所かいな?」

 

「ああ、あの里はこの村のように皆を家族として扱っていた。この雰囲気は故郷に通づるものがある」

 

「ふぅーん、でエルフの王様に言われたのも故郷がらみか?」

 

「あぁ、里の長老から伝言を言われた。その後、森から手紙が来たんだ」

 

ロキは思い出した。アルヴの森からの帰り道、アリスの肩に一羽の鳥が止まったことに。あの時、アリスは手紙を受け取ったのだ。

 

「誰からや?手紙、読んだんか?」

 

「母からだ。読んでいない、どうせ罵詈雑言の嵐だろうし」

 

「何でや?母親なんやろ?」

 

「そうだな、ロキ。少し、昔話を聞いてくれるか?」

 

●●●●●

 

アリスを含めた里の戦士達は森の中を進んでいた。

闇竜ジャバウォック討伐に向けて進軍をしていたのだ。

戦闘には父ゼノンが立ち、副官としてアランが追従する。

アリスとリュート、アリサはそこから離れた位置で後に続く。

里の戦士達の中でも選り抜かれた精鋭部隊。

 

「もうすぐだ。皆のもの気を引き締めろ」

 

父の言葉に緊張が走る。今回の戦場は過去のどのような戦場よりも過酷を極めるだろう。

 

「敵襲!」

 

誰かが叫んだ。

突然の怪物達の強襲に一団は狼狽える。

怪物達の後方には目的の闇竜が潜んでいた。

読んでいたのだ、エルフ達の強襲を逆手に取り逆に襲った。

 

「狼狽えるな! アランは隊列を組め。俺は闇竜を抑える」

 

「わかりました父上。戦士達よ落ち着け、隊列を組め。魔法が使えるものは詠唱を始めろ。弓兵は近づく怪物から確実に仕留めろ。剣士達は後ろに魔物を通すな!」

 

一瞬の状況判断により混乱は収まる。

鍛え抜かれた精鋭達はすぐに隊列を組み直す。

戦闘が始まった。

アリスとリュートは姉アリサを守りながら戦っていた。

アリサは魔法にて怪我人の治療に当たっていた。

本来なら拠点を気づいてそこで治療をするはずだったのだがいきなりの戦闘により拠点を作れず後退もできない。

何とか、戦力は拮抗しているが一向に倒しても倒しても湧いて出てくる怪物達に戦士達は疲労していた。

そして、最悪の事態が訪れた。

 

「ゼノン様がやられた!」

 

後ろで弓を放ち戦況を見極めていた斥候が叫ぶ。

最強の陥落。それは戦士達の戦意を下げるには十分だった。

一瞬の動揺をしたアリスの前に死が訪れる。

 

(ジャバウォック⁉︎なんで、さっきまで父上と遠くで戦っていたんじゃ)

 

ジャバウォックは一瞬にて戦士達を吹き飛ばしアリスの前に立つ。そして、その凶刃をアリスに振り下ろす。

 

「えっ・・・」

 

しかし、その刃はアリスには届かなかった。

アリスを突き飛ばし、代わりにアリサが貫かれた。

 

「アリサ姉さん⁉︎クソッ⁉︎」

 

「よせ、リュート⁉︎」

 

最愛の姉を貫いたジャバウォックに怒りを露わにし襲いかかるリュート。それを静止するアランだったが止まらない。

 

「えっ・・・」

 

ジャバウォックはアリサから爪を抜きリュートへ振るった。

リュートは理解する前に身体を切り刻まれた。 

 

「兄さん、姉さん?嘘、嘘⁉︎」

 

目の前で家族が死んだ事実を受け入れられず狼狽えるアリス。戦士達は一瞬にして怪物達に飲み込まれる。

 

「落ち着いて、アリスちゃん」

 

膝から崩れ落ちたアリスの手を握るアリサ。

彼女は微かだが生きていた。残り少ない命を使ってアリスのところまではってきたのだ。

 

「姉さん・・・」

 

生きていた。それだけで僅かに心を取り戻せた。

 

「アリスちゃん、私の命をあげる。だからお願いみんなを守って」

 

「えっ?」

 

アリスは理解できなかった。

最愛の姉の言葉。姉の命、何を言っているのか。

 

「私は助からない。なら希望を残すしか無い。大丈夫、私は常にあなたといるから。もう、1人で泣く必要もない」

 

「愛してるわ、私の可愛い妹」

 

アリサはアリスの額に口付けをする。

そこに秘術はなった。眩い光が発せられる。アリサは光となり消滅してその光はアリスへと降り注ぐ。

 

「アリサ⁉︎皆のもの秘術はなった!諦めるな、まだ希望は潰えていない」

 

アリサが紡いだ希望。最も家族が避けたかった悲劇。

里に伝わる禁忌の秘術、命と引き換えに他者へ祝福を与える。

奇跡の光を見た戦士達は持ち直した。アランの言葉により立ち上がる。

そして、ジャバウォックは自身の脅威を感じ逃走を図る。

 

「なんで、なんで」

 

アリスのみが状況を理解できずに呆然とする。

 

「アリス、立って!アリサから託されたのだろう!」

 

「アラン兄さん・・・」

 

アランはアリスを無理矢理立たせる。

そして、呆然としているアリスの頬を引っ叩く。

 

「ここは俺たちが受け持つ。貴様はジャバウォックを追え!」

 

「でも、」

 

「アリス、最後だから言う。俺はお前が嫌いだ。異端なお前が理解できない、異才なお前が怖い、強すぎるお前を恐れた。そして、いずれ俺を置いて死地へと向かうお前が嫌いだ」

 

「えっ?」

 

「何故お前なんだ。何でお前にその強さがあるんだ。何でお前が戦わないといけないんだ」

 

アランの本音をアリスは聞いた。

その顔と声音はいつも自分に向けてくる嫌悪のものではない。慈愛が込められた声。

アランはアリスの頬を撫でる。

 

「里を出ろアリス。みんなを救い、里を出ろ。ジャバウォックを倒せ、そして里の混乱に乗じて里を抜けろ」

 

「何言ってんの?」

 

「行け、アリス。最後の愚かな兄の頼みだ、皆んなを救ってくれ」

 

アランは背を向ける。

いまだに理解できないアリス。でも、やらなければいけないことは知っている。

アリスは駆ける。

 

「ようやく行ったか愚妹め」

 

アランはアリスの旅立ちに微笑む。

最愛の妹を結局死地へと送り出してしまった。ジャバウォックを倒さなければ意味をなさない。それでも、アリサが施した祝福はきっとアリスを守ってくれると信じている。

アランにとってこの世界は憎むべき対象だった。

初めての妹は、最悪に備えられた生贄だった。弟達はいつ死ぬかもわからない戦地へと立つ戦友だった。

弟が死に自分だけが生き残り続けた。

神を呪い続けた。何で弟達が死ななければならない。何故、妹を選んだ。何故、俺を生かし続ける。

弟達が生き残れるように模索し走り続けた。でも、最後には自分だけが残った。

そんな時、アリスが生まれた。

女の子だ、戦士にならずに済む生贄にならずに済む妹が生まれたのだ。

家族は喜んだ、アリスは家族の希望だった。自分たちが守りそして生きた証。

異端なアリス、それでも家族はアリスを愛した。

しかし、異端だけではなくアリスは異才だった。

齢5の少女が剣を持ち屈強なエルフの戦士を倒したのだ。

里のエルフは歓喜した、新たな強き戦士の誕生。里の未来は安泰だと。

異端児と里から嫌われていたアリスは皆んなの期待に応えようと強くなった。皆んなに必要とされ始めてしまった。

強いアリスは戦場に立たされる。里の期待を背負い戦い続ける。そして、摩耗し消耗し命を燃やして死ぬ。

ふざけるな、なんでアリスなんだ。どうして俺の家族ばかりが死ぬんだ。

アリスの鬼才を見たアランは里を裏切ることを決意した。

アリスが独り立ちできるようになったなら里から逃すと。

きっと、心優しいアリスは自分たち家族を見捨てることはできない。だから嫌われるようにし続けた。何度、心を痛めたか。もっと、話したかった、もっと、抱きしめてやりたかった。それも、もう叶わない夢。

 

「愛しているぞアリス」

 

聞こえないだろう呟きを呟いてしまう。

 

「悪いな怪物達、妹の旅立ちなんだ。ここから先には行かせん!」

 

 

 

アリスがジャバウォックに追いついた頃には里は半壊していた。里に残っていた戦士達が必死に戦っているが全く歯が立たない。

 

「うぉぉーーー!」

 

アリスは雄叫びを上げながらジャバウォックへと突撃する。

そこからは1人と一体の死闘。

闇竜の天敵の光を纏い駆け抜けるアリス、何度もその光に苦渋を飲まされ続けたジャバウォック。

古代より続く因縁の戦い。多くの戦士が光を纏いジャバウォックを撃退してきた。しかし、倒し切ることは叶わなかった。里始まって以来の鬼才を誇るアリス。もし、ここで倒さなければ未来永劫ジャバウォックは倒せない。

誰もがその死闘に目を向けていた。

 

「うぉーー‼︎」

 

『グギャーーーーッ!』

 

アリスから放たれた一閃はジャバウォックの魔石を砕いた。

アリスは灰となったジャバウォックの上に立つ。

 

「勝ったよ、兄さん姉さん」

 

「アリスなの?」

 

勝者のアリスに声をかける者がいた。

 

「母さん・・・」

 

「その光、そんな」

 

母アリヤは理解してしまった。

ジャバウォックがここにいた。

夫の死、アリサの死、息子達の死を。

 

「なんで、なんで貴方なの!」

 

「・・・」

 

「貴方が死ねばよかったのに」

 

「ッ!」

 

非難の声。

言ってしまった言葉にアリヤも我に帰る。決して本心ではなかった。でも、あまりの事実に気が動転してしまっていた。

 

「ご、ごめんなさい「そうだ!」」

 

謝ろう、アリヤはそう思い言葉を出したがそれを遮る声がした。

幼きエルフがアリスに石を投げつけた。

 

「お前がもっと早くあの化け物を倒してれば父ちゃんや母ちゃんは死ななかった」

「そうだよ。なんで貴方が生きてるの。討伐に行ったみんなはどうしたの?カルナはどうしたの?」

「私の息子はどこなの」

 

非難の嵐がアリスを襲った。少年に続いて石を投げつけるものも出た。

騒ぎを聞きつけた長老が必死に抑えようとするが現実を受け入れるには余りにも被害が多すぎた。

誰かのせいにしなければ収まらない。その火種を撒いてしまったのは母であるアリヤだ。

 

「アリス、ッ!」

 

アリヤは見てしまった。

娘の絶望した顔を、今にも泣き出しそうで幼い迷子のような顔を。誰があの子にあんな顔をさせた、それは他ならないアリヤ自身。石を投げつけられた頭からは血が流れている。

早く抱きしめて謝りたい、でも、そんな資格があるのか。どうして、身体が動かない。

 

「待って、」

 

アリスはその場から駆け出していた。

もう2度と会うことは叶わない親子の別れ。それは2人に深い傷を残した。

 

 

森の中を駆け巡るアリス。

アリサの祝福のお陰か傷は癒えていた。

それでも、胸が痛み続ける。

 

「・・・」

 

顔を歪め、涙を流し走っていた。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと声にならない謝罪を呟き続けていた。

異界の記憶がなければ普通のアリスという少女だっただろう。きっと剣も持たずに女の子として生活していたのだろう。自分という異端が家族を狂わせてしまったのだ。

幼き妖精の旅立ちは決して祝福されたものではなかった。

森を抜けたアリスは彷徨い、怪物に襲われた行商にであった。多種族の町に着き、暫くして旅に出た。

戦うことだけがアリスにできる唯一のこと、多くの命を救い多くの命を取りこぼした。祝福された時もあれば罵倒を浴びせられた時もあった。

そんな旅を続けている時に勇気と出会った。

 

「やぁ、とても強いエルフがいると聞いてね。僕はファミリアを立ち上げる予定なんだけど、そのファミリアに入ってはくれないかな?」

 

●●●●●

 

「で、フィンと出会ったのか」

 

「ああ、その時は断ったが結局こうなってしまったよ」

 

「しかし、アリスたん。ごっつい勘違いしてるで」

 

「何がだ?」

 

ロキはアリスを叱りつけるような声で言う。

 

「親って言うのはなどんなことがあっても子供が可愛いんや。可愛くなかったら育ててないで捨ててる。産んだから親やないんや育てたから親なんや」

 

「何が言いたい?」

 

「アリスたんの親は絶対アリスたんを恨んでなんかない。断言してやる」

 

ロキは言い切り私に手紙を渡してくる。

 

「読んでみい」

 

震える手、読まなければいけない。きっと、読まないと前へ進めない。前へ進まないとフィン達に置いていかれる。

でも、怖いのだ。あの罵倒が今でも頭に過ぎる。あの時の悪夢を観て枕を濡らしていた。

 

「もし、罵倒が書いていたらうちが殴り飛ばしに言ってやる。それはフィン達も一緒や。たとえ、アリスたんが世界から嫌われてもうちらは絶対嫌わん」

 

「なんか、親みたいなこと言うんだね」

 

「知らんのか?ファミリアって言うのは家族なんや。神は親で眷属は子供や」

 

「わかった。読むよ」

 

ロキから手紙を受け取り中身を出す。

 

『アリスへ

まず、最初に謝らせて。

ごめんなさい。

あの時、貴方にとても酷いことを言ってしまった。本心ではないって言っても信じてくれないかもしれない。

アランが貴方を里から逃すと言った時、私は賛成できなかった。だって、愛しい子供を手放すことなんてできない。

息子が死ぬ日々、里の外では常に誰かが戦っている。

アリサはお勤めのためいつかその使命を全うする。

私には何も残らない。そう思った時貴方が産まれた。

嬉しかった、私の手元に残る唯一の子供だと。

貴方がやることなすことがどれも愛おしかった。

だから貴方が剣を取った時はとても怖かった。また、私の手から貴方がいなくなるのかと。

だから貴方を嫌うことにした。里にいれば戦い続けてしまう貴方を里から解き放つ。その時、きっと貴方を愛していたら引き止めてしまうから。

自分の心を偽り続けているうちに自分の本心がわからなくなってしまった。

愚かな母を恨んで構わない、憎んでかまわない。

でも、これだけは覚えていて。

私は、私たち家族は貴方を愛しているのだと。

母より』

 

「ぁ、ぁぁぁああああ!」

 

幼き頃の記憶が蘇る。

この世界に生誕して未知の世界にはしゃいでいた。

異端の行動を起こす自分は里に迫害された。そのことに泣く私を母は抱きしめて慰めてくれていた。

愛されていたのだ。長兄であるアランにも、母であるアリヤにも。こんなにも家族から愛されていたのだ。

 

「いっぱい泣きいや。声を出して泣けるってことは前へ進めるってことや。もう、溜め込んじゃダメやで」

 

ロキがアリスを抱きしめ幼子を諭すように背中をさする。

剣を取った日からアリスは声を出して泣かなかった。兄に嫌われた、母に嫌われた。それはとても悲しくて前世を持つアリスにも辛かった。誰にもバレずに布団にくるまって泣いていた。里を抜け出す時も声を出せなかった。いつしか、アリスは声を出して泣くことが出来なくかった。

 

「ぅあああ!」

 

「・・・」

 

泣くことは決して悪いことじゃない。

アリスはロキに抱きつきながら泣き続けた。長年の涙を流すかのように泣き続けた。

 

「子供って言うのは難儀なもんやな」

 

下界に降りてフィンに出会った。

アリス、リヴェリアを仲間に加えた。そして、ガレスも仲間に加える。それぞれの苦悩を知った。

野望を持つフィン、自由を求めたリヴェリア、衝動を求めたガレス、そして泣くこともできず迷いつづけたアリス。

ロキにとって前世を持つアリスが1番幼く見えた。

迷子なのだ、アリスという少女は迷子だった。だが、きっともう大丈夫だろう。また、迷うことはある。でも前へ進めるだろう。

 

●●●●●

 

「暑い」

 

その日は晴れていた。

無事、ガレスを仲間にした一向は次の行き先で揉めていた。

西だ南だ東だとそれぞれ行き先を主張する。

ぶっちゃけどうでもいいアリス。元々アリスは4年間世界を旅していた。そのためある程度の街には行ったことがある。

ロキはその3人を面白そうに見ており、アイナは止めなくていいのかおろおろしてる。

流石に終わらなそうなのでロキが仲裁に入る。

 

「アリスたん、こっちにきい」

 

ロキはアリスを呼ぶ。

アリスは4人の近くによる。

4人の手を取ったロキは手を一つに重ねる。

 

「「「「なっ」」」」

 

「ほい、引っ込めるんじゃないで。これから儀式を行う」

 

唐突な行動に声を上げる。

特にリヴェリアとガレスからは非難の視線が飛ぶ。

そんなことを気にしないロキは話を進める。

 

「これからするのは誓いの儀式や。この儀式するたびに思い出して欲しいんや。なんで、ファミリアに、冒険者になったのか。何かあるたびにこの儀式をして原点に立ち帰るんや」

 

ロキの言葉に納得する4人。

 

「熱き戦いを」「まだ見ぬ世界を」「一族の復興を」

 

「ほらアリスたんの番やで」

 

「家族のために」

 

迷い続けた幼き妖精は前へ進み出した。

迷い続け前へ進む、確かな誓いを胸に前へと。

 

 

 




一応は過去編は終わりです。
続くは分かりません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗黒期
剣姫


短いです。


「アイズどこにいる!」

 

初めての誓いから十数年が経った。

オラリオに居を構えて、今では二大派閥と呼ばれるまでに成長した。

つい先日ファミリアに加入した幼い少女アイズ・ヴァレンシュタインの教育係となったリヴェリアは脱走したアイズを探していた。

フィンに諭されてリヴェリアの授業を受けるようになったが1時間も経たずに脱走するのがファミリア内での恒例となっていた。

 

「どうした、リヴェリア?」

 

「戻ってきていたのかアリス、アイズを見なかったか?あの小娘め今日という今日は目上への礼儀を教えてやる!」

 

「アイズは見てない。ほどほどにしてやれよ」

 

「そうか、見つけたら教えてくれ」

 

リヴェリアはアイズを探しに立ち去る。

わずかにアリスのコートが揺れる。

 

「アイズ、もう行ったぞ」

 

「ありがとうアリス」

 

アリスのコートに隠れていたアイズが出てくる。

 

「今度はリヴェリアに何を言ったんだ?」

 

「また、おばさんって言っちゃった」

 

「・・・学習しないんだな、アイズは」

 

勉強初日にアイズはリヴェリアをおばさんと呼んだ。

その時いたロキの話によれば余りのリヴェリアの怒りに茶化すことも出来なかったらしい。

アイズは度々リヴェリアの虎の尾を踏む。

 

「だって、答えを間違えたらがみがみ言われて」

 

地頭が良くないアイズ。それにまだ7歳と幼いアイズに取ってリヴェリアの授業は退屈で難しかった。

何度も同じ間違いをする。わからないことを何度も根気よく教えてくるリヴェリアのことがアイズは苦手だった。

 

「リヴェリアもアイズのことが大切だから気にかけてるんだ」

 

「でも、あの人いつも私に指図する。あれはダメこれはダメって私に何もさしてくれない」

 

「そうか。でも、それはアイズのことが心配だからだ。今は街もきな臭い、あまり外に出てほしくないんだ」

 

暗黒期、ゼウスとヘラが都市を去り。身を隠していた闇派閥がオラリオを襲った。

街やダンジョンで闇派閥の襲撃が多発する今、ロキファミリアであるアイズは狙われやすい。そのため極力1人にはさせずにしている。

一方のアリスはその魔法の有用性から都市やダンジョンに魔物を放ち監視をしている。妖精歌唱により視覚共有の効果を追加し、自身と魔物の居場所を入れ替える効果を使い多くの人を救っている。緊急の場合はオラリオ全体に結界を展開して都市の市民達に防護魔法をかけている。

 

「アリス疲れてる」

 

常日頃から駆けずり回っているアリスは目に隈を浮かべている。アイズが前にアリスと会ったのは10日前になる。アリスは10日間ホームに戻らず闇派閥に対応していた。

 

「大丈夫だ、アイズ。そうだ、これをあげるよ」

 

「じゃが丸くん?」

 

「ああ、食べると元気がでる。リヴェリアには内緒だぞ」

 

アリスは紙袋に入っていたじゃが丸くんをアイズに一つ渡す。

アイズもこのじゃが丸くんが大好物なのだ。前にアリスがアイズが欲しいだけじゃが丸くんをご馳走して夕飯が食べれなくなったのを知ったリヴェリアはアイズとアリスに拳骨を落とした。それからは時より一つだけアイズにじゃが丸くんをあげていた。

 

「ここにいてはリヴェリアが戻ってくるかもしれない。どこかバレない場所で食べるといい」

 

「うん、ありがとうアリス」

 

アイズはじゃが丸くんを大事そうに持ち走っていく。

 

「わーるいんだーわーるいんだー。またアイズたんに餌付けしてる」

 

「ロキか?戻った」

 

「おかえりや、アリスたん」

 

眷属の久々の帰還に喜ぶロキ。

 

●●●●●

 

「ほい、完了や。相変わらずごっついステータスの伸びやな。闇派閥とそこまでやり合ったんか?」

 

「ダンジョンではアレクトとアパテーの連中とはよく出くわした。都市ではよく白髪鬼が暴れてるけど」

 

常に都市、ダンジョンを警戒しているアリス。アリスに救われた冒険者は多い。

 

「全く、ギルドの連中も無茶いいよる。ダンジョン攻略と闇派閥の対処をしろって。しかも、うちのアリスたんを酷使しすぎやで」

 

「仕方ない。ゼウスとヘラがいなくなった今、世界にオラリオの戦力がまだ健在なんだと知らしめる必要がある」

 

「だからってアリスたん1人に負担かけすぎやろ。アリスたんのおかげで被害が抑えられてるのもわかるんやけど」

 

アリスは身支度を済ませてロキからステータスの写しを受け取る。

 

レベル6

力:895

耐久:680

器用:1080

敏捷:2565

魔力:7525

アビリティ

破邪:B

魔導:D

精癒:E

剣士:D

耐異常:E

魔防:F

 

魔法

『オフレスキャ・レイコウス』

詠唱「創生」

怪物創造魔法

自身のイメージした怪物を魔力によって形成する

イメージが不確かな場合は不発する

精神力の消費量及び本人のレベルによって怪物の強さ、数が変動する

自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内での創造が可能

 

『スミーダ』

詠唱「創造」

武器創造魔法

自身のイメージした武器を魔力によって創造する

イメージが不確かな場合は不発する

精神力の消費量及び本人のレベルによって武器の質、強さ、能力が変動する

自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内での創造が可能

 

『ラグナロク・ハイリヒトゥーム』

詠唱「黄昏の時、空を染め尽くせ」

結界魔法

自身から一定距離(レベルによって変動)の範囲内に結界を構築する

結界内で任意での事象を起こす

 

スキル

【異界精神】

精神汚染への高耐性

精神力消費量の超削減

獲得経験値量の増大

 

【異界超越】

必要経験値の増大

ステータスの限界突破

 

【精神変換】

精神力を消費する代わりにステータスの向上

 

【魔力放出】

精神力を消費して武具の性能を向上

 

【妖精剣舞】

戦闘継続時間に比例してステータスの向上

 

【妖精歌唱】

任意にて詠唱文の追加を行い魔法の効果を激上、変化させる

 

【聖女祝福】

任意にて発動

聖属性と光属性の付与

自動にて治癒、解呪、解毒

発動時間に応じてステータスの超向上

アビリティ破邪の獲得

 

【眷属守護】

同眷属と共闘時にステータスの向上

 

「魔力が伸びすぎてる」

 

「そりゃあ、寝ずに魔法使ってれば伸びるわ。10日前から寝てへんやろ」

 

「18階層では少し寝た」

 

「ダンジョンでって、気が休まんやろ。ランクアップしててもおかしくないのにな」

 

「スキルでステータスは伸びやすいがランクアップはしずらい。その分貯蓄があるから助かっているが」

 

「必要経験値量の増大=偉業が高難易度だったからな」

 

ロキとしてはここいらで少しアリスを休ませたいと思っていた。たまに帰ってきて睡眠はとっているが3時間程度の睡眠しかしていない。

 

「主神命令や、魔物の監視はそのままでええから暫くはアイズたんの面倒を見てや」

 

「そんな暇「これも家族を助けるためや、アリスたんやってアイズたんが襲われて死ぬのはややろ?」それはずるい」

 

ロキに言い負かされて渋々引き受ける。

アリスは立ち上がり部屋を出る。

 

「アイズたんのことよろしくなぁ〜」

 

●●●●●●

 

翌日、

 

アイズは中庭で剣を振っていた。

フィン達の許可が無いとダンジョンに行けないため渋々1人で訓練している。

フィンやガレスがたまに稽古をつけてくれるが2人とも多忙のため今日は合わなかったのだ。リヴェリアも常につきっきりでは無い。今日はギルドに呼び出されたらしくホームにいない。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

剣を振っていたアイズは視線を感じた。

視線の先にはアリスがいた。静かにずっとアイズを眺めていた。

アイズは視線が気になって素振りを止める。

 

「?どうして止めるんだアイズ」

 

「アリス。そんなに見られるとやりづらい」

 

「そうか、それは済まない」

 

素直に謝るアリス。

 

「アリスはどうしたの?こんな時間からホームにいるの珍しいよね?」

 

「ああ、ロキにアイズの面倒を見てくれと言われてな。今日は闇派閥の動きもないようだからな」

 

魔物を通して都市を監視しているアリスは今のところ怪しい動きがないため久々に休んでいた。

 

「アリスが稽古つけてくれるの?」

 

「ああ、アイズが構わないなら稽古をつけよう」

 

「ならお願い」

 

アリスは腰に刺した刀を抜き鞘を掴み刀は壁に立てかける。

フィンに木の棒切れであしらわれた経験のあるアイズは油断しない。アイズ本人はアリスのことをよく知らない。アイズからしたらよくじゃが丸くんをくれる優しいお姉さんといった印象だ。同ファミリアの老兵ノワールからはファミリア最強の存在と聞いている。現オラリオでレベル6の2人のうち1人、最強の片割れ、オラリオ始まって以来の異才にて異端の存在。

そんなアリスに神々がつけた二つ名は【不動】。

ゼウスとヘラの全盛期、オラリオは他派閥との抗争に絶えない時代、そんな時代に当時レベル2を引き連れてやってきた新参のファミリア、ロキファミリアに目を付けた多くの他派閥達。小人族でありながら都市外でレベルを上げた傑物、ハイエルフという希少種属であり2つの魔法を有し2つで6つの効果を発揮する最強の魔導士の卵、ドワーフという力に優れた種族でその名に恥じぬ力を見せつける猛者、そして魔境である最奥の森を窮地から救った古代の秘術を宿した妖精。

レア中のレア者達を引き連れたロキファミリアは注目を集めたのだ。

娯楽に飢えた神々はそのレアモノを手にするべく抗争を仕掛けた。

アリスはその抗争でその特殊な魔法を使い一歩も動かずに他派閥を蹂躙してみせた。

アイズの印象とファミリア内、街の住民の印象は違う。

 

「さて、好きに仕掛けてくるといい。私の方からたまに反撃するが基本は受けに徹する」

 

「わかった」

 

両者が構えた。

アイズは早速仕掛ける。

アイズの猛攻を防ぎ、いなすアリス。たまにアイズが防げ、躱せるギリギリの攻撃を放つ。

フィン達との稽古で技と駆け引きを覚えつつあるアイズは単調な攻撃ではなく変化を加えてアリスを崩そうとする。

 

(なんで、届かない。確実に強くなったはずなのに当たらない)

 

「うん、だいぶ技も身についてる。悪くない」

 

アリスはアイズを弾き飛ばす。

距離が離れた2人。アイズは構え直す。

 

「次はこっちから仕掛ける。死ぬ気で防いで」

 

空気が変わったことにアイズは冷や汗を流す。

アリスの動きを逃さないためにアリスを注視する。

しかし、目の前にいたはずのアリスが消えていた。

 

「えっ⁉︎ッ⁉︎」

 

突然の現象に驚くが横からの斬撃に気づいたアイズは咄嗟に防ぐ。

 

「よく防いだ」

 

「今のなに?」

 

鍔迫り合いをしながら話す。

アリスは鍔迫り合いから流れるようにアイズの剣を逸らす。アリスの後方へと流されるように動かされる。後ろからの攻撃が来ると思ったアイズは咄嗟に振り向きながら斬撃を放つ。

 

「えっ、また」

 

しかしそこにはアリスが居ない。

そして、今度は後方からの斬撃に気づいた。

 

「うん、良いね。防御もそれなりに出来てる。でも、武器への労りが足りないから」

 

パリンとアイズの剣が砕けちる。

 

「ここまでだね」

 

「まだやれる!」

 

「だめ、そんなに打ち合ってないけどアイズは相当消耗してる」

 

言われて初めて気づいた。アイズの身体からは滝のように汗が流れており、手は震えている。息はあがっていて、体の疲労感も強い。

 

「少し、本気で打ち込みすぎた。ごめん」

 

手加減はされていた。きっと本気で打ち込んで来てたら一瞬で終わっていた。でも、それよりも一撃に乗っていた殺気にアイズは当てられたのだ。

 

「怖い」

 

死への恐怖。

ダンジョンでも味わったことのない体験をした。

 

「うん、ちゃんと恐怖してるね、それが死だよ。きっとアイズがこのまま戦い続ければそれは本当になる。それでも戦う?」

 

「死にたくない。でも、強くなりたい。そのためには戦わないといけない」

 

「なんで強くなりたい?」

 

「えっ?強くならないといけないから」

 

「なんでなりたい」

 

「・・・」

 

アリスの言葉に答えられなくなる。

モンスターを、あの黒竜を倒したい。

私に英雄は現れないから私が英雄になるしかないから。

でも、それは答えとは違う気がした。

 

「意味を持たない強さはただの暴力と変わらない。目的もなく意思もなく振るわれる力は他者を傷つける」

 

「・・・」

 

「私もそうだった」

 

「えっ?」

 

「幼い頃、強さを求められた。そして、私は強かった。認められたと思った。異端な私が初めて皆んなに認められたと。

そこからは強さを振るった。家族の心配なんて知らずに皆んなが褒めてくれるから。私は力を振るうことを他者の意思に委ねた」

 

「どうなったの?」

 

「破滅だよ。巨大な敵を前に無力だった。家族に庇われて家族を死なせて家族を狂わせた。前しか見えてなかった私は周りに大切なものがあることも気づかなかった。

意思なき力は巨大な力の前では無力になる。でも意思を持った力はちっぽけでも強い力になる。

知ってるかアイズ? そう言う力を持って偉業を成し遂げたモノ達の名を」

 

「わかんない」

 

「英雄と言うんだよ」

 

「⁉︎」

 

「今は迷うと良い。君は1人ではないんだから。

君には私たちがいる。君の中には君の親がいる」

 

「私の中」

 

アリスはアイズの胸を指して言う。

アイズは自分の胸を抑える。

 

「父親の言葉は君の中で生きている。母親の愛情は君の中で育っている。君が2人を覚えている限り2人は常に君とある」

 

「常に一緒・・・」

 

「今日の稽古はここまでだな。ちゃんと休むんだよ」

 

アリスはアイズの頭を撫でてその場から立ち去る。

アイズはアリスの言葉を聞いて確かな胸の温かみを感じていた。自分の中に母親を感じることはできない。でも、確かに何かあるのはわかった気がした。

 

●●●●●●

 

アイズが入団してから1年が経った。

相変わらず闇派閥は暴れ回っておりその対処にロキファミリアは追われていた。次回の遠征も迫っておりファミリア内は大忙しだ。

そんな時、アイズが消えた。ステータスの伸びが止まりランクアップ間近、しかしフィン達はアイズの危うさを読み取り方法を教えなかった。

 

「恨むなよ、ロキ。保険は多い方がいい」

 

1人の男神によってアイズはランクアップの方法を知った。

明確なリヴェリアへの拒絶。それはかつてリヴェリアが自分の父親に言った言葉と同じだった。リヴェリアは何も言い返せず離れていくアイズを見ることしかできなかった。

ダンジョンでの異変と闇派閥の襲撃。

フィンとロキの指示でリヴェリアとアリスはダンジョンに向かった。途中闇派閥の襲撃に遭い、リヴェリアのみを先行させて対処したアリスがリヴェリアに追いついた時には全てが終わっていた。

抱き合う2人を見てアリスは微笑んだ。

 

●●●●●

 

「この状況は何かな⁉︎」

 

「大丈夫、痛いのは最初だけ」

 

神ヘルメスは椅子に縛り付けられていた。

目の前には【不動】アリスがいる。

ヘルメスファミリアを訪れたアリスに団員はヘルメスを差し出した。

 

また、何かやったなこのバカ主神。

 

団員の心は一致していた。

街全体を監視しているアリスはよくヘルメスの企みを目撃している。普段は見逃すが度が過ぎてる場合は折檻をしに来るのだ。

一週間ヘルメスの顔は腫れ上がったままだったとか。




次はアストレアレコードにするか
それとも原作に行くか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

邪悪胎動1

アストレアレコードです。
結末は決めてるんですがそこまで行くのに長い。


暗黒期

闇派閥が暴れ回り冒険者を、市民を襲い回っている時代。

血と硝煙を都市に撒き散らし、都市に雲が掛かることが多かった時代。

 

「くっ、【不動】」

 

闇派閥の1人である者が地に伏せている。

街中で騒動を起こした闇派閥は突如として現れたアリスによって鎮圧されていた。

 

「あっ、アリス!また、出遅れたのね私達」

 

「アリーゼに、アストレアファミリア」

 

全てを片付けた後に赤髪の女冒険者が現れる。その後ろには後をついてきた少女達が見えた。

 

「そうよ!強く美しく完璧なアリーゼ・ローヴェルとは私のこと」

 

「おい、とうとう頭がおかしくなったのか? うちの団長様は」

 

「元からではないでしょうか」

 

「2人ともアリーゼはおかしくない!少しあれなだけだ」

 

「そこはしっかりフォローしてやれよ」

 

「皆んな、私が完璧だからって嫉妬しちゃダメよ」

 

「「イラッ」」

 

「お前達は相変わらず仲がいいのだな」

 

騒がしいアストレアファミリアに笑みをこぼすアリス。

 

「すまない。遅れた」

 

ガネーシャ・ファミリア団長、シャクティ・ヴィルマが団員達を引き連れてきた。

 

「シャクティ、後は任せた」

 

「ああ、すまないアリス」

 

「えぇー、もう行っちゃうのアリス?リオンが寂しがるわよ」

 

「なっ、私は寂しくなどない!」

 

「リュー、暇ができたら伺う」

 

「アリスさんも子供扱いしないでください!」

 

リューの頭を撫でるアリス。

リューは顔を真っ赤にしながらも手を払い除けようとはしない。

 

「リューってアリスのこと拒まないわよね?」

 

潔癖なエルフでも特にそれが顕著なリューはアリーゼ以外の人と触れ合うと拒絶反応を起こしてしまう。

アリスとはアリーゼと同様に触られてもなんともないのだ。

 

「アリスさんは恩人で、その、憧れでもある・・・」

 

リューの声が小さくなる。

里を飛び出したリューは勢いのまま飛び出したため旅の準備もまともにしておらず、ましてや世間知らずで潔癖なためか他種族を頼ることができずに途方に暮れていた。

リューが飛び出したことを知ったリュミルアの森の族長は知人であるアリスに手紙を出しリューの面倒を見てもらうように頼んだ。

行倒れ寸前だったリューをアリスが見つけてオラリオまで連れてきた。

オラリオに着いたら逸れた2人だったがアリーゼがリューを助けてそのままアストレアファミリアに入団した。

リューにとってアリスは命の恩人であり先達者として憧れでもある。

 

「リューったら可愛い!」

 

「こら、抱きつくなアリーゼ」

 

リューの態度を見てアリーゼが抱きつく。

 

「じぁ、私は行くよ」

 

アリスはその場から立ち去る。

 

●●●●●

 

「これがガネーシャ・ファミリアからの報告書になります」

 

「ありがとう、ラウル」

 

若い少年ラウルから報告書を受け取ったフィン。

ラウルはフィンに一礼して執務室から立ち去ろうとする。

 

「ラウル、君は幾つになった?」

 

「?14っすけど」

 

呼び止める声に不思議そうに答える。

それを聞いたフィンは少し考えて笑みを浮かべる。

 

「そうか、呼び止めて悪かった。もう行っていいよ」

 

「はぁ、失礼します」

 

首を傾げながらも今度こそ退出するラウル。

 

「フィン、なぜラウルの年齢を聞いた?」

 

「他意は無いよ。ただ、少し麻痺していると思ってしまってね」

 

執務室にいたリヴェリアの問いかけにフィンは背もたれに体重を預けて答える。

 

「息をするように人が死ぬ。悲鳴が絶えることのない無法地帯。成人もしてない子供が戦場に駆り出される状況に」

 

「致し方ない、と済ませていい問題ではないな。だが、ラウル達は裏方、せいぜいが戦場での支援程度にすませている」

 

「それでもだよ、リヴェリア。この状況を招いたのは紛れもない僕たち、いや僕だ。それに若いラウル達を突き合わせるのは気が引ける」

 

闇派閥が活発に活動し出したのはゼウスとヘラが去った後。

ゼウスとヘラを追い出したのはロキファミリアとフレイヤファミリア、元々フレイヤはヘラと因縁があったが今回の件で指示を出したのはフィンだ。野望のために邪魔だった二大派閥を片付けるために。

抑止としては心許ない戦力だったロキとフレイヤ、そのためかオシリスが去った後、なりを潜めていた闇派閥が動き出した。

 

「現状、秩序側の勢力が優っているがそれはアリスのお陰でもある」

 

今この場にいない自派閥の幹部の一人であるアリス。彼女は都市内外、ダンジョンを駆けずり回り闇派閥の対処に当たっている。

 

「全く、お前はアリスに負担をかけすぎている。この前会った時など、見てられないほどやつれてたぞ」

 

「それは本当にすまないと思っている。でも、彼女という切り札があるから僕は前へ進める。僕は多くの者を犠牲にし、取りこぼし続けるだろう。でも彼女は僕が見捨てた者を守ってくれる、取りこぼしたものを拾ってくれる」

 

フィンはアリスに絶対的な信頼を置いている。

そんなフィンにリヴェリアとガレスは呆れたように苦笑いを浮かべる。

 

「全く、嫉妬してしまうほどお主はアリスに惚れ込んでおるの」

 

「ああ、全くだ」

 

「そうだね。彼女が小人族ではないのが悔やまれるぐらいには惚れ込んでいるよ」

 

フィンは二人の茶化しに苦笑いを浮かべながらも同意する。

フィン・ディムナはアリス・グレイという存在に惚れ込んでいる。

アリスに初めて会った時、フィンは彼女の強さにしか興味がなかった。しかし、共に過ごすうちに彼女の心の強さを知った。

彼女は多くの命を救った、見返りも求めず。時には罵倒されているときもあった。それでも誰かの笑顔のために彼女は走り続けていた。

そんな彼女にフィンは勇気を見た。自分が持つ偽物ではなく本物の勇気、時には蛮勇とも思われる行動を彼女は勇気に変えて見せた。

そんなアリスだからこそフィンは無償の信頼を置けるのだ。

 

それから軽い談笑をしていると窓が開きそこから人が入ってくる。

 

「今、戻った」

 

「お前はいつも正面から帰って来れないのか」

 

「面倒」

 

窓から入ってきたアリスにリヴェリアは呆れた声を出す。

それをお構いなしに執務室のソファに座り紙袋に入ったじゃが丸くんを取り出して食べる。

 

「さて、アリス。最近、闇派閥の動きで怪しいことはないかい?」

 

「? いつも通り、少し襲撃の規模が落ち着いてきてる感じ」

 

「そうか、ガネーシャファミリアの報告と相違ないな」

 

フィンは先ほどリヴェリア達と話していた内容をアリスに話す。アリスから何かしら聞ければ闇派閥の今後の動きも予想できたが特に成果はなかった。

 

「あっ、そう言えば」

 

「?」

 

アリスが何か気づいたようで声を出す。

一同アリスの言葉を待つ。

 

「最近、調教師を見かけてない」

 

「「「⁉︎」」」

 

アリスの言葉を聞いたフィンは再度ガネーシャファミリアの報告書を見返す。リヴェリアとガレスはギルド、アストレアファミリアからの報告書を取り出して内容を精査する。

 

「?」

 

急に慌ただしく動き出した3人に首を傾げながらじゃが丸くんを頬張る。

 

「やはり、リヴェリア、ガレスそっちもどうだい?」

 

「ギルドの報告書には見当たらない」

 

「こっちもじゃ。一時期頻繁に起きていたものがここ最近なくなっておる」

 

報告書の確認を終えた3人は目的の報告が一切ないことに気づく。

 

「全く、アリスに言われて気づくなんて僕もヤキが回ったよ」

 

「いや、私もガレスも気づいてなかった」

 

「そうじゃの、襲撃されることが当たり前すぎて中身まで目が回らんかった」

 

3人は妙に納得する。

 

「何があったの?」

 

3人だけで考えがまとまっている中、何の話をしているかわからないアリスは率直に尋ねる。

 

「闇派閥が冒険者狩りをする中で最も卑劣で残酷な方法、怪物進呈が最近の報告に上がってない」

 

「モンスターを使ってない」

 

「ああ、そうだ。考えられるのは戦力の蓄え。闇派閥の構成員の殆どはレベル1だ。モンスターの方が戦力になる。決戦に向けて戦力を蓄えている。そして、決戦を決行する戦力が彼方に着いたと考えるべきだ。アリスやオッタルを超える強敵がね」

 

フィンは親指を押さえながら見解を述べる。

さっきまで働いていなかった自分の勘が戻ってきたかのように働いている。

麻痺しているのは思考だけではなく勘も麻痺していた。この現状が当たり前と思いすぎて危機感が抜けていたことに反省する。

 

「考えられるのはレベル7、オシリスファミリアの帰還」

 

「だが奴等は主神を失ってから消息を絶っている。生きてるかも不明だ」

 

「リヴェリアの言う通りじゃ。それにあやつらが大人しく今の闇派閥に従うとは考えられん」

 

フィンの見解にそれぞれの意見を述べる。

 

「今までいなかった神が闇派閥にいる、と思う」

 

「アリスの言う通りだ。策略、陰謀にたけた神が知略を授けた。今まで、娯楽のために虐殺を好んだ神と違い明確な目的を持った神が居る」

 

「全く、神という奴は傍迷惑な奴らばかりだな」

 

リヴェリアは微かに傷んだ頭を抑えて自身の主神を思い浮かべる。

 

「リヴェリア、ガレスは街の警戒を強めてくれ。アリスは逆に魔物の数を減らして決戦にむけて精神力を回復してくれ」

 

「わかった」

 

●●●●●

 

フィン達と話し合った次の日、アリスはホームの中庭で休んでいた。

 

「・・・」

 

「アリス?」

 

目を閉じて身体を休めているとアリスを呼ぶ声が聞こえた。

目を開けて顔を上げると金髪の少女が覗き込んでいた。

 

「アイズ・・・」

 

「寝てたの?」

 

「半分寝てた。熟睡すると魔物達が消えちゃうから」

 

アイズはアリスの隣に腰を下ろす。

アリスは寝ていて固まった身体をほぐすように背を伸ばす。

 

「アイズは今日はホームで鍛錬か?」

 

「うん、皆んな忙しくてダンジョンも行けないから」

 

アイズが入団してから時間が経ち、レベル3となった。最近では戦闘狂いもなりを潜めつつリヴェリア達の言うことをある程度は聞くようになっている。(相変わらずモンスターは爆砕しているが)

 

「私も戦えるのに」

 

都市で闇派閥が暴れておりその対処にファミリアが追われているのを知っているアイズは自身も役に立てるのにホームに閉じ込められている現状に不満を持っている。

 

「そうか、でもこう言うのは大人の私達が請け負うものだ」

 

「でも」

 

「それにアイズはまだ対人戦は不慣れだからな。人と戦うこととモンスターと戦う事は違う」

 

モンスターを大量に倒してきたアイズ。しかし、人と戦った経験はファミリア内での模擬戦と昔にイシュタル・ファミリアのフリュネ・ジャミールに襲われた時程度。

戦闘経験を抜きにしても幼いアイズを戦わせたくないリヴェリア達、闇派閥の中にはアイズと年の変わらない信徒が居る。もしもの時は殺さなければならない。そんなことをアイズにはさせたくなかった。

 

「人を殺すことになるかもしれない。心ある者を殺すことは自分の心を削ることだから」

 

「だから、アリスは殺さないの?」

 

「ッ⁉︎」

 

幼子の指摘にアリスは動揺する。

 

「皆んな言ってた。アリスは皆んなを救ってるけど闇派閥も殺さないようにしてるって」

 

アリスは闇派閥と何度も戦っている。

幹部の撃退に成功はしているが撃破はしてない。ましてや、逃げられている。高位の冒険者になるほどに耐久は高くなる、アリスでも傷つけずに無力化は一苦労なのだ。

 

「そうだな。私は私のために人を殺すことを躊躇っている。人を殺してしまえばいずれその行為に慣れてしまう」

 

いつからか武器を振るうことに躊躇いがなくなった、いつからか凶器を生き物に向けることに迷いがなくなった、いつからかモンスターを殺すことに何も感じなくなった。そして、いつかはきっと人を殺すことに心を痛めなくなる。

 

「仕方ないからと人を殺して殺して殺し続ければ、私は狂ってしまう気がする」

 

アリスは自身の両手を眺める。

別に1人も殺してきてないわけではない。最初の頃は人との戦いが不慣れで殺してしまった時もある。殺さなければ多くの命を救えなかったから殺した時もある。この手はもう血に染まっている。だからこそこの手に染み付いている血が見えなくなる自分を恐れてしまう。

 

「大丈夫、アリスには皆んなが、私がいるよ」

 

アリスの手を握るアイズ。

アイズの手から温かみを感じ取る。自身より小さい手は自身よりとても温かい。

 

「ああ、ありがとうアイズ。アイズがいるから私達はがんばれる」

 

「?」

 

守りたい存在、家族。

それは確かにここにあるのだから。

 

●●●●●

 

「フレイヤファミリアからの報告とガネーシャファミリアからの報告を見るに少なくとも2人は主戦力がいると考えられるね」

 

執務室に集まったフィン、リヴェリア、ガレス、アリスの4人と主神ロキの一柱。

5人は定期的に集まって近況報告をしている。そして、つい最近二つの派閥からある情報がもたらされた。

 

「儂も現場を見たがあれは魔法ではなく物理によるものと考えられるの」

 

「私の方も魔力の残滓が残っていた」

 

フレイヤファミリアからの報告現場はガレスが、ガネーシャファミリアの現場はリヴェリアが確認している。

 

「つまりはその犯人は別者ちゅーわけか」

 

「両方に長けた人かもしれない」

 

犯人は別人と決めつけた考えにアリスは意義を唱える。

実際、やろうと思えばできると確信しているアリス。

 

「そんなことできるのは君ぐらいだよアリス。流石にアダマンタイトの壁を魔法なしで壊す魔導士はいないよ」

 

フィンは苦笑いを浮かべながら否定する。

リヴェリア達もフィンの意見に賛同なのか規格外なアリスに常識を知れと言った視線を向ける。

 

「さて、話を戻すけど。その2人の人物の情報と一致する人物が頭によぎった。ただ、なんで彼等が闇派閥に与したのかがわからない」

 

「復讐ちゃうんか?実際、うちらは恨まれることをしとるしな」

 

「確かにそれならわかるけど、あの2人はそんなことのためにこんなややこしいことをしてくるかな?真正面から乗り込んでくる光景の方がしっくりくるよ」

 

2人が所属していた派閥は自身達によってこのオラリオから姿を消した。

 

「【暴喰】のザルド」

「【静寂】のアルフィア」

 

ガレスとリヴェリアがそれぞれの名を口にする。

2人とも浅からぬ因縁をもつ。何度も戦い苦渋を飲まされた相手だ。

 

「アルフィア・・・」

 

アリスは懐かしい名を聞いて昔を思い出す。

 

「3人とも感傷に浸るのはいいけど。彼等が敵に回ったことを忘れないでね。特にアリス、彼女との仲は知っている。闘いたくはないだろうけど彼女の相手をできるのは君だけだ。剣を鈍らせないようにしてほしい」

 

「わかっている」

 

アリスは鞘におさまった刀を強く握りしめる。

そんな様子を見てリヴェリアはフィンに問いかける。

 

「別にアリスじゃなくてもいいだろう。私とガレスが2人がかりでアルフィアを抑える」

 

「そうじゃのう、ザルドはオッタルに譲るとするか」

 

「全く、毎度の如く僕を悪者にしようとするのはやめてくれないかい。わかった、2人に任せるよ」

 

フィンはやれやれと言った感じに苦笑いを浮かべる。

 

「まあ、きな臭いことには変わりないちゅーことや。2人を連れてきた神の正体もわからへん。今後何が起きるかはうちでも予測できないわ」

 

「でも、目的はわかる」

 

「「「「?」」」」

 

アリスの呟きに一同が首を傾げる。

 

「オラリオの崩壊、私たちはそれを阻止するために全力で戦う」

 

アリスの答えに一同が笑みを浮かべる。

 

「よっしゃ、景気づけにいつものやっとくか」

 

ロキの提案にフィンとガレスは賛同し、リヴェリアは肩をすくめながら手を前に出す。アリスも無言で手を重ねる。

 

「熱き戦いを」「まだ見ぬ世界を」「一族の復興を」「家族のために」

 

決戦まで残り数日



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

邪悪胎動2

本日2話目です


「さて、アリーゼ達が動き出した頃合いか」

 

各主力ファミリアが闇派閥の拠点を強襲するなかアリスはもしもに備えて遊撃の任についていた。

アリスは前世の記憶にあるとある少女の運命を変えるために街中を駆けていた。

 

●●●●●

 

2日前

 

ギルド本部にて多くの人が集まっていた。

 

「各ファミリア代表が揃った。これより定例の闇派閥対策会議を行う」

 

ギルドの奥に位置する会議室。100人以上が囲める円卓に各ファミリアの団長、副団長あるいは幹部達が囲んでいた。

歴戦の上級冒険者達の前に、肥えたエルフギルド長ロイマン・マルディールは粛々と会議の開始を告げた、と思いきや。

 

「ーーーその前に、現状の体たらくはなんだ。連日のように

襲撃は絶えず、この前は大規模な奇襲さえ許しおって!」

 

怒号が部屋になりびびく。

 

「相変わらずうるさい豚さん」

 

そんな中、アリスは耳を押さえながら本人に聞こえないように呟く。それを聞き取ったアリーゼは笑いを必死に抑えてる。

 

「さっさっと害虫を駆除してえなら、闇派閥を追ってダンジョンも攻略しろなんて間抜けな注文を押し付けるんじゃねぇ豚!」

 

唾を飛ばしながら怒号を鳴り響かせるロイマンに対して殺気を飛ばす猫人の青年、アレン・フローメル。

 

「『遠征』に行った帰りに都市中を走りまわせやがって。頭の中まで贅肉つまってるんじゃねぇーか」

 

「仕方なかろう。ゼウスとヘラがいなくなった今、都市内外にオラリオの力を喧伝するのが急務!でなければ、第二、第三の闇派閥を生み出しかねん!」

 

殺気を飛ばすアレンになんとか言い返すロイマン。

その言葉に耳が痛いねと苦笑いを浮かべるフィンと微かに表情が動くオッタル。

そこからはロイマンとアレンの言い争い。

流石に話が進まなくなるのでフィンが仲裁に入る。

 

「アレン、やめよう。話が進まない。僕たちが率先していがみ合う必要はない」

 

「その口で俺の名を呼ぶんじゃねぇ。小人族、虫唾が走る」

 

派閥間に存在する敵対視の発露に、リヴェリアが目をつまり言い返す。

 

「意思の疎通さえできない眷属の態度、神フレイヤの品性が疑われる」

 

「殺されてぇのか、羽虫」

 

ロイマンに向けていた殺気とは比べ物にならないほどの殺気をリヴェリアに飛ばすアレン。

その場に緊張が走る。ことの発端であるロイマンは冷や汗が止まらない。

この場に慣れたシャクティとオッタル、ガレスは平然としている。フィンは抑えてと手で2人を静止し笑顔を浮かべる。

アリスに関しては片目を瞑り街中にいる魔物達と視覚を共有して外の風景を楽しんでいる。

 

「もう帰りたい、なんで初っ端から殺気が行き交ってるんですか、この会議」

 

「これはいつも通りですから。気にするだけ無駄かと〜」

 

今回会議に初参加のヘルメスファミリア副団長のアスフィ・アル・アンドロメダ。痛み出した腹部を抑えながらアストレアファミリア副団長のゴジョウノ・輝夜の言葉に「無茶言わないでください」と返す。

その中にアリーゼが加わりアスフィがキレて騒ぎ出す。

その光景に「なんでこの状況で騒げるの?」と他の冒険者達の眼差しが殺到する。

 

「ロイマンを庇うわけではないが、先の奇襲を食い止められなかったのは儂の責任だ。詫びのしようもない」

 

騒がしいアリーゼ達を無視して口を開いたのはガレス。

会議室の視線がガレスに集まる。

それに擁護するようにシャクティが続き話が進む。

爆弾の話が出てきて他の冒険者達も興味を示す。

 

「なるほど、理解しました。ですが、先に情報は共有して欲しかったものですが」

 

爆弾の説明を受けて輝夜が難癖を示す。

 

「あくまで予想にすぎなかったからね。それに警備を厳重にしすぎると敵の動きが誘いにくくなる」

 

「勇者様の中では先日の奇襲は予定調和であったと?犠牲者の数も算盤を引いて、小を切り捨てたので?」

 

闇派閥の幹部、ヴァレッタが率いた炊き出しの襲撃は『陽動』で、フィン達が敵の『本命』の敵部隊を先んじて制圧したのは周知の事実。そのことに輝夜は避難している。

 

「そこの【不動】さまが動いていればあそこまでの被害が出なかったのでは?」

 

「彼女は最近働きすぎでね。疲労の色が強かったから暇を出してたんだよ」

 

「はっ、最大派閥様はこの時期に団員を休ませる余裕があるとは私達弱小派閥にはとても真似できない話ですね」

 

「君たちアストレア・ファミリアの活躍はよく耳にしてるよ。なんなら、1日ぐらい君たちが休めるように僕たちの方から手伝いを出そうかい?」

 

非難を浴びせる輝夜とそれを軽々しく流すフィン。

輝夜やアレンなど一部冒険者は厳しい視線を向けるが今回の件は最大公約数を取ったフィンを明確に責められる者もいない。ましてや、今まで闇派閥の対処に尽力してきたアリスに助けられた冒険者はこの中でも数多くいる。そんな彼女達を声を大にして非難できない。

 

「はい、この話はヤメ!わたしこんな不景気な話を聞きたくないわ!嫌な気持ちになってお菓子をやけ食いしていまいそう」

 

一向に話が進まない中、空気を読まない能天気な少女がやかましい声をばらまく。

 

「だって、そうじゃない。みんな都市を守るために最善を尽くしてるのに、それを責め合うなんておかしいわ!」

 

その言葉に全ての者が目を見開く。

アリーゼ・ローヴェルという少女は空気を読まなくて人をイラつかせることが多いが、こと人を惹きつける才能は人一倍高い。

そこからはフィンが議長となって会議が進んだ。

 

「さて、僕から話がある。敵に相当な手だれがいる。それは間違いないね、オッタル、シャクティ」

 

会議が終わりに差し掛かり最後にフィンはある報告をしようとする。

 

「ああ、少なくともレベル6以下は有り得ん」

 

アダマンタイトの壁にできた大穴を見たオッタルはその力を見て見当を立てる。そして、ある答えが頭によぎる。

オッタルの言葉に場が驚愕する。現状都市内での最高レベルは6が2人。それが敵側にも出たとなると戦力差が覆る可能性もある。

 

「我々も『倉庫』制圧の際に、正体不明の女と遭遇した。魔導士、あるいは魔法剣士だと思われる」

 

シャクティも先日の『闇市場』制圧の際に目撃した人物を述べる。

 

「シャクティ、リヴェリアから報告は聞いているんだけど、その女は【福音】と詠唱したんだね」

 

「ああ、そうだ」

 

「ッ⁉︎」

 

シャクティの返答にオッタルは目を見開く。そして、自身の考えが正解なんだと気づく。

他のものはなんのことかわからずにざわめき出す。

 

「混乱を招くことは言えない。オッタルとロイマンは済まないが会議が終わっても残ってくれないかな」

 

フィンの言葉に頷くオッタルと事態の深刻さに冷や汗が止まらないロイマン。

2人とも叫びたいほど動揺しているが必死に隠している。

 

「さて、本題に入ろうと思う。ヘルメス・ファミリアの偵察によって、闇派閥の新たな拠点が見つかった」

 

「「⁉︎」」

 

目を見開くアリーゼと輝夜の反応を追うように他の冒険者も驚きをあらわにする。

ヘルメス・ファミリアを代表してアスフィが偵察で得た情報を説明する。

 

「今回見つかった三つの本拠地を同時に叩く」

 

「一つはアストレア・ファミリアが行くわ」

 

フィンが攻撃の意思を示したと同時にアリーゼが席を立ち名乗りをあげる。

 

「まだ、僕は何も言ってないよ」

 

「本拠に突入するファミリアを募るんでしょ?ロキとフレイヤはばらけるとして残り一つは余る。なら私達が受け持つわ!機動力なら負けないもの!」

 

苦笑いするフィンに、身を乗り出す。

その姿に黙っていたシャクティも動き出す。

 

「我々もアストレア・ファミリアと連携する。それなら頭数も十分だろう」

 

「わかった。なら、予定通り一つは僕たちが受け持つ。もう一つはオッタル頼めるかな」

 

「いいだろう・・・」

 

フィンの視線に頷くオッタル。

二大派閥の作戦参加に士気が高まる冒険者の中、冷静に、鋭く双眸を細める輝夜。

 

「腰を折るようで恐縮ですが、罠の可能性は?」

 

「十中八九罠だろうね」

 

「⁉︎」

 

フィンの言葉に場の一同が固まる。

先ほどまでの士気の高まりが下がる。

 

「三つの本拠は囮の可能性。もしくは、僕たちを誘い込むための罠。なんにせよ僕たちは現状を打破するためには攻め込むしかない」

 

「死地へ私たちを送ると」

 

「爆弾にレベル6以上の強敵が出てきた今、どこも死地だ。もし死にたくないなら都市から逃げ出すことを勧めるよ」

 

「ッ、」

 

輝夜は目の前の腹黒小人族を睨みつける。

後出しにも程がある。アリーゼが本拠襲撃に名乗りを上げることも見越していたのだ。それに今の話を聞いても撤回することはないことを理解している。

 

「今回は先の問題が多い状況での襲撃だ。だから、アリスには有事の際に自由に動き回れる戦力として遊撃に徹してもらう」

 

爆弾と強敵の二つ。

それがどこにあるのかいるのかわからない状況での襲撃。

そして、あまりにも都合が良すぎる3つの本拠地の発見はフィンの親指を疼かせていた。

フィンの提案に一同が安堵する。【不動】アリス・グレイがいるのならば最悪は免れると信じて疑わない。

 

「ロイマン、有力派閥に他の区画にも目を光らせるよう協力の要請をしてくれ」

 

「仕方あるまい。都市の平和のためだ」

 

「襲撃は三日後とする。それでは解散」

 

フィンの合図とともに席を立ち部屋から出ていく冒険者達。

その場に残ったロキファミリアの一同とオッタル、ロイマン。

 

「さて、本題に入る前に彼女は報告してたかいアリス」

 

フィンはアリスに問いかける。

その問いにアリスは頷き答える。

 

「もうすぐ、来ると思う」

 

アリスが答えるとともに扉を何者かが突き破る。

そのことにオッタルとロイマンは身構えるがロキファミリアの一同は動揺していない。

入ってきたのは一匹のオオカミ。その大きさは巨体なオッタルをも覆い隠せそうな黒いオオカミであった。オオカミは1人の女性を咥えていた。

 

「なっ、アリス・グレイ。なぜ彼女を襲わせた」

 

オオカミがアリスの作り出した魔物であること、そして女性がギルド職員であることに気づいたロイマンは声を上げる。

 

「『内通者』だから」

 

「⁉︎」

 

「ロイマン、すまないね。アリスの魔法で今回の会議に出席した冒険者とギルド内の職員を調べさせてもらった」

 

アリスの魔法、【ラグナロク・ハイリヒトゥーム】は結界魔法。その効果は結果内のであらゆる事象を行う。

事象の出力は本来なら短文詠唱程度の威力しか出ないが妖精歌唱の効果により追加詠唱を行うことで効果、出力を変化できる。アリスが【探索、索敵】と唱えることにより結界内の人の位置や情報を読み取ることができたのだ。

 

「闇派閥は決戦を行おうとしてる。僕がヴァレッタなら今まで使わなかった『内通者』を使う。この日のために使わなかった切り札の一つを切るだろうと思ってね」

 

「全く、【殺帝】とお主は嫌いあっておるのに何故かお互いのことを理解しあっておるの」

 

「ガレス、やめてくれ鳥肌がたつ」

 

ガレスの呟きに冗談じゃないと即答するフィン。

彼の腕には本当に鳥肌が立っており、件の【殺帝】ヴァレッタも寒気がしたらしい。

 

「アリス、今から各ファミリアに作戦は2日後に変更と知らせてくれ」

 

「わかった」

 

アリスはオラリオ上空に飛ばしていた鳥の魔物達へと指示を出す。囁き鳥と名付けた魔物達はアリスの意思を声に出して報告してくれる。

 

「さて、彼女の処遇はロイマン任せるよ」

 

「・・・わかった」

 

ロイマンは顔を色を悪くする。

会議頭で冒険者を叱りつけたが、まさかギルドに裏切り者を出したとなれば責任追求は免れない。

 

「さて、本題に入ろうか」

 

「「・・・」」

 

フィンの言葉に2人は身構える。

 

「本当に【暴喰】なのか」

 

オッタルは重い口を開きフィンに問いかける。それに答えるようにフィンが頷く。

 

「まさか本当に【暴喰】と【静寂】、ゼウスとヘラが寝返ったのか」

 

ロイマンはその事実に動揺する。

 

「私とガレスが現場を確認した。現場には【静寂】特有の魔力の残滓を感じ取れた」

 

「儂もあの斬撃には見覚えがある。オッタル、お主も薄々は勘づいておろう」

 

リヴェリアとガレスが答え、ガレスの問いにオッタルは黙って頷く。

 

「どうするのだ。相手はレベル7。戦力が完全に逆転したぞ」

 

「対策はない。時間が無さすぎる。だからアリスを遊撃に置いた。アリスかオッタル、もしくは僕たちが2人または3人がかりで対処するしかないだろうね」

 

フィンの言葉にロイマンはそれしかないかと落胆する。

 

「話は以上だ。今の話は決して口外しないように頼む」

 

●●●●●

 

「おい、【顔無し】。作戦を明日からでも出来るようにテメェの主神様に伝えとけ」

 

椅子に腰掛ける【殺帝】ヴァレッタは闇派閥の幹部【顔無し】ヴィトーに告げる。

 

「おや、内通者の報告では3日後では?」

 

純粋な疑問を告げる。

 

「はっ、フィンの野郎のそばにはあの忌々しい【不動】がいやがる。あいつがいる限り内通者の存在は気づいてるはずだ。この情報もブラフの偽情報を掴ませるためのものだろうよ」

 

「そこまでわかるとは、まるで両思いの恋人同士みたいですね」

 

「気色悪いこと言ってんじゃねーよ。ぶっ殺すぞ!」

 

ヴァレッタはフィンの策略に気づいていた。

フィン自体も完璧に誤魔化せるとは思っていない。

これで、状況は五分と五分になった。

 

決戦は2日後、

秩序と混沌が交わろうとしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

邪悪胎動3

なんとか間に合った。
邪悪胎動はこれで終了。
次は正義失墜なんですけどストックが無くなったので投稿が不定期になります。
絶対アストレアレコード分は終わらせるので、
暖かい目でお待ち下さい。



【殺帝】は笑っていた。

使えない信徒の1人が糞忌々しい冒険者の1人を道連れにしたのだ。

邪神に惑わされた愚かな少女がガネーシャ・ファミリア所属の冒険者【象神の詩】アーディ・ヴァルマを巻き込んで自爆した。

ヴァレッタは歓喜か、リュー達秩序側は絶望した。特にアーディの姉シャクティは槍を取りこぼして呆然としている。

 

「大丈夫かアーディ」

 

「大丈夫です」

 

しかし、爆炎の中から2人の声が消えてくる。

 

「はっ?」

 

「えっ⁉︎」

 

ヴァレッタはその不可解な現象に首を傾げ。リュー達はその声に気づいた。

煙が晴れその場にいたのはアーディと自爆した少女を抱えるアリス・グレイの姿があった。

誰にも気づかれずにこの現場に忍び込んだアリスは爆発する爆弾を少女から切り離しその爆発と爆風を剣圧によって防いだのだ。

 

「ふっーーーー、ざけんじゃねーーーーーーー!この糞アバズレがー!」

 

ヴァレッタは叫び声を上げる。

ヴァレッタにとってアリス・グレイは憎悪の対象だった。策略を練りに練った作戦を毎度のことに理不尽に防いでいたアリス。戦闘の際にはこちらのことを殺さないように手を抜かれていることにも気づいた。

存在そのものがヴァレッタは気に食わなかった。

 

「ヴァレッタ様、街中の信徒達が自爆を決行してますが魔物達に冒険者や市民への被害が食い止められています。それに爆発による建物の被害がありません!」

 

「ッ⁉︎」

 

ヴァレッタは外の空を見る。

夜中である空は黄昏の色をしていた。都市全体を囲む魔法陣が光り輝いていた。

【ラグナロク・ハイリヒトゥーム】により構築された結界陣が空を照らしていた。

アリスが使ったのは防護魔法、街と市民に被害が出ないように防護魔法をかけたのだ。

【不動】の真骨頂は単身のつよさではなく戦域を支配することに長けている。

 

「野郎ども、自爆しろ!」

 

「もう遅い」

 

ヴァレッタは瞬時に指示を出すがもうすでに遅く。

少女をアーディに託したアリスの身体が一瞬ぶれたと思いきや信徒達が気絶し出す。

 

「〜〜〜引くぞ!」

 

レベルで勝っていた現状がアリスの登場でひっくり返された。ましてや、秘策の自爆攻撃が効かないとなるとこの場は不利と考えたヴァレッタは撤退の合図をする。

 

「待ちなさい!」

 

「待って、リオン」

 

リューが追いかけようとするがアリーゼが止める。

 

「アリスが被害を食い止めてくれてるけど街中は混乱してるはず、まずは市民の誘導が先よ」

 

「しかし、今やつを逃がすわけには」

 

「私が行く」

 

2人の会話にアリスが入る。

アリーゼはアリスの提案に頷き任せる。

アストレア・ファミリアは避難誘導に、ガネーシャ・ファミリアは避難誘導及びこの場で気絶している信徒達の対処にあたった。

 

●●●●●

 

「おいおい、いいのか私ばっか追いかけて」

 

屋根の上を走り逃げ回るヴァレッタ。

それを追いかけるアリス。

アリスの進路を妨害しようと数多くの闇派閥が立ち塞がる。それをアリスは峰打ちで気絶させながら前へ進む。苦戦はしてないが一向に距離が縮まらない。

 

「あの糞メスガキどもが私のところに来たってことはあんたのお仲間のところには【暴喰】か【静寂】がいるぜ。今頃死んでるかもな?」

 

ヴァレッタは逃げながらも挑発を辞めない。

ヴァレッタが生粋のサディストであるのも含めるが、その挑発に逆上して視野を狭れるのが目的でもある。

 

「お優しい【不動】さまのことだ。仲間を見捨てられない、私たち闇派閥を殺さないお前はとんだ偽善者だよ!」

 

アリスは止まらない。

どれも事実だ。家族が大切だから今からでも駆けつけたい。目の前の元凶を殺すことはしたくない。ただ、事実を言われてるだけなのだから怒り狂う必要もない。ただ、自分のやるべきことをやればいいだけなのだから。

 

「ちっ、少しは表情を動かせよ能面エルフが」

 

全く動揺しないアリスに苛立ちが募るヴァレッタ。

 

(被害はあの【不動】のせいで少ないが狼煙は上がった。あとはあの2人が動き出すまで私がこいつを引きつければいい)

 

挑発をしながらも状況を理解して逃げに徹するヴァレッタ。

レベル7の2人が秩序側上位冒険者を潰してくれれば戦力は覆る。あとは、2人にこの【不動】を押し付ければいいだけだ。

アリスが気絶しれば街にいる魔獣も魔法も消える。あとは殺戮を楽しめばいいだけだ。

暫く逃走劇を繰り広げる2人をよそに状況は動いていた。

市民に少なくない被害が出始めており、闇派閥と避難誘導に追われる冒険者達も混乱していた。中央広場になんとか避難誘導を進めているが未だに爆発音は鳴り止まない。

【ラグナロク・ハイリヒトゥーム】は万能であるが扱いが難しい魔法だ。特に防護・回復魔法はそれ相応の集中力が必要となる。無機質で動かない建物等ならアリスの空間認識能力を持ってしれば出来なくはないが、動き回る人や物に魔法をかけるには数秒足を止めて集中しなければならない。そのため、市民には防護魔法がかかってないので被害が出始めているのだ。

そして、ある知らせが都市を揺らした。

 

「【猛者】陥落!」

 

誰が叫んだか、それは秩序の冒険者か、闇派閥か、それとも神々か。

誰かはわからない叫び声に都市全域が揺れた。

最強の敗北は多くの冒険者の心を挫いた。ある者は足を止めて、ある者は絶望に膝を降る。数々の冒険者が絶望するなか闇派閥は手を休めない。

しかし、次々に聞こえてくる冒険者達の敗北がアリスの足を鈍らせる。

 

「【九魔姫】【重傑】がやられた!」

 

その言葉を聞くや否やアリスはすぐさまに方向転換して駆け出す。

それを見たヴァレッタは冷や汗を抑えながら笑みを浮かべる。

 

「たく、遅いんだよ。生きた心地がしなかったぜ」

 

●●●●●

 

「・・・」

 

灰色の髪をした女性、【静寂】アルフィアは目の前で倒れ伏せるリヴェリアとガレスを見下ろしていた。

 

「お前達は相変わらずあの女の足を引っ張るんだな。ほら来るぞ、お前達を守りに英雄になれるのに英雄を放棄した女が」

 

その声は落胆の色を見せていた。

刹那、リヴェリア達の前に疾風の如く現れたアリスがアルフィアとの間に立ち塞がる。

 

「アルフィア!」

 

「久しいな、アリス。相変わらず家族ごっこに明け暮れてると見える」

 

旧知の再会に喜びはない。

かたや大切な仲間を傷つけられた者、かたや大切な存在を傷つけた者。目の前に存在するのは明確な敵。

 

「彼等は私が引き受けます」

 

遅れてやってきた【万能者】アスフィがリヴェリア達を抱えて戦線を離脱しようとする。

 

「お願い」

 

アリスは振り返らずに短く告げる。

姿勢を低くし居合の姿勢をとる。

 

「来いアリス」

 

「・・・」

 

刹那、一瞬風が吹いたと同時に確かに存在した2人の距離がアリスによってゼロとなる。

神速の抜刀をもって繰り出される切り上げをアルフィアは紙一重で上空へ逃れることで交わす。

 

「【福音】」

 

不可視の魔弾がアリスを襲う。

それらは凄まじい魔力を纏っており直撃すればタダでは済まず、防いでも余波で平衡感覚が崩れる音の攻撃。

アリスの耳が微かに揺れる。

 

「疾ッ!」

 

二閃

斬撃を放ったアリスの前で魔法が斬られる。

 

「聴覚だけで私の魔法を捉えるか。相変わらず規格外な奴め」

 

「アルフィアだけには言われたくない。短文詠唱なのに相変わらず規格外な威力」

 

屋根の上に立ったアルフィアを追いかけてアリスも屋根の上へ上がる。

お互い軽口を叩くがどちらも気にした様子はない。

 

「なんでこんなことを」

 

「貴様が家族ごっこに明け暮れてぬるま湯に浸かっていると知ってな、それを壊したくなっただけだ」

 

「メーテリアが望むと」

 

「貴様が妹の名を口にするな!」

 

アルフィアが魔法を繰り出す。

アリスはその場から退避する。

屋根が破壊されて家が崩壊する。アリスが施した防護魔法をも貫通する威力。

 

「約束を忘れた貴様が妹の名を口にするのだけは許さん!」

 

続け様に魔法を繰り出すアルフィア。

アリスはアルフィアを中心に周りを駆ける。魔弾の数々を交わしながらアルフィアへと肉薄する。

アリスの間合いになった瞬間に斬撃を放つ、それをアルフィアは後ろに飛びながら間合いを離す。

先ほどのヴァレッタとの逃走劇と同じ構図になるが状況が違う。

相手がアルフィアであることレベルが上の相手であること、そしてアリスに余裕がなく冷静さを欠いており周りが見えていない、視野が狭待っていること。

 

「【父神(ちち)よ、許せ、神々の晩餐をも平らげることを。貪れ、炎獄(えんごく)の舌。喰らえ、灼熱の牙!】」

 

アリスに迫り来る脅威。

詠唱を聞いた瞬間に危機感を感じたアリスは咄嗟に回避を取ろうとするがすでに遅い。

 

「【レーア・アムブロシア】!」

 

「ッ⁉︎」

 

回避は不可能と感じたアリスは刀にてそれを防ぐ。

突如現れた大男、【暴喰】ザルドが放った斬撃はアリスの刀に阻まれるがお構いなしに自身の全力の力にて振り下ろす。

 

「ーーー⁉︎」

 

瞬間、アリスの刀が砕けちりアリスは後方へと飛ばされる。

アルフィアは動きを止め、アリスの行方へと目を向ける。

アルフィアの隣に降り立ったザルドも大剣を肩乗せて同じ方向へと目を向ける。

 

「やったか」

 

「いや、手応えが軽い。刀が砕けた瞬間後方へ飛ぶようにして威力を逃したようだ」

 

あれで倒せたとは信じてない2人はそれでも確かめるように話は合う。

煙が晴れて、そこに立っていたのは頭から軽く血を流すアリスの姿だった。

 

「ザルドッ!」

 

アリスは叫ぶようにザルドの名を呼ぶ。

 

「久しいな【不動】、相変わらず勇者の餓鬼の下に甘んじているようだな。なんだその体たらくは。昔、俺たちに土をつけたとは信じられない」

 

レベル7が2人揃った。揃ってしまった。

オッタルは倒れ伏せ、リヴェリア達は戦線への復帰は無理。フィンが援軍を遣す余裕はない。

肉薄するアリスとザルド。

 

「【創造】」

 

瞬時に魔法にて武器を作るアリス。両手に2本の剣を持つ。

剣と大剣がぶつかる。

ぶつかると同時にアリスの剣が砕ける。

軽い脳震盪を起こしてるアリスは強度までのイメージを浮かべられず側だけ作っている。

 

「【創造】【創造】【創造】【創造】【創造】【創造】!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

砕けると同時に剣を作り直すアリス。

ザルドは大剣の重さをものともせずに嵐のような斬撃を繰り出す。

 

「【福音】」

 

ザルドが当たらない射線へと移動したアルフィアが魔法を放つ。

 

「ッ!」

 

魔法の予兆を感じ取ったアリスがザルドに剣を投げつける。

ザルドは首を逸らすことでそれを交わすが攻撃の手が止まる。

瞬時にザルドの腹部を蹴りその場から離れる。

 

「【創造】」

 

弓と複数の矢を作り出し空中でそれをアルフィアに向けて放つ。

 

「舐めるな!」

 

蹴られたザルドはアルフィアの前へと立ち大剣よる一刀でそれらを叩き落とす。

屋根は着地したアリスは顔を歪ませて2人を睨む。

 

「なんで、なんで、なんで!」

 

かたや、剣をぶつけ合い、高めあった好敵手。

かたや、実の妹のように面倒を見てきた家族のような存在。

ファミリアは違えど確かな絆で結ばれていた。

 

「「すべては貴様のせいだ」」

 

「⁉︎」

 

2人が答えた言葉に全くの検討もつかないアリスは驚きの表情を見せる。

 

「貴様が前へ進まなかったから」

 

「貴様が立ち上がらないから」

 

「「貴様が『英雄』にならなかったから、こうなった」」

 

「ーーー」

 

2人の答えに何も言い返せずにただ黙ることしかできない。

ああ、その通りだ。

家族がいることに満足していた。誰かを殺すことに躊躇っていた。強くなりすぎることに躊躇していた。喝采を浴びることを避けていた。栄光を掴むことから逃げていた。フィンの野望のために目立つことを辞めていた。

ロキ・ファミリアは【勇者】フィン・ディムナのファミリアでなくてはならない。決して【不動】アリス・グレイのファミリアではないのだと。

知っていた、こうなることを知っていたのにこうならないで欲しいと何もせずに祈っていた。

 

「「『英雄』にならない貴様は眠っていろ」」

 

アルフィアから放たれる魔法を咄嗟に避ける。その動きは先ほどのキレがなく次への動作への余力がない。

アリスに接近するザルド。武器を作り受け続けるアリス。受け続けることしかできず身体のいたるところに傷ができる。

アルフィアの魔法も避けることが出来ずに受けてしまう。

吹き飛ばされ意識が遠のくアリスの視界に落胆した視線を向ける2人の姿が見えた。

 

【不動】アリス・グレイが気を失ったことにより、街中にいた魔獣が、街を守っていた魔法が消える。

それを見た冒険者達はアリスの敗北を知った。保っていた戦意が瞬く間に挫ける。

そこからは破壊の嵐がオラリオに降り注いだ。

アリス・グレイという異端の存在が介入した。しかし、たった1人の少女を救っただけで正史と変わらない絶望がオラリオに降り注いだのだった。




レベル7ふたりがかりでも倒せないレベル6って規格外すぎでは?
やりすぎたけど反省はしていない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

英雄生誕

正義失墜です。
筆が進んで僅か1時間で描けた。
アストレアレコードなのに全然彼女達が出てこない。



夢を見ている。

自分が見ているこの情景は2度と手に入ることはない景色だと知っている彼女。

 

寝台に上半身を起こす白髪の少女と寝台に腰を掛けて彼女に何かを施している白金髪の女性、アリス。

 

「よし、これで暫くは大丈夫だろう。最近、調子はどうだメーテリア」

 

「ありがとうございます、アリスさん。アリスさんのおかげで調子も良くて最近は歩き回ることもできるんですよ」

 

治療行為を終わらせた2人は雑談を続ける。

この前は何処へ行った、あの時はああしたと楽しそうに日頃の行いを喋るメーテリア。それを受け答えしながら楽しそうに聴くアリス。その光景はまるで本当の姉妹のように見えた。

オラリオに来た時、ヘラから改宗を持ちかけられたアリス。

それを断り拒み続けた。次第にヘラも諦めたのかある日、頭を下げてきた。

アリスにとある姉妹の治療をして欲しいと。アリスの魔法とアビリティ【破邪】は病、呪い、毒に効果があり。メーテリアを蝕む不治の病にも治すことは出来ずとも和らげる効果があったのだ。

アリスは度々ヘラ・ファミリアの本拠に足を傾けメーテリアとその姉アルフィアの治療をしていた。

突然、部屋の扉を誰かが蹴破る。

 

「来たな、忌々しい糞女め。今日こそは貴様に吠え面をかかせてやる」

 

扉を蹴破った、灰髪の少女アルフィアは部屋にいたアリスを指差し睨みつける。

治療行為を受けてから度々アルフィアはアリスに挑発して戦っていた。

最愛の妹と仲良く話すアリスが気に食わないのだ。妹を取られた姉は嫉妬からアリスに突っかかっていた。

成績はアルフィアの無勝全敗。先日、レベル6となりアリスのレベルを超えたアルフィアは今度こそ憎きアリスを倒すと意気込んでいる。

 

「もう、姉さんったら。アリスさんに迷惑かけちゃダメでしょ」

 

そんなアルフィアを叱りつけるように言うメーテリア。

メーテリアの言葉を無視してアルフィアは睨みつけるのを辞めない。

 

「わかった。場所を移そう」

 

アリスは腰を上げて言う。

 

●●●●●

 

「はい、怪我と病の治療は終わり」

 

あの後、本拠の鍛練場で戦ったアリスとアルフィア。

結果はアリスの勝利に終わった。

コテンパンにやられたアルフィア体を動かすことはできず現在、アリスに膝枕をされながら治療行為を甘んじて受けていた。

 

「終わったなら、この態勢を辞めろ」

 

敗者として屈辱を甘んじて受けていたアルフィアはそれでも憎まれ口を叩く。

アルフィアの言葉を無視してアリスは彼女の頭を撫でる。

 

「私もお邪魔します」

 

それが羨ましくなったのかメーテリアがアルフィアが頭を置く反対の足に頭を乗っけた。

アリスはそれに微笑みメーテリアの頭を撫でる。

 

「辞めろと言っているのに」

 

アルフィアは悪態をつきながらもその行為を受け入れている。頬を赤く染める彼女はこの行為が恥ずかしいのだ。

 

「アルフィア、無茶してないか?この前よりだいぶ強くなった」

 

アリスは先の戦闘でアルフィアの動きがこの前より段違いに良くなっているのに気づいた。

 

「ふん、レベルが上がったからな。なのに、レベルが上の私に勝つなど相変わらず規格外だな貴様は」

 

「そうか。おめでとう、アルフィア」

 

褒め称えるアリス。それにアルフィアは「子供扱いするな」と吠え返すが聴く耳を持たないアリス。

レベルが上の者の打倒。それはあり得なくはないがとても困難な行為を平然とやってのける。

【不動】と呼ばれるアリスは昔、ヘラ・ファミリアの団長である【女帝】に打ち勝ったことがある。祝福と呼ばれる規格外のスキルを使い当時レベル6と3、3つの差を埋めて勝利してみせたアリスはオラリオで名を馳せた。

自身の主神が欲したその祝福はアリスという異端がもたらした奇跡と聞いたアルフィア。本来なら二つの存在が必要なのに1人で完結してみせた秘術。

神々でも予測できなかった未知の存在。

才禍の怪物と呼ばれるアルフィアでさえ超えることのできない異才の怪物、それがアリス・グレイという存在だった。

 

「でも、生き急いでるように見える。アルフィアは幼いんだからもっと楽しいことを探して欲しい」

 

「ふん、私は生きることに執着などしない。貴様も私に構わずメーテリアの治療に専念してればいいんだ」

 

「なんで?」

 

「この雑音だらけの世界で私は生きたくない。この*****世界になんの希望を見出せばいい」

 

アルフィアの悲痛。誰にも見せたことのない弱みをアリスに曝け出す。

アリスと言う強さを知った、規格外を感じた。確かな信頼を寄せているからこそアリスに弱みを見せれた。

 

「違うわ、姉さん」

 

「「⁉︎」」

 

2人の会話に入り込んでくる。

目を閉じていたはずのメーテリアは立ち上がりアルフィアの顔を覗き込む。

 

「世界が*****のは当たり前、それでも私はこの世界が大切なんだ。だって、この世界には姉さんがアリスさんが、ヘラが皆んながいる。皆んなが愛した世界がある。だから、私はこの世界を*****世界に変えたい。皆んなが愛せる世界に変える」

 

誰よりも弱い少女は、この場にいる誰よりも強い心を持っていた。

誰かの手を借りなければ生きていけない少女の笑顔はこの世界のどんな光景よりも綺麗だった。

きっと、彼女の優しさは誰かを笑顔にする。彼女の笑顔は誰かを幸せにする。

 

「だから、姉さん、アリスさん。どうかこの世界を*****世界にするために手伝ってくれない」

 

ああ、確かにこの時私は約束したのだと思い出すアリス。

忘れてしまった約束をアルフィアは覚えていた。なのに姉として接してきた自身が忘れていた。

約束を思い出しても覚悟は決まらない。でも、もう一度彼女と会わなければいけない気がする。

 

●●●●●

 

「・・・うっ」

 

身体の痛みを感じながら目を覚ますアリス。

 

「やぁ、目が覚めたかいアリス」

 

目を覚ましたアリスを待っていたのは今回の損害報告を眺めていたフィンだった。

 

「どれぐらい寝てた」

 

「3日と行ったとこかな。断続的に闇派閥から嫌がらせはあるけど大きな被害は出てない」

 

アリスは気を失った後のことをフィンから聞かされた。

神の一斉送還にそれを実行した邪神エレボスの存在。

 

「すまない」

 

一通り説明し出したあとフィンはアリスへ謝る。

アリスは謝罪の意味がわからず首を傾げる。

 

「僕の判断ミスだ。あの2人の存在を知っておきながら勝てると傲慢にも考えていた。8年前、僕たちがゼウスとヘラを追い出してから僕は満足していた。彼等に勝った気でいた。でも、実際は前へ進んでもいない停滞したままだったんだ」

 

「・・・」

 

フィンの懺悔を黙って聞くアリス。

今回の件で、冒険者は人々から叱咤を受け続けている。街に広がる混乱は止むことはなく。悲鳴が鳴り響いている。

 

「弱気になりすぎたね。君が目を覚ましたことを皆んなに知らせてくるよ」

 

フィンは椅子から立ち上がり部屋を出る。

部屋に残されたアリスは窓から見えた景色は曇り空が広がっておりその光景はとても美しくなかった。

 

●●●●●

 

部屋を飛び出したアリスは街中を彷徨っていた。

アリスの存在を確認した冒険者や住民は足を止めてアリスを見る。

彼女に向ける視線には失望が見えていた。

英雄は迫害され、悪が力を増す。

あの時の里のように悪意が街中に充満していた。

誰のせいでもない、決してアリスや戦い続けた冒険者達のせいではない。でも、この状況を誰かのせいにしなければ正気を失いそうな弱者達はその悪意に呑み込まれている。

悪意に満ちた視線を受けながら歩き続けたアリスは次第に人がいない場所に来ていた。

視線を上へ向けると、半壊した教会が建っていた。

かつて、メーテリア達ときた彼女が好きだった場所。

 

「なんでここに来ちゃうんだろう」

 

アルフィアと再会したせいかもしれないという考えが頭によぎる。

扉を開けて中に入る。

 

「来たか、アリス」

 

「アルフィア」

 

中には灰髪の女性、アルフィアが待っていた。

対峙する2人には戦闘の意思はない。

アリスは黙って教会の椅子に座り、アルフィアはアリスとは反対側の椅子に座る。

 

「覚えているかアリス」

 

「ああ、この場所にはよくメーテリア達と来た」

 

昔、メーテリアに手を引かれてこの場所に連れてこられたアリスとそれを追いかけていたアルフィア。

暖かい記憶、もう戻ることのない過去。

 

「私は今でもこの世界が*****と思っている。街の現状を見たか」

 

「・・・」

 

「戦い抜いた英雄は迫害され、闇派閥という悪が力を増している。ならばこの悪意を断ち切るために、新たな英雄を産むために悪役が、私達がすべてを呑み込もう」

 

「・・・」

 

アリスは黙ってアルフィアの言葉を聞き続ける。

彼女達が本当の悪になっていないことなんてわかっていた。あの時、トドメを刺さなかったのも、市民に被害を出さないように射線に気を使っていたことに。

 

「私は・・・」

 

彼女達の目的も知っている。

それでも決心がつかない。その道は茨の道、帰り道などなく前へ進み続けなければならない。英雄なんてものは決して華々しくないのだ。

 

「私はメーテリアとの約束を果たせない。この短い命では時間がなさすぎる。だから、この*****世界を*****世界に変えてくれる英雄を作り出す。そのための壁となる。メーテリアの子が愛せる世界になるために礎となる」

 

お前はどうなんだと視線で語りかけてくる。

答えれない、答えを持ち合わせてないから。

悩むアリスをよそに2人へと近づく人物がいた。

 

「お前は来るなと言ったぞ、エレボス」

 

その人物、神物を睨みつけるアルフィア。

その視線をものともせず肩をすくめる。

 

「いや、俺も【不動】に興味があったんでな。古代、とある女神が下界に授けた秘術を受け継いだアリス・グレイにね」

 

悪意をまるでコートを着るかのように纏う邪神エレボス。

アリスはこの全ての元凶であるエレボスと初めて対峙した。

 

「【不動】、正義とは?」

 

アリスはこの時分岐路に立たされていた。

 

●●●●●

 

正義とは、アリスにとってその答えを持ち合わせてはいない。

だが、昔メーテリアに言われた言葉を思い出す。

 

「世界が美しくないのは当たり前、それでも私はこの世界が大切なんだ。だって、この世界には姉さんがアリスさんが、ヘラが皆んながいる。皆んなが愛した世界がある。だから、私はこの世界を美しい世界に変えたい。皆んなが愛せる世界に変える」

 

彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。そして、今まで助けてきた人々の笑顔が頭によぎる。

アリス・グレイは世界を旅してきた。その旅は『偽善』で満ちていた。罵倒された時もあった、非難された時もある、でも感謝され皆んなが笑っていた景色は確かに美しかった。

 

アリスの前に小さな炎が現れる。

アリスはそれに向かって歩み出そうとするが足が重くて動けない。

そんな時、アリスの背中を押す存在がいた。

 

「がんばって、アリス姉さん」

 

かつて、共に過ごしいつしか姉と呼んでくれたメーテリアが笑顔でアリスの背中を押して送り出す。

重い足取り、それでも確かに前へ確実に歩みを進み続けている。

 

「その道は地獄だぞ」

 

声が聞こえる。

行くなと、この先の過酷さを告げている。

 

「それでも前へ行くよ、父さん」

 

前へ進まないと何も得られないから。

 

「後戻りはできないよ」

 

「もう戻ることはしないよ、リュート兄さん」

 

後ろにはもう救ってきた人たちがいるから。

 

「戦い続けることになる、傷つくことになるぞ」

 

「戦うことに、傷つくことをもう恐れないよ、アラン兄さん」

 

戦い抜いた先に美しい世界が広がってるから。

 

「その先は悲しみに満ちてるかも知れないわよ」

 

「悲しみを乗り越えた先に皆んなが笑って過ごせる未来があるから前へ行くよ、アリサ姉さん」

 

きっとその笑顔はとっても美しいから。

 

炎の前へたどり着いたアリス。

それを掴み取ろうとしたら目の前が光だし炎が形を変えて1人の幼い少女となる。

 

「アリス」

 

本当のアリス・グレイがそこにいた。

異界の魂を宿さない、本当のただの少女がこちらを見上げていた。

 

「ごめん」

 

「なんで」

 

「私は君の人生を奪った。きっとあの里で皆んなに愛されて平和に暮らす君の人生を奪ってしまった」

 

少女に謝罪を口にする。

本来歩むはずの人生を壊した。そして、これから歩む道は険しく遠い道。それに彼女巻き込むことへの謝罪。

 

「大丈夫、あなたは1人じゃない。私がいる、アリサ姉さんが、兄さん達が皆んながずっとそばにいるから」

 

アリスの手を包み込む幼いアリス。

 

「一緒に行こう」

 

答えは見つかった。

この美しない世界を誰もが愛せる美しい世界に変えるため前へ2人の少女は前へ進み出す。

 

●●●●●

 

目を閉じていたアリスは目を見開きエレボスとアルフィアを見る。

先ほどまでの暗い顔はなく、答えを得たアリスに迷いはない。

 

「『偽善』」

 

「「・・・」」

 

アリスが出した答えを黙って聞く2人。

 

「誰かを救いたい、守りたい、笑顔にしたい。その行為はきっと『偽善』と呼ばれるんだろう。でも、それが私の正義」

 

「それはとても険しい道だぞ」

 

エレボスが求めた答えより遥かに上をいく答えにたまらずエレボスは言い返す。

 

「皆んなが笑っていたから。『偽善』を貫いた先には美しい世界が待っているから。私はそれだけで前へ進める」

 

「アリス・グレイ、君の答えを聞かせてもらった。ならば、その正義が世界を救えるかこのエレボスが確かめさせてもらう」

 

「ああ」

 

エレボスとアルフィアに背を向けて教会から出ていくアリス。

 

「まったく、愚鈍な姉だ。ここまで焚き付けなければ立ち上がらないとは手がかかる」

 

彼女の背中を見たアルフィアは目を開き微笑みを浮かべる。

最愛の妹、メーテリアに手を引かれていたアリス、常に背中を見続けていたアルフィア。

あの時の光景は戻らない、でもあの時の約束は果たされる。

 

●●●●●

 

「フィン!」

 

ロキやリヴェリア達と今後について話していたフィン達の元に駆け込んできたアリス。

 

「部屋を抜け出したと思ったら今度はなんだい?」

 

息を切らして駆け込んできたアリスに問いかける。

 

「最善の作戦は?」

 

「・・・、籠城だね。市民を守り、少数精鋭で各戦力を各個撃破する。僕とロキの予想が正しければダンジョンからも本命が来るだろうし」

 

アリスの問いに疑問を浮かべながらも答える。

今までの彼女なら何も言わずにフィンの指示に従ってきた。作戦の内容について追求してきたこともない。

 

「最高の、犠牲も出さずに済む作戦は」

 

「⁉︎それは、こちらから打って出ること。でも、あまりにもリスクが高すぎる」

 

アリスの言葉により脳裏をよぎったもう一つの作戦。ハイリスクハイリターンな作戦。全滅か無傷の完勝かの2択。

 

「やろう、フィン」

 

しかし、それを実行しようと言うアリスに目を見開く。

アリスの中で何かが変わったことに気づく。

 

「私はもう迷わない、前へ進むよ。フィン達のことを待つこともやめる。私は英雄になる」

 

「「「⁉︎」」」

 

決意の表明。

アリスの言葉に3人の心が揺れる。それを見ていたロキは面白そうに笑みを浮かべる。

アリスは黙って手を前へ出す。

3人を試している、君たちは英雄になる気はないのかと問いかけてきている。

 

「全く、生意気なエルフじゃ!」

 

「そうだな。末っ子に諭されるとは私もヤキが回ったようだ」

 

ガレスとリヴェリアがその手に重ねる。

その光景を見て眩しく思うフィン。

彼等は自分とは違う、人工の英雄では最善を捨てて最高を選べない。

 

「フィン、君の勇気はどこにある?」

 

「ッ⁉︎」

 

アリスの言葉にフィンは揺れる。

そして、答えを出す。

 

「前だ、停滞し続けた僕の勇気は前にある。今この時前へ進まないときっと勇気を見失う。それだけは絶対ダメだ」

 

フィンは前へ進み手を重ねる。

 

「熱き戦いを」

「まだ見ぬ世界を」

「一族の復興を」

「家族のために」

 

この時、英雄は産声を上げた。

 




この作品のアルフィアとザルドが嫌われてるらしいですが作者は2人のことは好きです。
アルフィアなんて3体とも完凸してます。
ザルドも初期は完凸済みです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【不動】【勇者】再誕

間に合ったけど急ピッチで描いたからちょっと短い
もっと書けた気がする
流石に明日の更新は無理そうです


決戦の日

曇った空がオラリオを覆っていた。

バベルを囲むように氷壁ができていた。

その中に身構えて闇派閥の襲撃に備える冒険者達が大勢身構えていた。

 

「フィ〜〜〜ン、やっとテメェをギタギタにしてやれる」

 

闇派閥を指揮するヴァレッタは高台の上から籠城する冒険者達を見下ろしていた。

闇派閥達、狂人者は殺戮が今か今かと待ち遠しくて仕方がない。

邪神達はの光景に高笑いをあげている。

 

「はっ?」

 

自分達の勝利を疑わない彼等はある光景に目を疑った。

氷壁の前に陣取るのは白金の髪を後ろに纏めて縛り片刃の大剣を地面に刺し白いマントを羽織るアリス・グレイのみ。

 

「ヴァレッタ様、大変です。敵が1人だけです」

 

「んな、見ればわかる!」

 

「いえ、氷壁の中には敵がいません」

 

「はっ?」

 

報告してきた下っ端の言葉を信じられないヴァレッタ。

氷壁の外に陣取るアリスの後方の氷壁の中に確認したヴァレッタ。その後方には多くの武装した冒険者が見える。

 

「冒険者ではありません。レベル1や2程度の取るに足らない者たちもいますがそのほとんどが武装した神々や一般民達です」

 

その報告を聞いたヴァレッタは訳がわからなかった。

守るべき者たちを立たせて冒険者達はどこへ行った。

即座に思考を巡らせる。都市外に出た形跡はないから予想できるのはダンジョンにいる事。

闇派閥達に作戦をわからせないためのハリボテの軍団。

撤退はできない、この戦場に立たされた今、引けばアリスが追撃する。闇派閥の本当の本拠の存在を知らせることになる。

 

「糞、糞、クソォーーーー!」

 

攻める以外の道がないヴァレッタは雄叫びを上げる。

 

●●●●●

 

「おいおい、マジかよ」

 

絶対悪の怪物、『神獣の触手』を引き連れていたエレボス。

ここへ精鋭達が来るだろうとふんでアルフィアとヴィトーを連れて待ち構えていたエレボスの前にあり得ない光景が広がっていた。

 

「見ているかい、神エレボス、アルフィア。そして、見えているかい、ヴァレッタ、ザルド」

 

ここにいるエレボスとアルフィアに、そして地上にいるヴァレッタ、ザルド、闇派閥達に語りかけるフィン。

 

「どうやら君たちはやり過ぎたようだ。なんたって、ゼウスやヘラでさえ成し遂げれなかった偉業を成し遂げてしまったんだからね」

 

エレボス達の前に広がる大軍。

冒険者達の群れが目の前に広がっていた。

 

「オラリオのレベル3以上の冒険者がここにいる。そして、地上には悪に屈さずに立ち上がった神々やオラリオの民がいる」

 

悪に立ち向かうためにオラリオは一つになった。

闇派閥に立ち向かうためにある程度は力を合わせていた現状とは違う。確かに肩を並べて戦う共闘がここに実現していた。

ゼウスやヘラがなしえなかったオラリオ全体が力を合わせる光景にアルフィアは目を見開き驚愕する。

 

●●●●●

 

決戦前日

 

中央広場に集められた市民、神々、冒険者達は【勇者】フィン・ディムナを見上げていた。

前日、アストレア・ファミリアによって防がれた【白髪鬼】の襲撃により市民の信頼を取り戻しつつある冒険者達。そのおかげですんなりと集めることができた。

 

「この場に集まってくれたことに感謝を述べる」

 

本題に入る前にフィンは感謝の言葉を口にする。

 

「今回の作戦の内容を言う」

 

フィンの口から述べられた言葉に皆が口を開く。

それは市民を危険に晒す行い。許容できない作戦だった。

 

「ふざけるな!」「俺たちに危険を晒せと言うのか」「私の子供は怪我をしたのにまた危険を晒せって言うの」

 

罵倒が飛び交う。

予想していた光景にフィンは狼狽えることはしない。

 

「どうか、僕に君達の『勇気』を貸してくれ」

 

頭を下げるフィンに罵倒が鳴り止む。

冒険者の懇願。頼り、助けられ、救われるだけだった弱者に【勇者】が頭を下げて懇願してきたのだ。

 

「俺はやるぞ!」

 

1人の青年が声を上げる。

かつては盗みを働いた青年は1人の冒険者の少女に救われた。青年は改心して一つの善行を積んでいた。そんな青年が勇気を示した。

 

「そうだ、俺もやる。この街は俺たちの街だ、俺たちが立ち上がらなくてどうする」

 

一つの小さな勇気が伝達し新たな勇気を生んだ。

名乗りを上げる市民達。その光景に神々は目を輝かせる。

はるか昔に見た古代の英雄達、彼等は恩恵も無いのに立ち上がって見せたのだ。

 

「ありがとう、君達の『勇気』に感謝を」

 

この光景にフィンは胸が高まる。

 

「君達の勇気に誓い、君達を守り、勝利を導くことを約束する」

 

フィンは高々に宣言する。

 

「誓約はここなった。

神々よどうかご照覧あれ。これより停滞していた人類は歩みを進める。今から綴るは『人と神』の物語。『英雄』の時代は終わった。『神時代』はかつての栄光を失った。されど希望は潰えず新たな物語が始まる。どうか見守ってくれ、このファミリア・ミィスを!」

 

英雄の言葉に皆が雄叫びをあげる。

冒険者達の心に火が灯る。市民達の体に熱がたける。神々の魂に歓喜が浮かぶ。

道化の神はこの光景に笑みを浮かべる。

美の女神は興味のなかった魂達が輝き出したことに目を光らせる。

伝達の神は英雄達の雄叫びに高笑いをする。

 

「英雄に資格がいる?ああ、ああ。俺が間違っていた。英雄に資格なんていらない。誰もが英雄になれるんだ。見ろこの光景を、誰もがこの暗黒の時代を切り開こうとしている英雄じゃないか。派閥の共闘なんてものじゃない。そう、これは」

 

「オラリオ連合、と呼ぶべきかしら」

 

正義の女神はこの光景を前に確かな正義を感じていた。

【勇者】が焚き付けた炎が燃え上がっている。自身の眷属達もその火に当てられて胸を高鳴らせていた。

女神、アストレアさえもこの光景に胸を熱くしていた。

 

「フィン、やっぱり君は本物だよ」

 

この美しい光景を生み出したフィンにアリスは英雄の姿を見た。

 

●●●●●

 

「だが、所詮1人だ。あいつさえ倒せば神々も殺せる。そしたらダンジョンにいるフィンは無力になる」

 

叫び終えたヴァレッタは冷静に告げる。

短期決戦、フィン達に余力を与えずにアリス・グレイを無力化してフィン達を無力化する。

だが、それが困難なことをヴァレッタは知っている。

【不動】アリス・グレイの規格外を見てきたのだから。

こと、1対多に置いてアリスの右に出る者はいない。

 

「魔剣だ、ありったけの魔剣と魔法を奴に叩き込め!」

 

ヴァレッタの合図とともに詠唱を始める魔導士達。

魔法を持たない者も魔剣を構えて準備する。

 

「一斉に放てよ!」

 

決戦の火蓋が切られた。

 

 

「汚い空だ」

 

アリスは空を仰ぎ見ていた。

曇天が空を覆っていた。灰色をと通り過ぎて黒色に近い空。汚れきったそらがオラリオを包んでいた。

街中からアリスを倒さんとする闇派閥の詠唱の声が、魔剣を構える音が聞こえる。

アリスは地面に刺した大剣を抜き構える。

 

「【聖女祝福】起動」

 

1柱の光がアリスに降り注ぐ。

その光景を見た人々は超常なる力を目の当たりにする。

それを知らない神々は自身の力に等しい存在に動揺する。

それを知る神々はその光景に魅了される。

 

魔法の嵐がアリスに襲いかかる。

光の柱が収まり、アリスの周りを覆うように光の粒子が奔流していた。

大剣を脇構えにして構える。光の粒子が大剣に集まる。

迫り来る魔法がアリスの視界を覆い尽くす。

その瞬間、刹那の時に放たれるアリスの斬撃が世界を掻き消した。

 

「はっ⁉︎」

 

声を発したのは誰かはわからない。

しかし、闇派閥の誰かが発したことだけはわかる。

 

「おいおいおい、ふざけんじゃねぇー。なんだこれは」

 

ヴァレッタが【白髪鬼】が、初老の獣人が、妖魔の姉妹が闇派閥の全員が空を仰ぎみた。

 

「空を斬った!」

 

曇天は二つに裂けて、その隙間から晴天が差し込む。

 

「【黄昏の時、空を染め尽くせ】」

「【ラグナロク・ハイリヒトゥーム】」

 

空が黄昏色に染まる。

日光と混ざり合い黄金の輝きがオラリオに降り注ぐ。

その光景を見た者は、この美しい世界に魅せられた。

 

「貴方達の攻撃は終わり?」

 

アリスの脳裏によぎるのはこれまでの闇派閥の蛮行。

果物をくれた店主が死んだ。迷子の子供と母親を一緒に見つけた親子が子どもの亡骸を抱きしめて泣いていた。親しい者達が死んできた。

 

「なら、次はこっちの番」

 

これから始まるは戦闘と呼ぶには一方的すぎる蹂躙。

今でも殺しに躊躇いはある。でも、この美しくない世界を美しい世界に変えるために、【偽善】を貫くために。

悪役を倒そう。

 

「文句ある?」

 

●●●●●

 

「総員、構えろ」

 

勇者の合図に皆が身構える。

 

「【静寂】は僕たちが引き受ける。【白妖の魔杖】は全体の指揮をお願いしていいかな」

 

「生意気な小人族め。貴様の指揮下にいるのは我が主の指示だからだ。私は今でも地上に戻りあの忌々しい妖魔どもを殺したい」

 

エルフの青年、【白妖の魔杖】ヘディン・セルランドは前回の戦いで敗北を期していた。

次回こそは憎き妖魔を殺すと誓っていたが、フィンの作戦によりその誓いは果たされない。

神フレイヤから命令されたからここにいる。決して、あの情景に魅せられたからではないと自分に言い聞かせる。

 

「テメェらだけであの女を倒せるのか」

 

【女神の戦車】アレン・フローメルは睨みつけるように問う。

 

「それこそ愚問だよ。倒せる倒せないんじゃない。僕達が倒さないといけないんだ。彼と彼女に示さないといけない、ケジメをつけないといけない」

 

「チッ、負けんじゃねーぞ。テメェらを轢き殺すのは俺なんだからな」

 

アレンなりの激励にフィン達3人は意外なものを見たように驚き、その後笑みを浮かべる。

 

「さて、行こうか。リヴェリア、ガレス」

 

前へ歩み出すフィンの後に続くリヴェリアとガレス。

3人に立ち塞がるは才禍の怪物アルフィア。

 

「貴様らか、相変わらず群れるのが得意と見れる。最初は驚いたが所詮は雑音。いくら数が増えようがその雑音が変わることはない」

 

「なんだい、邂逅一番からよく喋るじゃないかアルフィア。それともアリスが来てなくて寂しいのかい?」

 

お互いが挑発する。

 

「安い挑発だ。あの女との別れは済ませてる。もう、会うこともないだろう」

 

アルフィアの言葉に否と反応するリヴェリア。

 

「アリスはお前に会いに来るぞ。地上の民を救い、そしてお前を止めに来る。あいつは立ち上がった、前へ進み出した」

 

「そして、儂達も前へ進む。お前を倒し、あの小娘に追いつくように、追い越せるように前へ進む」

 

リヴェリアとガレスがフィンの隣に立つ。

 

「お前達にそれができるのか?今まで何もしてこなかったお前たちに価値があるのか」

 

「耳が痛いね。そうだ、僕たちは止まったままだ。だから、止まった時間を進めるために、君を倒す。僕たちの勇気を君に示そう」

 

槍をアルフィアに向ける。

 

「【魔槍よ、血を捧げし我が額(ひたい)を穿て】」

「【ヘル・フィネガス】」

 

魔眼が発動する。

フィンは高揚する感情を感じながらも気が狂わなかった。

感情が高揚してる、でもこれは狂気ではない勇気だ。目の前の冒険への気持ちが高揚してる。

 

「たった3人で私を倒すと言うか。それは蛮勇だぞ」

 

「知らないのかい、アルフィア。蛮勇を勇気に変えた者こそが英雄と呼ばれるんだ」

 

真紅の瞳がアルフィアを映す。

 

「決着をつけよう、アルフィア。ゼウス、ヘラとの僕達の戦争に今こそ終止符を打とう」

 

「「「お前を倒すのは僕/儂/私たちだ!」」」

 




アルフィアとザルドを生存するか悩んでます
あと、ベルくんをどのファミリアに入れるか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

猛者不屈

お待たせしました。
設定入れすぎると書くのに疲れる。
今日は何話か更新するつもりです。


「なんなんですかあれは?」

 

ヘルメスの横に控えていたアスフィはアリスが行った、空を斬った斬撃に目を驚かせる。

 

「あれは、祝福だよ」

 

「祝福ですか?」

 

そんなアスフィにヘルメスは帽子を抑えながら答える。

 

「遥か昔の古代、世界は滅亡へと向かっていた。そんな世界を救済せんと、神々は下界に様々な手を施した。とある神は精霊を下界に使し、とある神は原初の火を落とし、とある神は束縛の鎖を投げ入れ、とある神は誓約の剣を授けた。そして、とある女神は下界の戦士に祝福を与えた。それが子孫に秘術として引き継がれてきた」

 

 

 

「発動時間に比例してステータスの超向上。似たようなスキルは存在するがあれはそれとは比べものにならない代物や」

 

ロキは目の前の光景に目を見開き驚いているラウルに説明する。誰もが勝利を確信している中、ロキだけが気難しい顔でアリスを見ていた。

 

「デメリットも存在する。【聖女祝福】は器の容量を超えて力を増大する。常人なら持って数分で器を崩壊すやろう。限界突破なんちゅー規格外の効果を持つスキルを持っているアリスたんでも持って数十分が限界や。前に一度使ったら最後は気絶して数日は目を覚さんかった」

 

限られた器に流れ込む力という水はやがて器の容量を超えて破裂する。

もし、器にヒビが入る程度ならいずれは修復する。しかし、本当に限界まで溜まって破裂したならそれは死を意味する。

そのことを危惧してるロキは心配そうにアリスを見守っていた。

 

 

この光景に勝利の女神、フレイヤは法悦な表情を浮かべながら魅力されていた。

 

「ああ、美しいわアリス。遥か昔に私が落とした祝福、神の力を取り入れた戦士、その末裔。本来なら授ける側と授かる側二つの魂が必要になるそれをあの子は1人でやり遂げている。陰と陽、光と闇、朝と夜混ざり合うことないはずの色が混ざり合った魂の光。それは黄昏の色。ああ、なんて美しいの」

 

遥か昔、瀕死だったエルフの戦士に天界から女神の祝福を授けた。かつての精霊の血を含んだ鍛治師が魔剣をうてるようになったように、エルフの戦士は頂上なる力を身につけた。

それからエルフの子孫は秘術を編み出した、命と引き換えに他者を強化する奇跡を。

 

「さぁ、見せてみなさいアリス。貴方の輝きを。そしてオッタル、今輝かないと私はアリスの虜になっちゃうわよ」

 

●●●●●

 

「【神の怒りを、雷を打ち鳴らせ】」

 

雷鳴が鳴り響く。

オラリオ中に雷が落ちる。雷は闇派閥を貫き、多くの闇派閥が感電して気絶する。

 

「【創生、終末の獣よ道化の眷属が呼びかける】」

「【オフレスキャ・レイコウス】」

 

巨大な二体の怪物が姿を現す。

白銀の巨狼と巨大な白蛇が闇派閥を呑み込む。

 

「【創造、束縛の鎖よ】」

「【スミーダ】」

 

襲いかかる者や逃げ惑う者を鎖が捉えて動きを止める。

オラリオ全体に魔法が降り続け、怪物が蹂躙し、武器が空を覆う。

【不動】アリス・グレイの本領、超短文詠唱により百の怪物を呼び出し、千の武器を作り出し、万の魔法を操る。動かずして全ての敵を葬る。

 

「くそ、ザルドの野郎を向かわせろ」

 

雷を交わしながらヴァレッタがこの状況を打破するべく切り札を切る。

ザルドは迫り来る雷を大剣にて叩き落とす。

怪物の群れを斬り落としながら歩みを進める。

 

「アリス、立ち上がったか」

 

アリスと対峙するザルド。

構えをとるザルドに対してアリスは構えをしない。

 

「貴方の相手は私じゃない」

 

「?」

 

アリスの言葉に首を傾げる。

 

「【銀月(ぎん)の慈悲、黄金の原野、この身は戦の猛猪(おう)を拝命せし。駆け抜けよ、女神の真意を乗せて】」

 

紡がれる詠唱の声。

雷鳴が音を消し、怪物達が気配を隠し、無数の武具が存在を消していた存在。

伏兵の存在に闇派閥は気づいていなかった。ザルドでさえアリスという巨大な単騎に目を引かれており敵は1人だと思い込んでいた。

 

「【ヒルディス・ヴィーニ】」

 

それは彼に許された唯一の魔法。

女神に授けられし単純な力。

黄金の輝きが剣を覆いザルドへと放たれる。

 

「オッタル⁉︎」

 

ザルドはその斬撃を防ぐがオッタルは全力を持って一撃を振るう。交差する二つの大剣。

オッタルは自身の力を込めてザルドを押す。

そのままザルドは後方へと押されてしまう。2人に用意された闘技場、氷壁に囲まれた誰にも邪魔されない決闘場へと向かう。

オッタルは目的の場所に着くとザルドを弾き飛ばす。

 

「立て、ザルド。勝負だ」

 

「お前とは決着をつけたぞ。お前では俺に勝てないと気づかないのか」

 

「勝てない?違うな、勝つまで続けること。俺はお前の言うように泥臭いやり方しかできないらしい。フィンのような勇気を持ち合わせず、アリスのように頂上なる力を持っていない。あるのは武のみ、その力で勝ちを得るまで何度だって立ち上がり戦い続ける」

 

「なら、喰らい合うぞ。俺とお前、どちらが強者か」

 

「ああ、決着をつけようザルド。俺はお前喰らい遥か高みに行く」

 

剣戟がぶつかり合う。

その衝撃で都市が揺れる。最強対最強の戦い。

この戦いに女神は法悦する。自身の子が高みに手をかけた。女神を守る重荷を、ファミリアの長としての役割を、都市の守護者としての重積を、全てのものを忘れてただ勝利を勝ち取るために戦い出した。

 

 

「任せたよ、オッタル」

 

アリスはオッタルとザルドがいった方向を見ながらつぶやく。

 

「アリス!」「遊びましょう」

 

白と黒のエルフ姉妹がアリスに近づく。

 

「【不動】あなたを倒さなければ我々の勝利はあり得ないようですね」

 

初老の獣人が狂兵を引き連れてきた。

 

「ディナ、ヴェナ。それにバスラム」

 

不正と不止を司る神の眷属たち。

闇派閥でも武闘派な彼等は主に冒険者狩りをしてきた。それを阻止してきたアリスとは他の闇派閥幹部達と比べても多く闘ってきた。

彼等が殺してきた人の数は闇派閥でも一二を争う。

 

「ヘディンも、「ヘグニもいないの?だからアリスあなたが私たちの相手をして」」

 

踊り子のように雷撃を交わしながらアリスに肉薄する白妖精のディナ。

アリスはその場から動かず大剣にて二振りのスティレットによる乱撃を防ぐ。

 

「行きなさい精霊兵よ」

 

バスラムが狂兵に指示を出す。

狂化された元オシリス・ファミリアの冒険者達は叶わぬゼウスとヘラへの復讐という執念が、ゼウスとヘラに土をつけたアリスへと向かう。

 

「【異端の焼却、罪炎の楽園。あらゆる錯誤と倒錯はここに。燃え盛れ万の墓標】」

 

黒妖精、ヴェナが唄いだす。

紡がれる詠唱が場に聞こえる。ヴァナの必殺はアリスのみを確実に襲う。それを知っているディナ、バスラムはアリスを襲う手を休めない。それを知っているアリスはヴァナの必殺を阻止しようとはしない。

なぜなら、

 

「【哭け、第六の園(その)。轟け、第九(だいきゅう)の歌】」

「【ディアルヴ・ヴォルヴァ】」

 

解き放たれる魔法は『発焰魔法』。ヴェナが視認して異端と任意した対象に発火する不可避の魔法。

威力も高火力で魔法が発動すれば炎は対象を炎殺するまで消えない。

しかし、アリスから炎が灯ることはない。

 

「えっ」

 

妹ヴェナの魔法が発動しなかったことに動揺する。

その一瞬、その場から動いていなかったアリスの姿が消える。

 

「眠ってろ」

 

ディナの前に姿を現したアリスは大剣を振る下ろす。

地面に激突したディナはその強烈な一撃で気を失う。そして、ディナの前に姿を現す前にアリス狂兵達を一瞬で倒していた。

ディナは倒れて、精霊兵はやられた。

ヴェナはディナが倒されたことに動揺して行動を移せない。

バスラムは切り札が手も足も出ずに敗北したことに目を見開く。

 

「なぜです。なぜ彼女の魔法が発動しない。本来ならあなたは炎に包まれてるはず」

 

「発動しないようにしたからだよ」

 

「あなたの魔法にはそんなものはないはず」

 

バスラムの疑問に答えるアリス、しかしその答えに納得できないバスラムは問いを続ける。

アリスは黄昏の空を指さして答える。

 

「この結界内は私の思うがままに事象を起こし改変できる」

 

「馬鹿な、あなたの魔法は結界内でありとあらゆる魔法の行使を可能にするのではないのですか⁉︎」

 

「誰もそんなことは言っていない」

 

【ラグナロク・ハイリヒトゥーム】は結界内でのあらゆる事象を起こす規格外の魔法。ヴェナが使おうとした『発焰魔法』に似ている。任意で相手に発火できるのに対してアリスのは空間内に任意で発火できる。自分が起こしたい事象ならなんでもできる万能。だが、万能ゆえに発動に精神力の消費が激しく結界の発動中も大きく精神力を消費する。

また、威力も微々たるものでゴブリンを倒すことのできる程度の事象しか発生できない。アリスのスキル【精霊歌唱】によって追加詠唱を行い威力と効果を高めている。

よって、【ラグナロク・ハイリヒトゥーム】はあらゆる魔法の行使を可能にするのだと勘違いされている。

 

「この空間は私の祭壇。今、ここでは私の思うがままに世界が変わる」

 

【聖女祝福】は発動時間に応じてステータスを超向上する。

たが、実際は違う。恩恵の超向上、文言では書かれていない効果。ステータス、アビリティ、魔法、スキル、それら全てが強化される。

結界内ではアリスは神に等しき力を使える。

アリスがヴェナの魔法を否定すれば魔法は発動されず。

アリスの思考が世界を塗り替える。

 

「馬鹿な、それではあなたはまるで」

 

神ではないか

 

バスラムはその言葉を口にすることはできなかった。

ヴェナとバスラムは息ができずに苦しみ出す。

アリスがしたことは2人が息をできなくしたこと。

 

「恨むなとは言わない、憎むなとも言わない。でも、付き合ってもらうよ。私の八つ当たりに」

 

幹部の敗北に闇派閥は勝機を無くした。

逃げ惑う闇派閥達、それはまるで今まで自分たちが一般人に対して行ってきた蛮行に等しい。狩られる側と狩る側、弱者と強者、前者が自分達で後者がアリス。

自爆兵たる信者たちでさえ慈悲のない殺戮に死への恐怖を抱いていた。

 

●●●●●

 

「ある程度は力が増したらしいが、まだ足りぬな」

 

「はぁはぁ、、、」

 

2本の足で大地に立つザルドと膝をつき息を上げているオッタル。

その光景は2人の実力差を物語っていた。

 

「まだだ、俺はまだ戦える。足がある、剣を触れる、牙が折れてない。この身が朽ち果てていないなら、女神の汚名を汚すことはできん」

 

立ち上がるオッタル。

昔と変わらない、何度も地に伏せられてきた。挑み、負け、また挑む。

オッタルの強さは敗北の強さ、敗北を積み重ね勝利を掴んできた。栄光は要らない、喝采も要らない、泥臭く、華やかしいものではない。ただ、女神に捧げる勝利のみを求める。

 

「ほう、立ち上がるか。しかし、それで何が変わる。アリスは英雄の道を歩み出した。だが、貴様は女神への矜持を曲げず何も変わってない。変化しないものに進化はない」

 

「変化など要らん。進化もいらん。貴様らが英雄になると言うなら栄光はくれてやる。ただ、勝利のみはもらう」

 

【猛者】はもう屈することはない、英雄なんてものにはならない。矜持を曲げず、ただ女神の戦士であり続ける。故に迷うことなく屈することはない。

 

「ならば、示してみろ。貴様の力を」

 

「【父神(ちち)よ、許せ、神々の晩餐をも平らげることを。】」

 

「【銀月(ぎん)の慈悲、黄金の原野、この身は戦の猛猪(おう)を拝命せし。】」

 

2人の詠唱が重なる。

オッタルには余力が無く、ザルドには時間が無い。正真正銘の最後の一撃。静寂の中、2人の紡ぐ詠唱のみが場に響く。

 

「【貪れ、炎獄(えんごく)の舌。喰らえ、灼熱の牙!】」

 

「【駆け抜けよ、女神の真意を乗せて】 」

 

「【レーア・アムブロシア】!」

 

「【ヒルディス・ヴィーニ】!」

 

放たれる2人の絶技。

黄金の刃と灼熱の牙。

 

「「うおおぉぉぉぉぉぉぉーーーー‼︎」」

 

大地が沈み、大気を揺らす。

都市が震えるなか中心に立つ2人は全力の一撃をぶつける。

その光景を都市にいた人々、神々が見守る。

 

「勝ちなさいオッタル。私のために、あなたのために前へ進みなさい」

 

勝利の女神は自身の戦士の輝きを見た。

この戦場は勇者が作り上げた、この光景は英雄が築いた、この情景は戦士が魅せた。

 

煙が晴れた先には勝者と敗者、前者は二本の足で立っており、後者は地に伏せている。

その勝者は、

 

【猛者】オッタル

 

敗戦を継ぎ重ねてきた戦士は今日ここに勝利を継ぎ足した。

 




バスラムが何気に書くの難しい。
キャラ的にはヘルシングに出てきそうで好きですけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小人奮闘/老兵奮闘

本日2話目です。
ノアールは好きなキャラです。
ロキとの相性も良さそうだし。


「【レア・ラーヴァテイン】」

 

リヴェリアによって放たれる炎の柱。

都市最強魔導士の名に恥じない一撃がアルフィアを襲う。

 

「【魂の平静】」

 

炎の柱がアルフィアに当たる前に掻き消える。

魔法の無効化、アルフィアが持つチート魔法の一つ。

 

「儂も忘れるな!」

 

アルフィアに向かって斧を振り下ろすガレス。

アルフィアは動揺することもなく一言つぶやく。

 

「【福音】」

 

「グァっ!」

 

超短文詠唱にて放たれる魔弾がガレスを襲う。

耐久値の高さとスキルによる補正によって都市最硬を誇るガレスでもその魔法の威力は強すぎる。アスフィに急遽準備した魔道具によって威力を軽減しているおかげで耐えられている。

 

「行け、フィン」

 

「ああ」

 

ガレスの背後に潜んでいたフィンは飛び出して槍を振るう。

アルフィアはそれを難なく交わす。

リヴェリアによる遠距離攻撃、ガラスによる近距離戦闘、フィンによる奇襲。三人の連携を持ってしてもアルフィアを崩すことができない。

 

「攻めあぐねているな」

 

その4人の戦闘を眺めていた老兵が呟く。

フィンよりファミリアの指示を任されていた老兵、ノアールは『神獣の触手』の戦闘がフレイヤ・ファミリア主体で安定してきたのを見て一休みしていた。アイズが一瞬暴走仕掛けたがなんとか持ち直した。

 

「ダイン、バーラ。頼みがある」

 

「ノアール、どうした急に」

 

ノアールと同じく老兵のドワーフのダインとアマゾネスのバーラに話しかける。

 

「こっちはフレイヤに任せて大丈夫だろう。問題はあっちだ」

 

ノアール達はフィン達より冒険者としての経歴は長い。

そのため、ヘラの規格外さはよく知っている。

フィン達が破れれば残りの戦力はアルフィアに敗れるだろうことは想像できる。

 

「すまんな、2人とも。冒険をしたくなった」

 

「「⁉︎」」

 

ノアールには死ぬ気はない。

老兵の命をくれてやることに迷いはない。だが、なりたくなったのだ英雄に。

 

●●●●●

 

2ヶ月前

 

ラウル達若人の訓練を眺めているノアール。

着実に力をつけてきた若人を見ていると自身が老いたことをより一層感じさせられる。

 

「どうしたの、ノアール」

 

思い悩んでいたノアールにアリスが話しかけてくる。

 

「アリス、戻ってきてたのか?」

 

「うん、ロキに顔を出さないと皆んなに忘れられるって言われて」

 

都市中を走り回っているアリスは本拠にいることは少ない。ましてや、新人達の訓練に顔を出すことなど皆無に等しい。

 

「天下の【不動】を忘れる者がうちのファミリアに居るとは思えんが」

 

「一応、同じファミリアだし。たまには顔を出さないと」

 

「そうか、なら少しあいつらに手ほどきしてやってくれ」

 

「うん」

 

若人達の訓練に参加するアリス。

最初は都市最強の1人であるアリスに挑むことへ腰が引けてた若人達だったが、容赦ないアリスの攻撃に立ち向かわなければ死ぬと思ったらしく勇敢にも立ち向かっている。

手加減をしているがノアールの目から見てもやりすぎなアリスの稽古は叩きのめして回復をして無理矢理起こしまた叩きのめすの繰り返し。

一方的な蹂躙にも立ち向かう者達を見て、また1人が立ち向かう。最後には全員でアリスへ挑みかかっている。

 

 

「すまんな、アリス」

 

「いや、構わない」

 

訓練場では地面に伏せているラウル達がいた。

それを眺めながらアリスとノアールは会話を進める。

 

「ノアール、何か悩んでる?」

 

「・・・限界を感じている」

 

少し迷ってノアールは自身の悩みを口にする。

 

「いつからか、意欲より先に、諦念が身体を支配するようになった。腕が重く、視野が狭くなった。心が思い描く自分に枯れた木のような手足がついていかない。日に日に衰えていく肉体を感じる。お前達に追いつくにはもうこの体は老いすぎてる」

 

かつて、冒険者のいろはを教えたアリス、4人達は今では都市を代表する冒険者。先達者として負けるつもりはない。だが、遅すぎた。この体では先には進めない。

 

「・・・ノアールは確かに老いた。でも、弱くはなってない」

 

「ッ⁉︎何故そう言える」

 

アリスの言葉がノアールに刺さる。

 

「力衰えて、動きは遅くなった。でも、その技は日に日に冴えわたり、技量は高まっている。なら、ノアールはまだ剣を握れる、立ち上がれる。その牙は欠けてない、その刃は刃こぼれしてない」

 

「だが、もう・・・」

 

冒険をするには限界が来ている。

 

「戦うんだ。私たち、冒険者は地位、名声、それとも富か、何かを求めて冒険者になった。だから戦う、例え手足がなくなろうとその誇りがあり続ける限り戦う。限界なんて戦い抜いたあとに決めればいい。ノアールは何を願って冒険者になった?」

 

ノアールは自問する。

遥か昔、オラリオの地に踏み入れた時の情景。

願望を胸に栄光ある未来を願った。それはとても幼稚で、かけがいのないものだった。

 

「英雄になりたかった。物語に出てくるような、華々しい英雄に、誰もが胸を熱くするような英雄に、自分は、俺は英雄になりたかった」

 

「・・・なら成ればいい、最後まで戦い抜いて英雄に。歴史に名が残らないかもしれない、それでも私は私たちがノアール達を覚えている。私たちの中ではノアールは英雄だ」

 

「ああ、ならもう少しは戦える」

 

●●●●●

 

「全く、しつこいな貴様達は」

 

いくら突き放そうと倒れないフィン達に嫌気がさすアルフィア。今のままでは三人に明確なダメージを与えられない。

 

「仕方ない、見せてやろう真の雑音を」

 

アルフィアは身に纏う【静寂の園】を解く。

リヴェリアはアルフィアから感じられていた魔力が消えたことに気づく。

フィン達は知っている、アルフィアの魔法が中にも作用していることを。

 

「リヴェリア!」

 

フィンは叫ぶ。

迎撃は不可、回避を遅すぎた。ならば防ぐしかない。

リヴェリア咄嗟に防護魔法を自身と2人に施す。

 

「【福音】」

「【サタナス・ヴェーリオン】」

 

場に轟音が鳴り響く。

ガレスが前に立ち防ぐが先ほどまでの威力とは比較にならないほどの高威力。

リヴェリアの防護を突き破り三人を吹き飛ばす。

 

地に伏せる三人。

その3人に歩み寄る三つの足音。

 

「すまんな、フィン。貴様らの冒険邪魔させてもらう」

 

老兵、ノアール、ダイン、バーラの3人はフィン達の前に立ちアルフィアと対峙する。

 

「ノアール、ダイン、バーラ。何をしてる」

 

立ちあがろうとするが平衡感覚が崩れてるフィンは上手く立ち上がれない。

 

「何、時間稼ぎよ。俺たちでは【静寂】は倒せん。だが、お前達の道は作れる」

 

3人は前へ進む。

 

「付き合ってもらうぞ【静寂】、この老兵達の最後の戦いに!」

 

アルフィアは答えない。

返す言葉はない。

かつて、アリスと一緒にいた時によく揶揄ってきた老兵達。なんど吹き飛ばしても次の日には愉快に揶揄ってくる。アルフィアはそんなノアール達が苦手だった。だが、それと同時に心地よかったのも覚えてる。

振るわれる剣と斧、拳。そのどれもが自身が知っているものより衰えて老いていた。

知り合いだからと言って手を抜くつもりはない。

魔法で3人を吹き飛ばす。しかし、それでも立ち向かってくる。残り少ない命を燃やして時間を稼ぐ。

 

「「いまだ!」」

 

地に伏せられたダイン、バーラはアルフィアの足を掴む。

 

「⁉︎」

 

油断はしてない。それでも、老兵の気迫と磨き抜かれた技術がアルフィアの一種のスキをついた。

 

「やれ、リヴェリア!」

 

ノアールは身動きが取れなくなったアルフィアの背後に周り腕で彼女の口を塞ぐ。

魔導士の唯一の弱点は詠唱。それを呟かなければ魔法は発動しない。

今のアルフィアは静寂の園を使っていない。

ならば、魔法がアルフィアを貫く。

 

「【レア・ラーヴァテイン】‼︎」

 

悲痛な顔をしたリヴェリアが魔法を3人諸共に放つ。

炎の柱が4人を呑み込む。

老兵は黒ずみになりながらもアルフィアを離さない。

しかし、アルフィアは所々傷を負いながらも立っていた。

 

「ガレス、僕を投げろ!」

 

「ッ⁉︎」

 

フィンの意図に気づいたガレスは彼を自身の斧に乗せて投げ飛ばす。

高速でアルフィアに飛来するフィンは槍を前へ突き出す。

 

迫り来るフィンの今にも幼い泣き出しそうな顔を眺めたノアールは今までのことを走馬灯のように思い出す。

生意気な後輩達がオラリオへ来た。冒険者のいろはを教えた。自身が夢見た光景を作り出してきた4人。

 

「泣くな、フィン。貴様と、貴様らと出会えて良かった」

 

「ッ⁉︎貫けぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

アルフィアの腹部をノアール諸共貫くフィン。

その衝撃でアルフィアとノアールは後方へと突き飛ばされる。

砂煙が晴れると腹部に血を流し、口からも吐血しても尚立ち続けるアルフィア。

 

「あれでも、倒れんのか」

 

その光景にリヴェリアは驚愕する。

フィンの一撃は必殺に近い威力を出していた。

長時間に及ぶ戦闘はアルフィアの病を誘発させ苦しめていた。

アルフィアとて限界など超えている。しかし、立ち上がる。

ノアール達の意思はフィン達だけではなくアルフィアにも届いていた。

最後の壁としてフィン達の壁として戦い抜かなければいけない。

それと、意地だ。あの女以外には負けるつもりは無いと心の奥底に眠る思いがアルフィアを立たせてた。

 

「・・・」

 

フィン達は全力を使い尽くした。

もはや戦う余力はない。そんな3人の前に英雄は立っていた。

 

「待たせた」

 

「アリス・・・」

 

アルフィアは目を見開き。

フィン達は微笑みを浮かべる。

 

●●●●●

 

「・・・」

 

ヴァレッタは息を潜めていた。

アリスが天を斬ったあと、味方達を盾にしながら生きながらえていた。

盤石をたった1人によって壊された。このままでは敗北は確定。引くにも空に飛んでいるアリスが創り出した鳥達がオラリオを監視してる。今この場を逃げても地上へ戻ったフィンたちが自分たちを掃討しに乗り込んでくる。

故に信者達の格好をして姿を偽り氷壁の中に侵入した。そのあとは、冒険者の格好をして身バレしないよう慎重に行動していた。

今から犯すは神殺しという大罪。

神ロキを屠りアリスを無力化する。

あと少しで神ロキに手が届くところまで来ていた。

そんなヴァレッタを1人の少女が見ていた。

 

(あと、少し)

 

「させません!」

 

少女がヴァレッタへつかみ掛かる。

その騒ぎに周りが気づく、ロキは後退りラウル達はロキを守ろうと近づく。一羽の鳥がヴァレッタへ迫る。

あと数秒でアリスが来ると感じたヴァレッタは小人族の少女を引き離そうとする。

しかし、レベル5の力を持ってしても少女を引き離せない。拳を振り下ろし、足を上げても、どれだけ痛めつけられようと少女は手を離さない。

 

「テメェ、放しやがれ!」

 

「痛ッ、放しません。今ここで放したら、リリは変わらなくなる」

 

少女、リリルカ・アーデでさえこの行動に驚いている。

冒険者に痛めつけられてきた日々、物乞いのように過ごした幼少期、冒険者の才能はなく搾取されてきたサポーターとしての日常。

死んでいった冒険者を見てザマァー見ろと思ったこともあった。

この前の襲撃では酒に覚れて恐怖を和らげていたが、今でも目の前の闇派閥達は怖い。それでも死ぬかもしれないと思っていても身体が動いていた。

【勇者】の勇気に当てられた、【不動】の背中に魅せられた。自分でも出来るのだと思わされた。

今ここで動かなければ一生後悔することだけはわかる。

今までの激情を乗せて力一杯ヴァレッタを捕まえる。

ヴァレッタはリリルカを見て固まる。

ヴァレッタの良く知る瞳と目が合う。真紅に染めた紅瞳がヴァレッタを睨みつけている。

2人の間に羽が落ちる。

 

「ヴァレッタ!」

 

鳥と位置を入れ替えたアリスが上空から大剣を振り下ろす。

ヴァレッタはリリルカを力一杯蹴り飛ばし攻撃を躱す。

着地したアリスはすぐさまにヴァレッタへ迫り来る大剣を振り上げる。

回避は不可能と感じたヴァレッタは左腕を盾にする。

 

「ッ、」

 

ヴァレッタの左腕が宙を舞う。

 

「覚えてやがれ、アリス、糞小人族!」

 

痛みに耐えながら逃走を図る。

アリスはすぐに追いかけようとするがその場に膝をつく。

アリスの鼻からは血が流れ落ち、身体中から脂汗を流していた。

 

「アリスたん、すぐにスキルを解きい。もう、器にヒビが入ってる」

 

「ダメだ。まだ、アルフィアを止めてない。それより彼女は無事か」

 

「ラウル達が見てる。あの子のおかげでうちは命拾いしたわ」

 

蹴り飛ばされたリリルカに駆け寄ったラウルとアナキティは気絶しているだけのリリルカを見て安堵する。

会話をする2人に近づく1人の女神。

 

「アリス、せっかく綺麗な顔が台無しよ」

 

膝をつきアリスの顔を拭くフレイヤ。

我が子にするかのように慈愛を持って接するフレイヤにアリスは戸惑い、ロキは憤怒する。

そんな2人を無視してフレイヤは話を進める。

 

「行きなさいアリス。闇派閥達は主戦力を失くして敗走してるから後はオッタルと彼がなんとかするわ」

 

フレイヤの後ろに控える2人の大男。

片方はフレイヤの戦士たるオッタル。

もう1人は敵であるザルドが控えていた。

 

●●●●●

 

「いつまで寝てるの?ザルド」

 

オッタルに負けたザルドは空を見上げながら大地に横になっていた。

そんなザルドに話しかけるフレイヤ。

 

「早くトドメを指せオッタル」

 

ザルドは役目を果たした。

見事に壁を乗り越えて見せた勝者、オッタルに言う。

しかし、オッタルは首を横に振りそれを拒否する。

 

「やっと、一勝だ。まだ貴様に勝ち越してない」

 

「馬鹿か?俺はもう戦えない」

 

ザルドの体を蝕む毒が先の戦闘で悪化している。もはや剣を握る力さえ残ってない。

 

「全く、男の子って意地ばかり張るのね。オッタル、これを飲ませなさい」

 

フレイヤはあるものをオッタルに渡す。

オッタルはそれを受け取りザルドに飲ませる。

そして、それを見たザルドは表情が固まる。

 

(許せ、ザルド)

 

女神には逆らえない。

いくら敗者に行う行為とはいえ惨すぎる。

そのこの世の物とは思えない色をした液体をザルドの口へ運ぶ。中身を知っているオッタルでも見た目があれ過ぎて引いている。

メシマズ女神のそれはありとあらゆるモンスターを食してきたザルドでさえ絶句するほど不味かった。

しかし、味とは裏腹にザルドの体を癒していた。

 

「ユニコーンの角や人魚の生き血などをエリクサーと一緒に煮込んだものよ。常人なら意味をなさないでしょうけど貴方ならスキルの効果で毒を和らげるでしょう?」

 

フレイヤと一緒に調合をした薬神2人は見た目に引いたが効果は保証していた。

 

「・・・何故だ?」

 

力を取り戻して、立ち上がるザルドは戸惑いながらも尋ねる。

 

「だって、貴方。昔はもっと輝いてたから前みたいに戻って欲しかったのよ」

 

「・・・」

 

「毒を克服して貴方が英雄になればいいのに?いつから諦めたの?」

 

「・・・俺では英雄にはなれない。あいつらの輝きを、あいつの強さを知った俺は、自分には無いものを知った」

 

かつて、ザルドはヘラと共にアリスに挑んだ。

結果は共倒れ。

アリスはスキルを制御できずに暴走。その膨大な力を前にザルドは無力だった。自身の派閥の団長と女帝のみが戦っていたが最後には倒されていた。アリスも2人を倒すと同時に倒れたために引き分けとなった。

あの時から自分では英雄足り得ないと知った。

昔は自分も英雄になりたかった。だが、英雄になるべき存在と出会い挫折した。

 

「ザルド、お前は俺を泥臭いと言った。ならお前は泥に塗れる覚悟はないのか?」

 

自身に敗北し続けてきたものなら言葉。

挫折を繰り返してなお諦めなかった男。

彼に比べればなんたる小さいのだろうか、俺はいつ自分が小綺麗でいることを選んだ。

 

「、粋がるなよクソガキ。なるほど、まだ俺にもやれるらしい」

 

フレイヤは光を取り戻したザルドの魂を見て微笑む。

 

●●●●●

 

「行け、アリス。アルフィアは英雄を、お前を待っているぞ」

 

ザルドの一言を聞いたアリスはすぐさまにダンジョンへと駆け出す。

この選択は間違えかもしれない。

完全に悪の芽を滅ぼすことはできず、いずれ災厄が訪れるかもしれない。

それでも、アリスは彼女を救うために駆け出す。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

そばにいて欲しい

決着です。
ガールズラブ付け足したほうがいいですかね?


「なんできた、アリス」

 

「君を救いに」

 

アルフィアとアリスは燃え盛るダンジョンの中で対峙していた。

方や、スキルの影響で疲労が見れており器たる肉体にはヒビが走っている。

方や、先の戦闘で重傷を負い、病により吐血は止まらない。

両者ともに疲労していた。

 

「ふざけるな!貴様は悪役たる私を救うだと?英雄になるのでは無いのか?私を救えば英雄などなれないことはわからないのか!」

 

普段の落ち着きを忘れてアルフィアは叫ぶ。

全てはアリスを英雄にするためにしてきたこと。誰よりもアリスの強さを知っている。だからこそ彼女に後を託せる。

 

「私は私の意思で英雄になる。誰かに求められたからじゃない。私が救いたいから英雄になる」

 

他人に意思を委ねるつもりなどアリスには無い。

アリスは救いたいから救う。【偽善】の押し売りを行う。

例え、罵られようがアルフィアを救う。

 

「何故だ!何故わからん」

 

「そばにいて欲しいから」

 

「⁉︎」

 

アルフィアに向かって手を伸ばす。

 

「私は英雄になる。でもそれはきっと1人じゃなれない。フィンやリヴェリア、ガレス、ロキ、皆んなが居て私を支えてくれる。アルフィアにも私を支えて欲しい、助けて欲しい、そばにいて欲しい。どうか、私が英雄になるのを見届けて欲しい」

 

アリスはこれからも茨の道を進む。

前へ進むことを選び続ける。挫けもする、立ち止まることもあるそれでも前へ進むのは美しい世界を作るため。

そして、その先を誰かに見せたいから前へ進む。

 

「だから、私はアルフィアを救う」

 

「ふざけるな。私は望んでなどいない、」

 

アルフィアは本心を隠しながら言い返す。

その手を握りたいのを抑えながらアリスを突き放す。

かつてはアリスの手を握ることに憧れていた。メーテリアに手を引かれるアリスの後を追いかけていた自分は空いているもう片方の手を握ろうとしていつも躊躇っていた。

憧れの手が今自身に向けて伸ばされてる。

だが、これを掴めばアリスに汚点を残すことになる。もう、自分は救われては行けないのだから。

 

「なら、戦おう。意地がぶつかり合うなら、私たちは戦うしか無い。だって私達は冒険者なんだから」

 

「・・・そうだな。最後ぐらい貴様に勝つのも一向だ」

 

アリスは大剣をアルフィアに向ける。

アルフィアは今まで使ってこなかった刀を鞘から抜く。

静寂が場を支配する。

一瞬、炎が揺れると同時に2人は激突する。

大剣と刀がぶつかり合う。剣をぶつけ合いながらお互いが魔法を放つ。お互いが戦士としても魔導士としても超一流。

『神獣の触手』を倒した冒険者達が見入っていた。

【顔無し】ヴィトーは2人の放つ輝きに目を奪われていた。

そして、邪神エレボスは盛大な姉妹喧嘩に笑みを浮かべていた。

エレボスの目的は達成された、目にかけてたアストレアの眷属達は見事に今回の戦いで成長した。地上ではオッタルが高みへと昇った。フィン達が殻を破りアルフィアに一矢むくいた。そして、アリスが英雄へと歩み出した。

ならば、見届けようこの戦いを。

 

「【祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪】 」

 

紡ぐは最強の一撃。

かつて海の覇者を倒した魔法。

 

「魔力解放」

 

アリスは足を止めて迎え撃つ。

 

「【禊(みそぎ)はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】 」

 

アリスの大剣から極光を放つ。

天を斬った時以上の力を剣へと流し込む。

 

「【神々の喇叭(らっぱ)、精霊の竪琴(たてごと)、光の旋律、すなわち罪禍の烙印】 」

 

詠唱を唱えるアルフィアと力を溜めるアリス。

この力のぶつかり合いを制した方が勝者となる。アリスにとっては魔法を放つ前に止めればいい。しかし、アルフィアが納得する勝利を得るには真正面から斬り伏せる。

 

「【箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ砕け散れ。私は貴様(おまえ)を憎んでいる!】

【代償はここに。罪の証をもって万物(すべて)を滅す】

【哭け、聖鐘楼】 」

 

完成された魔法。

鐘の音がダンジョンに鳴り響く。

アリスは極光を放つ大剣を構える。

 

「【ジェノス・アンジェラス】」

 

「斬り裂け!」

 

轟音がアリスへと襲う。

アリスは斬撃を放ちそれを迎え撃つ。

両者とも階層を破壊する威力を誇っている。

アリスの膝が曲がる。このままでは押し負けてしまうと思った時、また彼女に背中を押された。

 

「姉さんをお願い」

 

聞きなれた、もう聞けないはずの少女の声が聞こえた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

大剣を握る力を強める極光が光を増す。

アルフィアの魔法を押し返し、呑み込む。

 

「私の勝ち」

 

「ああ、私の負けだ」

 

決着はついた。

両者に余力はなく、もう戦う力はない。

アリスがアルフィアに向けて手を伸ばす。

アルフィアはそれを掴むことに躊躇う。

するとアルフィアの足元が崩れる。

崩れ落ちる足元を見てアルフィアは微笑む。

これでいいのだと、その手を掴む権利はとうの昔になくなっているのだから。ましてや、自分だけがおめおめと生き残るのに抵抗がある。

 

「アルフィア!」

 

大穴に呑み込まれるアルフィアを見てアリスは駆ける。

そのままアルフィアを追いかけて炎の中へ飛び込む。

 

「手を伸ばせアルフィア!」

 

「いいんだ、アリス。この身は炎に返すと決めてる。メーテリアの所に行かせてくれ」

 

後少しで手が届くのに足りない。

その距離を縮めるには少しでもアルフィアが手を伸ばしてくれれば良い。

 

「ふざけるな!誰かに救って欲しいから英雄を、私を求め続けたんじゃないのか!」

 

「ッ⁉︎」

 

幼き日、アルフィア達は両親に捨てられた。

苦しむ妹を背に担いで妹を助けるために街中を歩いていた。

苦しい自分の体調を無視して歩き続ける。

とある女神と出会った。恩恵を授かれば助かるかもしれないと言われた。しかし、結果は無意味だった。悪化したのかもしれない。女神は必死に私達を助ける術を探してくれた。

それでも、病が良くなることはなかった。

部屋から出ることのできない妹と違い、自分には才能があった。延命のために強くなった、治療法を身につけるためにレベルを上げた。だが、思い通りにはならなかった。

そんな時、ある女アリスと出会った。

女神が言うには唯一の対抗策らしい。

世界が変わった、アリスの治療を受ければ病は治らなくても良くはなる。彼女から治療を受け続けれれば無茶をしない限り延命はできる。

アルフィアにとってアリスは希望だった、英雄だった。

幼き頃読んだ英雄譚。英雄に憧れた、誰かを救う英雄に。そして、自分達をこの苦しみから救ってくれる英雄に憧れた。

 

「今、目の前にお前を救う奴がいる!だから手を伸ばせ!」

 

アルフィアは戸惑う。

手を伸ばせばアリスは全力でアルフィアを救う。それを許容してくれるオラリオではないかもしれない。もしかしたら、自分達の汚名を彼女にも被せるかもしれない。

それでも無意識に微かに手を伸ばしてしまう。

その伸びかかった手をアリスは掴み取りアルフィアを引っ張る。

 

「私を助ければ破滅の道を歩むかもしれないんだぞ」

 

「うるさい、もう私から逃げるのは許さない。また、英雄にならばいい。何度だって奇跡を起こして見せる」

 

「ああ、傲慢だな」

 

「知らなかったのか、私は昔から傲慢なんだ」

 

落ちていく2人に光が包み込む。

 

「「行こう」」

 

●●●●●

 

オラリオではオッタルとザルドを中心にが闇派閥と怪物達を倒していた。レベル1、2の冒険者はアスフィを筆頭に無力化された闇派閥を捉えていた。

戦闘はあり、怪我を負ったものもいるが死人は出てない。

街の上空に一つの光が出現する。

光が収まるとアリスとアルフィアが出現する。

地上に戻ってきた2人が見たのは夕暮れ。

朱色に染まる太陽がアリスの結界と相まって幻想的な景色を作っていた。

 

「綺麗だ」

 

呟くアルフィア。

 

「なに言ってんの?これから美しい世界にするんだよ」

 

「?」

 

アリスの言葉がわからず首を傾げるアルフィア。

そんなアルフィアにお構いなしに詠唱を紡ぐ。

 

「【未踏の情景よ、禁忌の扉よ。今日この日、我が身は天の法典に背く。】」

 

美しい歌声がオラリオに響き渡る。

それを聞いた人々は空を仰ぎ見る。

 

「【愚かなる願い、果たされぬ約束、嘆く渇望。果たされない再会を、どうか届けて欲しい】」

 

行うのは死者を蘇らすわけでも、神になり変わるわけでもない。

ただ、この世界を美しくするだけ。

 

「【代償は払わない、ただ声を届けて欲しい。砕け散れ】」

 

アリスの結界が砕け散る。

世界にヒビが入り黄昏の結界は砕け散り黄金の硝子が降り注ぐ。

 

「【ヘル・エパネノスィ】」

 

アリスが持ち得ない魔法。

【妖精歌唱】と維持されていた結界を使い新たな魔法へと改変した禁術。

光を浴びた人達は傷が癒える。重症だったものや片目や片手、片足を失っていたもの達も傷が治り欠損していた部位が蘇っている。

だが、それだけじゃない。

気を失っていた闇派閥の幼い少女の前に光が集まる。

 

「お父さん、お母さん?」

 

声が彼女に聞こえた。

少女は涙を流す。

恋人を失ったもの、子供を失ったもの、親を失ったもの、今回の件で最愛の人を失った人達に声が届いた。

少しの再会、気休めにもならないそれは別れを告げることのできなかった彼等にとってはかけ甲斐のない時間。

 

「メーテリア?」

 

アルフィア達の前にも光が現れた。

 

『あの子に会わないでこっちに来たら怒るわよ。だから、生きてね姉さん』

 

妹からの言葉。

涙を流すアルフィア。もう2度と聴けないと思っていた彼女の声はとても優しい声音をしていた。

アルフィアには託されたものがある。

 

「・・・わかった」

 

メーテリアはアリスに微笑む。言葉は交わさない、もう言うことなどないのだから。

後はお願い、と頑固な姉と幼き我が子をアリスへと託す。

光が消える。アルフィアは手を伸ばすが光は空はと登る。

 

今日この日、人類は歩みを進めた。

これから続く道は酷く険しい道なのかもしれない。

1人の妖精は英雄としての役目を担った。だが、それは孤独な戦いではない。彼女に後に続く英雄達がいる、彼女の背中を押してくれる者たちがいる、彼女と共に歩み続けるひとがいる。

世界はいまだに破滅へと進んでいる。だがこの日を持って英雄達は救世の歩みを進めた。

最後の英雄なんていらない、英雄達は確かにここに存在する。誰かの英雄は永遠に存在し続けるのだから。




次回がアストレアレコード最終回です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ/この景色を見るために

短いです
反感が買いそうな展開ですけどぶっちゃけ闇派閥って行いは許せないけど好きキャラ達です。
ヘルシングに出てきそうな老人神父。
歳は取ってるのに幼い合法ロリエルフ白黒姉妹。
欠陥を抱えて狂ったヴィトー。
三下キャラで踏み台属性山盛りな白髪鬼。
フィンさん大好きすぎて前世から付き纏っているヴァレッタさん。
何こいつらキャラ属性てんこ盛りすぎない?


「で、アリスの魔法がダンジョンにも届いて僕たちの傷も元どおり癒えたんだ」

 

ロキ・ファミリアの執務室で街の復興に向けて事務作業をするフィンと酒を片手に話を聞くロキ。

 

「かー、相変わらず無茶しよるなアリスたんは。皆んなの傷を治して、死者の魂を下界に呼び出すなんてどんな奇跡なんや」

 

「それで、彼女の容態は?」

 

アリスはあの後気を失った。

【聖女祝福】の副作用で器の修復をするため魂が漏れ出さないように活動を止めていた。

 

「レベルが上がったおかげで器の修復は済んでる。レベル7や器の強度も上がっとるから直に目を覚ますやろ」

 

「そうか、彼女が目を覚ませば街も活気付くだろう」

 

アリスはもはやオラリオの英雄として祭り上げられていた。

街を救った英雄、あの奇跡を目の当たりにした人々はアリスを認めていた。

 

「しかし、僕たちや闇派閥を含めて死者はゼロ。お人好しもすぎるね」

 

アリスの魔法は秩序側だけではなく闇派閥の傷も癒していた。

 

「まあ、十分痛めつけてたしこれ以上は悪さをしないやろ。中にはアリスたんの奇跡を目の当たりにして改心した子もおるやろ」

 

「神エレボスには感謝だね。捕虜の闇派閥達を引き受けてくれて恩恵の封印、改心した者達の恩恵は復活させて街の復興に尽力してくれてる」

 

ディース姉妹を筆頭に改心した闇派閥はオラリオの復興に向けて尽力してた。

街の住民や冒険者達からの風当たりは強いが今までの蛮行への報いだ。いずれは彼女達が善行を積み重ねて人々に認められる日を来るかもしれない。

 

「彼女達を外に出すには危険だからね。オラリオで飼い殺せるならそれが得策だ。処刑の件も出てたが今は戦力を整えたい」

 

今回の件でオラリオは戦力を失った。

それに乗じて各国が動き出していることも掴んでいる。闇派閥に手を貸していた商人連合、戦争の準備を進めているラキア王国、密かに闇派閥に手を貸していた各勢力達が弱りきったオラリオを手に入れようと暗躍している。

 

「それに、ヴァレッタは見つからなかった。何人かの闇派閥が逃げ仰たようだ。全く、いつも詰めが甘いよアリスは」

 

「そこが、アリスたんのいいところやろ」

 

違いないと肩をすくめるフィン。

ヴァレッタ達数名の闇派閥はアリスが気絶した後に本当の隠れ家へと逃げ仰せていた。

監視が消えたおかげで彼女達の本拠は特定できず、地上にいた邪神達を捕まえて送還することぐらいしかできなかった。

 

「それより、彼等はどうしたんだい?」

 

ガレスは街の復興に駆り出されており、リヴェリアはギルドに向かい物資の確保に明け暮れていた。そんな中、自身の手伝いなら呼んだはずの老兵達がいないことにフィンは問う。

 

「ああ、ノアール達か?それならツンデレ娘を揶揄いに行ってくるわって行ってアリスたんの見舞いに行ってるで」

 

「いつものか、」

 

フィンは頭を抑える。

 

●●●●●

 

「今どんな気持ちじゃ【静寂】。死ぬ気だったのに無様にも助けられた気持ちはどんな気持ちじゃ」

 

老兵ノアールとダインは眠っているアリスの横に座っていたアルフィアを揶揄う。

 

「バーラさん止めなくていいんっすか。絶対殺されますよ」

 

「ラウル、諦めな。いつものことだよ」

 

ヘラ・ファミリアが健在だったころアルフィアはよくアリスに挑みにロキ・ファミリア本拠に乗り込んできていた。

アリスに返り討ちにあい治療を受ける。

そんなアルフィアをよくノアールとダインは揶揄っていた。

最後にはキレたアルフィアが魔法で本拠を半壊してヘラによって連れてこられたゼウス・ファミリアが本拠を直す。ついでに来ていたゼウスがロキと一緒に女湯に乗り込んでヘラによって街中に吊るされている光景が生まれるのが一連の流れだった。

 

「「顔を赤くしてアルフィアたんまじ萌えぇぇーー!」」

 

自身の主神に染まり切ったノアール達はアルフィアを揶揄うのを止めない。冒険者になってから苦渋を飲まされてきたヘラ・ファミリアに意趣返しも兼ねている。

そろそろだと思ったバーラは一歩下がる。

 

「うるさい!」

 

渾身のアッパーがノアール、ダイン、ラウルを襲う。

3人は宙を舞い頭から天井に突き刺さる。

 

「なんなんだ貴様達はいつに増して喧しい」

 

「この馬鹿ども久々にランクアップできて、浮かれてるんだよ」

 

先の戦闘でフィン達3人だけではなくノアール達もランクアップを果たしていた。

望み薄と考えていたランクアップ、第一級冒険者になれたことにはしゃいでいた。

 

「子供か!」

 

そのあんまりな理由にアルフィアはキャラを忘れて突っ込んでしまう。

 

「で、どうするんだいこれから」

 

バーラは問う。

 

「妹の子に会いに行こうと思う」

 

「あの子に子供ができたのかい。あんたそれなのにその子をほったらかしにしてたのかい?」

 

「ああ、随分遠回りした気がするな。意地をはって大切なものを忘れていた」

 

だいぶ前に託されたのにそれを忘れていた。

アリスに約束を忘れていたことを叱咤した自分だが、人のことは言えなかった。自分も忘れていたのだから。

騒ぎを聞きつけたアミッド・テアサナーレは部屋の惨状を見たあと怒り狂った。その怒りにアルフィアさえ恐怖して説教を受け入れていた。

後から訪ねてきたリヴェリアは説教を受けているアルフィアを見て腹を抱えて笑った。

 

●●●●●

 

「「ねぇねぇ、ヘディン。次は何をすればいい?」」

 

ヘディンは内心震えていた。

脳筋団長達に復興作業の現場監督を押し付けられたヘディン。それだけでも怒り狂うのに、今まで殺し合ってきた腐れ縁達にウザ絡みをされる毎日に嫌気をさしていた。

 

「「ヘグニは居ないの?」」

 

ヘグニはこの悪夢を体験した次の日から部屋に閉じこもっている。あの根暗エルフにはこの惨状は耐えられなかったらしい。

ヘディンは必ずやあの脳筋団長達と彼女達を押し付けてきたエレボスを駆逐すると心に誓った。

 

「「ねぇねぇ、ヘディン?」」

 

●●●●●

 

「いいのですかエレボス様?」

 

とある場所に潜入している神2人にヴィトーは尋ねる。

 

「ふっ、ヴィトー。止めるなよ、これは男神達が果たさなければいけないんだ」

 

「そうだぞヴィトー君。これは僕たちが果たさなければいけないんだ」

 

バベルの中にある浴場施設。女神達が入っているその場所にエレボスとヘルメスは潜入していた。

後少しで女神の園が見える。そんな場所まで来ていた。

ヴィトーとしては女神の裸に興味などない。無理矢理付き合わされているのだ。

 

「ヘルメス様」

 

「神エレボス」

 

後少しと言う場所で彼等を静止する声が聞こえた。

 

「アスフィ・・・」「リオン・・・」

 

ヘルメス・ファミリア副団長アスフィとアストレア・ファミリアのリューが仁王立ちしていた。

苦労人2人はここ最近、この悪行神2人を捕まえることに街中を走り回っていた。

その後、ボコボコに殴られた3人が中央広場に吊るされていた。

 

●●●●●

 

数日後、

 

街の復興にも目処がたったころ、アリスはアルフィア達とある場所に訪れていた。

 

「アリス、まだ?」

 

アリスに連れてこられていたアイズは退屈なのかアリスに尋ねる。

彼女は歩き疲れたのかザルドの肩に乗っていた。

復興作業では全く役に立たないアイズをリヴェリアはアリスに押し付けていた。

暫くすると森の中から出れて開けた空間が広がっている。

夕暮れ時のいま、小麦畑は黄金に輝いていた。

 

「こんな山奥に住んでるのかあの爺は」

 

ザルドはボヤく。

居場所は知っていたがこんな僻地だとは思っていなかったのか環境の悪さに嘆いていた。

4人の前に白が走っているのが見えた。

白い少年がとある老人を追いかけて走っていた。

それを見た4人、アルフィアは目を見開く。

 

「・・・」

 

アルフィアは無言で走り出す。

アルフィアの行動を見たアリスとザルドはお互い目を合わせて微笑む。

 

私の選択は間違っていたのかもしれない。

でも、この先の景色を見るために駆け抜けた。

そして、これからも明日を見るために今を駆け抜ける。

この先にあるのは破滅かそれとも栄光かはわからない。でも、後悔はしない。

 

「誰?」

 

「・・・」

 

アルフィアは少年、ベルの前に立ち、そして彼を抱きしめる。

涙を流すアルフィアとそれに戸惑うベル。老人、ゼウスはそれを見て驚き、後からきたザルドを見る。

 

だって、私が思い描いて走り抜いたこの景色はこんなにも美しいだから。




次回からは小話を挟んで原作に行きたいと思います。
基本的には話が出来次第随時上げていきます。
日曜日には更新できるよう心がけます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章好敵手
原作開始:新米冒険者ベル・クラネル


間話を考えていたのですが上手くまとまらなかったのでもうこのまま原作突入です。
急遽書いたので5000文字いかないくらいで短めです。


「一年ぶりか」

 

城門を潜り都市内に入った1人のエルフは天高くそびえ立つ塔を見上げながら呟く。

彼女の名はアリス・グレイ、ロキ・ファミリアに所属しながら冒険者依頼のために都市外で活動をしている冒険者である。

 

「まずはギルドに報告か」

 

日差しを遮るように手を翳し天を見る。

暗黒期を乗り越えたオラリオは雨雲が続いたあの時とは違い雲が無い晴天だった。

 

●●●●●

 

「じぁ、これは裏口にお願いします」

 

ギルドの受付員、エイナは物資の搬入手続きをするためギルド前で確認作業を終えたエイナはギルドに戻ろうとしていた。

 

「すまない、ローズはいるだろうか?」

 

「へっ、ローズさんなら受付にいると思いますけど」

 

仕事がひと段落ついて気が抜けていたところに唐突に話しかけられて声を上げてしまう。

声の主はフードを深く被り顔がよく見えない。コートの端から流れ落ちる白金の髪と声の性質から女性ということは辛うじてわかった。

 

「あの、失礼ですがどちら様で?」

 

「私は、「エイナさぁーーーん!」」

 

女性が名乗ろうとしたらエイナを呼ぶ声が遮る。

 

「「・・・」」

 

トマト野郎とはよく言ったモノだ。

全身真っ赤になって辺りに果汁(血)を撒き散らす。

エイナは絶句して書類を落としている。

 

●●●●●

 

「えっと、ローズから対応を引き継がせてもらいます。エイナ・チュールです」

 

「アリス・グレイだ。よろしく頼む」

 

あの後、血塗れでエイナに近づこうとしてベルを鞘で押さえつけたアリスはベルをシャワー室へ押し込んだ。

担当職員のローズは近日行われるモンスターフィリアに向けての対応で忙しく、代わりに手が空いたエイナが対応することになった。

 

「今回は都市外での冒険者依頼の完了報告でよろしいでしょうか?」

 

「ああ、随時そちらに完了証を送っている。近日のものはこちらになる」

 

アリスは懐にしまっていた書類を出す。

エイナはそれを見て固まる。

決済済みの書類ファイルと未決済のファイルをローズから貰った時から気づいていたが、決済済みファイルが10cmファイルが4冊、未決済が2.5冊分ある。

そして、アリスから渡された書類の束。これを抜けがないのか確認するのに残業は確定だ。ようは押し付けられたのだ。

 

「書類は受け取りました。確認にお時間がかかると思いますので後日来ていただけないでしょうか?」

 

「そうか、暫くは滞在するから構わない」

 

エイナは目の前のアリスを見る。

オラリオ二大派閥の一つロキ・ファミリア所属。

オラリオで2人しかいないレベル7の片割れ。もうすぐレベル8という噂も出てる。

最強にて最優の冒険者。オラリオの生ける英雄。

7年前の抗争後についた二つ名は【救世】。

数えきれないほどの偉業を残し続ける存在だ。彼女をよく知る人が言うなら未だにレベル7なのが逆に不思議らしい。

暗黒期が終わった反動か放浪癖が出たらしく。都市を抜け出して旅をしている。そこに、ロイマンがいちゃもんをつけて都市外の冒険者依頼を受けさせている。

話では世界各国を周り怪物の被害を食い止めてるらしい。

 

「そうだ、今度からは貴族の接待という依頼は出さないでほしい」

 

「うっ、すいません。一応はオラリオに出資してくれてる有力貴族達でして無碍にもできず」

 

ほぼロイマンの独断だが、本当に断れない者たちもいる。

 

「そうか、私はあまり喋るのは得意ではないが」

 

レベル7であるアリスは世界でも有名だ。そんなアリスが領地の近くに通るとなると領主はあわよくばと考えてしまう。

ギルドに賄賂を流しアリスに立ち寄るように言ってくるのだ。かなりの額が寄付されておりエイナ達の給料にも色が付いてる。

 

「エイナさん、シャワーありがとうございます」

 

「あっ、ベルくん」

 

シャワーから上がってきたベル。

 

「えっ、アリスさん・・・」

 

ベルはアリスの方を見て固り辺りを見回す。

ベルとアリスは知り合いである、ここ一年は会ってなかったが昔はよく世話をしてくれていた。

一年前、育ての親である義母と叔父と共に旅に出てる。

つい最近、祖父であるゼウスが姿を隠す為にベルを置いて旅立った。その為、勝手にオラリオ来ていた

 

「ベルくん?」

 

そんなベルに不審に思うエイナ。

 

「ベル、まだ髪が濡れてるぞ」

 

「えっ、本当ですか」

 

「こっちへ来い。拭いてやる」

 

ソファを叩きとなりに座るよう促すアリス。

ベルとエイナは固まるが、「どうした?早く来い」と言われて状況も理解できずベルは無意識に座る。

ベルの首に掛かってたタオルを取り頭を拭きだす。ベルはなされるまま、エイナは状況が理解できずにいた。

 

「うん、これで乾いた」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「少し整えた方が良いな背を向けてくれ」

 

「えっ」

 

アリスは鞄の中から櫛を取り出し構える。そのやる気に満ちた顔に断ることが出来ず背を向ける。

 

「あのー、お二人はお知り合いなんですか」

 

置いてきぼりなエイナは堪らず問う。

 

「友人の子だ」

 

それにアリスが答える。

ベルは大人しくアリスになされるがまま。

 

「それよりベル、なんでオラリオにいるんだ?たしか、15歳になってから冒険者になる約束だったはずだが」

 

「うっ、」

 

アリスの質問にベルが詰まる。

山奥の農村にいるはずのベルがオラリオに、しかも冒険者になっている。アルフィアと約束している予定より1年早い。

 

「その、お爺ちゃんが・・・」

 

ベルは事情を話す。

 

●●●●●

 

アリスがアルフィアとザルドを連れて旅だってから数ヶ月。

ベルとゼウスは畑作業に精を出しながらいつも通りの日常を送っていた。

 

「大変だ、ゼウス!」

 

農作業を終えた2人は家でくつろいでた時に家の扉を蹴破る勢いで開けた優男、神ヘルメス。

ベルに隠れてゼウスとやり取りをしていたが7年前からはアルフィア達に気づかれているため隠れるのをやめていた。

 

「なんじゃ、騒々しいな」

 

「ゼウス、やばいんだ。まじでヤバい!」

 

ヤバいしか連呼しないヘルメスに2人は首を傾げる。

そんな2人に手紙を渡すヘルメス。

 

「「・・・」」

 

ゼウスは封を開けて中身を見て、ベルはゼウスの手にある手紙を覗き込む。

差出人はどうやらアリスらしい。アルフィアとザルドが手紙を送る柄ではないのである程度予想ができる。

 

『ゼウスへ

ベルとは元気にやっているだろうか?

こちらはつい先日、黒竜が人里に降りてきた為に戦闘が起きた。元々、黒竜の動きが怪しかったからアルフィアとザルドを連れて行ったのだが、誘導に失敗したらしく人類域に出てきた。

ちょうど、学区も近くに来ていたので『ナイト・オブ・ナイト』もいたので4人でなんとか人類域から追い返すことには成功した。が、こちらの消耗も激しく暫くは身動きができない。アルフィア達が帰るのが少し遅れることをベルに伝えて欲しい。

追伸

『ナイト・オブ・ナイト』が先の戦闘でレベルアップした。アルフィア達もランクアップしてると思われるので先にヘラの所に寄ってから帰ると言っている

アリス・グレイより』

 

ゼウスは固まった。

黒竜と戦った点については先に話を聞いていたのである程度は予想できた。3人とも無事であることも確認できたので一安心だ。

しかし、最後の一文がゼウスを困惑させた。

 

「ヘルメス、もしかしてあいつが来ちゃう?」

 

「十中八九来るだろう」

 

2人は冷や汗を流す。

あいつ、ヘラとは2人とも15年前から会っていない。

ましてや、ゼウスとヘラの眷属の子供、孫みたいな存在であるベルという存在を教えずに過ごしてきたこと。

ヘラを放置してきたことなどヒステリック女神を怒らせることは多数ある。

そのことを考慮してゼウスが取る行動は。

 

 

「ヘルメス!退路は!」

 

「もう、確保してる。谷を降りて川を下ればアルフィア達の帰路には鉢合わせないはずだ」

 

「よし、今すぐ行くぞ」

 

逃走一択である。

2人について行かずに放置されてるベルは2人を眺めて首を傾げていた。

 

「お爺ちゃん、ヘラってお爺ちゃんの知り合いなんでしょ?なんで逃げるの?」

 

「ベルよ。ワシはヘラがぶっちゃけ怖い。覗きをしただけで半殺しにされるんじゃぞ!ベルとの生活をしててヘラを放置してたなんてことを知られれば椅子に縛り付けられて監禁されるに決まっておる。ベル、メンヘラヤンデレは手を出したらダメなんじゃよ!」

 

鬼気迫る祖父にベルは首を縦に振ることしかできなかった。

 

「ワシはこれから旅に出る。ヘルメス、ベルのことを頼むぞ」

 

「ベル君には、ローリエにオラリオに送るように言ってる

 

「一緒じゃないの?」

 

「ベルよ、ぶっちゃけ男と2人旅なんてむさ苦しいだけだから嫌じゃ。黒髪ロング美女を求めてワシは旅をする。お主はオラリオでハーレムを作れ、できればアストレアの所にいるあの黒髪美女とお近づきしておけ!」

 

ゼウスは自身の好みどストライクな輝夜とお近づきになりたい。そのため、ベルのことを弟(玩具)として可愛がっているアストレア・ファミリアとお近づきになって欲しい。

ベルとしては玩具にされる未来しか見えないので少し距離を置きたい。

 

「でも、お義母さんと約束で冒険者になるのは15歳からって約束「ベルくん、男の子は母親に反抗するものだよ。ましてや君は14歳だ。親離れしてもいい年頃だよ」」

 

ベルの中で冒険者への憧れとアルフィアへの恐怖が天秤にかけられた。

冒険者になって英雄へと進みたい好奇心、アルフィアに怒られて地獄のような訓練すら生ぬるい懲罰を受けること。本来なら後者に傾く筈なのだが、そこは14歳の子供。前者へと傾いた。

 

「僕、オラリオに行きます!」

 

●●●●●

 

「と、言うことです・・・」

 

ベルは無意識にアリスの前で正座していた。

ベルの中ではアルフィアとアリスの恐怖心は若干アリスの方が高い。

アルフィアは手を出すのが殆どだが、アリスは怒らず淡々と話を聞いてくる。表情を変えずに黙々と責められることに対して幼かったベルはアルフィア以上に怖かったのだ。

そのため、幼少期から怒られそうなことをした自覚があるものにはアリスの前では説教を受ける身構えを自然的に行なってしまう。

 

「なるほど、私としてはそこまで怒るつもりはない。ベルと同じ歳には私やアルフィアも戦場に立っていたからベルを止める権利は元々無い。だが、少しでも連絡を入れて欲しかった。後でアルフィアに手紙を送っとけ」

 

「わかりました」

 

大人しく言うことを聞くベル。

 

「それで、ベルは何処のファミリアに入ったんだ?ロキからは何の連絡もなかったからアストレアの所か?」

 

「あっ、クラネル氏はヘスティア・ファミリアに入っております」

 

放置されていたエイナは堪らず話に割り込む。

唐突に始まった説教を眺めることになったエイナはすこし気まずかった。

 

「ヘスティア?聞いたことないな。新興ファミリアか?」

 

「はい、団員もクラネル氏だけです」

 

「そうか、情報感謝する。さて、ベル。君が冒険者になったことを責めるつもりもない。ファミリアも本当は私と同じロキのところに入って欲しかったがそこは君の自由だ。それに神との巡り合わせは運命みたいなものだ。きっと神ヘスティアとの縁は君にとっては良いことだと思う。

それで、ベル。一つだけ約束して欲しい。必ず生きて私やアルフィア、みんなに無事な顔を見せて欲しい」

 

「はい、わかりました」

 

アリスの言葉に素直に頷く。

ベルとしても大切な母アルフィアや恩人で憧れであるアリスを悲しませる気はない。

 

「それより、ベル君。なんであんな血まみれだったの?」

 

「あっ、そうでした。エイナさん10階層にミノタウロスが三体出たんですよ」

 

「・・・」

 

エイナが固まる。

上層にミノタウロスが複数体出たことは驚くことだがごく稀にモンスターが地上目指して上層に進出する話はある。

それよりも聞き捨てならないことがあった。

 

「10階層ーーーーー!」

 

ベルが冒険者になったのは半ヶ月前、元冒険者の親に訓練を受けてある程度戦えることは聞いていた。そのため最初から3階層まで許可をしていたし、日頃の稼ぎを見るに5階層でも通用すると思ったので5階層までならと許可してた。それを倍以上の階層に赴いていたのだ。

 

「なんで、君はいつもいつも私の言うこと守らないの?5階層でもかなり譲歩してるんだよ?」

 

アリスの説教を終えたベルを待っていたのは次にエイナの説教だった。

アリスは長くなると思い近くにいた受付嬢に3人分の飲み物追加をお願いした。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ランクアップ

暫く更新が出来ないと思います。
ベルくんが原作以上にバグってます。



「ミノタウロス3体、それも一体は強化種。よく生きてたなベル」

 

エイナの怒りもある程度収まり、事の顛末を聞いたアリスは呟く。

 

「2体は倒せたんですけど、強化種だけ無理で、途中でアイズさんがきてくれたおかげで助かりました」

 

強化種と死闘を繰り広げていたベルとミノタウロス。ミノタウロスを逃してしまったアイズがミノタウロスに襲われていると思いミノタウロスを切り刻んだ。周りに気づいていなかったベルはその時ミノタウロスの血を全身に浴びてしまった。

そして、無断でオラリオに来ていたことを知り合いであるアイズに知られてしまい咄嗟に逃げ出してきたのだ。

 

「ミノタウロスの件は、話を聞く限り私たちロキ・ファミリアの落ち度だ。すまなかったベル」

 

「いえ、結局アイズさんに助けられたんで問題ありません」

 

「そうか、何かできることがあれば言ってくれ。ファミリアは違えどベルは私にとって家族みたいなものだからな」

 

アリスはベルの頭を撫でる。

 

「さて、エイナ。私はモンスターフィリア後に尋ねた方がいいだろうか?書類精査をするにも今は祭り事で忙しいだろう」

 

「えっと、はい。そう言ってもらえると助かります」

 

今は数日後に行われるモンスターフィリア準備にギルドも追われてる。もし、モンスターフィリア後までに書類精査をしていいなら残業をしなくても良い。

 

「なら、好きな時に呼び出してくれ。半年後の【晩歌祭】まではいるつもりだ」

 

「わかりました。なるべく早く処理しますね」

 

エイナの返事を聞きアリスは席を立つ。

 

「ベル、換金してこい。今から神ヘスティアを紹介して欲しい」

 

「あっ、わかりました」

 

ベルも席を立ち今日の成果を換金しに向かう。

 

●●●●●

 

ベルの案内で例の教会へと足を踏み入れた。

元々はヘラの持ち物でその後はヘファイトスが管理している。現在は孤児院として使われている、教会の裏には孤児達用の住宅を建てられており、孤児院には孤児達の他に彼らの母親代わりであるマリアと神父として改心してエレボス・ファミリアに改宗したバスラムが滞在してる。

ベル達は教会の方を居候として住まわせてもらっていた。

 

「君がロキのところの【救世】アリス・グレイくんかい。ベルくんから知り合いって聞いてたけど本当だったんだね」

 

「神様、信じてなかったんですか!」

 

ヘスティアの呟きに堪らずツッコむベル。

 

「それじゃ、ベルくん。先にステータスの更新を済ませよう。僕はアリスくんと少し話したいからね」

 

部屋からアリスは出て、ヘスティアはベルのステータス更新を済ませる。その後、アリスを部屋に招き入れベルは孤児院の手伝いに外へ出る。

 

「さて、アリスくん」

 

「・・・」

 

神妙な顔つきでヘスティアはアリスに語りかける。アリスもヘスティアの雰囲気を読んで黙って聞く。

 

「何なんだい!このふざけたステータスは!半月でステータスオールS!敏捷に至ってはSSって。極め付けはこのスキル!」

 

ヘスティアはベルに渡したステータス用紙とは違い本来のステータスが記載されている用紙を見せる。

その内容は冒険者歴半年としては異例のものだ。

しかし、それ以上にスキルがすごい。

 

【憧憬一途】

早熟する

 

【英雄決意】

早熟する

能動的行動に対するチャージ実行権

 

【静寂愛情】

早熟する

一定人物が保持する魔法を使用できる

 

【暴喰守護】

早熟する

一定人物が保持するスキルを使用できる

 

【救世憧憬】

早熟する

一定人物と共闘時にステータスのランクを上げる

 

アリスはスキルを眺めて目を点にする。

効果の重複。ベルが半月でステータスが異常に伸びている理由。

 

「なんか、すまない」

 

何となく謝ってしまった。

ヘスティアはお腹を抑えながら項垂れていた。初めての眷属がまさかのこんな爆弾案件だったのだ。ベルのことは好いているが暇を持ち合わせている神々がこれを見れば飛びついてくるに決まっている。

 

「いや、別にアリスくんが悪いわけじゃないんだ」

 

「ステータスの件は言いふらさないし、何かあれば力になる」

 

「お願いするよ」

 

これからもヘスティアの気苦労は続くことになる。

 

●●●●●

 

ヘスティアとベルと別れた頃には日が沈みかけており夕暮れ時になっていた。

アリスが街中を歩いていると一つの集団が目に止まる。

アリスはその集団に近づく。

 

「久しぶりフィン」

 

「!やぁ、アリス帰ってきてたのかい?」

 

「今日オラリオに着いた」

 

軽く挨拶を交わすアリスとフィン。

リヴェリア達とも挨拶する。そして、アイズにも挨拶しようとしたが。

 

「アイズ、どうしたそんなに落ち込んで?」

 

「アリス?ベルに逃げられた」

 

どうやらミノタウロスの件はアイズに相当ショックを与えたらしい。

 

「アイズさん、ベルも別にアイズさんが怖くて逃げ出したわけじゃないと思いますよ」

 

「そうだよアイズ。ベルも驚いて逃げただけだって」

 

落ち込んでるアイズを慰めるレフィーヤとティオナ。

ティオネも2人ほどではないが慰めている。

昔からベルとは仲が良かった分今回の件はショッキングだった。

そうしていると本拠前に着いた。

 

「今帰還した。門を開けてくれ」

 

「了解しました!」

 

フィンの言葉に了承した門番が門を開ける。

 

「レフィーヤ、こっちにこい」

 

「えっ?わかりました」

 

アリスはレフィーヤと場所を入れ替わる。

 

「おーかーえーりー!」

 

門が開くと同時に主神であるロキが飛びついてくる。アイズ、ティオネ、ティオナが避ける。アリスも避けようと考えるが後ろには誰もいないため避けると地面にダイブするのは可哀想だと思い受け止める。

 

「このうちが育ててドチビ超えを果たした胸は、アリスたん!帰ってきてたんやな、ぐぉっ⁉︎」

 

抱きつくと同時に胸を弄りだしたロキ。アリスはそんなロキの腹に一発拳を入れる。

お腹を抑えて悶えますロキにフィンが一言つげる。

 

「無事戻ったよ。遠征は失敗したけど死者は無しだ」

 

「お、おかえりやフィン」

 

何とも閉まらない帰還だがロキ・ファミリアらしい出迎えでもある。

 

●●●●●

 

「で、どうやった黒竜は」

 

「やっぱりゼウスとヘラが負けただけはある。アルフィア達4人でなんとか撃退できたのが奇跡に近い」

 

あの後、食事を済ませたアリスはロキの部屋に来ていた。

ステータスを更新するため背中を裸させて後ろを向く。

 

「相当無理したやろ、見てみい」

 

ロキはアリスの髪を一房握り見せてくる。

髪は本来の白金より白色が強くなっており毛先は銀色になっている。

 

「7年前は片目が変色したやろ。【聖女祝福】はフレイヤが過去に行った祝福の残火を再燃焼してるもんや。いわば神の力をその身に宿してる状態に近い。器にヒビが入ると同時に器もフレイヤの神の力に適用しようとしとるんや、使いすぎるといずれフレイヤと瓜二つになるで」

 

アリスは本来の色とは違う紫色の片目を抑える。

【聖女祝福】は強力な分デメリットも多い。肉体への負荷などのデメリットもあるが肉体の変動もある。

 

「それよりもや、今回はレベルアップしてるんやないか?」

 

「してて欲しいな。流石にアルフィア達がして自分だけしてなかったとなると単独で黒竜に挑まない限りは私はレベル8にならないだろうし」

 

【ナイト・オブ・ナイト】がランクアップを果たし、他2人もランクアップを果たしているだろう。そのことを考慮してアリスもあわよくばランクアップしていて欲しい。

 

「おっ、ランクアップしとったで。これでオラリオでは唯一のレベル8や。おめでとさん。アビリティも発現してるな、一個しかないからランクアップしとくで」

 

「ん、お願い」

 

ロキはアリスのランクアップを済ませる。

 

「これでオラリオでは唯一のレベル8や。フレイヤを抜いてウチがオラリオ1や」

 

ロキはステータス用紙をアリスに渡す。

アリスはステータス用紙を眺めながら発展したアビリティを見る。

 

「【英傑】?」

 

「そやで、全く見たことも聞いたこともないアビリティやな。まあ、いずれはわかるやろ」

 

意味深なアビリティではあるが悪い気はしないのでよしとする。

 

「そういえば、ベルがオラリオに来てる」

 

「?ベルなら15になるまで冒険者にならんやろ?」

 

「アルフィアに無断で来て冒険者になってた」

 

「なにー!ウチのところに来てないやん。ベルは必ずゲットする気だったのに!」

 

喚き出すロキ。

ファミリア内でセクハラを行うロキはぞんざいに扱われることが多い。そんな中に純粋無垢なベルはロキにとって癒しだった。

 

「どこや、ウチのベルを取ったのは」

 

「ヘスティア・・・」

 

「・・・よりによってドチビのところかい!」

 

アリスにとって告げられた神の名、それはロキの怨敵(一方的な)ヘスティアの名だった。

 

「ガネーシャのところで神の宴があるからそこで問い詰めてやる」

 

ロキが恨めしく言っているところアリスは無視して身支度を済ませて部屋を出る。

 

●●●●●

 

「さて、こうして4人が揃うのも久しぶりだね」

 

本拠のバルコニーにてフィン、リヴェリア、ガレス、アリスの4人が円卓を囲み酒を飲んでいた。

 

「そうだな、何処かの誰かは放浪癖が強くて本拠にいないしな」

 

リヴェリアは片目を閉じてアリスを見る。

アリスは気にした様子はなく酒を楽しむ。

 

「仕方ないだろう。儂らがダンジョン攻略を専念して、アリスには都市外のモンスターを間引いてもらわんといかん」

 

「そうだね、都市外でのモンスター数は年々増えてる。都市外の冒険者の質は一部を除けば高くはない。特に竜の谷から溢れてくるモンスターの対処はレベル3相当じゃないと対処できない時もある」

 

リヴェリアの言葉にアリスを庇うガレスとフィン。

リヴェリア自身も別にアリスを責めているわけではないが1年も留守にされると文句の一つも言いたくなる。

 

「フィン達はダンジョンではどうなの?」

 

アリスは酒を一口飲みフィンに尋ねる。

 

「んー、今回の遠征は失敗だったよ。未知のモンスター出現に、それの対処で武器も潰れたしね」

 

アリスの問いに苦笑いを浮かべながら答えるフィン。

リヴェリアとガレスも今回の遠征失敗に良い思いはないのか苦渋の表情を浮かべる。

 

「59階層走破はきついか」

 

「いや、いけないことはないと思う。問題はその先に60階層を攻略するためにサポーターを連れて行く必要がある」

 

フィン達は一度アリスと共に60階層に辿り着いている。しかし、その時はアリスとの4人のみ。その先の階層はアリス1人では攻略が難しい。フィン達でも来ることはできるが物資を運んでは59階層に辿り着けてない。

 

「私たち自身、レベルが上がってない。ステータス自体は限界値まで上がっている」

 

「仕方ない、レベル7になる適正敵はダンジョンにいない。バロールの単独討伐なら可能性があるけどあれは状況が悪い」

 

単眼の王、バロール。49階層にいる階層主は大荒野の最奥に陣取っている。そこから超長距離からの狙撃や散弾、バロールを守るように配置されたモンスターの大群。それらを相手取るにはロキ・ファミリア総出で対処する必要がある。

 

「それとして、闇派閥の動向が気になる。あれから7年だ、そろそろ態勢を整えてると思う」

 

「そうだな。神エレボス達からもたされた情報でクノッソスの迷宮の存在は知れたが何処の入り口も潰されて今は入り口が見つからない」

 

フィンの呟きにリヴェリアが賛同する。

 

「最近、都市外で商人達の動きが怪しい。あとはモンスターの売買が行われてた」

 

7年前の大抗争後、闇派閥の敗北によってオラリオから手を引いた商人達はここ最近また都市周辺へと戻って来ていた。

 

「うむ、やはりクノッソスには儂らが知らない出入り口があるのじゃろう。オラリオ外か、オラリオ内の何処か、それとも両方かの」

 

クノッソス入り口があったダイダロスにはガネーシャとエレボス両ファミリアが監視している。

そこ以外として考えられるのはギルドが手を出せない範囲か都市外に限られる。

 

「まあ、予想に過ぎない話をしてもどうしようもない。それよりアリスはこれからどうするんだい?僕たちは今回の事後処理で忙しいが」

 

「暫くはレベルアップの慣らしをするからダンジョンに潜る」

 

「ほどほどにね。君の行動はアイズとベート辺りが真似するから無理だけはしないでね」

 

暫く前にアリスが経験値稼ぎとして深層の闘技場に入り浸るという自殺行為をした。それを真似してアイズとベートは大量の携帯食料を持って闘技場に行った。

 

「無茶か、そうだなフィン達にもレベルを上げて欲しいから偉業準備をしとくよ」

 

「お手やらかにお願いするよ」

 

アリスの言葉に苦笑いを浮かべるフィン。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。