平安の呪言師 (亀と羽公)
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あばんたいとる

 本誌であの人の術式が2年生組のあの人の術式だったので、同じ様に2年生の棘の術式を持たせた平安時代の術師が居てもおかしくないだろ!!ってことで書きました。

 なお、主人公は敵サイド(第3陣営)です。


 

 

 

 丹後国、大江山にて。

 今まさに、一人の老爺が最期の刻を迎えようとしていた。

 老爺。名を大江丹後守源威光(おおえたんごのかみみなもとのたけみつ)と云う。

 

 つまりは、まあ、この儂だ。

 そう、呪術と太刀を以て多くを屠った源威光(みなもとのたけみつ)である__

 狗巻威光(いぬまきのたけみつ)

 そう名乗ったこともあったような、なかったような。まあ今さら何がどうという事もない。

 

 ………………。

 

 ……。

 

 ……。

 

 

「……早い早い。まだ、儂は眠りはせんわ」

 

 

 さて、瞼よ、開け。そうだそれでいい。

 今日死ぬか明日死ぬかの身ではあれども、今すぐ死ぬというのは性急に過ぎる。しばし、耐えよ。

 なにせ、待ち人が来ておらぬ。

 

 ……ふうむどこまで述懷したものか。

 そうだ呪術。呪術であった。

 儂は呪術を以て人をそれなりに殺してきた、だったか。

 

 呪術___

 其は時に縛り、時に祓い、時に呪い、時に人を殺すモノ。

 昔は(まじな)い・妖術と云い、今は陰陽だの呪術だの云うものだ。

 呪術を携えし兵ども。術師。呪術師。それが呪霊であるなら、単に呪い、と呼ぶのもある。

 ともあれ、それらを総て平伏させし者は、()()となる。

 

 だが、その名を冠するのはきっと後にも先にも奴だけなのだろう。

 

 

 両面宿儺。呪いの王と呼ばれた男。

 それは、言わば武士の棟梁か、この国の帝の様な存在であろう。

 圧倒的な力で世界を屈服させ、己の快・不快のみを生きる指針とできる者。

 それでいて、天下の道理を弁え、傲岸不遜でありながらも過剰な慢心をせぬ者。

 

 

 ……意味がわからぬぞお師匠様、などと幼い頃の菅原の倅なら云うだろう。

 藤原のとこの日月星進隊の隊長あたりはわかった様な顔をするか?

 まあ、するのだろう。

 

 

 儂は駄目だ。若い頃の儂には何もわかっていなかった。

 ただ、力を以て悉くを斬り伏せた。妖も呪いも、時には人すらも。

 鬼神の如き(かような)存在に至れるという確証はなかったが、あの世界に指先一つでも届いたなら、と何度も夢見た。

 

 愚かな事だ。

 そうとも。呪術の才なぞに何の意味があろう? 祓い、呪い、敵も味方も悪戯に命の数を減らすばかり。

 あの狐奴の様に、占術でもしていた方が良かったのかも知れぬ。

 

 播磨の貞綱あたりは笑うだろうな。多少の年嵩を重ねたぐらいで何を今さら、と。

 そうだな貞綱。儂に、後悔なぞ許されはしまいよ。

 

 

「…………等と、口にしてなるものか。はははッ!」

 

 

 愚か結構! 悪戯結構!

 血風吹き荒れ、阿鼻叫喚響き渡る乱世に儂は生きた! 後悔なぞするものか!

 祓い、呪い、悪戯に命を屠り続けた我が人生!

 

 ああ! なればこそ、最期は戦いの内に果てたい!

 我が最期そのものとなるモノ、我が(つい)運命(すくな)よ!

 

 天よ、儂がこうして今際に見てしまう夢を許すがいい。

 天を前にした老爺の繰り言と聞き流せ。

 

 だが、儂に残された刻は短い。

 肝心の運命(ソレ)に辿り着くよりも先に瞼を閉じるやもしれぬ。

 

 

「……ん、ん__ゴホッ、ゴブォッ……!」

 

 

 ……おお、口惜しい。

 これではあまりに口惜しいぞ。

 

 神よ。仏よ。もはやこの際、鬼でも魔でも構わぬ。

 いや、鬼ではダメだ。()()()()()()()

 

 兔に角、刻をくれ。再び、あの鬼神に出逢うために。

 地獄の底では、流石に我が足も追いかけられぬ。

 

 或いは___

 …………嗚呼。或いは、この世が地獄であれば………。

 

 

「___やあ、威光(たけみつ)

 

 

 ___なんだ、お前が儂の運命か?

 

 

「ある意味そうかもね」

 

 

 ふん。お前が儂の運命とは………つまらん最期だ。

 で、用向きはなんだ?

 

 

「こんなに散らかして………少しは楽しめたかい?」

 

 

 ………全くだ。

 山に妖、それも()()()()と云うから、重い腰を上げてわざわざ出張ってきたというのに………。

 やはり一度、貴様と()っておけばよかった。……今からでも遅くはないか?

 

 

「勘弁してよ。今は戦闘向きじゃないんだ」

 

 

 いつもそう言って、結局戦わずじまいではないか。

 ………して、宿儺(ヤツ)はどうなった?

 

 

「………死んだよ。遺骸は呪物になったけどね」

 

 

 そうか、奴も遂に死んだか。

 諸行無常よな………。奴が死に、儂もそろそろだ。

 貴様だけよ、変わらぬのは。最も、()()()()だかな。

 

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 

 しかし、あの宿儺が呪物。呪物か! では、いつかは受肉するのか。

 

 

「器が見つかればね。あれほど強大な力だから中々探すのに苦労しそうだけど」

 

 

 そうか。

 

 ………なあ羂索(けんじゃく)。一つ、縛りを結ぼう。

 さすれば例の話、甘んじて受け入れてやらんこともない。

 

 

 

 

 

   ■■■

 

 

 

 __狗巻威光(いぬまきのたけみつ)

 

 千年前、平安時代に生きた術師であり、現代の狗巻家の祖。

 丹後守として都の警護に当たっていたが、ある日を境に”悦”に身を委ねる行為を繰り返す様になった者。

 

 そのきっかけは何であったか。

 ある者は、悪鬼に取り憑かれたのだ、と。

 ある者は、元来よりああであったのだ、と。

 またある者は、鬼神に魅入られたのだ、と云う。

 

 その生涯は、波乱のものであったと語られているが、その死に関する記述のみ定かではない。

 曰く、病にかかり一人旅先で息絶えた、とも。

 曰く、無謀にも鬼神に挑み、破れた、とも。

 曰く、業が祟って、地獄に落ちた、とも。

 或いは、()()()()()()()()()()()、とも云われている。

 

 真相は定かではないが、一つ言えることがあるとすれば、

 

 ”()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 と云うことだ。

 

 

 

 

 

 

   ■■■

 

 

 

 目が覚めると、身体が若返っていた!

 

 

「おはよう」

 

「………(とき)が来たか」

 

 

 目覚めた俺に話しかけてくる声がする。

 男。男の声だ。だが、知らぬ声だ。

 だが、この抑揚、この喋り方。知っている。知っているぞ。

 

 

 直後、頭の中に流れ込んでくる威光(じぶん)の知らない情報。

 これでようやく状況を理解する。

 

 平安より時は流れ、時代は西暦?2018年。

 都は京から東へ移り、東京なる場所に位置しているらしい。

 

 まだイマイチよく分からんが、とりあえず__

 

 

「__儂は受肉したんだな?」

 

「そう。あれからざっと1000年くらい経ってる。久しぶりだね、威光」

 

 

 顔も違う、声も違う、出立ちも違う。

 だが、変わらない胡散臭さ。

 

 

「千年振りか、羂索………久しいな」

 

 

 額に()()()()()()がある、黒の僧衣と袈裟を着た、黒髪の長髪に特徴的な前髪の男。

 中身以外何もかも別人だと云うのに、薄っぺらい笑いは変わらない。

 何も変わらない。こいつはそれで千年も生きてきた。故に、面白いと思う。

 

 

「それでその身体、調子はどうだい?」

 

 

 若い肉体。恐らく元服前のものだ。

 肉体は問題なく動き、呪力を少し流しただけでも生前の肉体と遜色ない物だと理解する。

 

 そして、それに()()()()()()()

 

 

「羂索、この身体をどうやって見つけた?」

 

「どうって、普通にそこら辺に居たのに受肉させただけだよ」

 

「恍けるな。この身体は、この人間は、『器』として()()()()()()()()()

 

 

 呪力を流して確信した。

 この身体はまるで、初めから『器』として作られたかの様な強度だ。

 術師であっても、ましてや非術師であればなおさら、この様な『器』は生まれない。

 

 であれば、考えられるのは一つ。

 

 

「”貴様が何かした”、それ以外にありえんだろう」

 

「流石に鋭いね。だけど、それをやったのは私じゃない」

 

 

 羂索が断言すると同時に、部屋の扉がノックされる。

 

 

「入って来ていいよ。もう話は殆ど終わったから」

 

 

 羂索の言葉に従い、三人、いや三体の呪霊が入室する。

 

 一体は、単眼で頭部が火山の様になっている。

 一体は、筋骨隆々な大男で、本来眼球があるべき部位には二本の枝が生えている。

 そして最後の一体は、フードを被ったタコのような姿をしている。

 各々の呪霊としての格は、恐らく最高峰に近い。

 

 全員が入室すると、羂索は彼らを紹介する。

 

 

「紹介しよう。今の私の協力者たちだ。右から漏瑚(じょうご)花御(はなみ)陀艮(だごん)。みんな、彼は千年前の術師、威光(たけみつ)だ。これから仲良くやっていこうね」

 

 

 





 狗巻 威光(いぬまき たけみつ)

 「狗巻威光」は通り名で、本名は「大江丹後守源威光(おおえたんごのかみみなもとのたけみつ)」。狗巻が源氏か知らないけど、「蛇の目と牙の呪印が呪術界でめちゃくちゃ有名」、「烏鷺(藤原直属)でも知っている」、「御三家ではない(平安時代で上位の役職ではない)」という三点から、源氏という設定にしました。
 宿儺の追っかけ。NARUTOで言うところの柱間に対するマダラ、東京喰種で言うところの金木に対する月山、仮面ライダーで言うところの門矢士に対する海東大樹みたいなヤツ。
 受肉先は、羂索が実験で真人に改造させた『器』。流石にあの羂索がぶっつけ本番で死滅回遊の器作りやらないだろ、ってことで、プロトタイプ的な立ち位置に。

 棘と同じく銀色がかった白髪。髪型は同じくマッシュルーム。棘は紫目だったが、こちらは碧眼。
 好きな食べ物は、生前から甘味が好物(現代に来てからねるねるねるねにハマった)。嫌いな食べ物は、細かく刻んだ物(曰く、食感がしないのは嫌い)。趣味は楽しい事。

 術式は変わらず「呪言」。反転術式・領域展開は習得済み。呪言師で最強角に食い込むには反転術式はマスト、領域展開があってようやく対等レベルになれるかも、という鬼畜。原作のインフレが酷すぎるんだよ!!


 備考1:宿儺との再戦を希望して、羂索と縛りを結び、受肉を果たした。受肉の条件とか他色々盛り込んだ縛りでした。因みに受肉の条件は「宿儺が受肉して間も無く」。

 備考2:当の宿儺からはウザがられている。裏梅もウザいと思っている(けど勝てない)。真っ向勝負もしたことあるけど、藤原軍介入で痛み分けになっている。




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第壱話:現代

なんか前回投稿から一ヶ月も経ってた……。
内容、ほぼほぼ忘れてそう。というか、作者が忘れてた……。


前回のあらすじ:
平安の呪言師、狗巻威光が現代に受肉ったよ!

今回は接続章みたいなもんなので、短めです。
接続章で第壱話とは? 儂にもわからん。


「なあ、け……夏油か。儂らは今何処に向かっておるのだ?」

 

「ん? ファミレスだよ」

 

「ふぁみれす?」

 

「家じゃないけど、ご飯食べる所」

 

「ほー、現代にはそんな物があるのか」

 

 

 羂索(けんじゃく)__もとい、夏油(げとう)(すぐる)が何を言っているのか頭では理解しても、魂では全く理解できない。

 

 

(これが”受肉”というものか………)

 

 

 夏油に連れられて、現代の都を歩く。

 幾許かの時間を歩き、少し大きめ通りへと出ると、時代は移り変わったのだということを嫌でも実感する。

 

 下を見れば、土より固く土より黒きものが地を覆っている。

 右を見れば、土塊で出来た屋敷が天を貫くほどの高さまで聳え立っている。

 左を見れば、牛車が牛なしで通っていく。それも牛車以上の速度で。

 上を見れば、鉄の塊だろうか? 翼を広げた巨大な鳥の如き物体が空を駆けている。

 

 

 そして蠢く、人人人。どこを見ても”人”がいる。

 彼処で歩いているも人、彼処で話しているのも人、彼処で遊んでいる小僧も人だ。

 

 そして誰も彼も()()()()()()

 路上で倒れている者もいることにはいるが、皆顔色がいい。

  

 

 しかし、なるほど。これが今の生活か、と威光(たけみつ)は思う。

 

 

 奇妙で、けったいで、奇天烈で、風変わりで、奇想天外で、摩訶不思議で……。

 

 何もかも儂が知る常識とは違う。

 何もかも儂の住む都とは違う。

 

 なるほど、これが人の世か。

 なるほど、これが呪力なき世か。

 

 面白い。何とも面白い。

 滑稽で、愉快で、痛快で、楽しく、喜ばしく、とても良い。

 

 

 ……だが何とも、悲しきことでもある。

 

 儂は人一倍呪力を感知できる。

 そして、だからこそ()()()

 それほどまでに呪術師は数を減らしてしまったのか、と。

 

 人は溢れている。もはや数えきれないほどに。

 

 だが、その中に呪術師たり得る人物は幾名いるだろうか?

 恐らくは一人、多くても五人ほどしかいない。そしてその全てが才能を有する程度に留まっている。

 

 ………何と嘆かわしきことか。

 

 

 威光が内心で呪術の衰退に嘆いていると、一行は「しんごう」なるこれまた奇怪な装置の前で待つことになる。

 目の前では先ほどの牛なし牛車が速度を落とさずに行き来する。

 

 

「わざわざ貴重な指1本使ってまで確かめる必要があったかね、宿儺の実力」

 

 

 待ち時間を利用して、夏油に紹介された呪霊の一体、漏瑚が夏油に話を振る。

 

 

「中途半端な当て馬じゃ意味ないからね」

 

「羂索、何の話だ?(小声)」

 

「威光、ちょっと黙ってて。後で全部説明する」

 

 

 夏油は漏瑚の方に向き直る訳でもなく、まるで独り言の様に漏瑚の問いに答える。

 

 

「それなりに収穫はあったさ」

 

「ぶふぅーぶぅー」

 

「フンッ、言い訳でないことを祈るぞ」

 

豬∫浹縺ッ蜻ェ繧堤オア縺ケ繧狗視(さすがは呪いの王ですね)

 

「貴様は喋るでない!! 何を言っているか分からんのに、内容は頭に流れてきて気色悪いのだ!!」

 

「宿儺。彼奴(あやつ)、呪霊にも知られているのか……」

 

 

 夏油の答えに対して、漏瑚と他2人がそれぞれ三者三様の反応する。

 

 信号は赤から青に変わり、一行は再び足を進める。

 

 

「あ、威光。目的地はここだよ」

 

「ふむ、これが”ふぁみれす”か」

 

 

 ふぁみれす__ファミリーレストランに入っていく夏油たちに威光もついていく。

 

 

「いらっしゃいませ。二名様のご案内でよろしいですか?」

 

「はい、()()です」

 

「ほお、これが今の食事を摂る場所か。そして……」

 

(やはりこの者も呪霊が見えぬか………)

 

 

 人間としての格が落ちたか、あるいは恐怖が薄くなったか。

 どちらにせよ、この時代の者ではない儂が口を挟む者でもないか。

 

 夏油が座ったテーブル席にのソファ側に、夏油と並んで座る。

 

 

「して、け……夏油。ここにきた目的は何だ? まさか本当に飯を食いにきたのか?」

 

「まあ、半分は彼らと話すためで、もう半分は君に現代を見て欲しかったっていうのがある。ほら、百聞は一見に如かずって言うだろう?」

 

「百聞は一見に如かず? なんだそれは? 料理名か?」

 

「………そっか、平安の頃はなかったね。ジェネレーションギャップを感じるよ」

 

「じぇね……なんて?」

 

「……夏油、くだらぬ話は後にしろ。さっさと本題に入れ」

 

 

 夏油と威光の会話に割り込むように、漏瑚が口を開く。

 

 

「ああ、ごめんごめん。何だったけ? 確か、君たちのボスは今の人間と呪いの立場を逆転させたいんだったけ?」

 

「少し違う」

 

 

 夏油の問いに、漏瑚は修正を付け加える。

 

 

「人間は、嘘でできている。表に出る正の感情や行動には必ず裏がある」

 

「まあ、概ね道理だろう」

 

 

 口を挟んだ威光を睨みながら、漏瑚は話を続ける。

 

 

「だが、負の感情。憎悪や殺意などは、偽りのない真実だ」

 

 

 そこで漏瑚はこれまでの口調以上に力を込めて語った。

 

 

「そこから生まれた我々呪いこそ、真に純粋な()()()”人間”なのだ」

 

 

 そして、最後に漏瑚は締めくくりの言葉として、宣戦布告に等しい言葉を吐いた。

 

 

「故に、偽物は消えて然るべき」

 

 

 それを黙って聞いていた夏油は、意見を挟む。

 

 

「……現状、消されるのは君たちだ」

 

「だから、貴様に聞いているのだ。我々はどうすれば呪術師に勝てる?」

 

 

 出会ってから一度も笑みを崩さなかった夏油の口角が少し上がった気がした。

 

 

「戦争の前に2つ、条件を満たせば勝てるよ」

 

 

 夏油は指を一本ずつ上げる。

 

 

『五条悟を戦闘不能にし』『両面宿儺・虎杖悠仁を仲間に引き込む』

 

 

 夏油の言葉を聞いていた威光が疑問符を浮かべる。

 

 

「五条悟?」

 

「威光に説明してからでも構わないかい?」

 

「ふん、勝手にしろ」

 

「じゃあ遠慮なく」

 

 

 夏油はこちらに向き直ると、儂らの今後の障害となりうる男、五条(ごじょう)(さとる)について話し始めた。

 

 

「五条悟。無下限呪術の家系の現当主だ。これが中々に厄介でね。六眼との抱き合わせなんだよ」

 

「六眼とな? 確か、”精密な呪力操作を可能にする”と触れ込みのアレか」

 

「そう、それ。無下限呪術の使用には原子レベルの緻密な呪力操作が必要で常時の発動は脳が負荷に耐え切れず焼き切れてしまうんだが……」

 

「なるほど、六眼でその短所を穴埋めしたのか。それは確かに強いな」

 

「そうなんだよ。面倒だろ?」

 

「意識外からの初撃で決められなければ、宿儺ですら梃子摺(てこず)るやもしれぬな……」

 

 

 そして漸く、話は本題へと帰ってくる。

 

 

「五条悟、やはり我々が束になっても殺せんか」

 

 

 漏瑚の問いに、夏油は当然だ、と言った口ぶりで答える。

 

 

「ヒラヒラ逃げられるか……最悪、呪霊(きみ)たち全員祓われる。『殺す』より『封印する』に心血を注ぐことをオススメするよ」

 

「封印? その手立ては?」

 

「特級呪物『獄門疆』を使う」

 

「獄門疆……?」

 

 

 少しの間をおいて、漏瑚の頭頂部から岩漿(マグマ)が少し飛び散る。

 それは彼の気が立っていることを表しており、威光ですら暑いと感じるほどに室内の温度が急激に上昇する。

 

 

「持っているのか!! あの忌み物を!!」

 

「漏瑚、興奮するな。暑くなる」

 

 

 そんなことはお構いなしと、漏瑚はなおも興奮を抑えない。

 

 

「お客様、ご注文はお決まりですか?」

 

「あ、儂、この『いちご抹茶パフェ』なるものを」

 

 

 威光が注文を終える前に店員が燃え上がる。

 

 

『きゃああああああああああああああああ』

 

 

 それを見た他の店員が悲鳴をあげる。

 

 呆れたように、夏油が漏瑚に注意する。

 

 

「あまり騒ぎを起こさないでほしいな」

 

「これでいいだろう」

 

 

 漏瑚が指を振り上げると、周囲にいた客が次々に炎上していく。

 

 

「……高い店にしなくて良かったよ。ケホッ」

 

「パフェなる甘味、食してみたかった………けほっ」

 

 

 煤が店内に舞い散り、気管を咳き込ませる。

 

 そんなことはお構いなしに、漏瑚は夏油に問う。

 

 

「夏油、儂は宿儺の指何本分の強さだ?」

 

「甘く見積もって、8、9本分ってとこかな」

 

「充分」

 

 

 その答えを聞くと、漏瑚はお歯黒の様な歯を剥き出しにして笑う。

 

 

「獄門疆を儂にくれ!! 蒐集に加える。その代わり……五条悟は、儂が殺す」

 

 

 その宣言を聞いた夏油は、漏瑚を憐れむ様に見つめながらも、最後の警告を行う。

 

 

「……いいけど、死ぬよ。漏瑚」

 

 

 夏油の警告を無視し、外へ出て行こうとする漏瑚に威光は、彼らにとって助力とも挑発とも受け取れる内容を提案する。

 

 

「……その時は、儂が助けてやろうか? 呪霊」

 

 

 

 

 







描写はないけど、ちゃんと服着てます。
今の宿儺が着てるみたいな和装です。羂索が用意してくれたよ。


次回はいつになるかはわからんけど、気が向いた時に頑張って書きます。
よろしくお願いします。


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第弍話:明月

遅くなって申し訳ない。

そして読者の皆様、赤バーありがとうございます!!
高評価が多く、歓喜している作者です。

前回のあらすじ:
ファミレス、炎上。

今回は書きたいことを色々と詰め込んだ感じなんです。許してください。なんでもしますから!!(なんでもとは言ってない)

次回はもっと戦闘描写を上手く書きたい、そんな作者でお送りいたします。


 

 

 

 ___月が、見ている。

 

 

 丑三つ時。

 

 人が眠りに沈み、獣が息を潜める頃合いにて、

 魔が、妖が、呪いが蠢く(みやこ)の有様を、月だけが見ている。

 

 

 驚嘆の地、平安京。

 平安の時代、呪術全盛期の世。

 血と臓物が地を汚し、魑魅魍魎が跋扈し、

 呪術を携し兵どもが、己が命を賭して人界を守護する。

 まさしく、生きた伝説が息づく魔境である。

 

 

「今宵は、明月であるな」

 

 

 そんな魔境に静かに佇む者あり。

 名を、狗巻威光(いぬまきのたけみつ)

 

 この頃の威光は、”悦”に完全に染まりきってはいなかった。

 丑三つ時には常日頃より都を見回り、呪いを祓っている。

 

 

「ふうむこの様な夜は、酒か団子が欲しくなるな。のう、そうは思わんか?」

 

『おのれ、おのれ、おのレおノれオのれおのれェ! キサマさえイなければ! 貴様が死ンでおれば!! (ワレ)ハ、(ワレ)はァ!!』

 

「なんじゃ、酒は嫌いだったか?」

 

 

 それは、怨であった。

 妖であった。

 魔であった。

 

 清浄なる寺院の境内にて、怨の一文字を形にしたが如き、妖物魔物の類、即ち()()

 呪霊の中でも、人の負の感情より出でるものではなく、術者が死後に呪いに転じた存在(もの)

 

 現代であれば”特級”、その中でも上位の存在として区分されるであろう怨霊は、怨嗟を吐き、呪いを撒き、徐々に空間を

 

 

『威光、威光、威光、タケ光、威ミツ、タケミツ!!』

 

(やかま)しい。そう何度も呼ばずとも聞こえておるわ」

 

 

 威光を見つけてより、怨霊は常に恨みつらみを吐き続けている。

 

 

『貴様が、キサマが、きさまガ、キサマガァ!!!』

 

「呪霊になるまでに儂のことを憎んでいたのか? ならば生前の内に面と向かって言っておけばよかったものを……」

 

 

 その言葉に反応したのか、怨霊は(おもむろ)に両手を交差させる。

 

 右手の指を左手の指の上にして組み、掌の中で指を交差させ、左右の人差し指を立てて合わせ、親指で薬指の方向へ押す。

 即ち、()()()()()。大日如来の化身、不動明王の印である。

 

 

『問答、無用だ___領域(りょういき)展開(てんかい)!!』

 

 

 炎が威光を取り囲む。

 火柱が次々と立ち昇り、気温が急激に上昇する。

 

 

 

瞋恚想地獄(しんいそうじごく)

 

 

 燃え盛り、炎とも靄とも言えぬもののせいでで周りが全く見えない領域が形成される。

 

 

 領域展開。

 現代においては、呪術師の多くが夢見る呪術の極致。

 だが平安の世では、呪術師にとっては比較的標準的な技術の一つだった。

 

 それでも呪術の極致であることに変わりはない。

 領域内で発動される術式は全て「必中」となり、術式の内容によっては「必殺」となり得る。

 

 

 それを理解しているからこそ、威光の表情は若干強張り、怨霊の機嫌は少し良くなった。

 

 圧倒的優位に立つ。

 故に、慢心する。

 

 そして、それが命取りになる。

 

 

『これで少しは貴様も本気に………ッ!?』

 

 

 怨霊が領域を完成させるや否や、掌印を組んでいた()()()()()()()()()()

 

 

『ぐあああああッ!? 吾のッ! 吾の腕がァ!!』

 

「遅い遅い、遅すぎるぞ。それではこうして領域を展開しても切り落とされてしまう」

 

『痛い、痛い、いたいいたいいたい!! お、のれ、おのれぇええええ!!』

 

 

 威光は呪術師であるが、その前に太刀を佩く者__即ち武者であった。

 怨霊如き、かの者にとってみれば朝餉(あさげ)前の様なものだった。

 

 

 が、止めを刺そうとする時、それでは怨霊の矜持を傷つけるやもしれぬ、と威光は思い至る。

 

 血降りにて、太刀に付いた怨霊の血を落とすと、威光は太刀を()()()()()

 

 

『きッ、貴様ァッ! どこまで吾を愚弄するつもりだ!!』

 

「何、少し本気を見せてやろうと思うてな。お前も、侮られたままでは不本意だろう?」

 

『な、にを、言っている?』

 

 

 威光の言葉に、怨霊はたじろぐ。

 

 

「ここまでは丹後守(武者)として、ここからは呪術師とし(お前に合わせ)て貴様を祓う、そう言っておる」

 

『今まで、呪力による強化をしていなかったと、そう言うのか……?』

 

「無論だ。武者は武者、呪術師は呪術師だ。公私混同する男ではないぞ、儂は」

 

『ふ、ふざけるな! 糞ッ!? 早く治れッ!?』

 

 

 怨霊は必死に呪力による回復を試みる。

 

 しかし叫び虚しく、肘から先を失った両腕は生える素振りを見せない。

 

 

「無駄だぞ。儂の太刀は特別製でな、斬られた場所は治りが遅くなるらしい」

 

 

 呪具「絶待(ぜつだい)」。

 片手で扱える太刀型の呪具で、凡ゆる物体を硬度を無視して切り裂くことができ、かつ切り裂かれた部位は回復が難しくなる。

 当時の威光が好んで使っていた呪具の一つである。

 

 

「さて、少しは楽しませろ? 怨霊」

 

 

 そう言うと、威光は掌印を結ぶ。

 

 右手と左手の人差し指と中指をそれぞれ立て、右手を刀、左手を鞘に見立て、右手で空中を切る。

 空中を切った後、刀に見立てた右手指は、鞘に見立てた左手に納める。

 

 

()()()()__」

 

 

 摩利支天(まりしてん)(のり)

 今から数百年後、忍者が結ぶ印の基になった、戦場に臨む武士が行う修法。

 そして摩利支天は別名、威光菩薩とも称される。

 

 

『わ、吾の領域がァッ!?』

 

「なんだつまらん。押し合いの一つでもしてみせんか」

 

 

 昏き空が明るく変わる。

 炎燃え盛る大地に水が張られる。

 

 地が、空が、光を反射する。

 無窮の蒼空が広がっていく。

 

 丑三つ時には似合わない、鏡面世界の領域が展開される。

 

 

 

無碍降魔(むげごうま)

 

 

 

 中央には菩提樹が(そび)え、その下に威光が座している。

 

 

「さて、長く展開しても仕方がない。さっさと終わりとしよう___『 死ね 』

 

 

 その言葉が放たれると、怨霊の身体は即座に微塵に刻まれ、爆ぜ、潰される。

 怨霊が最後に見たものは血塗られた視界と、それを見て不満げにする威光であった。

 

 

「………いやはや足りぬ。足りぬ足りぬ足りぬ! 全くもって足りぬなぁ!! これでは届かぬ。これでは遠い。これでは駄目だ。これでは到底___」

 

 

 領域を解除し、元の昏き寺院の境内へと戻ってきた威光はため息を漏らす。

 

 

「___かの鬼神の如き領域に、至れるはずもない」

 

 

 その心の内に浮かぶは、他を顧みない圧倒的な自己を持つ厄災。

 

 もっと強くあらねば。

 もっと身勝手にあらねば。

 もっと、自由にあらねば

 

 

「………帰ったら団子でも食うか」

 

 

 ………日々、悩みながらも威光は帰路に着く。

 

 

 その姿を、左様。

 ()()()()()()()()

 

 

 

  ■■■

 

 

 

 

「どうしたんだい、威光?」

 

「いやなに、昔のことを思い出していただけだ」

 

 

 空を仰ぎ見れば今日は明月。

 奇しくもあの日と同じだな、と威光は過去を振り返る。

 

 未熟であったあの頃から、数え切れぬ程の研鑽を積んできた。

 未だ、鬼神の領域に至れたかは定かではない。

 

 だが、再びかの者と逢えるかも知れない、というのは中々に胸躍ることである。

 例え、その結末が死であったとしても。

 

 

「来たよ。五条(ごじょう)(さとる)

 

 

 現在、威光は夏油と共に、峠の脇の茂みにてある人物を待っていた。

 正確には、呪霊・漏瑚が、その人物と戦うのを見に来ていた。

 

 

 五条某が牛なし牛車__(くるま)と呼ぶらしい__から降りる。

 黒い服と目を覆う黒布を纏い、銀色の髪を靡かせる男。誰であろう、五条某その人である。

 

 なるほど、確かに強いのだろう。

 一見隙だらけだが、飄々とした態度で異質さを醸し出している。

 何よりも姿勢が既に臨戦体勢に入っている。

 

 中にいる男と会話した五条は、車を見送ると、周囲に視線を向けている。

 

 

「まあ、あれだけ殺気を出していて気づかない方がおかしいんだけどね」

 

 

 夏油が笑うと同時に、月明かりに影が映る。

 

 

 大地が大きく割れる。

 

 

「君、何者?」

 

 

 急襲した漏瑚を予想していたかの様に何なく避け、冷静に問う五条。

 

 

「ヒャアッ!!」

 

 

 続けて、壁を火口に一瞬で変化させ、噴火させる。

 路は焼け爛れ、岩礁(マグマ)の様に溶け出している。

 

 

「存外、大したことなかったな」

 

 

 と、漏瑚の声が聞こえる。

 

 

「いやいや、これで死んでたら獄門疆なんていらないよ」

 

「仮にも無下限の使い手なのであろう? ならばこの程度では死ぬことはあるまい」

 

 

 夏油と威光が否定すると同時に、溶け出した路の一帯から五条が姿を表す。

 

 マグマが空中で静止し、五条を避ける様に方々へ散っていく。

 

 

「流石に、漏瑚じゃ勝てないかな」

 

「何処で入ろうか。奴が死にそうになってからか?」

 

「ん〜。ここで漏瑚を失うのは痛いし、頃合いを見て、かな?」

 

 

 漏瑚の戦闘に視線を戻すと、先ほどと既視感のある(でじゃゔな)件をやっていた。

 

 

「………??? け……夏油、なぜ彼奴ら手を合わせているのだ?」

 

「うーん、多分だけど術式の開示じゃないかな? 必要ある様には見えないけど」

 

 

 手のひらを合わせていた状態の2人。

 五条が徐々に手を握りこむように、漏瑚の手に指を絡める。

 

 

「貴様ッ!!」

 

 

 漏瑚が叫ぶと同時に、五条の掌が漏瑚の腹へと叩き込まれる。

 

 

「おお速い。儂でも受け切れるかどうか」

 

「そんなこと言って、平安(生前)の頃は宿儺の斬撃を弾いてたじゃないか」

 

「アレは呪具があってこそだ。今は出来るかどうか……」

 

 

 夏油と威光が平安談義をしている間にも事態は五条有利な展開へと進んでいく。

 

 

「無限はね、本来至る所にあるんだよ。僕の呪術はそれを現実に持ってくるだけ」

 

 

 五条は人差し指の上に一つの核を作り出す。

 

 

「『収束』『発散』。この虚空に触れたらどうなると思う? 術式反転『赫』

 

 

 その言葉を最後に、漏瑚の肉体は赤い光に包まれ、次の瞬間まるで鞠の様に漏瑚の体が森を跳ねる。

 何とか体勢を立て直し反撃を試みるも、五条に蹴飛ばされ、湖へと落ちていく。

 

 

「お? 五条悟が消えたぞ?」

 

「あれが例の瞬間移動ってやつか」

 

 

 そして次の瞬間、再び五条悟が漏瑚の眼前に現れる。

 

 

「ごめんごめん、待った?」

 

 

 小脇に1人の少年を抱えて。

 

 

「あの小僧は?」

 

「あ〜言ってなかったけ? あれが今世の宿儺の器、虎杖悠二だよ」

 

「あれが? 見たところ宿儺の様には見えぬが」

 

「どこ!? ねぇここどこ!? どこ!?」

 

 

 五条の真横であたふたする虎杖を眺めながら、威光はそう零す。

 

 

「うん。だって彼は”檻”だからね」

 

「”檻”……? まさか!? 彼奴が宿儺を抑え込んでいるとでも言うのか!?」

 

「富士山!! 頭富士山!!」

 

「そうだね、驚くのも無理はない。実際、私も驚いたからね」

 

「あの宿儺を抑え込むか……虎杖悠仁、面白いではないか」

 

「先生、俺10秒くらい前まで高専いたよね? どーなってんの?」

 

「んー飛んだの」

 

 

 威光の記憶に虎杖悠仁の名前が刻まれた瞬間である。

 

 

「自ら足手纏いを連れてくるとは、愚かだな」

 

「大丈夫でしょ。だって君、()()()()

 

 

 アハハ、と笑いながら五条が漏瑚を煽る。

 

 瞬間、漏瑚の中で何かが切れる。

 

 

「舐めるなよ小童が!! そのニヤケ面ごと飲み込んでくれるわ!!!」

 

 

 その様子を見て夏油がため息をつく。

 

 

「あーあー漏瑚がキレちゃった。これじゃあ”茈"ってやつは見れそうにはないかな〜」

 

「”茈"、とは?」

 

「無下限呪術の奥義みたいなやつ。記録としては知ってるんだけど、実物を見ておきたかったんだけどなぁ」

 

 

 夏油と話しているその間に漏瑚は掌印を組み、領域展開を行う。

 

 

領域展開!!

 

 

 漏瑚と五条・虎杖の周囲に結界が張られ、外部からの視認が不可能になる。

 

 

「こうなってしまっては観戦もなにもないな」

 

「十中八九、五条悟が領域を展開して、後は漏瑚が祓われるのを待つだけになる」

 

 

 そして、夏油は笑みを浮かべる。

 

 

「だから領域が解けたタイミングで、君は漏瑚を助けに入ってくれ」

 

「不意打ちか。あまり好かんが、まあ致し方あるまい」

 

 

 そして数分を経たずして、漏瑚の張った領域が塗り替えられ、結界が解かれる。

 

 

「初陣だね。行ってらっしゃい威光」

 

「初陣が現代最強の呪術師か……相手にとって不足なし! いざ尋常に勝負!!」

 

 

 時刻は丑三つ時。

 今宵もまた、月は見ている。






これで、5000文字行かないくらいなのか………。
小説家ってすげーな。

試験運用的にフォント使ってみてるんですけど、いります?
要らないなら次回から消えます。怨霊のやつは作者的には見にくくて要らないかな?と思ってるんですが………。感想で教えてください。



感想で書いてたかも知れないんですが、作者は設定厨です。
なので、モブキャラにいちいち設定をつけてから書いてます。バカですね。どこに乗っかられる訳もないので、ここで供養させてくだせえ。



平安京の特級呪霊(推定)


 前半で出てきた出オチ担当。
 作者が設定練ってたときにボツにしたやつを混ぜて生まれた可哀想な生き物。

 名前は藤原戯奴(ふじわらのざこ)。
 生前は、威光の同僚的な感じで覇を競い合ってい(ると思ってい)た。しかし憧れ兼好敵手だった(と思っていた)威光ばかりが昇進し、自分は評価されない現実に不平不満を溜まらせる。逆ギレして退職。
 その後は呪詛師に身を落とす。呪術を極めるために御山に籠って、修行したり、人殺したり、”浴”したり、色々やってみた。けど結局は何も掴めず悶々としていた。
 最後は、一般通過フィジカルギフテッドに殺された。死因は撲殺。享年38歳だった。

 呪霊になってからは息を潜めて再び呪術を極めようとするが、威光に見つかった。
 生前の恨みつらみを吐き出して、今の自分の全力をぶつけようとしたら、逆に殺された。領域展開も習得したのに殆ど見せられんかった。
 因みに「貴様さえいなければ」「貴様が死んでいれば」というのは、逆ギレした時に吐いた「貴方さえいなければ、私は呪術師にはなっていなかった」「貴方がどこかで死んでさえいれば、私は貴方の様になりたいと思うこともなかった」という理由の残滓みたいなもの。

 術式は「爀炎火鳥(かくえんかちょう)」。
 名前から分かる様に、炎系の術式。攻撃範囲が広く、火力も高いが、その分消費呪力量も多い。
 術式反転を使える。「活」と唱える事で炎で傷を治せる。なんなら致命傷も治せる(はずだった………)。

 領域は「瞋恚想地獄(しんいそうじごく)」。
 領域展開時には、領域内にいる全てに術式反転を必中させる。これで半永久的に戦い続けることができる。
 領域を習得したのは呪霊になってからで、威光対策をしてきたはずだったのに満足にも戦えずに再び死んだ。
 かわいそうな戯奴……!! ひとえにてめぇが弱いせいだが……。

 もし、死滅回遊まで続けば再登場があるかもしれない。いや、ないだろう。(反語)


………冷静に考えて、なんでこんな設定作ってんだろ。
あと、タグにオリジナル術式ついとるのなんで? 全然出すつもりなかったのに………。まあ結局出てるから良いんだけどさ。



次回は威光の初陣。
早めに投稿できるよう、張り切って書くぞー!
………こんなこと書いて一ヶ月後に投稿とかありそうで怖い。




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第参話:呪言




気づけば一週間以上経過していた……。
「五条先生と戦わせたいけど、加減が分からぬ……」と悩みに悩み、時に迷走したりもしましたが、なんとか書けました。
書けたのか? ……正直、五条先生が強すぎるせいで塩梅がよく分からん。

「五条先生はもっと強い」などの不満が多い回になるかもしれません。
だけど許して、これが私の限界……。


前回のあらすじ:
【過去編】 威光が怨霊倒したよ
【現代編】 頭富士山が死んだ! この人でなし!!(死んどらんわ!!)


真夜中のテンションで書いてるから後日若干変わってるかも、そんな作者でお送りします。


 

 

 

「おや、花御。来てたのかい?」

 

 

 湖の中心に展開された領域に視線を向けつつも、視界の端に呪霊・花御が現れたのを見て、夏油は声をかける。

 

 

縺医∴(ええ)遘√b莉イ髢薙′荳榊ョ峨□(私も仲間のことが心配なのです)

 

 

 夏油は内心、相も変わらず呪霊の分際で生意気なものだ、と笑う。

 

 

 心配! よりにもよって、呪霊が!

 自己愛の塊(人間)の負の感情から生まれた存在が、心配とは。

 滑稽すぎて思わず口角が上がってしまう。

 

 だが、花御の様子から、言葉だけではないことを読み取る。

 

 

「………それだけじゃないんだろう?」

 

「………遘√?縲(私は)逕キ繧剃ソ。逕ィ縺励◆繧上¢縺倥c縺ェ(あの者を完全に信用したわけではない)繧ゅ■繧阪s(勿論)縺ゅ↑縺溘b(あなたも)

 

 

 まあ、想定の範囲内だ。

 

 呪霊(彼ら)呪詛師(僕ら)という存在を仲間だとは思ってはいない。

 程のいい駒。或いは愚かな家畜程度の認識だろう。

 

 呪霊に協力する間は生かすし、叛逆すれば殺す。

 そういう利害関係の一致で成り立っている。

 

 

「まあそこは勝手に思ってくれて良いさ。彼も私も最終的な目的は別の場所にあるのだから」

 

 

 そう、あくまで私も呪霊(彼ら)を、五条悟(六眼)を封印する為の駒として利用している側にすぎない。

 

 

「さて、私は先に帰らせてもらうよ。高専関係者に顔を見られるわけにはいかないからね」

 

 

 目的はさらに先に。

 

 死滅回遊(慣らし)が始まった時、同時に全てが動き出す。

 

 その為にも、ここで彼が落ちる訳には行かないのだが……。

 

 

「まあ、幸運を祈ってるよ。威光」

 

 

 

 

 

  ■■■

 

 

 

「さて、誰に言われてここに来た」

 

 

 五条悟。現代最強の呪術師。

 まさしく、()()()()()()()()()()()存在である。

 

 

「命令されて動くタイプじゃないか……」

 

 

 文字通り首だけになった漏瑚を足で踏み潰しながら、五条が問う。

 

 

「僕を殺すと何かいいことがあるのかな。どちらにせよ相手は誰だ?」

 

 

 漏瑚は必死に抵抗を試みるも、悲しいかな。首だけの彼には為す術はない。

 ただ一方的に蹂躙されるのみである。

 

 

「早く言えよ。祓うぞ。言っても祓うけど」

 

 

 この場で彼が助かる方法は二つ。

 

 一つ目は、近くにいる花御に助けを求める。

 彼女であれば、気配を殺し、五条悟と接敵せずに漏瑚を回収できるであろう。

 

 そして二つ目は……

 

 

「さて、改めて聞こう。助けてやろうか、呪霊」

 

 

 平安の呪言師に助けを求めること。

 

 

(新手!? 全く気づけなかった!)

 

 

 声がした瞬間にその場に現れた、そう思わせる程の速度で(威光)は来た。

 

 そして、その場で最も最適な言霊を放つ。

 

 

『 動くな 』

 

(!? 呪言!!)

 

 

 音の速度は空気中で、約340m/秒。

 威光と五条の距離は約6m。だが五条の接近により距離はそれ以下。

 

 威光が声を発してから、0.02秒以下で五条の耳が彼の声を認識する。

 

 そして五条の肉体が、筋肉が、呪力が、彼の意志に反して硬直する。

 防ぐ術はない。不意打ちであれば()()の一手。

 

 既に五条の術式は回復している。

 だが、最強に対してであっても呪言(それ)()()()()()()()

 

 

「……ふむ、その様子を見るに呪言は効くようだな。『 抵抗するな 』

 

 

 再び言霊が放たれ、五条の全身の筋肉が脱力する。

 耳に防御しようと廻していた呪力も霧散する。

 

 

「ッ! 誰だよ君、こいつの仲間?」

 

「その質問に答える義理はない。儂はただ、此奴を拾いに来ただけ故な」

 

 

 最初の呪言の効果が薄れ、ようやくまともに口が利ける様になる。

 

 

(呪霊じゃない……受肉体の呪言師か? しかも蛇ノ目と牙! 狗巻家か!!)

 

 

 五条の六眼は術式・呪力を詳細に見ることができる。

 綿密な呪力操作を可能とし、無下限呪術を使いこなすには必須な代物である。

 故に、六眼は術者の肉体を流れる呪力であっても観測が可能である。

 

 彼の双眼は、威光が呪力によって肉体を構成された呪霊ではなく、実体を持った受肉体であることを見抜いていた。

 そして、威光の口元にある呪印を確認し、狗巻家の者であると確信する。

 

 

「あ゛〜あ゛〜あ、あ。うん良し。ほれ行くぞ、呪霊」

 

 

 威光の使う呪言は、言霊を増幅・強制させる狗巻家の高等術式だが、この術式には幾つか弱点がある。

 

 まず、無機物に呪言は効かない。

 次に、耳から脳にかけてを呪力で防御されると、簡単に防がれてしまう。

 そして、反動がとても大きいこと。

 強い言霊を扱えば格下相手でも声が枯れ、格上相手なら吐血する羽目になり、最悪の場合は呪言が自分に返ってくることもある。

 

 そしてそれは威光程の熟練の呪言師であっても例外ではなく、現に五条に二度呪言を使用しただけで喉への負担が現れている。

 

 

 声の調子が元に戻ったのを確認して、威光は五条が踏みつけていた漏瑚を回収する。

 

 

「威みッ!?」

 

「ほらほら何も喋るな。呪力を食うぞ。今は肉体を戻すことに専念しろ」

 

 

 威光の名前を出そうとする漏瑚を黙らせ、その場を去ろうとする。

 

 万事解決。まさに溜飲が下がった気持ちでさろうとする威光に、立ち塞がる者がいる。

 

 

「おい、このまま帰すと思うか?」

 

 

 五条悟である。

 

 彼の後ろを見れば、虎杖悠仁が思う様に動けず四苦八苦している姿が見える。

 

 二度目の呪言は一度目の呪言をさらに強くするためのもの。

 本来であれば、数十秒ほどその場に留められたはずだったが……。

 

 

「お前、やはり強いな。駄目押しが必要か……『 閉じろ 』

 

 

 今度の五条は呪言への対策は怠らなかった。

 耳から脳にかけてを呪力で守り、呪言が来ようとも問題がない、()()()()()

 

 

「ッ!?」

(何も見えない……六眼を封じられた!?)

 

 

 五条の視界が黒一色に染まる。

 一気に周囲が認識できなくなる。

 

 五条は六眼を運用する上で、裸眼では情報量過多で疲労が溜まるため、黒の目隠しをつけている。

 それが仇となり、六眼を封じられた五条は目を閉じているのと同様の状態に陥る。

 

 

「げほっ、ふむ最強といえど視界を封じられればこの程度か」

 

 

 威光は平安時代の呪言師。ましてや威光は源氏。

 敵は多く、直ぐに呪言のタネは暴かれた。

 そして対抗策は即時に練られ、”呪力で防御する”という古典的だが有効な手段が確立された。

 

 それを、威光が黙って見過ごす筈がないのである。

 当然、そういう輩を狩る対策を彼は講じていた。

 

 

「逃すか!!」

 

「ッ! 凄いな!?」

 

 

 視界は潰した。呪言(デバフ)は効いている。

 故に、五条は威光の宿す呪力だけで彼の場所を感知し、攻撃を行った。

 

 五条の拳が、先ほどまで威光の頭蓋があった場所を貫く。

 

 

(こいつ、体術も並じゃない! 簡単に去なされた!!)

 

(此奴、呪力感知だけでこちらの位置を! まるで平安の頃に戻ったかの様だ!!)

 

 

 五条は強い。威光の呪言を自力で解ける程度には強い。

 だがそれでは威光を圧倒することはできない。

 

 

「……五条悟、お前との戦いは望んでいるが、それは今ではない」

 

「そうかい? 僕はいつでも大歓迎だけど?」

 

「はぁ、血の気が多い、というのか? っと、そろそろ潮時だ。再戦はまたの機会に、な」

 

「はあ? 言っただろ、逃さないって」

 

「誰が逃げると言った。言っただろう、儂は此奴を拾いに来ただけだとな」

 

 

 そう言うと威光は四度目の呪言を発動させる。

 

 

『 倒れろ 』!!」

 

「くッ!」

 

 

 呪言を聞いた瞬間から五条の平衡感覚が喪失する。

 姿勢を崩すも、踏みとどまり、即座に周囲の呪力を確認するが、既に威光は去った後であった。

 

 

「チッ、逃げられたか。気配を消すのが上手いな……」

 

 

 舌打ちをしつつ、先ほどの呪言師と呪霊のことを思い出す。

 

 

「このレベルの呪霊と受肉体が徒党を組んでるのか。楽しくなってきたね」

 

「それにしても、狗巻家か……少し調べてみる必要がありそうだな」 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 とあるアパート。人の気配のしない廊下を花御と共に夏油が歩く。

 そしてとある一室の扉の前で止まる。

 

 施錠もされていない扉を開き、花御に先を譲る。

 

 

「花御、お先にどうぞ」

 

 

 中には、部屋の中とは思えないほど広い空間が広がっている。

 

 生得領域。術者の心の中の世界を具現化した空間。

 呪力で顕現させることができ、領域展開を行う上で最も基礎的な部分となる。

 だが、結界を張らずとも生得領域は具現化させることができ、こうして元々ある空間に貼り付けることもできる。

 

 

「随分と穏やかな領域だね」

 

 

 この生得領域はタコの様な呪霊、陀艮のもの。

 南国のビーチを思わせる領域。普段はこうして呪霊たちの拠点として利用されている。

 

 

「漏瑚はどうした、夏油」

 

 

 砂浜に設置されたビーチチェアで、本を読むつぎはぎの呪霊、真人(まひと)が夏油に問う。

 

 

「瀕死。威光が助けに入ったから多分大丈夫」

 

「無責任だな。君が焚きつけたんだろ」

 

「とんでもない。私は止めたんだよ」

 

 

 夏油が否定したところで、再び入口のドアが開かれる。

 

 

「ほら、帰ってきた」

 

 

 漏瑚の首を片手に掴み、威光が入ってくる。

 

 

「威光、おかえり。無事で何より」

 

「ああ、戻った。お前の言う通り、強かったぞ。五条悟」

 

「どうだい、勝てそうかい?」

 

「いや〜どうだろうな。呪言は一応効く様だが、次回からは対策されるだろうな」

 

 

 威光が率直な感想を口にし、夏油がそれを興味深そうに聞く。

 

 2人が楽しそうに談話していると、威光の手元から奥歯を噛み締めるような声が聞こえる。

 

 

「……ッ! おい! そろそろ離せ!!」

 

「お〜すまんすまん。お〜い花御、ほれ」

 

 

 漏瑚の頭を花御に投げ渡す。

 

 そこで、夏油が音頭をとり、作戦の確認を行う。

 

 

「さて、これで分かったと思うけど……五条悟は、然るべき時、然るべき場所、こちらのアドバンテージを確立した上で封印に臨む」

 

「決行は、10月31日、渋谷。詳細は追って連絡するよ。いいね、真人」

 

 

 真人は笑顔で夏油の提案を受け入れる。

 

 

「異論ないよ。狡猾にいこう。呪いらしく、人間らしく」

 

 

 呪術界の裏で、呪いは溜まり重なり、そして増えていく。

 

 呪術界転覆の日は、近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、羂索。儂はどこで寝泊りすれば良いのだ?」

 

「………ウチ来る?」

 

「……………マジかー」

 

 

 後日、夏油の家で寝泊まりする威光の姿が確認されたそうな。

 

 

 







夏油と威光の二人暮らし編……乞うご期待?


威光は武者なので(「武者なので」って理由も変だけど)、身体能力がバカ高いです。
ただ、今は受肉仕立てで鈍ってて呪力込みでようやく生前の呪力なしレベルになれます。
言うなれば今回の戦いは、

五条(六眼封印+呪言デバフ)
vs
威光(受肉仕立てデバフ)

だった訳です。
五条先生はもっと強いって言う意見の方、多いと思うんですが、これでなんとか……。
このくらいの実力じゃ無いと宿儺相手に生き残れなさそうなの……。


また一週間後くらいの投稿になると思います。気を長くしてお待ちいただけると幸いです。


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