異世界で広まる遊戯王 (決闘者)
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デュエル開始の宣言をしろ!

 

 気がついた時には、私はこのファンタジーな世界に迷い込んでいました。

 個人的には転移するなら大好きな遊戯王の世界が良かったんですけど。

 元の世界でそこまで徳を積んでいた覚えこそないけれど、何の説明もなくこの世界に迷い込んだ身としては神様に恨み言の一つも言いたいです。

 初めて遭遇し、お世話になった商家の人から聞いた話では魔物や魔法が存在するファンタジーな世界だということですが、文明レベルは思ったより低くありません。

 浄化の魔法道具を使用した衛生管理もされていますし、トイレも水洗ではありませんが謎のスライムみたいなのが処理してくれるので臭くありませんし。

 特にファンタジーを感じるのは教会の存在でしょうか。

 教会で世界を創造した女神さまに祈ることで、一生に一度だけ『異能』が一つ貰えるのです。

 走っている時だけ疲れにくくなったり、明日の天気を3割当てられたり、10歩までなら水面から沈まず歩けるなどあんまり役に立たないことも多いらしいですが、もらって損することも少ないそうなので私も祈って『異能』をいただきました。

 ……まあもらった異能は『手のひら大くらいまでの大きさの紙のカード(絵柄自由)を出せる』というだけなのですけど。焚き付けには便利。

 一応白紙でも出せるので、メモ帳代わりにもできます。この世界で紙の流通はそれなりにしているので多少経費が浮くくらいですけど。個人的に青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)を出したのはファンとして当然の心理です。

 

 

 しばらくお世話になった商家の旦那さんは『うちの養子になるか?』と言ってくれたのですが、奥さんの視線が非常に厳しいので自立するため就職先を探すことに。

 この世界で天涯孤独の私は、商家の旦那さんの紹介のおかげで教会の孤児院に働き手として雇ってもらえ、この世界では割と専門的な義務教育以上の計算ができることから子供たちの教育係(算数)を任されました。

 

「みんなー! 1+3はー?」

「えっと、えっと……」「Zzz」「ねーちゃん、そとであそんでいいー?」

 

 うーん、小学校低学年くらいの子供たちにとって算数はあまり魅力的じゃない教科です。

 まじめに解こうとする子もいるけど、大半はそもそも聞いてないみたい。

 私が計算用に出した白紙のカードも落書きなんかに使われてるようで、教育って大変なんですね……

 ああ、私の尊敬する教師クロノス先生、貴方ならこのドロップアウトボーイたちにどう教えるのでしょうか? 

 そんな事を考えながら書き取り用の白紙を用意している時、私の脳裏に電流が走りました。

 

 そうだ! ありますよ、子供たちが自分で計算する方法! 

 

 

 

 

 

 

「いけーっ! ララ・ライウーンでデーモン・ビーバーにこうげきっ!」

「えっと、ぼくのデーモン・ビーバーのこうげきりょくが400で、ララ・ライウーンが600だから、ダメージは……」

 

 うんうん、みんな楽しんで計算ができていますね。

『ライフ計算は決闘(デュエル)の基本』。私が作ったカードの遊び方を一旦覚えると、子供たちはすぐにカードゲームに夢中になってしまいました。

 決闘(デュエル)はいわば互いに計算問題を出し合っているようなもの。

 慣れた子のデッキには『闇晦ましの城*1』や『ダーク・キメラ*2』などを入れているので油断なりません。

 互いに相手が有利になるために計算を誤魔化さないように検算もするあたり、勝利への真剣さがうかがえますね。

 実際に使う機会があると人間は必死に学ぶものですし、それが娯楽の少ない孤児院にさっそうと現れたカードゲームならなおさらのこと。

 私の担当する算数の時間がデュエル(実技・座学)になってしまった事を除けば、子供たちは急速に計算力を伸ばし良いことずくめなのです。

 

 

 

「お話とは何でしょうか、院長先生」

 

「ああ、そう緊張せずに。難しい話ではないよ」

 

 しばらくして、私はなぜか孤児院の院長先生に呼び出されました。

 計算の授業でカードゲームで遊び呆けていることを怒られるのかとも思いましたが、授業に遊びを取り入れることは事前に許可を取っていたので違うはずです。

 心当たりが無いのでなんとなく居心地の悪い気分でいると、院長先生は真剣な顔でふざけたことをおっしゃいました。

 

「あの遊び……『デュエルモンスターズ』だったかね? 私もやってみたいのだが、カードをもらえないかな?」

 

「はい?」

 

 予想外の言葉に思わず目が点になってしまいます。

 要綱はお伝えしていましたが院長先生は詳しい内容までは知らないはず、一体誰が彼に布教したのでしょう……同僚の中にもちらほら決闘者(デュエリスト)になっている者が居るのでもはや特定できません。

 仕方ありません……院長先生には天涯孤独の私を拾ってもらった恩がありますから断れないですし。

 私が能力でカードの束……いうなればデッキ1つ分のオリジナルパックを出して渡すと、院長先生は子供のように喜びました。

 子供たちと院長先生では思考力が違うので、本気で戦ったらイジメになるのではと思うのですが……

 

「すばらしい! ……ここだけの話だが、ちょっと強いカードとかないかな? いや、子供たちとのゲームでは使わないが個人的に持っておきたくてね」

 

 ……意外に欲張りますね院長先生? 

 

 

 

 

 

 

 

 私はデュエルモンスターズの持つ力を侮っていたのかもしれません。

 私がこの世界にやってきてほぼ一年、暦が異なるので正確なところは分かりませんが、季節の移ろいからそれくらいの時間が経ちました。

 今現在、私の住んでいる街の住民の八割が決闘者(デュエリスト)となっています。

 八割、もはや老人や幼児以外はみんな決闘者(デュエリスト)じゃないですか、なにがどうなっているんですか。

 孤児院の買い出しで町に出ても、店先のテーブルで気軽に決闘(デュエル)に興じる大人たちの姿が普通に見かけられます。

 原因は間違いなく院長先生でしょう。

 この街で孤児院を破綻なく経営しているあの人は、教会の関係者だということもあって街の人物に無駄に顔が広いのです。

 孤児院の運営であまり外に出ない同僚たちと違ってよく渉外に出るあの人が街の人々に自慢気に見せびらかしたに違いありません。

 結果として私はカードを欲しがる街の人々に何度もカードを生成することになり、労働の対価としてカードの有料化に踏み切らざるを得ませんでした。

 それでもカードを求めるものは絶えず……子供たちもお手伝いの報酬にカードを提示すると積極的に手伝ってくれるんですよね。

 デュエルモンスターズが広まるのは素直に嬉しいのですけど、なにか釈然としませんね……

 院長先生いわく、特筆する産業の無いこの街に最近はカードの噂を聞いた商人が来るようになりつつあるとのことですが、まあ院長先生の言うことですから話半分に聞いた方がいいでしょう。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

 

「ああ、楽しみだな……!」

 

 今までは商人もそれほど仕入れに来るわけではなかった街に、頻繁に来るようになった行商人の一人。

 彼の懐にあるのは、あの街に寄るたびに少しずつ買い集めたカードで組んだ魂のデッキ。

 特に彼は『融合』を用いて新たな力を得る【元素の勇士(E・HERO)】のカードを好んでデッキを組んでいた。

 子供のころに寝物語に母から聞いた元素の精霊の力を借りて戦う勇者、それをモチーフにしたのか独特の姿で各属性の力をふるう勇士たちは彼の憧れだ。

 多彩な魔術を扱うトリッキーな【黒き魔導師(ブラック・マジシャン)】も素晴らしいが、比べれば彼の中ではこちらに軍配が上がる。

 関連カードが新しく出たなら手に入れたいし、相性の悪いカードなら他の街で売ればいい。

 中間業者が入る都合上、他の街ではデッキを組めるのは富裕層がほとんどだが、これまでにない絵札としてだけでも人気は高いのだ。

 なにより、あの街では誰とでも気軽に決闘(デュエル)が楽しめる。

 もはや立派な一人の決闘者(デュエリスト)である商人は、一部で"決闘の街(デュエル・シティ)"と呼ばれ始めた街へ向かうのだった。

 

 

*1
ATK920/DEF1930という半端なステータスのモンスター

*2
ATK1610/DEF1460のこれまた半端なステータスの上級モンスター



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デッキからカードの剣を抜け!

「さあ、決闘(デュエル)大会の始まりだ! 武器たる剣は己のカード、誇りを賭けて挑め!」

 

「「「ウォォォォォォオオオオ!!!」」」

 

 

 一体何がどうなってるんですか……

 今日は一年で一番大きな祭事『冬の祭礼』の日。

 弱まった太陽が今日から力を取り戻していく、ようは冬至の日です。

 教会も関わって街中がお祭り騒ぎになるのですが、まさかこんな事をするなんて……準備の時に聞いてないんですけど? 

 

 老若男女問わず集まった決闘者(デュエリスト)たちの前で音頭を取るのは孤児院の院長先生。

 さてはこの催しを企画したのは貴方ですね、いつもは長いはずの聖典の説法をやけに早く切り上げたと思ったら……罰が当たりますよ。

 私は参加者たちを一望できる高座にちょこんと座らされて、優勝者に賞品を授ける役を任されました。だから聞いてないんですが!? 

『優勝者のエースカードをこの前に見せてくれたレアカード仕様にすればいいから』って、販売パックにレアカード仕様を封入するのを時期尚早とか言って止めておきながらそれですか。

 既に参加者たちには優勝賞品が周知されているらしく、期待に胸膨らませる彼らを見るともうこれは止められませんね……

 形式はトーナメント戦、勝ち抜いた一人が優勝する分かりやすい形ですね。

 デュエル大会、と聞くとたくさんの長テーブルと椅子を置いて同時並行で試合が進行するのを思い浮かべてしまうのですが、用意されたのは何やらごてごてした二人掛けくらいの机と椅子だけ。

 一戦ずつ観戦するにしても外側の人には分からないのでは、という疑問は決闘(デュエル)が始まると氷解しました。

 

「俺の先攻! 現れろ、アックス・レイダー召喚!」

 

 参加者がカードを机に備え付けのプレイマット風のくぼみに嵌めると、片手斧で武装した戦士の姿が浮かび上がりました。

 すごい、すごいすごいすごい!! ソリッドビジョンですよねアレ! どうやったんですか!? 

 主催者の院長先生曰く、魔法道具師に依頼して制作された机でカードのモンスターを幻影魔法で投影する仕組みらしいです。

 なるほど、これなら盤上が良く見えない距離でも決闘(デュエル)を楽しんで観戦できますね。

 というか、私もアレ欲しいです。青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)で『スゴイぞーかっこいいぞー!!』してみたい! 

 カードの有料販売で懐もそれなりに温かいですし、院長先生におねだりしてみましたが……

 

「でも君、魔力ほとんどないでしょ」

 

 そうでした……魔力なんて使ったことのない世界から来た私は、魔法道具のほとんどを動かせない程に魔力はスカポンタンなんでした……

 くぅ、リアルでソリッドビジョンがあるのに自分は使えないなんて、なんという悲しさ。

 ならば、せめて各試合を目に焼き付けなければ! 

 

 俄然、熱意の宿った視線を向けられる試合場では、竜殺しの剣を持ったアックス・レイダーが三本角の竜(トライホーン・ドラゴン)に倒されながら、返しの太刀で道連れにしていました。

 

 

 

 

 

 

「……そこまで! 決勝勝者は匿名参加の気高き紳士J!」

 

 宣言と共に、優勝者の名前が呼ばれました……が、まさか匿名参加の方が勝つとは。

 院長先生が小声で教えてくれましたが、匿名参加なのはおそらく貴族関係者、もしくは本人だからだろうとのことです。

 匿名にすることで無礼講ということを示しているそうですけど、明らかに身なりが良いんですよね。

 使用デッキは【帝】*1、オリパにちょこちょこ紛れているデッキパーツを買い集めたあたりに執念を感じます。

 レアカード仕様で貰うカードをどの帝にするかかなり悩んでいたようですが、最終的に『氷帝メビウス』にお決めになりました。

 はいどうぞ、今後どうなるかはわかりませんが、現在はこの一枚しかこの世にないレリーフの氷帝メビウスです。大事にしてくださいね。

 …………歓喜の雄叫びが迫真過ぎてちょっと引くんですが。

 なにはともあれ、教会孤児院主催の『冬の祭礼杯 決闘(デュエル)大会』は無事に幕を閉じました。

 孤児院というか、院長先生主催と言ってもいいのですけど。

 惜しくも敗退された参加者の方々も、魔法道具で投影された自分のモンスターたちが見れて満足なようでした。

 ……本当に、なぜ私にはあれが使えないのでしょうね。ぐぬぬ。

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 初めに聞いた報告では、私の拝領している領地の中で、今までにない遊戯が広まりつつあるということだった。

怪物たちの決闘(デュエルモンスターズ)』というその遊戯は、これまで流通している美術品とは全く異なる技法で描かれた絵を付けられたカードで決闘(デュエル)という競い合いをする斬新なものだった。

 流行の震源地は、領地の中でも際立った産業が無く住民の有力者に自治を任せていた小さな街。

 早期にこの遊戯を考えたものを抱え込めば所属する派閥の中でも影響力が増そうと下男に調べさせたが、困ったことにこの遊戯に使うカードは女神様から授けられし異能で作られているという。

 女神様の授けし異能を己のためにだけ使わせる、あんまりにも外聞が悪すぎる……娘の社交界デビューも控えているのに敵対派閥にわざわざ攻撃材料は与えたくない。

 万が一にも考えの足りん連中に遊戯の作成者が奪われないように人を配置させつつ、己の領地の産業として他の貴族に紹介できるよう遊戯への理解を深めておく。

 カードには様々な絵のものがあり、中にはテーマを感じる一定の命名規則を持つものもある。

 私は特に、家臣たちに場を整えさせてから現れる帝王たちのカードが気に入った。

 帝王たちは場に出るのに準備を必要とするが、それは貴族にとってはあまりに当たり前のことであり、振るう力も強力の一言。

 それに、これほど強力な帝王たちを私が使役しているという優越感が感じられるのも良い。

 カードを買い集めるために少なくない財貨を使うことになったが、このデッキの完成に比べれば些細なものだ。

 

 出入りの商人からの話では、あの街……最近は”決闘の街(デュエル・シティ)”などと呼ばれているらしいが、冬の祭礼に合わせて決闘(デュエル)大会が開かれるらしい。

 優勝賞品は、優勝者のエースの特別製カード。

 …………別に欲しいというわけではないが、私の領地で行われる決闘(デュエル)大会を私が関知していないというのは問題だろう。

 名を明かして参加して委縮した相手に勝ちを拾うのも本意ではない。

 ここは一つ、領民たちに真の帝王の強さというものを見せねばなるまいて。

 

 

*1
風帝、雷帝などアドバンス召喚時に効果を使う上級モンスター主体のデッキ



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ルールは一見複雑そうだけど、やれば簡単だぜ!

 冬の祭礼の後、大会で使った机”決闘机(デュエルデスク)”は誰に任せても角が立つということで教会の管理になりました。

 予約さえとれば無料で使用することができますが、大人が仕事をしている時間帯は子供たちの遊び場になっています。

 ほとんどの子供たちは仲良く利用しているのですけど……

 

「ね、ねぇ、僕と決闘(デュエル)……」

 

「やだ! お前とはしないよ!」

 

「うぅ……」

 

 こうして爪はじきにされている子もいます。

 見かける度にたしなめてはいますが、みんな仲良くというのは難しいのでしょうか。

 

「はいはい、泣かないで。私がお相手しましょう」

 

「! う、うん!」

 

『ルールを守って楽しく決闘(デュエル)!』とは言いますが、子供のルールは意外に残酷なので大人がフォローしてあげないといけませんね。

 願わくば、決闘(デュエル)くらい気兼ねなくしてほしいところではありますけど。

 

 

 

 

 

 

「わ、わ、まけちゃった……」

 

「……」

 

 決闘(デュエル)してみましたが、この子が爪はじきにされる理由にある程度共感できてしまいました。

 この子のデッキタイプは【ロックバーン】。相手の盤面をロックして効果ダメージのバーンで真綿で首を絞めるように倒すエグいデッキです。

 主流のデッキがモンスターを並べて殴り合う【ビートダウン】の現状で、このデッキを相手にするのはかなり厳しいでしょう。

 友達をなくす系のデッキなのでこうなっていたのは必然だったということですか……

『パックに遊ぶ友達は付属しません』という状況になる前に教えてあげなければ。

 

「……勝利を求めるな、とは言いません。決闘者(デュエリスト)はすべからく勝利を求めるものですからね。でも」

決闘(デュエル)とは相手との対話、勝利だけを求めるのではなく、相手の取る手段を読み切ってそれを上回る一手を取ること。それが貴方を立派な決闘者(デュエリスト)にするでしょう」

 

「対話……上回る一手……」

 

 そう、それはサイバー流リスペクトの精神。それが無ければ先攻完全制圧系壁とやってろゲームになってしまいます。

 じゃんけんで勝って先攻取った方が勝つゲームなどと言われてはいけません。相手がいてこそ決闘(デュエル)は成り立つのですから。

 私の言葉に幾らかでも感じるものがあったのか、さっそくデッキを組み直しはじめました。

 もちろん、私もアドバイスを求められたら快く応えてあげましょう。別にデッキを意図的に弱くする必要は無いのですよ。

 

 

 

 おかしい……どうしてこうなったのでしょう。

 確か私は勝利を求め闇堕ちしかけた子どもにリスペクトの精神を説いたはずなのに……

 何度目をこすっても、目の前にいるのは「ヒャハハハハハァーッ」というテンションMAXな声を上げて決闘(デュエル)する【フルバーン】*1の使い手。

 残りライフが4000でも100でも相手のライフが0になればいいんだという攻めの姿勢に要所要所で最低限の防御をするプレイスタイルは他の子どもたちにも変な人気が出ています。

 おかしい……『ヘルカイザー亮(闇堕ち)』を防いだのに『ダークシグナー鬼柳(闇堕ち)』みたいになってます……

 勝率的にはさほど変わっていないか若干落ちたくらいですが、みんな楽しく決闘(デュエル)するようになったから良いのでしょうか……本当に? 

 

 

 

 

 

 

 院長先生の話によると、街の産業の一つとして魔法道具師の方々の決闘机(デュエルデスク)の生産が始まっているようです。

 街の内輪での需要もなかなかで、特に酒場などでは納入の要請が大きいとのこと。

 噂ではこの街の領主様も特別製の決闘机(デュエルデスク)を注文したとかしないとかで、商人からも新産業が軌道に乗ることが期待されています。

 決闘机(デュエルデスク)はカードの立体映像が投影できますから、見た目のインパクトで売りやすいのが強みですね。

 デュエルモンスターズが知られていない街でも、かっこいいモンスターが映し出される道具というだけでも価値があるでしょう。

 正直なところ、何もしなくても売れていくと思うのですが、院長先生はこれを機に新たな企画を打ち出すべきと考えているようです。

 一般の人が決闘者(デュエリスト)になる敷居を下げるために、そんなに強くなくてもいいから既製品のデッキを作ってはどうか、と。

 なるほど、つまりは初心者入門用、ストラクチャーデッキということですね。

 既に決闘者(デュエリスト)の人は欲しいカードがストラクチャーデッキに収録されていれば確定で手に入ってうれしい。

 新しく決闘者(デュエリスト)になる人はストラクチャーデッキを一つ買うだけでパックからカードを集めなくてもデュエルできて嬉しい。

 院長先生や魔法道具師の方々は購入母数である決闘者(デュエリスト)が増えて嬉しい。

 ……ってストラクチャーデッキを作る私が勘定に入ってないじゃないですか! 

 たしかにデュエルモンスターズが広まるのは嬉しいですけど、そんな仕事量をタダ働きは嫌ですよ! 

 

 え? 院長先生のコネで魔法造形師に依頼した青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)の彫刻!? 

 く、くく、くれるんですか!? えへへ、もぉ、今回だけですよぉ。

 ふへへ…………ふつくしい……

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 この国の王城は、主に政治が執り行われる王宮と、王族の私的な生活の場である後宮に分けられる。

 後宮では公的儀式に出ない王の側室や、社交界デビューをしていない王族の子供たちが暮らしていた。

 まだ幼い第一王子は珍し物好きで、出入りの商人は気に入られようと各地から珍奇な品をかき集めて持ち込むのが定例だった。

 

「どうでしょうか? 北海の果てにあるという地で捕れるイッカククジラの角でございます」

 

「ふむ……たしかにめずらしいしなだ。だがつのにしてはかるすぎる。うみのいきものにつのがあるというのもいぶかしいし、ながいきばなのではあるまいか?」

 

「お、おお、申し訳ありません! 不勉強ゆえ、平に、平に……!」

 

「よい」

 

 第一王子は厳しく教育されているため声を荒げるようなことはなかったが、己の好奇心を満たすものは無いのかとどこか白けた様子である。

 幾つもの珍品をくり出すものの王子の気を引く物はなく、苦し紛れに懐のデッキを持ちだした。

 

「こちらはこの国の一部で流通が始まった新たな札遊び『デュエルモンスターズ』です。主に3種のカードが……」

 

「まて……ふむ、このモンスターのかかれたえふだにだけこうげきりょくとしゅびりょくがある。おそらくこれをくらべてきそうのだろうが、あきらかにせいのうがちがいすぎるものがある。このほしのかずがかんけいしているのか……?」

 

「さすがは王子、慧眼でございますな」

 

「つまらんせじはいい。わたしにこのカードについてもっとおしえてくれ」

 

 初めて品に食いついてきたことに喜びながらデュエルモンスターズのルールを教授する出入り商人。

 王子も己の思索の埒外とも言える『カードゲーム』の存在にこれまでになく心が躍るのを感じていた。

 

「なるほど、ルールはいっけんふくざつだが、おぼえてしまえばみょうにしっくりくる。このカードはほかにないのか?」

 

「申し訳ありません、今はこのデッキ以外には未開封のものは4パックしか……その、王子殿下に手垢のついたデッキを渡すわけには」

 

「よい、おまえがかんがえてくんだデッキをうばおうとはおもわぬ」

 

 せっかく王子の興味を引けたというのに、手元にあるのは未開封のパックが4つだけ。

 既に組んである魂のデッキは、たとえ王子であろうと渡したくはなかった。

 商人のそんな心を読んだ王子は、次の機会にデッキを組めるだけのカードを持ち込むことを頼み、商人も喜んで承諾する。

 

(たのしみだな……モンスター、まほう、わな。まほうとわなにはえいぞく? というのもあるらしいし、どのようなものかはやくみてみたい)

 

 王子の依頼を受けてカードを買いに行った商人が、テーマが全く違う複数のストラクチャーデッキを買ってきて王子が目を白黒させるのは別の話。

*1
【ロックバーン】と同じ効果ダメージ主体のデッキだが、防御より攻撃に比重が寄っている



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モンスターではない、神だ!

鋭い考察をされている方もいますが、この世界はふわふわです。


 ストラクチャーデッキ発売の報で、街は激震に包まれました。

 融合サポートカードを収録した『究極の力』、儀式サポートを収録した『禁忌の力』、そしてアドバンス召喚サポートを収録した『王者の力』。

 パックより若干お高めではあるものの、欲しいカードが収録されていれば確定で手に入ることもあり前評判は上々です。

 自由になるお金の少ない小さな子はどれか一つ買うだけで一応決闘(デュエル)の体裁を整えることができますし、経済力のある大人の中には既に3箱買い*1を決めている人もいるようです。

 ……なんか院長先生の思惑通りみたいで気に食いませんね。まあ私一人では販売の段取りとかできませんし、収益も私の取り分はしっかり分けて孤児院の運営とかに回していただけるようなので問題は無いのですが。

 一体どこまで考えての行動なのでしょうか? 最近は孤児院の子供たちも揉め事が起きたら『なら決闘(デュエル)で決着をつけよう!』とか言い出したり、頭決闘者(デュエリスト)かよという言動が目立ちます。

 子供でも決闘者(デュエリスト)ではあるので間違ってないとも言えますが……この世界に広めるには時代が早すぎたのでしょうか。

 ファンタジーと遊戯王で、私の中の世界観が揺れてきている気がします……

 

 

 

 

 

 

 新しいカードを作るにあたっては、元のカードへのリスペクトを重んじつつ、この世界でのNGワードに配慮するために販売前に院長先生や同僚たちにアドバイスをもらうようにしています。

 なのですが……NGをもらったことが無いのが逆に不気味です。

『逆転の女神』とか『千眼の邪教神』とか、大丈夫か怪しい部類のカード名は割とあるのですが、一切止められたことがありません。

 主に崇められている創造神である女神さまは子だくさんで聖典は多神教の流れにありますが、記載されているのは性別と役割……権能についてであって詳しい姿の描写は無いそうです。

 中には女神さまの子ですが反逆を始めようとした邪神・悪神の類もいたそうなので、そこらあたりは『そういう神様もいたかもねぇ』で済まされてしまうのだとか。

 もちろん有名な神様、創造の女神様とか冥界と天界の管理者、太陽や大地の神などは大体どんな姿で描写されるのか慣例のようなものはあれど、それから外れていても余りに冒涜的でない限り『斬新な解釈』と捉えられるようですね。

 まあ私としては元の絵に手を加える必要が少なくて助かります。元の世界での絵の肌面積についての修正みたいなのも必要ないですし。

 というか、露出の高い踊り子さんとか妖艶な娼婦さんとかが実際に居るのにカードの肌面積に血眼になる人は相当な希少種でしょうね、この世界では。

 だからと言って、居ないとも限らないのが業の深いところですが……

 女性キャラクター系のカードの人気は圧倒的に男性より女性、特に女児人気の方が高いです。いわゆるプ●キュア的人気ですね。

 綺麗な同性が屈強そうなモンスターなどを倒したり攻撃を耐えきる姿というのはやはりインパクトが強いのでしょう。

 男性側でも屈強な戦士が敵を倒すのに同じことを思っていそうですし、こういうのは男女共通なのかもしれません。

 ならば、女性陣は露出度の高い女性モンスターをどう思っているのかというと、割と好意的な意見が多くて驚きました。

 考えてみれば、露出の多い踊り子さんや高級娼婦の方々は社会的身分はともかく、世間のファッションリーダー的な立ち位置に居るのですから、そういう点には耐性があるのかも。

 結局のところ、男女ともに同性のキャラクター絵のカードに特に肯定的なんですよね。健全と言えば健全。

 

 他に問題になりそうなのを挙げるとすれば『王座の侵略者』とか【帝】関連とか権力者的にどうなのかと思うものがありますが、院長先生いわく『むしろ好評』とのことです。

 ……反面教師とかにしているのでしょうか。権力者の方々は知識層で富裕層ですから、そういうこともある、のでしょうか……

 この世界の人が寛容すぎて、いつか豹変するほど怒られないかちょっと怖いです。

 

 

 

 

 

 

 うららかな春の陽気に思わず気が緩みそうな季節になったころ、突然院長先生に呼び出されて遠出することになりました。

 目的地は隣国にある女神さまを崇拝する教会の総本山。

 滅多に使われない教会据え付けの緊急連絡用魔法道具で召喚状……もとい招待状が届いたとのこと。

 やっぱりカードについて怒られるんじゃないですかー! ヤダー! と思ったら、むしろ丁重に来ていただきたい旨が書かれていたそうで、近くの大都市からは教会の僧兵が護衛にも付くそうです。

 連行では? と疑ってしまう私に院長先生は『それならこんな逃げる時間を与えるようなことはせんよ』と殺伐とした安心のさせ方をしました。

 でも、なんでまた教会本部まで? これまでにやった変わったことはカードの生成くらいしかないので、やっぱりそれ関連で何か言われる気しかしないのですが。

 疑問符が浮かび続ける私をさておいて、院長先生はすっかり物見遊山の準備に忙しいようです。

 もう! 他人事だと思って! よくそんな気楽に旅支度ができるものですね! 

 

 旅立ちの日、孤児院の子供たちがワラワラと引っ付いてきて別れを惜しんでいますが、私は分かってますよ。不在の間、お手伝いの報酬カードが無いのが不満なだけでしょう。

『不在の間のお手伝い報酬は同僚に保管してもらっていますよ』と告げると、子供たちはバラバラと離れていきます。現金な……! 

 まあいいです。湿っぽい別れも嫌ですしね。

 観光気分の院長先生と私、護衛の自由戦士の方々と共に、一路教会の僧兵の方たちの待つ大都市へ向かうのでした。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 教会本部、大神殿。

 女神様は最低限の体裁を整えた祭壇と真摯に祈る心があればどのような場所でも祈りを聞き届けてくださるが、やはり創世の時代に天界へとつながる”光の階梯”が置かれたこの地が聖地として信仰を束ねる場所に選ばれるのは必然だった。

 ”光の階梯”はこの地上界から供物を天界へ捧げるための装置。しかし、世界を創造した女神様とそれを管理する神々の興味をひく品は少なく、前回供物が昇天したのは遠く先々代の教皇猊下の代であると伝え聞く。

 今代の教皇猊下の代になっても供物を捧げる”昇天の儀”は形式上の物であり、感謝を捧げる”ポーズ”である……はずだった。

 

「おお……」「まさか!」「これは……本当に……!」

 

 隣国においてにわかに流行し始めている札遊び、その題材の一部に神を斬新な形で登場させていると聞き、数多の供物と共に”光の階梯”に掲げ置いた。

 はたして、光の階梯は起動し、数多の供物の中から遊戯の札だけが昇天したことを受けて教皇猊下は震える声でお言葉を発した。

 

「この遊戯の作者をお招きするのです。丁重に、丁重にです」

 

 供物を選定した司祭も詳細について知らず、神官たちは四方八方に散って情報を集めた。

 結果、隣国のとある街の教会孤児院に所属していることが分かり、すぐさま緊急連絡という名の招待状が送られる。

 教会本部が誇る僧兵団が護衛に回りたいところではあるが、あまり大きな動きは護衛対象に合流する前に小者に悪心を抱かせかねない。

 不安ではあるが、現地の者を動かす方が安全であろう。

 教皇以下教会本部の神官たちは祈る、どうかその旅路に幸あれかしと。

 

 

*1
ストラクチャーに一枚収録のカードを三枚集めるために三つ買うこと。



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光射す道となれ!

 この世界に迷い込んですぐに商家の方に保護され、あの街をホームグラウンドにしていた私にとっては今回の旅は初めての遠出です。

 護衛として雇われた自由戦士の方々が数名、物見遊山気分の院長先生と緊張している私、献上品として用意された特別製の決闘机(デュエルデスク)の一行で出発します。

 ……この中だと私も献上品のくくりに入ってませんか? 大丈夫? 

 ま、まあ、気を取り直して……自由戦士の方々は普段は街の周りの魔物狩りなんかをしている戦闘職の人たちです。

 魔物は魔法を使った後に出る『澱んだ魔力』に邪神の残した呪いが反応して生まれる生き物? らしく、倒しても死体すら残りません。

 そのため、必要な仕事なものの不経済という何とも残念な仕事で、大きな都市では教会の僧兵団なんかがこの仕事をしているそうです。

 私の住んでいた街でも以前は自由戦士の集まりが悪かったそうですが……案の定、デュエルモンスターズのプレイヤーである決闘者(デュエリスト)な自由戦士が半ば定住するようになり改善されたとか。

 いいんでしょうか、命のかかる仕事の環境をそんな決め方をして……

 自己紹介された時も”バスター・ブレイダー使いの○○”とか”クラブ・タートルマスターの××”とか異名が完全に決闘者(デュエリスト)に寄っているのですけど。

 彼らには私がデュエルモンスターズを広めたことは伝わっているらしく、護衛の士気はすこぶる高いです。

 決闘机(デュエルデスク)と同乗する荷馬車の上で、少しずつ遠ざかる街に別れを告げます。

 さようなら、しばらくの別れです。私の第二の故郷。

 ……そんな感傷は自由戦士のリーダーの『さあ、決闘の街(デュエル・シティ)に別れを告げろ!』という言葉に吹っ飛びました。

 決闘の街(デュエル・シティ)!? そんな呼ばれ方してるんですかあの街!? 

 

 

 

 

 

 

 

 護衛の僧兵団と合流する大都市までの旅路は何の問題もなく過ぎました。

 もともと魔物が生まれる条件的に、魔法を使う人がたくさんいる集落の周辺以外では見られないこともあって人里離れた場所ほど安全なんですよね。

 あえて困ったことを挙げるとするなら、寝ずの番の自由戦士が献上品の決闘机(デュエルデスク)でガッツリ遊んでいたことでしょうか。

 名目としては『輸送の過程で故障や不具合が起きていないか早期に確かめる』ということでしたが、明らかに楽しんでましたよね? 

 院長先生は『ちょうどいい獣除けだ』と笑っていましたが……後で不敬を咎められたりしませんかね……

 

 大都市で合流した護衛をしてくれるという僧兵団は、当たり前ですが自由戦士の方々よりキチッとした印象を受けます。

 統一された整った装備、行き届いた統率と規律。さすがは大都市の僧兵団の所属だと感心しますね。

 僧兵団にも通常業務があるので、私たちの護衛をしてくれるのはその中から選抜された一団ということですが、少なくともミソッカスではないことは確かです。

 

「今回の護衛任務は教皇猊下直々のご下命。この身に代えても本部大神殿へお連れしましょう」

 

「ありがとうございます。頼りにしておりますよ」

 

 院長先生が僧兵の隊長さんに感謝と信頼を伝えると、隊長さんは胸を張って応えました。

 

「今回の任務には”特に理解のある者”を選抜いたしました。問題はありませんとも!」

 

 自身満ちた声ではありますが……『特に理解のある者』? 

 首を傾げた私の目に、護衛の僧兵たち全員の腰に見覚えのあるアイテムが付けられているのが映りました。

 あ、あれは! ストラクチャーデッキと一緒に発売された革製デッキケース! 

 ということは…………この人たちはみんな決闘者(デュエリスト)!? 

『特に理解ある者で選抜』ってめちゃくちゃ私情こみの人選じゃないですか! 

 これからの旅が不安になってきました…………

 

 

 

 

 

 

 第一印象は、その、ちょっと良くなかったですが、僧兵の隊長さんはかなりストイックな方でした。

 私に『決闘(デュエル)の指南を頼みたい』と言い、他の隊員たちが自由時間に献上品のチェック(という名の試遊)にかまけている間も、決闘(デュエル)の勉強に余念がありません。

 彼のデッキは低レベルモンスターが主軸で、魔法での全体強化などを駆使しても一定以上の打点を越えられないことが多いようです。

 それだけなら上級モンスターを入れてしまえばいい話なのですが、彼の低レベルのモンスターでも決闘(デュエル)の役に立つことを示したいという決意は固いようですね。

 ……いつ出すかと迷っていましたが、彼の瞳に希望の光を見た私は新たなカードを作ることを決意しました。

 さあ、教えてあげましょう。大いなる存在を呼ぶ儀式やアドバンスではなく、力を合わせる融合でもない。絆を束ねる力…………シンクロ召喚を。

 

 

「ジャッジ・マンで黒魔族のカーテンに攻撃! さあ隊長、後がなくなったっスね?」

 

「いや……絆は、潰えない! チューナーモンスター、ジャンク・シンクロンを召喚し、効果で黒魔族のカーテンを蘇生! 戻ってこい、黒魔族のカーテン!」

 

「チューナー? いやでも俺の方が攻撃力は上っス!」

 

「レベル2の黒魔族のカーテンにレベル3 ジャンク・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚、現れろレベル5 ジャンク・ウォリアー!」

 

「えええええええ!?」

 

 うんうん、さっそくシンクロ召喚を使いこなしていますね。

 もうナチュラルに献上品を試遊台にしているのにツッコむ気力もなくなってきました。

 チューナーモンスターと非チューナーモンスターのレベルの足し算で行われるシンクロ召喚、弱さを力に変える新たな召喚の形。

 最新カードが見られると告知され観戦していた僧兵の方たちからの反応もなかなかで、『凄い』『自分も使ってみたい』といった声も聞こえます。

 ただ高レベル高ステータスなモンスターだけが強いのではありません。低レベルモンスターももっと使ってやってほしいものです。

 この世界はモーメント*1とかそういうのは無いんで、じゃんじゃんシンクロしちゃってください。

 まあ、もしシンクロ一強になりそうだったらシンクロキラーたちを放流するつもりでもありますけどね。

 

 

 

 

 

 

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 天界、それは創造の女神と神々が住まう神域。

 邪神・悪神を封印する冥界と並んで人々に知られる神話の世界である。

 最近、天界の神々の間でにわかに流行しているものがある。

 それは、遊戯の神が興味をひかれて地上から昇天させた札遊び、『デュエルモンスターズ』。

 神々は『女邪神ヌヴィア』を見てこれに似た奴いたなぁと昔を懐かしんだり、『治療の神ディアン・ケト』という斬新な解釈に感心したり(約一名が憤慨したり)、『かつて神と呼ばれた亀』に困惑したり、それぞれ楽しんでいた。

 カードを作る程度は神々には造作もない事なので、捧げられたカードを参考に自分でカードを作ってみた神も居たのだが、それで決闘(デュエル)をしてみるとどうもしっくりこない。

 オリジナルのカードを見るに地上の民に授けられた母なる女神様の権能の一部で作られたようで、その慧眼は流石は我らの母と感心することしきりである。

 

 今日も今日とて特に熱を上げている遊戯の神と賭博の神が決闘(デュエル)するのを複数の男神と女神が観戦している。

 権能でコイントスを的中させる賭博の神と圧倒的ドロー運の遊戯の神の戦績は全くの五分。

 序盤にモンスターが融合して異形の機械竜(ガトリング・ドラゴン)を呼び出した賭博の神が優勢であったが、調子に乗って神威を使い過ぎて敵を一掃し勢い余って自分まで破壊したことで形勢は逆転、今回は遊戯の神が勝利した。

 神々も新たな種類のカードを求めてやまないが、母なる女神様の子らである地上の民に神託を授ける権能を持つ神が製作者に要求しようとしてもできなかった。

 未知なるゲームを楽しむ神々も、この未知には首を傾げていた。

 

「おい! 全知の書に新しいカードが記されたぞ! シンクロ?召喚するモンスターだってよ!」

 

「まあ! シンクロってどういう召喚方法なのかしら?」

 

「早速見に行きましょう!」

 

 

 神々は世界のこれまで全てが記載される書物、『全知の書』を新カードをチェックするのに使っている。

 ……全世界の現状を記す力を持つのに、最近はデュエルモンスターズのルール&カードブックとしてしか使われてない全知の書は泣いていい。

 

*1
遊戯王5D'sに登場するエネルギー機関。逆回転すると危険。



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光創世(ジェセル)

「ほわあぁ~~」

 

 目の前にそびえ立つ立派な建造物に、思わず間の抜けた声がこぼれてしまいます。

 ここが創造の女神様を崇拝する教会の本部大神殿! 現代のビル群に比べれば低いのでしょうが、周りに大きな建築物が無いからかえって大きく見えますね。

 重機など無い中、これが全部人力で建てられたと思うと圧倒されてしまいます。

 

「任務ご苦労様です。よく無事に送り届けてくれました」

 

「もったいなきお言葉……」

 

 ここまで護衛してくれた隊長さんが本部の偉い神官さんに達成報告をしたら、一旦お別れです。

 帰りもお世話になりますが、ここでは本部の僧兵さんたちが護衛に付くそうなので。

 

 院長先生と共に神官さんに案内され、綺麗な客室でこれからの予定を説明されました。

 まず私たちは教皇さまとの謁見前に旅塵を落としておくこと。

 その間に本部の神官さんたちが献上品である決闘机(デュエルデスク)のチェックをしてくださるそうです。

 それが終われば教皇様と謁見。決闘机(デュエルデスク)を献上して、二~三質問答えるだけでいいとのことですが、本当ですかね……? 

 

 旅塵を落とす、つまりお風呂は大満足の一言でした。

 住んでいた街にも公衆浴場はありましたが、追い焚きは魔法道具を起動しないといけないので、私は誰かに頼まないと熱い湯に入れなかったんですよね。

 ここのお風呂はお湯を頼めば担当の人が温めた湯を蛇口に送り出してくれる千と●尋の湯屋方式なので、気兼ねなく浸かれました。

 湯上りでホコホコの間は気持ちも緩んでいたのですが、体が冷めてくると緊張も戻ってきてしまいます。

 院長先生は湯上りに酒を頼んで神官さんに苦言を呈されていましたが……なんでしょう、心臓に毛でも生えてます? 

 話を聞くと、院長先生は元々この本部大神殿で学んでいたことがあり、現在の教皇さまとは先輩後輩の間柄なのだとか。

 なんでそんな経歴の人が小さな街の教会孤児院の院長なんてしてるんですか……

『世界中の信徒を導くほど器が大きくなかったからね』って……院長先生って、本当に院長先生ですよね(諦め)

 

 

 

 

 

 

 教皇さまとの謁見は……ガチガチに緊張していてどんな受け答えをしたのかまるで覚えていません。

 本当に気づいたら部屋で夕食を食べていました。

 何かマズイことを言ってしまっていないか青くなって院長先生に確認すると、教皇さまに頼まれて神に捧げる特別なカードを作るのを了承したとのこと。

 ……マジですか? 謁見室の扉が開いたあたりから頭が真っ白で何も覚えていないんですが。

 神様に捧げるカード……そりゃあすごい特別なカードじゃないとだめですよね……

 いや、これは逆手に取って考えましょう。神様に捧げちゃうならゲームバランスなんて気にしなくていいですよね、流通しませんし。

 なら神のカードにしちゃいましょう。原作効果……はちょっと曖昧なのでそちらに寄せた効果にしておきましょう。

 ふふふ、これならライフちゅっちゅギガントとか呼ばれませんね……

 

 

 翌日、制作した四つのカードを神官さんに託しました。

 赤いカード、天空の神『オシリスの天空竜』。青いカード、大地の破壊神『オベリスクの巨神兵』。黄色いカード、最高位の太陽神『ラーの翼神竜』。

 そしてそれらの神を束ねた時、全てを倒す光の神『光の創造神 ホルアクティ』。

 神のカードと言えばやっぱりこれですよね。

 もし流通させる時が来たらOCG効果にするつもりなので、文字通り捧げることを前提とした一品ものです。

 受け取った神官さんがすごく驚いていましたが、やはり『神のカード』の持つインパクトによるものでしょうか。

 満足げに運ぶのを見送った私に、微妙そうな顔をした院長先生が耳打ちしました。

 

「たぶん、地母神として描かれる大地の神がゴリゴリのムキムキだったから驚いたんだと思うよ……」

 

 まあ大地の神は地震で荒ぶる側面もあるから変わった解釈だと思われるだけだろうけど、とも言われ、私は赤面するしかないのでした。

 

 

 

 

 

 

 めちゃくちゃ緊張してアワアワしたことを除いて、本部大神殿を訪れる旅は無事に終わりをつげ、帰路に就くため出発する日になりました。

 お渡ししたカードが無事に捧げられたおかげかは知りませんが、教皇さまご本人がお見送りに出席されています。

 ……あの人は院長先生の後輩、あの人は院長先生の後輩、あの人は院長先生の後輩。

 自己暗示でもかけないとやってられません。威圧感というか、威厳がすごいんですよ……

 

 再び合流した隊長さんに教皇さまが護衛の任命をしている最中、空から光が一筋、私を照らすように射し込みました。

 え、今日ふつうに雲一つない快晴ですよね? スポットライト? 

 周りにきらめく光に困惑する私をよそに騒めく神官さんたち。それを一喝するように手を打ち鳴らした教皇さまが朗々と宣言しました。

 

「新たな使徒様がここに生まれた! 祝福せよ!」

 

 いやあの、いきなりそういうこと言われても分からないんですが!? 祝福されても訳が分からないんですが! 

 院長先生に視線で助けを求めると、ため息をついて小声で教えてくれます。

 

「使徒っていうのは、創造の女神様が特にお気に召した地上の民のことさ。異能は強くなるし、いろいろ得することも多い」

 

「えっと、具体的には?」

 

「すべての刃はその者を傷つけず、あらゆる病毒はその者を冒さない」

 

「簡単にお願いします」

 

「まあ、死ににくくなるね」

 

「しににくくなる」

 

 思わずオウム返しに言葉を繰り返してしまいます。

 つまりは、女神さまが見込んだ民を死なないようにして世界をもっとよくしてもらおう、そういうことらしいです。

 喜ばしい事のようですが、これ、帰れなくなったりしませんか……? 

 ここで偉い人に囲まれていたらそのうち心臓が爆発してしまいます! 

 

 本部の神官さんたちの中からは、やっぱり私に本部に残ってもらおうという意見が出たようですが、教皇さまがその意見を抑えてくれました。

 教皇さまと院長先生が視線でなにがしか通じていたようですけど、私としては家(教会孤児院)に帰れるだけで十分です! 

 小市民な私としては、あの小さな街で骨を埋めるくらいでちょうどいいんですよ……

 ですが、一応異能がどういう風に強くなったのか確認させてほしいと言われました。

 試しにカードを出してみますが……うーん、まったく何の変哲もないモリンフェン*1ですよね。

 強度が鉄のようになって撃鉄を止めたりカード手裏剣出来そうなわけでもないですし、何か変わりましたか? 

決闘(デュエル)用のカードなのだから決闘(デュエル)したら分かるかもしれない』という意見が出て、院長先生と教皇さまが決闘(デュエル)をすることに。

 決闘(デュエル)自体はやりこんでいる院長先生が一方的に優勢でそのまま勝ったのですが、神官さんたちは何かが分かったらしく歓声を上げました。

 いわく『決闘(デュエル)をすると周囲の”澱んだ魔力”を吸い上げて、ライフポイントと連動して通常の魔力に昇華している』そうです。

 つまりは相手を打ち負かすことで周囲から”澱んだ魔力”を減らすことができるわけですね。……うーん、地味過ぎませんか? 

 派手な能力が欲しかったとは言いませんが、立体幻影を実体化させられたりしてもよかったんじゃないですか女神さま……*2

 一方で教会としては、恒常的に行えば集落を襲撃する魔物を減らせる可能性があると、教皇様直々に”手軽にできる神事”として認定すると宣言。ここまでいくと決闘(デュエル)というか決闘(ディアハ)になってる気がします。

 一層の普及のために教会も尽力してくれるそうで……私、忙しくて死んじゃいません? あ、死ににくくなったんでした。

 まあ教会が後援してくれるなら、公式戦とかのジャッジとかやってもらえばいいんじゃないですかね。裁定するのが私じゃ体がいくつあっても足りませんし、なにより一応神事になったわけですから。

 ああ、もう色々ありすぎてお腹いっぱいです……はやくおうちかえりたい……

 

 

 

 

 

 

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「もう一度聞く。探られた形跡はなかったのだな?」

 

「はっ、防諜は抜かりなく。情報が漏れた形跡はありませんでした」

 

「しかしこれは……」

 

 西の果て、砂の国。

 国土の大半を広大な砂漠が占める生きるに厳しいこの国では、代々強い指導者が必要であり、それが国を治める王家であった。

 王家は特別でなくてはならない。そうでなければ民は導けない。

 王族の死後に墓を暴かれぬよう、影の一族のみがその墓所を知り、守り続けていた。

 しかしそこに外つ国から頭がおかしくなりそうな情報がもたらされる。

 いわく、『我ら影の一族が札遊びの題材にされている』と……

 

 実際にその札遊び『デュエルモンスターズ』を取り寄せてみて、影の一族の重鎮は頭を抱える。

 浅黒い肌、熱砂の国特有の砂塵を避ける装束、そして一連のカードの枕詞『墓守』。

 しかも『墓守』に力を与える領域(フィールド)魔法が『王家の眠る谷-ネクロバレー』となると、もう冗談では済まされない。

 防諜体制の一斉点検と情報漏れの確認が行われたが、情報が外部に漏れた形跡は全くなかった。

 結果を信じるなら、作者は全くの空想で偶然にも影の一族の使命と題材を一致させたことになる。

 そんなバカなことがあるものか、とはだれが口走った言葉だったろうか。

 流行しつつあるその遊戯を、せめて一部の流行にとどめる裏工作ができないか話し合われていたところに持ち込まれた報告は、その遊戯の普及を教会が強力に後援する(よし)

 あんまりにもあんまりな仕打ちに崩れ落ちる影の一族の重鎮たち。

 王墓を守る一族の明日はどっちだ。

 

*1
最弱カード論争でよく名前が挙げられるある意味アイドルカード。なぜか人気がある。

*2
未練タラタラである。



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○○とはどんな効果だ?いつ発動する?

 ようやく帰ってきましたよ! 私の第二の故郷! 

 孤児院の子供たちも久しぶりの再会を喜んでくれます。

 

「ねーちゃん、おかえりー!」

「おみやげ! おみやげは?」

 

 ……よ、喜んでくれます。

 しかしこの程度は予測できたこと。お土産もバッチリ買い込んできていますよ、そんなに高いものは買ってませんが。

 まず男の子にはそれっぽい剣の形をした護符(アミュレット)

 武勇の神と成長の神は双子なので、子供から大人まで人気がある普遍的なモチーフです。

 ……なんならこの街でも似たようなものが売られているのですが、まあそこは気にしない方向で。どこででも見かけるお土産物ってありますよね。

 女の子には花の意匠の髪飾り。

 小さな品ですが、おしゃれが嫌いな子はそういないのでまずハズレないでしょう。

 実際、女の子たちは自分の好みの品を選びながらキャッキャッしています。

 私が不在の間、代わりに頑張って下さった同僚たちには隣国特産の薬草の香り袋をチョイスしました。

 枕元に置いておけば安眠できると評判が良かったものです。

 ……子供たちと掛かってる額が違い過ぎる? ナンノコトヤラ。

 人間関係を円滑にするためには潤滑剤が必要なのですよ。

 さあ! 無事に帰ってこれましたし、これからまたいつもの日常が始まりますよ! 

 

 

 …………この時は、この後に起こる出来事を予想もしていなかったのですが。

 

 

 

 

 

 

 私は普段、孤児院で子供たちに計算(算数)を教えているのですが、このたび院長先生に新たな仕事を任されました。

 デュエルモンスターズの詳細なルールを教え、一人前の決闘者(デュエリスト)を育成する……決闘塾(デュエル・スクール)の開校です。

 初めに言われた時は『は?』としか返せなかったのですけど、私のところに指名が来た時点ですでに決定事項だそうで。

 教会が”神事”として公式・公認戦を監督するならルールに対する深い知識は不可欠。さらにデュエルモンスターズが普及していない地域に新たに広めていくためには熟知した決闘者(デュエリスト)の数をそろえる必要があります。

 決闘者(デュエリスト)候補生となるのは元々いくつかの街を渡り歩くフットワークの軽い自由戦士の方々。

 彼らがこの街で決闘者(デュエリスト)となり、各地でまずは決闘(デュエル)を実演していくのが教会の描いた青写真なのだとか。

 まあたしかに、本部大神殿に行く旅の途中でも、この街ほど決闘者(デュエリスト)の多いところはありませんでしたが……本当に私が講師をするんですか? 

 現役の自由戦士の方々ということは普通に成人してますよね。子供たちはともかく大人相手に教えるのは初めてなんですが。

 院長先生いわく『参加する自由戦士は”教会公認決闘者(デュエリスト)”の称号が欲しいから、真面目に学ぶだろう』とのことですが、私の教え子となる人たちが決闘者(デュエリスト)のスタンダードになるなら責任重大ですね。

 いいでしょう! 最終的には『時』と『場合』や『任意』と『強制』の違いから『対象に取る効果』と『対象に取らない効果・選ぶ効果』の違いまで叩き込んであげましょうとも! 

 気分は決闘塾(デュエル・スクール)の一流教師デスーノ! ふふふ。

 

 

 

 

 

 

 最近、街中で何もない空間に突然黒い穴が現れる現象が相次いでいます。

 この穴、通称『奈落の穴』と呼ばれていて、”澱んだ魔力”が急激に動くと現れることもある……くらいの珍しい現象のはずなのですが、最近はあちこちで見られます。

 これって明らかに新しく作ったカードで決闘(デュエル)してるからですよね……

 穴は邪神・悪神が封じられた遥か地の底の冥界まで続いていると言われ、落ちたものは二度と戻ってこないと言われています。

 まあ、生き物は通れないし手のひらくらいの大きさなので、何か穴に落としたら諦めてね、くらいの話なのですが。

 穴自体も同じところには長時間開いていないので、子供が見つけた穴に石や砂を流し込んで遊んでいるのも見かけます。

 

 ある日、私室の隅に開いた奈落の穴を見て、私はビビっときました。

 今まで、カードパワー的に明らかに現在では発表・流通できないカードは作らない様にしていました。

 眺めて懐かしんだ後で焚き付けとかに使って消滅させようにも、カードを作った時点でどこからか嗅ぎつけてくる決闘者(デュエリスト)たちをごまかしきれないと思ったからです。

 しかし……この穴に入れてしまえば完全に証拠隠滅できてしまうのでは? 

 天啓を受けた悪魔的発想に身を委ねた私は、思いつくままにカードを生成し、存分に懐かしんだ後で束ねてから穴へシュートしました。

 部屋から出た途端に『新しいカード作らなかった?』と聞いてくる勘のいい同僚(決闘者(デュエリスト))に私は素知らぬ顔で『いいえ?』と答えて共に夕食へ向かうのでした。

 

 

 

 

 

 

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 冥界。天界と並んで語られる世界から切り離された領域。

 冥界の管理者たる冥王の下で並み居る邪神・悪神たちが封じられ、永きに渡り世界の平穏を守っていると言われている。

 ……実際は、邪神・悪神も母なる女神にとっては愛する子供たちであり、神々の尺度的には『おイタをした子を反省するまで蔵に閉じ込めておく』のとそう変わらないのだが。

 

 ある日、冥王の下へ天界から連絡が届いた。

『全知の書から記述が削除されたものがある。冥界へ落ちたものと思われるため、情報求む』と。

 冥界は天界よりも厳重に世界から切り離された場所だ。存在やそれがあった事実に接続して世界のすべてを記す全知の書とて、冥界に来たものは範囲の外。

 しかし、天界の神々が連絡を寄こすようなものが冥界に来るだろうか? 

 邪神・悪神の残した呪いが地上界に冥界へ繋がる穴を開けることがあるとは聞くが、開いたところでその穴は小さく、命を持つ者が冥界に来ることはできない。

『捜索はしてみるが、さしたる影響はないと考える』と返信をして、冥王は配下に探し出すように命じた。

 

 はたして、見つかったのは幾つもの束に分けられた紙切れだった。

 こんなものの為に天界の神々がわざわざ連絡を……? 

 訝しんだ冥王は、冥界の秘宝たる『理解の片眼鏡(モノクル)』を取り出した。

 掛けた者に目に映るものの情報を引き出し見せる秘宝、全知の書を見ることができない冥界に母なる女神が用意した唯一無二の宝具である。

 そして、冥王の頭の中に広がる圧倒的情報の奔流。

 一束たかだか数十枚の紙きれにこれほどの情報が秘められているとは流石の冥王も想像していなかった。

 カードゲーム、デュエルモンスターズ、ルール、戦法、デッキの動かし方から妨害への対処法まで。

 カードに、紙束……いや、”デッキ”になったものが持つ情報を精査した冥王が感じたのは、『実践してみたい』というある人種における本能のようなもの。

 デッキによって、勝つための理想的な過程……『ルート』は存在するが、手札とドローという不確実性が使用者に技量を求める。

 さらには相手のデッキ内容や妨害なども考慮すれば、そのルートに至るまでの道はもはや無数。

 とりあえず天界への連絡は一旦保留することにして、冥王は決闘(デュエル)の相手を見繕う事から始めることにした。

 

 

 ……そして現在。

 

「それではチーム対抗冥界決闘(デュエル)トーナメント決勝戦、冥王チームVS悪邪神チームを行います!」

「先鋒、冥界官吏長【烙印エルドリッチ】VS悪蛇神【LL鉄獣戦線】!」

「次鋒、冥界侍従長【竜輝巧(ドライトロン)宣告者(デクレアラー)】VS邪蟲神【スプライト】!」

「中堅、冥王近衛隊長【壊獣カグヤ】VS悪影神【EM竜剣士】!」

「副将、冥将軍【冥界逆転ティアラメンツ】VS邪触神【ふわんだりぃず】!」

「大将、冥王様【神碑(ルーン)】VS悪巨神【ラビュリンス】!」

 

 飛び交う手札誘発、緩い条件で現れる強力モンスター、鬼のような妨害に忘れた頃に戦場を更地にする巨大隕石。

 冥界は今日も平和であるが、最近しっかりと地獄である。

 



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ボーイ……光のデュエルを……!

 街に続々と決闘者(デュエリスト)候補の自由戦士の方やジャッジ見習いの神官さんたちが集まり、無事に決闘塾(デュエル・スクール)を開校することになりました。

 ……季節一つも過ぎてないのですが、動きが早すぎませんか? 

 かの栄えあるデュエル・アカデミアに倣い、生徒は習熟度別に三つのクラスに分けることにします。

 といっても原作そのままにすると神に捧げたカードの名前を拝領することになり、諸々の手続きが面倒そうなのでちょっとアレンジで。

 けっして、クラス識別のための絵だけが描かれたカードを作る時に某破壊神の証明写真がシュールだったからではありません。けっして。

 

 まず初めに全員が所属することになるウリア・レッド。とりあえずデュエルの基本が理解できれば昇格するハモン・イエロー。そして卒業までに知識と実技を叩きこむラビエル・ブルーです。

 もともとこの街に半定住していた自由戦士の方たちは軽い試験ですぐさまハモン・イエローに昇格することになり、いつぞや見たバスター・ブレイダー使いさんなど一部はラビエル・ブルーまで昇格していますね。

 レッドクラスは基本のゲーム進行の確認、イエロークラスは模擬デュエル、ブルークラスには詰めデュエルや実技・座学も予定しています。

 イエロークラスの模擬デュエルの相手には遊び足りない孤児院の子たちを当てたりするつもりなので、真面目に学ばないとプライドがやすりにかけられるでしょう。

 さあ、早速ブルークラスの講義の準備をしましょうか! 

 記念すべき第一回の講義の内容は『【最強サイクロン】の誤りと永続魔法・罠』ですよ! 

 

 

 

 

 

 

 子供たちの算数教育と決闘塾(デュエル・スクール)講師の二足のわらじを履いて忙しい日々を過ごしているのに体調はカケラも悪くなることなくピンピンしている私は部屋で今後の事を考えていました。

 イエロークラスとブルークラスの人数も順調に増え、真面目に学んでくれるのは嬉しいのですが、やはり決闘塾(デュエル・スクール)内だけでは決闘(デュエル)の内容が偏る気がします。

 考えてもみなかった相手との決闘(デュエル)……いわゆる【地雷デッキ】と当たるような状況も経験してもらわないといけません。

 そこで、院長先生にお願いして、街ぐるみでの文化祭兼決闘(デュエル)イベント『七星祭』を企画してみました。

 決闘塾(デュエル・スクール)の生徒たちには実力で選ばれた七人の代表者『セブンスターズ』を選抜してもらい、街に設置されている公共決闘机(デュエルデスク)七か所で街の有志から選んだ七人と勝ち抜き戦をしてもらいます。

 相手をしてもらう街の決闘者(デュエリスト)有志には一つずつトロフィーとして『七精門の鍵』を持ってもらい、祭りの間に七つの鍵を集めきれば決闘塾(デュエル・スクール)側の勝利です。

 もちろん街の決闘者(デュエリスト)有志は長くデュエルモンスターズをしている古豪ですし、鍵を守り切れば個数に応じてカードと交換する約束なので真剣ですから容易には勝てないでしょう。

 それに勝ち抜き戦でデッキの相性がどれほどのものかも痛感することでしょうね。極端な話、代表者が全員【ビートダウン】だとハメられて負ける可能性もありますから。

 トロフィーである鍵は院長先生のコネで以前青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)の彫刻を作ってくれた魔法造形師の方へ私費で依頼しました。

 ……え? どうせ開ける門もないのに鍵の形にこだわる必要があるのか、ですか? 

 こういうのは形から入るのが大事なんです! いうなればロマン、ロマンは大事! 

 

 

 

 

 

 

 私の企画した『七星祭』は街の人々にすこぶる好評で受け入れられ、街の代表の決闘者(デュエリスト)を決める戦いは熾烈を極めました。

 在野の決闘者(デュエリスト)のみならず、『祭りまで滞在するから!』と懇願して戦いに加わったシンクロ使いの某隊長さんなども居ましたね。

 ……まあ、同じく街の住民じゃないのに参加したE・HERO使いの人に惜しくも敗れたのですが。

 祭りは概ね問題なく進行し、一進一退の攻防を繰り広げた末にタイムアップギリギリの夕暮れ時になって最後のセブンスターズが七つ目の七精門(公共決闘机(デュエルデスク))にやってきました。

 

「……!! まさか、なぜ貴方が!?」

 

「さあ、決闘(デュエル)を始めましょう」

 

 セブンスターズを迎え撃つ代表決闘者(デュエリスト)最後の一人…………そう、私です! 

 前回の冬の祭礼での決闘(デュエル)大会で思ったんですけど、見ているだけってすごくモヤモヤするんですよ。

 せっかくの決闘塾(デュエル・スクール)主催の祭りなんですから、ここは出ない手はないですよね! 

 デッキパワーの調整は十分、どちらが勝ってもおかしくない程度にしてあります。

 さあ、私の【暗黒の中世デッキ】、倒せるというなら倒してみなさい! 

 

「私の先攻、現れなさい古代の歯車(アンティーク・ギア)! さらに効果で同名モンスターを特殊召喚!」

 

「くっ、本気というわけか。なら当然……」

 

「その通り。通常魔法 カード・アドバンス! 効果でデッキトップを入れ替えアドバンス召喚、来るのですよ古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)!!」

 

 立体幻影を映すための外付け魔力供給道具はそう長くはもたないので、手加減無しですよ。

 今日はドロー運が良すぎてちょっと怖いのはナイショです。

 

 

 

 

「ふう…………私の負けです」

 

「先生……」

 

 序盤は私の方が有利だったのですが、まさか二度目の古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)にリミッター解除伏せの布陣を『パワー・ボンド+サイバー・エンド・ドラゴン』で踏み越えていくとは……見事です。

 決闘(デュエル)が終わり、魔力も切れて立体幻影が消えるとワッと辺りから歓声が起こります。

 私を倒したラビエル・ブルーの生徒も、他の生徒たちに迎えられて祝福されていますね。

 これにて七星祭は終了。残念ながら街の決闘者(デュエリスト)チームには参加賞しかあげられないのですが、皆さん笑って受け入れてくれました。

 すみませんねE・HERO使いの人……行商人なのにずっと街に滞在して得られたものが参加賞とは、申し訳ない。

 しかし参加した決闘者(デュエリスト)たち皆が、敗北した者も悔しみつつ勝者を称えています。

 うんうん、祭りは大成功ですね! 来年また開催するときにはメンバーも変わっているでしょうし、今から楽しみです。

 ただ、今は勝利をつかんだセブンスターズの健闘を称えましょう。

 ええ、本当に…………めちゃめちゃ楽しかったです! (本音)

 

 

 

 

 

 

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 街から街へ流れる吟遊詩人にとって、歌うネタの新しさは死活問題である。

 その点、最近広まっている札遊び『デュエルモンスターズ』は有り難い。

 絵札の戦士や魔導師、怪物や精霊の見た目に沿ったカッコよさげなストーリーを歌えば、客はだいたい満足してくれる。

 客のリクエストで歌うこともあれば、手に入れた絵札を元に歌を考えることもあるが、これを考えた奴は一体何を喰ったらこんなものが思いつくのやら。

 風の噂でこの遊戯の発祥の地で新しい祭りが行われると聞き、お祭り需要と新たなネタを求めて決闘の街(デュエル・シティ)とやらを訪れることにした。

 そして、その地で目にした本場の決闘(デュエル)

 決闘机(デュエルデスク)とかいう魔法道具で映し出される絵札のモンスターたちが争う姿のなんと雄々しい事か! 

 これに比べれば、自分の歌ってきた創作の英雄譚など取るに足らない。

 いや、自分はいままさに、決闘(デュエル)という形で英雄譚がつづられているのを目撃しているのだ。

 祭りの最後、暮れなずむ街で行われた錆びた魔導人形のようなモンスターと磨き上げた金属のような見た目をしたドラゴンの戦い。

 錆びた巨人と三つ首の金属竜の戦いは、まるで神話の一編を垣間見たような気分だった。

 

 祭りが終わり、人々が三々五々に家路につく中で吟遊詩人はカードを手に入れる算段をしていた。

 この全く新しい神話を歌にするには、もっとこの遊戯について知らなければならない。

 学び、知り、理解し、そして歌うのだ。

 ……自らが、その神話の紡ぎ手(決闘者)となって。

 



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俺達の絆パワーで、必ず倒してみせる!

 一流の決闘(デュエル)エリートを育成するこの決闘塾(デュエル・スクール)では、毎日嫌になるほど決闘(デュエル)が行われている……はずですが、決闘者(デュエリスト)という人種のサガのせいか、野良決闘(デュエル)も絶えません。

 新しく組み直したデッキの試運転、まだ戦ったことが無い相手との決闘(デュエル)、そんなのはマシな方で、私が懐かしくなって作った新鮮なマヨネーズを使った購買のタマゴパンを巡った争いなど下らないことも決闘(デュエル)で解決しています。

 孤児院の子供たちもそうですけど、着実に決闘(デュエル)脳の汚染が広まってませんか? まあ決闘(デュエル)を学ぶ場ですから、その機会が多いに越したことはないので止めませんが……

 さすがに今のデュエルモンスターズには『決闘(デュエル)で相手を拘束する』機能とかは無いので、大丈夫、のはずです。

 ……今後開発されたりしませんよね? いや本当に。

 

 決闘塾(デュエル・スクール)は基本的に入塾した生徒たちに授業をするスタイルですが、一部の授業は一般聴講者などが参加できるものもあります。

 イエロークラスの孤児院の子供たちとの模擬デュエルなんかがいい例ですね。

 この一般聴講枠がなかなか人気らしく、七星祭に参加したE・HERO使いの商人さんやシンクロ使いの隊長さん、以前の決闘(デュエル)大会で優勝した【帝】使いの”気高い紳士”さんなどが参加しに来ることもあります。

 珍しいところだと、遠く砂漠の国からわざわざやってきた墓守使いさんなんかも居ましたが、そんなところまでもうデュエルモンスターズが広まっているのでしょうか。

 独りで事務仕事をしてたところに異国特有のスパイスが効いたお茶の差し入れをくれて、めちゃくちゃ質問攻めにされたのでよく記憶に残っています。

 かなり突っ込んだ質問をされたのでぼかすところはぼかして伝えましたが……【墓守】は確かに砂漠の国の雰囲気とマッチしてますし、気に入るのも分かりますよ! 

 

 

 

 

 

 

 コピーカード。それはカードゲームであれば必ず存在するものでしょう。

 営利を目的にカードを生産しているのであれば当然駆逐されるべき存在なのでしょうが、需要を満たすためにひーこらしている私としてはどんどんやってほしいくらいです。

 ですが、異能が強くなってから生み出されるカードに付与された力に目を付けている教会としては、普及の役には立っても肝心の神事としての効果が無いのがコピーカード。

 よって妥協点として、公式・公認の試合や大会以外では普段使いのカードとしては認める……いわゆるプロキシカードとして扱われることになりました。

 大会では使用できない代わりに、野良決闘(デュエル)では使ってヨシ! という裁定です。コピー機のような魔法道具もあるにはあるのですが維持費が結構高くつくらしいですし、絵師さんもこのサイズで絵を描くのは嫌がるので、やっぱり私はひーこらいうのですけど……

 むしろ細かく描写をするのであれば、費用は高くなりますが彫刻家とかの方が再現率が高いです。まあこれだとカードじゃなく石板みたいになりますが。

 石板使って決闘(デュエル)してたらまんま決闘(ディアハ)ですよね……

 

 孤児院の同僚たちもそうですけど、街の人たちも私がデュエルモンスターズに関わった仕事をするのを積極的に推奨するんですよ。

 私としては副業くらいでやりたいんですが……どうやら『女神様が使徒として使命を与えたのだから、使命を果たせるようにしてあげた方がいい』という心理のようです。

 使徒として有名な歴史上の人物が、魔物の多かった時代に亡くなる前日まで魔物狩りをやめなかったバーサーカーみたいな人なので、そういう思考になっちゃうみたいなんですよね。

 私はそんな『一狩り行こうぜ!』みたいなノリで毎日していたいわけじゃないんですけど……

 幸い、信仰心が篤いようで信仰心が篤くない、でもちょっと篤い院長先生が完全休日を定期的に下さるので、ストレスというほどではありません。

 理解のある上司がいるというのは助かりますね。

 

 

 

 

 

 

 ある日のなんでもない休日。

 贔屓のパン屋で焼きたてくるみパンを買って街をぶらついていると、広場で何やら人だかりができているのが見えました。

 またぞろ誰かが公共決闘机(デュエルデスク)で辻デュエルでもしているのかと思ったのですが、どうやら違うようです。

 なんでも吟遊詩人が決闘(デュエル)しながら即興でそれを歌にするパフォーマンスなのだとか。いろいろ考えるものですねぇ。

 吟遊詩人は凡骨の意地を使った通常(バニラ)モンスターによるビートダウン、いわゆる【凡骨ビート】……かと思ったらいきなり『覚醒戦士 クーフーリン』というなかなかレアなモンスターが現れました。

 攻撃力わずか500、相手の決闘者(デュエリスト)が拍子抜けな顔をしましたが、墓地が肥えた状態でこれが出るとちょっと厄介です。

 吟遊詩人が墓地に眠る魂が光の戦士の力を覚醒させる旨を歌い上げ、墓地の『エビルナイト・ドラゴン』が除外されると……って待ちなさい、それ邪悪なドラゴンじゃないですか! なんてもので覚醒してるんですか! 

 お相手の決闘者(デュエリスト)も粘りましたが、何とか倒したクーフーリンが『契約の履行』で戻ってきて『リチュアル・ウェポン』まで装備した結果、押し負けてしまいました。

 終始クーフーリンが光の聖戦士みたいな歌でしたけど、その人、山場で邪竜の魂で覚醒しましたよね……? 

 面白いといえば面白いパフォーマンスだったのですが、なんかモヤモヤした気持ちを抱えて帰ることになりました。

 

 

 

 

 

 

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 魔族。創造の女神の末息子たる魔神が、母たる女神の権能を真似て創り出した人ならざる者たちとその末裔。

 その姿は様々で、獣耳を有するもの、腕が4本あるもの、角があるもの、鱗があるもの、下半身が蛇になっているもの、それらすべての特徴を持つものなど、既存の生物の理に囚われていない。ちなみに現在冥界在住の魔神の愛用デッキは【グッドスタッフ】*1である。

 彼らは邪神・悪神の全盛期は魔物と共に人類の天敵といわれ恐れられていたが、母なる女神の使徒の尽力によってその勢力を減らし、最終的に魔神の冥界への封印を最後に敵対を止めた。

 かつて魔神の加護を受けた大神官でもあった最後の魔王が自らの命と引き換えに配下の助命を乞うたために族滅は避けられ、時が流れた現在では独自の文化を持つ民として各地に集落を築いている。

 彼らの間でステータスとなりつつあるのが、自分と同じ特徴を持つモンスターの絵札を集めることだ。

 最初は集落に行商人が持ち込んだ数枚のカードが発端だった。

 行商人としては己のデッキに入れるにしては相性が悪いし、前の集落で戦士や魔導師、カッコいい系やかわいい系のカードが売れた後の残りであったが、魔族には刺さった。

 特に集落の長である青肌にヤギの角を持つ長老は『ダーク・グレイ』*2を非常に気に入り、周囲に自慢しまくった。

 結果、集落の魔族たちは『このモンスターのたてがみが……』『いやいや、この爪を見てくれ。命を刈り取る形をしているだろう』『この鱗の良さがわからんとは……』と、自分の特徴を持つモンスターの絵札を持って語り合うのが大流行り。

 行商人としても、仕入れる絵札の絵柄に指定を入れられるのは面倒だが、絵札の能力を問わず買い求めてくれるので助かる面がある。

 デュエルモンスターズは、各集落で『カードゲーム』としてではなく『コレクターアイテム』として広まりつつあった。

 ……それに魔族は闘争心旺盛なので、決闘机(デュエルデスク)を持ち込んだらリアルファイトが始まりそうだと賢明な商人は推察する。

 実際、立体幻影を交えた決闘(デュエル)をしたら、魔族たちはそのうち幻影の直接攻撃(ダイレクトアタック)に合わせて魔法の衝撃波を使って相手を吹き飛ばすとか平気でやりかねないので、英断である。

 魔族が人間よりはるかに頑丈だからこそできることである、常人はマネしてはいけない。ルールを守って楽しく決闘(デュエル)

*1
全体のシナジーではなく、少数で完結したパワーカードを多数搭載する『強いカードを並べれば強い』を地でいくデッキ。ぜんぶのせ欲張りセット。

*2
灰色のけものと説明されているヤギのモンスターだが、ギリギリ譲っても青灰色。『深き森の長老』とは色違い。



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考えられる手の一つを試したまでだ!

プロット無しの放埓投稿なので、ネタが切れると間が空きます、ユルシテ……


 決闘塾(デュエル・スクール)で学ぶのは決闘者(デュエリスト)候補だけではありません。公式・公認戦で裁定をする審判、ジャッジ見習いの人たちも一緒にデュエルモンスターズのルールについて学びます。

『任意効果と強制効果の違い』や『発動する効果と永続効果の裁定』など、ちゃんとジャッジするには覚えることはいっぱいありますからね。

 普段の授業で決闘(デュエル)しない代わりに、孤児院の子供たちの野良決闘(デュエル)のジャッジなどで経験を積んでもらっていますが、いずれはかつての世界の店舗大会くらいの規模でジャッジの練習をしてもらう必要があるでしょう。

 そしてゆくゆくは、決闘都市(バトルシティ)並みの規模で同時多発的に起こる決闘(デュエル)のジャッジができるのが理想でしょうか。

 公認ジャッジともなれば把握するべき裁定は山のようにあります。この世界では決闘(デュエル)中に遊戯王wikiを見たりできませんから、しっかり覚えてくださいね! 

『バトルフェイズにおける戦闘の巻き戻し』とかも必修ですよ! 

 

 詰めデュエル、パズルデュエルと言ってもいいですが、勝ち筋が一つしかない状況にした盤面で勝利することを目指す決闘(デュエル)決闘塾(デュエルスクール)で驚きをもって受け止められました。

 ひたすら火力を上げて殴ることしか考えていないと上手く解けないのが詰めデュエル。簡単なところでは装備魔法を相手に付けるという基礎的な発想から、難しいところでは強制で発動する死霊騎士デスカリバー・ナイトをどう使うかなどもあります。彼は考えずに使うとチェーン処理で魔法罠の効果が間に入ってリリースするだけになったりもしますからね。

 シナジーを利用したコンボやこの世界では使われていないギミックなどを題材にしたりもするので、最初は戸惑いが大きかったですが現在は結構好評です。

 ここでの経験が、やがて自分だけのコンボを生み出す決闘者(デュエリスト)を育てる事でしょう。この世界ではどんなオリジナルコンボが編み出されるのでしょうか、楽しみですね。

 

 

 

 

 

 

 新しいカードを作成するにあたって、NGが出たことはありませんが絵の内容が通じなくて困った事態になることはあります。

 例えば『モウヤンのカレー』。

 この世界では『モウヤン』*1も通じなければ『カレー』も通じません。

 一応、近いもので言えば肉の煮込み料理であるブラウンシチューみたいな料理なんかがあるにはあるのですが、私は個人的にビーフカレーとビーフシチューを同じ存在にはしたくない派閥の決闘者(デュエリスト)です。

 でも香辛料を多数使うカレーを作るのは難し…………かったのですが、そういえば香辛料に強そうな人が決闘塾(デュエル・スクール)に来ているじゃないですか! 

 というわけで、砂の国から来た一般聴講生にお願いしてカレーを再現することにしました。

『なぜ私が……』とか『こんなことをしにここへ来たわけでは……』とか呟いていますが、カレーを作るためには必要な犠牲です。

 結果としてできたカレーは現代の既製品に慣れた私にとってはちょっと物足りない感じではありましたが、なつかしい味に鼻の奥が少し痛みます。

 ……ああ、もちろん協力してくれた墓守使いさんには報酬を支払いましたよ。

【墓守】テーマの最上級モンスター、『墓守の大神官』! 

 墓地に散った墓守たちの力を受け継ぐ強力モンスターだけに目を見開いて驚いていましたが、それだけ喜んでくれたのでしょうね。

 試作含めて余ったカレーは孤児院の子供たちの底なしの食欲が片付けてくれました。ご馳走様です。

 

 

 

 

 

 

 最近、私の住んでいる街の周辺の森で新種の魔物を見かける例が増えているそうです。

 不思議なことに、その魔物はデュエルモンスターズに出てくるモンスターにそっくりなのだとか……

 複数の新種の魔物が互いに争っているところを目撃したという話で、目撃した自由戦士の方に襲い掛かるそぶりすら見せなかったという奇妙な報告ばかり。

 そもそも魔物は普通の動物と違って食物連鎖の中に組み込まれていませんし、互いに縄張り争いをしたりもしません。

 襲いかかるのは人間のみで、遭遇したのに無視するなどありえないとみんな首をかしげています。

 私が使徒になってから作成した新カードで決闘(デュエル)を頻繁に行っている街の周辺では通常の魔物の発見報告は限りなく0になっているのに、どういうことなんでしょう? 

 しかも、新種の魔物同士の争いの顛末を見届けた自由戦士の方によると、両者とも崩れて土くれになってしまったとのこと。

 魔物は死んでも何も残しません。そのため、これらの特徴から新種の魔物と思われていた物は魔物ではなく何らかの別の存在なのではないかという意見も出ています。

 本質的に人間の脅威になる要素が無いので引き続き調査だけは続ける方針となりましたが、なんでデュエルモンスターズのモンスターに似ているのでしょうか……? 

 謎は深まるばかりです。

 

 

 

 

 

 

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『澱んだ魔力』から生まれる自然ならざる生き物、魔物。

 それらが襲うのは基本的に人間であるが、同じく襲われる生き物も存在する。

 妖精。自然の魔力の結晶たる無垢なる者。

 魔物は正常な魔力の結晶たる妖精をも襲うために、ほとんどの妖精は澱んだ魔力を避けて人里離れた秘境に住んでいる。

 それゆえに、最近になって澱んだ魔力がほとんどない地域が生まれたことで、新たに妖精がそこに住み始めたのは当然の成り行きと言えよう。

 妖精は無垢であり生きるために何も必要としないため、日がな一日遊んで暮らしている。

 そんな彼らが、正常な魔力で満ちた森の近くの街で見た『それ』を真似て遊び始めるのに、そう長い時間はかからなかった。

 

「きゃははっ、こうげーき!」「なんの! はんげきー!」

 

 デュエルモンスターズのルールなど知らない彼らが真似るのは、遠目で見た決闘机(デュエルデスク)が投影したモンスターたちの戦い。

 土くれから作り出したモンスターを模したゴーレムが互いに戦い合うだけの、ルールも何もないものだ。

 だが、彼らの中では決闘机(デュエルデスク)が映した幻影と同じように戦っているつもりである。

 しかし、誰もルールを把握していないからこその問題も起きる。

 

「ぼくの『れお・うぃざーど』のほうがつよいんだぞ!」

 

「ちがうわ! わたしの『しーほーす』のほうがうまとさかなの2ひきぶんでつよいんだから!」

 

 どちらのモンスターが強いか意見が食い違うと、ゴーレムが壊れるまで戦わせる以外に方法が無い。

 しかもゴーレム自体の性能に差はほとんどないため、どちらが勝つにせよ泥仕合である。

 

「あらあら、これはどうしたこと?」

 

「あっ、ひめさまだ!」「ひめさまー!」

 

 それを見かねたのは妖精たちの中でも『姫』と呼ばれる原初の妖精、新たにできた妖精の森の様子を見に来たところであった。

 彼女に同族たちは裁定を頼んだものの、彼女にとって全く知らない内容で判断が付けられない。

 そこで彼女は『神託』を乞うことにした。

 

 原初の妖精である『姫』は、天界の神々に神託を乞うことができる。

 この世界で能動的に神託を求めることができるのは『姫』だけであるが、無垢なる妖精であるので明日の天気とか聞いちゃったりとわりと便利遣いしている。

 そんな神聖なのかそうでないのかちょっと微妙な神託が彼女へと舞い降りた。

 

「えっ? シーホースとレオ・ウィザードは両方とも攻撃力1350だから引き分け? えっ? えっ?? えっ???」

 

 頑張れ妖精の姫! 妖精たちに正しいデュエルモンスターズが広まるかは君の双肩にかかっているぞ!

*1
都内に複数店舗を展開するカレーショップ「もうやんカレー」が元ネタ。



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ライディングデュエル、アクセラレーション!

 決闘(デュエル)も新たな神事の一つとして街の人々に親しまれつつありますが、やはりそれ以前からある神事をおろそかにするわけにはいきません。

 秋の収穫からしばらくして、冬の寒さが始まる直前に行われる『豊穣祭』。その年一年の収穫への感謝と来年の豊作を祈るお祭りです。

 教会も説法をしたりしますが、どちらかというなら主役は農家の方々。普段は地道な大地と向き合う仕事をしている彼らの年に一度の晴れ舞台でもあります。

 お祭りに合わせて酒蔵が今年仕込んだ新酒のエールやワインの振る舞い酒をすることも手伝って、開始からしばらく経てば完全にグダグダの酒盛りになり果てます。

 催し物も結構多彩で、特定の品種の作物をどれだけ大きく育てたか競う品評会とか、シンプルな力比べである腕相撲大会とか、あるいは調子に乗ったのんべぇたちの飲み比べであったり……

 当然と言えば当然ですが、お祭りムードで決闘者(デュエリスト)たちの戦いの機運も高まりを見せています。どうにか発散させたいところですが、大会をするには参加人数が多すぎますよね。

 ということで、ジャッジの必要人数を結果的に減らせるよう、『豊穣祭記念決闘(デュエル)大会』は二人一組のタッグデュエルで開催してもらうことにしました。

 ライフやフィールドを共有し、互いに協力しなければ勝つことは難しい決闘(デュエル)ですが、連携が決まれば1VS1ではありえないほど有利になれるのがタッグデュエル。

 ……それに四人ずつにジャッジ一人が付くので、人手不足も何とかなりますしね。

 気の合う友人、互いに手の内を把握し合ったライバル、優勝を目指して急遽結成されたタッグ……皆さん手探りですが、まあ、お祭りですから楽しくいきましょう! 

 優勝賞品は冬の祭礼の時と同じく、エースカードのレア仕様、タッグデュエルですから二人分です。

 もしかしたら迷宮兄弟*1のように、タッグでこそ強い決闘者(デュエリスト)も現れるかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 

 うう……完全に寝不足です。

 かろうじて決闘(デュエル)大会の優勝者であるしぶとい昆虫デッキと豪快な恐竜デッキのシナジー皆無なタッグチームにレア仕様のカードを渡したところまでは覚えているのですが、そのあと夜も更けているのに院長先生に連れられて酒盛りに引きずり込まれたので、あまりの眠さに後半は何をしていたかを思い出せません。

 院長先生も飲みすぎてよく覚えてないとおっしゃいますし、一体何があったやら……

 まあ、こういうことはうだうだ考えても仕方ありません。まずは今日しなければいけないことを片付けなくては。

 私は欠伸を噛み殺しながら孤児院の仕事に取り掛かりました。

 

 二日酔いの院長先生に代わって郵便屋さんに手紙を出しに行ったのですが、郵便屋さんは朝一からみんな出払っているとのこと。

 少なくとも、私がこの街に来てからは初めてのことだったのでびっくりしました。

 郵便屋さんをしているのは各地を渡り歩く少数民族。小型の飛竜を飼いならして空輸をしているので届く速さはなかなかのものです。

 飛竜を飼いならす技術も乗りこなす技も一族秘伝のものなので、居ないとなると行商の人とかに陸路で届けてもらうしかないんですよねぇ。

 それだと届くまでにどれほどかかるか……素直に郵便屋さんが帰ってくるのを待つ方が早そうです。

 仕方ありません。院長先生には二日酔いが治ってから自分で手紙をもう一度出してもらうことにしましょう。

 

 

 

 

 

 

 街の魔道具師さんが作成している決闘机(デュエル・デスク)ですが、発明されて時間が経ったことで改良案も出ています。

 まず、ライフ計算機能。もちろん電卓みたいなものがあるわけではないので、レバーを動かすとライフが増減するようなちょっとレトロな仕組みです。

 他にも、据え置き式の決闘机(デュエル・デスク)を携帯できないか。つまりは決闘盤(デュエルディスク)にしようという案ですね。

 ただ、盛り込んだ機能のために小型化が上手く進まず、今までのものより小さいが携帯できるほどではない中途半端な大きさの試作品に留まっています。

 独りでも移動・設置できるのは大きな進歩ですけど、装着という規模にはちょっと大きすぎます。

 据え置きとして使うには若干小さく逆に不便なので、どうにもならずに解体することになるかと思ったのですが……

 思わぬところから引き取りの要請が来て、むしろこの大きさのままで生産することになりました。

 

 引き取りの要請をしたのは、なんと郵便屋さんを営む少数民族の方々で、少々の仕様変更を加えて欲しいとのこと。

 変更点は、フィールドにセットしたカードが飛んでいかないようスリット式にして固定具を付けること。

 なぜそんな限定的な機能が必要なのか聞いて、私は自分の過去の迂闊な発言を後悔しました。

 

 なんでも、郵便屋さんは豊穣祭の宴会に参加しており、眠りかけで半分寝ぼけていた私からライディングデュエルについて聞いたそうです。

 ほとんどの人は酔っていたので笑い話としてまともに聞いていなかったのですが、民族全体でウワバミの彼らはほぼシラフでそれを聞いていました。

 小型の飛竜を飼いならし、それに騎乗する少数民族にとって空中での速さ比べは身近な遊びですから、速さで先じた者が先攻を取るというルールも実に納得出来てしまいます。

 スピードスポーツのような競い合いに決闘(デュエル)を加えた斬新な遊びともなれば興味を惹かれぬわけはありませんでした。

 しかし既存の決闘机(デュエル・デスク)は飛竜に載せるには大きすぎました。

 どうにかならないかと一族で集まって話している中で、決闘机(デュエル・デスク)が小型化したと聞いて意気揚々と乗り込んできたというわけだったのです。

 

 実際問題、飛竜に小型決闘机(デュエル・デスク)が載るのか? という問題は簡単に解決しました。

 郵便屋さんが小型決闘机(デュエル・デスク)を抱えると、『あと小麦の袋2つ分までは重くても大丈夫だ』と判断したからです。

 飛竜に乗って空を飛ぶ少数民族の方々は、積載量の限界を詳細に把握しています。というか、そうでなくては飛竜を任せてはもらえないのだとか。

 あとは実際に試してみるしかないということになるので、急遽飛竜に乗せやすいように形を整えた専用試作品が用意されました。

 そして上空で行われる決闘(デュエル)……いえ、ライディングデュエル。

 地上から見ている私にはよくわかりませんが、目の良い少数民族の方々は興奮しているので上手くいっているのでしょう。

 アニメで見る分には最高でしたけど、現実になるとさすがにライディングデュエルはしてみたくないですね……

 

 

 

 

 

 

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 小型の飛竜を雛の頃から飼いならし、騎乗して空を舞う『竜飼い』の民族にとって、空で速さを競い、その趣向を凝らすことは最早人生と同義であった。

 上空で予期せぬ突風や怪鳥の襲撃を受けても、頼れるのは己の技と飛竜との連携だけ。

 それを競い比べる過程で鍛えるのは生きるための知恵でもあった。

 そんな民族にもたらされたスピードの世界で進化した決闘(デュエル)の話。騎乗し上空に上がった状態で間近でモンスターの幻影が戦闘するとなれば子飼いの飛竜の胆も鍛えられるというものだろう。

 『デュエルモンスターズ』自体は前々から軽いわりに稼ぎになる荷として注目されていたが、これまではしょせん地上の遊びであり、空中という圧倒的スリルには及ばなかった。

 だが、これは違う。

 これが現実になればまさにそれは相乗効果、楽しい×楽しい=すごい楽しい という圧倒的娯楽の暴力だ。

 早速決闘机(デュエル・デスク)を取り寄せてみたものの、大きすぎて飛竜には載せられない。

 どうしたものかと首をひねっていたところに小型化したらしいという報が飛び込んできた。

 これこそ天の女神様の配剤、今まさに『竜飼い』の民族は思考がイケイケドンドンになって暴走していた。

 

 結果としてライディングデュエルの実行は成功した。

 専用の小型決闘机(デュエル・デスク)も増産の約束を取り付けられたし言うことなしだが、希望者全員に行き渡るまでには今少し時間がかかるだろう。

 情報をもたらした功で先行して決闘机(デュエル・デスク)の取り付けが終わった者は、身内の中で【決闘竜乗り(デュエル・ドラゴン・ライダー)】と呼ばれ尊崇の目を向けられている。

 デュエルモンスターズの大本らしき人物もこちらに協力的で、族長は最新の【シンクロ】カードから世界に1枚しかないドラゴンをモチーフにしたカードを五種預かったという。

 これは新年の速さ試しの代わりに開催されるライディングデュエル大会での上位五名に一枚ずつ授けられるとか……

 これを聞いて、心が燃え上がらない『竜飼い』の者はいなかった。

 

 

 

 ライディングデュエル。

 それはスピードの世界で進化した決闘(デュエル)

 そこに命を賭ける『竜飼い』の一族の者を人々は5D'sと呼んだ!(呼びません)

*1
原作で登場した双子のタッグデュエリスト。迷宮の特殊ルールも含めて主人公たちを苦しめた。



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キングのデュエルはエンターテインメントでなければならない!

 良い感じに広まっているデュエルモンスターズですが、決闘(デュエル)を行う上であまり見かけないカード群があります。

『リバースモンスター』。裏守備表示から表側表示になった時に効果を発揮するモンスターたちです。

 これまでに作成したカードの中にもリバースモンスターが無いわけではないのですが、他のカードとシナジーを持つわけでもなく1枚で完結した単発の効果という印象でしょうか。

 基本的に出したターンに効果を使いにくいので、相手の攻撃を誘う玄人向けなところも災いしています。

 強力な効果のカードもあるんですが、一貫性が無いというか、わざわざリバース効果のサポートをする必要が無いというか……

 そんなわけで、現在のリバースモンスターの扱いは『稀に見かける踏んでから気づく地雷』みたいな感じなんですよね。

 なんなら扱いにくいけれど全体でサポートを共有できる『スピリットモンスター*1』より見かけません。

 

 流石にそれは不憫なので、リバースモンスターのテコ入れを計画することにしました。

 しかし、シンクロ黎明期に差し掛かったくらいの時期でリバースモンスターとして一貫した効果を持つカード群…………『ワーム』、ですよねぇ。

《ワーム》、光属性・爬虫類族で統一されたモンスターテーマで、ほとんどの下級モンスターがリバース効果かそれに関連する効果を持っています。

 条件はバッチリですが、はたしてイラストが受け入れられるでしょうか? ワームは『デュエル・ターミナル』というアーケードで登場したカードストーリー世界で、序盤での世界の敵である『隕石に乗ってやってきた侵略者』です。つまりは宇宙人ですね。

 同じく宇宙人をテーマにしたリトルグレイっぽいのが多い《エーリアン》とかより、なんというか、生理的嫌悪を起こさせるような姿のものも結構います。

 説明なしで見たら、"キモイ"以外の感想浮かばないですよねぇ……どうしましょうか。

 

 

 

 

 

 テコ入れなのに受け入れてもらえなければ新規投入の意味がありません。

 ということで一計を案じて、いつぞやの野良決闘(デュエル)に即興ストーリーを付けていた吟遊詩人さんに協力を仰ぎ、まずワームのストーリー背景『デュエル(D)ターミナル(T)世界』のストーリーを広めていくことにしました。

 

 数多の部族が日々(しのぎ)を削る群雄割拠の世界、そこに突然現れ侵略を開始した異星の生物たち。

 彼らに対抗するため有力部族たちは力を合わせA(アーリー)O(オブ)J(ジャスティス)(正義の同盟)を結成して対抗する……

 

 結論から言うと、すごく人気が出ました。

 今までカードのイラストから想像するしかなかったところからの、公式からのストーリー開示です。

 特に直接的なカードパワーよりイラストや設定を重視する人の多いこの世界では、刺さる人が予想よりも多かったようですね。

 満を持して異星からの侵略者《ワーム》と同盟軍《A・O・J》のモンスターを作成しましたが、人気がすごかったです。

 ストーリーが魅力的だったのが根底にあるのでしょうが、それゆえにストーリーにだけ出てきてまだ未作成のテーマのカードはいつ出るのかという問い合わせも多かったのが印象的でした。

 

 総剣司令ガトムズ率いる剣士集団《X-セイバー》。

 霊山に封じられた三龍を信仰し、その封印を守護する《氷結界》。

「紅蓮術」という炎を操る術を持つ戦士団《フレムベル》。

 霞の谷に本拠を置く鳥人の一族《ミスト・バレー》。

 

 A・O・Jを構成する四部族のカードを切望する決闘者(デュエリスト)の気持ちも分かりますが、やっぱりシンクロが多いので大シンクロ時代に強制的になりかねないんですよね……

 そのために、わざわざ強力な汎用シンクロモンスター《A・O・J カタストル》も今は名前だけの公開に留めたのですから。

 情報だけ開示されて実物のカードが見られないもどかしさというのは本当につらいものだとは分かるのですが……調整する時間は必要です。

 物語の第二部でエクシーズ召喚が出るときには解決できているように努力しなければいけませんね。

 

 

 

 

 

 デュエルモンスターズで得た利益はもはや私一人が保管しておくには危険な域になっています。

 なので院長先生に頼んで、教会の方でほとんどを預かって運用してもらっているのですが、こういうところでも異世界カルチャーギャップを感じますね。

 教会は救済活動もしていますが、普通に金融関係もやっていますし、なんなら最も安定した信託先みたいな扱いを受けています。

 院長先生いわく、"黒字経営もできないところが救済活動なんて正気の沙汰じゃない"とのことですが、事業・投資・金貸しと金策にためらいの無い教会というのは、現代日本人的にはすごい違和感ですね。

 まあ金貸しも教会が一番利息が良心的で安心できると評判なので、母体組織が大きい事もありますがやっぱり組織形態が違うんだなぁと感じます。

 そういうわけで、私がデュエルモンスターズのカードで得たお金が決闘(デュエル)振興の投資に回され、新型決闘机(デュエル・デスク)開発や決闘者(デュエリスト)養成、決闘(デュエル)という新たな遊戯に関わる多岐にわたる産業の発展を経て利益を出す……という循環を形成しているのだとか。

 いわばこの世界のインダストリアル・イリュージョン社*2ということでしょうか。私としては衣食住をお世話になっているので、たまに買い物に出かけられるくらいのお金があれば十分なのですが*3

 使い道がそれほどないので、塩漬けにしておくくらいなら使ってもらわないと景気が悪くなって孤児院の食堂のご飯が貧しくなってしまいます! 

 それこそお金を使って良いもの食べればいい? 同僚の前で自分だけ良いもの食べれるほどメンタルは強くありませんよ……

 

 

 

 

 

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 教会公認デュエリストを目指す自由戦士たち。決闘塾(デュエル・スクール)で学ぶ彼らにも幾つかの派閥が存在する。

 真剣勝負で勝敗を決するのは決闘者(デュエリスト)として当然のことであるので除外するとして、『決闘(デュエル)において何を重視するのか』が派閥の争点といって間違いない。

 

 力強く、相手のモンスターを打ち負かすことを主軸に据えたパワープレイ派。

 巧妙なコンボこそ決闘(デュエル)の妙だと考えるテクニック派。

 相手へ敬意を払い、取りうる手段をすべて踏み越えてみせてこその勝利と信じるリスペクト派。

 

 そんな数ある派閥の中でも異端視されているのが、悪役(ヒール)善玉(ベビーフェイス)を演じて戦う姿で観客を沸かせることこそを重視する演技(ロールプレイ)派である。

 もちろん決闘者(デュエリスト)の誇りにかけて八百長などしないが、実際に争い合う決闘(デュエル)の当事者ではなく観客の反応を大切にする彼らは、もっと認められるために様々な方法を貪欲に模索していた。

 そこに発表されたカードのイラストにまつわるストーリー。

 明確な『敵』へと『正義』が立ち向かう姿は演技(ロールプレイ)派が求める姿に合致している。

 ストーリーになぞらえて悪役(ヒール)善玉(ベビーフェイス)がそれぞれの役になりきり決闘(デュエル)の勝敗を争う、演技(ロールプレイ)決闘(デュエル)の誕生である。

 

 決闘塾(デュエル・スクール)内での小規模大会で演技(ロールプレイ)派は、自らに課した縛りのせいか良い結果を出せなかった。

 しかし、観客を大いに沸かせた決闘(デュエル)は教会関係者の目に留まり、個別に激励の言葉を送られたことで演技(ロールプレイ)派は派閥を割ってでも新たな可能性を探し続けることを誓ったのだ。

 いまや演技(ロールプレイ)派は各派閥の良いところを積極的に取り入れ、パワープレイの趣向を凝らし相手を乗り越える姿で魅せるパワーデュエル分派、相手の裏をかいてどんでん返しを決めるテクニックデュエル分派、あえてリスペクトを捨てることで悪役(ヒール)としての純度を高めるアンチリスペクト分派など数多の分派に分かれた。

 本流である演技(ロールプレイ)派は、デュエルモンスターズを生み出した"決闘始祖(デュエル・マスター)"と(ちまた)で呼ばれる人物の発言から"エンタメデュエル"派と名を変え、現在も活動を続けている。

 

 モットーは『決闘(デュエル)でみんなに笑顔を』!

 

*1
基本的に特殊召喚できず、召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに手札に戻ってしまう効果を持つ。

*2
デュエルモンスターズ創造者ペガサス・J・クロフォードの設立した会社。

*3
そもそもこの街で売られている娯楽品の筆頭がカードである。



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おい、デュエルしろよ。

今回の話はアニメ「遊戯王5D's」の根本的なネタバレを含みます。
ネタバレを食らいたくない人は、原作を履修してから見てくれよな!(丸投げ)


 本日をもって、この世界のデュエルモンスターズ史は新たな局面を迎えます。

 ……なんて、持って回った言い方をしましたが、簡単に言えば受け入れ準備が整ったので大シンクロ時代が始まるということです。

 複数のシンクロ対応ストラクチャーデッキの発売で、その動きは止められないうねりとなるでしょう。

 まず端末世界関連のストラクチャーデッキ『ガトムズの導き』、『氷結界の伝承』、『炎の戦士フレムベル』、『霞の谷(ミスト・バレー)の風』。

 更に間を置いて、【ウォリアー】と名前に付くシンクロモンスターを多数収録した『シンクロ・ウォリアーズ』、悪魔族のチューナーやシンクロモンスターを収録した『デモンズ・レゾナンス』も発売されます。

 通常パックにも【A・O・J】シンクロモンスターを封入していくので、シンクロ隆盛は既定路線と言えるでしょうね。

 シンクロ召喚の条件も周知徹底できましたし、畳みかけるためにEXデッキにシンクロモンスターしか入れられない『シンクロ限定大会』の開催も予定されています。

 ……まあ、アドバンス召喚や儀式召喚を縛るものではないので、逆張り勢はきっといるのでしょうが。

 とにかく、シンクロという新たな召喚法の普及で環境は高速化……速度の地平に(いざな)われること請け合いです。

 今はまだ『シャークさんのマジックコンボ*1』レベルでもコンボ扱いですが、これからはソリティアと揶揄される行動が出てくるのも時間の問題でしょうね。

 早めに公式大会での持ち時間制を進言しておきましょうか……

 

 

 

 

 

 私の住んでいるこの街、決闘の街(デュエル・シティ)では、大小を問わなければ結構な頻度で野良大会……いや自主大会ですかね、そういうのは開かれています。

 街の食堂主催、優勝者にランチサービスみたいなものから、パックのレアカードを賞品にした近所のツワモノの集まりまで様々です。

 噂によると互いのコレクションを品評し合う決闘(デュエル)を伴わない大会、というか集いも珍しくなく、製造元としては『分かってるな』と後方腕組勢みたいな気持ちになります。

 ですが、やはりマナーの悪い決闘者(デュエリスト)も少数ながら存在するようで、それが腕自慢だと色んな大会に殴りこんできて優勝賞品をかっさらおうとしたりするのだとか。まるでカードプロフェッサー*2ですね。

 まあ大体の素行が悪い決闘者(デュエリスト)は丁度いい実践相手として決闘塾(デュエル・スクール)上位層や街の古参決闘者(デュエリスト)が見つけるたびに叩きのめしているそうですが。

 彼らはかなり仕上がってきていますから、素人腕自慢にはさすがに厳しいでしょう。私も同じカードプールではそろそろ厳しいですし。

 そんな彼らも、シンクロ召喚の登場で覚えることが増えてひーこら言っているんですけどね! 

 

 

 

 今までこの世界ではデュエルモンスターズと言えば、決闘(デュエル)を含めて美麗なカード絵からそのバックストーリーに思いを馳せるのが主な楽しみ方でした。

 それは端末世界のストーリー公開を経てさらに強化されてきていたのですが、演技(ロールプレイ)決闘者(デュエリスト)の登場でカードのモンスターを従える『決闘者(デュエリスト)自身』にスポットライトが当たるようになったのです。

 強い個性を持った決闘者(デュエリスト)に人々の人気が集まる……いわゆるカリスマ決闘者(デュエリスト)化ですね。

 ある意味では、『遊戯王』という原作のキャラクターたちの活躍からOCGに入った元の世界とは逆の順序で同じ道を通っているのかもしれません。

 

 まあそれはあまり大事なことではありません……大事なのは、私にとっては好都合なことに、『決闘者(デュエリスト)』を主役にした物語を広める下地ができたということです! 

 この機に乗じて原作『遊戯王』の物語を広めたいと思うのですが、既にシンクロ時代が始まっているので『初代』から始めるのは難しいですかね? 

 他の人の意見が聞きたかったので、文化的に内容が理解しやすいであろう砂漠からの留学生の方に『初代』の大まかなストーリーを伝えたのですが、ものすごい勢いで首を横に振られました。

 うーん、文化的に『古代から蘇った名も無き(ファラオ)』とか千年アイテム(いわくつきの品)に理解があると思ったんですが……彼でもダメならダメそうですね。

 学園ものの『GX』なら決闘塾(デュエル・スクール)の広報にもなるかな? と思いましたけど、半端にクラス名をパクッたせいで敵役として出てきてしまいますね……これもやめておきましょう。

 やはりシンクロ時代が始まったのだから素直に『5D's』でやるべきだということなのでしょうか。

 でも『5D's』はライディングデュエル主体ですし、郵便業をしている『竜飼い』の方々にはウケるでしょうけれど、一般決闘者(デュエリスト)向けの話も欲しいですよね……

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 シンクロ召喚が大々的に普及してしばらくの後、シンクロにまつわる2つの物語が公開された。

 1つは『5D's』。デュエルモンスターズが大きな力を持つ異世界で、機械仕掛けの地竜を駆り、大地を疾走する決闘者(デュエリスト)たちが織りなす物語。

 物語自体はシンクロ召喚が多く盛り込まれており好評だったが、設定が『竜飼い』にしか実現できない"ライディングデュエル"であるというのが困惑を呼んだ*3

 主人公とライバルが織りなす熾烈な決闘(デュエル)決闘者(デュエリスト)を主題とした物語を求めた大衆に受け入れられたが、やはり真に熱狂しているのは『竜飼い』の一族だけだった。

 

 そこに公開されたもう1つの物語、『イリアステル』。

『5D's』とよく似た世界、しかしそこは欲望のままにシンクロ召喚を多用した結果、暴走する機械の軍勢により滅びかけていた。

 滅びようとする世界をどうにか救おうと集まった4人の仲間たち。しかしそれは皮肉にも、滅びが目前の世界に残る最後の4人になってしまった。

 心正しきシンクロにて世界を救おうとしたシンクロを超えるシンクロ使い"戦律のアンチノミー"。

 両親を、恋人を、そして愛を向けうる他者すらも失う誰よりも辛い経験をした"絶望のアポリア"。

 世界の破滅を防ぐために『滅び』の原因を究明しようとした科学者"逆刹のパラドックス"。

 やがて彼らは老いに倒れ、最後の一人が残された。

 この世界を滅ぼした機械の軍勢との対話に成功し、しかし世界の破滅を止められなかったこの世界最後の人類。"無限界帝Z-ONE"。

 彼は先に逝った仲間たちの人格を機械仕掛けの人形に写して再現し、再び4人……"イリアステル滅四星"として動き出す。

『今』から『未来』が変えられないなら、『過去』から『今』を改変する。

 すべては破滅の未来を回避するために……! 

 

 内容は物語重視で決闘(デュエル)の描写はそれほどなかったが、ときおり断片的に描写される異質な各登場人物の使うカード。そして悲劇ながらも強い意志をもって動く姿に人々は感動した。

 比較的物語としては短い部類であったが、『イリアステルの勇気が未来を救うと信じて……!』みたいな終わり方に満足していたら、最後に『この物語は5D'sに続きます』とあって仰天する。

 イリアステルが救った未来が5D'sなのか、いや、シンクロは変わらず使われているぞ、という考察が飛び交い、人々は否応なく5D'sも注視することになる。

 

 それが考案者の目論んだ流れなのか、ただ単に趣味に走っただけなのかは誰も知らない……

*1
遊戯王ゼアル第1話で主人公のライバルがモンスターを魔法カードで強化した、ただそれだけの行為

*2
原作の雇われ決闘者(デュエリスト)。大会主催者に雇われて賞金を回収したりする。

*3
なんで地竜に乗っているんだ……?



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イン・トゥ・ザ・ヴレインズ!

 シンクロ時代到来、さらには原作アニメ『5D's』のストーリーを広め始めたことを記念して、シンクロをテーマにしたデュエル大会を企画してみました。

 EXデッキはシンクロモンスターに限定し、実質融合テーマを締め出すことにはなりましたが、公式大会ではなく私が持ち出しで開催する大きな野良大会と言うことで許してもらっています。

 オープニングイベントとして"決闘竜乗り(デュエル・ドラゴン・ライダー)"と巷で呼ばれている方々によるライディングデュエルのエキシビションマッチも行われ、『5D's』で認知度が上がっていることもありかなりの反響でしたね。

 特に飛竜に小型決闘机(デュエルデスク)を装備して行う決闘(デュエル)は、決闘者(デュエリスト)の魔力だけではなく飛竜の常在魔力も使用できるので映し出される立体幻像(ソリッドビジョン)の出力が段違いなのです。

 "決闘竜乗り(デュエル・ドラゴン・ライダー)"の人たちが一枚ずつ持っているドラゴン族シンクロモンスターの幻影の大きさや迫力ある動きも、通常の決闘机(デュエルデスク)では出せなかったでしょう。

『5D's』の話の中に出てくるものとは若干違うものの似通った姿を持つ閃珖竜と琰魔竜の戦いは、本戦に向けて存分に場を熱狂させてくれました。

 そして始まるシンクロ大会本戦。

 事前に発売されているストラクチャーデッキのテーマである【X-セイバー】【フレムベル】【氷結界】【ミスト・バレー】の参加者が多めですね。いろんな意味で名高いトリシューラが暴れるかと思いましたが、現在のカードプールではなかなか出づらいようで。

 他にも【ウォリアー】や【A・O・J】、隊長さんは【ジャンク】で参加してるみたいです。

C(チェーン)*1などという実装した側からしてもマニアックなテーマを採用している方もいるので、何が心の琴線に触れるのかは分かりませんね……

 シンクロ大会だと告知しているのにアドバンス戦術やスピリット、儀式モンスターを使っているひねくれた方もいますが、まあこういうルールの穴を突きたがるのも決闘者(デュエリスト)のサガというものなのかもしれません。

 幸いなことにシンクロ使い以外が優勝するなどという番狂わせは起きず、3素材ジャンク・デストロイヤー*2で壁モンスターを一掃して隊長さんが勝利しました。

 ……割とどこの大きな大会でも見かけるんですけど、この人この街の住人じゃないですよね、仕事はどうしてるんでしょうか? 

 でも、迂闊につついたら闇が深そうだから聞かないでおきましょう。

 

 隊長さんはジャンク・ウォリアーの特別なカードが欲しいとのことですが、通常のパックで出るウルトラレア版はお持ちのようなので、絵違い版を進呈しました。

 カードとしての性能は同じでも、好きなカードの絵違い版って欲しくなりますよね! 

 

 

 

 

 

 一応、院長先生を通して教会本部の方にもこまめに進捗は報告していたのですが、激動のシンクロ時代の到来や原作アニメストーリーの流布など、通常の報告だけでは理解が追い付かないと判断したのか本部から"神託士"の一団が街へやってきました。

 "神託士"とは、本来は天界から神託を受け取りやすくなるよう人々に"洗礼"を与える事を役目としている神官の人たちです。

 神託を受けることを自分から請い願えるのはおとぎ話の妖精姫くらいのもので、神託が受けられるかどうかは天界の神様次第。しかし、受け取れてもそれがちゃんと聞こえるかは個人差があるのだそうで。

 神託士は"洗礼"を行うことで神託の経路(チャンネル)を整え、神託が下りた際に正しく受け取れるようにするわけですね。

 

 ならばなぜそんな人たちが来たのか? それは"洗礼"の副次効果が関わってきます。

 天界の神が神託を下ろす経路(チャンネル)は等しく全ての者の魂に繋がっているので、"洗礼"によってその流れを整えると同じく"洗礼"を受けた者に『接続』することができてしまうのです。

 いうなれば神様の親回線に相乗りして通話みたいなことができちゃうわけですよ。

 勿論、本来は神様が使用するところを使うわけですからいつでも使うということはなく、院長先生も本部とのやりとりに連絡用の魔法道具を使ってたくらいです。

 しかしこの件に関しては一応神事扱いのデュエルモンスターズ関連の連絡を密にする必要があるので許可が下りたわけなのですが……

 "洗礼"を受けても、私が他の人に『接続』できないんですよね。

 他の人も私に『接続』できなかったので、拡大解釈して神事(デュエル)に関わる有力決闘者(デュエリスト)たちが洗礼を受けることで間接的に報告を上げられるようにしました。

 私としては、堅苦しい報告をする手間が省けて助かります。

 

 

 

 

 

 驚くべき事実が判明しました。

 最近、就寝前に孤児院の同僚が独りで机にデッキをセットして一人回ししている事例がやけに多く、他の場所でも似たようなことをしている目撃例が多数報告されました。

 事態を訝しんだ院長先生が同僚を詰めたところ、神託のネットワークを利用してリモートデュエルをしていたことが明らかになったのです。

 いや……たしかにちょっとしたスキマ時間にデュエルできるならしたくなる気持ちも分からなくはないですが、流石にまずいのでは……? 

 でも神事のための連絡という体裁だけみれば強く責めるわけにもいかず、院長先生も『ほどほどにして早めに寝るように』と釘を刺すに留めました。

 それからしばらく、人の口に戸は立てられないとは良く言ったもので、洗礼を受けた決闘者(デュエリスト)たちの間で神託ネットワークは相手がちょうど捕まらない時の決闘(デュエル)マッチングシステムとしてひそかに活用されているようです。

 問題と言えば問題ですが、成長して独り立ちできる実力になった決闘者(デュエリスト)が居心地のいいこの街から出発しないのではないかという懸念はある意味解消されたといっていいでしょう。

 しかし、利用者もそれほどいないはずなのにそんなに都合よくマッチングできるものなのでしょうか? 

 同僚いわく"秒で相手が見つかる"とのことですが、滅茶苦茶暇な人でもいるんですかね……

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 天界とは神々が住まう世界であり、地上の維持・管理を行う場所でもある。

 様々な神が己の権能をもって世界の法則・秩序の維持や管理を行っているが、創造の女神が世界を創り出す原初の時代ならまだしも、ある程度の法則・秩序が整ってからはそれらに手を加えるスパンは一年や二年などという短い期間ではない。

 結果、暇を持て余した神々はデュエルモンスターズにガッツリはまっているのだが、その中でもいくらかのグループができている。

 遊戯の神と賭博の神はお互いを好敵手と定め、相手に勝つために研鑽するタイプ。

 闘争の神や武勇の神はいろんな相手と決闘(デュエル)して、バリエーションを楽しむタイプ。

 地上の民に神々の言葉を下ろす神託の神は、決闘(デュエル)したいけど上手く声をかけられないタイプだった。

 神々のほとんどは地上そのものに関わる権能を持つのに、自分は民に神託を与えるだけ。

 たしかに地上の民に直接干渉できるのは自分だけかもしれないが、母なる女神の子らに干渉するその権能もなぜかこの札遊びの発明者に神託を下ろすことはできなかった。

 なんとなく疎外感があり、決闘(デュエル)したいけど上手く相手を見つけられない神託の神は妖精姫のデュエルモンスターズに関する質問に超速で答えて自分を慰めていた。

 そんな日々を過ごしていたのだが、最近神託のために使っている地上の民への精神経路が頻繁に使用されているのに気が付く。

 何事かとそっと確認すると、どうやら地上の民が経路を一部利用して他の民と決闘(デュエル)をしているようだった。

 地上の民がたまにこの精神経路を使って連絡などを取ることがあるのは知っていたが、まさか決闘(デュエル)まで……

 ──────そこで神託の神の脳裏に電流が走る。

 神威さえ抑えれば、ここに混ざっても気付かれないんじゃないか……? 

 ここで決闘(デュエル)の相手を探している地上の民たちは他の者と違って精神経路がクリアに繋がっているようだし、天界からでも気取られはしないだろう。

 自分は強大な権能を持つ神でもないし、神威を隠すのはそれほど難しくないはずだ。

 まあ地上の民たちの集まりなのだから地上の民同士を優先するが、相手が見つからない者とするのなら問題は、ないか。

 

 

 ……決闘(デュエル)の相手がいない時に超速で応じてくれる謎の神物(じんぶつ)が誰なのか、地上の民が知ることはないだろう。

 

 

*1
刑務所所長・鷹栖が使用した鎖がモチーフのデッキ破壊テーマ。

*2
素材となったチューナー以外のモンスターの数までカードを破壊できるシンクロモンスター。



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光の中に始まる物語

 いよいよ本格的に、決闘塾(デュエル・スクール)で学ぶ公認決闘者(デュエリスト)見習い一期生たちが学び舎から羽ばたいていくのも近くなってきました。

 教えられる限りのややこしい裁定に関する知識を叩きこんできたつもりですが、本当に困ったときは神託の精神経路でもって他の決闘者(デュエリスト)に助けを求めるのが最終手段になるでしょう。

 とはいえ、最低限の知識も身についていない者を公認決闘者(デュエリスト)として世に送り出すわけにはいきません。

 実践でめんどくさい裁定を身に染みて覚えさせる、"卒業決闘(デュエル)"の開催です! 

 知識を血肉にできていない頭でっかちさんは、この決闘(デュエル)を落第通知決闘(デュエル)にしてやるノーネ! ……ふふふ。

 

 

「さあ、私のフィールドには古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)と伏せ一枚。貴方のフィールドにはクィーンズ・ナイト一枚きり。このターンがラストターンですよ?」

 

「くっ、まだまだ! 僕はキングス・ナイトを召喚、効果によりジャックス・ナイトを呼び出す! いざ、三人の光の騎士の融合召喚、アルカナ ナイトジョーカー!」

 

「……なるほど、そのモンスターで伏せカードを封じるつもりですか*1

 

「バトル! いけっ、アルカナ ナイトジョーカー! ライトニングブレード!」

 

 考え方は悪くないですが、これでは赤点です……自分、ダメステ良いっすか? 

 

「ダメージ計算前に私は速攻魔法を発動、収縮! 迎え撃て、アルティメット・パウンド!」

 

「させないっ! アルカナ ナイトジョーカーの効果で……」

 

「発動を無効にしない"効果のみを無効にする効果"はダメージステップには発動できません。もう一度復習してきなさい」

 

「えっ!? う、うわあぁぁぁ!!」

 

 ガッチャ、良いデュエルだったぜ! ……というのは置いておいて、残念ながら彼は追試決定ですね。

 アルカナ ナイトジョーカーのモンスター版『神の摂理』のような効果は強力ですが、前述したややこしい裁定で"カウンター罠"ではない彼の効果は戦闘時にはあまりにもリスキー。

 その辺を理解していない者に、公認決闘者(デュエリスト)の看板を預けるわけにはいきません。

 一発落第でもう一年とは言いませんが、キツめの補習授業を受けてから再試験というところでしょうか。

 全体の結果としては上位三分の一が文句なく合格、次点の三分の一が追試験、下位三分の一は残念ながら不合格を付けざるをえませんでした。

 総合的に見れば三分の二が公認決闘者(デュエリスト)として認められるレベルということになります。

 ……三分の一も脱落者を出したことを悲しめばいいのか、難解なKONMAI語を三分の二も理解したことを喜べばいいのか。

 微妙なところではありますが、これで次の段階へ進むことができます。

 教会が主導する公認決闘者(デュエリスト)たちによるデュエルモンスターズ布教のための"決闘者巡礼団(デュエリスト・ピルグリム)"構想。

 いくら旅慣れた現役自由戦士だとはいえ、遍歴を重ねるのはつらいこともあるでしょう。

 なにか特別なものを持たせて送り出したいものですが……

 

 

 

 

 

 いささか内容の濃い補習授業でそこそこキツめに再試験組をしごいて、みんな無事(?)に追試を突破してくれました。

 彼らは決闘塾(デュエル・スクール)を卒業し、公認決闘者(デュエリスト)一期生として教会が編成する"決闘者巡礼団(デュエリスト・ピルグリム)"に参加。各地へ旅をしてデュエルモンスターズを布教しに行くことになります。

 旅して、戦えて、決闘(デュエル)もできる自由戦士……いえ、卒業したのですから決闘者(デュエリスト)と呼ぶべきですね。彼らに私からも応援の気持ちを込めたカードを用意しました。

 『封印の黄金櫃』、原作の全ての始まりである千年パズルが収められていた箱であり、物語の終焉にて(ファラオ)の魂に引導を渡したカード。

 彼らの前途が光の中にあるようにという気持ちと、決闘(デュエル)は光と希望を与えるものだという気持ちを一緒に込めました。

 このカードは一人に一枚ずつ用意されましたが、同時に公認決闘者(デュエリスト)一期生の証明でもあるので交換(トレード)などで手放さないよう注意をしておきました。

 もし将来、原作遊戯王の初代のストーリーを語る機会が来たのなら、このカードを持っていることの価値がより高まるので頑張っていて欲しいものです。

 

 ……微妙に原作再現に近いことができるように効果をちょっと盛ってありますが、まあこの世界の人にはその辺は分からないでしょう。

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 教会公認決闘者(デュエリスト)

 教会肝いりの新事業に携わる名誉と実利に惹かれてホイホイとそれになるために決闘塾(デュエル・スクール)に参加した自由戦士の一人が俺だ。

 何日も何日もひたすらデュエルモンスターズのルールを頭に叩き込む毎日。

 決闘(デュエル)自体は嫌いじゃねぇ……いや、かなり好きだが、小難しい裁定とやらを覚えるのはなかなかに難しい。

 俺の決闘者(デュエリスト)としての腕もそこそこというところで、決闘塾(デュエル・スクール)でも上位のラビエル・ブルーのトップ5には遠く及ばない程度だ。

 トップ5……リスペクト派、パワーデュエル派、テクニック派、エンタメデュエル派、新興のシンクロ流派それぞれの頭を張ってる上位5名。

 特にシンクロ流派の奴は有名な僧兵団をやめてこっちに専念したって話で、その気になりゃあ魔物を倒して日銭を稼げる俺とは覚悟が違いすぎる。

 

 しかし、こんなにしちめんどくさいルールを考えたあの嬢ちゃんは一体何者なんだろうな? 

 普通に遊ぶ分にはそんなに気にする必要は無いがプロなら覚えていてしかるべき、ってぇのがここまで詳しく教える理由らしいが、なんでこんなに複雑なのかねぇ……

 チェーンの逆順処理、チェーンブロックとやらの有無、タイミングを逃す例、他にも色々。

 まあ俺も一人の自由戦士、決まってないなら勝手にするって同業者は割と居るもんだと知っている。

 教会が力を入れる新事業で大看板を掲げるんだ、せめて見れるぐらいに整えようってのは間違いねぇ。

 卒業すりゃあ晴れて教会の所属、新設の旅団に入って決闘塾(デュエル・スクール)に入る前以来の旅暮らしだ。

 おぜぜの方はどうか知らねぇが、デュエルモンスターズをするだけで喰いっぱぐれないというのは約束されている。

 あとは卒業試験……いや、卒業決闘(デュエル)だけなんだが、卒業、出来るかなぁ…………

 

 

 教師の嬢ちゃんとの卒業決闘(デュエル)を、追試の上でだがなんとか突破し、ようやく俺も教会公認決闘者(デュエリスト)の一人だ。

 再試験の前に受けた補習授業は、正直二度と受けたくない……

 新設される旅団"決闘者巡礼団(デュエリスト・ピルグリム)"の発足に先立って、卒業の証として卒業生全員に一枚のカードが渡された。

 特徴的な眼の装飾が施された黄金の箱の絵が描かれたカード。

 聴講生の砂の国から来た男によると、砂の国ではわりと一般的な魔よけの紋様らしい。

 効果は……結構クセがあるが、あの嬢ちゃんの授業を受けた後である俺たちみんな『なんか悪さできそう』と感じてるだろうと分かるのが、教育されてんなぁ……

 わざわざ"手放すな"って警告するくらいだから、何枚もあったら悪だくみする奴が出そうなのも分かる。

 ま、これまで必死に授業を受けてようやく手に入れた公認決闘者(デュエリスト)の証でもあるんだ。

 手放すなんて考えられんがね!

*1
アルカナ ナイトジョーカーは自身を対象に発動した魔法・罠・モンスターの効果を、同じ種類のカードを捨てることで効果を無効にできる。




感想でのご指摘でカードを差し替えました。


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だがしかし!まるで全然!冥界に追いつくには程遠いんだよねぇ!

 最近、決闘塾(デュエル・スクール)1期生の卒業などお仕事が忙しかったので、久しぶりの休みは趣味にいそしむことにします。

 前々から懇意にしている魔法造形師の方に個人的に"千年アイテム"のレプリカを依頼したのですが、良い金色を出す素材が高価なため予算をオーバーすると言われてしまいました。

 せっかくカードを生成する能力の応用でデザイン画まで用意したのに…………しかたないのでこれは穴にポイです。

 未だに街のあちこちで開くこの『奈落の穴』。私は現状強すぎるカードの証拠隠滅などで結構便利遣いしていますが、似たようなことをしているのは石とか花とかツッコむ子供くらいですね。

 街では生ごみなどは堆肥の素ですし、木切れ布切れも捨てずに焚き付けやパッチワークに使われます。意外に役に立たないものはないんですねぇ。

 もしかしたら絶対に手元に置いておきたくないものを捨てている人も居るかもですが、それを知るのは穴が繋がっているという冥界の底に封じられた神々くらいのものでしょう。

 まあこの穴が本当に冥界に繋がっていればの話ですが。

 

 

 翌朝、ベッドから起きると昨日穴が開いていた部屋の隅に何か転がっています。

 こ、これは……! 間違いありません、この金色、この造形! 完璧な『千年(リング)(1/1スケール)』! 

 もしかして院長先生がサプライズプレゼントでもしてくれたのでしょうか? 

 ふふ、私も最近はかなり働いてましたから? ご褒美がもらえるならありがたく受け取ります! 

 

 喜び勇んで拾い上げた瞬間、千年リングはぼんやりと光を放ち、どこからか声が頭の中に響いてきました。

 

【ふむ、無事地上界に届いたようだな。小娘、この黄金のリングを運ぶ栄誉をやろう】

 

 頭の中に直接声が! これはまさか千年リングの闇の人格の再現!? こんなことまでできるなんて魔法ってスゴイ! *1

 

【む? よく分からんが、我が声を聞け。我は飽くなき探求を司る者、(あまね)く魔族の父。冥界に封じられし魔神、その写し身である】

 

 あれ、邪神ゾークとか盗賊王バクラじゃないんですね。もしかして、プレゼントではない……? 

 そういえば寝る前に部屋は施錠しましたし、流石に院長先生も女性の寝室の鍵を開けたりしないでしょう。

 じゃあこのリングは一体どこから? 

 その考えを読み取ったのか、リングから響く声は答えました。

 

【冥王の許しの無い限り、封じられた神は冥界を出られぬ。ゆえにこの神器に神力と神格の一部を込めて地上界に送り込んだのだ】

 

 冥界から? ……ハッ、もしかして昨日開いていた穴から!? 

『奈落の穴』が冥界に繋がっているという話は本当だったんですねぇ。てっきりおとぎ話の類かと。

 でも冥界は地の底というくらいですから、穴とは相当離れていると思うんですが。

 

【うむ、難儀した。遥か天の上に開いた小さき穴にこの神器を投げ入れるのは神の身をもってしても難行であったわ】

 

 まさかの物理……! 冥界も意外にセキュリティガバガバですね!? 

 冥界に封じられた神が地上界に……もしかしてこれヤバイやつでしょうか。

 そもそも何のために地上界に? その理由次第では穴にもう一度ポイするのも辞さないのですが。

 

【愚問である……………………決闘(デュエル)の探求のためだ!】

 

 ──────────は? 

 

【冥界に存在するカードは全て地上界より降り来たる。ならば更なる決闘(デュエル)の探求のためには地上界を見なければなるまい!】

 

 ……あー、はい、ちょっと脳が理解を拒絶していましたが、ようやく理解が追いつきました。

 つまりこの方もまた、頭決闘者(デュエリスト)ってことですね。

 まあ今日も私は休みですし、孤児院の子供たちの決闘(デュエル)を案内するくらいは大丈夫ですよ。

 冥界の決闘(デュエル)と比べてどんな感じかまでは知りませんが。

 ……ところで、なんで千年リングの形をしてるんですか? 

 

【地上界より来たりし絵の中で最も親和性が高かったからだ。人の子の言葉で言えば"ビビッと来た"だろうか?】

 

 は、はぁ……。

 

 

 

 

 

【な、なんだこれは…………!!】

 

「なにって、子供たちの決闘(デュエル)ですが?」

 

 至って平和なよく見る決闘(デュエル)です。

 年少組はおこづかいが少ないので通常モンスターのビートダウンが多く、年長組になると多彩なデッキになってきます。

 とはいってもたくさんのカードが買えるわけでもないので、頻繁に子供同士でトレードを行ってカードを集めている感じですね。

 

【そうではない! なんだこの平和な決闘(デュエル)は!? なぜ先行でモンスターだけセットして終わる!? 後攻の展開への妨害札を用意して制圧して蓋をしないのか!?】

 

「あー……」

 

 ようやく思い至りました。多分これ、私が穴にポイしたカードのせいですよね? 

 期待に沿えないようで残念ですが、今の地上界の決闘(デュエル)はそこまで進んでいないのです。

 うらら*2も増G*3もニビル*4も泡影*5もない平和な世界であって、間違っても先攻制圧と妨害と捲り合いが蔓延る現代遊戯王ではないのですよ。

 

【そんな、我の知る決闘(デュエル)は、もっと情け容赦のない、ひりつくような……】

 

「たしかにそれも、ひとつの決闘(デュエル)のかたちなのでしょうけれど」

 

 少なくとも子供たちの勝率1位が闇堕ち疑惑が未だ晴れない少年のヴォルカニック・バーンデッキである以上はまだ早いとしか言えません。

 でも、徐々に決闘(デュエル)は先へ進みますよ。神様にとってはきっとあっという間です。

 

【……そうだろうか】

 

「ええ、そうですよ」

 

 現にシンクロが普及して決闘(デュエル)はスピードの世界に足を踏み入れたのです。

 高速化するのは目に見えたことですよ。

 

 そんな会話をしながら見学している私に気づいた子供たちが私のところに集まってきます。

 

「なにそれー、あたらしいあくせさりー?」

「いかちー!」

「ねーちゃんののほほんとした顔には似合ってねーよ!」

 

 ぐ、人の気にしていることを……

 私だって和希先生の絵みたいなエッジのきいた顔に生まれたかったですよ! 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 邪神・悪神の封じられたる世界、冥界。

 その管理者たる冥王の目を盗み、一つの企みが蠢いていた。

 

 冥界に旋風を巻き起こした札遊戯"デュエルモンスターズ"。しかし冥界に来るのは偶然か恣意か、地上界に開いた穴から落ちてきたものしかない。

 もっと多くの種類があるだろう地上界の決闘(デュエル)、ひいては他のカードも見たい! という欲求から来た計画である。

 首謀者は創造の女神の末子たる魔神。

 母なる女神の権能を真似て魔族を生み出したその術の冴えは力を制限された冥界においても地上界へ送り込むための神器を創ることを可能にし、他の協力した神にとっては末っ子だからバレてもそんな怒られないだろうという見込みだった。

 果たして計画は成功し、地上界の決闘(デュエル)事情を知ることはできたのだが、それは彼らの求めたものではなかった。

 まさかの源泉の方が遅れている。

 そんなことは玩具の販売元が商品の詳細を把握してないことくらいに予想できない事だった。

 

 しかし転んでもタダでは起きないのが悪神・邪神として封じられた所以。

 魔神は地上界の少女と取引をし、条件付きで定期的に地上界では一般的に流通していない"進んだ"カードを手に入れられるようになったのだ。

 今まで冥界に封じられている神々は不定期に落ちてくるカードを求めて待つだけの雛鳥でしかなかった。

 しかしこれからは定期的にカードが入ってくることが約束される。なんと素晴らしきかな! 

 勿論冥界を巡回している冥王配下の官吏たちも居るので確実に自分の手に入るかと言われれば否だが、これまでよりは格段に確率が上がる。

 そのためには少女の提示した条件を満たさねばならない。

 彼女の出した条件は"故郷の様子が見れるようになること"。

 該当する権能を持つのは1柱であるので嫌々ながら仲間に引き入れた。

 遠見、看破などの権能も持つ予見の神。創世の時代に"明日起きることがわかったら便利だろ"と全ての生き物に未来予知を標準搭載しようとして史上初の天界出禁を喰らった冥界最古参のやべーやつである。

 あまり関わり合いになりたくない手合いだったが、彼もまた決闘者(デュエリスト)だったので権能の使用に関する交渉はスムーズだった。

 冥界に封じられているため神器を介して覗き見るようなくらいのものだが、条件は満たせる。

 魔神に少女との接触を任せながら、冥界の神々は新カードを待ちわびるのであった。

 

 

 

 ちなみに交渉相手の少女は勝ち取った能力を、この世界に来た後に出た新弾カードを見るのに使っている。

 彼女も大概、頭決闘者(デュエリスト)である。

*1
脳内お花畑

*2
《灰流うらら》手札誘発の代名詞その①。デッキからカードをどうこうする効果を無効にする

*3
《増殖するG》手札誘発の代名詞その②。相手が特殊召喚するたびにドローする

*4
《原始生命態ニビル》相手がモンスターを5体以上出すとモンスター全てを焼き払い出てくる隕石。ただし相手に焼き払ったモンスター全ての合計の攻守を持つトークンを渡すので、対処できないとムキムキのトークンに殴られることも

*5
《無限泡影》モンスターの効果を無効化する、条件次第で手札からも使える罠。伏せても使えるのでまず腐らない



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