(シン・仮面)ライダー助けて! (ほろろぎ)
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(シン・仮面)ライダー助けて!
「あー、今日も学校楽しかったな~。早く帰って宿題しなきゃ」
そんな独り言をつぶやきながら家路につくのは、さくらんぼ小学校に通う少年──ひで。
特別に秀でた所もない、どこにでもいる様な、ごくごく普通の男の子である。
しいて他と違う所をあげるなら、平均的な小学生男児と比べ体格がいいことくらいだろうか。
平日の昼間にしては
笑顔でスキップなどしながら、そのさまは非常に愛くるしい。
ひでが道路の角を曲がり、とある一軒の家の前を通ろうとした時──突如として事件は起きた。
家の影から一人の成人男性が、ヌッと姿を現わす。
と、男はいきなりひでのお腹に向けて、膝蹴りを見舞ったのだ。
「イッテ……」
無言で放たれた一撃によって、ひでの意識は即座に刈り取られる。
男は倒れ込む少年を肩にかつぐと、彼と共に家の中に姿を消した……。
驚くべき手際のよさでひでを拉致した男の名は、
その正体は、秘密結社
「あれぇ?」
葛城蓮の自宅──否、アジト。
その寝室に備えられたベッドの上で、ひでは目を覚ました。
目の前に立つのは、自身を拉致した怪しい男。
「君、名前はなんて言うんだ?」
「黙秘で」
怪しい人さらいに問われ素直に名乗るほど、ひではバカじゃない。
少年の態度を生意気に感じた葛城蓮は、人間としての姿を維持することを止めた。
来ていたスーツを脱ぎ捨て、顔には鉄で作られた仮面を被る。
晒された上半身、その左肩には改造手術の痕跡である、
「ヒェ~ッ」
人外の存在──オーグとしての姿を現した男に、ひでは恐怖の声を漏らす。
ついでにおしっこも出ちゃいそうだ。
「君、名前はなんて言うんだ?」
「ぼく、ひで」
改めて問い直したオーグに、ひではたまらず答えた。
「ひで君か。これからおじさんは、ひで君を虐待しようと思うんだ」
「へぇッ!?」
「おじさんの『幸福』のために、犠牲になってくれるね?」
そう言うと、ひでの返事も聞かずおじさん──虐待オーグは、ネクタイで少年の首を絞め始める。
「ン! イャンクック! おじさんやめちくり~」
「おじさんはねぇ、君みたいな可愛いねぇ、子の悶絶する顔が大好きなんだよ!」
呼吸を止められ、顔を真っ赤にして苦しむひでの表情を見ながら、虐待オーグは興奮した様に言った。
「えぇ? どうなんだよオラ、良い顔してるよオイ、ゥオオッー!」
白目をむき、口から泡を吹くひで。
ほぼ逝きかけた時、唐突に首を締めつけていたネクタイが緩んだ。
それはひでの苦悶の顔を見た虐待オーグが絶頂し、意識がぶっ飛び射精したためである。
「ァハ……ァハ……」
必死に酸素を求めるひで。
ヨツンヴァインで床を這いながら、部屋からの脱出を試みる。
「ブルァァ! ざけんじゃねーよオォイ!! 誰が逃げ出していいっつったオイオルルァ!! え!?」
射精の余韻から我を取り戻した虐待オーグが叫ぶ。
どこからか竹刀を取り出すと、思い切り振りかぶり、ひでの尻を叩いた。
「アァ痛ッたい!」
少年がこれまで味わったことのない強烈な打撃。
涙を浮かべ叫ぶひでを見て、虐待オーグは喜びに震えた。
竹刀で何度も、少年の柔らかな尻を打ち据える。
「興奮さしてくれるねぇ? 好きだよそういう顔」
「アァァ!! 止めてヤダ!」
虐待オーグが、涙と鼻水でぐじゃぐじゃになったひでの顔に、冷たい鉄仮面を近づけた。
「おじさんがなんでひで君にこんなことするか、知りたいかい?」
ひでは恐怖と痛みのあまり、うまく答えられなかった。
「ほら、おじさんの話しを聞いてくれるかい? 死んじゃうよオラオラ」
「(おじさんがこれから)
虐待オーグは
「おじさんにはねぇ、まひろっていう子供がいたんだ。
天使みたいな男の子でねぇ……おじさんはまひろのことを、心の底から愛していたんだ。
なのに……まひろは死んじゃったんだ。
なんでだか、わかるかい? いじめを苦にした自殺だよ。
ちょうど、ひで君くらいの歳で……」
虐待オーグの声は震えていた。
「おじさんの心は絶望のどん底に落ちた。まひろのあとを追って、死のうかと悩んだそんな時……SHOCKERが、おじさんのことを見つけてくれたんだ」
Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling。
秘密結社SHOCKERは、人類を幸福へと導くことを目的とした組織である。
その活動方針から、不幸な境遇に落ちた虐待おじさんの心を救おうとしたのだ。
「おじさんの幸福はねぇ……まひろと同じ、ひで君みたいな子供を、苦しめて殺すことなんだよ!
だって、まひろが死んじゃったのに同じ歳のひで君たちが幸せに生き続けるなんて、不公平だろう?」
虐待オーグはひでに馬乗りになって、今度は自身の腕を使い少年の首を、じわじわと締め付けた。
「おじさんの幸福のために、ひで君も死んでくれるね?」
「うああ……! 止めてや……やだぁ! や~!」
「叫んでも誰にも聞こえないよ。なんで周囲がこんなに静かなんだと思う? SHOCKERが人払いしてるからだよ」
「助けて……誰か、助けて……」
ひでは
どんな時でも、ピンチの時には必ず来てくれる救いの主、それは……
「ライダー、助けて!!」
バァン!
突然、葛城邸のドアが破壊された。
ドアを蹴破って寝室に入って来た、その男こそ
「! 来たか。組織の裏切り者、バッタオーグ。いや、仮面……」
「ライダー……!!」
赤いマフラーをたなびかせ、鮮やかなメタリックグリーンの仮面を被ったその雄姿こそ、我らがヒーロー『仮面ライダー』。
今、ひで少年のピンチに颯爽と参上した。
「神々しいわよねオルァ、オォ!」
虐待オーグは竹刀を振り上げ、ライダーに攻撃を仕掛ける。
ライダーはグローブを付けた腕で、竹刀の攻撃を防いだ。
武器一本では不利と見た虐待オーグ。
空いた方の腕に
が、ライダーはこれを華麗なステップでかわした。
「本気で怒らしちゃったねぇ、俺のことね? おじさんのこと本気で怒らしちゃったね!」
いくら攻撃を繰り出しても、カスりもしないことに激昂した虐待オーグ。
仮面の下で怒りに顔をゆがめ、さらなる力をこめ武器を振るった。
攻撃の動作が大ぶりとなり、そこに隙が生まれた。
バッタの能力を与えられたライダーは、その脚力を開放。
葛城邸の天井を突き破る勢いで、天高くにジャンプした。
「グワ゛ー゛!!」
上空で高速回転、遠心力を加えた必殺のライダーキックが、虐待オーグにヒットする。
虐待オーグの体はすさまじい威力の攻撃を受けて、家の床を突き破り、地下にまでめり込んだ。
大の字で横たわる虐待オーグの体からは、キックの衝撃によってすべての血や内蔵が飛び散っていた。
もはや生き延びるのは不可能である。
ライダーは、静かに虐待オーグの横に立った。
上階から降りてきたひで少年も、ライダーの横に並ぶ。
鉄仮面が砕け、葛城蓮としての顔を取り戻した虐待オーグ。
その表情はすべての憑き物が落ち、死を前にしているとは思えないほど晴ればれとしたものだった。
おじさんはチラとひでに視線を向け、最後にこう言った。
「すまなかったね、ひで君……。まひろ、今いくよ……」
息を引き取った虐待オーグ──いや、葛城蓮の体は、泡となり消え去った。
ショッカーの改造オーグメントは、倒された時に痕跡を残さないよう、このような処置を施されているのである。
ひでは葛城蓮の遺体のあった場所を見ながら、ポツリとつぶやく。
「……おじさんも、可哀そうな人だったのら」
「そうだな。けど、それを理由に人に危害を加えるのは、やっぱりダメだよな」
初めて聞いたライダーの声は、まだ若い青年のものだった。
その言葉には、確かに敵であった葛城蓮のことを
二人はしばらくその場にたたずみ、おじさんの死を黙とうで送った。
「一人で家まで帰れるか?」
戦いを終え、玄関までひでを見送るライダーが言った。
「もう大丈夫。ありがとう、ライダー」
「なあ、ボウヤ。ちょっと聞いていいか。……なんで俺の名前を知ってるんだ?」
『仮面ライダー』、その名は正式なものではない。
SHOCKERが彼に与えたコードネームは、「バッタオーグ」というものである。
そもそもSHOCKERやオーグ、そしてライダーも一般にその存在は知られていない。
日本政府が厳密な隠ぺい工作を行っているからだ。
だというのに、ただの小学生であるひでが、なぜ彼の名を知っているのか。
「僕だけじゃないよ。みんなライダーのことは知ってるのら。ピンチの時に必ず現れて助けてくれる、自由と平和を守る大自然からの使者『仮面ライダー』!」
それは、ただの
どこからか、どうしてか……人々の間にライダーの存在は噂として、風に乗るように流れていったのだ。
去っていくひで少年の背を見送りながら、仮面ライダー
「よかったな、本郷。お前の付けた名前……みんなに『希望』って形で伝わってるみたいだぞ」
『そうだな、一文字』
仮面に宿る本郷猛の
「ご苦労だったな」
仮面ライダーの協力者である政府の人間、タチバナとタキの二人が一文字の前に姿を見せた。
「なんだ? まさか、もう次のオーグが見つかったとか?」
「ああ」
タキが書類をめくる。
「対象は『ヤジュウオーグ』。多数の野生動物の能力を組み合わせた、多重複合型のオーグメントだ」
「君が以前戦ったカマキリとカメレオンの二種混合型より格段に力は上だろう。気を付けろ」
二人の話を頭に入れながら、ライダーは専用バイク──シン・サイクロン号にまたがった。
「自由な休みが無いのがヒーローの辛い所だな。まあ、これも本郷とお嬢さんのためだ」
行ってくる。と言い残し、ライダーはマシンを発進させた。
タチバナとタキは、遠ざかるライダーを黙って見送った。
青空の下、真紅のマフラーが風の中で、気持ちよさそうになびいていた。
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