ガールス&パンツァー 待雪の二輪草 (梅輪メンコ)
しおりを挟む

アニメ本編
プロローグです!


久しぶりにボックスを見て、思い立ったら何とやらで書きました。圧倒的自己満足!!


 

 

 

戦車道

 

 

 

それは古くから乙女の嗜みとして、戦車を用いた武道のことである。

礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸とされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最も、今の私たちには関係ない話だが・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日の朝。

 

〜〜〜〜♪

 

黒い瞳のイントロアラームが鳴り、二段ベットの二つのベットがモゾモゾと動く。

 

「うにゃぁ・・・・・」

「う・・・・ん・・・・」

 

携帯のアラームを消すと下のベットから一人の少女がベットから起き上がる。

 

「もう、こんな時間・・・・」

 

時間を見た少女はベットの梯子を登って上のベットの住人を揺らす。

 

「お姉ちゃん、起きて。朝だよ」

「んー・・・・」

 

そう言われ、もう一人の少女は布団を剥ぎ取って起き上がる。

少女達の姿は全くと言っていいほど同じで、強いて言えば髪型が違うことくらいだろうか。

そんな見た目そっくりの少女の内、先に起きたストレートローングヘアの少女は借りている部屋の台所に向かうと水を流す音とコンロに火をつける音が聞こえ、トントンと包丁で野菜を切る音が聞こえてくる。

そして少しした後、朝食の野菜スープができる頃に部屋の奥から音がした。

 

「おはよう」

「おはよう。お姉ちゃん」

 

そこには学校の制服に着替えた三つ編み団子のヘアスタイルの少女が立っていた。

 

「じゃ、あとお願い」

「ああ、任せておけ」

 

そう言うとストレートロングヘアの少女は交代すると三つ編み団子の少女はカップにスープを盛り付けている間にもう一人の少女が着替えをしていた。

そして少女がスープを入れたカップを持っていくとそこでは髪を整え、着替えたもう一人の少女の姿があった。

 

「「いただきます!」」

 

作ったカップスープを飲むと二人はカバンを持って借りているアパートを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園

 

それが、今私たちの通っている学校だ。私たちはそこの二年生だ。

今は四月、一学期早々に遅刻なんて言う馬鹿な真似はしたくない・・・・というか、私たちは皆勤賞が欲しいと思っているのだ。遅刻なんてやってられない。

そんなことを思いながら私たちは学校までの道を歩く。私たちは見た目がそっくりなので、他の生徒達からの視線を少し集めてしまう。特に新入生からは『あの人たち双子?』『わあ、珍しい!』なんて声が聞こえてしまっている。

若干の視線を感じながら私たち姉妹は学校に到着する。今年は同じクラスなので、私たちは隣の席に座ると荷物を出して朝の準備をしていた。

その途中で友人達と最近の話題で盛り上がったりしていた。そんな中、ある友人がこんな話題を持ち出した。

 

「そう言えば転校生がいるの知ってる?」

「転校生?」

「そう!名前は知らないけど私。今日のお昼の会ってみようかなって思っているの!リュミとクリムも一緒に来ない?」

「え?」

「うーん・・・・」

 

二人はお互いに顔を見合う。『どうする?』と・・・・。お互い共に過ごして来たので考えている事も何も言わなくても理解している。

二人は目で会話をした後・・・・

 

「・・・・行ってみようかな」

「うん。私も・・・・」

「よし!じゃあ、お昼に探してみよう!」

 

と言うことで二人、小野リュミと小野クリムは数少ない友人である百武ともみと共にお昼休みのその転校生とやらを探しに行くことを約束していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「(どうしてこうなった・・・・)」」

 

 

現在、私達は困惑しています。理由は全校集会で発せられた一言です。あの後、お昼に食堂に行ってもその転校生は見つけることができず、代わりに全校集会が開かれていた。

 

『え〜。この学校で戦車道を復活させま〜す!』

 

それはこの学園の生徒会長、角谷 杏生徒会長から発せられた内容だった。戦車道だって?

困惑する私たちは角谷生徒会長、小山副会長、河嶋広報。通称:生徒会トリオ(ともみが勝手に名付けた)の流す戦車道の映像を眺めていた。

 

「(よりにもよって戦車道・・・・)」

 

リュミは思わず姉のクリムを見てしまう。しかし、彼女は眉一つ変えずに映像を見ていた。

映像を見せ終わったあと、会長は

 

『必修選択科目で戦車道を復活させるから。もし選んでくれたら特典を付けるよ〜。単位3倍とか遅刻200日免除とかね〜』

 

と正直釣っているようにしか聞こえないあまりにも()()()()()話に三人は何かあるのではないかと考察する。

 

ヒソッ「ね、なんか怪しいよね」

ヒソッ「本当ね、なんか・・・・あまりにも美味しすぎるっていうか・・・・」

ヒソッ「とにかく怪しい・・・・」

 

三人は思わずヒソヒソと思惑があるのではないかと話し、集会が終わると会長が呼び出しをしていた。

 

『2年A組普通科西住みほ。至急生徒会室に来るように。繰り返す2年A組普通科西住みほ。至急生徒会室に来るように』

 

「(西住・・・・?)」

 

放送を聞いてクリムの眉が一瞬だけぴくりと動く。今、西住といったか?

思わず反応してしまった事にリュミが気に掛ける。

 

「お姉ちゃん・・・・?」

「ん?」

「いや、どうしたのかなって」

「大丈夫、何も問題ないわ」

 

そう言うもリュミはどこか不満げな様子でクリムを見ていた。そんな二人を見てともみが声をかける。

 

「あ!もしかしてクリム達って戦車道に興味があるの?」

「「え?」」

 

思わず変な声が出てしまうとともみは言う。

 

「ほら、戦車道のムービー見てた時。二人ともよく見てたじゃん。だから興味あるのかなっ・・・・て」

 

「「・・・・」」

 

するとともみは突拍子もないことを言い出す。

 

「私も戦車道にしようかなぁ・・・・」

「「えっ!?」」

 

二人は同じタイミングで驚くとともみは言う。

 

「いやぁ、正直帰宅部でいいと思ってたけどさ。二人が戦車道選ぶなら私も一緒に行くだけだよ」

 

じゃ、またね。と言い、ともみは学校を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅後、リュミとクリムは部屋で静かに部屋のテレビを見ていた。

 

「・・・・」

「・・・・」

 

お互いにテレビを見る時間が続く中、リュミが話題を切り出した。

 

「・・・・ねえ、お姉ちゃん」

「・・・・何?」

「やっぱり、悩んでいるんでしょ?戦車道・・・・」

「・・・・」

「・・・・沈黙は肯定だよ?」

「・・・・」

 

沈黙を貫くクリムにリュミは続けて言う。

 

「お姉ちゃんが戦車道を辞めた理由は知ってる。・・・・でもさ「分かってる」・・・・」

 

話を遮ってクリムはリュミに言った。その手は少しだけ震えているようにも見えた。

 

「分かってる・・・・分かってる。だけど・・・・」

 

クリムはその震える手を見ると立ち上がった。

 

「・・・・先に風呂に入る」

 

そう言い残すとリビングから出て行ってしまった。リュミはそんな姉を見てどこか寂しそうに見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜。明かりの消えたリビングでクリムは一人、ボーゥっと外を眺めていた。

 

「戦車道か・・・・」

 

ふとその名を呟くとクリムは部屋の引き出しを開けて中から一枚の写真を取り出した。

そこには深緑色の士官を思わせるような制服を着て、大きな星のついた正帽を被り、リュミと共に並んで撮った写真があった。

 

「・・・・やっぱり無理」

 

クリムはそう呟くとその写真を再び引き出しの中にしまっていた。

写真をしまったクリムはそのままベットに入って考え事をしてしまった。

 

「(ダメね、やっぱり私に戦車道は・・・・)」

 

そう思っていると横から声が聞こえた。

 

「お姉ちゃん」

「リュミ・・・・」

「横、いい?」

「う、うん・・・・」

 

リュミにすら気づかないとは・・・・よっぽど考えてしまっていたようだ。珍しくベットに入って来たリュミはクリムに向かって言う。

 

「お姉ちゃん。本当はやりたいんでしょ?」

「でも、私は・・・・」

 

クリムの表情が少しだけ曇るも、リュミが言う。

 

「お姉ちゃん。顔に出てる、『戦車道やりたい』って」

 

図星のようだ。クリムはダンマリしてしまった。それを見たリュミは今まで溜めていたものを吐き出すように言う。

 

「お姉ちゃん。多分、あの人もこんな事は望んでない。きっと、お姉ちゃんには戦車道を続けてほしいと思っていると思うよ・・・・」

「・・・・」

「それにーー・・・・」

 

リュミが何か言おうとしたようだ。それをクリムが気にかける。

 

「どうかした?」

「・・・・いや、何でもないよ・・・・お休み!」

 

そう言うとリュミはそのままクリムの横で寝てしまった。やれやれと思いつつもクリムは白い天井を見上げながら考えてしまっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

練習試合です!

「(結局一睡もできなかった・・・・)」

 

目の下に隈を作って登校しながらクリムは内心思う。

珍しく寝坊をしてしまった彼女は目をこすりながら学校の校門まで走る。リュミはボーッとしていたクリムを置いて先に学校に行ってしまった。こんな非情な子になるなんて、お姉ちゃん泣いちゃう。(T ^ T)

 

時刻はギリギリ。校門の前では有る人物が立っていた。

 

「珍しいですね。皆勤賞のあなたがこんな時間なんて」

 

そこにはおかっぱ頭の学園の風紀委員、園みどり子がいた。

 

「いやぁ・・・・珍しく寝坊でね・・・・」

「はぁ・・・・ま、冷泉さんみたいに毎日遅刻じゃないからいいけど」

「冷泉?」

 

どこかで聞いた事ある名前だと思っているとみどり子さんは時計を見ながら言う。

 

「それより良いの?このままだと遅刻になるわよ」

「っ!いっけね!じゃ、じゃあみどり子さん。また今度!!」

 

そう言うと眠気が吹き飛ぶ勢いで後者にむかって走る。

こんなバカなことで皆勤賞逃してたまるか・・・・!!

 

と、そんなこんなで結局戦車道の関してはまだ決まっていない。まだ覚悟というか何と言うか、気持ちが纏まっていない。

 

確かに戦車道はやりたい。けど、どこかで躊躇してしまっている自分もいた。

 

戦車道に関しては今日の午後に集まるらしいが、どのくらいが集まるのだろうか。

あんだけ盛った特典があれば何人かは釣られていくのだろうか。

でもあれはいささか怪し過ぎて集まらないのでは?とも思ってしまっている。

まぁ、それは後で分かるか。

 

そんな感じで私は暖かい日に当たってだんだんと意識が遠のいていき、授業中に寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に西住流なのか・・・・??」

 

放課後、校舎の窓からグラウンドの端にある戦車道の倉庫を見ながら呟く。

元々視力が高いリュミとクリムは教室の窓から倉庫前に立つ少女達を見ていた。面白そうだかと、クリム達と教室に残ったともみが引き攣った表情で呟く。

 

「アンタたち・・・・よく、こんな距離でよく見えるわね・・・・」

「「?」」

「なに『当たり前ですけど何か?』って表情なのよ!全く、これだから非常識人は・・・・!!」

 

ブツブツと呟きながらともみは双眼鏡を机の上に置くと、鞄の中からある本を取り出していた。

 

「ともみ、それは?」

「戦車の教本。あんだけ特典あるんだったら私もやろうかな・・・・って」

「ともみ。戦車道やるの?」

「うーん、クリム達がやるならねー。まぁ、面白そうってのもあるけど。第一人数足りないし・・・・」

 

そう言うとともみは教本を開いて〈簡単!戦車の動かし方〉と言うページを開いていた。

 

「それに、戦車道選んだら嫌いな授業休めるしねぇ・・・・」

 

ふふ〜ん♪と言う声と共に何処か自分たちに期待しているような表情で教本を読んでいた。

 

「「(絶対目的そっちやん・・・・)」」

 

双子の姉妹はそんなともみを見て同じ気持ちになっていた。

そんなともみを横目にクリムとリュミは煉瓦作りの倉庫の前で掃除を終えて整備が始まっている戦車の名前を呟いた。

 

「八九式中戦車甲型、38t軽戦車、M3中戦車リー、三号突撃砲F型、Ⅳ号中戦車Ⅾ型・・・・」

「文字通り寄せ集めみたいな戦車だね」

「一番貫通力高いのが三凸かなぁ・・・・」

 

ってか、国がバラバラすぎる・・・・。戦車道を復活させたは良いけど一体何を目標にしているのだろうか・・・・

 

「これでまさか全国大会行くとか考えてないよね・・・・?」

「さ、流石に・・・・それはないんじゃない・・・・?いくらフラッグ戦とはいえ、それは無茶な気が・・・・」

 

流石にないだろう・・・・

と、この時二人はそんな甘い予測を立てていた。そもそも大会が始まるのが二、三ヶ月後だそれまでに組織的な行動ができるのかと思うと疑問が残る。車種も全然違うから歩調を合わせるので手一杯な気がするし、元々寄せ集めの戦車道で集団行動ができるのかも不思議だ。

 

「まぁ、二十年ぶりの戦車道なんかこんなものか・・・・」

 

クリムはそんな事を予測しながら倉庫で整備されていく戦車たちを見終えると教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、恐ろしいくらいのジェット機の音と共に上空を航空自衛隊所属のCー2改輸送機が飛翔して来た。そして校舎を飛行した後、何と貨物室から最新鋭戦車10式戦車を空挺投下して去って行った。

何事かと他の生徒たちが窓の外を眺めていた。

 

「ま、まじかよ・・・・」

「力入れてるねー・・・・」

「ってかうちの学校、自衛隊の人呼べたんだ・・・・」

 

横でともみがそんな事を呟いているとなんだか嫌な音が聞こえて来た。

金属が擦れて削れる音とバキバキと何かが潰されている音だった。その音と戦車が落ちてった場所を思い出すとリュミが思わず呟く。

 

「ま、まさか・・・・誰かの車潰した・・・・?」

「まさかそんなぁ・・・・」

「あんな戦車に轢かれて・・・・無事じゃあないよ・・・・」

 

それが学園長の車だと分かったのは放課後になってからだった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてさっきの騒ぎが落ち着いて来た頃、授業中のクリムとリュミはうっすらと遠くから聞こえてくる火薬の弾ける音を聞いた。音は森のある方から聞こえ、撃ち合っているようだった。

 

「(今のは比較的小口径のだな・・・・)」

 

すると次にまた別の音が聞こえる。色々な砲声が聞こえる中、クリムはリュミを見ると、彼女も同じように耳を澄まして砲声を聞いていた。

するとそこでハッとした気持ちになった。

 

「(いかん、つい気になってしまった・・・・だめだ、昔の癖が出てしまいそうだ・・・・)」

 

何処か引っかかる気持ちを持ちながら終わったのか静かになった森を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

放課後、それは校内一斉メールで届いた。

家で夕食を作っていたクリムはメールを見て少しだけ目を大きくさせた。

 

「日曜に練習試合・・・・しかも相手は聖グロか・・・・」

 

聖グロリアーナ女学院

主に英国製戦車を使う強豪校。過去に全国大会で準優勝を果たしたこともある学校だ。いきなりそんな所と練習試合ができる事に疑問に思ったが、練習試合は日曜の大洗に寄港した時に行うのだと確認をすると作った夕食を盛り付けてリビングてテレビを見て行ったリュミにボルシチとピロシキを出していた。

 

「メール見たよ。今度聖グロと試合だってね。よく受け入れてくれたね」

「向こうからして見たらそこら辺のネズミ程度としか考えていないんじゃない?」

 

特にこの時期は全国大会に向けて練習が始まる頃合いだ。ウォーミングアップ程度の事だと思っているのだろう。

しかし・・・・

 

「こっちの隊長が本当に西住流の人なら案外ウォーミングアップ程度じゃなくなったりしてね・・・・」

「まぁ、聖グロは装甲と機動を生かした浸透強襲戦術が得意・・・・」

「ゲリラ戦取ったら勝てるかもねぇ〜・・・・」

 

夕食を摂り終えてテレビの特番を眺めながらクリムが呟く。それを聞いたリュミがクリムをじっと見ていた。

 

「何よ」

「ん?いやぁ、よく考えているなぁ・・・・って思ってね。やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだね。今すぐにでも戦車道に入りたいって行けば良いのに」

「・・・・」

 

こう言う所は本当にいやらしい。我が妹はいつからこんなに意地悪になってしまったのだろうか・・・・。

いや、そんな事よりももっと重要なことがある。

 

「・・・・だめ、私にはそんな覚悟ないし、資格もないと思うから」

「意地になっちゃって・・・・」

 

つまらなさそうに、呆れた様子でリュミがそう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、深夜。大洗に学園艦は寄港した。学園艦はその大きさゆえに特別な港湾施設がないと受け入れられない。ここ大洗港は日本でも数少ない学園艦が停泊できる場所であった。

 

「ふぁぁ・・・・眠・・・・」

「同じく・・・・くわぁ・・・・」

「コラっ!二人ともはっきりしなさいよ・・・・」

 

学園艦から大洗に降りたクリム、リュミ、ともみの三人は港を歩いていた。今日は大洗戦車道と聖グロの練習試合の日である。

そんな中、二人が眠いのには理由があった。

 

「そりゃまぁあんな朝っぱらから空砲ぶっ放されたのも癪だろうけどさ・・・・」

 

そう、朝っぱらの五時くらいにあのⅣ号戦車が住宅街のど真ん中で自慢の24口径75mmを空砲だが、ぶっ放したのだ。あれのおかげでこっちは寝不足だ。鼓膜破けるかと思った・・・・

 

そんなこんなで寝不足気味になりつつも三人は試合映像が流れるアウトレットまで移動した。空いていた場所に座り込むと私は船を漕ぎながらフラフラとしていた。

 

「ちょっと、クリム!ここで寝ないでよ!?」

 

ともみにそう言われるも朝からドタバタしていてあくびが止まらないのだ。とにかく寝かせて欲しい・・・・

ただでさえ聖グロの学園艦がデカ過ぎて目がぐるぐるしていると言うのに・・・・

それは同じように叩き起こされたリュミも同じようで、ウツラウツラとしていた。私たちはともみの両隣に座っているので、いざとなればともみの肩を借りれば良い。そう思っていると両チームの戦車が映り、それを見たともみが飲んでいたお茶を吹いてしまった。

 

ブーッ!「ゲホッ!ゲホッ!」

「やだー、汚いー」

「何やってんのよ・・・・」

 

そんなともみを見てせっかくの枕が・・・・と思っているとともみがスクリーンを指差した。

 

「いや、だってあれ見て笑わんやつおる?」

「「え?」」

 

そう言い、指差されたスクリーンを見て私たちは思わず顔が引き攣ってしまった。

 

「なに・・・・これ・・・・?」

「ここは珍車パレードかなんかですか?」

 

そこには林○ペー・○ー子夫妻もも御満悦だろうピンク一色のM3リーや、ル○ン三世に出て来たような金ピカ38t軽戦車が並んでいた。中には旗を掲げたカラフルすぎる戦車まであった。あの六文銭の旗は絶対歴女だろ・・・・

 

そんな事を思っていると隊長と思われる少女が聖グロの金髪の少女と何かを話し、審判員がやって来てお互いに礼をして、それぞれ戦車に乗り込むと試合が始まった。金ピカ戦車、生徒会が乗るんだ・・・・

 

「いよいよか・・・・」

「始まったね・・・・」

 

眠気なんかどこかに吹っ飛んで双子はスクリーンを見ていた。大洗のチームの考えている作戦や、相手チームの動きを見ていた。

 

「相手はマチルダⅡ五両とチャーチルMkⅦ一両・・・・全部硬い戦車だねぇ・・・・」

「多分、ウチのチームは陽動で釣って集中砲火かな?」

「単純過ぎてすぐに勘付かれそう・・・・」

「ルールは殲滅戦だから余計にねぇ・・・・」

 

フラッグ戦だったらまだ何とかなったかもしれないが・・・・生憎と今回は殲滅戦。つまりどちらかが全滅すれば勝ちなのだ。しかしこちらは数も練度も劣ってる。正直勝てる見込みは低い。

 

「結果はどうなるかねぇ・・・・」

「しぶとく生きるか。一瞬で蹴散らされるか。面白そう!!」

 

クリムとリュミは座りながらそんな事を考えていた。

 

「こっちはアンタたちの考えている事がまるっきり分からん・・・・」

 

そんな二人の後ろでつまみのキャラメルを買って来たともみが呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、試合地域ではⅣ号戦車の車長。西住みほは今回の試合相手である聖グロの戦車をキルゾーンに誘導していた。

 

「なるべくジグザグに走行してください、こっちは装甲が薄いからまともにくらったらお終いです」

 

「了解・・・・」

 

と、操縦手の冷泉麻子の巧みな手腕でⅣ号はひょいひょいと敵の砲弾を躱すまれで後ろに目がついているかのようだ。すると一発の砲弾がⅣ号の横をギリギリ通っていき着弾する。

 

「ふう・・・・」

 

みほは砲弾が外れたことに安堵する。すると通信室ハッチから通信手の武部沙織が顔を出した

 

「みぽりん危ないって!」

 

と、彼女は心配そうに言うとみほは彼女を安心させるように笑顔で

 

「え? ああ、戦車の車中はカーボンでコーティングされているから大丈夫だよ」

 

とみほは武部にそう言うが武部は首を振って

 

「そういうんじゃなくて、そんなに身を乗り出して当たったらどうするの!」

 

「まぁ、めったに当たるものじゃないし、それにこうしていた方が状況がわかりやすいから」

 

「でもみぽりんにもしものことがあったら大変でしょ!? もっと中に入って!」

 

と、武部はみほのことを心配してそう言う。みほは彼女のやさしさに嬉しさを感じ

 

「心配してくれてありがとね、じゃあお言葉に甘えて」

 

そう言い車内に入りⅣ号はキルゾーンへと進み続けるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こそこそ作戦です!

聖グロとの練習試合。Ⅳ号戦車が挑発して敵を誘引していた。

その一方で、Ⅳ号が敵を誘導している頃各チームはキルゾーンにて待機し、敵が来るのを待っていた。

 

「革命!」

「しまったどうしよ〜」

 

M3リーを動かす一年生は車体の上で大富豪をして

 

「いつも心にバレーボール!」

「そ〜れ!」

 

八九式を操縦するバレー部チームは、バレーのトスの練習をしていた。

生徒会チームは角谷がビーチチェアに乗って日光浴。河嶋はⅣ号が中々来ない事に苛立っていた。

 

「遅い!」

「待つのも作戦の内だよ〜」

「いや、しかし・・・」

 

すると、無線でⅣ号から連絡が入って来た。

 

『Aチーム、敵を引きつけつつ待機地点にあと3分で到着します』

「Aチームが戻って来たぞ!!全員戦車に乗り込め!」

 

と河嶋がそう言うと

 

「えーうそー」

「折角革命起こしたのに」

 

と一年生チームは残念そうに言う。するとみほの無線が聞こえた。

 

『あと600メートルで敵車両、射程内です!!』

 

みほからの無線を聞き、武藤たちを覗いてみんな緊張し敵が来るのを待ち構える。そしてその緊張と焦りの結果。

 

「撃て撃てー!!」

 

河嶋さんは誘導していたⅣ号を敵と勘違いし砲撃し始めるそしてそれにつられ他の車両も撃ってしまった。

 

『あ、ちょっと待ってください!』

 

と、みほが焦っていうが砲撃が止まらない

 

「味方を撃ってどうすんのよー!!」

 

武部が無線で怒鳴る。・・・・・その後はみんな砲撃をしているみたいだがやっぱり練度不足のせいかなかなか当たらない。河嶋さんが何か叫んでいるみたいだがそれは無視しよう。

 

「そんなバラバラに攻撃してもダメです、履帯を狙ってください!」

 

みほがそう言った瞬間。聖グロの車両が左右に分かれ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で聖グロのチーム。その隊長であるダージリンは車内で紅茶を嗜みながら呟く。

 

「こんな安直な囮作戦、わたくしたちには通用しませんわ」

 

下手な鉄砲数打ちゃ当たると言うが、これでは作戦も何もないだろう。

ダージリンは辺りを見回して確認をすると大洗のチームを囲うように陣形を組み、そして・・・・

 

「ーーー攻撃」

 

マチルダⅡの2ポンド砲とチャーチルMkⅦの75mm砲が火を噴いた。

 

「すごいアタック!」

「あり得ない」

「落ち着いてください!攻撃やめないで!」

 

聖グロの攻撃に混乱するバレーチームと一年生チームにみほは攻撃を続けるよう指示するが

 

「無理です!!」

「もぉ〜いや〜!!」

 

と一年生チームは恐怖のあまりそう言ってM3から降りて逃げ出して行く。その直後無人となったM3の側面に砲弾が命中し白旗のフラグが立った。

 

「あれ!?あれれ!?」

「あぁ〜外れちゃったね履帯。38tは外れやすいからなぁ」

 

38tの側で着弾した砲撃の衝撃で38tの履帯が外れてしまった。小山は必死に操縦桿を動かして体制を立て直そうとするが角谷他人事の様に言う。38tは履帯が外れた状態でバックして窪んだ穴にはまってしまう。

 

「武部さん、各車状況を確認して下さい!」

「あ、うん。えっと、Bチームどうですか?」

『何とか大丈夫です』

「Cチーム!」

『言うに及ばず』

「Dチーム!」

『・・・・・』

「Eチーム!」

『ダメっぽいね』

『無事な車両はとことん撃ち返せ!』

 

とみほは、武部に各チームに無線連絡を取り状況確認をし、無人となった一年生Dチーム以外は存命の様だ。一人だけ錯乱しているヤバい奴もいるが・・・・

 

「このまま居てもやられるだけ」

「隊長は、西住さんです」

「私達みほの言う通りにする!」

「何処へだって行ってやる」

「西住殿!命令して下さい」

 

と五十鈴、武部、冷泉、秋山がそう言うと

「B、Cチーム。私達の後について来て下さい!移動します!!」

『分かりました!」

『心得た!』

『何!?許さんぞ!!』

 

と各車長は、了承する河嶋だけは、反対みたいだ。

 

「『もっとこそこそ作戦』を開始します!!」

 

第二作戦『もっとこそこそ作戦』を決行する。そして、三突、八九式はみほ達Ⅳ号に率いられある場所へと向かう。穴にはまった38tはそのまま放置となった。

 

「逃げ出したの?追撃するわよ!!」

 

とダージリンは去って行くみほ達を追撃して行く様指示する。みほ達は、聖グロの戦車隊に攻撃を受けながらもある場所へと向かっていた。その場所とは、大洗の町だった。

 

「これより市街地に入ります。地形を最大限に活かして下さい」

『Bei Gott』

『大洗は庭です!』

『任せて下さい』

 

とみほが無線でそう言う。地理的に言えば大洗の出身の大洗チームに地の利がある。そう言って各車分散して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜、面白くなって来た・・・・!!」

「大洗の隊長もよくやるじゃ〜ん」

 

市街地でのゲリラ戦術。こう言うのは地の利のある大洗の方が優勢だろう。今回来ている聖グロの戦車は榴弾が撃てない砲ばかり。徹甲弾だけなので広範囲に破片を撒き散らさないから建物ごと吹っ飛ばされることもない。これはもしかするとあるかも知れない。

 

「このままゲリラ戦術で一個ずつ確実に減らしていけば・・・・」

「案外いけるかもね〜」

「でも、D型でチャーチル抜けたっけ?」

「当たりどころによれば・・・・」

 

そう言うと同時、放送が入った。

 

『マチルダⅡ、走行不能!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・消えた」

 

各マチルダは分散して大洗チームの捜索に入っていた1両が通りを通って薬局屋を過ぎろとしていた。だが、マチルダの乗員達は気付かなかったその薬局の旗に混じって新撰組の誠の旗や真田六文銭の旗がある事に、そうと知らずに通り過ぎようとしていた時

 

ドカーン

 

と薬局と住宅の間の裏路地に身を隠して待ち伏せていた三突に側面を砲撃され走行不能となったマチルダは白旗を揚げる。

また一方では、マチルダが駐車場の前に差し掛かった時、車庫のランプが点滅していた。おそらくはこの中に戦車がいるのだろうと予測した。

 

「・・・・馬鹿め」

 

ルクリリはそう言うが、正面の車庫が開き始めたのと同時にすぐ後ろの昇降機が上がり始めその中には八九式中戦車がいた。そう、これはフェイク。わざと前の車庫にいると見せかけ身動きの取れない狭い駐車場の中へ誘い込みそして後ろにある昇降機の中に隠れ敵が中に入ったら背後から撃って撃破するというバレー部の作戦なのだ。

そしてルクリリは正面の車庫に敵戦車がいないのに気づきそしてその車庫のミラーで敵戦車が背後にいることに気付いた。

 

「・・・・はっ!?後ろだぁ!」

 

ルクリリが車内に入りそう言った瞬間。

 

「そーれぇ!」

「「「そーれっ!!」」」

 

磯部の掛け声と共に八九式中戦車の57mm砲が火を噴き。放たれた57mm砲弾がマチルダⅡに炸裂した。

 

『こちらCチーム一両撃破!』

『Bチーム一両撃破!』

「やりましたね」

 

と次々と敵戦車撃破の報告に気を良くする秋山。一方、ダージリンは撃破されたマチルダから報告を受けていた。

 

『攻撃を受け走行不能!』

『こちら被弾につき現在確認中!』

「なっ!?」

 

その報告を受けたダージリンは、思わず紅茶のティーカップを落としてしまう。

 

「おやりになるわね・・・・でも、ここまでよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、歴女達の三突は、

 

「「あはははっ!!」」

 

車長のエルヴィンとカエサルが高笑いをしていると前方にマチルダが現れた。

 

「路地裏に逃げ込め!」

 

とエルヴィンは、路地裏に逃げ込む様指示をする。

 

「入り組んだ道に入ってしまえばい良い。三突は車高が低いからな」

 

三突の車高の低さを利用して塀に隠れながら進むが三突に付けていた旗により敵に居場所がバレてしまい三突は側面を砲撃されリタイアとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のバレー部チームは

 

「あはは、Bクイック大成功!」

 

磯部達は、炎上するマチルダに歓喜するがそれも束の間だった。煙が晴れるとそこには砲塔をこちらに向けて健在するマチルダの姿で白旗も立っていない。実は、八九式の57mm砲は元々歩兵支援のための榴弾だったため貫徹力が低いのだ。

 

「「「「ああ・・・」」」」

「うわぁー生きてた!どうしよう!!どうしよう!!」

「それ!」

 

と八九式はマチルダに向け砲撃するが弾かれてしまう。

 

「サーブ権取られた」

 

次の瞬間八九式はマチルダの放った砲弾により撃破された。

 

『Cチーム走行不能!』

『Bチーム敵撃破失敗及び走行不能!すみません!』

 

とみほ達Ⅳ号にBチームとCチームが撃破された報告が入る。

 

「残っているのは我々のチームだけです」

「向こうは何両!?」

「四両です」

 

そうしていると背後からマチルダ2両が現れた。

 

「来た!囲まれたらまずい」

「どうする?」

 

と冷泉がみほにどうするか聞いてくる。

 

「兎に角敵を振り切って!」

「了解」

 

そう言って、みほ達のⅣは全速力で聖グロリアーナから逃げ始め、タンクチェイスが始まった。

Ⅳ号は町中の路地を右から左へ左から右へと道を進んで行きそして、急カーブに差し掛かると1両のマチルダが曲がりきれずに宿屋に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻、アウトレットのスクリーンを見て一人が雄叫びを上げる。

 

「うちの店があぁぁ・・・・これで新築出来る」

「縁起いいなぁ」

「うちにも突っ込まねぇかな」

 

モニターで自分の店に戦車が突っ込んだのを見た店主と思われる男性は絶叫するかと思いきや歓喜した。正直この制度はちょっと変えたほうがいいと思う。その方が作戦も慎重になるし・・・・。

そんな店主の雄叫びを他所にクリム達は映像を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひたすら逃げるⅣ号だったが、運悪く彼女たちの息着いた場所は行き止まりであった。そしてその後ろからマチルダ4輌、チャーチル一輌が迫って来た。そして5輌はⅣ号の前に止まりそしてチャーチルからダージリンが顔を出し

 

「こんな格言を知ってる? イギリス人は恋愛と戦争では・・・・手段を選ばない」

 

彼女がそう言うと相手の砲台がゆっくりとこちらに照準を合わせてくる。もはや万事休す。しかし・・・

 

『参上~!!』

「生徒会チーム!?」

「履帯直したんですね!」

 

さすがに聖グロリアーナもいきなりの登場に攻撃の手が止まった。そして

 

『発射!!』

 

河嶋さんがゼロ距離から発砲するが、砲弾は相手の戦車に掠りもせず、むなしい空音が鳴るだけだった。

 

『あ・・・・』

『桃ちゃん、ここで外す?』

 

河嶋さんのノーコンぶりに小山さんがつっこみをする。そしてその瞬間、聖グロリアーナの戦車隊はお返しとばかりに一斉射撃し、38tを撃破するのだった。

 

『や~ら~れ~た~!』

「前進!一撃で離脱して、路地左折!!」

 

そう言いみほは前にいたマチルダを撃破し小道へと逃げた。それを見たダージリンは

 

「回り込みなさい!至急!!」

 

と、全車にそう言いグロリアーナ戦車は迂回してⅣ号を追いかけるべくチャーチルとマチルダ三輌は攻撃をし始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大通りに出て先に路地を抑えます」

 

みほは、一つ先の路地を進むチャーチルを見て焦る。

 

「急いで下さい!右折したら壁に沿って進んで急停止!」

「はい」

 

そして、みほ達Ⅳ号は、大通りの十字路の曲がり角で急停止して通って来たマチルダの側面を砲撃して撃破し、更にやって来たマチルダを反対方向に回って側面を砲撃して撃破する。そして、後にやって来たチャーチルの砲塔を砲撃するも効果なしだった。そして、チャーチルの砲塔が動き出し・・・・

 

「後退して下さい!ジグザグに!」

 

みほは、チャーチルの砲撃を避ける為にジグザグに後退する様指示する。そして、大急ぎでチャーチルの前を横切る。

 

「路地行く?」

「いや、此処で決着を着けます。回り込んで下さいそのまま突撃します」

 

Ⅳ号は、一旦はチャーチルから距離を取ると車体を反転させる。

 

「と、見せかけて合図で敵の右側部に回り込みます」

 

Ⅳ号は、全速力でチャーチルに向かって突進し、

 

「はい!」

 

とみほの合図でⅣ号はチャーチルの手前で急ブレーキを掛けドリフトでチャーチルの右側面に回り込むと、

 

「撃て!」

「はい!」

 

みほの合図で五十鈴が引き金を引き発砲、同時にチャーチルも発砲する。爆発により爆煙に覆われそして、煙が晴れるとチャーチルは殆ど無傷状態で一方のⅣ号は、チャーチルの砲撃で砲塔がやられ主砲が破裂し白旗が揚がる。

 

『大洗女子学園。全車両行動不能、よって聖グロリアーナ女学院チーム!!』

 

こうして初の戦車道部の戦闘は黒星という結果で終わった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦車道やります!

「やっぱりダメだったか・・・・」

 

試合が終わり、ドンドンと人がまばらになっていく中、クリムが呟く。

 

「仕方ないよ。でも・・・・惜しかったね。もうちょっとでなんとかなったかも知れないのにね・・・・」

「と言うか、生徒会トリオ。エイム酷すぎるでしょ・・・・」

「あれは何とかならないかなぁ・・・・」

 

先ほどの試合の結果を話していた。『あーあ負けちゃったかー』『やっぱ強い相手には勝てないかー』と言う声が聞こえるが、それは違うと感じていた。

 

「(もっと練度が上がれば何とかなるかも知れない・・・・)さて、行くよ」

「あ、待ってよ!!」

「お、おい!!置いてくなよぉ〜」

 

スタスタと歩いて行くクリムに二人は慌てて追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、戦車道部のみほ達はトレーラーに乗って罰ゲームのあんこう踊りをやっていた。

そのトレーラーの上でみほ達は顔から火を吹きそうな勢いで目をグルグルにしながらあんこう踊りを踊っていた。

 

「もお、お嫁に行けない!」

「仕方ありません!」

「恥ずかいと思えば余計に恥ずかしくなります!」

 

みほ達はトレーラーの上でそう言いながら涙目で踊っていた。それを見ていたクリム達は・・・・

 

「うわぁ・・・・」

「これは酷い・・・・」

「あの会長、鬼だな・・・・」

 

言い出したらテコでも曲がらないあの会長のことだ。おそらく昨日の試合で負けたらあんこう踊りだったのだろう。なかなか酷い事をしやがる・・・・

 

「私・・・・戦車道やめようかな・・・・」

 

思わずともみが呟いてしまった。まさか戦車道で負けたらコレをやらされるのでは?と思っているようだ。

 

「「(あ、あながち否定できない・・・・)」」

 

そう思ってしまった。大洗に住む者なら誰もが知る恥辱と狂気の踊り、あんこう踊り。これはマズイと本気で思ってしまったのはここだけの話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗であんこう踊りを見届けたクリム達はショッピングモールでちょっとした買い物を済ませるとファストフード店で休憩をしていた。

 

「ふー、ごめんね〜買い物に付き合ってもらっちゃって」

「いいよいいよ。これくらい問題ないし」

「良い暇つぶしにもなったしね」

 

三人がファストフード店で休憩をしているとそこでクリムは何処か真剣な表情でリュミ達に言った。

 

「リュミ、ともみ。・・・・ちょっと聞いて欲しいんだけど」

「「?」」

 

いつになく真剣な表情のクリムに二人は首を傾げた。クリムは一息つくと二人に言った。

 

「・・・・私、戦車道部に行こうと思っている」

「「!?」」

 

クリムの言葉にリュミ達は驚いた表情を見せた。するとクリムは二人に訳を話す。

 

「昨日の試合見て思ったんだ・・・・やっぱり、戦車道やろうかなって・・・・多分。戦車が好きだから・・・・」

 

そう言うとクリムは頭を下げながら二人に言った。

 

「だからお願い。私の手伝いをお願いしても良いかな?」

「「・・・・」」

 

頭を下げた事に困惑する二人だったが、小さくフッと笑うとともみがクリムの肩を持って言った。

 

「そんなの・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あったりまえじゃん!」

「と言うか、私はお姉ちゃんの妹だよ?むしろ断ると思った?」

 

そう言い、二人は賛同してくれた。その事にクリムは顔を上げて笑みを浮かべながらも少しだけ涙を流した。分かってはいたけど、直接言われると嬉しかった。

 

「ありがとう・・・・」

「何、この学校入って以来の仲よ?友の頼みは断らないって」

「私も、お姉ちゃんが戦車道やるなら何処までも着いて行くだけだよ」

「ありがとう・・・本当に、ありがとう・・・・」

 

ついに涙が溢れてしまっているとともみがハンカチを差し出しながら言った。

 

「さぁ!今日は打ち上げと行こう!」

「うん・・・・そうだね」

「じゃあ、追加で何か頼もっ!」

 

そんな訳で三人はファストフード店で注文をすると早速戦車道について話した。

 

「・・・・で、三人で戦車道ってのもちょっと足りないよね」

「そうだね・・・・せめてあと一人、出来れば二人いれば・・・・」

「うーん・・・・あっ!」

 

ともみがいきなり声を上げた。その事に驚く私たち。何か妙案が思いついたのかと思うとともみが電話をかけた。

 

「良い人がいるよ。戦車道に向いてそうな人!」

「「だれ?」」

「二人もよく知っている人だよ。・・・・あ、もしもし?お願いがあるんだけど・・・・」

 

 

 

ーーー十分後

 

 

 

ファストフード店にその人は現れた。ぱっと見中学生ほどの見た目をして赤目黒髪の少女がやって来た。

 

「私に用とは何だ?ともみ」

「いやー、ご足労ありがとね〜」

 

ともみが陽気に話しかけると少女はため息を吐いた。

 

「はぁ、今回の要件は?」

「とにかくこっちに来て座って」

 

そう言い、その少女は椅子に座った。彼女の名は浅風淀。ともみとは中学からの同期で、高校入学組の私たちよりも長い付き合いで、時々会う仲であった。

趣味は読書と筋トレ。相反する趣味のようにも見え、見た目とのギャップがすごい・・・・。

そんな淀はクリムと反対側の席に座るとともみがクリムが今までの経緯を話した。

 

「・・・・成程、それで数合わせのために私が呼ばれたと?」

「そう言うこと。お願いできる?」

「・・・・」

 

ともみが手を合わせてお願いをする。頼まれた淀はしばらくダンマリするとクリムに聞いた。

 

「クリム。戦車道に使う砲弾の重さは?」

「え?」

「重さ。使う砲弾は、どのくらいの重さなの?」

「え?えーっと・・・・大体30キロくらいかなー・・・・」

「成程・・・・」

 

砲弾の重さを聞いた淀は小さく頷くとこう答えた。

 

「・・・・いいだろう。その重さならいい筋トレになる」

「っ!本当!ありがとう〜!」

 

快く参加してくれたことにともみが淀に抱きついて喜んでいた。

これで人数は集まった。人員が決まれば後は・・・・

 

「戦車か・・・・」

「こればっかりはねー」

 

そう、戦車だ。ともみが先走ってしまったが、今の私たちには戦車がない。いくら戦車道がしたいと言えど、戦車がなければ意味がない。生身で突貫なんてもってのほかだ。

 

どうしたものか・・・・

 

頭を抱えるともみ達を見てクリム達は頷いた。

 

「・・・・仕方ない。戦車はこっちで準備してみるよ」

「え?」

「二人とも、当てがあるのか?」

「まぁ・・・・ね・・・・」

 

おそらく発狂して大喜びするだろうな・・・・

そんな風に思いながらクリムは電話をかけた。少し席を離れて何か話しているように感じると十分程度だった頃だろう。

店に戻って来たクリムはグッドサインを出した。

 

「戦車はなんとかなりそうだよ」

 

そう言うとともみが嬉しそうな表情を浮かべてクリアに抱きついた。

 

「ありがと〜!クリム〜!」

「いいよいいよ、もともと言い出したのは私だし。これくらいはね・・・・」

「と言うか、どう言う伝手なんだ?いきなり戦車なんて・・・・」

 

淀の疑問にクリム達は一瞬だけしまったと言うような表情を浮かべたが、リュミが訳を話した。

 

「昔の縁でね。あんま詳しく聞かないで」

「ふーん?」

「取り敢えず、角谷会長に連絡しようか」

「そ、そうだね・・・・えーっと、連絡連絡っと・・・・」

 

ともみが学校の生徒会用投稿箱にメールを送ると、返事はすぐにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリム達四人は生徒会室に入っていた。普段よっぽどのことがない限り来ることのないこの部屋に全員緊張していた。そして目の前には干し芋を食べながらグータラしている角谷杏生徒会長がいた。

 

「やーやー、戦車道を選んでくれてありがとうね。みんな」

 

ひとまず杏がそう言い、戦車道を選んでくれたことに感謝(?)の言葉を言うと横にいた河嶋広報が角谷会長に言う。

 

「会長、この四人は志願しましたけど戦車がありません。一旦探すか、どこかのチームを交代しないと・・・・」

「あー、それは大丈夫だよ。多分」

「「え?」」

 

河嶋と同じく部屋にいて書類整理をしていた柚子副会長が疑問に思うと角谷はクリムを見た。

 

「詳しくは分かんないけど、なんか戦車に当てがあるんだってさー」

「何ですって!?・・・・おい!早く教えろ!どうやって戦車を手に入れた!!」

 

恐ろしい剣幕で捲し立てる河嶋広報にクリムは眉一つ変えずに、落ち着いた様子で答える。

 

「昔の伝手を使いました。明日の昼頃に到着するかと・・・・」

「戦車の名前は?!種類は?!どこから持ってくるんだ?!」

「河嶋、そこまでだよ」

「しかし・・・・」

「河嶋、みんな自分からわざわざ来てくれたんだ。そんな捲し立てないであげてよ。戦車が来るならそれでいいじゃないか」

 

いつもとは違ってしっかりとした口調で話す角谷会長は流石はここのトップだと感じた。会長の話を聞いて河嶋広報ほ無理やり納得させた。

 

「・・・・分かりました」

 

そう言うと再び河嶋広報はクリムを見て行った。

 

「戦車道に入るなら予定表を渡しておく。明日の朝には倉庫に集合だ。遅れるなよ」

 

「「「「はい!」」」」

 

そう言い、四人分のスケジュール表を渡されたクリム達は生徒会室を後にした。

部屋に残った三人は先の話を聞いて小山が杏に問いかける。

 

「あの、会長。送られてくる戦車って・・・・」

「明日戦車が送られてくる。それ以上のことは分かんない」

「しゅ、種類とかもですか?」

「うん、なーんにも分かんない。それに・・・・」

「?」

「前々から気になってたんだよね。クリムちゃん達のこと」

「あの双子がですか?」

「そうだねー」

 

そう言い、杏はさっきのクリムを思い出していた。

 

「(ありゃ、戦車道経験者だろうねー。みほちゃんと同じ雰囲気ががするもん・・・・)」

 

杏はそんなことを思いながら校舎を後にしていくクリム達を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、戦車道の倉庫で全員が集められていた。目的は今日からお世話になる新入部員がいるからだった。

 

「今日からお世話になります。小野クリムです」

「同じく、小野リュミ」

「百武ともみでーす!」

「・・・・浅風淀です・・・・よろしく」

 

軽く自己紹介を終えると河嶋広報が言う。

 

「今日から戦車道部に入る四人だ。よろしく「あの!質問です!」・・・・何だ?」

 

話を遮って質問したのはIV号戦車装填手の秋山優香里だった。彼女の質問はもっぱら戦車についてだった。

 

「あの、クリム殿達の戦車は如何するのですか?」

「ああ、それは・・・・「もう直ぐ来ると思いますよ」だそうだ」

「「「「「?」」」」」

 

クリムの発言に全員が疑問に思うのとほぼ同タイミングで大きな音が聞こえる。思わず全員が外に出ると秋山が叫んだ。

 

「あれは・・・・Au-124・・・・!!」

 

やって来たのは輸送機だった。ただ、蝶野教官が来た時とは違う機体だった。全員が驚く中、秋山は興奮した様子でその輸送機を見ていた。

 

「Au-124は量産された輸送機の中では世界最大の機体なんです!!圧巻ですね〜」

 

秋山がそう呟いているとAu-124は後ろのハッチを開けた。本来、Au-124は前ハッチが開く仕様なのだが、この機体は後ろが開くようになっており、空中投下に向いていた。

すると、空いたハッチの貨物室からパラシュート降下する一台の戦車が降ろされた。

 

「あれ何ー?」

「わっかんなーい!」

 

一年生チームがそう呟き、そして、戦車が着陸をすると一目散にクリム達が降ろされた戦車に向かって走っていった。そのシルエットから戦車に詳しいみほや秋山は車種をつぶやく。

 

「T-34ですか・・・・」

「T-34?」

「はい!ソ連が第二次世界大戦中に作った傑作戦車です!モスクワの守護神と言われ、走・攻・守。全てにおいてバランスの取れた素晴らしい戦車です!」

 

熱く語る秋山の解説を聞き、全員が戦車を見る。斜めに溶接された傾斜装甲と六角形の砲塔。給油口から燃料が入れられ、エンジンがかかるとT-34は動き出した。初めての運転にしては随分と慣れた運転だと思っていると不意に違和感を覚えた。

砲塔が大きいからT-34/85かと思ったが、それにしては砲塔と砲身がさらに大きい様にも感じた。

 

全員が戦車を眺めていると砲塔が後ろ向きのままクリムが顔を覗かせた。

 

 

「これが、私たちの乗るT-34/1()0()0()よ。これから宜しくね」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ルクレールでの再会です!

クリム達が戦車道部に入部し、輸送機で送られて来たのはT-34/100であった。

ここは大洗戦車道部倉庫。そこではある一人の少女が今までにないほど興奮した様子でT-34/100を見ていた。

 

「まさか、試作車両を見られるなんて・・・・!!」

「そんなに凄い戦車なの?」

 

倉庫で整備を受けている戦車を見ながら秋山は頷く。

 

「はい!このT-34/100は文字通りT-34の車体に100mm砲を乗せた車両で、試作はしましたが、反動が大きく、駆動系に異常を起こすことから廃止になってしまった幻の戦車なんです!」

「「へぇー」」

 

秋山の解説に沙織達が納得をしていると華が聞いた。

 

「では、この車両も壊れてしまうのでしょうか?」

 

その疑問に答えたのはクリムだった。

 

「そこは大丈夫。そのためにこの車両は駆動系を100mm砲に耐えられる分だけ、規定範囲内で強化してある」

「「「「クリム(殿)(さん)・・・・」」」」

「みなさん初めまして。先ほど紹介させていただいた、小野クリムと言います」

 

そう言うとクリムはみほに近づいて顔を合わせ、微笑んだ。

 

「初めましてみほさん。これから宜しくお願いしますね」

「は、はい!!」

 

改めてみるとその美しさにみほは萎縮してしまうとクリムはそのまま戦車に戻ってともみに指示を出していた。

それを見た秋山が思わず呟く。

 

「綺麗ですねぇ・・・・」

「いいなぁ、あんなに綺麗で・・・・」

「あれは素なのでしょうか?」

 

それに続く様に沙織、華も呟いた。だが、みほだけは別の方向でクリムを見ていた。

 

「(クリムさん。戦車に乗りなれている感じがする・・・・それに、指示も的確で・・・・)」

 

みほはそんなクリムを見ていると彼女は他の友人達と共に戦車に乗り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

T-34/100に乗り込んでクリム達は確認を取る。

 

「ともみ、行ける?」

「問題なーし!」

「お姉ちゃん。問題ないよ」

「こっちも問題なし・・・・と」

 

全員の確認を取るとクリムは指示を出した。

 

「よし、出してちょうだい」

「オッケー」

 

ともみがレバーを倒すと履帯が前に回転し、グラウンドに出る。

まだ、届いたばかりでロシアングリーン色のまま、なんのマークも施されていない戦車が外に出た。

今日は最初の練習ということで、全校大会までになんとか形を整えていきたいところだが・・・・

 

「いやー、これ最っ高だね!!ヒャッハー!!( ・∇・)」

 

完全にハイになっている友人がいた。いや、操縦も上手いし、天才ドライバーやん。どこぞの側溝ドリフトができそうな豆腐屋の息子くらい操縦が上手い。

急制動から加速、なんでもできた。なのてクリムはっちょっと難しい注文をともみにした。

 

「ともみ」

「ん?」

「全速力で走ってドリフトできる?」

「うーん、やり方わかる?」

「ええ、ーーーーってやるといけるわ」

 

そうして一通りやり方を教えるとともみは『やってみる』とだけ言ってレバーを動かし始めた。

 

「皆んな。つかまっておいた方がいいよ」

 

そう言うと同時に車体に強烈なGが掛かり、戦車がスリップしたように大きな土煙を上げ、停止した。

 

「ほ、本当にできちゃった・・・・」

 

リュミが唖然としながら砲手席で呟く。うん、自分もびっくりしている。幾らやり方を教えたとは言え、まさか一発でできるとは思っても見なかった。

 

「す、すっごいGがかかった・・・・」

 

装填手を行う淀が言う。こっちも久しぶりに戦車に乗ったせいか、少々疲れてしまった。

元々Tー34/85より広い砲塔を持つこの戦車は砲塔内に三人が乗り込んでいた。自分は車長と言う事で、キューポラから顔を出していた。

すると倉庫の方で驚いた様子のみほ達が呆然と立っていた。

 

 

「あはは・・・・こりゃ案外、公式戦でも何とかなるかもね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、とある大型市民会館でその公式戦のトーナメントを決める抽選会が開かれた。

 

『大洗女子学園、8番!』

 

みほが番号の書かれたくじを引くとアナウンスが入るそしてそれを聞いたサンダース大学附属高校の生徒達が喜ぶ。まぁ、無名の高校だから仕方ないか・・・・

 

「サンダースが相手か・・・・」

「それって強いの?」

 

そう問う武部に秋山が答える。

 

「優勝候補の一つです」

「えぇ〜、大丈夫?」

 

と武部が不安げにそう言う。その後ろで生徒会のメンバーは・・・・

 

「初戦から強豪ですね・・・・」

「負けられない・・・・負けてしまったら私たちは・・・・」

 

彼女達は何処か含みあるような言い方だった。市民会館の出入り口で大騒ぎしているサンダース高を見ながらクリムとリュミは呟く。

 

「敵を甘く見てはいけない」

「命取りにならないと良いけど・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抽選が終わり、二人は喫茶ルクレールという場所でノンアルクワスを飲んでいた。ここは戦車マニアにはたまらない店で、そこで休憩をしていると思わぬ来客があった。

 

「おや?クリム殿にリュミ殿ではないですか!」

「優香里か・・・・」

「おや、みんなどうしたの?」

「時間があるのでみんなでお茶をと・・・・ちょっと隣いいですか?」

「ええ、どうぞ」

 

そう言い、二人はⅣ号戦車乗員・・・・通称:あんこうチームのメンバーを座らせると全員が注文の品を決め、注文呼び出しボタンを押す。すると・・・・

 

ドォーン

 

戦車砲の音がして、店員さんがやってっ来た。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「はい。ケーキセットでチョコレートケーキ2つとイチゴタルト、レモンパイにニューヨークチーズケーキひとつづつお願いします」

「承りました。少々お待ち下さい」

 

ウェイトレスは、オーダーをとると敬礼して厨房へと行った。

 

「このボタン。主砲の音になってるんだ」

「この音は90式ですね」

 

ой、主砲の音わかるんですかい。さすがマニア・・・・

 

「流石は戦車喫茶ですね」

「あ〜この音を聞くと最早ちょっと快感の自分が怖い」

 

と五十鈴が言う様に他の席からも主砲の発射音が聞こえて来る。確かにそれも微妙に違った。顔を赤くして砲撃音に快感を抱くと言う武部。変態の片足突っ込んでいるとしか思えなかった(特大ブーメラン)。

しばらくして専用のレーンから大きなトラックのような車がケーキを運んできた。

 

「あっ!?なにこれ?」

「これ、ドラゴンワゴンですよ」

「かわいい~」

「ケーキも可愛いですね~」

 

そう言い、戦車型のケーキを各々取っていく。美味しそうだから自分も注文しようかな・・・・。

そんな事を思っているとみほが申し訳なさそうに口を開いた。

 

「ごめんね・・・・、一回戦から強いとこと当たっちゃって」

 

と、みほが申し訳なさそうに言う。 

 

「サンダース大付属ってそんなに強いんですか?」

「強いっていうかすごくリッチな学校で、戦車保有台数が全国一なんです!チーム数も一軍から三軍まであって」

「公式戦の一回戦は戦車の数は10両までって決まってるから、砲弾の総数も決まってるし」

 

そう、この大会では戦車道の数は一回~二回戦までは10両、準決勝では15両、決勝では20輌で勝敗決めは指定された相手チームのフラッグ車を先に撃破した方が勝利のフラッグ戦となっている。つまり弱小校でも強豪校相手に勝てるチャンスがあるって言うことだ。

 

「でも10両って・・・・うちの倍じゃん!それって勝てないんじゃ・・・・」

「単位は?」

「負けたらもらえないんじゃない?」

 

と、冷泉がそう言い武部がそう返すと冷泉は少し不機嫌になり手に持っていたフォークを思いっきりケーキにぶっさす。それを見て驚く他全員。

 

「それより全国大会って、テレビ中継されるんでしょ!ファンレターとか来ちゃったらどうしよ〜」

「生中継は決勝だけですよ」

「うんじゃあ、決勝に行けるようガンバロ~ほら、みほも食べて食べて!」

「あ、うん」

 

そう言い、みほがケーキを食べ始めた時。

 

「副隊長?」

 

と、誰かがみほを呼ぶ声が聞こえ、振り返るとそこにはジャーマングレーの制服を着た銀髪の少女と目のきりっとした少女がいた。

 

「・・・・お姉ちゃん」

 

と、みほがそう言うと武部たちの視線がみほの方へ向く。するとこの人が、西住流の西住まほか・・・・

 

「あ〜、"元"でしたね」

 

と、西住まほの隣の銀髪の少女は"元"と言う単語を皮肉った様に強調して言う。煽っているのか?

 

「まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

 

と西住まほはみほを見て無表情でそう言う。まほの心ない一言に秋山が立ち上がって言う。

 

「お言葉ですがあの試合のみほさんの判断は間違ってませんでした!」

「部外者は口を出さないで欲しいわね」

「・・・すいません」

 

と銀髪の少女の鋭い目つきと威圧に、秋山が臆して席に座る。芯が弱いぞ秋山。そんな事を思いつつも話を聞いていた。それに、()()()()といいのも気になった。

 

「秋山さん?」

「何ですか?」

「西住まほさんの隣の銀髪の女性は?」

「あの人は、逸見エリカ殿です。西住殿が大洗に転校した後、黒森峰の副隊長に就任した」

 

逸見エリカか・・・・こりゃいつか仲裁に入った方がいいかも知れんな・・・・。問題起こしそう・・・・

そう思ったのも束の間。エリカは問題発言をした。

 

「一回戦はサンダース大付属と当たるんでしょ?無様な戦いをして、西住流の名を汚さない事ね」

 

と、皮肉を込めた言葉をみほに言うと俺はため息をつく。すると

 

「何よその言い方!!」

「あまりにも失礼じゃ・・・・」

 

武部と五十鈴さんが立ち上がって抗議するが、エリカが冷たい目で

 

「あなた達こそ、戦車道に対して失礼じゃない?まだ無名校なのに。この大会はね、戦車道のイメージダウンになるような学校は参加しないのが暗黙のルールよ」

 

と、そう言うが、

 

「強豪校が有利になるように、示し合わせて作った暗黙のルールとやらで負けたら恥ずかしいな」

「そうなったら戦車保有制限もなくなるんじゃないかしら?」

 

と、冷泉がケーキを食べながら静かにそう反論し、リュミが皮肉を込めた言い方をした。

 

「もし、あんた達と戦ったら絶対負けないから!」

「ふっ、頑張ってね」

 

武部のいい口にそう反論し、エリカが店を出ようとした時。クリムが二人に聞こえるように呟いた。

 

 

「『死の栄ありて生の辱なし』長たる者、時には()()()も伴う事を忘れない事だ」

 

 

それはとても重くズッシリと聞こえ、まるで老練な指揮官のような言い方だった。二人は一瞬だけ止まったのち、店を後にしていた。

 

「べー!」

「嫌な感じですわ・・・」

 

武部と五十鈴は、逸見エリカに対して不快感を示した。

 

「あの、今の黒森峰は去年の準優勝校ですよ。それまでは、九連覇してて・・・」

「えっ!?そうなの!?ってかクリム、さっきなんて言ったの?」

「ん?いやぁ、ただの戯言よ。気にしなくていいわ・・・・」

 

そう言うと武部が無理やり納得した感じで悪くなった気分を晴らすために話題転換をした。

 

「じゃぁ、気を取り直してケーキもう一つ食べよ!」

「もう二つ頼んでもいいか?」

 

と冷泉は、ケーキを二つお代わりすると言い出した。それを聞いて思わず笑い声が上がってしまった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

偵察行きます!

夕刻、喫茶店であんなことがあって気分が悪くなり、リュミと共に学園艦に戻っていた。

 

「綺麗だなぁ・・・・」

 

昔じゃあ、こんなことも無かったか。二人でそう思っているとデッキに見知った人が現れた。

 

「あれ?クリムさんとリュミさん・・・・」

「ん?おお、隊長。さっきぶりだねぇ・・・・」

 

そう言って出てきたのはみほだった。おそらくはさっきの事だろうなと思いながらクリムはベンチを立ってみほに近づいた。

 

「たぶん、さっきの事でしょ?私も一応姉だから考えておることはわかるわよ?」

「・・・・」

 

沈黙は肯定。とは良く言える言葉だ。おそらくはそうだろう。だからこそ、こう言う時は優しく言うのが定石だ。

 

「あんな奴の言うことなんか間に受けなくていいのよ。所詮は戯言に過ぎないのだから」

「でも・・・・」

「・・・・貴方の過去は詳しくは聞かない。けど、あなたの思っていることは何となくわかるから。これは注意として言っておくわ」

「え?」

 

思わぬクリムの言葉にみほが驚いた表情を浮かべた。

 

「自分を蔑ろにしない。貴方がいなくなって悲しむ人は絶対にいるから。『()()()()()()』私から貴方に言えることよ」

「・・・・はい」

 

同い年なのに、経験豊富そうな言い方をするクリムにみほはちょっとだけ姉の姿を重ねてしまっていた。

するとクリムは止めていたヘアゴムを取った。するとブラウン色の背中まで伸びた長髪が風に乗って大きくたなびく。背景の夕焼けと相待ってそれは女神のように見えた。一枚の絵になりそうなその光景にみほは一瞬だけ見惚れてしまった。するとクリムは呟く。

 

「私も、昔が懐かしいわ。Tー60に乗って湖に釣りに行ったけ・・・・」

「えっ・・・・?」

 

クリムの呟きにみほが驚くとクリムは少し微笑んだ。

 

「まさか、クリムさんって・・・・」

「昔、ちょっとやってただけよ」

 

みほの憶測にクリムはこう呟き、陽が落ちて真っ暗になった海を見ていた。

 

「寒くありませんか?西住殿。クリム殿?」

 

そこに秋山がやってきて呟いた。

 

「あ、うん。大丈夫」

「ええ、大丈夫」

 

そう言うと秋山はみほの横に立って言った。

 

「全国大会、出場出来るだけで私は嬉しいです。他の学校の試合も見れますし、大切なのはベストを尽くす事です。例え負けたとしても・・・・」

 

まぁ、確かに今の大洗戦車道部はトーシローばかりの烏合の衆。優勝は絶望的に近い。

私としては怪我さえなければそれでいいと思っている。安全第一それは、()()()()でもそうだ。

何年も前に辞めてしまった戦車道を、未練があったからって戦車道を始めた事にあの人は喜んでくれているだろうか・・・・。

そんなふうに思っていると別の方から声が聞こえた。

 

「それじゃあ困るんだよね~」

「え?」

 

四人は振り返るとそこにはいつからいたのか生徒会三人組がいた。そして 

 

「絶対に勝て!我々は絶対に優勝しなければならんのだ」

「それまたどうしてですか?」

 

と、秋山が首をかしげてそう言うと

 

「そ、それがね・・・・負けたら我が校は・・・・」

「し~!!」

 

小山さんが何か言おうとしたとき角谷さんが指を立てて小山さんの言葉を遮った。

 

「角谷会長?」

「んー、何でもないよクリムちゃん、西住ちゃん。それよりも全ては西住ちゃんや()()()()()()の手にかかっているからね〜。負けたら何させようかな〜」

 

今の話全部聞いていたのかよ。そう思いつつもクリムやリュミは生徒会が確実に何かを隠していると言うことだけは理解した。

 

 

とてつもなく大きな何かを・・・・

 

 

「だ、大丈夫ですよ、西住殿!頑張りましょう!!」

 

と、秋山はみほを元気つけるようにそう言うが

 

「まだ初戦だからファイヤフライは出してこないと思う。でも逸見さんの言う通り出す可能性もあるし・・・・せめて、チームの編成がわかれば・・・・」

 

みほが不安そうにそう呟いているのを見て秋山は何か決心した顔をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。リュミはある場所に向かっていた。その場所は・・・・

 

「ここ、いつもお世話になっている所じゃん・・・・」

 

そこは床屋だった。店の扉を開けるとそこでは夫婦のような人が椅子に座って待っていた。

 

「お邪魔しまーす」

 

そう言うとパンチパーマの男性がリュミを見た。

 

「おや、リュミくんじゃないか。この前、染めたばかりじゃ無いのかい?」

「あ、いえ。今日は優香里さんに呼ばれてきたので・・・・」

 

そう言うと秋山の父親は驚いたようを見せた。

 

「こりゃ驚いた、リュミちゃん。優香里の友人だったのかい」

「はい、学校ではよくお世話になっています。それよりも優香里さんは・・・・」

「ああ、案内するよ」

 

そう言い、私は優香里さんのいる部屋まで案内された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わざわざお呼びだてして申し訳ありません」

「いいよいいよ、合法的に学校サボれるし。それに会長から許可は取ってきたし」

 

『それ良いね!』と言って簡単に公欠手続きをとってくれたあの人には感謝しかないかもしれない。その後ろで河嶋先輩がドンびいていたには見なかった事にしようと思う。

 

「じゃ、サンダース大付属の偵察はどうする?」

「これを使おうかと・・・・」

 

そう言い、優香里はコンビニ店員の制服とサンダース大付属の制服。ビデオカメラを取り出した。

 

「明日。朝に出ます」

「了解」

 

二人は確認を取ると互いに頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、早朝に由香里と合流したリュミはコンビニの制服を着用してコンビニの定期船に乗り込んでいた。目的はサンダースへの偵察である。一昨日優香里に頼まれてバックアップとしてついて来ていた。

 

「おっきいねぇ・・・・」

「さすがはお金持ち学校です!」

 

そこには大洗の二倍はあるのではないかと言う大きさの学園艦があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず秋山が小型ビデオカメラを持って中に潜入している間。リュミは学園を制服を着て木陰で本を頭に被せて寝ていた。

学園艦は常に動いているから風が吹いていて気持ち良い。ついウトウトしてしまっていると不意に声をかけられた。

 

「おや、先客がいたか・・・・」

 

そこには髪型がボーイッシュなショートで背が高く男っぽい顔立ちの女生徒だった。

リュミは平然を装って話しかける。

 

「あら、ごめんなさい」

 

そう言って場所を移動しようとしたが、その女生徒に呼び止められた。

 

「ああ、大丈夫だ。私は反対側に座るだけだ」

 

そう言い、女性とは反対側の木陰に座ると空を眺めていた。鳥が飛んでいるのを見ていると女生徒が聞いた。

 

「何故こんな所で?」

「自主的な休養」

「それはサボりじゃないか・・・・ま、私も同じようなものだが・・・・」

 

そう言うと女性とはリュミの持っていた本について聞いた。今リュミが持っている本は『愛国詩集 大詔奉戴 他十六篇』と呼ばれる、俗にいう戦争詩集である。

するとその女性とは懐かしむように呟く。

 

「その詩集を見ると思い出すよ。私の目標の人を・・・・」

「目標の人?」

 

思わず聞き返すとその女生徒は呟く。

 

「ああ、そうだ。かつて、北の極寒の地で社会人チームで組まれた戦車軍団三〇両を単機で殲滅した怪物だ」

「怪物・・・・」

「そう、その軍団を単騎で撃破した戦車に乗っていた優秀なスナイパー・・・・年間総撃破数三〇九両の記録は未だ破られていない」

「す、すごいですね・・・・」

 

リュミは驚いた表情を浮かべると女生徒は頷いた。

 

「ああ、だからつけられたあだ名は『皇帝の懐刀』。そしてその人がよく読んでいたと言う本がそれなんだ・・・・」

「格好良いですね・・・・」

「ああ、そうだな・・・・」

 

そう言うとリュミは詩集を閉じて女生徒の名前を聞いた。

 

「あの、名前は?」

「ナオミだ。君は?」

「リュミ」

「リュミか・・・・よろしくな」

 

そう言うとナオミはリュミと軽い挨拶をするとリュミはその場を後にした。

 

「じゃ、私は戻るから。またいつか」

「ああ、またな・・・・」

 

そう言い残すとリュミはその場を後にしていった。残ったナオミはどこか不思議げにリュミを見ていた。

 

「不思議な子だ。つい口走ってしまったな・・・・」

 

ナオミは見えなくなったリュミを思い出しながらそんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっぶねぇ、偵察バレたかと思った。

それに黒歴史がなんか美化され過ぎてんですけどー!!恥ずか死ー//!!

ってか、この詩集は姉が試合中に語学の勉強で読んでた日本語の単語帳なのになんか変化して美化されとるー!!

 

そんなこと思いながらぶらぶらと歩いているといつの間にか大きな倉庫に到着した事に気づいた。

 

「あれ?ここどこや・・・・?」

 

そう言い、倉庫の中を見るとそこでは多数の戦車が並ぶ光景があった。

 

「あっ。ここ戦車整備場か・・・・」

 

そこにはジャンボや無印、それにM6重戦車まであった。世の中金持ってる奴が強ぇんだな・・・・ケッ!

つくづく資本主義を見せつけられている気分でため息が出そうになると不意に声をかけられる。

 

「Hey、あなた。そこで何しているの?」

 

振り返るとそこにはウェーブの掛かった金髪の女性が居た。ヤベっと思いつつも寝ぼけた様子で返事する。

 

「ごめんなさい。ちょっと近くで寝てて道に迷っちゃいまして・・・・」

「Oh、あなた新入生?」

「あ、そうです・・・・」

 

よし、なんとかなりそうだ。いやぁ、平均からちょっと低い程度の身長でここまで感謝する日が来るとは・・・・。このまま後は秋山に全部ほっぽり投げてそそくさ逃げれば・・・・

ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘

 

「ちょっと待ってて、今からブリーフィングがあるからその後案内してあげる。ちょっとブリーフィングルームに行ってて」

 

「・・・・(オワタ\(^O^)/)」

 

あ、これあかんやつや。いや、でも待て。もしかしてこれはチャンスなのでは?相手方の陣形がわかるzoi!

 

「(ええい、ままよ!)わ、分かりました」

「あ、私はケイ。サンダース大学附属の隊長をやっているの。よろしくね」

 

あ、この人隊長なんだ・・・・って、やば!すっげえ人と出会っちゃったよ。そう思うもこちらも名乗らなければと思って名前を言う。

 

「あ、わ、私は。小野リュミです!初めましてケイさん」

「じゃあ、リュミでいいね。私はケイでいいわよ」

 

相変わらずサンダースは器が大きいと言うべきか・・・・この人と今度戦うのかぁ、と思うと気が滅入りそうだった。

そして言われるがままに案内されると私はブリーフィングルームの端でパイプ椅子に座らされた。すでに部屋には多くの人が座っていて、なかなか迫力があった。

 

「じゃ、ちょっと待ってて」

 

そう言い残してケイはスクリーン前の壇上に向かって歩いて行っていた。




ガルパンアニメ、二期とかで世界大会編とかやってくんねぇかなぁ〜。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サンダースはすごいです!

書き溜めが溜まったので、更新速度を少し早めます。


なんやかんや紆余曲折あってリュミはサンダースのブリーフィングに参加する事になった。

一応迷子という事になっているので怪しまれる事はなかった。しかし、壇上にさっき見たナオミもおり、少々萎縮してしまった。

するとブリーフィングルームの中、見慣れた後ろ姿があった。

 

「(うぉい、優香里ぃぃぃ!!)」

 

リュミは思わずそう心の中で叫んでしまった。何故そこにいるのだ秋山よ・・・・

そう思うのも束の間。ブリーフィングは順調に進んだ。

 

「(参加戦力はファイアフライ一輌、シャーマンA1 76mm砲搭載一輌、75mm砲搭載一輌・・・・これは本気の編成ですね・・・・)」

 

そう思うとケイが

 

「じゃあ、次はフラッグ車を決めるよ。OK!」

『イエェーイ!!』

 

そう言って手を上にかざす、すると観客席の生徒達もケイに合わせて手をあげて応える。

 

「随分とノリが良いなぁ」

 

とそんな事を呟くと周りの観客席から歓声が上がって来た。

 

「フラッグ車が決まった様です」

 

と秋山は言うと再びビデオカメラを壇上の方に向ける。

 

「何か質問は?」

「はい!小隊編成はどうしますか?」

 

とナオミがそう言うと秋山が手を挙げて小隊編成について質問する。すると、ケイは笑い。

 

「お〜いい質問ね。今回は完全な二個小隊が組めないから三輌で一小隊の一個中隊にするわ!」

「フラッグ車のディフェンスは?」

「ナッシング!」

「・・・・マジかよ」

 

なんとフラッグ車に護衛を付けないと言う。大会規定では、例え全滅しなくてもこのフラッグ車さえ叩いてしまえば勝利だ。数に限りのあるチームにとって全車両相手にして殲滅するよりこのフラッグ車を狙えば数が少なくても有利に事が運ぶのだ。

 

「敵には三突がいると思うんですけど?」

「大丈夫!一輌でも全滅させられるわ!」

 

ケイがそう言うと観客席の生徒達はお〜と声を上げる。そうしているとナオミとツインテールの子の顔が険しくなった。

 

「・・・・見慣れない顔ね」

「え!?」

 

あ〜まずい。非常にまずい、逃げるか何かしないとしばかれるぞ!

 

「所属と階級は?」

 

と、一気に観客の注目を浴びてしまった。あぁ、終わった。

 

「え!?あ、あの第六機甲師団オッドボール三等軍曹であります!」

「ブッ!」

 

そういうとケイさんは笑い、ナオミやツインテールの子も笑ってしまいそうであった。

咄嗟に私は優香里に持っていた携帯ライトで発光信号を出す。

 

ニ・ゲ・ロ

 

それを見たと同時、秋山が駆け足して逃げ出した。

 

「あっ!逃げた!追いなさい!」

 

ツインテールの子がそういうもケイさんがそれをやめさせる。それから会場は少し騒がしくなっていた。

 

「(そろそろズラかるか・・・・)」

 

リュミは潮時だと判断し、大荒れのブリーフィングルームを人知れず逃げ出したのだった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?あの子は?」

 

ブリーフィングが終わり、ケイはある人物がいない事に疑問に思う。その後ろでナオミが問いかける。

 

「どうした?」

「ん?いやぁ、さっき迷子になってた新入生を案内しようと思ってたんだけど・・・・」

「迷子か・・・・」

 

まぁ、ここは広いから迷子もあるか・・・・

ナオミはそう思っているとケイの呟きに耳を傾けた。

 

「リュミ、どこ行ったのかしら?」

「リュミ?」

 

もしかして、と思いその子の特徴を聞くとケイが振り返る。

 

「あ、もしかしてナオミ知っている?」

「・・・・ああ、多分。昼に会った子だ」

「あっ、なるほど・・・・って言っても自分で帰っちゃったかな・・・・」

「そうじゃないのか?」

「うーん。まぁ、そうだろうね・・・・」

 

ケイは自分で納得をするととりあえず考えることをやめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼェ・・・・ゼェ・・・・死ぬかと思った・・・・」

 

同じ頃、校門を一目散に飛び出してコンビニ船に逃げ込んだリュミと秋山は肩で息をしていた。

 

「全く、こんな疲れるなんて・・・・というかオットボール軍曹って何よ」

「いや、咄嗟というかなんというか・・・・というかリュミ殿はなんであそこに?」

「迷子と称して色々紆余曲折あってああなった」

「ひ、人のこと言えなくないですか・・・・?」

 

そんなこと言い合いながら二人は収集したデータを編集していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋山達がサンダースを逃げ出した頃、大洗ではクリム達は下校途中だった。

 

「秋山さん達、結局練習来なかったね。リュミさんも来ませんでしたし・・・・」

「メールは?」

「帰って・・・・来てないね」

「全然、電話掛けても二人共圏外だし、クリムは何かしらない?」

「うーん、なんか出かけてくるって言って今日は来ないって聞いてたけど・・・・」

「お出かけかー。どこ行ったんだろう・・・・?」

 

少し悩んだのち、クリム達は秋山の実家の『秋山理髪店』へとやって来た。

 

「あれ?秋山さん家、床屋さんだったんだ」

 

武部がそう言って、みんなが店の中に入って行く。中に入ると椅子に座って新聞を読む秋山父と側の椅子に座っている秋山母がいた。

 

「いらしゃいませ」

「すみません。あの、優花里さんは居ますか?」

「あんた達は?」

「友達です」

「友達・・・・と、と、友達ぃい!?」

 

武部が友達だと言うと父親は、慌てて椅子から立ち上がる。

 

「お父さん落ち着いて!」

「だってお前!優花里の友達だぞ!リュミちゃん以外の友人が・・・・!!」

「わかってますよ。いつも優花里がお世話になってます」

「お、お世話になっております」

 

母親が父親を落ち着くように言うとみほ達に、頭を下げ、父親は土下座をする。あまりの光景にみほ達は、唖然としてしまう。

 

「あ、あの・・・」

「優花里、朝早くうちを出てまだ学校から帰ってないんですよ。どうぞ二階へ」

 

と秋山の母は、にっこりと笑いみほ達を秋山の部屋に案内する。部屋に通されると部屋には戦車のグッズが並んでおりみほ達は、目移りしていた。

 

「どうぞ、食べて頂戴」

「あの〜良かったら待っている間に散髪しましょうか?」

「お父さんはいいから!」

「・・・はい」

 

秋山の母がお菓子を持って来て、父親は、ハサミと櫛を持て秋人と同じ様に客引きしようとするも母に咎められしょんぼりしながら出て行く。

 

「すみません、優花里のお友達がうちに来たのなんて昨日のリュミさん以外初めてなもんで、何しろずっと戦車、戦車で気の合うお友達が中々出来なかったみたいで、戦車道のお友達が出来て随分喜んでいたんですよ。じゃあ、ごゆっくり」

 

と秋山の母は、部屋から退室して行った。

 

「いいご両親ですね」

「ってかリュミもここに来てたんだ」

「いったい何をしているのかしら・・・・」

 

みんながそういう中、冷泉は秋山の机に置かれた家族写真を見て複雑な顔を顔をするのだった。すると突然部屋の窓が開いたするとそこからコンビニの制服姿の秋山が入って来た。

 

「ゆかりん!?」

「あれ?皆さんどうしたんですか?」

「秋山さんこそ・・・」

「連絡がないので心配して」

「すみません、電源を切ってました」

「つか!なんで玄関から入って来ないのよ!」

「こんな格好だと父が心配すると思って」

「「「「ああ〜」」」」

 

なんか納得できると思っていると襖が開いてリュミが入ってきた。

 

「あれ?姉ちゃん?」

「二人して何やってたのよ・・・・」

「もう二度とごめんなやつ」

「「「「「は?」」」」」

「はい、実は皆さんに是非見て頂きたい物があるんです!」

 

と秋山は、ポケットからUSBメモリーを取り出して、テレビに繋げサンダースで撮った映像を再生する。

そこではテロップや音楽と共に映像が動き、ブリーフィングでの映像で、自分が逃げろと発光信号を送ったところで映像が切れた。

 

「なんと言う無茶を・・・」

「頑張りました!」

「いいの?こんな事して?」

「試合前の偵察行為は承認されています」

 

秋山はそういうとUSBをみほに渡した。

 

「西住殿、オフラインレベルの仮編集ですが、参考になさって下さい」

「ありがとう。秋山さんのおかげでフラッグ車も分かったし、頑張って戦術立ててみる!!」

 

みほは、そう言ってUSBメモリーを受け取る。そして・・・・

 

「こんのバカ妹がぁー!なぁにやってんだぁ!!」

「ひゃー、いひゃいいひゃい!やめひぇ、ねえヒャン!!」

 

そこでは頬をつねって叱るクリムと泣いているリュミの姿があった。結構怒っているようだった。そんな二人を横目にみほ達は話し続けた。

 

「でも、ゆかりんよかった~」

「怪我はないか?」

 

みんなが心配そうにそう言うと

 

「・・・・・・心配していただいて恐縮です。わざわざ家にまで来てもらって・・・・」

「いいえ、おかげで秋山さんのお部屋も見れましたし」

「あの、部屋に来てくれたのはみなさんが初めてです、私ずっと戦車が友達だったんで・・・・」

 

と、秋山がそう言うと高部はいつの間にか秋山のアルバムを見て

 

「本当だ、アルバムの中ほとんど戦車の写真」

「ん?どれどれ?」

 

俺は武部の見ているアルバムを見る。するとその写真には秋山には似合わないパンチパーマの髪型をした秋山が写っていた

 

「「なんでパンチパーマ?」」

「くせ毛が嫌だったのと、父がしてるのを見てかっこいい! と思って、中学からはパーマ禁止だったんでもとに戻したんですけど」

「いや、友達が出来なかったの戦車の所為じゃなくてこの髪型の所為じゃ・・・・」

「え?」

 

沙織のガチトーンでされた指摘に目を丸くする秋山。すると、冷泉がコホンと咳をした。

 

「ま、なんにせよ、一回戦を突破せねば」

「頑張りましょう!」

「一番頑張んないといけないのは麻子でしょ?」

「なんで?」

「明日から、朝練始まるよ」

「・・・・・・・・・え?」

 

武部の言葉を聞いて冷泉は固まったのであった。その後ろで双子姉妹のお叱りは続いたままであった。




正直Tー34が画期的すぎてミハイル・コーシュキン未来人説を推したい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

南の島に行きます!

ブォォォォォンン!!

 

大きな土煙を上げながらT-34/100が走り回る。

その車内では楽しそうな会話が聞こえていた。

 

「イエーイ!」

「ちょっと!飛ばし過ぎないでよ!!」

「大丈夫大丈夫!」

 

運転席からともみの陽気な声が聞こえ、リュミが注意をする。すると、クリムから指示が入った。

 

「停止!目標発見。距離300 方位40」

 

ブレーキを踏んで車両が勢いよく停止する。スコープからリュミが森の中を隠れているM3リーを見つけた。

 

「見つけた・・・・」

「撃て!」

 

ドォォン!!

 

リュミが引き金を引くと砲弾はM3リーの車体側面に命中し、車体全体に青色のペイントがぶち撒けられる。

今使っているのは演習用のペイント弾。値段も連盟公認のものより安く、演習にはもってこいのものだ。

 

連盟の砲弾は薄い錫を使った柔らかい砲弾だ。当たっても中が空洞のこの砲弾は装甲で潰れて、装甲で内部に影響はないように設計されている。昔は更に柔らかい鉛が使われていたらしいが、健康被害の問題から次に柔らかい錫が使われるようになった。

判定装置もカーボン装甲と本来の装甲板の間に貼り付けた電気センサーに錫の砲弾が当たり、それが割れることで判定される。白旗はジャイロ装置で常に上方向の旗が出るようになっている。そして、今回はペイント砲弾を使用した練習試合だった。

 

試合が終わると通信が入った。

 

『試合終了〜、ハチドリチームの勝利〜』

 

杏会長と声が聞こえ、試合が終わった。

ハチドリチームというのは彼方のT-34/100を指すチーム名だった。理由は長い100mm砲の砲身が長いくちばしのように見え、駆動系をいじったせいで、エンジンの音が蜂の飛ぶ音に似ているかららしい。

 

「じゃ、牽引お願いね〜」

「了解です」

 

そう言うとクリムは撃破したM3戦車にロープを繋げて牽引する。元々ガス欠で動けなくなったM3戦車を運ぶのが本来の予定だったがついでに訓練をしていた。

 

「引っ張るよー」

「「「「「はーい!」」」」」

 

ハッチから一年生が顔を出して頷いた。今の所、タイマンの練習試合で負けなし。Ⅳ号戦車チームとは相打ちという形で終わった。

あと一週間でいよいよ第一回試合が始まる。相手はあのサンダースだ。物量に物を合わせて無理やり押してくることも考えた方がいいだろう。

何より、相手にはファイアフライがいる。あれの相手はウチらで何とかしないといけない。クリムはそんなことを考えていた。

ちなみに、今までずっとAチームBチームなど言っていたが分かりずらいと言うことでそれぞれに動物のマークとチーム名が与えられた。

 

Ⅳ号戦車Aチームはあんこうチーム

バレー部八九式中戦車Bチームはアヒルさんチーム

歴女達三号突撃砲Cチームはカバさんチーム

一年生達M3リー中戦車Dチームはウサギさんチーム

生徒会38t戦車Eチームはカメさんチーム

ウチらT-34/100はハチドリさんチーム

 

因みに、おかしすぎた塗装は今はちゃんと迷彩色に塗り直されている。

それと、全国大会に出ると言うことで全員にパンツァージャケットが配られ、私達も大洗のパンツァージャケットを着ていた。

 

「お姉ちゃん。似合ってあるよ」

「ありがとう」

 

そう言うとリュミが持って来ていた肩掛けカバンからある帽子を渡した。見た目はウシャンカを合わせた見た目をした草色の軍帽で、赤い線と星のエンブレムが特徴的だった。

 

「これは・・・・」

「お姉ちゃんが全力を出せる様に持って来た」

 

そう言うともう一個の帽子を取り出し、それをかぶっていた。

それを見た私は小さく笑うと同じ様に帽子を被った。

 

「うん、やっぱり似合ってる」

「リュミもよ。一緒に頑張ろうね」

 

二人はお互いに笑みを浮かべてそう話すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の試合会場は南の島。熱中症には気をつけないと・・・・

金属の箱の様な車内は確実に地獄になる上にT-34は結構密閉されていることから多めにポ○リを戦車に運んでいると私は声をかけられた。

 

「あれ?リュミ?」

「?」

 

そこには秋山の映像に載っていたサンダースの隊長。ケイだった。その横にはナオミという少女ともう一人、ツインテールの少女が立っていた。

 

「あのーどちら様で?」

 

名前を知りつつも『あぁ、リュミが面倒やったか?』なんて思いながら聞くとケイが言う。

 

「え?貴方、リュミじゃないの?」

「リュミは双子の妹です。私は姉のクリムと言います」

「Oh、ごめんなさいね。双子だったなんて・・・・」

 

そう言うと遠くからクリムと同じ声がした。その方を見るとクリムと同じ髪型を持ち、両手にメロンソーダとコーラを持ってやってくるリュミの姿があった。

 

「お姉ちゃん買って来た・・・・」

 

やって来たリュミだったが、ケイ達を見るとゲッとした表情をした。

ケイはそんなリュミを見て思わずクリムと交互に見る。

 

「は、本当に双子なのね・・・・」

 

興味深そうに見ているとツインテールの少女が言った。

 

「と言うか貴方もスパイだったの・・・・!?」

 

そう言われ、クリムがリュミに視線を合わせる。

 

「(何をやった・・・・?)」

「(えっと・・・・試合後に話します・・・・ユルシテ)」

 

そう言い、クリムはとりあえず何があったのかを頭の片隅に置くとクリムはケイに聞いた。

 

「それで。私たちに何のご用でしょうか?」

「ん?ああ、ちょっとそちらの会長を食事に誘おうと思ってね。どこにいるか分かる?」

「ああ、それくらいでしたらちょっと待っててください・・・・」

 

そう言い、クリムは携帯で会長を呼び出すと数分後に杏会長がやって来た。

 

「ヘイ、アンジー!」

 

とケイが手を振りながら角谷たちの方にやって来た。

 

「角谷杏だから、アンジー?」

「さあ?」

「やあ、やあケイ。お招きどうも」

 

と角谷とケイは握手をして軽い挨拶をする。と言うか会長、あんたいつからケイと仲良しになってんや?

 

「何でも好きな物食べってて。OK!」

「オーケーオーケー、おケイだけに」

「アハハハ!ナイスジョーク!」

 

と角谷がドヤ顔で駄洒落を言い、ケイは腹を抑えながら笑った。面白いか?すると、ケイが向こうを歩く人に気づいて声をかけた。

 

「HEY!オットボール三等軍曹!」

 

オットボール三等軍曹・・・・そう、秋山である。

声をかけられた秋山を怒られるのかとビクビクしながら近づいて来た。

 

「この間大丈夫だった?」

「え?はい・・・」

「また、いつでも遊びに来て!ウチは、いつだってオープンだからね!」

 

そう言うと、ケイはリュミを見た。するとリュミは申し訳なさそうにケイに言う。

 

「ごめんなさい。ブリーフィングに入ってしまって・・・・それに黙っていて・・・・」

「大丈夫!うちはいつでもウェルカムだからね!それに、迷子だったのは本当でしょう?」

 

おい、偵察行って迷子とか冗談だろう?

と思ってクリムはリュミを見ると俯いていた。まじかよ・・・・

驚愕するクリムにケイが陽気に言う。

 

「お互いフェアでいきましょう。じゃ!」

 

そう言ってケイは笑いながら去って行った。まぁ、それがケイのいい所なのかも知らない。

 

「よかった」

「隊長は、良い人そうだね」

「フレンドリーね」

 

と皆は、取り敢えず試合が始まるまでサンダースの屋台で食事を楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダースの屋台で一通り食べ物を堪能した自分たちは倉庫で最終整備をしている乗機を見る。その横で一年生、うさぎさんチームが

 

「あっ!砲弾忘れてた!」

「それ一番大切じゃん!」

「ごめ〜ん」

 

と砲弾を忘れた事に笑い合っていた。気が締まらん・・・・

そう思っていると先に乗っていたともみがハッチから顔を出した。

 

「あ、おかえりー。どうだった相手は?」

「金の暴力にさらされた・・・・」

「実際はバーガー食べまくってた」

「ええ〜、いいなぁ〜」

「大丈夫、ちゃんとともみの分もあるよ」

「わぁ!やった〜!」

 

と言うか直前まで戦車に慣れるって言ってここに残ったのはどこのドイツだい。と言いたかったが、通常運転のともみでもあるのでやれやれと言った様子だ。

 

「あれ?淀は?」

「あそこで荷物運んでる。中は飲み物食べ物だらけだよ・・・・」

「それで良いの。『腹が減っては戦はできぬ』」

「まぁ、そうなんだけどね〜」

「おーい、クリム。リュミ。荷物は全部積み込んだぞ」

「ありがとう」

「じゃ、行こうか」

 

そう言い、二人は戦車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、サンダース格納庫ではナオミがファイアフライに乗ってさっきのリュミを思い出していた。

 

「(リュミの手には豆の跡があった・・・・あそこは戦車の引き金で、当たる場所だ・・・・)」

 

ナオミはリュミの右手の豆跡があった事を思い出すと思わず自分の手を見る。

 

「(同じ場所の豆跡・・・・戦車道をやっていなければ出来ない跡だ。それに長い事戦車道をやっていないと出来ない・・・・。まさかな・・・・)」

 

ナオミはまだ名も知らぬ弱小高校にそんな人がいるはずが無い。気のせいだろうと片付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、やろうかね」

「ワクワクするぅ!!」

「ちゃんとお姉ちゃんの指示は聞いてよ」

「わーかってるって!」

 

大洗側の開始地点でともみとリュミがため息を吐く。

 

「肩はあったまって来たぞ。問題ない」

「頼むわよ。淀」

「了解」

 

私と淀も同じ様に確認を取ると隊長のみほから通信が入る。

 

『説明した通り、相手のフラッグ車を戦闘不能にした方が勝ちです。サンダース付属の戦車はハチドリさんチーム以外では火力で負けています。ですが、落ち着いて戦いましょう。機動性を活かして常に動き続け敵を分散させて三突若しくはT-34の前におびき出してください』

『『『『『はい!』』』』』

 

他のメンバーが頷くとジープに乗って会長が戻って来た。いよいよ試合開始だ。

 

「さぁ、始めるわよ。Вы готовы?(準備はいい?)

 

「「「Да!!」」」

 

試合開始の花火が打ち上がる。

 

Танки вперед!(戦車前進!)

 




ここ最近。元総理が銃撃されたり、現職総理に爆弾投げられたり・・・・
なんだか、物騒になっちゃいましたね・・・・
おまけにこう言うのって簡単に作れるから怖い・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一回戦です!

ついに始まった一回戦。モニターで見ている観客達は喝采をあげる。その様子を丘から黒森峰の制服を着た二人の少女、黒森峰隊長の西住まほと副隊長の逸見エリカがモニターを見ていた。

 

「始まりましたね」

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、サンダースは・・・・

 

「前進!前進!ガンッガン行くよ!」

 

とケイ達サンダースのシャーマン軍団は荒野地帯を進んで行く。一方の大洗チームは、試合開始後すぐさま森の中へと入って行く。

 

「ウサギさんチーム右方向の偵察をお願いします!アヒルさんチームは、左方向を!」

 

『了解しました』

『此方も了解!』

 

とみほは、一年生とバレー部チームを左右するに偵察に向かう様に指示し、

 

「カバさんとハチドリさんと我々あんこうはカメさんを守りつつ前進します!」

『了解』

「あのチーム名は、何とかならんかったか?」

「いいじゃん可愛くて」

 

と河嶋はチーム名に不満を漏らすが角谷がフォローする。

 

「パンツァーフォー!」

 

みほの号令と共にM3と八九式が左右に分かれて偵察に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右方向に偵察に向かうウサギさんチームのM3は森の中を前進していた。

 

「ムシムシするぅ〜」

「暑い〜」

「静かに!」

 

と宇津木優季と阪口桂利奈とそう愚痴る。まぁ、愚痴るのも仕方がない試合会場は南方の島気温湿度共に高く戦車の中は、サウナの様に暑いだろう。すると、M3の車長の澤梓がそう言うとM3を停車させるとキューポラから顔を出して双眼鏡で辺りを見回すと森の向こうの丘から三両のシャーマンが現れ、直様無線で連絡をする。

 

「此方、B085S地点シャーマン三両発見!これから誘き出します!」

 

そう言ってM3は、シャーマンを誘い出そうと動き出そうとしたその時、M3の側に砲弾が着弾した。澤は、砲弾が飛んで来た方向を見ると、新たに三両のシャーマンが現れた。

 

「シャーマン六両に包囲されちゃいました!」

 

澤は、直ぐにみほに無線で連絡をする。

 

『ウサギさんチーム、南西から援軍を送ります!アヒルさんチーム、ハチドリさんチームついて来て下さい!』

「はい!」

 

澤は、直ぐにM3を発進させてその場から退却した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・おかしい」

「そうだね。まるで初めからわかっているみたいに動いてる・・・・」

 

クリムは手元にホワイトボードを持ち、磁石を戦車に見立てて戦況を眺めていた。砲手のリュミも同じ様に頷き、疑問に思っていた。

 

「いくら斥候とはいえ、すぐに包囲できるのはおかし過ぎる・・・・」

 

クリムは一考した後、指示を出した。

 

「ともみ。急いで救援に行って。うさぎさんチームが危ないわ」

「了解、かっ飛ばすよー!」

 

ともみはそう言うとアクセルを思い切り踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、全力でシャーマン六両から逃げているウサギさんチームは37mm回転砲塔をシャーマンに向け旋回させる。

 

「ちょっと着いてこないでよー!」

「エッチ!」

「ストーカー!」

「これでも喰らえ!」

 

車内で悲鳴をあげながも副砲塔を旋回させ迫って来るシャーマンに向けて37mm砲を放つも、砲弾は命中せずシャーマンから大きく逸れた。

 

「アハハハハハ!全然当たらないよ!」

 

と先陣を切るシャーマンに乗るケイは笑いながらそう言う。そして、お返しと言わんばかりに六両のシャーマンは、M3に一斉に砲撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、陸の上で見ていた。聖グロリアーナ女学園のダージリンとオレンジペコは

 

「さすがはサンダース、数にものを言わせた戦い方をしていますね」

 

と、ペコが真剣な顔でそう言うと紅茶を飲んでいたダージリンが

 

「ペコ。こんなジョークを知っていて?アメリカ大統領が自慢したそうよ、我が国には何でもあるって、そうしたら、外国の記者が質問したんですって」

「・・・・なんて質問したのですか?」

「ええ、その記者はこう言ったのよ。・・・・・『地獄のホットラインもですか?』ってね」 

「はい・・・・?」

 

オレンジペコの疑問をよそにダージリンは優雅に紅茶を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方シャーマンから執拗に追われているウサギさんチームでは、

 

「頑張って!」

「やれば出来る子だよ桂里奈ちゃん!」

「あぃー!」

 

操縦手の桂里奈をあゆみと優季が励まし、反撃しながら逃走する。

 

『三両囲まれた!』

「北東から六両、南南西から三両。一〇両中九両か・・・・フラッグ以外全投入か・・・・」

 

敵さん物量に物言わせての包囲殲滅。さすがは金持ち。聞けばM3は停車することもままならないと言う。

 

『もうすぐうさぎさんチームと合流します!合流した後は南東に向かってください!』

「了解した。ともみ南東方向に」

「了解!」

「リュミ、お願い」

「わかった」

 

そう言い、進路を南東に向けて走った。そしてしばらくすると正面にうさぎさんチームのM3の姿が見える。向こうもそれに気づいた様だ。

 

「あ!居た先輩!」

「はい、落ち着いて!」

 

何とか逃げて来たウサギさんチームと合流し、南東に向かって走っている時前方から二両のシャーマンが現れた。

 

『回り込んで来た!!』

『どうする!?』

『撃っちゃう?』

 

八九式の磯部典子と一年生驚きながらそう言う。だが、ここで下手に攻撃しても砲弾が命中する確率は低くそれでは、砲弾の無駄遣いだ。うちの戦車も砲身が長く、左右に降れない。ならば、

 

「冗談じゃない・・・・このまま全速力で走り抜けて!!」

「りょ、了解!!」

「他のみんなも全速で走り抜けろ!!」

『まじですか!?』

『了解です! リベロ並みのフットワークで・・・・!!』

 

それを聞いた坂口は驚きの声をあげたがアヒルさんチーム操縦手の河西は覚悟を決めたのか冷静にそう言う。

 

「機銃、出鱈目でいい。撃てるだけ撃って!」

「了解!」

 

そう言うと砲塔と車体のDT機銃が火を吹く。そこで、相手が怯んだところを一気に走り抜け、包囲網を突破した。

 

「ふぅ・・・・何とかなったね・・・・」

「ええ、だけど可笑しいわ」

「そうね、あまりも動きが早すぎる。まるで情報が漏れているみたいに・・・・」

 

淀の呟きで全員がハッとなり、クリムが砲塔の上に乗って上空を見回す。

するとそこには小さな気球が浮かんでいた。

 

「サンダースも悪いこと考えてる・・・・リュミ。公式戦のルールブックある?」

「あるよー、ちょっと待ってねー」

 

そう言い、リュミがルールブックを探す間にクリムは携帯を取り出す。

 

「たしか、試合中に携帯使えたはず・・・・」

 

そう呟きながらクリムはみほに電話をする。

 

「あ、隊長?ちょっと良いかしら?」

『何ですか?』

「サンダースが何で動きが早いかわかった。空を見たら傍受機が上がってる。ちょっと作戦会議をしたいから集まりたいのだけど・・・・」

『あっ、分かりました』

 

そう言うと横を走っていたみほと私は茂みの中に車体を隠し、合流をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに、ルールブックには傍受機を打ち上げちゃいけないなんて書いてないですね」

 

秋山は、戦車道の公式戦のルールブックの項目を見てそう言う。確かにルール違反ではない。無いのだが・・・・

 

「ひどーい!いくらお金があるからって!」

「抗議しましょ!」

 

腹を立てた武部と五十鈴が声を上げる。まぁ、気持ちはわかる。と言うか、このルールブック。結構抜け穴あるから色々できるな・・・・。

 

「まぁ、そのまま聞かせてあげればいいわ」

「なっ!」

「どうしてですか!?」

「クリム、どうして?!」

 

二両の乗員から驚きの声が出る。しかし、クリムは悪い笑みを浮かべて言った。

 

「『罠は罠だと気づかないから罠になる』そうでしょう?」

 

そう言うとクリムはみほを見た。みほは頷くと沙織を見て聞いた。

 

「携帯にみんなのアドレス入っている?」

「・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダースフラッグ車のM4A1シャーマン中戦車の車長アリサが無線傍受機のチャンネルを回して、大洗の通信を拾った。

 

『全車、0985の道路を南進、ジャンクションまで移動して!敵はジャンクションを北上してくる筈なので、通り過ぎたところを左右から包囲!』

 

その無線内容を聞いてアリサはにやりと笑う。

 

「ふふ・・・・無線傍受されているのに気がづかないなんて・・・・この試合やっぱり私たちの勝ちね」

 

と、余裕たっぷりの顔でそう言うと無線を取り隊長者であるケイのシャーマンに無線を入れた。

 

「隊長。敵はジャンクション、左右に伏せてるわね・・・・囮を北上させて!本隊はその左右から包囲させてください」

『OK、OK!でもアリサ、なんでそんな事まで分かっちゃうの?』

「・・・・女の勘と言うヤツです」

『アハハハハッ!それは頼もしいわね!』

 

と、アリサが無線傍受をしていることにも気づかず笑い声でそう答えるケイ。そしてケイはアリサが言った地点へ戦車を向かわせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、小高い丘の上でクリムは丸太を括り付けられた八九式を見ていた。

 

「北から三輌、南から四輌、そして西から二輌か・・・・見事に釣れたわね」

「じゃあ、始める?」

「ええ」

 

それと同時にみほの通信が入った。

 

『囲まれた!全車後退!』

 

それと同時に八九式が丸太を引いて走り出す。煙が上がり、そこに大洗の車両があると誤認して二両のシャーマンが釣られた。

 

「さ、私たちも始まるわよ」

 

そう言い、クリムは車両に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見つかった!みんなバラバラになって退避!38tは、C1024R地点に隠れてください!』

 

一方、みほの通信を傍受しているアリサは、内容を聞くとニヤリとほくそ笑み

 

「38t、敵のフラッグ車・・・・貰った!チャーリー、ドック、C1024R地点に急行!見つけ次第攻撃!」

『はい!』

 

とアリサの指示を受けて、他のシャーマンの車長が返事を返す。そして、指示を受けた場所に到着したシャーマン2両は砲塔を旋回させてフラッグ車の38tを探す。すると、シャーマンの砲手が茂みで何かを見つけた。

スコープでよく見るとそれは、お目当ての38tではなくカバさんチームの三号突撃砲の75mm砲口がこちらに狙いを定めていたのだ。

 

「Jesus!?」

「撃てぇぇぇい!!」

 

エルヴィン、車長の二人が同時に叫ぶ。それと同時に三突の75mm砲が火を吹き、シャーマン一両を撃破した。それを見たチャーリーが無線を取り

 

『こちら、チャーリー!ド、ドッグチームが敵の奇襲によって撃破されました!』

「ええっ!?」

「何!?」

「ホワーイ!?」

 

全員が驚く。そう、無線傍受を利用して欺瞞情報を流したのだ。本当の情報は沙織がメールで送っていた。

 

「急いで逃げろ!!」

 

その直後、車体全体を激しい衝撃が襲い、白旗が上がった。

何が起こったのかと思い、チャーリーの車長は辺りを見回すと遠く離れた森の奥で砲身を覗かせる戦車を見た。

 

「T-34・・・・」

 

そして、その戦車の名を呟くのであった・・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反撃です!

「大洗女子が二両撃破!?」 

「その様ね」

 

モニターで観戦していた黒森峰は、逸見エリカは大洗の二両撃破に唖然として、西住まほは、淡々としていた。

 

「(しかし、今の砲撃は距離が離れていた・・・・みほ以外に戦車道経験者が居たのか・・・・?)」

 

まほは、その狙撃を成功させたT-34/100を見ながらそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

その頃、シャーマン二両を撃破した事に秋山達は興奮していた。

 

「西住殿、クリム殿、やりましたね!!」

「まさかわたくし達が先に相手を出来はできるなんて」

「うまく行ったけど、これはフラッグ戦。相手のフラッグ車を見つけないと勝ちは来ないわよ」

 

そう、だから相手のフラッグ車を探す必要がある。だからそこ次の作戦に入る必要があった。

 

「じゃ、こっちは攪乱と陽動をするから。あとは任せたよー」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫、逃げるのは得意だから。じゃ、また後で試合中に会えたら」

 

そう言い残すとクリムのT-34/100はどこかに向けて走り出して行った。

 

「本当に大丈夫でしょうか?」

「助けになくていいの?」

 

秋山と沙織が疑問に思う。しかしみほはクリムの自信ある眼差しに何もいえなかった。それに・・・・

 

「(何処かで見覚えがある様な・・・・)」

 

みほはどこか引っかかる気持ちを抱きながら戦車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗が次の作戦を開始しようとしている頃、竹林の中にシャーマン一両が止まっておりその中ではアリサがこりもせずに未だ無線傍受をしていた。

 

「良い気になるなよ・・・」

 

アリサは、そう言いながら傍受機のダイヤルを回していく。そして、またみほの受信を傍受して聞き耳を立てる。

 

『全車、128高地に集合して下さい。ファイアフライが居る限りこちらに勝ち目はありません。危険ではありますが128高地に陣取って上からファイアフライを一気に叩きます!』

「ク・・・ク、ク、ク、アハハハ!!捨て身の作戦に出たわね!!でも丘に上がったら良い標的になるだけよ」

 

とみほの無線を聞くとアリサは、突然高笑いをして同車しているシャーマンの乗員が驚く。もはや気が狂っている様にも聞こえた。そして、アリサは直ぐにケイに連絡する。

 

「128高地に向かって下さい!」

「どう言うこと?」

「敵の全車両が集まる模様です」

「ちょっとアリサ、それ本当!?どうして分かっちゃうわけ?」

 

とアリサは、ケイに128高地に向かう様進言するが、ケイは勘と言っても余りにも具体的過ぎる内容にケイはアリサに疑いの声を掛ける。

 

「私の情報は確実です!」

 

と自信満々に言うアリサにケイは目を見開くそして、

 

「OK!全車、Go ahead!」

 

そう言ってケイは通信で他のシャーマンに128高地に向かう様に指示する。サンダースのシャーマン軍団はケイの乗るシャーマンを先頭に128高地へと向かって草原を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おそらくフラッグ車はここかここ、それからここの筈」

 

みほは地図を見ながらそう言う。そして、秋山は、箱乗りになりながら双眼鏡で辺りを見回す。

 

「まだ視認出来ません」

 

するとメールが入った。『敵を確認。これより交戦す』それはハチドリさんチームからだった。

 

「あ、ハチドリさんチームからだ。これから交戦するって」

 

沙織の報告に全員が気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、クリム達ハチドリさんチームは128高地少し手前の茂みで停車した。

 

「リュミ、本隊と交戦する。撃破数は最小で攪乱優先。ともみは本隊の合間を縫ってフィールドの端まで走って」

「「了解!」」

「淀、装填早めで」

「任されて。三秒でやってやるわ」

 

そう言うとエンジン音が聞こえ、本隊が到着したことを伝えた。

 

「さぁ、始めるわよ」

「メールも送ったしね」

 

そう言うと共にともみがアクセル全開でレバーを前に倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサの指示通りに高地に入ったケイ達だったが・・・・

 

『・・・・・・・何もないよー!!』

 

そうケイは叫ぶ。そうその地点には何もなくもぬけの殻であった。それを聞いたアリサは

 

「そ、そんなはずはありません!!」

 

と動揺した声でそう答える。すると通信機に砲撃音と混乱する声が広がる。

 

『砲撃?!やられました!』

『気をつけて!狙撃よ!』

『敵発見!T-34/85!』

『追いかけ・・・・きゃあ!』

『どうしたの?!』

『転輪がやられました!申し訳ありません!』

『わぁっ!つ、突っ込んできた!!』

『お、追いかけろ!逃すな!!』

『CQ!CQ!追いかけるわよ。ナオミ、ついて来て!』

『イエス、マム』

 

最後にナオミの通信があってその後は切れた。一体何が起こったのか?

 

「一体何が・・・・と言うか大洗の戦車はどこに・・・・」

 

アリサは混乱していると急に履帯の音がし始める。アリサはその音を聞いてあたりを見渡すとすぐ目の前にあった竹柵が倒れそこから八九式中戦車が現れる。

 

「・・・・・・・え?」

「・・・・・・・・あ」

 

突然の事に両者は固まる。そして、そのまま時間が停止したかの様、二人は見つめ合った。すると、磯部が八九式の砲塔を軽く叩き、

 

「右に転換!急げぇー!!」

 

と叫んで八九式を急発進させる。それを見たアリサは、すぐに我に帰り、指示を出す。

 

「蹂躙してやりなさい!!」

『連絡しますか?』

「するまでも無いわ!!撃てぇ!撃てぇー!!」

 

M4A1の砲塔を旋回させ八九式に砲身を向けて発砲するも、急いで旋回させた為、照準が定まっていなかったので砲弾は逸れた。直後、磯部は直接無線を入れる。

 

『此方アヒルさんチーム敵フラッグ車0765地点にて発見しました!!でも、此方も見つかりました!』

「0765地点ですね!逃げ回って敵を引き付けて下さい!0615地点へ全車両前進!!武部さんメールをお願いします!」

「分かった!」

 

みほがそう言って武部は相手に無線傍受されない為に携帯のメールでチーム全員と連絡とを取る。

 

アヒルさんチームは相手のフラッグ車をキルポイントである0615地点へと誘導する。そんな言を知らずにアリサたちはアヒルさんチームを発砲しながら追いかける。するとそこへ磯部さんが発煙筒を手に取るとそれを上にあげると得意のサーブを繰り出す。そして発煙筒はM4戦車の目の前で炸裂し、辺りが真っ白になる。それでも発砲するが煙幕のせいで八九式には当たらなかった。それを見たアリサはイラついていた。

 

「何をやっている相手はあの八九式軽戦車だぞ!」

「あ、あの・・・八九式は軽戦車じゃなくて中戦車では?」

「そんなことはどうでもいいわよ!早く撃ち倒しなさい!!」

「で、ですがアリサさん。煙幕のせいで視界が!」

「良いから撃て!」

 

アリサが放った砲撃は八九式にも届いていた。

 

「キャプテン!激しいスパイクの連続です!」

 

磯部に発煙筒を投げ渡しながら、あけびは言うと磯部は

 

「相手のスパイクを絶対に受けないで!逆リベロよ!」

「・・・・意味が分かりません」

 

磯部の言葉にあけびは苦笑してそう言うのであった。一方、八九式を追いかけているM4戦車の車内では・・・・

 

「装填まだなの?早くしなさい!」

 

と、アリサがイラつきながら足踏みをし装填手の子にそう言うと、装填手の子はしゃがんでいて

 

「すみません。砲弾が遠くて・・・・」

 

と、装填手の子がそう言う。砲弾は無線傍受機を取り付けたために砲塔内が狭くなり下の方へ置いてあるのだ。

 

「機銃があるでしょ。それで撃ちなさい。」

「えぇ!機銃で撃つなんてかっこ悪いじゃないですか!?」

「戦いにカッコ良いも悪いもあるか!手段を選ぶな!」

 

そうアリサが怒鳴ると砲手の子は渋々砲塔についている機銃を撃ち始めるのであった。しかし機銃弾は八九式の装甲は貫けず弾きされる。そんな中、八九式はキルゾーンである0615地点につく。それを0615地点に待機して双眼鏡でその様子を見たみほは

 

「八九式来ました突撃します!但し、カメさんはウサギさんとカバさんで守ってください!ハチドリさんチームは撤退を開始してください!」

 

そう言うとIV号戦車を動かし、移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほのメールを受け取ったクリムは追いかけて砲撃をしてくる本隊を確認する。

 

「時間か・・・・ともみ。お願い」

「りよー、かい!」

 

そう言うと同時にともみはスイッチを入れ、煙幕を焚くとレバーを引いた。するとT-34は急停車し、後退する。煙幕の中、クリムはハッチから煙幕の中を走ってくるM4の集団の影を確認し、微調整をすると真横を戦車が何両も通り過ぎていった。

 

「『三六計逃げるにしかず』、そそくさ逃げるよ」

 

そう言い残すとTー34/100は来た道を戻って消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙幕が晴れるとTー34/100の姿は消えていた。

 

「Oh、何処にいったのかしら・・・・?まるで忍者ね」

 

ケイはそう呟き、追撃を指示しようとした時、ナオミが話しかける。

 

『ケイ、何かおかしい』

「?」

『あのTー34以外、他の大洗の戦車を見かけない。それにこのまままっすぐいくと会場の端だ』

「じゃあ、何処にいったの?」

『私たちの誘引するのが目的じゃ無いか?それに、Tー34は途中にいた気がする』

「え?何処に?」

『煙幕の中、横で影が見えた気がする』

「それって・・・・」

 

するとアリサから無線が入った。

 

『大洗女子残り全車両此方に向かってきます!!』

 

アリサは慌てて無線でケイに連絡する。

 

「ちょっとちょっと、話が違うじゃ無い!?何で?」

『はい、恐らく無線傍受を逆手に取られたのかと』

 

アリサは恐る恐る言うとケイは無線機越しに怒鳴った。

 

 

「バァッカモーン!!」

 

 

と、某七人家族と猫一匹の家の父親のように怒鳴ったケイ。それに身を震わせるアリサ。

 

『申し訳ありません・・・』

「戦いはフェアプレイでって、いつも言ってるでしょ!」

 

とケイがアリサを怒鳴り付け、アリサは縮こまった声で謝る。ケイが叱る中、無線では砲撃音が響く。

 

「とにかく。さっさと逃げなさい!Hurry up!!」

『い、Yes,ma'am!!』

 

そう言いアリサは徹底的に逃げるよう、指示を出す。ケイは、アリサの無線傍受の件に呆れて溜息をついた。

 

「う〜ん・・・無線傍受しておいて全車両で反撃ってのもアンフェアね。こっちも同じ数で行こうか」

「敵は6両、4両だけ私に付いて来て。ナオミ、出番よ」

『Yes,ma'am』

 

ナオミが頷くとケイ達は一斉に大洗の戦車のいる場所まで走り始めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鬼ごっこです!

アリサが追いかけられ、ケイ達が救援に向かっている間。小高い丘の上では・・・・

 

「はい。まさかこんなことになるなんて。これはある意味、予想外の展開ですねダージリン様?」

「ええ、そうねペコ。ふふ・・・・それにしてもまるで鬼ごっこね・・・・でもこれが勝負の面白い所ね」

 

と、紅茶を飲み微笑むダージリン。そしてまた別の場所では・・・・

 

「アッハハハハハハッ!新鮮で良いわ!こんな追いかけっこは初めて見るわね!」

 

と、戦車道大会運営会場の広場で日本陸上自衛隊最新鋭戦車10式戦車のキューボラの上で胡座をかいて座る蝶野が、豪快に笑いながら言った。

そして、森を走るTー34/100を見て少し考え事をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、大洗本隊に追われるサンダースフラッグ車であるM4A1の車内では・・・・・

 

「こ、このタフなシャーマンがやられる訳がないわ!」

 

と激しい砲撃音と揺れの中アリサがそう言い

 

「な、何せ!5万輌も造られたと言う大ベストセラーよ!丈夫で壊れにくいし、おまけに居住性も高い!馬鹿でも扱える程操縦が簡単で、馬鹿でも分かるマニュアル付きよ!そして戦後でも使い続けられてきたまさに名戦車なのよ!!」

 

と、完全にパ二クッてなぜだか自分の乗る戦車のプロフィールをしゃべり始める。確かにM4は戦後しばらく使われた戦車だが、今は試合とはなんも関係ない

 

「お言葉ですがそれ自慢になっていません!!」

「うるさいわよ!」

 

と、砲手の子がそう突っ込むがアリサが怒鳴り返し、そして装填手の子に装填を急がせるように言う。そしてアリサはスコープで追いかけてくる大洗の戦車を睨み

 

「なんで私たちがあんなド素人集団に追いかけられなければならないのよ!其所、右!私達の学校は、アンタ達のような連中とは格が違うのよ!撃てぇ!!」

 

と、そう指示しM4から砲弾が放たれるがあっさりと躱されてしまう。それを見たアリサは

 

「なんなのよ、あの戦車!的にすらならないじゃない!当たればイチコロなのに!修正、右に3度!!それと装填急いで!!」

 

と、砲手の子に指示し装填手の子は何やら落ち込みため息をつきながら砲弾を取る。

 

「ホントに何なのよあの子達は!?こんな場所にノコノコやって来て、どうせ直ぐ廃校になる癖に!さっさと潰れちゃえば良いのよ!」

 

と、まるで子供みたいに喚き散らすアリサに車内の乗員は深いため息をするのであった。そしてアリサの乗るシャーマンを追いかけるみほたちは、M4A1の砲塔のハッチから、アリサが自分達に向かって何かを叫んでいるのを見ていた。

 

「何か喚きながら逃げてます?」

「沙織さん。ハチドリさんチームは今何処ですか?」

「最短距離で隠れながら走ってるって。敵一両やったってさ」

「分かりました」

 

そう言うと無線機に手を当てた。

 

「敵フラッグ車との距離、徐々に縮まっています!現在の距離は、約600メートルです!60秒後、順次発砲を許可します!前方に上り坂。迂回しながら目標に接近してください」

 

そう言うと返事が聞こえ、全車がM4に狙いを定めて撃ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、アリサの方はと言うと・・・・

 

「なんでタカシはあの子が好きなの?どうして私の気持ちに、気づかないのよぉーっ!!」

 

と、完全に精神崩壊を起こし、試合とは関係のないことを口走っていた。そして車内でも乗員たちは最早諦めムードとなっていた。すると、その時試合会場である野原に激しい砲撃音が鳴り響いた。それはアリサたちを追いかけている大洗の車両の砲撃音ではない。

 

「この音・・・・・・もしかして」

「はい、ファイアフライの17ポンド砲の音です!」

 

秋山の言葉にみほは頷きキューポラから顔を出して、小高い丘の上で砲口から白煙を上げているファイアフライと、此方に向かってくる5輌のシャーマンの姿があった。

シャーマンファイアフライはM4中戦車にイギリス製オードナンスQF17ポンド砲を搭載した改良型だ。その高い貫徹力から大戦中、戦車の中にファイアフライがいると分かると真っ先にドイツ軍から狙われてしまう程だった。なお、大戦中は砲弾の質などから威力はあるが遠距離狙撃には向かなかったそうだ。

 

「なんかやばい音だったけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫、距離は約5000メートル。ファイアフライの有効射程は3000メートル、まだ余裕があります!」

 

と、みんなにそう無線で言う。しかし今回ばかりは相手が悪かっただろう。これから苦戦することとなった。

そして味方が到着したことを知ったアリサは

 

「来たぁぁぁぁーーーーッ!!!」

 

と、歓喜の声をあげそして今まで落ち込んでいた砲手や装填手の子たちとハイタッチをする。そして

 

「よおぉーし!!こうなったら百倍返しで反撃よ!!」

 

味方の到着によりアリサたちは元気を取り戻し大洗へ砲撃を始める。そして後ろではサンダース本隊も砲撃し挟まれた状態になっていた。

 

「どうする?みぽりん!」

 

武部が声を上げるとみほは他のチームへと指示を飛ばした。

 

「ウサギさんとアヒルさんチームは、カメさんを守りながら後方の相手をお願いします!我々あんこうとカバさんでフラッグ車を狙います!」

 

その指示を受け、カメさんチームの38tを中心とし他の4両が守る輪形陣の形となる

 

「今度は逃げないから!」

「「「「「うん!」」」」」

 

M3車長の梓が言うと、他のメンバーも一斉に返事を返す。そして三突ことカバさんチームでは

 

「この戦いは、まるでアラスの戦いに似ている!」

「いやいや、甲州勝沼の戦いだろう」

「いや、天王寺の戦いで決まりだな」

「「「それだぁッ!!」」」

 

と歴史上有名な戦いをたとえ話をしている。そしてフラッグ車である38tことカメさんチームでは

 

「ここで負けるわけにはいかんのだ!」

 

と、砲手の河嶋さんがそう言い発砲するが砲弾は大きくそれて着弾する

 

「モモちゃん・・・当たってないよ」

「うるさい!!」

 

小山さんが苦笑してそう突っ込むが河嶋さんはそう言う。そして角谷さんは

 

「いや~壮絶な撃ち合いだね~」

 

と、干し芋を頬張りながら呑気にそう言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やばいよ、もう本隊と合流しちゃっったって!」

 

森の中をクリム率いるハチドリさんチームが駆ける。沙織からのメールを見てともみが言う。

 

「まずいな・・・・ともみ。あとどのくらいで着く?」

「あと数分・・・・さっきの砲撃でちょっと駆動系がイカれてる!!」

「強化しても抑えきれなかったか・・・・ともみ、最終的には壊れてもいいから飛ばして!」

「わ、分かった!!」

 

クリムはハッチから顔を覗かせると森の外を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、観戦席では・・・・

 

「ねえ、ペコ知っているかしら?サンドイッチはね、パンよりもキュウリの方が美味しいの」

「はい?それはどういう意味ですか?」

「挟まれている方が、良い味出すのよ。それにまだ彼女たちは終わっていないわ。彼女ならきっとこのピンチを乗り切ることが出来ますわ。それに・・・・」

「それに・・・・?」

「いえ、何でもまいわ」

 

ダージリンはそう言うと紅茶を飲みながら森の中を進むTー34/100を思い出していた。

 

「(まだ憶測ですから、迂闊なことは言わない方がよさそうね・・・・)」

 

そう思い、誰が乗っているのかわからない戦車を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃てぇーッ!」

「「「アタック!!」」」

 

とアヒルさんチームの八九式が砲塔を後ろに旋回させて追って来るシャーマンに向けて砲撃した直後

 

「「「「きゃぁああああーっ!!」」」」

 

八九式の後部にファイアフライの放った17ポンド砲弾が命中 エンジンから黒煙を上げて徐々にスピードを落として行き最終的に岩に衝突し停車する。

 

「あっ!?」

 

みほが気付いた時には時既に遅く八九式から白旗が上がっていた。

 

「アヒルチーム怪我人は!?」

 

『『『『大丈夫です!!』』』』

 

『すみません、戦闘不能です!』

 

と通信から皆無事な事が確認されて安堵するも、それも一瞬の束の間だった。ファイアフライの砲手ナオミが次の標的をウサギさんチームのM3中戦車に合わせる。ナオミは、表情を変える事なくガムを噛みながらスコープを覗いて照準を八九式と同じくM3中戦車のエンジン部分に狙いを定め狙いをつけるとナオミは引き金を引いて砲弾を発射する。放たれた砲弾はナオミの狙い通りM3のエンジンに命中して大きな爆発を起こしM3はスピードを落として行きM3は、砲弾で出来た穴に嵌った。

 

『すみません、鼻が長いのにやられました!』

「ファイアフライです・・・・」

「M3も・・・・」

 

二両もファイアフライの餌食に成り、残るは四両。

段々と戦況はサンダースが有利になり始めていた。そんな中アリサは、

 

「ほ〜ら見なさい!あんた達なんか蟻よ蟻!!呆気なく象に踏み潰されるねぇ!!所詮蟻が像に敵うわけないのよ!!そもそも無名校が私達サンダースに挑む事自体間違っているのよ!!」

 

とアリサは味方が助けに来たからってすっかり調子に乗ってそう言う。そして、大洗の皆はこの状況に諦めの雰囲気が漂っていた。カバさんチームでは、

 

「弁慶の立ち往生の様だ・・・」

「最早これまで・・・」

「蟻の巣に、されてボコボコ、さようなら」

「辞世の句を読むな!!」

 

すっかり諦めのムードが広がっていた。フラッグ車の38tの車内では、

 

「もう終わりだ・・・・」

 

と河嶋が絶望した表情そう言う。38t以外にも、

 

『ダメェーッ!!近づいて来た!!』

『追いつかれるぞ!』

『ダメだぁ!!やられたぁー!!』

 

と各車から通信で諦めの声が響き渡りチームの士気が落ちて行く。

 

「(どうすれば・・・・)」

 

その時だった。追いかけてくるシャーマンの最後尾の車両が突如としてエンジンを撃ち抜かれ停止し、白旗が上がった。

 

「えっ!?」

「ホワイ!?」

 

何が起こったのかわからなかった。するとまた砲声が聞こえ、最後尾から二番目の車両の前装甲を弾いた。みほはその事に呆然としていた。

 

「い、一体何が・・・・」

「ど、何処から・・・・!?」

 

秋山が言うと蜂の飛ぶ音のようなエンジン音が聞こえ、森から一両の戦車が飛び出してきた。

 

『ごめーん、遅くなった!!』

 

聞き慣れた声と共にクリムの乗るTー34/100がシャーマン戦車の後方から現れた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初の勝利です!

wotbのイベントキチィ・・・・ダメージ稼げねぇぇ・・・・


『ごめーん、遅くなっちゃった』

 

森からクリムの乗るTー34/100が森から飛び出す。場所はシャーマン軍団の後ろ。みほ達からも良く見える位置にいた。

 

「クリムさん!!」

『そっちは大丈夫?』

「あ、はい!」

『よし、じゃあ指示をちょうだい。誰を狙えばいい?』

「え?」

『何、諦めた声出しているのよ。まだ試合中よ?』

「え?で、ですが今の状況では・・・・」

『いい?戦いごとは何でもねちっこい方が勝つのよ。それに行進間射撃なんて最近の戦車しかできないんだからジグザグに動けばいい。ほら、有名でしょ?『諦めたらそこで負けだ』って』

 

そう言われてみほは一瞬だけ思った。クリムはそこでもう一押しと言わんばかりに話しかける。

 

『貴方には貴方の戦い方がある。十人十色、みんな違うのは当たり前。貴方は隊長なの。指揮官が弱気を見せちゃダメよ?』

 

ロンメルの言葉を借りてクリムが言う。みほはクリムの話を聞いて覚悟を決めて無線機に手を当てた。

 

「(そうだね・・・・諦めたらそこで終わり)・・・・みなさん落ち着いてください!」

 

と、みほが無線でそう言うと先ほどまでうろたえていた二両の乗員は驚き、そしてみほは言う。

 

「落ち着いて・・・・攻撃を続けて下さい!敵も走りながら撃ってきますから、当たる確率は低いです!今はフラッグ車を叩く事だけに専念します!!今がチャンスなんです!当てさえすれば勝つんです、諦めたら・・・・負けなんです!!」

 

みほがみんなに言うとそれを聞いたみんなは、

 

「諦めたら・・・・」

「負け・・・・」

 

みほの言葉にエルヴィンは帽子を深くかぶり小山さんは自信を取り戻したのかそう呟くのだが・・・・

 

「いや、もうダメだよ柚子ちゃ~ん!!」

「モモちゃん。大丈夫、大丈夫だから・・・・・」 

 

と、河嶋さんはいまだに泣きわめき、小山さんと角谷さんは泣いている河嶋さんをなだめる。そしてⅣ号では・・・・

 

「・・・・西住殿の、言う通りですね!」

 

「そうですね。確かに西住さんの言う通りです。諦めたら負けなんですね!」

 

と、秋山と五十鈴がそう言い

 

「そうだよね・・・・諦めたら負けなんだよね・・・華!撃って撃って撃ちまくって!!下手な鉄砲数撃ちゃあたるって!恋愛だってそうだもん!!」

 

と、武部が自信を持っていうが

 

「いいえ、一発でいいはずです」

「・・・・え?」

 

と、五十鈴さんの冷静なつっこみに武部は首をかしげる。すると五十鈴さんが覗いていた砲の照準器に小高い丘が見える。それを見た五十鈴さんが

 

「冷泉さん。丘の上へ」

 

と冷泉にそう言い五十鈴さんは顔をみほに向ける。

 

「上から狙います」

 

五十鈴さんの言葉にみほは頷きそしてその丘を見た。

 

「丘からの稜線射撃は危険だけど有利に立てる。賭けてみましょう」

「はい」

「じゃあ、行くぞ」

 

そう言い冷泉はⅣ号の速度を上げてほかの皆がフラッグ車を追いかける中、丘に登る。それを見たケイは無線機を取った。

 

「上から来るよアリサ」

 

とケイにそう言われたアリサは驚き、ナオミはえっと言う表情を浮かべる。普通であればここはナオミが狙うと思っていたからだ。するとケイは言う。

 

「ウチらが追撃中に後ろからあのTー34から撃たれる可能性がある。貴方はTー34の相手をお願い」

『Yes ma'am』

 

そう言いナオミは照準をTー34/100に合わせる。ケイは他の車両に38tを追わせるよう指示をし、ファイアフライは単独で行動に出た。

みほのⅣ号は丘上を登って行った。

 

「なるほど、上から砲撃か・・・・」

「お姉ちゃん。シャーマン狙う?」

「ええ・・・・(おかしい、ファイアフライがいない・・・・?)っ!停車!」

 

Tー34が停車すると目の前を砲弾が掠めて行った。砲声のした方を見るとそこにはファイアフライが砲口をこっちに見せていた。

 

「なるほど・・・・勝負か・・・・面白い、受けて立とう。リュミ!」

「オッケー。淀、徹甲弾装填」

「了解!」

「100mmなら何処でも抜ける・・・・!!」

「ともみ!」

「まだ駆動系は問題ないよ!」

「よし・・・・行くわよ!」

 

同じ頃、ファイアフライでは・・・・

 

「あの砲塔に長砲身・・・・やはりTー34/100か・・・・」

 

ナオミは対峙する戦車を見て呟く。追撃中に違和感を感じたが、やはりあの戦車はTー34/85ではなく、もっと火力が上のTー34/100だ。

だが、元はTー34。17ポンド砲なら何処でも抜ける。

 

「勝負は一発のみ・・・・!!」

 

ナオミはそう言うと引き金を引いた。それと同時に相手も発砲。黒煙と土煙が立つ。煙が晴れると白旗が上がったのはナオミの乗るファイアフライだった。クリム達の乗るTー34/100は車体右側面に弾痕が出来上がっているだけだった。

 

「撃ったと同時に車体を回転させて傾斜をキツくさせたのか・・・・」

 

やられた。だが、その表情は満足げなようにも見えていた・・・・。それと同時に放送が鳴り響く。

 

『大洗女子学園の勝利!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラグ車を狙おうと丘の頂上に登っていたみほ達Ⅳ号に、ケイのM4A3シャーマンが狙いを付けて発射する。それに気付いたみほは、

 

「停車!!」

 

とみほの指示でⅣ号は急停車してスライドし、放ったらった砲弾はⅣ号の側に着弾した。砲弾が着弾すると直ぐ様Ⅳ号を発進させる。

 

「シャーマンが次の弾を撃ってくるまでが勝負!」

「分かりました」

 

とみほの指示に五十鈴はそう言い、Ⅳ号が丘の頂上に辿り着くとⅣ号は、砲塔を旋回や車体をさせてM4M1に照準を合わせようとする。そうしている間にもシャーマンはⅣ号の後ろから迫って来ていた。

 

「花を生ける時の様に集中して・・・」

 

と五十鈴は、そう呟きながらスコープを覗いて照準をフラグ車のM4A1に狙いを定める。

 

「装填完了しました」

「OK」

 

シャーマンが砲弾の装填を完了してⅣ号にトドメを刺しにかかる。

 

「華さんお願い・・・」

 

とみほは小声で念じるように言う。

 

「発射」「ファイヤー!」

 

を合図にⅣ号とシャーマンの砲手が引き金を引き砲弾が発射され、Ⅳ号の放たれた砲弾はフラグ車のM4A1のエンジン部分に命中し爆発した。そして、M4A3シャーマンから放たれた砲弾がⅣ号のエンジンに被弾した。

その後は時が止まったように静かになり、アリサの乗るM4A1から白旗が上がった。

 

『大洗女子学園の勝利!!』

 

アナウンスと共に観客席から歓声が飛び交った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一同、礼!」

『『『『『『『『ありがとうございました!!』』』』』』』』

 

と、試合が終わり大洗、サンダースの戦車道チームは、互いに並んで礼を交わす。その次の瞬間には、観客席から盛大な拍手が上がる。

 

「すごい拍手・・・・・」

「うん。私もこんなにすごい拍手初めてだわ」

 

と、ともみや淀がそう呟く中、みほたちも

 

「す、凄い拍手ですね・・・・・」

「勝った〜」

 

と五十鈴さんがそう呟き武部は嬉しそうに背伸びをしてそう言う。そして秋山が

 

「シャーマン相手に勝てるなんて、夢のようです〜」

 

と、うれし泣きをしていた。まあ、気持ちはわかる。そんな中、みほはクリムを探していた。

するとクリムは挨拶の後、自分の戦車に背を預けて帽子を深く被っていた。

 

「あ、あの。クリムさん!」

 

そう声をかけるとクリムはみほをみた。

 

「あの、さっきは有難うございました」

「?」

「クリムさんが励ましてくれたから。勝てたんです。ありがとうございます!」

 

そう言うとクリムはみほの肩を持って言った。

 

「私は戯言を言っただけよ。今回勝てたのは君が他のメンバーを鼓舞して団結させたから。フラッグ車を倒したのは貴方達あんこうチーム。それは紛れもない事実よ。だからそれは胸を張って誇るといいわ」

「・・・・はい!」

 

クリムはみほと話していると、

 

「ヘイ!リュミ!」

 

そこにケイさんが手を振ってやってきた。あぁ、また妹と間違えてる・・・・

 

「ケイさん。私はクリムです。リュミならアソコですよ」

「ゲッ」

 

そう言い、戦車の影で隠れていたリュミを指差す。ふふっ、この姉から隠れようなんで百年早いわ!!

 

「Oh、双子だから分かんないわね。ごめんなさいね」

「いいえ、いつもの事です」

 

そう言うとケイさんはみほを見て聞いた。

 

「貴女が大洗のキャプテン?」

「え?あ、はい!」

「名前は?」

「に、西住みほです!」

 

そう言うとケイはいきなりみほに抱きついた。

 

「エキサイティング!!こんな試合が出来るとは思わなかったわ!!」

「はわわわっ!?」

 

ケイはみほを抱きつくとついでと言わんばかりに私にも抱きついた。うげ、くるちぃ・・・・

そしてケイが話すとみほがハッと我に帰って聞いていた。

 

「あ、あの・・・・」

「なに?」

「あ、あの・・・・何で六輌残っていたのに五輌で来たんですか?」

「貴女達と同じ車両数だけ使ったの」

「どうして?」

 

みほが理由を聞くと、ケイは微笑み腕を広げて高らかに言った。

 

「戦車道、これは戦争じゃない!道を外れたら戦車が泣くでしょ?」

 

そうケイが戦車道について徳とみほは、嬉しそうな顔をする。すると、ケイの顔がばつが悪そうになる。

 

「無線傍受で盗み聴きなんて、つまんない事して悪かったわね」

 

とそう言ってケイは、後頭部を掻きながら無線傍受の件について謝罪する。

 

「いえ、もし全車両で来られたら間違いなく私達が負けてました」

 

そう言ってみほが謙遜するとケイが手を差し出して来た。

 

「でも、勝ったのは貴女達」

「ありがとうございます!!」

 

ケイが差し出した右手をみほはとって、左手でクリムの手を取っていた。

 

「それにしても、まさかナオミがやられるとは思わなかったわ」

「偶々ですよ」

「クリム、謙遜しすぎると嫌われるわよ?ナオミも再戦したがっていたわ。その時はお願いね?」

「ええ、こちらこそ」

 

そう言うとケイは手を振りながら歩いていた。

 

「またね、大洗のキャプテン。クリム!」

 

そう言うとケイはサンダースの仲間の元へと帰って行った。そして、ケイは待たせているアリサの肩に手を置き『反省会』と言うとアリサの表情は青ざめていた。

 

「まあ、自業自得だアリサ・・・・」

 

と呆れたように溜め息をつきながら彼女の頭をポンポンっと励ますかのように叩くのであった。するとアリサはナオミの手に持っていたあるものに疑問を持った。それは、何かの金属片のようだった。

 

「ナオミ、それは?」

「あぁ、これか?憧れの人から貰った物だ」

「憧れって・・・・いつも言ってる『皇帝の懐刀』?」

「ああ、来ていたみたいだ・・・・」

「えっ!?」

 

アリサは少し驚いた様子を見せたが、ナオミはそんな声も聞こえていなかった。

 

「(まさかあんなに近くにいたとは・・・・)」

 

そう思い、戦車の後ろで隠れていた小さな狙撃手を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュミ」

 

ナオミは戦車の後ろで何かしていたリュミに声をかけた。

 

「っ!なんだ、びっくりしたナオミさんだったか・・・・さっきはすごかったね」

「いや、私の負けだ。君を倒せなかったのだ「そんな事ないよ」・・・・?」

 

リュミが話を遮るとリュミはナオミの手を取ってある物を渡した。それは何かの金属片だった。色を見るにこの戦車の装甲片だろうか。

 

「貴方は私達の乗る戦車に()()()()()。だからこれ、渡しておく」

「・・・・」

 

思わず呆然としているとナオミはそこで気づいた。リュミのブラウンヘアの根本。うっすらと見えるそこには()()()()()()()()()の髪が見えていた。

それを見たナオミは思わずリュミを見る。すると彼女は今までに無いほど落ち着いた目で彼女を見ていた。

 

 

 

 

そこでナオミは気づいた。そして戦慄した。

 

 

 

 

「まさか・・・・君は・・・・」

「ふふっ!みんなには内緒よ?すごく良かったわ」

「あ、あぁ・・・・」

 

ナオミにとってその装甲片はそんな宝物よりも美しく見えた。リュミは最後にこう言い残す。

 

「今度は遠距離同士で撃ち合ってみましょう。それまでに私も腕を上げて楽しみにしているから」

 

そう言い残すとリュミは去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(また、いつか戦おう・・・・小野リュミ・・・・。いや、リュミドラ・オノ・オスキン・・・・)」

 

 

彼女は心の中で更なる鍛錬を心に決めるのだった。




作者、コロナで陽性になりました・・・・(遅いわ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お見舞いです!

試合が終わり、夕刻。

私たちは引き上げていくシャーマンを見ていた。

 

「さあて、此方も引き上げるよ!記念にパフェでも食べに行く?」

「行く」

「じゃあ、私たちもいいかしら?」

「いいよ!」

 

と武部がそう言い、冷泉は即答する。クリム達がお願いし、武部は快く頷いた。すると、にゃーにゃーと携帯の着信音が鳴っていた。

 

「麻子鳴ってるよ携帯?」

 

武部にそう言われて冷泉は携帯を取る。

 

「誰?」

「知らない番号だ」

 

と冷泉は、自分も知らない番号だと言って通話ボタンを押す。

 

「はい・・・・えっ?・・・・はい」

 

すると、突然冷泉の顔色が変わって動揺し始める。そして、冷泉が電話を切ると武部が聞いた。

 

「どうしたの?」

「いや・・・なんでもない」

 

と冷泉は、そう言うが手が震えていて手に持っていた携帯を落とした。明らかにただ事ではない。

 

「何でも無いわけないでしょ!」

「取り敢えず話して」

 

と武部とリュミが心配そうに冷泉に問いただす。冷泉は、悲しそうな顔でポツリと

 

「おばあが倒れて・・・・病院に・・・・」

「「「「「!?」」」」」

 

その言葉に皆驚き緊張が走る。

 

「麻子大丈夫!?」

「早く病院へ!」

「でも、大洗までどうやって・・・・」

「学園艦に寄港してもらうしか・・・・」

「撤収まで時間が掛かります」

 

とみんながどうにかして冷泉を大洗の病院まで連れて行こうと話し合っていると冷泉がローファーと靴下を脱ぎ始めたので、みほ達が必死に止める。

 

「麻子さん!?」

「何やってるのよ麻子!?」

「泳いで行く!!」

「バカ言うな!ここから何キロ離れていると思っている!?」

「クリムさん。止めないで。私は、行かないといけない!」

 

クリムは麻子を羽交締めにしていると背後から声がした。

 

「私達が乗って来たヘリを使って」

 

声がした方を振り返るとそこには、黒森峰の隊長西住まほと副隊長の逸見エリカがいた。

 

「急いで!」

「隊長!こんな子達にヘリを貸すなんて!?」

「これも戦車道よ」

 

ヘリを貸す事に反論を唱えるエリカをまほは、一言で黙られる。そして、一同がヘリポートに向かうとヘリポートでは黒森峰が所有するフォッケ・アハゲリスFa223 ドラッヘがあり、操縦席に座るエリカよって、離陸準備に入っていた。

 

「操縦頼んだわね」

『はい・・・』

「早く乗って!」

「私も行く!」

 

まほが急ぐ様に言うと冷泉は、Fa223に乗り込むと、武部も冷泉が心配なのか付き添いで乗り込む。そして、Fa223は離陸して行った。それを見届けたまほは、無言のまま立ち去ろうとする。

 

「お姉ちゃん、ありがとう・・・」

 

とみほは、まほとすれ違い様にお礼を言う。

 

「・・・・これも戦車道だ」

 

まほはそう言い、みほを見ていた。そんなまほを見てクリムは色々と感じるものがあった。

 

「(優しい姉の様ね・・・・ただ、妹への接し方が下手くそな印象・・・・)」

 

そう思うとまほは一瞬だけ私を見てどこかに去って行き、私たちは飛んでいくドラッヘが見えなくなるまで見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、私たちはとある大きな病院を歩いていた。目的は冷泉のおばあさんのお見舞いだ。私たちは武部はのメールで教えてもらった1029号室の扉に手をかけた時、

 

『もういいから帰りな!!』

「「「「っ!?」」」」

 

ドアの向こう病室から怒号が聞こえて来た。あまりの剣幕にみほ達は気圧される。

 

『いつまでも病人扱いするんじゃないよ!あたしの事はいいから学校行きな!遅刻なんかしたら許さないよ!!』

 

ドア越しなのに病室前の廊下まで聞こえてくる声。

 

『なんだいその顔?人の話ちゃんと聞いてのかい!全くお前はいつも返事も愛想も無さ過ぎなんだよ!!』

『そんなに怒鳴ると血圧が上がる・・・・』

 

と怒号の中から今度は冷泉の声が聞こえて来た。

 

「・・・・帰ります」

 

と病室の前で立ち尽くしていると秋山が提案して来た。君って案外小心やな・・・・。

 

「いえ、折角来たんですから、ここは突撃です」

「五十鈴殿って結構肝座ってますよね」

 

と秋山が五十鈴の度胸に感心した様に言い、五十鈴が病室のドアを開けて入室した。

 

「失礼します」

「あ、華!」

「失礼します」

「みぽりんにゆかりんもそれにクリム達も入って入って」

 

と病室には、あの時冷泉と一緒に同行した武部もおり、みほ達を病室に招き入れる。病室のベッドには見るからに気難しそうな冷泉のお婆さんが

 

「なんだい?あんた達?」

「戦車道を一緒にやっている友達」

「戦車道?あんたがかい?」

「うん」

 

と冷泉がそう言い、冷泉が戦車道をしている事に意外そうに尋ねて来て冷泉は、頷いて肯定する。

 

「あ、西住みほです」

「五十鈴華です」

「秋山優花里です」

「小野クリムです」

「小野リュミです」

 

それぞれ自己紹介をする。何か一瞬お婆さんから睨まれた感じがした。すると、

 

「私達、全国大会の一回戦勝ったんだよ!」

「一回戦くらい勝ってなくてどうするんだい」

 

と武部が一回戦の勝利を自慢げに言うが、冷泉のお婆さんは呆れ気味に反論する。

 

「で、戦車さん達がどうしたんだい?」

「試合が終わった後、おばあが倒れたって連絡が、それで心配してお見舞いに・・・・」

「あたしじゃなくてあんたを心配してくれたんだろ!!」

「・・・・わかってる」

「ちゃんとお礼言いな」

 

とお婆さんに言われた冷泉、成る程冷泉さんがああも律儀なのもお婆さんの影響なのか。冷泉は、恥ずかしいのか少し顔を赤くして、

 

「・・・・わざわざありがとう」

「少しは愛想良く言えないのか!!」

「・・・・ありがとう」

「さっきと同じだよ!!」

「だから怒鳴ったらまた血圧上がるから・・・・」

 

とお婆さんにみんなに礼を言う様言い冷泉がみんなにお礼を言うが言い方がお気に召さなかったのかお婆さんに一喝される、今のが冷泉なりの精一杯の愛想なんだろう。

 

「お婆ちゃん、今朝まで意識が無かったんだけど、目が覚めるなりこれなんだもん」

 

と武部がそう言う、あの調子なら大丈夫だろう。

 

「寝てなんかいられないよ!明日には、退院するからね!!」

「いやだから、まだ無理だって」

「何言ってんだい!!こんな所で寝てなんていられないだよ!!」

「おばあ、みんなの前だからそれ位に・・・・」

 

確かに、あれだと血圧が上昇するだろうな、それなのに明日退院すると息巻くお婆さん。そんな冷泉とお婆さんのやり取りを見て、みんな微笑ましそうに見ていた。

 

「あの、花瓶あります?」

「ないけど、ナースセンターで借りられると思うよ?行こ」

「はい」

 

そう言って、武部と五十鈴が病室を出て行く。

 

「あんた達もこんな所で油売ってないで、戦車に油さしたらどうだい?」

「え?」

 

とお婆さんの言う事にみほが首を傾げ、お婆さんが冷泉の方に向き直ると、

 

「お前もさっさと帰りな、どうせ皆さんの足を引っ張ってるだけだろうけどさ」

「え、そんな・・・・冷泉さん、試合の時いつも冷静で助かってます」

「それに、凄く戦車の操縦が上手で憧れてます」

 

とお婆さんの言葉にみほと秋山がフォローするが、お婆さんはそっぽを向いて

 

「戦車は操縦出来たって、おまんま食べらんないだろ?」

 

とお婆さんが意味深な事を言う。まぁ、確かにお婆さんの言う通り高校生が戦車道をやって収益が入るわけじゃ無い。だけど・・・・

 

「じゃあ、おばあまた来るよ」

 

そう言い、病室を出ようとした時。

 

「・・・・あんな愛想のない子だけどね、よろしく」

 

と、静かにそう呟く冷泉のおばあさん。あぁ、やっぱ大事な家族なんだなぁ、とクリム達は感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷泉のお婆さんのお見舞いが終わり、みほ達は電車に乗って連絡船乗り場の港まで行く。空はすっかり日が暮れてオレンジ色に染まっていた。帰りの電車の中で冷泉は武部の膝の上で寝っていた。

 

「麻子さんのお婆さん、思ったより元気で良かったね」

「えぇ」

「何か冷泉殿が、絶対単位が欲しい、落第出来ないって言う気持ちがわかりました」

「お婆さまを安心させてあげたいんですね」

「うん、卒業して早く側に居てあげたいみたい」

「祖父母孝行ってやつね・・・・」

 

そして、武部は膝の上で寝ている冷泉の頭をそっと撫でる。

 

「麻子、あまり寝てないんだ。お婆ちゃん何度も倒れてて」

「お婆さまがご無事で安心したのかも」

「でも、この前は凄く動揺してましたね。あんな冷泉殿見たのは初めてです」

「たった一人の家族だから・・・・」

「え、ご両親は?」

 

とみほが聞いてきて武部が暗い顔になった。まずいこと聞いたかな・・・・

 

「麻子が小学生の時、事故で・・・・」

「あ、そうだったんですか・・・・」

 

五十鈴が申し訳なさそうにする。なるほど、道理で大事にする訳だ。

それにしても・・・・

 

「家族か・・・・」

 

クリムはどこか懐かしくなっながら列車は大洗駅に到着し、そこから連絡船で学園艦へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さすがに疲れたのか秋山や五十鈴たちはベンチの上で冷泉と寝ていた。

私たちは不意に空を眺めて星を見ていた。

 

「『星を見ると思い出すわね・・・・』」

「『そうだね・・・・』」

 

すると二人は思わずダンマリするとリュミがつぶやいた。ここには誰もいないので、慣れ親しんだロシア語で話していた。

 

「『みんな、どうしているかな?』」

「『元気だと思うよ。きっと』」

 

二人は冷泉の祖母を見て思わずの人を思い出していた。

 

「『・・・・あの人はどんな反応するかな?』」

「『分かんない・・・・』」

 

二人は思い出すと呟いていた。

 

「『でも、嬉しく思ってくれると思うよ・・・・私たちが帰って来てくれたことに・・・・』」

「『そう、ね・・・・』」

 

クリムは言いにくそうにしながら答えていた。

その様子を後ろから見ている人影があったのも気づかずに・・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次の相手はアンツィオです!

冷泉のお婆さんの見舞いに行った翌日。

クリムとリュミは登校をしていると声をかけられた。

 

「おはよー!クリム、リュミ・・・・」

 

そこには冷泉を背負って辛そうにしている沙織の姿があった。

 

「さ、沙織さん!?」

「大丈夫なの?」

「な、なんとか・・・・・」

 

そう言うものの武部は今にも倒れそうになる。それを見た私は、

 

「仕方ないわね。リュミ、鞄お願い。沙織さん、交代よ」

「え?でも、クリムさん、大丈夫なの?」

 

そう言い、沙織は自分より身長の小さいクリムを見て心配に思うも、彼女は余裕そうに冷泉をヒョイッとおぶっていた。沙織よりも安定した格好でスタスタと歩いていた。

 

「あ、ありがとう。クリム」

「いいよいいよ、冷泉さん軽いし」

 

そう言うと前からみほがやって来て冷泉をおぶっているクリムに驚いた様子だった。

 

「おはよー、みほさん」

「え、あ、はい。だ、大丈夫ですか?」

「気遣いありがと。でも大丈夫よ」

 

そう言い、学校の校門まで歩く。その背中で冷泉は寝ている様だった。すると、

 

「寝ながら登校とは、いいご身分ね」

 

と学園の校門前に風紀委員のみどり子が居て、そこで冷泉が目を覚ましてふらつきながらみどり子につがみつく。

 

「おお〜そど子ちゃんと起きてるぞ〜」

「そど子って呼ばないでって何度も言ってるでしょ!私の名前は園みどり子ときちんと呼びなさい!」

 

そんな二人のじゃれあいをクリム達は見て、みほと武部が校舎の方を見ると学園の校舎に『祝戦車道全国大会一回戦突破!!』と書かれた垂れ幕や戦車を模様したアドバルーンが上がっていた。

 

「凄い!私達、注目の的になっちゃうかな?」

「生徒会が勝手にやっただけだから、それより冷泉さんを何とかしてよ!」

 

と武部がそう言い、みどり子は冷泉を引き剥がしながらそう叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休み時間、みんなが教室や食堂や屋上でご飯を食べたり楽しく話をする中みほはお弁当を持って戦車格納庫へ向かっていた。そしてみほは格納庫の扉を開けその中にあるⅣ号戦車を見て呟く。

 

「二回戦、この戦車で勝てるのかな・・・・・あのサンダースとの試合だってクリムさんたちのおかげで何とか勝てたけど、次は・・・・・」

 

するとⅣ号戦車の横のT-34/100から寝息が聞こえて来た。

 

「え?だ、誰かいるの・・・・?」

 

そう思い、戦車に登るとそこではクリムとリュミの二人が砲塔内で寝ていた。ぐっすりと寝ている様で起きる気配はなかった。

 

「ど、どうしよう・・・・」

 

みほは困っていると声をかけられた。

 

「あれ?西住殿?」

「優花里さん?」

 

すると其所へ、弁当箱を持った優香里が姿を現した。

 

「はい!今日は戦車と一緒に食べたいと思いまして。西住殿もですか?」

 

そう言うと秋山の後ろから武部と五十鈴さんが入って来た。

 

「あ、いたいた」

「教室にも食堂にもいないんできっとここだと思って・・・・」

「あ、パン買ってきたよ」

「ありがとう」

「秋山さんはお弁当ですか?」

「はい」

「じゃあ、一緒に食べようよ」

 

と、武部がそう言うと

 

「私にも分けてくれ・・・・・」

 

と、後ろから声がし振り向くと、そこにはⅣ号のキューポラから冷泉が出てきて眠たそうに目をこする。

 

「あれ?冷泉さん?」

「少し前から・・・・」

「麻子、授業をさぼったでしょ?」

「違う。自主的に休養した。だからこれはさぼりではない」

「も~屁理屈言って。おばあに言いつけるよ?」

 

と、武部がそう言うと冷泉は顔を青ざめ

 

「それは・・・・・・・困る」

 

まあ、あの人ならそう思うのも仕方ないか・・・・。そう思っていると秋山がT-34/100になっていることに疑問をする。

 

「西住殿はなぜそこにいるのですか?」

「え?あ、クリムさん達が寝ているからどうしようかなって・・・・」

 

そう言うとみんなが驚いた表情をし、開きっぱのキューポラを覗くと武部が言う。

 

「私たちがいても気づかないくらいだから。このまま寝かせておいてあげようよ」

「良いのですか?」

「たぶん、このまま寝ていると思うよ」

 

そう言い、みほ達はⅣ号戦車の上で昼食をとり始めた。

 

「母がこれ、戦車だって言い張るんです」

 

ご飯の上に海苔で戦車が描かれた弁当を秋人は見せながら恥ずかしそうに言う。

 

「すごーい!キャラ弁じゃん!」

「食べるの勿体ないですね」

 

秋山の見せた弁当を、武部が携帯で写真を撮り、五十鈴もその弁当を見て覗き込む。

 

「あ、そう言えば掲示板見ました!生徒会新聞の号外!」

「う、うん・・・・」

「凄かったね・・・」

「号外?」

 

そう言って秋山はポケットから小さく折り畳まれていた新聞記事を取り出して広げる。生徒会が発行している学園新聞でその見出しには『一回戦に大勝利!我が校は圧倒的ではないか』を称賛する記事とみほあんこうチームの写真が添えられていた。

 

「それに、クリムさん達の情報も載っていますしね」

 

そう言い、秋山が指差すとそこには、『大会中に相手チームを混乱に落ち入れた彗星の如き活躍!』と言う見出しと共にハチドリさんチームのTー34/100の写真が写っていた。

 

「何せあの、サンダース大学附属高校に勝ったんですからね」

「『勝った』と言うより、『何とか勝てた』の方が正しいと思うけどね・・・・」

「でも勝利は勝利です!!」

 

と秋山が胸を張ってそう言うと

 

「そう、だよね・・・・」

『『『『『?』』』』』

 

突然、沈んだように顔を俯けるみほ。そしてみほは呟く。

 

「勝たなきゃ、意味がないんだもんね・・・・」

「うん?そうですか?」

 

秋山の素朴な返事にみほは驚く。

 

「え?」

「楽しかったじゃないですか」

「うん」

 

と秋山がそう言い武部が同調して他の皆も頷く。

 

「サンダース付属との試合も。聖グロリアーナとの試合もそれから練習も戦車の整備も練習帰りの寄り道もみんな!」

「うんうん。最初は狭くてお尻痛くて大変だったけど何か戦車に乗るの楽しくなった!」

「そう言えば、私も楽しいって思った。前はずっと()()()()()って思ってばっかりだったのに、だから負けた時に戦車から逃げたくなって」

「私、あのテレビで見てました!」

「!?」

 

そして、みほが重い口で語り始めた。事の始まりは、昨年の戦車道全国大会決勝戦で黒森峰とプラウダとの試合で黒森峰はこの試合で十連勝が掛かっていた。その時は、雨が降っており川沿いの断崖の道を黒森峰の戦車隊は一列で走行していた。その時、突然プラウダの奇襲攻撃を受けみほの前方を走っていたⅢ号戦車が砲撃でバランスを崩して崖から川へと滑り落ちっていた。落ちたⅢ号戦車は川の激流に飲み込まれた。それを見たみほはティーガーから降りて川に飛び込みⅢ号戦車のハッチを抉じ開けて中の乗員達を救出した。だが、しかしプラウダ高校はみほが不在で無防備となったティーガーのフラッグ車が砲撃し撃破され黒森峰は敗退し十連覇の逃した。

 

「それで、私達黒森峰は十連覇出来なかった」

「私は、西住殿の判断は間違ってなかったと思います!」

 

と秋山が声を張ってそう言い、全員が頷く。

 

「人命を優先したことは褒められるものだと思います。それに、西住殿に助けられた選手の人は・・・・きっと、感謝してると思いますよ」

「優花里さん・・・・・ありがとう」

 

みほがニコッと笑いそう言うと秋山は顔を赤くし

 

「す、スゴいッ!私、西住殿に『ありがとう』って言われちゃいましたぁ~~っ!!」

 

と、秋山はわしゃわしゃと髪を撫でた。すると冷泉は

 

「オット・ボール軍曹」

「あ、それ言わないで下さいよ」

 

と秋山がサンダースに偵察した時に名乗った偽名を言われて恥ずかしがる。すると五十鈴さんが

 

「そうですね・・・・戦車道の道は、一つだけじゃないですよね」

「そうそう!私達が歩んできた道が、私達の戦車道になるんだよ!」

 

と、武部がそう言い天井に指を指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、食事が終わる頃、秋山が隣のT-34/100を見ながら疑問に思ったことを言う。

 

「そういえばクリム殿とリュミ殿は、凄かったですね。サンダースの映像見ましたよ!」

 

そう言うと沙織が頷いた。

 

「あー、確かにすごかったね。あんなに大量の戦車相手してたし」

「はい、射撃も凄くて三両も撃破しましたしね。そのうちの一両はファイアフライですよ!!」

「そ、そうだね」

 

興奮する秋山にみおはクリムが目を覚まさないかちょっとだけ心配していた。しかし、反応はなかった。ホッとしてると秋山は映像を思い出しながら言った。

 

「戦車の動き、扱いにも慣れているようでした。それに、あの狙撃は慣れてないと難しいです」

「そうなの?」

「はい、それにクリム殿は指示も的確で戦車に詳しいです。西住殿とはまた違った()()()()()()()雰囲気を感じます」

 

そう言うと沙織がヘェ〜と言い、現在寝ている張本人の方を見た。

 

「じゃあ、戦車道経験者とか?」

「あ、前にクリムさんが言ってたよ。『昔ちょっとやってた』って・・・・」

「ちょっと?」

「うん」

「成程、そうでしたか・・・・」

 

みほの話を聞き秋山は少し考えたのち、推測をしていた。

 

「この前もロシア語で喋っていましたし・・・・一体何者なんでしょうか・・・・」

 

そんな小さな呟きはみほ達には聞こえていなかった。




来週の定期投稿はお休みします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪原の一両

今回はクリム達の過去回です。


 

その日、雪が降るロシアの平原の一画。そこでは一両のJSー3戦車が走行し、その周囲を多数のTー44VやISU−152が走行していた。

そのJSー3のキャノピーからプラチナブロンドヘアのクリムが顔を出していた。

彼女は短髪で、頭に軍帽とウシャンカを混ぜ合わせた帽子を被り、草色の軍服を身につけ、外簑を羽織っていた。その目は鋭く、少し怖い印象を与える雰囲気だった。すると偵察部隊から通信が入った。

 

『敵発見。0996にTー34/85二両。0885にフラッグ車発見。書記長、ご指示を』

「・・・・了解」

 

通信を受け取ったクリムは開いていた単語帳を閉じると無線機に手を当てる。

 

「第一Tー44小隊、第二Tー34/85小隊、前進。発砲。目標は前方の森、距離400」

『『『『『了解!』』』』』

 

そう言うと戦車軍団は速度を上げ、砲撃を開始した。前方の森一帯に土煙が上がり、中に隠れていたJSー2およびTー34は全て撃破された。

 

『試合終了!』

 

アナウンスと共に試合が終わり、JSー3は格納庫に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫に戻ったJSー3からクリムとリュミは戦車を降りる。すると二人に声をかける人がいた。

 

「お疲れ様です。クリム、リュミ」

「ユリヤもお疲れ様」

「ハッ!」

 

彼女の名はユリヤ・ヴォロノフ。クリムの乗るJSー3戦車の操縦手を務めている人だ。幼い頃から一緒で私たちはユリヤを姉の様に慕い、接していた。

三人は戦車を降りるとユリヤが今回の試合の戦績を伝えた。

 

「Tー44三号車が二両。Tー34/85一号車が一両。あとは最後の斉射で分かりませんでした」

「そう・・・・」

 

報告に対して興味なさげにクリムは言うとリュミはクリムの手を少し強めに握った。

 

「行こ・・・・お姉ちゃん・・・・」

「ええ、分かったわ。じゃあ、ユリヤ。あとお願い」

「はい、今日はお休みになられてください!」

 

ユリヤは何処か興奮した様子で倉庫を出て行くクリム達を見送った。ユリヤは二人を見送ると途端に険しい表情になり持っていた手紙を開き中身を見る。

 

『今度の試合で負けなければ貴様らを地獄に落とす』

 

手紙に書かれていた言葉にユリヤは一蹴する。

 

「なにを馬鹿な事を・・・・」

 

だが、警戒を怠ることはなかった。何故ならあの二人は今までにも何度か誘拐されかけた事があるからだ。飛び級で中学生ながら大学生チームを率いり、今までに何度もチームを勝利に導いた彼女達は色々と恨みを買っている様だった。

 

「何としてもクリム達は私がお守りする・・・・!!」

 

ユリヤは手紙をクシャリと握りつぶしながらそう意気込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日行った試合でクリム率いる戦車部隊は勝利を収めた。

 

クリム達は自分の部屋に戻ると来ていた外套と帽子を脱ぎ、リュミは帽子を取って外を眺めていた。

外では雪が残り、レンガ仕様の街では多くの人が行き交っていた。ここはロシアのとある街。今回の試合会場に近い場所であった。そして緯度が高いのでこの時期は白夜となるので夕方になっても明るかった。

リュミはボーッと街を見ているとクリムが声をかける。

 

「リュミ。明日も試合だから寝るよ」

「うん、分かった・・・・」

 

そう言うと二人は遮光カーテンを閉めてパジャマに着替えるとそのままベットで横になった。

今日明日は珍しく連戦だ。明日は別のチームの戦車を相手にする予定。

私たちはオスキンの名を継ぐ姉妹の末っ子として次の試合も勝たないと行けない。姉達や両親からは無理をするなと言われているが、好きだからやっているのだ。なんならあと十試合は連続で行ける気がする。

 

ロシアでも五本の指に入る流派の一つ、オスキン流戦車道。『高機動、広範囲攻撃による迅速な制圧』を訓辞にロシアの戦車道を引っ張ってきた流派の一つだ。

私とリュミはそのオスキン流戦車道の末っ子姉妹として今日まで引っ張ってきた。

明日はいよいよ遠征最終日。これが終わったら家に帰って姉とお父さんに褒めてもらう。それが楽しみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、試合会場となる平原では既に私たちの乗る戦車、JSー3が止まっていた。

 

「おはよう御座います。クリム、リュミ」

「おはようユリヤ」

「・・・・おはよう」

 

少し人見知りのリュミはクリムの後ろに隠れて挨拶をする。するとユリヤはボードを見ながら今日の試合相手の名前と車両数を聞いた。

 

「今日は二〇両のフラッグ戦です」

「分かった。ありがとう」

 

そう言い残し、私とリュミはJSー3に乗り込もうとする。するとユリヤがやって来た。私たちはまだ中学生なので身長が小さく、登れないのでユリヤに肩車して貰っていた。

オスキン流の門下生で大学生のユリヤは私達を戦車に乗せるとそのまま車体の操縦席に座り、エンジンをかけた。

 

猛獣がうねる様な音を上げ、排煙を上げる。

近年の排ガス規制の影響で戦車道連盟もルールを少し変更せざるを得ず、エンジンの換装を行うようにし、その影響で馬力が上がり、加減速能力も全体的に向上していた。

それは自分達の乗るJSー3も同様で、この戦車も少しだけ性能が向上していた。

 

JSー3は前部に《シチュチー・ノス(カワカマスの鼻)》と呼ばれる特徴的な三角錐状の傾斜装甲を持ち合わせていた。それに車体には空間装甲を持ち、二次大戦のソ連戦車らしく傾斜装甲も多用していた。

主砲はJSー2と同じ122mm砲。絶大な火力を誇り、中戦車を一撃で撃破させることができる。その行為力ゆえに豆戦車が出る戦場では出場を禁止されるレベルだ。

 

戦車に最後の乗員である装填手の人が乗ると他の車両からも準備が出来たと報告が入った。

 

「隊長、全車出撃用意完了。行けます」

「了解・・・・全車両、戦闘開始」

 

無線機の指示と共に戦車三〇両は一斉に前進を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始から10分後、先行させた偵察部隊から通信が入る。

 

『こちら偵察01。B4705にて敵発見、敵はA41センチュリオンを二両およびStrv m/42を四両。フラッグは確認できず』

『こちら02。D0714にフラッグ車確認。フラッグ車はセンチュリオンの模様』

「了解した。左翼に展開中の小隊はC1220地点で砲撃。敵部隊の突破を行え」

『了解!』

「右翼、その場で停車し砲撃開始。敵を釘付けにしろ。こちらから応援に向かう」

『はっ!』

『機動部隊は残った敵の捜索、発見次第撃破せよ』

『了解です!』

 

クリムは部隊に指示を出すと足でユリヤの肩を二度叩く。

 

「前進。フラッグ車の前に出る」

「畏まりました」

「リュミ、砲撃用意」

「了解・・・・お姉ちゃん」

 

そう言うとJSー3は前進を開始。随伴のTー44も動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合は中盤を迎え、JSー3は前線に到着する。キューポラから顔を覗かせると、そこでは味方のTー44八両が窪地に向けて砲身を向けて包囲していた。

窪地の中にはフラッグ車のセンチュリオンを守る様にStrv m/42が囲んでいた。それを確認したクリムは指示を出す。

 

「・・・・撃て」

 

命令と共に一斉にセンチュリオンに向けて砲撃が加えられる。耳を轟する砲声と共に大きな土煙が上がる。

土煙が晴れるとそこには白旗の上がるStrv m/42がいた。

 

「(終わったか・・・・)っ!」

 

その時、撃破したと思っていたフラッグ車のセンチュリオンの砲身が動いた。

 

「目標残ったセンチュリオン。うt・・・・」

 

指示を出す目前、センチュリオンが発砲する。17ポンド砲の砲弾がJSー3に向かって飛んでくる。しまった、と思い車両を後退させようとした。当たっても傾斜装甲と空間装甲が防ぐだろうと予測した。

すると砲弾が車体正面下部に当たる。傾斜が弾くだろうと思った。ーーー思っていた・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、砲弾は減速する事なく下部に突き刺さったその瞬間。砲弾は威力を落とす事なく突き刺さり、車体に大きな衝撃が走った。

その後、直ぐに砕け散った破片が下から突き上げてくる。

 

何が起こったのかと考える間もなく、クリム達の意識は完全にブラックアウトした。

 

最後に覚えていたのは砲弾が当たった場所がユリヤの席の近くだった事のみだった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目覚めた時、私は病院のベットで包帯に色々なところを巻かれていた。

私が目覚めた事を知り、両親や姉が泣きながら喜んでいた。そしてその後、何が起こったのかを話された。

 

あの時放たれた砲弾は連盟公認の錫製中抜き砲弾ではなく、錫製の中身に鉄を詰めて作った即席ARCRを使った殺傷能力のある砲弾だったらしい。

傾斜装甲にほぼ垂直に当たったそれは中の装甲板を砕き、中に飛び散た装甲板が中にいた人をズタズタにしたと言う。すぐさま捜査が行われ、その後センチュリオンの砲弾にAPCRを混ぜ込んだ犯人が逮捕された。動機は過去に私たちに負けた腹いせとオスキン流の没落を望んでいたそうだ。

 

だけどそんなことよりも私は確認しないといけない事があった。

 

「リュミは?!ユリヤは?!無事なの?!」

 

そう聞くと母は答える。

 

「みんな無事よ。貴方が最後に目覚めたのよ」

 

そう言われるも直接見ないと安心できない性分の私は無理にでも歩こうとしたが、身体中が痛くて満足に動けなかった。

 

「動くな。身体中に切り傷をしている」

「でも・・・・!!」

「安心しなさい。ここに居るから」

 

そう言い、母はカーテンを開けるとそこには耳を塞いで薄らいと表現しているリュミと優しく手を振るユリヤがいた。それを見て私は思わずホッとしているとリュミが言う。

 

「お姉ちゃん。五月蝿い・・・・」

「ご、ごめん・・・・」

 

リュミの一言で思わず黙ってしまうと部屋にいた全員がほっとした様子でいつものクリムだと少し笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、怪我が回復し、病院を退院する頃。私達は信じられない話を聞かされた。

 

「戦車道ができない・・・・?」

 

それは病院の看護師さんから聞いた話だった。衝撃的な話に困惑しているとユリヤが出てきた。ただし、左腕に杖を持って・・・・

 

「ユリヤ・・・・?」

「クリム、リュミ。ごめんなさいね。こんな格好で」

「その杖・・・・」

 

私達は思わずユリヤの杖を指すとユリヤは言った。

 

「怪我がね、ちょっと大きかったみたいなの」

 

そう言うユリヤだったが、私達は困惑と衝撃で頭がいっぱいだった。思わず看護師さんを見ると看護師さんはそっと目を伏せるだけだった。

 

「ほ、本当に・・・・」

「辞めちゃうの・・・・?」

「出来るなら、私も二人と一緒に続けたかったんだけどね・・・・」

 

残念そうに言うユリヤに私達は半ば思考が置いてきぼりになってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の事はあんまり詳しく覚えていない。

だけど、ユリヤが戦車道から一線を引いて、操縦手がいなくなり。その後、私達は途端に戦車道が楽しく無くなった事。それに、私は悩んでしまった。

 

 

『自分のせいでユリヤが戦車道をやめてしまった』

 

 

そう思い、私は車長なんか向いていなかったのではないか。戦車道をやらない方が良かったのではないか。

そう考えてしまっていた。それに、ユリヤは装甲片をまともに食らって足の神経に傷がつき、麻痺が残ったと知った。その後、私達はその不甲斐なさから戦車道をやめて。祖母の伝手を使って戦車道がなくて、ロシアから離れた日本の学校に向かった。

戦車道を辞めると言った時。ユリヤが悲しそうな目をし、残念がっていたけど、でも私のせいで人生を変えてしまったことに変わりはなかった。これは自分への戒めだと思って心に決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで戦車道と関わる事なく終わるかと思っていたが、運命はなんと言うことか私たちに戦車道を見せてきた。

初めはやりたくないと思っていたが、あの大洗で聖グロとの戦いを見て久しぶりにハラハラしていた。

作戦を立てている自分がいた。戦車に乗りたいと持っている自分がいた。

 

だからだろうか。あんなに簡単に自分の意見を変えてしまうなんて・・・・

 

学校に入学して知り合った友人や妹に頭を下げて、快く引き受けてもらって・・・・けっこう無茶な注文をしたりして・・・・

こんなに戦車道が楽しいと感じたのはいつくらいだっただろうか。

 

少なくとも私が戦車道に再び足を踏み入れる理由を作ったのはみほの影響があるだろう。

私が電話した時に電話に出た姉が驚きと喜びで乱舞していた。戦車を借りたいと言うと姉はあのJS-3にしようとしたが、それは流石に辞めて欲しいとお願いした。

 

 

あの()()()()戦車にともみを乗せる勇気はまだなかったから・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・お姉ちゃん!」

「へぁ?」

 

意識が戻るとリュミがキューポラから顔を覗かせていた。あぁ、そうだ。昼の時間だから戦車で寝ていたのか。どのくらい寝ていたのだろうか・・・・

 

「リュミ・・・・。今何時?」

「もう、ちょっとで午後の授業が始まる時間」

 

おっと、危ねぇ。危うく欠課になる所だった。行かないと・・・・

 

「んじゃ、行きましょうかね・・・・」

 

私は戦車から降りるとそのまま校舎の方まで走っていくのだった。




正直IS−4とどっちにしようか悩んだ。あいつもセンチュと同様に試作車が出来ているから。
でも、WoTでよく乗っているのがISー3だったのでこっちにしました。どっちが良かったかコメント欄に、別ルートバージョンも書くかもしれません。
あのゲームISー4使いズレェ・・・・何もかも微妙すぎて・・・・
まだT95とかFV1006とか、そっち系の尖った性能してた方が使いやすい。
同感してくれたらお気に入り登録してください!!

そしてT-44Vは45年一月に出来たので出せる・・・・多分・・・・
それに後にT-54-1の解明されたから実質戦後戦車って言うね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦車あります!

練習が終わり、皆が自由な時間を過ごしている頃。生徒会室では三人が資料を確認していた。

 

「一回戦は西住ちゃんたちのおかげで勝てたけど、二回戦は今の戦力で勝てるかな?」

「絶対に勝たねばならんのだ!」

 

小山が不安げにそう言うと河嶋が握り拳で机を叩き、勝つ事への執念を見せる。

 

「でも、二回戦の相手はアンツィオ高校だよ?」

「う~ん乗りと勢いは・・・・あるからね~」 

 

角谷会長が椅子を滑らせてそう言うと河嶋は頷き、小山が言う。

 

「調子が出ると手強い相手です。クリムさんや西住さんたちのおかげでチームもまとまって来て、みんなのやる気も高まっているけど、今のままの数では少し厳しいかもしれません」

「そっか・・・・じゃあ、その点の解決策を考えないとね~」

 

小山の言葉に角谷は少し考えるそぶりを見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の戦車道の授業時間の日戦車格納庫に集まった私たちは河嶋さんの前にいた。そして河嶋さんは全員を鼓舞しようとしていた。

 

「一回戦に勝ったからといって気を抜いてはいかん! 次も絶対に勝ちぬくのだ! いいな腰抜けども!」

「「「はい!」」」

「頑張りまーす」

「勝って兜の緒を締めよ、だぁー!」

「「「おぉー!」」」

「えいえいおー!」

 

そう言うとみんなは一回戦に勝った影響かみんなの士気は高く元気に返事をする。いや、鼓舞と言うか最初罵倒してるやん・・・・

その後、メンバーは二回戦に向けて練習を始めた。射撃で遠く離れた的にも当て、射撃をしていた。そしてあっという間に時間は過ぎて行き・・・・

 

『『『『お疲れ様でした!』』』』

 

その日の練習は終わった。クリム達もT-34/100から降りて背を伸ばしていた。

 

「ん〜!この感覚は久しぶりね〜」

「そうだね〜」

 

クリムとリュミは背を伸ばしているとともみたちから声をかけられた。

 

「クリム、リュミ!」

「お疲れ〜」

「二人ともお疲れ様。どう?戦車は?」

 

労いの言葉を掛けたクリムに二人は答える。

 

「いやぁ、いいねぇ。運転楽しい」

「砲弾を装填する時にいい筋トレになる」

 

そう言うとあんこうチームがこちらにやって来た。

 

「お疲れ様。みほさん」

「はい、クリムさんも・・・・」

 

そう言うとリュミが武部を見て少し疑問に思う。

 

「あれ?武部さん少し痩せた?」

「え~わかるの!そうなのよ私、戦車に乗り始めてからやせたんだ!」

 

とリュミの言葉に武部が嬉しそうな顔をする。すると冷泉も同じような事を言う。

 

「そう言えば私も少しだけ低血圧が改善された気がする・・・・・・」

「血行が良くなったのでは?」

「血の気が増えたのかも。戦車乗りって頭に血が上る人が多いから」

「それ関係ある?」

 

みほの言葉に武部が首をかしげる。まぁ、戦車は集中するし、動くし、神経削ぐし、ルーティンを作らないといけない。健康になるのもわかる気がする。

そう思っていると私達は声を掛けられた。

 

「西住、クリム。生徒会室で次の試合に向けた戦術会議をするぞ」

「え!?私もですか?!」

「あたりまえだ」

「それと交換した方がいい部品のリストを作るの手伝ってほしいんだけど」

 

小山さんと河嶋さんが西住や私に声をかける。仕方ないかと、半ば諦めムードで返事をする。

 

「はい、わかりました」

「了解です」

 

そう返事をし生徒会室へ向かおうとしたとき

 

「先輩、照準をもっと早く合わせるにはどうしたらいいんですか?」

「どうしてもカーブが上手く回れないんですけど」

 

と、そこへアヒルさんチームことバレー部の佐々木と河西がみほの所へやってきてそう訊く

 

「え、えっと・・・・、待ってね、今順番に・・・・」

「隊長、躍進射撃の射撃時間短縮について」

「ずっと乗ってると臀部がこすれていたいんだがどうすれば」

「隊長、戦車の中にクーラーってつけれないんですか?」

「せんぱーい、戦車の話をすると男友達がひいちゃうんです」

「私は彼氏に逃げられました~」

 

と、今度はカバさんチームの面々がやってくる。そしてそれに続き今度はうさぎさんチームもやってきてみほにそう訊く。と言うか最後の戦車関係ないじゃん!!

 

「えっと・・・・その・・・・・」

 

次々と色んな人たちから質問攻めにあい対応に困るみほ。

 

「あの、メカニカルな事でしたら私が多少分かりますので」

「書類の整理ぐらいでしたら私でも出来ると思うですけど」

「・・・・操縦関係は私が」

「恋愛関係なら任して!」

 

すると秋山や五十鈴達がみほの代わりに手を挙げる。少しでもみほの負担を減らそうとする。

 

「それなら私達も色々と手伝うわ。みほさんの負担を減らしてあげないと」

「そうね」

 

とリュミ達も名乗りを上げていた。

 

「皆で分担してやりましょう」

「みぽりん、一人で頑張らなくても良いんだからね」

「・・・・ありがとう」

 

そんなみんなにみほはお礼を言って私達は、生徒会室に向かう。一方、カバさんチームの歴女達には、秋山があたる。

 

「そう言えば、三突と言うのは戦車なのか?」

「いえ、砲兵科扱いの歩兵直協車両ですから支援車両ですよ」

「軽装歩兵の様だな?」

「単純に自走砲じゃないですか?」

「「「「それだ!!」」」」

 

バレー部のアヒルさんチームでは、冷泉が八九式中戦車を操縦して八九式をバックさせ視界が効かない状態でダンボールが置いてあるギリギリのところで停車させる。

 

「凄いです」

「どうやったらそんなに上手く操縦出来るんですか?」

 

と磯部達が冷泉に操縦の秘訣を聞くと。

 

「マニュアル通りにやればなんとなく出来る」

「普通は出来ません!」

 

ウサギさんチームの一年生には、武部が恋愛について講義していた。

 

「恋愛も戦車と一緒だと思うんだ!前進あるのみって感じかな?」

「凄い、恋愛の達人」

「先輩、今まで何人くらい付き合ったんですか?」

「え!?」

 

と経験人数を聞かれた武部はへこんだ。慌てて一年生はフォローしようとする。

 

「あ、先輩大丈夫ですよ!」

「戦車が恋人でいいじゃないですか」

「そうです!元気出して下さい!!」

 

しかし、フォローどころか余計に武部に追い討ちをかけるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、生徒会室では、五十鈴と小山が書類の整理をしていた。

 

「グリスは、一ダースでいいですか?」

「はい」

「そちらの書類は?」

「戦車関係の古い資料、ここで一緒に整理しようかと思って」

「お手伝いします」

「本当!助かる」

 

と小山はそう言うと、机に飾られている花瓶に気が付いた。

 

「あ、やっぱりお花があるといいね。私も華道やってみたいな」

「小山先輩、お花の名前付いてますもんね。確か、桃さん・・・・」

「あ、私は柚子。桃ちゃんはねえ〜、桃ちゃ〜ん!」

「言うな!」

 

小山は、手を振って河嶋の名前を呼ぶと河嶋は過剰反応する。仲良いなぁ・・・・。そんな中、相変わらず会長は干し芋を食べてながら言う。

 

「西住ちゃん。クリムちゃん。チームもいい感じにまとまって来たんじゃない?二人のおかげだよ。ありがとね」

「あ、はい・・・・」

「いえ、私は礼をされる様なことはしていません。それに、私たちは途中からの参加でしたし・・・・」

「私もお礼を言いたいのは私の方で、最初はどうなるかと思いましたけどでも、私今までとは違う戦車道を知る事が出来ました」

 

自分の戦車道か・・・・私も、オスキン流を習っていたけど、いつのまにか自分自身にあった戦い方をしてたっけ・・・・?

 

相手がどんな風でも、誠意を持って全力で戦う。

 

それがどんな捉え方になっても・・・・

 

 

いつかみほさんも自分の戦車道を見つける日が来るのでしょうね・・・・そしてその時、持っている才能が開花するのでしょうね・・・・

 

その日が楽しみね・・・・

 

私はそんな事を思っていた。

 

「それは結構だが、だが次も絶対に勝つぞ」

「勝てるかね~?」

「チームはまとまって来て、みんなのやる気も高まってきていますけど・・・・」

「問題は戦車ね・・・・」

「うん。正直今の戦力だと・・・・」

 

そう、確かに練度は上がって来ている。あのサンダースに勝てた事で全員の士気が上がって慣れて来たと言うのもある。だが、物量に関してはやはり数を増やすしかない。いくら練度が上がっていようと一対二〇となって終えばかなりキツイ。

昔、実家の演習場でどれだけ耐えられるかの練習をやった時に最後に二〇両でやった時は流石にきつかった。

あの時はなんとかなったが、正直アレの二度目はゴメン被る。寿命縮むかと思った。

 

「クリムちゃんの時みたいに戦車を借りるのは無理かな?」

 

会長がそう質問する。うちらのTー34/100は個人所有の戦車を学園が()()()使っているものだ。そこになんら問題はないのだが・・・・

 

「難しいですね。戦車を貸してくださる人(オスキン本家)がいい顔をしませんから」

 

何せあのシスコ・・・・ゲフンゲフンうちら大好き姉ーズは私たちが使うから戦車を運んでくれたのだ。他人が使う事となると色々と面倒になるのは目に見える。と言うか絶対許可しない。

そう思っていると五十鈴が話しかけて来た。

 

「あの、お話中すみません。書類上では他にも戦車があった形跡が?」

「「「「・・・・・・・え?」」」」

 

書類を整理していた五十鈴が戦車の数が合わない事に気づいた。それはつまり、まだ発見されていない戦車が学園艦の中にある可能性があるという事だった・・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦車探します!

五十鈴さんたちの言葉で再び戦車を探すことになった戦車道チーム。書類上、戦車を処分したっていう書類がないためまだどこかに戦車が眠っている可能性はある。ただし、どこにあるのかは不明。

探索チームはA班に私・みほさん・バレー部・冷泉。B班は武部・淀・一年生。そしてC班が秋山・リュミ・歴女チーム残りは生徒会室で待機している。

私達はまだ探索していない旧部活動棟を散策していた。建物はしばらく使われていないので朽ち果て、ボロボロだった。

 

「戦車なんだから、直ぐに見つかりますよねっ!」

 

「だと思うんだけど・・・・」

 

自信満々に言う磯部さんに、みほさんは自信無さげに返す。まあ確かに磯部の言う通り戦車は大きいからすぐに見つかると思うが、みほさんの言葉にも一理ある。もしあったらそんなもん最初の探索で見つかっとると・・・・

 

「手がかりはないのか?」

「あったらもっと楽よ。こうなったら全部総調べね。部品一個でもかき集めますか」

「冷泉先輩にクリム先輩、刑事みたいです」

 

ありきたりなことを言うと忍はウキウキした様子だった。これの何処が刑事やねん・・・・

 

「それが、部室が移動しちゃったみたいでよく分からないんだって」

「じゃあ、しらみ潰しで探しますか・・・・」

 

そう言いながら私達は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、学校屋上では秋山たちC班がカエサルを見ていた。

 

「・・・・はっ!」

 

そんな掛け声と共にカエサルが指で押さえていた棒を離し、八卦と太極盤の上に置かれていた棒が倒れて東の方向を指す。

 

「東が吉と出たぜよ」

「これで分かるんですか!?」

 

と棒が東を指し秋山は不安の声をだす。

 

「大丈夫さ、カエサルの八卦占いは的確だ」

「ああ、この前も家の鍵を無くした時もカエサルの占いで見つけている」

「めっちゃ胡散臭い!」

 

とエルヴィンと左衛門左がそう言うリュミが声を荒げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また一方で武部とリュミたちBチームは学園館の中を探索していた。

 

「へぇ〜、淀さんはクリムさん達とは高校生以来なんですね」

「ええ、二人が入学して来た時にキチンとした日本語を教えたのも私よ?」

「え?クリムさん達外人なんですか?」

「らしいわよ?ロシアの方から来たって・・・・知り合った時は結構ロシア訛りがあったし・・・・いやー、ロシア語学んでて助かったわ。あ、ちなみに私とともみはロシア語ペラペラよ。あの二人に教えてもらったんだ〜」

 

その後ろでは一年生チームが喋っていた。

 

「何なの此処、何処なの~?」

「凄い、船の中っぽい」

「いや、此処って『中っぽい』とか言う以前に船の中だし」

 

その後ろでは、優季、坂口、あやがそんな会話を交わしながら船内を見渡してそう言うと梓が疑問に思ったことを口にした。

 

「そう言えば先輩。なんで学校が船なんでしょ?」

「大きく世界に羽ばたく人材を育てる為と生徒の自主独立心を養う為、学園艦が造られたらしいよ」

「無策な教育政策の反動ってやつなんですかね?」

「こんな金食い虫をよく何隻も運用するよ・・・・」

 

淀がそう呟くと

 

「お疲れ様で〜す」

 

そこに学園艦の運航係であろう船舶科の生徒達に出会った。

 

「あ、あの、戦車知りませんか?」

 

すれ違いかけた生徒に武部が声を掛ける。

 

「戦車かどうか分からないけど、何かそれっぽいものどかで見た事あったよね?どこだっけ?」

「もっと奥の方だったかな?」

 

とそう言って船舶科の生徒が照明の付いていない通路の方を指をさしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃生徒会室では、角谷、小山、河嶋の生徒会チームと五十鈴と幸也が待機していた、。

 

「戦車道って随分昔からやってるんですね」

「そうねぇ、一九二〇年代くらいから・・・・」

 

小山と五十鈴は資料を調べていた。そんな中、

 

「まだか!・・・・まだ見つからないのか!」

 

と戦車発見の報告が未だ来ず貧乏揺すりをしながら苛立った河嶋は大声を上げて携帯を見つめる。

 

「捨てられちゃったかな?処分したらその書類もあるはずなんだけど?」

「大丈夫でしょうか?この学校で戦車道をやっていたは二〇年も前ですから」

「果報は寝て待てだよ」

 

角谷は他人事のようにリクライニングチェアに座りながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧部室棟ではA班が探索を行っていた。

 

「ここが最後か・・・・」

 

私はそういい、最後の部室の中を捜索していた。中はかなり埃や蜘蛛の巣だらけでだいぶ人の出入りがなされていない事が分かった。中には、鍵穴が錆び付いて生徒会から渡された鍵を差し込んでも回らなかった。そんな時は壊してもいいと聞いていたのでドアを蹴破っていた。

その度に忍がかっこいいと言うのは少々うるさかったが・・・・

しかし、それ以上にヤバかったのは部屋の中がゴキの住処になっていたことだ。

その正体を見たみほやバレー部のメンバー達は私や冷泉を除いて、悲鳴を上げてパニックになった。正確には冷泉は立ったまま失神していた。

一方で私はロシアでは見かけないこの虫に初めは興味津々だった。しかし、最近は私も慣れてきたのかゴキに嫌悪感を抱くようになっていた。

ゴキがいなくなり一段落すると部屋の中を漁っていた。しかしそこには当時の部活の資料があるだけで戦車の部品すらなかった。

 

「手掛かりになりそうな物はないですね」

「これはお手上げかなぁ?」

 

困っていると麻子が換気のために窓を開けた。と冷泉は窓の外を見てぼやく。

 

「・・・・・・・何処の部だ?こんな所に洗濯物干したのは?」

 

それを聞いた私とみんなは窓の方へ行くと確かにどこかの部下は知らないがシャツとかタオルとかが干してあった。だが私たちが目に入ったのは洗濯ものではなく物干し竿の方であった。それは物干し竿と言うにはあまりにも大きく、分厚かった。その正体は・・・・

 

「あれって・・・・・・・」

「もしかしてこれは・・・・戦車の砲身?」

 

それは物干し竿ではなく戦車の砲身であった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、C班は・・・・・

 

「見つけました!ルノーB1bisです!」

 

沼地で秋山が叫ぶ。そこにはフランスの重戦車ルノーB1bisを発見する。

 

「さすがはモントゴメリーだ」

「えっと・・・・それはちょっと」

「アレクサンドル・ブルダ」

「もう一押し・・・・!!」

 

とカエサルとリュミがそう言うと秋山は複雑そうな顔をしてそう言う。すると

 

「では、グデーリアンでどうかな?」

「おおっ!!」

 

エルヴィンの言葉に秋山が嬉しそうに言うのであった。そして戦車発見はすぐに生徒会室に知らされた

 

「了解・・・・・ルノーB1bisだそうだ」

 

と河嶋さんがそう言うと小山さんが資料を取りスペックを見る。

 

「えっと・・・・・最大装甲60㎜、75㎜砲と47㎜砲を搭載した戦車だそうです」

「まあ、八九式よりはましか~」

「新しいチームもできますしね」

 

そう呟き、杏は干し芋を食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み、戦車の捜索を終えた一行は、格納庫の前に集まっていた。格納庫前にはA班が見つけた長砲身75ミリ砲の《75mm kwk40》と、C班が見つけた《ルノーB1bis》が置かれていた。

戦車が見つかった事は大いに嬉しい。しかし・・・・

 

「B班遅いな〜」

「ね、もう帰ってきていい頃合いだけど・・・・」

 

私とリュミはそう思っていると冷泉のポケットから携帯の着信音が鳴り、冷泉はポケットから携帯を取り出す。すると・・・・

 

「・・・・・・遭難・・・・・・したそうだ」

 

携帯の画面を暫く眺め、画面を閉じた冷泉が言う。

 

「え?遭難?どこで?」

「学園艦の船底だそうだ」

「それじゃあ、すぐに探さないと」

 

と冷泉の言葉にみほがそう言うと

 

「何か目印になるものがある筈だ。それを探して伝えろと言え」

「ん・・・・」

 

頭を掻きながらそう言う河嶋さんに、冷泉は頷きメールを打つ。すると、

 

「西住ちゃん。はいこれ」

 

角谷会長がどこから取り出したのか筒状の紙をみほに渡す。

 

「これ、艦内の地図だから、捜索隊に行ってきて」

「わ、分かりました・・・・」

「クリムちゃん達もお願いね〜」

「え?!私もですか!?」

「数は多い方がいいでしょ?」

 

と言うことで捜索隊に加わって艦底部を探す事になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在。学園艦の内部で、クリムやみほ達は薄暗い艦内を秋山が持参していたヘッドライトの付いたヘルメットを被った秋山を先頭にして僅かな明かりを頼りに艦内を進む。

 

「暗っ・・・・」

「船の船底までくるなんて初めてだなぁ」

 

リュミがそう言って暗い艦内を歩いて行く。

 

「何か、お化け屋敷みたいですね」

「本当、化け物でも出てきそう」

「じゃあ、景気づけにこれを・・・・」

 

そう言い、クリムは悪ふざけで世にも奇○な物語のメインテーマを流し始めた。

 

「「クリムさん(殿)のバカァ!!」」

「あ、おい!音楽止めるな!」

 

そう叫ぶと金属製の何かが床に落ちる音が、甲高く廊下に響き渡った。

 

「「きゃぁぁぁあああっ!!!」」

「うわっ!?」

 

その音にびっくりして秋山とみほが私の両腕に抱き着き悲鳴を上げる。私はその行動に驚く。胸、胸当たってる・・・・!!

 

「お、落ち着いて。今のはボルトが落ちた音だから・・・・!!」

「そ、そうか。よかった〜」

「大丈夫ですよ」

 

みほ達が怖がる中で五十鈴は、何事もなかったかの様に前に進んでいく。

 

「五十鈴殿、本当肝が座ってますよね」

「「「うんうん」」」

 

それには全員が同意していた。そして冷泉はというと・・・・

 

「麻子さん、大丈夫?」

 

みほがそう言ってクリムと秋山も冷泉の方を見ると冷泉の顔が青ざめている。

 

「お・・・・お化けは早起き以上に無理」

「じゃあ、毎朝おばけの格好すれば起きるね」

「リュミは私に○ねと言うのか!?」

「いずれ慣れるでしょ」

 

と言い、みほ達はこの双子も想像以上に強いんだと自覚するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリム達が艦内を捜索している頃。武部達は、どこかの倉庫の様な場所で救助が来るのを待っていた。

 

「今、メールでクリム達がここに来るって」

「あぁ、よかった・・・・・」

 

沙織と淀が安心している中、一年生達は・・・・

 

「お腹、空いたね・・・・」

「うん・・・・」

「今夜は、此処で過ごすのかな・・・・?」

 

不安になり、泣きだしそうになるとそれを見た二人は少し慌てながら言った。

 

「だ、大丈夫!あ、そうだ!私チョコ持ってるから、皆で食べようよ!」

「甘いもの食べると不安も吹き飛ぶわよ・・・・!!」

 

そう言い、泣き出しそうな一年生を励ましていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、みほ達は・・・・

 

「第17予備倉庫近くだったら、この辺りだと思うんだけど」

 

地図と睨めっこするみほ、そんな時突然何処からか砲撃音がした。

 

「ふぇっ!」

 

突然の砲撃音に驚く冷泉だが、秋山は平然とした表情で携帯を取り出す。いや、着メロおかしいだろ!!

 

「あ、カエサル殿だ。はい!」

『西を探せ、グデーリアン』

「西部戦線ですね、了解です!」

 

それだけ言って秋山は携帯を切る。何言ってんだ?

 

「誰?その名前」

「魂の名前を付けてもらったんですよ」

 

嬉しそうに言う秋山に五十鈴さんは

 

「西って言ってもどちらを探せば・・・・」

「コンパスがあればなー」

「あ、それ私が持っております」

 

秋山はそう言いコンパスを出す。すると冷泉は疑問に思った。

 

「そもそも、なんで西なんだ?」

「卦だそうです」

「「「「は?」」」」

 

秋山の返答に全員が変な声を出す。

 

「それ、大丈夫?」

「まぁ、さっきのルノーも八卦で見つけたもんだしなぁ・・・・」

「当たるも八卦、当たらぬも八卦ですね・・・・・」

 

そう言い、一行は西に向かって進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして進む事数分。

 

「何か、灯が見えるぞ?」

「本当だ」

「ひ、人魂か・・・?」

 

と奥に一筋の光が見えた。冷泉が顔が青く染まって行く。

 

「いや、多分あれは・・・・」

 

そう言って光の所へと向かうと・・・・

 

「みぽりん!」

 

そこに居たのは武部・淀・一年生達だった。

 

「やった!」

「救助隊だ!」

「助かった!」

 

と一年生達は泣きながら武部に抱き着く。見た目が完全に幼稚園の先生・・・・

 

「もう、大丈夫だよ」

「武部殿、モテモテですね」

「本当ですね、希望していたモテかたとは違うようですが・・・・」

 

そう言っていると淀が近づいてきた。

 

「おぉ、クリムも来てたんだ」

「・・・・ってかなんで汗かいてんの?」

「救助が来るまで筋トレしてた」

「なんでやねん・・・・」

 

そう言って呆れていると淀がある場所を指差しながら言う。

 

「だけど、収穫もあった」

 

そういい、指差した先には戦車があった。暗くてよく見えないが、重厚感たっぷりの戦車だった。あれの砲身に捕まって懸垂してたらしい・・・・筋トレ馬鹿め・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、私達は大浴場で汗を流していた。そこで河嶋が一言

 

「みんな、遅くまでご苦労だった。次の試合には間に合わないが、先を勝ち抜く希望が見えて来た。次のアンツィオ戦もやるぞ。西住、締めをやれ!」

「え?は、はい」

 

河嶋にそう言われてみほは皆見て言った。

 

「み、皆さん!!つ、次も頑張りましょう!!」

『おおおーーーっ!!』

 

大浴場に履修生達の声が響き渡った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

またまた偵察です!

クリム達が戦車を探している頃。二回戦の相手であるアンツィオ高校ではアンツィオ高校の名所のひとつ、スペイン()()階段でアンツィオ高校の戦車道部員が集合していた。

 

「全員、気を付け!」

 

とある女子生徒の掛け声により、アンツィオ高校戦車道チームのメンバー全員が一斉に気を付けをして、自分達の目の前の階段の上に立つ他の生徒とは違い制服に黒いマントを羽織った女生徒。アンチョビが鞭を振り上げながら言う。

 

「きっと奴等は言っている!ノリと勢いだけはある調子に乗ると手強い!」

 

アンチョビが高らかにそう言うとチームメンバー全員から歓喜の声があがる。

 

「おおおっー強いって!」

「照れるな〜」

「でも、姐さん。だけってどう言う意味すか?」

 

周りの生徒が喜びの声を出す中で一人の生徒が疑問の声をあげた。

 

「つまり、こう言う事だ。ノリと勢い以外は何も無い。調子が無ければ総崩れ」

 

とアンチョビがそう言うと先まで舞い上がっていた雰囲気から一変してメンバー全員が青筋浮かべて怒り出した。

 

「なんだと〜!!」

「舐めやがって!!」

「言わせといて良いんすか!!」

「戦車でカチコミ行きましょ!!」

 

と口々にそう言うっていると、副官と思わしき金髪の生徒が言う。

 

「皆、落ち着いて。実際言われた訳じゃないから」

「あくまでも、総師による冷静な分析だ」

 

とそう言うとアンチョビは頷き、

 

「そうだ。二人の言う通り、私の想像だ」

「なんだ~」

「あ~びっくりした」

 

と、アンチョビがそう言うと生徒たちは、ほっとした顔になる。そしてアンチョビは

 

「いいか。お前たち。根も葉もない噂にいちいち惑わされるな。私たちはあの防御戦術の強いと言われたマジノ女学園にかったんだぞ!!」

「おおぉー!そうだった!」

「そういえばそうだったね!!」

 

アンチョビの言葉にみんなは嬉しそうにそう言うとアンチョビの傍にいる二人は

 

「苦戦しましたけどね・・・・」

「確かに苦戦したが勝ちは勝ちだ」

「なにもノリと勢いは悪い意味だけではない。この勢いを二回戦までもっていくぞ!次は、あの西住流率いる大洗女子だ!」

 

アンチョビが高らかにそう言うとメンバー全員の反応は微々たるものだった。

 

「西住流って何かやばくないすか?」

「勝てる気しないっす」

 

次々に不安な声が出る中で、アンチョビは言う。

 

「心配するな、いや、ちょっとしろ。何の為に三度のおやつを二度にして、何の為にパスタをペペロンチーノにした?」

 

因みにイタリアでペペロンチーノは質素の部類で、日本で言うところの風邪引いた時に食べる粥の感覚で食べるらしい・・・・やっぱ昼からワイン飲む国は違うZE☆(ちなイタリア人から聞いた

 

「何ででしたけ?」

「さぁ?」

「前に話しただろ!?それは、秘密兵器を買う為だ!!」

「「「「「おおっー!!」」」」」

 

秘密兵器と聞いてメンバー全員が歓声を上げる。

 

「秘密兵器と諸君の持っているノリと勢い、そして少しの考える頭があれば必ず我ら悲願の三回戦出場を果たせるだろう!!この勝利の先に我等の悲願である優勝を掴み取る!」

 

とアンチョビはそう言って鞭を緑色のシートに向けてメンバー全員が振り向くと、そこには緑色のシートを両端を持っていたペパロニとカルパッチョがシートを取り払う態勢に入っていた。

 

「みんな驚け!これが我がアンツィオ校の必殺秘密兵器だ・・・・」

 

とアンチョビが言いかけたその時、学校の大時計の鐘が鳴り響く。これはお昼休みを告げるチャイムだった。

 

「昼御飯!ご飯、ご飯!」

「パスタ!パスタ!」

「あ、こら!お前らそれでいいのか!?」

 

チャイムが鳴った途端、その場にいたメンバー全員が校舎へと走り出しって行きアンチョビの静止も聞かず、

 

「今の季節食堂のランチ売り切れ早いすよ!!」

「そうっすよ!戦車も大切ですが今は食堂のパスタが命っす!」

 

遂には、アンチョビと副官のペパロニとカルパッチョだけが残される事に・・・・

 

「はぁ〜ま、自分の気持ちに素直な子が多いのがこの学校のいい所なんだけどな・・・・」

 

そう呟いて肩を落とすアンチョビ。

 

「みんなのあのやる気が少しでも戦車道に回して欲しいものだなぁ・・・・仕方ない秘密兵器のお披露目はまた次回にするとしよう・・・・じゃあ、私たちも食事にするか・・・・」

「はい。それと今日のランチ。私が奢りますね」

「ありがとなカルパッチョ・・・・・」

 

肩を落としながらアンチョビはため息をついていた。するとペパロニが思い出したように呟く。

 

「総師、聞きました?相手にはT-34/100がいるらしいっすよ?」

「T-34/100?」

 

聞き慣れない車名に疑問を持つとペパロニが言う。

 

「ええ、何でもそいつは100mm砲を持っているとかで・・・・」

「100mm!?」

 

アンチョビは口径の大きさに驚くと頭を抱えた。

 

「100mmの主砲なんて秘密兵器で勝てるのか・・・・?」

「車体はT-34ですし、上手くいけば勝てますよ」

「だといいけど・・・・」

 

カルパッチョの進言にアンチョビは不安感を少しだけ払拭させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、大洗女子学園生徒会室では。秋山とリュミの二人が招集されていた。

 

「お呼びでしょうか?」

「遅い!」

 

わーお、桃さんお怒りで。カルシウム取った方がいいですよ。そう思いつつ私は優香里と並ぶと杏会長が言う。

 

「やー、いきなり呼んで悪いね」

「結構です。それより、私が呼ばれた理由をお聞かせください」

「リュミちゃんはせっかちだねー。・・・・秋山ちゃんには前にサンダースに潜入偵察に行ってくたじゃん〜」

「はい・・・・」

 

なんだか嫌な予感がして来たぞ・・・・

そう思っていると杏は私たちに言った。

 

「そこで、秋山ちゃんたちにもう一度潜入偵察に行ってきて欲しいんだよね~アンツィオ高校に」

「えぇ・・・・」

「はい!偵察任務ならこの不肖、秋山優花里にお任せ下さい!!」

 

優香里はノリノリだ。まぁ、戦車が見られるから嬉しいのだらうが・・・・

 

「(い、行きたくねぇ・・・・)」

 

正直サンダースの偵察で疲れたのでリュミとしてはゴメンだった。するとそこで杏が逃げられない様追い打ちをかけた。

 

「断ったらあんこう踊りね」

「・・・・」チキショーメー!!

 

某ちょび髭閣下の空耳を心の中で叫ぶリュミに秋山は疑問に感じていた。

 

「そんなわけで、宜しくね〜」

 

そんな訳でまた私たちは偵察に行くことになりました・・・・

お姉ちゃんに言っとかないと・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。経費で落とすからと会長に言われ、装備を整えるために私たちは戦車倶楽部に来ていた。優香里が制服を買う中、私はあるニュースを見ていた。

 

『大洗に続き、またも番狂わせ!アンツィオが防御の強いマジノ女学園を破る!!』

 

そんな題名と共にそこでは記者がアンツィオ高校の生徒から聞いた話をまとめてあった。

アンツィオ高校は日本に来日したイタリア人が自国の文化を伝えようと作った学校だ。なので使用戦車もイタリア戦車ばかりで、CV33とセモヴェンテM41が使用されていた。

 

『二回戦は大洗との戦いですが何か意気込みはありますか?』

『あぁ、聞いて驚け!我がアンツィオ高校に新型秘密兵器が投入されたんだ!これさえあれば大洗なんて目じゃないぜ!!』

『はぁ・・・・はぁ・・・で、その秘密兵器とは・・・・』

『え?確かイタリアの・・・』

『ちょーッとまったぁー!!ペパロニ。これ以上は・・・・で、では!ここで失礼しますぅ!!』

 

と、そんな感じで文章は切れていた。あの二種類以外で秘密兵器、それもあんなに自信があると言えるのなら・・・・

 

「P40かな・・・・?」

 

そう呟くと優香里が制服を買って戻って来た。サイズは伝えているので問題なし。これで行く準備は整った。あとはどんな戦車があるのか見るだけだ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、私たちはコンビニ船に乗ってアンツィオ高校にやって来た。この学校は創始者の意向もあって観光目的で来る人もおり、常に多くの人が出入りできる様になっていた。そのため・・・・

 

「すごい人・・・・」

「わぁ!屋台が一杯ですね!」

 

そこには多くの人とたくさんの屋台が並んでいた。事前に調べていたとはいえこれはすごい。お姉ちゃんがお土産買って来てと言う訳だ。

私たちはアンツィオの制服姿に着替え、学園艦を歩いていた。

 

「本当にヨーロッパに来たみたい・・・・」

「リュミ殿は見たことあるのですか?」

「昔ね〜」

 

あれは確かイタリアに遠征に行った時だったか。お姉ちゃんと一緒に街に出て食べ歩いてたっけ・・・・あの時は人見知りだったからお姉ちゃんの後ろに隠れていたっけな・・・・

 

なんて、昔のことを思い出していると優香里が言う。

 

「リュミ殿、カメラは持ちましたか?」

「ええ」

 

そう言い、リュミは生徒会から借りて来たカメラを持つとカバンの中にしまった。カバンには穴が開けられ、映像を撮ることができる様になっていた。まるでモノホンのスパイである。

 

「では、また後で」

 

そう言うと優香里はジェラートを持つ生徒に話しかけていた。

今回の偵察は前回の反省から役割分担をすることにしていた。優香里は通常の戦車と噂の秘密兵器。私は作戦の情報収集だった。

 

「さーて・・・・何食べようかなぁ・・・・」

 

私は並んでいる屋台を見て回り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時は経ち、私はある屋台で注文をしていた。それは・・・・

 

「アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよ~。美味しいパスタだよ~」

 

そう、偵察である。ここの屋台は屋根がセモヴェンテを模しており、戦車道が経営している店の様だ。そこで私はナポリタンを食べるために・・・・ゲフンゲフン。情報を聞くために注文をしていた。因みにこんなに屋台があるのは観光客に渡す料理を作って追加で部費を稼ぐためらしい。

なるほど、ここの学園長は頭が回っている様だ。常貧乏なウチでも同じことできないかな・・・・あ、でもうちの名物。あんこうとしらすと干し芋しか思い浮かばねぇ・・・・

 

「まず、オリーブオイルはケチケチしな〜い。具は肉から火を通す〜、今朝取れた卵をトロトロになるくらい・・・・ソースはアンツィオ校秘伝トマトペーストを・・・パスタの茹で上がりとタイミングを合わせて・・・・完成!特製鉄板ナポリタン出来上がり!」

 

出来上がるまでのスピードが早すぎる!!そして美味しそう!!

あれ?でもナポリタンって日本発祥じゃあ・・・・そもそも卵ってあったっけ?(卵は愛知県のナポリタン。ただし卵はナポリタンの下に敷いている)

まぁ、美味けりゃ問題なし!

そう言い、一口食べる。

 

「うわっ、美味!!」

 

一瞬で平らげるとキッチンでナポリタンを作っていた少女が声をかける。

 

「すごい食いっぷりだね〜」

「そう?」

「おう!そんな速度で食べるなんてまるでCV33みたいだな!」

「ふーん」

 

そう話しかけてくる少女に私はさりげなく話しかける。

 

「ねっ!ここの屋台って戦車道の?」

「おう、そうだぞ?あ!もしかしてウチラに興味あるのか!?」

「そんなとこかなー」

 

そう言うと少女は私を誘う様に言う。

 

「うち、ペパロニって言うんだ。後で戦車道のイベントあるから見ていってくれよ」

「へぇー、何処でやるの?」

「あそこのコロッセオさ」

 

そう言い指差す。その日はローマのコロッセオに似た建物があり、人が集まっている様だった。

 

「じゃ、後でお邪魔しようかな」

「おう!ぜひ見に来てくれよな!そので秘密兵器も見せる予定だしな!!」

 

うぉい!秘密兵器ゆうてるやん。秘密とはなんぞや。

若干の苦笑と共にリュミはカバンを持ってコロッセオまで歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロッセオに入ったリュミはそこで秋山と合流する。

 

「調子はどう?」

「バッチリです!リュミ殿は?」

「うーん、編成はわかったけど、作戦は分からなさそう」

「無理だとは思っていましたが、どこかに隠しているのでしょうか?」

 

屋台巡りをしながら探しているなんて言える訳ない・・・・

あれ?今まで何個屋台巡ったっけ?

あっ!?姉のお土産買ってない!!やべぇ、お姉ちゃん怒られる!

 

そう思っているとコロッセオに一人の少女が立ち、歓声が巻き起こる。

 

「諸君!待たせたな!このアンツィオの統帥、アンチョビの登場だ!!」

 

と、コロッセオの舞台上になっているところから軍服姿でツインドリルをした少女が現れる。どうやら彼女がアンツィオ高校戦車道部の隊長らしい。

 

「あ!ドゥーチェ!!」

「いつの間に!?」

「ドゥーチェだ!」

「「ドゥーチェ!!ドゥーチェ!!ドゥーチェ!!ドゥーチェ!!」」

 

ドゥーチェコールが巻き起こり、空気が揺れる。スッゲェ、五月蝿ぇ・・・・

そう思うとアンチョビは壇上から降りて歩く。そして、緑色の布に隠された何かを指しながら言う。

 

「諸君!我らの悲願である三回戦出場為に、大洗との二回戦に向け痛切な思いでコツコツと貯金してやっとの思いで秘密兵器を買った!みんな見ろ!これが、我々の秘密兵器だ」

 

そう言うと掛けられていたシートが下されて秘密兵器の姿を現した。装甲がリベット溶接の古めかしい、被弾経始が成された長砲身の戦車だった。

そう、それはイタリアの重戦車。P40であった・・・・

 

「おお!!P40の本物!初めて見ました!」

「確かに珍しいわね・・・・」

 

あれは中古なのだろうか。それとも新車だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道という競技がある為、今でも二次大戦時の戦車を作っている工場が世界にはある。

戦車の設計図は国際戦車道連盟に全て保管されている。ただし、テロに使われることなども考え、その警備は厳重に行われ、その場所がどこにあるのかは分からない。

世界中に存在する戦車道連盟の工場は試合で破損した車両の修理や弾薬の製造。一部では新造まで行っている。

 

こう言った戦車の購入には主に三つある。

 

一つは前述の戦車を新造する事。

単純に連盟に許可を受けた戦車工場が設計図を借りて戦車を作る事。しかし、戦車を新造するには多数の許可が必要な上にお値段も高い。なので、あまりこれは行われていない。

 

二つ目に中古の戦車を買う事。

最もポピュラーな方法がこれだろう。戦車道連盟が主催する戦車見本市にて要らなくなったり、戦車道を止める学校が資金操りの為に戦車を売り捌く。半年に一回行われるこの見本市は秋と春に行われ、毎年この時期に合わせて各学園では資金繰りが行われている。

 

三つ目に既に戦車を保有しているところから戦車を借りる。

これは特に社会人チームで行われることが多い。社会人チームはスポンサーとなる企業から資金をもらい、それを使って戦車整備や戦車購入、レンドリース社から戦車を借りる。もしくは戦車を所有している個人や企業がスポンサーとなり、持っている戦車を貸し出す。前者はまだ資金なので自由があるが、後者は必ずと言っていいほど何かの制約がある。それが改造禁止なのかその他なのかは人それぞれだが。それ故に戦車の新造よりも数が少なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、どちらにしろ秘密兵器がP40という事で隊長であるアンチョビさんはP40の砲塔に昇り、ポーズを取る。

 

「これで大洗なんぞ一捻りだ!」

「さすがドゥーチェー!」

「ドゥーチェ。こっち向いて~」

 

生徒たちが呼びかけるとアンチョビさんはにこっと笑いその生徒たちにポーズをする。

 

「現場は大変な盛り上がりです」

「「「「「ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!」」」」」

 

このドゥーチェコールはしばらく続いていた。その後リュミはクリムの為に買い物をすると学校に戻って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カバさんチームに訪問です!

アンツィオの偵察から数日後・・・・

 

「・・・確かこの辺りのはずなんだけど」

「地図だとこの辺りなんだよね?」

 

日差しがさす中、リュミとみほの二人は地図に従って歴女達の住むシェアハウスを探している。

 

「うん・・・ごめんリュミさん。わざわざついて来てもらって」

「問題ないよ。姉さんお土産の食べ過ぎで倒れているし・・・・」

 

そう言い、少し呆れた様子で呟く。アンツィオの帰りにお土産を買ってもらったクリムは家で買ってきたイタリアンを一夜で片付けてしまった。その影響でクリムは現在食い過ぎで倒れていた。何やってんだよ・・・・

アンツィオで秘密兵器と名高いP40の資料はほとんど残っていない。と言うか活躍の場が少なすぎてまともなデータがないのだ。かく言う私もP40を生で見たのは久しぶりだった。

そこで欧州大戦に詳しいエルヴィンがその資料を持っていると言う事でカバさんチームのシェアハウスに来ていた。

 

「それにしてもカバさんチームはシャアハウスをしているのね」

「なんか、お友達だけで生活するのも楽しそう」

「そう?」

 

シェアハウスとなるとプライベートとか丸出しにされるのではないか?と思っていた。

歩いているとどこからかカコンッと言う音がしてきて、その方に行くと。そこには和風の家があり表札を見るとカバさんチームのソウルネームが書かれていた。

 

「間違いないね」

「みたいだね。てか、ここも表札はソールネームなんだ」

 

そう言い、私とみほさんは二人は玄関まで行き声をかける。

 

「ごめんくださーい。誰かいませんか?」

 

すると玄関の扉が開き中からエルヴィンと左衛門佐、おりょうが笑顔で出迎えてくれた。

 

「「「いらっしゃい!」」」

「「お邪魔します」」

 

普段改造した制服を着ている歴女達が普段着でなのは新鮮な気がするが、それでも個性が強い。そして、二人は居間へと上がる。

 

「お茶はいったよ」

 

とカエサルがお茶を持って来てくれたが、お盆に乗っている湯呑みがこれまた個性丸出しであった。

 

「ありがとうございます」

「ありがとう」

 

リュミとみほが礼を言うと、

 

「P40の資料あまりないけど・・・・」

 

そう言ってエルヴィンが机の上に大量のP40に関する資料を置く。

 

「こんなに沢山」

「英語じゃないぜよ」

 

エルヴィンが持ってきた資料は、日本語ではなく英語でもない。

 

「・・・・イタリア語?」

 

とみほが首を傾げる中、リュミとカエサルが資料を見て言う。

 

「「Le Ferze armate italiane」」

「「「「えっ!?」」」」

 

二人は流暢なイタリア語で本の題名を言う。その事にみほ達が驚く。

 

「イタリア語読めたんだ!?」

「びっくりぜよ」

「イタリア語ラテン語は読めて常識だろ?」

「常識じゃない!」

 

カエサルがあっさり答えると左衛門佐がつっこむ。するとエルヴィンがリュミを見ながら言う。

 

「リュミさんもイタリア語読めたんだ」

「ええ、他にも色々読めるわよ?スペイン、ポルトガル、フランス、ドイツ、アラビア・・・・etc」

 

軽く十カ国以上いうとみほ達は口をあんぐりとさせたままであった。

 

「特にイタリア語なんてローナ字読みが発音だから意味さえ覚えれば読めるわよ」

「「「「そうなの(でござるか)!?」」」」

「ああ、その通りだ」

 

エルヴィンがそう言い、頷いていた。その事にへぇ〜となっている他四名。取り敢えず目的を果たそう。

 

「図面やスペックはわかるから、コンビニコピーにしよう」

 

カエサルはそう言いスラスラとノートにP40のスペックを翻訳して書き写してくれる

 

「キリがないけど、だいたいこんな所かな」

「ありがとう」

 

P40の基本的なスペック、情報の書かれた資料をみほが受け取る。

 

「本当は私の知り合いがアンツィオ校に居るから、聞いてみる方が早いんだけどな」

「そんな奴居たのか?」

「初耳ぜよ」

「どんな友達なんですか?」

「小学生からの友達で、ずっと戦車道やってる子だ」

 

自信ありげにカエサルが言う。

 

「そんな情報源があるなら最初から聞けばよかったのに」

「いや、敵が友達だからこそ正々堂々と情報集めたいな、私は」

「なるほど、友情は友情、試合は試合ぜよ」

「複雑だな」

 

エルヴィンの言葉にカエサルがそう言うとおりょうは納得した様に頷くと、

 

「ライバルですか、羨ましいです」

 

とみほが羨ましそうにそう言う。みほさんには、今までライバルらしい相手がいなかったのだろうか?

 

「じゃあ坂本龍馬と武市半平太」

「ロンメルとモントゴメリー」

「武田信玄と上杉謙信」

「ミハエル・ヴィットマンとジョンエイキース」

「冴○遼と海○主」

「「「それだ!!」」」

 

歴女達が指を指して一斉に同意する。

 

「・・・・って、それ漫画でござるし、ライバルか?」

「あら?知ってたの?」

 

おりょうのツッコミにリュミは少し面白そうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、二回戦に向けて練習の始まるため。各チームの車長達は机を中心に集まった。

 

「んで、向こうの装甲はどんな感じ?」

「P40の前面はカバさんチームやハチドリさんチームなら相手の有効距離の外から貫通可能です」

「心得た」

「んじゃあ、ぴよぴよの相手はカバさんチームとハチドリさんチームだね」

「ぴよぴよ?」

「P40のことですか?」

「そうそう、ぴよぴよ」

「ピヨピヨって、もっと他に良い言葉はなかったんですか会長?」

「いいじゃんクリムちゃん、P40よりピヨピヨの方が親しみやすいしそれに可愛いじゃん。んじゃあ、ちょっと敵味方にわかれて練習してみよっか。ぴよぴよ役はどれがいい?」

「P40に比較的近いのはⅣ号かT-34/100ですね」

「じゃあ、あんこうとハチドリがぴよぴよ、アヒルさんがカルロベローチェってことで」

「では、Ⅳ号、T-34/100と八九式を仮想敵として模擬戦をやってみましょう」

「「「はい!」」」

 

と言うわけで二回戦に向けての練習が始まった。P40とカルロベローチェの役であるアンコウ、ハチドリ、アヒルが逃げ、残りの車両が追撃するという形になった。

 

「うわ、今度のマップ山岳だから砲身後ろ向けないと走れないじゃん」

「ただでさえ長いからね。この子・・・・」

 

走りながらともみが言い、淀が答える。そう、これがこの車両の長所であり欠点だ。車体に対して砲身が長すぎる事から急な坂だと砲身が地面に突き刺さる事故が多発していた。それはT-34/85でも起こっていた。

そして今回のマップは山岳。坂が多いという事は砲身が突き刺さる可能性がある事から砲塔を常に後ろ向きにしていなければならない。

という事は、

 

「前に撃てないのかよ・・・・」

「だね〜。だからある事をちょっと練習するよ」

 

そう言うとハチドリさんチームは後ろ向きで走る特別な練習を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数時間後・・・・

 

「よし!練習終わり!解散!」

「「「「お疲れ様でした」」」」

 

今日一日の訓練が終了した。各チームが自身の戦車を倉庫に止めて、戦車から降りる。

 

「ともみお疲れ〜」

「うん。みんなもね〜」

 

戦車から降りた四人はポ○リを飲みながら汗を拭う。今日行った練習は始めということもあり結構散々な結果だった。

まぁ、腕はいいからあとは練習を重ねるだけだ。と思っているとともみが言う。

 

「今日の夜どうしよう・・・・」

「イタリアンはどう?」

「次がアンツィオだから?」

「そうそう。あと私もアンツィオの料理食べたかった・・・・」

「アハハ・・・・」

 

ともみがそう言い、思わず苦笑してしまっていると武部達が声をかけて来た。

 

「ねぇねぇ、皆んな!今日の夜どうするの?ウチらイタリア料理にしようと思ってたんだけど・・・・」

「え?あ、うーん・・・・ウチらもなんか適当にイタリアンにしようと思ってたとこ〜」

「おぉ!ハチドリさんチームも同じでしたか!」

 

するとクリムは思いもよらない事を言い出す。

 

「あっ!じゃあ、ウチで一緒に食べる?」

「「「「「えっ!?」」」」」

 

クリムの提案に驚く他全員。するとクリムは言う。

 

「この人数ならまだ入れるし、作戦会議とかできたらいいかなって思ってね」

「え?この人数だよ?」

「あぁ、広さなら問題ない・・・・けど」

 

リュミは良いのか?と思っていた。部屋は二部屋あるので入れるのだが、戦車道に使っていた物とかも閉まってはあるが置いてあるので、それを見られても良いのか?と言う疑問だった。しかし、クリムは気にしていない様子だった。

 

「ウチ、学校から近しい。途中にスーパーあるし。楽だと思うよ?」

 

そう言うと武部達は少し考えた後に言う。

 

「うーん。じゃあ、ちょっとお邪魔しようかな・・・・」

「じゃあ、私は食材を買って来ますね!」

「あ、私もついて来ますね」

「私はみちあんな〜い!」

 

そう言い、それぞれ役割分担をすると学校を後にしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二回戦です!

戦車道全国大会二回戦まであと数日。

その間、私たちはアンツィオ戦に向けてある練習をしていた。山岳という坂の多いマップということで少々特殊な練習を個人で行なっていた。

一回戦でも単独行動の多かった私たちハチドリさんチームは二回戦でも単独行動がある可能性があるということ遅くまで練習をしていた。家はハチドリさんチーム全員で私たちの部屋に泊まり込み、数日間だけだがシェアハウスの様なことをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園の廊下ではみほ、五十鈴、武部の三人が話しながら歩いていた。すると、みほ達と反対方向から金髪に猫耳カチューシャに、瓶底メガネを掛け長身の女生徒がみほ達に声を掛けようとしたが

 

「へぇ〜継続高校って結構強いんですね」

「うん、前に練習試合の時苦戦したんだよね」

「黒森峰なのに?」

「そうなの!危なかったんだ」

「うちとどっちが強い?」

「やってみないと分からないけど、隊長が凄く優秀な人で・・・・」

 

失敗し、三人はその生徒に気付かないまま過ぎ去って行った。女生徒は、その場でボーッと突っ立っていた。

 

「また声かけれなかった・・・・もうダメだチキンハートボク・・・・・次はきっと頑張るんだ、ねこにゃー!」

「何してるの?」

「えっと・・・・き、君は・・・・」

「私はクリム」

「私はリュミ。あなた名前は?」

「ボクねこにゃーです」

「いやいや、聞いているのは本名」

「え?あ、猫田です。西住さんと同じクラスなんです」

 

ねこにゃーさんは少しおどおどした様子で返事をする。

 

「実は、ボクも戦車道に入りたくて・・・」

「それで、みほさんに声を掛けようとしたの?」

「う、うん」

「戦車道の経験は?」

 

二人が交互に聞くとねこにゃーは答える。

 

「リ、リアルでの操縦はした事ないけど、ネットなら何度もやってるから動かし方はわかるよ」

「なるほど・・・・」

 

そう言いながらリュミはねこにゃーの体付きを見て言う。

 

「うーん、入るのは大歓迎だけど・・・・」

「もう少し筋肉をつけるのと、あと出来れば知り合いをあと二人くらい呼んでくれたら嬉しいかなぁ・・・・」

「ボ、ボクと同じ様な人が居ないかネット仲間に聞いてみるね」

「ええ、集まったら生徒会目安箱に送ると入れてもらえるよ」

「わ、わかった。ありがとう・・・・明日、頑張ってね」

 

最後にそう応援されるとねこにゃーは去っていった。今日はこの後の授業は先生が休みと言うことで授業がないので二人は校舎を出て格納庫に歩いていた。

その途中で二人は戦車道履修者を思い出しながら呟く。

 

「ここの生徒たちって良いよね〜」

「そうね。一部違うけど殆どの子がストイックで、戦車が好きだったり・・・・戦車道そのものに対する意識は高いわね」

「あと、整備能力もね」

 

リュミが付け加える様に言い、クリムは頷く。

 

「本当ね。あんなボロボロだった戦車を一日で直せる能力・・・・うちに欲しいくらいね・・・・」

 

だって池の下に沈んでた戦車を一日で動かせるまで持って行ったのは正直才能の塊な気がする。世界中を見てもそのレベルの整備士はなかなかいないだろう。

できるならウチに勧誘をしたい。まぁ、ロシア語喋れることが条件になっちゃうけど・・・・

そんなことを思っていると戦車格納庫に到着する。

 

「さて、作戦を考えながら暇つぶしをしますかね〜」

 

そう呟きながら私たちは戦車に乗り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、迎えた第63回全国戦車道大会第二回戦。

今回のマップは山岳地帯。機動戦がアンツィオの得意な立地である。フラッグ車を叩けば勝てるこの試合。相手の指揮官の決断力と判断力によってはこちら側がやられるかもしれない。

それに、相手はなかなか策士だと聞く。出なければ火力で劣る。それもセモヴェンテとCV33だけで守りの硬いマジノ女学院を倒せるのは単純にすごいと評価するべきだ。

 

『これより・・・・二回戦第四試合アンツィオ高校対大洗女子学園の試合を開催します』

 

アナウンスが鳴り、観客席には聖グロのダージリンやサンダースのケイさんなどがやって来ていた。

そんな私達は最後に作戦を書いた図を見ながら確認を行なっていた。

 

「ここがポイントです」

 

そうして地図を見て確認していると、一台のAS42サハリアーナがやって来た。運転するカルパッチョの横で腕を組んで立ち乗りしているアンチョビの姿があった。

 

「たのもぉー!」

 

高らかな掛け声と共にやって来たアンチョビ。

 

「お〜チョビ子」

 

角谷が手を振りながらそう言うと、アンチョビが不服そうな顔をしてAS42サハリアーナから降りて来た。会長とアンツィオの隊長は知り合いみたいだ。いや、サンダースの時と言い、あんた一体何者なんですか?

 

「チョビ子と呼ぶな!アンチョビ!」

「で、何しに来た安斎?」

「アンチョビ!試合前の挨拶に決まってるだろ!」

 

そして、アンチョビは気を取り直し

 

「私はアンツィオの総師アンチョビ。そっちの隊長は?」

 

ビシッと!擬音語が付かんばかりに指を指しながらアンチョビがそう言うと河嶋がみほを呼び寄せる。

 

「おい、西住」

「あ、はい」

 

河嶋に呼ばれたみほは、アンチョビの所に行くとアンチョビが

 

「ほ〜あんたがあの西住流か?」

「西住みほです」

 

そう言ってみほはお辞儀をし、アンチョビはみほを上から下まで見て言った。

 

「ふん!相手が西住流だろうが島田流であろうが絶対に負けない・・・・じゃなかった!絶対に勝つ!今日は、正々堂々勝負だ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

とアンチョビから握手を求められ、みほもそれに応じる様に握手を交わす。するとアンチョビは大洗の戦車を見て聞く。

 

「ところでT-34/100の車長は何処だ?」

「私だが?」

 

私はそういうとアンチョビは一瞬だけギョッとした様子を浮かべるも、手を差し出しながら私を探していた理由を話す。

 

「月刊戦車道でT-34/100の記事を読んでな。君に会いたいと思っていた。改めていうが私はアンツィオ総師アンチョビだ。よろしく頼む」

「初めまして総師アンチョビ。私は大洗戦車道T-34/100チーム車長。小野クリムです」

 

そう挨拶をするとアンチョビは改めて私を見て他の車長に軽く挨拶をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カバさんチームでは・・・・

 

「ん?ひなちゃん!?」

「たかちゃん!久しぶりー!!」

 

先ほどからキョロキョロと誰かを探していたカルパッチョがカエサルを見つけると嬉しそうに駆け寄った。

 

「ひなちゃんも!久しぶりー!!」

 

カエサルもそれに気付くとすぐにカルパッチョの元に行き、二人して手を繋ぎ互いに嬉しそうに笑い合う

 

「たかちゃん、本当に戦車道始めたんだね、びっくりー、ね、どの戦車に乗ってるの?」

「えへへ、ひみつー」

「え~、まぁそうだよねぇ、敵同士だもんね」

 

と、話し合う中、他のカバさんチームはそれを見て

         

「たかちゃんって誰ぜよ?」

「カエサルの事だろう」

「いつもとキャラが違う・・・・」

 

いつもクールな表情で堂々としたカエサルを見てきた他の三人は、無邪気な笑顔で話すカエサルを見て唖然とする。そんな三人に気付かずカエサルこと貴ちゃんは

 

「でも、今日は敵でも、私達の友情は不滅だかね」

「うん、今日は正々堂々戦おうね」

「試合の前に会えて良かった、もう行くね、ばいばい」

「うん、ばいばい」

 

お互いにこやかに笑い合って手を振っている、嬉しそうな表情のカエサルだが、後ろを振り返ると・・・・・

 

「たーかちゃん♪」

「カエサルの知られざる一面を発見だな」

「ひゅーひゅー」

 

カエサルの後ろには他の歴女メンバーがニヤニヤした表情で見てカエサルを茶化していた。それを見たカエサルは 

 

「なっ・・・、なんだ!なにがおかしい!!」

 

顔を真っ赤にさせてそう叫ぶカエサルであった・・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マカロニ作戦です!

「パンツァーフォー!」「Avanti!」

 

試合開始のアナウンスが鳴ると共に、大洗とアンツィオ両チームの戦車隊が一斉に動き出す。

 

「行け行け!どこまでも進め!勝利を持ち得る者こそごパスタを持ち帰る!」

「最ッ高すよアンチョビ姐さん!」

 

フラッグ車であるP40のキューポラから上半身を出して無線でアンチョビがそう言い、CV33に乗るペパロニが興奮しながらP40と並びながら走行する。

 

「テメェらもたもたすんじゃねえぞ!このペパロニに続け!地獄の果てまで進め!」

『『『おぉー!!』』』

 

興奮気味なペパロニの言葉に他の乗員の子達も声が上がる。そのままペパロニ達は、アンチョビのP40を追い越して先行して行く。

 

「よし、このまま『マカロニ作戦』開始!」

「カルロベローチェ各車は、マカロニ展開して下さい!」

 

無線で、アンチョビとカルパッチョが作戦展開を指示し

 

「OK!マカロニ特盛で行くぜ!」

 

そうして、カルロベローチェ部隊は森の奥まで入ると急停車して、そのまま乗員は降車すると、車体後部のエンジンルームの上に積んでいた何かを下ろしてどこかに持って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の大洗は、山を登りアヒルさんチームの八九式を偵察のために先行させる。

 

「先行するアヒルさん。状況を教えて下さい」

 

急斜面を登って行く八九式のキューポラから磯部は顔だけ出して辺りを警戒する。

 

「十字路まであと一キロほどです」

『十分注意しながら、街道の様子を報告して下さい。開けた場所に出ない様気を付けて!』

「了解!ずっとコート外行くよ!」

「はい!」

 

磯部がそう言って川西は八九式を十字路へと向かって行き、街道手前に着くと八九式が停車して磯部がキューポラから身を乗り出す。

 

「街道手前に到達しました。偵察を続けます」

 

双眼鏡を取り出して辺りを見回す。そして、磯部の視線の十字路には既にアンツィオの戦車が展開していた。

 

『セモベンテ二両、カルロベローチェ三両。既に十字路配置!』

「十字路の北側だね?」

 

無線でアンツィオの位置を聞いた武部がそう答える。

 

「流石の機動力。もう配置が済んでいるのね」

「流石に豆戦車の速度には勝てないからなぁ〜」

 

T-34/100の車内でクリムとリュミがそう呟きながら全員で持ってきたショカコーラを食べてキメテいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カメさんチームの河嶋は・・・・

 

「それなら南から突撃だ!」

『でも、全集警戒の可能性もあります』

「相手はアンツィオだぞ!ありえん!!ここは、直行だ!」

「突撃いいね〜」

 

突撃を渋るみほに、声を荒げる河嶋に角谷は賛同する。みほは・・・・

 

「分かりました。十字路に向かいましょう。ただし、進出ルートは今のまま行きます」

「直行しないんですか?」

「ウサギさんチームのみ、ショートカットで先行してもらいます。まだ、P40の所在も分かりませんから、我々は、フィールドを抑えつつ行きましょう」

 

そう言うとウサギさんチームのM3が隊列から離れて丘の斜面へと登って行く。

 

『ウサギさん、十分気を付けて下さい』

「頑張ります」

 

みほがそう言うと梓がそう言う。そして、磯部からみほに無線で連絡が入る。

 

『こちら、アヒルさん。変化なし、指示をください』

「本隊が向かいますので、そのまま待機でお願いします」

 

武部にそう言われ、磯部は双眼鏡でアンツィオを見張っていた。

 

「う〜ん・・・・動きがないな・・・」

「エンジンも切ってますね?」

 

双眼鏡で見張っている磯部とキューポラから身を乗り出す佐々木が先からずっと動かないアンツィオ戦車に不信感を募らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のウサギさんチームは

 

「速〜い、練習の成果だね」

 

坂口の操縦するM3が、かなりの速度で坂を登っていた。

 

「きゃ〜もっと飛ばして!」

「出過ぎ出過ぎ!!もう、街道だよ!!止めて止めて!」

 

梓がそう言うと、坂口はM3を急ブレーキを踏んで急停止させようとするが速度がかなり出ていた為急には止まらなかった。M3はそのまま街道に勢いよく飛び出た。その時梓が木々の間からアンツィオの戦車を発見した。

 

「っ!後退!後退!」

 

梓は、直ぐに後退するように言い坂口は急いでM3を後退させる。

 

『街道南側敵発見!すみません、見られちゃったかも』

「発砲は?」

『ありません』

「くれぐれも交戦は避けて下さい!」

「分かりました!』

 

ウサギさんチームから通信を受けたみほは、すぐに指示を出す。

 

「一番の要所を完全に抑えるなんて、流石アンツィオですね。ノリと勢いで攻めてくると思ったんですけど、今回はノリと勢いを封印して来るとは当てが外れましたね」

 

と秋山が膝の上に地図を広げて感心したようにそう言う。

 

「持久戦に持ち込もうと言うのでしょうか?」

『態と中央突破させて、自慢の足で包囲する作戦かもしれないわ』

 

みほ達が地図と睨めっこしているとクリムが無線で聴く。因みに盗聴器は今のところ見つかっていない。やっぱりあれは金持ち学校しか無理の様で、あの試合後に盗聴器禁止のルールが追加された。因みに携帯の使用はまだ禁止されていなかった。

 

「ウサギさんチーム、陣取っているアンツィオの車種と数を教えて」

『はい、えっと・・・・カルロベローチェ四両、セモベンテ二両が陣取っています』

「えっ!?どう言う事、数が合わないわ?間違いないの?」

『はい、間違いありません』

 

クリムが、詳細を聞くと梓と丸山が戦車から降り茂みに隠れ双眼鏡で確認する。梓からの報告を聞いて違和感を感じた。

 

「どう言う事?・・・・みほさん、大会規定では二回戦は十両までだったわよね」

『はい、大会ルールではそうなってます』

「妙ね・・・・」

「確かに妙ね、アンツィオ戦車の数が一致しないなんて、インチキかしら」

「いや、高校生若きがそんな卑怯な真似をするとは思えない。第一あんなのすぐバレて試合中断よ?それに妙なのはそれだけじゃない。敵がウサギさんチームを見過ごした事もそう。いくら停車していたとは言え敵が来たらエンジンと履帯の音で気付くはず。それに全車見逃すなんてあり得るの?」

「確かに」

 

とクリムはアンツィオ戦車の数が合わない事もそうだが、一両も発砲してこない事に不審に思った。

 

「数が釣り合わず発砲してこない戦車・・・・・まさか・・・・みほさん?」

『クリムさん。もしかして・・・・』

 

ある懸念が浮かんだみほはマイクに手を当てる。

 

『ウサギさん、アヒルさん退路を確保しつつ、斉射して下さい。反撃されたら直ちに退却!』

『『了解!』』

 

そして、アヒルさんチームとウサギさんチームは其々前方の敵に向かって主砲や機銃を発砲する、放たれた機銃と砲弾はアンツィオのCV33とセモヴェンテに命中するが、撃破を示す白旗は上がらず機銃で貫かれたり砲弾で木っ端微塵に吹っ飛んだ戦車の絵が描かれた木の板だった。

 

「なっ!?」

「看板!?」

「板だ!?」

「「「ニセモノだー!?」」」

 

自分達がずっと見張っていた敵の正体が木の看板だった事からアヒルさんチームとウサギさんチームから驚きの声が上がる。

 

「成程。相手さん、看板を囮にして混乱しているところをアンツィオ自慢の機動力で三方向から包囲して狙い撃ちにしようって作戦ね・・・・」

「へぇー、うまく考えたわね」

「数え間違いさえなければ・・・・」

「惜しいなぁ〜」

 

実際は少し事情が違うが自分たちを欺いた相手の司令官にあっぱれと言いたかった。

 

「・・・・で、どうする隊長?」

『考えがあります。ウサギさん、アヒルさん』

 

とみほは、無線でウサギさんチームとアヒルさんチームに指示を出す。

敵の目的がわかった以上。こちらも手を打たねば・・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

山岳の激戦です!

大洗が立て看板に気付き、行動を行っていた頃。ペパロニ率いるCV33部隊は当初の作戦通りに道を疾走していた。

 

「アハハハ!今頃あいつら十字路でビビって立ち往生しるぜ!戦いは火力じゃないオツムの使いかただ」

『ペパロニ姐さん!』

「なんだ?」

『大変です、ティーポ89が!!』

「なんだって!」

 

ペパロニが車内の小窓から後方を覗くと、坂を登ってくるアヒルさんチームの八九式中戦車が追いかけて来た。

 

「何でバレてんだ!・・・・まぁいいや、ビビってんじゃねぇ!アンツィオの機動力について来られるかつーの!シカトしとけ!!」

 

ペパロニの言葉で、CVは追ってくる八九式を無視してそのまま進軍を続ける事にした。これがのちに大失態への引き金となると思わずに・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、大洗チームは・・・・

 

『敵五輌発見しました!F24地点を東に向かっています』

 

アヒルさんの磯部は無線で敵の位置を報告しつつCVを追撃して行く。

 

一方ウサギさんチームは、森の中を走っていると

 

「あっ、二時に敵影!」

 

車長である澤が森の奥の丘の上にセモベンテ二輌を発見した。

 

「また、セモベンテ。先と一緒だ騙されるもんか!」

「あっ、ちょっと!?」

 

またデコイだと思ったあやは梓の静止を聞かずに、あやはペダルを踏みセモベンテに向けて機銃を発射して、同時に37mm砲もセモベンテに向けて放たれた。すると、放たれた砲弾はカキンっと金属同士がぶつかる音がした後、セモベンテが仕返しと言わんばかりにM3に砲撃して来た。

 

「ええっ、本物だ!!」

「もう!!」

 

また、偽物だろうと予想していたが、本物だった事に驚くあやに梓がそう言う。

 

『A23地点、セモベンテ二両発見!今度は、本物です!!』

「撃ってないわよね?」

『すみません。もう交戦始まっちゃっています!!』

 

するとみほが言う。

 

「大丈夫。敵の作戦はわかりました。セモヴェンテとは、付かず離れずで交戦してください。もし二輌が西の方へと行動を始めたら、それは合流を意味します。その際には全力で阻止してください」

『は、はい!』

 

みほの指示に梓は返事をし、みほはほかの車両に指示を出した

 

『我々あんこうとカバさん、ハチドリさんチームはカメさんを守りつつ進撃します。主力が居ない間に、敵のフラッグ車を叩きましょう。当然ながら、その際には此方のフラッグ車は勿論ですが、火力が高いハチドリさんチームのT-34も警戒されるでしょうが、逆に囮として、上手く敵を引き付けてください!』

「Да、みんな行くよ!」

 

みほの指示に頷き、作戦を行い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アヒルさんチームは広い荒野でCV隊を追いかけていた。アヒルさんチームが激しい砲撃や機銃掃射をする中、CV隊はジグザク走行で攻撃をよける。そしてCV隊隊長のペパロニは、

 

「くそっ!しゃらくせっ!!おい!反撃だ!!」

「Si!」

 

ペパロニが車内後部の窓を覗きながら、操縦手のアマレットに支持するとアマレットは頷き返事をする。すると、二輌のCVは八九式の前に、残りの三輌は後ろにつく

 

「バックアタック!」

「はい!」

 

背後に回ったのを見た磯部はあけびに背後の敵を撃つように指示し、あけびは背後にいる三輌のCVに向けて車載機銃を撃つが、カルロベローチェはその弾丸をよける。そしてペパロニ率いる。前を走っていた二輌が反転してバック走行を始め

 

「撃て!」

 

そしてペパロニの指示で、5輌のCVは一斉に機関銃を乱射する。

 

「「イッテテテテテテ!?」」

 

CVの8ミリ機銃弾は八九式の装甲を貫けずはじいてしまうが、なぜか車内で磯部とあけびが痛がっていた。

 

「痛いのは戦車ですから取り敢えず落ち着いて反撃しましょう」

 

と通信手の近藤妙子が適切なツッコミを入れる。そして、磯部達は、CVに反撃を仕掛け、あっという間に2両のCVに砲弾を命中される事に成功した。

 

「よっしゃ!」

「バレー部の時代来てるぞ!次だ次!Gクイック!」

「そーれ!」

「ナイスアタック!」

 

とそうしている間もまたもCVに砲弾を命中させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、セモベンテ二輌に追撃されているM3のウサギさんチームは。

 

「逃げてるだけだよ」

「二輌相手じゃ・・・」

「回り込んじゃいなよ〜」

「逃げるので精一杯!」

 

とそうして梓達が話し合っていると、優季が何かを思い付いた様だ。

 

「そうだ。考え方次第だよ。向こうが2輌で一つの砲、こっちは二つであいこじゃん」

「なるほど」

「なるほどじゃない!」

 

優季の言葉にあゆみが納得するが、梓がツッコミを入れる。ウサギさんチームは、セモベンテに追われながら林の中を走って行た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗がそれぞれ戦闘を開始している中、とある地点の草影では、アンチョビのP40を始める両脇にはセモベンテとCVが待機していた。P40のキューポラの上でペパロニ達CVのマカロニ作戦の報告の一向に来ない事に疑問に感じて無線を取る。

 

「おい、マカロニ作戦はどうなっている?」

『すみません姐さん。今それどころじゃないんで後にしてもらえますか?』

 

アンチョビは、ペパロニにマカロニ作戦の進み具合を聞くが、ペパロニから作戦の報告では無く『今それどころじゃない』との事で、その報告にアンチョビは訳がわからず首を傾げた。

 

「何で?」

『ティーポ89と交戦中です。どうしてバレちゃったのかな?』

「十字路にちゃんとデコイ置いたんだろうな!?」

 

ペパロニに作戦通りにやったのかと、問いただす。

 

『ちゃんと置きましたよ全部!』

「全部!?」

 

「全部」と言うワードにアンチョビは叫ぶ。

 

「は!?十一枚だと数多いから即バレるだろうが!」

 

と本来九枚を十字路に設置する予定だったのが、ペパロニのミスで呆気なくバレてしまった。なんとも間抜けなミスを犯してしまった。普通ならここで『しまった!?』と焦ってしまうはずだが・・・・

 

『そっか〜、流石姐さん賢いっすね〜』

 

しかし、当のペパロニ本人は楽観的だった。ペパロニは、そう言う意味ではアンツィオ校生の典型と言えよう。

 

「お前がアホなだけだ!!」

 

そう怒鳴り散らすと、アンチョビは無線を切る。

 

「おい!出動だ、敵はそこまで来ている!!」

「はい!」

 

とアンチョビがそう言う両脇にいるセモベンテとカルロベローチェと共に大洗チームを探すため出撃して行く。

 

「二枚は予備だってあれ程言ったのにー、なんで忘れちゃうかな?」

 

そう言ってアンチョビが愚痴っていると、偶然にも前方からみほ達大洗チームとすれ違う。

 

「全車停止!敵フラッグと隊長車発見!!」

 

アンチョビがそう声を張り上げると三輌が急停車した。大洗チームも同じで、T−34/100も速度を落とし、転回でスライドしながら車体の向きを180度後ろに向ける。

 

「あのパーソナルマーク・・・・タカちゃん」

 

そんな時、セモベンテのハッチから様子を伺っていたカルパッチョが、ゆっくりと旋回する三突の側面に描かれているカバさんチームのパーソナルマークを見て、何かを感じ取ったのか?三突に狙いを定める。実は、カバさんチームが使っているパーソナルマークはカエサルがネットでのプロフィール画像に使っているのと同じだったのでカルパッチョはそれに気付いた。

 

「ドゥーチェ、75mm長砲身の三突は、私に任せてください!」

「任せた!」

 

セモベンテは三突と向かい合い、残ったP40とCVは坂を下って行く。

 

 

 

戦いは乱戦へと入っていった・・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二回戦の乱戦です!

P40が坂を下って行き、Ⅳ号とT-34/100はカメさんチームを護衛しながらP40に砲撃をする。しかし、坂道でガタガタ揺れることからなかなか当たらない。おまけに反動も大きく、砲身が坂の最後で地面に突っ込まないか心配であった。

 

「仕方ない。ちょっと顔出しますか・・・・」

 

クリムはそう呟くとタイミングを合わせる為にキューポラから顔を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のカバさんチームの三突は、副隊長のカルパッチョが乗るセモベンテは車体をぶつかり合いながら至近距離で砲撃し合って対決していた。

 

「向こうは側面は晒さない筈、正面なら防楯を狙って!」

「どこでもいいから当てろ!三突の主砲なら何処でも抜ける!」

 

其々の装填手であるセモベンテのカルパッチョと三突のカエサルは、其々自車の砲手にそう言う。二両の車体や主砲が互いにぶつかり合い、激しい金属音や火花を散らす。お互いに撃ち合うが、体当たりで照準がずれ別方向へと放たれてしまい、お互い天板が掠れる程度だった。何度も車体をぶつけ合い、撃ち合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のアヒルさんチームこと八九式のバレー部は、数両のCVと交戦状態になり、八九式は57mm砲でCVを一両、また一両と砲撃して行き、砲撃されたCVは後ろに転がって行くが、

 

「なんかどんどん出てくるんですけど!?」

「泣き言を言うな!」

 

半泣き状態のあけびに、磯部が喝を入れ装填して行く。もう、何両も撃破している筈なのに一向に数が減っている気配がない。

 

そして、ウサギさんチームは、

 

「形成逆転したいなぁ〜」

「今は無理!」

 

現在、セモベンテに砲撃されながらも逃げるので精一杯だった。宇津木がそう言うと、桂里奈がツッコミを入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アヒルさんチームの八九式は、

 

「うわっ!やっぱまた来た!?」

「西住隊長、キリがありません!」

「豆タンク不死身です!」

 

何度も砲撃しているのに、次々と復活して襲い掛かってくる。磯部、忍、あけびが何度も復活してくるカルロベローチェに悲鳴をあげる。すると、みほが無線でバレー部に言った。

 

『大丈夫、 CVは不死身な訳ではありません。白旗判定の出てない車両を立て直してくるんです!』

「成る程、車体の軽さで衝撃を緩和してるんですね?」

「回転レシーブ・・・・」

「要するに根性だ!」

 

みほがそう説明すると、妙子、忍、典子の3人がそう言うとクリムから通信が入る。

 

『豆戦車の弱点は車体後部のエンジン冷却部よ。車体に当てても、またさっきのように復活してくる。確実に撃破するなら落ち着いてそこを狙いなさい』

「「「「はい!」」」」

 

そう言ってクリムは無線を切る。

 

「よっしゃー、佐々木!もう一度最初から!!」

「はい」

「バレー部、ファイトー!!」

「「「おーっ!」」」

 

と典子がそう叫ぶと三人がそう叫んだ。

 

「クリムさんのアドバイスを思い出せ!砲を支えれば、戦車が揺れても照準は安定する!」

「はいっ」

「気合い入れていけ!」

 

あけびは、片手で引き金部分を抑えスコープ越しに前方を走るカルロベローチェのエンジン部分に照準を合わせる。

 

「弱点は、エンジン冷却部」

「撃て!」

 

そして、典子が指示を出した時、突然前方のカルロベローチェ2両が左右に分かれ、典子が何事かとキューポラから顔を出すと前方からセモベンテに追われているウサギさんチームのM3が現れた。

 

「うわっ!」

 

典子は、突然目の前に味方の戦車が現れた事に驚いていると、八九式が右に避け、衝突は免れた、典子は急いで体制を立て直しCVを追う。

 

「撃て!」

「はいっ」

 

その声と共に、あけびは引き金を引いた。そして、その砲撃はCVのエンジン部分に見事命中した。砲撃を受けた CVは、横転して止まり車体側面から撃破を示す白旗が上がった。

 

「次、フロートライト」

「はいっ」

 

典子が、砲弾を装填し、あけびは次のカルロベローチェに向けて砲撃する。カルロベローチェは、一瞬中を舞うと白旗が上がった。

 

「バックライト!」

「ここもウィークポイント!」 

 

薬莢が排出されるたびにCVはどんどん撃破され、典子は次々に砲弾を放り込んでいく。

砲弾が当たる度に、あるCV33はスリップして止まり、ある CV33は横向きにゴロゴロと転がって止まる。そして瞬く間に、残った CV33はCV33隊リーダーのペパロニだけとなった。

 

「調子に乗りやがって!」

 

車内後部の窓から八九式を睨みながら、ペパロニはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カルロベローチェ四輌、走行不能!』

「何だって!!」

 

そして、カルロベローチェが撃破されたと言うアナウンスにアンチョビが驚き焦る。

 

「おーい!包囲戦は中止!・・・・とか言ってる内にCVがやられた!?丸裸だ!!」

 

包囲作戦中止する様にアンチョビが指示を出すと、Ⅳ号から放たれた砲弾が隣を走行していたカルロベローチェに命中し、撃破された。これて、フラグ車であるP40単独となった。

 

「一同!フッラグの元に集まれ!戦力の立て直しを図るぞ!分度器作戦を発動する!」

『了解!』

 

アンチョビがマイクに向かって指示を出す。三突と激しい一騎打ちをしているカルパッチョを除く、ペパロニのカルロベローチェとM3を追いかけるセモベンテ2両がアンチョビのもとへ向かった。

 

「分度器作戦って何でしたっけ?」

「さー、知らん」

 

アマレットが分度器作戦について聞くがペパロニは知らないと答える。彼女達は、どうやら分度器作戦を理解していないようだった。

 

『P40が単独に成りました。援軍が来る前に決着を着けます』

「あいよ〜で、どうやんの?」

 

みほの言葉に角谷が答えると

 

「クリムさん。お願いします」

「はいよー」

 

そういうとT-34/100はどこか別の場所に向かって離れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、M3は先ほど追いかけていたセモベンテ二輌を追いかけていた。それはP40と合流させないためだ。

 

「向こうが合流する前に、二輌共やっつけるよ!」

「やっと撃てる!」

 

梓の命令にあゆみは嬉しそうに言い坂を上るセモベンテに37ミリと75ミリ砲を撃つが、砲弾は二輌に当らずすぐそばに着弾してしまう。

 

「あーもう!」

「なんで当たらないのよ~?て、腕だよね・・・・・」

「やっぱり停車して撃とう。急がば回れだよ。桂里奈ちゃん」

「あい!停車!」

 

そう言いM3は停車する。

 

「せっかく砲が二門あるから、これで誤差を修正するの」

「どうやって?」

「綾、撃って」

「オーケ~!」

 

そういい綾は37ミリ砲を撃つが、砲弾は当たらずセモベンテのすぐそばに落ちた。

 

「やっぱりはずれた!?」

「えっと・・・・右に一メートル、上に五〇センチ修正して」

「うん!」

 

梓の言葉にあゆみは誤差を修正する。

 

「撃て!」

 

明日座の言葉にあゆみは引き金を引くと放たれた砲弾は見事セモベンテに命中し撃破した。

 

「当たった!」

「すごーい!」

 

命中したことに桂里奈と優季は喜ぶ

 

「次を狙うよ。綾、あゆみ」

「「わかった」」

 

そう言い二人は残ったセモベンテを狙おうとしたがセモベンテは丘の向こうへと行ってしまった。

 

「あ!逃げられた!」

「追うよ。落ち着いて冷静に!」

「梓。西住隊長みたい~」

 

そしてM3は急発進させ、取り逃がしたセモヴェンテを追い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アンチョビは、大洗フラグ車である38tを追いながら待ち伏せがないか確認しながら進んで行く。

 

「待ち伏せらしきⅣ号とT-34の姿はありません」

「囮かと思ったが、考えすぎか?いいか、見せつけてやれ!アンツィオは弱くない、じゃなかった、強いと言うことを!目指せ悲願のベスト四、じゃなかった優勝だー!!」

 

そして、38tに向けて砲撃するが外す。38tも砲撃するが見事に外れた。

 

「外れ〜」

「偶には当ててよ桃ちゃん」

「今は挑発行動中だからこれでいいんだ!」

 

河嶋の射撃の腕に柚子は落胆しながら言う、河嶋はイラつきながら反論する。

 

「西住ちゃん、そっちはどう?」

「はい。ハチドリさんチームと合流してもうすぐ到着します。キルゾーンへの誘導、よろしくお願いします」

「あいよ~」

 

そう言い杏たちはP40をキルゾーンへと誘導する。誘導に乗っかってきたアンチョビのP40が目的地に到着した。

 

「よし、崖に追い詰めたぞ!!」

 

そう言い砲弾を撃つが躱される

 

「あ、クッソ!装填急げ!」

「はい!」

 

装填手にそう言うとアンチョビは不意に崖の上を見る。するとそこには砲をこちらに向けたⅣ号とT-34/100がいた。

 

「っ!?・・・・これはまずい」

 

さすがにやばいと思ったアンチョビ。すると、

 

『総師、遅れてすみませっ、痛ぁ!?』

 

その時、運良くウサギさんチームから逃げてきたセモヴェンテが崖の上から現れるが、其所からガラガラと音を立てながら、派手に落下して地面に叩きつけられる。

 

「こら!無茶をするな怪我をしたらどうする!」

 

そう言いアンチョビの乗るP40は後退して墜ちたセモベンテの盾になろうとするがそこへ到着したM3の砲撃でセモベンテは撃破されてしまう

 

「アンチョビ姐さーん!姐さぁーーん!!」

 

その直後、ペパロニのCV33が到着したのだが、追ってきたアヒルさんチームの八九式中戦車の57ミリ砲がCV33のエンジンに向けてはなたれ砲弾はエンジンに命中し、CV33はそのまま吹き飛ばされ、車体のあちこちを派手に地面に打ち付けながら飛んでいき、最終的には撃破されたセモヴェンテにぶつかって止まる。P40は、Ⅳ号に向かって砲撃するも、砲弾は外れ、そしてお返しと言わんばかりにⅣ号とT-34/100の主砲がP40に向けられる。

 

Огонь!(撃て!)」「撃てっ!」

 

そう言うとⅣ号とT-34/100から砲弾が放たれ、P40は二つの砲撃を喰らって撃破された。

 

『フラグ車P40走行不能!!大洗女子学園の勝利!!』

 

大洗の勝利を告げるアナウンスが流れる。こうして、二回戦は大洗女子学園の勝利で幕を閉じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試合後の宴です!

二回戦を勝利した大洗チーム。

こちらの損害はカバさんチームの三突のみ。なんでも相手の副隊長と相打ちとなったそうだ。

 

「お疲れー」

「今回出番あんまなかったね」

「まぁ、あの戦術も結局使わなかったしね」

「なんか微妙だなぁ・・・・」

 

そんなことを呟きながら戦車を降りるとみほたちと合流する。

 

「お疲れ〜」

「クリムさんたちも。お疲れ様です」

 

合流をした自分は思わず呟く。

 

「次は準決勝か・・・・」

「はい、ここまで来れましたね・・・・」

 

すると、

 

「いやー惜しかったな~。今年こそは勝てると思ったのに。でもいい勝負だった」

 

とそこへアンチョビがやってきて、みほと私の手を握り握手をする。そしてみほにハグをした。

 

「決勝まで行けよ? 我々も全力で応援するから! だよなぁ!」

「「「おおぉーーー!!」」」

 

アンチョビが仲間にそう呼びかけるとアンツィオの仲間たちは元気いっぱいに声を上げる。

 

「ほら笑って!もっと手を振って!」

「あ、アハハハ・・・・ありがとうございます」

 

もはやどっちが勝者かわからない。みほは苦笑しながらアンツィオに人たちにお礼を言う。するとアンツィオの生徒たちがテーブルや椅子。そして大きな鍋を用意し始めた。

 

「なにが始まるんですか?」

 

みほがアンチョビにそう訊くとアンチョビはふっと笑う。

 

「諸君! 試合だけが戦車道じゃないぞ! 勝負を終えたら試合に関わった選手、スタッフを労う! これがアンツィオの流儀だぁーー!!」

 

そう言った瞬間。アンツィオの生徒たちが宴の準備や料理を作り始める。

 

「すごい物量と機動力・・・・」

「これが本当のアンツィオ戦・・・・」

 

そう呟くとアンチョビが言う。

 

「我が校は、食事のためならどんな労も惜しまない!・・・・まぁ、この子達のやる気がもう少し試合に活かせるといんだけどなぁ・・・・。まぁ、それはおいおいやるとして、せーのっ!」

「「「「いただきまーす!!」」」」

 

アンチョビの合図と共に皆手を合わせて合掌し、楽しいパーティーの始まりだ。一年生チームは、アンツィオの子達と仲良く合流をし、リュミ達がお淑やかに食べる一方でともみは、豪快にガツガツと食べていた。秋山は、アンツィオのパンツァージャケットを見て興奮したり、試合が終わればそこには、敵も味方も存在しないみんな笑顔で楽しくテーブルを囲いイタリア料理を楽しんでいた。

この学校は将来、人気になる(確信!)

そう思ったからこそ、私はアンチョビを呼び出した。

 

「総師アンチョビ」

「?」

「少し、お話が・・・・」

 

そう言い、アンチョビを呼び出すとクリムは先の試合の感想を言う。

 

「二回戦は素晴らしい作戦でした。上手くいけばおそらく我々もやられていたでしょう」

「あ、あぁ・・・・」

 

いきなり褒められ、困惑しながら苦笑するアンチョビにクリムは助言をする。

 

「私としては何台かの CV33に対戦車ライフル。若しくは機関砲を搭載することをお勧めしますよ」

「え?」

 

いきなりの助言に目を丸くするアンチョビ。クリムはフフッと笑うとその場を後にした。

 

「では、またいつか試合しましょう」

 

そう言い残し、クリムは去っていった。この助言が理由かは定かではないが、この後 CV33の火力強化を行ったL3ccが登場する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃激しい一騎打ちの末に、引き分けとなった。三突のカエサルとセモベンテのカルパッチョ、二人の装填手が賑やかな所から少し離れた静かな場所で試合の話をしていた。

 

「たかちゃんも、装填手だったんだ」

「あぁ」

「最後は、やっぱり装填スピードの勝負だったね」

「ふふっ」

「なんだよ」

 

カルパッチョがある方向を見て、微笑む。

 

「お友達が心配しているみたい」

「え?」

 

カルパッチョの視線の先にカエサルがみると、エルヴィンやおりょう、左衛門左達が影から見ていた。

 

「「あ、はははは」」

「っと、生徒会長がリーダーに招集を掛けている様な気がするんだが、取り込んでいるなら私が行くぞ」

 

左衛門左やおりょうは苦笑いで反応して、エルヴィンは招集の事をカエサルに伝える。

 

「今行くよ!」

「来年もやろ、たかちゃん」

 

カルパッチョはそう言って手を差し出しカエサルと握手する。カエサルは、

 

「たかちゃんじゃないよ、私はカエサルだ」

 

そう言って、カエサルは、首に巻いている赤いスカーフを翻して、宴会場に戻って行った。

 

「そうね、じゃあ。私はカルパッチョで」

 

そう言ってひなちゃんことカルパッチョは、カエサルを真似て自身の金髪を翻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、とある場所では。

 

「結果は如何かしら?アッサム」

 

ダージリンが紅茶を飲みながら聞く。

 

「照合した結果。ます、本人で間違いないでしょう。整合率100%です」

「そう・・・・」

 

アッサムの報告にダージリンは短く返事をする。そして、紅茶を一口飲むと考える。

 

「(まさか本物とは・・・・これは、少々伝えておいた方がよろしいかもしれませんわね・・・・)」

 

ダージリンはそう思いながら紅茶をまた飲む。

 

「(かつて戦車道が世界でも盛んなロシアで蹂躙をした伝説の軍団・・・・てっきりあの事故で戦車道を辞めたと思っていたけど・・・・)」

 

ダージリンは一回戦で抱いた疑問が霧散し、警戒心を露わにした。

 

「(決勝戦でもし当たれば。苦戦は免れませんわね・・・・)」

 

正直に言って大洗女子学園は強くなっている。初めての時に比べて何段階も・・・・。それには勿論あの人が加わっているから。と言うのもあるかもしれないが、

 

 

単純に戦術が上手くなっている。

 

 

と言うべきだろう。どんなに相手が卑劣でもそれを逆手に取ってチームを勝利に導く。それが今の大洗の戦法。

今の所自分の学校以外全ての学校で勝利を収めている。もし、彼女が本気を出し、隊長と上手くハマればそれこそ無敵のチームが出来るかもしれない。ただ、()()()()に乗っていないことにダージリンはホッとした様子でもあった。

 

()()()乗られては勝ち目もありませんか・・・・」

 

そう呟くとダージリンはある場所に電話をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはとある屋敷の一室。二重窓で防寒対策のされ、暖炉に火のついた屋敷のうちの一部屋。

その一室のソファーの上で三人の女性がテレビの映像を見ていた。三人は全員同じプラチナブロンド若しくは黒色の髪を持ち、それぞれロング、ショート、ボブカットの髪型をし、身長も少しだけ違った。

 

「うーん、やっぱ良いねぇ〜」

「そうねぇ〜」

「腕は落ちてないみたいで・・・・」

 

三人は映像を見ながら各々呟く。それはとある戦車道の試合の様子だった。映像にはM4シャーマンを撃破するTー34/100の姿があった。かれこれ三人はこの映像を百回は見返している。

 

「あ〜やっぱりあの二人は戦車道をしているのが似合うわ」

 

映像を見ていた一人がいう。するともう一人の女性が頷くように言う。

 

「そうね。やっぱりカッコいいもの。あの二人が戦車に乗っているのは・・・・」

「と言うか、この運転している子。すごく良い腕ね」

「全員が息ピッタリね。あっちで良い友人ができたのかな?」

 

一人がそう言うと悩ましげ一人がいう。

 

「妹達に友人か・・・・」

「悩ましいものね」

「二人は私たちの妹なのに・・・・」

 

三人はそう呟いていると部屋の扉が開き、奥から召使いが出て来た。

 

「お嬢様方。奥様と旦那様よりお話があると・・・・」

 

そう言うと三人の女性が勢いよく立ち上がった。

 

「いよいよね・・・・」

「お父様、許してくれるかしら・・・・」

「前にも散々断られちゃったものね・・・・」

 

 

「「「日本に行くの・・・・」」」

 

 

同時にそう言うと三人は屋敷を歩いて行った。

 

 

 

 

 

ここはサンクトペテルブルク郊外のオスキン家本邸。

現在そこではとある三姉妹がとある試合を見に行く為に、日本行きへのチケットを取る為に奮闘していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プラウダ高校です!

ヤクパンで三優等とって乱舞する今日この頃。


プラウダ高校

そこはロシア風の校風で有名な戦車道の名門。そこの一室で金髪の聖グロリアーナの制服を着たダージリンと、反対側には深緑色のプラウダの制服を着た幼女が座り、その後ろに立つ黒髪ロングの女生徒が立っていた。

 

「準決勝は残念でしたね」

「去年カチューシャ達が勝った所に負けるなんて」

 

ダージリンの聖グロが黒森峰に敗れた事を皮肉って言ってくる幼女ことカチューシャ。

 

「勝負は時の運と言うでしょ」

 

ダージリンとカチューシャが話している間に少女が、紅茶とジャムそしてお菓子を配った。

 

「どうぞ」

「ありがとう、ノンナ」

 

ノンナと呼ばれた人に紅茶をもらったダージリンは、ジャムをスプーンで掬い紅茶に入れようとしてした。するとカチューシャが叫ぶ。

 

「違うの!」

 

カチューシャが、紅茶にジャムを入れようとするダージリンの行動を止める。

 

「紅茶にジャムを入れるのは邪道よ!本場ロシアのロシアンティーはジャムを中に入れるんじゃないの!舐めながら紅茶を飲むのよ」

 

因みにこの方法は紅茶がジャムの冷たさで冷めるのを防ぐためとも言われている。また別の地域では角砂糖のかけらを歯に挟んで飲むと言う手法もあるらしい。(wiki参照)

見本を見せるつもりでカチューシャは、スプーンで掬ったジャムを口に含み、紅茶で流し込んだ。そして、案の定カチューシャの口の周りにジャムがべったりこびり付いていた。

 

「付いてますよ」

「余計な事言わないで!」

 

ノンナがカチューシャの口の周りに付いているジャムの事を指摘すると、カチューシャが怒り出す。子供っぽさを思わせるカチューシャの姿にノンナは、微笑む。ダージリンも内心微笑んでいるとノンナがお茶菓子を出した。

 

「ピロージナエ・カトルーシカとペチーネもどうぞ」

 

ダージリンが茶菓子に手を伸ばそうとした時、フッとある事を思い出して手を止める。

 

「次は準決勝なのに随分と余裕ですわね。練習しなくていいですの?」

 

とダージリンが、聞く。確かに準決勝も近いのに全く練習をしている気配がない。カチューシャは、思いっきり馬鹿にした様に言った。

 

「燃料と弾薬、時間が勿体ないわ。相手は聞いた事のない無名の弱小校だもの」

「でも、隊長は家元の娘よ。西住流の」

「えっ!?そんな大事な事を何故先に言わないの!!」

 

カチューシャは、まるで初めて聞いた様な感じノンナに詰め寄った。ノンナは、相変わらず落ち着き払った様子で言い返す。

 

「何度も言ってます」

「聞いてないわよ!!」

 

それは、カチューシャが覚えていないだけだろう。

 

「ただし、妹の方だけれど」

「えっ?・・・・なんだ・・・・」

 

しかし、大洗の隊長が姉の西住まほでなく、妹のみほだと聞いてカチューシャは、ホッとした表情になる。

 

「黒森峰から転校して来て、無名の学校をここまで引っ張って来たの」

「そんな事を言いに態々来たの、ダージリン」

「まさか。もう一つ話す事と、美味しい紅茶を飲みに来ただけですわ」

 

そう言うとダージリンは紅茶を一口飲むと、今回来た本当の要件を言う。

 

「カチューシャは《白い皇帝》をご存知?」

 

そう言うと二人は当たり前のように言った。

 

「当然よ!このカチューシャが知らない訳がないわ!」

 

それはノンナも同じようで小さく頷いた様子だった。するとカチューシャが見せびらかすように言う。

 

「あのロシアで幾多もの戦車道大会を蹂躙したあの《アレクサンドル部隊》の司令官よ!」

 

自身ありげに言うカチューシャにダージリンは若干苦笑しつつもカチューシャは続ける。

 

「それで、えっと名前は・・・・」

「クリム・オノ・オスキンです」

「そう、それそれ!その人!!」

 

ノンナに指摘され、カチューシャは頷くと彼女は聞く。

 

「それで?なんでいきなりその人の話が出てくるの?」

 

カチューシャの問いにダージリンは少し間を置いて喋る。

 

「・・・・()()()()少し、知っているか聞いてみたかっただけですわ」

 

そしてまた少し間を置いてダージリンはカチューシャに向かって言う。

 

 

 

「あなたが()()()()人をね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブェェックショォォン!!」

 

同じ頃、丘のショッピングモールのゲーセンでクリムは盛大なクシャミをしていた。それを横で見ていたリュミが一言。

 

「あら、風邪?」

「うーん、風邪じゃないと思うんだけどなぁ・・・・」

「集中してよ?大事な場面なんだから」

「分かってるわよ」

 

そう言いながらクリムはレーバーを動かしてUFOキャッチャーのアームを動かす。

 

「・・・・よし、此処!」

 

そう言いながらボタンを押すとアームが下がり、三本の金属製の腕が下に落ちる。

そこには絆創膏や包帯の巻かれたクマのぬいぐるみがあり、その後ろでみほ達が真剣な眼差しを向けていた。

 

「お願いします。クリムさん!!」

「大丈夫。ボコは人数分取るわよ。それが約束だから。それに・・・・」

 

そう言うとクレーンがボコと言うクマの人形を掴むとそのまま上に持ち上がり、空中でアームの力が弱まり、落っこちる。

 

「「「あぁ〜・・・・」」」

 

後ろにいた秋山、武部、五十鈴の三人がガックリとした様子を浮かべるが。みほ、クリム達は落ちていくボコを眺める。すると、落ちたボコのぬいぐるみはそのままバウンドし、景品口に落っこちた。因みに落ちるまでかかった金額は五百円である。

 

「「「やったー!!」」」

「「「えぇ〜!!うっそぉ〜!!」」」

 

ぬいぐるみが落ちた事に喜ぶ三人と驚く三人。因みに麻子、ともみ、淀は現在、フードコートでパフェを食べている。

ぬいぐるみが落ちるとみほがそれを取る。

 

「これで全員分だね」

「ええ」「そうね」

 

みほはそう言うとクリム達も同じぬいぐるみを袋の中に入れていた。それによく見ると彼女達の足元にも大量のボコのぬいぐるみの入った袋があった。

そんな中、クリムが呟く。

 

「いやー、まさかボコ好きな人がウチら以外にいるとは思わなかった」

「うん、私も」「結構ボコってマイナーだからビックリした」

「同志みほよ。この後はどうする?」

 

そう言い、ウキウキしている三人。特にクリムはみほの事を同志呼びしていた。

 

「あ!じゃあ、今度はあっちの新作ボコのストラップを・・・・」

「了解」「みんな行くよ」

 

そう言うと六人はゲットした景品を持って歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ、三人がウキウキしているのか。それはアンツィオ戦前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンツィオ戦前、イタリア料理を食べようと提案したクリム達は二人の住むマンションにお邪魔していた。

 

「「「「「お邪魔しまーす」」」」」

 

そう言い、荷物を持って玄関を上がった九人は部屋に入る。部屋は1DKの部屋で、九人入っても問題ないくらいだった。

 

各々部屋に入って荷解きをしながら武部とクリムは台所で鍋を二つ用意して水に火を掛ける。

 

「出来上がるまで時間がかかるから待ってて」

「優香里さん。ガスコンロある?」

「はい!常に持っていますよ」

 

ガスコンロを持ち歩く女子高生?と思うかもしれないが彼女に取っては当たり前の事なのだ。当たり前のようにコンロを出し、ガス缶を差し込む。

 

「準備、完了いたしました!」

「ありがとう。じゃあ、ちょっと買って来た具材炒めといて」

「畏まりました!」

 

そう言うと優香里はフライパンを置くと火をつけて中にスーパーで買って来た食材を入れる。

それを炒めている中、仕事が無い組は部屋を見ていた。五十鈴やともみ、淀は部屋で色々話をし。麻子は二人の部屋で横になっている中、みほは部屋のベットやタンスに置かれたぬいぐるみを見て興奮している様子だった。

 

「ボコがこんなにいっぱい・・・・それに、限定ボコまで・・・・」

 

みほがそう言うとリュミが少し驚いた様子を浮かべる。

 

「あれ?ボコ知っているの?結構珍しいやつなのに・・・・」

「うん!あのボコは期間限定だったスキーボコ。アレは夏のスイカボコでしょ?」

 

そう言うとリュミは目を大きく開けてみほを見る。

 

「もしかしてみほさん・・・・ボコ大好き?」

「うん!私、大好きなの!」

 

そう言うとリュミはみほの手を取って

 

「我が同志!!」

「ふぇっ!?」

 

と、叫ぶ。その事に驚くみほ。するとリュミはクリムに言った。

 

「お姉ちゃん!我らの同志がここに居た!!」

「え?何!?」

 

クリムが驚き、鍋から目を思わず離す。

 

「わぁぁ!火!火、止めて!!」

 

そう言い武部が吹きこぼれそうになる鍋を見て言う。それに気づき、クリムは慌てて火を止めた。

火を止めたクリムはみほに近づいて手を掴んで聞く。

 

「みほ!それ本当!?」

「え、えっと・・・・」

「答えて。あなたは・・・・ボコが好きなの・・・・?」

 

迫真に満ちた表情で言う。その事にみほは思わず首を縦に振る。それを見たクリムはみほに聞く。

 

「ボコのあざは何処にある?」

「ひ、左目」

「ボコの背中の傷跡の本数は?」

「よ、四本」

「絆創膏は?」

「あ、頭の上に一枚・・・・」

 

そう言うとクリムはみほに喜びながら大きく抱きつく。

 

Товарищ!(同志よ!)

「えっ!?わぁ!!」

 

そのまま驚くみほにクリムが興奮しながら言う。

 

「いやぁ〜嬉しいわ〜。ボコ知っている人がいるなんて〜」

 

そう言うとみほがハッとした様子でクリムに聞く。

 

「も、もしかしてクリムさんも?」

「ええ、そうよ!祖母が初めて買ってくれたの!」

 

そこから話が盛り上がるのは容易かった。なんと、二人は大のボコ好きと言うことが発覚した。

そこから三人はメチャクチャボコの話で盛り上がっていた。周りにいた全員がドン引きするくらいには・・・・

 

「ず、凄いですね・・・・」

「クリム達はボコと戦車の話になると盛り上がるわよ?」

「そうなんですか?」

 

ともみの言葉に秋山が聞くと、彼女は頷く。

 

「だから『クリム達に言ってはいけないリスト』にボコと戦車が上がっている」

「な、なんなの。そのリスト・・・・」

 

料理を持って来た武部が苦笑気味に言うとともみはこう答える。

 

「この話題を振ると二時間は止まらなくなる」

「「えっ!?」」

 

思わず驚いてしまうと咄嗟に武部達はみほを見る。自分他の隊長はクリム達とボコの話で盛り上がっており、止まる気配はなかった。

この後、食事をとっている時も、帰る寸前まで三人はボコの話で盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんな事になるなんてね・・・・」

「予想外すぎてちょっと・・・・」

 

フードコートでクリム達を待っているともみ達は苦笑しながらゲーセンでボコを乱獲しているクリム達を見ていた。

 

「アレで双子はUFOキャッチャーが得意だからえぐい事になっているわね・・・・」

 

ともみはそう呟いてホクホク顔で両手に大量のボコグッズを持ちながら戻ってくるクリム達を見ていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

準決勝に向けての準備です!

いよいよ数日後に準決勝を迎えた。

みほ達が乗るⅣ号戦車も、短砲身の主砲から先の探索で発見した《75mm kwk40》に砲身が置き換えられD型からF2型へとバージョンアップしている。

 

「長砲身付けたついでに、外観も変えておきました」

「F2ぽく見えますね」

「そうでしょ、砲身やその他のコンポーネントがF2仕様になってて、バランスも良くなっています」

「ありがとうございました。自動車部の皆さん」

 

みほが自動車部のメンバーにお礼を言うとナカジマは、

 

「いえいえ、まぁ大変だったけどすごくやり甲斐がありました」

 

と改装されたⅣ号戦車を見て、小山と河嶋は、

 

「砲身が変わって、新しい戦車が一両」

「そこそこ、戦力の補強が出来たな」

 

二人がそう言うと、

 

「あ、あの・・・・ルノーに乗るチームは?」

「それなら、新たに補充要員が入りましたので紹介します」

「おーい、出ていいぞー」

 

とそうみほが聞き小山が次の準決勝で新しいメンバーが入ると言い補充員と言う言葉にみんな首を傾げ、角谷が声を掛けるとおかっぱ頭の三人がやって来た。

 

「今日から参加する事になりました。風紀委員の園みどり子、金春希美、後藤モヨ子です。よろしくお願いします」

 

風紀委員メンバーだった。風紀委員三人はお辞儀をし、その三人の隣に角谷が立ち

 

「略して、そど子と仲間達だ。いろいろ教えてやってね〜」

「会長!名前を略さないで下さい!!」

 

角谷ね名前を略されあだ名で呼ばれたのが癪に触り、園は角谷にそう言う。

 

「ルノーを任せようと思うからさー、何チームにしよっか。隊長?」

 

そんな園の言葉を気にせず角谷は、みほの方を向きそう聞くとみほは、B1bis戦車を見て言う。

 

「B1bisってカモっぽくないですか?」

 

とみほがそう言う。

 

「じょあカモにけってーい」

「カモですか!?」

 

角谷の言葉にみどり子は声を上げる。もうちょっと、向こうの意見を聞いてあげてもいいのでは?

 

「戦車の操縦は冷泉さん、指導してあげてね」

 

と小山が操縦の指導に冷泉を指名する。まあ、確かに冷泉がこの中で適任かも知らない。

 

「私が冷泉さんに!?」

「わかった」

 

冷泉は、嫌なそぶり見せずに承諾する。

 

「成績がいいからって、いい気にならないでよね!」

 

冷泉さんに歩み寄りながらみどり子は、そう言い放つ。それを見て冷泉さんは、呆れて溜息を吐きながら言い放つ、

 

「じゃあ、自分で教本見て練習するんだな」

「ふざけないでよ!何無責任な事言ってるの!ちゃんとわかりやすく懇切丁寧に教えなさいよ!」

「はいはい」

「はいは一回でいいのよ!」

「は〜い」

 

と言い争っている、冷泉さんも面倒な人に捕まったな。ああして、いがみあっているが友達の少ない冷泉には貴重な話し相手なのだろう。掛け合いがまるで漫才のそれ。

 

「いいか!腰抜けども!次はいよいよ準決勝!しかも相手は去年の優勝校プラウダ高校だ。これからの練習は更に厳しくいく!絶対に勝つぞ、負けたら終わりなんだからな!」

 

河嶋が次のプラウダ戦に向けて、そう言う。

 

「どうしてですか?」

「負けても次があるじゃないですか?」

「相手は去年の優勝校だし」

「そうそう胸を借りるつもりで」

 

と一年生メンバーがそう言う。もっともな意見である。勝つ事も大事だが、負けてそこから学ぶ事もある。

 

「それではダメなんだ!!」

 

河嶋の一言で全体が静まり返る。河嶋の様子から見るに勝たなければ後がないみたいに聞こえる。

 

「勝たなきゃダメなんだよね」

 

いつも陽気な角谷も今回は違い真剣な表情でそう言う。格納庫内に静寂が支配した。やはり、生徒会は自分たちに何か隠しているような。

 

「西住、指揮」

「あ・・・はい!では、練習開始します!」

「「「「はい!」」」」

 

みほの号令で本日の練習が始まった。すると杏がみほを呼んだ。

 

「西住ちゃん」

「はい?」

「後で、大事な話があるから生徒会室に来て」

「・・・・はい、分かりました?」

 

訳も分からずみほは取り敢えず承諾をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、練習が終わり雪の降る夜にみほは、角谷に生徒会室に連れて来られ、みほは部屋の真ん中に炬燵置かれた、机上には角谷が作ったと言うあんこう鍋が置かれていた。ガスコンロの火を受けて、鍋の中身がグツグツと音を立てていた。

 

「さあさあ、そんな所で突っ立てないで炬燵入りなよ!」

「は、はぁ・・・・」

 

角谷にそう言われて、みほは炬燵に入る。

 

「いや〜寒くなって来たね。こういう寒い時はやっぱ鍋に限るよね〜」

 

ちゃんちゃんこを着て袖をふりふり揺らしながら角谷がそう言う。

 

「北緯50度を超えましたからね」

「次の会場は北ですもんね」

「まったく、試合会場をルーレットで決めるのはやめてほしい」

 

河嶋がそう言う。次のプラウダ戦の試合会場は雪原ステージなので学園艦は北へ北上していた。

 

「あの・・・・それで話というのは?」

 

みほは呼ばれた理由を聞こうとするが

 

「まあ、まあ。まずはアンコウ鍋でも食べて体を温めようよ」

「会長の作るアンコウ鍋は絶品なのよ」

「は、はぁ・・・・」

 

何処となく話を逸らされたような気がして、みほは若干困惑しながらも会長に勧められて炬燵に入る。

そして炬燵の中に入るとみほはあんこう鍋を少し食べると杏はみほに戦車道について話しかける。

 

「西住ちゃん。戦車道やってどう?」

「え?」

 

いきなりの質問に戸惑うも、みほはこの学校で戦車道をやっててよかったと言う旨を話す。そう言うと杏は小さく頷く。

 

「あ、珍しいものがあるんだよ。これ」

 

と角谷は、アルバムを取り出し広げる。最初のページには、校門前で生徒会メンバー三人が笑顔でピースサインをしている写真だった。

 

「ほら、河嶋が笑ってる!」

「そんな物見せないで下さいよ!」

 

他にも、体育祭や校外学習、学園祭、合唱コンクール、修学旅行、はたまた何かの行事なのか?、泥んこプロレス大会と言う競技で角谷に技を決められている河嶋、海に遊びに行ったのか、バズーカ砲の様な特大水鉄砲で角谷が小山に大量の水を浴びせ、その後ろでは大波に吹き飛ばされている河嶋が写っている写真が続々と出て来た。様々なな表情が写っていたが、どれも全員が楽しそうなのが伝わって来た。

 

「楽しそうですね」

 

とみほが写真を見てそう言うと

 

「うん、楽しかった・・・・」

「本当に楽しかったですね・・・・」

「あの頃は・・・・」

 

と角谷、小山、河嶋の三人は写真をみてとても懐かしむ顔をしてそう言う。その後、食事を続け鍋は空になりその場で解散となり、結局角谷達から大事な話は聞けなかった。みほは校門を出て家路に着いていた。

 

「あれ?結局何だったんだろう・・・・話って?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言えなかったじゃないですか・・・・あの事」

 

みほが帰ってから、生徒会室でお茶を飲みながら河嶋がそう言う。

 

「これで良いんだよ、転校して来たばかりの西住ちゃんには事実を知って萎縮するより、伸び伸び試合してほしいからさ」

 

そう言う角谷に、河嶋と小山の二人は頷く。すると杏は思い出すように呟く。

 

「しっかし、クリムちゃん達はこんな大事な先にどこにいったんだろうねぇ〜。それに戦車まで持ち出して・・・・」

 

そう言うと二人も頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前、クリム達はいつも通り戦車道の練習を終え、家に戻っていた。すると今日は珍しく家のポストに郵便が入っていた。

それはトリコロールカラーの縁の入った国際郵便だった・・・・

 

「珍しいわね・・・・」

 

送り主を見たクリム達は一瞬だけ目を細めた。

 

「実家からだ・・・・」

「こんな時期に・・・・?」

 

疑問に思いながら二人はマンションに入り手紙を開ける。中に入っていたのは二枚のとある紙であった。

ロシア語で書かれたその文書を読んだ二人は思わず携帯電話である場所に電話をする。

 

「『お父様?どう言うことですか?』」

『その電話が来たと言うことは手紙は届いた様だな』

 

ロシア語で喋るクリムの電話の先から男性の声が聞こえてくる。しかし、クリムは追求をしていた。

 

「『お父様。この手紙はどう言うことですか?』」

 

そう聞くとクリムの父親は返答をする。

 

『そこに書いてある文字通りだ』

「『納得できる理由を教えてください。なぜ、()()しなければならないのかを』」

 

クリムはロシア語で転校届と書かれた紙を見ながらそう叫んだ。

クリムがそう言うと父は衝撃的な話をした。

 

『ーーーーーと言う理由だ。理解してくれたか?』

「『ーーーーえぇ、理解できました。そして、なぜ転校届が届いたのかは』」

『理解してくれた様でなり寄りだ。で、二人にはすぐ移動を「『お断りします』」・・・・何故だ?』

 

父親がそう聞くとクリムはキッパリとした口調で言う。

 

「『私はこの学校に借りがあります。それに、途中で何かを放り投げるのは嫌な性分だと言うことをお忘れですか?』」

 

そう言うと父親は少し間を置いた上で返事をする。

 

『・・・・はぁ、そう言うとこは変わらないな、クリム。母親によく似ている』

「『褒めていただけて光栄です。なので、私は行ける場所まで行った後に戻ります。そこは忘れないで欲しいです』」

 

そう言うと私は少し間を置いた上で父にあるお願いをする。

 

「.『・・・・お父様。次の全国戦に備えて()()()()を使います』」

『・・・・良いのか?あの戦車は・・・・』

「.『問題ありません。覚悟は決まっております。私には勝たなければならない理由が今、出来ましたので』」

 

そう言うと父は再び間を置いた上で答える。

 

『・・・・わかった。お前達がその気なら。私も言うことはない』

「『感謝します』」

『だが、条件がある』

「『・・・・何でしょうか?』」

 

クリムが聞くと父はクリム達にとって衝撃的なことを言う。

 

『戦車を送るついでにレナ達を送る』

「『え"っ!?』」

 

父の出した条件に思わずカエルを潰した様な声が漏れる。

 

『それに乗り換えのための訓練期間も含めて明日にも到着する様にしておく。それで良いな?』

「『は、はい・・・・』」

『たまには帰ってこいよ。レナ達が発作を起こしかけていたからな』

 

そう言い残し、電話を切った。ツーツーと言う音と共に、クリムは電話を切った。

 

「お姉ちゃん?」

 

顔を青くするクリムにリュミが心配そうに見る。

 

「ね・・・・姉さん達が・・・・来る・・・・」

「はっ?!」

「それも発作を起こしている・・・・」

 

そう言うとリュミですら顔を青くし、思わず俯いてしまった。

 

「う、嘘でしょ・・・・」

「戦車と一緒にくるって・・・・」

「と、ともみ達はウチらが守らないと・・・・!!」

 

そう言うと二人は色々な意味で準備を始めていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの流派

ここは熊本県のとある邸宅。『西住』と書かれた表札が掲げられた和風な屋敷、この家こそ西住流戦車道の家元でみほの実家だ。

その一室に黒森峰の制服を着た西住まほと黒いレディーススーツを着た女性がいた。

鋭い目や座る姿の凛々しさを醸し出すその女性は西住しほ。みほとまほの母親で西住流の師範である。その二人の間の机の上には月刊戦車道のある一ページが広がられ、その記事の項目には次の準決勝で大洗女子学園とプラウダ高校が対決すると書かれており、大洗女子学園戦車道隊長西住みほ、プラウダ高校戦車道隊長のカチューシャの写真と名前が載っていた。

 

「あなたは、知っていたの?まほ、あの子が未だ、戦車道を続けている事を」

「はい」

「西住の名を背負っているのに、勝手な事ばかりして」

 

記事には、隊長の西住みほが黒森峰の西住まほの妹で西住の娘とまで書いてある。

 

「これ以上、生き恥を晒す事は許さないわ。『撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れなし、鉄の掟、鋼の心』それが西住流、まほ」

「私は、お母様と一緒で西住流そのものです。でも、みほは・・・・」

 

今まで、黙っていたまほが声を上げるが、しほが睨んで黙らせる。

 

「もういいわ、準決勝は私も観に行く。・・・・あの子に勘当を言い渡す為にね」

 

しほは、それだけ言うと月刊戦車道を片付け立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、北緯五〇度付近某所ではある四人があるものが届くのを待っていた。

後ろにはT-34/100が止められ、空を眺めながら色が薄くなったブラウンヘアを持つクリムは緊張した面構えをしていた。

ここに一足先に来たのは父親に頼んで持って来てもらう戦車をここで受け取るためだった。

 

「ねぇ、いきなり学校飛び出してなんでここにいるの?」

「おまけに着替えも持ってこいって・・・・何考えているの?」

 

車内でともみと淀が不満げに言う。しかし、クリムは真剣な表情で待ち人を待ちながら言う。

 

「二人とも、気を引き締めたほうがいいよ」

「そうね。下手すると・・・・殺されるから」

「「え?」」

 

思わず二人が同じタイミングで声を出すとその後にエンジンの様な音が聞こえ始める。音が聞こえた四人はそれぞれキューポラから顔を覗かせると雪の降る中、一両の大型セミトレーラーがやって来た。

 

「ナニアレー?」( ? _ ? )

「でっかいトレーラーね・・・・」

 

淀がそう呟くと大型セミトレーラーは目の前で停車する。その荷台には布で包まれ、鎖で止められた何かが止められていた。

その事にともみ達は疑問に思っているとトラックの扉が開き、誰かが飛び出してくる。

 

「クーリムー!!」

「ふぎゃあ!!」

 

キューポラから顔を出していたクリムに黒髪長髪の女性が抱きつく。クリムは驚いた猫のように毛を逆立てていた。

するとトラックの運転室からまたもう一人顔を出した。

 

「レナ姉ずるいぞ!クリムを独り占めすんな!!」

「あらー、ヴォルガが遅いだけよ?それに、リュミも居るじゃない」

「あれ?そういえばリュミは?」

 

そう言い、出てきたプラチナブロンドヘアの女性はクルクルと見回すと戦車の後ろで隠れてやり過ごそうとしているリュミを見つける。

 

「あ!いたいた。リュミー!!」

「ゲッ!」

「何がゲッよ。せっかく()()()が来たと言うのに。私、泣いちゃう」

「「え?」」

 

ヴォルガと言う女性が言った一言にともみと淀は驚く。因みに今までの会話は全部ロシア語だが、ともみ達はロシア語を知っている。つまり言っていることが全部わかるのだ。

ともみ達はクリム達に姉がいた事に驚いていた。そして、思わず抱きつかれているクリムに聞く。

 

「お、お姉さん・・・・?」

 

淀が聞くとクリムは嫌そうに頷く。

 

「う、うん・・・・そう、この人達が・・・・私たちの姉です・・・・」

 

日本語でそう言うとレナと言われた女性が挨拶をする。

 

「どうもー、妹にはお世話になっているわね。長女のレナよ。それであっちが・・・・」

「三女のヴォルガよ」

 

そう言い、自己紹介をするヴォルガ。その腕の中には完全に死んだ目をしているリュミの姿があった。

 

「「(し、死んでる・・・・!!)」」

 

完全にストラップと化しているリュミに一体何が・・・・と思うともみ達だったが。ここである疑問に気づく。

 

「あれ?長女に三女・・・・あれ?次女は?」

 

ともみがそう呟くとクリムがあっ・・・・と言う表情を浮かべ顔を青くする。

するとレナが微笑みながら言う。

 

「ふふっ、次女もいるわよ。名前はリカって言うの」

「リカ姉さんは今何処に?」

「日本の戦車道連盟に挨拶よ。一応、仕事できてるから」

「これが本当に仕事ですか?」

 

そう言うとレナが頭を軽くグリグリしながら言う。

 

「あらやだ。妹ったら口が悪くなっちゃって・・・・」

「イテテテテテ!締まってる!締まってるからァァァァァァアア!!」

 

そう言って叫んでいるクリムに少しともみ達は笑ってしまっていた。

するとふと淀が聞いた。

 

「あれ?じゃあ、クリム達は戦車道って結構やってたの?」

 

そう言うとヴォルガが「え?」と言いリュミを見た。レナも同じようにクリムを見ながら同じ事を思う。視線を向けられたクリム達は同じタイミングで言う。

 

「「いや、戦車道の話はしたく無かった」」

 

そう言うと姉達は納得した様子で二人を見ると淀が興味ありげにレナ達に聞く。

 

「あの・・・・二人って戦車道はどんな感じだったんですか?」

「「え?」」「「あっ・・・・」」

 

驚くレナとヴォルカ、冷や汗をかくクリムとリュミ。すると興奮した様子でレナ達は語り出した。

 

「ええ。知らないなら教えてあげる!」「えっとアレは五歳の時だったかなぁ?」

 

その瞬間、二人は理解した。

 

「「(あぁ、本当に姉妹なんだ・・・・)」」

 

好きな事になると夢中になって話が止まらなくなる所がそっくりだ。

とまぁ、そんな事を思いながら二人は永遠と話し続ける友人の姉達の話を話半分に聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一〇分ほど話したところでクリムが姉達の暴走を止めに入る。

 

「姉さん。時間がないので良いですか?」

「えー、まだまだあるのに?」

「それは私からもお願いします」

「うーん、二人が言うなら仕方ないか・・・・」

 

そう言うと二人はトラックの荷台に向かって歩くと係留していた鎖を解く。その途中でレナが心配そうにクリムに聞く。

 

「・・・・本当にこれを使って、彼の子達。大丈夫なの?ただでさえユリヤさんしか動かせる人いなかったのに・・・・」

 

その疑問にクリムは少し自身ありげに胸に手を当てる。

 

「大丈夫だと思うよ。ともみなら・・・・」

 

そう言うとレナは何処か頼もしそうにともみをチラッと見る。

 

「そう・・・・日本でいい友人を作ったのね・・・・」

「うん、戦車道をやらなかったけど。良いこともあったから・・・・」

「姉としてそれは嬉しいわね・・・・」

 

そう言うと鎖が解ける。すると途端に強い風が吹き、止めていた布が風に煽られて翻る。まるで封印を解かれた呪物のようだった・・・・

 

「「おぉ〜!!」」

 

Tー34に乗っていたともみ達は現れた戦車を見て思わず息を呑む。白色に塗装されたそれは周りが白い雪原のはずなのにとてもよく映えていた。

平べったいお椀のような形をした砲塔の右側面には三桁の数字が描かれ、左側面にはいつも見慣れた砲弾を嘴で掴む青いハチドリの絵があしらわれていた。

 

「すっごい・・・・」

「大きな主砲だな・・・・」

 

二人が唖然としているとクリムが二人を呼ぶ。

 

「二人とも。こっちに来て!」

「戦車動かすから!」

「ほーい」

「了解〜」

 

そう言うと二人はT-34から降りてトレーラーの荷台の戦車に乗り込む。

一応事前に読んでいたとはいえ、いきなり始めるのもどうかと思うが・・・・

車体の運転席に乗り込んだともみは車両のキーを差した時に違和感を感じた。

 

「・・・・あれ?」

 

その違和感はすぐにわかった。

 

「ねえ、クリム。この車、エンストしてない?」

 

そう言うとクリムは車長用の椅子に座り込むと答える。

 

「違うわ。それはこの戦車が試したがっているのよ。・・・・貴方を」

「だからこの戦車が貴方を気に入れば。エンジンは必ず動く」

 

どこか含みある言い方でクリムとリュミは言う。

ともみはエンジンのキーを差し込んで捻った。しかし、反応はない。

 

「だめ。動かない・・・・」

「迷わない。疑わない。・・・・そう思ってもう一回やってみな?」

 

クリムにそう言われ、ともみはもう一度エンジンのキーを掛ける。

 

「・・・・ふっ!」ブォン!ブロロロロロロ・・・・・

 

すると車体全体を大きな振動が襲い、エンジンが動く音がする。

 

「・・・・え?」

「ふふふ、快調ね・・・・」

 

砲手席でリュミが呟く。

 

「問題なさそうね・・・・よし、そのまま降りるわよ」

「りょ、了解!」

 

そう言い、操縦桿を前に倒すと戦車が前に移動する。それをクリム達が乗ってきたT-34/100から眺めるレナ達。

 

「本当に動いた・・・・」

「二年ぶりの皇帝のお目覚めね・・・・」

 

あの戦車をよく知っているからこそ、二人は驚いていた。そしてその戦車はトレーラーから降りると道を一目散に走り始めた。ともみ達は知らないが、ここはオスキン家の持つ演習場。なので中には的が置かれていた。

 

「さぁ、かっ飛ばしな!最高速度よ!」

「でも、起伏が激しいからこのままだと足回りが・・・・!」

「T-34の時の威勢はどうしたの?!さぁ、走れ走れ!!最高速よ!!」

 

クリムはキューポラから顔を覗かせながら叫ぶ。今までとは違う興奮具合に驚きつつ、そのまま戦車は起伏のてっぺんで少しだけジャンプをして着地する。するとクリムが指示を出す。

 

「左四十五度!!」

 

そう言うと車体が周り、砲塔が右に動き、雪原中の的をレンズに捉える。

 

「装填よし!」ドォォン!!

 

淀がそう言った途端。リュミは引き金を引いた。なんの指示もなく、発射した事と発砲音に驚くも砲弾は的にしっかり命中した。

 

「命中〜!」

 

リュミがイケイケな様子で喋る。その上では淀が忙しそうに装填作業をする。

 

「薬莢分離式だから忙しい・・・・よし、装填完了!」

「右四〇!」

 

クリムの指示通りにともみがレバーを倒す。

 

「続けて行進射!」

 

それと同時、丘陵の間の隙間から一瞬の隙にリュミが引き金を引く。

 

ドォォン!!

 

その砲弾はまっすぐ飛んでいき、的に命中した。

 

「・・・・嘘でしょ・・・・?」

 

淀は穴の空いた的を見ながら思わずそう呟いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。練習を終えたクリム達は一旦戦車から降りるとレナ達がすでに乗って来たT-34/100を乗って来たトレーラーに乗せて四人が戻ってくるのを待っていた。

 

「これで私たちの用事は終わりかしら?」

「はい、ここまで運んでくれてありがとう。姉さん」

「妹の頼みならどこにでも行くわよ」

 

そう言うとヴォルカ姉が私達に紙袋を渡した。

 

「はいこれ。姉からみんなにプレゼント」

「これは・・・・」

 

中身を見たリュミが呟くとヴォルカ姉は言う。

 

「準決勝、頑張ってね。私たちも試合見るから」

 

ともみはそこでレナ達を見るとその目はとても優しい眼差しをしており、クリム達に期待を寄せているようだった。

 

「うん。頑張る」

「楽しみにしてて」

 

二人はそう言うとレナ姉が私の肩を軽く持って言う。

 

「その返事が聞けて良かったわ」

 

そう言うとクリムとリュミは戦車に乗り込む。ともみたちは自分も乗り込もうと戦車に向かおうとするとレナ達に呼び止められた。

 

「ともみさん。淀さん」

「はい?」

「なんでしょうか?」

 

そう聞くとレナさんが私達に向かって言う。

 

「妹達の事。お願いね」

「これからも宜しくお願いするわ」

 

そう言われ、私たちは当たり前だと言わんばかりに頷く。

 

「はい」

「もちろんです。私達はクリム達の親友ですから」

 

そう言うとクリム達が呼ぶ声がする。

 

「おーい、二人ともー!行くよー!」

「・・・・では」「失礼します」

 

そう言い残すと二人はヴォルガから貰ったプレゼントを持って戦車に乗り込む。

そして戦車のエンジンがかかるとそのまま畦道を走り始めた。それをレナ達は見送ると嬉しそうな眼差しをしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プラウダ戦です!

その日、戦車倉庫では試合会場が雪原ということになり防寒対策として戦車道の面々はいろいろと準備をしていた。

 

「カイロまでいるんですか?」

「戦車の中には暖房がないから、できるだけ準備しとかないと」

 

段ボールいっぱいのカイロを見た五十鈴はみほにそう言うと、みほは戦車は暖房がないためと答えた。確かに戦車内に暖房なんて無く。冷凍庫そのものである。段ボールの中にはチョコも入っており、武部が嬉しそうにしていた。

 

「しかし、ハチドリさんチームどこに行っちゃったんだろう・・・・」

 

武部の問いにみほは少し心配げに頷く。

数日前から戦車ごといなくなったハチドリさんチームとは現地集合となっているが。直前まで会えないことに疑問と不安を感じていた。なんか家の事情らしいが、それでも気になってしまった。

そんな中、他のみんなはというと・・・・

 

「タイツ二枚重ねにしよっか?」

「ネックウォーマーも、したほうがいいよね」

「それより、リップ色のついたやつしたほうがよくない?」

「準決勝って、ギャラリー多いだろうしね」

「チークとかいれちゃう?」

 

と、楽しそうに話す一年たち。

 

「どうだ」

 

そういって時代劇のカツラを装着する左衛門佐。

 

「私はこれだ」

 

月桂樹の冠を被るカエサル。すると、

 

「あなた達、メイク禁止!仮装も禁止!」

「いちいちうるさいぜよ・・・・」

 

風紀委員としてみどり子はみんなに注意するが、おりょうが嫌そうに言う。

 

「これは授業の一環なのよ!校則は守りなさい!」

 

と、校則を守る様促す。すると、エルヴィンがみどり子の肩を掴み振り向かせ、

 

「自分の人生は自分で演出する」

「何言ってるのよ!」

 

エルヴィンがドヤ顔でロンメル元帥の名言を言うが、みどり子は当然知るはずも無くツッコミを入れる。

 

「今度は結構みんな見に来ますよ」

「戦車にバレー部員募集って書いて貼っておこうよ」

「いいね!」

 

と、バレー部は八九式にスローガンや部員募集の紙を貼る、戦車を宣伝カーにしようとしていた。

 

「アンツィオ校に勝ってから、みんな盛り上がってますね」

「クラスのみんなも期待しているし、頑張んないと!」

「次は新三郎も母を連れて見に来ると言っています」

 

みんな盛り上がりながらそう言うが、緊張感が無さすぎる。

もしここにクリムさんがいれば喝を入れて気を引き締めさせることができるのになぁ〜。

と思わず考えてしまうみほだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ハチドリさんチームは会場に向けて道を走っていた。

 

「・・・・どこかで食材買っておかないと・・・・」

「え?」

「いや、今回の試合は長期戦になると寒さで士気が下がるからさ。温かいものを作れる準備をしておいた方がいいでしょ?」

 

そう言うと淀が納得した表情を浮かべて、ポンと手を当てていた。

 

「じゃあ、どこかで寄り道する?」

「道中に店あったかなぁ・・・・」

「最悪牧場に行って交渉するしかないでしょ」

「調理器具はあるんだけどなぁ・・・・」

 

ともみがそう言いながら戦車の隙間空間に置かれた鍋や調理器具を見ながらそう言う。

 

「ま、ここは街道だし街があれば何とかなるよ」

「それもそうか・・・・会場までどのくらい?」

「あと数時間ってとこ」

「了解。このまま走らせちゃって。運転にも慣れてね」

「もう結構慣れた気がするけどねぇ〜」

 

そう言いながら四人は寒さ対策を万全にしながら街道を走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中、スーパーがあったので、そこで買い出しを行い。永久凍土の雪で食材を冷凍させたハチドリさんチームは試合会場となる場所の端に学園艦より先に到着していた。

 

「思いの外早く着いたわね」

「なんか飛ばしてたらすぐに着いちゃった」

「学園艦くるのいつだっけ?」

「明日」

「それまでどうすんのよ」

「どこかで暇つぶしするしかないかなぁ〜」

 

そう言うとクリム達は郊外に戦車を停めて大洗の学園艦を待っていた。すでにプラウダの学園艦は到着しているようで、キエフ級航空母艦のような見た目をした学園艦がとまっていた。

今戦車を止めているここは人が滅多に通らない場所でもあるのでこの戦車が人目につくことも無い。

戦車道の会場となる場所は連盟が事前に設定した世界中にある様々な地域があり、よっぽどのことが無い限りあんな大洗と聖グロの練習試合のような人がいる街のど真ん中で人が避難して試合をすることは無い。だから建て直し制度も一向に変わらないのだろう。

 

クリム達は戦車の中で寒さを凌ぐ中、クリムはホワイトボードに赤と青色の磁石をはめていた。今まで試合に出てきた編成を思い出しながら出てくるであろう戦車も予測していた。

 

「青が七両・・・・赤が十五両・・・・」

「見事な戦力差ね」

「それに相手はT-34/76に85」

「それにKV-2にIS-2重戦車。戦力的には厳しいわね」

「でも、この戦車もそいつらに負けてないよ」

 

ともみが運転席でそう言う。確かに、火力で言えばこの戦車もそれらの戦車に負けていない。 装甲に関しては一番硬いかもしれない。

そう思いながら四人はヴォルカ姉から貰った服を着て、寒さを凌いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、《第63回戦車道全国大会準決勝》が行われる日となった。ここは北緯五〇度を越えた雪の降り積もる夜の雪原地帯だ。

 

「うぅー寒っ!」

「冷えるわねぇ・・・・」

「ほい」

 

雪原を歩く二人に湯気の出たコップが渡される。中には熱いコーヒーが入っていた。手渡したのはクリムとリュミだった。

 

「あら、実家はもっと冷えているわよ」

「いや、ロシア人に言われたら何でも終わりよ」

「寒いの慣れてて良いなぁ・・・・」

「いいじゃん。あったかい格好しているんだし」

 

そう言い合う四人は草色の分厚い外套を羽織り、その下に大洗のパンツァージャケットを着て。頭にはクリムはいつものウシャンカと正帽を組み合わせた特殊な帽子を被り、他の三人は赤いの星のついた同じウシャンカを被っていた。大洗の格好からは離れた様相の中、四人はそれぞれ呟く。

 

「もう、後に引けないんだものね・・・・」

「生徒会があそこまで特典をつけた理由がわかるよ」

「勝つしか道は無いんだものね・・・・」

「ここまで来たらやるしかないわ」

 

四人はクリム達から伝えられた衝撃的な話を思い出しながら。雪で遊んでいる他の仲間達を見ていた・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日寄港してきた大洗の学園艦と合流したハチドリさんチームはそこでみほ達と合流した。合流した彼女達だったが、みほはそこでクリム達を見て疑問に思う。

 

「あれ?戦車は?」

「ふふっ。それはね・・・・」

「試合が始まるまで秘密よ」

「「「「「?」」」」」

 

みほ達はクリム達の面白そうにしている様子を見て疑問に思う。

 

「あの・・・・それって・・・・」

「まぁ、後は試合後に全部話すわよ」

 

最後に淀がそう言い残すと四人は何処かに向かって歩いて行った。残されたみほ達は思わず唖然としてしまっていると見ていた河嶋が不満げに呟く。

 

「何なんだあの態度は!戦車が秘密だと?!ふざけているのか!!」

「お、落ち着いて桃ちゃん・・・・」

 

喚く河嶋を抑える柚子。しかし、杏はそんな去っていく四人が最後に見せた険しい表情を見ていた。

 

「(クリムちゃん達があんな険しい表情になるなんて・・・・。それに数日間居なくなったのって・・・・。まさかね・・・・)」

 

杏はある懸念を思い浮かべながら去っていく四人を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな寒さに関係なく一年生たちは雪合戦をし、歴女は雪像を作っていた。そんな時、大洗チームの待機場所に、一台の車両。自走式多連装ロケット砲《カチューシャ》が近づいてきた。ブレーキ音と共にカチューシャは停車すると、両方のドアが開き、其所から2人のプラウダ高校の生徒が降りてくると、そのまま大洗チームの元へと歩き進める。

 

「あれは、プラウダ高校の隊長と副隊長・・・・・・」

「『地吹雪のカチューシャ』と、『ブリザードのノンナ』ですね!」

 

近づいてくる二人を見て、みほと優花里がそう言い合う。

そんな二人の会話を他所に、カチューシャとノンナは大洗チームの少し前で歩みを止める。

そして、カチューシャは大洗の戦車を一通り見回した。そして、

 

「ぷっ、あっはっはははははははは!!」

 

と、大きな声で笑いだした。

 

「このカチューシャを笑わせるために、こんな戦車用意したのよね!ねえ!」

 

明らかに大洗をバカにした発言をするカチューシャに、大洗のメンバーは表情をしかめる。だがその場にクリム達は彼女の態度が分かっていた。安い挑発だということに、わざと相手を怒らせるようなことをいい挑発し相手が冷静な判断をできないようにする。まあ、たいていのベテラン校はその手には乗らないが・・・・

 

「(初心者ばかりのこの学校だと効果抜群ね・・・・)」

 

クリム達はそう感じていると。

 

「やあやあ、カチューシャ。よろしく、大洗の生徒会長の角谷だ」

 

まるで気にしていない様に、いつも通りの様子で出て来た杏が自己紹介しながら、若干屈んで握手を求める。

 

「・・・・・・」

 

だが、当のカチューシャは、不満げに杏の手を睨み、暫くすると、

 

「ノンナ!」

 

いきなりノンナを呼び付ける。すると、ノンナは、カチューシャが何を求めているのかを悟り、カチューシャを肩車した。

 

「へっ?」

 

流石に驚いたのか、角谷は間の抜けた声を出す。

 

「貴方達はね、全てがカチューシャより下なの!戦車も技術も身長もね!」

 

ノンナに肩車されたカチューシャは胸の前で腕を組み、見下した様な声を上げた。

 

「・・・・」

「肩車してるじゃないか・・・・」

 

その様子に杏は言葉を失い、河嶋はボソボソとツッコミを入れる。

 

「聞こえたわよ!よくもカチューシャを侮辱したわね!しょくせいしてやる!」

「それを言うなら()()、よ」

「これからは気をつけてね。小さな隊長さん」

「う、うるさい!それに小さいって言うな!」

 

顔を真っ赤かにしながらカチューシャは言う。それだけで相手の隊長の性格がよくわかる気がした。

 

「(成程。プライドが高いのね。これなら・・・・)」

 

クリムとリュミは二人である作戦を思いつき、話し出した。するとカチューシャは私たちを一瞬だけ見てそのままみほを探す。

 

「・・・・それで?大洗の隊長は?」

「は、はい」

 

とみほが、挙手をする。カチューシャの視界にみほを捉えた。

 

「あら?西住流の・・・・去年はありがとう。貴女のお陰で私達優勝出来たわ。今年はどんなプレゼントがあるのかしら?今年もよろしくね、期待しているわ。家元さん。じゃあね、ピロシキ〜」

「ダスヴィダーニャ」

 

そう言って二人は、去って行った。いや、ピロシキはロシア料理じゃなくて?ノンナの最後に言った言葉の方が正しいぞ?そう思うと私はみほさんの肩を持つ。

 

「さて、試合前最後の作戦会議をするわよ。みほさん」

「はっ、はい!!」

 

そう言うと大洗の車長達は最後に作戦会議を始めたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

準決勝です!

大洗に挨拶を終え、プラウダ高校の陣営に戻ったカチューシャとノンナは。

 

「それで、よかったのですか?カチューシャ」

「何がノンナ?」

 

陣地に戻るとノンナがカチューシャに聞いて来た。

 

「大洗のチームを挑発すると共に賭けを言い渡さなくて・・・・」

「ああ、それね。今は良いわ。、大洗はこのカチューシャを侮辱したのよ、大洗を追い詰めて降伏とT-34/100と乗員の引き渡しを求める。それに・・・・」

「?」

 

カチューシャは途中で言うのをやめたことに疑問を感じた。

 

「何でもないわ。始めるわよ」

「はい」

 

そう言い、各々戦車に乗り込む中。カチューシャはある一抹の不安があった。

 

「(あの私を侮辱した奴・・・・まさか・・・・)」

 

それはさっき大洗に挨拶に行った時に自分の言い間違いを指摘したいやらしい生徒だ。だが、その見た目は既視感があった。

 

「(似ている・・・・()()()に・・・・)」

 

カチューシャは余りにも似過ぎているその女生徒にある不安を抱えたが・・・・

 

「(もし、本当にそうなら真っ先に他の奴らを潰してからにしてやる・・・・!!)」

 

カチューシャはそう思うと拳を強く握った。それを見たノンナは・・・・

 

「(やはり、さっきの女に言われたことを気にしているのでしょう・・・・ならば、叩き潰して土下座をさせるのみ!!)」

 

ノンナはそう意気込み、無線機の電源を入れてロシア語で言う。

 

「『クラーラ。試合中にT-34/100をやるわよ』」

「『分かりました。ですが何故?』」

「『カチューシャ様を侮辱したからです』」

「『・・・・了解』」

 

ノンナの一言で納得したクラーラと言う女生徒はそう返事をするとカチューシャが叫んでいた。

 

「ちょっと貴方達!日本語で喋りなさいよ!!クラーラと何を話していたのよ!!」

「試合前の確認です」

「あそっ、それなら良いわ」

 

涼しい顔でそう言うノンナにカチューシャはそのまま前を向いて試合が始まるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、大洗チームは最後の作戦を考えていた。

 

「・・・・今回の相手の車輌数は十五輌、車輌の数に呑まれないで、T-34/76が七両、T-34/85が六両、KV-2が一両、IS-2が一両、どの車輌も強敵で正面からやり合えば勝ち目はありません・・・・皆さん冷静に行動して下さい。包囲されないようにフラッグ車を守りながら、ゆっくり前進して、相手の動きを見ましょう」

 

とみほが、提案するが

 

「ゆっくり慎重なのもいいが・・・・ここは一気に攻めたらどうだろう?」

「え?でも失敗したら・・・・」

 

そこに、カバさんチームのカエサルが話を切り出し、みほの考えた作戦とは相対する発言に、みほは戸惑う。

 

「うむ」

「妙案だ」

「先手必勝ぜよ」

 

そんな中、左衛門左、エルヴィン、おりょうの三人がカエサルの案に賛同する声を上げる。

 

「気持ちは分かりますが、リスクが・・・・」

 

実際にプラウダ高校の戦法を知っているみほはそう言うが、

 

「大丈夫ですよ!」

「私もそう思います!」

「勢いは大事です!」

「是非、クイックアタックで!」

 

みほの言葉を遮り、アヒルさんチームのメンバーが声を上げる。

 

「なんだか、負ける気がしません!それに、敵は私達の事舐めてます!」

「ぎゃふんと言わせてやりましょうよ!」

「え!いいね、ぎゃふーん!」

「ぎゃふんだよね!」

「ぎゃふん!」

 

ウサギさんチームからもそんな声が上がる。

 

「よし!それで決まりだな」

「勢いも大切ですもんね」

 

おまけに生徒会の河嶋と小山も賛成的だった。

 

「分かりました、一気に攻めます」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

そんな時、みほが作戦を変え、カエサルが提案した作戦へと変更した。それを聞いた秋山と五十鈴、クリム達が心配そうにみほを見る。

 

「いいですか?」

「慎重に行く、作戦だったんじゃ?」

「そうよ、二人の言う通りよみほさん!本当にそれでいいの?考え直した方が・・・・」

 

秋山と五十鈴、ともみがそう言うがみほは変えるつもりはない。

 

「長引けば、雪上の戦いに慣れた向こうの方が有利かもしれないですし、それに八九式の履帯は雪上走行に向いてないし・・・・それにみんなが勢いに乗ってるんだったら・・・・」

「・・・・本当にそれで良いのね?」

 

クリムがそう問う。しかしみほは意見を変える雰囲気はなかった。それを見たクリムは一言。

 

「・・・・分かった。隊長の言うとおりにする」

 

とだけ言い残すとみほは全員に向かって言う。

 

「では皆さん!相手は強敵ですが、頑張りましょう!」

『『『『『『『『『『オオーーーーーッ!!!』』』』』』』』』』』

 

みほの言葉に大洗のメンバーは拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、観客席近くの小高い丘では・・・・

 

「この寒さ、プラウダより圧倒的に劣る車輌、これでどうやって勝つつもりでしょう?」

 

丘の上に陣取っている聖グロリアーナの一人、オレンジペコがエキシビジョンに映し出される大洗の様子を見て心配そうに言う。

直ぐ横で紅茶を飲んでいたダージリンは、落ち着き払った様子で言った。

 

「確かに、大洗は数も練度の質ではプラウダより遥かに劣っている・・・・でも、そんなハンデを覆してくるのが彼女等よ。それに・・・・」

「?」

「今日は皇帝の凱旋があるでしょうから・・・・」

「・・・・はい?」

 

ダージリンの呟きにオレンジペコは疑問符が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいわね。ナオミが見に行きたいって言うなんて」

 

別所でケイがフライドポテト片手に呟く。その視線の先にはナオミがエキシビションを見ていた。すると、ナオミは言う。

 

「ああ・・・・この試合は動くだろう・・・・」

「ふーん?ま、ナオミがそう言うならそうなんでしょうね」

 

ケイはナオミがいつになく真剣に試合を見ている事にその訳を考えながらフライドポテトを口にしていた。

その中でナオミは考えていた。

 

「(雪原は皇帝の庭だ。だから、今日は皇帝が()()()()()()だ・・・・)」

 

試合はおそらく大荒れするだろう。そんな確信めいた予測をナオミは立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大洗女子対プラウダ校準決勝、試合開始!』

 

試合開始のアナウンスが会場一帯に響き渡り、両陣営の戦車隊が一斉に動き出した。

暗闇と静寂が支配する雪原に野太い音が響き渡る。その雪原では、十五輌の白塗りされたプラウダ高校の戦車が進撃していた。

 

T-34/85が七輌に、T-34/76 1943型が六輌、KV-2とIS-2がそれぞれ一輌ずつで、編成されたプラウダ高校戦車道チームの戦車隊は、フラッグ車である1輌のT-34/76とその後に続くKV-2とIS-2を、残りのT-34/85、76で守る様な形で、矢印状の隊列を組んで進撃していた。

 

「良い!彼奴らにやられた車輌は、全員シベリア送り25ルーブルよ!!」

「・・・・日の当たらない教室で、25日間の補習って事ですね」

 

隣を走る同車のキューポラから上半身を乗り出したノンナが、カチューシャの言葉を要約する。

 

「行くわよ!敢えてフラッグ車とT-34/100戦車だけ残して、あとはみんな殲滅してやる・・・・・・力の違いを見せつけてやるんだから!」

 

『『『『ypaaaーーー!!』』』』

 

カチューシャの言葉に、プラウダ全車両の乗員から雄叫びが上がる。それから一行はロシア民謡として有名な『カチューシャ』を歌い出し、士気が最高潮にまで上がり詰める勢いで進撃を続けた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

単独行動です!

今回はいつもより短めです。


『Горит в сердцах у нас любовь к земле родимой,

Идём мы в смертный бой за честь родной страны.

Пылают города, охваченные дымом,

Гремит в седых лесах суровый бог войны. 』

 

クリムはキューポラから顔を出しながら歌う。

雪原を走る一台の白色の戦車はまるで王を運ぶ駕籠の様であった。

歌っているのは《スターリン砲兵行進曲》。ドイツが占領した領地を解放する砲兵を励ます歌詞となっていて、戦後もこの曲が多くのソ連の人々に親しまれ、現在も軍のパレードやメドレーリレー等でも演奏される。

クリムが歌うと車内からリュミ、ともみ、淀の三人のコーラスが聞こえてくる。

 

『『『Артиллеристы, Сталин дал приказ!

Артиллеристы, зовёт Отчизна нас.

Из многих тысяч батарей,

За слёзы наших матерей,

За нашу Родину - Огонь! Огонь! 』』』

 

因みに歌っているのは添削される前の初期の方である。

大洗戦車道部とは別行動をとっており、クリムは帽子を取ると止めていたヘアゴムを取る。すると冬の風に煽られてプラチナブロンドの長髪が後ろに広がる。それはまるで月下美人の様であった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~冷える」

 

余裕そうに歌を歌っているクリムとは違い、あんこうチームのⅣ号戦車の中では手袋をはめている沙織がそう呟く。

 

「一気に決着をつけるのは、ある意味正解かもしれませんね」

「うん・・・・」

 

華の呟きに、みほは小さく答える。

そんな時、紙コップにポットのココアを注いだ優花里が、みほにその紙コップを差し出して言った。

 

「ポットにココアを淹れておきました。良かったらどうぞ」

「ありがとう」

 

みほはそう言って、差し出された紙コップを受け取ると、ゆっくりと口をつける。そんな中、みほは何もない雪原を見る。

 

「どうかしたんですか西住殿?」

「ん?いや、クリムさん達どうしたのかなって・・・・」

 

そう言うと秋山が納得した表情を浮かべた。

 

「確かに、今回のクリム殿はどこかぶっきらぼうな雰囲気がありましたね・・・・」

「と言うか戦車見た?」

「ううん・・・・だから不思議に思っちゃって・・・・」

 

今日の試合、最初からハチドリさんチームは離れたところからスタートしていた。なので、大洗戦車道チームはまだクリム達の戦車を見ていないのだ。

 

「なんだか、戦車を見せない様隠しているみたいですね」

「本当、少しくらい教えてくれたって良いのに・・・・」

「まぁ、クリムさん達にも考えていることがあるんだよ、きっと・・・・」

 

そう言うとみほ達は平原を走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・良かったの?みほさん達に合流しなくて」

 

車内でリュミが聞くとクリムは答える。歌を歌い終えた四人は最初からみほ達と別行動をとっていた。

 

「ええ、問題ないわ。ともみ。この先の丘で止まって。そこからみほさん達を見る」

「了解・・・・」

「淀。いつでも撃てる準備を」

「装填は終わっているわ」

「最悪、十五両全部を相手にすることを考えて」

「りょ、了解・・・・」

 

クリムは目を細めた少し怖い印象を与える表情で、ジッと淀を見る。その表情に一瞬だけ淀は冷や汗をかくと手に十五キロの徹甲弾を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗の戦車隊を、丘の上から双眼鏡越しに見つめる人影が二つあった。

 

『敵は七輌、北東方面へ前進中。時速約二〇キロ。T-34/100の姿はありません』

 

それは、プラウダチームのメンバーの斥候員だった。

彼女等は稜線に伏せ、双眼鏡越しに見た大洗チームの様子をカチューシャに送っていたのだ。

 

「ふん・・・・・勝負に出る気?T-34/100が単独行動中なら・・・・・・ノンナ!」

「わかっています」

 

それに淡々とした調子で応えると、ノンナは他のチームメイト達へと視線を送る。

 

「Да!」

 

その視線に、既にT-34/76に乗り込んで準備を済ませていた一人のメンバーが応えると、他の二輌のT-34/76を引き連れて、出撃して行った。

 

「それじゃ、私達も行動を開始するわよ」

 

そして、軽食を食べ終えたカチューシャは、残りのメンバーへと呼び掛け、彼女等の作戦を開始しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、大洗チームでは、雪の丘を上ろうとしていた。

そんな中、カモさんチームが雪に足を取られ上手く上らず、苦戦していた。

 

「そど子、何してる!」

 

それを見た河嶋が、カモさんチームに呼び掛ける。

 

「ゴモヨ、前へ進むのよ!」

「進んでいるつもりなのよ、そど子」

 

上手く坂を登れず、ゴモヨは半泣きになっていた。

 

「カモさんチーム、一旦後退して下さい」

 

みほの指示で一旦B1戦車は麓に降りて停車した。

 

「ちょっと、頼む」

「はい・・・」

 

そんなカモさんチームを見て冷泉は、そう言って操縦を秋山に代わってもらい、Ⅳ号を降りてB1の車体に乗り操縦席のハッチを開ける。

 

「ちょっと代われ」

 

とそう言って冷泉は、ゴモヨは素直に操縦を代わる。冷泉の操縦により、B1は何とか坂を上る事が出来た。

 

「ありがとう」

「人の戦車に勝手に入って来て何してんのよ!!」

「・・・・気にするな」

 

ゴモヨがお礼を言うがみどり子は否定的に言うが冷泉は全く相手にせずふっと笑う。それから、一行はみほの指示を受け、進撃を再開するのであった。

そしてしばらく進み、目の前に大きな雪の壁が現れる。

 

「華さん、前の雪を榴弾で撃ってくれる?」

「分かりました」

 

みほの指示に華が答えると、優花里がすかさず、榴弾を装填する。

華が引き金を引くと、激しいマズルフラッシュと共に撃ち出された榴弾は、前方の雪の壁へと吸い込まれていき、一瞬、その雪の壁にめり込んだかと思えば爆発して雪の壁を粉微塵に吹き飛ばし、大洗の戦車隊が通れる程度の道が出来た。

その道から、大洗の戦車隊が進撃を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奥様!撃ったのはお嬢ですよ!」

 

その様子を観客席から見ていた新三郎は興奮気味に言い、拍手する。

 

「花を活ける手で、あんな事を・・・・」

 

だが未だに五十鈴が戦車道を続けていると言う事を、認めていない五十鈴の母百合は、渋い顔をしながら溜息をつく。

 

「・・・・ここまで、来たんですから、応援して差し上げて下さい」

 

その様子を見た新三郎は、なんとも言えなさそうな気持ちを押し殺して笑みを浮かべると、百合に応援する様に促すが、百合の方は相変わらず溜息を吐くばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、最初から別行動?」

「クリムらしいわね。何するのかしら?」

「みんな興味なさそうだね〜」

 

別の場所ではレナ、リカ、ヴォルガの三姉妹が映像を見ながら言う。

今回の試合を見に来た三人は妹達の活躍が来ないか今か今かと待っていた。

 

「どうせならあの子達も連れてウチに来て来んないかなぁ」

「それは難しいんじゃない?」

「もし、それするには二人の親に連絡しないと・・・・」

「面倒だなぁ・・・・」

 

ヴォルガはそう言うとため息を吐いていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

篏め手です!

雪の壁を榴弾で吹き飛ばし、先に進む一行は、景色が変わらない雪原地帯を進撃していた。

すると双眼鏡越しにみほが敵戦車三両を見つける。

 

「十一時の方向に敵戦車の姿を確認、各車警戒!」

 

無線機に向かってみほが叫ぶと、アヒルさんチームの八九式を守るようにして、他の戦車が展開する。

 

「相手は三輌だけ・・・・外郭防衛線かな・・・・?」

 

みほが呟いた瞬間、相手のT-34が発砲し、その砲弾が大洗の戦車の周りに着弾した。

 

「気づかれた!長砲身になったのを活かすのは今かも!」

 

みほはそう呟き、車内に引っ込む。

 

「華さん、左端の一輌を狙って。カバさんチームは、真ん中の一輌に攻撃してください」

 

みほの指示を受け、五十鈴はスコープを覗きながら照準を合わせ、既に狙いを定めていたカバさんチームの三突が砲撃を仕掛け、みほの指示通りに真ん中のT-34を撃破する。

 

「あんこうチームも攻撃します!」

 

そうしてⅣ号も砲撃を仕掛け、左端に居たT-34を撃破する。

 

「命中しました!」

「凄~い!一気に二輌も撃破出来るなんて!」

 

万が一に備え、次の砲弾を取り出していた秋山が命中を告げ、武部は此方が先に、敵戦車を二輌も撃破すると言う先制点を取れた事に喜びの声を上げる。

 

「やった!敵の鼻を明かしてやったぞ!」

 

それを見ていたアヒルさんチームの磯部は、嬉しそうに言った。

 

「昨年度優勝校の戦車を撃破したぞ!」

「時代は我等に味方している!」

 

カバさんチームのエルヴィンとカエサルも、自信に満ち溢れた声を上げる。

 

「試合開始から、此方が先制点を取れるとは・・・・これは行けるかもしれん!否、絶対に行ける!」

「この勢いでGoGoだねぇ!」

 

カメさんチームの河嶋と角谷も歓声を上げ、自分達の優勢を確信したような表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「完全に乗せられているわね・・・・」

 

丘の上で双眼鏡で大洗チームが敵戦車を撃破したのをクリムは見る。

するとともみが言う。

 

「た、助けに行かなくて良いの?」

「いや、この際援護だけにして彼女達に教訓として刻み込ませる」

「ま、負けちゃうかもしれないのに?」

 

ともみが焦ったそうにするとクリムは言う。

 

「いや、負けないわ。みほさんや私がいるのよ?」

 

そう言うとともみも少し余裕ができたのかふぅ、と一息ついていた。だが、完全に解けたと言うわけではなかった。

 

「さ、仕掛けを万端にするわよ。移動するわ」

「了解」

 

そう言うと雪原から戻って来たリュミと淀を戦車に乗せるとハチドリさんチームはどこかに再び移動し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロシアのT-34を撃破出来るなんて、これは凄い事ですよ!」

「・・・・」

 

秋山が興奮して言うが、みほは難しそうな表情を浮かべ、ただ黙っていた。

 

「・・・・?」

「どうしたの?」

 

その様子を不思議に思った秋山が首を傾げ、武部が訊ねる。

 

「上手く行きすぎてる・・・・」

 

みほがそう呟いた瞬間、一発の砲弾が撃ち込まれる。

みほがキューボラから上半身を乗り出すと、生き残っていた一輌のT-34が、大洗の戦車隊に背を向け、逃げ出そうとしていた。

 

「全車前進!追撃します!」

 

みほの指示を受け、大洗の全戦車8輌が一斉に動き出し、逃げ出したT-34を追い掛け始めた。攻撃も何もせず、ただひたすら逃走するT-34を、大洗の全戦車が追い掛けると言う、何ともつまらない鬼ごっこが続いていた。

 

「逃げてばっかだねぇ~・・・・なんで逃げるだけなの?」

「向こう側の戦車が1輌だけなのに対して、此方が全車両で追い掛けているからじゃないですかぁ~」

 

何もせず、ただひたすら逃走するT-34に、沙織が疑問の声を溢すが、それに優花里が答えるようにして言う。

 

「そうだよねぇ~。何故か追うと逃げるよね、男って♪」

 

武部がそう言うと、秋山は一瞬ながら、何とも言えない表情を浮かべ、取り敢えず苦笑を浮かべた。

そうして暫く追い続けると、その先にプラウダ本隊が、横一列に並んで待機していた。

 

「彼処に固まってる・・・・フラッグ車、発見しました!」

 

それを、M3リーのキューポラから双眼鏡で見ていた澤は、赤い旗を付けたプラウダのフラッグ車を視界に捉え、そう叫ぶ。

 

「千載一遇のチャンスだ・・・・良し、突撃!」

「「「「行けぇぇぇぇぇええええええっ!!!」」」」

「アターック!!」

 

みほの指示を待つ事無く、河嶋が独断で指示をだすと、カバさんチームのⅢ突やアヒルさんチームの八九式、他にもカメさんチームの38tやウサギさんチームのM3リーが速度を上げていく。

 

「ちょっと!?みんなさんちょっと待ってください!!」

 

そど子が待つように言って、カモさんチームのルノーまでもが速度を上げる。みほは制止を呼び掛けるが、結局みほ達あんこうのⅣ号もが速度を上げていく。

 

次々と現れる敵戦車を撃破し、大洗の士気はますます上がり、そして逃げ出すのを見て

 

「逃がすか!」

「追え追え~!」

「ブリッツクリーク!」

「待てぇ~!」

「行け行け~!」

「ぶっ潰せー!」

「やっちまえー!」

 

プラウダの戦車隊が後退し始めると、先陣を切って走り出した38tを皮切りに、三突とM3リーが急発進し、プラウダの戦車隊を追い始める。

 

「ストレート勝ちしてやる!」

「ちょっと!待ちなさいよ!」

 

それに続いて、あろうことかフラッグ車であるアヒルさんチームの八九式も走り出し、それからカモさんチームのルノーも後に続く。

 

「ちょ!?ちょっと待ってください!・・・・ハチドリさん!すみません、先に行きます!」

 

他の全員がプラウダの戦車隊が逃げていった廃村へと突っ込んでいく。そしてみほもすまなさそうに言って、みほは冷泉に指示を出してⅣ号を発信させ、自分達も廃村へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、行っちゃった・・・・」

「勢いって大事だけど、怖いね・・・・」

 

そんな戦車道チームを遠くから眺める淀とリュミ。それを見て淀は冷や汗をかいていた。

 

 

「もしかしたら・・・・冗談抜きで全滅するかもね・・・・あの子達・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、フラッグ車を追って廃村に入った大洗チームはプラウダのフラッグ車への集中攻撃を仕掛けていた。撤退して行く最中。何故か単独で逃げ出したフラッグ車は廃村を逃げ回り、民家の陰に身を隠したりして大洗チームを挑発する。

 

「フラッグ車さえ倒せば・・・・」

「勝てる!」

 

単独で抜け出している為、今のプラウダのフラッグ車は孤立無援状態。よって、自分達の誰かがフラッグ車を撃破すれば、決勝戦進出が決まる。大洗はフラッグに一斉砲撃を仕掛けるが、中々命中しない。

 

「でも、あれさえ倒せば勝ちなんでしょ」

「そうです!」

 

完全に自分達が優位に立ってると思い込んでいる大洗チーム一行は、兎にも角にもフラッグ車を撃破しようと砲撃を続ける。だが、それは長くは続かなかった。

 

『みほさん、後ろにT-34/85!』

「っ!?」

 

クリムの言葉に 反射的にみほは後ろを向く。そして現れた二輌のT-34を見て驚愕の表情を浮かべる。

 

「ひ、東に移動してください!急いで!!」

「ッ!?な、何だ!?」

 

突然のみほの指示に、大洗チーム一行は戸惑いを見せながらも、取り敢えずと東へ移動しようとするが、向かおうとした先にあった民家から、今度は二輌のT-34/85が現れて行く手を遮る。

 

「そんな・・・・なら、南南西に方向転換・・・・ッ!」

 

東への退路が絶たれ、南南西に移動するようにと指示を出そうとしたが、今度は地下への通路か塹壕らしき所から、白いIS-2が飛び出してくる。

そうして、みほは他方向への退路を探そうと辺りを見回したものの、向かおうとした先々で、KV-2や他のT-34/76や85の集団が待ち構えており、大洗チーム一行は、プラウダの戦車隊に取り囲まれる結果となった。

 

「囲まれてる・・・・ッ!」

「周り全部敵だよ!!」

みほが周囲を見渡しながら呟くと、武部が声を張り上げる。

 

「罠だったのか・・・・・」

「「「「「えっ!?」」」」」」

 

ここで漸く、プラウダの罠に掛かった事と知ると共に先程までプラウダのやり方は演技だと知る。そして、次の瞬間、プラウダから激しい十字砲火が飛んで来る。絶え間なく飛んで来る砲弾は、大洗の戦車の周囲や民家に次々と着弾し、家を吹き飛ばしたり、雪の飛沫を上げたりする。そんな時、一発の砲弾がウサギさんチームのM3の75mm砲に命中し、砲身を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

『しゅ、主砲が壊れました!』

「みっ、みぽりん、逃げなきゃ!」

「敵の十字砲火がこれほどなんてっ!」

 

梓からの悲鳴が上がる。早急に十字砲火から抜け出さなからば全滅してしまう。みほは車内のスコープから、一際目立つ教会の様な建物を見つける。

 

「全車、南西の大きな建物に移動して下さい!!あそこへ立て篭もります!急いで!」

 

その指示を受け、八九式、M3、B1、38tが我先にと一目散に教会へと向かい、飛び込む様にして入って行く。

 

「あと三突とⅣ号だけです!」

 

梓の言葉に続く様に三突も避難しようとするが、何処からともなく飛んで来た砲弾が三突の右側の履帯に命中して動けなくなってしまった。

 

「三突が!」

『履帯と転輪をやられました!』

 

エルヴィンの声が上がる中、二輌のT-34/76が砲塔を三突へと向け、更に攻撃を加えようとする。

 

「三突が入り口を塞いでるよ!」

「冷泉さん、三突ギリギリで一度停車して下さい」

 

手前にいたT-34が砲撃するが、其処へ後退して来たⅣ号が三突を守る様にして割り込み、三突と背中合わせる形で接触すると、相手の砲弾を砲塔の角度を利用して弾き、反撃とばかりに発砲しようとする。しかし、

 

「砲塔故障!」

「冷泉さん、三突を押し込みつつ全力後退!」

「了解」

 

五十鈴が砲塔の故障を告げるが、みほはまず避難の方を優先させる。冷泉がⅣ号を後退させる。

 

「三突入りました!」

「早く、私達も入らないと!」

 

Ⅳ号は履帯を破壊されて動けなくなってしまった三突を無理矢理押し込む様にして教会へと入って行った。

 

「何とか無事に逃げ込めましたね・・・・・」

「うん・・・・」

 

大洗チームが教会内に逃げ込んだ後もプラウダ戦車隊は教会に向けて発砲を続けて、教会内の大洗チームに爆音と振動が響き渡る。

 

「・・・・アレ?」

「・・・・?砲撃が、止んだ?・・・・」

「いったい・・・・?」

 

突然の静寂に不思議に思った大洗のメンバーは、自分達の乗る戦車のハッチを開けて外に出始めた。

 

「西住殿、あれを!」

 

そう言って秋山が指差した方角には、プラウダの生徒と思わしき2人の少女が、白旗を持って教会に入って来た、入り口の少しした場所で歩みを止める。

 

「カチューシャ隊長の伝令を持って参りました」

「伝令・・・・」

 

その生徒の言葉に隊長のみほと副隊長の河嶋が前に出る。

 

「降伏しなさい、全員土下座すれば許してやる。だそうです」

「なんだと!?・・・・ナッツ!!」

「それともう一つ。T-34/100とその搭乗員をこちらに渡せ。素人集団にあれは不相応だ。だそうです」

「えっ!?」

 

伝来の言葉にみほは驚くと伝来の子は言う。

 

「隊長は、心が広いので三時間待ってやると仰っています。それと降伏しなければ今度は容赦しないと・・・・では、失礼します」

 

そう言い終えると、二人は揃って一礼をすると、これまた揃って回れ右をして出て行った。

それを見届けたメンバーの表情は怒りで染まっていた。

 

「誰が土下座なんか!」

「全員自分より身長低くしたいんだな」

 

磯部と河嶋がそう言うと

 

「徹底抗戦だ!」

「戦い抜きましょう!

 

エルヴィンと梓も言葉を続けるが、みほの表情は良くなかった。

 

「でも、こんなに囲まれていてては・・・・一斉に攻撃されたら怪我人が出るかも知れない・・・・みんなが危険になるくらいなら・・・・」

 

みんなが徹底抗戦を唱える中、みほは躊躇していた。戦車道の競技に使用されているカーボンによって安全は考慮されているが絶対と言う訳ではない。それは、みほも知っている。

 

「でも、私はみんなで戦車道を続けたい、クリムさんとも最後まで・・・・・でも」

 

プラウダの条件を飲んで降伏すれば、誰も危険に晒されず怪我人が出る可能性は無くなる。しかし、要求を飲むとクリム達四人は強制的にプラウダに行く事になる。

二度と会えなくなるかもしれないのが嫌だった。

今まで自分を励ましてくれたりして、少しだけ姉の様に慕っていた。

クリム達を出すか、怪我人を出す可能性を考慮して抗戦するか。

その二つを天秤にかけていると河嶋が叫ぶ。

 

「降伏なんてあり得ない!絶対に負ける訳にはいかんっ!徹底抗戦だ!」

「で、でも・・・・」

「勝つんだ!!絶対に勝つんだ!!勝たないとダメなんだ!!我々にはもう・・・・勝つ以外選択は残されていないだ!」

「どうしてそんなに・・・・さっきの戦闘でも分かるじゃないですか?初めて出場してここまで来ただけでも凄いと思います!?戦車道は戦争じゃありません、これ以上は怪我人が出るかも知れません。怪我人を出してまで戦ったりして・・・・そこに価値なんて無いと思います。勝ち負けより大事な物がある筈です」

 

「勝つ以外の何が大事なんだ!」

 

みほの言葉に耳を貸す事なく、河嶋は更に叫ぶ。

 

「私・・・・この学校に来て、みんなと出会って・・・・初めて戦車道の楽しさを知りました。この学校も戦車道も大好きに成りました!!だから・・・・」

 

そう言い掛けると、みほは少しの間を空けて言葉を続ける。

 

「その気持ちを大事にしたまま、この大会を終わりたいんです」

「何を言っている・・・・・負けたら・・・・我が校は・・・・ッ!」

「ッ!?止めて桃ちゃん!」

「止めろ河嶋!!それ以上言うな!!」

 

小山と角谷が、珍しく声を荒げて言うが・・・・

 

「負けたら、廃校になる。・・・・そうでしょ?」

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

思わず背後を振り向くとそこにはクリムと淀が立っていた。

するとクリムの言葉に全員が驚愕する。

 

「学校が・・・・なくなる?」

「ど、どう言う事ですか?」

 

すると杏が聞く。

 

「クリムちゃん・・・・どこで知ったの?」

「父から聞きました。転校しろと電話があったので」

 

そう言うと杏は驚きと納得の様子を浮かべた。

 

「本当なんですか会長?」

 

みほがそう訊くと角谷は頷き、答える。

 

「クリムちゃん言う通り。この全国大会で優勝しなければ・・・・我が校は廃校になる」

 

そう角谷が言うとメンバー全員に衝撃が走った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後に引けません!

数ヶ月前・・・・

 

「廃校?」

「学園艦は維持費も運営費も掛かりますので、全体数を見直し、統廃合する事に決定しました。特に、成果の無い学校から廃止します」

 

此処は、『文部科学省 学園艦教育局』そこにいるのは、大洗女子学園生徒会メンバー三人が文科省に呼び出された事がきっかけだった。そして、文科省の眼鏡掛けた七三分けの役人は何の感情もなく彼女達に大洗女子学園を廃校にすると言った。

 

「つまり・・・・私達の学校が無くなると言う事ですか?」

「納得出来ない!!」

「今、納得出来なかったとしても本年度中に納得して頂ければこちらとしては結構です」

「じゃあ来年度には・・・・」

「はい」

「急すぎる!!」

「大洗女子学園は近年、生徒数も減少してますし、目立った活動もありません。昔は、戦車道が盛んだった様ですが」

「ん〜じゃあ・・・・戦車道やろっか?」

 

文部科学省の役人から告げられた廃校宣言を前に、大洗女子学園生徒会長角谷杏は答える。

 

「「えぇ!?」」

「戦車道をですか!?」

 

まさかの言葉に驚く河嶋と小山は驚くが角谷は、

 

「まさか、優勝校を廃校にしないよね〜?」

 

と角谷は、役人にそう言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、戦車道を始めたのですか・・・・」

 

淀がそう言うと杏は頷く。

 

「そう。戦車道をやれば、助成金も出るって聞いてたし、何よりも、学園艦の運営費にも回せるからね」

「じゃあ、世界大会がどうとか言うのは嘘だったんですか!?」

「そ、それは本当だ。嘘ではない」

 

澤が驚いてそう訊くと河嶋が答える

 

「でも、そんなのでいきなり優勝しろとか無理ですよぉ!」

 

河嶋が答えると、澤が声を上げる。

 

「いやぁ~、昔は結構盛んだったらしいから、もうちょっと良さそうな戦車があるかと思ってたんだけど・・・・予算が無くて、良いのは皆売っちゃったらしいんだよねぇ~」

 

角谷からの衝撃的発言に、一同が一瞬だけ押し黙る。

 

「じゃあ、今此処にあるのは!?」

「そう、全部売れ残ったヤツ」

「因みに、ウチのT-34のレンタル料は・・・・」

「そう、助成金から出した。金額上一両しか借りられなかったけど・・・・」

 

しれっとそう言う杏にクリムは頭をワシワシと掻く。

 

「それでは優勝など到底不可能では・・・・?」

「だが、そうするしか無かったんだ・・・・古くて何の実績も無い、平凡な学校が生き残るには・・・・」

 

エルヴィンが言うと、桃が肩を落として言う。

 

「無謀だったかもしれないけどさぁ・・・・後一年、泣いて学校生活送るよりも、希望を持ちたかったんだよ」

 

河嶋に続いて、角谷も弱々しい笑みを浮かべながら言う。

 

「皆・・・・黙ってて、ごめんなさい」

 

そう言って、小山が頭を下げた。

 

「そんな・・・・じゃあ、西住殿を勧誘したのは・・・・」

「うん。少しでも優勝出来る可能性を・・・・廃校を回避出来る可能性を大きくしたかったんだよ。・・・・西住ちゃんごめんね」

 

そう言うとみほは微妙そうな表情を浮かべ、それをクリムは静かに聞いていた。

 

「バレー部復活どころか・・・・学校が無くなるなんて」

「無条件降伏・・・・」

「この学校が無くなったら私達、バラバラになるんでしょうか・・・・」

「そんなのやだよ!!」

 

五十鈴の漏らした言葉に武部が声を上げて答える、自分達は学生だ、廃校になればおそらく各高校に編入する事になるだろう。だが、全員が都合良く同じ高校に編入するのは無理だ。少なくともこのチームは確実に無くなる。

 

「単位習得は夢のまた夢・・・・か」

 

と冷泉が空を仰いでそう呟き、皆の表情は絶望に満ちた顔をし、うさぎさんチームの子たちは泣いていた。するとクリムが言う。

 

「まだ、白旗は上がっていないわよ?」

「クリムさん・・・・」

 

みほがそう言うとクリムは腕を組みながら言う。

 

「みんな見たでしょう?今まで何両の敵を撃破した?

今は包囲されているけど、勝てる道筋はあるわよ?それは今までの歴史が証明している。

大事なのは諦めないこと。学園艦が解体されてなくなるその時まで諦めないことが重要なのよ?」

 

キリッとした目でそう言うクリムは青い目の中に炎を灯していた。

情熱という名の炎を。

 

「クリムさんの言う通りまだ、試合は終わってません。まだ負けた訳じゃありません」

「西住ちゃん・・・・」

「隊長・・・・」

「頑張るしか無いです。だって、来年もこの学校で戦車道やりたいから・・・・みんなと」

 

みほが、そう言うと。

 

「そうです!私達はまだ負けてません!私も、西住殿と同じ気持ちです!」

「そうだよ・・・とことんやろうよ!諦めたら終わりじゃん、戦車も恋も!!」

「うん」

 

みほの言葉にあんこうチームの秋山、武部、五十鈴、冷泉、が言うと他の各チームのメンバーも顔を上げ、その表情は先程までの暗い表情と打って変わって前を見据えていた。

 

「会長さん、降伏はしません。最後まで戦い抜きます。ただし、みんなが怪我しないよう冷静に判断しながら最後まで戦い抜きます!」

「分かったよ、西住ちゃん・・・・」

 

みほがそう言うと角谷はそう言って頷く。そう、まだ試合は終わっていないのだ。

 

「修理を続けて下さい、三突は足周り、M3は副砲、寒さでエンジンが掛かりにくくなっている車両は、エンジンルームを温めて下さい、時間はありませんが落ち着いて」

「「「「「はい!」」」」」

 

みほは、各チームに修理する様指示を出す。自動車部の娘達からの直伝の修理術を披露する時、そして河嶋は目から溢れ出る涙を拭いながら、

 

「・・・・我々は、作戦会議だ!」

 

そう言い、すぐに作戦会議を始める。幸いにもプラウダは猶予として三時間もの時間をくれた。残された時間で大洗の劣勢を覆す逆転の策を練らなければならない。

 

「さー、今の間にも出来ることはあるわよ。敵の偵察や作戦立案。色々あるわよ」

「「「「「はい!」」」」」

 

元気よく返事をするメンバーにクリムは少しだけ疲れた様子を浮かべる。

 

「・・・・(ふぅ、鼓舞すると言うのもなかなか疲れるものね・・・・)」

 

士気は戦場に置いて重要だ。今ここで諦められては正直辛かった。

もし、ここで負けて仕舞えば私たちはロシアの高校に転学するところだった。そこでともみ達も別れるのは辛かった。それに、二年間だけだが自分ならこの大洗の生徒だ。母校が無くなったので転学なんて嫌だったのだ。

自分に戦車道の道を歩ませたこの学校に、恩を返すには良い機会だと考えていた。メンバーがそれぞれ動く中、クリムは呟く。

 

「・・・・そろそろ取りに行こうかな」

 

クリムはこの後に起こるであろう事柄を予測しながら次の行動に移っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一時膠着です!

観客席の丘陵地からダージリンとオレンジペコが観戦していた。

 

「どうして、プラウダは攻撃しないでしょう?」

「プラウダの隊長は、楽しんでるのよ。この状況を、彼女は彼是と搾取するのが大好きだもの、プライドをね」

 

そう言って、ダージリンは紅茶を飲もうとティーカップを口に近づけて紅茶を飲みながら試合を見守る。

 

「(先ほどから動きがないわね・・・・皇帝は・・・・)」

 

ダージリンは味方の危機でも動かない皇帝に焦ったさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の観客席では西住しほとまほが観戦していた。

 

「帰るわ、こんな試合見るのは時間の無駄よ」

 

そう言って立ち上がって帰ろうとするしほ。すると、

 

「待ってください」

「まほ?」

「まだ試合は終わってません」

 

真顔でまほはしほに言うと、

 

「隣、失礼しても?」

「「っ!?」」

 

そこには三人の女性が立っていた。するとそのうちの一人、最も身長が高く、黒髪短髪の女性が言う。

 

「お久しぶりです。西住しほさん」

「えぇ・・・・そうですね。リカさん」

 

まほは初めて見る気がする女性に首を傾げている。するとしほが紹介をした。

 

「こちら、ロシア戦車道連盟弾薬審査部門委員長リカ・オノ・オスキンさんよ」

「初めまして。まほさん」

「は、初めまして・・・・」

 

そう言うとまほはオビに挨拶をするとリカは後ろにいた二人を紹介する。

 

「ついでに紹介するわ。こちらはうちの姉でロシア戦車道連盟車両検査部門委員長レナ・オノ・オスキン。

こっちは妹のヨーロッパ戦車道連盟副理事長ヴォルカ・オノ・オスキン」

「初めまして」

「よろしくね〜」

 

後ろにいた二人の女性が挨拶をするとまほは目が思わず点になる。役職を聞いただけで目が回りそうになるがまほは何とか意識を保つと挨拶をする。

 

「初めまして。皆さん」

 

そう言うとオビは少しだけ笑みを浮かべるとしほを見ながら言う。

 

「・・・・随分とお母さんに似たのね。ねぇ、しほさん?」

「・・・・ええ」

「?」

 

まほを見ながらそう言うオビに疑問を感じていると三人はしほの隣に座ると本題に戻った。

 

「さて、しほさん。まだ、試合は終わっていないですよ?」

「ちゃんと自分の娘なんだから。見てあげないとかわいそうですよ」

「それに、まだ妹達も動いていないしね」

 

三人はそう言うとしほも半ば諦めた様子でエキシビジョンを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、プラウダの野営地では。移動用として用意されていたのであろう軍用スノーモービルRF-8の操縦席に、毛布を被せながら座っているカチューシャがボルシチを食べていた。

 

「それで降伏の条件として、土下座に加えてウチの草むしりと麦踏み、ジャガイモ掘りを三ヶ月やらせましょうか?」

 

捉え方によってはジュネーヴ条約に違反しそうな事を言いながら、カチューシャはボルシチを口に運んでいく。

意地悪く笑みを浮かべるカチューシャにノンナがハンカチを取り出しながら言う。

 

「それはそうと、口が汚れてますよ」

「知ってるわよ!」

 

そう言ってカチューシャはハンカチを受け取って口を拭く。

 

「それでカチューシャ。もしTー34/100を受け取ったら乗員はどうするつもりですか?」

「乗員?そんなの、何処か適当な戦車に乗せとけば良いわ。そうね・・・・あの戦車にはノンナに乗ってもらおうかしら?」

「そうですか・・・・」

 

後の事を考えていなかった様子のカチューシャに半ば呆れているとノンナの後ろにクラーラが現れてノンナに言う。

 

「『偵察を行なっていますがやはりTー34/100は見つからないそうです』」

「『そう・・・・マップの端の方にいるのかしら?』」

「『分かりません。何処かで偽装をして隠れているかもしれませんが。吹雪始めたと言うこともあってこれ以上の偵察は難しいそうです』」

「『では、捜索はまた後になりますか・・・・』」

 

ロシア語で会話をしているとカチューシャが怒鳴る。

 

「だから貴方達!日本語で話しなさいよ!!」

 

そう怒鳴った後、カチューシャはボルシチを食べ終えた。

 

「ふう、ご馳走様。食べたら眠くなっちゃったわ」

 

そう言いながら、カチューシャはRF-8に寝そべり、毛布を布団代わりに被る。

 

「降伏の時間に猶予を与えたのは、お腹空いて眠かったからですね?」

「違うわ!カチューシャの心が広いからよ!シベリア平原の様にね!」

「広くても寒そうです」

「うるさいわね。おやすみ」

 

からかう様に言うノンナにそう言い返すと、カチューシャは会話を打ち切って寝てしまう。そんなカチューシャを見てノンナは微笑ましく見て、コサックの子守唄を聴かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻って大洗のいる教会に戻る。

 

「しかし、敵の場所が分かればなぁ・・・・」

「正確な場所が分かれば・・・・」

 

生徒会やみほ、クリムが地図と睨めっこして今後の作戦を練っていた。

 

「偵察を出しましょう・・・・でも、誰を出すか・・・・」

 

みほが誰を偵察に出すかを考えていると

 

「西住殿、偵察ならお任せ下さい!!」

 

だが、秋山は自分からその危険な偵察役を買って出てくれた。

 

「優花里さん・・・・ありがとう。でも・・・・一人じゃ危険かも」

「だったら、私も行こう」

「エルヴィン殿、よろしいのですか?」

「もちろんだ、グデーリアン」

 

エルヴィンが立候補し、秋山と共にチームで偵察に出る事になった。

 

「この広さだともう一チーム必要ですね」

 

とは言え一つのチームだけで吹雪の中を偵察に出るのは厳しい。

 

「だったらそど子、冷泉ちゃんと行って来なよ」

「私が冷泉さんと!?」

「確か二人共視力が2.0あったし、仲も良いしね」

「仲良くなんてありません!それとそど子って呼ばないで下さい!!」

「文句言っている暇があるなら行くぞ、そど子」

「何よ!あんたなんて冷泉麻子だかられま子の癖に!!」

「はいはい、わかったから行くぞそど子」

「待ちなさいよ!だから、そど子って呼ばないで!!」

 

そんな冷泉とみどり子のやり取りを見て、仲良いんだなぁと思うみほ達であった。そして二組が出た後、クリムが外に向かって歩き出した。

 

「あれ?クリムさん。何処いくの?」

「冷えてきたから荷物を取ってくるのよ。戦車に詰め込んだね」

 

そう言うと淀が少し浮き足立ちながらクリムに近づく。

 

「お?あれ持ってくるの?だったら手伝うわ」

「お願いできる?」

「もっちろーん♪」

 

そう言うと二人は教会を後にして雪の中を歩いて出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪原を歩くと数分。とある凍結した森の中で一輌の白色の戦車が隠されていた。周りを雪や折れた枝木で覆い隠され、まず簡単な偵察で見えないようになっていた。

その中のてっぺん。車長用キューポラからクリムは中にある荷物を取り出していた。

 

「あちゃー、ガッチガチに固まってる」

「おかしいな、エンジンに乗せて解凍してたと思ったのに・・・・」

「うわっ、寒すぎて全然凍ってるじゃん」

すると戦車のハッチが開き、雪を滑り落としながらともみとリュミが顔を出した。

 

「あ、おかえりー。話終わった?」

「うーん、まだかな。これから相手の情報と作戦を集める」

「今は食材持って行くだけよ」

「えー、じゃあ、私も付いて行っていい?」

「ちなみに偵察は?」

「一回目の前通ったけど全然バレてないよ」

 

そう言うとクリムは少し考えた上で首を縦に振った。

 

「運ぶの手伝うならいいよ」

 

そう言うと二人は車内から色々な物を取り出すと鍋に詰め込んで来た道を元に戻って行った。




わー、四章楽しみだなぁ〜♪コロナで延期して心配だったけど良かった良かった。
新しい主題歌も良かったし、やっほぅ!最高だぜぇぇ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

みんなを励まします!

クリム達が雪原に消えて数十分後、偵察に出た秋山とエルヴィンが雪の進軍を歌いながら帰ってきた。

 

「只今帰還しました」

 

続く様に、もう一つの偵察チーム冷泉とそど子が走って帰って来た。

 

「こちらも偵察終わりました」

 

偵察チームが帰って来て、早速みほは偵察チームの情報をもとに地図に敵の配置を記していく。

 

「凄い・・・・あの大雪の中で、こんなに詳細に配置図が出来るなんて・・・・」

「いや〜敵の位置が完全に分かっちゃったね〜」

「皆さん、お疲れ様でした!これで作戦が立てやすくなりました。ありがとうございます!!」

「みんなっ、でかしたぞっ」

 

と、偵察に行った秋山達をみほはお礼を言い河嶋は褒める。当の偵察チームは、毛布に包まりながらスープを飲んでいた。

 

「雪の進軍は楽しかったです!普段できない事が出来て新鮮でした!ね!」

「うむ、なかなか楽しかった」

 

と秋人とエルヴィンの二人は、普段出来ない雪中偵察を楽しんでいた。

 

「そ、そう。無事で良かったです。冷泉さん達も・・・・」

 

みほは、苦笑いを浮かべながらそう言って冷泉とそど子に声を掛ける。

 

「敵に見つかってあちこち逃げ回ったのが帰って良かったな」

「ッ!何言ってるの!!見つかったのも作戦よ!!」

「はいはい」

「はいは一度!」

 

どうやら、冷泉とそど子は偵察の道中敵に見つかってあちこち逃げ回っていた様だったが、そど子はそれも作戦だと見栄を張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、観客席の丘では、モニターを眺めているオレンジペコとダージリン。アナウンスでは、試合を続行するかを協議している事が伝えられる。

 

『只今、試合を続行するかどうか協議しております。繰り返します・・・・』

「ますます、大洗女子に不利ですね。敵に四方を囲まれこの悪天候、きっと戦意も」

「それは、どうかしら?」

 

とプラウダに包囲され、更にはこの悪天候で大洗の不利をオレンジペコは危惧する一方で、ダージリンはどこか余裕そうな顔をしていた。

 

「(視界が悪ければ悪いほど、皇帝には有利な地形になるわね・・・・)」

 

ダージリンは今まで見てきた彼女の戦い方から天候すらも彼女は味方に助けるのかと感じざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、廃教会は静まり返っていた。まるで戦意喪失したかの様に、いつもの元気な雰囲気などまるで感じられず、大した会話も無いまま、メンバーは思い思いの方向を向いていた。降伏勧告返答期限まであと一時間となった。

 

「降伏時間まで、後何時間だ?」

「一時間」

「一時間、この状態で待つのか・・・・」

 

河嶋が聞くと、小山が沈んだ様な声で答える。

 

「いつまで続くのかな?この吹雪」

「寒いね・・・・」

「うん」

「お腹すいた・・・・」

 

ウサギさんチームは六人で一枚の毛布をこたつの様にして入りながら呟く。

 

「やはり・・・・これは八甲田」

「天は・・・・我々を見放した」

「隊長、あの木に見覚えがあります」

 

カバさんチームの歴女四人は、今の状況と『八甲田山雪中行軍遭難事件』を重ね合わせていた。それだけで限界だと言うのがよくわかる。

 

「良い事考えた、ビーチバレーじゃなくてスノーバレーってどうですかね?」

「良いんじゃない・・・・知らないけど」

 

まさか、あのアヒルさんチームでさえバレーの気力すらない有様だった。

 

「・・・・う、Zz」

「寝ちゃ駄目よ、パゾ美」

 

カモさんチームも三人で毛布に包まってじっと待っている。

 

「食料は?」

「こういう事態を予測して無かったので、先配ったスープの他には乾パンしか・・・・」

「何も食べる物無くなったね」

 

沈んでいるメンバーを見ながら、河嶋と小山はそんな会話を交わして、角谷は他に食べるものが無くなった事を告げる。

 

「何かみるみる寒くなってない?」

「そ、そうですね・・・・」

「もう、食べられるモノも無くなっちゃいましたね・・・・」

 

武部と秋山、五十鈴が教会の窓越しに立って外を眺めながらそう呟く、

 

「先、偵察中プラウダ校は、ボルシチとかロールキャベツ食べてました・・・・」

「いいなソレ・・・・」

「美味しそうだな・・・・」

「それに、暖かそうです」

「やっぱり、あれだけの戦車を揃えてる学校ですからね・・・・」

 

秋山がそう言うと、あんこうチームのメンバー、火を囲んでボルシチを食べたり、コサックダンスを踊ったりしているプラウダの生徒を窓越しに見ていた。それを見ていた冷泉と五十鈴が、そう呟く。

外は吹雪、気温が下がると同時に大洗チームの士気も下がって行く。

三時間の猶予を取ったのはこの為でもあった。寒さは人のやる気を奪う。熱いことよりも寒い方が人と言うのは疲れやすいのだ。

 

「何でわたし達、こんな所でこんな目に遭ってるんでしょうね・・・・他の皆は、何も知らないのに・・・・わたし達だけ学校の未来とか背負わされて・・・・学校、無くなっちゃうのかな・・・・」

「そんなの嫌です・・・・私はずっとこの学校に居たいです!みんなと一緒に居たいです!」

 

不意に武部がそう呟くと、秋山が声を張り上げる。

 

「そんなのわかってるよ。わたしだって・・・・」

「どうして廃校に、成ってしまうんでしょうね・・・・此処でしか、咲かない花もあるのに・・・・」

「・・・・」

 

そんな秋山に武部が返し、五十鈴が呟くと冷泉も複雑な表情を浮かべる。

 

「皆さん、体調とか大丈夫ですか・・・・」

「「「「・・・・」」」」

「皆、どうしたの?さあ、元気出していきましょう!」

「うん・・・・」

 

そんな中、みほはチームを励まそうと声を上げたが、帰って来たのは武部からの力無き返事だけだった。

 

「先、みんなで決めたじゃないですか!降伏しないで最後まで戦うって!」

『『『『『『は〜い・・・・』』』』』』

「分かってま〜す・・・・」

 

何とか元気付けようと激励するみほだが、メンバーから帰って来た返事はこの有様だった。

 

「おい、もっと士気を高めないと!このままじゃ、戦えんだろ?・・・・なんとかしろ」

「ええっ!?いきなりそんな事を言われても困ります!」

「この状況を何とか出来るのはお前しか居ないんだ!隊長だろ!」

 

みほはたじたじとなりながら言い返すものの、河嶋が畳み掛けてくる。

 

「桃ちゃん、落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか!」

 

と、そのまま言い争いに発展するのかと誰もが思っていると、不意に良い出汁の匂いがしてきた。

 

「ん?何この匂い?」

「あら、昆布と鰹節のいい匂いがしますね」

 

するとガヤガヤする声と金属が当たる音が聞こえ、教会内にクリム達が横一列になって入ってきた。その両手に蓋のされた二つの寸胴鍋と二つのやかんを持って・・・・

 

「おやおや、随分と暗い雰囲気ねぇ〜、さっきの威勢はどうした?」

「ク、クリムさん?」

 

持っていた寸胴鍋にみほは驚き、クリムはみほにお願いをする。

 

「みほさん。近くにこの鍋置ける場所作ってくれない?」

「あ、はい!」

 

そう言われ、みほは慌てて教会の瓦礫を組み上げて台を作るとその上に二つの寸胴鍋を置き、持って来た様子のガソリンバーナーに火をつけた。

 

「クリムさん。その鍋は?」

「みんなを元気づけるための魔法の鍋よ」

 

そう言うと淀が蓋を少し開けて加減を見ると言った。

 

「うーん。もうそろそろ良いかなぁ・・・・」

「よし、じゃあ。みんなで食べよう」

 

そう言い、寸胴鍋の蓋を開けた。ものすごい湯気が立ち込め、大野のメガネが盛大に曇る。そして湯気が晴れると中にはグツグツと音を立てて、大量の出汁に浸かった出来立てのおでん串があった。

 

「「「「「「「わぁー!!」」」」」」」

 

全員の目が一斉に輝く。

 

「さ、みんな食べな。一人二本ずつあるからね」

「時間まで一時間あるからその間これでも食べてな」

「あったかいお茶が欲しい人はこっちよ〜」

 

そう言いともみが紙コップを配る。片手のコップの中には暖かいほうじ茶が注がれ、もう片方にはこんにゃく、大根、ちくわの刺さったおでん串を持っていた。そして全員がそれを持つとクリムが音頭を取る。

 

「では、食べますか!せーのっ!」

『『『『『『『いただきまーーーーす!!』』』』』』』

 

先程の意気消沈した雰囲気は何処かに吹き飛び、すっかり元気を取り戻した大洗のメンバーは、おでん串を堪能する。

 

「おいしいです」

「ほんとだ、体が温まるね」

「この大根、味がよく染みてますね」

「こんにゃく美味しい!」

「ちくわが美味い!!」

 

各々おでんを食べている中、みほがクリム達に聞く。

 

「この食材を戦車の中に?」

「寒いからねぇ、元々食べ物は戦車によく積んでたし」

「今回は流石に狭かったけどね」

 

ともみがそう言うと五十鈴が聞いてきた。

 

「すみません。このおでんってどなたがお作りになられたのですか?」

「あぁ、それは私。おばあちゃんから教わった方法」

 

そう言い、淀が手を上げた。すると淀は急におでんの作り方を話し始めた。

 

「ここ寒かったからね。大根が自然に凍ちゃったから味よく染みたのよねぇ・・・・」

「いつ準備されていたのですか?」

「試合が始まる前から。四人で分担して串に具材を刺してた」

 

そう言うと二人はおでんの話で盛り上がっていた。

そんな二人を見届けるとクリムとリュミは背負っていた箱を床に置くと中身を取り出した。

 

「これは・・・・」

「アコーディオン?」

 

そこには白色に塗られたアコーディオンがあった。するとクリム達はアコーディオンを取り出すと背負っていた。

 

「久々に弾こうかなぁ〜って思ってね」

「みんなの士気を上げるためにね」

 

二人がそう言うとクリム達はアコーディオンを持って慣れた手つきでアニソンや行進曲の演奏を始めた。

 

「なんだか落ち着きます」

「時々弾くけど、良い音出すと思わない?」

 

五十鈴と淀がそう言うと二人の演奏が終わり、メンバーから拍手が上がった。

 

「上手です!先輩!」

「綺麗でした!」

 

メンバーの士気は上がるも、緊張が解けることはなかった。徐々に迫ってくるタイムリミットに緊張感が高まりつつあった。

猶予後に敵の包囲網を突破して試合を行わなければならない。その前に全滅するのではないかと言う気持ちがあった。そんな全員の不安をみほは感じていた。

 

「(一体どうすれば・・・・)」

 

その時、ふとみほにある踊りが浮かぶ。それは聖グロとの練習試合で負けた時に踊らされたあの狂気の踊りを・・・・

 

「(皆の緊張を解くなら、アレしか無い!)」

 

決心を固めたみほは、クリムに近づく。

 

「クリムさん。リュミさん」

「「?」」

「ちょっとお願いが・・・・」

 

そう言うとみほは自分の提案を二人に言う。それを聞いた二人は目を大きく見開いて聞き返す。

 

「同志みほ。貴方正気?」

「あれを自ら踊るの?」

「うん、みんなの緊張がほぐれるなら・・・・」

 

そう言うと二人はしばし沈黙の後、みほに聞く。

 

「ーー分かった。隊長の言うとおりにするわ」

 

そう言うと二人はアコーディオンを構えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試合再開です!

みほのお願いにクリムはみほの一歩後ろでアコーディオンを構える。

 

「みぽりん?」

「みほさん?」

「西住殿?」

「西住さん・・・・クリム達も何しているんだ?」

「に、西住にクリム・・・・・一体、何を・・・・・?」

 

いきなりの事に戸惑いを隠せない河嶋が、おずおずと訊ねる。クリムは振り向くと軽く微笑み、みほの方を向いて言った。

 

「みほさん・・・・いい?」

「うん。お願い」

 

クリムがそう微笑んで言うとみほは頷き返す。そしてクリムはアコーディオンを弾き始める。そしてその演奏とともにみほは踊り始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

あんこう踊りを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、みぽりん!?」

「にっ西住殿っ!?どうしたんですか?」

 

引っ込み思案で、聖グロリアーナであんこう踊りの内容を知った時真っ赤にして恥ずかしがっていた時とは違い、今は自ら率先して、しかも一人で踊っている、武部と秋山は驚愕で目を見開いている。

 

「みんなも歌って下さい!私が踊りますから」

「逆効果だぞ!おい!?」

 

と河嶋がツッコミを入れるが、みほは真剣だった。

 

「あの、恥ずかしがりのみほさんが・・・・」

「みんなを盛り上げようと・・・・」

「微妙に間違っているってるわよ」

 

この瞬間、みんなの為に動くみほを前にみんな先までのやる気の無さを戒める。

 

「わっ私も踊りますっ!」

「わたしも!」

「わたくしもやります!」

「仕方ないな・・・・」

 

秋山に釣られて武部、五十鈴、冷泉とあんこうチームが加わり、いつの間にか

 

「ウム!」

「是非も無しっ!」

 

カバさんチーム、

 

「規則違反ね・・・・」

「まったく戦車道の全国大会で・・・・」

 

カモさんチーム、

 

「訳分からないよー」

「あんこうラリー!」

「つないでいきましょうっ!!」

「我々もっ!」

 

アヒルさんチーム、

 

「ここは踊るしかっ!」

「アイーッ!!」

 

ウサギさんチーム、生徒会と大洗チーム全員があんこう踊りを踊っていた。もはや寒さで気が狂っていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席

 

「・・・・・」

「お嬢・・・・」

 

その頃の観客席エリアでは彼女等の踊りがモニターで流れており、百合は頭を抱え、新三郎は驚きのあまり声が出なくなっていた。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

しほやまほは、黙って見ていたがしほは少し顔を引き攣っている。その横では・・・・

 

「ナニコレェ・・・・」

「あっはははは!何この踊り!」

「これが聞いてた・・・・あんこう踊り?」

 

と、三姉妹が面白がって見ていた。

 

「・・・・・・」

「あらあら・・・・・これは正にハラショーですわ・・・・」

 

小高い丘陵の上では、唖然としているオレンジペコの隣で、ダージリンがそう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、場所は戻って廃教会では大洗メンバーが全員であんこう踊りを踊り、半ばお祭り騒ぎになっていた。その時の彼女たちは、先程まで意気消沈していたその姿はもうなく、とても楽しそうに踊っていた。

 

「あ・・・・あの!」

「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」

 

そこへ、突然大きな声が割り込んで来る。

水を注された一行が踊りを中断して声を主の方へと向くと、三時間前にカチューシャからの伝令として、降伏を勧告しに来たプラウダの生徒の一人が入り口に立っていた。

 

「誰?」

「ああ、クリム達は知らないだろうな・・・・・・まぁ、彼女は見ての通り、プラウダチームの一人だ。恐らく、勧告の返事を聞きに来たんだろう」

「プラウダの・・・・」

 

プラウダの生徒が訪ねて来た事に疑問に思ったクリム達が首を傾げたので、河嶋が説明に納得の表情を浮かべるとプラウダの生徒は、

 

「もう直ぐタイムリミットです。降伏は?」

「しません。最後まで戦います」

 

そう聞かれると、みほは間を空けることなく言い返した。

 

「それと、カチューシャさんに伝えてください」

「何でしょう」

「仲間は絶対に渡さないと・・・・」

 

試合前のおどおどした雰囲気とはうって変わって大声で言ったみほに、プラウダの生徒は目を見開くが、直ぐに表情を戻した。

 

「・・・・・・・・・分かりました。では、そのように伝えておきます」

 

そう言って、プラウダの生徒がプラウダの野営地に戻ろうとした時だった。

 

「君。ちょっと隊長に伝言をお願いしても良いかね?」

「はい・・・・」

「『高すぎるプライドは己を殺す事になる。雪の戦いはウチらの庭でもある』とね」

「分かりました」

 

そう言うとプラウダの生徒は教会を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ陣営

 

「・・・・で、土下座?」

 

そろそろ降伏勧告から三時間、睡眠を取っていたカチューシャはノンナに起こされまだ少し寝ぼけている。

 

「いえ、降伏はしないそうです」

「ふーん、そう・・・・待った甲斐がないわね」

 

だが、ノンナからのその報告に面白くなさそうに目をこするとすぐに気持ちを切り替えた。

 

「それじゃ、さっさと片付けてお家に帰るわよ」

「では・・・・」

「ちゃんとあいつらに伝えたはずよ、降伏しなければ今度は容赦しないって」

 

プラウダ側からすれば勝てた状況で敢えて見逃してあげたのだ、これ以上は、あのフラッグ車とT-34/100以外を全滅させる宣言を守るため必要はない。

 

「さっさとフラッグ車やっつけて終わりにしてやるんだから」

 

ならばここからは本気だ、大洗のフラッグ車を狙い撃ちにしてやる。

 

「向こうは我々を偵察していた様ですが編成に変更は?」

「必要ないわ、敢えて包囲網の中に緩い所作ってあげたんだから、奴等はきっとそこをついてくる」

 

この三時間の間に大洗がこちらを偵察に来る事くらいはカチューシャも予想していた。その為の罠は用意してある。

 

「ついたら挟んでおしまいね」

「上手くいけばいいんですが」

「カチューシャの立てた作戦が失敗する訳ないじゃない!それに第二の策でフラッグ車狙いに来ても隠れているかーべーたんがちゃんと始末してくれる」

 

フラッグ車の護衛にはKV-2を設置した。先程たった一発の砲撃で大洗を窮地へと追いやった重戦車だ。

 

「用意周到な偉大なカチューシャ戦術を前にして、敵の泣きべそをかく姿が目に浮かぶわ」

 

意地悪く微笑むカチューシャだがふと気になったのかノンナに尋ねた。

 

「Tー34/100は?」

「仲間は絶対に渡さないと・・・・」

「そう、なら勝ってから貰うわよ。ノンナ!」

 

そう言うとノンナが思い出したようにカチューシャに言う。

 

「あぁ、そういえばそのTー34/100の車長から伝言だそうです」

「?」

「『高すぎるプライドは己を殺す事になる。雪の戦いはウチらの庭でもある』だそうです」

「ふーん、一丁前なこと言っちゃって。それじゃ、お望み通り一切容赦しないから、行くわよ!」

 

そして、カチューシャの号令でプラウダ戦車は動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほが、考案した『ところてん作戦』の概要はこう。

先ず、偵察に出た二チームからの情報を纏った結果、プラウダの包囲網には、一ヶ所だけ、防御が緩くなっている場所が存在しているが分かった。

だが、それは戦力不足の理由ではなく、『大洗チームを嵌める為の罠』だ。

それからの展開を予想すると、その防御が緩くなっている場所から脱出しようとした場合、別の場所で待機していた予備戦力が駆けつけて攻撃を仕掛けてくる。そうすれば、足止めを喰らっている内に本隊が到着し、再び包囲されると言う結末を辿る。

早めに決着を付けようと、フラッグ車を叩きに向かっても、恐らく同じ結果が待っているだろう。

その為、防御が緩くなっているその場所には行かず、敢えて、包囲網の中では最も戦力が集まっている、敵の本隊・・・・・・つまり、カチューシャが居る本陣へと突撃し、それに戸惑っている間に強行突破するのである。

その後、大洗側の戦車数輌で敵の気を引いている間に主力が反転して廃村地帯へと舞い戻り、プラウダのフラッグ車を撃破すると言う作戦である。

なお、ここにクリム達の戦車はないのでハチドリさんチームは単独行動をする事になっている。

 

「・・・・・・・以上が『ところてん作戦』の内容です。では、戦車に乗り込んで下さい!」

『『『『『『『『『はいっ!』』』』』』』』』

 

みほの一声で、メンバーが続々と戦車に乗り込んでいく。そして丘の上に戦車を止めていたクリム達は後片付けを終えて自分達の戦車の元へと走って向かって行く。

 

「さて、行きますか」

 

そう言い、クリムが教会を出ようとした時。杏から声をかけられた。

 

「クリムちゃん」

「何でしょうか?」

 

私は杏会長に聞くと会長はこう言う。

 

「ありがとね。こんな私たちを信じてくれて・・・・・」

 

何時ものような、掴み所の分からない大物感が引っ込み、若干しおらしさを感じさせるような声色で言って、頭を下げる。そんな会長を見て私は少し笑う。

 

「いえ、むしろ感謝をしていますよ。私は」

「え?」

「私は昔・・・・戦車道をやっていて人を怪我させてしまいました。だからもう二度と戦車道はやらないと思っていたんです。だけど、みほさんや会長の必死な様子を見てまたやりたい思ったんです」

「クリムちゃん・・・・」

「それに私は負けたくない理由ができました。『みんなで優勝旗を持ち帰る』。今までとは違う新しい目標ができたんです。だから私も本気を出しますよ」

 

そう言うとクリムは最後にこう言い残す。

 

「ロシア人は愛が強い事をお忘れなく。それじゃあ、また後で」

 

そう言うとクリムは雪の中に消えて行った。

雪の中に消えて行くクリムを見て杏はハッとなった。

 

「(雰囲気が・・・・違う?)」

 

今ま外套を羽織っており、姿が見えなかったハチドリさんチームだったが、雪の中に消える寸前。

風で翻った外套の中の服装は黒色のコンバットブーツに草色のズボン。草色のブレザーを羽織り、まるで軍人のような格好をしている事に気がついていた・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏が教会に戻り、みほ達が『ところてん作戦』を開始しようとしていた。全車輌のエンジン音が響く中、

 

「・・・・本当に良いんですか?」

「あぁ」

「任せて」

「でも・・・・」

「さあ、行くよ!」

「はい」

「西住ちゃん」

「え?」

 

Ⅳ号に乗るみほに杏が話しかけた。

 

「私らをここまで、連れて来てくれてありがとね」

 

と、今まで見せた事もない優しい笑みでそう言う角谷、

 

「皆さん・・・・それでは、これから敵包囲網を一気に突破する『ところてん作戦』を開始します!パンツァーフォー!!」

 

と号令と共に大洗チームは出撃した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

突破します!

廃村の途中にある丘上でクリムの乗る戦車は止まっていた。

 

「・・・・で、どうするの?クリム?」

「やることは一つよ。分かっているでしょ?」

「敵本隊への攻撃」

「それしか無い」

 

四人はそう言うとクリムがともみに聞く。

 

「仕掛けの方は?」

「問題なし、もう火つける?」

「そうね、そろそろ始めちゃおうか」

「オッケー」

 

そう言うとともみは片手にライターを持って耳に防音イヤーマフとヘルメットを被ると車外に降りた。

それを見送ると淀がクリムに聞いた。

 

「ねえ、クリム。冷泉さんの偵察班がプラウダに見つかったって言ってたじゃない。相手が突然の陣形の変更とかしない?」

「いや、それはない。あの性格よ?自分の作戦に絶対の自信を持っている。だから、偵察されたとしても自分の作戦が失敗する筈がないとか言ってるに決まってるわ」

「あぁ、成る程。なんか納得」

 

カチューシャの性格を考えればもっともな事だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、角谷達カメさんチームの38tを先頭に、Ⅳ号と三突。その次にアヒルさんチームの八九式が配置され、その背後を守る様にM3とB1が配置された。

 

「小山、行くぞ」

「はいっ!」

 

角谷がそう言うと、小山はゆっくりと38tを前進させ、他の戦車も後に続き、ゆっくり前進する。そして出口が目の前に迫った時、

 

「突撃」

 

角谷の掛け声と共に小山はギアを入れて速度を上げて、教会から勢い良く飛び出す。

その途端、包囲していたプラウダの戦車隊からの集中攻撃が始まる。容赦ない攻撃に晒されながらも、大洗チームは防御の薄い地点へと向かう。

 

「フフフ予想通りね、流石私」

 

自分の作戦が成功したと思っているカチューシャは、得意気に自画自賛するが・・・・

 

「・・・・・・・ん?」

 

なんと、防御が緩くなっている場所へと向かっていた大洗チームは突然方針転換し、フラッグ車である八九式を隊列の真ん中に配置して守る様な陣形を組むと、自分達がいる場所・・・・つまり、一番戦力が集中している場所に突っ込んで来た。

 

「こっち!?馬鹿じゃないの!?敢えて分厚いトコ来るなんて!?」

 

大洗チームが自分の考えた作戦に乗らず予想外の行動に驚き、そんな事を呟きながら、カチューシャはヘルメットを被る。

その瞬間、今までの仕返しと言わんばかりに大洗から砲撃が始まる。

 

「返り討ちよ!」

 

そう叫ぶと、カチューシャは直様車内に引っ込み、撃ち返す。

 

「河嶋、代われ」

「はっ!」

 

そんな中、角谷は河嶋に砲手を代われと言い出し、河嶋は席を空けて装填手へと移る。

角谷は、砲手の席に座り、スコープを覗く。

 

「やっぱ37mmじゃ、まともにやっても中々抜けないよねぇ〜。小山!ちょっと危ないけど、ギリまで近づいちゃって!」

「はい!」

 

角谷の指示を受けた小山は38tの速度を上げ、向かってくるプラウダ戦車に突っ込んで行った。そして、プラウダからの集中砲火が来る。

 

「ほぉ〜、怖えぇ〜、よ〜し」

 

すると、一輌のT-34/85の砲塔が、38tに向けられる。砲身がゆっくり下され38tへと狙いが定まった時・・・・

 

「くるぞ!」

 

その言葉と共に、小山は38tを左に流して砲弾を避け、相手が怯んでいる内に接近すると、角谷が相手の砲塔目掛けて発砲し、行動不能にする。

その隙に、大洗の戦車が次々と向かって来ると、プラウダの防衛ラインを突破する。

 

「やったな!後続、何が何でも阻止!」

 

頭に血が上り冷静さを失ったカチューシャはインカムに向かってそう叫ぶのであった。

 

「前衛突破!!」

「皆さん注意して!前方敵四輌!」

 

武部が前衛の防衛を突破したと言い、Ⅳ号のキューポラから前方を見ていたみほがそう叫ぶ。

すると、最後尾の後ろを見ていたそど子から通信が入った。

 

『こちら最後尾、後方からも四台来ています!それ以上かも!』

「挟まれる前に隊形乱さない様、一〇時の方向に旋回して下さい!」

 

みほがそう言うと、今度は角谷から通信が入った。

 

『正面の四輌引き受けたよ!上手く行ったら後で、合流するね!』

「分かりました。気を付けて!」

『そっちもね〜』

 

そう言いみほ達は、展開するが38tは前から来ている四輌目掛けて突っ込んで行き、その様子をみほは心配そうに見ていた。

 

「T-34/76に85にスターリンか・・・・硬そうで参っちゃうなぁ〜・・・・・38tでも、ゼロ距離ならなんとか」

 

そう呟きながらも、角谷は自分の相方に指示を飛ばした。

 

「小山!ねちっこくへばりついて!」

「はいっ!」

「河嶋!装填早めにね!」

「はいっ!」

 

角谷の言葉に二人は返事をし、その言葉を合図に38tが四輌のプラウダ戦車に襲い掛かった。

一輌のT-34/76が砲撃を仕掛けてくるが、小回りの効く軽戦車ならではの特性を活かして難なく避けると、逆に至近距離からの砲撃を喰らわせて撃破する。

今度はIS-2を標的に定めて引き金を引くものの、自分も相手も動いていたためか、狙いが外れ、後部のフェンダーに弾かれてしまう。

 

「失敗、もういっちょ!」

「はい」

 

すると、今度は他のT-34/76を標的としたに角谷は河嶋が次の砲弾を装填し終えた直後、狙いを定めて引き金を引き、片方のマフラーを吹き飛ばす。

 

「もう一丁!」

「はいっ!」

 

河嶋が早く装填し終え、小山が巧みに操縦桿を動かし車体を回転させて相手からの砲撃を避け、そして角谷が次々と攻撃を仕掛けて行く。

あるT-34は履帯と転輪を吹き飛ばされ、悪足掻きとばかりに攻撃するものの、小山の操縦で避けられた後、至近距離からの砲撃を喰らって撃破される。まさに阿吽の呼吸。三人の息が合ってないと出来ない芸当だった。そしてカメさんチームは、敵戦車四輌の内、T-34を二輌撃破した。

 

「よーし、こんぐらいでいいだろ、撤収ぅ〜」

「お見事です!」

 

大洗チームの本体に合流しようと、その場を離れようとした瞬間、突如として横から砲撃を受け、38tは粉々に吹き飛ばされた履帯と転輪の破片を撒き散らしながら派手に吹っ飛ばされると、逆さになって動きを止める。

そして、底部から行動不能を示す白旗が飛び出した。

角谷の38tを撃破したのはノンナの乗るT-34/85だった。角谷は、彼女の狙いにより撃破された。

 

「動ける車輌は速やかに、合流しなさい」

『はい!』

 

ノンナの指示に、生き残ったプラウダの戦車の車長は返事を返し、本隊に合流しようと動き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ映像を観客席で見ていたヴォルカが呟く。

 

「へぇ〜、あの38tの乗員。なかなかの策士だね」

「息ぴったり」

「教え子達に見せてあげたいわね」

 

三人はそれぞれそう呟くとレナが言う。

 

「まだ妹は動かないのね・・・・」

「早く見たいなぁ〜・・・・」

「もう、流石に動くでしょう」

 

そう言いながら三人は大洗の残った車輌のうち、一個の枠を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

孤軍奮闘で戦った生徒会チームだったが、最後の最後にノンナの砲撃でやられてしまった。

 

『いや〜、ごめ〜ん。二輌しかやつけられなかったうえに、やられちゃった。後は、よろしくね』

 

その頃、反転する為の場所へと移動している大洗本隊、あんこうチームには、角谷から通信が入っていた。

 

「分かりました。ありがとうございます」

『頼んだぞ、西住!』

『お願いね!』

 

みほがお礼を言うと、河嶋と小山からの激励も入った。

 

「この窪地を脱出します!全車、あんこうに着いて来てください!」

「「「「「はい!」」」」」

 

みほの指示に、その場にいる全チームからの返事が返され、速度も上がって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、丘上でクリム達も動き始めた。追い掛け始めた戦車を見てクリムは測距をする、

 

「敵車輌確認!距離一二〇〇 方位四〇」

「装填よし!」

「準備完了!」

「よし・・・・Огонь!」

 

そう言うと同時にリュミは引き金を弾き、真っ赤な発砲炎が砲身のマズルブレーキから溢れた。それと同時に別の場所から笛の様な音と火薬の破裂する音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

今ここに、試合が再開された。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

動く戦況です!

観客席では形勢逆転に向けて動き出した大洗チームを応援する声が上がっていた。

 

「みんな、大洗を応援しています」

「判官贔屓と言うことかしら」

 

オレンジペコとダージリンも、そんな事を言い合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、試合会場では・・・・

 

「何やってるのよ、あんな低スペック集団相手に!全車で包囲!!」

『こちらフラッグ車、フラッグ車もっすか?』

「アホか!あんたは冬眠中のヒグマ並みに大人しくしてなさい!」

 

逃げる大洗とそれを追うプラウダの状況は依然として続く。

 

「麻子さん、二時が手薄です!一気に振り切ってこの低地を抜け出す事は可能ですか?」

「了解、多少きつめに行くぞ」

 

みほの質問に、冷泉が即座に答える。

 

「大丈夫です、やって下さい!沙織さん、他の戦車に伝えて!」

「わ、分かった!」

 

そう答え、武部は戦車に通信を入れた。

 

「あんこう二時展開します!フェイント入って難易度高いです、頑張って付いてきて下さい!」

『了解ぜよ』

『大丈夫?』

『大丈夫!』

『マッチポイントには、まだ早い!気ィ引き締めて行くぞ!』

『『『おおーーッ!!』』』

『頑張るのよ、ゴモヨ!』

『分かってるよ、そど子』

 

武部の指示に、其々のチームメンバーから返事が次々と返され、大洗本隊は急激な方向転換を行う。あんこうチームを先頭に大洗の各チームがきちんとそれに続く、無茶な行軍ではあるが遅れるチームも出て来ない。

 

「何なの、チマチマ軽戦車みたいに逃げ回って」

 

その頃、追撃していたプラウダ本隊では、先頭を走るT-34/85のキューポラから様子を見ていたカチューシャが逃げる大洗にイラつきながら呟いた。追いかけるプラウダだが、夜戦という事もあり大洗の戦車を見失う事もある。

 

「機銃曳光弾!主砲勿体無いから使っちゃダメ!」

 

インカムに向かってそう叫ぶと、牽制と相手戦車の位置を把握する為、T-34軍団が一斉に曳光弾を撃ちまくる。その瞬間、プラウダの戦車から機銃音が鳴り響いた。大洗の戦車に向かって撃っていないのを見る限り、元から当てるつもりは微塵も無く、あくまでも照明弾としての使用だった。だが、それは大洗にとっても相手の戦車を把握するチャンスでもあった。

 

「ッ!?」

 

自分達の遥か上から飛んで行く曳光弾の軌跡を視野に捉えたみほは、直様カモさんチームのみどり子に通信を入れた。

 

「見えたぞ」

「カモさん、追いかけて来ているのは何輌ですか?」

『えっと・・・・全部で六台です!』

 

その通信に間を入れず、そど子から返事が返される。

 

「フラッグ車は、いますか?」

『見当たりません』

 

その報告を聞いたみほは、すぐに喉元のマイクで指示を送る。

 

「カバさん、あんこうと一緒に坂を登り終えた直後に敵をやり過ごして下さい。主力が居ないうちに敵のフラッグ車を叩きます」

『心得た!』

 

みほがカバさんチームに通信を入れると、エルヴィンから返事を返される。このまま逃げていても最後には捕まってしまうだろう。それならば、こちらの数を割いてでも主力を相手のフラッグ車に向けた方が良い。

 

「ウサギさんとカモさんは、アヒルさんを守りつつ逃げて下さい。この暗さに紛れる為、出来るだけ撃ち返さないで!」

『はい!!』

 

作戦を伝えると、大洗の戦車は丘を上って行く。Ⅳ号と三突は、その丘を上り終えた直後に曲がって、両サイドの陰に隠れる。残りの三輌は前進して行き、後からプラウダ本隊がやって来ると、両サイドに隠れた二輌に気付く事なく、フラッグ車である八九式を追って行く。

 

「追え追えーーッ!!」

 

フラッグ車を追い、撃破する事に躍起に成っているカチューシャがそう叫ぶが、違和感を覚えたノンナが声を掛けた。

 

「二輌程見当たりませんが?それに・・・・」

「そんな細かい事どうでも良いから!永久凍土の果てまで追い掛けなさい!!」

 

ノンナは見失ったⅣ号、三突の他にあの戦車の中に一番警戒するべきTー34/100の姿が見えない事に気づきカチューシャに注意しようとしたが、カチューシャは、完全に頭に血が昇って冷静さを失い、その忠告を意に介さず、ただフラッグ車を追い回せと叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ本隊をやり過ごした事を確認したⅣ号と三突は丘の陰から出て行く。

 

「冷泉さん、戦車前進!村へ戻ります」

「了解」

 

フラッグ車を撃つべく再び廃村へと戻って行く。みほはキューポラの上に立ち、周囲を見渡すと直ぐに車内に戻り、秋山に声を掛けた。

 

「優花里さん、もう一度偵察に出てくれる」

「はい、喜んでっ!」

 

そう答えるや否や、砲塔横の装填手のハッチを開けると、走行中のⅣ号から勢い良く飛び降りて着地すると、みほ達に手を振り廃村エリアを見渡した。

 

「何処か、高い所・・・・!!」

 

その時、少なくても廃村エリア一帯を見渡せそうな建物を視界に捉え、秋山はその建物へ駆け寄り大急ぎで階段を登り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、大洗側のフラッグ車を撃つ為の準備は順調だった。だが、プラウダ側もただ追い掛けっ子を続けるはずが無い。

 

「よくもっ!ポンコツ戦車の分際でこの偉大なカチューシャ戦術をコケにしてくれたわねっ!」

『遅れてすみません、IS-2、只今帰参です!』

 

作戦が上手くいかない事に、苛立ちを募らせるカチューシャに最高戦力が到着した。そう、現在プラウダ戦車隊では最も高い火力を誇り、猛獣殺しの異名を持つ122mm戦車砲を搭載した重戦車。IS-2こと、スターリン重戦車が本隊に合流したのだ。

 

「来たぁ!!ノンナ、代わりなさい!」

「はい」

 

待ち望んでいた味方の到着に、カチューシャは歓喜の声を上げ、ノンナに搭乗車輌への移動を指示する。プラウダの砲手であるノンナと破壊力のあるIS-2、この両者が合わさる事により最強の戦車が誕生した。

 

カチューシャの指示通り、IS-2に乗り移ったノンナは砲手の席に座ってスコープを覗くと、直ぐ様引き金を引く。

轟音と共に放たれた122mm砲弾は、八九式の直ぐ隣に着弾し、八九式は大きく揺れる。

 

「「「「うわぁぁぁあああっ!!?」」」」

 

その大きな振動に、車内は軽く混乱する。

 

「な、何なのよアレは!?反則よ!校則違反よ!」

 

IS-2の威力を間近に見たみどり子がそう叫ぶ。

 

「あわわわわわっ!!?どうしよう~~!?」

 

その振動が伝わったのか、M3操縦手の坂口が悲鳴に近い声を上げる。

 

「私達の事は良いから、アヒルさんを守ろう!」

「そうだよ桂利奈ちゃん!頑張って!」

「ッ!よっしゃーーッ!!」

 

そんな桂利奈をあゆみと優希が励ますと、桂利奈は力強く答え、八九式を守れるよう、自らの車体を盾にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな追い掛け合いが始まったのをクリム達は見た。

 

「・・・・行くぞ」

「「「Да!」」」

 

三人が返事をすると戦車は前に進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、あんこう、カバさんチームは廃村でプラウダのフラッグ車を発見し、それを追いかけていた。途中でフラッグ車の護衛であるKV-2重戦車に出くわしたが、五十鈴がKV-2のウィークポイントを狙い撃ちしてこれを撃破した。あとはフラッグ車を撃破するだけだったが・・・・・

 

『カモチーム撃破されました!アヒルさんチームの皆さん、健闘を祈る!!』

「あとはアヒルさんだけだよ!!」

「・・・・うん」

 

だが、向こうもウサギさんチームとカモさんチームがやられ、これでフラッグ車の防衛は居なくなってしまった。

 

「・・・・」

「どうしたのみぽりん?」

「ううん・・・・なんでもない」

 

みほはそう言い、フラッグ車に攻撃をし続ける。しかし、みほは丘上から一瞬だけ一両の戦車が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、別の所では。

 

「もうダメかもぉ・・・・」

「泣くな!涙はバレー部が復活したその日の為にとっておけ!」

「はい」

 

そのあまりの状況に弱音を吐いてしまうあけびにキャプテンの磯部が鼓舞する。

 

「大丈夫!こんな攻撃強豪校の殺人スパイクに比べたら全然よね」

「そうね・・・・でも、今はここが私達にとっての東京体育館、或いは代々木第一体育館!!」

「「「「そーれそれそれそれ!!」」」」

 

再び気合いを入れ直したバレー部の彼女達はプラウダの砲撃の嵐から孤軍奮闘逃げるが、七対一と言う圧倒的に不利な状態に変わりは無く。アヒルさんチームは為す術も無く、ただひたすらに逃げ回るしかなかった。

 

「あと一つ・・・・」

 

ノンナはそう言い、引き金を引こうとした時。横にいたT-34/85が突如爆発。白旗が上がった。

 

「何っ!?」

 

突然の事にプラウダ一同は驚く。そしてカチューシャが目を凝らすと吹雪の先での発砲炎を確認する。

 

「やっと来たわね・・・・ノンナ達はフラッグ車を追って!他はT-34/100を狙いなさい!!」

 

そう言うと軍団は動き始める。それはまるで行進曲のように鮮やかに動いていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

呪われたスターリン

「行くわよ」

「「「ええ!」」」

「淀。装填早めに」

「了解」

「リュミ」

「分かってる。一撃必中ね!」

 

確認を取るとT-34の車両が近づいてきた。

 

「正面・・・・砲撃」

 

ドォォン!!

 

砲声と共に接近してきたTー34/76がひっくり返る。それを見たカチューシャは・・・・

 

「何!?100mmってあんな威力なの!?って言うか何処から撃っているの!?」

「いえ、違います!この音は・・・・!!」

 

ノンナがそう言うと再び爆発音がする。すると風が吹き、雪が晴れる。

その中、うっすら見えた敵の正体を見てカチューシャは思わず息を呑んだ。

 

「あれは・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ映像を観客席で見ていたダージリンやオレンジペコも同じように息を呑んだ。

 

「あれは・・・・まさか!」

「本当に出してきたのね・・・・」

 

ダージリン達は思わず冷や汗を掻く。それはナオミ達も同様であった。

 

「あの戦車は・・・・」

「来た・・・・」

 

ケイも思わずポップコーンを食べる手が止まってしまう程。全員が映像に注視していた。・・・・いや、注視せざるを得なかった。

映像に映る一台の重戦車。白色に塗装されたその戦車は圧倒的な存在感を出していた。それを見たオレンジペコがその名前を言う。

 

「IS−3・・・・スターリン3型重戦車・・・・!!」

 

すると横でダージリンが言う。

 

「・・・・ねぇ、こんなロシア戦車道の話を知ってる?」

「?」

 

いつもの格言かと思ったが、少し様子が違った。するとダージリンはある話をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ISー3が!?何で?!」

 

目の前に現れた戦車を見て驚くカチューシャ。するとノンナが叫ぶ。

 

「カチューシャ!それはただのISー3ではありません!あれは・・・・」

 

その瞬間、二度目の砲声が轟く。すると前進していたTー34が正面から一撃で撃破される。ノンナの乗るISー2と同じ122mmの主砲を持ち、装甲はそれ以上に厚い。大戦末期に西側諸国の度肝を抜いたその戦車は目の前で砲口をむけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロシア戦車道にはこんな噂があるのよ?」

 

観客席でダージリンが言う。それをオレンジペコが興味深そうに聞く。

 

「かつて、とある戦車工場で製造された一台のISー3がいた。しかし、その戦車が完成すると多くの不可解な事故を起こした。

例えば、エンジンが動かなかったり。

閉鎖器に巻き込まれて怪我を負ったり・・・・。

砲塔が回らなかったり・・・・。

そしてその戦車は造られた車両番号から、時のソ連指導者に粛清された人達の呪いがかけられたのでは無いかと言われたそうよ?」

「・・・・」

 

どこかオカルトに富んだ話だが、ダージリンは話し続ける。

 

「様々な事故を引き起こし、乗員から呪われた戦車と呼ばれたその車両は後にこう言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・呪われたスターリンとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呪われたスターリン・・・・クッ!」

 

カチューシャは砲塔に書かれた番号『666』の文字を見て歯噛みする。次々と軍団が砲撃をするが、その尽くが金属音と共に弾き返されてしまう。そして重戦車は長距離の砲撃で簡単に一両を葬る。

 

「なっ!?」

「う、嘘ッ!」

 

その光景にプラウダの生徒たちは驚く、そのあり得ない光景に、カチューシャやノンナ、クラーラも言葉を失う。

 

「ノンナ!いいから早く大洗のフラッグ車を仕留めなさい!それですべてが終わるわ!!」

『は、はいっ!』

 

ノンナは大急ぎで車内に引っ込み、砲撃を仕掛ける。

 

「クラーラ!カチューシャと一緒に撃つわよ!」

「『分かりました』」

 

カチューシャがクラーラにそう指示をし、カチューシャとクラーラのT-34/85の主砲がクリムのISー3に向けられ放たれるが、次々と弾かれ、逆に撃破された。

圧倒的に数で優っているのにも関わらず次々と白旗が上がる。その光景にカチューシャは恐怖さえ覚えた。目の前に広がる光景は一両の戦車が仁王立ちするように立ち、次々とTー34が撃破されて行く光景だった。

ある戦車は正面からひっくり返り、別の車両はエンジンから煙が上がる。

 

「『122mmでこの装填速度・・・・的確な砲撃。乱数で動く軌道。それにあの車両は・・・・』」

 

クラーラは目の前にいる戦車に誰が乗っているのかが疑問から確信に変わっていた。

 

 

 

「『白い皇帝・・・・()()()に間違いない・・・・』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蹂躙・・・・」

 

まほの呟きはこの映像にピッタリだろう。何せ一方的に撃破されているからだ。元の戦車が優秀と言うのもあるが、それ以上に装弾数が少ないあの戦車で一発一発を確実に当てている事にまほは驚きを隠せなかった。

それを見ているレナ達は。

 

「『うんうん、いつもの調子だね』」

「『やっぱりこの光景こそ妹って感じがするねぇ〜』」

「『あぁ、帰ってきたんだ・・・・二人とも』」

 

と、ロシア語でそんな事を話していた。そして思い出すのは五年前のこと。戦車道の練習として社会人チーム二十名とクリム達で試合をした時だった。

圧倒的に数で勝る社会人チーム相手にクリム達はアッサリと撃破してしまった事だ。

今となってはその話はロシア戦車道界隈で伝説となっている。

 

「オスキン流とはかけ離れた姿だけど。これはこれで見応えがあるわね」

 

レナが含みある言い方でしほを見る。しほは眉ひとつ動かさずに映像を眺めていた。その事にまほは内心首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら三号車、やられました!』

『こちら六号車・・・・キャアッ!』

 

次々と撃破される車両にカチューシャは唖然とするも気を保って指示を飛ばす。

 

「白い皇帝を倒すわよ!残った車両で突撃!」

「『了解!』」

 

すると相手の砲身がカチューシャの乗る戦車に向く。それを見たクラーラは、

 

「『カチューシャ様が危ない!』」

 

咄嗟に車体をカチューシャの前に出すとIS-3が砲撃。クラーラの乗るT-34/85は側面から撃ち抜かれ、白旗が上がった。

 

「クラーラ!大丈夫?!」

『大丈夫です。カチューシャ様』

 

そうしれっと日本語で返事したことにカチューシャは気づかずに話す。

 

「仇はウチが取ってあげるわ!!」

『分かりました』

 

クラーラはそう言うと無線機でノンナに通信をする。

 

「『ノンナ、ごめんなさい。やられました。相手は白い皇帝で間違いないです』」

「『分かりました。・・・・カチューシャ様は?』」

「『仇を取ると、白い皇帝とお一人で戦っております』」

「『そんなっ!では救援に・・・・』」

「『いえ、カチューシャはお一人の戦いを所望しています。横槍を入れればカチューシャ様に嫌われてしまいます』」

 

そう言うとノンナは納得した様子でスッと自分の意見を引っ込めた。彼女にとってカチューシャの意見が一番なのだ。

 

「次でおしまいにしてあげる!接近して撃破よ!!」

「殿のお出ましよ。身を挺して守られるなんて愛されてるわね!行くわよ!」

 

そう言うと二両は急速に近づく。すると・・・・

 

ドドォンドンドンドォン!!

 

ISー3の後ろで大きな光と音が上がる。それは花火だった。クリム達が雪の中に突き刺して移動中に火をつけた花火がここで炸裂していた。眩い光がカチューシャの目眩ましをする。そのせいで照準が狂ってしまった。

 

「Огонь!」「撃て!」

 

IS-3から放たれた122mm砲弾はT-34/85の防楯に当たり。弾く様に下に滑り込み、車体に命中。俗にショットトラップと呼ばれる方法でカチューシャの乗るT-34/85を撃破した。85mm砲弾は砲塔の端で弾かれ、地面に突き刺さった。

カチューシャの車両に白旗が上がったのを確認するとクリムは叫ぶ。

 

「よし!あとはIS-2よ!八九式を守りに行くわ!」

「「「Да!」」」

 

そう言うと同時にアナウンスが流れた。

 

『試合終了、大洗女子学園の勝利!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し戻り、三突とⅣ号が廃村でブラック車を追いかけている時。

 

『隊長!カバさんチームH43地点準備完了だ!』

「了解です!」

 

とエルヴィンからカバさんチームから目標の地点にフラッグ車を撃破する為の準備が完了したと報告が来た。

 

『西住殿、敵のフラッグ車先程のKV-2のポイントを通過!前のコースと同じです!そのまま左折しました』

「優花里さん、このまま携帯でナビをお願いします!」

『任せて下さい!今、G35地点通過しました!』

 

みほは秋山から行動パターンを聞いて、何か閃いた様子で秋山に携帯でナビをお願いする。

 

『西住殿!敵フラッグ車H35地点通過!あと一つ右折してくれれば!』

「わかりました、ありがとう。華さん、上手く右の道に誘い込めますか?」

 

携帯で西住みほに現在のフラッグ車の位置を知らせそれを受け取ったみほは更に指示を送る。

 

「やってみます」

 

Ⅳ号の機銃が敵フラッグ車を右に誘導させる、その先にはカバさんチームの三突が待機している。

 

『入りました!H43地点まで50m!!』

「やりました!」

『敵を視認!』

「撃ち方よーいっ!」

 

左衛門左から報告を聞いたみほが指示を送る。プラウダのフラッグ車の前に小さな雪山、普段なら気にもとめないだろう。プラウダのフラッグ車が雪山を避ける為に入った道。そこに待ち構えていたのはカバさんチームの三号突撃砲。ほぼ零距離からの不意討ちによる出会い頭の一発はフラッグ車の装甲を貫通させ、白旗をあげさせた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次の試合に向けてです!

『試合終了!大洗女子学園の勝利!』

 

アナウンスと共に観客席から歓声が巻き起こる。

 

『『『『『ウォォォォォォォオオオオ!!』』』』』

 

それは大洗がプラウダのフラッグ車を倒し、準決勝を制したからだ。

次々に歓声が上がる中、レナ達のいた場所では・・・・

 

「みほさんのチームが勝った様ね」

「・・・・あの子が勝ったのは相手が油断をしていたから。それに、あなた達の自慢の妹がいたからよ」

 

そう言うとレナはため息混じりに言う。

 

「はぁ、相変わらず素直じゃないんですね」

「まほちゃんは今回の勝因は分かっている?」

「・・・・はい、みほの柔軟な戦略が勝利に導いたものかと・・・・」

 

そう言うとしほは答える。

 

「あれは邪道よ・・・・」

「そうでしょうか?」

「確かに、みほさんの戦い方は西住流の方針には全くそぐわないでしょう。でも、それが戦車道の全てではないのは分かっているはずです」

「それに、西住流以外が邪道と言うのであれば。私たちのオスキン流や日本の島田流もその部類に入ってしまいますよ?」

「それは・・・・」

「この後の決勝で邪道と正道のどっちが勝つかによって判断を変えると良いでしょうけど・・・・」

 

そう言うとしほはまほに向かって言った。

 

「・・・・まほ。決勝戦では王者の戦い方を見せつけなさい」

「・・・・はい、西住流の名にかけて・・・・必ず、叩き潰します」

 

そう言うまほの目は西住流を継承する者としての眼差しをしていた。

 

「・・・・まあ、私達は妹のやり方はオスキン流から掛け離れた()()()()()()()戦車道。として見ているわよ?」

 

最後にヴォルカがそう言うと三人は先を立ち上がってどこかに行ってしまった。

三人の姿が見えなくなるまで、三人は何か話していたが、まほにはうまく聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、しほさんも直接はっきり言えば良いのに・・・・」

「まぁ、周りの目というのもあるんでしょ?」

「やれやれ、お母様はそんなの気にせずに言っちゃうんだけどね・・・・」

「そうキッパリと言える人も少ないんだと思うよ?」

「と言うかうちのお母様の気が強すぎるだけよ」

 

なにせ、オスキン流をクリム達に継がせようと言う親戚の意見に『黙れ!貴様らの意見は求めておらん!』と言い退けてしまうほどの強さだ。

本人曰くこれくらい気が強く無いと海外に一人で嫁入りなんてできないらしい。

そんな話をすると三人は別の話題を切り出す。

 

「・・・・さて、クリム達を迎えに行かないといけないのか」

「でも、それは大会後ね。それまでに色々と話を通さないといけないから」

「はぁ〜、やる事いっぱいで忙しいわね・・・・」

 

三人はそう言うと少しだけ面倒そうにして会場を後にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、会場では。カチューシャが呆然と立っていた。いまだに負けたことが信じられなかったのだ。そして、負けたのだと自覚をすると不意に涙が溢れてきた。

 

「・・・・・クッ!・・・・・うぅ・・・・・」

 

その事実を知ると悔しさがこみ上げ、我慢できずにカチューシャは涙する。

 

「どうぞ・・・・」

 

その時、何時の間にかIS-2から乗り移ってきたノンナが、ハンカチを差し出す。

 

「な、泣いてないわよ!」

 

そう言って強がりながら、カチューシャは差し出されたハンカチで鼻をかむ。

 

「しかし・・・・強かったなぁ・・・・皇帝は・・・・」

 

そこには自分も含めて全て蹴散らされたTー34軍団の姿があった。その光景はまさに動く災害と言えた。

 

「私も・・・・こんなこと出来るのかな・・・・」

 

どこか感慨深くポツリと呟く。その表情はどこか満足げだった。

 

「カチューシャ?」

「なんでもないわ!それより行くわよノンナ!」

 

そう言いカチューシャはノンナを連れてどこかへと向かうのだった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。雪の中にねぇ・・・・」

「よく考えたわね」

 

大喜びしている大洗チームを横目にクリムとリュミは雪原を歩いていた。

戻ったクリム達はそこでフラッグ車を撃破した方法を知り、興味深そうにしていた。

 

「成程。雪を使っての伏兵戦術・・・・新しい方法ね」

「何か活用できないか考えてみるか・・・・」

 

そう話していると向こうから肩車をして一人になったように見える影と、もう一つの影が見えた。

 

「せっかく包囲網の一部を緩くして、そこに引き付けてぶっ叩くつもりだったのに、まさか正面突破されるとは思わなかったわ」

 

そう、やって来た三人はカチューシャとノンナ、そしてクラーラだった。

 

「私もです」

「・・・・え?」

「あそこで一気に攻撃されてたら・・・・負けてたかも」

「それはどうかしら、もしかしたら・・・・と、とにかく、あなた達、なかなかのもんよ。言っとくけど、悔しくなんてないんだからね!」

 

圧倒的ツンデレ台詞に、大洗のメンバーは唖然とした表情を浮かべる。

 

「ノンナ!」

「はい・・・・」

 

それを余所に、カチューシャはノンナの肩車から降りてみほの前に立つと、無言で右手を差し出した。

 

「あっ・・・・」

 

その行動に、一瞬戸惑いを見せたみほだが、やがてその表情に笑みを浮かべて右手を取り、握手を交わした。

 

「決勝戦、私たちも見に行くわ。カチューシャをガッカリさせないでよね?優勝しなかったら、許さないんだから」

「っ!はいっ!」

 

その激励に、みほはしっかりとした返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、少し離れたところでは・・・・

 

「『お久しぶりです。書記長、それに議長』」

 

クラーラが最初にロシア語でそう言うとクリム達はフッと笑いながら言う。

 

「『懐かしいわね。そう言われるのは・・・・』」

「『何年振りかしら?』」

 

書記長、議長というのはクリム達がロシアでイケイケだった頃につけられた渾名だった。少なくともそれを知っているのはアレクサンドル部隊のメンバーか、その関係者だ。つまりクラーラはその中の一人という事だった。

 

「『まさか戦車道を再び始められたとは・・・・』」

「『この学校で色々あったのよ』」

 

そう言うと今度はリュミの方を見ながら言った。

 

「『それに、議長もかなり変わられたようで・・・・』」

「『精神的に衰弱した姉を支えるには変わらざるを得なかったのよ』」

「『成程。そういう事でしたか・・・・』」

 

クラーラはそう言うと二人に聞いた。

 

「『どうですか?プラウダに入学というのは・・・・』」

「『すまないけど、今は考えていないわ』」

「『私達にはやる事があるから』」

「『そうですか・・・・また()()と戦車道ができると思っていましたが・・・・』」

 

クラーラが少し残念そうに言うとクリムが謝る。

 

「『ごめんなさいねクラーラ』」

「『私たちが辞めた後。他のみんなはどうだった?』」

「『はい、ユリヤ司令官も、他の人も元気にしております。みんな、お二人が戻られるのを心待ちにしております』」

 

そう言うと二人は一瞬だけ暗い表情を浮かべるとクラーラがくけ加えた。

 

「『特にユリヤさんは二人が戻ってきてくれた事に喜んでいるようでした』」

「『そう・・・・』」

 

クリムがそう言うとリュミがクラーラに言った。

 

「『クラーラ。みんなに伝えておいて』」

「『はい』」

「『『自分たちのけじめが付いたから、いずれは帰る』ってね』」

「『っ!・・・・分かりました。ありのままをお伝えしておきます』」

「『じゃ、また会いましょ』」

「『はい、その日まで・・・・』」

 

そう言うとクラーラとクリム達はそれぞれ別の方向に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほとの挨拶を終え、戻っている途中のカチューシャ達は雪原で不意に声をかけられた。

 

「お二人さん。ちょっとお話しできるかしら?」

「っ!貴方は・・・・」

 

ノンナが警戒心を露わに声をかけてきた人物・・・・クリムを見た。カチューシャは今彼女が着ている服装を見て少しばかり気分が高揚していた。

 

「やはり貴方がそうでしたか・・・・白い皇帝・・・・」

「ほかじゃあ、色々と言われているけどねぇ〜」

「随分と日本語が綺麗ですね」

「こちとら二年も日本に住んでたらね。そりゃ慣れるわよ」

 

そう言うとクリムはカチューシャにまずは謝罪をした。

 

「カチューシャ隊長、試合前はごめんなさいね。貴方の性格を測るために揚げ足を取るようなことをしてしまって」

「っ!べっ、別に気にしていないわよ!!」

 

カチューシャはそう言うが、謝られた事に驚愕をしている様子だった。そんな中、ノンナはクリムの話を聞いて一瞬だけゾッとした。

 

「(あの一瞬でカチューシャの性格を見たの?それで、カチューシャの性格も作戦に入れて・・・・それを大洗の隊長にも気づかれずに・・・・)」

 

これがロシア最強の戦車道チームを引っ張ってきた軍師だと言われると理解できる気がした。たった一言でカチューシャの性格を把握し、それを作戦に織り込む。それだけの事を積み木を組み立てるように考えてしまう事にノンナは一瞬だけ冷や汗を掻いてしまった。

 

「(こんな人を相手に黒森峰は勝てるのだろうか・・・・)」

 

ノンナはそんな事を考え、カチューシャはポカンとした様子を浮かべていた。クリムはそう言った諸々の謝罪を終わらせると最後にカチューシャに向かって言った。

 

「カチューシャ隊長の指揮は良かったわ。あとは目先の出来事に惑わされずに落ち着いて行動すれば、きっと良い隊長になれるわよ?身を挺してまで隊長を守ろうとするチームなんて早々ないから」

 

そう言うとカチューシャのパンツァージャケットの左ポケットに手を突っ込みながらそう言い、最後に

 

До встречи.(また会いましょう。)

 

と手を振りながらそう言い残して去って行った。その事にぽかんとしているとノンナがカチューシャに言った。

 

「カチューシャ、彼女、ポケットに何か入れて帰って行きましたよ?」

「え!?」

 

カチューシャは思わずクリムが突っ込んだ左ポケットを見るとそこにはバッジが入っていた。

 

「これって・・・・」

 

それは赤い星に金メッキが縁取られたバッジだった。それは知っている人からすれば飛び上がって喜ぶものだった。

それはカチューシャにも言える事だった。

 

「ノンナ!これって・・・・!」

「はい、そうですね」

「まさか、貰えるなんて・・・・!!」

 

カチューシャは貰ったバッジを掲げながらウキウキした様子で戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん。あれをあげて良かったの?」

 

大洗チームに戻る途中、途中で待っていたリュミが聞く。するとクリムは小さく頷いた。

 

「ええ、面白かったもの。こんなバッジはいくらでも余っているしね」

「ふーん・・・・」

 

どこか面白そうにするリュミはそのまま雪原を歩いていた。今の二人は結っていた髪を完全におろしていた。腰あたりまで伸びたプラチナブロンドの髪は雪原に溶け込んでいるようだった。そんな中、二人は次の試合の事を考えていた。

 

「さて、次は黒森峰か・・・・」

「相手はドイツ戦車・・・・対策はどうする?」

「まだ考えている最中よ。何の戦車を出すのか。数は二十両として、問題はこちらの戦車不足と火力不足ね」

「一番火力あるのうちらのISー3だしね」

「さて、どうしたものかしらね」

 

そんな事を言いながら二人は雪原の上を歩いて戻って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

双子の正体

準決勝が終わった翌日。クリムとリュミの二人は生徒会室にやって来ていた。

 

「・・・・と言うわけで。これからお世話になります」

「あぁ・・・・うん。分かった・・・・」

 

髪を解き、染めていた髪を元に戻し、頭に軍帽を被ったクリムとリュミが杏に敬礼の格好をとる。その表情に杏は思わず冷や汗が出る。

 

「では、私達はこれで。この後は練習に向かいますので・・・・」

「う、うん・・・・じゃあね・・・・」

 

そう言うと二人は生徒会室を後にする。部屋に残った杏達は目の前にある資料を読んで一息ついていた。

 

「いやぁ、ビックリだったね。戦車道経験者だとは思ってたけど。まさかこんな上級者だったとは・・・・」

「それになんか・・・・雰囲気もいつもと全然違いましたね」

「第一、なぜ黙っていたのだ。もう少し早く言えば・・・・」

「まぁまぁ、二人がこの学校に来た理由はこれ読んだらわかるけど。これで戦車道やってたなんて普通言えないよ」

 

杏はそう言い、二人から聞いた経歴を思い出しながら呟く。

 

「普通、自分のせいで怪我させた競技をまたやろうなんて思わないよ」

 

そこには過去に起こった事故について書かれていた。それはあのユリヤが怪我をしてしまったあの事故についてだった。

 

「でもまぁ、クリムちゃんがこんなに強かったって知ってちょっとホッとしたけどね」

 

杏はそう言い、胸を撫で下ろした様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、戦車格納庫では・・・・

 

「ウホホ・・・・・IS−3ですよぉ〜」

「おっきぃねぇ・・・・」

「平べったい!」

「すごい・・・・」

 

そこでは秋山が停車する重戦車IS−3に目を輝かせていた。そしてその様子にドン引きする武部達。戦車を見て感想を言う一年生。みほですらこの重戦車には驚きを隠せない様子だった。

 

「まさか目の前でこの戦車が見られるなんて・・・・!!」

 

すると武部が『戦車でーた』と書かれたノートを見ながら諸元を見ていた。

 

「全長9.85m、全幅3.2m、全高2.45m・・・・すごい、T-34と同じくらいの高さなんだ」

「重量はパンターと同じくらいなのですね」

 

五十鈴がそう言うと秋山が主砲について語った。

 

「はい!それに主砲はあのIS-2と同じ122mm砲です!この戦車が初めて公開されたベルリンの戦勝記念パレードであのパットン将軍に『こんなにすごい戦車を見たのは初めてだ!ソヴィエトにこいつで攻め込まれた時には全くのお手上げ』と言わしめたすごい戦車なんです!」

 

そう言うと秋山は白色に塗装されたIS-3にフラフラと近づきながらさらに説明をする。

 

「徹底的な被弾経始の上で計算されたこのお椀型の砲塔や、車体には元から空間装甲が組み込まれているのでまさに二次大戦中ソ連の最高の戦車です!

・・・・まぁ、このお椀型の砲塔の影響で中が狭くなってしまって装填作業が難しいのと、装弾数が二八発しか無いのが欠点ですけどね」

 

そう言い、IS-3の車体に秋山の手が伸びると、

 

パチッ!「痛ッ!」

 

車体から秋山に静電気が流れ、思わず手を引っ込めてしまった。それを見た武部や五十鈴達は少しだけ笑う。

 

「あはは・・・・ゆかりん痛そ〜」

「珍しいですね。この時期に静電気なんて」

 

そう言うと知っている声が後ろからした。

 

「あらあら。その子に嫌われたみたいね」

「下手に触ると危ないわよ」

 

そこには大洗の制服を着た、腰まで伸びた髪を持つプラチナブロンドヘアの二人の少女が立っていた。一人は目が刃物のように鋭く、もう一人はその一歩後ろに下がって物静かな雰囲気を出していた。

 

「えーっと・・・・」

「どなたですか?」

 

少なくとも初めて見るであろうその生徒に自分の知っている声とうまく噛み合わなかった。すると前に立っていた鋭い目を持った少女が懐から帽子を取り出して頭に被った。

 

「こうした方がイメージつくかしら?」

「「「「・・・・!?」」」」

 

軍帽を被ると全員が驚いた表情を浮かべた。それは試合中に見たことある顔だったからだ。

 

「「「「クリムさん(殿)・・・・」」」」

「あったり〜」

 

其処には見た事ある仲間の顔があった。

 

「その髪・・・・」

 

武部が指摘するとクリムが紙を手に持ちながら言う。

 

「ああ、これ?染めてたのを抜いただけよ。これが地毛だから」

「綺麗ですね・・・・」

 

五十鈴は綺麗な髪に思わずそう呟く。するとクリム達はISー3に近づきながら呟く。

 

「まぁ、今まで色々と黙ってたけど。・・・・まぁ、宜しく頼むわね」

「「「「は、はぁ〜・・・・」」」」

 

思わず変な声が漏れてしまうとクリム達はISー3を触る。その光景はとても様になっていた。

 

「・・・・さて、相手の戦力確認といきましょうか」

 

そう言うとクリムはみほと共にISー3の後ろに乗っかって何やら話し合いをしていた。そんな二人を見て思わず武部が秋山に聞く。

 

「・・・・ねぇ、クリムさん達って何者なの?」

 

そう聞くと秋山は頷くとそんな二人の話をし出した。

 

「はい、クリム殿の本名であるクリム・オノ・オスキンとリュミ殿・・・・リュミドラ・オノ・オスキン殿はロシアでは非常に有名な戦車乗りです」

「そうなの?」

「はい、二年前にロシアの戦車道公式大会全てに出場し、全てで優勝を収めた『アレクサンドル部隊』と呼ばれるチームの隊長を行っていて、この話はロシアでは半ば伝説となっていますよ?名前が同じとは言え。まさか、本人だったとは・・・・」

「何それ!じゃあ超強いって事?」

「はい・・・・まぁ、それと同じくらいクリム殿達のあの戦車もなかなか()()()()()ですけどね」

 

驚く武部に少し含みある言い方をする秋山。秋山の言い方に五十鈴が少し不思議に思う。

 

「有名・・・・?」

「はい、そうなんです」

 

するとそこに相変わらず眠たそうにする麻子がやって来た。それを見た秋山は少し気まずそうにするも戦車の話をし出した。

 

「あのIS−3は生産途中にとある事故を起こしたんです」

「事故?」

「はい、生産中、クレーンで持ち上げられた車体が突如落下。下にいた工事をしていた人が重傷を負いました」

「うわっ、よく生きてたね」

 

武部がそう言うと秋山は小さく頷き話し続けた。

 

「ええ・・・・ですがこの話はこれで終わりじゃないんです。普通なら落下した車両は破損してしまうはずですが、この戦車はそれどころか傷一つなかったんです」

「たまたまじゃ無いの?」

「そう思いたいんですが・・・・この戦車は6()6()6()()()に製造された戦車という事で色々ないわく付きエピソードがあるんです」

 

そう言うと秋山は目元を暗くするとこのいわく付きの戦車を語り出した。

 

「まず初めにこの戦車は軍に受領された後、最初に閉鎖器に装填手が誤って手を挟んでしまい指が切れてしまった事故がありました」

「それって結構ありそうだけど・・・・」

「それが、他にもいっぱいあるんですよ。他にも砲塔旋回装置が壊れたり、弾薬の点火装置が点かなかったり・・・・極め付けはエンジンが勝手に動いて事故を起こしたことでしょうか?」

「「「は?」」」

 

最後の話に武部と麻子は顔が段々と青ざめ、五十鈴が興味深そうにしていた。すると秋山は乗ってきたのか熱く語り出した。

 

「はい!そのISー3は軍の駐屯地で停車していると突然。無人の筈なのにエンジンが動き、駐屯地の司令部に突っ込んだんです。しかもその時、その駐屯地には視察に来ていたスターリンがいたと言われており、暗殺では無いかと思われました。しかし、徹底的な調査にも関わらず理由は分からなかったんです」

「「・・・・」」

 

少し怖い顔で言う秋山に麻子は完全に顔を青くしていた。こう言うホラー系にめっぽう弱い麻子は冷や汗が滲み出ていた。

 

「理由がわからないと言う事で軍内部ではその戦車は今までスターリンに粛清されて亡くなった人たちの怨霊が取り憑いたのではと言われ、《呪われたスターリン》と恐れられるようになりました」

「あらあら・・・・」

 

五十鈴のみが余裕そうに言う。しかし話を聞いていた一年生ですらこの話に少し寒気を感じていた。

 

「だからか、この戦車は数奇な運命を辿りました。そしてその先々で事件・事故を起こしてきました。

まず最初にこの戦車はエジプトに売り飛ばされ、1967年の第三次中東戦争の後にイスラエル軍と戦闘を行い、その後の第四次中東戦争の際にトーチカに改造する為にエンジンやトランスミッションを取り外そうとした所。そのための重機が破損、落下して怪我人を出します。

仕方ないのでそのまま運用され。そして、退役する為に解体を行おうとすると解体の為の責任者が突然死したり、その時に限って普段まともに動くはずの工作機械が壊れたりとどうしようもない事態が起こったんです」

「・・・・」

 

最早誰がどう見ても呪われているとしか思えないエピソードに全員が思わず肩を寄せ合っていた。これには思わず五十鈴も返事できる余裕が無くなっていたようだった。

 

「そしてどうしようもなくなったこの戦車はロシアの愛好家によって購入されました。里帰りをしたこの戦車でしたが様々な理由で売却、移動を繰り返して最終的にある場所に辿り着きます。それが、クリム殿の御実家であるオスキン家と言うわけです!」

 

秋山が話し終えるとそっと梓が手を上げて秋山に聞いた。怖い話を聞いたので話題転換をしようとしたのだ。

 

「せ、先輩!その、オスキンってどんな家なんですか・・・・!!」

 

梓がそう言うと秋山もそれに乗ってきた。彼女自身、怖い話をするのが嫌だったのだろう。ノリノリだった。

 

「はい!オスキン流と言うのはロシア戦車道の数ある流派のうちの一つで、『高機動、広範囲攻撃による迅速な制圧』を基本にロシア戦車道では有数の流派の一つです」

「じゃあ、みぽりん見たいな家って事?」

「そんな所です。ですが、西住流と違うのがオスキン流は()()()()と呼ばれる攻撃方法を改良したものなんです」

「縦深攻撃?」

「はい、縦深攻撃と言うのは簡単に言いますと。味方の損害を気にせずに目標まで進み続ける事で敵を包囲殲滅する戦法です。オスキン流ではこの戦法の改良を加え、小部隊による高機動。後方にいる高火力車両による範囲攻撃。小部隊の撹乱による撃破。これがオスキン流の戦法と言われています」

 

そんな感じで秋山が説明を終えるとパチパチと手を叩く音がして、其処にはリュミがIS-3に背を預けながら立っていた。すると彼女は秋山を見ながら言う。

 

「へぇ、よく勉強している事ですのね」

「えへへ〜」

 

リュミに褒められて若干ウヘヘとなっている秋山に、ちょっとどころか結構引いている武部。一年生はへぇ〜と言いながら興味深そうにリュミを見ていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦力増強です!

IS−3の前で秋山が説明をしている間。後ろではみほ、クリム、生徒会メンバーが渋い顔をしていた。

 

「決勝戦は二〇両・・・・おまけに相手はドイツ戦車。練度も量も質も彼方が上・・・・」

「これじゃ、あまりにも戦力の差が・・・・」

 

問題は其処だった。確かにこのIS−3の火力であればパンターやティーガーⅠなら正面から撃破できる。側面・背面ならティーガーⅡ、ヤークトパンターでも撃破することが可能だ。しかし、物量で押されては勝ち目が少ない。だからこそ・・・・

 

「どこかで戦車たたき売りしていませんかね?」

 

小山が困った顔でそう言う。

 

「いろんな部活が義援金を集めて出してくれたけど、戦車は無理かもね・・・・・おまけに見本市も終わっちゃったし」

「その分は今ある戦車の補強・・・・または改造に回すしかありませんね。会長」

 

角谷会長がそう言い河嶋がそう答えると河嶋は

 

「そう言えば、この前見つかった88mmはまだか?」

 

河嶋の言う88mmとは二回戦の前に武部達と一年共が船内を迷子になりながらも見つけたアレである。

 

「散らばったパーツを自動車部の人たちが組み立てていると思うけど・・・・」

「そうか!あれさえあればこの戦況を打破できるはずだ!!」

 

と、河嶋が自信満々に言うと・・・・小山のポケットから電話が鳴った。

 

「あっ・・・・電話、はい」

 

小山はそれを受けとると短く言葉を交わして、静かに電話を切ると笑顔を見せた。

 

「レストア、終了です!!」

「よしっ!!」

 

小山の嬉しそうな言葉に河嶋先輩も嬉しそうに言う。そしてクリム達はその戦車のもとへと向かった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「すごーい!」

 

現場に付くと後ろで聞いていたのか、すでに秋山とリュミが居た。

 

「これ!レア戦車なんですよね!!」

 

秋山は嬉しそうにそう言う。確かに彼女の言う通りレストアが完了した戦車はレアな珍しい戦車だった。少なくともクリム達は()()()に動いているのを初めてみた。

 

「ポルシェティーガー・・・・」

「マニアにはたまらない一品ですー!」

 

そう言うと秋山達は戦車を見ていた。ポルシェティーガーはかの名車を送り出してきたフェルディナント・ポルシェ氏が開発した戦車で、世界初(?)の機構を備えた画期的な戦車である。

 

「まぁ、地面にめり込んだり・・・・」

 

秋山がそう言うとポルシェティーガーは土煙を立てて地面を掘り始める。

 

「加熱して・・・・」

 

すると今度は車体後部から黒煙が上がる。

 

「炎上したり・・・・」

 

すると黒煙が上がっていた所から火が上がる。するとボンッ!と音を立ててP虎*1が壊れた。

 

「壊れやすいのが難点ですが・・・・」

 

秋山がそう言うとキューポラからオレンジ色のナッパ服を着たナカジマさんが出てきた。

そう、P虎最大の特徴であり欠点でもあるこのハイブリッド方式。この時は技術がまだ未熟と言う事もあって思うような性能が出せず。採用されなかったのだ。

現代でさえハイブリッド方式の戦車が出たばかりの時代。*2まだそんな時代なのに20世紀半ばにこれを作ってしまうポルシェ博士流石です。*3

するとナカジマさんは燃えている箇所を見て言った。

 

「あちゃ〜、ま〜たやっちゃった〜。おーいホシノー、消火器消化器〜!」

 

そう言うと涼しい顔でナカジマさん達は消化器を持ち出して消化を始めた。

 

「戦車とは呼びたく無い戦車だよね・・・・」

 

そう会長が言うと秋山が弁護する。

 

「でも!主砲の88mm砲の威力は絶大!装甲だって前面100mmと重戦車にふさわしいスペックですから!!」

「うーん、IS−3の火力が段違いだからねぇ・・・・」

 

まぁ、このP虎の砲塔を少し改修したのがティーガーⅠの砲塔になってるし・・・・そこは確かに重戦車らしいスペックなのかもしれない。

まぁ、大洗所有で言えばこのP虎が最も火力の高い戦車だろう。

 

「もう他に戦車はないんでしょうか・・・・・・」

 

小山先輩はそんなP虎を見て困った表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「とりあえず義援金でヘッツァー改造キット買ったから、これを38tに取り付けよう!!」

 

角谷さんが自信満々にそう言う。P虎のレストアから翌日。今の38tの37mm砲では威力不足なため、駆逐戦車ヘッツァーに改造しようという。まあヘッツァーも元をたどれば38tの改造だから問題はないはずなんだが・・・・

 

「これって結構無理矢理ね・・・・」

 

横で小山さんが苦笑する。改造キットなんだからそれは仕方ない。まぁ、へったんは可愛いから許せるのだ。

 

「あとはⅣ号にシュルツェンを取り付けますか?」

「いいねそれ!」

 

あんこうチームではそんな話がされている中、ハチドリさんチームでは・・・・

 

「うわぁ、何ですかこのエンジン」

「メチャクチャだよ・・・・」

「よくこんな状態で動きますね」

「既にエンストしている・・・・」

 

自動車部のメンバーが興味津々でISー3のエンジンを見ていた。そう、この戦車のエンジンはいろいろな場所を巡ってきたせいでプラグやらバルブやらがメチャクチャになった整備士泣かせの代物だ。何せ元のエンジンが消えてテセウスの船みたくなってしまっているからだ。だからと言ってエンジンの丸々交換をしようにも噂のせいで誰もやりたがらず、こうして整備が超絶面倒な車両となってしまっていた。

 

「まぁ、常に動かなくって人を選ぶ戦車ですからね」

「動かしているの。ともみで二人目だからねぇ・・・・」

「すごい、まるで生きているみたいですね」

 

そう言うナカジマさん。その後ろでメチャクチャな内部に思わず苦笑しているホシノさんとツチヤさん。逆に興奮した状態のスズキさん。するとナカジマさんが聞いてきた。

 

「すみません。ちょっと動かしてもらって良いですか?これ、どんなふうに動いているか見たいので・・・・」

「あっ、はーい。分かりました」

 

そう言うとともみが操縦席に座り、エンジンをかけた。

 

ブロロロ・・・・

 

煙を吐いて動き出したエンジンを見て自動車部は何かを話していたので後は任せる事にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数日後、ISー3の整備を終えたクリム達はあんこうチームのいる場所に来ていた。

そこには小豆色に塗装され、砲塔や車体に追加装甲シュルツェンを取り付け、F2から改造したⅣ号戦車H型が佇んでいた。それを見たクリムが一言、

 

「おぉ〜、大分変わったわね・・・・」

「ええ!マークⅣスペシャルですよ!」

 

秋山がそう言う。確かに、今までから見た目は大きく変わった。しかしそれはカメさんチームにも言える事だった。

 

「ヘッツァーに改造した38tか・・・・」

「結構、無理矢理でしたけどね」

 

其処ではリュミと小山が改造され、塗装が施された軽駆逐戦車ヘッツァーの姿があった。

Ⅳ号戦車と同じ砲弾を使用するこの戦車はそれだけで火力も順当に強化されていた。すると其処にやってきた杏会長が言う。

 

「じゃあ、明日からお願いしてもいいかい?」

「ええ、そうですね」

 

そう言うとリュミは小さく頷くと倉庫に佇む戦車達を見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日の放課後、クリムとリュミはテレビを見ていた。それは第62回全国大会決勝戦の映像だった。しかし市販されている切り抜きではなく、最初から最後までフルタイムで映った特別な映像の方だった。

二人はみほが転校するきっかけとなった事故の映像を見ていたのだ。映像を見終えるとDVDを取り出しながらリュミが聞いた。

 

「どう?この時のみほさんを見て」

「評価するなら90点ね」

「足りないのは?」

「濁流の中を一人で突っ込んで行った所。確かにこの行為は褒められるべき事。でも、あんな大雨で増水した状況で下手すれば自分が濁流に巻き込まれる可能性があるのに一人で行ったことに問題がある。それに・・・・」

「フラッグ車の乗員が飛び出したみほさんを止めなかった事。あと、車長が居なくてもフラッグ車を守ることは出来たはず・・・・と?」

「そんな所。そんなの本部に連絡すれば中止の連絡が行くんだから。やっておけば良かったのよ」

 

クリムがそう指摘しながら二人は色々と愚痴り始めた。

 

「頭が硬いのかしらね」

「十連覇に固執しすぎて周りが見えなくなっていたんじゃない?」

「その責任はみほさんに?馬鹿馬鹿しい、十連覇と人命とどっちが大事よ?」

「どうせ面子よメ・ン・ツ」

 

そう言うとため息混じりにクリムは言う。

 

「やれやれ、日本人は動きが遅い事で」

「ね、今やみほさんは海外の戦車道界隈じゃあ話題の人なのにねぇ・・・・」

 

そう言うとリュミがある雑誌を取り出した。それはロシア語、フランス語、イタリア語などで書かれた戦車道雑誌だった。

そして至る所にはみほの写真が写され、他にも大洗チームの編成や今までの全国大会の作戦推移などが事細やかに書かれていた。

 

「みほさん自身知らないでしょうね。まさか自分が外国でここまで話題になっているなんて・・・・」

 

その見出しには差異はあるものの、概ね同じことが書かれていた。

 

『無名の弱小校を引っ張り上げた戦車道界の軍師現る!!』

『戦車道に転機か!?』

『戦車が少なくとも勝てる新たな戦法の開拓!』

 

概ね似たような記事が書かれ、先の準決勝戦の事などもすでに書かれていた。大洗戦車道チームは今や世界中から注目を浴びるチームとなっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

元々戦車道は衰退の一途を辿っていた。

理由としては数多の流派がそれぞれのチームに根付いてしまい、新しい時代の変革に合わせられない。と言うのがあったからだ。むしろここまで残っているのは戦車道履修者はこの後軍に入るケースが多いからだ。

やはり戦車を扱うと言う特性上、これは逃れられない運命である。旧式とはいえ、ほとんどやることは変わらない現代の戦車。戦車道はいわば士官学校などで行う訓練がそっくりそのまま高校生や大学生が行うようなものである。戦車大国であるロシアでは、戦車道をスポーツではなく軍の訓練の一環としている節もあり、高校からそのまま軍に入る人も少なくない。もし軍に入らずとも戦車道履修者であればいざとなった時に予備役の戦車兵として活用出来ると考えているのだ。

 

鼻からスポーツとしての役目が薄れ始めている戦車道。

戦車道の伝統が根付いてしまい変革が出来ない流派。

 

まだオスキン流は変革できた方だろう。でなければ戦車道が盛んなロシアで生き残れるはずがなかったからだ。

まぁ、ロシア伝統の戦術を受け継いでいると言うことで国の高官から受けが良かったと言うのもあるかも知れないが・・・・

 

そんな強く根付いてしまった戦車道界に大きな風穴を開けると噂されているのがこの大洗チームだ。20年ぶりとは言えほぼ初心者しかいないこのチームは言わばどこにも毒されていない純粋な戦車道チームだ。伝統を受け継ぐことなく、どこの流派にも属さないこのチームは次々と強豪を破っていることから全く新しい新興チームとして世界中から注目を浴びていたのだ。

 

 

数と質で勝る強豪校相手に戦術で翻弄する。ルールを生かした新しい風を吹き込もうとしていた。

*1
一々ポルシェティーガーって書くのやってらん無いので愛着を込めてP虎と書きます。

*2
2022年にドイツが発表した。

*3
これには小○元環境大臣もニッコリだろう。




P虎は『宮崎駿の雑想ノート』って本に面白く書いてあるからおすすめ。(唐突なダイレクト宣伝


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

親戚の家

決勝戦が始まる数日前、クリム達はとある場所に呼び出されていた。

 

「ごめんなさいね、いきなり呼んでしまって。この後大会もあるのに……」

「いえいえ、そんなことはありません」

「ちょうどお会いしたいと思っていました」

 

そう言い二人は淹れてくれた紅茶を口にするとそこで目の前にいる女性。島田千代と面会をしていた。

クリム達と千代は血のつながった親戚であり、母が幼い頃に小野家の養子入りしていた。ようは島田千代はクリム達の叔母である。幼い頃から遊びに来ており、その縁で日本に来た時も何かと援助をしてくれたりしていた。

 

「私も、二人が戦車道に戻ってきてくれたことは嬉しいわ」

「有難いお言葉です」

 

クリムが答えると、千代は二人を見て内心微笑ましかった。

 

「(良い友人を持ったようね……)」

 

後で報告を入れておこうと千代は感じていた。少なくとも二年前、戦車道を一時的にやめていたあの頃よりも明るい顔をしていた。

 

「この後はどうするの?」

「このまま一旦学園艦に戻ろうと思っています。みんなを待たせるわけにはいきませんから」

「それに、練習もまだまだ積まないといけません。私達は二年間のブランクが有りますので」

 

そう言い、二人は紅茶の入ったカップを置く。千代からしてみればもう十分ブランクの欠片も見えないように感じるが、二人のためにもあまり言わないでおこうと思っていた。

 

「あぁ、そうそう。愛里寿も会いたがっていたから。時間があれば後でよって寄って行ってもらって良いかしら?」

「良いですよ。全然」

「今から会いに行っても良いですし。それに……」

 

そう言い、リュミが席を立つとそのまま応接間の扉を開ける。

 

「どうやら待ち切れなかったみたいですから」

 

そう言って微笑ましく扉の外に立っていた一人の少女を見る。それを見て千代は『あらあら』と微笑んでいた。

 

 

 

 

 

扉の前に立っていた少女こと、島田愛里寿はクリム達を見て片手にボコのぬいぐるみを抱えてクリム達と楽しげに会話をする。

ちなみに愛里寿にボコを布教したのもこの双子姉妹である。愛里寿が生まれた時からの知り合いで、二人にとっては妹と言っても差し支えのない存在だ。

 

「お姉ちゃん達が戦車道やっているの。見てるよ」

「あら、ありがとう」

 

そう言い、千代が出て行った応接間の中。二人に挟まれる形で愛里寿はクリム達と楽しげに会話する。

 

「凄く格好良かった。特にこの前のプラウダ戦とか」

「そう言ってくれると嬉しいわ」

 

子供の頃から……何なら愛里寿の離乳食を食べさせた経験もある二人。こんな形での会話も通常運転だ。

 

「次の試合も、楽しみにしている……ただ、」

「ただ?」

「お姉ちゃん達が、あんまり表に出ないのが。……ちょっと寂しい」

 

そう言い、愛里寿は少しだけシュンとなって話す。愛里寿はクリム達が復帰したことは嬉しいが、あんまり活躍していないことに不満を持っているようだった。その様子をみて、一瞬固まった後、クリムは愛里寿の頭をポンポンと軽く撫でながら口を開く。

 

「今の私たちはあくまでも隊員。隊長ではないの。隊員が下手に口出しをしてしまうと、逆に仲間を危険な目に晒してしまう」

「でもなぁ……」

 

やっぱり寂しいと口にする前に、リュミが先手を打った。

 

「大丈夫、私達には言い隊長さんがいるから」

「……そうなの?」

 

首を傾げる愛里寿にクリム達は頷く。

 

「ええ、とって強い隊長さんよ……どれだけ危険な状況、不利な状況でも、アイデア一つで戦局をちゃぶ台返ししてしまう。すごい隊長さんよ……」

「愛里寿、もし決勝を見る時は私達じゃなくてその隊長さんを見ておくと良いよ。私たちも勉強になるような驚きの提案があったからね」

「……うん、分かった」

 

愛里寿はそこで頷くと、クリム達と約束した。

 

 

 

 

 

愛里寿との話も終え、クリム達は島田家の屋敷を後にする。

 

「あっ!待ってお姉ちゃん達!」

 

家から出る際、愛里寿が出て来てクリム達の手に袋に入ったそれを渡す。

 

「私からお土産。戦車道の復帰記念と次の試合のお守り」

 

そう言ってボコのキーホルダーを渡され、クリム達は一瞬驚きつつも有り難くそれをしまう。

 

「ありがとう、大切にさせて貰うわね」

「次の試合につけて行くよ」

「うん……お姉ちゃん達も頑張って」

 

そう言うと、クリム達は少し微笑みながら答える。

 

「ええ、」

「任せて」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

島田邸に遊びに行き、学園艦に戻ったクリム達はそこである光景を目にする。

 

「……あれ?」

「何この戦車?」

「初めて見るわね……」

 

そう言い、目の前にある少なくとも初めて見る戦車に疑問符が浮かんでいた。少なくともクリム達はその戦車を初めて見た。

 

すると、格納庫にみほ達が現れた。

 

「あっ、クリムさん達帰って来たんだ」

「ええ、ついさっきね……」

「ねえ、この戦車は?」

 

そう言い、リュミが疑問に思うとみほが詳しく話してくれた。

 

「あっ、クリムさん達がお出かけしている間にレストアされたんです」

「三式中戦車ですよ!既に配属も誰なのか決まっています!」

 

そう言い出てきたら秋山がその戦車を解説してくれた。

 

三式中戦車

かつて、日本帝国陸軍が開発した中戦車である。主砲は九〇式野砲を搭載し、口径は七五ミリ最高速度は時速三九キロと中々に快調である。ただし、日本戦車特有の装甲の薄さも継承しており、戦時中の急造戦車という事もあり対戦車用の戦車だというのに戦車同士の正面切手の撃ち合いは苦手というジレンマ持ち。だから本来は頭出しの運用で、一撃離脱戦法が最も好ましいが……

 

「無いよりは断然良いな」

 

車両は多い方がいい。ただでさえ圧倒的に車両数の足りない我が大洗女子学園戦車道チーム。二〇両の黒森峰相手にはいくら戦車があっても多すぎる事は無い。ただ、欲を言えば四式中戦車の方が良かったと内心思う。だってあっちの方が砲自体の性能が良いから。四式中戦車の砲塔をこの三式中戦車に乗せた過去もあると言うし、いずれはその改装を施せられればと思っていた。

 

「……それで、この三式中戦車に乗る人とかは?」

「あと、P虎の方は誰が乗るかって決まった?」

「ああ、それなら……」

 

そう言うと、スッとみほ達は身体をずらし、立っていた数人の生徒を見る。

 

「今からレクチャーをしようと思っていたところです。こちらが三式中戦車の乗員となった……」

「ね、ねこにゃーと……」

「ももがーです!」

「ピヨたんです」

 

そう言って三人の生徒が自己紹介をした。その中、ねこにゃーと名乗った生徒を見て、リュミが反応する。

 

「あっ!猫田さんだ」

「お久しぶりです。リュミさん」

「あれ?知り合いだったの?」

 

みほが疑問に思っていた。そこでクリムが事情を話すと納得した様子でリュミ達を見ていた。

 

「そんな所、あれから鍛えたりした?」

「はい。微力ながら……」

 

そう言い、話で盛り上がっているとみほは思い出したようにクリムに言う。

 

「あっ、それで何だけど。あのポルシェティーガーは自動車部の方々が乗ることになりました」

「あぁ、そうなんだ…」

「それで、ポルシェティーガーを『レオポンさんチーム』。三式中戦車を『アリクイさんチーム』と呼ぶ事になりました」

「うん、分かった」

 

そうして報告を聞くと、クリム達は格納庫に並ぶ戦車を見ていた。

 

「(相手はあの黒森峰…質でも量でも負けている現状、ゲリラ戦を展開するしか無いけど……)」

 

正直、黒森峰に偵察を出したいところだが、時間が生憎となくて出来ない。しかし、過去の黒森峰の試合や保有する戦車の車種からとある懸念がよぎっていた。ざっと十年分ほど過去の黒森峰戦全てを見て来たが、()()()一度たりとも登場したことはなく。半ば置物と化していた戦車が……。

 

「(もし、あの戦車を出された場合は此処にいる戦車では如何にも出来ない……)」

 

少なくともクリム達の乗るISー3でも至近距離の砲撃じゃ無いと撃破できない。

 

「(今は出てこない事を祈るしか無いか……)」

 

クリムはそう思いながら格納庫に並ぶ戦車を見ていた。ただ、もし()()()()を出された場合の対策も考えなければ……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

クリム達の乗るISー3にもちょっとした改良がなされていた。

 

「こんな所でいいですか?」

 

そう声をかけるのはナカジマさんだ。

 

「ええ、お忙しいのに有難うございます」

「いえいえ、好きな事をさせて貰えるなら何徹でも行けますよ」

 

そう言い、疲れを一切暗示させない表情で答える。今回、追加で取り付けて貰ったのは砲塔横に追加された煙幕発生装置と、もう一つ。

 

「追加の弾薬箱も突貫ですが、取り付けておきましたよ」

 

そう言い、車体後部。砲塔後ろにこんもりと取り付けられた直方体の箱を見ていた。そう、今回の試合に備えて車体後部に追加弾薬を備えられる弾薬箱を追加で乗せて貰っていた。一応、事前に連盟に確認はしており黒寄りのグレーだが許可を取り付けていた。流石に搭載弾薬二八発は心配だが、それ以上に考えている作戦の為には何としても弾薬箱を増やしたかった。

 

元々こいつは戦後改修型のISー3Mなので本来はルール違反だが、暖房システムの除去やペリスコープの改造、同軸機銃をDTに戻したりなどの改造を行いギリ合格をもらった車両だ。対空マウント用の機銃もDShKに元に直され、中々キメラな戦車となってしまった。

 

「しかし、思い切った事をしますね。これじゃあ、弱点が丸出しじゃ無いですか」

「元々ISー3は後ろが弱点なんです。だったもういっそ割り切ってしまえばいいんじゃ無いかとね……」

「ははっ、割り切った行動ですね。まぁ、いざとなれば切り離しもできるようにしておきました」

「ありがとうございます」

「こっちも、あんなエンジンでよく動くなと感心しますよ。一応、壊れかけていた部品の交換は済ませておきました」

 

そう言うとナカジマさんは戦車から降りて、目の前に佇むISー3を見ながら呟く。

 

「いやはや、この戦車は凄いですね。何だか『私を治せ』って言っているみたいで、何だか強い意志みたいなのを感じましたよ」

「?そうなんですか?」

「ええ、何となくですけどね……『手順を間違えたら許さない』見たいなのが聞こえた気がしますよ」

 

そう言うと、ナカジマさんは改造を終えたISー3を見た後今度は自分たちの乗るP虎の方に向かって行った。

 

 

 

 

 

決勝戦開始まであと数日の頃の出来事であった。

 

 

 




ちなみに作者の最も好きな日本の軍用車はナトとハトです。あのフォルムがゴッツ好きやねん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決勝戦直前です!

クリム達が島田邸帰って来た翌日。クリム達は朝っぱらから車両の整備を行っていた。

 

「ーーったく、試合前の方が忙しいったらありゃしない」

「仕方あるまい。クリムの言う作戦の為には入念に確認しておかなきゃ……ならんしな」

 

そう言い、車内で準備をするのはともみと淀。二人は決勝戦に備える為に車内で準備を進めていた。

 

ゴンッ「っ!?痛ってぇ、頭打った」

 

車内で三人がそれぞれ動いており、その拍子でリュミが頭をぶつけたようで呻き声を上げた。

 

「ちょっと、試合前に退場とかやめてよ?」

「分かってるって。ぬぉぉ…頭ガンガンする」

 

そう言い、車内では阿鼻叫喚の絵面が出来上がりつつあった。

 

 

 

 

 

その頃、外ではクリムとみほが準備の整うP虎を眺めていた。

 

「ポルシェティーガーは自動車部が乗るんだっけ?」

「はい、そうです」

 

すると戦車中の自動車部のメンバーがノリノリで口にする。

 

「コーナリングは任せて」

「ドリフトドリフト!!」

「戦車じゃ、無理でしょ」

「してみたいんだけどなぁ〜」

 

おーおーやめとけ。足回りに負荷がかかってぶっ壊れるぞ(特大ブーメラン)。

 

「ミューが低い場所でモーメントを利用すれば出来なくもないけど、雨が降ればなおいいねー」

「アクセルバックはどうかな?」

「ラリーのローカルテクニックだねぇ」

「あはは……」

 

もはや何かの呪文にしか聞こえない会話にみほは苦笑してしまっていた。

 

 

 

 

それから少し経ち、格納庫ではあんこうチームのメンバーが改修されてⅣ号H型に改装された戦車を眺めていた。すると、冷泉が格納庫に現れた。

 

「麻子どこ行ってたのよ」

「これ、お婆から差し入れのおはぎ」

 

そう言い、冷泉は背中に背負っていた風呂敷を手に持った。

 

「退院されたんですか」

「うん、みんなによろしくって」

「よかった」

 

見舞いに行った時からだいぶ回復したと言う事で全員が胸を撫で下ろしていた。

 

「決勝戦は観に来るって」

 

そう言う冷泉は少し嬉しそうな顔をしていた。すると、五十鈴がやや申し訳なさそうにしながらみほに言う。

 

「あ!みほさん、わたくし今日はこれで失礼させていただいていいですか?」

「あ?うん」

「華、何かあるの?」

 

武部が疑問符を浮かべながら聞くと、五十鈴はその訳を話した。

 

「実は、土曜日から生け花の展示会が……」

「華さんが生けたお花も展示されるの?」

「はい」

「おー、観に行くよ」

「本当ですか!じゃあ、是非!!」

 

そう言うわけで週末にみんなで展覧会に行く事になりましたとさ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

土曜日

 

展覧会に来たみほ達あんこうチームと、ついでに来ないかと誘われたクリム姉妹。

 

「わぁー、素敵」

「お花の香り」

「いつも鉄と油の匂いだからり嗅いでますからね、私達」

「華さんのお花は……」

 

そう言い、五十鈴の作品を探していると、武部が指を指して声を上げた。

 

「ん?あ!あれじゃない!?」

 

そこには戦車を形取った焼き物を器とした豪華な生け花があった。

 

「すご〜い」

「戦車にお花が」

「斬新ですね」

 

少なくともこの容器はオリジナルなのかと思っていると声をかけられる。

 

「来てくれてありがとう」

「華さん!」

 

そこには着物を着た様子の五十鈴がいた。うわぁ、綺麗だぁ……。

 

「しかし、豪華な生花ね……」

 

思わずクリムがそう溢すと五十鈴は頷いて答えた。

 

「この花はみなさんが、生けさせてくれたんです」

 

すると、五十鈴の後ろから彼女の母であろう。顔つきの似た女性がやって来た。

 

「そうなんですよ!この子が生ける花は、纏まってはいるけれど個性と新しさに欠ける花でした。こんなに大胆で力強い作品が出来たのは、戦車道のおかげかも知れないわね?」

「お母様…」

「私とは違う……貴女の新境地ね」

「っ!はい!」

 

前に母と喧嘩したと聞いていたが、この様子じゃあ和解したようで……。いやぁ、良かった良かった。

 

「それにしても、あの戦車型の花器には驚いたわ!!」

「特別に頼んで作ってもらったんです」

「まぁ、ふっふっふっ」

 

これが親子愛……あぁ、久々に母さんの手作りクッキーが食べたくなって来たなぁ…。元気にやってる……だろうな、あの人だし。

 

 

そんなこんなでクリム達は充実した週末を過ごしていた。

 

 

 

 

 

帰り道、クリムはみほ達と別れる。

 

「あっ、じゃあ私はこれで」

「何処か行かれるんですか?」

「ええ、注文した商品ができたって聞いたから」

「注文?」

「商品……?」

 

みほ達は疑問に思いつつもクリムと別れ、そのまま学園艦に戻っていき。クリム自身はとある店に来ていた。

 

「ちわーっす、注文の品を取りに来ました」

 

そう言い、店に入ったクリムはそこでビニール袋に包まれた大きな荷物を受け取るとそのまま戻って行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「さぁ〜明日はいよいよ決勝戦!目標は優勝だからね〜」

 

格納庫のお立ち台の前。杏会長が宣言する。明日はいよいよ決勝戦。相手はみほの元母校である黒森峰女学院。ドイツ戦車という精鋭揃いの日本でも指折りの戦車道チームだ。みほには精神的緊張の観点から伝えていないが、今では彼女は国際戦車道界隈では注目の的だ。時代の変革を後押しする存在として、今回の黒森峰女学院との勝敗で今後の戦車道の運命が変わると言っても過言ではなかった。

 

杏は次に隊長であるみほにバトンが渡される。

 

「明日対戦する黒森峰女学院は…私の居た学校です。でも今は、この大洗女子学園が私の大切な母校だから……私も一生懸命落ち着いて、冷静に頑張りますので。みなさんも頑張りましょう!!」

「「「「おおーー!!」」」」

 

全員が声を上げて頷いた。ここまで来だんだから自分達はいける。後は駆け抜けるだけだと……。

 

「じゃあ、次。クリムちゃんお願いね〜」

「えっ!?私ですか!?」

「当然、副々隊長なんだから」

 

そう言い、杏はさも当然かのようにクリムにバトンを渡した。

 

「ええ、私から言いたい事は一つだけです。『このまま最後まで走り抜こう』。

戦車道初心者だった君たちがここまで来れたのも、きっと何かしらの縁が繋がって起こった事。であれば、私たちはこのまま突き進んで行くだけです。確かに黒森峰は強い。だけど、今更ここで尻込みするような事はありません。今までの努力は無駄ではありません。最後の最後まで全力で戦っていきましょう!」

「「「「おおーー!!」」」」

 

そう言い、格納庫に力溢れる声が出ていた。

 

「ついに明日か……」

「そうだね……」

 

格納庫の中、明日の黒森峰との戦闘に備えてクリムとリュミは頷く。

 

 

 

 

 

そして、決勝戦前最後の練習が終わる。

 

「練習終了!やるべき事は全てやった、後は各自明日の決勝に備える様に」

「「「「「「はい!!」」」」」

「では、解散!」

 

河嶋の号令と共に、一斉に戦車道メンバーはそれぞれチームごとに別れていく。義援金を使用し、実を言うと各部活に学園艦の廃校危機の情報は杏会長には申し訳ないがリークさせて貰った。理由は簡単で、学園全体で危機感を持たせた方が一致団結しやすいからだ。事実、この情報のおかげで義援金も集まりやすかった。

 

出来ることはやった。後は作戦がうまくいく事を祈るだけだ。黒森峰が何をしでかすかは分からないが、その時は臨機応変に動くだけだ。

 

「ねえ、この後予定ある?」

「ん?今の所ないけど……」

 

ともみが二人の体に飛びつくように話しかけ、聞いてくる。リュミが答えると、ともみは少し口角を上げて提案した。

 

「じゃあ、この後はクリムの家で食事会をしよう。もちろんメニューはカツの入った料理で!」

「ゲン担ぎ?」

「そんな所。ついでに淀も誘ってね」

 

ハチドリさんチームで纏まって今夜は料理を頂くとしようかな。

 

「良いんじゃない?」

「……そうだね」

 

ともみの提案に頷くと、四人はそのまま帰路に着くまでに肉や野菜を買い揃えて家に帰る。そして、

 

「「「「いっただっきまーす!!」」」」

 

クリム達の住むマンションで、四人は机を並べて作ったカツ丼を食べ始める。

 

「んー、美味い!」

「自分で作ったものだと余計にね」

「しかし、カロリーも少し気にせんとな」

「そんな水臭いこと言わない」

 

四人はそう言いながら楽しく話す。すると、ともみが徐に端を置いた。

 

「ところでみなさん。……今日は報告があります」

「ん?なんだ、彼氏でもできたか?」

「いやいや、それは流石にないって」

 

淀にリュミがツッコミをかけると、ともみはとあるものを突き出すように見せつける。

 

「じゃーん!アマチュア無線の二級取りました!」

「「「おぉ〜!」」」

 

その報告に、四人は声が上がる。

 

「凄いね。よく頑張ったよ」

「いやぁ、頑張った甲斐があったよ〜。あっ、ちなみに武部さんも同じ物を取ったよ」

「そうなのね」

「アマチュア二級か……これは頼りになりそうだな」

「まぁ、仕事が増えちゃうけどね……」

 

そう言い、操縦手兼無線手を担当するともみはややげんなりするも、気を引き締め直してカツ丼を喰らう。

 

「私もアマチュア二級を取ろうかな……」

「良いんじゃない?」

 

淀の呟きにクリムはそう答えると四人はそのまま夕食を摂っていた。

 

 

 

 

 

食事を摂っていた四人だが、結局そのままともみ達も泊まることになり、今は淀が風呂に入っていた。

 

「片付け手伝うよ」

「あ、有難う」

 

台所で夕食の後片付けをしているクリム達に風呂上がりのともみが手伝いに入る。

明日の決勝戦の結果で学校の廃校の運命が分かれる。だからこそ緊張するのもわかる。その証拠に、ともみの手がやや震えていた。

 

「……大丈夫。このまま行けば良い」

 

ともみの手を軽く触れながらクリムは言う。その顔を見てともみも緊張していたことに気づき、いったん大きく息を吸って吐いた後に呟く。

 

「いけないわね…こんな緊張しちゃって……」

「そんな事ないさ。私だって、そうだ……」

「クリム……」

 

そう言い、ともみはクリムの顔を見ると少しだけ彼女は思い返すように口にする。

 

「誰だって、緊張するさ。……私も、昔戦車道をやっていた頃も怖かったし緊張もした。だけど、そんな緊張は戦車道をしている間に自然と消えているのよ。みんなそうだった。今まで戦車道をして来た人はね……だから、大丈夫」

 

経験者からの話を聞いたのか、少しホッとした様子のともみはそのまま台所の皿洗いを手伝い始めていた。

 

「……ありがとう。気づいてくれて」

「当然、ウチらも。初めてここに来た時、色々とともみ達には世話になったからね」

 

そう言い、クリムは寝る準備を進めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

解散した戦車道チームはそれぞれ明日の決勝戦に備えてクリム達と同じようにカツに関連するものを食べて一夜を過ごしていた。

 

明日はいよいよ決勝戦。様々な思いの乗せ、彼女達はその時に備えていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決勝戦前の心構えです!

早朝、決勝戦の試合会場である日本最大の演習場富士東演習場にはとある集団が到着していた。

 

「よーし!我々が一番乗りだ!」

「これで、明日の決勝には余裕で間に合うっすね」

「でも、まだ早過ぎません?」

 

そう言い、車列からアンツィオ高校の代表アンチョビが黄色く塗装されたジープから降り、カルパッチョが思わず聞いてしまう。無理もない、早すぎて周りには誰もいなかったからからだ。

 

「物事を進めるには、慎重なぐらいが丁度いいんだ」

「さっすが姐さん!抜かりないッス!」

 

ペパロニがそう言い、アンチョビを褒める中。応援に駆けつけた戦車道チームは……。

 

「メガホンと双眼鏡持ってきた!」

「横断幕だって用意したし、旗だって用意した!」

「当然、大洗はあんこうで有名だから、そのプリントだって忘れちゃいねえ!」

「アタイ達、ホント準備良いよな~!」

 

そう言い、横断幕やその他応援セットを持って自画自賛をしていた。

まだ試合開始まで時間もあると言うことで、暇つぶしにアンチョビは少し早いが宴会を開くことにした。

 

「良し!時間もタップリあるし、お前ら宴会だ!湯を沸かせ、釜を焚けぇい!」

『『『『『『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』』』』』』

 

そうして始まった宴会だが、料理にはしゃぎすぎて疲れてしまい、そのまま爆睡してしまっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

第六三回高校戦車道全国大会決勝戦当日

 

学園艦から出発し、目的地である富士東演習場に足を踏み入れた。ここは日本最大の演習場。そしてここで、黒森峰との決勝戦が行われる。

 

「こっ、ここで、試合が出来るなんて!」

「そんなにすごい事なんですか?」

「自衛隊も演習をやっている、まさに戦車道の聖地です!!」

 

試合会場が戦車道の聖地と言う事もあって秋山は感激していた。

 

「わたしも……今回の決勝会場がまさか東富士だとは思わなかった」

「自分も驚きだよ!」

 

リュミとともみも同じように口にする。

 

「ここのフィールドは平原、森林、高地、市街地。ほぼ全ての環境がある。ゲリラ戦を展開するにはうってつけの場所ね……」

 

試合会場では大勢の観客が出入りし、出店や戦車が置かれ。とても賑わっていた。

 

「さて、虎殺しの異名。今日は存分に発揮出来るといいわね」

「そうね…ただ、今回の場合は豹殺しかもしれんけど……」

 

そう呟くと、二人は弾薬補給の為に格納庫に移動して行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一方の、あんこうチームはみほがミーティングに出ている中、秋山、武部、五十鈴、冷泉はⅣ号H型に乗って待機していた。

 

「いよいよだね……」

「そうですね」

「はい」

 

いよいよ決勝戦、ここに集まった理由はただ戦車が好きな者。授業で興味を持った者など、戦車道に関しては素人集団が強豪校を破り。決勝戦にいるのだから……。

 

「ただの授業の一環だと思ってたのに……私達すごい所まで来たもんだね……」

「そうですね、ただ戦車が好きってだけで始めた戦車道なのに……西住殿とクリム殿にこんな所まで連れてきてもらいました」

「ゆかりん、もし今みぽりんがいたらみんなで来たんだよって言うし、クリムさんなら『私一人の力じゃない。みんなの頑張ったから』って言うよ」

「そのとおりですね……」

「でも、みほさんとクリムさんがいなければわたし達は今ここにいませんね」

「うん、戦車道がこんなに面白い事や戦車に乗る責任なんて気づく事もなかったかな……」

 

クリムは途中からの参加だったが、四人はそんな二人に感謝していた。

 

「みんな戦いが終わったみたいな言い方をして……」

「冷泉殿の言う通りですね……」

「あ、みほさんとクリムさんがミーティングから帰ってきました」

 

ミーティングが終わり、みほとクリムの姿が見え。チームと合流しようとした時、

 

「ごきげんよう。みほさん、それから……初めましてクリムさん」

「ダージリンさん、オレンジペコさんも。ご無沙汰です」

「ええ…フフッ、元気そうで何よりです」

 

会いに来たのは聖グロリアーナのダージリンとオレンジペコだった。クリムは映像越しでしか見ていなかったなと内心思っていた。

 

「まさか貴女がたが決勝戦に進むとは思いませんでしたわ」

「あ、私もです」

「そうね。あなた方はここまで毎試合、予想を覆す戦いをしてきた。それに、クリムさんの戦車がカチューシャ達の戦車に挑み掛かった所は熱中してしましたわ。今日のこの試合が見れるか、楽しみですわ」

 

そう言い、ダージリンはクリムに視線を向けながら言う。もしかすると実力を確かめる為にデーターを取られるかもしれんな。

 

「えっと……頑張ります」

「ええ……楽しみにしていて下さい」

 

せいぜい度肝を抜くデータを取らせてやる。なんて思いながら話していると……。

 

「ミホ〜〜!クリム〜〜!」

 

陽気な声に反応して振り返すと、そこにはジープから降りて近づいて来るケイ、奥にはアリサとナオミの姿もあった。

 

「ケイさん、お元気そうで」

「Of course!私は何時でも元気よ!!」

 

いつも通りの陽気な声だ。緊張も少し解れるか……。

 

「準決勝、見ていたわ。凄かったわクリム。プラウダの戦車七輛相手にあんな大勢倒しちゃって!」

「ダージリンさんからも言われましたよ」

「またエキサイティングでクレイジーな戦いを期待してるからね?ファイト!」

「ありがとうございます!」

「(クレイジーて……)」

 

内心苦笑しつつも、クリム達はケイと挨拶を交わした。

 

「good luck」

 

颯爽と登場し、彼女は颯爽と去っていった。

すると、今度はまた別の方向から、声がかけらる。

 

「ミホーシャ、クリーシャ」

 

そこにはノンナに肩車されたカチューシャと、クラーラがいた。

 

「このカチューシャ様が見に来てあげたわよ。黒森峰なんかバグラチオン並にボッコボコにしてあげてね」

「あ……はい」

「クリーシャも、カチューシャ様が応援に来たから負けるんじゃないわよ!機体を裏切らないで頂戴ね」

「ええ、今の所……無様に負けるつもりはありませんよ」

 

そう言うと、クラーラはクリムに近づいてロシア語で話す。

 

『頑張って下さい、先輩。ユリヤ指揮官や他のみんなも喜んでいますから。お二人の復活に……』

『ええ、ありがとう』

『だから、応援しています』

『期待を裏切らないように努力するわ』

 

クラーラと短い会話を終えるとカチューシャは最後にみほ達に言う。

 

「じゃあね、ピロシキ~」

『『До свидания』』

 

そんな会話を終え、カチューシャ達も戻っていった。右胸には、準決勝後に渡した金縁の赤星のバッジをつけて……。

 

「あなたは不思議な人ね。戦った相手みんなと仲良くなるなんて……」

「それは……みなさんが素敵な人だから」

「……そう。あなたにイギリスの諺を送るわ。『四本足の馬でさえ躓く』強さも勝利も永遠じゃないわ」

「はい!」

 

意味は、河童の川流れと同じ意味なのだろう。……そう推測し、ダージリンとの会話も終えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同じ頃、格納庫ではリュミ達が最後の準備を整えていた。

 

「ねえ、余計に荷物積んでいるのって何で?」

 

そう言い、ともみが疑問に思いながら現在連盟の役員による試合前の確認作業を眺める。試合直前、砲塔後部に弱点となりかねない剥き出しの弾薬箱を追加したのかを聞いていた。まだ発煙弾発射機を搭載したのは何をするのか予想できるのだが……。その箱の中には現在、数発の砲弾と、規定量の炸薬、それから爆竹やロケット花火が詰め込まれていた。炸薬量を増やして発射する気かとも疑問に思ってしまうが、それはあまりにも危険だと分かっているはずだ。

そんな疑問にリュミは少し微笑んで答える。

 

「そうだね…強いて言うなら……対黒森峰のため…だね」

「「?」」

 

リュミの答えにともみと淀は疑問符が浮かぶ。

 

「まぁ、試合が始まったら教えるよ」

 

そう言うと、リュミは審査員からの許可を貰っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、大会の運営本部ではレナ達三姉妹が頭を下げて挨拶をし終え、そのまま観客席の方に移動する。

 

「すみません、遅くなってしまって」

「いえいえ、挨拶も今の御三方には仕事でしょうから」

 

そう言いレナ、リカ、ヴォルカは観客に混じって観戦に来ていた千代と愛里寿の横に座る。そこに座っているだけで威圧感があるのか、周りには人の姿はなかった。

オスキンの五姉妹の内、上の三人が一堂に会する事なんて滅多にない事から戦車道を詳しく知る人からすればレアな光景であった。

 

「……どうかしら?試合の予想は」

 

千代はそう聞くと、レナが答える。

 

「まだ始まってもいませんので、何とも言えませんが……」

 

投入される戦車や戦力差、戦車の攻撃力、今回のフィールドなど諸々を合わせてレナは口を開く。

 

「勝算は四割、と言ったところでしょうか……」

「因みにどちらが?」

「大洗女子学園です」

 

そう答え、まあ妥当と言った様子で千代は軽く目を伏せる。しかし、思っていた以上に高い勝算に少し驚いた。

 

「思っていた以上に、勝算は高いのね」

「ええ、この立地と戦力差であれば……」

 

するとリカが答える。

 

「騎兵戦術にゲリラ戦で勝てると思いますか?」

「…なるほど……」

 

良い例え方かもしれない。そう思いながら千代は納得する。

 

「大洗の隊長さん…西住の妹さんがそこら辺の戦術を多用すれば……まだ勝ち目はありますよ」

 

ヴォルカがそう言うと、試合が始まるまで待機していた。

 

「まぁ、それもこれも全て試合が始まってからの事ですが……」

 

そう呟き、三姉妹は試合が始まるのを待っていた。

 

 

 

 

 

レナ達が話すその横で、愛里寿は試合前にクリム達に言われたことを思い返していた。

 

『もし決勝を見る時は私達じゃなくてその隊長さんを見ておくと良いよ。私たちも勉強になるような驚きの提案があったからね』

 

クリム達が総評する程の実力者。正直、それほど強いのだろうかと今でも疑問に思う。

 

昨年の戦車道大会の決勝戦。黒森峰悲願の十連覇達成が叶わなかった理由。その責で学校を止めたんだと想像が付く。だけど、お母様に『人は見た目で判断するものじゃない。隠れていた才能が、ある時ふと、その輝きを見せることもある』と教わった。

 

「分かった……ちゃんと見ておく」

 

愛里寿はこの試合の展開をよく覚えておこうと思うのだった。もしかするとがあるかも知れないし、何より。姉達が賞賛する程の実力者が何よりも気になっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決勝戦開始です!

試合会場で両チームのメンバーが集められ、大洗と黒森峰が向かい合い隊長と副隊長は前に出ていた。

 

『両チーム隊長、副隊長前へ!』

 

蝶野のアナウンスにより黒森峰からはまほ、エリカ。大洗からはみほと河嶋が前へ出る。そうして両チームの隊長、副隊長が前へとでる。

 

「ふっ、お久し振りね」

 

みほを見てエリカが嘲笑の入った笑みで言って来るが、そんな彼女にみほは眉ひとつ動かさず礼をする。

 

「弱小チームだと、貴女でも隊長になれるのね」

「そんな事言っているといずれは上げ足を取られるよ……」ボソッ

 

エリカの声に小さくクリムがそう反応するが、幸いにも向こう方には聞こえていなかったようだ。

 

「せいぜい足掻いて見せなさい。そこにいる皇帝諸共潰してやるわ」

 

そう言うと、やや警戒した目つきでエリカはクリム達を見ていた。

これは集中狙いされるかもしれないと思いながらクリムも警戒を少しだけすると、其所へ亜美が近づいてきた。

 

「本日の審判長蝶野亜美です。よろしくお願いします」

 

そう言い、蝶野が元々の場所へ戻ると号令をかけた。

 

「両校挨拶!」

「 よろしくお願いします!」

「「「「お願いします!!」」」」

「では試合開始地点に移動。お互いの健闘を祈るわ」

 

そう言い、両チームのメンバーがそれぞれ分かれて行く。

 

「隊長、『白い皇帝』は私に任せてもらってもよろしいですか?」

「いや、単独で行くのはやめた方がいい。彼女と戦う際は必ず複数で向かわなければ、今の私たちでは敵わない」

「……わかりました」

 

まほの警告にエリカは従うと、そのまま自陣の格納庫に向かっていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「西住、私達も戻ろう……っと、どうやらお前に客が居るみたいだな」

「え?」

 

みほが振り向いた先、そこには黒森峰のパンツァージャケットを着た、一人の茶髪の少女が立っていた。

 

「では西住、用が済んだら戻ってこい。私は先に行かせてもらう」

 

桃はそう言い残すと挨拶をした丘から去って行く。残されたみほと少女は顔を合わせた。

 

「「………………」」

 

しかし、お互いに顔を合わせたのはいいものの、どう話せばいいかわからなくなってしまい、最初に口を開いなのは少女の方だった。

 

「あの時は……本当にありがとう」

「赤星……さん」

 

彼女の名前は赤星小梅。昨年度の決勝戦で川に水没したⅢ号戦車の搭乗員の一人だった。

彼女は涙ぐみながらみほに感謝と謝罪の言葉を連ねる。

 

「ずっと、お礼を言えないままだったのが、気掛かりだったの……みほさんが黒森峰から転校しちゃって、もう会えないんじゃないかとすら思ってた……でも!」

 

赤星は嬉しそうな顔をしながらみほに言った。

 

「みほさんが戦車道辞めてなくて、本当に良かった!」

 

そのことに一瞬みほは目を見開いて驚いた後、そんな彼女に微笑みながら答える。

 

「私は、辞めないよ」

 

そう言うと、みほ後ろから武部達に呼ばれる。

 

「みぽりーん」

「そろそろ行きましょーっ!」

「うん!」

 

そう答えると、みほは赤星を見ながら軽く手を振る。

 

「今日はお互い全力で頑張ろうね」

「っ!はいっ!!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「よかったわね、みほさん。報われたようで……」

「むしろ、あの状況下で救われた事に感謝しない愚か者はいないよ。たとえ誰であってもね」

 

IS-3の外、クリム達はそう答える。格納庫では最後のブリーフィングが行われていた。

 

「黒森峰はどの戦車も重武装です。相手は恐らく、火力に物を言わせて一気に攻めてきます。その前に有利な場所に移動して長期戦に持ち込みましょう!相手との開始地点から離れていますので、すぐには遭遇することはないと思います。試合開始と同時に速やかに二〇七地点に移動してください」

 

作戦説明は主にみほが行い、ドイツ戦車の諸元は大体覚えている。今回の作戦で大洗側で最も火力があるのがIS-3だ。そのため、分厚い戦車相手にはこちらから出て行かねばならん事が多いだろう。

 

「この試合が我々の正念場です。気を引き締めて頑張りましょう!では各チーム、戦車に乗り込んでください!」

「「「「「「「ハイッ!」」」」」」

 

士気は今のところ極めて高い。あの黒森峰相手に目にものを言わせてやると言う勢いか、はたまたこれで負ければ廃校になるから後がないと言う切迫からか。どちらにしろ、高い士気に悪い事はない。

 

 

 

自分たちの相手は恐らくお姉ちゃんになる。何となくだけど、だけど確信をもって言える。お姉ちゃんの実力は一番わかっている。

 

「…頑張ろうね」

 

ふと呟くと沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さんが私の手に手を重ねた。

 

「…みんな」

 

みんなで少しだけ微笑む。うん……そうだね、戦うのは私だけじゃないから。

 

「行こう!!」

「「「「「おーーーっ!!」」」」」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、エリカと赤星は作戦前に話していた。

 

「全く、何が『呪われたスターリン』よ。馬鹿馬鹿しい……」

「でもほら、言霊ってあるじゃないですか」

「だらか何よ。たまたまだそう言う偶然が重なって起きた出来事なんじゃ無いの?」

 

格納庫で、そう話しているとまほが忠告入れるように話す。

 

「戦闘中、IS-3を見かけた場合は即座に無線で報告を入れろ。決して単独での交戦はするな。『呪われたスターリン』に取り憑かれたら最後だと思って構わない」

 

そう言うと隊員達に一瞬の緊張が走る。それほどまでの相手、実力者なのかと疑問に思う。

そしてそのまま各車搭乗を開始し、まほはティーガーⅠ。エリカはティーガーⅡに乗り込み、エンジンが掛かる。

そんな中、まほは無線で再び連絡する。

 

「IS-3は正面の徹底的な被弾避始により、まずパンター以下では歯が立たない。必ずティーガー並みの重戦車を呼べ」

『『『『『了解っ!』』』』』

 

確認をとった後、まほは作戦を述べる。

 

「まずは迅速に行動をせよ。グデーリアンは言った『厚い皮膚より早い足』と……」

 

相手には妹と『白い皇帝』がいる。どちらも実力者だ。まほは気持ちを切り替え、冷静になって無線を続ける。

空には試合開始の合図の信号弾が打ち上げられ、みほとまほは同時に指示を出す。

 

「「Panzer vor!」」

 

みほ率いる九両の戦車と、まほ率いる二〇両の戦車が同時に進撃を開始した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

進発した九両の大洗チームはⅣ号戦車を先頭にパンツァーカイルに陣形を変更して進む。その中、最後尾を走るIS-3のキューポラから顔を覗かせてクリムは呟く。

 

「黒森峰の序盤の行動は……どうかな?」

「どうだろう、意外と森をそのまま抜けてきたりね」

 

そうリュミが答えると、クリムは砲塔後部の出っ張りを見ながら言う。

 

「取り敢えず、何としても砲塔後部の弾薬箱は守ってね。作戦に大事な物だが……」

「うん、それは良いんだけどさ……」

 

操縦者のもとみは気になった様子でクリムに聞く。

 

「その弾薬箱。爆竹とロケット花火が入ってたけど、何に使うの?」

「そうよ、試合も始まったし、そろそろ教えてほしいわね」

 

淀もそう言うと、クリムは少し悩んだ後に答える。

 

「うーん、どうせなら作戦を始める直前に話そうと思っていたけど……」

 

そう呟くと、ともみ達にだけその作戦とやらを話すと、ともみが呆れた様子で呟く。

 

「それ…大丈夫なの?」

「呆れた。何に使うかと思えば……」

「だけど、これほど楽しいこともない」

 

リュミがそう答えると、やや苦笑気味にともみが言う。

 

「うん、まぁ……それはそうかも知れんが……」

 

少なくとも男児達は好きだなと感じていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、あんこうチームでは……

 

「良かったですね、西住殿。仲間を助けた西住殿の行動は間違ってなかったんですよ!」

 

赤星に感謝された事を聞き、秋山は安堵した様子を浮かべ間違っていなかったのだとみほを励ましていた。

 

「……今でも本当に正しかったかどうかは、わからないけど……でも、あの時わたしはチームメイトを助けたかったの仲間の誰かを犠牲にしたりせず、みんなで戦いきりたい……そう、思っていたんだと思う」

 

みほはどこか遠くを見ながらそう口にする。その目ば何処か明るく、吹っ切れたようでもあった。

 

「沙織さん、各車に連絡を入れて」

「了解、みぽりん」

 

そう言って、沙織は通信機を操作して全戦車に通信を入れた。

 

「此方、あんこうチーム。現在私達は、二〇七地点まで約二キロの場所に居ます。今のところ、黒森峰の姿は見えません」

 

その言葉にクリム達以外の大洗メンバーは安堵の表情を浮かべた。流石にこの序盤から戦闘なんて気が滅入ってしまう。やはり決勝戦という事で相手の強豪校に少し萎縮してしまっていた。

 

「ですが皆さん、フラッグ車を守りつつ最後まで油断せず落ち着いて行動しましょう。以上、交信を終わります!」

「アレ?なんか話し方変わりました?」

 

話し方の変化に五十鈴が少し疑問に感じる。

 

「本当、余裕を感じます」

「え?本当!?プロっぽい?」

 

秋山の言葉にすっかり浸け上がり、体をややくねらせる武部。ただ……

 

「全然プロっぽくない」

「ヒドイ!何でそんな事言うのっ!?」

 

冷泉の一言で、あっさりと雰囲気がぶち壊されてしまう。

 

「だって、アマチュア無線だし」

 

そう言い、車内が笑いに包まれそうになった瞬間。

 

ドドンドンドンッ!!

 

周囲に数発の砲弾が着弾していた。

 

「何!?」

「もう来た!?」

「嘘ォ!?」

 

突然の事に他のチームが焦りを見せる中、みほは双眼鏡を取り出して辺りを見回し、目についた森林地帯を睨み付けた。

 

「九時方向敵発見!」

 

其所では何と既に到着していた黒森峰の戦車隊が居た。Ⅳ号駆逐戦車ラングやパンター、ティーガーⅡ、ヤークトティーガーやエレファントがゆっくり前進しながら次々と砲弾を撃ち込んでくる!そんな中で、まほの乗るティーガーⅠも砲弾を撃ち出していた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序盤からピンチです!

決勝戦が始まった、大洗チームは序盤からピンチに見舞われていた。

 

「いきなり何!?」

「前が見えないじゃない!」

「森の中をショートカットして来たのか!?」

 

いきなりの攻撃に皆が驚き、狼狽える中。クリムは車長用ペリスコープから森にいる戦車群を見つける。

 

「弾薬箱を守って。砲塔旋回!」

「撃つ?」

「いや、まだ良い。それよりも……」

 

攻撃の最中、クリムは無線を繋ぐ。

 

「各車ジグザグに行進。前方の森に逃げ込め!」

 

 

 

 

 

「いきなり猛烈ですねッ!」

「凄すぎる!!」

「これが西住流!!電撃戦さながらってところですかっ!」

「………………ッ!」

 

Ⅳ号の車内でも、容赦無い攻撃にパニックになるのを通り越して感動しているような雰囲気すら漂っている。そんな中、

 

『各車ジグザグに行進。前方の森に逃げ込め!』

「っ!!みなさん!クリムさんの言う通り、前方の森に逃げ込んでください!」

 

すかさず.指示を出して他の全員も指示通り戦車を左右に動かし始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「全車両一斉攻撃!……ちょこまか逃げてもムダよ」

「前方二時方向に、敵フラッグ車を確認」

「よし!照準を会わせろ!」

 

その頃、森林地帯から砲撃を喰らわせていた黒森峰では、エリカの乗るティーガーⅡがⅣ号を捉えていた。

 

「ももがーさん、どんどん遅れてるよー」

「ぎ、ギア固ッ!入んない!」

「ゲームだと簡単に入るのに!」

 

その頃、戦車操縦経験がゲームでしか無いアリクイさんチームではももがーが三式の操縦に苦労していた。

 

「やったギア入った!……あれ?」

「バ……バ……バックしちゃったよ!?」

 

ももがーが力の限りギアレバーを引きそれが実ったのか、ガクンと音を立てながらレバーが動く。だが、三式は急停車してあろうことか後退を始めたのだ!

 

「照準よし!大洗フラッグ車に合わせました」

「一発で終わらせてあげるわ」

 

そうしてエリカのティーガーⅡの砲撃準備が整う。この時、エリカは勝ちを確信していた。

 

「装填完了!」

「よし、撃てェーッ!!」

 

エリカのティーガーⅡから砲弾が撃ち出され、それがⅣ号のマフラー部分に撃ち込まれんとばかりに飛んでいくが……

其処へ、急に後退してきた三式が割り込み、Ⅳ号の身代わりになって被弾する。

 

「「「ギャアアアッ!」」」

 

車内では三人の悲鳴が上がり、三式は撃ち込まれた衝撃でエンジン部分から黒煙を上げながら横転し行動不能を示す白旗が飛び出た。

 

『大洗女子学園、三式。行動不能!』

 

白旗を確認したアナウンスが流れていた。

 

 

 

 

 

「アリクイさんチーム。無事か!?」

 

無線でクリムは呼びかける。なんという運か、フラッグ車を身を挺して守った同志の無事を確認していた。

 

『ごめんねクリムさん、西住さん。もうゲームオーバーになっちゃった』

『怪我は!?』

『大丈夫』

『大丈夫だっちゃ』

『大丈夫なり』

『良かった、大丈夫みたいね』

 

元気そうな反応を聞き、一瞬ホッとするのも束の間。クリムは無線で言う。

 

「お陰で助かった。……感謝する同志」

『えへへ、偶然だけど良かったナリ』

 

そう言った後に無線を切ると、リュミが少し微笑みながら言う。

 

「無事だったみたいね」

「ええ、何かとかの競技は怪我が多いからね……」

 

そう呟くと、一瞬二人の脳裏にユリヤの姿が写っていた。クラーラ云く、喜んでいるそうだが。あの日以来、会いに行ってないからこの決勝が終わったら会いに行ってみようかな……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『隊長!敵が森を抜けました。こちらを追って来てますっ!』

 

すると、ウサギさんチームの梓から黒森峰が森を抜けて追撃して来たと無線で知らせが入る。

 

『全車両、作戦を開始します!もくもく作戦です!』

『もくもく用意!』

 

みほが指示を出し、沙織が全体にその旨を伝える。

 

『もくもく用意!』

『もくもく用意』

『もくもく用意!』

『もくもく準備完了!』

『レオポンチームも完了しました』

「こちらはいつでも」

 

『もくもく作戦』の準備が出来たと各車の車長から知らせが入る。

 

『みんな準備オーケーだって』

『もくもく、始め……!』 

「『『『『『もくもく、始め!』』』』』」

 

その瞬間、一斉に前者から煙幕が放たれ、風向きも相まって黒森峰戦車隊を、煙幕が包み込む。

 

 

 

 

 

煙幕を確認し、みほは的確に細かく指示を出していく。

 

「皆さん、この煙に乗じてこの先の丘に向かいます!続いて下さい!」

『『『『『了解っ!』』』』』

「沙織さん、煙幕が晴れる前にカメさんチームとハチドリさんチームに次の指示を!」

「了解!」

「優花里さん。B地点に到着次第、華さんとワイヤーを持ってウサギさんチーム、カバさんチームに向かって下さい!」

「「了解っ!」」

 

みほは、煙幕で敵を撹乱している間に次の行動をする様に指示する。大洗チームは、その煙に紛れて目的地を目指す。

 

「煙!?忍者じゃあるまいし、小賢しい真似を……!撃ち方用―――」

『全車、撃ち方やめっ!』

 

視界が悪い状況にもかかわらず、すかさず追撃を命令しようとするエリカに、まほの抑制する声が飛んで来た。

 

「ー―っ!一気に叩きつぶさなくていいんですか!?」

『下手に向こうの作戦に乗るな。無駄玉を撃たせるつもりだろう。弾には限りがある。次の手を見定めてからでも遅くない』

 

まほの言う通り、この「もくもく作戦」は無駄弾を使わせる意図もある。だが、この作戦は撃ってくれば儲けもの程度ぐらいの考えでしかない。それはクリムもみほも考えているはずだ。

 

「くそぉ、逃がすもんですか……!」

 

大洗が発生させた煙に向かってエリカの戦車が機銃で掃射を行う。

 

「敵、一一時方向に確認!」

「あの先は坂道だ。向こうにはポルシェティーガーがいる。足が遅いから簡単には登れない。十分に時間はあるはずだ

 

地図を確認すれば、この先に高地がある。恐らくはそこに陣地を組んで黒森峰と戦うのだろうと、まほは踏んでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「煙幕を張るなんて……」

「All is fair in love ane war.」

 

ここでダージリンが流暢に格言を言う。

 

「恋と戦いは、あらゆる事が正当化されるのよ」

 

『イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない』の格言と類似した格言を言うダージリン。

 

「あ、煙幕晴れて来ました」

 

オレンジペコがそう言うと、ダージリンは飲もうとしていたティーカップを置いてモニターに目を移した。さて、この戦いの趨勢はどのように傾くのかは未だわからなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『車長、煙幕が晴れてきました!』

「なっ!?この坂道をもうあんな所まで!?」

 

煙幕が晴れ、大洗の戦車隊の所在を確認したエリカは目を見開いた。

大洗の戦車隊の所在は、彼女の予想よりも先に行っており、既に丘の後半辺りにまで差し掛かっていたのだ。エリカの視線の先では、最後尾のポルシェティーガーを、Ⅳ号とⅢ突、M3リーが前方からワイヤーで引っ張っていた。そしてポルシェティーガーの後ろを直接IS-3が押していた。

 

『さすがに重い……』

『レオポン、ダイエットするぜよ』

『どっしりしている所がレオポンの良いとこだ!』

『重い……ダイエット……』

 

重いポルシェティーガーを牽引する各車麻子とおりょうは愚痴り、ポルシェティーガーのどっしりしている所を賞賛する左衛門左、重いとダイエットの単語に反応する武部など様々な声が聞こえる。

 

「そっかー、みんなで引っ張ってたのね。ポルシェティーガーを……んんっ…や、やるわね」

 

カチューシャがまるで子供のように目をキラキラさせていた。奇想天外な方法に感心するのはなにもカチューシャだけでは無かった。

 

「なるほど、良くやるわね」

「P虎をああやって運ぶと来たか……」

「あんまりやりたいとは思わないけど……」

 

三姉妹はそう呟くと、最後尾で押しているIS-3を見ながら内心呟く。

 

「(()()()消えたのかしらね。あの子達は……)」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「もう直ぐ坂を上り終えます。アヒルさんチーム、カモさんチームの皆さん、準備は良いですか?」

『此方アヒルさんチーム。準備オッケーです!』

『カモチームも同じく、準備完了しました!』

 

典子、みどり子からの返事が返されると、みほは指示を出した。

 

「では、これより《パラリラ作戦》を開始します!アヒルさんチーム、カモさんチーム。始めてください!」

『『了解!』』

 

ポルシェティーガーの牽引には当たらなかった八九式とルノーが、再び煙を噴き上げ、散開する。

 

「何なのよ、この作戦は!?まるで不良になったみたいじゃない!」

 

みどり子はゴモヨによる蛇行運転でパゾ美と共に右へ左へと激しく揺られながら言う。

 

「終わったら手が腫れてそう~」

 

忙しそうにハンドルを切るゴモヨも気が気ではなく、そんな事を呟いていた。

 

「お尻が痛い……腕が、つるゥ………!」

 

八九式の車内でも、操縦手の忍がやりにくそうに呟いていた。

他のチームはポルシェティーガーを引っ張ったり、押したりしている状態で、蛇行する二輌の間を進んでいく。

 

「(なるほど、煙幕を全体的に張る事で攻撃力に勝る黒森峰の戦法を封殺したか……)やるわね」

 

IS-3のキューポラからクリムはそう呟く。

 

「さぁ、うちらも仕事を始めるわよ」

「「「了解」」」

 

高地を()()()()()()ながらクリムはそう指示を出していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「こんな広範囲に煙が広がるとは…………!」

 

カメさんチームによる足止めを切り抜けた黒森峰チームの一行では、双眼鏡で様子を見ていたエリカが呟く。

 

『全車、榴弾装填!』

 

其処へまほからの指示が飛び、各戦車の装填手が榴弾を装填する。

 

『目標は、あの山の頂上だ。撃て!』

 

その指示と共に、黒森峰の戦車の主砲が一斉に火を噴く。

飛んでいった砲弾は山の頂上近くに着弾し、土煙を巻き上げた。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

包囲網です!

「……あのIS-3…」

 

ティーガーⅠの中、まほは疑問に呟く。それは高地に佇むIS-3が一向に撃ってこないことにあった。搭載弾薬が少ないから無駄撃ちを控えているにしては動かなさすぎる。

 

「……まさか、」

 

その瞬間、横にいたヤークトパンターが撃破される。着弾時の大きさ、衝撃からしてこの攻撃は……

 

「っ!!各車前進!目の前のIS-3は偽物だ!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「距離よし。ヤークトパンター撃破」

「ちっ、ちょっと風が強かったか……」

 

高地から少し離れたところでクリム達IS-3が待ち構える。もくもく作戦で一旦戦線を離脱し、代わりに試合前に注文していたバルーンを置いていたクリム達は後ろではないものの、弱点である側面を狙える位置に陣取っていた。カメさんチームはエリカのいる方向で攻撃を加え、二輌の履帯を破壊していた。

 

「次、パンターを狙え」

「うわっ、もう撃ち返してきやがった……!!」

 

ティーガーやパンターからの砲撃が加わる中、リュミは慎重に位置を整えて引き金を引き、指示通りパンターを撃った。

 

「よし、とっとと逃げるよ」

「了解」

 

真正面でパンターの砲弾を弾き返し、そのままクリム達は撤退を開始する。

 

『深追いはするな』

 

追おうとした他の戦車にまほが制止を呼び掛ける。先陣を切ってヘッツァーとIS-3を追おうとしたエリカのティーガーⅡに続こうとしていたものの、まほの制止で停車したティーガーⅡの車内にあるペリスコープから様子を見ていたエリカは、悔しげに呟いた。そうしつつ、黒森峰の戦車隊は再び隊列を組み直して走り出すのであった。単独で動くIS-3の動向は気になるが、先に目の前の高地を片付けた方が良さそうと判断してのことだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『隊長!配置完了です!』

『守り固めたよ』

「了解!全車両、照準をフラッグ車の前にいる車両へ!!」

 

丘に陣取り黒森峰を迎え撃つ準備をしていると、カメさんチームとハチドリさんチームから無線が入って来る。

 

『西住ちゃーん、こっちは二輌履帯破壊しといたよー。少しは足止めになったかな?』

『ごめん、こっちは二両しか仕留められなかった』

「十分です。ありがとうございます」

『じゃあ、次のタイミングまで待機してるねー』

『こっちも、次のポイントに移動するわ』

「はい!」

 

カメさんチームとハチドリさんチームの無線を終えると。

 

「西住殿、来ました」

 

そう秋山が言い、みほが前に視線を向けると、黒森峰の戦車隊が横一列に列を作りながら丘の前までやって来た。すると、黒森峰の戦車隊は丘の前に差し掛かると無線でまほから停止命令が下る。

 

『全車停止!』

「くっ!敵に態勢を整えさせてしまって……」

『構わん、こちらは正面から粉砕するまでだ』

「はい……」

「想定より早く陣地を構築したな」

 

高台に陣取った大洗を双眼鏡で確認しながらも、西住まほは冷静に呟いた。

 

「囲め」

 

合図と共に黒森峰の戦車が高台を登り始め、それを確認した西住みほも各車に砲撃の指示を伝えた。

 

「砲撃始めっ!」

『砲撃始めっ!』

『砲撃始めっ!』

 

その指示と共に、大洗の戦車が立て続けに発砲する。

それに負けじと、黒森峰の戦車も攻撃を開始するが、そんな中で一輌のパンターG型にⅢ突の砲弾が命中し、行動不能を示す白旗が飛び出した。

 

「よーし!先ずは一輌撃破だ!」

 

一番最初に敵の戦車を撃破した事に喜びつつ、エルヴィンは次の目標を定めた。

 

「良し、それじゃあ次!一時のラングだ!」

「ラングって何れだ!?」

「ヘッツァーのお兄ちゃんみたいなヤツ!」

 

ラングが何れなのか分からず訊ねる左衛門佐に、エルヴィンは強ち間違ってはいないものの。何とも言えないような返答を返す。確かにヘッツァーとラングは似ているが……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「やられる前に…有利な場所に逃げ込まないと」

「あなたもいつの間にか、彼女達の味方ね」

「えっ!?」

ダージリンさんにからかうように言われて真っ赤になるオレンジペコであった。

 

 

 

 

 

「あれが…西住みほの戦い方……」

 

観客席で愛里寿は呟く。目の前に映る光景は、黒森峰……引いては西住流とも間違うまさに自由な戦い、と言うべきだろう。島田流に似ているかもしれないが、それとも違うような……なんと言うか新しい戦い方だ。

クリム達がよく見ておくと良いと言ったのも頷けた。

 

「よく覚えておこう……」

 

ただ、やっぱり殆ど動かない様子のクリム達に少し寂しさを感じていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『ヤークトティーガー、正面へ』

 

高地攻略中の黒森峰部隊は今までに三両の戦車を失ったが、まほは涼しい顔で指示を出すと、大洗チームの前に巨大な戦車を持ち出した。彼女らの戦術は至って簡単で装甲の硬い戦車を前面に出して盾代わりにして進み続ける事だった。

ヤークトティーガーはティーガーⅡの車体に一二八ミリ砲を搭載した重駆逐戦車である。元が重戦車車体なだけあって装甲は非常に硬い。

 

「何か大きいのが出てきたよ……」

「ヤークトティーガーですね……」

 

大洗チームは、ヤークトティーガーに向かって砲撃する。

 

「どうする、私達も攻撃する?」

『どうする?こっちから攻撃する?』

 

無線を聞いていたクリムがそう聞くも、みほは首を横に振った。

 

「いえ、ハチドリさんチームはそのまま移動し続けてください」

『了解』

 

すると、武部がやや驚いた声を上げた。

 

「えぇ!なんで!?こっちにIS-3持ってきた方が良かったじゃん!!」

『さすがは重駆逐戦車。正面きってでは分が悪い!』

 

するとお返しと言わんばかりに黒森峰から嵐の様な砲撃が丘の頂上に向けられ砲弾の雨が大洗の戦車隊に降り注ぐ。

 

「な、なんとか各車無事だよー」

 

土煙が立ち込めながらも砲撃が止み、煙が晴れた時撃破された大洗の車輌は居なかった。

 

「これが王者の戦いよ。このまま正面からねじ伏せてあげるわ!」

 

パワーバランスでいえばこれほどわかりやすいものはない。純粋な戦いでは大洗に勝ち目はない。

 

「せっかくここまできたのに……このままだと撃ち負ける……!」

「さすが黒森峰……」

「マルタの大包囲戦のようだな……」

「あれは囲まれたマルタ騎士団がオスマン帝国を撃退したぞ!」

「だが……我々にそれができるか?」

 

大洗の面々に不安がよぎる。このままではやららてしまうのではないか、という不安が過ぎる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一方で、会長率いるカメチームが戦場となっている場所から少し離れたところで戦況を観察していた。

 

「すごい砲撃戦……」

「真綿でじわじわ首を絞められているようだな」

「こっちもあそこを要塞にするって見越していたようだね~。……まぁ、当然か」

 

状況は刻一刻と動いている。現状の状況を判断し、みほは次の行動を決めた。

 

「一六対九、これだけ潰せれば……。ここから撤退します!」

「でも、この包囲の中どうやって!?退路は塞がれちゃっています!」

 

相手は囲むようにじわじわと攻め込むと同時に退路もきちんと相手は断ってきていた。抜け目はない。

 

『西住ちゃん! 例のアレやる?』

「はい! おちょくり作戦始めてください!」

 

カメさんチームからの作戦コール。それにみほは迷わず答える。

 

「皆さん、カメさんチームが作戦を開始しました!しばらくこちらに注意を引きつけて下さい!相手に悟られないで!」

『了解よ!』

『『承知!』』

『ヤークトティーガーの足回りをバーストさせてやるーっ!』

『タイヤじゃないよー』

 

確かに抜け目はない。けど、抜け目がないのなら作ってしまえばいい。

 

「フン!悪あがきを!」

 

大洗の反撃に悪態をつくエリカ。

 

「準備いい?」

「はい」

「はいっ!」

「おちょくり開始~」

 

意気揚々と殺伐とした戦場へ向かうヘッツァー。その中にIS-3の姿は見つからなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、杏達の前を一輌のヤークトパンターが走っていた。そのヤークトパンターは先程の杏からの待ち伏せ攻撃を喰らって本隊から置いていかれたものだった。

 

「ふぅ、何とか修理が間に合った〜……さて、早く本隊と合流しなきゃ」

 

キューポラから目の前に広がる戦場を見て安堵の溜め息をつくが、その後ろから聞き慣れない音が聞こえてくる。

 

「ん?何の戦車……ってああ!?」

 

その視線の先に居た戦車は、先程自分の戦車の履帯を破壊した、大洗チームのヘッツァーだった。

 

「またあんな所から出てくるなんて……七時の方向!例のヘッツァーよ!」

 

ヤークトパンター車長の少女は操縦手にそう命じ操縦手が大急ぎで方向転換しようとするものの。それも虚しく杏から砲撃を喰らい、再び行動不能に陥れられるのであった。そして、横を颯爽と走っていくヘッツァーに怒鳴り散らしていた。

 

「うわああっ! 直したばっかりなのにぃ! このぉ、うちの履帯は重いんだぞ!!」

 

悲惨な声が聞こえた来たが、そんなこと露知らず会長は声高らかに叫ぶ。

 

「突撃~~!敵陣を掻き回せーっ!!」

「こんなすごそうな戦車ばかりのところに突撃するなんて、生きた心地がしない……」

「クリム達じゃあるまいし……今更ながら無謀な作戦だな」

「ほら二人共、ビビんないビビんない。あえて突っ込んだ方が安全なんだってよ? 」

 

自分達を向けている黒森峰の戦車を前にして、柚子と桃の二人は若干の怯みを見せている。

 

「こう言うのって、敢えて突っ込んでいった方が安全なんだってよぉ~?」

 

杏は何処からか持ち出した雑誌を片手に摘まんでみせた。

 

「それは後にしましょうか……」

 

掴み所の無い会長に呆れながら、柚子はパンターとエレファントの間にヘッツァーを停めた。

 

「…え?何!?」

 

それを見ていた他のパンターの車長は、突然現れたヘッツァーに驚く。

 

「一一号車、一五号車! 脇にヘッツァーがいるぞ!!」

 

それに気付いたパンターの車長があわてて操縦手に足蹴りで指示を送る。その指示を受け、ヘッツァーの左隣に居たパンターは一旦後退して、走り出したヘッツァーを狙おうとするものの、直ぐ傍にエレファントが居た。

 

「くそ!同士討ちなるから撃めない!!」

 

その指示を受け、ヘッツァーの左隣に居たパンターは一旦後退して、走り出したヘッツァーを狙おうとするものの、直ぐ傍にエレファントが居た。

 

「あっ!ヘッツァーが来ました」

「敵陣が崩れます!」

「今です!微速前進、一斉射!!!」

 

ヘッツァーの乱入した事で指揮系統が混乱して隊列が乱れた黒森峰にみほは攻撃を指示する。

 

「こちら一七号車、自分がやります!!」

 

一輌のラングがヘッツァーを狙おうと方向転換するものの……

 

「やった!ラング一輌撃破!」

 

大洗チームからの砲撃を側面に受けて呆気なく撃破される。

 

「申し訳ありません! やられました!!」

「何やってるの!」

「私が……」

「待て! Ⅲ突がくるぞ!」

 

そう言い合っている間に……

 

「そらそらーーっ!」

 

大洗チームの戦車が少しずつ前進しながら砲撃を仕掛け、黒森峰チームはパニックに陥っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

西住さんは西住さんです!

『レオポンさん、先行してください!』

 

ヘッツァーの活躍で黒森峰陣営の陣形が崩れたのを確認したみほは指示を飛ばす。

 

『あいよ!盾ならお任せあれ!』

 

その瞬間大洗チームは一気に高地を駆け降りる。

 

『大洗突撃して来ます!』

「来させるな!撃てっ!」

 

そうして大洗の戦車は続々と下ってきて、エリカは攻撃を指示するがP虎の装甲に弾かれ、そのまま立ち尽くす二輌のラングの間を通過していく。

P虎を先頭に続々と後続が続き、一斉に山を駆け降りた後、ついでに煙幕も焚いておさらばしていた。

 

『いやっほー!』

『やれやれ、スリル満点だな』

 

カモさんチームの焚いた煙幕に隠れながらそう呟く。

 

『大洗戦車、全車両に逃げられました!』

「何やってるのよ、あんな弱小チームに!せめて一輌ぐらいはやりなさい!」

 

その頃黒森峰では、カモさんチームが張った煙幕で視界を遮られ、上手く動けずにいた。

段々と晴れつつある煙幕から遠ざかっていく大洗の戦車隊を見たパンターの車長が言うと、エリカはそんな声を上げる。

 

『落ち着け、体制を立て直して追え、此方も直ぐに向かう』

「私が行きます!」

 

エリカが叫ぶ中で一人冷静なまほはそう言うが、エリカが先行すると言い出し、そのままティーガーⅡを向かわせた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「どこへ向かう気なの?」

「面白くなってきたわね」

 

アリサは、大洗の行方が気になるのに対してケイは、ポップコーンを片手に大洗の行動にワクワクしながらモニターを見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『西住ちゃーん!うまくいったねーー!』

「カメさんチームのおかげです」

『この後は、次の川のポイントまでだよね?』

「ハイ!ちょっと離れますが南西の川ポイントCの地点に向かいます。また、カメさんチームには撹乱をお願いします」

『了解〜〜』

 

とみほは、杏との通信を終える。そして次にクリム達から無線が繋がる。

 

『西住隊長、こっちも配置完了。遠いけど、車列が見えるよ』

「そうですか。じゃあ、事前の情報通りに黒森峰部隊の監視をお願いします」

『はいよ、狙撃の本領。発揮してやんよ』

 

そう言い、クリムとの無線が切れた。作戦とはなんなのかと思っていると、砲塔横の装填手用のハッチから顔を出していた優花里が黒森峰の追ってが来た事に気づいた。

 

「あ!西住殿、黒森峰の戦車が追って来ました!ここまでは西住殿とクリム殿の読み通りですね」

「うん、各車縦隊でジグザグに走って下さい!敵の追撃を振り切りますっ!」

『『『『『了解!!』』』』』

 

みほは、ティーガーⅡの砲撃を避ける為に、全車両に縦隊でジグザグ走行する様指示する。

すると、他のチームがP虎を追い抜く中でレオポンチームから煙幕とは全くの別物、純粋にP虎本体から煙が発生している。つまり壊れたらしい。ワイヤーで引っ張って登り坂進んだり、下り坂でスピード出したりと、思えば結構無茶な事もしたけど。

 

「レオポンがぐずり出したぞ!?」

「ちょっと宥めてくる」

 

と言って、ナカジマはキューポラから走行中のP虎の外に出ている。その手には工具一式。

 

「はいはい、大丈夫でちゅよ~」

 

ナカジマは赤ちゃん言葉を使いながら工具を手にP虎の修理を始めた。それも走行中の戦車の上で。

 

「壊れた所を走りながら直している」

「流石、自動車部」

 

あんこうチームは、走行中でP虎のエンジンを修理する自動車部に驚きと称賛をする。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「逃がさないわ。目標一時フラッグ車!」

 

ティーガーⅡがフラッグ車であるⅣ号に照準を定めようとした時、突然ティーガーⅡが激しく揺れ出し、左に急激に曲がって行く。

 

「ちょっとどこ行く気なのよ!……何やってんの!!!」

 

足回りの弱いティーガーⅡを振り回したせいか、足回りが壊れてその場で足止めを喰らう羽目になる。

 

「左動力系に異常!すみません、操縦不能です!」

 

エリカ達はティーガーⅡから降りてきて、壊れた部分の修理を始める。それを見ていたエリカは地団駄を踏みながら何か喚いている。必死になって修理するティーガーⅡの乗員達を背景に、大洗チームは次の作戦へと向けて行動を始めるのであった。

 

「プラウダ校対策だった重戦車運用が裏目に出た様ね」

「黒森峰の重戦車は足回りが壊れやすいのが欠点…それを狙ってたんですね」

 

ダージリンさんとオレンジペコの解説の通り。森の中の進軍から始まり、黒森峰側はずっと大洗をつけ回してきたのだ、足回りに負荷がかかるのは当然。

 

「走り回っていれば、黒森峰側は燃料切れをおこす車両も出てくるかもしれないわね」

 

そもそもプラウダ高校が相手ならこの黒森峰の戦力も納得だが、相手が大洗となると過剰戦力感があった。

 

「まぁ、でも『白い皇帝』対策と言われれば納得も出来ますが……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「あーあー、無茶な運転すっから……」

「車両のことをちゃんと考えてあげないと、ああなっちゃうわね」

「特にこの車両だと、機嫌損ねたら面倒だしねぇ……」

 

常日頃からこの車両の扱い方をマスターすれば、自然とそんな言葉が漏れてしまう。

先に高地から離れていたクリム達は川を越え、大洗チームが川を渡るまで後続の黒森峰チームの監視と、できれば狙撃による撹乱を今の任務としていた。

 

『そもそも川を渡ります。ハチドリさん、状況はどうですか?』

「まだ揉めてるよ……だけど、一部の部隊が後を追っかけてる。あんまりグダグダしている余裕はないわね」

『わかりました』

 

報告を聞き、みほは川を渡るために進路を変更した。

 

 

 

 

 

「この先はどのルートを?」

「この川を渡ります」

「川を渡る!?」

「上流にはレオポン、下流にはアヒルさんが居て下さい」

「成る程、軽い戦車が流されない様に渡るんですね」

 

川に流されないようにするために上流側にP虎、下流側にルノーを配置。横一列で川を進み始めた。

 

「停まると動けなくなるから気をつけて下さい」

『『『『『了解!!』』』』』

 

そうして川に入り、逐一遠くで監視中のクリム達から黒森峰の動きの報告も入る。そして川の半分ほど進んだところでM3蛾停車してしまった。

 

「え?アレ!?う、動かない!?エンジン停まちゃったよ!」

 

桂里奈はアクセルペダルを何度も踏むが、M3はピクリとも動かない。それどころかエンジン音も力を失っていき、その音が完全に消えると共に、先程までの小刻みな振動も止まる。それは、M3がエンストした事を現していた。

 

『止まって!ウサギさんチームの様子がおかしい!川の半分辺りから動きが止まった』

 

それを見ていたクリムから無線が入る。それに気づき、全車両が一旦停車する。

 

「みぽりん! ウサギさんチームが!」

「ウサギさんチームがエンスト!?」

 

その報にみほはやや狼狽える。

 

『ギアを上げて!!一旦バックに入れて揺り戻してみて!』

『だっ、だめです!掛かりませんっ!』

「全然エンジン掛からないよ!」

 

川中でのエンストにウサギさんチームはパニック状態に陥っていた。クリムの指示で動かすもそもそもエンジンが止まっている影響でうんともすんとも動かなかった。

 

「このままだと、黒森峰が追い付いちゃう……」

 

現に悲鳴を上げた桂里奈の両目には涙が溢れている。どうにもならない状態に怯えているのだろう。その様子を見た梓は何かを決心したのか、みほへと通信を入れる。

 

「私達は、大丈夫です!隊長たちは早くいってください!後から追いかけます!」

 

しかし、川の流れは意外にも強く。流れて来る水圧に耐えられず、M3がやや横に流されていた。

 

「あぶない!」

「このままじゃ横転しちゃう!」

 

おまけに今の状況を冷静に冷泉は口にする。

 

「もたもたしていると黒森峰が来るぞ」

 

そう、まだ突き放したとはいえ、後ろには黒森峰の戦車隊が徐々に近づいて来ている。ここで止まっているのがバレればまず間違いなく一斉攻撃が加えられる。

 

「でも、ウサギさんチームが流されでもしたら……」

「後方!黒森峰らしき煙を確認!」

「ちっ、近づいて来ます!」

『隊長!!早く!行って下さい!!』

 

状況は刻一刻と悪くなっている。その状況にみほは困り果てていた。

 

「………………ッ」

 

このままM3を置いて先に進むべきか、救出を優先するか。みほは判断に苦しんでいた。

 

脳裏を過るのは、去年の試合。雨で氾濫している川に沿った道を進んでいる途中、前方から奇襲攻撃を仕掛けてきたプラウダからの砲撃で、足場を失ったⅢ号戦車が土手をずり落ち、そのまま川に落ちる場面。そして聞こえてくる、その時のⅢ号戦車の乗員からの悲鳴。

そのトラウマがフラッシュバックし、みほは目を固く瞑る。

それを見た武部は少しの間考えるような仕草を見せると、みほに声を掛けた。

 

「行ってあげなよ、こっちは私達が見るから」

「沙織さん……」

 

武部の後押しもあり、みほは覚悟を決めた。

 

「優花里さん!ワイヤーにロープを!!」

「はい!!」

「みんな!少しだけ待っていてください!」

『え!?何する気!』

 

そして、ロープを腰に巻き付けたみほは、Ⅳ号のエンジン部分に飛び乗って前方を見やる。M3に辿り着くには、ルノー、Ⅲ突に飛び移らなければならない。深く深呼吸すると、みほは少ないスペースで勢いをつけ、ルノーと飛び移ると、そのままⅢ突と飛び移る。

その様子を見て武部はある人物に通信を入れる。

 

「クリムさん、聞こえる?」

『はいはい、よく見えているよ』

「そっちの判断に全部任せるから、みぽりんが戻って来るまで黒森峰を撹乱してくれる?」

 

答えは即答だった。

 

『了解、ちょっと頭上に砲弾が飛んでくかも知れないから。それだけは気をつけて』

「分かった」

 

そう言って通信が切れると、Ⅳ号戦車の車内では少女達が微笑み合う。

 

「前進する事より、仲間を助ける事を選ぶとはな」

「みほさんはやっぱり、みほさんね」

「だからみんな…西住殿について行けるんです。そして私達は、ここまで来れたんです」

「そうだね」

 

だからこそ、叶えたく思う。……優勝を。

 

「私…この試合、絶対勝ちたいです。みほさんの戦車道が間違っていない事を証明する為にも…絶対に勝ちたいです!!」

「無論、負けるつもりはない」

「その通りです!!」

「もちろんだよ!みんな!みぽりんを援護して!!」

 

直後、頭上に一瞬だけ見えない影が飛び、その後に砲声が遠くで聞こえた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

名前詐欺の戦車です!

「距離七千。風速、南南東に四メートル。敵速三〇。弾種、榴弾」

「了解!」

 

ISー3の車内でクリム達は援護のために準備を進める。

 

「当てて撃破して良い。但し先頭を狙って。運良ければ玉突き事故を起こせる」

「了解。任せて、お姉ちゃん」

「あれだけ綺麗な車列だ。フラッグ車は無理ね」

 

土煙を立てるほどかっ飛ばしている戦車群を見ながらクリムは必要な情報を測定する。

 

「発砲のタイミングは任せるわ。好きに撃って頂戴」

「はいよ……」

 

スコープ越しにクリムは答えると、先頭を走るパンターに向けて射撃を行う。

 

……ドォォンッ!!

 

発射された一二二ミリ砲弾はそのまま周辺の草木を大きく揺さぶりながらゆっくりと放物線を描く。そして……

 

ドォォォンッ!!

 

前進中のパンターの履帯と車体の隙間に命中し、爆発してその衝撃で車体がバウンド。そのまま横転した。

車間距離をかなり縮めて走っていたために後続の車両もそのまま後ろから突っ込んで玉突き事故を起こしていた。

 

「……敵車列の停車を確認。良くやったわ」

「ふふんっ!……これくらい余裕よ」

 

ちょうど川ではエンジンの掛かった様子のM3が他の車両に牽引されて川を渡り始めた。

 

「みほさん、そっちの状況は?」

『はい、牽引も終わりました。…クリムさん、さっきの砲撃……』

「あぁ、さっきの砲撃で車列は停めたから、安心して川を渡りな」

『あ、有難うございます……』

 

クリムの無線に安心してみほ達は川を進み始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「くそっ、今の砲撃は何処から……!!」

 

横のティーガーⅡから、同じく双眼鏡で見ていたエリカがそう返す。数分前に恐らくは前方から飛んできただろう砲撃で先頭を走っていたパンターが撃破され、おまけに車体が横転していた。そのせいで玉突き事故が起こり、一旦後退の指示を出していた。

まほは無言で聞いていたが、後ろから聞こえてくる小さな音に気づいた。

 

「後方七時に敵戦車だ。一一号車、やれ」

 

その指示を受け、一輌のパンターがゆっくりと下がりながら砲塔を向け、ちょうどその後部を照準に捉えていたヘッツァー目掛けて発砲する。砲弾はヘッツァーの真ん前の地面に着弾して砂埃を巻き上げ、ヘッツァーは軽く後方に押しやられた。

 

「うへぇ~!流石に三度目は無かったか~、撤退撤退~!」

 

ヘッツァーは素早く、そして潔く撤退した。ここでは仏の顔も二度までだったかと思いながらヘッツァーはそそくさと逃げ出していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

クリムのおかげで無事に川を渡り終えたみほ達はそのまま一旦森の中に進む。向こう岸に辿り着いた頃には、M3はすっかり調子を取り戻していた。ワイヤーが回収され、大洗の戦車は次の目的地へと突き進んでいく。

 

「大洗の連中逃げてばかり!どこへ向かう気!?」

「おそらくは、市街地……」

 

双眼鏡を覗いてそう呟くエリカにまほは地図を見て、大洗チームの目指す場所を予測する。

 

「このまま南西Dポイントの橋にて、カメさんチームと合流します」

「あれ?ハチドリさんチームは?」

「市街地で合流します。それまでハチドリさんチームは黒森峰の部隊を街に突入させる前に、少しでも戦力を削ぐそうです。斬減戦法を取ると言っていました」

 

斬減戦法と聞き、秋山が納得した声を上げる。

 

「なるほど、斬減戦法ですか。なかなか面白いことを考えたものですね」

「なにそれ?」

「旧日本海軍の考案した戦略の一つです。今で言うところのアウトレンジ戦法に近いですね。敵本隊が目的地に着くまでにじわじわと戦力を削る戦法です」

 

海軍も少し齧っている秋山が解説をすると武部は納得したのかよくわからない顔をしてそのまま無線機を触っていた。

 

「お待たせ~!カメさんチーム、只今合流~」

 

橋の前に来ていた大洗チームでは、先程まで単独行動を行っていたカメさんチームのヘッツァーが合流した。

 

「この橋を渡ります。レオポンさんは最後に……」

 

そう言うわけで車重の最も重いP虎を最後に大洗チームは橋を渡る。いかにもボロいその見た目に崩れないかとヒヤヒヤするが、P虎以外は全員が順調に渡れた。

 

「橋?……戦ってるより逃げてる方が多いんじゃないの?」

 

エリカは偵察に向かわせていたⅢ号からの通信でそう呟く。P虎が慎重に進んで行き、橋の真ん中辺りに差し掛かった、その時。

 

「此処が腕の見せ所!!」

 

ツチヤはそう言うと、何やら操作して操縦捍を前に倒す。すると、P虎のエンジン部分からジェットエンジンのような音が響き、次の瞬間には車体前部を軽く浮かせて急発進した。ドスン!と音と立てて浮き上がった車体前部が橋に叩きつけられ、P虎が橋を渡りきった頃には、橋の真ん中が壊されていた。凄まじい速度で走り去っていくP虎に追い越されたみほは半ば唖然となってしまっていた。

 

 

 

 

 

「橋が!?」

 

その頃の黒森峰チームでは、偵察に出したⅢ号戦車の車長から、大洗チームのレオポンが橋を破壊した事を知らされたエリカが驚いていた。

普通、橋を壊すなら渡りきってから主砲を撃ち込んで木っ端微塵にしてしまえば良いと思っていたが……。

と言うか、それしか方法は無いと思っていた。だが、レオポンは加速する時の勢いと車重を利用して橋を破壊してしまっていた。元々の予定では破壊される前のⅢ号戦車が妨害するはずだったのに……。

 

「ちっ……分かった、橋は迂回して追う。お前は先回りしろ!!」

 

エリカはそう指示を出し、Ⅲ号戦車の車長から伝えられた事をまほへと話すのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『橋は落とした?』

「はい、予想とは違う方法ですが……」

 

そう言い、みほはやや苦笑気味に言う。まさかレオポンの自重でぶっ壊すとは思わなかったのだ。

 

「そちらの準備はどうですか?」

 

そう聞くと、クリムはいつも以上に張りのある声で答える。

 

『順調だよ〜、すでに仕掛け終わったしね。後は手ぐすね引いて奴さんを罠にかけるだけだ」

 

そう言い、クリムはペリスコープを覗き込んでいた。その手には電気式の捻るタイプの起爆装置が握られていた。

 

「私達が時間を稼ぐから、他のみんなは市街地戦の準備をしてな」

『はい、よろしくお願いします』

 

そう言い、無線が切れた。いまクリム達は山の裾のあたりで隠れており、迂回して来る黒森峰の部隊を上から観察していた。

 

「……お、来た来た」

 

やって来る戦車集団を確認し、クリムは口角が上がる。足元には他にもいくつかの銅線らしきものがあり、クリムはタイミングを見計らっていた。

 

「そろそろだな……」

 

クリムは起爆装置を握った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「くそっ、こんな遠回りをしないといけないだなんて……」

 

森の中、エリカはそう愚痴が溢れるとその瞬間変な音が聞こえた。

 

「っ!?なんだ!!」

 

襲撃かと思って止まると、その瞬間砲撃が飛ぶ。

 

「ん?光った?」

 

ヒュウゥゥゥウウウウ……ドゴォォオンッ!!

 

その瞬間、横にいたラングが吹っ飛んで撃破された。

 

『敵襲!』

「各車散開!」

『何?!』

 

その瞬間、またもパンターに着弾。白旗は上がっていないが、足回りが丸ごと吹っ飛んだ。その様子を見届けたクリムは戦果を報告する。

 

「初弾命中。次弾、パンター命中するも撃破ならず」

「ごめん、森の岩に阻まれた」

 

そう呟き、車列を確認したクリムは次の目標を指示した。先ほど、発火装置で起爆した爆竹やロケット花火に反応して停車した所を狙撃して市街地に到着するまでにできるだけ戦力を削ごうとしていた。足元の銅線はその導火線であり、数回は襲撃が出来た。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ヒュウゥゥゥウウウウ……ドゴォォオンッ!!

 

『くそっ、今の発射音は……!!』

『着弾まで約二〇秒。五キロ以上の距離よ』

『ラングをあんなに吹っ飛ばすなんて、なんて威力だ』

 

すると遮蔽物となる場所に隠れたまほが口を開く。

 

「落ち着け。今のは止まっていた車両がやられた。五キロ以上離れていれば動く目標には当たらない。その証拠に二発目は外れた。……おそらくは時間稼ぎだ。相手に時間を与えてはならない。既に敵は移動しているはずだ」

 

そう言うとまほは地図を確認しながら射撃をしてきたであろうISー3の予想位置を割り出す。

 

「ここら辺でアンブッシュに適している位置は三点。これらに準備射撃を加えつつ前進しろ」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「橋を通過後……道沿いに北西へ移動、市街地に入って下さい。そこで黒森峰を迎え撃ちます!」

 

そう指示し、大洗チームは道沿いを通って市街地を目指した。

 

「クリムさんのお陰で時間が稼げた、これで市街地戦に持ち込める」

 

Ⅳ号のキューポラから上半身を乗り出したみほは、見えてくる町を視界に捉えてそう言った。グロリアーナとの練習試合のように、市街地戦で決着をつけるつもりなのだろう。

その時、建物の影から一輌のダークイエローの戦車がひょっこりと顔を出した。

 

「Ⅲ号だよ。H型かな?それともJ型かな?……って、一目見ただけで戦車の車種分かっちゃう私ってどうなの……?」

 

一人ツッコミを入れている武部を置いて、一行は速度を上げた。

 

「Ⅲ号なら、突破出来ます。後続が来る前に撃破しましょう」

『『『『『『『『『はい!』』』』』』』』』

 

Ⅲ号戦車は、火力や防護力は然程高くはないが、その分機動力が高いため、下手に回り込まれでもしたら撃破される可能性も否定出来ない。そのため後続が居ない間に撃破する必要があった。

 

市街地を逃げ回るⅢ号戦車を追い回す大洗チームの一行。

カモさんチームのルノーが先頭に出てⅢ号戦車を追う。そして、とある角を曲がると、十字路の先で此方に背を向けて停車しているⅢ号戦車の姿があった。

 

「よぉーし、追い詰めたわよ!」

 

みどり子がそう言って主砲を撃とうとした時、地面が小刻みに揺れ始め、十字路の横から三色迷彩柄の巨大な物体が姿を現した。

 

「壁、門?」

 

突然現れた物体に、みどり子は首を傾げる。そして、履帯の音を立てながら、その物体の全貌が明らかになった。

 

「戦車ァ!?」

 

なんと十字路の横から現れた巨大な物体は壁でも門でもなく、戦車だったのだ!

 

「あ、あれは……Ⅷ号戦車マウスです!」

 

Ⅳ号のハッチからその姿を見た優花里が声を上げる。現れたのは超重戦車マウスがバックしながら現れたのだ。

 

「す、凄い……私、マウスが動いているところ、初めて見ました……ッ!」

 

砲塔を動かそうとするものの、建物の壁に当たってしまい、もう少し下がろうとしているマウスを見て、優花里はそう言葉を続けた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネズミ退治です!

マウスの登場に、大洗女子学園側は防戦一方に陥った。その装甲と重量の前に、大洗女子学園側の攻撃は一発も通らない。

 

「来ちゃった…マウス」

「地上最大の…超重戦車……」

 

Ⅷ号戦車マウス、第二次世界大戦中にドイツで試作された(おそらく唯一の)超重戦車。ポルシェ博士が設計を手掛け、この出来栄えにちょび髭伍長閣下がご満悦したとか言うとんでも無い戦車だ。『ドイツの科学は世界一ぃぃぃいい!!出来ぬ事はぬぁいぃぃぃい!!』を体現したとも言えるその超重戦車が目の前の現れた。

それを考えると二次大戦中に暗視装置作った末期ドイツってヤベェな……。

 

「退却してください!」 

 

その次の瞬間には、マウスが発砲。放たれた砲弾がヘッツァーの直ぐ傍を掠めていき、彼女等の死角に着弾、コンクリートの一部を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

「や~ら~れ~た~!」

 

あまりの衝撃で地面が揺れ、さらに着弾の余波でヘッツァーの車体が軽く浮き上がり、杏が叫ぶ。

 

「やられてません!」

「ただ死角に着弾しただけです!」

「どっちにしろ、凄いパワーだねぇ~…………」

 

柚子と桃にツッコミを入れられながら、杏はそう言った。

 

「このっ……デッカいからって良い気にならないでよ!こうしてやるわ!」

 

みどり子はそう叫びながら、主砲と副砲を撃つ。だが、マウスからすればそれこそ蚊に刺された程度の衝撃で。涼しい顔で砲弾を弾く。そして、仕返しとばかりに主砲を発砲してきたのだ。マウスのヤークトティーガーと同じ一二八ミリ砲弾の直撃を受けたルノーはその衝撃で引っくり返り、そのまま行動不能を示す白旗が飛び出した。

大洗チームの戦車が退却を始める中、マウスは彼女等を追いながら主砲を撃つ。後退しながら反撃を試みるが、マウスの前面装甲は二四〇ミリ。どうやっても撃ち抜けるようなものではなかった。P虎の砲撃でさえ、まるで蚊がぶつかったかのような何とも無い顔で弾いてしまう。と言うかISー3至近距離からの射撃でも撃破できない化け物みたいな戦車だ。

 

「カモさんチーム、怪我はありませんか!?」

『そど子、無事です!』

『ゴモヨ、元気です!』

『パゾ美、大丈夫でーす』

『皆、ゴメンね!』

 

武部からの通信に、カモさんチームのメンバーから返事が返される。

 

「おのれ!カモさんチームの仇!」

 

左衛門佐がそう言いながら引き金を引くもののやはり効果は無く、逆に反撃されて横倒しになり、そのまま撃破されてしまう。

 

「二輌撃破された……これで残り七輌」

 

横倒しになったⅢ突の傍を通り過ぎようとするマウスを見ながら、みほはそう呟く。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、黒森峰本隊はクリム達による行軍の妨害がされており、やっと市街地が見えてきた頃合いだった。今までに数台の戦車がやられたが、まだまだ車両自体は残っていた。

 

「二輌撃破しました」

「あと七輌……」

「こちらは十輌残っています」

「フラッグ車を潰さねば意味はない」

 

エリカの言葉にまほはそう言い返す。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「我等の…」

「歴史に…」

「今…」

「…幕が降りた」

 

白旗を上げるⅢ突の横をマウスが通りすぎる。

 

「何よ!あんな図体して何がマウスよ!?」

 

引っくり返されたルノーの中で、みどり子が叫ぶ。

 

「残念です」

「無念です」

 

みどり子に続き、ゴモヨとパゾ美もそう呟く。

 

「冷泉さん、後は頼んだわよ!約束は守るから!」

 

みどり子はタコホーンで麻子にそう叫び、それを聞いた麻子は目を輝かせた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「さすがマウス…大洗女子学園は正念場ですね」

「正念場を乗り切るのは勇猛さじゃないわ」

 

オレンジペコの言葉にダージリンさんはモニターを眺めながら静かに呟いた。

 

「冷静な計算の上にたった…捨て身の精神よ」

「はい」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃大洗チームでは、どうにかしてマウスを叩こうとメンバーは躍起になっていた。相手より機動力が高いのを駆使して逃げ回りつつ、隙が出来れば攻撃を仕掛ける。先程からその繰り返しとなっていた。

 

「何をしてるんだ、早く叩き潰せ!図体だけがデカいウスノロだぞ!」

 

ヘッツァーの七五ミリ砲弾を装填しながら、桃が叫んだ。

 

「砲身を狙ってください!」

 

みほがそんな指示を出している最中、マウスの後ろではⅢ号戦車が挑発するように蛇行運転をしていた。

 

「お前達の火力でマウスの装甲が抜けるものか~、あっはっはっはっ……」ドドドンッ!!

 

Ⅲ号戦車の車長が高笑いするものの大洗チームのマウスへの砲撃の流れ弾を喰らい、そのまま撃破を示す白旗が飛び出す。

 

「市街地で決着をつけるなら、やっぱりマウスと戦うしかない。ぐずぐずしてると主力が追いついちゃう」

 

黒森峰の本隊とマウス。その両方を相手にする前にここでマウスは倒しておかなければならない。

 

「マウスすごいですね!前も後ろもどこも抜けません!!」

「いくらなんでも反則だよっ!」

 

武部は自前で書き記していた戦車でーたと書かれたノートに目を通す。そこにはマウスについて書かれたページもあった。一回戦、サンダースとの試合が終わってから書き始めたこのノートも今では沢山のページができた。そのノートを見て思わず叫ぶ。

 

「いくら何でも大き過ぎ……こんなんじゃ戦車が乗っかりそうな戦車だよ!!」

「あっ…」

 

武部のその言葉にみほは前方のマウス、その回転する砲塔へと目をやった。

 

「ありがとう沙織さん!!」

「…へっ?」

 

その瞬間、無線が入る。

 

『ごめーん、黒森峰がそっちに向かってる。こっちの手札無くなっちゃった』

「分かりました。……ハチドリさん、今からこっちに来れますか?」

『別に行けるけど……マウス相手にこの主砲でも無理だよ?』

「分かっています。ですが、クリムさんの火力も今は必要です」

『……了解。最高速でそっちに行くわ』

 

クリムと繋いだ後、みほは無線を繋げる。

 

「カメさん、アヒルさん、少々無茶な作戦ですが今から指示通りに動いて下さい!!」

『わかりました』

『なんでもするよー!!』

 

返ってくる返事に少しだけ罪悪感も出てしまう。これからする事が危険な作戦であるのは、みほ自身が一番分かっていた。

 

「ちょっと負担をかけてしまいますが…」

『今さらなんだ!いいからさっさと言えー!!』

 

河嶋のその言葉に感謝をしつつ、みほはマウス討伐に向けての作戦を説明する。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

マンションに挟まれた狭い道路を移動しているマウスは大きな交差点に差し掛かると、一旦停車する。

 

「ははは、まさかこんな作戦とは……」

 

合流した先、クリムは苦笑してしまう。そして、方向転換したマウスを相手に残った大洗の残存戦車全てが一斉に突撃を始める。

マウスから砲撃が飛ぶか、軽々と回避し、ヘッツァーが突撃する。

 

「まさか、こんな作戦とは……」

「やるしかないよ、桃ちゃん!」

「燃えるねぇ~!」

 

桃が先ほどの自分の言葉を後悔し、柚子がそんな彼女を操縦しながら励ます。

砲身を下げ、どんどんヘッツァーは加速していき。そして……

 

ドゴォンッ!!

 

マウスの車体の下の滑り込むように車体をぶつけていた。そしてどんどん車体は深く刺さり、マウスのバランスがやや悪くなる。

 

「何だっ!?」

 

その衝撃にマウスの搭乗員が思わず驚いた声が漏れてしまう。そしてマウスの側面にM3、P虎、ISー3の三輌が砲身を向ける。

 

「撃てるモンなら……」

「撃ってみやがれ!おりゃあ!」

 

M3の重機関銃弾がスカートを叩き、八八ミリ砲と一二二ミリ砲の追撃も加わるが、その中でクリムは思わず顔が引き攣ってしまう。

 

「マジかよ、一二二ミリの至近距離でも抜けねえのかよ……」

 

しかも弱点のはずの側面で……。これにはともみ達ですらも思わず絶句してしまった。こいつがいるなら成形炸薬弾でも持ってこればよかった!!

 

「さ、さすがは側面一八〇ミリの装甲」

「砲塔に至っては二〇〇ミリもあるぞ」

「やっぱコイツ馬鹿すぎるな」

「市街地戦でしか活躍できないと言う欠点を除けばね」

 

少なくとも泥濘ではまともに走れんだろう…永久凍土でもない限りは……。

するとマウスは砲塔を真横に旋回して三輌を狙う。

 

「来た来た!」

「にげろ~!」

 

砲塔の回転が止まると同時に撤退を始め、三輌はマウスからの砲撃を回避する。

 

「アヒルさんっ!」

 

其処へ、アヒルさんチームの八九式が全速力で突進していた。

 

「さぁ行くよ!」

「「「はい!」」」

 

磯部の掛け声に、他の三人が返事を返す。

 

「「「「そぉーれっ!!」」」」

 

そして何と八九式はヘッツァーを踏み越えて、マウスの車体上面に乗り上げた。乗り上げた八九式はヌルヌルと車体上面を動き回り、横を向いたままの砲塔の隣に引っ付く。

 

「良し、ブロック完了しました!」

「了解、頑張ってなんとか踏みとどまってください。ハチドリさん!」

「はいよっ!」

 

そしてISー3もマウスの後ろを回って土手の方に移動した。

そして、マウス砲塔から車長が顔を覗かせて八九式に怒鳴り散らしていた。

 

「おい軽戦車!そこを退け!!」

「いやです、それに八九式は軽戦車じゃないし」

「中戦車だし」

 

忍に煽られ、キレた車長は砲塔を動かそうとする。

 

「くそぉ〜!振り落としてやる!!こんのぉ!」

「なんの!」

 

この状況で、マウスを止めることに成功したのだ。だがそうしている内にも、マウスの車重に加えて八九式の車体がのし掛かるヘッツァーからは、押し潰されてあちこちが壊れていくような音が鳴り響く。

 

「落盤だぁ〜……!!」

「車内ってコーティングで守られてる筈じゃあ……」

「マウスは例外なのかもねえ」

 

少なくとも一般的な戦車はこんな使い方をしない上に、コーティングはあくまでも一瞬の圧力を和らげるだけであり、断続的な圧力に耐えられる構造にはなっていなかった。

なおこの戦い方から、コーティング材の基準が厳しくなったとかなら無かったとか……。

 

 

 

 

 

土手を登り、仰角を付けたⅣ号とISー3。

 

「「後ろのスリットを狙え(ってください)!!」」

「はい」「了解!」

 

そして二輌は照準を合わせた。

 

「もう駄目だあぁーー!! 」

「もう持ちこたえられないよぉ!!」

 

ヘッツァーの中で桃と柚子が叫ぶ。

 

「根性で押せ!」

「はい!」

「気持ちはわかるけど意味ないですから!」

 

上も下もとにかく大騒ぎだ。そんな中、みほとクリムは冷静に号令を出す。

 

「「撃てっ!!」」

 

同時に五十鈴とリュミが引き金を引き、二発の砲弾がスリットに叩き込まれ、その巨体が頽れて上面から白旗が上がった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の作戦です!

砲撃はマウスのスリットに直撃…、白旗を上げさせた。

 

「「「「うおおぉおぉおおおお!!」」」」

 

観客席から歓声が上がる。そりゃそうだ、こんな大物を倒したのだから。

 

「奥さん!お嬢がやりました!!」

 

そう新三郎言い、百合も少しだけ嬉しそうに見ていた。

 

「すごい!マウスを仕留めました!!」

「私達も今度やろうかしら、マークⅥで」

 

興奮して叫ぶオレンジペコとは対照的に、ダージリンは落ち着いているような様子を見せているものの、マグカップを置いた事によって空いた右手は固く握られ、彼女も先程の光景に興奮しているのが窺えた。

 

「あっはははは!!」

「まさかあんな方法で倒すなんて……」

 

レナ達や千代が驚く中、愛里寿も驚いていた。

 

「凄い…あんな方法があるんだ……」

 

愛里寿は驚き以上に感動していた。あのマウスの倒し方、そしてそれを考えたと思われる西住みほという少女に。そして……

 

「やっぱりお姉ちゃん達が居なかったらあんな動きもできなかった……」

 

そう言い、器用に坂を登っていたISー3を見ながらそう呟いていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「マウスが……っ!?市街地へ急げ!!」

 

黒煙上がる市街地と、報告を聞いて市街地外縁に突入したエリカは仰天していた。なにせ、無敵の矛と盾を持つ戦車がやられたのだ、驚かないはずがない。

 

『黒森峰、あと三分で到着します!』

 

いよいよ、最終決戦の始まりを告げる合図だった。

 

「分かりました、みなさん。次の行動に移ってください!」

『はい!』

『ほーい』

 

みほからの指示に、他のチームから次々と返事が返される。未だにマウスの下敷きになっているカメさんチームのヘッツァーもゆっくりと後退してマウスの下から出る。

 

「カメさんチームボロボロだね……」

「うーん……でも何とか動いてますね……」

 

武部と秋山も心配する中、ヘッツァーが着地の衝撃でドスンと大きな音を立てるマウスを他所に、みほ達に続こうとしたのだが。エンジン部分から何かが派手に壊れたような大きな音を立てながら、ヘッツァーは速度を落としていく。

 

「あっ!?冷泉さん、戦車停止して下さい!」

「どうした?」

 

みほが後ろを振り向き驚くと、冷泉に即座に戦車を止める様指示する。

 

「西住殿?……あっ!ヘッツァーが!?」

「カメさんチームが……」

 

突然の事に秋山は、装填手用ハッチから顔を出すとヘッツァー完全に動きを止めてしまい。エンジンからは黒煙が上がり、遂には行動不能を示す白旗が飛び出す。

 

「ふぅ……良くやってくれたな、此処まで……」

 

先に車外に顔を出した桃が、その上面装甲を撫でながらそう呟いた。

 

「うん」

「我々の役目は、終わりだな」

 

その後、柚子と杏も出てきてそう言った。

 

「西住隊長!」

 

柚子と杏の呟きにそう返し、桃はⅣ号から降りたみほに声をかけた。

 

「すみません……」

「謝る必要無いよ!」

「良い作戦だった!」

 

申し訳なさそうに言うみほを、柚子と杏が励ます。

 

「後は、任せたよ!!」

「頼むぞ!」

「ファイト!」

「はい!」

 

最後に言った杏、桃、柚子にみほはそう返してⅣ号に乗り込み、前進の指示を出す。戦車が続々と動き出すのを見て、クリムも車両を動かすその時。杏から声がかけられる。

 

「クリムちゃん!」

「はい?」

 

聞き返すと、杏は少し大声で言う。

 

「西住ちゃんの事……任せたよ」

「……ええ、おまかせを」

 

そう言うと右手を出して親指を上げるとそのまま走り出していった。

 

 

 

 

 

「此方は六輌で、相手の戦車は十輌。戦力の差もありますが、フラッグ車は両チームでも一輌しか居ません。敵の狙いは間違いなく、私達あんこうチームです」

 

市街地戦にあたり、残存車両を確認して口を開く。

 

「相手は大軍で攻めてきますので、先ずは敵戦力の分散に努めてください」

『了解です!さぁ、敵を挑発しまくるよ!』

『『『おー!』』』

 

無線機から、アヒルさんチームのメンバーからの返事が聞こえる。

 

「それと敵を分散する際は、火力と防護力が高いヤークトティーガーやエレファントに十分注意してください」

『了解です!それと隊長、最後尾は任せてもらえますか?必ず撃破してみせます!』

「分かりました、お願いします!」

 

梓にそう返すと、今度はレオポンチームに向けて言った。

 

「あんこうは敵フラッグ車との一対一の状況を窺います。その際には、レオポンさんの協力が不可欠です!」

『了解』

『あいよ、任せといて隊長!』

『うひょー、燃えるねぇ~!』

 

そしてハチドリチームには……

 

「ハチドリさん。見えた敵は全て片付けてもらって構いません。なるべく戦力を減らしていただけるとありがたいです」

「了解…目に物言わせてやるわ」

 

黒森峰の副長が言っていた『格の違い』って奴を……。クリムは内心さぞ恨みのこもった()()笑みを浮かべながら市街地戦を想定する。

 

「麻子さん、袋小路に気を付けて相手を撹乱して下さい」

「OK」

「沙織さん、互いの位置の把握情報を密にして下さい」

「了解!」

「華さん、優花里さん、HS〇〇一七地点までは極力発砲を避けて下さい」

「「はい!」」

「それでこれより最後の作戦『ふらふら作戦』を開始します!!」

『『『『『『はい!』』』』』』』

 

こうして、最後の作戦である『ふらふら作戦』が結構された。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

現在の相手の残存車両は十輌、やっと半分まで減らしたかと思う反面。まだ半分いるかと冷や汗をかく。

 

「黒森峰居た?」

「全然」

「ねえ、これ戻った方がいいんじゃないの?」

 

本隊から離れ、自由行動中のクリム達は心配になるが。そこでクリム自身が言う。

 

「大丈夫さ。今の我々はアヒルとウサギ。レオポン、そしてうちらの三チームに別れている。特に私たちを向こうは警戒しているらしいから、精々ビビらせるわよ」

 

 

 

 

 

「麻子さん、次の角を曲がってください。其所にウサギさんチームが待機していますので、後ろのエレファントを撃破してもらいます」

「了解……」

 

麻子は小さく返事を返し、開けた交差点を左折する。

ポルシェティーガーと八九式が後に続いて左折する。黒森峰チームは右に隠れているウサギさんチームのM3の事に気にもせず左折し、大洗チームを追いかけた。そうして一行は、再び道幅の狭い路地へと舞い戻った。

 

「レオポンさん、アヒルさん。道はかなり狭いですが、あんこうが隠れる程度で蛇行してください」

『『了解!』』

 

みほの指示を受けた二チームは、狭い道で小さく蛇行運転を始める。黒森峰からではIV号の姿は見えなくなっていた。

 

「……ッ、邪魔よ!」

 

挑発するような蛇行運転に苛立ったエリカはそう怒鳴る。しかしポルシェティーガーと八九式は、煽り運転の如く蛇行を止めない。

そして、曲がり角でⅣ号は右折し、ポルシェティーガーと八九式は、そのまま直進する。

そして、その直ぐ後ろに居るエリカのティーガーⅡは、右折してⅣ号を追わせた。

 

「此方あんこう、四四八地点を右折します。レオポンは三七三地点を右折、アヒルさんは左折。その次の角を右折してください」

『了解しました』

 

武部が地図を見ながら指示を出した。そして二チームはその通りに動いた。

 

「三七三の先後三つ直進」

「はい!」

「隊長!何輌かこちらに引きつけました!挑発成功です!」

『やった!』

『ありがとうございます!そのまま敵を引きつけておいて下さい!!我々はこのまま市街地奥のHS地点まで迂回しつつ敵フラッグ車を誘い込みます!』

 

敵を何輌か引きつけたアヒルさんはみほの指示でそのまま三七三地点へ向かう。

 

「最後尾発見。あや、準備いい?」

「オッケー」

「最後尾エレファント、これより仕掛けます!」

『お願いします!』

 

待ち構えていたウサギさんチームでは、最後尾の戦車が近づいてきている事に気づいた梓が合図を送る。桂利奈は一旦M3を急発進させると、交差点への出口を塞ぐ形で躍り出る。

 

「ええっ!?」

 

いきなり現れたM3に、エレファントの車長が驚いたのも束の間。綾は即座に副砲を撃ち、正面装甲の上部分に傷をつけると、そのまま一目散に逃げ出した。

 

「こっのぉぉーー!!」

 

完全に喧嘩を売られたエレファントの車長はそう呟きながら、操縦手にM3を追わせる。挑発するように蛇行するM3にて、あやはそう言いながら再び発砲する。放たれた砲弾はエレファントの直ぐ横を掠めていき、お返しとばかりに八八ミリ砲が火を吹き、砲弾はM3の上を掠めて近くの電柱を粉々に吹っ飛ばす。

 

「怒ってる怒ってる!」

 

電柱を粉砕する音が響き、あゆみがそんな感想を溢す。

 

「桂利奈ちゃん、この次を右折ね!」

「あい!」

「その次も次も次も右折!」

「あいあいあーい!」

 

優季から立て続けに出される指示に、桂利奈も連続で返事を返す。

 

「昨日、徹夜で考えた作戦を実行する時が来たよ!名付けて……」

「「「「「「戦略大作戦!!」」」」」」

 

そんなやり取りを交わしながら、M3はエレファントを上回る機動力を活かして路地を走り回り、終いにはエレファントの真後ろに回り込んでいた。

 

「回り込まれた!超信地旋回!」

 

回り込まれた事に気づいたエレファントの車長が叫び、操縦手は大急ぎで方向転換させようとするものの、先述の通り、エレファントは巨大な戦車だ。路地を走り回るのがやっとの状態で方向転換など出来る筈も無く、車体前部の右側と後部の左側がコンクリートの壁にぶつかり、全く身動きが取れなくなっていた。

 

「固すぎる……ッ!」

「ゼロ距離で倒せないなんて、もう無理じゃない……ん?」

 

正面も無理、背後からでも無理な状況に諦めかけていた時、一人、ポンポンと大野の肩を叩く者が居た。これまで何1つとして言葉を発しなかった少女、丸山紗希だった。

 

「薬莢、捨てる所……」

 

小さな声で、紗希はエレファントの背面装甲中心部にある薬莢投棄用のハッチを指差した。

 

「すごい!紗希ちゃん天才!」

 

それは考え付かなかったとばかりに、あやが声を上げた。

 

「よぉーし、せーので撃とう!」

「わかった」

 

あやとあゆみはそう打ち合わせをして、二つの砲口をハッチに向ける。

 

「「「「「「せぇ~のぉ~でっ!!!」」」」」」

 

そして、同時に放たれた砲弾は狙い通りに命中し、エレファントはハッチから黒煙を上げ、次の瞬間には撃破を示す白旗が飛び出した。

 

『此方エレファントすみません!M3にやられました……』

「なっ!?何やってんのよ!!」

『すいません!』

 

エレファント撃破を確認し、次の戦車を撃破せんとばかりにM3がその場を後にした頃、黒森峰本隊には、エレファントの車長からの戦況報告のための通信が入っていた。あの重戦車が何回りも小さく、火力も防護力も格下な戦車にやられるとは思わなかったのか、エリカが声を荒くして叫ぶ。他の戦車の乗員からも、予想外の事態に慌て出すような声が次々に上がる。

 

「フラッグ車だけを狙え!」

 

自らの視線の先で逃げ回るⅣ号の背面装甲を睨みながら、まほは無線機に向かって叫んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉妹対決です!

「みぽりん!アヒルさんチームの所にティーガーⅡ一輌、パンター二輌、ラング一輌、計四輌が来てるって!」

「我々の後ろには六輌ですね……」

「うん……そのうちエレファントはウサギさんチームが引きつけてる……沙織さん!アヒルさんチームの現在地は!?」

 

みほが沙織にアヒルさんチームの現在地を確認をとる、

 

「えっとーーー四輌を引きつけながらIB〇三〇一地点を右折!完全にこちらから四輌を引き離したよ!」

「アヒルさんチームの撹乱が完全に成功ですねっ!」

「うん!」

「あとはこちらがHS地点までうまく引きつけられれば……」

 

こうして、黒森峰の主力を分散させ相手を撹乱させる作戦に出る。

 

「レオポンさん、現在地を教えて下さい!」

『ただ今、NH0302地点を通過!HS0017地点まであと十五分くらいかなー?』

「了解しました!」

 

みほは、無線で自動車部チームの現在地を確認し、ナカジマは目的地までのどのくらいかを伝えた。

 

「みぽりん!ウサギさんチームがヤークトティーガーに仕掛けたって!」

「M3が……ヤークトティーガーに……火力だけならマウスの……」

 

あんこうチーム皆、M3がヤークトティーガーと交戦していると聞いて、表情が険しくなった。

 

「先を急ぎましょう……」

「うん……」

 

みほ達は、その不安を抑えて目的地へと向かう。

 

 

 

 

 

一方、まほの援護に向かっていたエリカ達は今、乱入してきた八九式とのカーチェイスならぬタンクチェイスの真っ只中にいた。

八九式の主砲の威力は、今居る黒森峰の戦車からすれば豆鉄砲にしかならないが、それでも執拗に撃ちまくる。

 

「挑発に乗るな、落ち着け!」

 

エリカは仲間の乗員に向かって言うが、八九式はエリカの乗るティーガーⅡの側面に体当たりを仕掛け、2輌の間で火花が散る。

 

「こんのォォ~~ッ!!八九式の癖にィィィッ!!」

 

体当たりを仕掛けてきた八九式に大人気なく怒り、そのまま押し返そうとするもののアッサリと避けられたエリカのティーガーⅡは、八九式を挟んで走っていたパンターにぶつかる。そうしている内にも、八九式はエリカ達の列から出て短い坂を上ると、そのまま並走しながら主砲を撃つ。他の戦車は反撃するものの、八九式は急ブレーキで軽々と避け、さらに急加速して引き離していく。

 

「やーいやーい!」

「待ァてェェェェエエエエエッ!!」

 

聞こえない筈のやり取りを交わしながら、八九式vs黒森峰戦車隊のタンクチェイスは続いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「撃て!」

 

その頃、ウサギさんチームはヤークトティーガーに遭遇し、背後に回り込んで攻撃を仕掛けていた。放たれた二発の砲弾は戦闘室の背面に着弾し、ヤークトティーガーは、そのまま加速して距離を取ろうとする。

 

「逃げたぞ!」

「追えぇ!!」

 

それを追おうと、桂利奈はM3の速度を一気に上げ、その頃には、ヤークトティーガーは交差点を右折して姿を消した。

 

「!?停止ッ!!」

「っ!?うぬぬぅぅううっ!!」

 

逃げるヤークトティーガーを追いかけるウサギさんチームだが、曲がり角の手前で何かに気付いた澤の声に阪口が慌てて急ブレーキをかけた。M3リーはギリギリの所で停車、その前面装甲をヤークトティーガーの砲撃がかすめる。待ち伏せが失敗したヤークトティーガーだが、そのままM3に追撃するべく動き出す。

こうなると攻守は完全に逆転し、狭い路地で逃げ場の無いウサギさんチームは後退しながらヤークトティーガーの砲身を向けられる事になる。

 

「ちょっと!一二八ミリ超怖いんですけど!!」

「桂利奈ちゃん、そこまでまっすぐバックね」

「でもどうするこれ!?」

 

自身に向かってくるヤークトティーガーの砲身に車内は大慌て、狭い路地で今度はこっちの逃げ場が無くなった。

 

「あっ!そうだ!くっつけば良いんだ!!」

「すご〜い桂利奈ちゃん!頭いい!」

 

とりあえず、こちらからヤークトティーガーに接近する事で砲身の内側へと潜り込む。こうなるとヤークト側も砲撃を撃つ事が出来ない。

 

「あっ!離れていくよ!!」

「させるかぁ!!」

「今度は押されてる!!」

「一年ナメんなっ!!」

「ナメんなっ!!」

 

そう言いそれぞれの砲を撃つと相手がキレたのか踏み潰す勢いでM3に体当たりする。

 

「おっわ!怖いー!」

 

ヤークトティーガーが離れれば追いかけ、逆にこちらに向かってくれば速度を調整し、二両はそのまま進んでいく。

 

「この後ろ、ちょっとヤバイかもぉ」

「何が!」

 

地図を見ていた宇津木はこの先には道が無い。川…といっても水は無いので、このまま進めばそこに落ちる事になる。

 

「ヤークトを西住隊長の所に向かわせる訳にはいかない」

 

それは作戦会議時にも聞かされた、大洗が勝利する為の作戦における重要なポイント。高火力を持つヤークトティーガーが西住達あんこうチームの所へ向かって猛威を振るえば、その作戦が成功する事はないだろう。

 

「ここでやっつけよう!!」

「わかった、うっちゃるのね」

「どうやって!?」

 

もうそろそろこの路地を抜ける、それならーーー。

 

「合図で左に曲がって!一か八かだけど!!」

 

梓は後方を確認し、冷静に、タイミングを計りながらその瞬間を狙う。

 

「はいっ!!桂利奈ちゃん今よっ!」

「おっしゃあー!!」

 

その合図と共にM3は一気にヤークトティーガーから離脱。だがその隙を見逃すはずもなく、ヤークトの砲撃はM3に直撃し、転がりながら白旗が上がった。

だが、ヤークトティーガーはその勢いのままガードレールをぶち破り、砲身から落下。ヤークトからも白旗が上がる。ウサギさんチームは自らがヤークトティーガーにやられるのと引き換えに、ヤークトティーガー撃破を成し遂げた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「すいません、ウサギチームやられました…ごめんなさい」

 

リタイアが決まったウサギチームが最後の報告をいれる。

 

「先輩達、あとはよろしくお願いします!!」

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

と生き残ったチームに後を託すと伝えると、沙織が無線でウサギさんチームの安否を確認する。

 

「みんな、けがしてない!?」

『梓、大丈夫です!』

『あや、元気で〜す』

『優希、無事でぇ〜す』

『桂利奈、絶好!』

『あゆみも平気です!紗希も大丈夫って言っています』

 

無線の奥から聞こえて来る一年生達の元気な声に沙織はほっとしていた。

 

「ウサギチームやられたって……」

「みんな……」

「でもヤークトティーガーも用水路に落ちて自爆したって」

「す、凄い!M3大健闘ですね!」

「後続の敵は八輌……」

「あとは我々がフラッグ車を倒すだけです!」

「はいっ!」

 

みほ達は、そう言って目的地の場へと向かって行く。

 

 

 

 

 

同じ頃、ウサギチームにクリムが無線を繋いでいた。

 

『全員無事かい?』

「はい、大丈夫です」

『それなら良かった……』

「すみません、エレファントとヤークトティーガーは撃破したんですが、ヤークトティーガーとやってた時に。その……』

『…相打ち?』

「はい……すみませんクリム先輩」

『いや、誇るべき戦果だ。重駆逐戦車を纏めて仕留めてくれたのは有り難い。……お陰でこっちも闘いやすくなった』

 

そう言い、無線を切ろうとした時。梓が言う。

 

「クリム先輩、西住先輩の事をよろしくお願いします」

『ええ、存分に食い散らかしてあげるわ』

 

そう言うとクリムは無線を切った。

 

「クリム、もう直ぐ〇〇一七地点よ」

「そのまま隠れて待機。レオポンチームがやられたら次はうちらの出番よ」

「了解」

「淀、装填よろしく」

「任されて。今日の為に仕上げてきたぞ」

「接近戦になる。ともみも頼むわよ」

「オッケー」

 

そして、クリム達はその時が来るまで静かに息を殺して待っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

その頃、まほの駆るティーガーとのタンクチェイスをしていたみほ達あんこうチームは、最後の行動に出ようとしていた。

 

「まもなくHS地点!レオポンさん、今何処に居ますか!?」

『此方レオポン。HS入りました」

「〇〇一七に移動してください!」

『はーい』

 

ナカジマがそう返事を返すと、ツチヤはP虎の速度を上げて土手を上りきり、みほに指示された場所へと移動した。そして、Ⅳ号とティーガーが建物の入り口に入った瞬間、ツチヤは方向転換させていたP虎で入り口を塞ぎ、まほの援護をしようとしていたのであろう他の黒森峰戦車の前に立ちはだかった。

 

「ここから先は行かせないよ!」

 

ホシノはそう言いながら、装填を終えたP虎の主砲の引き金を引くのであった。

レオポンチームが入り口を塞いでいる間、その建物の中央広場と思わしき場所へとやって来た姉妹は、各々の愛車のキューポラから上半身を乗り出し、互いの敵を見据えた。今此処で、西住姉妹による壮絶な一騎討ちが行われようとしているのだ。

 

「西住流に逃げると言う道は無い。こうなったら、此処で決着をつけるしか無いな」

 

「……」

 

黒森峰チーム隊長として……西住流次期師範としての威厳を持って言う姉に、みほは威圧されるような気分に襲われるものの、決心を固めて言い返した。

 

「……受けてたちます」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、みほとまほの一騎討ちを邪魔させないために入り口を塞いだレオポンチームは、まほの援護に回ろうとしていた六輌の黒森峰戦車との砲撃戦を繰り広げていた。既に黒森峰側には、P虎に当たらなかった砲弾が一輌のパンターG型に命中して行動不能になると言う損害が出ていた。

 

「ほい、次はラングね~」

 

全く緊張感を感じさせないナカジマの指示で、ホシノはその引き金を引く放たれた砲弾はラングの正面装甲に直撃し、撃破にはならなかったものの、大きく退けた。

 

「何やってんのよ!失敗兵器相手に!?隊長、我々が行くまで待っていて下さい!!」

 

P虎は『ティーガーになれなかった』戦車。それを知っているエリカからすれば、たった一輌のポンコツ戦車に完全な戦車が苦戦させられていると思ってしまうのだろう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

再び視点を移し、中央広場。其所では、両チームの隊長が睨み合っていた。外の喧騒とは全く逆の光景が広がる。そして、先にⅣ号が動き出した事から、西住家での姉妹バトルが始まった。

 

「麻子さん、左回りに旋回!」

 

中央の銅像らしいものの周りを一周して、建物同士の間の道を走り回る。とある角を右折すると、当然ながら、まほの駆るティーガーも右折して追いかけてくる。

 

「麻子さん、出来る限りコーナーを使って回り道をして下さいっ!ティーガーの正面に車体を晒さないで!」

「なかなか難しい注文だな」

「冷泉殿さすがです!ティーガーの射界を避けてます!」

「何とか麻子さんのおかげで敵の攻撃のタイミングをそらしてはいる、けど……」

 

まほのティーガーは重戦車でその重量は五七トンもあるが、時速三八キロ。一方みほ達あんこうチームⅣ号は重量二五トン、時速38キロとより軽量のⅣ号と機動力において互角なのだ。麻子の操縦技術がなければ逃げ切れない。

 

「お姉ちゃんがこのままの状況にしておくはずがない……」

 

両者共に発砲しないと言う状況のまま、彼女等は建物の間の道を走り回った四号の進路方向を予想してまほが榴弾を発射した、道が瓦礫によって塞がれしまう。

 

「榴弾……止まって!」

「瓦礫で道が塞がれてます!」

「後退して下さい!」

 

その直後に戦車の駆動音が聞こえてくる。まほが近づいてる!このままだと逃げ場はないと思った。

 

「全速後退っ!!」

 

みほの指示は間一髪だった。相手の砲塔とみほの戦車がほぼ同時にぶつかり、ぎりぎりのところで射線から外れる。

 

「麻子さん右に退避!速度全速!」

「了解!」

「危なかったー!」

「八.八センチ砲を至近で受けたらひとたまりも」

 

そこからは互いに攻め、攻められの攻防になった。互いに距離をとり、すきあらば撃ちこむ、そんなやりとりを繰り返す。

 

「いよいよ敵が攻めてきた!」

「華さん!少しでもかまいません。相手に撃ち返して下さい!」

「え?」

「西住流は攻める事に真髄を置いた流派です!攻撃に移れば一気呵成に来ます!相手の攻撃に呑まれないで!」

「はい!」

 

みほから攻撃指示をうけ華は、Ⅳ号の砲塔を後ろに旋回させる。

 

「撃てっ!!」

 

こちらも反撃する。相手の砲撃は直撃はしていないけど、それもギリギリのところで躱せているか直撃しなくてもシュルツェンを剥がされるだけで、いつまでもこの状態が続くとは思えなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白い皇帝です!

その頃、ティーガーⅡやパンターとのタンクチェイスを繰り広げているアヒルさんチームだがそろそろ限界が近づいてきていた。たとえ相手に当てても撃破には至らないと分かっていたため、ただの挑発として使っていた砲弾が残り少なくなってきたのだ。

 

「くっ!砲弾が少ない……こうなったら兎に角挑発だ!連続アターック!」

 

典子の指示で、あけびが大急ぎで砲塔を進行方向に向け、さらに砲塔後部にある機銃を乱射する。だが、当の軍団は豆鉄砲とばかりに何とも無い顔で向かってくる。

 

「くそーッ!」

「もっと火力があれば……ッ!」

 

典子とあけびがそう言った、次の瞬間!ティーガーⅡから放たれた八八ミリ砲弾が、八九式のエンジングリルに直撃。至近距離での直撃を受けた八九式は、エンジンから黒煙を上げ、地面に車体のあちこちを派手にぶつけながら吹っ飛ばされると、そのまま車体の右側面を地面に擦りながら滑り、電柱に激突して動きを止める。

 

「うぅ……此処までか」

《大洗女子学園、八九式。走行不能!》

 

典子がそう呟いたのと同時に、無情にも蝶野教官のアナウンスがアヒルチームの撃破を告げる。白旗を上げた八九式。黒森峰を引き付けていたが、さすがに逃げ回り続けるのも限界であり、砲撃が直撃した。

 

 

 

 

 

「よし!これで三輌目」

 

その頃、エリカ達の足止めをしているレオポンチームにも、そろそろ限界が近づいてきていた。

 

「うっ…まぁ、ダメか……」

 

次第に当たり始める砲撃により、左履帯の転輪が粉々に吹き飛ばされ、砲弾を弾いた際の傷や地面に着弾した際の煤で、ジャーマングレーの装甲が黒っぽく汚れる。レオポンチームのエンブレムも、傷で消えかかっており、エンジン部分からも火が出ている。

そんなレオポンチームに、エリカ達の容赦無い砲撃が雨霰と降り注ぐ。撃破されずに残っているラングやパンター、ヤークトパンター、そしてエリカの乗るティーガーⅡの主砲が次々に火を噴き、P虎に当たっていく。そして、最後に1発撃った直後、砲塔の装甲に何発もの砲弾が直撃し、遂には爆発を起こして黒煙を上げる。その後、行動不能を示す白旗が飛び出した。

 

《大洗女子学園、ポルシェティーガー。走行不能!》

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーポルシェティーガーの撃破確認。八九式も同じく」

「そうか……」

 

車長用キャノピーを開けながらクリムは答える。

 

「さて…我々の出番ですな……」

 

そう言い、少し伸びをしてクリムは改めて視界に収まる獣の名を冠した戦車を眺めた。

 

 

 

 

 

「突撃!中央広場へ急げ!」

 

P虎を撃破したエリカ達一行は、そのまま中央広場へ行こうとしていた。

しかし中央広場への入り口は、たった今撃破されたP虎が塞いでいる場所の1つしか無い

 

『副隊長!ポルシェティーガーが邪魔で通れません!』

「あーもう!回収車、急いで!」

「「ゆっくりで良いよ~」」

 

声を荒げるエリカの声が聞こえていたのか、ナカジマとホシノが声をハモらせて言った。

 

「くっ!こうしている間にも、隊長が……!」

 

そして、後続隊が合流した。

 

「副隊長!遅れました!」

「いいえ、速いも遅いも隊長合流するのは無理だわ……」

 

エリカはため息を吐き、横でハッチから赤星が顔を覗かせる。

 

「(今やったのはポルシェティーガーと八九式……大洗の車両は九両だから……)っ!エリカ副長!ISー3は今どこに!?」

「っ!!」

 

その瞬間、P虎のキャノピーが開き。ナカジマが顔を出した。

 

「やぁ、凄かったね。お二人さん」

「……あんたがポルシェティーガーの車長ね。随分と手こずらせてくれたわね」

「お褒めの言葉として受け取っておくよ。……まぁ、本当のお楽しみはこれからさ」

「何を……」

 

するとナカジマは無線に手を当てて確認する。

 

「あー、もしもし?全員集まっているよ。……うん、分かった」

 

そう言うとナカジマはキャノピーを閉じ始める。

 

「じゃあね、お二人も顔を出していると危ないよ」

 

そう言ってキャノピーを閉じた瞬間。エリカ達が反応する前に横にいたヤークトパンターとパンターが同時に撃破された。

 

「何っ!?」

 

咄嗟に砲声のした方を向くと、そこには一輌のISー3が街道に佇んでいた。ただ佇んでいるだけなのにこの威圧感。まさに皇帝の名に相応しかった。車体はソ連戦車特有の深緑色。しかし、砲塔横に白く描かれた『666』の番号は戦車道界隈では不吉な数字の象徴であった。

悪魔の数字を冠するその戦車の砲口からはやや煙が溢れていた。

 

「一撃で二輌を!?」

 

その光景を見ていたエリカは驚愕し、観客も同様であった。しかし、レナや彼女を知っている者達はさほど驚いている様子はなかった。

 

「パンターの砲塔側面に直撃させてのショットトラップ」

「……流石は我が妹」

「世界一の砲手だ」

 

そう言い、三姉妹は嬉しそうに呟く。放たれた砲弾はパンターの傾斜した砲塔に弾かれ、そのままヤークトパンターを側面から叩いていた。

 

戦車道の白旗判定は中の基盤が反応するまで。つまり、反応するようなほどの衝撃を与えれば撃破判定を貰えるという、半ば抜け道に近い事をやってのけた。

 

「っ!!旋回!それと砲撃!!急げ!!」

 

エリカは怒鳴って、慌てて旋回と砲撃を始める。ティーガーⅡの八八ミリ砲やパンターの七五ミリ砲が殺到する。まるで待ってやるよ言わんばかりにISー3は砲撃もしていなかった。一瞬の煙が晴れた後、思わず絶句する。

 

「そんな……効いていない……!?」

「ふんっ、そんな豆鉄砲でISー3の装甲が抜けるかよ!!」

 

ISー3の装甲は最大で二二〇ミリ、車体前面も一一〇ミリ。おまけにきつい傾斜装甲のおかげで第三次中東戦争ではM48パットンの九〇ミリ砲ですら弾き返していた。戦後戦車でも敵わない装甲に八八ミリやパンターの七五ミリ砲が効くわけがなかった。

 

この試合最大の懸念事項であったヤークトティーガーとマウスを撃破してくれたのはまさに暁光であった。一二八ミリ砲を搭載するかの戦車はこちらを撃破する術を持っており、大変危険であった。しかし今はその二つとも撃破され、こうなった以上、クリム達に恐れるものなど何一つなかった。

 

おまけに今はエリカ達に対して真正面という一番防御力の高い体勢を取っていた。お陰でティーガーⅡの主砲ですら弾くこと弾くこと。

 

「こんのぉ……!!一輌だけでいい!!先に隊長の元に行きさなさい!!」

 

至近距離からの射撃だと言うのにその尽くが弾かれる。その事にエリカの頭に血が昇っていた。その様子を見ていたナカジマ達は……

 

「うわぁ…これは酷い……」

「凄い、至近距離の八八ミリ砲を弾いているよ!」

「こりゃ、向こうが警戒するわけだ……」

 

そう呟き、半分一方的な試合とかしている事にやや同情の念が生まれていた。これこそがまさに王者の戦いと言うべきなのだろう。相手は一切動かず、まるで獲物を選ぶかの如く砲塔を短く回す。

 

「Огонь!」

 

その瞬間、装填の終わった一二二ミリ砲が指向し、パンターが至近距離からの砲撃で一方的に撃破される。皇帝の指揮の元動く近衛兵のように……。

 

「パンター撃破確認!」

「横!ティーガーⅡが側面を狙っている!前進!」

 

接近してきたパンターに対し、クリムは指示を出す。

 

「スモーク!全弾撃ち尽くせ!!」

 

その瞬間、試合前に取り付けられた発煙弾発射機が全て作動し、周囲に真緑のスモークが炊かれる。白いスモークではないのかと同時にエリカは疑問に思う。

 

「煙幕?!こんな至近距離で!?」

 

意味のない事を……むしろ向こうの視界が削がれてやられるだけではないか。

 

「馬鹿め……」

 

この隙に回り込んで撃破してやる。

そう意気込んでエリカは車体を回し、残ったティーガーⅡと共に動き始める。このまま回り込んで挟撃すれば……

 

「うわぁっっ!?」

 

その時、突如エリカの乗る車体全体に大きな衝撃が走る。

 

「何が起こったの!?」

「み、味方とぶつかりました!!」

「味方と……?」

 

ペリスコープの先、そこには挟撃する為に同じく移動したティーガーⅡの姿が。

 

「っ!?しまった!!」

 

煙幕を至近距離で炊いたのは何かしらの残骸にぶつかったときに、そこを目印に射撃をする為……!!

そして緑のスモークを展開したのは……

 

 

 

 

 

車体と似たような色を撒いて、車体の影すら見させない為……。

 

 

 

 

 

「各車散開!!急いで」

 

しかしその瞬間、目の前にいたティーガーⅡが真横から砲撃をモロに喰らってその反動で車体が横転してしまっていた。それほどの高威力、爆風が出る至近距離での砲撃。一瞬見えたマズルブレーキは直ぐに緑の煙の中に消える。

 

「っ!?」

 

咄嗟に砲撃を指示しようとした瞬間。

 

『ーーチェックメイト』

 

そう聞こえた気がした瞬間、煙幕の中から一本のマズルブレーキ付きの砲身がエリカの乗るティーガーⅡの真横を取っていた。

 

撃発。

 

放たれた一二二ミリ砲のゼロ距離射撃はティーガーⅡを大きく揺さぶり、白旗が挙げられた。

 

 

 

 

 

煙幕が晴れると……そこには無数の鉄獣の残骸と、そこに佇む一輌の獣殺しが立っていた。

その光景はまるで、皇帝が敵将の首を討ち取り、それを戦場の真ん中で掲げて勝利を宣言しているようだった。

 

 

 

 

 

その圧倒的なまでの戦い振りと結果に、誰もが唖然となってしまっていた。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大会終了です!!

みほ達はまほと一騎打ちをしていた。

 

「冷泉さん、左へ!」

「了解!」

「次弾装填!」

「砲塔右に旋回!」

「次撃ちます」

 

ティーガーとⅣ号は建物を両側を挟む形で走行しながら、建物の脇道に差し掛かると、お互いに同時発射をする。

 

「次弾装填!」

「撃てっ!」

 

脇道に差し掛かっては砲撃を繰り返していた。

 

「次弾装填」

「麻子さん、ブレーキ!……くっ!全速っ!」

 

どちらかが片方を呑み込みかねないほどの砲撃戦!どちらも絶対に退けない意地の張りだった。まさに一進一退の攻防、細いロープを渡るかの様な意地の張り合いだった。そして両者共に最初の広場に戻って来た。

 

『あー、こちらハチドリ』

 

ちょうど無線が繋がる。

 

『こっちは全て片付けたわ。ただ、戦闘中に一台だけそっちに行ったわ。気をつけて』

「分かりました」

 

時間はない。ここで決めるしか……

 

「この一撃は、皆の思いを込めた一撃……ッ!」

 

スコープを覗いた華が、そう呟く。

 

「前進!」

 

そして、みほの指示と共に、操縦手の麻子はⅣ号を急発進させ、銅像の周囲を走らせる。そう。彼女等はグロリアーナとの試合で、ダージリンのチャーチルを仕留めようとした時と同じやり方で決着を着けようとしているのだ。

みほの考えている事を察したのか、まほはティーガーⅠの操縦手に指示を出し、背後を取らせないように超信地旋回させる。

 

「グロリアーナでは失敗したけど、今度は必ず……ッ!」

 

超信旋回によって八八ミリ砲の砲口を此方へと向けるティーガーⅠを睨みながら、みほはそう呟く。そして、麻子の操作でⅣ号が横滑りを始めた時……

 

「撃て!」

 

その指示を受け、五十鈴は七五ミリ砲弾をティーガーの車体前部の左側に叩き込む。

 

「撃て!」 

 

それに続いてまほも指示を出し、放たれた八八ミリ砲弾は残されていた砲塔左側のシュルツェンを吹き飛ばす。そして、横滑りしたままティーガーの背後を取ろうとするⅣ号の履帯と地面との接地部からは火花が飛び散り、挙げ句には右の履帯が千切れ飛び、案内輪も幾つか外れて飛んでいく。超信地旋回では追い付かないと悟ったまほは今度は砲手に指示を出して砲塔を後ろへと回させる。

そして、Ⅳ号がティーガーの背後を取り、エンジングリルに砲口を突き付け、まほのティーガーがⅣ号の車体前部の装甲へ砲口を突き付けた直後、両者共に発砲。爆発音が響き渡ると共に、辺りを黒煙が包み込む。

そして、その黒煙が晴れようとしている中、ジリジリと何かが焼けるような焼けるような音が聞こえ始める。黒煙が完全に晴れると、被弾部から発火しているⅣ号とティーガーの姿が鮮明に映る。

結果を見る勇気が無いのか、みほがキューポラに顔の半分を引っ込めている中、対照的に上半身を乗り出しているまほは暫くの沈黙の後、その目を閉じた。みほが車外に身を乗り出すと、ティーガーの車体後部から白旗が出ているのが見えた。

 

『黒森峰女学園フラッグ車、行動不能。よって……

 

 

 

大洗女子学園の勝利!』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「凄い………凄いよみぽりん!勝ったよ私達!」

 

沙織がみほに抱きつくが、当の本人は未だに唖然としていた

 

「か、勝ったの……?」

「ええ!勝ったんですよ、西住殿!」

「そうですよ、みほさん!」

「ん……勝った」

 

そんなみほに、秋山、五十鈴、冷泉が順に声を掛け。段々とみほの表情に喜びの色が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

撃破された他のチームメンバーは、初めの待機場所に居た。全員、今回の優勝に、興奮の色を隠せない様子である。

 

素人集団の寄せ集めの自分達が全国大会に出場し、戦力が相手より遥かに少ないと言う大きなハンデを抱えながらも数々の強豪校を打ち破り、優勝の座にまで上り詰めたのだ。まさに奇跡とも言えるだろう

そんな彼女等の元へ、Ⅳ号を引っ張ってくる回収車が姿を現す。

 

「あ!帰ってきた!」

 

気づいた典子が走り出し、他のメンバーもその後に続き、回収車の停車と共に動きを止めるⅣ号の周りに集まってくる。

 

「この戦車でティーガーを……」

「ええ」

「お疲れさまでした」

 

Ⅳ号戦車でティーガーを撃破した事をしみじみと思い出す優花里に華が言うと、沙織がⅣ号へと労いの言葉を投げ掛ける。

 

「西住!」

 

桃から声が掛けられる。

振り向くと、微笑みながら見ている杏と、泣き出す一歩手前状態な柚子、何とか感情を堪えている桃が立っていた。

 

「西住…この度のお前達の活躍においては、何て言えば良いのか分からん……でも、本当に……本当に……あ、ありが……うわぁぁぁあああああっ!!!」

 

桃は火がついたように泣き出す。

 

「もぉ~、桃ちゃんってば、泣きすぎだよぉ…」

 

柚子は涙を浮かべながらも、大泣きする桃の目から溢れ出る涙をハンカチで拭った。

それまで何も言わなかった杏が、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「西住ちゃん…これで学校、廃校にならずに済むよ……」

「はい」

 

そう言う杏に、みほは返事を返す。

 

「私達の学校、守れたよ!」

「……はい!」

 

その言葉に、みほは、より一層大きな声での返事を返す。杏は小柄な体を力の限り跳び跳ねさせ、みほへと抱きついた。

 

「ありがとね…本当に……ッ!」

「いえ……私の方こそ、ありがとうございました」

 

礼を言ってくる杏にそう言って、みほは抱き返す。

 

「……あれ?IS-3は?」

 

エルヴィンの言葉に全員がハッとなると、大洗チームの前にその戦車は現れた。堂々と佇み、車体の至る所の塗装が少し剥げている上に前面の色々な部分に傷跡があった。レオパンチーム曰くすごい戦闘だと聞いていたが、そんなことを微塵を感じさせないような様子だった。

そしてクリム達が降りてきた。

 

「ふぃ〜、終わった終わった……」

 

そう言い、四人が降りるとクリムはみほに言う。

 

「おめでとう、みほさん」

「はい……」

 

すると、みほはまほから声をかけられる。

 

「みほ……」

「お姉ちゃん!」

 

するとみほは駆け寄り、まほは彼女を見ながら今日の健闘を褒めた。

 

「よくやったな…」

「お姉ちゃん……私、ようやく見つけた気がする」

「?」

「私の戦車道!」

 

そう言うと、一瞬驚くもまほは少しだけ微笑んで離れていくみほを見ていた。

 

 

 

 

 

「これが、貴女達の優勝旗です」

 

舞台の上にて、みほは一人の女性から優勝旗を渡される。意外にも重いのか、若干よろけながらもクリムに近づく。

 

「掲げないの?」

「クリムさんも持つんだよ?」

「…何で?」

「なんでも何も……」

 

どうやら断る事も出来なさそうな為、半分のところを持つ。

 

《優勝、大洗女子学園!!》

 

観客席からは大歓声が響いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

大洗女子学園の奇跡の勝利から数時間後。

 

「お疲れ様」

「「姉さん!!」」

 

会場の中、クリム達は駆け寄る。先にいたのはレナ達三姉妹であった。二人が集まり、五姉妹という大御所が久しぶりに集まった。

 

「頑張ったわね」

「ありがとう」

 

そう言うとレナがクリムの頭を軽く叩いていた。数年前まではごく一般的だった光景だ。懐かしさを感じるとヴォルカが携帯を差し出す。

 

「母さんから電話よ」

「……」

 

一瞬息を呑んでしまうが、クリムは携帯を受け取ると口を開いた。

 

「……もしもし?」

 

帰ってきたのは優しめな声色の女性の声だった。スピーカーにされた携帯から声が聞こえる。

 

『お疲れさま。クリム、リュミ』

 

相手はここにいる五姉妹を産んだ自分たちの母親、マイカ・オノ・オスキンであった。

 

『試合はこちらでも見ていたわ。素晴らしい活躍だったわ』

「有難うございます」

『二人の活躍を見れて。私も満足です……あと、それから。』

 

そう言うと母は誰かに確認を取ったのか一瞬間を置いた後に言う。

 

『彼女も、嬉しそうにしているわ……久しぶりに話してあげなさい』

 

そう言うと、携帯が誰かに渡され、次に聞こえてきた言葉に一瞬クリム達はギョッとなった。

 

『ーー久しぶり。クリム、リュミ』

 

その声の主はユリヤだった。ユリアも見ていたのかと驚いてしまう二人だったが、それ以上に恐怖があった。自分達のせいで戦車道が出来なくなったというのに、勝手に始めてしまった事に……。

クリム達は無意識に緊張してしまうが、ユリヤはその心の中から湧き上がる喜びを抑えるように言った。

 

『二人ともよく頑張っていたわね。私も、二人の活躍が見れて嬉しいわ』

「「っ!!」」

『お帰りなさい……我らが小さな皇帝さん』

 

そう言われ、一瞬だけクリム達は涙が溢れそうになってしまうがグッと堪えてクリムたちは頷いた。それを感じ取ったかはわからないが、ユリヤも満足したのか携帯を返そうとしたが、そこでリュミが言う。

 

「ユリヤ……近く、そっちに帰るね」

『分かりました。お待ちしています』

 

そう言うと電話が切れ、クリム達は携帯をヴォルカに返す。すると、姉達は満足したようでクリム達に聞く。

 

「この後、どうするの?」

「そうだね……取り敢えず私達はこのまま大洗の学園艦に戻る為に準備しないとだから……」

「お姉ちゃん達は、どうするの?」

 

リュミがそう聞くと、レナが答える。

 

「取り敢えず高校生大会の試合も終わったし、もう少ししたら帰ろうと思っているわ」

「まあ、でも。母さんから『二人の様子を見て来い』って言われているし」

「だからちょっとだけ大洗の学園艦にお邪魔するつもりよ」

 

三姉妹はそれぞれそう答えると、クリム達は頷いた。

 

「あっ、そうなんだ。ふーん……ん?」

 

リュミが違和感に気づくと、クリムが聞き返す。

 

「あれ?なんか最後おかしなこと言わなかった?」

 

そう聞くとレナ達はさも当然の如く答える。

 

「当たり前じゃん。せっかく日本に来たんだから、ついでに二人が不便してないかを見るのよ」

「それに、あの大洗の生徒会長から。宿を用意してあげるから数日だけ教官して欲しいって言われているしね」

「まぁ、私たち的にはクリム達の部屋に泊まれれば万々歳だったけど……」

「「ちょっと待って!?」」

 

まさかの話にクリム達は思わず驚いた声を上げてしまう。今このシスコン姉妹はなんて言った?え?泊まるだぁ?!

 

「「(会長…謀ったな!会長!!)」」

 

空耳だが高笑いの声が聞こえてくる気がするあの干し芋生徒会長にクリム達は俄然怒りが湧いてきていた。

 

「ってな訳で、宜しくね〜!」

「「はぁ〜……」」

 

ヴォルカの陽気な声に、クリム達は思わずため息を吐いてしまった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。