「この能力を知ったものを操る」能力 (るてにうむ)
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生徒会長の異能
「──よくここまで来たね」
その青年はニコニコとした顔で俺を出迎えた。特徴的なのは黒髪黒目の珍しい容姿だけ。顔も、言っちゃ悪いが普通レベルだ。
だが、そんなヤツがこの学園の生徒会長である、というのも変わらぬ事実である。
「苦労したぜ、バルガさんよ! 生まれから通った学校まで何から何まで
「そうなるようにしたからね」
変わらぬ笑みで、バルガは淡々と告げる。こういういけ好かないヤツの秘密を暴き、白日の下にさらしたいというのが俺の行動原理だった。
広報クラブ部長として、ゴシップネタを拾っては捨て拾っては捨て──だがいつまで経っても分からなかったのは、この生徒会長の『異能』。
この世界では一定の割合で『異能持ち』が生まれることは周知の事実だ。そして、その中でも選ばれた者だけが通う事が出来る『学園』の存在も。
ほとんどの『異能持ち』はしょうもない能力だ。2、3日後の天気を30パーセントの確率で当てることが出来る、とか消毒液を水に変えられるとか……そういう詰まらないものばかり。
だが、この学園の生徒たちは違う。火を操るとか、雷を作り出せるとか、時間を止めるとか──そういう『とんでもない異能』が集まっているのだ。
そして大体の生徒の異能は周知されている。というか、自然とそうなる。
学園内で異能の危険性を図る定期検査。一年に一度の異能使用可の勝ち上がりの大会。
そういう場か、もしくは隠すことに耐えきれず言い出すなどでこの学園内では全ての人間の異能が大まかには知られている。
何度も言うように、この生徒会長の異能以外。
「けどここまで来たぜ! 学園に入る際に必要な『異能証明』!! その保管場所を突き当てた!!」
「うん、結構厳重に管理してた筈なんだけどね」
「そりゃあもう、全力で調べたからな」
関係者への聞き取りにちょっとしたハッキング。やれることは全部やった。
「ただ、来たらお前がいるのは予想外だったけどな」
「まあ、こっちにもツテがあってね。僕のことを熱心に調べてる生徒がいる事、その動向……それくらいは気にしてるさ」
そう言うと、バルガは後ろの棚から1冊の本を取り出す。そして、こちらへ放り投げた。
「っと……なんのつもりだ?」
投げられたそれを危なげなく受け取った。下調べで位置は把握しているから予想は付く。だが、改めて確認すると俺は眉を潜めた。
『異能帳簿』──学園が管理する異能証明が記載された本。何故わざわざ渡すのか。疑問の視線を投げかける。
「そこの143ページに僕についてのことが書いてある。今回に限っては許可するから、一度読んでみるといい」
「……訳がわかんねぇが……まあ、見せてくれるってなら遠慮せずに見せて貰うぞ」
そして、ページを捲る。120、130、140……ここら辺、が……。
「……いや、おい。どういうことだよ。これ。……おかしいだろ」
目に入ったのは、それはもう
「そうだね。そうなるようにしたからね」
「うん。それでなんだけど、それを踏まえて言うと、僕の異能は『この能力を知ったものを操る』能力だよ」
「──……は?」
今、とんでもない言葉が聞こえた気がする。『この異能を知ったものを操る』? それは──。
「──それで頼みがあるんだけど、消えてくれないかな?」
こういう場合のタグとかの扱いが分からないので修正入れると思います。
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消えたクラブ長
薄暗い部屋には、4人の人間が集まっていた。いつもなら6人でいたはずのその部屋には、あるべき活気すらなかった。
最初に会話を切り出したのは青髪の男。
「……おい、聞いたか?」
隣の男子生徒はそれにビクリと震えると、ゆっくりと口を開く。
「あぁ……クラブ長、昨日から音沙汰ないって……」
「……ねぇ、マズいんじゃない? 別にあんな噂本当だとは思ってないけど……ほら、ね?」
続いて口を開いたのは金髪の少女。隣の女生徒も、うんうんと激しく首を振っていた。
「確か二日前、クラブ長は『核心的な証拠を見つけた! 行ってくる!』とか言い残して消えた。そして、昨日から音沙汰なし……その日にいなくなったと考えるのが妥当」
「……そう、だよな」
4人の中に、『もう止めよう』という雰囲気が溢れ出した始めたときだった。
──扉が勢い良く開かれた。突然入ってきた新鮮な空気に、そして光。
「──皆! 見つけたよ!」
それと共に入ってきたのは、金髪を靡かせる1人の少女。その手には黒い箱のようなものが握られていた。
「……トコ、あんた何持ってるのよそれ」
そしてその少女の到来は4人にとっては迷惑とすら言えた。諦めよう、という流れになったいたのだ。だが、恐らくこの少女は諦めようとはしないだろう。
「それはもう、クラブ長が遺した【メッセージ】だよ!」
面倒そうに4人が視線を交差させる。端的に言って、消えて欲しかった。もしこれで4人の身にもなにか起きたらたまったものではない。やがて、無言の意思疎通が終わる。
男子生徒の1人がゆっくりと立ち上がった。
「よし、分かった。原田さん、副クラブ長のアンタには申し訳ないが、俺達はここで抜けさせて貰う」
「……え?」
4人がうんうんと頷くのを前に、原田トコは目を丸くする。そして絶叫した。
「えーーー?! なんで! 皆! あれだよ! 今チャンスなんだよ!! あのいけ好かない生徒会長の秘密を暴くことの出来るさ!!」
そして、これだ。見た目に反してとんでもなく性格が悪い。
この少女の行動原理は、大体が『他者を貶めたい』というものに基づいていることはクラブの中では周知の事実だった。
「……いや、でも」
「……ねぇ?」
「マズい気がするんだよなぁ」
「……トコちゃんは止める気ないの?」
それを聞き、むむっとトコは頬を膨らませた。外見的には可愛らしいその動作に当初はメンバーも絆されたものだったが、今では全員が何も思わず殴り飛ばす事が出来る自信があった。性格が悪すぎる。
「ないですぅー! だってさ! これがなにかは分からないけど、あのクラブ長が遺した遺産なんだよ?! 絶対に会長の秘密に近付く
そして、『だから嫌なんだよ』、と男子生徒が言おうと立ち上がる。だがその言葉が放たれることはなかった。
その理由は至極単純なもの。なにせ──
「──原田トコくんだね。そして広報クラブのメンバーの方々も……全員集まっているみたいだね。手間が省けて助かったよ」
──トコの後ろに笑顔で立っている男の姿。それは、やけに見覚えのあるモノだったからだ。
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謝罪とお願い
「──あ、会長じゃないですか! どうしたんですか?! わざわざこんなところまで来て!」
トコは流れるようにくるりと振り向いた。その瞳は細められながらも全く笑っておらず、半ば会長を睨みつけているようにすら見える。
そして、それを見て慌てたのはクラブのメンバーだった。
「お、おい!」
「トコちゃん?!」
立ち上がる2人の生徒。それを手で制したのは会長だった。
「いや、いいよ。当然の反応だからね。だけど、原田くん、今回は一度抑えてくれないかい?」
「……そうですね! 私も過剰に変な反応しちゃいましたし、では会長からお話しお願いします」
トコはゆっくりと後ろに下がりながら、ニコニコとした笑みを浮かべ続けていた。クラブのメンバーはそれを気味悪そうに見ながらも、会長の方へと視線を向ける。
そして静まり返った部室を前に会長は一息入れると話し出す。その顔は先ほどと違い、笑みは浮かんでなどいなかった。
「今回は、僕の方から連絡があってきたんだ。そう、君達も勘づいているだろうけど、クラブ長くんの事についてね」
──場に緊張が走った。トコだけが動じてはいないようだったが、残りのメンバーは凍り付いたように止まる。
1人の生徒がそれから抜け出すと、すぐに謝罪をしようと立ち上がり──そこで、会長がそれを押し止めるように話を続けた。
「……クラブ長くんが行方不明になった。もちろん、君達なら気が付いていただろうがね。
生徒会長として、この学園の優秀な生徒が消えたことは本当に残念に思う」
『え?』という空気が一瞬辺りを包んだ。それを努めて無視して、そして会長はゆっくりと頭を下げる。
「……なにか要因があったんだろう。生徒会にも、そして特に生徒会長である僕にはその要因を取り除くことが出来なかった責任がある。本当にすまなかった」
「えっ、その、えっ?」
男子生徒が周りへ視線を向ける。それに返されるのは同じく困惑の感情だった。
クラブの解散でも求められるのでは、と思っていたのだ。あまりの落差に対応が分からない。
そして、そこで動いたのはトコだった。
「はい、承知しました。その謝罪を受け入れます……それで、会長が来たのはその原因捜査と言うことですか?」
「そう言ってくれると助かるよ。それで、うん。そうだね、それもある。実は2つほどお願いがあってね。
その1つ目。クラブ長が消えた原因に心当たりがある人は、好きなタイミングで生徒会室に来て欲しい。言いにくい事もあるかもしれないから、ここでは言わなくて大丈夫だよ」
「なるほど。それで、2つ目はなんでしょう?」
促すようにトコは視線を向ける。
「2つ目は、出来ればクラブ長が消えた事に関してあまり外で言及しないで欲しい、言うことだ。
生徒会としては、あまり不安を広げたくないと考えている。勿論強制ではなく任意だから、そこは安心して欲しい」
「……なるほど、分かりました。広報クラブとして善処します。
……それでなのですが、こちらからも1つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「勿論だよ、なんでも言ってくれ」
向けられた笑みに、トコはそれ以上の笑顔で返す。メンバーは勝手に進んでいく話に戦々恐々していた。
「ありがとうございます。では話すに当たってまずこちらを見て欲しいのですが……これはクラブ長が遺したものなのです。
私達で話し合ったのですが、なにかは全く検討が付かず……恐らく情報媒体だと考えているのですが、なにかお知りでしょうか?」
その言葉に会長は流れるように返した。
「君達の推測は正しいよ。それは100年程前に使われていた情報媒体だね。異能技術を活用した製品が増えた事や、純粋な技術発達によって時代遅れになった製品……たしかビデオテープ、だったかな」
それを聞き、花開いたようにトコは笑った。
「そうなのですか! ありがとうございます、私達では気が付きませんでした! それで、これが情報媒体だと言うなら、是非会長を交えて内容を確認したいのです」
「なるほど、構わないよ。日程調整は後ほど行おう」
あまりにも剛速球で様々な事が決まっていく。それにメンバーが目を白黒させていると、いつの間にか会長が背を向けていた。
「──では、今日はありがとう。僕の謝罪を受け入れてくれたこと、本当に感謝しかないよ。
日程などはこちらから遣いを出すから待っていてくれ。それじゃあ、また会おう」
「はい、ありがとうございました!」
笑顔で会長が消えるまで見送るトコ。メンバーが固まっていると、やがてふう、とトコは椅子へ座り込んだ。
「……お、おい。どういうことなんだよ」
「……あの白々しい会長さんは、どうやら『噂』を広めたがっているってことと、それをこっちが受け入れざるを得なくなったってこと」
トコの回答に再び皆が停止していると、トコは勢い良く叫び出した。
「──あー! もう!! このビデオテープの同時視聴も受け入れられたってことは、多分今回クラブ長はなんっっっにも出来てない!! もう、もうっ! 全部振り出しだよ!」
トコの叫び声だけが、部室内に虚しく反響していた。
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