青く澄み切った・・・空 (Zplus)
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the past
beginning


恋愛ゲームは魅力的だ。

 

ヒロインがどんな窮地に陥っても、どんなに過酷な状況になろうとも最後の最後に主人公がたいていのことは解決する。

 

だから、アニメやゲームは見ていて安心する。結末は作品ごとに異なるが、たいてい、主人公たちの未来には希望が残されている。

 

だが、現実はあまくはない。

 

何故なら、どんなに過酷な状況に置かれても、助けてくれるものはいない、そして必ずしもすべて解決し幸福になるとは限らないからだ。

 

「何をしてやがるんですか?」

 

「いや、ちょっと黄昏てただけ」

 

現実の世界もゲームと同じだったらいいのに・・・・・

 

彼女と一緒にいる、空に一番近い場所で、叶うはずのない願いを胸に抱いて、まるで彼女の髪の色と同じ、透き通った青い青空を見つめる・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ キスをするという選択肢と頭を撫でるという選択肢か」

 

外部からの光が完全に遮断されているとある個室、そこで相原陽は一つのモニターから発せられる光に目が釘付けになっていた。

 

否、自らモニター、パソコンの画面を熱心に見ていた。

 

そのパソコンの画面には、黒髪の、制服を身に纏った少女が視線を右にそらして頬を赤らめている姿が映しだされていた。

 

その少女の姿が陽の理性を激しく揺さぶる。

 

「あー 駄目だ・・ はるるのこの、お兄ちゃん大好き視線マジたまらん!はあ・・ はあ・・」

 

急に息が荒くなる陽。 

 

おそらく、いや確実に画面の中の少女を見てもだえているのであろう。

 

「はあ・・ おっと! 俺としたことが、あまりにも可愛いはるるのしぐさに心を奪われていた」

 

我に返った陽は再び下に映し出されている二つの選択肢を見る。

 

「キスをするにはまだ好感度が足りない気もする。 だが、ここはしてしまってもいいのではないのか?・・」

 

頭を抱えて悩む陽。 

 

「うん よしキスをしてしまおう」

 

頭をかかえるのをやめて右手をマウスに乗せる陽。

 

ネットで答えを見る、という手もあるが、それではつまらないという気持ちもあるのでここは自分の判断にまかせる。

 

ゆっくりとマウスの左をクリックしようとする。

 

しかしその瞬間陽の身に異変が起った。

 

「っく・・・・・頭が・・・!」

 

激しい頭痛が陽を襲う。

 

そのあまりの痛さに陽の肌からには無数の冷や汗が出ていた。

 

そして同時に吐き気がするほどの気持ち悪さに全身が支配される。

 

「うぐ・・・はあ・・・はあ」

 

マウスに乗せていた手を放し、地面に仰向けで倒れこむ陽。

 

天井を見ながら荒くなっている息をゆっくり整えて現状の確認を始める。

 

「一体、何が起ったんだ・・俺は選択肢を選ぼうとしただけなのに・・」

 

周囲を確認しながら理由を考えるが、思い当たる節がない。

 

結局原因と思われるパソコンに視線を向ける。

 

「壊れたかな・・  いやないな・・  もう一度確認するか・・」

 

仰向けになって倒れている体を持ち上げて、パソコンが置いてあるデスクに向かう。

 

そして目の前まで行くと、再びマウスに手を置く。

 

「・・・マウスに手を置くこと自体が原因、ではなさそうだな なら・・」

 

マウスが原因ではないことを悟ると、陽は画面を見る。

 

「・・まさか、な」

 

陽は、自らが思った疑問を払拭すべくマウスの左をクリックして、画面の中のキスをする、という選択肢を選択しようとする。

 

だがここで陽の思惑通り、先ほどの不快な感じが一瞬、陽を襲う。

 

理由はわからないが、どうやらこの選択肢を選ぼうとするとさっきの症状が出るみたいだ。

 

陽はそれを確認すると、呆れた顔で画面の右下のセーブと書かれたボタンをクリックする。

 

「はあ・・  もうやる気なくなっちまったよ・・」

 

気分がそがれたのか、陽はギャルゲーの画面を消して、さらにパソコンをシャットダウンする。

 

暗い部屋を照らしていた一際大きな光が消えて、部屋がまっくらになる。

 

しかし、カーテンの外の光が、若干だが部屋を少し明るくする。

 

その明かりをうまく使い、陽はデスクに置いてある時計を見る。

 

その時計の大きな針と小さな針は両方ともその時計の6の部分を指していた。

 

「うわ・・・ もうこんな時間かよ・・」

 

時間を失ったことを痛感するが、後悔はしない。

 

陽はそう思いながら、カーテンのそばまで行ってカーテンを思いっきり左に引っ張る。

 

その瞬間、薄暗かった部屋に朝の日差しが一気に部屋に入ってくる。

 

「やべ・・・・ ねてない・・・」

 

昨日の午前7時から一睡もしていない。

 

故に彼の目にはクマができていた。

 

「・・・・・・・」

 

そんなことを考えていると、ふと陽は窓に寄りかかっているある物体を真剣な表情で見る。

 

その物体の本体は竹刀袋に収められていた。

 

「そういえば、これのことはすっかり忘れてたな」

 

この竹刀袋に入っているものは、陽が昔とある人物からもらったものだ。

 

しかしその人物は、人間ではなかった。

 

「・・自らを神とかいうやつ、初めて見たよ」

 

陽が自称神と出会ったのは5年前、陽が剣道をやめて途方に暮れているときだった。

 

何故途方に暮れていたのかは置いておいて、とにかくその際に渡されたのがこの竹刀袋なのだ。

 

当時剣道が原因で心が折れかけていた彼の怒りを買ったのは言うまでもない。

 

ちなみに、何度も捨てようとした。

 

「なんでこれ捨てなかったのかな俺」

 

過去の自分に対して不思議に思う陽。

 

それと同時に神の言葉も思い出す。

 

 

 

「あなた、やっぱり面白いわ」

 

「は? 面白いってなんだよ」

 

陽がそう答えるとふふふ、と神はまるで悪役のような不気味な声を出し始めた。

 

「そう、私があなたに惹かれてたっていうのも納得するわ」

 

全身白い何かに包まれている女の神がまるで陽のことを知っているような発言をする。

 

「まあ そんなことはいいわ  それよりこれは返しておくわね もうあなたには意味のないものでしょうけど」

 

神は竹刀袋を地面に置くと再び陽の方をむく。しかし何かを躊躇っているのか、陽にはしばらく口元が震えているように見えた。

 

そして同時に初々しさもなぜか少々感じられた。 

 

「じゃあね 陽  ・・・きだったわ」

 

最後の言葉をうまく聞き取ることができないまま、神はその場から、瞬間移動でもするかのごとく消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある私立高校、それもどこでもあるような普通の高校。

 

そこに相原陽は通っている。

 

そして現在その平凡な高校に登校中なのである。

 

「ふぁ  ねみー」

 

昨日の七時から寝ていない訳であるから、それは眠いはずだ。

 

「だーれだ!]

 

そんな幸運を逃してしまいそうな陽のクマが出来ている目を何者かの手が隠す。

 

当然陽の視界は真っ暗になって何も見えなくなる。

 

「・・・・・・・」

 

陽はあえて黙っていた。

 

こんな行為をする人間は陽の知っている中では1人しかいなかった。

 

だからある意味安心したので、ほっとくことにしたのだ。

 

「・・・・あんたこのまま無視する気?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

黙り続ける陽。

 

「ほっとけよそんなやつ、それより早く学校行くぞ愛華」

 

陽に対して皮肉めいた口調で言ったのは、陽と越生愛華と同じクラスの五十嵐剣祐。

 

彼はいつも愛華と一緒に登校しているので、陽にとって今日も彼が愛華と一緒にいることはそれほど不思議なことではなかった。

 

そんな愛華と仲が良い彼が陽に対してこのような態度をとるのは入学式の一件が原因である。

 

その一件とは陽が愛華と校庭で話している最中にいきなり陽に竹刀で斬りかかり、それをかわされ、逆に腹に蹴りをいれられた、という一件である。

 

陽にとっては最早どうでもよいことなのだが、彼にとっては、自分の繰り出した攻撃を回避されたという悔しさが残っていた。

 

ちなみに、何故彼が陽に斬りかかったのかというと、彼の中で陽が愛華を口説いているように見えたからである。

 

しかし、実際は別のことを話していたので、陽にとって彼の怒りは思い切り理不尽なことだった。

 

「なんでよ 陽と一緒に行こうよ」

 

「駄目だ  そいつといるとお前が変になる」

 

ピクッ

 

剣祐の今の発言に、陽の表情が少し変わる。

 

その表情は少なくとも友好的ではなかった。

 

「ふーん 変人に変人扱いされたよ」

 

明らかに不機嫌そうな陽の声、しかしそんな陽の声に恐れることなく剣祐は睨み付ける。

まさに一触即発な感じだ。

 

「そもそも俺と越生が一緒にいることが気に入らないなら、さっさと越生を自分の物にしろよ そうすれば俺も越生とあまり話さないようにしてやるよ」

 

「え? 話さないって・・・」

 

陽が真っ直ぐに剣祐を見据えて、少し挑発気味で言う。それと対照的に愛華はなぜか悲しそうな顔をしていた。

 

「てめえ からかうのもいい加減にしろよ!」

 

そういって剣祐は陽を殴ろうと右手を構える。

 

しかし、そんな彼の視界に入ってきたのは、陽の隣で悲しそうにしている愛華の姿だった。

 

「ちっ・・・・」

そんな彼女の顔を見て剣祐はその場から1人立ち去る。

 

立ち去った理由が愛華のせいだと理解した陽は止まっていた足を再び動かし、学校に向けて何事もなかったように歩き出す。

 

愛華はしばらく状況を理解できずにその場で動きを止めていたが、歩いていく陽を見てハッと我に返り後を追う。

 

「ちょっと、まってよ」

 

愛華は彼の隣までたどり着くと、自分の歩く速度と彼の歩く速度が同じになるよう調整する。

 

「ほんとあなたってよくわからない人よね」

 

「それ馬鹿にしてる?」

 

「別に馬鹿にしてる訳じゃないけど・・」

 

「ていうか、よくわからないってどういう意味だよ」

 

そんな何を考えているのか分からない男の隣を愛華は歩いていく。

 

 

 

 

 

彼の隣を歩く。

 

でも彼は私と少し距離をとる。

前から感じていたことだ。

 

今もそうだ。

 

愛華が自分と同じように歩いている陽に少し近づく。

 

しかし、陽は愛華が近づくごとに確実に距離をとる。

 

私が近づくとこうやって距離をとる。

 

おそらく、その行為は彼が無意識に行っていることだろうと私は予想する。

 

この想いはそんな彼にいつか届くのであろうか。

 

いや、届くことはないのであろう一生。

 

だからこの想いは胸にしまっておこう。

 

すぐそこまで迫っている死の時まで。

 

本日12月20日。

 

運命の日に刻々と近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

キーんコーンカンコーン。

 

一日の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。

 

担任のホームルームが終わるのと同時に少々にぎやかになり、生徒達がぞくぞくと教室から出て行く。

 

生徒達が次々と出て行く中、陽の視界にある女子生徒の姿が映った。

 

その女子生徒は紫色の髪をしていて、髪飾りや髪留めは一切していないロングの髪、そしてこの学校の女子生徒の中では美貌はトップクラス。

 

そう、越生愛華だ。

 

そんな越生が教室から出て行く姿を陽はまじまじと見る。

 

見た目だけはいいからなー。

 

そんな悪口を心の中で呟く陽。

 

彼がそんな悪口を言うのには理由がある。

 

それは以前、いや現在も彼が愛華にされていることが原因だ。

 

先生~ 相原君が18禁のいやらしいゲームをしてます~というあからさまなうそをついて邪魔をしてくる。

ていうか、PS○のソフトに18禁なんてないんだよ!!

 

休み時間携帯いじっていると、何してるの?女落とし?と公開処刑を実行してくる。

 

そして挙句の果てには、ギャルゲーのキャラの真似までしてくる・・

 

何がお兄ちゃん大好き!だ。

 

それははるるが言ってこそ意味があるんだ。

 

以上のことから自分に対してのいやがらせと受け取ってしまっている陽。

 

しかし、彼女は陽のことが気になっているから話かけているだけであって悪意は全くなかった。

 

「そういえば、あいつ剣道部のマネージャーだったんだよな」

 

登校時や休み時間に彼女から邪魔されている陽だが、放課後だけはこれのおかげで絡まれずに済んでいる。

 

「剣道、か・・」

 

剣道という言葉に少々懐かしいものを感じる陽。

 

それは昔、自分も剣道をしている時期があったからなのかと自己解決する。

 

「別に、どうでもいいけどな」

 

もうやめてしまったものに対してあれこれ考えるのはあまり良くないと思う陽。

 

しかし、彼自身剣道に思い入れがあるのは事実だ。

 

そもそも思い入れ以前に疑問なのは、彼が今気にしているのは、剣道のことなのか、それともそのマネージャーのことなのか、である。

 

剣道は、もうやらないって決めたんだ。

 

中学のときに陽が剣道部で体験した出来事。

 

そしてその剣道部をやめる大きな原因となったとある女性。

 

それを再び思い出すと、陽は剣道に関わる気が全くなくなっていた。

 

「行くか・・・」

 

生徒がいなくなり静まり返る教室。

 

そんな中、陽は自らの席を立ち、教室の後ろにある扉に向かう。

 

そしてその扉をくぐると、愛華の行った右方向とは逆の、左方向、に足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は流れ、12月21日午前0時。

 

深夜の人の気配が全くしないとある道。

 

しかも光を発するものが一切存在しない。

 

いやあるのだが、壊れてしまっっているためか正常に作動していない。

 

そんな道でとある高校の制服を身に纏った女子高生が息を切らしながら走っていた。

 

「はあ・・・はあ・・・・」

 

女子高生が走る度に辺りに音が響く。

 

「はあ・・はあ・・・ くっ」

 

女子高生は近くにあった電柱に寄りかかり、右頬を自らの右手で抑える。

 

その抑えた右頬からは生々しい血が大量に出てきていて、さらにそれは右手首を蔦って地面にポツンポツンと一秒ごとに落ちていた。

 

抑える手を離し、右頬を電柱にくっつけて体重を電柱に預ける。

 

少々楽にはなったが、少量の血が電柱の下を目指して流れていく。

 

「・・・・・」

 

やっと息が整ってきて余裕が出来たのか、女子高生は自分が走ってきた方角を見つめる。

 

しかし、その瞬間。

 

彼女が走ってきた方角から黒い何かが飛んでくる。

 

「ぐっ・・  もうきたの・・」

 

女子高生の目の前で斜めに地面に突き刺さる黒い日本刀と思われるもの。

 

その全体的に黒い日本刀の刃の先の部分、すなわち地面に突き刺さっている部分には少量の血が付着していた。

 

その血はおそらくさきほどの女子高生の右頬から出ていた血と同じものであろう。

 

「くそ・・・」

 

女子高生はそういうと、自分が走ってきた方角とは逆の方角へ走っていく。

 

その1分後、女子高生が先ほどまでいた電柱の側には白いドレスのような物を着た女性らしき人間がいた。

 

何故女性と分かるかと言うと、顔を隠している般若の仮面から長い黒髪が何本か出てしまっているからだ。

 

その白いドレスを着て般若の仮面をしている女性は自分の目の前で地面に突き刺さっている刃の部分が黒い日

 

本刀の柄の部分を右手で掴み地面から抜き取る。

 

そしてその日本刀についている血を振り払う。

 

「後、10日・・・」

 

そういって仮面をした女性は暗闇へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「優勝は、相原陽君です!!」

 

パチパチパチパチパチパチ。

 

表彰状をもらった彼は、まっすぐある人物のもとに行く。

 

「やったよ先生! ついに優勝だよ!」

 

明るい無邪気な顔で優勝の報告をする陽。

 

それに応えるように先生と呼ばれた人物もニッコリ笑う。

 

「さすが陽だね  そんな陽に私からプレゼントがあります」

 

先生はどこにでもある竹刀袋を陽に渡す。

 

「ありがとう先生!あっ!」

 

しかし、陽がそれを受け取った瞬間、それを落としてしまった。

 

何故かというと、その竹刀袋の重さが普通の重さではなかったからだ。

 

明らかに中に何か重いものが入っている。

 

それも竹刀より重いものだ。

 

「ごめんね陽 これはちょっと重いから私が後で君の家に持ってくよ」

 

そういって先生は陽が地面に落とした竹刀袋を両手で拾い上げる。

 

「・・・・・・・・・」

 

その間、陽はじっと竹刀袋を見ていた。

 

しかし、突然強い光が出てきて、そして・・

 

「は!」

 

陽はベッドから起き上がる。

 

「夢、か・・・・」

 

夢の世界から開放される陽。

 

夢の中の竹刀袋から発せられた光があまりにも迫力があったせいか、目覚めは普段より良かった。

 

そしていつも通り学校に行く準備をし、マンションから出て、いつもの通学路に出る。

 

「それにしてもあの夢に出てきた竹刀袋、なんかあれに似ているような・・」

 

確かに、色も同じ黒だ。

 

しかし、夢の中で出てきた竹刀袋の中身を実際に見たわけではないので、判断はできない。

 

「おかしいな・・ あの竹刀袋は中学生の時、自称神からもらったもののはずだ・・ なのになんで小学生の

 

時の俺がそれをもらっている・・ ていうか、あの先生は何者だ・・」

 

あれこれ考える陽。

 

しかし、決定的な証拠がない限り、過去の竹刀袋と現在の竹刀袋の関係性を繋げるのは不可能だ。

 

「・・何言ってんだ俺は・・」

 

そもそも自分が見た夢が実際にあった出来事とは限らない。

 

陽はそう思い、竹刀袋のことを考えるのをやめる。

 

「はあ あれこれ考えてても仕方ない それよりゲームのつ・・」

 

最後の言葉を言おうとした陽の動きが完全に停止した。

 

まるで石像のように動きが停止している陽がまっすぐ見据えているのはどこにでもある普通の電柱。

 

しかし、その電柱のある部分は他と決定的に違っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

あまりの惨状に言葉も出ない陽。

 

何故なら彼の視界には大量に血が付いた電柱と、その周りに飛び散っている複数の血痕が映し出されていたからだ。

 

彼はこの時ふと思い出した。

 

ここ最近学校周辺で起っているとある事件のことを・・・・・・・・。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ、感想をいただけると嬉しいです。


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extraordinary

更新遅くなってすいません・・・
次回で過去編は終わりにしたいと思っています。


血痕散乱事件。

 

ここ最近世間を騒がせている連続通り魔事件。

 

しかし不可解なのは、被害者の死体が現場にないことだ。

 

現場にあるのは血痕のみ。

 

だが、DNA鑑定が進んでいるらしく、犯人より先に被害者の方がすぐ判明するだろうと見られている。

 

この事件の犯人特定は難しいであろう。

 

何故なら血痕以外、この事件に関する証拠はないのだから。

 

そんな不可解な事件の現場らしきものを彼、相原陽は今目の当たりにしている。

 

「うぐ・・・・・・」

 

吐きそうになる陽。

 

そう彼が今まで生きてきた17年という人生の中でこのような大量の血を見る機会など一度も存在しなかったのだから。

 

「はあはあ・・・」

 

心臓の音が徐々に小さくなるにつれて、呼吸を整える。

 

「とりあえず、警察を呼ばないと・・・!」

 

震える手を自らの精神の力で封じて、陽は自らの携帯を制服のポケットから出す。

 

そして、震える指で数字に触れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、警察は到着した。

 

陽は現場の状況等を詳しく聞かれた。

 

そして何故かその後、自由の身になった。

 

陽自身、警察署まで行くはめになると思っていたが、的が外れた。

 

さらに運が悪ければ自分が犯人扱いされるのではないかと思ったぐらいだ。

 

「ふう・・・・・・」

 

思わずため息をついてしまう陽。

 

当たり前だ。

 

朝から普通の学生では体験できない、とんでもないことを体験してしまったのだから。

 

「おっはよー!!」

 

「ぐは!!」

 

そんなションボリしている陽の背中を容赦なく思い切り叩く彼女。

 

「・・・・・・・」

 

いつもの陽ならそんな愛華に激しい反撃をするところだが、今日は勝手が違った。

 

あのようなことを経験してしまったからだ。

 

「どうしたのよ そんな顔して」

 

「別に・・・」

 

そっぽを向く陽。

 

彼女はそんな陽を見ると、彼が座っている椅子の近くにある使われていない椅子を両手で掴んでヨイショと声を出して持ってくる。

 

そしてその椅子を陽の座っている椅子の隣に置く。

 

さらにその椅子に座る。

 

当然陽との密着度は上がる。

 

まず、顔が普段話す距離よりも近かった。

 

「な、なんだよ・・・」

 

「・・・陽は運が悪かっただけだから・・だから気にしないでね」

 

励ますためだけの言葉、彼はそうわかっていた。

 

だが、そんな言葉でも彼の心を癒すのには十分だった。

 

そしてその言葉は同時に彼を非日常の世界から日常の世界に戻すきっかけにもなった。

 

「・・・・ありがとう・・」

 

そういって彼女の目を見る。

 

それは澄み切った青色、決して折れることのない信念。

 

陽は彼女の意思の強さを感じた。

 

そんな彼女の顔をみていて陽は一つ気になるところを見つけた。

 

「その右頬、怪我しているのか?」

 

陽はそういって、彼女の右頬に触れる。

 

「陽・・・・・」

 

すると何故か愛華は頬を赤らめ、視線を反らす。

 

そのしぐさを見て陽の理性は激しく揺さぶられた。

 

「越生・・・・」

 

互いに無意識なのか、唇と唇の距離が少しづつ近づいていく。

 

そして接触するのではないかとクラス中の人間が思った瞬間、ガタンと扉が勢いよく開く。

 

その扉から顔を出したのは、愛華がよく知る人物だった。

 

その人物はトゲトゲ頭の白髪、そして今風の制服の着崩し、そして腰までズボンを下げている。

 

そんな現代の学生を体現している剣祐が、二人が座っている窓側の席に向かってゆっくり歩いていく。

 

周りの人間は剣祐の無言の圧力にただ黙っていることしか出来なかった。

 

剣祐は二人が座っている席の近くまで行くと、いきなり愛華の左手を強引に掴んだ。

 

「行くぞ愛華」

 

「あ、ちょっと・・・」

 

冷徹な声でそういった後、強引に愛華の手をひっぱていく剣祐。

 

そんな剣祐を睨み付ける陽の表情は不機嫌そのものであった。

 

当然だ。

 

会話中に強引にその話相手を連れて行かれたのだから。

 

そんな陽の鋭い眼光を完全に無視して愛華とともに教室を出る剣祐。

 

教室を出て、しばらく廊下を歩いていると、立ち止まり、愛華と向かい合う。

 

「はあ、はあ、なによいきなり・・」

 

少々小走りであったため、少し息が荒い愛華。

 

そんな愛華をじっと見つめる剣祐。

 

「・・・・・・なによ」

 

愛華が見つめている理由を聞いた瞬間、彼は行動に出た。

 

「ん・・・・・!?」

 

自らの体を瞬時に彼女に近づけ、なおかつ彼女の背中に両手をまわし一気に彼女を抱きしめる。

 

そんな剣祐の行動に愛華は驚きを隠せず、しばらく抱きしめられる行為を許した状態だった。

 

「っ・・・・・!」

 

しかし、状況を理解すると、瞬時に両手を彼の胸に押し付けて、彼を自分から突き放そうとする。

 

だが、そんな彼女の行動とは裏腹に彼はさらなる行動に出る。

 

「んんんんんん?」

 

そう、いきなり彼女の唇に自分の唇をくっつけたのだ。

 

そしてさらに彼女の唇に吸い付くような動きをする彼の唇。

 

そんな彼の唇から自分の唇を放そうと必死に抵抗する愛華。

 

「んん・・んん・・・んん」

 

しかし、男と女の力の差は歴然だ。

 

愛華は剣祐に完全に体を支配されてしまう。

 

そんな愛華の目からは何故か涙が出ていた。

 

それは喜びの涙ではなく、悲しみの涙だった。

 

愛する者とすると誓っていた彼女にとって、今やっている行為はとても容認できることではなかった。

 

それ故に涙を流していた。

 

「はあ!」

 

唇を放す剣祐。

 

泣いている彼女を見てか、彼はその場から早々と立ち去った。

 

廊下で1人になる愛華。

 

「はあ、はあ・・」

 

しばらく息を止める行動をしていたため、思わず壁に寄りかかってしまう。

 

はあはあと息を整えて酸素をを確保する。

 

そんな彼女は先ほどのキスのことより、なぜかある人物のことを考えていた。

 

「はあ・・はあ・・・ 陽・・・ 陽・・・」

 

口から出てしまう友人の名前。

 

こんな時に何故だろうかと必死に考えるが、答えが出てこない。

 

いや、答えは出ている、自分がそれを認めようとしてないだけだと確信する。

 

「私は・・・・」

 

彼女の中で一つの答えが出る。

 

だが、同時にとある男性のことも頭に浮かんでくる。

 

それを考えると、彼女は先ほど出た答えを再び胸にしまい、廊下をゆっくり歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり、帰路を歩いていく陽。

 

普段であればゲームをしながら帰るところであるが、今日は違った。

 

「くそ 五十嵐の野郎・・」

 

先ほどあった騒動のことで頭がいっぱいで彼はそれどころではなかった。

 

しかし、何故そこまで自分がいらついているのか、彼自身分からなかった。

 

「俺、なんでこんなにいらついてるんだろ・・・」

 

乱暴に会話を中断させられたせいか、それとも・・・

 

もう一つのことを想像すると、彼は自分の頬の温度が上がっていることに気づく。

 

「いやいや、ないない」

 

強引に自分の想いを胸にしまう。

 

「それより、あいつ・・ 大丈夫かな」

 

陽にとって自分のいらつきより愛華自身のことが心配だった。

 

心配というのは愛華が剣祐に何かされてないかということだ。

 

「何もされてなきゃいいんだけど・・」

 

太陽が沈みかけているオレンジ色の空を見上げて、陽は考える。

 

陽が以前から感じていることだが、剣祐の愛華に対する恋愛感情の強さは異常だった。

 

それは現在に至るまでの彼の行動を見れば一目瞭然だった。

 

具体的に言うと、強引に愛華を剣道部のマネージャーにする、陽を殺す気できりかかってくる、などの行為が挙げられる。

 

それ以外にもこれは陽が聞いた噂だが、愛華に絡もうとした他校の生徒の人生を終わらせたとか、も

 

もちろん社会的に。

 

あくまで噂だが。

 

「あいつの愛華に対する愛情は少し危険な気がする」

 

別に彼は嫉妬しているのではなく、純粋に愛華が心配なだけだった。

 

「っ!?」

 

そんなことを考えていると、陽はあることに気づいて瞬時に周りを見渡す。

 

「・・・・・・・・・・」

 

陽が歩いている後ろから複数の足音がきこえてくる。

 

陽はそれを確認して後ろを見る。

 

「つけられてる?」

 

確認できる人数は二人。

 

スーツ姿の男二人。

 

それを確認して、陽はため息をつく。

 

「はあ・・  なるほどね・・」

 

頭の回転が早い陽には、後ろのスーツ姿の男たちの正体がなんとなく分かっていた。

 

おそらく警察であろう。

 

朝の調査が甘かったことに納得する陽。

 

「要するに俺を疑っていると」

 

血痕散乱事件は証拠が少ない。

 

被害者の特定はその内できると思うが、犯人の特定は難しいであろう。

 

故に警察はちょっとでも事件に関わりのある者を片っ端から疑って、あわよくば現行犯逮捕という魂胆なのであろう。

 

陽からしたら果てしなく、迷惑なことである。

 

「俺なんかを尾行するんだったら、スピード違反の取締りでもしてろよ・・」

 

心底現代の警察に呆れて地面を見つめる陽。

 

その後は、尾行してくる私服刑事たちを完全に無視し、帰宅した。

 

 

 

 

 

陽が校門を通過した二時間後、とある高校生二人が校門にいた。

 

紫色のロングの髪をした女性と白髪のトゲトゲ頭をした男性だ。

 

そう、愛華と剣祐だ。

 

二人は剣道部の活動が終了したので、帰宅するところだった。

 

しかし、いまいち空気はよくなかった。

 

それは剣祐が愛華にしたある行為が問題となっていた。

 

「・・・家まで送ろうか?」

 

「ううん・・ 1人で帰れるから」

 

そう言って愛華は校門で剣祐と別れて、自らの帰路につく。

 

そんな愛華を剣祐は黙って見る。

 

「ふっ」

 

表情が暗い愛華とは違い、剣祐は何故か笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

陽の学校の通学路の途中にあるゲームセンター。

 

そのゲームセンターは隣のバッティングセンターとくっついているという珍しい構造となっている。

 

そんなバッティングセンターにジャージ姿の男が1人いた。

 

しかも、150キロコーナーでバッティングの練習らしきものをしていた。

 

「・・・・・・・・」

 

陽が、ボールが出てくる穴を真剣な表情で見る。

 

次の瞬間、ボールがヒュッとすばやく発射される。

 

ドスン。

 

ボールは、陽のバッドに当たることなく、ベースを通過した。

 

いや、そもそも彼はバッドを振ってすらいなかった。

 

「よし、OK」

 

ごく普通な表情で言う陽。

 

彼にとって、バッドを振ることはさほど問題ではない。

 

問題なのは、飛んでくるボールである。

 

自らの反射神経を鍛えるためにボールに対して集中しているのである。

 

バットを振らないのは、ボールに集中するためである。

 

本人的には、ベースの真ん中に立ってボールをかわす練習をしたいんだが、おそらく店員に止められると思い、それはしていない。

 

それに見切ることは出来ても、かわせるとは限らない。

 

体がついていける保証はない。

 

まあとりあえず、以上のことが、彼の日課になっている。

 

「よし、今日はこのくらいにしておくか」

 

まだ、後6球ほど残っているが、途中で中断する陽。

 

陽が150キロのコーナーから出ると、子供が入れ替わりで入っていく。

 

その子供は、バッドを構えて残り4球ほどの球を打とうとする。

 

「頑張れ頑張れ」

 

少々悪意が込められた笑みを浮かべて応援する陽。

 

だが、結果はすべて空振りだった。

 

「はあ、150キロはやめとけって」

 

呆れた陽は、バッティングセンターから出て、いつもの帰り道を歩く。

 

「ん?」

 

歩いていると、身に覚えのある女性が自分より50mほど前を歩いていた。

 

その女性は、紫のロングの髪で、陽が通っている高校の制服を着用した美女。

 

そう、越生愛華だった。

 

「あれ あ、なるほど帰りか」

 

最初は、何故こんなところを夜遅くに歩いているのか、疑問だった陽だが、剣道部のことを思い出して納得する。

 

そう、彼女は剣道部のマネージャーだ。

 

それ故帰り時間は20時ぐらいになってしまうのであろう。

 

だが、陽はもう一つ疑問を抱いていた。

 

「あれ、でもあいつ帰り道こっちじゃなかったような」

 

陽が知る愛華の帰り道は全くの逆方向だ。

 

いや、こちらからでも帰れなくはないが、遠回りになってしまう。

 

「うーん  本人に直接聞くのがいいな」

 

考えても仕方ないと思い、陽は自らの歩行速度を少し上げ、スクールバッグを片手に持って歩いている愛華に接近していく。

 

接近していく中、陽はあることを思いついた。

 

よし、いつものお返しをしよう。

 

そう思って陽は後ろから音をたてないように少しずつ接近していき、両手を構える。

 

そして次の瞬間。

 

「だーれだ」

 

愛華の両目を自らの両手で覆い隠す。

 

「ひゃっ!」

 

突然目を隠された愛華はビクッと驚いて、普段はあまり出さない女の子らしい声を出す。

 

そして状況を理解した後、自らの目を覆っている手を自らの手で振り払い、ゆっくりと陽の方をむく。

 

陽は愛華が自分の方をむくと、思わず、その顔に見とれてしまった。

 

何故ならその顔は涙目になっている純粋な可愛い女の子の顔そのものだったからだ。

 

陽は一瞬でも愛華に見とれてしまった自分を必死に否定する。

 

俺が妹キャラ以外のしぐさに見とれてしまうとは、不覚!!

 

訳の分からないことを頭をかかえて考える陽。

 

そんな陽を愛華は不思議な生き物を見るような目で見ていた。

 

「で、なんで陽がここにいるの?」

 

手を組んで先に愛華が話を切り出す。

 

愛華がそういうと、陽は抱えている両手を頭から離す。

 

「え、それはこっちの台詞だ  なんでお前がこの辺歩いてるんだ?家逆だろ」

 

陽がそういうと、愛華は何故か俯いてしまう。

 

陽は、聞いてはいけないことだったのか、と少々不安になる。

 

「べ、べつにいいでしょ  気分よ気分!」

 

まるで追い詰められた政治家のように、激しい口調で言う愛華。

 

そんな愛華を見て陽は呆れていた。

 

もっとマシな言い訳はなかったのかと。

 

「はいはい気分ね気分   俺もよくあるよー  気分で帰り道変えたくなることー」

 

棒読みで視線をこちらに合わせずに言う陽に愛華は若干不機嫌そうな顔になる。

 

それを見て陽はすぐさま手を横に振る動作をし

 

「ごめんごめん」

 

といって謝る。

 

「ふん、まあいいわ  それより ッ!」

 

愛華は最後の言葉を言おうとする直前、それを中断して鋭い目で周囲に警戒の目を向ける。

 

まるで何者かの襲撃に対して警戒しているような目、姿勢だ。

 

「どうした?」

 

何も状況が分からない陽は、愛華に聞く。

 

しかし、愛華はそんな陽のことはお構いなしに周りを見渡す。

 

「だから、どうしたんだ・・・」

 

「下がって!」

 

陽が自分を無視する愛華を問いただそうとした瞬間、いきなり愛華に腕を引っ張られる。

 

「うッ」

 

引っ張られたせいで思わず尻餅をついてしまう陽。

 

普通だったら手を引っ張った愛華に対して怒りの言葉をぶつけるところだが、自分の目の前にある物体が、陽にそれをさせなかった。

 

「か、刀・・・!?」

 

「くそ・・  人通りの多いところだったら手出しできないと思ってたのに・・ふん そんなのはもうお構いなしってことね」

 

刀を見て怯える陽、しかしそんな陽とは裏腹に愛華は悠長にしゃべっていた。

 

まるでこのような非日常的なことになれているかのようだった。

 

「陽、あなたは帰って あいつの狙いは私だから」

 

そう言って愛華は刀が飛んできたと思われる方向に走っていく。

 

それをただ見ているだけの陽。

 

陽は考えていた。

 

自分はここでどうするべきか。

 

愛華を追いかけるか、それとも、ここから逃げるか

 

「何を考えているんだよ俺は 女の子が危機に陥りそうになっているんだぞ だったら選択肢は一つだろうが・・」

 

震える手を強く握り締め、陽は立ち上がる。

 

だが、陽は心の底では気づいていた。

 

自分が今からしようとしていることは、単なる自分の憧れを現実のものにしたいだけの行為だということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・はあ・・・」

 

愛華はさきほど陽といた場所より光が暗いところにいた。

 

そこで愛華は白い着物を着た女性と対峙していた。

 

「相変わらず趣味が悪いわねその仮面、それに昨日はドレスで今日は着物ですか」

ののしるように言う愛華。

 

実際心の中ではののしっていた。 

 

自分が今まで目の前の敵につけられた傷のことを考えると、何も憎しみの言葉を言えずにはいられなかった。

 

「今日は逃げないから」

 

そしてその伸ばした手をパーにして完全に開き、そしてそこから強く何かを握る動作を行う。

 

そして徐々に何かを掴んでいるらしき左手の甲を相手に見せながら水平にしたまま自分の顔の前まで持っていく。

 

相手の般若の仮面をした女性も同じ動作をする。

 

そして二人の左手が顔のまで移動した瞬間、二人の握っている透明のものが具現化する。

 

柄の部分がじょじょに姿をあらわしていき、最後に刀身の部分が現れる。

 

そう、日本刀だ。

 

愛華の方は柄の色がピンク色になっていた。

 

般若の女性の日本刀は全体的に黒ずんでいた。

 

「・・・・・・・」

 

般若の女性が愛華に斬りかかろうと居合いの構えをする。

 

しかしその瞬間・・

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

 

雄叫びとともに陽が般若の女性に突進する。

 

陽の頭が自らの腹の部分に当たり、女性はハッと声を出す。

 

女性は後ろによろめきながらも体勢を立て直そうと躍起になる。

 

その間に陽は愛華の近くまで行く。

 

「大丈夫か?」

 

陽がそう愛華に語りかけると愛華は不機嫌な顔になる。

 

怒りの形相で陽を睨み付ける愛華。

 

だが、しばらくすると、呆れた表情で再び刀を構える。

 

「とにかく、あなたは帰って あいつの狙いは私だから」

 

「帰らない」

 

真剣な表情でそういい切る陽。

 

そんな陽を見て愛華は、ため息をついた。

 

「あなた、もしかして私を助けたい、とか思ってる? もし、そう思ってるなら余計なお世話だわ」

 

そう言って愛華は陽から視線を外し、呆れた表情から冷徹な表情になる。

 

特に目は見たものを凍らせてしまうのではないか、と思うほどだった。

 

「別に助けなんて私は必要としてない  それに助けてくれる人だって今までいなかったし・・」

 

そう言って彼女はゆっくり歩いていく。

 

そんな彼女の後ろ姿を見て、陽は入学式で彼女が自分に対して言った言葉を思い出した。

 

その言葉を思い出して、陽は思った。

 

彼女はただの寂しがりやなのだと・・

 

彼女は学校1の美貌を持ち、そして学力もトップレベルだった。

 

それ故か彼女はクラスで浮いていた。、

 

やはり、いつの時代も優れているものは妬まれる、それはどの時代でも共通なことみたいだ。

 

しかし、そんな彼女であったが、陽とは気軽に話していた。

 

これが何を意味するのか、陽にはすぐわかった。

 

そっか、俺が愛華の心の支えになっているのか・・

 

そう思うと何故か嬉しい気分になる陽。

 

「斬りかかってこないなんて、随分余裕ね」

 

挑発するように、仮面の女に言う愛華。

 

しかし、仮面の女性は何か様子がおかしかった。

 

まるで何かに怯えて後ずさっているようだった。

 

「・・・・・・よ・・・う」

 

「え・・・」

 

陽は驚いた。

 

仮面の女性が今言った言葉、それが自分の名前のような気がしたからだ。

 

「どうしたの」

 

愛華が不思議そうな顔で陽を見て言う。

 

どうやら彼女には聞こえなかったらしい。

 

「いや、なんでもない」

 

空耳かもしれない。

 

そう思って陽はさきほどの出来事を忘れようと思う。

 

「・・・あなたは下がってなさい・・ あいつは私が、倒す」

 

愛華が刀を握っている手を一層強くして、構える。

 

すると相手の仮面の女性はそれに反応し、先ほどの動揺を振り払うかのように同じく構える。

 

「は!」

 

掛け声とともに相手に向かっていく愛華。

 

居合いの構えで相手に近づいていき、相手の近くまで行くと鞘から刀を抜き、相手の仮面の部分を狙う。

 

仮面の女性の仮面に徐々に近づいていく刀の刃の部分、しかし仮面の女性が一歩下がったため、その刃の上の部分は仮面の前を素通りする。

 

それに驚く愛華。

 

しかし、驚く暇もなく相手の反撃がくる。

 

相手は愛華の居合いを交わしたあと、姿勢を少し低くして居合いの構えをとる。

 

そして鞘から刀を抜く。

 

抜いた刀の中心辺りの刃の部分が愛華の腹の部分を狙って迫ってくる。

 

しかし愛華はそれをあらかじめ予想し、先ほど抜いた刀を迫ってくる刃と自分の腹の間に入れて相手の刃を自分の刃に当てて防御する。

 

カキーン

 

鉄同士がぶつかる音が辺りに響く。

 

その後二人は交わしたり、防御したりのどちらもひかない一進一退の攻防を続けそんな攻防を外から

 

見ている陽は唖然としていた。

 

最初は愛華が刀を抜いたということに驚いていたが、今は二人の尋常じゃない速さに驚いていた。

 

「すげ・・ あんなに動けるのか」

 

二人の尋常ではない脚力に驚く陽。

 

しかし、彼の動体視力も半端ではなかった。

 

何故なら普通の人間では捉えることのできない二人の動きを完璧に目で捉えているのだから。

 

五分ぐらい経つと、互角の戦いにも少しずつ変化が表れ始めた。

 

少しずつだが、愛華の動きが遅くなってきていた。

 

そのせいで愛華の剣さばきも遅くなっていた。

 

それに気づいたのか、仮面の女性は自らの刀を左から、今まで以上の力で振る。

 

カキーン

 

愛華は反射的にその刀を自らの刀で防御するが、自らの刀に与えられる衝撃に耐えきれず、思わず刀から手を放してしまう。

 

放した刀は後方にある草むらの中に入る。

 

「くっ・・・」

 

愛華は刀が落下したと思われる草むらの中に向かおうとするが、仮面の女性に刀を突きつけられて身動きがとれなくなってしまう。

 

その様子をみている陽は、さきほど愛華の刀が飛んでいった草むらを見る。

 

陽はあることを決意した。

 



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