異界渡りの財宝王 ~異世界と地球を往来し、マジックアイテムを持ち帰る~ (水色の山葵)
しおりを挟む

貧困

 

 クソ眠い。

 そのせいか、目の前が暗い気がする。

 身体も重いし、歩きにくい。

 

 それでも何とか、高校まで身体を動かす。

 まだ1年の10月だけど、今の所皆勤賞だ。

 これに傷をつけるのは好ましくない。

 進学……も……まぁ考えてはいるし……

 

 そんな現実を考えると億劫で疲れる。

 やはり、昨日のバイトが響いてるのだろうか。

 背中に何かが乗ってるように重い。

 日差しが照ってるのに、なんか暗いし。

 心なしか視界も狭いような。

 

 いや、登校さえしてしまえばこっちの物だ。

 1限目の国語の先生には悪いが寝よう。

 田口先生は63歳の高齢だし。

 多分バレない。

 

 そんな事を考えながら、俺は教室の扉を開く。

 

「え……」

 

 ドアをスライドすると、そこには一人の女子生徒が立っていた。

 

 我がクラスの委員長。

 丸い眼鏡を掛け、三つ編みのおさげを左右に垂らし。

 幼げな美人。か弱いお姉さん。

 そんな風に陰で噂されてるお人。

 ちなみに男子からは結構人気。

 

 本人は知らないだろうけど。

 

 そんな、三浦紗枝(みうらさえ)という名前の委員長。

 彼女は、俺を見て硬直していた。

 

「あっ……あぁ……」

 

 そんな、震える様な声が彼女から出る。

 同時に、持っていた書類を落とした。

 

 なんていうか、怖がられてね?

 

「どうかした?」

 

 俺は、そう彼女に聞いてみる。

 

「許して、ください……」

 

 そんな、か細い声が委員長から出た。

 

「やめろっ!」

 

 そう叫びながら、男子生徒の一人が、委員長を庇う様に前に出て来る。

 

「お、お前!

 委員長に近づくな!」

 

 彼は、そう俺に叫ぶ。

 佐久間紘一(さくまこういち)

 俺が、クラスで一番仲良くしてる友達だ。

 正義感が強くて、話しかけられなくても優先席とか譲るタイプ。

 

 で、なんでそいつが俺に怒鳴るのか。

 こいつもこいつで何か怯えてるし。

 

「何?」

 

 と、聞きながら前に出て、手を差し出す。

 俺としては、委員長が落とした用紙を拾おうと思った。

 

 のだけど……

 

 俺の右手に、鞄とは違う何かが握られている。

 

 ――俺の右手に、ライフルが握られている。

 

 あ、これ射的屋のコルク銃だ。

 バイト先から持ってきちまってた。

 寝ぼけすぎだな。

 

 てか、なんか変だ。

 委員長と紘一以外も。

 皆、俺から距離を取る様に壁に寄っている。

 

 

 ――そういや俺、昨日も今日の朝も着替えた記憶がねぇ。

 

 

 そんな事を思い出した。

 その瞬間だった。

 

「っらぁ!」

 

 紘一の靴裏が、俺の顔先数cmまで迫って来ていた。

 

 お前、ライダーキックとかマジか……

 

 だが、その一撃は思ったよりも高威力で。

 俺の身体は若干浮かび、後ろに吹き飛んだ。

 

 その瞬間、視界が開ける様に強い光が目を覆った。

 

 そういや、昨日は射的屋で客引きのバイトしてたんだ。

 キグルミで……

 

 しかも、バイト終わりに看板作ってた人とぶつかって。

 赤いペンキを、全身に被ってたんだった。

 返り血見たいだって笑われたな。

 

 吹き飛びながら、今更そんな事を思い出した。

 

 ライダーキックによって、キグルミの頭がすっぽ抜けた俺。

 それを見て、2人は驚きの声を上げる。

 

「はぁ? お前、(あたる)か!」

 

「え、望月(もちづき)君なの!?」

 

「……おう、ナイスキック」

 

 親指を立てる俺。

 脳震盪か睡眠不足か。

 何とも知れぬ原因で、俺は意識を失った。

 

 

 ◆

 

 

「あのね、望月君。

 バイトをするなとは言わないけどね。

 流石にあの恰好で登校されると怖すぎるよ」

 

「そうだぜ、俺は何のデスゲームが始まったのかと……」

 

 返り血にしか見えない汚れのついたキグルミ男。

 しかも、ライフル所持。

 コルク銃だけど、持ってる奴の外見が怖すぎる。

 そりゃ、ビビるよな……

 

「ちょ寝不足過ぎて。

 中に制服着てたのは憶えてたから、そのまま学校まで来たんだと思う」

 

 ペンキを落とすのは無理そうだから、もう全身赤に染めて来いって雇い主に言われたんだ。

 

 保健室から戻って来たのは1限目が終わった後だった。

 皆勤賞剥奪である。

 キグルミは教室の隅に置かせて貰った。

 

 2限目が始まるまでの10分休み。

 俺は席に座り、委員長と紘一に謝罪している最中である。

 

「お前今、バイト何個してんの?」

 

「まぁ、7個くらい?

 1日に行くのは3箇所くらいだけど」

 

「信じらんない。

 高校生の仕事量じゃないでしょ」

 

「委員長の言う通りだぜ。

 ちゃんと休まねぇと」

 

 休みか。

 そういや、最後に休んだのいつだっけ。

 土日もバイトだし。

 夏休みはマグロ釣りに行ったし。

 

「そうだな、暫く休むよ。

 大学進学も辞めたし」

 

 俺の言葉に、2人は顔を見合わせて聞いて来る。

 

「え?」

 

「なんかあったのか?

 頑張って貯金してたじゃねぇか」

 

「別に、その貯金を生活費に充てた方が楽だと思って。

 母さんだって、高卒で働いて欲しいと思ってるだろうし」

 

「けどお前、いい大学に入って将来安泰なキャリアウーマンのヒモになるっつう夢はどうするんだよ」

 

「そんな夢を言った憶えはねぇよ」

 

「あはは。

 それなら三年の丹生さんとかにアプローチした方が早いかもね。

 あの人、資産家の娘だし」

 

「だから、ヒモになる夢なんかねぇから。

 委員長も悪乗りしないでくれよ」

 

「……だって、怖かったし」

 

「なんですか、スイーツとか奢ればいいんですか?」

 

「んー、流石に望月君の事知ってて奢らせるのは無理だなぁ」

 

 態々ひけらかす事では無いし、思い出したい事でもないが。

 

 家は貧乏だ。

 

 父さんは俺が11才の時に蒸発。

 母さんは、無職。

 俺は中学からバイトしてる。

 

 それで生活費を賄えてるのは、家が20年前に死んだ爺ちゃんの持ち家で、土地も家もローンが無いから。

 

 別に母さんは弱ってるとかじゃないし。

 生活保護受給には程遠く健康だ。

 ただ、働き方を知らないだけ。

 

 結果的に受けられる国の援助は多く無く。

 

 家は貧乏だ。

 

「あ、二時間目始まるよ」

 

 委員長がそう言うと、彼等も自分の席へ戻っていく。

 一言、言い残して。

 

「なんかあるなら相談しろよ?」

 

「私も、なんでも手伝うからね」

 

 そんな、気のいい奴らな訳だけど。

 相談できる訳ねぇってか、しても意味ねぇよ。

 

 

 ◆

 

 

「母さんが俺の進学の為の貯金、全部ギャンブルで摩ったとか……」

 

 放課後。屋上。一人。

 夕焼けを眺めながら、俺はそう呟いた。

 この時間は何故か屋上の鍵が開いている。

 そう気が付いてからは、今此処だけが。

 

 ……俺の何も考えなくていい時と場所。

 

 まぁ、それでも考えっちまうんだけど……

 

 大学に行きたかったのは、安定が欲しかったからだ。

 今みたいな、不安定な状態じゃ無く。

 もっと高給取りになりたかった。

 母さんの老後とか、ちゃんと考えたかった

 

『ごめんなさい。

 私、風俗で働いて返すから……』

 

『何言ってんだよ母さん。

 そんな事しなくていいから。

 大丈夫……だから……』

 

『そう? ほんとにごめんね?』

 

 そんなやり取りをしたのは、もう何度目になるだろうか。

 30回は越えている様な気がする。

 

 でもやっぱり。

 俺に、進学するような余裕は無いって事だ。

 そもそも今だって限界だし。

 勉強も時間が取れないから得意じゃない。

 

 紘一や委員長に教えて貰って。

 それでも学年100位以内にも入れない。

 

「はぁ……貯金しなくていいなら、もうちょい楽な生活できるもんな」

 

 そんな、堕落的な思考が口から漏れる。

 仕事は疲れる。

 勉強も疲れる。

 

 委員長に、クラスの集まりを毎回不参加って報告するのも申し訳ない。

 紘一が折角誘ってくれる遊びを、何度も断るのは忍びない。

 

「金、金、金……

 金さえあれば……」

 

 親父がまだ居た頃、一度だけ行った。

 回転寿司。バイト以外で行ってみてぇな。

 

 そう、思った瞬間だった。

 

 

 ――ガン!

 

 

 と、何かがぶつかる様な音が、俺の頭上から響いた。

 そこは貯水槽がある場所だ。

 まさか、なんか壊れたのか?

 

 でも、見た感じ水が漏れてる様な感じはしない。

 一応、梯子昇ってみるか。

 屋上と4階を繋ぐ階段の屋根上部分。

 それが貯水槽の位置だ。

 

 何かあるなら、先生に言わないと不味い。

 いや、俺が屋上に入ってたのがバレるのも不味いけど。

 でも、緊急事態なら許してくれるだろ。

 

 恐る恐る、俺は梯子を上る。

 貯水槽の周りを歩いてみるが、それらしい凹凸は無い。

 貯水槽に何かあった訳じゃ無さそうだ。

 

 そのまま半周し、貯水槽の裏まで回り込みながら確認していく。

 

「……なんだこれ」

 

 そこにあるのば、一つの姿鏡。

 隠される様に置かれていた。

 

 布が被せられている。

 でも、サイズとか形状的に間違いなさそう。

 何となく、布を持ち上げて中を確認するとやはり姿鏡だ。

 

 でもなんか。

 

「俺じゃ、ない……?」

 

 鏡は通常、光景を反射する物だ。

 でも、これに映るのは。

 何か、草原の様な景色。

 

「なんだこれ」

 

 そう、俺は不意に。

 いや、不用意に。

 鏡へ手を添えた……

 

「えっ……ちょっと、待っ……!」

 

 その瞬間、俺の手が鏡の先につき抜けて。

 コケる様に、身体ごと中に入った。

 

 

 望月充(もちづきあたる) 男 16才10カ月。

 職業 【バイトマスター】

 称号 【貧乏異世界人】

 LV 1

 攻撃 10

 防御 10

 速力 10

 器用 10

 信仰 10

 魔力 10

 ギフト 【複製(デュプリ)

 スキル 【自己分析(マイステータス)lv1】

 

 

 草原で一人。

 俺は、視界に現れたそんな画面と共に立ち尽くした。

 

「うーーーーーん………………クソ」

 

 15秒程、熟考し。

 

「取り合えず食えそうな植物でも探すか……

 植物学者と山籠もりするバイトしてて良かった」

 

 俺は、そう結論を出して動き始めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拳銃

 

 分かった事がある。

 ここ地球じゃないわ。

 

 集めようと思った植物は、ほぼ知らん物しかない。

 

 そして何より、(そら)だ。

 

「なんで、太陽が二つも在りやがんだよ」

 

 灼熱の双玉を睨みつけても返事は無く。

 けれど、熱は俺の体内から水分を奪う。

 歩き回って1時間程。

 体力を無駄に消費しただけだ。

 

 地形的に分かったのは、草原と思っていたここは山と隣接しているって事くらい。

 山なら山菜を取れるかもとも思ったが、やはり見た事無い物ばっかりだ。

 

 今は、休憩がてら木陰で座ってる。

 取り合えず、川を探さないと。

 朝露を待つ訳にも行かない。

 

「てか、帰れるのかこれ……」

 

 正直、状況は絶望的と言ってもいい。

 何かのドッキリなら、そろそろネタばらしのタイミングだと思うんですけど。

 

「さっさと出て来いよ仕掛け人」

 

 なんて言葉は、風に流され消えていく。

 

 そもそも、俺が元凶の鏡を見つけたのは偶然だ。

 だから、誰かのイタズラの可能性は無い。

 そんな事は、最初から分かってる。

 

 そう、項垂れていら時だった。

 

 

 ――足音が、近づいて来る。

 

 

 草木が揺れる音。

 枝が踏み折られる音。

 

 近づいて来てる……

 

 音から考えて二足歩行だ。

 

「人間……か……?」

 

 そう、顔を上げた瞬間。

 

「BRrrrrrr……」

 

 豚面の巨漢が、そこに立っていた。

 いや、顔だけじゃない。

 桃色の肌に、猪の様な牙。

 巨大な樹の枝を削った棍棒の様な武器を手に握り。

 獰猛極まるその眼付は、獣と言って差し支えなかった。

 

「やべぇだろこれ!」

 

 俺は、咄嗟に立ち上がる。

 急いでそいつに背を向ける。

 

 逃げるしかねぇ。

 

「BRrrrrrr!!」

 

 しかし、俺の行動はこいつを煽っていると思われたらしい。

 

 背中の後ろから、ドスドスと巨大な足音が近づいてい来る。

 

 追い付かれたら絶対殺される!

 やばい。まずい。死にたくない!

 

「あぁ、なんでこんなことに。

 色々ピンチは経験したが、こんなのは初めてだ」

 

 知らずに受けたバイトが、ヤクザからの物だった時以来の恐怖。

 拳銃で脅されて、自殺の名所に向かった。

 そこで、自殺してる人の遺留品を盗む。

 そんなバイトだった。

 

 あの時も死ぬかと思った。

 けど、結局あの時のヤクザのおっさんは、本気で殺す気は無かった。

 でも、こいつは違う。

 マジで殺される。

 

 それだけの殺気。

 それだけの殺意を感じる。

 

 そう考え、足の力を強めたその瞬間だった。

 

 

 ――登録番号001『トカレフTT=33』で完了しますか?

 

 

 そんな文字が視界に浮かび上がる。

 

「は? 何言ってんだ。

 つーか誰だよ!」

 

 

 ――登録番号001『トカレフTT=33』で完了しますか?

 

 

 文字は消えず。

 しつこい位そう聞いて来る。

 

「なんでもいいから、助けてくれよ!」

 

 そう、叫んだ瞬間だった。

 

 俺の手が光る。

 いや、拳の中が光っている。

 それを開くと同時に、膨らむ様に拳の中に物質が現れる。

 

 それは。

 

「拳銃……!」

 

 あの時、ヤクザが持ってた奴と同じに見える。

 弾が入ってるのかとか、安全装置が外れてるのかとか。

 疑問はある。

 

 でも、今向けなきゃ。

 このまま逃げても、俺は死ぬ。

 それだけは分かってた。

 

 誰が、こんなモン俺に寄こしたかしらねぇが。

 

「やってやるよ」

 

 振り向いて、俺は銃口を豚へ向ける。

 

 まだ、人生楽しみ切れてねぇ。

 まだ、俺は不幸なんだよ。

 

 だから、幸せになるまでは、死ねねぇって決まってんだよ。

 

「俺が! そう決めたんだよァ!」

 

 引き金は、容易く引けた。

 安全装置は外れてるらしい。

 火薬の爆発は想像の二倍程強かった。

 火花を散らして銃弾は飛び出していく。

 

 けれど、その照準はいつの間にか豚の頭より少し上を向いていて。

 

 外れる。外した。

 

「BRrr……」

 

 豚が足を止めた。

 

 爆音と火花。

 そして、お前の頭上の木にめり込んだ銃弾。

 それを見て警戒したのだろう。

 それが、テメェの敗因だ。

 

 二度目の引き金は、さっきよりも軽かった。

 

 破裂音が響く。

 

「Br……」

 

 腹から、赤い血が滴る。

 さっき跳ねたから、下を狙った。

 けど、さっきより制御が上手かったらしい。

 

「ブィイ……」

 

 豚面は、自分の腹を撫でる。

 そして、血を確認して。

 俺に尖った視線を向ける。

 

 だが。

 

 一度目は、迷いが有った。

 二度目は、殺す事にビビってた。

 三度目は……

 

「使い方は、分かった」

 

 もう慣れた。

 

 パンと、乾いた音が連続する。

 銃弾が無くなるまで。

 豚面が動きを止めるまで、俺は撃ち続ける。

 

「流石に原住民って訳じゃないよな。

 お前が動物だって、獣の類だって願うよ」

 

 片手で拳銃を撃てる程度に慣れた俺は、左手片方で合掌のポーズをとる。

 

「まぁ、お前が原住民でも俺と仲良くなる路線は無さそうだけど」

 

 豚面が動かなくなった事を確認した頃、弾倉も空になった。

 

 流石に、マグロの解体とかとは訳が違った。

 ハンターと一緒に森に潜った事もあるけど。

 その時も、殺されかける事は無かった。

 熊と10分程睨み合った程度。

 

 でも、こいつはマジで殺そうとしてきた。

 追いかけて来たし。

 その道中の木を、棍棒で薙ぎ倒してる。

 てか、目を見れば殺意は明白だった。

 

「なんなんだよこの世界……」

 

 そう尻もちを突く様に、座った。

 けれど不幸は続く物だ。

 俺はよく分かってたはずのそれを、状況に困惑して失念してた。

 

 

 ――ギギッ

 

 

 なんて声が、頭の後ろから聞こえた気がした。

 

「ガハッ!」

 

 身体が前に吹っ飛ぶ。

 首の後ろを殴られた……?

 

「ギギ」

 

 緑の肌の小人。

 さっきの豚より少し小さ目の棍棒を持ってる。

 それが3匹……?

 ナイフみたいな物を持ってる奴もいる。

 

 つうか、頭が痛い。

 ガンガンする。

 やばい。今度こそ死ぬ。

 

『キシャシャ』

 

 3匹の声が重なる。

 まるで、俺を嘲笑う様な声。

 

 金もねぇ。休みもねぇ。時間もねぇ。夢も消えた。命ももう潰える。

 

 そんなに、俺が面白ぇかよ。

 

 銃を向ける。

 引き金を引く。

 カチリと音が鳴る。

 銃弾は出ない。

 弾が切れた。

 

 クソが。

 

「クソがぁぁああああああああああああああ!」

 

 その瞬間、火花とは違う。

 少しだけ、銃が光った気がした。

 

 パン! と子気味の良い音が響く。

 

 その一発は、右の小人の頭を弾く。

 

「ギギギィイイイイイイ!」

 

「ギャギャギャアアアアアア!」

 

 仲間殺されてキレる知能はあんのかよ。

 なら最初っから、襲ってくんじゃねぇ。

 

 俺は、2匹になった小人の左側に銃口を向ける。

 

 けれど、そいつ等は思ったより早く。

 銃を向け直す間に、既に棍棒の射程内だった。

 左の奴が棍棒を振り下ろす。

 対して、俺は銃の引き金を引く。

 

 同時。

 

「――てぇッ!」

 

「――ギッ!」

 

 今度は、脳天を殴られた。

 やばい、もう意識が持たねぇ。

 

 もう一匹居んのに。

 

「シャシャシャシャ」

 

 残虐な笑みを浮かべるラスト一匹。

 そいつの手にはナイフが握られている。

 

 フラつく腕を上げて、銃を向けて。

 その動作が終わるより奴の動きは速く。

 ナイフは俺の首を抉った。

 

「ボフッ……」

 

 血が流れる。

 

「グフ……」

 

 口から流れる。

 

 ボタボタと、喉から零れる。

 

 あぁ、俺は死ぬ。

 

「キャシシシシシシシ」

 

 笑う。

 嗤う。

 

 馬鹿にしてやがる。

 

 だから、それを見て。

 

「ハッ」

 

 俺も笑みを返してやった。

 

「オッボッ……テメェも道連れだクソッタレ」

 

 朦朧とする視界と意識の中。

 明確に見えたその笑顔の。

 その眉間の中央へ向けて、引き金を引いた。

 

「――ギッ」

 

 小人が倒れ伏す。

 

「グポッ……ハッ、俺を殺したんだからあの世で文句言うんじゃねぇぞ」

 

 そして、俺も意識を手放した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あ……?」

 

 夜空が浮かんでいた。

 満月だ。

 なんで。さっきまで昼みたいな空だったのに。

 

 あれ、って……秋の四辺形だよな。

 

「じゃあ!?」

 

 周りを見渡す。

 それは、学校の屋上だった。

 

「夢……?」

 

 屋上で寝てただけで、全部夢だったのか?

 首を触る。特に何も無い。正常だ。

 

 制服も、別に汚れてない。

 新品とは行かないが、森を走り回った後って程じゃない。

 

「ふざけんなよ……

 アレが……どんだけリアリティー高い夢だよ……」

 

 本気で焦った。

 

 いや、でもそうだよな。

 

「普通の高校生が、銃なんか使える訳無いし」

 

 そう口にして、夢で銃を握っていた右手を見る。

 

 すると。

 

 そこから、少量の光が溢れた。

 

 鉄の感触。

 さっきまでと同じ、引き金の感触。

 

 俺の手には、拳銃が握られていた。

 

「嘘だろ……」

 

 けれど。

 俺は急いで立ち上がり、貯水槽の裏を確認する。

 

 どれだけ信じたく無くても。

 確認すれば。

 

 確かにそこには、姿鏡が置かれていた……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

複製

 

「なぁ、紘一(こういち)

 

「なんだよ(あたる)

 

「これ、何か分かるか?」

 

 その日、俺はいつもより少し早く登校していた。早朝バイトを休んだからだ。

 

 同じ様に日直で早く来ていた紘一に、スマホの画面を見せる。

 

 開いていたのはメモ帳。

 そこには、昨日俺の視界に浮き上がった文字を写してある。

 俺の名前と年齢部分は隠し、それ以外を紘一に見せた。

 

 正直、俺には意味がさっぱり分からない。

 攻撃とか防御とか。その隣の数字とか。

 スキルってのは、技能……だよな?

 ギフトってなんだよ。プレゼント?

 

 かと言って聞ける相手は多くない。

 ダメ元で、紘一に聞いてみた。

 

 すると。

 

「なんかのゲーム画面?

 お前もついにそういうのやる様になったんだな」

 

「ゲーム……画面……」

 

 飲み込む様に俺は呟く。

 生まれてこの方、ゲームなんて一度もやった事が無い。

 

 ていうか、あれ高すぎるだろ。

 一本5千円とか、買える訳無い。

 スマホのアプリとかも、正直時間が無い。

 

「キャラのステータスじゃねぇの?

 ホラ、こんな感じだろ?」

 

 紘一は、自分のスマホを見せて来る。

 スマホゲームが起動していた。

 イケメンの二頭身キャラクター。

 画面の隅には俺が見せたのと似た様な文字が書かれている。

 

「これ紘一か?

 全然似てねぇな」

 

 短髪黒髪で、ガタイも良く、強そうな顔つきと言われる紘一。

 対して、ゲーム内に映るのは童顔で小柄な金髪イケメンだった。

 

「別にいいだろ、ゲームなんだし」

 

「そうだよ。装備とかと組み合わせて見た目も変える物なんだから。

 魔法の杖なら黒髪眼鏡とか、剣と盾なら短めの金髪とかね」

 

 紘一と話してると、委員長が横からスマホの画面を覗き込んで来て話に混ざった。

 今日の日直は、紘一と委員長だったか。

 

「私、結構ゲームするんだ」

 

 なんか、眼鏡の奥の瞳が輝いてる気がする。

 

「見る感じRPGのステータスだね。

 バイトマスターって何……

 絶対ネタクラス……まぁ望月君らしくはあるけど」

 

「委員長もこういうの詳しいの?」

 

「自慢じゃ無いけど、有名MMOの対人戦ランキングで42位まで行った事とかあるよ!」

 

 腰に手を当てて、そう宣言する委員長に俺と紘一は同時に言う。

 

「完璧自慢じゃね?」

 

「それ、凄いのか?」

 

 俺を見て、委員長はガッカリする様に溜息を吐いた。

 

「……それで、望月君はどんなゲームやってる訳?」

 

 さて、なんて答えよう。

 あの世界に、友人を巻き込む訳にも行かないし。

 

「ゲームのバグを見つけるバイトやっててな」

 

「あー、デバッカーか」

 

「望月君電子機器触れるんだ。

 入学したばかりの時は、アプリのID交換にも手間取ってたのに」

 

「まぁ一応……

 けど、意味がさっぱり分からなくて。

 こういうゲーム? ってどう進めればいいんだ?」

 

「まぁ、普通はモンスター倒してレベル上げだよな」

 

「そうだね。後はダンジョン行ったり、装備集めたり。

 色んな能力を獲得したりとか」

 

「能力……」

 

「そ、このスキルって奴かな多分。

 ギフトは何だろ。何かの固有能力なのかな」

 

 モンスターを倒してレベル上げ。

 装備の入手。

 能力を増やす。

 メモっとこ。

 

「でも、普通だったらプルダウンで詳細見れるよね」

 

「まぁ、ヘルプ機能くらいあるよな」

 

「ぷるだうん……?

 ヘルプ機能……?」

 

「おま、どんだけ機械音痴だよ」

 

「学校の授業でも使うよ、プルダウンって単語」

 

「例えば、俺のアプリならステータスの一部分をタップすると、その言葉の意味を詳しく教えてくれる。

 能力とかも、どういう効果があるのか分かるぞ」

 

 そう言って、実際に操作しながら見せてくれる。

 スキル:美男子の魅了。確率で女性モンスターを3ターン仲間にする。

 どんな能力だよ。

 

「ライダーキックの方が似合ってるぞ」

 

「うっせ」

 

「あはは、ちょっとキモイかも」

 

「なっ、委員長まで……」

 

 肩を落とす紘一を眺めながら、俺は思い出す。

 確かに、あの世界にはモンスターと呼べる存在が居た。

 豚面の巨漢と緑の小人。

 あれを倒せばいいのか?

 

「まぁ、何かクエストとか依頼された事がある訳じゃないなら、レベル上げが無難なんじゃない?」

 

 別に、誰にも何も頼まれてはない。

 そもそも、あの世界にもう一度行くのか。

 行く理由は何かあるのだろうか。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 そう、思ってんのに。

 なんでまた来ちまったかな。

 

 鏡の向こうの世界。

 昨日と同じ様に屋上の姿鏡を通れば、そこは草原だった。

 

「森じゃないんだな……」

 

 昨日死んだのは、森の中だった。

 飛ばされる位置は毎回同じって訳だ。

 

 

 望月充(もちづきあたる) 男 16才10カ月。

 職業 【バイトマスター】

 称号 【貧乏異世界人】

 LV 1

 攻撃 10

 防御 10

 速力 10

 器用 10

 信仰 10

 魔力 10

 ギフト 【複製(デュプリ)

 スキル 【自己分析(マイステータス)lv1】

 

 

 視界にはやはり昨日と同じ文字が浮かぶ。

 やっぱ、夢じゃない訳だ。

 

「死ぬ以外に帰る方法も分からないのに。

 馬鹿だな俺」

 

 そう思いながら、俺は視界に映る文字に触れる様に手を動かす。

 

 

 バイトマスター:100種以上のアルバイトを経験した者だけが就ける職業。バイトで経験した事がある行動を行う場合、全能力が向上する。

 

 貧乏異世界人:異世界からやって来た者の証明であり、異世界でも貧乏である証明。帰還と唱える事で、元の世界に帰る事ができる。金運に関するスキルを習得できない代わりに、1日1度女神の哀れみによって銅貨5枚を貰える。

 

 

「2人の言った通りだ。

 本当に見れた。あいつ等異世界人なのか?」

 

 って、帰還って唱えれば帰れたのか。

 死に損じゃないか。

 

「帰還」

 

 そう唱えると、身体が硬直した。

 1分程時間が経つ。

 俺は学校の屋上で仰向けに倒れていた。

 

「なるほど」

 

 そう呟いて、俺はもう一度鏡の中へ入った。

 帰還は1分程時間がかかる。

 しかも、身体が一切動かなくなる。

 死にそうな時、逃げる方法として使える訳じゃ無さそうだ。

 

 

 次はギフトとスキルだな。

 

 

 ギフト:世界を渡った存在に与えらる力。世界の法則を無視し、異世界でも使用できる。

 

 スキル:技能の上位能力。極めた技能が、肉体能力以上の特殊な効果を帯びた物。LVが上がるほど、多くのスキルを獲得できる。

 

 複製(デュプリ):登録された物品を、精神力を消費する事で創造する事ができる。

 創造された品は任意に消す事もできるが、30分で自動消滅する。

 同じ品は複数登録されていない限り、同時に一つまでしか創造できず、新たに創造する場合は前の品が自動消滅する。

 

登録品条件・視認した事がある。片手に持てるサイズの物品。触れられない物や、生物は登録できない。

登録数条件・【閲覧権限無し(?????)】に付き一つ。

 

 自己分析(マイステータス):自分の能力を文字情報として確認する事ができる。全ての知的存在が保有する基本スキル。スキルLVが上昇する程、多くの情報を閲覧できる。

 

 

 少し分からない単語もあるが、概要は何となく分かる。

 恐らく、拳銃を出したのは複製(デュプリ)というギフトの力なのだろう。

 

 てか、これで宝石でも複製すれば……

 いや、30分で消失するなら売れないか。

 詐欺で逮捕は御免だ。

 

 ――登録数条件を満たしていません。

 

 は?

 登録数条件教えろよ。

 

 ――登録数条件を満たしていません。

 

 なんだこいつ。

 じゃあそこの草とか複製できんのか?

 

 

 ――登録番号002『草』で完了しますか?

 

 

 ……しません。

 

 じゃあ、隣の石は。

 

 

 ――登録番号002『石』で完了しますか?

 

 

 しません。

 

 なんだこれ。

 こっちの世界の物なら登録できるって事か?

 でもまた、登録した後でもう駄目って言われるかもだし。

 慎重に選んだ方がいいよな。

 

 銃が可能って事は、武器や防具も見るだけで複製できるって事だ。

 手に持てるサイズだし、防具は無理かな。

 

 待てよ……

 

 複製は現実世界でも使える。

 拳銃は出せた。

 

 だから例えば。

 魔法の杖とか、そういうのを複製すれば。

 

 それを使ってビジネスに繋げられるんじゃないのか?

 マジシャンでもなんでもやればいい。

 

 そうすれば大学に。

 いや、大学に行く以上の金を生めるかもしれない。

 母さんの老後もどうにかなる。

 放課後、紘一とカラオケに行ける。

 委員長にスイーツくらい奢ってやれる。

 

「ははっ、どうせ死んでも生き返るんだ」

 

 いや、一度そうなったからって、二度目も同じとは限らない。

 

 でも、こんな状態で。

 

 何の希望も無く生きていくのは。

 

 

 ――生きてないのと同じだろ。

 

 

「まずはレベル上げ……だよな。

 やってやる!」

 

 そう呟いて、俺は奥に見える山を睨みつけた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

モンスターハント

 

「ギギ……」

 

 緑色の肌のモンスター。

 紘一に特徴を話すと教えてくれた。

 こいつはゴブリンって名前らしい。

 

 武器は基本的には木製の太い棒。

 稀に、金属の武器を持ってる奴も居る。

 しかし、総じて言えるのは遠距離攻撃の不足だ。

 

 弓持ちも居るが、精度は良く無い。

 その射程は良く見積もっても30m。

 トカレフは、俺の腕換算でも50m弱だ。

 

 拳銃を構え。

 ちゃんと両手で狙う。

 

 一応、猟銃免許を持ってる人に銃の使い方を見せて貰った事がある。

 

 ライフルと拳銃ではかなり違うが、そこは経験を増やして補おう。

 

「ギ……?」

 

 っべ。

 外した。

 もう一発。

 

「ギッ……!」

 

 そんな、短い悲鳴を漏らしてゴブリンは絶命した。

 この森じゃこいつ等が一番弱い。

 

 他には、豚面(オーク)蜥蜴男(リザードマン)犬面(コボルト)魚人(マーマン)を確認している。

 

 命名は、全て委員長と紘一だ。

 

 2人とも俺がゲームの話をすると、喜々として付き合ってくれる。

 何処か嬉しそうなのは、きっと俺の境遇に関係しているのだろう。

 

 でも、心配されるのは本望じゃない。

 心配を掛けない様に自立しないと。

 

「にしても、思ったより楽だったな」

 

 こいつ等には致命的な弱点が存在する。

 それは、山から出てこないという事だ。

 

 山の麓の森部分。

 浅い場所に入り、敵を探す。

 見つければ、そいつ等を引き連れて森から出ればいい。

 そうすれば、あいつ等は投石や弓での攻撃しかできなくなる。

 なら、敵の射程外から銃撃で倒せばいい。

 

 逃げるのは簡単だ。

 パルクールをカメラで追いかけるバイトをしてた事があるから。

 

 植物や動物の調査の荷物持ちとして、森林に入る事もあったし。

 それに、地球より身体が軽い気がする。

 

 森から出ないと気付くまでに2度死んだ。

 しかし、やはり屋上で復活するのみ。

 本当に、死ぬ事は無いらしい。

 

 

 ――LVアップ。

 ――スキル獲得。

 

 

 そんな文字が、視界に映る。

 ステータスをイメージすると勝手にそれは表示された。

 

 

 望月充(もちづきあたる) 男 16才10カ月。

 職業 【バイトマスター】

 称号 【貧乏異世界人】

 LV 4

 攻撃 40

 防御 40

 速力 40

 器用 40

 信仰 40

 魔力 40

 ギフト 【複製(デュプリ)

 スキル 【自己分析(マイステータス)lv2】【植物鑑定lv1】

 

 

 大体、ゴブリンを10匹倒した程度でレベルは2になっていた。

 さっきので、既に50匹強は殺してる。

 これでもレベルは4。

 4が高いのか低いのか……

 

 けど、今回は新たにスキルを獲得した。

 

 

 植物鑑定:植物を目視する事で、その植物の学術名称と人体に対する主な効能を知る事ができる。

 

 

「なるほど」

 

 呟きながら、地面の草を抜いて見る。

 

 ギヨマ:消化器の働き促進。

 

 そんな文字が現れた。

 微妙な能力だな。

 

 この変な葉っぱの奴とかは。

 

 

 ――ヒールソウ:接着細胞再生。

 

 

 は?

 見た事無い効能の草だ。

 漢字をそのまま解釈すると、接着する事で細胞を再生させるって事か?

 

 試してみるか……どうせ死なないし。

 丁度、森の中で引っ掛けた傷が腕にある。

 そこに、ヒールソウの葉をくっ付ける。

 

「なんか、ちょっと痒いな」

 

 そのまま10秒程待つ。

 そして、剥がしてみると。

 

「マジで塞がってる……

 跡もないし」

 

 地球の植物じゃあり得ない現象だ。

 詰められるだけぽっけに詰めよう。

 10分程、俺は草を刈る事にした。

 

 複製登録する選択肢もあるけど、他にもっといい物があるかもしれないし。

 

 複製は、登録数が限られてるっぽい。

 軽々しくは使えない。

 因みに登録解除はできなかった。

 

 そのまま、適当にゴブリンを殺す。

 ここに来れるのは、放課後の1時間程。

 それ以降はバイトだ。

 

 スマホの時計を見ると、そろそろ時間だ。

 帰還と呟き、学校へ戻る。

 

 そのまま起き上がり、階段へ続く扉を開く。

 

「あ……?」

 

「きみ……」

 

 扉の前に、生徒が居た。

 見女麗しい。

 そんな感想を誰もが抱く。

 彼女は、学校の有名人だ。

 

 初めて話す。

 

 丹生夜見(うにゅうよみ)

 父親は資産家で、彼女は蝶よ花よと育てられた生粋のお嬢様。

 俺とは、正反対の人種。

 

「丹生夜見、さん……」

 

「なんで、私の名前、知ってるの?」

 

 彼女がコトリと首を傾げる。

 耳に掛かっていた長く艶やかな黒髪が流れる様に落ちる。

 自然と、視線が胸の辺りに移った。

 それを自覚して、俺は直ぐに目線を逸らす。

 

「先輩は、有名ですから……」

 

 そう返事をしてみるが、彼女は興味の無さそうな表情を浮かべる。

 

「なんで、屋上のドアから出て来たの?」

 

 脈絡ねぇなこの人。

 なんていうかマイペースな感じ。

 

「立ち入り禁止は分かってるんですけど……

 ちょっと、そういう気分で」

 

 俺がそう言うと、先の返事より早い反応速度で、彼女は俺の目を見て、口を動かした。

 

「自殺とかするの?」

 

「しませんよ。

 丹生さんこそ、なんでここに?」

 

 ここは、屋上と4階を繋ぐ階段だ。

 この先には屋上しかない。

 そして、屋上に生徒は立ち入り禁止だ。

 

「えっと」

 

 そう言いながら、彼女は自分の制服の胸ポケットを漁り始めた。

 

「これ」

 

 そう言って丹生夜見が取り出したのは、煙草の箱だった。

 

「……未成年は吸っちゃ駄目ですよ」

 

「だから?」

 

「俺が先生にチクったらどうするんですか?」

 

「君が嘘を吐いてるって訴える」

 

 それは、確かに俺が負けるな。

 美貌も経済力も。

 何もかも、生きる世界に差が有り過ぎる。

 

「黙っててね」

 

「はい……」

 

 俯きがちにそう答える。

 

 態々面倒事に首を突っ込む気は無い。

 そんな事しても、俺に良い事は何も無い。

 この人の肺の心配なんか、俺がする事じゃないし。

 

「それと君、屋上で変な物見なかった?」

 

 階段の下から、俺の顔を覗き込む様に彼女は俺と目を合わせに来る。

 

 まるで、蛇のように体をくねらせて。

 

 やばい。

 俺の直観が何かを警告してる。

 色々、命賭けの仕事も何度か経験がある。

 でも、それ以上の恐怖が。

 今までとは比べ物にならない悪寒が。

 

 告げる。

 

 

 ――この人は、何かマズい。

 

 

「例えば……鏡……」

 

「見てないです!」

 

 食い気味に俺が言うと、彼女は顔を引かせる。

 

「……そっか、なら、いいの。

 そこ、通ってもいい?」

 

 俺は、道を開ける様に脇へ避ける。

 

 その前を、彼女が通過していく。

 

 高そうな香水の匂いがした。

 

 もう、話しかけないでくれ。

 そう思いながら通り過ぎるのを待つ。

 彼女は階段を上がり、屋上のドアノブに手を掛けた。

 

 胸を撫でおろす。

 冷や汗が凄い。

 

「――ねぇ」

 

「はい!」

 

 急に喋りかけるな。

 ビビるだろ。

 

「君、嘘吐いてないよね?」

 

 三日月のように笑う口元。

 深淵のように黒い瞳。

 それは、人を惑わす悪魔の様で。

 丹生夜見は俺に問いかける。

 

「……吐いてないですよ」

 

 平静を装いながら、俺はそう返事をする。

 

「なんか君、可愛いね」

 

 そう言い捨てて、丹生夜見は扉の向こうへ消え、扉は閉まる。

 昇降口に、俺一人だけが残る。

 腰が抜けた。

 

 土方の親方より。

 ヤクザのおっさんより。

 エキストラのバイトで見た、テレビに出るような大スターより。

 

 迫力を感じた。

 

「何だったんだ、あの女……」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大幅レベルアップ

 

 レベルアップ。

 それは、『強くなる』という事らしい。

 

 紘一からそう聞いても、最初は理解できなかった。

 

 

「――けど、今なら分かる」

 

 

 現在、俺のレベルは43。

 速度、筋力、跳躍力、しなやかさ、硬度。

 全ての身体能力が、現実世界に比べて飛躍的に高くなっている。

 

 もし、現実世界でこの力があったとすれば。

 間違いなく個人能力で俺は世界最強だ。

 それほどの力。

 

 あれから、丹生夜見に遭う事も無く。

 順調に、俺はこの世界に慣れていった。

 

 1日1時間のハントを10日続けた。

 討伐数は既に数えきれない。

 麓に参列する亜人の死体は、数えるのも馬鹿らしい。

 

 大量殺戮。

 これを俺がやったのだ。

 

 しかし、相手は俺を見れば即座に襲い掛かって来る獣。

 それほど、心の痛みは無い。

 

 というか、既に数回殺されている訳だし。

 同種だから同罪という訳では無い。

 だが、俺の『誘い出し』が失敗した事はまだ無い。

 

 接触すれば追い掛けて襲いかかって来る。

 防衛。そんな言い訳も成り立つだろう。

 まぁ、一応合掌くらいはするけど。

 

「さてと、そろそろ行ってみるか……」

 

 今日は金曜。

 今日の放課後と土曜のバイトは全て休みにした。

 それは、山中の森林に足を踏み入れる為。

 

 後方を見れば、続くのは草原のみ。

 歩き始めても、人里がある保証はない。

 どうせ、食料は帰還があれば関係ない。

 植物鑑定あるから、最悪食い物は分かる。

 

 レベルが上がり、スキルも多く習得した。

 

 『命中lv4』『速射lv1』『集中lv2』『明鏡止水lv1』『回避lv2』『身体操作lv2』『気配察知lv3』『魔力回復lv2』『強敵鑑定lv1』『雷属性付与lv1』『加速陣lv1』『鉱石鑑定lv2』

 

 これだけスキルを使える様になった。

 俺も相当強くなった筈。

 いや、実感として分かる。

 俺は多分、かなり強い。

 

 走る速度。殴る力。反射神経。

 全てが強化されている。

 

 銃の扱いに関するスキルもかなりある。

 

 紘一や委員長が教えてくれた。

 「閃き型」とか言うらしい習熟方式。

 行動次第でどんなスキルが得られるのか変わるらしい。

 

「行くか」

 

 俺は、森林へ足を踏み入れた。

 いつもの浅い場所では無い。

 今日は奥まで行く。

 

「ブヒィ……」

 

 そう、声が聞こえた時。

 既に、俺は気が付いてる。

 

 気配察知は正常に機能している。

 

 だから、既に俺は銃口を豚面に向けて。

 

 命中。

 集中。

 明鏡止水。

 速射。

 身体操作。

 

 5つのスキルを同時に使う。

 これは、5本の指をバラバラに同時に動かすくらいには難しかった。

 まぁ、フィンガースタイリストのマネージャーをやっていた時よりは楽だ。

 

 パンと、破裂音が耳をつつく。

 煩いと思った時には、既に豚の頭には穴が開いていた。

 

 最初はビビって逃げた相手。

 銃で殺せたけど、あの時は乱射しただけ。

 それと比べて今回の戦闘は雲泥の差だな。

 

 トカレフの装填数は8発。

 撃ち切れば、複製を使い直す必要がある。

 だが、複製のギフトは精神力を使う。

 

 その精神力もレベルアップで強化されているし、魔力回復のスキルは、精神力の回復速度を上げてくれるが……

 

 それでも、節約するに越した事はない。

 

「SYAHhhhhhhhhh!」

 

 そんな鳴き声で現れるのは蜥蜴男(リザードマン)

 蜥蜴の尻尾と青い鱗を持った種族だ。

 こいつ等の厄介な所は鱗だ。

 

 鋼鉄並みの強度。

 それは銃弾すら弾く。

 

「まぁ、眼球から通せばいいだけ」

 

 今の俺のスキルがあれば簡単だ。

 20m圏内なら、ほぼ狙った部位へ当てられる。

 

「シャッ……」

 

 そんな声を残して蜥蜴男も絶命する。

 

 そのまま、見慣れた顔を撃ち抜きながら進んでいく。

 

 スキル様々だ。

 不意打ちは不可能。

 命中精度は軍人以上。

 体力、身体能力、共にアスリート超え。

 

 これで負けろって方が無理がある。

 

 山登りも、この身体には大して堪えない。

 警戒しながら進む分、普通より体力消耗する筈なのに。

 

 荷物が無いのもデカいな。

 薬草だけだし。

 

 これで制服じゃ無ければ完璧だった。

 まぁ、文句は言っても意味がない。

 

「って……今度は群れかよ……」

 

 基本的に、群れるのはゴブリンとコボルトだけ。

 

 だが、俺が見つけた群れはオークだった。

 深い所は、こいつ等も群れ始めるらしい。

 

 個体毎の能力では、オークとリザードマンが最強。

 ゴブリンとコボルトは最弱だ。

 だから、群れるのはゴブリンとコボルト。

 

 じゃあ、この先にはこいつ等が群れなきゃいけないような存在が居る?

 

 いや違う。

 オークの群れの中に、一匹。

 赤い皮膚のオークが居る。

 そいつだけ、他よりもサイズがでかい。

 

 統率者が居てこその群れ。

 

「スルーしてもいいが……」

 

 レベル上げ。

 威力偵察。

 殺す理由が2つもある。

 

 幸い、相手はこちらに気が付いていない。

 

 俺は、銃口をそれに向ける。

 もし善人だったらごめん。

 まぁ、他のオークの雰囲気からして、それはない。

 っていうか、善悪を判断する知能すら無さそうだ。

 

 もう、頭を弾くのは慣れた。

 慣れってのは偉大だ。

 絶対無理だと思う様な仕事量も、慣れれば熟せる様になる。

 ブラックバイトのコツは、何も考えない事。

 

 【集中】は、狙う場所を良く見せる。

 【明鏡止水】は、時を遅く感じさせる。

 【命中】は、その角度で銃を撃った場合の軌道を幻視させる。

 

 

 ――更に。

 

 

「雷属性付与・加速陣」

 

 2つの魔法陣が、銃口の前に並ぶ。

 詳細曰く、通過式魔法陣。

 陣を通過した物体に、特殊効果を付与する。

 

 内容は文字通り。

 雷属性と加速だ。

 

 命中の予測軌道は眉間中央。

 ここで撃てば、当たる!

 

 

 ――パン!

 

 

 火薬の爆ぜる音が鳴る。

 共に弾丸は、2つの魔法陣を通過。

 加速は物理限界に到達し、光速に近い速度で頭を穿つ。

 

「ブヒィ!」

 

「ブヒヒヒヒィ!」

 

 その声は、赤いオークの物ではない。

 既に、赤いオークは絶命している。

 その声は、赤いオークの死体を見た別の声だ。

 

 集中を切らすな。

 

 俺は、次のオークへ狙いをつける。

 距離45m強。

 スキル効果により、有効射程は100mオーバー。

 

 拳銃で狙撃していく。

 

 豚面(オーク)10。

 討伐完了。

 

 

 

 ――そのまま俺は進んでいく。

 

 

 

 ははっ。

 まじか。

 やばいなこれは。

 

「BURrrrrrrrrrr!!」

 

 通常のオークより大きな鳴き声。

 

「KISSYAAAAAAAAAAA!」

 

 通常のリザードマンより大きな声。

 

 ゴブリンもコボルトもマーマンも。

 普通のそれとは違う。

 巨体で、力強く、速く。

 そんな、上位種。

 

 それが、森の奥には跋扈していた。

 

 強敵鑑定のスキルを使えばそれは一目瞭然。

 このスキルは相手の強さを数字で教えてくれる。

 

 通常種を1とした場合。

 こいつ等の強さは3。

 

 つまり、3倍の強さの敵という訳だ。

 それが、山の中には大量に居た。

 

 俺は木の上に昇り、彼等を観察する。

 幸運な事に、こいつ等は種族毎に敵対している。

 

 いたる場所でバトルしてる。

 だから、隠れれば攻撃して来る奴は少ない。

 

「何なんだよこいつ等。

 縄張り争いか?」

 

 しかも、よく見れば強さ『3』だけじゃない。

 

 『4』や『5』、稀に『6』も居る。

 真面にやり合うのは面倒だな。

 こっちには弾数、精神力の限界がある。

 

「取り合えず探索してみるしかないか。

 この奥がどうなってるのか……」

 

 そう思い立ち、俺は動き始める。

 パルクールのスキルを発動。

 木と木を飛び移って移動する。

 

「GYAGYAGYAGYA!!」

 

「UUOOONnnnnnn!!」

 

 稀に、身軽なゴブリンやコボルトが襲い掛かって来るが、気配察知と回避で掻い潜る。

 

「もしかすれば、何か宝があるのかもしれない。

 それを一目見れば、複製できるかも……」

 

 そんな思いで、俺は進んでいく。

 

 

 そして、見つけたのだ。

 

 

「なんだこれ……」

 

 真っ白な木。

 枝も、根も、葉も、全てが白い巨木。

 周りに木は一本もなく、広間の様な聖域が完成している。

 その周りの雑草も全て白く変色している。

 

 その白い空間。

 その前に、強敵鑑定『10』。

 一際力強く、歴戦と思わせる存在が居た。

 

 緑色の肌はゴブリンに似ているが、風格は全く違う。

 巨大な黒い大剣を担いでいる。

 侍の様な鎧を身に纏っている。

 

「……勝て無さそうだな」

 

 木の上から、それを眺めてそう呟いた。

 

 その瞬間。

 

 

 ――ギロリ。

 

 

 そいつの目が、俺を向いた。

 

「バレた……!?」

 

 背負う大剣を抜く。

 構えは一瞬で、薙ぎ払いはもう完成している。

 突風が、大剣から巻き上がる。

 

 その強風は、俺の乗っていた木を掘り返す程の威力を持っていた。

 

「ッチ……!」

 

 舌打ちをしながら、吹き飛ばされる。

 銃撃で反撃してみるが、横にした大剣で防がれた。

 どういう予測能力だよ……

 

 だけど。

 

「まだだ!」

 

 

 雷属性付与。

 加速陣。

 集中。

 明鏡止水。

 命中。

 速射。

 身体操作。

 

 

 ――狙え、俺。

 

 

「ここっ!」

 

 照準を合わせ、引き金を引く。

 狙いは完璧。

 角度は百点。

 威力は十分。

 

 しかし。

 

 奴は、手を前に翳し。

 

「有り得ねぇだろ……」

 

 口を開けて、俺はそれを眺めていた。

 

 そいつは、俺の銃弾を素手で受け止め、掴んだのだ。

 

「ギィ……」

 

 目が赤く光る。

 身体がブレる。

 

 身体が、消える。

 

「ギィ……?」

 

 その声は、後ろから。

 

 待てよ、俺はまだ空中だぞ。

 回避するにしても足場も無くちゃ。

 

 そんな俺の思考を汲み取って、剰え待ってくれる相手な訳もなく。

 

「ギァ!」

 

 空中で、そいつは大剣を振るう。

 

 幸い、大剣自体が俺にぶつかる距離じゃない。

 だが、さっきの風圧を見た後だと。

 

 

 竜巻染みた旋風が、俺の身体に直撃し、大きく吹っ飛ばす。

 

 

 

 

 ――ドサリと音がした。

 

 

 

 

 やばい。身体の感覚が無ぇ。

 白い地面が見える。

 あの中まで吹っ飛ばされたらしい。

 

 白い草花が、赤く染まっていく。

 それは、俺から流れてる血なんだろう。

 

 まずい、指一つ動かねぇ。

 

 4回目か。死ぬのは。

 でも嫌だな。

 

 痛いのは慣れてるからいいんだ。

 

 でも。

 

 この寂しさというか。

 

 虚無感と無力感がとてつもなく嫌いだ。

 

 ひもじい。苦しい。寒い。

 そんな、現実を思い出すから。

 

「じにだぐねぇ……」

 

 そう、声を出すのが俺の限界だった。

 

 

『まさか、この様な魔境へ単身乗り込む馬鹿が居るとは思わなんだ。

 その愉快な無謀は儂を楽しませた。

 褒美だ。我が実を一つ、くれてやる』

 

 

 朦朧とした意識の中。

 そんな誰かの声が聞こえた気がした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神樹の精霊

 

「起きるのじゃ」

 

 体がゆさゆさと揺らされる。

 ちょっと待て、今日のバイトは休みだ。

 

「もう身体は癒えておる。

 それともまた、悪鬼共に襲われたいか」

 

 悪鬼共……?

 ゴブリン……?

 あの鎧の……!

 

「それは嫌だ!」

 

 そう言って、俺は飛び起きる。

 

「……やっと目覚めおったか」

 

 そう、俺に声を掛けて来るのは。

 

「何だお前……」

 

 どう見ても、小学生くらいにしか見えない少女だった。

 

「人間と話すのは数百年振りじゃ。

 儂の名は、マナリアスツリーフォルス。

 人からは、主に神樹と呼ばれておる」

 

 マナ……何……?

 名前なのか……?

 

「マナか」

 

「なっ、神聖な儂の名を略称で呼ぶじゃと?

 不敬であるぞ」

 

「いやぁ、下民身分の自分にフルネームを呼ばれる方が失礼に感じさせてしまうかと思いまして」

 

「ふむ、其方なりの敬意の現れという訳か。

 ならば良かろう。儂をマナと呼ぶ事を許す」

 

「ははぁー」

 

 適当に相槌を打ちながら、少女を見る。

 

 真っ白な少女。

 髪も眉も白く、瞳も銀色。

 神社の巫女が着るような、白い装束に袖を通している。

 

 後は装飾品だ。

 樹の実の様な緑の髪飾り。

 獣の牙や爪で造られたネックレス。

 

 それに、名称には『ツリー』の名がある。

 シンジュという言葉は神の樹と書くんだろうか。

 

 この子の言葉が本当ならば、この子は自分を樹であると名乗った事になる。

 後ろの白い大樹と関係有りそうだ。

 ま、普通じゃ無いのは確かだな。

 

 色々疑問はある……

 言語が通じてるのも意味不明だし。

 

 けど会話ができるなら、聞きたい事は山ほどあるな。

 

「なんで、俺の傷は治ってるんでしょう?

 あと、俺を吹き飛ばした奴は……」

 

「敬うのは構わんが、その口調は止めよ。

 儂は、其方に頼みをしたく治癒を施した。

 その様な口調では頼みにくい」

 

「頼み……か……

 そりゃ、できる礼はさせて貰うけど」

 

「それは良かった。

 それでは先に、其方の疑問に答えよう」

 

 そう言った瞬間、彼女の右手にリンゴの様な赤い果実が。

 左手の人差し指が、俺の後方を指す。

 

「右手の果実の名は、神紅実(レッドアップル)

 お前を蘇らせたのは、この実の力じゃ」

 

 聞きながら、俺は自然とスキルを使う。

 植物鑑定。

 

 

 神紅実(レッドアップル):神の力を有する樹が百年単位の月日をかけて生成する樹の実。あらゆる病や傷を即座に治癒する。

 

 

「そして、儂の指先を見よ」

 

 振り返り、俺は指し示す方角を……

 

 

 ――ギィ。

 

 

「うわぁ!」

 

 そんな、情けない声と共に俺は腰を抜かす。

 だが、仕方ないだろう。

 

 ゴブリンの侍みたいな。

 あの甲冑と大剣の奴が、そこに立っている。

 

 俺が居る白い空間の一歩外で、こちらを凝視している。

 

「案ずるな。

 この結界がある限り、奴らが入って来る事は無い」

 

「結界……?」

 

「そうじゃ。

 この聖域には、あの程度の者には入れぬ」

 

 腰に手を当て、自慢する様に少女は言う。

 

「それよりも、そろそろ儂の頼みを聞いてくれても良いのではないか?」

 

「まぁ、できる事ならさせて貰うよ。

 命の恩人……恩樹……? だし」

 

 

「――そうかならば、貴様に命じる」

 

 

 命じるのかよ。

 お願いじゃ無いのかよ。

 無理な事は無理だぞ。

 

 でも、態々こんな超常的な存在が俺を助けてまでさせたい事か。

 

 どんな、非常識な願いなのだろう。

 そう思い、俺は身構える。

 

 彼女は少し、照れたように体を揺らして。

 

 俺の顔を上目遣いで見ながら言った。

 

 

「――儂の……話し相手になってくれ」

 

 

 え……?

 

「どうじゃ……?

 無論、其方の自由を奪うつもりはない。

 好きな時だけここへ来ていい。

 好きなだけの時間で良い。

 週に一度でも、月に一度でも、年に一度でも、千夜に一度でも構わぬ」

 

 寂し気に。

 悲し気に。

 本当に、年相応の少女のように。

 

「ダメ……?」

 

 玩具を強請る子供みたいだ。

 そして、俺は母さんにそんな物を買って貰った事は一度も無い。

 

 だから。

 

「勿論、毎日来るよ」

 

 同じ不幸を、他人には強いれない。

 

 俺の言葉に、花を咲かせるように少女は笑った。

 

「ほんと!?

 うれしい!

 ……あ、感謝するのじゃ」

 

「別に、喜べばいいんじゃないのか?」

 

「じゃ、じゃあ……今日はわた……儂とお話してくれる……?

 のじゃ……?」

 

 取ってつけたような年配口調。

 もう崩れかかってるなら、付けなくてもいいのに。

 

 もし、本当にこの少女が。

 マナが樹なら、彼女はここから動けないのかもしれない。

 そして、百年とかそんな単位が出て来るって事はそういう年齢で……

 

 ずっと長い事。

 独りだったのかもしれない。

 

「そうだな、じゃあ自己紹介がてら俺の話でもするとしようか」

 

「うん、お茶と果物持って来る! のじゃ!」

 

 俺の様な、人間には耐えきれないような孤独な時間。

 それが、少しでも解消されるのなら。

 

 何度だってここに来るさ。

 どうせ、複製するべき物を剪定しなきゃいけないんだし。

 

 マナは、木製のコップや皿を並べている。

 元気そうに、嬉しそうに。

 

 それを見て。

 俺は、話相手に位なってあげようと考えた。

 

「じゃあ、俺の事を話すよ。

 まず、俺の名前は望月充(もちづきあたる)っていって……」

 

 

 ◆

 

 

「では、其方は異世界人なのか?」

 

「そうだな。

 それで、向こうの世界で貧乏生活を抜け出したくてこっちに来てる」

 

 俺の状況。

 俺の能力。

 それに付いてマナに話した。

 

 生い立ちは。

 まぁ、話しても暗い雰囲気にするだけだから省く。

 いつもの事だ。

 

「其方……」

 

 マナが、俺の頬に触れる。

 撫でる様に顔を引っ張る。

 抵抗する理由も無く、俺はされがまま。

 

「何してんの?」

 

「人間は他者を褒める時、こうするのだと昔に聞いた事がある」

 

 そう言って、マナは俺の頭を撫で始める。

 

「貧乏な暮らしを脱する為とはいえ、平和な世からこのような魔物の跋扈する世界にやって来た。

 死に目にあっても、諦めず戦っている。

 その様な者を、褒めずには居られないのじゃ。

 だが、其方が嫌ならば止めよう」

 

 傍から見れば恰好の悪い光景だ。

 自分より随分年下な見た目の少女に、頭を撫でられている。

 

 けれど、幸いに誰かが見ている訳でも無い。

 ゴブリン侍くらい。

 それなら、別に止める理由もないか……

 

「別に、向こうの世界でも死にそうな事はあったよ。

 だから、特別頑張ってる訳じゃない……」

 

「そうか?

 ならば、儂の勘違いで良い。

 儂は人間の事には詳しくないのでな。

 だから、ただ其方の頭を撫でたくなっただけだと思えば良いのじゃ」

 

「……初めて大人っぽいと思ったよ」

 

「これでも樹齢は1万を越えておるのでな……」

 

「そうか。じゃあお前も頑張ったんだな。

 こんな所に独りで、よく耐えたな」

 

 初めて会った仲で。

 そんな2人で。

 

 褒め合って。

 慰め合って。

 

 あぁ、気持ちが悪い。

 

 常識ではそう思うのに。

 

 心地良く思ってしまう自分が嫌いだ。

 

 

 ――パリン!

 

 

 と、音が響く。

 

「なぬ?」

 

「なんだ?」

 

 揃って俺とマナは立ち上がり、音の鳴った方向を見る。

 

 大剣を担ぐ武者の大柄のゴブリン。

 大斧を振り抜き、紫の皮膚を持つオーク。

 翼を生やし、純白の鱗を持つリザードマン。

 三又の槍を携え、貴族のように体を装飾品で着飾った人魚姫。

 筋骨隆々とした体躯と、獰猛な赤眼を光らせたシルバーの人狼。

 

 全て、強敵鑑定の結果は『10』を表している。

 圧倒的強者……って事だ。

 

 5体が並び、武器を振り抜いている。

 結界の一部が、割れている。

 

「そんなまさか……」

 

 マナが、焦った様に呟く。

 

「逃げろ、アタル……

 何故だ、何故……5種族の長が徒党を組むなど……」

 

 冷や汗を流しながら、マナは絶望的な表情で俺を見る。

 

「なんだよ、どういうことだ!」

 

「奴らは儂の力を巡って争っていた。

 儂を(ころ)し力を得れば、魔物としてもっと強大になる事ができる。

 しかし、1つの種族の力では儂の結界を破壊するのには数カ月はかかる。それに、魔物同士の抗争が終わらなければ結界の破壊には尽力できない。

 そういう計算だった……」

 

 でも、その5種がなんでか共闘してるって事か。

 

 5体の長と呼ばれた魔物が、また武器を振り上げる。

 

 

 ――パリン!

 

 

 更に、結界の綻びが大きくなる。

 あいつ等が入れる位の穴ができるまで、残り時間は多くない。

 

「ふざけんじゃねぇ」

 

 俺は、複製を発動させ(トカレフ)を召ぶ。

 スキルを全部使い、穴へ向けて乱射する。

 

 けれど。

 

「クソ……」

 

 弾かれる。

 鎧に。鱗に。魔法みたいな防壁に。

 何なんだよこいつ等。

 

 

 ――パリン。

 

 

 結界の穴が広がっていく。

 

「アタル、早く逃げろ。

 儂の全ての力を使えば、まだ数分は持たせられる」

 

 ギィ。

 ブヒィ。

 シャァ。

 グルゥ。

 アァー。

 

 漏れ出る声が、恐怖を増幅させる。

 

 でも。

 

「ふざけんなよマナ。

 また来いって言ったじゃないか。

 俺はまた来るつもりだし、またお前と話す予定だ」

 

「アタル……嬉しいのじゃがな、それは無理な相談だ。

 早う逃げよ。奴らが入って来る前に……!」

 

 一言。

 告げる。

 

 それで、十分だ。

 

「できない」

 

 俺は飛び出す。

 

 方法も作戦も、可能性も無いのかもしれない。

 

 それでも、やらせるかよ。

 

 内から外へ結界を通り抜け、俺は奴らの側面を取る。

 銃口は既に向いている。

 

「死ねよ」

 

 俺は引き金を何度も引く。

 弾は二重の魔法陣を通過し、飛び出して行く。

 今度は外さねぇ。

 眼球狙いだ。

 

 光速に近い速度。

 なのにどうやってか、奴らは俺の銃弾の軌道を見切っている。

 俺が引き金を引く前から、防御の構えを取っている。

 

 弾かれる。

 

 ッチィ!

 

「止めよ! やめるのじゃ!

 何故、初めて会った儂の為に其方が戦う!?」

 

 知るか。

 うるせぇ。

 俺がそうしたいからに決まってんだろ。

 

 どうせこの身体は死んでも生き返る。

 悪足掻き上等。

 もう、諦めるのは嫌なんだよ。

 

 弾を撃ち切り、リロードの代わりに複製を再発動。

 トカレフが装填状態の物に切り替わる。

 

 そのまま、引き金を引き続ける。

 

 しかし。

 

「ウゥゥゥゥォオオオオオオオオオオオンンンン!」

 

 人狼が地面を殴りつける。

 

「嘘だろ……」

 

 その瞬間、地面に亀裂が入り、俺の元まで走って割れた。

 

 俺は強化された身体能力で飛び上がる。

 

 しかし、視界には人魚の周りに浮遊する水の槍が見えた。

 

「ハァァァァァァァ……!」

 

 歌声が指示となり、水の槍が俺を射す。

 

 数は4本。

 空中に居る俺に避ける術は無く。

 

「アタル!」

 

「がっあああああああああああああああああああ!」

 

 両太腿、両肘に水の槍が刺さり、俺の身体を一本の樹に縫い留める。

 

 なんだよこれ。

 まるで魔法じゃないか。

 

 熱い。痛い。

 クソ、完全に固定されてる。

 身体が動かねぇ。

 

「ギィ……」

 

 あのゴブリンが近づいて来る。

 大剣を正眼に構え。

 俺に剣が届く、その距離まで。

 

 そして、大上段にそれを振り上げる。

 

 やばいこれ、死ぬ奴だ。

 

「アタル! 嫌じゃ、嫌じゃ……

 やめてくれ、頼むから……」

 

 マナが泣きべそを掻いているのが見える。

 でも、それはこっちの台詞だ。

 

 俺は、目を瞑る事もせず、そいつを睨みつける。

 

 光景はゆっくりと。

 いや、走馬灯の様な感覚が、時間をゆっくりに錯覚させる。

 

 大剣が俺の頭を狙い、振り降ろ……

 

 誰でもいい。

 あの子を、守ってやってくれよ。

 

 そう願いながら、天を仰いだ。

 

 

「――嘘吐き君、久しぶり」

 

 

「ギィ……?」

 

 首が落ちる。

 ゴブリンの長の。

 強敵鑑定で10を出す、化物の。

 

 首が。容易く。

 

「この獲物、私が貰うけど……良い、よね?」

 

 黒い長髪を靡かせて。

 

 彼女は俺の前に降り立つ。

 

丹生(うにゅう)夜見(よみ)……」

 

 俺には、その名前を呟くのが限界だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒鬼の美姫

 

 長い黒髪を靡かせて、彼女は現れた。

 

 装いは、学校で見る物とまるで違う。

 

 焦げ茶色の軍服。

 長いコートをマントのように羽織り。

 振り抜いた武器は軍刀(サーベル)

 

 刀で、ゴブリンの首を斬り落とし。

 丹生夜見は微笑んだ。

 

 ……全く見えない速度の斬撃だった。

 しかし、間違いなくそれを行ったのは彼女だ。

 

「ハハッ……君、そんな所に張り付ついて何やってるの?」

 

 俺を見て、そんなフザケタ事を言いだす。

 その笑顔は狂気的だ。

 

「張り付けられてんですよ。

 好きでこんな恰好してる訳ないだろ」

 

 怖いに決まってる。

 何笑ってんだよ。

 戦いの最中で、殺し合いの途中だぞ。

 

 だからこそ、恐怖が露見しない様に強く言葉を放った。

 

「なんだ……」

 

「なんか、がっかりしてません……?」

 

「いやぁ……まぁ、なんでもいいや。

 それよりこの魔物、私が貰ってもいいんだよね?」

 

 帽子を被り直し、軍服のコートを翻し。

 

 カチリと。

 刀を構える。

 

 その姿勢は極めて美しく。

 返り血が頬に飛び散っていても。

 お転婆に見えて、可愛く思える程。

 

 それくらい、学校で見る彼女と美貌に遜色はない。

 

 それでも、やはり恐怖が際立つ。

 その口元が、ずっと笑っているから。

 

 けど、俺じゃあいつ等を倒せない。

 俺じゃマナを守り切れない。

 それは、事実だ。

 

「頼めるなら……頼みたいです……」

 

「別に、先輩だからって敬語じゃ無くてもいいよ。

 頼みをしてるのは、こっちなんだし。

 ……ありがとう、譲ってくれて」

 

 丹生夜見が、モンスターに向き直る。

 

 数歩近づく。

 

 1匹でも、俺には太刀打ちできない怪物。

 

 それが、丹生夜見を見て、臆している。

 何となく動きや視線、表情で分かるのだ。

 できれば逃げ出したい。

 

 そんな、思考が電波してくるような感じ。

 

 けれど、逃走なんて思いも、その選択肢も、断ち切る様に。

 

 黒い笑みで、刀の切っ先が敵に向く。

 

 

「――来なよ」

 

 

 覇気を、殺気を、威圧を含んだ。

 それは、最早脅しの類に含まれる言葉(めいれい)

 

「ハァァア~~~~~~~~~!」

 

 人魚が、水の槍を大量に生み出す。

 数は、俺に投擲された量の比では無い。

 数十、いや百はあるかもしれない。

 天を埋める水の槍。

 

「んふ……」

 

 しかし、気分を弾ませる様に彼女は歩く。

 堂々と、人魚に向かって。

 

「あぁ、やっぱり異世界って……」

 

「ハァ~~~ンンン!!」

 

 水の槍が、勢いよく発進する。

 その矛先は、全て1人に向いている。

 けれど、丹生夜見は掌を上に向け、皿にするように前に出す。

 

 それだけで。

 

最高(さいっこ)ぉ」

 

 手の上に、赤い光の玉が発生する。

 

 

 ――ジュッ。

 

 

 そんな短い音と共に、水槍は一瞬で白い煙に変わった。

 

「ア……!?」

 

 蒸発した……?

 丹生夜見から。

 いや、その掌からだ。

 

 強い熱を感じる。

 

 でも、それだけであの量の水が蒸発するなんて……

 

太陽龍(イグニス)の紅玉」

 

 スキル……なんだろうか……

 でも、強いとか、そういう次元じゃない。

 少なくとも、俺の使ってる力とは別格だ。

 

 しかし、折角発生させたその圧倒的な熱を彼女は握り潰す。

 

 軽く、人魚へ向けて刀を振るった。

 片手で、力も入れず、適当に。

 

 距離は10m以上ある。

 当たりはしない。

 けれど、刀身から伸び出た光は別だ。

 

 黄金の光が、人魚の腕を通過して。

 その箇所が、斬り落ちる。

 

「光魔法・絶光」

 

「BBBUMOOOOOoooooo!」

 

 豚の王は、大斧を振り上げ飛び掛かる。

 速い……

 俺なら反応すらできないような速度だ。

 見えるのがやっとって感じ。

 

 でも、丹生夜見の視線は確かにそれを追っている。

 

「嘘だろ……」

 

 空いた左手で、斧は受け止められた。

 微動だにせず、後退りの一つもなく。

 まるで、一瞬で運動が0にされたみたいに。

 

 止まった。

 

 残ったのは、地面にぶつかり広がっていく風塵だけ。

 

 風の強さで、籠った威力には予想が着く。

 だからこそ、それを受け止めたその怪力。

 皮膚の硬さ、骨格の強さ。

 全てが驚愕で意味不明。

 

「もっと、力を込めないと、だめでしょ?」

 

 暗い笑みは、常に彼女の顔に張り付いている。

 

「雷魔法・悲雷鳴」

 

「BUHIIIIIIIIIIiiiiiii!!」

 

 それは、先ほどの威勢の良い咆哮とは真逆。

 

 悲鳴であり、悲痛の叫び。

 青い電流は、可視化できる程高圧。

 それが、豚面の身体に流れていた。

 

 黒く焦げた死体が一つ、地面に倒れる。

 

「SYAAAaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

「UUUUUOOOOOooooooooo!!」

 

「弱い。飽きた。もういい。

 ――来て」

 

 純白の2頭。

 何処から現れたのかも分からない。

 いつの間にか、それは彼女の隣に居て。

 

「白龍頭鎧。

 大蛇噛殺」

 

 リザードマンとコボルト。

 その最上位、マナが長と呼んでいた個体。

 多分、群れの中で一番強いんだろう。

 

 その同時攻撃。

 

 しかし、その武器の切っ先すら丹生夜見へ届く事は無い。

 

 白い龍の顎。

 巨大な白い蛇。

 怪物は怪物に、食い殺された。

 

 大蛇の頭と、龍の頭が戻って来る。

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇえ!

 許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬぞぉおおおお!!」

 

 龍が怒鳴る。

 

「へっへっへっ、ハァハァハァハァハァハァハァ……

 髪の毛、髪の毛一本だけ、くれ……夜見ぃ……」

 

 蛇が強請る。

 

「うるさい、きもい」

 

 一閃。

 光の筋が、大蛇と龍の身体を真っ二つに切り裂いた。

 その瞬間、白い巨体は消え去る。

 

「さてと、後は貴女だけだね」

 

 体を震わせ、表情は恐怖に染まる。

 そんな人魚の髪を乱暴に、掴む。

 そのまま、吊る様に持ち上げる。

 

「アァ……ヤメテ……」

 

「っ! 話せるの!?」

 

 笑顔が少し強くなった。

 

「ココ、コナイ、ニドト。

 ダカラ……ユルシ……」

 

 

 ――ブスリ。

 

 

「ぁぁああああああああああ!!」

 

 人魚の悲鳴が響く。

 腹に剣が侵入したのだから当然だ。

 

「良い声だね」

 

 それをやった本人は笑っている。

 

 人魚は涙を浮かべ、必死に頭を振る。

 髪が振り回されて、隠れていた上体が露わになる。

 

「裸なんだ。水に入るんだから当たり前か。

 ていうか、魔物だし服なんて着ないのかな。

 ……? これなに」

 

 そう言って、丹生夜見は人魚の乳房に手を添える。

 そこにある金色の輪っか。

 装飾品に思えるそれを、強く引っ張って。

 

「ギヤァァアアアアアアアアア!」

 

 余りの絶叫に、目を背ける。

 

「ピアスか、えっちだね」

 

 なんて言って、どんどん声は上擦る。

 まるで、楽しむ様に。

 

「丹生さん!」

 

 俺は、口を挟む。

 

「何かな、後輩君」

 

 振り返った彼女の顔は、酷く猟奇的だ。

 

 それでも、これ以上は見過ごせない。

 

「殺すのは、しょうがないかもしれない。

 魔物は襲ってくるから。

 俺だって、魔物を殺したし、人に言える事じゃない。

 けど、それを楽しむのは……止めて下さい」

 

 俺がそう言うと、彼女は溜息を一つ吐いて。

 つまらなさそうに返事をした。

 

「あぁ……はいはい」

 

 そう言うと同時に、人魚の首が落ちる。

 俺には見えない速度の斬撃。

 敵対すれば、勝ち目はない。

 

 人魚が消えた事で、俺の身体を固定していた槍が消える。

 

「アタル!」

 

 ドサリと地面に落下した俺の傍に、マナが駆け寄って来る。

 

「良かった……無事だったのか……」

 

「うん、アタルとあの人のお陰」

 

「うんうん、良かった良かった」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべ、丹生さんも近づいてい来る。

 

「アタル、早ぉ食べるのじゃ」

 

 そう言って差し出してくるのは、数時間前に視た果実。

 かぶりつくと、穴が開いていた四股の欠損が修復されていく。

 

「この世界では最上位の回復能力だ。

 そこまで慕わせるなんて、良く手懐けたね」

 

「なんですその言い方? 犬猫じゃ無いんすけど」

 

 若干ふら付きながら、俺は立ち上がる。

 丹生夜見の前に。

 

「そうだね。この子は世界の敵、魔王だ。

 あれ、でもなんで君がその事を知ってるの?」

 

「いや……は……?」

 

 マジで、会話が成り立ってない。

 なんていうか、相手に伝える気が5%くらいしかない。

 

「私達の仕事の事だよ。

 次元断層片。

 放ってると惑星を破壊して、宇宙を壊し、私達の世界にまで浸食を始める。

 だから、それを持ってる存在を探し出して、回収する。

 それが私の仕事で、鏡の役割」

 

「それが、さっきの5匹って事っすか?」

 

「いや違うよ。

 だから、よく手懐けたよね。

 そんな、世界を破壊する力を秘めた、魔王をさ」

 

 あぁ、そうだ。

 なんでか、この女は剣を鞘に仕舞わない。

 敵は全員殺したのに。

 

 サーベルを持った右手が動く。

 その切っ先が、俺の隣へ。

 

「え……儂……?」

 

 マナの首へ向く。

 

「魔王樹・マナリアスツリーフォルス。

 今から貴方を殺すね」

 

 まただ。

 また、女は笑みを浮かべて、冷酷に言う。

 

 

「――ふざけんなよ」

 

 

 勝てないのは分かってる。

 けど、やる前から負けを悟って、動かないなんて。

 んな事、できっかよ。

 

 複製。トカレフTT=33。

 

 銃口を、丹生夜見の顔へ向ける。

 

「あは、あはははははははははは!

 やってみなよ。

 何で君がその子を庇うのか知らないけど、確かに私が死ねばその子は死なないよ!

 スキルもギフトも使わないであげる。

 ステータスだけじゃ銃弾は防げないし、頭なら即死だから。

 引き金を引けば、私は殺せるよ」

 

 喜々として、声を上擦らせて。

 銃口に近づいて、眉間を密着させてくる。

 サーベルは手から零れていて。

 乗っていた帽子は、地面に落ち。

 

 子供のような純粋な目で彼女は語る。

 

 彼女の狂気的な顔が良く見える。

 銃口を前に、喜ぶようなその顔が。

 

「でも、できるのかな?

 私はこのゲームみたいな世界の住人じゃない。

 君と同じ高校に通う学生。

 君と同じ世界の人間。

 その頭に穴を開けて、君は普通に暮らしていける?

 罪悪感とか、殺人の感触とか、トラウマになっちゃうかもね。

 

 ――ねぇ、でも簡単だから。ほら、やってみて」

 

 そう、誘う様に彼女は笑う。

 そんな姿も、面が良いと絵になる。

 

 けど、何言ってんだこの人。

 

 そんなモン……

 

「俺は、ゲームなんつう趣向品はやった事がねぇ」

 

 守りたい奴を守れるなら、汚泥だって啜ってやるよ。

 

 俺の人生はそういう……

 

「俺の人生は、ここでお前をぶっ殺せる人生なんだよ」

 

「あは。

 私、君のこと好きになっちゃったかも……」

 

 俺は迷い無く、引き金を引いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグエンド

 

「アタル、あれは一体何だったのだ……?」

 

 名を呼ぶその白い声。

 それは、彼女から聞いた声の中で一際小さい物だった。

 

 問題は解決した。

 とは、言い切れない。

 

「ごめん……

 儂の為に、同じ世界の人間を……」

 

 銃弾を頭に打ち込まれ。

 血を吹き出して仰向けに倒れながら。

 

 丹生夜見の死体は消えた。

 

 その様子をハッキリと見ていたマナは申し訳なさそうに言う。

 

 けれど、それじゃない。

 問題はそんなどうでもいい事じゃない。

 

「マナ、逃げる事はできないのか?」

 

「……?

 魔物たちは長が居なくなったから散り散りに山から出て行った。

 女も死に、もう儂に危険は無いのじゃ」

 

「違う。あいつは、丹生夜見は……」

 

 俺は、何度も実体験で知っている。

 あの女の反応からしても間違いない。

 

「生きてるんだよ」

 

「なんじゃと?」

 

「この世界での死は、俺たち異世界人にとっては本当の死じゃない。

 死んでも元の世界に戻るだけ。

 またこの世界にも来れる」

 

「不死身じゃと……?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

 こればっかりはゲームみたいだから。

 って訳じゃ無いんだろう。

 

 この世界でも普通に生物は死ぬ。

 それは、魔物や人魚が証明している。

 死に際のあの表情は、本物の死を感じて出る物だ。

 

 だから恐らく、丹生夜見は生きてる。

 そして今の俺じゃ、真面な方法であの女に勝つのは不可能。

 それに、絡め手で勝っても意味が無い。

 

 相手は不死身のサイコパス。

 逃げる以外に手は無い。

 

「無理じゃ。

 儂の本体は見ての通り大樹。

 それに儂は、この地の神木という側面を持っている。

 移動はできぬ」

 

「そうか……」

 

 クソ、考えろ。

 何か、方法は無いのか?

 現実に戻って丹生夜見を殺す?

 

 いや、それじゃ俺が殺人犯になる。

 俺には家族も友人もいる。

 それはできない……

 

「クソ!」

 

 地面を殴りつける。

 アイデアは何も出てこない。

 

 こうしてる間にも、あの女の気分一つでここに向かってきている可能性もある。

 

「何か、何か無いのか……」

 

「アタル……もう良い……」

 

 そう言いながら、マナは俺の手を引いて白い大地まで引いていく。

 その中央、巨大な白い樹の前で彼女は振り返り。

 

 

「儂を殺せ」

 

 

 そう言った。

 

「は……?」

 

「あの女が求める次元断層片という物。

 心当たりがある」

 

 そう言いながら、マナは大木に触れる。

 すると、大木の形状が変わっていく。

 その中心から、赤い宝石の様な物が出て来た。

 

 根というか、枝の絡みついた宝石。

 色付きのガラスみたいにも見える。

 薄く発光している様にも見えた。

 

 ガラスの様で、鏡のようでもある。

 真っ赤な結晶。

 窓ガラス程度に薄い。

 

「これは、儂が神木になる前に拾った物だ。

 いや、正確に言えば偶々儂の上に振って来たという方が正しいだろう。

 この結晶を取り込んでから、儂には力が芽生えた」

 

 確かに、これがあの女の探す物なら。

 回収すれば、丹生夜見がマナを殺す理由は無い。

 

 でもいいのか?

 それを取って、お前は大丈夫なのか?

 

 そんな、心配が顔に出ていたのだろう。

 マナは微笑む。

 

「案ずるな、儂は普通の樹に戻るだけ。

 そう、普通の樹は喋りもせぬし、人にもならぬ。

 それだけの話じゃ」

 

 儚げ。

 という言葉は、きっと彼女のこの表情を表すために存在するのだろう。

 

「お前は、俺と話したかったんじゃないのかよ……」

 

「あぁ、だから楽しかったぞ。

 大変に、満足だ」

 

 嘘何て吐き慣れてないんだろう。

 だって樹だし。

 だから、マナの笑顔は凄くぎこちない。

 

「ふざけ……」

 

 そう、俺が言いかけた瞬間。

 動いたのは、マナでは無くその大樹だ。

 

 赤いガラスの横に、一本の白い枝を差し出す。

 

 それを見て、マナが焦った様に叫んだ。

 

「ま、待つのじゃ!」

 

 そう、話しかけるのは樹に向けて。

 俺には、何が起こっているのか把握できない。

 

「儂は、皆と共に死ぬ。

 そう在るべきだ」

 

 きっと、樹とマナの間に何か対話の様な物が走っている。

 

「ふざけるでない!

 儂だけが生きる等……」

 

 そこまで行って、マナは涙を浮かべ。

 透明な泡が割れる様に、雫が零れ、頬を伝う。

 

 それを一生懸命に拭いて。

 けれど、止めどなくそれは溢れる。

 

 目を腫らして、マナは言った。

 

「今までありがとう……」

 

 コトリ、と赤いガラスが根から零れ、地面に落ちた。

 瞬間、一瞬で大樹が枯れていく。

 白い大地も同様に枯れ、マナだけが残る。

 

 しかし、まるでその樹の全ての力を使って守っている様に。

 差し出された白い枝だけが、活力を持って、その場に残った。

 

「マナ……」

 

「大丈夫じゃ、アタル。

 ほれ、其方はこの宝石を持っていくが良い」

 

 俺に、赤いそれを手渡し。

 

「儂はここで、また若木から始めるのじゃ。

 それが、皆の願いなのじゃから」

 

 そう言って、白い枝を大樹が有った場所の土へ埋めた。

 枝を植えても、普通は育つ事は無い。

 でも、マナの目は諦めた感じじゃない。

 埋葬するような雰囲気で。

 

「葉や、枝や、根の一本一本に意思があった。

 その中で、唯一こうして人間と意思の疎通ができたのが儂なのだ。

 故に儂が神樹の全てではなく、この枝こそが儂じゃ」

 

 淡々と、マナはそう説明する。

 涙をこらえる様に。

 俺はその言葉を黙って聞くしか無かった。

 

「赤い宝石が無くなれば、神樹の力は失われる。

 じゃから、その前に皆の全ての生命力をこの枝一本に集約させ、赤い宝石が無くなっても儂だけは枯れぬ様にしてくれた」

 

 一緒に悲しむべきでは無いと思った。

 空っぽな言葉でもいい。

 マナが怒ったとしても、勇気や元気を与える様に。

 

「皆……お前の事が大切だって思ったって事だ」

 

 何も知らない身の上で。

 俺は、そう言った。

 

 けれど、怒る処か、マナは微笑んで。

 

「……其方は儂の友人よのう?」

 

「当たり前だ」

 

「あぁ、ありがとうアタル。

 ならば、またこの世界に立ち入る事があればまた……」

 

「マナ……! 待っ……!」

 

「またいつか、話し相手になってくれたなら喜ばしいのう。

 ではな、儂の唯一の友よ」

 

 そう、言い残して、マナは世界から消え去った。

 どれだけ彼女の名前を呼んでも、返事は帰ってこなかった。

 

 

 

 ――登録番号002『神樹の杖』で完了しますか?

 

 

 

 ◆

 

 

 

 帰還と唱えた1分後。

 紅に染まった空の下。

 校舎の屋上に俺は戻って来ていた。

 

「おかえり」

 

 そんな4文字で迎えるのは、俺が一番見たく無かった女の面。

 

「丹生夜見」

 

「あのさ君、ちょっと調子に乗ってるよね」

 

「何が……」

 

 睨みつける様に、俺はそう聞く。

 こいつの行動原理は正直、予測不能だ。

 

 何をしてくるか分からない。

 ギフトの力はこっちの世界でも使える。

 それは分かってる。

 

 俺と同じ物なのか、それとも全く違う力か。

 にしても強力なのは確かだ。

 こいつがギフトを発動するなら、俺も……

 

 そういう思いで、視線を合わせる。

 

 けれど、丹生夜見は右手で左腕の肘を持ち、自分の身体を抱きしめるようにしながら。

 

「私を殺したくらいで、私が君の事を好きになるなんて思ってる訳じゃない……よね?」

 

 何て言いながら、身体をモジモジと。

 

「それに、いきなり呼び捨てなんて段階が早すぎるよ」

 

 丹生夜見は、頬を赤く染めてそう言った。

 

「はぁ?」

 

 何を、言いやがってんだ……

 このサイコパス女は……

 

「まずはお友達から、いやいきなり彼女でもいいけど……

 でも、部員になって貰うのは確定でしょ。

 あ、お父様に紹介しないと。

 でもギフトがなぁ、拳銃出せるだけだし」

 

 なんて、ブツブツと言い出した辺りで、勢いよく屋上の扉が開く。

 

「夜~見ぃいいい~~~~~!!」

 

 そう、どう見ても怒ってる顔で彼女は入って来る。

 

「花蓮ちゃん……!」

 

 美術の桜井花蓮(さくらいかれん)先生だ。

 事故ったとかで長期休暇中だったけど、もう良くなったのかな。

 

 御淑やかで有名な先生だ。

 顔も美人で栗色のふわふわとした髪の毛が印象的。

 小柄で加護欲をそそると、男子生徒からの人気も高い。

 良く生徒から告白されて困っているのを見る。

 

 性格は温厚な感じ。

 

 怒ってる所なんて見た事も……

 

「お前ぇ! 何を勝手に備品移動させてんだよ!

 あれは国宝級の重要物だって、お前も知ってんだ……」

 

 そこまで言って、桜井先生は俺を見る。

 

「誰?」

 

「望月充です。1年3組」

 

「な、なんで居るのかしら? 土曜日よ?」

 

「いや、先生のその口調は……」

 

「忘れて? いや、忘れなさい。

 じゃ無いと、貴方の眼球を刳り抜くわ」

 

 にこやかに、桜井先生は言った。

 

「眼球とっても、記憶無くならないですって」

 

「なら仕方ないわね。

 記憶除去装置を使うしか無い」

 

「何その物騒な名前の装置……

 ていうか、怒ってるとこ見られたくらいで大げさな」

 

「いいえ、清楚で御淑やかな美人教師で通ってる私としては、ギリギリ犯罪を犯しても貴方から消さなければならない記憶よ」

 

「普通に口止めしてくれ、頼むから!」

 

「ん……確かにそうね」

 

 なんなんだこの人たち……

 

「ねぇ聞いて花蓮ちゃん!

 この子、新しい部員だよ!」

 

「はぃ……?

 まさか、異世界に行ったの!?」

 

 どうせ、丹生夜見にはバレてるか。

 先生と仲も良さそうだし。

 

 良さそう……だし……?

 

「……まぁ、はい」

 

「おま……貴方、これを狙って態と屋上に移動させたわね!」

 

 そう、桜井先生は丹生夜見を睨みつける。

 

「自殺するくらい切羽詰まってる人なら、異世界でも通用する人材になるかなって思って」

 

「自殺者が出て鏡が見つかったら隠蔽工作がどれだけ面倒になると思ってるのよ。

 Sクラスじゃ無かったら厳罰じゃ済まない事よ?」

 

「じゃあ、私をクビにできるの?」

 

「はぁぁぁぁぁ……このガキ……」

 

 酷い位大きい溜息を、桜井先生は放つ。

 そして、俺を見た。

 

「貴方には2つの選択肢が存在します」

 

 真っ直ぐと、真面目な表情で、こちらを見て。

 

「記憶除去装置で記憶を消されるか。

 もしくは、回収者として美術部に入部するか。

 ……どちらかに、決めて」

 

 

 ……あぁ、本当に。

 

 俺の人生は何処に向かっているのだろうか。

 

 そう天を仰ぐが、答えは帰ってこなかった。

 

 

「あぁ、でもその前に君の力を見ておかないと」

 

 言いながら、先生はポケットに手を入れて何かを取り出す。

 それは、パールの様な丸く黒い宝石のついた指輪だった。

 

「花蓮ちゃん、流石にそれは重たいよ」

 

「え? そういう事ですか?

 ちょっとそれはお断りさせて頂きます」

 

「結婚指輪じゃねぇっつ……のよ?

 ていうか、人生で初めて男にフラれた……」

 

 そう言って、愕然とする桜井先生。

 いや、俺と付き合ったって良い事無いぞ。

 金無いし。

 

「これはギフトランクを測定する装置。

 貴方が入部するにしても、使えないランクだったら意味無いしね。

 触ってみて? 変化した色でギフトの強さが分かるの」

 

「けど、俺バイトあるんで部活とかは……」

 

「いいから、測定するだけよ」

 

 そう言って、指輪が俺の掌に落ちる。

 その瞬間、黒い宝石の色が確かに変わった。

 

「……黄色っすかね」

 

 俺がそう呟くと、2人の表情が変わる。

 

 丹生夜見はうっとりと俺を見て。

 

「やっぱり、君は特別なんだね」

 

 先生は俺の顔を見ながら驚いて。

 

「嘘でしょ……

 黄金色の光……最高位ランクのギフト持ち……!?」

 

「なんすか一体……」

 

「貴方、確かお金に困ってる生徒よね。

 少し前も、バイト先のキグルミで登校して来たとか」

 

「そうですけど……」

 

「時給3000円。

 バイトしない?」

 

 馬鹿な……

 こんな意味不明な部活に。

 異世界に行くとか訳分からないし。

 何をさせられるのかも全く分からない。

 

 業務内容も見ずに、契約金だけでバイトを決めるなんて。

 一流のアルバイトとして有り得な……

 

「4500円+次元断層片(ディメンションジェム)の回収、一つにつき報酬10万円……」

 

「えぇ、よろしくお願いします!」

 

 俺は、桜井先生に勢いよく頭を下げた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

美術部

 

「数百年前まで、この世界には確かに魑魅魍魎、妖怪、魔物と呼ばれる存在が居た」

 

 日曜日、朝10時30分。

 俺は、学校の美術室に呼び出されていた。

 

 隣の席には丹生夜見が座り、黒板の前で話す桜井先生を微笑ましく眺めている。

 

「でも、今はそんな物は居ない。

 何故なら、異世界とこの世界を繋ぐ鍵を回収しているから」

 

 そう、拳を握って力説する桜井先生を見て、丹生夜見はパチパチと手を鳴らしている。

 

「次元断層片。

 それはこの世と異界を繋ぐ物質。

 放っておけば、次元断層片を取り込み急速に進化した生物は、自分の世界を滅ぼし、他の世界まで浸食してくる。

 だから、それを未然に防ぐのがこの部の目的よ」

 

「どう考えても、高校生の部活の領分を超越してる」

 

「大丈夫、危険は無いわ。

 貴方が異世界で使っている体は仮初。

 死の危険も怪我の心配もない。

 余裕で部活の領分よ」

 

「……なんで、学生にそんな事やらせるんですか?

 世界の危機なら、自衛隊にでもやって貰うべきだ」

 

「それはダメね。

 肉体生成は、チートと言い換えて差し支えない恩恵だけど、故に色々条件があるから。

 まず、その惑星に存在する人間に最も近い生物の平均的な通常能力と言語能力を保有する事。

 これで病気、重力、気圧で即死とか、そういうのは無くなるわ。

 まぁ、死んでも生き返るんだけど」

 

 身も蓋もない。

 けど、それだけじゃ高校生の俺たちを使う理由になってない。

 

「そして、生成される体は元になった貴方達の年齢の平均的な身体能力を手に入れる。

 これには『技能習得能力』が含まれるわ」

 

「技能習得能力……?」

 

「そう。貴方が行った世界でいうスキル。

 そういうのを自力で獲得して力をつける。

 じゃ無いと、次元断層片の回収は困難なの」

 

 確かに、俺は二週間足らずで結構な数のスキルを獲得してた気もするけど。

 

「だから、その世界固有の異能や能力、技能を習得し易い、つまり凝り固まってない年齢の回収者が求められるの。

 それに適しながら身体が出来上がる年齢が、16才から20才って訳」

 

「……なんか、ちょっと納得させられつつある自分が嫌です」

 

「何よそれ。

 ていうか、勝手に使ったのは貴方でしょ。

 その責任は取って貰うわよ」

 

「……まぁ、バイト代が出るなら」

 

「最高位ランクのギフト保有者なら結構稼げると思うわ」

 

「ギフトって結局何なんですか?」

 

「異世界転移者が獲得する異能力。

 という事しか分かってないわ。

 でも、次元断層片の回収に必須の力よ。

 スキルみたいな世界法則に従ったその世界でしか使えない力と違って、ギフトはどの世界でも使用できる。

 つまり、唯一の引継ぎ可能な能力って訳」

 

 だから、こっちでも拳銃が出せたのか。

 複製が無かったら、流石に異世界で稼ごうなんて思わなかった。

 ギフトが重要ってのは分かる。

 

「でも、このギフトも老化と共に弱体化するから基本的にスカウトするのは若い子の方が良いって事で……理由は3つもある」

 

「あと、花蓮ちゃんが若い子が好きだから。

 今月は何人食べたのかな?

 記憶処理は、私用で使っちゃ駄目だよ?」

 

「夜見、それ以上言ったら殺すぞ」

 

「君……望月君は、こんな人に騙されちゃ駄目だよ?」

 

 丹生夜見が俺を見て微笑む。

 笑顔が暗い。

 怖い。

 

 てかこの部活、性格破綻してる奴しか居ないのか。

 

「あと、これは君が回収して来た次元断層片の回収料。

 渡しておくわね」

 

 昨日の内に、俺が持っていた赤い宝石は桜井先生に渡してある。

 その報酬と言う形で、俺の座る席の机に封筒が置かれた。

 

 中を見ると、諭吉が10枚入っている。

 

「ありがとうございます!」

 

 表彰状を貰う様に、お辞儀しながら受け取った。

 

「うんうん、今後とも精進したまえ」

 

「花蓮ちゃんは受け渡ししてるだけでしょ。

 自分が出してるみたいに言わないでよ。

 ねぇ望月君、私と結婚すればお金に何て一生困らないよ?」

 

 明日死ぬから……とかじゃ無くて?

 という疑念が拭えない限り無理です勘弁して下さい。

 

 そう思いながら視線を逸らす。

 

「ぷー」

 

 すると、丹生さんは少し怒り気味に顔を逸らした。

 

 やめてね、報復で殺すの。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。

 この子の精神性には色々問題はあるけれど、一応ルールはあるから」

 

「ルール?」

 

「異世界で暴れて良い代わり、こっちの世界での発散は禁止。

 異世界でも、目的上で敵対的な存在にしか、そういう事はしちゃ駄目。

 それが、私と夜見の間で決めたルール」

 

「この人が、それを守る理由は?」

 

「私が協力しなきゃ鏡は使えない。

 鏡が無ければ夜見も困るわ。

 自分のそういう欲求を満たす場所が無くなるから」

 

「なるほど……」

 

「仲間と一緒に行動すれば、ちょっとは治るかとも思ったけど……

 今の所、入部者63人、退部者62人ね」

 

「全員、丹生さんのあれを見て?」

 

「名前で呼んでくれていいのに。

 照れ屋なのかな……」

 

 あんたはさっきから何を言ってるんだ。

 加虐性癖者に好きも何もあるか。

 

「まぁ、そうね……」

 

 非常に納得のいく答えだ。

 それで、全員記憶消去されて忘れた訳だ。

 俺も、うちの学校に美術部があるなんて初めて知った。

 まぁ、部活内容は全く美術じゃ無いが。

 

「てか、なんで美術部なんです?」

 

「私のギフトが、絵に関する物だから。

 ってくらいかな、言えるのは」

 

 人差し指を唇に当てて、桜井先生はウィンクする。

 って事は、言えない事があるって訳だ。

 聞いても答えてくれる事は無さそうだ。

 

「貴方も、こっちでギフトを使うのは特別な状況じゃない限り原則禁止よ」

 

「バレない位なら、使っても良いって事だよ」

 

「はぁ……

 まぁ、事実上そうね。

 ずっと監視する訳じゃないし、禁じるような方法も無いから。

 でも、ニュースとかになったら結構怒るからやめてね。

 最悪暗殺とか……まぁ、なんでもないわ」

 

 なんでもあるだろ。

 めちゃくちゃ怖い内容だったよ。

 この部活、暗殺される危険性あるの?

 

 全然安全じゃねぇ……

 

「さて、説明はこれ位かな。

 悪かったわね、態々学校まで来て貰って。

 昨日は遅かったし、でも電話で説明していい様な内容じゃないから」

 

「いえ、これ貰いに来ただけなんで」

 

 俺は封筒を大事に持って見せる。

 

「えぇ、次の世界も攻略してくれる事を祈ってるわ」

 

「……次の世界?」

 

「あぁ、次元断層片は基本的に一つの世界に着き一つしか無いわ。

 色んな世界から回収して巡ってるの。

 だから……」

 

 待ってくれ、それって……

 

「君が次行く世界は、あの世界じゃ無いわ」

 

「じゃあ、マナとはもう……」

 

「……あぁ、それって異世界人の名前?

 悪いけど、鏡の力を管理してるのは私よりもっと上の人たちだから。

 貴方をその子に再会させるのは不可能よ」

 

「……マジか」

 

「極力異世界人とは仲良くならない様にって

 ……今更言っても遅いわよね」

 

 あいつともう会えない?

 あいつが芽吹いたら、また話すって約束したのに。

 なんだよそれ……

 

 俺はあいつを裏切るのか。

 かと言って、会いに行く方法は無い。

 

 いや待て。

 あれを複製すればもしかしたら……

 

「別れを惜しむのはよくある事よ。

 あまり、気に病まないようにね」

 

 そう言って、先生は俺の肩に手を置い……

 

 

 ――パチン。

 

 

 と、丹生夜見に手が叩かれた。

 

「何するのよ夜見」

 

「花蓮ちゃん。勝手に触らないで?」

 

「なんで、そんなにゾッコンしてる訳?」

 

「だって、この人はこの世界の人なのに私を殺してくれたんだよ。

 もっともっと、殺して貰わないと」

 

 丹生さんが桜井先生を睨む。

 それを受けて、桜井先生は言った。

 

「貴方、随分と面倒な相手に好かれたわね」

 

 ……本当に、なんとかしてくれ。

 

 と、切実に願うしか無かった。

 でも、先生にそんな意思が伝わる訳もなく。

 

 ムリムリと、手を振っている。

 

 伝わってたわ。

 そんで無理なのかよ。

 使えないよこの先生。

 

「じゃあ望月君、予定も終わったし私に付き合ってくれる?

 君には、私のお父様に会って貰わないと。

 将来の婿候補なんだから」

 

「ちょっと待て、俺の意思をガン無視し過ぎだろ」

 

「断るの?

 けどいいのかな?

 私のお父様、君の事知ったらちょっと怒っちゃうかも。

 付き合ってるのに挨拶も無しかって」

 

「どんだけ古風な親だ。

 ていうか、付き合ってないだろ」

 

「私が付き合ってるって言えば、お父様は信じてくれるよ」

 

「あんた……」

 

「名前で呼んでよ。

 お父様が怒ったら、君のバイト先まで押しかけるかも。

 お父様、この街でお店をやってる人は全員ペコペコしなきゃいけないような人だから、最悪クビになっちゃうね」

 

「脅しじゃないですか」

 

「お願いだよ。

 ――ね? 名前で呼んでよ」

 

「……お供させて頂きます。

 ……夜見さん」

 

「さん……まぁ、いいけど。

 じゃあ行こっか、(あたる)君……」

 

 

 そして俺は知る事になる。

 

 丹生夜見(うにゅうよみ)という人間が、どうして人格破綻者となったのかを。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狂気と病気

 

 俺は今、そわそわしている。

 けれどそれは仕方がない。

 なんだよこの豪邸。

 庭がサッカーグラウンドぐらい広い。

 

 これで、一家が父娘しか居ないって……

 

 夜見の母親は、随分前に他界してるらしい。

 夜見が生まれるずっと前に。

 

 その死別後、父親は再婚しなかった。

 

 けれど、そのせいで遺産相続の問題が浮上したらしい。

 ドラマでしか見ない殺人事件が起きるレベルの資産。

 誰に継がせても、トラブルが生まれる。

 

 だから、養子を取り娘を作った。

 それが、丹生夜見だった。

 

 そんな話を聞きながら、俺は客間で紅茶を飲んでいた。

 部屋の装飾品が豪華すぎて味が分からん。

 

「お茶のおかわりは如何ですか?」

 

 メイド? 使用人? 家政婦さん?

 

 良く分からないけど、奇麗な人がそう言ってティーポットを見せてくれる。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 やばい、贅沢アレルギーで胃の中身が逆流しそうだ。

 

 このカップ幾らするんだろ……

 割ったとしたら、皿洗いとかじゃ絶対弁償できない事だけは分かる。

 

「待たせてごめんね。

 お父様の検診があるの」

 

「い、いいいえ」

 

「ん?」

 

「あ、大丈夫、です。

 お嬢様……」

 

「呼び方、何。

 普通に名前でいいよ?」

 

「めめめ滅相も……ござ」

 

 そう俺が言いかけた所で、客室が開く。

 少し老けた白衣の男性が現れる。

 

「受診は終わりました。

 お変わりはありません」

 

 男性はそう言って頭を下げる。

 

「ありがとう」

 

 夜見さんが短く礼を言うと、医師の様にも見える男性は深々と頭を下げて出て行った。

 

「それじゃあ行こっか」

 

 そう言って、俺と彼女は立ち上がる。

 そのまま、夜見の後を追っていく。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ピッ――ピッ――ピッ――

 

 

 よく分からない。

 何かの計器が、そんな音を鳴らしている。

 

 豪邸と呼ぶに相応しい丹生家の屋敷。

 その中でも、一際厳重な一室。

 

 俺は、そこに通された。

 中央に大きなベッドがあって。

 老人が一人、寝かされている。

 

「紹介するね。

 これが私のお父様、丹生源次郎(うにゅうげんじろう)です」

 

「俺を、騙したって訳ですか……」

 

 この、寝てる老人が。

 どう見ても、動く事すらできなさそうな男が。

 どうやって、俺のバイト先まで出向いて来れる。

 

「ごめんね。

 でも、そうでも言わないと来てくれないと思って」

 

「病気ですか?」

 

「さぁね」

 

「揶揄ってます……?」

 

「分からないんだよ、本当に。

 原因不明だから、どれだけお金があっても治せない。

 徐々に衰弱してるし、元々寿命も長い訳じゃ無いから」

 

 そう言いながら、先輩は懐から煙草の箱を取り出す。

 それを、枕元に置いて寂しそうに言う。

 

「もう、煙草臭いなんて言わないから。

 だから、起きてよ」

 

 真面に会話したのは、昨日が初めてだ。

 そんな相手に。

 しかも、性格破綻者のシリアルキラーに。

 

 そんなのに、同情する訳なんか……

 

「悪い事をしたら凄く叱られた。

 私が誰かを虐めてたら、拳骨なんかじゃ済まなかった。

 私が例え別世界でも、動物を、人を殺してるなんて知ったら、飛び起きて、怒って叱ってくれる。

 そんな、優しい人なんだよ」

 

 俺に説明しているというよりは。

 まるで、神にでも願う様に。

 丹生夜見は目を瞑る。

 

「回復系のギフト持ちに頼った事もある。

 でも、無駄。

 治らなかった」

 

「この人を治すために部に入ってるんですか?」

 

「どうなのかな……

 お父様が倒れて2年。

 私の力は戦いに特化してるから。

 治す方法のヒントも無い」

 

 それでも、現代医療じゃ治らない。

 その事実が分かっているのなら。

 異世界、なんて幻想に頼るしかない。

 

 そう、思っても不思議はない。

 

「お父様、私彼氏ができたんです。

 お婿さん候補だよ。

 絶対紹介しろって言ってたでしょ?

 自分の目で見定めないと絶対納得しないって言ってたでしょ?

 だから連れて来たんだよ。

 だから……起きてよ……」

 

 回復系のギフトか。

 俺の力は複製(デュプリ)

 回復なんて言葉には当てはまらない力だ。

 

 でも、俺はあの時見た。

 いや、食って体感した。

 あの実は、あの世界で最上級の回復能力。

 そう、この人も言っていた。

 

 可能性はある。

 でもいいのか。

 俺の複製には多分、登録制限がある。

 それを、この人の為に使う理由なんて何も無い。

 

 違うな。

 あるよ。

 あるだろ。

 

 

 ――この人は、俺とマナを助けてくれた。

 

 

 ――登録番号002……

 

「ねぇ、お願いがあるんだ。

 私と一緒に、お父様を起こす方法を探してくれない?」

 

 涙を堪える様な、そんな子供みたいな表情で。

 悔しさの籠った顔で。

 奇麗な顔を崩して歪めて。

 

 丹生夜見は、俺に縋る。

 

「君のギフトは最上の力なの。

 成長して、力を理解すれば、お父様を助ける様な力を手に入れられるかもしれない。

 だから、私と一緒に異世界を冒険して欲しい。

 部を辞めないで欲しい」

 

 

 ――登録番号002『神紅実(レッドアップル)』で完了しますか?

 

 

 この実なら可能性はあるんじゃないのか。

 

「夜見さん」

 

「頼んでもいいかな?」

 

「いや、そうじゃ無くて今すぐに……」

 

 

 ――いや、待て。

 

 違う。この人は言っていた。

 回復系のギフトでも駄目だったって。

 どういう理由で倒れてるのかも分からない。

 どういう回復が施されたのかも分からない。

 

 普通の治癒じゃ駄目な可能性は無いか?

 

 確かに、神紅実(レッドアップル)の説明文にはあらゆる病や傷を治すと書いていた。

 

 でも、本当にこれは病なのか?

 っていうか、病ってどこからどこまでだ?

 毒とか病原菌とか、腫瘍とか。

 精神病なんて物まで現代にはある。

 それを全部治せる?

 流石に誇張表現な気がする。

 

「どうしたの、充君?」

 

「決めてました」

 

「……何を?」

 

 俺が、あの世界から持ち帰るべき財宝を。

 

 

 ――登録番号002『神樹の杖』で完了しますか?

 

 

 頭に響いたその声に、俺は頷く。

 

「何……それ」

 

 真っ白な木製の杖。

 それは、マナが埋めた白い枝だ。

 手に持てるサイズ、ギリギリだな。

 

 でも行けた。

 

「頼む、来てくれ」

 

 マナは言った。

 自分は、この枝に籠った意識なのだと。

 だったらこの枝自体が、基地局になって。

 

 

「――何処じゃ、ここは」

 

 

 白い、巫女服を着た少女。

 彼女は辺りを見て、俺の顔が視界に入ると笑いかけて来る。

 

「おぉ、充ではないか。

 まさかこれほど早く再会できるとは。

 もう儂は芽吹いたのか?」

 

「いや、違うんだマナ」

 

「其方! それは儂の枝では無いか!

 まさか掘り返した訳では、いや其方に限ってそれは無いか。

 何故それを持っておるのじゃ?」

 

「これは、俺の能力というかギフトっていう力なんだ。

 見た物を複製する事ができる……」

 

「複製……それで儂の枝を呼び出したと?

 しかし、殆ど精霊に近い儂を呼び出す等。

 そうとうに精巧な模倣でも……」

 

 そう言ってマナは杖を見る。

 俺から見ても、あの時マナが埋めた物と違いは感じない。

 

「君は確かあの時の……

 なんでこっちの世界に来れてるの?」

 

 その声に、マナはバッと振り返る。

 

「そ、其方は! あの時のイカレた娘!」

 

「助けてあげたのに……」

 

「何をぬかすか。

 貴様の様な怪物が森に入ったせいで、4種族が恐怖し徒党を組んだのだ。

 他に、あのようなタイミングの良い話があるか」

 

 あぁ、そういう事だったのか。

 確かにそれなら納得できる。

 ていうか状況証拠が物語ってるか。

 

 あれ、じゃあ恩なんか無くないか?

 いや、人助けに理由なんて要らない。

 うん、要らない……

 

「それで充君、どういうこと?」

 

 マナの話、完全スルーしたよこの人。

 

「いえ、異世界の人ならこの症状に心当たりあるかもしれないかと」

 

「でも、異世界特有の病気を異世界に行った事も無いお父様が患うなんてあり得ないよ」

 

 そんな会話の横でマナが指を差す。

 

 そして。

 

「お父様というのはこの小僧の事か?

 なんだ、ただの魔力(マナ)不足ではないか」

 

 そう、言い放った。

 

「え……?」

 

「分かるのか?」

 

「うむ。

 魔力の使い過ぎで倒れておるだけじゃ。

 数日で自然回復するぞ」

 

「嘘、お父様は2年間ずっと寝たまま。

 それに、魔力なんて物を使う方法なんか、お父様は知らない」

 

「それは、貴様の様な化物が一緒に住んでおるからじゃろうが」

 

 そう、マナが言った瞬間。

 丹生夜見の顔付きが変わる。

 

 まじまじとマナを見つめ。

 真剣な表情で。

 

「どういうこと……?」

 

「貴様のスキルか魔法か知らぬが、貴様は常に周囲の魔力を吸い取って居る。

 微量ではあるが、吸い続ければ尽きるのが道理。

 魔力が無ければ生物は意識を保てぬ」

 

「……あぁ、そっか。

 そういう事か……」

 

 何か、腑に落ちたように夜見は口を覆う。

 その声は震えていて。

 手は少し、濡れていた。

 

「私のギフトのせいだったんだ……」

 

 顔を押さえ、嘆く様に丹生夜見は俯く。

 その後ろからマナは手を差し出した。

 

「案ずるな。

 貴様には恩がある。

 あの魔物共に儂が困っていて、それを片付けてくれたのは事実じゃ」

 

 そう言って、マナは掌に青い林檎を出現させる。

 

「これは、神蒼実(ブルーアップル)

 効能は魔力の全快。

 食わせてれば、数秒で目覚めるじゃろう。

 また定期的に食わせれば、男が再度眠りにつく事も無い」

 

「……ありがとう、充君も」

 

「いえ……」

 

 ゆっくりと、丁寧に。

 白髪の少女から黒髪の彼女が果実を受け取る。

 

 

 それを見て、俺は思った。

 

 

「寝てるから食わせられなくね」

 

「捻じ込めば良かろう。

 其方にもそうしたぞ」

 

 窒息しなくて良かったな俺。

 いや、窒息も治っただけか……

 怖すぎる、この枝幼女。

 

「ミキサーしても大丈夫かな」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

祝福継承

 

「これは何じゃ」

 

「クッキーだな」

 

「赤いのは」

 

「ジャムだよ」

 

「こっちは……」

 

「バームクーヘン」

 

「バームとは何じゃ。クーヘンとは」

 

「知らん」

 

「バームクーヘンの名前はドイツ語で、直訳すると『木の幹のようなケーキ』を意味します。

 この名前は、バームクーヘンの特徴的な積層構造が木の年輪のように見えることに由来しています。

 バームクーヘンは、18世紀にドイツの都市、ブラウンシュヴァイクで発明されました。

 元々は、ドイツ貴族のための高級なケーキとして作られ、後に広く一般に普及しました。

 日本でも、バームクーヘンは広く親しまれており、特に高級なお土産品として人気があります」

 

 と、家政婦の人が説明してくれた。

 俺とマナは客間で紅茶と菓子を摘まんでいた。

 

 夜見と父親の再会だ。

 俺たちが居ても邪魔にしかならない。

 

 マナは見る物全てに興味を示す。

 人と会話したのは数百年振りとか言ってたし当然か。

 それに、見た目は少女なので不自然な事もない。

 

 質問の矛先は基本使用人さんに向いている。

 侮ってたぜ、子供のなんでなんで攻撃。

 俺には思ったより難易度が高い。

 

 にしても、なんでも知ってるなこの人。

 

「木の幹のような菓子か……

 うむ、美味いな」

 

「そう言って頂けると、お作りさせていただいた甲斐がございます」

 

「其方が作ったのか。

 こういう時、人間は金銭を支払うのだろう?

 しかし、儂には今手持ちがない。

 故に、これをやろう」

 

 マナが出したのは葉っぱだった。

 

「おい。

 お菓子のお礼に葉っぱってお前」

 

「何を言うかアタル、これは儂の葉。

 神実(りんご)には及ばぬも、魔力体力両方に対して効果のある薬草じゃぞ」

 

 そういう事を、使用人さんの前で言うな。

 この人異世界とか知らないんだから。

 

「ありがとうございます。

 有難く受け取らせて頂きます」

 

 そう言って、葉っぱを受け取る使用人さん。

 俺を見て、大丈夫ですよ口を動かした。

 

 良い人だ……

 夜見と一緒に住んでて大丈夫か?

 

「ってお前ポンポン出していいのか?

 あの実も、作るのに百年とか掛かるって。

 っていうか、本体の樹はもう枯れただろ」

 

「あぁ、そうなのだがな。

 恐らく、其方の異能は時や状態まで全て複製するのだろう」

 

「時や状態……?」

 

「つまり、其方の持つ枝の状態は本樹が枯れた後の枝では無く、枯れる前の枝という訳じゃ。

 そして、それは再度複製を使えばリセットされる」

 

「良く分かんないな。

 でも、マナの記憶はリセットされないんだろ?」

 

「つまり、実も葉も使い放題という訳じゃ。

 儂はこの枝を媒介に現界しておるに過ぎん。

 杖の効果に、儂を呼び出す事が含まれておる。

 そして、枯れる前のマナリアスツリーフォルスに枝は接続されておる」

 

「もっと難しくなった気がする」

 

「兎も角、儂は其方が呼べばいつでも駆けつける事ができるという事だ。

 危険があれば頼るが良い」

 

「なるほど。

 だったら、話し相手になるって約束も守れる。

 良かったよ」

 

「うむ、儂も……」

 

 言いかけて、マナは視線を逸らす。

 チラチラと俺と明後日の方角を視線が行き来して。

 

「ん?」

 

「儂も、嬉しい」

 

「あぁ、これからはずっと一緒だな」

 

「っ……其方は、なんというか……」

 

 そこまで、マナが言いかけた所で。

 別人の声が割り込んだ。

 

「君、垂らしだったんだね」

 

 いつの間にか夜見が客間に入って来ていた。

 

「どういう意味ですか?

 それにお父さんは?」

 

「お父様は目覚めたよ。

 ありがとう、マナちゃんも」

 

「いえ、結果的には俺も得だったんで」

 

 杖以外を登録していれば、マナとは会えなかった。

 この杖を登録する最後の踏ん切りが着いた。

 それは、今日の出来事のお陰だ。

 

「うむ、アタルと再会できたから良しとしよう」

 

 そう話していると、いつの間にか使用人さんは居なくなっていた。

 気を使ってくれたらしい。

 

「でも、これでシリアルキラーする必要無くなりましたね」

 

 丹生夜見は狂気的だった。

 でも、その理由は分かった。

 お父さんに起きて欲しかったからだ。

 

 最も、父親は眠っている。

 その事実が届く事は無い。

 それは、彼女も分かっていた筈だ。

 

 でも人間は、稀に理屈にそぐわない行動をする。

 

 うちの母さんもそうだ。

 ギャンブルで勝ち越す事は無い。

 分かってる筈なのに止められない。

 

 けれど、もう理由は無くなった。

 これで、真面な先輩として部活動に励め……

 

「ん?」

 

 キョトンと、首を傾げて。

 心底意味が分かって居ないような。

 

「え?」

 

「私、別にお父様の為にやってた訳じゃ無いよ。

 治療の方法は探してたけどね。

 ていうか、寝てる人に悪い事してるから叱る為に起きなきゃ、なんてやっても無駄だよ。

 隣で声を掛けるくらいはするけどね」

 

「じゃあ、なんで……」

 

 なんで、お前はあんなことを好んでするんだよ。

 と、俺が聞こうとしたと予想が着いたのだろう。

 

 笑みを浮かべ。

 当然のように。

 

 丹生夜見は答える。

 

 

「――楽しいから」

 

 

 その愉悦を、快楽を感じる様な表情。

 それは、誰かを思って仕方なくやってる顔なんかじゃない。

 

 あぁ、この女は根っからのサイコパスなのだ。

 

 そう、俺は理解した。

 

「それに、君を好きになった理由も。

 別にギフトが理由じゃないよ」

 

 桜井先生が来て初めてランクを知った。

 でも、桜井先生が来る前からだ。

 夜見が、俺に何か期待するような視線を向けて来たのは。

 

 俺のギフトが優秀だと分かったからでは無い。

 それは分かる。

 

 けど、じゃあなんでと言われれば分からない。

 

 そもそも相手は性格破綻者。

 思考回路を、俺が読み解ける訳もない。

 

「皆、異世界の私を見ると怖がって諦める。

 君の前に入部した、全員がそうだった。

 でも、君だけは【怖い】より【止める】が勝ってた。

 そんな人、初めて」

 

「それが、なんなんですか」

 

「君なら、私の全力にもいつか勝とうとしてくれると思って」

 

「全力……」

 

 そう言えば、聞いてなかった。

 異世界で見せた丹生夜見の力。

 どれがギフトなんだ。

 

「ギフトは原則一人一つ。

 異世界に初めて行った瞬間に獲得できる。

 君の力は、その杖や拳銃を出す力?」

 

「はい。

 複製(デュプリ)、見た事のある物を複製できます。

 色々制限はありますけど」

 

「うん、一つの世界につき一つ……でしょ?」

 

 なんでバレてんだよ。

 確かに、杖を複製した時から、神紅実やヒールソウなんかの複製権限が消滅した。

 

 だから、ほぼ間違いない。

 俺の複製は1つの世界に対して、1つの物しか登録できない。

 

「分かるよ。私も同じだもん」

 

「どういう意味ですか……」

 

 そうして、丹生夜見は己の力を説明する。

 その内容は俺にも分かるほど強大だった。

 

 俺の力と比べても圧倒的な性能を持ち。

 恐らく、あらゆるギフトの中で最強。

 

 そこまで思わせる、反則級な恩恵だった。

 

 

 ――祝福継承(マルチギフト)

 

 

「私は、一つの世界で獲得したスキルや異能、超能力や身体能力を一つだけ。

 新しいギフトにする事ができる」

 

 生まれながら。

 美貌を持ち。

 資産を持ち。

 そして、才能まで持つ。

 

 そんな完璧な人間。

 それが、目の前の人間だと分からされる。

 

「Sランク、黄金色のギフトと認められる条件は、ギフト自体が成長する性質を持っている事。

 私のギフトは確認された全Sランク中、最強だよ」

 

「狡いって思うのは、多分俺だけじゃないですよね」

 

「そうだね。

 誰もが私にそう言うよ。

 聞いて貰った通り、お父様の事も何れ解決できるとは思ってたんだ。

 治せそうな能力を見つけるだけだから。

 早く起こしてくれたから感謝はしてるよ?」

 

「じゃあ俺に、何を期待してるんですか」

 

 少し溜めて。

 丹生夜見は言う。

 

「私の全力に勝って。

 そうすれば、君の欲しい物を私が全部上げる」

 

 獲物を見つけた蛇の様な瞳を輝かせ。

 性格破綻者(シリアルキラー)はそう言った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新世界

 

 結局、夜見の父親と面会は無くなった。

 そりゃそうだ。

 

 相手は目覚めて直ぐの人間。

 面識のない俺より優先されるべき相手がいる。

 資産家ともなれば、それこそ沢山。

 

 どうせ、また林檎をデリバリーしなきゃいけない。

 会うのはその時でいいだろう。

 

 その後はバイトだ。

 4時間くらい働いて帰路についた。

 

 

 月曜日。

 7時30分。

 

「よぉ(あたる)、今日も早いな」

 

「おぉ紘一、そっちこそ」

 

「最近は元気そうで良かったぜ」

 

「そうか? 別にいつも通り……

 いや、少しバイトを減らしたんだ」

 

 部活に入る事になったのだ。

 その時間のバイトは辞めた。

 

 アルバイトの利点だな。

 割と簡単に辞められる所。

 まぁ、あと何日かは出てくれと言われてるけど。

 

「そうか。

 まぁ、何か方法はあると思うぜ。

 奨学金とかよ」

 

 そういうのは、一通り調べたんだよ。

 その上での、貯金だった。

 でも、その貯金は無くなったのだ。

 

「あぁ、別に諦めた訳じゃないって。

 割のいいバイトを見つけたんだ。

 もしかしたら、貯金できるかもしれない」

 

「良かったね望月君」

 

 そう後ろから声が掛かる。

 いつもの面子だ。

 

「お、委員長。

 おはよ」

 

「おはよ、佐久間君も」

 

「あぁ、おはよう委員長。

 今日も美人だな」

 

「ちゃらい、減点5点」

 

「へぇへぇ」

 

 なんだこのコント。

 いつもの事だけど。

 

「っていうか聞いた?

 あの丹生先輩に彼氏ができたらしいよ」

 

 そう、委員長が言った瞬間。

 反射的に俺は言う。

 

「違うぞ!」

 

「え?」

 

「なんだよ、まさかの玉の輿?」

 

 絶対違うと知ってるみたいにニヤついて、紘一が言う。

 この野郎……

 

 てか、まさかあの人、俺の事勝手に彼氏って言いふらしてんじゃ……

 

「違うよ。

 ほら、あそこ見て」

 

 そう言って、委員長は窓の外を指さす。

 俺と紘一は、階下を見る。

 そこに見えるのは校門の前。

 確かに、夜見が居た。

 

 けれど、疑問が一つ。

 夜見の隣に、俺たちとは違う制服の生徒が並んで歩いている。

 

「一週間くらい前から、毎朝一緒に登校してるらしいよ。

 これはもう彼氏確定でしょ」

 

「誰なんだよあいつ。

 制服違うし、この学校の生徒じゃ無いんだろ?

 我が学園のマドンナを掠めるとは、何奴よ?」

 

 マドンナって……

 いつの時代だよ。

 

「隣の高校の生徒会長だって。

 全国模試2位。親は大手自動車メーカーの社長。

 ロシア人とのハーフで超イケメン」

 

「うぉ……負けました」

 

「佐久間君も……ガタイいいよね!」

 

 笑顔で言う委員長。

 けど、それってガタイ以上に勝ってる所はないって意味だぞ。

 

「うぐっ」

 

 それに気が付いて紘一は効いてる。

 

「……?」

 

 委員長はきょとんとしてる。

 ちょっと天然だよな君。

 

「並ぶと絵になるよね。

 勝手にアップされた動画が200万回再生だって」

 

「犯罪じゃん」

 

「もう消されてるよ。

 流石に資産家と社長の子供たちだし」

 

「動画だして200万回なら、顔だけあれば配信者とかで稼げるわけか。

 世の中公平じゃねぇよなぁ」

 

「佐久間君もやればいいじゃん。

 筋トレチャンネル」

 

「馬鹿にしてるだろ委員長!」

 

「ちょっとだけ」

 

 指でジェスチャー。

 一緒にウィンク。

 委員長も結構アイドル気質な気がした。

 

「配信者って稼げるんだ」

 

「今の話で食いつくとこそこかよ」

 

「お金の話には目が無いね」

 

「がめついかな?」

 

「全然。頑張ってるだけだし。

 私はそういうとこ嫌いじゃないよ」

 

「有名な配信者は結構稼げるみたいだぞ?

 ほれ」

 

 そう言って紘一の差し出してくるスマホを見る。

 

 女のアバター? が喋ってる。

 隣には見てる人のコメントみたいなのが並んで。

 その中に、¥の文字が書かれた物がある。

 ¥の隣には、千や万単位の数字が並んでいた。

 

「投げ銭って言ってな。

 見てる奴が、応援と一緒にお金を送れるんだ。

 1日で億稼いだ人とかも居るらしいぞ」

 

「やっばっ……」

 

 俺のバイト何日分だよ。

 いや、一生分だろもうこれ。

 

「凄いな……」

 

「まぁ、一般人とは縁遠い世界の話だけどな。

 面白かったり歌えたり、ゲームが上手かったりしないと無理だろうし」

 

「もうアイドルより、ネット上で人気な人の方が憧れる時代だよね」

 

「ちょっと婆さん臭いな」

 

「ねぇ!」

 

 

 そんな会話をしながら、俺はいつも通りの月曜日を過ごしていた。

 

 そして、放課後。

 俺のスマホがメッセージを受信する。

 これが無いとバイトもできないから、俺も持ってる。

 格安でパケット最低限の奴だけど。

 

『充君、ごめんね。

 私、今日は部活行けない。

 面倒な人に絡まれちゃって。

 1人で向こうに行って調査しておいて。

 あれが何処にあるかさえ分かれば、私が全員殺すから』

 

 全員殺すな……

 

『望月くーん♡

 美術室開けてるから勝手に使っていいよー。

 鍵置いてるから出るときはかけといてね。

 私は合コンだから顧問は無理なのだー。

 異世界に行くときは、鍵閉めるんだよ。

 6時までには戻って、鍵は職員室に戻しておいて。

 ちゅ♡』

 

 うぜぇ……

 

 俺はスマホを見ながら頭を抱えた。

 なんじゃこいつ等。

 腹立つ内容送らないと死ぬんか。

 

 人生腹立つメッセージランキング堂々の1位と2位です。

 おめでとう、バカ。

 

 先輩は怖いから2位で。

 先生が1位ね。

 後でキレよう。

 

 美術部の部室。

 当然それは美術室だ。

 そこの準備室。

 通常は先生しか立ち入れない場所。

 そこで、鏡は布を掛けられていた。

 

 言われた通り鍵を閉め、俺は鏡に触れる。

 いつもと同じ感覚。

 吸い込まれる様に、俺の体は鏡の中へ落ちる。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 そこは、草原では無かった。

 俺の目的は次元断層片の回収。

 そして、既にマナの世界での任務は終わっている。

 

 世界が切り替わる。

 桜井先生に言われて分かっては居た。

 でも、実際見ると実感が湧く。

 

「地下……か?」

 

 灯はある。

 壁に松明が掛けられている。

 

 高さ5m以上。

 幅は3mと少し。

 石造りの通路が真っ直ぐ続いていた。

 

 そして、ステータスが見えない。

 あれは、マナの世界の固有法則という訳だ。

 そして、この世界にはこの世界の法則がある。

 

 それが。

 これか。

 

 

 :お、来た来た。

 :初見です。

 :次の挑戦者の入場だぁ!

 :新人ライバーわくわく。

 :まずは能力教えろやこら。

 :強かったら投げ銭するから頑張って。

 :顔は微妙ですね。

 :ダンジョンは危険が一杯だぞ。

 :まずは拠点を確保するのだ。

 :初配信の同接2500人。

 :初期装備、学校の制服かよ。

 :こっからどれだけ増えるかだな。

 :神プレイ期待してます。

 :弱そう。

 :まぁ、適当に期待してるわ。

 :がんばー。

 

 文字が視界を埋める。

 

「うざ」

 

 そう、俺が呟いた瞬間。

 視界に映るその文字が変容した。

 

 :は?

 :お前の方がうざいんだが?

 :はい、こいつキモイと。

 :クール系男子。

 :死ね。

 :もっと丁寧にしないと同接減っちゃうよ?

 :投げ銭して貰えないと強くなれないんだから。

 :愛想悪すぎて草。

 :まだただのサド。

 :一言目でそれって、性格悪すぎだろ。

 

 

 ――親が教育失敗したんじゃね。

 

 

 あぁ。

 ムリだ。

 

 

「俺の親は馬鹿だし、教育のきの字も知らねぇけどな。

 それでも俺を必要としてくれてるんだよ。

 だから、ちょっと頑張るから好きに見てろ」

 

 :へぇ。

 :まぁ、知らんけど。

 :いまさら感動話要らない。

 

 

 ――『ラク』から1200の技能値が送られました。

 ――『ラク』のコメントが名称表示されます。

 

 

 ラク:応援します。頑張って下さい。

 

「あぁ。良く分かんないけど、ありがとな」

 

 

 こうして、新世界1日目は始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。