【因果一角】 ユニコーン (可能性の獣)
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第一章 ユニコーン(〈エンブリオ〉)の日
第一話 2043年からの旅立ち


見切り発車。
続きはそこそこ時間かかる予報。



□ドライフ皇国 皇都ヴァンデルヘイム

 

「ゲホッゲホッ……酷い目にあった」

 

少年は空を見上げる。

黒煙が天蓋となって青を隠すドライフ皇国特有の空には人一人分の穴が穿たれていた。

彼は煤だらけになってしまった身体を丹念に払いながら、ログインしてから感じてきた一切を追想する。

 

「すごいな……今まで色々やってきたけど、今回はアタリかもしれない」

 

ただ五感をハックされたと思えないリアリティ。

まるで現実味はないが、これは正しく現実だと世界は訴えてくる。

煤から始まるファーストコンタクトは最悪の一言に尽きるがそれ以外は花丸だ。

ようやく、本当にようやく己の目的が達成できそうな気さえして、彼は薄く笑った。

 

生まれてから今日まで疎外感に苛まれない日はなかった。

いるべき場所はここではない。似ているようで全く違う。世界から後ろ指を指されている。

そんな感覚がずっと身体に纏わりついて離れてくれなかった。

それが得体の知れないものだったことはない。自分が世界の枠組みから外れている理由を彼はよくよく知っていた。

それは自力でどうにかできる類ではないことが、彼の不幸と言えよう。

 

だから求めた。このズレを埋めてくれる何かを。

そして見つけた。デンドロ(このゲーム)を。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

その名を冠する存在はこの世界で一つ、彼の中で二つ。

前者は彼がマスターとして名乗るプレイヤー名である。

後者はプレイヤーとしての自分と、とある物語を駆け抜けた主人公の名である。

 

この世界に『機動戦士ガンダム』は存在しない。

その立場を代替する作品は存在しているが、バナージにとって『ガンダム』の代わりとなってくれるものではなかった。

もちろん素晴らしい作品だが、かけがえのない大切を上書きするほどの熱を灯せなかった。

所謂、思い出補正というやつである。

 

今更述べることでもないが、マスター『バナージ・リンクス』は転生者だ。

世界と自分に横たわるズレに苦悩し、その隙間を埋めるため──ここにない思い出に触れていられる世界を求めて、<Infinite Dendrogram>にログインした、数あるマスターの一人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

□ドライフ皇国 皇都ヴァンデルヘイム バナージ・リンクス

 

バナージは皇国上空でスカイダイビングをする前に、管理AIを名乗る白いチェシャ猫にいくつか質問をしていた。

 

①宇宙の環境はどこまで設定されているか。

②この世界で『戦争』は起こりうるか。

③今考えていることはここで実現可能か。

④巨大人型ロボっている?

 

対する回答は以下の通りである。

 

①設定されてるよー。少なくとも太陽系くらいまでなら。そこにいけるまで結構時間はかかると思うけどー。

②もちろん起こるよー。君たちが来る前からずっと繰り返されてきたからねー。

③できるできないで言えば“Yes”だねー。君の奮闘に期待してるよー。

④なくはないけど極小数だねー。装備して動かすタイプなら今のドライフのトレンドかなー。でもあれはロボットよりパワードスーツ寄りだねー。

 

その他諸々の条件を加味し、バナージはドライフ皇国に降り立った。

現状彼の要求を満たせる可能性が高いのはここだけだからである。

 

「あの、すみません」

 

バナージは到着してすぐ、道行くNPC──ティアンに声をかけた。

ティアンの男性はバナージの左手に埋まった青い宝石に目を落としてから、笑顔で応対してくれた。

まさかこの世界では常識も常識のジョブクリスタルの在処を聞かれるとは思いもしなかったようだが。

 

まあマスターだしそんなこともあるかと少々困惑気味ながら場所を教えてもらったバナージ。

なんでそんな微妙な顔をしているのだろうと首を傾げるが、彼の中に思い当たることはなかった。

 

ともあれ最重要の情報をゲットした彼は一目散にジョブクリスタルへ向かい、転職を果たした。

バナージが最初に選んだのは【操縦士(ドライバー)】ではなく【整備士(メカニック)】だった。

 

この世界のメカ枠──〈マジンギア〉は型落ちやレンタルでも新米マスターが手渡された路銀程度で手を出せる価格帯の商品ではない。

加えてバナージが当面の目標として掲げたあることを達成するためには、パイロットとしてのスキルよりも、整備するなり作るなりするスキルの方がずっと役に立つ。

 

『バナージ』も工専に通っていたのだから、彼のロールをするものとしてもそれに倣うべきだろう。

 

無事就職を終えたバナージはそのまま整備士ギルドに加入した。

受付の人によれば皇国で【整備士】に着く人は多いが、彼らが働く現場ももちろん数多あるので【整備士】は何人いても困らないとのこと。

 

かくしてバナージは早速クエスト──もちろん初心者向けではあるが──に飛ばされることとなった。

彼が指定されたのは皇都の端に位置するこじんまりとした個人経営の整備屋だった。

 

「ごめんください」

「はーい、少々お待ちくださーい!」

 

呼び鈴もないためめいいっぱい声を張り上げると中から幼げのある女性の声が聞こえてくる。

来るまでの間にバナージは今一度今回のクエスト要項に目をやった。

 

 

難易度:一【支援依頼―フィックの整備店】

 

【報酬:2000リル】

 

『皇都郊外にあるフィックの整備店で〈マジンギア〉整備の補佐をしてください。この依頼は定期的に募集されますので、【整備士】初心者の方は奮ってご参加ください』

 

 

ギルド職員によればフィックの整備店は半ば引退気味の【高位整備士(ハイ・メカニック)】がこれからを担う初心者【整備士】育成のために誂えたクエストとのこと。

バナージにとっても断る理由もない。ここが初めての【整備士】体験だという者も少なくないとか。

 

「こんにちは!クエストを受けて下さった【整備士】さんですね!」

「はい、バナージ・リンクスです。よろしくお願いします」

「バナージさんね。私はジェーン・シュミット、こちらこそよろしくね!で、早速で悪いけどお仕事の説明に入ってもいい?」

「どこまでできるかはちょっと分からないけど」

「あはは、初心者さんなら誰でもそうだよ。それじゃ、ついてきて」

 

郊外のために土地は広く使えるようで、トタンのような材質の大きな屋根のある仕事場に案内された。

 

「まずはグゥの紹介だね」

「グゥ?」

 

ジェーンは仕事場の端──廃材などが雑多に放り出されたところに向かって「グゥちゃーん!」と呼びかける。

すると廃材の隙間を縫うように銀色の粘体がスルスルと這い出てきた。

 

「グゥはもう使えなくなった廃材を食べてくれるんだ。モンスターだ!って攻撃しちゃう人もいるから、初めに注意してるんだ。バナージさんも気をつけてね」

「わかった。……ほんとにモンスターじゃないのか?」

「うん、モンスターじゃないらしいよ。私が産まれる前からここにいるらしいから、多分ご先祖さま秘蔵の発明品とかそんなところじゃないかな。で、紹介も終わったし仕事の内容だけど──」

 

ジェーンの説明もそこそこに、バナージは存在を主張する銀のスライムに気を取られていた。

粘ついた身体を不定形に変えるそれに、そこはかとなく不安を覚えるバナージであった。

 




名前(アバター):バナージ・リンクス
名前(リアル):?
年齢:?
メインジョブ:【整備士】(整備士系統下級職)
<エンブリオ>:【】第0形態
キャラ紹介:
当SS主人公。最初期勢。
世界と自分の間に広がる溝を埋めるため、前の世界で触れた思い出をここで再び形にするため、デンドロへと身を投じた。

余談:RX-0の作成を目指している。


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第二話 最初(はじめて)の知

続いた。



□皇都郊外〈フィックの整備店〉【整備士】バナージ・リンクス

 

「スジがいいねバナージさん!初心者の割にはだけど」

「褒めてるのか?それ」

「もっちろん!あ、そこボルトの締め甘いかも」

「……」

 

一通りの業務説明を受けたバナージはジェーンに教わりながら〈マジンギア〉【マーシャル】の整備を行っていた。

【マーシャル】は機械式甲冑──パワードスーツに分類される自身の身体の延長として扱うものであり、目標としているMS(モビルスーツ)とは系統がズレている。

とはいえそれらの設計理念や技術から学べるものは多く、バナージは退屈せず、むしろ意欲的に仕事に取り組めた。

 

とはいえ横合いからジェーンが逐一至らない部分に突っ込みを入れてくるため少々ゲンナリしてきているが。

 

「おいジェーン、口動かしてないで手を動かせ!人手が足りねぇからギルドにクエスト募集貼っつけてんだろうが!」

「了解です!ジェーンはただいま通常業務に戻らせていただきます!」

「手ェ!」

「はいすみません!手ぇ動かしまぁす!」

 

その度フィックの整備店のオーナー、フィック・シュミットの鼓膜に響く怒鳴りも飛んできてしまう。自分に向かってこないだけマシと考えるべきなのかとバナージは内心自問した。

もしかして来る場所を間違えてしまったか?と微妙な気分にもなるが、【整備士(メカニック)】の経験値は順調に溜まっているように見える。

今は誰もがデンドロ初心者のため、これが適切な成長かどうかは検証が必要なところだが。

 

そうこうしているうちにバナージの終業時刻がやってきた。

今日の仕事は終了したが今回のクエストで要求されている勤務最低期間は一週間だ。

マスターが相手の場合は彼らが頻繁にこちらの世界から消えてしまうことを加味し、日程に全休を組み込むなどの融通は利くようになっている。その場合勤務先への報連相は必須となる。人として当たり前のことではあるが。

 

「さて、バナージさんに一つ提案したいことがあるのだけど」

「……なんです。変なことは聞かないって決めてますよ俺は」

 

そうだ宿はどうしよう、等と考えていたバナージにジェーンがムーンウォークのような動きでスススと擦り寄ってくる。

今日一日ジェーンに振り回された気がしているバナージは思わず身構えたが彼女は警戒させるつもりはないとばかりに両手を上げた。

 

「いや変じゃナイナイ。その様子だと今晩どうするか決めてないと思ってね」

「確かにそうですけど」

「ウチに泊まってきなよ。ご飯も出すよ?」

「いいんですか?」

「もっちろん!でもその分早め長めに働いてもらうことになるけど大丈夫かな?」

「あー……はい、少なくとも最低勤務期間中なら大丈夫です」

 

特にリアルでやることもない、むしろやれることはほとんど終わらせてきたバナージはそれを断る理由もなかった。

 

 

 

 

 

 

□〈フィックの整備店〉【整備士】バナージ・リンクス

 

夕飯と風呂をいただいたバナージは寝室の座椅子に身体を預けていた。

彼の手元にはメモ帳とペン。整備店に向かう前に皇都の雑貨屋で購入したものだ。

 

「ハードル高いな、これ」

 

バナージの目的はRX-0──ユニコーンガンダムを作り、操縦することだ。

 

そこへ辿り着くまでに最たる壁となるのがミノフスキー粒子、ニュータイプ、サイコミュである。

 

 

“ミノフスキー粒子”は主に宇宙世紀が舞台となるシリーズでモビルスーツ(MS)を初めとした軍事技術の根幹を担う架空の物質である。

動力、推進器、ビーム兵器、バリア、チャフ、ジャミングなどの多くの分野に跨って利用されている。もちろんユニコーンガンダムも同様だ。

当然リアルにもデンドロにもミノフスキー粒子という反則的な性質を保持した物質は存在しない。

それを幸運と思うべきか不幸と思うべきかは意見の別れるところか。

 

そしてミノフスキー粒子は宇宙進出の過程で進化を遂げた人間の脳波に対して特殊な反応を示した。

この進化を遂げた人類というのが“ニュータイプ”である。

概念には諸説あるが、ここでは彼らの能力について少しだけ触れていこう。

 

一言で形容すれば『把握力』だ。

それは空間に対する認識や他者の状況や心情、身に迫る危機等に対して発揮される。

ひとまず、超人的直感力が備わっているという認識をして欲しい。

 

ミノフスキー粒子がニュータイプの脳波──感応波に対して反応をすることは前述したが、それを受信・増幅させることで機体を制御する技術がある。

サイコ・コミュニケーター。略して“サイコミュ”だ。

 

パイロットの意志を直接機体に反映させる直感的なコントロールや、外部攻撃端末を用いた全方位(オールレンジ)攻撃がサイコミュによって実現された主だった成果である。

 

 

つまるところ、実現できる可能性は限りなく低い、ということだ。

 

彼が掲げた目標は上に挙げた三つ全てを高い水準で必要とする。

まず独力で達成できるような事物ではなく、人を集めたとて完成できるかは不透明であり、未知数だ。

 

「……それでも」

 

遠い険しい道のりだろう。技術的に難しいかもしれない。

だが、彼が諦める理由にはなり得ない。

 

チェシャ猫はバナージが抱いた可能性を『不可能』と断じなかった。

君の奮闘に期待している、そう言った。

 

ならば挫けない、挫ける理由がない。

掴める見込みがあるのなら、それでもと足掻き続けよう。

無限の可能性を謳うこの世界の中であれば、己の可能性が結実すると信じて。

 

彼はメモ帳を枕元に置き目蓋を閉じる。

左手に輝く蒼き宝卵は主の決意に呼応し、静かに脈動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

■ある機械について

 

喰らう、喰らう、喰らう。

ただひたすらに喰らう。

 

土を、火を、肉を、魔を、力を、なにより鉄を。

 

それだけが与えられた命題であり、存在理念であり、己の証明そのものだった。

 

「グゥちゃん、ご飯だよー?」

 

今日もまた糧が提供される。

規定されたプロトコルに従い、それらを自身の中へと収める準備を開始した。

 

「いっつもマジンギアだと飽きちゃうと思って、今日は古いのを持ってきてみたよー!」

 

うんせうんせと台車が運んできたのは角張った岩石のような物質だった。

 

「そろそろ保管庫の断捨離しなきゃーって同業さんがいてね。それならウチで引き取りますよってことで送ってもらったんだ」

 

先祖代々受け継いできたが全く使い道が分からない、ただ倉庫を占領するだけの岩に人間は有用性を見出さない。

正しくそれを理解できたのはグゥと名付けられた群体だけであった。

 

 

【(<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>認定条件をクリアしたモンスターが発生)】

【(履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】

【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】

【(対象を<UBM>に認定)】

【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】

【(対象を逸話級──【星蝕機蝗 ドゥームズグレイ】と命名します)】

 





名称:【星蝕機蝗 ドゥームズグレイ】
カテゴリー:ナノマシン
ランク:逸話級
紹介:
バナージが最初にかち合うことになる<UBM>。
フラグマン謹製土壌再生ナノマシン亜種。シュミット家や周辺の【整備士(メカニック)】同業他社界隈で代々ゴミ箱万能廃材最終処分場扱いされ現在に至る。
ジェーンがいつも〈マジンギア〉じゃ味気なかろうと気を利かせて与えた〈煌玉蟲〉の残骸が彼らにエヴォリューションを促し、結果として自我の発生と進化の余地を与えてしまった。

余談:
読みは【星蝕機蝗(せいしょくきこう)
主だったモチーフは自己複製ナノマシンによる終末論【グレイ・グー】、ヨハネの黙示録に登場する蝗害の神格【アバドン】。
後はほんのりメタルクラスタホッパーとG細胞風味。もちろんドゥームズグレイにそこまでの強さはない。

なお【マーシャルⅡ】が当該〈UBM〉発生時点でロールアウト済みの場合、脅威度が跳ね上がる。


不慣れながら色々書いてみましたが、こういう説明のがいいんじゃないのとかありましたら教えてくれると助かります。


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第三話 それは〈ユニコーン〉と呼ばれた

続いた。



□皇都郊外〈フィックの整備店〉【整備士】バナージ・リンクス

 

バナージが【整備士(メカニック)】として働き始めてから7日目の朝がやってきた。

クエスト開始時点で結んだ最低限度の雇用契約は本日で終了だ。

期間延長を打診しなければ【整備士(メカニック)】ギルドですぐにクエストクリアの判を押してもらえるだろう。

 

バナージはまだここに残るか次の仕事を探してみるか決めあぐねていたが、ひとまず最後の勤めを果たしてから考えることにした。

 

開始四日目でバナージは〈マジンギア〉の動作確認用に【操縦士(ドライバー)】を取得している。

オーバーホールしてから試運転の一つもなしに顧客へ返すのは整備屋として落第もいいところだろう。

 

そこからは使い捨てのジョブクリスタルで適宜【整備士(メカニック)】と【操縦士(ドライバー)】をスイッチしつつ、双方の偏りを埋めるように経験を積んだ。

その甲斐あってか【操縦士(ドライバー)】を途中で始めたにも関わらず、どちらも同じレベルで最終日を迎えられた。

携わっていた時間こそ長いもののジョブ一つを集中して鍛えたわけではないためカンストはまだまだ先のお話だ。

 

「いやー、本日で長かった刑期も満了だねバナージさん」

「馬鹿言わないでくださいよ縁起でもない。俺は指名手配なんてされてません。冗談ばかり言って、本当にお尋ね者になっても知りませんからね?」

「あー、うーん……」

 

ジェーンは快活な性格に似合わない不自然な間を挟んで「それはちょっと、嫌だなぁ」と呟いた。

怪訝に思ったバナージが尋ねるが「何でもないんだ」と追求は拒絶される。彼も根掘り聞きたいわけでもなく「すみません」と口を閉じた。

 

「いや、なんかごめんね!じゃ、今日もお仕事頑張っていこうか!」

 

声を張ってジェーンは仕切り直した。陰鬱な雰囲気から仕事に取り掛かりたくないのだろう。

バナージは彼女の後を追って今日の〈マジンギア〉整備に精を出したのだった。

 

「そういえばバナージさん。まだコレなのね」

 

珍しく会話の少なかった午前が過ぎ去り昼休憩になった。

二人は付近の売店で購入したホットドッグを頬張りながら最近動きが活発になったグゥの食事を眺めていた。

コレとはバナージの左手に宿る〈エンブリオ〉のことである。

 

「確かに、俺の〈エンブリオ〉は他のマスターと比べて遅咲きみたいです」

 

ずっと仕事にかかりきりだったから思いを馳せる暇もなかったのだろうか。

彼の〈エンブリオ〉はゲーム内時間で一週間が経過した今でも第0形態のまま、孵化の兆しすら見せなかった。

 

「そういえば寝る前に光ってたような、いや夢だったような……」

「もうすぐって主張してるみたいだね、それ」

「そうだといいんですけど」

 

チェシャ猫はバナージに〈エンブリオ〉の孵化にはある程度の精神活動──ロマンのある言い方をするなら「これだけは譲れない」的な強い思いが必要になると語った。

ちなみに普通のプレイヤーがチュートリアルで管理AIから〈エンブリオ〉の孵化条件について教えられることはない。「いいもの(脳内)見せて貰ったお礼だよー」とは管理AI13号の談である。

 

バナージには譲れない、絶対に譲れないと誓える思い(願い)はもちろんある。

しかし現状は第0形態のまま、僅かな反応だけを示して音沙汰のないままだ。

 

(それだけじゃ、ユニコーンだけじゃ孵化には足りないって言うのか?)

 

〈エンブリオ〉は答えない。身動ぎ一つしない。

しかし、バナージは不思議と嵐の前の静けさに似た感覚を掴んでいた。

その沈黙はあたかも己と主が殻を破る瞬間を心待ちにしているようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■□目覚め

 

しんと静まり返った夜半、フィックの整備店ガレージから光が漏れ出している。そこでオーナーのフィックが夜を徹して〈マジンギア〉──【マーシャル】の最後の仕上げを行っていた。

 

午後十二時。バナージもジェーンも既に業務を終えて就寝している。

バナージの最低勤務期間は終了したが、オーナーのフィック・シュミットは彼が泊まることを許した。

 

フィックの眼から見ても久しぶりに腕の良い新人だった。

彼はティアンではなくマスターだ。ティアンと比べれば素養はあるのかもしれないが、それを加味しても磨けば輝く宝石になれるだろう。そんな予感じみた確信があった。

 

「グゥ、研磨手伝ってくれ」

 

フィックはグゥに声をかけるが一向にやってこない。常日頃であればその便利なスライムは四、五秒で駆けつけてくるはずだった。

面倒だなと不満をこぼして重い腰を上げ、彼はグゥの定位置に足を運ぶ。

 

「グゥ?おい、グゥ?」

 

〈マジンギア〉の廃材や工業薬品、今朝出した不燃物と可燃物がグゥの住処となった場所に転がっている。基本この時間帯には全て消えているはずの廃棄物だった。

もうすっかり鼻が忘れていた諸々が渾然一体となった刺激臭に顔を顰め、フィックは深淵のように暗い夜闇の中へ懐中電灯を向ける。

 

『-・ ・・ ---』

 

それは、鈍色を中心に濁りきった表層を晒している。皇都の空と工業化の陰、肥え太った科学の末路を表すような色彩だ。

不気味に脈打ち敷地を隔てる外壁を溶かす様はさながらスライムのようだが、スライムにしては動きに規則性があり、何より言葉を発している。金属を擦り合わせて発声されるそれを、フィックは意味のあるものとして認識することはできなかったが。

 

フィックは【星蝕機蝗 ドゥームズグレイ】と規定されたそれが『グゥ』の成れ果てであることを即座に理解し、そして──

 

「バナージ!ジェーン!今すぐ逃げろッ!!」

 

彼らが逃走するだろう最短経路──正面玄関から逆方向へ走り出す。

オーナーは命を賭して二人を救う選択をした。

 

 

 

 

バナージ、ジェーンは響き渡ったオーナーの怒声にせっつかれるように飛び起きる。

背を燃やす焦燥感に急かされ寝間着のまま廊下に飛び出した二人は揃って自分たちの頭をぶつけ合う。

 

「いっ、痛ぅ……」

「っとと、大丈夫──じゃない!ジェーンさん、オーナーはどうしたんです!?」

「私も分かんないけど逃げろって行ってたから逃げるよ!」

 

痛覚があるにも関わらずバナージのふらつきよりも早く持ち直したジェーンはそろそろ初心者を卒業できる手を握って走り出した。

 

(【左肩脱臼】……なんだ?HPバーも一割くらい削れて ──)

 

掴まれた左腕に力が入らないと思って開いたメニューの簡易ステータスには【左肩脱臼】と表示されていた。

ついでとばかりにHPバーも十分の一がお釈迦になっていた。

 

明らかに正面衝突してからの一連の流れで傷ついたものだろうがそれを問いただす暇もなくバナージは先輩に腕を引かれて出入口へとひた走る。

 

逃避行の途中、ガレージが端に見える窓ガラスの前で思わず二人は立ち止まった。

 

「この前修理終わった〈マジンギア〉だ……」

「ドゥームズ、グレイ……?」

 

ガレージから離れた試運転用の敷地で泥と黒が塗りたくられた極彩色のモンスターと整備を終えたばかりだった【マーシャル】が鎬を削っていた。

 

呆気にとられるバナージとジェーン。

先に現実へ引き戻されたのはやはりジェーンだった。

 

「逃げようバナージさん。アレは無理だ」

「逃げようたって──」

 

姿が見えずとも分かる。装甲が溶けつつある【マーシャル】を駆り、〈UBM〉と激しく戦っているのはここのオーナー、フィック・シュミットであると。

 

「勝てるんですか、フィックさんは」

「オーナーは【高位整備士(ハイ・メカニック)】で【高位操縦士(ハイ・ドライバー)】だけど……」

 

──〈UBM〉には勝てないだろう。

ジェーンの声は言外にそう語っていた。

 

「…………離してください、ジェーンさん」

「馬鹿な真似はやめて」

 

彼が何をしようとしているか、俯いた頭を見れば手に取るように分かる。

その蛮勇を、無謀な決意を、彼女は許さない。

 

「バナージさん、オーナーは私と貴方を逃がすために殿を買って出たの。何もできない貴方が助太刀しても絶対にいい顔はしない。犠牲者が一人増えるだけ」

「──でも」

「もう待てないよ。オーナーの思い、無駄にしないで」

 

バナージが自分の言葉に否定を重ねる前に外へ連れ出そうとジェーンはその手を引こうとして──止まった、止まらざるを得なかった。

 

「──それでも」

 

いつの間にかジェーンに向いた彼の目からは一筋、二筋と熱い涙が零れていた。

荒い呼吸のまま、バナージは吐き出すように言った。

 

「俺は貴方やフィックさんと長く過ごしたわけじゃない」

 

そう、たったの七日間だ。バナージが彼らと紡いだ思い出はただそれだけ。

されどその短くも濃い経験の中で、彼にとっては愛おしく、失いたくないものになった。

 

「でもこんなの……こんなのってないですよ。誰も、こんなところで突然わけもわからず死んでいいはずないんだ!」

 

()()()()()()()()()を名乗る者として、彼がこんな惨状を容認できるはずもなかった。

力の抜けた手をすり抜け、バナージは死地へと引き返す。

先達の腕は宙に泳いだまま、背を追っていた者の手を掴むことはなかった。

 

 

 

 

息も絶え絶えにガレージへ転がり込んだバナージの眼に最終工程を残した【マーシャル】が映る。戦いの直前までフィックが手をつけていたものだった。

操縦者を待つように鎮座する白い機械式甲冑。バナージは一切の躊躇なくそれを装着した。

 

視界の狭い甲冑の中でバナージは呼びかける。未だ左手に眠る己の半身へ。

 

目を覚ませ、もう十分時間は経っただろうと。

俺たちの殻を破る時、それは今この瞬間をおいて他にないんだと。

 

ユニコーン!俺に力を貸せ!」

 

彼は理解していた。

自分から生じる〈エンブリオ〉、その下地となる伝説は、必ずそれになるはずと。

 

そうして、マスターの左手に紋章が刻まれた。

不死鳥と黒獅子、それに()()()が三巴を象ったエンブレム。

 

 

──ボクが必要、みたいだね──

 

 

蒼き可能性は結実し、白馬を彷彿とさせる少女が現れる。

白く長い髪の奥、黒と金のインナーカラーが揺らめく。

角張った赤の紋様が目立つ純白のワンピースを翻し、洗練された動作で主に一礼した。

 

 

おお これは(うつつ)に在らざる獣。

人々は知らず、ただ異邦の同胞だけが──その姿、その理念、その願いを、それが成し得た奇跡を愛していたのだ。

 

たしかに存在はしなかった。しかし同胞は命絶たれてもなおをこれを愛し、それに焦がれた。

彼はいつも余白を残した。心に描かれた空間で獣は軽やかに駆け、しかしいつかの残光でしかなかった。

 

彼にそれを養うすべはなく、いつもただ存在の可能性だけを願っていた。

そして今、その願いがこの獣へ大いに力を与えた。

 

彼女には一本の角がある。

装身具(カチューシャ)に誂られた、ひとふりの角が。

 

彼女()はひとりの青年に寄り添った──

そして〈無限の可能性(Infinite Dendrogram)〉のなかに、願い焦がれた青年(マスター)のうちに、まことの存在を得たのだ。

 

 

「ユニコーン、<エンブリオ>のユニコーン。TYPEはメイデンwithアームズ」

 

 

煌めく翡翠の瞳が静かにバナージを見据えた。

 

「マスター、指示を。貴方の希望は、ボクが紡ごう」

 




くぅ疲。
もう終わってもいいかな……(燃え尽き)


【因果一角 ‌ユニコーン】
〈マスター〉︰バナージ・リンクス
TYPE︰メイデン with アームズ
到達形態︰Ⅰ
紋章︰三巴を象る不死鳥、黒獅子、一角獣
能力特性︰『六』感強化/接続
モチーフ︰作者不詳の六連作タペストリー『貴婦人と一角獣』

余談①:
能力特性が感覚を強化・接続するものになったのはバナージにニュータイプへの憧れがあったのももちろんですが、『世界』が違う異邦人として、無意識に誰かと分かり合いたい・繋がりたいという願いがあったから、かもしれません。

余談②:
カチューシャの角はモンハンのキリン装備みたいなイメージ。
髪色とワンピースはユニコーンの白、インナーカラーの黒と金はバンシィとフェネクス。
服のガラはサイコフレームレッドですが、最終的には結晶になっているかもしれません。

余談③:
名前候補は【心象伝播 ‌アラヤシキ】、【思念集積⠀ユング】、【人機一体⠀アニマ・アニムス】。
アラヤシキとユニコーンで直前まで迷っていましたが、どうしても悪魔がチラついてしまうので前者は取り止め。
鉄血機体モチーフはゲーティアとかゴエティアとかの方がらしくなるような、ならないような。


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第四話 ドゥームズ・グレイ侵撃

続いた()



□■〈フィックの整備店〉【高位操縦士】フィック・シュミット

 

「分が悪ぃな、オイ!」

 

鋼鉄の車輪が悲鳴を上げて走り抜ける。ドゥームズグレイは蛇行する轍ごと地面を喰らい、機械甲冑(マシンアーマー)の背を追いかけた。

脚部に搭載された一足二輪、合計四輪のローラー。高速戦闘や連続カーブに耐えうる装備だったはずが、ドゥームズグレイの【星喰】による損壊でその性能はじわじわと削られつつある。

 

「何だったら効くんだよグゥテメェ!」

 

投擲、着弾、発光。

振り向きざまにお手本のようなフォームで放物線を描いたグレネードが夜闇に映える火花を咲かせる。

両腕部にマウントされていた魔力(MP)式グレネードはこれが最後の弾だった。

安全弁もなく、ただ注ぎ込まれた魔力に反応して炸裂する欠陥品。流入させる量で起爆時間が前後するように作られているが、フィックの知る限り誤爆自爆の危険性が高いこれを常用する馬鹿は今の【マーシャル】の持ち主しか知らなかった。

 

が、今回ばかりはその馬鹿の装備に助けられたと言えよう。

 

『・・・- -・--- ・-・ ・- ・-・-・- ・・・- -・--- ・-・ ・- 』

 

しかしドゥームズグレイに対してグレネードは有効打になり得ない。

ダメージこそ与えているものの、すぐに周囲を平らげることで減った分を補われてしまうのだ。

皇国に存在するナノマシンは本来土壌を再生するために最低限必要な機能しかなく、周囲一帯を喰い散らかす悪食を発揮するほどの余分なリソースは存在しない。

 

が、シュミット家で半ば飼育されていたドゥームズグレイは多くの最終処理を強要されたことで無駄な──〈UBM〉となりフィックの猛攻を受ける今では格別に有用な──分解吸収機能を兼ね備えてしまったのだ。

 

「手持ちは……これだけか」

 

最後にフィックの手元に残ったのは腰部装甲に帯剣された重厚な両刃の実体剣だった。

眼前で蠢く〈UBM〉がモノを喰らう特性を持っていることは明白で、最初から使う意味はないと捨て置いていたものだ。

 

「姫さんとバナージは、多分逃げられただろうな。よし」

 

もとより勝つ腹積もりはない。そもそも単なる技術屋の自分が最盛期で万全だとしても、このドゥームズグレイに勝利できるビジョンは見えないだろう。

フィックはこの降って湧いた厄災から二人を逃がすことが、遠ざけることができれば十分御の字だった。

 

既に甲冑は草が虫に食われるように蝕まれ、中身が露出している箇所もある。

自動補修なんて特典武具のような機能があるはずもなく、彼は自己再生を繰り返す相手に限られた耐久とHPで挑まなければならなかった。

 

「──ハ、だったらどうしたよ。どうせ老い先短い身の上だ。将来有望な若人の礎になれんなら、そりゃ本望ってもんだ!」

 

呵々と笑ってガタのきている肉体と機体にムチを入れた。

もうちょっとだけ付き合ってくれ、どうせこれで最後なんだからよと。

 

「行くぞグゥ!まだまだお前も喰い足りねぇんだろぉ!!」

 

空を裂かんばかりの気合いと共にフィックの〈マジンギア〉が疾駆する。

両手に携えしは無骨な実体剣。背部の推進装置を吹かし、愚直なまでに真っ直ぐドゥームズグレイへの突撃を敢行した。

 

彼らは自らに迫る餌を前にぶわ、と自身を拡散させた。

虫を捕らえる網のように、獣を閉ざす檻のように、鉄のカーテンがその顎をキチキチと震わせる。

 

それでもフィックは止まらない、止めるつもりがない。

もうMPも底が見え始め、機体の損傷も限界だ。満足な継戦能力のない自分ができる最後の時間稼ぎで、少々の間ドゥームズグレイを押し留めることができる──はずだった。

 

「──!!?」

 

瞬間、世界が回転する。

独楽のように暴れ回る視界の端がつい少し前に手を尽くしていた【マーシャル】を捉えた。どうやら横合いから自分の機体を勢いよく突き飛ばしてきたらしい。何やら淡い光を帯びているようだが。

 

そのまま地面を二転三転、そうしてようやく停止した身体を持ち上げると聞き覚えのある声が耳朶を打つ。

こんな状況で聞きたくはなかった若人の音だった。

 

「なにをやってるんです!フィックさん!」

 

純白の〈マジンギア〉の頭上には【バナージ・リンクス】と表示されている。

職業柄習得していた〈看破〉は〈マジンギア〉の性能を表示せず、彼が纏う機械甲冑そのものを【バナージ・リンクス】と認識していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

□■〈フィックの整備店〉【操縦士(ドライバー)】バナージ・リンクス

 

『マスター。ボクの詳細ステータス、見れるよね?』

 

介入直前、バナージが言われるままに開いたウィンドウには彼女──〈エンブリオ〉のユニコーンの姿とパラメーターが並んでいた。

 

 

ユニコーン

TYPE:メイデンwithアームズ

到達形態:Ⅰ

 

装備攻撃力:-

装備防御力:-

 

ステータス補正

HP補正:-

MP補正:E

SP補正:-

STR補正:-

END補正:-

DEX補正:E

AGI補正:-

LUC補正:-

 

 

『ボクは自分で戦えるタイプのエンブリオじゃない。マスターもボクも、扱ったものでそれを成す』

「今回の機体じゃあれは倒せない、けど……」

『うん、()()()()には必要だ』

 

保有スキルの欄を確認して二人は頷き合う。

ユニコーンはT字型のペンダントへと形を変えてバナージの首にぶら下がっているため、その身をふよふよと浮かすことでしか動きで肯定を示せなかったが。

 

 

 

 

「なにやってるはこっちの台詞だバナージ!さっさとここから出ていけ!!」

「絶対行きませんよ!死ぬのは俺一人で十分です!」

 

フィックの怒声が返る前にバシュ、とバナージの背部についたバーニアが輝き、〈マジンギア〉が空中へと跳躍する。

新たな獲物へターゲットを移したドゥームズグレイは先ほどと同様に網を張って獲物がかかるのを待った。

 

姿勢制御に難儀しながら何とか着地体勢を整えたバナージは両腕に込められたジェムの中身を解放した。

 

「──っああああああああぁ!!!」

 

腕の装甲に付けられた筒のような部分から圧縮された火炎が放出される。《ヒート・ジャベリン》を収めたジェムの連続使用によって実現した、敵を焼き切る非実体剣だ。

 

交差した両腕に従って炎が奔り、十文字がドゥームズグレイへ刻まれる。

網目状になって脆さが生まれたナノマシンは容易に切り裂かれ、蜘蛛の子を散らすように霧散した。

 

(全然減ってないな)

『正攻法で倒せる相手ではないね。多分この辺り一帯、それも地中ごと焼き払うくらいじゃないと止められないと思うよ』

 

表示されているドゥームズグレイのHPバーは既に再生を始めている。

このまま攻撃しても焼け石に水だ。

 

(──マズい!)

 

声ではない、しかし今の人類には声としか形容できない何かが光のようにバナージの脳裏を掠め、咄嗟に〈マジンギア〉を旋回させた。

 

膝を着いて動きを止めたフィックの【マーシャル】、その後ろの地面が幼年期の樹木が芽吹くように盛り上がり、鋼の蔓を覗かせた。

 

「やめろぉぉおぉ!!!」

 

脚部のバーニアが唸りを上げ、地中から這い出るドゥームズグレイの端末を蹴り飛ばす。

それと同時に喰われた装甲と肉体がバナージの少ないHPを削っていった。

 

繋がりを絶たれて散り散りになったナノマシンはその働きを一時停止するが、“親”と繋がった端末に触れられればまた自らの機能を復帰させる。

厄介なことこの上なく、生き足掻く力としてもこの上ない。

 

(ユニコーン!()()()()()!?)

『……もっと削ってからじゃないと厳しいね。できるだけ近くまで引っ張り出さないと』

「──分かった。やってみせるさ!」

 

バナージの【マーシャル】は再びジェム・ヒート・ジャベリンを狙いを定めずに放ってドゥームズグレイを牽制。こちらの機体にも搭載されていたローラーも使い、派手に地面を抉り返した。

 

熱線と鋼鞭が交錯する。

機甲は焼かれ、機体は喰われ、その度両者の動きは粗雑になっていく。

 

それでも、バナージは叫ぶ。

手を尽くし、弾を撃ち、体力(HP)が燃え尽きるその時まで。

 

 

対して、数奇な運命を辿り〈UBM〉に認定されたドゥームズグレイは困惑していた。

何故当機はこの機体(バナージ・リンクス)を喰らうことができないのかと。

 

フィックはほとんど遠距離非実体兵装での攻撃だったためにかすり傷程度しか負わせることができなかったが、バナージは明らかに近接格闘を叩き込んでくる。

叩き込んだところから食い破ればいいと、何度も試しているが、不自然な不発や致命傷の回避を同じ回数だけ繰り返されている。

 

自我が生まれたばかりのドゥームズグレイは困惑することはあれど、それを解決するために動き出すことはない。

長いか短いかの違いだ。生存力なら確実に勝っていると理解しているからである。

 

それは間違いではない。

事実、ドゥームズグレイは〈UBM〉の中でも自己保存の特性が突出して高い。ナノマシンという出自ゆえ、ある種当然と言ってもいい。

 

だからドゥームズグレイは幾ら末端が消し飛ぼうが焼き切られようが、()()()()()()()()()()()()()気にしない、そんな無駄な機能はない。

足りなくなれば喰らい、また作ればいいのだから。

 

 

両者の動きの粗が殊更顕著になった時、不意にバナージの機体が膝を折って地面に倒れ伏した。

 

達人が見れば露骨すぎる隙──されど、ドゥームズグレイにとっては千載一遇の好機。

地中に潜行させた端末が聳立し、バナージを鳥籠のように取り囲む。

 

そのままバナージは針の(むしろ)になった。

四方八方を鉄鞭が貫通し、四肢の風穴からは止めどなく血潮が流れ、HPを削っていく。

バナージの命はもはや風前の灯火よりも儚き命。吹かずともひとりでにその生を終えてしまうだろう。

 

 

『──マスター!!』

 

 

これがティアンではない生物の成分か。

初めて喰べるタイプの生物の組成を確かめながら、ドゥームズグレイはメインディッシュとばかりに最後に残った急所──心臓へと己を一突きさせた。

 

バナージ・リンクスは【致死ダメージ】を負った。

どのような回復魔法でも彼を癒せず、間に合うこともないだろう。

 

 

()()()()──』

 

 

聞こえるはずのない〈エンブリオ〉の声が響く。

何だこれは、どこから聞こえたのか、疑問を呈する前にそれ以上の異常が〈UBM〉──いや、かつてそうだったものに現れた。

 

マスター、そして彼が纏う〈マジンギア〉、彼の半身たる〈エンブリオ〉、そして()()()()()()()()が光の粒子となって消え始めていたのだ。

 

フィックの眼に【星蝕機蝗 ドゥームズグレイ】という〈UBM〉はもう映っていない。

その代わりにHPが全損した【バナージ・リンクス】の文字が、〈UBM〉の表示に上書きされるようにしてデスペナルティを示していた。

 

かつてドゥームズグレイだったものは理解できず、飲み込めず、最後まで何が起こったのかを解することができないまま、その短い終末機構としての使用期間に幕を下ろしたのだった。

 

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

【<UBM>【星蝕機蝗 ドゥームズグレイ】が消滅しました】

【MVPを選出します】

【【バナージ・リンクス】がMVPに選出されました】

【【バナージ・リンクス】にMVP特典【星骸機心 ドゥームズグレイ】を贈与します】

 




こんなに好評だったの初めてだったので夜なべして続きを書きました。くぅ疲(禁断の二度打ち)。
もう本当にストック切らしたんで今度こそ遅くなります。

頭がぼんやりしてミスを見落としてるかもしれません。
後で直すので大目に見てください。


『保有スキル』
《人機一体》:
エンブリオを中継して接触した機体を思考で操縦する。
スキル使用時、接続機体とマスターを同一個体として扱い、機体全損時はデスペナルティとなる。
機体内部のマスターがデスペナルティとなった場合も同様の処理を行う。
アクティブスキル

《第六感》Lv1:
身に迫る危険、殺気、敵の動きを直感的に感じ取る。
パッシブスキル


余談①:
やってることの半分くらいはサイコミュ・ジャック。


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エピローグ①

(続きを)書いちゃうんだなぁ これが!



□そして誰でもなくなった

 

 

──貴女は生きなさい。

 

 

そう言って強く抱きしめ、曖昧な笑みを浮かべて、彼等は私の前から消えていった。

 

母が、叔父が、祖母が、父が。

知らぬ間に身内は数を減らし、私と最後まで残った侍従からは都度「遠くへお出かけになりました」と震えた声で伝えられた。

そんなこと、言わなくたって分かっているのに。

 

 

ある姫君の家系はザナファルド・ヴォルフガング・ドライフ──現皇王の政策や方針に異を唱えてきた。

皇国の利となるのであればあらゆる手段を容認するその姿勢、上に立つものとして有るまじきものであると。

 

ザナファルドは一時、彼らの活動を容認していた。

画一的な考えのみが蔓延し、自国の発展を妨げるのであれば、イデオロギーの対立とその趨勢を眺めるのもやぶさかでなかった。

 

新たな観念を民衆は好意を持って受け取り、それは瞬く間に広がった。しかし、それだけだ。

反対を声高に叫ぶだけで彼等は何も行動しない。対立する立場にある自分を打倒するための武力も身に付けず、他の領を出し抜いてやろうという気概もない。

 

二つの思想が互いに互いを高めあう、ザナファルドが期待した役目をそれは果たさなかった。

利になるどころか弱くなるだけの愚民に見出す価値はない。皇王は彼等を切り捨てることにした。

決断と実行は速やかに。プロパガンダを喧伝する者の首は徐々にその数を減らしていった。

 

 

姫君の家族は過ちを受け入れるも、掲げた旗を降ろすことを選ばない。

媚びへつらったところでザナファルドが玉座を退く頃にはとっくに不審死を遂げていることだろう。

 

だが責任能力を育む最中の幼き彼女を巻き込むことは躊躇われた。

彼女は何も知らない。我々の行動の意味を理解していない。

しかし皇王はその若芽さえ価値無しと断じ、諸共に焼き払ってしまうことは容易に想像できた。

 

 

付き合わせてしまってごめんなさい。

だけど、我々はもう止められないところまできてしまった。

だからせめて、貴女だけは──

 

 

姫君の重荷は彼らの命と引き換えに取り払われ、彼女は“なんでもない少女”になることができた。

 

「あは」

 

少女は泣いた。

笑いながら泣いた。

なんでもないなんて要らなかった。みんなと一緒に歳をとりたかった。

 

「あは、あは」

 

故人の願いに引きずられた頬は引きつり、取りこぼした幸せの数だけ涙が滑り落ちる。

消えた意味は分かっていた。どこに行ったかも分かっていた。

ただ、それを受け入れるだけの心の余白が致命的に足りていなかった。

 

「あははははは!!」

 

仮面をつけよう。笑顔の眩しい仮面をつけよう。

暗い自分を、恐れる自分を閉じ込めるための喜劇の仮面を。

だってそうじゃないとまたどこかに行ってしまう。

同じことをしていたら、また私の前からみんなが消えてしまう。

笑っていないと、私が砕けてしまう。

 

姫君の家族は最期まで知らなかった。

彼女がその齢にして正しく自分たちを理解できてしまっていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

□皇都郊外【操縦士】バナージ・リンクス

 

自殺判定による24時間のログイン禁止ペナルティを与えられるも、バナージ・リンクスは見事〈UBM〉を打倒した。

相性の差こそあったものの、偉業を成し遂げたと言って差し支えないだろう。

少なくとも、バナージ・リンクスに恥じない働きはできたはずだ。そんな自負を心中に抱えたバナージはデスペナルティが明けてすぐ、意気揚々に勤務先へ向かった。

 

「……そういえば深夜だな」

『確かに、今行っても迷惑になるだけかもね』

 

到着前に気づいてよかったとバナージは足を緩めると、聞き覚えのある声が首にさげたT字型のペンダントから聞こえてくる。

それはひとりでに外れ、元の姿へと戻った。

【因果一角‌ ‌ユニコーン】、バナージ・リンクスの〈エンブリオ〉である。

 

「や、一日ぶりで三日ぶり。忘れたりしてないよね、ボクのこと」

「死んだって忘れないさ」

 

さも当然とばかりに、当たり前だろ?とマスターは言う。

ユニコーンは知っている。誇張でも強がりでもない、それを成し遂げた人間が彼であると。

そうだった、だからボクはここにいるんだった。

 

「ユニコーン」

「何かな?」

 

誇らしさを胸いっぱいに広げていた一角獣にマスターの右手が差し出される。

 

「ありがとう。お前が来てくれて、本当に助かった」

「……うん、ボクも君の〈エンブリオ〉になれて良かった」

 

互いの右手が握られ、どちらからともなく笑顔をこぼした。

このまま画面が引いてエンドロールが流れ始めてもおかしくなかったが、もう少しだけ話は続く。

 

「そうだ、ちょっと見に行ってみてもいいか?」

「見に行くって、フィックさんの店を?」

「俺が守れたんだってこと、この目で確かめたいんだ」

 

遠目に見るだけだからと頼むバナージに、まあそのくらいならいいでしょうとユニコーンは頷いた。

マスターが抱いている不安や心配も、彼女にはしっかり伝わってきているのだから。

 

そうして二人は皇都のセーブポイントから歩き詰めて、〈フィックの整備店〉にたどり着いた。

不思議なことにまだ店の玄関の灯りは消えていなかった。

 

「ついてるな」

「ついてるね」

 

しかし営みの光があるなら、バナージは世話になった二人をきっと守れたのだろう。

良かった良かった、また明日折を見て訪ねてみようか。そうして踵を返そうとしたが──

 

「待って」

 

影が揺れる。

バナージは第六感──額を貫いた予感に従い身体を翻した。

ざらついた、〈UBM〉と戦った時のような冷や汗が吹き出る感覚はない。

その代わりにHPの二割程度をかっさらう突撃を正面から受け止めることになった。

 

「バナージ」

「あ゛っ、う……ジェーン、さん?」

 

地面に押し倒されたバナージはむせ込みながら彼女を見上げた。

いつもの活発さはどこへやら、彼を見下ろす表情は能面のように凍りついている。

 

「ねぇ、バナージ、バナージなんだよね」

「そう、です」

 

むせ込みながら答えるとジェーンは口角を上げた。いつもより下手な笑顔だった。

 

「……心配、したんだよ。また私、私は、失っちゃうのかなって、大事な人が消えちゃうのかなって」

 

ぼたぼたと、バナージの服が涙に濡れていく。

押さえつけていた仮面はついに剥がれ、肩は震え、もう我慢することができなかった。

 

ジェーン──ジェーン・シュミット(誰でもない少女)の口から渾然一体となった感情が溢れ出す。

バナージは何も言わず、彼女の収まりがつくまでその胸を貸した。

 




うぉ……評価デカすぎ……。
ランキング上位に食い込めたのは皆様のおかげです。ありがとうございます。

ここからはこの章のエピローグです。まだ続きは考えてませんが、ひとまずの区切りをつけたかったので。


Q.ミネバ?
A.ミネバ(違う)。

前皇王さんが生きてるのでコロシアイ皇室生活は始まってませんが、生前からド外道だったらしいので、そのあおりを受けた辺境伯もいらっしゃったことでしょう。いた。

そんな不幸な家族の中で彼女はただ一人の生存者となりました。
妙にSTRが高かったり、一般人なら確実に取り乱すだろう〈UBM〉の出現にも冷静だったのはそのためです。


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エピローグ②

(更に続きを)書いちゃうんだなぁ これが!



□〈フィックの整備店〉【整備士】バナージ・リンクス

 

ゴウンゴウンと魔石回転(ジェムドラム)式洗濯機が仕事を行っている。ジェムは液体を定められたパターンで動かすだけの魔法が込められた、比較的安価に市場で流れているものだ。

水に揉まれて輪舞(ロンド)を踊るバナージの服をガラスの扉越しに二人の男が見つめている。

小さな脚立に座った下着姿のバナージと、神妙な顔をしたフィックだった。

 

「……もっと、きれいな国だと思ってました」

「まだこっちに来たばかりだろう。そう考えるのも無理はない」

 

ジェーン・シュミット、誰でもなくなった少女。

笑顔の裏側に何が潜んでいたのか、何を負うことを強要されたのか、どうして自分すらも偽らなければいけなかったのか。

フィックは──今日まで彼女の手足となって働いた侍従は包み隠さず話した。

己の知りうる限り、姫君の今までを。

 

「皇王皇室、ドライフの上澄み連中が可燃性のヘドロってだけで、下に流れる水は飲めないわけじゃない。むしろ清潔だからこそお前はそう思ったんだ」

「……ドライフの人たちは、それでいいんですか?」

「よかぁねぇよ。だがな、わざわざ見えてる爆弾に触れて蒸発したい物好きはごくごく少数ってこった」

 

……その少数になっちまったのが俺たちだったんだがな。そう言ってフィックは目を伏せた。

今でもあの時の自分であれば侯爵に忠言を捧げられたのではないか、主も聞き届けてくれたのではないかと。姫君を目にする度、後悔が彼の頭を過ぎるのだ。

 

「……あれは大人しい子だった。引っ込み思案で、いつも心配事を口にして、何より泣き虫だった。何回慰めたか俺も分からん」

 

家族を失ったあの日から姫君は変わってしまった。陽気の仮面が縫い付けられ、毎日を満面の笑顔で過ごすようになった。

運動が好きで、機械いじりが趣味の、ちょっと抜けたところのある、ひょうきんな性格。

消えた家族の外面をツギハギした、内向的な人間が演じるには歪が過ぎるパッチワーク。姫君はそれを今日まで見事に貫いてきた。

 

そのままの彼女を知るフィックだけは、その様があまりに痛々しく見えた。

元の姫君を取り戻せない自分が情けなくて仕方ない。主に娘を託されておきながら、見守ることしかできないとは。

 

「姫さんは今日、初めて泣いたんだ。最初に家族が死んでから初めて、な」

 

彼が、バナージ・リンクスがここの門を叩いた時から姫君はゆっくりと変わり始めた。

長く抑圧していた感情がようやく顔を出し、やっと“彼女らしい”心の発露を見ることができたのだ。

 

「バナージ、頼みがある」

「…………聞きましょう」

 

泡沫のような存在で、いつ消えるともしれない“マスター”に託すべきではないのかもしれない。

もとより当主から自分が預かったことなのだから、命果てるまで共にあるべきなのかもしれない。

 

だが、彼女は、姫君は、やっとできたのだ。

彼のおかげで、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「姫さんを、ドライフ(ここ)から連れ出してやって欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□旅の途中

 

舗装され、竜車や人などが行き交う道を一台のオートモビルが駆け抜ける。

それは一瞬奇異の視線に晒されるも「どうせまたマスター(ご同類)だろう」と見なされる。

より奇抜な〈エンブリオ〉やマスターが溢れる中では、単なる普通自動車程度に目線を引く力があるはずもなく。

 

『バナージ、メシクレ!バナージ、メシクレ!』

「わかったわかった。もう少しで人通りも少なくなるからな」

 

本来シフトレバーのある位置には緑色の球体が収まっており、早く燃料(MP)を補給させろとつぶらな目とアームを収納するハッチが自己主張を繰り返していた。

 

「こうなっても食いしん坊なのは変わらないのね、グゥ」

 

助手席に座る少女はたおやかな表情でグゥと呼んだそれを撫でる。

球体は嬉しそうに、またピコピコとハッチを動かした。

 

「ええと、王国に行くんだったっけ?」

「ああ。ドライフから安全に行けるところはグランバロアかアルターしかないけど、さすがにこれじゃ海は渡れないしな。他の国へ行くにしてもまず王国からになる」

 

人がまばらになってきたところでバナージと少女は降車し、グゥはポンと設置位置から抜けるとコロコロと転がりながら外に出た。

 

()()()さーん、ボクも助手席座りたいんですけどー』

 

ペンダント状態からメイデンに戻ったユニコーンがぶー、ボクは不機嫌だぞーとばかりに頬を膨らませている。

 

「ごめんなさいね。この車、二人乗りだから」

「……グゥさん、三人乗りにできない?」

『リソース、タリナイ。リソース、タリナイ』

「ですよね。いや、分かってることですけど」

 

再三確認して毎回ムリと解答されているが、ユニコーンは諦め切れずにエネルギー充填中のグゥの身体を揺すっている。

 

「マスター。埋め合わせ、期待してますからね」

「あー……お手柔らかに頼むよ」

「それは時と場合によりますので」

 

今回はもう無理だと悟ったか、それとも諦めがついたのか。

ユニコーンはペンダントへ戻り、再びバナージの首にぶら下がった。

 

「ところでノヴァ、不安はないか?」

 

心配げに自分の顔を窺ったバナージにクスリとしてしまう。

不安なのは貴方の方じゃないの?その言葉は彼の気遣いに免じて不問とするとして、バナージへの解答に少女はゆっくりと首肯した。

 

「貴方がいるから、私は大丈夫」

「……そうはならないようにするけど、いつかはいなくなるかもしれないぞ」

「そうね。じゃあ、その時はちゃんとお別れして。曖昧に笑って満足げに消えるなんて、そんなの許さないんだから」

 

華奢な手がきゅっと握られ、小指だけが差し出される。

バナージもそれに応え、ここに契りは交わされた。

 

「約束だよ」

「ああ、約束する。不安にさせるようなこと言って、ごめん」

「ううん。私を思って言ってくれたことなら、許します。──グゥ、貯まった?」

『ジュウデン、カンリョウ!ジュウデン、カンリョウ!』

「行こうか。王国は俺も初めてだし、ちょっと楽しみだな」

 

オートモビルは王国に針路を向け、その旅を続ける。

王国に、その先に、何が待ち受けているかは分からない。

 

だが、彼らの道行はきっと────光指すものになるだろう。

 




勝ったッ!第1部完!

章末とはいえスッキリ(当社比)終わらせられたのはなんだかんだとSS書いてましたが初めての経験かもしれません。
ここまでハイスピードかつエタらず頑張れたのは皆様の評価や感想、お気に入りのおかげなので感謝です。

だからデンドロ二次増えてくれませんかお願いですから。
自家発電だけじゃ得られない栄養があるんです。


とりあえず(まだ何も続きを考えてないので)彼らの物語は一区切り。

王国で熊さんに出会うのか。
黄河で中華料理を頂くのか。
カルディナのスロットで〈エンブリオ〉の名前を叫びながら『それでも!!!!』と足掻いてみるのか。
グランバロアで宝探しをするのか。
天地でユニコーンをRX-零丸カスタムにしようかと揺れるのか。
レジェンダリアで変態たちとしのぎを削るのか。

彼らに訪れる出来事はまだ誰にも分かりません(決まってないので)。
いずれその道が定まりし時(の前にここまでのキャラやUBMの詳細設定とかは投げると思いますが)、またお会いしましょう。


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第一章総合資料

マスター、ティアン、モンスター、特典武具全部入りパック。



名前(アバター):バナージ・リンクス

名前(リアル):?

年齢:?

メインジョブ:【操縦士】(操縦士系統下級職)

<エンブリオ>:【因果一角ㅤユニコーン】

キャラ紹介:

当SS主人公。デンドロ最初期勢。

リアルに死んで記憶と意識を引き継いだ転生者だが、前の人生という名の解答をなぞっているだけの怠惰な自分に嫌気が差していたのと、この世界では触れることのできない『ガンダム』という思い出にもう一度出会うため、無限の可能性を謳った<Infinite Dendrogram>へと飛び込んだ。

 

『バナージ・リンクス』ロールマン。RX-0を完成させたくて仕方ない。

自分が死ぬのも人が死ぬのも冗談じゃないが、実際に一度死亡したこと、デンドロ内でのマスターの死はデスペナルティにしかならないことから、自分が死んでどうにかなるならそれでいいという自己犠牲精神が順調に育ちつつある。

 

世界から爪弾きにされていると本人は感じているが実際のところは分からない。

だから彼の〈エンブリオ〉は誰かを理解するために感覚を広げ、繋がりを求めているのかもしれない。

 

余談①:

当初予定されていたプレイヤーネームは『バナナ味』だった。

バナナのバナジはバナナージ。

 

余談②:

デフォルトの名前に戻して本当に良かった。

 

 

名称:【因果一角 ユニコーン】

<マスター>:バナージ・リンクス

TYPE:メイデンwith アームズ

能力特性:『六』感強化/接続

到達形態:第一形態

紹介:

タイトルさんでバナージの相棒。ヒロインするには属性がちょっと足りない。やはりどっちかと言えば窮地に颯爽と駆けつけてくる相棒タイプ。

バナージという無二のマスターから産まれてこれたことを誇りに思っており、彼がやると言うなら自死を前提にしたプランさえ成し遂げてみせる。

超高速でインターセプトしてきた姫君にヤキモチ。グゥにどうにかできない?と日々相談している。

 

戦闘時と必要な時はバナージのペンダントとなって彼の首にぶら下がる。形はT字、色は銀。バナージ曰く確かな意味があるらしい。

 

固有スキルは自身を通してバナージと機体を接続する『人機一体』、そしてバナージの直感と洞察力を引き上げる『第六感』。

 

余談:

『人機一体』は対機械へのジャイアントキリング能力として機能したが、このスキルの本質はそこではない。むしろ仕様外機能と言って差し支えない(シールドファンネルみたいなもの)。

 

効果発動中は自分と機体が同一データとして扱われるため、機体が損壊したとしてもデスペナルティで復元される──つまり自分の機体が壊れてしまうことを可能な限り防ぐための用途を想定されていた。

 

 

名前:(もう失われている)/ジェーン・シュミット/ノヴァ

年齢:14

メインジョブ:【整備士】(整備士系統下級職)

サブジョブ:【■■王】(系統なし偽証特化超級職)

役職:〈フィックの整備店〉整備士見習い

紹介:

初めてバナージが深く関わりあったティアン。

過去の思い出を縫って作った仮面で脆い自分を偽った“なんでもない”少女。

バナージに全部壊されてしまったので責任を取ってもらうことにした。

 

現皇王のザナファルド・ヴォルフガング・ドライフの政策に反対していた家系に産まれるも、家族は有用性を示せなかったので速やかに粛清された。

もう自分たちを止められないところまで来てしまった家族は彼女だけは呪いに縛られず『生きて欲しい』と願ったが、逆にそれが彼女に重圧を与えてしまった。

外面はともかく、内面は生きているだけで死んでいない状態だったがバナージの行動によって元来の自分を取り戻しつつある。

 

〈UBM〉の出現で〈フィックの整備店〉が悪い形で目立ってしまい、その影響で皇王に生存が知られると確実に殺されるだろうと侍従に予想され、バナージとアルター王国へと逃避行をすることになった。

 

最終的に名乗った『ノヴァ』はNobodyから。

誰でもなかった自分から、他でもない自分へ変われることを祈って。

かぼちゃマスクのハイジャックや反省を促すテロリストとは特に関係ない。ないったらない。

 

将来的なポジションはミネバ殿下でマリーダさんでリタ(NT)。

 

余談①:

サブジョブの【■■王】は『他人と自分を偽り続ける』こと等が就職条件。彼女の行いは偶然にもそれを満たしてしまっていた。

名前が現状を皮肉るようなものだったのでその時ばかりは思わずブチ切れた。

必要なこと以外には使用されていない。

 

『こんな力、欲しくなんてなかった』

 

余談②:

ジェーンはジョン・ドゥの女性形、ジェーン・ドゥより。

シュミットはドイツ語圏の名無しの権兵衛、ハンス・シュミットより。

 

余談③:

プロットでは死亡する世界線も存在した。

その場合は『鳥』になっていた。

 

 

名前:フィック・シュミット

年齢:52

メインジョブ:【高位整備士】(整備士系統上級職)

サブジョブ:【高位操縦士】(操縦士系統上級職)【家令】(家令系統下級職) 他多数

役職:〈フィックの整備店〉オーナー

紹介:

バナージが働いていた整備店のオーナー。姫君と共に最後まで生き残った侍従。姫のことを当主から頼まれていた。

整備士初心者のために定期的にクエストを出してレベリングを促している他、グゥを用いた廃材回収などの業務も担当していた。結構すごい人。同業者たちからは尊敬の眼差しで見られている。

家族が死んでから初めて姫君が涙したきっかけとなったバナージを男と見込み、彼女を託す決心をした。

 

余談:

姫君の超級職のおかげで皇王の眼は欺けていたものの、彼女がまともな生活を送れたのはフィックのおかげ。

 

 

名称:【星蝕機蝗 ドゥームズグレイ】

カテゴリ:ナノマシン

ランク:逸話級

特典武具:【星骸機心 ドゥームズグレイ】

紹介:

バナージが最初に戦い、そして辛くも勝利できた<UBM>。〈イレギュラー〉認定一歩手前。

 

フラグマン謹製土壌再生ナノマシン亜種であり、シュミット家や周辺の【整備士(メカニック)】同業他社界隈で代々廃材最終処分場扱いされ現在に至る。

ジェーンからはグゥと呼ばれて可愛がられていた。

何故スライムを模していたのかは不明。吸収するのに効率のいい形態だったのかもしれない。

 

ジェーンがいつも〈マジンギア〉や家庭ゴミを食べてばかりで可哀想だと思い与えた〈煌玉蟲〉の残骸(彼女はそうであることを知らなかった)が彼らに自己進化を促し、結果として〈UBM〉として認定される。

 

【人機一体】による存在の上書きによって文字通り消滅。

その痕跡はログと特典武具、彼らが過ごした整備店にのみ残された。

 

余談①:

主だったモチーフは自己複製ナノマシンによる終末論【グレイ・グー】、ヨハネの黙示録に登場する蝗害の神格【アバドン】。

名前は上記グレイ・グーと最後の審判の日、ドゥームズデイ(Doomsday)より。

 

もし仮に街一つが丸ごと彼らのリソースとなったなら、星をも喰らう鋼の蝗害となって無秩序に世界を喰い荒らす恐るべき厄災となった──かもしれない。

 

余談②:

ジェーンのことが大好き。

 

 

名称:【星喰機心 ドゥームズグレイ】

ランク:<逸話級武具(エピソードアームズ)

説明:

星を喰らいし可能性を秘めた自己複製機械の概念を具現化した逸品。

万物を喰らい、力を生み出し、装備へ変じ、言葉を交わす。

※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし

 

・装備スキル

《機蝗炉心》

《自己改良》

 

余談①:

ハロ。

世にも珍しき自己進化機能を備えた特典武具。

フィックから貰った魔動モービルのエンジンとして今日も元気に働いている。が、それもグゥの一形態でしかなく、その本領は戦闘時に発揮される。

早い話がアイアンマン(インフィニティ・ウォー)、メタルクラスタホッパー、ナノマテリアルを得たメンタルモデル。

 

余談②

明確な人格を得て主人のために働くAIの役割を持たせようかと考えていたが、ノヴァとユニコーンがいるのに(ユニコーンとは役割被りもあるし)更に追加するのはどうなんです?ということでサポートに重きを置くことにしました。

とはいえ《自己改良》があるので、そう遠くない未来には明確な自我が形成されるかもしれません。

 




第1章、これにて本当に終了です。
次章更新までの速さは期待しないで待っててください。


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第二章 蒼い遊星
第一話 エゴ


帰ってきたぞ!



□国境 平原地帯【操縦士】バナージ・リンクス

 

ドライフ皇国とアルター王国を行き来する時、人間が比較的安全に通過できるルートは二つある。

王国のルニングス公爵領と皇国のエルドーナ領の境にあたる山道か、王国のカルチェラタン伯爵領と皇国のバルバロス辺境伯領の狭間にある平野か。

 

バナージたちは後者を選び、比較的のんびりと旅を続けている。

 

「何か目標にしてることって、あるの?」

 

国と国を隔てる平野、いずれ権謀術数が巡らされる街までもう数日といったところで魔動モービルからグゥが引き抜かれる。

手持ち無沙汰になった鈍色の触手が器用にテントを組み立てているのをよそに、ノヴァは助手席から外のバナージに声を投げかけた。

 

「あるよ。一応理由を聞いてもいいかな」

「理由?えーと……貴方を知りたいから、じゃ駄目かな」

 

二人はここに来るまでに幾人かのマスターに出会っていた。彼らは往々にしてこの世界に目的を持った来訪者たちだった。

飽くなき戦いか、心の休息を求めてか、ここでしか叶わぬ望みがあるのか……十人十色に理由はあった。

しかし、ノヴァの一番近くにいるマスターの口からはそのような願いが漏れたことがここまでなかったのである。

 

もし、自分が彼の願いの助けになれるのなら、可能な限りその手伝いをしたいというのがノヴァの──彼女にしてはとても珍しい──嘘偽りない心情だった。

自分という重荷を背負わせてしまったバナージに対して彼女が思い付くことのできた恩返し。

とはいえあからさまに恩を返しますよとアピールするのもどうかと思い、こうして迂遠なアクションをする他なかったのだが。

 

バナージはノヴァの解答にゆっくりと頷いた。

 

「いいよ、そんなに長くなることでもないし。でも、面白くはないかもしれない」

 

前置きしたバナージは積み降ろした薪を火に焚べながらぽつぽつと語り始めた。

 

ずっと望んでいたものが“別の世界”に存在しなかったこと。

それを再現できるかもしれない世界がここだったこと。

そして存在しなかったもの──RX-0(ユニコーン)を作り上げることが目標なんだ、そうバナージは話を締めくくった。

 

「ユニコーンって──」ハッとしたノヴァは木に寄りかかってノートに何やら記している〈エンブリオ〉に目をやった。

彼女は嬉しそうに三色の髪を揺らしていた。姫君に背を向けたままだがどうやら聞き耳を立てていたらしい。

 

「RX-0は20m近くある特殊な【マーシャル】だと思ってくれていい。だけど、今の皇国の技術レベルじゃ多分無理だ」

「先々期文明くらいまで遡ればある……かもしれないけど。うん、確かに今はダメそうだね」

 

デンドロのサービス開始前に存在したとされる先々期文明。彼らが高度な技術体系を有していたことは〈UBM〉だったグゥが証明している。

しかしその技術のほとんどは失伝して久しい。再現するとなれば世界各所に散らばる迷宮や遺跡を漁って遺物を鹵獲するか、天文学的確率で残された設計図の発見を祈ったりしなければならない。

 

「じゃあ、どうするの?」

 

是が非でも、例え未曾有のテロで小惑星が星に墜落しかねないとしても実現しなければとバナージが考えていることはノヴァにも分かる。

マスターの願望を反映する〈エンブリオ〉がその願いと同じ名を冠しているのだから尚更だ。

 

「それを今から会議しようと思ってたんだ。ユニコーン、頼む」

「了解だよマスター。ひとまずボクの目線から今実現できるもの、足りないもの、多分当分無理なものを洗い出してみた」

 

ユニコーンはノートを二人に見えるように広げる。

そこには以下のようなことが書き記されていた。

 

 


 

実現できていること

・ニュータイプ能力の一部、直感・洞察力

→スキル『第六感』

※成長の余地あり。

 

・NT-D(手動によらない機体制御)

→スキル『人機一体』

 

・ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉に準ずる炉心

→特典武具【星喰機心 ドゥームズグレイ】

※改良必須

 

実現できそうなこと

・RX-0の形だけ

→特典武具【星喰機心 ドゥームズグレイ】による外装再現。

 

・エネルギー兵装全般

→魔法職習得による擬似的なビーム兵装の再現。

※ビーム・ガトリングガンについては再現難易度高。そもそもどうやって盾を浮かせるのか。

 

・実弾兵装

→特典武具【星喰機心 ドゥームズグレイ】による再現。

※頭部バルカン砲の威力は保証できない。

 

時間がかかること

・RX-0本体、並びに巨大ロボットの建造。

→現在のドライフ皇国の技術力では不可能。先々期文明の遺跡を頼るか、今後増えていくだろうマスターによるブレイクスルーを待つか。

 

・サイコフレーム(MP浸透、ないし他外部手段による機体装甲の剛性獲得)

→【星喰機心 ドゥームズグレイ】のナノマシンの自己改良が現状最有力候補。

 

・ニュータイプ能力の一部、非言語コミュニケーション

→〈エンブリオ〉の進化によって獲得?他手段の模索を推奨。

※必殺スキル枠を消費する可能性あり。

 

・Iフィールド(魔法、魔力に対する防護)

→特典武具レベルの代物が必要。達成難度が高すぎるため優先度低。

 

・MP式の銃

→高い。ビーム・マグナム並の威力は特典武具レベルの代物でないと難しい。一から作成するとなればさらに難易度は跳ね上がる。

 

・浮遊、飛行能力等の機動性

→既に【マーシャル】に内蔵されているスラスターは飛行というよりは“跳躍”。

これをRX-0にそのまま適用すると単なる大きな的に成り下がってしまう。

宇宙ではなく大気圏内で活動することを考えれば機動性の確保は必須。

 

総評

『時間がかかること』については現状考えるだけ時間の無駄なので隅に置き、取り掛かれる『実現できそうなこと』を進めるのが無難だと思われる。

機体建造は現在の技術力では不可能。ブレイクスルーか先々期文明の技術が発見されるまでは素材集めに注力するべき。

 


 

 

メモ──と言うにはあまりに長い書き物──の全てに目を通したノヴァは空を見上げた。夕日はいつの間にか沈んでおり、満天の星々がきらきらと輝いている。

 

(……明らかに水準がおかしいよね!?)

 

声には出さなかった。顔にも出さなかった。人や自分を偽ることを続けていなければすぐにでも心の内が露見していたかもしれない。

 

まずバナージがRX-0なる兵器に強い憧れがあるのはよく分かる。

整備士や操縦士をやっていた手前、その手の浪漫にノヴァはある程度の理解はあった。

魔法を散らす盾に強力な魔力式銃器、実弾兵器や装甲強化──これはまだいい。

 

だが何故、何故機体を駆る人間に非言語コミュニケーション能力──テレパシーに準ずるものが必要なのだろうか。

そのような類の能力者がレジェンダリアにいることは小耳に挟んでいるが、操縦士にとって必要不可欠かと言われると、ノヴァは首を傾げざるを得ない。

 

そして、どうしてか浮遊して戦闘することに対して猛烈なこだわりがあるようだ。

基本的にこの世界で空中戦はとても珍しいものである。飛べない、というのもあるがこの世界の制空権は基本的にモンスターのものである。

天高く飛べたとてむざむざ蜂の巣になりに行く必要もない。

 

しかも文脈を見るに、明らかに空どころか宙で活動することがこの兵器の前提となっているようだ。

星が光を放つ重力のない暗黒の領域。モンスターも人間もいない場所で何をしようというのか。

 

一体彼らはどこに向かっているのだろうか。

残念なことにそれを言い出す勇気はノヴァの手元から消え去ってしまっている。

 

「とりあえずボクとマスターで出せるのはこのくらいかな」

(まだあるの!?)

 

情報を噛み砕くのに高速回転する脳は限界を訴えている。

今も自分の分からない用語だらけで──頭がオーバヒートして適切に受け取れていないだけかもしれないが──会話をしている二人を見て、ノヴァは思う。

 

(私、ついていける?)

 

疑問を呈した頭をぶんぶんと振るう。

元よりそのために話を持ちかけたのに、分からないからと逃げに走るのは良くない。

 

洪水のように流れ込む情報を何とか、懸命に精査する。

恐らく自分は機械関連では役に立てない。その辺りはユニコーンの方がマスターと思考を共有し、理解できているだけ随分と上手だ。

 

であれば、バナージに渡せるものといえば情報くらいなものだが──

 

「あ」

 

エネルギー兵装全般の項目にあった『魔法職習得による擬似的なビーム兵装の再現』を見て、額に稲妻が走った。

ノヴァがまだ実家にいた時に耳にした、とある魔術師系統のジョブについて思い出したのだ。

 

「バナージ、ユニコーン、ここのジョブの事なんだけど……」

「何か知ってるのか?」

「うん。まだ実家にいた時にお父さんから聞いたことがあったの。王都郊外にいる【光刃術師(クラウマンサー)】っていう上級職の人がいて、弟子を募集してたんだって。お父さんはちょっと興味が湧いて見学してみたらしいの」

 

少し間を置いて、やっぱ言わなきゃ良かったかも、などと思いながらノヴァは諦観気味に意を決した。

 

「お弟子さんが使った魔法で()()()()()()()()()()()()から、そこでやめたんだって」

 




現状の確認、それと王国に何しに行くかという回。
こう書いてみると実現不可能なこと多すぎ問題。ですが頑張って達成してしていきましょう。

光刃術師(クラウマンサー)】は星間戦争のフォース的な、光の刃で敵を撃つアレです。名前はアイルランド民話の光剣クラウ・ソラスより。
クラウソラスマンサーは収まりが悪すぎるのでクラウだけにしたもののコレジャナイ感が凄い。良さげなものを見繕えたら変えます。

グラムマンサーとか語呂がスッキリしてるけど光の剣じゃないし、ネクロマンサーだと死霊術師で邪聖剣だし、レーザーマンサーは何かこう、うん。

王国編が終わったら次はアンケートに則ってレジェンダリアに行きます。もうしばらく王国での旅にお付き合い下さい。


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第二話 始まりの物語(ナラティブ)

ついにサブタイ命名規則のUC関連縛りから逸脱してしまった。

原作が連日更新をするなら此方も出さねば……無作法というもの……(諸説あり)



□国境 カルチェラタン付近【操縦士】バナージ・リンクス

 

「待たせた。思ったよりwikiの中身が濃くってさ」

 

二日に数回の頻度でバナージは<Infinite Dendrogram>からログアウトしている。

今は現実の彼を束縛してしまう面倒事がこれといってないが、風呂とトイレと食事はリアルでしっかり済ませなければならない。これを欠けば健康で文化的な最低限度の生活を過ごすことができなくなってしまう。

 

今回は遅刻してしまったのはアルター王国へ訪れるにあたって事前に下調べをしていたからだ。

 

デンドロのサービスはまだ開始早々。なのでwikiとはいえその情報量についてさほど期待はしていなかったが、熱意ある編纂部の人間が多いのか、予想以上にデンドロの各地域について情報が集ってきていた。

良い情報も悪い情報も様々だが、これだけ熱心なマスターが多くいることに少々バナージは驚いていた。何だ、傾倒してるのは自分だけじゃなかったのか、などと。

 

「別にいいよ、特に何もなかったし。それで、ウィキって?」

「マスターが使うあっちの世界の大図書館みたいなものかな。そうだグゥ、動力に割くMPはなるべく省エネで頼む」

『オマカセ!オマカセ!』

 

全員が乗り込んだことを確認してバナージはグゥを定位置にセット。カルチェラタンへ向けて魔動モービルが走り出した。

 

「一雨降りそう」

「確かに」

 

窓の向こう──進行方向の空には鈍色の雨雲らしき暗雲が漂っている。

そういえばwikiのウェザーニュースで王国郊外は雨の予報だったか、などと思いながらバナージはカーブに合わせてハンドルを回す。

 

『ところでマスター。ボクはいつまで君の首にぶら下がっていればいいんだい?』

(カルチェラタン到着までは我慢してくれ。お前を装備してないと『人機一体』と『第六感』が使えないんだから)

 

ユニコーンはメイデンwith アームズの〈エンブリオ〉である。今のところ彼女は効果を付与する装飾品(ネックレス)になることでしかスキルを発揮することができない。

ここまでの旅でバナージは長めの停車の間しか彼女を自由にさせていないが、万が一が起こってからでは遅いのだ。

 

(ついでに言うと……運が悪ければ今日、その万が一がやってくるかもしれない)

 

フロントガラスに水が走り、ルーフはボツボツと音を立てる。そのまま数分過ぎると本格的に雨が降り出してきた。バナージはハンドルを握る手が汗ばむのを感じた。

 

(丈の高い草と遮蔽物になりそうな岩や木、それに視界を遮る天候。そしてここはカルチェラタン(補給のできる場所)に近い上に明確な所有権のない国境付近。それに──)

『……それに?』

 

この辺りで襲撃事件が多発してるってwikiに書いてあったから。

その声が空気を伝播するより速く、バナージの脳裏に稲光が閃いた。

『第六感』による直感が発動したのだ。

 

「噂をすればか──!」

「えっうわーーーーっ!!?」

 

スキル『操縦』とグゥの手助けを借り、頭に走った()()を避けるようにドリフトを行う。

シェイクされる車体のなすがままになっているノヴァを慮る余裕はない。窓の外にはモービルを掠めるように弾や矢が過ぎ去っている。明らかに自分たちを狙っていることは明白だった。

 

「ノヴァ、グゥを半分持っていてくれ。俺のグゥが拡散したら隠れること。いいな?」

「──う、うん」

 

ぬかるみを弾きながら停車した魔動モービルに人影が迫る。

続々と影は数を増し、獲物を取り囲むようにそれぞれが持ち場に着いた。

 

バナージはゆっくりと、敵意を刺激しないよう降車する。今のタイミングで一斉にかかられると自分はともかく姫君まで対応ができないからだ。

 

彼は片手にグゥを、もう片手にアイテムボックスを携え、野盗の一団と対峙した。

 

「〈ゴブリン・ストリート〉……」

 

バナージはwikiでカルチェラタン近辺で起こった出来事について目を通していた。

本当は調べた特産品や郷土料理などでノヴァやユニコーンに息抜きをさせてやりたいと思っていたのだが、最下部のコメント欄に見逃せない情報が記されていた。

 

『国境近くを盗賊クランが根城にしている。注意されたし』

 

アルター王国の盗賊クランは〈ゴブリン・ストリート〉しかいない。

ティアン殺害で早々に監獄行きになったマスターのタレコミによりNPCの殺害が割に合わないと感じたマスターが多いためである。

しかし自分たちは今のところ皇国の人間だ。王国を拠点にする彼らが皇国で指名手配されたところで何の痛みもないのである。

 

「ないんです──」

 

待ちきれず、言葉を遮って飛来した矢は目標へ吸い込まれるように宙を翔け、額が血の華を咲かす前にへし折られる。

灰色の触手、もといグゥの身体がギチギチと蠢き、飛来した矢の一切を己の糧へと変換した。

 

「ないんですよ!あなた達にあげられるものなんて──!」

 

敵対の宣告と共に【星喰機心ㅤドゥームズグレイ】が鈍色のカーテンを形作り、バナージと魔動モービルに注がれる視線を遮った。

 

時間稼ぎの鉄幕は数秒もせずに形を崩す。

そこに魔動モービルとマスターの姿はなく、機甲の鎧だけが雨に打たれながら鎮座していた。

 

解けるように地に落ちた数多の機蝗は幕の中心に立つ鎧へと集う。

無骨な【マーシャル】の装甲の上にナノマシンが這い回り、所有者たるバナージの思考に沿って定められた形を規定する。

 

装甲はより白く染め上げられ、バイザーは目元を隠す。

そして、頭部には異彩を放つ一本の角が聳立した。

 

『人機一体』は機体とマスターをエンブリオを通して接続及び操縦するスキルである。

その範疇には特典武具である【ドゥームズグレイ】も含まれ、バナージはこれをある程度自由に──このスキルの前提が人型兵器の操作なので縦横無尽とはいかないものの──動かすことができる。

 

バナージは【ドゥームズグレイ】を【マーシャル】の追加装甲として振る舞わせた。

モチーフとした形は白き一角獣にして彼の飽くなき願望、RX-0──ユニコーンガンダムのそれであった。

 

 

「──バナージ・リンクス、ユニコーンガンダム」

 

 

ビームサーベルもビーム・マグナムも、シールドファンネルだってない。

まだそれはただ形を真似ただけの紛い物に過ぎない。

 

それでも、その姿にだけは恥じぬようにと気合を込めて。

 

 

「──行きます!」

 

 

背部のバーニアが雨を焼く。

ここに、ユニコーンガンダムの初戦が幕を開けた。

 




ユニコーンガンダムユニコーンモード(ガワだけ)(人間サイズ)
動力蓄えるアーマーだけ見ればG-セルフみたいなことしてるかもしれない。

この形を維持するのと機体の剛性を高めるためだけに結構な演算力を浪費しているので、この姿から外れるような変形(触手伸ばし)とか捕食によるMP回復はできません。ただの硬い鎧です。
浪漫だからね、仕方ないね。


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第三話 追跡・蒼い遊星

続いた。



□ドライフ皇国 某日某所

 

一機の【マーシャル】の前で火花が散った。

【整備士】の手にした溶接機が機体の溝をゆっくりとなぞり、噛み合わせだけでは埋められないパーツの隙間を溶かしていく。

 

実のところ〈マジンギア〉の組み立てにこの工程は必要ない。多少隙間が空いたとて、機体の耐久値にはそれほど影響がないからだ。

それでも黙々と隙間を潰していくのは完璧に仕上げたい【整備士】としての矜恃か、はたまた彼の単なる手癖なのか。

 

そうして無心に続けていた作業は工房の扉を叩く音で中断される。

職人は溶接マスクを外し、壁掛け時計を確認する。薄めた目に映った針は約束の時間から既に20度ほど回転していた。

 

「少し遅いんじゃないか?」

 

請負人は形こそ詫びるような言葉を並べたが、さほど反省の様子はない。

上気している顔から察するに、何か運動でもしてきたのだろうか。

 

「まあいい、契約書さえ違えなければ俺から言う文句はねぇ」

 

彼は隅にある棚からアイテムボックスを取り出した。

依頼はこれをアルター王国の────まで配送することだ。

 

職人からの最終確認に請負人はモチのロン!と元気いっぱいに返答した。

彼女は試作装備の一つをレンタルし、一目散に外へ駆け出そうとして、止められた。

 

「待て。ついでにもう一つ頼まれちゃくれねぇか」

 

配送のついでで構わないし、無理にやる必要もない。

だが、達成できれば報酬に色を付けよう。

 

最後の言葉にもう八割身体が外に出ていた彼女の足は行儀よくUターン。

それ、詳しく!と言わんばかりに中へ戻ってきた。

 

「恐らくお前も平原ルートで王国に向かうはずだ。そこでもし、もしだ。角持ちの〈マジンギア〉を見かけた時は、そいつの力になってくれ」

 

配送者は一も二もなく承諾した。

運送ついでの手助けだけでお賃金アップだ。彼女がやらぬ手はなかった。

 

「頼んだぞ」

 

職人(フィック)()()()()()()()()()──一刻も早く装備してみたかったのだろう──の旅立ちを見届けた。

 

彼女が地平線の彼方へ消えていくまで、その背をずっと見続けていた。

 

 

 

 

 

 

□■国境 カルチェラタン付近

 

RX-0(ユニコーン)を象った装甲──UCアーマーのバイザー、その内にある【マーシャル】のヘルム越しから観測できる視界は悪い。

 

『第六感』は対象の五感を鋭敏にさせ、そこから獲得、集積したデータから限定的な直感を誘発させるスキルである。

そのためバナージの視覚は相応に強化されているものの、今外部を認識しているのは瞬くデュアルアイ・センサーではなく彼自身の肉眼である。

 

対して、〈ゴブリン・ストリート〉は夜闇や影、視界の悪い状況で十全に活動することが彼らが身を置く状況の前提だ。

少なくとも頭数とこの点において、彼らはバナージを上回っていた。

 

加えて言えば、この地帯は背丈のある草が生い茂り、射線と視線が切れる大木や岩石が点在している。

オブジェクトに隠れ潜み、不意を打つにはこれ以上なく適した自然環境だった。

 

天と地が味方したはずの奇襲。

〈ゴブリン・ストリート〉がここを狩場と定めてからの必勝パターン。

 

しかし、相手はそれを見事打ち破ってみせた。

 

 

リアルの自動車は多くの場合資産価値がついてまわる。銀行の頭取の御曹司であるエルドリッジはそれをよくよく理解していた。

 

車を担保にローンを組む融資の類では外車などに代表される価値が高い固定資産であれば、貸し出せる金額の上限も相応の額になるのは当然だ。

 

外車の市場価値はあちら(リアル)こちら(ゲーム)も変わらない。エルドリッジの感性はそう睨んでいた。

竜車が幅を利かせる王国であればこそ、機械式の車は高額になる可能性がある。

 

もちろん修理や整備は難しいかもしれないが、それを加味しても外車に心惹かれる人種の存在を彼は承知していた。

実際それに関連する融資を申し入れる顧客も少なくないため、尚更だ。

 

傷物の価値は往々にして下がるものだ。クランメンバーにはある程度は仕方ないにしろ、なるべくかすり傷程度で行動を制限するように牽制を行うことを指示していた。

 

(中々どうして、テクがいい)

 

相手は素人の自分でさえ舌を巻くようなドライビングテクニック──往年の映画に登場したタイムマシーンのような、思わず視線が引き寄せられるドリフト走行で巧みに奇襲を回避してみせた。

 

エルドリッジは心中拍手を送った。

おかげで車体には傷一つない。競売にかければかなりの額が見込めるだろう。

 

そうして泥を弾きながら停車した魔動モービルから出てきたのは一人の青年だった。

手の甲にある紋章はマスターの印である。ならば遠慮する理由もない。

 

わざわざ矢面に立ったのは攻撃に対する防衛手段があるためか。

エルドリッジは後方で待機していた【弓手】にハンドサインで威力偵察を指示する。

あわよくばそれでくたばってくれ、そんな願望はターゲットが傍らに抱えていた半球によって打ち砕かれた。

 

(【星喰機心】……?)

 

彼の『看破』は触手から鉄のカーテンを装ったそれが特典武具であることを示していた。

しかし現在はサービス開始からまだ日が浅い。マスターの多くにその情報が広まるまではもうしばらく時間が必要だった。

 

数秒で幕を降ろしたカーテンは装甲へと変わり、風変わりな【マーシャル】がその姿を晒す。

白い装甲に一本角、人型のシルエットながらその風貌にエルドリッジは御伽噺に語られる一角獣(ユニコーン)を思い出す。

 

「──バナージ・リンクス、ユニコーンガンダム」

 

そうして、彼らの前に現れた機甲を纏う『バナージ・リンクス』は彼が想像した通りの幻獣を冠した機体名を口にする。

ガンダム、それがこの甲冑が戴いたネームらしい。

 

(名乗りは確か、日本の武士道(ブシドー)だったか)

 

……彼は間違っても乙女座の旗乗り(フラッグファイター)ではなく、心の管制室に出撃の旨を伝えただけである。

 

「──〈ゴブリン・ストリート〉オーナー、エルドリッジ」

 

ターゲットの口上に、狩人たる彼も自然と応えた。

降りしきる雨の中、一方はゆるりと腕を掲げ、もう一方は鎧のバーニアに魔力を焚べた。

 

「──行きます!」

「仕事の時間だ。総員、かかれ」

 

振り下ろされた手が簒奪を命じる。

吹き上がる焔が推力となる。

 

一角獣と簒奪者、両者の戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

□国境 カルチェラタン付近 【操縦士】 バナージ・リンクス

 

雨中を駆けるは白き星。

背部推進器によって実現された爆発的な加速力は獲物を縫いとめるはずだった前衛を置き去りにした。

 

自らを囲む数多の円、その最も後方に配置された魔法職に向かい機体は一直線に疾駆する。

 

グゥによるUCアーマーは物理攻撃に対しては滅法強いものの、魔法に対してはその真逆だ。

常ならば周囲の環境を捕食することで数を増やせるが、今は装甲としての役割に徹しているため、少しの魔法被弾が命取りとなってしまう。

 

ぬかるみで踏み込みが浅ければ過剰に吹かした推進機構で補い、瞬きの間に対象の目前に到達する。

これから敵とはいえマスター(人間)の殺害に一瞬躊躇うものの、野放しにすればノヴァが危険だと気を持ち直し、脚部の噴射装置の補助を受けた鋭い回し蹴りをお見舞いした。

 

「──やらせねぇ」

 

全体に指示をするため支援職と共に後方で待機していたエルドリッジが横合いから味方を庇い、スキルが発動した。

 

「《スティール》!」

「──《スティール》っす!」

『──《Stehlen》』

 

オーナーによって動きに空白が生まれたターゲット。

その足元から現れた半透明の四本腕、そして軽装備にしては耐久のあるオーナーの手により数えて五度の《スティール》が行われた。

 

奇しくもそれはマスターよりもティアンに適性があるとされる『累ね』と呼ばれる技術(テクニック)だった。

エルドリッジとフェイ、その他《スティール》持ちのクランメンバーが行う常套戦術であり、〈ゴブリン・ストリート〉の強みの一つである。

 

機体の上から装甲を纏おうが、元の機体を取り払ってしまえば外も瓦解するだろう。

そのような目論見から《スティール》は放たれた。

 

しかし、思い出して欲しい。

バナージが【星蝕機蝗⠀ドゥームズグレイ】を打倒した時、UBMの頭上に表示された名称が何を示していたのかを。

 

(盗難対策か……?いや、違う!)

 

開幕から妙だとは思っていた。

『看破』が主に提出したデータは『バナージ・リンクス』という表記だ。

まず『看破』持ちの目に飛び込むのは装備品情報のはずなのに、目の前の機体は『バナージ・リンクス』としか表示されていない。

 

「まさか、一体化か!?」

 

マスターは機体で、機体はマスター。

『人機一体』は接続した機体とマスターを同一データとして扱うため、()()()()()()()()()()()()()()

 

〈ゴブリン・ストリート〉の行為はシステム上、“身体全ての強奪”として処理された。

強盗系統超級職の【強奪王】のスキル《グレーターテイクオーバー》でさえその手に収まる部位が奪取できる限界だ。

 

生きた人間の全てをアイテムボックスに収める芸当は、今のところ彼らには不可能である。

 

「そんな攻撃で!」

 

ウィンドウで戦闘続行に支障がないことを確認したバナージは地を蹴って距離を取る。

 

両腕にマウントされたジェムから放つ《ヒート・ジャベリン》──雨天なので以前より効果は薄い──で牽制。

加速と静止を繰り返して〈ゴブリン・ストリート〉の円陣をかき乱し、速さに対応しきれなかった者から蹴打が撃ち込まれる。

 

下級職の域を超えたスピードで繰り出される蹴撃に耐えうるENDのあるプレイヤーはオーナーを含めて一人握り。

一人、また一人とカバーし切れなかった〈ゴブリン・ストリート〉のメンバーが沈んでいくが、余裕がないのはバナージも同様だった。

 

(ユニコーン、連絡は?)

『まだ入ってない。というか、ボクらが分かるタイミングって同時じゃないか?』

(それは、そうなんだが)

 

バナージが待っていたのはグゥからの連絡だ。

装甲にしている方ではなく、ノヴァに託したグゥである。

 

彼女が安全地帯まで無事に撤退するか、襲われるか、その他必要と判断した時に連絡を入れるよう頼んでいたのだ。

 

その彼らからの連絡がない。

つまり、ノヴァが危険地帯から脱出できずにいる。

傍受の危険もあるためバナージはあえて自分からは連絡をせずにいた。

 

『この通信を探知できるジョブはいなさそうだけど、〈エンブリオ〉は分からないよ。これだけ人数がいれば一人くらい持ってたって不自然じゃない』

(盗賊ギルドだしな。そういうタイプは目ざとく集めてる気はする。けど、おちおち待ってもいられない……)

 

彼の視界に展開されたウィンドウ、HPバーは少なからず削られている。

攻撃はなるべく躱し、防いでいるにも関わらずだ。

 

バナージの【マーシャル】は戦場での速度に重きを置いたタイプであり、背部や脚部にブースターが取り付けられている。

しかし、それを扱う身体はあまりに脆弱だった。

 

【操縦士】や生産職系統のジョブはENDやSTRがほとんど伸びないことはご承知の通り。

《操縦》によって強化された【マーシャル】のAGIを頼りに、それも物理で高速戦闘を仕掛ければ、肉体が耐えきれずダメージを受けてしまうのだ。

つまるところ、未来で機竜を駆るであろう【器神】と同様の状態である。

 

(ユニコーン、制限時間は?)

『今の状況なら五分が限界だね』

 

現状敵の数は半分も削れていない上、人数が減れば減るほどエルドリッジをはじめとした高END持ちがダメージソースの魔法職をカバーしやすくなってしまう。

 

彼らを全員倒して完勝することは不可能。

バナージの〈エンブリオ〉は言外に告げた。

 

せめて残りのジェム全部をつぎ込んでエルドリッジを焼き切れば指揮系統は崩せるか、などと考えていたバナージの感覚は頭上を過ぎる気配をキャッチした。

頭上を取られたか!とMPをブースターに回そうとして、止まった。

 

「──」

 

グゥは危険が迫っていたから連絡しなかったのではかった。

連絡できるほどの余裕がなかったからだ。

 

跳んでいた。

人によく似たシルエットをした灰色の物体を抱えた蒼い〈マジンギア〉が、この雨の中でも目立つように空を跳んでいた。

 

バナージの目はそれがノヴァを保護するために防護膜となった【ドゥームズグレイ】であることを正しく理解し、そして──

 

「っ待てぇ!」

 

バナージは不埒な〈マジンギア〉へと加速を開始した。

彼がここに留まる意味を、たった今失ったからである。




ゴブストの最初期はどんな戦法が十八番だったのかな〜と考えて、「累ね使ってたんじゃね?」というところから思いついた今回。

①スケルトンの高耐久を活かして敵の隙を作る。
②オーナー、クランメンバーの同時〈スティール〉で身ぐるみを剥がす。
③無防備になった相手に総攻撃。

みたいな。

まあバナージ君の〈マジンギア〉は肉体扱いになってたので不発に終わってしまったんですが。


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第四話 その仮面の下に

多忙故みじかめ。



□アルター王国 カルチェラタン 喫茶店

 

「いやーゴメンゴメン!でもほら、バーちゃんもノーちゃんも無事だったし、ね!」

 

四つのグラスのうち、二つの中身が減っていた。

バナージはそろそろピッチャーが来てくれないかと思ったが、店員はギリギリバナージ達のテーブルが見える位置から動かない。

 

ため息と共に背けていた視線をテーブルへ戻せば、隣にグゥを抱えたノヴァが座っている。

目から光が失せており、視線は正面でショートケーキをつつく女性に固定されていた。

 

バナージはそっと視線を明後日に戻した。

窓の外は雨上がりのいい空と、ついでに虹までかかっていた。

 

「……」

「バーちゃん、どうにかできる?」

 

やめてくれ、こっちに話を振らないでくれ。

既に剣呑な空気──ユニコーンを装備していないので感覚強化は発動していないが──が肌をひりつかせている。

どうにかしてやりたいバナージだが不用意に突っ込んでノヴァの顰蹙を購入したくはなかった。

よって、不本意ではあるが(一応)命の恩人に対してつっけんどんな態度をとることとなる。

 

「自分で何とかしてください。あとなんですバーちゃんって。年寄りみたいじゃないですか」

「じゃあバナちんなんてど──」

「怒りますよ、AR・I・CAさん」

 

いつの間にやら完食されたショートケーキは彼女のパーソナルカラーとよく似ていた。

AR・I・CAはドライフ皇国スタートのマスターであり、バナージとノヴァの窮地をあまりに強引な方法で解決した蒼い〈マジンギア〉の担い手である。

 

フィックからの試作機甲稼働試験、そして王国への配送依頼を受けた彼女はその途中で角持ちの〈マジンギア〉の様子を窺っていたノヴァを発見した。

 

そして何を思ったか彼女は姫君誘拐でバナージの救出を計った。

バナージは跳躍と滑空を続ける蒼い〈マジンギア〉の追跡することで〈ゴブリン・ストリート〉の包囲網を脱出し、どうにかカルチェラタンに辿り着いた。

 

到着する頃にはHPもMPも枯渇して干物になったバナージを助けてくれたので、彼としては──手段はともかくとして彼女に救われたのは事実であるし──それほど強い悪印象を覚えていない。

 

しかし同行者はご立腹だった。

誘拐前後についての発言をAR・I・CAが妙に避けているため、そこでノヴァの虎の尾を踏んでしまったのだろう、とバナージは考えていた。

アタリがついたところで雰囲気の悪さをどうこうできはしないのだが。

 

「ユニコーン、少し外に出るぞ」

「ちょっと、まだホットドッグ食べきれてないんだけど」

「……外の席で好きなだけ食べていいから」

 

結局、自分での解決は諦めることにした。

ユニコーンの強化された感覚を引きずっているせいか、周りの空気を鋭敏に感じ取ってしまっている。

正直、あまり長居していたくはない。

 

(分かっていたつもりだったけど、ニュータイプもニュータイプで辛いものなんだな)

 

バナージはもそもそとホットドッグを食べるユニコーンを連れ、全員分の会計と追加注文があった時は外の自分に声をかけるよう店員に言伝し、刺すような視線と恐れの感情から逃げ出すように退店した。

 

テーブルに残された二人は外まで出て行く二人を見送ってから、盛大にため息をついた。

 

「大丈夫だよ、安心して。バナージ君とユニちゃんはノーちゃんのジョブについては多分まだ分かってないと思う」

「あなたが口を閉じていれば、ですが」

「もちろんチャックするよ?秘密の一つや二つ、誰にだってあるもんだし。伏せた手札が多いに越したことはないからね!とはいえ、今回はそれに当てはまるか怪しいけど」

 

何が言いたいんですか、と睨むノヴァにそりゃあ当然でしょとばかりにAR・I・CAは胸を張る。

 

「名前の通り、それがいつまでも隠し通せるものじゃないってこと。ね、【虚飾王(キング・オブ・ヴァニティ)】さん?」

 




AR「フフフ……バナち──」
蕉「やめないか!」バシィ!

バナナは漢字で甘蕉と書くらしい。

ログインしたてのAR・I・CAさん。まだ△ないのでこの時期はフリーです。
原作で初ログイン時期が確定したらお墓を立ててください。

これから方々飛び回って当分皇国に自分からは近づかない(少なくとも現皇帝が崩御するまでは)と思われるバナージが初期は単なる生産系でしかない△との接点を作るのはまあまあ難しいので、ここで未来の【撃墜王】と出会っておくことで△勧誘の糸口を作る必要があったんですね(訳知り顔)


虚飾王(キング・オブ・ヴァニティ)】、本当は【喜劇王(チャップリン)】にしようと思ってました。

【喜劇王】の就職条件は他人と自分を偽り続け、尚も心から笑いたいと、自分の人生に喜びが訪れることを諦めなかったことを想定してました。

が、今のところジョブの中で何らかの固有の名前が入ってるのティターニア(妖精)とタルタロス(神)くらいしかありません。

そこに近代の人物ぶち込むのは無理筋と思ったのと、チャップリンじゃないルビを振ろうとすると解散した芸人が頭をよぎるのでお蔵入りとなりました。
正直語呂と通りがいいので使いたかったぜ、【喜劇王(チャップリン)】……。


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