火の時代を終わらせた不死人がダンジョンに居るのは間違っているだろうか (エドアルド)
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プロローグ
その者はかつてただの人であった。父と母を持ち、兄弟がいた。平和な世の中ですくすくと育っていた。しかしその生は突然の終わりを告げた。
そんな彼が次に目を覚ましたのは彼にとってはゲームであった世界。名をダークソウルと言う。
その世界で不死人となった彼は火継ぎの使命を託され立ち向かった。
そんな彼の半生をダークソウルの物語と共に語ろう。
古い時代、世界はまだ分かたれず、霧に覆われ灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった。
だが、いつかはじめての火がおこり光と闇と、熱と冷たさと、生と死と、
あらゆる差異をもたらした
そして、幾匹かの、闇から生まれた者たちが火に惹かれ、火のそばから、王のソウルを見出した
最初の死者ニト、イザリスの魔女と混沌の娘たち、太陽の光の王グウィンと彼の騎士たちそして、誰も知らぬ影の小人
それらは王の力を得、古龍に戦いを挑んだ
グウィンの雷が岩のウロコを貫き、魔女の火炎は嵐となり、死の瘴気がニトによって解き放たれた
そしてウロコのない白竜シースの裏切りにより、遂に古龍は敗れた
火の時代の始まりだ
だが、やがて火は消え、暗闇だけが残る
今や、火はまさに消えかけ、人の世には届かず、夜ばかりが続き人の中に闇の印、ダークサインが現れはじめていた…
ここからは彼の物語だ。
彼の物語も多くの不死人と同じく北の不死院から始まった。
しかし、彼の物語は順調とは言えなかった。
それもそのはず彼は戦いなど知らない一般人でしか無かったのだから。始まりの地である北の不死院でさえ彼は何十何百と死んだ。亡者はともかくデーモンは彼には難しかった。
だが、不思議な事に彼の心は擦り切れることなく亡者にならずに済んでいた。
普段の彼なら怪しむであろうが数多の死を経験した彼にその余裕は無かった。刺殺、斬殺、圧死、etc……彼がもたらした死と彼にもたらされた死は彼に恐怖を呼び苦しめた。しかし、それでも彼は進んだ。それは彼の正義感故か既に壊れてしまったのか、それは本人にしか分からない。
北の不死院を越え、火継ぎの祭祀場についた彼は少しの休憩の後再び歩み始めた。数多の亡者との戦いを経て道中の牛頭のデーモンを打ち倒し飛竜ヘルカイトも避け太陽の祭壇まで至った。この頃になればソウルで己を強化し更に武器を変え、戦えるようになっていた。しかし、未だに死を繰り返す事に変わりは無い。
城下不死教区を進み彼がたどり着いたのは鍛冶師アンドレイがいる場所だった。アンドレイにより武器を強くし敵をより殺しやすくなった。そんな彼は最初の鐘にたどり着いた。
霊体ソラールの力を借りガーゴイルを打ち倒した彼は鐘を鳴らし再び火継ぎの祭祀場に戻った。
火継ぎの祭祀場で一時の休息を挟んだ彼は次の鐘を鳴らすべく歩みを進めた。次に彼が向かったのは不死街下層。そこで山羊頭デーモンを倒し最下層への鍵を手にした。
彼の持つ万能鍵を使えば鐘の元まで大幅に短縮できるが彼はより経験を積み武器やアイテムを手に入れ魔術に呪術を覚える為にあえてこの道で行ったのだ。さらに言えばここは彼の知るゲームとは違いやろうと思えば鍵を使わずに強引に突破する事も出来るのだ。
少々ズレたが話を続けよう。
彼は最下層へと足を踏み入れた。最下層は言わば下水道とも言える場所、そこは酷く汚く臭う。潔癖症でなくても行きたくない場所だが彼は我慢し歩を進めた。道中で闇霊棘騎士カークを相手にしながら彼は進み、ネズミやバジリスクも殺し進んだ。
そして着いたのは貪食ドラゴンの元だ。ドラゴンとは呼ばれているがその姿はとてもドラゴンには見えない悪魔や化け物と呼ばれるに相応しい姿だ。ここでも彼は霊体の力を借りて貪食ドラゴンを打ち破った。
しかし、ここに来るまでも彼は幾度となく死んだ。この頃には彼の感覚は麻痺し死に対する恐怖は薄れていた。強いて言えば痛みへの拒絶はまだ残っていただろう。
彼はここで手に入れた鍵を使って病み村に向かう前に一度北の不死院へと戻った。病み村の一番下には毒沼が広がっている。そこで足を取られずに進む為にあるアイテムを取りに行ったのだ。
北の不死院に戻ればかつて出た時と変わって黒騎士がいたり再びはぐれデーモンと戦う事にもなった。そして彼を助けてくれた騎士は亡者と化して襲ってきた。彼は少しだけ残った良心に叱責に悩まされながらも騎士に引導を渡しその鎧と盾、剣を剥ぎ取り装着した。彼が今まで使っていた戦士の装備より上等な物だ。そのまま彼は目的のアイテムを手に入れ火継ぎの祭祀場に戻った。
火継ぎの祭祀場で再び休息をとった彼は病み村へと足を運んだ。病み村では不安定な足場で飢えた亡者や巨漢亡者と戦う事になり彼はここで多くの落下死を経験した。混沌の犬に焼き殺される事もしばしば。
そうして辿り着いたのは病み村の一番下の毒沼。ここを毒に苦しみながらも進み足を踏み入れたのはクラーグの住処。
彼はここで少し前に倒した闇霊ミルドレッドの力を借りつつ魔女クラーグを打ち倒し二つ目の鐘を鳴らすことに成功した。
これでやっと使命を知るための使命を果たした彼は世界の蛇、王の探索者フラムトに会い、火継ぎの使命を託された。
……う〜む。ここまで長くなってしまったな少々まいてこう。
火継ぎの使命とは王のソウルを集め最初の火の炉へたどり着き薪の王グウィンを打ち倒しその火を継ぐ事である。
まず初めに王の器を手に入れその中に王のソウルを焚べる必要がある。その為に集める王のソウルの持ち主は、四人の公王、混沌の苗床、白竜シース、墓王ニト。この者らの王のソウルをもって最初の火の炉への道を開く。
そんな火継ぎの使命を彼はやり遂げた。幾重もの死を重ね遂には薪の王グウィンの元まで辿り着きその火を継いだ。
しかし、そこで彼の物語は終わらなかった。何故かって?私にも分からないだが一つ言えるのは彼が北の不死院から再び使命を果たす為に歩みだしたことだ。それこそ何十回も何百回も。……私は彼が発狂しなかったのが不思議でならないね。幾ら亡者にはならなくとも廃人にはなりそうなものだ。
そんな彼は火を継ぐ事もあれば火を継がず闇の王になる事もあった。しかし、それでも彼の火継ぎは終わらない。手を変え品を変え、あれこれやりながらも結局繰り返す事に変わりはなかった。
そんな終わりの見えない旅の中彼は一つの賭けに出た。それは新たな世界の創造だ。数多の繰り返しをする内に彼の中には膨大なソウルが溜まっていた。それこそ王のソウルすらも。もはや最初の火すらも凌駕した光と熱、生命、そしてそれに対応するように膨れ上がる闇と冷たさ、死。これを内包した彼は最初の火の炉にて新たな世界の創造を目指した。彼が目指したのは火が永遠であり闇が永遠である世界、火と闇が共存した世界。これ以上誰も苦しまぬ様、それ以上に自身の運命の円環からの脱却の為。今までの世界の理の破壊を目指した。
火により闇を生み出し、その闇を焼却し火を維持する。それが彼の答えだ。全てのモノにソウルが宿る以上不可能ではなかった。それをもってして彼は世界を作り替えた。
彼を縛り付けていた円環も断ち切れた。
こうして彼ははれて自由の身だ。だが彼は今までの旅の反動かそれから動く事は無かった何百何千何万の時をただ火と闇に身を任せ過ごした。
ん?これで終わりかって?違うとも彼の物語はまだ終わっちゃあいないこれからさ。新たな世界で彼は歩み出すのさ、使命の為ではなく自由にね?
さあ、見守ろうじゃないか彼の旅路を。
転生者について
ダークソウルリマスターの世界に転生した一般人実は神様転生者。本人は気付いていない。ダークソウルの世界を繰り返したのは神のせい。亡者にならなかったのもこいつのせい。
主人公の足掻き藻掻く様を見て楽しんでいたが主人公のダークソウル世界の創造に巻き込まれ焼却された。主人公は妙に多いソウルがいきなり入って来たな?ぐらいで認識している。いたこと自体は知らない。
最近ダークソウルリマスターを買って見事にハマりました。2周目でも全然楽しいわ。あとアイテム増殖バグうめぇ。ソウルが美味しいよ
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不死人出会う
どれ程の年月がたっただろうか。あの日あの時、この世界に生まれて歩んだ旅路を火と闇を見つめながら思い出す。
幾つもの死を経験した、幾つもの出会いと別れを経験した。苦しく辛い旅だった。しかし、良い思い出もある。太陽の戦士ソラール、彼には何度も助けられた。火防女のアナスタシア、彼女の灯す篝火は私に安らぎを与えた。魔術師グリッグスとビックハットローガンには魔術を、呪術師ラレンティウスとイザリスのクラーナには呪術を教わった。鉄板のパッチには蹴落とされたがその後はちょっとした友のようにたわいない話をした。他にもジークマイヤーやドーナル、エンジー、ロートレク……いや、ロートレクは基本殺すか無視してたからな。まぁ、良いか。
どれもこれも良い思い出だ。
…………どうにもあの円環からの脱却してから過去ばかり思い出す。あれからどれ程の時が経ったのか分からない。円環を繰り返すうちに時を数えるのは辞めたからな。
今の世界はどうなっているのか。だがいまいち見ようとは思わない。歩み続けた弊害か、どうにも燃え尽きた灰のようだ。
そんな事を考えていると足音がした。
闇霊か、それとも偶に出る神を自称する不届き者がまた来たか。そう思って足音の方に剣を持ち視線を向けるとそこに居たのは人であった。
「……ふむ、只人とは珍しい」
「え、えっと……」
戸惑っているのか、ソウルを見ても別段悪人と言う訳でも無いか。迷い人か珍しい、いや、初めてか。故意に入って来る者はいたが。
「まぁ良い、迷い込んだのであろう。火に当たるといい。ここの闇は濃いからな」
「…………」
ふむ、訝しむの無理は無いだろう。しかし、冷たさに耐えられなかったのか火に当たり始めた。最初の火の炉は火と闇の力が顕著だ、只人にはここの冷たさは辛いだろう。
私も再び座り込み火を見つめた。そうしていると迷い人のお嬢さんが話しかけてきた。
「……ここは何処ですか?」
「ここは最初の火の炉」
「最初の火の炉……」
やはり知らないか。世界創造で一度世界がリセットされたのかそのまま続いたのかは知らないから失伝したのかそもそも知らないのかは分からないがな。
だが、あの酷く醜い歩みが人に知られなかったのは良かったのかもしれない。
そんな事を考えているとふと、外の事が少々気になって来た。今はどうなっているのか、どんな世界か。
彼女に聞いてみるとしよう。
「お嬢さん、少し私の話しに付き合ってくれないか?」
「……お、お嬢さん!?え、ええ良いわ。でもここから元の場所に帰る事は出来るのかしら?」
「あぁ、やろうと思えば何時でも大丈夫だ。ここは時の流れが淀んでいるからな。」
「そうなの。それと私はお嬢さんじゃなくてアスフィ・アル・アンドロメダよ。」
「そうか、ではアスフィ殿と呼ばせてもらおう。私の名前は……」
「どうしたんですか?」
―――私の名前は何だったか
あまりの長い年月がたったからか名前が思い出せない。それに、彼の地では私を名前で呼ぶ者など居なかったからな。どうするか。
「……アスフィ殿が名をつけてはくれぬか?」
「え?」
「生憎と名など忘れてしまってな。これも何かの縁だお願いしたいのだが。良いかな?」
「……わかったわ」
「ありがたい」
アスフィはそのまま難しい顔をして考え始めた。名というのは本来親から贈られる願いが詰まった物だ。それを忘れるとは私も親不孝者だな。いや、今更か。
「決まったわ。貴方の名前はレクス。どう?」
「……良き名だ。感謝しよう」
「いえ」
名など今まで必要では無かったが……良いな。
「それじゃあ少し私の話し相手になってくれ」
「ええ」
それから聞いたのは今の世界の事。
ダンジョン、オラリオ、神々、恩恵、ファミリア、極東、モンスター、様々な事を聞いた。色々と様変わりしているようだったが亡者と化け物がひしめく地獄のようなあの時は終わったのか。……そうか
そう物思いに耽っていると今度はアスフィ殿から話しを聞かせて欲しいと言われた。ここの事私の事などを聞かれ、最初の火や伝説の事、神々の話し、火継ぎの使命。無駄な事まで話した気がする。だが、誰かに話したかったのかも知れないな、愚かな私の軌跡を。
そうしているうちにどれ程の時間が経ったのかアスフィ殿がそろそろ帰ると言い出した。かなり話し込んでしまったようだ。
「貴方は外に出ないんですか?」
ふと、思い付いたかのようにアスフィ殿は私にそう問い掛けた。
……外か。良い機会かもしれない。今まで閉じこもっていたが旅するのも良いかもな、今度は使命の為では無く、自由に。
「久方ぶりに外に出るか……」
「えぇ、きっと楽しい事があるわよ」
私があの話しをしたからか妙に優しいな。最初はよそよそしかったと言うのに。まぁ、気にする事でも無いか
外に出る前に番人を置いていくか。また、この最初の火の炉に不届き者が現れるとも限らない。
自身のソウルの一部を切り出し形を与える。私の化身とも言えるそのソウル、〈番霊〉とでも言うべきか。それを置いて行く。もっとも誰かここに踏み入れば私が感知する為、唯の足止め役だがな。
「それでは行くか、こっちだ」
「ええ」
アスフィ殿を連れ最初の火の炉の唯一の扉を目指す。かつて自分が通った道を。
作者はダンまちではアスフィが好きです!という訳で第一ヒロインだ!
私の作品に低評価を押すのは良い。しかし、理由を述べよ!!
という訳で評価を最低5文字にした
好みとかいう奴は評価すんな。そういう時は評価せず二度と見るな。
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不死人外に出る
久ぶりに浴びる太陽の陽射しは暖かかった。……今ならソラール殿の言った太陽のようになりたい、その願いが少しだけわかる気がした。こんなにも暖かいのだから。
「ホントに出れた……」
心底ほっとしたように呟いているな。無理もない聞けばダンジョンの床が崩れ真っ逆さまに落ちたそうだからな。あそこをあの世だと思っても仕方がない。あそこは火と闇、灰しか無いのだから。
それと比べたらここは
「美しいな」
人々が賑わい活気に溢れている。晴れた青空にそよ風が吹いている。夜になれば星々が輝くのだろう。久しく見ていなかった光景だ。
「ここがオラリオよ」
……ここが世界の中心、迷宮都市オラリオか。良い場所だ。
「おーい!!」
街並みを見て感心していると大声を上げながらこちらへ走りよる人物がいた。
「ヘルメス様!」
どうやらアスフィ殿の主神とやらが来たようだ。にしてもヘルメスか……確か旅の神だったかな他にも色々あった気がするがよく覚えてないな。アスフィ殿によればここの神々は私が知っている名前もあるが関係性は違うみたいだし、中々に色んな神話の神々が混ざっていたな。
「良かったよ、アスフィ。今ちょうど捜索隊を送り出す所だったんだ」
「ご心配をお掛けしました」
無事会えたようで良かった。
さて、これからどうするか、そう思っていた時。
「レクスさん」
「ん?」
アスフィ殿に声を掛けられた
「君がアスフィを助けてくれたのかい?」
「あぁ、そうだ。」
「そうかい、礼を言わせて欲しい。ありがとう。僕はアスフィの主神、ヘルメス。よろしく頼むよ」
「私はレクス。ありがたく礼を受け取ろう。」
……ふむ。悪神の類いでは無い、しかし、よからぬ事を起こしそうな男神だ。オラリオに降りて来る神々は刺激を求めて来たと聞いた。警戒しておくのが無難か。いざとなればその首刎ねるか
「ッッ!?」
「どうしたんですかヘルメス様?」
「いや、悪寒がしてね」
殺気が漏れたか?久々の外で少々鈍っているのかもしれないな。後で体を動かすか。
「レクスさん、良ければ私のファミリアに来ませんか?」
「む?それはそこの男神から恩恵を受けると言う事か?」
「レクスさんが良ければ。受けなくても恩返し程度はさせて欲しいです」
「そうだね。君に恩恵を与えても良いけどそれは本人が決める事だし。アスフィの恩人なら僕らのホームでの宿泊くらいお安い御用さ」
「それはありがたい。これからの事を決めあぐねていたのでね。ファミリアについては考える時間が欲しい」
渡りに船だな。このまま別れても良かったがここの通貨を持っていないし、地理も分からないからな。まずは情報を探すか。
「うん、それで構わないよ。それじゃあ僕らのホームにご招待だ。他のみんなにもアスフィの無事を伝えなきゃね!」
そう言って歩き出したヘルメスの後をアスフィ殿と一緒について行く。
そうして着いたのは一つの建物。ここがヘルメス・ファミリアのホームと言う事か。
ヘルメス・ファミリアのホームに着いた後は宴会が開かれた。アスフィ殿の無事を祝い、恩人である私の歓迎をする為らしい。
宴会はとても楽しかった。久しく感じていなかった感情だな。正の感情など最初の火の炉では感じる事の無かった感情だ。あそこは闇霊と今思えばおそらくここの神々だったな。
宴会では沢山の食べ物に酒などが出た。まともな飯などいつぶりだろうか。少なくともロードランの地では食べた覚えは無いな。……いや、いつだったかとち狂って一部の敵を料理した事あったな。犬とかシースとか、味は忘れたがな。
とにかに久しぶりに良い体験をした。これが生を謳歌するという事か。火が消えかかり生と死が曖昧になったあの世界で不死人となってから何時ぶりだろうな。
宴会の後私はヘルメス・ファミリアの屋根で星と月を見上げていた。
久々に目にする星々は美しかった。最初の火の炉には星空なぞなく、ロードランの地でもここまで落ち着いて見る事も無かったな。
私が星々を見上げているとアスフィ殿が隣りに座った。
「眠れないの?」
「そういう貴殿こそ」
「私はレクスと話しがしたくて」
「私と?」
「そう」
話か、最初の火の炉で概ね話したと思ったがな。あれは久方ぶりすぎて色々喋りすぎたが故に私の黒歴史だな。
「何故貴方は旅を続けられたの?」
…………何故か。何故なのだろうな。あの繰り返しの中であの心折れた戦士のように怠惰を貪り他のものに使命を託す選択肢もあったのだろう。
最初こそゲームのように、と思っていたが、それもすぐに死によってかき消されてしまったがな。次は……あぁ、早く使命を終わらせて使命から逃れる為だったな。その次は闇の王になればと思ったな。その次は何回か繰り返せば、次は特定の条件さえ揃えば。そう思って色々したな鍛治を教わった時もあれば公爵の書庫で魔術の開発もした、装備を全て集めた事も。とにかく色々な事をしたな。だがそれ以降は何を支えにしたんだろうか。
……そうだ彼の言葉だったな。ソラール殿の。
「一度辛くなって数少ない友に泣き付いた事があった。辛いともう歩めそうにないと。そしたら彼は何と言ったと思う?『貴殿がどれ程苦しいのか私にはわかってやれぬ。だが貴殿を手助けする事は出来る。頼りたまえ貴殿は一人では無いのだ。それに一度歩みを止めるのも良いのだぞ。そうだ私と共に太陽を見ようでは無いか。太陽は偉大だからな!ワッハッハッハッ!!』
彼の言葉で気付いたよ休んでも良いんだと。
そして太陽を見ていて思い出したんだ何故こんなにも過酷な旅に挑んだのか。思いを背負ったからな」
「思いですか?」
「彼の地を旅していくうちに色々と背負ったのさ」
そう背負ったのだ。火防女のアナスタシア、名も知らぬアストラの騎士、アストラのソラール、カタリナのジークマイヤー、鍛冶屋アンドレイ、イザリスのクラーナ……多くの人から背負った
生きていて欲しい。火継ぎをなしてくれ。あんたの亡者なんて見たくない。バカ弟子が死ぬなよ……願いからちょっとした気遣いまで全部背負った。
それこそ背負う事をやめても良かったのだがな。
「私は背負ったものを捨てられる程利口な人間では無いのでね。それにその重荷が私を支える杖にもなっていたのさ」
何より、何度繰り返しても。私を覚えていなくとも。友には恩人には、幸せになって欲しかった。
「素敵ですね」
「……素敵?」
「ええ、だって。貴方はとっても優しい人なんだから」
「…………アッハッハッハッハッハッハッ!!」
「な!笑う事ないじゃないですか!?」
…………ああ、ああ。そうだったな。顔も忘れた母よ、友よ。お前達もそう言ってくれたな。そこがお前の良いところだと。
私が旅を続けられたのは皆がいたからなのだな。例えあの円環の中であっても忘れられていても、記憶にあなた達がいる限り私は一人では無いのだから。
主人公は元一般人。優しいだけの一般人なのです。そして、優しすぎるバカヤロウなのです。
お前が幸せになるんだよ!!
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不死人オラリオに繰り出す
朝日が私とアスフィ殿の顔に差し込んでくる。昨日の夜アスフィ殿と話していた時、彼女はそのまま寝てしまったからな。動かして起こしてしまっても悪い為そのままにしておいた、流石に布を掛けたがな。まともな布団がなくて幾つかの装備を重ねて置く事になったが。まぁ無いよりは良いだろう。
「アスフィーー!何処だい!!」
登った朝日を見つめていると声が聞こえてきた。
この声はヘルメスか。
私はアスフィ殿をその場に置いてヘルメスの前に降り立った。
「良い朝だな。ヘルメス」
「うわっ!?驚いたな。おはようレクス君。ところでアスフィを見なかったかい?部屋にいなくてね」
「それなら……」
屋根にいると言おうとした瞬間。私の上に影が指した。そしてアスフィ殿が落ちて来た。私はすかさずアスフィ殿を受け止めた
「……ふぇ」
屋根の上で寝返りでもうって落ちて来たか。その衝撃で起きたようで驚いているようだ。
「屋根にいたのだがな。落ちてきたようだ」
「あはは、そうみたいだね。とりあえず、怪我が無いようで何よりだ」
未だにアスフィ殿は惚けている。まぁ、寝起きがあれでは仕方がない。
「アスフィも見つかったし僕は中に戻るよ。二人も朝食食べなよ」
そう言ってヘルメスはホームの中に入って行った。
「ふむ、立てるか?」
「え、ええ」
私は、アスフィ殿を地面に立たせた。
「えっと、いまいち状況が……」
「昨夜屋根に乗ったままアスフィ殿が寝てしまってな。そのまま寝かせて置いたのだが、私が目を離した隙に落ちてきたという訳だ。昨夜起こしてでも部屋に返した方が良かったかもしれないな。」
そう言うとアスフィ殿は顔を赤くして伏せてしまった。……まぁ、自分の失態を見られればこうもなるだろう。悪いことをしてしまったかな
「……忘れてください」
「承った」
努力はしよう忘れる事ができるかは分からないが。
************
朝食を食べた後アスフィ殿の案内でオラリオを見て回る事になった。今の時代に無知な私にはありがたかった。
しかし、ここで問題があった。文字が分からない。言葉は同じでも文字が違かったのだ。あれだ、現代文と古典みたいなものだろう。書いてある事がさっぱりだ。これは恥を忍んで教えてもらうしか無いな。
実に良い場所だ。しかし、妙にひりついている。いや、殺気立っているのか?昨日は久しぶりの外であまり雰囲気を掴んでいなかったが。
「アスフィ殿。何か空気がひりついていないか?」
「それは、
闇派閥?
「数年前、ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアが黒龍の討伐失敗の責任を負わされてオラリオを去ってから活発化し始めた邪神を名乗る主神率いる過激派ファミリア達の事よ」
そのようなものがいるのか。そういえばアノールロンドでは悪神というものはそもそもいなかったな。墓王ニトのように死の力を持っていても悪神ではなかったからな。神は神そこに善悪の区別なんて無かった。
「嫌でもそのうち鉢会うことになるかもしれないから覚えておいてね」
「了解した」
……ふむ。とりあえず出会えば斬るか。悪人に容赦は要らず、死して償わせるか。
そのままアスフィ殿とたわいない会話を続けていると天高くそびえる塔に辿り着いた。
「ここがバベル、オラリオの中心よ。冒険者組合が管理しているわ。冒険者向けの商店や治療院、換金所なんかもあるわ」
バベルか。バベルの塔、かの有名な塔の名前を冠しているのか。折れなければいいのだが。
「行ってみましょう」
「ああ」
そう言ってバベルの中に入ったのは良いのだが、まさかエレベーターがあるとは前世の世界みたいだな。
エレベーターから降りると多くの人と店が並んでいた。ショッピングモールみたいだな。さしずめ店はテナントか。
「四階〜八階はヘファイストス・ファミリアの商品が並んでいるわ」
ヘファイストス、鍛冶の神だな。なら武器や防具が売っているのか。年甲斐もなくワクワクしてきたな。ロードランの円環の中での数少ない楽しみの一つが武器や防具を集める事だったからな。
特に大剣や刀は好きだったからな。私のメインウェポンもアルトリウスの大剣(聖)だからな。
あ、しかし……
「金が無いな。アスフィ殿換金所では物品の換金はできるだろうか?」
「一応できますよ」
ならば換金所で幾つか武器かアイテムを売るか。
私はアスフィ殿に連れられるまま換金所についた。換金所では何やら宝石のようなものを出している人々が多くいた。
「アスフィ殿、あの宝石のようなものは?」
「あれはダンジョンのモンスターから取れる魔石です。冒険者はあれを換金してお金を稼ぐんです。魔石は利用価値が高いですから。」
モンスターから確定ドロップとは嬉しい限りだ。マラソン大変だったからな。
ソウルマラソン辛かったな。バグ技何て現実では使えなかったから、貪欲者の烙印と貪欲な銀の蛇の指輪にはお世話になったな。
「あそこはダンジョン関連限定ですからこっちです」
アスフィ殿が指を指す方向に向けると他とは違いカウンターに一人の女性職員がいる場所だった。にしても改めて見ると人の亜人というのは面白い。
「人がいないな」
「ここで魔石やドロップアイテム以外を換金する人はまずいないですから。他に比べて人が少ないんですよ」
なるほど。にしてもモンスターは魔石以外にもドロップアイテムを落とすのか。貪欲な金の蛇の指輪が火を噴きそうだ。
「おや、珍しい。ようこそ換金ですか?」
私がカウンターの前に近づくと職員がそう反応した。
やはり珍しいのだな。
「ああ、換金をお願いしたい」
「でしたらお品物をお出しください」
そう言われ私はソウルに変換していた金の硬貨をとりあえず500枚程出した。
「ニャッ!?」
にゃ?猫の亜人だったのか
「こ、これですか?き、金貨?」
「ああ、純金だ」
「じゅっ!?」
ロードランではソウルが貨幣だったから無用のものだったからな。まぁ、私のくせで集めて貯めていたが
「足りないか?ならもっとあるが」
「もっとぉ!?」
覚えている限りでは億いくかいかないかぐらいだったかな。
「い、いえ。十分です!てかこれ以上出されたら、ギルドの資金が弾け飛びます!!」
む?そんな価値があるのか?向こうではフラムトに砕かせてソウルにする程度しか価値がなかったが。まぁそのソウルもそこまで多く無かったから砕かなかったがな。
「しょ、少々お待ち下さいぃぃぃ!!」
そうして職員が去って数分するとかなり大きな袋を複数人で抱えて帰ってきた。
「こちら一億ヴァリスです」
ん?一億??????
多くないか!?
「あ、あっているのか?その値段は」
「えぇ、純金なのはもちろん金貨に施された装飾も技術が高いものでして、競売でもかければもっと高い値段がつくかもしれませんけど。いやぁ、足りてよかったぁ」
そんなに価値があるのか。いや、前世でも金は高価なものだったからな。
一億もあれば暫くは問題ないか。
「凄いですね」
「あぁ私も予想外だよ」
まぁ、多いに越したことは無いか。
金貨のお値段は適当になります!金の価値なんて高い事しかわからんぜよ。てか一億なんて用意するのに数日かかるなという事実から目を背けつつ
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不死人武器を買う
私は改めてヘファイストス・ファミリアの店が並ぶ場所まで戻って来た。
あの金額には驚いたが色々と買えそうなので良しとしておこう。
早速ヘファイストス・ファミリアの武具を見に行くとしよう。
ショーウィンドウに並べられた武具も目を引くがどれも質が良いとは言えないな。
装飾が派手なものもあるがこれは観賞用だな。まともに武器としては扱えない。すぐに折れてしまいそうだ。
最大強化したロングソードにすら見劣りする。これは中々難しいかもしれないな。
「アスフィ殿、もっと質の良い武具は無いのか?」
「それならレベルの高い鍛冶師が品を置いている場所に行くか、バベルではなくギルド付近の店、ゴブニュ・ファミリアとか。もしくは南西の第六区画で都市外の品を探すしか無いですね」
「なるほど」
「あと、鍛冶師に依頼する事も出来ますね。先程のお金があればヘファイストス・ファミリア団長の椿・コルブランドに依頼を出せますよ。都市最高の鍛冶師です」
なるほど、確かに依頼という手もあるな。ならば早速向かうか。
私はアスフィ殿の案内でコルブランドという鍛冶師の元に向かう事にした。
しかし、都市最高の鍛冶師か、アンドレイとどちらが腕が良いか。彼に弟子入りした事もあるから気になるな。
上階にあがり暫くすれば到着した。が、入店しても誰も居ないとは
「誰も居ないのだな。店主さえ」
「彼女の商品は高いですから。第一級冒険者ぐらいしか客はいません。それに彼女は基本的に鍛治かダンジョンで試し斬りをしているそうで」
生粋の鍛冶屋と言った所か。まあ私も自作の武器の試し斬りをした事はあるからわからんでもないな。
「店は開いていますから、ダンジョンでは無いのでしょう」
居るだけありがたいと思うとしよう。
改めて私は並ぶ商品を見ていく。
商品はどちらかというと武器、それも刀類が多いな。椿という名前とこの商品達を見るとおそらく極東の出身なのか。
刀の一つを手に取り鞘から抜き放つ。
「……ほう」
これは中々良い品だ。
最大強化した刀類には及ばないが混沌の刃を除いた強化していない刀類より遥かに質が良い。まあ混沌の刃に関してはソウルを使った特別な武器だからな。そうそう越えられるものじゃない。
それに向こうは刀が少なかったからな。
さらに他の刀も鞘から抜いて見てみるが面白い。
それにこの魔剣とやらも振るだけど魔術が行使できるとは月光の大剣のようだな。まあ数回で使えなくなるというのが残念だがな。
いや、月光の大剣もすぐに修理するはめになるから似たような物だな。
店の商品をあらかた見終わった頃。店に入ってくる人物がいた
「客か?」
入って来たのは褐色の肌に和服をきて眼帯をした女性だった。
おそらく彼女が椿・コルブランド殿か。
「ああ。色々と見させてもらっている」
「そうか。好きに見て行ってくれ」
そう言うと彼女はカウンターに回り込んで座った。
とりあえず刀と防具を買うとするか。防具は彼の地では日本の防具は無かったからな。一応、東国装備があったがあれはなんか微妙だった。
私は店の中でもっとも上物の刀と
流石都市最高の鍛冶師全てが良質だ。その分値段が凄いが。
「これを頼む」
選んだ武具をカウンターに持っていく。
「ほう。ちなみにどうしてこれを?」
「これとこれはこの店で一番質が良かった。こっちは
そこまで話すとコルブランド殿は突然笑いだした。
「ハッハッハッ!!おぬし中々な目を持っているな」
「これでも鍛冶もできるのでな。それなりだと自負しているさ」
それにソウルを見れば一発だ。彼の地でもソウルを見ればある程度分かるからな。
「ほほう。その見てくれで鍛治もできるとは驚きだ」
鍛治も出来ると言えば、コルブランド殿の目付きが鋭くなる。これは、興味津々と言ったところか。
「見るか?」
「良いのか!」
見るか?と問いかければ目を輝かせコルブランド殿は立ち上がる。これは、うん。今まで見てきた鍛冶師で一番貪欲だ。いや、三人しか知らないけれど。
見せるとしたらこの場合は私の腕を見たいのだから私が作ったのを見せるべきだろう。
さて何が良いか。オーソドックスな直剣が良いか、だとするとブロードソードにしよう。もちろん最大強化のものを
私はソウルに変換していたブロードソード+15を出す。
「これが……」
コルブランド殿は受け取ったブロードソードをマジマジと見る。
「……素材は鉄か?しかし、硬すぎる。不壊属性や特殊武装という訳でもない。不思議だ、だが武器としては良い」
楔石を素材にすると強化されるのだがその力の源はソウル。名も無き鍛治神の持つ原盤から剥がれ落ちた欠片ですら武器を強化できるのだからその力は凄まじい。流石鍛治神と言った所か。
おそらくは、王のソウルのような強力なソウルを持った存在だったのかもしれないな。
「いいものを見せてもらった。いいものを見せてもらった礼だ武器は半額でいいぞ」
「良いのか?」
「ああ」
「それはありがたい」
私はこうして半額で武具を手に入れる事ができた。半額とはいえ300万ヴァリス程したがな。都市最高の鍛冶師の武具がここまでの値段とは
「さて、手前は武器を打つのでな」
そう言って店を閉めて出ていってしまった。その目は燃える鍛冶師の目だった。私の武器は良い刺激になれたのだろう。
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不死人ダンジョンに潜る
中々お話を思い付かなくて。これからも不定期投稿になりますがお付き合いください。
そういう訳で投稿です
目の前のゴブリンだったかに刀を振るう。そうすればゴブリンの頭は胴体と離れ体が塵となり魔石だけが残る。
私は昨日購入した刀の試し斬りにダンジョンに来ていた。
昨日はあの後更にオラリオの様々な場所をアスフィ殿に紹介してもらった。
ロードランの地には無かった品々、食べ物、人々の活気。様々なものを見て回った。久しく感じていなかった人々の息遣いを感じる事が出来た。
そして久しぶりに剣をとりたくなった。
元々向こうでは剣しかふるっていなかった。どんな時でも武器を片手に駆けずり回った。一時期は武の頂きでも目指そうかととにかく我流で武器を振るった。
そのせいか久々に剣を振りたくなった。
まあ、いい得物を手に入れたというのが一番大きがな。
そんなわけで今朝、アスフィ殿につられてダンジョンまで来たわけだ。ダンジョンに来たいとアスフィ殿に言った際は一瞬渋っていたがすぐに了承を得られた。
「今更ながらダンジョンに来てよかったのか?冒険者でなければ入れないと聞いたのだが」
「ああ、良いんですよ。バレなければ……うちのファミリアもレベル偽ってますし。今更……」
何やら不穏な言葉が聞こえた気もするが無視した方が無難だな。
にしても上層というのだったかでてくるモンスターが弱いな。亡者兵よりも弱い、何より得られるソウルが少ない。
倒したモンスターの一部のソウルがダンジョンに戻る始末。いや、道理でもあるのかこのダンジョン全体から膨大なソウルを感じるが全て同じソウルだ。何処までため込めばここまでのソウルになるのだ?
繰り返しをしていた私でもあるまいし。
とにかくここのモンスターはこのダンジョンにより生み出されるいわば端末と言ったところなのだろう。
まあソウルなぞ腐るほど溜め込んである。今更欲しても意味は無し。
ただこの先により強いモンスターが居ると良いのだが。
このダンジョンの地形は先程アスフィ殿に見せてもらって覚えた。故に早足で進むか、この辺りでは試し斬りにすらならん。
「アスフィ殿、探索の速さを上げたい」
「そうですか。じゃあ着いてきてください。」
アスフィ殿は私を先導するように走り出す。その足運びに迷いは無い。
何度もここを通っているのだろう。
アスフィ殿に続いて何回か階層を下った時だった。剣戟の音が耳に届いた。
私は足を止める。足を止めた私に気づいたアスフィ殿も足を止める。
「どうしたんですか?」
「少し静かに」
アスフィ殿に少し静かにするように頼んで耳をすませれば声が聞こえる
「……生意気な小娘……剣姫……殺す……」
断片的だが声を捉えることが出来た。
剣戟の音とこの声を合わせれば殺しあっていると言ったところか。
「えっと、急にどうしたんですか?」
「ああ、すまない。剣戟の音が聞こえたのでな。どうやら誰か襲われているようだ」
声からして襲われているのは子供か?
……行くか
「アスフィ殿、私は声のする方へ行く」
「え?」
そう言って私はアスフィ殿の返事を待たずに走り出す。
暫く走れば音がハッキリと聞こえてくるようになった。
「ここで死にな剣姫!」
そして目にしたのはまるでダルマのような褐色肌の人、人なのか?
それと金髪の少女。
私は少女とおそらく人であろう褐色肌の人物の間に割り込み、金髪の少女に振り下ろされそうになっていた斧を刀で受け止める。
力はそこそこある様だが弱いな。
斧を受け止めとそう思った。
「なんだい!あんたは…グエッ!?」
受け止めまま、その巨女、たぶん女なのだろう。声的に。
巨女を蹴り飛ばす。すると面白いように飛んでいく。
「ふむ、調整を誤ったか」
ここのもの達は弱くて調整が難しい。いや、私がおかしいだけなのだろうが。
「無事か少女よ」
「……うん」
まあまあ傷があるな。
私は暗月のタスマリンを出し奇跡を使う。使う奇跡は太陽の光の癒し。
本来ならば太陽の光の女王グウィネヴィアと誓約を結ばなければ使えないが、火を継いだ故か問題なく使える。グウィネヴィアの力も元々は最初の火から生まれたものだからな。
少女を優しい光が包み傷を癒す。
「……暖かい」
よしこれで大丈夫だな。
少女の傷を治すと同時に気配を感じた。さっきの奴か。
「あんたよくもやってくれたね!私のこの魅惑の体に傷がついたらどうしてくれるんだい!!」
……ん?魅惑の体?そう言ったのか。ええ……
いや、そのはっきりゆうと
「キモッ」
つい言葉にしてしまったが、マジでない。そのダルマみたいな体で魅惑の体てのはちょっと無いわァ。
「あぁん?あんたも残念な男だねぇアタシのこの体を美しいと思えないなんて」
いや、はっきり言ってそれは無い。100人が見て100人が無いと言うだろう。体もさることながら顔もまるでヒキガエルのようだ。
無いな。
「まぁいいさ。そんな事よりそこをどきな!」
「この少女をどうするのだ」
「決まっているさ。最近そいつは生意気だからねぇ。体に教え込んでやるのさ!」
そうか、そうか。……気に入らないな。
次の瞬間私の拳は巨女の顔にめり込んでいた。
「プゲッ!?」
「……早い」
そのまま巨女は壁に激突する。
「気に入らん、実に気に入らん」
「よ、よぐも!アタシの顔を!!ぶっこr……ゲペッ!?」
さらに顔に拳を叩き込む。
タフネスさは1級品だな。ならもっと強くしても問題無いな。
さらに続けて拳で殴れば壁にもヒビが入る。巨女の顔は血が出る程度だな。
「ま、待ちn…カペッ!?」
それから私は巨女が気を失うまで殴って殴って殴って殴った。
巨女の顔面は血にまみれ頬骨も砕けた。
だがここにはエスト瓶の様なもの、ポーションと言ったか。それもある為問題なかろう。
私は後ろで立ったままの少女に近づく。
「大事無いな」
「うん」
ダンジョンにいるという事は何処かのファミリアに所属する冒険者なのだろう。この歳でこのような場所に来ると言うとのは強いな。
「名前……」
「ん?」
「名前を教えて欲しい」
ああ、名前か。
「私はレクスという」
「レクス……。レクス、私を強くして欲しい!」
……ん?どう答えれば良いんだこれは?
私は少女の申し出に少々頭を悩ませた。
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不死人弟子をとる〈上〉
ロキ・ファミリアの応接室、そこに私は来ていた。
周りにはダンジョンで助けた金髪の少女、アイズ・ヴァレンシュタインと彼女のファミリアの主神ロキとその幹部達が集まっていた。
こうなったのには少しだけ時間を遡る。
私がアイズを助けて暫くした後フィン、ロキ・ファミリア団長のフィン・ディムナやリヴェリア・リヨス・アールヴなどが駆け付けた。
なんでも一緒にいた冒険者が助けを呼びに行っていたらしい。それで駆け付けたのだ。
その後、アイズを助けて貰った礼がしたいとロキ・ファミリアのホームに招かれた。特に断り理由もないためその誘いを受けて今に至るわけだ。
「まずは礼を言わせて欲しい。アイズを助けてくれてありがとう」
そう言ってフィンは頭をあげる。
「ウチからも礼を言うわ。あんがとな」
そして主神であるロキにも頭を下げられた。
「礼を受け取ろう」
こういう時は素直に受け取って置いた方が良い。
さて、問題はここから何だが。
「それでレクスやったけか?」
「ああ、あそうだ」
「その、アイズが何かすまんな」
ロキが謝ってきたのはアイズの事なのだ。アイズは私に助けられたあと私に鍛えて欲しいと言って来たのだ。それはここに来ても変わらず私の腕を掴んで話さない。
子供膂力とは思えない力の為変に力を込めて怪我をさせる訳にもいかずそのままにしている。
「いや、子供に付き合うのも大人の役目だ」
「かー!男前やな」
ロキが私を揶揄ように言ってくる。
「それで、どうすんや?アイズが弟子にしてくれ!なんて今まで無かったやけど。あんたは受け入れるんか」
アイズを受け入れるかどうかか。
「そうだな、アイズが望むなら弟子にしてもいいだろう。何事も経験だ」
弟子などとった事も無いがあの場所から出てきたのは自由を求めてだ。こういうのもいいだろう。
「それなんだが、一度僕と模擬戦をしてくれないかな?」
そう言ったのはフィン殿だった。
「フィン殿と?」
「僕達は君の実力を知らない。少し意地悪かもしれないけど実力を分からない人を大事な団員の師匠にはできないんだ」
なるほど、道理ではあるな。
「わかった、フィン殿との模擬戦受けよう」
私はその話を了承した。
「じゃあ、中庭に出ようか」
フィン殿の提案に従い私はロキ・ファミリアのホームである黄昏の館の中庭に向かった。
********
中庭について早速、フィン殿は得物であろう槍を構えた。
それに合わせて私はオーンスタインの鎧一式と竜狩りの槍を構える。
「面白いスキルだね」
……スキル?確か神の恩恵を受けた人物にまれに現れる特殊な力の事だが。ああ、勘違いしているのか。
まあいい。今は関係ない。
私は槍を構えそして雷を纏う。
そして踏み出す。
「カハッ!?」
そして一瞬で槍の石突きをフィン殿の腹に叩き込む。
石突きを受けたフィン殿は吹き飛ばされるも何とか立っていた。
「ほう、今のを耐えるか」
かなり強めにしたのだがな。あの巨女を参考にしたのだが、フィン殿は巨女より強いという事か。
********
「強い」
フィンに一瞬で肉薄しその腹に石突きを叩き込む一連の動きを見てアイズはそう言った。そう言うしか無かった。
フリュネとの戦いとは何もかもが違う。フリュネとの戦いで既に強者として見ていたがそれは見立てが甘かったとアイズは察する。
「……何だ今のは」
「見えなかったぞ」
「バケモンか?」
そしてリヴェリア、ガレス、ロキも唖然とする。
フィンはLv5、都市最強のオッタルには劣るが確かに第一級冒険者である事には違いない。そんな彼をいとも容易く、反応する事すら許さずに吹き飛ばしたのだ。
「ッゥ!?」
そして吹き飛ばされたフィンは痛みに悶えならも何とか立っていた。
だがレクスはそんなフィンなどお構い無しに次の行動に移る。
竜狩りの槍をソウルに変換しローガンの杖を取り出す。
そして魔術を発動する。発動したのはソウルの矢
しかし魔術の出も速度も威力も本来のソウルの矢を大幅に超えたものだった。
というのも彼、レクスが魔術を覚えオラリオの神々を超える年月、何十億いや何千億年の時が過ぎている。彼はたとえ使命を終えても己の研鑽を怠る事は無かった。その結果だ。
痛みに悶えていたフィンにその魔術が向かう。フィンは先程のレクスの攻撃とは違い認識出来る速度の為、槍を自分の前に構え防御の姿勢をとるがその槍をへし折りフィンの腹に突き刺さる。
「カハッ!?」
そしてフィンは再び吹き飛ばされ気を失った。
その結果を見てその場にいた全員は言葉を失うしか無かった。
「……魔法も使えるのか」
唯一声を出したリヴェリアもその程度しか言う事が出来なかった。
そしてレクスは倒れたフィンを見て。
「……弱いな」
そう呟き視線をリヴェリア達に向けた。
「まあ、これでアイズの師匠をするのに問題は無いだろう?なんなら貴殿らも一緒にどうだ?」
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不死人弟子をとる〈下〉
みんなありがとう!
ついでに評価・感想お願いします!
レクス達は気絶したフィンを起こし再び応接室に戻っていた。
「レクスは強いね。アイタタタ……」
腹を擦りながらフィンはそう言った。
「ああ、まさか魔法までも使えるとは」
「戦ったらワシもフィンみたく吹き飛ばされるかもなぁ」
リヴェリアもガレスもレクスの強さに驚いていた。
「フィンが一方的にやられるとは驚きやわ〜。レクスは何処のファミリア何や?ここまで強いなら噂にぐらいはなってもええはず何やけど」
そう言うロキの顔は笑顔とは裏腹に疑いに満ちていた。
「ファミリアには入ってないが?」
レクスがそういうとロキを覗いた全員が驚愕する。
「ありえない!その強さで
「魔法も恩恵無しで使えるなど……」
「まぁ、そうやろうなぁ。恩恵を授かった子供はちょっと独特な気配するんやけどあんたからはしなかった。レクス、あんた何もんや」
フィンとリヴェリアがありえないと言うと同時にロキは納得しレクスに対して少しだけ神気を出し威圧する。
ロキにとっては得体の知れない自分の子供以上の存在、警戒しない方がおかしいだろう。
「……ふむ。私はレクスそれ以上それ以下でもないのだがな。そう言う事を聞いてる訳でも無いのだろう?」
「当たり前やろ」
ロキの威圧を受けても何ら変わらない様子でレクスは接する。同じ応接室にいるフィン達はロキの威圧で汗をかいているというのに。
そして突然、レクスから凄まじい圧を感じる。ロキの威圧を塗りつぶすような。
「私はただの人だよ。他人よりも力を持った」
レクスはそう言いきった。
彼が何者かを問われれば〈薪の王〉〈闇の王〉が真っ先に思い付くだろう。しかし、彼はあえてただの人と答えた。
レクスにとって力の有無など些事にすぎない。今のオラリオにいる神を名乗る連中もレクスにとっては他より力を持った人でしかない。
「……っ、そういう事を聞いてるんやないで」
ロキはそんなレクスに怯まず言葉を返す。
「何故そこまでする?」
「大事な子供に変な虫はつけられんやろ?」
レクスの疑問にロキはそう答える。かつて天界で悪神として名を馳せたロキは今や下界で子供を思う一人の親になっていた。ロキにとって子供達はかけがいのない無二の存在なのだ。
例え転生するとしてもそれは同じ魂を持つ別人だと初めて子供を持って失ってロキは気付いたのだ。
故にロキは子供の為に引き下がる事はしない。たとえ自分を容易く殺せる相手にも。
そんなロキの様子、ソウルを見てレクスは微笑む。
そのソウルは悪神と呼ばれる類いなのだが他の悪神達とは違う確かな暖かみがあるのだ。
レクスは思うこの神は正体をバラしても問題無いかもしれないと。
最初の火を継いでから何度か神を名乗るもの達が最初の火を求め最初の火の炉に来る事もありオラリオに来て神達の性格をアスフィに聞いてた彼は隠す方が良いだろうと思っていた。しかし、ロキは悪神だがそこら辺はしっかりした神だとレクスは思った故に話しても大丈夫だと感じた。
「ロキ、貴殿に敬意を評して質問に答えよう」
そう言ったレクスから凄まじい熱が放たれる。
それはレクスがその身に宿した最初の火その片鱗。それは熱くそして暖かい。その火の熱を受けたロキ達は不思議と安心を覚えた。
「私の名はレクス、最初の火を受け継ぎし者。不死人となり生と死を繰り返した人だったもの。それが私だ」
「……とんでもないもんつついもうたな…」
レクスの紹介にロキは頬をピクつかせる。
最初の火とはこの世にある全ての源、神々すらも例外では無い。この世の全ての中心。それが神々にとっての最初の火だ。
その力故に最初の火を求めた神は多かった。しかし、最初の火に手を出そうとした神々の尽くが帰ることは無かった。魂すらも。
その持ち主だとレクスは言うのだ。
「安心すると良い。私は別にこの力で何かをなそうとも思わん。今はただこの世界を自由に見てみたくてな」
そう言うレクスの声音は優しいものだった。
その言葉の真偽はロキには分からない。神々は子供たちの嘘を見抜けるがレクスの言葉は分からないのだ。
それがロキを疑心暗鬼にしていた。
「……安心なんて出来るわけないやろ?とんでもない爆弾抱えてもうたぁ!?」
ロキはそう言って頭を抱えた。ロキはこのオラリオで言えばまともな部類の神だ。他の節操なしのHENTAI達とは色々と違う。
しかも現在はオラリオの2大派閥の一角なのだ。こんな他の神に知られたら絶対面倒になる爆弾を抱える事になるなどロキにとっては胃が痛い案件だ。
「貴殿の危惧はまあ、わかる。ここの神々は殆ど力を持った自由人……いや子供みたいだからな」
「……言い返せないのが辛いわ」
「いざとなったら私が対応する。最悪全て消し炭にするさ」
そう言って笑ったレクスにロキは苦笑いしか出てこない。
それと同時にロキは問題無いだろうという結論を出す。少し喋って感じたのは確かな人間性。ロキもだてに数億年の時を生きてない。
それにレクスの力があれば大抵の事はなんとかなると思ったのだ。最悪丸投げすれば何とかしてくれると思考放棄気味に思った。
「まあ、ええわ。とりあえずウチの子供達のこと頼むわ」
「うむ心得た」
そしてロキとレクスの威圧で動けなくなったフィン達を放ってロキとレクスは話を続けるのだった。
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修行の一幕〈上〉
剣戟がロキファミリアの中庭に響く。
「我武者羅に振るのではなく数手先まで考えて剣を振るえ!」
私はアイズの攻撃を全て受け流しながらそう叫ぶ。
アイズは子供にしては能力は高い。これも恩恵の影響か。
しかし、その反面基礎の技術かなっていない。全てがステイタス任せの力任せ。昔の私のようだな。
リヴェリアに色々と聞いた時もただ我武者羅にモンスターを倒していて剣もすぐダメにすると聞いたな。単純な強さの前に色々と叩き込む必要があるな。
私はアイズの剣を巻き上げ弾き飛ばすと私の剣をアイズの首に添える。
「力も大切だが技も大切だ。力のみで解決出来るのは格下までだ」
自分よりも強い存在に立ち向かう時には時に小細工すら必要になる。私も何度も色んな小細工を使ったか。マイブームは背後からの強襲だったな、あとパリィ。
「もう一回お願いします」
アイズはそう言うと弾き飛ばされた剣を手に取る。
「その意気やよし」
根性はある。むしろ異常と言っても良い。これ程の熱量がモンスターへの憎しみで出来ているのは何とも勿体無い気がするが解決すべきは本人だからな。
怒りや憎しみは視野を狭くする。私もロードランでは色々とあったからな。許さんぞ車輪骸骨め。あの追尾性能と削り性能には怒りしか覚えなかった。
まあ最終的に大盾で凌いで殺す方法で突破したがな。あれは嫌な思い出だ。
そんな事を頭の片隅で考えながらアイズに稽古をつけていく。
にしてもフィン達は倒れるのが早かったな。基礎は出来ていたし第一級冒険者だからと言って実戦形式で手ほどきしたのは失敗だったか?
庭の隅っこで撃沈しているガレス、フィン、リヴェリアをみてそう思う。
************
「己を知り敵を知れば百戦危うからず。という訳で座学だ」
不満顔をしながらこちらを睨むアイズを見ながら私はそう言う。他にもリヴェリアやロキもいる。
「自分のできること、敵ができる事を明確に知る事が出来れば飛躍的に生存率も勝率も効率も上がる」
敵によって攻撃の効きずらさとか色々あるからな。ロードランで相性を無視して敵を攻撃すれば瞬く間に殺されるのが日常茶飯事である。まあ、頑張れば死ななくは無いがやりたくないな。
「力だけでなく知も活かして戦えばより高みへ登れる。だからそんな顔をするな。アイズから強くして欲しいと頼んだのだぞ?」
「……ほんとに強くなれるの?」
典型的なあれだな、力信者。力こそパワー的な発想の住人なのかアイズは、全て正面突破なんだろうな。
「学ぶ事は戦う上での選択肢を増やす事だ。戦いの選択肢を増やせればそこから最適解を見つけられる」
非効率は周回の天敵故な。効率こそが正義。真正面から敵とやり合うだけでは疲れる。
「それにアイズには知識が足りなすぎる。武器の扱いはぞんざいで手入れも出来ないらしいな。そんなんではいつか死ぬぞ」
武器が無くなれば人の殺傷能力などたかがしれている。同じ人ならともかくモンスター相手にそれはダメだ。
「何故、人間という非力な生き物がこの世界で生き残り繁栄を手にしたか、それは知恵が人の武器だからだ。神による恩恵のおかげで今や力ある人、冒険者がいるがそれまでは特別な力やモンスターのような鋭い爪、鋭い牙なんてものもなく人は生きてきた。家を建て壁を作り武器を鍛造し畑を耕す。全て人にしか出来ない行為だ。知恵は人を強くし豊かにする。知恵というのは人間という非力な生き物の最大の武器なんだ。故に学べ、アイズ。お前が求める力には必ず知恵が必要だ」
本当の強さに必要なのは知恵、力そして勇気。この三つがあれば大抵の事は何とかなる。知恵と力があっても勇気が無ければ実行出来ず。知恵が無ければ進めず。力が無ければ死ぬだけだ。
今のアイズに必要なのは知恵だ。知恵による可能性は無限大だ。まあ、14万人もの人間を一瞬で殺せる兵器を作り出す存在だからな。
「そういう訳でしっかりと学べアイズ。リヴェリアに叱られるのは嫌だろう?」
「うっ……」
「おい、なぜ最後に私を引き合いに出す。普通にいい話だったろうに」
……こっちの方がアイズに効きそうだったのでな。
「とりあえず座学を始める」
************
「さて、座学その2。ソウルの魔術だ」
そういう私の目の前にはリヴェリアがいる。魔術を覚えられる程の理力を持つのがリヴェリアしかいなかったからな。
「よろしく頼む」
リヴェリアは真面目だから要点を解説して実践に移った方が良さそうだな。
「まずソウルの魔術とはソウルそのものを媒介として放出する技術だ。まずソウルとはこの世の全てを構成している存在だ。今私達がたっている床の木材や机、椅子。私達の肉体、魂までもが全てソウルによって構成される。そのソウルを媒介にするのが特徴だ」
ソウルの魔術については分からない事も多いがな。
「ソウルの魔術に必要なのは理力。貴殿にも分かりやすく言うと魔法適正値とでも言おうか。それが高い程ソウルの魔術の威力は上がり、行使できる種類も増える」
魔術には大変世話になった。特に闇系統の魔術の威力には助けられたな。
「ソウルの魔術は貴殿らが言う詠唱は必要無く杖を構え使いたいと思った魔術を行使するだけで良い。ただし魔術の出にはそれぞれ時間がかかる故に注意が必要だそれでも魔法に比べれば圧倒的に早いがな。それと貴殿の魔法に比べ広範囲への攻撃などは得意では無い。どちらかと言うと個人への攻撃に向いているな」
魔術と魔法。それぞれに利点と欠点がある訳だ。
魔術はどちらかと言うと個人というか暗殺向きとでも言うべきか。実際にヴィンハイムの竜の学院では暗殺業があると聞いた。
「そして魔法とは違い学べば誰でも扱える論理的な学問体系の技術である事だ。理力は必要だがな。他にも色々と教えるべき事はあるがまずは実践してみてからだ。これ以上は様々な考察入り交じる研究の領域に突入しかねんのでな」
ソウルの魔術は奥が深くてな。今でも全てを理解出来てはいない。
ソウル、この世全てを構築するそれは一体何なのであろうな。
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修行の一幕〈下〉
「さて座学その3呪術だ」
そう言う私の前にはまたもやリヴェリアが座っている。ロキも一緒だ。
呪術は魔術と同じで必要なのは理力だからな。他の奴らはLvが上がれば覚えられる可能性もあるが本当に理力が上がるかわからん。
この世界ではソウルを扱える者を見かけていない。
かつては腕を動かすごとく出て来て当たり前の事だから教えるなど出来ないし。
やはりステイタスよって成長する可能性にかけるしかないない。
「さてこの呪術とは呪いでは無く火の業の事を指し示す。魔術とどう違うと言われれば魔術はソウルを扱うのに対して呪術は火そのものを使う」
呪術には火以外もあるがどれもこれもソウルを媒介とはしていない。
私は手のひらに呪術の火を灯す。
「この火は呪術に使う触媒だ。呪術師にとって、火は特別なものであり、大抵は一生を共にし、大事に育て続ける。彼らにとって、火はまさに半身であり、分かち合ったものは火の血縁となる」
呪術とは火の業故な。
「リヴェリア手を」
そう言うとリヴェリアは手をおっかなびっくり手を出してくる。その手のひらに私は呪術の火を分け与える。
「私の呪術の火を分け与える。大切にすると言い」
「……不思議だ、暖かい」
呪術の火は最初の火の模倣である混沌の火の派生みたいなものだから。おそらくこの世で最も最初の火に近いものだ。混沌の火自体は私が混沌の苗床を殺したから大元は無くなっているがな。
「ロキ、すまないがリヴェリアのステイタスを更新してくれないか?」
「ええけど。どうしたんや?」
「呪術の火を分け与えた事で恐らくだがスキルか魔法として発現している可能性がある。それともしかしたらリヴェリアの手に渡った事で変化しているかもしれない。私のいた時代とは色々と変わっているからな」
「わっかたわ。リヴェリアちょっと来てくれ」
「ああ」
リヴェリアがロキに背中を向けると同時に私は背を向ける。別にリヴェリアは裸になる訳では無いが背中をロキに捲られるのだから男である私が見ているのはあまり良くない。
「ルクスの予想的中やわ。スキルが新しく発現しとる、しかも二つ」
「やはりか」
二つというのは呪術と魔術だろうな。
「もうこっち見てもええで」
振り向くと紙を覗き込むリヴェリアとロキがいた。俺は二人の近付くとロキが持っている紙を覗き込む
そこにはソウル魔術という文字と呪術という文字が見えた。文字のの下には空欄があり、おそらく今から魔術や呪術を覚えれば埋まるだろう。
ただやはりというか変質しているな。私が魔術や呪術を使う時は回数が決まっていた。しかし、リヴェリアの場合は魔力が尽きるまで自由に使えるようだ。
やはりこれも世界新生の影響かそれとも時間がたちすぎたことによる変質か……まあ、そこまで深刻な問題という訳でも無いし問題無いな。
********
「最後の座学、奇跡についてだ」
そう言う私の前にはフィン、ガレス、リヴェリア、アイズ、ロキがいる。
奇跡に必要な信仰に関しては全員が適性を持っていたため全員受ける事なった。本来なら信仰の数値は信仰心とは無関係なのだがまあ神の眷属だからか全員信仰の数値が高めだな。
「奇跡とは神々の物語を学び、その恩柄を祈り受ける業だ。その威力は術者の信仰に依存する。これが簡単に説明した奇跡というものについてだ」
奇跡は基本的に神々の物語を学び神の力を再現する業だ。一部の奇跡は誓約を結ばなければ使えないものもあるがそういうのは高い性能を誇る。
「それでこれが奇跡を使う際の触媒であるタリスマンだ」
懐から取りだした赤い布で出来たタリスマンをロキを除いた全員に渡す。
これは俺がロキの髪の毛と血を少々貰い作った物だ。性能としては中々に高くロキに関する奇跡を超強化しそれ以外を弱体化させる効果がある。中々に癖のあるものだが基本的にロキのファミリアであるアイズたちには特に関係の無い話だ。いや、誓約を結ばずに使える奇跡が弱体化するから中々に癖があるな。
「基本的にお前たちが再現するのはロキの力になる。というわけでここにロキに書かせた天界での出来事なんかを読んでもらう」
「いやぁ、ごっつはずいわぁ〜」
ロキは天界での事は黒歴史なのか顔を伏せて悶えている。まあ、元々悪神らしいからな。
ちなみにロキに作らせた奇跡は、自分もしくは他者を変身させる《悪神の遊戯》、空中や水上を走る事を可能にする《旅する者》、知能を向上させる《狡知なる者》、速度を向上させる《スレイプニル》、武器に力を与える《レーヴァテイン》他にも色々あるのだがそちらは流石にあまりにも強力すぎてロキと共に封印する事に決めた。
街一つを崩壊させかねない奇跡など渡せるわけが無い。流石悪神と言うべきか中々ににえげつない。
とりあえず私もロキと誓約を交わす事でこの奇跡を使う事が出来るようになった。便利なのが多くとても魅力的だったからな。
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闇派閥という存在
それではどうぞ
「これは……美味いな」
「でしょう?私もこれ好きなの!」
青髪の少女アーディ・ヴァルマにすすめられ屋台でじゃが丸くんなるものを頬張る。
うむ、見た目は完全にコロッケだがかつて食べたコロッケはもう味を思い出せないので比べる必要も無いな。
彼女アーディと出会ったのは少し前だった。ロキのファミリアもダンジョン攻略やギルドから課されるミッションの処理など修行に明け暮れる事が出来る程暇ではなく今日はちょうど修行がない日だったのでオラリオを探索していた。
久方ぶりの地上、いくらでも見る所はある。それにただ見ているだけでも最初の火の炉よりもずっと充実している。
そうして街中に目を向けていると。
「ねぇ、そこの貴方」
「ん?私か?」
突然声を掛けられた。それがアーディだった。
「さっきからキョロキョロしてるけど大丈夫?なんか探し物?」
一割の警戒心と九割の良心……見た事がないレベルで善人だと一目見て思った。一割の警戒心はおそらく治安が悪いが故のものだろう。
そうでなければ彼女は善意100%でこちらに声を掛けていただろう。
「いや、探し物はない。最近オラリオに来てな散策していたところだ」
「今のオラリオに?冒険者みたいだけどわざわざ来なくても良かったんじゃない?」
「遠くから来ていてなオラリオの存在自体知らなかったんだ。闇派閥というやからが暴れているというのもこちらに来てから知ったのでな」
「……え?そ、そうなの!?」
オラリオを知らないとと言えばかなり驚いた様子を見せる。それもそうだろう聞いた話によればオラリオは世界の中心と呼ばれる場所だ今どき知らない人はほぼいないと言っていい。
「ところで君は?」
「あ、ごめんなさい。私アーディ・ヴァルマって言うの」
「私はレクスという」
「レクスさんね、よろしく!」
「よろしく頼む」
「ところでレクスさんオラリオに来たのは最近なんでしょ?」
「ああ、そうだが」
「なら、私が案内してあげる!」
そう言って私の手を引っ張り走り出したアーディになされるがままでじゃが丸くんを食べる事に至った。
「味も色々あって飽きないからオラリオでは結構親しまれてるのよ」
「……まあ、そうだろうな」
ちらりと見た屋台のラインナップには小豆クリームなんて文字もあった。味が想像出来ない。見た限りでは買う人がまあまあいるからおそらく不味くは無いのだろうが字面だけ見ると中々なインパクトがある。
唯一残念なのは前世出会った中濃ソースのようなものが無い事だ。そのうち自作してみるのも良いかもしれんな。
「さ、次行きましょう!」
「元気だな……」
じゃが丸くんを食べ終えれば再びアーディは私の手を掴み駆け出した。ここまで活発な子には会った事がないが、誰かに引っ張られるというのも悪くは無いな。
それから暫く私はアーディに連れられて多くの場所を回った。途中でアーディの主神であるガネーシャ神とあったのだが中々のインパクトというか自己主張が凄かった。
そしてアーディに連れ回されて夕暮れ頃になったころの出来事であった。突然の悲鳴が聞こえた。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
「悲鳴?」
「こっちね!」
その悲鳴に私が疑問を抱くと同時にアーディは走り出していた。私も一瞬の思考の後見知らぬふりをする選択肢を頭から追い出しアーディの後を追った。
「い、
「殺せ殺せ!」
「オラリオに破滅を!終わりを!」
「こっ、こっちに来るなぁァァ!?」
「ぼ、冒険者はいないのか!?」
アーディを追いついた場所では人々を襲う冒険者のような出で立ちをしたもの達がいた。先程聞こえた声通りならこいつらがオラリオを蝕んでいるという闇派閥とやらか。
「レクス!戦える?」
「無論だ」
アーディの確認に応えると同時に私とアーディは駆けていた。
私はソウルに変換していたアルトリウスの大剣(聖)を取り出すと一気に加速し纏めて五人ほどの闇派閥の首を飛ばした。
「後25人か……」
「ひっ!?」
「な、なんだコイツ!?」
「こ、殺せ!!」
「……わーお。つよ」
いきなり五人の首を切り飛ばしたから闇派閥たちは浮き足立ちながらも私に敵意を剥き出しにする。それを見たアーディは予想外の強さだったのか驚きの声を出していた。
私はそのまま一般の人々を襲おうとするものを優先的に首をはねていった。ここにいる闇派閥のソウルは人とは思えぬ程に黒く汚れきっていた為、特に手加減はせずに命を絶った。これも邪神や悪神たちの影響なのかもしれぬな。
闇派閥のもの達は全員フィン達よりも弱く、元より今の人々とは良くも悪くも隔絶した力を持っている私には苦では無かった。
アーディも特段苦戦すること無く闇派閥の人間を切り伏せる事が出来ていた。このもの達はあくまでもただの雑兵という事であろうな。
しかし、体に爆発物を巻き付けて諸共に死ぬ攻撃をしてきたものもいた。人間爆弾とは、闇派閥という存在はどうやら私の予想よりも遥かに頭のおかしい連中のようだ。
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