魔導騎士物語~覇王と称された狼~ (伊達 翼)
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0.設定序章のヒストリー
プロローグ+


遂に始めてしまいました。
興味のある方はどうぞ一読を。
興味がなかったらスルーでも全然構いません。
オリジナル要素多数あるかもしれませんが、よろしくお願いします!

ここではプロローグの他に舞台設定や用語集も載せていきます。
順番はプロローグ、舞台、用語の順です。
後々、舞台や用語は増えていく予定です。


~プロローグ~

 

これは一人の少年の物語…。

 

彼は己の血の中に眠る力を知りつつも戦いに躊躇していた。

 

しかし、彼の力を狙う者もまた多く存在していた。

 

そして、彼は自分の大切な人のために戦いを選んだ。

 

だが、大切な人はそれを良しとはしなかった…。

 

それでも彼は戦う道を選ぶ。

 

戦いの先で彼を待っていたのは数多の出会いと別れ…。

 

その身を血に染めつつ彼は歩いていく。

 

それは覇道とも言われたかもしれない…。

 

しかし、彼は歩みを止めない。

 

どれだけ傷付こうとも…どれだけ涙を流そうとも…。

 

彼は進む…己の信念を貫くために…。

 

例え、覇王と称されようとも…。

 

彼の優しさは変わらない。

 

そう…彼の名は…。

 

 

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舞台設定

 

主な舞台となる場所をざっと説明します。

後にオリジナルの多次元世界も登場する予定なので原作系の舞台は簡潔に説明いたします。

 

 

『海鳴市』

海沿いに面した街。

なのはやはやての故郷。

市内中心部はビルが立ち並んでいるものの周辺は自然豊かである。

市内にはスーパー銭湯があり、郊外にも温泉がある。

他にも市民プールや海鳴大学病院があったり、山の高い場所には神社、海沿いには海鳴臨海公園がある。

 

 

『私立リディアン音楽院高等科』

海鳴市に近い高台に建設された私立の音楽学校。

女子高で、遠方からの編入生のために学生寮も有している。

総合音楽教育に加え、タレントコースが特設されている。

 

 

『駒王町』

山を挟んだ海鳴市の隣に位置する街。

ハイDの主な舞台である。

グレモリー家次期当主『リアス・グレモリー』が管理している領土であり、主人公やイッセー達の通っている『駒王学園』は彼女の所有物でもある。

その都合上、悪魔関係者が多いが、住民のほとんどが一般市民のため悪魔の存在を知らない。

 

 

明幸組(あさきぐみ)

駒王町と海鳴市を中心に活動している極道の一門。

本拠地は駒王町と海鳴市を隔てる山の駒王町側の麓に屋敷を構えている。

屋敷の構造は武家屋敷風であるが、中身は近代的な造りになっている。

主人公の居候先。

組長は代々人情に厚く、基本的には地元との関係を第一に考えており、警察の手に負えない揉め事を裏で解決したりもしている(もちろん、非合法だが…)。

また、悪魔との繋がりもあるらしい。

 

 

『ブリザード・ガーデニア』

多次元世界の一つ。

雪と氷に覆われた世界で、極寒の世界で生きていく生物や植物も多数存在しており、他の世界では珍しいモノが多く生息している。

また、雪女の里が存在する。

忍とイッセーが何者かによって雪女の里に近くへと飛ばされてしまった。

第二十二話から第二十三話の主な舞台。

 

 

『フィライト』

多次元世界の一つ。

地球と似た雰囲気を持った世界で、人間も基本的に魔力を持たないのも同様だが、『魔力石』という結晶を用いた魔法文化が存在しており、広く普及している。

また、地球には存在しない龍種や幻想種などが数多く生息しており、それらの生物は周囲の魔力素を取り込む内臓器官『魔臓』を保有していて多少なりとも魔法が使える。

この世界の地理は中央に円形の大陸があり、その周囲は海で囲まれながらさらに円を描くようにまた大陸や島が囲んでいき、そのさらに外を海が囲むようなものとなっている。

名前の由来は国家として機能している四つの国の頭文字をそれぞれ取ったものとなっている。

ちなみに時空管理局の管轄外の次元世界でもある。

第三十三話からの主な舞台。

 

『フィロス帝国』

中央の円形大陸に陣取る巨大国家。

練度の高い兵士から騎乗兵、さらには未知の技術を用いたと思われる兵器など、他国を寄せ付けない強大な軍事力を保有している。

魔力石の大量生産技術も確立しており、その生産量は一般兵にも所持を許せるほどに多く、攻撃と防御に重点的な属性を取り揃えている。

現皇帝『ゼノライヤ・スペル・フィロス』は独裁政治を行っており、周辺の大陸や島の支配…所謂『世界征服』を目指して戦争を意図的に起こしている。

 

『ラント諸島』

フィロス帝国より南側にある大小様々な島のある諸島郡。

様々な環境の島(火山島、砂漠島、密林島、極寒島など)が点在しており、海流も安定しないため船単独での航行は困難だが、ラント諸島の人間は海洋生物との共存を果たしており、その力を借りて生活している。

そんな諸島郡だが、観光地やリゾート地として有名であり、島への観光ツアーや海洋生物牽引の遊覧船なども盛んに行われている。

首都は外洋に一番近い外側の大きめの島にあり、前方を険しい環境を持つ島、後方を外洋に住み着く海洋生物に守られた天然の要塞であり、フィロス帝国でも容易には突破出来ないでいる。

一応、防衛組織も存在するのだが、国境線の監視が主な任務になっているので実戦経験が少ない欠点を抱えている。

 

『イーサ王国』

フィロス帝国より北東に位置する小さな大陸を中心に周辺の島を取り仕切っている小国家。

大陸自体は小さいものの、それを補って余りある自然の豊かに加え、周辺の島や温暖な気候の存在によって農産業が盛んであり、イーサ国産の農産物は他国でも結構な高値を付けられるほどに上物が多い。

国王は数年前に崩御、現在は女王シルファーが国を治めているが、フィロス帝国の侵攻に際してシルファーは応戦を決断。

しかし、フィロス帝国との圧倒的な戦力差によって国土の1/3を占領されてしまい、王都まで間近に迫ってきている不利な状況に陥っている。

忍と邪狼が落ちたのはその最前線の手前にある大陸南西部の小さな村の近くである。

 

『トルネバ連合国』

フィロス帝国より西に位置する広大な大陸にある複数の部族が協力し合うことで成り立った国家。

特定の首都は持たない移動民族が多く、大体の部族が移動しながら部族交流をしているので、特定の部族だけを探すとなると一苦労であり、相手を攪乱するにはもってこいの手段でもある。

魔力石の精製技術はフィロス帝国に劣るものの、魔力石の属性種類はかなり豊富である。

広大な地形を活かした独自の騎乗戦術を確立させており、地形を利用した奇襲や一撃離脱の戦法などをお得意としており、それによってフィロス帝国の侵攻を防いでいる。

 

 

『ストロラーベ』

第84管理世界と呼ばれる時空管理局が管理・保護している多次元世界の一つ。

この世界には独自のネットワーク社会『パンドラネットワーク』が構築されており、それによって発展してきた世界である。

地球と比べて近未来的な要素が多く、人の意識と感覚をリアルタイムにネットワーク内へと移すことが出来る技術が確立されている。

 

 

『ブルートピア』

多次元世界の一つ。

広大な海が広がる世界で、海上と海中に築き上げた一大王国『ネオアトランティス』が存在する。

冥界とは逆に世界の約9割が海で覆われ、残りの1割が僅かな陸地である程度。

海上都市と、それを支える海中都市がいくつも点在する海の楽園とも言える世界。

但し、海中都市と言っても柱状のドームに覆われた都市で、海上都市からの空気供給が行われている。

そんな世界故、生物のほとんどが海洋生物であり、主食は魚や海洋生物の肉などで、フィライトの生物と同様に魔力を持つ海洋生物が多く生息している。

また、地球とは次元が隣接しており、何らかの拍子で海を媒介にして互いの海洋生物が行き来することがある。

 

 

『フィクシス魔法学園』

ミッドチルダの首都クラナガンの郊外にある魔法学園。

一般科目に加え、魔法学科の講義や実技を取り入れている。

忍が留学することになった。

また、意外なことにゼーラの母校でもある。

 

 

『第47無人世界』

温暖な気候と青い空に包まれた森林、荒野、山岳、高地、豊富な水場など自然がそのままが残った世界である。

不思議なことに何度調査しても人が住んでいる形跡や痕跡が見つかっていないため、無人世界ということになっている。

フィクシス魔法学園の学年合同授業の舞台になった。

 

 

鬼神界(きしんかい)

遥か過去の世界に存在していた人間界に隣接する次元世界の一つ。

妖力を持つ鬼達が住む世界で、絶対的な存在である皇を中心に平穏な日々を送っていた。

しかし、別次元から侵攻してきた絶魔との十年に渡る戦争を行い、最終決戦での敗北で世界を滅ぼされる。

また、過去には絶魔以外にも別次元からの侵攻もあったらしい。

第15章の主な舞台。

 

 

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用語集

 

ここでは主にオリジナル設定を扱います。

今後増える可能性もありますので悪しからず。

 

『多次元世界』

地球、冥界、天界、ミッドチルダなど様々な世界が次元空間で繋がっており、未だ数多くの未開拓世界も存在している。

また、時空管理局の次元航行部隊の本拠地は次元空間に存在している。

ちなみに正体不明の赤い竜("真なる赤龍神帝アポカリュプス・ドラゴン"グレートレッド)が観測されることがあり、管理局でも第一級の特別指定危険生物のような扱いをしている。

 

 

『種族』

本作には人間と悪魔、天使、堕天使、ドラゴンなど様々な種族が登場する。

この他にも多種多様な種族が存在し、中にはリンカーコアを保有する人間以外の種族も存在している。

また、人間から違う種族へと転生することが悪魔によって実証されており、人間は他の種族の力の影響を受けやすいのかもしれない。

 

 

『五気』

魔力、気、霊力、妖力、龍気を一括りにした総称。

複数の力を持つことは混血児に多く見られる現象であり、多次元世界に生きる人型生物は少なくとも一つの力は保有しているでものである。

混血児も二、三つの力を持つ者もいるが、龍気以外の四つを保有する者も少なくはない。

但し、龍気はドラゴンや龍種などといった個体にしかない力のため、五気の全てを保有することはかなり稀である。

 

 

『魔力』

本作では魔力の概念が2種類あり、悪魔の保有する魔力と、魔導師達の持つリンカーコアを媒介にして蓄積する魔力がある。

前者は元々悪魔に備わっているもので転生悪魔も多かれ少なかれ保有しており、その質は人間の指紋のように個人で異なる波動を有している。

後者は少数の人間や種族が持つ魔法機関であり、大気中に存在する魔力素を吸収して蓄積、魔法発動の力としている。

区別をつけるため、前者は『生体魔力』、後者は『大気魔力』と呼称する。

 

 

『気』

人間や人間に近しい種族が体内に宿している生体エネルギー。

これは人間が生きてる間に発する命の波動とも言える力であり、常に発せられているものの人は自覚することなくいることが多い。

これを人間が知覚し操るにはそれ相応の修行が必要とされている他、種族によっては最初から知覚出来る種もある。

気を扱えるということは気功術、闘気術、仙術など格闘に関する能力を扱えることが出来るということである。

 

 

『霊力』

一部の人間や精霊が持つとされているエネルギーの一種。

これは霊視、霊術、結界術など、実体を持たない霊的な存在に対して有効な力である。

この力を扱う者の代表的な例として霊能力者や陰陽師が挙げられる。

 

 

『妖力』

妖怪が持つとされている生体エネルギーの一種。

これは妖怪が自らの特性に合った性質を持っており、妖怪の種類によって様々な性質へと変化している。

また、妖力はその特性上、別の性質(エネルギーから力や速度など)に変質しやすい。

この性質の変化というのは使用する妖術にも少なからず影響があり、妖怪によっては得手不得手な妖術が如実にわかることもある。

 

 

『龍気』

ドラゴンや龍種が持つ生体エネルギー。

これは古代種や幻想種の中でも圧倒的な存在感を持つ龍種だけが持つとされている特有のエネルギーであり、気や妖力よりも質量や濃度が濃く、龍種の圧倒的な力の根源とも言われている。

魔力、気、霊力、妖力と違って術への変換などは出来ない代わりに体内で収束して口から吐き出す龍種特有のブレス攻撃が行える他、龍気を周囲へと放つことで圧倒的な存在感と威圧感を与えたり、体の内側から龍鱗に働きかけて防御力を高めたりなど攻撃性や防御性、制圧性に優れた力とも言える。

 

 

『体内保有量』

魔力、気、霊力、妖力、龍気を宿す種族の内包量を表す総称。

これは宿す力の内包量によって区分されており、一番低いDからC、B、A、AA、AAA、S、SS、SSS、EXのような順に高くなっていき、内包量が測定基準よりも多少多かったり少なかったりすると+と-で細かな区分もされている。

管理局の魔導師や騎士のランク付けとは似ているようで全く異なる測定値となっている。

 

 

『冥族』

元々は冥界に住む種族の一つであり、『冥王』の名を冠する種族であったが、三大勢力の戦争の煽りを受け、数が激減。

戦争終了後は旧魔王派によって元々住んでいた領地を追われる身となってしまった。

今では冥界でも未開の地にて細々と生活している者が多く、中には悪魔全体に憎悪を抱く者も少なくない。

冥王を名乗るためか、冥界下層にいる冥府の神『ハーデス』からも度々嫌がらせを受けている。

多種族と交わってその血を残そうとする者もいる辺り、悪魔よりは多種族に対して寛容なのかもしれない。

姿は人間とほとんど変わらず、寿命もそれなりに長いが、悪魔や天使などと比べると短いかもしれない(それでも100年単位であるが…)。

冥王としての格は天使や堕天使と同じで翼の数によって変動する傾向にあるが、冥族の場合は生まれた時から既に翼の枚数が決定・固定されている。

普段は人間と変わりない姿で生活しているが、冥王としての力を解放すると背中から翼が現れて髪と瞳が変色する特徴もある。

生まれながらにしてリンカーコアを保有しており、悪魔のような生体魔力ではなく大気魔力を用いて発揮される特殊能力『冥王スキル』を保有している。

 

 

『冥王スキル』

冥族が保有する特殊能力。

リンカーコアに蓄積された大気魔力を用いることで強大な特殊能力を振るう事が出来る。

また、リンカーコアのキャパシティを越える能力を発現することは出来ないが、キャパシティの上限を増やして威力を増したり時間を長く持たせることは可能。

但し、冥王一人一人によって発現する能力は異なり、似ていても扱う属性が異なっているなどの差異があるものの基本的には同じような能力は発現しないようになっており、血の繋がった兄弟姉妹であっても決して同じような能力にはならない。

 

 

眷属の駒(サーヴァント・ピース)

アジュカ・ベルゼブブが悪魔の駒の技術を転用して開発した冥族専用の駒。

悪魔の駒のような転生機能は無く、規格が異なるために悪魔との駒とのトレードは不可能。

また、王の駒は冥族の血を引いてなければ機能せず、それをクリアしなければ駒を使って眷属には出来ない。

駒自体は悪魔の駒と同様の特性を持ち、将来的には冥族もレーティング・ゲームに参加出来る可能性もある。

今のところ変異の駒のようなものは確認できていない。

 

 

『幻龍』

異世界に生息する希少種の龍族。

冥族と同じくしてリンカーコアを保有しており、独自の魔術体系を有している。

その魔術体系とは、先天属性を複数組み合わせることで強力な魔法を生み出す『ドラゴニック式』というものであり、先天属性の数が多ければ多いほどに強力になる一方で、先天属性の相性や戦い方などを工夫しなければならないなど数が多いことで発生するデメリットも存在する。

また、幻龍は最低でも二つの先天属性に目覚める傾向が強く、数が少なくても使い方によってやり様はいくらでもある。

但し、このドラゴニック式は生まれ持った先天属性の性質によって決まるため、幻龍達はそれぞれの先天属性を把握した上で自分のオリジナル術式へとそれぞれ発展させなくてはならない。

魔法陣は円の中に西洋竜のシルエットが描かれた独特の形状をしている。

 

 

『先天属性』

誰しも必ず一つは魔法で言う属性に対する才能、もしくは耐性を持つとされている体質の一種。

これは多種多様な生物や種族、果ては普通の人間まで多岐に渡って存在しており、

また、この先天属性は生まれた環境に影響する場合もあり、生物がその世界で生きるために体質を変化させているようなものである。

代表的な例としては魔力変換資質もこの先天属性に深く影響されているという説もある。

また、属性の種類は時空管理局が把握している『炎熱(火)』、『電気(雷)』、『凍結(氷)』の他にも『流水(水)』、『疾風(風)』、『大地(地・土)』、『閃光(光)』、『闇黒(闇)』、『天空(天)』、『幻影(幻)』、『虚無(無)』、『創造(創)』、『破壊(破)』、『重力(重)』、『空間(空)』、『強力(力)』、『鉄壁(鉄)』、『鮮血(血)』、『森緑(緑)』、『有毒(毒)』、『封印(封)』、『裂斬(斬)』、『速度(速)』といった多種多様な属性がある。

 

 

『魔力石』

多次元世界の一つ『フィライト』で用いられているエネルギー結晶体。

これは自然界に存在する魔力素を集めて結晶化した魔力結晶体であり、フィライトでは生活必需品の一つとして普及している他、魔法や戦争などでも大量に消費されている。

魔力を持たない一般人でも専用の器具を用いることで簡易的な魔法を使えるが、本格的な魔法を使いたいのであれば杖や武具などの専門的な装備が必要になる。

また、一般人の他にも魔力を有する異邦人や種族にも扱え、魔法の手助けや遠隔での魔法発動など補助的な意味合いを持っているが、その有用性は非常に高い。

精製方法は魔力素を溜め込む性質を持つ鋼鉄製の容器の表面に魔力素収集用の特殊な魔法陣を刻み込み、その魔法陣に集めたい魔力石を一つ置くことで魔法陣が発動、収集した魔力素を結晶化した後に魔法陣に置いた属性の魔力石へと変化させるというものである。

大きさはビー玉程度である。

魔力石にはそれぞれ属性が存在しており、色によってそれが見分けられるようになっている。

火は赤色、雷は黄色、氷は蒼色、水は水色、風は翠色、地・土は茶色、光は白色、闇は黒色、天は空色、幻は紺色、無は無色、創は金色、破は銀色、重は藍色、空は薄紫色、力は朱色、鉄は灰色、血は紅色、緑は深緑色、毒は紫色、封は乳白色、斬は山吹色、速は浅葱色となっている。

 

 

眷属の絵札(サーヴァント・カード)

天界が眷属の駒の技術と御使いの技術を応用して開発した7枚の絵札。

御使いのようにトランプをモチーフにしておらず、絵柄は剣を掲げた騎士、弓を構える騎士、槍を持つ騎士、戦車を駆る者、妖しげなローブを纏った魔術師、戦に狂いし戦士、黒尽くめの暗殺者の絵が描かれているのが特徴。

ジョーカーに次ぐ切り札として開発が進められていたが、眷属の駒を参考にしたためか冥族でないと反応しない不具合が発生・発覚し、結局一組しか作れなかった。

そこでミカエルの提案で、7枚の絵札を忍へと譲渡されることになった。

こちらも眷属の駒同様に天使に転生する機能はないが、代わりに絵柄に準じた能力を持つ者限定で眷属にすることが出来る。

また、それぞれの絵札には眷属とした者の能力を引き上げる以外にも絵札固有の能力を保持している。

 

 

烈神拳(れっしんけん)

シルファーから受け取った古文書に記されていた混血専用の格闘術。

無限書庫で働くユーノの協力を得て解読に成功。

魔・気・霊・妖の力をそれぞれ用いたり組み合わせたりすることで様々な効力を発揮する技が多い模様。

 

 

『パンドラ・インダストリー』。

『パンドラネットワーク』のメインサーバーを有するストロラーベの一大企業。

民間ネットワークや軍事ネットワークとは別系統であるパンドラネットワークの基礎を構築したり、パンドラネットワークへの専用端末を開発することで世界規模の展開を見せており、今ではストロラーベの日常になくてはならない存在となった。

元々は小さなゲーム会社であったが、企業内で独自に開発していた技術のノウハウを活かしたネットワーク事業に移行したところ大成功を収めて一大企業へと登り詰めた。

現在は他の次元世界にパンドラネットワークを構築することを目標としている。

 

 

海人族(かいじんぞく)

『ブルートピア』と呼ばれる海の次元世界に生息する人型生物(その世界での人間)のことを指す。

人魚とは異なる存在でありながら肺呼吸で生きており、進化の過程で肺が異常発達していて長時間の潜水を可能にしているが、長時間の潜水などが出来ても普通の人間と大差ない体の仕組みをしている。

そのため、水中での会話は基本的に念話で話すことになる。

また、一定の年齢を過ぎると使い魔を従えるようになる風習がある。

冥族と同様、生まれながらにリンカーコアを持つ種族であり、水中では常に魔力の膜を纏って水圧に耐えたり、念話に使用したりと日常生活で魔力を行使している。

環境上、魔力変換資質『流水』を持つことが多い。

 

 

絶魔(ぜつま)

謎の勢力。

人型生物の感情…特に『絶望』を好むとされる種族のようなもので、人々の絶望が何よりも好物らしい。

数世紀前にある惑星の神に絶魔の神が封じられたことで勢力の後退を余儀なくされるも、現代…ここ数年の間に活動を再開させた模様。

様々な事件の裏で暗躍しており、時には姿を見せるなどしている。

 

 

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オリジナル次元航行艦。

 

 

戦艦名:ヴェル・セイバレス

 

船体形状:双胴の艦体と、それを繋ぐ中央ブリッジ、左右の艦体から外側に大型の主翼を持つ特殊な次元航行艦

 

搭載動力:大型魔導機関2基

 

搭載兵装:大型魔導砲、魔力フィールド発生装置

 

特殊装備:魔導師及び騎士専用のカタパルト(×2)

 

備考:特務隊が保有する強襲戦艦型の特殊次元航行艦。

特務隊では様々な特殊任務に対応すべく次元航行はもちろんのこと、宇宙空間、大気圏内での航行、潜水能力も兼ね備えた陸以外に対応している万能艦である。

 

魔導師兼騎士用のカタパルトは両艦体の内部に搭載されており、両船体先端から発進口が開き、魔導機関で作り出した特殊フィールドと力場を形成し、魔導師及び騎士をフィールドで包み込んで保護し、それを弾丸の様に撃ち出すことで発艦する仕様になっている。

 

また、両艦体先端の発進口の上下とブリッジ下部には魔力フィールド発生装置が搭載されており、前面かの攻撃を防御することが可能。

さらに両艦体のフィールドを収束すことによって突撃戦法を可能にしているが、これはかなりの荒業であり、最終手段でもある。

 

魔導砲は以下のものが搭載されている。

 

両艦体の上部と下部に設置された2連装回転式大型魔導砲を計4基を装備している。

ちなみに右舷上部を1番砲、右舷下部を2番砲、左舷上部を3番砲、左舷下部を4番砲となっている。

 

両艦体の主翼接地面の上下に挟み込むようにして固定式中型魔導砲を計4基装備している。

 

両艦体の前方部側面にはそれぞれ2列5連装式で追尾性の高い魔力レーザー照射型の魔導砲を搭載している。

 

両艦体各所には迎撃用の小型魔導機関砲を内蔵している。




この後はオリキャラ達を紹介します。


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オリキャラ紹介・主人公側

ここでは主人公やそれに関係するオリキャラを中心にした紹介を行います。
オリキャラは今後増えていく予定です。


2015/3/27
ここでは主に忍を中心にしたオリキャラ紹介に変更しました。
それ以外のオリキャラを『オリキャラ紹介・その他』へと移転しました。


・主人公(旧プロフ)

 

名前:紅神(べにがみ) (しのぶ)

 

容姿:背中まで伸びた黒髪と紫色の瞳を持ち、歳不相応に幼い童顔の持ち主

線が細く華奢で貧弱な体型

 

種族:人間(?)

 

性別:男

 

身長:134cm

 

年齢:16歳

 

魔力光:白銀

 

魔力:C

 

気:A+

 

趣味:立体パズル、散歩

 

好きなもの(事):ちぃ姉、狼

 

嫌いなもの(事):小学生扱いされること、争い事、満月の夜

 

性格:基本的にオドオドしていて内気で気弱な性格だが、根は優しく正義感や責任感の強い一面もある

 

備考:本作の主人公。

駒王学園2年生にしてイッセーの同級生兼クラスメイト。

その体格や言動から"小学生"に間違われることが多く、かなり気にしてるのだが、その性格と意思の弱さ故に否定出来ない日々を過ごしている。

居候先の一つ年上のお姉さん『明幸 智鶴』とは幼馴染みで昔はよく彼女の背中に隠れてしまうこともあるほどベッタリしていたが、今では恥ずかしいのかそういうことはしないように頑張っている。

また、居候先の明幸家は所謂"極道"の家系であり、毎日怖いお兄さん達の挨拶に戦々恐々としており、たまに涙目になってしまうこともある(但し、これでもだいぶ慣れた方)。

その智鶴の事は『ちぃ姉』と呼んでいる。

困ったり泣きそうになると『わぅ…』と言う口癖を発してしまう。

ちなみにその見た目に反して成績は優秀な方で、スポーツも一回やれば大体何でも熟せる運動神経の良さも持ち合わせている。

それは稀少技能『超学習能力』を保持しているからであるが、本人はそれを知らない。

満月の夜になると度々同じ夢を見て(うな)されることがあり、突然飛び起きたりすることもある。

人間として振る舞ってはいるが、本来は人間とは異なる種族である。

ただ、何の種族かまではわからず、本人にも自覚が無いために周囲の人も(一部を除いて)不審には思っていない。

 

第十一話にてシャドウの手により、人間じゃないことが判明。

シャドウの見解では動物型の遺伝子(これが銀狼に相当)と、人型の妖怪(こちらはまだ不明)ということが明らかになった。

しかし、何故リンカーコアを持つかは不明。

さらにシャドウの手によって上記とは異なる血液サンプルを投与されてしまった。

その影響かどうかは知らないが、忍は歳相応の姿へと変貌を遂げた。

 

変貌後の容姿:背中まで伸びた黒髪と紫の瞳を持ち、歳相応のキリッとした端整な顔立ちをしている

体型も成長したためか少し筋肉質になっている

 

変貌後の身長:179cm

 

また、変貌後は暗七の指導の下、体内に存在する妖力を用いて少年(日常兼非戦闘モード)と青年(戦闘モード)の二つの姿を使い分けれるように特訓中。

但し、最近では青年モードで生活することが多くなりつつある。

 

第二十二話にてエクセンシェダーデバイス『ブリザード・アクエリアス』の所持者となる。

 

第二十三話にて冥族の血を引く雪女と狼の間に生まれた存在と言うことが発覚。

 

また、第二十話にてアジュカ・ベルゼブブから『眷属の駒』を受け取り、智鶴を始めとした数名を眷属として迎えた。

 

第二十八話にて叢雲流魔剣術を修得することとなり、同流派の始祖が予言した"例外者"ということが発覚した。

 

第三十六話にて『次元辺境伯』となる。

 

第四十一話にてミカエルから『眷属の絵札』を、シャーリーを経由してゼーラからライト・フューラー/レフト・フューラーをそれぞれ受け取る。

また、古文書から烈神拳という流派の格闘術を会得することになる。

 

第四十七話にて『真なる狼』及び自らの一族の起源の詳細を狼夜から聞き、紅蓮冥王と蒼雪冥王へと完全に目覚める。

 

第五十六話にて『留学』という名目で、異世界ミッドチルダの学校『フィクシス魔法学園』に一時的に編入する。

 

第六十二話にて次元の狭間で始龍に喰われ、第六十五話にて始龍に力と願いを託される。

 

第六十七話にて特務隊の嘱託騎士扱いにされる。

 

第六十八話から第七十話にて冥界初の異種対抗ゲームに参戦し、敗北を喫する。

 

第七十三話から始まるパラレルワールドの自分こと『邪神 牙狼』との戦いが始まり、第七十七話にて決着を着けてその存在と同化し、彼の罪や業を背負うことになる。

その際、記憶や技などだけではなく、夜琉とオルタのことも託される。

 

また、同第七十七話にて全ての解放技を無理矢理一つの形へと顕現させた反動で、解放技を使うために他の器を設ける必要があった。

そのため、現在はそれぞれの解放能力を一時的にビー玉の中へと封印しており、それらが新たな器へと馴染むまで使用できないでいる。

 

第八十話からストロラーベに派遣されて、フェイタル学園に短期編入する。

 

第八十一話にて捜していた家族との再会を果たす。

この時、妹がいると発覚。

 

 

『銀狼解禁』

忍の中に眠る銀狼の力。

解放すると黒髪が銀髪、紫色の瞳が真紅に変化し、髪と同じ色の毛並みをした狼の耳と尻尾が生える。

速度に優れており、訓練すれば人間では目視するものやっとな速度を出せる。

最初に解放した際は激情に任せていたが、二回目以降はしっかりと理性を保てるようになっている。

 

また、後に発覚したことだが、狼への変身能力もある模様。

その時の姿は銀色の毛並みが特徴的で、赤い瞳を持つ狼の姿へとなる。

 

 

『真狼解禁』

忍の中に眠る銀狼と黒狼、二つの能力を持った真の姿。

深層世界で語った狼夜曰く『速度の銀と、力の黒を合わせた真なる狼』とのこと。

銀狼時の早さから更なる速度を見せ、パワーも上がっている。

解放すると、髪が黒の混ざった白銀の髪と、その髪と同色の毛並みを持った狼の耳と尻尾が生える。

瞳は右が狼夜から受け継いだ琥珀のままで、左は紫から真紅へと変わり、瞳孔が野獣のような縦に鋭くなる。

 

また、銀狼時に発動出来た狼への変身能力もあると推測できる。

その場合、毛並みは黒の混ざった白銀に、右目に傷痕、右目は琥珀、左目は真紅というオッドアイを持った神秘的な狼となるだろうと予想される。

 

四十七話にてこの形態こそが"真なる狼"になるための入り口に立った証ではないかと狼夜から示唆されている。

 

 

『紅蓮冥王』

第十九話にて解放された姿。

背中から4対8枚の紅蓮の翼が生え、髪は燃え盛るような焔髪、瞳は焼き尽くすような灼眼へと変化した姿となる。

この状態になると紅蓮の焔を操ることに長けるようになり、新たに魔力変換資質『炎熱』を保有するようになっている。

冥王スキルは今のところ不明。

 

第四十七話にてその力を完全に掌握。

冥王スキル『イグニッション・アグニ』を発現する。

能力は周囲の熱エネルギーを吸収して自らの糧にすることらしく、忍の発想次第で様々な能力に化ける可能性が高い。

 

 

『吸血鬼』

邪狼との戦闘で垣間見た忍の新たな能力。

深層世界でも狼夜によってその存在は確かなものになっている。

但し、まだ一回限りの発現でしかない。

 

第三十七話にて遂に覚醒した。

黒髪から銀髪、瞳は両方とも真紅へと変化して背中から蝙蝠の翼を生やした姿となる。

また、瞳孔は獣のように縦に鋭くなり、八重歯も少し大きく鋭く尖っている。

詳細な能力は未だ不明なものの、妖力を用いたパワー技は他の形態よりも圧倒的に高い。

 

 

『龍騎士』

第四十三話でのグレイスとの戦闘で暴走した形で目覚めた能力。

姿は背中から1対2枚の龍の翼、臀部から龍の尾がそれぞれ生え、龍気が鎧のような甲殻となって体を覆い、顔には龍の頭部を(かたど)ったような仮面が目元を隠すようにして装着されている。

暴走状態だったためか、仮面の眼に当たる部分は真っ赤に染まりきっており、内側にある忍本来の眼球もまた紅く染まり、瞳は理性を完全に失っていた。

これ以降、忍は龍気の出力も可能になった。

 

後に始龍の力によって一時的に使用出来るようになる。

他の形態よりも龍気の出力が桁違いに上がっているが、現時点ではそれだけである。

その際の姿は体に龍気で練られた鎧のような甲殻が覆い始め、顔の目元には龍の頭部を模った仮面を着け、背中から一対の龍翼と臀部から龍尾が生えた姿となる。

しかし、その鎧は石化したように灰色で所々が罅割れており、胸部、両肩、両掌、両膝の計七ヵ所には同じく石化したような七つの宝玉が嵌め込まれていた。

それと比較して龍翼と龍尾は白銀の鱗に包まれた綺麗なものとなっており、仮面も白く何かが抜け落ちたような仕様となっている。

 

 

 

『蒼雪冥王』

修学旅行の行きで存在が発覚し、帰りの新幹線で完全掌握した忍が元から持つ能力。

背中から4対8枚の瑠璃色の翼が生え、髪は白銀、瞳はサファイアブルーへと変化した姿となる。

冥王スキルは『アイス・エイジ』。

能力は周囲の温度を下げることで凍結させることらしく、使い方によっては敵の動きを封じたり、物体の活動を制限することも可能であるらしい。

 

 

 

デバイス:ヴェルネクサス

 

形状:2種類のブレスレットと特殊なベルト、3本のUSBメモリー型端末

 

待機状態:無い

 

搭載システム:エナジーメモリシステム、ミッションメモリシステム、エクシードドライブシステムを搭載

管制人格は存在しない

 

備考:特務隊で預かっていた新型のバリアジャケットの展開のみに重点を置いた試作デバイス。

ゼーラによって堕天使総督アザゼルに任務失敗を言い訳に渡すつもりだった代物。

しかし、受け渡し前のノイズの襲撃によって忍が偶然手にして起動まで果たしてしまった。

このデバイスは一度起動させた者の魔力波長を読み取り、その者に対してデバイスを最適化するようになっている。

但し、最適化と言っても試作段階で装備数が少ないので起動者に合わせたバリアジャケットの構築と魔力の伝達率を調整することである。

そのため、起動以降は忍専用として運用されることとなる。

また、起動以降は忍が成長、もしくは魔法や何かを修得する毎に更なる最適化が行われていくようになっている。

バリアジャケットは上に赤いシャツを着て、下に黒の長ズボンを穿き、その上から背中に銀狼の横顔のエンブレムが刺繍された黒いジャケットを羽織り、両足にコンバットブーツを履いた姿となる。

 

第十一話にて新調されたバリアジャケットは上に紅いシャツを着て、下に黒い長ズボンを穿き、その絵からロングコート状の黒衣が羽織られ、両手にはOFGを着け、両足にはコンバットブーツを履いた姿となった。

 

『エナジーメモリシステム』とは、カートリッジシステムとリンカーコアのデータを基に開発されたシステムで、付属のUSBメモリー型端末『エナジーメモリ』を使用するために必要なシステムである。

『ミッションメモリシステム』とは、ミッションバックルにマウントされたメモリー型端末『ヴェルメモリー』を介して専用武装を起動させるためのシステムである。

しかし、現在は専用武装が無いことから使用できない状態である。

『エクシードドライブシステム』とは、カートリッジの炸裂時に発生する爆発的な魔力を参考にしてエナジーメモリ内の魔力を使い、一時的に強力な魔法や技を短時間で発動できるようにしたシステムである。

 

『ネクサス』

左腕用のリストウォッチ型PDA。

これは表面にタッチパネル式のディスプレイを持ったマルチ端末で、通信からネット接続、データ転送などの機能を有している。

また、上部からは投影ディスプレイが表示されるので、通信やマップ表示にも役立つ。

エナジーメモリ装填口は右側中央になっている、

 

『ナイトブレス』

右腕用の特殊ブレスレット。

これは表面にはテンキーと、その下にENTERキーがあり、それを保護するようにスライド式のカバーが覆われている。

また、エクシードドライブ時に使用するエナジーメモリ内の魔力を何割使うかはこれによって調整することが可能。

エナジーメモリ装填口は後方中央になっている。

 

『ミッションバックル』

特殊なバックル装備。

これは下腹部に当てることで自動的にベルトを展開するようになっている。

その中央には専用武装を起動するための武装起動用メモリー型端末『ヴェルメモリー』がマウントされている(が、現在は武装が無いので使えない)。

エナジーメモリ装填口は右側中央になっている。

 

『エナジーメモリ』

USBメモリー型の魔力エネルギー貯蔵用端末。

これは大気中に漂う魔力素をリンカーコアのように集めて使用することを重視して開発されている。

使用者の魔力を温存しつつ最小限の力で最大限の力を発揮するための試みなのだが、リンカーコア自体が未だ謎に包まれた部分が多いため、それを機械的に再現するには問題点も多々ある。

そのため、機械的に魔力を集めてチャージするのに時間が掛かるのが欠点。

成功した3本の試作機を新たなギミックパーツとして新型デバイスに組み込んだのがネクサスである。

 

 

 

デバイス:ファルゼン

 

形状:刃渡り三尺の日本刀

 

待機状態:黒い腕輪

 

搭載システム:ネクサスリンクシステムを搭載

管制人格は存在しない

 

備考:ヴェルネクサスの専用武装の一つとして開発されたアームド系デバイス。

トップ会談中、テロに遭った時にアザゼルから忍に渡されたものだが、本来はゼーラから忍に渡す予定だったものを時間が止まったゼーラの代わりに渡した形になる。

『ネクサスリンクシステム』とは、ネクサスに搭載されているシステムとリンクを繋ぎ、それをファルゼンにも適用させるシステムであり、これによってネクサスとの連携も効率的に行えるようになっている。

 

 

第一形態『モード・ブレード』

ファルゼンの基本形態。

近接戦闘で日本人として育ってきた忍にとっては一番扱いやすい形となっている。

 

第二形態『モード・斬艦刀』

ファルゼンの特殊形態。

ヴェルメモリーを柄の側面部に装填することで起動し、柄が延長し、鍔部分が展開すると柄の内部に貯蔵された形状記憶合金を身の丈以上の刀身まで延長・巨大化させることで完成する超巨大剣。

扱うためにはそれ相応の技術と技量が必要となるが、それを満たす事が出来れば敵対者の大群を一網打尽にすることも可能になる。

但し、その巨大さ故に室内戦ではその真価を発揮する事が出来ない。

 

 

 

デバイス:ライト・フューラー/レフト・フューラー

 

形状:リボルバー式の拳銃(トーラス・レイジングブル MODEL 444)とマガジン式の拳銃(デザートイーグル 44マグナム)

 

待機状態:黒と白の一対の指輪

 

搭載システム:ノーマルカートリッジシステム、エレメントカートリッジシステム、ネクサスリンクシステムを搭載

管制人格は存在しない

 

備考:ヴェルネクサスの専用武装の一つとして開発されたアームド系デバイス。

地球の拳銃がモデルとなっており、忍でも容易に扱えることを主眼に開発されている。

朝陽の持つヴェルセイバーで試験運用されていたECもフィライト由来の魔力石を解析し、用いることで実用化する程までに完成度が増した。

カートリッジはそれぞれライトはリボルバー式6発、レフトはマガジン式8発という具合になっており、これは実物に準じた装填数となっている。

また、魔力石の解析・応用によってECの種類も増えており、炎熱、電気、凍結以外のECの使用も可能になっている。

ちなみにヴェルメモリーを銃身にセットすることで『魔力ポインター発射態勢』というモードとなり、あるキーワードを口にすることでエクシードドライブが発動する仕組みとなっている。

 

 

 

デバイス:アステリア

 

形状:SS(スーパースポーツ)タイプのバイク

 

待機状態:存在しない

 

搭載システム:マナドライブシステム、ドルイドシステム、ネクサスコントロールシステム、ツールメダルシステム、ライディングシステム、ドライバーアクションシステムを搭載

管制人格ではないが、学習型AIを搭載している

 

備考:ゼーラの指示で特務隊の技術班が忍達の鹵獲したシュトームの一機を解析・改造し、バイクを基本モデルにして作り上げたライディングデバイス。

バイクの素体としてドライバーデバイスの無人運用を想定して研究中であった人工骨格にアルファとガンマの機体(アルファギア以外の武装を除く)を使用しており、残ったベータの機体やアルファとガンマの武装は新たな装備として再構築されている。

図らずも無人制御型デバイスの実験機となり、そのデータは今後のデバイス技術に活用される可能性もある。

待機状態が存在しないため格納庫が必要となるが、待機状態への変形機構がないぶん即応性に長けており、日常生活でも普通に使用可能である。

また、キーは無くネクサスによる生体情報認識プログラムが組まれており、それによってエンジン部に当たるマナドライブの起動や停止を行う仕組みとなっている。

カラーリングは白銀のボディに、紅いラインが入ったものとなっている。

 

ちなみにアステリアに改造されたシュトームは第三十四話で忍が回収した最初の機体であり、第三十五話時点でゼーラに渡されていた。

それから特務隊の技術班が技術解析を始め、魔力石をECに転用したり未知の技術を管理局側の技術で再現出来ないかと試行錯誤を繰り返していた。

第三十九話と第四十話にてさらにシュトームを鹵獲したことで少しだけ余裕を持った技術班にゼーラが忍の"足"としてアステリアの開発を指示した。

しかし、未だ試行錯誤中の段階で新規作成は難しいと判断した技術班の意向により、技術解析に使っていた最初のシュトームを新たなデバイス機種『ライディングデバイス』へと改造することにした。

そして、遂に完成したアステリアは修学旅行中に忍へと渡されることになった。

 

 

『ツールメダル』は以下の通りである。

 

『ライト・セブンスブレード』

7本の刀剣型装備を備えた戦闘機型支援機。

これは人工骨格とベータの右肩から右腕をベースにしており、そこに7本の刀剣型装備とそれらを収納、もしくは付随する装備が真っ直ぐに伸ばした腕の各部に装着する形で戦闘機の形態を維持する。

メダル状態時は表に剣の絵柄と、裏にⅦの数字が描かれている。

 

『スターソード』

アルファシールドの一つを改造して折り畳み式の剣の刀身と短銃身の魔力ビームライフルを付け加えた複合兵装。

これは斬撃、射撃、防御を一手に行えるようにした装備であるが、基本的には近接兵装としての意味合いが強く、その証拠にシールド部分やライフル部分は斬撃の邪魔にならないように最小限に削られている。

装備した時はグリップで操作する仕組みになっており、人差し指に当たるトリガーで射撃、中指と薬指に当たる部分にあるスイッチを押すことで刀身が展開する。

支援機状態では刀身を展開した状態で機首を形成している。

 

『スターウイング(×2)』

ベータウインガーを改修した滞空補助装備。

基本的にはベータウインガーと同様だが、運用はアステリアのバトルモードと支援機状態のみなので魔力スラスターを調整し、その出力を向上させている。

支援機状態では主翼を担う。

 

『スターライトブレード(×2)』

ベータブレードを改修した片刃の大剣型近接兵装。

ベータブレードと同様にスターウイングを鞘代わりにしていたり、実体剣としての性能や合体機構も引き継いでいる。

但し、全体的によりシャープなフォルムに削って軽量化を図っており、魔力伝達率も向上させて攻撃力を底上げしている。

 

『スターロングブレイド』

アルファセイバーを改造した長剣型近接兵装。

これは攻撃に重点を置いており、刀身内に内蔵された魔力回路の魔力伝達率を調整することで切れ味を自在に変化させることが出来る。

鍔の部分には専用機能として魔力石を装填出来る窪みがあり、魔力石の属性をダイレクトに反映出来るという利点がある。

スターショートブレイドとは対の剣となっており、一緒に使用する場面が多い。

支援機状態では機体上部の右側に配置されている。

 

『スターショートブレイド』

アルファセイバーを改造した短剣型近接兵装。

これは防御に重点を置いており、その硬度はセブンスブレードの中では随一である。

他の刀剣装備よりも取り回しが良く、近距離での防御やその硬度を利用した相手の武器を破壊することに特化している。

スターロングブレイドとは対の剣となっており、一緒に使用する場面が多い。

支援機状態では機体上部の左側に配置されている。

 

『スターエッジ(×2)』

ベータエッジを改修した中距離から近距離用の近接兵装。

基本的にはベータエッジと同様だが、ベータエッジには無かった合体機構を搭載しており、それを用いた実体仕様の大型ブーメランや魔力刃を双刃の剣として機能させたりと戦略の幅を広げている。

支援機状態では前腕部の肘近くに当たる位置に横から挟み込むように装着される。

 

 

『レフト・ガードブラスター』

防御及び砲戦装備を備えたホバー戦車型支援機。

これは人工骨格とベータの左肩から左腕をベースにしており、そこに砲戦装備や防御兵装、バックパック装備を肘から二つに折り曲げた状態の腕の各部に装着する形でホバー戦車の形態を維持する。

メダル状態時は表に銃、裏に盾の絵柄が描かれている。

 

『スターバーニア』

加速移動用補助装備。

これはアステリア用に調整を施した魔力スラスター2基を内蔵したバックパック装備、同じくアステリア用に調整を施したコの字型ホバーユニット2基の一式となっており、バックパック装備の左右にはスターウイングと接続出来るアタッチメントが備わっている。

支援機状態ではバックパック装備は機体後部、ホバーユニットは機体下部にそれぞれ装着される。

 

『シューティングスター(×2)』

ガンマバスターを改修した砲戦兵装。

基本的にはガンマバスターと同様だが、折り畳み機能をオミットして砲身を短縮して速射性やチャージ時間の短縮などの機能改善を施している。

支援機状態では機体上部に装備され、砲台として機能する。

 

『スターブラスター』

ガンマショットとガンマライフルを統合した射撃兵装。

これは低出力連射、高出力単発、拡散弾、収束砲撃、狙撃の五つのモードに切り替えが可能な高性能可変ライフル装備となっている。

切り替え機能は音声認識で行われ、マガジン式のNCやECに対応している他に魔力石を直接装填出来るようにもなっている。

支援機状態では機体右側に装備される。

 

『スターダストシールド』

アルファシールドとガンマスターダストを統合・改造した防御兵装。

これは長方形型のシールドに、内側の側面に片方5門計10門の魔力レーザー装備と下部先端に3連装魔力バルカン砲を搭載しており、内側に設置された持ち手のグリップ操作による射撃を可能にしている。

また、シールド表面には対魔力コーティングが施されて防御性能を上げている。

支援機状態では機体左側に装備される。

 

 

システム関係は以下の通りである。

 

『マナドライブシステム』

シュトームに搭載されていたものと同一魔導機関。

これはシュトームと同様に魔力石を動力源としており、魔力石一個による稼働時間はシュトームと同じ二時間前後となっている。

また、シュトームとは異なって魔力石の個数は確定しておらず、最大でも12個の魔力石を投入して一日稼働も可能としている。

 

『ドルイドシステム』

シュトームに搭載されていたものと同一システム。

これはシュトームと同様の機能を有しており、非人格型の簡易AIから学習型AIへと変更したことによってより使用者の癖や特性に合った分析や情報を提示、独自の状況判断による各システムの行使、自律行動の選択などインテリジェントデバイスの管制人格に酷似した仕様となっている。

 

『ネクサスコントロールシステム』

遠隔制御システム。

これはネクサスから送信される特殊な信号を受信して自律稼働するものであり、ネクサスからの信号はあらゆる通信設備を経由してアステリアに届き、忍のいる座標を逆算して特定することで忍の元へと向かうことが可能。

但し、忍とアステリアが別々の次元に存在する場合、当然ながら呼び出すことは出来ない。

ちなみにアステリアを呼び出す時のコマンドキーは『658』である。

 

『ツールメダルシステム』

武装及び装備用特殊統括管理システム。

これはシュトームの余剰パーツで組み上げられた新型装備を通常デバイスの待機状態を参考にしてメダル状に再構築した新装備『ツールメダル』を使用するために必要なものである。

使用するメダルを元の装備、もしくは武装へと還元することでデバイス本体とは別の後付け装備として戦略の幅を広げる手段となる。

還元方法は所有者の魔力波であり、登録された魔力波を浴びせることで装備が還元される。

また、通常時がメダル状なので懐に忍ばせたり財布の中に紛れ込ましたりして隠し持てる利点がある。

 

『ライディングシステム』

自律制御型走行補助システム。

これは学習型AIが運転補佐や自動操縦を行うことで安全且つ効率的な運用を目的としており、ドルイドシステムやネクサスコントロール、ドライバーアクションシステムとの連動も視野に入れて開発されている。

また、魔力石から抽出した魔力をタイヤにコーティングすることでどのような地面でも走行が可能で、その気になれば壁や天井も走行することが出来る。

 

『ドライバーアクションシステム』

シュトームに搭載されていたドライバーオペレーションシステムをベースに管理局側の技術で再構築された可変機構統括システム。

これは本来ドライバーデバイスに搭載される予定のものだが、忍の援護も想定して開発されたため本デバイスにも変形機構のギミックが搭載されている。

通常時のバイク形態を『ビークルモード』、変形・装備合体後の人型形態を『バトルモード』と呼称する。

 

 

アステリアの変形形態は以下の二つである。

 

二輪走行形態『ビークルモード』

アステリアの基本形態。

普段からこの形態で日常生活にも使用が可能。

純粋な移動手段だけではなく、戦闘時にも支援機の操作をAIに任せることで奇襲や一撃離脱の戦法も可能としている。

 

人型戦闘形態『バトルモード』

アステリアの戦闘形態。

変形プロセスはバイク本体が両肩から両腕以外の頭部、胴体、両足に変形し、タイヤは両足側面に装着して移動補助用の駆動車輪となる。

頭部はツインアイをバイザーゴーグルで隠し、顔下部もフェイスガードで覆われた形状をしており、ハンドル部からせり上がるようにして出現する。

支援機2機がバラバラとなり、機体のベースとなる本体が両肩から両腕、マニュピレーターを形成してアステリアに合体する。

装備はそれぞれ背部にスターウイングを左右に装着したスターバーニアのバックパック装備、両肩にスターエッジ、両肩上部にシューティングスター、右腕にスターソード、左腕にスターダストシールド、腰部左右にスターロングブレイドとスターショートブレイド、両足の軸と駆動車輪を固定するようにアキレス腱の上からスターバーニアのホバーユニットがそれぞれ装着される。

スターブラスターは左手に保持される形となる。

この形態では主に忍、もしくは紅神眷属の支援や護衛を担当しているが、今後の学習次第では十分な戦力としても期待出来るスペックを誇る。

但し、まだ試験運用段階に入ったばかりで学習機能が不十分ということもあってか、使用出来る兵装には制限が掛かっている。

 

 

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・主人公(真プロフ)

 

名前:紅神(べにがみ) (しのぶ)

 

容姿:肘辺りまで伸びた黒髪と右は琥珀、左は紫色の瞳を持ち、キリッとしていて凛々しさを含むようになった端正な顔立ちをしている

体格は細身ながらも引き締まった筋肉質となっている

また、右目には傷痕が残っているが、普段は認識阻害の魔法で隠している

 

種族:霊狼、雪女、冥王、吸血鬼の混血

 

性別:男

 

身長:180cm

 

年齢:17歳

 

魔力光:白銀、瑠璃、紅蓮、深紅、黄金、漆黒、純白の7色

 

魔術式:古代ベルカ式

 

デバイス:ヴェルネクサス(プロトタイプデバイス)、ファルゼン(アームドデバイス)、ライト・フューラー/レフト・フューラー(アームドデバイス)、ブリザード・アクエリアス(エクセンシェダーデバイス)、アステリア(ライディングデバイス)

 

所持武器:七星狼牙、神威

 

魔力:EX

 

気:EX

 

霊力:EX

 

妖力:EX

 

龍気:EX

 

趣味:立体パズル、散歩、日向ぼっこ、狼に変身すること、得物の手入れ

 

好きなもの(事):家族や仲間、大切な人達との絆、平和な日常、大切な人達と過ごす何気ない時間

 

嫌いなもの(事):命を軽視する者達、平和を乱す者達、犬扱いされること

 

性格:基本的にはおおらかで優しく気さくな性格だが、その内心には熱き激情と冷静さを併せ持っている

また、過去の世界で皇鬼の背中や生き様を見た影響か、清濁併せ呑む姿勢や器の大きさ、懐の深さを見習いたいと考え、独自の研鑽を積むことを誓っている

 

備考:本作の主人公。

4月頃から始まった事件を皮切りに数々の事件に遭遇し続け、クリスマスの夜に飛ばされた鬼神界での一件から更なる成長を遂げて年末年始の現代へと帰還して若き覇王として目覚め始めた。

この数か月での急成長は驚愕の一言で、同じく異常な成長を見せるイッセーとは別の意味で危険視されることとなる。

"小学生"と揶揄されていたのが嘘のような体格の良さと自らの意志を貫く強さを持つようになる。

『全てを守るつもりはない。だが、目の前で救える命があるならそれを全力で救う』という信念を持つ。

また、狼としての誇りが高く、犬扱いされることを極端に嫌うようになった。

稀少技能『超学習能力』を保持しており、一度でも体験したり見聞きした知識や技術を即座に習得することが可能で、それらを繋ぎ合わせたりして独自の技術へと昇華させることも出来る。

戦闘スタイルは臨機応変に対応するために万能型となっているが、近接戦闘寄りの戦法を好む傾向にある。

七つの解放形態を単体使用、または同時展開することで様々な恩恵を得る解放戦技『解放陣』、烈神拳と邪神拳を融合させた独自拳法『覇神拳』、叢雲流魔剣術と紅流・羅刹剣術を融合させた独自剣術『紅神流煌剣術』、魔法、結界術、銃術、デバイスなどを駆使する。

魔力変換資質『炎熱』と『凍結』、特異魔力変換資質『黒焔』を保有している。

 

眷属の駒による眷属は女王の智鶴、戦車のカーネリアとエルメス、騎士の朝陽と萌莉、僧侶のシアとフェイト、兵士のクリス、暗七、吹雪、ラト、シルフィー、ラピス、ティラミス、夜琉の15名。

眷属の絵札による眷属は現在、狂戦士の絵札を与えたオルタのみだが、他の絵札の候補は既に何名か決めていたらしく、帰還後の元旦に雲雀、緋鞠、領明、シンシアの4名にそれぞれ剣の騎士、弓の騎士、魔術師、暗殺者の絵札を渡している。

使い魔にはロキ戦後に保護したスコルとハティ、七煌龍の化身である『七海』がいる。

 

 

解放陣(かいほうじん)

忍の保有する七つの解放形態の総称。

個別に発動することはもちろん、今では複数の能力を同時に解放することも出来るようになった。

総称の名を付けられたのを機に真狼以外の名前も改めている。

また、真狼の狼への変身能力を参考に真祖の肉体を変身させる能力を各解放形態に反映させることで『獣形態(じゅうけいたい)』と呼ばれる解放形態の第二形態とも呼べる姿を取ることも可能になった。

普段はビー玉の中に各解放形態の力を封じている。

名付け親は皇鬼。

 

真狼(しんろう)

忍が最初から持つ霊狼の力を発現させた解放形態。

この時の姿は髪が黒の混ざった白銀、瞳は右が琥珀のまま、左は真紅へと変わり、頭と臀部から髪と同色の毛並みの狼の耳と尻尾が生えた姿となる。

獣形態は黒の混ざった白銀の毛並みに右は琥珀、左は真紅の瞳を持つ狼となる。

これは速度の銀と力の黒を融合させた霊狼一族に伝わる『真なる狼』へと至るための過程で発現した形態。

その速度は悪魔の駒の騎士を凌駕し、既に人知を超えたものへと昇華しており、並みの相手では視認することも出来ないほど。

力も妖力を用いることで一定以上のものを発揮出来るようになっていて真祖ほどではないが、力押しの戦術を行うことも可能。

霊力の扱いにも長けており、結界術や浄化の力を最も発揮することが出来る(他の解放陣でも浄化の力は発揮出来るが、真狼ではその桁が違う)。

そのスピードに目が行きがちだが、総合的な攻守共に絶妙なバランスが取れているため、解放陣の中では使用頻度が一番多い形態でもある。

ビー玉の色は白銀。

 

雪羅(せつら)

忍が最初から持つ雪女(蒼雪冥王)の力を発現させた解放形態。

この時の姿は髪が白銀、両の瞳が瑠璃色へと変わり、背中から瑠璃色の4対8枚の翼が生え、髪から冷気が溢れ出る姿となる。

獣形態は瑠璃色と白の体色に黒い瞳を持つ(シャチ)となる。

これは雪女の血筋の中に眠る蒼雪冥王の力を全面的に押し出して体現化させた形態。

冥王スキル『アイス・エイジ』を保有する。

このスキルは発動中、周囲の温度を下げ続ける能力であり、有機物・無機物に関わらずその対象物の温度を下げる効力がある。

その効力を利用し、温度を下げた対象物を凍結させたり、対象が有機物であるならその温度を下げて運動エネルギーや活動機能を低下・阻害させることも可能にしている。

その特性上、魔法戦でその真価が発揮しやすく、特に中距離から遠距離での魔法合戦に適した仕様となっており、魔力変換資質『凍結』との相性も良く、どちらかと言えば防御寄りの解放形態とも言える。

ビー玉の色は瑠璃。

 

煌冥(こうめい)

忍の中に投与された紅蓮冥王の力を発現させた解放形態。

この時の姿は髪が焔髪、両の瞳は灼眼へと変わり、背中から紅蓮の4対8枚の翼が生えた姿となる。

獣形態は3対6枚の翼に紅蓮の羽衣、灼眼を持った特殊な鳳凰となる。

これはシャドウによって投与された紅蓮冥王(朱堕)の血に宿る力を引き出して体現化させた形態。

冥王スキル『イグニッション・アグニ』を保有する。

このスキルは周囲の熱エネルギーを吸収する能力であり、様々な物質の中や大気中に存在する熱エネルギーを吸収する効力がある。

この効力を利用し、相手の炎熱系魔法の威力を下げると共に自らの炎熱系魔法の攻撃力を高めるといった使い方から吸収した熱エネルギーを用いて自らの細胞を活性化させて治癒能力を高めたり、大気中に急激な温度差を作って気流を操ったりするなど様々な効果を発揮する。

また、応用技として吸収した熱エネルギーを逆に放出・拡散させることで、相手の魔法を暴発させたり、回復魔法と合わせて使うことで味方の自然治癒能力を高めたりすることも可能になった。

この特性故、魔法戦だけでなく近接格闘戦でもその威力を発揮し、魔力変換資質『炎熱』との相性も良く、攻撃的な性能を誇っている。

ビー玉の色は紅蓮。

 

真祖(しんそ)

忍の中に投与された吸血鬼の力を発現させた解放形態。

この時の姿は髪が銀髪、両の瞳は血の滴るような深紅へと変わり、八重歯が肥大化と鋭さを増し、背中から1対2枚の蝙蝠の翼が生えた姿となる。

獣形態は黒い体躯に紅い甲殻、深紅の瞳を持つ飛竜(ワイバーン)となる。

これはシャドウによって投与された吸血鬼(真祖)の血に宿る力を引き出して体現化させた形態。

吸血鬼の特性を全面に押し出すような形で具現化されており、真祖としての強大な力や妖力を扱える反面、吸血鬼の弱点をそのまま受けてしまう欠点がある。

日常時ではそれほど問題にはならなくなったものの、解放形態を発動すると一気に弱点を浴びてしまい、特に昼間では活動範囲や能力が著しく低下してしまうこともある。

なので、基本的に解放するなら夜限定になってしまうが、忍は特殊な結界を開発することでその欠点を補おうと研究している最中。

また、不老不死の特性は突然変異化しており、新月の夜以外で部位の欠損が発生した場合、瞬時に再生する化け物じみた特性へと変質してしまっている。

この超速再生能力の特性は新月の夜には発生しないものの、その代わり圧倒的な力の権化と化す副次的な作用を引き起こしている。

この不老不死の突然変異化が何故起きてしまったのかは現時点では不明だが、忍自身は色んなものが混ざり合ったが故に起きた異質化だと推測している。

ビー玉の色は深紅。

 

皇龍(おうりゅう)

忍が捕食した龍騎士と託された始龍の力を発現させた解放形態。

この時の姿は髪が銀髪、両の瞳は黄金へと変わり、その体には白銀の龍の意匠が施された鎧(兜の代わりに龍を模した仮面がある)が纏われ、その背中と臀部からは1対2枚の龍の翼と龍の尾(どちらも白銀の龍鱗で覆われている)が生えた姿となる。

獣形態は白銀の龍鱗で体を覆い、金色の瞳を持ち、周囲に七つの石化した宝玉が浮かび上がった東洋系を思わせる龍となる。

これは忍が捕食した龍騎士をベースに始龍の力を反映させる形で体現化させた形態。

ベースとなっているのは龍騎士のため、龍気を用いた近接格闘能力を基本戦術にしており、拳や蹴りだけではなく龍翼や龍尾をも巧みに使った変幻自在の拳法に加え、ブレスなど龍気を用いた攻撃手段も充実するようになっている。

その他、龍気を用いた新たな攻撃法も考案中であり、様々なドラゴンの特性を研究対象にしている。

さらに始龍から託された力『支配』が備わっている。

この『支配』という力は自らの龍気を取り込んだ対象にのみ効果を発揮し、その対象の内部から龍気で侵食・支配することで自分の意のままに操ったり、対象を内部から破壊するといったことも可能にしている。

現在はこの『支配』という力を能動的に使用するための研究も進めている。

また、胸部、両肩、両手の甲、両膝に存在する宝玉は未だに石化した状態であり、能力の全容は解放陣の中でも唯一判明していない部分がある。

ビー玉の色は黄金。

 

獄帝(ごくてい)

忍と同化した牙狼の力を発現させた解放形態。

この時の姿は髪が漆黒、両の瞳は翡翠へと変わり、体中に漆黒の刻印が浮かび上がった姿となる。

獣形態は漆黒の毛並みと蒼い縞々模様、翡翠の瞳を持つ虎となる。

これは忍と同化した牙狼の中にあった闇の力を引き出して体現化させた形態。

特殊能力『漆黒の闇』が使える。

この特殊能力は魔力を帯状、もしくは穴状に展開することが出来る能力で、その効力は形成した状態によって異なる効果を発揮するというものである。

帯状に形成した場合、物質化してちょっと頑丈な特殊な帯として扱えるため、その使用法は多岐に渡り、移動補助、相手の拘束、防御手段、武器化などといった使い道があり、生成する帯の本数制限も基本的にはないので使い捨てのアイテムとしても機能する。

穴状に形成した場合、相手の術式攻撃を吸収し、他の穴からその攻撃をコピーして撃ち出したりすることが出来る、という風に番外の悪魔に属するアバドン家の『(ホール)』の特性に酷似している。

特異魔力変換資質『黒焔』を発現して扱える唯一の形態でもあり、他の解放形態との同時使用で併用することでしか今は使えずに特殊な力も備わっていない。

それ故にいずれは黒焔も通常形態でも扱え、且つ特殊な力に目覚めるように日々想いを込めて使っている。

ビー玉の色は漆黒。

 

武鬼(ぶき)

忍が託された皇鬼達、鬼の力を発現させた解放形態。

この時の姿は髪が光沢のある純白、両の瞳は真紅へと変わり、額の左右(こめかみ辺り)に2本の角が生え、両腕に有機的でシャープなフォルムの篭手を装着し、十色の宝珠が連なった数珠を首に下げた姿となる。

獣形態は純白の毛並みに真紅の瞳を持ち、両前足に人型形態と同じ篭手を装着して首に数珠を下げた九尾の狐となる。

これは皇鬼の魂と妖力で創られた『皇鬼双腕(こうきそうわん)』を継承したことで体現化した形態。

『皇鬼双腕』とは、皇鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具であり、指先から肘までを覆う有機的でシャープなフォルムをした鬼の力が具現化したような特殊な篭手である。

その手の甲部には宝珠を填め込むためのギミックが仕込まれており、ここに武天十鬼から託された武具『戦術殻(せんじゅつかく)』を填め込むことで、対応した戦術殻の武具を具現化して扱えるように調整が施されている。

基本的には戦術殻による様々な武具による戦闘術で、それらを即時切り替えながら臨機応変に立ち回る必要がある。

ちなみに戦術殻は色で判断出来るようになっており、月鬼は銀色、炎鬼は赤色、雷鬼は黄色、氷鬼は蒼色、水鬼は水色、樹鬼は深緑色、風鬼は薄緑色、地鬼は茶色、鉄鬼は灰色、重鬼は紫色という風に色分けされている。

解放陣の中では能力を得てからの日も浅く、戦術殻もまだまだ扱いきれていないので訓練での使用が多く、実戦ではまだ片手で数える程度しか使われていないのが現状である。

また、皇鬼双腕にはまだ何か隠された底の部分があると忍は直感で感じているが、それが何なのかまではわかっていない。

ビー玉の色は純白。

 

 

戦術殻の一覧。

 

月光神刀(げっこうしんとう)

月鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は片刃の大剣のようなフォルムをした銀の大太刀。

これは月鬼の魂が具現化したような代物で、彼が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性は大太刀故の長いリーチを活かした近接戦にあり、どうしても大振りな攻撃となることが多いもののそれを補うように月鬼の妖術を使用することで隙らしい隙を与えないようにしている。

また、この大太刀には他の戦術殻に封じられた武天十鬼の妖術を引き出す能力が備わっており、これによって通常なら二種までしか発動出来ない戦術殻の妖術を最大数の十種まで発揮することが出来るようになっている。

但し、この能力を使うには全ての戦術殻の特性と妖術を把握し、尚且つ使いこなせていなければならないという制約が存在する。

対応する宝珠の色は銀色。

 

戦輪炎舞(せんりんえんぶ)

炎鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は二本一対の円環状の刀身の真ん中に持ち手となる柄が備わった赤い戦輪。

これは炎鬼の魂が具現化したような代物で、彼が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性は戦輪故の投擲攻撃を活かした中距離戦にあるが、手に持ったまま格闘戦を行うことで円環状の刀身を用いた斬撃にも転用出来、炎鬼の妖術も加味することで破格の突破力を誇る。

また、二本あることで片方を手元に置いてもう片方を投擲するといった使い方も可能にしている。

ちなみに投擲後はブーメランのように手元に戻ってくるようになっている。

対応する宝珠の色は赤色。

 

迅雷蹴兎(じんらいしゅうと)

雷鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は稲妻の意匠を施した足の爪先から膝までを覆う黄色い脚甲。

これは雷鬼の魂が具現化したような代物で、彼が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性は脚甲故の蹴り技主体の近接格闘戦にあり、両手が他の戦術殻で塞がっている時でも使用出来る汎用性は見た目以上に高く、雷鬼の妖術を用いることでその速度にも磨きがかかり、その速度は同時に攻撃力にも転ずることが出来る。

また、脚甲の脛に当たる部分の表面には展開機構が備わっており、そこから大量の雷を放出することも可能。

対応する宝珠の色は黄色。

 

氷紋絶刀(ひょうもんぜっとう)

氷鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は一対の蒼色の長刀と短刀。

これは氷鬼の魂が具現化したような代物で、彼女が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性は異なる刀身の長さと取り回しの良さを活かした高速戦にあり、一撃離脱の戦法と特に相性が良くて氷鬼の妖術と合わせることで相手の手を封じたり、足止めなどの妨害工作にも役立つ。

また、長刀の刀身から冷気を発生させる機能があり、短刀の刀身は長刀よりも硬度が高くなっており、それぞれで仕様や運用法が異なっているのも特徴。

対応する宝珠の色は蒼色。

 

水流鞭技(すいりゅうべんぎ)

水鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は鞭の持ち手となる先端に小さな突起物が備わった水色の柄。

これは水鬼の魂が具現化したような代物で、彼女が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性は普段は柄だけで水場に先端の突起物を浸すことでその水場の水を支配して操る特異性を活かした距離を選ばない変幻自在の戦法にあり、水を固くした上でしなるように扱えば鞭、固定化することで剣にもなる万能武具であるが、水場がないと機能しなくなるという致命的な欠点を持つ。

但し、水場ならなんでも使えるらしく、例えばアクエリアスで創った魔力に満ちた水場でも問題なく利用出来るし、最悪血液での代用も可能。

対応する宝珠の色は水色。

 

樹理錫杖(じゅりしゃくじょう)

樹鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は仕込み刀としても機能する深緑色の錫杖。

これは樹鬼の魂が具現化したような代物で、彼が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性は錫杖で植物に接触したり、音を発することで植物を操る特異性を活かした中距離戦にあり、樹鬼の妖術を併用することで植物を強化・異質化させながら立ち回ることになり、その特性上、簡易拠点作成や防衛との相性が良く、守りに重きを置いたものとなっている。

また、植物が突破されて相手に近付かれたとしても仕込み刀を用いた抜刀術での迎撃が可能。

対応する宝珠の色は深緑色。

 

疾風双刃(しっぷうそうじん)

風鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は両端に刃の付いた薄緑色の薙刀。

これは風鬼の魂が具現化したような代物で、彼女が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性は双刃による手数の多さを活かした近接戦にあり、流れるような連撃と風鬼の妖術を組み合わせることで距離を問わない戦い方が出来るようになる。

また、この薙刀を回転させることで風を自在に発生させることも可能で、使い方によっては緊急回避手段や防御手段としても機能する。

対応する宝珠の色は薄緑色。

 

地轟戦槌(ちごうせんつい)

地鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は半分が円柱状、もう半分が円錐状という特殊な頭を持つ茶色の戦槌。

これは地鬼の魂が具現化したような代物で、彼が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性はその重量を活かしたパワー戦にあり、戦槌の頭を地面に叩き付けることで地鬼の妖術が発動してその地形に合った現象を引き起こす。

但し、一撃一撃は重くて攻撃力も高いのだが、その分小回りが利かずどうしても大振りになる関係上、隙も大きくなりやすい弱点を抱えている。

対応する宝珠の色は茶色。

 

金剛鉄槍(こんごうてっそう)

鉄鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は先端の刃が十文字になっている灰色の槍。

これは鉄鬼の魂が具現化したような代物で、彼が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性は槍の長いリーチを活かした近・中距離戦にあり、突きを主軸にした連撃や一点突破を攻撃の基本にしつつも時折混ぜる斬撃や石突きでの不意打ちなど柔軟な動きも見せることもある。

また、鉄鬼の妖術は肉体硬化の類が多かった関係上、槍を持っている間に妖術が発動する仕様になっているため、槍を手放したり戦術殻を解除すると途端に効果が途切れることになる。

対応する宝珠の色は灰色。

 

重縛戦斧(じゅうばくせんぷ)

重鬼の魂の一部と妖力で創り出された武具。

形状は巨大な扇状の刃と台形型の刀身の頭と長い柄を有した両手持ちの紫色の戦斧。

これは重鬼の魂が具現化したような代物で、彼が生前使っていた妖術も武具を形成している妖力が記憶しており、自在に引き出せる様になっている。

武具としての特性は長めのリーチとその攻撃力を活かしたパワー戦にあり、攻撃の際に超重力の妖術を加味することで重量を倍以上にすることで破壊力に優れた一撃を加えることが可能。

また、反重力の妖術を用いることで見た目以上に軽く扱え、攻撃を仕掛けた時に妖術を解除することで元の攻撃力を維持したまま攻撃を繰り出せるようにもなっている。

対応する宝珠の色は紫色。

 

 

覇神拳(はじんけん)

忍が烈神拳と邪神拳を融合させて編み出した新たな拳法流派。

烈神拳の四つの力を同時に行使する拳法をベースに龍気を混ぜることで五気を同時に行使する拳法へと昇華させ、そこに邪神拳の殺戮に特化しつつも完成度の高い技を取り込むことで、より完成度の増した技を繰り出せるようになった。

基本的には烈神拳の技に龍気を加えて研磨した技が多いが、そこに邪神拳の技や忍独自に編み出した技などを加味させることで破格の近接格闘能力を獲得している。

また、近接格闘のみならず、防御技や砲撃技といった距離に拘らない柔軟性も併せ持っており、必ずしもクロスレンジで効果を発揮する技だけではないことが窺える。

 

 

紅神流煌剣術(べにがみりゅうこうけんじゅつ)

忍が叢雲流魔剣術と紅流・羅刹剣術を融合させて編み出した新たな剣術流派。

叢雲流の四つの型を参考に紅流の殺戮に特化しつつも完成度の高い技を取り込むことで、より完成度の増した技を繰り出せるようになった。

忍の使う剣術は普通の刀をベースにしているが、ファルゼンの斬艦刀や七星狼牙を用いた変則七刀流を操る関係上、既存の型に囚われない柔軟性を求めており、かなり自由な刀術へと変質してしまった。

この結果、型はあってないようなものとなり、状況に応じた即応性に優れた破天荒な刀術へと昇華している。

しかし、その攻撃力は侮れなく、斬艦刀を用いた力押しや破壊特化、七星狼牙を用いた手数や技巧など、使う刀の特徴に合わせて千変万化するように様々な形で立ち回ることが出来るようになった。

また、理力の型に関しては色々と応用が利く都合上、この剣術以外でも使うようにしている。

 

 

七星狼牙(しちせいろうが)

鬼神界に伝わる七つの『牙』の新たな総称。

七つの牙が揃い、一人の使い手に委ねられることなど今までなかったため、牙の銘を考える必要があった。

刀の姿は言わば仮の状態であり、その真価はそれぞれ本来の武具の姿にある。

この解放された武具の状態を便宜上『真霊解放(しんれいかいほう)』と呼称する。

この真霊解放は解放陣と密接な関わり合いがあるらしく、通常形態では真霊解放をすることが出来ないが、対応した刀の解放陣を発動させた場合にのみ真霊解放も発動可能となる。

この理由は解放陣と牙の波長の合致に由来すると思われる。

 

真狼牙(しんろうが)

真狼に対応した牙。

形状は刃渡り三尺、刀身の色は漆黒、柄と鞘の色は白銀の刀。

真霊解放は右は白銀、左は漆黒の二刀となる。

これは左右の刀で異なる特性を持っており、さながら真狼を形成する銀狼と黒狼の力と似ている。

右の白銀の刀はその軽さと鋭さから攻撃に適した仕様となっており、逆に左の漆黒の刀はその重さと頑丈さから防御に適した仕様となっている。

左右で重さが異なるからバランスが取りにくいものの、慣れれば重さなど関係なく扱える様になる。

 

絶氷牙(ぜっひょうが)

雪羅に対応した牙。

形状は刃渡り三尺、刀身の色は白く、柄と鞘の色は瑠璃の刀。

真霊解放は瑠璃色の弓となる。

これは周囲の冷気を収束して矢とする能力があるため、矢が付属していない。

弦を引く力によって収束率が変わり、細かい調整も出来る上、場合によっては収束砲撃級の矢を撃ち出すことも可能としている。

また、絶氷牙に対応する雪羅は常に髪から冷気を溢れ出す関係上、矢が尽きることはなく事実上、無制限での使用が可能となる。

 

焔帝牙(えんていが)

煌冥に対応した牙。

形状は刃渡り三尺、刀身の色は白銀、柄と鞘の色は紅蓮の刀。

真霊解放は紅蓮の三節棍となる。

これは七星狼牙の中でも扱いが難しい反面、使いこなせれば攻守における新たな手札となる。

関節部から一本一本を外したり、一直線に伸ばすことで一本の棍棒にもすることが可能で、それらを自在に切り替えることでクロスレンジからミドルレンジまでの距離に対応出来る。

また、棒の先端部には紅蓮の焔を灯してそれを刃状、もしくは別の形に形成することも可能にしている。

 

深紅牙(しんこうが)

真祖に対応した牙。

形状は刃渡り三尺、刀身の色は白銀、柄と鞘の色は深紅の刀。

真霊解放は深紅の篭手と足具となる。

これは篭手と足具に妖力を溜め込む機能があり、常に一定以上の力を発揮することが出来る。

真祖の膨大な妖力との相性も良く、その攻撃力は七星狼牙の中でも随一とされる。

また、この篭手と足具には表面のパーツが一部展開する機能が備わっており、溜め込んだ妖力を一気に解放して一種のバースト状態を引き起こして能力を飛躍的に高める効果がある。

 

滅龍牙(めつりゅうが)

皇龍に対応した牙。

形状は刃渡り三尺、刀身の色は漆黒、柄と鞘の色は黄金の刀。

真霊解放は一対の黄金の長さ1.5mくらいの細長い直方体をベースに上部は宝玉を填め込むようなくぼみのある楕円形の鍔のような形状となっていて、下部先端には砲口のようなものが備わった特殊な槍状の武具となる。

これは普段、両肩付近に浮遊する形で停滞しており、忍の意思で自由に操作することが出来る。

左右で役割が異なっており、右は近接攻撃と牽制を司り、左は砲撃と防御を司っている。

右側は鍔の宝玉を填め込むくぼみの周りから龍気で練られた複数の触手を発生させ、先端の砲口からは龍気を収束させたブレードを発生させることが出来る。

左側は鍔の部分を中心にして龍気で練られた障壁を発生させ、先端の砲口からは龍気を収束させた砲撃を撃つことが出来る。

 

獄帝牙(ごくていが)

獄帝に対応した牙。

形状は刃渡り三尺、刀身の色は白銀、柄と鞘の色は漆黒の刀。

真霊解放は一対の漆黒の巨大な曲刀となる。

これは一見すると鳥の嘴を巨大化させたような感じの曲刀となっており、その硬度はかなり頑丈になっているのでちょっとやそっとじゃ傷つかない特性を持つ。

その特性を活かして防御魔法や武器などの破壊を得意とする他、防御手段としてもかなり有効である。

漆黒の闇との相性も良く、帯状にした漆黒の闇で投擲した曲刀を回収したり、帯状の漆黒の闇を柄の部分に接続させることである程度の操作も出来るようになる。

 

武天牙(ぶてんが)

武鬼に対応した牙。

形状は刃渡り三尺、刀身の色は漆黒、柄と鞘の色は純白の刀。

真霊解放は円盤型の盾の左右に両刃の大剣仕様の刀身が2本伸びた純白の盾剣となる。

これは皇鬼も解放して使っていたもので、その性能は忍自身が肌で実感していた。

皇鬼が剛の持ち主だったのに対し、忍は柔の持ち主なのでそもそもの運用法が異なっている。

盾部は真正面から受けるのではなく力の流れを逸らし、刀身部は豪快な薙ぎ払いではなく堅実な斬撃や突きを心掛けるようにしている。

 

 

神威(かむい)

皇鬼から託された、彼の愛刀。

形状は刃渡り三尺、刀身の色は漆黒、柄と鞘は緋色、鞘や鍔には凝った装飾が施されている。

特殊な能力は一切無いが、戦乱期の鬼神界において皇鬼と共に戦場を駆け抜けた業物。

皇鬼曰く『自分に何かあり、鬼神界の未来に陰りが見えた時、自分の認めた者にこの刀を継承させたい』とのことで、忍の言動から鬼神界の未来を察した皇鬼によって忍へと継承された。

 

 

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・メインヒロイン

 

名前:明幸(あさき) 智鶴(ちづる)

 

容姿:腰まで伸ばした金髪と右は茶、左が丹色のオッドアイを持ち、優しそうな雰囲気を纏った綺麗な顔立ちをしている

大人顔負けの豊満でグラマラスな体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:167cm

スリーサイズ:B91/W59/H89

 

年齢:17歳

 

気:AA+

 

趣味:しぃ君を慰めること、しぃ君に(良くも悪くも)世の中をを教えること

 

好きなもの(事):しぃ君

 

嫌いなもの(事):しぃ君が虐められること

 

性格:ほんわかやんわりとしたマイペースな性格だが、発想や考えはかなり物騒な方面に展開する

 

備考:本作のメインヒロイン。

駒王学園3年生。

容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能とまさに理想を描いたような人物なのだが、一つ年下で居候している『紅神 忍』に対してこれでもかと言うほどに甘いのが玉に傷。

その忍のことを『しぃ君』と呼んでかなり溺愛している。

家は極道であり、駒王町でもそれなりに名の通っている。

そのせいで発想や考えが物騒な方面に行きがちになってしまっており、一般常識から多分にズレている。

また、嗜みらしく護身用に合気の心得がある。

同じ学年のリアル・グレモリー、姫島 朱乃、支取 蒼那、真羅 椿姫とも交流があり、リアス・朱乃と共に『駒王学園の三大お姉さま』とも呼ばれているが、忍のことを溺愛してることが多いことから別名『紅神のお姉さま』とも呼ばれている。

 

忍と離れたくない一心からか、エクセンシェダーデバイス『ディメンション・スコルピア』の所持者となる。

 

後に忍の眷属、女王となる。

 

 

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・曖昧な立ち位置その1→ヒロイン候補

 

名前:カーネリア

 

容姿:背中まで伸ばした翠色の髪と緋色の瞳を持ち、妖しい雰囲気を纏った綺麗な顔立ちをしている

体型はグラマラスで、どこか蠱惑的な魅力の持ち主

堕天使としての翼の枚数は3対6枚

 

種族:堕天使

 

性別:女

 

身長:165cm

スリーサイズ:B91/W60/H90

 

年齢:不明(見た目は十代後半から二十代前半くらい)

 

光の色:黒

 

趣味:特に無い

 

好きなもの(事):騙されてくれる人々、自分以外の純粋な破壊衝動

 

嫌いなもの(事):儚い命

 

性格:表面上は明るく物事をハッキリと色んなことを口にする性格だが、その本性は自由気ままで嗜虐的な一面を持った純粋な破壊衝動の塊である

 

備考:非合法悪魔祓い組織"教会"の一員。

普段はレイナーレを含め、堕天使達の仲間を装っているが、周りはおろかレイナーレ達でさえも気づかせない程、巧妙にその本性と力を隠し通している。

また、翼の枚数は本来3対6枚なのだが、レイナーレ達が警戒するのをつまらなく思い、同格の1対2枚しか見せていない。

なお、レイナーレ達の事は暇潰しを提供してくれる玩具程度にしか考えておらず、単独で動くことも多い。

純粋な破壊衝動に強く興味を示す節があるが、今のところそういった破壊衝動を持つ人物に会ったとしても純粋さに欠けるとして自らの破壊衝動のままに陰ながら潰している。

駒王町が悪魔の領域であることは承知しており、その上で悪魔陣営やはぐれ悪魔などを観察していることもある。

特にはぐれ悪魔は破壊衝動を持つ者もいるのだが、基本的には欲に駆られただけの存在なのでそんなに期待もしていない(場合によっては手を下すこともあるが、それも内密にである)。

現在は駒王町で散策中の際に擦れ違った一組の男女に興味を抱いている模様。

その男女とは忍と智鶴である。

後者は暗くも純粋さに満ちた歪み寸前の愛情、もしくは情欲に興味を抱き、前者は悪魔とも天使とも堕天使とも違う種の底に眠る何かを感じたからである。

 

後に明幸組に匿われる形で屋敷に居候することになる。

忍に続く居候2号。

 

後に忍の眷属、戦車の1人となる。

 

 

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・曖昧な立ち位置その2→ヒロイン候補

 

名前:暗七(あんな)

 

容姿:腰まで伸ばした黒髪と黒い瞳を持ち、西洋人形のように綺麗で整った顔立ちをしている

全体的に均等の取れたプロポーションの持ち主

 

種族:人間(改造)

 

性別:女

 

身長:155cm

スリーサイズ:B87/W58/H88

 

年齢:16歳

 

魔力光:黒

 

魔力:AA+

 

気:S

 

妖力:SS

 

趣味:特に無い

 

好きなもの(事):特に無い

 

嫌いなもの(事):特に無い

 

性格:基本的に自由奔放で何事にもクールな対応をする性格だが、根は真面目で面倒見の良い一面も持っている

 

備考:シャドウの補佐を行う少女。

元々は孤児だったが、シャドウに引き取られて研究の被験体にされた過去を持つ。

被験体としての番号はNo.7であり、シャドウからいつも番号で呼ばれている。

その体内には『(ぬえ)』と呼ばれる凶悪な妖怪の力が宿っており、人の身にして妖力を持った稀少な存在の上、本人は元々リンカーコアも保有していたため魔法も使える。

長年、シャドウの研究に付き合ってきたため、魔物や妖怪、悪魔などの知識は豊富。

戦闘要員としても優秀で、自らの肉体を妖力によって変異させることで状況に応じた様々な戦法を取れる。

ミッドやベルカの魔術体系を持たないが、魔法の扱いにも長けていて闇黒系の魔法を駆使する。

シャドウの補佐としてだけではなく、護衛としての意味合いも強い。

現在は蠍座の適合者を捜していた。

 

蠍座の適合者の智鶴を発見後、共に行方をくらました。

その後、紆余曲折を経て明幸組の居候3号となる。

 

後に忍の眷属、兵士の1人となる。

 

第六十話にて自身の中にある鵺の力を引き出し、その存在と近くなる。

さらに鵺は暗七の肉体の主導権を狙っている。

 

 

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・ヒロイン候補

 

名前:神宮寺(じんぐうじ) フレイシアス

 

容姿:腰まで伸ばした白に近い桃色の髪と琥珀色の瞳を持ち、可憐で綺麗な顔立ちをしている

体型は標準的に見えるが、着痩せするタイプで見た目よりもスタイルは良い

 

種族:冥族と人間、妖怪の混血

 

性別:女

 

身長:155cm

スリーサイズ:B86/W57/H87

 

年齢:16歳

 

魔力光:緋色

 

魔力:SSS

 

気:B-

 

霊力:SS

 

妖力:AA

 

趣味:料理、手芸

 

好きなもの(事):甘いスイーツ、稲荷寿司

 

嫌いなもの(事):戦争、争い事

 

性格:心優しく一歩引いた感じの淑やかで穏和な性格だが、しっかりとした芯の持ち主で強かな一面もある

 

備考:禍の団『冥王派』に属する少女で、紅牙の実の妹。

愛称は『シア』。

生まれながらにして高い魔力と霊力を有しており、紅牙に勝るとも劣らない実力を秘めている。

しかし、兄に比べると運動が苦手であり、前衛よりも後衛で真価を発揮するタイプ。

事実、前線で戦うよりも後衛からの援護を得意としており、魔法や仙術、霊術、妖術などと言った術関係にかなり強い才能を持っている。

悪魔から追いやられた冥族のためにテロへと加担する兄を心配し、同じ罪を背負う覚悟で禍の団に入っている。

しかし、内心では昔の優しかった兄に戻ってほしいとも考えており、誰か兄を止めてくれないかと日々願っている。

そんな中、多次元世界の一つである雪と氷の世界『ブリザード・ガーデニア』で紅神 忍と出会う。

天狐の力を解放すると髪は金色、瞳はエメラルドグリーンに変化し、頭から狐の耳と臀部から九本の狐の尻尾が生えた姿となる。

冥王としての姿は背中から3対6枚の緋色の翼を生やし、髪が鮮やかな紅色、瞳が茜色へと変化した姿となり、冥王スキル『スカーレット・ソーサラー』が発現する。

『スカーレット・ソーサラー』とは、自らの保有する魔力、気、霊力、妖力を焔へと変換し、それらを媒介にして多種多様な術を展開する能力で、一度に性質の異なる四つの術を同時に展開したり、それらの術を組み合わせて強力な術へと昇華させることが可能。

魔力変換資質『炎熱』を保有している。

 

後に忍の眷属、僧侶の1人となる。

また、明幸家の居候4号と化す。

 

 

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名前:雪白(ゆきしろ) 吹雪(ふぶき)

 

容姿:腰まで伸ばした白に近い水色の髪と紫色の瞳を持ち、母に似て少し凛とした綺麗な顔立ちをしている

肌は色白で程良い肉付きの標準的な体型

堕天使としての翼は3対6枚

 

種族:雪女と堕天使のハーフ

 

性別:女

 

身長:157cm

スリーサイズ:B85/W59/H84

 

年齢:17歳

 

魔力光:白に近い水色

 

魔力:S-

 

妖力:AA+

 

趣味:氷風呂に入ること、スノーボード

 

好きなもの(事):アイスやかき氷

 

嫌いなもの(事):熱に関するモノ全般

 

性格:表面上は強気で活発な性格だが、根は恥ずかしがりの照れ屋で素直になれない

 

備考:セラールと氷姫の間に生まれた少女。

極寒の世界であるブリザード・ガーデニアの中で地球の夏服で過ごしている程の強者。

父親に連れられて訪れた地球でスノーボードにハマってしまい、服以外の一式を買い揃えている。

故郷に戻ってからはフリースタイルのスノーボードに興じており、その技術や腕前はかなり高い。

また、隔世遺伝によって冥王としての力に目覚めており、雪女の里の中では貴重な戦闘要員として期待されている。

冥王派の禍の団が襲撃してきた時も前線で氷姫と戦っていたが、氷姫とは分断されてしまった。

その後は、禍の団が退くまで一人で戦っていた。

そして、戦いの後に忍が従兄弟であることを聞き、なんて反応していいのか困惑するのであった。

それと同時にもっと困惑する事実もあった。

冥王としての姿は堕天使の翼が黒から蒼へと染まり、髪が瑠璃色、瞳は紅く変化した姿となり、冥王スキル『スノーウィザード』を発現する。

『スノーウィザード』とは、自らの保有する魔力と妖力を冷気へと変換し、それらを媒介にして氷を自在に操る能力であり、周囲の水分を凝結させて氷を作って飛ばしたり、地面の中にある水分を集めて地面から氷の槍を生み出すなど汎用性に富んでいる。

また、負傷しても自らの血を凝結させて武器にすることも出来るが、体内の血も凝結させてしまう危険性もある。

魔力変換資質『凍結』を保有している。

 

明幸家の居候5号と化している。

 

後に忍の眷属、兵士の1人となる。

 

 

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名前:叢雲(むらくも) 萌莉(めいり)

 

容姿:腰まで伸ばした紺色の髪と薄紫色の瞳を持ち、未だ幼さが残る可愛らしい顔立ちをしている

髪型は大きな水色のリボンでポニーテールに結っている

体型は顔に似合わない豊満な肉体の持ち主

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:159cm

スリーサイズ:B89/W58/H88

 

年齢:17歳

 

魔力光:翠色

 

魔力:S

 

気:AA-

 

趣味:召喚獣の世話

 

好きなもの(事):ぬいぐるみ、動物、召喚獣

 

嫌いなもの(事):オバケ、動物を傷つける人、争い事

 

性格:物静かで人見知りする引っ込み思案な性格だが、根は優しく面倒見の非常に良い一面を持っている

 

備考:駒王学園2年生で、叢雲流魔剣術という流派の後継者。

幼少の頃から家に代々伝わる剣の修行をしているため、それなりに戦う術を持っているのだが、本人は過去のある出来事から争い事や人を傷つけることを嫌っている。

それでも修行を続けているのは"悪い人達から召喚獣を守りたい"という一心からである。

両親は既に他界しており、中学までは祖父母に面倒を見てもらっていたが、高校生になるのを機に一人暮らしを始めており、召喚獣も一緒に生活している。

実家は道場を管理しており、今は先々代である祖父が管理しているため、よく稽古などで使っていた。

9歳の頃、道場に迷い込んだ一匹の召喚獣を保護したことが切っ掛けとなって召喚師としての才能を開花させた。

しかし、その数日後に召喚獣を追い掛けてきた密猟者に(さら)われてしまい、助けに駆けつけてくれた召喚獣を目の前で殺されてしまった辛い経験をしている。

その後、遅れてやってきた祖父によって萌莉自身は助けられ、密猟者は逃亡してしまった。

その一件以降、彼女は家族と召喚獣にしか心を開けないようになってしまい、地元の学校では卒業するまで浮いた存在となってしまった。

祖父の計らいや祖母の優しさから多少は人と話せるようになったものの、それでも心の傷が完全に癒えたわけではないので、新しい学校でも浮いた存在となって一年を過ごしてしまった。

そんな中、2年生の二学期が始まった頃にリディアン音楽院の学祭へと召喚獣を連れて行った際にファーストが迷子になり、それを見つけてくれた忍達と出会う。

 

そして、忍に叢雲流魔剣術を教えることとなった。

 

後に忍の眷属、騎士の1人となる。

 

 

現在、一緒に暮らしている召喚獣は以下の通りである。

ちなみに召喚獣は全て雌である。

 

『ファースト』

白く幼い体躯に紅い瞳を持った幼龍。

西洋竜の子供をデフォルメしたような外見をしており、ぬいぐるみと間違われることもある。

幼いから未だ『きゅ』しか喋れない。

 

『セカンド』

白い渦巻き模様の入った深緑色の甲羅に薄緑色の体躯、黒い瞳を持った亀。

 

『サード』

白と水色の縞模様の体躯と紫色の瞳を持った蛇。

 

『フォース』

白と紺色の羽衣と朱色の瞳を持った小鳥。

 

『フィフス』

白と黄色い毛並みと青い瞳を持った子猫。

 

 

 

叢雲流魔剣術(むらくもりゅうまけんじゅつ)

始祖『叢雲(むらくも) 竜也(りゅうや)』から始まった魔法と剣術を組み合わせた特殊な流派。

基本となる型は四つあり、着目すべき点は個々の型に備わった能力にある。

また、剣術の方は日本刀をベースにしているため、抜刀術に転用が可能になっている。

ちなみに叢雲家の家訓は『基礎さえしっかりしていれば派生技など自然に身に付く』であり、この流派を象徴する言葉でもある。

 

『魔刀の型』

近接格闘と射撃魔法に長けた型で、斬撃や魔法を時間差や同時に繰り出すなど使い方は人によって違えど汎用性に優れているのが特徴。

 

『砲撃の型』

砲撃戦に長けた型で、刺突、もしくは上段からの斬撃時に刀身に魔力を込めることで対象物に向かって砲撃を放つのが特徴。

 

『防御の型』

防御する事に長けた型で、鞘、もしくは抜身の刀身を利用してバリア、シールド、フィールドの三種の防御魔法を使い分けて展開するのが特徴。

 

『理力の型』

叢雲流魔剣術の象徴的な型で、叢雲の人間以外には使えない特別な型でもある。

しかし、始祖の叢雲 竜也曰く『世の中、絶対なんて言葉はない。いずれ例外が誕生するから楽しみにしているように』と言い残しており、その"例外者"が現れた時には必ず"理力の型"も教えるように代々の後継者に言い伝えられている。

この型、最大の特徴は剣術に非ず、使い手の能力にある。

その能力とは内にある魔力を応用して簡単な予知能力やテレキネシスなどを行使することであり、その使い方は使う者の資質によって千差万別である。

 

 

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名前:流星(ながほし) 朝陽(あさひ)

 

容姿:腰まで伸ばした金髪と翠色の瞳を持ち、可愛らしい顔立ちをしている

髪型は黒いリボンでポニーテールに結っている

均等の取れていながら出るとこはしっかりと出てる体型の持ち主

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:164cm

スリーサイズ:B89/W59/H88

 

年齢:16歳

 

魔力光:浅黄色

 

魔術式:ベルカ式

 

デバイス:ヴェルセイバー(アームドデバイス)

 

魔力:AAA

 

気:SS

 

趣味:読書、調べ物

 

好きなもの(事):魚、高い所から見る景色

 

嫌いなもの(事):ぐずぐずしてる人、いつまでもいじけてること

 

性格:常に強気で負けず嫌いな性格だが、正義感が強くて真っ直ぐで面倒見の良い一面もある

 

備考:時空管理局所属の女騎士で、特殊任務のスペシャリスト。

階級は二等空尉。

気性のせいか、あまり周りとは馴染めないために一人で実行することの多い特殊任務に回されているが、その実力は本物である。

使う戦術は効率を重視して一点突破が多いが、実力とデバイスの特性からそれを楽々やってのける。

また、これでも寂しがり屋な部分もあるが、それを表に出すことはないようにしている。

名前から察するに地球の日本出身であるが、物心付いた頃には騎士としての訓練をしていたため地球の何処が故郷なのかは知らないし、あまり興味もないらしい。

家事は管理局での寮生活から人並みには出来るが、いつ任務が言い渡されるかもわからないので簡単に済ませることが多く、すぐに食べられるような簡易食料を買い溜めている。

新型の試作デバイス輸送の護衛任務を任されて地球へとやってくるが、何故試作機を地球に持っていくのかは疑問を抱いている模様。

 

その後、何度か忍達と行動を共にすることが多くなり、第三十七話にて忍の騎士として紅神眷属入りするが、彼女自身は独自の行動を取らせてもらうと宣言している。

 

 

デバイス:ヴェルセイバー

 

形状:鍔の部分に特殊なギミックを施した片手剣

 

待機状態:流れ星を模したペンダント

 

搭載システム:通常のカートリッジシステムに加え、エレメントカートリッジシステムを搭載している

管制人格は女性型で明るくノリの良い性格で、愛称は『セイバー』

 

備考:朝陽の所有する試作型アームドデバイス。

新しいカートリッジシステムの実験用として開発された試作機だが、既存のデバイスとも互角に渡り合える性能を有し、使い手である朝陽によってその性能は十二分に発揮されている。

鍔の部分はリボルバー拳銃のような回転式弾倉とトリガーを取り付けた特徴的な形状をしており、それがこのデバイス最大の特徴でもある。

自身のタイミングでカートリッジを消費することで魔法による強化やデバイス変形などの動作を迅速且つ的確に行うことを主眼に置いて設計されている。

但し、変形は声に出して管制人格がそれを選択する必要がある。

回転式弾倉は6発式になっている。

カラーリングは刀身が銀、鍔と柄が赤と黒で彩られている。

『エレメントカートリッジシステム』とは、属性付加用の魔力を薬莢内に貯蔵した特殊カートリッジ『エレメントカートリッジ(通称EC)』を使用するためのシステムで、現在のところ『炎熱』、『電気』、『凍結』の魔力を使用する事が出来る。

但し、このECは魔力変換資質保有者の協力が必要であり、特に凍結に関しては保有者の関係上、その数が最も少なく使用には唯一制限が設けられている。

また、カートリッジシステムの発展系故にの通常のカートリッジの使用も可能になっている。

バリアジャケットは身体全体を包む黒いレオタードの上に胸部、肩部、腕部、腰部、足部の各部に赤いプロテクターを着け、足には赤いショートブーツを履き、その上から白いマントを羽織った姿になっている。

 

 

第一形態『ブレードフォーム』

ヴェルセイバーの基本形態。

主に近接戦闘で使用され、朝陽が最も使用する形態でもある。

 

第二形態『バイパーフォーム』

刀身が蛇腹状の連結刃に変形する変化形態。

主に中距離戦闘で使用されるが、朝陽の戦闘スタイルでは補助的な意味合いが強い。

 

 

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名前:エルメス・ファル・イーサ

 

容姿:膝裏まで伸ばしたプラチナブロンドの髪とサファイアブルーの瞳を持ち、歳不相応な可愛らしい顔立ちをしている

華奢で細く凹凸の少ないロリ体型

 

成龍時の場合、母親譲りの綺麗な顔立ちに肉感的で豊満な体型となる

 

種族:人間と幻龍のハーフ

 

性別:女

 

身長:140cm(165cm)

スリーサイズ:B74/W55/H78(B90/W59/H88)

()内は成龍としての数値

 

年齢:17歳

 

魔力光:純白

 

魔術式:ドラゴニック式

 

魔力:AA(SSS)

 

気:B(S)

 

龍気:A+(SS)

 

()内は潜在的な数値

 

趣味:料理、手芸

 

好きなもの(事):母親、平和

 

嫌いなもの(事):帝国、戦争、殺戮

 

性格:礼儀正しく自愛の心を持った心優しい性格だが、時として頑固な一面もある

 

備考:反帝国活動に参加しているイーサ王国の王女様。

父親である国王はエルメスが小さい頃に他界しており、母親のシルファーが女王として帝国とたたかっている姿を見て自分にも何か出来ないかと自らの意志で反帝国活動に参加している。

反帝国活動での主な仕事は魔法による怪我人の手当てや看護、料理、癒しを担当している。

人間と幻龍のハーフ故か、普段は『幼龍形態』と呼ばれる幼女の姿で生活している。

しかし、潜在的な能力は高く、未熟ながらも『成龍形態』と呼ばれるお姉さんの姿への変身も可能としているが、未だオリジナルのドラゴニック式を完成させていない。

エルメスの先天属性は母親と同じく『天空』が判明しているが、それ以外は未だ不明となっていて術式開発は難航している状態と言える。

シルファーが連れ帰ってきた少年の看病を担当しており、最近では毎日その様子を見に部屋へと足を運んでいる。

 

第四十八話に戦車として紅神眷属入りした。

その後は次元を越えて明幸家に居座っている。

 

第六十話にて先天属性が『天空』、『疾風』、『鉄壁』、『森緑』、『封印』の五つと判明した。

 

 

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名前:ティラミス・イリス

 

容姿:胸元辺りまで伸ばした黒髪と茶色の瞳を持ち、少しだけ幼さの残る可愛らしい顔立ちをしている

髪型は大きな赤リボンで小さなポニーテールに結っている

スレンダー以上、豊満未満な程良い肉付きをした標準的な体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:158cm

スリーサイズ:B85/W56/H86

 

年齢:16歳

 

魔力光:桜色

 

魔力:AA(S+)

 

気:A(AAA-)

 

()内はリミッター解除時の数値

 

趣味:編み物

 

好きなもの(事):可愛い物、少女漫画

 

嫌いなもの(事):節操のないこと

 

性格:おっとりした優しい性格だが、天然で少しばかり世間知らずな部分がある

 

備考:時空管理局所属の魔導師で新人局員。

階級は三等陸士で、所属は地上本部の情報処理課の一つ。

普段は端末に向かって事務的な情報処理を行っており、同じ班のお茶くみ係をしている。

事務仕事ばかりしているからわからないが、運動神経は良く気の扱いも人並み以上に上手い。

魔導師なのでデバイスも所持しているが、護身用としての意味合いが強いハンドガンタイプのストレージデバイスである。

少女漫画を愛読しており、よくある少女漫画的な出会いや恋愛などに憧れている節がある。

手先が器用で、よく編み物をして時間を潰しているが、特に渡す相手もいないため自分で可愛いものを作ることに留めている。

局員の1人を紅神 忍のミッドチルダ案内役として派遣してほしいとのゼーラからの要請を受け、ちょうど手が空いていた彼女が派遣されることになった。

 

第六十七話にて紅神眷属入りを果たす。

 

 

デバイス:ヴェルブラスター

 

形状:ハンドガン

 

待機状態:表面に翡翠の宝石が付いたバレッタと複数枚のカード

 

搭載システム:NC、EC、パッケージシステムを搭載

管制人格は女性で控え目で大人しく理知的な性格で、愛称は『ヴェル』

 

備考:ティラミスが元から持っていたハンドガンタイプのストレージデバイスを試作中だった射撃用デバイスのフレームを使って強化したアームドデバイス。

よりティラミスに合わせたセッティングに調整されているが、ティラミス自身が実戦経験が少ないこともあり、未だ未調整な部分も多々ある。

カートリッジもECに対応するようになり、属性魔法の発動も容易となった。

カートリッジの運用方式は7発仕様のマガジン式となっている。

特殊ギミックとして銃身上部にはカードスキャン用のカードリーダーが備わっており、パッケージを使う際に必要なギミックとして設けられている。

カラーリングは全体的にライムグリーン基調になっている。

バリアジャケットは新調され、上に薄い翠色のノースリーブを着て、下に緑色のロングスカートを穿き、その上からスカートと同じ色の緑色の長袖のジャケットを羽織り、両足に黒のローヒールを履いた姿となる。

 

『パッケージシステム』

ヴェルブラスター専用に開発されたシステムで、『パッケージ』と呼ばれる専用の後付け装備を運用するために必要なものである。

これは忍に渡されたアステリアのツールメダルシステムを参考にしており、ティラミスの戦闘技能に合わせる形で開発した射撃用パーツを本体であるハンドガンに直接接続、もしくは照準システムへのリンクを行っての運用を前提としている。

ツールメダル同様に普段はカード状となって所持者の手元に置き、必要に応じてヴェルブラスターのカードリーダーを通して装備を展開する形となる。

 

 

『パッケージ』は以下の通りである(物語の進行によって追加あり)。

 

『ロングパッケージ』

銃身に延長用のロングバレルとスコープを追加した狙撃用パッケージ。

これはミドルレンジからロングレンジに対応するための装備で、単純な射程の拡大と精密な射撃を可能にしている。

本体であるヴェルブラスターをベースにバレルやスコープを追加しているため、魔法の発動も当然ながら可能になっている。

また、魔力弾の連射も可能にしている。

ティラミスの特性を測るための基本パッケージの一つとして開発された。

 

『バスターパッケージ』

長大な砲身パーツにハンドガンを接続する砲戦用パッケージ。

これはロングレンジでの砲撃戦を想定した設計になっており、一撃の威力を重視している。

本体であるヴェルブラスターの銃身を砲身内にセットすることで待機状態となり、カートリッジを一発消費することで魔力弾を形成し、砲身内で威力を高めながら発射するという仕組みになっている。

連射が利かない分、一撃の威力は申し分ない。

但し、このパッケージではその構造上、魔法の発動にカートリッジを使用することは出来ないようになっている。

ティラミスの特性を測るための基本パッケージの一つとして開発された。

 

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名前:ラピス・シルフォニア

 

容姿:胸元辺りまで伸ばした桜色の髪と空色の瞳を持ち、可愛らしい顔立ちをしている

少しスレンダー気味だが、中身はそれなりに詰まってる体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:154cm

スリーサイズ:B82/W54/H83

 

年齢:15歳

 

魔力光:銀色

 

魔術式:近代ベルカ式

 

魔力:SS

 

気:AA+

 

趣味:魔法の探究、読書

 

好きなもの(事):辛い物、自由

 

嫌いなもの(事):重たい空気、束縛されること

 

性格:何事にも積極的、明るく活発でポジティブな性格

好奇心旺盛な部分もあるため、よく揉め事にも首を突っ込んでしまうトラブルメーカー気質

 

備考:ミッドチルダの首都『クラナガン』に住む名門魔法一族の少女。

首都郊外にある『フィクシス魔法学園』の高等部1年生。

学園での成績は名門の名に恥じず実技・講義共に優秀で運動神経も抜群の優等生。

ただ、色々と首を突っ込みたくなるタイプのようで厄介事に自ら飛び込むようなトラブルメーカー気質も合わせ持っている。

また、同じクラスに魔法に対して非凡な才能を持つ同級生『シルフィー・スフィーリア』がいるため、何かと勝負を持ち掛けることが多く互角の成績を保っている。

彼女の持ち味は家に代々伝わる凍結系魔法を駆使したヒットアンドアウェイの戦法であり、それ以外でも近接戦では我流の格闘技、魔法戦では凍結系魔法を自在に操るなどオールラウンダーなタイプだが、実際の本領は魔法戦にある。

魔力変換資質『凍結』を保有している。

 

第六十七話にて紅神眷属入りを果たす。

 

 

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名前:シルフィー・スフィーリア

 

容姿:腰まで伸ばした赤みがかった銀髪と色素の薄い赤紫色の瞳を持ち、歳相応に可愛らしい顔立ちをしている

髪型は白いリボンを使って首の後ろの方で一纏めに束ねている

体型は同級生と比べると少しスレンダー気味である

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:150cm

スリーサイズ:B79/W54/H82

 

年齢:16歳

 

魔力光:虹色

 

魔術式:ミッドチルダ式

 

魔力:A+(SS)

 

気:B(AAA)

 

()内はリミッター解除時の数値

 

趣味:読書、料理

 

好きなもの(事):平和、家族

 

嫌いなもの(事):慌ただしいこと、目立つこと

 

性格:少し暗い印象のを与える引っ込み思案で人見知りな性格だが、根は優しく面倒見の良い一面を秘めている

 

備考:ミッドチルダの首都『クラナガン』郊外にある魔法学校『フィクシス魔法学園』に通う高等部1年生の少女。

愛称は『フィー』で、家族以外には呼ばせていない。

家族以外にはあまり心を開かず、クラスでも浮いた存在となっている。

しかし、同じクラスの同級生『ラピス・シルフォニア』に成績が似通っていることから目を付けられ、何かと勝負という形で成績比べをしているが、彼女自身は少し鬱陶しく思っている節がある。

だが、結果は互角で特に魔法の実技や講義では一進一退の成績を残している。

暇な時は魔法の教本を読んで暇を潰していたり、家事の手伝いをしたりなど理知的且つ家庭的なイメージがある。

運動神経は悪くないものの、本領は後衛からの魔法戦が得意であり、攻撃魔法から防御、補助、移動など使用魔法の種類は多岐に渡る。

それらを上手く活用することでラピスとも互角に競っているが、真の力は姉妹揃った時の連携にある。

前衛担当の姉『ラト・スフィーリア』との連携は学園内での屈指の実力を持つが、学年が違うこともあって組むことは出来ないが、一度だけ学年合同授業で見せた連携は見事の一言に尽きる。

 

第六十七話にて紅神眷属入りを果たす。

 

 

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名前:ラト・スフィーリア

 

容姿:胸元辺りまで伸ばした青みがかった銀髪と色素の薄い青紫色の瞳を持ち、可愛らしくも綺麗な顔立ちをしている

体型は姉らしくシルフィーよりも一回りくらい豊かにした感じである

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:158cm

スリーサイズ:B86/W56/H85

 

年齢:16歳

 

魔力光:虹色

 

魔術式:近代ベルカ式

 

魔力:B(S-)

 

気:AA(SS)

 

()内はリミッター解除時の数値

 

趣味:シルフィーと一緒に居ること

 

好きなもの(事):平和、家族、シルフィーの料理

 

嫌いなもの(事):誰かを苛める人、平和を乱すこと

 

性格:明るく活発ながらも自他に対してちょっとした厳しさも持ち合わせているしっかり者な性格で、心優しい母性を感じさせる一面もある

妹のシルフィーを可愛がっている

 

備考:ミッドチルダの首都『クラナガン』郊外の『フィクシス魔法学園』に通う高等部2年生の少女で、シルフィーの姉。

シルフィーのことを溺愛レベルで可愛がっているが、友達を作らないことに対しては口酸っぱく小言を漏らしている。

運動は得意中の得意だが、勉学方面では下の中を彷徨ってる状況にあり、年下であるはずのシルフィーに面倒を見てもらってる状態である。

そのためか、魔法の講義では寝る姿もしばしば見かける。

この時ばかりは普段のちょっと厳しい一面もどこへやらといった具合でクラスメイトからもツッコミを受けている。

魔法学園内でも珍しい肉体派で、魔力の運用法は主に肉体強化や攻撃補助、近距離型射撃に回しており、あとは色々な格闘技を独自修得した『ラト流総合格闘技』なるものを駆使している。

しかし、その力も後衛に妹のシルフィーがいてこそ十全たる真価を発揮する連携技に特化した格闘技となっている。

別世界(地球とは伏せている)から留学してきた忍のクラスメイトになり、面倒を見ることになった。

 

第六十七話にて紅神眷属入りを果たす。

 

 

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名前:(くれない) 夜琉(よる)

 

容姿:背中まで伸ばした猫耳みたいな癖っ毛のある黒髪と琥珀色の瞳を持ち、可愛らしい顔立ちをしている

スラっとした細身に少し筋肉質を足したような体型

髪は白いシュシュでポニーテールに結っている

 

種族:人間と妖怪のハーフ

 

性別:女

 

身長:155cm

スリーサイズ:B79/W55/H81

 

年齢:16歳

 

魔力光:藍色

 

魔力:A-

 

気:SS+

 

霊力:AA

 

妖力:S

 

趣味:トレーニング、夜の散歩

 

好きなもの(事):義兄と義姉、星空

 

嫌いなもの(事):"神"、聖職者、天使

 

性格:基本的に明るく朗らかで人当たりの良い性格だが、こと"神"に関する事柄に対してはかなりキツく当たる節がある

 

備考:時空間を超えてパラレルワールドからやってきた少女。

霊力を持つ人間と豹の妖怪とのハーフで、その身には龍気以外の力が宿っている。

そのためか、神に仕える者達からは迫害に近い仕打ちを受けてきた過去を持っている。

そんな生活を送ってきた故に後に義兄となる男のことも最初は不信感しか抱かなかったが、分け隔てなく接してきた男に徐々に心を開いていく。

義兄と共にいる義姉である桐葉に対しても最初は警戒して近付こうともしなかったが、彼女が本当に信頼出来るということがわかってからは少しずつだが歩み寄り、今では仲の良い姉妹関係を持っている。

しかし、"神"との決戦を前に義兄と義姉によって時空転移魔法で時空間を超えてパラレルワールドであるこの世界の次元世界の一つ『第61無人世界』へと漂着してしまう。

その後、特務隊に保護されて検査や治療を受け、この世界の事情を聞いて自分のいた世界の違いを知ることになる。

その際、忍の事を義兄と勘違いしたことから忍が面倒を見ることになってしまう。

忍が古文書から修得している古代の武術流派のはずの『烈神拳』を操る武闘派で、義兄と共に"神"の信徒や天使との戦闘でも最前線で戦っていた。

烈神拳の他にも黒い猫科系の耳と長い尻尾が生えた妖怪の姿になる『黒豹解禁』なる解放技も使っており、その際はフェイトのソニックフォームにも匹敵するスピードを発揮する。

 

第七十八話にて眷属の駒の最後の1人として加入する。

 

 

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名前:紅崎(べにざき) 雲雀(ひばり)

 

容姿:背中まで伸ばした白に近い桜色の髪と切れ長の眼に紫色の瞳を持ち、凛とした雰囲気を有した綺麗な顔立ちをしている

抜群のプロポーションに成熟した大人の体型

 

種族:冥族、妖怪、人間の混血

 

性別:女

 

身長:165cm

スリーサイズ:B103/W60/H94

 

年齢:19歳

 

魔力光:紅蓮

 

魔力:SSS

 

気:SSS

 

霊力:SSS

 

妖力:SSS

 

趣味:鍛練、読書

 

好きなもの(事):魚料理、努力する人

 

嫌いなもの(事):自分よりも弱い人、強さの意味をはき違える人、強さをひけらかす人、力に溺れる人

 

性格:父譲りの厳格さと冷徹さを色濃く受け継ぐ理知的でクールな性格

 

備考:冥界に住む紅蓮冥王を受け継ぐ女性。

朱堕と七緒の長女で、緋鞠の姉。

幼い頃から父の背を見て育ってきたためか父親似の性格になってしまい、自分にも他人にも厳しい上に一切の妥協を許さない徹底した実力主義者と化している。

旧魔王派の悪魔迎撃にも参加しており、実戦では父に引けを取らない活躍を見せている。

神宮寺兄妹とも面識を持っているが、自分よりも格下と感じているのであまり興味を抱いていない。

その戦闘力は父にも迫る勢いだが、経験の差で未だ超えてはいない。

それでも高い能力を持っている事には違いなく、父親との稽古で得た剣技に加えて母譲りの緋猫の力による近接格闘、五気の内四つを保有していることから出来る幅広い術式戦など隙の無い戦闘スタイルとなっている。

緋猫の力を解放すると髪が桜色、瞳が琥珀色に変化し、頭と臀部から緋色の猫耳と尻尾が生えた姿となる。

冥王としての姿は背中から4対8枚の紅蓮の翼が生え、髪と瞳が炎髪灼眼へと変化した姿となり、冥王スキル『エクスプロージョン・ブラスト』を発現する。

『エクスプロージョン・ブラスト』とは、魔・気・霊・妖という異なる性質を持つ力をそれぞれ異なる効力を持たせた砲撃として放つ能力で、使い方や組み合わせ次第で様々な効力を発揮し、それらを効率的に扱うことで戦場を支配する制圧力がある。

また、この砲撃は着弾時に爆発する特徴があり、その爆発を利用して着弾周囲や被弾者に影響する作用の効力も持たせることが可能。

魔力変換資質『炎熱』を保有している。

 

第百十話にて『剣の騎士』の絵札を渡されるが、眷属化はしていない。

 

 

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名前:紅崎(べにざき) 緋鞠(ひまり)

 

容姿:腰まで伸ばした白に近い桜色の髪と水色の瞳を持ち、幼さが残る可愛らしい顔立ちをしている

髪型は細い黒リボンでツーサイドアップにしている。

華奢で凹凸のあまり目立たない体型

 

本来の姿の場合、可愛さの残る綺麗な顔立ちとなり、豊満でスタイル抜群な体型になる

 

種族:冥族、妖怪、人間の混血

 

性別:女

 

身長:143cm(159cm)

スリーサイズ:B74/W55/H78(B90/W58/H89)

()内は本来の姿の数値

 

年齢:16歳

 

魔力光:紅蓮

 

魔力:AA

 

気:SS+

 

霊力:B

 

妖力:AAA-

 

趣味:昼寝、日向ぼっこ

 

好きなもの(事):鰹節、スティック系のお菓子

 

嫌いなもの(事):子ども扱いされること、寒さ

 

性格:気が強く真面目で意地っ張りな性格で、なかなか素直になれない一面もある

 

備考:冥界に住む紅蓮冥王の名を受け継ぐ少女。

朱堕と七緒の次女で、雲雀の妹。

神宮寺兄妹とは歳が近いこともあってか、よく遊んでいたこともある幼馴染みの間柄。

何かと姉と比較されることが多いが、姉から『周りの評価など無意味です。まずは己を磨きなさい』と言われ続けてきたため、特に気にした様子はなく姉妹仲はそれなりに良好。

普段は力を抑えるためと男に変な眼で見られるのを嫌ってか妖力を応用した術で幼女の姿をしているが、本来はかなりスタイル抜群な体型である。

戦闘力は朱堕や雲雀と比べてしまうと見劣りしてしまうものの、平均よりも確実に上の強さを持っている。

戦闘スタイルも朱堕や雲雀を意識してか刀を用いた近接戦闘を行っているが、本来は遠距離からの射撃を得意としている。

特に弓を用いた弓術は姉の雲雀も認める程の腕前なのだが、緋鞠自身の性格で刀を用いた近接戦をベースに戦っている。

それでも朱堕の子だけあって近接戦闘も水準よりも高い技能を有している。

緋猫の力を解放すると髪が桜色、瞳が蒼色に変化し、頭と臀部から緋色の猫耳と尻尾が生えた姿となる。

冥王としての姿は背中から3対6枚の紅蓮の翼が生え、髪と瞳が炎髪灼眼へと変化した姿となり、冥王スキル『ブレイズ・ギャザー』を発現する。

『ブレイズ・ギャザー』とは、相手の術式系攻撃を吸収し、自らの焔へと変換する能力で、自分のキャパシティが許す限りは吸収可能で、防御手段としても使える。

但し、力を纏った物理攻撃に対しては力を吸収しても物理攻撃自体には作用しないという弱点がある。

また、キャパシティの限界を超えると、吸収した力が暴発して自滅しかねない諸刃の剣的な能力でもある。

ちなみにキャパシティの上限は修行次第で上げることも可能。

魔力変換資質『炎熱』を保有している。

 

第百十話にて『弓の騎士』の絵札を渡され、眷属となる。

 

 

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名前:オルタ

 

容姿:背中まで伸ばした黒髪と深紅の瞳を持ち、可愛らしい顔立ちをしている

全体的に華奢でスレンダーな体型

 

種族:人造魔導兵器

 

性別:女

 

身長:146cm

スリーサイズ:B72/W53/H75

 

年齢:14歳(見た目の年齢)

 

魔力光:暗黒色

 

魔力:EX

 

趣味:無い

 

好きなもの(事):無い

 

嫌いなもの(事):無い

 

性格:感情の発起に乏しく無感情・無機質にも見える性格だが、マスターである牙狼には忠実である

 

備考:桐葉の亡骸から牙狼が創り出した人造魔導兵器。

普段は闇色のドレスを纏った幼い少女の姿をしているが、その本質は牙狼の世界に対する憎悪の感情によって生み出されたことから深い闇で殺戮に特化した能力を秘めている。

能力を解放すると、少女の姿から牙狼の身を守る漆黒の翼の生えた漆黒の鎧へと化し、牙狼の失った右腕を異形の腕として一時的に再生させる機能を持つ。

異形の右腕からは憎悪と呪いの象徴である焔『黒焔』を生み出し、それを用いた多彩な動きを見せる。

さらに左腰には三尺程の漆黒の刀身を持つ刀を携帯しており、牙狼はそれを左手で逆手持ちにして使っている。

また、『闇の波動』と呼ばれる魔力が具現化した能力も秘めており、自らの生み出した闇の魔力を媒介に反射、吸収、物質化といった能力を行使することが可能で、オルタ単体でも使用が出来る。

ちなみにオルタが普段纏っている闇色のドレスも闇の波動の応用で作り上げられたものである。

 

第七十八話にて忍の眷属の絵札による最初の眷属となる。

が、直後休眠状態に入る。

 

 

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名前:紫牙(しきば) 領明(えりあ)

 

容姿:腰まで伸ばした赤みがかった銀髪と薄紫色の瞳を持ち、小動物のような愛らしさを持った可愛らしい顔立ちをしている

線が細く華奢でスレンダーな体型

髪型は細長い青いリボンでツーサイドアップに結っている

 

種族:霊狼と人間のハーフ

 

性別:女

 

身長:147cm

スリーサイズ:B76/W55/H78

 

年齢:15歳

 

魔力光:透き通るような水色

 

魔術式:ミッドチルダ式

 

デバイス:クレッセント・キャンサー(エクセンシェダーデバイス)

 

魔力:S+

 

気:B-

 

霊力:SS

 

趣味:お母さんの手伝い、家事

 

好きなもの(事):お母さん

 

嫌いなもの(事):お父さん

 

性格:基本的に口数が少なく感情を押し殺したような性格だが、本当は寂しがり屋で心優しく面倒見の良い部分もある

 

備考:翠蓮と黒い狼との間に生まれた娘。

赤ん坊の頃は翠蓮にも可愛がられて育てられてきたが、幼少期になると翠蓮の狼殺しの研究の被験体として数々の実験に強制的に参加させられてきた。

そのためか、今では感情を押し殺したような人格を形成してしまい、翠蓮の施す実験に対してもまるで痛みを感じないかのようになってしまった。

母をこのように変えてしまった父親である"黒い狼"のことは正直見たこともないこともあってか無関心であるが、好きか嫌いかで言えば嫌いと即答する程には嫌悪感を持っている。

蟹座のエクセンシェダーデバイス『クレッセント・キャンサー』の現所有者。

キャンサーが近接格闘系の武装を持っているために勘違いされやすいが、領明自身は近距離よりも遠距離による魔法戦が得意であり、属性は水を好んで使う傾向にある。

それでも近接戦になった時のためにキャンサーに少しずつ教わっているが、これにも限界がある。

 

黒い狼の正体は邪狼時代の狼夜であり、領明は忍の父方の従姉妹に当たる。

 

第百十話にて『魔術師』の絵札を渡され、眷属となる。

 

 

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名前:シンシア・ルミナス

 

容姿:膝まで伸びた紅髪と金色の瞳を持ち、年相応に整っていながらも可愛らしい顔立ちをしている

同年代と比べると豊満な部類に入る体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:165cm

スリーサイズ:B90/W59/H89

 

年齢:16歳

 

魔力光:山吹色

 

魔術式:ブレスタイプ・近代ベルカ式

 

デバイス:ファントム・ピスケス(エクセンシェダーデバイス)

 

魔力:B-

 

気:AA+

 

趣味:人間観察

 

好きなもの(事):誰かに(気配無く)近付くこと、仕草を真似すること

 

嫌いなもの(事):特に無い

 

性格:基本的に無口で感情の起伏が少なく常に冷静沈着な性格だが、深く考えたりせず流れに逆らわない直感で物事を考える節がある

また、羞恥心やら一般常識が欠如してる部分も多分に見受けられる

 

備考:ある組織が忍を暗殺するために送り込んだ暗殺者。

両親はおらず孤児院出身なのだが、その孤児院は裏で院に入ってきた子供達を暗殺者に仕立て上げることを生業にしており、当然ながら暗殺の依頼も引き受けていた。

なお、その孤児院は魔法を使える、つまりはリンカーコアを持つ子供達も集めていたため、魔法方面での暗殺も取り入れていた。

特にシンシアはリンカーコア持ちに加えて暗殺者としてのセンスがずば抜けて高かったらしく、若干9歳にして初任務を成功させていた。

それからは数々の依頼をこなしながらその才を徐々に且つ確実に開花させていたが、同期や先輩暗殺者が彼女を疎ましく思って始末されそうになる。

しかし、シンシアはそれを返り討ちにした上、足の引っ張り合いをされるくらいならと孤児院から脱走し、フリーでの暗殺活動を開始する。

幸いといっていいのか、孤児院時代での活躍もあって暗殺依頼には困らないでいた。

そんな中、舞い込んできたのは『次元辺境伯・紅神 忍』の暗殺依頼であった。

ちなみに普段から黒いローブを身に纏っており、その下は下着のみという格好をしている。

本人は身軽さを優先したつもりで、さらに普段の生活では気配を遮断した上に人前でローブを脱がないから大丈夫だと思っている。

また、普段から無口でポーカーフェイスを貫いているが、これは長年の暗殺者として生活してきた影響なだけで、ちゃんとした感情もある。

但し、表情に出さない、表現力に難があるなどの理由のため、非常にわかりづらい。

魚座のエクセンシェダーデバイス『ファントム・ピスケス』の現所有者でもある。

孤児院時代の戦闘訓練で培った暗殺技術を基本戦術にしているが、ピスケスや魔法を用いた暗殺者らしからぬ正面からの戦いも行えるため、純粋な戦闘に関して隙らしい隙が見当たらない。

なお、彼女の使う魔術式は近代ベルカ式をベースに暗殺技術の中にある特殊な呼吸法を組み合わせた独特の魔術式であり、息をするのと同じような感覚で魔術式を展開してから発動までのタイムラグを出来うる限り省いた代物である。

それ故に詠唱破棄や魔法名を口に出さずに行うことを前提にしている節があり、高威力の魔法や時間を掛けて設置するような魔法などは基本的に扱えないようになっているが、そもそも暗殺のために魔法は非殺傷設定すら施されておらず(というか教えられてないので)、低威力で素早く展開出来る魔法を即座に展開し、修得した暗殺技術を用いて対象の急所へと的確に突くことで殺傷性を高めている。

 

第百十話にて依頼破棄と見なされ、忍の暗殺が白紙になる。

また、その際に『暗殺者』の絵札を渡され、眷属となる。

 

 

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名前:桃鬼(とうき)

 

容姿:肘辺りまで伸ばした桃色の髪と蒼い瞳を持ち、可愛い系の綺麗な顔立ちをしている

同年代と比べるとかなり豊かな体型

額の左右に小さな角が2本生えている。

 

種族:鬼

 

性別:女

 

身長:178cm

スリーサイズ:B90/W59/H89

 

年齢:17歳

 

妖力:SS+

 

趣味:修行、武天十鬼との稽古、温泉巡り

 

好きなもの(事):温泉、甘味、お祖父ちゃん

 

嫌いなもの(事):絶魔、復讐を邪魔する者

 

性格:基本的には喜怒哀楽や物事をハッキリさせて周囲を明るくする陽だまりのような性格なのだが、こと絶魔が絡むとなると怒りと憎しみに身を任せてしまう傾向がある

 

備考:皇鬼の孫娘にして鬼神界の皇女。

皇女として英才教育を受けているが、昔から好奇心旺盛でよく皇鬼の物見遊山についていったりしていて両親から心配されていたことが多々ある。

将来の鬼神界を担う器と逸材だろうと確信した皇鬼によって例の修行を受けられそうになるが、両親が猛反対したので実施はしていない。

その代わり皇鬼は桃鬼に相応しい若者を見つけ出して徹底的に鍛え上げようと画策している。

氷鬼や水鬼、風鬼の武天十鬼の女性陣を姉のように慕っており、それらの影響を受けて育ってきたとも言えるので、所作に品があっても口調が粗雑な時があったり間違った言葉の使い方をしたりしている。

7歳の時に両親を絶魔に殺されたために絶魔を強く憎んでいる。

それから祖父に頼み込んで亡くなった両親が猛反対していた修行を自らの意志でつけてもらっていたり、武天十鬼に稽古相手を頼んだりと着実に力を増しているが、皇鬼からは復讐だけに囚われていないか心配されているものの、それを桃鬼は自力で乗り越えるべきだと判断して敢えて放置している節もある。

戦闘の際は妖力を四肢に纏って行う格闘技を主体に武天十鬼から盗んだ様々な妖術を用いた万能戦術を取っており、とにかく武天十鬼の良いとこ取りをしたような巧みな妖術と皇鬼の修行に必死に食らいついてきて得た力の使い方も相俟って単純な戦闘力は武天十鬼にも引けを取らないくらいに成長してしまった。

しかし、それらの技能も復讐のために振るわれるために武天十鬼の皆も心配しているが、皇鬼の方針にも一理あって従っているので誰も止めようとはしない。

 

忍と皇鬼の意向で忍と共に未来へと渡ることとなった。

 

 

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名前:七海(ななみ)

 

容姿:腰まで伸びた銀髪と琥珀色の瞳を持ち、凛とした雰囲気の綺麗な顔立ちをしている

長身でそれに見合ったグラマラスな体型

髪型はストレートだが、毛先が若干カールしている

 

種族:七煌龍

 

性別:女

 

身長:179cm

スリーサイズ:B98/W60/H95

 

年齢:不明

 

オーラの色:白銀、瑠璃、紅蓮、深紅、黄金、漆黒、純白の7色

 

龍気:EX

 

趣味:主の行動を観察すること、自分の知らない体験をすること

 

好きなもの(事):龍としての誇りや矜持、未知の文化や文明に触れること

 

嫌いなもの(事):文化や文明を無差別に破壊する者達

 

性格:何事にも生真面目でそれなりにお堅い性格だが、見知らぬ文化や現代の文明には興味津々なご様子

 

備考:七煌龍の魂の結晶の欠片が一つとなって顕現した七煌龍の化身。

七煌龍は真狼に対応した『真龍』、雪女に対応した『雹龍』、紅蓮冥王に対応した『煌龍』、真祖に対応した『祖龍』、龍騎士に対応した『閃龍』、牙狼の闇に対応した『獄龍』、鬼に対応した『武龍』の七体から成る龍同士による同盟だったらしいが、その肉体は既に滅んでおり、魂や能力も大半が失われてしまい、魂の欠片という残滓だけとなって鬼神界の各地に散らばっていた。

それが何の因果か忍の解放陣と牙と波長が合い、鬼以外の解放陣を現界させる結果となって忍を試すこととなった。

その後、紆余曲折を経て全ての欠片が揃い、忍の何気ない一言によってプライドを刺激されたのか、真龍の魂をベースに七つ分の魂の欠片が一つとなることで復活を果たす。

ちなみに何故、人間体の女性として顕現したのかは不明。

欠片とは言え、七体分の龍の力をその身に宿しているので龍気はかなり高いレベルに達している。

しかし、その戦い方は能力を失っていることもあってか、力任せの肉弾戦が多く、現在は忍の指導によって様々な戦い方を研究中である。

また、復活した際に発現した唯一の能力として忍に憑依する能力があるが、能力のない今、これに何の意味があるのか、正直判断に困るところである。

扱い的には眷属というよりも使い魔に近い。




では、次で第一話の開始です。


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オリキャラ紹介・ライバル側

ここでは忍のライバルとなるオリキャラを紹介していきます。

敵側にあった紅牙と秀一郎のプロフをこちらに移しました。


・ライバルキャラ

 

名前:神宮寺(じんぐうじ) 紅牙(こうが)

 

容姿:背中まで伸ばした白に近い桃色の髪と翡翠色の瞳を持ち、中性的で女性のような綺麗な顔立ちをしている

体格は細く見えるが、中身はガッチリしている細マッチョ系

 

種族:冥族と人間、妖怪の混血

 

性別:男

 

身長:184cm

 

年齢:17歳

 

魔力光:紅色

 

魔力:SS

 

気:SSS

 

霊力:AAA

 

妖力:SS

 

趣味:鍛練、バイク

 

好きなもの(事):猫、熱

 

嫌いなもの(事):女扱いする奴ら、悪魔や死神、堕天使など

 

性格:気性が荒く喧嘩っ早い野性的な性格だが、根は正義感の強い熱血漢である

 

備考:禍の団に属する派閥の一つ『冥王派』を率いる若き青年。

父は純血の冥族、母は人間と妖怪のハーフという特殊な生い立ちで、妖怪は天狐と呼ばれる狐の妖怪の血を引いており、妹が一人いる。

幼少の頃から両親に頼んで自らの力を制御する特殊な鍛練を積み重ねており、同年代の中でも突出した能力を持っている。

しかし、旧魔王派の悪魔達によって両親を殺されており、妹に悲しむ姿を見せまいと気丈に振る舞い、悪魔への復讐のために決起する。

禍の団に所属するのは手っ取り早く悪魔や堕天使を葬るためであり、同じく禍の団に所属する旧魔王派とは犬猿の仲で、いつでも屠る準備をしている。

但し、派閥とは言っても冥王派は彼を含めても少数であり、単独での任務や遊撃隊としての意味合いが強いが、その実力は本物である。

天狐の力を解放すると髪が金色、瞳がサファイアブルーへと変化し、頭から狐の耳と臀部から九本の狐の尻尾が生えた姿となる。

冥王としての姿は背中から4対8枚の紅の翼を生やし、髪が真紅、瞳がワインレッドへと変化した姿となり、冥王スキル『グラヴィタス・イフリート』が発現する。

『グラヴィタス・イフリート』とは、自身を中心にした周囲の空間に球体状の重力場と紅の焔を形成し、それらを自在に操る能力で、二種類の属性を球体状にして操ることで様々な場面での利用法が出来る汎用性を兼ね備えている。

また、奥の手としていくつもの重力場を収束することで擬似的なブラックホールを作り出したりすることも可能。

魔力変換資質『炎熱』と特異魔力変換資質『重力』を保有している。

 

第四十二話にて眷属の駒を入手。

 

第五十二話にて事故によって月読 調と暁 切歌を兵士の眷属とする。

 

第七十六話にて射手座のエクセンシェダーデバイス『アークドライブ・サジタリアス』の所有者となる。

 

第九十三話にて八神 はやてを女王、第百十四話にてヴォルケンリッターのシグナムとヴィータを騎士、シャマルを僧侶として眷属に迎える。

 

 

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名前:識上(しきがみ) 秀一郎(しゅういちろう)

 

容姿:ギザギザした首筋が隠れる程度に伸ばした黒髪と茶色の瞳を持ち、野性的な印象を与える端整な顔立ちをしている

体格は筋肉隆々の一歩手前で細くはないが、程良い太さの肉体の持ち主

 

種族:人間と鬼のハーフ

 

性別:男

 

身長:178cm

 

年齢:17歳

 

魔力光:黄土色

 

デバイス:シュティーゲル(アームドデバイス)

 

魔力:AAA

 

気:SSS

 

妖力:SS

 

趣味:昼寝、デバイスの手入れ

 

好きなもの(事):苺大福、見ていて飽きない奴、一緒いて楽しめる奴

 

嫌いなもの(事):想定外の事態、冗談の通じない奴、昼寝の邪魔をする奴

 

性格:基本的に喜怒哀楽がハッキリしてて表情豊かな性格で、自分が人外とのハーフのため差別意識はなくどんな奴とも分け隔てなく接する事が出来る

ただ、本人は冷静な方だと思っている節があるが、実際はかなりの熱血漢で無茶や無謀を平然と行おうとする

 

備考:流れの傭兵で、今は禍の団・冥王派に雇われている。

地球が故郷だが、生まれが特殊なため肩身の狭い生活を送っていた。

しかし、それにもめげずに生きてきたが、両親の死後に傭兵として決起。

元々、父親によって戦闘訓練を修得していたり、母親から魔力の扱い方を習っていたのですぐに独立した。

しかし、収入は安定せず地道な活動を続けていく内に様々なスキルを修得していき、最近になって頭角を現してきた経歴を持つ。

今までの中でも大きな仕事の部類に入り、何かの契機になるかと思って禍の団・冥王派に雇われている。

ただ、冥王派のトップである紅牙が復讐に燃えている姿を見ていて放っておけないらしく、自ら苦労の道を選んだお人好しでもある。

邪狼のことは同じ傭兵として凄いとは思っているものの、その趣味にはかなりの抵抗と嫌悪感を抱いている。

魔力変換資質『炎熱』と『電気』を保有している。

 

第六十四話にて紅牙の戦車となる。

 

 

デバイス:シュティーゲル

 

形状:鋼色に輝く両腕を覆うガントレット型の篭手と膝から下を覆うブーツ型の足具

 

待機状態:表に炎、裏に雷の絵柄のあるコイン

 

搭載システム:カートリッジシステムを搭載

形態変化や管制人格は存在しない

 

備考:秀一郎が自作した非人格搭載型のアームドデバイス。

自作ながら装填式のカートリッジシステムを搭載しており、装弾数は各部位に最大で2発ずつを装填出来る。

また、篭手と足具の表面を展開する機能を有しており、広域魔法攻撃を円滑に行えるように出来る他、鬼の力を解放する時に溜め込んだ力を解放することで一種のバースト状態にして攻撃力を底上げすることも可能にしている。

 

バリアジャケットは上に白のタンクトップを着て、下にダメージジーンズを穿き、その上から黒い袖無しジャケットを羽織り、額に長く赤い鉢巻を巻いた姿になる。

 

 

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名前:天宮(あまみや) 早紀(さき)

 

容姿:胸元辺りまで伸ばした緋色の髪と藍色の瞳を持ち、少し幼さを残した感じの可愛らしい顔立ちをしている

ちょっと低めの身長だが、均等の取れた平均的な体型

 

種族:冥族と人間のハーフ

 

性別:女

 

身長:148cm

スリーサイズ:B82/W58/H84

 

年齢:16歳

 

魔力光:桜色

 

魔力:AA+

 

気:AAA

 

趣味:ウインドウショッピング、スイーツ巡り

 

好きなもの(事):甘いもの、可愛いもの

 

嫌いなもの(事):辛いもの、卑怯なこと

 

性格:基本的に猪突猛進で強気且つ男勝りな性格だが、根はかなり乙女チックで恥ずかしがり屋である

また、(おだ)てられやすくヘタレな部分もある

 

備考:禍の団の冥王派残党に所属する少女。

冥族の父親と人間の母親のハーフだが、両親は既に旧魔王派によって殺害されている。

同じ境遇である紅牙が決起したことを受け、自らも冥王派として活動していた。

その際、同じ境遇の『葛原 沙羅』と『水杜 紗奈』と意気投合し、三人で一緒に行動するようになる。

元は紅牙の部下で、沙羅と紗奈と合わせて『冥王三人娘』として活躍していた。

しかし、紅牙が冥王派からいなくなってからは苦難の日々を送っており、禍の団残党として小規模なテロ活動を余儀なくされてしまう。

各地を逃げ回っていた時、禍の団の再編を聞いてそれに参加することにした。

だが、先の魔法使いとの合同作戦で自分を含めて冥王派が三人しかいなくなり、いよいよヤバく感じていたが、ルーマニアで大きなことが起きるとユーグリットから聞き及び、そこを最後の挽回のチャンスだと思って吸血鬼領ツェペシュ城下町にて作戦開始を待っていた。

そこで元上司である紅牙と再会を果たすことになる。

ちなみに紅牙のことをたまに『姉貴』と呼んで拳骨を貰うことがある。

戦闘スタイルは小太刀二刀流による前衛で、攻防のバランスが取れた戦法を取れるのだが、その性格から攻撃に意識が集中し過ぎる悪癖がある。

冥王としての姿は背中から2対4枚の桜色の翼を生やし、髪が赤みがかった銀髪、瞳が琥珀色へと変化した姿となり、冥王スキル『バーニング・チャクラム』を発現する。

『バーニング・チャクラム』とは、炎で作られた戦輪を幾重にも生み出す能力で、単純に飛ばす以外にも相手の手足を捕縛して動きを封じるバインド効果や戦輪の中に魔力場を形成して防御手段にするなど汎用性はそこそこ高い部類に入る。

また、戦輪を自らの手足に纏い、背後に大きな光輪のような戦輪を作り出すことで、身体能力と各種能力が向上する……訳もなく、単に自分を強く見せているだけである(が、今後のやり方次第ではそれも可能になるかも…?)。

魔力変換資質『炎熱』を保有している。

 

第七十六話にて正式に神宮寺眷属の兵士となる。

 

 

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名前:葛原(くずはら) 沙羅(さら)

 

容姿:腰まで伸ばした黒髪と紫色の瞳を持ち、少し幼さを残した感じの可愛らしい顔立ちをしている

ちょっと低めの身長に不釣り合いなふくよかな体型

 

種族:冥族と人間のハーフ

 

性別:女

 

身長:148cm

スリーサイズ:B87/W58/H85

 

年齢:16歳

 

魔力光:藤色

 

魔力:S

 

気:B-

 

趣味:昼寝、読書、料理

 

好きなもの(事):静かな時間、本(恋愛物やファンタジー物)

 

嫌いなもの(事):騒がしいこと、面倒事や厄介事

 

性格:基本的に物静かで後ろに一歩引いたような貞淑な性格だが、根は結構な人見知り且つ引っ込み思案な性格で初対面の人には距離を取ろうとする

また、見知った人の背中に隠れることが多い

 

備考:禍の団の冥王派残党に所属する少女。

冥族の母親と人間の父親のハーフだが、両親は既に旧魔王派によって殺害されている。

同じ境遇である紅牙が決起したことを受け、自らも冥王派として活動していた。

その際、同じ境遇の『天宮 早紀』と『水杜 紗奈』と意気投合し、三人で一緒に行動するようになる。

元は紅牙の部下で、早紀と紗奈と合わせて『冥王三人娘』として活躍していた。

しかし、紅牙が冥王派からいなくなってからは苦難の日々を送っており、禍の団残党として小規模なテロ活動を余儀なくされてしまう。

各地を逃げ回っていた時、禍の団の再編を聞いてそれに参加することにした。

だが、先の魔法使いとの合同作戦で自分を含めて冥王派が三人しかいなくなり、いよいよヤバく感じていたが、ルーマニアで大きなことが起きるとユーグリットから聞き及び、そこを最後の挽回のチャンスだと思って吸血鬼領ツェペシュ城下町にて作戦開始を待っていた。

そこで元上司である紅牙と再会を果たすことになる。

ちなみに紅牙のことをたまに『お姉さま』と呼んで拳骨を貰うことがある。

戦闘スタイルは魔法を用いた後衛タイプで、前に出がちな早紀と紗奈のフォローをすることが多い。

冥王としての姿は背中から2対4枚の藤色の翼を生やし、髪が紫がかった銀髪、瞳がサファイアブルーへと変化した姿となり、冥王スキル『カラミティ・ショック』を発現する。

『カラミティ・ショック』とは、物体に対して大小様々な震動を与える能力で、地面に大きな震動を与えれば疑似的な地震、空気に震動を与えれば衝撃波を発生させるなど、様々な応用が効く高い汎用性を誇る。

また、使い方次第では意図的に災害を発生させることも可能で危険な能力とも言える(但し、本人にそれをやるだけの勇気と度胸は全くない)。

その他、周辺の魔力素に震動を与えることで周囲の人間に対して魔力酔いを引き起こさせることも可能。

 

第七十六話にて正式に神宮寺眷属の兵士となる。

 

 

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名前:水杜(みずもり) 紗奈(さな)

 

容姿:肩に掛かる程度に伸ばした水色の髪と黄色い瞳を持ち、少し幼さを残した感じの可愛らしい顔立ちをしている

ちょっと低めの身長で、全体的にスレンダー気味な体型

 

種族:冥族と人間のハーフ

 

性別:女

 

身長:148cm

スリーサイズ:B78/W58/H81

 

年齢:16歳

 

魔力光:浅黄色

 

魔力:C

 

気:S-

 

趣味:散歩、食べ歩き

 

好きなもの(事):美味しい料理、楽しい時間

 

嫌いなもの(事):楽しくない時間、何かと見下す人

 

性格:基本的に社交的で人懐っこく天真爛漫な性格だが、根は猪突猛進で物事をあまり深く考えない短慮な部分がある

また、一度怒らせるとかなり執念深く怖いことになる

 

備考:禍の団の冥王派残党に所属する少女。

冥族の父親と人間の母親のハーフだが、両親は既に旧魔王派によって殺害されている。

同じ境遇である紅牙が決起したことを受け、自らも冥王派として活動していた。

その際、同じ境遇の『天宮 早紀』と『葛原 沙羅』と意気投合し、三人で一緒に行動するようになる。

元は紅牙の部下で、早紀と沙羅と合わせて『冥王三人娘』として活躍していた。

しかし、紅牙が冥王派からいなくなってからは苦難の日々を送っており、禍の団残党として小規模なテロ活動を余儀なくされてしまう。

各地を逃げ回っていた時、禍の団の再編を聞いてそれに参加することにした。

だが、先の魔法使いとの合同作戦で自分を含めて冥王派が三人しかいなくなり、いよいよヤバく感じていたが、ルーマニアで大きなことが起きるとユーグリットから聞き及び、そこを最後の挽回のチャンスだと思って吸血鬼領ツェペシュ城下町にて作戦開始を待っていた。

そこで元上司である紅牙と再会を果たすことになる。

ちなみに紅牙のことをたまに『お姉ちゃん』と呼んで拳骨を貰うことがある。

戦闘スタイルは槍を用いた近・中距離に優れているのだが、本人の性格から前に出て戦うことを好む傾向にある。

冥王としての姿は背中から2対4枚の浅黄色の翼を生やし、髪が青みがかった銀髪、瞳がエメラルドグリーンへと変化した姿となり、冥王スキル『ミスティック・クリア』を発現する。

『ミスティック・クリア』とは、自身の魔力の通った水を霧状にして周囲に散布する能力で、霧状となった水を収束することで水の槍を作ったり、幻影を作り出したり、一時的に魔力を回復させたりと少ない魔力量を補うように使える利点や汎用性に優れている点がある。

また、防御や足止めなどの守りに徹した方がその威力を発揮しやすい能力とも言える(しかし、紗奈自身が前に出たがる性格なので、なかなかその真価を発揮しきれていない)。

魔力変換資質『流水』を保有している。

 

第七十六話にて正式に神宮寺眷属の兵士となる。

 

 

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名前:天崎(あまがさき) ユウマ

 

容姿:長さはミディアム程度の金色に近い茶髪とブラウンの瞳を持ち、女の子みたいに可愛らしい顔立ちをしている

全体的に華奢で細身な体型

前髪は目元が隠れるくらいに伸ばしている

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:157cm

 

年齢:17歳

 

魔力光:薄い桜色

 

魔力:D(SS)

 

気:AA

 

()内は潜在的な数値

 

趣味:家事、パンドラやガンシューティングのようなゲーム

 

好きなもの(事):パンドラ、友達、甘いお菓子

 

嫌いなもの(事):喧嘩、暴力

 

性格:ちょっと控え目で押しに弱い性格だが、根は優しく困ってる人は見過ごせない性分

 

備考:ストロラーベに存在する中高一貫の学校『フェイタル学園』に通う高等部2年生の学生。

女の子のような容姿をしているが、れっきとした男(所謂、男の娘)。

女子の制服を間違えて支給されたこともあるが、今はちゃんと男子の制服を着ている。

昔からよく家の手伝いをしているために家事などが得意で、下手すると女子よりも女子力が高い。

前髪を長くしているのは女の子みたいな自分の顔を見られるのが恥ずかしいからであり、あまり目立ちたくないという心情もある。

そのわりに困ってる人は見過ごせない性分で、お人好しとも言える程の世話焼きでもある。

成績は中の上くらいで、運動神経もそれなりに良い部類に入る。

そんな彼の楽しみは男の子らしくゲームで、特にガンシューティングゲームでは類稀なる集中力を発揮し、常に上位をキープする程の腕前を持つ。

最近ではパンドラにハマっており、自身によく似たアバター(女の子と判別された)を駆ってダンジョン攻略を中心に活動している。

パンドラ内での装備はハンドガンを片手に様々なサブウエポンを駆使したオールラウンダースタイルを取っている。

自身を含めて3人編成のチームを結成しているが、イベントなどの大きな大会では数の暴力に曝されることもあるので、知人のチームメイトをもう何人かと組みたいと考えている。

チームメイトはクラスメイトで風紀委員の『ファム・アディラート』と2つ年下の後輩の『アイリ・ジェリーランス』である。

 

第八十七話にて、冥王であることが発覚。

それに伴って魔力変換資質『電気』も獲得した。

冥王としての姿は髪と瞳は白髪金眼になり、背中から3対6枚の真っ白な翼を生やしたものとなっている。

冥王スキルはまだ不明。

 

第百十三話にて正式に神宮寺眷属の僧侶となる。

 

 

 

名前:被験体『Y-77』(要は名無し)

 

容姿:足先まで伸びた銀髪と金色の瞳を持ち、可愛らしい顔立ちをしている

華奢なスレンダー体型

 

身長:約26cm(リインフォースⅡよりも少しだけ小さい)

 

魔力光:白

 

性格:押しに弱く引っ込み思案でかなり臆病な性格

 

搭載システム:トライユニゾンシステムを搭載

 

備考:絶魔勢傘下の非合法組織によって研究対象にされている融合騎(ユニゾンデバイス)。

古代ベルカが繁栄していた時期に生み出されたと思われるオリジナルの古代ベルカ式ユニゾンデバイス。

マイスター、ロード共に既に亡くなっており、古代ベルカの遺跡で永い眠りについていたが、遺跡を調査していた非合法組織によって無理矢理覚醒させられ、研究材料にされてきた。

その重度となる実験の影響で精神年齢が退行していき、今ではただただ怯えるだけの子供と同じような精神構造になってしまっており、言語機能もかろうじて残っているような状態である。

 

『トライユニゾンシステム』

被験体『Y-77』に実装されている解明不明の謎のシステム。

概要は未だ不明だが、名前からして『ユニゾンデバイスを含めた3名による融合』という解釈と思われるが、ただでさえ不安定な融合を3人で行うなどとは机上の空論に過ぎないとされている。

但し、これは遺跡に残された文献によって名称が判明しているだけで具体的な内容までは記録されておらず、非合法組織は"調査"と称して数々の実験を繰り返してきている。

 

ユウマから『ユーナ』の名前を貰う。

 

 

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名前:デヒューラ・スイミラン

 

容姿:腰まで伸ばした亜麻色の髪とエメラルドグリーンの瞳を持ち、可愛らしくも綺麗な顔立ちをしている

全体的に均等の取れていながら出てることは出て引っ込んでるとこは引っ込んでる体型

髪はロングで頭の左右に白いリボンをアクセント程度に結っている

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:158cm

スリーサイズ:B88/W58/H89

 

年齢:17歳

 

気:AA-

 

趣味:ウィンドウショッピング、カラオケ

 

好きなもの(事):スイーツ、可愛いアクセサリー

 

嫌いなもの(事):お化け、昆虫類、両親

 

性格:明るく社交的で爛々とした朗らかな性格で、どこか天然な部分もある

但し、根はクールで何事にも冷めていてちょっと毒が入ることもある

 

備考:フェイタル学園の高等部2年生で、ユウマのクラスメイト。

ストロラーベのファッション雑誌に載る現役の読モ。

高二にしては抜群のプロポーションと可愛らしい容姿を持っていたため、フェイタル学園の近くに出張できていた編集部の人間にスカウトされた。

表面上は社交的で誰に対しても明るく対応しているが、本人はあまり特別扱いされることを好んでいないものの、仕事だと割り切っている部分もある。

また、心のどこかでは普通の女の子として見てほしいとも考えている。

休日は可愛いアクセサリーを探すためにラフな格好でウィンドウショッピングをしている。

そんな彼女の家庭は冷め切っており、両親は互いに仕事が忙しいからと擦れ違い気味でデヒューラ自身は昔から1人で過ごすことが多かった。

そのためか、家では何事にも冷めたような素の性格が形作られている。

素の自分を晒さないように普段は明るく振る舞っているものの、それは寂しさの表れなのかもしれない。

読モ仲間からパンドラに誘われて登録はしているものの、仕事や学園生活があるのであまりやれてはいない。

そのため、パンドラ内での装備は初期装備に近いものになっている。

 

アウロスでの事件後、天崎家の居候として生活することになる。

また、ユウマとユーナとのトライユニゾン適合者であり、ユニゾンレアスキルは『イメージを具現化させる能力』となっている。

戦闘には直接参加はしないが、トライユニゾンの関係上、ユウマとは離れ離れにはなれない。

一応、非戦闘員。

 

 

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名前:栄崎(さかさき) 藍香(あいか)

 

容姿:背中が隠れるくらいに伸ばした黒髪と紺色の瞳を持ち、ツンとした雰囲気の綺麗で整った顔立ちをしている

標準的且つ平均的な体型

髪型は三つ編みにしており、黒縁の眼鏡をかけている

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:154cm

スリーサイズ:B83/W57/H85

 

年齢:17歳

 

魔力光:黄色

 

魔術式:ミッドチルダ式

 

デバイス:雷神(アームドデバイス)

 

魔力:AA+

 

気:A

 

趣味:料理、入浴、休日のショッピング

 

好きなもの(事):親友、お風呂

 

嫌いなもの(事):休日の秘密を知られること

 

性格:基本的にクールで真面目な性格だが、少しだけ感情的になりやすい部分がある

 

備考:フリーランスの魔導師。

元々は時空管理局に所属していた魔導師だったが、数年前のある事件を機に管理局を辞めていて、それからはフリーの魔導師として生活している。

『音無 翔霧』とは公私共に渡る親友で相棒。

普段は地味めな格好で過ごしており、髪を敢えて三つ編みにしていたり、眼鏡をかけて素顔を出来るだけ隠している。

これは素顔で街を歩くと何かと声を掛けられるので、それを鬱陶しがって少し手間が掛かるものの、そういった周りの反応を気にすることなく出歩けるようにした結果である。

たまの休日は髪を下ろし、少しおしゃれした素顔でショッピングに興じることもあるが、大抵は男装した翔霧と一緒に出歩くことでちょっとしたデート風を装っている(ちなみに普通の女の子の格好をした翔霧とも出歩くことがあるが、そっちの方が稀)。

だが、これはあくまでも親友以外には秘密にしていることでこの事実を周りに知られないようにしている。

魔導師としての実力はそれなりに高く、何事もそつなくこなす器用さを持っているが、本人は効率を重視する傾向にあり、魔導師でありながら近距離での戦闘を得意としている。

また、翔霧との連携では互いに前に出る特性を活かし、一気呵成に攻めるコンビネーションを見せる。

魔力変換資質『電気』を保有している。

 

第百十四話にて神宮寺眷属の兵士になる。

 

 

デバイス:雷神(らいじん)

 

形状:白銀で三尺の刀身、雷鼓を模した黄金色の鍔、黄色い柄を持つ刀

 

待機状態:雷の意匠を施したブレスレット

 

搭載システム:特殊システム、カートリッジシステム、変形機構などは一切ない

管制人格も非搭載

 

備考:藍香が所有するアームドデバイス。

数年前に起きたある事件でとある組織が作製した二機のデバイスの内の片割れ。

その名の通り、魔力変換資質『電気』を保有する者にしか扱えないようになっており、電気を溜め込む特殊な金属で出来ているので蓄電能力に優れた性能を持つ。

特殊機能などは備えていないが、性能面では現行機にも引けを取らないような仕上がりを見せており、当時の技術からしたら破格の性能を誇っていた。

 

バリアジャケットは上に黄色いノースリーブを着て、下に縁に黄色いラインの入った白いミニのフレアスカートを穿き、足には黄色いローヒールを履き、その背に雷鼓を備え、頭に二本の角付きの黒いカチューシャを着けた姿となる。

 

 

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名前:音無(おとなし) 翔霧(さぎり)

 

容姿:肩にかかるくらいの藍色の髪と緋色の瞳を持ち、凛とした雰囲気の可愛らしくもあどけない顔立ちをしている

標準的だが、少し肉付きの良い体型

 

種族:人間と魔獣のハーフ

 

性別:女

 

身長:156cm

スリーサイズ:B86/W58/H88

 

年齢:17歳

 

魔力光:緑色

 

魔術式:近代ベルカ式

 

デバイス:風神(アームドデバイス)

 

魔力:A+

 

気:AAA

 

趣味:男装、料理、トレーニング

 

好きなもの(事):親友、体を動かすこと

 

嫌いなもの(事):自分の中にある異種族の血、親友を傷つけるようなこと

 

性格:表面的には明るく社交的な性格に見えるが、根っこの部分は引っ込み思案気味

男装時は少しキザったらしい口調になる

 

備考:フリーランスの魔拳士。

数年前に起きたある事件を機に秀一郎や藍香と出会い、それから世界の裏側を知るようになっていき、今では藍香と共に生活するようになった。

『栄崎 藍香』とは公私共に渡る親友で相棒。

普段からサラシでその豊かな胸を押し込めて男装しており、出来る限り男のように振舞っている。

素の時の藍香のボディガードを自称していて一緒に歩くと大抵はカップルに見間違われることも間々ある。

これは弱い自分を克服するための訓練だとしているが、本人からしたら趣味の域に達している。

普通の女の子としての自分を表に出すのは少し勇気がいるらいしい。

魔獣という異種族の血をその身に半分宿しており、その身体能力は常人を超えているが、覚醒したのが数年前なので今はまだ普通の人としての枠から外れてはいない。

父親から18歳になるまでに強い恋人を見つけるように指示されているが、その意図は今のところ不明となっている。

魔拳士としての実力は父親譲りで非常に高く、藍香ほど要領よく戦えないものの、その攻撃力は藍香以上のものを見せており、その潜在能力の高さが窺える。

また、藍香との連携はお互いに前に出る特性を活かし、一気呵成に攻めるコンビネーションを見せる。

魔力変換資質『疾風』を保有している。

 

第百十四話にて神宮寺眷属の兵士となる。

 

 

デバイス:風神(ふうじん)

 

形状:風と翼の装飾を持った緑色の篭手

 

待機状態:風の意匠を施したブレスレット

 

搭載システム:特殊システム、カートリッジシステム、変形機構などは一切ない

管制人格も非搭載

 

備考:翔霧が所有するアームドデバイス。

数年前に起きたある事件でとある組織が作製した二機のデバイスの内の片割れ。

その名の通り、魔力変換資質『疾風』を保有する者にしか扱えないようになっており、風と共鳴反応を起こす特殊な金属で出来ているので風との高い同調性能を持つ。

特殊機能などは備えていないが、性能面では現行機にも引けを取らないような仕上がりを見せており、当時の技術からしたら破格の性能を誇っていた。

 

バリアジャケットは上に緑色のノースリーブを着て、下に縁に緑色のラインの入った白いミニのフレアスカートを穿き、足には緑色のローヒールを履き、その背に半透明な白い羽衣を備え、黒いカチューシャを着けた姿となる。

 

 

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名前:水神(みずがみ) 海斗(かいと)

 

容姿:白に近い水色の短髪とエメラルドグリーンの瞳を持ち、凛々しさを含んだ端正な顔立ちをしている

体格は服の上からでは確認出来ないが、それなりに良く引き締まった肉体の持ち主

青みがかった銀のハーフフレームの伊達眼鏡を着用している

 

種族:海人族と人間のハーフ

 

性別:男

 

身長:179cm

 

年齢:17歳

 

魔力光:瑠璃色

 

魔力:AA(SSS)

 

気:B+(S+)

 

霊力:D(AA)

 

妖力:C(AAA)

 

()内は四重リミッターの全解除時の係数

 

趣味:遊泳(季節は問わず)、読書

 

好きなもの(事):海、潮風、絆

 

嫌いなもの(事):海や水を穢す者達、友人への侮辱、裏切り

 

性格:品行方正で気品に溢れる大らかな性格で、根は正義感が強いクールな一面を有する

 

備考:忍の小学校時代のクラスメイトで親友。

父は純粋な海人族、母は人間のハーフだが、母方の家系には霊力を持つ者や吸血鬼の血が混じっており、それが海斗に遺伝してしまっている。

普段は厳重なリミッターによって魔力以外は普通の人間くらいまでに抑え付けている。

また、右腕(手首から肘にかけて)には常に包帯が巻かれており、中二病と間違われることが多々あるものの、普段の生活ではわざと長袖の服を着て誤魔化している。

忍達が中学に上がる前に家の用事で転校してしまい、それ以来音信不通であったが、約5年越しに駒王学園の学園祭にて忍と再会を果たす。

使い魔として『アルカ』と『シルト』を従えている。

魔力変換資質『流水』を保有している。

 

実は彼の名は母方の名字を使ってるだけで、本名は『海斗(カイト)・アトランタ・アクエリアス』と言い、『ネオアトランティス』の第一王位継承者でもある(要は王子様)。

先代の王…つまり、海斗の父親が崩御したために王族の血縁者から命を狙われており、海斗がそれなりの歳になるまで雲隠れしていた。

王位継承者の証は代々王となる者の右腕に蒼き龍の頭を表した痣が浮かび上がり、父親の崩御後すぐに海斗の右腕に出現したため、それを包帯で隠している。

また、この痣が浮かび上がった王に選定された者は同じく蒼き龍の各部位を表す痣を持つ4人の臣下となりうる存在を見つけなくてはならない定めがある。

海斗はその臣下になりうる者達も探していたが、未だ見つかっていない。

これが中学に上がる前に転校して音信不通になった理由である。

ちなみにこの蒼き龍の痣はブルートピアを太古の昔から守ってきた伝説の守護龍がネオアトランティスの初代国王に与えた神聖と絆の証であり、代々の王やその臣下にその加護を与えてきた。

 

第百十九話にて冥王として覚醒する。

髪は澄んだ蒼、瞳は鮮やかな深紅へと変化し、背中から瑠璃色の4対8枚の翼が生えた姿となる。

冥王スキルの名は『ハザード・オーシャン』。

 

 

 

名前:アルカ

 

容姿:前髪に白いメッシュを入れた背中まで伸ばした黒髪と藍色の瞳を持ち、少し中性的で綺麗な顔立ちをしている

長身に対して凹凸は少し控えめだが、それでも十分な女性らしさを持った体型

 

種族:シャチ

 

性別:女

 

身長:181cm

スリーサイズ:B85/W58/H89

 

年齢:20歳(外見年齢)

 

魔力光:藍色

 

魔力:AA

 

趣味:体を動かすこと、海斗を鍛えること

 

好きなもの(事):格闘技、飛び込み

 

嫌いなもの(事):卑怯な真似

 

性格:活発で竹を割ったような裏表のない性格

 

備考:海斗の使い魔。

海斗が雲隠れする生活を送る前に母親から海斗の事を頼まれており、主に護衛として海斗を守ってきた。

守られてばかりが嫌だと言った海斗に我流の格闘技を指南してきた師匠的な存在。

同じ使い魔のシルトとは同時期に海斗の使い魔になった友人であり、海斗とシルトの姉的な存在でもある。

海斗とシルトの恋路は知っており、それがたとえ間違っていても応援する気でいる。

 

 

名前:シルト

 

容姿:腰まで伸びた白い髪と黒い瞳を持ち、綺麗というよりも可愛らしい顔立ちをしている

全体的に均等の取れた平均的な体型

髪型は首の後ろで髪を一束ねにしている

 

種族:アシカ

 

性別:女

 

身長:155cm

スリーサイズ:B84/W57/H86

 

年齢:17歳(外見年齢)

 

魔力光:白色

 

魔力:S

 

趣味:家事全般

 

好きなもの(事):海斗

 

嫌いなもの(事):戦いや争い事、怖い人

 

性格:気性は穏やかで大人しく控え目な性格で、ドジな一面もある

 

備考:海斗の使い魔。

アルカ同様、海斗の母親から海斗の事を頼まれており、主に身の回りの世話を担当している。

そのため、家事全般が特異であり、趣味の域になっている。

ただ、よく何もない所でも転んだりしているので、海斗やアルカに支えられる姿をよく見かける。

海斗とは恋仲の関係であるが、本来なら使い魔との恋は禁忌とされており、関係者やブルートピア出身の人間には悟られないようにしている。

但し、アルカは2人を応援する姿勢を取っている。

 

 

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名前:灰原(はいばら) (ゆい)

 

容姿:腰まで伸ばした黒髪と瑠璃色の瞳を持ち、凛とした雰囲気の綺麗な顔立ちをしている

全体的にスラッとしていながらも豊満な体型

髪型は白いリボンでポニーテールに結っている

 

種族:海人族

 

性別:女

 

身長:157cm

スリーサイズ:B89/W57/H88

 

年齢:17歳

 

魔力光:サファイアブルー

 

魔力:AA+

 

気:AA

 

趣味:剣術の稽古、料理、読書

 

好きなもの(事):海、魚介料理

 

嫌いなもの(事):間違ったこと、不正

 

性格:基本的に冷静に努めるようにしている真面目な性格で、厳しくも優しい一面も持ち合わせている

 

備考:ブルートピアからやってきた少女。

その正体はネオアトランティス王国で双璧を成す二つの騎士団の内、女性のみで構成された騎士団『マリンナイツ』の若き団長である。

若くして団長になるだけの才覚を備えており、その指揮能力、剣技、魔法はいずれも高いレベルに達しており、これは彼女の努力の賜物であるが、"比較的平和が続いていたブルートピア内でも"という制約が付くので実戦経験は少ない。

それでも訓練は欠かさず行っており、有事の際に備えている。

現国王であるカイルのことはあまり好ましく思っておらず、表向きは実直に任務をこなす人間を演じているが、裏では先王派との繋がりを持っている。

使い魔として『ハイネ』を従えている。

魔力変換資質『流水』を保有している。

また、蒼き龍の『逆鱗』を表した痣が右腕に宿っており、普段は長袖の服装や篭手などで隠している。

 

 

名前:ハイネ

 

容姿:うなじが隠れる程度の黒髪と灰色の瞳を持ち、凛とした雰囲気の整った顔立ちをしている

全体的に細身だが、無駄な贅肉を削ぎ落したような体格

また、右手は突然変異していて、鈍色をした甲殻で覆われたような状態になっている

 

種族:ロブスター

 

性別:男

 

身長:190cm

 

年齢:25歳(外見年齢)

 

魔力光:鈍色

 

魔力:B

 

趣味:主の補佐

 

好きなもの(事):特にない

 

嫌いなもの(事):特にない

 

性格:寡黙で主に忠実な性格で、主に忠誠を誓っている

 

備考:唯の使い魔。

唯の補佐役として数々の仕事をこなせる優秀な執事のような存在で、普段着も執事服を着用している。

使い魔となって人間体の姿を得る際、右手だけが突然変異を起こして自らの甲殻が覆い、一体化する現象が引き起ってしまい、その影響で常に右手には特注の革手袋をしている状態にある。

戦闘時は突然変異と化した右手を用いた近接戦を得意としており、魔法は魔力量も比較的少ないために身体強化をメインに使っている。

また、主である唯は彼の右手のことはあまり気にした様子もなく普通に接しているので、それも相俟って主への忠誠心は強い。

 

 

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名前:灰原(はいばら) 奈緒(なお)

 

容姿:肩にかかるくらいの黒髪と藍色の瞳を持ち、柔和な雰囲気の可愛らしい顔立ちをしている

全体的にスラッとしているスレンダーな体型

髪型はストレート

 

種族:海人族

 

性別:女

 

身長:154cm

スリーサイズ:B79/W55/H81

 

年齢:16歳

 

魔力光:スカイブルー

 

魔力:B-

 

気:AAA

 

趣味:体術の稽古、素潜り

 

好きなもの(事):海、海産物

 

嫌いなもの(事):姉を傷つける奴、ハッキリしないこと

 

性格:明るく元気で快活な性格だが、少々強気で責任感が強い一面も持つ

 

備考:唯の妹で、マリンナイツの一員。

唯とは違い、身体強化の魔法をメインにした蹴り技主体の体術を得意とするアタッカーで、マリンナイツの中でも唯一パンツスタイル(ホットパンツのような丈の短いズボン)で活動している。

蹴り技以外にも投擲の心得があり、中距離にも対応出来る。

出来の良い姉と比較されることも多々あるが、姉妹仲は良好でよく一緒に行動をしている。

現国王のカイルのことは姉同様に好ましく思っておらず、姉ほど器用に立ち回れないので姉が裏で動けるように囮役として動いている。

使い魔として『ベルディ』を従えている。

魔力変換資質『流水』を保有している。

また、蒼き龍の『尻尾』を表した痣が右腕に宿っており、姉と違って痣を隠さず目立つように立ち振る舞っている(これもまた囮役の一環)。

 

 

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名前:久瀬(くぜ) (かおる)

 

容姿:腰まで伸ばした朱色の混じった黒髪と緋色の瞳を持ち、柔和な雰囲気の綺麗な顔立ちをしている

やや肉感的でグラマラスな体型

髪型はストレートだが、頭の左右に山吹色の細いリボンをアクセント程度に結っている

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:166cm

スリーサイズ:B92/W59/H89

 

年齢:18歳

 

魔力光:虹色

 

魔術式:無し

 

デバイス:エクスキューター・ライブラ

 

魔力:AAA

 

気:SS+

 

趣味:古武術の稽古、瞑想

 

好きなもの(事):自由、頭を空っぽにすること

 

嫌いなもの(事):実家の風習や考え、自分自身

 

性格:表面上は礼節を重んじる貞淑で清楚な性格だが、その内面は自己嫌悪の精神と正義感が綯い交ぜになったような歪な側面を持つ

 

備考:駒王学園三年生の女生徒で、大学部への進学を控えている。

『久瀬流古武術』という流派の後継者であるが、本人は家を継ぐ気はなく実家のしがらみから抜け出したい一心で駒王町にやってきて、駒王学園にも高等部から入学を果たした。

それからの三年間、実家のことを忘れようと努めていたが、無意識の内に実家に伝わる古武術の稽古をしていたりと染み付いた習慣はなかなか抜け切れていない。

超常の存在については実家の教育の一環で知っており、駒王町にやってきたのも悪魔の領域なら実家の追手もおいそれとやってこないだろうと踏んだからである。

その裏では賞金稼ぎとして生計を立てていて、ライブラの力と久瀬流古武術を用いて超常の存在や悪人などを捕まえていたが、和平が成立した後の依頼は激減している状態にある。

それでも細々とした活動を続けていたが、彼女自身も限界を感じつつあった。

特異魔力変換資質『虹焔』と『虹氷』を保有している。

また、蒼き龍の『背鰭』を表した痣が右腕に宿っており、普段から長袖の服装で隠しているが、痣の意味を知らず、何故自分にこんな痣が出たのか…色々とわからないでいる。

 

 

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名前:アリア・クラシエル

 

容姿:胸元辺りまで伸ばした金髪とサファイアブルーの瞳を持ち、儚い印象を与える可愛らしい顔立ちをしている

全体的にバランスの取れた体型

髪型はストレート

天使としての翼の枚数は2対4枚

 

種族:人間と天使のハーフ

 

性別:女

 

身長:154cm

スリーサイズ:B82/W55/H85

 

年齢:16歳

 

魔力光:純白色

 

魔力:SS

 

気:AA-

 

趣味:家事全般、祈りを捧げること

 

好きなもの(事):節制、愛、絆

 

嫌いなもの(事):戦いや争い事、暴力

 

性格:心優しく慈悲深い性格で、何事にも動じない強い精神力を持つ他、やや世間知らずの一面もある

 

備考:三学期の途中から駒王学園高等部一年に転校してきた少女。

天使の父と人間の母を持つ奇跡の子であり、母の家系がリンカーコアを保有していたため、大気魔力を扱える。

大気とは言え魔力を扱えるため、今まではひっそりと暮らしていて、その存在もセラフクラスにしか伝えられていなかった。

そのためか些か世間知らずで一般常識に欠ける部分もある。

教会のクーデター派との一件後、ミカエルの配慮と彼女自身の見聞を広めるためにと駒王学園への編入を薦められ、それを受けることにした。

中途半端な時期での編入のため、二年生からの編入でもいいとされていたが、何事も早いに越したことはないと彼女が自ら望んで編入を希望した。

魔力変換資質『閃光』と神器『暁の翼』を保有する。

また、蒼き龍の『腹鰭』を表した痣が右腕に宿っているが、この痣が持つ意味を知らない。

ちなみに普段から肌を見せないように長袖だったり丈の長い服装をしているので、痣は自然と隠せている。

 

 

暁の翼(プレジャス・フェザー)

アリアの天使の翼と一体化した翼の羽を媒介として様々な武具を生み出す創造系神器。

本来は所持者に1対2枚の翼を発生させるが、天使の血を引いていたアリアに宿ったことで天使の翼を媒介にすることが出来るようになったため、亜種に近いものとなっている。

天使の羽を媒介とする関係上、光属性との親和性が高く作り出した武具は光属性になりやすい特徴を持つ。

一応、他の属性も付与出来るが、光属性ほど強くなく、さらに闇属性など負の属性は種族の関係から付与出来なくなっている。

武具創造は単純な構造の物しか創れないが、それでも多種多様な武器や防具をイメージ次第で創り出せることから汎用性もそこそこ高い。

しかしながらアリアの性格上、戦いや争い事を好まないために積極的に使われることもなく、何故このような力が自分に宿ってしまったのかと日々疑問を抱いている。

ちなみに禁手には至っていない。

 

 

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名前:グレイス・ゼムナシオ

 

容姿:肩に掛かるくらいに伸びた銀髪と黒い瞳を持ち、優しい印象を与える端整な顔立ちをしている

体格は細身に見えるが、中身はガッチリとした筋肉質の持ち主である

天使と悪魔の翼の枚数は共に5対10枚で、それぞれ片方に5枚ずつ展開することも可能

 

種族:天使と悪魔のハーフ

 

性別:男

 

身長:186cm

 

年齢:25歳

 

魔力光:金色

 

デバイス:サンシャイン・ジェミニ(エクセンシェダーデバイス)

 

魔力:SSS

 

趣味:散歩、ボランティア

 

好きなもの(事):子供、動植物

 

嫌いなもの(事):暴力、戦争、テロ

 

性格:どのような種族でも分け隔てなく接する平和主義のとても優しく穏和な性格だが、これは表の人格である

彼は二重人格者であり、裏の人格は無慈悲で冷酷な上に好戦的且つ暴力的な性格となっている

 

備考:多次元世界を渡り歩く流浪の旅人。

両親は天使と悪魔であり、三大勢力が和解する前に誕生した異端にして奇跡の子。

普段は平和的で暴力沙汰を嫌い、動植物を愛でたり傷付いた人を治療する好青年である。

しかし、そんな彼にも日々悩まされていることがある。

それは自分のもう一つの人格である。

仮に普段の彼を表と評するなら、裏の人格は真逆の性質を持っている。

つまり、裏の人格は草花を平気で踏み潰し、人を傷つけることを何とも思わず、非道な行いを平然と繰り返す残虐な人格である。

裏の戦闘力は凄まじいの一言で、魔王や神クラスとも互角に渡り合える程の実力を持っており、特に肉弾戦では無類の強さを発揮し、魔力や聖なる光を駆使した術式戦も(こな)すオールラウンダータイプである。

その様から『現世の神』という二つ名で呼ばれている。

そんな彼を悪魔はもちろん堕天使や天界も長年マークしてきたが、多次元世界を渡る方法を偶然にも見つけた彼は別の次元に渡ることで行方をくらましていた。

そんな中、とある次元の遺跡で双子座のエクセンシェダーデバイス『サンシャイン・ジェミニ』と出会い、選定者としての資質を見出され、その持ち主に選ばれた。

戦い自体を嫌う表の人格はジェミニの力をあまり使いたがらないが、裏の人格はエクセンシェダーデバイスの存在を知ってから他のエクセンシェダーデバイスの力を我が物とせんと画策を続けている。

そして、再び次元を渡った拍子に冥界へと転移してしまい、そこにあった冥族の集落に滞在して情報を収集している。



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オリキャラ紹介・敵側

ここでは主に敵対キャラを扱っていきたいと思います。
予定としてはライバル系のキャラ紹介も作ってみたいですね。

2015/3/27
紅牙と秀一郎のプロフを『オリキャラ紹介・ライバル側』へと移転させました。


・敵側

 

名前:邪狼(じゃろう)

 

容姿:背中まで伸ばしたボサボサの黒髪と琥珀色の瞳を持ち、凶暴な印象を与える野性味溢れる顔立ちをしている

シャープなフォルムでありながら無駄な贅肉のない戦うためだけに鍛えられた筋肉の持ち主

 

種族:霊狼

 

性別:男

 

身長:195cm

 

年齢:不明

 

霊光:闇黒色

 

気:EX

 

霊力:EX

 

趣味:多種族殺し、敗者の肉を喰らうこと

 

好きなもの(事):戦いや血の匂い、戦争、殺し合い

 

嫌いなもの(事):平和、弱い者

 

性格:狂気に満ちた狡猾にして残忍でかなり好戦的な性格で、嬉々として人型生物を殺すことを楽しむ暴虐非道な行いも平然とする

 

備考:時空管理局によって特A級の要注意人物として指名手配されている凶悪な次元犯罪者であり、凄腕の傭兵。

数々の多次元世界の戦争に関わってきた戦争屋であり、民間人だろうが非戦闘員だろうが関係なく弱い者は全て屠ってきた凶悪にして最悪の極悪人。

元々は多次元世界でも稀少な霊力を持つ狼の末裔であったが、ある時を境に人型生物の肉と血の味を覚え、戦いに身を投じていった。

その中で自らも人の身へと変じる術を身に付けた他、戦場に漂う匂いだけで戦況や相手の精神状態などを知る術も身に付けている。

狼としての姿は黒い毛並みに琥珀色の瞳を持ったものとなっているが、黒い毛並みは今まで殺してきた者達の血を浴びたことによって禍々しいどす黒い色へと変色している。

また、何年も前にそれぞれの生き方が違うから袂を分かった弟がいるらしく、袂を分かった瞬間に殺し合いへと発展して互いに重傷を負ってそのまま消息を絶ったが、邪狼は弱者を襲って早期に回復した(弟の方は消息不明)。

そして、現在は禍の団・冥王派の傭兵として地球、魔界、天界へとその牙を剥こうとしている。

 

 

 

デバイス:ブラッド・イーグル

 

形状:紺色の鷲

 

待機状態:真正面から見た翼を広げた鷲を象った紺色のエンブレムバッチ

 

搭載システム:マナドライブシステム、ドライバーオペレーションシステムを搭載

管制人格の代わりに学習型AIを搭載している

 

備考:生物型エクセンシェダーデバイスのデータを基に開発された試作型ドライバーデバイスの一機。

とある組織によって邪狼に提供されたドライバーデバイスの試作機で、イーグルは広域殲滅・索敵・蹴撃を主体の設計思想になっている。

また、このデバイスには管理局も知らない技術が複数導入されている。

 

後に邪狼こと、狼夜の遺品として忍に譲渡される。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『イーグルアイズ』

鷲の後頭部から切り離された両端に小さな翼を部品の付いたヘッドギア装備。

これは額へと装着され、内蔵されたHMD型のバイザー(半透明の紅色)を展開することで周辺の地形データや戦闘データを解析して装着者へと視覚的な情報を提示したり、接近警報を鳴らしたりと邪狼の嗅覚や触覚も合わせればほぼ死角のない全方位での索敵や行動予測などを行える事が出来る。

また、通信機能も備えている。

 

『イーグルデバスター』

鷲の頭部が武装化した砲撃戦用装備。

これは嘴の内部に魔力砲台を内蔵しており、単発や拡散、収束まで多岐に渡る様々な砲撃を可能としている。

さらにサブウエポンとして眼の部分からは魔力をレーザー状に照射する機能を持っており、それをロックオンマーカーや出力を上げて攻撃に転用するなどの利用法が可能である。

 

『ブラッドウイング』

鷲の背部と翼を武装化したフライトユニット装備。

これは背部に魔力のエネルギーをスラスターとして使用する『魔力スラスター』を内蔵したバックパックを備え、その左右には実際の鳥と同じような構造での可変翼となっており、普段は閉じた状態になっている。

この可変翼を展開することで空中での空気抵抗を減らし、長時間の飛行を可能にしている。

また、装着者の元々の身体能力に魔力スラスターの出力を上げることで空中での高速戦闘も可能。

 

『ブラッドチェストアーマー』

鷲の胴体を防具化した胸部専用のアーマー装備。

これは装着者に対してブラッドウイングと共に前後から挟み込むような形で装着され、胸部から腹部を守る役割を果たすようになっている。

また、胸部にはイーグルデバスターを接続するための部位があり、装着時にはこの部位にイーグルデバスターが接続されることとなる。

 

『ブラッドキックブレイド』

鷲の足が武装化した蹴撃装備。

これは装着時、鳥が足を握る感じで折り畳まれた状態で両足に装着したライト、及びレフトアーマー表面の膝から足首にかけて接続される。

折り畳まれた足の表面からは爪の部分が剥き出しになり、実体刃としての機能を有している。

さらに実体刃に魔力エネルギーを通すことで熱エネルギーを生み出して攻撃力の増加や、蹴るアクションと共に魔力刃を放つことも可能にしている。

 

 

『マナドライブシステム』

コアドライブシステムに酷似した謎のシステム。

これは何らかの技法を用いてコアドライブに限りなく似た機構を有しており、コアドライブ特有の魔力粒子の放出も確認されているが、核となる宝石が無く、魔力粒子の色も部位によって異なっているなど相違点が見られている。

 

『ドライバーオペレーションシステム』

ドライバーデバイス専用の可変機構統括システム。

これは生物型エクセンシェダーデバイスに酷似しており、複数の形態への変形は出来ないようで一つの形態を維持するに留まっているが、低出力でも安定した形態維持を持つことで量産化しやすいような機構になっている。

さらにアーマー形態を複数のドライバーによって構成することで武器の多彩さやドライバーとの連携など新たな可能性を示唆しているように見える。

 

 

 

 

デバイス:ブラッド・タイガー

 

形状:朱色のサーベルタイガー

 

待機状態:左横から見たサーベルタイガーの横顔を象った朱色のエンブレムバッチ

 

搭載システム:マナドライブシステム、ドライバーオペレーションシステムを搭載

管制人格の代わり学習型AIを搭載している

 

備考:生物型エクセンシェダーデバイスのデータを基に開発された試作型ドライバーデバイスの一機。

とある組織によって邪狼に提供されたドライバーデバイスの試作機で、タイガーは近距離から中距離戦の格闘と牽制を主体の設計思想になっている。

また、このデバイスには管理局も知らない技術が複数導入されている。

 

後に邪狼こと、狼夜の遺品として忍に譲渡される。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『ブラッドライトアーマー』

サーベルタイガーの胴体を防具化したアーマー装備。

これは右肩、右腕、右腰部、右足へとそれぞれプロテクターとして装着される。

また、各種プロテクターの表面には武装専用のアタッチメントが設置されている。

 

『タイガーヘッダー』

頭部が武装化した特殊装備。

これはサーベルタイガーの頭部自体が自律砲台型装備となっており、口内から魔力砲撃を放ったり、2本の大型牙に魔力を付加して直接噛み付いてダメージを与えるなど攻撃的な性能を有している。

装備箇所は右肩。

 

『サーベルバグナウ』

前脚が武装化した特殊装備。

これはサーベルタイガーの前脚が並行連結することで4本の巨大な実体爪を形成し、魔力を爪全体に伝達することで防御系魔法を容易に切り裂く切断力を持っており、バリアジャケットをも切り裂くことが可能。

また、不使用時には爪の付け根辺りから180度展開することで右手を自由に扱う事も出来る。

装備箇所は右腕。

 

『ブラッドハーケン』

後脚が武装化した特殊装備。

これは後脚が蜷局(とぐろ)を巻くように変形し、爪の部分が前を向く様にして腰部左右のアーマーに接続される。

爪先の部分は射出可能であり、それを魔力鋼糸によって本体と繋げることで中距離戦闘でのアクロバティックな動きを可能にしている他、攻撃や拘束などにも使用可能な汎用性を持っている。

装備箇所は左右腰部。

 

『テイルロッド』

尻尾が武装化した特殊装備。

これは尻尾の部分が小さなロッド(10cm程度)が八つが七つの節で連なって出来た鞭となっており、魔力を通して固定化することで棍として機能し、魔力を通さなくても多節棍としての利用法もある。

さらに先端に魔力刃を形成することで槍、双頭の槍、薙刀、大鎌、鎖鎌などの多彩な武器へと変化する機能も有している。

装備箇所は腰裏。

 

『デュアルバスター』

背部に備わった2連装式の射撃装備。

これは速射性を追求した中距離用砲台であり、威力は一般的な魔導師の射撃魔法並みだが、その速射性はマシンガンの如くであり、牽制や足止めなどに利用されることも多い。

また、魔力をチャージして砲撃を撃つことも可能にしいるが、その際も速射性を重視して威力は低めとなっているものの砲撃を連射して放つことが出来る。

装備箇所は両肩上部。

 

 

ブラッド・イーグルと同様『マナドライブシステム』と『ドライバーオペレーションシシステム』を搭載している。

 

 

 

 

 

デバイス:ブラッド・ドラゴン

 

形状:赤色の西洋竜

 

待機状態:右横から見た竜の横顔を象った赤色のエンブレムバッチ

 

搭載システム:マナドライブシステム、ドライバーオペレーションシステムを搭載

管制人格の代わり学習型AIを搭載している

 

備考:生物型エクセンシェダーデバイスのデータを基に開発された試作型ドライバーデバイスの一機。

とある組織によって邪狼に提供されたドライバーデバイスの試作機で、ドラゴンは近距離での格闘戦と防御や補助といったサポートを主体の設計思想になっている。

また、このデバイスには管理局も知らない技術が複数導入されている。

 

後に邪狼こと、狼夜の遺品として忍に譲渡される。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『ブラッドレフトアーマー』

西洋竜の胴体を防具化したアーマー装備。

これは左肩、左腕、左腰部、左足へとそれぞれプロテクターとして装着される。

また、各種プロテクターの表面には武装専用のアタッチメントが設置されている。

 

『ドラゴンヘッダー』

頭部が武装化した特殊装備。

これはドラゴンの頭部自体が自律砲台型装備となっており、口内から魔力粒子を散布してジャミング効果を発生させたり、防御障壁を張ったりなどタイガーヘッダーとは逆に防御的な性能になっている。

装備箇所はレフトアーマーの左肩。

 

『ブラッドクロー』

前脚が武装化した特殊装備。

これはサーベルバグナウと同様に前脚に当たる部分が並行連結することで5本の小型実体爪を形成して五指の上から覆い被さるようにして装着されるが、バグナウと異なって大きさや長さが足りないため、拳を放つ時や近接戦でしか攻撃を当てられないという欠点を持つ。

その欠点を補うために爪の部分に魔力収束機能を内蔵しており、爪の先端から細長い魔力爪を出現させてリーチを伸ばしたり、その魔力爪を飛ばしたりなどバリエーションを増やすことに成功している。

装備箇所は左腕。

 

『ブラッドシールド』

背部と翼が防具化した防御装備。

これは翼が観音開きの構造のように背部に閉じた状態の盾となり、背部や翼の内部には魔力障壁発生機構を内蔵している。

当然ながら翼を開いて防御範囲を拡大させるという芸当も可能で、その場合の魔力障壁も広範囲に展開できるものの強度は落ちてしまう欠点を持つ。

装備箇所はブラッドクローの上部。

 

『ブラッドブースター』

後脚が変形する補助装備。

これは西洋竜の両足の内部に小型魔力ブースターを2基ずつ内蔵しており、瞬間的な加速や蹴りを繰り出す際の威力強化などの利用法がある。

また、爪の部分は踵部分に外を向くように接続されており、逆回し蹴りや踵落としなどの踵での蹴り技を繰り出す際に攻撃力を高める他、ブラッドクローと同様に魔力収束機能を持たせているので魔力刃を展開することも可能。

装備箇所は両足アーマーのふくらはぎ部から踵部。

 

『ドラゴンテイル』

尻尾が武装化した特殊装備。

これは龍の尻尾自体が武装となっており、脳から発せられる電気信号を受信することで自在に操ることが出来るが、元々尻尾の無い種族にとっては扱いづらい武装である。

しかし、その有用性は非常に高く、普通なら死角となる背後からの攻撃を尻尾によって防いだり、逆に薙ぎ払うようにした攻撃を繰り出すなど使い方によってはかなり有効な武装となる。

また、尻尾には連結機能が備わっており、内部に魔力鋼糸を張ることで中距離にも対応出来るようになっている。

装備箇所は臀部。

 

『ブラッドブレード』

ブラッドシールドに収納されている二又の刀身が特徴的な実体剣装備。

形状は刃渡り75cmの刀身が音叉状に連なっており、蝙蝠の翼を象った様なW型の鍔と15cmの柄を持った手持ち用の剣である。

これは音叉状の刀身に魔力を流すことで共鳴現象を引き起こし、その共鳴現象で増幅された魔力を利用して刀身の切れ味や魔力斬撃の威力を高めたり、衝撃波を放ったりするといった動作を可能にしている。

また、その構造上、魔力以外の五気を刀身に流すことで増幅させて様々な効力を発揮することも可能にしている。

 

 

ブラッド・イーグルと同様『マナドライブシステム』と『ドライバーオペレーションシステム』を搭載している。

 

 

 

デバイス:トリニティ・ブラッド

 

備考:コード『三獣合体』のコールによってブラッド・イーグル、ブラッド・タイガー、ブラッド・ドラゴンが所有者の全身へと装着されることで三機一体型のアーマー形態となった姿。

このアーマー形態こそが三機のドライバーの真価を発揮する形態であり、3機のドライバーに備わっている全ての武装や装備を使用することで他を圧倒するほどの戦闘力を与える。

但し、扱うためには相応の知識や技量が必要となり、それを満たせなければそもそも合体が出来ないようになっている。

それでも個々の戦闘力はそれなりに高く、連携攻撃や各個撃破、足止めなど魔導師、もしくは騎士1人で行える戦術の幅をさらに広げる結果に繋げる可能性を秘めている。

 

 

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名前:ゼノライヤ・スペル・フィロス

 

容姿:背中まで伸ばした漆のような黒髪と血のように紅い瞳を持ち、凛々しさを含んだ端整な顔立ちをしている

体格は細身であるが、中身は鍛え上げられて引き締まった筋肉の持ち主

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:184cm

 

年齢:26歳

 

趣味:戦略盤、鍛練

 

好きなもの(事):勝利、強者との戦い

 

嫌いなもの(事):弱者、敗北、退屈

 

性格:冷徹、冷血、冷酷の三拍子が揃った何事にもクールな性格で、徹底した実力主義者で臣下やその部下の失敗は決して許さない程である

また、どんな非道な手段や異端技術であってもそれらを勝利の為には必要として渇望する器の広さも持ち合わせている

 

備考:フィロス帝国の現皇帝。

若くして皇帝の地位に即位した実力派であり、幼少の頃から知略と武芸に秀でた麒麟児としても有名であった。

その才覚は成長するにつれて高まっていき、今では己の力がどこまで通用するかという理由で世界制覇を目標に抱いている。

そして、各国に対して宣戦布告を大々的に発表した後、各国の侵略及び制圧に乗り出している。

現在はラント諸島の自然要塞と、トルネバ連合国特有の風習故にこの二ヵ国の侵略は停滞気味になっているものの、イーサ王国に対しては国土の1/3を制圧し、王都まであと一歩のところまで迫っている。

しかし、その戦況も黒ローブから持たされたデバイス技術の一部によって覆りつつあり、後に提供された量産型ドライバーデバイス『シュトームシリーズ』による大々的な作戦も視野に入れている。

このように勝利のためならば、未知なる技術に手を出し、さらに黒ローブの思惑をも逆手に使おうとするなど、清濁併せ呑む器量の深さを持っており、周囲からは『覇導皇帝(はどうこうてい)』の異名で恐れられている。

武芸は剣術から槍術、弓術、格闘技、騎乗、兵法の他、異世界の技術である銃術や重火器の使用も早期に会得している。

さらにそれらに加えて魔法技術にも高い技能を有しており、魔力石を用いた魔法学にも精通している。

そのためか、現状の立場や実力にはどこかしら虚しさを感じており、政は基本的に臣下へ放り投げているが、国の方針や要所要所はしっかりとした基準と方向性を持っている。

そんな中、四ヵ国の中でも弱小国に当たるイーサ王国が謎の勢いで反撃してきたことに興味を持ち出している。

 

 

 

デバイス:ダークネス・エンペラー

 

形状:一対の指輪と特殊なベルト

 

待機状態:存在しない

 

搭載システム:マナドライブシステムⅡ、エナジーリンクシステム、チャージアップシステムを搭載

 

備考:黒ローブが作製したゼノライヤ専用のバリアジャケット展開型デバイス。

これは忍が使うネクサスの解析データを基に開発されており、黒ローブ独自の技術を導入してゼノライヤ専用にチューンされている。

性能はネクサスに引けを取らず、装着者の技能がそのままダイレクトに反映されるように設計されている。

 

バリアジャケットは上に白のワイシャツを着て、下に黒のスラックスを穿き、その上から騎士甲冑に似た縁沿いに金の装飾を施した漆黒の胸部プロテクター、前腕部から手の甲までを覆う籠手、腰部プロテクター、脛部分を守る足具を装着し、さらにその上から裏地が緋色の漆黒のマントを羽織り、ストレートチップの黒い革靴を履いた姿となる。

 

 

『エナジーリング』

指輪型魔力石増幅装備。

これは二個一対の指輪であり、表面に魔力石を装填することでその魔力石に宿る属性の力を増幅させることが出来る。

装着場所は両手の中指。

 

『エンペラーバックル』

特殊なバックル装備。

これは強化型マナドライブを内蔵しており、魔力石1個でバリアジャケットを形成出来るだけの出力を得ることが可能。

その他、使用した魔力石の属性をバリアジャケットに反映することが可能で、複数の魔力石を使用することでバリアジャケットの維持コストと強度を上げたり、部分的に属性を反映して攻撃力に転換するなどの動作がで出来る。

また、バックルのマウント部分には専用武装『カイザーソード』が備わっている。

装着場所は下腹部。

 

『カイザーソード』

ダークネス・エンペラー専用武装。

これはバックルの表面にv字型の鍔だけの状態でマウントされており、使用時に外す仕掛けになっている。

外すと鍔から柄が伸び、その柄を持つことでエナジーリングから魔力を供給されて両刃状の魔力刃を形成する仕組みになっており、形成後は片手持ち用の大剣のような形状になる。

ゼノライヤの戦闘技能によって様々な応用が利き、刀身の長さや幅を調整することで変幻自在の戦法を行える柔軟性を持つ。

 

 

『マナドライブシステムⅡ』

シュトームに搭載されているものよりも出力を上げた魔導機関。

これは魔力石1個でバリアジャケットの維持が事足りるように調整を施されており、さらに魔力石の属性を引き出すことも可能になっている。

 

『エナジーリンクシステム』

魔力伝達システム。

これはエナジーリングを媒介に専用武装を起動させ、同時に武装に魔力石から抽出した魔力を注いで維持、もしくは強化することを主眼に置いている。

 

『チャージアップシステム』

ネクサスのエクシードドライブシステムを解析して作られた魔力瞬間強化システム。

エナジーリングの魔力石を1個使い果たすだけで強力な技を放つことが出来る。

 

 

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名前:ギルフォード・トリニゲイス

 

容姿:前髪に赤いメッシュの入ったうなじが隠れる程度に伸ばした金髪と蒼い瞳を持ち、キリッとしてクールな印象を与える端整な顔立ちをしている

太過ぎず細過ぎないが、全体的に引き締まった筋肉の騎士らしい体格

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:186cm

 

年齢:24歳

 

趣味:剣の稽古

 

好きなもの(事):特に無い

 

嫌いなもの(事):特に無い

 

性格:基本的に寡黙で何を考えているかわからないが、常に物事を一歩引いたところから観察する冷静沈着な性格

 

備考:フィロス帝国、皇帝直属の親衛隊隊長。

幼少の頃から剣の道一筋に生きてきた生粋の剣士であり、何事も剣で語ろうとする節が少なからずある。

ゼノライヤとは幼少期からの腐れ縁であり、剣の才覚では彼と同等かそれ以上の才を見せる程の逸材だったが、それ以外の総合力ではゼノライヤの方が優秀であった。

ゼノライヤが皇帝に即位した後は、彼の推薦と自身の技量を周りに見せ付けて親衛隊に入隊し、程なくして隊長に任命されている(こちらも異例の早さで昇格を果たしている)。

ちなみに年齢はゼノライヤの二つ下だが、その性格からゼノライヤよりもちょっと大人びいて見られる時がある。

親衛隊として親衛隊専用の鉄壁属性を持つ魔物の甲殻を使用した漆黒の騎士甲冑を賜っている他、裂斬の属性を持つ魔物の牙を削って作られた特注の剣を2本所持しており、戦場では二刀流による剣術と魔法を駆使して立ち回っている。

また、親衛隊隊長ということもあり、当然ながら護衛の心得も持ち合わせている。

使用する魔力石は火、雷、氷の三種のみを取り扱っており、他の属性は騎士甲冑や剣に使われているもの以外は使わない主義であるらしい。

愛称は『ギル』。

 

 

 

デバイス:ダークネス・シュヴァリエ

 

形状:一対の指輪と特殊なベルト

 

待機状態:存在しない

 

搭載システム:マナドライブシステムⅡ、エナジーリンクシステム、チャージアップシステムを搭載

 

備考:黒ローブが作製したギルフォード専用のバリアジャケット展開型デバイス。

ゼノライヤ専用の『ダークネス・エンペラー』同様、ネクサスの解析データを基に開発されており、ギルフォードの技能をダイレクトに反映出来るように設計されている。

 

バリアジャケットは上に青いワイシャツを着て、下に黒のスラックスを穿き、その上から漆黒の騎士甲冑の衣装を施した胸部プロテクター、両肩プロテクター、肘から指先まで覆う籠手、腰部プロテクター、膝からつま先までを覆う足具を装着した姿となる。

 

 

『エナジーリング』

指輪型魔力増幅装備。

これは二個一対の指輪であり、表面に魔力石を装填することでその魔力石に宿る属性の力を増幅させることが出来る。

装着場所は両手の中指。

 

『シュヴァリエバックル』

特殊なバックル装備。

これはエンペラーバックル同様、強化型マナドライブを内蔵しており、魔力石1個でバリアジャケットを形成出来るだけの出力を得ることが可能。

その他、使用した魔力石の属性をバリアジャケットに反映することが可能で、複数の魔力石を使用することでバリアジャケットの維持コストと強度を上げたり、部分的に属性を反映して攻撃力に転換するなどの動作がで出来る。

また、バックルの両端には専用武装『シュヴァリエ・ブレード』が2本備わっている。

装着場所は下腹部。

 

『シュヴァリエ・ブレード(×2)』

ダークネス・シュヴァリエ専用武装。

これはバックルの両端に柄だけの状態で接続されており、使用時に外す仕掛けになっている。

外した後、柄を手に持つことでエナジーリングから魔力を供給されて片刃状の魔力刃を形成する仕組みになっており、形成後は鍔のない日本刀のような形状になる。

ギルフォードとの相性はかなり良く、二刀流の剣技を惜しみなく発現することが出来る他、使い方によっては相手の武器や魔法を破壊することも可能。

 

 

『マナドライブシステムⅡ』

シュトームに搭載されているものよりも出力を上げた魔導機関。

これは魔力石1個でバリアジャケットの維持が事足りるように調整を施されており、さらに魔力石の属性を引き出すことも可能になっている。

 

『エナジーリンクシステム』

魔力伝達システム。

これはエナジーリングを媒介に専用武装を起動させ、同時に武装に魔力石から抽出した魔力を注いで維持、もしくは強化することを主眼に置いている。

 

『チャージアップシステム』

ネクサスのエクシードドライブシステムを解析して作られた魔力瞬間強化システム。

エナジーリングの魔力石を1個使い果たすだけで強力な技を放つことが出来る。

 

 

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デバイス:シュトーム・アルファ/ベータ/ガンマ

 

形状:三機一組の特殊な戦闘機

 

待機状態:掌サイズの三角形の頂点にそれぞれ宝石を取り付けれるような装飾を施した独特な形状のエンブレム

 

搭載システム:マナドライブシステム、ドルイドシステム、ドライバーオペレーションシステムを搭載

管制人格は存在しない

 

備考:黒ローブからフィロス帝国へと提供された量産型ドライバーデバイス。

その装備やシステムから邪狼に渡されたブラッドシリーズよりも完成度が増しており、禍々しい姿となったフロンティア内部で量産化が進められている。

そのため、ブラッドシリーズと同じ組織か、黒ローブの手によって開発されたものだと推測されている。

これもまた生物型エクセンシェダーデバイスを参考に作られているが、シュトームシリーズは完全な兵器としての面が前面に押し出されており、変形機構も(待機状態を含めても)三種類しか持たないことや武装の位置によってその性能を変更出来ることからも従来のデバイス技術から逸脱していることが窺える。

さらに量産が進んでいるのか、かなりの数が帝国へと提供されており、他国への侵攻作戦に大々的に使用される日も近いとのこと。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『シュトームアーマー』

三機の戦闘機(武装を除く)が鎧化した防具装備。

これはアルファは胴体と背部、ベータは両肩と両腕、ガンマは腰部と脚部へとそれぞれ装着される形になっている。

各戦闘機のエンジン部に当たる部分はそれぞれ魔力スラスターユニットとなっており、アルファは背部のバックパック装備、ベータは両肩、ガンマは両足ふくらはぎ部に装着するようになっている。

 

『アルファギア』

アルファの機首がサークレット状に変形したヘッドギア装備。

これは額に装着されていてHMDが内蔵されており、常時展開することで網膜の保護と情報閲覧を可能にしている。

また、この装備はドルイドシステムとの相性も良く、サークレット状のヘッドギアから脳波を読み取り、それをAIが最適な形で解析・演算・索敵し、HMDに表示することで得られる情報を調整したりしている。

 

『アルファセイバー(×2)』

シャープなフォルムの翼を模したような台形型の可変翼装備。

これはそれぞれ独立した作りになっており、翼の基点には小型の魔力スラスターが搭載されていて、翼の部分は100度に可動する仕組みになっている。

翼の縁沿いは実体刃となっており、実体剣としての利用も可能な他、アルファシールドの片方と合体することで盾弓、両方と並列合体することでリフターとしても機能する。

アルファの主翼を担っている。

 

『アルファシールド(×2)』

五角形を象った小型シールド状の防御兵装。

これは裏側に魔力ホバーユニットを搭載していて、五角形の先端に向かって2門の小型魔力砲台も備わっており、自律砲台装備としての機能も有している。

2基を合体させることで大型シールドにすることも可能な他、魔力バリアや魔力シールド、魔力フィールドを展開して防御することも出来る。

また、空中での足場にして緊急回避や方向転換などに用いることも可能。

アルファの機体上部に二つ並んで取り付けられている。

 

『ベータウインガー(×2)』

5対10枚の機械翼型の滞空補助装備。

これはそれぞれ独立した作りになっており、小型魔力スラスターを搭載した小型機械翼を基部に左右から2対4枚の機械翼を挟み込んだような構造をしている(簡単に言えば、フリーダムの翼)。

普段は閉じた状態だが、高機動戦闘を行う際には翼を展開して空中での機動力を向上させる機能を有している。

また、小型魔力スラスターを備えているのでAIによる細かな自動姿勢制御をドルイドシステムを通して行えるようになっている

ベータの主翼を担っている。

 

『ベータブレード(×2)』

片刃の大剣型の近接兵装。

これは実体剣としての性能を有したまま刀身の刃部分に魔力を通すことで攻撃力を増す構造になっている。

普段はベータウインガーを鞘代わりに刃を外側に向けた状態で収納されており、戦闘機形態でも目標との擦れ違い様に切り裂くなどといった動作を可能にしている。

また、剣の柄頭や峰の部分には連結機構が備わっており、状況に応じて巨大な大剣や双刃の薙刀状の大剣にすることも可能。

 

『ベータエッジ(×2)』

中距離から近距離専用の近接兵装(イメージはデスティニーのフラッシュエッジⅡ、もしくはソードストライクのマイダスメッサー)。

これは実体剣と持ち手が"ヘ"の字状に一纏めになった代物で、通常時はカバー状の追加装甲の上にマウントされている。

使用時は投擲することでブーメランとして機能し、さらに実体剣の部分から魔力を刀身上に収束することで近接兵装にすることも可能。

ベータの尾翼を担っている。

 

『ガンマショット』

銃器型の射撃兵装。

これは一発一発の威力に優れた銃器で、主に敵を撃ち抜く際に用いることが多い。

さらにガンマショットの特徴は通常の魔力弾の他に魔力散弾への切り替え機能を有しており、高い攻撃性を発揮するようになっている。

また、ガンマライフルと前後合体する機能を持っており、ガンマショットが前の場合、収束砲撃か拡散砲撃を可能にする重火器へとその機能を拡張する。

右側のガンマバスターの上部に取り付けられている。

 

『ガンマライフル』

銃器型の射撃兵装。

これは速射性や連射性に優れた銃器で、主に牽制や援護に用いられることが多い。

また、ガンマショットと前後合体する機能を持っており、ガンマライフルが前の場合、機関銃並みの威力と速射性を持つ重火器へとその機能を拡張する。

左側のガンマバスターの上部に取り付けられている。

 

『ガンマバスター(×2)』

高出力の砲撃を可能とする砲戦兵装。

これは長大な砲身を持ち、そこから収束された砲撃を放つ遠距離武装となっている。

また、砲身には折畳機能が備わっており、不使用時には収納することも可能。

ガンマの双胴部の左右機首を担っている。

 

『ガンマスターダスト(×2)』

誘導追尾型の魔力レーザー兵装。

これは前進翼型の機械翼の形状をしており、その表面に8門の魔力レーザー照射砲口を備えている。

左右の合計で16門の砲口を持っており、ドルイドシステムと併用して使用すれば複数の目標に対していくつかの魔力レーザーを割り振ることも可能にしている。

ガンマの主翼を担っている。

 

 

システムの詳細は以下の通りである。

 

『マナドライブシステム』

コアドライブシステムを魔力石を代用させることで模倣した魔導機関。

コアドライブを解析することは不可能でも魔力石を核としたエネルギー伝達方法は確立されており、それを応用してコアドライブに酷似した構造を実現している。

マナドライブはコアドライブと異なり、魔力石から魔力を抽出して装備・武装に供給するため、稼働時間に制限があるものの、三つの魔力石を用いて起動させるので長期戦でも余程のことが無い限り安定した出力を発揮可能。

ちなみに魔力石一個による稼働時間は約二時間前後であり、戦闘で消費される魔力量も考えれば十分過ぎる時間と言える。

邪狼に渡されたブラッドシリーズに使用されているモノと同じ規格のシステムである。

 

『ドルイドシステム』

情報解析、及び高度演算システム。

これは周囲の地形データの解析を始め、通信、魔力反応の察知、弾道予測など多彩な機能を一手に担うことの出来るシステムであり、非人格型のAIと連動していて一般の兵士でも容易に扱えるように調整されている。

 

『ドライバーオペレーションシステム』

ドライバーデバイス専用の可変機構統括システム。

生物型エクセンシェダーデバイスのチェンジングドライバーシステムを解析されて作り上げられた代物であり、ドライバーデバイスの要となりつつある。

少なくとも生物型エクセンシェダーデバイスの一機が黒ローブの元にあることが窺える。

邪狼に渡されたブラッドシリーズに使用されているモノと同じ規格のシステムである。

 

 

 

シュトームシリーズの場合、以下の形態が存在する。

 

3機編成の戦闘機航行形態『クルーズモード』

シュトームシリーズの基本的な形態。

シュトームアーマーの胴体と背部、アルファギア、アルファセイバー、アルファシールドで構成された可変翼型戦闘機『シュトーム・アルファ』。

シュトームアーマーの両肩と両腕、ベータウインガー、ベータブレード、ベータエッジで構成された特殊な主翼が特徴的な戦闘機『シュトーム・ベータ』。

シュトームアーマーの腰部と脚部、ガンマショット、ガンマライフル、ガンマバスター、ガンマスターダストで構成された双胴型の戦闘機『シュトーム・ガンマ』。

この形態では主に所有者の援護か、移動の足として使用することが多い。

 

『アーマーモード・アルファ』

アルファの装備・武装を中心にしたバランス形態。

背部バックパックユニットの左右にアルファセイバー、両肩にアルファシールド、両腕にベータエッジ、腰部左右にベータウインガーを鞘代わりにしてベータブレード、ベータウインガーの側面にガンマショットとガンマライフル、両足側面に折り畳まれた状態のガンマバスター、ガンマバスターの外側面にガンマスターダストをそれぞれ装備した状態となる。

これは主に指揮官や部隊長、親衛隊などが使用する形態であり、バランスの良い機体性能から部隊長クラスでも帝国の精鋭部隊とほぼ互角に渡り合える実力を発揮出来るが、あくまでもそれは同等の装備が無かったらの話で同等の装備があれば間違いなく負けるだろう。

また、精鋭部隊や親衛隊クラスにもなると他の二形態も自由に使いこなせるようになっている。

 

『アーマーモード・ベータ』

ベータの装備・武装を中心にした近接戦闘形態。

背部バックパックユニットの左右にベータブレードを収納したベータウインガー、両肩にベータエッジ、両腕にアルファセイバーとアルファシールド、腰部左右に折り畳まれた状態のガンマバスター、ガンマバスターの側面にガンマショットとガンマライフル、両足側面にガンマスターダストをそれぞれ装備した状態となる。

これは主に騎士や歩兵などが使用する形態であり、近接戦闘に特化した性能から白兵戦に向いた仕様になっている。

射撃も補助的な意味合いで使用可能である。

 

『アーマーモード・ガンマ』

ガンマの装備・武装を中心にした遠距離戦闘形態。

背部バックパックユニットの左右に折り畳まれた状態のガンマバスター、両肩にガンマスターダスト、両肩近くに浮遊するアルファシールド、両腕側面にベータブレードを収納したベータウインガー、腰部左右にアルファセイバー、アルファセイバーの側面にガンマショットとガンマライフル、足首にベータエッジをそれぞれ装備した状態となる。

これは主に魔導師や弓兵などが使用する形態であり、遠距離戦に特化した機体性能から砲撃戦に向いた仕様になっている。

距離を詰められた時のために白兵戦も出来るようになっている。

 

 

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名前:ノヴァ・エルデナイデ

 

容姿:うなじが隠れる程度の蒼い髪と黒く濁った瞳を持ち、中世的で女性のような綺麗な顔立ちをしている

肌は病的に白く、肉付きも程ほどにといった感じの体格

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:168cm

 

年齢:不明

 

魔力光:蒼と黒が混ざり合った色

 

魔力:不明

 

気:不明

 

趣味:研究、実験、人が絶望する様を見ること

 

好きなもの(事):絶望、人が絶望する時に見せる表情、人の不幸

 

嫌いなもの(事):希望、友情、絆

 

性格:表面上は何事にも冷静に対処する理知的な性格だが、その本性は底知れぬ狂気を孕んだ冷酷・冷淡・無慈悲という三拍子が揃った外道で人の不幸や絶望を嬉々として観察する異常者

 

備考:これまでもシャドウの研究に興味を示したり、忍とイッセーを冥界からブリザード・ガーデニアへと強制転移させ、フロンティア事変でフロンティアを乗っ取り、そこで量産したシュトームをフィロス帝国に提供する、クローニングした龍騎士を忍へと差し向け、英雄派の実験に加担するなどと裏で暗躍してきた黒ローブの正体である異常学者。

パッと見は見目麗しい外見なのだが、その内面は毒々しいほどに腐り切っており、他者を絶望の淵に陥れるためにはどんな手段も厭わない。

その過去は一切不明で、側近の『六天王』と呼ばれる6人の戦士達も出会う前のノヴァの素性は知らない。

ただ、わかっているのは過去に『絶魔』と呼ばれる異次元生命体と接触した事がきっかけで今の異常者と成り果てたことであり、六天王が出会った時には既に異常者であった。

数多の計画を同時に進行させるだけの頭脳と技術力を保有しているが、それは絶魔との接触によって異次元科学に触れたことで眠っていた才能が開花した結果で、さらには超先史文明や古代文明など常人では到底及びもしないような未知の文明科学の知識も会得するに至る。

その他、クローニング技術やデバイス技術にも精通しており、そのノウハウを活かして龍騎士の量産兵士化、エクセンシェダーデバイスを解析してブラッドシリーズやシュトームのような新型のデバイス機種の開発や量産化などを手掛けている。

また、山羊座のエクセンシェダーデバイス『リデューション・カプリコーン』の現在の所有者で、数年前に朱堕の左腕を斬り落とし、奪い去った張本人でもある。

シャドウと同様に人体実験には何の感情も持たないが、彼とは違って実験の対象は自分も含め、さらに計画や実験のためにはどんな犠牲を払っても構わないとさえする傾向があり、シャドウよりもよっぽど危険なマッドサイエンティストである。

現在は絶魔の力で掌握したフロンティア内で様々な研究と実験を行いながら次元の狭間に潜伏している。

口癖は『ふふふ…』。

特異魔力変換資質『蒼炎』を保有している。

『蒼炎』とは、絶魔技術の一つであり、炎としての性能や攻撃力を有したまま、この蒼炎に触れた、もしくは燃やされた相手は自分が最も恐れる絶望の幻覚を見せられ、その精神を破壊されていくというものである。

 

 

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名前:ディー・デグロス

 

容姿:肩まで伸ばした灰色の髪と琥珀色の瞳を持ち、まだあどけなさが残るものの端正な顔立ちをしている

全体的に線は細く華奢な体格

 

種族:人間と死神のハーフ

 

性別:男

 

身長:159cm

 

年齢:15歳

 

魔力光:黒色

 

魔術式:ミッドチルダ式

 

魔力:SSS

 

気:SS

 

趣味:殺し、人の命を刈り取ること

 

好きなもの(事):人の死、死に顔

 

嫌いなもの(事):しぶとい奴、生命力が無駄に高い奴、弱者

 

性格:常に飄々としていて明るく陽気な性格で、人を小馬鹿にするような態度が目立つ

また、人を殺すことに何の躊躇いも感情も抱かない冷徹な一面を持つ(むしろ、人殺しを嬉々として行ってる程)

 

備考:ノヴァに仕える六天王の1人で、京都で忍の相手をした死神ローブの正体。

幼少期は冥府の父親の元で退屈な日々を過ごしていたが、多次元世界を回っていたノヴァと出会う。

興味本位でノヴァと共に他の次元に渡った際、ノヴァが引き起こした事件の中で身を守るために初めて人を殺してしまう。

しかし、その時に人を殺すことに対して愉悦を覚え、さらにその事件の中で神器にも目覚めて以降は進んで人を殺す殺戮者と成り果てる。

ノヴァの言葉に従ってもっと殺しを楽しくするために実の父親である死神(中級クラス)を神器を用いて暗殺し、その持ち物であった死神の鎌を盗んで冥府から行方をくらます。

それからはノヴァの元で殺しに特化した戦闘技術を磨いていき、禁手への覚醒も果たしている。

冥府に対しては特にこれといった思い入れもなく、思い出も皆無に等しいため同じ死神を屠る事への躊躇もなく、ハーデスへの忠誠心も欠片も存在しない。

戦闘スタイルは死神の鎌を用いた命を刈り取る戦法を得意とする他、アクロバティックな体捌きで相手を翻弄したり、軽口を叩いて相手のペースを乱すなど手段を選ばないトリッキーな戦法を好む。

また、神器を用いた一対一のスペースを作って相手を孤立化させて殺すという戦法も取る。

リンカーコア持ちであり、ミッドチルダ式の魔法体系を修得している。

神器『常夜の都』を保有している。

 

 

神器『常夜の都(ミクトラン)

自分を中心にして闇の空間を広げる空間侵食系神器。

本来は自らの生命力を闇に変換するが、ディーはそれを自らの豊富な大気魔力を使って代用している。

闇自体の攻撃力は皆無だが、一定範囲の空間を闇で覆うことで障害物を見えなくしたり、自らの魔法陣を闇で隠して魔法の発動を悟らせないようにしたり、相手の感覚を麻痺させたりすることが可能。

しかし、いくら周囲を闇で覆おうと自分の姿や相手の姿もくっきりと見えてしまうので奇襲には向かず、一対一の直接的な戦闘を強いられることが多い玄人向けの神器と言える。

禁手は『常夜彷徨う冥府の死神(ダーク・アミュシレーション・ミクトラン)』。

これは相手の姿をくっきりと残したまま周囲を覆う闇と自身を完全同化させることによって存在だけでなく気配をも完全に消し去り、闇の中を自由自在にほぼ時間差なく移動出来たり、闇と同化してるために通常の攻撃手段では一切のダメージにならない特性を合わせ持つ。

さらに広域魔法などでダメージを受けたり、仮に死亡する程のダメージを受けたとしても闇がある限り何度でも再生して生き返ることが出来るという厄介な能力も秘めているが、これはディー自身の魔力を代用しているからこそ出来る芸当であり、同じような禁手を普通の人間が発現したら瞬時に生命力を奪われていくだろう。

弱点はディー自身の魔力切れであるが、常に闇を魔力で維持してきたディーにとって魔力調整などお手の物であり、よっぽどのことがない限り魔力切れになることはなく、禁手中に魔法を行使出来るほどの余裕さえある。

 

 

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名前:ジン・マドロックス

 

容姿:背中まで伸ばした白に近い灰色の髪と真っ赤な瞳を持ち、野性味溢れる端正な顔立ちをしている

全体的な線は太めでそれに比例した筋肉量を持つ体格

また、こめかみ部分には太く曲がりくねった角が生えている

 

種族:人間と妖怪のハーフ

 

性別:男

 

身長:186cm

 

年齢:18歳

 

魔力光:銀色

 

魔術式:古代ベルカ式

 

魔力:AA

 

気:SS-

 

妖力:SSS

 

趣味:戦い、喧嘩

 

好きなもの(事):戦いに勝つこと、闘争

 

嫌いなもの(事):弱者、戦いに負けること、退屈な戦い

 

性格:気性が非常に荒く短気でかなり野性的且つ好戦的な性格で、口より先に手が出るタイプ

熱くなりやすく戦闘狂の気が多分にある

 

備考:ノヴァに仕える六天王の1人。

酒呑童子と人間の女との間に生まれた半妖で、父親は既に陰陽師によって討伐されている。

人間界(地球)で母親と共に暮らしていたもののあまりの平和さに嫌気が差してしまい、母の病死を機に出奔。

しばらくは裏社会に身を投じて喧嘩三昧の日々を過ごしていたが、自らに宿る力を抑えての戦いとも言えない喧嘩に不満を募らせていく。

そんな中、得体の知れないノヴァに誘われる形で、他の次元に渡って力を制限しなくてもいい本当の意味での命のやり取りを行う"戦い"を経験し、その中で眠っていた神器にも目覚めた。

ノヴァの元にいる限り、退屈しない戦いを約束されて彼の軍門に下る。

ノヴァの言葉通り、力を制限しない戦いを繰り返してきたが、それでも自分が本気になれるような相手は限られており、その現実に苛立ちを覚えている。

その反動故か、大軍相手に1人で挑むなどの行動でストレスを発散しようとしていても焼け石に水なので、余計にストレスを抱える結果になっている。

戦い方は肉弾戦をベースにしており、有り余る妖力を自らの力に変換しつつ魔力変換資質によって魔力を炎に変換して攻撃の際に相手を燃やし尽くす力技重視の戦法を得意とする。

リンカーコア持ちであり、古代ベルカ式の魔法体系を修得している。

ただ、魔法や妖術などは不得手で、そういう術式攻撃よりも直接攻撃に特化した古代ベルカ式とは相性が良いと言える。

魔力変換資質『炎熱』及び、神器『不死の呪縛』を保有している。

 

 

神器『不死の呪縛(イモータル)

自身の負った肉体的な損傷や損失を自動的に再生させる自動再生系神器。

ディーの『常夜の都』と同様、本来は生命力を糧にするが、ジンは己の妖力を使って代用している。

直接的な攻撃力は皆無だが、肉体に起こったあらゆる損傷や損失を瞬時にして再生させることが可能。

例えば、腕を肩から失おうが瞬時にして再生してしまうほどであり、仮に全身が灰燼と化したとしても一分あれば完全に再生してしまう圧倒的な能力を秘めている。

但し、肉体が再生しても消費した妖力は元には戻らないため、一回の戦闘で何度も死に至る攻撃を受ければ妖力が尽き、生命力を消費していずれは魂ごと完全な無へと還ってしまう危険性を孕んでいる(当然、普通の人間なら能力を使っただけで寿命を縮める自殺行為だが…)。

禁手は『獄炎の中で蘇る不死の狂戦士(インフェルノ・イモータル・バーサーカー)』。

これは妖力だけでなく、魔力によって生み出した炎の中からでも肉体を再生出来るようにした能力の強化・拡張版とも言える。

二つの異なる力を糧に何度でも蘇るため、並大抵の攻撃ではもはや傷にすらならないほどの再生力を持ち、同時に肉体を何度完全に破壊しようとも魔力でも妖力でも残っていれば再生してしまうという厄介極まりない能力に昇華している。

その様は、文字通り『何度でも蘇る狂戦士』を体現している。

 

 

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名前:ロンド・スランディア

 

容姿:背中まで伸ばした金髪とエメラルドグリーンの瞳を持ち、中世的で女性のような綺麗な顔立ちをしている

線は細く見えるが、そのわりに引き締まった筋肉の持ち主

また、左目は潰れていて隻眼となっており、常に眼帯を着用している

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:176cm

 

年齢:20歳

 

魔力光:黄色

 

魔術式:近代ベルカ式

 

魔力:SS+

 

気:SS

 

趣味:ダーツ

 

好きなもの(事):特に無い

 

嫌いなもの(事):騒音や雑音、弱者

 

性格:何事にもクールで必要以上のお喋りは好かない冷静沈着な性格

 

備考:ノヴァに仕える六天王の1人で、京都で緋鞠の相手をした双剣ローブの正体。

戦災孤児で戦場の流れ弾に当たって左目を失明して以来、残った右目と自らに宿った神器を駆使して裏社会を生きてきた孤高の暗殺者。

右目の視力がずば抜けて高く、左目が見えないハンディをものともしない程である。

ある依頼を達成したところをノヴァに見られていて口封じにノヴァを殺そうとしたが、ノヴァから発せられた危険な気配を察してすぐさま逃亡。

しかし、行く先々でノヴァに先回りされている状況に陥り、自殺を図ろうとするもノヴァに阻まれた上、その才覚を見い出されて忠誠を誓うように言われる。

それ以降はノヴァに絶対の忠誠を誓い、他の六天王の纏め役も引き受けている実質的な六天王のリーダー格とも言える。

六天王の中では唯一のハーフでない純粋な人間であり、身体能力は普通の人間と差異ないものの、長年の経験から気の扱いを熟知しており、身体機能を強化した上で神器を用いることで人外相手でも十分に戦えるように訓練している(訓練の相手には困らないので…)。

戦闘スタイルは神器を用いて創造した双剣を駆使した剣術と投擲術、さらに柄頭に伸縮自在のベルトを追加した特殊なレイピアによる一撃必中の突きを得意としており、これらを状況に応じて即時切替を繰り返しながら戦う柔軟さも合わせ持っている。

リンカーコア持ちであり、近代ベルカ式の魔法体系を修得している。

神器『魔剣創造』を保有している。

 

 

神器『魔剣創造(ソード・バース)

グレモリー眷属の木場 祐斗が保有する神器と同一の創造系神器。

木場が様々な属性の魔剣を創造するのに対し、ロンドは同じ特性を持つ魔剣をいくつか固定し、それらを何度でも創造して使い捨てる運用法を取る。

ロンドの使う剣の種類は曲線を描いた刀身の模様が異なる一対の夫婦剣と、柄頭に伸縮自在のベルトを追加した特殊なレイピアの2種であり、特に夫婦剣の方はその使い勝手の良さからロンドがよく使う剣として重宝されている。

禁手は『因果極めし一撃の剣乱舞踏(ジ・エンド・オブ・ソードロンド)』。

これはロンドを中心にして一定範囲内の空間に無数の夫婦剣を創造し、ロンドの意思一つでそれらを自在に操るという禁手にしては地味な能力と言える。

しかし、それは敵を欺くための陽動であり、真の能力はレイピアによる一撃必殺の突きにある。

因果律を一時的にだが歪め、その一時的の合間にレイピアの一撃で"脳を射抜いた"という確かな事象を確立させた後に攻撃を仕掛けることで、どのような回避行動を取ろうとも絶対に目標の脳を射抜く必殺の突きに昇華させた能力にあり、それは正に『必殺必中』と言える。

但し、使用するためには因果律を歪めるだけの魔力を維持しなければならなく、ロンドはそのために極力魔法戦は行わないように気をつけており、防御も基本は夫婦剣を使い捨てにして行う程である。

魔力量がSSのロンドでも万全の状態で一回が限界(魔力がほぼ空っぽの状態になるため)。

 

 

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名前:グリード・フロッカス

 

容姿:くすんだ緑色の短髪と色素の薄い紫色の瞳を持ち、わりと整った渋めの顔立ちをしている

体格相応の筋肉量を持ったガッシリ系

 

種族:人間と悪魔のハーフ

 

性別:男

 

身長:185cm

 

年齢:不明

 

魔力光:深緑色

 

魔術式:近代ベルカ式

 

魔力:SS

 

気:AAA

 

趣味:人を欺くこと、策謀

 

好きなもの(事):殺戮、裏切り

 

嫌いなもの(事):信用、信頼、絆、弱者

 

性格:計算高く狡猾で非情且つ残忍な性格で、自分以外の弱者は自分の手足となる駒としか考えていない傲慢さを合わせ持つ

 

備考:ノヴァに仕える六天王の1人。

中級悪魔の家系に生まれた人間とのハーフで、さらには神器持ちであったために幼少期は周囲から陰ながら虐めを受けていた。

その頃から同じ悪魔でも生まれによって差別されることを知って実の親も信用しなくなり、そんな悪魔社会に嫌気が差して神器を用いて自分を虐めてきた者達への復讐を穏便に果たす。

成人すると同時に家を出奔し、流れの傭兵として戦場を巡る日々を長らく過ごしていた。

ある時、戦闘中に開いていた次元の裂け目に誤って落ちてしまい、もはやこれまでかと思った時、偶然居合わせたノヴァによって一命を繋ぎ、傭兵なんかよりももっと効率的に人を扇動し、紛争を広げれる方法を提示されて自身に眠る欲求に目覚め、ノヴァに従うことを選ぶ。

ノヴァの元で扇動指揮能力を磨き、様々な次元で紛争の火種をばら撒いていたが、ノヴァの要請で一時期を禍の団・旧魔王派で活動していたこともあったが、旧魔王派の内部を知って利用する価値もないとノヴァに進言する。

事実、ノヴァが利用する前に旧魔王派は勝手に自滅・減退していったので、グリードもノヴァの元へと帰還している。

戦闘スタイルは神器と風系統の魔法を駆使して相手を追い詰める戦法を得意としており、言葉巧みに相手を騙して闇討ちしたり、仲間同士で争わせたりするなど勝つためや相手を苦しめるためには手段を選ばない。

六天王の中では唯一リンカーコアを持たないが、生体魔力を用いての近代ベルカ式の魔法体系を修得している。

魔力変換資質『疾風』及び、神器『龍の手』を保有している。

 

 

神器『龍の手(トゥワイス・クリティカル)

英雄派のジークフリートが持つ亜種とは違い、右腕全体を覆う籠手型の能力増加系神器。

籠手の色は鮮やかな翡翠色をしており、手の甲部分に嵌め込まれている宝玉は琥珀色という仕様になっている。

能力は一定時間、使い手の力を2倍にするというありふれたもの。

グリードは基本的に禁手目的でしか使用しないが、時には演出として使用することもある。

禁手は『残虐なる風龍の鎧(クルーエル・ドラグーン・スケイルメイル)』。

これは頭部以外の全身を覆う翡翠色のドラゴンを模した鎧(龍の頭部を模ったオブジェの付いた胸部アーマー、肩当て、籠手、腰部アーマー、足具)を着用し、常に2倍の力を発揮するという能力である。

2倍だけなら赤龍帝の籠手や白龍皇の光翼に比べると脅威度は下がるものの、禁手である以上は油断のならない潜在能力を秘めている。

事実、グリードの禁手は自らの魔力変換資質をも神器の特性に組み込んだものであり、鎌鼬や竜巻などを容易に発生させる性能を持っており、それらを倍加した状態の力で放つので通常魔法よりも高い威力を誇る。

また、鎧(肩当て)の一部が分離して剣の柄を形成し、そこから鈍色の両刃の魔力刃を形成することで風を纏った双剣にすることも可能。

 

 

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名前:クーガ・ブラスティ

 

容姿:うなじが隠れる程度の銀髪と紅い瞳を持ち、人形のように綺麗で整った顔立ちをしている

肌は色白で線が細くて筋肉量も平均的な体格

また、八重歯は鋭く尖っている

 

種族:人間と吸血鬼のハーフ

 

性別:男

 

身長:162cm

 

年齢:16歳

 

魔力光:赤色

 

魔術式:ミッドチルダ式

 

魔力:S-

 

気:AAA

 

妖力:SS

 

趣味:血をコレクションすること

 

好きなもの(事):血

 

嫌いなもの(事):貴族社会、弱者

 

性格:好奇心旺盛な快楽主義者でかなり子供じみた性格

 

備考:ノヴァに仕える六天王の1人。

貴族階級の意識が高い吸血鬼社会の中で肩身の狭い思いをしており、その反動か言動が幼い子供のようになっていた。

血への拘りが他の吸血鬼と比べても一線を画しており、血を"飲む"のではなく"コレクションする"という変な趣味趣向をしている。

その異常振りには実の親ですら嫌悪感を持つほどであり、同年代の吸血鬼を暴行しては拳や服に付着した血を舐め取るなどの行為で自身の欲求を誤魔化していた。

しかし、それでも日に日に増していく欲求に不満を募らせていた。

そんな風に閉鎖的な社会でくすぶっていたところをノヴァに見い出されて初めて外の世界へと足を踏み出し、そこで様々な種と血が存在することを知って歓喜した。

そして、タガが外れたように神器も目覚め、その能力を用いて多種多様な種族の血を収集し、ノヴァが行っている計画にも貢献している。

戦闘スタイルは神器の能力と血を媒介にした独特の魔法を用いた遠近両用の万能スタイルだが、血が絡むと奇声を発しながら近接格闘の猛攻を仕掛ける癖がある。

リンカーコア持ちで、ミッドチルダ式の魔法体系を修得している。

神器『血海保存』を保有している。

 

 

神器『血海保存(ブラッド・メモリーズ)

傷付けた対象の血液を結晶状にして保存する物質採取系神器。

血液ならばどんな種族のものでも保存することが出来、結晶状にした血液は神器内に収納して保管する機能も有しており、一度保管した血液は自由に取り出しが出来る。

また、無機物の中にある血液や琥珀と化した血液も傷さえ付けてしまえば、液体状にしてから再結晶化させることも可能。

ノヴァはこの神器の能力を用いて龍騎士の血液を復元し、それをクローニングすることで龍騎士の量産兵士を造り出した。

禁手は『血の奥底に眠りし記憶の再現(ブラッディ・トレース・オブ・スタイル)』。

これは今まで保存してきた血液結晶を媒介にしてその血液内に眠る個人としての能力や技能、種族としての特性などをクーガ自身のスキルとして再現することが出来る。

この禁手は個人によって様々な冥王スキルを発現する冥族とは特に相性が良く、使い方によっては複数の冥王スキルを同時に扱い、そこに別の個人の技能を組み合わせることで本来の使い手よりも強力な力に昇華させることが出来る。

保存した血液の種類や数が多ければ多いほどにその性能を高めていく一方で、種族としての特性も反映することから弱点も多くなりやすい欠点を持つ。

また、個人としての能力や技能はクーガ自身にもそれ相応の技能を要するため使えない能力や技もある。

しかし、それらを差し引いたとしてもその能力は脅威的であり、相対する相手によって特性を変更したり複数の血液の能力を同時に発現出来るなど、応用力がずば抜けて高い禁手とも言える。

 

 

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名前:ジャガー・ストリックス

 

容姿:背中まで伸びたボサボサの白髪と藍色の瞳、獣人特有の縦に鋭くなった瞳孔を持ち、凛とした雰囲気の端正な顔立ちをしている

無駄な筋肉のない痩身でシャープな体格

また、頭からは髪の色と同じネコ科系の耳と、臀部からは同じく尻尾が生えている

 

種族:人間と獣人のハーフ

 

性別:男

 

身長:177cm

 

年齢:17歳

 

魔力光:若草色

 

魔術式:古代ベルカ式

 

魔力:AAA

 

気:SS+

 

趣味:狩り、昼寝

 

好きなもの(事):生肉、生魚

 

嫌いなもの(事):加工食品、火、弱者

 

性格:基本的に寡黙でクールに見えるが、実際は自らの本能に忠実な野生の獣のような性格

 

備考:ノヴァに仕える六天王の1人。

赤ん坊の頃に両親が事故で他界し、親戚に預けられる子世になったが、獣人とのハーフという事実が原因で密林のジャングルに捨てられ、そこで野生の肉食獣に育てられた正真正銘の野生児。

幼い頃からジャングルの中で育ってきたため、様々な毒や病原菌に対する抗体を宿しており、その免疫力と回復力は凄まじいことになっている。

肉食獣に狩りの仕方を教わり、自然と神器にも目覚めた上に獣人特有の身のこなしもあってか大抵の獲物を仕留めるようになり、そのまま生肉を食べる習慣がついた。

また、肉食獣が人間も襲うこともあったため人肉を食することに対する抵抗も全くない。

そうした日々を10年以上も続けていたある日に親代わりであった肉食獣が人間によって射殺され、その仇を取ってからの数年の歳月をジャングルの中で孤独に過ごしてきたが、ノヴァが彼の前に現れる。

ノヴァという人間に危険な気配を感じた彼はすぐさま気配を消して背後から襲おうとしたが、それを完全に予測していたノヴァが彼に不気味な殺気を放ったことで勝敗が決して服従させる。

長年肉食獣に育てられてきたため人間の言葉を話すことが出来ずそれが寡黙の原因となっているが、ノヴァの教育で言葉を理解して話を聞くことだけは出来るようになり、名前もノヴァに与えられたもので本名は不明。

戦闘スタイルは身軽な身のこなしを活かしたヒットアンドアウェイの戦法で、自身の魔力を変換して生成した様々な効力のある毒を用いた毒術を使いこなす(但し、即死性の毒は生成不能)。

リンカーコア持ちで、古代ベルカ式の魔法体系を修得している(これもノヴァの教育の一環)。

特異魔力変換資質『有毒』、神器『魔獣の爪』を保有している。

 

 

神器『魔獣の爪(デッドリー・スラッシュ)

『龍の手』と同じ下位に位置する両腕に装備する籠手型の物理攻撃系神器。

籠手と言ってもガントレット状になっており、指の付け根を覆う部分から4本の細長い爪が備わったバグナウ装備である。

また、爪には連結機構が備わっており、中距離までなら届くようになっている。

物理攻撃系なのでこれといった特殊な能力は持ち合わせていない。

禁手は『野生の本能に従いし双頭の毒蛇(ワイルド・ヴェスタ・アンフィスバエナ)』。

これは全身に装甲が薄くネコ科の動物を模ったようなシャープなフォルムと、その表面にハリネズミの如く備わった無数の刃が特徴的なプレートアーマーを纏った物理攻撃に特化しており、両腕のガントレットは毒蛇をイメージした禍々しいフォルムへと変貌している。

その攻撃の仕方はジャガーの身体能力によって多彩の一言であり、どのような体勢からでも攻撃を繰り出せる柔軟性と即応性を合わせ持つ。

しかし、その真価はグリードの禁手と同様に自らの特異魔力変換資質を禁手に反映させた能力にあり、刃に魔力を通すことで多種多様な毒を生成し、攻撃時に刃で付けた傷口から毒を注入することで相手の行動を制限させることが出来る。

また、両腕のガントレットからは毒を霧状に散布することも可能。

 

 

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名前:邪神(じゃしん) 牙狼(がろう)

 

容姿:無造作に切られた短めの黒髪と琥珀色の瞳を持ち、渋く壮年な顔立ちをしている

高長身に加えて全体的に筋肉質な体格で、体中に無数の傷痕を持っており、右肩から先は無い

また、見方によっては忍が成長した後の姿に見えなくもない

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:200cm

 

年齢:37歳

 

魔力光:黒の混ざった深紅色

 

魔力:EX

 

気:EX

 

趣味:無い

 

好きなもの(事):桐葉

 

嫌いなもの(事):"神"、人間、世界、愛、絆、友情、仲間、信用、信頼

 

性格:現在は残虐非道にしてこの世全てのモノに対して憎悪を燃やす冷徹な性格で、自分以外は何も信じない

しかし、以前は誰にでも優しく人当たりも良い正義感に満ち溢れた好青年であった

 

備考:夜琉のいた時空世界で愛する者と共に"神"と戦うも、世界に裏切られて憎悪の化身となった夜琉の義兄。

元々は"神"の堕落を嘆き、立ち上がった最初の1人であり、"神"を打倒せんと組織を作って抵抗していたが、劣勢状態であった。

その時、"神"側からの離反者『東雲 桐葉』からの情報提供によって徐々に"神"の信徒や天使と戦えるようになっていき、4年のという歳月を費やして"神"との決戦まで持ち込んだ人々の英雄的な存在であった。

決戦の前、自らの義妹である『夜琉』を桐葉と共に時空転移で何処かへ飛ばした後、"神"との決戦を挑むも"神"の信者によって奇襲を受けてしまい、桐葉を凶刃に曝してしまう。

その後の行動一つと"神"の発する"御言葉"によって仲間から追われる身となり、その際に右腕を失ってしまう。

何とか逃亡は出来たものの、山奥の中で最愛の桐葉を失い、その人生を一変させる。

桐葉の死後、神の御言葉だけで形勢が引っ繰り返ってしまうような人々や世界に絶望し、桐葉の遺体と共に山奥へと姿を消して"神"や世界に対して復讐を遂げようと自らの技を殺意に満ちた技へと昇華させていた。

そして、ある時…桐葉の持ち出した資料の中にあった禁忌の呪法『人造魔導兵器』の事を思い出し、桐葉の亡骸を媒介にして『オルタ』を創り出す。

その後、オルタを用いて世界に復讐しながら"神"の元へと進み、その"神"を亡き者とする。

そして、長い歳月を費やして人類への復讐を成し遂げると、自らの唯一の甘さであった夜琉を捜すためにオルタと共に時空転移を敢行する。

 

その容姿や正義感に満ちた過去の生き様、用いる技などの類似点から並行世界の『紅神 忍』であることが判明。

本来の名は『(くれない) (しのぶ)』。

愛する者を失った悲しみを糧に復讐の鬼と化した忍が今後辿るかもしれない可能性の成れの果て。

烈神拳の殺戮特化版『邪神拳(じゃしんけん)』と叢雲流に似た殺戮剣技『紅流(くれないりゅう)羅刹剣術(らせつけんじゅつ)』にオルタの人造魔導兵器としての能力を加えた殺戮に特化した戦法を取る。

右腕を失っていても忍やイッセー達を1人で圧倒するだけの実力を持っている。

 

 

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名前:クライヴ・エストラーデ

 

容姿:灰色の短髪と黄色い瞳を持ち、いかにも悪者っぽい顔立ちをしている

体格はガッシリした筋肉質の持ち主

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:194cm

 

年齢:37歳

 

魔力光:橙色

 

魔術式:近代ベルカ式

 

デバイス:デモリッション・タウラス(エクセンシェダーデバイス)

 

魔力:A-

 

気:SS

 

趣味:金儲け、珍しい生物を追い詰めること

 

好きなもの(事):金、珍しい生物の密猟

 

嫌いなもの(事):密猟の邪魔をされること

 

性格:気性が荒く血気盛んで欲望に忠実な性格だが、組織への忠誠心は人一倍強めである

 

備考:様々な次元世界の珍しい生物を密猟する組織の幹部の一人。

母親を早くに亡くし、父親と暮らしていたが、その父親は密猟を生業にしていたため、自然とそちらの技術を吸収して育っていった。

18歳の頃に父親がヘマして時空管理局に捕まるも自身は逃亡した。

その後、同じ密猟を生業とする人間達が寄り集まって出来た組織に入ると、そこで様々な密猟の技能や戦闘技術を体得していく。

そんな中、一匹の珍しい召喚獣を追って単身地球へと潜伏し、そこで召喚獣と仲良く遊んでいた幼かった萌莉を目撃すると、それを利用すべく萌莉を誘拐した。

誘拐した萌莉を助けるべくやってきた召喚獣を捕まえようとするも、予想以上の抵抗を見せたために力加減を誤って殺害してしまい、遅れてやってきた萌莉の祖父が萌莉を助けるのを見るとその場から撤退する。

その後は更なる経験を積み、その過程で手にした牡牛座のエクセンシェダーデバイス『デモリッション・タウラス』の力を使って幹部にまで登り詰める。

幹部になってからも実働部隊を率いて密猟を行っている武闘派としても有名。

 

 

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名前:明智(あけち) 雅紀(まさき)

 

容姿:うなじが隠れる程度の黒髪とブラウンの瞳を持ち、凛とした雰囲気の二枚目な顔立ちをしている

中肉中背といった具合の標準的な体格

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:174cm

 

年齢:18歳

 

デバイス:キュービクル・アリエス(エクセンシェダーデバイス)

 

気:S+

 

趣味:智鶴の行動を把握すること(要はストーカー)

 

好きなもの(事):智鶴

 

嫌いなもの(事):忍、自分よりも話題になる奴等

 

性格:表面的は社交的で柔和な性格をしているが、実際はプライドや自己顕示欲、独占欲などが強い

また、若干ナルシストの気がある

 

備考:駒王学園3年生で、明幸組系譜の幹部家系『明智家』の次期当主。

忍や智鶴とは一応幼馴染みになるが、智鶴が忍にベッタリだったということもあってか、あまり相手にされた記憶はない。

明幸組の幹部である家に生まれたことから智鶴のことを守り、いつかは組を背負って立とうということも考えていたが、忍の存在によってその目論見は見事に潰えた。

最初こそは2人を見守ろうとしていたが、歳を取るごとに智鶴への想いが募るようになっていき、それがだんだんと歪んだ形となって表れるようになる。

その最たるものは智鶴へのストーカー行為であり、普段は鳴りを潜めているが、忍が近くにいない時を見計らって智鶴の行動を把握しようとしている。

また、牡羊座のエクセンシェダーデバイス『キュービクル・アリエス』の現所有者でもある。

忍のいないことを好機と見て年末年始の総会で明幸組の次期当主の座を狙うことを表明するも、直後に忍が帰還したことで強硬策に出ようと考えるようになる。



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オリキャラ紹介・その他

オリキャラが増えてきたので一度整理すべきかと思い、それぞれに枠を設けることにしました。
ここではその他に分類されるオリキャラ達の親族や関係者を記載していこうと思います。


・その他

 

名前:シャドウ

 

容姿:灰色の短髪と黒い瞳を持ち、壮年な顔立ちをしている

色白の肌に中肉中背な体型

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:154cm

 

年齢:不詳

 

気:C

 

趣味:実験、研究

 

好きなもの(事):実験の成功

 

嫌いなもの(事):実験の失敗

 

性格:何事に対しても研究第一な性格で、人としては既に破綻している

 

備考:人体実験や魔物の研究をしているマッドサイエンティスト。

様々な人体実験を繰り返しており、人や魔物を実験材料としか見ていない節がある。

そのため、人としては破綻しており、人道などはとうの昔に捨てていることも自覚している。

それでも研究を止めないのは底知れない探究心からくるものである。

現在は人と魔物の融合を目的にしており、魔物の力を人間に移植すると言う研究を行っている。

但し、この研究対象は魔物に限らず、人外の存在であれば悪魔や天使、妖怪なども含まれている。

数少ない成功例のNo.7こと『暗七』を側に置いて研究の補佐を行わせている。

ひょんなことからエクセンシェダーデバイス『ディメンション・スコルピア』を発見しており、その研究も行っている。

また、研究データは何処かへ定期的に送信したりしている模様。

 

第十一話で登場。

同話にて忍の手によって死亡する。

ちなみに九話より存在は確認、十話でも少しだけ登場している。

 

 

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名前:ゼーラ・シュトライクス

 

容姿:オールバックにした灰色の髪と瞳を持ち、厳つい顔立ちをしている

歳のわりに筋肉隆々のガタイの良い体格をしている

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:189cm

 

年齢:59歳

 

魔力光:グレー

 

魔術式:古代ベルカ式

 

デバイス:ヴェルシュトライクス(アームドデバイス)

 

魔力:B

 

気:SS+

 

趣味:模擬戦、鍛練

 

好きなもの(事):強き者との戦い

 

嫌いなもの(事):実力不足

 

性格:徹底した実力主義で、何事にも厳しい性格

 

備考:時空管理局に所属する少将で、朝陽直属の上司。

魔力量はそれほど高くもないが、実戦での武勲と己の剣技のみで少将まで上り詰めた実力派。

武装隊の中から能力はあるものの周りと馴染めない者達を集め、主に特殊任務を扱う部署『特務隊』を組織し、そのトップを務めている。

ガチガチの実力主義故、隊員の選抜は模擬戦を通じて見込みのある者のみを選ぶという手法を取っている。

それ故か特務隊の質は武装隊よりも高いものとなっているが、その分協調性に欠けるため特殊な任務でしかその真価を発揮することが出来ないでいる。

過去に地球へと任務で出向いた時、悪魔と堕天使の諍いに遭遇したことがあり、そこで堕天使の総督『アザゼル』と邂逅し、一戦を交えたこともある。

そこでアザゼルから悪魔や天使、堕天使のことを聞き、興味を抱く。

それから定期的にアザゼルとは個人的な繋がりを持つようになって通信を重ねることもあり、多次元世界の一つである冥界や同じく天界の存在、神器などの存在を知るようになる。

また、風鳴 弦十郎とも交戦したことがあるらしいが、詳細は不明。

但し、これらは個人的な興味のため管理局の上層部には報告していない。

そして、特務隊隊長の権限を用いて新型の試作デバイスの一機を特務隊で預かるように計らったものの、実際はアザゼルに渡すべく受け取り場所を地球を指定し、朝陽をその護衛に任命している。

 

 

 

デバイス:ヴェルシュトライクス

 

形状:細かい傷が無数に残る片刃の大剣

 

待機状態:罅割れたグレーのカード

 

搭載システム:カートリッジシステムのみ搭載

管制人格は存在しない

 

備考:ゼーラの持つ大剣型アームドデバイス。

幾多の戦場でゼーラと共に渡ってきた相棒であり、数多の強敵と剣を交えてきた年季の入った代物。

何度かフルメンテを行っているが、ゼーラの意向によって外装は傷を残した形で今も使われている。

これは強敵との戦いや、傷をつけられたのは自らの未熟さを忘れないための戒めらしい。

また、変形機構や管制人格も存在しておらず、ゼーラの剣技を最大限に発揮できるような仕様になっており、現存機や最新機のデバイス相手でも遜色なく戦える。

カートリッジは鍔の部分に装填する方式を採用しており、装填数は最大で4発になっている。

ちなみにカートリッジ発動の際は音声入力が必要である。

カラーリングは刀身はグレー、鍔と柄は黒で彩られている。

 

 

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名前:エリザベータ・アルス

 

容姿:腰まで伸ばした銀髪とサファイアブルーの瞳を持ち、凛とした面持ちの綺麗な顔立ちをしている

健康的で均等の取れた体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:160cm

スリーサイズ:B82/W55/H84

 

年齢:22歳

 

魔力光:薄い翠色

 

魔術式:古代ベルカ式とミッドチルダ式

 

デバイス:ヴェルランサー(アームドデバイス)

 

魔力:S-

 

気:SS+

 

趣味:人に物を教えること、修練

 

好きなもの(事):努力、教え甲斐のある者

 

嫌いなもの(事):努力を怠る者、軟弱者、不公平

 

性格:自他共に厳しく規律を重んじる性格だが、面倒見の良い一面も合わせ持つ

 

備考:元教育隊に所属していたが、ゼーラの引き抜きで特務隊所属となった女性騎士。

階級は一等陸尉。

愛称は『エリザ』。

元教育隊出身ということもあり、特務隊の他のメンバーを指導することが多く、その姿から部隊内ではゼーラ以外から『教官』と呼ばれている。

特に朝陽のことは気に掛けており、呑み込みの早さと近接戦での技の冴えなど評価が高く、いつも訓練の際には指導しようとしているが、大抵は逃げられている。

そのためか、朝陽はそんなエリザに苦手意識を持っている模様。

使用戦術は槍を用いた対人戦闘に特化した古代ベルカ式の近接格闘及び投擲術、さらにミッドチルダ式の汎用性に富んだ魔法を駆使した対一から対多までの戦闘を幅広く熟すオールラウンダータイプ。

規律や生活態度などには厳しく掃除、洗濯、整理整頓は出来るのに料理だけは壊滅的に苦手という一面を持っており、食事は大体外で済ませることがほとんどである。

雲雀と同じく恋愛に対しては無関心であり、何が良いのか理解出来ていない様子である。

フィクシス魔法学園の学年合同授業で起きた量産型龍騎士兵襲撃の際に特務隊から派遣され、忍に助力して生徒や教員、局員達を指導しながら量産型龍騎士兵と戦った内の1人。

 

 

 

デバイス:ヴェルランサー

 

形状:円柱型の柄と両端にある円錐型の穂が一体化した長さ2m程の槍

 

待機状態:手のひらサイズの円柱型ロッド

 

搭載システム:NC、ECを搭載

管制人格は搭載していない

 

備考:エリザの所有するアームドデバイス。

朝陽の持つヴェルセイバーのデータを基に開発されているため、ECにも対応している。

カートリッジは両端の円錐型の穂の真下に備わっており、装填式1発ずつの計2発しか装填が出来ないよう設計されている。

その分、対人戦闘を得意とするエリザにとって無駄のない最適な形状をしており、エリザの戦闘技能を十二分に発揮出来るようになっている。

カラーリングは槍全体が翠色となっている。

エリザの要望により、あるギミックが仕込まれており、自らのバリアジャケットを魔力に再変換して槍へと付与して一撃を極限まで強化するという代物である。

その際、バリアジャケットは身を守る必要最低限の姿、つまりは下着のみの姿になってしまい、防御面で著しい低下が見込まれるが、エリザはそのリスクを承知の上でこのギミックを採用している。

バリアジャケットは上にモスグリーンのノースリーブを着て、下に赤を基調にしたストライプ柄のミニスカートを穿き、頭に赤色のベレー帽を被り、首周りに赤色の長いマフラーをマント状に巻き付け、両腕に肘から手の甲までを覆う服から独立したような袖を着け、両足にショートブーツを履いた姿となる。

 

 

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名前:ジェス・ガレクトン

 

容姿:全体的にツンツンした赤い髪と黄色い瞳を持ち、まだ幼さの残るが整った顔立ちをしている

線は細く見えるが、それなりに鍛えてることが窺えるくらいの体格をしている

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:169cm

 

年齢:16歳

 

魔力光:朱色

 

魔術式:ミッドチルダ式

 

デバイス:ヴェルマインダー(アームドデバイス)

 

魔力:B-

 

気:SSS

 

趣味:人助け、ランニング

 

好きなもの(事):正義、熱い友情

 

嫌いなもの(事):悪、犯罪、細かい事

 

性格:何事にも前向きで暑苦しく物事を深く考えない短絡的な性格だが、根っこの部分は正義感が人一倍強いただの熱血漢である

 

備考:特務隊の斬り込み隊長(自称)。

階級は三等陸士。

元々は武装隊に入りたかったらしいが、筆記試験が壊滅的に悪く時空管理局に入る事さえ難しかった程で落ちる寸前であった。

だが、その独特の戦闘技能を実技試験で見せていたため、偶然にも実技試験を見物していたゼーラの目に留まり、特務隊への入隊とゼーラが面倒を見ることを条件に補欠的な意味合いで管理局に入った経歴を持つ。

特務隊に所属してからはゼーラやエリザなどによって地獄の扱きを受けているものの、持ち前の前向き思考で乗り切っている。

但し、座学などは寝てばかりで一向に知識が身につかない困った問題児である。

同じ特務隊メンバーの朝陽に憧れている、というか惚れている節があり、何かと朝陽に声を掛けては玉砕している始末。

さらに言えば最近、朝陽に好きな人が出来たと知り、少なからずショックを受けている模様。

戦闘スタイルはミッドチルダ式を修得しているにも関わらず、拳打による対人戦闘及び近接戦闘、中距離戦闘を得意としており、魔力量の少なさを逆に利用して予め用意していた一口サイズに形成したディスク状の魔力端末を口に含むことで長時間の魔力維持をするという独特の戦闘スタイルを編み出している。

ちなみにこの一口サイズの魔力ディスクは事前に自らの魔力を固定化し、常日頃から複数枚を自作したディスクケースに保管して所持している。

ただ、この自らの魔力を固定化して保存する技術はかなり優れているという事実を本人は残念ながら自覚していない。

何故、"近代ベルカ式を修得せずにミッドチルダ式にしたのか?"とゼーラが直接聞いたところ、本人曰く『(ミッド式の方が)修得しやすそうだったから』とのこと。

稀少技能『固着』を保有している。

これは前述の自らの魔力を固定化して実体として保存出来る能力を指し、この稀少技能が発覚したのは特務隊に入った後になる。

 

 

 

デバイス:ヴェルマインダー

 

形状:手の甲部分に小型の円盤状の装甲を持つオープンフィンガーグローブ

 

待機状態:存在しない

 

搭載システム:エレメントディスクシステムを搭載

管制人格は存在しない

 

備考:ジェスの所持する専用アームドデバイス。

ジェスの体質に合うように日頃から使えるように設計されており、バリアジャケットの展開は手の甲にある装甲部に自身の魔力ディスクを装填することで発現するようになっている。

このデバイスを作ってもらってから魔力ディスクの大きさを新調することになったが、ジェス自身は些細なことだと思っている。

カラーリングはグローブ部分が黒く、装甲は銀色となっている。

バリアジャケットは上に黒いシャツを着て、下にベージュ色の長ズボンを穿き、その上から赤いジャケットを羽織り、両足にコンバットブーツを履いた姿となる。

 

『エレメントディスクシステム』

ECの応用技術で開発されたジェス専用のシステム。

ジェスの稀少技能『固着』で属性魔力をディスク状に固定化し、それを運用することを目的にしているが、特に魔力変換が出来る訳でもないジェスには当初無用の長物であった。

しかし、魔力石の登場によってジェスが魔力石の魔力をディスク状に再構築することで使用が可能になった。

そのため、魔力石用に新たなケースを自作して持ち歩くようになった。

 

 

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名前:ラルフ・エスカリオン

 

容姿:うなじが隠れる程度の金髪と紅い瞳を持ち、野性味のある端正な顔立ちをしている

中肉のように見えて引き締まった筋肉の持ち主

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:175cm

 

年齢:17歳

 

魔力光:黒色

 

魔術式:近代ベルカ式

 

デバイス:ヴェルブレード(アームドデバイス)

 

魔力:A-

 

気:SS

 

趣味:ギャンブル、妹の世話

 

好きなもの(事):友情、分の悪い賭けに勝つこと

 

嫌いなもの(事):オカルト、昆虫

 

性格:喧嘩っ早く少々短気な性格だが、その内には仲間想いで男気に溢れる熱血漢である

 

備考:特務隊所属の騎士。

階級は准陸尉。

元は武装隊に所属していた騎士であったが、独断専行を始めとする数多くの問題行動を起こしていたため、何かと問題児が集まることで有名な特務隊へと異動させられる。

その際、ゼーラからの入隊試験を受けており、実力差があって不利な状況の中でギャンブル性の高い奇策を用いることでゼーラに一矢報いることに成功し、その度胸と実力を認められて入隊を許可される。

特務隊に入ってから特殊任務に駆り出されることが多くなり、武装隊時代にはない充実感を得ている様子。

両親は既に亡くなっており、歳の離れた病弱な妹がいてその入院費や治療費を全て負担するために猛勉強して時空管理局に入った経緯を持つ。

その妹との関係は良好で、よく病室にお見舞いに行ったりしている。

ただ、給料のほとんどを妹の入院費や治療費に当てているため、常に金欠気味。

しかし、それを言い訳にせず自力で節約生活を頑張っているが、食堂ではおかずを賭けて他の局員とコイントスでのギャンブルを仕掛けたり、誰かに飯を奢ってもらっているのが現状である(勝率はそれほど高くはない)。

戦闘スタイルは我流の剣術とデクラインタイプの魔法を中心に駆使した攻撃的な戦法を取る他、追い詰められると奇策を思いついてはそれを実行するというギャンブル性の高い戦術や相手の戦術を逆手に取ったりもするなど頭の回転自体は悪くない。

また、魔力斬撃にデクラインタイプの魔法を絡ませて特定の効果を持つ魔法の効果を打ち消したり、減衰させたりする攻撃も得意としている。

 

 

 

デバイス:ヴェルブレード

 

形状:片刃の長剣

 

待機状態:黒い立方体型のダイス

 

搭載システム:NC、ECを搭載

管制人格は存在しない

 

備考:武装隊時代に使っていた長剣型デバイスを特務隊の技術班がラルフ用にカスタマイズしたアームドデバイス。

朝陽のヴェルセイバーのデータも少しだけ使っているが、ベースはあくまでも時空管理局から支給された長剣型デバイスである。

カートリッジをECにも対応出来るように再調整が施されており、ラルフは特に炎熱、電気、破壊の属性のECを愛用して使うようになった。

また、ラルフの要望によってカートリッジの装填口は刀身を挟んで鍔の部分に2連装の装填式になっている。

これによってカートリッジを2発同時に炸裂させて威力を通常の2倍まで引き上げていることも出来るが、その分扱いも難しくなっている。

そのため、普段は片側にしかカートリッジを装填せずに使わない、いざという時の切り札的な意味合いが強いギミックではあるが、ラルフは頻繁に使っているので切り札でも何でもなくなっている。

カラーリングは刀身が銀色で、鍔から柄は黒色となっている。

バリアジャケットは上に赤いシャツを着て、下に黒い長ズボンを穿き、その上から各所(胸部、両肩、両腕、腰部、両脛、両足)に黒い軽量型の鎧を模した騎士甲冑を装着した姿となる。

 

 

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名前:ハクア・ミューテシア

 

容姿:胸元辺りまで伸ばした茜色の髪と深緑色の瞳を持ち、幼さが残る可愛らしい顔立ちをしている

背が低く華奢でスレンダーな体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:148cm

スリーサイズ:B76/W53/H78

 

年齢:16歳

 

魔力光:薄いオレンジ色

 

魔術式:ミッドチルダ式

 

魔力:A+

 

気:B-

 

趣味:読書、情報解析

 

好きなもの(事):本、独りで過ごす時間

 

嫌いなもの(事):馴れ馴れしい人、暑苦しい人、必要以上に干渉してくる人

 

性格:基本的に無口で愛想のない性格な上に毒舌家

 

備考:特務隊のオペレーターを担当する魔導師。

階級は陸曹長。

元々は通信課に配属されたが、オペレーターとしての能力が優れていたことから武装隊に転属したものの、その性格が災いして武装隊の局員と衝突、次第に孤独になっていく。

しかし、彼女自身はそんなこと知ったことかと気にしない素振りを見せている。

その対人関係の悪さから特務隊へとさらに転属した経緯を持つ。

オペレーターとしての技能が優れているなら対人関係など二の次でいいと考えたゼーラはヴェルセイバレスのオペレーターとして起用している。

オペレーター技能の他、情報解析や分析能力にも優れており、戦況を報告しながら情報を解析して最新の情報に更新していく手際もかなりのものである。

同じ隊員にも容赦なく毒を吐くにも関わらず他の隊員からの信頼は厚い。

デバイスは所持しておらず、魔法も念話など補助的な魔法しか使用出来ない。

 

 

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名前:シルヴィア・フューリス

 

容姿:腰まで伸ばした銀髪と水色の瞳を持ち、綺麗というよりも可愛い系の顔立ちをしている

髪型は赤いリボンを使って右側のサイドポニーテールにしている

均等の取れた標準的な体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:156cm

スリーサイズ:B84/W58/H86

 

年齢:17歳

 

魔力光:水色

 

魔術式:ミッドチルダ式

 

デバイス:ヴェルスタッフ(アームドデバイス)

 

魔力:SS+

 

気:A-

 

趣味:イメージトレーニング、ボードゲーム

 

好きなもの(事):甘いもの(特にパフェやクレープ)

 

嫌いなもの(事):独断行動、勝手な行動をする人

 

性格:基本的にはクールで理知的な性格だが、ちょっと感情的で怒りっぽい一面もある

 

備考:特務隊に所属する後衛担当の魔導師。

階級は三等空尉。

騎士や近接戦闘系の魔導師が多い特務隊では貴重な後衛役を担っている。

元は航空武装隊の見習い魔導師としてエース・オブ・エースこと『高町 なのは』の指導を受けており、歳が近いにも関わらず既に戦技教導官となっているなのはに憧れに近い感情を抱いていた。

同期の中でも着実に実力をつけていき、多彩な射撃魔法や的確な援護射撃など中距離から遠距離での魔法行使の才が開花していった。

その成長ぶりと射撃技能を見込まれて武装隊から特務隊に引き抜かれた経緯を持つ。

武装隊の中でも変わり者が集まる特務隊の中にあるものの、その性格からジェスの無謀な特攻やラルフの独断行動を叱ったり、朝陽やハクアの自分勝手な振る舞いに頭を悩ませたりと苦労が絶えない。

しかし、それでも任務に出れば一緒に戦う仲間なのでしっかりと援護したりする仲間想いな一面もある。

部署が変わってもなのはへの憧れは変わっておらず、いつか同じ空を飛んで共に任務に当たりたいと願っている。

戦闘スタイルは正確な射撃魔法を中心に、相手の行動を先読みしての砲撃や仲間への援護といった後衛に徹した戦法を取っている。

ちなみに左利き。

 

 

 

デバイス:ヴェルスタッフ

 

形状:先端に水晶球を持ち、その周りに12個の正八面体型クリスタルが漂った魔導杖

 

待機状態:正六角形型の青いバッチ

 

搭載システム:NC、ECを搭載

管制人格は男性で冷静沈着な性格で、愛称は『ヴェスタ』

 

備考:シルヴィアの所有するアームドデバイス。

シルヴィアの要望により、形状やカートリッジ装填個所を先端の手前に6発のマガジンを装填する方式にしているなど、レイジングハート・エクセリオンを少なからず意識したものとなっている。

特殊ギミックとして、水晶の周りに浮かぶ12個のクリスタルに魔力を籠めることでシューター系魔法と同じ要領で操作したり、クリスタルを媒介に砲撃や防御魔法を展開したりと複雑な動きを見せることが可能。

カラーリングは水晶とクリスタルは水色、持ち手であるロッド部分が青くなっている。

バリアジャケットは上に白のノースリーブを着て、下に青いロングスカートを穿き、その上から青い長袖のジャケットを羽織り、両足に藍色のブーツを履いた姿となる。

 

 

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名前:シェーラ・レヴェランス

 

容姿:胸元辺りまで伸ばしたウェーブの掛かった桜色の髪とエメラルドグリーンの瞳を持ち、可愛らしい顔立ちをしている

全体的に均等の取れた標準的な体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:154cm

スリーサイズ:B82/W58/H83

 

年齢:16歳

 

魔力光:薄い桜色

 

魔術式:古代ベルカ式

 

デバイス:ヴェルヒーラー(アームドデバイス)

 

魔力:S-

 

気:B

 

趣味:料理、編み物

 

好きなもの(事):アップルティー、穏やかな時間

 

嫌いなもの(事):争い事、危険な任務

 

性格:物腰が柔らかく穏やかで淑やかな性格だが、一度決めたことは決して曲げない頑固な一面もある

 

備考:特務隊に所属する医務官。

階級は陸曹。

シルヴィアと並んで特務隊を影から支える後衛役であると同時に医務官でもある。

何故、彼女が特務隊に入ったかと言えば、何かと無用な怪我を負ったりする者が多い特務隊メンバーを見ていられず、ゼーラに掛け合って医務官役として入隊を認められている。

特務隊メンバーのメディカルチェックを1人で熟すだけの能力を持っており、特務隊の専属医的な意味合いが強い。

シルヴィアよりも一つ年下だが、彼女の悩み相談を受けたりしているので特に仲が良く、休日は一緒にお茶したりショッピングしたりしている。

戦闘に関して素人同然なので、たまにそういう素人染みた方が適している潜入捜査をさせられることもある。

前述のように"戦闘"に関してはあまり役に立たないが、戦場での応急処置や緊急手当てなど魔法はインクリースタイプの回復系に特化しており、後方で味方の治療に専念するスタイルを取って戦場に立つこともある。

但し、あくまでも緊急時や状況が切羽詰まった時などに出撃するが、基本的には戦場に出るようなタイプの人間ではなく、本人もあまり戦場には出たがらない。

その他、防御系、捕縛系、結界系といった魔法の修得や専門的な医療技術の知識(外科系)も勉強している最中である。

 

 

 

デバイス:ヴェルヒーラー

 

形状:五対十個の指輪

 

待機状態:一対二個の指輪

 

搭載システム:特に無い

管制人格は存在しない

 

備考:シェーラの保有するアームドデバイス。

待機状態でも運用可能なデバイスだが、本領を発揮するには起動して手の指に全て装着する必要性がある。

特殊ギミックは指輪から魔力鋼糸を精製し、それを巧みに使って負傷者を治療することにある。

また、手先が器用であれば正確に傷口を修復することも可能で、シェーラの技術が上がれば切断された部位の接合も可能になる。

その使い方によっては攻撃にも転じることが出来るが、シェーラの性格上、そういう使い方はしない。

構造上、カートリッジシステムとの相性が悪くて非搭載型となっている。

カラーリングは赤みがかった銀色である。

バリアジャケットは上に白いノースリーブを着て、下に緋色のロングスカートを穿き、その上から赤い長袖のジャケットを羽織り、両足に赤いローヒールを履いた姿となる。

 

 

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名前:雪白(ゆきしろ) 氷姫(ひめ)

 

容姿:背中まで伸ばした白銀の髪と瑠璃色の瞳を持ち、妖艶な雰囲気を纏いながらも凛とした綺麗な顔立ちをしている

髪型は黒い簪を使ってアップスタイルにしている

肌は色白で細くて華奢なスレンダーな体型

 

種族:雪女(冥族の血も混じっている)

 

性別:女

 

身長:157cm

スリーサイズ:B82/W58/H85

 

年齢:26歳(外見年齢で、実年齢は不詳)

 

魔力光:白銀

 

魔力:AA

 

妖力:A-

 

趣味:行水、水風呂に入ること

 

好きなもの(事):冷たい・寒いモノ全般、シャーベット

 

嫌いなもの(事):熱い・暑いモノ全般、不誠実や不真面目な人

 

性格:何事にもクールで厳格な性格だが、厳しさの中にも優しさを持ち合わせている

 

備考:ブリザード・ガーデニアに存在する雪女の里を治めている雪白家の現当主。

雪白家は元々雪女の里を治めてきた家系であり、彼女はその次女に相当する。

本来なら家督を継ぐのは長女のはずだったが、長女は傷付いて里にやってきた男との間に1人の子供を授かり、離れ離れになるのが嫌で駆け落ち同然に里から姿を消していた。

その際、子供の名前は妹の氷姫に教えられていた。

それから十数年後、禍の団から里を守るために戦う意思を見せたが、劣勢に陥ってしまった。

戦いの前日に現れた忍とイッセーによって危ない所を救われ、そのまま禍の団を退けることに成功した。

そして、姐から聞いていた『忍』という名と微かに感じた父親である義兄の面影から確信を持ち、忍達に忍の出生の事を打ち明けた。

また、過去の三大勢力による大戦時に行方不明となった冥族の1人が雪白家の雪女と交じり、冥王としての能力は受け継がれない代わりにリンカーコアの素質は代々に伝わってきたことも判明した。

そのため雪白家に連なる者にはリンカーコアが宿ることが多い。

氷姫もまたリンカーコアと魔力を持つ1人であり、魔法を扱う事が出来る。

魔力変換資質『凍結』も保有している。

 

 

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名前:雪白(ゆきしろ) セラール

 

容姿:背中まで伸ばした青みがかった銀髪と山吹色の瞳を持ち、優しそうな感じの柔和な顔立ちをしている

体格は程良い肉付きをした中肉中背

紺色のハーフフレーム眼鏡を着用している

堕天使としての翼の枚数は4対8枚

 

種族:堕天使

 

性別:男

 

身長:167cm

 

年齢:34歳(外見だけで実年齢は不明)

 

光の色:蒼

 

趣味:五気や転移系に関する研究

 

好きなもの(事):妻と娘

 

嫌いなもの(事):妻子に危害を加えようとする者

 

性格:基本的に穏和で落ち着いた性格だが、妻には常に甘えたがる困った一面を持っている

 

備考:『神の子を見張る者』に所属する研究者。

元々は天界で研究していた真面目な青年天使だったが、前大戦の終盤辺りで戦場に駆り出されたところ天龍の激突で開いた次元の穴に落ちてブリザード・ガーデニアの流れ着き、環境に苦しめられながらも雪女の里に辿り着いた。

その頃には既に戦争も終わり、微妙な均衡状態が続いていた。

そうとは知らず、氷姫に介抱されている内に彼女に好意を抱いてしまい、胸の内を打ち明けると共に彼女と一夜を共にして堕天した経緯を持つ。

堕天したことについては…仕方ないことだと諦めており、今の生活を楽しんでいる模様。

また、妻限定のキス魔であり、隙あらば常にキスをしようと無駄に画策している節があり、人前だろうと関係なくキスする困った性癖の持ち主(これが堕天の一番の理由じゃないか?)。

そんな生活を送ってる中、調査を兼ねた氷の洞窟内で偶然にも次元の裂け目を発見し、そこから地球へと帰還することに成功。

天界には当然戻れないと考え、神の子を見張る者へと接触してそこの研究者として迎えられた。

氷姫の間に年頃の娘が一人いる。

冥王派の禍の団が攻めてくると知り、アザゼルやシェムハザに救援を求めるべく雪女の里を離れていた。

 

 

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名前:シルファー・ファリウム・イーサ

 

容姿:腰まで伸ばした銀髪とエメラルドグリーンの瞳を持ち、凛々しさを含んだ綺麗な顔立ちをしている

長身で少し筋肉質だが、それを補って余りある抜群のプロポーションの持ち主

 

種族:幻龍

 

性別:女

 

身長:184cm

スリーサイズ:B93/W59/H90

 

年齢:不明

 

魔力光:黄緑色

 

魔術式:ドラゴニック式

 

魔力:SSS

 

龍気:SSS

 

趣味:鍛練、格闘技

 

好きなもの(事):娘、仲間

 

嫌いなもの(事):帝国、独裁者

 

性格:竹を割ったようにカラッとして何事にも豪快で正義感が強く面倒見の良い姉御肌な性格

 

備考:反帝国活動をしているイーサ王国の女王にして、エルメスの母親。

彼女は異世界に生息するリンカーコアを保有する希少種の龍族『幻龍』であり、普段は人間に似た姿で生活しているが、時として本来の龍としての姿となって帝国軍を薙ぎ払っている。

シルファーのドラゴニック式は先天属性『閃光』、『天空』、『幻影』の三つを組み合わせた近距離仕様の魔術体系となっている。

帝国による独裁主義を良しとせず、民と大陸の平和のために帝国へと対抗をしているが、兵力の絶対的差や兵士の練度や室から圧倒的不利な状況が続いている。

そんなある時、夜空を翔る三つの流星が地上へと落ちるのを目撃した翌日、流星の墜ちたであろう場所を調べに行くと、そこには右目を負傷している見知らぬ少年と袈裟状に上下に斬られた上に皮膚が爛れたような男の遺体があり、その近くには複数のアクセサリーっぽいものも散らばっていた。

何事かと思い、調査をしたところ男は死亡を確認していたが、少年の方は息があったものの右目は完全に潰れていた。

そこで彼女らは少年と男、さらにアクセサリー的なものを回収した後、奇跡的に無事だった男の右目を少年へと移植することにしたのだった。

 

この巡り合わせがこの戦況を変えうる運命とは、この時はまだ誰も思ってもみなかった。

 

 

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名前:ミゲル・ガトランディ

 

容姿:オレンジ色の混ざった白銀の短髪と紅い瞳を持ち、壮年だが未だ若さを感じさせる端整な顔立ちをしている

体格は長身のわりに一般的な成人男性の平均的な筋肉量をしている

髪型はオールバックにしている

 

種族:吸血鬼

 

性別:男

 

身長:195cm

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:満月の夜に行う散歩や吸血行為

 

好きなもの(事):赤ワイン、美女・美少女の生血

 

嫌いなもの(事):女性に手を挙げたり傷つける輩

 

性格:騎士道精神を持つ柔和且つ紳士的な性格だが、これは基本女性にのみ限定されている

男性相手だと飄々としていて適当な言動が多いものの、将来有望な若者に対しては助言を惜しまない面倒見の良さもある

 

備考:ラント諸島を治める大統領。

数百年は生きているとされている吸血鬼であり、正確な年齢は本人も数えるのを止めたらしく不明。

昔は吸血衝動の赴くまま、手当たり次第の女性の生血を啜ってきたが、ある時を境に満月の夜以外の吸血を止めるようになった。

なので、満月の夜限定にラント諸島に住む若い美女・美少女の生血を求める困った癖の持ち主であり、女性住民達も満月の夜は気をつけているが、その甲斐も空しくミゲルに血を吸われる被害者は多い(但し、既婚者や恋人持ちの血は吸わない)。

吸血鬼特有の妖力の変質は『力』であり、その見た目に反して巨漢の猛将の剛撃を指一本で受け止める程の怪力を持ち合わせている。

それ故か、有事の際は鮮血と強力の魔力石を用いた近接格闘術を駆使して闘うことも辞さないとしている。

どういう経緯か不明だが、ラント諸島の初代大統領に推薦されて以来、本人が健在ということもあって未だ他に大統領の席を譲ったことが無いという生きた伝説と化している。

また、大統領としての政務は議員に丸投げして自分は外遊しているものの、何故かラント諸島の住民からは高い支持を得ている。

生きてきた年月が年月だけに様々な種類の人脈とのパイプを持っており、それらを駆使した情報収集能力はかなり高く、フィライト全土で起きている現状を網羅するとまで言われている。

その情報を狙ってゼノライヤもラント諸島への侵攻を考えているものの、天然の要塞と名高い自然と島を攻略しきれないでいる。

 

 

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名前:ガルド・トラジェディス

 

容姿:灰色の短髪と黒い瞳を持ち、無精ひげを生やした渋い感じの顔立ちをしている

体格は高身長でガッチリとした筋肉の持ち主

 

種族:人間

 

性別:男

 

身長:198cm

 

年齢:48歳

 

趣味:相棒と共に空を駆けること、ギャンブル

 

好きなもの(事):酒、勝負事、娘

 

嫌いなもの(事):娘に害をなす輩、娘に近寄ろうとする悪い虫

 

性格:竹を割ったようなカラッとした兄貴分な性格で、何事にも熱くストレートな言動が多い

その性格からか自然と人を惹きつけるようであるが、娘の事になるとかなり豹変する(要は親バカ)

 

備考:トルネバ連合国の要である部族『トゥアルダス』を率いる族長。

複数の部族を纏め上げるほどのカリスマ性を持ち、その性格から人望や信頼も厚く多くの民から慕われている。

しかし、愛娘である『ミュリア』の事になると親バカ全開の痛い人物と成り果てる。

例えば、ミュリアをナンパした奴を問答無用で鉄拳制裁する、ミュリアの身を案じてストーカー紛いの行為をする、果てはミュリアに男友達が近寄っただけで斬り捨てようとするなど、愛情の度合いが凄まじく行き過ぎなことになっている。

これはミュリアが産まれた時に妻を亡くしたことに影響があり、男手ひとつで大切に育ててきた娘を危険な戦いに巻き込みたくない、変な男に騙されたりしないかなど単に心配の裏返しなだけかもしれない(度は超しているが…)。

かなりのギャンブル好きで、賭け事はもちろんのこと戦でも分の悪い方に賭けたがる困った質であるものの、勝負事で発揮される第六感とも言える"直感"は鋭く的確であり、ここぞという時の勝負勘はかなり冴えている(負け戦だとしても引き際を誤らずに被害を最小限にするなど)。

槍の腕前は部族一と言われており、トルネバ連合国内でも屈指の実力者としても有名。

だが、ガルドの本領は槍による攻撃ではなく"防御"にあり、相棒の飛竜と共に鍛え上げた防御魔法はどんな攻撃をも寄せ付けない堅牢にして鉄壁のガードとも言われている。

戦場ではその戦法を活かすために開戦では単身で敵陣に斬り込み、一撃離脱の作戦や撤退戦では常に殿を務めるという何とも極端な戦術を取っている。

それでも彼が参加した作戦での味方の生還率はかなり高く、それも慕われる要因の一つとも言える。

相棒は飛竜の『カリス』。

使用する魔力石の属性は風、地、重、鉄、緑などを中心に使用している。

 

 

名前:カリス

 

容姿:前肢が翼と一体化し、漆黒の甲殻に覆われた琥珀色の瞳を持つ飛竜(ワイバーン)

 

全長:1068cm

 

体高:267cm

 

性別:♂

 

魔力:AA

 

龍気:AAA

 

性格:気性が荒く、好戦的で猪突猛進な性格

 

備考:ガルドの相棒。

トゥアルダスの先代族長が駆っていた飛竜の子供であり、ガルドとは生まれた時からの付き合いである。

小さい頃からガルドと共に育ってきたためか、彼の影響を多大に受けている節があり、色んな部分で共通している。

その気性故にガルド以外では手に負えないが、唯一彼の愛娘であるミュリアにだけは素直に従っている。

また、知能が高く人間の言葉を介することが出来、人との意思疎通が可能。

戦闘力も高く、その巨体を生かした体当たりからサマーソルト、龍気によるブレス、魔法を駆使した多彩な戦法を取っている。

また、ガルドとの連携行動も抜群であり、何も言わずとも目を合わせただけで互いに何をしてほしいのかわかるほどである。

 

 

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名前:ミュリア・トラジェディス

 

容姿:腰まで伸ばしたアッシュブロンドの髪と翠色の瞳を持ち、可愛らしくも整った綺麗な顔立ちをしている

髪型は黒いリボンでポニーテールに揺っている

細過ぎず太過ぎない標準的な体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:156cm

スリーサイズ:B83/W58/H85

 

年齢:16歳

 

趣味:騎乗(自分を背中に乗せられる生物に乗せてもらうこと)、多種多様な勝負

 

好きなもの(事):風を感じること、熱い勝負

 

嫌いなもの(事):弱い者イジメ、冷めた勝負

 

性格:正義感が強く自由闊達で勝ち気且つ男勝りな性格

 

備考:ガルドの娘。

父親の背中を見て育ってきたため、言葉遣いが荒く粗雑な態度が全面に押し出されたようになっている。

そんな父の影響か、腕っ節や正義感が強く揉め事になっても率先して対処する姿勢から同年代の頼れる存在として部族間の女子達から『お姉様』と慕われており、一部の男子達からも『姉御』と呼ばれている。

そんな彼女だが、実は普通の女の子に憧れている節があり、手先が器用なのを活かして可愛いアクセサリーを作ったり編み物をしたりしている。

また、最近の父の行き過ぎた行動には苛立ちを覚えており、打撃(殴る蹴る)によって何度も吹き飛ばしている光景が日常と化してきている。

問題が起きると何かと勝負で決着を着けたがる節があり、父譲りの直感と勝負強さで大抵の問題を(半ば強引に)解決することが多い。

騎乗戦術を用いる者としては極めて珍しく武器を持たないで格闘技のみで騎乗戦術を行う独特の戦法を取り、身に着けるとしても手甲や足具などの動きを制限しないような防具に近い武具に限定している。

武器がないためリーチが短く、大抵の場合は擦れ違い様に相手を殴ったり蹴ったりするという効率の悪い戦法でしかない。

しかし、ミュリアには先天的に生物に好かれる特異体質の持ち主であり、それを用いて騎馬や騎竜などの頭や背などを蹴って空中移動しながら戦うというアクロバティックな戦法で自らの弱点を克服している。

その体質故か、決まった相棒は特にいない。

使用する魔力石の属性は風を中心に風との相性が良い属性を状況によって使い分ける。

 

 

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名前:紅崎(べにざき) 朱堕(しゅだ)

 

容姿:真紅の短髪と鋭い目付きで黒い瞳を持ち、渋くて壮年な顔立ちをしている

体格は全体的に筋肉質で、身体中に様々な傷痕が残っている

また、左目に鋭い切り傷を負った隻眼で、肘から下の左腕を失っている

 

種族:冥族

 

性別:男

 

身長:187cm

 

(外見)年齢:48歳

 

魔力光:紅蓮

 

魔力:SS+

 

気:SSS

 

趣味:剣の稽古、瞑想

 

好きなもの(事):強者との戦い

 

嫌いなもの(事):弱者、力に怯える者、信念なき者

 

性格:自分にも他人にも厳しく何事にも冷静で冷徹な性格

 

備考:紅崎家の現当主。

冥族の中でも『紅蓮冥王』と称される血筋の生まれで、彼自身はその剣の腕と冥王スキルを駆使した姿から『焔帝』と呼ばれる程の豪傑。

若い頃から旧魔王派の悪魔と争い続けてきており、屠った悪魔は数知れずという実績を持つ冥族の悪魔に対する急先鋒と言える存在。

所帯持ちであり、妻と2人の娘がいる。

数年前に"白銀の鎧を纏った者"との戦闘で左眼と左腕を失うほどの重傷を負ったものの現在でも現役を貫いており、目と腕を失ったハンディを感じさせない戦闘力を発揮して悪魔と戦っている。

しかし、三大勢力が和解したのを切っ掛けに旧魔王派の勢いが削がれ、悪魔との和解の話も来たためか悪魔側との和平交渉の代表として選出される。

冥王としての姿は背中から4対8枚の紅蓮の翼が生え、髪と瞳が炎髪灼眼へと変化した姿なり、冥王スキル『バレッテーゼ・フレア』を発現する。

『バレッテーゼ・フレア』とは、周囲の空間に爆炎の魔力を秘めた球体を設置し、それを任意のタイミングで爆発させるというものである。

これは朱堕の空間認識能力に依存するスキルであるが、朱堕は長年このスキルを使い続けてきたために高い空間認識能力を持っており、自らの剣技と合わせることで絶大な攻撃力を誇る。

ちなみに朱堕は爆発させるタイミングを指を鳴らすことで決めている。

魔力変換資質『炎熱』を保有している。

 

 

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名前:東雲(しののめ) 桐葉(きりは)

 

容姿:腰まで伸ばした翠色の髪と水色の瞳を持ち、淑やかな雰囲気の綺麗な顔立ちをしている

標準的な体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:155cm

スリーサイズ:B84/W56/H85

 

年齢:23歳(享年)

 

気:C-

 

霊力:SSS

 

趣味:お祈り

 

好きなもの(事):忍(後の牙狼)、夜琉

 

嫌いなもの(事):争い、悪事、"神"の非道な行い

 

性格:誰に対しても心優しく穏やかで生真面目な性格

 

備考:元は"神"を信仰していた教会の聖女。

しかし、"神"の堕落に心を痛め、教会の資料を持ち出して教会から逃亡。

牙狼達の組織に保護されてからは彼らに協力することになった。

牙狼とは出会った当初から何かと一緒に行動していたこともあって、周囲や夜琉からも公認のカップルとして扱われていた。

"神"との決戦を前に夜琉を牙狼と共に時空転移で送り出して彼の背負った業を少しでも和らげようとした。

しかし、決戦時に牙狼を守ろうと凶刃に倒れる。

その後、山奥で牙狼との間に子供が出来ていたことを告白するが、彼女の命が消えたことで子供の生命も絶えてしまった。

その亡骸は『オルタ』の素体として使用された。

生前はその高い霊力を用いた霊術による結界術や治癒術が得意で、戦闘では後方からの支援に徹していた。

 

 

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名前:ファム・アディラート

 

容姿:背中まで伸ばした桜色の髪と空色の瞳を持ち、凛とした雰囲気を有する綺麗な顔立ちをしている

全体的にほっそりしているスレンダー気味の体型

髪型はポニーテールにしている

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:156cm

スリーサイズ:B81/W55/H85

 

年齢:17歳

 

気:S

 

趣味:剣の稽古、剣道、フェンシング

 

好きなもの(事):正々堂々、騎士道精神

 

嫌いなもの(事):不正、卑怯なこと、不真面目な人

 

性格:正義感や責任感が強く何事にも真っ直ぐで生真面目な性格

 

備考:フェイタル学園高等部2年生で、ユウマのクラスメイト。

家は武道を嗜む家系にあり、父は剣道、母はフェンシングを嗜んでおり、ファムも両親の影響で両方の剣術を学んでいるため、学園では剣道部とフェンシング部の両方に籍を置いている。

さらに学園では風紀委員を務めており、間違ったことや明らかな不正には真っ向から立ち向かう芯の強さを持ち合わせている。

ユウマのことを最初本物の女子だと勘違いして男子の制服を着ていることを注意したものの、後で性別が男だと判明したにも関わらず未だに信じられないでいる。

そのため、密かにユウマを尾行したこともあり、そこでユウマが帰りの寄り道でパンドラで遊んでることを知って出待ちしていたところ、ユウマが活躍するパンドラの映像を偶然にも見てしまい、その活躍に見惚れて注意することなど忘れてパンドラのやり方を教わることになる。

パンドラ内での装備は右手に刀、左手にレイピアという異なる流派の剣の二刀流を操る前衛として活躍している。

剣道とフェンシングで鍛え上げた確かな技術を持っており、それは現実世界でもパンドラ内でも惜しみなく発揮されており、前衛としての役目を十分に果たしているのだが、基本が一対一の戦いが身に染みているので団体戦や乱闘戦では少し戸惑いが見られる。

チームメイトは『天崎 ユウマ』と『アイリ・ジェリーランス』の2人。

 

 

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名前:アイリ・ジェリーランス

 

容姿:腰まで伸ばした黒髪とブラウンの瞳を持ち、まだ幼さを残す可愛らしい顔立ちをしている

低身長に対してアンバランスな凹凸を持つ何とも悩ましい体型

黒縁ビン底眼鏡を着用している

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:147cm

スリーサイズ:B94/W58/H89

 

年齢:15歳

 

気:B

 

趣味:読書、ぬいぐるみ集め

 

好きなもの(事):本、図書館、静かな時間

 

嫌いなもの(事):騒がしい雰囲気、怖い人

 

性格:口下手で何事にも自信がなく根暗で気弱な上に引っ込み思案な性格

 

備考:フェイタル学園中等部3年生。

クラスに1人はいるだろうと思われる地味な生徒の筆頭とまで言わしめる雰囲気と暗さを含んでいるためか、目立たないように生活していて友達もいない。

しかし、そんな雰囲気とは裏腹に眼鏡を外したらかなりの美少女で、同世代では有り得ないようなスタイル抜群の肉体を持っており、ちょっとオシャレしたら輝くようなタイプにも関わらず、彼女は学園の図書室や街の図書館でずっと本を読み続けている。

そのためか成績は常に1位か2位をキープしている。

そんな彼女の転機は彼女が中等部1年生の時に図書室で偶然にも同じ本を取ろうとしたユウマと出会い、ビックリしていくつかの本を落としてしまい、その拍子に眼鏡も外れてユウマから『可愛い』と言われて真っ赤になりつつも眼鏡を掛け直してその場から逃げてしまった。

それから図書室でユウマと度々顔を会わせるようになり、自然と彼の優しさに触れることで少しだけ笑顔が出るようになる。

そして、ユウマの勧めでパンドラにも顔を出すようになり、ユウマと一緒に行動するようになる。

パンドラ内での装備は魔導書による後方支援と作戦参謀的な役目を担っている。

頭脳明晰と作戦立案は確かなものだが、指示を出すのは少し苦手な模様。

それでも的確なサポートでユウマとファムを何度も救っている。

但し、自衛の手段が乏しくユウマに守られることが多く、そのことでちょっとチームの足を引っ張っているので、とネガティブな考えを持っている。

チームメイトは先輩である『天崎 ユウマ』と『ファム・アディラート』の2人。

 

 

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名前:燦瑚(さんご)・グルボラス

 

容姿:肩まで伸ばしたくすんだ茶髪と琥珀色の瞳を持ち、綺麗というよりも可愛い顔立ちをしている

全体的に細身でスレンダーな体型

髪は手入れしてないのか、いつもボサボサ状態

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:148cm

スリーサイズ:B73/W56/H78

 

年齢:15歳

 

気:C

 

趣味:パンドラ、昼寝

 

好きなもの(事):寝ること

 

嫌いなもの(事):自分のやりたいことを邪魔されること、行動を縛られること

 

性格:気が強く興味のある事にはとことん熱心な性格だが、それ以外の事はズボラでかなり適当

 

備考:フェイタル学園の中等部3年生で、アイリのクラスメイト。

成績は常に学年トップを維持する程の才女なのだが、たまに適当な解答でテストを終わらせることがあり、素行はあまりよろしくない。

また、運動は苦手なため体育の授業は基本的にサボる傾向にあり、他の授業も猫の気まぐれのようにサボることが多々ある問題児。

寝起きがすこぶる悪く、寝てるところを起こされると辞書を投げつける悪癖があり、その対象は生徒でも教師であろうと関係ないらしい。

両親は海外出張しているため、部屋は散らかり放題で食事も取ろうと思わなければ食べようとすることすらしないことが多い。

見た目は美少女なのだが、化粧っ気の無さや素行の悪さ、日常生活が異常にズボラなため、一部の生徒から『駄女(だめ)』と呼称されているが、本人はまったく気にした様子はない。

授業をサボってはパンドラをやりにゲーセンに赴き、長時間そこで過ごすということもよくあること。

パンドラ内での活動は主にダンジョン探索をソロで行うことであり、現実世界では行えない仮想世界内での魔法行使を楽しみにしている。

パンドラ内での装備は魔導杖を片手に高火力の砲撃魔法を中心に様々な攻撃魔法を駆使する歩く砲台であり、彼女の後には瓦礫の山が積まれているなんてことはよくある光景である。

 

 

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名前:ミーシャ・ヴェレンス

 

容姿:腰まで伸ばした銀髪とサファイアブルーの瞳を持ち、ほんわかとした雰囲気の綺麗な顔立ちをしている

大人顔負けの豊満でスタイル抜群な体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:167cm

スリーサイズ:B91/W59/H88

 

年齢:18歳

 

気:A

 

趣味:ガンシューティングゲーム

 

好きなもの(事):パンドラ、友達

 

嫌いなもの(事):友達を悪く言う人、誠実じゃない人

 

性格:明るく天真爛漫な性格で、色々と天然な一面もある

 

備考:フェイタル学園の高等部3年生で、留学生。

海外からの留学生ということもあり、学園内でも色々と目立つ存在。

成績は優秀でスポーツもそつなく熟すため、それなりに人気者だったりする。

フェイタル学園に来てから親切にされたこともあり、『鮮花・フェルス』のことを親友だと思っている。

マンションに1人暮らしをしているため、家事はそこそこ出来る。

ゲーム好きで、特にガンシューティングが得意。

その腕前はユウマと張り合える程で、スコアを更新されたら更新し返すことを繰り返していたら自然と知り合いになっていた。

但し、ミーシャは双銃に対してユウマはシングルでスコアを更新している。

ユウマのことは"可愛い妹"感覚で可愛がっており、スキンシップは当たり前の如く行っている。

悲しきかな、ユウマが男だという感覚がないらしい。

パンドラへの登録は海外で済ませており、こちら側への引き継ぎも完了している。

鮮花にパンドラの観戦者に登録するように誘い、よく一緒に行動している。

冒険者だが、ユウマ達のチームのプレイをよく観戦している。

パンドラ内での装備は双銃を軸にした銃撃戦に特化したスタイルをしている。

その特性上、一対一よりも一対多での戦闘が得意で、1人で5人編成のチームを相手にしたこともあるほど。

 

 

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名前:鮮花(あざか)・フェルス

 

容姿:背中まで伸ばした金髪と黒い瞳を持ち、優しい雰囲気の綺麗な顔立ちをしている

ミーシャに負けず劣らずの豊満な体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:165cm

スリーサイズ:B89/W58/H90

 

年齢:18歳

 

気:A-

 

趣味:ピアノ、お菓子作り

 

好きなもの(事):演奏会、蜂蜜

 

嫌いなもの(事):不誠実、不純

 

性格:穏やかで面倒見が良く真面目な性格

 

備考:フェイタル学園の高等部3年生で、ミーシャのクラスメイト。

才色兼備の上にクラス委員を務めており、クラスでの人望は厚い。

幼い頃からピアノを習っているためか、絶対音感を持っていてちょっとしたメロディでも音程がズレると不快感に感じるものの、それを表には出さないようにしている。

演奏会は聞くのも好きだが、自分が演奏するのも好きであるらしく、その腕前はかなりものだと評判である。

部活はお菓子研究会に所属している。

クラス委員として海外から来たミーシャに色々なことを教えている。

ミーシャ繋がりでユウマとも交流があり、お菓子研究会の部室を提供したりお菓子を差し入れたりお茶を淹れたりと女子会っぽいことをたまにしている。

ミーシャの勧めでパンドラに登録しているが、冒険者ではなく観戦者としてミーシャの活躍を応援している。

 

 

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名前:フィーナ・フェルテッシェ

 

容姿:腰まで伸ばしたプラチナブロンドの髪と切れ長な眼、トパーズイエローの瞳を持ち、凛とした雰囲気の綺麗な顔立ちをしている

鮮花やミーシャに似てスタイル抜群な体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:165cm

スリーサイズ:B90/W58/H89

 

年齢:18歳

 

気:S

 

趣味:午後の紅茶を飲むこと、乗馬

 

好きなもの(事):ユウマの淹れる紅茶

 

嫌いなもの(事):自分を持ち上げるような人種、自分を特別扱いする人間

 

性格:気が強く気高い上に高飛車な性格だが、根は単に素直じゃないだけ

 

備考:フェイタル学園の高等部3年生。

『フェルテッシェ家』という資産家に生まれた正真正銘のお嬢様で、家が近かったユウマの幼馴染み。

フェルテッシェ家はパンドラ・インダストリーに出資している家の一つである。

幼い頃から特別視されてきたせいで、辛辣な言葉を言い放っては孤立することが多かった。

そんな中、ユウマだけは特別視せずに自分に接してくれているのだが、素直にお礼を言うことはなく厳しい態度で接している。

ただ、そんな彼女の心情を察してか、ユウマは何も言わずに笑って対応している。

ちなみに一時期ユウマをバイトと称して専属メイドとして雇っていたこともある。

パンドラ・インダストリーに出資してる手前、自身もパンドラに登録しており、観戦者としてユウマの戦いぶりを観戦している。

 

 

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名前:アイビス・アザベクト

 

容姿:長さはセミロングの白髪とブラウンの瞳を持ち、若干童顔気味の綺麗な顔立ちをしている

誰もが羨むダイナマイトボディの持ち主

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:176cm

スリーサイズ:B95/W59/H94

 

年齢:20歳

 

気:SS

 

趣味:コスプレ、ゲーム、アニメなど、ハッキング

 

好きなもの(事):面白いこと、スリル

 

嫌いなもの(事):つまらないこと

 

性格:とにかく明るく何事も楽しんだ方が良いという快楽主義な性格

 

備考:フェイタル学園の近くにある大学に通う大学2年生。

ユウマ達が通うゲーセンでバイトをしており、店長に許可を得て色んなコスプレ衣装で接客している。

ユウマのことは可愛い男の娘とわかっていてちょっかいを出しており、たまに無理矢理コスプレさせたりして遊んでいる。

色々なことを知っており、大学生では知りえないような情報なども入手している謎めいた部分もある。

実際は優秀なハッカーで、面白そうなサーバーに侵入しては情報を引き出しているだけに過ぎない。

それもスリルがあって楽しそうという理由だけでやっているので質が悪い。

パンドラでは観戦者としても冒険者としても活動しており、気まぐれに両方を転々としている。

 

 

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名前:雪白(ゆきしろ) 狼牙(ろうが)

 

容姿:背中まで伸びたボサボサ気味の白銀色の髪と真紅の瞳を持ち、渋めのワイルド系な野性味溢れる顔立ちをしている

全体的な線は細くもなく太くもないという感じだが、中身は完全なアスリート体型

 

種族:霊狼

 

性別:男

 

身長:195cm

 

年齢:不明

 

霊光:白銀色

 

気:EX

 

霊力:EX

 

趣味:昼寝

 

好きなもの(事):平和、妻と子供

 

嫌いなもの(事):平和を乱す奴、戦争屋、面倒な仕事

 

性格:何事にも大雑把でかなり適当且ついい加減な性格だが、実際のところは冷静沈着で確かな観察眼を持ったかなりの律儀者

 

備考:雪音の夫で、雪絵の父親。

ストロラーベで一軒家を購入し、『私立雪白探偵事務所』を経営している。

元々は『フェルテッシェ家』という資産家の専属ボディガード(ボディガードになった経緯は後述)として生計を立てていたが、ある程度の資金(一軒家を買えるくらいの金額)を貯めた後、私立探偵に転身した異色の経歴を持つ。

私立探偵になってからの依頼は探し物や迷いペットなどを中心に取り扱っており、その捜索の成功率の高さから警察機構からも盗難事件や誘拐事件を持ってくることもあるとか…。

しかもその事件も瞬く間に解決してしまうとか…。

また、お世話になったフェルテッシェ家とは今でも関係を持っており、時たまボディガード役として駆り出されることもあるほど。

その影響かどうか知らないが、ストロラーベでも結構な有名人と化してしまっている。

 

 

その正体は忍の実父にして狼夜の実弟である霊狼の末裔。

狼夜や忍と同様に狼への変身能力を持ち、変身後は鮮やかな白銀色の毛並みに真紅の瞳を持つ狼となるが、事情を知らない人からしたら大型犬としか見られない。

ストロラーベでは狼状態で喋ることも出来ないので、大型犬で通している。

そのため、仕事が無い時は基本的に狼状態で昼寝していることが多く、それを目撃した近所の人からは見た目は立派なワンちゃん扱いを受けることもしばしば。

狼夜や忍の例に漏れず、嗅覚がかなり優れており、これが仕事面で大いに活躍している要因とも言える。

フェルテッシェ家の専属ボディガードになったのも、ストロラーベに到着した際に誤ってフェルテッシェ家の敷地内に侵入してしまい、そこで駆け付けたSPを全員のしてしまい、その実力を買われてのことだったらしい。

この時、雪音も雪絵を妊娠していたこともあり、しばらくフェルテッシェ家に厄介になっていた。

 

忍の事は片時も忘れたことはないらしいが、今の生活が定着してしまい、自分が有名人と化して身動きがとりにくくなり、なかなか行動を起こせないまま年月が過ぎてしまう。

明幸家との関係はフェルテッシェ家との関係に似ており、一時的とは言え地球での生活の面倒を見てくれていたことにある。

そんな中、悪魔とも関係のあった明幸の当時の幹部に疎ましく思われていたらしく、幹部の作り出した不完全な転移魔法陣によって狼牙と雪音はストロラーベへと飛ばされてしまった。

ちなみにその当時の幹部はケジメとして当主(智鶴の祖父)が斬り捨てている。

残された幼い忍は幼い智鶴と一緒にいたために巻き込まれずに済んだが…。

 

 

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名前:雪白(ゆきしろ) 雪音(ゆきね)

 

容姿:背中まで伸ばした白銀色の髪と瑠璃色の瞳を持ち、可愛らしい部類に入る顔立ちをしている

肌は色白で細身の平均的な体型

 

種族:雪女

 

性別:女

 

身長:149cm

スリーサイズ:B83/W57/H85

 

年齢:24歳(外見年齢で、実年齢は不詳)

 

魔力光:白銀

 

魔力:S

 

妖力:AA

 

趣味:夫への膝枕、料理

 

好きなもの(事):夫と子供、アイス

 

嫌いなもの(事):喧嘩、熱いモノ全般

 

性格:基本的に明るくほんわかした天然系な性格で、根はかなりの甘えん坊

 

備考:狼牙の妻で、雪絵の母親。

専業主婦。

夫である狼牙とは今でも新婚のようにラブラブ状態であり、たまに娘の雪絵が恥ずかしさのあまり赤面してしまうほど。

料理は上手なのだが、何故か冷めた状態で出てくることが多い。

所作などに品があり、どこかの令嬢だったのではないかと近所の人からは密かに囁かれている。

夫が有名人なので、その妻である雪音にもスポットが当たることもあり、色々と取材を受けることも度々ある。

魔力変換資質『凍結』を保有している。

 

 

その正体は忍の実母にして氷姫の実姉である雪女。

氷姫に比べると、雪音の方が少し若く見えるため、初見ではどちらが姉で妹かで間違われることも多々あったらしい。

駆け落ち同然で家を出たので、家に残した氷姫には悪いことをしたと思っている。

それでも狼牙と別れたくなかった気持ちが勝ってしまったようだが…。

狼牙が狼の姿でいることを知る数少ない人物の1人で、日向ぼっこしている狼牙の元に寄っては膝枕して撫でていることもある。

雪女の特性として無意識の内に微量の冷気を放出しているため、料理をしていても料理が食卓に乗るまでの間に冷めてしまうことがある。

 

狼牙同様、忍の事は片時も忘れたことはない。

しかし、次元を渡る方法がなかったために忍を迎えに行けないことに対して罪悪感を抱いていた。

ちなみに忍の使っている『紅神』という名字は雪音の身分を隠すために狼牙が地球で適当に付けたモノで、特に意味などはない。

地球は次元世界の隣接関係上、ブリザード・ガーデニアに存在する雪女の里とも繋がりがある可能性が高かったために紅神姓を使っていた。

ストロラーベでは雪音の身分を知られることがないので雪白姓を名乗っているが…。

 

 

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名前:雪白(ゆきしろ) 雪絵(ゆきえ)

 

容姿:腰まで伸ばした白銀色の髪と紫色の瞳を持ち、幼さの残る綺麗な顔立ちをしている

髪型はストレートのまま、黒いカチューシャを着けている

母親に似ず、スタイル抜群な体型

 

種族:霊狼と雪女のハーフ

 

性別:女

 

身長:154cm

スリーサイズ:B88/W58/H89

 

年齢:15歳

 

魔力光:瑠璃色

 

魔力:S

 

気:B

 

霊力:SSS

 

妖力:A-

 

趣味:読書、料理

 

好きなもの(事):家族、冬、アイスキャンディー

 

嫌いなもの(事):争い事、ふしだらな人

 

性格:基本的に穏和且つ柔和で淑やかな性格だが、根は人見知りで恥ずかしがり屋

 

備考:狼牙と雪音の娘。

フェイタル学園高等部1年生。

大和撫子然とした気品に加え、品行方正、成績優秀といった具合の優等生で、かなりの人気者で一年生にしてフェイタル学園でもアイドル的存在。

スポーツはあまり得意ではないものの、それが逆に男心をくすぐるらしく、告白した男子生徒は数知れず。

しかし、本人はそういう男女の付き合いがわからず、人見知りで恥ずかしがり屋なこともあって告白を全て断っている。

また、両親から兄のことを聞かされて育ってきたが、今どのようにしているかまではわかっていない。

そのため、顔も知らない兄に対して少し憧れにも似た不思議な感情を抱いている。

ストロラーベで流行しているパンドラには友達に誘われるがままに登録したものの、勝手がわからないのであまり利用はしていない模様。

魔力変換資質『凍結』を保有している。

 

 

その正体は忍の実妹。

ストロラーベではかなり珍しい魔・気・霊・妖の四つをその身に宿す稀少な存在。

忍と同じ血統だが、平和なストロラーベの日常で過ごしてきたため、能力を開花させているようなことはない。

狼牙も雪絵には平和な日常を過ごしてほしいと考えており、戦闘技術は一切教えていない。

 

 

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名前:紫牙(しきば) 翠蓮(すいれん)

 

容姿:肩に掛かる程度の青みがかった銀髪と藍色の瞳を持ち、冷たい印象の綺麗な顔立ちをしている

歳のわりには若々しく引き締まった体型

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:158cm

スリーサイズ:B86/W58/H87

 

年齢:32歳

 

魔力光:濁った翠色

 

魔力:AAA

 

気:C

 

趣味:研究

 

好きなもの(事):特に無い

 

嫌いなもの(事):狼、狼に関係する者達

 

性格:普段は冷徹、冷静、冷淡といった具合の性格なのだが、こと狼の事となると尋常でない怒りを露にし残虐で無慈悲な性格となる

また、若干ヒステリックな部分もある

 

備考:『魔女の夜』に所属しているはぐれ魔女。

二つ名は『狼殺しの魔女』。

元々は地球のある小さな国にある小さな村の外れで慎ましやかに生活していた魔女の家系の一人娘で祖母や母と共に暮らしていた。

時折、村の住民が薬の調合を頼みに来ては物々交換をして生活しており、貧しくても小さくても幸せな生活を送っていた。

そんな祖母と母を見習って彼女もまた薬の調合を手伝っていた。

祖母と母がいれば、贅沢な暮らしは望まない、そんな素朴な女の子であった。

しかし、十数年前に起きたある出来事を契機に狼を憎み、狼を殺す研究に没頭している異端の魔女へと変貌してしまうこととなる。

研究のためには実の娘である『領明』を実験台にし、日々狼を殺すための研究を続けている。

但し、領明は貴重な戦力でもあるので死なない程度に生かしている。

『魔女の夜』に所属しているのは狼種を殺せる機会が多いかもしれないという理由だけで入っており、特に地位や権力には興味はない。

第一の目的は領明を生む切っ掛けとなり、自らの人生を狂わせた"黒い狼"への復讐であり、それを果たせれば他はどうでもいいらしい。

 

第九十八話にて最後の戦いを挑むも、デュリオの虹色の希望に触れて家族の大切さを思い出す。

しかし、直後ノヴァによって巨大な怪物へと変貌してしまう。

 

 

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名前:皇鬼(すめらぎ)

 

容姿:背中まで伸びた光沢のある白髪と金色の瞳を持ち、しわくちゃだが威圧感と威厳を感じさせるような顔立ちをしている

老人とは思えぬ高身長に加え、衰え知らずの筋肉隆々とした野太い体格の持ち主

額の真ん中と頭の左右からそれぞれ太く立派な角が合計3本も生えている

 

種族:鬼

 

性別:男

 

身長:200cm

 

年齢:不明

 

妖力:EX++

 

趣味:将来有望な若者を自らの手で鍛え上げること

 

好きなもの(事):平和、酒、孫娘

 

嫌いなもの(事):平和を乱す者、邪悪な存在

 

性格:基本的に豪快且つ自由奔放でかなり破天荒な性格なのだが、その実冷静さや確かな観察眼を合わせ持っており、細かい気配りや清濁合わせ持つ器量の大きさや懐の深さを持つ

 

備考:『鬼神界』の鬼達を統べる皇で、桃鬼の祖父。

先の戦乱期は流浪の旅人だったが、国の乱れを憂いて一人で行動を起こすために月鬼に一騎打ちを申し込み、その圧倒的な武力で月鬼を負かし、その一団を従えて戦争へと本格的な介入をした。

そして、数々の戦を制していき、自らが皇となることで鬼神界を統一した『覇王』でもある。

皇となってからは民の声を聞いて善政を敷き、直属の月鬼達『武天十鬼』や数多くの臣下と協力していき、鬼神界を豊かにし、外敵から鬼神界を守ってきた正に『生きる伝説』と呼ぶべき存在。

たまに政務を怠けたり、臣下達と食事を共にしたり、城下町を護衛も付けずに出歩いたり、物見遊山と称して勝手に鬼神界の辺境まで出かけたりなどかなり破天荒な生活を送っている。

その行動には月鬼や氷鬼などの真面目な者からは頭痛の種となっているが、本人は改める気はさらさらないようである。

また、将来有望そうな若者を見つけると壮絶な修行をつける悪癖があり、大抵の者はその修行について行けずに脱落してしまうことがあり、『今の若者は情けないのぉ』と限界を見極めては解放している。

幸いなことに死者は出ておらず、皇鬼自身も限界を見極めることに長けているので後遺症が残ることもないが、修行をつけられた若者からしたら不運でしかない(但し、不思議なことにそれらの修行はちゃんと身についていることが多い)。

本来なら皇位は息子夫婦に渡して隠居でもしようと考えてたが、此度の絶魔侵略で使者として送り出した息子夫婦を無残にも殺されてしまい、絶魔の危険性を悟って皇として絶魔の暴挙を許さずに防衛戦ではなく徹底抗戦を宣言している。

 

絶魔との戦争が始まり、10年近くが経って徐々に鬼神界が押されてきた時、空から巨大な流星が皇城に飛来し、それと同時にその流星から分離した六つの小さな流星が各地へと降り注いだ。

その流星を見て皇鬼は、未来への希望に繋がるかもしれないと予感するのだった。

 

 

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名前:月鬼(げっき)

 

容姿:背中まで伸びた光沢のある白銀色の髪と血の滴るような紅い瞳を持ち、厳格な印象を与える渋く壮年な顔立ちをしている

体格は高身長に加え、線は太めだがシャープで無駄のない筋肉の持ち主

こめかみの部分に太く立派な角が2本生えている

 

種族:鬼

 

性別:男

 

身長:198cm

 

年齢:不明

 

妖力:EX+

 

趣味:月見酒、修行、瞑想

 

好きなもの(事):強者との一騎打ち

 

嫌いなもの(事):不敬な輩、力に溺れる者

 

性格:自分にも他人にも厳しい武士道精神と義理堅く仁義や忠義に篤い人情味を合わせ持ったような性格だが、強者と認めた者との戦いを好む武人としての性質もある

 

備考:『武天十鬼』の一人にして筆頭。

『鬼神界』にその人ありと謳われた程の猛将であり、過去に起こったという戦乱期では一軍勢を率いて義勇軍として様々な戦に参戦していたらしい。

その戦乱期に出会った皇鬼と一騎打ちを行い、生涯唯一の敗北を味わったとされる。

その後は皇鬼と行動を共にし、戦乱期の鬼神界平定に尽力したと言われている。

皇鬼が鬼神界の皇として君臨してからも皇鬼直属の臣として自らを頭とした少数精鋭部隊『武天十鬼』を発足し、鬼神界を襲う外敵からの防衛に務めていた。

皇鬼を除けば、鬼の中でも常軌を逸した妖力を持っており、同じ武天十鬼の中でも他の9人とは別格とされていた。

基本的には肉弾戦を好んでいるが、様々な武具の扱いや妖術にも精通しており、戦術眼や戦略眼など多彩な技術を修得している。

しかし、此度の侵略者『絶魔』に対しては戦況があまり芳しくないようで、兵の鼓舞と鬼の力を示すために自らが出陣しようとしていた。

 

 

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名前:炎鬼(えんき)

 

容姿:燃えるような赤い短髪と朱色の瞳を持ち、野性味に溢れたような顔立ちをしている

体格は線が細く見えるものの、中身は徹底して無駄な筋肉を削ぎ落したような感じ

額から一本角が生えている

 

種族:鬼

 

性別:男

 

身長:182cm

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:喧嘩、熱湯風呂に入ること

 

好きなもの(事):熱い戦い、真っ向勝負

 

嫌いなもの(事):興が醒めること、裏でこそこそしてるような奴

 

性格:喧嘩っ早く短気で落ち着きのない性格だが、忠義に篤い一面もある

 

備考:『武天十鬼』の一人。

かつては喧嘩三昧の日々を送ってきた無法者。

先の戦乱期においても力があるにも関わらず周囲のことなど考えずに自分の思うがままに生きてきたが、当時周辺地域まで進撃していた皇鬼と月鬼の軍勢が気に入らなかったらしく、雷鬼と共に少し脅しつけるつもりで皇鬼と月鬼に喧嘩を吹っ掛ける。

しかし、結果は惨敗。

自分がどれだけ世間知らずだったのか痛感させられた炎鬼は雷鬼と共に皇鬼の軍門に下り、世界を見るためにその力を振るったとされる。

皇鬼が皇になってからも月鬼の発足した武天十鬼に参加し、武天十鬼の特攻隊長として活躍していった。

同じく武天十鬼の雷鬼とは昔馴染みの間柄で、今でもよく一緒に行動を共にしている。

自らの妖力を炎に変換し、それを用いた肉弾戦を得意としている。

戦闘面では月鬼の影響もあって喧嘩殺法に独自のアレンジを加えたかなりの練度を誇るのだが、性格面は成長が見られず、今でも作戦会議に欠席したり、命令を無視して突貫したり、喧嘩は未だ止めない等などと素行はかなり悪く武天十鬼の面汚しと言われることもしばしば。

ちなみに皇鬼のことを『(かしら)』、月鬼のことを『旦那』と立場が変わっても呼び続けている。

 

 

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名前:雷鬼(らいき)

 

容姿:坊主刈りにした目が痛くなるような金髪と琥珀色の瞳を持ち、ぽっちゃりしたような顔立ちをしている

体格は肥満型の巨漢であり、かなり線が太い

頭頂部に円錐状の一本角が生えている

 

種族:鬼

 

性別:男

 

身長:208cm

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:料理、食事、食材探し

 

好きなもの(事):美味いものを作ったり食べたりすること

 

嫌いなもの(事):食事の邪魔をされること、食べ物を粗末にする者

 

性格:割とのんびり屋で気は優しくて力持ち的な性格だが、こと戦闘と食事に関しては一切の妥協を許さない苛烈な側面を持つ

 

備考:『武天十鬼』の一人。

見た目通りの大食漢で今でこそ食を愛し、食に生きるような生活を送っているが、かつては炎鬼と共に暴れ回っていた時期もあった。

その時に皇鬼や月鬼に出会い、完膚なきまでに負けて以来、彼らの後を追うように戦に参加していった。

戦乱期の戦の最中に兵達の食事の質の悪さを痛感した彼は自らが厨房に立って料理を振る舞ったという逸話があり、その頃から食にまつわる事柄に執着していったらしい。

そのため、皇鬼の軍勢の兵達はとても士気が高かったとも伝えられている。

炎鬼とは昔馴染みの間柄で、今でもよく一緒に行動を共にしている。

皇鬼が皇になり、月鬼が発足した武天十鬼の一員となってからも城や部隊の献立表を作成したり、彼直々に食材を探したりなどして兵の士気を保っている。

戦闘の際は自らの妖力を雷へと変換し、それを纏った見た目からは想像も出来ないような素早い攻撃を得意としており、他にもその巨体を活かした豪快な攻撃も可能としている。

ちなみに皇鬼のことを『大親分』、月鬼のことを『おやっさん』と今でも呼び続けている。

 

 

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名前:氷鬼(ひょうき)

 

容姿:腰まで伸ばした群青色の髪と空色の瞳を持ち、淑やかな雰囲気に溢れた綺麗な顔立ちをしている

均等の取れたバランスの良い体型

頭の左側に一本角が生えており、それを隠すような感じで髪をサイドポニーテールに結っている。

 

種族:鬼

 

性別:女

 

身長:172cm

スリーサイズ:B86/W59/H87

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:家事全般、氷菓作り

 

好きなもの(事):冷たい物全般、妹達

 

嫌いなもの(事):熱いモノ全般

 

性格:基本的に穏やかで品行方正な落ち着いた性格なのだが、戦闘となれば一分の容赦のない攻撃性を発揮する怒らせると怖いタイプ

 

備考:『武天十鬼』の一人。

先の戦乱期では皇鬼達とは別勢力に所属していた侍女出身の氷使いの鬼であり、『絶氷の姫』の異名を持つ。

戦乱期の終結まで皇鬼達と出会うことは無かったが、皇鬼が皇となって謁見した際に妹の『水鬼』と共に武天十鬼へと勧誘された。

最初は畏れ多いと断っていたのだが、城の人手不足や侍女の育成のために城に滞在し、己の眼で皇鬼が国のために動いていたのだと知ると、微力ながら力添えすると言って武天十鬼に加わった経緯がある。

普段から侍女のような服装と働きをしているため最初は戸惑われていたが、いつしかその働きぶりに周囲は諦めたような感じとなっている。

家事全般が得意で料理の腕も雷鬼と並ぶ程の腕前を持ち、氷菓作りにおいては彼女に軍配が上がる程である。

戦闘時は自らの妖力を冷気へと変換し、周囲に様々な氷を作り出してそれらを用いた多種多様な戦術をこなす。

前線に出て戦うよりも裏方でサポートする方が性に合っていると本人は語っている。

妹や妹分に少し甘いところもあるが、悪いことをしたり勝手な行動を取ったり等、妹や妹分が悪いと判断した時はお説教することもしばしば。

 

 

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名前:水鬼(すいき)

 

容姿:腰まで伸ばした瑠璃色の髪と水色の瞳を持ち、活発な印象を与える可愛らしい顔立ちをしている

バランスの取れた程良い肉付きな体型

頭の右側に一本角が生えており、それを隠すような感じで髪をサイドポニーテールに結っている。

 

種族:鬼

 

性別:女

 

身長:168cm

スリーサイズ:B82/W58/H84

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:水浴び、戦闘訓練

 

好きなもの(事):姉、水飴

 

嫌いなもの(事):勉強、お説教

 

性格:感情豊かで明るく天真爛漫を地で行くような性格で、何事も楽しまないと負けという気概の持ち主

 

備考:『武天十鬼』の一人。

元々は姉『氷鬼』と同じ勢力に所属していた侍女見習いであるが、家事はからっきしでよく失敗することもあった(その度に姉に怒られていた)。

戦乱期終結後、姉と共に城へと謁見した際に姉と共に武天十鬼に誘われたのを機に姉とは異なって即決で武天十鬼へと入っている。

侍女見習いだったため特別武勇に優れている訳ではない…と思われたが、姉に隠れて戦闘訓練をしていたのと素質が良いのも相俟って即戦力となっていた。

侍女よりも戦闘員としての素質が高かったことに姉の氷鬼は複雑な想いを抱いているとかいないとか…。

武天十鬼の中では比較的若い方なので、皇鬼の孫娘である『桃鬼』の護衛も兼ねてお側付きとして世話を焼いているが、たまに一緒になって遊んでいたりするので氷鬼から度々桃鬼と共にお説教される姿も見られる。

戦闘では自らの妖力を水へと変換し、それを利用した中距離からの攻撃を得意としている他、間合いを詰められた時用に護身術を身につけている。

また、自らの妖力を水に変換する能力を見込まれて水の確保が困難な場所での貴重な水源としても役立っているのだが、本人の意向で必ず熱湯にしてから水を提供している。

 

 

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名前:樹鬼(じゅき)

 

容姿:うなじが隠れる程度の深緑色の髪と緑色の瞳を持ち、クールな雰囲気を纏った顔立ちをしている

体格は全体的に線が細く、あまり筋肉はついていない

額に丸っこいような一本角が生えている

黒縁の眼鏡を着用している

 

種族:鬼

 

性別:男

 

身長:178cm

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:植物に関する研究、書物収集

 

好きなもの(事):植物、読書

 

嫌いなもの(事):直接的な戦闘行為、研究成果を踏みにじられること

 

性格:基本的には物静かで冷静沈着な性格だが、自分の研究には絶対の自信を持つプライドの高さもある

 

備考:『武天十鬼』の一人。

先の戦乱期では皇鬼達とは別勢力に所属していたが、結局終結時まで表舞台に出ることはなかった。

そんな彼の名を世に知らしめたのは作物問題の解消を始めとした数々の植物学に関する発表であり、それらの発表は鬼神界の食糧問題(主に作物関連)の事情を大きく変えた。

その他、植物を用いた罠や武器と化す植物、防衛に適した植物などの開発も行っており、彼のいた勢力では自然に紛れた巧妙な罠や緊急時の武具調達、食糧の備蓄などが高水準だったらしく、戦乱期終結時に本陣のお偉方が打って出て討ち死にしなければ未だ戦乱期も持続していた可能性も秘めていた。

今はその恩恵を皇鬼が統一した鬼神界が享受している。

武天十鬼に勧誘されたのは植物学の発表が成された数日後で、月鬼が直々に勧誘しに訪ねていた。

最初は難色を示していたが、所属していた勢力が解体されて資金面が困っていた時期でもあったので植物学で使う資金を条件に武天十鬼にその名を連ねた。

見た目通り直接的な戦闘は苦手であるが、軍師の才能があるので外敵との防衛戦では主に作戦の提示、物資の補給手配、輜重隊の指揮など裏方に徹している。

 

 

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名前:風鬼(ふうき)

 

容姿:肩に掛かる程度に伸ばした黄緑色の髪と翡翠色の瞳を持ち、少し野性味のある綺麗な顔立ちをしている

高身長に見合った抜群のプロポーションの持ち主

額に一本角が生えている

 

種族:鬼

 

性別:女

 

身長:187cm

スリーサイズ:B91/W60/H90

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:昼酒、賭博

 

好きなもの(事):酒、自由、闘い

 

嫌いなもの(事):根暗な奴、退屈な日々

 

性格:かなり気さくで細かい事は気にしない竹を割ったような姉御肌気質の性格で、闘いとなると好戦的な一面も見せる

 

備考:『武天十鬼』の一人。

元々はどこの勢力にも所属しない山賊の頭領だったが、戦乱期終結後の治安維持のために山賊の捕縛に出た月鬼によって一味は捕縛されてしまう。

捕まった当初は投獄されていたが、部下を思いやる人情味と荒くれ者を纏め上げるだけの人望を惜しまれ、皇鬼が直々に説得して一味を纏めて(兵士として)養う代わりに彼女には武天十鬼に入らないかと持ち掛けたところ、一晩じっくり考え抜いてそれを承諾した。

山賊の一味は最初こそ戸惑ったものの風鬼の一言でそれぞれ兵役につき、それぞれの新たな道を歩み出したという。

風鬼もまた自由気ままに日々を過ごしているが、山賊時代の名残で刺激を求めて賭博場によく足を運んでいる。

武天十鬼が昼間から堂々と賭博場に現れるため、賭博場を仕切っている者達からは警戒されている面もあるが、常連客と化しつつ程良く金銭も落としていくため賭博仲間からは歓迎されている。

また、台の酒好きな上に酒豪でもあるため、昼酒なんてのは当たり前で、よく雷鬼や氷鬼に肴を作ってもらっている。

戦闘では自らの妖力を風に変換し、それを用いた豪快さと繊細さを合わせたような遠近両用の戦法を取る。

風の威力はそよ風から暴風まで様々な威力を持っており、敵味方の状況次第でいくらでも調整出来るようになっている。

 

 

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名前:地鬼(ちき)

 

容姿:黄土色の短髪と茶色の瞳を持ち、厳格そうな雰囲気の渋い顔立ちをしている

体格は線が太く筋肉隆々としている

額の右側から太い一本角が生えている

 

種族:鬼

 

性別:男

 

身長:190cm

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:昼寝、釣り

 

好きなもの(事):平和、子供達の笑顔

 

嫌いなもの(事):平和を壊す者、侵略者

 

性格:基本的に無口で無愛想な性格だが、心根は誰よりも優しく無駄な殺生は好まない気概の持ち主

 

備考:『武天十鬼』の一人。

先の戦乱期では皇鬼達とは別勢力に所属しており、『不動不殺』の異名を持つ。

この異名はその場から一歩も動かず、さらに最低限の傷と恐怖だけで敵を退ける姿から取られており、彼の立つ戦場では死者の数が少ないという。

戦乱期終結後は密かに隠居しようとしていたが、その力に目を付けた皇鬼と月鬼から武天十鬼に入るように要請されるも断っている。

顔に似合わず子供好きであり、戦で親を亡くした子供のために孤児院兼寺子屋を開き、そこで戦争孤児を養っていた。

それを知った皇鬼は孤児院兼寺子屋を正式に国の事業に組み込むことを条件に再度地鬼の元へと参じ、子供達に幸せな暮らしを約束するならという条件で武天十鬼へと加入する。

武天十鬼に入ってからも各地の孤児院兼寺子屋に度々訪問しては子供達が不自由なく暮らせているか確かめている。

国と未来の宝である子供達の脅威となり、平和な世を乱す侵略者に対しても余程のことが無い限りは不動不殺を貫いており、皇鬼や月鬼からは甘いと言われることもしばしばある。

戦闘では地面に自らの妖力を流してその地形によって様々な現象を起こして攻撃を行う戦法を取る。

現象は地震、土砂崩れ、落石、地割れなどの災害的なものから、地面から土の槍や壁などを生成する人為的なものまで幅広い。

 

 

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名前:鉄鬼(てっき)

 

容姿:角刈りにした鋼色の髪と灰色の瞳を持ち、見る者を威圧するような厳つい顔立ちをしている

体格は雷鬼に並ぶ高身長でありながらスマートなフォルムをしている

額に鋭利な刃を思わせる一本角が生えている

 

種族:鬼

 

性別:男

 

身長:208cm

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:鍛錬、滝行

 

好きなもの(事):熱く渋い茶、後進を鍛えること

 

嫌いなもの(事):弱き者、余所者

 

性格:実力主義で義に篤く実直な性格だが、戦意が向上すると段々と熱くなる部分がある

 

備考:『武天十鬼』の一人。

元々は皇鬼達と敵対していた勢力の総大将を守る親衛隊の隊長だった。

しかし、自身は月鬼との戦闘で手一杯となり、総大将が皇鬼に討たれるのを見るしかなかったという。

総大将が討たれた時、その後を追うようにして自害しようとしたが、それを月鬼に『その忠義、見事だ。しかし、命を粗末にするな』という言葉と共に止められてしまう。

その後は敵将として投獄されていたが、月鬼から武天十鬼への誘いを受けて激昂しながらそれを拒否した。

それからしばらくして月鬼に連れられて今の世の様子を見せられ、かつての総大将が夢想したものを皇鬼も同じように考え、それを実現させてくれたのだと知ると、膝から崩れ落ちて涙を流したという。

それ以来、皇鬼を第二の主と見定めて武天十鬼へと入ることを決意する。

しかし、それと同時にもしもかつての総大将の夢を壊すようなことがあれば武天十鬼の立場を利用してその首を貰い受けるという宣言も発した。

それを聞いた皇鬼は嬉々としてそれを受け入れており、『もしもその時が来るようならお主に我が首をくれてやる』と返している。

武天十鬼として侵略者からの防衛戦に参加するだけでなく、自らも鍛えながら兵達の訓練指揮も任されており、後進を育てることにも力を注いでいる。

戦闘の際は自らの妖力を体全体に流して鋼鉄の如き硬さを得た圧倒的な防御力を盾に相手の攻撃を弾き返しながら反撃していく戦法を取る。

 

 

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名前:重鬼(じゅうき)

 

容姿:背中まで伸びた紫色の髪と薄紫色の瞳を持ち、凛々しさを含んだ端正な顔立ちをしている

体格は標準的で筋肉もそこそこといったところ

額の左側の方に一本角が生えている

 

種族:鬼

 

性別:男

 

身長:183cm

 

年齢:不明

 

妖力:EX

 

趣味:女遊び、女体の神秘を追うこと

 

好きなもの(事):女、覗き、女への接触行為

 

嫌いなもの(事):汗臭く暑苦しいモノ、努力、負け戦、女を泣かせる奴

 

性格:言動がかなり軽く自意識過剰のお調子者な性格だが、根っこの部分は真面目で一途な面もある

 

備考:『武天十鬼』の一人。

戦乱期では名も無い一兵士だったが、その特異な能力に目を付けた皇鬼から直々に武天十鬼へと誘われ、女がいるならという理由で承諾している。

そんな軟派な理由で武天十鬼に名を連ねたため、他の武天十鬼からの評価はかなり低くなっている。

素行も最悪で侍女の着替えを覗いたり、城の外では武天十鬼の名を使って女遊びをしたりしている始末。

月鬼も何故こんな奴を武天十鬼に推挙したのか、と皇鬼に尋ねたほどである。

皇鬼曰く『どんな組織にも一人くらいああいう奴がいた方が良い』、『それにああいう奴は案外化ける』とのこと。

事実、防衛戦ではその特異な能力を用いて敵を翻弄したり、一定の戦果を挙げるなど戦乱期の無名時代からは考えられない程の活躍を見せており、元同僚からは驚かれている。

同じ武天十鬼の風鬼に惚れている節があり、それが今の活躍に繋がって原動力になっている可能性が高い。

戦闘の際は自らの妖力を重力場へと変換し、任意の場所の重力を操作して敵を翻弄する戦法を取る。

また、重力を操作して自らの体を浮かせて空中移動したり、逆に体重を重くして拳や蹴りなどの威力を上げたり、相手の武具を重くして動きにくくしたりとかなりの応用力を見せる。

炎鬼と並び、その素行の悪さから武天十鬼の面汚し(その弐)として名が挙がっている。

 

 

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名前:蛇神(へびがみ) 莉緒(りお)

 

容姿:腰まで伸ばした蒼い髪と黒い瞳を持ち、柔和な雰囲気の可愛らしい顔立ちをしている

全体的にほっそりしつつも、女性らしい丸みを帯びた体型

髪型は白いリボンでポニーテールに結っている

 

種族:人間

 

性別:女

 

身長:152cm

スリーサイズ:B87/W58/H88

 

年齢:17歳

 

魔力光:漆黒色

 

魔力:EX

 

気:AA

 

趣味:食べ歩き、格闘技

 

好きなもの(事):友達、ラーメン

 

嫌いなもの(事):弱い者イジメ、炭酸飲料

 

性格:気性はやや荒めで粗暴な印象を与える性格だが、実際は正義感が人一倍強く誰よりも友達想いである

 

備考:とある次元世界に住む少女。

リンカーコアを保有し、生まれつきずば抜けて高い魔力量と質を持つ突然変異体。

幼少期から無意識に魔力を身体強化に使っており、腕っ節が異常に強い。

しかし、この次元世界では魔力は知覚されておらず、時空管理局が管理している世界でもないので、魔力を知ることは、まず無い。

そのため、本当に腕っ節が強いとしか自他共に認識していない。

学業は一応真面目に取り組んでいて、成績自体は悪くない。

ただ、素行面でやや問題児扱いされているが、素行が悪い理由が理由だけに同級生や後輩の女子からの人望は高い。

クラスの転校生『蒼真 新星』との出会いで、彼女の運命は決まってしまった。

彼女は…。



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エクセンシェダーデバイス

『エクセンシェダーデバイス』

とある次元世界で開発された半永久魔導機関『コアドライブユニット』を1基ずつ搭載した黄道12星座を模した12機のデバイス群の総称。

開発した次元世界は既に崩壊しているため、12機のエクセンシェダーデバイスはロストロギアに指定されている。

さらにコアドライブユニットの特性上、リンカーコアを持たない者でも扱う事が出来るので、それもロストロギア指定を受けている所以でもある。

次元世界崩壊時にこのエクセンシェダーシリーズも散り散りとなり、今までその所在は不明のままとなっていた。

また、エクセンシェダーシリーズの存在は偶然発見された資料によって確認されていたが、少ない資料に記載されていたのみ故に眉唾ものとして扱われていた。

ちなみに何故黄道12星座を模しているのかは不明。

 

 

共通装備『コアドライブユニット』

とある次元世界で開発された半永久魔導機関。

この機関の基本機構は周囲に満ちる魔力素を吸収し、それを魔力へと変換することで規格外システムの使用を大前提とし、使い手に圧倒的な力を与える。

また、このコアドライブユニットの特徴として起動中及び待機状態では宝石という形で周囲の魔力素を常時収集しており、その宝石と同じ色の魔力粒子を各部から常に放出するというのが挙げられる。

だが、コアドライブユニットは強大な力を使い手に与えるため、デバイス自体に高性能AIを搭載することで意思に近い思考を持たせ、個々に設定された使い手に求める『性質』をデバイス各機の意思によって選定させるという方式を採用している。

しかし、その機構は完全なブラックボックス化されており、解析は不可能となっている。

 

 

共通システム『コアドライブシステム』

コアドライブユニット搭載デバイス専用の管制人格との連動を想定した統合型制御システム。

これはコアドライブユニットの魔力素収集率や稼働率を調整して安定させたり、収集した魔力素を媒介にして同機に搭載された他のシステムの作動キーとしたり、収集した魔力素をそのまま魔力エネルギーへと変換して単独での魔法を行使したり等の動作を可能にしている。

また、このシステムはデバイスの単独制御だけではなく、自ら持ち主を選定する機能も有しており、デバイス自身が持ち主に求める性質を見極めることで使い手を決定する。

 

 

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・牡羊座

 

デバイス:キュービクル・アリエス

 

形状:白銀の羊

 

待機状態:牡羊座のシンボルと立方体の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のダイヤモンドを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、キュービクルシステム、マナリフレクションシステム、ディメンションロックシステム、チェンジングドライバーシステムを搭載

管制人格は男性で些細なことは気にしない豪快で大雑把な性格だが、根の部分は頼れる兄貴分な一面を秘めている

通称は『アリエス』

 

備考:牡羊座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

 

アリエスの入手経緯。

最近になって明智家の蔵を整理していたら、埃を被った白銀の羊の像を見つける。

値打ちものなのかと疑心暗鬼していると突然羊の像が喋り出し、いくつかの質問を投げかけてきたので適当に答えてやると、雅紀の中に何かを見出したのか、所有者として認めてその力を与える。

その後はその能力で雅紀のストーカー行為を助長させることとなる。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『コアドライブユニット』

キュービクル・アリエスの搭載箇所は右肩に位置する部位装甲表面に正六角形の中にY字が刻まれた立方体の図形のような形状のダイヤモンドが嵌め込まれている。

放出する魔力粒子の色はダイヤモンドシルバー。

 

『ツインヘッドスタッフ』

羊の頭部自体が武装化した特殊装備。

これは羊の顔の後ろに狼の顔が引っ付いた表裏一体型の先端を持ち、動物の背骨のようなロッドが持ち手になっている魔導杖であり、表と裏の顔にはそれぞれ意味と役割がある。

表の羊の頭部は守を意味し、キュービックを制御する役割を持っており、多数のキュービックを自在に操って鉄壁の防御力を実現させている。

裏の狼の頭部は攻を意味し、万が一キュービックを突破された場合のための迎撃する役割を持っており、狼の口から魔力刃を形成して大鎌のように振り回して扱うことを前提に設計されている。

また、裏の顔限定だが、魔力刃を飛ばしたり、狼の口で噛みつかせたりすることも可能。

但し、選定者によっては表よりも裏の顔で戦う場合もある。

 

『シープローブ』

羊の毛皮を模した外套装備。

これはマントに近いローブであり、一見しただけではパッとしない装備であるが、その表面には対魔力コーティングが施されており、高い防御性能を秘めている。

マナリフレクションシステムを起動させることで魔力攻撃を反射することも可能。

 

『ハンティングクロー(×2)』

爪型近接装備。

これは4本の実体爪を備えたプロテクター型装備であり、鋭利な爪による近接格闘戦を主眼に置いている。

また、爪の内部には魔力回路が備わっており、コアドライブで収集した魔力を用いた魔力斬撃や魔力付与が出来るようになっている。

不使用時は実体爪をプロテクター内に収納する仕組みになっており、一見しただけではただのプロテクター装備にしか見えないようになっている。

 

『シープバルカン(×2)』

牽制用射撃装備。

これは前足の蹄内に備わっている小型2連装仕様の魔力バルカン装備であり、主に距離を詰めてくる相手に対する牽制用に搭載されている。

牽制用のため威力は低いが、その代わりに速射性に優れている。

 

『クリスタルシールド(×2)』

自律防衛型防御兵装。

これは腰部プロテクターに左右から重なるように装着された一対の円の左右から一文字状の長方形が突き出た形状のカバー型装備であり、カバーの円の裏には魔力粒子を用いた特殊なホバーユニットとコントロール用の受信装置が備わっており、これによって管制人格による自律コントロールが可能となっている。

主な用途はカバーから魔力シールドを展開して所持者を守る事にあるが、魔力シールドのエネルギーを攻撃に転用して砲撃を撃つことも可能にしている他、魔力シールドの縁を鋭利にすることで即席の近接装備としても運用が可能である。

 

『テイルサーベル』

狼の尻尾が武装化した装備。

これは緩いS字状に歪曲した刀身を持った刀剣型装備であり、キュービクル・アリエスの装備の中では比較的取り回しが利きやすい利点がある。

刀身内には魔力回路が組み込まれているので魔力伝達率が高く、魔力熱による斬撃強化や魔力増幅による魔力斬撃強化などの動作を可能にしている。

また、何かしらの理由でツインヘッドスタッフを手放した場合の予備装備という面もある。

不使用時の装備箇所は腰裏となっている。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって自機の武装やシステムの単独での運用などを可能としている。

牡羊座が求める性質は『自己顕示欲』と『溢れる活力』である。

 

『キュービクルシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な結界魔法『キュービック』を発動するシステム。

『キュービック』とは、一定の空間を封じ込めることに特化した空間閉鎖系立体型結界魔法で、その効力は大きさの異なる立方体型の結界を発生させることで空間の繋がりを遮断することにある。

この結界で覆われた空間は内部と外部からの干渉を全く受けない閉鎖状態になり、内部に閉じ込められたならば強固な檻となって相手を閉じ込め、小型結界を積み上げて防壁となれば外部からの外敵を寄せ付けない強固な壁となる。

また、空間同士の繋がりを遮断するということは転移系の魔法や空間認識能力を必要とする魔法などの効力をほぼ無力化することが出来ることに繋がる。

例えるなら、ディメンション・スコルピアのゲイトをキュービック内で使おうとしても空間の繋がりが遮断されているので発動してもワームホールを繋げることが出来ない、ということになる。

この事実は同じエクセンシェダーデバイスであっても変わらない。

 

『マナリフレクションシステム』

魔力反射システム。

これはキュービックや装備の表面に反射能力を持った魔力をコーティングすることで相手の魔力攻撃や魔法を跳ね返すことが出来る。

また、使い方によっては反射を利用した攻撃手段にもなる他、結界内にコーティングすれば相手の攻撃を利用して動きを封じることも可能。

 

『ディメンションロックシステム』

空間固定システム。

これはキュービックによって閉鎖した空間を固定化し、その空間だけを切り取ったかのような静止状態を作り出すことが出来る。

これを利用して閉鎖した空間を別の空間へと移動させたり、空間内に閉じ込めた攻撃型術式を別方向へと向けた後に結界の固定を解除することでその攻撃を別の方向へと向けたりと使い方によっては様々なことに応用が出来る。

但し、その空間の中にいる生物までは静止させることは出来ない。

 

『チェンジングドライバーシステム』

生物型エクセンシェダーデバイス専用の可変機構統括システム。

システムの概要はディメンション・スコルピアと同じで、完全独立稼働も可能。

 

キュービクル・アリエスの場合、以下の形態に変形することが出来る。

 

『アリエスフォーム』

キュービクル・アリエスの基本形態。

その名が示す通り羊を模した陸上動物で、起動時は必ずこの形態になる。

これは所持者を守り通すことを重視した形態で、常に所持者の傍らに控えている。

 

『ウルフフォーム』

キュービクル・アリエスの第二生物形態。

顔が横に180度回転し、狼の顔になり、前足に備わったハンティングクローの爪が現れ、シープローブが剥がれて細身な体躯を持つと隠れていたテイルサーベルが現れて狼の姿へと移行する。

これはアリエスフォームとは打って変わり、攻めることを重視した形態となっている。

ちなみに剥がれたシープローブは所持者に装備される。

 

『スローンフォーム』

キュービクル・アリエスの玉座形態。

ツインヘッドスタッフとシープローブが所持者に渡り、残った胴体と手足などで玉座のような椅子を形成した後、シープローブを羽織り、ツインヘッドスタッフを持った所持者を座らせる。

これはエクセンシェダーデバイスの中でもかなり特異な形態であり、自力での移動は不可能で単に所持者を王のように座らせることを目的にしたような構造だが、キュービクル・アリエスの特性を考えると絶対防御形態とも言える。

理由としては玉座の周りにキュービックを展開することで絶対的とも言える守備態勢を整え、所持者は座ったまま空間を支配することが可能になるからだ。

 

『アーマーフォーム』

キュービクル・アリエスが鎧状に分離して所持者の体に装着する鎧形態。

胴体が分離したプロテクターが胸部、両肩、腰部に装着され、コアドライブユニットは右肩に位置する。

前後の足が籠手と足具となって両腕と両足に装備され、蹄の部分はそれぞれ籠手ではシープバルカンを備えた都合上、手首になり、足具では爪先に位置する場所に装備される。

この時、籠手の表面に実体爪を収納した状態のハンティングクロー、腰部プロテクターの左右にも待機状態のクリスタルシールドが覆い被さる。

残ったツインヘッドスタッフは所持者の利き手に保持され、シープローブは背中にマントのように羽織られ、テイルサーベルも腰裏へと装備される。

アリエスの全武装を扱える形態である。

基本戦術はその場から動かず、空間を支配して守りに徹することだが、所持者によってはツインヘッドスタッフの裏の顔を用いた近接格闘を主体とする戦術を取ることもある。

攻めと守り…どちらを優先するか、または同時に使いこなすか、所持者のバランス感覚が問われるエクセンシェダーデバイスとも言える。

 

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・牡牛座

 

デバイス:デモリッション・タウラス

 

形状:白銀の牛

 

待機状態:牡牛座のシンボルと髑髏の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のエメラルドを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、デモリッションシステム、エレクトロマグネティックシステム、マナペネトレイションシステム、チェンジングドライバーシステムを搭載

管制人格は女性で気性は荒々しく好戦的且つ喧嘩っ早い短気な性格の上、ガサツで品の無い口調が特徴的である

通称は『タウラス』

 

備考:牡牛座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

 

タウラスの入手経緯。

ある次元世界でクライヴが密猟を行っている時のこと。

洞窟に逃げ込んだ珍しい生物を追い込もうとして自らも洞窟の中に入ると、そこには白銀の牛が鎮座していた。

しかし、それが像だとわかると興味が失せたクライヴは珍しい生物を捕まえて意気揚々と帰ろうとした。

すると、白銀の牛の像が突然喋り出し、いくつかの質問をクライヴに投げかけた。

その答えを聞いて白銀の牛の像はクライヴを己の所有者に相応しいと感じ、その力をクライヴに与えた。

その後はクライヴの力となって数々の密猟に関わっていく。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『コアドライブユニット』

デモリッション・タウラスの搭載箇所は左肩に位置する部位装甲表面に髑髏を模ったエメラルドが嵌め込まれている。

放出する魔力粒子の色はエメラルドグリーン。

 

『スタッグホーンヘルム』

牛の頭部自体が装備化したフルフェイス仕様のヘルメット型装備。

これは牛の頭部がヘルメット化し、その左右にL字状に伸ばした円錐型の長めの角を備えた攻防一体の複合装備であり、選定者の頭部を保護しながらも角を用いた刺突攻撃にも転用が可能になっている。

また、角には鋏のように動く可動機構が備わっており、これによって普通なら有り得ない挟んで拘束するという動作や角の先端を合わせて一点に対する突進力を底上げしたり、逆に開く動作を利用して防御型魔法陣などを無理矢理こじ開けたりするなどの動作も出来る。

 

『ブレイクホイール(×2)』

本体前部の両肩に位置する箇所に装着した大型車輪装備。

これは三重構造になっており、外側と内側は特殊なゴム製の素材で出来ていて真ん中の金属部分にはスパイクが内蔵されている。

突進時の攻撃力向上に使える他、両肩から切り離して大型のチャクラムのようにして扱うことも可能。

また、装着位置の都合上、左側のブレイクホイールはコアドライブユニットを保護すると同時に駆動することによって魔力収集率を向上させることも出来るようになっている。

そのため、起動時にはエクセンシェダーデバイス内でも随一の魔力収集速度を誇る。

 

『デモリッションキャノン』

背部に装備された2門の砲撃戦用装備。

これは固定砲台としての役割が強いが、砲身後部には冷却機能と加速機能を両立させた魔力放出型噴射機を縦に2門を備えており、一見しただけでは魔力バーニアに見えなくもない。

この噴射機とブレイクホイール、コアドライブの存在により、高威力砲撃を急速チャージして連発することも可能にしている。

 

『カノンホイール(×2)』

本体後部、後ろ足の付け根に位置する箇所に装着したブレイクホイールの小型版装備。

これはブレイクホイール同様、三重構造になっており、外側と内側は特殊なゴム製の素材で出来ていて真ん中の金属部分には3門の砲口が設置されている。

ブレイクホイールと同様にチャクラムとしての使用も可能だが、ブレイクホイールとは異なって内部に魔力収集機能が備わっており、飛び道具として飛びながらも魔力を収集していき、それを砲弾として撃ちばら撒いたり、砲口から魔力刃を形成して手裏剣のようになったりとブレイクホイールでは出来ない小回りの利いた動作を可能としている。

 

『テイルウィップ』

尻尾を模した鞭型装備。

これは尾の部分が伸縮性と柔軟性が非常に高い素材で出来ており、使い手によって変幻自在の軌道を操ることも可能。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって自機の武装やシステムの単独での運用などを可能としている。

牡牛座が求める性質は『頑なな一本気』と『深き欲望』である。

 

『デストラクションシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な爆砕魔法『デモリッシャー』を発動させるシステム。

『デモリッシャー』とは、物質を破砕することに特化した対象設置系爆破型遠隔発生魔法で、その効力は触れた物体に対して圧縮した魔力を魔法として設置し、その設置した魔法に内包した圧縮された魔力を一気に解放させることで対象とした物体を爆砕させることである。

このデモリッシャーはその性質上、装備品、または手などで直接触れなければ発動しない欠点を抱えており、如何にして対象に接触するかが肝心となる。

但し、触れた後は距離に関係なく任意のタイミングで魔法を爆破させることが出来るため、触れられたが最後、逃げ場はないと言える。

 

『エレクトロマグネティックシステム』

特殊電磁界発生システム。

これは収集した魔力を変換して特殊な電磁界を発生させることで、電界と磁界で起こりうる現象を魔力によって引き起こすことを可能にしている。

また、このシステムは蹄の部分を媒介に電磁界を発生させるので、移動時には電磁加速、ブレイクホイールとカノンホイールの投擲後の操作や回収、攻撃時の電気属性の付加などの動作を可能にしている。

その性質上、魔力変換資質『電気』を持つ者との相性が良い。

 

『マナペネトレイションシステム』

魔力貫通効果付与システム。

これは相手の魔力障壁などの防御魔法に対し、その魔力と自身の魔力を同調させることで魔力障壁を貫通させる効力を与える。

また、貫通効果を発動するためには一度相手の魔力障壁に触れて魔力を解析しないとならないが、それをクリアさえしてしまえばどのような魔力障壁も貫通することが出来る。

但し、山羊座のマナリデューションと同じように気、霊力、妖力、龍気に対してはシステムの対象外になっているので、注意が必要となる。

 

『チェンジングドライバーシステム』

生物型エクセンシェダーデバイス専用の可変機構統括システム。

システムの概要はディメンション・スコルピアと同じで、完全独立稼働も可能。

 

デモリッション・タウラスの場合、以下の形態に変形することが出来る。

 

『タウラスフォーム』

デモリッション・タウラスの基本形態。

その名が示す通り牛を模した陸上動物で、起動時は必ずこの形態になる。

これは地上でも平らに近い地面の地形での戦闘に特化している。

 

『スタッグビートルフォーム』

デモリッション・タウラスの第二生物形態。

前後の足が昆虫のように開き、ブレイクホイールとカノンホイールが分離して胴体真ん中に横で繋がって第三の足のような役割を果たし、頭部が160度くらい回転して角がクワガタのような刃になることでクワガタの姿へと移行する。

これは力技を主体にした近接戦闘を得意としており、鋏による拘束も可能にしている。

ちなみにテイルウィップは所持者の手に持たれている。

 

『フォーミュラフォーム』

デモリッション・タウラスの高速移動形態。

前後の足を胴体の左右に折り畳み、後ろ向きとなった胴体の前部(臀部辺り)にカノンホイール、後部(両肩)にブレイクホイールを接続し、頭部は角が全開に開いた状態で後部上部にウイングのような役割として装備されている。

これは頑丈な車体装甲と爆走による相手の撹乱や体当たりによる近接戦闘を得意としている。

スタッグビートルフォーム同様、テイルウィップは所持者の手に持たれている。

 

『アーマーフォーム』

デモリッション・タウラスが鎧状に分離して所持者の体に装着する鎧形態。

胴体が分離したプロテクターが胸部、両肩、腰部に装着される。

前後の足が籠手と足具となって手足に装備され、蹄の部分はそれぞれ籠手では手の甲、足具では足先に位置する場所に装備される。

この時、コアドライブユニットは左肩、ブレイクホイールは両肩、カノンホイールは両足の(くるぶし)の部分に装着される形になる。

スタッグホーンヘルムは頭に被さり、背部にデモリッションキャノンが装備され、テイルウィップは右手に所持する。

また、テイルウィップは非使用時には腰裏にマウント出来るようになっている。

タウラスの全装備を扱える形態でもある。

基本戦術が突進を主体にしているものなので、前傾姿勢になりやすくわかりやすいとも言えるが、固有魔法や特殊な電磁界の存在によってエクセンシェダーデバイスの中でも屈指の破壊力を誇る戦闘力を発揮する。

 

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・双子座

 

デバイス:サンシャイン・ジェミニ

 

形状:双子座を模した白銀色の鎧

 

待機状態:双子座のシンボルと太陽の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のトパーズを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、デイライトシステム、サンライズシステム、サンセットシステム、デイサクリファイスシステムを搭載

管制人格は男性で天真爛漫且つ好奇心旺盛な子供のような性格と冷徹且つ冷淡で冷静沈着な大人のような性格の二面性を持っている

通称『ジェミニ』

 

備考:双子座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

これはアクエリアス同様、バリアジャケットは存在せず、所有者の体に直接装着する鎧型である。

 

とある次元世界の遺跡の奥で選定形態で眠っていたが、そこにやって来たグレイスを選定者として見出して試練を与えた。

その試練を裏人格のグレイスがクリアし、グレイスの中にある表と裏の人格、それぞれの持つ考え方や知識の使い方の違いなどの理由からエクセンシェダーデバイスを持つ資格者として選ばれた。

 

サンシャイン・ジェミニの場合、額にヘッドギア、胸部に太陽の紋章を象った大きなトパーズを嵌め込まれたプロテクター、両肩に肩当て、右腕に表面に日の出と共に姿を現す天使の絵が刻まれた篭手、左腕に表面に日没時の太陽の上に座り込む悪魔の絵が刻まれた篭手、腰部にプロテクター、両足に足具をそれぞれ装着され、各部から放出する魔力粒子の色はトパーズイエローである。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって主の選定やシステムの単独での運用などを可能としている。

選定形態はアクエリアス同様、双子座を模した像となる。

双子座が求める性質は『二重推論』と『知略知謀』である。

 

『デイライトシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な射撃魔法『デイライト』を発動するシステム。

『デイライト』とは、その名が示す通り『日光』を意味する空間設置系誘導制御型射撃魔法で、その効力は高熱の力を秘めた直径約20cm程度の球体『サニィスフィア』を生成することである。

このサニィスフィアはコアドライブユニットの恩恵によって無制限且つ無尽蔵の生成を可能にし、戦場をその驚異的且つ圧倒的な物量と熱量による征圧力を誇るが、これを扱い熟すには高度な空間認識能力や誘導制御に必要な集中力、高熱への耐性を必要とする。

また、サニィスフィアはスフィア同士を結合して巨大化させたり、任意の場所に配置・設置することで罠としても機能するなど汎用性も非常に高い。

そのシステムを使用した者の姿はさながら『無数の小さな太陽を使役する双子座の使者』と形容される。

 

『サンライズシステム』

デイライトシステムとの連携を前提に置いたシステムの一つ。

これは日の出を表し、サニィスフィアを媒介に防御、活性、治癒、譲渡、散布などサポートに重視した能力を発揮させるものである。

発動時には右篭手の絵がうっすらと光る。

 

『サンセットシステム』

デイライトシステムとの連携を前提に置いたシステムの一つ。

これは日没を表し、サニィスフィアを媒介に刀剣創造、肉体強化、多種砲撃、遠隔爆破など攻撃に重視した能力を発揮させるものである。

発動時には左篭手の絵がうっすらと光る。

 

『デイサクリファイスシステム』

デイライトシステムとの連携を前提に置いたシステムの一つ。

日を犠牲にする名の通り、生成したサニィスフィアをコアドライブユニットに吸収した後、その魔力エネルギーを還元することで一種のオーバードライブ状態を引き起こし、所持者の身体能力と魔力を爆発的且つ飛躍的に底上げする。

この効力と継続時間は吸収したサニィスフィアの数に比例して上昇する。

しかし、逆を言えば肉体にもそれ相応の負荷をかけるため、諸刃の剣と言える危険なシステムである。

また、エクセンシェダーデバイスはコアドライブユニットと個別に搭載された固有魔法を同時に制御・運用するために開発されているため、吸収したサニィスフィアの数に関係なくシステム終了後でも通常運用が出来る。

但し、デバイス自体に負荷が掛からなくても所持者に対しての負荷が無くなる訳ではないので、下手をすれば戦闘中に激痛に見舞われて意識を失う場合もある。

 

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・蟹座

 

デバイス:クレッセント・キャンサー

 

形状:白銀の蟹

 

待機状態:蟹座のシンボルと三日月の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のパールを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、マナスラッシュリーシステム、マナウイルスシステム、スラッシュホーミングシステム、チェンジングドライバーシステムを搭載

管制人格は女性で母性が強く面倒見の良い性格の反面、選定者の敵だと感じた者には容赦ない攻撃的な一面を見せる

通称は『キャンサー』

 

備考:蟹座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

 

領明のキャンサー入手の経緯。

幼少期、まだ実験が嫌で翠蓮の元から逃げたしたことがある。

その時に近くの湖の(ほとり)で座り込んでいた時だった。

湖から白銀の蟹ことキャンサーが現れる。

そこで領明はキャンサーに近付き、枝で突いてみた。

すると、キャンサーが喋り出し、領明と会話することになる。

その会話の中でキャンサーは領明が強い孤独感を持ち、感受性も高いと判断し、彼女を選定者として見定めた。

その後は領明のよき相談役となりて彼女の心が壊れないようにしてきた。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『コアドライブユニット』

クレッセント・キャンサーの搭載箇所は頭胸部の背面真ん中辺りに横向きにした三日月状のパールが嵌め込まれている。

放出する魔力粒子の色はパールホワイト。

 

『シザーストライカー(×2)』

鉗脚(かんきゃく)が武装化した巨大な鋏型装備。

これは鋏自体が武装化しており、本体前部には蟹の象徴とも言える巨大で強靭な鋏状の爪、本体後部には超小型魔力スラスターを4基備えているため、高い格闘戦能力を秘めている。

また、内部には鋏との接続と相互性を前提にして開発された特注の籠手を内蔵しており、それを媒介に外装である鋏装備を撃ち出すことも可能で、魔力スラスターも内蔵していることから遠距離攻撃も出来るようになっている。

ちなみに可動爪は上部になる。

 

『シェルユニット』

頭胸部の正面に備わったバックパック装備。

これは本体内部に魔力スラスター2基と、左右にクラブアームズを接続出来る8基のアタッチメントが備わったものである。

 

『クラブアームズ(×8)』

歩脚が武装化した多目的特殊装備。

これは歩脚の1本1本、計8本がそれぞれ独立したアームユニットとなり、これによって状況に応じた変幻自在の近接格闘戦を実現させている。

また、それぞれの歩脚には仕込み装備・武器は備わっており、上、もしくは前の一対から魔力鋼糸発生機構『クラブ・アルファ』、切断用刃『クラブ・ベータ』、刺突用刃『クラブ・ガンマ』、射撃用砲口『クラブ・デルタ』の4種が内蔵されている。

その他、魔法陣を足先に展開することでそれをクラブアームズで蹴ることで軌道を修正したり、変則的な動きをしたりとアクロバティックな戦法も可能としている。

ちなみに制御はヘッドギア装備から選定者の脳波を読み取り、管制人格がそれを最適化するように行っている形になる。

 

甲殻刀(こうかくとう)(×2)』

頭胸部の背面に背負うように備わった鞘に収まった刀剣型近接兵装。

これはスコルピアの次元刀と同様、日本刀を模したような造りになっており、刀身は漆黒色、刃渡り約4尺、柄は深緑色、鍔には四角状の中に十文字の意匠が施されている。

また、次元刀のような蛇腹機構が存在しない代わりに次元刀よりも数段硬い硬度を誇っている。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって自機の武装やシステムの単独での運用などを可能としている。

蟹座が求める性質は『高い感受性』と『強い孤独感』である。

 

『マナスラッシュリーシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な魔力斬撃『クレッセイション』を発動させるシステム。

『クレッセイション』とは、対魔法戦や近接戦闘を前提に特化させた魔力侵食系吸収型魔力斬撃であり、その効力は自身の魔力斬撃に触れた魔力攻撃、もしくは魔法に使用されている魔力を侵食・吸収することでその攻撃力を倍々的に増幅させるものである。

その性質上、防御魔法や捕縛魔法などにも効力が及び、防御を突破した上で相手に大ダメージを与えることすら可能にしている。

また、魔力斬撃を刀剣型装備に纏わせたまま攻撃を繰り出すことで斬撃の規模を拡大させていくことも出来るが、大き過ぎるとかえって邪魔になるだけなので、選定者は自分の力量に見合った斬撃の規模を見つけることも必要である。

ちなみにマナリデューション同様、その効力は魔力にしか作用しない。

 

『マナウイルスシステム』

魔力伝達阻害システム。

これはランダムに形成された魔力の波長を相手に打ち込むことで相手の魔力の波長を乱し、魔力伝達率を低下させることを目的にしている。

魔力伝達率の低下するということはそれだけ魔法を繰り出すための時間が長くなるという事を意味しており、生粋の魔導師などとは相性が良い。

また、一般的なデバイスに打ち込むことでその機能を阻害させることも可能にしている。

但し、膨大な魔力とそれぞれ人の意志に近い管制人格を持つ同じエクセンシェダーデバイスにはその効果は薄い。

発動時には相手に直接触れなければならない都合上、シザーストライカーやクラブアームズで相手を捕まえる必要がある。

 

『スラッシュホーミングシステム』

魔力斬撃誘導制御システム。

これは直線的に放たれる魔力斬撃を魔力制御することで誘導制御型の射撃魔法と同じように操作することが出来る。

このシステムは通常の魔力斬撃はもちろん、固有魔法である『クレッセイション』にも対応している。

但し、これの制御にはそれなりの集中力とイメージ力を必要とする。

 

『チェンジングドライバーシステム』

生物型エクセンシェダーデバイス専用の可変機構統括システム。

システムの概要はディメンション・スコルピアと同じで、完全独立稼働も可能。

 

クレッセント・キャンサーの場合、以下の形態に変形することが出来る。

 

『キャンサーフォーム』

クレッセント・キャンサーの基本形態。

その名が示す通り蟹を模した甲殻生物で、起動時は必ずこの形態になる。

これは横歩きが基本となり、水中戦を得意としている。

 

『スパイダーフォーム』

クレッセント・キャンサーの第二生物形態。

シザーストライカーが前方で左右に接続されて蜘蛛の腹部を形成し、頭胸部が水平となって前後が逆になることで蜘蛛の姿へと移行する。

これは地上、特に密林などの隠れる場所が多い地形での戦闘を得意としており、変則的ではあるが魔力鋼糸は一番後ろの歩脚から放つことも可能としている。

 

『ステルスフォーム』

クレッセント・キャンサーの全翼機形態。

これはシザーストライカーを頭胸部の左右に密着させ、歩脚全てを水平に真っ直ぐ伸ばした後、後方に向けて角度をつけることで翼を形成している。

これはステルス性を用いた急襲戦法を得意とし、スコルピア程ではないが制空権の確保や長距離移動なども出来るようになっている。

また、この形態のキャンサーの上に乗ることも可能。

 

『アーマーフォーム』

クレッセント・キャンサーが鎧状に分離して所持者の体に装着する鎧形態。

頭部には頭胸部の前面縁に備わった目に当たる部分が装甲ごと外れてヘッドギアとして機能する。

胸部には頭胸部の背面が胸当てとして装着し、その背にはシェルユニットが装着される。

両肩、腰部、両足にはキャンサーの内部に収納されていた肩当て、プロテクター、足具がそれぞれ装着する。

両腕にはシザーストライカーが装着され、この時、両手は鋏の間からせり出すように出る。

クラブアームズは背部のシェルユニットに接続され、甲殻刀は左右の腰へと装備される。

キャンサーの全装備を十全に扱える形態でもある。

基本戦術はシザーストライカーと甲殻刀による近接格闘を主体にしつつ、クラブアームズによる変則的でアクロバティックな戦法も可能にしている。

さらに固有魔法や専用システムもあって遠距離への対応も出来る。

 

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・獅子座

 

デバイス:マジェスティ・レオ

 

形状:白銀の獅子

 

待機状態:獅子座のシンボルと翼を広げた鷲の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のルビーを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、ハウリングシステム、サイバージャックシステム、アンチマジックシステム、チェンジングドライバーシステムを搭載

管制人格は男性で威風堂々とした誇り高く厳格な性格で、貴族の振る舞い方や帝王学に精通している

通称は『レオ』

 

備考:獅子座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

 

海斗達と異形に変貌したカイルとの戦いの最中。

海斗の中に王の資質を見出し、いくつかの問答の末、将来性を考慮して選定者として選ぶ。

但し、海斗が力に溺れるようなら容赦なく切り捨てると宣言しているので、まだ完全には認めていないのかもしれない。

また、仮に海斗の実父『カイバ』が存命していた場合、彼を選定者として選んでいた可能性もあるとレオ自身が語っている。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『コアドライブユニット』

マジェスティ・レオの搭載箇所は胸部装甲の中心に翼を広げた鷲を模ったルビーが嵌め込まれている。

放出する魔力粒子の色はルビーレッドである。

 

『レオヘッド』

獅子の頭部が武装化した特殊装備。

これは獅子の頭部自体が右肩専用のプロテクター装備と化しており、口内からは咆哮と共に各システムに対応した魔力波や周波数を放つことが出来るようになっている。

また、鬣は六枚のパーツで構成されており、パーツを展開して頭部を中心に回転させることで攻撃や防御に使用することも可能。

 

『マジェスティギア』

獅子の頭部に追加されたヘッドギア型装備。

これは紅いHMD型のバイザーを備えたヘッドギア装備で、普段はレオヘッドの目元を覆うように装着されている。

また、バイザーには様々な情報が表示される他、接近警報やロックオン、通信機能も備えている。

ちなみにこの装備はレオの起動中ならいつでも所持者へと装備することが出来る。

 

『ストライクレーザークロー(×2)』

前足に備わった爪型装備。

これは5本の実体爪を備えた近接装備であり、爪内部には魔力エネルギーを熱変換する機能が備わっている。

この熱変換機能のおかげで攻撃力は格段に上がっており、近接格闘能力は生物型エクセンシェダーデバイスの中でも一、二を争う程である。

 

『スラッシュレーザーブレイド(×2)』

後ろ足に備わった爪型装備。

これは5本の実体爪を備えた近接装備であり、爪から魔力刃を形成する機能が備わっている。

また、この装備の真価が発揮されるのはアーマーフォーム時であり、通常時にはあまり使われることはない。

 

『マジェスティキャリバー』

バスタードソード型の刀剣装備。

これは刀身は白銀色、刃渡り約90cm、柄は紅色、鍔は鷲の翼を広げたような形状になっており、片手でも扱えるようになっている。

レオの武装の中では比較的使いやすく、刀身内部には魔力回路を組み込んでいるので魔力伝達率の効率も良くなっている。

ちなみにマジェスティギアと同様に独立しており、レオの可変形態には影響しないようになっている。

 

『マジェスティブラスター』

多目的ライフル型射撃装備。

これは変形ギミックを搭載した長銃身のライフルで、全部で五つのモードに切り替えが可能になっている。

各モードは牽制及び手数を重視した低出力連射『ラピッドモード』、一発一発の威力を重視した高出力砲弾『マグナムモード』、五つのモードの中でも最大級の威力を重視した収束砲撃『ブレイカーモード』、広範囲の敵を薙ぎ払うことに重視した拡散砲撃『スプラッシュモード』、アウトレンジからの攻撃を重視した長距離狙撃『スナイプモード』という具合になっている。

また、ブレイカーモードに限り使用した後に冷却時間が必要になるため、他のモードも使用制限が掛かるようになっている。

ちなみにマジェスティギアと同様に独立しており、レオの可変形態には影響しないようになっている。

 

『マジェスティシールド』

防御兵装。

これは左肩専用のプロテクターと一体化した半径約15cmの円盤型シールド装備で、その周りには外装用の追加装甲が八基備わっている。

この追加装甲は展開することで、本体である円盤型シールドを中心に各追加装甲が基点となって魔力シールドを張ることが出来るようになっており、展開する規模によって魔力シールドの規模も拡大する仕組みになっている。

また、シールドの内側には鞘、もしくはホルスターとしての機能を持つソケットが備わっており、そこにマジェスティカリバーキャリバー、もしくはマジェスティブラスターを収納し、マジェスティブラスターの場合は魔力充填を行うことが出来る。

ちなみに普段はレオのコアドライブユニットを守るような位置に装備されている。

 

『イーグルユニット』

鷲の姿を模った自律支援型特殊装備。

これは試作型アームドドライバーとも言える代物で、後のサジタリアスのアームドドライバーの基礎となっている。

大型の鷲をモチーフにしており、普段は変形して左右に巨大な機械翼を持つバックパック装備となってレオの背部に待機している。

支援形態となるとバックパック装備状態から大型の鷲へと変形し、所持者とレオのサポートを行うことが出来るようになる。

搭載武装は頭部嘴内に魔力砲台『イーグルブラスト』、背部から展開する縦四連装魔力レーザーミサイル装備『マジェスティスター(×2)』、機械翼の縁が鋭利な刃と化している『ウイングカッター(×2)』、足の爪に仕込まれた魔力刃発生装置『イーグルネイル(×2)』、尾が武装化した鉄扇型装備『イーグルファン』の計5種が備わっている。

ちなみにレオの形態変化の都合上、分離機能も備えている。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって自機の武装やシステムの単独での運用などを可能としている。

獅子座が求める性質は『王者の風格』と『五徳の大器』である。

 

『ハウリングシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な広域攻撃魔法『ハウリングバースト』を発動させるシステム。

『ハウリングバースト』とは、空間単位での広域攻撃に特化した震動破砕系咆哮型広域攻撃魔法で、その効力は一定の空間単位に対して咆哮による震動波を放ち、大気中の魔力素に震動を加えることで空間震を引き起こすことで多数の目標を攻撃するというものである。

また、使い方によっては様々な応用が可能で、咆哮の範囲を絞ることで単体の目標に対して絶大な威力を持たせることが出来たり、震動波を魔法に干渉させることでその魔法の内部から暴発させたり、大気中の魔力素に対して限りなく威力を抑えた震動波を放つことで魔力酔いを引き起こすなどすることが出来る。

但し、リンカーコアやコアドライブユニットなどの魔法機関に対しては使えないように設定されている。

何故なら言うまでもなく、前者は対象となった者の命に関わるからであり、後者は既にサジタリアスで対策を練っていて貴重な半永久魔法機関が無くなるのが困るからである。

 

『サイバージャックシステム』

機器干渉システム。

これは特定の周波数を発生させて電子機器やデバイスなどに干渉し、一時的に己の支配下に置くというものである。

支配下に置いた電子機器やデバイスなどはレオや所持者によって遠隔操作を受け、誤情報の流出、魔法制御の阻止や無効化、指揮系統の混乱化など所持者の意向によってどうとでも操作することが出来る。

但し、キャンサーのマナウイルスシステムと同様の理由でエクセンシェダーデバイスに対してはその効果は発揮されない。

 

『アンチマジックシステム』

対エクセンシェダーデバイス専用に開発された二つのシステムの内の一つで、こちらは固有魔法に対抗するためのシステム構築になっている。

これは収集した魔力を各エクセンシェダーデバイスの固有魔法の波形パターンと同期させてぶつけることでその固有魔法を相殺して無力化する仕組みなっている。

但し、波形パターンを同期させるシステムの都合上、一度に複数のエクセンシェダーデバイスの固有魔法を無力化は出来ないようになっている。

そのため、サジタリアスのアンチコアドライブシステムと比べると対エクセンシェダーデバイスへの制圧力に欠けるが、コアドライブユニットを停止させない点で言えば、こちらの方が使い勝手が良いのでどちらも一長一短といったところである。

だが、固有魔法を無力化されるということはエクセンシェダーデバイスの機能の半分を無力化したのと同じであり、コアドライブユニットが健在だとしても大量の魔力を扱うだけの技量が無ければ宝の持ち腐れ状態になってしまう可能性も大いに有り得る。

また、固有魔法に連動したシステム構築になっている場合もあるので、そういったシステムを積んでるエクセンシェダーデバイスはレオと相対したらかなり不利な状況に陥りやすい。

 

『チェンジングドライバーシステム』

生物型エクセンシェダーデバイス専用の可変機構統括システム。

システムの概要はディメンション・スコルピアと同じで、完全独立稼働も可能。

 

マジェスティ・レオの場合、以下の形態に変形することが出来る。

 

『レオフォーム』

マジェスティ・レオの基本形態。

その名が示す通り獅子を模した陸上生物であるが、背部にバックパック装備を背負っていて口にはマジェスティキャリバーを咥えている状態であり、起動時は必ずこの形態にある。

これは単体での戦闘力は生物型エクセンシェダーデバイスの中でも一、二を争う程で、イーグルユニットとの連携を前提にした動きが出来るようになっている。

また、地上戦だけでなく空中戦も可能にしている。

 

『グリフォンフォーム』

マジェスティ・レオの第二生物形態。

イーグルユニットの頭部と足の爪が分離し、レオヘッドの代わりにイーグルユニットの頭部、ストライクレーザークローの上に被さるようにイーグルユニットの足が装着されることでグリフォンのような姿に移行する。

この時、レオヘッドは所持者の右肩に装備される。

これは空中戦を主体にしており、固有魔法は都合によって使えないが、それでも高い戦闘能力を秘めている。

 

『ライナーフォーム』

マジェスティ・レオの長距離移動形態。

レオヘッドを先頭に前後足を折り畳んだ胴体、翼を折り畳んで閉じた状態のイーグルユニットの順に連結したリニア新幹線のような形態になる。

これは魔力を用いてリニア新幹線のような移動法を取ることが出来る一風変わった形態だが、その速度はスコルピアのジェットフォームにも匹敵する程である。

また、所持者をイーグルユニットの上に乗せることも可能。

 

『アーマーフォーム』

マジェスティ・レオが鎧状に分離して所持者の体に装着する鎧形態。

マジェスティギアが額に装着される。

胴体が分離したプロテクターが胸部と腰部に装着され、コアドライブユニットは胸部に位置する。

前後足が籠手と足具を形成し、両手首部分にストライクレーザークロー、両膝にスラッシュレーザーブレイドが装着される。

右肩にレオヘッド、左肩にマジェスティシールドが装着される。

背部に分離してバックパック装備となったイーグルユニットが装着される。

この時、マジェスティスターは両肩上部にせり上がるようになり、イーグルネイルは踵部分に装着され、イーグルブラストはコアドライブユニットを覆い隠すように合体し、イーグルファンは腰裏に装備される。

マジェスティキャリバーとマジェスティブラスターはそれぞれ右手と左手に保持する形となる。

レオの全装備を扱える形態。

全体的なスペックは他のエクセンシェダーデバイスよりも高く設定されており、どのような距離にも対応出来る万能型となっている。

ただ、それだけのスペック故に選定条件は他よりも厳しめに設定されていて、これだけ多彩な武装を扱うだけの技量やどの距離でも即座に切り替えられる対応力、戦略性、戦術眼、判断力、さらにはイーグルユニットを駆使した戦法も考えなくてはならないと所持者に求めるモノが多い。

ちなみに装備されたイーグルユニットは所持者の意思で、支援形態となることも可能となっている。

その場合、飛行能力はなくなるが、代わりにイーグルユニットによる支援を受けられるメリットがある。

 

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・乙女座

 

デバイス:ハートネス・ヴァルゴ

 

形状:乙女座を模した白銀色の鎧

 

待機状態:乙女座のシンボルとハートの意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のサードニクスを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、ヒーリングハートシステム、マナディスパーションシステム、マルチブーストシステム、マジックジャマーシステムを搭載

管制人格は女性で基本的に穏和且つ清楚な性格をしているが、主に対しては『完璧』を求める性質が少なからずある

通称『ヴァルゴ』

 

備考:乙女座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

アクエリアスやジェミニ、サジタリアス同様、バリアジャケットは存在せず、鎧が直接選定者の体に装着される鎧型。

 

ストロラーベの首都郊外に存在する古い屋敷の中に置物として安置されていた。

そこへ幼いユウマと雪絵を連れたフィーナが探検にやって来た。

古い屋敷ということもあり、二階へと進んだところでフィーナが床下に落ちてしまう。

それを追ってユウマもそこから降りると、そこには埃を被ったヴァルゴの安置されていた部屋だった。

ちなみに雪絵は二階の廊下から下の様子を窺っていた。

怪我をして意識を失ったフィーナを懸命に呼び掛けたり、傷を治そうとする献身的な様子を見てヴァルゴの選定条件の一つがユウマと一致する。

そこでヴァルゴが力を貸し、フィーナを治療して事なきを得た。

その後は目覚めたフィーナと雪絵と共に古い屋敷を後にする。

この出来事は3人の間で秘密として共有されている。

以後は正式な選定者を探すための移動手段としてユウマを仮の選定者として選ぶものの、ユウマがもう一つの選定条件を満たすに値することがわかったので正式にユウマを選定者として選び、共にこの十数年を過ごしてきている。

 

ハートネス・ヴァルゴの場合、額にヘッドギア、胸部にハートの紋章を象った大きなサードニクスを嵌め込み、背部に一対二翼の大きめの翼を備えたプロテクター、両肩に肩当て、両腕に籠手、腰部にプロテクター、両足に足具をそれぞれ装着した姿となり、各部から放出する魔力粒子の色はサードニクスオレンジである。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって主の選定やシステムの単独での運用などを可能としている。

選定形態は祈りを捧げる乙女座の像となる。

乙女座が求める性質は『純潔の精神』と『差別なき眼』である。

 

『ヒーリングハートシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な治癒魔法『ハートネス』を発動するシステム。

『ハートネス』とは、軽傷から重傷まで幅広い傷を癒すことを主眼に置いた細胞活性系多目的型治癒魔法で、その効力は膨大な魔力を使って対象の細胞や自然治癒力を活性化させて傷の治りを速めることである。

また、魔力を極細の鋼糸状に紡いで、それを対象の傷に縫い合わせることで切断された部位を完全に復活させたりすることも可能。

しかし、いくら自然治癒による回復が目的でもその部位に異物が混入していた場合、外科的な処置が必要である。

その他、使い方にもよるが負傷してない対象者や自らの細胞を活性化させて気を一時的に上昇させたりすることも出来る。

但し、即死や消滅、不治の病など自然治癒でも治癒が不可能な状態ではその効果を発揮出来ない。

ちなみにエクセンシェダーデバイスの中では唯一待機状態でも固有魔法を使える仕様になっている。

 

『マナディスパーションシステム』

魔力広域散布システム。

これは文字通り収集した魔力を広域に散布するもので、周囲の魔力濃度を引き上げたり、味方の魔法を手助けしたりすることを主な目的にしている。

しかし、周囲の魔力濃度を上げるということは敵に対しても有利な状況を作ってしまうことになる。

そのため、使う時は使用範囲に気をつけなくてはならない。

 

『マルチブーストシステム』

マナディスパーションシステムと連動するシステム。

これは散布した魔力を媒介に複数の味方の能力を引き上げることを主眼に置いている。

発動条件としては散布した魔力範囲内に味方がいることである。

かなり緩い条件なので、誤って敵側の者も魔力範囲に入られると敵の能力も強化してしまう可能性もある。

 

『マジックジャマーシステム』

マナディスパーションシステムと連動するシステム。

これは散布した魔力に媒介に敵側の魔法や索敵能力を阻害することを主眼に置いている。

発動条件としては散布した魔力範囲内に敵がいることである。

マルチブーストシステムと同様、かなり条件が緩いので誤って味方を巻き込んでしまう可能性もある。

 

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・天秤座

 

デバイス:エクスキューター・ライブラ

 

形状:天秤座を模した白銀の鎧

 

待機状態:天秤座のシンボルと十字架の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のカーネリアンを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、ジャッジバインドシステム、スキルキャンセラーシステム、ガジェットツールシステム、ウエポンテレポートシステムを搭載

管制人格は男性で基本的に上から目線でプライドと自己愛が強いナルシスト的な性格で、美意識もかなり高い

通称は『ライブラ』

 

備考:天秤座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

 

ライブラの入手経緯。

久瀬家が管理する道場の中に場違いながらも飾られていたが、薫が家を出る際にライブラの方から薫に話し掛ける。

置き物と思っていた代物に驚きながらも薫はライブラからの質問に答える。

そして、薫の中にある歪になった感情を把握すると、自らの持ち主として相応しいと判断し、天秤の座の像から薫の身を纏う鎧となって力を与えた。

以後は滅多なことでは使われないが、それでも構わないとして自ら疑似休眠状態となって眠っている。

それ故か、アクエリアスやスコルピアなどからも察知されていない。

 

エクスキューター・ライブラの場合、額にヘッドギア、胸部に十字架の紋章を象った大きなカーネリアンを嵌め込み、背部の左右にそれぞれ2本ずつのロッドを装備したプロテクター、両肩に左右それぞれに2本ずつのロッドを装備した肩当て、両腕に天秤の皿が円形の盾となって装備された籠手、腰部に左右それぞれに2本ずつのロッドを装備したプロテクター、両足に足具をそれぞれ装着した姿となり、各部から放出する魔力粒子の色はカーネリアンオレンジである。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって主の選定やシステムの単独での運用などを可能としている。

選定形態は天秤座の像となる。

天秤座が求める性質は『正義の心得』と『罪悪の意識』である。

 

『ジャッジバインドシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な捕縛魔法『ジャッジメント』を発動するシステム。

『ジャッジメント』とは、相手の身動きを封じることを主眼に置いた重力加重系拘束型捕縛魔法で、その効力は相手が犯してきた"罪の数や質"に応じて体感する重力を上げていって動きを制限することである。

過去に犯してきた罪の数が多く質が高ければそれ相応の重力が加味されていき、自らの罪だけで押し潰されたり身動きが不可能になることもある。

その反面、清廉潔白な人物に対してはただのバインドタイプの魔法でしかなく、体感重力もそのままである。

また、複数の人物を同時に拘束した場合、拘束した人物が犯してきた罪の総数によって重力が加わり、効果も個々ではなく全体に対して及ぶため、1人が重い罪を背負っていたらそれが他の人物にも伝わってしまうことになる。

 

『スキルキャンセラーシステム』

ジャッジバインドシステムに連動するシステム。

これはジャッジメントで拘束した人物が保有する異能の力を発揮させないようにするためのものである。

このシステムがあることでジャッジメントを異能の力を用いての脱出はほぼ不可能と言ってもいい程であり、自力で抜け出すには罪を犯してないことが条件となる。

しかし、発動条件はジャッジメントによる拘束なので、捕まらない場合は当然ながら効果を発揮しない。

 

『ガジェットツールシステム』

装備展開補助システム。

これは各所に装備された12本のロッドと両腕に装備された盾専用に組まれたもので、コアドライブから得られる魔力をロッドや盾に伝達し、様々な武器へと接続させることが出来る。

ロッドと盾によって構成出来る武器は刀剣、棍、槍、薙刀、鎌、フレイルなどで、種類の違う複数の武器を同時に形成することも可能。

 

『ウエポンテレポートシステム』

装備転送システム。

これは手元から何らかの理由で離れた12本のロッドと盾を瞬時に手元、もしくは元の装備箇所へと転送することが出来る。

当然のことながら個々での転送も可能にしている。

また、逆に装備を別空間に転送して迎撃や罠として機能させることも出来るが、その場合は高度な空間認識能力が必要となる。

 

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・蠍座

 

デバイス:ディメンション・スコルピア

 

形状:白銀色の蠍

 

待機状態:蠍座のシンボルとゲイト(サークル状の門)の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のガーネットを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、ポイズンブラッドシステム、フライヤーリンクシステム、ディメンションゲイトシステム、チェンジングドライバーシステムを搭載

管制人格は女性で非常に穏和且つ大人しい寡黙で主に付き従う従順な性格をしているが、主の感情に感化されやすく暴走しやすい反面を持つ

通称『スコルピア』

 

備考:これはロストロギアに分類されているデバイス群『エクセンシェダーシリーズ』の1機で、蠍座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

シャドウが偶然的に発見されており、長らく選定形態のまま研究されていた。

最近になって選定対象が見つかり、反応を示した。

そして、暗七の連れてきた明幸 智鶴を試した結果、彼女を主と認めて力を与える。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『コアドライブユニット』

ディメンション・スコルピアの搭載箇所は頭胸部の胸部に当たる部位の上部にサークル状のガーネットが嵌め込まれている。

放出する魔力粒子の色はガーネットブラウン。

 

『シザーアンカー(×2)』

触肢の先端に装着された少々横幅だが、シャープなフォルムの鋏型装備。

これは鋏自体に魔力収束機能が組み込まれており、コアドライブユニットで収集した魔力を収束して爪自体をコーティングしたり、魔力刃を形成したり、砲撃にしたりなど用途は様々である。

また、接続部から鋏を射出することでアンカーとしても使用可能で、回収時は触肢から魔力鋼糸を鋏に放出することで接続部まで引き戻す。

ちなみに可動爪は下部である。

 

『ブーストユニット(×2)』

シザーアンカーの爪上部を覆う装甲型補助装備。

これは後部に魔力粒子を放出して推力を得る大型ブースターを搭載しており、表面には武器装着用のアタッチメントを設けている。

また、魔力ブースターを利用することで遠隔操作型の自動砲台にしたりシザーアンカーに装着したまま使って目標を追尾する等の動作も可能。

 

『ブラッドシューター(×2)』

腹部の上部にマウントされた2基の射撃兵装。

これはコアドライブユニットで収集した魔力を弾丸状にして発射する3連装機関砲であり、低出力ながらその圧倒的な速射性と連射性で十分補える程である。

ブーストユニットに接続が可能。

 

『テイルユニット』

腹部から伸びた8節構成の尾型特殊兵装。

これは尾自体が武装化し、各節には魔力収束機能が備わっており、この機能を用いて各節は魔力粒子を刃状に展開させたり、分離した各節を魔力鋼糸で繋げたりする等の動作も出来る。

ちなみに内部にバラバラになった刀身と柄に分割された次元刀を収納している。

 

『テイルフライヤー』

テイルユニットの節に沿って装着された7対14基の自動砲台型装備。

これは前部に直射と追尾の切替が可能な魔力レーザー砲2門と収束機能、後部に小型魔力ブースター2基を搭載した自律型移動砲台である。

通称『フライヤー』。

普段は2基1組で尾の1節を覆うカバー状の待機形態を持ち、通常時はこれで魔力粒子を補給しており、使用時にはカバーから2基に分離し、装甲を折り畳むように変形して移動砲台形態へと移行する仕組みになっている。

また、通常射撃の他にも魔力を刀身状にすることで近接兵装としても使用可能。

 

『スティンガーブレード』

テイルユニットの先端に装備した刀剣型近接兵装。

これは片手で持てる両刃の大剣をコンセプトに置いており、刀身は白銀色、刃渡り約100cm、刃幅約20cm、柄は紫色、鍔の部分は短く刃に向かって傾斜し、鍔の中心部の表側には蠍座の星、裏側には蠍の絵の意匠がそれぞれ施されている。

ちなみにスコルピアの中では最も使い勝手の良い武器でもある。

 

『スティンガーエッジ』

スティンガーブレードとテイルユニットの先端を横から挟み込むようにして合体した左右に1対の刃を持つ装甲型装備。

これはスティンガーブレードを支える役割を持つ他、刃のみを切り離して遠隔操作したり2枚の刃を合体させてブーメランのように扱ったりすることも可能。

また、刃はブーストユニットの表面に合体させることで近接兵装とすることも可能。

 

『次元刀(じげんとう)』

テイルユニットの中に仕込まれた蛇腹機構の刀身を持つ刀剣型近接兵装。

これは日本刀を模して作られており、柄頭から切っ先までかなりの硬度を誇り、刀身は白銀色、刃渡り約3尺、柄は紫色、鍔にはサークル状の中に十文字の意匠が施されている。

また、刀身の芯に魔力鋼糸を巡らせるように形成し、それを用いた広範囲に及ぶ柔軟性に富んだ蛇腹機構を実現している。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって自機の武装やシステムの単独での運用などを可能としている。

蠍座が求める性質は『陰の性質を持つ愛』と『鋭い洞察力』である。

 

『ポイズンブラッドシステム』

これは収集した魔力素を用いて紫色の特殊毒液『ポイズンブラッド』を生成するシステム。

このポイズンブラッドは基本的に毒液であるが、その毒性や魔力濃度をコントロールすることで様々な効力を発揮する。

ちなみに毒性を最小限に抑えた高濃度のポイズンブラッドを重傷者に打ち込むことで生命力を活性化させることも可能。

 

『フライヤーリンクシステム』

ブーストユニットやテイルフライヤー、スティンガーエッジといった自律型自動砲台専用統括制御システムで、所持者の脳波を読み取り、管制人格がデータ化させて特定の信号として自律型自動砲台に送信することでフライヤーの操作を一手に担うことが出来る。

 

『ディメンションゲイトシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な移動魔法『ディメンションゲイト』を発動させるシステム。

『ディメンションゲイト』とは、その名が示す通り『次元の門』を意味する空間接続系転移型移動魔法で、その効力は自身を中心とした半径約1m六方の空間と別の場所に存在する空間を大小様々なサークル状の門『ゲイト』で繋げ、ワームホールを作り出すことである。

このワームホールはコアドライブユニットの恩恵により、維持時間は無制限だが、ワームホールを繋ぐ作業は多大な集中力や精密な演算能力、高度な空間認識能力を必要とするため管制人格との連携はかなり重要であり、当然のことながら所持者が認識していない空間にゲイトを作り出すことは不可能であり、限られた場所やその場でしか効力を発揮出来ないが、認識と具体的なイメージがあれば次元転移も可能となる。

また、ワームホールは所持者の任意のタイミングでオン・オフの切替が可能であり、使い手によって様々な戦術に応用することが出来る。

但し、スコルピアの武装や所持者がゲイトを通過すると自動的にゲイトが消滅する仕組みになっており、例え体の一部だけをゲイトに通過させてもゲイトは"スコルピアの武装、もしくは所持者が通過した"と認識し、ゲイトが自動的に消滅、さらには体の一部をワームホール内に取り残してしまう危険性もある。

 

『チェンジングドライバーシステム』

生物型エクセンシェダーデバイス専用の可変機構統括システム。

これは黄道12星座中7種が生物型ということを利用し、ベースとなる星座本来の生物形態と所持者の体に装着する鎧形態の2種類の他にも各星座に応じて様々な形態へと変形することをコンセプトに置かれている。

また、デバイス自体が所持者の命令と独自の判断による鎧型エクセンシェダーデバイスとは異なった完全独立稼働も想定しているため、所持者の援護や単体での活動も可能である。

 

 

ディメンション・スコルピアの場合、以下の形態に変形することが出来る。

 

『スコルピアフォーム』

ディメンション・スコルピアのベースとなる基本形態。

その名の通り蠍を模した節足動物で、起動時は必ずこの形態であり、蠍座の選定形態でもある。

これは地上戦に特化し、状況に応じて射撃と格闘の切替を即時に行える。

また、水中での活動も可能。

 

『シャークフォーム』

ディメンション・スコルピアの第二生物形態。

節足を腹部の下に折り畳み、テイルユニットを横に倒した後、シザーアンカーを扇が閉じるように合体させることで頭部を形成し、ブーストユニットを胸鰭、スティンガーエッジを背鰭のようにそれぞれ接続させることで鮫の姿へと移行する。

これは近接格闘を主体とした高速戦闘を得意とし、射撃も行えるがこちらはあくまでも牽制程度にしか使わない。

また、この状態だと空中・水中戦が主体となる。

 

『ジェットフォーム』

ディメンション・スコルピアの高速移動形態。

節足を腹部の下に折り畳み、テイルユニットを真っすぐにしてスティンガーブレードを機首に見立て、シザーアンカーを全開にした状態で頭胸部に合体させて鋏の上部を主翼、可動爪にブーストユニットを接続することでエンジン、ブラッドシューターも180度回転させて砲台として使用する。

これは高速射撃戦闘を得意とし、一撃離脱や制空権の確保、遠距離航行等を可能としている。

また、この形態はボードのように上部に所持者を乗せることも可能。

 

『アーマーフォーム』

ディメンション・スコルピアが鎧状に分離して所持者の体に装着する鎧形態。

胸部には蠍の頭部と胸部に分離した胸部が装着すると節足の1対は肩上から背中、残り3対は脇下から背中にそれぞれ回って4対の節足が接続してプロテクターとなる。

両腕と両足には触肢と腹部がそれぞれ覆う篭手と足具となる。

両腕の篭手の上からブーストユニットが覆い被さり、両肩にシザーアンカーが装着される。

腰部にはテイルフライヤーが変形・合体したスカートアーマー状の装甲が装着される。

両足首には足具の上からスティンガーエッジが装着される。

頭部には蠍の頭部が額、次元刀を収納した状態のテイルユニットが後頭部から挟み込むように側頭部で接続した頭部保護を目的にした複合ユニットを装着する。

両肩上部にはブラッドシューターが装着され、右手にスティンガーブレードを保持する。

この状態になると毒性を最小限に抑え魔力濃度を濃くしたポイズンブラッドを体内の血と混ぜて循環させることで手荒い方法ではあるものの魔力への感受性を高くし、身体能力を向上させる効果を所持者に与える。

頭部に装着した複合ユニットの額部には紫色のバイザー型ディスプレイを内蔵している他、所持者の脳波を読み取る機能も完備している。

当然ながらスコルピアの全兵装を扱えるが、それらを駆使する頭脳も必要となる。

 

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・射手座

 

デバイス:アークドライブ・サジタリアス

 

形状:射手座を模した白銀色の鎧

 

待機状態:射手座のシンボルと五芒星の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のアメジストを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、サジットブラストシステム、ディメンションサーチシステム、アンチコアドライブシステム、アームドドライバーシステムを搭載

管制人格は男性で基本的に陽気且つ楽天的な性格をしているが、こと戦闘に関しては熱くなりやすく冷めやすいという極端な一面を持つ

通称『サジタリアス』

 

備考:射手座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

アクエリアスとジェミニ同様、バリアジャケットは存在せず、鎧が直接選定者の体に装着される鎧型。

 

ルーマニアに存在するツェペシュ本城の地下最下層にて安置されていたが、"白銀"ということもあって黒い布を被されて埃を被っていた。

しかし、そんな状態でもツェペシュ本城を中心に己の選定者を探していた。

そんな中、クーデターが起こり、その騒動の中でマリウス、クロウ・クルワッハなどを見い出すが、選定条件である前者の条件を満たしていても後者を満たしていなかったために見送られた。

その後、さらにグレモリー眷属やヴァーリ、紅牙達が現れてからはヴァーリにも可能性を見い出していたが、これも後者が該当しなかった。

しかし、後者が該当する人物に紅牙が現れ、リゼヴィムとノヴァに攻撃を仕掛ける姿を見て前者も満たすと判断し、正式に紅牙を資格者として認める。

 

アークドライブ・サジタリアスの場合、額にクリアパープルのバイザー付きヘッドギア、胸部に五芒星の紋章を象った大きなアメジストを嵌め込んだプロテクター、両肩に肩当て、両腕に籠手、腰部にプロテクター、両足に足具をそれぞれ装着した姿となり、残りのパーツはアームドドライバーとして機能し、各部から放出する魔力粒子の色はアメジストパープルである。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって主の選定やシステムの単独での運用などを可能としている。

選定形態はアクエリアスやジェミニとは少し異なり、弓矢を構えた人馬を模した射手座の像となる。

射手座が求める性質は『飽くなき探求』と『迷いなき即断』である。

 

『サジットブラストシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な砲撃魔法『サジットブラスター』を発動するシステム。

『サジットブラスター』とは、対一から対多までを主眼に置いた空間制圧系選択型砲撃魔法で、その効力はまるで矢を射るような感覚で直射型、誘導制御型、収束型、拡散型といった複数の砲撃魔法を状況や用途に応じて使い分けることである。

このサジットブラスターは一度矢状に練った魔力を専用装備によって射ることで砲撃へと再変換する、という動作を行うことで直前までどのような砲撃を放つかを相手に悟らせないようにする意図も含まれている。

コアドライブユニットの恩恵によって砲撃のチャージ時間は限りなく短く、それでいて高火力の砲撃を連発出来るほどの持続力を兼ね備えているが、砲撃魔法の種類は使い手の資質や技量に大きく依存する。

極端な話、所持者が砲撃魔法を一切修得していなくても管制人格の補助で直射型を撃てるようにはなるが、それではサジットブラスターを十全に扱えるということにはならない。

この固有魔法を最大限に活かすためには、やはり全ての砲撃魔法の特性を理解し、それを的確に使用することの出来る状況判断能力も必要となる。

 

『ディメンションサーチシステム』

次元空間索敵システム。

これは周辺の通常空間と並列する次元空間を解析することで、相対する相手の現在位置や転移座標の予測、魔力探知などの索敵能力が基本運用となる。

解析したデータはヘッドギアに備わっているバイザーに表示される。

"地形データ"ではなく、"空間データ"で表示されるのでより詳細な座標が表示される反面、ドルイドシステムよりも高い空間把握能力が求められる。

また、その詳細な座標と実際の空間を比較することで、より高い精度での砲撃を可能にしている。

 

『アンチコアドライブシステム』

対エクセンシェダーデバイス専用に開発された二つのシステムの内の一つで、こちらはコアドライブユニットに対抗するためのシステム構築になっている。

これは自ら収集した膨大な魔力素を一時的に最大開放し、相手、もしくは標的となるエクセンシェダーデバイスのコアドライブユニットの魔力素同士をぶつけて相殺することでコアドライブユニットの機能を一時的に無力化するという仕組みになっている。

また、魔力収集率が高ければ複数のエクセンシェダーデバイスも無力化することが可能。

但し、このシステムを使用するには多大な魔力と、自らのコアドライブユニットの機能も一時的に停止してしまうというデメリットが存在する。

仕組み自体ならシステムにしなくても使えそうだが、コアドライブユニット自体がブラックボックス化していて専用システム無しで運用した場合、二度とコアドライブユニットが稼働しない可能性も示唆されていたようである。

それ故に選ばれた二機にのみ別々の対抗策を用意していた可能性が高い。

 

『アームドドライバーシステム』

チェンジングドライバーシステムの技術を応用して開発された射手座専用システム。

これは射手座の鎧を構築する際に余る人馬の下半身部分のパーツを幾つかの自律型独立支援用装備『アームドドライバー』として運用することを前提に設計されている。

サジタリアスを纏ってる間、アームドドライバーは支援機状態で所有者の周囲に待機しており、選定された所有者の行動パターンを独自に解析し、最適な行動を取るようになるようプログラミングされている。

また、アームドドライバー全機はサジットブラストシステムに対応しており、支援機状態では貯蔵している魔力を用いて援護砲撃を行うことが可能。

アームドドライバーの本領は武装時にあり、鎧の各部に後付け装備として装着・装備することでコアドライブユニットと固有魔法を最大限に活かすことが出来る。

さらに所有者権限で許可が下りれば、他者にも武器としての使用が可能である。

 

 

アームドドライバーは以下の通りである。

 

『サジット・ファルコン』

隼を模した弓型アームドドライバー装備。

これは射手座の象徴とも言える弓であり、隼自体が特殊な弓となっている。

尾を引っ張ることで嘴から矢を放つ仕組みになっており、通常の魔力矢とサジットブラスターを使い分けることも可能にしている。

また、この弓は翼を刀身にした剣形態への変形も可能にしており、砲撃戦だけではなく接近戦でも十二分に活躍することが出来る。

その他にも刀身状となっている翼を利用して投擲武器にすることも可能。

装備時は利き手じゃない方の手に保持されることになる。

選定状態では弓となって像の手に持たれている。

 

『アーク・スパイダー』

蜘蛛を模した籠手型アームドドライバー装備。

これは魔力を鋼糸状にして放出する機関を口内に持つ特殊な蜘蛛で、主にトラップ設置や捕縛など拘束系の役割を持っている。

主な運用法は諜報や妨害工作など裏方仕事に向いている。

また、投擲したサジット・ファルコンを回収手段としても使われる。

装着時は弓を持つ方の腕に籠手として装着される。

装着した後は魔力鋼糸を利用したトリッキーな動きが可能になる。

選定状態では人馬の後ろ足の左側上部を形成している。

 

『アーク・スコーピオン』

蠍を模した籠手型アームドドライバー装備。

これは尾の先に魔力収束機能を持った蠍で、主に近接格闘の役割を持っている。

主な運用法は死角からの奇襲である。

装着時は弓を持たない方の腕に尻尾を手の方に向けた感じの籠手として装着される。

装着した後は尻尾の先端に魔力を集中させて魔力刃を形成したり、小型のボウガンとして利用したりと遠近に優れた武装となる。

選定状態では人馬の後ろ足の右側上部を形成している。

 

『アーク・サーペント』

蛇を模した両足用足具追加型アームドドライバー装備。

これは魔力を伝達する鋭い牙を持つ蛇で、主に近接補助の役割を持っている。

主な運用法は足止めである。

装着時は縦に半分に割った状態から両足に沿って折り畳むような感じで装着される。

装着した後は牙が膝から脛を覆った蹴撃装備となり、通常の蹴りでもかなりの打撃力を発揮出来るようになる他、蹴りに合わせて魔力刃や砲撃を放ったりすることも可能になる。

選定状態では人馬の後ろ足の下部を形成している。

 

『アーク・ウイング』

特殊な蝶を模した飛翔型アームドドライバー装備。

これは六枚羽を持つ特殊な蝶で、主に飛翔補助や索敵補助の役割を持っている。

主な運用法は空からの索敵と、魔力粒子を散布しての空間把握である。

装着時は背部に六枚羽を開いた状態で装着される。

装着した後は3対6枚のバックパック装備のようになるが、バックパック内には魔力ブースターの類はなく魔力粒子を散布しながらの飛行になる。

また、六枚羽の一枚一枚の間からは砲撃も可能になっている。

選定状態では六枚羽を閉じて六角柱状のものとなって人馬の下半身、馬の胴体部分を形成している。

 

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・山羊座

 

デバイス:リデューション・カプリコーン

 

形状:白銀色の山羊

 

待機状態:山羊座のシンボルと螺旋状に丸まった角の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のターコイズを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、マナリデュースシステム、スパイラルドレインシステム、マナトランスファーシステム、チェンジングドライバーシステムを搭載

管制人格は女性で必要以上に馴れ合いをしない淡泊な性格をしているが、目標を追い詰める激しい執着力も秘めている

通称『カプリコーン』

 

備考:山羊座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

 

現在の所有者はノヴァ・エルデナイデだが、その入手経緯は謎である。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『コアドライブユニット』

リデューション・カプリコーンの搭載箇所は右前足の装甲表面にコイル状に巻かれたターコイズが嵌め込まれている。

このターコイズはアーマー装着時、手首から肘近くまでをコイル状に巻き付くような配置となる。

放出する魔力粒子の色はターコイズブルー。

 

『リデュースパイラル』

山羊の頭部自体が武装化した特殊装備。

これは山羊の頭部を模した鍔と柄の複合体の頭上に1対2本の細長い円錐状の回転衝角型刀身を取り付けた特殊な近接兵装であり、頭部の中には柄と一体化したスロットルレバーが存在し、捻り具合によって刀身の回転力を操作することが出来る。

また、刀身は魔力鋼糸技術と蛇腹機構による関節駆動と伸縮性を確保しており、近距離だけでなく中距離にも対応した仕様となっている。

ちなみにこの装備はスパイラルドレインシステムを扱うのに必要不可欠なものでもある。

 

『インパクトスタンプ(×2)』

前足に備わっている衝撃伝達系ホバーユニット装備。

これは収集した魔力素を用いて地上でのホバリングを実現し、更なる機動力の確保を可能にした。

また、ホバリングに使用する魔力エネルギーを溜め込んだ後、一気に解放することで衝撃による武装転用、空気に衝撃を加えて行う変則的な軌道修正などトリッキーな戦法を取ることも出来る。

 

『リデューションユニット(×2)』

本体後部に装着した多目的武装ユニット装備。

これは本体後部に大型魔力スラスター1基、それを上下に挟み込むようにして小型魔力バーニア2基ずつ、前部の中心に砲撃用大型砲口1門『ブレッドシュート』、前部の上下合わせて3本の巨大な爪型装備『リデュースクロー』、上部に12門の魔力レーザーミサイルポッド装備『リデュースター』、内側に小型武器を内包するスライド開閉式小型スペース『ウエポンズラック』、外側に悪魔の翼を模して前縁が刃状に鋭利な形状の折畳式機械翼『イーヴィルカッター(小型と中型が1枚ずつ)』をそれぞれ搭載しており、収集した魔力エネルギーの約半分を消費するが、それに見合った威力と性能を誇り、対多戦でその真価を発揮する他、管制人格による無線誘導機能で所持者の援護を可能としている。

また、イーヴィルカッターのみに脱着可能な機構を有しており、単体で片手剣として扱ったり、翼同士を合体させてブーメランとして使用することも可能。

 

『リデュースロッド(×2)』

ウエポンズラックに収納されている小型武器の一つ。

これは伸縮自在のロッド装備であり、その活用法は所持者によって様々である。

また、2本のロッドを繋げて更にリーチを伸ばしたり、リデュースパイラルと合体させて二叉の槍にすることも可能。

ちなみにウエポンズラックの上部に片方1本ずつ収納されている。

 

『ブーストナックル(×2)』

ウエポンズラックに収納されている小型武器の一つ。

これは指先から手首までを覆って装着する手甲装備であり、手の甲部分に小型魔力バーニア2基を備えており、拳の保護と同時に攻撃力を上げることを前提に設計されている。

また、魔力バーニアは360度回転を可能にしており、拳撃の軌道を逸らしたりバーニアを砲口代わりに砲撃を撃つことも出来る。

ちなみに右側のリデューションユニットのウエポンズラック下部に右手用と左手用の両種が一緒に収納されている。

 

『トランスマグナム』

ウエポンズラックに収納されている小型武器の一つ。

これはデザートイーグルに酷似したフォルムを持った大型拳銃装備であり、収集した魔力素を弾丸状に形成した後、随時装填し続ける仕様になっており、マガジンを取り替える必要がないため、常に先手を打てる。

また、譲渡する魔力を撃つことも可能。

ちなみに左側のリデューションユニットのウエポンズラック下部に収納されている。

 

『ブーストテイクカッター(×2)』

後ろ脚に備わっている複合型蹴撃装備。

これは前部に魔力エネルギー刃発生装置『リデューションカッター』、内部に大型の無限軌道、それを覆うようにして後部側に小型魔力ブースター3基が縦に列なった特殊装甲『ブーストカバー』を搭載しており、瞬間的に機動力と跳躍力を跳ね上げることが出来る。

また、リデューションカッターは蹴りを放った瞬間に魔力斬撃を飛ばすことも出来る。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって自機の武装やシステムの単独での運用などを可能としている。

山羊座が求める性質は『忍耐力と追求心』と『天使と悪魔の社交性』である。

 

『マナリデュースシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な略奪魔法『マナリデューション』を発動させるシステム。

『マナリデューション』とは、デクラインタイプに該当する魔力略奪系切削型魔法で、その効力は所持者が認識した魔力攻撃、もしくは魔法に使用されている魔力を任意の割合で削り取って大気中に拡散させることである。

このマナリデューションは魔法自体を破壊する訳でなく、あくまでも魔法構築に使われている魔力自体を削り取るので、魔法自体は通常に発動するが、その威力は削り取った分に比例して低下する。

また、同じエクセンシェダーデバイスに搭載された固有魔法やシステムも対象となる他、使い方によっては自分の発動した魔法ですら対象にすることも可能。

但し、これは魔力限定で効果を発揮するため、気、霊力、妖力、龍気の4種の力を削り取ることは出来ない。

 

『スパイラルドレインシステム』

マナリデューションシステムと連動するシステムで、マナリデューションシステムで削り取って拡散させた魔力を特殊武装『リデュースパイラル』によって吸収することで自身が発動する魔力攻撃、もしくは魔法を削り取って吸収した分だけ強化することが出来る。

但し、これは自身の強化を主眼に置かれており、略奪した魔力を使って所持者の魔力消費を限りなく軽減させる。

 

『マナトランスファーシステム』

スパイラルドレインシステムと連動するシステムで、スパイラルドレインシステムで吸収した魔力を所持者が指定した対象者へと譲渡することが出来る。

スパイラルドレインシステムが自身の強化を目的としたのに対し、こちらは他者、もしくは別の対象に削り取った魔力を譲渡することで仲間や魔法の強化、術の暴発、暴走等を可能にしている。

 

『チェンジングドライバーシステム』

生物型エクセンシェダーデバイス専用の可変機構統括システム。

システムの概要はディメンション・スコルピアと同じで、完全独立稼働も可能。

 

リデューション・カプリコーンの以下の形態に変形することが出来る。

 

『カプリコーンフォーム』

リデューション・カプリコーンのベースとなる基本形態。

その名が示す通り山羊を模した陸上動物で、起動時は必ずこの形態であり、スコルピアの例からこれが選定形態でもあると考えられる。

これは地上、特に足場の悪い山脈地帯や岩場などでの戦闘に特化している。

ちなみに頭部の角はくるりと曲がっている。

 

『バフォメットフォーム』

リデューション・カプリコーンの第二生物形態。

山羊が立ち上がって二足歩行となり、前足の先端にイーヴィルカッターを外し、リデュースクローを展開したリデューションユニットを接続し、イーヴィルカッターは背中に移動することで悪魔のような人型形態へと移行する。

これは二足歩行を有効活用した近接格闘や所持者の護衛などを得意としている。

カプリコーンフォーム同様、角は曲がっている。

 

『ブラストタンクフォーム』

リデューション・カプリコーンの戦車形態。

前足と後ろ脚を胴体横に折り畳んだ後、後ろ脚の無限軌道を展開し、無限軌道の上部をブーストカバーで覆い、イーヴィルカッターは折り畳んで無限軌道のサイドカバーとして機能させ、無限軌道の前にインパクトスタンプを配置し、角を真っ直ぐに伸ばした頭部を胴体後部の上に設置することで砲台を形成する。

これは遠距離砲撃戦を得意とし、移動砲台としての意味合いが強く、独立稼働することも相俟って非常に厄介な形態でもある。

また、管制人格の正確無比且つ計算し尽くされた砲撃を回避するのは至難の業で、潰そうとしても接近を許さずに砲撃を続けたり、ブーストカバーやリデューションユニットのブースターを噴かして直線的に突撃したり、インパクトスタンプを用いた軌道修正、即座に別形態に移行するなどの動作を行うので脅威としか言いようがない。

 

『アーマーフォーム』

リデューション・カプリコーンが鎧状に分離して所持者の体に装着する鎧形態。

胴体が分離したプロテクターが胸部、両肩、腰部の3ヶ所に装着する。

前足と後ろ脚は両腕と両足をそれぞれ覆う篭手と足具となる。

この時、コアドライブユニットは右腕、ブーストテイクカッターは両足の膝から足首に沿って覆い、無限軌道は両足の外側面、ブーストカバーは両足のふくらはぎ部分、インパクトスタンプは両足の足首にそれぞれ装着する形となる。

リデューションユニットは両肩後部に装着され、リデュースパイラルは右手に保持される。

また、リデュースロッド、ブーストナックル、トランスマグナムの3種は状況に応じて射出する仕様になっている。

カプリコーンの全武装を駆使することが出来るが、どれも癖が強い装備とシステムなのでそれらを自由に扱うには積み重ねてきた経験と卓越した技量、魔法に関する深い知識、戦術に精通した頭脳などが求められる。

 

------

 

・水瓶座

 

デバイス:ブリザード・アクエリアス

 

形状:水瓶座を模した白銀色の鎧

 

待機状態:水瓶座のシンボルと氷の結晶の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のサファイアを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、ストリームオーラシステム、アクアフィールドシステム、バリアライズシステム、フリストシールシステムを搭載

管制人格は男性で気性は非常に穏やか且つおおらかで、寛大とも言える広く深い友愛や慈愛に満ちた性格をしている

 

備考:水瓶座の名を冠するをエクセンシェダーデバイス。

バリアジャケットは存在せず、鎧が直接選定者の体に装着する方式を採用している。

 

多次元世界の一つ『ブリザード・ガーデニア』にて雪女の里にある教会に安置されていた。

しかし、教会の前で紅牙と忍の交戦を感知して見定めていた。

その中で、傷を負った女性とシアを助け出し、戦いの中で紅牙の能力を逆手に取ったこと、紅牙に対して実の妹を殴ったことへの怒りを見て忍を己の選定条件に当て嵌まる人材だと判断してその姿を見せ、忍を正式な主と認めた。

 

ブリザード・アクエリアスの場合、額にヘッドギア、胸部に氷の結晶型の大きなサファイアが嵌め込まれたプロテクター、両肩に肩当て、両腕に分かれた水瓶を象った特殊篭手、腰部にプロテクター、両足に足具をそれぞれ装着され、各部から放出する魔力粒子の色はサファイアブルーである。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイス同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって自機の武装やシステムを単独で使用することが出来る。

選定形態は水瓶座を模した像となる。

水瓶座が求める性質は『自由な知恵』と『広く深い友愛』である。

 

『ストリームオーラシステム』

これは収集した魔力素を用いて自身の周囲に特殊な気流を形成するシステムで、この気流を破る力の無い攻撃は全て無効化され、それ以上の攻撃はダメージを軽減させる効力を持つ。

 

『アクアフィールドシステム』

これは収集した魔力素を用いて自身の足元を中心にして特殊な水場を形成するシステムで、この水場の水はコアドライブユニットに収集した魔力素を変換したものであるため、短時間での魔法発動や水を操るなど選ばれた使い手によって様々な応用が効く反面、水場の制御や魔法同時展開などに多大な集中力を要するため、使い手にもそれ相応の技能を要求することになる。

ちなみに効果範囲はコアドライブユニットの恩恵によって無制限のため、使い手は自分に合った範囲を見つけなくてはならない。

 

『バリアライズシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊防御魔法『シェライズ』を発動するシステム。

『シェライズ』とは、バリアタイプに該当する防御魔法で、その効力は属性魔法に対する強力無比な耐性(例えを出すとしたらフェイトのプラズマザンバーを完全に防げる程)であり、効果範囲は使用者は当然のことながら砲撃のように放つことで味方にもその効果を与えたり、シェライズの発動直後にバリアを粉砕・拡散させた状態で周囲に散布することで魔力変換資質者の魔力変換系の魔法や攻撃を制限するといった応用も可能。

また、このシェライズの前では現在判明してる属性(炎熱、電気、凍結)は無力と言っても過言ではない。

但し、このシェライズは対属性魔法用の防御魔法であるため、通常の魔力による魔法攻撃に対しては脆い一面がある。

 

『フリストシールシステム』

これはアクアフィールドシステムと連動するシステムで、その名が示す通りアクアフィールドシステムで形成した水場の水に凍結と封印の効果を与えることが可能であり、凍結効果が発動して目標を凍らせると同時に封印効果が発動する仕組みになっている(例えば、凍結したデバイスの一部機能、五気の使役、特殊能力などを封じたりすることが出来る)。

また、このシステムは使い手の意思による任意のタイミングでの発動が可能な他、使い手の放つ砲撃系魔法にも付加出来ることである。

但し、使い手が元々『凍結』の資質を持つ者でなければ完全に制御することは難しく、炎熱系の魔法や能力には脆弱な一面がある。

 

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・魚座

 

デバイス:ファントム・ピスケス

 

形状:二匹の白銀の魚

 

待機状態:魚座のシンボルと水晶球の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のアクアマリンを携えた白銀色のチェーンブレスレット

 

搭載システム:コアドライブシステム、ファントムシステム、インビジブルシステム、セービングシステム、チェンジングドライバーシステムを搭載

管制人格は女性で基本的にマイペースでほんわかした天然な性格で、いつもポケーっとしてることが多い

通称は『ピスケス』

 

備考:魚座の名を冠するエクセンシェダーデバイス。

 

ピスケス入手経緯は初めての依頼からしばらくした頃の暗殺任務で、依頼先の屋敷で対象を暗殺した後、屋敷の寝室に飾られていた二匹の異なる種類の魚の前を横切った際に像が反応。

手早く去ろうとするシンシアの前に像が立ちはだかっていくつかの問答をした結果、ピスケスの選定条件と合致すると判断されて彼女を選定者に定めたらしい。

それからは暗殺の道具としてピスケスを用いてきた。

 

 

装備・武装は以下の通りである。

 

『コアドライブユニット』

ファントム・ピスケスのユニットは他のエクセンシェダーデバイスと異なって固定化されておらず、手の平サイズの水晶球を模したアクアマリンを中心に備えたV字型の独立したプロテクター装備となっており、その左右先端からは魔力帯を生成する機能を有している。

放出する魔力粒子の色はスカイブルー。

 

『ファントムソード』

長剣型装備。

これは刀身は白銀色、刃渡り70cm、柄は空色、鍔はV字状、柄頭には小さな輪っかがある両刃の片手剣であり、取り回しを重視した設計になっている。

鍔の片側にはアタッチメント機能があり、コアドライブユニットを装着することでコアドライブから魔力エネルギーを直接注ぎ込んで実体刃を軸に魔力刃を形成したり延長したりすることが出来る。

また、柄頭の輪っかは手元から離れた場合に魔力帯などを用いて引き戻したり、指を引っ掛けて素早く引き抜いたりするなどの使い道がある。

 

『ファントムエッジ』

投擲用近接装備。

これは魚の背鰭を模した実体型ブーメランであり、右肩用の肩当てとセットになっている。

通常の実体ブーメランとして扱える他、魔力刃を形成して第二の刀剣装備にすることも可能。

 

『ファントムアーチャー』

弓型装備。

これは胸鰭が合体した特殊な弓であり、弦には魔力鋼糸を用いていて魔力鋼糸を引っ張ることで魔力矢を生成する仕組みになっている。

その際、握り具合や引っ張る力によって魔力矢の微妙な威力調整も可能にしている。

ファントムソード同様、弓の中心部にアタッチメント機能が存在していてコアドライブユニットを装着することで収束砲撃級の矢を射ることも可能にしている。

また、ファントムソードを矢として用いることで一点突破に特化した仕様にも出来る。

 

『ファントムシューター』

牽制用射撃装備。

これは左肩用の肩当てと一体化しており、肩上部に三連装魔力誘導ミサイル発射装置、その外側に小型の魔力ガトリング砲台を設置している。

また、ガトリング砲台の真下には魔力シールド発生装置が備わっている。

 

『フィッシュファン(×2)』

尾鰭が武装化した鉄扇型装備。

これは主に防御用に用意された装備だが、開いた状態では刃、閉じた状態では鈍器に近い使い方も出来る。

また、魔力を纏わせることでその攻撃力と防御力を増すことが可能。

 

『ブレードスケーター(×2)』

移動補助装備。

これは両足を包み込むスケートシューズ型の装備であり、どのような空間でも魔力の気流を捉えて氷の上を滑るようにして移動することが可能。

また、移動補助だけではなく魔力を通すことで斬撃武器としても使用出来る。

 

 

『コアドライブシステム』

エクセンシェダーデバイスの根幹を成すコアドライブユニット専用のシステム。

他のエクセンシェダーデバイスと同様、自律稼働が可能であり、管制人格の判断によって自機の武装やシステムの単独での運用などを可能としている。

魚座が求める性質は『夢心地』と『純真無垢』である。

 

『ファントムシステム』

これは収集した魔力素を用いて特殊な幻術魔法『ファンタズマ』を発動させるシステム。

『ファンタズマ』とは、特別な虚像を発生させることに特化した実体具現化系虚像型幻術魔法で、その効力はまるで本物のような実体を持つ虚像を発生させることにある。

通常の虚像発生はその燃費の悪さから攻撃を受けた時点で消失してしまうが、コアドライブの恩恵によって攻撃を受けても消えずにダメージを受けたような動作も可能にしている。

また、所持者のイメージ力によって自身の虚像だけではなく、他者の虚像も創り出すことが可能でイメージ次第ではその人物の力量もトレースすることが出来うる可能性もある。

但し、燃費の悪さは変わっていないので過信は禁物である。

 

『インビジブルシステム』

透明化システム。

これは収集した魔力を全身、もしくは独立して動いているドライバー自体にコーティングし、周囲の色彩と同化させることで透明化を行う。

コアドライブの恩恵によって透明化の時間制限はなく、所持者のタイミングでオンとオフの切り替えが可能であり、神出鬼没な戦法も可能にしている。

また、使い方によっては魔力攻撃や魔法自体を透明化させて攻撃を悟らせないということも可能。

但し、ファンタズマとの併用はかなりの魔力量を消費するため、いくらコアドライブとは言え、燃費の悪さも相俟って長時間の使用は不可能となっている。

 

『セービングシステム』

魔力制限制御システム。

これはただでさえ魔力消費が激しいピスケス専用に組まれたシステムであり、常にコアドライブ内に保有する魔力を一定量にセーブしており、それを踏まえた上でシステム行使を行わなければならない。

また、一定量を超える魔力消費が行われる場合にのみファントムシステムとインビジブルシステムを強制的に停止させることが出来るようになっている。

但し、片方ずつの使用に関してはそこまで大きな魔力を費やしていないので、余程のことがない限りは片方での停止はまずない。

 

『チェンジングドライバーシステム』

生物型エクセンシェダーデバイス専用の可変機構統括システム。

システムの概要はディメンション・スコルピアと同じで、完全独立稼働も可能。

 

ファントム・ピスケスの場合、以下の形態に変形することが出来る。

 

『ピスケスフォーム』

ファントム・ピスケスの基本形態。

一角を持つ魚『ソードフィッシュ』と胸鰭が発達した魚『アーチャーフィッシュ』の二匹がコアドライブユニットから発生した魔力帯で尾の付け根を縛られた状態で、起動時は必ずこの形態である。

これは異なる特性を持った二匹の魚による連携が持ち味で、海中戦に特化している。

 

『ユニコーンフォーム』

ファントム・ピスケスの第二生物形態。

両方の魚がバラバラに分解されてから馬の形に再構築した後、ファントムソードを馬の頭の額に備えることでユニコーンの姿へ移行する。

これはピスケスフォームとは打って変わって地上戦が得意となり、特に額の剣を用いた斬撃や刺突、後ろ足での蹴りなど攻撃の仕方が変化する。

 

『ガレオンフォーム』

ファントム・ピスケスの航行船形態。

両方の魚がバラバラに分解されてから穂先にファントムソードを備えた一種のクルーザーのような航海船となる。

これは海上戦を得意としており、海上での長距離航行や制海権の確保を目的とした戦法を取ることが多い。

また、大きさの問題から所持者はサーフボードのように扱うことも可能。

 

『アーマーフォーム』

ファントム・ピスケスが鎧状に分離して所持者の体に装着する鎧形態。

ソードフィッシュが右側、アーチャーフィッシュが左側を担当する形で、それぞれ真っ二つになった胸部プロテクターと腰部プロテクター、それぞれの内部に収納されていた籠手と足具を装備する。

胸部にコアドライブユニット、右肩にファントムエッジ、左肩にファントムシューター、両足にブレードスケーターをそれぞれ装着し、フィッシュファンは両足の外側に外付け装備として備わる。

ファントムソードは右手、ファントムアーチャーは左手にそれぞれ保持される。

ピスケスの全装備を扱える形態である。

所持者によって基本戦術は異なるが、剣による近接戦闘、弓による射撃戦闘、鉄扇による防御戦闘といった具合に大まかに分けても三つの基本戦術がある。

無論、即時対応した万能タイプの戦い方もあるが、それを行うにはそれ相応の技量が必要となる。

ちなみにファントムソードとファントムアーチャーは不使用時、ソードは腰の左側に、アーチャーは腰裏にそれぞれマウント出来るようになっている。



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1.開幕序曲のクロスオーバー
第一話『邂逅』


第一話です!
久々の二次でどう書いていいかちょっと悩んでおりますが、頑張ります!

まだまだ序盤なので、そんなに動きはありませんが…

あ、ちなみに三人称スタイルで進めていきます。
読みづらかったらすみません…。


~昼休み~

 

ここは駒王学園の中庭。

 

「おい、なんだって"小学生"が学園にいるんだよ?」

「あ、ホントだ。いっちょ前に制服なんて着てやがるし」

「よくサイズがあったな」

 

入学式も終わり、一年生が少しずつ学園に慣れてきた頃の昼休みの事だ。

中庭にいた少年を見て彼ら新入生はそんなことを言う。

 

「わ、わぅ…」

 

それを聞き、彼は涙目になってしまった。

 

彼の名前は『紅神(べにがみ) (しのぶ)』。

身長は中学生…いや、下手をすると小学生くらいに見えるかもしれない程に低い。

それに加え、ひ弱そうで華奢な体型もそれを助長させている一因かもしれない。

しかし、彼はれっきとした"高校2年生"。

先程会話していた新入生の先輩である。

 

と、そこへ…

 

「しぃく~ん」

 

一人の女生徒が忍の元へとやってくる。

 

彼女は『明幸(あさき) 智鶴(ちづる)』。

3年生の先輩だ。

17歳とは思えぬ体型と美貌にほんわかとした雰囲気を持つため、彼女に憧れる生徒はかなり多い。

さらに言えば、成績優秀、スポーツ万能と理想を描いたような人物でもある。

そのため、駒王学園の三大お姉さまの一人として数えられている。

 

「おお~!」

「あれが噂の先輩かぁ」

「めっちゃ綺麗だよな~」

 

こうして新入生達が湧くのも当然と言えば当然とも言える。

ただ、二点を除いては…。

 

「わぅ?! ち、ちぃ姉…苦しいよぉ…」

 

智鶴は忍の元へやってくるなり、即行で抱き締める。

 

一点目、彼女は忍の幼馴染みでとにかく彼に対しては激甘である。

"忍がいないと生きてけないんじゃないか?"というくらい彼を溺愛してる。

 

「なんだかしぃ君が泣いてるように見えたから…ついつい抱きしめたくなっちゃって」

 

そんな理由で抱き締めたのか!?

 

「な、泣いてないから放してよぉ」

 

ジタバタと智鶴の腕から逃れようとする忍の姿はもう小学生にしか見えない気もする…。

 

「もう、しぃ君は照れ屋さんだね♪」

 

そんな忍の姿に触発されたのか、智鶴は抱き締める力を強めて頬擦りまでする始末。

 

「わ、わぅ~…///」

 

一目もはばからない智鶴の行為に忍は恥ずかしさのあまり赤面してしまう。

 

 

その頃、中庭の見える忍の教室の窓では…

 

「あ~あ、忍のやつが羨ましいよ。あんな綺麗でおっぱいの大きな姉さんが欲しいよ」

 

そんなことを言って窓から忍と智鶴の様子を見る男子生徒…『兵藤(ひょうどう) 一誠(いっせい)(通称、イッセー)』がいたのだが…。

 

「「お前がそれを言うか! 裏切り者め!!」」

 

丸刈り頭の男子生徒『松田』と眼鏡の男子生徒『元浜』が同時にイッセーに苦言を呈した。

 

このイッセー、松田、元浜の3人はいつもスケベな会話を平然としていることから『変態三人組』として主に女生徒から嫌悪の眼で見られており、特にイッセーの変態ぶりは周辺地域にも目が知れ渡っているほど。

しかし、本人たちはあまり気にしてる様子を見せない。

 

話は戻るが、先日このイッセーに彼女が出来たのだ。

それも向こうから付き合いを申し出たらしい。

 

「今日は夕麻ちゃんとデートだからな~」

 

「くっそ~」

 

「イッセ~」

 

イッセーの言葉に松田と元浜が悔し涙を流す。

 

ここまでは日常の一コマ。

いつも繰り広げられる日常の一つである。

しかし、この日の放課後…その日常が壊れることになる。

 

………

……

 

~放課後~

 

「わぅ…遅くなっちゃった…ちぃ姉、きっと心配してるよね」

 

忍は学園から少し急ぎ足で居候先へと帰宅途中だった。

 

不幸(?)にも智鶴は先に帰る用事があり、忍も日直で少し遅くなってしまったので珍しく2人は別々で帰っていた。

いつもは2人一緒で帰るのだが…。

 

「わぅ…今日は満月か…嫌だなぁ」

 

忍は日が沈み、だんだんと夜になっていきそうな空に薄らと浮かぶ満月を見て溜め息を吐く。

 

何故か、忍は満月の夜を嫌っている。

理由は満月になると決まって嫌な夢を見るからだ。

その内容はまたいずれ話すとして…。

 

そんな時だった。

 

「あれ? あれってイッセー君?」

 

そこには見知らぬ少女と公園で歩いてるイッセーの姿があった。

 

忍はイッセーとは面識があるが、忍まで悪評にさらされちゃ悪いと普段の学園生活では会話はそれほど多くないようにイッセーが気を利かせているものの、実際は仲が良く松田や元浜とも面識を持っている。

但し、忍が悪評に曝されたらイッセー達の命が危ないからそうしてるだけとは…とてもじゃないが忍には言えない事実でもある。

何故なら、それが智鶴の二点目の問題。

彼女は極道の娘であるのだから…。

とにかく発想が危ないことこの上ない。

一年の時に忍を虐めてた男子生徒達がいたのだが、強面の組員数人に暴力はされなかったものの恐い目に遭ったてから虐めをやめたという噂もある程だ。

だから忍には手を出せない、出しちゃいけないという暗黙のルールが陰であるほどだったりする。

 

話を戻そう。

 

「あ、そういえば彼女さんが出来たって前に言ってたっけ」

 

そのことを思い出しつつも先を急ごうとした矢先だった。

 

公園の噴水前まで歩いていた2人だが、不意に彼女の背中から黒い翼が生えると同時にどこから取り出したのか発光する大きな槍を構えると…

 

ドシュッ!!

 

無慈悲にもイッセーの胸を一突きしたのだ。

しかも背中から槍が突き破ったように突き出ている。

 

「っ!!? イッセー君!?」

 

忍は足を公園に向けながら叫んでしまった。

 

「し、しの、ぶ…??」

 

イッセーは訳が分からないように倒れながら忍を見て…

 

「あらあら…見られちゃったわね」

 

彼女の方は困ったように嫌な笑みを浮かべていた。

 

「イッセー君、しっかりして!」

 

彼女を無視して忍はイッセーに駆け寄るが、出血が酷かった。

 

「ぅ、ぁ…なん、か…意識が、もう…」

 

おそらくイッセーはもう…。

 

「は、早く救急車を…!」

 

そう言って携帯を取り出そうとする忍だったが…

 

「ん~、仕方ないからあなたも死んでちょうだい。大丈夫よ。痛みは一瞬よ」

 

黒い翼を生やした少女がイッセーの血が付着した槍を忍に向ける。

 

「ひっ!?」

 

あまりの恐怖に忍も尻もちを着いて後ずさってしまう。

 

「あらあら…勇敢な坊やかと思えば、ただの弱虫なガキだったのね」

 

嘲笑を浮かべて少女は忍に歩み寄っていく。

 

「(ぼ、ぼくは…し、死ぬの?)」

※()内はキャラの内心と考えてください。

 

恐怖と共に忍は無意識に空を見た。

そこには満月が浮かんでいた。

 

「(綺麗だな…あんなに嫌だったのに最期だからかな?)」

 

満月を見てるだけなのになぜか忍には少しだけ余裕があった。

そして、時間がゆっくりと動くような錯覚に陥り、少女の動きもかなり遅く感じる。

 

「(あの夢は…結局なんだったんだろう…?)」

 

忍の脳裏には走馬灯のように夢の内容が過ぎる。

 

その内容とは、忍が白銀の毛並みに真紅の瞳を持った狼に延々と追い掛けられる…。

逃げても逃げても追い掛けてくる。

しかし、絶対に忍を襲い掛かろうとはしない…。

そんな不思議な夢だった。

 

そんな中、走馬灯の中に1人の女性が過ぎる。

智鶴だ。

 

「(ちぃ姉…僕が死んだら…ちぃ姉は…)」

 

彼女の事だ。

忍を殺した人物を捜しだし、その人物を殺した後に忍を追って自殺するだろう。

そのことは忍自身が容易に想像できたし、そんなことさせたくないとも思った。

 

「(ダメだよ…ちぃ姉が死ぬのなんて…!!)」

 

その瞬間、忍の目の前に夢に出てきたのと同じ狼の幻影が現れる。

 

「(君は…夢の!?)」

 

忍は目を逸らそうとしたが…

 

『(逃げるな)』

 

狼がそれを許さなかった。

 

「(え?!)」

 

夢の中で狼が喋ったことはなかったが、その声は確かに狼の方から聞こえてきた。

 

『(俺はお前だ。お前は自分の力を…俺を恐れているだけだ!)』

 

「(僕の…力?)」

 

狼の言葉に戸惑いを隠せない忍。

 

『(そうだ。お前は誇り高き狼の末裔。満月の夜にしか俺が現れないのは狼と月という関係上、仕方のないこと。しかし、これからは違う。お前が望めば俺はお前の力となる。何故なら、俺とお前は一心同体なんだからな)』

 

しかし、狼は言葉を続ける。

 

「(僕は…)」

 

『(決断するなら早くしろ。所詮、これは刹那の時間稼ぎ。このままではお前が死ぬぞ!)』

 

そして、その狼の言葉に忍は…

 

「(僕は…生きたい! ちぃ姉にいつまでも守られてるばかりじゃ、僕も嫌だから!)」

 

遂に決断した。

 

『(ならば、唱えよ。銀狼解禁、と)』

 

それを最後に時間は元通りになり、少女が目の前で大きく槍を振り被っていた。

 

「じゃあね。おチビさん、あの世でイッセー君に会ったら伝えて…とても退屈な時間だった、ってね!」

 

そう言って少女が槍を振り下ろそうとした。

 

「銀狼、解禁…!」

 

そして、それとほぼ同時に忍は狼に教わった言葉を呟いた瞬間…

 

ゴオオオオオ!!

 

忍を中心に白銀の光が柱となって立ち昇る。

 

「なっ?!」

 

少女は光の柱に驚き、一時的に後退すると光の柱を観察し始める。

 

「これは…まさか、魔力?! こいつ、悪魔だったの!?」

 

そう呟く少女だが、すぐに違和感に気づく。

 

「(いや、悪魔ならすぐにわかる。なら、こいつの魔力は…大気魔力!)」

 

大気魔力とは人間…特に魔導師呼ばれる者が持つとされる魔法機関『リンカーコア』から発生する力を指す。

 

カッ!!

 

光が消えると、そこには…

 

「グルルゥゥ…」

 

髪が黒から白銀、瞳も紫から真紅に変化し、頭から狼の獣耳、臀部付近からも狼の者らしき尻尾が生えた姿の忍が四足歩行に近い低い体勢で唸り声をあげて少女を睨んでいた。

 

「人間じゃない! お前はいったい…!!」

 

少女が忍に問いかけた時…

 

「ふふっ…随分と面白そうなことになってるじゃない。レイナーレ」

 

空から別の声が聞こえてくる。

 

「カーネリア!? アンタ、いつから!!」

 

レイナーレと呼ばれた少女は黒い翼で空を飛ぶもう一人の女性…カーネリアと呼ばれた者の登場に驚いていた。

 

「別にそんなことはいいじゃない。それよりも面白そうな子ね。ねぇ、レイナーレ…この子、私がもらってもいい?」

 

いきなり現れたと思ったらそんなことを言い出す。

 

「勝手になさい! 私の用事はもう終えたからね。先に戻らせてもらうわ!」

 

カーネリアの言葉にレイナーレは祖叔母から立ち去ろうとする。

 

「はいはい。お好きにどうぞ」

 

対するカーネリアもそんなレイナーレを止める気はさらさら無さそうだった。

 

「ガァ!」

 

だが、そんなことをさせまいと忍がレイナーレに飛び掛かる。

 

しかし…

 

ギィンッ!

 

「ふふ…良いわね。あなた」

 

それを黒い光の槍でカーネリアが弾き飛ばしていた。

 

「ちゃんと始末しなさいよ」

 

それを最後にレイナーレは飛び去ってしまった。

 

「……ふん…そんな勿体ないことする訳ないじゃない」

 

レイナーレの気配が完全に消えたのを確認してからカーネリアは悪態を吐く。

 

「さぁ、殺し合いを続けましょう。坊や」

 

そして、弾き飛ばした忍へと向き直る。

 

「グルルゥゥ…!!」

 

犬歯を剥き出しにして忍は右手を横に突き出すと…

 

ブォンッ!

 

カーネリアの持つ光の槍と同じような槍(色は白銀色)を作り出す。

 

「あら、器用なことね。でもここだと人目が付きそうね。ついてらっしゃい。人気のない場所で思う存分楽しみましょう」

 

狂気にも似た微笑みを浮かべ、カーネリアは山の方へと飛翔する。

 

「ガァ!!」

 

それを追って忍も電柱や電線の上を走って追いかける。

 

 

一方で…

 

「(忍…お前、どうしたんだよ…?)」

 

辛うじてまだ息のあったイッセーが忍の変化に驚いていたが、その意識も衰え始めていた…。

 

「(あ~…くっそ、このまま、死にたくねぇ…)」

 

そう思い、自分の手を見ると、そこには真っ赤な血がべっとりと付着していた。

 

「(赤…紅、か…)」

 

その手を見てイッセーは不意に学園で何度も見た紅色の髪の女性の事を思い出した。

 

「(リアス…グレモリー、先輩…あんな美人と仲良くなれたらなぁ…)」

 

今際の際に考えることとしてはどうにも不純のようにも見えるが、それがイッセーである。

 

しかし、そこで奇跡は起こる。

 

カァァァ…

 

イッセーのそばで紅い光が集まり、魔法陣を形成していき…

 

「私を呼んだのは…あなたね?」

 

その魔法陣から紅色の髪の美人が現れた。

その人こそ、イッセーが考えていたリアス・グレモリーその人である。

 

「(あれ…? なんで、先輩が……ダメだ…幻覚まで見るようじゃ、もう…)」

 

イッセーの意識が遠退くと共に…

 

「あなた……そう、ならあなたの命…私が貰うわね」

 

最期の意識の中、イッセーの視界は紅い光に包まれていた。

 

こうしてとある男子高校生2人の日常は壊れ、新たな日常という名の戦いが始まるのだった…。



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第二話『覚醒と雷光と出会い』

地球には数多の災害がある。

その中でも現在、特に危険性が高いとされているものがある。

 

それが特異災害『ノイズ』。

 

ノイズは何処からともなく現れては人間を襲い、人間を炭素転換してしまうという厄介な性質を持っている。

しかも出現する時は大抵の場合が大群単位なので余計に質が悪い。

時間が経てば自然消滅するとは言え、現在は対処らしい対処法が確立されておらず、いつ発生するかわからない災害に戦々恐々としている人々も少なくはない。

 

そして、不幸にもその特異災害が海鳴市で発生してしまったのが、つい先頃の夕方である。

 

そんな中、一人の少女が幼い女の子を連れて海沿いの街をノイズから逃れるために走っていた。

 

「お、お姉ちゃん…」

 

「大丈夫、私が付いてるから」

 

少女…『立花(たちばな) (ひびき)』は女の子を安心させるように笑ってみせた。

 

「(とは言ったものの…ノイズを相手にどう逃げたらいいんだろ…)」

 

しかし、内心では響もまたどうしたらいいのか悩んでいたが、女の子の手前そんな表情は見せないように努めている。

 

その時だった。

 

「あれ? 今、山の方で光が…?」

 

響は山…神社の近くで光がぶつかった様なものを見た。

しかも一回ではなく数回。

 

「なんだろう?」

 

「お姉ちゃん?」

 

「あ、ごめんごめん。さ、早くここから離れよ」

 

響は女の子をおんぶすると、その場から離れるために移動を始めた。

 

そして、その後ろにはノイズが迫っていた…。

 

………

……

 

~同刻・山の神社付近~

 

「ガァ!!」

 

「ふふっ」

 

そこでは忍とカーネリアによる戦いが行われていた。

忍が持つ光の槍をカーネリアが自身の黒い光の槍で捌いていた。

 

「いいわね。その獲物を狩り損なった獣の眼…レイナーレを殺せなかったのがそんなに悔しかったのかしら?」

 

そう言いながらもカーネリアは黒い光の槍を振るって忍の攻撃を完全に受け流している。

 

「それにしても理性は無いのかしら? このまま一方的っていうのも面白みに欠けるわね」

 

忍の様子を見て理性が半ば無いことも理解している。

まるで本当に獣になってしまったかのような…。

 

「けどまぁ…これはこれでいいわね。純粋な怒り…その怒りがその力を生み出しているのは事実なんだから…」

 

そう呟いていると、反対側にある街、海鳴市の方が騒がしいことに気づいた。

 

「そうね。ちょっと試してもいいかしら…」

 

そう言うや否や、カーネリアは再び空を飛ぶと…

 

「さぁ、こちらにいらっしゃい」

 

今度は海鳴市の方へと飛んでいく。

 

「グァァ!!」

 

光の槍を捨てると、狼のような四足歩行で走ってカーネリアを追い掛け始める。

 

「(ふふっ…人の中でどう戦うのかしらね)」

 

カーネリアは心底楽しそうな笑みを浮かべながら忍を街へと誘導していく。

 

………

……

 

~同刻・とある建物の屋上~

 

「お姉ちゃん…!」

 

響と女の子はノイズに追い詰められていた…。

 

「大丈夫、絶対に助けてみせるから!(あの人みたいに…)」

 

響は2年前にもノイズが引き起こした災害に巻き込まれており、生死の堺を彷徨ったことがある。

そして、それは胸元に楽譜にあるようなフォルテみたいな傷痕として今も残っている。

その時、響を助けたのは…当時有名であったツインボーカルユニット『ツヴァイウイング』の『天羽 奏』であったらしい。

 

「(この子を守りたい!)」

 

響がそう強く願った時だった。

 

「~♪」

 

響の内から何かが自然と歌として発言しようとした。

 

「うわあああああああああ!!」

 

そして、それは響の胸元からオレンジ色の光を放射し、その形を作っていこうとする。

 

………

……

 

~???~

 

とある場所でノイズを観測していた組織があった。

 

「何が起きた!」

 

「ノイズと異なる高エネルギーを感知!」

 

「波形の照合結果、出ます!」

 

「これは…アウフヴァッヘン波形?! それにこの反応って…!?」

 

そこでは情報を集める中、響の異変を察知し、それを分析していた。

 

そして、その結果とは…

 

≪GUNGNIR≫

 

「なっ!? ガングニール!?」

 

中央のモニターに映るその表示を見て司令塔と思われる場所の一番上に立っていた男性が驚く。

 

「-----っ!!?」

 

そして、それは別の少女にも少なくない衝撃を与えていた…。

 

………

……

 

「あら、何かしらね?」

 

カーネリアが興味を抱いたその光には何かがあった。

 

「今日は良い日ね。一度に二度も見つけられたんだから…」

 

カーネリアは面白そうな笑みを再び浮かべると、オレンジの光が上がった方へと進路を変更した。

 

「ガァ!!」

 

当然ながら、忍もカーネリアを追ってオレンジの光を目指すのであった。

 

………

……

 

「こ、これって…?」

 

響は自分に起きた現象がわからなかった。

自らを覆うオレンジ、白、黒の三色で彩られたアーマーを装着していた。

 

「と、とにかく今は…」

 

女の子を抱き抱えると、響はその場から跳ぶのだが…

 

「うわあぁ!?」

 

思いの外、跳躍力が凄くて屋根から人気のあまりない道路に着地したのだが…

 

すぐさまノイズ達が追い掛けてきた。

 

ノイズの追撃を凌ぐため、再び跳ぶものの調整がわからないのか、姿勢制御もままならず建物の壁に激突してしまう。

そして、落ちてしまわないように近くにあったパイプを掴んで何とか落ちるのを防ぐ。

 

「いてて…」

 

それでも女の子を放さなかったのは行幸だろう。

 

「お姉ちゃん、カッコいい」

 

そんな響の姿に女の子はそう言った。

 

「いや、そうでもないような…あはは…」

 

女の子の言葉に響も思わず苦笑してしまう。

 

すると…

 

「あらあら、随分と面白い格好ね」

 

そこへ黒い翼を広げたカーネリアが現れる。

 

「あ、危ないですよ!? すぐそこにノイズが…!」

 

カーネリアの出現に"何故、飛んでいるのか?"よりも先に響が言ったのはその言葉だった。

 

「ノイズ? あぁ、例の特異災害の…」

 

そう言いながらもカーネリアは背中から襲ってきたノイズを振り返ることなく上昇して回避した。

当然、響達にとばっちりが来る位置にいた。

 

「ちょっ!?」

 

響は思わず、パイプから手を放してしまい、再び落下する。

そこへノイズが襲い掛かる。

 

「っ!!?」

 

反射的に振るった右腕がノイズに直撃する。

すると、ノイズの方が砕け散っていた。

 

「え?」

 

その結果に響自身も驚いてしまう。

 

「ふ~ん…」

 

カーネリアは興味深そうにその様子を見ていたが…

 

「ガァ!!」

 

満月を背に建物の屋上から忍が跳び出してきた。

 

「あら、もう追い付いてきたのね」

 

そう言ってカーネリアは黒い光の槍を複数出現させると…

 

キュィンッ!!

 

ノイズと忍に対して迎撃行動を行った。

ノイズに対しては多少なりともダメージになったものの…

 

「グルルゥゥ!!」

 

忍はカーネリアの放った光の槍を足場にしてノイズの突撃や光の槍を片っ端から回避していた。

 

「なかなかやるじゃないの」

 

カーネリアは戦闘を楽しそうに行っている。

 

「けど、時間切れかしらね…」

 

そう言うと同時に一台のバイクがこちらに向かってくる。

 

「また、遊びましょう。坊や達」

 

言うが早いか、カーネリアはその視線を忍と響にだけ向けると、その場から消えるようにして居なくなった。

 

「き、消えた…?」

 

さっきからずっとノイズから逃げ回っていた響は困惑し…

 

「ウオオオオンッ!!」

 

悔しさからか忍は月に向かって吠えると…

 

カッ!!

 

カーネリアの行っていた複数の光の槍を飛ばす技を弾幕代わりにノイズへと放つと、その隙に山の方へと駆け出していた。

 

「私達だけ置いてけぼり!?」

 

不憫に思える響達だが、その後すぐにバイクに乗ってやってきた少女に助けられたのだった。

 

………

……

 

「グルル…」

 

山の中へと入った忍だったが、新たに敵意のある存在と出くわしていた。

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛』

 

全身が黒い皮膚に覆われ、紅い眼をギラギラさせた人型の異形。

まるでゾンビのようなそれは忍の前方に10体ほどいた。

 

「グゥゥ…!!?」

 

しかし、忍も方も限界に近かった。

何故なら慣れない力をこれだけ使ったのだ。

その反動があってもおかしくはない。

 

「が、ぁ…ぐっ…」

 

徐々にだが、忍の瞳の色が真紅と紫を行ったり来たりし始める。

 

「(ぼ、ぼくは…なに、を…?)」

 

さっきまでの記憶を辿るが、力による負荷で上手く思い出せないでいる。

 

「(それに…これ、は…?)」

 

目の前にいる異形に疑問を向けるが、今にも倒れそうな状態である。

 

「(もう、少し…だけでも…)」

 

力を振り絞ろうとするが、あれだけ尋常じゃない動きをしたのだからそのツケが回ったとしても不思議ではない。

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛』

 

ゾンビの1体が意外にも軽快な動きで忍へと突進を仕掛ける。

 

「ぐぁっ!?」

 

それをまともに受け、忍は背中から木にぶつかり…

 

「(ちぃ姉…ご、め…ん………)」

 

その意識を手放してしまい、ずるずるとその場に座り込んでしまった。

そして、髪の色が白銀から黒に戻り、狼の耳と尻尾もまた消えてしまう。

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛』

 

その忍へと群がろうとする異形達。

 

と、そこへ…

 

『THUNDER BLADE』

 

電子音声と共に…

 

グサッ!!

 

金色に近い黄色の剣が異形達を背中から突き刺していた。

 

「ブレイク!」

 

ドゴンッ!!

 

その言葉の共に剣は爆発し、異形達を粉々にしていた。

爆発と共に放電によるダメージが周辺を襲ったが、忍の周りには半球状の幕が張られていたので忍へのダメージは(自分の負った分を除いて)皆無であった。

 

「この子は?」

 

そこへ死神を連想させるような黒い衣装を身に纏った金髪の少女(年の頃は16歳くらい)が降りてきた。

 

「…………」

 

忍の姿は…ぶっちゃけ普通の子供。

しかも小学校高学年くらいの容姿をしているから勘違いされやすい。

 

「こんなに小さい子が、どうしてこんな夜になりたての森に? それにさっきのは…?」

 

少女は忍を見ながら先程倒した異形達の残骸をサンプルとして回収しようとしたが…

 

「あれ? 何も無い?」

 

異形達の残骸は消えていた。

木端微塵に吹き飛ばしたとはいえ、破片の一つくらいは落ちていてもいいものだが、そこには文字通り綺麗さっぱり何もなかった。

木々が邪魔で暗くて見えにくいのを差っ引いたとしても、いくらなんでも不自然である。

 

「……それにさっきの魔力反応は…」

 

魔力反応は忍が意識を手放した瞬間から途絶えていた、

明らかに目の前の少年が魔力…リンカーコアを有する存在であることを語っていた。

 

「とにかく、手当だけでもしないと…親御さんには後で説明するとして…」

 

完全に小学生っぽい扱いの忍だが、少女とあまり変わらない歳であることを少女は知る由もなかった。

 

「こちらフェイト。転送をお願いします。治療しないとならない子もいるみたいですし…」

 

少女…フェイトは目の前の空中に魔法陣で作った画面を浮かべるとどこかに通信をしていた。

 

『こちらアースラ。了解だよ。すぐに転送するから待っててね』

 

画面に映る女性がそう言ってしばらくすると、フェイトと忍の下に転送魔法陣が展開されて2人を次元航行艦『アースラ』へと転送するのだった。

 

………

……

 

一方で、その頃…。

 

「しぃ君…遅いなぁ…」

 

明幸の屋敷で忍の帰りを待っている智鶴だが…

 

「何かあったのかな?」

 

縁側を行ったり来たりしてそわそわとしていた。

……………抜身の日本刀を片手に持って…。

 

「や、やべぇ、お嬢が超不機嫌だぞ!」

「は、早く忍坊ちゃんを見つけださねぇと!」

「組員、総出で探し出せ!」

「お、応っ!!」

 

そんな智鶴の姿を見てか、近くにいた組員達が恐怖を抱きつつも携帯を取り出して外回りしている組員に忍の捜索を指示していた。

 

たかだか一人の学生を捜すのに組員総出とは…なんて傍迷惑な…。

しかし、誰もそんなことは言わない。

何故なら智鶴の忍に対する感情を皆知っていたし、小さい頃から見守ってきた2人だからこそ組員達も必死で忍を捜すのだった。

智鶴を悲しませないため…そして、自分達の身の安全のために…。

これも一つの絆……なんだろうか?

 

結局、朝になっても忍は見つからず、智鶴は忍が心配のあまり全然眠れなかったとか…。

とうの忍は今、地球にいないのだから仕方ないんだが…。

それを彼らが知ることはなかった…。



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第三話『悪魔と狼と神器』

~アースラ・医療室~

 

「んぅ…あ、あれ…?」

 

忍が目を覚ますとそこには見知らぬ天井があった。

 

「ここは…何処…?」

 

上体だけを起こして周りを見ると、見たこともない壁や設備があって困惑する一方だった。

 

と、そこへ…

 

ウィン…

 

「あ、起きてたんだ」

 

忍を助けた金髪少女…フェイトが先程とは違う服装(執行官の制服)で現れた。

 

「え、えっと…あなたは…?」

 

忍はおっかなびっくりしつつも警戒しながらフェイトに尋ねる。

 

「私はフェイト・T・ハラオウン。あなたのお名前は?」

 

フェイトは忍の目線に合わせて自己紹介すると忍の名前を聞く。

 

「ぼ、僕は紅神 忍、です。えっと…こ、ここは…?」

 

「ここは…ちょっと言いにくいけれど、次元航行艦『アースラ』の医療室だよ」

 

「次元、航行艦…?」

 

初めて聞く単語に忍も首を傾げる。

 

「うん。多次元世界って言ってね。地球のある次元の他にも色々な次元があってそこに色んな世界が広がってるの。私が所属してる時空管理局はその監視、管理をしているの。中にはそういったことを嫌う世界もあるんだけど…そこは協力体制をまだ取れてない感じかな? いつかそういう世界とも交流が出来るといいんだけど…」

 

フェイトは管理局のことを簡単に説明していた。

 

「……………」

 

当の忍はいきなりのことに思考がちょっと追いつけていなかった。

 

「あ、ごめんね。小さい子にこんな難しい話をしてもまだわからないよね」

 

今更ながら小さな子に何を話しているんだろうとフェイトは反省していたが…

 

「わぅ…」

 

忍は"小さい子"という単語に泣きそうになっていた。

 

「え?! ど、どうしたの?」

 

フェイトは何かしたかと慌てる。

 

「僕、背は小さいけど、そこまで小さくないです…」

 

忍は小さな声でそう言っていた。

 

「え、だってまだ高学年くらいじゃ…?」

 

それを聞いた後…

 

「僕は…もう16歳ですけど…」

 

忍はハッキリとそう言った。

 

「え…?」

 

フェイトもまさか同い年くらいだとは思っていなかったのか、固まってしまう…。

 

「わぅ…」

 

「ご、ごめんね」

 

今にも泣きそうな忍に謝るフェイト。

 

「い、いいんです……よく言われますから…」

 

「そ、それは…」

 

そこからしばらく何とも言えない沈黙がその場を支配した。

 

「あ、そうだ。もう一つ大事な話があったんだ」

 

思い出したようにフェイトはもう一つの大事な話を思い出す。

 

「大事な話?」

 

「うん。忍君には…リンカーコア。簡単に言うと大気中に漂う魔力素っていう微細なエネルギーを蓄える魔法機関ってものがあることがわかりました」

 

「魔法機関…リンカーコア…?」

 

「そう。忍君は魔法が使えるの」

 

「魔法って…あの不思議な?」

 

「まぁ、一般的な解釈だとそうかな? さっき言ったリンカーコアで蓄えた魔力を使うことで発動するものを魔法っていうんだよ。けど、使うには訓練も欠かせないから…」

 

「そ、そうなんですか…」

 

そこまで聞くと、忍は不意に昨夜のことを思い出していた。

 

「(じゃあ、アレも魔法? でも、なんだか違うような…)」

 

銀狼と化して戦った記憶が今になって鮮明に思い出されてきたのだ。

 

「(それにしても…なんだか力に振り回されただけの気もする…)」

 

実際、忍は初めての変身とイッセーを助けられなかった怒りで戦っていた節があり、とても冷静だったとは言い難かった。

 

「あ!」

 

そこで大切なことも思い出した。

 

イッセーだ。

あのまま姿も見ずにカーネリアと呼ばれた堕天使を追い回した挙句、結局は逃げられたのだから…。

イッセーの遺体があのまま誰かに見つかったら大騒ぎになる。

 

「フェイトさん! ぼ、僕を地球に帰してください!」

 

「え? けど、忍君はまだ動ける体じゃ…」

 

「急いでるんです! 友達を、助けないと…」

 

そう言って忍は真剣な眼差しでフェイトを見る。

 

「……わかった。もしも魔法関係で何かあったらここに連絡してね」

 

そう言うとフェイトは手帳に自分の連絡先を書くと、それを忍に渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

そうして、忍は地球へと戻ることとなった。

 

この後、とても大変な事になるとも知らずに……。

 

………

……

 

~地球・駒王町(早朝5時頃)~

 

「あ、あれ?」

 

駒王町へと戻ってきた忍だが、一つの違和感に気づく。

 

「(なんだろう…いろんな匂いが…)」

 

嗅覚が少し鋭くなっていた。

 

「(それになんだろう…空気が重く感じるような…)」

 

そう考えていると…

 

「あ! 忍坊ちゃん!!」

 

強面の兄ちゃんが3人ほど忍の元へと走ってきたのだ。

 

「あ、み、皆さん。お、おはようございます」

 

忍はその3人の事をよく知っていた。

居候先でよく見る3人だからだ。

ちなみに名前は右から剛田(グラサン+黒スーツ)、津軽(金髪+白スーツ)、狩谷(スキンヘッド+グレーのスーツ)である。

 

「「「おはようごぜぇあす!!」」」

 

挨拶されたからか3人も気前よく挨拶を返したが…

 

「(やっぱり慣れないよぉ~…)」

 

強面だから怖さを感じて忍は怯えてしまう。

 

「って、挨拶してる場合じゃなかった!」

「そ、そうだった!」

「坊ちゃん! お嬢が!!」

 

それを聞いて…

 

「え?! ちぃ姉がどうかしたの!?」

 

忍の顔色もすぐさま変わった。

 

「へい! 坊ちゃんが帰ってこないと心配なされてて…」

「抜身の刀、引っ下げて右往左往!」

「そして、朝にも帰ってこないから一睡もせず…」

 

「えぇ!?」

 

3人の言葉に忍は動揺を隠せないでいた。

 

「そんなお嬢の姿を見て俺達も命の危機を感じまして…」

「組員騒動で昨日からずっと坊ちゃんを捜してたんですが…」

「一体どこにおったんですか?」

 

そう言って3人は忍に詰め寄った。

 

「え、えっと…それは…」

 

帰り際、フェイトに管理局や魔法の事は口外しないように言われていたので困っていた。

 

「いや、今は無事が確認できただけでも良いです!」

「そうだな! 坊ちゃんも男。隠し事の一つや二つあっても仕方ないですわ」

「今はとにかくお嬢の元へ!」

 

しかし、3人組はそう言うと忍を抱えて全速力で明幸の屋敷へと向かったのだった。

 

「わ、わぅ~…!?」

 

忍はただただ叫ぶだけだった。

 

………

……

 

~明幸組~

 

3人組の活躍(?)によって忍は明幸家へと戻ってきた。

そして、早々に智鶴の部屋の前へと連れてこられた。

 

「(わぅ…ちぃ姉になんて言おう…)」

 

忍は忍でかなり困っていた。

昨日のことを正直に話すべきなのかどうなのか…。

 

「お嬢! 坊ちゃんを見つけてきました!」

「だから開けてくだせぇ!」

「ほら、坊ちゃんからも何か一言」

 

部屋の前で3人組が叫ぶが反応はない。

 

「ち、ちぃ姉…お、遅くなって…ごめ…」

 

そして、忍が言葉を発した瞬間…

 

バッ!!

 

「しぃ君!!!」

 

智鶴が勢いよく忍へと抱きついた。

一体コンマ何秒の間に忍に抱き着いたのだろうか?

 

「わぅ…!?」

 

まさかの抱き着きに縁側から庭へと落ちてしまう。

 

「「「お嬢!? 坊ちゃん!?」」」

 

3人組は慌てて庭を覗き込むと…

 

「しぃ君!しぃ君!しぃ君!しぃ君!」

 

泣きながら忍に頬擦りをしていた。

 

「わぅ…く、苦しいよ、ちぃ姉ぇ…」

 

もう放すまいとしているような智鶴の締め付けに忍はホントに苦しそうだった。

 

「お嬢も元気になったし、坊ちゃんも見つかったしな」

「ふぅ…これで一件落着だな」

「よかったよかった」

 

その様子を見て笑う3人組であった…。

これでいいのか?

 

………

……

 

なんやかんやあったものの、忍と智鶴は無事登校していた。

但し、忍は事情を話せずじまいであり、心配掛けた罰として智鶴と一緒の時は可能な限り抱き着くor手を繋ぐことを要求されてしまっていた。

 

「~♪」

 

智鶴は上機嫌だが…

 

「わぅ…(は、恥ずかしいよぉ~)」

 

忍は忍でかなり恥ずかしそうであった。

 

そして、学年が違うために一度は別れて忍は自分の教室に足を運ぶのであった。

 

「はぁ…(イッセー君の机に花瓶があったらどうしよう…)」

 

それが一番の心配ごとだった…。

しかし、それは杞憂に終わる。

 

「だからさ。夕麻ちゃんだって」

 

「だから誰だよ?」

 

「お前の妄想の中の彼女じゃないのか?」

 

教室に入ると、イッセー達変態三人組が何やら話していたからだ。

 

「イッセー君!?」

 

その元気な姿に思わず忍も大声で叫んでしまった。

 

「お、忍だ」

 

「どうした、そんな大声出して?」

 

「え、いや、そ、その…」

 

松田と元浜の問いに忍もどう説明したらいいのか迷っていた。

 

「忍、ちょっと来てくれ!」

 

「え? イッセー君!?」

 

イッセーは忍の姿を確認すると、忍を連れて教室から出た。

 

「どうしたんだ、あいつら?」

 

「さぁ?」

 

置いてけぼりをくらったマツダと元浜は首を傾げるだけであった。

 

 

 

忍を連れてイッセーは体育館裏までやってきた。

 

「忍! お前なら覚えてるだろ? 夕麻ちゃんのこと」

 

そして、イッセーは開口一番でそう聞いてきた。

 

「え? それって…昨日の…?」

 

忍には昨日のレイナーレと呼ばれた少女が思い浮かんだ。

 

「そう! それだよ! やっぱ、アレは夢じゃ…」

 

「ちょ、ちょっと待って! でも、イッセー君…あの時、刺されて…血が…」

 

「そ、それは……そういうお前こそあの姿はなんだったんだよ?」

 

「えっと…それは…その…」

 

互いに質問し合い、互いに痛いとこを突かれる形で言葉が続かなくなってしまった。

 

「「……………」」

 

これまた痛い沈黙が襲う。

 

「(あれ? でも…なんだか、昨日のイッセー君と匂いが違う…?)」

 

鋭くなった嗅覚でイッセーの異変に気付くが…それが具体的に何なのかまではわからなかった。

 

「じゃあ、俺は本当に夕麻ちゃんに…」

 

「(あのカーネリアって人なら何か知ってるのかも…)」

 

イッセーは未だ信じられないような表情をし、忍は忍で考え事をしていた。

 

リーンゴーン、リーンゴーン

 

そうしている内に予鈴が響き渡る。

 

「とにかく…授業に行くか」

 

「う、うん…」

 

2人は教室に戻るのだった。

 

………

……

 

~放課後~

 

その日の放課後のこと。

 

イッセーは忍と共に昨日の公園にやってきていた。

……当然、と言っていいのか智鶴も一緒である。

 

「忍、なんで明幸先輩が一緒なんだよ?」

 

「ご、ごめん…昨日のこともあるから絶対に離れたくないって…」

 

イッセーは忍に苦言を呈すが…

 

「兵藤君。何か問題でも?」

 

智鶴のニコニコ顔の後ろにある怖さに…

 

「いえ、ありません!」

 

即答していた。

 

「ところで…どうしてこの公園に来たんですか?」

 

「そ、それは…ちょっと言いにくくて…」

 

まさか、ここでイッセーが刺されたなどと言えるわけもなく、さらに言えば忍が変身したとも言えないので困ってしまっていた。

 

「しぃ君が…私に隠し事…?」

 

その言葉に智鶴はショックを受けていた。

 

「い、いや、あの…そういうことじゃなくて…」

 

あわあわと忍が困っている。

その横でイッセーは苦笑していた。

 

すると…

 

ブォン…!

 

周囲の風景が一変して別空間のようになる。

 

「これはこれは…珍しい客人だ。悪魔一匹に…人ならざる者が一匹、そして人間が一匹とは…」

 

そこにロングコートを着込み、帽子を深く被った男が現れた。

 

「悪魔? 何のことだよ!」

 

イッセーは何のことかよくわからず、男に叫び…

 

「(人ならざる…僕の事…)」

 

忍は自分のことだと悟り…

 

「あなた、堅気の人間…いえ、"人ですら"ありませんね?」

 

智鶴は忍の前に立つと男を睨みつける。

 

「そういう人間からも悪魔の匂いが…いや、正確には悪魔の側にいる人間か」

 

「(ちぃ姉が…悪魔? それってどういう…)」

 

その言葉を聞いて忍は智鶴の背を見詰める。

 

「まぁ、どちらにせよ。悪魔がのこのこと我らの領分に入ったのだ。狩らせてもらおう」

 

そう言うと男は青い光の槍を出現させた。

 

「(あれは…!)」

 

昨日、カーネリアとの戦闘で何度も見た(色は違うが)光の槍と同じものだった。

 

「な、なんだってんだよ!」

 

「死ね!」

 

男がイッセーを襲おうとした瞬間…

 

「銀狼、解禁!」

 

忍は髪が白銀、瞳が真紅に変わり、頭と臀部から髪と同色の毛並みをした狼の耳と尻尾が生えた姿…銀狼となる。

 

「(昨日よりも意識はしっかり保ててる。これなら…!)」

 

カーネリア戦では激情のまま戦っていたが、二回目ともなると多少は慣れるらしい。

 

ギンッ!

 

「忍!?」

 

「しぃ君!?」

 

一瞬の内に忍が前に出て男の光の槍を魔力で形成した光の槍で防いでいた。

 

「貴様! 一体何者だ!?」

 

「そ、それは…ぼ、僕も知りたいです…」

 

忍と男が鍔迫り合いのような形で槍を交えていると…

 

「そこまでよ!」

 

突然、誰かがそう言ってきた。

 

「「っ!?」」

 

忍と男は驚き、男の方は後ろへと飛び退いた。

 

「この街は私の縄張りなの。あまり変ね事はしないでほしいわね」

 

そこにいたのは…

 

「リアスちゃん!」

 

「御機嫌よう、智鶴」

 

駒王学園三大お姉さまの一角、リアス・グレモリーだった。

 

「紅い髪…そうか、貴様はグレモリー家の…」

 

「初めまして、堕天使さん。私の名前はリアス・グレモリー。さっきも言ったけれど、この街は私の縄張りなのよ。だから、あまり悪さをしてもらっては困るのよ」

 

忍とイッセーは突然のことに困惑の表情を浮かべていたが、智鶴だけは困ったような表情を浮かべていた。

 

「そこの悪魔小僧も貴様の下僕か?」

 

男は槍の切っ先をイッセーに向けて問う。

 

「えぇ、私の可愛い下僕よ」

 

それに即答するリアス。

 

「ならば放し飼いにしないことだ。私のような堕天使がいつ狩るとも限らんしな」

 

「それにしては邪魔されたようだけどね」

 

「忌々しいことだがな…」

 

そう言うと男は槍の切っ先を忍に向け…

 

「我が名はドーナシーク。貴様の名は?」

 

忍の名を聞く。

 

「紅神…忍…です」

 

律儀にも丁寧な口調で名乗り返す忍だった。

 

「紅神 忍…。その名、覚えておくぞ」

 

それを最後に男…ドーナシークは姿を消してしまった。

 

「さてと…色々話さないといけないわね」

 

リアスはそう言うが…

 

「しぃ君、可愛い~」

 

「わ、わぅ…」

 

忍は銀狼のまま智鶴に捕まっていた。

 

「智鶴。ちゃんとその子に話しなさいよ」

 

呆れたような口調でリアスは智鶴に言う。

 

「…わかってる。しぃ君も話してね?」

 

真剣な口調でそう返すと、忍にもちゃんと話してほしいと伝える。

 

「う、うん…(それでもフェイトさんの…管理局の事は伏せておこう…)」

 

忍も忍で自分の身に何が起きたかは説明する気らしい。

 

「一体何がどうなってんだよ…」

 

もはやイッセーは頭の中がこんがらがっていた。

 

………

……

 

~明幸家・客間~

 

あれから場所を明幸家に移し、話を行うことになっていた。

 

「あ、明幸先輩の家が…ご、極道って噂…本当だったんだな…」

 

イッセーは初めて見る極道に戦々恐々としていた。

 

「えぇ、それが何か?」

 

しかし、当の智鶴は全く気にしていなかった。

 

「てか、忍…お前、ここに居候してんだっけ?」

 

「う、うん…だからもう慣れた…のかな? ちょっとまだ恐いけど…」

 

「それ、慣れたっていうのか?」

 

イッセーとしては友達がいるってだけで何とか平静を装っているが、内心では心臓バクバクである。

 

「智鶴、人払いは大丈夫?」

 

「大丈夫。聞き耳立てるような人がいたら…」

 

そんなリアスと智鶴の会話に…

 

「(こ、怖ぇぇ!!)」

 

「(人の匂いは…ないから平気、かな。けど、硝煙の匂いがして気持ち悪いかも…)」

 

イッセーは怖がり、忍は慣れていたのか周囲の気配を匂いで探って確認していた。

 

「さて、何から話しましょうか?」

 

リアスは出されたお茶を一口飲んでから話題を切り出す。

 

「あの…悪魔って一体どういう…」

 

イッセーが今最も聞きたいことを口にする。

 

「文字通り…いえ、言葉通りの意味よ。悪魔は大昔から存在しているし、その存在は色んな神話や伝承でも登場しているでしょ?」

 

「(けど、それってファンタジーの中の話じゃ…)」

 

「信じられない? でも悪魔は存在している。こんな風にね」

 

バサッ!

 

そう言うと、リアスは背中から黒い蝙蝠のような翼を出して見せた。

 

「えぇ!?」

 

「あなたにも出せるはずよ。まぁ、まだ悪魔になったばかりだからコツがわからないかもしれないけど」

 

驚くイッセーを尻目にリアスは悪魔の翼を引っ込めた。

 

「さっきの男は堕天使。元は神に仕える天使だったけど欲に駆られて堕ちた天使ね。悪魔と堕天使…それに神に仕える天使…それが大昔から三つ巴の争いをしているの」

 

リアスがそう話を続けると…

 

「具体的には悪魔は人間と契約して対価を支払い、天使は人間の信仰を集め、堕天使は人間を操って悪魔を討滅するように仕向けるんですって」

 

智鶴が補足するように付け加えた。

 

「なんでちぃ姉がそんなことを知ってるの?」

 

当然の疑問を智鶴にぶつけた。

 

「だって…家もそれなりに古いでしょ? それでご先祖様の誰かが悪魔と契約したらしいの。その縁で互いの領分を侵さない代わりにこっちも表沙汰に出来ないような案件を悪魔が処理してくれたり、それ相応の対価をこっちが払うようにしているの。あ、もちろんリアスちゃんの領土であるのには変わりないし、私たちはその島を貸してもらってるような感じなの」

 

意外な関係性だった。

 

「利害の一致よね」

 

リアスの言葉に智鶴もうんうんと頷いていた。

 

「し、知らなかった…」

 

「ごめんね、しぃ君。でもこれは組の中でも代々の組長とその身内にしか知らせちゃダメなことなの。私もこのことを知ったのはリアスちゃんと最初に出会った頃だから…」

 

「そ、そうだったんだ…」

 

知らなかった事実を知り、忍も困惑してきた。

 

「あ…じゃあ、昨日イッセー君が刺されたことは?」

 

「忍!?」

 

忍の疑問にリアスが答える。

 

「アレはね。この子の中に神器(セイクリッド・ギア)があったから、それを狙われたんでしょうね」

 

「神器?」

 

「歴史上の偉人達が持っていたとされる規格外の力。特定の人間にしか宿らない力なの。大半の神器は人間社会の中でしか効力を発揮しない物が多いけど…中には私達悪魔や堕天使みたいな人間以外の存在に対して大きな力を発揮するものがあるの」

 

真剣な眼差しで話すリアス。

 

「そんな力が、俺に…?」

 

「そう。そして、その力を危険視されたが故に天野 夕麻にあなたは狙われ…一度殺されたの」

 

「じゃあ、やっぱり昨日のは…」

 

忍は昨日のイッセーの姿を思い出していた。

 

「えぇ…」

 

リアスは頷いてみせた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 俺が殺されたって、こうして生きてますし!」

 

「そ、そうですよ。誰かがイッセー君を病院に運んだとか…」

 

イッセーの言葉に忍も可能性を話したが…

 

「それはあり得ないわ。あの傷は完全な致命傷だったもの」

 

リアスはそれを真っ向から否定した。

 

「あの時、あなたは私を呼んだの。そして、悪魔へと転生したの」

 

「俺が…?」

 

「そうよ。この魔法陣でね」

 

そう言って見せたのは一枚のチラシ。

そこには魔法陣が描かれていた。

 

「これって…確か」

 

イッセーはデート前にチラシを貰ったようなことを思い出した。

 

「あなたの強い願いが私を召還したのでしょうね。普段なら別の眷属の子達の誰かが呼ばれるんだけど…」

 

「悪魔って他にもいるんすか?!」

 

「えぇ、私の所属してるオカルト研究部。表向きは普通の部活動にしてるけど、裏では私達悪魔の集まりなの。部員はみんな私の眷属達。あなたも入部することになるからね」

 

さらっとオカルト研究部へと入部させられることを決定されてしまうイッセー。

 

「あとは…そうね。イッセー、左腕に意識を集中させてみなさい」

 

「え?」

 

「いいから言う通りにして」

 

それからイッセーは左腕に意識やら強いイメージを集中させてみると…

 

ジャキンッ!

 

左腕に手の甲に宝玉の付いた左前腕部を覆う赤い篭手が出現した。

 

「なんじゃこりゃ!?!?」

 

「それがあなたの神器。一度発動させればあなたの意志でいつでも出せるわ。あ、それと危ないと感じたら神器は出さずに逃げなさい。あなたはまだ悪魔になりたてなんですからね」

 

「………」

 

これでイッセーは否が応でも信じざるを得なくなっていた。

 

「それじゃあ、次はあなたね」

 

そして、次は忍がターゲットになる。

 

「ぼ、僕ですか?!」

 

「しぃ君。さっき話すって約束したでしょ?」

 

「わぅ……わ、わかりましたぁ…」

 

智鶴との約束は破れない忍だった。

 

「まずはあの姿…アレは一体何なのかしら?」

 

「なんか犬っぽい耳と尻尾だったよな…」

 

「あの姿のしぃ君も可愛かったなぁ」

 

三者三様の言葉に忍も困る。

 

「い、犬じゃなくて狼だよ。ちゃんと銀狼解禁って言ったし…」

 

ポンッ!

 

「あ、あれ?」

 

銀狼解禁と口にしただけで再び銀狼の姿になってしまう。

 

「忍だと狼と言うよりもワンコだろ」

 

「そうね。可愛らしいとは思うけど」

 

イッセーの言葉にリアスも頷く。

 

「リアスちゃん。しぃ君はあげないからね?」

 

「わかっているわよ」

 

そして、智鶴の言葉に苦笑しながらリアスは答えた。

 

「わぅ…」

 

そんな一幕もあったが、忍は管理局や魔法に関することを伏せつつ自身の事を話した。

そこには満月の夜に狼に追いかけられる夢や狼が言っていた狼の末裔という内容も含まれていた。

 

「ふむ…興味深い話ではあるわね」

 

「そういえば、昔はよく満月の夜に添い寝してあげたっけ。最近は来なくなったけど…」

 

リアスは興味深げに、智鶴は思い出してから寂しそうにそれぞれ呟いていた。

 

「羨ましいのやら大変そうなんやら…お前も大変だな」

 

「イッセー君もね…」

 

男2人は互いに苦労が絶え無さそうなそんな雰囲気を醸し出していた。

色々なことがあり過ぎて頭がパンク寸前なんだろうか?

 

こうしてイッセーの悪魔生活が始まり、忍の日常も変わり始めていった。

 

この先、彼らに待つ未来とは…?



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第四話『騎士と戦姫とデバイス』

オリキャラの方で新しいキャラとデバイスを追加いたします。
そちらもどうぞご確認ください。


~ミッドチルダ・首都クラナガン~

 

ここは多次元世界の一つ『ミッドチルダ』という世界。

そこの首都クラナガンにある時空管理局・地上本部。

高層ビル群の一つ、武装隊の施設にその部隊はあった。

 

『特務隊』

主に特殊任務を専門とする部署。

武装隊の中でも隊長に認められた魔導師や騎士が多く所属している。

その中の1人…『流星 朝陽』に指令が下った。

 

「護衛?」

 

朝陽は目の前のデスクに座る男に聞き返した。

 

「そうだ。例の新型試作機の一機を地球のこの地点に輸送することになり、お前にその護衛を任せたい」

 

そう言って男はマップを表示すると赤く光る地点を指した。

そこは偶然にも駒王町と海鳴市の山にある神社であった。

 

「なんだってあたしが…それに新型をそんなところに運んで何になるのよ?」

 

朝陽の疑問も尤もだが…

 

「詳細は知らなくてもいい。それに地球にはノイズとかいう訳の分からん存在がいるというしな。ノイズに遭遇したら撤退せよ。"炭化"したくなければな。話は以上だ。下がれ」

 

男はそれだけ言うと退室するように言った。

 

「命令なら仕方ないけど…納得はしてないから」

 

それだけ言い残すと、朝陽は隊長室から出て行った。

 

「…………」

 

しばらくしてから回線を開いた。

 

「アザゼル」

 

『よぉ、ゼーラ』

 

「予定通り新型試作機を地球に向かわせる。ちゃんと受け取れよ」

 

『いいのかい? そんなことしちまっても』

 

「構わん。俺は"輸送と護衛を派遣したに過ぎない。そこで何が起ころうと…特に新型が奪取された"としても俺が責任を持てばいいだけの話だ」

 

『アンタも大胆というか何というか…』

 

「それが部下を派遣してまで新型をお前に渡そうとする俺の責だ」

 

『そいじゃま、ありがたく頂戴しますかね。そのデバイスとやらを…』

 

そんな不穏な会話の後、通信は途切れた。

 

果たして、男達…ゼーラとアザゼルの意図とは…?

 

………

……

 

~地球~

 

イッセーと忍が悪魔や神器の話を聞いてから早一週間が経っていた。

 

「はぁ…」

 

「イッセー君、大丈夫?」

 

「大丈夫なわけあるかよ…」

 

あれからイッセーは悪魔の契約という作業をしていたそうなのだが…。

結果は漫画を語り明かしたり、DVD鑑賞をしたりと…契約せずに終わっていた。

その結果を知ってリアスは頭を悩ませ、同じ部にいた男子部員のイケメン『木場 祐斗』も苦笑していたそうだ。

 

「なんで俺は変態っぽい人ばかりに呼ばれるんだ…」

 

「(あんまり深く聞かない方がいいかも…)」

 

あの一件以来、すっかり忍とも行動を共にするようになっていた。

 

「そういえば、またノイズが出たんだって」

 

「あ~、そういや、そんなニュースもあったな」

 

「ここ最近は頻発してるみたいだし、気をつけないとね」

 

「けど、悪魔にノイズとかって効くもんなのか?」

 

「そ、それは…どうなのかな?」

 

そんな会話をしながら2人は隣町である海鳴市へと向かっていた。

理由は最近海鳴市に出来たというお好み焼き屋『ふらわー』に行くためだった。

部活帰りのため、松田や元浜はいないが…。

 

「ま、何事も無いに越したことはないよな…」

 

「そうだね…」

 

そういう話をしている時に限って何かが起きる。

 

ヴヴヴヴヴヴヴ…!!

 

2人の携帯が同時に警報用のアラートが鳴り響く。

 

「わぅ!?」

 

「げっ!?」

 

携帯の表示を見ると、ちょうど今さっき話題に出たノイズ警報だった。

 

「噂をすればなんとやら…」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

 

2人は急いで逃げようとしたが…

 

『-------』

 

逃げようとした先にノイズの大群がいた。

 

「マジかよ!?」

 

「とにかく逃げよう!」

 

ノイズの対処法としては今のところ逃げるしかないのである。

 

「逃げるったってどこに…」

 

「確か…ここなら神社が近いはず。そこまで逃げて後は…」

 

「考えるよりも先に行動だろ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!?」

 

そう言ってイッセーは走りだし、それに少し遅れて忍も駆け出していた。

 

………

……

 

~同刻・神社付近~

 

「随分と騒がしいわね」

 

護衛と言うことで既にデバイス『ヴェルセイバー』を起動し、バリアジャケットを纏っていた朝陽が山の近くの町が騒がしいことに気づく。

 

「流星二尉。この場で間違いないのでしょうか?」

 

そこへトランクを持った局員が声を掛ける。

 

「えぇ、この辺で間違いないはずだけど…」

 

そうして歩いていると…

 

ガサガサ…

 

「なんだ?」

 

局員が物音に気付くと同時に…

 

『------』

 

「え…?」

 

局員が槍状となったノイズの突撃を受け、炭化する。

 

「なっ?!」

 

その光景を見て朝陽は絶句する。

 

「(まさか、これが隊長の言ってたノイズ!?)」

 

一瞬で状況を理解すると…

 

「セイバー! バイパー!」

 

ガシュッ!

 

『オッケー♪ バイパーフォーム』

 

ジャラン!

キッ!

 

即座に片手剣の刀身を蛇腹状にして局員の持っていたトランクを回収する。

 

『------』

 

複数のノイズが槍状となって朝陽に突撃してくる。

 

「ちっ!」

 

左手を突き出してベルカの魔法陣を展開してノイズの攻撃を防ぐ。

 

「触ったらアウトみたいだけど、魔法は効くみたいね」

 

そう言うと朝陽はバイパーフォームのセイバーでノイズを薙ぎ払うが、ノイズは倒せないでいた。

 

「ちっ…なんなのよ、一体!」

 

その場から飛び退くと同時にセイバーを元の片手剣に戻すと、そのまま神社の境内に入ってしまう。

 

「わぅ!?」

 

「おわっ!? なんだ!?」

 

と、ちょうどそこへ忍とイッセーもやってきていた。

 

「なっ!? 一般人がなんでこんなとこに!?」

 

2人を見て朝陽も驚いてしまう。

 

「げっ!? こっちにもノイズかよ!?」

 

「イッセー君! もう戦うしか…」

 

「けど触ったら、終わりだぜ?」

 

イッセーと忍が言い合っていると…

 

『------』

 

そこへ槍状となったノイズ達が突撃してくる。

 

「っ!?」

 

咄嗟に回避行動をするが、トランクを手放してしまう。

 

「しまった!?」

 

弾かれたトランクは忍の足元に転がってきた。

 

「これは…?」

 

忍がそれを拾い上げると…

 

「避けろ!」

 

朝陽が忍に向けて叫ぶ。

 

「おわっ!?」

 

「わぅ!?」

 

朝陽は空に飛び上がり、イッセーと忍は同時に飛び退いた。

 

ガチャ!

 

飛び退いた拍子にトランクが開き、中に入っていた2種類のブレスレットとベルトのバックル、それに3本のUSBメモリ型の端末が飛び出す。

 

「な、なにこれ!?」

 

慌てて飛び出した物を忍は集め始めようとする。

 

「(頭数が少ない以上…仕方ないか…)ちょっと、そこのアンタ!」

 

空中で回避行動を取りながら朝陽は忍に声を掛ける。

 

「は、はい!?」

 

そう答える忍もノイズの突撃を紙一重に回避し続けている。

 

「今から言うことを実行して! そいつを起動させて!」

 

一応、新型の資料には目を通していたのでだいたいの起動手順はわかっていた。

 

「そっちのアンタも協力しなさい!」

 

魔法陣を展開しながら今度はイッセーにも声を掛けた。

 

「俺まで?!」

 

何が何だかわからないイッセーも困惑していた。

 

「まずブレスレットを両腕に、バックルを腰に着けなさい!」

 

が、そんなことはお構いなく朝陽は指示を指す。

 

「え、えっと…これとこれを…」

 

ノイズから逃げながら忍は言われた通りにブレスレットを両腕に着け、バックルを腰に着けるとベルトが自動的に腰に巻かれた。

 

「なんかどっかで見たことあるようなギミックだな! 羨ましいぞ、忍!」

 

そんなことを言いながらも逃げ回るイッセー。

 

「そ、そんなこと言われてもぉ~」

 

「次! USBメモリみたいなのがあったでしょ! それを各装備に装填しなさい!」

 

忍の泣き言など知ったことかと言うように怒鳴る。

 

「これか?! 忍!」

 

逃げ回っていたイッセーが滑りながらも1本拾って忍に投げ渡した。

 

「わわ…!?」

 

それを何とかキャッチすると既に拾っていた1本と合わせてバックルと右腕のブレスレットに装填した。

 

「あと1本は…!?」

 

「あそこだ!」

 

残る1本は…ノイズ達のど真ん中にあった…。

 

「ちっ! アンタ達が逃げてるからあんなとこに蹴ったんじゃないの!?」

 

最悪の事態に朝陽は悪態を吐く。

 

「(あの姉ちゃん、良いおっぱいしてんのにめっちゃ怖い!)」

 

「(わぅ…そんなこと言われてもぉ~)」

 

こんな時でも下心満載のイッセーと内心半泣き状態の忍でした。

 

そんな時…

 

「~♪」

 

何処からともなく歌が聞こえてきた。

 

「な、なんだ?」

 

「歌…?」

 

「誰よ、こんな非常時に…!」

 

三者三様の反応とは別に歌が終わると…

 

ブォンッ!

 

周辺に特定の波動が広がる。

 

『------』

 

それと同時にノイズの色が少し変化した。

 

「え~い!」

 

そこへノイズに向かって白を基調にしつつオレンジや黒で彩られたアーマーを纏った少女…立花 響がノイズに体当たりを仕掛けていた。

 

「あの子は…!?」

 

初めて銀狼となってカーネリアと戦っていた時に見た少女だと忍は気づいた。

そして、あのアーマーを着ていた彼女はノイズを倒していたことも…。

 

「ちょっ、危ないって!?」

 

その事実を知らないイッセーは慌てて止めようとするがもう遅い。

 

『------』

 

体当たりされたノイズは粉々に砕ける。

 

「うそっ!?」

 

「(あの時と同じ!)」

 

イッセーは驚き、忍は確信を得た。

 

「あ~もう! 邪魔よ!」

 

カシュッ!

 

「ブレイズブレード!」

 

セイバーのカートリッジを消費させると同時に刀身に焔が宿り…

 

「はぁ!」

 

突撃してくるノイズに一閃すると…

 

『-----』

 

今度は完全に倒すことが出来た。

 

「っ!?(どういうこと?)」

 

その結果に朝陽自身も驚いてしまう。

 

「(あの子が来てから?)」

 

そして、さっきまでいなかった響の存在に何かあると踏むが、それが何なのかまでわからないでいた。

 

「(でも、今なら…!)セイバー!」

 

カシュ!カシュ!

 

『バイパーフォーム』

 

再び刀身が蛇腹状になると、今度は電気がその刀身に宿る。

 

「エレキトリック・サーペント!」

 

名前が示す通り、電気を纏った蛇のようにノイズを倒していくと、最後の1本の元へ続く道を作る。

 

「行け!」

 

「っ!?」

 

朝陽の言葉に一瞬驚いた忍だが…

 

「銀狼解禁!」

 

銀狼の姿となると、一直線にUSBメモリの元へと走り、それを取る。

 

「あ! あの時のワンコ君!」

 

忍の姿を見て響も声を出す。

 

「知り合いなのか? てか、やっぱりそう思うよな…」

 

建物や狛犬の像などに隠れながらノイズをやり過ごしていたイッセーは響の声に反応してから忍の見た目の評価に頷いていた。

 

「ぼ、僕は犬じゃなくて狼です!」

 

悲しいかな、全然説得力が無い…。

 

「取ったならさっさと挿入しなさい!」

 

そして、朝陽に怒鳴られる。

 

「わぅ…」

 

この口癖も原因だと思うが…とにかく忍は左腕のリストウォッチ型PDAに最後のメモリを挿入した。

 

「そしたら右腕のブレスレットのカバーをスライドさせて開けて」

 

ノイズが倒せるとわかった途端、朝陽はさっきの憂さを晴らすかのようにノイズ達を攻撃しながら指示を出す。

 

「えっと…テンキーとENTER?」

 

言われた通りにスライド式のカバーを開けると、そこにはテンキーとENTERのボタンがあった。

 

「そしたら0を三回押してからENTERを押しなさい!」

 

「は、はい!?」

 

ピピピ…

 

『Standing by』

 

忍が0を三回押すと、そんな電子音が響く。

 

「なんかホントにどっかの特撮っぽくなってきたな!」

 

逃げるイッセーが少しはしゃぐ。

 

「いいからENTERを押す!」

 

ピッ!

 

朝陽が怖さからか、即座にENTERを押すと…

 

『Matching Start』

 

その電子音と共に忍の周りに魔力障壁が張られ、さらに忍の頭上に一枚の魔力板が出現すると忍の体をスキャンするように何度も上下に行ったり来たりする。

その間、ノイズは魔力障壁に阻まれている。

 

「邪魔よ!」

 

「わわっ?!」

 

何故か、やって来た響もイッセーと同じように逃げ回り、朝陽は苛立ちを隠せないでいた。

 

そして…

 

『Complete』

 

スキャンが終わったらしい電子音が響き渡ると同時に忍の体を魔力障壁が覆い、バリアジャケットへと再構築していく。

ちなみに忍の纏ったバリアジャケットは上に赤いシャツを着て、下に黒の長ズボンを穿き、その上から背中に銀狼の横顔のエンブレムが刺繍された黒いジャケットを羽織り、両足にコンバットブーツを履いた姿となっている。

 

「これは…?」

 

自分の姿に驚く忍だが、障壁が無くなったのを見ていたのでノイズの攻撃を避けいていた。

 

「アンタも魔法が使えるならちょっとは手伝いなさい!」

 

忍がデバイスを起動させたのを確認すると朝陽はまた怒鳴る。

 

「ま、魔法なんて使ったことありませんよ!?」

 

カーネリアやドーナシークとの戦いで使った光の槍は魔力で練っただけなので、厳密には魔法とは呼べない。

だから忍は魔法を使ったことは無いと言える。

 

「はぁ!? じゃあ、なんでデバイスが起動したのよ!?」

 

「そ、そんなこと言われてもぉ…」

 

朝陽にわからないことを忍が知るはずもない。

 

その時、事態は再び動く。

 

≪千ノ落涙≫

 

ヒュドドドドド!!

 

無数の剣がノイズ目掛けて降り注いできた。

 

「今度は何よ!」

 

ノイズに攻撃しようとした矢先に剣が降ってきたので朝陽は咄嗟に後方へと飛び退いていた。

 

「………」

 

そこに歩いてきたのは響と同じような、でも異なる青いアーマーを纏い、その手には刀を持った少女だった。

 

「翼さん!」

 

響が少女…『風鳴(かざなり) (つばさ)』…の名を呼ぶが、翼は反応せずにノイズを討伐していく。

 

「翼って…どこかで見た覚えが……あ! もしかしてあのツヴァイウイングの風鳴 翼か!?」

 

翼という名前と容姿を見てイッセーは驚いたように叫んだ。。

 

「嘘!?」

 

その事実に忍も驚いていた。

 

「はぁ!」

 

≪蒼ノ一閃≫

 

そんな外野を無視して翼は刀を大型化させると蒼い斬撃を放ってノイズを一掃した。

 

「(何なのよ、この地球って星は…聞いてないわよ)」

 

朝陽はそのようを見ながら任務を言い渡してきた隊長の事を密かに恨んでいた。

 

「お、終わったのか?」

 

狛犬の像の後ろからひょっこりと顔を出したイッセーは近くまで来ていた忍に尋ねていた。

 

「そ、そうみたい…だけど…」

 

突き刺さる視線が二つ…忍とイッセーを捉えていた。

 

「ま、またなんだか厄介事な気が…」

 

「奇遇だな、忍。俺もそう思ってたとこだ」

 

2人のその予感は的中し、しばらく経ってからやって来た黒服の集団に分厚くで重厚な手錠を嵌められた忍とイッセーはそのまま連行されてしまっていた。

朝陽はその場から去ろうとしたところを翼に切っ先を向けられながら同行を求められて仕方なく同行することにした。

朝陽の場合、局員が死んだのだからノイズの話を聞きたかったのかもしれない。

 

………

……

 

~私立リディアン音楽院高等科~

 

黒服達に連れられてやってきたのは翼の通っている女子高として有名な私立リディアン音楽院であった。

 

大半の黒服達は入り口で待機していたが、翼と響、それと翼のマネージャーである『緒川 慎次』に連れられて手錠をされた忍とイッセー、セイバーだけを待機状態にバリアジャケットを維持したままの朝陽が構内を歩いていた。

 

「おお! 忍! 俺達、女子高の廊下を歩いてるぜ!」

 

「イッセー君…この状況ではしゃいでる場合じゃないと思うけど…」

 

「元気がいいですね。片方は完全に危ない人の発言のような気もしますが…」

 

そんな2人の会話に緒川が苦笑する。

 

「す、すみません…」

 

「なんでアンタが謝んのよ」

 

忍が謝ったことに朝陽が突っ込む。

 

「それで…一体どこまで行くのかしら?」

 

その後、朝陽が目的地を聞くが…

 

「黙ってついてきてもらおうか。あなた達は重要参考人ですから」

 

「人を犯罪者扱い? そいつはわかるけど、あたしは騎士よ(って言ってもこの世界じゃ通用しないか)」

 

翼の言葉に朝陽がそう答える。

イッセーを犯罪者と断じてだが…。

 

「ちょ、俺は普通の高校生ですから!(悪魔だけど…)」

 

朝陽の言葉にイッセーが反論するも内心では普通じゃなくなっていた事を自覚していた。

 

「僕は…………普通じゃないですよね…はい…」

 

解くタイミングを見失って未だ忍は銀狼のままだったりする。

 

「騎士? 騎士ってなんですか?」

 

朝陽の騎士発言に響が食いついた。

 

「別に…知らないなら知らなくてもいいわよ(どうせ、この世界で通用するのはごく一部だろうし…)」

 

そうこうしてる間に6人はエレベーターに乗り込む。

 

「学校にエレベーターまであるなんて…流石リディアン!」

 

「でも…なんだかおかしくないかな?」

 

普通の学校にエレベーターはありません。

 

緒川が端末をエレベーターの角の認証機に翳すと、取っ手が出現する。

 

「では、この取っ手をしっかりと持っていてください」

 

言われた通りにイッセーと忍は取っ手を掴むが、朝陽が壁にもたれ掛っただけだった。

 

「危ないですよ?」

 

「別に、あたしなら平気だし…」

 

「そうは言いましても…」

 

朝陽と緒川が言い合っているとエレベーターが起動し、物凄い勢いで下降していった。

 

「「ええっ!?」」

 

「…………」

 

しかもかなり深い…。

 

 

 

そして、地下へと到着してから6人を指令室で待っていたのは日焼けして筋肉隆々の男と白衣を着た女性だった。

 

「民間人…というわけではなさそうだが…」

 

男の第一声は忍と朝陽、イッセーの順に見た第一印象だった。

 

「いや、俺は普通ですが!?」

 

悪魔という事実を隠したとしてもイッセーは普通の人間と変わりない容貌をしている。

それは朝陽に関してもそうなのだが、彼女から感じる騎士としての雰囲気と魔力を男は感じ取っていた。

忍は……言わずもがな、銀狼状態故に…。

 

「君の場合、生気をあまり感じない。何故生きてるのかが不思議なくらいだが?」

 

「え…?(まさか、バレてる!?)」

 

男の言葉にイッセーは焦り出す。

 

「自己紹介がまだだったな。俺は風鳴 弦十郎。ここ、特異災害対策機動部二課の司令官をしている」

 

「そして、私ができる女、櫻井 了子よ。よろしくね」

 

2人の自己紹介に…

 

「あ、ご丁寧にどうも。僕は紅神 忍です。こっちは友達の兵藤 一誠君で、こちらは…」

 

何故か、反射的に忍が挨拶を返すとイッセーを紹介し、朝陽の事も紹介しようとしたが名前すら知らないことに気づいた。

これもまた智鶴の教育の賜物であろうか?

 

「あたしは流星 朝陽。階級は二等空尉。時空管理局所属の騎士よ」

 

朝陽は自分の所属を言っていた。

 

『ちょ、朝陽ちゃん! そこまで言っちゃっていいの!?』

 

セイバーが困ったように声を上げた。

 

「な、なんだ!?」

 

「ど、何処からか声が!?」

 

セイバーの声にイッセーと響が慌てたように辺りを見回すが、誰もいない。

 

「(時空管理局…じゃあ、フェイトさんと同じところの…)」

 

忍は朝陽の発言にフェイトの事を思い出していた。

 

「時空管理局か。確か、ゼーラという男もそこの所属だったな」

 

「隊長を知ってるの?」

 

「昔、ちょっとした戦場でな…」

 

弦十郎は朝陽の問いにそう答えた。

アンタ、何者だ?

 

「なら聞かせて、ノイズってなんなの? そいつらのせいでこっちにも死者が出たわ。任務も失敗。新型デバイスもそこの奴が持つことになったし…」

 

「え? ぼ、僕が、ですか?」

 

弦十郎に文句を言うついでに忍にもその矛先が向けられた。

忍からしたらびっくりするのも当然だが…

 

「そうよ。それは一度起動した人の魔力に対して最適化を施すの。リセットするには一から分解しないとならないって資料にあったし、実際問題そんな余裕もないのよ」

 

「忍が魔力…じゃあ、お前も悪魔…?」

 

朝陽の言葉にイッセーも驚いてつい口走ってしまった。

 

「イッセー君!?」

 

「やっべ!?」

 

慌てて口を押さえるがもう遅い…。

 

「え? え? 悪魔? デバイス? 時空管理局? 皆さん、何の話をしてるんですか?」

 

「司令。どういうことですか?」

 

響は混乱し、翼も弦十郎に問いかけていた。

 

「(これはこれは…なんだか混沌としてきたわね~)」

 

そんな中、櫻井女史は内心で笑っていた。

 

………

……

 

「…………」

 

『ノイズが出たんだ。それに近くには悪魔君もいたし、そう簡単には出ていけなかったのさ』

 

「ノイズによってうちの局員は?」

 

『あの女騎士は生存してたぜ? 他は炭化したがな。試作機は…なんだか狼っぽい少年が手にしてたな』

 

「少年だと?」

 

『あぁ…ありゃ人間じゃない。俺らみたいな存在と同じだ』

 

「その少年がネクサスを起動させたとなると…リンカーコア持ちの可能性が高いな」

 

『おそらくはな。で、どうするよ?』

 

「お前に任せる。元々、ネクサスはお前に渡す予定の物だったしな」

 

『へいへい。じゃあ、適当にあの神器持ちの悪魔君から接触してみるかね』

 

「悪魔とは敵対してるんじゃなかったのか?」

 

『身分はちゃんと隠すさ。それにあの様子じゃ悪魔になりたてだろうし、そう簡単にはバレやしねぇよ』



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第五話『会談とシスターと駒』

~地球・駒王学園~

 

時刻は夜。

ここは旧校舎。

オカルト研究部が拠点を置いている場所でもあり、悪魔稼業もここで召喚を待機していることが多い。

そこには今、珍客が数名ほどいた。

 

「…イッセー。これはどういうことなのか説明してくれないかしら?」

 

「え~と…何から話していいのやら…」

 

リアスの言葉にイッセーはたじたじであった。

 

忍はまだ悪魔の事を知った上で黙ってくれているので問題ない。

それは心配で連絡を受けたら即行で学園までやってきた智鶴に関しても同じだろう。

 

しかし、問題なのは…

 

「………」

 

管理局所属の騎士、流星 朝陽と…

 

「まさか近隣の学園にこのような場所があるとは…」

 

特異災害対策機動部二課司令、風鳴 弦十郎がいた。

 

「実は…」

 

イッセーは一連の流れをリアスに話した。

忍の証言もあるので信憑性は増している。

 

「なるほど。そういうことだったのね。だからって部室にまで連れてこなくても…」

 

イッセーと忍の話を理解したリアスは副部長の姫島 朱乃にお茶を出すように指示した後に部長席に座る。

 

「彼には悪いとは思ったが、如何せんこちらも情報収集をしたいのでね。悪魔のこと、時空管理局の事を双方から聞きたいと思っている」

 

弦十郎はそう言う。

 

「なら、こっちは逆にノイズの事を聞きたいわね。ギブアンドテイク。そっちがこっちを知りたいならそれくらいの情報交換は当然でしょ?」

 

そこに口を挟んだのは窓際にいた朝陽だった。

 

「あら、あなたはなかなか悪魔向きの性格みたいね。どう? 私の眷属悪魔にならない?」

 

リアスが勧誘をするが…

 

「結構よ。あたしは今の生活に満足してるもの。悪魔だか何だか知らないけど…そんなのに興味はないわ」

 

朝陽はそれを突っぱねた。

 

「残念ね。でもさっきの意見には一理あるわ。こっちも詳しいことは話せないし、悪魔は階級制度なの。あまり事を公にしたくないわ」

 

朝陽のことを残念に思いつつも弦十郎に対しては朝陽と同じようなスタンスを取っていた。

 

「わかった。ならば、先にこちらのことを話そう」

 

それからは本当に情報交換が主な会談内容となっていた。

 

リアスは先日イッセーや忍にも話した悪魔、天使、堕天使との関係と未だ敵対関係が続いていることを…。

 

朝陽は忍がフェイトから聞いたような時空管理局のことと、多次元世界についてを…。

 

弦十郎は知り得た限りのノイズの情報と、その対抗策として機密情報であるシンフォギアシステムのことを…。

 

会談は二時間以上に渡った。

 

「過去にノイズを見たという悪魔もいたのかしらね」

 

「そこまでは把握できていないが、古くからいるのは間違いないだろう」

 

「それが人間や悪魔なんかも襲ってるって? なら、他の次元世界に出現する確率は?」

 

「不明だが、そういう可能性もあるかもしれんとだけ言っておこう」

 

「もしもそうなったら冥界も大騒ぎね」

 

「隊長に報告しないとならない事が山積みね…」

 

「こちらも似たようなものね…」

 

「ま、俺が出張って正解だったかな」

 

そのような会話を最後に会談は終了した。

 

「俺はこのような情報は公にしないことにしている。なに、もしも火の粉を被ってもそれに対処するのが大人の役割だからな」

 

帰り際、弦十郎はそう言って旧校舎を後にしていったそうだ。

 

「あたしも隊長に報告したらそれでおしまいのつもりよ」

 

「随分とサッパリしてるわね。こちらは上が何というか…」

 

「あたしの知ったこっちゃないわね。それとアンタ…」

 

リアスと言葉を少し交わした後、朝陽は忍を指差す。

 

「は、はい?」

 

「名前を教えなさい。始末書に書いておくから」

 

「べ、紅神 忍です…」

 

「そう。じゃあね」

 

それだけ聞くと朝陽は転移魔法陣で消えてしまった…。

 

「な、なんかとんでもない話になってきたな」

 

「イッセー、半分はあなたが持ち込んできた厄介事でしょ?」

 

「はい、申し訳ありませんでした!!」

 

リアスの言葉にイッセーは即座に土下座して謝っていた。

 

「しぃ君もあまり心配掛けさせないでね?」

 

「わぅ…ご、ごめんなさい…」

 

忍も忍で智鶴に怒られて(?)いた。

 

………

……

 

翌日。

イッセーは表向きの部活動が終わって一人帰路についていた。

 

「はぁ…もう何が何だかわかんねぇや…」

 

昨夜起こった出来事を何度も思い返していた。

 

「(ノイズに対抗できる力が機密とか、色々な次元があってそこを管理してたりする組織があるとか…もう俺の頭はついてけませんよ…)」

 

そんなことを考えていると…

 

「はぅわ!?」

 

後方よりばたりという誰かが倒れたような音がする。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

さらにそれを心配するような声が聞こえてくる。

 

「(あれ? つい最近どっかで聞いたような…)」

 

そう思ってイッセーが後ろを振り返ると、そこには…

 

「あ…」

 

「あっ」

 

響が転んだであろう金髪美少女のシスターを立たせているとこだった。

しかも昨日の今日で出会うもんかね?

 

「あなたは、昨日の…」

 

「あ~、俺は兵藤 一誠。君は確か…」

 

「あ、立花 響です」

 

「そうか。で、響ちゃん。そのシスターさんは?」

 

「実は…」

 

響は困っていたシスターを放っておけず助けたことをイッセーに話した。

しかし、外国語がわからなかった響はジェスチャーだけで何とか駒王町までやってきたという…。

 

「凄いね、響ちゃん…」

 

「いや~、それほどでも。でも、言葉がわからないんですよね」

 

響は少し照れくさそうに言うと…

 

「あ、あの…」

 

シスターが何やら紙切れを差し出す。

 

「な、に…?(てか、めっちゃ可愛いし!)」

 

イッセーはシスターを見て一瞬、呆けてしまう。

 

「ど、どうかしましたか?」

 

「はっ?! い、いや、なんでもないよ! それでどうしたの?」

 

すぐさま意識を取り戻すとシスターに向き直る。

 

「ここに行きたいんですが…どう行ったらいいんでしょうか?」

 

紙切れに描いてあったのは地図だった。

 

「(シスターが行くとなると…教会か?)」

 

地図と記憶を噛み合わせると、そういう結論に達した。

 

「じゃあ、地元だし俺が案内するよ」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ、任せときなって」

 

そんな会話をしていると…

 

「ほへぇ~」

 

響が驚いたような声を上げていた。

 

「響ちゃん?」

 

「一誠さんって外国語ペラペラなんですね! 驚きました!」

 

「(あ…)い、いや、ほら…俺って意外に秀才だからさ」

 

シスターの手前、悪魔だからといえないイッセーはそんな嘘で誤魔化した。

 

「人は見かけによりませんねぇ」

 

「ほっといてくれ!」

 

そんなやり取りの後、イッセーは響とシスターを連れて教会へと向かった。

 

 

 

「地図だとここだな」

 

「随分と寂びれてますね」

 

到着した教会はお世辞にも綺麗とは言い難かった。

 

「ありがとうございます。えっと…」

 

シスターはお礼を言おうとしたが、2人の名前を知らないことに気づいた。

 

「俺は兵藤 一誠。シスターさんもイッセーって呼んでくれよな。。で、こっちは立花 響ちゃんな」

 

「ありがとうございます。イッセーさん、響さん。私はアーシア・アルジェントと言います。アーシアとお呼びください」

 

お礼を言った後、シスターも名乗っていた。

 

「よかったらお2人を教会の方でお礼を…」

 

そして、そう申し出たものの…

 

「あ~、その俺はこれから急用があるから…(それに物凄く嫌な予感がするんだよな…)」

 

イッセーはそう答えた。

 

「一誠さん、シスターさんはなんて?」

 

「あ~、その教会でお礼をしたいらしいけど俺は急用があるからさ。あ、あとシスターさんの名前はアーシア・アルジェントだってさ」

 

すぐにでも教会から離れたいイッセーだったが、響にわかるように通訳っぽいことをする。

 

「あ~、そうなんですか。でも私もちょっと友達と用事があるので…」

 

「そ、そっか。アーシア、俺も響ちゃんも用事があるから…」

 

「そうですか。それは残念です…」

 

「ま、この街にいたらまた会える機会もあるよ」

 

「はい!」

 

その会話を最後に教会の前でアーシアと別れるイッセーと響だった。

 

 

 

その様子を物陰から見る人物がいた。

 

「あの子がレイナーレの欲していた子ね。それにこの前の…」

 

教会前のアーシアを一瞥してからイッセーと響の後姿を見るカーネリア。

 

「生きてたのね。それにこの感じからすると…悪魔に転生したのかしら? 面白そうな子達ね。少しからかいましょうかね」

 

そう言うと黒い翼を羽ばたかせて2人の進行方向へと先回りをする。

 

 

 

「へぇ、人助けが趣味なんだ」

 

「はい。困ってる人や動物は放っておけなくて」

 

そんな会話をしていると…

 

「はぁい」

 

目の前に黒い翼を広げながらカーネリアが舞い降りてきた。

 

「だ、堕天使!?」

 

「あ、あの時の…!」

 

イッセーは慌て、響は最初にシンフォギア『ガングニール』を纏った時に出会ってたことを思い出す。

 

「そう警戒しないでちょうだい。私、弱い者イジメは趣味じゃないの。今日は単なる挨拶よ。それとあの坊やはいないのかしら?」

 

そう言ってわざとらしく忍を捜す素振りを見せる。

 

「忍ならもう帰ったよ。今は智鶴さんと一緒のはずだ」

 

イッセーはいつでも神器を出せるように構えながら答える。

 

「そう、それは残念。けど、さっきも言ったように私、弱い者イジメは趣味じゃないのよ。神器もろくに使えない子に用はないわ」

 

「ぐっ…」

 

カーネリアの言葉にイッセーは悔しさから奥歯を噛み締めていた…。

 

「むしろ気になるのはそっちの子」

 

そう言ってカーネリアは響を指差す。

 

「わ、私…?」

 

突然、指名されて響も困惑する。

 

「あなたからはかなり強い破壊の匂いがするの。いつか、あなたの中にある破壊衝動と相対してみたいわね」

 

「は、破壊衝動? あなたは何を言って…」

 

カーネリアの言葉に響はさらに混乱する。

 

「ふふ、いずれわかるわよ。じゃあね」

 

本当にそれだけの話をしてからカーネリアは再び黒い翼を羽ばたかせてその場から立ち去る。

 

「なんなんだよ…一体…」

 

イッセーは知らず知らずの内に左拳を強く握っていた。

 

………

……

 

その日の夜。

悪魔稼業のために集合していたオカ研のメンバーの前でイッセーはリアスに怒られていた。

 

「教会には近づかないの。ただでさえあなたは悪魔になりたてで堕天使にだって狙われる可能性が高いんだから」

 

「はい…」

 

「しかも堕天使にまた出会ったの?」

 

「はい…」

 

「はぁ…よく生きて戻ってこれたわね」

 

「自分でもそう思います…」

 

実際、カーネリアはイッセーに興味を抱いていなかったのが大きな要因だろう。

 

「とにかく、今日はあなたに悪魔の駒(イーヴィル・ピース)について話すわね」

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)?」

 

「そ、チェスは知ってるわよね? それを爵位持ちの悪魔が取り入れた少数精鋭制度。駒の持つ特性を下僕悪魔に与える。駒は全部で6種類。(キング)女王(クイーン)戦車(ルーク)騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)兵士(ポーン)

 

部室の中央にあるテーブルにチェス盤が置かれて駒も並べられた。

 

「主たる悪魔が王の役割を持つの。私たちの場合なら私が王。それはわかるわね?」

 

「はい。何とか…」

 

「よろしい。昔からチェスは悪魔の間でも流行ってたのだけど…それは置いとくわ。そして、爵位持ちの悪魔は己の眷属悪魔が優秀だと競うようなになっていき、上級悪魔同士で行う大掛かりなチェスゲームにまで発展していったの。それが『レーティング・ゲーム』。それが悪魔の間で大流行していてね。今では様々なルールで大会とかも行われてる一大行事なのよ。駒の強さやゲームでの強さが悪魔の地位や爵位にまで影響を及ぼすぐらい熱狂な行事とも言えるわ」

 

「そ、そうだったんですか…」

 

「えぇ。それに『駒集め』と称して優秀な人間を下僕として集めるのも今の主流ね。特に神器持ちの人間を転生させるケースも最近は多いかしら……強い下僕はそれだけで主のステータスにもなり得るから」

 

「(悪魔の世界に人間と似たようなもんなんだな…規模がかなり違うけど…)」

 

そんな感想をを抱くイッセーだった。

 

「部長。それで俺の駒って?」

 

「そうね。その前に先にイッセー以外の駒の特性から説明するわね」

 

そう言うと、リアスはまずテーブルに置かれたチェス盤から馬の形をした駒を取り上げる。

 

「まずは騎士。これは祐斗が該当するわ。騎士の特性はスピード。とにかく速さが増すって考えてね」

 

騎士を元の位置に戻すと、今度は塔の形をした駒を取り上げる。

 

「次に戦車。これは小猫が該当するわ。戦車の特性は圧倒的な攻撃力と防御力。簡単に言うと馬鹿げた力と強靭な肉体を手にしてるの」

 

戦車も元の位置に戻すと、今度は王冠の形を駒を取り上げる。

 

「これが女王。朱乃が該当するわ。女王の特性は王の次に強くて騎士、僧侶、戦車、兵士の力が全て備わっているわ」

 

そして、リアスは女王の駒も戻すと、2列目にズラリと並ぶ兵士の駒を持ち上げて告げた。

 

「そして、イッセーの駒は兵士。特性は…未知なる可能性よ」

 

「(また随分と曖昧な!?)」

 

その言葉にイッセーは二重の意味でガックリとうなだれてしまった。

兵士が意味する言葉は…一番価値の低い下っ端であることだ。

 

「そう気を落とさないの。あなたにはきっと秘められた力があるはずよ。私はそれを信じてるわ」

 

そう言ってリアスはイッセーの頭を撫でるが…

 

「(下っ端ですか…あ、あははは…)」

 

内心では落胆の色が濃かったりするのであった。



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第六話『はぐれと最悪の再会』

~地球・駒王町~

 

今日も今日とて悪魔稼業。

イッセーは自転車を駆ってお宅訪問へと向かう。

 

え?

なんだって悪魔が自転車を漕ぐかって?

それはイッセーの保有魔力が少な過ぎて転移できないからだ。

そのため、こうやって夜になると自転車を漕いで悪魔を必要とする召喚主の元へと向かうわけだ。

 

そして、目的地の一軒家に到着する。

ふとイッセーは思う

 

「しかし、堂々とチャイムを鳴らして入っていいものか?」

 

『どうも、悪魔で~す』、なんて自分でもアホな姿を想像してしまうイッセーだった。

 

そんなことを考えていると、玄関が開いてることに気づく。

 

「こんな深夜に不用心だな…(あれ? でにこういうのってよく漫画やアニメだと嫌な展開になるような…)」

 

実際、イッセーの中の本能的なものが危険を知らせ、背筋に嫌な汗を掻いている。

 

「(でも…ここで引き下がるのもなぁ…)」

 

もしも悪魔が来なかったというクレームを貰ってもいけないと感じたイッセーは勇気を持って家の中に入ることにした。

 

「こんばんは~(まるで寝起きドッキリだな…)」

 

小声で中の様子を窺いながらゆっくりと家の中に侵入…もとい入ろうとすると…

 

「は~い、こんばんちゃ~」

 

目の前に神父服を着た白髪の少年が現れる。

 

「うお!?」

 

バタンッ!

 

イッセーは驚きのあまり反射的に玄関を思いっきり閉めてしまった。

 

が…

 

バゴンッ!!

 

少年神父は玄関を蹴破り、そのついでとばかりにイッセーも蹴り飛ばす。

 

「ぐぁっ?!」

 

「ん~ん~、こんな時間に誰だい? つか、悪魔が転移するのを待ち伏せしてるつもりが玄関から来るとか、バカなの? アホなの? 死ぬの?」

 

少年神父はそんなことを言いながら玄関から出てきてイッセーを見下ろす。

周りを見渡せば結界も張られていた。

 

「まぁ、悪魔祓うのが俺達の仕事だし、恨むんなら悪魔に生まれた…いや、転生させた主を恨みなよ!」

 

そう言って少年神父は刀身のない剣の柄と、銃を取り出すとそれらをイッセーに向けた。

 

「お、おい! 中の人たちはどうしたんだよ?」

 

そんな状況の中、イッセーは家の中の人がどうなったのか気になっていた。

 

「あん? そんなん聞いてどうすんの? 悪魔だけに冥途の土産にでもすんの? あ、俺ってばもしかして上手いこと言った? 座布団何枚くれんの?」

 

「質問に答えろよ!」

 

「あ~もう、うっせぇクソ悪魔だな。わぁったよ、わかりましたよ、教えてやんよ。中の人、瞬殺惨殺、ユーオッケ~? なんつって! クソ悪魔召喚なんてする奴は家族纏めてオールキル!! 所詮クソ悪魔を呼ぶのはクソ人間ってね!」

 

「なっ!? 人間が人間を殺してもいいのかよ!!」

 

それを聞き、イッセーの中に怒りが込み上げてくる。

 

「はぁ? 何言ってんの? あらやだ、このクソ悪魔ってば正義感が強いのかしら? チョーウゼェーー!!」

 

どっちがウザいのやら…。

 

「クソ悪魔に頼る人間なんてのはゴートゥヘル! 死んでも仕方ないのさ! 悪魔だって人間の魂、貰ってんだろぉ? それをとやかく言われるなんてのは心外だぜ!!」

 

「それでもお前、人間かよ!!」

 

「はぁ? クソ悪魔がいっちょ前に俺に説教ですか? わぉ、マジで殺す! でも一応答えとこうかな。人間です、人間ですよ? 人の道ってのはとっくの昔に踏み外したけどね~!!」

 

「最悪じゃねぇか!!」

 

「最悪頂き増した! でも問題ない! だってお前は此処で死ぬから!」

 

そう言った後、神父は柄から光の刃を生成してイッセーに斬りかかってきた。

 

「意味が分からねえよ!」

 

その斬撃をなんとか避けながら道路に出る。

 

「逃がすと思うのかよ! このフリード・セルゼン様がよ!!」

 

そう叫ばれた瞬間、イッセーの足に激痛が走る。

 

「ぐぉっ!!?」

 

倒れながらも後ろを振り向くと、足が撃たれていた。

 

「(いつの間に撃たれた!? 銃声なんか聞こえなかったぞ!?)」

 

「はっはー! いつ撃ったのかって不思議そうな顔だね? 特別に教えてやんよ! 光の弾丸さ! 堕天使様の加護でもらった光だから、音なんか出るわきゃねぇだろ!!」

 

「(光の弾丸!? そういや、あの時も…こんな感じの…)」

 

天野 夕麻ことレイナーレに殺害された時のことを思い出すイッセーだった。

 

「ほんじゃま、サクッと逝っちまいなよ!!」

 

「くっ…!」

 

フリードの刃がイッセーに突き刺さろうとした時…

 

「ま、待ってください!!」

 

イッセーを庇うように一人の少女がフリードの前に立つ。

 

「おんや~? これはこれは助手のアーシアちゃんじゃあ~りませんか。つか、何してんだテメェ? 悪魔庇うとか、頭おかしいんじぇねぇ~の!?」

 

「あ、悪魔…? この方が…!?」

 

少女…アーシアが振り向くと、そこには先日会ったばかりのイッセーの姿があった。

 

「あ、アーシア…!?」

 

「え…イッセーさんが…悪魔…?」

 

イッセーもイッセーでかなり驚いていたが、アーシアの動揺もかなりのものだった。

 

「あらら? なになに? 2人ってばお知り合い? わぉ! これまたビターな再会ってやっちゃな!」

 

下品な言動を撒き散らしながらフリードは嘲笑う。

 

「…ごめん…アーシアを騙す気はなかったんだ。正直、もう二度と会わないように…」

 

「……っ」

 

イッセーの言葉にアーシアは涙を流す。

 

「ほいほい! ほんじゃま、今度こそ始末すっから、アーシアちゃんはそこを退きなよ!」

 

しかし…

 

「退きません!」

 

「え…?」

 

アーシアの言葉にイッセーは驚く。

 

「はあああ!? なぁに言っちゃってんの?! そこにいるにはクソ悪魔! そして俺とアーシアちゃんは教会関係者! 命を奪い奪われる立場だぞ!? その悪魔を助けるぅぅ? 頭、ホントに大丈夫でちゅか~??」

 

フリードもまたアーシアの言動にほぼキレたような反応を示す。

 

「私も悪魔は悪い人ばかりだと思ってきました。でも、悪魔にだって良い人はいます!!」

 

自分自身でも混乱しているだろうに強い意志を持ってそう言い放った。

 

すると…

 

バキッ!

 

「きゃっ!?」

 

フリードはそんなアーシアの頬を銃を握っていた手で横薙ぎに殴っていた。

 

「アーシア!?」

 

倒れそうになるアーシアをイッセーは足を引き摺りながらも受け止める。

 

「寝惚けたこと抜かしてんじゃねぇぞ! このクソアマが!!」

 

「テメェ!!」

 

イッセーはフリードの言動に激怒し、左腕に篭手を出現させる。

 

「お? 俺とやり合う気か? レベルの違いってやつを見せつけ…」

 

フリードがペラペラと喋ってると…

 

「さっきからいちいちうっせぇんだよッ!!!」

 

アーシアを座らせると、足の痛みを我慢しながら渾身の一発をフリードの顔面にぶち込む。

 

「ぶへっ!?」

 

その一撃を受けて大袈裟なくらいに吹き飛ぶ。

 

「いってぇな…クソ悪魔が…もうプッチンキレたぞこの野郎! テメェで人体何処まで細切れになるか世界記録に挑戦してやらぁ!!」

 

しかし、フリードはすぐに立ち上がるとイッセーに向かって飛び掛かる。

 

すると…

 

ブォンッ!

 

イッセーとフリードの間にグレモリーの魔法陣が現れる。

 

ガキンッ!

 

そこから現れた木場がフリードの剣を受け止める。

 

「やぁ、兵藤君。無事かい?」

 

そして、後ろにいるイッセーに声を掛けていた。

 

「あらあら…これは…」

 

「…エクソシスト…」

 

さらに魔法陣からは朱乃と小猫も出てきていた。

 

「みんな…!」

 

イッセーは現れた仲間たちにどこか安堵した気持ちを覚える。

 

「悪魔様の団体の御出ましですか~? いやぁ、今日はなんだか大量祭りな予感! ついでに聞くけど、君が攻めで、向こうの彼が受けなの? それとも逆?」

 

鍔迫り合いしてる最中にも関わらず、フリードはふざけた言動を止めはしなかった。

 

「下品な口だね。いや、だからこそ"はぐれ"なのかい?」

 

「え~え~、そうですとも。それがなにか? 別にクソ悪魔ぶち殺せりゃ俺ぁ何処にだって行きますとも! だってそれが俺のアイデンティティ~ですもの!!」

 

フリードがそう叫ぶと共に魔法陣からさらに人影が現れる。

 

「下品極まりないわね。堕天使もよくこんな人間を使ってるわね」

 

「お褒め頂き恐悦至極! でも、そんな弱っちぃ人間下僕にしてるアンタには言われたくないねぇ!」

 

一旦木場から離れたフリードがリアスの言葉にそう返した瞬間…

 

ギュインッ!!

 

「うっほっ!? あっぶねぇ!!」

 

リアスが怒りのままに魔力を放ち、フリードがそれを避けるが、避けた先の道路は陥没…というか綺麗サッパリ"消滅"していた。

 

「おっと、これはもしかしてあれ? 悪魔様の逆鱗に触れちった? でも、事実なんだから仕方ない!!」

 

フリードのふざけた言動がリアスから魔力を引き出し、他の眷属もまた殺気を強めていた。

 

その時、小猫がある反応を察知する。

 

「…堕天使、複数来ます」

 

それを聞き…

 

「イッセーを回収してこの場は退くわ。朱乃、ジャンプの用意を」

 

「はい、部長」

 

そう言って転移の準備に入った。

 

「おっと、逃がすと思うのかい? こっからが形勢逆転! 悪魔の殺戮パーティなんだよぉ!!」

 

そう言って再び襲い掛かろうとしたフリードだが…

 

「……えい」

 

小猫が地面を殴るとコンクリートの地面が割れ、それを畳返しのようにして持ち上げる。

 

「あべしっ!?」

 

それに激突したらしくフリードの声が聞こえてくる。

 

「ぶ、部長! あの子、アーシアも…!」

 

転移魔法が発動する中、イッセーは地面に座ったままのアーシアに手を伸ばそうとするが…

 

「残念だけど…この転移魔法陣は私の眷属しか運べないの」

 

非情にも聞こえる答えが返ってくる。

 

「そ、そんな…アーシア!」

 

それでも手を伸ばそうとするイッセーを見て…

 

「イッセーさん…ありが…」

 

アーシアは笑みを浮かべてそう言いかけたところで…

 

パァンッ!!

 

グレモリー眷属は転移してしまった…。

 

………

……

 

翌日。

イッセーは足に受けた光の弾丸が完治していなかったので学園を休んでいた。

 

「はぁ…」

 

そんな不完全な状態に関わらず、近場の公園にやってきていた。

そして、ベンチに座って色々なことを考えていたのだが…

 

「うじうじ考えてても仕方ないか。どっかに何か食いにいこ…」

 

そう言ってベンチから立つと…

 

「イッセーさん?」

 

「え、アーシア?」

 

昨日の今日でアーシアと出会ってしまっていた。

 

 

 

それから2人は一緒に昼食を食べ、海鳴市の方まで足を伸ばして夕方まで遊んだ。

遊んだ後、2人は海の見える海鳴臨海公園で休んでいた。

 

「あ~…せっかく休み貰ったのに結構な距離を歩いちまったな…」

 

そう言ってイッセーは昨日フリードに撃たれた足を少し擦っていた。

 

「イッセーさん…怪我をしてるのに…私と…」

 

そんなイッセーを見てアーシアは悲しい表情になる。

 

「大丈夫だって、このくらい遊んでる時には忘れてたし」

 

そう言って足を伸ばすが…

 

「あたたた…」

 

案の定、痛がるイッセー。

 

「イッセーさん、傷を見せてください」

 

「え? いや、このくらい平気だって…」

 

「いいから、見せてください」

 

アーシアの言葉にイッセーは渋々傷を見せようにズボンの裾を捲り上げた。

そうすると、アーシアは傷痕に手を当てて淡い緑色の光を発していた。

 

「これで大丈夫だと思います」

 

その言葉通り、イッセーの足は不思議と治っていた。

 

「これって…もしかして神器?」

 

「はい。主から賜った癒しの力です」

 

「俺も神器を持ってるけど…篭手ってだけでよくわからないんだよな…」

 

周りに人がいない事を確認すると、イッセーは篭手を出現させてみせてすぐに解除した。

 

「そういう意味ではアーシアが羨ましいよ」

 

「そんなこと、ありませんよ」

 

そこからアーシアは自分の身に起こったことをイッセーには話した。

傷を癒せる聖女から、悪魔でも治せてしまった魔女としての人生を…。

 

「そうだったのか…」

 

アーシアの話を聞いた後…

 

「よし! じゃあ、今日から俺とアーシアは友達だ! 悪魔だの契約だのは関係ない。俺がアーシアと友達になりたいからなる。それでいいよな?」

 

イッセーの言葉にアーシアはきょとんとする。

 

「私とイッセーさんが…お友達?」

 

「あぁ、今日一日だって普通に過ごせたじゃないか。それはもう友達ってやつだよ」

 

「本当に…私とお友達になってくれるんですか?」

 

「あぁ。もちろんさ」

 

そう言ってお互いから笑みが浮かんだ時だった。

 

「面白いことを言ってるけど…」

 

「そんな幻想…叶う訳がないでしょ?」

 

海鳴臨海公園の入り口の方からそのような声が聞こえてくる。

 

「っ…カーネリア様…レイナーレ様…」

 

アーシアが声の主の名を口にする。

 

「堕天使が何の用だ!!」

 

「汚らしい悪魔の分際で私に話し掛けないでくれるかしら?」

 

そう言ってイッセーを無視すると…

 

「逃げても無駄よ。あなたの神器…『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は私たちの計画に必要なんだから」

 

レイナーレが一歩前に出ながらアーシアにそう言う。

 

「(計画ね。ま、私には関係ないけど…)」

 

その様子をジッと見ながらカーネリアは内心で呆れ混じりの笑みを浮かべていた。

 

「そこの悪魔を殺されたくなかったら私達と共に来なさい」

 

レイナーレはめんどくさそうにアーシアに言う。

 

「ふざけんな! 誰が殺され……」

 

ヒュドドドド!!!

 

イッセーの言葉が終わる前に黒い光の槍が雨の如く降り注ぐが、一本も当たっていなかった。

いや、むしろ…

 

「外してあげたわ。これで一体何回殺されたのかしらね?」

 

クスクスと笑いながらカーネリアがイッセーに告げる。

 

「なっ!?」

 

一歩も動けず、神器を出す暇さえなかったイッセーは力の差に愕然とする。

 

「カーネリア、あのまま殺してもよかったんじゃないの?」

 

その様子にレイナーレがカーネリアに一言文句を言う。

 

「だってその坊やには興味が無いもの。それに殺すならもっと楽しみたいし」

 

「相変わらず悪趣味ね」

 

「アンタに言われたくないわね」

 

憎まれ口を憎まれ口で返すと、カーネリアはアーシアの元へと移動し…

 

「さ、行くわよ」

 

「……わ、わかりました…」

 

アーシアの手を掴んでその場から去ろうとする。

 

「っ! アーシア!」

 

イッセーが手を伸ばそうとするが…

 

「邪魔よ!」

 

レイナーレが光の槍をイッセーの足元に投げる。

 

「くっ…」

 

それに阻まれ、イッセーはまたしてもアーシアの手を握ることはなかった…。

一度目は昨夜、そして二度目は今…。

イッセーはアーシアを助けるための力を欲した…。



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第七話『救出と決闘と転生』

~教会前~

 

アーシアを目の前で連れてかれたイッセーはリアスにアーシア救出を願い出ていた。

しかし、それは許可できないと言い渡されてしまった。

それでもイッセーは頑なに行こうとした。

そんなイッセーにリアスは二つの事を言い渡して朱乃と共にどこかへと転移してしまった。

二つの事とは兵士のプロモーションと神器は保有者の想いに応えるということである。

 

それを聞き、イッセーはそれでもという覚悟で教会へと足を運んでいた。

そのイッセーについてきたのは部室に残っていた木場と小猫だった。

教会に行く途中で、イッセーは木場からリアスが遠回しに行ってもいいということを知らせていた(もちろん、木場や小猫がフォローする形であるだろうが…)。

 

そして、戦いの火蓋が切られようとしていた。

 

「よし、行くぜ!」

 

バタンッ!

 

教会の扉を蹴破ると、そこには…

 

「お久ブレット!」

 

そう言うや否やフリードが先制攻撃…光の弾丸を撃ってきた。

 

「うおっ!?」

 

「させない!」

 

光の弾丸を木場が高速の剣技で弾く。

 

「有無を言わさず撃ってくるとは…神父も地に堕ちたね」

 

「褒め言葉として受け取っとくよ~ん。だって俺ってば堕天使さまの加護受けてますから!」

 

皮肉を皮肉で返すフリード。

 

「神器!」

 

イッセーも左腕に篭手を出現させて臨戦態勢に移る。

 

「おい、アーシアは何処にいる!?」

 

「あ~ん? 悪魔に魅入られた哀れなシスターちゃんなら、そこの祭壇の下に隠されてる地下への階段を降った先の祭儀場にいるでやんすよ。ま、行けたらの話ですけどねぇ~!」

 

イッセーの問いにフリードはそう答える。

 

「ひゃっほう!」

 

ドドドドド!!

 

フリードは横移動しながら光の銃弾を撃つ。

 

「はぁ!」

 

その銃弾を全て避けながら木場がフリードと剣を交える。

 

「スゲェ、これが木場の実力かよ」

 

その工房にイッセーも驚く。

 

「やるね」

 

「は、テメェもな!」

 

言葉数少なく交わすと同時にフリードが拳銃を木場に向けるが、木場はそれをサマーソルトキックの要領で蹴り上げて軌道を逸らすと少し間合いを開けた。

 

「じゃあ、僕も少し本気を出そうかな?」

 

そう言うと、木場の持つ剣の刀身が黒く染まっていく。

 

「ひゃあおっ!!」

 

「ふっ!」

 

黒く染まった剣と光の剣が交わると、徐々にだが黒くなった剣が光の剣から光を吸収し始めていた。

 

「なにぃ!?」

 

「『光喰剣(ホーリー・イレイザー)』。文字通り、光を喰らう剣さ」

 

「テメェも神器持ちかよ!!」

 

「木場も神器を…!」

 

その事実にフリードはもちろん、イッセーも驚いていた。

 

「くそっ!」

 

光が全て奪われる前にフリードが距離を取ると…

 

「兵藤君!」

 

すかさず木場がイッセーに声を掛ける。

 

「動けぇぇ!!」

 

『Boost!!』

 

篭手の宝玉が輝くと、そのような声も篭手から聞こえてくる。

 

「そっちの騎士ならまだしもテメェに負ける道理はねぇんだよ!!!」

 

イッセーの動きに気づき、フリードは光の銃弾を連射するが…

 

「プロモーション! 『戦車』!!」

 

兵士から戦車の駒へと昇格したイッセーには効果が無かった。

 

「マジで!?」

 

その結果にフリードも驚き…

 

バキッ!!!

 

次の瞬間にはイッセーの右拳がフリードの顔面を捉えていた。

 

「あべしっ!?」

 

戦車の特性は攻撃力と防御力の強化。

その拳で殴られたため、フリードは教会にある長椅子を巻き込みながら吹き飛ぶ。

 

「アーシアを殴りやがって、今のでちっとはスッキリしたぜ!」

 

「っざけんなよ! クソ悪魔風情が!!」

 

イッセーの言葉にキレたフリードが再び襲い掛かろうとしてきたが…

 

「…えい」

 

ゴスッ!!

 

「本日二度目のあべしっ!!?」

 

小猫の無慈悲な長椅子アタックに長椅子ごと吹っ飛ぶ。

そこからフリードが起き上がると同時に木場が斬りかかるが、フリードはそれを避けて祭壇の方に逃げる。

 

「俺的に、悪魔に殺されるのは勘弁御免シクラメンってね! ほんじゃま、ばいなら!」

 

そう言って祭壇の上に登ると…

 

バッ!!

 

懐から出した閃光玉でイッセー達の視界を奪ってから逃げ出してしまった。

 

「マジで逃げやがった…」

 

「ともかく僕たちは地下へ行こう」

 

「あぁ!」

 

こうしてイッセー達は地下へと向かった。

 

………

……

 

~同刻・明幸組~

 

「なんだろう…物凄く嫌な匂いがする…」

 

忍が自分の部屋から出て縁側から月を眺めていた。

 

「しぃ君? どうかしたの?」

 

そこに着物を纏った智鶴がやってくる。

 

「うん。ちょっと嫌な匂いがして…」

 

「しぃ君…」

 

忍の言葉に智鶴は忍を後ろからギュッと抱きしめる。

 

「ち、ちぃ姉…?」

 

「しぃ君は…戦わなくてもいいのよ」

 

「で、でも…」

 

「しぃ君には…私、戦ってほしくないの…危ないことに関わってほしくないの…」

 

智鶴は内心では不安でいっぱいだった。

忍がこのまま戦いに身を投じていけば、いずれ遠くに行ってしまうような…そんな気さえ覚えていた。

何よりも智鶴は忍が傷付くことを嫌うほどに過保護なのだ。

昔、転んだ忍を見て救急車を呼ぼうとしたくらいに…。

 

「でも…僕は…」

 

小規模だが、既に戦場を知ってしまった。

そして、彼の中に眠る狼の血は戦うための力を忍へと与えた。

 

「ダメ。しぃ君が怪我したら…私…」

 

「ちぃ姉…」

 

互いに互いを想うが為に…徐々にだが歯車が狂いだすこともある。

 

ヒュッ…!

 

と、そこへ一枚の黒い羽が縁側の柱へと突き刺さる。

 

「っ! これは…」

 

忍は羽から発する匂いに覚えがあった。

以前出会った堕天使の男…ドーナシーク…。

自らの羽を果たし状に使ったのだろう。

その意図を本能的に察した忍は羽が飛んできた山の方を見る。

 

「ちぃ姉…僕、行かないと…」

 

忍が智鶴から離れようとするが…

 

「しぃ君! ダメって言ってるでしょ! しぃ君は危ないことに関わらなくていいの! 今まで通り、私と一緒に堅気の生活をしましょ…ね?」

 

智鶴も絶対に放すまいと力を込めながらそう言う。

 

しかし…

 

「ちぃ姉!」

 

「っ!?」

 

初めて聞く忍の怒声に近い声に一瞬驚き、智鶴は忍を放してしまう。

 

「僕は…もう嫌なんだよ。ちぃ姉に守られてばかりちゃダメなんだ。僕だって…ちぃ姉を守りたいんだから…!」

 

そう言って忍は固い決意をした男の眼を智鶴に向ける。

 

「しぃ君…」

 

その眼差しを受け、智鶴は涙を流して悲しい表情になる。

 

「大丈夫だよ。僕は絶対に帰ってくるから…」

 

カシャ…

ピ、ピ、ピ…

 

『Standing by』

 

そう言いながらヴェルネクサスの起動シークエンスを行い…

 

「だから…待ってて…」

 

ピ…

 

『Complete』

 

微笑んでみせながらバリアジャケットを展開する。

 

「銀狼、解禁」

 

そして、銀狼へと変身すると一足で塀を跳び越え、森の中へとその姿を消す。

 

「しぃ君…ダメって…言ってるのに…」

 

縁側にへたり込みながら静かに涙を流す智鶴であった。

 

 

 

そして、森の中…

 

「…………」

 

コートを着た男…ドーナシークが一人佇んでいた。

 

「来たか」

 

「やっぱり…あなたでしたか」

 

そこへ戦闘モードの忍がやってくる。

 

「随分と風変わりな格好をしているが…まぁいい。あの時はよくも邪魔をしてくれたな」

 

「僕の友達を攻撃するような人が…そんなことを言わないでください」

 

忍が珍しく強い敵意をドーナシークに向ける。

 

「友達? あの悪魔が? ククク…人外同士、仲間意識でも出来たか?」

 

「例え人外だろうと…僕やイッセー君は今まで人間として生きてきました。僕が人でなくても…彼が悪魔になっても…友達に変わりありません…!」

 

ドーナシークの嘲笑を忍は真っ向から受ける。

 

「長年この国の人間社会に浸り過ぎて平和ボケしたか? いや、こんなことを貴殿に説いても分かるまい。所詮、悪魔と堕天使は相容れんのだよ!」

 

そう言ってドーナシークは青い光の槍を構える。

 

「はぁ…(僕に魔法が使えるなら…あの時の…)」

 

以前ノイズに襲われた時に見た朝陽の魔法陣を鮮明に思い出す。

 

キィィンッ…

 

それと同時に忍の足元に白銀の古代ベルカ式の魔法陣が出現する。

 

『古代ベルカ式魔法を確認。基本戦闘モードを近接格闘に設定します』

 

左腕に装着したネクサスの画面にそのような文字が表示される。

 

「行くぞ!」

 

先制攻撃を仕掛けたのはドーナシーク。

槍を投げ飛ばすと同時にもう片方の手に槍を出現させて投げ飛ばした槍を追うようにして忍に近付く。

 

だが…

 

キィンッ…

ガキンッ!

 

「なにっ!?」

 

忍は左手を前に突き出すとベルカのシールド魔法陣が展開されて光の槍の二重攻撃を防ぐ。

それを見てドーナシークも驚く。

 

「(ここからは僕が考えないと…!)」

 

今まで培ってきた経験が忍の脳裏を過ぎる。

 

スッ…

 

シールド魔法陣を解くと、未だ突撃の勢いが残るドーナシークの槍を持つ腕を掴むと、そのままの勢いを利用してドーナシークの背後を取ると…

 

ヒュッ!

バキッ!!

 

左足で少しだけ跳ぶとそのまま右足で後ろ回し蹴りをドーナシークの後頭部へと叩きつける。

 

「がっ!?」

 

ドーナシークは血を吐きだしながらも意識が飛びそうになるのを堪える。

 

「(こいつ、以前相対した時よりも強く…!!)」

 

ドーナシークは以前槍を交えた時は忍は弱い者と決めつけていた。

しかし、今の忍にはあの時と違った何かがあった。

 

「友達を傷つけようとしたあなたを…僕は許さない…」

 

そう言って忍は右腕のENTERキーを押す。

 

『Exceed Drive』

 

その音声と共に忍の右腕に高密度の魔力が収束していく。

 

「い、いかん…!」

 

その様子にドーナシークは逃げようと黒い翼を広げるが…

 

「逃がしはしません…!」

 

銀狼の速度によってドーナシークの眼前に姿を現すと…

 

「う、うおお!!」

 

スッ…

 

苦し紛れの攻撃をギリギリで避けると…

 

ゴスッ!

 

「ぐっ!!?」

 

忍は頬を斬られながらもドーナシークの腹部に右拳を叩き付けると…

 

ギュイィィンッ!!

 

円錐状の魔力マーカーがドリルのようにしてドーナシークに突き刺さり、後方へと強制的に後退する。

 

「はぁ…!!」

 

そこからダッシュで駆けると共に跳び蹴りを魔力マーカーに向けて放つ。

 

ズガガガガガ!!!

 

魔力マーカーが更なる回転を見せて消えた後、忍がドーナシークの背後に現れる。

 

「ば、バカな…たかが犬如きに…私が…う、うおおおおお!?!?!?」

 

ゴバァッ!!

 

それを最期にドーナシークは黒き羽を霧散させながら消滅してしまった。

 

「…僕は…犬なんかじゃない…誇り高き銀狼です…」

 

忍は静かにそう呟くと、智鶴の待つ明幸組の屋敷へと戻るのだった。

 

………

……

 

一方、教会では…

 

地下でアーシアを見つけたイッセー達であったが、時既に遅しであった。

レイナーレの怪しげな儀式によってアーシアの神器『聖母の微笑』は摘出されてしまい、アーシアは死を待つしかなかった。

そんなアーシアを連れ、イッセーは地下から出た。

その際、木場と小猫は殿(しんがり)を務めて複数の神父を相手にしていた。

 

そして、場面は最終局面を迎えていた。

 

「ぐああああっ!!?」

 

イッセーはレイナーレの光の槍に両足の太ももを貫かれていた。

 

「あははっ! 下級悪魔には過ぎた力だったかしら? 私の光は濃度が濃いからじきに内側からあなたを殺すでしょうけどね」

 

レイナーレは高笑いをしてイッセーを見下ろす。

 

しかし…

 

「…ざ…けんな…」

 

イッセーは両手で光の槍を抜き取ると、それを捨てる。

 

「ふざけんな……このぐらいの傷がどうしたってんだ…俺はまだ立ってるぜ!!」

 

『Boost!!』

 

その叫びと共に神器に宿る宝玉もまた音声を発する。

 

「なっ?! そ、そんなバカな! 私の光を受けて下級悪魔が立てるはずがないわ!!」

 

それを見てレイナーレが酷く驚いた様子だった。

 

「俺の想いに応えやがれ! 神器ぁぁぁぁ!!」

 

『Explosion!!』

 

その瞬間、イッセーの中の魔力が爆発的に跳ね上がる。

 

「ば、バカな!? この魔力は中級…いえ、上級クラス!?」

 

レイナーレはイッセーの魔力を感じ、怯えだす。

 

「行くぞ!!」

 

「い、いや! こっちに来ないで!」

 

イッセーのただならぬ迫力に押され、レイナーレは光の槍を飛ばすが…

 

ガキンッ!!

 

光の槍は篭手を纏った左腕の横薙ぎで簡単に弾かれる。

 

「ひっ!?」

 

そのまま逃走を図ろうとするレイナーレだったが…

 

ガシッ!

 

「逃がすかよ!!」

 

一足にして追いついたイッセーが右手によって捕まえ…

 

「わ、私は至高の…!!」

 

「吹っ飛びやがれ!! 堕天使がぁぁ!!」

 

ゴスッ!!!

 

レイナーレの顔面に左拳が突き刺さり、一気に吹き飛ばしてしまう。

 

「ぎぃゃああああ!?」

 

ガッシャァァァン!!!

 

教会のステンドグラスを破り、外へと出る。

 

「ざまぁやがれ…」

 

そう言って倒れそうになるイッセーを木場が支える。

 

「お疲れさま。まさか一人で堕天使を倒すなんてね」

 

「お前こそ無事だったのかよ、色男」

 

「部長が助けてくれたからね。それに手を出すなとも言われててさ」

 

「部長が…?」

 

見れば、そこにはリアスと朱乃がいた。

 

「勝ったようね」

 

「あらあら、凄いですわね」

 

リアスと朱乃は用事が終わった後、教会の地下へと転移して木場達と共に神父を一掃したようである。

 

「…部長、持ってきました」

 

そこへ小猫がイッセーが吹き飛ばしたレイナーレをまるで物のように引き摺ってきた。

 

「初めまして、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー。私の下僕たちが随分とお世話になったようね」

 

「ぐっ…グレモリーの娘か…」

 

「えぇ、短い間でしょうがとろしくね。あぁ、そうそう」

 

そう言うとリアスは黒い羽を二枚だけレイナーレの目の前に落とす。

 

「っ!?」

 

それを見てあることに察するレイナーレ。

 

「あなたの協力者…ミッテルトとカラワーナだったかしら? その2人は既に消滅させてあげたから」

 

「で、でも、私にはまだ2人の協力者がいるわ!」

 

「そのこともちょうど聞きたかったのよ。私と朱乃が相対した時には2人しいかいなくて…残りはどうしたのかしら?」

 

そうレイナーレに聞いた時だった。

 

「ドーナシークならもうこの世にはいないわよ」

 

頭上の方からからそんな声が聞こえてきた。

 

「か、カーネリア!!」

 

祭壇後ろの瓦礫と化した部分に座ってリアス達の様子を見ていたカーネリアだった。

 

「ドーナシークなら狼君に殺されちゃったわ」

 

そう言って持っていた黒い羽をフッと息を吹いて飛ばしてしまう。

 

「くっ……そ、そんなことよりも…は、早く私を助けなさいよ」

 

そうレイナーレがカーネリアに言うが…

 

「嫌よ、何だって私があなたみたいな"格下"を助けなきゃならないのかしら?」

 

カーネリアはそれを一蹴してしまった。

 

「か、格下ですって!?」

 

その言葉にカーネリアをにらむレイナーレだが…

 

「えぇ…だって…」

 

バサァ!

 

「私、"6枚羽"だもの」

 

そう言いながら一対だった翼に加え、4枚の翼が背中から出てくる。

 

「なっ!?」

 

「上級堕天使!!」

 

リアス達は警戒を強くし、レイナーレは信じれらないものを見るような眼をカーネリアに向ける。

 

「ふふ、大丈夫よ。今回の事は私、暇潰し程度にしか思ってないの。何よりもあなた達を騙すのが楽しかったし」

 

クスクスと笑いながらカーネリアはレイナーレの表情を見て楽しむ。

 

「ま、どっちにしろ…アザゼルならアンタのやり方を気に入るはずもないし…ほら、彼って神器研究者だから」

 

「っ!!? あの方を知ってるの!?」

 

「ま、一回会ったことはあるわよ。私は全然興味なかったけど…」

 

そう言うと面白くなくなってきたのか…

 

「そうね。私、あの坊やの所にでも行こうかしらね。面白そうな子だったし…」

 

翼を羽ばたかせて飛び立とうとする。

 

「待ちなさい!」

 

リアスがそれを止めようとしたが…

 

「レイナーレの処分は任せるわ。それと、私は悪魔には特に興味ないから邪魔はしないわ。じゃあね」

 

それを最期にカーネリアはその場から姿を消した。

 

その後、レイナーレはイッセーに助けを求めるが、それをイッセーは涙ながらに拒否。

リアスの逆鱗に触れて消滅してしまった。

残った神器は、リアスの持っていたもう一つの僧侶の駒と一緒にアーシアの遺体へと入り、アーシアを悪魔として転生させた。

 

そして、もう一つ。

イッセーの神器は13個あるという『神滅具(ロンギヌス)』の一つ『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』であることが判明した。

 

後日、そのような経緯からイッセーに使用された兵士の駒の数も8個全て消費されていたこともわかった。

つまり、リアス・グレモリーの兵士はイッセーただ1人ということである。

また、アーシアも駒王学園へと編入することになった。

 

 

 

だが、あの戦いで姿を消したカーネリアはというと…

 

「久しぶりね、坊や」

 

「あなたは…」

 

忍の前に姿を現していた。



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2.渇望修行のティアーズ
第八話『涙とすれ違いと絶唱』


四月も終わりに近づき、ゴールデンウィークが間近に迫ってきた…。

それは少数派の堕天使とのいざこざがあってから二週間くらい経った頃の出来事だった。

 

朝の明幸組の屋敷の居間では朝食の時間であったのだが…

 

「ふふ…」

 

「むぅ…」

 

「わ、わぅ…」

 

微笑むカーネリアとむくれた智鶴が睨み合っており、それを見て忍が困っている。

そんな光景だった。

 

何故、このようなことになっているのか…。

事の発端は二週間前の堕天使との戦いの直後まで遡る。

 

………

……

 

深夜。

 

「久しぶりね、坊や」

 

カーネリアは6枚羽を生やした状態で、明幸組の屋敷の塀に腰を掛けて忍を見ていた。

 

「あなたは…」

 

カーネリアの気配(というか匂い)を感じて目を覚ました忍が縁側でカーネリアを見て警戒していた。

 

「そう警戒しないでちょうだい。別に取って食おうって訳じゃないんだから」

 

そうカーネリアは言うが、一度は刃を交えた関係上、警戒はそう簡単には解けなかった。

当然と言えば、当然なのだが…

 

「……じゃあ、何の用ですか?」

 

深夜で月が出ているということもあってか、忍の瞳は若干赤みがかった紫色に変色していて、瞳孔も縦に変化しており、その眼を細めてカーネリアを見ていた。

雰囲気も昼間に比べたら少し落ち着いたようにも見える。

 

「そうね。強いて言うなら…あなたに興味があるから…じゃ、ダメかしら?」

 

「僕に…?」

 

「えぇ…今はあの時みたいなギラギラしたものは感じないけど…その奥底に潜む野性的な衝動が、ね」

 

「何を…」

 

忍にはカーネリアが見ている自分の中の衝動が理解できないでいた。

 

「ふふ…」

 

フサァ…

 

塀から降りるように飛ぶと、縁側の忍に近付き…

 

「私もここに住んでもいいかしら?」

 

「……………は?」

 

一瞬、カーネリアに何を言われたのかわからなかった。

 

「あなたの側にいれば、いつか私の求めるモノが出てくるかもしれないから…見逃したくないのよ。だから、私もここで住まわせてちょうだい」

 

そう言いつつも忍の首に腕を回して抱き締めるような態勢になる。

 

「いや、それは…」

 

忍もまた居候の身。

こんなことを勝手に決められるはずもない。

 

すると、そこへ…

 

「あなた、ここでしぃ君と何をしてるんですか?」

 

わなわなと怒りで体を震わせている智鶴がカーネリアの首筋にドス(要は小刀)を押し当てる。

 

「ち、ちぃ姉…!?」

 

「別に…ただこの坊やとお話をしてただけよ」

 

智鶴の怒気に触れてもどこ吹く風のように受け流す。

 

「それに…堕天使が悪魔の領分を侵すつもりですか?」

 

「へぇ、悪魔との関係も知ってるみたいね。ならちょうどいいわ。私、悪魔とのいざこざなんてどうでもいいのよ。私は純粋にこの坊やに興味があるだけ。別に坊は悪魔側って訳でもないんでしょ?」

 

「そ、それは…」

 

カーネリアの言葉に智鶴も言葉を詰まらせる。

 

「ならいいじゃない。あなたが悪魔の知り合いだとしても坊やには関係ないものね」

 

「しぃ君にも悪魔の知り合いくらいいます!」

 

いや、確かにイッセーがいるけども…論点がズレてないか?

 

「そうだとしても坊やが悪魔に義理立てするようなことではないわ」

 

「それは…」

 

確かに忍は三大勢力には属していない存在。

どうするかは忍が決めることでもある。

 

「この坊やの事が大切なのね。でも、この坊やの闇を見てもあなたはそれを受け止められるかしらね?」

 

「どういう意味ですか…?」

 

「いずれわかるわ」

 

そう言いながらドスの切っ先を指で押し返し、忍から離れる。

 

「そうだ。部屋を一つ貸してくれないかしら? 当分、ここに住み込みたいと思ってるの」

 

そして、いけしゃあしゃあとそんなことまで言い出す。

 

「………いいでしょう」

 

しかし、智鶴はそれを承諾してしまった。

 

「ちぃ姉!?」

 

「但し、しぃ君とは反対側の私の隣の部屋です。しぃ君に何かあったら…」

 

「それで十分よ。これでお互いに秘密が出来たわね」

 

カーネリアの言う秘密とは…恐らくは忍の中に眠る闇のこと。

そして、智鶴はカーネリアを悪魔側から意図的に匿うことである。

 

「リアスちゃん、ごめんさない…でも、こればかりは譲れないの…」

 

友人への謝罪を小さく呟き、忍の方を見る。

 

こうしてカーネリアは明幸組の第二の居候として屋敷に留まることになった。

 

………

……

 

場面は冒頭へ戻る。

 

「しぃ君には学校あるの!」

 

「一日サボるくらい許容しなさいよ。私はここ二週間箱詰め状態なのよ?」

 

智鶴は学園があると譲らず、カーネリアもまた暇を持て余してるため外でたまには羽を伸ばしたいと言い、それに忍を付き合わせたいらしい。

要は忍の取り合いである。

 

「坊ちゃんも大変ですな~」

「お嬢はあの姉ちゃんが来てから情緒不安定なのが気になりあすが…」

「うんうん」

 

その様子を眺めながら三人組が呑気に食事をしている。

 

「(はぁ…僕の生活、どうなるんだろう…?)」

 

そんな平和そうに見える光景の一方で…また、新たな事件(?)が発生しようとしていた。

 

………

……

 

その日の放課後のことだった。

 

オカルト研究部にて一つの騒動が起きていた。

それはリアスの婚約の事である。

ちょっとした御家事情からグレモリー家とフェニックス家との縁談が前々から持ち上がっていた。

しかし、古い悪魔同士の婚礼に反対気味のリアスは結婚を拒否。

生涯の伴侶は自ら見つけると言うが、それを許されないのも仕方ない。

そして、グレモリー卿ことリアスの父親は娘が拒否した時のために非公式のレーティング・ゲーム…つまるところ身内同士での決着の準備を進めることになった。

リアスをそれを承諾し、自らの運命を切り開くことを選んだ。

しかし、その際…イッセーが相手側の兵士の1人に一撃で倒されてしまい、醜態を曝すことになってしまった。

イッセーを鍛え上げるため、リアスに与えられた時間は十日。

ゲームはゴールデンウィークを挟んで十日後。

 

こうしてリアスの許嫁『ライザー・フェニックス』とのレーティング・ゲームが決まったのである。

 

ライザー達が帰った後のこと…。

 

「部長、すみません…無様な姿を曝しちゃって…」

 

イッセーはリアスに頭を下げていた。

 

「仕方ないわ。あなたはまだ悪魔になって一月にも満たないのよ」

 

「でも…」

 

「イッセー。強くなりたい?」

 

「はい! あの野郎をブッ飛ばすぐらいには…!」

 

「それでこそ私の眷属よ。ゴールデンウィークまで待てないから明日から修行を始めるわよ」

 

そんな会話をしていると…

 

「そういえば、あの風鳴 弦十郎という男…かなりの手練れだったわね。人間に頼るのもおかしな話だけど、少し当たってみましょうか」

 

思い出したようにリアスが弦十郎のことを話題に出す。

 

「あのオッサンですか? 確かにめっちゃガタイが良かったですもんね」

 

イッセーも彼の姿を思い出しながら頷く。

 

「ですが、よろしいので?」

 

しかし、朱乃は難色を示す。

 

「いいのよ。相手は成熟した悪魔。しかもレーティング・ゲームの公式戦経験者。こちらに切れるカードがあるなら使ったって構わないでしょ? それに魔力に関してはこちらも一緒に同行するのだから平気でしょ」

 

「ですが、一応の確認は取っておきましょう。あとで難癖を付けられても困りますし」

 

「そうね。朱乃の言う通りかもね。グレイフィアに頼んで許可を貰い、その上で勝ちましょう」

 

リアスの言葉に眷属達が頷く。

そして、弦十郎への剣は意外にもすんなりと通ったそうだ。

ライザー曰く『面白くなればどんな修行でもしてこい。まぁ、勝つのは俺だがな』とだけ伝言で伝えてきた。

 

………

……

 

~同刻・海鳴市地下鉄ホーム~

 

ここでは現在、ノイズが発生しており、それを響が未だに慣れない戦闘を行っていた。

 

ガラガッシャァァァンッ!!

 

その中で瓦礫に埋もれてしまった。

 

「見たかった…」

 

響は瓦礫の中で呟く…。

 

「未来と一緒に流れ星、見たかった!!」

 

ドガァァンッ!!

 

そう叫ぶと共に瓦礫を吹き飛ばすと、怒りのままに獣のような戦いを繰り広げた。

 

「お前達が…小さくても大切な約束を踏みにじるなら…私は…!!」

 

ノイズをあらかた相当すると、一匹のブドウみたいな外見のノイズが地下から地上へと逃げ出す。

 

「ま、待て!」

 

それを追いかけようとすると…

 

「流れ星?」

 

夜空に一筋の青白い光が落ちるのが見えた。

 

≪蒼ノ一閃≫

 

その光は翼であり、最後のノイズを蒼い斬撃によって駆逐する。

 

「~♪」

 

歌いながら地上に降りる翼を見て…

 

「私にも守りたいものがあるんです。だから…」

 

響はそう伝えていた。

 

しかし…

 

「だぁかぁらぁ…どうしたってんだよ!」

 

そこに白銀の鎧を纏った少女が月下の元に現れる。

 

「ネフシュタンの…鎧…!!」

 

それを見た翼は目の色を変えていた。

そして、思い出していた、二年前に起きた忘れようもない悲劇と別れを…。

 

互いに剣とクリスタルの連なったような鞭を構える両者。

 

「や、やめてください、翼さん! 相手は人間です!」

 

そこに翼に抱き着くようにして止めようとする響だが…

 

「「戦場で何をバカなことを!!」」

 

両者が言うことが同じだったのか、見事にハモってしまっていた。

 

「「………」」

 

そのことに一瞬だが、両者は顔を見合わせるが…

 

ギンッ!!

 

「うわぁ!?」

 

刀と鞭がぶつかり、その余波で響を吹き飛ばす。

 

そこからは激しい戦闘となった。

そして、少女の持つ弓っぽい形状の杖から光が放たれると、そこからノイズが出現する。

 

「ノイズが…操れらてる!?」

 

その光景に驚く響であったが、出現した4体のノイズが吐き出した粘液で絡め捕られてしまう。

 

その間も翼と少女の戦いは激化していき…

 

「~♪」

 

最終的に翼はシンフォギアシステムの切り札『絶唱』を歌うことで、周囲一帯のノイズを殲滅し、ネフシュタンの鎧を纏った少女の撃退に成功した。

しかし、その反動は翼に瀕死の重傷を負わせ、緊急搬送されるほどであった。

 

一方で響は翼の覚悟を見て自分の未熟さと、奏での代わりになるという軽率な行いを反省して涙を流していた。

そして、新たな決意と共に自分を奮い立たせるのであった。

 

………

……

 

~翌日・風鳴屋敷~

 

明幸組の武家屋敷のような和風な屋敷の門の前で…

 

「「たのも~!!………………え?」」

 

2人の男女が同じようなことを言って、同じようなことを言う人に驚いていた。

 

「あれ、響ちゃん?」

 

「一誠さん、どうしてここに?」

 

「いや、そっちこそ…」

 

そう、それはイッセーと響だった。

 

但し…

 

「あの2人は何をしてるのかしら?」

 

「様式美というやつですわ」

 

「一歩間違えれば道場破りだけどね」

 

「……(コクコク)」

 

「あ、あの人は確か…」

 

イッセー側にはオカ研のメンバーもいるわけだが…

 

「来たか。って、どうして響くんまでいるんだ?」

 

そこに家主である弦十郎が現れる。

 

「私、強くなりたくて…弦十郎さんなら色んな武術を知ってると思って」

 

それを聞き…

 

「…俺のやり方は厳しいぞ? それについてこれるか?」

 

「はい!」

 

「やってやるぜ!」

 

意気揚々と返事をするイッセーと響だったが…

 

「ところでお前ら…アクション映画は嗜むか?」

 

いきなりそんなことを尋ねられてしまった。

 

「「はい?」」

 

その問いにイッセーも響もきょとんとしてしまう。

 

そして、響とイッセーの修行が始まるのだった。



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第九話『修行と氷結と覚悟』

イッセーと響が弦十郎の元で修行する一方で…

 

「確か、この辺りのはずだけど…」

 

忍は1人、海鳴市にある人物を訪ねるためやってきていた。

そして、待ち合わせの場所として海鳴臨海公園で待機していた。

 

「忍く~ん」

 

そこへ見知った顔が小走りにやってくる。

 

「あ、フェイトさん」

 

それは時空管理局の執務官ことフェイトである。

 

「すみません。突然お呼び立てしてしまい…」

 

「それは構わないけど…急にどうかしたの? 何かあったのかな?」

 

フェイトの言葉に頷きつつ、周りに誰もいないのを確認してから…

 

「実は…」

 

先日経験したノイズとの接触、そこに居合わせた1人の騎士と呼ばれる同い年くらいの少女、そしてその少女から渡されたデバイスの事をフェイトに話していた。

 

「そんなことが…」

 

「はい…」

 

2人は近くのベンチに座っていた。

 

「でも、どうして地球にデバイスの輸送が…? ここにデバイスを扱えるような人材はほとんどいないのに…」

 

フェイトはその輸送自体を不審に思っていた。

 

「わかりません。これがそのデバイスなんですけど…」

 

そう言ってヴェルネクサスの数点をフェイトに見せる。

 

「変わった形だね」

 

「騎士さんの話だと、新型の試作機だそうです」

 

「なるほど…(少し調べてみようかな…)」

 

フェイトは内心で新型機について調べることを考える。

 

「それで、フェイトさん」

 

「なにかな?」

 

「僕に…魔法を教えてくれませんか?」

 

「私が…忍君に?」

 

「はい。どうしても覚えたいんです」

 

忍は決意に満ちた眼でフェイトに魔法の指南を願い出ていた。

 

………

……

 

修行一日目。

 

修行のはずなのだが、何故か弦十郎と共にアクション映画を鑑賞していた。

しかもその映画のコスプレまでしている。

 

「形から入るんですね…」

 

イッセーが少し困惑気味に映画に映っているシーンの俳優と同じポーズを取る。

 

「もちろんだ。こういうのは肌で感じないとならないからな」

 

弦十郎もまた似たような格好をしている。

 

「映画を肌で感じるって言ってもな…」

 

「ほわ~」

 

そんなイッセーとは逆に響は形から入っていた。

 

そして、一通りのアクション映画鑑賞が終わると…

 

「では、行くぞ!」

 

やっと修行らしく走り込みから始まった。

しかし、一日の半分近くを丸々映画鑑賞に費やしていたため、走り込みを始める頃には夜になっていた。

コースは風鳴宅から駒王町、海鳴市を延々と回るという長いものだった。

だが、それくらい走り込まなければ体力がつかないという弦十郎とリアスの共通認識だった。

但し、イッセーには男ということで手足に5kgずつ合計20kgの重しを着けての走り込みとなった。

 

「ぜー、ぜー…」

 

「ほら、イッセー。頑張りなさい」

 

イッセーにはリアスが自転車で追い掛け…

 

「響君もしっかりな」

 

「は、はい!」

 

響には弦十郎が竹刀を装備して自転車で追い掛けていた。

 

 

 

その頃…

 

「それじゃあ、始めようか」

 

「はい。お願いします」

 

神社では忍とフェイトが魔法の訓練をしようとしていた。

 

「私達の使う魔法系統は二種類あって、私や魔導師が使うミッドチルダ式、騎士が使うベルカ式があるんだけど…最近ではミッド式でベルカ式を再現した近代ベルカ式っていうのもあるんだ。それで、忍君はどの魔法が扱いやすそうかな?」

 

そう言って三つの魔法陣が映るサンプル映像を見せると…

 

「あの、フェイトさん…魔法陣って…これの事ですか?」

 

忍は古代ベルカ式の魔法陣を展開してみせた。

しかも色は忍の魔力色である白銀色である。

 

「ベルカ式?! しかも古代の!? な、何で忍君が古代ベルカ式の魔法陣が出せるの!?」

 

その光景にフェイトは酷く驚いた様子で尋ねていた。

 

「えっと…騎士さんの使ってた魔法陣を思い出したら…自然と浮かびまして…」

 

「(そ、そんな簡単に魔法陣は展開できないはずだけど…)」

 

魔法体系を完全に確立していない忍が使えるとは思えないフェイトだったが、現にこうして忍は魔法陣を展開しているので何とも言えなかった。

 

「えっと…じゃあ、ベルカの特徴だけど…ベルカは対人戦闘に特化してて射撃や砲撃とかの魔法はあまり得意じゃないんだ。私の知り合いに古代ベルカの使い手がいるからある程度教えられると思うけど…」

 

そう言いながらフェイトは掌に魔力を球体状にして現すと…

 

バチバチ…

 

「あと、こんな風に魔力を魔法にするプロセスを省いて直接的なエネルギーに変換できることを魔力変換資質って言うの。私の場合は電気。他には炎熱に凍結ってあるんだけど…炎熱と電気は比較的多いんだけど、凍結は結構レアな変換資質なの」

 

魔力を電気へと変換しながらそう説明していた。

 

「そうなんですか…」

 

忍もフェイトを真似て魔力を球体状にして現すと…

 

「変換、変換…」

 

そう呟きながら何かへ変化が無いか見る。

 

「忍君はまだ魔力の扱いに慣れてないから…そう簡単には…」

 

フェイトがそう言ってみたが…

 

シュゥゥ…

 

忍の魔力球から白い気体が地面に向かって落ちていた。

 

「これって…?」

 

「う、嘘…。これって凍結?」

 

忍が魔力変換資質『凍結』を保有していることが判明したのだった。

 

………

……

 

修行二日目~九日目。

 

走り込みから始まった修行は各種筋トレ、シャドー、スパーリング、アクション映画内でも行われていたモノまで幅広く行われた。

特にイッセーはそれら全てを重しありという条件付きで食らいついていた。

これにより、響とイッセーは体内の気を扱えるようになっていき、気の内包量も増えていった。

しかし、イッセーには他にも朱乃から魔力指導、木場から剣の指導、小猫から打撃指導もあり、響の倍以上の地獄を見ていたりする。

しかも魔力に関してはイッセーは弱く、そちらの才能は皆無とまで言われてしまっていた。

ただ、イッセーには少ない魔力でも秘策があるらしい。

 

 

 

一方、忍はというと…

 

「凄い…」

 

フェイトにそう言わしめるほどに忍の学習能力は凄まじかった。

魔力変換資質『凍結』を用いた近接格闘能力はフェイトにも引けを取らないものに昇華しつつあった。

また、ベルカ式では不得手のはずの近距離から中距離用の射撃魔法も自力で開拓するなどその才能を徐々に開花させていった。

 

これは忍やフェイトも知らないことだが、忍の稀少技能『超学習能力』に由来するものである。

 

稀少技能『超学習能力』。

これはあらゆる経験を一度でも視認・体験・理解することで瞬時に自らの技術に取り込めてしまう常時発動型の稀少技能である。

これは魔法に限らず、日常生活や勉学、スポーツなど幅広い分野にも通用しており、成績が良いのもこれの恩恵があってこそとも言える。

さらに修得した技能は自らの手で新たな技能として昇華させる能力にも秀でており、技能を修得すればするほどにその技量は際限なく上がり続ける。

但し、体験や視認しても理解が出来ないとその技術は取り込めない。

 

その超学習能力によって忍もまた恐ろしいぐらいの速度で成長していた。

 

………

……

 

そして、迎えた修行の最終日。

 

「十日間の修行、ありがとううございました!」

 

イッセーは弦十郎に向かって思いっきり頭を下げていた。

 

「いや、俺も男の弟子を持てて楽しかった。何より一誠君はなかなかガッツがあるしな」

 

弦十郎も弦十郎でこの十日間は楽しかったようだ。

ちなみに響は学院に行っていて、この場にはいない。

オカ研メンバーは学園の裏を支配してるので多少の融通は利いたりするのだ。

それを響は羨ましがっていたが…。

 

「詳しい事情は知らないが、これだけのことをするんだ。きっと大きな戦いがあるんだろう」

 

イッセーやオカ研メンバーの表情を見て弦十郎はそんな推測を立てていた。

 

「最後に一つ、一誠君には伝えておこう」

 

「なにをですか?」

 

弦十郎はおもむろにイッセーの肩に手を置くと…

 

「覚悟を持て」

 

「覚悟…?」

 

「そうだ。男なら何時如何なる時も絶対に諦めない覚悟を持って戦に挑むものだ」

 

その言葉にイッセーは…

 

「はい! 俺、絶対にあの野郎をブッ飛ばして、部長を勝たせてみせます!」

 

そう答えていた。

 

「その意気だ!」

 

それを聞いて弦十郎もバシバシとイッセーの肩を叩いていた。

 

「何かあったらいつでも訪ねてこい。また、鍛えてやるからな」

 

「はい! 師匠!」

 

イッセーがそう答えると、リアスが前に出て…

 

「お世話になったわね。十日間イッセーを鍛えてくれてありがとう」

 

「気にするな。若者が教えを乞うなら、それに応えるのが大人の仕事だ」

 

こうして、修行の日々は終わった。

いよいよ、明日はライザーとの決戦である。

 

………

……

 

~明幸組~

 

その夜。

 

スッ…

 

忍の部屋に人影が入っていた。

 

「すぅ…すぅ…」

 

布団で眠る忍の側にその人影はゆっくりと近づく。

 

「しぃ君…」

 

それは音舞姿の智鶴であった。

最近、フェイトの所に魔法を修得しに行って遅く帰ってくる忍を気にかけていた。

 

「(しぃ君は…私が守らないといけないのに…どうしてしぃ君は…)」

 

忍の最近の行動を見ていて智鶴は不安を募らせいていく一方であった。

 

「しぃ君……私は…」

 

忍の寝顔を見る智鶴の瞳は…どこか空虚で狂気に満ちていた…。

 

「しぃ君は…誰にも渡さないからね…」

 

………

……

 

~某所~

 

キランッ…

 

白銀の蠍の像に嵌めこまれた宝石が煌めく。

 

「? 蠍座が反応を示したか?」

 

「誰かは知らないけど、近くに適合者がいるみたいね」

 

「そのようだ。No.7。連れてきてくれるか?」

 

「はいはい。わかりました。ドクター」



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第十話『成果と闇と決着』

~駒王学園~

 

リアス・グレモリー眷属VSライザー・フェニックス眷属の非公式レーティング・ゲーム当日。

場所は駒王学園…を模した専用のバトルフィールド空間。

ゲーム開始時刻は深夜零時。

ゲーム終了は人間界の夜明けまでである。

陣営はリアス達が旧校舎のオカ研部室が本陣、ライザー達は新校舎の生徒会室が本陣となっている。

また、このゲームは両家の関係者達も観戦しており、その中には『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』と称される魔王の1人『サーゼクス・ルシファー』もいた。

サーゼクスはリアスの実の兄なのだが、それを知らなかったイッセーは大いに驚いたらしい。

 

そして、決戦の火蓋は切って落とされた。

 

………

……

 

序盤戦(オープニングゲーム)

リアス陣営は森にトラップを設置し、その上から幻術と霧をかけていた。

そして、次はイッセーと小猫が組んで重要拠点の一つである体育館を押さえるために動いていた。

そこで2人はライザーの戦車と兵士3人と交戦していた。

 

「修行の成果、見せてやる!」

 

赤龍帝の篭手を出現させると、カウントが始まる。

 

『Boost!』

 

「はぁ…ふっ…!」

 

イッセーは弦十郎から習ったアクション映画仕込みの中国武術的な構えを取る。

 

「そんな見かけ倒しで!」

 

兵士の1人が棍の突きをイッセーに見舞うが…

 

「はぁ!」

 

棍の突きを的確に右腕で逸らすと、篭手を纏った左拳で兵士の腹部に打撃を与える。

 

「かはっ!?」

 

思いがけないイッセーの攻撃に兵士の娘は吹き飛ぶ。

 

「ミラ!?」

 

「こんのぉ!」

 

そこへ別の兵士がやってくる。

この兵士は双子で、どっちもチェーンソーを装備している。

 

「(さ、流石にこれは避けるしかねぇか!?)」

 

いくら修行したとは言え、イッセーに弦十郎ほどの実力はないので回避に専念する。

 

『Boost!』

 

こうしてイッセーは戦いながらも倍加の時間稼ぎをして一定時間経ったら倍加した力を解放するとう戦法を取り、兵士3人を相手に優位に立ち回った。

小猫の方も相手戦車に対して優位に立ち回っていた。

 

その後、イッセーは新たな必殺技『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』を披露したのだが…女性陣からしたら最低最悪の技なので味方である小猫もドン引きである。

その内容とは、単純であるイッセーの脳内で女性の衣服を消し飛ばす妄想を延々と繰り返し、そこに魔力の才能を全力で注ぎ込んだ、何とも卑猥で非常識極まりない技である。

 

そこへリアスからの通信が入り、体育館を放棄。

直後、朱乃による雷撃で体育館ごと敵戦車と兵士3名を撃破した。

しかし、作戦が成功したと喜んでいたところを敵女王によって小猫が撃破されるという事態に陥った。

そこへ朱乃が現れて敵女王と交戦。

イッセーは1人、木場と合流すべく走った。

 

………

……

 

イッセー達がレーティング・ゲームを行っていた頃…。

 

明幸組の屋敷の縁側で、ちょっとした出来事が起きていた。

 

「なんですか、あなたは?」

 

狂気に満ちた眼で、智鶴は目の前に現れた人物を睨んでいた。

 

「あ~、怖い怖い」

 

その人物とは、腰まで伸ばした黒髪に黒い瞳を持ち、西洋人形のように綺麗で整った顔立ちをした少女だった。

 

「殴り込みでしたら…何処の組か言っていただきましょうか?」

 

智鶴は寝巻の胸元からドスを取り出すと警告を発した。

 

「殴り込み? 組? そんなの知らないわ。私はあなたに用事があるだけよ」

 

しかし、少女はそんなことはお構いなしに言う。

 

「一体、私に何の御用というんですか?」

 

冷たい表情で智鶴は聞き返す。

 

「あなた…力が欲しいとは思わない?」

 

「力…?」

 

少女の言葉に首を傾げる。

 

「そう…あなたの想いを邪魔するやつを排除できるような…そんな力が…」

 

「私の、想い……」

 

それを聞き、真っ先に浮かんだのは…忍の姿であった。

 

「しぃ君…」

 

その眼に宿る狂気が揺らいだのを少女は見逃さなかった。

 

「力が欲しいなら…一緒に来なさい」

 

そう言って少女は智鶴に手を伸ばす。

 

「私は…」

 

智鶴が少女の手を取ろうとした時…

 

「あらあら…何をしてるのかしら?」

 

屋根の方から声が聞こえてくる。

 

「ちっ…邪魔か」

 

少女が舌打ちして屋根を見ると、そこには黒い翼を広げながら屋根の縁に座っているカーネリアの姿があった。

 

「堕天使」

 

「あなたも色々と混ざりモノが多いように見えるわよ?」

 

「ふんっ…」

 

次の瞬間、少女の右腕が黒く変色すると肥大化していき、巨大な獣の手のような姿になると跳び上がってカーネリアを攻撃する。

 

「有無を言わさず攻撃ね。なかなか良い度胸じゃない」

 

カーネリアは飛翔してそれを避けると、黒い光の槍を持つ。

 

「ブラック・チェーン」

 

屋根に着地した少女は右腕をカーネリアに向けると、獣の腕が数本の鎖へと変異してカーネリアを拘束しようとする。

 

「これは…」

 

その様子を見て眼を細めると、カーネリアは光の槍で鎖を断ち切る。

 

「っ…ブラック・ソーサリー」

 

断ち切られた鎖が円盤状となって縦横無尽にカーネリアに襲い掛かる。

 

「厄介ね…」

 

カーネリアは面倒そうに言うと、それを空中を飛び回って避け続ける。

 

「あんな奴がいるんだもの。さぞ鬱陶しいでしょうね」

 

屋根から少女が智鶴にそう言うと…

 

「しぃ君…守る…邪魔…」

 

ブツブツと譫言(うわごと)のように智鶴は狂気の眼をカーネリアに向ける。

 

「しぃ君は…誰にも渡さない…!」

 

強い憎悪にも似た感情が智鶴の中で渦巻く。

 

すると、そこへ…

 

「ちぃ姉!?」

 

ただならぬ雰囲気と戦いの匂いで目が覚めたらしい忍がやってきていた。

 

「しぃ君…しぃ君は戦わなくてもいいのよ。怪我したら大変だものね」

 

もはや正気とは思えない虚ろな眼で忍を見つけると、優しいと言うよりも怖い印象を与える笑みを忍に向けていた。

 

「私に、力を…しぃ君が戦わなくてもいいような…そんな力があるなら…私は…!!」

 

そう屋根の上にいる少女に向かって言っていた。

 

「わかったわ」

 

それを少女は承諾し、智鶴の元へと飛び降りる。

 

「あら、大変」

 

カーネリアは他人事のようにそれを見ていた。

 

「ちぃ姉、なにを!?」

 

寝起きで急いでいたためネクサスを持っていない忍は状況が分からず、混乱していた。

 

「しぃ君。待っててね…ちゃんと守ってあげるから…」

 

そして、次の瞬間には少女は黒い転移陣を敷くと智鶴と共に姿を消すのであった…。

 

「な、なにが…どうなって…」

 

忍は呆然と見ているしかなかった…。

しかし、智鶴が消えた一因には忍も深く関わっているのであった。

 

………

……

 

智鶴が力を求めて消えた頃、レーティング・ゲームはというと…

 

あの後、中盤戦(ミドルゲーム)へと移っていた。

 

木場が兵士を3人倒し、イッセーと合流。

そこで木場は騎士と一対一の勝負を仕掛け、イッセーもまた相手戦車と互角の戦いを演じていた。

その中、相手僧侶の1人がライザーの実の妹『レイヴェル・フェニックス』であるという事実がわかり、ライザーの変態性を垣間見たイッセーであった。

 

しかし、状況は他の敵眷属が集まり包囲されるという事態に陥るも、新たな力に目覚めたイッセーの能力によって木場の神器『魔剣創造(ソード・バース)』が強化されて周囲にいたレイヴェルを除くライザーの眷属達を一網打尽にした。

だが、相手女王と戦っていた朱乃が一度は相手を追い詰めたものの回復アイテム『フェニックスの涙』によって回復した相手女王によって撃破され、木場もまた女王に倒されてしまった。

 

残ったイッセーはアーシアと共にライザーを倒しに向かったリアスを援護するために新校舎へと向かった。

 

そして、ゲームは終盤戦(エンドゲーム)へと場面を移した。

 

「リアス。投了(リザイン)しろ。兵士君はなかなか強くなってきたようだが、それでも俺の足元には及ばん」

 

「ふざけんな! やってみなきゃわからないだろうが!!」

 

ライザーの言葉に激怒したイッセーはライザーに向かって突っ込んだ。

 

結果から言えば、イッセーは負けた。

体術を磨き、体力を増やしたが…不死身のフェニックスを相手にしてそれは付け焼刃でしかなかった。

何度か攻撃は通り、ダメージを与えることは出来た。

しかし、それは逆にライザーの闘争心に火を点け、イッセーを完膚なきまでに叩きのめした。

だが、イッセーは意識を飛ばしながらも懸命に立ち向かった。

その精神力は驚嘆に値するものだった。

 

そして、そんなイッセーの姿を見続けることの出来なかったリアスは…遂に投了してしまった。

 

………

……

 

~某所~

 

「その女が適合者か?」

 

「えぇ、ほぼ間違いないと思うわ」

 

そう言って少女は智鶴を蠍の像の前に連れてきた。

 

「これが…力?」

 

「えぇ…あとはあなた次第よ」

 

少女の言葉に虚ろな眼をした智鶴は蠍の像に手を触れた。

 

「お願い…私に力を貸して…しぃ君を守るための力を…」

 

そう言った瞬間…

 

ヒュッ!!

 

蠍の尻尾が動き、その先にあった大剣が智鶴を襲う。

 

しかし…

 

キンッ!!

 

持っていたドスによって大剣を弾いて見せた。

 

「へぇ…あれを弾くんだ。凄い執念…」

 

少女ですら反応が遅れた攻撃を智鶴が弾いたことに少女は感嘆の声を上げていた。

 

『我が名はスコルピア。あなたの名前は?』

 

「私は…明幸 智鶴」

 

『智鶴様。これより私はあなたの力となりましょう。蠍座の名に懸けて…』

 

カッ!!

 

蠍の像が神々しく輝いた次の瞬間…

 

ジャキンッ!

 

蠍の像は白銀の鎧となりて智鶴の体へと装着されていた。

 

「これで…私はしぃ君を…守れる…」

 

そう言う智鶴の姿は…正に狂気に狂う白銀の戦乙女のようだった。



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第十一話『囚われた狼と紅蓮の焔と蠍の想い』

非公式のレーティング・ゲームが終わり、早一日が経とうとしていた。

 

イッセーはライザーとの戦いで負った傷を癒したものの、その意識は未だに目覚めてはいなかった。

リアスはアーシアを残して他の眷属と共に冥界へと旅立ってしまった。

 

しかし、被害に遭ったのはイッセーだけではなく、明幸組でも事件が起きていた。

突如として現れた謎の少女と共に消息不明となった智鶴を捜しに忍は夜中からずっと走り回っていた。

もちろん、組員も総出で智鶴を捜すために情報収集を行っていた。

 

「(何処…何処にいるの! ちぃ姉!)」

 

夜中から走り回ってるせいか、少し目の下にクマが出来ていた。

ちなみにネクサスも装備済みで、駒王学園の制服姿で探し回っている。

途中、何度か補導されそうになったが…一瞬だけ銀狼の力を使って逃げ切っている。

 

捜す範囲は駒王町から海鳴市まで幅広かった。

少しでも匂いがすれば一発なのだが、転移されてしまったためにその匂いも追う事が出来ないでいた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

そして、今は海鳴臨海公園で膝に手を置いて息を切らしながら少し休憩していた。

 

そこへ…

 

「し、忍君? どうかしたの?」

 

私服姿のフェイトが現れていた。

 

「ふ、フェイト、さん…」

 

「どうしたの? こんなに息を切らして…」

 

心配するフェイトをよそに…

 

「この人…知りません、か…?」

 

忍は一枚の写真を取り出して、フェイトに見せる。

今の忍には智鶴を捜すことしか頭になかったようだ。

 

「(わっ…綺麗な人…でも…)」

 

そこに写る優しい笑みを浮かべた女性を見てフェイトも少し驚いた。

 

「う~ん…見てはいないけど…どうかしたの?」

 

写真を返すと、詳しい事情を聞こうとする。

 

「っ、はぁ…(フェイトさんなら…いいか…)」

 

人手は多いに越したことはないと判断した忍は…

 

「実は…」

 

昨日起きた事情を話そうとしたのだが…

 

ブォンッ!

 

臨海公園を中心に周囲一帯の景色がいきなりセピア色のような光景に変わる。

 

「これは…封鎖領域!?」

 

フェイトは驚いたように周りを見回す。

 

「な、なに…?」

 

忍も周囲の様子に警戒する。

 

ギンッ…ズズ…ズズ…

 

すると入口の方から剣を引き摺るような音が聞こえてくる。

 

「あれは…?」

 

フェイトが音のする方を見ると、そこには白銀色の鎧を着込んだ女性がこちらに向かって歩いてきたのだ。

 

「っ!?」

 

そして、そこで忍はある匂いを気づく。

それは良く見知った匂い…いや、何処にいても忘れはしない、忍にとっては馴染んだ匂い…。

 

「ちぃ…姉…?」

 

そう呟いてみると…

 

「しぃ君。み~つけた…♪」

 

紫のバイザー越しに見えるその瞳はとても空虚であった。

 

「あの人が…忍君の捜してた? でも、これって…」

 

忍の近くにいたフェイトは謎の鎧を纏い、剣を持った』女性が忍の捜してた人物だと悟るが、鎧の反応を見て困惑していた。

 

「しぃ君…誰かな? その女の子は?」

 

目聡くフェイトの姿を見つけると、その瞳から殺気が放たれる。

 

「ちぃ姉! ちぃ姉こそ何処に…それにその鎧は…!?」

 

「しぃ君。質問に答えて…その女の子は誰なの?」

 

忍の問いには答えず、智鶴は質問を続ける。

 

「フェイトさんは…僕を助けてくれた恩人だよ。僕に魔法を教えてくれたし…」

 

埒が明かないと見た忍は素直にそう答えると…

 

「そう…あなたがしぃ君を戦いに巻き込んだのね?」

 

あらぬ方向へと話が飛んだ。

 

「え? ち、違います! 忍君は…」

 

まさかの解釈にフェイトも否定しようとするが…

 

「問答無用!」

 

そして、いきなり大剣を振りかざして一足にフェイトへと斬りかかっていた。

 

「なっ!?」

 

いきなりのことにフェイトも自身のデバイス『バルディッシュ・アサルト』を起動させて大剣を防ぐ。

 

「フェイトさん!? ちぃ姉?!」

 

その光景に忍もネクサスを起動させると、智鶴を羽交い絞めにした。

 

「やめてよ! そんなのちぃ姉らしくないよ!」

 

必死で止めようとする忍であったが…

 

グサッ!!

 

「がぁっ!?」

 

智鶴の後頭部から垂れ下がっていたユニットが器用に動くと、その先端から紫色の二等辺三角状の刃が形成されて忍の背後から突き刺す。

 

「しぃ君は…私が守るからね。だから今は眠っててね…」

 

そう呟くのを聞いて、忍はこれが智鶴の手によることだと悟った。

 

「ちぃ、姉…な、んで……」

 

ぐったりした様子で忍はその意識を飛ばしていた。

 

「忍君!!?」

 

それを見てフェイトも忍を助けようとしたのだが…

 

「私の邪魔をしないで!!」

 

「くっ!?」

 

その咆哮と共に大剣を一閃すると、フェイトはその勢いのまま吹き飛んでしまった。

 

「しぃ君…」

 

吹き飛んだフェイトに目もくれず、智鶴は忍を抱き抱えて目の前に円状の門を作り出す。

 

「ずっと…私が守ってあげるからね」

 

そう言い残し、忍を抱えた智鶴は門の向こう側へと消えていった。

 

「一体何が…それにあの魔力反応は…」

 

残されたフェイトは智鶴の纏っていた鎧と魔力が気になったのか、すぐに自分の住むマンションへと駆けていった。

 

………

……

 

忍が智鶴に連れ去られて数時間が経った頃…

 

とある研究所にて忍と智鶴の姿があった。

 

「(ここは…?)」

 

忍は意識を取り戻したものの体を動かせない状態だった。

それは連れ去られた時に刺された刃から毒を注入されており、それによって意識を取り戻しても体が動かせないようになっていたからである。

 

「しぃ君…」

 

智鶴はそんな忍の隣のベッドで寝ており、その傍らには蠍座のシンボルとゲイト(サークル状の門)の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のガーネットを携えた白銀色のチェーンブレスレットが無造作に置かれていた。

 

「(ちぃ姉は…一体どうしたっていうんだ…)」

 

そう考えていると…

 

「やっと眠ったか」

 

そこへ壮年な男性がやって来た。

 

「初めまして、紅神 忍君。私はシャドウというしがない研究者だ。ちなみに周囲からの私の評価はマッドサイエンティストだそうだ。自分でもそう思うよ」

 

そう言って男性…シャドウは軽い自己紹介を忍に行っていた。

 

「先に謝っておこう。私は君の血液を採取し、分析した。そして、さらに最近入手した変わった血液サンプルを2種類ほど君の中へと注入してしまったよ」

 

「(なっ!!?)」

 

自分が意識不明の間にそんなことをされていたので、忍は酷く驚いていたが体が動けないのでシャドウを殴れも出来ない。

 

「君の血液データは非常に興味深かった。なにせ、"人間の血液が一滴たりとも入っていなかった"のだから」

 

その事実を聞き…

 

「(…………………は?)」

 

忍は一瞬頭の中が真っ白になった。

 

「正確に言えば、動物的遺伝子と人型の妖怪遺伝子が見つかったと言える。片方は覚醒してるようだが、もう片方はその片鱗が現れ始めたところかな? しかし、新たに投与した血液がどのような作用を引き起こすか未知数だからね。非常に興味深く楽しみではある」

 

忍の様子を気にも留めず、シャドウは喋り続ける。

 

「(ちょっと待てよ…僕は…人ですらない? 狼は知ってたけど…人型の妖怪? じゃあ、僕は一体…それになんだよ、血液って…ふざけないでよ!)」

 

忍の中の怒りがふつふつと煮えたぎり始める。

 

「しかし、不思議なものだ。人の血を持たない君がリンカーコアと呼ばれる魔法機関を宿している。実に興味深いサンプルだよ。一体君は何なんだろうね?」

 

そう言った瞬間…

 

カッ!!

ボアアアア!!!

 

忍を中心にして紅蓮の焔が巻き起こる。

 

「っ!? しぃ君!?」

 

熱波によって目覚めた智鶴が忍に近寄ろうとしたが…

 

「アンタ、死ぬ気? こんな熱量じゃ近づけないよ」

 

部屋の外で待機していただろう少女が腕を変異させて智鶴とシャドウを紅蓮の焔から守っていた。

 

「ふざけるな…」

 

低い声が室内に響き…

 

「ふざけるなよ…!!」

 

憎悪に満ちた瞳をシャドウに向け、焔の中で忍の姿が歳相応の青年の姿へと成長していく。

心なしか忍の背中から紅蓮の翼が生え、髪と瞳も変化したような陽炎状の幻覚が見えた。

 

『バリアジャケット再構築』

 

その変貌にネクサスがバリアジャケットを新調する。

新調されたバリアジャケットは上に紅いシャツを着て、下に黒い長ズボンを穿き、その上からロングコート状の黒衣が羽織られ、両手にはOFGを着け、両足にはコンバットブーツを履いた姿である。

 

「僕は…"俺"は…テメェの実験動物なんかじゃねぇ!!!」

 

ゴアッ!!!

 

そう叫んで紅蓮の焔を纏った拳を少女に守られていたシャドウに向けて突き出すと…

 

ジュワッ!!

 

「ぐっ!!?」

 

少女の変異した腕を突き破ってシャドウの胸を貫いていた。

 

「…………死…いや、命とは…あっけないものだな」

 

それを最期の言葉にシャドウは紅蓮の炎に包まれながら絶命した。

 

「しぃ君…」

 

その光景を見て智鶴は忍を呆然として見ていた。

 

「ちぃ姉…帰ろう。俺達の家に…」

 

そう言って智鶴に手を伸ばす忍だが…

 

「どうして? どうしてしぃ君は戦うの? 私が守ってあげるのに…」

 

悲しそうな表情で智鶴はそう言う。

 

「俺が戦うのは…ちぃ姉…あなたを守りたいから…いつまでも守られてばかりは俺も嫌なんだよ」

 

忍は決意に満ちた言葉と眼で智鶴を見ていた。

 

「しぃ、君…」

 

焔が部屋を包む中で、智鶴は一筋の涙を流す。

 

「俺はもう…小さな忍じゃないんだ。戦える力もある…だから守らせてほしい」

 

その言葉を受け…

 

「私は…しぃ君と…」

 

自然と忍の手を取る智鶴だった。

 

「あ~あ…こんな所で見せつけられてもな」

 

少女が呆れたように2人の様子を見ていた。

 

「とりあえず、逃げるか」

 

「…はい」

 

「私も逃げさせてもらうわ」

 

こうして少女も研究所から脱出することになった。

 

結果…研究所は忍が発生させた焔によって炎上し、内部の資料はほとんどが失われ、被験体となっていたモノもそのほとんどが燃え尽きてしまっていた。

 

「はぁ…これでまた1人か」

 

燃え盛る研究所を見て少女は一人ごちる。

 

暗七(あんな)ちゃん…」

 

少女…暗七のことを心配する智鶴は…

 

「家に来ない? 暗七ちゃんにはお世話になったし…それに行く当てがないなら私が何とかするよ?」

 

そう言っていた。

 

「…………そうね。ドクターもいなくなったし、自由の身でも謳歌しようかしらね」

 

暗七はそれを承諾した。

 

こうして明幸組にまた1人、居候が増えるのであった。

 

しかし…

 

「(シャドウ…アンタは一体俺の中に何を入れたんだ?)」

 

忍は激情のままにシャドウを殺したことを後悔していた。

 

果たして、忍の中に投与された血液とは…?



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第十二話『黄道の軌跡と赤き意志』

時間は少し遡り、忍が智鶴に連れ去られた直後こと。

 

「ユーノ! 今、大丈夫!?」

 

フェイトは自身の住むマンションに戻るや否や部屋から管理局の施設の一つ『無限書庫』に勤めている友人に通信を送っていた。

 

『フェイト? そんなに血相変えてどうかしたの?』

 

通信画面の向こうに眼鏡をかけた青年が現れて不思議そうな表情で尋ねていた。

 

「今すぐ調べてほしいことがあるの!」

 

『また急だね。まぁ、ちょうど手も空いてたし、別にいいけど』

 

それを聞くと…

 

「検索ワードは"白銀の鎧"、"魔力放出"、"デバイス"でお願い」

 

予め答えを用意していたワードを伝える。

 

『随分と限定した条件だね。検索してみるよ』

 

そう答えると青年…ユーノは魔法陣を展開して検索魔法を展開してみせた。

 

『"デバイス"から検索して…"魔力放出"と"白銀の鎧"に絞ると…』

 

しばらくすると一冊の資料がユーノの手元に引き出される。

 

『あったよ。それに該当するのは…っ?!』

 

資料を読むユーノの顔が凍りつく。

 

「どうかしたの?」

 

それを画面越しに見ていたフェイトがユーノに尋ねる。

 

『フェイト。つかぬ事を聞くけど…また厄介な案件に手を出したのかい?』

 

「……それって、どういう意味かな?」

 

色々と心当たりがあるのか、フェイトは一拍空けてから聞き返した。

 

『それに該当するのは…ロストロギア指定されたデバイス群…通称"エクセンシェダーデバイス"なんだ』

 

「エクセンシェダーデバイス?」

 

聞き慣れない単語にフェイトも首を傾げた。

 

『あまり公式な資料は残ってないから不明な点は多いけど…今フェイトが言ってた特徴を一番持ってるとしたらそれらが該当するんだよ』

 

「詳しく教えて」

 

そこでユーノから聞かされた事実は三つ。

 

デバイス自体に半永久的な魔法機関は搭載されていること。

 

地球でいうところの黄道十二星座を模していてその数は12機、存在していること。

 

各星座にはそれぞれ強大な特殊魔法がシステムとして組み込まれていること。

 

『正直、管理局内でも噂レベルの指定だと思われてるらしいけど…実在しているとなれば話は別かもね』

 

最後にユーノはそう言っていた。

 

「もし…あれが本当にそんなデバイスなら…」

 

『危険だろうね』

 

その見解は一致していた。

 

「ありがとう、ユーノ」

 

『一応、なのは達にも連絡しておくからフェイトも気をつけてね』

 

「うん」

 

それを最後に通信を切っていた。

 

その数時間後、近くの山にあった廃病院で火事が起こるとのニュースが報じられた。

 

その後、忍との連絡もついて一安心したものの、成長した彼の姿を見て唖然としたのだが…。

 

それはまた別の話であった。

 

………

……

 

~???~

 

「ここは…?」

 

イッセーは赤い炎に包まれた空間の中にいた。

 

『ここはお前の精神世界…それとも夢の中とでも言えばいいのか?』

 

野太い声がその場に響く。

 

「精神世界? ならお前は一体誰なんだ?!」

 

イッセーはその声の発生源を捜す。

 

『俺はお前の左腕にいるモノだ』

 

「左腕!? ならお前が…!」

 

それを聞くと、イッセーの左腕に篭手が出現し、そこから赤い龍が出現する。

 

『我は赤き龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)、ドライグ』

 

「赤き龍の帝王…ドライグ…」

 

その雄大な姿を見上げるイッセー。

 

『せっかく修行したのにこのざまとは…"白い奴"に笑われるかもな』

 

「うるせぇな! てか、白い奴ってなんだよ!?」

 

『そのうちわかるさ。それよりも龍を宿した者が敗北したまま、おめおめと引き下がるつもりか?』

 

その言葉に…

 

「ふざけんな! あんな野郎に部長を渡してたまるかよ…!」

 

イッセーはそう怒鳴っていた。

 

『ならば、もっと力をつけることだな。それにもしもの時は俺もお前に力を分け与えてやるよ。まぁ、力を得るには犠牲を払うが…それだけの価値を与えてやるさ』

 

その言葉を最後にイッセーの意識は現実世界で覚醒しつつあった。

 

………

……

 

そして、イッセーは二日間による眠りから目覚めた。

目覚めた直後に会ったのはグレモリー家のメイド『グレイフィア・ルキフグス』であった。

グレイフィアはイッセーが目覚めると、イッセーの表情から彼がまだ諦めてないことを悟り、魔王サーゼクス・ルシファーからの伝言を告げ、会場へ直行出来る魔法陣の描かれた紙を渡された。

『妹を助けたいなら、会場まで殴り込んできなさい』と…。

それを受け、最初は困惑していたイッセーだが、すぐに行くことを決意した。

イッセーが目覚めて泣いていたアーシアにそのことを話した。

その後、イッセーは…篭手に宿る龍との取引を交わした。

 

そして、イッセーは冥界で開かれているパーティー会場へと転移した。

転移後、イッセーは文字通りの殴り込みを果たし、仲間の助けと魔王サーゼクス・ルシファーの提案によってライザーとの一騎討ちをすることとなった。

 

一騎討ちはレーティング・ゲームで使われるような特殊な空間で行われることとなった。

 

対峙するイッセーとライザー。

 

「あれだけ痛めつけられたというのに懲りない小僧だ。恥の上塗りにここまで来るとはな」

 

「うっせぇよ。あの時はあの時、今は今だ! 今度こそ俺はお前をブッ飛ばす!」

 

そう言うとイッセーは構えを取る。

 

「それだけで俺を倒せると思うなよ!」

 

火の翼を広げると、ライザーは空へと飛び上がる。

 

「部長! 15秒でケリを着けてみせます!」

 

「はははっ!! なら俺はそれよりも早くお前の口を封じてやる!」

 

そう言ってライザーはイッセーに向けて炎の弾を撃ち出す。

 

「はぁ!!」

 

火の弾を篭手によって弾かせ…

 

「慌てんなよ、こっからが正念場だ! 輝きやがれ、赤龍帝の篭手! オーバーブーストッ!!」

 

『Welsh Dragon Over Booster!!』

 

篭手の宝玉から赤い閃光が放たれ、イッセーの全身に赤い龍を模した鎧が纏われていった。

左腕篭手の手の甲部にあった宝玉も右手の甲、両腕、両肩、両膝、胴体中央にも出現していた。

 

「その姿は?!」

 

禁手(バランスブレイカー)、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』だ!」

 

「禁手?! 忌々しい外法をこの短期間で修得したというのか!?」

 

ライザーはイッセーの姿に驚いていた。

 

≪ⅩⅤ≫

 

「時もないから速攻で行くぜ!!」

 

背中のロケットブースターを噴かし、イッセーもまた空へと飛ぶ。

 

「うおおおっ!!」

 

魔力の塊を作り出すと、それをライザーに向かって撃ち出す。

 

「なっ?!」

 

ライザーは驚きつつもそれを避ける。

 

≪ⅩⅣ≫

 

「ここだぁ!!」

 

その隙を突いて一気に近づき、左拳による正拳をライザーの腹部へと叩き込む。

 

「ぐぉっ!?」

 

その打撃にライザーは怯むもののすぐに傷は再生していった。

 

「ふっ…この程度の傷、どうということは……がはっ?!」

 

しかし、すぐに吐血していた。

 

≪ⅩⅢ≫

 

「き、貴様…何をした!?」

 

突然起きた出来事にライザー自身も困惑していた。

 

「もしかして…こいつのことか?」

 

そう言ってイッセーが見せたのは…

 

「十字架だと!?」

 

イッセーは左拳を解くとそこから悪魔の天敵である十字架を見せていた。

 

≪ⅩⅡ≫

 

「あぁ、うちの僧侶は元シスターだったからな。机の奥にしまってたのを借りてきたのさ」

 

「バカな! 十字架は悪魔にとっては天敵そのもの! いかにドラゴンの鎧を着ていようと……ッ!!?」

 

そこでライザーはあることに気づき、イッセーの左腕を凝視した。

 

「ま、まさか…貴様、腕に宿るドラゴンに…自分の腕を…!!」

 

「ドラゴンの腕なら悪魔の弱点は関係ないからな!!」

 

ライザーの読み通り、イッセーは自らの腕を犠牲にこの力を手にしていたのだ。

 

≪ⅩⅠ≫

 

「正気の沙汰とは思えん! その腕はもう二度と戻らないんだぞ!?」

 

ライザーがイッセーの行動に正気を疑っていると…

 

「それがどうしたッ!!!」

 

そんなことを関係ないとばかりにイッセーも吠えた。

 

「俺の腕が戻らない事よりも…部長が戻らないことに比べたら安い取引だ!!」

 

そう叫ぶと十字架を握り直してライザーへと向かう。

 

≪Ⅹ≫

 

「それほどの覚悟だというのか!!?」

 

「そんなの当たり前だろうが!!」

 

ゴスッ!!

 

今度はクロスカウンター気味に互いの拳が入る。

 

「ぐぁ!?」

 

ライザーの炎を纏った拳を受け、鎧の仮面部が砕かれる。

 

≪Ⅸ≫

 

「ぐぅぅ!!?」

 

いくらライザーにダメージを与えていてもイッセーには決定打に欠けていた。

 

「俺は火の鳥と鳳凰! 不死鳥と称されしフェニックス家の男だ! この程度で倒れるか!!」

 

そう叫ぶとライザーは炎の翼を広げると、その炎を纏ってイッセーに突撃を仕掛ける。

 

「そんな炎の熱で俺を焼けると思うなよ!!」

 

イッセーもまた気とは異なる赤いオーラを纏ってライザーの突撃を迎え撃つ。

 

≪Ⅷ≫

 

チュドォォォンッ!!!

 

炎と赤いオーラの塊同士がぶつかり、衝撃の余波がフィールドの空気へと伝わる。

 

「ぐあぁぁっ!?」

 

炎によって鎧の胴体部も砕け散る。

 

「ぐぅぅっ!?」

 

赤いオーラと十字架の攻撃で怯んではいるものの、やはり再生してしまう。

 

≪Ⅶ≫

 

「例え、それほどの代償を払ったとしても…勝者は俺なんだよ!!」

 

ライザーは再生しながらそう言い放ち、イッセーの胸倉を持ち上げる。

 

「なら、これでどうだ!!」

 

胴体から露出した制服の中から左手を突っ込み、ある物を取り出す。

 

「ふんっ…今度は聖水か? しかし、それっぽっちの量で!!」

 

それは小瓶に入った聖水だった。

 

≪Ⅵ≫

 

「それはどうかな?」

 

「なに?」

 

油断しているライザーに不敵な笑みをこぼすイッセーは…

 

赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!」

 

『Transfer!』

 

倍加した力を聖水に付加し、それをライザーへと振り掛けた。

 

≪Ⅴ≫

 

「しまっ…!?」

 

ジュワアアアア!!!

 

「ぐああぁぁぁぁ!!?」

 

強化された聖水がライザーの顔へと直撃し、ライザーの体力と精神を消耗させていく。

 

「アーシアが言ってたんだ。聖水と十字架が悪魔は苦手だってな。そいつを同時に高めれば悪魔には相当なダメージになるよな!」

 

「この…クソガキがぁぁぁぁ!!」

 

≪Ⅳ≫

 

怒りのままライザーが炎の弾をイッセーに投げ付けるが、イッセーはそれを跳んで避ける。

 

「木場が言っていたんだ。視野を広げて相手を見ろってな!」

 

そして、残った聖水を左手の十字架に振り掛け…

 

『Transfer!』

 

倍加の力を付加し、魔力も拳に集め始める。

 

「朱乃さんが言ってた。魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集める。意識を集中させて魔力のは波動を感じればいいってな!」

 

≪Ⅲ≫

 

そして、残り時間も迫ってきた。

 

「小猫ちゃんが言ってた。打撃は中心点を狙って的確に抉り込むように打つってな!!」

 

最後にありったけの力を左拳に乗せる。

 

「そして、師匠も言ってた。稲妻を喰らい、雷を握り潰すように打つべしってな!!」

 

それを見たライザーは…

 

「ま、待て! わかっているのか?! この婚約は悪魔の未来のために必要で大事なことなんだぞ!? お前のような悪魔になりたての下級の小僧がどうこう出来る問題じゃないんだぞ!?」

 

≪Ⅱ≫

 

最後に自らの不利を悟ったライザーはそう捲し立てるが…

 

「難しいことはわかんねぇよ。それでも…お前に負けて気絶しても…俺は薄らと覚えてたことがある」

 

そう言ってイッセーが駆け出し…

 

「部長が泣いてたんだよ!!」

 

ライザーに近づくと…

 

「俺がテメェを殴るには…それだけで十分な理由なんだよぉぉッ!!!」

 

≪Ⅰ≫

 

ライザーの腹部目掛けてアッパーカットの要領で渾身の一撃を食らわす。

 

「がぁ!?!?」

 

その一撃にライザーは血を吐きだしながら腹部を押さえながら後退りし…

 

「こ、こんなことで…お、俺が…」

 

膝をつき、地面に伏するライザー。

 

「部長…俺、勝ちました…!」

 

≪Count up≫

 

イッセーは左腕を天高く掲げてみせた。

それと同時に音声も響き渡り、イッセーの体を纏う鎧も消え、龍の腕と化して篭手を纏った左腕だけが残った。

 

こうしてグレモリー家とフェニックス家の縁談は破談となった。

イッセーはグレイフィアから渡されていた紙の裏の召喚魔法陣によってグリフォンを呼び出すと、リアスを連れて会場から後にしたという。

 

その最中のこと…。

 

「バカね。こんなことをして…」

 

グリフォンに乗るリアスはドラゴンの腕と化したイッセーの左腕を触る。

 

「お得だったんですよ、こうして部長を取り戻せましたから」

 

そう言ってイッセーは笑ってみせるが…

 

「今回は破談に出来たかもしれないけど…でも、また縁談が来るかもしれないのよ?」

 

その言葉に…

 

「次は右腕…それでも足りなかったら眼でもくれてやりますよ。それに…俺だってもっと強くなります。なんせ…」

 

イッセーはリアスの眼を見て…

 

「俺はリアス・グレモリーの…最強の兵士(ポーン)になりますから」

 

そうハッキリと答えていた。

 

「…っ」

 

それを聞いたリアスは…

 

チュッ…

 

「っ!!?」

 

イッセーの唇に自分の唇を重ねていた。

ちなみにこれがリアスのファーストキスだという。

そして、リアスは兵藤家に居候するとまで言い出す始末。

 

余談だが、両家にはそれぞれ既に純潔の孫までいたため、両当主は自らの欲の深さを反省していたという。



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3.聖剣争奪のバベル
第十三話『聖遺物と聖剣と共闘』


五月も中旬から下旬になる頃、またまた事件が起こりました。

 

教会から聖剣エクスカリバーが盗まれたようです。

 

エクスカリバーとは有名な聖剣の一つとされているが、過去の大戦で折れてしまい、7本の剣として復元されたものを指す。

その内、6本はカトリック、プロテスタント、正教会の3か所が2本ずつ保管していて残りの1本は行方不明となっている。

 

そして、今回…そのエクスカリバーの内、各教会から1本ずつが『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部の1人『コカビエル』によって奪われたという。

しかもそれを駒王町に持ち込んで潜伏しているというから厄介である。

 

そのため、駒王町に2人の教会関係者がやってきました。

カトリック教会から来た『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』の使い手『ゼノヴィア』。

プロテスタント教会から来た『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の使い手であり、イッセーの幼馴染みでもある『紫藤 イリナ』。

 

彼女らは悪魔側に対して一切介入しないことを提示した。

理由は堕天使と組む可能性を示唆したからである。

しかし、リアスは兄である魔王の顔に泥を付けないため、堕天使と組むことはありえないと断言してみせた。

 

その際、ちょっとしたいざこざがあり、木場とイッセー対ゼノヴィアとイリナの勝負が行われることになってしまった。

木場は過去の出来事から本来の戦い方を出来ずに敗北。

イッセーは最初こそ良い勝負を見せたが、持ち前の煩悩が先行し過ぎたことと相手の実力を見誤ったための敗北。

この対決後、木場が眷属を離れると言い出していた。

 

………

……

 

~???~

 

「よもや貴様が現れようとは…」

 

「ふふっ…古き堕ちた天使か」

 

とある山奥にある大きな屋敷で2人の男女が話していた。

 

「終末の名を持つ女…貴様の力を借りたい」

 

「珍しいわね。まぁいいけれど…」

 

そう言って女は紅茶を飲む。

 

「じゃあ、そっちを手伝う代わりにこっちにも手を貸してもらいましょうか?」

 

「よかろう。俺達は聖剣を…」

 

「私は聖遺物を…」

 

何かが起ころうとしていた。

 

………

……

 

特異災害対策機動部二課は本部でもある私立リディアン音楽院高等科の地下基地のさらに下(1800m)にある最下層『アビス』にて保管していた完全聖遺物『デュランダル』の移送計画を実行しようとしていたが、その途中の海鳴市の市街結界が張られ、響が乗って櫻井女史の運転する車が護衛車と共に結界内に入るとノイズの襲撃を受けていた。

 

「了子さん、これ…お、重い…」

 

事故って車がひっくり返る事態に陥り、重厚且つ頑丈なケースを車から引っ張り出しながら響がその重さに一苦労する。

 

「いや~、めんごめんご。だったら、それを置いて私達だけ逃げちゃう?」

 

車を運転していた櫻井女史が謝りながらそんなことを言い出す。

 

「そ、それはダメですよ?!」

 

「だよねぇ」

 

櫻井女史は響の言葉に苦笑していた。

 

『-----』

 

そこにノイズが槍状となって突撃してくる。

 

「うわぁ!?」

 

慌ててそれを避ける2人だが、車がノイズによって爆発してしい、その余波で響はケースを落としてしまう。

 

そこへ…

 

「はいはい、ご苦労ちゃ~ん」

 

以前はレイナーレに従っていた神父、フリードが現れていた。

 

「だ、誰ですか!? 危ないですよ!?」

 

突然現れたフリードに響は驚く。

 

「あらら、君ってばお人好しだねぇ~。俺様がこいつを強奪するとか考えないの?」

 

そう言いながらフリードはケースを持ち上げる。

 

「って、重っ! まぁ、厳重なのをゲッチュするからいいけどね。では、俺ってばこれでバイなら」

 

そう言うや否や持っている剣を輝かせて逃げようとするフリードだったが…

 

「フリード・セルゼン!」

 

そこへさらにグレモリー眷属を離れていた木場が現れ、魔剣を振るう。

 

ガキンッ!

 

「おっと、これはこれはこの間の騎士さんじゃ、あ~りませんか! こんな所でどうしたよ?」

 

魔剣をケースで受け止めながら尋ねるが…

 

「君には関係ない!!」

 

ダンッ!

 

右足を地面に向かって踏みつけるとフリードの足元から魔剣の数々が現れる。

 

「おっと!」

 

それを察してかフリードはケースを手放して距離を取った。

 

「逃がさない!!」

 

木場も速度を上げてフリードを追う。

 

「な、なにがどうなって…?」

 

その光景に響が目を丸くしていると…

 

『-----』

 

響の背からノイズが迫っていた。

 

「ちょっとちょっと響ちゃん、危ないじゃない」

 

しかし、櫻井女史が薄い紫いろの膜を展開すると、それによってノイズが炭化していく。

 

「り、了子さん?」

 

櫻井女史の常人ならざる力を目にしてまた驚く。

 

「とにかく…今はノイズを何とかしないとね。響ちゃん、行ける?」

 

その問いに…

 

「はい!」

 

響は力づ強く頷いた。

 

「~♪」

 

響が歌うと、その身にガングニールを纏う。

 

「うっほ、歌って変身とか何処の漫画だよ!」

 

その様子を見てフリードが笑う。

 

「僕を前に余所見する余裕があるのかい!?」

 

木場がフリードの眼前まで近づく。

 

「それがあるんだよねぇ!」

 

そう言ってその場から跳ぶと…

 

『-----』

 

フリードが避けるのを待っていたかのようにノイズが木場へと突撃してきていた。

 

「なにっ?!」

 

それに驚いた木場は反射的に横跳びをしてノイズの突撃を避ける。

 

「くっ……っ!?」

 

避けた先にノイズが待ち構えていたのだが…

 

「てやぁ!」

 

そこへ響が跳び蹴りを放ってノイズを粉砕する。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「君は…確か、立花さん?」

 

木場は響を見て風鳴 弦十郎の元でイッセーと共に修行していた女の子だと思い出した。

 

「あ、一誠さんのお友達の…」

 

響もまた木場のことを思い出していた。

 

と、そこへ…

 

ヒュッ!!

 

「「っ!?」」

 

クリスタルが連なったような鞭が振るわれ、2人は同時にそれを避ける。

 

「今日こそはモノにしてやる!」

 

白銀の鎧…ネフシュタンの鎧を纏った少女がそう叫びつつ響に蹴りを放っていた。

 

ゲシッ!

 

「くっ…」

 

それを響は顔に受けてしまう。

 

「ほんじゃま今のうちに…!」

 

フリードが再びケースに向かうと…

 

「待て!」

 

木場がフリードを追う。

 

「邪魔だ!」

 

そこへ少女が弓みたいな杖『ソロモンの杖』から緑色の光を放射し、木場の進行方向にノイズを出現させる。

 

「なっ!?」

 

木場もその現象に驚き足を止めてしまう。

 

「ひゃっほぅ! 今度こそゲッチュ!!」

 

ケースへと手を伸ばすフリードだが…

 

「ブリザード・ファング!!」

 

またしても邪魔が入る。

声と共にフリードや木場の目の前に現れたノイズに向かうのは、白銀の光の細長いレーザー状の無数に広がる光線だった。

 

「しゃらくせぇ!!」

 

フリードが光線を剣で弾こうとした瞬間…

 

キンッ!

 

着弾した途端に刀身が凍り付いてしまう。

 

「なんですとぉぉぉ!!?」

 

ジュワァァァッ!!

 

フリードの剣に着弾したのとほぼ同時にノイズにも着弾し、音を立てて凍り付いていた。

 

「これは…氷?!」

 

木場もまた目の前で起こった出来事に驚き、硬直していると…

 

「木場君、早く砕くんだ!」

 

「!?」

 

誰の声かはわからなかったが、雷の魔剣で凍り付いたノイズに向かって横薙ぎを繰り出すと…

 

パリィンッ!!

 

呆気なくノイズが砕け散ってしまった。

 

「これは、一体…?」

 

木場が呆然としていると…

 

シュタッ…

 

「はぁ!」

 

木場の背中から襲い掛かってこようとしたノイズからシールド魔法(古代ベルカ式)を展開して防いでいた。

 

「木場君、油断してないで彼を追わないの?」

 

木場の後ろに立つ人物がそう言って促す。

 

「あ、あなたは…?」

 

木場は見覚えのない人物に尋ねる。

 

「う~ん…とりあえず、後で答えるよ。だから早く行きなって」

 

その人物はそう言って右手に魔力を集中させると…

 

「ハウリング・バスター!」

 

白銀の砲撃をノイズに向けて撃っていた。

 

「恩に着ます!」

 

木場はそれを受けてフリードを追った。

 

すると…

 

ヴィィン!

ボコッ!ガゴッ!!

 

ケースの内側にあるものが暴れるような事態が起き…

 

バゴンッ!!

 

ケースに入っていた完全聖遺物『デュランダル』が宙へと浮かぶ。

 

「あれは!?」

 

「こいつがデュランダルか」

 

それを見て響とネフシュタンの少女が反応を示す。

 

「聖剣!?」

 

木場もまた反応を示すが…

 

「いんや、アレはモノホンをコピって作られた別物だよ。うちのボスが言ってたぜ?」

 

フリードが木場の疑問に答えていた。

 

「貰った!」

 

ネフシュタンの少女がデュランダルを手にしようと跳び上がるが…

 

ガンッ!!

 

「渡すものかぁぁ!!」

 

ネフシュタンの少女に体当たりをした後、響がデュランダルを手にした。

 

キィィィン…!!

 

その瞬間、響が手にしたデュランダルを中心にして耳鳴りがしそうな甲高い音が広まった。

 

タンッ…

 

そして、地面に着地した響がデュランダルを掲げると、切っ先が欠けてくすんでいた色から黄金色に輝き、切っ先にもちゃんとした刃が追加された形態へと変化する。

 

「ぅっ…ぐぅぅぅ…!!!?」

 

しかし、それに反して響の様子がおかしかった。

 

「これは……覚醒、それに起動!」

 

その様子をちゃっかり物陰に隠れて見ていた櫻井女史の眼が輝く。

 

「ちっ! そんな力を見せびらかすな!!」

 

一瞬視線を櫻井女史に向けたネフシュタンの少女だが、すぐさま響に向き直るとソロモンの杖からさらにノイズを出現させた。

 

「うぅぅああああああああ!!!!」

 

だが、響が獣染みた咆哮を上げながら振り返ると、その眼を見て…

 

「な、なんだ…?」

 

「おいおい…なんかヤバくね?」

 

ネフシュタンの少女は後退り、その隣にフリードがやってきてそんなことを言う。

 

「うっせぇ! テメェに言われるまでもないんだよ!」

 

「んじゃま、お先に!」

 

言うが早いか、フリードは少女の言葉を聞いた途端に逃げてしまった。

 

「待て、フリード!」

 

木場もフリードを追いかけようとしたが…

 

「おっと」

 

助けてくれた人物に腕を掴まれてしまった。

 

「放してくれ! 僕は彼を…!!」

 

「落ち着いてくれよ。君をイッセー君達の所に連れてかないといけないんだよ」

 

「え…?」

 

『何故、あなたがイッセー君の名を…?』という表情でその人物を見ると…

 

「衝撃がきそうだよ!」

 

その人物はそれだけ言うと、逃げようとするネフシュタンの少女を見て…

 

「(なんだろう…この不思議な匂いは…?)」

 

少し違和感を覚えていた。

 

ズバアアアアアッ!!!

 

しかし、次の瞬間には響がノイズに向けてデュランダルを振るっていた。

その威力は凄まじく結界を張っていなかったら大惨事は免れていなかっただろう。

 

その後、結界が解かれた時には意識を失う響とそれに寄り添う櫻井女史を残し、ネフシュタンの少女は姿を消していた。

ちなみに木場と謎の人物もまたその場を後にしていた。

 

………

……

 

~海鳴臨海公園~

 

「さて…待ち合わせはここだ」

 

その人物はそう言って時間を確認すると…

 

「木場!」

 

「……祐斗先輩」

 

イッセーと小猫が、ゼノヴィアとイリナ、それと駒王学園の制服を着た男子生徒を連れてやって来た。

 

「嫌だぁぁ!! 今すぐ放してくれぇぇぇ!!」

 

ただ、男子生徒の方は小猫に捕まっていて逃げられないようになっていた。

 

「確かアレは…生徒会の新しい人だったっけ…?」

 

そう謎の人物は呟いていると…

 

「ところで木場。そいつは誰だ?」

 

「え? イッセー君の知ってる人じゃないの?」

 

イッセーの言葉に木場も驚いていた。

 

そして、その人物はイッセー、木場、小猫に包囲されてしまった。

 

「あ…そういえば、この姿で会うのは初めてだっけ?」

 

今更ながらその人物は忘れてたように呟いていた。

 

「この姿だぁ?」

 

「うん」

 

そう言うとその人物はどんどん背が縮んでいき…

 

「僕だよ。忍」

 

そこにはイッセー達の知る忍の姿があった。

 

「し、忍ぅぅ!?」

 

「紅神君?!」

 

「……紅神先輩?」

 

「紅神って…あの?」

 

忍を知る駒王学園組は驚きと困惑の声が上がっていた。

 

「結局、その子は誰なんだい?」

 

「子供が大人になってたの?」

 

ゼノヴィアとイリナも首を傾げていた。

 

その後、改めて自己紹介を交えて聖剣破壊計画という名の共闘をすることとなった。

聖剣破壊の件を了承したゼノヴィアとイリナはそのまま足取りを追うこととなって別れた。

 

また、喚いていた男子こと『匙 元士郎』だが、木場の過去を知り、イッセーと意気投合したため、非常に協力的になっていた。

匙もまた、転生悪魔であり、兵士4個を消費して生徒会長『士取 蒼那(本名、ソーナ・シトリー)』の眷属に最近なったばかりである。

 

ちなみに忍はイッセーから木場を見なかったかという連絡を受け、気になった忍は木場の匂いを追っていったら先程の戦闘に遭遇してしまったのである。

そして、成り行きとは言え、木場の話を聞き、少人数では危ないとして協力することとなった。

もちろん、智鶴経由でリアスや会長に知られてはならないので出来るだけ隠し通すつもりだが…一体いつまで通用するか…そこが不安要素ではある。



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第十四話『友と魔弓』

共闘を持ち掛けてから数日後のこと。

 

響の元へとネフシュタンの少女が襲来してきた。

しかし、その戦いで響は親友『小日向 未来』を巻き込んでしまった。

 

その一方で、響を襲撃したネフシュタンの少女こと『雪音 クリス』はネフシュタンの鎧をパージして第二号聖遺物『イチイバル』を発動させ、その圧倒的な火力で響を追い詰める。

しかし、十全でない状態の翼が駆けつけ、今までとは違う圧倒的な剣舞でクリスを戦慄させる。

だが、そこに終末の名を持つ者『フィーネ』と呼ばれる女が現れてソロモンの杖を使ってノイズを操り、翼と響…さらにクリスをもターゲットに攻撃を仕掛け、ネフシュタンの鎧を回収してその姿をくらましていた。

それを追い、クリスもまた姿を消す。

 

そして、戦闘後…響は今まで隠していたシンフォギアのことを知られてしまい、未来と気まずい関係となってしまう。

 

これはその夜の事…。

場所は海鳴臨海公園。

 

「…………」

 

クリスが臨海公園を横切ろうとしていると…

 

「夜道を女の子が一人歩きなんて危ないですよ」

 

駒王学園の制服を着た忍(少年モード)が声を掛けていた。

 

「はっ、ガキがいっちょ前に言う台詞かよ」

 

「これでも僕、もう高校二年なんですよ?」

 

「はぁ!? お前みたいなのが高二って…ホントかよ!」

 

忍の言葉にクリスは驚いてみせる。

 

「本当ですよ。僕はちょっとした用事でこっちにいるだけなんですけど…」

 

「ちょっとした用事?」

 

クリスが忍に聞き返すと…

 

「ちっさなお兄ちゃ~ん」

 

「おい、勝手にいなくなんなよな! 何で俺達がアンタを探さないとならないのさ!」

 

兄妹らしき小さな男の子と女の子が忍を見つけてこっちへやってくる。

 

「あ~、ごめんごめん。ちょっと知り合いがいたからさ。一緒に君達のお父さんを捜のを手伝ってもらおうと思って」

 

ちょっと膝に手を置くだけで子供達の視線まで降ろすと、クリスを指差してそう言ってみせた。

 

「はぁ!? ちょっと待て!? それはもしかしてあたしのことじゃ…」

 

クリスっが文句を言う前に…

 

「わ~い♪」

 

「ありがとな、お姉さん」

 

女の子がクリスの手を取り、男の子もお礼を言っていた。

 

「それにほら…見た感じだと僕まで迷子とか思われますし、あなたくらいの人が一緒だと色々と言い訳も楽なんですよ」

 

そんな2人の様子を見ながら忍はそうクリスに言っていた。

 

「ぐぬぬ…」

 

何ともアホな展開に巻き込まれたクリスだったが、その後は無事に兄妹の父親を見つけてお礼を言われていた。

そして、再び臨海公園まで戻ると…

 

「さっきはありがとうございました。これ、お礼にどうぞ」

 

そう言って忍は自販機で購入したジュースをクリスに渡していた。

 

「これでチャラになる訳じゃねぇからな!」

 

そう言いつつもしっかりと受け取り、一気に飲み干してしまう。

 

「そんなに急いで飲まなくてもいいのに」

 

その様子に苦笑していると…

 

「つか、なんでまだいんだよ」

 

苛立たしい様子で忍を睨む。

 

「少し聞きたいことがあって」

 

「なんだよ?」

 

忍の質問にぶっきらぼうに答える。

 

「何故、あなたは戦うんですか?」

 

「なっ!?」

 

なんでそれをテメェが知ってると言いたげな表情で忍から距離を取った。

 

「この姿だと初めてですものね」

 

そう言うと周りに誰もいないことを確認すると…

 

「なら、これでどうですか?」

 

ピピピ…

 

『Standing by』

 

「ネクサス、起動」

 

ピッ!

 

『Complete』

 

バリアジャケットが展開されると共に忍の身体も成長する。

 

「先日はどうも」

 

そこには先日、デュランダル強奪を邪魔した人物がいた。

 

「お前…!!?」

 

すぐさま臨戦態勢になるクリスだが…

 

「ちょっと待って。俺は別に戦いに来たわけじゃないんだ。君の話が聞きたくて…」

 

そう言って両手を上げると戦意が無いことをアピールする。

 

「あいつと同じようなことを!!」

 

「あいつ?」

 

「お前には関係ない!」

 

そう言い切るとクリスは踵を返して何処かへ行こうとする。

 

「(寂しそうな背中だな…。しかし、ノイズや彼女の匂いとは別に…なんだか香水っぽい匂いがしたな。それに…何処かで嗅いだことのあるような…)」

 

忍はそんなクリスの後姿を見送りながらそんなことを考えていた。

 

………

……

 

その翌日。

クリスはフィーネに使い捨てにされた事実を問い質そうとしたが、ソロモンの杖に呼び出されたノイズ達に一度は囲まれてしまう者のイチイバルを用いて逃走した。

 

その後、クリスを追うようにしてノイズが断続的に出現するが、それをクリス自身が倒しているので被害は最小限に留まっていた。

 

さらにその翌日の土砂降りの日にクリスは海鳴市の街中で力尽きたように倒れてしまい、そこで未来に助けられた。

お好み焼き屋『ふらわー』で手当てを受けた。

しかし、晴れた午後になるとノイズ出現の警報と同時に避難勧告が発令された。

 

それを聞いたクリスは自らの責任感と、未来の制止を振り切って1人、ノイズを迎撃しに向かった。

 

「~♪」

 

その身にイチイバルを纏おうとするも…

 

「ゴホッ! ゲホッ!」

 

土砂降りの中を逃げていたためか、聖詠の途中で咳き込んでしまう。

 

「しまっ…!?」

 

と、そこへ駆けつけたのが…

 

「ふんっ!!」

 

風鳴 弦十郎が地面を力強く踏みつけるとコンクリの道が畳返しのようになって壁となって突撃してくるノイズを阻む。

 

「風鳴さんって…本当に人間なんですか?」

 

そう言って弦十郎が壁にしたコンクリの道をシールドで強化しつつノイズの攻撃を避けながら忍(青年モード)もやってくる。

 

「君に言われたくはないが、俺は正真正銘の人間だ。映画好きの、な!」

 

その壁を破壊してノイズに飛ばして牽制すると、クリスを抱えて一足に建物の屋上に跳んでしまう。

 

「………」

 

その様子を見て忍は疑いの目を向けながら電柱を蹴って屋上へと上がる。

 

「なんだ、その眼は?」

 

「……いえ、気にしないでください」

 

「ふむ…それよりも大丈夫か?」

 

忍の視線に気づきつつもクリスを心配する様子の弦十郎だった。

 

「(彼女に対して何かあるのかな?)」

 

その様子に忍も首を傾げるが…

 

『-----』

 

飛行型のノイズが上がってきたので、おちおち考える暇もなかった。

 

「~♪」

 

そして、今度こそイチイバルを装着したクリスがノイズを迎撃する。

 

「これなら…」

 

それを見て忍も魔法陣を足元に展開すると両手から中距離砲撃『ハウリングバスター』をノイズに見舞っていた。

 

「ちっ、余計なことを…」

 

「本調子じゃない女の子を1人で戦わせるわけにはいかないでしょ?」

 

「よくもまぁ、んなことを…」

 

忍の言葉に呆れるクリスであった。

 

「が、言ってることは正しいか。あたしの邪魔だけはすんなよ!」

 

そう言ってクリスはノイズを引き付けるべく行動を開始した。

 

「はいはい」

 

忍もクリスを追おうとしたが…

 

「紅神君! 彼女は…」

 

「詳しい事情は後で話しましょう。風鳴さんは逃げ遅れた人達の救助をお願いします。居候先の組員も逃げてるだろうし…」

 

最後の方はぼそりと小声でつぶやく程度であったが、それだけ言い残して忍もまたクリスを追った。

 

「……紅神君。君は…堅気か?」

 

気になったのはそこですか。

 

忍はクリスを援護しつつノイズを迎撃していった。

 

その一方で、響も逃げ遅れた未来とふらわーの店長と遭遇していた。

2人を襲っていたノイズはタコみたいな容貌で音に反応するタイプであった。

未来はふらわ-の店長を助けるために自ら囮となって時間を稼いだ。

最終的に未来の危機を響が助ける形となって微妙だった関係が元に戻る。

 

そうしてノイズ掃討後、クリスは一時的に明幸組に身を隠すこととなったのだが…。

 

「事情は分かりました。そういうことなら致し方ありません。でも、しぃ君。そういうことはもっと早く知らせてほしいな?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

智鶴の機嫌を直すため、忍はひたすら頭を下げていた。

 

「鬼嫁?」

 

「ふふっ…むしろ尻に敷かれてるだけじゃないの?」

 

「なんなんだよ、こいつら…」

 

その様子を傍から見ていた居候3号(暗七)、居候2号(カーネリア)、クリスの順に呆れたり面白がったり不思議がってたりしていた。

 

後日、明幸組に弦十郎が訪問しに来て忍にクリスの話をしたのだが、それを智鶴、カーネリア、暗七の3人はしっかりと盗み聞きしていた。

特に智鶴はその内容を聞いて悲しくなったのか、クリスを引き取ろうとまで言い出していた。



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第十五話『聖と魔とバベルの塔』

クリスが明幸組に匿われてから数日後。

事態が大きく動き出した。

 

大型の飛行ノイズが駒王町と海鳴市の上空に2体ずつ現れたのだ。

大型ノイズは小型ノイズをばら撒きながら街の上空を旋回している。

 

「ちょっとこれは…まずいかな」

 

「このままだとこっちにも来そうよね」

 

縁側から街の様子を見ていた忍と暗七が難色を示していた。

 

「そうねぇ」

 

カーネリアも屋根の縁に座って面白そうに街を見ていた。

 

「あたしは行くからな」

 

そこへクリスが意を決したように中庭に出る。

 

「さっきからこいつもうるせぇし…」

 

先日、弦十郎が訪ねてきた時に手渡していた通信機がさっきからピーピーとうるさかった。

 

「そういうことなら…俺達も行くぞ」

 

少年から青年へとなった忍がクリスに同行すると言い出す。

 

「はいはい。私も拾われたようなもんだし…食べた分くらいは働くわよ」

 

「私もなのかしら?」

 

忍の言葉に暗七は渋々といった感じで了解し、カーネリアも首を傾げていた。

 

「お前らな…」

 

クリスが呆れたように3人を見ると…

 

「組の人達は地下に非難しました。私達も…」

 

智鶴が迎えに来てしまった。

 

「………行くの?」

 

そして、4人の雰囲気を見て一言、それだけを尋ねた。

 

「あぁ…力があるなら守らないと、幸いシンフォギアシステムの近くなら俺達の攻撃も届くからね。流石に物理接触は出来ないが…」

 

忍は苦笑しながらそう言ってみせた。

 

「なら、私も行きます。しぃ君が私を守りたいように…私もしぃ君を守りたいから…」

 

そう言って智鶴はスコルピアのチェーンブレスレットを取り出す。

 

「ちぃ姉…」

 

「ホントにアンタも物好きね」

 

しかし、智鶴はスコルピアを持つ以外、普通の人間であるため危険性がかなり高い。

特に多くのノイズを相手にするとなると、誰かが守らなければなくなるのだ。

忍もそれを心配して説得を試みたが、智鶴は断固として行くと譲らなかった。

 

時間も限られていたので、結局は智鶴も行くことになった。

クリスはシンフォギアシステムによる身体強化と、忍はネクサスを起動させてから銀狼になっての地上移動、智鶴と暗七はスコルピアの長距離移動形態『ジェットフォーム』に乗り、カーネリアは翼を広げての空中移動で駒王町へと向かっていた。

幸運なことに住民は避難していたため、それらを見られることはなかった。

 

「行くぞ!」

 

「お前が仕切んな!」

 

戦闘エリアに入ると、忍が先行してそれをクリスがクロスボウで援護する。

 

「ありがとう、スコルピア」

 

『いえ、主の想うままに…チェンジ、アーマード』

 

スコルピアは短くそう答えるとジェットフォームから智鶴の身に鎧状となって装着する『アーマードフォーム』へとなる。

そのため、自然と落下するのだが…

 

ボァァ…

 

スカートユニットから魔力粒子を噴射してゆっくりと降下していく。

 

『次元刀、射出します』

 

後頭部に装着されたテイルユニットが外れると、そこから日本刀が現れた。

 

「しぃ君!」

 

右手に持った大剣『スティンガーブレード』を忍へと投げ飛ばすと、そのまま次元刀を手にした。

 

「っ!」

 

スティンガーブレードを受け取った忍はそれを振るってノイズの突撃を捌いていく。

 

「少しは安全に降ろしてほしいわ」

 

文句を言いつつ暗七は背中から蝙蝠のような黒い翼を広げ、それをパラシュート代わりにして無事に降下していた。

 

「こんな玩具相手に面倒ね」

 

空に浮かぶカーネリアは大型ノイズに対して光の槍を放っていたが、決定打には程遠かった。

その代わり、大型ノイズから放出されるノイズの数は減っていた。

 

すると…

 

「雷よ!」

 

ピシャアアアア!!

 

張れていた空が曇ると、そこから大きな雷が大型ノイズに直撃する。

 

「あら? これって…」

 

その攻撃方法に見覚えがあったのか、カーネリアが首を傾げていると…

 

「消し飛びなさい!!」

 

「ふむ…」

 

背後から聞こえた声にカーネリアは急降下する。

すると、カーネリアの漂っていた場所を通過するように赤黒い魔力の波動が大型ノイズに直撃して跡形もなく消え去る。

 

「今のは!?」

 

その光景に驚いた忍が声を上げると…

 

「きっと…リアスちゃん達だわ」

 

近くで一緒に次元刀の蛇腹機構を用いた中距離戦闘で戦っていた智鶴がそう言う。

 

「そういえば、ここはグレモリー先輩の縄張りだっけ?」

 

「えぇ……なんて言おうかしら?」

 

智鶴が上手い言い訳を考えていると…

 

「これは…一体どういうことかしら?」

 

そう言いながらリアスが2人の所に降りてきた。

 

「何故、堕天使と共闘しているのかしら? それに智鶴…あなたが纏っているのはなに…?」

 

「それは…その…」

 

忍が言い訳に困っていると…

 

「リアスちゃん、今は町を守ることを優先しましょう。幸い、クリスちゃんがいるからノイズを攻撃できるし…」

 

「…………」

 

しばし考えた後…

 

「必ず、教えてちょうだい。じゃないと友として許さないから」

 

「えぇ、わかってるわ。ごめんなさい…」

 

「謝るくらいならちゃんと説明して…」

 

そう言うと、リアスは悪魔の翼で再び空へと飛んだ。

 

その後、リアスや朱乃、カーネリアといった空中戦力によって駒王町側のノイズは撃退に成功した。

駒王町での戦闘が終わると、クリスは智鶴から足として一時的に借りたジェットフォームのスコルピアに乗り、そのまま海鳴市への援軍として急行していた。

そして、残った智鶴はカーネリアと暗七の事情を話していた。

しかし、忍はノイズの行動に少しだけ違和感を覚え、クリスを追って海鳴市へと向かっていた(もちろん、智鶴にはちゃんと言った後で、であるが…)。

 

 

 

「そう、そんなことがあったの…」

 

話し終えた智鶴の言葉にリアスは一言…

 

「一言、相談してほしかったわ」

 

それだけ言っていた。

 

「ごめんなさい、リアスちゃん。朱乃ちゃんも…」

 

「…………」

 

朱乃は朱乃でかなり複雑そうな顔をしていた。

 

「ふふっ…それよりもお客みたいよ?」

 

カーネリアがそう言うと…

 

「カーネリア。貴様、一体何をしている?」

 

空からそんな声が聞こえてきた。

 

「それはこっちの勝手でしょ? "コカビエル"」

 

その言葉にリアスと朱乃が空を見た。

 

「ふんっ、相変わらず生意気な。それよりも初めましてだな、グレモリーの娘」

 

そこには背中から黒い翼を10枚も広げた男がいた。

 

「あなたがコカビエル…一体何の用かしら?」

 

「聞いても無駄よ。どうせ、戦争したがりの気狂いだもの」

 

リアスの問いにカーネリアが口を挟む。

 

「それは貴様も同じだろう…破壊衝動の塊が」

 

「あら、私のはもっと純粋なものよ?」

 

「破壊衝動に純粋も何もあるものか」

 

「戦狂いの戦争狂に言われたくないわ」

 

買い言葉に売り言葉が続いたが、コカビエルは改めてリアスの方を見ると…

 

「そこの裏切り者の言う通り、俺は戦争を始める。手始めにこの街からだ! 戦争の火種というのは小さくも上質なものだからな! お前達が大切にしている学び舎とやらで待っているぞ!」

 

そう言うと、コカビエルは駒王学園の方へと飛び去って行った。

 

「待ちなさい!」

 

コカビエルを追ってリアスと朱乃も飛び去っていく。

 

「私達も行きましょうか」

 

「あの蠍も戻ってきたことだし…いいんじゃない?」

 

「あんまり関わりたくないけどね…」

 

スコルピアが戻ると同時にスコルピアに乗る智鶴と暗七。

カーネリアもそれを追っていた。

 

………

……

 

一方、その頃…。

 

海鳴市では響と翼の他にも戦う人影があった。

 

「プラズマ・スマッシャー!」

 

雷の砲撃でノイズを一掃するフェイトであった。

 

非難勧告は出ていたが、人々を守るためにバルディッシュと共に戦火の中へと飛び込んだのである。

 

「誰だか知りませんが、ありがとうございます」

 

「気にしないで。それよりも早くノイズを」

 

「はい!(なんだか、翼さんと話してるみたい)」

 

フェイトと話した響はそんなことを考えていた。

 

そこへクリスと忍も合流した。

 

「フェイトさん!」

 

「忍君!? どうしてここに…?」

 

到着と同時に背中合わせで忍とフェイトが周囲のノイズへと砲撃を放つ。

 

「ちょっと気になることがありまして…フェイトさんこそ、大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫。みんな非難してるから…よっぽどの事が無い限りは見られないから…」

 

「フェイトさんがそう言うならいいですけど…」

 

「とにかく、今はこの場を切り抜けよう!」

 

「了解!」

 

結果的にノイズの殲滅には成功したものの、戦いはまだ終わってはいなかった。

 

響達が迎撃してる間にリディアン女学院でもノイズの襲撃が起きていた。

それを聞き、響達は急いで現場に向かった。

 

リディアン女学院の地下、特異災害対策機動の本部では櫻井女史ことフィーネがその正体を現してネフシュタンの鎧を纏い、ソロモンの杖を携えてデュランダルを強奪し、カ・ディンギルを起動させようと動いていた。

 

響達が到着する頃には…赤い月が照らす夜となっていた。

 

………

……

 

~同刻・駒王学園~

 

そこにはフリードを追ってきたイッセー達もいて、シトリー眷属が学園を結界で覆っていた。

コカビエルを追ってきたリアスと朱乃も合流すると、グレモリー眷属のみで突入することとなった。

 

そこでは怪しげな儀式も展開されており、そこにはコカビエルとフリード以外にもバルパー・ガリレイという、木場の過去に受けた聖剣計画の統括者もいた。

バルパーは奪い取ったエクスカリバー3本に加え、アジトに来ていたイリナからも奪ったエクスカリバーを含めた4本を一つにした上で、駒王町も崩壊させる術式を完成させていた。

その時間稼ぎにコカビエルがケルベロスを召喚していた。

 

そこへディメンションゲイトによって結界内に入り込んだ智鶴とカーネリアと暗七も参戦する。

 

「ほぉ、面白い。たかが人間が悪魔の張った結界に入り込んでくるとは…」

 

それを見てコカビエルがほくそ笑む。

 

「明幸先輩!? それとお前は…!!」

 

カーネリアの存在にリアスと朱乃以外のグレモリー眷属が警戒する。

 

「みんな、落ち着きなさい。不本意だけど…彼女は敵じゃないわ」

 

「あらあら…随分な言われ様ね。ま、仕方ないけどね。あら?」

 

そこでカーネリアはアーシアを見つけた。

 

「あらあらあらあら…アーシアちゃんってば、悪魔になっちゃったの?」

 

「か、カーネリア様…」

 

「様付けは不要よ。ま、死なないようにね」

 

そう言ってカーネリアは光の槍を背中からグレモリー眷属を襲おうとしていたケルベロスに向かって思いっきり投擲していた。

 

「ギャウゥゥゥ!!?」

 

それは見事に左側の頭に命中すると僅かに後ずさる。

 

「これで貸し一つね」

 

笑いながらカーネリアはそう言ってみせた。

 

「ケルベロス、ねぇ…ただの犬じゃない」

 

カーネリアが一撃を加えた直後に一気に駆け出していた暗七が両手を怪物の手に変化させるとケルベロスに向かって跳躍する。

 

「シャドークロウ!」

 

右頭の首を擦れ違いざまに引き裂くと、ケルベロスの体を蹴って距離を取った。

 

「リアスちゃん!」

 

「えぇ! イッセー! 朱乃に譲渡を!」

 

「はい、部長!」

 

『Transfer!!』

 

イッセーが力を溜めていた力を朱乃に譲渡していた。

 

ピシャアアアアアア!!!

 

残った本体を倍加された朱乃の雷が襲い、ケルベロスを跡形もなく塵に還していた。

 

残ったのはコカビエルとバルパー、フリードだったが、エクスカリバーが1本になったことで、術式が発動してしまい、崩壊まで残り20分となってしまった。

 

そして、フリードは4本の力を束ねられたエクスカリバーで戦いを挑んできたが、そこに木場とゼノヴィアが現れてフリードと交戦を開始した。

 

その中で木場はバルパーから聖剣計画の真実を聞き、膝から崩れ落ちる。

 

聖剣計画とは聖剣を扱うための過去の被験者達(つまりは木場と同じ境遇の者達)から適正因子を高い者から摘出して結晶化することで因子の無い者でも適合者として高めること。

 

その最後の一つをバルパーが木場に投げ捨てるようにして渡すと、それを木場は手に取り涙を流していた。

 

すると、その時…奇跡は起きた。

 

結晶から木場の仲間の魂が溢れだし、彼に聖剣を受け入れる勇気を与え、彼らの想いが一つになった時…木場は至った。

 

禁手、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。

 

本来なら相反するはずの聖と魔…両方の特性を持った剣の創造。

それが木場の発言した禁手であった。

 

その力を持って木場はフリードとエクスカリバーを圧倒していった。

そして、ゼノヴィアもデュランダル(聖遺物ではないオリジナル)を用いて木場と共にエクスカリバーの破壊を成し遂げた。

エクスカリバーを破壊しても、核となっていた部分を回収できれば剣を折っても構わないらしい。

 

その様子を見ていたバルパーはあることに気づいたが、それを口にする前にコカビエルに殺されてしまった。

 

残るはコカビエルのみ。

 

………

……

 

リディアン女学院と駒王学園。

奇しくも二つの学園で最後の戦いが始まろうとしていた。



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第十六話『決戦×決戦・月と白き龍』

そして、始まる二つの戦い。

 

~カ・ディンギル前~

 

天に向かってそびえ立つ巨大な塔型の荷電粒子砲『カ・ディンギル』。

それはリディアンから特異対策機動部二課本部へと繋がるエレベーターシャフトに偽装して開発されていた。

デュランダルを炉心として使用することで無限にも等しいエネルギーを放射するという恐ろしいものであった。

 

櫻井女史…いや、フィーネはこれを用いてバラルの呪詛の源である月を破壊しようと目論んでいた。

しかし、駆け付けたシンフォギア装者と忍、フェイトがそれを止めるべく戦いを挑んだ。

 

≪BILLION MAIDEN≫

 

「フィーネ!!」

 

クロスボウが変形した4門の3連装ガトリング砲からフィーネに向かい、クリスが先制攻撃を仕掛ける。

 

「「はぁ!!」」

 

そこに響と忍が同時に近接戦闘を仕掛ける。

しかし、フィーネもまた戦闘の心得があったのか、2人の攻撃を受け流していた。

 

「この匂い…やっぱり、あなたが黒幕だったんですか?」

 

僅かに香る香水の匂いと、以前クリスから感じ取った匂いを照らし合わせていた。

 

「匂いを嗅ぐ趣味があるとは意外だよ。いや、イヌ科ならわからないでもない特徴か!」

 

そう言ってフィーネは鞭を振るって忍と響を攻撃する。

 

「狼を舐めるな! ブリザード・ファング!」

 

「でやぁぁ!!」

 

忍は下がりながら中距離射撃魔法を放つと、それに合わせるように響がフィーネに格闘を仕掛ける。

 

「これが魔法か!」

 

フィーネは響の攻撃を避けながら鞭でブリザード・ファングを迎撃する。

 

「はぁぁ!!」

 

響が跳び上がると、その後ろから翼が刀によって斬りかかる。

 

「ふんっ」

 

フィーネは鞭を真っ直ぐに固めてそれを受け止めると、すぐに刀を鞭で絡め取って投げ飛ばす。

そして、そのまま翼に向けて鞭を振るう。

 

「くっ!」

 

翼はそれを避けると…

 

≪逆羅刹≫

 

逆立ちした状態から脚部のブレードを展開し、回転し始める。

 

「無駄だ!」

 

それをフィーネは鞭を回転させることで相殺する。

 

『ハーケンフォーム』

 

「はぁ!」

 

そこへ横からフェイトが鎌状のエネルギー刃を展開したバルディッシュで斬りかかる。

 

「管理局の犬か!」

 

「あなた、管理局の事を…!?」

 

「知らないでか! 我々、超先史文明もまた次元の道を開くものが含まれていた。他の次元に聖遺物があるかは知らないが…それでも知り得るに足る因子は多くあるのだよ!」

 

そう言いながらフィーネは翼とフェイトから距離を取る。

 

「こっちだ!」

 

そこにクリスがフォニックゲインを高めて作り出した巨大ミサイルをフィーネに撃ち出す。

 

「ちっ!」

 

それを回避しようとするが、追尾能力があるのかフィーネを追いかける。

 

「スナイプ!」

 

残ったミサイルをカ・ディンギルへと向ける。

 

「狙いはカ・ディンギルか?!」

 

それを見てフィーネが叫ぶ。

 

「デストロイ!!」

 

そして、もう一発のミサイルがカ・ディンギルへと発射される。

 

「させるかぁ!!」

 

鞭でカ・ディンギルへ向かうミサイルを叩き落とそうとする。

 

「それはこっちの台詞だ!!」

 

忍がミサイルの前に飛び出し、鞭を素手で掴む。

 

「邪魔をするなぁ!!!」

 

「なっ!?」

 

鞭をそのまま延長して忍ごとミサイルに鞭を当てる。

 

チュドォォンッ!!

 

「ぐぁあああ!!?」

 

ミサイルの爆発に巻き込まれて忍が地面に落下する。

 

「忍君!?」

 

忍の元へフェイトが駆けつける。

 

「もう一発は!?」

 

上空を見ると、カ・ディンギルの射程上へと向かうミサイルの上にクリスが乗っていた。

 

「クリスちゃん!?」

 

「何をするつもりだ…?」

 

「悪あがきを…だが、もう遅い! カ・ディンギルは月を撃つ!!」

 

フィーネの言う通り、カ・ディンギルから膨大なエネルギーが放たれようとしていた時…

 

「~♪」

 

天高く昇ったところでクリスが絶唱を発動した。

 

カ・ディンギルの砲撃とクリスの絶唱がぶつかり、砲撃は月の直撃を逸れて一部分を破壊するに留まった。

 

しかし、クリスは…絶唱による反動によって地上に落下したまま消息を絶った。

 

………

……

 

~駒王学園~

 

こちらではコカビエルとの激戦が続いていた。

 

「魔剣創造!!」

 

木場がコカビエルの周りに聖魔剣を配置するとそのままコカビエルへと向けて聖魔剣を放っていた。

それをコカビエルは黒き十翼を閉じることで防御していた。

そして、翼を広げると聖魔剣を弾き飛ばす。

 

「ふはははは! こんなものか!!」

 

「まだだ!」

 

そこにゼノヴィアと木場が同時に仕掛け、コカビエルは光を剣状にして両手に持つと、それを軽々と受け止める。

 

「聖剣デュランダル。流石はオリジナルと言ったところか。それに聖魔剣…面白いぞ!!」

 

そんなコカビエルの上空より小猫と暗七が同時に飛び掛かる。

 

「シャドーシェル!」

 

暗七が両腕を分厚い盾のようにしてクロスさせた状態で盾役となって小猫を防御しつつ…

 

「……そこ!」

 

小猫が暗七の後ろから飛び出てコカビエルに仕掛けようとするが…

 

「甘いわ!!」

 

黒き十翼によって暗七もろとも小猫を吹き飛ばし、木場とゼノヴィアも吹き飛ぶ。

 

「まだ終わっていない!」

 

吹き飛んだ木場だが、すぐさま地面をけってコカビエルの間合いへと入り、聖魔剣で突きを放つ。

 

「ふんっ」

 

それをコカビエルは指だけで受け止める。

 

「このっ!」

 

さらにもう一本聖魔剣を出現させて斬撃を放つもそれも受け止められてしまう。

 

「バカが、両手をふさがれては…」

 

「まだある!」

 

三本目の聖魔剣を口で咥えて振るい…

 

ザシュッ!!

 

「ぐっ…?!」

 

コカビエルの頬に傷をつける。

その攻撃にコカビエルも聖剣を放して一旦後退する。

 

「ふんっ!!」

 

コカビエルは傷をつけた木場へ巨大な光の球を放つ。

 

「このぉぉ!!」

 

そこへゼノヴィアが割り込み、デュランダルで光の球を払った。

 

「しかし、使えるべき主もいないというのによく戦う」

 

「どういうこと?」

 

コカビエルの言葉にリアスが問う。

 

「知らないのか? いや、知らない方が都合が良いものだったな」

 

そして、コカビエルは語る。

過去にあった三つ巴の大戦時、先代の四大魔王だけではなく、神もまた死んでいたことを…。

神亡き後、ミカエルが神の代行をしていることを…。

 

それを聞いたアーシアは気絶してしまい、ゼノヴィアも狼狽していた。

 

「神も魔王もいなくなったせいで戦争継続は無意味だと? ふざけるな!! 俺だけでもあの時の続きを…戦争を始めてやる! まずは貴様ら全員の首を持って天界と冥界に宣戦布告してくれるわ!! フッハハハハハハ!!!」

 

狂気の混じった笑い声に全員が戦慄していた。

 

「狂ってるわね」

 

「だから戦争狂なのよ」

 

リアスの言葉にカーネリアが答える。

 

「ふざけてんのはどっちだっ!! そんな理由で俺達の街を…仲間たちを消されてたまるか!!!」

 

『Boost!』

 

その叫びに赤龍帝の篭手が輝き放つ。

 

「それに…俺はまだハーレムを作れてない! それなのに戦争なんて始められてたまるか!!」

 

その言葉に…。

 

「イッセー君なりに…カッコつけてるんだろうけど…」

 

「……いろいろ残念です」

 

木場と小猫が揃って声を上げる。

 

「ハーレムだと? そのくらい俺が用意してもいいんだぞ?」

 

コカビエルの言葉に…

 

「……………」

 

一瞬の静寂がその場を支配し…

 

「そ、そんな甘い言葉に俺が…騙されっかよ…」

 

遅れ気味にイッセーがそう答えていた。

 

「イッセー!!」

 

リアスの怒りを含んだ言葉に…

 

「は、はい!!」

 

イッセーは直立不動となっていた。

 

「そんなに女の子に興味が私が何でもしてあげるわよ!」

 

「あら、リアスちゃんてば大胆」

 

リアスの言葉に近くにいた智鶴が頬に手を当てていた。

 

「な、なんでも……じゃあ、おっぱいを吸ったりとか?」

 

「えぇ、この場を切り抜けられるなら、そのくらいしてあげてもいいわよ」

 

この言葉に…

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

かつてないほどの力の波動がイッセーの篭手から溢れ出してくる。

 

「ふふふ…吸う、吸える……そうと決まれば、俺に倒されてもらうぜ! コカビエル!!!」

 

『Explosion!!!』

 

倍加した力が解放され、イッセーはその場からコカビエルに向かって飛び出した。

 

「むっ!」

 

それを光の槍で迎撃するコカビエルだが…

 

バリンッ!!

 

たったの一撃でそれを粉々に砕くと、イッセーはコカビエルの間合いに入り…

 

「でりゃああ!!」

 

渾身の一撃をコカビエルの顔面に叩き込み、吹き飛ばす。

 

「グオオォォォ!!?」

 

予想外の重い一撃でコカビエルも苦悶の表情を浮かべる。

 

「女の乳でここまで力を発揮するとは…貴様、一体何なんだ!?」

 

コカビエルの問いに…

 

「覚えとけ! 俺は兵藤 一誠。エロと熱血で生きる赤龍帝の篭手の宿主で、リアス・グレモリー様の兵士だ!!」

 

そうイッセーは吠えていた。

 

「ふふっ…面白い眷属ね」

 

「あらあら…」

 

「でも、イッセー君らしいですわ」

 

「……でも、やっぱり残念過ぎます」

 

カーネリア、智鶴、朱乃、小猫の順に女性陣の残念感が半端じゃない。

 

しかし、事態は一変。

シトリー眷属の張っていた結界を破り、赤龍帝と対を成す白龍皇『白い龍(バニシング・ドラゴン)』がやってきて、コカビエルを易々と倒してしまったのだ。

 

そして、コカビエルとフリードを連れてその場を去ってしまった。

 

 

しかし、結界が解かれて彼らが見たのは…

 

「月が!?」

 

「欠けている?!」

 

「なんだなんだ!? 何が起きてるんだ!?」

 

混乱するグレモリー眷属の前に結界を張っていたソーナ会長以下シトリー眷属が合流する。

 

「隣町…正確にはリディアンの方から凄まじいエネルギーが月に向かったのですが、それに対抗するように別のエネルギーがぶつかり、相殺出来ずに月に当たったようなのです。詳しいことはわかりませんが…」

 

ソーナ会長は自分の目で見ていたことをそのまま伝えていた。

 

戦いはまだ終わりそうもなかった。

 

………

……

 

~カ・ディンギル前~

 

あれからクリスの行動を笑ったフィーネに対し、体内に侵食していたガングニールが暴走状態を引き起こし、響を狂戦士へと変貌させたが、翼がその身を呈して響の動きを封じる。

そして、単身カ・ディンギルを破壊するためにフィーネと対峙し、結果それに成功していた。

しかし、代償として翼もまたクリスと同じように消息を絶つ。

 

カ・ディンギルを破壊されて激怒したフィーネが響を滅多打ちにする中…歌が聞こえてきた。

その歌を聞き、3人の装者が復活した。

 

「綺麗…」

 

その姿を見てフェイトは静かに呟く。

 

「ったく…流石にミサイルの爆発なんて初めて体験したから回復に時間がかかったが…」

 

地面に突っ伏していた忍も立ち上がる。

 

「凄い力を感じる…」

 

「私達も行こう」

 

「あぁ!」

 

フェイトはそのまま飛行魔法で飛び、忍は魔法陣を空に展開していき、それを足場に空へと舞い上がる

 

フィーネはノイズの出自…人が人を殺すためだけに作り出した兵器であることを語ると大量のノイズを召喚していた。

だが、限定解除されたシンフォギアを纏った装者と忍達によって瞬く間に殲滅していった。

 

それを見たフィーネはネフシュタンと融合した体にソロモンの杖とも融合を始め、ノイズを取り込み、カ・ディンギルの炉心としていたデュランダルをも取り込み、黙示録の赤き龍を模した異形の姿へと変貌していた。

 

「これは『真なる赤龍神帝《アポカリプス・ドラゴン》』と称されたドラゴン…『グレートレッド』を模した姿だ。かの龍は多次元世界を繋ぐ狭間に住んでいる。管理局でも過去に観測したことがあるはずだ!」

 

「第一級未確認危険生物!?」

 

管理局でも伝説級の存在の正式名を聞き、フェイトも驚いていた。

 

「龍の逆さ鱗に触れた者には相応の罰を与えん!!」

 

三種の完全聖遺物を持ったフィーネの力は圧倒的であった。

 

しかし、僅かな隙を突き、彼女らはある作戦を立てた。

そして、それを実行し、見事成功させてみせた。

 

デュランダルを弾くことに成功した翼。

そのデュランダルを撃って弾くという芸当で響の元へと飛ばすクリス…。

その間にフィーネをかく乱する忍とフェイト。

 

その想いを繋げ、デュランダルを手にした響だが、破壊衝動に飲まれてしまう。

 

しかし、仲間の…友達の声を聞き、破壊衝動を抑え込むことに成功した響は神々しい光を放っていた。

 

「その力…一体何を束ねたというのだ!?」

 

それを見てフィーネは叫んでいた。

 

「響き合うみんなの想いと歌声を束ねた…シンフォギアです!!」

 

≪Synchrogazer≫

 

翼とクリスに支えながら響が振るったデュランダルの一撃により、赤き龍の異形は消滅してした。

それに伴い完全聖遺物同士の対消滅…デュランダルとネフシュタンが共に滅び去った瞬間でもあった。

 

その後、響はフィーネを助け出すものの最後の悪足掻きとばかりに月の破片を地表へと落そうと画策する。

しかし、それを見越した上で響による言葉を聞き、最期には"櫻井 了子"として微笑みながら砂と化して消えてしまった。

そして、それを阻止するべく響達3人のシンフォギア装者達は絶唱によって月の欠片を破壊するべく行動を移していた。

 

………

……

 

~???~

 

「月が?」

 

『あぁ、ちぃっと厄介でな。お前さんとこの次元航行艦でも動かしてくれねぇかね?』

 

「俺もそうそう簡単に動けるわけではないのだがな…」

 

『頼むわ。小娘3人だけじゃどうにも心配でな』

 

「はぁ…仕方ない。ネクサスの件もあるし、これでチャラにしてもらおう」

 

『わぁったよ。じゃ、頼むぜ、ゼーラ』

 

通信が終わると共に男…ゼーラが立ち上がり…

 

「ヴェル・セイバレス、緊急発進用意。これより地球へと向かう」

 

そう言って時空管理局の次元航行部隊の本部へと早足に向かっていた。

 

次元航行艦『ヴェル・セイバレス』

特務隊が保有する次元航行艦であり、普段は次元航行部隊の発着場の一画を借りて駐屯している。

 

その次元航行艦が地球へと向かい、発進して月の欠片の破壊を支援することになったのだ。

しかし、これはゼーラの独断行動であり、後でそれ相応の処罰が言い渡されることになるのだが…。

結果的には月の欠片を短期間の内に排除出来、シンフォギア装者3名の保護もまた成功していたのであった。



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4.停止会談のテロリズム
第十七話『少将と総督と予兆』


駒王学園でグレモリー眷属がコカビエルと戦った日。

突如、現れた白龍皇によってコカビエルがアザゼルの元へと連行された。

その前には赤龍帝と白龍皇の会話も確認されたらしい。

 

その数日後、神の不在を知ったゼノヴィアはグレモリー眷属の騎士として悪魔に転生した。

しかし、勢いに任せた部分も多分に含んでいたため、自分の在り方に独り言をを重ねるという奇妙な姿を見せていた。

 

 

また、同日とその翌日。

フィーネがカ・ディンギルを用いて月を破壊しようとしたが、シンフォギア装者と協力者によって月の破壊を一部に留めた後、月の欠片の落下をシンフォギア装者の活躍と時空管理局内に存在する特務隊の独断行動によって月の欠片が破壊され、被害は最小限に留まった。

 

後にこの事件は『ルナアタック』と呼ばれることになった。

 

そして、シンフォギア装者はというと…

 

………

……

 

~ヴェル・セイバレス『ブリッジ』~

 

月の破片をほぼ粉砕した後、特務隊のヴェル・セイバレスに収容されていた。

 

「うわぁ~…なんだか凄い所に来ちゃいましたね。ていうか、宇宙ですよ、宇宙!」

 

次元航行艦…いや、気分的には宇宙船かも知れない…に初めて乗った響は(はしゃ)いででいた。

 

「燥ぐなよな。ここがどこかも分からない場所にいんのによ」

 

「雪音の言う通りだぞ、立花」

 

クリスの言葉に翼も同意して響を注意していた。

 

「す、すみません…」

 

2人に注意されて響も佇まいを直して目の前の艦長席に座る人物を見上げる。

 

「君達が流星の報告にあった装者と呼ばれる者達か。報告よりも数が多いようだが…」

 

艦長席にはゼーラが座っており、投影ディスプレイで朝陽からの報告書を閲覧していた。

 

「我々の話も流星二尉から聞いているだろうが、一応名乗っておこう。俺の名はゼーラ・シュトライクス。時空管理局に所属する騎士で少将だ。管理局の武装隊と呼ばれる部署の中でも特殊任務を行うために俺が直接編成した特務隊を率いている」

 

簡単にゼーラは自分の部隊の説明していた。

 

「その特務隊が…何故、我々を助けてくれたのでしょうか?」

 

それを聞いた後、翼が当然の質問をしていた。

 

「とある知り合いから俺宛てに連絡が入ってな。上の指示を待たずして動いた。要は俺の独断だ」

 

そう答えても後悔の念は一切感じられなかった。

 

「しかし、地球か…」

 

艦長席から見える地球を眺めて少し考えことをしているようだった。

 

「シュトライクス少将は地球をご存じなんですか?」

 

「古い時代の話だ。さて、君達を故郷へと送ろう」

 

翼の問いに軽く答えると、パネルを操作してある人物を呼び出す。

 

ウィィン…

 

「流星二尉。来たわよ」

 

ブリッジに入ってきたのは朝陽だった。

入った後、朝陽はゼーラに敬礼するとチラリと響達を見た。

 

「流星。お前には彼女らを地球の日本へと連れてってもらいたい」

 

「了解」

 

ゼーラの命令に再び敬礼して答える。

 

「それと…しばらくの間、セイバレスは月の様子を見るために駐留させておく。何が起こるかわからないからな」

 

「いいんですか?」

 

それを聞いて朝陽は思わずそう聞き返していた。

 

「構わん。どうせ戻ったとしても処罰はそう変わらん」

 

ゼーラはそれだけ言うと朝陽に目配せをしていた。

 

「じゃ、行くわよ」

 

それを受けて朝陽は響達にそう言っていた。

 

「えっと…今回はありがとうございました!」

 

「少将のご配慮に感謝します」

 

「拾ってくれてありがとよ」

 

それぞれゼーラに感謝の言葉を言うと、朝陽についてブリッジを出た。

 

「…………」

 

ブリッジから響達が出ると、別の通信ウインドウを開く。

もちろん、遮音結界を張るのも忘れない。

 

「アザゼル」

 

『よぉ、ゼーラ。どうだい首尾は?』

 

「滞りなく終わった」

 

『そうかい。ありがとよ』

 

「礼など不要だ」

 

『そう言うなって。それよりも面白い話をしてやる』

 

「面白い話だと?」

 

『あぁ、お前さんも興味がありそうなことだ。俺ら堕天使と天界の天使、そして冥界の悪魔のトップが会談を開くことになった』

 

「ほぉ」

 

『場所は駒王学園。例の狼君や赤龍帝の通う学園だ』

 

「狼…確か、ネクサスを起動させたという…」

 

『あぁ。そこで提案なんだが…お前さんも会談に来ないかい?』

 

「なに?」

 

アザゼルの言葉にゼーラは意外そうな表情をしていた。

 

………

……

 

ルナアタックから3週間後。

6月の中旬辺りになるだろうか。

季節は初夏を迎えていた。

 

そのため、オカ研は生徒会の要請でプール掃除をしていた。

その代価としてオカ研はプールの使用権を得ていた。

イッセーにとってその時間が甘美且つ刺激的な日だったそうだ。

 

しかし、その翌日のでことである。

イッセーの前に白龍皇『ヴァーリ』が姿を現していた。

彼はアザゼルの付き添いで駒王町までやってきていたのだ。

 

そして、白龍皇の興味はイッセーだけではなかった。

 

「紅神 忍。彼は一体何者なんだろうね?」

 

「どういうことだよ?」

 

「彼は人外の存在であることは君だって知っているだろう?」

 

「それは…」

 

「潜在的なポテンシャルなら彼は君の数倍は上に値するだろう。もちろん、今の力はその片鱗に過ぎないと俺は考えているが…」

 

「忍が…?」

 

「あぁ。そして、それは着実に増していっている。何故か…それは俺にはよくわからないが…いずれにしろ、彼とも戦ってみたいと思える程だ」

 

それだけ言うとヴァーリはその場から立ち去るのだった。

 

………

……

 

その後、授業参観を経て、リアスのもう一人の眷属…僧侶の封印が解かれていた。

しかし、その僧侶『ギャスパー・ヴラディ』は人間と吸血鬼(日中でも活動可能なデイウォーカー)のハーフで、引き篭もりの女装癖持ちというちょっと…いや、かなり痛い子であった。

 

そんなギャスパーを更生させるためにイッセーが中心となって尽力するのだが…これがなかなか上手くいかないでいた。

 

そんなグレモリー眷属とは逆に明幸組に4人の訪問客が訪れていた。

 

「「「…………」」」

 

「こういうのを純和風で風情があるっていうのかね」

 

居間に通された4人の内、3人は押し黙り、残る1人は能天気にもそんなことを言っていた。

 

「「…………」」

 

それに対応しているのは忍と智鶴であった。

見知った顔が1人いたので、2人が対応することになったのだ。

 

すると、そこへ…

 

「これはこれは…総督殿と白龍皇じゃない。こんな所で何をしてるのかしら?」

 

様子を見に来たであろうカーネリアがそんなことを言って入ってきた。

 

「カーネリアか。お前さんこそ、なんだってここに居ついてるんだ?」

 

「さてね。それよりも白龍皇まで連れてくるなんて…よく本人が承諾したわね」

 

「本人を目の前にして言うことかよ。それよりもこっちのおっさんはゼーラ。俺の顔馴染みだ」

 

カーネリアに向かってそう言った後、アザゼルの適当な紹介を受け…

 

「ゼーラ・シュトライクス。時空管理局の少将で、特務隊の隊長を務めている」

 

ゼーラが自ら名乗りだした。

 

そう、明幸組に来訪したのは堕天使総督『アザゼル』、白龍皇・ヴァーリと時空管理局少将兼特務隊隊長・ゼーラ、その直属の部下の朝陽であった。

 

「管理局…ということはネクサス、ですか?」

 

忍が恐る恐るといった感じでゼーラに聞く。

 

「察しが良くて助かる。が、実を言えば…そんなことはどうでもいいのだ」

 

しかし、ゼーラはそれを否定した。

 

「ま、ホントならそのネクサスってのは俺が受け取って色々と参考にしたかったんだがな」

 

ゼーラの言葉に続いてアザゼルがとんでもないことを言い出す。

 

「え?!」

 

「あら…」

 

「なっ!?」

 

アザゼルの言葉に忍、智鶴、朝陽がゼーラの方を見る。

 

「事実だ」

 

ゼーラは慌てることなく静かにそれを肯定していた。

 

「隊長! デバイスをどこの誰かも分からない奴に横流ししようなんて…! 本部が聞いたら処分だけじゃ済まないわよ!?」

 

朝陽の言葉も当然だった。

そして、何よりも…

 

「ノイズに殺されたあいつらになんて言う気ですか!?」

 

ネクサス輸送時に死んだ局員に会わせる顔がなかったらしい。

 

「すまないとは思っている。しかし、こちらも情報を得るために必要な代価を支払ったまでのこと」

 

「まぁ、結局は手元に来なかったからあまり良い意味での死ではなかったがな」

 

ゼーラもアザゼルも淡泊な回答だった。

 

「…それが人の死に携わった人のことの言葉ですか?」

 

その言葉に忍も怒りを抑えられなかったのか、瞳を紅く輝かせ、瞳孔も縦になるという現象が起きる。

 

「ほぉ、これは…」

 

アザゼルはその現象に興味を抱き…

 

「良い覇気だ。しかし…」

 

カッ!!

 

ゼーラは忍以上の怒気を含んだ気迫の忍へと返していた。

 

「っ!!?」

 

それを受け、忍の瞳も元に戻ってしまい、忍の全身から汗が噴き出す。

 

「しぃ君?!」

 

それを見て智鶴が素早く忍の体を抱き寄せる。

 

「元々俺には遺族に会わせる顔など持ち合わせていない。が、自分の部下が死んだんだ。怒りを持たないはずもない…!」

 

そうゼーラは言い放っていた。

これでも意外と部下想いなのかもしれない。

 

「まぁ、落ち着けって…今日来たのは他でもない。アンタらにお願いがあって来たのさ」

 

「お願い?」

 

応えられそうもない忍に代わって智鶴がアザゼルの言葉を聞き返す。

 

「特異災害対策機動部二課…そいつのトップを今度俺達の三勢力会談の場に呼んでほしいんだわ。もちろん、アンタらも出席願うぜ? 聞きたいじゃねぇかよ。コカビエルのアホがやらかした一件と重なるようにして起きた事件の概要をよ」

 

アザゼルは悪戯っぽい表情でそう答えていた。



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第十八話『トップ会談と時間停止と混沌』

7月に入ったばかりの休日の深夜。

三大勢力のトップが集まる会談が行われようとしていた。

場所は駒王学園の新校舎にある職員会議室であった。

 

そこには三大勢力のトップ陣…悪魔側に魔王『サーゼクス・ルシファー』と『セラフォルー・レヴィアタン』、天使側に大天使『ミカエル』、堕天使側に総督『アザゼル』が席を囲んでいた。

さらにトップ陣の中には堕天使側に近い席に管理局少将『ゼーラ・シュトライクス』、天使側に近い席に特異災害対策機動部二課の司令官『風鳴 弦十郎』の姿もあった。

 

そして、その周りにはグレモリー眷属(ギャスパーを除く)、ソーナ会長(単独)、グレイフィア(給仕係)、イリナ(ミカエル護衛)、ヴァーリ(アザゼル護衛)、明幸組(忍、智鶴、カーネリア、暗七)、朝陽(ゼーラ護衛)、シンフォギア装者3名(弦十郎の護衛)といったメンバーが集まっていた。

 

集まったメンバーの共通の認識は神の不在を知っているということである。

 

しかし…

 

「それにしてもアザゼル。あなたは何故関係ない者までお呼び立てしたんでしょう?」

 

「それには私も同意見だ。神の不在は機密事項。それを人間に話すというのは…」

 

ミカエルの言葉にサーゼクスも不安を感じていた。

 

「わかってるって…でもよ。ここにいるのは神の有無なんて関係なさそうな奴等だぜ? ま、何人かは違うんだろうが…」

 

そう言ってアザゼルはアーシア、ゼノヴィア、イリナの視線を向けた。

 

「俺は神など信じん。神がいようがいまいが関係ないからな」

 

アザゼルの言葉に続き、ゼーラは一蹴していた。

 

「俺はお国柄あまりそういうことは言わないつもりなんだが…そもそも、どうして俺達が呼ばれたのか…それも紅神君達まで呼んだことに疑問を抱かずにはいられないんだが…」

 

弦十郎は呼ばれたこと自体に疑問を抱いていた。

それもそんな重要なことまで話され、忍達まで呼ばれている…。

 

「ただの好奇心だよ。コカビエルのアホが勝手に戦争だなんだって言ってる間に起きた事件ってのを聞きたくてな。それにお前らは会ったんだろう? 終末の名を持つ女…フィーネによ」

 

それを聞き、弦十郎だけではなく後ろの響達も驚く。

 

「何を驚く必要がある? こちとら長生きで、人間とも接触してたんだ。文明の転換期に現れたフィーネに会ったことくらいあらぁね」

 

そう言ってのけるアザゼルに弦十郎たちも渋々納得したような感じだった。

 

「じゃ、会談としゃれ込もうぜ?」

 

こうして会談は始まった。

 

………

……

 

どれくらいの時間が経ったろうか。

 

コカビエルの起こした事件のこと、ルナ・アタックのこと、フィーネが言い残したノイズの存在のこと、多次元世界のこと…。

様々な情報交換を経て会談は順調に進んでいき、三大勢力は和平を結ぼうとしていた。

 

だが、それを快く思わない存在が介入した。

その名は『禍の団(カオス・ブリゲード)』。

 

禍の団はギャスパーの持つ神器『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』を利用して学園一帯の時間を停止してしまった。

 

そんな中で動けたのはトップ陣はサーゼクス、セラフォルー、ミカエル、アザゼルの4名。

その他はグレイフィア、龍の力を宿すイッセーとヴァーリ、聖剣を持つゼノヴィアとイリナ、イレギュラーな禁手である聖魔剣を持つ木場、聖遺物を持つ響達、イッセーに触れていたために難を逃れていたリアス、自分でも動ける理由がよくわかっていない忍の計15人であった。

それ以外の者は見事に時間が止まっていた。

 

その後、イッセーとリアスはギャスパーを助けるべく、旧校舎に残っている戦車の駒を用いたキャスリングで移動した。

 

その出発前にイッセーはアザゼルから二つのリングが渡された。

それは一度だけ対価無しに禁手状態にするものと、ギャスパーの神器制御用の代物だった。

そして、忍にもアザゼルから腕輪らしきものを渡されていた。

本来ならゼーラから渡されるべきものだったが、時間が止まったせいで渡せなかったモノを代わりに渡した形になる。

 

こうしてイッセーとリアスが旧校舎へと出発した後、1人の悪魔がトップ陣を強襲していた。

名を『カテレア・レヴィアタン』…旧魔王レヴィアタンの血を引く者である。

それに対してアザゼルがカテレアと相対し、彼の研究成果である人工神器『堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』の擬似禁手状態『|堕天龍の鎧《ダウン・フォール・ドラゴン・アナザー・アーマー》』を用い、さらに左腕一本を犠牲にしてカテレアを撃破していた。

 

一方でギャスパーを助け出すことに成功したイッセーとリアスはギャスパーを連れて校庭を走っていた。

 

そして、残ったメンツはと言えば…

 

「聖魔剣よ!」

 

木場が周囲に聖魔剣を出現させ、それを何度も持ち替えたり投げ飛ばしたりして魔術師を倒していき…

 

「行くぞ、イリナ!」

 

「わかったわ、ゼノヴィア!」

 

気まずかった雰囲気から一変、息の合ったコンビネーションを見せるゼノヴィアとイリナ。

 

「ファルゼン!」

 

新たなデバイス『ファルゼン』を片手に魔術師の魔法攻撃を木場みたく高速移動で避けながら…

 

「ブリザード・ファング!」

 

時折、他のメンバーへの援護も忘れていない忍。

 

「やはり、ノイズとは勝手が違うな…!」

 

愚痴を零しながら翼がアームドギアの刀で魔術師の攻撃を捌いていく。

 

「ぼやいてる暇あるんなら手を動かせよ!」

 

クロスボウから赤い矢を連続して放ちながらクリスが翼に苦言を呈す。

 

「ごめんなさい!」

 

謝りながら魔術師を殴ったり蹴ったりする響はどうも遠慮してるように見えた。

 

「うぅ…やっぱり、人を殴るのには抵抗が…」

 

「魔術師だっての!」

 

そんな響にクリスがそう言うものの…

 

「それでも人は人だよ! 人は手を繋ぎ合わせる事が出来るのに…」

 

そんな響の言葉に…

 

「そうですね。そして、それは我々天使や悪魔、堕天使にも言えることかもしれませんね」

 

大天使ミカエルが反応を示していた。

 

「我々にも手があります。それは誰かと繋ぐため…素敵な言葉ですね」

 

時間の止まった人達のためにサーゼクスやセラフォルーと共に防御結界を展開していながらもミカエルはそう言っていた。

 

だが…

 

「ふざけるな! ならば、俺達はその手を拳に変えて悪魔共を殴り飛ばすのみ!!」

 

魔術師達とは違った装い(貴族が着るような服装)を身に纏った…中性的で女性のような容貌をした者が前に出てくる。

 

「君は…?!」

 

「そんな…あなたもなの!?」

 

その者の登場に反応したのはサーゼクスとセラフォルーだった。

 

「カテレアが死んだのは喜ばしいことだが、俺の手で葬れなかったのが残念だよ。ならば、代わりにサーゼクス・ルシファー、セラフォルー・レヴィアタン…貴様らを葬り、俺達一族の復讐の足掛かりにしてやる!」

 

その者は一直線にサーゼクス達の方へと歩いていく。

 

「待ちなさい! あなたは一体…」

 

その行く手を翼が遮ろうとするが…

 

「邪魔だ!!」

 

彼(彼女?)が翼に手を向けると…

 

「グラビティ!!」

 

ズンッ!!

 

「ぐっ!?」

 

翼の周囲に黒い結界が張られ、その中にいた翼が刀を地面に突き立て膝をついて苦しそうにしていた。

 

「翼さん!?」

 

そこへ響が援護しようとするが…

 

「わっ?!」

 

魔術師達の攻撃がそれを阻む。

 

「数が多過ぎんだよ!!」

 

≪BILLION MAIDEN≫

 

≪MEGA DETH PARTY≫

 

クロスボウからガトリングガンに変形させ、腰部から小型ミサイルを死なない程度に狙って魔術師達を撃ち落としていく。

 

「サーゼクス様!」

 

「ミカエル様!」

 

クリスが魔術師を迎撃してる隙に木場とゼノヴィア、イリナが同時に彼へと斬りかかっていた。

 

「悪魔と人間風情が俺に刃を向けるな!!」

 

ゴアアアアアッ!!!

 

その瞬間、彼の体から紅の焔が立ち昇る。

 

「うわっ!?」

 

「くっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

彼の発した熱波によって斬りかかった3人が吹き飛ばされる。

 

「俺の目的はただ一つ! 俺達の一族を追いやった悪魔共を殲滅し、同じ苦しみを与えることだ!!」

 

彼はそう吠えると共に紅の焔を右手に生み出し、障壁を張るサーゼクスとセラフォルーへと手を向ける。

 

「死ね! 魔王共!!」

 

そう叫び紅の焔が障壁へと向かう。

 

しかし…

 

「凍てつけ!!」

 

銀狼と化して焔の前まで移動した忍が焔を左手で受け止めると、徐々に凍てつかせていく。

 

ジュワアアア…!!

 

高熱を帯びた紅の焔と、低温の氷結がぶつかり合い、その場を水蒸気が支配していく。

 

「(あ、熱い…!)」

 

忍があまりの熱量に表情を歪めていると…

 

「貴様…! "同じ冥族"が邪魔立てする気か!」

 

「なに…?」

 

彼の言葉に忍が眉を顰める。

 

「紅神君が…冥族!?」

 

「そうだったの!?」

 

彼の言葉にサーゼクスとセラフォルーも驚く。

 

「貴様…名は?」

 

彼は焔を一旦消すと、忍に向けて名を聞く。

 

「紅神…忍」

 

忍がそう答えると…

 

「貴様も"紅"を名に持つか」

 

それだけ呟くと…

 

「俺の名は神宮寺(じんぐうじ) 紅牙(こうが)。誇り高き冥族の1人だ!」

 

彼…紅牙はそう名乗りを上げた。

 

「冥、族…?」

 

忍は静かに呟くしかなかった。

 

紅牙の言う、冥族とは…果たして…?

そして、忍との関係とは…?



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第十九話『決戦×覚醒・赤と白、紅蓮と紅』

~駒王学園・深夜~

 

トップ会談が行われていた駒王学園は今、テロ組織『禍の団』の襲撃を受けていた。

 

その中で忍は同族だという中性的で女性みたいな顔立ちの青年『神宮寺 紅牙』と対峙していた。

 

一方で、白龍皇が裏切って禍の団へと鞍替えしていたことが発覚する。

そして、今回のテロの手引きをしていたことも自らの口で明かした。

 

「我が名は白龍皇、ヴァーリ・ルシファー。先代魔王の血を引く者で、父は先代魔王の孫に当たる正真正銘の後継者さ。ま、俺は特にそんな地位に興味はないがね」

 

そう言うヴァーリの姿は既に禁手状態の鎧姿であり、その背からは神器の光翼だけでなく、悪魔の翼が幾重にも出現する。

 

「ヴァーリ…」

 

そんなヴァーリを紅牙が鋭く睨んでいた。

 

「紅牙か。君とも一度ゆっくりと手合せしたいものだ。もちろん、そっちの彼ともね」

 

そう言ってヴァーリの視線は紅牙から忍へと移る。

 

「黙れ! お前は自分のライバルと争っていろ! もしそれで決着が着かないというなら俺が滅ぼす!!」

 

紅牙の言葉を聞き…

 

「ライバル、ね…」

 

ヴァーリは戻ってきていたイッセーへと視線を向ける。

 

「しかし、これはいくらなんでも残酷過ぎる運命だ。俺は魔王の子孫であり、半分人間だった故に白龍皇の力を宿す事が出来た。だが…」

 

そこまで言うと、今度はイッセーを見て語り出す。

 

「ライバルと目される赤龍帝の所有者は一般人から悪魔になったばかりの平凡な学生。これといった才覚も無さそうな…強いて言うならこの短期間で悪魔らしからぬ修行を続けている程度。あまりにも大きな差だ」

 

片や過去・現在・未来において最強の白龍皇。

片や使い手が平凡で悪魔になったばかりの最弱の赤龍帝。

その差は確かに歴然だった。

 

と、ヴァーリが何か思いついたように言葉を紡ぎだす。

 

「そうだ、こうしよう。君は紅牙のような復讐者になるのは…?」

 

「………」

 

それを聞き、紅牙がヴァーリに殺気をぶつける。

 

「そう良い殺気をくれるな。戦いたくなるだろう? それはいつでも出来るからいいが…赤龍帝、兵藤 一誠の両親を俺が殺せば、こんな退屈なライバル関係も少しは面白くなるだろう」

 

紅牙を一瞥してから先程の続きを語り出す。

 

「血も涙もない悪魔らしい言葉だな」

 

吐き捨てるような紅牙の皮肉に…

 

「君も今は同じだろう? 悪魔に対して血も涙もない」

 

ヴァーリはそう返していた。

 

「…………」

 

それを聞いていたイッセーはプルプルと拳を握りしめながら震えていた。

 

「殺すぞ、この野郎が…!!」

 

それはいつものイッセーなら考えられないとても低い声音だった。

 

「イッセー!?」

 

「イッセー君!?」

 

その近くにいたリアスと忍がその声音に驚き、そちらを見ると…

 

「テメェの勝手な都合で俺の両親を殺されてたまるかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

『Welsh Dragon Over Booster!!』

 

イッセーの怒りをトリガーにし、アザゼルから貰ったリングの助けもあって再び禁手状態へとなっていた。

 

「ほぉ、これは…見ろ、アルビオン。兵藤 一誠の力が桁違いに跳ね上がったぞ」

 

『神器は強い想いを力の糧にする。そして、純粋な怒りがお前に向けられている。真っ直ぐな者…それがドラゴンの力を引き出せる心理の一つだ』

 

「そういう意味では俺よりも彼の方がドラゴンとの相性が良さそうだ」

 

ヴァーリは内に眠る白き龍『アルビオン』と会話をしながらイッセーを見下ろす。

 

「さっきからごちゃごちゃとわけわかんねぇことを喋ってんじゃねぇよ!!」

 

その瞬間、イッセーが赤き閃光、ヴァーリは白き閃光となって空中でぶつかり合う。

 

「イッセー君!」

 

忍がそれに加勢しようとしたが…

 

「誇りを捨てた貴様の相手は俺だ!!」

 

忍の前に紅牙が立ちはだかる。

 

「誇りってなんの話だ!」

 

「しらばっくれる気か! 悪魔が俺達にしてきたことの数々を!!」

 

「なに!?」

 

紅牙の言葉に忍はファルゼンを振るうことを一瞬躊躇う。

 

「俺達、冥族は冥界に住む種族の一つだ。しかし、過去の戦争の煽りで数が減らされた。戦争が終わって平和に暮らせると思った矢先、悪魔が俺達の領土を侵略し、俺達は辺境へと追いやられたんだ!!」

 

「なっ!?」

 

忍は紅牙の発現に言葉を失った。

 

「それは違う!」

 

「そうよ! あれは旧魔王派が勝手に進めてたことで…」

 

そこにサーゼクスとセラフォルーが口を挟むが…

 

「旧魔王だの、現魔王だのは悪魔の中でのことで、俺達には関係ない! 所詮は同じ悪魔がやったことに違いはないからな! 第一、それを止められなかった貴様らにとやかく言われる筋合いは毛頭ない!!」

 

紅牙はそれを一蹴していた。

 

「…………」

 

「うっ…そ、それを言われちゃうと…」

 

魔王2人は揃って難色を示していた。

 

「だからって…」

 

それを聞いていた忍は…

 

「テロに加担する必要があるものか! 三大勢力が和平を結ぼうと手を伸ばそうとしているのに…冥族と悪魔だって和平の道を選べるんじゃないのか!!?」

 

そう叫ばずにはいられなかった。

 

「紅神君…」

 

サーゼクスは忍の言葉に少しだけ希望を持ったようだ。

 

「黙れ!! 悪魔に感化された存在が一族を語るな!!」

 

しかし、紅牙にとってはあまりにも許せない言葉だったらしく、忍へと手を向け…

 

「押し潰されるがいい!!」

 

翼を捕えた黒い結界を張ろうとする。

 

「そうはいくかよ!!」

 

速度を上げ、黒い結界から抜け出すと紅牙へと向けて駆け出すが…

 

ドゴンッ!!

 

「がっ!!?」

 

その眼の前にイッセーが落ちてきた。

 

「っ!?」

 

それによって忍も急ブレーキを掛けてしまい、イッセーに当たる直前で立ち止まってしまった。

 

「隙だらけだ!!」

 

そこへ紅牙が右手から黒い球体を放つ。

 

「しまっ…!?」

 

「な、なんだ?!」

 

黒い球体は忍とイッセーの元に行くと、その規模を拡大させて2人を包み込むと同時に…

 

ゴォ!!

 

2人を押し潰すようにして強い重力が掛かり出す。

 

「ぐぁ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

重力の檻に捕まり、身動きが出来ないようになる。

 

「弱い。弱過ぎる…」

 

イッセーを吹き飛ばした張本人であるヴァーリが黒い結界の上でイッセーを見下ろす。

 

「赤龍帝がこの程度なら、俺が始末してやる! どうせ、赤龍帝の宿主も悪魔なんだからな!!」

 

「それも一興か」

 

そう言いつつもヴァーリはふとあることを思い出していた。

 

「そういえば、コカビエルの時…兵藤 一誠は仲間のために力を出していたかな?」

 

それを思い出した瞬間…

 

「両親より先に仲間を消した方が効果が高いか!」

 

そう言うや否やヴァーリは魔力球を生成すると…

 

「これならどうかな?」

 

それを魔術師と戦っていたゼノヴィアやイリナ達へと放っていた。

 

「ッ!!!」

 

それを見た瞬間…

 

「ふざけんなぁッ!!!」

 

ドラゴンの力が爆発的に上がり…

 

バリンッ!!

 

「なにっ?!」

 

重力の檻を破壊し、ヴァーリの放った魔力球を殴り飛ばしていた。

その様子に紅牙も驚いた様子であった。

 

「ほら、こっちもだ!」

 

そして、今度はリアスへと襲い掛かろうとした時…

 

「テメェ! いい加減にしやがれ、クソ野郎!!」

 

尋常じゃない力と共にヴァーリに飛びついてそれを回避していた。

 

「あれが赤龍帝の底力……"龍気"か…」

 

「イッセー君…」

 

イッセーの姿に心配を覚えているが…

 

「他人の心配をしてる場合か!」

 

そう言って紅牙が忍に紅の焔を放つ。

 

「くっ!?」

 

紅牙の言う通り、忍も目の前にいる敵に集中すべきであった。

 

「そうだ。紅牙、彼にも大事な者がいたはずだ。それを狙ってみてはどうかね? 彼の秘めた力が兵藤 一誠のように引き出されるかもしれんぞ?」

 

イッセーと戦いながらそんなことを言い出すヴァーリ。

 

「そうだな。見たところ冥王としての姿にまだ目覚めていないようだし…貴様の提案というのが気に食わんが、いいだろうさ」

 

そう答えると、再び魔王達の守る障壁へと手を向ける。

 

「一ヵ所に固まってもらえて楽と言えば楽だな。纏めて消し炭になるがいい!!」

 

そう叫ぶと共に紅の焔を右手から放射する。

 

「智鶴!!」

 

それを見た瞬間…

 

ドクンッ!

 

「ッ!!!」

 

周囲に聞こえる程の鼓動が響き渡る。

 

「(熱い…熱い…身を焦がすようなこの衝動は…!!!)」

 

 

 

忍が身の内に秘めた力を解放しようとしていた一方で…

 

「痛ぇ! 痛ぇ痛ぇ!! このぐらいの痛み、光のダメージに比べたら!!!」

 

イッセーは一度はヴァーリの鎧を破壊し、破壊時に転がっていた白龍皇の宝玉を右手の甲の宝玉に移植しようとしていた。

そして、その激痛に耐え、イッセーの想いが神器に影響を及ぼした結果…

 

『Vanishing Dragon Power is taken!!』

 

その音声と共にイッセーの纏う鎧の右腕の篭手だけが白くなっていた。

 

「『白龍皇の篭手(ディバイディング・ギア)』ってとこか?」

 

その現象に白龍皇も動揺を隠せず、ヴァーリも面白いものを見せたイッセーに対して本気を見せると宣言。

 

『Half Dimension』

 

その力は空間を歪ませ、新校舎の大きさを半分にさせていった。

 

その能力について、アザゼルがイッセーに一言…

 

「あの能力は周囲のものを半分にする。つまり、リアス・グレモリーのバストも半分にされちまうぞ?」

 

そう告げていた。

 

「……………………ふ…」

 

それを聞いたイッセーは…

 

「ふざけんなああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

あまりの衝撃に怒り爆発と言わんばかりの咆哮を上げていた。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!』

 

それに応えるかのように赤龍帝の鎧もパワーを増加させていく。

 

 

 

それと時を同じくして…

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

銀狼で再び紅の焔の前に出た忍は…

 

ゴアアアアアアッ!!!

 

それに対抗するように"紅蓮の焔"を左手から放射して紅の焔を押し留めていた。

 

「ッ!!? バカな?! 紅蓮の焔だと?!」

 

忍の放つ焔を見て紅牙は動揺を隠せないでいた。

 

「何が消し炭だ! 俺の目の前でそんなことさせてたまるかよ!!!」

 

次の瞬間…

 

カッ!

バサァ!!

 

銀狼が解けると同時に忍の背中から4対8枚の紅蓮の翼が生え、髪は燃え盛るような焔髪、瞳は焼き尽くすような灼眼へと変貌を遂げていた。

 

「紅蓮、冥王…だと!!?」

 

紅牙は未だ信じられないような視線を忍に向ける。

 

「紅蓮…冥王…?」

 

忍も自身の変化に驚いていた。

 

「ふざけるなッ!!」

 

ゴアアア!!!

 

だが、紅牙もまた焔の柱を作り出すと共に背中から4対8枚の紅の翼を生やし、髪が真紅、瞳がワインレッドへと変化した姿へと変貌していた。

 

「紅蓮冥王ともあろう者が…何故、悪魔側になどついた!!!」

 

紅牙は別のところで怒りを感じていた。

 

「さっきからお前はなにを…!?」

 

「うるさい! 冥王スキル『グラヴィタス・イフリート』!!」

 

忍の言葉を聞きたくないのか、紅牙は自らの特殊能力を解放した。

その瞬間、紅牙を中心にして黒い球体と球体状の紅の焔が幾重にも出現していた。

 

「冥王スキル…?!」

 

周囲に浮かぶ球体群を見渡しながら忍は紅牙を見る。

 

「覚醒したばかりの貴様にわかるはずがない!!」

 

と、その時…

 

ドゴオォォォォンッ!!

 

「がっ!?」

 

ヴァーリが紅牙の近くまで吹き飛んでいた。

 

「ヴァーリ!?」

 

まさかの光景に紅牙も驚いていた。

 

「ふ、ふふふ…面白い。面白いぞ!!」

 

しかし、ヴァーリは不敵な笑みを浮かべると闘志を剥き出しにしていた。

 

「どうだ、この半分マニアが! 部長だけでなくみんなのおっぱいまで半分になんかさえてたまるかよ!!」

 

忍の隣に降りたイッセーは威勢よくヴァーリに指を突き付けながらそう吠えていた。

 

「そんな理由で戦ってたの!?」

 

その言葉に思わず、忍もツッコミを入れてしまった。

 

「そんな理由たぁなんだ! 俺にとっては死活問題なんだよ!!」

 

「え、えぇ~…そこまで言っちゃう?」

 

まさかの残念な発言に忍も少し引いてしまっていた。

 

「紅牙も冥王としての姿を見せていることだし…俺も見せよう『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を…」

 

『自重しろ、ヴァーリ。我が力に翻弄されるのがお前の本懐か?』

 

アルビオンの制止を無視してヴァーリが詠唱を始めようとした時…

 

バリンッ!!

 

紅牙とヴァーリの前に一人の男が現れた。

 

美猴(びこう)か。何しに来た?」

 

ヴァーリが男…美猴に尋ねると…

 

「北のアース神族と一戦交えるからお前らを迎えに行って来いって言われてな。迎えに来たんだぜぃ?」

 

「もう時間か」

 

「ちっ…」

 

ヴァーリは残念そうに、紅牙は怒りの舌打ちをしていた。

 

「なんだ、お前は!?」

 

「猿?」

 

イッセーと忍が美猴の登場に驚いていると…

 

「そいつは美猴。闘戦勝仏の末裔…簡単に言えば、西遊記で有名なクソ猿、孫悟空だ」

 

アザゼルが説明しながら近づいてきた。

 

「そ、孫悟空!?」

 

「だから猿の匂いなのか…」

 

驚くイッセーを尻目に忍は一人匂いの感じ方に納得していた。

 

その後、美猴の転移術によってヴァーリと紅牙はその場から消えてしまった。

 

去り際にヴァーリはイッセーに『もっと激しく戦おう』と言い残し、紅牙は忍に強い敵意を向けていた。

 

テロに巻き込まれてしまったものの、トップ会談は無事に終わる事が出来た。

その結果、三大勢力は和平を結び、壊れた校舎は三大勢力の共同作業によって修復されていった。

 

ギャスパーの暴走もひと段落して時間の止まっていた人達も元に戻ったものの、時間が止まっていた時にテロがあったと聞き、しばし混乱。

しかし、サーゼクスやミカエルの言葉で何とか理解してもらえたようだ。

 

果たして、これからどうなっていくのか?



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5.夏色雪原のサーヴァント
第二十話『夏休みと眷属の駒』


七月も中旬を過ぎようとしていた夏の頃…。

駒王学園や私立リディアン音楽院は夏休みに突入していた。

 

その間に兵藤家にちょっと…どころでは済まないような変化が起きた。

なんと地上6階、地下3階という豪邸に"リフォーム"されてしまっていた。

それもこれもリアスの眷属悪魔(女性限定)で兵藤家に住むことが魔王名義で決定してしまい、やむなく改築…というか増築されてしまったのだ。

 

ちなみに図面で言えば…

1階は客間とリビング、キッチン、和室。

2階はリアスとアーシアの部屋がイッセーの部屋を挟み込む形になっているらしい(隣同士で部屋内を行き来可能)。

3階はイッセーの両親の部屋、書斎、物置など。

4階は朱乃、ゼノヴィア、小猫などの部屋。

5階と6階は全体的に空き部屋が多く、ゲストルームになるらしい。

屋上には空中庭園あり。

地下1階は広いスペースの部屋(トレーニングルームや映画鑑賞も可能)に大浴場もある

地下2階は丸々室内プール(温水にもなる)。

地下3階は書庫と倉庫。

さらにエレベーターも完備している。

 

無駄に豪勢である。

あと、近所の人達も穏便に好条件の土地と引き換えに引っ越しをしたらしい…。

恐るべし、グレモリー家…。

 

まぁ、それはそれとして…

 

グレモリー眷属は夏休みを利用し、新米悪魔の顔見せやら修行やら何やらがあって冥界へと行くことになった。

そして、何の因果か…明幸組(忍、智鶴、カーネリア、暗七、クリス)にも魔王から招待状が届いていた。

 

こうしてグレモリー眷属+明幸組の冥界行きが決定してしまった。

 

………

……

 

異世界への移動を列車で体感した後、一行はグレモリー領へと足を踏み入れていた。

 

「へぇ~、ここが冥界か」

 

「マジかよ…空が紫一色とか…」

 

「あら? 知らなかった?」

 

「地球暮らしが長いんだから知らなくて当たり前じゃない」

 

人間を含めた人選の明幸組は色々と問題があるのだが、悪魔印の特殊な腕輪を装着しているので何とか平気だったりする。

但し、忍やカーネリア、暗七は例外で装着してるのは智鶴とクリスのみであった。

ちなみに翼は歌手としての仕事、響は補習だったりして地球に残っている。

 

「これが本当の地獄巡りなのかしら…?」

 

「冗談に聞こえないわよ…」

 

智鶴の言葉に暗七が答えていた。

 

「しかし…魔王からの招待状なんてね。差出人の魔王は誰だか書いてないの?」

 

カーネリアが暇そうに忍に尋ねていた。

 

「うん。不思議なことに書いてないんだよね。ただ、匂いからして知らない人なんだけど…」

 

招待状を改めて見る忍は招待状から微かに香る残り香を嗅いでいたが、サーゼクスともセラフォルーとも違うという。

 

「はぁ? そんなもんであいつらについてきたのかよ? ホントに大丈夫なのか?」

 

クリスが怪訝そうに言ってみるが…

 

「そういうあなたこそ、ちゃっかりついてきてる辺り、よほど暇だったのかしら?」

 

カーネリアがクスクスと笑う。

 

「べ、別にいいだろ! どうせ、暇だったんだからよ!」

 

図星を突かれて逆ギレしてしまったクリスだが、カーネリアはそんなのどこ吹く風と受け流していた。

 

「やれやれ…」

 

そんなみんなの様子を見て忍も苦笑していた。

 

………

……

 

後日、若手悪魔が集まる場が魔王領にて設けられた。

いずれも家柄と実力が高いと目されるグレモリー眷属、シトリー眷属、バアル眷属、アガレス眷属、アスタロト眷属、グラシャラボラス眷属の次期当主陣である。

但し、グラシャラボラス眷属に限っては先日お家騒動があっらしく、次期当主とされていたモノが不慮の事故死のために新たな次期当主候補になっていた。

 

そして、その中には何故か忍の姿もあった。

 

「(何故、俺までこの場に…)」

 

もちろん、厳格な空気の場であったため忍も青年モードでいるが…如何せん理由がわからないでいた。

ちなみに忍はどの眷属にも属していないため、目立つことこの上なくさっきからチラチラと不可解な視線を向けられているが、敢えて気にするまでもないと壁際に陣取っていた。

 

「(あの匂いがする。やはり、相手は魔王。知らないのは2人だが…どちらかと言えば…)」

 

忍は視線だけを魔王席の一つ…現ベルゼブブの座っている席へと向けていた。

そこに座っているのは妖艶な雰囲気を纏ったなんともミステリアスな感じのする美青年だった。

 

「…………」

 

そんな忍の視線に気づいているのか、現ベルゼブブも少し含み笑いを浮かべて忍を見ていた。

 

「(……俺の視線に気づいてて敢えて何も言わないか。流石は魔王ってことか…)」

 

忍がそんな考えをしている間にも、若手悪魔達は上級悪魔のお偉いさん達から色々な説明やら何やらを受けていた。

 

「さて、話も長くなってしまったが、もう少し付き合ってほしい。本日はもう1人のゲストをお呼びしていたが、長いこと放置してしまったね。紅神君」

 

その言葉に会場の注目が忍へと集中した。

 

「(ここで俺の話題かよ…)」

 

忍はそう思いながら呼ばれた手前、壁際にいるのも失礼かと考え、リアス達のいる場所より一歩手前まで歩いていく。

 

「彼の名は紅神 忍君。先日の会談で我々を守ってくれた1人だ。そして…彼は冥族であるらしい」

 

ザワザワ…

 

冥族という単語が出てきて上級悪魔達がざわめき出す。

 

「(冥族…元々の血なのか、それともシャドウに投与された血なのか…正直、俺もわからないんだよな…というか、そもそも記憶が曖昧なんだよな。物心ついた時にはもう智鶴と一緒にいたような気がするし…)」

 

以前、シャドウに捕まった際に投与されたという血液サンプルのことを思い出し、自分の出生の謎に今更ながら疑問を抱く忍だった。

 

「静まりたまえ」

 

サーゼクスの言葉にざわめきも治まる。

 

「彼は先日まで自分が冥族であることを知らなかったようだ。それに彼にはありのままを話す必要がある」

 

そこからサーゼクスは冥族について知ってることの全てを話した。

冥界に住む同じ種族であること、冥王と称される力を持つこと、旧魔王派が行った事とは言え、彼らを辺境へと追いやったこと…。

 

「以上が、我々悪魔側から見て言える、冥族のことだ。正直、すまないと思っている。同じ冥界に住む種族としてこのようなこと…繰り返してはならないとも…。また、詳しいことが知りたいならアザゼル辺りに聞いてもいいかもしれない。彼なら客観的な意見も聞けるだろうからね」

 

話の後、サーゼクスはそう締め括っていた。

 

「………………」

 

忍はしばらく考えた後…

 

「正直、そういう実感は湧きません。俺が本当に冥族なのか…自分でもわからないですし…何よりその言葉は俺よりも…その辺境に追いやったっていう冥族の人達に言ってください。俺は…別にその人達の代表って訳でもないんですし…」

 

その忍の言葉に…

 

「貴様! 魔王様に向かってなんて口を…!!」

 

上級悪魔の1人が忍に文句を言おうとした。

 

「いや、その通りだね。君にこんな話をしても彼らに直接私の口から言わねばならないことだったね」

 

しかし、サーゼクスは忍の言葉を受け入れていた。

 

「そういうことなら私にお任せ☆」

 

ただ、外交担当というこの人(セラフォルー)に任せて大丈夫なのかは…また別の話な気がするが…。

 

「それともう一つ。君に渡したいものがあるという人物がいるんだよ。そもそも彼を呼び出した張本人が彼なんだが…」

 

そう言ってサーゼクスは困ったような表情をしながら同じ魔王席に座る人物へと視線を向けた。

 

「アジュカ・ベルゼブブだ。君の話はサーゼクスから聞いてるよ。冥王の狼君」

 

そう言うとアジュカは懐からケースを取り出すと、魔法陣に乗せてそれを忍の元へと運んでいった。

 

「これは…?」

 

忍はケースを受け取りながら怪訝な顔をする。

 

「まぁ、開けてみたまえ」

 

そう促されて、ケースを開けてみると…

 

「…チェスの駒?」

 

そこには無色透明のチェスの駒一式がズラリと並んでいた。

 

「それは…!?」

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)!?」

 

「ベルゼブブ様!? 何故、悪魔でもない者に駒を与えるのですか!?」

 

まさかの事態に上級悪魔だけでなく、若手悪魔やその眷属達も驚いていた。

唯一サイラオーグ・バアルのみは驚いた様子を見せなかったが…。

 

「アジュカ。これは一体…?」

 

アジュカの行動に流石のサーゼクスも知らなかったようで、説明を求めていた。

 

「まぁ、落ち着けって。俺が彼に渡したのは確かに悪魔の駒に似てるが、似て非なるモノさ。その駒を使ったって別に悪魔へと転生する訳じゃないしね」

 

皆の驚く顔が見れて嬉しかったのか、アジュカは面白そうにそう告げた。

 

「似て非なるモノ?」

 

サーゼクスの問いにアジュカは軽く頷き…

 

「そうさ。その名もズバリ『眷属の駒(サーヴァント・ピース)』。サーゼクスから冥王の狼君の話を聞いてから冥族専用の調整を施した特殊な駒さ。設計図は悪魔の駒を流通してるが、中身は全くの別物。それを使用しても悪魔や冥族になるわけじゃない。だって冥族の生態って正直俺も把握してないからね。けど、駒を使えばどんな種族でも自分の眷属に出来てしまう。冥王を名乗るなら臣下くらいいないとね」

 

簡単にそう説明してみせた。

 

「悪魔転生以外は悪魔の駒とそう変わらないように聞こえるが?」

 

その場にいる者達が抱く疑問をサーゼクスが代弁する。

 

「まぁ、そうだな。転生以外はそんなに違いは無い。つまり、将来的には"冥王もレーティング・ゲームへの参加権を得る"ってことになるかな? あと、悪魔の駒とは規格が違うからトレードも出来ないしな…」

 

サラッととんでもないことを言ったが、アジュカは構わず続けた。

 

「それから悪魔の駒と同様に眷属の駒にも特性があるから人選は的確かつ慎重にね。ただ、変異の駒(ミューテーション・ピース)みたいバグは確認されてないからそこも気をつけてもらいたい。それと、眷属の駒はそれがプロトタイプだからどんな反応を見せるかわからない部分もあるけど、そこは君次第でなんとでもなるだろうさ。まぁ、そんなとこかな」

 

言うだけ言ってアジュカは楽しそうに周りの反応を伺っていた。

 

「……これは…なんとも…」

 

流石のサーゼクスも頭を抱えていた。

 

「ふふふ、面白い趣向だろ?」

 

アジュカの一言に誰も意見する事が出来なかった。

 

こうして、忍は眷属の駒という代物を魔王から直々に与えられてしまったのだった。

 

………

……

 

魔王や上級悪魔のお偉いさん方との謁見後…

 

「まったく、ベルゼブブ様にも困ったものね」

 

グレモリー領に戻ってきたリアス達は忍に渡されたケースを見ていた。

 

「ほぉ、そいつが現ベルゼブブの作ったっていう新しい駒(ニューピース)か?」

 

そこへアザゼルがやってきてケースの中身を見た。

 

「アザゼル。あなたは知ってたの?」

 

「一言面白いもんが出来たとは聞いてたが、まさかこんなものとはな」

 

リアスの問いに答えながらアザゼルが王の駒を持ち上げる。

 

「とりあえず、こいつに魔力でも込めりゃ起動するんじゃないか?」

 

そう言って忍に投げ渡す。

 

「簡単に言いますけど…どうなるかわからないんですよ?」

 

「いいじゃねぇか。物は試しっていうだろ?」

 

「…………」

 

少し不満はあったものの納得はしたようで、忍は自身の魔力を王の駒へと流し込んでいた。

 

すると…

 

カッ!

ドクンッ!

 

一瞬の閃光と共に王の駒が忍の体へと入り込むと、それに呼応するようにして他の駒が無色透明から虹色に輝きを持った白銀色の駒へと変化してしまった。

 

「これで後はお前さん次第ってことだな。しっかり眷属を選べよ。ま、選ぶ必要も無さそうだがな」

 

忍の周囲を思い出してアザゼルは笑う。

 

「さて、それはそうと時間が無い。明日から各自修行に入るぞ!」

 

翌日からハードな修行がグレモリー眷属を待っていた。

 

そして、忍は眷属に誰を選ぶのか…?



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第二十一話『龍と修行と決意』

地球の時間で7月29日からグレモリー眷属の修行が開始された。

それぞれが己の技術向上を目指し、様々な修行が課せられてから数日が経とうとしていた。

 

その中の一つ、イッセーに課せられた修行とは…

 

「ぎゃああああ!!?」

 

『もっと素早く動かんか!』

 

リアルドラゴンとの実戦形式での修行であった。

 

このドラゴンの名は『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』の『タンニーン』。

六大龍王と称されているドラゴン達の元一角である最上級悪魔である。

タンニーンが悪魔に転生した後、六大龍王は五大龍王へとその名を変えている。

 

それはともかくとして、そのタンニーンによってイッセーはドラゴンの力『龍気』の使い方を一から教わることになったのだが…

 

「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」

 

修行開始からたった数日だけでイッセーがわかったこと。

 

逃げ足や火種の魔力が上達したが、根本的に攻撃が通用しない。

追い掛け回されるより夜の筋トレの方がまだマシに思えること。

 

以上である。

 

イッセーはこの修行を耐えられるのか?

いや、生き残ることが出来るのか?

 

………

……

 

イッセーがタンニーンによって鍛えられている頃…

グレモリー領内のグレモリー邸では…

 

「ふむ…どうしたもんか…」

 

忍が1人でずっと悩んでいた。

それは先日アジュカ・ベルゼブブから受け取った眷属の駒のことである。

残っているのは王以外の駒が計15個である。

 

「俺の魔力色を認識してる感じか? それにしても虹色に輝く、か…何を意味してるんだか…」

 

女王の駒を指先で器用に回しながらそれを眺める。

 

「魔王直々に渡したものだから安全性や信用性はあるんだろうけど…」

 

正直なところ、忍は既に女王を誰に渡すかは決めていた。

しかし、忍はそれに躊躇していた。

理由は単純にこれから先にあるだろう戦いに巻き込んでしまう可能性が高いからだ。

しかも忍は高確率でその戦いは起きると踏んでいる。

それに巻き込んでしまっていいのだろうか…という、そういう想いがあった。

 

と、そこへ…

 

「しぃ~君♪」

 

ソファに座る忍の後ろから智鶴が抱き着いてくる。

 

「ち、ちぃ姉…」

 

鍵を閉めていたはずだが、と思いながら忍は用意されてた部屋を扉を見る。

見た先にはそこには円型のディメンション・ゲイトが消えかけているところだった。

 

『これも主の御心のままに』

 

そんなことを待機状態で言うスコルピア。

 

「アザゼル先生から聞いたよ。魔王様から直々に何か貰ったんだよね?」

 

しかもアザゼルから眷属の駒の事を聞いている模様だ。

 

「(あ、あの人は…)」

 

人が悩んでいるというのに、余計なことを…という感情をなんとか抑え付けると…

 

「ちぃ姉…いや、智鶴。これを渡すってことは…」

 

思い切って智鶴に打ち明けようとするが…

 

「一生、しぃ君と一緒にいられるんでしょ?」

 

なんともポジティブな意見を言うのであった。

 

「そ、それはそうかもだが…何が起こるかわからない以上、渡す訳には…」

 

そう言って指先で回していた女王の駒を握り締める。

しかし、智鶴は首に回していた手を忍が女王の駒を握った手に重ねる。

 

「しぃ君が心配してくれてるのはわかるよ。だって…いつもは私がしぃ君を心配してた立場だもん」

 

「それは…」

 

忍は地球で過ごした記憶を辿る。

確かにいつも守られてばかりで、心配を掛けてばかりだったと思う。

 

「でもね。しぃ君が…戦うって決意して…私、本当は怖かったの。しぃ君がそのまま何処かへ行っちゃうんじゃないかって……だから私も力が欲しくて、暗七ちゃんの誘いを受けたの。しぃ君と離れたくないから…」

 

「智鶴…」

 

それを聞き、忍は顔を振り向けて智鶴の顔を窺う。

 

「もう、置いてかないでね? 私だって…しぃ君の隣にずっと寄り添っていたいから…」

 

忍は女王の駒を握る手を緩め、自然と智鶴の手と重ね合うように合わせると…

 

「智鶴…」

 

「しぃ君…」

 

それが当たり前のようにと、2人の唇は重ね合っていた。

 

トクンッ…

 

そして、重ね合った手から智鶴の中へと女王の駒が静かな鼓動と共に溶け込んでいくのであった。

 

 

 

ちなみに…

 

「ボソッ(めっちゃ入りにきぃ!)」

 

「ボソッ(確かに…)」

 

「ボソッ(これが世に言うバカップルってやつかしら? 私、初めて見たわ)」

 

忍の部屋…の扉の前では同じく明幸組枠としてやってきていたクリス、暗七、カーネリアが扉の隙間から2人の様子を盗み見ていたりする。

 

「ボソッ(しかし、なんであなた達は入らないの? ていうか、なんでヒソヒソ話?)」

 

基本、破壊衝動にしか興味のないカーネリアは部屋に堂々と入ろうとする。

 

「ボソッ(バッカ!? この状態で入るとかKY過ぎだろ!?)」

 

「ボソッ(流石に、ねぇ?)」

 

カーネリアを羽交い絞めにするクリスと、同じく足を拘束する暗七だった。

 

「なにをそんなに慌ててるのかしら?」

 

クリスから顔が見えないことを良いことに薄ら笑いを浮かべて必死になるクリスを面白がっていた。

 

「(確信犯か…余計に質が悪い…)」

 

それを下から見ていた暗七は内心で毒づいていた。

 

 

 

しかし…

 

「(君らは一体なにをしてんだよ…)」

 

智鶴とのキスを続けながら忍は部屋の外から微かに流れてくる匂いを敏感に察知して頭を抱えるのを我慢していた。

 

………

……

 

そんな一幕がありつつもグレモリー眷属の皆が修行を続いてる中…イッセーがグレモリー夫人に呼び出されて何故かダンスレッスンをしていた。

そして、その一時帰還の前にアザゼルから小猫のオーバーワークについての話、グレモリー夫人から小猫の過去を聞いていた。

その後、イッセーは…

 

「もっと強くならないとな。そのためには修行あるのみ、か…」

 

気合を入れ直していた。

 

「頑張ってるみたいだね」

 

そこへ少年モードの忍がイッセーの部屋を訪問していた。

 

「そういうお前の方はどうなんだよ?」

 

「ん~…まぁ、女王の駒はちぃ姉に…」

 

それを言った瞬間…

 

「それは予想出来た」

 

予想通りだと言われてしまっていた。

やはり、周知の事実だったようだ。

 

「最後まで言えない!?」

 

「ったりめぇだ。お前が明幸先輩以外を選んだ日にはきっと血の雨が…」

 

安易に想像出来てしまうバッドエンドな未来を考えてイッセーは小さく身震いする。

 

「そんな怖いこと………ないとは言い切れないかな…」

 

忍も想像してしまったのか苦笑してしまっていた。

 

そうして2人が他愛のない話を続けていると…

 

キィィン…

 

2人を取り囲むようにして黒と蒼の混ざったような色をした転移用の魔法陣が展開される。

 

「っ?!」

 

「な、なんだ?!」

 

グレモリーの敷地内でこんなことに遭うとは予想も出来なかったため、助けを呼ぶ暇もなく2人の姿はグレモリー領から消えてしまう。

 

………

……

 

グレモリー領から遠く離れた冥界の辺境地にて…

 

「ふふふ…」

 

その男は水晶玉に映っていた先程の転移現象を観察していた。

 

「伝説の赤龍帝…それに古き狼の末裔……果たして、我々の脅威になりますかね?」

 

そう言う男の後ろには黒いローブを深く被った6人の人影が存在していた。

 

果たして、彼らの正体とは…?



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第二十二話『吹雪の園と出会いと水瓶座』

謎の転移陣で忍とイッセーは地球や冥界とは異なる世界にやってきてしまっていた。

 

その世界とは…

 

~???~

 

「ぶぇっくしょんっ!!」

 

なんと雪と氷で覆われた世界であった。

しかもご丁寧なことに吹雪まで吹雪いている。

そのためかイッセーは盛大なくしゃみをして、ガタガタと見るからに寒そうである。

ちなみにイッセー、翌朝には山に戻るつもりだったのでジャージ姿で寝ようとしていたりする。

 

「イッセー君。大丈夫?」

 

そんなイッセーとは対照的に忍は平然としていた。

忍も寝巻仕様の半袖に短パンという夏だから涼しげな格好をしているのだが…こと、この世界に関して言えば、自殺行為も甚だしい格好である。

にも関わらず、忍はケロッとしていた。

 

「お前は寒くないのかよ!!?」

 

イッセーの必死の言葉も…

 

「う~ん…ちょっと肌寒いくらいかな?」

 

軽く流されてしまった。

 

「それで済む寒さか!?」

 

イッセーの言葉は正しいだろう。

 

「そうは言っても…ここが何処かも分からないのに無闇に歩いても、ねぇ?」

 

忍の考えも正しいだろう。

いくら忍の嗅覚が急激に発達したとは言え、この吹雪の中では簡単に匂いも辿れない上に簡単に遭難してしまうだろう。

 

「困ったな…」

 

そう言いつつも何が起こるかわからないので青年モードへと変化している。

 

そんな時だった。

 

ザッ…ザッ…

 

微かに雪を踏む音が聞こえてくる。

 

「(誰か来る?)」

 

忍は静かに警戒する。

 

「忍、どうした?」

 

イッセーはまだ気づいてないようだった。

 

「そこに誰かいるのですか?」

 

吹雪の中から白いローブを深めに被った声からして少女らしき人物がやってきた。

 

「あなたは?」

 

忍の問いに…

 

「私は…旅の者です」

 

少女は少し考えたような素振りを見せてからそう答えていた。

 

「……寒くないのですか?」

 

そして、当然の疑問として薄着の忍に尋ねる。

 

「えぇ、不思議なことに大丈夫なんです」

 

「…………」

 

平然とそう答える忍に少女も少し呆気に取られていたが…

 

「…あの、お連れ様は?」

 

「え?」

 

そういえば、とイッセーの方を見てみると…

 

「………ね、眠い……」

 

雪に埋もれて今にも寝そうになっていた。

 

「イッセー君!?」

 

すぐさまイッセーの元に近寄ると…

 

ベシベシベシベシ!!

 

胸倉を掴んで持ち上げると、気を少し纏った往復ビンタを浴びせる。

 

「痛ってぇえ!?」

 

あまりの痛さに復活するイッセー。

 

「こんなとこで寝たら死ぬから!?」

 

「だからってお前! ちったぁ手加減しろよ!!」

 

「手加減なんかしたら逆に意識が朦朧としそうなんだぞ?!」

 

そんな言い合いをしてるくらいに元気なら問題ないだろう。

 

「あの…」

 

そこへ白いローブの少女が2人に近付き…

 

「近くに小さな集落がありますから、そこへ行かれてはどうですか?」

 

親切心からそう言っていた。

 

「集落って…村かなんかがあるんですか!?」

 

それを聞いてイッセーが食いつく。

 

「じゃあ、あなたもそこから?」

 

「は、はい。別の場所に移動しようとここまで来ました」

 

イッセーの勢いから少し下がりつつ忍の問いに答える。

 

「よっしゃ、ならさっさと行こうぜ!」

 

寒さを凌げる場所なら何処でも良いらしく、イッセーは少女が来たっぽい方角へ向けて走り出した。

 

「あ、イッセー君! すみません。情報をありがとうございました」

 

そう言って忍もイッセーを追いかけるために走り出していた。

 

「あっ…」

 

少女は何か言おうとしたらしいが、それが忍やイッセーに聞こえることはなかった。

 

………

……

 

それからしばらくして…

 

「シア」

 

少女の前に1人の男が現れた。

 

「兄さん…」

 

少女は男…『神宮寺 紅牙』のことを兄と呼んでいた。

 

「気は済んだか?」

 

その言葉に『シア』と呼ばれた少女は悲しそうな面持ちで兄を見て…

 

「兄さん、本当に攻めるんですか? 相手は悪魔でも堕天使でもないんですよ…?」

 

それは復讐の相手が違うということを言っている。

 

「それくらいわかっている」

 

「だったら…!」

 

兄の言葉にシアは止めさせようとするが…

 

「だが、悪魔を滅ぼすには勢力を拡大する必要がある。他種族を支配して悪魔へと攻勢を仕掛ける。これはその第一歩なんだよ」

 

紅牙は非情にもそのような選択をしていた。

 

「そんな…」

 

「お前も冥族の一員ならば覚悟を決めろ。明朝、雪女共の里へと仕掛ける」

 

そう言って紅牙はシアに背を向けていた。

 

「(お願い…誰か、兄さんを止めて…)」

 

そんな兄の後姿をシアは悲しそうに見つめていた。

 

………

……

 

一方、忍とイッセーは…

 

「なんでこうなるのかな?」

 

「俺が知るかよ!」

 

集落に辿り着いた途端、身柄を拘束されてしまっていた。

そして、一番立派な武家屋敷のような建物の地下にある牢獄へと幽閉されてしまっていた。

 

「それにしても…イッセー君、気づいた?」

 

「あぁ…」

 

忍の問いかけにいつにも増して真剣な表情でイッセーは…

 

「女の子しかいなかったよな! しかも皆美人揃いだったし!」

 

ちょっと興奮気味にそう答えていた。

 

「うん。妙に殺気立っていたというか、なんだか戦の前の…………は?」

 

思わぬ返答に自分の予想とは全然違うことを考えていたイッセーに"冗談だよね?"という眼を向けていた。

 

「しかも皆白い着物を着てたから体のラインがクッキリしてて…」

 

しかし、忍の視線に気づかないのか煩悩全開の返答を続けていた。

さらに言えば、涎も垂らしていたが、あまりの寒さに凍り付いていたりする。

 

「……………」

 

あまりにも残念な反応に忍は頭を抱えていた。

 

「でも着物っておっぱい押し潰してたよな…それがネックなんだよな。着崩してるならまだしも……って、どうかしたのか?」

 

忍が頭を抱えてるのを見てやっと意識を忍に向けた。

 

「イッセー君はブレないね。そうじゃなくて…この集落の雰囲気だよ。まるで決戦前夜みたいな…鬼気迫るとか、ピリピリした感じがしないかってこと!」

 

「あ~、そういや何か妙に気迫があったな…なんでだ?」

 

「それを一緒に考えようってことなんだけどな…」

 

「おぉ、そういうことか」

 

ポンと手を叩いて納得するイッセーを見て忍は先行きが不安になっていた。

 

「しっかりしてくれよ」

 

そんなことをしていると…

 

ギィィ…

 

重量感のある扉が開く音がしてきた。

 

「「………」」

 

2人はそちらに意識を向けると、1人の女性が2人の閉じ込められた牢の前までやってくる。

 

「あなた方が遭難者…ですか?」

 

その女性はどこか妖艶な雰囲気を纏っていながらもキッチリと着物を着こなし、凛とした面持ちで2人に尋ねていた。

 

「遭難…と言えば、そうなんですが…」

 

忍がそう答えると、しばしの沈黙がその場を支配した。

 

「忍、それ狙ってねぇよな?」

 

「え? 何が?」

 

「いや狙ってねぇならいいんだけどよ…」

 

「?」

 

イッセーの言葉の意図がわからず、忍は首を傾げていた。

意外と天然な部分があるのかもしれない…。

 

「コホン…」

 

女性が咳払いを一つする。

 

「えっと…俺達は、その…本当は冥界にいたんですけど…なんでか知らない内にここにいて…」

 

それを聞き、イッセーが答えようとする。

 

「転移陣で強制的に、な」

 

それに忍も付け加える。

 

「冥界…ということはあなた方は悪魔なのですか?」

 

冥界という言葉に反応して女性がさらに質問する。

 

「俺は…その、人間から転生した悪魔でして…」

 

「俺は違います」

 

イッセーはそう答え、忍はキッパリと否定していた。

 

「そうですか。なら、単刀直入に聞きましょう。あなた方は彼らの仲間か何かですか?」

 

女性は冷たい視線を2人に向けて直接的なことを聞いていた。

 

「彼らとは?」

 

イッセーを少し見てから忍が逆に聞いていた。

 

「冥王と名乗る若者…名を神宮寺 紅牙と言っていましたか」

 

「紅牙だって!?」

 

その名を聞いて忍が驚く。

 

「知っているのですか?」

 

「知ってるも何も…あいつとは一度戦ったことがありますから…」

 

あの時に見せた紅牙の憎悪の眼差しを思い出して忍は表情を険しくする。

 

「確か、あいつも禍の団だったよな?」

 

そんな忍にイッセーも確認を取っていた。

 

「あぁ…冥王派だったか。しかし、解せん。あいつは悪魔や堕天使に憎悪を抱いてるはずなのに…なんだってこの集落に攻勢を仕掛ける必要が…?」

 

忍の疑問に答えたの女性だった。

 

「彼らは我々に降れという折を伝えてきました。つまり、彼らの軍門に降って我々の力を何かに利用するつもりなのかと…」

 

それを聞き…

 

「そこまでして冥界に復讐したいのか、紅牙…」

 

「ただのやつ当たりじゃねぇか!」

 

忍は複雑な心境を抱き、イッセーは怒りを覚えていた。

 

「あと、この集落には女性しかいないようですが…大丈夫なんですか? もしよろしければ俺達も手を貸しますが…」

 

そう言う忍だが…

 

「ご心配は無用です。ここは雪女の里。里の問題は里で解決致します」

 

そう言って女性はその場を去ろうとするが…

 

「そういえば、あなた…その格好で寒くはないのですか?」

 

今更ながら忍の姿を見てそう聞かずにはいられなかったようだ。

 

「えぇ…なんでだか、不思議と寒くはないですね。むしろ心地良いとさえ思えてます」

 

その答えに…

 

「そうですか…」

 

女性はそれだけ呟き、地下から出て行こうとする。

 

「(まさか、ね…)」

 

その際、忍の事をチラリと見てから地下を出て行ってしまった。

何を思ったのだろうか?

 

………

……

 

こうして牢獄で一夜を過ごした2人を置いて事態は動き出してしまった。

 

ドゴンッ!!

 

「のわっ!?」

 

地上から聞こえてきた爆音で目が覚めるイッセー。

 

「始まったか…」

 

既に起きていた忍は牢獄の檻へと手を当てると…

 

「はぁ…!!」

 

冥王に覚醒した際に目覚めた魔力変換資質『炎熱』を用いて鉄格子を軟らかくすると、ぐにゃりと変形させて人一人が出られる抜け穴を作っていた。

 

「よし、これで出れる」

 

「そんなこと出来るんなら最初からやれよ」

 

忍の行動イッセーは苦言を呈す。

 

「無用な騒ぎは避けたいからな。それにこんな状況なら勝手に抜け出して加勢したって問題ないだろ?」

 

「加勢するつもりだったのな…」

 

「嫌ならここで待っててもいいけど?」

 

忍の言葉に…

 

「冗談。ここで逃げたら男が廃るってな!」

 

イッセーはそう言っていた。

 

「(それに体動かせばちっとは寒くなくなるかもだし、何より雪女の里ってのが良い! 誰かとお近付きになれるかもしれないし…)」

 

但し、内心では欲望全開であった。

 

「じゃ、行くぜ?」

 

「応ッ!」

 

牢獄から脱獄(?)した2人は地上へと向かった。

 

 

 

2人が地上に出ると、既に戦闘が始まっているらしくそこかしこから爆音が響き、悲鳴も聞こえてくる。

 

「ふむ…血の匂いはそんなにしない。捕縛してるのか?」

 

外の匂いから忍はそう判断していた。

 

「(が、あまり好ましくない匂いもしない訳じゃないが……嫌な気分だ…)」

 

戦場の中で微かに混じる男と女の匂いに顔を顰めてもいた。

 

「どこの組織にもバカはいるもんだ…」

 

「何言ってんだよ?」

 

「こっちの話。それよりも紅牙を捜して止めないとな…」

 

そう言うと集中して紅牙の匂いを探し出す。

 

「…………こっちか!」

 

「あ、おい、待てって!」

 

一回しか戦ったことはないが、そこは超学習能力の恩恵でその匂いは記憶しており、比較的早く見つけることが出来たのである。

 

ただ…

 

「(紅牙だけじゃない。これは…もう1人、誰かいる?)」

 

紅牙だけじゃなく知らない匂いも混じっていた。

 

 

 

武家屋敷から離れてしばらく走った頃、2人は教会の近くまでやってきていた。

 

「ここからか?」

 

そう呟くと、周囲を警戒しながら教会の様子を窺うべく物陰に隠れていた。

 

「いかないのかよ?」

 

「まずは情報収集。ちゃんと警戒しろよ?」

 

イッセーにそう釘を刺すと、教会の方を見る。

 

そこでは…

 

「くっ…」

 

昨夜、忍とイッセーの元へと訪問してきた女性が左二の腕から血を流しており、その左二の腕を右手で押さえて膝を屈して目の前にいる紅牙を見上げていた。

 

「ここまでだ。降伏するなら今の内だぞ?」

 

その紅牙は手刀を女性に向けてそう言い放っていた。

しかし、その姿は神が金色、瞳がサファイアブルーへと変化しており、頭からは狐の耳と臀部から九本の狐の尻尾を生やしていた。

そして、その後ろには悲痛な面持ちの少女が立っており、白いローブを纏っていた。

 

「(彼女は…まさか、昨日の…!?)」

 

親切な人だと思っていたが、まさか禍の団の一員だったとは到底思えなかった。

それに疑問も残る。

 

「(テロに組していながら何故あんな表情を…? 彼女は何か、迷ってるのか…?)」

 

様子を見ながら少女…シアの表情を見て色々な可能性を考え始める。

 

「兄さん。やっぱり、こんなことをしても…」

 

「黙ってろ! 俺達には力が必要なんだ! 奴らを葬るための力が! そのために他種族を支配する。昨日も言ったはずだ!」

 

「でも…そんなことをしても一族のみんなは…!」

 

激しく力を求める紅牙にシアも必死に食い下がるが…

 

(くど)い!!」

 

バシッ!

 

そう言うと、紅牙は九つある尻尾の一本でシアの頬を叩いていた。

 

「きゃっ!?」

 

それを受けてシアは倒れてしまう。

 

「いくら実の妹でもこれ以上の進言は許さん! 黙って俺に従っていればいいんだ!!」

 

怒声に近い声音で言い放っていた。

 

それを見て…

 

プチンッ…

 

忍の中の何かが切れて…

 

「紅牙ぁぁぁぁッ!!」

 

一瞬で銀狼へと変身した忍は一足に跳び、上空から紅牙を狙って急降下をしていた。

 

「貴様は!? 何故ここに?!」

 

忍の登場に紅牙も驚き、尻尾で己を包むようにして防御態勢を取る。

 

「っ!!」

 

それを見て着地点を女性の前に変更すると…

 

「乗ってくれ!」

 

「あなた、その姿は…っ!?」

 

女性は驚いたように忍を見るが…

 

「いいから早く!」

 

忍の勢いに負け、忍に背負う形で乗っかる。

 

「逃がすか!!」

 

それを察知した紅牙が尻尾を操って捕縛しようとするが…

 

「ブリザード・ファング!」

 

中距離拡散型砲撃で迎撃すると…

 

「掴まって!」

 

背中の女性にそう言うと、今度はシアの元へと移動し…

 

「あ、あなたは昨日の…?!」

 

「話はあとで…今は…」

 

そう言ってシアをお姫様抱っこで抱えると、一気にイッセーの元へと戻ってくる。

 

「忍、お前って奴は…!」

 

イッセーは友人の無茶な行動(と、ちょっと羨ましい格好)にちょっとした怒りを覚えていた、

 

「悪い。ちょっと熱くなった…」

 

そう自嘲しながら2人を降ろすと、紅牙から守るようにして立つ。

 

「イッセー君、2人を頼む。俺は紅牙を…」

 

「頼む、ってな。俺、防御とかあんま得意じゃねぇんだぞ?」

 

実際のところ、イッセーは防御よりも攻撃に特化している。

 

「それならそれで戦いようはあるでしょ? 要は近づく前に殴り飛ばせばいいんだよ」

 

それを聞き…

 

「お前って…意外と人使いが荒いよな…」

 

イッセーは苦笑混じりに答えていた。

 

「かもな…」

 

そう言ってる間にも紅がこちらに向かってくる。

 

「じゃあ、頼んだぜ!」

 

そう言うと、忍は紅牙へと向かっていった。

 

「(忍…それにあの姿…やっぱり、あの子は…)」

 

その一連の行動を見て女性は忍に対して何か確信を持ったようだった。

 

 

 

「何故、貴様がここにいる!!」

 

「こっちが聞きてぇよ!!」

 

紅牙の攻撃を避けながら忍は隙を見て紅牙に近付いて格闘戦を仕掛ける。

しかし、尻尾によってそれらを(ことごと)く防がれてしまう。

 

「(ちっ…ネクサスやファルゼンがないから決定打に欠ける!)」

 

実際問題、忍にはデバイスが無い状態では決定打を持っていなかった。

 

「ちょこまかと…犬は犬らしく、遠吠えでも吠えてろ!」

 

「テメェも犬だろ!」

 

その言葉にカチンと来たのか、そう言い返していた。

 

「俺は天狐だ!」

 

「そうかよ! 俺も狼なんだよ!」

 

このやり取りだけ見るなら、変なところでプライドが高いという共通点を持った似た者同士な気がしないでもないな…。

 

「埒があかん! 我が名は紅冥王!」

 

九尾の姿から一瞬にして紅冥王へと変化すると…

 

「グラヴィタス・イフリート!!」

 

冥王スキルを発動させ、周囲に紅の焔と重力場の球体を出現させた。

 

「以前は邪魔が入ったが、今回はそうはいかんぞ!」

 

いくつかの球体を操り、忍へと攻撃を仕掛ける。

 

「ちっ!」

 

それを回避しようとするが…

 

「なっ!?」

 

体が重力に引っ張られてしまい、回避する方向とは別方向へと進んでしまい、そこに設置されていた焔の球体に焼かれてしまう。

 

「ぐああ!?」

 

「冥王スキルにすら目覚めていないお前が俺に勝てると思うな!!」

 

そう言うと複数の黒い球体を操って忍を手足を引き寄せ、拘束するようにしてしまった。

 

「焼死しろ!」

 

いくつかの焔の球体を手元に集めると、火炎放射器のように高温の焔を忍へと叩きつけていた。

 

「ぐあああああ!!?」

 

紅蓮冥王に覚醒したとは言え、まだ焔の扱いには慣れていないらしく忍は紅牙の放つ焔に苦しんでいた。

 

「忍?!」

 

それを見たイッセーは…

 

「忍を放しやがれ! ドラゴン・ショット!!」

 

魔力の波動を放っていた。

 

「ふんっ!」

 

それに対して紅牙は黒い球体を操り、ドラゴン・ショットの軌道を無理矢理に変え…

 

ゴバンッ!!

 

「がはっ!?」

 

忍の背中へと当てていた。

 

「げっ!? そんなのありかよ?!」

 

自分の攻撃を利用されて慌てるイッセー。

 

「(なら…!)」

 

それを見た忍は…

 

「ぶ、ブリザード…ファング…!!」

 

固定された両手から中距離拡散型砲撃を放つ。

 

「無駄だ!」

 

それを紅牙は黒い球体を操って軌道を逸らしていく。

 

「まだ、だ…!」

 

再びブリザード・ファングを放つと…

 

「無駄だと言っている!!」

 

同じようにして防がれるが…

 

「(ここだ!)ハウリング・バスター…!!」

 

口から中距離単発型砲撃を明後日の方向へと放つ。

 

「ふんっ、気でも狂ったか」

 

「おいおい、忍!?」

 

嘲笑う紅牙と、慌てるイッセーとは裏腹に…

 

「違う…これは…!?」

 

シアだけは忍の意図を読んでいた。

 

すると…

 

チュドンッ!!

 

「なっ?!」

 

忍が明後日の方向へと放っていたハウリング・バスターが"紅牙の背中へと直撃"していた。

紅牙の意識が途切れた瞬間に、忍は重力場から逃げ出して距離を置いた。

 

「お前がイッセー君の攻撃を利用したのを見て俺も利用させてもらったぜ?」

 

そう言って忍は笑って見せた。

 

忍は紅牙の操る黒い球体をブリザード・ファングによってある程度操らせ、その逸らした球体の角度や配置を瞬時に計算し、それらを逆利用して紅牙の背後を突いたのだ。

 

「バカな!?(あの短時間で俺の冥王スキルを逆利用するなんて…!?)」

 

紅牙は驚愕の面持ちで忍を見ていると…

 

「兄貴が妹を殴るんじゃねぇよ…!」

 

瞳孔が縦に鋭くなりながらそれだけを強く言っていた。

 

その時だった。

 

『お見事です』

 

バンッ!!

 

その声と共に教会の扉が開く。

 

「っ!?」

 

「なんだ!?」

 

「まさか…」

 

皆の視線が教会内へと注がれると、そこには水瓶座を象った様な白銀の像が教会内の祭壇前に安置されていた。

 

「あれは…古い時より我が里に祀られていた白銀の水瓶像…」

 

女性がそう呟いた瞬間、忍が近くに似たような存在があることを思い出した。

 

「エクセンシェダーデバイス?!」

 

忍がそう叫ぶと…

 

『如何にも。我が名はブリザード・アクエリアス。あなたの愛と知恵に感銘を受けました。今日よりあなたを我が主と認めたいと思います』

 

そう答えると、水瓶座の像はバラバラに分離すると一直線に忍の元へと向かい…

 

ガシャンッ!

 

額にヘッドギア、胸部に氷の結晶型の大きなサファイアが嵌め込まれたプロテクター、両肩に肩当て、両腕に分かれた水瓶を象った特殊篭手、腰部にプロテクター、両足に足具をそれぞれの部位へと装着していった。

 

『あなたのお名前は?』

 

「し、忍……紅神 忍だ」

 

『忍様。今日からよろしくお願いいたしますね』

 

「あ、あぁ…」

 

あまりにも急な展開に忍も頭がついていけなかった。

 

「そんなこけおどしに!」

 

いち早く正気を取り戻した紅牙が再び拘束しようと忍へと黒い球体を飛ばすが…

 

『無駄です』

 

一定の距離を置いて球体はぴたりと止まってしまい、それ以上先に進めないでいた。

 

「なに!?」

 

『我がシステムの一つ。ストリームオーラシステムの前ではいくら強大な魔法でも軽減してみせましょう』

 

丁寧な口調で物凄い宣言をする。

 

「ならば、これならどうだ!!」

 

再び紅の焔を火炎放射のようにして放ってきた。

 

「っ!?」

 

『シェライズ』

 

忍が両腕をクロスしてガードの構えを取ると、アクエリアスが新たなシステムを起動させる。

その瞬間、忍の目の前にバリアタイプの魔法が発動したようになり、紅牙の火炎放射を完全に防いでいた。

 

「これは…?」

 

『対属性魔法専用の特殊防御魔法です。種類としましてはバリアタイプに該当しますね』

 

「つまり、紅牙にしたら相性最悪のエクセンシェダーって訳か…」

 

それを聞いて忍は小さく呟いた。

 

『そういうことになりますね。しかし、忍様はエクセンシェダーをご存じで?』

 

「まぁ…蠍座が近くに、な」

 

『それはそれは…久しぶりに彼女に会えるのですね』

 

何とも穏やか…と言うよりかはマイペースな管制人格であるが、今は戦闘中である。

 

「話は後だ! 今は紅牙を止める!」

 

『御意に』

 

そう言って忍は紅牙に向かっていく。

 

成り行きとは言え、知らない地にて水瓶座のエクセンシェダーデバイスに認められた忍…。

果たして、紅牙との勝負の行方は…?



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第二十三話『反撃と真実と約束』

多次元世界の一つ…『ブリザード・ガーデニア』。

雪と氷で覆われたこの世界。

その中にある雪女の里で、紅冥王と水瓶座の戦いが繰り広げられていた。

 

~雪女の里・教会前~

 

「ブリザード・ファング!」

 

忍は中距離拡散型砲撃を放つ。

 

「ちぃっ!!」

 

それを紅牙は焔の球体で防いでいく。

 

「紅牙! そこまでして悪魔に復讐したいのかよ!!?」

 

忍は紅牙の懐に入りながらそう問う。

 

「当たり前だ! 俺達冥族を辺境に追いやった悪魔共に復讐しないで前に進めるものか!!」

 

「復讐の先に何があるってんだよ!!」

 

互いにそう叫ぶと両手を掴んで取っ組み合う形になる。

 

「貴様に何がわかる!!」

 

「少なくとも、妹さんを傷つける理由にはならねぇだろ!!」

 

ゴスッ!!

 

そう言うと忍は紅牙の額に頭突きをかます。

 

「ぐっ!?」

 

紅牙は忍の手を振り払うと、額を片手で押さえながら後退る。

忍がアクエリアスのヘッドギアで守られているから平気だが…やられた紅牙にとってはかなりの痛手である。

 

「お前には見えないのかよ! 妹さんの悲しい顔が!!」

 

「ぐぅ…っ!!」

 

それを聞き、視線だけをシアへと向ける。

 

「兄さん…」

 

シアは今も悲しそうな表情で紅牙を見続けていた。

 

だが…

 

「だから、どうした! いくら実の妹とは言え、邪魔をするなら容赦はせん!!」

 

紅牙の憎しみの焔は消えることはなく、むしろさらに燃え滾っているように見える。

 

「この、バカ野郎が!!」

 

忍は頭上で両手を組むと、それに合わせるようにして両腕の特殊篭手が水瓶状へと合体を果たす。

 

「紅神ぃぃぃぃぃッ!!」

 

紅牙もまた大量の焔の球体を収束させていく。

 

「お、おいおい…このままじゃ、まずいんじゃねぇか!?」

 

2人の様子を見ていたイッセーが慌て始める。

 

「逃げる…時間も惜しいですか…」

 

そう言って女性が左手を地面の雪に置くと…

 

「はぁ…!」

 

忍と紅牙から守るようにして、巨大な氷柱が地面から迫り出し始めた。

 

「私も…!」

 

シアもまたその氷柱の外側から魔力障壁を展開して強度を上げる。

 

そして…

 

「ブリザード・ファング・エクステンション!!」

 

組んだ両手を振り下ろし、拡散するエネルギーを収束することで一点突破に特化させた氷の砲撃と…

 

「イフリート・ヴァン・ブレイカー!!」

 

両腕を突き出し、高熱を秘めた灼熱の焔の砲撃が…

 

ゴアアアアアアッ!!!

 

衝突し、冷気と熱波によって教会前の雪を氷に変えたり、溶かしてゆく。

 

一見、拮抗しているように見える砲撃のぶつかり合いだったが…

 

「ぐぅぅ…!!!」

 

徐々に紅牙が押され始める。

 

「うおおおお!!!」

 

忍の咆哮と共に氷の砲撃が紅牙の焔を吹き飛ばした。

 

「ば、バカなぁぁぁぁ!!!?」

 

そう叫びながら砲撃に飲み込まれていく紅牙。

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

いつもはセーブしながら使う魔力を今日に限っては使い過ぎてしまい、忍は肩で息をしていた。

 

その視線の先には…

 

「ぐっ…がっ…」

 

全身のあちこちが凍りついた紅牙の姿があった。

 

「まだ…やる気か…?」

 

その忍の言葉に…

 

「愚問、だ…!!」

 

ボアアアアッ!!

 

紅牙は戦闘継続を意味する紅の焔を全身から噴き出させていた。

 

しかし…

 

「おい、紅牙! 転移陣が展開されてるぞ! そろそろ引き際じゃねぇか?!」

 

1人の男が紅牙の元までやって来た。

 

「ちっ…もう勘付かれたのか…」

 

それを聞いて紅牙も舌打ちをする。

そして、忍の方を見ると…

 

「いずれ決着を着ける! その時までせいぜい首を洗って待っていろ!!」

 

そう言い残して転移陣を足元に敷く。

 

「おい、妹はいいのか?」

 

そう言う男の足元にも転移陣が敷かれていく。

 

「………構わん」

 

それを最後に紅牙達は転移陣を介して姿を消していた。

 

「兄さん…」

 

重要参考人、1人を残して…

 

そして、紅牙達の転移と入れ替わるようにして三大勢力の軍が雪女の里へとやってきたのだった。

 

………

……

 

「まったく、いなくなったかと思えばこんなところにいたとはな」

 

武家屋敷の応接間にてアザゼルが忍とイッセーを前にしていた。

 

「お手数をおかけします…」

 

「あはは…すいません…」

 

その2人の様子を見て一応ホッとしたらしい。

 

「で、何が起こったんだ?」

 

そこから2人は蒼と黒の混ざったような転移陣によってここに飛ばされたことから、今までの状況をアザゼルに話していた。

 

「なるほど。その転移陣ってのがキナ臭いな」

 

「同感です。まるで俺とイッセー君をこの場に送り込んできたような手口…気にはなってました」

 

難しい表情をする忍とアザゼルに…

 

「え~っと…つまり、禍の団以外にも動いてるやつらがいると…?」

 

イッセーは二人の様子を伺うようにして尋ねる。

 

「その可能性もあるってことだ。しかも連中にかなり近しい存在がな」

 

「何者なんでしょうね?」

 

「さぁな。ともかくそっちは禍の団の情報と一緒にシェムハザにでも探らせてみるさ」

 

話もひと段落したところで…

 

「さて、長居は無用だ。とっとと帰るぞ。特にイッセー、お前はしっかり修行しないとだからな」

 

「は、はい!」

 

早々に帰還の段取りに入ろうとするアザゼルだったが…

 

「少しお待ちください」

 

そこへ忍達が助けた女性が、男性と共に応接間へと入ってきた。

 

「あ、総督。今回の件はどうもありがとうございました」

 

男性がアザゼルを見つけると、礼を述べていた。

 

「気にするな。テロリスト共は今じゃ悪魔、天使、堕天使の共通の敵だからな。にしても、ここがお前さんの住まいって訳か、セラール?」

 

「えぇ、雪女の里と言いまして。基本的に女性しか生まれないんですよ。それにこの寒さですからなかなか男は生きてけなくてですね」

 

セラールと呼ばれた男性はアザゼルの問いにそう答えていた。

 

「マジで!? ここって極寒のハーレム天国だったり!?」

 

セラールの言葉にイッセーが食いつく。

 

「どうなんだろう? 僕は氷姫(ひめ)ちゃん一筋だし、そういう発想はなかったかな」

 

そう言うと、セラールはおもむろに氷姫と呼ばれた女性の顔に手で触れる。

 

「セラールさん? 人様の前での接吻はご遠慮願うようにいつも言ってますが?」

 

が、その手の甲を抓って氷姫はセラールに鋭い視線を向ける。

 

「痛い痛いから」

 

手を離すと、アザゼルへと視線を投げる。

 

「お前、それが堕天の理由じゃないだろうな?」

 

「さぁ? 僕もよく覚えてませんし…」

 

アザゼルが半分笑いながら言い、セラールがそれに答えていると…

 

「すみませんが、話が先に進みませんのでシャンとしてください。あと、彼女も連れてきてほしいのですが…」

 

氷姫は下座の方に座ると、そう言っていた。

 

「彼女ってのは…紅神が保護したって禍の団の構成員の事かい?」

 

アザゼルが、空気を読んそう尋ねると…

 

「えぇ、彼女は一度ここへ争いを回避するための使者としてやってきました。その真意を知りたいのです。あと、それとは別にもう1人来る予定なので…」

 

それだけ言うと氷姫は押し黙ってしまう。

 

「彼女は僕の奥さんであると共にこの里を治める家の出ですから…何か事情があるんだと思います。だから少しの間、なんとかなりませんかね?」

 

押し黙った氷姫に代わり、セラールがアザゼルに頼み込む。

 

「まぁ、あいつはここの地下にある牢獄にぶち込まれてるからって暴れたりしてないし、むしろ協力的だからな…」

 

しばし考えた後…

 

「…わかったよ。その代わり俺も傍聴させてもらうぜ?」

 

そう言ってアザゼルは一度部屋から退室してしまった。

 

 

 

しばらくして…

 

「…………」

 

困惑した様子のシアを連れてアザゼルが戻ってきた。

 

「母さん、あたしまで呼んでなんか用なの? さっきので疲れたんだけど…」

 

さらに氷姫の言うもう1人もやってきたが、その人物は忍達と大して変わらないような少女だった。

 

「集まりましたね。では、まず…」

 

そう言って氷姫は忍に向き直ると…

 

「"お帰りなさい、忍さん"」

 

少し微笑んだような表情でそう告げていた。

 

「……………………はい?」

 

言われた本人は何が何だかわからないでいた。

 

「"お帰りなさい"って…え? あの…俺、ここに来るの初めてですよね?」

 

忍からしたら当然の疑問に…

 

「はい。あなた自身がここに来たのは初めてかもしれませんね」

 

氷姫はそう答えていた。

 

「どういうこった?」

 

「僕にもサッパリです」

 

アザゼルがセラールに聞くが、セラールもわからないでいた。

 

「てか、忍って名乗ってたっけ?」

 

イッセーが記憶を遡って思い出してみるが、戦闘中にイッセーが何度か呼んだくらいである。

ちなみに何故呼ばれたかもわかっていないシアと少女も頭に?を浮かべていた。

 

「では、最初から説明します。まず、私はこの里を治める家に生まれましたが、それは私が"次女"としててです」

 

「そいつはつまり…アンタには姉がいると?」

 

氷姫の言葉にアザゼルが質問すると…

 

「はい」

 

すぐに返答した。

 

「普通ならば、家督は姉に継がれて私はその補佐に就くはずだったのです。しかし…」

 

「何か問題があったんだな?」

 

「えぇ…」

 

そこから氷姫は静かに語り始める。

 

「ある日、この里に傷付いた姿で現れた男性がいたのですが…その人を看病してる内に恋仲になった様なのです」

 

「僕と氷姫ちゃんと同じだね」

 

それを言われて恥ずかしそうな表情を一瞬見せるが、すぐに落ち着いきを取り戻す。

 

「そして、その男性と姉の間に子供が出来ました。元来、私達雪女は出産しても女の子しか生めません。しかし、その認識は姉の身籠った子供によって変わりました」

 

「なるほど。だいたい読めてきたぜ」

 

「そういうことですか」

 

アザゼルやセラールも氷姫の言葉に理解を示し、忍の方を見ていた。

 

「………………」

 

当の忍も氷姫の言葉が理解できたのか言葉を失っていた。

 

「え? それって、つまり…?」

 

唯一わかってなさそうなイッセーが氷姫に尋ねると…

 

「その子は…検査の結果、"男の子"だったのです」

 

「ちょ、嘘でしょ!?」

 

氷姫の告白に少女はかなり驚いていた。

 

「事実よ。雪女でも男の子は生まれるの。私達の歴史の中でも初めての事だったから…みんな、困惑していたわ。でも、姉は嬉しそうに子供の事を私に話してくれた。その子の名前についても…」

 

そう言ってから再び視線を忍に戻していた。

 

「"忍"。姉はお腹の中にいた子のことをそう呼んでいたわ」

 

「……………」

 

つまり、忍は雪女の血を受け継いでいることになる。

 

「それで、その姉さんってのはどうしたんだい?」

 

あまりの衝撃に固まっていた忍に代わりアザゼルが氷姫に尋ねていた。

 

「私の義兄となるはずだった男性と離れ離れになるのが嫌だったらしく、身籠ったまま駆け落ち同然に姿を消しました。その後の事は…私にもわかりません…」

 

そこで、やっと衝撃から少し立ち直ったのか…

 

「俺も…物心ついたころには両親を見てない。もう、明幸の家に預けられた後だったらしくてな」

 

古い記憶を辿っていた忍がそう口にした。

 

「そう、ですか…」

 

忍の言葉に氷姫も少し悲しそうな表情を見せていた。

 

「そっか。人型妖怪の血ってのは雪女だったのか…」

 

以前、シャドウに調べられた血液の事を思い出しながらそう呟いていた。

 

「なら、俺にリンカーコアが宿ってる理由とかもわかりますか?」

 

破れかぶれに聞いてみると…

 

「リンカーコア? それは魔力玉のことかしら?」

 

そう言って氷姫は魔力の球を作ってみせた。

 

「それは…!?」

 

「魔力玉の経緯については…私も詳しくないのだけれど、過去に私達の家系に入った血筋が絡んでいるらしいの。確か、"冥王"だったかしら?」

 

氷姫が冥王と口にした瞬間…

 

「冥王!?」

 

今度はシアが反応した。

 

「冥王が…この里に…? じゃあ、兄さんは同胞を手に掛けようと…?」

 

その事実に気づき、シアは複雑な心境になっていた。

 

「冥王と言う存在が何か知りませんが…彼の血が入って以降、私の一族には魔力玉が遺伝するようになりました。彼が持っていたという特殊な力は残念ながら遺伝しませんでしたが…私の娘、吹雪(ふぶき)にはその能力があるんです。私達は先祖返りと見ていますが…」

 

そう言って娘である吹雪と呼ばれた少女を見る。

 

「こりゃとんだ展開だな。じゃあ、なんだ? 落ち延びた冥族の誰かがここの女とデキて、その遺伝子が後世に伝わってきたってか?」

 

「恐らくは…」

 

「吹雪ちゃんのあの能力はやっぱり冥族特有のものだったんだ。もしかしてとは思ってたけど…雪白家にそんな経緯があったなんてね」

 

大人達が難しい話をしている横では…

 

「冥族、か…」

 

「同じ冥族同士で争っていたなんて…」

 

「訳わかんないわ…」

 

「もう、なにがなんだか…」

 

忍は自分の血にそんな経緯があったのを知って思いふけり、シアは冥族同士が争っていたことを悲しみ、吹雪とイッセーは頭がこんがらがっていた…。

 

「っと、話がそれだけならそろそろ俺達は退散させてもらうぜ? 何しろ、俺はこいつらを連れ戻しに来たわけだからな」

 

話が長引いたのを感じてアザゼルがそう言いだすと…

 

「あ、最後にもう一つ。忍さん、吹雪」

 

氷姫は甥と娘を呼びつける。

 

「何か?」

 

「なに?」

 

2人が同時に氷姫を見ると…

 

「あなた達は許嫁同士なので、帰るなら吹雪もついていなさい」

 

「「…………………は?」」

 

その言葉に2人は固まる。

忍に至っては今日何度目の驚きだろうか…。

 

「これは姉と私で決めた約束だったのですが…もしも男の子と女の子が生まれたら結婚させようという…」

 

氷姫が最後まで言い終わる前に…

 

「いやいやいやいやいやいや!? 彼女、仮にも従姉妹でしょ? それっていいのか?! つか、俺にはもう決めてる人が…!?」

 

忍が慌てて氷姫に言うが…

 

「何を言っているのですか? 私達の一族は基本的に女系です。外から男を婿にするしかないのです。しかし、この環境に適応できる男性は限られています。それならいっそのこと、子孫繁栄のためならば一夫多妻でも構わないというのが古き時代からの習わしなのです」

 

真面目な顔でそんなことを言われてしまった。

 

「幸いなことに、忍さんは適応できる体質の持ち主ですからね。少しでも血を遺せるなら身内同士でも構いません。この人にはそういう甲斐性がありませんし…」

 

溜め息を吐きながら自分の夫を見る。

 

「僕は氷姫ちゃん一筋だから無理だよ。それに総督も知ってるでしょ? 僕等ってあまり数は増えない方向になってるし…数が増えても、ねぇ?」

 

「それを俺に言うか。まぁ、そういうことなら仕方ねぇわな。離反した奴らは武闘派が多かったし他の奴等も自由気ままな生き方してるし…」

 

凄い嫌味を言われた気がするアザゼルだったが、そこはグッと堪えてそう答えていた。

 

「だからこそ、忍さんには吹雪を娶っていただきたいのです。もちろん、正室がいるなら側室でも構いませんが…」

 

「ちょっ、母さん!!」

 

母親の言動に流石の娘もキレそうになっていた。

 

「とにかく、帰るのであれば吹雪も連れていってください。そして、吹雪は忍さんがどういう人なのか見極めなさい。相性もあるでしょうし…」

 

母はブレなかった。

 

「っと、忘れるところでした」

 

そして、不意にシアの方を見ると…

 

「あなたは、どうして昨日こちらに来たのですか?」

 

その真意を聞き出そうとしていた。

 

「私は……今のやり方で本当に正しいのか…争わずに解決できないのか…そう考えていました…」

 

シアは悲しそうに語り出す。

 

「兄は冥族の復興と言ってますが…それは復讐と変わりないはずです。昔の兄はもっと優しかったんです。けれど、ある日…悪魔に両親を殺されてしまってから…兄は変わりました…」

 

「旧魔王派の連中だな。あいつら現政府よりも見境ないからな」

 

シアの言葉を聞き、アザゼルはそう判断する。

 

「それから兄は力を求めるようになりました。私は少しでも兄の業を背負えるならと禍の団に入ったのですが…兄は力に固執するようになって…あんな、行動に…」

 

シアは今にも泣きそうな表情で話を続けていた。

 

「私は…兄の暴走を止めたかったんですが、いくら話しても平行線で…誰か止めてくれる人が現れないかとずっと思っていました…」

 

おもむろに忍は立ち上がると、シアの前まで移動して…

 

「なら、俺が止めてやるよ…」

 

「…っ?!」

 

シアはハッとして忍を見ると、忍はシアの頭を優しく抱いてやる。

 

「俺が…紅牙の奴を止めてやる。だから、そんな悲しそうな顔をすんなよ。せっかくの美人が台無しだぞ?」

 

「っ…ぁ…」

 

シアは忍の胸の中で静かに泣いていた。

 

「……………」

 

それを黙って受け入れる忍はシアの頭を優しく撫でていた。

 

「いいか、イッセー。お前もハーレム目指すならあれくらいの甲斐性を見せないとな」

 

「は、はい。精進します!」

 

その様子を見てアザゼルがからかう様にイッセーへと助言(?)していた。

 

「…………」

 

不機嫌な表情の吹雪は色々と納得していないようである。

 

こうして、ブリザード・ガーデニアでの一件を終えて忍とイッセーは無事冥界へと帰還を果たすのだが…。

 

イッセーは心配していたリアスにしこたま怒られた挙句にタンニーンとの修行も遅れた分だけ激しくなったという…。

 

忍は忍でシアと吹雪を連れての帰還ということもあってかなり部屋が緊迫した修羅場と化したらしい。

特に酷かったのは智鶴であり、また置いてかれたと思ってスコルピアの次元刀を手にスコルピアを従えてグレモリーの別荘を徘徊していたとかどうとか…。

そこへ忍が2人を連れての帰還だから…とにかく空気が重かったという…。

 

はてさて、これからどうなることやら…。



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第二十四話『王の資質と偽りない想い』

今回は完全に忍回(要はオリジナル回)です。
ハイDの事件もピックアップしますが、説明文だけです。
時系列的には修行後からグレモリー対シトリーまでの間の出来事です。


ブリザード・ガーデニアでの一件からしばらく経ち、8月15日となった頃…。

グレモリー眷属の皆は5日後のレーティング・ゲームのために体を休めることとなった。

集まった眷属達は修行の成果をそれぞれ報告したのだが…イッセーのみ壮絶な内容だったため、仲間も若干引いていたらしい。

そのイッセーがタンニーンと修行していた山は『イッセー山』と名付けられたそうな…。

しかし、その成果は相応で肉体的にはかなり鍛えられていた。

それでも禁手に至ることはなかった。

 

その一方で、ゲーム前のイベントとしてパーティーが催されることになった。

それはちょうどグレモリー眷属の修行が終わって集合した翌日の夜である。

階級もなく、ましてや悪魔でもない忍達は当然ながら留守番することになっていた。

 

「貴族ってのも案外大変なんだな…」

 

「そうね」

 

イッセー達を見送りながら忍と智鶴はそう呟いていた。

 

「貴族、ねぇ。あまり興味のない世界ね」

 

「それよりも…あたしはリアルで怪獣軍団を見た気がするわ…」

 

「確かに…私も同意見ね」

 

「それは言えてるわね」

 

カーネリアのボヤキを流しつつ、クリス、暗七、吹雪の順にタンニーン眷属こと、ドラゴン軍団をそう評していた。

 

見送った後、グレモリー所有の別荘へと帰る途中の事…

 

「そういえば…坊やは眷属を増やさないの?」

 

カーネリアが楽しそうな笑みを浮かべながら爆弾を投下した。

 

「「……………………」」

 

その言葉にクリスと暗七が無言のまま忍を見る。

 

「あらあら…」

 

正妻の余裕からか、智鶴は度量の大きさを見せようとしたが、心なしか忍に絡ませている腕に力が入っている。

 

「何の話だよ?」

 

未だ悪魔の社会に疎く、悪魔の駒を基に作られた眷属の駒の詳細を知らない吹雪は首を傾げて尋ねる。

 

「それはね…」

 

面白そうにカーネリアが眷属の駒、とついでに悪魔の社会や原型である悪魔の駒についてのことを簡単に吹雪に話していた。

 

「はぁ!? 悪魔の社会ってそんな制度があんのかよ?!」

 

「言っとくが、俺は悪魔に転生なんてしてないからな?」

 

驚く吹雪に忍はそう付け加えていた。

 

「ちなみに女王の駒は既に坊やの隣にいる彼女になってるのよ」

 

そう言ってカーネリアは智鶴を指差す。

 

「残る駒数は14個。戦車2、騎士2、僧侶2、兵士8…未だ使用する気が無いから少し心配なのよ。いずれは悪魔とのレーティング・ゲームに参加する可能性もあるのにたったの2人じゃ、ねぇ?」

 

何やら含みのある言い方をするカーネリア。

 

「何が言いたいんですか?」

 

その言い方に智鶴が忍の腕を強く握り締めながらカーネリアを睨む。

 

「別に…けど、退屈だと思わないのかしら? せっかく悪魔に転生しなくてもゲームが出来るかもしれないのに、そのチャンスをみすみす逃すのかしらって…ねぇ、坊や?」

 

そのカーネリアの言い分に…

 

「……………」

 

忍は無言のままだった。

 

「しぃ君?」

 

そんな忍の反応に智鶴も少し怪訝な表情になる。

 

「正直…俺の中の血が…狼か、冥王として本能なのかはわからないが、戦いに対してうずうずするのは確かだ。けど、それで眷属にした人達を縛り付けるってのは…俺の本意では…」

 

忍がそう言うと…

 

「無いと言い切れるのかしら?」

 

「っ…」

 

カーネリアの鋭い指摘が忍を追い込む。

 

「まぁ、少なくとも…私はあなたの眷属になってもいいわよ? あなたの奥底にあるモノに興味があるのは確かだし、一緒にいた方が退屈しなさそうだもの。第一、私は堕天使の陣営やテロ組織になんて興味ないもの」

 

が、次に発したのはそんな言葉だった。

 

「なっ…」

 

その告白めいた言葉に忍を始め、周囲の女性陣も驚く。

 

「あなた達はどうなのかしら? いつまでも曖昧な立場っていうのも退屈じゃない?」

 

そう言ってカーネリアは視線をクリス、暗七、吹雪の順に向ける。

 

「それもそうね。そろそろハッキリさせましょうか」

 

いち早く口を開いたのは意外にも暗七だった。

 

「私は正直どうでもいいんだけれど…博士を目の前で殺された手前、忍には責任を取ってほしいのよね。ほら、私ってばこんな体だし」

 

そう言って暗七は自らの腕を黒い異形のモノへと変化させる。

 

「正直、真っ当な生活も今更出来ないし…かと言って今更1人になるのも寂しいし…こんな体でも受け入れてくれるんなら私も眷属になってあげてもいいわよ?」

 

「暗七ちゃん?!」

 

暗七の言葉に智鶴が驚いていた。

 

「眷属になるだけよ? 別に取って食おうなんて思ってないんだし…」

 

驚く智鶴にはそう釘を刺していたが…

 

「(ま、忍に特別な感情が湧いたらその時はその時だけど…可能性は低いわね)」

 

そんな考えを抱いていた。

 

「ふふっ…これで2人ね。あ、そうそう帰ったらあの子にも聞かないとね」

 

「おいおい…」

 

これはシアの事を指しているんだな、と忍は瞬時に理解した。

 

ちなみにシアの身柄は忍が預かることとなり、外出をしない代わりに忍達の宿泊しているグレモリー領の別荘内を自由に行動できるということになっていた。

これは魔王やグレモリー卿の承諾をちゃんと得ているので問題ない。

 

「小難しい話って、苦手なのよね。けどまぁ…母さんを助けてくれた恩もあるし…とりあえず、その眷属ってのになるのはもう少し考えてからにするわ。まだ、この従兄弟だっていう忍がホントに信頼できるのか不安だし…」

 

吹雪の選択も正しいだろう。

まだ出会って一月にも満たない内に眷属となるのは間違っている。

 

「はぁ…助かるよ、吹雪…」

 

「別にアンタのためじゃないし」

 

吹雪の決断に忍は感謝するも、吹雪はぶっきら棒にあしらう。

 

「で、あなたはどうするのかしら?」

 

残ったクリスに注目が集まる。

 

「あ、あたしは…その、なんだ…眷属とか意味わかんねぇし…それはつまり人生を預けちまうってことだから…」

 

クリスはクリスで今までの経緯を思い出していた。

何度か助けてもらったり共闘したりしていたり、同い年でありながらも何かと面倒を見てくれたりしてもらっていたので、何とも言えない感情が渦巻いていた。

 

「普通の人間なら地獄と言われるこんな場所にまでついてこないわよね」

 

クリスの反応を見て薄ら笑いを浮かべるカーネリアがそう言ってみせた。

 

「う、うるせぇな! そ、そんなのあたしの勝手だろうが! どうせ、いつか来る場所なんだから見学だよ、見学!」

 

どんな理由だよ…。

 

「じゃあ、こういう質問ならどうかしら? 坊やの事を好きか嫌いかで言えばどっちなのかしら?」

 

これまた際どい質問をクリスにぶつける。

 

「はぁ?! そ、そんなのは……えっと…///」

 

あまりの恥ずかしさからか、赤面してチラチラを忍を見る。

 

「(あぁ、これ…絶対に遊ばれてる)」

 

「(相変わらず趣味が悪いわね…)」

 

その様子を見ていた忍と暗七はカーネリアがクリスで遊んでいると気づいた。

 

「だぁぁ!! そんなもん言えるかぁぁ!!////」

 

赤面のままダッシュでその場から逃げてしまう。

 

「……く、クリスちゃんまで…」

 

結局、眷属になるかならないかの答えは出なかったが、クリスの反応からして脈ありなのは明白。

そのことに智鶴は少なからず衝撃を受けていた。

 

「とにかく、2人は決まったのだから私達に合う駒をちゃんと選んでおいてね」

 

そう言ってカーネリアも別荘へと歩き始めた。

 

「まぁ、私はなんでもいいけどね」

 

暗七もそう言い残して別荘へと向かう。

 

「ま、マジか…」

 

そう呟く傍ら…

 

「(それにしても…なんだか匂うな…猫と、猿?)」

 

遠くから微かに漂う匂いに忍は眉を顰めていた。

 

「(まさか、な…)」

 

猿で連想される最近の出来事と言えば、トップ会談に現れた孫悟空の末裔こと美猴を思い出していた。

 

「しぃ君、どうかしたの?」

 

なんだか心配そうな表情で智鶴は忍を見上げていた。

 

「いや、なんでもないよ…」

 

そう答えると、忍達も別荘へと向かっていた。

 

その数時間後、イッセー達が赴いていたパーティーで事件が起こった。

 

禍の団に所属するヴァーリを中心にしたチーム、通称『ヴァーリチーム』の美猴と黒歌がイッセー、リアス、小猫、タンニーンと交戦したという。

その中でイッセーは遂に禁手へと至ったのだが…その方法は当事者達しか知らない。

というか、普通に言えないだろう(女性の乳を突いて至ったとか…)。

さらに地上最強と言われる聖王剣・コールブランドを所有する剣士が介入し、美猴と黒歌と共にその場を去ったという。

 

そのため、パーティーは急遽中止となってしまった。

 

………

……

 

その翌日。

 

「眷属の駒?」

 

「あぁ…」

 

あれから色々考えた末に忍はシアに眷属の駒の存在を自分の意志で伝えていた。

 

「冥族版の悪魔の駒、ですか…」

 

「そういう認識で構わない。正直、俺には自分が冥族としての自覚はあまりない。サーゼクスさんの言葉も…本来は俺を通してじゃなく正式に公表されるべきなんだ」

 

眷属の駒のことを話す際に忍はシアにサーゼクスが冥族に対して謝罪したことも伝えていた。

 

「悪魔にだって話の分かる人はいるんだ。それをわかってほしい。もちろん、すぐに理解してくれとは思っていない。君らにとって酷いことをしてきたのは確かだとサーゼクスさんは言っていたし…」

 

それを聞き…

 

「お優しいんですね…」

 

シアは一言、そう漏らしていた。

 

「そうだな。あの人は魔王でありながら優しいんだと…」

 

忍はサーゼクスの事を言ったつもりだったが…。

 

「いえ、魔王の方でなく、あなたがです」

 

シアは忍のことを指していたらしい。

 

「俺が?」

 

その答えに忍もキョトンとする。

 

「はい。確かにすぐには信じられません。けど、あなたの、私を心配してくれる心は信じられます」

 

こっちに来てから塞ぎ込み気味だったシアの表情が和らいでいた。

 

「ほんの少し前は敵のはずだったのに…そんな私に、あなたは気を遣ってくださいました。それだけでもありがたいことなのに…そのようなことまで教えてくださって…これを兄が聞いたら…」

 

兄、紅牙のことを思い出していた。

 

「いや…今の紅牙に言っても逆効果だ。あいつは今、復讐に囚われている…」

 

「そう、ですよね…今の兄には何を言っても…」

 

その言葉に和らいだ表情からまた悲しい表情へと変わり始めて顔を伏せようとする。

 

「諦めんなよ」

 

「え…?」

 

忍の言葉に伏せようとしていた顔を上げる。

 

「前に言ってたろ? あいつを止めてほしいって…俺が止めてやるよ。必ずな…だから、もうそんな顔を見せないでくれ。アンタには悲しさよりもきっと笑顔の方が似合ってるからさ」

 

「っ…////」

 

口説き文句のような忍の言葉にシアはカァッと恥ずかしそうに赤面して顔を伏せてしまう。

 

「……えっと…アンタは…」

 

言ってから何を言ってんだと忍は気恥ずかしくなり、話題を変えようとすると…

 

「……レイ…アス……です…////」

 

消え入りそうな声でシアは言う。

 

「え?」

 

一回では聞き取れずに忍は聞き返した。

 

「神宮寺…フレイシアス、です。兄は"シア"と呼んでますから…あなたも、どうぞ…そう呼んでください…////」

 

改めて名乗られて忍はそういえばと思い返した。

 

「紅神 忍だ。よろしくな、シア」

 

ちゃんとした自己紹介をしてなかったな、と思った忍はそう答えていた。

 

「はい、忍さん」

 

シアもまたそう答える。

 

 

 

「ボソッ(うぅ…しぃ君…)」

 

「ボソッ(これって見る奴が見たら告白の場面だよな?)」

 

「ボソッ(はっ…あいつ、女たらしだったの?)」

 

「ボソッ(いえ、むしろそういうことに対しては天然よ。ふむ…だから余計に質が悪いとも言えるわね。早まったかしら?)」

 

「ボソッ(だからどうしてこそこそしなきゃならないのよ?)」

 

当然のように聞き耳を立てる5人の女性陣の姿があった。

ちなみに上から智鶴、クリス、吹雪、暗七、カーネリアの順である。

 

 

 

「(だから何をしてるんだ? つか、今度は智鶴と吹雪まで…)」

 

忍にとってはわかりやすいほどの匂いと気配で丸わかりになっていた。

但し、その意図まではまだ理解していないようだが…。

 

「な、なんだか…不穏な空気が…」

 

外にいる女性陣の発する何とも言えない負のオーラ(?)をシアもまた機敏に察知していた。

 

「あ~、すまない。ちょっとした事情だから気にしないでくれ。それはそれとして…シア、俺の眷属…僧侶になってくれないか? 女王の枠は既に決まってる。戦車1人と兵士2人も決めたところだ」

 

ここまで眷属集めに躊躇していたはずなのに、ここにきて何故か積極性を見せる忍であった。

 

「私が…忍さんの眷属に…?」

 

「あぁ…昨日一晩じっくり考えて思った。俺は彼女を…いや、彼女達を守りたいんだ」

 

忍は昨日じっくり考えたことを思い出す。

 

いつも自分の事を見てくれて寄り添うことを約束してくれた大切な人…。

同い年とは思えない危なっかしくて放っておけない人…。

口では素気なくしているが、孤独から解放されて戸惑っているだけの人…。

考えは全く読めないが、何か危うい感じのする人…。

 

智鶴、クリス、暗七、カーネリアの順に顔を思い浮かべる。

 

「その中にはシア。君もいるんだ」

 

忍の脳裏には兄・紅牙のことで悲しみ悩む1人の少女も入っていた。

 

「吹雪は…まだお互いの事がわかってないけど…それでも里の外にいる間は俺が彼女の助けになればと思ってる。だからその時まで眷属の話は保留にする。最近になってようやく出来た…大切な親類だしね」

 

忍は両親の顔すら覚えていなかったから…従姉妹がいると知って内心では喜んでいた。

自分にもちゃんと…同じ血の宿る親戚がいたことに…。

 

「甘くて自惚れたような考えだとは思うけど…俺は全てを救おうなんて思わない。ただ、俺の手が届く範囲で助けられる人を助けたいと思ってる。その確率を少しだけ高めたいから…眷属になってくれないかな?」

 

そう言って自嘲気味に苦笑する忍だが、その眼は真剣そのものであった。

 

「(この人は…本気なんだ…本気で私の事も…)」

 

その眼を見てシアはそう感じていた。

 

「……………」

 

しばらくの沈黙の後…

 

「不束者ですが、私でよろしければ御側に仕えさせていただきます」

 

まるで嫁にでもなるかのような言い回しのシアに…

 

「い、いや…そこまで畏まらなくても…」

 

忍も少し慌てたような反応を示していた。

 

ガタンッ!!

 

「しぃ君!!」

 

もはや我慢の限界だったのか、物凄い形相で智鶴が乱入してきた。

 

「ち、智鶴?!」

 

匂いや気配でいることはわかっていたものの本人が出てくると一気に固まってしまうのは…まぁ、仕方ないことか。

 

「もう! なんでしぃ君は1人で決めちゃうの!? 私は守られてるだけなのは嫌なの!」

 

そこなのか?!

 

「前にも言ったでしょ? 私はしぃ君にずっと寄り添いたいって…」

 

女王の駒を渡した時のことを言っているらしい。

 

「まぁ、言いたいことはわからないでもないわね。私を守るなんて、数世紀早いかしら?」

 

そこへ他の女性陣も乱入してくる。

 

「伊達に歳は食ってない訳ね」

 

カーネリアの言葉に即毒的なモノを放つ暗七。

 

「長寿になると、歳はあまり気にしないものよ」

 

「まぁ、確かに…」

 

カーネリアの言葉に吹雪が同意していた。

 

「あたしだって守られる質じゃねぇっての」

 

クリスも智鶴の意見には賛成のようだ。

 

「ふふっ…それで? 誰がどの駒なのかしら?」

 

智鶴に迫られている忍にカーネリアが尋ねる。

 

「えっと、だな…さっきも言ったが、戦車と僧侶がそれぞれ1人、兵士が2人なんだが…」

 

ポケットからそれぞれの駒を取り出すと…

 

「シアが僧侶、カーネリアさんが戦車、クリスと暗七は兵士なんだ」

 

そう言って忍は該当する駒を順番に渡していく。

 

「ふふっ…良い判断ね」

 

「兵士、ね。ま、状況に応じて変化できる私にはピッタリかしら?」

 

「頑張ります」

 

カーネリア、暗七、シアは特に問題なく受け入れたが…

 

「なんであたしが兵士なんだよ!」

 

クリスは少々不満そうだった。

 

「理由としてはイチイバルの銃器の多彩さ、かな? 一つの属性に収めるよりも状況に応じて銃器を変化させて対応してほしいんだ。暗七も似たような理由だよ」

 

それを聞き…

 

「なるほど。流石は私のしぃ君♪」

 

「ま、妥当な理由ね」

 

「確かに似てると言えば似てるかしらね」

 

クリスの戦い方を知る智鶴、カーネリア、暗七は納得したらしい。

 

「ぐぬぬ……わかったよ。兵士でも何でもやってやらぁ!」

 

言われて何も反論できずにクリスも了承してしまった。

 

そして、それぞれが己の意志を確認した瞬間…

 

トクンッ…

 

小さな鼓動の音と共にそれぞれの駒が彼女たちの中へと溶け込んでいった。

 

こうして忍は偽らざる想いと共に新たな眷属を得た。

戦車のカーネリア、僧侶のシア、兵士の暗七とクリス。

残る駒は10個…戦車1、騎士2、僧侶1、兵士6。

 

この先、忍にはどのような出会いが待ち受け、どのような眷属編成になるのか…。



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第二十五話『ゲーム観戦』

グレモリー眷属VSシトリー眷属のレーティング・ゲーム当日。

 

バトルフィールドの舞台は駒王学園近隣にあるデパートである。

グレモリー眷属の本陣は二階東側、シトリー眷属の本陣は一階西側となっていた。

典型的な屋内戦である。

さらに特別ルールとして『バトルフィールドであるデパートを破壊し尽くさないこと』というものがあり、パワータイプの眷属が多いグレモリー眷属には最悪な状況のフィールドとも言える。

 

どちらも魔王の妹ということもあってか、その注目度はかなり高く三大勢力以外からのVIPも観戦者としてやってきている。

その中には…

 

「どうして俺まで呼ばれたんでしょうか?」

 

忍と智鶴、シアの姿があった。

そして、忍は隣に座るアザゼルへと疑問を投げつけていた。

 

「いずれはお前もゲームに参加する予定の身だ。見といて損はないだろう?」

 

「まぁ、それはそうかもしれませんが…よりにもよってイッセー君や匙君の試合ですか」

 

グレモリー、シトリーの男性悪魔(イッセー、匙、木場、ギャスパー)とはそれなりに交流のある忍はなんとも言えぬ表情だった。

 

「いつかお前もあの2人と対戦するかもだからな。それに若手悪魔達も見てるから今更気にする必要もないだろ」

 

忍の表情を見ながらアザゼルはそう言ってみせた。

 

「それはそうですが……それにしても凄い熱狂ですね」

 

忍は周りへと視線を向ける。

 

「魔王達の妹であり親友同士の戦いだ。そりゃ注目もされて当然のゲームだ。冥界中にも放送される」

 

「知名度は圧倒的に高いからな。それよりもお前さんの方はどうなんだ?」

 

ニヤニヤとした笑みを浮かべながらアザゼルは忍に問うた。

 

「どう、とは?」

 

予想はしてるが、一応その問いの意図を聞き出す。

 

「眷属集めだよ。どのくらい集まったんだ?」

 

やっぱりそれですか、と言いたげな表情を見せてから…

 

「今、隣にいる智鶴に女王、その隣のシアに僧侶を渡しました。それとカーネリアさんに戦車、暗七とクリスには兵士を1駒ずつ渡して成立しましたよ」

 

そう答えていた。

 

「ほほぉ、今のところ面白い編成になってやがるな。意外なのはカーネリアだが…」

 

意外な人物の名前にアザゼルも興味を示していた。

 

「本人曰く『一緒にいる方が退屈しなさそう』だそうです。それによくわからないことも言ってましたし…」

 

「あいつらしいね。あいつは意外と力押しするタイプだからな。つまりはパワータイプのプレイヤーだ。戦車ってのは良い選択だろうよ」

 

やけにカーネリアの事に詳しいアザゼルに…

 

「……アザゼル先生はカーネリアさんとはどういう関係だったので?」

 

忍は思い切った質問をぶつけていた。

 

「なんだ、気になるのか?」

 

「まぁ、人並みには…」

 

忍の答えを聞くと…

 

「そうだな。あいつは昔の部下さ。それ以上でもそれ以下の関係でもなかった。意外と身持ちも堅かったしな」

 

アザゼルはそう答えていた。

 

「(つまり、手を出そうとしてたんですね…)」

 

それを聞いて忍は呆れたような眼でアザゼルを見る。

 

「あれだけの女だ。落としたいと思うのは当然だろ?」

 

「でも、その話の流れだと失敗してますよね?」

 

そこに智鶴が口を挟んでいた。

 

「痛いとこを突くな。まぁ、その通りなんだが…」

 

「なんで失敗したんです?」

 

忍は興味本位で聞いてみる。

 

「あいつの性格さ。昔ほど恐ろしくはないが…あれの本質は今でも変わってねぇ」

 

「破壊衝動の塊…でしたか?」

 

それを聞き、智鶴が依然コカビエルが言っていた言葉を思い出していた。

 

「あぁ。あれの本質は純粋な破壊衝動さ。いつ暴発してもおかしくない。だから俺は味方の被害を考えてあいつを遠ざけた。それが巡りに巡ってお前さんの所に行くとはな」

 

「俺に破壊衝動なんて…」

 

忍はそう言うが…

 

「わからんぞ? お前もイッセーとよく似て弱点が多いからな。それがトリガーになってプッツンしたことが無いと言い切れるか?」

 

アザゼルにそう言われてしまった。

 

「それは…」

 

思い当たる節は確かにあった。

シャドウを衝動的に焼き殺した時なんて正にそんな状態だった気がする。

 

「破壊衝動なんて誰でも多かれ少なかれ持ってるもんだ。それが人より多いか少ないか…それだけで犯罪者になる奴だっているだろうしな。っと、そうこうしてる間に始まるぞ?」

 

時間を忘れて話し込んでいたため、ゲームが始まろうとしていた。

 

「イッセー君、匙君…」

 

そして、グレモリー眷属VSシトリー眷属のゲームが始まった。

 

………

……

 

グレモリー眷属は王のリアス、女王の朱乃、騎士の木場とゼノヴィア、戦車の小猫、僧侶のアーシアとギャスパー、兵士のイッセーの8人。

 

シトリー眷属は王のソーナ会長、女王の真羅 椿姫、戦車の由良 翼紗、騎士の巡 巴柄、僧侶の花戒 桃と草下 憐耶、兵士の匙と仁村 留流子の8人。

 

人数的には互角だが、状況的にはグレモリー眷属が不利だろう。

しかもこのゲームの制限時間は三時間の短期決戦(ブリッツ)形式を採用しており、時間も気にしなくてはならなかった。

 

序盤ではギャスパーが相手側の策略によって早々にリタイヤ。

イッセーと小猫のペアは匙・仁村の兵士コンビと接触。

木場とゼノヴィアのペアも真羅副会長、由良、巡と接触。

 

「早々にぶつかりましたね。イッセー君と匙君が…」

 

その様子を見て忍はイッセーと匙の映る画面を注視する。

 

コツン…

 

「そこばっかじゃなくて他のも見ろ。お前は仮にも王だろ?」

 

忍の頭を小突いてアザゼルが呆れたように言う。

 

「そうは言いますけど…」

 

画面の中でイッセーと匙は打撃戦を繰り広げていた。

そして、イッセーの左腕には既に赤龍帝の篭手が出現し、何やらカウントを始めていた。

 

「ありゃ、禁手になるまでの時間だ。あいつの場合、まだ2分は掛かるらしいからな。しかも倍加も譲渡も出来ない訳だが…」

 

「そうなると…時間を狙われやすいですね。こういう時に風鳴さんに習ってた中国拳法っぽい格闘術が役に立ちますね」

 

「肉体的にもこの1か月あまりでだいぶ成長したし、定期的に通わせた方がいいかもな」

 

そうこう話をしてる内に、イッセーは赤龍帝の鎧を纏い、匙と一対一で真っ向から殴り合っていた。

しかし、イッセーの腕には消えないラインが一本…纏わりついていた。

 

「(あのライン…一体どんな意図が…?)」

 

一方で、木場とゼノヴィアは苦戦していた。

しかし、デュランダルの聖なるオーラを纏った全方位に聖魔剣を出現させた合体攻撃によって由良と巡を撃破したものの真羅副会長は取り逃がしてしまった。

そして、真羅副会長のカウンター攻撃を受け、ゼノヴィアもまたリタイヤしてしまった。

 

「アザゼル先生の入れ知恵ですか?」

 

「まぁな。色々ともったいない気がしたから、俺が特別メニューを組んでやったのさ」

 

アザゼルは面白そうに言ってみせた。

 

「聖剣アスカロン。本来ある龍殺しに赤龍帝の力を宿した特別仕様。さらにデュランダルを封印したままでオーラのみを抽出して他の聖剣に宿す…よく考えますよね」

 

「それを一発で理解するお前も凄いがな」

 

「これでも物覚えが良いので…」

 

そう言ってイッセーと匙の殴り合いを映す画面を眼を向ける。

 

「さて、狼で冥王な忍君はこの勝負をどう見る?」

 

わざとそう言いながらアザゼルが忍に尋ねる。

 

「おそらく…イッセー君は大局的に見て負けます」

 

「ほぉ、その根拠は?」

 

「あの匙君が何処かにつなげているであろうライン…あれだけ消えてないってことは何かしらの意味があるはずです。それほどまでの強い意志でなければ禁手化の際に消えてますから…きっと、イッセー君は匙君に試合に勝って勝負に負ける、そんな状態になるような気がします」

 

冷静な口調で忍はそう答えていた。

 

「随分と冷静だな。お前のダチ達だろう?」

 

「先生はそのダチ達のゲームを決めた1人でしょう?」

 

そんなアザゼルの言葉を皮肉で返す。

 

「ま、そりゃ確かにな……だが、的を射てると思うぜ? 俺も何かまでは知らないが…問題はイッセーが負けた際の他のメンツのメンタルだ」

 

「でしょうね。イッセー君を目の前で撃破されることでグレモリー先輩達のメンタルがどうなるか…」

 

「プラスに転じるか、マイナスに転じるか…」

 

そんな会話の横では…

 

「シアちゃん、わかる?」

 

「ある程度は…でも、正直まだよくわかりません…」

 

「私も…今度チェスでも買ってみようかしら?」

 

忍の付き添いである智鶴とシアがそんな話をしていた。

 

 

イッセーと匙の殴り合いはイッセーの勝ちに終わった。

そして、終盤戦となって中央に王同士が邂逅するという場面を作った。

それぞれ残っているのはグレモリー側が6人、シトリー側が4人と数ではグレモリー眷属が優位に立っていた。

しかし…事態は思わぬ方向へと傾いていた。

匙がイッセーに繋げていたラインからは血を少しずつ吸い出しており、致死量ギリギリまで吸い出して医療ルーム送りにすることだった。

その目的を果たすために匙は何度もイッセーに挑んで時間を稼ぎ、それが実を結んだ形となる。

 

 

「失血でのリタイヤ。考えましたね…」

 

「あぁ…しかも神器を使ってのだ。相当な修行を課したに違いない。そして、その目論見通りになった。問題は…」

 

「ここからですね」

 

アザゼルと忍が言葉を交わしてる時にイッセーが動いた。

 

彼は新技『乳語翻訳(パイリンガル)』という頭の悪さ爆発な技を披露していた。

これは本人曰く『胸の内を…否、おっぱいの声を聞きたかったから』だそうで…。

 

これを見ていたVIPルームでは…

 

「「………………」」

 

忍とアザゼルが固まっており、他のVIPの方々もかなり心情がよろしくなかったとか…。

 

「な、なんて卑猥な…」

 

「リアスちゃん…なんだか可哀想…」

 

智鶴とシアも自分の胸を守るようにして腕を組みながら引いていた。

 

「イッセー君…」

 

「う~ん…あいつの頭は悪すぎるな…」

 

やっと声を出した忍とアザゼルでさえこの有様なのだ。

 

 

結局、最悪な退場の仕方をしたイッセーであった。

去り際にイッセーはソーナ会長の作戦を…読んで(もしくは聞いて?)仲間に知らせてからバトルフィールドを去っていた。

しかし、後日…これが意外な波紋を呼ぶことになるのだが…それはまた後日語ろう。

また、イッセーを回復させようとしたアーシアは花戒によって共倒れという形で退場してしまった。

 

 

「お前の読みは当たったな」

 

「あの後に言われてもあまり嬉しくありませんが…」

 

「まぁ、そう言うなって」

 

2人して話していると…

 

「サーゼクスよ」

 

「はい」

 

1人の老人がサーゼクスを呼びつけていた。

 

「あの人は?」

 

「北欧の主神、オーディンのジジイだ」

 

「あれが北欧神話に出てくる最高神…」

 

「結構なエロジジイだけどな」

 

「え?」

 

アザゼルの言葉に目を丸くする忍だった。

 

 

その後、ゲームは王同士の直接対決にまでもつれ込み、グレモリー眷属が勝利した。

しかし、そのゲームでの評価は厳しく、赤龍帝を失ったこととギャスパーを早々に撃破されたことで、リアスの評価をゲーム前よりも下げてしまっていた結果となった。

 

そして、ゲーム内で赤龍帝を撃破にまで追い込んだ匙には勲章が贈られていた。

 

………

……

 

「どうだった? ゲームを見ての感想は?」

 

VIPルームから出てイッセーの元へと向かう忍、智鶴、シアの隣を歩いていたテロ対策の会談に参加するアザゼルが忍に尋ねていた。

 

「そうですね。面白そうでした。是非、参加したいものです」

 

「そいつは良かった。というか、お前は既にその権利を得てんだがな」

 

「そうでしたね。けど、その前にもう少し自分を鍛えて眷属も増やしたいところではあります」

 

忍は自分に足りないモノを確認しつつ、駒を揃えることを考えていた。

それから後ろに振り返ってシアを見ると…

 

「シア、冥王スキルについていろいろと教えてくれよ」

 

そう伝えていた。

 

「はい、私で良ければ協力します」

 

その様子を見てか…

 

「私は…魔法を使えるようにならないなのとかしら?」

 

智鶴もそんなことを言い出す。

 

「お前んとこも屋敷を改装したらどうだ?」

 

面白半分にアザゼルがそんなことを言い出した。

 

「アレは俺じゃなく智鶴の家ですから…それに組員の事もありますし…」

 

最近忘れがちだが、智鶴は極道の娘である。

 

「お前さんが婿入りすりゃ万事解決だろ?」

 

「極道を継げと?」

 

忍の言葉に…

 

「しぃ君、嫌なの?」

 

智鶴が悲しそうな顔を見せる。

 

「いや、別にそういう訳じゃないけど…」

 

それを見て慌てて否定する忍。

 

「なら籍は……しぃ君の誕生日にでも…///」

 

「き、気が早くないかな?」

 

「私からしたら遅いくらいだよ!」

 

「そ、そうなんだ…」

 

完全に智鶴の迫力に押されている。

 

そんなこんなで夏休みも終わろうとしていた。

次は一体、何が起こるのか…。



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6.聖女再誕のアーク
第二十六話『強襲とライブとテロ』


グレモリー眷属VSシトリー眷属のゲームが終わって二日が経った頃、忍達明幸組一行は一足早く冥界から地球へと帰還していた。

その理由はルナアタック時に回収されていたソロモンの杖を岩国の米軍基地へと移送するに当たり、クリスの力が必要となったからである。

そこにはルナアタック時に協力していた忍にも声が掛けられていた。

 

また、その日は翼と米国チャートで急激に昇りつめた新進気鋭の歌姫『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』との合同ライブが行われようとしていた。

 

よってソロモンの杖の護衛には翼を欠いた響、クリス、忍の3名の戦闘要員が配置されていた。

 

そして、新たに設けられた特異災害対策機動部二課の仮設本部から距離が離れた頃に、ノイズが出現して移動中の装甲列車を強襲していた。

 

 

 

「雨か…匂いでの探知はあんまり期待しないでほしいかも…」

 

装甲列車の連結部を移動しながら忍がそうぼやいていた。

 

「お前の鼻も頼りだってのに、日が悪過ぎだろ」

 

以前にも増して忍への当たりが強いクリスを見て…

 

「クリスちゃんと忍さんって夏休みの間に何かありました?」

 

流石の響も何かを感じていた。

 

「べ、別になんでもねぇよ」

 

「とにかく杖は大丈夫なんですよね?」

 

クリスの反応はわかりやすかったため、忍は話を逸らそうと前方を歩く白衣の男…『ウェル博士』へを質問を投げかけていた。

 

「はい。何とか問題ありません」

 

大きめのアタッシュケースを抱えながらウェル博士はそう答えていた。

 

これは回収されたソロモンの杖を解析し、ノイズへの新たな対抗策への可能性を模索する必要性があったからである。

 

「そいつは…ソロモンの杖は簡単に扱うべき物じゃねぇんだ」

 

クリスにはソロモンの杖を起動させてしまった責任を感じて言ったため、そう言っていた。

 

「ま、あたしがとやかく言えた義理でもねぇけどな…」

 

自嘲気味に言うクリスの手を響が取ると…

 

「大丈夫だよ」

 

そう一言、告げていた。

 

「あんま一人で抱え込むなよ」

 

ついでに忍も後ろからクリスの頭を軽く撫でてそう呟いていた。

 

「お、お前ら、ホントにバカ…///」

 

気恥ずかしいのか少し顔を赤く染めていた。

 

ズガンッ!!

 

そこにノイズ達が装甲列車の装甲を半ば貫通させてくる。

 

「んじゃま、行きますか」

 

ピ、ピ、ピ

 

『Standing by』

 

「ネクサス、起動」

 

『Complete』

 

「アクエリアス、お前も来い」

 

忍はバリアジャケットを展開した上からさらに白銀の鎧を纏う。

 

「~♪」

 

聖詠を歌い、響とクリスもまたシンフォギアを纏う。

ちなみにルナアタック後、彼女らのシンフォギアはフォニックゲインの上昇によって強化されていた。

その証拠に細部が少し異なっており、響のガングニールにはマフラーの様なパーツが追加されていた。

 

バゴンッ!!×3

 

そして、鋼鉄製であるはずの天井を突き破って3人は雨が降る屋根へと出ていた。

 

「雨と硝煙で鼻が利かなくても俺にはまだ水瓶座の加護がある!」

 

そう言うや否や、忍は足元に水へと変換した魔力を両腕の水瓶から微量だけ流すと、そのまま雨の水を吸収して肥大化した水を操ってノイズ達へと水飛礫を放っていた。

 

「あたしらも負けてられっかよ!」

 

「うん!」

 

クリスの銃撃によって広範囲のノイズを殲滅し、そのクリスを響がガードすることで2人も確実にノイズを倒していった。

 

その中で、一際大きく高速移動する中型ノイズが現れ、一時は苦戦を強いられるもののトンネル内での響の奇策によって危機を脱していた。

 

「響ちゃんも度胸があるよね」

 

「単なるバカじゃないのは確かだけどよ…」

 

「そう言って…ホントは信頼してるんだろ? 素直じゃないな」

 

「バッ! ちげぇし! そんなんじゃねぇよ!!///」

 

「照れない照れない」

 

「照れてねぇ!!///」

 

「はいはい(天候も晴れてきたし、少しは嗅覚も回復するか?)」

 

そんな会話を繰り広げながらも忍は匂いをチェックしていた。

 

しかし、それでも雨の匂いや、それに加えて米軍基地に漂う硝煙やオイルなどの匂いによって忍の鼻はまともに機能しなかった。

そのせいか、忍はあることに気づかないでいた。

 

さらに米国基地にノイズが出現してウェル博士を含めた何人かが行方不明となり、ソロモンの杖も噴出してしまった…。

 

………

……

 

一方で、ライブ会場は熱狂に包まれていた。

 

世界的なアーティストとなっている翼とマリアが一緒に歌うということもあって会場内のボルテージは最高潮を迎えていた。

しかもこれは世界中に放送されている。

 

しかし、2人が歌い終えてそれぞれの言葉を発した後…

 

「そして、もう一つ…」

 

マリアが言葉を発すると…

 

『------』

 

その瞬間にノイズがライブ会場へと現れていた。

 

「我々は、ノイズを操る力を以ってしてこの星の全ての国家に要求する!」

 

マリアは世界に対して宣戦布告を行っていた。

 

「なっ?! 世界を敵に回しての口上。これではまるで宣戦布告ではないか!」

 

同じステージに立つ翼を始めとして放送を見ていた者達の多くは驚いていた。

 

「驚くのはまだ早いわ」

 

マリアは剣型マイクを空へと投げ飛ばすと…

 

「~♪」

 

"聖詠"を歌い出す。

 

そして、その身に纏うは…

 

≪GUNGNIR≫

 

響が纏うモノとは明らかに異なる黒きガングニールであった。

 

「私は…否、私達は武装組織『フィーネ』。終わりの名を持つ者だ!」

 

………

……

 

その放送をヘリの中にて見ていた響やクリス、忍の反応はと言えば…

 

「黒い…ガングニール…?!」

 

「マフラーじゃなくてマントか。如何にも悪役みたいな出で立ちだな…」

 

「んなこと言ってる場合か!」

 

驚く響の横で忍が少しだけ重たい空気を変えようとしたが、クリスに怒鳴られてしまう。

 

「しかし、解せない。何故、フィーネの名を語るのか…」

 

忍が一人ごちるように呟くと…

 

『それは俺も同感だ』

 

それを聞いていたかのように弦十郎からの通信が入る。

 

「風鳴さん…」

 

『翼は今の状態では動けん。急いでくれ』

 

弦十郎も事態の収拾を急かすように言うが、そう簡単にヘリの速度は上がらない。

今でも全力で向かってる最中だし…。

 

「なら、俺が先行しましょうか?」

 

と、そこで忍が口を挟む。

 

『お前は装者じゃないんだぞ? しかも今行ったんじゃ確実に全世界に顔が映る。それでも行く気か?』

 

「方法がない訳でもないんですよ」

 

『なに?』

 

「まぁ、見ててくださいな」

 

そう告げると、忍は飛行中のヘリから飛び降り…

 

「お、おい!?」

 

「忍さん!?」

 

魔法陣を足場にしながら銀狼へと姿を変える。

 

「銀狼のもう一つの姿…今、見せる!」

 

そう言うと、跳躍中の忍の体を白銀の光が包んでいく。

 

「え?! アレって…?」

 

「嘘だろ。あたしも聞いてねぇぞ?」

 

目を丸くする響達。

白銀の光から出てきた忍の姿とは…

 

………

……

 

一方の会場ではマリアが世界に対して国土の割譲を要求していたのが…

 

「会場のオーディエス諸君を解放する。ノイズに手出しはさせない。速やかにお引き取り願おうか!」

 

人質にしていた会場の観客を解放すると宣言していた。

 

そして、ステージに立つマリアと翼、裏からに回っていた緒川以外の癇癪が会場の外へと出ていっても未だ放送は続いていた。

 

「これで被害者は出ないわ。そんな状況でも私と戦えないというなら…あそれはあなた自身の保身のため…それだけの覚悟も無いということね!」

 

そう言って翼へと剣型マイクを突き付けるマリア。

 

「っ…!」

 

それを聞き、翼はカメラの死角へと移動を試みるが、ヒールが邪魔をしてマリアに蹴り上げられてしまい、そこへノイズが群がってきてしまう。

 

「(これまでか…)」

 

翼がアーティストを諦めようと聖詠を口にしようとした時…

 

『ウオオオオン!』

 

狼の遠吠えが会場とその周辺へと響き渡る。

 

「なにっ!?」

 

「なんだ?!」

 

その遠吠えにマリアも翼も驚いていた。

 

そして、次の瞬間…

 

ヒュッ!!

 

風を切る音と共に翼は一匹の銀色の毛並みが特徴的な狼に助けられていた。

そして、それと同時に中継も切断されていた。

 

『間一髪、間に合った』

 

翼を背中へと乗せたまま狼はステージ上へと着地する。

しかも喋っている。

 

「その声は…紅神か!?」

 

その声に聞き覚えのあった翼はその声の主が誰なのかすぐに理解した。

 

『えぇ、響ちゃんやクリスよりも先行してきました。それと…流石はマネージャーですね。聖詠を口にする前に中継を切断するなんて…』

 

「緒川さんが…」

 

そんなやり取りを続けていると…

 

「ちっ、勝手な真似を…しかも邪魔まで入るなんて…」

 

何やらマリアがご立腹のようだった。

 

『とにかく、シンフォギアを…このままじゃ俺は炭化しちゃいますから…』

 

「あぁ、ならば聞かせてやろう。防人の歌を…!」

 

翼をステージへと降ろすと忍はマリアへと向かった。

 

「たかが犬ころ風情が私の邪魔をするな!」

 

『犬じゃなくて狼だ!』

 

マリアはマントを操り、忍へと攻撃を仕掛けるも忍は軽くそれをあしらっていた。

 

「~♪」

 

その間にも翼もまたシンフォギアを纏っていた。

これで忍も魔法によってノイズの殲滅が可能になった。

 

「代われ、紅神!」

 

『了解!』

 

翼と忍が入れ替わるようにしてマリアとノイズの相手を交代する。

その際、再び忍の体を白銀の光が包むと…

 

『Complete』

 

ネクサスを起動させた忍が光から現れると同時に…

 

「ファルゼン!」

 

ファルゼンを起動させ、魔法と剣術を組み合わせてノイズを屠っていく。

 

その後、マリアと翼の戦闘中に新たな装者が2人現れ、翼を一旦は追い込むものの忍から遅れて救援に来た響とクリスの加勢によって戦況は膠着状態となる。

響はマリア達に話し合いを求めたが相手にされず、むしろ偽善者と言われてしまい、過去の出来事が蘇ってしまった。

 

そして、分裂増殖型のノイズが出現するとマリアがアームドギアを展開し、それを攻撃してフィーネ側の装者3名は撤退。

残った響達は分裂増殖型を倒すために絶唱を歌い、3人分の絶唱を束ねる響特有の大技『S2CA』を発揮して、これを撃破した。

 

この事態に地球はどうなっていくのか…。

 

しかし、地球だけでなく次元世界でもまた色んな影響が出始めていた…。



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第二十七話『邪なる狼との邂逅』

ライブ会場での武装組織『フィーネ』の宣戦布告から一週間が過ぎようとしていた。

 

その一週間の間にイッセー達も帰還したのだが、若手悪魔の1人『ディオドラ・アスタロト』が地球側に渡っており、イッセー達が到着するや否やアーシアに求婚を迫っていた。

しかもディオドラはアーシア宛てに手紙やら物やらを送りつける始末。

 

そして、季節は夏から秋へと移り変わり、学園も新学期へと突入する。

 

そんな中、リディアン音楽院では新校舎へと移転してから最初の大きなイベントとして学祭が控えていた。

 

一方の駒王学園もまた体育祭の準備を入っていた。

さらにイッセーや忍のクラスにイリナが転校してきた。

 

しかもイリナは天界が悪魔や堕天使の技術を用いた転生天使システム『御使い(ブレイブ・セイント)』によって転生天使となっていた。

『御使い』はトランプを参考にしており、四大セラフと他のセラフメンバーの天使が主となるKの位置につき、その下のA(エース)Q(クイーン)に倣った配置の12名を配下にするというものである。

 

ちなみにイリナはミカエルのAであるという。

 

そうこうしている間のこと、忍は緒川と共に海鳴市の一角に出来たというヤクザのアジトへと赴いていた。

 

ビルの三階当たりのフロア前に来ると…

 

「ここですか?」

 

「えぇ、情報が確かならば…」

 

忍は緒川に確認を取ると…

 

バンッ!

 

アジトのドアを蹴破る。

 

「なんじゃ、テメェらは!?」

 

下っ端らしき男が忍と緒川の登場に怒鳴り声を上げる。

 

「ピーピー騒ぐなよ。この辺りが明幸組の縄張りと知っての狼藉かい?」

 

そう言って忍は鋭い視線で周囲を見渡す。

ちなみに小川に倣って青年モードの忍は黒いスーツを着ていた。

 

「明幸組ぃ~? 聞かねぇ名だなぁ!」

 

下っ端は忍に拳銃を向けながら威圧するような態度を取る。

それを見て他の連中も拳銃やらドスを持ち出して忍と緒川を取り囲む。

 

「はぁ…」

 

それを聞いて忍は溜息を吐いてしまった。

 

「お手伝いしましょうか?」

 

「いえ、こういう輩を放置してしまったこちらの不手際なので、俺が片付けますよ。それよりも風鳴さんに連絡をどうぞ」

 

「わかりました」

 

そのようなやり取りを見せられて苛立ちを覚えたのか…

 

「ふざけてんのか! 構わねぇからやっちまえ!!」

 

この中で一番偉そうな男がそう叫ぶ。

 

「成り上がり風情が、ちゃんと筋通してから出直してこいや!!」

 

そう言った瞬間…

 

バキッ!ドゴッ!ボキッ!

 

数分足らずで全員をぶちのめしていた。

 

「ったく、人の島で好き勝手やりやがって…もう少し仁義ってもんを重んじろってんだ」

 

そう吐き捨てると、忍は緒川の方へと歩いていく。

緒川は忍がヤクザもどきを叩きのめしてる間に、金庫を破って中にあった封筒の中身を見ていた。

 

「いやはや、忍君がいてくれて助かりました。でも学園はよかったんですか?」

 

「ん~…体育祭の準備や種目決めがありますけど…まぁ、何とかなりますよ」

 

苦笑混じりに忍はそう答えてみせた。

 

「それよりも何かわかりそうですか?」

 

「えぇ」

 

こうして特異災害対策機動部二課は次の行動に移るのだった。

 

また、その場に転がる連中を病院送りにした後、二度と明幸組の島(駒王町並びに海鳴市付近)に近付かないように"話し合い"をしてから解放させたという。

実際、それ以降そいつらを目撃した住民はいなかったという…。

 

………

……

 

その夜、緒川と忍の掴んだ情報により、とある沿岸近くにある廃病院へとシンフォギア装者が向かっていた。

バックアップ役として忍も同行していた。

 

その廃病院で彼らを待っていたのは制御されたノイズであった。

しかもそれを操っていたのは行方不明となっていたウェル博士であった。

彼はソロモンの杖を既に白衣の下に隠し、ノイズを操っての命を張った自作自演によってソロモンの杖をまんまと奪取して武装組織『フィーネ』と合流していたのだ。

 

さらにシンフォギア装者達は何故だかシンフォギアの出力低下に見舞われ、ノイズ相手に苦戦を強いられていた。

 

「この妙な匂いのせいか?」

 

装者でない忍だけは魔法を使って確実にノイズを屠れるが、院内に充満する匂いを察知する。

 

「あなたはやはり鼻が良いらしいですね。この前はノイズ襲撃と軍の基地に向かって正解でした。あなたも鼻も複雑な匂いには対応しきれていないのですからね!」

 

「ちっ…痛いとこを突く…」

 

ウェル博士の言葉に忍も何も言い返せないでいた。

 

「それにしても…これは奇遇なんですかね? 新しいスポンサーの元にも狼の名を持つ方がいるんですよ」

 

ウェル博士の言葉に…

 

「スポンサーだと!? 世界に宣戦布告しておきながら、そのようなものが…!」

 

翼が驚いたような声を上げながらも否定しようとするが…

 

「それがあるんですよ。次元の壁を越えた先にね」

 

そう言った瞬間…

 

ガゴンッ!

 

突如として天井を突き破って何者かが現れる。

 

「よぉ、ドクター。面白い匂いがしたから来てやったぜ?」

 

その人物とはボサボサした黒髪と琥珀色を狂気に光らせた残忍な印象を与える野性的な顔立ちをして男だった。

 

「ちょうどあなたの話をしてたとこですよ、邪なる狼殿」

 

「そうかい。で、こいつら全員殺していいのかい?」

 

ウェル博士と話す男の出現に全員が警戒をする。

 

「なんだ、この…血で血を洗ったような、とても濃い血の匂いは…!?」

 

男の出現と共に感じる血の匂いに忍は顔を顰めていた。

 

「その表現は適切じゃねぇな。俺は今まで血肉を啜ってきたんだよ。ま、数なんて数えたこたぁねぇがよ」

 

忍の言葉が聞こえたのか、男はそう言っていた。

 

「血肉を啜る、だと!?」

 

「どういう意味だ!」

 

男の表現に翼とクリスは嫌な予感を感じていた。

 

「文字通りの意味さ。俺は弱い奴を殺してはそいつらの血肉を食い漁ってきたのさ!」

 

その言葉に忍、翼、クリスは顔色を変える。

 

「な、なんかかなりヤバそうな人が来ちゃったけど…」

 

響もニュアンスでとても不快な気分になっていた。

 

「やるしかねぇだろ!」

 

そう言ってクリスが腰部アーマーからミサイルを発射しようと展開するが…

 

「ぐっ?!」

 

「クリス!?」

 

シンフォギアからのバックファイアによる負荷でクリスの体を蝕む。

 

「このぉ!」

 

ズドドド!!

チュドンッ!!

 

無理してミサイルを撃ち出し、廃病院の壁や天井などを吹き飛ばす。

 

「はっ! 面白れぇじゃねぇか!」

 

ノイズは吹き飛ばす事が出来たものの、男とウェル博士は健在。

さらに一匹のノイズが何かの入ったケージを持って飛び去っていた。

 

「この空気があいつらに悪影響を出してるって訳か。なら、俺はそっちの小僧の相手でもしてやるか!!」

 

そう言うや否や男は忍の懐へと瞬時に移動すると…

 

「おらぁ!!」

 

ゲシッ!!

 

「がっ!?(は、速い!?)」

 

忍が追い付けない反応速度で男は忍を蹴り上げると…

 

「おらおら、どうした!?」

 

空中に舞った忍を追撃するようにして胸部への跳び蹴り、のけ反った瞬間に背中へと膝蹴り+腹部への肘落とし、さらに頭を捕まえての連続顔面膝蹴りなど、容赦ない攻撃による空中コンボを繰り返していた。

 

「かっはっ!? ぐぇ?!」

 

バリアジャケットを纏っているはずの忍だが、それを容易に打ち破る男の重い一撃をまともに喰らい続け、意識が朦朧とし始めていた。

 

「弱ぇ弱ぇ! 弱過ぎだろ!!」

 

そう叫ぶと同時に最後の仕上げとばかりに踵落としを脳天に決めて廃病院へと落とす。

 

「がっっ!?!?」

 

瓦礫に埋もれながら忍はあちこちが打撃による痣だらけとなっていた。

 

「おいおい、これで終わりか? うちの大将を退けたって言うから期待してたのによ」

 

呆れたように男は忍を踏みつけると…

 

「ぐ、ぁ…!?」

 

忍も朦朧とした意識の中で反撃をしようと手を伸ばすが…

 

バキッ!!

 

「ぐあああ!!?」

 

伸ばした手を踏みつけ、あらぬ方向へと曲がりながら腕の骨が折れ、その痛みに忍も絶叫する。

 

「しっかし、この小僧の匂い…どこかで…」

 

男は忍を見ながら何かを思い出そうとしていた。

 

男が忍に気を取られてる間に翼は飛び去ったノイズを追い、響はウェル博士の身柄を拘束していた。

クリスはバックファイアの影響もあって悔しそうな表情で忍の方を見ているだけだった。

 

翼が海上へと跳んだのに合わせ、特異災害対策機動部二課の仮設本部(潜水艦)が急速浮上して足場となって追いつく事が出来た。

 

しかし、そこにマリアが介入し、ケージを回収されてしまう。

さらにそこへウェル博士の救出にシュルシャガナの装者『月読 調』とイガリマの装者『暁 切歌』も参戦し、ウェルとソロモンの杖を奪還されてしまう。

 

「お~お~、やっと来たのかよ」

 

その様子を遠目に見ていた男は面白そうにそう呟いていた。

 

「お、前は…何者、だ…?」

 

銀狼の証である銀色の髪と、真紅の瞳へと変化させながら忍は男に問う。

 

「おっ? まだ意識がありやがったのか? そうだな、冥途の土産に教えてやるよ。俺は邪狼。流しの傭兵で戦争屋さ…」

 

そこまで言うと、忍の姿を見て…

 

「ん? 待てよ、この匂いと姿……っ! そうか、そういうことか! アハハハハハ!!!」

 

ふと何かを思い出したように高笑いを始める邪狼。

 

「そうか! この同族の匂い…俺以外ではもう"あいつ"しかいねぇ!!」

 

嬉々として笑い出すと邪狼は忍の胸倉を掴んで持ち上げると…

 

「テメェ、"狼牙"のガキか! そうかそうか…そりゃあ、色々混じってて気づかない訳だ!! だが、間違いねぇ!! あいつは生きてやがった! そして、このガキを誰かに孕ませやがったのか!!」

 

新しい玩具を見つけた子供のように邪狼は高笑いを続けていた。

 

「(狼、牙…? それが俺の…だが、何故こいつが…同族…?)」

 

朦朧とした意識では上手く考えが纏まらないでいた。

 

「あの"出来損ないの弟"が!! だが、いいぜいいぜ!! あの野郎が生きてたってことは俺に取っちゃデカい情報の一つだ! その礼にお前を喰らってやるよ!!」

 

そう言うと、邪狼は忍を空へと放り投げ、自らの爪を鋭く尖らせて獲物を狙う狩人のような目で忍に狙いを定める。

 

「(ま、まずい…!?)」

 

忍がやられると感じた時だった。

 

「させるかぁ!!」

 

仮設本部から飛び出した影が邪狼へと向かっていく。

 

「あぁ!?」

 

その気配に苛立ちを覚えたような声を出しながら邪狼はその影を受け止める。

 

「人間?」

 

そして、その匂いに顔を訝しめる。

 

「彼をやらせはせん!」

 

その影は弦十郎であった。

 

「たかが人間如きが、俺の邪魔をするな!!」

 

邪狼はそう言って弦十郎の蹴りを弾き飛ばすと…

 

「邪狼のおっさん、残念だが時間切れだ」

 

邪狼のすぐ近くに転移陣が現れると1人の年若い男が現れる。

 

「ちっ、秀一郎か。何の用だ?」

 

邪狼は男を知っているのか、舌打ちをする。

 

「はぁ…いくら傭兵がフリーだからって勝手に動かれても困るんだわ。俺の立場も狭くなるし…」

 

「知ったことか! 俺はあの小僧を食い殺すまでは止めないぞ!」

 

空中に投げた忍は弦十郎によって既に回収されていた。

 

「まぁまぁ、そう言いなさんなって…お楽しみは後に取っておくの一興だぜ?(ま、このおっさんの趣味にはついてけねぇけどさ…)」

 

内心で悪態を吐きながら秀一郎と呼ばれた男は邪狼にそう言ってみた。

 

「…………ちっ…まぁいいだろう」

 

秀一郎の登場で興醒めになったのか、邪狼は珍しく爪を引いた。

 

「そいつに伝えておけ。次に会うまでにもっと強くなって俺を楽しませろ、とな」

 

「ほんじゃま、そういうことで」

 

そう言い残し邪狼と秀一郎はその場から転移で消え去っていた。

 

ウェル博士達も逃亡してしまい、その行方はまたもわからなくなってしまった。

 

また、重傷を負った忍だったが、アーシアの治療で傷は完治したものの己の弱さに心を痛めていた。

さらに邪狼の残した言葉も忍を苦しめていた。

力を求めれば紅牙のような復讐者になってしまうかもしれないという葛藤もあったからだ。

 

果たして、忍はこれからどうするのか…?



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第二十八話『剣と魔法と召喚獣』

リディアン音楽院の学祭当日。

休日ということもあってか、駒王学園の生徒達も私服姿でリディアン音楽院の敷地内に入っていた。

 

その中には当然ながら忍やイッセー達の姿もあった。

しかし…

 

「はぁ…」

 

せっかくの学祭だというのに忍は1人で黄昏ていた。

 

理由は先日の邪狼との一戦である。

何も出来ず、ただ一方的に打ちのめされてしまった。

しかも後一歩のところで殺されていたかもしれなかった。

その事実が忍の心に重くのしかかっていた。

 

そこへ…

 

「ったく、辛気臭いんだよ」

 

クリスがやってきて、そんなことを言い出す。

 

「クリス…」

 

「お前がそんなんじゃ、こっちまで気が滅入るんだよ」

 

そう言うとクリスは忍の隣へと移動する。

 

「まぁ、その、なんだ……正直、あたしもなんて言やいいかわかんねぇけどよ。あれだ…いつまでもクヨクヨしたって仕方ねぇというか…あたしもこの間は見てるしか出来なかったし…」

 

クリスは忍を励まそうとしているらしいが、上手く言葉に出来ないらしい。

 

「だから…いつまでも気ぃ落とすなっての。お前はあたしらの王なんだろ?」

 

そのなんとも言えぬその言葉に…

 

「……ぷっ…あはは…」

 

忍は思わず笑い出してしまった。

 

「なっ!? なんでそこで笑うんだよ! 人がせっかく励まそうとしてやってるのに…!!」

 

そんな忍の反応にクリスも怒り出す。

 

「ご、ごめんごめん。だって、励ますのにはあまりにも程遠いものだったから、つい…」

 

謝りながらもさっきの内容を思い出して苦笑してしまっていた。

 

「お、お前なぁ!!」

 

今にも殴りそうな様子で手を振り上げるクリスだが…

 

「けど…ありがと。少しだけ楽になったよ」

 

そう言って微笑んでみせた。

 

「…っ…そ、そうかよ…///」

 

クリスが手を引っ込めるのを見てから…

 

「ところで…そちらの人達はクリスに何か用なのかな?」

 

忍はクリスの後ろを指しながらそう聞く。

 

「え? ぁ…」

 

忍の言葉に何かを思い出したように逃げ出そうとするクリスだったが時既に遅し、クラスメイトの3人に捕まってしまった。

 

こうしてクリスは講堂で行われている勝ち抜きステージで歌うことになってしまった。

結果は新チャンピオンとして君臨するほどの歌唱力を披露してみせた。

 

だが、その会場にはフィーネに所属する装者の調と切歌も来ており、飛び入りの挑戦者としてクリスの前に立ちはだかった。

しかし、採点結果を待たずして2人は講堂を後にする。

 

その途中のこと…

 

「まったくもう…イッセー、少しは落ち着きなさい」

 

「「マリア?」」

 

何故だかマリアの声を聞いたような気がして調と切歌は立ち止まってしまう。

そして、きょろきょろと声の主を探していると、前方から一組のカップル(?)が通り過ぎようとしていた。

 

「いやぁ、だって女子高なんて初めてで…なんだかこう、そわそわするというか…」

 

「はぁ…困った子ね」

 

そこには私服姿のイッセーとリアスの姿があった。

 

「マリアじゃないデス」

 

「でも、声がそっくり…」

 

2人揃ってリアスの声をマリアと勘違いしていると…

 

「? 何かしら?」

 

当のリアスに視線を気づかれてしまった。

 

「あ、いえ、なんでもないデス」

 

「失礼しました…」

 

そう言ってイッセーとリアスに道を譲ろうとすると…

 

「あ、一誠さん! その子達にちょっと止めて!」

 

響とクリスが走ってきた。

 

「え? 響ちゃん?」

 

調と切歌を横切ろうとした瞬間だったので反応に困った。

 

「知り合いだったデス!?」

 

「不覚…」

 

まさか知り合いとは思わなかったらしく、調と切歌はイッセーとリアスを警戒するが、時既に遅し。

いつの間にか先回りしていた翼も含めて5人に挟まれてしまった。

 

「この子達がどうかしたのか?」

 

イッセー達は二学期に入ってからライブ会場のことを聞いているため、まだ調や切歌とは接点が無いからわからないでいた。

 

「話は後でする。今は…」

 

「ここで事を構える気はないデス」

 

「お互い、失うモノが大きいからね」

 

翼の言葉を遮って調と切歌が口を挟む。

 

「くっ…」

 

「ちっ…」

 

「うっ…」

 

その言葉にシンフォギア装者達もそれぞれ反応を示していた。

 

その後、調と切歌は響達に決闘の約束をしてからリディアンから走り去っていた。

それと同時に響達に弦十郎からノイズ発生の連絡が入り、調査の依頼が来るのだった。

 

「あなた達も大変ね」

 

その様子にリアスも他人事のように思えず、そう言っていた。

 

「それが防人の務めだ」

 

「一誠さん達は学祭を楽しんでてください」

 

「忍に会ったら適当に伝えといてくれ」

 

それだけ言うと、装者3名は現場へと急行するのだった。

 

 

 

一方、その頃…

 

「クリスちゃん、楽しそうだったね」

 

「そうだな」

 

忍は智鶴と共に学院内を散策していた。

 

「(しかし…なんで、あそこに彼女らが…?)」

 

当然、クリスが歌っているところを見ており、飛び入り参加した調と切歌の存在も認知していたが、クリス達が追うのを確認していたため、自分は不要だと思って追い掛けないでいた。

 

「どうかしたの?」

 

眉間に皺を寄せている忍の顔を覗き込む。

 

「…あ、いや…少しクリス達のことが気になってね」

 

「…………」

 

忍の答えに顔をじーっと見つめると…

 

「な、なに…?」

 

「もう、しぃ君。ちゃんと話してよ」

 

どうも何か隠してると思ったらしく智鶴は忍にそう言っていた。

 

「あ~…か、帰ったら話すから…ね?」

 

今は学祭を楽しもう、というジェスチャーをしてみせる。

 

「約束だからね?」

 

「わかったよ………ん?」

 

智鶴の言葉に頷く忍だったが、不意に何かの匂いを感じた。

 

「今度はどうしたの?」

 

"また隠し事?"というような視線を忍に向ける。

 

「いや、妙な匂いが…」

 

首を振って否定しながら周囲の匂いを探っていると…

 

『きゅぅ』

 

何かの鳴き声が聞こえてきた。

 

「ふむ…?」

 

首を傾げながら今度は周囲を見回してみると

 

ガサガサ…

 

近くの茂みで何かが動いた。

 

「あら?」

 

智鶴がそこへ近づいてみると、そこには…

 

「ぬいぐるみ?」

 

「いや、生きた匂いがするから本物の龍だろ。しかもまだ幼いな…」

 

西洋竜の子供がデフォルメされたような外見の白い幼龍がいた。

 

『きゅぅ!?』

 

2人に気づかれたことに気づき、幼龍は慌てて逃げようとしたが…

 

「あ、ダメよ。そっちは危ないから…」

 

智鶴に簡単に捕まってしまった。

 

『きゅ、きゅう!?』

 

ジタバタと幼いながらに暴れる。

 

「暴れないの。大丈夫だから…」

 

幼くても龍であるため、暴れる力は人間の子供以上なはずだが…智鶴はそれを上手く受け流しながら幼龍の背中を優しく撫でていた。

 

『きゅ、きゅう…』

 

しばらくそれを続けていると、だんだんと大人しくなっていき、暴れなくなった。

 

「ね? 恐くないから…」

 

子供をあやすようにして幼龍を落ち着けていた。

 

「それにしても…なんだって龍がこんな所に?」

 

幼龍の頭を撫でながら当然の忍は疑問を口にする。

 

『きゅ、きゅ!』

 

何かを訴えているようだが、如何せん"きゅ"ではわからなかった。

 

「ん~…困ったわね…」

 

そうして幼龍を抱えたまま学院内を散策することになった。

ちなみに擦れ違う人々から不思議そうな目を向けられていた。

 

すると…

 

「ふぁ、ファースト…ど、何処ぉ…?」

 

なんだか今にも消え入りそうな若干涙ぐんでるモノも混じったような…そんな声が聞こえてくる。

 

『きゅ! きゅう!』

 

その声に反応してか、幼龍も声を出す。

 

「っ! ファースト?!」

 

それを聞きつけて1人の少女が忍と智鶴の前までやってきた。

少女とは言え、大きな水色のリボンで紺色の髪をポニーテールに結っていて少し幼さの残った顔立ちをしているものの、智鶴に匹敵する体型の持ち主だが…。

 

「はぁ…はぁ…」

 

幼龍を探し回っていたのか、少し息切れしていた。

 

「大丈夫? 少し座りましょうか」

 

そんな様子の彼女に智鶴は近くにベンチを見つけてそこに座るように提案した。

 

「は、はぃ…」

 

それを見てか、忍は出店へと何か飲み物を買いに向かった。

 

「この子はあなたの?」

 

幼龍を少女に手渡しながら智鶴は尋ねる。

 

「は、はぃ……あの、こ、この子は…ですね…」

 

「落ち着いて。今、しぃ君が何か買ってきてくれてるから…」

 

息切れしてる少女に落ち着くよう言いながら智鶴は背中を撫でてあげる。

 

「お待たせ」

 

そこに忍が飲み物を持って戻ってきた。

 

「これを飲んで少し落ち着きな」

 

そう言って少女に飲み物を手渡した瞬間…

 

「……魔力の匂い?」

 

微かに感じた魔力の匂いに思わず口が滑ってしまった。

それでも音量はかなり低かったので、雑音に紛れて周囲には聞こえていなかったが…

 

『きゅっ!?』

 

「っ…!?」

 

それでも至近距離にいた智鶴や少女には聞こえたらしく、忍の一言に少女と幼龍はびくりとわかりやすい反応を示していた。

 

「しぃ君?」

 

「すまない…」

 

少女に謝りながら忍は智鶴の隣に座る。

 

「あなたのお名前は? 私は明幸 智鶴。こっちはしぃ君」

 

智鶴が少女に自己紹介したのを見て…

 

「紅神 忍だ。さっきは悪かったね」

 

再度謝りながら忍も自己紹介をする。

 

「あ、あの…わ、私、は…む、叢雲(むらくも)…め、萌莉(めいり)…。こ、この子は…ふぁ、ファースト、です…」

 

『きゅ!』

 

物凄く恥ずかしそうに自己紹介する少女…萌莉もまた自己紹介をしていた。

 

「萌莉ちゃんに、ファーストちゃんね」

 

そう言うと、智鶴はよしよしとファーストの頭を撫でる。

 

「ここの生徒…だったら、制服着てるよな。この近場だと…」

 

そう言って忍は近場の高等学校を思い浮かべる。

 

「わ、私…く、駒王学園、に通って、ます」

 

「あら、だったら私達と同じね」

 

「だな。学年は…智鶴と同じ3年か?」

 

体型からそう判断するが…

 

「じゅ、17歳、の…に、2年…です…」

 

忍の同級生でした。

 

「あ、俺と同級生なのな」

 

「え、えっと…」

 

そんなゆっくりとした会話の後…

 

「あ、あの…な、なんで…魔力、のこと…?」

 

萌莉は何故忍が魔力を知っており、智鶴もそれを平然と受け入れてるのか不思議だったようだ。

 

「ん~…俺や智鶴もちょっとそっち方面で色々と巻き込まれたからな。魔力や魔法とか…悪魔や天使とか…まぁ、色々とな」

 

忍はそう言って苦笑してみせた。

 

「萌莉ちゃんはどうして魔力の事を…?」

 

智鶴に問われて…

 

「わ、私…家が、代々…剣術やってて…魔法、とか…組み込んだ…特殊な流派で…わ、私…後継者って、ことになってて…」

 

萌莉はそう答えた。

そして、それを聞き…

 

「そうなのか…もし良かったら教えてもらいたいもんだ」

 

冗談混じりに忍はそう申し出ていた。

しかし、萌莉を見る忍の眼は真剣そのものであった。

 

「どう、して…?」

 

その眼を見て萌莉は首を傾げて尋ねる。

 

「……俺は強くなりたいんだ。目の前の大切な人達を守れるように…」

 

そう言って忍は智鶴の手を握った。

……心なしか、忍の手は少し震えていた。

 

「しぃ君…この間の大怪我のこと…?」

 

邪狼との戦闘で負った重傷の事は智鶴にも当然知られている。

 

「………あぁ…危うく殺されかけた…」

 

その言葉に智鶴と萌莉はギョッとした。

 

「手も足も出なかったんだ…自分の弱さを痛感させられたよ…」

 

「そんな…しぃ君…」

 

忍の握ってきた手にもう片方の手を重ねる。

 

「きっと…奴はまた来る。だから力を蓄えたい…戦うためじゃない。俺は守るために…力を使いたいから…」

 

それは忍の本心からくる言葉であった。

戦いを回避出来るなら、そういう方法も模索したい。

甘い考え方だとしても、忍はそれを貫くために力をつけなくてはならなかった。

 

『きゅ…』

 

思いつめた表情の忍を見てファーストが忍の近くまで寄ると、そのまま頭をぐりぐりと押し付けた。

 

「ありがとな。まぁ、無理なら無理でいいんだ。他の方法で強くなるから…」

 

ファーストの頭を撫でた後、萌莉にそう言う。

 

しかし…

 

「無理…じゃ、ありま、せん…。誰か、を…守る…ため、なら…」

 

萌莉はそう言っていた。

 

「いいのか…?」

 

「と、特に…誰にも、教えちゃ、いけない…って、言われて、ません…から…」

 

そう言いつつも萌莉は祖父から教えられた"あること"を思い出していた。

 

「なら、よろしく頼む…」

 

「は、はぃ…」

 

こうして萌莉の教えで、彼女の流派『叢雲流魔剣術』を教わることになった忍であった。

 

 

 

余談だが…

 

学祭が終わった日の夜。

シンフォギア装者達による決闘が行われるはずだった。

しかし、決闘の場に選ばれたのは特別指定封鎖区域とされていたカ・ディンギル跡地だった。

そこで響達を待ち受けていたのはソロモンの杖を持つウェル博士だった。

ノイズによる攻撃を受けながら響達はそれに応戦。

その中で、ウェル博士は月が落下するという情報を響達に打ち明けた。

そして、その直後にフィーネが所有する完全聖遺物の一つ『ネフィリム』を送り出し、クリスと翼をノイズによって拘束した。

残った響はネフィリム相手に善戦するも、ウェルの言葉と調に言われた偽善者という言葉を思い出し、拳を鈍らせた。

そのせいで、響は左腕を食い千切られ…ネフィリムの糧とされてしまい、覚醒を促してしまった。

それと同時に響もまた暴走状態を引き起こしてしまった。

暴走した響はネフィリムを圧倒し、その心臓部を抜き取ると、そのままネフィリムの外殻を吹き飛ばしてしまった。

それを見たウェル博士は恐怖のあまり逃亡した。

暴走状態の響をクリスと翼がなんとか押さえていると、ギアが解除されて響は気絶した。

その際、ネフィリムに食い千切られたはずの左腕は再生していた。

 

そして、響は医療室へと運ばれ、深刻な問題を抱えていることが発覚する。

それは胸にあるガングニールの欠片が響の体組織と徐々に融合・変質させていき、響がギアを発動する度に響の体を侵食していくことである。

その結果、最悪の場合は死を迎えるのだという。

その事実は装者の中では翼にのみ明かされ、響を戦場から引き離そうと厳しい言葉を投げつけていた。

 

………

……

 

後日。

 

忍は自らの眷属と吹雪、萌莉を連れて兵藤家へとやってきていた。

また、萌莉が心配らしく彼女のペット(?)らしき小動物5匹も一緒についてきていた。

その中にはもちろんファーストの姿もあった。

他は亀、蛇、小鳥、子猫である。

 

「なんだって俺の家に来るかな?」

 

「仕方ないだろ? こっちは居候の身で、中庭で魔法なんて使えないんだし…」

 

「それはわかった。でも、なんか色々と増えてないか?」

 

そう言ってイッセーは萌莉とファースト達を指差していた。

 

「特におっぱいの大きさの比率も高いし!」

 

「気にするのはそこかい!?」

 

ベシッとイッセーにツッコミを入れた後…

 

「彼女は叢雲 萌莉。俺達と同級生で、俺に剣術を教えてくれる人だ」

 

智鶴の背中に隠れている萌莉をそう紹介していた。

 

「剣術? それなら木場にでも教えてもらえばいいのに…」

 

イッセーの疑問ももっともだが…

 

「木場君の剣術は剣をベースにしてるけど、俺は刀がベースなんだよ。そこの違いから多分異なるだろうし…」

 

忍はそう答えていた。

 

「そういえば、そうだったな。あいつも剣士としての心構えとかを師匠に倣ったとか言ってたし…」

 

それで納得した後…

 

「なら後で俺と模擬戦してくれよ。禁手状態でお前とどこまで戦えるか試してみたいし」

 

「それは願ってもないことだけど…いいのか?」

 

「もちろん。忍は神器ないけど、デバイスとかいうの持ってんだし…お互いに良い経験になると思うんだよ」

 

「…わかった。その勝負、受けて立つよ」

 

イッセーの申し出を快く受け取っていた。

 

そして、一行はイッセーの案内で地下1階へと降りていき…

 

「「「広っ!!?」」」

 

忍、クリス、吹雪が当然のように驚いていた。

 

「広々として良いわね」

 

「そうね」

 

「無駄にデカいだけでしょ」

 

逆に智鶴、カーネリア、暗七は冷静(?)な反応を示していた。

 

「まぁ、トレーニングするにはちょうどいいけどな」

 

もう慣れたのかイッセーもそんなことを言っている。

というか、イッセーは見学するようだ。

 

「う、うぅ…ひ、人が…いっぱい…」

 

未だ智鶴の背中に隠れる萌莉はなんだか涙目だった。

 

 

 

そうこうしていると、何故かゼノヴィアやイリナと言った兵藤家の居候剣士陣も合流しての見学会と化しつつあった。

そんな中、縮こまった萌莉と"悪いことをしたかな"と考える忍は互いに木刀を手にして対峙していた。

 

「ふむ…あんなオドオドしていてもやはり剣士か。隙があまり見当たらない」

 

「逆にあんな娘が剣士だって普段なら思わないわね」

 

ゼノヴィアとイリナは萌莉を見てそう評する。

 

「む、叢雲、流は…その、ぜ、全部で…よ、四つの、型…が、あります…」

 

「四つか。それって多いのか? 少ないのか?」

 

萌莉の言葉を聞き、忍は剣士陣に聞いてみた。

 

「型というのかわからないが、少ない方なんじゃないか?」

 

「そうかしら? 技を区別するための型なら多い方じゃない?」

 

ゼノヴィアは少ない、イリナは多いと答える。

人によって型の見解は異なるようだ。

 

「まぁ、いいか。で、どういうのなんだ?」

 

気を取り直して萌莉に尋ねた。

 

「ま、まずは…ぼ、防御の、型…」

 

そう言うと萌莉は翠色の魔力を木刀へと流し、それをフィールドタイプの魔法のようにして木刀の刀身を包み込む。

 

「こ、こうやって…ぼ、防御、魔法を…と、刀身や、鞘に…て、展開、します…」

 

「なるほど…(感じとしてはミッドやベルカの魔法体系に似てる…もしくはベースになってるのか?)」

 

萌莉の使う魔法にそのような感覚を感じながら忍は萌莉の真似をするようにして木刀の刀身に白銀色の魔力を流すと、フィールド状にした防御魔法を展開する。

 

「そ、そう…そ、そんな、感じ、です…」

 

「これが防御の型か。なら…こういうのもそうなるのか?」

 

萌莉の言葉を受けながら、忍は軽く木刀を振るって魔力を自分の手前まで飛ばすと、今度はバリアタイプの防御魔法を展開してみせる。

 

「ふぇぇ?!?!」

 

それを見て萌莉が妙な悲鳴を上げた。

 

「ど、どうした!?」

 

その声に忍も驚く。

 

「ふぇ? ぁ、いえ…あの…い、今の、も…ぼ、防御の、型…に、なります…」

 

困ったように縮こまりながらさっきのも防御の型であると答える。

 

「そうか。これなら色々と応用が利きそうだな」

 

忍は確かな手応えを感じていた。

 

「(こ、この人…もしかして…)つ、次は…ま、魔刀の、型…です…」

 

忍にあるモノを感じた萌莉だが、そのまま続けることにした。

 

「魔刀の型?」

 

聞き慣れない単語にその場にいた全員が首を傾げる。

 

「か、簡単に…い、言えば…け、剣と、魔法を…い、一緒にあ、扱うもの…です…」

 

そう言うと、萌莉は周囲に魔力弾を形成し、木刀を振るうタイミングに合わせて魔力弾を一緒に飛ばしたり、斬撃と魔力弾を時間差で飛ばしたりしてみせた。

 

「ふむふむ…」

 

忍も真似るようにして周囲に魔力弾を形成し、木刀を振るって魔力弾を同時や時間差で発射する動作を繰り返す。

 

「(や、やっぱり、この人が…?)」

 

そんな姿を見て萌莉は徐々にその思い浮かべている疑惑を確信へと変えつつあった。

 

「紅神は筋が良いというか…覚えるのが異常に早くないか?」

 

「うんうん。確かに」

 

「そういや、忍って何事もそつなく熟すよな。なんか、コツでもあるのか?」

 

見学してた兵藤家の3人がそう言ってきた。

 

「コツって言われても困るんだけど…なんだか自然と体が反応するというか…覚えたものが鮮明というか…なんて言ったらいいのかわからないよ」

 

本人もそれが自分の能力であることにまだ気づいていないようである。

 

「紅神のは天性のものかもしれないな」

 

「なのかな? 特に困るような事じゃないからいいけど…」

 

ゼノヴィアの言葉にそう答えつつ魔力弾を消し去って萌莉に向き直る。

 

「次は?」

 

「ふぇ?! え、えっと…あ、あとは…ほ、砲撃の、型…って、言って…し、刺突、か…じょ、上段からの、斬撃…に、合わせて…ほ、砲撃の、魔法を…放つ、んです…」

 

忍に声を掛けられ、驚きつつもそう答えていた。

 

「砲撃か…流石にこの空間じゃ出来ないわな。感じだけ聞くなら…」

 

そう言って忍は木刀を上段に構えると…

 

「こんな感じか?」

 

砲撃の代わりに魔力の波動を斬撃と共に前方へと撃ち出す。

 

「っ!?(き、聞いただけで…)」

 

たった今、言っただけで再現しようとした忍の順応力と吸収力にかなり驚いていた。

 

「これで三つだから…あと一つか。しかし、具体的な技名とかはないんだな?」

 

不思議に思い、萌莉に尋ねてみる。

 

「え、えっと…う、家に…だ、代々から…つ、伝わる、家訓に…『き、基礎さえ…しっかり、していれば…は、派生技など…し、自然に、身に、付く』…って言うのがあって…そ、それが、この…む、叢雲流を、表す言葉、でも…ある、の…」

 

萌莉はそう答える。

 

「なるほど。使い手次第で色んな形になる流派なのか。だから特定の技がなくて型だけなのか…それはそれで納得出来るような気がする」

 

納得したように何度か頷くと…

 

「で、最後の型ってのはどんなのなんだ?」

 

いよいよ、最後の型を教えてもらおうとする。

 

しかし…

 

「さ、最後の、型は…り、理力の、型…って言って…わ、私達、叢雲の、人間じゃない…と、使えない、って…お祖父ちゃんが、言ってた…」

 

萌莉はそう伝えていた。

 

「そうなのか?」

 

「う、うん……で、でも…こ、こうも、言ってた…」

 

その言葉に落胆する忍だったが…

 

「し、始祖様が…こんな言葉、を…残してる、の……『よ、世の中…ぜ、絶対、なんて…こ、言葉は、ない。い、いずれ、例外が…た、誕生する、から…た、楽しみに…している、ように』…って…」

 

「例外者?」

 

「う、うん…わ、私は…し、忍、さん…だと、思う、の…」

 

「俺が?」

 

今度は疑問に思う忍だった。

 

「し、忍さん…なら、きっと…だ、大丈夫…な、気がする…」

 

そう言う萌莉の眼は真剣だった。

 

「その、理力の型ってのはどんなもんなんだ?」

 

「り、理力の、型は…け、剣術じゃ、なくて…つ、使い手の、能力で…う、内にある…魔力を、使って…す、数秒先、の…相手の、う、動きを…予知したり…て、テレキネシスみたいな…ち、力を…は、発揮する、の…」

 

そう言うと、萌莉は木刀を床に置いてから一歩下がると…

 

「んっ…」

 

床に置いた木刀に向けて手を突き出す。

すると…

 

ブォンッ…

 

木刀が独りでに宙へと浮かび上がる。

 

「「「おぉ」」」

 

「わぁ、凄い凄い」

 

その様子に見学者の一部がパチパチと小さな拍手を送る。

 

「魔法の次は超能力かよ…」

 

「忍の近くだと驚きが尽きないわね」

 

クリスと暗七が皮肉っぽいことを言う。

 

「内にある魔力の応用か。それは考えたことがなかったな…いや、それよりも普通に出来るものなのか?」

 

体内魔力を持つ転生悪魔のイッセーやゼノヴィア、忍と同じくリンカーコアによる大気魔力を保有する暗七やシア、吹雪に問いかけてみた。

 

「俺はそっち方面に疎いから何とも言えんけど…そういう魔力もあるんじゃないか?」

 

「私も同意見だ。特に悪魔は家柄ごとに魔力の資質が異なるだろうし、転生悪魔の私達も得手不得手はあるからね」

 

イッセーの言葉にゼノヴィアもそう付け加えて答える。

 

「少なくとも私達の魔力じゃ魔法を介さないと厳しい気がするわ」

 

「確かに…どうあっても魔力の流れは見えるはずですし、そもそも魔法と超能力は異なる分野のはずです」

 

「小難しい話はさサッパリだけど…あたしも難しいと思うわよ」

 

暗七とシア、吹雪は揃って難色を示した。

 

「となると…萌莉の家、叢雲家は雪白と同じで特殊な血筋を持ってた可能性があるな」

 

「それには同意見です。多次元世界は広いですから…どのような技術、能力があっても不思議ではないかと」

 

忍の言葉にこの中では唯一とも言える多次元世界での知識があるシアが賛成する。

 

「ともかくやってみないことには話にならんか…」

 

忍も木刀を置いて一歩後ろに下がると…

 

「はぁ…(出来るだけ魔力の出力を抑えながら体内に留め、その力を物体を動かすエネルギー体へと変換する…)」

 

木刀に向けて突き出した手に魔力を集中し、それを肉体の表面でなく内側に溜め込んで力だけを抽出し、魔力の波動を木刀へと与える。

 

「上がれ!」

 

気合一喝とばかりにそう叫ぶと…

 

ヒュッ!!

バコンッ!!

 

木刀が勢いよく飛び上がると、回転しながら天井に激突する。

 

「「「「「……………」」」」」

 

その出来事に全員が口を半開きにして驚く。

そして、静寂の後…

 

「す、凄い、凄い…!!」

 

いち早く静寂を切り裂いたのは萌莉だった。

 

「れ、例外者…ううん、し、忍さんなら…で、出来ると思ってた…!」

 

少しばかり興奮気味に忍に駆け寄ると、抱き着いていた。

興奮のせいか先程よりも言葉がしっかりしてるように感じる。

 

『きゅ!』

 

ファーストもペチペチと小さな手で拍手していた。

 

しかし、それを皮切りにして…

 

「おまっ、なにしてんだ!?」

 

「驚きのあまり興奮でもしたの?」

 

「さっさと離れろ!」

 

クリス、暗七、吹雪が忍と萌莉を引き離しにかかっていた。

 

「っ?! はわわぁぁぁ…////」

 

自分が何をしているのか気づいたのか、ボンッという音が鳴りそうなくらい顔を真っ赤にして慌てて忍から離れた。

 

「(萌莉、か…"あの人達"と一緒に眷属候補が増えたかな…)」

 

しかし、忍は別の事を考えていた。

 

「(あとは交渉次第か…大丈夫かな?)」

 

そう思いながら眷属の駒の残りと交渉相手の特性を照らし合わせていた。

 

「おい、聞いてんのかよ!?」

 

「ちょっと聞いてんの!?」

 

しかし、そんな事を考えていたため、クリスや吹雪の文句を聞きそびれてしまい、さらに文句を言われることになるのだった。

 

自身の考える"守るための戦い"への新たな手札が増えた喜びを胸に忍は"彼女達"との交渉を考えるのだった。



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第二十九話『龍と狼の模擬戦+眷属交渉』

剣術の型を修得した後、イッセーとの約束通り模擬戦をすることになった。

萌莉と入れ替わるようにして忍とイッセーが対峙する。

そして、禁手までのカウントダウンが始まる。

イッセーには時間制限があるので、禁手状態となってから活動限界時間ギリギリまでの模擬戦となる。

 

「この時間をどう切り抜けるかが肝なんだよな」

 

「だから風鳴さんのところに通うことにしたの?」

 

そんな会話しながら忍とイッセーは軽い組み手をしていた。

忍はともかく、イッセーは体を温める意味での軽い組手である。

 

「まぁな。あの人、かなり強いし…結構ハードなんだけどな」

 

「それに加えて自主練もしてるんでしょ? イッセー君って意外と努力家だよね」

 

「意外ってなんだよ!」

 

そう言うと強めの正拳突きを放つ。

それを忍はすかさず右腕で正拳の軌道を逸らす。

 

「アザゼル先生やドライグにも言われてるけど、俺ってそんなに色々な存在を引き付けてんのかな?」

 

「少なくとも俺もその存在の一つだろうな。そして、それに伴うとばっちりも受けてる気がする」

 

「そいつは悪かったな!」

 

そう言って再び正拳を放つイッセーと、それを忍はバックステップとバク転で後ろに回避する。

そして、その時が来た。

 

「さぁ、こっからが本番だ!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

その音声と共にイッセーの体を赤い鎧が包み込む。

 

「(これが二天龍と称されし片割れ…赤き龍の帝王の鎧…間近で見るのは初めてだが…物凄いプレッシャーだ…)」

 

その姿に忍は背中に冷や汗を掻いた。

 

『きゅ…』

 

ファーストも同じ龍であるはずだが、その姿に震えている様子だった。

 

「流石に出力は抑えて戦うぞ? 加減間違えて家を壊しても嫌だしよ」

 

「その方が助かる。というか、結界でこの空間自体を補強しないと耐えられないんじゃないか?」

 

忍の懸念に…

 

「その必要はないわ。ある程度までなら耐えられるもの」

 

「あら、リアスちゃん」

 

リアスがやってきてそんなことを言い出す。

 

「イッセーの禁手の波動が地上まできたから見に来たら…なかなか面白そうなことをしてるじゃない」

 

そう言ってリアスも見学組の中へと入る。

 

「あら? 随分と可愛らしい見学者さん達ね?」

 

萌莉と、その召喚獣5匹を見る。

 

「ぁ、ぁぅ…」

 

見知った人である智鶴の背中に隠れてしまうが、如何せん隠れ切れてない。

 

「リアス部長、彼女はなかなか面白い剣士だよ。性格上の問題はあるが、きっと良い騎士になる」

 

ゼノヴィアがリアスにそんなことを言う。

 

「あら、そうなの?」

 

不思議そうな顔をしてオドオドしてる萌莉を見る。

 

「グレモリー先輩。悪いけど、その子は俺の騎士候補だ。と言ってももう騎士の駒は使い切ってましたっけ?」

 

そこでイッセーと相対している忍がまたとんでもないことを言い出す。

 

「はぁ?! お前、本気かよ!?」

 

「この子を仲間に…?」

 

「あらあら…この間の眷属引き入れで何かに目覚めちゃった?」

 

「私は良いと思いますが…」

 

「しぃ君ったら、もう…」

 

忍の言葉にクリスは驚き、暗七は渋い顔をし、カーネリアは可笑しそうな笑みを浮かべ、シアは賛成し、智鶴は困ったような顔をしていた。

 

「?」

 

「………」

 

当の萌莉は首を傾げ、現在保留中の吹雪はなんだか面白くなさそうな表情をしている。

 

「忍の眷属集めか……てか、そろそろ始めようぜ」

 

「あぁ、悪い悪い」

 

待ちくたびれそうな声を出すイッセーに謝りながらネクサスとファルゼンを起動させる。

 

「いざ、推して参る!」

 

そう言うと、忍は手始めにブリザード・ファングを左手から放って牽制する。

 

「いきなりかよ!」

 

背部のブースターを噴かして一直線に忍へと特攻を仕掛ける。

しかもブリザード・ファングが当たっても着弾箇所が凍結しただけでほぼ無傷である。

 

「マジか!?(ここまでとは…!!)」

 

「伊達に毎日トレーニングしてる訳じゃないからな!」

 

そう言うとイッセーは左ストレートを忍に放つ。

 

「ちっ!?」

 

ガキンッ!!

 

今さっき習ったばかりの叢雲流魔剣術・防御の型を使い、ファルゼンの刀身に魔力を纏わせてフィールド状に練り上げるとイッセーの拳を受け止める。

 

しかし…

 

「(お、重い!!?)」

 

忍の予想以上にイッセーのパワーが増しており、力負けしそうになっていた。

 

「ちぃっ!」

 

力勝負では分が悪いと判断し、ファルゼンに込めてた力を抜いて軌道を逸らすことに集中する。

 

「そうはさせっかよ!」

 

忍の意図に気づいたイッセーが踏み込んだ足に力を込めて左ストレートから薙ぐような動作に切り替えて忍を追撃する。

 

「くっ?!」

 

再度ファルゼンに力を込めるとそのまま押し留めようとするが、やはりパワーの差なのかジリジリと競り負け始めている。

 

「こんだけ距離を詰めたら流石に何も出来ないだろ?」

 

刀と篭手による特殊な鍔迫り合いをしながらイッセーが不敵に笑った。

 

「(堅牢な鎧に守られ、さらにパワーも増大…普通ならこれで詰むんだろうが…)」

 

忍の眼はまだ諦めてはいなかった。

 

「力で負けるならスピードで勝つ!」

 

そう言うと同時に忍は銀狼へと姿を変えてファルゼンを一旦手放して距離を稼いだ。

 

ギンッ!!

 

ファルゼンはイッセーの薙ぎによって弾かれてしまう。

 

「来い!」

 

早速覚えた理力の型によって弾かれたファルゼンを手元へと呼び戻す。

 

「おまっ!? それってズルくね!?」

 

「イッセー君のパワーに比べたらまだまだズルくない!」

 

そんな言い合いをしながら忍は高速移動を開始する。

 

「(木場よりはまだ遅く感じるが…それでも速ぇ!)」

 

木場とも訓練しているため、速度に目が慣れているイッセーだが、それでも忍の速度もそれなりに速いのか少し追い切れていない。

 

「狼影斬ッ!」

 

ギンッ!

 

擦れ違い様に刀の刃で斬りつけるが、堅牢な赤き鎧に傷をつけることは出来なかった。

 

「(やはり硬い! 弱点を突くにしても…俺には聖なるオーラも龍殺しもない。正直、キツイか…)」

 

忍も総合的に能力は向上してきているが、未だ決定打に欠けていた。

 

それから約30分の間、忍もイッセーも互いに力を出し尽くすことなく模擬戦を終えていた。

しかし、スピードでは忍、パワーではイッセーにそれぞれ軍配が上がっていて、それぞれの改善点も見えた有意義な時間となったのだった。

 

ちなみに萌莉にも眷属の話を切り出したものの答えを出すのに少し時間がいると答えられてしまった。

 

しかし、一方でウェル博士が街中でノイズを出現させていた。

それに偶然にも遭遇した響とその友達だったが、響によりノイズは撃破。

ウェル博士の身柄を確保しようとするも、調と切歌の介入によって阻まれた。

翼やクリスもノイズ出現の知らせを聞き、急行したが時既に遅し。

調と切歌に連れられてウェル博士は去り、響はオーバードライブ状態に陥っていた。

その後、なんとかギアを解除した響は気絶して緊急搬送。

その場に居合わせていた未来やクリスにも響が危険な状態であることを知らされたのだった。

 

………

……

 

後日、リアスとディオドラのゲームが四日後に迫っていた日のこと。

リアス達は冥界に出向いていた。

何やら冥界のテレビに出演するとかどうとか…。

 

その一方で、忍は眷属候補と考えていた人物と接触していた。

 

「お久し振りです。フェイトさん」

 

「う、うん。久し振りだね。もう三ヶ月くらいになるのかな?」

 

海鳴臨海公園で待ち合わせしていた。

ルナアタックでの共闘以来、実に三ヶ月近く経っての再会である。

 

「なんだか…忍君、雰囲気が変わった?」

 

「そうですか?」

 

「前よりも…なんだか、その…空気がキリッとしてるような…」

 

「どんな表現ですか…まぁ、確かに色々なことがありましたから…」

 

近くのベンチに座りながら他愛のない会話をする。

その様はまるで遠距離恋愛してたカップルが久々に会ったような…?

それは言い過ぎか…。

 

「色々なことって?」

 

「フェイトさんは知ってますか? 俺達が共に戦ったルナアタックと同時期に起きた聖剣騒動のこと」

 

「シュトライクス准将からご丁寧に報告書を読ませてもらえたよ。機密事項の部類に入るはずなんだけど…私はルナアタックの方に介入したから特別に、ね」

 

「なら、三大勢力…悪魔、天使、堕天使の三つ巴が和平を結んだことも…?」

 

「ある程度なら…でも、未だに信じられないかな。悪魔や天使がいて、それが手と手を結んでるなんて…普通なら敵対しててもおかしくないような組み合わせだし…」

 

「確かに、そうですね。ですが、事実です。和平の様子は俺も近くで見ていましたし」

 

苦笑しながらも真剣みを帯びた声でそう言う。

 

「ただ、それを快く思わない連中…禍の団(カオス・ブリゲード)がいます」

 

「禍の団…」

 

「あいつらにはいくつか派閥があるみたいで…今のところわかってるのは、悪魔に敵意を向けている旧魔王派と冥王派なんですよ」

 

「旧魔王派と冥王派?」

 

フェイトがゼーラより見せてもらった報告書にはそこまでの詳細は書かれていなかったのか、それとも意図してみせられなかったのかは不明だが、フェイトは首を傾げていた。

 

「旧魔王派というのは何百年も前に起こった三大勢力での戦争で、その命を絶った先代の四大魔王を信仰している悪魔の一派で、現政権に対して未だに強い反発を抱いているらしいんです。それがテロ組織に加担していて…」

 

そんなフェイトに忍は自分の知る限りの知識で簡潔に説明していた。

 

「えっと、つまり…悪魔同士での揉め事があって、その遺恨は残りつつ片方がテロ活動をしてるってこと」

 

「そうなりますね」

 

「悪魔の世界も人の世界とあまり変わらないんだね」

 

「確かに…」

 

フェイトの言葉に忍も苦笑してしまった。

 

「それで、冥王派っていうのは?」

 

「旧魔王派によって弾圧を受け、領地を追われてしまった種族の過激派なんです」

 

そう答える忍の表情はどこか悲しそうであった。

 

「忍君?」

 

「……冥王とは、冥界に住む種族である冥族がその力を解放した姿を指す、らしいです。そして…俺にもその血が流れているんだそうです」

 

「え…?」

 

忍の言葉にフェイトは何と言っていいのかわからなくなった。

 

「この三ヶ月の間で…俺の出生がわかりました。俺は…狼と雪女との間に生まれた子だったんです。普通、雪女の子は女の子というのが原則だったらしいんですが…俺はこの通り男です。そして、俺を生んでくれた母の家系には少なからず、冥王としての血も混じっているようで、その遺伝は今でも健在らしくってリンカーコアが発現したのも遺伝らしいんです。ただ…ちょっと前にマッドサイエンティストに変な血液を投与されたみたいで…自分でもよくわからないんですよ…何を入れられたのか…」

 

そこまで話すと…

 

ぎゅっ…

 

フェイトは忍の頭を抱き…

 

「もういいから…無理して話さなくてもいいから…」

 

そう言って頭を撫でていた。

 

「いえ…これはフェイトさんにも伝えておきたかったので…それにこのことは智鶴も承知してます。だから大丈夫ですよ」

 

そう言ってみるものの…

 

「大丈夫なら…どうして泣いてるの?」

 

フェイトは忍の頬を触って涙を拭いていた。

 

「…正直、辛かったんですかね。いくら出生を知ったからってまだ両親は見つかってませんし…何より、俺は一度、殺されかけたんですから…」

 

泣いてる認識はなかったが、フェイトに指摘されて多少驚きつつも淡々とそう呟いていた。

 

「殺されかけたって…?!」

 

言ってハッとなって周囲を見回すが、幸いにも誰もいなかったのでホッと胸をなでおろした。

 

「誰かいたらこんな話はしませんよ」

 

フェイトの反応を見て忍はそう言う。

 

「それで…誰にやられそうになったの?」

 

「………邪狼。あいつはそう名乗ってました」

 

それを聞き…

 

「邪狼!?」

 

フェイトは驚いたような声を上げてしまった。

 

「フェイトさん? あいつを知ってるんですか?」

 

「知ってるも何も…管理局で指名手配中の特A級の要注意人物だよ!」

 

フェイトは邪狼についての資料を思い出す。

 

「彼は様々な次元の戦や紛争に介入している戦争屋の傭兵で、無意味な虐殺行為を繰り返してるの。それで、管理局も何回か討伐隊を派遣したんだけど…結果は誰も帰ってこなくて…」

 

「そんな奴が…テロ組織に…」

 

フェイトからの情報を聞き、忍は身に迫る危機を改めて思い知る。

 

「やっぱり…強くならないとな」

 

そう決意に満ちた言葉を発すると…

 

「フェイトさん、実は先日冥界に行きまして…魔王の1人が俺に眷属の駒なるモノを渡してくれまして…」

 

「眷属の駒?」

 

「えぇ…」

 

そこで忍は眷属の駒のことと、そのベースになっている悪魔の駒のことを説明した。

 

「少数精鋭のチーム。悪魔の世界も凄いんだね」

 

「はい。それで…フェイトさん…」

 

涙を親指で拭い去ると忍はフェイトから少し離れて真剣な表情を見せ…

 

「あなたも…俺の眷属になってほしいんです」

 

そう言って僧侶の駒を差し出す。

 

「えぇ?! わ、私…そんな、眷属だなんて…まだよくわかってないし…それに私よりも優秀な人なんて…」

 

フェイトはあまりのことに驚いた様子でそんなことを言い出すが…

 

「フェイトさんじゃないとダメなんです」

 

「うっ…////」

 

あまりの口調の強さにフェイトも赤面してしまう。

 

「これは俺の勝手な想いなんですが…俺はあなたも守りたいんです。だから身近に置いておきたい…。こんなの本当は間違ってると思いますが…それでもあなたには俺の側にいてほしい。ただ…」

 

「…ただ? な、なに?////」

 

「俺には既に智鶴以外の眷属もいます。しかも全員が女性なんです。その人達のことも全力で守りたいと考えてます」

 

「……ぇ……えぇ…っ!?」

 

流石にそれを聞いてフェイトも顔をひきつらせた。

 

「最低ですよね。この話は拒否してくれてもいいんです。でも、さっき言った守りたいという気持ちは本心からくるものなんです。短期間ですが、フェイトさんには助けてもらったり、魔法を教わったりして…それだけでも大切な繋がりだと俺は思ってますから…」

 

それを見て忍もそう言わざるを得ず、最後に真摯な気持ちだけは伝えていた。

 

「………」

 

それを聞き、フェイトはというと…

 

「…そんな言い方、ズルいよ。忍君…」

 

「すみません…」

 

「謝るくらいなら…最初から言わないで…」

 

そう言いつつフェイトは僧侶の駒を受け取る。

 

「でも…うん。忍君の真っ直ぐな気持ちは伝わってきたから…私で良ければ力になるよ」

 

トクンッ…

 

その言葉と共に僧侶の駒がフェイトの中へと溶け込んでいった。

 

「ありがとうございます、フェイトさん」

 

それを聞いて…

 

「むっ…さん付けと敬語禁止」

 

ちょっとむくれた表情になるとそう告げていた。

 

「え…?」

 

「そのくらいいいでしょ?」

 

一瞬、何を言われたか理解できなかったが…

 

「……わかったよ、フェイト」

 

フェイトの意思を汲み取ってそう呼んでいた。

 

こうして時空管理局の執務官『フェイト・T・ハラオウン』を眷属に引き入れることに成功した忍であった。

 

………

……

 

フェイトを他の眷属達と引き合わせるため、2人は明幸家の屋敷へと足を運んでいた。

 

「ここが俺の居候先。一般的に極道って言われてるけど…まぁ、気にしないで…」

 

「ご、極道…?」

 

地球への滞在もそれなりに長いため、その単語は知っていたが…いざ実物を見るとなると色々と異なる…であろう、多分…。

 

「ただいま」

 

「「「お帰りなさい、坊ちゃん!!」」」

 

最近、このパターンが多いな…と思いつつ忍も慣れとは恐ろしいと実感していた。

 

「また、客人だけど…皆は来ちゃダメだからね?」

 

「「「へい、わかりあした!!」」」

 

最近、忍も堅気ではないにしろ、魔法世界やら冥界やらの関係に巻き込ませないため、組員にはそれなりに話しをつけていた。

もちろん、智鶴も同行してでの話なので、問題はない…はずである。

 

「すみません。驚きましたよね?」

 

居間へと続く縁側を歩きながら忍はフェイトにそう言っていた。

 

「う、うん…正直…」

 

当のフェイトはさっきの組員達の勢いに押され気味だった。

 

「お帰りなさい、しぃ君」

 

「ただいま、智鶴」

 

居間で待っていた智鶴が忍の帰りに気づく。

 

「お邪魔します…」

 

忍の後ろからフェイトも顔を出して一言挨拶をする。

 

「しぃ君。そちらの方が…?」

 

「あぁ、もう1人の僧侶。フェイトだよ」

 

「フェイト・T・ハラオウンです」

 

「明幸 智鶴です。しぃ君がここで駒の話をするならフェイトちゃんも何かしらあるのよね?」

 

互いに自己紹介をした後、智鶴は早速そんなことを聞いていた。

 

「えっと…私は、言ってもいいのかな?」

 

一応、忍に確認を取る。

 

「大丈夫。智鶴を含めてもこの家で俺達の事情を知ってるのは少数だから…まぁ、冥界とか各神話体系とかではどういう扱いになってるか少し心配な面もあるけど…この家では大丈夫。それに訳ありな人が多いから…」

 

「そうなんだ」

 

それを聞いて少し安心したのか…

 

「私は時空管理局の魔導師で執務官を務めています。デバイスはこのバルディッシュです」

 

そう言って待機状態のバルディッシュを見せる。

 

「デバイス。スコルピアちゃんやアクエリアス君と一緒なんだね」

 

そう言って智鶴は待機状態のスコルピアを取り出した。

 

「俺も、この夏休みにな」

 

忍もまた待機状態のアクエリアスをフェイトに見せた。

 

「エクセンシェダーデバイスが2機も…!?」

 

ロストロギアに指定されているデバイス群の内、2機も近場に揃っていれば管理局員なら誰でも驚くことだろう。

 

「エクセンシェダーは黄道12星座がモチーフになっている。それが今、2機も現れたとなると……何かの前兆なのかもな」

 

忍はそんなことを呟いていた。

 

「前兆?」

 

「何の?」

 

「いや、あくまでも予想であって断言は出来ないぞ?」

 

そんなことを言いつつ他の眷属(居候′s)との顔合わせをした後のこと。

 

「お、お邪魔、します…」

 

組員の方達にビクビクしながら萌莉がやって来た。

 

「いらっしゃい、萌莉ちゃん」

 

「ぁ、は、はい…」

 

居間に集まった忍眷属+吹雪、萌莉と召喚獣5体。

 

「答えは…出してくれたのか?」

 

早速、忍は萌莉にそう尋ねていた。

 

「わ、私…や、やっぱり…あ、争い事は…」

 

顔を伏せながら萌莉はそう答えた。

 

『きゅ…』

 

萌莉の膝に陣取っているファーストが心配な声を上げている。

 

「そうだな。結果的に君を戦いに巻き込むかもしれない…」

 

萌莉の言葉に忍もそう答える。

 

「でも、俺には君の力が必要なんだ。自分勝手なのは重々承知しているが、君の守りたいものを俺にも守らせてほしい」

 

そう言って忍は騎士の駒をテーブルの上に置くと、萌莉の方へと差し出していた。

 

「わ、私の…守りたい、もの…」

 

その視線はファースト達に向けられる。

 

「剣を持つことを恐れないでほしい。剣は持つ者の心によってその真価を如何様にも発揮できる。俺はそう感じているんだ。だから、萌莉も自信を持っていいんだ。守りたいために剣を握る。俺はそうするつもりだ」

 

真剣な眼差しで忍は己の内にある本心と共に萌莉に説いていた。

 

「で、でも…わ、私…あ、足手まといに…」

 

周りの人達を見て自分を過小評価していた。

 

「大丈夫、私はそんな風に思ったりしないから」

 

まずそう言ったのは智鶴だった。

 

「そうね。王の見込んだ人だもの。きっとそれなりに動けるわよ」

 

「あたしらがフォローすりゃいいんだろ? もうあいつで慣れっこだからな」

 

「ま、何とかなるわよ」

 

「自信を持ってください」

 

それに続くようにしてカーネリア、クリス、暗七、シアも萌莉に声を掛ける。

 

「えっと…初めましてだからなんて言っていいのかわからないけど…私も入ったばかりでよくわからないことだらけだから…よかったら一緒に頑張ろう?」

 

眷属になったばかりのフェイトもそう言っていた。

 

「…………」

 

唯一、吹雪だけは仏頂面のままだった。

 

「み、皆さん…」

 

顔を上げて智鶴達を見回す。

 

「1人で抱え込むことはないんだ。誰かに助けを求めたってそれは間違ったことじゃない。だから、俺達と共に歩こう」

 

そう言う忍だが…

 

「とか言う割には1人で何とかしようとする奴がいるけどな」

 

「うっ…」

 

クリスに皮肉を言われてしまい、言葉が続かなかった。

その光景に数人は笑っていた。

 

「……………」

 

萌莉の答えは…

 

スッ…

 

「こ、こんな…わ、私で…良ければ…な、仲間に、して…くださ、ぃ…」

 

騎士の駒を取り、そう答えていた。

 

「よろしくな、萌莉」

 

「は、はぃ…!」

 

トクンッ…

 

こうして萌莉も騎士として忍の眷属になったのだが…

 

「……………」

 

スッと吹雪が忍に向かって手を差し出していた。

 

「吹雪?」

 

「この中でたった1人、眷属でないのも面白くないのよ。だからあたしにも駒を寄越しなさいよ」

 

プイッと顔を背けながら吹雪はそう言う。

 

「いいのか?」

 

一応、そう尋ねる忍だが…

 

「はっ、何を今更…ここで生活してからアンタは信用できるって判断に落ち着いただけよ。それに人を守るばかりでアンタ自身を守る奴が少ないじゃない。だから、あたしがそれになってやろうっての。ありがたく思いなさいよね」

 

吹雪はそう言い返していた。

 

「………わかった。でも、あまり無理はさせないからな?」

 

少し考えてから忍は兵士の駒を吹雪へと渡しながらそう言っていた。

 

「平気よ。これでも雪女の里を守ってきたんだから…それに比べたらアンタを守ることなんて楽勝よ」

 

トクンッ…

 

そう言うと同時に兵士の駒が吹雪の中へと溶け込んでいた。

 

こうして、新たに僧侶、騎士、兵士が増えた紅神眷属。

着々と力を増していく忍だが、邪狼に届くのだろうか?

そして、残りの駒はどうなるのだろうか?

 

ちなみに…

 

「しぃ君は私が守るの!」

 

「はぁ!? 何言ってんだよ!?」

 

吹雪の発言に智鶴が反発してしばしの言い争いが続いたのだとか…。

大丈夫なのかな…?



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第三十話『それぞれの想いのために』

リアスとディオドラの対戦まで残り三日という時に事態は動いた。

 

『海鳴スカイタワー』

2、3年前に完成した巨大な電波塔であり、海鳴市の新たな名所となっている。

タワーの地上フロアには水族館やレストランなどの施設があり、上部には3階構造になっている第一展望台、最上部に第二展望台があるという構造をしている。

また、その裏では特異災害対策機動部二課が活動時に使用している映像や交信といった電波情報を統括制御する役割を持っている。

ルナアタック時にはカ・ディンギルの有力候補ではあったものの、それは二課本部の地下エレベーターシャフトであったから今でも機能している。

 

そこに響は親友の未来と共に出掛けていた。

戦いを続けることが死に繋がるという事実を、少しでもガングニールの侵食を抑制するために未来との穏やかな時間を過ごしていた。

 

同時刻、第一展望台の1階フロアにてマリアとナスターシャ教授が冥極政府のエージェントと極秘裏の会談を設けたものの、米国政府は最初から話し合うつもりなどなく、異端技術のデータを回収した後はマリアとナスターシャ教授を亡き者にしようとした。

だが、これはウェル博士の操るノイズによって阻止。

しかし、ノイズは止まらず、スカイタワーにいた人物を襲い始める。

 

第二展望台へと移動していた響は戦おうとするも、未来に止められてガングニール無しで出来る範囲での人助けをするのだった。

だが、そんな時…第二展望台の一部が崩れ落ち、響も崩れた場所から落ちそうになった。

それを未来が手を伸ばして助けようとしたが、重さに耐えられずにいた。

そして、響が自ら未来の手を放すと、落下しながらガングニールを身に纏い、地上へと着地して未来を助けようと第二展望台を見上げた瞬間…。

爆発が起きて未来の安否は不明となってしまった。

そこへノイズ出現の報を聞いた翼とクリスが駆けつけ、事態の収拾に当たった。

 

その一方で、マリアはナスターシャ教授を連れながら米国兵士と交戦していた。

逃げる民間人まで撃つ米国兵士への行いに憤りを感じたマリアはその手を血で汚してしまう。

逃げる途中、マリアは第二展望台に残っていた未来を助け、その身柄をフィーネで拘束していた。

 

………

……

 

リアスとディオドラのゲーム前日のこと。

海鳴スカイタワーでの一件から一日経った頃、未来に渡された通信機が発見されて未来の生存がアック人された。

それを知った響は必ず未来を助けると意気込み、体を動かすことになったのだった。

 

「で、なんで俺まで?」

 

「たまにはいいじゃねぇかよ」

 

その翌日の早朝から海沿いの道路を走る横一列に並んだ6人の人影があった。

 

向かって海側からコーチ役の弦十郎、響、クリス、翼…ゲーム前日ということで最終調整にやってきていたイッセーと、何故かクリスに無理やり引っ張られてきた忍であった。

 

「ていうか、クリス…」

 

「な、なんだよ…?」

 

「君、戦闘能力は高いはずなのに、運動神経は悪いの?」

 

グサッと刺さるようなことを忍は平然と言う。

 

「う、うるせぇよ! 戦いとこんな運動は全然別物だし!」

 

「いやいやいやいや…動く点では一緒なんだから…」

 

そんな反論も忍は軽く言い返す。

 

「お前ら人外と一緒にすんな!」

 

人外…忍は狼と雪女のハーフ(シャドウに変な血を混入された)、イッセーは転生悪魔で赤龍帝、弦十郎は人間だけど規格外の身体能力の持ち主、響は聖遺物との融合体、翼は…………防人…?

 

「私も立花も司令もれっきとした人間だぞ。雪音の鍛え方が足りないんだ」

 

「そうだよ! これからはクリスちゃんも一緒に鍛えようよ!」

 

「お断りだ!」

 

翼と響の申し出に断固と拒否しつつもしっかりと走ってる辺り義理堅いというか真面目というか…。

 

「なんだかな…」

 

走りながらそんなことを呟く忍。

 

「(それにしても結構な揺れだよな…特にクリスちゃんなんて…)」

 

その隣でイッセーはまた密かに視線を女性陣の胸へと向けていた。

 

バコッ!

 

「あだっ!? なにすんだ!?」

 

そこへ忍がファルゼンの峰打ちでイッセーの頭部を殴っていた。

 

「いや、なんかふしだらなこと考えてそうな顔だったからさ…つい」

 

「つい、じゃねぇだろ!? しかも危ねぇし!!?」

 

イッセーの言い分ももっともである。

 

「大丈夫、峰打ちだし。第一、平然と走ってるでしょ?」

 

しかし、忍も誰かに感化されてきたのか、そんなことを言う。

 

「この野郎!」

 

「この間の続きでもする気?」

 

バチバチと火花を散らす忍とイッセーを見て…

 

「若いってのは良いもんだ。特に切磋琢磨できる友人がいるんってのはな!」

 

弦十郎がそう言っていた。

 

 

 

そこからアクション映画でよくある鍛え方から普通のトレーニングを交えつつさらに走り込みを行う。

 

具体的な例としては以下の通りである。

 

 

その1、縄跳び。

 

「一誠さん、しばらく見ないうちに鍛えてました?」

 

「まぁ…夏休みの大半を山でドラゴンに追い回されたからね…」

 

遠い眼をしながら縄跳びをするイッセーに…

 

「ドラゴン! それって本物だったんですか!?」

 

興味津々な様子の響だった。

 

「アレは普通に死ねるって…」

 

「カッコよかったですか!?」

 

「そうだな。あの雄大な姿は感動を覚えたよ……死にそうになったけど…」

 

イッセーはタンニーンとの修行を思い出しながら響に話すイッセーだった。

 

「響くんも一誠くんもまだ余裕がありそうだな」

 

「それに比べて…」

 

弦十郎の言葉に翼はクリスと忍の方を見る。

 

「クリス。せめてテンポ良く跳ばないと足が引っ掛かるよ?」

 

「う、るせぇな! こっちはこれでも必死なんだよ!」

 

縄跳びしながら忍はクリスが転ばないように注意を払っていた。

 

 

その2、体勢維持。

 

「これは…結構キツイな」

 

全員、空気椅子をした状態をキープしつつ両腕を前に向かって思いっきり突き出し、人差し指を立てた姿勢を保っていた。

しかも頭、両腕、両太ももには水の入ったお猪口(ちょこ)を置いている。

 

「うぉぉぉ…動かない分、筋肉に来る…!!」

 

プルプルと体が震えている忍、イッセー、響でああったが、なんとか姿勢を保っていた。

 

「…………」

 

ただ、翼に関しては微動だにしなかった。

 

「スゲェ…微動だにしてねぇ…!?」

 

「彼女、歌手だよね?」

 

「その前に防人です」

 

忍とイッセーの言葉に翼はそう答えた。

てか、それが答えでいいのか?

 

「もっと腰に力を入れんか!」

 

竹刀片手に弦十郎は姿勢を保つのも厳しいクリスの指導をしていた。

 

「む、無理…こんなの出来るとか…マジ、あり得ねぇから!」

 

クリスの弱音に…

 

「じゃあ、俺らは何なのさ?」

 

忍はそんなツッコミを入れていた。

 

 

その3、腹筋(?)と、剣戟。

 

「いつの時代の腹筋だよ…?」

 

そうぼやくのは1人見学していたクリスだった。

 

鉄棒に足の甲を付けた状態でぶら下がり、下に置かれた水の入った桶からお猪口で水を汲み、背中側に設置された桶へと腹筋を使って入れるという一連の動作を行う。

これを行ったのは響とイッセーだった。

 

「しかも柔軟性も必要だから男には結構辛い…!!」

 

そう言いながらもイッセーは頑張って腹筋を行っていた。

 

その傍らで忍は翼と木刀で剣戟を打ち合っていた。

 

「「はぁ!!」」

 

カッ!カッ!ダンッ!

 

「なかなかの太刀筋だな、紅神」

 

「それはどうも」

 

「それでもまだ雑な部分がある。これから修正するべきだ」

 

「はい。気をつけます」

 

互いに刀を使う者同士、良い稽古相手になっているようだ。

 

 

その4、パンチング。

 

一体どこの精肉店の冷凍庫を借りたのか、まだ精肉前というか、解体前の吊るされた肉塊を殴っていた。

手を痛めないように手を包帯でグルグル巻きにしてだけど…。

 

「シュッ、シュシュッ!」

 

冷気に強い忍は難なくこれを熟していた。

 

「はっ!」

 

「ふっ…!」

 

「とりゃ!」

 

響、翼、イッセーも問題なく肉塊を殴っていたのだが…

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

何ともへっぴり腰な拳を肉塊に叩き付けるのが約一名いた。

 

「ほら、クリス。もっと脇を締めて…拳を叩き付けるんじゃなくて、腰で打つように…」

 

見兼ねた忍がクリスの後ろで軽く指導を行うが…

 

「あたしは遠距離専門なんだよ!」

 

「だが、懐に潜られたらどうするつもりだ? そういうのも想定しないとダメだぞ、クリスくん!」

 

クリスの文句に弦十郎がそう言う。

 

「この脳筋共がぁぁぁ~~~!!」

 

冷凍庫内だから良く響くことこの上なかった。

 

 

その5、生卵一気飲み(これ、修行か?)

 

ビールジョッキに生卵数個を割って入れて全員で飲むこととなった。

 

「うっ…」

 

口を付けた段階でもう吐きそうになり、ジョッキを落とすクリス。

 

「よっと」

 

それを素早い動きで回収する忍だった。

 

「生卵の一気飲みなんて初めてです」

 

そう言いつつも回収したジョッキをクリスに手渡す。

 

「タンパク質の補給っと…」

 

「ファイト、一発!」

 

「…ゴクッ」

 

そう言ったり無言だったりでイッセー、響、翼は飲み干していた。

 

「ほら、クリスも頑張って……最悪、無理にでも飲ませてやるから」

 

「だったら普通に飲んだ方がマシだ!」

 

忍の言葉にクリスも一気に飲み干す、が…

 

「~~~っ!!?」

 

顔を青くしていた。

 

 

まぁ、こんなことがありつつ全員がゴールの神社へと到着していた。

 

「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」

 

到着後、クリスはもうヘトヘトになっていた。

 

「うむ、良い汗を掻いた」

 

翼は達成感のある言葉を呟いているが…全然汗を掻いた様子のない。

 

「明日のゲームは絶対に勝つ! ディオドラの野郎をブッ飛ばして二度とアーシアに近寄らせるもんか!!」

 

「私は未来を助け出すぞぉぉ!!」

 

イッセーと響はそれぞれ胸の内を夕陽に向かって叫んでいた。

 

「忍くんは格闘技はやらないのか?」

 

一方で弦十郎は忍と話していた。

 

「格闘技、ですか?」

 

「あぁ。君は筋が良いし、何より飲み込みも早い。響くんや一誠くんとはまた違った良さを感じる。実にもったいないと思ってな」

 

そう言われて忍は少し考え込む。

 

「難しく考える必要はない。若いうちから様々なことを経験するのも一つの方法だ。それがいつか必ず君の糧となり、助けになるだろうしな」

 

「わかりました。考えておきます…」

 

「いつでも来て構わん。響くんや一誠くんと共にみっちりとしごいてやるからな」

 

「(格闘技…まぁ、手札が増えることは嬉しいが、果たして間に合うのか…?)」

 

忍は薄々と邪狼との再戦の日が近いことを予感していた。

 

そして、ディオドラとのゲームの日…更なる混沌が起きることとなる…。



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第三十一話『神殿と箱舟の前哨戦』

リアスとディオドラのゲーム当日。

 

ゲームのため、グレモリー眷属は冥界へと赴いていた。

ゲームが行われるバトルフィールドへと転送された一行だったが、そこに禍の団・旧魔王派が介入した。

ディオドラが旧魔王派と内通し、ゲームの乗っ取りを企てていた。

その混乱に乗じてディオドラ本人がアーシアを連れ去ってしまう。

さらに悪いことに旧魔王派の悪魔の団体がグレモリー眷属を包囲する。

しかし、そこに現れたの北欧の主神『オーディン』であった。

オーディンはアザゼルからの頼みで、グレモリー眷属に通信機を届けると同時に旧魔王派の悪魔達の相手を買って出た。

そして、グレモリー眷属はアーシアを救い出すためにディオドラの元へと向かうのであった。

 

 

一方、地球でもフィーネが行動を起こしていた。

米国に追われるフィーネは米国の戦艦に対して、ウェル博士はノイズを放って応戦。

しかし、ウェル博士のやり方に疑問を抱いた調はフィーネから離反、単身でノイズ殲滅へと乗り出す。

それを止めようと切歌もまた調を追い掛ける。

だが、切歌はウェル博士から渡されていた薬品『Anti_LiNKER』を調に投与し、ギアの適合係数を下げてしまった。

その現場に二課の仮設本部も到着し、クリスと翼が介入してクリスは調を、翼が切歌をそれぞれ牽制して膠着状態に陥る。

そこへウェル博士が投入した戦力は…なんとシンフォギア『神獣鏡(シェンショウジン)』を纏った未来であった。

 

 

こうして異なる次元で再び事件が重なった瞬間であった。

 

………

……

 

~地球・日本近海洋上~

 

「カッカッカ、面白いじゃねぇかよ! ドクター!!」

 

大型ヘリの後部ハッチから胡坐を掻いて座った邪狼が海上を見下げて高笑いをしていた。

 

「しっかし…この様子じゃ、こいつらの出番は無しか?」

 

そう言いながら邪狼は懐から三種類のエンブレムバッチを取り出して空に翳していた。

 

「いっそ暇潰しにあいつらでも殺すか?」

 

そう呟いて視線を未だ無事な米国の艦艇で戦いの様子を見ている軍人達へと向けていた。

 

「………よし、そうするか」

 

しばし考えた後、邪狼もまた艦艇へと向けて降下した。

 

すると…

 

「フレイムバイバー!」

 

「ハーケンセイバー!」

 

「黒影斬!」

 

ヘリから降下する邪狼に向けて火炎の魔力を帯びた連結刃、高速回転しながら飛翔する三日月状の魔力刃、黒い魔力斬撃が放たれていた。

 

「あぁ?」

 

邪狼はそれを避けることもなく、連結刃を素手で掴むと残りの魔力刃と魔力斬撃を蹴りによって軽々と破壊する。

 

「ったく、これから殺戮タイムだってのに、誰だ?」

 

連結刃を放り投げながら、連結刃が戻る先へと視線を向ける。

 

「こりゃとんだ大物ね。執務官殿も捨てたもんじゃないわね?」

 

「それってどういう意味でしょうか?」

 

「あいつの前で喧嘩してる場合じゃねぇだろ…」

 

そこにはフェイトの要請で特務隊から派遣された騎士こと朝陽、朝陽を呼び出して軽く愚痴を言われてしまったフェイト、そんな2人を宥めるものの邪狼に殺気を放つ忍の姿があった。

 

「はっ! こいつは驚いたぜ! テメェの方からのこのこやってくるたぁなぁ!!」

 

邪狼は邪狼で忍が出てきたことに嬉々としていた。

 

「最初から全開で行く!」

 

以前、敗北した時に得た教訓からネクサスを起動し、その上からアクエリアスを纏い、さらに右手にはファルゼンを持ち、銀狼と化していた。

つまり、最初から本気に近い力を出さないと瞬殺されてしまうということだ。

 

「忍君。私達も…」

 

「相手はあの特A級の重犯罪者。もっと人数が欲しいとこだけど…贅沢は言ってられないか…」

 

フェイトと朝陽もまたそれぞれのデバイスを構えて邪狼を見据える。

 

「カッカッカ、お嬢ちゃん達もやる気満々ってか。いいぜ、面白くなってきやがった!」

 

そう言うとさっき懐から出した三種のエンブレムバッチを見せ…

 

「ちょうどいい。こいつらとも遊んでくれや!」

 

空に放り投げると…

 

「出てこいや! ブラッド・イーグル、タイガー、ドラゴン!!」

 

そう叫ぶと同時に三つの球状の結晶体をエンブレムバッチへと投げ付けると…

 

カアアァァ!!

 

結晶体を吸収してエンブレムバッチが動物の姿へと形を変えていく。

 

『システムの起動を確認』

 

『マナドライブシステム、正常稼働』

 

『ドライバーオペレーションシステム、オールグリーン』

 

そして、現れたのは紺色の鷲、朱色のサーベルタイガー、赤色の西洋竜の3体であった。

 

「なんだ?!」

 

「デバイス?」

 

「見たことない機種…!?」

 

『アレは、もしや…!?』

 

現れた三機に対して忍達は驚き、アクエリアスが反応する。

 

「アクエリアス? 知ってるのか?」

 

『いえ、確証はありませんが…おそらくは我らエクセンシェダーデバイスのデータを基に作られたものかと…』

 

「そんな技術があるのか!?」

 

『いえ、我々エクセンシェダーは12機しか存在しません。我々を作り出した世界はすでに崩壊していますし、量産機の話も崩壊と共に白紙になり、我々も散り散りとなってしまいました。故に我々に似た機種の開発など…』

 

そんなアクエリアスの言葉に…

 

「ところがぎっちょん! それが実際にはこうしてあるんだよなぁ!!」

 

邪狼はそう言って三機のデバイスらしき機影を指差す。

 

「まさか、冥王派の新しい戦力とでもいうのか!?」

 

忍がそう聞くと…

 

「それが違うんだよなぁ。こいつらは冥王派とは別口でな」

 

ちっちっちっ、と指を左右に振る動作を行う。

 

「まぁ、んなことはどうでもいい。それよりもこの間よりはちっとは強くなったのか? 狼牙の(せがれ)よぉ!!」

 

そう言うや否や再び忍に肉薄する邪狼。

 

「ッ!!」

 

ジャキンッ!!

 

瞬時にファルゼンを盾にして邪狼の一撃を受け止める。

 

「はっ! そうこなくちゃなっ!!」

 

嬉しそうに叫ぶ邪狼の背後から剣と鎌が襲い掛かる。

 

「しゃらくせぇ!!」

 

ガキンッ!!

 

邪狼が防ぐまでもなく、西洋竜『ブラッド・ドラゴン』が背部に魔力障壁を張ってフェイトと朝陽の攻撃を防いでいた。

 

『イーグルデバスター』

 

『デュアルバスター』

 

攻撃を放った直後のフェイトと朝陽へとそれぞれ砲撃を仕掛ける鷲『ブラッド・イーグル』とサーベルタイガー『ブラッド・タイガー』。

 

「こいつは良いぜ。防御が楽なもんだな! "ドライバーデバイス"ってのもよ!」

 

そう言いながら爪を尖らせて忍へと切り裂きに掛かる。

 

「ドライバーデバイス…!?」

 

「デバイス自体を自律可動させるなんて…!」

 

「管理局も知らない技術…!」

 

忍は邪狼の攻撃を捌き、フェイトはイーグルの砲撃を避け、朝陽はタイガーと切り結びながらそれぞれ驚きの反応を示していた。

 

「まだまだ、お楽しみはこれからだぜ!!」

 

そんな反応を無視して邪狼は戦いという名の殺し合いを楽しもうとしていた。

 

………

……

 

~冥界・バトルフィールド内~

 

一方で、イッセー達が本来ゲームをするはずだったバトルフィールド内では…

 

「困りましたね」

 

「どこもかしこも戦闘ね。壊し甲斐があるわ」

 

「萌莉は留守番させて正解だったかも」

 

「そうですね」

 

「つか、悪魔が多過ぎ。どうなってんのよ、一体…」

 

スコルピアを纏った智鶴を筆頭にカーネリア、暗七、シア、吹雪もテロリスト鎮圧に駆り出されていた。

本当なら忍と共にリアスVSディオドラのゲームを観戦するはずだったのだが、地球側での一件で忍はフェイトとクリスと共にいち早く帰還してしまい、残った5人もまたテロの標的となってしまった。

この展開は前々から予想されていたことらしく、それを聞いた智鶴はアザゼル先生を問い詰めたものの事態収束のために智鶴達もまたアザゼルと共にバトルフィールド内に移動して鎮圧を手伝っていた。

 

「それにしても…このバトルフィールドは異様に広いですね」

 

「そうね。ゲームの一戦をするには広過ぎる気もするわね」

 

シアの疑問にカーネリアが頷く。

 

「そうなの?」

 

「まぁ、ゲーム内容にもよるでしょうけれど…ここはなんだか広過ぎだわ」

 

「私も資料を見ただけなので何とも…ですが、禍の団には一つの共通目的があります。もしかしたら、それを…」

 

智鶴の問いにカーネリアとシアがそう答えていると…

 

「ふんっ…随分と慣れ合っているようだな、シア」

 

シアにとって聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「兄さん!?」

 

森の方から既に冥王と化している紅牙が姿を現していた。

 

「………奴はいないのか?」

 

周囲を見回しながら忍の不在に気づく。

 

「兄さん! もうやめてください! 復讐を果たしても私達には何も残りません!」

 

「黙れ、裏切り者が! 貴様の戯言など聞く耳持たん!!」

 

「兄さん!」

 

「奴がいないなら貴様らに用はない! せいぜい足掻くがいい!!」

 

シアの言葉を聞かず、紅牙はそのまま何処かへ飛び去ってしまう。

 

「………」

 

「シアちゃん…」

 

下唇を噛み締めるシアを智鶴は優しく抱き寄せる。

 

「冥王派も動いてるのね。坊やに連絡したくてもこの状況じゃ無理か」

 

紅牙がいることから冥王派も今回の件に絡んでると読んだカーネリアは忍との通信手段がないことを呟いていた。

 

「ともかく、今この場は智鶴が仕切ってよね。この中ではあなたが眷属としての格が一番高いんだから」

 

「うん、わかってる」

 

暗七の言葉に智鶴も頷き…

 

「まずはリアスちゃん達の所へ向かいましょう。通信を聞いてる限り、神殿にいるみたいだから」

 

リアス達グレモリー眷属との合流を優先するらしい。

 

「つまり、神殿を空から探せってことね。まぁいいわ」

 

そう言うと、カーネリアがバサリと黒い翼を広げて空へと舞い上がる。

 

「あたしも行くわ」

 

カーネリアを追って吹雪もまた翼を広げて空へと飛び上がる。

 

「(しぃ君の方は、大丈夫かしら…?)」

 

地球に戻っている、最愛の人を心配に思っていた。

ほどなくしてカーネリアと吹雪が戻り、一際目立つ神殿へと向かうこととなった。

 

………

……

 

~地球・日本近海洋上~

 

「そらそらそらぁ!!」

 

「ちぃ!!」

 

海上スレスレを浮遊移動しながら忍と邪狼の戦いは続いていた。

しかし、理力の型の簡易予知によって邪狼の攻撃を回避しているものの、あまりの激しさに忍は防戦一方を強いられていた。

 

「ちょいさぁ!!」

 

「ぐっ!?」

 

気で強化した重い蹴りがファルゼンで防いでいたにも関わらず忍を吹き飛ばす。

 

ガンッ!!

 

「(理力の型で読んでもこれが限界とか…どんだけなんだよ!!)」

 

米国の艦艇の装甲へと背中からぶつかりながらそんなことを考え、目の前から迫る邪狼を見据える。

 

「まだまだ甘いんだよ!」

 

そう言って忍へと肉薄する邪狼。

 

「ちっ、だったらこれならどうだ! アクエリアス!」

 

『アクアフィールドシステム起動』

 

肉薄する邪狼を阻むように海水が盛り上がる。

 

「あぁ?!」

 

思わぬ邪魔に邪狼も苛立ちの声を上げる。

 

『マスター。制御をお願いします』

 

「わかってる!」

 

忍は海水の制御のため、一時的に棒立ちになると邪狼へと向かって海水をジェット噴射の如く撃ち出す。

 

これはアクエリアスのシステムの一つであり、本来ならコアドライブによって収集した魔力を水へと変換して水場を形成、それを操ることを目的としているが、水が豊富な海では魔力粒子を散布して馴染ませるだけで十分な効力を発揮する。

但し、これにはそれ相応の技量が必要にもなるのだが、忍は部分的に使用することで最小限の集中力で事足りるようにしていた。

 

「ちっ…!!」

 

それを鼻で感じ取った邪狼は即座に後退した。

 

「アレを避けんのかよ!?」

 

そう愚痴りながら忍は制御の手を緩めると、ファルゼンで邪狼に斬りかかっていた。

 

「狼影斬!」

 

「しゃらくせぇ!」

 

一太刀目を軽々と避ける邪狼だったが…

 

「まだだ! 激流波!」

 

一太刀目からほんの数秒後、海面から水柱が邪狼へと襲い掛かる。

 

「なにぃ!?」

 

流石の邪狼も突如発生した水柱をまともに受けてしまう。

 

これは叢雲流魔剣術、魔刀の型による二段攻撃である。

一太刀目を犠牲にすることで邪狼の回避先を予測、そこへアクアフィールドシステムによる水柱を発生させての攻撃を確実に命中させる。

 

「(よし! ダメージは微量だが、攻撃は通る!)」

 

忍は今の攻撃で確かな手応えを感じていた。

 

「くそったれが! こうなりゃこっちも奥の手だ!」

 

そう言って邪狼はフェイトと朝陽と戦っている三機のドライバーへと手を向けた時だった。

 

ピカアアアア!!!

 

まばゆい光が海上から発生していた。

 

「ちっ、これからだってのに間が悪ぃな」

 

その光の意味することが分かってるかのように呟くと…

 

「狼牙の倅! フロンティアだ!」

 

「なに…?」

 

「あの箱舟で待ってるぜ? 今度こそ楽しい殺し合いを演じようや!!」

 

そう言うや否や邪狼はドライバー三機と共に光の輝く方向へと向かってしまった。

 

「待て!」

 

忍も追おうとするが…

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!

 

光が収まると共に大気が揺れ、海底から一つの島並みの面積を持った箱舟が浮上し始めていた。

 

「忍君!」

 

「紅神、これって…?」

 

ドライバー三機の相手をしていたフェイトと朝陽も忍と合流しながらフロンティアの上昇を目の当たりにしていた。

 

「フロンティア…こんなもの、一体どうする気なんだ…!?」

 

忍達は一時的に二課の仮設本部へと向かうことにした。

 

そこでわかったことだが、クリスが翼を撃ってフィーネことF.I.S.へと寝返ったらしい。

しかし、それを聞いて違和感を持つ忍と、実際に撃たれながらも急所から逸れていたことに疑問を抱く翼。

また、未来もまた響の奇策によって救い出されており、精密検査やLiNKERの洗浄を行われて無事なことが確認されている。

調もまた二課の保護下に置かれており、二課へと助け求めていた。

 

 

そして、地球と冥界で起きた一連の事件は最終局面を迎えようとしていた。



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第三十二話『神殿と箱舟の決戦』

地球と冥界で起きた二つの事件。

 

冥界側では禍の団・旧魔王派と冥王派を相手にグレモリー眷属、アザゼルやサーゼクスなどの各勢力のトップ陣、それに加えてグレモリー眷属と合流しようと動いている紅神眷属の智鶴、カーネリア、暗七、シア、吹雪が戦っていた。

 

地球側では同じく禍の団・冥王派とF.I.S.によって『フロンティア』と呼ばれる箱舟が日本近海の海底から浮上し、それに対処するべく特異災害対策機動部二課が対処していた。

そこには合流した忍、フェイト、朝陽の姿もあり、こちらはどちらかと言えば、フロンティアに潜伏している邪狼を追うつもりである。

 

それぞれに課せられた決戦の幕が開かれる。

 

………

……

 

~地球・フロンティアの陸上~

 

「正に箱舟か」

 

フロンティア浮上に伴い、仮設本部も巻き込まれてフロンティアの一部に浮上してしまい、共に空へと上昇していた。

そんな中、翼が単身で出撃することとなり、ハッチからバイクで発進するところであった。

 

「では、先に行くぞ」

 

「はい。クリスのことは頼みます」

 

「あぁ、任されよう」

 

そう言って翼がバイクで出撃するのを見送った後…

 

「俺もバイクの免許でも取得しようかな」

 

忍は独り言を呟くようにそう漏らしていた。

 

「忍君がバイクか…」

 

フェイトは忍が跨るバイクの後ろに自分が座るのを想像する。

 

「ほぇ~…」

 

「なにが考えんだか…」

 

朝陽がドンとフェイトに肩をぶつけて意識を現実に戻す。

 

「しっかし、シンフォギアってのが少ないのがネックね。これじゃあ、ノイズと接触しても倒せないじゃない」

 

トントンとセイバーの峰の部分で自分の肩を叩きながら朝陽が愚痴を零す。

 

『その心配なら無用だ』

 

近くの端末に弦十郎からの通信が来る。

 

「どういうことです?」

 

『捕虜だったシンフォギア装者を一名、響くんの提案で出撃することになった。今、響くんが案内している』

 

そんな通信を聞いていると…

 

ブゥンッ!

 

忍達を横切るようにしてシュルシャガナを纏った調と、その背に"便乗して乗っている響"が駆けていき、ハッチから出撃してしまった。

 

「「「……………」」」

 

それを見送るようにして置いてけぼりにされた忍達は呆然としていた。

 

『? どうした?』

 

「確か…響ちゃんって、胸のガングニールが取り除かれてましたよね?」

 

出撃前に聞いたことを弦十郎に確認する。

 

『あぁ。だからそっちに着いたらさっさと戻るよう言って………はぁ!?』

 

すると、状況がブリッジ側でもわかったのか、弦十郎が驚きの声を上げていた。

 

「響ちゃん、あの子と一緒に行っちゃいましたよ?」

 

事実を再確認させるように忍は事後報告を行っていた。

 

『なんで止めなかった!?』

 

「いや、止める暇もなかったもんで…」

 

一応の言い訳を言った後…

 

『くっそ、子供ばかりに良い格好させるか! 俺と緒川もすぐに出る!』

 

弦十郎も出撃するらしい。

 

「じゃあ、俺達は俺達の戦いに行きますんで…ご武運を」

 

『そっちもな。あと、この件には君達も少なからず巻き込まれたんだ。こっちで手配できるようなものは手配してやる』

 

それを聞いた忍は…

 

「あ、じゃあ、この件が片付いたら普通自動二輪免許の取得を手伝ってくれます?」

 

ここぞとばかりに要求を口にした。

 

『無事に帰ったらな!』

 

それを最後に通信は途切れた。

 

「言ってみるもんだな…」

 

「え、アンタ、本気だったの?」

 

忍の要求に朝陽が目を丸くしていた。

 

「あぁ、わりと本気だぞ?」

 

「なんで疑問形なのよ!」

 

「ま、まぁまぁ…とにかく私達も行きましょう」

 

「だな」

 

邪狼ろの決着を着けるため、忍達もハッチから飛び出した。

 

………

……

 

~冥界・バトルフィールド内の神殿~

 

一方、冥界側ではイッセー達はディオドラの余興と称するゲームを進めていた。

ディオドラの眷属が門番的な役割を果たし、それをリアス達は手持ちの眷属だけで倒していくというシンプル且つ時間稼ぎの意味合いが強い内容であった。

 

先鋒は相手が戦車2と兵士8に対してグレモリー眷属はイッセー、ゼノヴィア、小猫、ギャスパー。

戦車2名はゼノヴィアの正拳コンビネーションによる一撃必殺で撃破。

兵士8名は全員が女王に昇格していたが、イッセーとギャスパーの連携によって動きを封じた後、小猫が確実に仕留めていた。

 

次鋒は相手が僧侶2と女王に対してグレモリー眷属はリアスと朱乃のみ。

この対戦の際、小猫の助言にてイッセーが朱乃にデートをすると約束し、それによって力が跳ね上がった朱乃とイッセーに焼きもちを妬いたリアスの口喧嘩に発展。

相手の女王が口を挟むと同時に瞬殺してしまった。

女ってのは怖い生き物だ…。

 

中堅は相手が騎士2…のはずだったが、しぶとく生き残っていたフリードが禍の団の人体実験の被験体となっており、人間を止めていたことが判明。

先にいたであろう騎士2名を捕食しており、ディオドラの趣味と本性を狂ったように笑いながら語った。

そんなフリードと相対したのは木場。

結果は木場の圧勝。

 

そして…残ったディオドラと、囚われたアーシアを神殿の最深部にて発見した。

アーシアの目元は赤く腫れていて、ディオドラから事の顛末を聞いたから泣いていたのだろうと察した。

その後も、ディオドラの鬼畜同然の言動に…

 

「ディオドラぁぁぁぁ!!!!」

 

イッセーの怒りも頂点に達していた。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

怒りに燃えるイッセーは禁手状態となってディオドラと一対一の勝負を仕掛けていた。

結論から言えば、赤龍帝の鎧を着たイッセーが無限の龍神『オーフィス』から与えられた『蛇』によって強化されたディオドラを圧倒していた。

 

ソーナ会長とのゲームでは特殊なルールと制限が設けられていたから力を引き出せないでいたが、今は違う。

実戦であり、イッセーを縛るモノは何もないのだから…その力を惜しみなく発揮出来る。

そこに弦十郎から学んだ中国拳法も加味すると、凄まじい攻撃力をディオドラへと叩きつけていた。

 

ディオドラの張る魔力障壁を易々と砕き、パワー全開とばかりに鉄拳を打ち付ける。

その結果、ディオドラの心は…龍、ドラゴンに恐怖を刻まれてしまった者の末路を辿り、戦意を完全に喪失させていた。

 

その後、アーシアを何とか助け出したイッセー達だったが、そこへ今回の首謀者の1人…旧ベルゼブブの血を引く悪魔『シャルバ・ベルゼブブ』が現れ、アーシアを光の柱の中へと消し去ってしまった。

シャルバはアーシアに続き、ディオドラも亡き者としてからリアスへとその標的を移していた。

だが、イッセーは未だアーシアの死を受け入れられず、現実逃避をしていた。

そこへ無慈悲な言葉を投げつけるシャルバ…。

 

そして、それら一連の出来事がトリガーとなり…

 

『我、目覚めるは…』

 

『覇の理を神より奪いし二天龍なり…』

 

『無限を嗤い、夢幻を憂う…』

 

『我、赤き龍の覇王と成りて…』

 

『汝を紅蓮の煉獄に沈めよう……』

 

イッセーの他にも赤龍帝の鎧に備わった宝玉から様々な声が発せられ、そのような呪文を詠唱し始めていた。

 

『Juggernaut Drive!!!!』

 

そして、禁手とは異なる音声を響かせ、血のように真っ赤に染まったオーラを全身から迸らせていた。

赤龍帝の鎧は鋭利で生物的なフォルムと化し、あmるで小さな小型ドラゴンのような姿となってシャルバを圧倒していた。

 

そのあまりにも凄まじい破壊力にリアス達は退避を余儀なくされていた。

 

「うおおぉぉぉぉぉん…」

 

戦闘が終了してもイッセーは『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』から解除されず、悲しみに満ちた雄叫びを上げながらも刻一刻と命を削っていた。

その頃になって智鶴達も合流したのだが…

 

「なによ、あれ!?」

 

「暴走?」

 

吹雪と暗七が最初に口を開いてイッセーの姿に驚く。

 

「これが…覇龍」

 

自分の体を抱き寄せるようにして身震いしたカーネリアは何故か恍惚とした表情を見せていた。

 

「あなた、どういう神経をしてるのかしら?」

 

それを見ていたリアスがカーネリアに食って掛かる。

 

「ふふっ、私…ああいう破壊衝動の塊がたまらなく好きなのよ…」

 

「はぁ?!」

 

思わぬ解答に聞いた本人も驚く。

 

「でも…アレはわりと好きな破壊衝動になるんだけど…どうにも雑念が多くてそこまで好きにはなれないわ。やっぱり、破壊衝動は純粋なものでないと、ねぇ?」

 

誰に言うでもなくカーネリアは独り言のように呟くが、その視線は智鶴へと投げつけられていた。

 

「……どういう意味ですか?」

 

「ふふっ、わかってるくせに…」

 

「っ!」

 

智鶴はすぐに忍の事だと思い至り、カーネリアに向けて殺気を飛ばす。

 

「あらあら…怖い怖い…」

 

そんな殺気などどこ吹く風のようにサラッと受け流す。

 

「そ、それよりも…一体何が起きたんですか?」

 

シアが状況を把握しようとリアスに声を掛けると…

 

「それは…」

 

何とも悲しそうな、それでいて悔しそうな表情を浮かべていた。

 

すると、そこへ何の因果かヴァーリが現れ、次元の狭間の調査をしている時にアーシアを拾っていた。

奇跡的に助かったアーシアだが、それをイッセーに伝える術がない。

そこへさらにイリナがやってきて、とある映像と歌を携えてきた。

内容に関しては割愛するが、なかなかに酷かったと言っておこう。

ただ、作詞(アザゼル)、作曲(サーゼクス)、振り付け(セラフォルー)は冥界の重鎮であることは言っておく。

しかし、それが結果的にイッセーの意識を取り戻す切っ掛けとなり、ヴァーリが力を半減させたところで、リアスの乳首を押させることで覇龍を解除させることに成功したのだった…。

 

流石は乳龍帝、おっぱいドラゴンと称されたイッセーである、と言っておくべきだろうか?

 

そこで彼らは物凄い存在と遭遇した。

幼女の姿をした『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』、オーフィス。

さらに『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』と呼ばれし『真なる赤龍神帝(アポカリプス・ドラゴン)』、グレートレッドが姿を現し、バトルフィールド内を横断していた。

そこでヴァーリは自らの夢、グレートレッドと戦い、自らが『真なる白龍神皇』となることをイッセーに語っていた。

 

だが、不思議なことに冥王派の動向は不明となっていた。

確かに紅牙の姿を智鶴達は見ており、冥王派もまた動いていたはずなのだが…ヴァーリやオーフィスが消えるのと同時に撤退したと考えられている。

 

一体彼らは何のためにバトルフィールドにいたのか…?

 

………

……

 

~地球・フロンティア~

 

冥界での事件が終わりを迎えていた頃。

フロンティアでも事態は大きく動いていた。

 

翼はクリスと衝突していたが、その真意を察した翼との連携によってウェル博士の隙を突き、ソロモンの杖の奪還に成功していた。

 

ウェル博士のやり方を否定する調と自分のいた証を残したいという切歌の戦いは、切歌が自分が次のフィーネの器だと思っていたことから擦れ違っていたのだが、それは勘違いで本当は調が次の器だったということが発覚し、自分に嫌気の差した切歌が自滅しようとしたところ、調がそれを助ける形で深手を負ってしまった。

しかし、フィーネの魂がイガリマの攻撃を一手に引き受けてくれたことから助かっていた。

 

そして、地球全土に向けての放送でマリアは自らガングニールを纏って歌を歌い、月で機能停止しているバラルの呪詛を再起動しようと試みるが、ウェル博士の邪魔でナスターシャ教授を遺跡の一角もろとも宇宙空間へと打ち上げられてしまった。

それに逆上したマリアがウェル博士を殺そうとしたが、調と共に出撃していた響によって阻止。

過去、奏にも言われた『生きることを諦めない』という言葉をマリアにも伝え、聖詠によってマリアのガングニールのコントロールを掌握して自らのギアとすること再び響は戦う力を手にした。

 

フロンティアと同化したネフィリムの心臓を止めるべく、響は翼とクリスと合流を果たす。

その一方で…

 

「僕は…僕は英雄になるんだ!」

 

フロンティアの動力部へと辿り着いたウェル博士は異形の腕となっている左腕でフロンティアを操作し、響達の前へフロンティアの一部をネフィリムと化して立ち塞がらせていた。

 

「英雄、ねぇ…そんなになりてぇもんかね?」

 

心臓部の警護を仰せつかっていた邪狼がクリスタルの上で寝転がりながらそんなことをウェル博士に聞く。

 

「当たり前じゃないですか! 人類を導く英雄に僕はなりたいんですよ!!」

 

そう強く言うウェル博士は邪狼とは別の意味で破綻しているのだろう。

 

「あっそ。俺には興味のねぇ話だが…いいのかい? なんかえらいことになってんぞ?」

 

そう言って響達の映る映像を指差していた。

 

「はぁ!?」

 

そこにはエクスドライブ状態となり、ネフィリムを打ち倒す響達の姿があった。

 

「そ、そんなバカな?!」

 

ウェル博士が膝から崩れ落ちるのを見届けると…

 

「(さてと…そろそろ仕事かね?)」

 

邪狼は起き上がって近づいてくる二つの気配に気づく。

 

「ウェル博士!」

 

そこへ弦十郎と緒川がやって来た。

 

「くっ…!!」

 

それを見て左腕を石で出来たコンソールに触れようとしたが…

 

バキュンッ!!

 

≪影縫い≫

 

緒川が拳銃の弾丸でウェル博士の影を撃ち抜き、その動きを止めた。

 

「なっ!?」

 

何とか動かそうとするもビクともしなかった。

 

「あなたの好きにはさせません!」

 

ウェル博士の動きが止まった瞬間…

 

「ありがとよ!!」

 

そう言って邪狼がネフィリムの心臓を動力炉から引き剥がし、頭上へと掲げる。

 

「「っ!?」」

 

「邪狼、なにをしてるんだ!!?」

 

邪狼の思わぬ行動に弦十郎と緒川は当然の事、ウェル博士も驚いていた。

 

「なぁに、テメェとは別口のクライアント様からこのフロンティアを奪い去ってほしいって頼まれててなぁ。邪魔だからこの心臓ってのはこうしてやんよ!!」

 

何処から取り出したのか、大量のビー玉状の結晶をネフィリムの心臓へと与えた後…

 

「そら! お嬢ちゃん達はこいつと遊んでな!!!」

 

転移魔法によって心臓を響達よりもさらに上、成層圏近くへと転移させていた。

転移されたネフィリムの心臓は真っ赤に輝くエネルギー体へと変質していった。

 

「そこの英雄(笑)さんは煮るなり焼くなり好きにしな!! ハッハッハッハッハッ!!!」

 

高らかに笑う邪狼を尻目にフロンティアはエネルギーの核を失ったことで徐々にだが重力によって落下し始めていた。

 

「くっ…なんてことを!」

 

「このままフロンティアが落下したら…」

 

「月の落下よりは多少マシだが…天災レベルの被害が出るぞ!」

 

そう言って弦十郎が邪狼へと突貫しようと足に力を込める。

 

「それがどうした? 殺戮パーティーとしゃれ込もうや!!!」

 

狂気と殺意に満ちた目を向けて迎え撃とうとした時…

 

「邪狼!!」

 

迷路みたいな遺跡の中をやっとのことで抜け出した忍達が動力炉へ到着した。

 

「遅かったじゃねぇか! 狼牙の倅!!」

 

それを見て邪狼は標的を瞬時に忍へと変えた。

 

「やっと着いたと思ったら、一体どうなってんのよ!」

 

「何故、司令さん達の方が早く?」

 

邪狼の視線が忍へと向いたところでフェイトと朝陽がウェル博士を拘束している緒川の元へ行く。

 

「僕達はウェル博士を追ってここまで来ましたから…それよりもそっちは…」

 

「迷路のように入り組んでて到着が遅れました。すみません…」

 

「(なんだか、翼さんと話してる気分ですね…)」

 

そんな思いに駆られていると…

 

「ともかく、あいつは俺達が! 風鳴さん達は脱出を!」

 

「だが、フロンティアは落下中。響くん達もネフィリムとやらと戦っている。気をつけろよ」

 

「わかってます。だから早く…!」

 

そう言って忍は邪狼へと仕掛けようと飛び出す。

 

「イーグル、タイガー、ドラゴン!!」

 

それを見た瞬間、起動形態のまま待機させていた三機のデバイスで忍を不意打ちする。

 

「くっ…!!?」

 

それを銀狼のスピードで何とか回避すると…

 

「これがここでの最終局面だ! だから、見せてやるよ! 俺の、いや、こいつらのとっておきをよ!!」

 

そう叫んだ後…

 

「コード! 『三獣合体』!!」

 

キーワードを口にすると…

 

『コード認証』

 

『これよりドライバー形態よりアーマー形態へと移行する』

 

『合体シークエンス、開始』

 

イーグル、タイガー、ドラゴンの三機がバラバラに分解すると、それぞれの胴体部がイーグルは胸部と背部、タイガーは右半身、ドラゴンは左半身といった具合に邪狼の全身へと鎧状になって装着されていき、その鎧の上に多数の装備や武装を備えた存在となる。

 

「『トリニティ・ブラッド』ッ!!」

 

背中の機械翼を広げながら高らかに宣言する。

 

「なっ!?」

 

『あれは…まるで我が同胞達が持つチェンジングドライバーシステムじゃないですか!』

 

その光景に忍とアクエリアスが驚いていた。

 

「だからなんだってのよ!」

 

「邪狼。数々の次元犯罪への関与や裏で無用な戦争継続をしてきた容疑であなたを拘束します!」

 

そう言って朝陽とフェイトが各々デバイスを構えて邪狼へと肉薄する。

 

「待て、2人共! まだ、あのデバイスについての情報が少な過ぎ…」

 

そんな2人を追うようにして止めようとするが、数秒遅かった。

 

ジャキンッ!

 

そのたった数秒で、邪狼は左腕のシールド装備『ブラッドシールド』から二又の刀身が特徴的な剣『ブラッドブレード』を引き抜くと、それを即座に左手に持ち替えてから右腕に装着されて鉤爪状の装備『サーベルバグナウ』を展開していた。

 

「ハッ! 遅いんだよ!!」

 

そして、その僅かな時間で左手に持つブラッドブレードで朝陽のセイバー、右腕のサーベルバグナウでフェイトのハーケンフォームとなっているバルディッシュを簡単に受け止めていた。

 

「まず二匹!」

 

そう言って邪狼が次の動きをしようとした時…

 

「させるかぁ!!」

 

忍が邪狼へと突撃しながら…

 

ドガンッ!!

 

邪狼を盾代わりにしてフロンティアの岩盤をぶち抜いてゆく。

 

「忍君!?」

 

「待ちなさいよ!!」

 

その後を追うようにしてフェイトと朝陽も忍が開けた穴から外へと出る。

 

「こっちも引き上げだ!」

 

「はい!」

 

弦十郎と緒川もウェル博士を連れてその場から退避していた。

 

 

 

 

誰もいなくなった動力炉に黒と蒼の混ざった様な転移陣が展開され…

 

「ふふふ…」

 

その中から1人の黒いローブで全身を隠すように纏った人物が不敵な笑い方をしながら現れる。

 

「ご苦労様です。邪狼さん」

 

そう言ってローブの袖部分から黒い焔を内包したソフトボール大くらいの蒼い宝玉を取り出す。

 

「さぁ、我が手中に入りなさい。フロンティア」

 

ネフィリムの心臓があった個所に蒼い宝玉を押し込むようにして嵌め込む。

 

「侵食しなさい」

 

その言葉をトリガーにして黒い焔が動力炉へと流れ込み、動力炉に蒼と黒の光が満ちていく。

 

「ふふふ…まずは第一段階成功。次は…」

 

黒ローブは動力炉が正常に稼働するのを確認した後、ブリッジへと向かっていた。

 

果たして、この人物の目的とは…?

 

………

……

 

~地球・高高度上空~

 

ドガンッ!!

 

フロンティアの岩盤を抜けたところで…

 

「いい気になるなよ、小僧!!」

 

ドガッ!!

 

邪狼は体当たりする忍の体を蹴り上げる。

その際、膝から足首にある刃状の装備『ブラッドキックブレイド』が魔力を帯びており、その攻撃力を増していた。

 

「ぐっ?!」

 

蹴り上げられた忍はすぐさま体勢を立て直すと、邪狼と対峙する。

 

「忍君……!?」

 

「っ!? なによ、この異様な魔力反応は!?」

 

忍を追って出てきたフェイトと朝陽は上から感じる異様な魔力を察知していた。

 

『ギュオオオオオオオッ!!』

 

上空を見れば、赤いエネルギー体と化したネフィリムが吠えていた。

 

「アレが…ネフィリム!?」

 

「あんなの、どう対処すんのよ!?」

 

2人の当然の反応の中…

 

「バビロニア! フルオープンだ!!」

 

膨大な魔力の塊と化したネフィリムと対峙していた装者達の1人、クリスがソロモンの杖をエクスドライブの出力で機能拡張してノイズ達が存在する異次元空間『バビロニアの宝物庫』への扉を開いていた。

 

「おいおい、せっかくの花火をそんなとこにしまう気か? んな退屈なことさせっかよ!」

 

『ブラッド・ハウリング』

 

それを瞬時に理解した邪狼がクリスに向けて胸の鷲『イーグルデバスター』から砲撃を放っていた。

 

ギィィィンッ!!

 

「お前の相手は俺達だ!!」

 

クリスを守るべく魔力シールドを展開して邪狼の砲撃を防ぐ忍。

 

「邪魔すんなや!!」

 

すると今度は両肩に装備していたサーベルタイガーとドラゴンの頭部『タイガーヘッダー』と『ドラゴンヘッダー』が分離してそれぞれ邪魔をしようと動き出す。

 

「なんでもありか!?」

 

忍が砲撃の防御に専念していると…

 

「させません!」

 

「邪魔すんな!」

 

フェイトがドラゴンヘッダー、朝陽がタイガーヘッダーの頭部をそれぞれのデバイスで受け止めていた。

 

そうこうしてる間に響達はネフィリムと共にバビロニアの宝物庫へと消えてしまっていた。

また、宇宙空間に施設の一角ごとうちわげられたナスターシャ教授の行動により、月の遺跡とバラルの呪詛は再起動。

月は公転軌道へと戻り、落下は回避されたのだった。

 

それと時を同じくして残ったフロンティアでも異変が起きていた。

フロンティアの大地は黒く染まり、不自然なほど蒼く染まった草木が生えていき、遺跡の各所には黒き焔が灯っている。

そんな異常な事態であった。

 

異変に際して二課の仮設本部はミサイルを周辺の岩盤に打ち込み、崩れた個所から落下。

船体とブリッジを切り離してパラシュートでの脱出に成功していた。

 

 

 

「なんだ?! あれがフロンティアなのか!?」

 

「ハッハッハッ! どうやら俺の仕事も一段落ってとこか!」

 

「どういう意味だ!」

 

忍は砲撃の軌道を無理矢理変えると、邪狼へと向かって飛び出す。

 

「俺には冥王派以外にもクライアントがいるってことだよ!!」

 

そう言って左手に持ったブラッドブレードで忍のファルゼンと斬り結ぶ。

 

「そのクライアントってのは誰の事だ!!?」

 

「傭兵にも守秘義務があんだよ!」

 

そう叫ぶと同時にふくらはぎに装備された加速ユニット『ブラッドブースター』で加速させたブラッドキックブレイドを再び忍に見舞う。

 

「くっ!?」

 

アクエリアスの防御力があるとはいえ、ダメージは鎧越しに伝わるほどの威力を持っていた。

 

「おらおら、隙だらけだぜ!!」

 

「っ!?」

 

忍が怯んだところへすかさずサーベルバグナウによる一撃が迫っていた。

それを防ぐべく忍が魔力バリアを展開しながら後退しようとするのだが…

 

「甘ぇんだよ!!」

 

邪狼の繰り出すサーベルバグナウは忍の魔力バリアを易々と引き裂き…

 

「っ!!?」

 

それを見て顔を左へと少し移動させたが、僅かに邪狼の方が早く…

 

ズシャッ!!

 

嫌な音と共に…

 

「がああぁぁぁぁ!?!?」

 

忍の絶叫が木霊する。

 

「忍君!?」

 

「紅神!?」

 

その絶叫を聞き、フェイトと朝陽は忍の方を見る。

 

「がっ…ぐぁ…」

 

見れば、忍は左手で右目の部分を強く押さえ付けていた。

そして、その手の下からは顔を伝って大量の血が流れているのが見える。

 

「その右目、貰ったぜ?」

 

そう言うと、邪狼はサーベルバグナウに付着した忍の血を舐め取る。

 

「ペッ…やっぱ同族の血は美味いもんじゃねぇな…」

 

が、すぐさまそれを吐き出すと悪態を吐く。

 

「っ!!」

 

それを聞いたフェイトはバリアジャケットをソニックフォームへと変化させると、ドラゴンヘッダーを無視して一気に邪狼に詰め寄ると、ハーケンフォームのバルディッシュを振るう。

 

だが…

 

ガキンッ!!

 

「わかりやすいんだよ!」

 

それすらも見越したような動きで邪狼はフェイトの攻撃をブラッドブレードで防ぐ。

 

「くっ!?」

 

『ディフェンサープラス』

 

当然、攻撃が来ると思ってバルディッシュも魔力バリアを展開するが…

 

「無駄なんだよ!!」

 

ガッ!!

バリンッ!!

 

邪狼の蹴りはフェイトの防御を完全に砕きながらフェイトの脇腹を蹴り抜く。

 

「かはっ!?」

 

バリアジャケットの装甲が薄いことが災いして受けるダメージも大きくなる。

 

「テメェの肉でも食ってやるか?」

 

そう言って蹴り飛ばしたフェイトを見ながら邪狼の瞳孔が縦となって鋭くなる。

 

「執務官! どいつもこいつも…!!」

 

タイガーヘッダーを足場に利用して朝陽も邪狼へ向かって飛び出す。

 

「今度はテメェの番だ!」

 

ブラッドブレードをブラッドシールドへと収納すると、両肩上部の砲台『デュアルバスター』から魔力弾を連射して朝陽を牽制する。

 

「このくらいでぇ!!」

 

カシュッ!

 

『バイパーフォーム』

 

魔力弾を連結刃で迎撃、弾きながら肉薄する。

 

「(この距離なら…あたしの方が早い!!)」

 

連結刃から再び剣へと戻すと、邪狼の首を狙う。

 

しかし…

 

ガギンッ!

 

朝陽の剣は右腕のサーベルバグナウによって防がれており…

 

「ちょいさぁ!!」

 

「っ!!」

 

ズサァ!!

 

左手を覆うように装備された武装『ブラッドクロー』から魔力爪が形成されると、朝陽のバリアジャケットを引き裂く。

しかし、天性の勘からすぐさま飛び退いたため、大事には至らなかったものの…バリアジャケットの前の部分(特に胸からへその辺りまで)を引き裂かれてしまい、左腕で胸を隠すような態勢になってしまった。

 

「結構良いもん持ってんじゃねぇか」

 

「ふざけんな!」

 

邪狼の言葉に激怒した朝陽がセイバーをバイパーフォームにして邪狼に攻撃を仕掛ける。

 

「はっ! そんな腑抜けた攻撃、当たるかよ!!」

 

しかし、邪狼はそれを簡単に回避していた。

 

「女子供の肉は柔らかくて美味いんだよな」

 

そう言う邪狼の眼は完全に血に飢えた野獣のそれであった。

 

「っ!?」

 

朝陽は薄ら寒いモノを感じてしまい、後退(あとずさ)ってしまう。

 

「逃げるなら逃げな。狼は獲物を追い詰めるのが大好きだからな!!」

 

そんなことを言って嘲笑する邪狼。

 

「騎士が…」

 

それを聞いて…

 

「騎士が逃げるわけないでしょ!!」

 

朝陽の中の騎士としてのプライドが後退るのを止める。

 

「気の強い女は嫌いじゃないぜ? だが、それも俺の前じゃ意味ねぇけどなッ!!!」

 

そう言うと朝陽の命を奪うべく、邪狼がブラッドブレードを引き抜きながら加速する。

 

『朝陽ちゃん!?』

 

「くっ…!!?」

 

反射的に朝陽が眼を背けた時…

 

ギィィンッ!!!

 

何かが邪狼の斬撃を阻むような金属音が響く。

 

「ぇ…?」

 

朝陽が驚いたように視線を戻すと、そこには…

 

「ぐぅぅぅっ!!」

 

邪狼のブラッドブレードと鍔迫り合いを演じるため、ファルゼンを両手で握り締めた忍の姿があった。

その顔…正確には右目を一筋の傷痕があり、そこから未だに血が頬を伝って流れている。

 

「あ、アンタ…どうして…?」

 

朝陽が驚いていると…

 

「俺は…目の前で救える命があるなら、それを全力で守ると誓ってるんだ…だから、俺はお前も守り抜く…!!」

 

忍は朝陽の疑問に答えるようにしながら自分でも改めてその誓いを思い出して自らを奮い立たせていた。

 

「はっ! 御大層な理想だが、右目の使えねぇテメェに一体何が出来んだよ!!!」

 

そう言って邪狼は忍の見えない右目側からのブラッドクローでの攻撃を仕掛ける。

 

「(焦るな…落ち着け…匂いを頼り、理力の型を応用すれば…)」

 

血が抜けて幾分か頭がクリアになったのか、そんな思考を巡らせながら…

 

スゥッ……ガッ!

 

「なにっ?!」

 

忍は鍔迫り合いから力を抜き、柄の部分を軽く右側に向けると、柄頭で邪狼の手首に当ててその軌道を逸らしていた。

その動きに流石の邪狼も驚いていた。

 

「(よし!)」

 

さらに素早く回転した力を利用し、肘打ちを邪狼の剥き出しになっている顎に喰らわせる。

 

「がっ!!?」

 

流石の邪狼も今の一撃で怯んで後退する。

その際、口から血を流しているのが見えた。

 

「クソが! 調子に乗んなやぁ!!」

 

ドンッ!!

 

邪狼が闇黒色の霊力を纏うと一気にその力が膨れ上がり…

 

「これが俺の奥の手だ!!」

 

そう言うと、邪狼の頭から忍と同じく狼の耳が生えていた。

だが、その毛並みは黒かったに違いないようだが、幾多の戦場で浴びた血によってどす黒く染まったものとなっている。

 

「何年振りだろうな…俺、本来の力を解放したのはよッ!!」

 

そう叫ぶと共に邪狼の霊力を左手に収束させていく。

 

「ファルゼン! モード・斬艦刀!!」

 

バックル部からメモリー型端末『ヴェルメモリー』を引き抜き、ファルゼンの柄に装填すると超巨大剣へと変形させる。

 

「そんなでけぇ剣で何が出来るってんだよッ!!」

 

そう言うと、収束した霊力を砲撃状にして放出する。

 

ドガァァッ!!

 

忍はそれを斬艦刀を盾代わりにして霊力を防ぐ。

 

「フェイト! 朝陽を連れて離脱しろ!」

 

その間に忍はダメージから回復したばかりのフェイトに指示を出す。

 

「は、はい!?」

 

フェイトがソニックフォームのまま朝陽の側までやってくる。

 

「アンタはどうすんのよ!?」

 

「俺は…残ってあいつの相手をする」

 

未だ邪狼の砲撃を防御しながら忍はそう答える。

 

「そんな! 忍君1人じゃ…」

 

「無謀もいいとこじゃないの!」

 

それを聞いたフェイトと朝陽は反対するも…

 

「俺がやらないとならない理由がある。だから、頼むから退いててくれ」

 

そう言って振り向いた忍の右目は閉じられているが、そこからは未だ血の流れが続いている状態であった。

しかし、その表情は2人を心配しないように少し穏やかなものであった。

 

「そんな目で何が出来るってのよ!」

 

「そうだよ! 邪狼は1人で太刀打ち出来るような犯罪者じゃ…!」

 

しかし、2人の言葉は厳しいものだった。

 

「そんなの百も承知だ。だが、俺がやらないとならなんだ…!」

 

そう言うと、忍は防御したまま前進し始める。

 

「忍君!?」

 

「紅神!!」

 

2人の言葉を無視して忍は邪狼へと突貫する。

 

「上等だ、ゴラァ!!」

 

忍が近寄ってきた瞬間…

 

ガギュッ!!

 

「がっ!?」

 

忍の両腕にタイガーヘッダーとドラゴンヘッダーが噛み付いていた。

 

『接近に気付けなかった? いや、そんなはずが…』

 

アクエリアスが困惑の声を上げる。

 

「ドラゴンの方にはジャミング機能があんだよ!!」

 

ガンッ!!

 

そう言って邪狼が怯んだ忍が持つファルゼンを左足で蹴り上げると…

 

「オラァ!!」

 

そのままの勢いを利用して踵落としを繰り出そうとする。

 

「ちぃっ!!」

 

ちょうど死角気味になる位置に邪狼の足が上がったため、すぐに後退する。

 

「反応はなかなか良いみたいだが…!!」

 

踵落としの威力を殺さず、前転宙返りでの回転を加えた上で、さらに踵落としを繰り出す。

 

メリッ!!

 

「ぐぁっ!!?」

 

忍の右肩に直撃すると共に嫌な音が響く。

 

「これで右腕も使い物にならねぇぞ!!」

 

邪狼が忍から即座に離れようとすると、力の入らない右手からファルゼンが落ちそうになる。

 

「こなくそっ!!」

 

ファルゼンを足で弾くと左手に持ち直して横一閃。

 

ザシュッ!!

 

その一閃は退き際の邪狼の剥き出しになっている右側の二の腕を切り裂いた。

 

「はっ! そうこなくちゃな!!」

 

それを受けても邪狼は顔色変えず…むしろ嬉々として戦いを楽しんでいた。

 

「戦闘狂め…!」

 

「テメェにもその戦闘狂と同じ血が流れてんだよ!!」

 

忍の言葉に邪狼はそう言い放つ。

 

「俺はお前とは違う!!」

 

「そいつはどうだかな!!」

 

そう言って二の腕から流れてきた自分の血を舐めながら邪狼はブラッドブレードを構え直す。

 

「元を辿ればテメェは俺の甥に当たるんだよ! そんな奴が戦いを楽しまねぇはずがねぇだろうが!!」

 

「テメェ…ッ!!」

 

邪狼の言葉に忍が逆上した時だった…。

 

ドクンッ!!

 

忍の方から鼓動が脈動する音がその場に響き渡る。

 

「ガァ…ッ!!?!?」

 

その鼓動と共に忍が苦しみ始めると…

 

ボコボコ…!!

 

忍の背中が何かを生み出さんが如く隆起し始める。

 

「ぐぁ…がっ……!!!!!!」

 

そして、次の瞬間…

 

カッ!!

 

銀髪がさらに鮮やかな光沢を帯びると共に、瞳の色が血のように鮮やかな真紅へと澄み始めると瞳孔が鋭く縦へと変化していき…

 

ゴオオオオオッ!!!

 

大量の妖力が忍を中心にして放出される。

 

「ウオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

忍が絶叫を上げると、狼の耳と尻尾が消失すると共に隆起していた物体がバサリと開いた。

 

それは色深き紅…深紅に染まりし、1対2枚の巨大な蝙蝠の羽…。

その八重歯は鋭く尖り、キラリと光る。

 

その姿はまるで…

 

「ドラキュラ伯爵?」

 

「吸血鬼…?」

 

突然湧き出した忍の妖力の波動をディフェンサープラスで防ぎながらフェイトと朝陽がそれぞれ呟く。

 

「なんだぁ? まだ、そんな隠し玉があったのか?」

 

心地良さ気に忍の妖力を受け止めながら邪狼は不敵な笑みを浮かべる。

 

「まだまだ楽しめそうだ……」

 

ズシャッ!!

 

邪狼が言い終わる前に斬艦刀となっているファルゼンを力任せに振るい、邪狼の右肩を容易に切断した。

 

ブシャアアアアッ!!!

 

切断された右肩から勢いよく血飛沫が噴き出す。

 

「ぐがあああああ…ッ!!?」

 

それは初めて耳にする邪狼の苦痛に満ちた絶叫であった。

 

「小僧! テメェェェッ!!」

 

怒りと狂気に満ちた殺気を忍に向けながら、斬り落とされた右腕をタイガーヘッダーによって回収すると…

 

「霊接脈ッ!!」

 

闇黒色の霊力を繊維状にして切断された右腕を右肩に接続した。

 

「ちっ…完全に斬られてやがる。馴染むまで右腕はまともに動かせねぇな…」

 

そう言いながらもしっかりと手をグッパーグッパーとして右腕の感触を確認していた。

 

「なんて奴よ!?」

 

「自分の腕を…自力で…?!」

 

邪狼の行動に眼を白黒させる朝陽とフェイト。

 

「霊接脈を使うなんて…久々だぜ! よくもやってくれたなぁッ!!」

 

そう叫ぶと邪狼は忍へと一気に詰め寄り…

 

「次はその左腕を貰うぜ!!」

 

斬艦刀の間合いを把握した上での超至近距離からブラッドブレードでの斬撃を見舞おうとしていた。

 

だが…

 

グギュゴキュ…!!

 

妙な怪音の後…

 

ガシッ!!

 

なんと、忍は動かないはずの右手でブラッドブレードの斬撃を素手で受け止めていた。

 

「ッ!? テメェ、まさか…俺の使った霊接脈を…!!」

 

忍の右腕に流れる妖力を察知し、邪狼はさっき見せた霊接脈の応用だと瞬時に理解した。

 

「------ッ!!!!」

 

声にならない声を上げ、忍はファルゼンを上に放り投げると左拳に妖力を纏わせていた。

 

「(こりゃ、ヤベェ…)」

 

そして、それを見た邪狼はブラッドブレードから手を離すと、後退して距離を稼ごうとしたのだが…

 

「ッ!!!!」

 

ブンッ!!

 

尋常でない反応速度でブラッドブレードを邪狼に向けて投擲すると…

 

ガキッ!!

ザシュッ!!

 

「がぁっ?!」

 

皮肉にもブラッドブレードに胸を貫かれ…

 

ブゥンッ…!

 

後方に現れたベルカの魔法陣に(はりつけ)状態にされる。

 

「こ、こんなとこで俺がぁ…!!」

 

ブラッドブレードを引き抜こうにも刀身に付着していた忍の血がベルカの魔法陣全体に広がり、邪狼の四肢を拘束していった。

 

「------」

 

それを見届けると…

 

ガシッ!

ツーッ…

 

放り投げてから落下してきたファルゼンを右手でキャッチし、その刀身の刃で左手に傷をつけながら妖力と霊力を混ぜ込んだ自らの血を馴染ませる。

不思議なことに刀身から手を離した途端、左手の傷は瞬時に塞がってしまった。

 

「ウオオオオオオッ!!!」

 

そして、獣の雄叫びのような咆哮を上げながらファルゼンを肩に担いで邪狼へと一直線に向かうと…

 

ボアアアアッ!!

 

閃ッ!!!

 

ファルゼンを引き抜くようにして袈裟斬りを邪狼に放つ。

その刀身には自然と紅蓮の焔も加味されていた。

 

ズシャアアアァァァァッ!!!

 

「こ、この俺が…ば、バカなぁぁぁ!!?!?!?」

 

邪狼の絶叫と共に体が袈裟型に切断されて上下に分かれて紅蓮の焔で炎上しながら落下していく。

 

「ぐ…ぁ…」

 

それと同時に忍の意識も刈り取られる様にして落下していく。

また、2人の落下する先にはフロンティアがあった。

 

「忍君ッ!!」

 

それを助けようとフェイトが動き出そうとした時だった…。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

変貌したフロンティアを中心にして大気が震動し始めていた。

 

「これは…まさか、大規模な次元転移!?」

 

朝陽がそれに気づくと、フェイトの腕を掴む。

 

「放して! 忍君を助けないと!」

 

「バカ! このままじゃ、アンタまで転移に巻き込まれんでしょうが!」

 

「でも…!」

 

朝陽に抗議しようとしたフェイトだが…

 

「…邪狼はあいつが命懸けで倒したのよ。あたし達は上にそれを報告すんの。それが局員…特に執務官であるアンタの仕事でしょ?」

 

「そ、それは…!」

 

朝陽の正論に何も言い返せないでいた。

 

そう言い合ってる間にもフロンティアの次元転移は進んでいき…

 

ギュインッ!!!

 

物凄い音を立てて、フロンティアはその場から消え去り…

 

「バルディッシュ…忍君は…?」

 

『……魔力反応…確認できず…』

 

フェイトの確認にバルディッシュも少し躊躇ったようだが、非情な報告をする。

 

忍と邪狼もまたの次元転移に巻き込まれて消息を絶ってしまったのだった…。

 

「うっ…くっ…」

 

その報告にフェイトは静かに涙を流して泣いていた。

 

「……………」

 

そんなフェイトの様子を見ながら朝陽も苦虫を潰したような苦々しい表情をしていた。

 

こうしてフロンティアを巡る戦いは一応の終止符を打った。

 

バビロニアの宝物庫でネフィリムと戦っていたシンフォギア装者達も無事、地球に帰還した。

だが、忍の消息が絶ったことを聞き、クリスがフェイトに辛く当たってしまった。

それを翼や朝陽が止めに入ったものの、この事実は変えようのないモノであった。

 

そして、一日経ってグレモリー眷属や智鶴達、冥界に赴いていたメンバーたちも忍の消息不明を聞き、個人差はあれど悲しみに包まれてしまった。

 

特に酷かったのは智鶴であり、彼女はまるで心が壊れたかのように無気力と化してしまっていた。

 

果たして、紅神眷属はこれからどうなるのか?

そして、行方不明となった忍と邪狼は…?




結構な長さになってしまいましたが、一先ずはシンフォギア系はこれで一区切りですかね?
ハイDに関しては次のイベントにロキ戦が待っていますが、それはオリジナル章を跨いでからになるでしょう。

そして、前述したように次回からは再びオリジナル章です。


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7.異世界動乱のラグナロク
第三十三話『記憶と異世界と情勢』


二つの事件は収束した。

しかし、それらは後味の悪いモノであった。

 

 

冥界での騒動もまたアスタロト家の次期当主が死亡したことやイッセーの暴走、禍の団の目的などを垣間見た結果に留まり、実質的な被害は最小限に抑えられたといえる。

その成果か、禍の団・旧魔王派は弱体化の一途を辿ることとなった。

 

それと同時期に起きた地球で『フロンティア事変』と呼ばれることとなった、フロンティアでの一件。

ナスターシャ教授は月の軌道を修正した後、消息不明。

ウェル博士は今までの行動から軍に連行された。

マリア、調、切歌の3人も逮捕・拘束された。

しかし、米国政府は捜査への協力を頑なに拒否し続けたために事件の真相は闇へと葬られることとなり、逮捕されたF.I.S.メンバーは国連指導の特別保護観察下に置かれることとなった。

 

しかし、それと同時に爪痕も深かった。

それは謎の変異を起こしたフロンティアと、紅神 忍の消息が不明となったことである。

 

前者に関しては何者かによる介入が示唆されているが、具体的にどのような人物なのかわからないでいた。

後者は前者の次元転移の余波によって邪狼の遺体と共にどこかの次元世界に飛ばされた可能性を示唆されている。

 

また、後者の案件は紅神眷属に大きな亀裂を生み、一部の者は生気を失ったかのような状態に陥ってしまっている。

 

だが、運命の歯車は止まらない。

新たな出会いと、事象が…別の次元世界で巻き起こるのであった。

 

………

……

 

~???~

 

「……………………」

 

とある村の宿屋の一室で1人の青年が深い眠りについていた。

その顔…特に右目の部分は布で覆われており、まるで死人のような感じだが、ちゃんと息はしているので安心してほしい。

 

と、そこへ…

 

「今日も良いお天気ですよ」

 

小柄な少女が青年の眠る部屋へと入ってきた。

入ってくると、カーテンを開けて陽の光を部屋の中へと入れ、窓を開けて空気も循環させる。

 

「いい加減、目を覚ましてください。もう一週間近く眠ってるんですから…」

 

そう言いながら青年の頬を軽く濡れタオルで拭くと、花瓶に新しい花を挿す。

 

すると…

 

ガチャッ…

 

「エルメス、そいつの様子はどうだい?」

 

銀髪長身の女性が新たに入ってきた。

 

「あ、お母様。それがいつも通りです」

 

エルメスと呼ばれた少女は青年の容体を報告する。

 

「はぁ~、なんだってこんな坊主を拾っちまったんだか…」

 

溜め息を吐き、頭を掻きながらエルメスの母親らしき女性は一週間前のことを思い出す。

 

………

……

 

~???・一週間前~

 

「前線は徐々に後退…だいぶ近くまで押し寄せられてきたか。ここが落ちるのも時間の問題かもしれないねぇ…」

 

夜の街。

村の外で陣を構えている天幕で戦況に関する資料を読んでいたエルメスの母親こと『シルファー・ファリウム・イーサ』は椅子に体を預けて仰け反るようにして夜空を見上げていた。

 

「くっそ…兵の練度からして帝国の方が上。しかも最近じゃ訳の分からん兵器まで持ち出してくる始末だし…」

 

しばらくそうやって考えていると…

 

「だぁ~~!! あったま痛ぇ~~!!」

 

考えが纏まらなかったのか、髪を掻き(むし)るような行動に移る。

 

そんな時であった。

 

キラッ!

 

夜空を引き裂くような白銀の流星が三つほど流れているのが見えた。

 

「こんな時に流星か。なんか願いでも叶うんなら、この戦況を一変出来るような一手をあたしに授けておくれよ」

 

眼を閉じてそんなことを言いながら、シルファーは"どうせ、もう消えてるだろうけどな"と思っていた。

そして、再び眼を開けると…

 

「………あれ?」

 

流星は消えるどころか…

 

ヒュゥゥゥウウ………チュドーンッ!!!

 

次第に大きくなると、天幕の頭上を通り過ぎて近くの森に落下したのであった。

 

「星が…墜ちた…?」

 

その光景にシルファーは眼をパチクリと瞬かせていた。

 

「シルファー様!?」

 

そこへ騎士甲冑を着込んだ老兵が飛び込んできた。

 

「大変です! 星が墜ちました!」

 

何ともそのままの報告に…

 

「見りゃわかるわ!」

 

流星が墜ちるのを見ていたシルファーは怒鳴り返していた。

 

「すぐに被害確認! それと同時にあたしが調査に向かうから、何人か付いてきな!」

 

「ハッ!」

 

老兵はシルファーに敬礼すると、その場から飛び出していた。

 

「…………あたしが変な願い事したからかな?」

 

1人になると、シルファーは独り言のように呟いていたが、すぐに思考を切り替えて調査の支度をしていた。

 

 

 

で、流星が墜ちた地点へと向かうと…

 

「なんじゃ、こりゃ…」

 

そこにあった光景を見てシルファーを始め、彼女についてきた数人の兵士達も驚いていた。

 

流星落下の衝撃で出来たであろうクレータを中心にして木々が倒れているのは…まぁ、普通だと言っておこう。

問題はクレータの中心部にいる存在である。

中心地点には右目から血を流し、あちこち傷だらけの青年が1人倒れており、その周辺には袈裟型に体を上下に分断されて焼け焦げたような遺体があった。

しかも、それらの近くにはアクセサリーっぽいものも数点散らばっている。

 

「死んでんのか?」

 

そう言ってザザーっとクレータの中心部へと降りる。

 

「シルファー様!?」

「危険です! お戻りを!」

 

兵士たちの制止も聞かず、シルファーは青年の元へと近寄って脈を測る。

 

「こっちは生きてるが…どうも右目が潰れてるらしいな…(それに、微かだが魔力を感じる…? まさかな…)」

 

青年が生きてることを確認した後…

 

「こっちは完全に死んでるな。しかも燃え尽きてやがる」

 

見るも無残な男の両断された焼死体を見て断言する。

 

「?」

 

しかし、ちょっとした違和感を抱いたシルファーは焼死体の上半身部分を触ると…

 

「こりゃ、また…一体どうしたらこんな状態になるんだ?」

 

そこには奇跡的に琥珀色の瞳を持つ右目の眼球だけが綺麗な姿を保っていた。

 

「死んで…いや、微かにだが何らかの力が付与されてるな。上手くしたらこっちの坊主に使えるか…?」

 

右目の眼球を調べた後…

 

「至急、高位の医療官を呼びな! これから移植手術としゃれ込もうじゃないのさ!」

 

こうして遺体に遺されていた右目の眼球を青年の右目に移植することとなり、村にある医者の家へと緊急搬送された。

移植手術は無事成功したものの、青年は一向に目覚める様子はなかった。

遺体の方も運ばれたが、既に手遅れだったので埋葬を進言された。

しかし、シルファーの判断で一先ず棺の中に数個の結晶と共に保管されることとなった。

また、アクセサリーっぽいモノは神官に預けられたものの詳細はわからなかった。

故に現在はシルファーの計らいで、青年の眠る部屋に置かれている。

 

それが一週間前の出来事である。

 

………

……

 

~青年の眠る部屋~

 

「あれから一週間。眠り王子は未だ目覚めぬか。もうじき敵の軍勢が来るってのに…」

 

シルファーは苦々しい表情をしながら窓の外を見る。

 

「お母様、村の人達は?」

 

エルメスは村の人達のことが気がかりらしい。

 

「全員…と言いたいけど、ここに残るって連中が多くてね。出来るだけあたしが出張って時間を稼ぐか、なんとか撤退させたいけど…最近の帝国は一兵卒までうちの兵士の倍の強さがあるからねぇ。そこだけは凄いって思えるんだが、如何せん数も多いんじゃ…正直、キツイね…」

 

「そう、ですか…」

 

母の言葉を聞き、エルメスも表情を曇らせる。

 

「そう暗い顔をすんな。あたしの娘なんだからしっかりしなよ」

 

わしゃわしゃとエルメスの頭を撫でながらシルファーはそんなことを言う。

 

「お、お母様…子供扱いしないでください!」

 

エルメスはそう言って抗議するが…

 

「子供だよ。あたしにとっては唯一の、大切な娘だからね」

 

シルファーはそう言って大切な娘を抱き締めていた。

 

「お母様…」

 

しばらくエルメスを抱き締めていたシルファーは…

 

「うっし、気合入った! んじゃま、気張ってくるよ。エルメス、もしも防衛線が突破されたら…城に逃げな。あとで必ず追いつくからよ」

 

なんとも死亡フラグ全開な発言を残して部屋を後にした。

 

「お母様…お気をつけて…」

 

エルメスはそんな母の背中を見送るので精一杯だった。

 

………

……

 

~???~

 

『狼夜兄さん!!』

 

『狼牙!!』

 

そこでは2頭の狼…片や白銀の毛並みと真紅の瞳を持ち、片や漆黒の毛並みと琥珀色の瞳を持っている…が対峙していた。

 

「(これは…?)」

 

場所は吹雪が吹き荒ぶ森の中であり、その近くを遠くから見るようにして青年…忍はその様子を見ていた。

 

『何故だ! 何故、罪のない人間まで食い殺す必要があるんだ!!』

 

白銀の狼…『狼牙(ろうが)』は漆黒の狼へと叫ぶ。

 

『そんなのは自然の摂理だ。強き者が弱き者から奪う…所詮は弱肉強食!』

 

漆黒の狼…『狼夜(ろうや)』は狼牙の言葉を一蹴する。

 

「(誰かの、記憶…?)」

 

忍はそれが過去の出来事だと本能的に察していた。

 

『どうしてわからねぇ! 俺らみたいな希少種、どうせ人間共の見世物か、実験材料になるだけだ。なら、その前に俺達が奴等を狩るんだよ!!』

 

『そんなのは間違ってる! これまで通りにひっそりと生きてけばいいじゃないか!』

 

『だが、現にこうしてバカな連中が俺達目当てに群がってきやがる! もう俺の我慢は限界なんだよ!』

 

2頭の意見は既に分かれている。

 

『俺は狼夜兄さんと争う気はない!』

 

『さっきも言ったろうが! 自分の意見を突き通したいなら俺に勝ってからにしやがれ! 半人前が!!』

 

こうして2頭の狼は争い続ける。

同族で唯一の兄弟なのに…彼らは己の信念や欲望を賭けて争い続けた。

 

すると、2頭の狼が争っていた光景から一変…真っ暗な空間へと変わる。

 

「……今のは……」

 

真っ暗な空間の中で1人佇んでいると…

 

「俺の記憶。その欠片だ」

 

忍の背後から声が聞こえる。

それはさっきまで聞こえていた、漆黒の狼の声…。

 

だが…

 

「邪、狼…?」

 

振り返ってみれば、そこには人間の姿をした邪狼がいた。

 

「そいつは傭兵になった時に勝手に決めた名前だ。俺の本名は狼夜だ」

 

しかし、その邪狼…いや、狼夜は現実で見た時よりも幾分か落ち着き払っていて、ギラギラとしていた狂気も微塵に感じられなかった。

 

「俺は…?」

 

「死んじゃいねぇから安心しな。ここはお前の深層世界で、俺はそこに残留思念として残ってるみたいなもんだ」

 

忍の不安気な表情に狼夜はそう答える。

 

「お前の最後の一太刀…霊力も加味してたからな。霊力とは浄化の力も秘めてる力だ。その影響か、お前の霊力の質が予想以上だったのか、わからんが…俺の狂気が吹っ飛んじまってな。仕方ねぇから俺の右目をくれてやったのさ」

 

そう簡単に説明しながら自分の右目を指す。

 

「右目を…」

 

「しっかし、妙な深層世界だな。狼牙と雪女の匂いの他に冥族だったか? その他にも…吸血鬼? なんだってこんなもんまで匂うんだ? お前、ハーフのはずだろ? って、あのイカレ科学者に変な血を入れられてたっけか。それが冥王と吸血鬼で、その片鱗が現れ始めたってとこか?」

 

深層意識でのことなので、狼夜にも忍の事情は多少把握してるらしい。

 

「冥王…吸血鬼…」

 

「なんだぁ? 随分、淡白な反応じゃねぇか。お前、頭でも打ったか?」

 

自分の頭を指で小突きながらそう言う狼夜の言葉に忍は自らの手を見る。

 

「わからない…俺は…」

 

「おいおい…マジで記憶喪失とか言うな?」

 

冗談とばかりに狼夜は言うが…

 

「記憶…? 俺は…一体…」

 

「こりゃ…マジ、みたいだな……てか、なんでさっき俺が邪狼だってわかったんだよ…」

 

忍の反応を見て狼夜も頭を掻きながら諦めたように呟くと同時にそんな疑問も思い浮かんだ。

 

「まぁ、細かいことはいいか。お前は…確か、紅神 忍とか言ってたな」

 

「紅神、忍…それが俺の名…」

 

狼夜の言葉に忍は自らの名を噛み締める。

 

「そうだ。そして、お前なら…真なる狼を継げるはずだ」

 

「真なる狼…?」

 

狼夜の言葉に忍は首を傾げる。

 

「そうだ。速度の銀と力の黒…それを合わせろ。そうすれば、お前は…」

 

言葉を最後まで言うことは叶わず…

 

「っと、時間切れか。あいつらはお前に託すから有効に使いな。あとは…とにかく、生きろ。俺の分までな…甥っ子」

 

その言葉と共に真っ黒な空間が徐々に光に満たされていく。

 

「っ…!!?」

 

光に満たされた時、忍の意識は現実へと戻っていく。

 

………

……

 

~???・宿屋の一室~

 

「お母様…」

 

エルメスは窓から外の様子を見ているが、ここからではよく見えないでいた。

 

その時である。

 

ピクッ…

 

青年の指先が少しだけ動き…

 

「………っ…」

 

微かな息音と共にゆっくりと眼が開いた。

 

「ここ、は…?」

 

忍の声が空気に乗って聞こえたのか…

 

「ぇ…?」

 

エルメスは一瞬、間の抜けた声を出すと振り向く。

 

「「…………」」

 

しばしの間、紫色の瞳とサファイアブルーの瞳が交差する。

 

「はっ!? お、起きたんですか?!」

 

だが、すぐに正気に戻ったエルメスは忍の元に駆け寄る。

 

「ここは…何処だ? 俺は…ずっと眠っていたのか…?」

 

そう言いながら忍は上体を起き上がらせる。

 

ズキッ!

 

「っ…くっ…!?」

 

右目を含め、体の節々が軋むような感覚に襲われていた。

 

「まだ動いてはダメです! そんな状態じゃ…」

 

エルメスが忍の体を押さえようとした時だった。

 

『ウオオオオオオオッ!!!』

 

外から龍のものらしい咆哮が聞こえてくる。

 

「お母様!?」

 

慌てて外を見るエルメスの眼に一部血に染まった銀色の体躯と龍鱗、エメラルドグリーンの瞳を持ったドラゴンが地上に向けてブレスを放とうとしていた。

 

「何が…起こってるんだ?」

 

轟音に近い咆哮を聞き、忍も軋む体を引き摺って窓へと近寄ると…

 

「ッ!!」

 

窓から見える光景を見て即座にエルメスを押し倒すようにして伏せる。

 

「きゃあ!? な、なにを…?!」

 

エルメスが驚くと同時に…

 

ゴオオオオッ!!

バリンッ!!!

 

ブレスによる衝撃波が周辺を巻き込み、窓のガラスを割っていた。

 

「きゃああああ!!?」

 

その衝撃を受け、エルメスも堪らず悲鳴を上げる。

 

ガタッ!!

 

その衝撃によって近くのテーブルに置かれていた複数のアクセサリーが忍の目の前に落ちる。

 

「これは…?」

 

そのアクセサリーを見て忍の脳裏にあるヴィジョンが蘇る。

 

「ネク、サス…」

 

『音声認証、確認』

 

忍の声に反応してネクサスが一時的に起動する。

 

「そんな…神官達もわからないと言っていたのに…どうして?」

 

その光景にエルメスは自分を押し倒す忍へと視線を向け…

 

「あなたは…一体…?」

 

そのような疑問を口にする。

 

「俺は…自分の名前以外、よくわからない…」

 

正直な答えを口にすると、エルメスから退いてアクセサリーを拾い…

 

「だが、助けてもらった恩には報いなければ…」

 

そう言って忍はアクセサリーを右腕、左手首、腰部へと装着していき…

 

ピ、ピ、ピ…

 

『Standing by』

 

左手首のブレスレットのカバーをスライドさせて000を打ち込むと電子音が鳴り響く。

 

「だから…ここで待っていてほしい」

 

そして、ENTERキーを押すと…

 

『Complete』

 

バリアジャケットが形成されていく。

 

「…………」

 

右目にあった布もバリアジャケット形成で剥がれ落ちると…

 

スッ…

 

ゆっくりと右目が開き、琥珀色の瞳が露となる。

 

「右目が…見える」

 

痛みこそ残るものの右目が見えることを確認すると…

 

「そうか。俺は本当にアンタの…」

 

ガラスに微かに映る自らの右目を見てそう呟く。

 

「あ、あの…一体、これは…?」

 

目の前で起きた出来事に困惑するばかりのエルメスだった。

いや、実際に目にしても信じられないのだろう。

一週間も眠っていた人が突然起き、アクセサリーを身に着けたと思ったら一瞬で服装が変化したのだから…。

 

「すまないが…事情は後で話そう。君の母上というのを助けてあげないとね」

 

そう言うと忍は残りのアクセサリーを手に持ち、窓へと足を掛ける。

 

「ど、何処へ…?」

 

「言ったろ。君の母上を助けに行くと…あの龍からは君と似た空気を感じる。だから、あの龍に加勢しようと思うよ」

 

それを聞き…

 

「む、無茶です! 帝国兵に病人のあなたが敵う相手ではありません!」

 

エルメスはそう伝える。

 

「帝国? 何処かと争っているのか?」

 

名前とデバイスの知識以外の記憶がほぼ無い忍にとってこの世界の情勢はよく分からなかった。

 

「知らないのですか?! ここはイーサ王国の南東にある村です。今、帝国はイーサ王国の1/3を占領し、この村のすぐそこまで迫っています。お母様はそれを押し止めようとして…」

 

「なるほど。つまりは絶対に負けられないと……なら、見過ごす訳にもいかないか…」

 

エルメスの言葉に一回だけ頷いてみせると…

 

「あの…」

 

エルメスが何か言う前に…

 

「では…また後程に…」

 

そう言い残して忍は窓から外へと飛び出す。

 

「あっ!?」

 

今更だが、ここは二階ある。

そこの窓から外に出るとは、そこから落ちることになるのでエルメスは咄嗟に眼を背けたが…見ない訳にもいかず、少しずつ眼を開けると…

 

「……え…?」

 

そこにはエルメスが想像した光景ではなく…

 

「…………」

 

ベルカの魔法陣を足場に空中を跳ぶ忍の姿があった。

 

「あ、あの人は…一体…??」

 

予想外の光景にエルメスは眼をパチクリさせていた。

 

 

 

『グゥ…!!』

 

血に染まる銀の龍と化したシルファーは劣勢を強いられていた。

 

「あの龍は女王だ! 討ち取れ!」

 

「「「おおおおおッ!!」」」

 

敵将の号令でシルファーの周りに帝国兵が群がる。

 

『調子に乗るなぁッ!!』

 

尻尾で薙ぎ払おうと体を回転させるが…

 

「防御陣! 並びに封印陣を敷け!」

 

灰色の結晶体が帝国兵からシルファーの周りに投擲され、それを敵将の側に控えていた魔導師らしき人物が杖を翳して結晶体に秘められた魔力を解放し、幾重にも防御陣を敷いていた。

 

『ちっ! こんな障壁如きに!!』

 

帝国の物量を活かした防御陣の破壊に手間取っていると…

 

「封印せよ!」

 

そこへさらに乳白色の結晶体を障壁に投げ付ける。

 

『しまっ…!!?』

 

魔力障壁の中に乳白色の稲妻が走り、それがシルファーの体を拘束し、シルファーを龍の姿から人間体の姿へと封じ込めてしまう。

それと同時に障壁もまた硬度を増しながら縮んでいく。

 

「くっ…殺すなら殺しな。見世物に成り下がるつもりも、アンタらの慰み者になるのも御免だからね」

 

血で赤く染まる騎士甲冑を身に纏いながらも強気な姿勢と気迫を見せる。

 

「流石は弱小国をここまで率いてきた女王だ。ならば、潔くここで散るが良い!!」

 

そう言って敵将は銀色の結晶体を自らの剣の鍔の部分に装填すると、銀色の魔力を帯びた刀身をシルファーに向ける。

 

「死ね! 女王シルファー!!」

 

「くっ…!(エルメス…すまねぇ…)」

 

シルファーが死を覚悟した時だった…

 

ガキンッ!!

 

敵将の剣は何かに阻まれるような音と共に防がれていた。

 

「な、に…っ!!?」

 

「は…?」

 

敵将とシルファーの間に割って入るようにして現れた第三者に敵将は驚き、シルファーは何が起きているのかわからないでいた。

 

『コアドライブ、正常稼働。シェライズの効果も安定してますよ。我が主』

 

そこにいたのはバリアジャケットの上からさらにブリザード・アクエリアスを装着した忍であった。

 

「そうか。対属性魔法とはよく言ったものだ」

 

『はい。しかし、大丈夫ですか? 病み上がり、しかも記憶も完全には戻っていないのでしょう?』

 

「問題ない。俺の内側から何か強いモノを感じるからな」

 

『流石は我が主。記憶を失ってもその信念や心までは失ってはいないのですね。奥方様達もお喜びになるでしょう』

 

「? 何の話だ?」

 

『それは後程。今は…』

 

「あぁ…この場を乗り切ろうか」

 

アクエリアスとのやり取りの後、眼前で棒立ちになっている敵将を睨む。

 

「き、貴様! 何者だ!!?」

 

忍の視線で正気に戻った敵将は忍に怒鳴りつける。

 

「通りすがりの狼だ。別に覚えなくてもいい。お前は今ここで果てる奴だからな」

 

忍が敵将にそう告げると…

 

「何が通りすがりの狼だ! 邪魔者めぇぇ!!」

 

忍の言葉に激高した敵将が剣を忍へと振り下ろすが…

 

「遅い…!」

 

ギンッ!!

 

敵将よりも速い動作でファルゼンを起動させると、敵将の剣を弾き飛ばし…

 

「き、貴様…?! 一体どこからそんな剣を…!!?」

 

敵将が驚いてる合間に…

 

「はぁ…!!」

 

ザシュッ!!

 

返す刀で敵将の体を一思いに斬り裂く。

 

「があああっ!?!?」

 

絶叫と共に敵将の体が上下に分断されると、絶命してしまう。

 

「ファルゼン、モード・斬艦刀」

 

敵将が絶命したのを確認すると、ファルゼンを斬艦刀へと変形させて肩に担ぐ。

 

「死にたくなければこの場から去れ…!!」

 

ゴアアッ!!

 

忍から放たれる殺気の混ざった気迫が周囲の帝国兵に向けられる。

 

「う、うわああああ!!?」

 

帝国兵の1人が忍の気迫に耐えかねて逃げると、それが伝染したように帝国兵が次々と逃亡していった。

しばらくして、その場には忍とシルファー以外の者はいなくなった。

残ったのは味方の者らしき屍と武具の山である。

 

「酷いな…」

 

そう呟くと忍はその場で少しの間、黙祷を捧げると…

 

「はぁ!!」

 

バリンッ!!

 

シルファーを閉じ込めていた防御陣の上部を斬艦刀のファルゼンで打ち砕くようにして破壊する。

 

「お前さんは…目覚めたのかい?」

 

傷口を押さえながら立ち上がると、忌々しげに防御陣を蹴り壊して忍へと話し掛ける。

 

「えぇ、一応は…」

 

ファルゼンを元の日本刀形態へと戻すと、そのまま地面に突き刺して杖代わりにする。

 

「病み上がりのくせに無茶するからだよ。というか、その鎧や服は何なんだい?」

 

「その話は後でします。今は死者達を弔いましょう」

 

忍は見ず知らずの王国兵を弔うことを優先しようとしていた。

 

「………わかったよ」

 

忍の言わんがしてることもわからんでもなかったので、防衛に回していた大多数の兵士によって同胞達を丁重に埋葬することになった。

 

………

……

 

それから時間は過ぎ、夕刻となっていた。

 

「ふぅ…すまないね。誰ともわからない遺体を埋める手伝いまでさせちまって」

 

宿屋の一室にてシルファーはタオルで汗を拭いながら向かい側に座る忍に礼を言っていた。

 

「いえ…この国を守ろうとした人を足蹴りするような真似は出来ませんから…」

 

同じくタオルで汗を拭いながら忍はそう答える。

 

「そうは言うが、アンタは別にこの国の人間じゃないんだろう? 無理して厄介事に首を突っ込むだけ野暮ってもんじゃないかい?」

 

女王としての立場からシルファーは忍にそう尋ねる。

 

「あなた方には助けてもらった恩があります。それだけではダメですか?」

 

そんなことを忍は真っ直ぐ言う。

 

「女王から見りゃ、ただのお人好しだが…あたし個人としては嫌いじゃないよ。改めて礼を言うよ。死した同胞の為に埋葬を手伝ってくれてありがとよ」

 

シルファーはニカッとした笑みでそう答える。

 

「お母様、そろそろ…」

 

「それもそうだな。本題に入ろうか。アンタは結局何者なんだい?」

 

シルファーの隣に座るエルメスに言われ、忍の素性を聞く。

 

「名前は紅神 忍。忍が名前で、紅神がファミリーネームになる。すまないが、何者については記憶が無くて思い出せない」

 

「記憶喪失ってやつかい?」

 

「そう考えてもらって構わない」

 

「そのわりにはハキハキしているような…」

 

忍の言動からエルメスはとても記憶喪失とは思えなかったらしい。

 

「見た目だけさ。内心、混乱してばかりだ。ここが何処かもわからないし…世界事情なども詳しくない」

 

『そもそもこの世界自体の情報もありませんし、何よりも我が主はこことは異なる世界の出身ですから…』

 

忍の言葉を補足するようにアクエリアスが言葉を発する。

 

「だ、誰!?」

 

「あたしを助けた時も聞こえた声だね。この声は何なんだい?」

 

エルメスは声の発生源を探そうとヨロキョロと見回し、シルファーは忍に問い質す。

 

「これです」

 

そう言って回収されたアクセサリーの一つ、水瓶座のシンボルと氷の結晶の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のサファイアを携えた白銀色のチェーンブレスレットを机の上に差し出す。

 

「なんだい、これが喋ったってのかい?」

 

忍の行動にシルファーは睨んでみせる。

 

『えぇ、そうなりますね』

 

サファイアが発光信号のように点滅しながら声を発する。

 

「ふぇ!?」

 

「……どういうカラクリなんだい?」

 

『この世界ではあまり馴染み無い存在の魔法道具…のような認識でよろしいかと』

 

「"あまり"というか"全く"無い気がするけどねぇ…」

 

アクエリアスの言葉にシルファーはそう答える。

 

『かも知れませんね。私の名はブリザード・アクエリアス。我が主のエクセンシェダーデバイスです。デバイスというのは別の次元世界…ミッドチルダ他、多数の次元世界で魔導師という存在が使う魔法の補助装置と考えていただきたいのです』

 

アクエリアスは苦笑すると、デバイスのことを簡潔に説明する。

 

「魔法補助にしては随分としっかりとした意思みたいなもんがあるように見えるけどねぇ?」

 

『それは我々、エクセンシェダーデバイスが特殊な存在だからです。もちろん、人格型や非人格型などの種類はありますが、基本的なデバイスは個人向けに開発されているものを含めても汎用性や使い勝手の良くするために人格搭載型を採用する場合が多々あります。非人格型でも所有者が優秀ならば人格搭載型にも引けを取らないと思いますが…』

 

アクエリアスの説明を受け…

 

「言ってることの意味がわからなくて、こっちはちんぷんかんぷんだよ」

 

「(コクコク)」

 

シルファーもエルメスも理解できていないようであった。

 

『それは致し方ないかと…この世界はおそらく管理局も把握していない次元世界のはずです。専門的な知識は時空管理局から聞いた方がもっとわかりやすいと思います』

 

「そうなのか」

 

アクエリアスの言葉に忍が相槌を打つと…

 

「さっきから気になってたんだが…管理局とか、次元世界ってのはどういうものなんだい?」

 

「それは私も気になりました」

 

シルファーとエルメスは忍に視線を向けて尋ねるが…

 

「……アクエリアス、頼む」

 

『御意です、我が主。もしかしたらこれも記憶が戻るきっかけになるかもですし、私が説明させていただきます』

 

そこからアクエリアスは多次元世界のこと、それぞれの次元世界を管理・維持するミッドチルダの機関『時空管理局』のことをシルファーとエルメスに説明した。

 

「世界は一つじゃないと…別次元にいくつもの世界があって、そこにはいろんな奴らが住んでると…」

 

『簡単に纏めるとそうなりますね』

 

「私達の住むこの世界も次元世界の一つでしかない…」

 

その事実にシルファーもエルメスもまだ実感が湧かない様子だった。

 

『はい。そして、我が主は地球という星のある次元世界からここへ飛ばされてしまったのです。また、一緒に邪狼という者も次元転移に巻き込まれたはずですが…』

 

「邪狼…いや、狼夜伯父さんか…その人は?」

 

忍がそれを聞くと、シルファーは一言"ついてきな"と言い、忍とエルメスを伴って宿屋の外へと出る。

そして、教会の裏手にある墓地へと回り、そこで一つの棺の前までやって来た。

 

「ここに一応、保存してるよ」

 

そう言ってシルファーは棺を指差した。

 

「……………」

 

忍は静かに棺の前まで移動すると、中身を見ていいかどうかシルファーに視線で尋ねる。

シルファーはその視線にコクリと頷き、それを確認した忍は中身を開けた。

 

「………伯父さん…」

 

そこには見るも無残な上下に分断された焼死体が安置されていた。

 

「その邪狼とか言う奴は…見つけた時には既に息絶えてたよ。で、奇跡的に無事だったそいつの右目をアンタの潰れてた右目に移植したのさ。どういう関係かわからなかったから保存しといたけど…どうする? よかったらここの墓地にでも埋葬して…」

 

シルファーが言い終わる前に…

 

「その必要はありません」

 

ゴアアア…!!

 

そう言うと、忍は右手から紅蓮の焔を噴き出し始める。

 

「おい、何を…?!」

 

慌てるシルファーを余所に…

 

「この場で火葬します。そして、残った遺灰は俺が預かります。いつか然るべき場所へと還す時の為に…」

 

忍はそう答えていた。

 

「いいのかい? そいつはアンタの…きっと、身内なんだろ?」

 

「だからこそです」

 

忍の決意は固いらしく、棺の中へと右手を入れて邪狼の遺体を燃やしていく。

 

しばらくして邪狼の遺体が灰と化した後、忍は遺灰を集めて小瓶の中へと入れて懐にしまった。

 

「(こいつ…魔力石無しに焔を生み出してた。なら、魔力持ち? だとしても一体何者…?)」

 

シルファーは忍の一挙一動を見て何かしら思うところがあったようだ。

 

「(ま、今考えても仕方ないか…記憶が無いんじゃ追究も難しいしな…)もういいのかい?」

 

そんな考えをしつつ忍に尋ねる。

 

「えぇ…今度はこちらがこの世界について聞きたい。彼女から簡単に聞いたところ、戦の真っ最中のようだが…」

 

そう答えると、忍はこの世界につ置いての情報を聞く。

 

「そうさね。一回戻ってから話すさ、地図もあった方が色々とわかりやすいだろ?」

 

「助かります。ネクサスにも位置情報を記録しておきたいので」

 

そう言いながら3人は宿屋へと戻る。

 

 

 

「これがこの世界の地図だ」

 

宿屋に戻った直後、シルファーはテーブル一面にこの世界の地図を広げて忍に見せた。

 

「これが…」

 

「そう…アンタらの言うこの次元世界、フィライトの世界地図さ」

 

シルファーが広げた地図をネクサスにスキャンさせながら忍は色々と尋ね始める。

 

「まず主要な国は?」

 

「フィライトの名前の由来になる四つの国があってね」

 

そう言ってシルファーがまず指差したのは地図の中心地にある大陸であった。

 

「ここがこの世界、最大の国家『フィロス帝国』。独裁政治で国を動かしてる軍事国家でもある嫌な国さ」

 

嫌悪感を露にしながらシルファーは吐き捨てるように言う。

 

「帝国の現皇帝『ゼノライヤ・スペル・フィロス』様は世界制覇を掲げており、各国に無条件降伏を要求しています」

 

シルファーから引き継ぐようにしてエルメスが付け加える。

 

「エルメス。あんな奴は様付けなんてしなくていいよ」

 

「しかし、同じ皇族なわけですし…無下にしては…」

 

「真面目が度を過ぎるのも問題ね」

 

そんなやり取りを見て…

 

「(この2人…本当に親子なんだろうか?)」

 

忍はそんなことを思っていた。

 

「まぁいいさ。とにかく、フィロス帝国の連中は降伏しない国に対して侵略行為を始めた。それがこの戦争の発端とも言えるね」

 

そう言った後、今度は指を南の方へと動かす。

 

「次はラント諸島。簡単に言えば、複数の島が密集してる地域さ」

 

そこには数々の島が立ち並んでいた。

 

「ここは基本的には島がベースなのですが、島には様々な種類がありまして。例えば、火山島や密林しかない島など極端な島が多く、そのせいか海流も安定してません。そのため、ラント諸島の人々は海洋種と共に生活していて心を通わす術を持っているとも言われています。それとラント諸島は有数のリゾート地としても有名でして…」

 

「ま、帝国の侵略が始まる前には何度か行ったけどね。今じゃ殆ど行けないからね」

 

「また、ラント諸島が首都を置いているのは外洋に一番近いこの島になります」

 

そう言ってエルメスは最南端の島を指差す。

 

「あと、海流が安定しないせいか、帝国の艦船も無闇には近づけないらしく、この海域自体が自然の要塞と化しており、帝国の侵略を防いでいるのが現状です」

 

「なるほど。確かに周囲の島で入り組んだ海域になっていて攻略に手間取りそうだ」

 

エルメスから情報を聞いた忍の見立てを聞き…

 

「(戦慣れしてる? いや、戦術眼か戦略眼に長けてるのか? ともかくそういう頭の回転はそこそこあるらしいな…)」

 

シルファーは忍の潜在的な能力を測ろうとしていた。

 

「次はトルネバ連合国。多数の部族が寄り集まって出来た国と思ってくれ」

 

シルファーは思考を一時中断すると、西側の大陸へと指を動かす。

 

「トルネバ連合国は魔力石の種類が豊富で、さらに独自に騎乗隊を組織しているので、帝国とも互角に渡り合っています。他にも部族同士が協力し合い、常に移動していることから場所の特定が困難な点もあって帝国との戦いを優位に保っているとか…」

 

エルメスはそう付け加えるが…

 

「ですが、最近では帝国の新兵器によって敗戦の方が多いと聞きます」

 

さらにこうも言っていた。

 

「魔力石?」

 

「そいつは後で説明するよ。最後は我が国、イーサ王国だ」

 

忍の疑問を後回しにしてシルファーは東北にある小さな大陸に指を移動させた。

 

「ここは…自国ってこともあるけど、自然が豊かでね。気候も比較的安定してるから作物も結構取れるんだ。あたしはこの自然や民を救いたいが為に帝国に挑んだんだけど…まぁ、うちと帝国じゃ何から何まで質が違くてね。今じゃ、国土の1/3が占領されちまった。情けないこった」

 

頭を掻きながらシルファーは自分の不甲斐無さを悔やむような発言をする。

 

「国王はどうしたんだ?」

 

「あ~、あいつは…数年前に崩御してね。今じゃあたしが国を引き継いでるようなもんさ」

 

それを聞いた忍は

 

「そうか。すまない、悪いことを聞いた…」

 

素直に謝罪の言葉を口にしていた。

 

「気にすんな。もう過ぎたことさ」

 

シルファーはあっけらかんと答える。

 

「で、さっきの魔力石、だったか? それは一体どういうモノなんだ?」

 

話題を変えるため、忍はさっき出てきた『魔力石』の事を尋ねる。

 

「こいつは実物を見せた方が早いね」

 

そう言ってシルファーはビー玉程度の大きさをした結晶体を忍に投げ渡した。

 

「これが…?」

 

結晶体を興味深く観察する。

 

「あぁ、そいつが魔力石さね。言っちまえば、大気中の魔力を結晶化して作り上げた代物さ」

 

「大気中の魔力を結晶化…そんな技術もあるのか」

 

「この世界じゃ大昔からある技術の一つさ。この魔力石によって人間たちは独自の魔法文化を築いてきた。まぁ、あたしやエルメスみたく元から魔力を持つ存在もいるけどね」

 

「この世界に魔力を持つ人間は…?」

 

「基本的にはいないよ。エルメスみたく人間と異種族のハーフとかクォーターとかなら話は別だけども…」

 

「だからこその魔力石なのか」

 

「そういうこった」

 

忍とシルファーがそんな会話をした後…

 

「あの、お母様。紅神様に属性の事も話さなくてはいけないのでは?」

 

エルメスがシルファーに確かめるように尋ねる。

 

「あ~、それはアンタに任せるよ。良い機会だから説明がてら自分でも考えてみな」

 

「あ、はい」

 

そこからはエルメスが説明を引き継ぐことになった。

 

「魔力石には属性があります。属性はわかりますよね?」

 

「えぇ…炎熱、電気、凍結があるはずですが…?」

 

「はい。それはもちろんなのですが、この世界…おそらく紅神様の言う次元世界でも確認出来るかも知れませんが……では、その三つの他に流水、疾風、大地、閃光、闇黒、天空、幻影、虚無、創造、破壊、重力、空間、強力、鉄壁、鮮血、森緑、有毒、封印、裂斬、速度といった全23種もの属性があるのです」

 

「23種!?」

 

あまりの多さに忍も驚いてしまう。

 

「はい。自然界に属するものから概念的に属するものまであります。また、誰しも必ず一つは得意な属性を持つことがあり、これを私達は『先天属性』と言います」

 

「先天属性、か」

 

「はい。魔力石にも属性が反映されています。魔力石の属性は色によって判別することが可能なので、後でお教えしますね」

 

「あぁ、頼む」

 

こうして記憶を失った忍は異世界『フィライト』で起きている動乱の中へと身を投じる第一歩を踏んでしまうのだった。

 

………

……

 

~???~

 

「ふふふ…フロンティアの完全掌握ももう少しで完了しますね」

 

次元世界『フィライト』へと続く次元の狭間では異質な変貌を遂げようとするフロンティアが漂っていた。

 

「それにしても、まさか邪狼さんが死亡するとは……まぁ、そうでなくては困りますが…」

 

その中では黒ローブが忍と邪狼の戦闘データを見返していた。

 

「まぁ、良いデータが取れたと言っておきましょう。その代価として試作品の一つ…いえ、三機でしたか…を手放すぐらい大目に見ましょう。どうせ、起動もままならないはずですし…」

 

そして、別の画面に視線を向けると…

 

「量産型ドライバーの開発は順調。近い内にロールアウトして彼の国にでも渡しますか。今度の機体は先の試作品のデータと私のエクセンシェダーデバイスを基にしてますからね」

 

そこには地球の戦闘機でも模したかのような3種類の機体が数多く生産されている光景があった。

 

「大半の機材は持ち込んだとは言え、流石フロンティア。大掛かりな生産も可能とは…やはり、手に入れて正解でしたね」

 

そう言うと、黒ローブはまた別の画面へと視線を移す。

 

「覚醒はもうしばらく掛かりそうですね」

 

その画面には禍々しい上半身は四本腕を持つ異形の人型で、蛇のような尾で形成されたような下半身を持つ石像が鎮座していた。

 

「全ての生命に絶望を……ふふふ…」

 

果たして、何が起ころうというのか…?



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第三十四話『真なる狼の覚醒』

忍が異世界『フィライト』で目覚めた頃…

 

『フロンティア事変』から事態が収まりつつある地球では…

 

~地球・明幸組~

 

「………………」

 

智鶴は部屋のベッドで両足を抱え、そこに顔を埋めるようにして塞ぎ込んでいた。

部屋の窓はカーテンで閉め切っていて、ドアも完全施錠しているので誰も入れないという徹底振りである。

飯もろくに食べていないというから、やつれて衰弱しているのではないかと…。

 

部屋の外には当然そんな心配をする人達…組員の方々の他、シアや萌莉、フェイトという常識のある紅神眷属もいる。

 

ちなみに残りの眷属はと言うと…

 

「重症ねぇ…」

 

「重症よね…」

 

「重症過ぎ」

 

「重症だよな…」

 

カーネリア、暗七、吹雪、クリスの順に智鶴の今の状態を嘆いていた。

というか、全員一致で重症扱いとは…(まぁ、間違ってはいないが…)。

 

「女王があんな状態じゃこの眷族も瓦解かしらね?」

 

「王不在の眷属…これからどうなるのかしら?」

 

カーネリアと暗七が今後の方針について考えていると…

 

「そういえば、一つ聞きたいんだがよ」

 

そこへクリスが挙手する。

 

「なにかしら?」

 

カーネリアがそれを聞く。

 

「眷族の駒って、確か悪魔の駒の類似品なんだろ? 眷族とか死んだ場合、所持者の駒ってどうなるんだよ?」

 

「そういや、オリジナルの駒がどうなるか知らないわね」

 

クリスの質問に吹雪も不思議そうに首を傾げてカーネリアの方を見る。

 

「私もそこまで詳しくないのだけどね。確か…アザゼルの話だと、駒の持ち主が死んだ場合、その持ち主が主の元に駒だけでも帰すという強い意志を持ってるなら、駒は主の元に戻る現象が稀にあるらしいわ。但し、その場合…駒の機能が失われて二度と使用できないとか……まぁ、これは王の駒以外での現象だから王の駒の持ち主…つまりはその眷族の王がそうなった場合にどうなるのかまでは知らないけど…」

 

カーネリアの思い出し説を聞き…

 

「つまりは死んだらそれまでってか?」

 

吹雪がそう尋ねる。

 

「かもねぇ…」

 

カーネリアも専門外の事なので何とも言えないようで曖昧に答えていた。

 

「だったら、王が死ねばその眷属の駒自体が機能停止になるんじゃないかしら?」

 

「そうなのかしら?」

 

「あたしに振られても知らねぇよ…」

 

暗七の推測にカーネリアはクリスに聞くが、当然ながらクリスにわかるはずもなく…

 

「けど、可能性はなくはないだろ?」

 

唯一吹雪はそんなことを呟いていた。

 

「仮にそうだとしたら…私達に宿っている駒の機能は止まっていない。皆も感じてるでしょ?」

 

暗七の言葉に3人は頷く。

 

「だったら、忍は…」

 

「まだ生きてる…!」

 

「その可能性は高いわね…」

 

「問題は何処でのうのうと生きてるかよね」

 

忍生存の可能性が出てきたことで自然とやる気に満ちるクリスと吹雪、そんな様子に感化されたのか少しだけ笑みを浮かべる暗七、それとは逆に不敵な笑みを浮かべるカーネリア。

 

女王がその機能を停止していても他の眷属達が希望を見つけ出そうとしていた。

 

………

……

 

一方、その頃…

 

異世界『フィライト』。

フィロス帝国に対して構築したイーサ王国の前線野営基地の天幕の一つでは…

 

「俺に…そんな人がいるのか?」

 

『はい。忍様には将来を誓い合った奥方様がいます。また、それを巡る関係もありますのでお気をつけた方がよろしいかと…』

 

忍がアクエリアスから自身の過去について聞いていた。

 

「どういう意味だ?」

 

『簡単に言いますと、主に好意を寄せる女性は多数いるということです』

 

「………………」

 

それを聞いて忍は頭を抱えた。

 

「一体何をしたんだ、俺は…?」

 

『あなたはあなたの心のままに動いたのです。その結果、誰かを引き寄せる。あなたにはそういう素質があるのですよ』

 

「そういうものか?」

 

『そういうものです』

 

一通りの話が終えると…

 

「軍議か…俺が出てもあまり意味があるとは思えないのだが…」

 

イーサ王国の軍服を身に纏った忍は姿見で自分の姿を確認する。

 

『仕方ありません。この国の状況は劣勢であり、この国…特にシルファー様やエルメス様に恩のある主はこの状況を見過ごせないのでしょう?』

 

「それは、まぁ…そうなんだが…」

 

そう言いながらネクサスの各種装備、ファルゼン、アクエリアスを身に着けていく。

 

『この世界で少しでも見聞を広めるのも良いものかと思いますよ。今後の為にも…』

 

「今後、か……それにはまず記憶が戻らない事にはな…」

 

最後に邪狼の残した三機を軍服のポケットへと仕舞い込む。

 

「結局、これの起動法も分からずじまいか…」

 

ポケットに入れた三機のことを考えながら天幕から出る。

 

『記録では何らかの結晶を用いて起動させていましたが…』

 

「まさか、魔力石とでも言いたいのか?」

 

アクエリアスの言葉に忍は眉を顰める。

 

『先日の会話から、可能性が一番高いと思いますが…』

 

「それだと疑問も残る。何故、デバイス技術のないこの世界で魔力石を用いたデバイス起動の技術なんてあるんだ?」

 

『ごもっともな疑問です。考えられる可能性は二つ』

 

「帝国が偶然にも独自に作り出したのか、それともこの世界に裏で介入している奴がいるか…」

 

『でしょうね。ですが、邪狼にその三機が渡されたことから後者が濃厚かと…』

 

「そうだな」

 

そうこうしてる内に軍議が行われる予定の大きな天幕に着いてしまった。

 

「ともかく今はこの場…いや、この状況を打開するか」

 

『主の御心のままに』

 

忍は意を決して天幕の中に入った。

 

「失礼する。紅神 忍、ただいま参上し…」

 

忍が最後まで言い終わる前に…

 

「はぁっ!!」

 

1人の兵士が忍に剣で斬りかかってきた。

 

「……っ!!」

 

それを忍は反射的に避けると共に兵士の剣を持つ腕を取って背後へと回した。

 

「ぐっ!?」

 

「いきなり何の真似だ?」

 

忍は斬りかかってきた兵士の腕を折らないギリギリのところで維持して問い質す。

 

すると…

 

「はぁ…ったく、これで文句ないだろ?」

 

シルファーが呆れたような声音で周囲のいる将や軍師といった少数の臣下に向けて言葉を発していた。

 

「ふむ…確かに使えそうではあるな」

 

「ただの一兵卒をぶつけただけでは何とも…」

 

「だが、今は猫の手も借りたいからの。贅沢は言ってられんよ」

 

言いたい放題だが、どうやら忍を試すテストだったらしく、それを認識した忍は兵士の腕を放していた。

 

「お前は下がってよいぞ。あとはこちらで処理する」

 

「は、はい…」

 

臣下の1人に言われ、兵士は落とした剣を拾うと鞘に収め、敬礼してから天幕を後にした。

 

「悪いね。アンタを試すような真似して」

 

「別に…余所者は信用できない。もっともな理屈だ」

 

シルファーの言葉に忍はそう返す。

 

「まぁ、そう言うなって。とにかく、今は軍議に移ろうじゃないか」

 

仕方なくシルファーの言葉に従い、忍は軍議の末席に座ることとなった。

 

「知っての通り、この間は忍の迫力にビビった帝国兵が敗走したことで勝ったようなもんだが…まだまだ小さな勝利に過ぎない。だから、今回は敵前線基地になってる我が砦を奪還する」

 

シルファーの言葉に軍議の場がざわめく。

 

「一応、聞くが…相手の兵力とこちらの兵力の差は?」

 

通常、砦の攻略には相手の三倍の兵力が必要だと言われている。

 

「ざっと三倍近いさね」

 

が、どうにも普通が通用しない程に追い詰められているらしかった。

 

「圧倒的に不利じゃないか」

 

忍がそうぼやくと…

 

「貴様! 陛下に対して無礼だぞ!」

 

臣下の1人が忍の発言に噛み付く。

 

「事実を言ったまでだ」

 

「貴様ッ!」

 

武官らしい臣下の1人は自身の得物である大剣に手を伸ばそうとするが…

 

「やめんか!」

 

シルファーの怒鳴り声で武官はその手を止めた。

 

「忍、お前さんも言葉を選んでくれ。ただでさえ砦攻略ということでピリピリしてるんだから」

 

シルファーは呆れたような口調で忍を咎める。

 

「だから無謀だと言っている。どうやってその砦とやらを攻略するんだ?」

 

「それをこれから考えるんじゃないのさ」

 

忍の反論にシルファーはそう答えた。

 

「…………なら、一つ提案する」

 

その答えを聞き、忍は一つの決心をする。

 

「なんだい?」

 

「俺一人でその砦に潜入させてもらう」

 

それは大胆と無謀が紙一重の提案であった。

 

………

……

 

~フィロス帝国・帝都~

 

帝都の中心地にそびえ立つ城。

その謁見の間にて帝国を支配する現皇帝『ゼノライヤ・スペル・フィロス』に黒ローブが謁見していた。

 

「これがお前が献上するという新たなカラクリか?」

 

そう言ってゼノライヤは手に持った掌サイズの三角形の頂点にそれぞれ宝石を取り付けれるような装飾を施した独特な形状のエンブレムをいろんな角度から見る。

 

「えぇ…名は『シュトーム』。魔力石三つを原動力として別の姿へと変貌し、武装の位置によって名称が変わる代物です」

 

黒ローブがそう説明すると…

 

「そうか。では、誰かに使わせてみろ」

 

ゼノライヤは黒ローブに向けてエンブレムを投げつける。

 

「では、親衛隊か、精鋭クラスの1人に渡して実験してみましょうか?」

 

「そこまでのモノなのか?」

 

黒ローブの言葉にゼノライヤは挑発的な口調で尋ねる。

 

「それを確かめるのでしょう?」

 

「ふん…いいだろう」

 

その後、ゼノライヤと黒ローブは謁見の間を後にして城の訓練場に移していた。

 

「陛下」

 

訓練場に現れたのは漆黒の騎士甲冑を身に纏い、腰に2本の剣を帯刀した騎士であった。

 

「ギル。確か、親衛隊に新たに入った者がいたな?」

 

「………(コクリ)」

 

『ギル』と呼ばれた騎士が頷くのを確認すると、ゼノライヤは黒ローブに視線を投げつける。

 

「そいつにこれを試させてみろ。我が軍の新戦力になるかもしれない兵器だそうだ」

 

「必ず新戦力になると思いますが…」

 

苦笑でもするかのように黒ローブはギルにシュトームを手渡す。

 

「…………」

 

ギルもまた不審な眼差しで待機状態のシュトーム…つまりはエンブレム…と黒ローブを視線だけで交互に見る。

 

「モノは試しと言う言葉がありますよ?」

 

その言葉に(渋々)従い、ギルは新米の親衛隊員を呼び出すとシュトームを渡していた。

 

「えっと…これをどうすれば…?」

 

新米の親衛隊員は困惑した表情で隊長のギルを見るが…

 

「……………」

 

詳細を知らないギルは黒ローブに視線を向ける。

 

「では、まず魔力石を…属性はなんでもいいので三つ、エンブレムの頂点に付けてください」

 

「はぁ…」

 

黒ローブに言われる通りに親衛隊員は適当な属性の魔力石をエンブレムの頂点に装着させていった。

 

「そしたら、空中に放り投げながら"セットアップ"と告げてください。そうすれば、起動しますので…」

 

「「…………」」

 

ゼノライヤとギルは黙って事の成り行きを見ている。

 

「せ、セットアップ」

 

皇帝と親衛隊隊長に見られているということもあってか、少し緊張気味に親衛隊員はエンブレムを空へと放り投げると…

 

カッ!!

 

エンブレムが光り輝き、三つ球体へと分割され、空中にこの世界では馴染みのない機械で出来た鳥…戦闘機が三機出現した。

 

「ほぉ、これが…」

 

「………面妖な…」

 

ゼノライヤは興味津々に、ギルは警戒を強めて三機の戦闘機を見上げていた。

 

「な、なんだ!? 装飾品が変なモノになった?!」

 

そして、起動させた当の本人はあまりの出来事にその場に座り込んでしまった。

 

「変なモノとは失礼な。これはれっきとした兵器です。そうですね…簡単に言えば、飛竜隊やグリフォン部隊などが無くとも空を制圧出来る兵器と考えていただきたい」

 

黒ローブの言葉にゼノライヤは笑みを零し、ギルは眉を顰め、親衛隊員はギョッとしたような表情を浮かべていた。

 

「ふふふ…まぁ、覚えるよりも慣れろとも言いますし、早速それらを鎧のように装着していただきましょうか」

 

その後、黒ローブの指南によって新米親衛隊員はシュトーム戦闘における最初の被験し…もとい修得者となった。

 

そして、訓練場から場内に戻る途中での事…

 

「ギル。奴には単独任務を与える」

 

「……単独?」

 

ゼノライヤとの一歩後ろからついているギルはその言葉に疑問符を浮かべる。

 

「あぁ、イーサ王国の前線基地で小さいが妙な動きありと報告があってな。それを確かめさせるためにあいつを送り込む。もちろん、シュトームとやらの実戦テストも兼ねてな」

 

ゼノライヤの言葉に…

 

「……御意。すぐに…」

 

ギルは足を止めると、そう言い残してその場から逆戻りしていた。

 

「それと…」

 

ギルがその場から去ったのを確認してから一緒に移動していた黒ローブへと声を掛ける。

 

「はい。シュトームの件なら既に量産化を進めております。今回はざっと150機分を提供させていただきますよ」

 

黒ローブはそう言ってのける。

 

「随分と気前が良いな。何かあったか?」

 

予想よりも多い提供数にゼノライヤも少々驚いていた。

 

「はい。良い製作所を入手しましたので…近々、さらに提供させていただきますよ。それに機体自体は少し大掛かりですが、持ち運びには便利ですので…」

 

それはフロンティアのことを言っているのだろうが、黒ローブは肝心な部分をはぐらかしていた。

 

「なるほど。確かに起動させるまでは騎士甲冑にでも忍ばせておけるからな」

 

「はい。それに部隊によって機体は特定させておけば問題ないかと…」

 

「ならば、もう数百機は欲しいところだな」

 

「ふふふ…ご心配なく、次の健常児にはその倍近い数を用意しますよ」

 

「楽しみにしているぞ。それと…俺の"デバイス"とやらも完成させておけ」

 

「もちろんです。陛下に量産型を使わせる気は毛頭ありませんよ」

 

「期待している」

 

その会話の後、ゼノライヤは己の執務室へと入り、それを見届けた黒ローブは黒と蒼の混じり合った焔の転移陣でその場から消え去っていた。

 

だが…

 

「(腹の底では何を考えているのかわからんが…まぁいい。利用できる内は利用してやるさ。この戦争が終わるまでは、な…)」

 

執務室で仕事をするゼノライヤは内心でそう考えており…

 

「(ふふふ…流石はあの若さで皇帝に即位した方だけのことはあり、優秀ですね…)」

 

フロンティアへと帰還した黒ローブもまたゼノライヤの優秀さを称賛すると共に…

 

「(ですが、それ故に御しやすいですね。やはり若さと経験は重要と言うことですか…。ともあれ、この次元世界全体を巻き込んだ戦争が継続すれば、私の計画も案外早く軌道に乗るかもしれませんしね)」

 

ゼノライヤのことを完全に見下していた。

 

「(なにより、彼が絶望する姿をますます見たくなりましたよ……ふふふ…)」

 

そして、そう考えながら邪悪な笑みを浮かべていた。

 

皇帝と黒ローブの思惑は別のところでいがみ合っているようであった。

 

………

……

 

~地球・駒王学園~

 

フロンティア事変やディオドラとの一件から一週間と少し経った日の放課後。

 

「忍がいなくなってもう一週間近くも経っちまうのか…」

 

オカ研の部室でイッセーが片手腕立てをしながら独りごちる様に呟いていた。

 

「智鶴もあれからずっと塞ぎ込んでるみたいだし…」

 

とても他人事とは思えないらしく、リアスはこの一週間の間に何回か明幸組の屋敷へと訪問していたが、面会する余地がなかったのだ。

 

ちなみにこの一週間近い期間の間に体育祭も催されたのだが、それにも当然と言っていいのか欠席してしまっていた。

忍共々体調不良による長期休暇ということで何とか凌いでいるが、いつまでも続けるわけにもいかないだろう。

 

「今でも屋敷に滞在してるメンバーで彼女の様子を見ているんだろう?」

 

ゼノヴィアがそう口にした。

 

「えぇ…カーネリアはともかく、暗七さん、吹雪さん、フレイシアスさんが様子を見てくれてたかしら?」

 

ゼノヴィアの疑問に智鶴の様子を見てきたリアスがそう答える。

 

「早く見つかんねぇかな、忍の奴…」

 

友人を心配するのは当然と言える。

 

「彼を心配するのも大切だけど…私達にもやらなければならないことがあるのよ?」

 

「わかってます。俺達2年生が修学旅行に行く前に学園祭の出し物を決めないとですよね…」

 

リアスの言葉にイッセーはそう答える。

 

「それもありますけど、イッセー君には私とデートしていただきますわ」

 

が、そこに朱乃の言葉も重なる。

 

「(そうだった。ディオドラとの戦いの時にそんなこと言ったんだっけ…)」

 

あの時は小猫に半ば誘導される形で言わされたものの約束を無下に出来ないのがイッセーなので、いつまでも暗いことばかりを考えても仕方ないという朱乃の意見もあってイッセーと朱乃の休日デートが決まった。

 

当然ながら、そんなことを聞いて他の女性陣が殺気立たない訳がないのだが…。

 

………

……

 

~フィライト・イーサ王国領内~

 

イーサ王国の南西、フィロス帝国が占領し、敵の前線基地として機能している砦が見える崖に人影が三つ。

 

「何故、あなた達までついてくる?」

 

その一つは当然、作戦を立案した張本人である忍である。

しかし、この作戦は単独での潜入を目的としていたのだが…

 

「細かいことは気にするな。それとも、あたし達がいたら何か不都合でもあるのかい?」

 

「す、すみません…ですが、証人がいないと皆さん、納得しないと思いまして…」

 

残る二つの影はこの国の要とも言っていい女王シルファーと王女エルメスであった。

 

ちなみに砦の死角の崖に陣取り、さらには物陰に隠れるようにしながら3人は話しているので、見つかる心配は今のところない。

 

「そういう問題じゃない。言い出しといてなんだが、この作戦は危険なんだ。そんな作戦に何故、あなた達が…女王と王女が同伴するんだ?!」

 

シルファーの言葉に忍は思わず少し大きな声を出してしまった。

 

「あんま大声出すんじゃないよ。死角とは言え、何処に敵がいるのかわからないんだからね」

 

「くっ…」

 

正論を言われて忍は悔しそうだったが、すぐに平静を取り戻すと…

 

「それよりもなんでエルメスなんだ? 彼女は非戦闘員のはずだろう?」

 

そんな反論を口にしていた。

 

「こいつはあたしの娘だよ? 龍の血を半分受け継いでんだ。自分の身くらい自分で守れるさ」

 

「が、頑張ります…!」

 

「(果てしなく不安だ…!!)」

 

そんな親子のやり取りを見て忍はエルメスに危害が無いよう守り抜こうと心の中で決めた。

シルファーに関しては先の戦闘で龍の姿になっているのを見ており、その戦闘能力の高さを認識しているから問題ないと忍は判断しているが、一応は女王なので護衛対象には変わらないと内心で溜め息を吐いていたりする。

 

「で、具体的にはこれからどうすんだい?」

 

忍が提案したのは単独での砦への潜入と奪還であり、具体的な計画は信用されていないという自覚もあったので説明しなかったが、"必ず落とす"という条件で臣下達も頷いていた。

もっとも臣下達は"どうせ、無理だろう"、"逃げるか、敵に寝返るに決まっている"などと言いたい放題だったらしい。

そのため、監視役兼見届け人としてシルファー自らがその様子を見ると言い始めた。

しかし、それは当然ながら臣下達に却下される方向だったのだが、シルファーはエルメスを連れて無理矢理忍に同行したのだった。

 

「はぁ…もういいです」

 

忍は大きな溜め息を吐いた後、作戦概要を説明することにした。

 

「砦への潜入ですが…あの塀を登ろうと思っています」

 

そう言ってまずは周囲を隔てるように聳え立つ砦の城壁を指差す。

 

「アレでも一応は城壁並みの高さだよ? しかも身内のあたしから言わせれば、限りなく垂直さ」

 

そんなシルファーの言葉に…

 

「足場さえあれば問題ありませんから…」

 

忍はそう答える。

 

「あ、もしかしてあの時の…」

 

そこでエルメスは最初に忍が見せた魔法陣の上を跳ぶ姿を思い出す。

 

「そういうことです。魔法陣を足場にして迅速に砦の中に潜入します」

 

エルメスの反応に頷くと…

 

「なるほど。魔力持ちならではの方法って訳かい」

 

シルファーも合点がいったようだ。

 

「話を聞く限り、この世界の人間に魔力はないから感知される危険性は薄いと思っている。魔力の概念はあってもそれを探知する装置を個人単位で持ってるとは考えにくいしな…」

 

「だが、相手は帝国なんだよ? あまり油断もしない方がいいと思うよ」

 

忍の説明にシルファーが疑問と共に忠告を投げかける。

 

「それはわかっている。だからこそ迅速に…それこそ相手の探知よりも早く砦に潜入する必要があるからこそ単独での行動にしたかったんだ」

 

「なるほど。けど、来ちまったもんは仕方ないからね。あたしらも潜入するよ。それにアンタも内部に詳しいのがいれば安心だろ?」

 

忍の苦言もシルファーによって一蹴されてしまう。

 

「……わかった。確かに案内は必要か。元はこちら側の砦なのだし…」

 

「そういうこった」

 

不承不承といった感じで忍もシルファー達の同行を承諾した。

 

「で、潜入した後は?」

 

「頭を潰し、可能な限り敵兵を拘束する。せっかくの砦なんだ…血で汚すこともあるまい…」

 

シルファーの問いにそう答えながらチラリとエルメスを見た。

 

「…………」

 

ガシッ!

 

その視線に目聡く気付いたシルファーは忍の首をホールドする。

 

「あの、お母様?」

 

「悪ぃ、ちょいと借りてくな」

 

そう言い残して忍を引き摺るようにしてエルメスから距離を取ると…

 

「お前さん、エルメスと結婚する気はないか?」

 

いきなりそんなことを言い出す。

 

「………はっ?」

 

唐突過ぎて忍も間の抜けた返事をしてしまう。

 

「いやね。あの娘ってば、今年で17にもなったってのに男っ気が全然無くて困ってたんだよ。しかも今は戦時中で見合いの一つも出来やしない。しかもあの娘ってばあたしの後を追って反帝国戦力にはいる始末だし…そこら辺のバカな連中に渡すのも癪だし…」

 

娘想いの良い母親であるには違いないが…言ってることはなかなかに酷い。

 

「だからって何故、俺になる? しかも結婚が前提とか…」

 

言われた本人からしたら困惑するのは当然である。

 

「理由が必要かい?」

 

「当たり前だ。自分で言うのも嫌だが、どこの馬の骨ともわからない人間で、記憶もない。しかもアクエリアスの話では将来を誓い合った人までいるらしいんだぞ?」

 

「そいつは初耳だね。だが、まぁ…なくも無い話じゃないか…」

 

シルファーは忍の言葉を聞くと、そんな感想を抱いた。

 

「そうさね……アンタは…多分、エルメスぐらいの歳だろ? そのわりに落ち着いてるし、いざって時の度胸もある。戦いの心得も少なからずあって…顔もまぁまぁ良い部類だろうさ。それに眠ってる間、エルメスがお前さんの世話をずっとしてたし…なによりもこのあたしが許してんだ。だからエルメスをアンタの嫁さんにする。これはあたし的には決定事項だね」

 

忍が欲するだろう理由をシルファーなりに考え、そう伝える。

 

「おい…」

 

忍が何か言いたそうに声を掛けようとするが…

 

「ま、それはともかくアンタに想い人がいるのは手痛い部分だね。もうちょっとあの娘にも積極性があればねぇ…」

 

やれやれと言わんばかりに忍を解放するとエルメスのいる方へと戻っていった。

 

「なんなんだ、まったく…」

 

そう愚痴りつつ忍も戻る。

 

「お話は済んだのですか?」

 

戻った早々、エルメスが声を掛けてくる。

 

「あぁ、問題ないさね」

 

「………あぁ…」

 

シルファーの切り替えの早さに呆れながらも忍も軽く頷く。

 

「ここで待ってなくて大丈夫か?」

 

「はい。私も王女。覚悟は出来ています」

 

決意に満ちた眼差しでエルメスはそう答える。

 

「ボソッ(変なところで似ているな…)」

 

それを見て忍はぼそりと血は争えないと思った一言を呟く。

 

「はい?」

 

「なんでもない。行くぞ」

 

そして、作戦行動へと移るため、3人は崖から移動を始めた。

 

………

……

 

一方、フィロス帝国の前線基地と化した砦内部の司令室では…

 

「まさか、親衛隊の方が直々に来られるとは思いもよりませんでしたよ…」

 

「僕も驚いています。単独任務でこちらに飛ばされることになるとは…」

 

前線指揮官らしき老兵と親衛隊の騎士甲冑を身にい纏った若き騎士が話していた。

 

その親衛隊員とは、先日シュトームを受領した新米隊員であり、既に前線基地まで赴いていた。

これもまたテストの一環として巡航形態のシュトームで空からやって来たのである。

 

「しかし、驚きましたよ。面妖な機械の鳥でやってきたのですからな」

 

「申し訳ありません。ですが、アレは我が方の新戦力となると陛下直々に賜ったモノなのです」

 

「ほぉ、あの鳥が…一体どのような性能を…?」

 

老兵も親衛隊員の言葉に興味津々に尋ねると…

 

「それは…」

 

親衛隊員が答えようとした時だった。

 

バタバタ…!

 

「ほ、報告します!」

 

1人の兵士が慌ただしく司令室に駆け込んできた。

 

「何事だ?」

 

老指揮官が兵士を睨みながら問い質す。

 

「し、侵入者です!」

 

「侵入者? その程度、お前達で対処しろ」

 

老指揮官はそう断じるが…

 

「し、しかし! 侵入者はイーサ王国の女王と王女、それと先日の戦闘で現れたという男の3名でして…」

 

そのような兵士の報告を聞き…

 

「なんだと!?」

 

老指揮官は驚いた。

 

「女王自ら攻めてくるとは…いや、しかし…王女とその男も一緒とは…正気の沙汰とは思えない…」

 

老指揮官は頭を抱えていると…

 

「現在、侵入者3名は我が方の兵士を撃退しながらこの司令室へと進行中のこと!」

 

兵士からさらにそのような情報が持たされた。

 

「ちっ! 戦力を集中させろ! たかが3人、恐るるに足らずだ!」

 

そう言って老指揮官が兵士を向かわせようとしたら…

 

「僕も出ましょう」

 

親衛隊員も席を立っていた。

 

「新兵器の威力を持って敵を拘束し、その男とやらを倒す光景をご覧にいれますよ。陛下もきっとそれを望まれて僕をここに派遣したと思いますし…」

 

そう言って新米隊員は待機状態のシュトームに魔力石を装着しながら司令室から出ようとする。

 

「ならば、見せてもらおうか。その新兵器とやらの実力を…!」

 

その親衛隊員の背に向かって老指揮官はそう声を投げつけていた。

 

「言われずとも…」

 

そう短く答え、新米の親衛隊員は戦場へと赴くのだった。

 

………

……

 

「くそっ! 言ったそばから見つかるとは!」

 

「世の中、そう上手くはいかないもんだねぇ」

 

「のんびり言ってる場合か!」

 

砦の食堂を舞台に、敵兵を撃退しながら忍とシルファーが会話する。

 

何故、3人は見つかったのかというと…

 

「ご、ごめんなさい! 私が失敗したばかりに…」

 

エルメスが防御魔法を展開しながら謝っている。

 

そう、砦の城壁を魔法陣による足場形成で跳び登って侵入するまでは良かったのだが…。

忍とシルファーは見事な着地をしてみせたものの、エルメスは魔法陣から足を滑らせてしまい、忍がそれを助けるべく抱き抱えながら砦の一室に突入してしまった。

そこは砦の食堂であり、今まさに食事中の敵兵達に見つかってしまい、そこで忍は室内を凍結させて敵兵達を無力化。

しかし、ちょうど食堂に来たばかりの敵兵数名を逃してしまい、武装した敵兵が忍達を迎撃するために動き出して現在に至る。

 

「気にするな。誰にでも失敗くらいある」

 

「随分とエルメスには甘いんだね。あたしが失敗してもそう言うのかい?」

 

忍の言葉にシルファーはそう聞くと…

 

「その時は耄碌したと言ってやる」

 

「なにをぉ!?」

 

そんな会話をしながらもしっかりと敵兵を迎撃してるから余裕を感じる。

 

「しかし、室内での戦闘は苦手だ…」

 

「そりゃ、アンタが格闘技に慣れてないからだろうね。剣の太刀筋や魔法のキレは良いのにもったいない」

 

「……対策を考えておかないとな…」

 

シルファーの言葉に忍も悔しく思うも、その対策を練ることを考えていた。

 

「お母様、忍様…数が多過ぎます!」

 

「頭を潰したいところだったが…流石にこのままでは出てこんか…」

 

「どうすんのさ?」

 

次々と食堂に雪崩れ込んでくる敵兵達にエルメスとシルファーが忍にこれからの行動を尋ねる。

 

「シルファー女王、ここの司令室は?」

 

「そうさね。ここからなら…天井を打ち抜いて行けば……って、まさか?!」

 

忍の意図に気づき、シルファーは忍の方を見る。

 

「一気に叩く!」

 

そう叫ぶと共に忍は…

 

「ブリザード・ファング…」

 

中距離拡散砲撃を天井に向けて放つと同時に、拡散させた無数の砲撃が天井の一点に集まり始めていく。

 

「エクシードッ!!」

 

そして、収束された球体に向かい、忍は魔力を収束した右腕を叩き込む。

 

ドゴオオオオンッ!!

 

それと共に収束された球体から氷属性の収束型砲撃が一つの濁流と化して天井を突き破っていく。

 

 

 

天井を突き破る収束型砲撃は…

 

ゴゴゴゴゴゴ!!

 

震動と轟音を立てていき…

 

「な、なん………!!?」

 

司令室にした老指揮官を巻き込み、司令室自体を氷漬けにしてしまっていた。

 

 

 

司令室が凍り付いたのを匂いで感じたのか…

 

「よし…これで後は敵を薙ぎ払えば……って、あれ?」

 

忍が食堂へと眼を向けると、そこにはシルファーとエルメスが防御魔法を張っているだけであった。

収束型砲撃の余波なのか、凍てつかせた食堂を覆う氷がさらにその強度を増したようにも見える。

 

「なんなんだい、今の砲撃は…? あたし達の軽いブレスに近いかもしれないね」

 

「凄い…」

 

防御魔法の表面も軽く凍る程の砲撃をした後では誰も近づけないのだろう。

 

しかし…

 

「ちっ…この程度で逃げ出すとは…なにをしているんだ」

 

そこに司令室を出た新米の親衛隊員が現れる。

 

「お前は…?」

 

敵兵とは違う身なりと雰囲気に忍も警戒を高める。

 

「僕はゼノライヤ皇帝陛下に仕える親衛隊の一員だ。君が噂の男か…」

 

そう言って親衛隊員は忍に敵意を向けている。

 

「どんな噂か知らないが、やるというなら相手になる」

 

「ならば、ちょうどいい。我が軍の新兵器、その最初の犠牲者にしてやる!!」

 

そう言うや否や親衛隊員は待機状態のシュトームを忍に向けた。

 

「それは…?!」

 

「セットアップ!」

 

前方に放ると共にエンブレムがその姿を3機の戦闘機へと変貌する。

 

「帝国の新兵器か!?」

 

「機械の鳥!?」

 

「デバイスか!?」

 

シュトームの存在に忍達3人も驚く。

 

「(これの存在を知っているのか? まぁいいさ。倒してしまえば同じこと!)」

 

そんな考えをしながら親衛隊員は3機の戦闘機に指示を出す。

 

「シュトーム、モード・ベータ!」

 

親衛隊員の言葉を聞き…

 

バキンッ!

ガシャンッ!

 

3機の戦闘機はバラバラとなりて親衛隊員の体に鎧状にして装着されていき、武装もまた各部位に装着していく。

 

「(狼夜伯父さんの使っていたモノと同系統か?!)」

 

そう思い、無意識の内にポケットに手を伸ばしていた。

 

『(これで確信出来た。アレは我々のデータを基に開発されたものだ。そして、コアドライブの代わりに魔力石を使っている)』

 

そんな中、シュトームの存在によってアクエリアスは確信を得ていた。

 

『我が主よ。"彼ら"を目覚めさせるにはやはり魔力石が必要だと確信しました』

 

アクエリアスはその結論を忍へと報告する。

 

「そうか。なら、今は目の前の敵を倒す!」

 

そう言ってシルファーとエルメスを巻き込まないように食堂から出ようと後退しながら…

 

「アクエリアス、セットアップ!」

 

ネクサスのバリアジャケットの上にアクエリアスを装着する。

 

バゴォンッ!!

 

装着すると共に凍り付いた壁を突き破って外に出る。

 

「逃がすか!」

 

親衛隊員が背部の機械翼を広げて忍を追う。

 

「ブリザード・ファング!」

 

後退しながら中距離拡散砲撃を放つ。

 

「無駄だ!」

 

ヘッドギアからHMDがバイザー状に現れて親衛隊員の目元を覆い、忍の放ったブリザード・ファングの弾道を予測してその弾幕を回避する。

 

「なに?!」

 

まさか、全部回避されるとは思ってもみなかった忍も驚きを隠せずにいた。

 

「魔力石を持たずして魔法行使! 貴様、人間ではないな!」

 

そう言って機械翼を鞘代わりにして収納されていた片刃の大剣を片方引き抜き、忍に斬りかかる。

 

「人が少なからず気にしてることを…!!」

 

その斬撃をファルゼンで受け止めながら忍はそう返す。

 

「(気にする…? 俺が? いつから…?)」

 

だが、咄嗟に言った一言に忍自身が困惑してしまっていた。

 

「僕を目の前に余所見とは良い度胸だ!」

 

そう叫ぶと共に腰部左右で折り畳まれていた砲身が忍に向けて伸び…

 

「くらえ!」

 

チュドンッ!!

 

至近距離で収束された高威力の砲撃が炸裂する。

 

「ぐぁっ!!?」

 

アクエリアスに守られているとは言え、ファルゼンで大剣を受け止めて懐ががら空きになっていた忍はまともにくらってしまう。

 

「忍!」

 

「忍様!?」

 

穴の開いた壁からシルファーとエルメスが顔を出す。

 

「女王陛下と王女様はそこで見ていただきます! モード・ガンマ!」

 

バキンッ!

 

武装の位置が変更されてシュトームの仕様が近接戦から砲撃戦となる。

 

「照準セット! 舞え、星屑よ!」

 

ズドドドドド!!

 

親衛隊員の言葉をキーに両肩に装備された機械翼から無数の魔力レーザーがミサイルのようにシルファーとエルメスへと降り注ぐ。

 

「ちっ!」

 

「っ!?」

 

2人が防御魔法を張る前に…

 

「アクアボール・バリアシフト!」

 

バスケットボール並みの大きさをした水の球体が2人の元へと飛来し、バリア状に展開されて魔力レーザーを防ぎ切る。

 

「ふんっ…そんなに死に急ぎたいのか?」

 

そう言って親衛隊員は水の球体の飛来した方角を見る。

 

「悪いが、死ぬつもりは毛頭ない」

 

そう言う忍の姿は銀狼へと変貌していた。

 

「なんだ、その姿は? 犬か何かか?」

 

親衛隊員の言葉に…

 

ピキッ!

 

「俺は狼だ!」

 

そう叫ぶと共に忍は激昂しながら高速移動を開始する。

 

「っ?! 速い!」

 

HMDから全方位に対しての警告音が鳴り響く。

 

「狼影斬ッ!」

 

その警告音の通り、全方位からの斬撃かと錯覚させるスピードによる斬撃が親衛隊員を襲い掛かる。

 

「ぐぅっ!?」

 

シュトームの装甲にはファルゼンの刃による傷が少し付いただけで大したダメージにはなっていないようだ。

だが、斬撃の衝撃は確かに親衛隊員の体にダメージを与えていた。

 

「(くっ…速さだけじゃダメか!)」

 

それでも忍はその結果に満足していないようであった。

 

「(何が足りない…俺には、何が…!!)」

 

忍が高速移動しながら考えていると…

 

「これしきの事でぇ!! モード・アルファ!!」

 

バキンッ!

ガシャンッ!

 

再度、武装の位置が変わりその性能が変化する。

近接特化でも、砲撃特化でもない…万能形態へと…。

 

「いくら速かろうと、動きさえ予測できれば対応出来る!」

 

両足側面に配置変えされた魔力収束キャノンと魔力レーザー装備からほぼ全方位に向けて砲撃と魔力レーザーが照射される。

 

「くっ!? 見境無しか!?」

 

その砲撃に忍も思わず足を止めて防御を固めてしまった。

 

「そこか!」

 

腰部から二挺のライフルを取り外すと、右側のライフルを前にして前後連結させて忍へとその銃口を向ける。

 

「ガンマ・バーストショット!!」

 

ギュオオオオッ!!

 

一点に集中された重火器からの収束砲撃が両足側面の砲身から放たれる砲撃と共に忍へと向かう。

 

「っ!?」

 

『ストリームオーラ、最大稼働!』

 

ドゴオオンッ!!

 

ストリームオーラによって砲撃の威力を軽減することに成功したものの、収束砲撃は忍へと直撃してしまう。

 

「ぐわあああぁぁぁぁっ!?」

 

予想以上の威力に忍は城壁に背中から衝突し、一瞬だけ意識を手放してしまう。

 

 

 

その刹那の時間のこと…。

 

『速度の銀と力の黒…それを合わせろ。そうすれば、お前は…』

 

フィライトに来てから一週間後に見た深層世界の中での出来事…その中で言い放っていた狼夜の言葉が蘇っていた。

 

「(速度の銀は、銀狼…なら力の黒とは…?)」

 

そんなことを考えていると…

 

『何年振りだろうな…俺、本来の力を解放したのはよッ!!』

 

フラッシュバックするように邪狼との戦闘で見た、忍の銀狼に似た黒き狼の姿をした邪狼の姿を思い出す。

 

「(力の黒とは…アレ? だが、どうやって…)」

 

そして、再び深層世界での狼夜の言葉と、現実世界で狼夜の遺体の前でシルファーから告げられた言葉で思い出す。

 

『仕方ねぇから俺の右目をくれてやったのさ』

 

『その邪狼とか言う奴は…見つけた時には既に息絶えてたよ。で、奇跡的に無事だったそいつの右目をアンタの潰れてた右目に移植したのさ』

 

狼夜から託された…右目の存在を…。

 

「(右目…?)」

 

狼夜の右目…琥珀の瞳を持った、新たな右目…。

 

「(そうか。銀も黒も元は同じ…その血を俺は宿している。そして、銀は体が覚えていて、黒も右目が覚えてるはず……なら、俺の中の黒の血を呼び覚ますことで銀と黒が混ざり合う…)」

 

そこまで考え、忍の意識は刹那の時間から現実へと帰還する。

 

 

 

「忍様!!」

 

「っ!?」

 

エルメスの声と共に正気に戻った忍は目の前に迫る片刃の大剣の切っ先から顔を逸らして避ける。

 

「ほぉ、アレを避けますか。流石の反応速度ですが、もうあなたは詰んでいますよ?」

 

そう言う親衛隊員の言葉通りに忍の首元には刃の備わった左腕が突き付けられていた。

 

「あの一瞬でここまで迫るとは…恐ろしい性能のデバイスだな…」

 

そう言って忍は親衛隊員を睨む。

 

「真に素晴らしきはこのシュトームの性能をここまで引き出した僕の実力ですが、ね!」

 

親衛隊員はその言葉と共に右手に保持する片刃の大剣と左腕を鋏を分解するような動作で引き抜こうとする。

 

「っ!!」

 

ギィィンッ!!

 

その瞬間、忍は自分の顔面ギリギリにファルゼンの刀身を迫り出させると引き抜く際の斬撃を防ぐ。

 

ドンッ!!

 

それと同時に忍は親衛隊員の腹部を蹴って距離を開ける。

 

「くっ…! 悪足掻きを!!」

 

親衛隊員が忍の方を見ると…

 

「…………」

 

忍は眼を閉じて精神統一をしていた。

 

「はっ、遂に観念したか?」

 

親衛隊員はそう言いながら少しずつ忍に近付いていくが…

 

「(違う。忍の体に色んなもんが渦巻いてる…!)」

 

「(忍様…一体何を…?)」

 

シルファーとエルメスは感じていた、忍の中から目覚めようとする"何か"の存在を…。

 

「(真なる狼…俺はそれが何なのかわからない。だが…)」

 

ド………ク………ンッ………

 

徐々にだが、忍の鼓動が脈動となりて周囲に鳴り響く。

 

「何かは知らないが、無防備とは良い度胸だ!」

 

しかし、そんなことを気にしない親衛隊員は忍の目の前までやってくると…

 

「そのまま果てろ!!」

 

上段に構えた片刃の大剣を一気に振り下ろそうとした。

 

「(託された力を使い、俺は…守ってみせる…!)」

 

カッ!!

 

忍の目が再び開いた時…

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

膨大な魔力、気、霊力、妖力が忍から放たれ、忍を中心にして黒が混ざったような白銀の柱が空へと立ち昇る。

 

「うぉっ!?」

 

その余波によって親衛隊員が吹き飛んでしまう。

 

その光の柱の中で…

 

「(そうだ…俺には、帰るべき場所がある。俺の帰りを待ってる人達が…いるんだ!!!)」

 

ドクンッ!!!

 

一際大きな鼓動の脈動音は…彼の体内に眠る王の駒を通して次元の壁を超える。

 

………

……

 

~地球・明幸邸~

 

それは突然の事だった。

居間に集結していた智鶴以外の眷属達。

 

ドクンッ!!!

 

「「「「「「「ッ!?!?!?」」」」」」」

 

突如として紅神眷属の全員が、その身に宿した眷属の駒から力強い鼓動を感じたのだった。

 

「今のは…?」

 

「確かに感じました…」

 

「眷族の駒が…反応したってことは…」

 

「そういうことよね」

 

「だろうぜ」

 

「なら…やっぱり!」

 

「えぇ…」

 

萌莉、シア、吹雪、暗七、クリス、フェイト、カーネリアの順に反応を示していると…

 

ダッダッダッダッダッ!!

 

廊下を走る音が聞こえ…

 

「しぃ君は…生きてる!!!」

 

居間に飛び込んできた智鶴はそう叫んでいた。

その姿はやつれており、身なりもボロボロであり、とても人前に出すような状態ではなかった。

 

「そんな格好で坊やと会う気?」

 

クスリと笑うカーネリアが茶化すように微笑む。

 

「そんなことはどうでもいいの! しぃ君が…しぃ君が…!!」

 

「お、落ち着いて、ください…?!」

 

そんな智鶴を抑えようと萌莉が奮闘する。

 

「ったく、忍の事になるとこれかよ」

 

「けど…けど、安心しました…」

 

クリスの言葉を肯定しながらシアも涙を流していた。

 

「問題は何処にいるかよね」

 

「私が何とか捜してきます!」

 

吹雪の言葉にフェイトが身を乗り出す。

 

「職権乱用じゃないかしら?」

 

「緊急時ですから。それに彼にはちゃんとしたお礼もまだしてないって人がいますし…」

 

暗七の忠告にフェイトはある人物を思い浮かべていた。

 

「だから、その人と協力して捜してきます」

 

「そ、じゃあ、そっちはよろしく。こっちはこっちで何とかするから…」

 

カーネリアはフェイトに忍捜しを押し付けて智鶴の方を見る。

 

「私もお手伝いします…!」

 

そう言ってシアもフェイトに同行することになった。

この中ではフェイトの次に多次元世界に対しての知識がある人物だろうからと言う理由もある。

 

………

……

 

~フィライト・イーサ王国南西部~

 

忍の姿が銀狼からさらに変化していた。

変化と言っても髪の色と、狼の耳と尻尾の毛並みが白銀から黒の混ざった白銀色へと変わっただけだ。

瞳は右は琥珀、左は真紅という特に変わった様子はなかったが、瞳孔は縦に鋭くなっている。

 

「これが…真なる狼…」

 

自らに起きた変化を体で感じながら忍はファルゼンを横薙ぎに一振りする。

 

バリンッ!

 

すると空に立ち昇っていた光の柱が砕け散り、粒子状となって周囲一帯に粉雪の如く舞い散っていた。

 

「綺麗…」

 

その光景を見てエルメスは素直にそう呟いていた。

 

「これが忍の本来の力か…?」

 

忍から溢れる波動を肌で感じたシルファーは鋭い目付きで忍を見る。

 

「くっ…たかだか色が変色したくらいで!」

 

ズドドドドド!!

 

前後連結した火器を分離させると左手のライフルで忍を狙い撃つ。

 

だが…

 

「……………」

 

忍は理力の型による数秒先の未来予知と魔力の匂いを頼りにライフルの魔力弾を最小限の動きで回避しながら親衛隊員へと近づいていく。

 

「何故だ?! 何故、当たらない!?」

 

その事実に親衛隊員は酷く狼狽していた。

 

「黒影斬ッ!」

 

そんなことは気にせず、忍は黒く染まった魔力斬撃を親衛隊員へと放つ。

 

「くっ!?」

 

親衛隊員はそれを回避するが…

 

「悪いが、これで終わりにさせてもらう!」

 

ブンッ!!

 

忍の姿がその場から消える。

 

「消えた!?」

 

親衛隊員が周囲を見回すもHMDには『Lost』という文字が表示されるだけだった。

 

「違う。ありゃ、高速移動してんだ!」

 

「お母様には見えるのですか?」

 

「いんや、見えん」

 

「えぇ?!」

 

「だが、あいつのこれまでの行動から考えたら…」

 

そんなエルメスの疑問にシルファーはそう結論付ける。

 

「バカな! そんなことがあり得るはず…」

 

「あるんだな、これが…」

 

そう言って親衛隊員の背後に忍が背中向きで現れる。

 

「貴様!? いつの間に…」

 

親衛隊員が驚きながらも忍を後ろから斬りかかろうとしたら…

 

「お前はもう…終わってる。狼影斬の強化系、『瞬狼斬』によって…」

 

ズシャアッ!!

ブシャアアアッ!!

 

その言葉と共に親衛隊員の腕から血が噴き出す。

 

「がああぁぁぁっ!!??」

 

それを合図にしてか、親衛隊員の体中から次々と斬り傷が現れて血を噴き出す。

 

「ぼ、僕が…こんなところでぇぇ…!!!」

 

最後の足掻きとばかりに片刃の大剣を振り下ろすが…

 

「……じゃあな」

 

斬ッ!!

 

親衛隊員が振り下ろす前に忍が振り向き様にファルゼンによる一閃を叩き込む。

 

「ぐわあああああっ!?!?!?」

 

それを最後に親衛隊員は後ろ向きにして血の海に倒れ込む。

 

「…………」

 

親衛隊員が倒れた後、待機状態へと戻ったシュトームを忍は回収する。

しかし、その表情は晴れやかというよりも曇っていた。

 

「戦争だとしても…また、人を殺したか…」

 

そう静かに呟く忍だった。

 

「(ありゃ、1人で溜め込むタイプかね…)」

 

そんな忍の様子を見てシルファーは忍の危うさを感じ取っていた。

 

 

 

その後、砦はイーサ王国側に取り戻すことに成功した。

 

この結果に臣下達は驚きと共に畏怖の感情を忍に向けていた。

シルファーとエルメスが勝手について行ったとは言え、ほぼ1人で作戦を成功させてしまったのだから無理もない。

 

そして、忍は新たな力…いや、本来の力とも言える力を引き出すと共に自らの記憶を思い出していた。

思い出したはいいのだが…智鶴が病んでないか…既に病んでる気もするが…。

それが気がかりでならなかったという…。

 

ともかく、この勝利を手にイーサ王国の反撃が始まろうとしていた。



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第三十五話『再会と帰還と決断』

~地球・駒王学園~

 

忍の生存が眷属の駒から伝わってきた翌日に智鶴は登校していた。

 

「智鶴!? もう大丈夫なの?」

 

智鶴が登校したことにクラスメイトのリアスも驚いていた。

 

「えぇ…まだ、ちょっと本調子まではないけど…いつまでも学園を休んでもいられないから…」

 

身なりはしっかりとしてるもののこの一週間でだいぶほっそりとしてしまったような気さえする。

 

「そんな状態で体が持つの?」

 

同じくクラスメイトの朱乃も心配そうに智鶴を見る。

 

「平気よ。大丈夫だから」

 

そして、2人は思う。

 

「「(智鶴が復活したということは紅神君の方に何か進展があった? しかも良い方向で…)」」

 

智鶴が復活した=忍の無事が確認された可能性が高い、というだろうと…。

凄いのか酷いのかわからない認識の仕方をされているが、事実はその通りなのであるから否定しようも無いが…。

 

「ともかく、大丈夫ならこっちもひと安心よ」

 

「はい、これ。智鶴がいない間のノートですわ」

 

「ありがとう、リアスちゃん、朱乃ちゃん」

 

そう言って朱乃からノートを受け取る。

 

が…

 

「『イッセー君とのデート計画』?」

 

ノートの表紙にはそう記されていたため、智鶴も小首を傾げてしまった。

 

「あら、間違えましたわ。こっちです」

 

スッと智鶴の持つノートと別のノートをすり替える。

 

「朱乃? 参考までに聞いておきたいんだけど…」

 

心なしか滅びの魔力が滲み出そうな雰囲気のリアスが朱乃に問うた。

 

「なんでしょうか? "部長"」

 

クラスメイト達の手前、朱乃はニコニコした笑顔のままだった。

 

「この件は…放課後にでも話しましょうか」

 

「はい、部長」

 

リアスと朱乃の視線が重なると微かに火花が散り、背後に龍虎の幻影が見えそうだった。

ちなみにリアスが虎で、朱乃が龍だったりする。

 

「あらあら…」

 

そんな2人の様子を困ったような笑みで見つめる智鶴であった。

 

………

……

 

~ヴェル・セイバレス艦内~

 

現在、次元航行中のヴェル・セイバレスはフェイトやシアの内部にある眷属の駒の反応を頼りに航海している途中であった。

 

忍の生存が判明した後、フェイトはまず衛星軌道上で待機していたヴェル・セイバレスに向かい、ゼーラにセイバレスによる次元航行と、同乗の許可を得ようとした。

そこにシアも加わり、多次元世界での人探しに協力を仰いでみた。

 

普通、真っ当な人間ならば、駒から感じる波動を頼りにした人探しなど手伝うはずもない。

いくら執務官権限でも職権乱用に繋がるからだ。

 

だが…思いの外、ゼーラを説得するのは簡単であった。

何故ならゼーラは以前に一回忍と会っており、その青年がどのような変貌を見せたのか気になったからである。

それに規則違反は今に始まったことでもないので、何回重ねようと気にした様子もなく、艦を動かしたのだった。

そして、あわよくば忍をスカウトして特務隊の質を底上げしたいとも考えているらしい。

 

そんなゼーラの思惑とは別に、1人の騎士がフェイトとシアを艦内の休憩室に呼び出していた。

 

「で、あいつは見つかりそうなの?」

 

その騎士は休憩室のソファーに座りながらそう尋ねた。

この人物こそ、フロンティア事変での対邪狼戦闘時に忍やフェイトと共闘した騎士…朝陽である。

 

「多分……いえ、きっと見つけてみます」

 

珍しく強い口調でシアが朝陽の問いに答える。

 

「うん。彼との繋がりは確かにまだあるんだから、きっと見つけられるよ」

 

シアの言葉にフェイトも頷く。

 

「一体、どんな根拠があるんだか…」

 

朝陽は朝陽で怪しそうな視線を2人に向ける。

 

「それにしても執務官殿は仕事は良いの? この件以外にも色々とあると思うんだけど…」

 

「そ、それは…確かに私一人だと大変ですけど…地球には少なからず縁があるし、その地球が大変なことになってるなら出来るだけ穏便に済ませるのが一番なのよ」

 

朝陽の鋭い指摘にフェイトは少し表情が引き攣っているようにも見えるが、そう答えていた。

心なしか、自分に言い聞かせるようにも聞こえるが…。

 

「はっ、物は言い様よね。まぁいいわ。とにかく、あいつをちゃんと見つけなさいよ。こちとら文句の一つも言えやしてないんだから…!」

 

何故か不機嫌な朝陽は言うだけ言って休憩室から出ていってしまう。

 

「なんだったのでしょうか?」

 

「さ、さぁ…?」

 

残された2人はが互いに顔を見合わせて首を傾げていると…

 

「「フェイトちゃ~ん」」

 

朝陽と入れ替わるようにして新たに2名ほどの人物が休憩室に入ってきた。

 

「え…? シャーリーに…なのは?!」

 

それはフェイトの無二の親友の1人『高町 なのは』と、フェイトの執務官補佐『シャリオ・フィニーノ』だった。

 

「な、なんで2人がここに…?」

 

2人の存在にフェイトは驚いているが…

 

「それはこっちの台詞だよ~」

 

「フェイトちゃん、最近局の方で見ないと思って…それで最近の行動をユーノ君やクロノ君に聞いてみたの」

 

それはなのはやシャーリーも同じであったようだ。

 

「(そういえば、前にエクセンシェダーデバイスについて聞いたっけ…)」

 

エクセンシェダーデバイスについては資料がほとんど無かったな、というのが印象的だった。

 

「それでそれで? フェイトちゃんの彼氏君てどんな人なの?」

 

そう言ってキョロキョロと辺りを見回す。

 

「か、かかか、彼氏って!? べ、別に忍君はそういう、あれじゃ…////」

 

「うわぁ…フェイトちゃんが動揺してる」

 

フェイトの動揺の仕方になのはもビックリしている。

 

「うぅ…なのはまでぇ~////」

 

「あの…フェイトさん、こちらは?」

 

フェイトと話してる2人についてシアが尋ねると…

 

「あ、ごめん。こっちは私の親友の高町 なのはと、私の補佐のシャリオ・フィノーニ。なのは、シャーリー、この人は…」

 

「初めまして、私がシャリオ・フィノーニ。気軽にシャーリーって呼んでね♪」

 

フェイトがシアを紹介する前にシャーリーがシアの手を取って自己紹介していた。

 

「私は高町 なのはです。えっと…」

 

シャーリーの勢いに苦笑しながらもなのはも自己紹介した。

 

「あ、私は神宮寺 フレイシアスです。名前が長いので、どうぞ『シア』と呼んでください」

 

互いの自己紹介が終わると…

 

「フェイトさんとは、共に忍さんの僧侶となっております」

 

即行でシアが僧侶の事を打ち明けた。

 

「「僧侶?」」

 

シアの発した『僧侶』という単語になのはとシャーリーは同時に首を傾げる。

 

「え~っと…何から説明したらいいのか…」

 

フェイトが説明に困っていると…

 

トクンッ…!

 

「「っ!」」

 

微かに駒の反応が強くなったような気がして2人は互いの顔を見合わせる。

 

「フェイトさん!」

 

「うん!」

 

2人は急いでブリッジへと駆け出す。

 

「ちょ、フェイトちゃ~ん!?」

 

それを追うようにしてなのはとシャーリーもブリッジへと向かう。

 

 

 

ヴェル・セイバレスはフィライトの存在する次元世界の衛星軌道上へと出ていた。

 

「ほぉ、この次元世界にいるのか?」

 

「はい」

 

艦長席に座るゼーラの問いにフェイトが頷く。

 

「しかし、この次元世界は未だ我々の手が行き届いていない宙域でもある。無用な争いを避けるため、艦は衛星軌道上で待機する。捜すなら降りる必要があるが…」

 

「構いません。忍君は先の邪狼討伐戦で多大な貢献をした人物です。その人がいるのなら捜すべきです」

 

「ふ、フェイトちゃん…」

 

執務官とは言え、相手は准将…親友が物動じしない対応になのはも驚きの連発であった。

 

「若いな…」

 

ゼーラはフェイトの言葉を一蹴するが…

 

「こちらからは流星を出す。あいつも何か言いたそうだったからな…」

 

そう言ってゼーラは朝陽へとフェイト達への同行するようにとの指示を簡素だが、正式な指令書として朝陽へと送っていた。

 

「先ほども言ったが、ここは我々にとって未開の地だ。くれぐれも穏便に事を進めるように」

 

そんなゼーラの言葉に…

 

「ありがとうございます!」

 

フェイトがお礼を言って即座に転移装置のある部屋へと向かった。

 

「失礼しました」

 

シアもゼーラに一礼してからフェイトの後を追う。

 

「流れ的に私達も行かないとかな?」

 

「なのはちゃんは行けるけど、私はほら…裏方専門だし…」

 

ブリッジに残ったなのはとシャーリーがそんな会話をしていると…

 

「………通信確保用に一部屋使っても構わん。ついでだから"勝手に調査もしても仕方ない"が…」

 

これは"せっかく未開の地に来たのだから調査の一つもして来い"というゼーラの命令だろう。

これ以上、命令違反をしたら特務隊もそろそろ解散させられる可能性も高いから…(もう手遅れかもしれないが…)。

 

「…わ、わかりました。捜索のついでに情報収集もしてきます」

 

ゼーラが苦手なのか、なのはがぎこちなく答える。

 

「あくまでも"勝手に"、だぞ?」

 

「そんな念を押されなくても勝手にしますって」

 

ゼーラの一言にシャーリーが軽い感じで受け答えした後、2人もブリッジから転移室へと向かった。

 

「…………アザゼル。俺だ」

 

なのは達も去った後、ゼーラはアザゼルへと通信を送っていた。

 

 

 

そして、転移室では…

 

「で、一体何処に転移しようっての?」

 

先に来ていた朝陽が軌道上から読み取った地表の地形データを見ながらフェイト達に尋ねる。

 

「ちょっと待ってください」

 

シアが一歩前に出て地形データに手を翳す。

 

「…………」

 

それから眼を閉じて手に意識を集中させること数十秒…。

 

「ここです。きっと、ここに忍さんがいます」

 

シアが指示したのは東北の大陸、その南西部に位置するイーサ王国の対フィロス帝国前線基地であり、忍が取り戻したあの砦に近しい場所であった。

 

「私はこっちでバックアップしてるから、皆気をつけてね」

 

シャーリーが転移位置の座標を装置に入力しながらフェイト達を見送る。

 

「じゃ、さっさと行くわよ」

 

一足に転移装置の上に立つ朝陽と、それに続くようにフェイト、シア、なのはの順に装置に登る。

 

「いいよ、シャーリー」

 

「お願いします」

 

「はいはい、ほんじゃま転移開始っと」

 

フェイトとシアの言葉を合図に転移装置の魔法陣が起動し、4人をフィライトの地へと転移していった。

 

………

……

 

~フィライト・イーサ王国南西部~

 

再びイーサ王国の前線基地の拠点として機能している砦では…

 

「ほい、アンタにはこれをやるよ」

 

司令室でシルファーが忍に一冊の本を手渡していた。

 

「これは…?」

 

忍がペラペラとページをめくってみるが、全く読めない。

 

「古代に伝わってた体術を記したっていう古文書らしいけど…あたしら以外に魔力を持った人間もいなかったしね…」

 

なんだか忘れてた記憶を思い出すような口調で言う。

 

「つまり、この世界の人間にとっては無用の長物だと?」

 

そんな忍に疑問に…

 

「まぁ、そうなるさね」

 

シルファーも頷いた。

 

「しかし、とても読めるようなものではないが?」

 

ざっと見た忍はそんな素直な感想を抱いた。

 

「あぁ。実際、翻訳しようにもこの世界の文字じゃないっぽいんだよね。だからこの世界の古い文字で解読しようにも無理でね」

 

しかもシルファーは臆面もなくそう言い放つ。

 

「おい…じゃあ、なんでそんなことを知ってるんだ?」

 

シルファーの言葉に忍は不安を覚えてそう聞かずにはいられなかった。

 

「あん? そんなのその本に絵が描いてあるからそれを元に昔の学者共が推測したんだろ。それが今に伝わったってだけだろうさ」

 

我存ぜぬと言いたいばかりにシルファーはそう答えた。

というか、なんてアバウト且つ適当な答えだろうか…。

 

「そんなものを俺に渡すな!」

 

いっそ投げ捨ててやろうかとも思う忍だった。

 

「おいおい、そいつは一応王都の宮殿から取り寄せた大事な資料なんだからぞんざいに扱うなよ」

 

「ぐぬ…」

 

それを聞いて投げ捨てるのを止めた。

 

「とにかく、アンタに預けるから好きに活用しな。ま、活用できればの話だけどね」

 

なんとも言えない言葉を聞いた後のことだった。

 

「へ、陛下!」

 

1人の兵士が司令室に駆け込んできた。

 

「何事だい!」

 

「侵入者です!」

 

その報告にシルファーも忍も警戒を高める。

 

「なんだって!? 数は!」

 

「4人です! しかも女性だけの編成でして…」

 

「ったく、一体何処のもんだい? 侵入経路は?」

 

シルファーが兵に尋ねると…

 

「それが、不明でして…」

 

「不明? どういうこったい?」

 

「それが…侵入者を発見した兵の言葉を借りれば…突然、現れたとしか…」

 

突然現れたという単語に引っ掛かりを覚えるシルファーと忍だったが、忍が匂いによる索敵を行うと…

 

「(この匂いは…まさか…!)」

 

覚えのある匂いを感じた忍は司令室から飛び出すように出ていく。

 

「あ、おい! しの……」

 

あまりの速さにシルファーの声は忍には届かなかった。

 

「あいつの速度は尋常じゃないねぇ…」

 

忍の速度にしばし唖然とするシルファーだった。

 

 

 

一方、砦内の訓練場では…

 

「ったく、来て早々になんだっていうのよ」

 

そう言う朝陽が既にデバイスを展開して臨戦態勢に移行していた。

要は場所が場所だけに朝陽達は武装した兵達に囲まれてしまっているのだ。

 

「あの、出来るだけ穏便に…」

 

「刺激するような真似は避けた方がいいんじゃないかな?」

 

「戦時中だったんでしょうか? かなり空気がピリピリしているような…」

 

フェイトとなのはが朝陽を止めようと声を掛ける。

シアはシアで周辺に漂う戦の空気を感じ取っていた。

 

「貴様ら! 一体何者で、何処から来た!」

 

1人の兵士がフェイト達に向かって問い質す。

 

「(ここは管理外世界…下手に情報を開示して混乱させても…)」

 

フェイトがこの状況をどうするか考えていると…

 

「全員、武器を降ろせ!」

 

その場になのは以外の3人にとっては懐かしい声が響いた。

 

「紅神隊長! しかし!」

 

兵士達が道を開けながらその人物に抗議しようとする。

 

「大丈夫、俺の知り合いだ」

 

が、その人物は警戒もせず、フェイト達の前へと出る。

 

「あと、いつから俺は隊長になったんだ? まったく…」

 

困った様に頭を掻きながら改めてフェイト達を見ると…

 

「久し振り、でいいのか? フェイト、シア」

 

そこには右目に傷を負い、瞳が琥珀に変わっている以外は何処も変わっていない『紅神 忍』がいた。

 

「忍君!」

 

「忍さん!」

 

フェイトとシアの2人は忍へと勢いよく抱き着いていた。

 

「おっと…」

 

それを忍はしっかりと受け止めると…

 

「朝陽も来てたのか」

 

朝陽の方に視線を向けた。

 

「アンタに文句も言えてなかったからね。それを言いに来ただけよ」

 

そう言って朝陽はふんっ、とそっぽを向く。

 

「う~ん…なんだか違和感が…」

 

知り合いに異性同名の人がいるだけになのははちょっとした違和感に襲われていた。

 

「彼女は?」

 

見知らぬ人物の存在に首を傾げながら忍はフェイトとシアに尋ねる。

 

「あ、私の親友の1人で、高町 なのはって言うの。なのは、彼は…」

 

「(親友、か…そういえば、あいつは元気かな?)」

 

フェイトの"親友"という言葉に忍は古い記憶を呼び起こしていた。

 

「忍さん?」

 

「あぁ、すまない」

 

シアに声を掛けられて意識を現実に戻す。

 

「初めまして、紅神 忍です」

 

「あ、こちらこそ初めまして、高町 なのはです」

 

初対面同士、自己紹介をしていると…

 

「あの、紅神隊長? 私達はどうしたら?」

 

「訓練に戻ってろよ。あと、そのまま走り込んどけ!」

 

「はっ!」

 

その受け答えを最後に兵士達は武装を装備したまま走り込みを始めてしまった。

 

「はぁ…で、なんだってお前達がこの世界に?」

 

忍はフェイト達にこの世界に来た理由を…

 

「忍君こそ…その、右目は…?」

 

「それにこの世界で何をしているんですか?」

 

「つか、なんなのよ?」

 

フェイト達は忍にこの世界の事をそれぞれほぼ同時に聞いていた。

 

「……とにかく、この国の女王様の所に案内するか…」

 

結論、シルファーの元へと連れて行くことになったのだった。

 

………

……

 

あの後、忍はフェイト達をシルファーの元へと案内し、この世界の情勢と忍がこの世界にやって来た経緯を説明した。

フェイト達はフェイト達で管理局や多次元世界の話、さらには悪魔や天使などの存在の情報も説明していた。

あと、忍とアクエリアスの憶測も話題の一つとして挙がっている。

 

「多次元世界ってのも色々あるんだねぇ…」

 

話が終わった後、シルファーは盛大な溜め息と共にそんなことを言う。

 

「しかし、気になるわね。このデバイス技術を帝国だかに渡した存在ってのが」

 

朝陽は忍が回収したデバイス…シュトームを見てそう呟く。

 

「私は悪魔とか天使が本当にいたことに驚いてるんですけど…」

 

なのははフェイトや朝陽が悪魔や天使について認識し、尚且つそれを話題にしても全然驚いていないことの方がビックリらしい。

 

「人間社会ではあまり正体を露見することがありません。むしろ、それを隠して生きてる方が多いんですよ?」

 

「俺やシアもその1人だしな」

 

シアと忍もなのは達と何ら変わらない人間の姿をしていてもその性質はかなり異なっているので、そう答える。

 

「事実は小説よりも奇なり、って意味が良くわかった気がするよ…」

 

その答えを聞き、なのははなんだか脱力している。

 

「それにしても、大気中の魔力を人為的に凝固・加工させ、それを扱える技術があるなんて驚きです」

 

フェイトは純粋にフィライトに伝わる魔力石による魔法文化に興味を抱いているようだった。

 

「ま、大昔に確立された技術だからね。私らはそれを使い、発展させて今を生きてる訳だし…」

 

「それでもその技術も今じゃ…」

 

先程聞いた帝国の話を思い出し、フェイトは悲しそうな表情をする。

 

「戦争に使われている。しかも多次元世界の認識のないこの世界でデバイスへの転用にも使われている」

 

その先は忍が引き継ぐようにして言う。

 

「厄介さね…」

 

「あぁ…敵の全貌が全く見えん…」

 

帝国を裏で強化しているだろうモノの存在は推測出来るが、その意図までは全く読めないでいた。

 

「「…………」」

 

忍の真剣に考える横顔にフェイトとシアは揃って見惚れていた。

 

「へぇ…」

 

朝陽もまた忍の表情に少し意外な反応を示していた。

 

「陛下。悪いが、俺は一度地球に戻ろうかと思う」

 

そこで忍は決意したようにシルファーにそう告げていた。

 

「おいおい、これから反攻だってのに、アンタが欠けちゃ…」

 

「すまないとは思っている。だが、俺にも俺の事情があるんだ」

 

忍の眼は本気であった。

 

「まぁ、それを言われちまうと…この世界のことにこれ以上、アンタを巻き込むわけにもいかないけどね…」

 

困った様にシルファーはそう答えた。

 

「エルメスには…陛下から伝えてくれ。その方が…きっと、ダメージが少なくて済む」

 

この場にいないエルメスへの説明をシルファーに任せようとした忍だったが…

 

「そいつは…ちっと無理かもね…」

 

「………そうだな」

 

シルファーと忍の視線が部屋の扉へと注がれる。

 

「っ…」

 

タッタッタッ、と走り去るような音が聞こえてきた。

 

「いつからだと思う?」

 

走り去った足音を聞きながらシルファーが忍に尋ねる。

 

「そうだな…多分、最初からじゃないか?」

 

「だろうね~」

 

忍の答えにシルファーはあっけらかんと頷く。

その会話でフェイト達も誰かが聞いていたと悟ってしまう。

 

「あの、だったら早く追わないと…」

 

「平気でしょ。そこの2人のどっちかが何とかするだろうし…」

 

フェイトが先程の話を聞いてたであろう人物の心配をしていると、朝陽が忍とシルファーを見てそう言う。

 

「だってさ」

 

シルファーは完全に忍に丸投げにする気だった。

 

「ったく、アンタの娘だろうに」

 

「娘だからさ」

 

「ちっ…」

 

仕方ないと言いたげに忍は部屋から出ていこうとする。

 

「あ、忍君」

 

「ほっときなさいよ」

 

忍を追おうとするフェイトに朝陽がそう言う。

 

「それで、シルファー陛下?」

 

なのはシルファーに話し掛けると…

 

「別にさん付けで構わないよ。あたしもそっちの方が気楽さね」

 

シルファーは笑いながらそう言う。

 

「じゃあ、シルファーさん」

 

「なんだい?」

 

「シルファーさんは…その、フィロス帝国の事をどう考えているんですか?」

 

真面目な表情でなのはがシルファーに聞くと、フェイトや朝陽もそちらに意識を向ける。

 

「そうさね。帝国の世界制覇ってのは今のゼノライヤの代になってから始まったことだからね。けど、ここ最近になって急激に軍備が増強してるのが気掛かりでね…。あたしはともかく、民に対してはいい迷惑だ。それを止めたいってのが正直な本心さ。だからこそ、対帝国を掲げたものの…ご覧の通り劣勢でね。戦後の復興も考えないとなんだろうけど…今は勝つ見通しも無いからね…」

 

「そうですか…」

 

「兵に無理させてるのはあたしもわかってんだけどね。如何せん戦力差があり過ぎて話になりゃしなかったね。それでもあたしについてきてくれる兵のことも考えると…引くに引けないのさ。あたしはあいつからこの国を託されてるからね」

 

シルファーはそういうと窓の方に移動して外の様子を見る。

 

「出来れば、忍にはエルメスの伴侶になってほしかったんだけどねぇ~…」

 

「「ダメです!!」」

 

シルファーの言葉にフェイトとシアが同時に声を上げると共に…

 

「ふざけんな!!」

 

何故か朝陽まで怒鳴っていた。

 

「え…?」

 

「な、流星さん?」

 

思いもよらない声にフェイトとシアが朝陽を見る。

 

「なっ!? い、今のは違うから! 別にそういうアレじゃないし!」

 

剥きになる辺り、少し怪しい気もするが…。

 

「やれやれ…素直じゃない娘もいるんだね。あいつも気苦労が絶えなさそうだ」

 

そう言ってシルファーは外にいる忍とエルメスを見ていた。

 

「やっぱり、惜しいねぇ~」

 

そんなことを心底思いながら苦笑していた。

 

 

 

エルメスを追って部屋から出た忍は…

 

「エルメス!」

 

忍の速度を振り切れるはずもなく、エルメスは簡単は捕まった。

 

「な、なんでしょうか?」

 

そう言って忍に背を向けるエルメスの声は…心なしか少し悲しみを含んでいるように聞こえた。

 

「さっきの話を聞いていたろ? 俺は一度地球に…」

 

「聞きたくありません!」

 

忍が話そうとするも、エルメスは耳に手を当ててそれ以上は聞きたくないというポーズを取る。

 

「忍様がいなくなるような話など…聞きたくないです!」

 

どうやらエルメスの中で忍という存在は確固たるモノに昇華しつつあるうようだった。

 

「人の話は最後まで聞け。俺は何もこの世界に二度と戻らないとは言っていない」

 

忍は困った様にそう言っていた。

 

「え…?」

 

忍の言葉にエルメスはキョトンとしてしまう。

 

「地球に戻るのは…俺の大切な人や友人達に会って俺の無事を知らせるためと、調べ物をしたいからだ。それにこのまま見過ごす訳にもいかないだろう。正直、戦争に加担する気はないが…帝国の背後にいるだろう奴、もしくは奴らを野放しにする気はないからな」

 

そう言って忍はエルメスの手を取る。

 

「ぁ…///」

 

「それに、命の恩人を見捨てるような薄情者になりたくないしな」

 

「忍様…」

 

その言葉を聞き、エルメスの眼に溜まっていた涙がツーッと頬を伝って落ちる。

 

「泣くなよ。これが今生の別れって訳じゃないんだからな」

 

そう言って忍はエルメスの涙を指で軽く払う。

 

「はい…!」

 

これで問題ない…はずだった。

 

「(あれ…? でも、いま大切な人って…)」

 

忍の言葉の中にあった『大切な人』というワードに気づき…

 

「……………」

 

また、どんよりとした表情になりつつあった。

 

「あ、あれ?」

 

その様子に忍も困った表情になる。

 

忍の失言によってエルメスはまたも悲しい表情になるのだった。

 

その後、エルメスをシルファーに任せ、忍はフェイト達と共にヴェル・セイバレスへと転移した。

そこで忍はフェイトの補佐であるシャーリーと軽い自己紹介を交わし、ゼーラとも顔を合わせていた。

そして、ヴェル・セイバレスは進路を地球へと向けたのだった。

 

………

……

 

~地球・明幸邸~

 

「しぃ君!!」

 

地球へと帰還した早々、忍は智鶴に思いっ切り抱き着かれていた。

 

「ただいま、智鶴。ちょっとやつれたか?」

 

智鶴の抱き着きに対して慌てることもなく、しっかりと受け止めながらそんなことを聞いていた。

 

それを見た眷属達は…

 

「なんか、雰囲気違くない?」

 

「前よりも大人びいたかしら?」

 

「つか、その右目はどうしたんだよ!?」

 

「こ、琥珀、色…?」

 

「というよりも彼女がやつれた原因は坊やにあるのにね…」

 

約一名を除いて忍の変化に驚いていた。

 

「ま、話せば長くなるんだが…」

 

それから忍は…智鶴に抱き着かれた状態で…先のフロンティア事変時での最後の戦いからフィライトで見聞きしたことを眷属達に話して聞かせた。

 

そして、今後の方針として…

 

「俺は…フィライトへと渡り、あの戦争を止めたいと思う」

 

忍はそう告げていた。

 

「別の次元世界…その争い事に首を突っ込むつもり?」

 

「あぁ」

 

カーネリアの問いに忍は真っ直ぐ答える。

 

「でも…私達には学園での生活もあるのよ?」

 

「第一、戦争を止めたいって簡単に言うけどよ…話を聞く限り、無謀過ぎんだろ?」

 

忍の言葉に智鶴とクリスが待ったをかける。

 

「それに…戦争ってことは私達にも人間を殺せってことを覚悟させるつもりなの?」

 

「人外同士との戦闘で死力を尽くすのは別にいいけど…人間相手ってなると話は別よ」

 

2人に続き、暗七も吹雪も否定的な意見をする。

 

「それでも…既に俺の手は血で汚れてる」

 

ドーナシークから始まり、シャドウ、邪狼、フィロス帝国の敵将、親衛隊員などと忍はこれまでの戦いの中でその命を絶ってきた。

 

「人外も人間も命あるモノには違いない。それでも俺は目の前で救える命を守るためにそうしてきた。だから、後悔だけはしないようにしたいんだ」

 

「しぃ君…」

 

忍の言葉に…

 

「わ、私は…し、忍、さんに…さ、賛成、です…」

 

この中では最も戦いに否定的なはずの萌莉が忍の意見に賛成する。

 

「萌莉?!」

 

「マジかよ!?」

 

「これは意外ね」

 

萌莉の賛同に眷属の大半が驚いていた。

 

「……………」

 

もちろん、忍も少なからず驚いていた。

 

「わ、私は…た、戦いが…い、嫌、です……け、けど…忍さんが…ほ、本気、だっていうのは…よ、よく…わかり、ます、から…」

 

視線が集中しているためか、気恥ずかしくなってもじもじとそう言う。

 

「そうですね。忍さんが抱えているモノは少しでも私達も一緒に背負っていかないですからね」

 

萌莉に続き、シアもまた賛同する意思表示をしていた。

 

「……そう、ね。だって…私達は、しぃ君が大好きだもんね」

 

そう言って女王たる智鶴も否定派から賛同派へと意思を変更した。

 

「はぁ!? 誰が誰を好きだって!?」

 

「大好きとかじゃないし!?」

 

智鶴の『忍が大好き』という言葉に盛大な反発を見せるクリスと吹雪…

 

「ちょっと、私を巻き込まないでくれる?」

 

暗七もその辺りはまだわからないようであった。

 

「私は…ノーコメントね」

 

カーネリアに関しては好きとも嫌いとも言っていない。

 

「わ、わわわ、私は…その…えっと…////」

 

「ち、智鶴さん…そんな恥ずかしいことを…////」

 

「なんだか、顔が熱い…////」

 

萌莉、シア、フェイトの3人は特に否定はしなかった。

 

「俺が一番気恥ずかしいんだがな…」

 

やれやれと言った風に肩を竦めた忍は改めて皆の顔を見回すと…

 

「あと、もう1人の騎士候補を見つけた。相手がどう思ってるかはわからないが、俺は"彼女"をスカウトしたいと思う」

 

その言葉に…

 

「「また女か!!」」

 

そう叫んでクリスはイチイバルのガトリングガン(BILLION MAIDEN)を、吹雪は氷の爪を忍の顔に突き付けていた。

 

その後、忍もまた学園に復帰し、イッセー達と無事に再会することになったのだった。

右目には簡易的な魔法で傷を隠し、カラコンを使って紫色に見せていた。

もちろん、琥珀色になった右目のことはオカ研や一部の関係者に伝えている。

 

こうして忍は学園生活というひと時の休息を得ることになるのだが…。

その間にも忍は己がやるべきことを考えていた。



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第三十六話『誕生、次元辺境伯!?』

~地球・明幸邸~

 

忍が復帰して最初の休日のこと。

忍は智鶴に心配をかけた罰として彼女を一日デートに連れて行くことになっていた。

また、別の休日には他の眷属ともデートすることになっていたりする。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「行ってきます♪」

 

私服姿の忍と智鶴が揃って玄関を出ようとする。

智鶴は嬉しそうに忍の腕に自分の腕をからませてピッタリとくっついている。

 

「「「いってらっしゃいませ! 坊ちゃん! お嬢!」」」

 

しかし、ただのデートの見送りに組員が揃って挨拶ってどうなのさ?

 

「行ったわね」

 

「行ったな」

 

忍と智鶴が出かけて数分後、吹雪とクリスが私服の上にいつの時代かと思えるトレンチコートを羽織った出で立ちで玄関前に立っていた。

ご丁寧にハットにグラサンも着用している。

 

「あの…やっぱりやめませんか?///」

 

そこに似たような出で立ちで恥ずかしそうにしているシアが玄関の中に隠れるようにして吹雪とクリスに言う。

 

「(コクコク…)////」

 

同じ格好をさせられた萌莉もまたシアに同意するようにして顔を真っ赤にして頷いていた。

 

「何言ってんだ! あいつらがどういうデートするか気にならねぇのかよ!」

 

「さっさと行くわよ。これじゃあ、見失っちゃうじゃない!」

 

そう言ってクリスはシア、吹雪は萌莉の手をそれぞれ引っ張って玄関から出るのだった。

 

「バカらしい…」

 

「よっぽど暇なのねぇ~」

 

暗七とカーネリアに関しては私服のままトレンチコートを羽織った4人の背を見送っていた。

ただ、どちらも黒を基調に地味というか暗めの色の服を着る傾向にあるので、他の4人ほど目立った服装とは言えない。

 

「そういえば、あの金髪ちゃんは?」

 

カーネリアはフェイトの姿が見えないことに首を傾げていた。

 

「フェイトなら忍に頼まれて何処かに行ったわよ。何か調べ物がどうとかって…」

 

暗七は忍から聞いていたことをカーネリアに伝える。

 

「そう。で、あなたはいかないの?」

 

「はっ、冗談。尾行するくらいなら服でも買いに行くわよ」

 

カーネリアの言葉にそう返す暗七だった。

 

「行く気は満々なのねぇ~」

 

「……うるさい」

 

自分の失言に気づき、暗七はそっぽを向いて自分の部屋へと戻る。

 

「ふふ…」

 

その様子にカーネリアは自然と笑みを零していた。

だが、その瞳には少々退屈の色が滲んでいた。

 

 

 

そして、デートするのは何も忍だけではなかった。

 

「(朱乃さん、めっちゃ可愛いんですけど…!!)」

 

イッセーと朱乃がデートをしてました。

朱乃は普段とは打って変わって今どきの女の子風…というイッセーと比べて同い年か年下に見えるくらいの服装と雰囲気を醸し出していた。

 

但し、その背後にはリアスを始めとしたグレモリー眷属が各々(木場を除く)変装して尾行していた。

何処も似たようなもんだな…。

 

「(可愛いけど…背中に刺さる視線が痛い…!)」

 

こうして2人でショッピングを楽しんでいると…

 

「あら?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「まぁ…」

 

イッセーと朱乃ペア、忍と智鶴ペア、遭遇。

 

 

 

それに伴い…

 

「「「「えっ…」」」」

 

「「「「あ…」」」」

 

「これはまた大所帯な…」

 

両ペアを尾行してた集団も団体遭遇した。

 

 

 

で、結局は…

 

「いやはや…まさか、ダブルデート風になるとは…」

 

「いや、こっちも驚いたわ。忍と明幸先輩もデートしてたんだな」

 

朱乃と智鶴が服選びをしてる間、男同士の会話をしてる訳でして…

 

「で、お前は気づいてんのか?」

 

「もちろん。ただ、ああなると不自然さ全開になるけども…」

 

チラッと近くのティーラウンジの方を見ると、そこには変装集団がティーラウンジの一角を陣取り、唯一変装していない木場が忍やイッセーに向かって苦笑しながら平謝りしていた。

 

「確かにな…」

 

「木場君には悪いことしたかな…?」

 

「てか、そっちは全員同じ格好なんだな…」

 

「そっちもギリギリ危ないと思うけどね」

 

互いに苦笑していると…

 

「イッセー♪」

 

「はい?」

 

朱乃がイッセーの手を取ると…

 

「リアス達を撒いちゃいましょっか♪」

 

「えぇ!?」

 

そのまま驚くイッセーを引っ張って何処かへ走り出してしまった。

それを追って変装集団の片割れが急いで追おうとしていた。

 

「あらあら、朱乃ちゃんったら…」

 

ニコニコした笑顔で智鶴は忍の隣に戻ってくる。

 

「(大丈夫かな? この先って確か…)」

 

この先にある町の区画の匂いを感じ取り、忍は少し不安になっていた。

 

「(それに……なんか、物凄く濃い力の匂いを複数感じるんだが…)」

 

結果、忍の予感は的中していた。

 

その後、リアス達を撒いたイッセーと朱乃は…まぁ、大人の休憩所地帯に入ってしまったわけで…。

そこではなんと、北欧の主神『オーディン』、そのお付きの戦乙女(ヴァルキリー)『ロスヴァイセ』、そして雷光の二つ名を持つ朱乃の実の父親で堕天使の幹部『バラキエル』と遭遇してしまったのだった。

 

………

……

 

~時空管理局・無限書庫~

 

その頃、フェイトはというと時空管理局の次元航空部隊の本部にある一施設『無限書庫』へとやってきていた。

 

「ユーノ、また調べ物をお願いしても構わないかな?」

 

無限書庫の司書長であるユーノにフェイトが尋ねると…

 

「いいけど、今度はなんだい?」

 

「うん。この本の文字なんだけど、調べられるかな?」

 

そう言って渡したのは以前シルファーが忍に渡した古文書であった。

 

「また随分と古そうな本だね。それに中身も結構古そうだ…調べるのはちょっと一苦労しそうだよ?」

 

数ページだけ見てユーノもちょっと困った表情をしていた。

 

「それでもいいよ。あと、可能なら翻訳した文字をデータにしてほしいんだけど…」

 

「う~ん…調べるのに時間が掛かるくらいだから、何とかしてみるよ」

 

「ありがとう、ユーノ」

 

果たして、古文書の中身とは…シルファーの言う通り体術に関するものなのか?

 

「しかし、こんな年代物。どこで手に入れたの?」

 

「ちょっと知り合いに頼まれて…」

 

「あぁ、なのはも言ってた彼氏さん?」

 

どうやらこの情報は身内中に広まっているのかもしれない。

 

「ち、ちが…!?////」

 

慌てて否定しようとするが…

 

「ははっ。じゃあ、僕は作業に入るよ」

 

そう言って魔法陣を展開して古い資料から漁り始めるのだった。

 

「(逃げられた!?)」

 

文句を言う前に作業に入られてしまい、フェイトは何も言えなかった。

 

………

……

 

~地球・兵藤家~

 

オーディンとの遭遇により、デートは中断。

その場に居合わせてしまった紅神眷属も兵藤家に召集されてしまった。

但し、グレモリー眷属と違って紅神眷属は全員揃ってはいない。

 

「いやはや、デカいのが揃っておるのぉ~」

 

最上階のVIPルームへと案内されたオーディンの視線は女性陣の胸(特に大きい人)へと向けられていた。

 

「先生。とりあえず、噛み砕いていいですか?」

 

VIPルームで合流してきたアザゼルに忍はそう尋ねる。

 

「北欧の主神相手によく言ったな。相手は神だぞ?」

 

アザゼルは面白半分で煽ると…

 

「神だろうとなんだろうと、自分の最愛の人達をそんな眼で見られたら誰でも殺意を覚えます。少なくとも俺は…」

 

「(いや、俺も腹は立つんだけど…そこまではちょっと…)」

 

忍がそう答えるのを聞いて、イッセーは心の中で少し複雑な心境だった。

 

「ほっほっほっ、なかなか言いよるわい。小僧、名はなんという?」

 

オーディンは笑いながら忍の名を聞く。

 

「紅神 忍。真なる狼を継ぐ者だ」

 

「真なる狼?(はて、どこかで聞いたような…)」

 

忍の言葉を聞き、少しだけ眉を顰めるオーディンだった。

 

「あぁ、伯父はそう言っていた。ま、俺も意味まではよくわかってないが…」

 

「そうかの…(ま、思い出したらその時にでも話せばええか…)」

 

そう言った後、オーディンはアザゼルの案内で夜の街へと繰り出すのだった。

お目付け役としてロスヴァイセも同行したようだが…。

 

「あんなのが主神と総督とは…」

 

オーディンたちが退室した後、ぼそりと忍がそう漏らす。

 

「忍…お前、雰囲気変わったよな…」

 

「自分でも驚く程にな。それだけイベント目白押しだったのさ」

 

2年生になってからの自分に降りかかった状況を思い出す。

 

「イッセー君も気をつけた方がいいよ。ただでさえ龍は力の化身で色々と惹き付けるんだから…」

 

「あ~…そうかもな。けど、俺は俺だからな…」

 

忍の言葉にイッセーはそう答える。

 

「……イッセー君はそのままの方がいいかもね」

 

「それには同感かな」

 

そんなイッセーの反応を見て忍と木場が苦笑混じりにそう言っていた。

 

「じゃあ、リアスちゃん。私達はこれで…」

 

智鶴がリアスへと挨拶をしていると…

 

「えぇ。あ、智鶴。今度、お兄様が紅神君に用事があるそうなのよ」

 

何かを思い出すようにリアスがそう言う。

 

「? そうなの?」

 

「えぇ、詳しい内容は私も分からないのだけれども…出来れば眷属も揃ってくるようにって…」

 

そんな会話を最後に、紅神眷属は兵藤家を後にするのだった。

 

その後、兵藤家では朱乃とバラキエルの間で不穏な空気が流れてしまったらしい。

親子の間に何が起きたのか…?

 

また、その日の夜に紅神眷属はグレモリー眷属と共に日本滞在中のオーディンの護衛に入るようにアザゼルから要請があり、忍はそれを承諾していた。

 

………

……

 

翌日。

グレモリー眷属はとあるイベントの主役として冥界へと赴いていた。

そのイベントとはグレモリー家主催の握手会とサイン会であった。

イッセーをモデルとした『乳龍帝おっぱいドラゴン』のイベントである。

 

そのついでとして忍を含めた紅神眷属も魔王領へと出向いていた。

 

「随分と近代的な様相だな…」

 

魔王領にある冥界(悪魔側)の首都『リリス』。

そこに忍達は招待されていた。

今は迎えのリムジンの中で外の様子をみんなして眺めていた。

 

「空の色や海が無いってことを除けば人間社会に近いのかしらね」

 

忍の感想に智鶴も頷いていた。

 

「これが…悪魔の社会」

 

「ま、私達とは発展の仕方が違うわよね」

 

冥族のシアが周囲に圧倒されるのを見て、堕天使のカーネリアもそう呟く。

 

「普通に地獄め巡りしてるけど…あたしら、大丈夫だよな?」

 

「た、多分…」

 

人間であるクリスや萌莉は別に心配をしていた。

 

「しかし、魔王が悪魔でもない俺に一体何の用なんだか…」

 

「前の眷属の駒みたいなことかな?」

 

「それにしたって俺だけを呼べばいいだろうに…」

 

前回は若手の集まりに際して忍1人で呼び出され、アジュカ・ベルゼブブから眷属の駒を受け取っていた。

しかし、今回は眷属も呼ばれたのには何か理由があるのだろうか?

 

「(妙に嫌な予感しかないが…)」

 

忍は不安な気持ちを抱いていた。

 

 

 

そうして、忍達は一際大きな高層ビルの最上階へと案内されていた。

 

「ここにサーゼクスさんがいるのか…?」

 

最上階の部屋に入りながら周囲の匂いを探っていると…

 

「やぁ、久しいね。狼君」

 

部屋の中央のテーブルの席に座るアジュカの姿があった。

 

「アジュカ・ベルゼブブ…!?」

 

「ん~、その"また、アンタか!?"という表情はなかなか新鮮だね」

 

忍の反応を面白がるアジュカだった。

 

「アジュカ。お客人に対してそれは失礼だろ?」

 

その向かい側の席にはサーゼクスの姿もあった。

 

「いいじゃないか。知らない仲でもない訳だしな」

 

「親しき仲にも礼儀あり、だったかな? 日本の諺にも奥深いものがあるんだぞ?」

 

親しいも何も忍とアジュカは一回しか会ったことが無いんだが…。

 

「………で、俺を…俺達を呼び出したのはどういったもので?」

 

ツッコミを入れようかと一瞬迷ったものの、忍はスルーを選んで2人に用件を聞いていた。

 

「眷族の駒の調子を見たくてね」

 

それに答えたのはアジュカだった。

 

「眷族をそれなりに増やしてるようで何よりだ。それに眷属側の駒の様子も見たくてね」

 

眷族の駒を受け取ってから数か月が経ってる。

創造者からしたら自らが開発したモノの途中経過を気にするのはおかしくはない。

 

「まぁ…それは俺も気にしてないって訳じゃないからいいんだが…」

 

忍がそう答えると…

 

「では、早速」

 

答えた瞬間にアジュカは目の前に魔法陣を複数展開し、さらに人一人が潜れそうな魔法陣を忍の足元に展開すると、それを上昇させて忍の体内にある駒のデータをスキャンし始める。

 

「…………」

 

同じように紅神眷属の全員の駒をスキャンしていくと、それぞれのデータがアジュカの手前に展開されていた魔法陣に表示されていく。

 

「ふむふむ…ほぉ、これは興味深い」

 

アジュカは興味深そうにデータを見詰める。

 

「それで、問題はあったのか?」

 

サーゼクスが尋ねると…

 

「結論から言えば、問題ない。正常に機能しているよ」

 

「(何故、結論から言った?)」

 

アジュカの物言いに忍は何故か不安を覚えていた。

 

「もっと詳細に語るなら、とても面白い。狼君の王の駒から他の駒へと彼の力が流れている。力と言っても、その特性は駒によって大きく異なっている」

 

「どういうことだ?」

 

いまいち状況が分かっていないサーゼクスが忍達に代わってアジュカに尋ねる。

 

「そうだな。まずはこれを見てくれ」

 

そう言ってアジュカは魔法陣の一つを拡大して正面へと移す。

そこには上部に忍の名前が表示され、その下に各種ステータスが表示されていた。

 

『紅神 忍

 

魔力:SS

 

気:SSS

 

霊力:AAA

 

妖力:SS

 

能力:真狼、紅蓮冥王、吸血鬼

 

戦闘スタイル:刀術、氷結系統の魔法』

 

駒を受け取ってから今までの経験を経て得た能力や技能、五気保有量が表示されていた。

 

「こんなことまで記録出来るのか!?」

 

忍が駒の情報量に驚いていると…

 

「ていうか、忍君の魔力保有量が凄い!?」

 

「元々、それだけの潜在能力があったのかしら?」

 

「いずれはEXクラスに届くかもしれないってことですか?」

 

フェイト、暗七、シアの順に五気保有量に対しての驚きがあった。

 

「? どういうこと?」

 

「あたしに聞くなよ…」

 

「さ、さぁ…?」

 

こういうことに疎い智鶴、クリス、萌莉は頭に?を浮かべていた。

 

「これは邪狼とかいう者の力を外的要因によって手にしたからかもしれないのが駒の情報からわかる。まぁ、いずれは自力でこの数値に辿り着いたかもしれないが…いやはや、実に興味深い」

 

アジュカは満足そうに頷いている。

 

「それで…彼の力が彼女達に流れているというのは?」

 

サーゼクスもまた忍の潜在能力に驚いているものの、アジュカに更なる説明を求めた。

 

「今度はこれを見てくれ」

 

そう言ってアジュカは忍のデータの表示された魔法陣の隣に別の魔法陣を展開した。

 

『明幸 智鶴

 

"魔力:A-"

 

気:S+

 

戦闘スタイル:合気道、エクセンシェダーデバイス(ディメンション・スコルピア)による空間系統魔法とオールレンジ対応の戦闘法』

 

リンカーコアを持たないはずの智鶴のステータスの中に魔力の項目があった。

 

「えっ!?」

 

「うそ…」

 

フェイトと暗七がかなり驚いていた。

 

「さらにこの兵士の場合は…」

 

そう言ってさらに智鶴の横にクリスのデータが表示される。

 

『雪音 クリス

 

気:C

 

"霊力:AA"

 

戦闘スタイル:聖遺物(イチイバル)による広域殲滅型の射撃戦』

 

「霊力?」

 

「てか、運動神経無さ過ぎ。よく戦闘出来てるわね」

 

クリスが自分の知らない項目に首を傾げていると、暗七がクリスのステータスを見て素朴な疑問を口にした。

 

「戦いと運動は全然違うだろ!」

 

「え~…」

 

クリスの反論に暗七も呆れていた。

 

こうして各自のステータスを見てみると、紅神眷属のほとんどは忍の影響を受けて何かしらの能力が強化されていた。

 

「このように彼女達は狼君の影響を駒を通して受けていて実に興味深い。今後、どうなるか赤龍帝の成長と同じくらい楽しみだよ。あと、残りの眷属もどういった顔ぶれになるのか…」

 

と、そこで…

 

「そうだ。狼君にはさらにサプライズを用意していたんだ」

 

何かを思い出したようにアジュカはパンと手を合わせる。

 

「あぁ、それは私から言おう。むしろ、本題はそちらだったんだがな」

 

サーゼクスも呆れたようにそう付け足す。

 

「サプライズ?」

 

サプライズという言葉に忍は眉を顰める。

 

「そう身構えなくてもいい。これまでの君の実績や経験を踏まえ、我々は君を各次元の橋渡しとして辺境伯に任命したい」

 

「言うなれば『次元辺境伯』ってやつだ。なに、上級悪魔のお偉いさんは俺達で説得したよ。本来なら悪魔でもない狼君を辺境伯にするのは色々と問題なんだが…冥族との橋渡しを条件に承諾させたよ」

 

サーゼクスに続いてアジュカもそう伝える。

 

「よく承諾されたな…」

 

忍は引き攣った顔で2人を見る。

 

「同じく冥界に住む同胞として冥族との和平もこれからの大きな課題だからね」

 

「元々は旧魔王派がしでかしたことなんだがな。それを狼君に押し付けるのも都合の良い話だよ…」

 

「それに外交はセラフォルーの担当なんだが、冥族との接点は忍君の方が良いだろうという彼女の判断もあるんだよ」

 

サーゼクスとアジュカが忍にそう説明していると…

 

「一応、聞いときたいんだけど…俺にメリットと拒否権はあるのか?」

 

聞けば聞くほど、完全に押し付けられそうな気がしてならない忍であった。

 

「もちろん、私達も君に無理強いさせるつもりはない。この話はあくまでも君の了承を得て初めて成立する話だからね」

 

「メリットだが…そうだな。これからは三大勢力が全面的にバックアップに入ること、君に爵位が発生して領地を得られること、君と君の眷属が今行われている若手レーティングゲームへの参戦などが挙げられるぞ?」

 

サーゼクスは拒否権の有無を、アジュカはメリットをそれぞれ伝える。

 

「(その代わり、俺に冥族との和平を結ばせ、禍の団との戦闘にも積極的に参加してほしいと…そういうことか?)」

 

忍は1人難しい表情で考え込んでいる。

 

「返事は今すぐにとは言わないよ。この話は皆でゆっくりと吟味してから答えを聞かせてほしい」

 

「ま、そういうのも含めて眷属の皆さんにも同席してもらったわけだけどね」

 

そう言って紅神眷属の顔を見渡す。

 

「……わかりました。熟考させてもらいます…」

 

その言葉を最後にサーゼクスとアジュカは自分達の仕事へと戻り、忍達も冥界から地球へと帰還をするのであった。

 

………

……

 

その数日後の夜。

 

忍は単独でグレモリー眷属に同行してオーディンの護衛に付き合っていた。

これにはちゃんとした理由があり、今も明幸邸で議論を交わしている眷属達の意見を如何に纏めるか、1人になって考えたいからである。

 

先日の次元辺境伯就任に関して紅神眷属の意見は半分に分かれていた。

智鶴、カーネリア、暗七、吹雪の反対派とシア、フェイト、萌莉、クリスの賛成派となっている。

 

反対派の意見は忍への負担である。

元は一般人として生活してきた忍にいきなりそんな大層な称号は荷が重過ぎる。

さらに冥族との和平とは言っても、悪魔からしたら身内の不始末を他人に任せるということであり、極道的にも許されたことではない。

よって、この話は断るべきだと…智鶴が強く言い、それに同意したのが意外にもカーネリアを始め、暗七と吹雪であった。

 

賛成派の意見は出来るだけ穏便に済ませれるならそれに越したことはないというものである。

爵位や領地はともかく、冥族と悪魔が和平を結ぶなら無駄な争いや戦いをせずに済むのではないかと…。

確かに冥族には悪魔への恨みはあるだろうが、中には平和を望む声もあるはずである。

だから、この申し出を受けてもいいんじゃないかと…シアは1人の冥族として珍しく意見を曲げなかった。

それを支持したのがフェイトやクリス、萌莉だった。

 

それぞれの意見を聞いた上で忍は1人で悩んでいた。

どちらの意見も見方を変えれば正しいのだろう。

その上で忍は決めなければならない。

 

「はぁ…」

 

八本足の巨大な軍馬『スレイプニル』が引く馬車の窓際で夜空を眺めている忍は自然と溜め息を吐いていた。

その中にはグレモリー眷属、アザゼル、オーディン、ロスヴァイセが乗っており、その外には空を飛べる木場、ゼノヴィア、イリナ、バラキエルが護衛として飛翔していた。

 

「若いのに年寄みたいな顔をするでないわい」

 

「ま、事柄が事柄だけに考え込むのは仕方ないだろうぜ」

 

事情を知るアザゼルとオーディンは忍にそう言っていた。

 

「忍。最近、上の空だけど…俺達にも話せないのかよ?」

 

事情を知らないものの友人として心配してるイッセーが忍に声を掛ける。

 

「ん? まぁ、時が来たらわかるよ。俺にも色々とあるからな」

 

苦笑いしながらそう答えた後、再び外を見ていると…

 

「っ!! 何か来る!!?」

 

馬車の隙間から漂ってきた空気の匂いを感じ取った忍が叫ぶのと同時に…

 

『ヒヒィィィィンッ!!』

 

スレイプニルの鳴き声と共に馬車が急停止する。

 

「なかなかに良い鼻を持っとるわい」

 

「そいつはどうも」

 

オーディンにそう答えると忍は素早くネクサスを起動させてその身の防備を固める。

 

「ほほぉ、これが異世界の魔法技術か」

 

それを見てデバイスに少なからず興味を持つオーディンだった。

 

そして、一行の前方にはオーディンが着用しているモノと似たような黒がメインのローブを身に纏う男性が浮遊していた。

 

「初めましてだ、諸君! 我が名はロキ! 北欧の悪神である!」

 

そう名乗りを挙げる男性は…北欧の悪神として有名な『ロキ』であった。

 

そこでロキはオーディンに対していくつか質問をぶつけ、オーディンはそれに答えた。

ロキの言い分は『神々の黄昏(ラグナロク)』を起こすために和平を邪魔すること。

なお、禍の団とは無関係と言い放っていた。

 

対するオーディンの言い分は異文化交流を進めること。

北欧には頭の固い連中がいて退屈してるような事も言っていた。

 

それを聞いたロキは…

 

「なんと愚かな。では、主神殿…ここで黄昏を起こそうではないか!」

 

大胆にも宣戦布告をしてきた。

 

その瞬間…

 

ドガアアアアアッ!!

 

ゼノヴィアが先手必勝とばかりにデュランダルの一撃をロキに向けて放っていた。

 

「おいおい…」

 

「いきなりかよ!」

 

忍とイッセーがゼノヴィアに視線を向けると…

 

「いや、流石は神か…」

 

苦々しい表情をしてロキの方を見ていた。

 

「良い攻撃だったが…所詮は悪魔が振るう聖剣。神に届くはずもない!」

 

ロキは無傷であった。

 

「では、お返しをしようではないか」

 

そう言ってロキが手を突き出すと、自らの波動を集中させる。

 

「イッセー君!」

 

「わかってる!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

『JET!!』

 

次の瞬間には鎧を纏ったイッセーが背中から龍の翼を広げて馬車から飛び立ち、その後を忍も魔法陣を足場にして追う。

 

「部長!」

 

馬車にいるリアスに視線でプロモーションの許可を聞くと、リアスもそれに頷いてイッセーは駒を女王へと昇格させた。

 

「っと…そういえば、ここには赤龍帝がいたな。それに見知らぬ波動も感じられる。だが…」

 

ロキがイッセーと忍に視線を向けるが…

 

「神を相手にどこまで通用するかな!!」

 

突き出した手に集中させた波動を撃ち出す。

 

「行くぜ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

正拳突きの要領でイッセーは増加させた魔力を撃ち出す。

 

「ついでだ、これも受け取れ!」

 

その背後から忍はブリザード・ファングを撃ち出し、ドラゴンショットの射線上へと収束させていた。

 

ゴアアアアアアアッ!!!

 

忍はブリザード・ファング・エクシードの要領でイッセーのドラゴンショットを強化すると同時に凍結効果を与えていた。

 

「むっ!!?」

 

それを見たロキはマントを翻して防御の姿勢を取った。

 

ドガアアアアアアアッ!!!

 

忍とイッセーの合体魔力とロキの波動が盛大にぶつかり、勢いよく弾け飛ぶ。

 

キラキラ…!

 

弾け飛んだ波動は氷の粒子となって周囲に舞い散る。

見れば、ロキのマントから赤い煙が立ち上り、マントの一部が凍結していた。

 

「やってくれるではないか。特にそこの少年…」

 

ロキの視線が忍を捉える。

 

「赤龍帝の攻撃に合わせて自らの魔法を強化するとは…」

 

「赤龍帝のパワーバカさはよく知ってるんでね」

 

ロキの言葉を不敵に返す忍。

その間にも、馬車からリアスと朱乃も出てきて臨戦態勢を取る。

 

「やれやれ…主神よ。ただの護衛にしては物騒ではないか?」

 

「お前のような阿呆が来たんじゃ。結果的には正解と期待以上じゃったよ」

 

ロキはオーディンの返答に不敵な笑みを浮かべると…

 

「ならば、我が愛する息子を呼ぼうではないか!」

 

そう言ってマントを広げると空間が歪み、そこから灰色の毛並みをした巨大な狼が現れる。

 

「狼…?」

 

「また厄介なもんを連れてきおってからに…」

 

その狼の登場にオーディンも表情を歪ませていた。

 

「全員、あの狼に手を出すな! 奴は『神喰狼(フェンリル)』だ!!」

 

『----ッ!!?』

 

アザゼルの警告にイッセーを除く全員が戦慄していた。

 

「そんな!」

 

「マズイわね…」

 

「アレが…フェンリル…!」

 

「イッセー! ありゃ最上級クラスの魔獣だ! 神を確実に殺せる牙を持ってやがるから気をつけろ!」

 

「マジすか!?」

 

フェンリルの登場に誰もが驚いていると…

 

「ふふ…北欧の神以外には使いたくなかったが、相手が魔王の妹ならば少しは良い経験になるだろう。やれ!」

 

ロキがフェンリルにリアスを仕留めるように指示を飛ばした。

 

『オオオオオオオオオンッ!!』

 

それに答えるが如く、フェンリルは雄叫びと共に…

 

ヒュッ!!

 

一陣の風となってその場から消えた。

 

しかし…

 

『JET!!』

 

一瞬にしてイッセーがフェンリルへと追従すると…

 

バコンッ!!

ガキンッ!!

 

互いに一撃を与える形でイッセーとフェンリルは衝突していた。

 

「イッセー!?」

 

「イッセー君!?」

 

その衝突は一瞬であり、イッセーはフェンリルを殴り飛ばし、フェンリルの牙からリアスを身を挺して守っていた。

だが、その代償は大きく、イッセーの腹部に穴が開いていて口から吐血していた。

 

「赤龍帝…! 一瞬だが、確かに我が子フェンリルに追いついた。恐るべき潜在能力と言ったところか? だが、ここで始末すれば問題ない!」

 

そう言ってロキがフェンリルに指示を出そうとした時…

 

「させるかよ!!」

 

アザゼルとバラキエルが共に光の槍と雷光をロキへと放っていた。

 

「所詮は堕天使! 神たる我が身には無駄な攻撃よ!」

 

しかし、その攻撃はロキに大したダメージを与えるには至らなかった。

 

「なら、これでどうだ!」

 

忍がファルゼンを起動させると同時に斬艦刀へと変形させてロキへと向かって振るっていた。

 

「そんな大振りな攻撃、避けやすい!」

 

ロキはファルゼンの斬撃を軽々と回避する。

 

「ちっ…!」

 

すると…

 

『Half Dimension!』

 

フェンリルの周りの空間が大きく歪み始める。

そのせいか、フェンリル自身も動きが取れないでいた。

 

「この攻撃に匂いは…まさか!」

 

「無事か? 兵藤 一誠」

 

「ヴァーリ…!?」

 

そこに現れたのは白龍皇ヴァーリ・ルシファーであった。

 

「っ! これはこれは…白龍皇まで現れるとは…!」

 

ヴァーリの登場にロキも驚く。

 

「初めましてだ、北欧の悪神ロキ殿。俺の名はヴァーリ。貴殿を屠るために来た」

 

ヴァーリはその戦意をロキへと向ける。

 

「はっはっはっ! 二天龍が見られただけでも今回は良しとしよう! だが、忘れるな。この国の神々とオーディンが会談する時、再び邪魔をさせてもらう!!」

 

だが、ロキはそう言い残すとヴァーリの技から軽々と抜け出したフェンリルと共に消え去っていた。

 

その後、アザゼルやオーディン達がロキについて今後の対策を話した。

そこにはヴァーリチームのメンバーの姿もあり、アーシアと小猫によって回復したイッセーも合流した。

そして、ヴァーリ達の提案により、ヴァーリチームとの共同戦線を取ることになった。

 

………

……

 

ロキからの襲撃があった翌日から対ロキ戦に向けての対策が練られることとなった。

ロキとフェンリルの対策のため、アザゼル達はロキが創り出し、五大龍王の一角『終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)』の『ミドガルズオルム』の意識を呼び出してその対策法を聞き出すことにしていた。

 

その一方で…

 

「……………」

 

忍は眷属と共に再び冥界へと訪問していた。

 

「しぃ君…本当にいいの?」

 

サーゼクスの元へ向かう忍の背中を見て智鶴はここまで来るまでに何度も確認してきたことを聞いてしまう。

 

「あぁ…清濁併せ呑むことも時には必要だと…昨日の2人を見て思ったんだ」

 

赤龍帝と白龍皇の2人が手を組むこととなり、今こうしてる間にも対策は練られている。

 

「だから俺は…冥族との懸け橋になる。そのためには…俺自身にも冥界での公の力が必要になる。そこが茨の道だろうと…幾多の苦悩が待っていようと…俺は、俺の道を進む」

 

そう言う忍の瞳には確かな信念が宿っていた。

 

「何度目の確認だよ…」

 

「忍って結構な頑固者よね」

 

忍と智鶴のやり取りを見ていたクリスと暗七が呆れたように呟く。

 

 

 

そして、サーゼクスの執務室で忍は辺境伯への地位を受け取ることに承諾していた。

 

「そうか。受けてくれるのか」

 

「あぁ…俺の守りたいもののため、俺達の未来を切り開くために…」

 

「わかった。では、君の事は今日にでも大々的に発表しよう。きっと冥界も混乱すると思うが、そこは私達に任せてほしい」

 

「了解した。その分、ちゃんと働かせてもらう」

 

「ありがとう、忍君」

 

そのような会話の後、忍は執務室を退室していった。

 

その日、冥界に住む悪魔達に向けて四大魔王からの発表がなされた。

その内容とは、アジュカ・ベルゼブブが試験的に提供した『眷属の駒』を持つ異種族『紅神 忍』へと辺境伯の爵位を授け、冥族との和平の道を進むことを…。

 

当然、悪魔達は混乱した。

悪魔でない者が爵位を持つなどとは前代未聞の事態である。

それでも悪魔達は敬愛する魔王達の決定に逆らわず、新たな辺境伯の今後の動きに注目していた。

古き時代からいる上級悪魔達もまた忍の就任に遺憾を感じつつも冥族との和平と魔王から言われてしまえば、強くは言えないのが現状であり、それで好転するなら御の字とでも考えているのだろう。

 

その混乱は悪魔だけでなく、各神話体系の勢力や禍の団などにも伝わり、特に勢力内でも中級や下級の存在には衝撃を与えたらしい。

勢力のトップや上級クラスの幹部には既に情報を伝えていたため、そこまで騒ぎにはならなかったが、それでも悪魔の勢力に外部から爵位を授けることへの行為には少なからず興味を持たれていた。

 

こうして忍は多次元世界で活動する『次元辺境伯』として悪魔界だけでなく、世界的なデビューを果たすのだった。



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第三十七話『決戦前夜の死闘』

忍が次元辺境伯へと就任した翌日。

世界は未だ混乱していた。

 

~???~

 

「ふざけたことを…!!」

 

ドンッ!!

 

紅牙が自室の机に拳を叩き付ける。

 

「そう、カリカリすんなって」

 

それを脇から見ていた秀一郎が紅牙にそう言う。

 

「これがイラつかずにいられるか!!」

 

「おぉ、怖い怖い…」

 

紅牙の怒声に秀一郎も肩を竦める。

 

「が、確かに解せんな。悪魔ってのは血筋やら階級やらに対しては頭が固いって聞いてたけどな。なんか裏でもあんのか?」

 

「公表にもあったろ! 奴等は冥族との和平を進めるべく奴に地位を与えたんだ! どこまで我々の種族を見下せば気が済むんだ!!」

 

ボァッ!!

 

紅牙の怒りに合わせて真紅の焔が彼の拳から噴き出す。

 

「おいおい…こんなとこで発火すんなよ?!」

 

慌てて秀一郎が紅牙の焔を相殺する。

 

「で、浮足立ってる連中も少なからずいるんだが…どうする気だ?」

 

溜め息を吐いて頭を掻きながら秀一郎は紅牙に尋ねる。

 

「無論、奴を仕留める!」

 

「いやいや…確かにそうだけどよ。とりあえず、一回お前さんの故郷に戻ってお偉方と話したらどうだ? 悪魔との和平を受けるか否かをよ」

 

紅牙の答えにそう促す秀一郎だった。

 

「それが出来たらこんなテロ行為で苦労はせん!」

 

「まぁ、そりゃそうか。じゃあ、どうすんだよ?」

 

すると、紅牙はふと思い出したように…

 

「確か、北欧の悪神が動いていたな?」

 

「あぁ。確か、ロキの独断でな……まさか、それに乗じる気か?」

 

「あぁ…あの町に住んでいる奴なら必ず現れるだろう。そして、今度こそ決着を着けて魔王の首も取る!」

 

忍の周辺調査からそう推測した紅牙は復讐心と闘争心を燃やしていた。

 

「(やれやれ…こいつの復讐心、なんとか出来ねぇかね…?)」

 

その様子に秀一郎は内心で困った反応を示していた。

 

………

……

 

~フロンティア~

 

「ふふふ…悪魔も思い切ったことをしますね。実に面白い」

 

次元の狭間に漂っているフロンティアの甲板で黒ローブは悪魔の行ったことを笑っていた。

 

「それにしても、彼の地で真なる狼の血統が覚醒しましたか…」

 

黒ローブの目の前には黒と蒼の混じり合った魔法陣を展開し、そこにフィライトで覚醒した忍が映し出される。

 

「実に興味深い…。それに彼は元々冥族の血統にも通じていた。まぁ、彼も良くやってくれたということですかね…"シャドウさん"」

 

そう言って黒ローブは暗七の育て親にして忍の体内に謎の血液を注入した張本人たるマッドサイエンティスト『シャドウ』の名を口にする。

 

「彼は優秀でしたが…所詮は私の掌で踊る駒の一つに過ぎません。その彼が紅蓮とヴァンパイアの血液を彼に注いだことは想定外でしたが…結果的には良い方向に進みました。彼の中の冥王としての力はその片鱗を見せ、ヴァンパイアの特性によって多種族の血肉を取り込みやすくした。これは大きな成果です」

 

誰に言うでもなく、黒ローブの独白は続く。

 

「ふふふ…我が研究対象としては申し分がありませんね。あとは如何にして彼にこれを投入して差し上げましょうか?」

 

そう言って別の魔法陣を展開すると、その中に大型カプセルが表示される。

そのカプセルの中には全体的に人の形をしているものの、その頭部は龍、全身は鎧のような甲殻で覆われ、甲殻で覆われていない部位は龍の鱗が覆われている。

肢体は人間のものに酷似していて手は五指となっているが、足は前に三爪と踵に一爪という構造をしている。

さらに背中には一対二枚の龍の翼、臀部からは龍の尻尾をそれぞれ生やし、両腕の甲殻にはそれぞれ一対二本の大型爪が備わっている。

 

「さぁ…あなたも彼の糧となって私を満足させてください。(いにしえ)の種族…龍の血をその身に受け継ぎし人型戦闘種『龍騎士』」

 

黒ローブの言葉と同期するようにしてゴポリと音を立ててカプセルの中で空気が上昇する。

 

「さて、ロキも動いてることですし…この機に乗じて送り込むとしますか。どのくらい使えるかのテストもしたかったですし……ふふふ…」

 

そう言いながら黒ローブは魔法陣に魔力を流し込み始めた。

 

ゴポリッ…!

ゴゴゴゴゴ…!

 

そして、大型カプセルから培養液が排出され始めた。

 

………

……

 

~駒王町・兵藤家~

 

忍の辺境伯就任の報道から一日経った兵藤家では…

 

「まさか、紅神君が辺境伯だなんて…」

 

「魔王のくせに大胆なことをするな、お前の兄貴は…」

 

リアスやアザゼルも何とも言えない表情をしていた。

 

「少なくとも今回のロキ戦には参加しようと思ってる。冥族との和平やフィライトでの反攻はその後だ」

 

兵藤家で対ロキ戦の作戦会議をしてる中に、その忍の姿もあった。

 

作戦の大まかな流れはこうだ。

まず、会談の会場でロキとフェンリルを待ち構える。

ロキとフェンリルが来たらシトリー眷属の力でグレモリー眷属やヴァーリチーム、紅神眷属と共に採石場跡地へと転移させる。

そこでイッセーとヴァーリ…二天龍に忍を加えた3人でロキを相手にする。

残ったメンバーでフェンリルをグレイプニルを用いて動きを封じた上で、撃破する…というような感じである。

 

「神を相手に3人がかりか…」

 

「望むところだ」

 

「いやいや、結構なプレッシャーだからな!?」

 

忍とヴァーリの不敵な言葉を聞いてイッセーが慌てた様子で言う。

 

「まぁ、紅神は基本的にサポートを重視した動きをしてもらいたいのが本音だが…サポート役はもう少し適任なのもいるしな」

 

そう言いながらアザゼルは匙の肩を叩く…というか掴む。

 

「え…俺ですか!?」

 

まさかの指名に匙も酷く狼狽した反応を見せる。

 

「別に前線に出て戦えとは言わないが…お前の持つヴリトラの能力が必要なんだよ」

 

「ぶ、ヴリトラの…?」

 

匙が怪訝な表情でアザゼルを見る。

 

「ま、そのためにはちっとばかしトレーニングが必要だな。それに試したいこともある。というわけで、ソーナ。ちょいとこいつを借りてくぞ」

 

「それは構いませんが、どちらへ?」

 

匙の貸し出しを許可した会長がアザゼルに尋ねると…

 

「グリゴリの研究施設までな」

 

そう言って魔法陣を展開して転移の準備を始める。

 

「匙、気をつけろ。先生のしごきはマジで地獄だからな…俺もあんな目に遭ったし…」

 

「マジかよ!?」

 

イッセーの言葉を聞き、匙が顔面蒼白になる。

 

「はっはっは~♪ さぁ、いざ行かん!」

 

「た、助けてぇぇぇ!!?」

 

楽しげなアザゼルの声と、匙の絶叫を後に2人の姿は消え去ってしまった。

 

「匙、お前のことは忘れないぞ」

 

「別に死んだ訳じゃないでしょ…」

 

イッセーの発言に忍はツッコミを入れていた。

 

 

 

そして、残った一同も作戦へと向けて色々な準備を進めていた。

 

その中でイッセーは朱乃の生い立ちや昔の境遇をリアスやグレイフィアから聞き、アザゼルからもその詳細を聞いていた。

そこへヴァーリも合流して共に夢についての話などをしていた。

さらにオーディンも合流すると若さ故の可能性について可笑しそうに、そして嬉しそうに語っていた。

ただ、その際…ヴァーリの不用意な一言で、二天龍のプライドがさらに傷付くことになったのだった。

 

その一方で…

 

「眷属?」

 

「あぁ」

 

忍は戦力増強のため、朝陽と接触してもう1人の『騎士』として眷属に勧誘していた。

 

「詳しく話すと…」

 

忍は朝陽に眷属の駒について話した。

その母体となった悪魔の駒の事も含め、今の眷属やエクセンシェダーデバイスの事、異世界『フィライト』での出来事なども話していた。

 

「……ということだ」

 

忍の話を聞き…

 

「はっ…なるほどね。アンタ、そんなことするつもりなんだ」

 

朝陽はそんな反応を示す。

 

「まぁ、色々とあってな…」

 

朝陽の反応に忍は苦笑しながら言う。

 

「一つ聞いていいかしら?」

 

「なんだ?」

 

「あたしがその眷族とやらに入って得られるメリットってなに?」

 

それを聞かれ…

 

「メリット、か。そうだな…」

 

少し考えた後…

 

「別に俺に仕えろとは言わない。俺は君のことも守りたいと思ってる。何故かと聞かれれば…ちょっと自分でも分からないんだが…ほっとけないんだ。危なっかしいというか、見てて一緒にいないとって思える。要は1人にしたくないんだ。朝陽はもっと人に頼ってもいいと思う。その頼る人間として…俺達が力になりたいと思ってる。あと、龍の近くにいるせいか、色んな戦闘も経験出来ると思うけど?」

 

忍はそう答えていた。

 

「なによ、それ。それがあたしのメリットだっていうの?」

 

呆れたような表情で忍を見る。

 

「やっぱり、ダメかな?」

 

言っててわかっていたのか、忍も苦笑しながら朝陽に尋ねる。

 

「………あたしはこれでも騎士よ? 自分の目で見たことしか信じないわ。けど、そうね」

 

そう言ってからしばし考え…

 

「アンタには邪狼との一戦の時の借りもあるし…いいわ、アンタの眷属にはなってあげる。けど、あたしはあたしで自由に動くし、あんま指図も受けないわよ? それにさっきの言葉が嘘だったら、ただじゃおかないから」

 

朝陽はそう答えていた。

 

「随分と都合の良い話だな」

 

「アンタの話程じゃないけどね」

 

互いに皮肉を言い合うと…

 

「わかったよ。でも、無茶だけはしないでほしい」

 

そう言うと忍は騎士の駒を朝陽に差し出す。

 

「さて、それはどうかしらね…」

 

朝陽はそれを受け取り…

 

トクン…

 

騎士の駒は朝陽の中へと溶け込んでいった。

 

こうして忍は新たな眷属として『流星 朝陽』を騎士とした。

果たして朝陽にはどういった影響が出るのだろうか?

 

………

……

 

会談を翌日に控えた日の夜にそれは起きた。

 

皆が寝静まった後、明幸邸の屋根の上で忍は1人夜風に当たっていたのだが…

 

「夜風に当たりに来ただけなのにな…何者だ?」

 

忍がそう言って視線を向けた先には…

 

『…………』

 

ボロボロのローブを頭から被った謎の存在…。

しかし、その中から溢れる殺気は間違いなく忍へと向けられていた。

 

「返答せずか。ここじゃ色々と問題だ。別の場所へ……」

 

そう言って忍が場所を移そうとした瞬間…

 

バコッ!!

 

「がっ!!?」

 

謎の存在は問答無用で忍の腹部を殴り…

 

『ウオオオオッ!!』

 

野太い咆哮と共に背中から"龍の翼"を広げ、そのままの状態で忍を打ち上げるようにして空へと舞い上がる。

その時、ローブも剥がれ落ちてその全貌が月明かりの夜に照らされる。

 

「な、んだ…!?」

 

そこにあったのは人間の肢体に近い肉体を持ちつつも頭部はドラゴン、その背や臀部からは龍の翼や尻尾を生やし、その体を鎧のような甲殻で覆った異形…。

黒ローブが『龍騎士』と呼ぶ存在であった。

 

「龍…ドラゴンか?! だが、この姿は…!?」

 

見慣れない姿のドラゴンに忍も困惑していたが…

 

「いい加減…離せ!!」

 

ゲシッ!!

 

龍騎士の肩を蹴ってなんとか距離を取るが…

 

「(くっそ…爪まであったのかよ…!)」

 

殴られた腹部から血が滲んでいた。

 

『グウウゥゥ…!!』

 

龍翼を羽ばたかせながら滞空する龍騎士は威嚇するように唸りながら、一気に忍へと詰め寄る。

 

「問答無用かよ…!」

 

そう言いながら足場として魔法陣を展開し、臨戦態勢に移る。

ネクサスやアクエリアスを部屋に置いてきたため、生身での戦闘となる。

 

「(こんなことなら格闘を本格的に習っときゃよかった…!!)」

 

今更、自分の格闘戦への対応力の低さに舌打ちをする。

 

『グオオオッ!!』

 

龍騎士は忍の顔面に向かって鋭い正拳突きを繰り出す。

 

「(こいつ…!?)」

 

龍騎士の正拳突きを紙一重で回避しながら忍は龍騎士の格闘戦能力の高さに驚く。

 

シュッ!

ツー…

 

回避はしたものの爪が接触したのか、頬に切り傷が生まれて血が流れる。

 

『ガアアアアッ!!』

 

忍が回避したのを確認した瞬間、龍騎士は口から焔の塊を吐き出す。

 

「なっ!?」

 

完全に虚を突かれた忍は火球をまともに喰らってしまう。

 

「くそったれが…!(見た目通り、龍の特性もあるってこたぁ…龍気も使えるはず…!)」

 

火球に焼かれた上着をすぐさま脱ぎ去ると上半身裸となる。

 

「(だが、なんだってこんな奴がここに…? なんだかピンポイント過ぎる気がするぞ…?)」

 

龍騎士を前にして、その裏で糸を引く存在が気になる忍であったが…

 

『グオオオッ!!』

 

ダダダダンッ!!

 

夜空の空気を蹴るようにしてジグザグに動くと忍の前へと再び詰め寄る。

 

「同じ攻撃を受ける程…"ドゴンッ!!"…がっ?!」

 

龍騎士が迫ってきた方向と同じ方向へと進もうとする忍だったが、龍騎士はそれを自らの体を回転させ、遠心力を加えた尻尾の薙ぎ払いで忍を吹き飛ばしていた。

 

「(尻尾まで巧みに使いやがるのかよ!!?)」

 

龍騎士の近接戦闘の幅の広さに内心焦っていた。

 

「(このままじゃ詰む! なら…)真狼、解禁!」

 

吹き飛ばされながらも真狼へと変身すると、再び足元に魔法陣を展開する。

 

「(相手は人間サイズの龍! 使える手は全て使わないと勝てない!)」

 

忍は今の自分を思い返していた。

 

真狼に覚醒したとは言え、未だ満足なスピードやパワーを発揮できないこと、紅牙に言われた『冥王スキル』にも目覚めてないこと、無意識に発動させたという吸血鬼のこと、ネクサスやアクエリアスといったデバイスがなければ戦う術が極端に減ること、イッセーのような決定打に欠けることなど…。

挙げればキリがないくらいに、忍は全体的なステータスを上げてはいるものの領域的には未熟・未完成とも言える。

 

そんな自分に腹が立ったのか…。

 

「……………」

 

拳を痛いぐらいに握り締めていた。

 

『グウウゥゥ…ッ!!』

 

そこへ龍騎士が迫ってくる。

 

「これぐらい1人で何とかしろってことかよ…!」

 

そう呟くと共に…

 

ブンッ!!

 

忍の姿が消えるように見える移動を行うが…

 

『ガアアアア!!』

 

その動きを捉えてるかのように口から火球を忍に向けて放つ。

 

「(まだだ…まだ遅い!)」

 

先日のロキ襲撃時、忍はフェンリルの動きを捉えることは出来なかった。

それでも無意識とは言え、イッセーはそれに対応してみせた。

それを思い返すようにして忍は自らの足に気を流し込む。

 

「はぁ!!」

 

その一方で両腕には魔力を纏わせて一気に龍騎士へと肉薄する。

 

「でりゃあ!!」

 

『ウオオオオッ!!』

 

バゴンッ!!

 

クロスカウンター気味に両者の拳が互いの顔面を捉える。

 

しかし…

 

「がっ…!?」

 

力の質が違い過ぎるのか、忍だけが態勢を崩そうとしていた。

 

「こ、の…!!」

 

崩れ際に気を流し込んだ足で蹴りを放つも…

 

バシンッ!!

 

確かに直撃したはずにも関わらず、龍騎士にダメージは見受けられなかった。

それどころか鎧のような甲殻に傷一つも付けられていなかった。

 

「(魔力や気の単体だけではダメだっていうのかよ…?!)」

 

その結果を見て忍は愕然とする。

 

『グオオオオッ!!』

 

ボアアッ!!

 

龍騎士の右腕に龍気が収束し、それが焔へと変換されていく。

 

「(まずい…!?)」

 

それを本能的に危険と察知した忍は魔法陣を幾枚も重ねるようにした上で両腕をクロスして防御態勢を取る。

 

『ウオオオオッ!!!』

 

バリンッ!!

 

しかしながら龍騎士の一撃は忍の防御魔法を容易に破壊し…

 

ドッガッ!!!

 

「ぐ、ぁっ!!?」

 

忍のクロスした両腕に叩き込まれた衝撃で忍は白目を剥きながら意識を一瞬失ってしまう。

 

………

……

 

~深層世界~

 

忍が意識を手放した一瞬の内に、それは再び起こる。

 

「弱いな、我が器よ」

 

ここは忍の深層世界…。

忍の目の前には腰まであるだろう輝きを放つ銀髪に血の滴ったような真紅の瞳を持ち、妖艶な美貌に真紅のドレスという風貌の美女がいた。

その瞳孔は獣のように縦に鋭く、八重歯も発達しているのか少し大きく鋭く尖っていた。

 

「アンタは…?」

 

(わらわ)は器や狼の言うところの吸血鬼。その化身よ。器の弱さに仕方なくこうして参上したまでのこと」

 

忍が美女に尋ねると、吸血鬼と名乗る美女は古風な口調でそう答える。

 

「会っていきなりそれかよ…」

 

その様子に呆れた様子で狼夜が忍の隣に現れる。

 

「伯父さん…」

 

いつの間にか現れた狼夜に忍も驚く。

 

「よっ、また随分とやられてるみてぇだな…中から見てたが、ありゃ闘争本能剥き出しな上に話が通じない相手だな」

 

肩を竦めながら狼夜は龍騎士のことをそう評す。

 

「妾の器になった以上、負けられても困るでの。そもそも力の練り方も散漫じゃ…何故、妾の力を用いぬ?」

 

吸血鬼は忍に指を突き付けて問い詰める。

 

「そう言われても…たった一回、しかも無意識にやったことをどう思い出せと?」

 

忍が吸血鬼になったのは一回。

邪狼との戦闘の最終局面で、一時的なものだ。

 

「ふぅ…ならば、仕方あるまい。ならば、少しだけ伝授しよう」

 

忍の態度に呆れたのか、溜め息を吐いてから吸血鬼は語る。

 

「器よ。お主の体内には四つの力が渦巻いておる。それはわかるな?」

 

「あぁ…魔力、気、霊力、妖力だろ?」

 

「うむ。それがわかっておるならば良い」

 

「(なんか小馬鹿にされてる気がする…)」

 

吸血鬼の物言いに怒りを覚えるものの、それを表に出さない忍だった。

 

「では、器よ。お主は何故、この四つを一つ一つでしか使わない?」

 

「え…?」

 

その言葉に忍は意表を突かれたように生返事を返してしまう。

 

「相手よりも質が劣るのであれば、それをどう補うのか…答えは簡単、力と力の足し算じゃ。しかし、それには相応の技量が必要となる。だが、器にはそれを可能とする素質がある」

 

吸血鬼はそう教える。

 

「つまり…魔力や気、霊力、妖力を掛け合わせろと?」

 

「そうじゃ。それを理解した上で、妾の吸血鬼としての力…その片鱗を己の糧にしてみせよ」

 

忍の言葉を肯定し、言うだけ言うと吸血鬼はその姿を暗闇へと同化しながら消え去ろうとする。

 

「お、おい!?」

 

「器よ。もっと高みを目指せ。そして、妾の力を掌握してみせよ」

 

そう言い残すと共に吸血鬼は完全に消え去ってしまい…

 

「時間だ。お前の意識も回復する」

 

狼夜の言葉と同調するように忍の姿が足元から消えかける。

 

「伯父さん! まだ、聞きたいことが…!」

 

「また話してやるよ。俺がいるってことはまだ完全には真なる狼を継げてないのかもしれねぇしな…」

 

その言葉を最後に忍の意識は回復するのだった。

 

………

……

 

「ッッ!!? かはっ?!」

 

忍の意識が戻ると共に防御態勢が崩されて吹き飛ばされていた。

 

「(四つの力を、一つに…)」

 

刹那の時で語られた吸血鬼の言葉を思い返して忍は自らの内にある四つの力を感じ取るべく意識を集中させる。

 

「(魔力と気は問題ない。問題は霊力と妖力…)」

 

魔力と気は普段から使っているからか、容易に感じ取れたものの…霊力と妖力の感知には少し時間が掛かるようであった。

 

『ウオオオオッ!!』

 

その間にも龍騎士は忍へと迫る。

 

「ちぃっ!(思い出せ…あの時の感覚を…!)」

 

忍は邪狼との戦闘、その最終局面を思い出そうとしていた。

 

『ガアアアアッ!!』

 

龍騎士の打撃を回避しながらあの時の感情を思い起こす。

 

「(激情に呑まれるな…力は確かに欲しい。が、激情に任せたら大切なものまで破壊してしまう…)」

 

邪狼戦で感じた激情を抑えながら自らの心身に問いかける。

 

すると…

 

ヒュッ!

スッ!

 

自然と力が抜けていき、龍騎士の攻撃を軽々と回避するようになっていく。

 

「(俺は決めたんだ。守るために力を欲すると…)」

 

そして、目の前に龍騎士とは異なる影…銀髪紅眼となり、背中から蝙蝠の翼を広げる自分の姿が忍を鋭い眼光で見詰める。

 

「(吸血鬼…なれるか?)」

 

そう思った瞬間、影が頷いたような気がした。

 

『ウオオオオッ!!!』

 

龍気を纏った右腕の渾身の一撃が忍へと迫るが…

 

バシッ!!

 

忍の右手に"妖力"が纏われ、それを容易に受け止める。

 

バサァ!!

 

そして、背中から蝙蝠の翼が広がると同時に忍の髪と瞳も銀髪と真紅の瞳へと変化した。

 

「これが吸血鬼…そして、妖力か」

 

妖力を力へと変質させて己の腕力を底上げしていた。

 

『グウウウウッ!!?』

 

予想以上の力に龍騎士も驚き、拳を引っ込めて忍との距離を稼ぐ。

 

「今ので大体は把握できた。霊力の使い方は今後の課題だが…一先ず出力は出来るな」

 

吸血鬼の覚醒に伴い、霊力の出力のコツも把握したようだった。

 

「もう、遅れは取らん」

 

そう言うと蝙蝠の翼を羽ばたかせて龍騎士へと接近する。

 

『ガアアアアッ!!!』

 

龍騎士もまた龍の翼を広げて忍へと向かう。

 

「(出力した力を同調させ…)」

 

忍は妖力を中心に魔力、気、霊力の四つを掛け合わせて両腕へと纏い始める。

 

「(打撃に用いる!)」

 

『グオオオオオッ!!!』

 

シュッ!!

バコンッ!!

 

再び忍と龍騎士の拳がクロスカウンター気味に互いの顔面を捉える。

 

「ぐっ…!!?」

 

『ガァッ!!?』

 

が、今度は互いによろける結果になる。

つまり、忍の拳が龍騎士の甲殻や龍鱗に対して相応の力を与えるようになったということである。

 

「(いけるか…!)」

 

それを文字通り肌で感じた忍は攻勢に転じた。

 

「はぁッ!!」

 

四つの力を合わせた蹴りを龍騎士の腹部へと叩き込む。

 

『グガァツ!!?』

 

それによって龍騎士は口から緑色の血を吐き出す。

 

ペチャ…

 

その吐血の一滴が忍の口元近くに付着する。

 

「………」

 

無意識の内にペロリと緑色の血液を舐め取った瞬間…

 

ドクンッ!!

 

「ッ!!?」

 

忍の体に強烈な電流が走った様な衝撃が襲った。

 

「(なんだ…? 今のは…?)」

 

その衝撃に忍自身も戸惑っていたが…真紅の眼光で目の前の龍騎士を見ると…

 

"血を貪り、喰い尽くせ"

 

そのような感情が忍の中で沸々と湧いてきていた。

 

「(な、なにを…?!)」

 

自分の感情に戸惑いを隠せないでいた。

 

"血を吸え…新たな力をその手にするために…"

 

「(新たな、力…?)」

 

目の前で威嚇している龍騎士を見ながらそんなことを考えていた。

その吸血衝動とも言えるモノは強く激しく、忍の理性を簡単に溶かしていった。

 

「うがあああああ!!!」

 

獣染みた咆哮を放ち、忍は龍騎士へと一直線に飛翔する。

理性を失った獣はその本能に従い、行動を起こす。

 

『グオオオオッ!!!』

 

それを攻撃と捉えた龍騎士は迎撃行動へと移る。

 

しかし…

 

ガキュッ!!!

 

『???』

 

一瞬の出来事で龍騎士も何が起きたかわからなかった。

しかし、事実として…龍騎士の突き出していた右腕が"肩からもぎ取った様に失っていた"。

 

ガキ…バリ…グシャ…

 

その直後に聞こえる、異様な咀嚼音…。

 

『----』

 

龍騎士が振り返ると、そこには…

 

「が…んぐっ…」

 

ごきゅりっ…!

 

"龍騎士からもぎ取った右腕を捕食し、それを呑み込む忍の姿"があった。

 

『----ッ!!!??』

 

その光景を見て龍騎士の本能が警告音を発する。

 

"こいつは危険"だと…

 

それを感じ、逃げようとした矢先…

 

「逃げんなや…仕掛けたのはテメェだろ?」

 

忍の速度が勝り、龍騎士の背後から羽交い絞めにして捕らえた瞬間…

 

ガブリッ!!

 

その首筋に鋭い牙を打ち立て…

 

ゴキュリ…ゴクゴク…!

 

その血液を飲み始めたのだ。

 

『ガアアアアッ!!!??!?』

 

その龍騎士の咆哮には闘争本能は微塵もなく、ただただ恐怖の色だけが色濃くなっていた。

 

「テメェの力…俺が貰う…!!」

 

『ギャアアアアッ!?!?!?!』

 

その言葉を最後に龍騎士は…。

 

………

……

 

明幸邸の中庭に吸血鬼姿で降り立った忍は…

 

「お、俺は…」

 

月夜に照らされた忍の姿は…上半身裸の吸血鬼状態で…体中が緑色の血塗れになっていた。

 

「うっぷ…!!」

 

自らの行いを思い出したのか、口元を押さえて吐き気を我慢する。

 

「(俺は……何をしてるんだ…?)」

 

しかし、吐き気は一向に止まる気配を見せず、中庭で膝から倒れる形になる。

 

「しぃ、君…?」

 

忍の気配に勘付いたのか、智鶴が中庭までやってくる。

てか、よく最初の咆哮で目覚めなかったよな…。

 

「----ッ!!??」

 

「しぃ君!?」

 

忍の様子が変だとわかった途端に忍に近寄っていた。

 

「どうしたの?! これ、血…?」

 

忍の状態に困惑した様子であった。

しかし、それも無理もないはずである。

 

「なにがあったの!?」

 

聞いても答えられない……否、答えれないだろう…。

 

「(俺は…俺は…)」

 

ドクンッ…ドクンッ…!!

 

動悸が激しく、今にも倒れそうなのに…皮肉にも自己嫌悪によって意識を保ってしまっていた。

 

すると…

 

ドガッ!!

 

「っ!?!」

 

後頭部に強い衝撃が走り、忍の意識を強制的にシャットアウトさせてしまう。

 

「しぃ君!? 誰!」

 

忍が倒れたのを見てスコルピアを起動させようとするが…

 

「落ち着きなさい。私よ」

 

そこにはカーネリアが立っていた。

 

「カーネリアさん!?」

 

「なんだか坊やの様子が尋常じゃなかったから強制的に気絶させたのよ。話は明日にでも聞けばいいし…もう遅いでしょ?」

 

智鶴に文句を言われる前にカーネリアはそう言って忍を指差す。

 

「それよりも…それ、どうするの?」

 

「もちろん、洗います!」

 

「魔法を使うって選択肢はないのかしら?」

 

とにもかくにも智鶴とカーネリアの2人掛かりで忍を部屋に運んだ。

忍に付着した龍騎士の血液はシアを起こして魔法で洗い流し、瓶の中へと回収していた。

回収した血液は調べてもらうために後日アザゼルの元へと送られることになった。

 

今後、龍騎士を捕食してしまった忍の身には何が起こってしまうのか…?



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第三十八話『決戦×因縁・神と冥王の黄昏』

オーディンと日本神話の神々との会談当日。

 

時刻は夜。

それぞれのチームが準備の最終確認を行っている中…

 

「………………」

 

顔面蒼白で前日よりもげっそりとした表情の忍が会談の行われる高層高級ホテルの屋上の一角で座っていた。

 

「(最悪のタイミングだ…龍気が得られたのは嬉しい誤算だが、その代償が高くついた気がする…)」

 

前夜に起きた龍騎士との戦闘が未だに尾を引いていた。

 

「しぃ君、本当に大丈夫なの?」

 

そんな忍を心配して智鶴が常に側へと寄り添う。

 

「忍、さん…」

 

顔色の悪い忍の顔から出る汗を萌莉がハンカチで拭き取る。

 

「あら、白龍皇じゃない」

 

すると、そこへヴァーリが近づいてくる。

 

「君の中に俺達とは異なる龍の波動を感じる。一体、昨日何があったのか聞きたいんだが…?」

 

「流石に敏感だな…話せば長くなるからいずれ機会があったら話すよ」

 

顔面蒼白のまま忍はそう答えた。

 

「ふむ、そうか。では、機会があれば聞かせてもらうとしようか」

 

ヴァーリは少し残念そうに呟くと、チームの所に戻っていった。

 

「(あんな体験を話すのは…もう少し時間がいるしな…)」

 

そうこうしてる間にも会談の時間となる。

 

「来たか」

 

「(周囲の匂いが変わった…!)」

 

ヴァーリの呟きと同時に忍も立ち上がる。

 

ブゥンッ!!

 

空間の歪みと共に大きな穴が開き、そこからロキとフェンリルが現れる。

 

「作戦開始!」

 

バラキエルの一言によってシトリー眷属がホテル一帯を包むほどの結界魔法陣を展開してロキとフェンリルを含めグレモリー眷属+イリナとヴァーリチーム、紅神眷属、救援にやってきたタンニーンとロスヴァイセを転移させる。

しかし、ロキはそれを感知していながらも不敵な笑みを浮かべるだけで抵抗の素振りを見せなかった。

 

が、転移の直前…結界内に異物が混入してしまっていた。

 

………

……

 

~採石場跡地~

 

「どうやら、招かざる客人も来たようだ」

 

ロキが混成チームとは違う方を見ると…

 

「紅神 忍ッ!!」

 

そこには紅牙の姿があった。

 

「紅牙?!」

 

「転移直前に何者かが来たのは感知出来たが…まさか、紅牙とは…」

 

紅牙の登場に忍達はもちろん、ヴァーリ側も驚いていた。

 

「よっ、邪魔させてもらうぜ?」

 

紅牙の背後には秀一郎も控えていた。

 

「禍の団…!」

 

「このタイミングで介入なんて!」

 

バラキエルとリアスが同時にヴァーリを見ると…

 

「いや、これは紅牙の独断だろう。今の禍の団で大きな派閥は英雄派くらいで、冥王派は数が少ないからな…それに先の一件で余計に殺気立ちそうな旧魔王派も行動しておらず、冥王派の内部事情もあるんだろう。そうした結果、トップである紅牙がロキとの一件に乗じて動くのは必然だろうな」

 

禍の団の内情に詳しいヴァーリがそう漏らす。

 

「幸いにも紅牙の狙いは1人だ。こちらは我々で何とかするとして…」

 

ヴァーリが視線を忍に向けると同時に…

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

イッセーのカウントダウンが終了し、赤龍帝の力が鎧として具現化する。

それと同時に女王への昇格も果たす。

 

「秀一郎。君も戦うのか?」

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』

 

そう聞きながら、ヴァーリもまた白龍皇の力を鎧として具現化させる。

 

「俺は…見届け人さ。冥王派が…ここで終わるのか、それとも…」

 

そう言って岩場に腰掛ける秀一郎の視線は復讐という憎悪の焔を纏った紅牙の背中へと向けられていた。

 

「そうか」

 

「今生の別れは終わったかね?」

 

秀一郎の答えを聞いたヴァーリにロキが話し掛ける。

 

「問題ない。別に今生という訳でもあるまいしな」

 

「爺さんの邪魔をさせっかよ!」

 

そう言ってロキの前に二天龍が立ち並ぶ。

 

「私の相手は二天龍か…! 素晴らしい! まさか、赤と白がこのロキを相手に共闘するとは! 実に愉快な気分だ。では、僭越ながらこのロキが二天龍を相手にする初めての者となろう!!」

 

ロキは二天龍が揃って相手になることを嬉々として受け入れていた。

 

「シア、いいな?」

 

気持ちを切り替え、忍は紅牙の前へと踏み出す。

 

「はい…私も覚悟は出来てます。ですから、どうか…兄を…止めてください!」

 

シアの言葉に…

 

「あぁ…任された。だから、そっちも任せたぞ!」

 

忍はシアの方へと振り向いて微笑みを浮かべた後、他のメンバーと協力してフェンリルとの戦いを任せる折を伝えていた。

 

「はい…!」

 

「行きましょう、シアちゃん」

 

ディメンション・スコルピアを起動させると共に即座に鎧として纏った智鶴がリアルの横に立つ。

 

「(しぃ君…お願いだから無茶だけはしないで…)」

 

心の中で祈りながらスティンガーブレードを両手で構える。

 

『行くぞ、小娘共!』

 

タンニーンの号令と共にイッセー、ヴァーリ、忍以外のメンバーがフェンリルへと向かう。

 

 

 

トップ会談から始まった忍と紅牙の対決も三度目になる。

 

「(ハッキリ言って気分最悪なんだが、そんなこと言って相手出来るような相手でもないしな)」

 

ロキ相手にも言えることだが、忍も腹を括る。

 

「ネクサス、ファルゼン、アクエリアス起動。真狼、解禁!」

 

ネクサスを起動させ、その上からアクエリアスを装着し、ファルゼンを右手に持って真狼を解放する。

アクエリアスは紅牙の焔と重力に対する強力な防衛策となる。

 

「新たな力か!」

 

真狼の姿を見て紅牙は戦意を剥き出しにしながら冥王となり、周囲に黒と焔の球体を展開する。

 

「だが、その程度で俺が怯むものか!」

 

そう言うと同時に焔の球体を数十単位で飛ばす。

 

「紅牙! いい加減にしろ! この戦いに何の意味がある!!」

 

アクエリアスに搭載されている固有魔法『シェライズ』をカーテン状に展開して紅牙の焔を防ぎながら忍が叫ぶ。

 

「意味はある! 次元辺境伯だか何だか知らないが、今更悪魔と手を取り合うなど…!! 貴様を血祭りにした後、次は貴様を指名した魔王を葬る!!」

 

そう叫んで紅牙は焔の球体を一点に収束して高熱の剣を生み出して忍に斬りかかる。

 

ギンッ!!

ジュワァァ!!

 

「話も聞かずに一方的に差し出された手を拒む気かよ!!」

 

それを忍はファルゼンの刀身に冷気を纏わせて防ぐ。

 

「差し出された時点で奴らが我等冥族を下に見ている証拠だろうが!!」

 

「同じ目線に立とうとしてるっていう考えはないのか!!」

 

そのような口論を繰り広げながら2人の剣戟は激しさを増していく。

 

 

一方の二天龍とロキの戦いはというと…

 

「行くぜぇぇ!!」

 

イッセーの突貫に合わせてヴァーリが空中を舞うようにしてロキへと向かう。

 

「来るがいい、二天龍!」

 

そう言ってロキは北欧魔術を展開していき、イッセーとヴァーリに向けて追尾性の高い攻撃魔法を放つ。

ヴァーリはその攻撃を回避していくが、イッセーは当たろうが構わず突撃する。

 

「まずは一発!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

イッセーの右手に龍気が集まり、その力を倍加させながら低空飛行からの渾身の一撃をロキを守る北欧の防御魔術を打ち破る。

 

「ふっ…」

 

バアアアアアッ!!!

 

そこへヴァーリが間髪入れずの北欧の攻撃魔術を掃射する。

掃射した瞬間、イッセーも慌てて後退する。

 

「(ヴァーリの野郎! でも、ハンパねぇ威力だな……これが俺のライバルかよ…!!)」

 

それを見たイッセーは改めてヴァーリの異常さを肌で感じてしまっていた。

 

だが…

 

「はははは!!」

 

宙よりロキの高笑いが聞こえ、イッセーとヴァーリはそちらを見る。

ロキのローブはいくらか破れていたものの、ロキ自身は無傷であった。

 

「(マジかよ、ヴァーリの攻撃でも無傷とか…流石は神様ってとこか?)」

 

そこでイッセーは秘密兵器を取り出すことにした。

 

「っ! それはミョルニル。いや、レプリカか。オーディンめ…そこまで会談を成功させたいのか…!!」

 

ロキはミョルニルの存在よりも、それを渡したオーディンに対して憤りを感じている様子であった。

 

「これでも喰らって大人しく眠ってろよ!!」

 

イッセーがレプリカ・ミョルニルを振るってロキを攻撃しようとするが…

 

ドオオオンッ!!

 

ロキはそれを避けてしまい、地面にクレーターが発生するに留まった。

 

「あれ…?」

 

思わず、イッセーは何度かミョルニルを振るってみた。

しかし、何も起こらない。

 

本来、ミョルニルは北欧の雷神トールの持つ伝説の武器であり、その槌には神の雷が宿っている。

イッセーに渡されたミョルニルはレプリカであるものの、本物に近しい力を秘めており、それに倍加した力を譲渡

することで対ロキ戦の切り札としたものなのだが…。

その神の雷が発生しないのである。

 

「ふははは」

 

そんなイッセーの姿を見てロキが苦笑する。

 

「その槌は力強く純粋な心の持ち主でないと真の能力は発揮しない。赤龍帝、貴殿には邪な心があるから雷も発生しないと見た。何よりも…重さは無く、羽のように軽いと聞くしな」

 

ミョルニルの追加情報を敵であるロキから聞いたイッセーは…

 

「(ま、マジか!?)」

 

邪な心に思い当たりのあるイッセーは酷く狼狽する。

 

「さぁ、そろそろこちらも攻勢に転じようか」

 

そう言うとロキは(おもむろ)に指を鳴らすと、それに合わせてフェンリルが前へと一歩踏み出す。

 

フェンリルへと向かっていたメンバーの内、リアスが手を挙げると…

 

「にゃん♪」

 

ブォォン…ッ!

 

黒歌が鳴くと同時にその周囲に魔法陣が展開されて地面から巨大で太い魔法の鎖『グレイプニル』が出現する。

それをフェンリルに相対する全員で掴むと、フェンリルへと投げつける。

 

「グレイプニルか! だが、無駄だ。その対策なら既に…」

 

バチバチバチ…ッ!!

 

ロキの言葉空しく、グレイプニルは意思を持ったかのようにフェンリルへと巻き付いていった。

このグレイプニルはダークエルフによって強化されているのだ。

 

『グオオオオオンッ…』

 

グレイプニルによってフェンリルも苦しそうな悲鳴を上げる。

 

「フェンリル、確保だ」

 

その様子を見てバラキエルが呟く。

 

しかし…

 

「ふむ…仕方あるまい」

 

そう呟くと、ロキは焦った様子もなく両腕を広げる。

 

ブゥンッ…

 

「スペックは落ちるが、それでも貴殿らを屠るには十分だからな」

 

その言葉と共に空間が歪み、そこから新たに2匹の狼が現れる。

 

『『ウオオオオオオオンッ!』』

 

その姿はフェンリルに酷似していた。

 

「なっ!?」

 

「そんな?!」

 

新たなフェンリルの登場にヴァーリと紅牙以外のメンバーが驚く。

 

「紹介しよう。スコルとハティ。フェンリルの子だよ。親よりも全体的なスペックは劣るが、神を屠る牙は健在だ」

 

ロキは2匹の頭を撫でた後、グレモリー眷属、ヴァーリチーム、紅神眷属、タンニーン、ロスヴァイセを指差す。

 

「お前達の父を捕らえたのはあの者達だ。その牙と爪で食い千切ってしまえ!」

 

ロキの言葉に従い、2匹の狼が疾走する。

 

『たかが犬風情が…!!』

 

そう叫びながらタンニーンが火球を吐き出す。

しかし、元龍王の火球を喰らっても2匹の狼は何事もなかったように行動している。

 

 

 

ただ…

 

「犬風情って言うなぁ!!」

 

忍が耳聡くタンニーンの言葉に怒りを覚えていた。

別に忍に向けられた言葉でないのだが…そこは同じ狼として譲れない何かがあるのかもしれない…。

 

ギンッ!!

 

その隙を突こうと紅牙も焔の剣で突きを放つが、忍はそれをファルゼンで受け止める。

 

「余所見とは良い度胸だな!!」

 

「そこを突きやがったテメェは姑息だろうが!!」

 

そんな怒鳴り合いをした後、互いに距離を取る。

 

「ブリザード・ファング!」

 

「バーニング・ブレイザー!」

 

距離を取った瞬間、忍は中距離拡散砲撃を、紅牙は焔の球体を媒介にした広範囲砲撃をそれぞれ放っていた。

 

ズドドドドド…!!

ジュワァァァッ!!

 

氷と焔がぶつかり合い、急激な温度差を生み出して氷の冷気を焔の熱気が水蒸気へと変換・発生させる。

そのせいか、ほぼ密閉された空間である採石場跡地の中で水蒸気が充満していく。

 

「ちょっと!?」

 

「これじゃあ、フェンリルが見えないじゃない!!」

 

忍と紅牙のぶつかり合いで他のメンバーに影響が出る。

 

「とんだ目暗ましを…!」

 

ロキもローブを翻して水蒸気の中へと身を隠そうとする。

 

「だが、好都合だ!」

 

ヴァーリがロキへと向かって飛翔する。

 

だが…

 

「っ!! 待て! そっちにフェンリルが!!」

 

忍の嗅覚がフェンリルを察知し、ヴァーリへと警告する。

 

「どうせ、子の方だろう? その程度でこの俺が…!」

 

そう判断したヴァーリがさらに加速すると…

 

「違う! 子供じゃない! そいつは!!」

 

ガブリッ!!

 

忍の警告空しく、ヴァーリがフェンリルに噛み付かれる。

 

「ぐはっ!? こ、こいつは…!!」

 

現れたのは子供ではなく、親であるフェンリルだった。

その体にグレイプニルの拘束は無かった。

 

「そんな! フェンリルの奴は確かにグレイプニルに…!!?」

 

イッセーはそう言って仲間の方を見るが、水蒸気でなかなか見えなかった。

 

「ふはははは! よくやったぞ、スコルにハティよ! おかげで白龍皇を噛み砕いたぞ!」

 

ロキが突風を発生させて水蒸気を晴らすと、そこにはグレイプニルを咥える2匹の狼の姿があった。

 

「ちっ! しくじったか!」

 

自分の起こしたアクションに対して忍が舌打ちする。

 

「ヴァーリッ!!」

 

すぐさまイッセーがヴァーリを助けようとフェンリルに向かうが…

 

ザシュッ!!

 

「ぐわぁぁ!?!」

 

前脚の薙ぎによってイッセーの鎧が容易に破壊されてしまう。

 

『これ以上はやらせん!!』

 

そこへタンニーンが加勢に入り、極大の火球を吐き出す。

 

『ウオオオオオオン!!』

 

しかし、フェンリルの咆哮に火球は消滅。

 

ビュッ!

ザシュンッ!!

 

次の瞬間にはヴァーリに噛み付いたまま、タンニーンを攻撃していた。

 

『ぐおおおっ!?』

 

その攻撃によってタンニーンの体は傷だらけとなっていた。

 

「ついでだ、こいつらの相手もしてもらおうではないか!」

 

そう言ってロキは足元から影が広がり、そこから体が細長いドラゴンが複数現れる。

 

『ミドガルズオルムも量産していたのかッ!』

 

それを見てタンニーンが吠える。

 

「そういうことだ」

 

ロキが不敵な笑みを浮かべて戦場を見渡す。

 

「混沌としてきたな。これが神々の争いならば黄昏になっていたものを…」

 

そして、残念そうにそう呟く。

 

「ロキ!!」

 

忍がロキに肉薄してファルゼンを振り下ろす。

 

ギィィィンッ!!

 

「ほぉ、さらにスピードを増したか? しかし、この内から感じられる波動…」

 

ファルゼンを魔法陣で防ぎながら忍の中から感じる力に対して興味深い視線を送る。

 

「この世のものとは思えない闘争心に満ちた龍の波動だ。一体何をその身に宿した?」

 

「…ッ!!!」

 

その問いに忍の表情が怒りに転じる。

 

「ふっ、まぁいい。残念ながら貴殿の相手は私ではないのだよ!」

 

そう言って魔法陣を力任せに押し出して忍を吹き飛ばすと…

 

「紅神ぃぃッ!!」

 

そこへ紅牙が飛び込んでくる。

 

「紅牙…ッ!!」

 

忍が紅牙と戦ってる合間にもグレモリー眷属+イリナとヴァーリチームはスコルとハティの相手をし、紅神眷属とタンニーン、ロスヴァイセは量産ミドガルズオルムの相手をしていた。

 

「防戦になってはダメよ。攻勢に出て!」

 

リアスが眷属に指示を飛ばし…

 

「これが紅神の言ってた戦いか。確かに管理局では経験出来ないわね!」

 

「そんなことを言ってる場合ですか!」

 

朝陽とフェイトが背中合わせになって短く言葉を交わすと、別々の量産ミドガルズオルムへと向かう。

 

「オラオラ!」

 

ヴァーリチームはたった3人であるにも関わらず、苦戦してる様子すらない。

 

「仕方ないか……兵藤 一誠」

 

そんな中、フェンリルに咥えられたままのヴァーリがイッセーに声を掛ける。

 

「………ロキは任せた。他も君の仲間と美猴達に任せる」

 

「お前、何を言って…?」

 

ヴァーリの言葉にイッセーが困惑していると…

 

「この親フェンリルは……俺が確実に屠る…!!」

 

そう言い放っていた。

 

「ふはははははっ!! これは滑稽だ! 白龍皇よ、一体どうやってそれを成す気だ! 」

 

ヴァーリの言葉にロキが高笑いをすると…

 

「天龍を…このヴァーリ・ルシファーを舐めないでもらおうか!!」

 

文字通り鬼気迫るような睨みをロキへと向けた後、ヴァーリはある言葉を紡ぐ。

 

『我、目覚めるは…』

 

『覇の理に全てを奪われし、二天龍なり…』

 

『無限に妬み、夢幻を想う…』

 

『我、白き龍の覇道を極め…』

 

『汝を無垢の極限へと誘おう…ッ!!!』

 

それは…イッセーも口にしたことのある言葉…

 

『Juggernaut Drive!!!!』

 

その音声と共にヴァーリの鎧が光り輝きながら徐々に変化していった。

ヴァーリは自らの意思で覇龍へとなろうとしていたのだ。

 

「黒歌!!」

 

「了解♪」

 

ヴァーリの言葉に黒歌はグレイプニルをヴァーリの側まで転移させると、さらにフェンリルごとヴァーリを別の場所へと転移させようとしていた。

 

「ヴァーリッ!」

 

イッセーがヴァーリに向かって叫ぶが、ヴァーリはイッセーを少し見ただけでその場からフェンリルと共に消え去ってしまった。

 

 

 

「(白龍皇が消えた? となるとロキの相手はイッセー君だけに…!)」

 

状況を匂いで察した忍は紅牙の攻撃を回避しながら思考を巡らす。

 

「(………一か八かでやってみるか…)」

 

そして、忍は一つの決意をしてからそれに賭けることにした。

 

「紅神ぃぃッ!!!」

 

紅牙は重力の球体を収束させていき、圧縮した高密度の重力場を球体状に形成していた。

それはさながらブラックホールのような作用を引き起こし、周囲のエネルギーを吸い込み始める。

 

『アレは危険です。超重力反応を検知。さながらブラックホールのような…』

 

その光景にアクエリアスからの警告が発せられる。

 

「シェライズ、最大稼働だ!」

 

『了解。コアドライブ、最大稼働』

 

周囲の魔力素を吸収し、胸にある氷の結晶を象ったサファイアが輝きを増す。

そして、各部からサファイアブルーの魔力粒子が放出し始める。

 

「はぁ…!!」

 

ファルゼンを眼前の岩肌に突き刺すと共に両腕を高く掲げてそのまま両手を組む。

 

「ジ・エンド・オブ・グラヴィタスッ!!!」

 

「シェライズ・シール・エクスキューションッ!!!」

 

両者、ほぼ同時に超重力魔法と対属性魔法砲撃を放った。

 

「(ここだッ!!)」

 

砲撃を放った瞬間、忍はファルゼンを持って一気に駆け出す。

 

ブオォォォッ!!!

 

砲撃よりも速く動いたためか、強烈な吸収力によって忍の体は黒い球体に引き寄せられる。

 

「(俺の中に眠りし霊力よ…どうか頼む。今この時、紅牙の奴を憎しみの連鎖から解き放つきっかけを…!!)」

 

そう願った瞬間…

 

ゴオオオオッ!!

キィンッ!!

 

黒き球体をシェライズが覆い、そこにフリストシールによる封印凍結も加わって無力化させていた。

 

「バカな?!」

 

その結果に紅牙が驚いた隙を見逃さず、忍が紅牙の刀の届くギリギリの間合いまで入り…

 

「その憎悪の連鎖をこの俺が断つ…ッ!!」

 

上段に構えたファルゼンの刀身に高密度の霊力が付加される。

 

「断浄閃ッ!!」

 

ザシュッ!!!

ブシャアッ!!

 

一刀両断の軌道で振り下ろすと共に霊力で練り上げられた斬撃がほぼ零距離で紅牙を襲う。

その時、切っ先が紅牙の胸に触れて切り裂き、多少の血を噴出させる。

 

「がああああああッ!!?」

 

忍の渾身の攻撃によって紅牙は岩肌の壁まで吹き飛んで激突する。

 

「紅牙…ッ!!」

 

それを見ていた秀一郎がすぐ紅牙の側まで走る。

 

「次は…!!?」

 

そう言って忍が皆の方を見ると、朱乃を庇ってバラキエルがハティによって噛み付かれて負傷してるのが見えた。

そこへイッセーが向かい、ハティを殴り飛ばしてバラキエルを解放していた。

 

ちなみにスコルの方は…運悪くヴァーリチームの相手をしたばかりに右目、爪、牙をコールブランドを持つ剣士『アーサー・ペンドラゴン』によって抉られていた。

 

「ちっ…なら俺が相手するしかないか!」

 

倒れた紅牙を一瞥した後、忍がロキへと肉薄する。

 

「龍の波動を持つ者を立て続けに相手するのは大変だな!」

 

そう言うロキもまた忍へ向けて北欧の攻撃魔術を放っていた。

 

「その攻撃ならもう見た!」

 

忍は左をロキへと向けて"同じような魔術"を展開して迎撃する。

 

「ッ!? 我が北欧の魔術を?! 白龍皇が使ったのならまだしも貴殿も使うのか!?」

 

攻撃を迎撃されたのもそうだが、忍が北欧魔術を使ったことにロキは驚いていた。

 

「(俺も結構驚いてんだがな…)」

 

しかし、それは忍も同じことだった。

なんせ、ヴァーリから北欧魔術の本を少し貸してもらって読んだだけで、あとはこの戦闘の間にロキやヴァーリの使っていた魔術を見様見真似で行っただけなのだから…。

 

すると…

 

「誰だ、お前は!!?」

 

イッセーの方から素っ頓狂な声が聞こえてきた。

 

「なんだ?」

 

ロキとの戦闘中ではあったが、気になって耳を傾けていると…

 

「お、おっさん!!」

 

『なんだ、どうした!? また何か起きたのか!? また、乳関連のことか!?』

 

イッセーの声にタンニーンが反応し、そんなことを言い出す。

 

「乳神様って一体どこの神話体系の神さまだ!?」

 

…………………………。

 

イッセーの言葉に敵味方全員が間の抜けた顔になってイッセーを見る。

それはハティや負傷したスコル、量産ミドガルズオルムも同様だった。

 

『……ッ!! リアス嬢ぉぉ!! あいつの頭に回復をかけてやってくれぇぇぇ!!』

 

一拍を置いてタンニーンの絶叫が戦場に木霊する。

 

「イッセー! それは幻聴よ! どうしましょう、フェンリルの毒牙が頭にまで…!」

 

「イッセーさん、しっかりしてください!」

 

困った様子のリアスと、イッセーの頭に回復のオーラを飛ばすアーシア。

 

「ち、違うんです! 確かに朱乃さんのおっぱいから乳の精霊とかいうのの声がしたんです!」

 

そんなあり得ない弁明をすると…

 

「貴様…! うちの娘がそんな訳のわからないものを宿してるとでも言いたいのか!!」

 

当然ながら父親であるバラキエルがキレる。

 

「イッセー君…」

 

「「「「……………」」」」

 

忍を含んだ紅神眷属の何人かは白い目線をイッセーに送っていた。

 

『い、いや…みんな聞いてくれ。確かに俺にも乳の精霊とやらの声が聞こえる…。残念ながら、相棒は別の次元世界の神の使いを呼び寄せたらしい…』

 

ドライグの声が戦場に響く。

 

「バカな!?」

 

「そんな!」

 

「嘘だろ!?」

 

「ドライグまでダメージを!?」

 

しかし、そんなドライグの声もダメージを受けたせいだと思われている。

 

その後、イッセーに起きたことを簡潔に説明するなら…朱乃の本心を垣間見たことだろうか。

それによってバラキエルと朱乃は和解する第一歩を踏み出していた。

 

その結果…

 

バアアアアアッ!!!

 

イッセーの纏う鎧に備わる全宝玉から光が放たれ、レプリカ・ミョルニルから極大の光を発せられていた。

 

「これは…我等も知らない神格の波動を感じる…。異世界の、乳神? まったく、今回の赤龍帝は不思議が満載と見た!」

 

そう叫ぶと同時にロキはマントを広げて自身の影を拡大させると量産ミドガルズオルムを新たに複数出現させていた。

 

だが、その時…

 

ブオオオオオオンッ!!!

 

戦場に黒き炎が巻き起こり、ロキを含めスコルとハティ、量産ミドガルズオルムを覆い始めた。

 

『この漆黒の炎は…! 黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラか!?』

 

タンニーンが驚きの声を上げる。

 

「(ヴリトラ? となると匙君か!)」

 

忍がタンニーンの言葉をいち早く勘付く。

 

「(だが、この匂いは…)」

 

忍は考えるのを止めると、即座に行動に移す。

 

「くっ! なんだ、この炎は!? 体の自由が効かん! 特異な能力を持つ龍王がいたと聞いたことがあるが…まさか、こいつが!!」

 

ロキが黒き炎によって動きを封じられている間に…

 

「智鶴、ディメンションゲイトを頼む!」

 

「っ! はい!」

 

智鶴が忍の方を向いて魔法を展開する準備をする。

 

「フェイト、シア、俺に続け!」

 

両手の間に魔力を練り始める。

 

「了解!」

 

「はい!」

 

忍の言葉にフェイトとシアもまた魔力を練り始める。

それぞれ忍は氷、フェイトは雷、シアは焔の属性を付加させている。

 

「行くぞ! 三属性同時砲撃魔法!」

 

忍が叫んだ瞬間、フェイトとシアが同時にディメンションゲイトへと属性砲撃を放つ。

 

ブゥンッ!!

 

3人の放った砲撃魔法がディメンションゲイトに吸い込まれると共に黒い炎に包まれたスコルとハティ、量産ミドガルズオルムの周囲に小型のディメンションゲイトが出現し、砲撃の雨を降らせる。

 

「ディメンション・バスター、トリニティシフトッ!!」

 

この砲撃の雨と共にタンニーンやロスヴァイセの火球や砲撃も加わり、スコルとハティ、量産ミドガルズオルムは戦闘不能となり、残りはロキだけとなった。

 

「旗色は悪くなったか。では、今回はこのまま退散しようか」

 

そう言ってロキが黒き炎から抜け出すと空へと飛び上がる。

 

「待ちやがれ!!」

 

そこへ光輝くハンマー片手にイッセーがロキを追撃する。

 

「赤龍帝か。だが、残念。我は一時的に退却し、三度ここへと訪れ再び混沌を……」

 

そう言った瞬間…

 

ピシャアアアアッ!!!!

 

ロキを雷光が襲った。

それを放ったのはバラキエルと堕天使の血を一時的に覚醒させた朱乃の2人であった。

 

「がっ?! な、なにが…ッ!?」

 

いきなりのことに煙を上げて落下するロキ。

そこへ再び黒き炎が襲い掛かる。

 

「バカな!? これは先程解呪したはず!?」

 

再び黒き炎に捕らわれたロキに…

 

「いっけぇぇぇ!!!」

 

極大の光を放つミョルニルをイッセーが叩き込む。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

『Transfer!!』

 

そして、当てた瞬間に増加させた龍気をミョルニルへと流し込んでその威力を極大まで引き上げる。

 

ドガガガガガガガッ!!!

 

その攻撃によってロキが崩れ落ちる。

 

「何故だ…聖書に記されし神が…何故、禁手なるものを…神滅具という神をも屠れるだけのものを消さずに残したのか…。そして、それを何故非力な人間などに持たせたのだ…?」

 

そう言い残しロキは完全に沈黙した。

 

 

 

こうしてロキとの戦いは終わった。

 

この戦いに乱入してきた紅牙と秀一郎の身柄は悪魔側が拘束。

 

量産ミドガルズオルムの軍団はロキと共に北欧へと連行されていった。

また、スコルとハティは何故だか知らないが、忍が引き取って療養させるとか言い出していた。

同じ狼として何か思うところがあったのか…?

というか、色々と問題にならないだろうか…?

 

あと、ヴァーリチームは知らないうちに退散しており、フェンリルも消息を絶っている。

ヴァーリ本人も相当な手傷を負ったはずだが…。

 

 

 

オーディンは会談に成功して無事に帰還した。

 

…のだが、護衛であるはずのロスヴァイセを置き去りにしてしまっていた。

そんな路頭に迷っていたロスヴァイセをリアスが最後の眷属として引き取ることになったとか…。



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8.同盟旅行のリベリオン
第三十九話『変わりゆくモノ』


ロキ戦より数日が経ったある日のこと…。

 

突然の通信に学園の屋上に移動した忍がネクサスを介して対応していた。

 

「紅牙が…?」

 

悪魔側で拘束されていた紅牙が目覚めたという情報が忍の元へとやってくる。

 

『えぇ、意識もハッキリとしていますし、何より少し心が安定してるようにも見えます』

 

ちなみに連絡してきた相手はグレイフィアである。

 

「(これも霊力のおかげか?)」

 

ロキ戦の折、紅牙に対して行った霊力を介した攻撃を思い出す。

 

『如何いたしますか? サーゼクス様はあなたと共に彼の面会に赴きたいと言っていますが…』

 

そう言うグレイフィアの表情はこの面会に対してあまり好ましくない印象を抱いている様子だった。

 

「(次元辺境伯としての責…だよな)」

 

就任した以上、紅牙との和解も必要と考えている忍は…

 

「わかりました。こちらからも我が僧侶、フレイシアスを連れて行きます。彼女は彼の妹です。きっと兄妹でしか話せないこともあるでしょうし…」

 

快く引き受けていた。

シアも連れて行くことを条件にしてだが…。

 

『わかりました。サーゼクス様にも了解の折と妹さんのご同伴のことは伝えておきます。つきましては学園が終わったらすぐにこちらに来てほしいとのことですが…』

 

「了解です。学園が終わったらすぐに向かいます」

 

それを最後に通信は切れた。

 

「……辺境伯も楽じゃないな…」

 

そうボヤくと屋上から空を見上げた。

 

………

……

 

その放課後。

忍はシアを伴って冥界へとやって来た。

場所は冥界首都の近くにあるとある総合病院の特別医療施設だった。

 

「お待ちしておりました。紅神辺境伯」

 

そこにはグレイフィアが待っていた。

 

「お待たせして申し訳ありません」

 

「いえ、急な呼び出しに対応してありがとうございます」

 

「…………」

 

そんな忍とグレイフィアのやり取りを見ながら少しそわそわした様子のシアだった。

 

「それで、紅牙は?」

 

「こちらです」

 

グレイフィアの案内で特別医療施設の一画へと足を運ぶ。

 

「やぁ、忍君」

 

そして、ある一室の前にサーゼクスの姿があった。

 

「わざわざ来てもらってすまないね」

 

「いえ、俺もあいつには話があったので…」

 

サーゼクスとの合流を果たした後、軽い挨拶をしてから忍達は紅牙のいる病室へと入ることになった。

当然のことだが、忍やグレイフィアはサーゼクスの護衛という意味合いも持っている。

 

コンコン…。

 

「失礼する」

 

ノックをしてから紅牙の病室に入る。

最初に忍、その次にシアとグレイフィア、ッ最後にサーゼクスの順番で紅牙の病室に入る。

 

「おっ、これまたVIPな来客だな…」

 

紅牙が横になっているベッドの隣には秀一郎がおり、来客に驚いていた。

 

「紅神…それに魔王か」

 

ベッドから上体を起こしながら紅牙が静かに呟く。

その眼には以前感じた憎悪に満ちたモノは見えなかった。

むしろ、静かな…それでいて力強い光を感じる。

これが本来の紅牙の姿なのかもしれない。

 

「兄さん…!」

 

そんな紅牙の姿を見てシアが紅牙の側に歩み寄る。

 

「シア…」

 

久々に間近で見る妹に対して紅牙は…

 

「すまなかったな…色々と心配をかけたようで」

 

そう言ってシアの頭を撫でていた。

 

「っ…兄さん…!」

 

そんな兄の行動にシアはポロポロと大粒の涙を流す。

 

「相変わらずシアは泣き虫だな…」

 

「な、泣き虫じゃありません…!」

 

そんな兄妹のやり取りをしていると…

 

「兄妹の再会に水を差すようで悪いが…そろそろいいか?」

 

代表して忍が声を掛ける。

 

「あぁ、すまん…」

 

「っ!? す、すみません…!」

 

紅牙は素気なく、シアは慌てたように謝る。

 

「いや、せっかくの兄妹の再会だ。もう少し話をさせてあげたいが…私にも時間制限があるからね」

 

そう言ってサーゼクスは苦笑する。

同じ妹を持つ兄として紅牙には少し親近感が湧いたのだろうか?

 

「魔王…俺に何の用だ?」

 

「君ら冥族に対して行ってきた数々の非礼を詫びたいんだ。いくら旧魔王が行ってきた事とは言え、それを止められなかった我々にも非がある。そして、それは悪魔がやったことと同意義でもあるから…どうしても謝罪がしたいのだよ」

 

「……………」

 

それを聞いた紅牙の反応は…

 

「やはり悪魔は身勝手だな。今更、詫びを入れられても俺達が味わってきた屈辱や憎悪はそう簡単に消えない」

 

冷たくハッキリとした言葉を発していた。

 

「だが…」

 

しかし…

 

「魔王自ら謝るとは、つくづく甘い魔王なんだな…それをこれからの行動で見せてもらいたいんもんだ…」

 

次の言葉には皮肉が込められていた。

 

「和解と言うからにはそれ相応の対価や身の安全が保証されるんだろうな?」

 

そして、紅牙はサーゼクスにそんな確認を取っていた。

 

「紅牙…」

 

「兄さん…!」

 

「もちろんだ。可能な限り援助したいと思っているし、土地の開拓にも協力しよう」

 

紅牙の言葉に忍とシアは喜びの表情を見せ、サーゼクスもそう約束していた。

 

「それならいい。俺の…俺達の戦いは終わったんだな…」

 

サーゼクスの言葉を聞き、紅牙は静かにそう呟いていた。

 

「やれやれ、これで契約も終わりか。次の雇い先でも探さねぇとな…」

 

話を横で聞いていた秀一郎が頭を掻きながらボヤく。

 

「悪ぃな、秀一郎」

 

「気にすんな。これが転機だと思ったんだがな…」

 

紅牙の謝罪に秀一郎は軽くあしらった後…

 

「ま、なんとかならぁね」

 

そう言い残して病室を出ようとする。

 

「待ちたまえ」

 

そこへサーゼクスが声を掛ける。

 

「魔王様がしがない傭兵に何か用ですかい?」

 

サーゼクスに背を向けたまま、ドアの前に秀一郎が立ち止まる。

 

「雇い先がないならこちらに雇われないかい?」

 

サーゼクスは秀一郎を勧誘し始めた。

 

「冥族の次は悪魔が雇い主か……カッカッカッ、俺ってつくづく冥界に縁があるみてぇだな…」

 

何が可笑しいのか少し笑った後…

 

「言っとくが、俺は人間と鬼のハーフだぜ? それでもいいのかい?」

 

それだけ確認していた。

 

「別に構わないよ。今は1人でも優秀な人材が欲しいからね」

 

「優秀かどうかはそっちの判断に任せるが…俺は自分を優秀だなんて思ったことはないぜ? あと、詳しい話は後日な」

 

そう言って秀一郎は病室から出て行った。

 

「話が逸れてしまって申し訳ないが…もう時間がきてしまったようだ。冥族との和解は忍君に任せているので、詳しい方策は忍君と話してくれ」

 

そして、それを最後にサーゼクスはグレイフィアを伴って退室してしまった。

 

「結局、俺に丸投げか…」

 

「魔王も人が悪いと見た。いや、悪魔だから仕方ねぇのか…」

 

「はぁ…やれやれだ」

 

肩を竦めてみせる忍に紅牙も苦笑する。

 

「とりあえず、紅牙。冥族の集落に案内してほしい。それと俺と一緒に説得に協力してくれ」

 

「俺に発言権があるとは思えんが…わかった。案内しよう」

 

「あぁ、助かる」

 

紅牙の答えに忍は手を差し伸べる。

 

「…………」

 

紅牙はしばし自分の手を見詰めていると…

 

「握手くらい、いいだろ?」

 

「……だが、俺の手は…」

 

「俺も似たようなもんだ。既に汚れてる…」

 

「………そうか…」

 

簡単な言葉を交わすと共に忍と紅牙は握手していた。

 

「変なもんだ…前までは殺し合いをしてたんだからな…」

 

「一方的な敵意だったけどな…」

 

「ふんっ…」

 

それを言われて紅牙は少し不機嫌そうに顔を背けた。

 

「そういえば…あいつらは、どうなった?」

 

「あいつら?」

 

不意に紅牙はそんなことを言い出し、忍とシアは首を傾げる。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、月読 調、暁 切歌」

 

「ッ! フィーネの…」

 

紅牙の呟いた名前に忍は驚く。

 

「あぁ、一時は協力関係を持っていたからな。今になって少し気になったんだ」

 

そう言って紅牙は窓の外を見る。

 

「彼女達は…確か、ウェル博士と共に特別観察下に置かれてるはずだ」

 

忍もマリア達が保護下に置かれた時には行方不明となっていたため詳しい事情はわからなかったが、事件後の話はクリス経由で小耳に挟んでいた。

 

「そうか…」

 

それを聞いて紅牙も短い返事をする。

 

「……………」

 

「……………」

 

互いに会話が続かなくなってきたところで面会時間も終了となってしまった。

 

「じゃあ、次は退院した時に会おう」

 

「わかった。その時は冥族のとの和平を結ぶ時だ」

 

そう互いに言った後、忍とシアは病室を後にする。

 

その帰り道の途中…

 

「よかったのか? あまり話さなかったようだが…?」

 

シアが紅牙とあまり話してないのを忍が尋ねていた。

 

「はい。これからも話せる機会はありますから…」

 

忍の問いにシアは控えめな笑みを浮かべながらそう答える。

 

「そうか」

 

忍もそれに微笑んでみせた後、軽く溜め息を吐いていた。

 

「それにしても、次は冥族との話し合いか。シア、冥族の村や住民についてわかる範囲でいいから教えてくれないか?」

 

「はい。私でよろしければご協力します」

 

帰り道でシアの話を聞くことにしていた。

 

 

 

一方…

 

「…………」

 

紅牙は忍とシアが出ていった後、神妙な面持ちをしていた。

 

「(あの時…確かに俺は憎悪に憑りつかれていた。それは今になって自覚出来るくらいだ。そんな濃密な憎悪を…あいつは霊力だけで消し去ったというのか?)」

 

紅牙はロキ戦で負った傷を撫でながら自分に起きたことを不思議に感じていた。

 

「(確かに、霊力には浄化の力も少なからずある。だが、それは素質によって大きく異なる。現に俺はそれほど浄化の力が強くはない。シアは俺よりも高いだろうが…)」

 

霊力も秘めている身としてそれは肌で感じていた。

 

「(だが、あいつは…高密度の霊力の一太刀で俺の魂を解放近くまで浄化した。これは常軌を逸している…)」

 

浄化の力が異様に強いでは片付けられないのかもしれない、と紅牙は思っていた。

 

「紅神 忍…お前は一体…何者なんだ?」

 

窓の外でシアと共に病院から出ていく忍の後姿を見て紅牙は怪訝に思っていた。

 

………

……

 

その翌日。

 

「これからフィライトへ向かう」

 

明幸邸の居間に眷族を集めたかと思ったら忍はそう言い放っていた。

 

「フィライト…確か、アンタが飛ばされてた次元世界だっけ?」

 

忍の言葉に吹雪が尋ねる。

 

「あぁ…」

 

その問いに忍も軽く頷く。

 

「そういえば、あれからそれなりに時間が経ってるわね。大丈夫かしら?」

 

「陛下が無茶をしてなければいいんだが…」

 

忍はむしろそっちの方が心配だったりする。

 

「でも、どうやって行くのよ?」

 

至極もっともなことを朝陽が尋ねる。

 

「ディメンション・スコルピアを用いたいところだが…」

 

「スコルピアちゃんの魔法は私も一回行かないとよくわからないから…まだ使えないよ?」

 

忍の言葉に智鶴も否定的な意見を言う。

 

「そうなんだよな。だから今回は特務隊の艦に頼ろうと思う」

 

それを聞いて忍はそう答える。

 

「はぁ!?」

 

朝陽が盛大に驚く。

 

「既に話はつけてある。早速だが、向かうとしようか」

 

そう言って忍は転移魔法陣を人数分、展開する。

 

「ちょっ!」

 

朝陽が文句の一つも言おうとしたが、それより早く転移が作動する。

 

 

 

そして…

 

「来たか」

 

ヴェル・セイバレスのブリッジにある艦長席で待っていたゼーラが転移反応に機敏に反応する。

 

「お世話になります。シュトライクス准将」

 

代表して忍がゼーラに頭を下げる。

 

「紅神 忍。随分と雰囲気が変わったな」

 

その様子を見てゼーラも眼つきを変える。

 

「色々ありましたので」

 

以前ならその眼光に怯んでいた忍もこれまでの経験で真っ向から目を細めて睨み返すことが出来ていた。

 

「生意気なことだ」

 

その反応にゼーラはそう評すが、内心では面白く思っていた。

 

「先日の邪狼討伐の件ではこちらも世話になったからな。今回は協力しても構わないが、これっきりだと思え」

 

「わかっていますよ」

 

ゼーラの物言いに忍も首を縦に振っていた。

 

「(あの隊長を目の前にしてよくもまぁ、あんな軽口を…)」

 

朝陽は朝陽で内心呆れと共に戦々恐々としていた。

 

「進路、次元世界・フィライト」

 

こうして一行は再びフィライトへと向かった。

 

………

……

 

~フロンティア~

 

「ふふふ…まさか、一片残らず喰らい尽くすとは…」

 

ロキ戦前日に起きた忍と龍騎士の死闘が映像となって黒ローブの前に映し出されていた。

 

「五気を束ねることにも目覚めたようですし、結構なことです」

 

戦闘中に見せた忍の劇的な進化に満足そうに頷く。

 

「それに量産型の試作品とは言え、龍騎士の能力も把握出来ました。流石は古の種…その力はクローニングしても多少衰える程度で済むのですから驚嘆に値します」

 

そう言って別の画面に目を向けると、そこには大量のカプセルの中に培養液漬けにされて眠る龍騎士達の姿があった。

 

「シュトームは管理局にも渡って解析されている頃でしょうが…まぁ、別段困ることはありませんね。管理局も戦力を強化しようと私の技術とフィライトの資源を狙う可能性もありますが…アレはエクセンシェダーデバイスが一機でもあれば問題なく開発出来る代物ですし、魔力石についても魔力の漂う次元でなら容易に精製出来る代物。いずれにしても管理局がドライバーに手を出すのは時間の問題ですね」

 

黒ローブはこれから管理局内で起こるだろうことを予測していた。

 

「まぁ、仮に管理局がドライバー技術を手にしたとしても、エクセンシェダーデバイスには及びません。それに…我々には地球には存在しない"異界の神"という存在もおりますし…その加護を得た暁には…全ての次元世界を絶望の海に沈めて差し上げましょうか」

 

そう言って黒ローブの影に隠れていない口元が狂気に歪む。

 

「ふふふ…復活の儀はもうしばらくお待ちを…」

 

………

……

 

~フィライト・イーサ王国南西部前線基地~

 

キィィンッ…

 

砦の中庭に転移陣が開かれ、その中から忍達が現れる。

 

「戻ってきたぞ、フィライトに…」

 

忍がそう呟いた瞬間のこと…。

 

チュドーンッ!!

 

壁が思いっ切り爆発した。

 

「きゃあああ!?」

 

その爆発に驚き、萌莉が悲鳴を上げてしゃがみ込む。

 

「えっ、えぇ!?」

 

「なに!?」

 

即座にデバイスを起動させるフェイトと朝陽。

 

「こりゃ最悪な時に来たかもな…」

 

そう言いながら忍が防御魔法を展開して眷属達を守る。

 

「カーネリア、朝陽、暗七、吹雪は俺と一緒に来てくれ。智鶴はクリス、フェイト、シアと一緒に萌莉の保護と後方支援を頼む」

 

それだけ言うと忍もまたネクサスを起動させる。

 

「しぃ君?」

 

「俺達は戦闘中の真っただ中に来ちまったってこと。しかもこりゃこの砦が攻撃を受けてるな…」

 

智鶴の疑問符に忍は簡潔に答えた。

 

「ほ、ホントに…せ、せ、戦争…?」

 

怯えながら萌莉が忍を見上げる。

 

「まさか、もう始めてるとは俺の見通しも甘かった。怖い目に遭遇させてごめんな」

 

その言葉は萌莉だけでなく眷属全体に向けられていた。

 

「はっ! 今更遅いわよ!」

 

そう言って朝陽が防御魔法の中から飛び出す。

 

「ま、世界が違うんだから別に問題ないわよね」

 

カーネリアも黒翼を羽ばたかせて朝陽の後を追う。

 

「先に行ってるわよ!」

 

「はぁ…面倒ね」

 

吹雪と暗七も2人に続く。

 

「頼もしいやら血の気が多いのやら…」

 

その様子を見て忍も苦笑する。

 

「しぃ君、気をつけてね」

 

そう言って智鶴もスコルピアを纏い始める。

 

「私が萌莉さんを守りますので、皆さんは忍さん達の援護を…」

 

シアがそう申し出る。

 

「でも、もしものことがあるから私も残るよ」

 

シアと共にフェイトも萌莉の護衛につくらしい。

 

「す、すみま、せん…あ、足手、まといで…」

 

「ったく、んなことは気にしなくてもいいんだよ。仲間、なんだろ?」

 

萌莉のネガティブ発言にクリスがそう言う。

 

「あぁ、頼む」

 

そして、忍もまた前線へと跳躍する。

 

 

 

一方、砦の外では…

 

「だぁぁりゃぁぁ!!」

 

最前線ではシルファー自らが己の拳で帝国兵を文字通り殴り飛ばしていた。

 

「陛下に続け!」

 

そのシルファーの奮戦を見てイーサ王国側の兵達が攻勢をかける。

 

「怯むな! 押し返せ!」

 

そこへシュトームのアーマーモード・アルファを纏った敵将がシルファーへと向けて進撃する。

 

「また例のカラクリかい!」

 

シルファーは忌々しげにシュトームを見る。

これまで起きた数度の攻防戦で確実にその数が増えているような感じであった。

 

「女王シルファー! 御命頂戴する!」

 

ベータブレードを抜きながら敵将がシルファーへと対峙する。

 

「若造が…龍を舐めんじゃないよ!」

 

シルファーがシュトームを纏った敵将へと駆け出す。

 

「(掛かったな! 猪龍め!)」

 

敵将はニヤリと微かに笑みを零す。

 

 

 

シルファーと敵将が対峙している場所から後方では…

 

「これでチェックメイトだ」

 

アーマーモード・ガンマのシュトームを纏った別の将がアルファギアを通して数キロ先のシルファーの姿を正確に捉えていた。

そして、ガンマショットを前にしてガンマライフルと前後合体させた重火器を構えていた。

 

ピピッ!

 

アルファギアのディスプレイに表示されたターゲットマーカーがシルファーの頭部へと照準を合わせると共に…

 

キュィィ…!

 

銃口に魔力が収束されていき…

 

「ファイア」

 

キュインッ!!

 

一筋の魔力光線がシルファーへと撃たれる。

 

 

 

ピピピッ!

 

「(来た!)」

 

後方から撃たれた魔力を感知して警告音が鳴り、をれを聞いた敵将が微かに射線からズレる。

 

「(なんだ? 今、微かに移動したような…?)」

 

微かに動いた敵将に少なからず違和感を覚えていると…

 

キラッ!

 

前方から光が迫ってくる。

 

「ッ!?」

 

それでシルファーは何かを確信したが突進中のため、急な回避が無理な状態である。

 

「終わりだ!」

 

「くっ!!?」

 

敵将の言葉にシルファーは悔しそうに目の前を見た。

 

「(エルメスの晴れ着ぐらい…見たかったな…)」

 

娘の花嫁姿を想像しながら収束魔力光線の着弾が目前まで迫った時だった。

 

「黒影斬ッ!!」

 

その声と共に飛来した黒き魔力刃がシルファーの前に現れ、収束魔力光線と衝突した。

 

「なにっ!?」

 

「これは…?!」

 

突然の事に敵将は驚き、シルファーは覚えのある魔力の波動に驚いていた。

 

「ったく、遅いんだよ! 随分と待たせてくれるじゃないか!」

 

そして、その正体を察すると悪態を吐いた。

 

「助けたのにその反応かよ。まぁ、遅くなったのは素直に悪いとは思ったけどな」

 

そう言ってシルファーの横を駆けながら忍が敵将へと突っ込む。

その姿は既に真狼となっている。

 

「貴殿が前に噂されていた狼か!」

 

「そうだとしたらなんだ!」

 

ガキンッ!

 

ベータブレードとファルゼンが斬り結ばれる。

 

 

 

一方で…

 

「ちっ…まさか、邪魔が入るとは」

 

後方にいた狙撃兵が舌打ちをしていた。

 

「だが、次は外さな…」

 

そう言って重火器を再び構えようとした時…

 

ヒュッ!

バゴンッ!!

 

一発の弾丸が重火器に直撃して破壊していた。

 

「っ!? どこから!?」

 

向かってきた弾道から割り出してそちらの方をアルファギアを通してズームで見ると…

 

「この方角は…砦からだと!?」

 

ズームの限界により、砦の上に人影が見える程度でしか確認できなかった。

 

「バカな! ここから砦まではアウトレンジのはず! それを正確に撃ち抜くなど!!?」

 

その事実に狙撃兵はかなり驚いていた。

 

バサァ!

 

「ふふ…うちには優秀なガンナーがいるのよ」

 

翼の羽音と共にそのような声が狙撃兵の背後より聞こえてくる。

 

「ッ!?」

 

思わず振り向こうとした狙撃兵だが…

 

ズサッ!!

 

その胸部を黒い光の槍が貫き、鮮血が飛び散る。

 

「がっ!?」

 

「残念。私は坊や達みたいに甘くは無いのよ」

 

ズリュッ!

 

光の槍を一気に引き抜くと体内に開いた穴から血が噴き出し…

 

バタンッ…

 

そのまま狙撃兵は失血によって事切れてしまった。

 

「デバイス…回収した方が良いのかしら?」

 

そう言ってカーネリアは狙撃兵の死によって活動を停止して待機状態へと戻ったシュトームを拾い上げる。

 

「意外と大したことないのね。ちょっと期待外れかも…」

 

溜め息を吐きながらその場から飛び、次の標的を探すことにした。

 

 

 

他の場所では…

 

「ば、化け物め!」

 

帝国兵が1人の少女に対してそのようなことを言う。

 

「年頃の娘に対してそれは無いんじゃない?」

 

暗七が両腕を異形の形状へと変化させながら帝国兵を薙ぎ倒していた。

 

「どの口がそれを言うのよ?」

 

そう言って吹雪が蒼く染まった翼を広げながら季節外れの吹雪を発生させて帝国兵を足止めさせる。

 

「アンタも良い勝負じゃないの?」

 

「はぁ!? 勝手に言ってろ!」

 

口喧嘩しながらも互いに背を合わせてる辺り、決して不仲というわけではない…のかな?

 

 

 

朝陽はシュトームを纏った敵将と出会っていた。

 

「これが報告にあった量産型デバイス…」

 

それを見て朝陽が呟く。

 

「シュトームの存在を知っている? 貴様、何者だ!」

 

「答える義理は無いわね!」

 

言うが早いか、朝陽は敵将へと突っ込む。

 

「問答無用という訳か!」

 

ベータブレードを抜いて朝陽のヴェルセイバーと斬り結ぶ。

 

「(ちっ…流石にセイバーだけじゃ分が悪いか…)」

 

シュトームの武装の多さに内心舌打ちする。

 

「喰らえ! ガンマバスター!」

 

腰部左右からガンマバスターが展開されて朝陽へとその砲口を向ける。

 

「ちっ!」

 

それを朝陽は持ち前の反射神経で踏み台にし、射線をずらすと同時に後方に跳んで距離を稼ぐ。

 

「小賢しいことを…!」

 

ベータブレードをもう一本引き抜くと、朝陽へと接近するべく詰め寄る。

 

『接近警報、多数確認』

 

「っ!」

 

そこへ砦の方から小型ミサイルの雨が降ってくる。

 

ヒュドドドドドッ!!

 

「これは…!」

 

通信が出来ないからわからないが、十中八九クリスのイチイバルによる援護だろう。

 

「貸し一つか。そのうち返してやるわよ!」

 

そう言って爆発による砂塵の中を駆け出し…

 

カチッ!

バシュッ!

 

セイバーのトリガーを引いてカートリッジを炸裂させる。

 

「バイパー!」

 

『バイパーフォーム♪』

 

それに合わせてセイバーの刀身が連結刃となり…

 

「そこっ!」

 

ミサイルの着弾前後から移動した範囲を予測して連結刃を飛ばす。

 

チャキッ!

 

その予測が当たったのか、ベータブレードに連結刃が絡みつく。

 

「なっ!?」

 

砂塵の中から連結刃が現れ、さらにそれが自らの武器に絡みついたことに敵将は驚く。

 

「デバイスの扱いならこっちの方が長いのよ。ブレード!」

 

カチッ!

 

『ブレードフォーム♪』

 

絡みついた切っ先を起点としてセイバーが元の剣へと戻ろうとする。

その結果、朝陽の体は勢いよく敵将の方へと向かい…

 

「はぁっ!」

 

ドガッ!

バリンッ!

 

その勢いに任せて膝蹴りを敵将の顔面に叩き込んでHMDごと叩き壊す。

 

「がぁっ!!?」

 

顔面から鮮血が飛び散りながら敵将はベータブレードを手放して顔を押さえながら数歩後退る。

 

「(バリアジャケットが無いから身体的ダメージがダイレクトに伝わる訳ね…)」

 

その様子を見ながら朝陽は冷静にシュトームの欠点を考えていた。

 

「(ま、あたしには関係ないけど…)」

 

そこまで考えてからすぐに頭を切り替える。

 

「サンダー、トリプルロード!」

 

カチッ!×3

ピシャァァッ!!

 

『わぉ♪ 朝陽ちゃん、これで決めちゃう?』

 

「当たり前でしょ!」

 

ダンッ!

 

地面を力強く蹴り、雷の纏ったセイバーを敵将へと向ける。

 

「ライトニング・スカッシュッ!!」

 

閃ッ!!

 

稲光を伴った斬撃を敵将へと一閃するようにして叩き込む。

 

「っ!?!?」

 

叩き込んだ後、朝陽は敵将の背後へと通り過ぎると…

 

「爆ぜろ、稲妻!」

 

そのワードと共に…

 

ピシャアアア!!

 

一閃した傷口から電気エネルギーが解き放たれるようにして敵将の体を焦がしていく。

 

「-----ッ」

 

声も無く敵将は地に伏してしまった。

 

「一応、非殺傷にはしてから安心なさい。ま、当分はまともに動けないだろうけど…」

 

アレだけのことをしておいて今更ながらという感じで朝陽は呟いていた。

 

 

 

そして、シルファーを助けに入った忍はと言えば…

 

「はぁ!」

 

「ぐっ!?」

 

一度は打ち破ったデバイスのためか、終始優位に立ち回っていた。

 

「これで決める!」

 

自らの妖力を冷気へと変質させていき、ファルゼンの刀身へと馴染ませていた。

 

「瞬狼斬…」

 

ブンッ!

 

一瞬にして忍の姿が消えたかと思うと…

 

斬ッ!!×13

 

無数の斬撃音が響き渡り、次に忍の姿が現れた時…

 

「氷牙ッ!!」

 

シャキィィンッ!!

 

一瞬にして敵将は無数の斬り傷が生まれ、その傷口から一気に凍結してしまった。

 

「----???」

 

敵将は何が起きたかも分からず、その命を散らすことになる。

 

「砕けろ!」

 

バリィンッ!!

 

トドメとばかりにシルファーが凍結した敵将をデバイスごと殴り壊した。

 

「さて、次はだれが雪結晶になりたい?」

 

その冷たくも鋭い眼光を光らせ、忍は帝国兵達を威圧する。

 

「(なんだ? 忍から感じる…同族…?)」

 

心なしかその威圧感は龍の波動が混じっているようにシルファーは感じていた。

 

「に、逃げろ!」

「こ、殺される…!?」

「て、撤退だぁ!!?」

 

その威圧に気圧されてか、蜘蛛の子を散らすようにして帝国兵は逃げていった。

 

こうして戦況は一変。

イーサ王国はまたしても忍に危機を救ってもらう形になった。

 

………

……

 

~イーサ王国南西部前線基地~

 

戦後、忍達は謁見の間へと通されていた。

 

「忍様!」

 

謁見の間に入ると、嬉しそうな表情でエルメスが出迎えてきた。

 

「エルメス。久し振りだな」

 

無意識にか、忍がエルメスの頭を撫でていた。

 

「しぃ君、こちらの女の子は?」

 

智鶴が忍に尋ねる。

 

「あぁ、この娘はエルメス。俺が記憶喪失でこっちにいた頃に世話になってた陛下の娘さんだ」

 

「まぁ、そうなの? しぃ君がお世話になりました。私は明幸 智鶴と言います」

 

「あ、ご丁寧に…私はエルメス・ファル・イーサと申します」

 

そんなやり取りをしていると…

 

「も、もしかして…」

 

「坊やってそういう趣味でもあるのかしら?」

 

忍とエルメスの親しそうな様子を見て一部の眷属達がざわめく。

 

「私…これでも今年で17になりました…」

 

皆の反応を察してか、エルメスは泣きそうな顔をしながらそう言う。

ロリ体型だが、エルメスはれっきとした17歳(人間換算)である。

 

「タメかよ!?」

 

「わぁ、意外…」

 

「それよかあの女王の娘ってことは…お姫様なんじゃないの?」

 

クリス、暗七、吹雪が別々の意味で驚く。

 

「あのってなんだ、あのって」

 

吹雪の言葉に玉座に座るシルファーがツッコミを入れる。

 

「ったく、随分と侍らせてるな。忍」

 

「………人聞きの悪いことを言うな」

 

「だったら今の間はなんだい?」

 

「冷静に考えたらそういう見方もあるか、と不覚にも思ったんだ」

 

一国の女王相手に忍は物動じせずに話していた。

 

「ま、色々と気をつけるこったい」

 

ニヤニヤと笑いながらシルファーは忍にそう言う。

 

「それはともかく戦況は?」

 

「そんな変わってないけど…強いて言うなら例のデバイスとか言うカラクリかい? あれでが段々と増えていってるように感じられるんだ。事実、最近じゃ他の戦地でも目撃報告があったりしてね」

 

「どういう訳か、量産化がかなり進んでる訳か…参ったな…」

 

「あぁ、困ったことだよ」

 

予想よりも深刻な事態に忍は表情を険しくしていた。

その様子を見てか、眷属達にも緊張感が走る。

 

「……なら陛下。一つ提案がある」

 

「なんだい?」

 

「こうなりゃ残り二国と同盟を結ぼうぜ?」

 

不敵な笑みを浮かべて忍はそう提案していた。

 

フィライトに存在する残りの二国『ラント諸島』と『トルネバ連合国』。

果たして、その二国とイーサ王国は同盟を結ぶ事が出来るのだろうか?



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第四十話『同盟・ラント諸島の悲劇と決断』

~ラント諸島領内・遊覧船内~

 

「こちとら戦時中だってのにこの国は平和だねぇ…」

 

「滅多なことは言わない方がいいですよ。他にもお客さまはいらっしゃいますし…」

 

忍の不用意な一言を咎めるように隣に座るエルメスが周りを気にしてか困った表情で言う。

 

「とは言え、この国にもいつかは帝国の手が伸びる。この国の手っ取り早い攻略法は空路からの制圧だ。その術を手にした以上、数が揃い次第攻めてくるぞ?」

 

声のボリュームを下げながら忍は自らの見解をエルメスに言う。

 

「それは…」

 

忍の見解にエルメスも口篭もってしまう。

 

「しぃ君。あまりエルメスちゃんを困らせないの」

 

同じく忍の隣に陣取っている智鶴が忍に(たしな)める。

 

「それで…この人選はどういう意図なんだよ?」

 

前の席に座るクリスが忍の方を振り向いて尋ねる。

 

「対シュトーム戦を想定しつつ、外交的に役立ちそうなメンツを選んだつもりだが?」

 

「外交的に、ねぇ…」

 

忍の答えにクリスはエルメスに視線を投げ掛けた。

クリス的にはエルメス以外の発言力は低いだろうと考えているようだ。

 

「他の皆は大丈夫かな?」

 

クリスの隣に座るフェイトが砦での留守番を命じられた他の眷属の心配をしていた。

 

「問題ないだろう。陛下の言うことは聞くように言ってあるし…向こう側も無闇に兵を向けることもないだろうしな…」

 

「その根拠は?」

 

忍の言葉にクリスが疑問をぶつける。

 

「俺というイレギュラーな存在の帰還と、前回の戦闘で見せたシュトームを破壊しうる戦力を持ってることだ。よっぽどのバカか鬼才でもなければこのまま少し様子を見ると思う」

 

「その間に他の国と同盟を結ぼうってか…よく思いつくな…」

 

呆れたようにクリスは言う。

 

「陛下だって考えてなかったわけじゃないだろうさ。でも、他国を巻き込みたくなかったんだろ。戦火が広がれば無用な血を流す可能性だってあるし…」

 

「それなら…」

 

「だが…帝国はそんなことお構いなしに攻めてくる。その矛先がいつこの国やトルネバ連合に向くか。いや、トルネバ連合は既に交戦してるんだっけか」

 

この世界の情勢を思い出しながらエルメスに視線を向ける。

 

「はい。トルネバ連合国は独自の騎乗戦術を持った複数の部族が集まって成り立つ国で、基本的に部族間での交流がありつつ移動を繰り返してますから…帝国も彼らの補足には手間取ってるのだと思います」

 

「加えて一撃離脱の騎乗戦術だ。特定の部族を探し、それを撃破しようにもすぐに部族単位での移動を開始して撹乱行動も行う。帝国も苦戦する訳だ」

 

エルメスの説明に忍が自らの意見を付け加える。

 

「それなら先にトルネバに行きゃ良かったんじゃねぇの?」

 

クリスがそんな疑問を呟く。

 

「いや、トルネバは後回しだ。先にこっちを引き込んどいた方がトルネバとの交渉も上手く運びやすいと思うんだ」

 

そう言って遊覧船の向かう先…ラント諸島の首都が存在する外洋に面した島を見る。

 

「(さて…何とかしないとな…)」

 

これから忍の初になるだろう本格的な外交が始まる。

 

………

……

 

~フィロス帝国・帝都~

 

「シュトームの配備状況は?」

 

「はっ…ラント諸島へ向けるための編成隊への配備は既に完了しております」

 

玉座に座るゼノライヤの問いに対して、その横に控えるギルがそう答える。

 

「では、明朝。空路にてラント諸島を制圧しに掛かれ。いくら天然の要塞だろうと空からの攻撃には脆かろう」

 

「……御意」

 

ギルがゼノライヤに背を向けて謁見の間を後にしようとした時だった。

 

「不満か?」

 

その背中にゼノライヤが声を掛けた。

 

「…………」

 

ギルは答えることはしなかったが、付き合いの長いゼノライヤには彼の纏う空気が少しだけ変わったのを感じていた。

 

ギルフォードは今まで剣のみに生きてきた生粋の騎士だ。

シュトームのようなカラクリで戦況が変われば騎士としては面白くないのだろう。

しかも黒ローブは量産したそれを帝国に流し続けている。

 

「安心しろ。最後に頼りになるのは己の力とお前の剣技だ」

 

「…………」

 

それを聞いてからギルは今度こそ謁見の間を出ていった。

 

「イーサ王国。果たしてどこまで俺のところまで迫れるかな?」

 

ギルが出ていった後、ゼノライヤは静かにそう呟いていた。

 

………

……

 

~ラント諸島・本島首都~

 

遊覧船から降りた忍一行は首都の街並みを見て歩いたり買い物したりしていた。

 

「って、これじゃあ観光じゃねぇか!?」

 

首都のとあるカフェにてクリスが大声を上げる。

 

「クリスちゃん、あまり大きな声を出しちゃダメよ?」

 

智鶴が周囲の人に頭を下げながらクリスを窘める。

 

「でも…どうして観光みたいなことを…?」

 

クリスの疑問にエルメスも忍に尋ねる。

 

「街並みを見ておきたかったのが一つ。もう一つは…」

 

注文したコーヒーを飲みながら忍は…

 

「さっきから俺達を尾行してる奴と話がしたいから、かな?」

 

そう言ってシルファーから渡されていた魔力石の一つをある方向へと向けて投げつけていた。

 

「ふむ…気付かれてたか」

 

魔力石を軽々と受け止めながらその人物は…昼間っから赤ワインを傾けていた。

 

「そんだけ強大な存在だとな…気付かない方がおかしいだろ?」

 

「(気付かなかった…)」

 

「(気付きませんでした…)」

 

忍の言葉にフェイトとエルメスがしょんぼりしたような雰囲気を醸し出す。

 

「ふふ、面白い少年だ」

 

その人物…オレンジ色の混ざった短い銀髪をオールバックにし、紅い瞳を持つ背が高く見た目の若い中年男性は席を立って忍達のテーブルへと向かう。

 

「初めまして、エルメス王女。わたくしがこのラント諸島の大統領を務めております、ミゲル・ガトランディと申します」

 

そして、エルメスの手を優しく包み込むと共に跪いて自己紹介をする。

しかし、不思議なことに回りの人物は特に驚いた様子がなかった。

 

「(また、とんでもない人物が釣れたな。周囲は殆ど無反応な上、護衛の1人もいないとなると…単に遊び回ってるのか、或いは…)」

 

忍は周囲の反応と、目の前の中年男性…ラント諸島の大統領『ミゲル・ガトランディ』を見据えて考え込んでしまった。

 

「他のお嬢様方も以後お見知りおきを…」

 

その隙にミゲルは他の4人にも紳士的な態度を取る。

 

「君もね」

 

但し、忍にはかなり軽い挨拶だけをしてだが…。

 

「(こいつ…絶対に女好きだ…)」

 

それを感じ取った…いや、確信した忍は深い溜め息を吐いてしまった。

 

「(ふむ…不思議な少年だ。様々な存在が混じってるようだが…)」

 

軽く挨拶してても忍の中に居座る"異常な存在"には気づいてるようだった。

 

「外でお話というのもアレですし、わたくしの執務室へ皆さんを案内しましょう」

 

ミゲルはエルメス王女の来訪に対し、そのように提案していた。

 

「それは助かる。こっちもそのつもりで来たからな…アポ無しってのは失礼だったろうからここで謝罪させてもらうが…」

 

それに応じたのは忍であった。

 

「君がこの集団のリーダーなのかい?」

 

忍が答えたのにミゲルは少なからず驚いていた。

 

「だったら?」

 

「随分と歳若い者を女王様は送り込んできたね」

 

「年の功、か…要件は大体の見当をつけてるらしいな」

 

「まぁね。伊達に何年も大統領はやってないからねぇ」

 

「(あわわ…)」

 

忍とミゲルの会話のやり取りをエルメスは内心ハラハラとしながら見ていた。

 

 

 

こうして忍一行はミゲルの案内によって大統領直轄区域にある大統領府(地球で言うホワイトハウスのようなもの)の彼の執務室へと特例として招待されることになった。

 

「それで…イーサ王国の王女様がわたくし共の国に何用かな?」

 

言葉は丁寧だが、その表情は国の長に座する者の厳格な面持ちをしていた。

 

「単刀直入に、我がイーサ王国と同盟を結んでもらいたい」

 

忍は真っ直ぐミゲルを見ると本当に単刀直入に要件を言った。

 

「やれやれ…やっぱりかい」

 

忍の言葉にミゲルは肩を竦めて困った様にしてみせる。

 

「残念ながら我がラント諸島は戦争には関与しない。それにいくら帝国が新型の兵器を使ってこようと自然の前には敵わないよ」

 

ミゲルはキッパリと言い切る。

 

「(シュトームの存在を知ってるのか?)」

 

ミゲルの物言いにそのような疑問が生まれる。

 

「ですが、帝国は我がイーサ王国やトルネバ連合国にも侵攻してきてるのは事実。いつこのラント諸島にも戦火が及ぶとも限らないんですよ?」

 

エルメスが王女としての顔でミゲルに言う。

 

「凛々しき姿もお美しいね。ですが、ご心配なく…例え空路を使用しても数に限りがある以上、わたくしが実力行使でお引き取り願いますからね」

 

笑顔で言うミゲルだが、その瞳は本気であった。

 

「数に限り、ね。果たしてどうかな?」

 

忍が横から口を挟む。

 

「どういう意味かね?」

 

忍の挑戦的な言葉にミゲルは忍を軽く睨む。

 

「シュトームの存在を知っていながら短慮してるように見えてね。実際に相対してないからわからないことだってある。情報も大切だろうが、情報だけじゃ決してわからないこともある」

 

忍もまたハッキリと言い切る。

 

「一理ある言葉だね。でも、心配無用さ」

 

「判断を誤れば、多くの民が被害を受ける。それじゃ遅いんだ」

 

「それ程のモノなのかい? 帝国の新兵器とやらは…」

 

「少なくとも空路経由での侵攻が予想される」

 

「海路が無理なら空路。当たり前のことだね。けど、空は地上よりも寒い。それほど長くは人の身は持たないと思うけど?」

 

「それすらも帝国は対策を講じてるはずだ」

 

ミゲルの言葉に忍も一歩も引かずに言い返す。

 

「確かに帝国ならそれくらいの技術を持ってそうだけどね。話し合いが通じない相手でもないだろう?」

 

「既に話し合いの段階を越えているからこそイーサ王国もトルネバ連合国も応戦の構えをしている」

 

「それがいけないんじゃないの? ゼノライヤ君だってそこまでの強行は…」

 

「しないと言い切れるのか?」

 

あくまでも平和的な交渉をする気のミゲルの物言いに今度は忍が尋ねる。

 

「………まぁ、侵攻してる以上、それは否定出来ないか」

 

しばし考える仕草をしてからミゲルはそう答える。

 

「話し合いを模索する姿勢は尊敬に値しますが…こと帝国に関して言えば、きっと無駄になる」

 

「その根拠は?」

 

忍の言葉にミゲルがその根拠を求める。

 

「ゼノライヤの世界征服という野心。それを増長させるように他次元からもたらされた技術。それを裏から支援しているだろう存在。そいつの思惑はともかく、ゼノライヤはそれすらも利用してるように見える」

 

「それこそ君の憶測ではないのかい?」

 

呆れたような表情でミゲルはそう言う。

 

「かもしれない。だが、タイミングが良過ぎるし、何よりもシュトームの配備率が速過ぎる」

 

「ふむ…」

 

ミゲルもその点については気になっているらしい。

 

「仮にその支援とやらがあり、ゼノライヤ君が積極的にそれを利用しているとしよう。だから、どうしたんだい?」

 

「なに…?」

 

ミゲルの言葉に忍は言葉を失う。

 

「別にそれでこっちが被害を被ってる訳じゃないし、何よりも彼らがここまで辿り着くなんて空路以外では有り得ないんだよ? だったら座して帝国がこちらと手を取り合うのを待てばいいじゃないか」

 

そんなミゲルの言葉に…

 

「楽観的過ぎる! さっきも言ったが、戦火が広がってからじゃ遅いんだぞ!」

 

机をバンッと叩いて忍は身を乗り出すようにしてミゲルに言い放つ。

 

「だから、そんな心配はないんだって…」

 

ギロッ!

 

「言ってるだろ?」

 

ミゲルの瞳孔が獣のように鋭く縦になると圧倒的な威圧感が忍達を襲う。

 

「「「「っ!?」」」」

 

今まで黙って成り行きを見ていた女性陣はその威圧感にビクリと体を震わせるが…

 

「……………」

 

忍だけはその威圧感に屈せず、ミゲルと同じように瞳孔が縦に鋭くなって睨み返していた。

 

「へぇ、君も同類なのかな? それにしては色々と混じってるみたいだけど…」

 

ミゲルは感心したように言いつつも、"忍の中に眠る存在達"に興味を抱いていた。

 

「では、同盟の交渉は決裂。お嬢さん方とゆっくりお茶でも楽しみたかったけど…残念ながらお引き取り願おう。あぁ、滞在に関してはご自由にどうぞ。ここで世界が平和になるのを待てばいいし…」

 

その言葉を最後にミゲルとの交渉は幕を閉じた。

ミゲルはあくまでも傍観者であり続けると言っているようなものだが、いつ帝国が仕掛けてこないとも限らない。

それ故か、忍達は大統領府から出た後、宿を取って一晩を明かすことにした。

 

事態はその翌日に動くとも知らず…。

 

………

……

 

翌日、ラント諸島本島上空にて…二個小隊ほどの機影があった。

 

「総員、シュトーム装着後は速やかに制圧行動に移れ」

 

クルーズモードのシュトームの上部に乗る上官が部下達に対して命令していた。

 

「「「「ハッ!!」」」」

 

それに部下達は一斉に敬礼すると…

 

「行くぞ、チェンジ・アルファ!」

 

上官がシュトームを装着する。

 

「チェンジ・ベータ!」

「チェンジ・ガンマ!」

 

それに続いて部下達も各自それぞれの得意な形態へとシュトームを装着していた。

 

「難攻不落の自然要塞と称されていたラント諸島も空からの奇襲には抵抗も出来まい」

 

上官がゆっくりと降下しながら呟く間に、部下達は次々と首都に向けて降下していった。

 

 

 

上空のシュトーム部隊が降下し始めた頃…

 

「来たか…」

 

忍は宿屋の窓から顔を出し、上空から漂う微かな魔力の匂いを探知していた。

 

「来たって…まさか?!」

 

「あぁ…おそらくは帝国だろう」

 

クリスの驚きに忍は首を縦に振る。

 

「しぃ君、どうするの?」

 

そこに智鶴が尋ねる。

 

「俺達だけでも迎撃する……にしても市街地だとな」

 

そう言って忍は窓から見える街の様子を見る。

 

平穏。

そんな言葉がピッタリな程に日常的な風景が広がっていた。

あと少しでその平穏も破られてしまいそうだというのに…。

 

「空で迎え撃つにしても…飛べるのは俺とフェイトだけか…」

 

スコルピアのジェットフォームも飛行能力があるにはあるが、その場合だと智鶴がスコルピアを纏って戦えないというデメリットがある。

そのため、単純な飛行戦力は忍とフェイトに限定される。

クリスをジェットフォームに乗せて移動砲台にするという手もあるが…その分、忍とフェイトが抜けられたら無防備な街に被害が出ることになる。

 

3人を空に上げて街に降ろさないように迎撃するか、智鶴とクリスを地上に残して住民を守らせるか…。

忍はその二択で悩んでいた。

 

が、時間も少ない現状、躊躇してる暇もなく…

 

「智鶴はクリスと地上で待機。スコルピアとイチイバルで後方援護と降下してきた敵の無力化を頼む。俺とフェイトは空に上がって出来るだけ多くの敵を迎撃する」

 

忍はそう決断していた。

 

「あの…私は…?」

 

名前を呼ばれなかったエルメスが忍に問う。

 

「エルメス…悪いが、君はここに残っていてほしい」

 

「何故ですか?!」

 

「君は王女という身分だ。簡単に戦場に連れて行くわけにはいかない。以前は仕方なかったかもしれないが、今回はそういもいかなかい。ここは自国ではなく他国の領地なんだ。そんな場所で君が戦ったら問題になる」

 

「そ、それは…」

 

エルメスは王女という立場上、忍の言い分に反論する事が出来なかった。

 

「いいから、君はここで待っているんだ(こんな汚れ仕事は、本来なら俺だけで十分なんだがな…)」

 

智鶴、クリス、フェイトをチラッと見た後に巻き込んでしまったことを後悔してもいた。

 

「(後悔しても既に遅い、か…)……出るぞ!」

 

そう言って忍はネクサスを起動させると共に、窓から外へと飛び出す。

 

「吸血鬼、解禁!」

 

飛び出した瞬間、吸血鬼の力を解放して背中から蝙蝠の翼が出現する。

 

「し、忍君! それはかなり目立つから!」

 

そう言って追ってきたフェイトも既にバルディッシュを起動させて飛行魔法を使っているから目立つと言えば目立つが…。

 

「そうも言ってられんだろ。フェイトはスピードで攪乱してくれ。俺は力で押し切る!」

 

「もう…了解!」

 

何か言いたそうなフェイトであったが、忍の指示通りにするらしい。

 

 

 

「隊長! 下方から魔力反応が二つ来ます!」

 

「なに…?」

 

部下の報告に隊長格は眉を顰めた。

 

「ガンマ隊、誰でもいいから機影の姿を報告せよ!」

 

隊長格の言葉にガンマ形態の隊員がドルイドシステムで向かってくる二つの反応を確認する。

 

「っ!? 隊長! 例の狼と思われますが、報告にあった姿と微妙に異なります!」

 

「なんだと…?!」

 

部下の報告に隊長格もドルイドシステムを使って向かってくる機影を確認した。

 

「間違いない…奴だ! だが、どうしてこの国にいる!」

 

報告書にあった変身能力だと察し、服装も特徴的だったこともあって隊長格はすぐにそれが忍だと推察した。

 

「もう1人、見馴れん女もいるが…あいつの仲間か?」

 

忍の後ろから空を飛ぶフェイトの姿にも気付き、そう推察する。

 

「だが、たった2人! 恐れるに足らず! このまま降下を続行! 奴等が仕掛けてきても市街地へ降りろ! 何としてもラント諸島を制圧するのだ!!」

 

「「「「「「ハッ!!」」」」」」

 

隊長の号令に部下達は降下の速度を上げる。

 

 

 

「っ! 忍君!」

 

「気付かれたか!」

 

シュトーム部隊の降下速度が上がったことにこちらも気付く。

 

「フェイト! 砲撃で足止めだ!

「わかった!」

 

そう言って互いに魔法陣を展開すると…

 

「リフレクト・ミラージュ!」

 

忍が散弾式の魔力球を放つと、その魔力球が薄いガラスのようなモノへと変化する。

 

「プラズマ・スマッシャーッ!」

 

そこへフェイトが雷属性の砲撃を放つ。

 

その結果。

 

カッ!!

 

魔力ガラスを経由して雷属性の砲撃が拡散し、さらに魔力ガラスに反射したりして拡散型砲撃へとなってシュトーム部隊へと向かった。

ちなみに拡散した砲撃は魔力ガラスを経由する際に補填されるので砲撃が細長くなっていようと威力は維持したままとなっている。

 

「っ! アルファシールド展開!」

 

それを見てか、隊長が部下に指示を出して即座に対応してみせた。

 

「ちっ…対応されたか!」

 

「忍君! 街に…!」

 

忍とフェイトの魔法を防御しながらも十数名が忍とフェイトよりも下へと降下してしまっていた。

 

「クリスの弾幕に期待するしかないか…こっちはこっちの仕事をする!」

 

「うん!」

 

まだ視界内にいる敵に向かって忍とフェイトは直進する。

 

「来るか、化物め! 奴等に我等帝国の威光を知らしめよ!」

 

「「「ハッ!」」」

 

隊長の号令に近くにいた部下達が目標を首都から忍とフェイトに移行する。

 

「(近接特化と遠距離特化が数人、それに隊長格が1人か…早く片付けたいが…)」

 

忍は目の前の敵を分析しながらも街の方を気にする。

 

「(智鶴、クリス…無茶はするなよ!)」

 

出来る限り早く片付けようと忍は加速する。

 

 

 

一方で、街の方では…

 

「人間相手に撃つことになるなんてよっ!」

 

そう愚痴りつつクリスがイチイバルのシンフォギアを纏い、クロスボウが変形したガトリング砲と、腰部装甲から射出する小型ミサイルでシュトーム部隊を迎撃していた。

 

「なんなんだ、あの女は!」

 

「俺が知るかよ!」

 

ガンマ部隊がクリスの足止めによって空中でミサイルの迎撃をしている。

 

「堅気の人間を相手にそんな物騒なモノを向けるなんて!」

 

そう言う智鶴はスコルピアを纏い、スティンガーブレードでベータ部隊と剣戟を繰り広げている。

但し、智鶴自体の戦闘力は女王の駒で底上げされているとは言え、訓練された兵士を相手にするのには少し厳しいかもしれないが、そこはスコルピアの性能で何とか補っている状態とも言える。

 

「こっちの女も妙な鎧を纏ってる!」

 

「たかが小娘共が邪魔をするなッ!」

 

それに応戦する形でシュトーム部隊の兵達は無差別に攻撃を仕掛けてくる。

 

ズドドドドドドッ!!

 

そのためか、街にも被害が出始めていき、黒煙が上がり始める。

 

「きゃあああああ!!?」

「な、なんなんだ!?」

「帝国が攻めてきたんだ!?」

 

平和だった街の雰囲気もガラッと変わり、混乱とパニックが渦巻く。

 

「クリスちゃん! 絶対にこれ以上は降下させないで!」

 

「んなこと、わかってるけどよ…!」

 

いくらシュトームを纏っているとは言え、人間相手に引き金を引くことにクリスは若干の迷いがあった。

 

そして、その迷いが悲劇を呼ぶことになる。

 

「(あの女、俺達の武器しか狙ってない?)」

 

クリスの攻撃パターンを読んだ1人のシュトーム兵が一気に降下を開始した。

 

「あの野郎…!」

 

あくまでも武器破壊を目的とした照準のまま、その降下してきたシュトーム兵へと向ける。

 

「(やっぱりか! 行動さえ読めれば後は楽だ!)」

 

その動きにアルファシールドで射線上の武器を守りながら降下を果たす。

 

「っ!!?」

 

弾幕を抜けられたことにクリスの表情が一気に青褪(あおざ)める。

 

「懐にさえ飛び込めば!」

 

そう叫びながら両腕側面に装備されたベータウインガーをトンファーのように使ってクリスに襲い掛かる。

 

「くっ!?」

 

その攻撃をガトリング砲を盾にすることで何とか防ぐものの、弾幕が完全に止まってしまう。

 

「今だ!」

 

その隙を突いて残りのガンマ部隊も続々と降下を開始した。

 

「しまった…?!」

 

これで小隊の半数近くが街に降下してしまったことになる。

 

「クリスちゃん!?」

 

「おっと、テメェの相手は俺だ!」

 

クリスのフォローに行こうとした智鶴も1人のシュトーム兵に行く手を阻まれてしまった。

 

「ぐっ…!?(しぃ君…)」

 

智鶴とクリスがそれぞれ足止めをされている間に大半のシュトーム兵は首都の制圧活動に移行していた。

その影響で街のあちこちから黒煙が昇り始め、人々の悲鳴が聞こえる。

 

「きゃああああっ!!?」

「うわああああっ!?!」

「怖いよ、ママぁぁ…」

「た、助けて…この子だけは…どうか!」

 

その凄惨な悲鳴を聞き…

 

「(あ、あたしのせいで…また、こんな…!)」

 

クリスは地球でのノイズ被害と今現在ラント諸島で起こってることを重ね合わせてしまい、自分を責め始めてしまう。

そのためか動きが散漫になりつつある。

 

「もらった!」

 

その隙を突き、シュトーム兵がクリスの首を狙う。

 

「しまっ…!?」

 

クリスが回避しようにも遅過ぎた。

だが、そこで人間の防衛本能が働き…

 

ズドドドドドッ!!

 

シュトーム兵にガトリング砲の銃口が向けられて斉射してしまう。

 

「がっ!!?」

 

「ぁ…」

 

その斉射はシュトーム兵の胴体を貫き、その命の灯を撃ち消してしまう。

 

「ぁ…あ、あぁ…」

 

生の人間を殺した感触にクリスは手を震わせ、ガトリング砲を落としてしまう。

 

「あ、あたし…殺した…ノイズじゃねぇ…人間を…!!」

 

己の手を見ながらクリスはその場にへたり込んでしまう。

 

 

 

その瞬間、上空では…

 

「っ!?(クリス!)」

 

クリスの異変に駒を通して忍が感知すると…

 

「イーグル、タイガー、ドラゴン! セットアップ!」

 

三つのエンブレムを魔力石と共に地上に向けて投げていた。

今まで魔力石を使わなかったために起動出来なかった狼夜の形見であるデバイス『ブラッド・イーグル』、『ブラッド・タイガー』、『ブラッド・ドラゴン』を初めて起動させていた。

 

「お前達、クリスのフォローを頼む!」

 

それだけ言うと次のシュトーム兵へと斬りかかっていた。

 

『命令受諾』

 

『了解』

 

『これより行動に移る』

 

忍の命令に三機のドライバーは地上へと降下した。

 

 

 

一方で智鶴は…

 

「くっ…!」

 

逃げ遅れた人々を守るべく、シュトーム兵と交戦していた。

 

「早く! こちらです!」

 

その後ろではエルメスが懸命な避難誘導をしていた。

戦いに参加できなくても何か出来るのではないかと出てきていたのだ。

 

「(しぃ君は…ずっとこんな苦しい想いを1人で背負ってきたんだ…)」

 

シュトーム兵を迎撃しながら智鶴は如何に忍が背負い込んできたのかを身に染みる想いで感じていた。

 

「(しぃ君は…1人じゃないんだよ?)」

 

そして、そんな考えが頭を過ぎっていた。

 

 

 

上空での戦闘は終わりつつあった。

 

「残りはアンタだけだ!」

 

アルファを纏った隊長を前に忍はファルゼンの切っ先を向けていた。

忍は己の手が既に血で汚れていることを自覚しているためか、シュトーム兵を容赦なく斬り捨ててその命を奪っていた。

 

「くっ…化物め…」

 

隊長はベータブレードとガンマライフルを抜くと忍に向かっていく。

 

「フェイト! ここはもういいからお前は智鶴のフォローを頼む!」

 

「うん、わかった!」

 

忍の指示でフェイトがその場から後退すると…

 

「ブリザード・ファング!」

 

忍は隊長を迎撃すつように中距離拡散砲撃を放つと同時に突撃を仕掛ける。

 

「この程度!」

 

アルファシールドから魔力バリアを発生させてブリザード・ファングを防ぎながらガンマライフルを忍に向けて魔力弾を発砲する。

 

「っ…!」

 

左手にシールド魔法を展開して魔力弾を防ぎながら間合いを見計る。

 

「(決める…!)」

 

そして、僅かな瞬間を見出すと同時に…

 

ヒュッ!

 

ファルゼンをさらに高くに投げた後、ミッションバックルからヴェルメモリーを抜き取る。

 

「血迷ったか!」

 

これが好機と見て隊長がベータブレードを構えて忍に肉薄する。

 

チャキッ!

 

そこへ放り投げたファルゼンが忍の手元に戻り、その拍子にヴェルメモリーを柄に装填することで斬艦刀を形成する。

 

「ファルゼン…モード・斬艦刀」

 

「うおおおおっ!!」

 

忍と隊長の影が交差する。

 

隊長の剣を上体を後ろに逸らすことで回避しつつ忍の斬艦刀は擦れ違い様の隊長の胴体を完全に捉える。

 

「がっ!!??」

 

「『断切牙(だんせつが)』ッ!!」

 

そう叫びながら力任せにファルゼンを振り抜き…

 

ズシャッ!!

ブシャアアアッ!!

 

肉の引き千切れる音と共に隊長の体が真っ二つになり、大量の血が噴き出しながら外海の方へと落ちていく。

 

「……………」

 

静かに佇んでいると…

 

「この匂いは……やっとご登場ってとこか?」

 

風に漂い、下から感じる強烈な存在感と匂いを感じ取りながら忍もまた降下した。

 

 

 

そして、忍が地上から感じた存在とは…

 

「………………」

 

圧倒的な存在感を放つミゲルが一歩、また一歩と地上に降りたシュトーム部隊へと歩を進めていた。

 

「やれやれ…まさか、彼の言った通りになるとは…」

 

その存在感とは裏腹に困った様な表情を浮かべていた。

 

「仕方ないな。少し、付き合ってもらおうかな?」

 

次の瞬間…

 

ドガッ!!

グシャッ!!

バキッ!!

ブチッ!!

 

様々な打撃音や怪音が響き渡った後には屍の山の上に立つミゲルの姿があったという…。

 

こうしてラント諸島、首都攻防戦の幕は閉じたのだった。

 

………

……

 

「…………」

 

戦後、クリスは1人放心状態であった。

その周りには忍が贈ったドライバー三機が警戒態勢を取っていた。

 

「クリスちゃん…」

 

「クリスさん…」

 

その様子を遠目から智鶴とエルメスが見ていた。

 

「俺が行かないと、だよな…」

 

そこへ忍がやってきてクリスの元へと歩いていく。

 

「あ、しぃ君…」

 

一瞬、止めようとも思った智鶴だったが、ここは忍に任せるようだった。

 

「イーグル、タイガー、ドラゴン。ご苦労だったな…」

 

ドライバーを軽く一撫でしてから忍はクリスの隣に座る。

 

「なんだよ…」

 

口では平気な風を装っていても、いつもの強気な空気は感じられなかった。

 

「すまない…」

 

「ッ!!」

 

忍が謝った瞬間…

 

パァンッ!

 

乾いた音がその場に響いた。

 

「…………」

 

「…ざけんな……なんでお前が謝んだよ!」

 

それはクリスが忍の頬を思いっきり叩いた音であり、それを皮切りにクリスの感情が爆発する。

 

「あれはあたしがやったことだ! 生きるために相手を殺した! それだけだ! なんでそれでお前が謝んだよ!」

 

そう言いながらもクリスの両目には涙がいっぱいに溢れていた。

 

「クリス…」

 

「うっせぇ! 喋んな! お前に指図されることは何も…!!」

 

最後まで言い終わる前に忍がクリスの体を抱き締める。

 

「本当にすまない…お前達に十字架を背負わせる気は無かった。こんな形で背負わせてしまい…本当にすまないと思ってる」

 

「だから…謝んな!! それと…放せ…放せよぉ…」

 

ポカポカと忍から放れようとクリスは抵抗するが、男と女の力の差は歴然である。

 

「すまない……でも、いいんだ。泣き叫べば…俺がその十字架を一緒に背負ってやるから…」

 

そう言って忍はクリスを力一杯に抱き締めていた。

 

「うわああああああ!!」

 

クリスは忍の胸で泣き叫んでいた。

 

………

……

 

クリスとの一件の後、忍はミゲルと再交渉を行っていた。

 

「これが帝国のやり方だ。気楽に待ってくれるような相手じゃないんだ。俺達は早く戦争を終わらせたい。平和を待ち望む民の為に…それがシルファー陛下の願いでもあり、意志だ」

 

そんな忍の言葉に…

 

「…………わかったよ。同盟を結ぼう。こんな戦い、早いとこ終わらせないとね」

 

しばらく考えた後、ミゲルもそう答えていた。

 

「信用してもいいんだな?」

 

「あぁ…ここまでされると流石に、ね…」

 

そう言うミゲルの瞳は怒りを含んでいた。

 

「わかった。これからよろしく頼む」

 

「こちらこそ…」

 

こうしてイーサ王国はラント諸島との同盟を結ぶことに成功した。

 

「あぁ、そうそう…お嬢さんは泣かせるもんじゃないよ?」

 

「わかってるつもりだが…どうもこういうのは不慣れでな…」

 

「やれやれ…若者よ。そのくらい頑張ってみせるのが男の甲斐性だよ?」

 

「なんだか釈然としないな…」

 

真面目な話から一変、男同士でそんなことを話していた。



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第四十一話『新たな力はカードと共に』

先日、忍達はラント諸島での帝国侵略に介入し、無事ラント諸島との同盟を締結させることが出来た。

 

これからトルネバ連合国との同盟交渉が控えている中、忍達はフィライトでの同盟活動を一時中断し、地球へと帰還していた。

 

「どうして戻ってきたんだよ?」

 

地球に戻るなり忍にそう聞いたのはクリスだった。

 

「しかもみんな揃ってって…」

 

「何があるのよ?」

 

暗七と吹雪もまたクリスに続くように尋ねる。

 

「いや、俺も連絡を受けただけだからな。俺に用があるって人がいるって…アザゼル先生から…」

 

次元間通信なんぞ、いつの間に開発(?)したのか知らないが…ラント諸島との同盟があった翌日、ネクサスにアザゼルからの通信が入ったのだ。

 

『おぉ、感度は良好良好♪ 忙しそうなとこ悪いが、眷属と一緒に戻ってこい。お前さん達…正確には忍に渡したいもんがあるんだとよ。じゃ、確かに伝えたぜ~』

 

という具合の一方的なやり取りで通信は切れたのだった。

 

「(アザゼル先生からの通信か…なんだか嫌な予感しかしないのは気のせいかな?)」

 

そんなことを考えつつも忍は眷属と一緒にスコルピアのディメンション・ゲイトを通って地球へと帰還したのである。

 

そして、明幸の屋敷で来訪者を待っていると…

 

「失礼します」

 

中庭より声が聞こえると、そこには…

 

「っ…!」

 

黄金の翼を広げた人物が立っていた。

 

「大天使ミカエル…」

 

カーネリアがその人物の名を呟く。

 

「中庭から訪問というご無礼をお許しいただきたい」

 

来訪者…ミカエルはそう言って頭を下げる。

 

「いえ…まさか、天界のトップが来られるとは思わず、気を抜いていました。どうぞ、中に…話は居間で…」

 

「ありがとうございます」

 

ミカエルを居間に迎え、その対面に忍と智鶴が座る。

 

「粗茶ですが…」

 

ミカエルの前にシアがお茶を差し出す。

 

「これはどうも。日本のお茶は美味しいですからね」

 

そう言ってお茶を一口飲むと…

 

「なんだかホッとしますね」

 

「それは良かった。それで俺に話しというのは…?」

 

ミカエルの反応を見てから忍は話を切り出す。

 

「わかりました。我々が悪魔の駒や人工神器の技術を基にして御使い(ブレイブ・セイント)を作り出したのは知っていますね?」

 

「えぇ、それはもちろん」

 

先日、クラスに転校してきたイリナは目の前にいるミカエルのA(エース)であり、その時に御使いの情報もある程度入手している。

 

「冥界…ベルゼブブ殿は冥族専用の駒を開発したとか…」

 

「はい。試験的に俺が使用させていただいてます。まだ、眷属の駒は余ってますが…」

 

そう言って忍は未使用の駒…戦車1、兵士5を取り出してミカエルに見せる。

 

「最大で後6枠の眷属が出来るわけですね」

 

「そうですね。今のところ候補はいませんが…」

 

ミカエルの問いに答える忍に対して…

 

「(エルメスはどうなんだよ?)」

「(さぁ? 異界のお姫さまなんでしょ?)」

「(好意があるのは見て取れるし…)」

「(また増える可能性があるのね)」

 

忍の後ろに控えている他の眷属(特にクリス、朝陽、吹雪、暗七)がヒソヒソ話をする。

 

「(お前らな…)」

 

比較的近くなので容易に耳に届いてしまい、忍は内心で溜め息を吐いていた。

 

「そこで紅神君に提案なんですが…その枠をもう7つ増やしてみませんか?」

 

「はい?」

 

ミカエルの唐突な申し出に忍も生返事をしてしまう。

 

「実は私達天界もこのような物を作りまして」

 

そう言ってミカエルは懐から7枚の絵札を取り出してテーブルの上に置く。

 

「これは…?」

 

テーブルに置かれた絵札にはそれぞれ剣を掲げた騎士、弓を構える騎士、槍を持つ騎士、戦車を駆る者、妖しげなローブを纏った魔術師、戦に狂いし戦士、黒尽くめの暗殺者の絵が描かれていた。

 

「眷族の駒に倣い、『眷属の絵札(サーヴァント・カード)』とでも名付けましょうか。実は天界でも切り札はいくつか用意しておこうということになりまして…魔王ベルゼブブから眷属の駒の技術を提供してもらい、御使いの技術と組み合わせて作り上げたのがこれなんです」

 

「なるほど。でも、何故俺に? 天界の切り札なら冥界で辺境伯なんて地位を貰った俺に渡すのはまずいのでは?」

 

ミカエルの説明に忍は当然の疑問をぶつけた。

 

「お恥ずかしい話ですが…眷属の駒を基にしたためか、冥族でないと機能しないという問題が明るみになりまして…我々では運用出来ない事からこの一組しか作れず、計画自体を白紙に戻してしまったんです。しかし、一組は作ったので誰かが運用した方が今後の戦力にも繋がると考えまして、私の提案で紅神君に渡すことにしました」

 

その疑問にミカエルは丁寧にそう答えていた。

 

「なるほど。ですが、何故俺なんですか? 冥族の協力者なら俺以外にも…」

 

そう言って忍は後ろの吹雪やシア、今は冥界にいる紅牙のことを指してみた。

 

「理由はいくつかあります。既に眷族の駒を運用している実績、悪魔側で辺境伯という地位を持ちながら悪魔側だけでない広い視野を持ってること、かの赤龍帝とは違った可能性を秘めていること…大まかな理由としてはこんなところでしょうか?」

 

「……なんか、改めて言われると…こそばゆいというか…恐縮してしまいますね」

 

それを聞いて忍は頬をポリポリと掻く。

 

「ふふ、それだけのことを君はしてきたんですよ」

 

そう言うとミカエルは立ち上がり…

 

「絵札はお預けします。使うかどうかは紅神君自身が見極めてください。今日はお忙しい中、時間を取っていただきありがとうございました」

 

深々と忍達に頭を下げる。

 

「い、いえ…三大勢力の一角のトップが頭を下げられるほどのことでは…!」

 

慌てて忍がそう言うが…

 

「気にしないでください。それでは…」

 

ミカエルは黄にした風も無く、その場を後にしたのだった。

 

「「「「「……………」」」」」

 

ミカエルが去ってからしばしの沈黙の後…

 

「しかし、絵札か…絵柄に意味でもあるのかね…?」

 

そう言って忍はテーブルに置かれた絵札の一枚を持つとその絵柄を興味深く見る。

 

「パッと見。騎士、弓兵、槍兵、騎乗者、魔法使い、狂戦士、暗殺者のように見えますね」

 

シアが他の絵札を眷属達に回しながら絵札の絵柄をそう評する。

 

「ミカエルさんからもう少し詳しく聞きたかったが…向こうも向こうで忙しそうだったしな…」

 

そう言って忍も地球や冥界で起きている禍の団のテロ活動を思い出す。

 

何処(どこ)彼処(かしこ)も事件や事変続きか…」

 

異世界・フィライトで起きてる戦争も含めて地球や冥界でも大変な時期であることを再確認していた。

 

「そういえば…しぃ君、そろそろ修学旅行の時期でもあるでしょ?」

 

ふと思い出したように智鶴が忍に言うと…

 

「………………ぁ…」

 

それを言われて忍は修学旅行のことをスッカリ忘れていたことに気づき、ダラダラと汗が流れる。

 

「ヤベェ…すっかり忘れてた…班決めとか、どうしよ…イッセー君達に同行させてもら…えるかな? 多分、大丈夫なはず…でも、今はフィライトにも顔を出さないとならないし……そうだ、冥界で冥族との話し合いもあるんじゃないか?」

 

ブツブツと独り言を呟く忍を見て…

 

「もう、しぃ君ってば…」

 

困った様な表情で智鶴は忍の頭を撫でていた。

 

「え、えっと…わ、私も…手伝うから…」

 

同じく駒王の2年生である萌莉も忍を励ます。

 

「リディアンも修学旅行の時期では?」

 

「……あ~、そうかもな」

 

シアの言葉にクリスはどうでもよさそうに答える。

クリス自身、団体行動はまだ苦手らしい。

 

「シアちゃんや暗七ちゃんも学園に入ればいいのに…」

 

そう言って智鶴は話の矛先をシアや暗七に向ける。

 

「私は元テロリストの一員ですから…そこまでしてもらうのは流石に…」

 

「私もドクターの元で色々学んでたからね。今更学園に入る気も無いわ」

 

シアは後ろめたさから、暗七はどうでもよさそうな、それぞれの理由で駒王学園への入学はしていなかったりする。

 

「けど…それだと修学旅行ってのは皆、別行動になりそうね。大丈夫かしら?」

 

そんな中、カーネリアが珍しくそんなことを言う。

 

「坊や達はしばらくいない訳でしょ? 誰かさんは耐えられるのかしら?」

 

いや、心配というよりはむしろ面白がっているのか…?

 

「いや、たかが二泊三日なんだから大丈…夫…?」

 

カーネリアの言葉に忍が反論しようとするが…

 

「…………」

 

"ズーン…"という効果音が聞こえてきそうなくらい、明らかに沈んだ様子の智鶴が隣にいた。

 

「ほらね」

 

そして、勝ち誇ったようにカーネリアは可笑しそうに笑う。

 

「どんだけよ…」

 

「そのくらい辛抱なさいよ…」

 

その様子に呆れて朝陽と吹雪がそう言い放つ。

 

「あなた達も学園はいいの?」

 

シアと暗七にした質問を今度はカーネリアが朝陽と吹雪に聞く。

 

「あたしはミッドでいくらか勉強はしたし、騎士になるために専攻してたから別に今更って…」

 

「私も閉鎖してたとは言え、母さんや父さんからそれなりに教わってたし…それにたった一年程度通ってもねぇ…」

 

どっちも勉学は出来るらしいが、別々の理由で学園に入る気は更々ないらしい。

 

すると…

 

ピピピ…!

 

誰かから誰かに向けての通信が入る。

 

「あ、私だ」

 

着信者はフェイトで相手は…

 

「あ、シャーリーからだ」

 

補佐官であるシャーリーだった。

周りを気にする必要が無かったので、そのまま通信用魔法陣を展開する。

 

「シャーリー、どうかしたの?」

 

『やっほ~、フェイトちゃん。忍君とは上手くいってる?』

 

「ちょっ!? シャーリー!?///」

 

シャーリーの言葉に驚き、フェイトは慌てた様子になる。

 

『あはは、今日は前にフェイトちゃんがユーノ君に頼んでたモノが届いたからそれを知らせようと思ってね。あ、それとネクサス用の新しい装備も預かってるよ』

 

笑って誤魔化しながら本来の要件を伝える。

 

「ホント? それにネクサス用の新装備って…?」

 

『ふっふっふ、それは持っていってのお楽しみ~♪ それじゃあ、今から持ってくねぇ~』

 

「あ、ちょっと!」

 

フェイトが何か言う前にシャーリーは通信を切ってしまった。

 

「あの、忍君? 今の聞いて…」

 

「一応…聞いてはいたぞ」

 

色々と頭を悩ましている忍もネクサスび新装備と例のモノと聞いたら頭を切り替えたらしい。

 

 

 

それからしばらくして…

 

「いや~、これが純和風ってやつですか?」

 

アタッシュケースを持ってシャーリーがやってきました。

 

「はい。これがお土産の新装備。名前を『ライト・フューラー』と『レフト・フューラー』って言ってアームド系統の拳銃って聞いてるよ」

 

テーブルの上にアタッシュケースを置いて忍の方に差し出す。

 

「あと、こっちがユーノ君から預かった資料だよ」

 

アタッシュケースとは別にフェイトからユーノに預けていた古文書とその翻訳データの入ったメモリチップをテーブルに置く。

 

「これが…あの本の解読文の入った…」

 

そう言って忍はまずメモリチップを手に取っていた。

 

「多分、ネクサスの規格なら読み取り可能だから早速見てみたら?」

 

「では、早速」

 

シャーリーの言う通りにメモリチップをネクサスへと挿入してデータの呼び起こしをする。

 

ピピ…!

 

しばらくしてネクサスから投影ディスプレイが展開されて翻訳データが映し出される。

 

烈神拳(れっしんけん)

 

表示された最初の文字はそう書いてあった。

 

「烈神拳? それがこの古文書に記された武術の名か?」

 

そう呟き、忍は翻訳データを進める。

 

(いにしえ)よりある力。

 

魔・気・霊・妖。

 

これら四つの力を秘めし存在。

 

即ち、混血が扱う格闘戦術。

 

それがこの烈神拳である。

 

しかし、混血でも四つの力を秘めた存在は少ない。

 

よってこの本に記されし多くの技は力単体でも発動し、それらを駆使することで更なる効力を発揮することを主眼に置いている。』

 

最初のページに当たる記述なのだろう。

そのようなことが書かれていた。

 

「混血が使う、格闘術…」

 

そこから先は技の詳細な記述が続くばかりだった。

 

「(これは後でも覚えられるな…)」

 

ある程度読み進めた後、ディスプレイを消してアタッシュケースの方へと向き直る。

 

カチッ!

 

アタッシュケースを開けるとそこには…

 

「これは…」

 

「あら? トーラス・レイジングブルにデザートイーグル?」

 

何処からどう見ても地球製の拳銃にしか見えない代物だった。

どちらもマグナム弾を発射する拳銃として知られている。

 

「なんか、シュトライクス准将が知人から聞いた情報とサンプルを基にデバイス技術で作り上げたって聞いたよ?」

 

シャーリーが受け取る時に聞いたことをそのまま忍達に伝える。

 

「知人というと、アザゼル辺りかしらね」

 

カーネリアが言ってる間に智鶴がデザートイーグルっぽい銃を持って確かめる。

 

「でも、確かに普通の"ハジキ"とは質量から色々違いそうね。触った感じも軽く感じるし…」

 

「弾倉はあたしのセイバーや執務官のデバイスと同じリボルバー式のやつとマガジン式のやつか」

 

朝陽が横から覗いてそれぞれの目立った特徴を言う。

 

「朝陽ちゃんのセイバーと同じくECにも対応してるって話だよ? あと、魔力石だっけ? アレのおかげでECの弾種も広がったって」

 

すかさずシャーリーの補足説明がなされる。

 

「しかし、この口径の精密さ…普通の弾でも装填出来そうだな…」

 

フューラーを観察してからの一言に…

 

「流石にそれはないよ~。質量兵器は禁止されてるんだし、准将だってそんなことはしないってば」

 

シャーリーは笑って否定するものの…

 

「(本当にそうなのか?)」

 

忍は一抹の不安を抱いていた。

 

こうして忍は新たに戦う術として二挺拳銃と格闘技、さらには『眷属の絵札』というモノまで手に入れたのだった。

 

………

……

 

忍達が地球に帰還して数日が経った日のこと。

 

忍は何故か冥界に呼び出され…

 

「とう!」

 

とある集団の一員として活動させられていた。

 

その集団とは…

 

「我等は魔王戦隊サタンレンジャー! 私がリーダーのサタンレッド!」

 

「同じくサタンブルー!」

 

「めんどいけど、サタングリーン」

 

「レヴィ…じゃない、サタンピンクよ☆」

 

「……はぁ…サタンイエローです」

 

「何故俺まで…? サタンシルバー」

 

チュドーンッ!

 

それぞれの名乗りの後、色取り取りの爆発が背後で巻き起こる演出まである。

 

ちなみに場所はグレモリー領のとある山岳地域にある遺跡の前である。

そこには制服姿のリアスとイッセーの姿があり、開いた口が塞がらないという状態だった。

 

「(いやいやいやいやいや…!!?)」

 

そんな中、イッセーはかなり驚いていた。

 

「(魔王戦隊って…四大魔王様じゃねぇかよ!? しかもイエローは最強の女王様で、シルバーなんて俺の同級生じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!)」

 

その正体を察したため、心の中で絶叫していた。

 

「(あ~…あの様子だとイッセー君は気付いたっぽいかな? というかホントになんで俺までこの余興に駆り出されるの?)」

 

一応、事情はコスプレする前にある程度聞いてはいたものの、これに参加させられる意図が全く分からないサタンシルバーこと忍であった。

 

ただ…

 

「凄い魔力だけれど、何者かしら?」

 

リアスは魔王戦隊の正体がわからないでいた。

 

 

 

それからサタンレンジャーは遺跡の中へと一足先に入り、試練の間でイッセーとリアスの両名を待ち受けるのだった。

但し、サタンレッド、サタンイエロー、サタンシルバーの3名だけは遺跡の奥に位置するコロシアム風の天井のない広々とした空間で待機していた。

 

「それでサーゼクスさん」

 

「今はサタンレッドだよ、シルバー」

 

「(拘るなぁ…)で、レッド。俺をここに呼んだ理由は?」

 

マスク越しに真剣な眼差しでレッドに尋ねる。

 

「ふむ、理由は二つあってね。一つ目は君にもイッセー君と戦ってもらいたいんだ」

 

「(君にも? まさか、魔王直々にイッセー君と戦うんじゃ…)」

 

そんなシルバーの嫌な予感をよそにレッドは続ける。

 

「二つ目はこれが終わった後にしようか」

 

そう言ってる間に通路の方から足音が聞こえてきた。

 

「おめでとうございます、お二方」

 

イエローがやってきたイッセーとリアスにそう言った後…

 

「よくぞ、試練を乗り切った! しかし、兵藤 一誠君だけには追加試練として私とシルバーの2人と戦ってもらうぞ! 見事我等2人を倒してみせたまえ!」

 

「(やっぱりか…)」

 

レッドの口上にシルバーは軽く頭を抱えてやれやれといった感じであった。

 

「えええええええ!?!?」

 

イッセーもイッセーでかなり驚いていた。

 

「ふふふ、私のイッセーを甘く見ない事ね。彼はあの悪神ロキを倒した赤龍帝でもあるのよ。それを相手にするなんて良い度胸だわ!」

 

正体を知らないが故か、リアスはそんなことを言い出す。

 

「(ぶ、部長! そんなハードルを上げないでください! てか、目の前の人、あなたのお兄さんですから!)」

 

心の中でイッセーはその事実を声を大にして言いたそうだが、それを飲んでイエローとシルバーの方を助けを求めるように見る。

 

「……無理はなさらないように」

 

「……まぁ、彼とは手合せしたいと思ってたし、別にいいけど…」

 

イエローは諦めたように言い、シルバーはちょっと乗り気であった。

 

「(あっれぇぇぇ!?!? いいんですか!? あなたの夫は下級悪魔に本気なんですよ!? つか、忍! お前もお前でなんで乗り気なんだよ!!?)」

 

2人の思わぬ対応にイッセーは更に驚愕した。

 

「では、行くぞ!」

 

レッドの掛け声と共にシルバーが駆け出し、レッドが紅く輝く滅びの魔力を放つ。

 

ブオオオンッ!!

 

「ぎゃあああ!?!?」

 

イッセーは滅びの魔力を慌てて回避すると、滅びの魔力がコロシアムの一角を削り取った。

 

「(あれが魔王ルシファーの実力か…これは間近で見られるチャンスと考えた方が良いかもしれないな)」

 

「(ま、マジか?! サーゼクス様はマジなのか!?)」

 

レッドの攻撃にシルバーは冷静に、イッセーはかなり慌てた様子で篭手を出現させ…

 

「ドライグ! 禁手になるぞ!」

 

『漸くか。待ちくたびれたぞ!』

 

禁手のカウントダウンが始まる。

その間、レッドは謎のポージングをして攻撃する様子が無かったのでシルバーも空気を読んでその場で立ち止まる。

 

「変身中の攻撃はご法度だからね!」

 

「(律儀だな…)」

 

かくして…

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

赤い龍気が鎧を形成していき…

 

「行くぜ! サタンレッドにサタンシルバー!」

 

「さぁ、来たまえ!」

 

「(今更だが、二対一でいいのか?)」

 

無事に禁手が完了したイッセーVSノリノリなサタンレッド(サーゼクス)と、今更そんな心配をするサタンシルバー(忍)の戦いが始まった。

 

 

 

「まずはドラゴンショットだ!」

 

イッセーは初っ端からドデカい魔力弾を放つ。

 

「(力を増大させての一撃。前の俺なら回避に徹したが…)」

 

サタンレッドの前に移動したサタンシルバーはパンと両手を合わせると…

 

「蜘蛛の巣!」

 

妖力を両手に収束し、手を離すと共に両手の間に妖力で練られた糸を無数に紡ぎ出すと、それを前方に撃ち出してドラゴンショットを絡め取る。

 

「結界!」

 

さらに両手に収束した妖力を霊力へと即時に切り替え、両手を再び合わせると絡め取ったドラゴンショットを立方体型の結界に包んで無力化する。

 

「なんじゃそりゃ!?」

 

シルバーの手早い対処にイッセーは叫ぶ。

 

「返すぞ!」

 

そして、結界に絡め取ったドラゴンショットを霊力を纏わせた足でイッセーの方へと蹴飛ばす。

 

「解!」

 

その一言で結界と糸は消えると、イッセーに向かってドラゴンショットが返っていく。

 

「回りくどい反射だなぁぁ!?」

 

自分の撃ったドラゴンショットを龍翼を生やして空に回避しながらイッセーは叫ぶ。

 

「(確かに回りくどいな。別の組み合わせを考えないとな…)」

 

イッセーの言葉にシルバーも改善の余地ありと判断する。

 

「余所見はいけないね!」

 

そこへレッドが滅びの魔力を両腕に纏ってイッセーの鎧を削りに掛かる。

 

「げぇ!?」

 

その事実にイッセーは即座にレッドから距離を置こうとする。

 

「させるか!」

 

そこにシルバーが砲撃をイッセーの後退進路上に放つ。

 

「(忍の砲撃くらいならこの鎧で…!)」

 

イッセーは砲撃を無視して後退を続けようとするが…

 

『相棒、避けろ!』

 

ドライグが回避するように叫ぶ。

 

「え?」

 

イッセーがその言葉に反応するよりも早く…

 

ズガンッ!!

 

「がっ?!」

 

シルバーの砲撃がイッセーに直撃し、軽く吹き飛ばす。

 

「な、なんで!?」

 

前の忍の砲撃なら難なく鎧で防げたものの、今回はダメージを受けていたことに驚きを隠せないでいた。

 

「さてな」

 

当のシルバーは知らないフリをしていた。

 

ただ、この仕掛けは単純である。

忍は五気の内、龍気以外の力を扱えるようになっているため、魔力砲撃を霊力や妖力で強化したのだ。

その結果、禁手状態のイッセーにもダメージを与えられるくらいに威力を持たせることが可能になった。

 

『あの狼、異なる力を一つに合わせたらしいな。だから鎧に対しても少なからずのダメージを与えられるようになったと見た』

 

「(マジかよ!? あいつ、いつの間にそんなのまで…)」

 

ドライグの分析にイッセーはシルバーを見た。

 

『お前もうかうかしてられんぞ。お前の成長も著しいが、あの狼の成長速度も異常だからな』

 

「(あぁ!)」

 

イッセーは気持ちを切り替えると、今度は散弾式のドラゴンショットをレッドとシルバーに向けて撃ち出す。

 

 

 

そうして十分が過ぎた頃…。

 

「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」

 

「どうした、兵藤 一誠君! 君のリアスへの想いはその程度なのか!?」

 

息を切らしたイッセーを見てレッドが叫ぶ。

 

「(2人相手によく善戦したと思うけどな…)」

 

シルバーはシルバーで力の解放こそしなかったが、新たな力『烈神拳』を上手い具合に混ぜた攻防でイッセーを翻弄していた。

 

この様子は既にマスクを脱いで正体を明かした状態の残りの四大魔王が観戦していた。

 

その後、イッセーはタンニーン直伝の龍の息吹をレッドとシルバーに向けて放つも、レッドは滅びの魔力で文字通り打ち消し、シルバーは吹雪を発生させて相殺するというやり方でそれぞれ回避していた。

 

それでも一矢報いてやりたいと考えていたイッセーにイエローが打開策を与えた。

単純にしてイッセーに対して効果抜群の方法。

それは…リアスの胸を触ること。

これによってイッセーは絶大な力を発揮し、特大のドラゴンショットを撃ち出したのだった。

しかし、この一撃をレッドは打ち消したのだ。

 

その隙にサタンレンジャーは姿を消していた。

その後に出てきた四大魔王…特にアジュカ・ベルゼブブによってイッセーは新たな可能性のカギを手にしたのであった。

そして、その際にグレモリー眷属VSバアル眷属のレーティングゲームが決定したことがリアスとイッセーに告げられた。

 

 

 

それぞれがグレモリーの(やしき)に帰還した後のこと…。

但し、イッセーとリアスはまだ帰還途中。

 

「それで…俺に一体何の用なんでしょうか? 魔王様方」

 

忍は今回の件で呼び出された本題を聞くために四大魔王の元を訪れていた。

 

「ミカエル殿から面白いものを渡されたそうじゃないか」

 

アジュカが開口一番にそう聞いてきた。

 

「えぇ、まぁ…」

 

「眷属集めの方も順調かな?」

 

「そっちは残り6枠あります」

 

「ふむふむ。後6枠か。若手悪魔とのゲームまでにはフルメンバーを揃えてもらいたいものだが…」

 

アジュカと忍の他愛のない会話を聞いてか…。

 

「アジュカ、そろそろ本題に」

 

サーゼクスが先を促す。

 

「ん、わかったよ。では、次元辺境伯殿」

 

「はい」

 

次元辺境伯と言われた瞬間、忍も頭を切り替える。

 

「修学旅行だったかな? その前にセラフォルーや神宮寺 紅牙達と共に冥族の集落げと赴いてほしい」

 

「遂に、ですか…」

 

その言葉に冥族との和平の第一歩が始まろうとしていたのがわかった。

 

「あぁ、眷属の駒の二号版も作っておいたから神宮寺 紅牙に渡してほしいんだよ」

 

「紅牙に、眷属の駒を…?」

 

「うむ。彼らともこれからは共存するのだから技術提供は当然のことだろう?」

 

「わかりました。紅牙には俺から…?」

 

「あぁ、その方が助かる」

 

そのやり取りの後、忍はアジュカから駒の入ったケースを受け取ると…

 

「で、それだけですか?」

 

違和感を感じていた忍はそう四大魔王に尋ねていた。

 

「ふむ、流石に気づくか」

 

「まぁ、こういう時はサーゼクスさんが色々と話してますからね」

 

その違和感とはアジュカが話し続けていることだった。

 

「やっぱり慣れないことはするもんじゃないね。サーゼクス、あとは頼んだ」

 

「わかった」

 

アジュカからサーゼクスに交代し、本当の本題が始まる。

 

「忍君は『現世の神』という男のことを知ってるかな?」

 

「? いえ、知りませんが…」

 

話の意図が見えず、怪訝な表情で答える。

 

「彼は…今でこそ和解したが、それ以前に誕生した…天使と悪魔の血を引くハーフでね」

 

「天使と悪魔のハーフ!? そんな存在が…」

 

「いるんだよ。とても信じられないと思うがね」

 

「しかし、何故『現世の神』なんて…」

 

「彼の力は常軌を逸していてね。相反するはずの聖と魔の力を自在に操る事が出来るんだ。その様は正に"現世に顕現せし神の如く"、という意味合いも込めてそう呼ばせてもらっている」

 

「…………」

 

その事実に忍は開いた口が塞がらない様子だった。

 

「ここ何年かは行方が分からなかったんだが、最近になって漸く足取りが掴めてね」

 

「……何処にいるんですか?」

 

嫌な予感を感じつつも忍は尋ねた。

 

「冥族の集落だ。それも訪問先に指定している地域でね」

 

「こりゃまた…厄介なことになりそうだな…」

 

それを聞いて忍はイッセーとは違った意味で自分も色々と巻き込まれやすい体質なんだと改めて自覚したのだった。



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第四十二話『紅蓮の血統と双子座の襲来』

修学旅行も数日後に迫った日のこと。

 

「魔王が、俺に?」

 

「あぁ、親善の証としての第一歩だってよ」

 

忍は同行することになっている紅牙に眷属の駒の入ったケースを渡していた。

 

「これが眷属の駒か…少数精鋭による制度を冥族にもやれとでも言いたいのか?」

 

ケースを受け取りながら紅牙はそう言っていた。

 

「流石にそこまでは考えていないだろう。冥族には冥族の習慣があるんだ。それを守るための力を貸してくれるだけと割り切った方が良いと思うぞ?」

 

「はぁ…お前がそう言うと何故か甘く聞こえてならん。が、今回ばかりはその考えに同意してやる」

 

そう言って紅牙は中身を確認する。

中には忍と同じように王の駒を含めた一式が揃っていた。

 

「(しかし、解せん。俺が得た情報では"悪魔の駒に王の駒なんて無かった"はずだが…?)」

 

紅牙は王の駒を見ながらそんなことを考えていた。

 

「? どうかしたか?」

 

そんな紅牙の様子を怪訝に思ったのか忍が尋ねる。

 

「いや、なんでもない」

 

ボオォォッ!!

 

そう言って紅牙は自らの魔力を焔と共に駒へと流し込み、駒を体内へと取り込んでいた。

その後、紅牙の持つ眷属の駒は紅蓮の焔の如き色の駒へと変色していた。

 

「ある意味、俺らしい色か」

 

紅牙が眷属の駒を起動させてから数分後…。

 

「お待たせ~☆」

 

スーツ姿のセラフォルーがやって来た。

 

「(流石にコスプレはしないか…)」

 

セラフォルーの姿に忍はホッと一安心していた。

 

「それじゃあ、行きましょうか☆」

 

そう言って転移魔法陣を展開する。

ちなみにセラフォルーの同行者兼護衛は忍と紅牙以外に智鶴、シア、朝陽の3名が同行することになっていた。

 

………

……

 

~冥界の辺境・冥族の集落~

 

「到着~☆」

 

集落の中央に位置する広場に転移陣が現れると、そこから外交官一行が姿を現す。

 

「ここが…」

 

「あぁ…俺達、冥族の集落だ…」

 

そう言って紅牙が前に出て辺りを見回していた。

そこには煉瓦(れんが)造りの家々が立ち並んでおり、その所々は戦いの痕跡が残っていた。

 

「(人の気配は…するが、どうもあまり歓迎ムードでもなさそうだな)」

 

忍は周囲の空気の匂いを嗅いで状況を軽く分析していた。

 

「狼君、そんな険しい顔しちゃノンノン☆ 私達は外交に来てるんだから☆」

 

セラフォルーは横チェケしながらそう言う。

 

「そんなノリの軽さでいいんですか?」

 

「このくらい明るくないと外交役なんてやってけないよ☆」

 

「(そういうものか…?)」

 

セラフォルーの言葉に忍は少し表情を緩めた。

 

「で、話し合いって言っても向こうは誰が代表になるのかしら?」

 

あまり事情に詳しくない朝陽がそんな言葉を投げつける。

 

「この地で代表となれば…おそらく…」

 

紅牙が何か言いかけた時だった。

 

「待たせた。魔王レヴィアタン」

 

低い声音での言葉が前方より聞こえてきた。

 

「っ!」

 

「ぁ…」

 

その声に紅牙とシアの表情が固まる。

 

「紅牙?」

 

「シアちゃん?」

 

忍と智鶴が2人の心配をしてる間に前方から言い様のない威圧感が迫る。

 

「「っ…?!」」

 

「(な、なんなの…この威圧感は…?!)」

 

「これは…もしかして…」

 

全員が声のした方に振り向くと、そこには…

 

ザッ…ザッ…ザッ…

 

こちらに向かって歩いてくる真紅の短髪、鋭い目付きに黒い瞳、渋くて壮年な顔立ち、外見からでも見て取れる筋肉質な肉体とそこに刻まれた数々の傷痕を持った、和装っぽい服装の隻眼隻腕の男の姿があった。

その左腰には鞘に収まった剣が帯刀されている。

 

「焔帝…」

 

「朱堕、さん…」

 

セラフォルーと紅牙が静かにそう呟いていた。

 

「(焔帝…?)」

 

忍は目の前の人物から発せられる威圧感に気圧されそうになるものの何とか踏み止まっていた。

 

「冥族代表、『紅崎(べにざき) 朱堕(しゅだ)』。少々待たせてしまったな」

 

「いえいえ、そんなことは無いよ。私達も今さっき来たところだし☆」

 

冥族の代表で朱堕と名乗った男に対し、いつもの軽いノリでセラフォルーが前に出て対応していた。

 

「(この威圧感の中、いつもの調子で振る舞ってる…)」

 

「(流石は魔王か…)」

 

その様子を後ろから見ていた忍と紅牙は内心で改めて魔王というのが凄いのだと実感した。

 

「それで…そっちの若者共は? 記憶違いでなければ、そこにいるのは神宮寺の倅達のはずだが…?」

 

そう言って朱堕は忍達の方を見る。

 

「それに、確か神宮寺の倅達はお前達悪魔に対するテロ活動を行ったと聞く。それが何故一緒に行動している?」

 

鋭い眼光を紅牙とシアに向けながらセラフォルーに尋ねる。

 

「っ…」

 

「ぁ、ぅ…」

 

朱堕に睨まれ、畏縮した様子の紅牙とシア。

 

「それはですね…」

 

セラフォルーがフォローする前に…

 

「紅牙は俺との勝負に負けた。その際に復讐に染まってた魂を俺が霊力で軽減させたんだ。それにシアは元から優しい性格だからテロ活動も否定的だった。そんな2人を俺や魔王が保護したんだ。そして、冥族と悪魔が和解するために行動で示そうとしてるんだ」

 

忍が紅牙とシアの前に庇うように立つと、そう言い放っていた。

 

「貴様は…?」

 

朱堕の眼光が忍1人に定まる。

 

「(っ…)紅神…忍。俺も冥族の血を引いている…」

 

内心で恐怖を噛み砕き、そう名乗っていた。

 

「紅神? 聞かない名だな。本当に冥族なのか?」

 

「なら、証拠を見せる」

 

朱堕の疑念に答えるべく、忍は冥王の力を解放しようとする。

 

「よ、よせ、紅神! お前があの姿になるのは…!」

 

忍の意図を悟った紅牙が止めに入ろうとするが…

 

「はぁ…!!」

 

ボアアアアッ!!

 

忍の足元から紅蓮の焔が渦を巻きながら舞い上がる。

 

「っ…!!」

 

その焔を見て朱堕の目の色が変わる。

 

「忍さん、ダメェ!」

 

シアの叫びも空しく…

 

バサァ…!

 

「…………」

 

背中から紅蓮の4対8枚の翼を広げ、髪と瞳も焔髪灼眼へと変化した忍の姿が焔の渦の中から顕現する。

 

「これが…俺が冥族だという証拠だ」

 

そう言って視線を朱堕の方へと向けると…

 

「…………」

 

さっきよりも鋭い視線を忍へと向けていた。

 

「(っ…プレッシャーが増した…!?)」

 

なんで威圧感が増したのか、忍は理由がわからなかった。

 

「何故、貴様が"その姿"になれる?」

 

ゴアアアアッ!!

 

朱堕もまた紅蓮の焔を足元から出現させると渦を発生させてその中に身を投じる。

ただ、朱堕の焔は忍の焔よりも一回り大きく、熱量もかなりあったが…。

 

バサァ!!

 

そして、焔の渦の中から紅蓮の4対8枚の翼が広がると、焔が散って朱堕の姿を露にする。

 

「なっ…!?」

 

その姿に忍が絶句する。

 

「…………」

 

そこには紅蓮の翼に加え、髪と瞳が炎髪灼眼へと変化した朱堕の姿があったのだから…。

 

「紅蓮、冥王…?」

 

「そうだ。俺は紅蓮冥王を継ぐ家系の"一人息子"。そして、この血は娘達に継がれている。ならば、貴様のそれは一体なんだ?」

 

忍の呟きに朱堕が問いかける。

 

「こ、これは…」

 

忍が答えを言い淀んでいると…

 

「はいはい、そこまで~☆」

 

セラフォルーが2人の間に割って入った。

 

「もう、私達は何も戦いに来たわけじゃないんだから、そんな物騒な姿を早く解いてね☆」

 

「………」

 

バッ!

 

セラフォルーの言葉に従い、朱堕が元の姿に戻る。

 

「っ…はい…」

 

それを見て忍も慌てて元の姿に戻る。

 

「それじゃあ、改めてお話ししましょう?」

 

笑顔のままセラフォルーがそう促していた。

 

「わかった。ついてこい」

 

朱堕の先導によって会談場所へと移動を始める一同だった。

 

………

……

 

会談はその集落の村長が住んでいる洋館の一室で行われることとなった。

 

悪魔側の代表はセラフォルーに加え、護衛と後学も兼ねて忍と紅牙。

智鶴、シア、朝陽の3名は別室で待機している。

 

対する冥族側の代表は朱堕一人のみ。

護衛役として2人の女性が後ろに控えていた。

 

「って、緋鞠と雲雀さんじゃねぇか…」

 

朱堕の後ろに控えている2人の女性を見て紅牙が小さくボヤく。

 

「知り合いか?」

 

「昔馴染みで、どっちも朱堕さんの娘さんだ…」

 

忍の問いに紅牙が簡単に説明する。

 

「(さっき言ってた"紅蓮冥王を継ぐ娘達"ってことか…)」

 

忍はさっきのことを思い返していた。

 

「(もしかしたら…シャドウ絡みかも知れないな…)」

 

そこで忍は以前シャドウによって注入された2種の血のことを思い出した。

 

「(だが…一体どうやって…? シャドウは確か、"入手した"と言っていた。あの人を見る限り…シャドウや暗七がどうこう出来るような相手じゃない。つまり、"誰か別の人間があの人を…?")」

 

片方は吸血鬼、もう片方が目の前の人物の血だとしたら辻褄が合う、そう忍は考えていた。

 

「……というわけで、旧魔王派の勢力は弱体化しています。我々、現魔王派は冥族との和平を築きたいと考えているんです」

 

忍があれこれ考えてる間に会談は進んでいく。

 

「今更和平だなんて…信用出来ないわよ!」

 

朱堕の後ろで話を聞いていた女性の内、腰まで伸ばした白に近い桜色の髪を白いリボンでツーサイドアップにしていて、水色の瞳、幼さの残る可愛らしい顔立ちに小柄で華奢な体型の少女が声を大にして叫ぶ。

 

「静かになさい、緋鞠。今は会談の最中よ」

 

それをもう片方の女性、背中まで伸ばした白に近い桜色の髪、切れ長の眼に紫色の瞳、凛とした雰囲気を有した綺麗な顔立ちで、大人の女性を思わせる抜群のプロポーションの体型の女性が少女に釘を刺す。

 

「でも…雲雀姉様!」

 

「緋鞠。二度は言わないわよ?」

 

「うっ…」

 

「失礼しました。話の続きをどうぞ」

 

少女『緋鞠(ひまり)』を黙らせた後、女性『雲雀(ひばり)』が話の続きを促す。

 

「(相変わらず怖ぇな…)」

 

そのやり取りを見て紅牙の表情が引き攣る。

 

「娘が失礼した。しかし、娘の言にも一理ある。我々は長い時を悪魔に虐げられてきた。無論、俺のような者が悪魔と対峙してきたが、それでも多くの冥族は悪魔に対して良い印象を持っていないだろう。中には悪魔に一方的にやられること自体に不満を募らせ、我慢の出来なかった者もいたようだが…」

 

そう言って朱堕は紅牙に視線を向ける。

 

「ぐっ…」

 

その言葉が自身を指してることを察し、紅牙が唸り声を上げる。

 

「自覚があるようだな」

 

「まぁまぁ、若い頃なんてそんなものですよ☆」

 

他人事のようにセラフォルーがフォローする。

 

「(この人は現在進行形で色々と突き抜けてる気がするが…)」

 

意識を現実に戻した忍はセラフォルーを見てそんなことを考えていた。

 

「一つ、伺っても…?」

 

意を決して忍は尋ねることにした。

 

「なんだ?」

 

「その眼や腕は…悪魔にやられたものなんですか?」

 

その問いによって場の空気が凍り付く。

 

「そう見えるか?」

 

「いえ…少し気になっただけですから…」

 

朱堕の返しに忍はそう答える。

 

「………数年前だ。白銀の鎧を纏った者との戦闘で失った。そいつからは悪魔特有の波動は感じられなかった。しかし、奇妙な技を操る奴だったことは覚えている」

 

朱堕は忌々しそうな表情で答えていた。

 

「白銀の、鎧…(まさか、エクセンシェダーデバイス…?)」

 

「心当たりでもあるのか?」

 

忍の反応に朱堕は問い質す。

 

「い、いえ…直接的にはありませんが……白銀の鎧についてはもしかしてと……他に変わった点はありませんでしたか?」

 

「ふむ…そうだな。そういえば、変わった武器を持っていた。山羊の頭でも模したような手持ち武器だったか…それがどうした?」

 

それを聞き…

 

「っ…山羊座のエクセンシェダーデバイス…」

 

「エクセンシェダーデバイス?」

 

ついつい口に出してしまったため、エクセンシェダーデバイスについての話を朱堕達にも話すことになった。

 

「そのような代物が…なるほど。道理で常軌を逸していたわけだ」

 

「そいつが父様を…」

 

話を聞いて朱堕は少しだけ納得し、緋鞠は敵意を剥き出しにしていた。

 

「どんな奴かまではわかりませんが…そいつは山羊座に認められた存在。エクセンシェダーは例外なく厄介な代物ですから…」

 

そんな忍の物言いに…

 

「それにしても…話を聞く限り、そちらにも既にいくつか所持してるように聞こえますね」

 

雲雀は冷たい目付きでそう尋ねていた。

 

「は、はい。俺は水瓶座。控室にいる1人が蠍座を所持してます」

 

その視線に忍は素直に答えてしまう。

 

「つまり、既に3機が確認されていると…」

 

雲雀がそう呟く。

 

それからまた和平について議論したものの、冥族側の悪魔側への不満が強いせいか、なかなか進展しないまま休憩ということになった。

 

………

……

 

「はぁ…フィライトでも実感したが、交渉事は緊張するな…」

 

宛がわれた部屋でお茶を飲みながら忍が溜め息を吐く。

 

「お疲れさま、しぃ君」

 

その両隣には智鶴とシアが陣取っていた。

 

「兄さん、どうかしましたか?」

 

テーブルの向かい側で突っ伏している兄にシアが尋ねる。

 

「あ? いや、あの姉妹が朱堕さんの護衛に就いてたからよ。俺は別の意味で疲れたわ…」

 

突っ伏しながら紅牙は答える。

 

「姉妹…? もしかして、雲雀さんと緋鞠ちゃん?」

 

シアはすぐに紅崎姉妹のことだとわかったようだ。

 

「他に誰がいんだよ。あ~、相変わらず怖いこと怖いこと」

 

「もう、兄さんは…そんなこと言ってるとまた怒られるよ?」

 

「別に此処にいる訳じゃないからいいんだよ。実際、怖いのは事実だろ?」

 

そう言った矢先…

 

コンコン…

 

部屋がノックされる音が聞こえ…

 

「どうぞ~☆」

 

セラフォルーが入室を許可する。

 

「失礼します」

 

紅牙の言った怖い人…雲雀が入室してきた。

 

「ぶぐっ!?」

 

身を起こしてちょうどお茶を飲んでいた紅牙が一気に咽返(むせかえ)る。

 

「おい、紅牙…」

 

目の前にいた忍に被害が及んでしまう。

咄嗟に智鶴とシアの前に薄い氷の壁を張ったので、そちらに被害は出ていないが…。

 

「ゲッホ、ゴッホ…!? ず、ずまねぇ…」

 

口元を押さえながら紅牙も謝る。

 

「神宮寺 紅牙、それにフレイシアス。お久し振りですね」

 

「シ~ア、久し振り♪」

 

雲雀の後ろからひょっこり緋鞠が顔を出す。

 

「雲雀さんに、緋鞠ちゃん!」

 

2人の来訪にシアが驚き、席を立って緋鞠の元に近寄っていく。

 

「(紅牙やシアと親しいのかな?)」

 

その様子を見ながら忍はそう考える。

ついでに魔法で紅牙が噴き出した茶で濡れた顔や服を乾かす。

 

「お初にお目にかかります。私は紅崎 雲雀。正式な挨拶がまだでしたので、こうして出向きました」

 

そう言って雲雀は直立不動の体勢から一礼する。

 

「同じく、紅崎 緋鞠よ」

 

緋鞠は雲雀よりも簡単な挨拶をする。

 

「これはご丁寧に。私は明幸 智鶴と申します。本日はしぃ君の付き添いでやってきました」

 

やんわりとした口調で智鶴が挨拶を返す。

 

「……流星 朝陽」

 

「紅神 忍だ」

 

朝陽は端的に、忍も名乗ってなかったのを思い出して挨拶を返す。

この中で雲雀と緋鞠が知らなそうな3人が挨拶する形となった。

 

「名乗っていただき恐縮です」

 

そう答えてから雲雀はその冷たい視線を紅牙に向ける。

 

「それで神宮寺 紅牙。何か釈明はありますか?」

 

その様子からさっきの話が聞こえてたという事実が明らかとなる。

 

「し、釈明も何も、事実だろ!」

 

動揺しながら紅牙はそう答える。

 

「そうですか。なら、テロリストの一員として悪魔と戦ってきた経験とやらを見せていただきましょうか」

 

「げっ!?」

 

雲雀の言葉を聞いて紅牙は明らかに嫌な反応を示す。

 

「ついでです。そこのあなたも魔王の護衛のようですから、どの程度の実力があるのか計ってさしあげます」

 

そう言って雲雀は視線を紅牙から忍に向ける。

 

「え、俺?」

 

「他に誰がいるのですか?」

 

忍の疑問に、当然と言わんばかりに即答する。

 

「よろしいですか? 魔王レヴィアタン」

 

そして、最後にセラフォルーに尋ねる。

 

「面白そうだから、オッケ~☆」

 

セラフォルーは二つ返事で承諾してしまった。

 

………

……

 

こうして忍達は洋館を出て、洋館の裏手にある少し開けた場所へと移動したのだった。

 

「1人ずつでは時間がもったいないですから…2人がかりできなさい」

 

忍と紅牙と対峙した雲雀はそう告げる。

 

「(凄い自信だ。いや、それほどまでの実力があるのか…)」

 

忍は雲雀の言葉に対し、本能的に嫌な汗を背中に浮かべていた。

 

「紅神。雲雀さんはマジで強いからな…俺も何度叩きのめされたことか…」

 

半ば諦めたような雰囲気で紅牙が忍の本能を確信へと変える一言を告げる。

 

「しぃ君、無茶だけはしないで…」

 

「(どのくらいの実力か計らせてもらおうかしら…)」

 

「忍さん…」

 

忍の心配をする智鶴とシアをよそに朝陽は雲雀の実力を計ろうとしていた。

 

「(シア?)」

 

シアの反応に緋鞠は少し首を傾げていた。

 

「さぁ、何処からでもかかって来なさい」

 

そう言って帯刀していた剣を引き抜く。

 

「最初から飛ばしてくぞ!」

 

言うが早いか、紅牙は即座に冥王と化していた。

 

「(最初から冥王に!? それほどまでなのか!?)」

 

隣にいる紅牙が冥王と化したのを見て忍も驚き…

 

「真狼、解禁!」

 

それと同時に忍も真狼の力を解放した。

 

「…………」

 

雲雀は直立不動で、剣も下を向けたまま待っていた。

 

「(嘘だろ…萌莉から少し叢雲流をかじらせてもらってっけど…隙がねぇ!?)」

 

ただ立ってるだけのはずなのに雲雀からは隙らしい隙を見つけられないでいた。

 

「先制、行くぜ!」

 

しかし、紅牙は隙が無いことがわかっていながら突貫しようとする。

 

「待て、紅牙!?」

 

慌てた様子で忍が制止するも、それを聞かずに紅牙は雲雀の周りに火炎球を複数配置する。

 

「(ちっ…なら、合わせるか!)」

 

それを見て忍も高速移動を開始し、雲雀の周りを旋回するように駆ける。

 

「ブレイズ・スティンガー!」

 

「ハウリング・バスター!」

 

雲雀の周りに配置された火炎球から針状のレーザーが放たれ、忍の右手からも砲撃が放たれる。

 

「…………」

 

静かに剣を振り上げて…

 

閃ッ!!

 

一回転するように一閃を放つと、剣圧のみでそれらの攻撃を弾き飛ばす。

 

魔焔斬(まえんざん)(かい)

 

さらにもう一回転することで剣の軌跡の後に焔を発生させ、その焔が環状の斬撃となって忍と紅牙に襲い掛かる。

 

「「ッ!!?」」

 

それを忍は身を屈めながらスライディングする要領で、紅牙は翼を広げて飛び上がるようにしてそれぞれ回避していた。

 

「その程度ですか?」

 

たったそれだけの攻防で雲雀は冷たい視線を忍と紅牙に向ける。

 

「っ! まだ…!」

 

先に動いたのは今度は忍だった。

 

「ブリザード・ファング!」

 

掌から放たれた拡散型の極細レーザー砲撃は一見無軌道に見せながらも雲雀に襲い掛かるが、それはフェイクであり、本命は雲雀に襲い掛かるレーザー砲撃の二割が周囲に一点集中していって出来上がった二つの球体にあった。

 

「紅牙!」

 

紅牙の名を呼び、球体の一つに忍が走る。

 

「っ! あぁ!」

 

忍の意図に気付いた紅牙がもう一つの球体の元に飛翔した。

 

「ダブル…!」

 

「エクシードッ!」

 

そして、2人して魔力を纏った拳で、ほぼ同時に球体を殴ると共に小型の収束砲撃が放たれ、二つの砲撃が別方向より雲雀へと襲い掛かる。

 

陽炎(かげろう)

 

その攻撃に驚くこともなく、雲雀は淡々とした動作で焔を媒介にして分身体を作ると、二つの砲撃を受け止めてみせた。

受け止めた後、分身体は陽炎のように砲撃と共にスッと消えていまった。

 

「(読まれてた!?)」

 

忍は自分の攻撃が読まれていたことに驚きを隠せないでいた。

 

「頭の回転はそれほど悪くないようですが、私からしたらまだ甘いですね」

 

雲雀はそう切り捨てるが…

 

「(それでも姉様に対してあの攻撃…しかもあの紅牙を使うなんて、普通はなかなか出来ないわよね…)」

 

観戦していた緋鞠は忍に関心を持ち始めていた。

 

「(なら、次は…!)」

 

ギッ!

 

忍の瞳孔が縦に変化すると同時に真狼から吸血鬼の姿へと変化する。

 

「なっ?!」

 

「ふむ…」

 

その変身に緋鞠は驚き、雲雀は少しだけ眉を動かしてみせた。

 

「はぁ…!」

 

妖力を両腕に纏わせると同時にそこへ魔力と気をミックスさせる。

 

妖泉華(ようせんか)!」

 

その拳を地面に叩きつけると、小規模な地割れが発生してそこから魔・気・妖の三種の力がミックスされたエネルギー柱が発生した地割れに沿って間欠泉のようにして幾重にも出現して雲雀へと迫る。

 

「姉様!」

 

「このくらい騒ぐほどでもありません」

 

緋鞠の叫びに雲雀はそう答えるが…

 

「(とは言え、これがフェイクの可能性もある訳ですが…)」

 

そう思いつつも目の前から迫る妖泉華に向かい、焔へと変換した魔力斬撃を放つ。

 

ギィンッ!!

 

妖泉華と焔の斬撃がぶつかった瞬間…

 

「グラヴィティ・ブレード!」

 

血刹牙(けっせつが)!」

 

雲雀の左右より忍と紅牙がそれぞれファルゼンと重力球を刀剣状に圧縮した剣を持って斬りかかっていた。

 

「(やはり、先ほどのはフェイク。本命は左右からの挟撃)」

 

剣を地面に突き刺すと、両手をそれぞれ忍と紅牙の方へと向け…

 

紅蓮砲(ぐれんほう)業火(ごうか)

 

紅蓮の焔で形成したボウリングのボール並みの火球を放っていた。

 

「くそっ!」

 

紅牙は火球を重力剣で斬り払うと同時に二の太刀は厳しいと判断して離脱する。

 

しかし…

 

「ッ!!」

 

ゴアアアッ!!

 

忍はファルゼンを盾にして紅蓮砲をまともに受けてしまい、黒煙が広がっていた。

 

「しぃ君!?」

 

「忍さん!?」

 

「紅神!?」

 

忍の行動を見て智鶴、シア、紅牙が驚くも…

 

「(わざと受けましたね)」

 

「(勢いを殺したらあっちみたいに一回仕切り直す必要がある)」

 

「(だからって姉様の攻撃を受けるなんて…)」

 

雲雀、朝陽、緋鞠は冷静に忍の行動を分析していた。

 

「(となると、次はこのまま…)」

 

雲雀が迎撃のために剣を引き抜こうとした瞬間…

 

バサァッ!!

 

黒煙の中から"紅蓮の翼が広がり"…

 

烈神轟撃拳(れっしんごうげきけん)ッ!!」

 

物凄い加速と共に"紅蓮冥王と化した忍"が跳び蹴りを雲雀に放っていた。

 

「ッ!?」

 

攻撃は予測していたものの、"忍の姿"を見て初めて驚きの表情を見せた雲雀は…

 

「ぐっ…!!?」

 

少し遅れてガード態勢を作って忍の跳び蹴りを防いでいたが、力が入ってなかったせいか数メートルの距離を地面を滑りながら吹き飛んでしまう。

 

「な、なんで…」

 

緋鞠もまた雲雀が攻撃を受けて吹き飛ばされた衝撃よりも忍の姿の方が衝撃的だったようだ。

 

「(今の加速は…紅神の冥王スキルか?)」

 

紅牙は紅牙で、今見せた忍の加速が忍の冥王スキルではないかと考えていた。

 

「(今のは…?)」

 

当の忍も自分の加速に驚いていた。

 

「いいでしょう。私も少し本気を出さなければならないようですね…」

 

キッと忍を睨む雲雀がそう言うと、紅蓮の焔が足元から発生しようとしていた。

 

「(マズい!?)」

 

雲雀の言葉を聞き、紅牙が慌てていると…

 

「何をしてるのですか?!」

 

第三者の声が介入していた。

声のした方を見ると、そこには肩まで掛かるくらいの銀髪、黒い瞳、優しそうな印象を与える端正な顔立ち、体の線はわりかし細く見える男性が立っていた。

 

「あなたは…?」

 

声の主に智鶴が代表して尋ねていた。

 

「僕は『グレイス・ゼムナシオ』。最近になってこちらでお世話になってる者です。それよりも…こんな場所で戦闘だなんて、何を考えているんですか?!」

 

グレイスと名乗った男性はそう言って近くにあった草木の状態を確かめていた。

 

「可哀想に…こんなに焼けてしまって…」

 

さっきの攻防で焼けてしまった花を優しく撫でていた。

 

「………興醒(きょうざ)めですね」

 

そう言うと雲雀は戦闘態勢を解き、地面に突き刺していた剣を鞘に収めてしまった。

 

「紅神 忍。あなたのその力…後で詳しく聞かせえてもらいます。拒否権がないことを忘れずに…」

 

そう言い残して雲雀はその場から立ち去ろうと歩き始めてしまった。

 

「あ、姉様。待って!」

 

それを慌てて追いかける緋鞠だったが…

 

「じゃあね、シア。それとアンタ! あたしにも説明なさいよ!」

 

一回振り返ったと思ったらそう言い残していた。

 

「アンタって…俺のことか?」

 

「他に誰がいんだよ」

 

そう言葉を交わしながら2人も元の姿へと戻る。

 

「まったく、自然は大切にしなくてはならないというのに…」

 

困ったようにグレイスはそこにあった草木の手入れを始めていた。

 

「なんか、すみません…」

 

グレイスの行動を見ていた忍は自然と謝ってしまった。

 

「いえ、僕も余計な口出しをしてしまったようですし…でも、危ないことはしないでください。この子達にも命は宿っているのですから…」

 

「は、はい。気を付けます」

 

グレイスの言葉に忍は素直に頷いた。

 

「紅神。そろそろ俺達も戻るぞ」

 

「あぁ、わかった。では、グレイスさん。また機会があれば…」

 

紅牙に呼ばれ、忍はグレイスに一言挨拶してからその場を後にする。

 

「えぇ」

 

グレイスもそう答えると、草木を手入れを続ける。

 

 

 

しかし、忍達がいなくなって数分が経った頃…

 

「うっ!?」

 

グレイスは突然頭を両手で押さえて苦しみだす。

 

「だ、ダメです…で、てこないで、ください…!」

 

独り言のように呟いた後…

 

「ああああああああ!!!」

 

バタンッ!

 

叫び声と共にグレイスはその場で倒れてしまった。

 

ひょい!

 

しかし、すぐさま両手を使って起き上がる。

"そこにあった花を踏み潰して"…。

 

「ったく、無駄な足掻きをしやがって」

 

その口調はさっきと違い、粗暴な感じとなっていた。

 

「素直に"俺に体を明け渡せばいいものを"」

 

そう言いながら懐から双子座のシンボルと太陽の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のトパーズを携えた白銀色のチェーンブレスレットを取り出した。

 

「おい、"ジェミニ"。さっき反応があったな?」

 

『あぁ、この反応は…アクエリアスとスコルピア。水瓶座と蠍座だ』

 

チェーンブレスレットから返答がくると、グレイスはクククと笑い出す。

 

「2機とは僥倖じゃねぇか。早速、頂きに行くとするか」

 

そう言ってグレイスはチェーンブレスレットを掲げ…

 

「サンシャイン・ジェミニ、起動しろや!」

 

その瞬間、黄金の光がグレイスを包み込み…

 

パァンッ!!

 

光が弾けると共にグレイスの体には額にヘッドギア、胸部に太陽の紋章を象った大きなトパーズを嵌め込まれたプロテクター、両肩に肩当て、右腕に表面に日の出と共に姿を現す天使の絵が刻まれた篭手、左腕に表面に日没時の太陽の上に座り込む悪魔の絵が刻まれた篭手、腰部にプロテクター、両足に足具がそれぞれ装着されていた。

 

「さぁ、祭りの始まりだ!!」

 

………

……

 

『『っ!?』』

 

「アクエリアス?」

 

「スコルピアちゃん?」

 

会談を再開するために移動していた時のこと、突然としてアクエリアスとスコルピアの2機が光りだし、それに気づいた忍と智鶴が驚いたように2機を取り出す。

 

『マスター! 双子座が急接近してきます!』

 

『これは…既に持ち主が、いると推察します…』

 

「なに!?」

 

2機の報告に忍が驚くと同時に…

 

バリィンッ!!!

 

廊下の窓を突き破って白銀の鎧を着た者が侵入する。

 

「ッ!!」

 

それを見て忍と紅牙はセラフォルーの前に、朝陽も智鶴とシアの前にそれぞれ守るように出ていた。

 

「テメェらが水瓶座と蠍座を持ってんだな?」

 

その声を聞き…

 

「っ?!」

 

「お前はさっきの…!?」

 

忍と紅牙は目の前の人物を確認すると…

 

「現世の神?!」

 

後ろのセラフォルーもかなり驚いた様子でその人物の異名を叫んでいた。

 

「グレイスさんが、現世の神!?」

 

その叫びを聞いて忍はさらに驚いていた。

 

「あぁ? 魔王がいるじゃねぇか。冥族に何の用だ?」

 

さっきまでの優しそうな雰囲気ではなく、粗暴で好戦的な雰囲気を醸し出しながらセラフォルーに尋ねていた。

 

「ここには和平を申し込みに来たのよ☆ そういうあなたもどうしてここに?」

 

逆にセラフォルーが尋ねると…

 

「俺はエクセンシェダーデバイスをかっぱらう為に来たのよ!」

 

グレイスはわかりやすい返答をしていた。

 

「エクセンシェダーデバイスを集めるとでもいうのか? その理由は?」

 

忍の疑問には…

 

「目の前に"力"があるならそれを欲するが、人の業だろうが! まぁ、俺は天使と悪魔のハーフだが…!」

 

バサァ!!

 

そう答えると共に右側に5枚の天使の白き翼と左側に5枚の悪魔の黒き翼を広げてみせた。

 

「さぁ、大人しく渡すか。それとも抗って奪われるか…好きな方を決めな!!」

 

ここにエクセンシェダーデバイスを巡る戦いが始まろうとしていた。



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第四十三話『否定されし絆、暴走する龍騎士』

冥族との和平交渉を成功させるべく、再び朱堕との会談へと向かう途中のこと。

双子座のエクセンシェダーデバイス『サンシャイン・ジェミニ』を持つ天使と悪魔のハーフ『グレイス・ゼムナシオ』が忍と智鶴が所有する水瓶座と蠍座のエクセンシェダーデバイスを奪取しようと襲撃してきた。

 

「そんな欲に駆られた意志を持ちながら堕天してないなんて…!」

 

セラフォルーはグレイスが堕天していないことに対して驚いていた。

 

「(そういえば、よくイリナさんが堕天しそうになるってイッセー君が漏らしてたっけ?)」

 

転生天使ですら欲を持ちそうになると堕天しそうになるのに、目の前にいるグレイスの天使の翼は一点の穢れもない真っ白であった。

 

「はっ! "表"がいんのに堕天なんぞするかよ!」

 

「("表"…?)」

 

グレイスの言葉に忍を含め数名が反応する。

 

「ともかく、死にたくなけりゃさっさとエクセンシェダーデバイスを渡しな!」

 

グレイスは残忍な笑みを浮かべるとそう言い放つ。

 

「はい、そうですか。と渡せるものかよ!」

 

そう言うと忍もアクエリアスを起動させていた。

 

「ははっ! そう来なくちゃな!!」

 

忍の返答を聞き、グレイスは一気に距離を詰める。

 

「っ?!(速い…!)」

 

ガシッ!

 

詰め寄ると同時に忍の顔面を掴み…

 

「オラァ!!」

 

ズガンッ!!

 

壁を突き破るようにして忍の体を叩き付けると、そのまま外へと出て地面に向かって勢いよく落下する。

 

ズドンッ!!

 

「がっ!?」

 

背中から地面に激突したため、一瞬だけ息が詰まる。

 

「まだまだぁ!!」

 

ズザアアアアアッ!!

 

「っ!!?」

 

地面に叩きつけながら忍を引き摺るようにしてダメージを蓄積させていく。

 

「しぃ君を放しなさい!!」

 

そこに堪忍袋の緒が切れたらしい智鶴がスコルピアを纏い、スティンガーブレードをグレイスに向けた状態で上階から飛び降りる。

 

「おっと!」

 

忍の顔面から手を放すと同時に…

 

ゲシッ!!

 

忍を蹴り上げて智鶴の方へと吹き飛ばす。

 

「ぐっ!?」

 

「しぃ君?!」

 

慌ててスティンガーブレードの構えを解くと、忍を抱き留める。

 

「はぁ!!」

 

その横から朝陽が飛び出し、ヴェルセイバーを起動させて斬りかかっていた。

 

「甘い!」

 

朝陽の斬撃を真剣白刃取りの要領で指のみで受け止めてみせた。

 

「なっ!?」

 

まさか、指で受け止められるとは思ってもみなかった朝陽は一瞬動きを止めてしまう。

 

「デイライト、起動!」

 

『サニィスフィア、生成』

 

すると、その隙にトパーズイエローの魔力粒子が一点に集中し、直径20cmくらいの球体『サニィスフィア』が出来上がる。

 

「しまっ…」

 

『朝陽ちゃん!?』

 

セイバーの悲鳴も上がる。

 

「朝陽!」

 

智鶴に抱き留められたまま両手を組んでサファイアブルーの魔力をチャージする。

 

「(間に合え!)」

 

『バリアライズシステム、稼働』

 

ドォンッ!

 

サファイアブルーの魔力が忍から放たれると…

 

キュインッ…

 

それが朝陽を包み込む。

 

「オラァ!!」

 

それと同時にサニィスフィアの加わった一撃が朝陽の腹部に直撃する。

 

「かはっ!?」

 

ドゴォンッ!!

 

勢いよく吹き飛ばされた朝陽は洋館の壁に激突する。

 

「朝陽さん!」

 

シアが飛び降りて朝陽の元へと駆け寄る。

 

「ふむ…今一瞬、俺の攻撃が軽減されたな?」

 

朝陽を殴った時の手応えに違和感を覚え、グレイスはジェミニに尋ねる。

 

『アクエリアスの固有魔法だ。アレは対属性魔法に絶大な効力を発揮する。俺の固有魔法は炎熱も含んでいるから対象になったんだろうさ』

 

ジェミニは冷静にそう答える。

 

「なるほどな。面白い固有魔法じゃねぇか」

 

バキッ、ボキッ、っと指を鳴らしながらグレイスは邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「なぁ、アクエリアス。お前もあいつの固有魔法を知ってたりするのか?」

 

グレイスとジェミニのやり取りを見て忍はアクエリアスに尋ねた。

 

『はい。ジェミニの固有魔法は空間設置系誘導制御型射撃魔法で、システムはそれを活かすことに特化した仕様になっています。我々は互いの仕様を知っていますが、散り散りになった後にエクセンシェダーデバイス同士が邂逅する例は少ない上、このように争う場合もあることなど想定していませんでしたから…』

 

「そう、だったのか…」

 

アクエリアスの説明に忍は目の前のグレイスを見る。

 

「だからと言ってこっちの邪魔されて黙ってられっかよ」

 

忍の隣に紅牙が降り立つ。

 

「しぃ君!」

 

智鶴はテイルユニットから次元刀を取り出すと、それを忍に投げ渡していた。

そして、智鶴もスティンガーブレードを構えて忍の隣まで移動する。

 

「平気よ。ボソッ(ありがと…)」

 

シアの介抱から復活した朝陽が智鶴の横に移動する。

 

 

 

「まったく…何事かと来てみたら一体何が起こってんのよ?」

 

セラフォルーのいる上階の廊下に朱堕達がやってくる。

 

「一言で言うなら…現世の神、降臨☆ かしら?」

 

セラフォルーの単純明快な説明に…

 

「現世の神。噂に聞く天使の悪魔のハーフか」

 

「"神"と称するには(いささ)か邪悪な気がしますが…」

 

朱堕と雲雀はグレイスを見てそんな感想を抱いていた。

 

「そんな相手に4人で大丈夫なわけ?」

 

他人事のように緋鞠は戦いの様子を眺めていた。

 

 

 

「頭数揃えても結果は同じだが…いいぜ。束になって掛かってこい!」

 

そう言うと同時にグレイスは一足に駆け出す。

 

「何度も同じ手を食らってたまるかよ!」

 

忍はすぐさま左手に妖力を練って前方に蜘蛛の巣を展開する。

 

「あぁ? なんだ、こりゃ?」

 

粘着性の高い蜘蛛の巣に四肢を取られ、グレイスは勢いを殺されて拘束される。

 

「ディメンションゲイト、展開!」

 

智鶴の目の前にゲイトが開き、グレイスの周りに無数の小型ゲイトが展開される。

 

「ハウリング・バスター!」

 

「ブレイズ・スティンガー!」

 

忍と紅牙が同時にゲイトに向かって砲撃魔法を放つと…

 

チュドドドド!!

 

小型ゲイトから無数の砲撃が雨のようにグレイスに降り注ぎ、土煙が舞っていた。

 

「(この程度で終わるほど相手は甘くない!)智鶴! 朝陽!」

 

「はい!」

 

「言われなくても!」

 

忍の合図で三方向より一斉にグレイスへと斬りかかっていた。

 

ブチッ!!

 

しかし、何かを引きちぎるような音と共に…

 

「サニィボム!」

 

ゴオオッ!!

 

三つのサニィスフィアが斬りかかった3人の至近距離で爆発した。

 

「ぐっ!?」

 

「きゃああ!?」

 

「っ!!」

 

その爆発の熱量に忍達は一旦退かざるを得なかった。

 

「この程度か?」

 

土煙の中から"ほぼ無傷"のグレイスが悠々と歩いてくる。

 

「マジ、かよ…」

 

1人、後方で見ていた紅牙がグレイスの状態を見て唖然としていた。

 

「次はこっちからだ。ジェミニ!」

 

『コアドライブ、出力上昇。サニィスフィア、大量展開』

 

グレイスの周りに大量のサニィスフィアが展開される。

 

「数の勝負なら負けねぇぞ!」

 

紅牙も冥王へと化すと同時に大量の焔と重力の魔力球を展開する。

 

「俺と撃ち合いで勝負する気か? 身の程を弁えな!!」

 

そう言った瞬間、グレイスの周りに展開されたサニィスフィアが一斉に紅牙へと向かう。

 

「はぁ!!」

 

それに対抗するようにして紅牙も焔と重力の魔力球を撃ち始めた。

 

しかし…

 

ギュインッ!!

 

「なにっ?!」

 

紅牙の弾幕はグレイスのサニィスフィアによって簡単に打ち砕かれてしまっていた。

 

「質が違うんだよ! 質が!!」

 

グレイスの言う通り、これは質の違いによるところが大きい。

紅牙は自身の魔力を糧に魔力球を生成したのに対し、グレイスはジェミニのコアドライブの恩恵による無尽蔵とも言える魔力を球体に注ぎ込んでおり、グレイス自身の魔力はほぼ使っていない状態ながら質の高い魔力球を生成しているのだ。

 

「くっ…!」

 

紅牙もそれを悟るとすぐさま回避行動に移行する。

 

「無駄だ!」

 

その瞬間、グレイスは全方位にサニィスフィアを解き放っていた。

 

「広域殲滅型か!?」

 

「っ!」

 

紅牙の叫びを聞き…

 

「アクエリアス! コアドライブ最大稼働と同時にシェライズを広域散布!」

 

忍がアクエリアスへと指示を出す。

 

『了解です! コアドライブ最大稼働! シェライズを広域拡散型にして散布シフトします!』

 

パアアア!!

 

アクエリアスの胸部にあるサファイアが輝き、各部からサファイアブルーの魔力粒子が濁流のように放出される。

 

「ついでだ! アクアフィールドシステム、及びフリストシールシステム起動!」

 

さらに忍はアクエリアスに搭載されたシステムを起動させるように指示する。

 

『っ!? しかし、この状況ではマスターへの負担が!!』

 

「いいからやれ!」

 

そんなアクエリアスの忠言を無視して忍は実行を強要する。

 

『は、はい! アクアフィールド形成、並びにフリストシールシステムを稼働させます!』

 

忍の強い言葉に押されてアクエリアスも指示を実行する。

 

サファイアブルーの魔力粒子の一部が水へと変化し、忍を中心に広大な水面が広がる。

 

『目標、サニィスフィア群!』

 

「ブリザード・ファング・エクゼキューションシフト!!」

 

バシャンッ!!

 

そう叫んで水面を殴ると同時に…

 

ギュオオオオッ!!

 

全方位に放たれたサニィスフィアに向かって水面から冷気を纏った水弾が打ちあがり、サニィスフィアを相殺していく。

 

 

 

それを洋館の二階から見ていた朱堕達は…

 

「ほぉ、あの数を捌くか」

 

「これがエクセンシェダーデバイスの性能というわけですか。なるほど、大したものです」

 

朱堕はグレイスの放ったサニィスフィア群を捌いてみせた忍に、雲雀はエクセンシェダーデバイスの性能にそれぞれ関心を示していた。

 

「(それにしても…)」

 

朱堕は視線を忍に向けたまま考える。

 

「(奴は何者だ? "紅神"という冥族に記憶はないのは確かだ。しかし、奴がなってみせたのは間違いなく冥王。しかも俺の家系である紅蓮冥王だ。紅蓮冥王は例外なく『紅蓮の焔』をベースにした冥王スキルを発現する。それ故か一族の者は焔以外の属性が苦手な傾向にある。しかも氷という全く正反対の属性を操るなどと…)」

 

そこまで考えて朱堕は先ほど雲雀からの受けた報告を思い出す。

 

「(複数の解放形態を持っている、か。雲雀が確認しただけでもイヌ科系、吸血鬼、そして紅蓮冥王の三つ。冥王スキルに関しては不明だと聞いているが…神宮寺なら何か知ってるかもしれんな…)」

 

朱堕がそのようなことを考えている横では…

 

「(紅神 忍。何故、力を解放しないのですか? 相手が相手なだけに出し惜しみしてる場合でもないはずですが…)」

 

雲雀は先の模擬戦のことを思い出していた。

 

「(最後の一撃を受けた時、彼から感じたのは確かに"五気"。本来ならあり得ないことですが、私も緋鞠も持たない力の波動…つまり、アレは"龍気"。ということは彼はまだ何かを隠している。それを何故出さないのか…理解に苦しみますね)」

 

雲雀は忍が無意識の内に発揮した力の波動を感じ、それと同時に疑問を抱いていた。

 

 

 

忍がサニィスフィア群を相殺した直後…

 

ズキリッ!!

 

「ぐっ…!?」

 

忍は激しい頭痛を感じて頭を抱え込む。

 

「キャパオーバーか。だが、雑魚にしてはなかなかやるじゃねぇかよ!」

 

忍の様子を見てグレイスはそう言う。

 

「エクセンシェダーデバイスは使用者の精神力や神経なんかのキャパシティにも左右されるからな。俺は平気だが、お前は明らかに俺の攻撃に合わせるべく自分のキャパ以上のことをしたんだ。その反動を受けてもおかしくないわけだ」

 

残忍な笑みを浮かべながらグレイスは忍へと近付き…

 

「がら空きなんだよ!!」

 

ゲシッ!!

 

「がっ!?」

 

忍の腹を思いっきり蹴って後方へと吹き飛ばす。

 

「しぃ君?!」

 

その光景を見て智鶴がキッとグレイスを睨む。

 

「なんだ? そんなにそいつのことが大事なら籠ん中にでも入れて飼っとけや!」

 

そう言うとサニィスフィアを手の中に作り出すと…

 

「そら、守ってみろ!」

 

サニィスフィアを砲撃へと変換して忍へと撃ち込む。

 

「ッ!!」

 

智鶴は目の前にゲイトを作り出すと、一気に加速してその中へと入り…

 

キュインッ!

 

忍の前へと移動し、忍を庇うようにして背中で砲撃を受ける。

 

「あ、ぐっ…!?」

 

その熱量と衝撃に苦悶の表情を見せる。

 

「っ?! 智鶴!?」

 

「しぃ君…大丈夫…?」

 

しかし、それでも智鶴は忍の前では優しい微笑みを見せる。

 

「女だからって俺は容赦しねぇぞ!!」

 

ドオォォッ!!

 

言葉通り、グレイスは手を緩めることはせずにサニィスフィアを再展開すると続けざまに智鶴へと砲撃を食らわせていく。

 

「ぐっ…あぁ!? きゃっ?!」

 

いくらスコルピアの鎧で守られていようと衝撃と熱量によるダメージがどんどん蓄積していく。

 

「だ、ダメだ……やめろ…」

 

目の前で最愛の人が傷つく様を見せつけられ、忍の中でどす黒い感情が湧き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"殺せ…"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍の理性が限界に達した。

 

 

 

「いい加減にしろ!」

 

「このっ!!」

 

「もう、見てらんないわよ!」

 

グレイスの容赦ない攻撃に紅牙と朝陽、洋館二階から飛び出した緋鞠の3人が同時に仕掛けていた。

 

「邪魔なんだよ! ジェネシス・オーラ!!」

 

ゴオオオオッ!!

 

グレイスから聖魔混濁のオーラが放たれると、向かってきた3人を阻むようにして防ぐ。

 

「はぁッ!!」

 

そして、オーラを膨張させて爆発させると、その勢いで3人を吹き飛ばす。

 

「ぐっ!?」

 

「ちっ!?」

 

「くっ!?」

 

それぞれ三方向に吹き飛び、洋館の壁や岩場、木々といった障害物に背中から衝突する。

 

「さて…そんじゃあ、続きと洒落込(しゃれこ)もうぜ!!」

 

そう叫んでグレイスが再び忍を庇う智鶴へと砲撃を放った時…

 

バシンッ!!

 

忍の方から伸びた黒い影によって砲撃の軌道を逸らしていた。

 

「あぁ?」

 

その光景に怪訝な表情で忍の方を見ると…

 

「グウゥゥゥ…」

 

低い(うな)り声と共に"龍の尾"が忍の方から伸びて智鶴を守っていた。

 

『マス、ター…?』

 

アクエリアスも主の身に何が起こったのか理解出来ない様子だった。

 

「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアッ!!!!」

 

その咆哮と共に忍から濃密な龍気が柱状となって天まで立ち昇り…

 

ゴゴゴゴゴゴ…!!

 

周囲一帯に地響きを轟かせていた。

 

「しぃ、君…?」

 

目の前で()える忍を智鶴は呆然と見る。

 

バッサァ!!

 

柱の中で忍の容貌が変化していき、先ほどグレイスの砲撃を弾いた龍の尾に加え、背中から1対2枚の龍の翼が生え、アクエリアスを強制的に解除したかと思えば、その代わりに鎧のような甲殻が忍の体を覆っていき、顔には龍の頭部を(かたど)ったような仮面が目元を隠すようにして装着された出で立ちとなっていた。

そして、仮面の眼に当たる部分は真っ赤に染まりきっており、内側にある忍本来の眼球もまた紅く染まり、瞳は理性を完全に失っていた。

 

「なんだ、テメェ…その姿は?」

 

ピクリと眉を動かしたグレイスが目を細くして忍に問いかける。

 

「ガアアアア…!!」

 

「もはや言葉もない獣か」

 

忍の反応を見てそう称した。

 

「紅神!?」

 

「なによ、あれは…!?」

 

今まで見たこともない忍の姿に紅牙と朝陽が戸惑いの声を漏らす。

 

「荒ぶる、龍…?」

 

その姿に緋鞠はそう呟いていた。

 

 

 

その光景を同じく見ていた洋館二階のメンツは…

 

「これが…龍気の正体…!」

 

「龍気…だと!」

 

「これはあたしも知らなかったわ…?!」

 

それぞれ差異はあれど、それでも忍の変化には一様に驚いていた。

 

 

 

そして…

 

「どうも、その女がテメェの"アキレス腱"みてぇだな」

 

忍が変身したのは智鶴が傷ついたからだと察したグレイスはそう言い放つ。

 

「私が…しぃ君の…?」

 

忍の変身を目の当たりにしてからグレイスの言葉を聞いたため、智鶴はその場に両手をついて俯いてしまう。

 

「自覚がなかったのか? どっちもどっちだが、守りたいのなら籠に入れて飼い殺しちまいなッ!! それが一番楽な選択だ。一緒にいようとするから気持ちが擦れ違う。互いに傷つけ合う。傷を負ったのを自分のせいだと錯覚する。それを補おうと相手の意思を無視して行動する。その繰り返しだ! お前らはその典型とも言える考えの甘い一組だ」

 

「そんなこと…!」

 

グレイスの言葉を否定しようと智鶴は顔を上げて振り向くが…

 

「何が違う? 現に見ろ! 奴はお前が傷つくのに耐えられず力を暴走させた。その前も奴が傷つくのに耐えられずにお前が盾になった。これは現実なんだよ!!」

 

即座にグレイスが現実を示した。

 

「っ!!?」

 

それを聞いて智鶴は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けて愕然とする。

 

「所詮は子供のお遊びなんだろ? テメェらの信頼や絆なんぞまやかしに過ぎないんだよ!!」

 

「あ、ああ…」

 

グレイスの言葉に智鶴はイヤイヤするように首を振りながら頭を抱える。

 

「いやあああああああ!!」

 

智鶴の叫び声と同時に…

 

「ガアアアアッ!!!!」

 

忍が咆哮と共に尋常でない速度でグレイスに肉薄する。

 

「はっ! 怒ったのか? だが、テメェの攻撃なんぞ…」

 

それに対してグレイスはバックステップで回避しようとしたが…

 

クルッ!

ブンッ!!

バシンッ!!

 

「ぐっ!?」

 

忍は一回転した遠心力を利用して尻尾による打撃をグレイスの顔面に決めていた。

 

「野郎…!」

 

その一撃が気に食わなかったのか、グレイスの目の色が変わる。

 

「あんま舐めた真似してんじゃねぇぞ、小僧!!」

 

サニィスフィアを自分の周囲に再展開する。

 

「デイライト・バスターシフト、フルバーストだ!!」

 

ズドドドドドッ!!

 

再展開したサニィスフィアから無数の砲撃を忍へと撃ち出す。

 

「グオオオオッ!!」

 

シュウゥッ!!

 

忍の両腕に龍気が収束すると…

 

ヒュドドドドッ!!

 

高速拳打によって砲撃を殴ってグレイスの方へと打ち返していた。

 

「ちっ!」

 

サニィスフィアを掌に瞬間展開すると、それを打ち返された砲撃に当てて相殺していた。

 

「(まさか打ち返してくるたぁ、予想外だ。しかも技のキレも増してきたか? 龍のような姿をした人型…どっかの文献で見たような…)」

 

グレイスが何かを思い出そうとしてる間にも…

 

「ガアアアアッ!!」

 

理性を失った忍は両腕の甲殻から龍の爪を伸ばし、グレイスへと飛び掛かっていた。

 

「ちっ、人がせっかく考え事してんのにお構いなしか!」

 

そう言うとグレイスはサニィスフィアを一点に集中させて一本の剣を作り出す。

 

「サンライト・ソード」

 

それを左手に持つと、右手には光力で生み出した黄金の光の槍を作り出していた。

 

ギィンッ!!

 

忍の龍の爪を受け止めた瞬間…

 

ビキッ!!

 

サンライト・ソードと光の槍に僅かな亀裂が入る。

 

「なに…っ?!」

 

そこで初めてグレイスの表情に驚愕の色が滲み出ていた。

 

「(デイライトを固めた剣と、俺の光力で固めた槍だぞ!?)」

 

その事実に驚いていると…

 

「グアアアッ!!」

 

その隙を突いて忍は口から龍気で練り上げた火球を吐き出した。

 

ボムッ!!

 

「ッ!!?」

 

その火球を顔面に受け…

 

ゲシッ!!

 

反射的に忍の腹を蹴って距離を稼ぐ。

 

「クソが!!」

 

顔を焼かれたものの、サニィスフィアを焼けた顔面に押し当てる。

 

ジュワァァァ…!

 

すると、見る見るうちに焼けた個所が修復されていく。

 

「ジェミニ、デイサクリファイス起動だ!」

 

怒りに顔を歪めたグレイスはジェミニに指示を出す。

 

『犠牲にする数は?』

 

「10だ!」

 

『はいよ。サニィスフィア、形成』

 

グレイスの周りに10個のサニィスフィアが再展開される。

 

「まだ出せるのかよ!」

 

その光景に紅牙が地面を殴りながら吐き捨てるように言う。

 

『吸収』

 

ギュイイィィ…!!

 

が、展開されたサニィスフィアは胸部のコアドライブユニットに吸収されていった。

 

「あいつ、何を…?」

 

セイバーを地面に突き刺して立ち上がる朝陽も怪訝な表情を浮かべていた。

 

『還元』

 

ドォンッ!!!

 

次の瞬間、グレイスの魔力が跳ね上がり、トパーズイエローのオーラを纏った姿となる。

 

『オーバードライブ』

 

「こいつを使うのは別世界の幻獣級の魔獣以来だ。光栄に思うんだな!」

 

ブンッ!!

 

そう言うとグレイスの姿が残像を残して消えたようになる。

 

「グオオオオッ!!!」

 

ブンッ!!

 

忍もまた自らの足に龍気と"妖力"を纏わせると同時に姿を消す。

 

「あの状態でも龍気以外の力を使えるのか!?」

 

忍が消えた瞬間を見ていた紅牙が驚いたように叫ぶ。

 

ギンッ!ギンッ!ギンッ!

 

拳や蹴りがぶつかり合う甲高い音が発生知すると共に、その光景が残像となって残る。

その光景は複数の同一人物が同時に闘っているようでもあった。

 

「(複数の力を同時に行使することで俺のパワーとスピードに随従してくる、だと?!)」

 

その事実にグレイスもまた驚愕を覚えていた。

 

「ガアアアアッ!!」

 

その間にも忍は妖力に加えて気も四肢に追加してパワーとスピードのギアを上げていく。

 

「(この俺と同等以上に渡り合えるだと…? ふざけんなッ!!)」

 

忍の随従に怒りをさらに深めたグレイスは…

 

「ジェミニ! サクリファイスの追加だ!」

 

『今の状況での追加はあまり勧められないが?』

 

「構わん! さらに10個追加だ!!」

 

グレイスにはグレイスの意地と誇りがあった。

 

悪魔の父に天使の母が犯されて生まれたが、母は堕天せずに自分を生み落した。

それでも母の愛情は素直に嬉しかったし、相反する力を持っていようとそれは変わらなかった。

しかし、そんな母も同じ天使達から疎ましく思われていた。

そして、"粛清"と称して人間の狂信者は天使である母をグレイスの目の前で殺したのだ。

その光景に絶望し、悪魔としての人格が目覚めてその場にいた人間を皆殺しにした。

 

その日を境にグレイスの魂は引き裂かれたように二つの人格を持つようになった。

天使としての慈しみに満ちた心優しく穏やかな人格。

悪魔としての命をどうとも思わない凶悪で残忍な人格。

二つの人格は互いを知覚しながら別々の思いを抱いていた。

 

天使の魂は悪魔の魂にこれ以上の罪や業を背負ってほしくないと…。

 

悪魔の魂は天使の魂を堕天させないため、犯してきた罪を背負う覚悟を…。

 

しかし、それを互いに知る機会はなく、いつも反発するようにして肉体行使の権利を抑え込んだり奪ったりしてきた。

 

『デイサクリファイス、追加犠牲10。吸収、還元』

 

そして、目の前に迫ってきた龍の力を操る少年に言いようのない苛立ちを覚えていた。

 

「うおおおおっ!!!」

 

ドオオオンッ!!

 

グレイスの纏うオーラの質がさらに増していった。

 

「(俺は負けるわけにはいかん! 表のために…母を守れなかった俺自身のために!!)」

 

肉体にどのような負荷が掛かっても厭わない、その覚悟がグレイスにはあった。

 

「グオオオオッ!!!」

 

対して忍は右腕を天に向かって掲げると、龍気と共に霊力を収束していき…

 

ボアアアッ!!!

 

紅蓮の焔をその右腕に纏わせる。

 

「サンシャイン・ゴッド・アンド・デビル…!!」

 

それを見てグレイスも最大の一撃で迎え撃とうと右手に光力、左手に魔力を纏わせてから両手を組み、その上からトパーズイエローのオーラをコーティングして狙いを忍へと定める。

 

「グウウウ…!!」

 

燃え盛る右腕を低くし、左手で狙いをグレイスに定めて正拳突きの構えを作る。

 

「「「「…………」」」」

 

「「「…………」」」

 

誰もが息を呑む静寂の中…

 

「しぃ、君…」

 

智鶴が忍の名を呼び、涙が零れ落ちた瞬間…

 

バッ!!

 

忍とグレイスが同時に動いた。

 

「破ぁぁぁッ!!!」

 

ゴオオオオッ!!

 

グレイスは魔力粒子を推進剤として組んだ両手を突き出すようにして突撃する。

 

「ガアアアアッ!!」

 

対して忍は地面を蹴った反動のみで突撃し、正拳突きを放っていた。

 

"キュオオオンッ!!"

 

その瞬間、紅蓮の焔が巨大な鳥の姿となってグレイスへと向かって飛翔していた。

 

「ッ?!」

 

ゴオオオオオオッ!!

 

グレイスと忍の一撃がぶつかり合い、激しい衝撃波が周囲を襲った。

 

「なんて威力だ…!」

 

「この一帯を消すつもり!?」

 

「それは流石に笑えないわね…!」

 

防御魔法を展開しながら紅牙達は2人の衝突を見ていた。

 

「くっ…オオオオオオオッ!!!」

 

思わぬ技の出現に少しだけ押されていたグレイスだが、すぐに持ち直して押し返す。

 

「グガアアアアアアッ!!!」

 

押し返されても霊力と龍気を体内から捻り出して焔の鳥に力を注ぎ込む。

 

すると…

 

ピシッ!!

 

グレイスの両手から全身を覆うようにして纏っていたオーラに小さな亀裂が入る。

 

「っ?!」

 

「グオオオオッ!!!」

 

その音を聞き逃さなかったのか、忍は一歩、また一歩と踏み出していく。

 

「ぐっ…この程度の亀裂如き…!」

 

それに対抗すべくグレイスは自らの光力と魔力を高めていく。

しかし、ここでグレイスは自らの状態を忘れていた。

 

『グレイス、止せ! 今そんなことをすれば…!』

 

ジェミニが慌てたように制止しようとしたが、時既に遅し。

 

バリィンッ!!

 

「なっ!?」

 

今のグレイスはジェミニのシステムによってオーバードライブ状態を維持していた。

しかし、そこに更なる力を込めようとした結果、オーラがグレイスの力に耐え切れず自壊。

そこへ剥き出しとなったグレイスの肉体に忍の放った焔の鳥が襲い掛かる。

 

「ぐっ…おおおお!!?」

 

その焔の鳥の突撃を受け、グレイスは後方へと吹き飛ばされる。

 

ズゴオオンッ!!

 

「がっ!?」

 

巨大な岩場に背中から激突した拍子に裏の意識は真っ黒となった。

 

「グウゥゥ…」

 

しかし、忍は未だ理性を失ったままであり、グレイスの息の根を止めようと近付こうとしていた。

 

と、そこに…

 

ガシッ…

 

「もう止せ、紅神。勝負は着いた。これ以上、お前が手を汚す必要はない」

 

紅牙が忍を止めに入っていた。

 

だが…

 

バシッ!!

 

「ぐっ!?」

 

忍は尻尾で紅牙の頬を殴ると、そのまま紅牙の方へと歩いて行った。

まるで、"新たな獲物を見つけた"かのように…。

 

「グウゥゥ…」

 

「っ…紅神!」

 

「ガアアアアッ!!」

 

紅牙の声が聞こえないのか、忍の咆哮が木霊する。

 

「いい加減、目を覚ましなさいよ!!」

 

朝陽がセイバーを振りかぶって忍を奇襲する。

 

ガシッ!

ブンッ!!

 

しかし、忍は朝陽の掴んで智鶴の方へと投げ捨てていた。

 

ズザアァァァッ!!

 

「くっ…!」

 

地面を滑るように背中から吹き飛ぶが、すぐさまセイバーの柄頭を地面に叩きつけると態勢を立て直す。

 

「アンタもいい加減に泣いてないであいつを止めるのを手伝いなさいよ!」

 

朝陽が智鶴にそう言うが…

 

「私と…しぃ君の…絆…嘘、なんかじゃ…」

 

グレイスに言われた事が余程ショックだったのか、うわ言のようにブツブツと呟いていた。

 

「ッ!!」

 

それを聞いた朝陽は…

 

パァンッ!!

 

智鶴の頬を思いっきりビンタしていた。

 

「っ?!」

 

「いい加減にしなさいよ!」

 

「朝陽、ちゃん…?」

 

朝陽の怒声に殴られた頬を押さえて智鶴は朝陽を見上げる。

 

「アンタとあいつがどれだけの期間を一緒に過ごしてきたのかあたしにはわからない。けど、これだけは言えるわ。あんな奴の言うことを真に受けてあいつとの絆を信じられないようじゃ、アンタは女王失格よ! あいつの隣にいる資格なんてないのよ!!」

 

「---っ!!?」

 

朝陽にズバリ言われて智鶴はさらにショックを受けるが…

 

「なんであいつがあんな姿になってるかわからないの!? アンタの心を踏みにじられたから、自分達の絆を否定されたからじゃないの!?」

 

それでも朝陽は言い続けた。

 

「アンタが傷ついたようにあいつだって傷ついてんのよ! それを押し殺してまで暴走したあいつがバカなのは…アンタを本気で大切に想ってるからじゃないの!? そんなバカをアンタが助けないでどうすんのよ!?」

 

「朝陽、ちゃん…」

 

「あたしだってあのバカのことが放っておけなくて、あんな愚直なバカが愛おしく想ってる! あの戦車(カーネリア)はともかく、他の連中だって少なからずあいつを想ってるし、今の状況を見たら助けたいと考えるはずでしょうが…!!」

 

朝陽の眼には知らず知らずの内に涙が溜まっていた。

 

「それなのに、アンタは自分一人が傷ついたようなことを言って今のあいつのことを見てないじゃない! 見てみなさいよ!!」

 

朝陽に言われて智鶴も忍を見る。

 

 

 

「ガアアアアッ!!」

 

「ちぃっ!!」

 

大量の龍気を放出しながら紅牙を追い詰めようとしていた。

しかし、その顔…仮面の下には"紅い筋"が顎下に向かって伸びていた。

 

 

 

「しぃ君が…苦しそうに、泣いてる…」

 

今の忍の姿を見てそう呟く。

 

「それがわかったんならやることは一つでしょうが!!」

 

朝陽の言葉に智鶴が立ち上がる。

 

「しぃ君…」

 

「じゃあ、行くわよ!」

 

朝陽と智鶴が同時に忍へと駆け出す。

 

「(完全に出遅れました…)」

 

元々、後方支援型のシアはそれを見てることしか出来ず、さらに朝陽に出番を持ってかれた形になってしまっていた。

 

「(というか、朝陽さん。やっぱり、忍さんのことを…)」

 

今のやり取りで朝陽がやっぱり忍のことが好きなんだと改めて確信を得ていた。

 

 

 

「グオオオオッ!!!」

 

龍気を纏った右腕を振り上げると、紅牙に向けて振り下ろしていた。

 

「重力、反転!」

 

紅牙は自らの背中に重力球を配置すると、その性質を反転させて空へ飛び上がった。

 

と、そこへ…

 

「しぃ君!」

 

智鶴が忍の目の前に飛び出していた。

 

「グウゥゥ…!!」

 

智鶴が目の前に来ても今の忍は唸り声を上げるだけ…。

 

「しぃ君。ごめんなさい…私、私…」

 

「ガアアアアッ!!」

 

忍が智鶴に手を挙げそうになった時…

 

「ブレイズチェーン!」

 

ガキンッ!!

 

シアのバインド魔法が忍の体を拘束する。

 

「グガアアアアッ!!」

 

バキンッ!!

 

しかし、そう簡単に止められるものではないらしく、すぐにバインド魔法を引きちぎるように粉々にしてしまう。

 

「しぃ君だって、辛かったんだよね。私達の過ごしてきた時間を否定されて…だから、そんな風になってまで…私を守ろうとしてくれたんだよね?」

 

そう言いながら智鶴はそっと忍を抱き締める。

 

「ガアアアアッ!!」

 

ガブリッ!!

 

「っ!?」

 

そんな智鶴の無防備な首筋に忍は大口を開けて噛みつく。

下手をすれば最愛の人をその手で殺してしまうほど、強く深く噛みついていた。

 

「智鶴さん?!」

 

「アンタ!?」

 

シアと朝陽が忍を止めようとするが…

 

「大丈夫…大丈夫だから…」

 

智鶴はそんな2人を制止する。

 

「だって…このくらいの痛み、しぃ君が味わった痛みに比べれば…平気だから…」

 

そう言いながら智鶴は忍の頭を優しく撫でていた。

 

「だから、ね? もう…泣かないでいいんだよ。しぃ君…それと、ありがとう。私のために…泣いてくれて…」

 

その一言が伝わったのか…

 

「グ…ガア…」

 

忍の口は自然と智鶴の首筋から離れていった。

 

「私も…もっと頑張って、あなたを支えるようになるから…だから、しぃ君も…一人で背負わないで…私達にもあなたの業を背負わせて…」

 

「…チ…ヅ…ル…」

 

「しぃ君……ん」

 

忍が言葉を発した後、智鶴はそっと自らの唇を忍の唇に押し当てていた。

 

シュウゥゥゥ…

パァンッ…

ビキッ…バキンッ!

 

それを合図にしたかのように忍の体を覆っていた甲殻がオーラと化して弾け、仮面もまた砕け散るように消えていた。

 

「ぅ…ぁ…」

 

龍気が霧散していくと共に龍の翼や尾も消滅し、元の姿となりながら智鶴にもたれ掛かるようにして忍は倒れた。

 

「よかった…しぃ、君…」

 

それに安心したのか、智鶴もまた意識を手放していた。

 

 

 

その様子を洋館二階で見ていた大人達は…

 

「予定外の邪魔が入ったが、和平の申し入れ…受け入れよう」

 

「父上?」

 

「あら、またなんでそういうことに…?」

 

朱堕の突然の決断に雲雀を始め、セラフォルーも驚いていた。

 

「我等冥族は種の繁栄のために多種族とも混じってきた。今更、悪魔共と交流しようが気にする必要もないと考えただけだ」

 

「それなら…」

 

「ただし…」

 

セラフォルーが何か言う前に朱堕が忍の方を見て一言…

 

「あの若造に監視をつけさせてもらう。雲雀、緋鞠と共にその監視につけ」

 

朱堕の忍を見る眼は…明らかな不安と危険視…そして、期待であった。

 

「……わかりました、父上」

 

少しだけ考えた素振りを見せて雲雀も承諾した。

 

「じゃあ、これで冥族とも歩み寄れるようになったわけね☆」

 

横チェキしながらセラフォルーは嬉しそうにしていた。

 

 

 

余談だが、忍によって気絶させられたグレイスの身柄はセラフォルーの呼んだ悪魔たちによって確保された。

そして、忍は力を使い果たしたように倒れ、智鶴も出血が酷かったので転移魔法ですぐさま冥界の病院に運ばれたのだった。

幸いにしてどちらも命に別状はなかった。

ただ、智鶴は輸血で何とかなったものの、忍は力の使い過ぎのために修学旅行の前日まで目を覚まさなかった。

 

そして、その影響なのか…フィライトでのトルネバ連合国との同盟計画と、駒王学園の修学旅行が同時に始まろうとしていた。



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第四十四話『修学旅行初日・深層世界と京都での出来事』

修学旅行当日。

場所は東京駅のホーム。

 

「……………」

 

未だ意識がハッキリしないかのように忍は自分のクラスが集合してる地点から少し離れた場所で棒立ちしていた。

 

それも致し方ない。

忍が目覚めたのは修学旅行前日の夜。

それから冥界から急いで明幸の屋敷に戻ってきたのが本日の明け方。

修学旅行の準備は智鶴や萌莉がしてくれたおかげで、屋敷に着いたと同時に駅へと向かったのだが…。

おかげで意識が未だ定まっていない状態にある。

 

バシッ!

 

「何ポカンとしてるのよ?」

 

と、そこへ忍の背中を叩きながら尋ねる"駒王学園の制服を着た緋鞠"がやって来た。

 

「いや、痛いんだが…というか何故君が此処に?」

 

「あたしだけじゃなわよ?」

 

「はい?」

 

緋鞠の言葉に意識が追いつけていない。

 

「紅神 忍、紅崎 緋鞠、あまりウロウロしないように」

 

"スーツ姿の雲雀"が2人に注意をしていた。

 

緋鞠は生徒、雲雀は教師として駒王学園に編入していた。

目的はもちろん、"忍の監視"。

あの和平交渉での件で危険視された忍はまた暴走しないとも限らない力を持つ者として朱堕からの和平条件として忍の監視を提示した。

修学旅行中は参加しているグレモリー眷属、及びシトリー眷属、イリナ、アザゼルなどが中心になって行われることになり、それ以降も同じような編成で行われることとなっていた。

さらに朱堕は自分の娘2人を監視役としても送り込んでいた。

 

「…………ダメだ。状況が理解出来ない…」

 

忍はほぼ寝起き状態なため、頭の回転が極端に低下していて今の状況を把握出来ないでいた。

 

「(目が覚めたらもう修学旅行の前日で…冥界から地球に帰ってきたのが明け方…智鶴や萌莉が用意してくれたから、今ここにいるわけで……というか、俺はいつの間に意識がブラックアウトしたんだ?)」

 

…………色々と致命的である。

 

「そろそろ新幹線が来るぞ~。さっさと乗り込む準備しろよ」

 

アザゼルの声で忍は緋鞠と共にクラスへと戻るのだった。

 

そして、新幹線に乗り込む駒王学園2年生の一行。

 

………

……

 

新幹線に乗り込み、出発してから十分くらいが経った頃…。

 

「なんだろう…この居心地の悪さは…?」

 

忍は何故か教員…アザゼルの隣の座席に座っており、その向かい側の席には雲雀とロスヴァイセが陣取っていた。

元々はイッセーの隣だったが、こうして呼び出しを食らっていたのだ。

 

「仕方ねぇだろ。冥族との和平交渉で起きた件は俺も聞いてるが、お前さんの中に眠る龍が問題なんだ」

 

「龍、ですか…」

 

いまいちピンとこない忍は自分の手を見る。

 

「そうそう。前にお前さんの体にこびりついてた緑色の血の解析が出来たから、ついでにその詳細も放そうと思ってな」

 

「あいつの…」

 

忍にとってはまだ記憶に新しく苦いものである。

それを思い出したのか、忍は口元を手で押さえる。

 

「正直、難航してたんだが…ある奴からの情報提供があってな。それで判明したことだが…」

 

「ある奴?」

 

アザゼルの言葉に疑問を抱く。

 

「現世の神だ」

 

「っ?! あの人が…」

 

草木を大事にする表と、激闘を演じた裏…その両方の存在を知った忍はグレイスに対して複雑な感情を抱いていた。

 

「あぁ、あいつは多次元世界を渡り歩いてたみたいでな。その中にお前の力に酷似した種族が太古の昔にいたようなんだ」

 

アザゼルは携帯端末を取り出しながら画面に魔法陣を展開して詳細を説明する。

 

「種族名は『龍騎士(りゅうきし)』。その名が示す通り、龍に連なる一族だ。外見は頭はドラゴンで体は人間、背中や臀部から龍の翼や尻尾を生やしており、龍気を鎧のような甲殻状に形成して纏っていたとされている。これは仮面以外、神宮寺達の報告にあった通りだな」

 

「俺が…"喰った"奴もそんな感じでした…」

 

「喰った、か…何が起きたんだ?」

 

「アレは…ロキ戦の前日のことでした」

 

それから忍はロキ戦前日に起きたことを先生陣に話していた。

 

「んな大事なことをずっと黙ってたのか!?」

 

アザゼルが声を荒げて忍に問いただす。

 

「言う機会がなかっただけです。それにあの出来事はそれだけ鮮烈で…正直、心の整理に時間が必要でした」

 

苦虫を噛み潰したような表情で忍は答える。

 

「あ~、まぁ…お前の若さからしたらそりゃ当然そうなるか…」

 

アザゼルは仕方なさそうに嘆息する。

 

「だとしても言わなかった事実には変わりありません。第一、何者かの声が聞こえたというのも妙な話です」

 

冷淡な声音で雲雀が会話に割り込む。

 

「いや、あり得ない話じゃないぞ。特に単体、もしくは複数の力を後天的に手に入れた奴に表れると聞くしな。イッセーも今は神器の中に入って歴代所有者の思念と対話を試みている最中だ」

 

雲雀の言葉にアザゼルはそう返す。

 

「噂に聞く歴代最弱の赤龍帝ですか」

 

「最弱だとしても歴代の中で最も力を理解しようとしてる大馬鹿だ」

 

話題がイッセーのことに傾いてきたので…

 

「……戻っていいですか?」

 

忍は自分の席に戻ろうとしていた。

 

「おっと、まだ話は終わってないぞ?」

 

席を立とうとする忍の肩を掴んで無理やり座らせる。

 

「まだ何か?」

 

「あぁ、さっきは龍騎士のことを話したが、問題はお前に付着してた血液の方だ」

 

「あの血に何か問題が?」

 

忍の質問にアザゼルはこう答えた。

 

「どうもクローニングしたような形跡があってな。もしかしたら今後も似たような奴が複数で攻めてくる可能性があるかもしれん」

 

「っ!」

 

アザゼルの言葉に忍と、横で聞いていたロスヴァイセの表情も強張っていた。

ただ、雲雀だけは眉一つ動かさなかったが…。

 

「ま、そういうことだ。今後も気を付けた方がいい。あと、今後のためにもイッセーみたくお前も自分の深層世界に潜ってみたらどうだ? 精神統一して内側に語り掛けるようにすれば案外すんなりいくかもしれんぞ?」

 

「……やってみます」

 

そうして忍がアザゼル達から解放されて元の席に戻ると…

 

「イッセー君?」

 

そこには眠るイッセーの姿があった。

 

「(意識がない。匂いからしてこれが神器の中に入ってるってことなのかな?)」

 

イッセーの様子を観察しながら隣の席に座ると…

 

「(俺も潜ってみるか…俺の深層世界とやらに…)」

 

忍もまた瞑目すると、意識を自身の深いところに向けていく。

 

………

……

 

~忍の深層世界・真狼の空間~

 

「む…?」

 

目を開けると、そこは満月の浮かぶ夜空が一面に広がる草原のど真ん中だった。

 

「ここが…俺の深層世界…?」

 

キョロキョロと周囲を見渡していると…

 

「正確にはお前の持つ解放形態に対応した空間だ。ここを含めて全部で"五つ"ある」

 

狼夜が満月を背に現れて説明していた。

 

「伯父さん!」

 

「よぉ、甥っ子。また、派手にやらかしたそうだな?」

 

ワシャワシャと忍の頭を撫でながら狼夜がニヤニヤと笑う。

 

「そ、それは…」

 

狼夜に言われて忍も何と言ったらいいかわからないでいた。

 

「ま、俺もお前ん中で見てたし、"あいつ"の封印にもちったぁ手を貸したわけだが…」

 

そう言って何処か遠くを見るような眼差しを満月の下に存在する四つの扉の内の一つ…厳重に鎖で縛られていくつもの南京錠で封印された扉に向ける。

 

「伯父さんが?」

 

「俺だけじゃねぇぞ? お前が"まだ目覚めてない氷の解放形態"も手伝ってくれた」

 

そう言って四つある扉の内、凍り付いた扉を親指で指していた。

 

「氷の、解放形態…? というか、いつの間に扉なんて…」

 

そんな忍の疑問に…

 

「わかりやすいだろ?」

 

カッカッカッ、と笑う狼夜だが…

 

「ただ、まぁ…あの吸血女王と紅蓮野郎は手を貸しちゃくれなかったが…」

 

はぁ、とため息を吐く。

 

「吸血鬼と紅蓮冥王…」

 

「ま、どいつも後天的に手にした力だからな。未だ全ては見せてないってことだろ」

 

そう言って鮮血のように真っ赤に染まった扉と、紅蓮の焔に包まれた扉を見る。

 

「しかし、かく言う俺も伝えきれてないんだが…」

 

やれやれといった感じで肩を竦めてみせる。

 

「あ、言っとくが俺はお前が本来持つ狼の化身に憑依したもんだからな? それと氷の解放形態も元からお前が持つ力の一つだ」

 

付け足すように説明する。

 

「俺が本来持つ力……狼と、雪女…?」

 

「そうだ。そして、お前の引いた血はただの雪女じゃない。わかるな?」

 

それを言われて忍は吹雪の存在を思い出す。

 

「冥族の血を引く雪女…」

 

「あぁ…俺の弟と、あの雪女娘の伯母…つまりは母親の姉との間に生まれたのがお前だ」

 

そう言うと、狼夜は忍の胸に人差し指を押し付ける。

 

「我等、狼としての誇りを忘れるな。お前はあいつの息子であり…この俺の甥なんだからよ」

 

「伯父さん…」

 

狼夜の言葉を忍は胸の中にしまう。

 

「お節介ついでに教えてやる。お前が紅蓮冥王時に冥王スキルを発揮出来ないのは、"既に一つ、冥王スキルを持ってる"からだ」

 

「俺に…冥王スキルが…?」

 

その事実に忍は驚く。

 

「氷から聞いた話だが、本来冥王スキルは一人につき一つが大原則だ。しかし、お前は後天的に紅蓮冥王の力を手にしてしまった。本来はあり得ないことらしい。しかし、お前は元からある氷の冥王ではなく、先に紅蓮冥王への変身能力を身につけてしまった。それが互いに弊害となって氷の冥王への変身が出来ず、紅蓮冥王になっても冥王スキルが扱えないことに繋がったらしい」

 

氷の冥王から聞いたことを忍に伝える。

 

「そんなことが…俺の体の中で…」

 

「解決法は…すまんが、俺には分からん。これ以上の話はお前自身から氷の冥王に聞くんだな」

 

そう言って凍て付いた扉を指す。

 

「けど…伯父さんにも聞きたいことが…」

 

狼夜の言っていた"真なる狼"…その本当の意味を知りたそうだった。

 

「今は目の前の問題から片付けてけ。俺なら逃げたりしないからよ。まずは冥王スキルの問題から片付けてこい」

 

そう言って狼夜は忍の背を押し出す。

 

「あ…」

 

押し出された忍は振り返って狼夜を見るが…

 

「行け」

 

そう言ってニヤッと微笑んでいた。

 

「わかった。けど、次こそ真なる狼について教えてくれよ?」

 

「おう、わかってる」

 

狼夜がそう答えると…

 

ガチャリ…

ビュオオォォォ…

 

忍は凍て付いた扉を開けて吹雪の中を進むように、その中へと消えていった。

 

「俺とお前の縁は固い…が、いつまでもこのままってわけにもいかないわな…」

 

狼夜は忍が去った後、満月を見上げながら静かに呟く。

 

「真なる狼…それをお前が知ったら、もう二度と俺との対話はなくなる。つまり、この夢も終わるってことだ」

 

そこまで言って狼夜は自分の髪をボリボリと掻く。

 

「ったく、もう死人だってのに未練がましくていけねぇや。死闘を演じた甥に対してこんなに肩入れするなんざ…俺もヤキが回ったんだな…」

 

やれやれと自分で自分の行動に呆れ果てていた。

 

「いや、わかってる。本来なら、ここにはあいつが居座って然るべきだ。俺がいつまでも居座っていい場所じゃない」

 

そう呟き、忍の去った扉の方を眺める。

 

「忍よぉ。"真なる狼"ってのはな…」

 

この場にいない忍に向け、音のない言葉を紡いでいた。

 

………

……

 

~忍の深層世界・氷の冥王の空間~

 

真狼の空間とは一変し、氷の冥王がいるとされる空間は一面が雪原に覆われており、曇天の空から雪が舞う白銀の世界となっていた。

 

「ここに…氷の冥王が…」

 

すると…

 

ビュオオォォォ…

 

一陣の吹雪が忍を襲う。

 

「くっ…」

 

吹雪を両腕でガードしながら凌ぐと…

 

「ようやく…お会い出来ましたね。我が君」

 

吹雪と共に現れたのは…背中から4対8枚の瑠璃色の翼を広げ、その身を白い着物で包んだ白銀の髪にサファイアブルーの瞳を持つ大和撫子然とした女性が佇んでいた。

 

「アンタが…氷の冥王…」

 

「はい」

 

忍の問いに柔和な笑みで答える。

 

「我が君。お話がございます」

 

「あぁ…伯父さんから事情は少し聞いた。俺には既に冥王スキルが存在するんだろ?」

 

氷の冥王の化身たる女性の言葉を察し、先に狼夜から軽い説明を受けたことを伝える。

 

「はい。我が一族…『蒼雪冥王(そうせつめいおう)』が司る氷雪の力を持っております」

 

「蒼雪冥王…」

 

女性…蒼雪冥王は頷きながらそう答えた。

 

「しかし、我が君は第三者によって吸血鬼と紅蓮冥王…その二つの力を後天的に手にしました。その後、我が君はかの吸血鬼の衝動で龍騎士をも取り込みました」

 

「よく俺の体が拒絶反応を出さなかったな…」

 

改めて言われるとそう言わざるを得なかった。

 

「それに関してましては…おそらく吸血鬼の力でしょう」

 

「どういうことだ?」

 

「古来より吸血鬼とは血を吸う種族です。それ故に多種多様な血を吸うことがあります。それを克服するために独自の進化を遂げ、血を取り込みやすい体質になったのでは…とわたくしは思います」

 

忍の疑問に対して丁寧な言葉と推測で答える。

 

「その体質が俺の体にも影響を及ぼし、紅蓮冥王や龍騎士の力を取り込んだと?」

 

それを聞き、忍は自分の体に起こったであろう変化を推測する。

 

「おそらく、ですが……しかし、能力まで体得するというのはわたくしも存じ上げません。詳しいことはあの吸血鬼に聞いた方がよろしいかと…」

 

「(謎が謎を呼ぶって感じだな、こりゃ…)」

 

蒼雪冥王の言葉を聞き、そう感じてしまっていた。

 

「(ともかく、今は目の前のことを考えるか…)俺は、蒼雪冥王になれるのか?」

 

正直、不安なのか…それが表情に出ながら忍は蒼雪冥王に尋ねていた。

 

「我が君。わたくしはいつでも力をお貸しします」

 

そんな忍の心を見透かすように、蒼雪冥王は忍の手を優しく包み込んでいた。

 

「わたくしの力は我が君のモノなのですから…きっと扱えるはずです。冥王スキル『アイス・エイジ』を…」

 

「『アイス・エイジ』…それが俺の…」

 

「はい。我が君だけの…」

 

蒼雪冥王の背後に陽炎のようにして、髪が白銀、瞳がサファイアブルーに変化し、背中から4対8枚の瑠璃色の翼が生えた姿の忍の幻影が現れた瞬間…

 

ゴオオオオッ!!

 

白銀の世界に紅蓮の焔が立ち昇る。

 

「「っ!?」」

 

忍と蒼雪冥王が同時に振り返ると、そこには…

 

ザッ…ザッ…ザッ…

 

「…………」

 

焔髪灼眼に4対8枚の紅蓮の翼を生やした若い男が雪原を歩いてくる。

 

「焔帝…朱堕さん?!」

 

その男の面影は現実世界で焔帝と称される男に酷似しており、おそらくはその若い頃の姿であることが窺える。

ただ、現実とは違って左腕があり、傷もほとんど無い状態であった。

 

「いいえ、アレは紅蓮冥王の化身です」

 

忍を庇うように蒼雪冥王が前に出る。

 

「貴殿が、我が半身の断片たる腕を…否、血を受け止めし者だな」

 

その眼光は現実のものと遜色なく忍を射抜く。

 

「あなたが何故ここに…! ここはわたくしが我が君から預かる空間と知っての狼藉ですか!?」

 

「俺の知ったことか。俺はただ力を託すに値する人間かどうか見極めるまで…!」

 

紅蓮冥王と蒼雪冥王の言い合いの後、紅蓮冥王は忍に向けて紅蓮の焔を放出する。

 

「なっ!?」

 

「くっ!」

 

蒼雪冥王が紅蓮の焔を吹雪で相殺する。

 

「自らこの世界に意識を飛ばしてくるとは好都合。その意志の強さ、今ここで試させてもらう!」

 

バサリ、と翼を広げたかと思えば、紅蓮冥王は一直線に忍へと飛翔していた。

 

「我が君はやらせません!」

 

同じく翼を広げた蒼雪冥王が迎え撃とうとしていた。

 

「(まさか、これが弊害の原因じゃ…?)」

 

そんな2人の様子を見て忍はそう考えてしまう。

 

すると…

 

『………ぃ……ぉ…ぃ………き…………い、し…』

 

空間の外から声のような音が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

その声に導かれるようにして忍の意識が遠退くような感覚が襲う。

 

「ちっ! 外部からの邪魔が…!」

 

「我が君。またお会いしましょう」

 

紅蓮冥王は舌打ちし、蒼雪冥王は戦闘中にも関わらず穏やかな表情を忍に向けていた。

 

「(これをどうにかしない限り…俺、冥王として完全覚醒出来ないかも…)」

 

そんなことを思いながら忍は現実世界へと意識を取り戻していくのだった。

 

………

……

 

~現実世界・新幹線の中~

 

「お~い、忍。起きろ~」

 

イッセーが忍の肩をユサユサと揺する。

 

「むぅ…?」

 

寝惚(ねぼ)(まなこ)で目覚めると、時間がそれなりに過ぎていたようであった。

 

「俺は…どのくらい寝てたんだ?」

 

「いや、俺が起きてた頃にはもう寝てたし…つか、いつの間に戻ってきてたんだと思ったわ」

 

「そうか…」

 

深層世界の中と現実世界での時間感覚の違いを実感しながらネクサスで時間経過を見る。

 

「(ざっと一時間弱、か。そんなに潜ってたのか…)」

 

そんなことを考えながらまだ冴え切っていない頭を回転させる。

 

「ちょっと、先生の所に行ってくるよ」

 

「ん? おう、また呼び出しか?」

 

「いや、ちょっと聞きたいことがあってな」

 

イッセーに断わって席を立つと、忍は再び教師陣のいる席へと向かった。

 

 

 

忍が教師陣の席に到着すると…

 

「雲雀さん、聞きたいことがあります」

 

「何か?」

 

京都の案内本を閉じながら雲雀が顔を上げる。

 

「今までに冥王スキルを"二つ持った"人は存在しますか?」

 

「いえ、いません」

 

即答である。

 

「そ、そうですか…」

 

あまりの即答の早さに取り付く島もないと感じてしまった忍だった。

 

「その質問がどれだけ無意味なことか、冥族ならわかってると思いますが…?」

 

そして、鋭い視線を忍に向けていた。

 

「……失礼します」

 

それを言われると他に聞くことも無くなってしまったので、自分の席に戻るのだった。

 

そして、新幹線は京都へと到着するのであった。

 

………

……

 

「京都…独特の匂いがするな…」

 

新幹線から駅に降り、京都の空気を吸うと忍はそんなことを呟いていた。

 

「そうか? あんま変わりないと思うぞ?」

 

忍の発言に元浜が周囲の匂いを嗅いでみる。

 

「忍ってたまに俺達と感覚がおかしい時ってあるよな。やっぱ、アレか? 明幸先輩の家にいるからか?」

 

松田がそんなことを言う。

 

「智鶴の家は関係ないから……何というのかな? 京都って神秘的な雰囲気があるからさ。それを比喩してみた感じ?」

 

「なんで疑問形なんだよ!」

 

「でも、そう言われると何となくわかるようなわからないような…」

 

「お前もどっちなんだよ!」

 

男子陣がそんな他愛のない話をしている。

 

「ほら、男子。さっさとしないと午後の自由時間が無くなるわよ!」

 

そこに桐生からの招集が掛かる。

 

そして、駒王学園二年生一行は『京都サーゼクスホテル』という高級ホテルのロビーで点呼やら注意事項などの必要なことが行われた。

それからアザゼル、ロスヴァイセ、雲雀などから一通りの説明を受けた後に、各自部屋のキーを貰うことになった。

 

「イッセー、忍。お前らはこれだ」

 

ニヤニヤと笑いながらアザゼルはイッセーにキーを渡す。

 

で、イッセーと忍に割り振られた部屋というのは…

 

「こ、ここが…俺達の部屋…?」

 

八畳一間の和室であった。

しかも置かれているものは一世代くらい古い物が多い。

一緒に部屋を見に来ていた松田と元浜は大笑いしていたが…。

 

「これはこれで風情があって俺は好きだけどな…」

 

明幸の屋敷は和風なので忍は難なく受け入れていた。

荷物を置いて中央にあるテーブルに胡坐を掻いて座る姿は、何故か様になっていた。

 

「「「流石、極道の次期頭」」」

 

その姿を見てイッセー達は声を揃えてそんなことを言う。

 

「おい…」

 

智鶴との仲は既に周知となっており、未来の極道の頭としてのイメージがついて回っていたりする。

 

それからイッセー達の班は教師からの許可も得て稲荷伏見へと向かったのだった。

 

………

……

 

~京都・伏見稲荷~

 

「(気のせいか? 周囲の空気がピリピリしてる感じがする)」

 

班の皆と共に千本鳥居を抜けながら山登りをすること数十分。

忍は周囲の空気に過敏に反応していた。

 

「(それにこの匂い…とても歓迎してるとは思えない。何故だ? 少なくともこの辺りを統べる妖怪には話が通っていて然るべきだ。なのに、この空気は"よそ者を警戒する"ものだ。何か、起こってるのか?)」

 

そんなことを考えていると…

 

「悪ぃ、ちょいと先にてっぺんまで行ってみるわ」

 

イッセーがちょっとうずうずした様子でそう断りを入れてきた。

 

「(イッセー君一人だと何が起きるかわからないな…)俺も付き合うよ」

 

そう言ってイッセーの所へ向かう途中…。

 

「ボソッ(ゼノヴィアさん、イリナさん、イッセー君のことは任せておいて、皆のことをよろしく)」

 

小声でゼノヴィアとイリナにこの場を任せていた。

 

「ボソッ(? わかったが、どういうことだ?)」

 

「ボソッ(うんうん、どうかしたの?)」

 

2人の了承は得たが、どっちも不思議そうであった。

 

「ボソッ(まぁ、杞憂であってほしいとこではあるが…)」

 

「「???」」

 

忍の意図がわからず、ゼノヴィアとイリナは互いの顔を見合わせる。

 

「行くぞ、忍!」

 

「あぁ、今行く」

 

イッセーに呼ばれ、それに続くようにして忍も駆け出した。

 

 

 

走ること数分。

忍とイッセーは頂上らしき場所へと到着していた。

 

「社…?」

 

そこには古びた社があり、周りを木々が鬱蒼(うっそう)としていた。

 

「…………」

 

イッセーは社の前に立つと何やら願いをしていた。

 

「…………」

 

忍は別の意味で周囲を警戒していたのだが…

 

「イッセー君」

 

「なんだよ?」

 

願いをしてるイッセーの隣に移動したかと思うと…

 

「囲まれてる」

 

そう告げていた。

 

「はぁ!?」

 

イッセーも驚いて周囲に気を配らせると…

 

「マジか? てか、俺らなんかしたっけ?」

 

「いや、何もしていない。強いて言うなら、伏見に来てから違和感を覚えてた」

 

「それを先に言えよ!」

 

「松田君や元浜君、桐生さんがいたんだ。そう変なことは言えないだろ? せっかくの修学旅行なんだし…」

 

2人がそんな言い合いをしていると…

 

「お主ら、京の者ではないな?」

 

巫女装束を身に纏った小学校低学年くらいの小さな女の子が現れた。

ただ、金髪に金色の双眸の他に頭部に耳、臀部から尻尾が生えていた。

 

「この匂いと、あの毛並み。シアに似ている気がする。つまり、狐の妖怪といったところか?」

 

「んな冷静に分析してる場合かよ!」

 

忍の冷静さにツッコミを入れるイッセーだった。

 

「ええい! 余所者が、何をしておるか! 者共、かかれッ!」

 

狐少女の言葉に林の中から山伏の格好に黒い翼を生やした頭部が鳥の妖怪『天狗』と、神主の格好に狐のお面を被った軍団が大量に現れる。

 

「話し合いの余地はないのか?」

 

忍は対話の道を模索しようと尋ねるが…

 

「黙れッ! 母上を返してもらうぞ!」

 

狐少女は忍とイッセーを指さしてそう叫んだ。

 

「母上?」

 

「俺達、お前の母ちゃんなんて知らないぞ!?」

 

「何かの間違いじゃないのか?」

 

イッセーの言葉に同意するように忍も弁解するが…

 

「ウソを吐くな! 私の目は誤魔化しきれんのじゃ!」

 

興奮状態なのか、聞く耳を持たないらしい。

 

「忍、ここは京都だ。絶対に社を壊すなよ! あと、あいつらや周囲もな!」

 

「それはわかってるけど…腑に落ちないんだよ」

 

天狗が錫杖を持って襲い掛かってくるのを忍とイッセーは互いに素手で受け止めていた。

 

「何が腑に落ちないんだよ?」

 

「この状況が既に腑に落ちてない」

 

そう言うと忍は試しに龍気を出力し、それを両腕に纏わせて籠手状に形成していた。

イッセーも赤龍帝の籠手を出現させていた。

 

「(この程度なら龍騎士を解放した事にはならないのか)」

 

それを確認するように相手の武器のみを破壊することに集中していく。

 

「くっ…たった2人なのに、強い…!」

 

忍とイッセーの強さを見て狐少女は…

 

「撤退じゃ! しかし、忘れるでないぞ! 母上は必ず返してもらうからの」

 

そう言い残して狐少女達はその場から退いていったのだった。

 

「で、結局なんだったんだ?」

 

「また、何かありそうなのは確実だな…」

 

その後、班の皆と合流して伏見稲荷の観光を続けた。

しかし、少しピリピリした状態の忍とイッセーを松田や元浜が不審がっていたが…。

 

………

……

 

ホテルに戻った後、イッセーはアザゼルとロスヴァイセに稲荷伏見で起きた事の顛末を報告していた。

その報告を受け、2人共困惑した様子でアザゼルが再度確認を取るために動くとのことだった。

 

その後、夕食を終えて部屋でのんびりした時間を過ごしていると…

 

「よし、行くか」

 

イッセーが立ち上がって部屋の扉を静かに開けて左右を確認する。

 

「イッセー君。こんな時間に何しに行くのさ?」

 

ファルゼンの手入れをしながら忍が尋ねる。

 

「決まってるだろ。覗きだ!」

 

「声を大にして言うことじゃないと思うけど…それにきっと無駄だと思うよ?」

 

イッセーの返答に忍は呆れながら忠告を送る。

 

「無駄だとわかっていても男には行かなくちゃならない時があるんだよ!」

 

何故かカッコつけた風に言ってイッセーは部屋を飛び出していった。

 

「やれやれ…」

 

困った友人を持ってしまったと少なからず後悔しながらファルゼンの手入れに戻った。

 

が、しばらくして…

 

ピピピ…!

 

「む…?」

 

ネクサスに通信が入ったので、対応してみると…

 

『よぉ、俺だ』

 

アザゼルからだった。

 

「何か?」

 

『俺とイッセー達、それとお前達に呼び出しがかかった。近くの料亭に魔王少女さまが来てる』

 

「……予感的中か。すぐ行きます」

 

ファルゼンを待機状態に戻すと、一通りの装備を整えてホテルのロビーへと降りて行った。

 

………

……

 

・料亭『大楽(だいらく)

 

その個室でセラフォルーはアザゼル、イッセー達グレモリー眷属とイリナ、忍と萌莉の紅神眷属と紅崎姉妹を待っていた。

 

「ハーロー! 皆、この間振りね☆」

 

セラフォルーは着物姿だった。

さらに匙達二年生の生徒会メンバーこと、シトリー眷属も既に到着していた。

 

「(この面子が招集されたということは…)」

 

セラフォルーが追加注文した料理を食べながら忍の予感は確信へと変わっていた。

 

「魔王レヴィアタン。要件は早く申して頂戴。こちらも遊びに来たわけではないのだから」

 

料理をいくつか口にした後、雲雀がいきなり核心を突いていた。

 

「もう、雲雀ちゃんってばせっかちさんね☆ まぁ、大方の予想が出来てる人は雲雀ちゃんやアザゼルちゃんだけじゃないみたいだけど」

 

そう言って視線だけを忍に投げる。

 

「実は…この地の妖怪を束ねてる九尾の御大将が先日から行方不明らしいの」

 

セラフォルーの言葉にその場にいた全員の表情が険しくなる。

 

「(九尾…紅牙やシアの遠縁か?)」

 

そんなことを考える忍の横で…

 

「っ。それって…」

 

イッセーが稲荷伏見でのことを思い出す。

 

「おそらくはそういうことよね」

 

イッセーの反応を見てセラフォルーも頷く。

 

「ここの頭である九尾の御大将が拉致られたってことだ。関与したのは…」

 

「十中八九、『禍の団』よね」

 

アザゼルとセラフォルーの会話で皆も大体の状況を把握した。

 

「また、テロリストか」

 

「こんな時にまで出てこなくてもいいのにな」

 

「てか、お前ら…また厄介事に巻き込まれてんのか?」

 

「あはは、グレモリーの宿命なのかな?」

 

目をひくつかせる匙に木場が苦笑して答えていた。

 

「ともかく、この件は俺達大人が対処する。必要になったら呼ぶかもしれないが…お前ら子供は修学旅行を楽しめ。貴重で大事な行事だろ?」

 

アザゼルはそう言っていた。

 

「そうよ。皆、京都を楽しんでね。私もお仕事の合間を縫って楽しんじゃうから!」

 

セラフォルーもまた笑ってそう言っていた。

 

「あ、そうだ。ゼーラの野郎から忍に預かりもんがあったんだ」

 

思い出したようにアザゼルはポンと右手で左手を叩く。

 

「俺に?」

 

「おう。なんでも鹵獲した例のドライバーデバイスを改造した新しいデバイス機種だとか言ってたが…」

 

「えっ…?」

 

その説明を聞き、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

「確か、ホテルの駐車場に停めてあるから後でお前達も見とくといいぞ」

 

「駐車場?」

 

それを聞いてもいまいちピンと来なかった。

 

 

 

それからセラフォルーと別れ、一行はホテルの駐車場にやってきていた。

 

「ま、百聞は一見に如かずってな」

 

そう言って駐車場のライトを点けると、そこには…

 

「こ、これは…?!」

 

白銀のボディに紅いラインの入ったSS(スーパースポーツ)タイプのバイクが鎮座していた。

 

「「「バイク!?」」」

 

グレモリー及びシトリー眷属の男陣が叫ぶ。

 

「それも忍用にカスタマイズされた専用機だ。ネクサスが起動キーになってるからちょいと試してみな」

 

「は、はい…!」

 

ちょっと興奮気味にバイクに跨ると、ネクサスにバイクの情報が表示される。

 

「あす、てり……アステリア…?」

 

『ネクサス、確認。起動』

 

ブロロロロ…!

 

バイク独特の音が駐車場内に響き渡る。

 

「おぉ…!」

 

初めて乗って起動させた感慨から感動すら覚えていた。

 

「そのまま走らせたいのも山々だが、今夜はもう遅い。運転はまた後日だな。それとほら」

 

そう言うと…

 

ピィンッ!

 

アザゼルが忍に2枚のメダルを投げ渡した。

 

「おっと…」

 

メダルを受け取ると、それぞれ眺めていた。

一枚は表に剣の絵柄と裏にⅦの文字、もう一枚には表に銃の絵柄と裏に盾の絵柄がそれぞれ描かれていた。

 

「そいつもアステリアの部品だ。詳しいことはアステリアから送られたデータを見ておくんだな」

 

「はい!」

 

嬉しそうに返事する忍はアステリアから降り、ネクサスを操作してエンジン部であるマナドライブを停止させた。

 

「てか、これ…本当にデバイスなんですか?」

 

今更のようにイッセーがアザゼルに尋ねていた。

 

「あぁ、待機状態への変形機構を省いたバイク型の新機種『ライディングデバイス』なんだとさ。そっちの技術はまだわからないが、なかなか面白そうだからな。今度、人工神器のデータと情報交換してもらおうかと思ってる」

 

アザゼルは心底楽しそうにそう言っていた。

 

こうして修学旅行の初日は終わるのであった。



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第四十五話『修学旅行二日目・トルネバ連合国での競争』

修学旅行二日目の早朝。

ホテルの屋上ではイッセー達グレモリー眷属が朝の訓練をしていた。

 

「精が出るな…」

 

かく言う忍もまた先日ゼノヴィアやイリナと共に購入した木刀で軽く素振りをしていた。

 

「朝からよくやるわね……ふわぁ~ぁ…」

 

忍の近くでその様子を見ていた緋鞠がそんなことを言いながら欠伸をしていた。

 

「し、忍さん…これ、どうぞ…」

 

萌莉が忍にタオルを手渡す。

 

「あぁ、ありがとう。萌莉」

 

そのタオルを受け取ると、軽く汗を拭き取る。

 

「(二つの冥王…相反する属性を持った俺の中に宿る力…)」

 

忍は汗を拭きながら昨日、新幹線の中で深層世界に潜った時のことを考えていた。

 

「氷と焔、か…」

 

「?」

 

忍の呟きに萌莉は首を傾げる。

 

「………しかし、智鶴達だけで本当に大丈夫かな?」

 

考えるのを一旦止めると、忍は昨日の朝の出来事を思い出していた。

 

………

……

 

・昨日の出発前

 

「うぅ…修学旅行もそうだが、トルネバ連合との同盟も進めないと…」

 

冥界から朦朧としてる意識のまま帰って来た忍はそう呟いていた。

 

「ふわぁ~あ…そんな状態じゃ無理よね」

 

忍の状態を見てまだ眠そうな吹雪がそう言う。

 

「ほら、しぃ君。しっかりして」

 

忍の荷物を持ってきた智鶴が忍の身だしなみを整える。

 

「流石、正妻」

 

カーネリアが茶化すように言う。

 

「でもホントにどうする気? 本来ならこの数日中にトルネバ連合国の領土に乗り込んで忍の鼻を頼りに国の中心となっている部族を探す予定だったのに…」

 

冷静に暗七が忍が昏睡状態だった間に予定していたトルネバ連合国での行動が完全に狂ったことを告げる。

 

「うっ…それは…」

 

忍が暗七の言葉に詰まっていると…

 

「それなら、私がしぃ君の代わりにそのトルネバ連合国との同盟交渉に行くわ」

 

智鶴が決意したような表情でそう切り出す。

 

「なっ…?!」

 

その申し出に忍を始め、他の眷属達も驚いていた。

 

「だ、だが…トルネバ連合国は複数の部族が集合した国だ。その中心部族ともなれば何処にあるかさえわからないというのに…」

 

忍が慌てたようにそう言うと…

 

「くすくす…しぃ君。何も一人で行くとは言ってないでしょ?」

 

忍の慌てようがおかしかったのか、智鶴は微笑んでいた。

 

「シアちゃん、吹雪ちゃん、暗七ちゃん、フェイトちゃん、朝陽ちゃん………それとカーネリアさん」

 

そう言って眷属の名を羅列する。

ただ、最後の眷属、カーネリアの名前だけは低いトーンで呟いていた。

 

「皆もいることだし、しぃ君だけに何でも背負わせないって決めたんだもん」

 

そう言う智鶴の言葉には確かな覚悟があった。

 

「ふふ…坊やの女王としての自覚がやっと出てきたのかしら?」

 

そんなカーネリアの言葉を流し…

 

「とにかく、しぃ君達は修学旅行を楽しんできてね。こっちは私が何とかしますから」

 

智鶴はそう忍に微笑みながら伝えていた。

 

………

……

 

「だ、大丈夫、ですよ。智鶴、さんを…信じ、ましょう…?」

 

忍の心配をわかってか萌莉はそう伝えていた。

 

「……そう、だな。俺が皆を信じなきゃな」

 

確かに心配ではあるものの、今は信じるだけだと忍も萌莉の言葉に頷いていた。

 

「紅神君、ちょっと手合せをお願いできるかい?」

 

そこに木場がやってきて忍との手合せを頼んできた。

 

「木場君とか。いいよ。たまにはスピード対決も悪くない」

 

「ならよかった。僕も紅神君とは速度を競ってみたかったからね」

 

「はは、それは俺も望むところだ(木場君は今のイッセー君を相手に互角の勝負を繰り広げるほどの使い手…油断は出来ないな)」

 

忍と木場…どちらも持ち味は速度という同じタイプの対戦カード。

しかし、木場はイッセーとの修練で格段にレベルアップしている実力者であり、その才能も折り紙付きと言える。

その相手をするだけでも忍にはそれなりのプレッシャーを感じていた。

 

「(それに…木場君の聖魔剣は相反する力を融合させたもの。もしかしたら、二つの冥王を制御する何かのヒントを得られるかもしれない…)」

 

自らの中にある氷と焔の力を宿した冥王を完全に発現出来るようにするため、忍は木場との手合せに挑んでいた。

 

その後、トレーニングを終えた一行はそれぞれのクラスと班に合流して京都観光をするのであった。

 

その途中、妖怪との邂逅もあったが、先日の誤解が解けて謝罪を受け、改めて九尾の御大将を禍の団から助け出す協力体制を整えるのであった。

 

………

……

 

~トルネバ連合国領内・平原地帯~

 

「広いわね…」

 

「そうですね…」

 

目の前に広がる平原地帯に暗七が呟き、それをエルメスが肯定する。

 

「こりゃ足がないとこの先は厳しいわね…」

 

頭を掻きながら吹雪が同行者達にそう言う。

同行者とは智鶴を始め、エルメス、暗七、吹雪、シア、カーネリアであった。

また、朝陽とフェイトは時空管理局からの呼び出しで今回は参加出来ずにいた。

 

ちなみに今更ながら萌莉の召喚獣は明幸邸で預かってもらっているが、ファーストのみは修学旅行にぬいぐるみとして同行させている。

理由は他の召喚獣とは違って幼い龍を世話出来る一般人なんていないからである。

 

まぁ、それはそれとして…

 

「それなら飛べばいいじゃない。少なくとも私達は飛べるのだし…」

 

そう言って自らの黒翼を広げるカーネリア。

 

「私は飛べません」

 

「私も…飛べるとは…」

 

「翼だけなら作れるけど…私の場合、少なくともグライダー程度にしかならないわ」

 

智鶴、エルメス、暗七の3人がカーネリアの提案を否定する。

 

「あなたにはあの蠍があるでしょ?」

 

「スコルピアちゃんに3人も乗れません」

 

いくらエクセンシェダーデバイスとは言え、3人もの人間を乗せて飛ぶことは無理に近かった。

 

「なら徒歩かしらね?」

 

「だから、こんなだだっ広い場所を徒歩でとか無理あんだろ!」

 

カーネリアの言葉に吹雪が反発する。

堂々巡りもいいとこである。

 

「とにかく、相手は移動民族。手掛かりもなしに動くのは危険よね」

 

「かと言って、行く当てがあるかと言われれば…」

 

「困ったわね…」

 

一行が途方に暮れていると…

 

ドドドドドド…!!

 

何やら駆けてくるような地鳴りが近づいてくる音がする。

 

「? 何かしら?」

 

智鶴達が音のする方に目を向ける。

そこには騎馬隊らしき軍団が智鶴達の方へと向かって駆けてきていた。

 

「まるで三国志か、戦国時代ね」

 

その光景に暗七がそう呟く。

 

「でも、これで少しは進展したのかしらね?」

 

そう言ってカーネリアも翼をしまう。

 

「だといいんだけど…」

 

吹雪は何があってもいいように少しだけ警戒しながら近づいてくる騎馬隊を見る。

 

そして、騎馬隊が智鶴達を包囲するように円形状の陣を敷くと、一騎の騎馬兵が前に出た。

 

「お前達、見ない顔だな。一体何処からやってきた?」

 

トルネバ連合国は移動民族の集まりであり、それらが交流を重ねているので知り合いには事欠かない国柄だったりする。

 

「えっと…私達はイーサ王国から来た者でして…」

 

代表してエルメスが話を切り出すと…

 

「イーサ王国だと?」

 

騎馬兵がイーサ王国という単語に反応する。

その反応を見てエルメスは一歩前に出ると…

 

「私は…イーサ王国第一王女、エルメス・ファル・イーサ。トルネバ連合国との同盟を結びにやってきました」

 

そう名乗っていた。

 

ザワザワ…

 

エルメスの言葉に騎馬隊の隊員達の間で波紋が広がる。

 

「隊長、如何致(いかがいた)しますか?」

 

前に出ていた騎馬兵にもう一騎の騎馬兵が近づくと、そう尋ねていた。

 

「至急、『トゥアルダス』、『ルカンツァ』、『ネルティア』、『バスコッシュ』に伝令を走らせろ。イーサ王国からの使者が来た、と…それと至急馬車の用意を…」

 

そう隊長らしき騎馬兵が言うと、一部の騎馬兵達が回れ右するように元来た道を戻っていった。

 

「しかし、エルメス王女様。この地にお供が女性だけというのは些か不用心では?」

 

イーサ王国の姫ともなるとそれなりの知名度になるのか、騎馬隊長はエルメスを本物だと思ってそう尋ねていた。

 

「あら、それはどういう意味かしら?」

 

ゾワッ…

 

今の発言が気に食わなかったのか、珍しく智鶴が冷たい微笑みを浮かべる。

心なしか、その背に蠍の幻影が浮かんでるようにも見えた。

 

「っ!?」

 

それを見て騎馬隊長と、その愛馬が言い知れぬ恐怖感を抱いた。

 

「ま、見た目で判断するなってことよね」

 

「同感」

 

暗七に言葉に吹雪も同意する。

 

「ま、まぁまぁ…」

 

慌ててシアが3人を宥める。

 

その後、騎馬隊長の手配した馬車に乗って一行は騎馬隊が駐屯する集落へと案内されるのであった。

 

………

……

 

集落へと案内された後のこと…。

 

「エルメスちゃんも大胆ね。いきなり身分を明かすんだもの」

 

急遽、用意されたテントの中で、出されたお茶を飲みながら智鶴がそう呟く。

 

「それは言えてる。それでもし誤解されるなりして拘束されたらどうする気だったのよ?」

 

テントの出入り口に立つ吹雪が智鶴の言葉を補足するように頷く。

 

「ち、ちゃんとお母様からの書状や身分の証となる王家の紋章もありましたし、大丈夫かと思いまして…」

 

そう言って懐から書状やら紋章やらを取り出してあわあわと説明するエルメス。

 

「見た目によらず肝が据わってるんだか、単に天然の無計画なのか…判断に困るわね…」

 

そんな様子を見て暗七は軽い溜息を吐いていた。

 

「ともかく、経緯はともあれ…この国のお偉方との会談の場が持てるという意味では良かったんじゃないかしら?」

 

クスクスと笑うカーネリアがそうフォローっぽいことを言う(が、おそらくは単に今のエルメスの様子を見て楽しんでるだけかと思われる)。

 

「うぅ…なんだか恥ずかしいです…///」

 

顔を真っ赤にしながら顔を俯かせてしまう。

 

「けど、こうなると忍さんもどうしたかわかりませんね。いくら嗅覚で探すといってもこう広大だと…」

 

シアが話題を変えようとそんなことを言い出す。

 

「前回は…向こうの大統領からこちらに接触してきた面も大きかったと思うの。それに加えて帝国の攻撃もあったし…」

 

ラント諸島での出来事を思い出しながら智鶴が呟く。

 

「それを利用した上で、そのラント諸島に対帝国意識を持たせた坊やの勝ちってところかしら? 坊やってたまに悪人よね」

 

「結果論ですけどね…!」

 

忍のことを悪く言われたと感じたのか、智鶴がカーネリアに殺気を向ける。

 

「あわわ…」

 

シアはシアで話題変更に失敗したかと思ったのか、ちょっと慌てた様子だった。

 

「と、とにかく…トルネバ連合国も帝国とは交戦状態です。いつまた襲ってくるかわからない以上、気を引き締めないとですよね!」

 

エルメスがそう言って場の空気を変えようとする。

 

「はぁ…何事もなく、無事に同盟が組めればいいんだけど…」

 

そんなテント内の空気を察してか、暗七が独り言ちるように呟いていた。

 

………

……

 

~ラント諸島領内・飛竜駆りし部族『トゥアルダス』~

 

伝令が走らされてから一刻後くらい経った頃…

 

「イーサ王国からの姫さん、か」

 

伝令に来た騎馬兵を下がらせると、独り言ちるようにその男は呟いた。

 

「いずれは来るだろうとは思っていたが…あの女王、まさか自分の娘を差し向けるたぁな」

 

その男の名は『ガルド・トラジェディス』と言い、容姿は灰色の短髪、黒い瞳、無精ひげを生やした渋い感じの顔立ちに高身長でガッチリとした筋肉な体格をしており、部族長のテント内の奥で座していた。

 

『で、ガルド。お前はどうする気なんだ?』

 

すると、そこに背後から飛竜が首だけをテントの中へと入れてそう尋ねていた。

 

「カリス。そりゃお前、決まってるだろ?」

 

漆黒の甲殻を纏い、琥珀色の瞳を持つ飛竜『カリス』にそう伝えていた。

 

『力試しだな。ついでに信用に足るかの確認か』

 

「そういうこった」

 

ガルドとカリスは一言二言の会話だけで互いの考えてることがわかっているかのような態度を示す。

 

「んじゃま、いっちょ行ってみるか」

 

『応よ!』

 

カリスが首を引っ込めると…

 

「親父!」

 

それと入れ替わるようにしてテントの中に入ってくる人影があった。

 

「ミュリア! お父さんはこれから大事な会談に向かうんだ。悪いが、今日はお前の相手を…」

 

ブンッ!!

 

人影に対して抱き着こうと手を広げていたガルドが最後まで言い終わる前に、ミュリアと呼ばれた人影から拳が飛んでくる。

 

バキッ!!

 

「ぐっはっ!?」

 

ガラガッシャァンッ!!

 

その拳がガルドの顔面を捉えると共にガルドは後方へと吹き飛び、家具を巻き込みながらその家具に埋もれてしまう。

 

「誰がテメェの相手なんぞするか! そんなことよりもイーサ王国から使者が来たんだって!?」

 

そう尋ねた『ミュリア』という人物は腰まで伸ばしたアッシュブロンドの髪を黒いリボンでポニーテールに結い、翠色の瞳、可愛らしくも整った綺麗な顔立ちに細過ぎず太過ぎない標準的な体型の少女だった。

口調からしてかなりの男勝りな性格だろうとは予測出来るが…。

 

「ククク…相変わらずあいつに似て良い拳だ…」

 

鼻血を垂らしながら家具の山から出てきたガルドは特に目立った外傷もないが、逆に不気味な笑みを浮かべて喜んでさえいるように見える。

 

「てか、それをどこで聞きつけたんだ? 我が愛娘よ」

 

家具の山から出てくると共に娘の発言が気になって尋ねていた。

 

「見慣れない騎馬がいたからそいつに聞いた。それよりも…」

 

ミュリアが話の続きを促そうとしたら…

 

「なにぃ?! 俺の可愛いミュリアに話しかけられただぁ!? 今すぐにたたっ斬って…」

 

ガルドが槍を持って外に出ようとしたので…

 

「や・め・ろ・ッ!!!」

 

ズガンッ!!

 

再びミュリアの鉄拳がガルドの顔面にクリーンヒットする。

 

「ぐっふぁっ!?!」

 

ドンガラガッシャァンッ!!

 

そう叫びながらガルドが再び家具の山に埋もれる。

 

「ったく、いちいち面倒な親父だな。オレが誰と喋ろうとオレの勝手だろ」

 

すると…

 

『おい、ガルド! いつまで待たせやがる!』

 

カリスが首だけをテントの中に突っ込んで怒鳴る。

 

「ぐぅっ…い、今行く」

 

家具の山から這い出ると、出入り口の方に向かって匍匐前進(ほふくぜんしん)のように地を這って移動する。

 

「オレも連れてけ」

 

ガルドがミュリアに到達すると同時にミュリアがガルドを見下ろしながらそう言う。

 

「だ、ダメだ…」

 

ガルドは拒否するが…

 

「いいから連れてけ。向こうがどんな奴を使者にしてきたか興味がある。それに"あの噂"の真意も気になるしな」

 

ミュリアは断固として引かなかった。

 

『噂? あの例のイーサ王国が最近になって雇ったとかいう狼ってやつか?』

 

未だ首を引っ込めてなかったカリスがミュリアに尋ねる。

 

「そうだよ。それで帝国の奴らを押し止めてるんなら、最近変なカラクリで勢力を増してきた帝国とも互角以上に渡り合えるかもしれねぇじゃねぇか。それにイーサ王国はその狼を使ってラント諸島と手を組んだっていうじゃねぇか」

 

イーサ王国とラント諸島の同盟情報はシルファーによって既に各方面に拡散させていたりする。

 

「もし、こっちにも来てるんならその実力を直接この目で確かめたいじゃねぇか」

 

『確かになぁ』

 

ミュリアの言葉に同意するようにカリスも頷く。

 

「だ、だからと言ってミュリアを危険な場所に連れていくのは…」

 

「いつまでもオレを子供扱いすんじゃねぇよ!」

 

そんなガルドの言葉を一蹴してミュリアはテントの外に出る。

 

『お前の負けだぞ、ガルド。あいつの血気盛んさはお前に似てんだから諦めな』

 

そう言ってカリスも首を引っ込める。

 

「ぐぬぬ…」

 

釈然としない想いを抱きながら、ガルドも槍を持って外に出る。

 

そして、カリスの背にガルドとミュリアが乗るとエルメス達が待つ集落へと飛び立つのだった。

 

………

……

 

エルメス達が集落に案内されてから一刻半程の時間が過ぎた頃だった。

 

「ここに向こうの姫さんがいる訳だが…あんま粗相はするんじゃないぞ、ミュリア」

 

「わぁってるって…そのくらいの立場くらい心得てらぁ」

 

ガルドとミュリアが集落に到着し、カリスの背から降りていた。

 

『お前も姫さんの前で恥曝すなよ』

 

ガルドに向かってカリスも"親バカ"という醜態を曝すなと釘を刺していた。

 

「んなもん、わかってんだよ」

 

そうは言いつつも周囲に殺気をまき散らしてるように見えるのは気のせいだろうか…?

 

『やれやれ…』

 

カリスが呆れてる合間に2人はエルメス達が待機しているテントへと案内されるのであった。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

「おう」

 

テントの前まで来ると、ガルドとミュリアは頷き合ってから…

 

「トゥアルダス族長、ガルド・トラジェディス」

 

「同じくその娘、ミュリア・トラジェディス」

 

「イーサ王国のエルメス王女への謁見に馳せ参じた。謁見の許可を…」

 

自らの名と部族を名乗ると、仰々しい言葉でテント内にいるであろうエルメス達に尋ねていた。

 

「は、はい。どうぞ」

 

当のエルメスからの返事は緊張からか少し震えてるようにも聞こえた。

 

「(ホントに大丈夫なのかよ?)」

 

その声を聞いてミュリアは内心で不安になる。

 

「失礼する」

 

ガルドがそう言ってテントの中に入ると…

 

「おっと…」

 

ミュリアも慌ててガルドに続いて中に入る。

 

テントの中に入ると…

 

「初めまして、トラジェディス様。私がエルメス・ファル・イーサです」

 

そう挨拶するエルメスは奥の椅子に座っており、その隣には智鶴が立っていた。

さらに右側に暗七と吹雪、左側にシアとカーネリアが控えるように立ち並んでいた。

 

「(女ばっかりだな…)」

 

その光景を見てガルドは内心で複雑な心境になっていた。

 

「それでイーサ王国の王女ともあろうお方が我がトルネバ連合国にどういったご用件で?」

 

わかってはいるものの、形式的にそう尋ねていた。

 

「私達、イーサ王国は対帝国に向けてトルネバ連合国との同盟を結びたいと考えております」

 

エルメスはハッキリとそう答える。

 

「(濁してくるかと思えば、ド直球だな)」

 

ガルドはエルメスの対応を意外に思いつつ…

 

「同盟の話は分かった。が、それだけじゃなぁ」

 

そう答えていた。

 

「………何か、ご所望なのですか?」

 

何かを要求されることを想定してか、エルメスはそう言葉を紡ぐ。

 

「いや、物はいらねぇ。ただ、イーサ王国の実力ってのを俺は知りたくてね。誰だって背中預ける身になりゃ、そいつの実力を知りたいと思うのは当然だろ?」

 

そう言ってガルドは自らの得物である槍を差し出してみせた。

 

「少なくとも俺は…いや、俺達は実力のない国と同盟を組むなんざ御免だ。それだったら俺達だけで帝国に仕掛けるだけだ」

 

「……っ」

 

ガルドの言葉にエルメスが息を呑むのがわかる。

 

「とは言え、こんな戦時で呑気に軍団戦をする余裕もないか。なら、手元にある戦力でどれだけやれるか測るのが最適だが、見たところ女だけだし、また日を改めて出直し…」

 

そこまで言った瞬間だった。

 

「っ!!」

 

ギィンッ!!

 

「あら、反応速度はそれなりね」

 

カーネリアが光の槍を用いて攻撃を仕掛けていた。

それをガルドは槍を盾に防いでいた。

 

「ちっ…」

 

「先を越されたわね」

 

見れば、吹雪は冥王化して氷の爪で右手を覆い、暗七もまた右腕を異形の腕へと変質させていた。

しかも前者は舌打ち、後者も物騒なことを言ってる。

 

「なっ!?」

 

その光景にミュリアは言葉を失う。

 

「女だからと侮ってもらっては困りますね」

 

ニコニコしているものの智鶴もまたスコルピアを起動させようとしていた。

 

「ちょっ、皆さん!?」

 

「は、早まらないでください!?」

 

一拍開けてエルメスとシアが慌てたように叫ぶ。

 

「………いいぜ。さっきの言葉は少し訂正してやる」

 

鋭い眼光をカーネリアに向けながらガルドが一歩だけ下がる。

 

「だが、ここじゃ場所が狭い。場所を変えて改めて勝負しようや」

 

「えぇ、いいわよ?」

 

ガルドの挑発に乗るようにカーネリアが応じる。

 

「ど、どうしてそうなるんですかぁ~!!?」

 

勝手に進む話にエルメスは嘆きの叫びをあげていた。

 

………

……

 

そして、一行はテントの外に出ると、戦いのルールを決めていた。

 

「悪いが、ここは俺達の庭みたいなもんだからな。こっちのルールに従ってもらうぜ?」

 

「えぇ、構わないわ」

 

ガルドの言葉にカーネリアが答える。

 

「ならルールは単純だ。カリス!」

 

『応よ!』

 

待機していたカリスがやってくると、ガルドがその背に跳び移る。

 

「この国は騎乗戦術が主流だからな。テメェらも何かに騎乗した上でこの辺一帯をぐるっと5周くらい走る。要は競争だな。但し、走りながらも戦闘行為は有効だ。それでどっちかが先にゴールするなり、落ちたら勝負はそこで終いだ」

 

単純だが、それだけにわかりやすく何よりも速さと技量が問われる勝負法と言える。

 

「そんな! 騎竜相手に勝てるわけが…!」

 

エルメスがそう叫ぶものの…

 

「はっ、やめるんなら今の内だぜ?」

 

ガルドからの挑発は終わらない。

 

「それなら私が参ります」

 

その挑発に乗ったのは…智鶴であった。

 

「確かにこの中で"騎乗"が出来るのはあなただけよね。ま、借りれば私達も出来なくはないわけだけど…」

 

「心配ご無用です」

 

カーネリアの言葉をあっさりと無視して智鶴が前に出ると…

 

「スコルピアちゃん、お願い」

 

『……御意』

 

スコルピアを起動させる。

 

「なんだ?」

 

『俺が知るかよ』

 

「蠍?」

 

目の前で白銀の蠍が現れたことにガルド、カリス、ミュリアは少なからず驚いていた。

 

「いくらエクセンシェダーデバイスとは言え、生身の智鶴で大丈夫なの?」

 

暗七が当然の疑問を智鶴に投げかける。

 

「大丈夫。しぃ君がいない分は私が頑張るから…」

 

「いや、そういう気持ちの問題じゃなくて…」

 

若干論点がズレてることを指摘するが…

 

「心配してくれてありがとう、暗七ちゃん。でも、本当に大丈夫だから」

 

智鶴はそう言って会話を断ち切ると…

 

「紅神眷属が女王、明幸 智鶴。しぃ君の代わりに参らせてもらいます」

 

そうガルドに向かって名乗りを上げていた。

 

『……ジェットフォーム』

 

ガキンッ!

 

スコルピアが蠍から戦闘機形態に変形すると、智鶴はその上に立つ。

また、変形時に次元刀が射出されて智鶴の手に握られていた。

 

「なんだか知らねぇが、女相手でも容赦しねぇぞ!」

 

バサァッ!!

 

その言葉を合図にカリスが飛翔する。

 

「スコルピアちゃん、追って」

 

『……はい』

 

智鶴の体に負担がない程度の速度でカリスを追いかける。

 

「智鶴さん…」

 

シアが心配そうな表情で見上げると…

 

ピピピ…!

 

「え…?」

 

アザゼルより持たされていた次元間通信機から着信音が響く。

 

 

 

一方、空に上がった2人は…

 

「それじゃあ、行くぜ?」

 

「はい!」

 

それぞれ滞空しながらスタートの合図を待つ。

 

「レディ…」

 

「…………」

 

『ゴオォォォ!!!』

 

カリスの咆哮を合図にして両者はほぼ同時に発進する。

 

「(まずはコースを把握しないと…)」

 

智鶴は速度を少しだけ落とすと、ガルドの背を追いかけるようにしてスコルピアを飛ばす。

 

「(まずは様子見ってとこか。ま、余所者が取るよくある手だ)」

 

ガルドは予想通りといった感じでカリスを飛ばしながら智鶴の出方を見る。

 

「(寒い…でも、このくらいならまだ我慢できる…!)」

 

バリアジャケットも無く、特殊な訓練も受けてない身としては空での高速移動はかなりの負担になるはずだが、それを智鶴は意識を強く持つことで耐えていた。

 

一方のガルドは昔からカリスの背に乗って空を飛んできたため、今更そのようなことは起きない。

むしろ、相棒と共に空を飛ぶことが当たり前のようになっているのだ。

 

そうこうしている内に、1周目が終わって2周目に突入する。

 

「スコルピアちゃん…」

 

2周目に入り、智鶴がスコルピアに声を掛ける。

 

『……コースは(おおむ)ね把握しました』

 

「それじゃあ、仕掛けましょう」

 

『……しかし、その場合…ご主人様への負担が…』

 

「私なら大丈夫。絶対に耐えてみせるから」

 

スコルピアの表面を撫でながらそう言う。

 

『……わかりました。ですが、危険と判断した場合は…』

 

「うん、わかってる」

 

その言葉を聞き…

 

ゴオォォッ!!

 

スコルピアがブースターを噴かして加速する。

 

「っ!」

 

身を屈め、スコルピアの装甲に左手を掛けることでその加速に耐えてみせる。

 

「(来たか。ならそろそろ…)」

 

ガルドがそう考えていると…

 

『オラァ! これは挨拶だ!』

 

クルリとカリスが反転しながらホバリング行動を取ると…

 

ゴアッ!!

 

口から火球を背後に迫ってきていた智鶴とスコルピアに放っていた。

 

「っ!?」

 

『……迎撃します!』

 

ブラッドシューターで火球を迎撃するが、威力の違いから完全には打ち消せないでいた。

 

『……ご主人様、しっかりつかまってください!』

 

そう言うと…

 

ギュイィンッ!!

 

スコルピアは火球を回避するべく機体を右側へと大きく回転させていた。

 

「くぅぅっ!?」

 

そのGに耐えるべく智鶴も歯を食いしばっていた。

 

「流石は相棒。よくわかったな」

 

『はっ! 伊達にテメェとの付き合いは長くないからな!』

 

そう言い合いながら智鶴とスコルピアが失速したのを見ると、カリスは再び反転して翼を羽ばたかせて大きく引き離しに掛かっていた。

 

「っ! スコルピアちゃん!」

 

『……ですが…!』

 

智鶴が何を言おうとしているのかわかり、スコルピアは反発しようとする。

 

「いいの! しぃ君は…もっともっと辛いことを1人で背負い込んでるから…だから、このくらいで私は負けたくないの! しぃ君の…しぃ君の隣にいたいから…!」

 

『……わかり、ました…』

 

智鶴の覚悟を聞き、スコルピアは智鶴こそが我が主なのだと再認識しながらカリスに追いつくべく加速した。

 

「くっ…(く、苦しくて…寒い…でも…!)」

 

その加速に耐えながら智鶴は目の前にいるガルドを追うことを考える。

そう考えてる内に3周目へと突入する。

 

「ほぉ、一度失速したのにまだ加速するか」

 

『無茶な加速ほど無謀な奴はいないが…』

 

「そいつらは例外なく何らかの覚悟を持った厄介な奴、か…」

 

『どうするよ?』

 

「決まってんだろ?」

 

『だな』

 

智鶴の加速を背後に感じながらガルドとカリスは話し合い…

 

『「全力を以って相手してやるよ!!」』

 

その相手を強者として認め、全力で相手することを宣言した。

 

『行くぜ!』

 

再び反転すると、カリスは智鶴とスコルピアに向けて…

 

ゴアッ!!×5

 

5発の火球を放ち…

 

「風よ、薙ぎ払え! ガスト・スラッシャー!!」

 

同じくガルドも頭上で槍を回転させながら風を巻き起こすと、その替えを無数の刃と化して放っていた。

 

『……現状での回避運動は…不能!?』

 

スコルピアは智鶴を乗せた状態での回避行動を計算したが、現実は非情なものであった。

いや、智鶴のことさえ考えなければすべてを回避するスペックをスコルピアは秘めている。

 

「スコルピアちゃん!」

 

『……ご主人様…すみません…!』

 

智鶴の強い口調にスコルピアは"智鶴のことを考えない回避行動"を行い、火球と風の刃を高速状態のまま回避することにした。

 

「マジかよ!?」

 

『アレを避けんのか!?』

 

ガルドとカリスもその回避能力に驚いていた。

 

が…

 

バッ!

 

「ぁ…」

 

遂に智鶴の肉体が限界に達し、スコルピアの装甲から手を離してしまった。

 

『……ご主人様!?』

 

それに気づいたスコルピアであったが、変形して助け出すまでの時間はない。

何故なら…

 

ゴアァァ…

 

まだ回避してなかった最後の火球がスコルピアから離れた智鶴へと直撃するコースを取っていたからだ。

 

「やっべ…!?」

 

ガルドも事の重大さから引き返そうとカリスを蹴るが…

 

『間に合うかよ!』

 

カリスも動こうとしながらそう叫んでいた。

 

「(ごめんなさい…しぃ君…私、何も…)」

 

目の前に広がる火球が激突することを予感しながら智鶴は一筋の涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その誰しもが間に合わないと覚悟した時だった…。

 

ブロロロロ…!!

 

この場に似つかわしくないエンジン音が響いたのだった。

 

「なんだ!? この音は?!」

 

『だぁ! なんかうるせぇな!!』

 

『……この反応は…!』

 

ガルドとカリスは聞き慣れない音に過敏に反応し、スコルピアはその反応を感知して驚いていた。

 

「ソニック・ロード!」

 

ブォンッ!!

 

空中に魔力で形成された道が現れると共に一台のバイクが走り抜け…

 

「ブリザード・フィスト!」

 

智鶴の目の前まで迫った火球を凍らせて砕き…

 

抱きっ…

 

「ぇ…?」

 

智鶴をお姫様抱っこしていた。

その感触に智鶴は自然と目を自分を抱き留めた人物に向けると…

 

「ぁ…」

 

その人物の存在に安心したのか、今度はボロボロと涙を流していた。

 

「智鶴、あまり無茶をしないでくれよ」

 

その人物とはもちろん…"アステリアに乗った忍"であった。

 

「しぃ、君…!」

 

智鶴は愛する者の名を呼ぶ。

 

「話は移動中にシア達から聞いた。さてと…」

 

魔力道の中盤でブレーキを掛けると共に空にいるガルドとカリスを見上げると…

 

「選手交代だ、トルネバの大将さん。こっからは俺が相手になるぜ?」

 

不敵にもそんな宣言していた。

 

「はっ、若造が妙なもんに乗りやがって…それで俺達に勝てる気か?」」

 

ホバリングを続けるカリスの背でガルドが忍に尋ねる。

 

「勝つ。ここまで頑張った智鶴のためにもな!」

 

そして、ガルドを目の前にして勝利宣言をする。

 

「はっ、女のために勝つたぁ…いい度胸だ。いいぜ、そいつとの交代を認めてやってもよ!」

 

「感謝する」

 

そう言って智鶴をバイクの後部に座らせると…

 

「んじゃあ、行くぜ!」

 

「来いや、小僧!」

 

ブゥウンッ!!

 

3周目の途中からだが、智鶴に代わり忍が競争を再開された。

 

「きゃっ!」

 

いきなりのスタートに驚いて智鶴は忍の背中に抱き付いていた。

 

「アステリア、補助は任せるぜ!」

 

『了解』

 

「行くぞ、カリス」

 

『言われなくてもわかってらぁ!』

 

そう叫びながら互いに速度を上げる。

 

「空中に道を作って走る奴なんざ初めて見たぜ! テメェ、何者だ!?」

 

カリスを下降させ、忍と並ぶように飛翔しながらガルドが尋ねる。

 

「こっちじゃ"イーサ王国の狼"で名が通ってると思うが?」

 

4周目に突入すると共に忍はそう答えていた。

 

『こいつが狼だと!?』

 

その答えにカリスが驚いていた。

 

「そういうこった。だから、遠慮なく行かせてもらうぜ!」

 

そう言うと忍はライト・フューラーを起動させてガルドに向けていた。

 

「っ!」

 

「こういう攻防もありなんだろ? レッド・バレット!」

 

ドンッ!!

 

言うが速いか、忍はガルドに向けて火属性の弾丸を発砲していた。

 

「ちっ!」

 

ガルドはそれを槍で軽く弾くと…

 

「ウイング・スライサー!」

 

返す槍で弧状の風の刃を忍に放っていた。

 

「ソニック・ロード!」

 

魔力道を分岐させると、その下を天井走りのように走り、分岐させた元のソニック・ロードをウイング・スライサーに対する盾として使用した。

 

「テメェ、非常識か?!」

 

ガルドが驚いてる間にソニック・ロードが途中からクルリと反転してそれに合わせるようにアステリアに乗る忍も元の状態になる。

 

「こっちの世界に足を踏み入れてからは常に非常識の連続だったんでね」

 

これまでの出来事を思い出しながらそう答える。

 

「(こいつ…!)」

 

ガルドは本能的にまだ若い忍がそれなりの修羅場を潜ってきたのを感じていた。

 

「しぃ君…!」

 

それでも忍はアステリアに智鶴を乗せている。

さっき以上の無茶はしないとガルドは踏んでいた。

 

「智鶴、しっかり掴まっててくれよ!」

 

しかし、忍はそのままアステリアをさらに加速させていた。

 

「なにぃっ!?」

 

更なる加速にガルドも驚く。

そして、遂に5周目に突入する。

 

「これがラストスパート! なら出し惜しみは無しだ!」

 

スロットルを全開まで回し、魔力伝達率を底上げさせる。

 

「くそったれが! カリス!」

 

『わぁってるけどよ!』

 

カリスもまたラストスパートを掛けるべく加速していた。

 

「(こりゃ負けか?)」

 

ガルドの"直感"がそう告げていた。

 

「うおおおおッ!」

 

『オラアアアア!!』

 

その直感を本能的に察したカリスだったが、そんなものはお構いなしに忍との競争を最後までやり遂げていた。

 

結果はガルドの直感が当たり、アステリアの方がカリスよりも若干速くゴールしていた。

 

………

……

 

競争後…。

 

「もう…連絡があったから驚きましたよ」

 

アステリアの周りにエルメスとこちらにいる紅神眷属が集まってきていた。

 

「しぃ君、修学旅行は?」

 

「ちょっと調子悪いからって抜け出してきた。ま、見物どころでもなかったんだが…」

 

未だ背中に抱き付いている智鶴がジト目で忍を軽く睨むと、忍はそう答えていた。

 

「禍の団かしら?」

 

「あぁ、ちょっと京都で一悶着ありそうだ」

 

カーネリアの質問に頷いてみせる。

 

「でも、だからってこっちに来るなんて…」

 

「流石に居ても立っても居られなくてな…夜には戻るから大丈夫だって」

 

そう話を切り上げると…

 

「とにかく、今は…」

 

忍はガルドに視線を向けた。

 

「勝負は勝負だ。途中で交代ってのも認めた上で負けちゃ言い訳もねぇよ」

 

休むカリスの横に立つガルドはそう言うと…

 

「なるほど。これが狼か…いいぜ、同盟を組んでやるよ」

 

忍を一瞥してからエルメスに向かって同盟を組むことを承諾していた。

 

「(それにホントは組んだ方が良いって思ってたしな)」

 

競争前のカーネリアの一撃を受けた時、直感的に組むことを既に考えていたが、あっさりと組んでも面白くないとの考えから今回の競争を画策したのだった。

 

その後の同盟はエルメスに任せ、忍はアステリアに乗って地球へと帰還していた。

地球に到着した頃には既に京都は夜になっていた。

 

部屋に戻ろうとすると、何故か教会三人娘と擦れ違ったのだが、様子が変なのに気付いたものの特に気にはしなかったのだった。

 

そして、修学旅行の三日目。

英雄達が動き出す。

 

 

 

 



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第四十六話『修学旅行三日目・英雄達との戦乱』

修学旅行も三日目である。

 

イッセー達のグループは午前中から嵐山方面を攻めていた。

その途中、天龍寺で初日にイッセーと忍を襲撃し、昨日それを謝罪した九尾の御大将の娘『九重(くのう)』が案内を申し出ていた。

 

昼食時、同じく湯豆腐を食すためにやって来た木場のグループや萌莉のグループ、昼酒を飲むアザゼルとそれを咎めるロスヴァイセ、さらに同じく京都に修学旅行に来ていたクリス達私立リディアン音楽院の二年生グループといったメンバーと遭遇していた。

 

「げっ、忍!?」

 

「よぉ、クリスもこっちに来てたのか」

 

この一言ずつで互いのグループから追及を受けることになる。

 

「し、忍! お前、リディアンの生徒と知り合いだったのか!?」

 

「し、しかもあんな美少女と! 明幸先輩に言いつけるぞ!」

 

松田と元浜が忍に問い詰め…

 

「ね、ね、雪音さん。あの人とどういう関係なの?」

 

「見たところ駒王学園の生徒だよね?」

 

クリスと一緒にいた女生徒達もクリスに詰め寄っていた。

 

「いや、その…何と言っていいのやら…」

 

忍がお茶を濁そうとする一方…

 

「べ、別に忍とは"居候同士"だし、特にそんな関係とかは…」

 

クリスは不用意な一言を言ってしまっていた。

 

「「「「「居候同士!?」」」」」

 

事情を知らない一般生徒からしたら驚くに値する事実だったらしく皆一様に大声を出した後、すぐに周りの他のお客さんに対して謝っていた。

 

「(あちゃ~…)」

 

表情には出さないが、忍も内心で頭を抱え…

 

「あ…」

 

クリスも自分の失言に今更ながら気づいたようだ。

 

「忍! お前、明幸先輩と同居してるだけでなく、そこの銀髪巨乳美少女とも同棲してんのか?!」

 

「なんて羨ま…いや、()しからん奴だ!」

 

松田と元浜がさらに問い詰めるが…

 

「いやぁ、ここの湯豆腐は美味いな」

 

忍は湯豆腐を堪能するのだった。

 

「「誤魔化すな!!」」

 

それでも松田と元浜の追及は終わらなかった。

 

「雪音さん、本当なの?」

 

「あんなカッコいい人と同居してるとか…」

 

「でも、話を聞く限り向こうには恋人らしい人がいるように聞こえるんですが…?」

 

「それは…その、なんだ…」

 

こっちはこっちで矢継ぎ早に問われるのにどう対応していいのやら困るクリスの姿があった。

 

ちなみに…

 

「美味しい?」

 

『きゅっ!』

 

萌莉は大きめのバッグの中に入れているファーストに湯豆腐を隠れながら食べさせていたりする。

 

「あはは、若いってのはいいもんだねぇ」

 

そんな光景を見てアザゼルも笑っていた。

 

「聞いてるんですか?! アザゼル先生!」

 

ロスヴァイセに説教をされながらだが…。

 

その後、昼食を取ったそれぞれのグループが店を出ると、それぞれの目的地へと足を運ぶのだった。

そして、イッセー達が渡月橋を渡り切った時だった。

ぬるりとした生暖かい感覚がイッセー達(三大勢力及び妖怪などの関係者)を包んでいた。

 

………

……

 

「な、なんだ?」

 

「これは…霧?」

 

京都の街並みのはずなのに、そこにはイッセーや忍達以外の人間はいなかった。

差異があるとすれば、足元に霧があることぐらいだろうか…。

 

「お前ら、無事か?」

 

「イッセー君!」

 

「忍!」

 

「し、忍さん!」

 

そこへ空から黒い翼を広げたアザゼル、地上からは木場、クリス、ファーストの入ったバッグを担いだ萌莉が合流していた。

 

「こいつはおそらく『絶霧(ディメンション・ロスト)』の仕業だろう」

 

絶霧(ディメンション・ロスト)』。

13ある神滅具(ロンギヌス)の中でも上位に部類される神器である。

その能力は霧で包み込んだものを任意の場所へと転移させることも可能で、使い方によっては国一つ滅ぼすことが出来ると言われている。

 

皆が合流したのを見計らったかのように渡月橋の反対側に複数の気配が現れる。

 

「! 何か来ます!」

 

それを匂いで探知した忍が叫び、それに応じて各自臨戦態勢に移る。

 

「噂通り、随分と鼻が良いようだね。それと初めまして、アザゼル総督、冥王に連なる人狼、そして赤龍帝」

 

渡月橋の中央まで歩いてくる人物がそう言って軽い挨拶をする。

その人物は黒髪で学生服の上から漢服らしき民族衣装を羽織り、その手には不気味なオーラを放つ槍を持っていた。

 

「お前さんが噂の英雄派を束ねてる男か?」

 

アザゼルが前に出ると、槍を持つ男に尋ねる。

 

「えぇ、『曹操(そうそう)』と名乗らせてもらっている。一応、三国志で有名な曹操の子孫…ってことになるけどね」

 

アザゼルの問いに曹操と名乗った男はそう答える。

 

「全員、あの男の持つ槍には絶対に気をつけろ。最強の神滅具『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』。神をも貫く絶対の神器。神滅具の代名詞となった原物だ」

 

その言葉に神器を知る者は誰もが険しい表情をする。

わかっていないのはそれほど詳しくないイッセー、忍、クリス、萌莉などだったりする。

 

「貴様! 一つ訊くぞ!」

 

あおこに九重が憤怒の形相で曹操に叫ぶ。

 

「これはこれは小さき姫君。わたくし如き者に一体何を聞きたいのでしょうか?」

 

平然としてるが、明らかに何かを知ったような口調である。

 

「母上をさらったのはお主達か!?」

 

「左様で」

 

九重の問いをあっさりと肯定する。

 

「母上をどうするつもりじゃ!」

 

「お母上には我々の実験にお付き合いしていただくだけですよ」

 

「実験? お主達、何を考えておる?」

 

「ふむ…強いて言うならスポンサーの要望を叶えるため…と言っておきましょうか、建前上は」

 

曹操の答えを聞いて九重は歯を剥き出しにして悔しそうに涙を流していた。

 

「スポンサー…オーフィスか? しかし、解せん。俺達に姿を見せた理由は何だ?」

 

「隠れる理由がなくなったからですよ。それと実験前に挨拶と手合わせをと思いましてね」

 

不敵な曹操の発言に…

 

「わかりやすくて結構なこった。九尾の御大将を返してもらうぜ?」

 

光の槍を構えるアザゼルに続き、各自戦闘モードに移行する。

その際、イッセーは籠手からアスカロンを抜いてゼノヴィアに投げ渡していた。

 

「ふむ…ザッと見て悪魔が多いかな? なら、レオナルド。悪魔用のアンチモンスターを頼む」

 

曹操は自分の隣にやって来た男の子…『レオナルド』にそう頼んでいた。

 

すると…

 

ブゥンッ…

 

男の子の足元から不気味な影が広がり、そこから100体ものモンスターが現れる。

モンスターの肌は黒く、体は肉厚であり、爪も鋭く、牙も剥き出しという風貌だった。

 

「『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』か」

 

アザゼルの表情が少し険しくなる。

 

魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』。

13ある神滅具の中でも絶霧と並び、上位に部類される神器。

その能力は所有者のイメージした魔獣を創造することが出来る能力を持ち、所有者の想像力次第では映画に出てくるような怪獣も創造出来る。

さらに使い手次第ではそれを数十、数百単位で創造してしまう危険極まりない代物だったりする。

 

「ご名答。さらに言ってしまえば、レオナルドはアンチモンスターを生み出す才に恵まれていてね。これまで刺客を送り込んでデータ収集をしてきたから悪魔、天使、ドラゴンなどメジャーな存在のアンチモンスターなら創れるようになったよ」

 

「それに加えて禁手使いも増やす算段もしてるとは…厄介極まりないが、神殺しの魔物だけは創れてないようだな?」

 

「…………神はこの槍で屠るからいいのさ」

 

曹操とアザゼルの会話が終わった瞬間…

 

「さ、戦闘(ゲーム)の始まりだ」

 

曹操の言葉が開戦の合図となる。

 

「お前の相手は俺がしてやるよ。禁手化(バランス・ブレイク)

 

そう言うとアザゼルは人工神器に黄金の龍王・ファーブニルを封じた宝玉をセットすると、手早く禁手化して黄金の鎧を纏い、黒き翼を広げる。

 

「これは光栄の極み! かの聖書に記されし堕天使の総督がこの俺と戦ってくれるとは!」

 

まるで芝居がかったような口調で槍を構えると、槍の先端が開いて光り輝く金色のオーラで刃が形作られる。

 

そして、アザゼルと曹操は互いに槍での攻撃をしながら川の下流へと移動していった。

アザゼルが曹操との戦闘を開始した直後…

 

「萌莉は後方待機。クリス、後方支援を頼む」

 

忍はテキパキと自分の眷属達に指示を送っていた。

 

「(忍の奴、慣れてやがるな…俺だって!)」

 

忍の姿を見てイッセーも考え出す。

 

「(部長達はいない。なら、誰でもいいから部長の代わりをしないとならない。こういう時、部長ならどうする?)」

 

イッセーはリアスがどのように考えて眷属を動かすか考えた。

 

「ゼノヴィア! アーシアと九重の護衛を頼む!」

 

「ッ! クリス! ゼノヴィアさんと連携してくれ! 萌莉はアーシアさんと九重ちゃんと合流するんだ!」

 

イッセーがゼノヴィアに指示を出すのと同時に忍もクリスと萌莉に追加指令を与えていた。

 

「っ! 了解だ!」

 

「ったく、しゃあねぇな!」

 

「は、はい…!」

 

言われた通りに萌莉はアーシアと九重と合流し、その3人をゼノヴィアとクリスが守りながら後方支援をするという構図になった。

 

「すまねぇ、忍!」

 

「気にしないでくれ! それよりも俺も前線に立つ! 対悪魔モンスターなら俺にはダメージは少ないからな」

 

そう言って忍はファルゼンを起動させて木場と共に前線に立った。

紅神眷属は実質2人しかいないため、役割を決めたら忍が前線に立つのは当然とも言える。

 

「あ、待てよ、忍!?」

 

忍から少しアドバイスでも貰おうと考えていたイッセーだが、忍が前に行ってしまった以上、自分で考えるしかなく、無い知恵をフル回転させて何とかしようとする。

 

「(あ、そうだ!)木場! お前、光を喰らう魔剣を創れたよな?!」

 

「え? うん………そうか!」

 

イッセーの意図を察した木場は魔剣の柄を創り出すと、それを眷属悪魔に放り投げる。

 

「それは普段、柄のみだ。闇の刀身を出したい時は魔力を送ってくれ!」

 

木場の補足説明を受け…

 

「ゼノヴィアはそいつを使って光を吸って防御してくれ! アーシアも不慣れだろうけど、ないよりマシだから持ってくれ!」

 

イッセーはゼノヴィアとアーシアにそう指示を付け足していた。

 

「やるな、イッセー!」

 

「は、はい!」

 

イッセーの指示にゼノヴィアとアーシアが答えて、それぞれ魔剣を持つ。

 

「イリナ! 悪いが、ゼノヴィアの代わりに木場や忍と一緒に前線に立ってくれ! 天使なら光の攻撃は平気だよな?!」

 

「確かに弱点じゃないけど…ダメージは受けるんだよ!? でも、わかったわ。私はミカエル様のA(エース)だもん!」

 

イリナが前線に加わり、3人の戦士によってアンチモンスターを屠っていく。

 

「よし、俺も行くぜ、プロモーション・僧侶!」

 

アスカロンの抜けた籠手に闇の剣の柄を差し込むと、そこから闇の盾が形成され、さらに僧侶にプロモーションしたことでイッセーの魔力が底上げされる。

 

「ドラゴンショット、乱れ撃ちだ!」

 

イッセーはクリスのように中距離での砲撃手となって皆を援護していた。

 

「赤龍帝の相手は私達がします!」

 

そんなイッセーの元に英雄派の女性戦士達が複数で向かってくる。

 

「っ! やめておけ、女性では赤龍帝に勝てないよ!」

 

白髪の優男がそう叫ぶが…

 

「プロモーション解除からのプロモーション・騎士! ついでに広がれ、俺の夢空間!」

 

時既に遅しと言わんがばかりにイッセーから謎の空間が広がる。

さらにイッセーは僧侶から騎士へと昇格変化を行い、速度を上げた上で乳の語る言葉に従って女性戦士達の攻撃を避けていた。

回避の際、女性戦士に触れることも忘れない。

 

「『洋服崩壊』!」

 

そして、女性戦士達の制服をバラバラにしていた。

 

「きゃああああ!?」

「魔術が施された服が…役に立たないなんて!?」

 

イッセーの洋服崩壊を喰らった女性戦士達は堪らず、近くの民家に駆け込んでいた。

 

「さ、最低な技じゃな。これほど酷い技は生まれて初めてじゃぞ…」

 

まだ幼い九重でさえこの反応である。

イッセーの精神は少しダメージを負った。

 

「やはり、女で赤龍帝は勝てないか」

 

白髪の優男はそう言うと…

 

「じゃあ、僕が相手になろうかな?」

 

一歩前に出て腰に帯刀していた複数ある剣の内の一本を抜く。

 

「初めまして、グレモリー眷属に噂の紅神眷属。僕の名はジーク。仲間からは『ジークフリート』と呼ばれてる。ちなみに英雄シグルドの末裔さ」

 

そう白髪の優男…ジークフリートは自己紹介していた。

 

「『魔帝(カオス・エッジ)ジーク』…!」

 

「そんな! 教会を裏切ったの!?」

 

ジークフリートの自己紹介を受け、ゼノヴィアとイリナが反応する。

 

「知り合い?」

 

斬艦刀にしたファルゼンを一薙ぎしてアンチモンスターを片付けながら忍が尋ねる。

 

「教会の悪魔祓いで教会内でも上位に入るほどの実力者だ。だが、この様子では"元"のようだが…」

 

その問いにゼノヴィアが答えると…

 

「まぁね。今は禍の団に所属してるわけだし…とまぁ、それはともかく剣士同士、剣で語ろうじゃないか。デュランダルのゼノヴィア、天使長ミカエルのA・紫藤 イリナ、聖魔剣の木場 祐斗。それと君もどうだい? 叢雲流魔剣術の叢雲 萌莉」

 

「っ!?」

 

思わぬ指名に萌莉はファーストの入ったバッグをぎゅっと抱きしめる。

 

「あらら、嫌われちゃったかな?」

 

萌莉の反応を見てジークフリートがそう呟いていると…

 

ガギィィィンッ!!

 

前線を忍に任せた木場が神速の速度で聖魔剣を振るったが、それをジークフリートは手にした魔剣で防いでいた。

 

「魔帝剣グラム。魔剣最強のこれならその聖魔剣も受けられる」

 

そう言って木場と鍔迫り合いを見せるジークフリートに…

 

「でやぁ!」

 

3人の護衛をクリスに任せたゼノヴィアが加勢に入る。

 

「おっと」

 

それを難なく避けるが…

 

「はぁ!」

 

背後からイリナが光の剣を突き刺そうとしている。

それに合わせるようにゼノヴィアが跳躍からの剣を振り下ろし、木場も神速を用いた撹乱戦法で死角を突く構えを取る。

 

「ふむ」

 

しかし、ジークフリートはグラムを背に回してイリナの攻撃を防ぐと、空いた方の手でもう一本魔剣を引き抜いてゼノヴィアの攻撃を弾く。

 

「バルムンク。北欧に伝わる伝説の魔剣の一本さ」

 

それでもまだ木場の攻撃が終わっていない。

死角を突いた攻撃は誰もが決まったと思わせたが…

 

ギィィィンッ!!

 

「残念。これも伝説の魔剣の一本、名はノートゥングという」

 

そう言って木場の攻撃を防ぐジークフリート。

その背中から銀色の鱗で覆われた腕が生えており、それが三本目の魔剣を抜いて木場の攻撃を防いでいたのだ。

 

「「「っ!?」」」

 

「この腕が気になるのかい? これは『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』。ありふれた神器の一つだけど…見ての通り、僕のそれは特殊でね。亜種なんだ。それがどういうわけか背中から生えてきてね」

 

驚く皆を前にジークフリートは悠々と説明を始める。

それを知って一度ジークフリートから離れる。

 

「同じ神器使い…! けど、あっちは剣の特性どころか、神器の能力も出してない…!」

 

木場が珍しく苦虫を噛み潰したような表情でジークフリートを見る。

 

「あ、ついでに言うと禁手にもなってないけどね」

 

「なっ…?!」

 

この発言で、木場も言葉を失う。

これまでの攻防をジークフリートは素の状態でやってのけたということになる。

 

この攻防で互いに一旦戦力を退いたところにアザゼルと曹操がそれぞれの陣に戻る。

見ると、2人の戦闘後の下流方面は…煙を上げ、荒地、焦土と化していた。

 

「心配すんな。お互い本気じゃねぇよ。ただの小競り合いだ」

 

アザゼルはそれだけ言っていた。

というか、小競り合いだけで地形が変わるというのも甚だ迷惑な気がする。

ここが通常空間でなかったことだけでも幸いか…。

 

その後、ヴァーリチームの魔法使い『ルフェイ・ペンドラゴン』と古代の神が造りしゴーレム的な量産破壊兵器『ゴグマゴグ』の乱入によって戦闘継続が困難と判断した英雄派がグレモリー眷属と紅神眷属、アザゼル達を元の空間に戻そうとしていた。

 

ただ、その際…

 

「我々は今夜この京都という特異な力場と九尾の御大将を使い、二条城で一つ大きな実験をする! 是非とも制止するために我らの祭りに参加してもらいたい!」

 

曹操はそれだけ告げていた。

 

そして、元の空間に戻った際に混乱が起きないように皆、戦闘形態をすぐさま解いていた。

 

その短くも長いような時間を過ごしたイッセー達は未だ冷めぬ戦闘特有の昂揚感に身を置き、険しい表情のままだったが、何とか平静を取り戻そうと努めながら、それを知らない松田や元浜、桐生達、グループの友人と残りの自由時間を過ごすのだった。

 

………

……

 

その夜、就寝時間を間近にしてイッセーと忍の部屋にグレモリー眷属+イリナ、シトリー眷属、萌莉、紅崎姉妹、アザゼル、レヴィアタンが集結していた。

クリスは別校なので仕方なく欠席している。

 

しかし、八畳一間にこれだけの人数が入ると、窮屈極まりないので立ち見や押し入れなど入れる場所やスペースを使って作戦会議に参加しているのが現状である。

 

作戦概要は以下の通りになった。

 

まず匙を除いたシトリー眷属は京都駅周辺で待機し、不審者が近づいてきた場合は全員で当たること。

 

次にグレモリー眷属+イリナに加えて匙はオフェンス。

要は九尾の御大将を奪還する任務を与えられている。

 

残った紅神眷属…その内、萌莉はシトリー眷属と共に京都駅周辺で待機、クリスはもとものためにリディアン側の防衛に徹するように指示が出る。

忍は匙と同じくグレモリー眷属に同行することになっている。

 

紅崎姉妹は雲雀がシトリー眷属に同伴し、忍の監視とグレモリー眷属への同行には緋鞠がついていくことになった。

 

さらに九尾の御大将の拉致事件及び、英雄派の実験の事は既に各勢力に通達されており、京都の外では悪魔、天使、堕天使、妖怪などの勢力が集結している。

その指揮をするのが魔王レヴィアタンとなる。

 

アザゼルは空から独自に英雄派を捜すそうだ。

 

また、ソーナ会長には連絡したが、リアス達にはグレモリー領での暴動が起きてしまい、伝わっていなかったりする。

ちなみにこの暴動を止めるべくリアスの母こと『亜麻髪の絶滅淑女(マダム・ザ・エクスティンクト)』、リアスこと『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』、リアスの義姉・グレイフィアこと『銀髪の殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)』が揃って出陣したとかどうとか…。

 

作戦会議後。

近くで痴漢事件が発生し、偶然居合わせたアザゼルによって撃退されたものの…その痴漢から赤い宝玉が出てきて、それがイッセーの可能性だと発覚した。

ここ連日の痴漢事件の増加はこの可能性の仕業ということも判明した。

なんて傍迷惑な可能性だろうか…。

 

そして、作戦開始時刻となり、オフェンス陣が二条城へバスで向かうべく京都駅のバス停に赴いた際、九重がイッセーに肩車するように飛びつき、同行を懇願していた。

ちなみに忍は緋鞠と共にアステリアに乗り、バス停の近くで待機している。

 

その時だった。

オフェンス陣の足元に霧が立ち込め、昼間に襲った感覚が再び起きたのだった。

そして、イッセーと九重、木場とロスヴァイセと匙、教会トリオ、忍と緋鞠といった組み合わせでそれぞれ異空間の別地点に転移させられてしまった。

バラバラにされたオフェンス陣は連絡を取り合い、二条城での合流となった。

しかし、バラバラに転移させられた先にはそれぞれの刺客が待っていた…。

 

 

 

イッセーや木場と連絡を取った後…

 

「で、どうすんのよ?」

 

アステリアの後部に横向きで座る緋鞠が連絡を終えた忍に尋ねる。

 

「とにかく、二条城を目指す。幸いアステリアも一緒に飛ばされたからな。俺達はこれで向かう」

 

「わかったわ」

 

「途中で英雄派の刺客に遭遇する可能性もあるから戦闘準備は怠らないようにしてかないとな」

 

そう言いながら周囲の匂いを確認しながらアステリアに跨る。

 

「ふ~ん…」

 

それを聞いて緋鞠はちょっと感心したような声を出す。

 

「な、なんだよ?」

 

「いえ、ちゃんと考えてるのね、って思ったのよ。あんな力を暴走させた人間の発言とは思えないくらいにね」

 

「ぐっ…」

 

先のグレイスとの一戦で見せた龍騎士の暴走のことを言われ、忍は何も言えないでいた。

 

「……発進する」

 

「ちょ、待ちなさいよ!」

 

忍の言葉に緋鞠は慌てて忍の腰に手を回す。

 

ブロロロロ…!

 

忍はそれを確認するとアステリアを発進させる。

 

 

 

それを近くの寺院の屋根から見る影が二つ。

 

「やれやれ…旧魔王派、フィロス帝国の次は英雄派に肩入れか。"あの方"も人使いが荒いわな…」

 

「そう言うな。これも"あのお方"の計画のためだ」

 

それはいつだったか、忍とイッセーをブリザード・ガーデニアへと転送した黒ローブの背後に控えていた6人のローブを頭まで被ったグループの内の2人だった。

 

「わぁってますよ、っと。ほんじゃま、それなりに仕事しますか」

 

「そうだな…」

 

バッ…!

 

そう言うと、ローブを被った二つの影は寺院の屋根から飛び降り、二条城へと向かう忍と緋鞠の元へと魔法陣を伝って何度も跳躍するのだった。

 

 

 

それを察知したのか…

 

「後方から追跡者が二名、前方にはアンチモンスター群…」

 

忍はそう呟いていた。

 

「敵?」

 

忍から発せられる警戒的な気を読んだのか、緋鞠はそう尋ねた。

 

「あぁ、恐らくは…」

 

そう答えると、忍はネクサスの起動コードを入力する。

 

「セットアップ!」

 

アステリアの走行方向に魔法陣が現れ…

 

バリィンッ!

 

魔法陣を通り抜けると同時に魔法陣が砕け散り、忍の体にバリアジャケットが纏われる。

 

「ライト・フューラー、レフト・フューラー、起動。アステリア、走行は任せる!」

 

『了解』

 

アステリアに走行を任せると…

 

「ハウリング・マグナム!」

 

ドォンッ!!

 

双銃をアンチモンスター群に向け、カートリッジ一発分の魔力砲撃をアンチモンスターへと発砲していた。

 

「ちと燃費は悪いが、威力は相応だぜ?」

 

ドゴォンッ!!

 

その魔力砲撃は着弾すると共に爆発してアンチモンスター群を一掃する。

 

「このまま押し通る!」

 

「無茶苦茶するわね!?」

 

忍に引っ付いていた緋鞠が抗議するような声を出す。

 

魔剣創造(ソード・バース)

 

だが、その声と共にそれを阻むかのような勢いで空から無数の魔剣が降り注いで地面に突き刺さる。

 

「っ!?」

 

キィィッ!!

 

その光景に忍は思わず車体を横に向けて急停止を行っていた。

 

「これは…木場君と同じ神器!?」

 

忍が驚いていると…

 

シュタッ!

 

「ピンポ~ン♪ とは言え、俺の神器じゃないけどさ」

 

「………」

 

ローブの纏った二人組が魔剣を挟んで忍と緋鞠の反対側に降り立つ。

 

「お前達は…英雄派か?」

 

警戒しながらアステリアを降りる忍は目の前のローブに対して質問していた。

緋鞠もいつでも動けるようにアステリアから降りる。

 

「ん~、一応は英雄派…の食客かな?」

 

何とも曖昧な返答である。

 

「ま、別に俺らがどこの誰だっていいじゃん。要は殺し合えれば、さ」

 

そう言うとよく喋る方のローブは巨大な鎌を何処からともなく取り出す。

 

「あ、こいつは死神の鎌だよ。文字通り、魂を刈り取るぜ?」

 

鎌を忍と緋鞠に向けながら微かに見える口元がニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「喋り過ぎだ…行くぞ」

 

ジャキンッ!

 

もう片方のローブが両手によく似た形状の剣を創り出すと、一気に忍と緋鞠に向けて駆け出す。

 

「はいよ!」

 

鎌を持ったローブもまた空中を蹴って忍と緋鞠に向かう。

 

「緋鞠さん! お前は双剣使いを頼む。俺は死神を相手する!」

 

ライト・フューラーを待機状態に戻すと、代わりにファルゼンを起動させて死神ローブを相手するべく空中を蹴って移動する。

 

「あたしに命令しないで!」

 

そうは言うものの緋鞠も双剣ローブを相手するべく自らの爪を伸ばして素早く移動する。

 

 

 

「あらよっと!」

 

大振りなモーションで鎌を振るう死神ローブ。

 

「はっ!」

 

それを忍は空中を蹴って頭上に回避すると、レフト・フューラーを死神ローブに向けて魔力弾を発砲する。

 

「おろ、っと」

 

その魔力弾を死神ローブは鎌を軸に回転しながら回避してみせるが、傍から見たらふざけてる様にしか見えない。

 

「(こいつ、ふざけてんのか? それともわざと…?)」

 

その動きをどう捉えていいのかわからず、忍も困惑する。

 

「(いやぁ~、適当に遊んで帰りますか)」

 

忍の困惑など無視して死神ローブはそんなことを考えていた。

 

 

 

「はぁ!」

 

伸ばした爪に紅蓮の焔を灯しながら緋鞠は双剣ローブと打ち合っていた。

 

「っ!」

 

ヒュッ!

 

距離が開くと同時に双剣ローブは自らの武器である双剣を緋鞠に投擲した。

 

「ふんっ!!」

 

それを緋鞠は爪で弾き飛ばすが…

 

「………」

 

双剣ローブは"投擲した双剣と全く同じ双剣"を創り出すと、緋鞠に急接近する。

 

「ちっ!」

 

緋鞠は思わず回し蹴りでそれを迎撃する。

 

「………」

 

それを双剣ローブはバッと後ろに飛び退くことで回避する。

 

 

 

シュタッ!

 

互いに数合だけ打った後、忍と緋鞠はアステリアのそばに着地し、それと相対するようにローブコンビも着地する。

 

「ん~…ま、こんなもんかな?」

 

鎌を首の後ろに横向きで担ぎ、そこに両腕を絡めながら死神ローブは呟く。

 

「曹操達なら二条城の本丸御殿で待ってるよ」

 

「なに…?」

 

あっさりと曹操達の居場所を教えた死神ローブに忍は疑問を抱く。

 

「はい、俺らのお仕事終了。お疲れちゃ~ん♪」

 

言うが早いか、手早く転移陣を敷くとローブコンビはその場から姿を消していた。

 

「なんだったのよ、あいつら…」

 

「わからん。が、今はともかく急いで皆と合流しよう」

 

「えぇ…」

 

忍と緋鞠は疑問を抱きながらもアステリアに乗ると、二条城を目指して再び発進した。

 

………

……

 

忍と緋鞠が二条城に到着した時には既に他メンバーがの揃っていた。

 

「忍、随分遅かったな」

 

「来る途中で刺客と遭遇したのかい?」

 

アステリアから降りる忍に既に禁手状態のイッセーと木場が近寄って尋ねる。

 

「あぁ…それらしい人物2人と少しだけやったが…勝手に向こうから退いちまった」

 

それを聞いてイッセーと木場は顔を見合わせる。

聞けば、どちらも刺客達と戦い、撃破してきたという…。

 

「あいつらは自分の事を英雄派の食客と言っていた。つまり、外部からの助っ人か、協力関係にあるのかもしれないな」

 

「英雄派と繋がりのある組織、か…」

 

「何がなんやらだな…」

 

忍の言葉に木場は神妙な面持ち、イッセーは頭を掻いていた。

 

「あ、それとその内の1人が木場君と同じ神器を使ってたよ?」

 

「魔剣創造を…?」

 

「あぁ、そっちは緋鞠さんに任せたけど…」

 

そう言って微かに見た緋鞠と双剣ローブの戦いを思い返してみる。

 

「木場君と違って同じ剣を何度も創ってそれを使い捨てにしてるような感じだったかな? 俺が相対したわけじゃないから全貌までは把握出来なかったけど…」

 

そうこう話してる内に…

 

ゴゴゴゴゴ…!!

 

二条城の巨大な門が開く。

 

「英雄派は演出好きなのか?」

 

「だね。向こうもお待ちかねのようだ」

 

「ったく、舐めやがって…!」

 

そして、全員で敷地内へと入り、本丸御殿を目指す。

 

 

 

本丸御殿に到着した一行を待ち構えていた英雄派との戦いはゼノヴィアのフライング先制攻撃で開始した。

 

また、英雄派は京都という特異な力場と、そこを治める九尾の御大将の力を用いてグレートレッドを呼び出すことにあった。

そして、呼び出したグレートレッドを調査したいような発言もしていた。

 

対戦カードは以下のような感じだ。

 

木場&錬金術によってエクスカリバーを鞘として用いた新生デュランダル『エクス・デュランダル』を持つゼノヴィアvsジークフリート。

 

イリナvs英雄ジャンヌ・ダルクの魂を受け継ぐ神器『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』を保有する女性『ジャンヌ』。

 

ロスヴァイセvs英雄ヘラクレスの魂を受け継ぐ神器『巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)』を保有する巨躯の男『ヘラクレス』。

 

龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)』した匙vs洗脳されて巨大な九尾の狐と化した九尾の御大将『八坂』。

 

そして、イッセー&忍vs曹操。

 

緋鞠はアステリアと共にアーシアと九重の護衛となっている。

 

しかし、戦況はあまりよろしくはなかった。

禁手のバーゲンセールと形容する程の事態が起きたのだ。

 

ジークフリート、ジャンヌ、ヘラクレスの三名が禁手化したのだ。

 

ジークフリートの龍の手(亜種)。それは亜種の禁手『阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)』。

文字通り、腕が六本に増え、腕の分だけ倍加するという単純にして強力な能力である。

 

ジャンヌの聖剣創造。それは亜種の禁手『断罪の聖龍(ステイク・ビクティム・ドラグーン)』。

聖剣で作り上げられた巨大な龍を使役するというもの。

 

ヘラクレスの巨人の悪戯。その禁手『超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)』。

全身からミサイル状の突起を生やして撃ち出すというもの。

 

 

 

「これが俺達、人間なりのインフレの仕方だよ。こうでもしなきゃ君ら超常の存在とは渡り合えないからね」

 

その様子を見て曹操がそうイッセーと忍に伝える。

 

「それが英雄派の戦い方か」

 

周囲の匂いを常に察知しながら忍が呟く。

その表情はかなり険しい。

 

「なら、お前も他の奴等みたいに禁手になるのか?」

 

イッセーが曹操に尋ねると…

 

「いや、そこまでしなくても今の君らなら倒せる。ま、赤龍帝の方はともかく、そっちの冥王に連なる人狼は厳しいかな? まぁ、どっちにしろ…今回は君ら相手に戦いを堪能させてもらおうかな?」

 

そう言って曹操は槍をイッセーと忍に向ける。

 

「(この自信…本物か…!)」

 

「女王にプロモーションだ!」

 

忍が警戒してる間にイッセーは女王に昇格する。

 

「真狼解禁!」

 

それに続くように忍も真狼の力を解放する。

 

『JET!!』

 

イッセーが曹操の真正面から突貫し…

 

「まずは赤龍帝からか!」

 

曹操が喜々として聖槍を振るう。

 

「(あの槍に触れるとヤバいよな? なら…)」

 

右手に龍気を溜めてドラゴンショットを撃つ準備をする。

 

「させるとでも?」

 

曹操はイッセーの右手を蹴り上げる。

 

「くっ!」

 

無防備となったイッセーの腹部に聖槍が突き刺さろうとする瞬間…

 

「ふっ!」

 

ギィィンッ!!

 

聖槍の先端を忍がファルゼンで受けていた。

 

「ここまで素早いとは…!」

 

曹操が忍の速度に驚嘆していると…

 

「イッセー君!」

 

忍が聖槍を受け止めてる間に…

 

「応ッ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

イッセーが横移動しながら増大した威力の拳を曹操に向けて放っていた。

 

「パワーの中のパワーを感じるな!」

 

ゲシッ!

 

「ちっ!」

 

忍の腹を蹴って聖槍を素早く戻すと、曹操はイッセーの拳を払おうとした。

 

「(ここだ!)」

 

イッセーは木場との訓練で培ってきたフェイントを駆使するように右拳を止めると…

 

『BoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

『Transfer!』

 

その場から飛び退きながら左腕の籠手からアスカロンの刃を突き出し、それを振るって波動を撃ち出す。

 

「ほぉ…」

 

予想外だったのか、感嘆の声を上げる曹操はアスカロンのオーラを左腕に受け…

 

ザシュッ!!

 

曹操の左腕が宙に舞った。

 

だが…

 

「なるほどなるほど。人狼の補助があったとは言え、強いな。なら、こっちもギアをもう少し上げないとかな?」

 

そう言いながら曹操は聖槍を地面に突き刺すと、宙に舞った左腕をキャッチしてから小脇に抱え、懐から何かを取り出そうとしていた。

 

「そ、それは…!?」

 

曹操が取り出したものを見てイッセーが驚く。

 

「これは裏ルートで入手したフェニックスの涙だ。ま、フェニックス家はこれが俺達に回っているなんて露程にも思ってないだろうけどね」

 

小瓶からフェニックスの涙を傷口に振り掛け、左腕を接続するとそこから煙が上がって左腕が完全に接続する。

 

「ッ!!」

 

それを聞き、怒りでイッセーの龍気が増す。

 

「怒りで龍気が増す、か。怒りで感情を爆発させるのは時と場合によって破滅を生み出す。それで君は一度『覇龍』になったんだろ?」

 

曹操がそう忠告の言葉を言うと…

 

ガシャッ!!

 

イッセーの体を覆っていた赤龍帝の鎧が崩れ落ちていた。

 

「なっ?!」

 

その現象にイッセーもかなり驚いていた。

 

「悪いが、飛び退く時にいくつか斬った。少しばかり時間差が生じるようだが、この槍のちょっとした攻撃でもその鎧は破壊出来るらしいな」

 

「あの一瞬でそこまで…!?」

 

曹操の底知れぬ実力にイッセーの隣に移動していた忍も驚いていた。

 

すると…

 

「あり? こっちはまだやってたんの?」

 

「ま、僕も2人同時だけど、曹操の場合は赤龍帝と冥王様だからね」

 

「俺が赤龍帝とやりゃ良かったぜ!」

 

ジャンヌ、ジークフリート、ヘラクレスの順に戻って来た。

見れば、それぞれ血塗れとなったイリナ、木場、ゼノヴィア、ロスヴァイセを抱えていた。

 

『グオオオオッ!!?』

 

さらにヴリトラと化した匙も九尾の御大将の九つの尻尾によって拘束され、苦悶の咆哮を放っていた。

 

「っ!?」

 

その事実にイッセーは強い衝撃を受けていた。

 

「イッセー君! 気をしっかり持て!」

 

そんなイッセーに忍が叫ぶが…

 

「無駄さ、人狼。確かに君たちは強い。しかし、今の君達では英雄の力を持つ俺達には届かないし、勝てないのさ。さて、ゲオルグ、魔法陣の方はどうかな?」

 

曹操はそう言ってイッセー達を無視すると、既に意識を実験の方に向けていた。

それに倣うようにして他の英雄派も抱えていた敗者たちを無造作にその場に置くと、曹操の元へと集結していた。

 

「ふざけるな!!」

 

それに怒りを覚えた忍は吸血鬼へと変身して一気に駆け出す。

 

「うるさいな、負け犬君。ジークフリート、ジャンヌ、ヘラクレス。彼の相手をしてやってくれ」

 

曹操は3人にそう言うと、一歩下がってしまう。

 

「今度は冥王が相手か。相手にとって不足なしってとこかな?」

 

「う~ん、結構なイケメンなのに残念」

 

「力比べなら負けねぇぞ!!」

 

相手は既に禁手状態の英雄派3人。

ヘラクレスが前に出てミサイル状の突起を発射させていた。

 

「邪魔だ!」

 

忍はファルゼンを斬艦刀にすると、それを盾にして走る。

 

ドゴゴゴゴゴッ!!!

 

無数の爆発と爆風によってファルゼンがボロボロになるものの、バリアジャケットのおかげで忍はほぼ無傷でヘラクレスの元に辿り着く。

 

妖華撃(ようかげき)!」

 

ファルゼンを日本刀に戻すと同時に左手に持ち直すと、右腕に妖力を流し込んで"力"へと変換し、気と龍気でコーティングした右拳をヘラクレスへと叩き込もうとする。

 

「オラァ!」

 

右拳に突起を生やした状態でヘラクレスも忍の渾身の一撃を叩き込む。

 

ドゴォォンッ!!

 

拳同士がぶつかると、突起が爆発して一方的に忍を襲う。

 

「ぐぅっ!!?」

 

今の爆発で右腕の感覚が麻痺してしまうが…

 

「ブリザード・ファング!」

 

麻痺した右腕をヘラクレスに向けて凍結効果のある中距離拡散砲撃を放つ。

 

「させないわよ!」

 

そこにジャンヌが聖剣で作られた龍を割り込ませて忍の砲撃を防ぐ。

 

「ちっ!」

 

吸血鬼から真狼に素早く変化すると…

 

「瞬狼斬ッ!!」

 

妖力と気のミックスで脚力を限界まで高め、真狼の速度をさらに昇華させてから一瞬の内に無数の斬撃を繰り出す。

だが、利き手ではないために威力はだいぶ軽減している。

 

「速い! だが…!」

 

今度はジークフリートが六刀流の剣技で忍の斬撃を防いでいた。

 

「くっ!」

 

忍も苦戦している時だった。

 

パアアアアア!!

 

イッセーの方から強い光が発生していた。

 

「なんだ?」

 

その現象に曹操を始め、忍と他の英雄派も何事かと視線を向けてしまう。

 

そこに広がる光景は…赤い宝玉から無数の人影が出現すると、口々に「おっぱい」と連呼し続け、広大で儀式めいた円形の魔法陣を形作っていた。

 

召喚(サモン)! おっぱいぃぃぃ!!」

 

そして、何らかの気が触れたのかと思うようなイッセーの叫びと共に魔法陣が輝きを増していくと…

 

「な、何事!? こ、ここは…?」

 

着替え中だったのか、下着姿のリアスが魔法陣の中心に現れていた。

 

その後、イッセーはキラキラと光り輝くリアスの乳首をつつくと、リアスは赤い閃光と共に天…というか元の場所へと帰っていき、イッセーは新たな段階へと進むのであった。

それは赤龍帝と称されし赤き龍がまだ肉体を持っていた頃に、白き龍に勝つことだけを考えていた頃の気質を甦らせていたのだった。

 

「(なんだ、この匂いは…?!)」

 

そして、イッセーから感じる新たな匂いに忍は驚いていた。

 

「どうせ、俺も変態ですよぉぉぉぉ!!」

 

その叫びと共に赤い閃光が周囲一帯に広がり…

 

「行くぜ、赤龍帝の籠手ぁぁぁぁぁ!!!」

 

イッセーから赤龍帝本来の力が溢れ出していた。

 

『Desire!』

『Diabolos!』

『Determination!』

『Dragon!』

『Disaster!』

『Desecration!』

『Discharge!』

 

イッセーの鎧の各部にある宝玉からそんな音声が響き渡り…

 

『DDDDDDDDDDDDDDDD!!!!』

 

最後の方では壊れたかのように『D』を繰り返していた。

 

「モードチェンジ! 『龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)』ッ!!」

 

イッセーの叫びに応えるように赤龍帝の鎧に新たな装備…背部バックパックと両肩上部から大口径キャノンが追加されていた。

 

ブゥゥゥンッ…!!

 

僧侶になったことで底上げされた魔力と、赤き龍気がバックパックに蓄積されていき、両肩のキャノンへと収束していく。

 

「避けろよ、忍!!」

 

「ッ!?」

 

言われて初めて忍は自分が棒立ちだったのを思い出し、すぐさまその場から離脱する。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

「吹っ飛べぇぇぇ!! ドラゴンブラスタァァァァァ!!!」

 

それを見てからイッセーは膨大なエネルギーを英雄派に向けて解き放っていた。

 

「ッ! 避けろ!」

 

曹操が叫ぶと同時に英雄派が散開して、イッセーのドラゴンブラスターを回避する。

目標を失ったドラゴンブラスターは英雄派の遥か後方へと飛んでいき…

 

ドオオォォォォォォンッ!!

 

着弾と共に町全体を赤い閃光が包み、閃光後には…何も残っていなかった。

そう、今の一撃で町を丸ごと吹き飛ばし、空間さえも歪ませていたのだ。

 

「曹操ぉぉぉぉ!!」

 

イッセーは曹操の名を叫びながらバックパックとキャノンをパージすると…

 

「『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)』ッ!!」

 

今度は鎧の装甲の大部分がごっそりと崩れ落ちると、必要最低限の神速の速度に対応したシャープなフォルムの鎧へと変化していた。

 

「テメェに体当たりするぐらいなら問題ねぇよなぁぁ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

神速の速度と化したイッセーは曹操へと体当たりをかます。

 

「速い…!?」

 

曹操はそれを聖槍を横に構えることで迎え撃とうとするが…

 

ドンッ!!

 

「ごふっ?!」

 

イッセーの方が速く曹操を捉える。

 

「君は真正面バカなのか? しかし、その装甲の薄さで俺の聖槍の一撃に耐えられるかな? パワーアップ早々悪いが、これで終わりだッ!」

 

曹操がイッセーを仕留めようと聖槍を構える。

 

「『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)』ッ!!」

 

しかし、イッセーが再び叫ぶと共に今度は鎧が分厚くなり、両腕の籠手も5、6倍の重厚さを持っていた。

 

ガシュッ!!

 

右の重厚な籠手で曹操の聖槍を受ける。

だが、聖槍は籠手の途中で止まり、装甲を貫けないでいた。

 

「ッ!! もっと出力を上げないとその鎧は壊しきれないというのか! 上級悪魔なら瞬殺出来る出力なんだぞ!!」

 

そう叫ぶ曹操にイッセーは左拳を構える。

 

「おっぱいドラゴン舐めんな! このクソ野郎ぉぉぉぉぉ!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

「くっ!」

 

曹操は聖槍でイッセーの高速の拳打を受けるが…

 

「この一撃は稲妻の如く!!」

 

肘部分に新たに追加された撃鉄が打ち込まれ、膨大な龍気が放出されて曹操を地面に叩き付ける。

 

その後、元の鎧へと戻ったイッセーは息を切らせていた。

この形態変化をイッセーは曹操とドライグの言葉を借りて『赤龍帝の三叉成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)』と命名した。

 

そして、実験の最終段階とも言える場面で魔法陣からは最強の助っ人『初代孫悟空』と、五大龍王の一角『西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)』が現れて戦況は一変した。

その状況で英雄派は撤退しようとしたが、イッセーの最後の一撃で曹操の右目を潰した。

 

それから九尾の御大将も無事洗脳から解き放ち、今回の事件は終幕へと続くのであった。

 

だが…

 

「(イッセー君は新たなステージに上がったっていうのに…俺は…)」

 

忍はイッセーの新たな可能性を見て自分の力不足を痛感していた。

 

「(伯父さん…真なる狼って、一体なんなんだ…?)」

 

未だ狼夜から語られぬ『真なる狼』の詳細とは…?



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第四十七話『修学旅行最終日・帰還途中の深層探検』

修学旅行の最終日。

 

昨夜の大激戦後。

疲弊しきったグレモリー眷属+イリナ、匙、忍は一日寝たぐらいでは完全回復するには至らなかった。

しかし、それでも友人達と共にお土産屋巡りを敢行し、疲れた体に鞭打って京都タワーにも登っていた。

 

そして、京都から離れる時が来た。

京都駅には九重や八坂がグレモリー眷属をお見送りに来てくれた。

 

こうして三泊四日の京都での修学旅行は幕を閉じた…。

 

……のだが、帰りの新幹線の中…

 

「…………」

 

イッセー達が昨日の疲れから眠ってる横で、忍は深層世界の中へ入ろうとしていた。

 

「(イッセー君から感じたあの匂い…とても強い龍の匂いだった…おそらくは赤龍帝に関係したものだとは思うけど…)」

 

忍にネクサスの振動機能を利用して東京駅までの到着時間ギリギリまでの時間を深層世界で費やそうとしていた。

 

「(短時間ではあるが、俺もこのまま立ち止まってる訳にもいかない。深層世界で伯父さんに真なる狼の情報を聞き出す…!)」

 

そう決意し、意識を己の深い部分に向けていき、何度か経験した深層世界へと旅立つ。

 

………

……

 

~深層世界・真狼の空間~

 

「来たか…」

 

この空間の頭上に浮かぶ満月を見上げていた狼夜が小さく呟く。

 

「伯父さん」

 

その背に忍が声を掛ける。

 

「お前の中から大体のことは見てた。アレが赤龍帝か…噂に違わぬバカ野郎みてぇだな」

 

「そっか。伯父さん、イッセー君のことあまり知らなかったよね」

 

「噂だけなら聞いてたぜ。なんでも女の胸に執着する変な赤龍帝がいるってな。実際にその戦闘を見たことはないが、お前の中から邪神ロキとの戦いと昨日の戦闘だけは見た。あとはお前の友人としての側面を見てるくらいか」

 

背を向けたまま狼夜はそう告げる。

 

「だが、お前はそんな友人に対して思うところがあるんだろ?」

 

「……うん…イッセー君に新たな可能性に目覚め、赤龍帝を深く知ろうとしながら進化させた。しかし、俺は…自分の力を何一つ理解していない」

 

これまで忍が覚醒してきた解放形態はどれも上辺だけしか理解していないとも言っていい。

それだけ忍は己の中の力に目を向けず、通常形態での各種技能を高めていたことになる。

 

「真なる狼…蒼雪冥王…紅蓮冥王…吸血鬼…龍騎士…俺はその本質や能力を把握していない。いや、把握しようとしてこなかった。知ってしまったら…日常での何かが壊れるような気がして…一歩踏み出せなかったんだ…」

 

それは最近まで"人間"として生きてきたが故の未知なる存在に対する恐怖。

忍にとって明幸家で過ごしてきた月日は間違いなく、彼を"人間"としての常識や範疇を超えてはいなかった。

少々、環境は特殊だが…。

 

しかし、今では違う。

悪魔や天使といった超常の存在を知り、悪魔社会では次元辺境伯という肩書きを与えられ、眷属の駒や眷属の絵札、デバイスといった不思議なアイテムを手に入れ、一時(いっとき)は異世界に飛ばされた上にそこでの紛争に首を突っ込む始末。

 

「人間としての生活が…俺を躊躇させる……でも…イッセー君は…」

 

しかし、イッセーは違った。

悪魔に転生したとは言え、普段は人間としての生活を送りつつ夜は悪魔稼業を行い、時として戦いに身を投じていく。

その中で自らの中に宿った存在と相対し、それを知ろうとしたり、日々自らを鍛えるように様々な努力をし続けている。

最初はそうでなかったとしても、今ではちゃんとそんな自分を受け入れているのだ。

 

「それに比べて俺は…」

 

「…………」

 

忍に背を向けたまま話を聞いていた狼夜が(おもむろ)に振り向く。

 

「そうだな。お前は肉体的に成長したかもしれんが、精神的にはまだまだ弱い部分がある」

 

邪狼の時は敵として相対し、精神の中では良き理解者として忍を見てきた狼夜はそう評する。

 

「だったらいつまでも俯いてないで前を向きな。お前は進む以外の道を放棄したんだからよ」

 

そして、そう付け加えていた。

 

「前に進む以外の道を放棄した…?」

 

「そうだ。お前の道は既にお前自身の手で決められてる」

 

「俺自身が…決めた道…?」

 

狼夜に言われてもいまいちピンと来ない様子だった。

 

「前に言ってたな? "目の前で救える命があるなら、それを全力で守ると誓ってる"って…」

 

「ぁ…」

 

邪狼戦の時、朝陽を助ける際に発した言葉である。

そして、その誓いは智鶴以外の眷属を増やす時にシアに言った言葉でもあった。

 

「全てを守ろうなんて思わない。ただ、自分の大切な人達を守りたいから…自分の手の届く範囲で助けられる命があるなら、俺は全力でそれを守りたい。そう、思ったんだ…」

 

静かに、しかし確かな決意と覚悟を言葉にした…忍の心の奥底にある想いである。

 

「なら、それでいいじゃねぇか」

 

「伯父さん…?」

 

「それがお前の覚悟なら、それを体現出来るように極めてみせな。それがお前の進む道ってやつだ」

 

そう言ってから狼夜はいつの間にか手にしていた黒き刀の切っ先を忍の顔に向ける。

 

「だから、いつまでも俺達を怖がってんじゃねぇぞ? テメェが受け入れた力、テメェが糧にしてきた力を怖がるな。本当にあの娘共を守りたいなら、どんな手段であれ活用し、使いこなしてみせろ。そして、守ってみせな…お前が躊躇する原因となる日常と共にな」

 

「……ッ!!」

 

その言葉に忍は絶句する。

 

「テメェのダチが出来たことをテメェは出来ない道理はねぇだろ?」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべる狼夜。

 

「あぁ…そうだよな…そうだとも!」

 

ギィンッ!

 

何かに吹っ切れたのか、忍は狼夜の向けてきた黒き刀を手元に現れた銀の刀で弾く。

 

「ふっ…良い眼だ。それでこそ俺の甥!」

 

嬉しそうに言う狼夜は黒き刀を構える。

 

「今こそ話すぜ、真なる狼。その本当の意味を…!」

 

「応ッ!」

 

それに呼応するように忍も銀の刀を構える。

 

「真なる狼。その起源は地球とよく似た星にある。太古の昔、我等一族はその星の神の使者として人々に崇められてきた」

 

狼夜が一歩踏み出し、黒き刀を振るいながら語り出す。

 

「神の使者!?」

 

ギンッ!

 

それを忍は銀の刀で受けながら狼夜の言葉に耳を傾ける。

 

「そうだ。神の使者たる我等一族はその星で守護者として外敵から人々を守ってきた。だが…」

 

黒と銀の剣閃が繰り広げられる中で狼夜は語り続ける。

 

「我等の神は敵対する神の一柱との戦いによって討ち果たされてしまった。だが、我等の神とてただでは滅されなかった。敵対する神を石像として封印したのだ。しかし、それでも我等が神を失った事実には変わりなかった。神の加護を失った我等一族は次第に敵対する神の勢力によって劣勢を強いられていった」

 

「そんなことが…」

 

狼夜が太古の出来事を知ってることにも驚きだが、それ以上に内容が衝撃的だった。

 

「そんな中、一匹の狼が立ち上がった。そいつはあろうことか我等が神の屍を食した」

 

「神の屍を食った!?」

 

「あぁ。その結果、そいつは一時的にではあるものの神の如き力を得たが、それだけだった。そいつの健闘も空しく我等は敗北し、その星は壊滅してしまった。滅びゆく世界で、敵は我等一族の残党狩りを敢行してきた。多くの同胞がその残党狩りで命を散らした」

 

「……………」

 

斬ッ!!

 

「ぐっ!?」

 

ズザアァァァッ!

 

その事実を聞き、黒き刀の一撃を受けた衝撃で後方に吹き飛ばされてしまう。

 

「話にはまだ続きがある。構えろ!」

 

「は、はい!」

 

忍は銀の刀を構え直す。

 

「残党狩りを逃れた一部の狼達の中には神を食した狼もいた。その狼の発案によって残った一族は別の次元に逃げることにした」

 

「次元跳躍!?」

 

「神を食したことにより、神の知識を一部だが、そいつは垣間見たのさ。そして、別次元の事を知って跳躍する方法も知識の中にあった」

 

ギィンッ!!

 

互いの刀を振るい、鍔迫り合いに発展する。

 

「だが、次元跳躍の反応を敵は見逃しちゃくれなかった。残党狩りの襲撃を受ける中、数匹の狼達が次元跳躍に成功した。その中にそいつはいなかったが、そいつの血を受け継ぐ子を宿した雌がいた。その後、狼達は跳躍した先の世界の山奥でひっそりと暮らしていた」

 

「それから…?」

 

話の続きがあるだろうと察し、忍は続きを促した。

 

「それからしばらくし神を食した狼の子が生まれた。しかし、その子は不思議な能力を得ていた。後の世界で"霊力"と呼ばれる力だ。その力を用いてその子は山に入って怪我をした人間を治癒した。しかし、それがいけなかった…」

 

「その行為が過ちだったと…?」

 

「そう。その行為によって人間は我等が住む山に頻繁に来るようになり、遂にはその(ふもと)に街を作った。皮肉にも山に住まう神のような存在と崇められてな」

 

「…………」

 

「そして、月日は流れ…山に住まう神の信仰が薄れてきた時、一族に新たな命が二つ生まれた。それが俺とお前の父、狼牙。どちらも神を食した狼の直系に当たる黒き狼と銀の狼だ」

 

「俺にもその血が…?」

 

「そうだ。そして、俺と狼牙が生まれて成長する間、人間達が動いた。俺達の力が珍しかったのか、それとも単なる道楽かは知らんが…人間達は我等一族を狩りの対象にしたのさ。それによって俺と狼牙以外は皆死んでいった。以前見たかもしれないが、冬の季節に俺達が狙われてな。俺は人間共を食い殺すことで生き延びようとしたが、狼牙は違かった」

 

「山でひっそりと昔のように生きていこうと…」

 

「あぁ。そして、壮大な兄弟喧嘩の始まりだ。結果は俺が勝ち、あいつは何処かに消え失せた。しかし、あいつの血は途切れてなんかなかった。お前という存在がその証明だ」

 

そこで一度狼夜は説明を区切った。

 

「なるほど。俺達一族の起源はわかったが、結局"真なる狼"ってのはなんなんだ?」

 

ギンッ!

 

鍔迫り合いから互いに距離を取り合う。

 

「"真なる狼"ってのは神を食した狼が最期に遺した言葉からきている。神の知識の中に真なる狼に関するものがあったのだろう。曰く、『速度は銀の光と共に、力は黒き闇と共にあり、光と闇が交わる時に真の力が目覚めん。さすれば覇の理を以って神をも噛み砕く牙とならん』。俺がお前に力の黒と速度の銀を合わせろと言ったのはこれに由来する」

 

「覇の理…?」

 

その言葉に忍は首を傾げる。

 

「実際のところ…"真なる狼"の真の意味ってのはよくわかってねぇんだよな…言った本人は遠い昔に死んじまったし、生き残った俺達の中からそんな特異な存在は遂に出てこなかった。ただただ、代々魂に刻み込まれてきた言霊を伝え聞いてきただけだからな」

 

「そんな…!」

 

狼夜の言葉に忍は何か言いたそうだったが…

 

「だが、お前は違う。お前に流れる血は銀の方が濃いかもしれないが、ちゃんと黒も受け継いでいる。そして、それを掛け合わせたことで、お前は"真なる狼"になるための入り口に立ったのかもしれない」

 

忍の言葉を遮って狼夜は語る。

しかし、狼夜の体は足から徐々に光の粒子と化してきていた。

 

「っ!? 伯父さん!」

 

慌てて駆け寄ろうとするが…

 

「っと、そろそろ俺の役目も終わりってとこか? なに、俺はもう既に死んでて地獄に堕ちても仕方のねぇ身だ。気にするこたぁねぇよ」

 

そう言って狼夜は最後の一太刀の構えを取る。

 

「これで終いだ。せめてお前が介錯してくれや」

 

「伯父さん…でも…」

 

忍が躊躇していると…

 

「甘ったれんてんじゃねぇぞ!」

 

狼夜から殺気が溢れ出す。

 

「っ!?」

 

それに少しだけ気圧されるものの…

 

「頼むわ。甥っ子」

 

「ッ…!!」

 

殺気後に見せた狼夜の穏やかな笑みを見て、忍も覚悟を決めて上段の構えを取る。

 

「そうだ、それでいい。ここは本来、お前の場所なんだからよ…俺がいつまでもいる訳にはいかねぇんだよ」

 

忍が構えるのを見て満足そうに呟く。

その間にも狼夜は光の粒子と化していく。

 

「…………」

 

「…………」

 

しばし睨み合った後…

 

バッ!!

 

ほぼ同時に動いた。

 

「牙皇閃ッ!!」

 

「瞬烈斬ッ!!」

 

ギィンッ!!

 

一瞬の交差の後、互いに背を向けたまま狼夜は刀で横一閃を振り抜いた状態、忍は刀を振り下ろした状態でそれぞれ静止していた。

 

「「…………」」

 

数秒が過ぎた時…

 

「ぐっ…」

 

忍は刀を杖代わりにして体を支え…

 

「見事だ、忍」

 

狼夜は背中から草原に倒れる。

粒子化もかなり進んでいき、狼夜の体がうっすらと半透明になっていく。

 

「伯父さん…」

 

忍が狼夜に近づく。

 

「ったく、勝者がんな湿気た面してんじゃねぇよ」

 

そう言って黒き刀の切っ先を持つと忍に向ける。

 

「ほれ、受け取れ。お前はきっと二刀流の方が映えるだろ」

 

「………」

 

忍は狼夜から黒き刀を受け取ると、左手に持って構える。

 

「かかっ、やっぱりお前も二刀流が似合うな。流石は狼牙の倅だ」

 

忍の姿に狼夜は弟である狼牙を重ねていた。

 

「俺は…まだ親父も母さんも知らないから…そんなこと言われてもピンと来ないよ…」

 

自然と涙を流す忍の声を聞き…

 

「そうか…」

 

狼夜はそう答えた。

 

「…………もし、あのバカ弟に会ったら伝えてくれや。"悪かったな…先に逝ってるぜ"ってな」

 

「必ず…会って伝えます…」

 

「あぁ、頼むぜ」

 

すると…

 

「そういえば、俺達の神を殺した相手勢力を聞きそびれてた気がする。そいつらの名前は…?」

 

ふと今更のように忍は狼夜に尋ねる。

 

「全ての生命に絶望を与える存在…名は『絶魔(ぜつま)』」

 

「絶魔、か…」

 

「ま、もしそいつらに遭遇したら俺の…いや、俺達の祖先の分も纏めて倍返しにしてやれ」

 

「うん、わかった…」

 

そして、それから互いに言葉が無くなったのか、無言の時間が過ぎる。

粒子化もいよいよ最終段階に入ったのか、狼夜の輪郭がぼやけ始めていく。

 

「忍よぉ。お前はこれからも色んな苦難に遭遇するだろうさ。けどな、狼としての誇りを忘れずに強くなれ…守るもんをしっかりと守れるようにな」

 

「はい…伯父さん…!」

 

狼夜の言葉を忍は胸の中に刻み付ける。

 

「ふっ…あばよ」

 

それを最期の言葉に狼夜は完全な光の粒子となり、この空間から完全に消えたのだった。

 

「………っ…」

 

溢れてくる涙を噛み締め、忍は狼夜に黙祷を送っていた。

 

 

 

数分だろうか、忍はしばらくその場に留まり、狼夜に黙祷を送り続けた後…

 

「…………よし」

 

二刀の刀をその場に突き刺すと涙を拭い去り、気合を入れてから刀を引き抜いて忍は満月の下に存在する四つの扉に向かった。

 

「俺は俺のすべきことをやるよ、狼夜伯父さん…」

 

その決意を胸に忍は紅蓮冥王が待つであろう紅蓮の焔に覆われた扉を開け放つ。

 

「ほぉ、貴殿自ら出向いてくるとは…こちらから仕掛ける手間が省けるというもの」

 

そこは紅蓮の焔に覆われた世界。

何もかもが焼け燃える世界であった。

その中心で紅蓮冥王は仁王立ちし、目の前には剣が突き刺さり、その柄頭に両手を置いていた。

 

「冥族の大原則。それを覆しに来た!」

 

銀の刀を紅蓮冥王に向けながら忍はそう宣言した。

 

「冥王スキルのことか。笑止。一人の冥王が冥王スキルを複数持つなど…断じて有り得ん! それ以前に…」

 

紅蓮冥王は剣を引き抜くと同時に凄まじい剣気を忍に放っていた。

 

「俺が貴殿を認めていないのだからな…!!」

 

剣気と共に殺気にも似た気迫が忍を襲う。

 

「……ッ! これが…紅蓮冥王の重圧…!」

 

しかし、忍は一歩も退かない。

狼夜と交わした約束とも言えないような小さな言葉を胸に、忍は退く訳にはいかなかった。

 

「ほぉ、俺の剣気と気迫を受けて退かぬか。その意気や良し!」

 

そして、紅蓮冥王は剣を構えると忍を見据える。

 

「先日のような邪魔は入らぬ。今度こそ貴殿の覚悟を見極めさせてもらうぞ!」

 

そう言うと紅蓮冥王は構えた剣に紅蓮の焔を灯して斬撃を繰り出す。

 

ギンッ!!

 

それを忍は黒き刀で受け止めると同時に…

 

シュッ!!

 

一歩踏み出して何の迷いもなく銀の刀で突きを放ち、紅蓮冥王の頭蓋を狙う。

 

「むっ!!」

 

ギンッ!!

 

引き戻す剣で忍の刀を受け流すと、紅蓮冥王はバッとその場から飛び退く。

 

「……あの狼と何かあったようだな。刀に一切の迷いがない。何を悟った?」

 

忍がこの空間に来るには必ず真狼の空間を通ることを知っていたのか、何かあったのだと確信して尋ねた。

 

「俺が戦う理由と、大切な人達を守るための覚悟を…」

 

「…………」

 

それを聞き、忍の眼を真っ直ぐ見る。

 

「…………」

 

それを受け、忍もまた真っ直ぐと紅蓮冥王の眼を見ていた。

 

「……なるほど。貴殿の眼の奥から強き覚悟を感じる」

 

そう言った後…

 

「我が半身とは違った覚悟を持つ者よ。我が力を受け入れるか?」

 

忍に向かって(ひざまず)くとそんな問いを投げ掛けていた。

 

「受け入れる。その上で、俺は俺自身の内にある蒼雪冥王の力も発現させてみせる」

 

その問いかけに対して、忍はそう宣言していた。

 

「それが本当に可能だと思っているのか?」

 

「俺は雪女の血を引く男だ。雪女の常識から外れてしまった俺に今更種の常識なんて通用しない。それを証明してみせる!」

 

「……………」

 

忍の言葉を聞き、しばし考えた後…

 

「ならば、その可能性を示してみせよ。我は紅蓮冥王にして、これよりは貴殿の力が一柱となろう。冥王スキル『イグニッション・アグニ』。周囲の熱エネルギーを吸収し、自らの糧にする能力なり。その使い方、貴殿の応用力次第で様々な力に転換出来るだろう」

 

忍に己が剣を献上していた。

 

「イグニッション・アグニ…それが紅蓮冥王としての…俺の冥王スキル…!」

 

黒き刀を右腰に帯刀すると、献上された剣を受け取る。

 

ギュオオオッ!!

 

すると周囲の焔が剣に収束されていく。

 

「これで我が力は貴殿の物だ」

 

紅蓮の焔を収束した剣が忍と同化していく。

 

 

 

紅蓮冥王の剣と同化後…

 

「次は氷を説得するんだな」

 

「あぁ、そのつもりだ…」

 

そう答えて忍は一旦真狼の空間へと戻ると、凍り付いた扉を潜るのであった。

 

「蒼雪冥王。いるなら出てきてくれ」

 

白銀の世界の中、忍は彼女を呼ぶ。

 

「我が君…」

 

忍の呼び声に答えるようにして蒼雪冥王が忍の前に現れるが、その表情は悲しみと険しさが混ざり合っていた。

 

「何故です? 何故、我が君はわたくしの力よりも紅蓮冥王の力を得たのですか?」

 

それが蒼雪冥王の問い掛けだった。

 

「紅蓮冥王にも言ったが、俺は種の常識に囚われた存在じゃない。それはお前が一番よく知っているんじゃないか?」

 

「それは…」

 

蒼雪冥王だけでなく雪女の化身でもある彼女は言いよどむ。

 

「確かに俺は雪女の血を引いている。しかし、俺は男として生まれてきた。それがどんな理由を持つのかはわからない。けど、それならそれで俺は構わない。男だろうと女だろうと、俺は俺なんだからな」

 

ハッキリとした言葉を蒼雪冥王へ伝える。

 

「もし、女として生まれ育てられてきたらまた別の道もあったのかもしれない。けど、それだと智鶴や皆に出会うことがなかったかもしれない。そんなのは御免だ。俺は彼女達がいるからこそ戦えるんだ。彼女達を…守りたいからこそ戦いに身を投じることが出来る。それを伯父さんの言葉で再確認させられた」

 

「…………」

 

その言葉を蒼雪冥王は黙って聞く。

 

「その伯父さんはもういない。これからは俺自身のことは俺自身で解決していかないとならない。その第一歩として紅蓮冥王の力を得た。だが、俺は冥王の大原則を覆すため、蒼雪冥王の力にも目覚めてみせる。きっと俺になら出来るはずだ。俺は雪女の常識が通用しなかったからな」

 

そこで…

 

「本当に…そんなことが可能なのですか?」

 

蒼雪冥王は紅蓮冥王と同じような問いを忍に投げ掛ける。

 

「可能かどうかは問題じゃない。俺は必ず成し遂げてみせる。それだけだ!」

 

ブォンッ!!

 

忍の言葉がトリガーとなり、忍の周囲の雪が竜巻のように舞い上がる。

 

「これは…!?」

 

その現象に蒼雪冥王が驚く。

 

「俺は前に進む。二つの冥王の力を得て、新たな可能性を示してみせる!」

 

銀の刀を天に向けて掲げると…

 

ビュオオオオッ!!

 

銀の刀に舞い上がった雪が吹雪となって収束していく。

 

「(これが…我が君の覚悟…それに呼応するように周囲の力が我が君に収束していく…)」

 

その光景を見て蒼雪冥王は驚き、同時に忍が蒼雪冥王として覚醒を意味していた。

 

「我が君。わたくしの力を…どうぞ、ご活用くださいまし」

 

それを理解した途端、蒼雪冥王は跪いて忍に頭を下げた。

 

「わたくしは我が君の力が一つ、蒼雪冥王。冥王スキル『アイス・エイジ』。周囲の温度を下げ、熱を奪い去って凍結させる能力です。我が君ならば、相手や物体の活動を制限させることも可能でしょう」

 

「それが蒼雪冥王としての、俺の元来から持つ冥王スキル…」

 

その説明を受けながら忍の体内に銀の刀に収束していった吹雪が同化していく。

 

 

 

こうして二つの冥王の力を獲得した忍は吸血鬼の空間へと向かおうとした時だった…。

 

ヴヴヴヴ…!!

 

意識の外から振動が伝わり、意識が徐々に覚醒するのがわかった。

 

「時間か。次、ここに来た時には伯父さんはもういないんだよな…」

 

真狼の空間に浮かぶ満月を見て忍は独り言を呟く。

 

「………さようなら、狼夜伯父さん…」

 

改めて口にすると共に意識が現実世界へと浮上する。

 

………

……

 

『次は東京。東京…』

 

「………っ…」

 

車内アナウンスと共に忍は目を覚ます。

 

「もう、到着か…」

 

短くも長い時間を過ごしたような感覚に忍は頭を切り替える。

 

「んっ、ん~…」

 

横を見ればイッセーも目を覚ましたようだった。

 

「おはよう、イッセー君。そろそろ着くから降りる準備をしないとだよ」

 

そう言って準備を始める忍だった。

 

「おう、悪ぃな……って、お前、どうかしたのか?」

 

イッセーが忍の方を見ると、驚いたような声を上げる。

 

「どうかしたって、何が?」

 

当の本人は自覚がないようだった。

 

「お前…泣いてんぞ?」

 

「えっ?」

 

言われて初めて、忍は自分の目元を拭ってみる。

 

「………ホントだ」

 

深層世界での出来事が現実にも影響を及ぼしたのだろう、と忍は解釈した。

 

「何でもないよ。なんでも…」

 

「???」

 

穏やかに言う忍に訳が分からないといった感じにイッセーは首を傾げていた。

 

こうして修学旅行の幕は本当の意味で閉じたのであった。



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第四十八話『いざ、反撃の時』

修学旅行も無事終わり、次の行事は学園祭。

と行きたいところだが、それまでに忍達にはまだやらねばならないことがあった。

 

それは…

 

「三国同盟は成立した。となれば後は…」

 

「帝国に対する三国同時侵攻だね」

 

「いくら軍備を増強してきた帝国と言えど、三国を相手にするのは大変だろうからね」

 

「へへっ、腕が鳴るねぇ!」

 

フィライトにおけるフィロス帝国との決戦だった。

 

イーサ王国の王宮ではそれぞれの代表者が集まっていた。

イーサ王国からシルファーと忍、ラント諸島からミゲル大統領、トルネバ連合国からはトゥアルダスの族長であるガルドが出席していた。

 

「具体的な作戦だが…急な同盟だし、連携を取るのはかなり難しいと思う」

 

忍は今更ながらのことを言ってこの場にいる全員に同意を求めるように聞くと…

 

「同意だね」

 

「それはそうでしょ。それぞれの国によっては練度が異なるからね」

 

「足手纏いと組むのは御免だぜ」

 

国のトップ様方は好き放題に言う。

本当にこの同盟…大丈夫だろうか?

 

「…………」

 

その答えを聞いて少しだけ頭を抱えそうになるが、それを堪えて…

 

「そういう訳で、それぞれ独自に行動を起こしてほしい。連携が取れないなら取れないことを利用するまでだ」

 

忍はそう提案する。

 

「そういうことかい」

 

「まぁ、確かに連携が取れないこその強みがあるかな?」

 

「その方がこっちも動きやすいわな」

 

その提案に三者三様の反応を見せるが、概ね賛成っぽい。

 

「それぞれ帝国を囲むように国がある訳だから、それも利用して三方同時侵攻を実行したいと思う。開始時刻は合わせるとして日程は…」

 

作戦決行の日程の話をしようとすると…

 

「忍、そいつに関してはもう決めてあんのさ」

 

「伊達に情報収集は怠ってないからね。君がいない間にこちらも軍備の整えてある」

 

「つ~訳だ。作戦概要が決まったのならこっちはすぐにでも動き出せるぜ!」

 

同盟の立役者である忍が不在の間、トップ陣もただ待ってるだけではなかったようだ。

 

「作戦決行は二日後の明朝」

 

「朝日と共に帝国に仕掛けようじゃないか」

 

「それまでにテメェも準備しとけや!」

 

そう言うトップ陣に忍は…

 

「そのことなんだが…俺は単身で敵の本陣を目指そうと思う」

 

そんなことを言い出していた。

 

「「「っ!!?」」」

 

その言葉にトップ陣は揃って驚く。

 

「正気か、テメェ!?」

 

「帝都に乗り込むなんて無謀の中の無謀だよ?」

 

「忍。アンタ、ゼノライヤに単身で挑む気かい? いくらアンタでもこればかりは無茶が過ぎるよ?」

 

それぞれが忍の提案を否定しようとする。

 

「だが、この戦いを終わらせるには帝国の頭…つまりは現フィロス帝国皇帝ゼノライヤを倒す必要がある。三方向からの侵攻を囮にする形になるが、それでも俺は行くつもりだ」

 

だが、忍の意志は固く確実に1人で乗り込もうと考えていた。

 

「(何より…ゼノライヤの背後にいるであろう存在が知りたいんだが…)」

 

また、シュトームという量産型デバイスをこの世界に持ち込み、ゼノライヤを影から支援する謎の存在を突き止めたいという気持ちも持ち合わせている。

 

「しかしだね。流石に親衛隊を相手に君一人というのも危険が伴うんだよ? 僕の入手した情報によれば親衛隊の隊長以外はシュトームを持たされているというし…ゼノライヤや親衛隊長には専用のデバイスとやらがあっても不思議ではないのだよ?」

 

ミゲルがそのように言って忍を説得しようと試みる。

 

「そりゃどっからの情報だい?」

 

「それは企業秘密ですよ」

 

シルファーの呆れたような質問にミゲルはそう答えていた。

 

「つか、テメェ…どうやって帝都まで行くつもりだよ? まさか、あの機械仕掛けの馬じゃねぇだろうな?」

 

「そのつもりですよ」

 

「あんな騒音を撒き散らすようなやつで突っ込んだら恰好の的だろうが!」

 

ガルドはガルドなりの否定の仕方をする。

 

「問題ないです。射抜かれるよりも先に動くだけですから」

 

その否定をするりと回避した。

 

すると…

 

「はぁ…忍、もう一度聞くが…本気なのかい?」

 

シルファーが溜息を吐いてから確認のために忍に尋ねる。

 

「本気だ。俺一人でゼノライヤの元へ向かう」

 

「それをあの嬢ちゃん達が承諾するかね?」

 

「むっ…それは…」

 

そこで忍は言葉を詰まらせる。

 

「(こりゃ言ってないね)」

 

その反応を見てシルファーは確信する。

 

「ま、作戦開始まで一日の猶予があるんだ。それまでにちゃんと答えを決めることさね」

 

シルファーはそう忍に伝えていた。

 

「とは言え、時間も時間だから僕とガルド君は自軍での指揮をしないとね。答えは伝令鳥を使ってくれ」

 

「そうだな。ま、どっちにしろ、こっちはこっちで敵本陣まで食い破る気でいるが…!」

 

ミゲルは穏やかに、ガルドは闘争心剥き出しにそう言って席を立つ。

 

「じゃ、また二日後」

 

「この戦争を終わらせるために…」

 

「目指すは帝都!」

 

トップ陣がそう締め括ると、ミゲルは船で、ガルドはカリスに乗って自国へと帰っていった。

 

………

……

 

トップ陣の会議後…

 

「お嬢ちゃん達もそうだが、うちのエルメスにもちゃんと説明するんだよ」

 

シルファーは退室しようとする忍にそんなことを言い出していた。

 

「なんでエルメスにまで…」

 

忍はシルファーに振り返りながらそんな疑問を口にする。

 

「前にも言ったが、あたしゃ本気だよ? エルメスをアンタの嫁さんにするってね」

 

「まだ言うか!? 一国の王女を俺みたいな部外者に預けてもいいのか!?」

 

未だそのことを諦めてない様子のシルファーに忍は驚きながらそう反論していた。

 

「もう部外者じゃないだろ? アンタはこの国…いや、世界のために動いてくれてる。三国同盟なんてことをやったことでね」

 

「ただのお節介だ。それに首を突っ込んだのは俺の方からだし…」

 

シルファーの言葉にそう答えるが…

 

「それだけじゃないんだろ?」

 

「…………」

 

シルファーに指摘され、忍は押し黙る。

 

「何も恩義を感じてるのはアンタだけじゃない。あたしもアンタには恩義を感じてるんだよ。何度か命を救ってもらったからね。娘を悲しませずに済んだし…」

 

忍が目覚めた時、再び舞い戻ってきた時…そのどちらも忍はシルファーを助けていた。

 

「それにあたしも気になるのさ…ゼノライヤの背後にいる存在ってやつがね」

 

この世界の技術を転用して大量の兵器を生産して帝国に流した存在に対してシルファーは怒りを覚えていた。

 

「争いは前からあったし、魔力石を兵器に転用するなんてことも当然ながらある。それで戦争に発展したのはこの世界の出来事で仕方のないことさ。でもね、この世界の技術を別の世界の奴が好き勝手に使って被害が拡大するような…今のあたしらの技術じゃ到達出来ないような一線を画すような兵器を作り出した。そして、それを帝国に流して戦火を助長させるような手口。それがあたしは気に入らなくて許せないね」

 

そう言ってシルファーは部屋のテラスに出ると、城下を見ていた。

 

「民を平気で巻き込むような兵器を平然と活用するゼノライヤにも腹が立つが、それ以上に気に入らないのがそれをゼノライヤに送り続けながら表舞台に顔を出してこない、その"裏の存在"ってやつさ! この世界を引っ掻き回すだけ回して自分は高見の見物を決め込んでやがる!」

 

ダンッとテラスの柵に拳を叩き付けるシルファー。

シルファーは女王として、一人の人間(実際は龍だが…)として、ゼノライヤの背後にいる存在が気に入らない様子だった。

 

「陛下…」

 

その怒りを感じたのか、忍もどう声を掛けたものかと困った。

 

「見苦しいとこを見せたね。けど、これがあたしの本心さ。だからこそ、今回の作戦…あたしも機会があれば一気に帝都へと向かうからね。それだけは覚えておきな」

 

そう言うと、シルファーは自分も隙あらば帝都を目指す折を忍に伝えていた。

 

「それはそうと…いい加減、あの子の気持ちも汲んではくれないかね?」

 

「それとこれとは話が違うだろ」

 

話は打って変わるが、忍はキッパリと言い切る。

 

「アンタ以外に良い男がいないんだよ。貴族のボンボン共は根暗なのや目立ちたがりが多いし、将軍や兵士とかだと先立たれる可能性もあるから任せたくないし…そうなると実力あってしぶとく生き抜きそうで、何よりあいつを幸せに出来そうな奴はあたしの中じゃアンタくらいしかいないし」

 

「何気に酷い言われ様な気がするが…」

 

シルファーの言葉に棘がある様な気がしたが、忍はそれを無視することにした。

 

「第一、男があまり得意じゃないあの娘がアンタにはそれなりの好意を抱いてる。それだけでもあたしは十分に嬉しいんさね。あと、孫も見たい」

 

「おい、そりゃアンタの願望だろ」

 

願望まで口に出た辺りで忍も思わずツッコミを入れる。

 

「願望があるから頑張れる時もあるんさ」

 

忍のツッコミもなんのそのな反応で返すシルファーだった。

 

「はぁ…」

 

もう諦めて改めて部屋を出ようとしたところ…

 

「別にあたしは一番を望んでる訳じゃないよ。あの娘はどうか知らないけど…少なくとも、アンタの守りたいってのの中に入れて欲しいんさね」

 

「………そんなのはもう決めている。が、さっきも言ったが…一国の王女を、この世界の住民ではない俺の一存では決められん」

 

「なら、エルメスと一緒に考えればいいのさ」

 

「………失礼する」

 

そう言って忍は部屋を後にすると…

 

「期待してるよ」

 

その背にシルファーからの言葉が投げかけられた。

 

 

 

会議が終わって王宮を歩いていると…

 

「あ、忍様」

 

「エルメス…」

 

エルメスと遭遇した。

 

「会議は、もう終わったんですか?」

 

「あぁ、大体のことは決まった。二日後の明朝、帝国に対して三国同時に攻める」

 

エルメスには作戦概要を伝えてもいいと判断した忍はそう伝えていた。

 

「そう、ですか…」

 

基本的に争い事は好まないエルメスは表情を暗くしていた。

戦いが終わるということはわかっていても、それを終わらせるための行為もまた戦いであるからというのが悲しいのかもしれない。

 

「それと…俺はその際に単独で帝都に向かおうと思っている」

 

「えっ?!」

 

忍の言葉にエルメスは驚いて忍の顔を見る。

 

「ゼノライヤと雌雄を決する。それと同時にその裏に控えてる存在を暴きたいんだよ。そうすれば、この世界は当面の間、平和でいられるだろ?」

 

忍がそう言うと…

 

「平和になったら…忍様はどうなさるのです?」

 

不安そうな表情でエルメスが尋ねる。

 

「……俺は、地球でやらなくてはならないこともある。それに他の次元世界に干渉する場合もあるからな…」

 

それは遠回しにこの世界に頻繁には来れなくなる、もしくはもう来ないかもしれないという言葉であった。

 

「っ…」

 

それを聞いてエルメスの表情が一層暗くなる。

 

「………なぁ、エルメス。少し話をしようか」

 

そう言ってエルメスの手を握ると、忍はある場所へ向かった。

 

「え、忍様?」

 

突然のことに再び驚くエルメスだが、抵抗はせずに忍に従って一緒に歩いていくのだった。

 

 

 

王宮内にある庭園へと来た忍とエルメス。

 

「エルメスは…もしも、自分が王女じゃなかったらとか考えたことはないか?」

 

庭園内に入ってから少しして忍はそう切り出した。

 

「え…? 私が、王女じゃなかったら…?」

 

突然の質問にエルメスも困惑した表情を見せる。

 

「あぁ…もし、王宮じゃなく、城下にあるような普通の家に…シルファーと共にいるとしたらどうだ?」

 

「そんなこと、考えたこともありませんでしたが…そうですね…」

 

しばらくじっくりと考えてからエルメスは…

 

「きっと、今とは違った生活が待っているんでしょうね。私はあまり想像出来ませんが…それでもお母様と一緒なら、例え苦しくても楽しく暮らせるような気がします」

 

根が真面目なのだろうことが窺えるような、そんな風に答えていた。

 

「そうか…」

 

「でも…どうして、そんなことを…?」

 

忍が何故そのような質問をするのか、その意図がわからずに尋ねていた。

 

「君は…ここに来たばかりの、昏睡状態の俺をずっと看病し続けてくれたろう? それは…王女だからか? それとも、別の理由か?」

 

意地悪な質問をしている自覚はあるが、忍はそれを確かめておきたかった。

 

「それは…」

 

忍に問われてエルメスも困惑の色を強めると共に記憶を(さかのぼ)ってみる。

 

「…………」

 

忍は慌てずにエルメスの答えを待つ。

 

「最初は…その、兵士の皆さんと同じ感覚でした。意識不明の病人…でも、なかなか起きないので毎日確認するようになりました。酷い怪我もしていたので、心配だったのは確かです」

 

エルメスはゆっくりと語り出す。

 

「起きた時も、最初は驚いて……私、男の方と喋るのはあまり得意じゃなかったので…兵士の皆さんとも必要最低限の会話しかしませんでしたから……それで、いきなり押し倒されて、でもそれはお母様の咆哮の余波を察して助けてくれたんですよね?」

 

「あぁ。あの咆哮が聞こえた時、エルメスが窓の近くにいたのを見て危ないと思ったら、体が勝手に動いたんだ」

 

「男の人に押し倒されるなんて初めての出来事でしたから気が動転してしまって…その後、お母様を助けに行くと向かわれた時もかなり驚いたんですよ?」

 

「それは…すまないと思ってる」

 

「本当ですよ。いきなり窓から出て…飛び降りたのかと思ったんですから…」

 

あの時の出来事を思い出して苦笑するエルメス。

 

「それで…本当に劣勢だったお母様を救ってしまうんですもの。その上、亡くなった兵士の皆さんの埋葬まで…」

 

母を助けてくれただけでなく、見ず知らずの死した兵士達の埋葬まで行ってくれた忍にエルメスは深い感謝の念を覚えていた。

 

「その後、砦を奪還すべく一人で行動なさるとお母様から聞いた時は肝を冷やしました」

 

「それで君までついてくるとは思わなかったが…」

 

「あれは…お母様と忍様が心配で…他の皆さんも証人が必要だと聞いたので…」

 

他の皆さんとは今でもシルファーに付き従っている臣下達のことである。

今では忍のことも大部分の臣下達が認めているが、その功績の裏では陰口も叩かれていたり、一部の臣下達からは厄介者呼ばわりや未だ信用されていないのが現状である。

 

「(誰が焚き付けたのかは…明白だな)」

 

それを聞き、すぐさま彼女の母親の顔が思い浮かんだ。

 

「それでお母様と共に忍様と同行し、忍様の戦いぶりを拝見しました」

 

「あぁ…そんなこともあったな」

 

忍、シルファー、エルメスの3人で潜入した砦攻略戦を思い出す。

 

「あの時、忍様は何かに目覚められて、記憶もお戻りになられたのですよね?」

 

「あぁ、色んな事を思い出した」

 

「それで…忍様がフェイト様やシア様達と一緒に"地球"という場所に戻られると聞いた時、酷く胸が苦しくなって…気づいたら走ってました」

 

「…………」

 

それを忍が追いかけて説得した。

 

「自分でも驚きました。あの砦での戦いを見て、忍様の優しさに触れてから…忍様の事を考えると顔が熱くなったり、忍様に大切なお方がいると知った時も胸が苦しくなりました。これが、何なのか…最初に気付いた時は戸惑いました」

 

そして、忍を見上げながら…

 

「これが…恋、なんですか?///」

 

顔を赤くして尋ねていた。

 

「そうかもしれないな…でも違うかもしれない。エルメスはどっちがいい?」

 

「私は…恋、であってほしいです」

 

真っ直ぐ見つめ、ハッキリと言葉にする。

 

「だが、知っての通り俺には大切な…守りたい彼女達がいる」

 

「わかってます。ですが…」

 

エルメスが話す前に、彼女の口に人差し指をつけて言葉を遮る。

 

「っ!?////」

 

「話は最後まで聞いてくれ」

 

そこで忍は自分の気持ちも口にする。

 

「もちろん、その守りたい人の中には君も含まれている。君は俺にとって命の恩人であるが、それだけではなく一人の女性としての魅力も感じる心優しい女の子だ。そこに『王女』という肩書きは不要だろ?」

 

「ぁ…/////」

 

それを聞き、エルメスはさらに顔を赤くする。

 

「だが、この戦いが終われば君は平和な世になる次代の女王、もしくは王の伴侶とならなくてはならない。そんな君を…俺が歩む道に巻き込む訳にはいかないんだ」

 

しかし、忍はその気持ちを自分で押し殺そうと努力していた。

 

「そんな…!」

 

「わかってほしい。俺は…この先も戦いの道を歩むんだ。せっかく平和になる世で、俺についてきて再び戦いの中に身を置く必要はないだろ?」

 

そう忍は言うが…

 

「嫌です! 私は…忍様ともっと一緒にいたいです!」

 

珍しくエルメスが大きな声でそう主張する。

 

「しかし、君は一国の王女だ。しかも俺は別次元の人間で、そこへ帰らねばならない。君は故郷であるこの世界から離れることになるんだぞ?」

 

忍は最後のカードを切る。

 

「そ、それは…」

 

「(そう、それでいいんだ…)」

 

言いよどむエルメスに安堵する忍だったが…

 

「そ、それでも…それでも忍様がいないなんて…私は嫌です!」

 

「っ!?」

 

思いがけない言葉で忍は驚いた表情を見せる。

 

「確かに思い出深いこの国から去るのは…民を裏切ったような気持ちになって心が痛みます。ですが、あなたと一緒にいれないのは、もっと心が痛むのです!」

 

男と国を天秤にかけさせ、諦めさせるという…忍としても嫌なやり方をしたはずなのに、逆にエルメスに覚悟を持たせてしまったようである。

そして、エルメスが選んだのは国ではなく、男であった。

 

「私はどこまでもあなたの傍にいたいです。たとえ、あなたの一番でなくても…傍にいられるだけでもいいんです。お願いします…この戦いが終わっても、私を傍に置いてください…!!」

 

「…………」

 

そんなエルメスの言葉に言葉を失っていた忍だが…

 

「後悔…しないな?」

 

それだけ言うと、懐から戦車の駒を取り出す。

もしも…エルメスを眷属にするような事態が発生した場合、兵士よりも戦車にと忍は考えていたのだ。

 

「はい。後悔は致しません…!」

 

エルメスの決意も固かった。

 

「わかった。なら、君は今日から俺の眷属の一員になってもらう」

 

そう言って忍はエルメスに戦車の駒を差し出す。

 

「不束者ですが、どうかよろしくお願い致します」

 

エルメスはそう言って戦車の駒を受け取ると…

 

トクン…

 

戦車の駒が彼女の体内に吸収されていった。

 

「(これで残りの駒は兵士が5個。そして、絵札が7枚か…)」

 

これで兵士5個を除く眷属がほぼ揃ったと言えるだろう。

女王、戦車×2、騎士×2、僧侶×2、兵士×3と、フルメンバーまで後少しと言ったところである。

ただ、絵札に関してはその能力が未だ不明ということもあってか、いまいち使用する踏ん切りがつかない忍だった。

 

………

……

 

その後、エルメスが正式な眷属入りをし、別世界である地球にも行く決心したことを別室で待機していた他の眷属達に改めての紹介も兼ねて報告したところ…

 

「「「やっぱりか」」」

 

忍は異音同言のクリス、朝陽、吹雪から鋭い視線を向けられ…

 

「本当に王女様を眷属にしたのね」

 

暗七からも冷ややかな視線を向けられる。

 

「ぐっ…」

 

流石にあんな内容の交渉(?)を伝える訳にもいかず、忍はその冷たい視線に曝されるが…

 

「私がお願いした事ですから、どうか忍様を責めないでください」

 

エルメスが王女らしく(?)、そう言って忍を庇っていた。

 

「でも、これで兵士5枠以外は埋まったわね」

 

カーネリアが翼を広げて空中で寝そべりながらそう言う。

 

「王の坊や、女王の蠍お嬢様、騎士の特務騎士と古流剣士、僧侶の執務官と冥王ちゃん、戦車の私と異界の王女様、それに兵士のイチイバルと雪女に鵺。なかなかの異色揃いよね」

 

クスクスと可笑しそうに言いながらカーネリアは笑う。

 

「……それよりも、皆にも言っておくことがある」

 

カーネリアを無視して忍は先の作戦概要を伝えると共に、自らが単身で帝都に向かうことを話した。

 

「はぁ!?」

 

「また、無茶な…」

 

「1人で行くなんて、無謀にも程があるわよ!」

 

「しぃ君はどうして勝手に決めちゃうの?」

 

言った後は批難の嵐だった。

 

「だから、こうして意見を聞こうと言ったんじゃないか」

 

シルファーに言われなかったら勝手に行くつもりだったろうが…。

 

「ともかく、しぃ君一人にそんな危険なことはさせられません」

 

「同意見です。せめて私達も同行させてください」

 

智鶴とシアがそう言うと…

 

「しかしだな…俺にはアステリアがあり、後ろに一人くらい乗せられるが…それ以外となると、どうしても目立つし…」

 

忍は言い訳がましいことを言う。

 

「確かにそれは一理あるわね。良くも悪くも私達って目立つものね」

 

その言い訳にカーネリアが同意する。

 

「じゃあ、どうするのよ?」

 

暗七が皆の疑問を代表して言葉にすると…

 

「こうしたらどうかしら?」

 

カーネリアが案を出した。

 

その案とは…?

 

………

……

 

そして、二日後の明朝。

 

「これより、我々はフィロス帝国に向けて進撃する! これは侵略ではない! 帝国の侵略行為を止めるべく同志であるラント諸島、並びにトルネバ連合国との共同戦線である! 皆、これが最後の戦いと思って奮戦せよ!!」

 

王宮前の広場に集まった兵達に向けてシルファーが高らかに宣言していた。

 

「「「おおおおおおおっ!!!」」」

 

シルファーの宣言を受け、兵達も大声で応えていた。

 

「行くぞ! この戦いを以ってこの戦乱を終結させる!!」

 

その号令と共に兵達はフィロス帝国に奪われた我が国の領土へと出発する。

 

 

 

号令の後…

 

「で、忍達はどうするのか決めたのかい?」

 

専用の騎士甲冑を身に纏ったシルファーが玉座の間で忍達と戦い前の話をしていた。

 

「予定通り、"俺達"は帝都に向かう」

 

その言葉を聞き…

 

「腹は括った訳かい?」

 

シルファーがそう尋ねる。

 

「あぁ…」

 

「お母様、私…」

 

忍の言葉に続くようにエルメスが何か言おうとするが…

 

「そうかい。ま、それで悔いがないなら問題ないさね。忍、娘の事をどうかよろしく頼むよ」

 

それを遮るように言ってからシルファーは忍に頭を下げた。

 

「頭を上げてくれ。これから出陣する女王がそれじゃ締まらないだろ」

 

「だね…」

 

忍に言われてシルファーも頭を上げる。

 

「それでそっちの作戦は?」

 

話題を変えるように忍達の作戦を聞く。

 

「先発として俺と智鶴の2人がアステリアに乗って帝都に乗り込む。乗り込んだ後、ディメンション・スコルピアの力を使って眷属を呼ぶ。ただ、萌莉はこっちに残ってもらうことになるが…」

 

萌莉を残すのは、紅神眷属の中で唯一の非戦闘員と言えるからだ。

 

「お、お役に…た、立てず、す、すみません…」

 

シュンと縮こまる萌莉。

 

「気にするな。萌莉の剣は家族を守るためにあるんだろ?」

 

「は、はい…」

 

切っ掛けと覚悟さえあれば萌莉も剣士として前線に立つことが出来るだろうが、今はそれが難しい。

 

「ともかく、向こうで萌莉以外の眷属と合流してから、帝都の中央にあるという城を目指す。親衛隊は皆に任せるが…親衛隊長と皇帝ゼノライヤは俺が相手をする」

 

それだけ言うと準備したアステリアの方へと忍と智鶴が歩いていく。

 

「わかった。アンタ達の武運を祈るよ」

 

「そっちこそ、武運を祈る」

 

最後にそう言葉を交わすと、それぞれの戦場へと向かうのであった。

 

「これが…フィライトでの最後の戦いになることを祈る」

 

そう呟きつつ智鶴が乗るのを確かめてから、アステリアを発進させるのであった。

 

………

……

 

~同刻・ラント諸島~

 

「では、諸君。進軍を開始しようじゃないか。これから続くだろう平和への道と、平和な世になってからの国益のために」

 

「「「おおおおおおおお!!!」」」

 

ミゲルの号令と共にラント諸島の海軍も動き出す。

 

………

……

 

~同刻・トルネバ連合国~

 

「野郎共! 目指すは帝都! ゼノライヤの小僧の鼻をへし折ってやるぞ!!」

 

「「「おおおおおおおおおお!!!」」」

 

各部族の騎乗隊を率い、ガルドもまた号令を発していた。

 

………

……

 

~フィロス帝国・帝都~

 

「ご報告します! イーサ王国、ラント諸島、トルネバ連合国の三国が一斉に攻めてまいりました!!」

 

帝都の城、その玉座の間にそのような伝令がやってきて、大臣達は騒ぎ始めた。

 

「まさか、こうも早く攻めてくるとは!」

「だが、たかだか三国が同盟を結んだところで…!」

「しかし、三方から同時に攻めてくるなど!」

「兵達をばらけて配備するしかあるまい!」

 

大臣達が騒いでいると…

 

「静まれ」

 

玉座に坐するゼノライヤは一言呟いただけで、シンと静まり返った。

 

「全軍を三分割にしてから各方面に向かわせよ。編成は将軍共に任せる。親衛隊はそのまま待機。帝都の守りを固めろ。わかったらテキパキ働け」

 

それだけ指示すると、蜘蛛の子を散らすように大臣や将軍達が玉座の間から出ていく。

 

残るはゼノライヤとギルフォードのみ。

 

「俺なら、奇襲の一つや二つは用意する。帝都を直接狙う輩がいてもおかしくはないからな」

 

独り言ちするように呟いていると…

 

「ふふふ…流石は陛下」

 

そこに蒼と黒の混ざり合った魔法陣が展開されると共に、その中から黒ローブが現れる。

 

「貴様か」

 

それをゼノライヤはさして気にした風もなく答える。

 

「陛下と親衛隊長殿のデバイスが出来たので持って参りましたよ」

 

そんな黒ローブの言葉に…

 

「ほぉ、ようやっと出来たのか。それともこの機会になるまで隠していたか?」

 

ゼノライヤはそう問いかけていた。

 

「ふふふ…それはご想像にお任せします」

 

のらりくらりとした態度で返す。

 

「まぁ、よい。して、その出来具合は?」

 

「陛下と親衛隊長殿のポテンシャルを引き出す最高の出来と申しあげておきましょうか。ご要望通り、シュトームとは違った趣向にしておりますので…」

 

ゼノライヤの問いに黒ローブはそう答えていた。

 

ここにきて皇帝と親衛隊長に黒ローブの作った新たなデバイスが渡る。

果たして、その性能とは?

そして、忍達は無事にこの戦いを乗り越えられるのか…?



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第四十九話『決戦×終結・皇帝ゼノライヤの最期』

遂に始まった三国同盟と帝国の決戦。

 

三国同盟と帝国の軍勢がそれぞれ激突する中…

 

ブロロロロ…!!

 

この世界には似つかわしくないけたたましい音と共に、それは帝都を目指す。

 

「智鶴、平気か?」

 

「うん、しぃ君が守ってくれてるから…」

 

アステリアに乗る一組の男女、紅神 忍と明幸 智鶴。

彼らは今、山脈地帯をバイクで走行していた。

それもかなりの速度で…。

 

「戦闘は既に各地で始まってるとの報告もきた。こっちも急がないとな!」

 

ブォンッ!!

 

道とも言えぬ道、帝都への最短コースを駆け抜けるバイクの車輪には魔力が付加され、智鶴自身にもフィールド系の防御魔法が張られていた。

 

こうして2人は山や森を越えて帝都へと着々と近付いていくのであった。

 

………

……

 

~次元の狭間・フロンティア~

 

「ふふふ…やはり、直接乗り込む気ですか…」

 

忍と智鶴がアステリアに乗って帝都に向かってる様子を水晶体を用いて観察しながら黒ローブは呟く。

 

「三国同盟の攻勢を囮にし、帝都にいるゼノライヤさんの首を狙う。この程度なら彼も予想済みでしょうね。問題は狼が相手ということ。いくらデバイスを渡したとて、その戦力差は埋まりようがないでしょう。しかし、それでは彼の絶望の表情が見れませんし、エナジーも満たされない。なら、どうするべきか…」

 

わざとらしい困ったような言い草で黒ローブは水晶体の前でひらりひらりと舞い始める。

 

「困りました。あぁ、本当に困りました」

 

すると…

 

「……まったく困った様子ではないように見えますが?」

 

黒ローブの背後にローブを被った6人衆の姿があり、その中の1人が黒ローブにそう言っていた。

 

「おや、揃っていましたか」

 

これまたわざとらしい反応を示しながら舞いをやめる黒ローブ。

 

「ま、呼び出されたからねぇ~」

 

「で、やっと出番なのかよ?」

 

「俺ら全員集合ってことは、なんか大きいことでもあるかも?」

 

「ふんっ…」

 

「…………」

 

「……我々をお呼びになられたとなると、何か事態に変化が?」

 

ローブ衆が好き勝手言ってる中で、その内の1人が黒ローブに尋ねる。

 

「変化というのも些か言い過ぎのようなものですが、フィライトでの抗争がそろそろ終わりそうですかね」

 

どこが些細なものなのか…。

 

「……なるほど。では、帝国は切り捨てるのですか?」

 

「元々、あの次元は実験場のような場所でしたから、捨てても問題ないのですよ」

 

「……そうでしたね」

 

ローブ衆の代表と黒ローブが会話していると…

 

「だぁぁ!! つまらねぇ! まだ暴れさせねぇつもりかよ!!」

 

ガンッと近くにあったコンソールを蹴りながらローブ衆の1人が黒ローブに苦言を呈した。

 

「ゼノライヤさんが負けるのはほぼ確定してますからね。私達がここで出てもそれほど多くの絶望は集まらないでしょう」

 

黒ローブはつまらなそうにそう言い放つ。

 

「……量より質です。ゼノライヤか、彼の騎士の絶望をエナジーに変換しては?」

 

ローブ衆の代表がそう言うが…

 

「くだらん。質に拘っていては時間が掛かり過ぎる。ならば、今は質よりも量を優先すべきだ」

 

別のローブ衆の1人がそう断言した。

 

「あらら、意見が分かれちったよ。どうすんの、これ?」

 

「…………」

 

残りのローブ衆は、片方は面白そうに場を眺め、もう片方はどこか面倒そうにしていた。

 

「ま、俺は殺せさえすればどっちでもいいかな?」

 

「俺も暴れられるならどっちでも構わねぇ!」

 

何とも纏まりに欠ける一団である。

 

「やれやれ。困った子達ですね」

 

黒ローブはそんな彼らの様子を我が子を見るような目で見る。

しかし、その視線はとても冷たいものだった。

 

「しかし、どちらも一理あります。良質な絶望を集めるには時間を惜しみませんが、あまり集まりが悪いとエナジーの枯渇にも繋がってしまいますからね」

 

ふむ、と考える素振りをした後…

 

「仕方ありません。あの女王陛下の要望通りにしてさしあげましょうか」

 

黒ローブはコンソールを操作して以前マリアが使用した回線を多次元世界に対応するように調整を始める。

 

「やるならば徹底的に、そして劇的に…それが新たな絶望の火種となるのですよ。ふふふ…」

 

そうしながら…

 

「そうだ。あなた達もあの狼に挨拶してきなさい。これからきっと長い付き合いになるのですからね」

 

そうローブ衆に伝えていた。

 

「……御意」

 

「そいつ相手なら暴れてもいいんだよな!?」

 

「6人も必要ないと思うがな」

 

「狼の血…ド人外な、特殊な混血……うひゃひゃ♪」

 

「…………」

 

「え~、殺しちゃダメなら俺行きたくねぇ~」

 

約1名を除いてそれなりに行く意思はあるらしい。

 

「……駄々をこねるな。行くぞ」

 

「うぇ~い…」

 

乗り気でない1人のローブの襟に位置する部分を代表に引っ張られてそのまま移動してしまう。

 

「ふふふ…多次元世界を巻き込んでの抗争。これもまた一種の戦争。つまりは『次元戦争』。その始まりの引き金になってもらいましょうかね。ゼノライヤさん」

 

ローブ衆のいなくなった部屋で黒ローブは静かに、そして不気味に(わら)うのだった。

 

………

……

 

~フィロス帝国・帝都郊外~

 

「着いた、な…」

 

「アレが…フィロス帝国の帝都」

 

郊外の丘でアステリアを停車させた忍と智鶴が帝都を見下ろす。

 

「本来なら帝都に強行突破してから呼ぼうと思ったが、そうも言ってられんようだからな…」

 

忍は帝都から感じる空気を察し、ここで眷属を呼ぶことにした。

 

「智鶴、頼む」

 

「うん。スコルピアちゃん」

 

『……御意』

 

その場でゲイトを開き、イーサ王国の王宮へと繋げる。

 

「さぁ、出番だ」

 

その忍の言葉と共に…

 

「やっと出番かよ」

 

「待ちくたびれたわ」

 

「それで、敵はどこかしら?」

 

「慌てなくてもすぐに戦闘よ」

 

「後方支援はお任せください」

 

「非殺傷設定、再確認」

 

「ま、気絶させるだけなら楽よね」

 

「ここが、帝都の喉元…」

 

クリス、吹雪、カーネリア、暗七、シア、フェイト、朝陽、エルメスの順にゲイトから紅神眷属のメンバーが現れる。

それぞれイチイバルのシンフォギアを纏う、冥王化になる、堕天使の翼を広げる、両腕を異形に変化させる、デバイスを起動するなど戦闘形態に移行して準備万端といった感じである。

 

「言っておくが、民家への被害は出すなよ? 目的はあくまでもゼノライヤと、その近衛だからな」

 

眷属に注意だけを促すと…

 

「「「はい!」」」

 

「「「おう!」」」

 

「「「えぇ」」」

 

それぞれ返事をすると同時に飛べる者は飛び…

 

「暗七、クリス。これに乗れ!」

 

忍は2枚のメダルを放り投げると…

 

カッ!

 

メダルが戦闘機と空中戦車へと変化し、戦闘機に暗七、空中戦車にクリスが乗る。

 

「エルメス、君はこれに…来い、イーグル!」

 

さらにブラッド・イーグルを起動させて、その上にエルメスを乗せる。

 

「ソニックロード!」

 

空に魔力道路を作り出し…

 

「このまま一気に駆け抜ける!」

 

そこを駆けて帝都の中心にある城へと向かう。

 

 

 

その様子を地上から民間人は見ていた。

 

「な、なんだあれは…?!」

「人が…空を飛んでる…?」

「いや、それよりも背中からなんか生えてるぞ!?」

「鳥人間?」

「ママー、あれなぁに?」

「虹?」

 

人々は彼らが何者かなど知らない。

しかし、ただ一つ分かったのは…

 

「おい、あいつら城に向かってるぞ!」

「ま、まさか陛下を狙っているのか!?」

 

その事実が人々に不安を募らせていき、動揺を広げていく。

 

 

 

そして、そんな市民の動揺の中…忍達は城の近辺まで肉薄した。

 

「貴様ら! これ以上は行かせん!」

 

そこにシュトーム、モード・アルファを纏った親衛隊の一団が立ち塞がる。

 

「タイガー、ドラゴン! お前達も来い!」

 

ブラッド・タイガー、並びにブラッド・ドラゴンも起動させると戦列に参加させる。

 

「スコルピアちゃん、来て」

 

智鶴もまたスコルピアを起動させると、アーマー形態へと移行させて身に纏う。

 

「アステリアは残してく。皆はこいつらを頼むぞ!」

 

忍はアステリアから飛び降り、城の屋根へと降り立つ。

 

「奴を行かせるな!」

 

モード・ガンマに武装変更した一部の親衛隊が忍を狙い撃とうとする。

 

「させっかよ!」

 

≪MEGA DETH PARTY≫

 

腰部アーマーが展開し、そこから小型ミサイルが発射して親衛隊の射線を封じる。

 

「ちぃっ!!」

 

ミサイルの爆発によって射線を封じられ、舌打ちをする親衛隊。

 

「こっから先は通行止めだ!」

 

「ここから先に行きたいなら、私達を退いてからにしてください」

 

クリスに続き、智鶴も忍のところに行かせないように立ち塞がると、そう言い放っていた。

 

「調子に乗るな! 小娘共が!!」

 

親衛隊がそれぞれの武器を手に紅神眷属と衝突する。

 

………

……

 

~城内~

 

ある一室の窓を蹴破り、そこから城内に侵入した忍は通路を歩いていた。

 

「(おかしい、警備が少な過ぎる。まるで俺が来るのを予想してたかのような…いや、予想したのか?)」

 

周囲の匂いと気配を確認しながらそう考えていた。

 

「(どっちにしろ、俺の相手は決まってる、か…)」

 

そして、匂いを頼りに玉座の間へと到着する。

 

「来たか、噂の狼」

 

「…………」

 

そこには玉座に腰掛けるゼノライヤと、その前に空間に立ち塞がるギルフォードの2名がいた。

 

「お前が…皇帝ゼノライヤ…」

 

「如何にも。して、お前が最近我が軍でも噂になっている狼か?」

 

「どんな噂か知らないが、狼なのは確かだ」

 

「イーサ王国やラント諸島での我が攻勢を邪魔したのも確かか?」

 

「まぁ、確かだわな」

 

ゼノライヤの問いに忍はそう答えた。

 

「そして、我が帝国以外の三国を同盟させ、攻勢を仕掛けさせた上で俺の首を狙いに来たわけか?」

 

「攻勢を仕掛けさせたってのは語弊があるかな。少なくともシルファー女王はアンタの帝国に対して良く思ってはいなかった訳だし、いずれは自らがアンタを討ちに出向いてたかもな」

 

「イーサ王国の女王か。確かにそれは厄介だ」

 

"厄介"と言うわりにはかなり冷静な態度である。

 

「いずれにしろ…俺の首を狙うなら、先に我が親衛隊長を倒すことだ。お前にそれが出来るならば、の話だが…」

 

「…………」

 

ゼノライヤの言葉を受け、ギルフォードが動き出す。

 

「(来るか…?)」

 

それを見て忍も身構える。

 

「そう慌てるな。余興はこれからだ」

 

ゼノライヤがそう言うと、ギルフォードは懐からバックル装備を取り出す。

 

「それは…?!」

 

忍が驚いてる間にギルフォードはそれを下腹部に当てると、自動的にベルトが腰に巻かれる。

 

「……ダークネス・シュヴァリエ、起動」

 

ギルフォードが呟くと同時にバックルから魔力が放出されていき、ギルフォードを包み込む。

 

パァンッ!!

 

魔力が弾けると、鎧で固めていた姿から上に青いワイシャツを着て、下に黒のスラックスを穿き、その上から漆黒の騎士甲冑の衣装を施した胸部プロテクター、両肩プロテクター、肘から指先まで覆う籠手、腰部プロテクター、膝からつま先までを覆う足具を装着した姿へと変化していた。

 

「……思った以上に軽いな」

 

自らの纏ったバリアジャケットの感触を確かめるように軽く拳をグッパーしていた。

 

「バリアジャケット展開型…ネクサスの同系機種か!?」

 

ギルフォードの起動させたそれを瞬時に理解して忍は驚く。

 

「……確か、これだったか」

 

バックルの両端にある鍔のない剣の柄を引き抜く。

しかし、刃が形成される様子がない。

 

「?」

 

その様子に忍も若干首を傾げる。

 

「ふぅ…ギル。リングに魔力石を」

 

やれやれ、といった感じにゼノライヤがギルフォードに伝える。

 

「……あぁ」

 

言われて気づいた様子で、ギルフォードは…

 

ヒュッ!

 

片方の柄を頭上に投げると手早く、籠手から露出した中指に装着している指輪の表面に赤と黄色の魔力石を装填してから降下してくる柄を再度掴み取る。

 

すると…

 

ブォンッ!

 

柄からそれぞれ右が赤、左が黄色の片刃状の魔力刃が形成されていく。

 

「……シュヴァリエ・ブレード」

 

「ファルゼン、セットアップ」

 

それを見て忍もファルゼンを手にしていた。

 

「ほぉ、ギルを相手に剣で勝負とは面白い」

 

その様子を玉座の肘掛けに肘をつけながらゼノライヤが面白そうに呟く。

 

「(…隙がない。どう打ち込んだものか…)」

 

「(ふむ…見たこともない型だが、俺が負ける道理はない)」

 

忍がギルフォードの隙の無さを感じてる中、ギルフォードは冷静に忍の剣を見極めていた。

 

しばしの睨み合いの後…

 

「……業炎刃(ごうえんじん)!」

 

ギルフォードが先手を取り、赤い魔力刃の刀で斬りかかる。

その斬撃は初動速度からかなり速い。

 

「っ!?」

 

ギィィンッ!!

 

忍は反射的にギルフォードの初撃を"読む"と、即座にファルゼンで受け流した。

 

「……?」

 

今の攻防にギルフォードは僅かな違和感を覚える。

 

「(なんだ? 今の奴の反応…?)」

 

ギルフォードは一太刀で決めるつもりでいた。

高速から繰り出す炎の一太刀はこれまでも何人もの猛者を屠ってきた自信の一撃。

それを初撃で繰り出すのは一撃必殺も等しい。

しかし、忍はそれをまるで読んでいたかのように、後から動いたにも関わらず防いでみせた。

 

「(いや、"読んだ"のか?)」

 

その事実に気付いたギルフォードはあることを試そうとした。

 

「……ッ!」

 

ヒュヒュヒュッ!

 

二刀による連続突きを忍へと放つ。

 

「ちっ!」

 

今度も忍は叢雲流の瞬間予知で連続突きを回避していく。

 

シュッ!

 

最後に忍の顔面に向けて突きを放つと、忍はそれを後方宙返りの要領で一気に後退して回避する。

 

「……やはりか」

 

忍の挙動を見てギルフォードは確信した。

 

「……手段はわからんが、俺の行動を読んでいるな?」

 

「っ?!(もうバレたのかよ…)」

 

「……察するに、直前の行動だけのようだが…」

 

「(そこまでわかるもんかね?)」

 

ギルフォードの観察眼に言葉もない忍だった。

 

「……が、だからどうした? 貴公が対応出来なければ問題はない」

 

そう断じるギルフォードを見て…

 

「珍しく饒舌だな、ギル」

 

背後のゼノライヤがそんなことを言う。

 

「…………」

 

ゼノライヤに指摘され、自身でも意外だと感じていた。

 

「ともかく、奴には相手の行動を読む類の力があるか。面白いではないか」

 

ギルフォードの言葉によってゼノライヤも忍の力の一つを知った。

これで忍の手札が一枚減ったことになる。

 

「……炎雷斬(えんらいざん)!」

 

気を取り直すようにギルフォードが忍に仕掛ける。

 

「いきなりかよ!」

 

思わず忍もそう叫びつつもしっかりとファルゼンで二刀の斬撃を防いでいた。

 

「瞬狼斬!」

 

防いだ勢いで後退するも、すぐさま態勢を低くしてから一気に駆け抜け、ギルフォードの周囲を回りながら斬撃の繰り出していく。

 

「ッ!!」

 

ギギギギギンッ!!

 

それらをギルフォードは確かな技術と経験によって全ての斬撃を防ぎ切っていた。

 

「(瞬狼斬が防がれた!?)」

 

瞬狼斬を防がれたことに忍は内心で驚く。

 

「(ふむ…この違和感は…)」

 

瞬狼斬を受け、ギルフォードは新たな違和感を覚えていた。

 

「黒影斬!」

 

黒い魔力斬撃を放ってギルフォードを牽制しようとするが…

 

「……そういうことか」

 

向かってくる黒影斬を容易に切断しながら違和感の正体を突き止める。

 

「……この勝負で、もし仮に俺が膝を着くようなことがあれば…その時はこのシュヴァリエ・ブレードとエナジーリングを貴殿に譲り渡そう」

 

そして、何を思ったのかギルフォードは忍にそう申し出ていた。

 

「なに…?」

 

「どういうことだ、ギル?」

 

ギルフォードの言葉に忍はもちろんゼノライヤも疑問を抱いていた。

 

「……剣士としての勘。貴殿はきっと…俺と同じ"二刀流"の使い手のはず。それが一刀…勝手が違うだろう」

 

ギルフォードはそう判断していた。

 

「俺が…二刀流…」

 

ギルフォードの言葉に忍は思い当たる節があった。

紅蓮冥王と蒼雪冥王の力を掌握する前に己の血の起源を狼夜から聞いた時だ。

その最後の方で、狼夜は忍が二刀の方が映えると言っていた。

そして、それは忍のまだ見ぬ父親…『狼牙』にとても似ているのだとか…。

 

「……自覚がなかったか?」

 

「いや…つい最近、ある人から同じようなことを言われたよ」

 

「……そうか」

 

瞬きする間の静寂が訪れ…

 

「……これ以上の言葉は無用。貴殿も剣士の端くれなら、剣で語れ」

 

ギルフォードが炎の刀の切っ先を忍に向けてそう告げる。

 

「…………」

 

そう言われて忍もファルゼンを握り直して構える。

 

「……行くぞ」

 

「ッ!!」

 

ギルフォードの言葉を合図に…

 

ギギギギギンッ!!

 

玉座の間に壮絶な剣戟音が響き渡る。

 

「(これが剣を極めし騎士の技…!)」

 

互いにバリアジャケットを斬り裂きながら忍はギルフォードの剣技を肌で感じていた。

 

「(粗削りだが…なるほど。これは今後伸びる器…ゼノにも匹敵する程だ…)」

 

忍の剣を受けながらギルフォードは背後に居座る幼馴染みへと少し意識を飛ばしていた。

 

「(あいつは全体的な才に恵まれていた。剣の才能だけはかろうじて上回っていたようだが、それもいつ破られるか…)」

 

ゼノライヤと過ごしてきたこの十数年間の記憶を思い出す。

 

「(そのくらいの実力差があるにも関わらず、あいつは俺を側に置いて信頼してくれた。ならば、それに応えるのが、親衛隊長になった俺の仕事…)」

 

そう考えた後、すぐさま意識を目の前の敵へと向けて二刀を振るう。

 

徐々にギルフォードの剣戟が忍の太刀を圧倒していく。

 

「(ファルゼンだけじゃ手数が足りねぇ! だが、俺は進み続けなきゃならない!)」

 

忍もまた脳裏に大切な者達の姿を思い描く。

 

「(愛する者を守るため、大切な人達を守るため…俺は力を受け入れたんだ!)」

 

バリアジャケットが斬り裂かれ、そこから血を流そうと忍は一歩も退くことはなかった。

 

「……雷光刃(らいこうじん)!」

 

しかし、それでもギルフォードの剣戟に忍は受けに徹するしかなかった。

 

「……追撃、氷紋刃(ひょうもんじん)!」

 

そして、いつの間にか炎の刀から氷の刀へと変化していた突きを雷の斬撃に続けて放つ。

 

「ッ!?(いつ属性が変わった!?)」

 

ファルゼンを斬艦刀に変化させて横に構えると、その場凌ぎで防いでいた。

斬撃と突きを受け、忍は後方に滑るようにして吹き飛んでしまう。

 

「……それもカラクリだったか」

 

一拍を置いてギルフォードがそう呟く。

 

「まぁ、ね」

 

斬艦刀から日本刀に戻すと構え直す。

 

「(室内で斬艦刀は使い勝手が悪いからな。緊急防御以外では使い道もないし…)」

 

ファルゼンの欠点を思い出しながら忍は…

 

「(力を出し惜しんでる場合でもないか。相手が炎、雷、氷の三種を使う以上、こちらも能力を使って相手の手札を削ぐか)」

 

素早く考えを纏めて行動に移す。

 

「紅蓮冥王、解放!」

 

瞬時に紅蓮冥王を解放すると、紅蓮の焔をファルゼンへと灯す。

 

「……姿が…!」

 

「ほぉ…?」

 

忍が紅蓮冥王へと変化したことにギルフォードは驚き、ゼノライヤは興味深そうに見ていた。

 

「フレイム・ブラスト!」

 

左手から紅蓮の焔の砲撃を放って牽制する。

 

「……破ッ!!」

 

自らの膝に左手を打ち付けると黄色の魔力石が外れ、それと入れ替えるようにして近くに落ちていた赤い魔力石を爪先で弾き飛ばして指輪へと装填することで炎の刀を再度作り出すと…

 

斬ッ!!

 

忍の砲撃を逆手に持った炎の刀で真っ二つに斬り裂いていた。

 

「(なんて器用な?!)」

 

その瞬間を見て忍はギルフォードの技量に舌を巻いた。

 

「(さっきの攻防の際…下に魔力石を落とし、あの激しい剣戟の中で変えていたのか)」

 

さっきの変化した刀の謎がわかったものの、忍はそんなことを人間の身で平然とやってのけるギルフォードにある種の脅威を覚えていた。

 

「(人の身でも極めればここまで辿り着けるものなのか…)」

 

その事実に忍は脅威とは別の感情を抱いていた。

 

「(人の身で出来て人外が出来ない道理はないか…)」

 

それを感じた時、忍の体は動いた。

 

左手にレフト・フューラーを起動させて保持すると…

 

紅蓮弾(ぐれんだん)!」

 

自らの魔力を紅蓮の焔に変換し、弾丸のようにして撃ち出す。

それを数発撃った後、忍はギルフォードに斬り込む。

 

「……むっ!」

 

紅蓮弾を逆手に持った炎の刀で斬り裂きながら焔を宿したファルゼンを氷の刀で防ぐ。

 

ジュワッ!!

 

その瞬間、焔と氷が反発し合って水蒸気を発生させる。

 

「……烈火斬(れっかざん)!」

 

ギルフォードは追撃とばかりにもう片方の刀で忍を強襲する。

 

「冥王スキル『イグニッション・アグニ』!」

 

レフト・フューラーでの防御が不可能と察すると同時に先日獲得したばかりの能力を発揮する。

忍にとっては初めて実戦で使う能力でもあった。

 

ピキッ…

フッ…

 

炎の刀が忍に迫ろうとした時、魔力石の表面に罅が入ると同時に赤い刀身が消え去る。

 

「……な、に…?」

 

その事実に今度はギルフォードが驚く。

 

「(何とか成功か…)」

 

忍は熱エネルギーの吸収を炎の刀に限定し、魔力石に宿ってた魔力ごと吸い取ったのだ。

その結果、炎の刀は刀身を維持するだけの魔力を失い、間接的に魔力石を破壊するに至った。

 

そして…

 

ボアアアッ!!

 

逆にファルゼンに宿る紅蓮の焔の勢いが増していく。

 

「……ッ!」

 

紅蓮斬(ぐれんざん)(ほむら)ッ!!」

 

その勢いに加え、忍は右腕に気と妖力を流して半ば力任せにファルゼンを振り抜く。

 

バキンッ!!

斬ッ!!

 

「ぐっ!?」

 

その一撃はギルフォードの氷の刀を砕き、バリアジャケットを焼きながら左肩から右脇腹に向かって深い傷を負わせていた。

 

ズザアァァァ!!

 

その衝撃によってギルフォードは床を滑りながらゼノライヤに向かって後退してしまうも…

 

「ぐ…ぅっ!!」

 

ギィィ…!!

 

砕けた氷の刀を床に突き刺してゼノライヤの眼前で止まる。

その膝を地に着けて…。

 

「……すまない、ゼノ…俺は…」

 

顔を床に向けながら一言、ゼノライヤに詫びを入れていた。

 

「良い。お前の忠義は十分過ぎるほど見せてもらった。ならば、今度は俺がこの帝国の王としてお前の期待に応える番だ」

 

「……っ…」

 

ゼノライヤの言葉にギルフォードは無言のまま右拳を強く握り締めていた。

顔には出さないが、ギルフォードの心中には様々な感情が渦巻いていた。

自分の不甲斐なさへの怒り、ゼノライヤが発した言葉への驚き、膝を着いたうえにゼノライヤの眼前まで下がってしまった悔しさ、忍に対する敬意と敵意…。

それらを知ってか知らずか…

 

「それよりもギル。先の約束を果たすんだ」

 

ゼノライヤはギルフォードにそう告げていた。

 

「………御意」

 

それを受け、ギルフォードは右手に着けていたエナジーリングと同じく右手に持っていたシュヴァリエ・ブレードを忍に向けて投げた。

 

「っ!?」

 

それを受け取りながら忍は驚いた様子でギルフォードを見る。

 

「……言ったはずだ。もし、俺が膝を着くようなことがあれば、シュヴァリエ・ブレードとエナジーリングを譲り渡す、と…」

 

そう言うと、ギルフォードはゼノライヤに道を開ける為に横へと下がる。

 

「そういうことだ。やるなら二刀のお前とやり合ってみたいのでな」

 

そう言いながらゼノライヤは玉座から立ち上がると、ギルフォードと同じように懐からバックルを取り出す。

その手にはギルフォードと同じエナジーリングが既に装着されていた。

 

「ダークネス・エンペラー、起動」

 

バックルを下腹部に装備してベルトが腰を回ると共に黒い魔力石を装填して起動させる。

 

カッ!

バリンッ!

 

黒い魔力球がゼノライヤを包み込み、それが弾けた瞬間…

 

バサァッ!

 

ゼノライヤは上に白のワイシャツを着て、下に黒のスラックスを穿き、その上から騎士甲冑に似た縁沿いに金の装飾を施した漆黒の胸部プロテクター、前腕部から手の甲までを覆う籠手、腰部プロテクター、脛部分を守る足具を装着し、さらにその上から裏地が緋色の漆黒のマントを羽織り、ストレートチップの黒い革靴を履いた姿となり、マントが勢いよく翻っていた。

 

「確かに想像以上に軽いな。そして、体も軽くなった気分だ」

 

そう言ってバックルの表面にマウントされたv字型のパーツを外すと、それが剣の柄へと変形した。

 

「俺はギルほど、魔力石に拘ってるわけではないのでな」

 

さらに右の指輪に山吹色の魔力石、左の指輪に翠色の魔力石をそれぞれ装填し、剣の柄から山吹色の両刃状の魔力刃が形成された。

 

「カイザーソード、か。悪くない出来だな」

 

ゼノライヤがカイザーソードを軽く振るって具合を確かめている中…

 

「………」

 

忍はレフト・フューラーを待機状態に戻すと、左手の人差し指にエナジーリングを着けてその表面に手元にある白の魔力石を装填し、シュヴァリエ・ブレードを左手に保持すると…

 

ブォンッ…

 

シュヴァリエ・ブレードから片刃の白い刀身が形成された。

 

「(二刀流、か…)」

 

右手にファルゼン、左手にシュヴァリエ・ブレードを握り締めながらその感覚を瞬時に覚える。

 

「さて、狼よ。始めようか」

 

ゼノライヤが不敵な笑みを浮かべる。

 

「これがこの戦争の幕引きとなることを願う」

 

今も外で戦っているだろう眷属や三国同盟の皆のことを想いながら忍は二刀を構える。

 

「それは儚き想いというものだ。その願いは俺の手によって砕かれる」

 

そう言うと同時にゼノライヤは灰色の魔力石と浅葱色の魔力石をエンペラーバックルへと装填した。

 

「アクセル!」

 

そう呟いた次の瞬間…

 

ブンッ!

 

「なっ!?」

 

ゼノライヤが忍の眼前まで迫り、カイザーソードを振るおうとしていた。

 

「真狼解禁ッ!」

 

紅蓮冥王から真狼へと即座に変身した忍はファルゼンでカイザーソードを受けると同時にシュヴァリエ・ブレードを横薙ぎに振るう。

 

ガキンッ!

 

しかし、シュヴァリエ・ブレードの刀身はゼノライヤのバリアジャケットを斬り裂くことは出来なかった。

 

「(硬ぇ…!!)」

 

忍は表情を険しくすると、さっきのゼノライヤの行動を思い出す。

 

「(灰色と浅葱色…確か、鉄壁と速度の属性だったか。それがバリアジャケットに反映されたとでも言うのか?!)」

 

そう思考を巡らせる忍に対し…

 

「ふっ…あやつのカラクリも大したもののようだ。この魔力甲冑に属性が反映出来るとはな」

 

ゼノライヤはそう呟いて忍の推測が当たっていたことを認めていた。

 

「その"あやつ"というのは何者だ! 何故、そいつからデバイスを受け取って戦争に使った!?」

 

"あやつ"というワードを聞いて忍はゼノライヤに問い質す。

 

「愚問だな。俺が奴を利用し、その技術を軍事利用したまでだ。本来ならデバイス技術とやらも我が帝国で自作出来るようになればいいのだが、そう簡単にはいかないのでな。奴もこちらを利用してるつもりだろうが…時が来れば俺が直々に手を下すつもりだ」

 

「その考え自体が間違っていてもか!?」

 

その危険な思想に忍が叫ぶ。

 

「間違う? この俺がか?」

 

「そうだ!」

 

忍の言葉にゼノライヤは…

 

「それこそ笑止。仮に俺が奴の掌で踊らされていたとしても、それすらも食い破るのみ!」

 

忍を足蹴りしながら距離を開け、その言葉を一蹴していた。

 

「(こいつは…!)」

 

ゼノライヤの自信に満ちた…いや、もはや独善的とも言える解釈に忍は怒りを覚えた。

 

「お前のその思想は危険過ぎる! その思想を民は本当に理解しているのか!?」

 

「民の理解など不要。民は俺が進むべき道に従って後ろからついてくれば良いのだ!」

 

「それで民が納得するものか!」

 

「民の是非など必要ではない。必要なのは皇帝である俺の決断と覇道のみ!」

 

「それがお前の本性か!!」

 

「本性? それこそ違うな。これは俺自身が生まれながらに背負ってきた生き方だ」

 

忍とゼノライヤの舌戦がしばし続いた後…

 

「所詮は貴様も弱者の思想なのだ。だからそのようなくだらないことを考える」

 

「なに!?」

 

「上に立つ者として俺は正しい姿を示してるに過ぎない!」

 

ゼノライヤがそう叫ぶと共にカイザーソードを構え…

 

「吹き荒ぶがいい、風の刃よ! ストーム・リッパー!」

 

横一閃に振るうと、旋風が吹きながら忍へと向かう。

 

「何が正しい姿だ! 相殺せよ、鎌鼬!」

 

ファルゼンを振るって鎌鼬を発生させると、ゼノライヤのストーム・リッパーを相殺する。

 

「ならば、貴様は何を以って俺の前に立つ? もしも意志無き答えなら、我が前に立つ資格なし」

 

ゼノライヤの問いに…

 

「俺はこの無益な戦いを終わらせたいからここにいるんだ。お前の理想を砕くため…そして、お前の裏で悪意を撒き散らす者を突き止めるために…」

 

忍はそう答えていた。

 

「悪意、だと?」

 

「そうだ。シュトームを用いた軍備増強という戦乱の拡大。お前に取り入ることでこの無益な戦いは加速していった。これが悪意でなくてなんなんだ!」

 

そう叫び、忍はファルゼンとシュヴァリエ・ブレードを広げるように構えてゼノライヤへと向かう。

 

「紅蓮の(ほむら)と蒼雪の氷、相反する属性よ。我が声に応え、その力を発揮せよ!」

 

ボアアア!!

シュウウ!!

 

ファルゼンの刀身に紅蓮の焔、シュヴァリエ・ブレードの刀身に蒼き冷気がそれぞれ発現する。

 

「相反の双刀! ブリザード・エクスプロージョン!!」

 

ゼノライヤに届く距離まで走るとクロスするように二刀を振るう。

 

「顕現せよ、我が鉄壁なる闇の盾!」

 

左手を前に突き出し、闇と鉄壁の属性を組み合わせた魔力シールドを展開する。

 

「それがなんだ!」

 

キュイイイ!!

 

忍の猛る魔力に反応し、光の魔力石が輝く。

 

斬ッ!!

 

「ぐっ!?」

 

闇の盾を打ち砕き、ゼノライヤのバリアジャケットをクロス状に斬り裂いて傷を負わせる。

その衝撃でゼノライヤは後方へと吹き飛んでしまう。

 

「お前の勝手な理想に民を付き合わせてんじゃねぇよ」

 

忍はそう言うと、ファルゼンを待機状態に戻すと吹き飛んだゼノライヤの背後へと瞬時に回り込み…

 

猛牙墜衝撃(もうがついしょうげき)!」

 

魔・気・霊・妖の力を収束した掌底をゼノライヤの背部に叩き込む。

 

「ぐぅっ!!?」

 

ドガァンッ!!

 

その衝撃によってゼノライヤは玉座の間にあった柱に激突し、その柱が瓦礫となってゼノライヤを埋める。

 

「……ゼノ!」

 

その様子にギルフォードが立ち上がる。

 

「狼狽えるな。お前らしくもない」

 

瓦礫の中からゼノライヤが抜け出すと、そう言って自分の体を軽く叩いて埃を払う。

 

「やってくれるな、狼」

 

口の端から流れた血を拭いながら忍を一瞥する。

 

「(今ので倒れないとか、鉄壁属性ってのは意外と厄介だな。いや、真におっかないのはゼノライヤもそうか。俺が一撃を入れた瞬間、前に少しだけ重心を移して一撃の威力を軽減しやがった。それと鉄壁も相俟ってダメージ量を全体的に下げた、ってとこか)」

 

そんなゼノライヤの状態を冷静に分析して背中に冷や汗を掻く。

 

「そういえば、狼。その名をまだ聞いてなかったな」

 

ふと思い出したようにゼノライヤが忍に問う。

 

「そういや、ちゃんとした名乗りはまだだったか」

 

言われて忍もそのことを思い出す。

 

「紅神 忍。紅神がファミリーネームで、忍が名前だ」

 

「紅神 忍、か。その名、覚えたぞ」

 

忍の名乗りにゼノライヤは不敵な笑みを浮かべる。

 

「そりゃどうも」

 

忍は若干面倒そうな表情をすると、再びファルゼンを起動させる。

 

「カイザーソード、出力全開!」

 

ゼノライヤは翠色の魔力石から黒い魔力石に入れ替えると、山吹色の魔力刃に黒い魔力刃が覆うようにして延長して大剣型となる。

 

「チャージアップ!」

 

『CHARGE UP』

 

そして、カイザーソードを両手で掴んで頭上に掲げるように構えると共に魔力石から魔力が収束していく。

 

「(ここで決める気かよ…!)」

 

それを見て忍もまた二刀を広げるようにして構える。

 

「エクシードドライブ!」

 

『EXCEED DRIVE』

 

右腕のエナジーメモリからファルゼンに残りの魔力が流れ、魔力石からも魔力がシュヴァリエ・ブレードの刀身へとそれぞれ収束していく。

 

「「…………」」

 

互いに一撃必殺の構えを取ると睨み合い…

 

ダンッ!!

 

次の瞬間、互いに床を踏み鳴らして肉薄する。

 

「ダークネス・セイバーッ!!」

 

絶刀(ぜっとう)双狼烈牙(そうろうれつが)ッ!!」

 

斬ッ!!!

 

技名を叫ぶと同時に2人の一撃が交差する。

 

ズザアァァァッ!!

 

忍とゼノライヤは背を向け合うようにして床を滑りながら止まる。

 

「「「……………」」」

 

ギルフォードを含め、しばしの静寂が玉座の間を支配する。

 

「ぐっ…!!」

 

先に声を発したのは…ゼノライヤであった。

その胸元には先の一撃で受けた傷をさらに深く抉ったようなクロス状の傷があり、口から血の塊を吐きながらも立っていた。

 

「がはっ…!!」

 

次に声を発した忍もまた吐血しながらファルゼンを杖代わりにして膝を着いていた。

見れば、左肩から右脇腹にかけて大きな斬り傷があり、そこから血が滲んでバリアジャケットを汚していた。

その様はまるで先のギルフォードが受けた傷をゼノライヤが忍にやり返したようにも見える。

 

「……ゼノ!」

 

「案ずるな。この程度で…俺は死なん」

 

心配した様子のギルフォードにゼノライヤはそう答える。

 

「(しかし、同じ場所を正確に狙うとは…)」

 

「(くっそ…あれでもまだ立ってんのかよ!)」

 

互いに振り向くと同時に相手の傷や状態を見る。

 

「まだまだ楽しめそうだな、紅神 忍!」

 

「皇帝なら潔さも大事だと思うぜ!」

 

そう言って再び剣と刀を交えようとした時だった。

 

ザシュッ!!!

 

「ッ!!??」

 

突然、ゼノライヤの腹部から禍々しい輝きを放つ巨大な刃が生えるようにして出現した。

 

「「ッ!?!」」

 

その事態に忍もギルフォードも言葉を失っていた。

 

「は~い、残念賞♪ 時間切れだよ、ゼノちゃ~ん」

 

そう言ってゼノライヤの背後から…以前、京都で忍と交戦した死神ローブが姿を現す。

 

「お前は…!?」

 

まさかの再会(?)に忍は驚く。

 

「やぁやぁ、狼君。この間振りだね。元気してた?」

 

ふざけた態度をした死神ローブの後ろにはいつの間にか緋鞠と戦った双剣ローブの他に4人のローブ衆の姿もあった。

 

この戦争、果たして何処へ向かおうとしているのだろうか?



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第五十話『暴かれる多次元世界の現実』

三国同盟とフィロス帝国の決戦は各地でシュトームを相手にしていた。

そして、その一方で忍は眷属と共に帝都へと攻め進んでいた。

 

これはゼノライヤが死神ローブに背後から刺される少し前のこと…。

 

~次元の狭間・フロンティア~

 

「ふふふ…では、始めましょうか」

 

パチンッ!

 

黒ローブが指を鳴らすと同時に映像が流れる。

その映像とは、各地で起こる帝国軍と三国同盟の戦いの様子が映し出された。

 

「さぁ、拡散しなさい。全次元世界に向けて、ね」

 

その言葉と共にコントロールパネルを操作して各次元に向けてこの映像を流布し始める。

 

「ふふふ…時空管理局、冥界、天界、神の子を見張る者、各地の勢力の皆さま…あなた達はこの事態をどう対処しますか?」

 

黒ローブはフードの奥で口の端を少し上げながら嗤う。

 

………

……

 

~時空管理局・次元航行部隊本部~

 

「これは…!」

 

執務室にて黒ローブの流した映像を見て驚く時空管理局提督『クロノ・ハラオウン』。

 

『クロノ!』

 

すると内線通信魔法陣にユーノの姿が映る。

 

「ユーノか。見てるな?」

 

『うん。これは…何処かの次元の抗争映像だよね』

 

戦いの様子を見て2人は話し合う。

 

「フェイトの報告にあった次元世界の可能性は?」

 

『可能性は高いけど…でも、誰がこんなことを…?』

 

「わからん。映像はここだけなのか?」

 

『それが…』

 

ユーノは戸惑いながら映像の解析結果を伝える。

 

………

……

 

~時空管理局・地上本部内武装隊特殊任務対応執務室~

 

「ふむ…公共の電波すらジャックしての放送か」

 

ゼーラは報告を受けてからしばし考える。

 

「一体何処のどいつがこのような真似をするのか…。しかも他の次元世界でも同じような放送が強制的に流れているとか…」

 

そう言って机から立ち上がると窓へと移動し…

 

「少しばかり忙しくなるか」

 

目を細めて窓の外を見る。

 

………

……

 

~冥界~

 

「これが異世界の戦い…」

 

四大魔王が集まる場でフィライトでの戦争映像が流れていた。

 

「まさか、この場にも映像を流すとは…ここはトップシークレットな場なんだがね」

 

そう言ってアジュカが興味深そうに映像を眺める。

 

「もうアジュカちゃんったらそんなこと言ってる場合?」

 

「Zzz…」

 

「ファルビーもこんな時まで寝てないの!」

 

珍しくセラフォルーがキャラを捨てて対応してる。

 

「それよりも気がかりなのは…」

 

サーゼクスは民達の反応を気にする他にもう一つの気がかりがあった。

 

………

……

 

~天界~

 

「人間界にも同様の映像が…?」

 

ミカエルが下級天使からの報告を聞いていた。

 

「あらあら、困りましたねぇ~」

 

「人間達がこのような映像を見て何を思うか…」

 

他のセラフメンバーもその報告を聞いてそれぞれ思うところがあるようだ。

 

「ともかく、他の勢力と協力してこの映像の流布を止めなくては…発信源はまだ見つからないのですか?」

 

ミカエルは映像の配信を止めようと動こうとしているが、なかなか発信源が見つからないことに表情を曇らせていた。

 

………

……

 

~人間界(地球)~

 

世界規模で電波ジャックは地球でも起こっていた。

 

「なんだなんだ? 新作の映画か?」

 

「ていうか、前にもこんなことなかった?」

 

様々な放送局、ネット中継もまたフィライトでの戦争映像が流されていた。

それは奇しくも数カ月前に起きたフロンティア事変のマリアの放送にも似ていた。

しかし、その規模はその時よりも大きく、次元を隔てた別世界にも及んでいた。

 

それは授業中である駒王学園でも例外ではなかった。

突然、教室のテレビが点くと同時に映像が流れたのだ。

 

「(これって前に忍が言ってた、異世界の…?)」

 

その放送を教室で見ていたイッセーは驚きながらも前に忍が話していたことを思い出していた。

 

「(てか、なんだってこんな映像が…?)」

 

周囲の困惑した様子を観察しながらイッセーは思案してみるが、一向に答えは出ない。

 

「(確か、忍の奴もここで戦ってるはずじゃ…!?)」

 

それを見られたらマズいと考えたイッセーだが、どう行動していいものやら決めあぐねていると…

 

『ジ……あ……ジジ……テス…』

 

映像に混じって音声が聞こえ始める。

 

「なんか聞こえね?」

 

クラスの誰かがそう呟くと、誰もが耳を澄ましてみる。

 

『ふむ、流石に全次元世界に向けるとなると翻訳機能や音声の調整が大変ですね』

 

何やら映像とは不釣り合いなほど冷静な声音での愚痴が聞こえてきた。

 

『ともあれ、初めまして。全次元世界の皆さま』

 

画面の中、映像の隅に小さく黒ローブの姿が映し出される。

その背後には禍々しい上半身は四本腕を持つ異形の人型で、蛇のような尾で形成されたような下半身を持つ石像が映っており、黒ローブはその上半身に当たる位置の前に蒼と黒の混ざった魔法陣を展開し、その上に立っていた。

 

「ひっ…!?」

 

クラスの女子の何人かが映像の隅に出た黒ローブと石像を見て短い悲鳴を漏らす。

 

「全次元世界?」

 

黒ローブの言葉に一部の生徒達は意味不明そうな表情を見せる。

 

「(あの魔法陣の色は…!?)」

 

イッセーはイッセーでその魔法陣の色に驚いていた。

アレは冥界で忍と共にブリザード・ガーデニアに強制転移させられた時に見た魔法陣の色と同じだからだ。

 

「(イッセーさん?)」

 

「(イッセー?)」

 

「(イッセー君?)」

 

イッセーの僅かな反応に教会トリオが気づく。

 

『多次元世界。この言葉を知らない、もしくは"その存在を知りつつも上の人間によって教えられていない"人々にお教えいたしましょう。世界はあなた達が思っている以上に広く、そして複雑なのです。次元の狭間という境界線に区切られただけで世界は幾重にも存在します。あなたの知る世界だけが全てではないのですよ。今、"流している"映像のようにね』

 

手を広げるような仕草と共に黒ローブは告げる。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

その言葉に教室のイッセー達の顔色が変わる。

 

『多次元世界を認知している世界もあるというのに…その事実を知らない皆さんには同情を禁じ得ませんよ。まったく、これだから何処の世界の上層部や政府というものは信用出来ないのです。皆さんもそう思いませんか?』

 

「おかしいな、電源が切れんぞ」

 

教師がテレビの電源を切ろうと四苦八苦している中、黒ローブの言葉は続く。

 

『でも、ご安心ください。皆さんには今この瞬間、私がお教えして差し上げましたので…世界の見方が変わりますよ? 何しろ、世界には"人間という種"以外にも様々な種族が存在します。身近な存在としては…そうですね。悪魔や天使…伝説上の存在とされる者達ですが、意外にも皆さんの近くにいたりするのですよ?』

 

「何言ってんだ? あいつ」

 

「天使とか悪魔とか…そんなのファンタジーな世界じゃない」

 

黒ローブの言葉に生徒達はバカバカしいとばかりの反応を示していた。

 

「…………」

 

一部、笑っていない生徒(イッセー達)もいるが…。

 

『ふふふ…この話を信じないという方も多いことでしょう。ですが、事実です。これを御覧なさい』

 

そう言って映像がイーサ王国侵攻地へと移り…

 

『うおおおおお!!!』

 

そこで戦うシルファーの姿が映し出される。

 

『陛下! あまり前に出られては危険です!』

 

『んなこと言ってる場合かい! 一気に畳み掛けるよ!』

 

臣下の言葉を無視すると、シルファーが魔力の光に包まれていき…

 

『グオオオッ!!』

 

魔力光が肥大化すると同時にその中から白銀のドラゴンが姿を現す。

 

「なんだ、新手のCGか?!」

 

「あの女の人はどうしたの?」

 

「ど、どうせ、何かの演出でしょ」

 

その光景に生徒達はどよめく。

 

『彼女は一国の女王でありながら前線で兵達を先導する龍種であるのですよ。龍種とは、一般的にドラゴンと呼ばれる種族の俗称です。彼女はその龍種であり、人間とは異なる存在とも言えるでしょう』

 

人々の反応などわからない黒ローブはそのまま言葉を続ける。

 

『この世界の名はフィライト。ご覧の通り、今は戦争の中にありますが、もうすぐその抗争も終わりを告げます。首謀者であるフィロス帝国という国の皇帝が死去するからです。こんな風にね』

 

そして、次の瞬間…

 

『ザシュッ!!!』

『ッ!!??』

 

生々しい肉を貫く音と、それを受けるようにして腹部から刃が生えて(おびただ)しい量の血を流すゼノライヤの姿の映像へと切り替わる。

 

「きゃあああっ!!」

 

あまりにも生々しい映像に女生徒達の悲鳴が木霊する。

 

「うっ…ぷ…」

 

中には嘔吐感を必死で堪える生徒の姿もある。

 

『さぁ、これが現実なのですよ。この戦争が終わった後、次の戦場になるのはあなた達の世界かもしれませんよ? これぞ、次元間抗争、"次元戦争"の始まりです』

 

その言葉を最後に黒ローブの映像は切れた。

しかし、未だ画面はゼノライヤが貫かれた瞬間を映したままであった。

 

つまり…

 

………

……

 

~フィライト・イーサ王国侵攻地点~

 

「っ!? 陛下、アレを!」

 

『なんだい、まったく…!?』

 

臣下が空を指さすのを見て、そちらに視線を向けるとシルファーは驚く。

 

『ゼノライヤ…!』

 

そこには各次元に発信されている映像と同じものが空一面に映し出されていた。

つまりはゼノライヤが巨大な刃に貫かれている姿が…。

 

「へ、陛下!?」

 

「ぜ、ゼノライヤ様!?」

 

その光景に帝国兵もかなり驚いた様子であった。

 

『私は行くよ! この場は任せる!』

 

バサァ!!

 

勢いよく翼を広げるとシルファーはその場から飛び立ち、帝都へと飛翔するのであった。

 

『(忍…があんな真似するわけないか。じゃあ、一体誰がゼノライヤを…!)』

 

飛翔しながらシルファーは考えを巡らすが、答えは一向に出なかった。

 

………

……

 

~帝都城内・玉座の間~

 

「お前…!!」

 

忍が一歩前に出ようとするが…

 

『(ダメ、忍君はそれ以上動いちゃ…!)』

 

外で戦っているだろうフェイトからの念話が忍の脳内に届く。

 

「(フェイト? 何を言って…)」

 

『(今、どういう仕組みかわからないけど…忍君のいる玉座の間が空一面に映し出されてるの!)』

 

「(なに?!)」

 

フェイトの言葉に忍は確認しようとするが、城内の奥にいては外の状況がわからない状態であった。

 

『(さっきまで何ともなかったんだけど、突然空一面に魔法陣が現れたと思ったら…そこで誰かが大きな刃に突き刺さる映像が流れて…向こうの親衛隊の人達も混乱してるみたい)』

 

「(ゼノライヤが刺された瞬間を見たからか…?)」

 

『(多分…でも、他にどんなことが起きるかわからないから、出来るだけ忍君もそこから動かないで。忍君は今のところ映ってないから…)』

 

「(わかった。ありがとな、フェイト)」

 

『(う、ううん。別に私は…///)』

 

念話での会話を終わらせると、忍は目の前で起こる事態を観察しようとするが…

 

「……貴様ぁぁぁ!!」

 

ギルフォードが激昂したように残ったシュヴァリエ・ブレードを展開すると、死神ローブに向かって斬り掛かる。

 

ガキンッ!

 

それを双剣ローブが夫婦剣を両手に創り出してギルフォードの刀を防いでいた。

 

「……冷静だったなら私とも互角の剣戟を演じられたものを…」

 

双剣ローブは冷静な口調でそう言い放っていた。

 

ザシュッ!!

 

「……ぐっ!?」

 

防いだ方の剣とは逆の剣を斬り上げるようにして振るい、ギルフォードの胸部を抉る。

 

「っ…が…き、貴様ら、は……?」

 

苦しそうに口の端から血を流しながらまだ息のあるゼノライヤがローブ衆を問い質す。

 

「あれ、意外としぶといなぁ~」

 

そう言いながら死神ローブはグリグリと鎌で抉るように傷を広げていく。

 

「ぐぅ…がぁ…!!?」

 

死神ローブの行動にゼノライヤが苦悶の表情と声を出す。

映像として流れていることを知ってか知らずか、やり方がエグい。

 

「ま、どっちにしろ死神の鎌で突き刺してんだから、その内死ぬんだけどさ」

 

「はっ、所詮は貴様も人間だということだ。寿命には勝てん」

 

「ま、そういうことだよねぇ~」

 

「で、いつ暴れていいんだ? あぁ?」

 

「…………」

 

死神ローブの言葉に続くように後ろの4人も呟く。

 

「……では、そろそろ我等も正体を見せるとしよう」

 

頃合いと見たのか、双剣ローブが夫婦剣を消すと自らの手でローブを掴む。

 

「ほ~い」

 

「たるかったんだよな、これ!」

 

「ふんっ…」

 

「ひゃっはぁ~!」

 

「…………」

 

双剣ローブに倣うように残りのローブ衆も自らのローブを掴む。

 

バッ!!×6

 

次の瞬間にはローブ衆全員がローブを外していた。

 

そこには…

 

「いやぁ~、このローブって意外と暑かったんだよねぇ~」

 

文句を口にする死神ローブの正体は肩まで伸ばした灰色の髪、琥珀色の瞳、まだあどけなさが残るものの端正な顔立ちにゼノライヤを突き刺している死神の鎌とは対照的な全体的に線は細く華奢な体格をしていた。

要はまだ子供っぽく少年と言わざるを得ないような風貌だった。

 

「このくらい暑い内に入るかよ」

 

口の悪いローブ衆の1人は背中まで伸ばした白に近い灰色の髪、真っ赤な瞳、野性味溢れる端正な顔立ちに全体的な線は太めでそれに比例した筋肉量を持つ体格をしていた。

また、こめかみ部分には太く曲がりくねった角が生えており、純粋な人間ではないことが窺えた。

 

「そりゃアンタが熱いのに慣れてるからっしょ。こっちは慣れてないんだもん」

 

死神ローブに同意して文句を言うローブ衆の1人はうなじが隠れる程度の銀髪、紅い瞳、人形のように綺麗で整った顔立ちに肌は色白で線が細くて筋肉量も平均的な体格をしていた。

ちらりと見える八重歯は鋭く尖っていた。

 

「ぎゃあぎゃあとうるさい奴等だ」

 

その様子をうるさそうに横目で見るローブ衆の1人はくすんだ緑色の短髪、色素の薄い紫色の瞳、わりと整った渋めの顔立ちに体格相応の筋肉量を持ったガッシリ系となっていた。

さらに背中からは悪魔の翼を広げていた。

 

「…………」

 

今まで一切喋っていないローブ衆の1人は背中まで伸びたボサボサの白髪、藍色の瞳、獣人特有の縦に鋭くなった瞳孔、凛とした雰囲気の端正な顔立ちに無駄な筋肉のない痩身でシャープな体格をしていた。

忍の真狼形態と同じように頭からは髪の色と同じネコ科系の耳と、臀部からは同じく尻尾が生えていた。

 

「……やれやれ…」

 

呆れたように呟く双剣ローブの正体は背中まで伸ばした金髪、エメラルドグリーンの瞳、中世的で女性のような綺麗な顔立ちに線は細く見えるが、そのわりに引き締まった筋肉の持ち主であった。

左目は潰れているのか、眼帯を着用している。

 

約1人を除き、年齢からして10代半ばから20代前半くらいの若者が多かった。

 

「(どういう組み合わせだよ!)」

 

画面の外で忍がその匂いを嗅いで驚く。

 

「(どいつも人間…いや、1人は確実に人間だが、それ以外は全員"人間との混血"かよ!)」

 

ローブ衆の内、5人は人間の血も流れている混血であることが理解出来た。

 

「……では、名乗らせてもらう。私はこの中では純粋な人間で、名は『ロンド・スランディア』」

 

双剣ローブこと、ロンドが名乗るのを皮切りに…

 

「死神とのハーフ、『ディー・デグロス』」

 

「酒呑童子のハーフ、『ジン・マドロックス』」

 

「悪魔とのハーフ、『グリード・フロッカス』」

 

「吸血鬼とのハーフ、『クーガ・ブラスティ』」

 

「………ジュうじんトのハぁフ…『ジャガー・ストリックス』」

 

死神ローブ、額に角、悪魔の翼、八重歯が鋭い、獣耳と尻尾の順にローブ衆が名乗る。

 

その名乗りは映像向こうの人間達にではなく…

 

「(俺に向けて、だよな…これ)」

 

画面外にいる忍に向けたものであったが、それを知る者は少ないだろう。

 

何故なら…

 

「…名、など…聞いて、いない…! 貴、様ら、は…誰の、差し金……ぐっ!!」

 

「……ゼノ!」

 

この場には忍の他にゼノライヤとギルフォードがいるからである。

 

「まだ死なない? ホントにしぶといな~」

 

面倒そうにディーが呟くと…

 

「人間にしては大した生命力だが、些か目障りだ。ディー」

 

グリードが感心しながらも止めを刺すように促す。

 

「ほいさ♪」

 

それを簡単に了解すると…

 

ズリュリ…

 

死神の鎌をゼノライヤから引き抜くと…

 

「ぐっ…!」

 

鎌を引き抜かれ、傷口から大量の血を流しながら膝を着く。

 

「グッバイ、ゼノちゃん♪」

 

死神の鎌を大きく振りかぶり、その首を刎ねようとする。

 

「…ゼノ!!」

 

ギルフォードが叫ぶ中、鎌が振り抜かれようとした瞬間…

 

バキュンッ!!

 

一発の銃声が玉座の間に響き…

 

キンッ!!

 

「おろ?」

 

死神の鎌の軌道が逸れてゼノライヤの頭上の空を斬る。

 

「……邪魔立てするか、"狼"」

 

「………」

 

龍騎士時に被っていた仮面を模してバリアジャケットの追加アクセサリ的に作り出した目元を覆う白い仮面を装着した忍が右手にライト・フューラーを握って画面に現れる。

 

………

……

 

~地球・駒王学園~

 

「またなんか出てきたぞ!」

 

「狼って?」

 

忍の登場にまたクラスが騒めく。

 

「(忍!)」

 

その姿にイッセーは思わず立ち上がる衝動に駆られそうになったが、何とか堪えていた。

 

「(ダメだ! ここで動いたら俺が疑われる…それが皆にも迷惑になるかもしれないんだ…!)」

 

イッセーは悔しさに歯噛みしながら成り行きを見守るしか出来ないのであった。

 

………

……

 

~帝都城内・玉座の間~

 

「(一応、何があるかわからんから仮面を精製してみたが…どうするか…)」

 

勢いで邪魔したものの、ゼノライヤは倒すべき敵なので助ける義理はない。

つまり、これからのプランは無いに等しい。

 

「(しかし、こんな終わり方で納得出来ないのも確かだ!)」

 

その意志を示すようにシュヴァリエ・ブレードとライト・フューラーを構える。

 

「……あくまでも邪魔をするか」

 

それを見てロンドを含め、6人が臨戦態勢に移行するが…

 

「……とは言え、今回はお前への挨拶が目的だ。戦闘は極力控えたい」

 

「あぁ!? ふざけてんじゃねぇぞ、ロンド!!」

 

ロンドの言葉に一番反発したのはジンであった。

 

「血…人外の血…採取出来ないの?」

 

危ない発言をするクーガもまた凄く悲しそうな表情をする。

 

「……はぁ…少しだけなら"あの方"もお許しになるだろう。だが、少しだけだぞ?」

 

それだけ言うとロンドは後ろへと下がり、それと入れ替わるようにジンとクーガが前に出る。

 

「っしゃあ! 久々に骨がありそうなのが相手だ!!」

 

「ひゃはは。君の血、貰うね?」

 

明らかに戦闘狂と変質者という組み合わせである。

 

「(なんか嫌な予感しかしねぇな…)」

 

そんな考えをしながら相手の出方を見る。

 

「ほんじゃま、行くよ!」

 

クーガは赤色のミッドチルダ式魔法陣を足元に展開する。

 

「ブラッディ・チェーン!」

 

そして、徐に自らの手首を切ると血を流し、それが魔法陣と結び付くと血が鎖と化して忍に襲い掛かる。

 

「ッ!?」

 

それをシュヴァリエ・ブレードの刀身で受け、全身拘束の難を逃れるが…

 

「オラァ!!」

 

その隙に接近してきたジンが忍に殴り掛かる。

 

「ッ!」

 

ライト・フューラーを素早く空中に投げると、気と妖力をミックスして右腕に流し…

 

妖華撃(ようかげき)ッ!」

 

ジンの拳に対抗するようにして強化した己の拳を激突させる。

 

「ッ…(やっぱり、こいつも妖力使い…!)」

 

ジンの拳から伝わってくる妖力に眉を顰める。

 

「俺の一撃を受け止めるなんざ大したもんじゃねぇか…だが…!」

 

メリッ…ビキッ…!!

 

忍の拳が悲鳴を上げる。

 

「それだけだ!!」

 

「くっ!」

 

ジンが拳を振り抜く前に忍は右腕から力を抜いてジンの拳を受け流すと…

 

チャキッ!

 

空中に投げていたライト・フューラーを掴み取ると、その銃口をジンへと向ける

 

「(このまま撃てば…)」

 

ジンを殺すことになる。

また、罪を背負うことになるな、と忍は考えていた。

 

しかし…

 

「はっ! いいぜ、撃ってみろよ。それで俺が"殺せる"んならなぁ」

 

ジンは不敵な笑みを浮かべて忍を挑発していた。

 

「なに…?」

 

その意味がどういう意図がわからなかったが…

 

「後悔するなよ!」

 

バキュンッ!!

 

それと同時にライト・フューラーの魔力弾はジンの脳天を貫いた。

 

「(頭を吹っ飛ばしちまったな…)」

 

その結果を見ることもなく、忍はクーガ達の方を見ると…

 

「?」

 

だが、クーガ達は顔色変えずに事の成り行きを見ていた。

 

「(こいつら、仲間が死んだってのにどうして…)」

 

忍がそんな疑問を抱いていると…

 

ゴスッ!!!

 

「ぐふっ!?(なん、だ…!?)」

 

いきなり鳩尾に強烈な激痛が走ると共に、忍はその場から吹き飛ばされていた。

 

ギンッ!!

 

しかし、血の鎖で繋がれていたシュヴァリエ・ブレードを持っていたため、それほどの距離を吹き飛んだわけではない。

 

「(一体、何が…?)」

 

訳が分からず、前方を見てみるとそこには…

 

「ふぅ、相変わらず"死なねぇ"ってのも苦労するな」

 

頭を吹き飛ばされたはずのジンが、まるで"何事もなかった"ように拳を突き出していた。

 

「なっ?! どういうことだ!? 確かに手応えはあった!」

 

忍は驚いてそう叫ぶ。

いくら魔力弾でもアレだけの至近距離から撃てば致命傷になりえる。

それが無傷で殴ってくるなど…。

 

「言ってなかったか? 俺もロンドと同じ神器持ちなんだよ!」

 

「ていうか、俺ら全員が持ってんだけどね」

 

ジンの言葉の後、クーガがそう漏らす。

 

「神器持ちが…6人!?」

 

その事実に驚く忍だが…

 

「……付け加えるなら、全員が既に禁手を修得している」

 

今まで静観していたロンドがさらに驚愕の真実を告げる。

 

「なっ!?」

 

ロンドの一言でさらに驚く。

 

「……お喋りが過ぎたか。ジン、クーガ。撤退するぞ」

 

ロンドから反抗は許さないとばかりの静かな威圧感が放たれる。

 

「ちっ…!!」

 

「は~い…」

 

それを察知し、ジンとロンドも残りのメンバーにいる地点まで下がる。

 

「……では、さらばだ、狼よ。次に(まみ)える時には容赦はせん」

 

それだけ言うとロンド達は転移陣によってその場から消え去ってしまった。

 

ブツンッ!

 

それと同時に今まで次元世界中に流れていた映像の流布も停止する。

 

「…………」

 

忍がふらりと立ち上がると…

 

「がはっ…」

 

血の塊を吐きながらゼノライヤも力なく立ち上がっていた。

 

「……ゼノ」

 

それに肩を貸すようにしてギルフォードがゼノライヤを支える。

 

「ふ…無様、だな…貴様の…言った、通り…かも、しれ、ん…」

 

息も絶え絶えにゼノライヤは忍に言う。

 

「……同情はしない。それはお前の慢心が招いた結果だからな」

 

冷たく忍はそう言い切る。

 

「当たり、前…だ。だか、らこそ…貴様に、っ、一矢報いる…!」

 

カイザーソードを手にゼノライヤは最後の力を振り絞る。

 

「俺はこの無益な戦いに終止符を打ち、お前にその代償として引導を渡す。それだけだ…」

 

ゼノライヤの覚悟を受け取り、忍もまたライト・フューラーを解除するとファルゼンとシュヴァリエ・ブレードを構える。

 

「…ギル…最後、まで…付き、合って…くれ、る…か?」

 

「……無論だ」

 

ゼノライヤの言葉に頷くと、ギルフォードもまたもう片方の手で残ったシュヴァリエ・ブレードを構える。

 

「「「…………」」」

 

これで本当の決着が着き、フィライトで起きた負の連鎖が断ち切られるという場面。

緊張の面持ちで睨み合う忍とゼノライヤ&ギルフォード。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、彼らに向けられた悪意は…まだ終わっていなかった。

 

ギュイイイイッ!!!

ズジャアア!!

 

「「ッ!?!?」」

 

今度は細長いドリルのような物体がゼノライヤとギルフォードの胸を背後から貫いていた。

ゼノライヤとギルフォードはそれを見て背後を見る。

 

そこには…

 

「ふふふ…なかなかの執念ですが、グリードの言う通り些か目障りですね。往生際が悪いと申しましょうか…もうあなた達の役割は終わっているのですよ?」

 

先端が山羊の頭を模したオブジェクトに角が特殊な刀身で形成された槍のような装備を持ち、そのような言葉を発する黒ローブの姿がった。

 

だが、意外なところから声が上がる。

 

『カプリコーン!?』

 

それは待機状態のアクエリアスだった。

 

「カプリコーン…山羊座か?!」

 

アクエリアスの叫びを聞き、忍も叫ぶ。

 

『お久し振りですね、アクエリアス』

 

その言い草はどこか淡白なものが含まれていた。

 

「き、貴様、ぁぁぁ!!!」

 

己の戦いを二度も穢されてゼノライヤは憎悪の視線を黒ローブに向ける。

 

「ふふふ…心地の良い視線ですね」

 

そう言う黒ローブのローブがひらひらと舞い始め、その下にある肉体を露わにする。

白銀の鎧の隙間から見える肌の色は病的なまでに白く、肉付きも程ほどといった感じの体格であった。

 

「ふふふ…私もそろそろ名乗っておきましょうか」

 

パチン、とローブのフックを外すと、ローブが脱げて後方へと飛び去っていく。

そこに現れたのはうなじが隠れる程度の蒼い髪と黒く濁った瞳を持ち、中世的で女性のような綺麗な顔立ちをしている男だった。

 

「(なんだ、この匂いは…!?!)」

 

男から漂うただならぬ気配と匂いに忍は顔を顰める。

 

「それ、が…貴様、の…本、性か…!!」

 

「えぇ」

 

ゼノライヤの問いに男は簡潔に答える。

 

「ふふふ…あなたの軍備増強を名目にしたドライバーの運用によって私の実験は大いに成功したと言えます。世界征服、戦争継続、軍備増強…まったく、この世界を見つけた時から面白いくらい私の想定通りに動いてくれて逆に面白味が無いくらいでしたよ」

 

「き、さまぁ、ぁぁぁ!!」

 

「……ぐふっ…」

 

男の言動にゼノライヤもギルフォードも憎悪の感情を増大させていった。

 

「いけませんね。私は"憎悪"なんかよりもあなた達の"絶望"が見てみたくてやってきたのですから、しっかりと絶望してください。私の掌で踊っていた哀れな皇帝さん」

 

そう言って男は…

 

ギュイイイイッ!!

 

ドリルのような刀身を回転させて傷を抉っていく。

 

「ガアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…!??!!?」

 

「グガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?!?!?」

 

抉られる傷と摩擦によって2人は絶叫する。

 

「やめろ!」

 

見ていられないのか、忍は男に向かって魔力斬撃を放つ。

 

「無駄ですよ」

 

ギュイイイインッ!!

 

刀身の回転に合わせて魔力斬撃の魔力とゼノライヤ達のバリアジャケットの魔力が刀身に吸収されていく。

 

「なに?!」

 

『カプリコーンの固有魔法です。アレはどのような魔法や魔力攻撃でも所有者がそれを認識すれば任意の割合で削り取ってしまうものです。我等エクセンシェダーの固有魔法ですら対象に出来る厄介なタイプです』

 

驚く忍にアクエリアスが説明する。

 

「私にその程度の魔力攻撃は通用しませんよ。もっとも、魔法も大した効果はありませんが…」

 

そう言うと、男は両肩後部にある攻撃ユニットを分離させ、そこから巨大な爪を展開してゼノライヤとギルフォードの首を掴む。

 

「では、騎士様。自らの無力さを噛み締めながら絶望してください」

 

そう言って男は…

 

ブチッ!!

ブシャアアア!!

 

「ッ!!??!?」

 

容赦なくギルフォードの首を力任せに引き千切り、頭を失った首から大量の血が噴水のように噴き出す。

 

「……ゼ……ノ………………」

 

そして、首を強引に引き千切られたために僅かな間を想像を絶する苦しみと共にゼノライヤの名を呼びながらギルフォードは絶命した。

 

「ギ、ル……!!!」

 

目の前…それも手が届く距離で親友を失ったゼノライヤの喪失感は半端ではなかった。

 

「なんてことを…!!!」

 

忍はそのあまりの残酷さに嫌悪感を通り越して怒りを覚えていた。

 

「ふふふ…そうです。その表情。あぁ…良いですねぇ。目の前で友人を惨殺されるのをただただ見てるだけしか出来ない。これが絶望でなくてなんというのでしょうか」

 

忍の反応を無視してゼノライヤの呆然とした表情を見て硬骨な笑みを浮かべる男…。

 

「(こいつ…狂っていやがる!!)」

 

その残虐性を垣間見て身動きが取れなかった自分を叱咤すると、忍は一歩踏み出そうとした。

 

すると…

 

ズガアァァァァンッ!!

 

玉座の間の天井が崩れ、そこから人影が四つ降りてくる。

 

「忍!」

 

「ゼノライヤは…!?」

 

「っと、なんだいこの状況は?」

 

「うげっ…!?」

 

忍の後ろにシルファー、ガルド、ミゲル、ミュリアの順に着地し、目の前の惨劇に目を見張る。

 

「おやおや、これはまた良いタイミングで現れましたね、皆さま」

 

面白そうに男は新たな観客に挨拶する。

 

「年頃の娘さんもいるというのに酷い状況を作り出すものだね」

 

そう言ってミゲルがミュリアの前に入って視界を遮るが、些か遅い気もする。

 

「ふふふ…私はただそこの女王陛下のご要望通りに出てきただけですよ?」

 

「私の要望…?」

 

男の言葉に一瞬何のことかわからないシルファーだったが…

 

「言っていたじゃありませんか。私のやり方が嫌いだと…こそこそ裏から傍観してるようで気に食わないと…」

 

バカにしたような口調で男はそう語る。

 

「っ!? じゃあ、テメェが…!!!」

 

ゴオオオッ!!!

 

男の言葉を理解して龍気と共に殺気を男へと向けて放つ。

 

「これが龍種の怒りですか。なるほど、これは少々厄介そうですね」

 

近くにいる忍達ですら寒気を感じるシルファーの殺気を男は平然とした表情で受ける。

 

「では、そろそろ彼の後を追わせて差し上げましょか」

 

そう言うと絶望に染まっているゼノライヤの首を掴む爪の力を強め…

 

「自分の愚かさと絶望を抱いてお逝きなさい」

 

「やめ…ッ!!!」

 

誰の声だろうか、その声も届くこともなく…

 

ズシャッ!!

 

「ッ!!?!?」

 

ゴトッ!!

ブシャアアアッ!!!

 

爪が首を両断すると共にゼノライヤの頭が玉座の間に落ちて転がり、残った胴体からギルフォードと同じように血が噴き出す。

 

「オ……レ………ハ………………」

 

転がった頭の瞳から光が消えると、ゼノライヤの死亡が確認された。

 

「「「「「ッ!!?」」」」

 

その光景に誰もが息を呑んだ。

 

「ふふふ…」

 

ズリュリ…

 

二又の槍を遺体の胴から引き抜くと、男は顔に被った返り血を一舐めしてから…

 

「良い絶望でしたよ、ゼノライヤさん」

 

それだけ言うと、もう興味がなくなったのか…忍達に背を向けて立ち去ろうとする。

 

「待ちな!」

 

それに待ったをかけたのはシルファーだった。

 

「なんでしょうか、女王陛下?」

 

背を向けたまま男は立ち止まる。

 

「私らを前に無事に帰れるとでも思ってんのかい?」

 

その言葉を受け、忍やミゲル、ガルドは臨戦態勢を取る。

 

「私はあなた達の手間を省いて差し上げたのに…」

 

「手間だと!?」

 

シルファーは男の物言いに激怒しっ放しである。

 

「……君は一体何者なんだい?」

 

珍しく嫌悪感バリバリの表情を見せるミゲルが男に尋ねる。

 

「ふむ。そういえば、まだ名乗っていませんでしたか」

 

それを思い出したのか、男は振り返ると…

 

「私の名は『ノヴァ・エルデナイデ』。絶望の使徒、『絶魔(ぜつま)』にこの身と魂を捧げた者ですよ」

 

そう名乗っていた。

 

「絶魔、だと!?」

 

男…ノヴァの名乗りを聞いて忍が驚く。

 

「あなたはご存知のようですね。これも因縁ですかね」

 

そう言いながらノヴァは背に蒼と黒の混ざり合った転移魔法陣を展開する。

 

「まぁ、そう慌てなくもいずれは戦う宿命にあるのです。今は一時の平和を謳歌してください」

 

それを最後にノヴァは転移魔法陣から姿を消してしまう。

 

「ちっ…!」

 

そこに残されたのは…三国同盟の主要人と、悲惨な最期を遂げたゼノライヤとギルフォードの遺体だけであった。

 

こうしてフィライトでの戦乱は幕を閉じた。

しかし、その終わり方はあまりにも凄惨であり、お世辞にも後味が良いとは言い難かった。

 

それにフィライトにいた忍達は知る由もなかったが、地球を含め多次元世界を知らなかった次元世界は大なり小なりの混乱に陥っていた。

 

これがノヴァの言う『次元戦争』。

その幕開けなのかもしれない。



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9.学祭乱舞のプライド
第五十一話『次元サミット』


フィライトでの紛争が終結して早三日が過ぎようとしていた。

 

皇帝ゼノライヤと親衛隊長ギルフォードの惨死は帝国でも極秘扱いとなっていた。

民に知らせるにはあまりにも凄絶且つ悲惨で衝撃的と言えるからである。

 

帝国は三国同盟によって敗退。

国土は三分割することで各国が管理することになった。

帝都は今回の紛争での立役者であるイーサ王国が管理することになっていた。

 

帝国側に出回っていたシュトームは投降してきた兵達から出来るだけ回収したものの、まだ数十単位のシュトームが未だ帝国の負けを認めず三国同盟に抗戦意志を持つ残党の手に渡っているのが現状である。

また、回収したシュトームはフェイトや朝陽経由で時空管理局へと渡り、ノヴァがエクセンシェダーデバイスを基にして設計したデバイス技術や魔力石を出力する異世界の技術を解析する目的などで研究されることになるだろう。

とは言え、既に特務隊の研究チームがある程度の解析を行っているので、シュトームの今後の使用目的が議題になるだろうが…。

 

しかし、それよりも問題なのは黒ローブこと、ノヴァ・エルデナイデによって多次元世界の存在が公になったことである。

既に多次元世界の存在を知るミッドを中心とした世界はともかくとして、地球を始めとした次元世界の概念すらなかった世界には大なり小なりの混乱が広がっていた。

 

………

……

 

~深夜・駒王学園~

 

「冥界代表、サーゼクス・ルシファー」

 

「天界代表、ミカエル」

 

神の子を見張る者(グリゴリ)代表、アザゼル」

 

「時空管理局代表、クロノ・ハラオウン」

 

「時空管理局代表補佐、ゼーラ・シュトライクス」

 

「特異災害対策機動部二課代表、風鳴 弦十郎」

 

「フィライト三国同盟代表、シルファー・ファリウム・イーサ」

 

「次元辺境伯、紅神 忍」

 

深夜の駒王学園の大会議室に集まる大人達に混ざって忍の姿もあった。

忍には今回の事件の首謀者であるノヴァについての情報を話してもらうために参列してもらっている。

 

「早速で悪いが忍。あいつが何者なのか教えてもらおうか」

 

挨拶もそこそこにアザゼルが切り出す。

そのためか全員の視線が忍に集まる。

 

「ハッキリ言っときますけど、俺だってあいつの事なんて知りません。知ってるとしたらあいつの言っていた

『絶魔』に関する微々たるものですよ」

 

視線が集まる中、忍はハッキリとそう断言していた。

 

「絶魔。聞いたこともない呼称だが、それは個人を表すのか、組織を表すのか。それはわかるのかな?」

 

サーゼクスの問いに…

 

「おそらくは組織、もしくは種そのものを表すと思います。伯父の言葉から察するに結構な規模の組織としても機能してる可能性もあるかと…」

 

忍はそう答える。

 

「伯父? それは一体誰の事だい?」

 

忍の伯父が誰かについて知らないだろう人達を代表してクロノが尋ねる。

 

「伯父の名は狼夜。生前は"邪狼"と呼ばれてた傭兵で、俺が殺しました」

 

そんな忍の言葉に…

 

「ッ!?」

 

驚きと共にクロノの表情が険しくなる。

 

「うちの隊員の報告でも似たようなものがある。そちらの執務官も居合わせたのだから報告を受けていても不思議ではあるまい」

 

クロノの様子を見てか、隣に座っていたゼーラが口を開く。

 

「だが、彼は身柄を拘束してその罪を償うべきでした。それが殺された…ましてやそれが…」

 

「おいおい、今はそんなことよりももっと大事な話があるだろ?」

 

話が路線が逸れたことにアザゼルが口を挟む。

 

「そうですね。今は絶魔とやらの情報を少しでも詳しく紅神君から聞くことが先決かと…」

 

アザゼルに同意するようにミカエルが頷く。

 

「それで忍。絶魔ってのはどういう奴等なんだい?」

 

シルファーが続きを促す。

 

「伯父が言うには…全ての生命に絶望を与える存在だとか…」

 

「全ての生命ときたか。他には?」

 

「正直、容貌なんかは想像が出来ないかな。伯父もそこまで詳しく知ってるような口振りではなかったですし…代々伝えられてきた情報を俺に教えてくれた。そんな感じです」

 

「確かにこりゃ微々たるもんだな」

 

忍の説明に他のメンツも険しい表情を見せる中…

 

「そもそも…邪狼は死んだはずでは? 何故、彼が死人から情報を得られるんですか?」

 

クロノがもっともらしい疑問を口にする。

 

「それは俺も疑問に思っていたが…」

 

弦十郎もまたその疑問を抱いていたのだが…

 

「目の前にこうして超常の存在がいると、どうにも色々と説明されてしまう気がしてならん…」

 

悪魔や天使、堕天使、龍、混血といった人間とは異なる種が既に目の前にいることで、弦十郎は超常現象を簡単に説明されてしまうのでは、と感じていた。

 

「僕には未だ信じられないんですが…」

 

多次元世界を認知するクロノでも、人間以外の種族がいることに関しては未だ信じられない様子だった。

 

「提督殿も頭が固い。もっと柔軟な思考を持つべきでは?」

 

既に超常の存在を知るゼーラはそう言う。

 

「…………」

 

忍は徐に右目のカラコンを外すと、琥珀色の瞳を露わにする。

 

「この右目は元々狼夜伯父さんのものでした。それをフィライトで移植してもらった結果、彼の残留思念が俺の中に流れ込み、深層意識の中でのみ、伯父さんとの交信が可能になったんです。今はもう消えてしまいましたが…」

 

そして、簡潔に説明した。

 

「移植に関しては私が証言するよ。私が忍を助け出した時には既に右目が潰れてたからね。で、一緒に落ちてた邪狼とかいう奴の遺体から右眼を摘出して忍の眼に移植したのさ。なんでか知らないけど、そいつの右眼だけは無事だったからね。幸いだったのが、移植が成功して目が見えるようになったことかね。まさか、そんなことになってるとは私も思いもよらなかったけど」

 

それを裏付けるようにシルファーが付け加える。

 

「医学は専門外だが…いくら親類とは言え、移植には相性もあるだろうに…よく踏み切ったな」

 

シルファーの判断に弦十郎は軽く舌を巻いていた。

 

「それで、結局絶魔に関しての情報は本当に微々たるもんだったわけか」

 

「すみません…」

 

アザゼルの嘆息に忍は謝るしかなかった。

 

「しかし、ノヴァ・エルデナイデ。奴が行方知れずのフロンティアを掌握していたとは…」

 

「超先史文明にも造詣があると?」

 

「超先史文明…」

 

弦十郎の言葉にミカエルが反応する。

 

「それだけでなく、シュトームという量産型デバイスの大量生産…」

 

「山羊座のエクセンシェダーデバイスを保有してるってだけじゃないだろうな…」

 

「うちの魔力石の技術も取り込んでたしね…」

 

ゼーラの言葉に忍とシルファーが付け加える。

 

「多種族、絶魔、超先史文明、ロストロギア系デバイス……頭が痛くなりそうな案件ばかりだな」

 

それらを聞いてクロノが頭を抱える。

 

「若いのに苦労してんな」

 

そんなクロノを見てアザゼルが苦笑する。

 

「こうして集まったのも何かの縁だ。連絡先を交換しようじゃないか」

 

サーゼクスがそんな提案をし出す始末。

 

「出来るならプライベート用と仕事用の2つは確保しておかないとね」

 

「おっ、そいつはいいな」

 

サーゼクスの提案にアザゼルも乗り気だった。

 

「お~い…話がズレてませんか?」

 

約2名の提案に忍がツッコミを入れるが…

 

「そうですね。何かあった時の場合、各次元世界との連携は必要ですからね。私は賛成ですよ」

 

「小難しいことはわからんけど、連絡を取り合うことに関しては賛成だよ」

 

ミカエルとシルファーは賛成のようだった。

 

「プライベートはともかく、仕事用はちと厳しいかもな…」

 

弦十郎もプライベート回線については賛成の意を示している。

 

「僕もプライベート回線ならともかく、仕事用の回線となると問題がありますので…」

 

「問題あるまい。あくまでも我々のプライベート回線で会話したり話したりする分には…」

 

クロノの応対にゼーラが何やら含みのある言い方をする。

 

「じゃあ、そういうことでプライベート回線をオープンするということで」

 

「フィライトには俺から次元間通信機をいくつか送ってやるか」

 

「そいつはありがたいね」

 

「(いいのか、それで…?)」

 

通信回線を教え合う大人達を見て忍は少しばかり呆れたような眼差しで見ていた。

 

「なに呆れてんだ、お前も交換するんだぞ?」

 

「え…?」

 

アザゼルが忍からネクサスを取り上げると勝手に連絡先を追加していく。

 

「ちょっ?!」

 

「君も大変だな」

 

その様子を見てクロノが忍の肩を軽く叩く。

 

「(そういえば、この人…フェイトと同じ姓だったな…)」

 

今更ながら忍はクロノがフェイトの親族かと考える。

 

「何か?」

 

忍の視線にクロノは少し首を傾げる。

 

「あ、いえ…もしかすると、フェイト…さんのご親戚かと思って…」

 

「あぁ、フェイトは僕の妹だよ。義理だけどね」

 

「(やっぱりか…)」

 

「そういう君は…確か、次元辺境伯とか…」

 

「えぇ、まぁ…何というか、成り行きというか何というか…そういうことになってまして」

 

忍としては少し気まずかった。

何しろ、フェイトを自らの眷属としてスカウトしたのだ。

出来るだけ執務官としての職務を優先させるようにしてはいるものの、フィライトでの戦闘介入など要所要所(?)で呼び出しているのだから…。

 

「……時に、君は全てを守りたいと思ったりしないか?」

 

「え?」

 

「答えてくれ」

 

真剣な眼差しのクロノの問いに対して忍は…

 

「……全てを守るなんて、そんなの無理ですから…俺は俺の手の届く範囲で守れるモノや救える命を助け、守りたいと…そう思ってるだけですよ」

 

クロノを真っ直ぐに見て答えていた。

 

「……そうか…」

 

それを聞き…

 

「妹を、頼む。僕にとっても大切な家族だからね」

 

そう忍に伝えていた。

 

「はい」

 

それに忍も頷くことで答えていた。

 

こうしてプライベート回線の交換が終わった後、会議は次の議題に移ることになった。

 

「各地…というよりも各次元世界の様子はどうですか?」

 

ミカエルがそう切り出す。

 

「こちらはあまり大きな騒動は起きていない。強いて言うなら、多種族に関してくらいだろう」

 

まずゼーラがミッドを中心とした管理世界の状況を答える。

 

「冥界は逆に種族問題よりも次元世界がある事に関して各方面から政府に色々と質問がきているよ」

 

サーゼクスは逆に次元世界のことが騒ぎの問題となっていることを指摘する。

 

「我々の天界も冥界と似たようなものですね」

 

ミカエルも冥界と同じような状況だと答える。

 

「うちは…そもそもが騒ぎの元になるには十分だからね。種族は私とかミゲルがいるから多少は肝要だけど…問題は他にも世界があるってとこかね。私らみたく事前に知ってたのならともかく…知らなかったら私らもかなり混乱してたろうね」

 

フィライトの現状もまた冥界や天界と似ているようであった。

 

「それを言ったら人間界…地球だって騒ぎの元になるには十分過ぎる。世界がいくつもある事もそうだが、種族も様々なものがあるなんて言われたんだ。俺も事前情報がなければ、かなり混乱していただろうな。それだけあの放送は衝撃的だったんだ」

 

どちらの知識も知る由もなかった地球にとっては大騒ぎになっても不思議じゃないと弦十郎は言う。

 

「ネットの様子からしても様々な憶測が飛び交ってますしね。ゲリラ的な映画の宣伝、テロリズム、合成映像、一種のプロパガンダと捉えるものと、それはもう様々です」

 

ネクサスからネットを閲覧した忍がそう付け加える。

 

「アレが真実という見方や意見も当然ありますが…そういった意見は真っ向から否定されてますね。非現実過ぎるって…」

 

「しかし、その反面…話題を独占しているがな。次にまたこんな手を使われたり、決定的な何かを放送されたら本格的な騒動に発展しかねん。そうしたら各国政府もお手上げ状態になる」

 

「幸いなのは、人々が真実として認識しないように意識を向けていることですか」

 

忍と弦十郎の見解にミカエルがそう言う。

 

「だが、いずれは時間の問題だろうよ。いくら俺達がひた隠しにしてたって、ああやって事実を公表する奴もいるんだ。その時のために俺達も色々と準備を行っとく必要があるんじゃねぇか?」

 

話を聞いていたアザゼルがそう提案する。

 

「未だ人間同士での紛争が行われている現状で、それは危険だと思うが…」

 

「確かに…地球の情勢は不安定だ。僕らの技術を戦争の道具にする可能性だってある」

 

「耳が痛いが、そういう輩がいるのも確かだからな…」

 

アザゼルの提案に弦十郎とクロノは難色を示す。

 

「だから言ってるだろ、時間の問題だってよ。事実、俺らが何もしなくてもフィライトだっけか? そこではデバイス技術を導入した兵器が使われたんだ」

 

「そうさね。なら、今から対策を講じとくのは間違いじゃないと私も思うよ。その結果、どう転ぼうとしても、ね」

 

アザゼルの意見に賛成するシルファーだった。

 

「どっちにしろ、進めるに越したことはないと私も考えるよ」

 

「私も同意見です。我々の存在が明るみになった今だからこそ最悪の事態を想定して行動すべきです」

 

サーゼクスとミカエルはアザゼルやシルファーと同意見らしい。

 

「ハラオウン提督。すまんが、俺も信用に値する地球の要人とコンタクトを取るべきだと考える」

 

今まで静観していたゼーラも賛成派に賛同する。

 

「シュトライクス准将!?」

 

「少なくともここにいる連中は信用に値するだろう。我々管理局も変わらねばな」

 

ゼーラの言い分も尤もだろう。

 

「それは…確かにそうだが…」

 

それでもクロノは躊躇する。

 

「ぬぅ…」

 

弦十郎も腕を組んで唸る。

 

「忍君はどうだい?」

 

サーゼクスが忍に話題を振る。

 

「俺が意見してもいいのか疑問ですが…俺も賛成側ですかね。ノヴァが次にどんな手段を用意してるかわからない以上、ミカエルさんの言う通り常に最悪の事態を想定した方が良いと思います」

 

この中で最年少の忍も賛成意見だった。

 

「………わかった。各国政府には俺からも打診してみる。一般人への事実への公表…それがどのような事態を招くとしても、腹を括らせるよう説得してみせる」

 

最年少の忍に触発されたのか、弦十郎も腹を括る覚悟を決めたようだ。

 

「………はぁ…上層部がなんというか…」

 

「会議室と現場では現場の判断が優先されると俺は考えるがな」

 

「机に向かってばかりでは変わるものも変わらない、か…」

 

そんな言葉を呟いた後…

 

「わかった。僕の方でも出来るだけ何とかしてみるけど…あまり期待しないでほしい」

 

クロノも今後の対策に尽力することを決意した。

 

「決まりだな」

 

こうして話の流れは、多次元世界の公表へと踏み切ることに纏まりつつあった。

 

「各勢力には俺からも口添えしてみるさ。ま、各勢力にはこの案件に反対する動きもあるだろうがな」

 

「それは各国政府も同じだろう」

 

「うちの上層部も似た感じだな」

 

アザゼル、弦十郎、ゼーラといったそれぞれの勢力に詳しそうな面々が反対勢力のことについてを議題に上げた。

 

「反対勢力か…」

 

「当然、出てきたり邪魔してきたりするでしょうね」

 

「むしろ、反対されて当然の案件ですから…」

 

「そりゃあ、ねぇ?」

 

サーゼクス、ミカエル、クロノ、シルファーの順に反対勢力の出現には同意していた。

 

「そもそも人間界の政はあんま詳しくないが、どの国もこんなの認めねぇだろ」

 

「それは…そうだな。普通に考えればこのような案件、各国政府が容認するとは思えないか…」

 

アザゼルの指摘に弦十郎がそう答える。

 

「管理局はどうなんですか?」

 

忍がクロノやゼーラに管理局の内情を尋ねる。

 

「正直なところ、こちらも一筋縄ではいかないよ。というよりも上が何を考えているのか、僕たちにはわからない部分も多いんだ」

 

「何処の世界の重鎮もどんな組織の上役も自身の保身を第一に考えるものだ。うちの組織も例外ではない。一個人の力などたかが知れているしな」

 

クロノとゼーラはそう答える。

 

「組織が大きいとそれだけで大変なんですね…」

 

「そういうこった。そういうあぶれた者達の集まりが禍の団みたいなテロリスト集団を作るとも言えるがな」

 

改めて話すと、組織の上層部を説得するのがどれだけ大変かということが浮上してきた。

さらにそういった反対分子が組織から外れてテロリスト紛いの存在に成り下がるということも事実であることが窺えた。

 

「少しずつでもやらなければな。例え小さな一歩だとしても前進していることには違いないから」

 

「同意見です」

 

「そのための大人の仕事ってことだな」

 

サーゼクスの言葉にミカエルと弦十郎が頷く。

 

「さてと、そうなると対絶魔・テロ部隊を本格的に作らないとならないな」

 

アザゼルがそんなことを言い出す。

 

「各勢力から選抜したメンバーで構成した、今後の多次元世界で起こるであろう戦闘行為を鎮圧出来る特殊部隊をよ」

 

「選抜基準は?」

 

「多次元世界を知り、一定の戦闘力を持つ者…この中で言えば、忍だな」

 

ゼーラの問いにアザゼルは忍を指す。

 

「お、俺…?」

 

思わぬ指名に忍は自身を指さしてアザゼルを見る。

 

「そりゃお前、次元辺境伯なんて言われてるんだから選抜されても不思議じゃないだろ?」

 

「確かに、彼には既に実績もある」

 

「私らの世界への介入、ね」

 

アザゼルの答えにサーゼクスとシルファーが納得する。

 

「より正確に言えば、お前さんの眷属も部隊に引き入れるつもりだ」

 

「智鶴達も?!」

 

「あいつらも女にしてはかなり強い部類だからな…」

 

忍の眷属を思い出してアザゼルは苦笑する。

 

「ひ、否定は……したくても、出来ない…だと…?」

 

萌莉やシア、フェイト、エルメスといった戦闘に積極的でない眷属でも一定の力を保有しているので、否定する要素があまりないのも事実だったりする。

 

「将来は尻に敷かれるかな?」

 

ニヤニヤと笑いながらアザゼルはそう言う。

 

「うぐ…」

 

近い将来のヴィジョンを想像してか、忍は何も言い返せないでいた。

 

「あまり若者を困らせるものではありませんよ、アザゼル」

 

「それにあまり子供に頼るのもな…大人たる俺達の立場がない」

 

ミカエルがアザゼルを注意し、弦十郎が忍を巻き込むことへの抵抗感を露わにする。

 

「今更何を言ってやがる。これまでに若い世代がどれだけテロの対象になってきたことか…」

 

弦十郎の言葉をアザゼルが呆れたように呟く。

 

「ぬっ…」

 

「アザゼル、その言い方はあまり良くないと思うぞ?」

 

今度はサーゼクスがアザゼルの物言いを注意する。

 

「そりゃ悪かったな。ま、俺も人のことを言えた義理でもないか…結果的にあいつらを戦いに巻き込んでるんだからよ」

 

「それは…私達にも責がある事だ」

 

「そうですね。我々がもっとしっかりしていれば…」

 

アザゼルの謝罪後の言葉にサーゼクスとミカエルも若い世代を戦わせていることを少なからず気にしていた。

 

「組織の頭がそう簡単に動く訳にもいかんだろう」

 

「まぁ、魔王や天使長はアザゼルのように自由気ままという訳にもいかんからな」

 

弦十郎とゼーラが揃って3人にそう言う。

 

「おい、ゼーラ。そりゃどういう意味だよ?」

 

ただ、アザゼルはゼーラの言い分に引っ掛かりを覚えていた。

 

「事実を言ったまでだ」

 

「何が事実だ。俺だってちゃんと仕事くらい…」

 

「ほぉ? 神器関連の研究にコレクター趣味、女遊び、外交、有事の際の戦闘及びその指揮…まともな仕事を誰かに押しつけでもしない限り難しいと思うが?」

 

「…………くそ、悔しいが言い返せねぇ…」

 

ゼーラの的確なツッコミにアザゼルは悔しそうに握り拳を作る。

その様子を見て…

 

「随分と仲が良いんですね…」

 

「確かに…」

 

クロノと忍がそんなことを口にする。

 

「こいつとは腐れ縁なだけだよ」

 

「そうだな。互いに己の立場を利用し合い、情報を交換するような関係だ」

 

2人の反応に対してアザゼルとゼーラはそう言い切る。

 

「それって色々と問題がありゃしないかい?」

 

話を聞いてたシルファーが口を挟む。

 

「「問題ない」」

 

シルファーの問いに対して2人はシンクロ気味にこれまた言い切る。

 

「…………いやいや、ありますから…!」

 

言い切られて納得しそうになったクロノだが、すぐさま意識を"問題ない"と言い切った年長者2人へと向ける。

 

「何か問題でも?」

 

そんなクロノに対してゼーラは平然としている。

 

「何か問題でもって…准将、もしかして機密情報を漏らしたりしたことは…」

 

「あぁ、そのことですか。問題ありません。あくまでもプライベートでの出来事です。仕事に影響はありません」

 

「~~~っ」

 

ゼーラの平然とした物言いにクロノは盛大に頭を抱える。

 

「そういうこった。仕事の話をプライベート時に"愚痴として零しても"誰も責めることは出来ねぇよ」

 

「えぇ。プライベート時にまでそんなことを言い出したら我々のプライバシーに関わりますから…」

 

そう言ってアザゼルはニヤニヤ笑いと、ゼーラは不敵な笑みをそれぞれ浮かべていた。

 

「モノは言い様ですね…」

 

忍は呆れてそれ以外に何も言える気がしなかったとか…。

 

「それで…忍君以外だと、誰をメンバーに挙げる?」

 

サーゼクスが脱線した話題を元に戻す。

 

「テロを阻止してる実績のある若手悪魔…リアス率いるグレモリー眷属、サイラオーグ率いるバアル眷属…それからシトリー眷属にアガレス眷属…」

 

「御使いからも何名か選抜しましょうか」

 

「うちには装者達しかいないんだが…」

 

「多次元世界の事件を解決させるつもりならこちらからも増員しないといけませんよね」

 

「ならば、提督殿と親しいあの娘共はどうですか?」

 

「こっちは…そもそもが人手不足なんだけどねぇ。若いのも少ないし、後は頭でっかちとか血の気の多い野郎くらいしかいないし…」

 

話が戻ると、各勢力から選抜メンバーを集結させて一つの部隊として機能させることになりそうだった。

 

「若手悪魔達に関してはしばし待ってくれないか? 若手対抗のレーティングゲームがもうすぐ行われる予定で、駒王学園の学園祭、さらに中級悪魔への昇進試験もある」

 

サーゼクスが若手悪魔の選抜メンバー入りに待ったをかける。

 

「悪魔の社会というのも色々とイベントが目白押しなんだな…」

 

「レーティングゲームの方は冥界でテレビ中継もされるみたいですよ」

 

驚くクロノに忍が情報を付け加える。

 

「そんなに大きなイベントなのか?」

 

「対戦カードが対戦カードだけに、ですかね」

 

片や目の前に出席している魔王の妹、片や若手ナンバーワンと称される大王の血族。

注目されないのがおかしいくらいの対戦カードである。

 

「そんなに面白いイベントなら私も観戦してみたいけどねぇ」

 

「弟子が出張る試合なら俺も見てみたい気はするな」

 

クロノと忍の会話を聞いていたシルファーと弦十郎がそんなことを言い出す。

 

「なら、どっちも会場に招待してもいいんだぜ? なぁ、サーゼクス」

 

「アザゼルが言うセリフではないが、お二人さえよろしければ観戦部屋をこちらで手配します」

 

アザゼルとサーゼクスが2人を冥界に招待しようとする。

 

「ホントかい? なら、私は行かせてもらおうかね?」

 

その招待にシルファーは乗り気だったが…

 

「気持ちはありがたいが、俺にも仕事がある身だからな」

 

弦十郎は仕事があると招待を辞退する。

 

「なら代わりにあの潜水艦に中継を繋いでやるよ。そうすりゃ仕事中でも問題ないだろ?」

 

「それなら…まぁ…」

 

特異災害対策機動部二課の仮設本部でレーティングゲームの観戦…。

 

「「(それでいいのか?)」」

 

忍とクロノの思考が一致した。

 

「俺の執務室にも繋いでくれると助かる。レーティングゲーム…少しは興味があるのでな」

 

さらにゼーラからもそんな注文が入る始末。

 

こうして第一回、次元サミットは終わりを告げるのだった。

 

今回のサミットで決まったことは各自が独自の行動を起こすようになっている。

サーゼクスやミカエルなどの組織の長とは違い、クロノや弦十郎のように組織の中に身を置く者もいるので、行動は慎重にならざるを得ないのだ。

 

まずは多次元世界を知る者達に事情を説明するところから始まるだろうが…。

それでも確実に多次元世界を包む大局は少しずつ動き出し始めたと言える。

 

事実を公表したその先に何が待つというのか…?

今はまだ、誰もその答えを見い出すことは出来ない。



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第五十二話『神宮寺 紅牙の憂鬱』

次元サミットから数日。

サミットに参加した代表者達は表立った行動には出ておらず、今はまだ時を待っていた。

事実を公表するにしても、それには当然ながら下準備というものが必要だからだ。

 

その一方で、駒王学園では学園祭の準備で(せわ)しなかった。

どの部活動もクラスも出し物の準備に勤しんでいた。

特に三年生にとっては最後の学園祭なので、その気合いの入り様は下級生達よりも数段高いだろう。

 

そんな中、我等がオカルト研究部も学園祭に向けての準備を行いつつ、それと並列してレーティングゲームへ向けての訓練も行っていた。

そして、その訓練には…

 

「ブリザード・ファング!」

 

「炎の聖魔剣よ!」

 

神速の貴公子と名高い木場と真狼と化した忍が高速戦闘を繰り広げていた。

 

場所はグレモリー領にある広大な地下訓練場である。

そこでは他にもイッセーを始めとしたグレモリー眷属が訓練をしているが、こうして忍達紅神眷属もたまに訓練に参加させてもらっているのである。

特に異常な成長速度を見せる忍と渡り合えるのは同じく常軌を逸した成長振りを見せる赤龍帝のイッセーやそのイッセーと毎日のように訓練している木場くらいなものであり、この3人に関しては両眷属を合わせても別格になりつつあった。

 

「相変わらず2人とも速ぇな…」

 

忍と木場の高速戦闘をイッセーは視認するのも難しく、2人がぶつかり合う瞬間に散らす火花や魔法の痕跡を見るのでやっとであった。

とは言え、イッセーも新たな能力の一つ『龍星の騎士』を長時間的に維持することが出来れば2人にも追いつくだろうが、基本的に殴り合いを想定したイッセーの戦法に装甲が極限まで薄くなった騎士の力はやや相性に難ありといったところだろうか…。

それでも体力消耗の軽減や回避のコツさえ掴めれば高速戦闘も夢ではないと思われる。

 

そして、ある程度の高速戦闘を終えた後のこと…

 

「紅神君は手数が多くなってきたよね。剣一つで相手にするには僕も少々心許なくなってきたよ」

 

「その分、剣の才覚では木場君の方が上だよ。俺は手数が多くなる度に学習しないとならないことも多くなるから、必然的にバランスを考えないとならない」

 

「そうだね。近接寄りではあるけど、紅神君はオールラウンダー。僕達の基準で考えるならテクニックを主軸にしつつもパワー、ウィザード、サポートにも転じることが出来る万能型かもしれないね」

 

「俺との相性もだいぶ悪くなってきたからな…」

 

忍と木場にイッセーも加わり、それぞれの戦闘スタイルについての会話をしていた。

 

「実際、忍ってどれだけのこと覚えたんだ? 最初は確か魔法だったよな?」

 

「う~ん…そうだね。確かに最初は魔法だったかな? それから剣…というよりかはほぼ我流の刀術で、後から叢雲流魔剣術を萌莉から指南してもらって少しは形になったかなと思う。烈神拳の古文書から体術は試してて、それに伴った五気の扱いを体で覚えてる最中。それと並列して銃の扱いも覚えないとならなくて…しかも双銃。あと、内に眠る力の制御と修得の内、狼と二つの冥王は己の力になって残る吸血鬼と龍騎士をどうするかが現状で大きな課題。そして、最近になって刀を二刀流で使い始めた、ってくらいかな?」

 

イッセーの問いに指折り数えてみる忍だった。

 

「改めて聞くと、凄く大変そうだよな…」

 

「そうだね。僕らはそれぞれの長所を活かす形で修行してるけど…紅神君はそうもいかなそうだもんね」

 

「それに加えて王としての知識や在り方なんかも必要なんだろ?」

 

そうイッセーが言った途端…

 

「王の在り方についてはイッセー君も将来考えないといけないことでしょ?」

 

「確かに、将来的に独立するならイッセー君も考えた方が良いかもね」

 

忍と木場から痛いようなことを言われてしまう。

 

「ぐぬっ…」

 

2人の言葉にイッセーが険しい顔をする。

 

「そ、それよりも…忍のもう一つの冥王の力ってどんなのなんだ?」

 

苦し紛れにイッセーは話題を忍の冥王の力について逸らす。

 

「そういえば、紅蓮の力はよく目にするけど氷の冥王とやらはまだあまり見たことないね」

 

仕方ないな、とばかりに木場もそれに乗ることにした。

 

「蒼雪冥王。俺が本来持つ冥王の力。俺が雪女の血を宿しているという証明でもある。確かに実際に現実世界でなったことはないか…」

 

深層世界の中で蒼雪冥王となった幻影を客観的に見たことはあるが、修得してからまだ使ったことはなかった。

 

「この際だからその力も交えて模擬戦をしようよ。実戦でいきなり使うのも危ないし…」

 

「そうだな。それにどんな能力を持ってるのかも気になるしな」

 

「確かに…じゃあ、少し付き合ってもらってもいいかな?」

 

忍の願いにイッセーと木場は快く頷く。

 

「蒼雪冥王、解放」

 

そう呟くと同時に忍の体が変化を起こす。

 

バサァ…!

 

背中から4対8枚の瑠璃色の翼が生え、髪は白銀、瞳はサファイアブルーへと変化した姿となった。

それと同時に心なしか周囲の気温が低下していくような感覚がイッセーと木場を襲う。

 

「寒ッ!?」

 

「気温が低下している? というよりも紅神君から冷気が溢れてるのか?」

 

木場の言う通り、よく見ると忍の髪から微かに白い冷気が地面に向かって降りていくような光景があった。

 

「雪女としての体質なのかもね。これがスキルにも活かされる気がする」

 

そう言って軽く腕を薙ぐと…

 

ビュオォォ…

 

軽い吹雪が巻き起こる。

 

「なんだ? 力が抜けて…」

 

「これが…紅神君のもう一つの冥王スキル…?」

 

その吹雪に当てられ、イッセーと木場の体に変化が起きる。

 

「あ、ごめん…」

 

そう言ってすぐさま忍は蒼雪冥王から元の姿に戻る。

それと同時に2人を襲った虚脱感が消え去る。

 

「もしかして、今のが…?」

 

「うん。俺のもう一つの冥王スキル『アイス・エイジ』。周囲の温度を下げることで凍結効果を発揮する。使い方によっては物体の運動能力を制限することも可能らしい」

 

木場の問いに忍はそう答える。

 

「正に氷河期を思わせるような冥王スキルなんだね」

 

「まぁ、ね」

 

その後、真狼、紅蓮、蒼雪の三種の能力を切り替えながら戦う忍、トリアイナのコンボを混ぜながら戦って体力回復に休憩を挟みながら戦うイッセー、様々な種類の聖剣、魔剣、聖魔剣を創り出しながら戦う木場といった具合にそれぞれ一対一の模擬戦を繰り広げていった。

 

………

……

 

忍達が訓練に励んでいる一方…

 

「……………」

 

駒王町にあるマンション(木場とギャスパーの住んでいる所と同じ)にて紅牙は悩んでいた。

 

「どうしろと言うんだ」

 

テーブルの上には未使用の眷属の駒が並べられていた。

未使用と言っても紅牙は未だ眷属を作っておらず、自身に宿る王の駒を除く15個全てが揃っている状態である。

 

「眷属、か…」

 

前の悪魔に対して強い憎悪の炎を燃やしていた頃の紅牙なら一蹴していただろう。

しかし、忍との戦いで彼の尋常じゃない浄化能力を秘めた霊力を受け、今では悪魔に対して多少批判的な考えを持つまでに治まっていた。

 

「一時は行動を共にしたからと、マリア達を勧誘するわけにもいかんだろうな…」

 

今でこそフロンティア事変と呼ばれる地球の事件でのことを思い出す。

 

………

……

 

約2ヶ月前のこと。

 

 

「ちっ…俺までコソコソする必要性はないはずだが…?」

 

ヘリの中で紅牙は舌打ちしながらナスターシャ教授を睨む。

 

「若き冥王。我々の計画に力を貸してくれて感謝します。ですが、あまり目立った行動は控えていただきたい」

 

ナスターシャ教授はそんな紅牙の睨みに怯みもせず、そう言い返す。

 

「ふんっ…俺達には俺達の目的がある。それを実行するのに貴様ら人間の力も必要だと考えたまでだ」

 

そう言って紅牙はナスターシャ教授に背中を向け、その場から退室しようとする。

 

「もし…」

 

退室しようとする紅牙の背にナスターシャ教授の言葉が投げかけられる。

 

「……?」

 

「もしも、私の身に万一のことがあれば、あの子達のことを頼めますか?」

 

それは余命の短いナスターシャ教授の遺言のような頼み事であった。

 

「………さてな。俺の知ったことじゃない」

 

そう言い捨てると、紅牙は部屋から退室する。

この時の紅牙は悪魔に対する憎しみで周りのことなどあまり気に留めてもいなかった。

 

紅牙が部屋から出ると、そこにはマリア、調、切歌の3人が佇んでいた。

 

「マムと何を話していたの?」

 

「今後の段取りだ。俺は冥界に戻って他の派閥に協力しなくてはならない」

 

マリアの問いに紅牙はそう答える。

ただ、後半の"他派閥に協力する"という部分はかなり不本意というか、心底嫌がってるようにも聞こえた。

 

「なんだか、心底嫌がってる様に聞こえたデス」

 

そのことを切歌が指摘すると…

 

「あぁ?」

 

ギロリと睨まれてしまった。

 

「ひっ!?」

 

それに驚いて切歌は調の背中に隠れてしまう。

 

「事実を言っただけで切ちゃんを睨まないで」

 

「そうよ。大人気ない」

 

紅牙の行動に調とマリアが紅牙を咎める。

 

「ちっ…」

 

舌打ちすると、壁にもたれ掛かり…

 

「お前達はこの戦いが終わったらどうする気なんだ?」

 

そんなことを訪ねていた。

 

「急に何なの?」

 

「いいから、答えろ」

 

マリアの方が年上なのだが、紅牙はそんなことはどうでもよさそうに聞く。

 

「そんなの知らないわ。良くて捕まって拘束されることくらいかしら? その後、どうなるかなんて私にはわからないわ。その覚悟無くしてこんなテロリスト紛いなことは出来ないもの」

 

「そうかよ。そっちのチビ共はどうなんだ?」

 

マリアの答えを聞いた後、紅牙は話の矛先を調と切歌に向けた。

 

「私は…切ちゃんと一緒なら捕まったとしても平気」

 

「あたしも調と一緒なら大丈夫デス!」

 

2人揃って似たようなことを言う。

 

「(はぁ…ダメだ、こりゃ…)」

 

紅牙は頭が痛くなってきた。

 

「聞いた俺がバカだったらしい。お前達みたいな閉鎖的な思考ではこの先も容易に想像が出来る」

 

そう吐き捨てると、紅牙は転移魔法陣を展開する。

 

「それはどういう意味かしら?」

 

紅牙の言葉が癇に障ったのか、マリアが鋭い視線を向ける。

 

「言葉通りの意味だ。今のお前達に未来など…」

 

そこまで言って紅牙は自分の言葉に疑問を抱く。

 

「(俺は今、何を言おうとした? 奴の影響か? クソが…ッ!!!)」

 

そして、たった数度の戦いで忍の影響を受けたことに気付き、ガンッと壁を叩き付ける。

 

「「っ!?」」

 

「い、いきなりなによ!」

 

突然のことにマリア達も驚く。

 

「うるさい! こっちには邪狼を送る。それで事足りるだろう!」

 

それを最後に紅牙は姿を消し、マリア達もフロンティアを浮上させる戦いに挑むことになる。

 

………

……

 

「今更どのツラ下げて会えというんだ」

 

そう言って背中から床に落ちるようにして寝転がる。

 

「マリアはフロンティア事変の英雄として政府の監視下で歌手活動。調と切歌は確か、今の二課の保護下でリディアンとかいう音楽院に通う準備をしていたか?」

 

思い出すようにしてアザゼルから聞いた情報を呟く。

 

「こんな世界でも比較的平和な日常を送っているのならそっとしておくべきか」

 

そう考えながら別の事を考える。

 

「秀一郎の奴は…悪魔に傭兵として雇われるようなことになってたが…今はどうしてるんだ?」

 

あの病室での一件以来、秀一郎とはすっかり疎遠となってしまっていた。

だから、今の秀一郎がどうなっているのかサッパリわからなかった。

 

「あいつになら遠慮なく戦車の駒を与えられるんだが…」

 

冥王派として共に活動していたこともあり、紅牙は秀一郎にはある程度の信頼を持っていた。

 

「ま、いない奴を当てにしても仕方ないか…」

 

そう言い捨てると、紅牙はまた別の事を思い出そうとするが…

 

「……ふわぁ~あ…眠…」

 

そのまま眠気に任せて寝てしまっていた。

そして、数日前の出来事を夢という形で見ることになる。

 

………

……

 

異世界ミッドチルダ。

そこに存在する時空管理局の地上本部の一角にある特殊任務対応室の執務室に冥界の病院から退院したばかりの紅牙はいた。

その日は奇しくも忍がフィライトでフィロス帝国に対して決戦を仕掛ける日でもあった。

 

「時空管理局の人間が外部の人間である俺に一体何の用だ?」

 

紅牙は目の前の机に座るゼーラに向かって問いかける。

 

「まぁ、待て。お前の他にも呼び出した者達がいる」

 

ゼーラがそう言うと…

 

コンコン…

 

「入れ」

 

ノックがするのを聞くとゼーラは入室するように促す。

 

「失礼します。八神三等陸佐以下二名。ただいま到着いたしました」

 

すると、扉から管理局の制服を着た『八神 はやて』が同じく制服を身に纏った『ヴィータ』と『シャマル』を連れて入ってきた。

 

「ご苦労。八神三佐」

 

「(女が3人?)」

 

ゼーラが呼び出したからには実力は本物なんだろうが、と紅牙は眉を(ひそ)めた。

ちなみに紅牙はアザゼルからの事前情報としてゼーラの実力主義振りはそれなりに聞いていた。

 

すると…

 

「少将、そっちの"姉ちゃん"は?」

 

紅牙の存在に気付いたヴィータが"容姿だけ"見てゼーラに尋ねる。

 

「あぁ?! 誰が女だ! 俺は男だ!」

 

が、女扱いされることを嫌う紅牙がヴィータの言葉に怒声を上げる。

 

「うぇ!?」

 

「え、ウソ!?」

 

「私も女の子だと思いました…」

 

声を聞き、紅牙が男だと認識したらしいが、どうも三人共紅牙を"女"と思ってたらしい。

 

「テメェら…!」

 

もはやキレ気味の紅牙は右腕から炎を噴き出そうとしたが…

 

「部屋で暴れるな」

 

ゼーラの一言で紅牙は一旦矛を収めることになった。

 

「ちっ…」

 

舌打ちすると近くのソファーに腰掛ける。

 

「えっと…シュトライクス少将。彼女…じゃない、彼は…?」

 

はやてが代表して紅牙のことをゼーラに尋ねると…

 

「今回の特務を行うためにお前達と組むことになる民間協力者だ。腕は確かだから安心するといい」

 

「特務に民間協力者を同行させるんですか?」

 

「そうだ」

 

はやての当然の疑問にゼーラは一言で返す。

 

「今回の特務はある次元世界の要人を影から守る任務だ。基本的には姿を見せず、護衛だと悟られぬように振る舞ってほしい、との依頼先からの通達だ。その要人は護衛などが好きではないらしいのでな」

 

「要人警護だぁ? そんなの専門業者に頼めばいいものを…」

 

ゼーラの説明に不満を持った紅牙の言葉に…

 

「ところがそうもいかない事情がある」

 

ゼーラはさらに説明を続ける。

 

「その要人を狙う組織があるらしい。その組織を突き止めるのも任務の一つだ。可能ならば気付かれないように処理しろ」

 

処理、という言葉に紅牙以外の3人が少し反応に困った。

 

「要人警護よりもそっちの方がまだマシか。組織を突き止めれば後は好きにしていいんだな?」

 

「構わん。護衛対象に手を出されなければな」

 

「わぁったよ」

 

そう言って紅牙は立ち上がると…

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「勝手に話を進めんなよ!」

 

シャマルとヴィータが声を上げる。

 

「なんだ?」

 

2人に声にゼーラが反応する。

 

「これが…特務隊の任務ですか?」

 

「そうだ。管理局も一枚岩ではない。それはお前達も重々承知の上だと思っているが…?」

 

はやての問いにゼーラはそう返していた。

 

「それは…」

 

「わかったのなら行け」

 

はやてが言い終わる前にゼーラが出ていくように促す。

そうして紅牙を含めたはやて達はゼーラの執務室から出ることになった。

 

………

……

 

~次元世界『ストロラーベ』~

 

ここは第84管理世界と呼ばれる時空管理局が管理・保護している多次元世界の一つである。

この世界には独自のネットワーク社会『パンドラネットワーク』が構築されており、それによって発展してきた世界である。

地球と比べて近未来的な要素が多く、人の意識と感覚をリアルタイムにネットワーク内へと移すことが出来る技術が確立されている。

 

『パンドラ・インダストリー』。

『パンドラネットワーク』のメインサーバーを有するストロラーベの一大企業。

民間ネットワークや軍事ネットワークとは別系統であるパンドラネットワークの基礎を構築したり、パンドラネットワークへの専用端末を開発することで世界規模の展開を見せており、今ではストロラーベの日常になくてはならない存在となった。

元々は小さなゲーム会社であったが、企業内で独自に開発していた技術のノウハウを活かしたネットワーク事業に移行したところ大成功を収めて一大企業へと登り詰めた。

現在は他の次元世界にパンドラネットワークを構築することを目標としている。

 

そんなネットワークの発達した次元世界に紅牙達は降り立っていた。

 

「今回の護衛対象はパンドラ・インダストリーの幹部だったか?」

 

ゼーラから送られた資料に目を通しながら紅牙がはやて達に尋ねる。

 

「そうみたいやね。しかも影ながら守る…結構大変そうやな…」

 

「いくら管理世界とは言っても、この世界では魔法は少し珍しいみたいだから極力控えるようにって資料には書いてますもんね」

 

はやてとシャマルがそう答えていると…

 

「ま、仕方ねぇよな。場所はわかってんだし、その周辺で変な動きがないか見てればいいからな…」

 

ヴィータもそのような見解を示す。

 

ちなみにはやて達は私服姿に着替えている。

管理局の制服姿でいたら何かありますよ、と言っているようなものだからだ。

 

「チビのくせによく任務の内容を理解している」

 

執務室での意趣返しのつもりか、紅牙がそんなことを言う。

 

「あんだと!?」

 

その言葉にヴィータは紅牙を見上げるように睨めつける。

 

「やるつもりか?」

 

その視線に見下ろすようにして睨み返して火花を散らしていると…

 

「2人ともやめんか!」

 

はやてが2人の間に割って入る。

 

「2人共、大人気ないで。こんなことで喧嘩なんかしんと仲良ぉして…」

 

2人のやり取りを見兼ねて仲裁している。

 

「けどよぉ、はやて…」

 

「ふんっ…」

 

ヴィータはともかく紅牙は聞く耳持たず…。

 

「こんな奴、ホントに使えるのかよ。特務隊は協調性に欠ける奴が多いって聞いてるけどよ」

 

そんなことを言うヴィータに…

 

「もう忘れたのか? 俺はお前達の言う民間協力者だ。俺は俺の好きにやらせてもらう」

 

そう言って目的地まで勝手に先行しようとする紅牙を…

 

「あ、ちょぉ待ちぃな………え~っと…」

 

はやてが呼び止めようとしたが、そこで互いにまだ名乗っていなかったことに気付く。

 

「……ちっ……紅牙。神宮寺 紅牙だ」

 

それを察し、紅牙が先に名乗る。

 

「紅牙君な。私は八神 はやて。よろしゅうな」

 

「シャマルです。はやてちゃんとは家族なので」

 

はやてとシャマルが先に挨拶を済まし…

 

「…………」

 

ムスッとしたヴィータにシャマルが自己紹介を促す。

 

「…ヴィータだ。シャマルと一緒ではやての家族だ」

 

それを聞き…

 

「……そうなのか?」

 

紅牙がキョトンとした表情で呟く。

 

「そうやで。ヴィータとシャマルの他にも3人いてな」

 

はやての言葉に…

 

「随分と似てない気がするが…」

 

3人を見比べての感想を漏らす。

 

「そこはほら気にしない方向で。そういう紅牙君の家族は?」

 

「……一つ下の妹が1人いるが、今はある奴に任せている」

 

そんなはやての問いに紅牙は忍の顔を思い出しながら答える。

 

「そうなんや。でも、紅牙君的には複雑なんとちゃう?」

 

「………あいつが決めたことだ。それに…俺も奴には借りがある」

 

多少の間はあったものの、紅牙は忍の事をそれなりに信頼していた。

それは互いに拳をぶつけ合ったり、"復讐"という負の渦から自らを救い出してくれたり、妹のために本気で怒っていたことを思い返すと敵であったにも関わらず、不思議とそんな風に考えさせられていたのだと実感させていた。

 

「…お喋りはここまでだ。さっさと対象の監視に行くぞ」

 

喋り過ぎたと言わんばかりに、紅牙はそそくさと歩いていった。

 

「なんだよ、あいつ」

 

「ふふっ、良い人みたいですね」

 

「そうやね」

 

呆れた表情のヴィータと微笑むはやてとシャマルも紅牙の後を追うのだった。

 

………

……

 

護衛対象を遠くから見守ること数時間。

これといった動きもなかったが、それは突然に起こった。

 

「これは…!」

 

「な、なんなん?!」

 

突如として様々な画面にフィライトでの戦争映像が流れたのだ。

そして、それに合わせるかのようなノヴァの演説による多次元世界や多種族の存在の公開、ゼノライヤの悲惨な最期…。

その一部始終がストロラーベでも流されていた。

 

当然ながらストロラーベでも混乱は起きた。

特に悲惨な最期を遂げたゼノライヤとギルフォードの映像がその混乱に拍車をかけていた。

 

「多次元世界はともかく…多種族って…それに天使と悪魔が実在するて…」

 

困惑するはやてに…

 

「何も不思議なことじゃない。人間に知られぬことなく生きていく術を持つ。それが次元を隔てた世界であってもだ」

 

紅牙はそう言い放っていた。

 

「こ、紅牙、君…?」

 

そんなことを言う紅牙をはやて達はまじまじと見つめる。

 

「お前、なんでそんな冷静なんだよ」

 

「紅牙君。あなたは…」

 

ヴィータとシャマルは映像を見てもあまり動じる様子の無い紅牙に何かを覚える。

 

「それよりもあの映像に感化されたのか知らんが、客のようだ」

 

そう言って紅牙は鋭い視線を明後日の方向へと向ける。

 

「っ!」

 

それを受け、シャマルが魔法で索敵を開始する。

混乱の中での使用なのであまり目立つことはないが、完全には無視される訳ではない。

 

「ヴィータ!」

 

「グラーフアイゼン!」

 

はやての声にヴィータがデバイスを起動させると同時に…

 

『封鎖領域、展開』

 

結界を発動して自分達と襲撃者達以外の人間を結界外へと除外させる。

 

「魔力反応、7つ! けど、何かしら? 魔力は魔力だけど、何か違うような…?」

 

魔力反応を感知するも、その違和感に困惑するシャマルを見て…

 

「魔力には2種類ある。俺やお前達のようにリンカーコアから魔力を得る『大気魔力』と、悪魔が元から保有している『生体魔力』の2種類だ」

 

「生体魔力?」

 

「そうだ。悪魔の発する魔力は大気魔力とは異なるからそれが違和感に感じたんだろう」

 

そう簡潔に説明する紅牙に対して…

 

「なんで、お前がそんなこと知ってんだよ!」

 

当然の疑問をヴィータが叫ぶと…

 

「世界はお前達が思っている以上に広いということだ。悪魔が相手なら遠慮はいらんか…」

 

そう呟くと…

 

「紅冥王の前にひれ伏せ…!」

 

ボアアア…!!

 

紅い炎が紅牙の周りから噴き出すと…

 

バサァ!!

 

次の瞬間、紅牙の背中から紅の4対8枚の翼が生え、髪と瞳が真紅とワインレッドへと変化していた。

 

「「「ッ!?」」」

 

紅牙の変化に3人は当然ながら驚く。

 

「(しかし、悪魔が別の世界に現れるものか? これは話を聞く必要があるが…素直に話すとも思えんか…)」

 

7人の悪魔を迎え撃とうとする紅牙はそんな考えを巡らせていた。

 

そして…

 

「何故、悪魔がこの世界にいる?」

 

会敵した瞬間、紅牙がそんなことを聞くが…

 

「裏切り者の元冥王派に話すことなど何もないわ!!」

 

悪魔の1人がそう叫んでいた。

その言葉で紅牙はある程度の予測を立てることが出来た。

 

「(裏切り者…つまり、こいつらは禍の団か…それならそれで多少の説明はつくが、それでも解せんことが多いか…)」

 

悪魔達の魔力弾を回避しながら紅牙はそのように考える。

 

「(………細かいことは後にするか)」

 

すると考えるのをやめた紅牙は攻撃に転じる。

 

「ブレイズ…!!」

 

そして、紅牙が攻撃を仕掛けようとした時だった。

 

………

……

 

~現実世界・紅牙の部屋~

 

「誰だ!?」

 

何かの気配を感じて飛び起きようとしたのだが…

 

ガンッ!!

 

「~~ッ!!?」

 

テーブルの下で寝ていたことも忘れて飛び起きようとしたので膝を思いっきりテーブルの端にぶつけてしまっていた。

 

ガタガタ…

 

そして、その拍子に眷属の駒も床に転がり落ちてしまう。

 

「な、何事デス!?」

 

「…ビックリした…」

 

そんな紅牙の起き方にキッチンの方から紅牙にとっては意外な人物達がやって来た。

 

「お、お前達は…!?」

 

見覚えのある2人の姿に紅牙は驚きと同時に困惑を覚えた。

 

「月読 調、暁 切歌!? 何故、お前達が俺の部屋にいる?!」

 

そして、当然の疑問を口にする。

 

「何故って…」

 

調と切歌は互いに顔を見合わせた後…

 

「水臭いのデス。一時とは言え、同じ釜の飯を食べた仲。あの後どうなったか、こっちも気になったデス」

 

「…それで風鳴司令に聞いたらこの町にいるって聞いたからちょっと様子を見に来たの」

 

どうやら紅牙がマリアを含めた3人を気にしていたように調と切歌も紅牙を気にしていたようだ。

 

「それにしても鍵を掛けないで寝るなんて不用心デスよ」

 

「…いくらあなたが強くても油断が過ぎると思うな…」

 

「ぐっ…」

 

2人にそんなことを言われて紅牙自分の不覚を呪った。

 

「それよりもこれはなんデスか?」

 

「…チェスの駒?」

 

興味本位で床に散らばった眷属の駒の内、兵士の駒を手に取る。

 

「勝手に触るな。もし誤作動でも起こしたら…」

 

「…誤作動?」

 

「何のことデス?」

 

そう言って紅牙が2人から眷属の駒を取り上げようと駒に触れた時だった…

 

トクン…。

 

何をどう間違えたのか、兵士の駒が調と切歌の手から体内へと溶け込んでしまった。

 

「……………」

 

「…え?」

 

「い、今のはなんデスか!?」

 

その光景に紅牙は絶句し、調と切歌は驚いたように自分の体をペタペタと触る。

 

「ほ、本当に誤作動するとは…」

 

今起きたことに紅牙は頭を抱える。

 

「…どういうこと?」

 

「せ、説明を求めるデス!」

 

その後、紅牙は眷属の駒についての話をした。

それに伴い、悪魔社会での悪魔の駒制度の事も話した。

 

「…なるほど。私達はその眷属というものになってしまったと?」

 

「悪魔社会は凄いデス」

 

話を聞いた後、2人はそんな反応を示す。

 

「すまん。誤作動とは言え、お前達を俺の眷属にしてしまった。これは俺の不手際だ。駒を摘出できるよう魔王に頼む。それまでは我慢していてくれ」

 

そう言って紅牙は2人に深々と頭を下げる。

 

「…そこまでしてもらう必要はないかな」

 

「デスね」

 

が、紅牙が思っていた反応よりも随分と違う反応が返ってきた。

 

「なに…?」

 

その反応に紅牙も困惑した。

 

「…どんな形であれ、あなたは私達のことを案じててくれてた。その想いが駒から伝わってきたような気がする」

 

「そうデス。だからあたし達も紅牙を支えてあげるデス」

 

どうやら紅牙が駒に触れた瞬間、駒を通じて紅牙が密かに抱いていた想い(心配、不安、こちらの戦いに巻き込みたくない、安堵など)が2人に伝わったらしい。

 

「(そんなことまでわかるものなのか? って…)待て待て。それで何故、お前達が俺を支えることになる?」

 

その問いに…

 

「…あなたは1人で背負いすぎる傾向にある」

 

「それは誰かさんに似ていて、少しの間だけでも一緒にいたらわかるデス」

 

2人はそう伝えていた。

 

「マリアのことか。だが、俺と奴を一緒にするな…俺は1人でも問題ない。だから眷属なんぞ作る気はなかったんだ」

 

調と切歌が眷属となってしまった以上、そう言うしかなかった。

 

「…そういうところとかマリアにそっくり」

 

「だからほっとけないのデス」

 

「ぐぬ…」

 

これ以上、何を言っても無駄な気がして紅牙は言葉に詰まる。

 

「…マリアが私達のために頑張ってくれてるように私達も誰かのために頑張ってみたいの」

 

「マリア自身も紅牙のことは気にしてたみたいデスしね」

 

さらなる言葉の追撃が紅牙を追い詰めていく。

 

「……あ~、もう…勝手にしろ!」

 

基本的に深く考えることを得意としない紅牙はもう諦めるようなことを言った。

 

「というか、お前ら…キッチンで何をしていた?」

 

「…料理だけど?」

 

「男の一人暮らしなんてコンビニ弁当か、インスタントばかりと相場が決まってるのデス!」

 

「…………」

 

図星を指されて言葉を失う紅牙だった。

 

こうして、事故とは言え調と切歌を眷属に迎えてしまった紅牙であった。

これを機に紅牙も眷属集めに着手するのだろうか?



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第五十三話『トラウマという名の悪夢』

グレモリー眷属vsバアル眷属のレーティングゲームが数日に迫ったある日の事。

 

前日の夜に冥界でのゲームへの意気込みを合同記者会見にて発表した両眷属。

その際、イッセーの緊張ガチガチな一言で翌日の週刊誌が凄いことになったのだが…。

それはともかくとして、グレモリー眷属内ではちょっとした波乱が起きていた。

 

その波瀾とは、イッセーとリアスの関係性に関わる事である。

 

リアスにとってイッセーはライザーとの婚約での出来事からイッセーを意識するようになり、将来的には結婚を考えているものの、当の本人であるイッセーはそれを

それは周囲も同じ考えなようで、リアスの家族はイッセーを婿にと考えている。

しかし、イッセーはいつまで経ってもリアスのことを『部長』と呼び続けている。

それが関係を進展させたいリアスにとって最大の苦痛だったのかもしれない。

 

対するイッセーは内心ではリアスの事をとても好いている、それは一目惚れに近い感情かもしれない。

憧れを抱き、惚れた女性には違いないが、それが恋として発展できるかと言えば、それは今のイッセーにとっては難しい課題であった。

イッセー自身もリアスと恋仲になりたいと考えている。

しかし、それは今の主と従者の関係から一歩踏み出さなくてはならないのだが、イッセーは消極的とも言えるほどにそのことを考えないように、そして自らその考えを否定してきた。

 

何故か?

 

そもそもイッセーが悪魔になる切っ掛けになった事件を思い出してほしい。

堕天使レイナーレ。

かつてイッセーの恋人として振る舞い、そしてイッセーの命を奪い去った存在。

今でこそ赤龍帝の籠手と認識されているが、最初の頃は危険な神器として排除された。

そこへリアスが自らの駒を用いて眷属にした。

その後、堕天使レイナーレが率いる"教会"という小さな組織との衝突し、それが真に赤龍帝の籠手であることが判明。

その際、レイナーレはイッセーに対して罵詈雑言を笑いながら言い放ち、イッセーの心の奥底に決して消えないトラウマを残していた。

それ故か、イッセーはハーレム王を目指すと公言しながら一向に、尚且つ積極的に特定の女性と距離を縮めようとはしなかった。

むしろ、その内心では恐怖していたのだ。

普段から仲の良く優しい眷属の女の子達、一歩踏み込んでさらに仲良くなろうとしたらバカにされるんじゃないか、と…。

眷属の女の子達が悪い子達ではないとわかっていたも、深く知ろうとするとブレーキがかかる。

そう、イッセーは女の子と仲良くなるのが怖いのだ。

 

当時を知る朱乃、アーシア、小猫の3人が苦悩するイッセーの元を訪れ、そんなイッセーのずっと溜め込んでいた想いを聞いていた。

それでもイッセーの事が好きであると、3人は答えてくれた。

そのことがイッセーの心に巣食う闇を少しでも氷解させた。

そして、イッセーは勇気を持とうと改めて考えた。

例え、どんな結果になろうと…次のバアル戦でサイラオーグを倒せたら、リアスに告白すると…。

 

………

……

 

その夜のこと。

 

イッセーとリアスが気まずい雰囲気となってしまったため、今回ばかりは一緒に寝ることはなく…

 

「なんか悪ぃな、忍」

 

「気にしないで。今日は皆グレモリー先輩の方に行って慰めてくれるらしいから」

 

そう、イッセーは明幸邸の居間に泊まることになった。

 

「僕らもお呼ばれされてしまってよかったのかな?」

 

「こ、ここが極道のお屋敷…」

 

「なんで俺まで…」

 

何故か木場、ギャスパー、紅牙も呼んでの男水入らずのお泊り会である。

 

そして、それと入れ替わるように兵藤邸に紅神眷属の女性陣が押し掛けることになった。

向こうは向こうで女性だけのパジャマパーティーだろうか?

 

「それにしても…なんだか不思議だね」

 

居間に布団を敷き、その上に座ったりする忍やイッセー、紅牙に既に布団に潜り込んでるギャスパーを見渡して木場が呟く。

 

「ん? 何がだよ?」

 

そんな木場にイッセーが尋ねる。

 

「いや、一学期が始まった頃はイッセー君やギャスパー君と一緒に寝泊りをするなんて思いもよらなかったからさ」

 

「そうなのか?」

 

木場の言葉に意外そうな表情を見せるのは紅牙だった。

 

「そっか。紅牙はイッセー君の学園での評価を知らないんだっけ」

 

紅牙の反応を見て忍がそう言う。

 

「学園での評価? 赤龍帝ではないのか?」

 

ちょっと一般常識に疎い紅牙がそう言うと…

 

「いやいや…普通の人間にそんなこと言ってもわからねぇって…その、なんだ…」

 

イッセーが言いにくそうに表情を歪める。

 

「松田君と元浜君って人間の友人達と揃って"変態三人組"って呼ばれるくらい、この辺ではちょっとした有名人だったんだよ。特にイッセー君はね」

 

「それでも最近はイッセー君の評判も落ち着いてきたかな?」

 

イッセーの代わりに忍が答え、木場も言葉を付け足す。

 

「変態、三人組…だと?」

 

その言葉を受け、布団に潜り込んでるギャスパーを見る(が、目つきが悪いため睨んでるように見える)。

 

「は、はいぃ。ネットでも少し話題になってましたし…学園の掲示板にも色々と書き込みがありましたぁ~!」

 

睨まれたと思ったのか、おっかなびっくりに答えるギャスパーだった。

 

「赤龍帝の名が泣くぞ?」

 

「うっせぇ!」

 

真顔で言われたため、イッセーも勢いで反発してしまった。

 

『もっと言ってやってくれ。相棒にはもっと自覚を持ってほしいものだ』

 

そこにドライグも加わる。

 

「ドライグ!?」

 

「今の声が…赤龍帝か?」

 

その声に応えるようにして…

 

『冥王とはこれが初めてか。我が名は赤龍帝・ドライグ。今は相棒・兵藤 一誠と共にいるものだ』

 

ドライグが紅牙に軽い挨拶をする。

 

「そうか。俺は神宮寺 紅牙。紅の冥王だ」

 

それを受け、紅牙も軽い挨拶を返した。

 

「そういや、紅牙は眷属とかの引き入れはしてるのか?」

 

思い出したように忍が紅牙に尋ねる。

 

「俺は眷属など作らん……つもりだったんだが…」

 

そう言ってから軽い溜息を吐いて先日の出来事を話した。

 

「事故、ね」

 

「そうだ。俺はあいつらを眷属にする気はなかったんだ。なのにあいつらの持った駒に俺が触れた瞬間、駒が勝手に反応してあいつらを眷属にしてしまった」

 

どうも紅牙は調と切歌を眷属にしたことを未だ割り切れていないようである。

 

「まぁ、同じ眷属の駒を持つ者として言えることは…そうだな。自分の考えを眷属に反映した方が良いんじゃないか?」

 

「どういうこった?」

 

忍の言葉にイッセーが尋ねるが、他の皆も興味があるようだった。

 

「俺は…自分の手の届く範囲で守りたいって考えから眷属を選んでる。もちろん、それは俺の勝手な考えだし、皆にはそれぞれの気持ちもあるから無理強いはしてないけどさ…それでも俺は俺の信念で眷属を守りたいと思ってる。残る兵士の駒5個も…俺がホントに守りたいような人のために使いたいんだ。これって智鶴に対して浮気、になるかな?」

 

恥ずかしそうに、自重するように忍は自分が選んだ眷属に対する想いを口にしていた。

 

「う~ん…明幸先輩が許してるんなら大丈夫じゃね?」

 

「ど、どうなんでしょう?」

 

「イッセー君はもうちょっと紅神君を見習った方が良いかな?」

 

「要は己の決めた道、か…」

 

忍の考えにイッセーや紅牙達は色々な反応を示していた。

 

「でも…未だ絵札の方は訳が分からないから使ってないけど…」

 

そう言って眷属の絵札を皆に見せる。

 

「7枚の絵札、か…」

 

「確か、天界の御使いと眷属の駒を基に作られたんだっけ?」

 

「そう聞いてる」

 

紅牙と木場の言葉を受けながら布団の上に放る。

 

「触っても平気だよな?」

 

イッセーが忍に尋ねる。

 

「あぁ。駒と一緒だと聞いてるから俺が認証しなきゃ動かないだろうが…紅牙は遠目で見てくれ。同じ冥族で反応しても困るからな」

 

「む、わかった」

 

そう答えながら紅牙に釘をさすと、触ろうとした紅牙も手を引っ込めて絵札を覗き込む。

 

「剣、弓、槍の三騎士に、戦車を駆る者、魔術師?」

 

「魔導士という線もあるだろう。それに狂戦士に暗殺者」

 

木場が3枚の絵札を手にしながら言うと、紅牙も続けて言う。

 

「な、なんだか、それぞれに役割がありそうですね…」

 

「役割? 駒みたいにか?」

 

「は、はい…」

 

ギャスパーの発言にイッセーが尋ねると、ギャスパーもそれに頷く。

 

「役割か。う~ん…御使いがトランプになぞられてるようにこれにも意味がある、か…」

 

そんな会話を横で聞きながら忍は魔術師の絵札を器用に指先で回してみる。

 

「そうだね。やっぱり、この絵柄が鍵じゃないかな?」

 

木場が絵札を布団の上に戻しながら言う。

 

「ん~…しっかし、天界もなんでこんなわかりづらい絵柄で作ったんだか…」

 

考えてもわからない以上、この話題はそう長くは続かなかった。

 

「にしても…イッセー君が女性に対してちょっとした恐怖症を抱えていたとはね」

 

「い、意外過ぎます…」

 

「さっきの話を聞いた上で答えるなら…確かに意外だ」

 

事の経緯を聞いた一同の反応は木場以外は意外そうであった。

 

「僕も当時のことは見てたけど…アレは確かに酷かったからね」

 

あの時に見せたレイナーレの言動を思い出し、木場も苦い顔をする。

 

「あんま思い出させんなよ…」

 

布団の上で胡坐を掻きながらイッセーが不貞腐れる。

 

「ごめん。でもイッセー君にとっては避けては通れない道だからね」

 

木場が謝りながらもそう言う。

 

「そうだね。グレモリー先輩の気持ちだってあるだろうし…」

 

忍がそんなことを言うと…

 

「忍は…その、どうなんだよ?」

 

「どう、って?」

 

イッセーの問いに忍が首を傾げる。

 

「明幸先輩とは今じゃ公認カップルみたいだけど…その馴れ初めとかさ…」

 

「智鶴との馴れ初め、か…」

 

ふむ、としばし考える素振りを見せた忍は…

 

「俺が物心つく頃にはもうここに預けられてた後だったからな。それ以来の付き合いになるし…ずっと一緒だったから自然と惹かれ合ったというか…俺も智鶴も理想の相手がお互いだったのかな? だから、俺は智鶴を大切に想っているし…眷属として守りたい人が増えた今でも智鶴が傍にいてくれたらとも思う。もちろん、他の眷属の娘が大切じゃないって訳じゃないんだけど…」

 

そう答えていた。

 

「「…………」」

 

「ご馳走さま」

 

「あわわ…////」

 

イッセーと紅牙は呆然とし、木場は笑顔で受け流し、ギャスパーに至っては布団を頭から被ってしまっていた。

 

「だから…イッセー君もあんまり考え込まないで、グレモリー先輩に全力でぶつかればいいと思うよ? 俺が人外の存在とわかっても智鶴達はそんな俺を受け入れてくれたんだし…たとえ主と下僕、先輩と後輩だとしてもちゃんと想いを伝えれば届くんじゃないかな?」

 

そんな言葉を受け…

 

「想いを伝えれば届く、か…」

 

イッセーの中の覚悟が少しずつ固まっていく。

 

「良い面構えになってきたな」

 

紅牙がイッセーの表情を見て呟く。

 

「俺、サイラオーグさんとの勝負に決着を着けたら…頑張ってみるわ」

 

それを聞き…

 

「なら、僕も親友のために頑張ろうかな?」

 

「ぼ、ぼくも頑張りますぅ~」

 

木場とギャスパーがそんなことを言う。

 

「俺はその勝負を見届けさせてもらおうかな」

 

「暑苦しい奴等だが、そういうのは嫌いじゃない」

 

「お前が暑苦しい言うな」

 

紅牙の言葉にツッコミを入れる忍にドッと笑いが起きた。

 

男達の語らいは夜遅くまで続いたという…。

 

………

……

 

一方で…

 

兵藤邸ではグレモリー眷属と紅神眷属の女子によるパジャマパーティー的なものが開かれていた。

場所は6階の空き部屋である。

しかし、人数が人数だけに魔法で一時的に壁を取り払って二部屋分のスペースを確保しているが、それでも部屋が狭く感じてしまうのは…きっと気のせいではなかろう。

 

ちなみに参加メンバーを表記するなら…

 

グレモリー眷属…リアス、アーシア、朱乃、小猫、ゼノヴィア、ロスヴァイセ

 

紅神眷属…智鶴、カーネリア、シア、朝陽、フェイト、エルメス、暗七、萌莉、吹雪、クリス

 

その他…イリナ、レイヴェル(先日駒王学園に通うためにホームステイしてきた)、緋鞠、雲雀

 

以上である。

 

「どうして私まで…私には任務(忍の監視)があるというのに…」

 

何故か参加させられた緋色の長襦袢を身に着けた雲雀が小言を呟く。

 

「ま、まぁまぁ…」

 

そんな雲雀をジャージ姿のロスヴァイセが宥める。

歳が近く、同じ教職員という立場上、雲雀とロスヴァイセは自然とその仲を縮めていた。

 

「アンタの姉さんって姫島 朱乃に匹敵する大きさよね?」

 

暗七が緋鞠と雲雀の体型を比較するようにして緋鞠に尋ねる。

 

「それはなんかの皮肉かしら…?」

 

暗七の言わんがしてることに眉をヒクヒクさせながら緋鞠が言う。

 

「うぅ…」

 

「はぅぅ…」

 

「……この部屋には敵が多過ぎます…」

 

緋鞠の言葉にエルメス、アーシア、小猫がちょっとだけ肩身狭そうにしている。

 

「あたしだってその気になれば…」

 

ブツブツと何かを愚痴る緋鞠を他所に…

 

「カーネリアさん? それは一体なんでしょうか?」

 

ゴゴゴゴゴ…と背後に炎の幻影を見せる智鶴は白のパジャマ姿でカーネリアを見ていた。

心なしか目元に影が差してるような気がする…。

 

「それって何の事かしら?」

 

とぼけたように振る舞うカーネリアの姿は…黒の下着にワイシャツを一枚羽織っただけの露出度の高い姿だった。

 

「そのワイシャツ…しぃ君のですよね?」

 

「え…?」

 

智鶴の言葉にシアが驚いたようにカーネリアを見る。

 

「流石は明幸先輩。一目で紅神の衣服だと気付くとは…」

 

「お、幼馴染みならそのくらい出来て当然よ……ボソッ(多分…)」

 

ゼノヴィアはゼノヴィアで別の観点から智鶴の凄さに感嘆し、イリナはイリナで自分にも出来るかと思ったらちょっと自信無さ気だった。

 

「あらあら…流石は智鶴ね。そう思わない、リアス?」

 

「え、えぇ、そうね…」

 

話を振られて一瞬戸惑うリアスだった。

どこか心ここにあらずといった感じである。

 

「に、賑やか…ですね…」

 

薄い翠色のパジャマに身を包んだ萌莉がファーストを抱えながら賑わう様を遠目に見ている。

 

『きゅっ?』

 

むにゅん…

 

ファーストが萌莉の胸を押し退けるように頭を後ろに動かして萌莉を見上げるようにして何かを尋ねるように鳴く。

 

「え…? わ、私、は…ちょっと…」

 

その意図がわかったのか、萌莉はちょっと寂しそうにファーストの頭を撫でる。

 

「で、も…ありが、と…」

 

『きゅっ!』

 

そんな何ともほんわかした雰囲気の中に…

 

「お前なぁ。もちっと輪に溶け込めっての」

 

「そういうこと」

 

パジャマ姿のクリスと白い浴衣姿の吹雪が萌莉の両隣にドカッと座って近くにいた召喚獣(クリスはフィフス、吹雪はサード)を抱き上げる。

 

「く、クリス、さん…? ふ、吹雪、さん…?」

 

驚いたように両隣を交互に見る。

 

「そのオドオドした言動、治らないもんか?」

 

「なんかの切っ掛けがあれば、少しは改善もできるんじゃない」

 

そう言いながらクリスと吹雪はフィフスとサードを撫でていた。

 

『にゃぅ』

 

『シュルル…』

 

フィフスは気持ち良さそうに、サードはなんだか眠そうにしていると…

 

「ちょっと、この鳥を何とかしなさいよ」

 

「まぁまぁ、流星さん」

 

フォースに肩に留まられた黒のパジャマ姿の朝陽が萌莉に文句を言いに来て、その付き添いにピンク色のパジャマ姿のフェイトが一緒にやって来た。

 

「あ、わわ…フォー、ス…その、ご、ごめんなさ…ぃ」

 

朝陽の肩からフォースを受け取ると、萌莉は縮こまってしまう。

 

「別にそこまで怒ってる訳じゃないわよ」

 

そうは言うものの、朝陽の言動は怒ってるようにも聞こえてしまう。

 

「その言い方が既に怒ってるように聞こえんのよ」

 

朝陽の物言いに吹雪がそう返す。

 

「仕方ないじゃない。これがあたしの素なんだもの」

 

この言葉に…

 

「(朝陽って友達少なさそう…)」

 

「(なんだか似たような空気を感じる気が…)」

 

「(流星さんって…不器用なのかな?)」

 

吹雪、クリス、フェイトはそれぞれそんなことを考えていた。

 

「それにしても…あの兵藤とかいう男。案外根性無しだったのね」

 

ピシッ!

 

朝陽の発した言葉が一瞬にして部屋内の温度を下げ、わいわい騒いでた周囲も急に沈黙してしまった。

 

そんな空気の中…

 

「そうね。私もちょっと驚いたわ」

 

智鶴が朝陽に続いてそう言い放つ。

 

「リアスちゃんもリアスちゃんだけど、兵藤君も押しが弱いのかしら?」

 

「ぅぐっ…」

 

友人にズバリ言われて凹むリアス。

 

「私としぃ君は…しぃ君が中学を卒業した時のお祝いで、間違ってお酒を飲ましちゃった時に一緒に寝てたら…」

 

「「「「おい!」」」」

 

何かを懐かしむように言いながらもポッと赤くなる智鶴の言葉にクリス、朝陽、吹雪、緋鞠の4人が声を揃えてその先を遮る。

 

「ともかく、リアスちゃんはもっと怒ってもいいと思うのよ。結構わかりやすいアプローチをしてる訳だし。でも、辛い経験をしたのなら…相手の気持ちもわかってあげないとよね。私も朝陽ちゃんに言われて痛感したもの」

 

冥族の集落でグレイスとの戦闘中、忍の中の龍騎士が暴走した時に言われた朝陽の一言を思い出しながらそう言う。

 

「あぁ、あの時の…」

 

その場に居合わせて朝陽が忍に好意を持ってると確信したシアも思い出したのか、そう呟く。

 

「へぇ…」

 

「なんか意外」

 

「同じ騎士として見習わないとかな?」

 

暗七、吹雪、ゼノヴィアの順にそんな言葉が並ぶと…

 

「べ、別に大したこと言ってないし!!////」

 

照れているのか、すぐさま否定の言葉を漏らすとそっぽを向く。

その際に寝る時は結っていない髪がふわりと舞う。

 

「だからリアスちゃんも昔の女なんて気にせず、それを補って余りあるくらいに兵藤君を幸せにしちゃった方が良いのよ」

 

「補って余りあるくらい?」

 

言われたリアスは智鶴を見てキョトンとする。

 

「えぇ。精神の深いところに関わるから私にもわからないけれど……兵藤君は単に怖がってるだけ。それをわかってあげた上で優しく包み込んであげれば、きっと兵藤君もわかってくれるわよ」

 

「そうよ、リアス。イッセー君だっていつまでもこのままって訳でもあるまいし、私達からも歩み寄っていかなくちゃね」

 

「智鶴、朱乃…」

 

両眷属の女王に諭されて少し気持ちが楽になったのか…

 

「そうね。私だってあの時の傷を知ってたのに、それを見て見ぬふりしてイッセーが自然に立ち直ると考えてたわ。でも…それじゃあ、いけなかったのね」

 

リアスも少しだけ元気になったように見える。

 

「男達も向こうで話し合ってるだろうし、きっと平気よ」

 

退屈そうに窓際にいたカーネリアがそう口にする。

 

「そうね…………って、あなたにも責任の一端はあるんだからね!?」

 

レイナーレに協力していたことを思い出したのか、リアスがカーネリアに向かって叫ぶ。

 

「あら? そうだったかしら?」

 

既に興味のないことだったため、カーネリアはスルッと逃げてしまった。

 

「下らない。男1人にどうしてそこまで熱心になれるのか…私には理解出来ないわ」

 

そこへ雲雀が教員用の書物を読みながら口を挟む。

 

「雲雀さんは恋とかしたことはないんですか?」

 

シアの問いに…

 

「そんな非合理的なこと、ありません」

 

雲雀は即座に答えた。

 

「そういうのに限って恋したら結構一途だったりするものよね。私もあんまり恋とかわからないけど…」

 

「……そうですね。意外とそういうのに目覚めたら、ってこともありますね」

 

「そういうものなのですか?」

 

「私も詳しくないから何とも言えないが…イリナ、そうなのか?」

 

「うぇぇ!? 私に聞くの?! で、でも…興味がない人なんていないんじゃない、かな?」

 

暗七の言葉に小猫、アーシア、ゼノヴィア、イリナが続く。

 

「姉様が認める程の男がいれば、話は別かもしんないけど…そんな男、そうそういる訳じゃないから」

 

雲雀の妹である緋鞠がそう言うと…

 

「じゃあ、アンタはどうなのよ?」

 

矛先が雲雀から緋鞠に移る。

 

「あ、あたしぃ!? そんな奴、いないわよ!」

 

そう言い張る緋鞠だが…

 

「? 緋鞠、嘘とはいただけませんね」

 

「ね、姉様!?」

 

まさかの姉の裏切りである。

いや、雲雀としては妹の嘘を見過ごせなかっただけで、裏切りとは違うか…?

 

「よく言っていたではありませんか。昔、母と共に人間界に行った時に迷子になり、そこで助けてくれた男の子にまた会えたらいいなとか。それが好意があるというのでは?」

 

「ひ、雲雀姉様ぁ~!?」

 

雲雀に真実を言われ、わーわーと騒ぐ緋鞠。

 

「へぇ、そんなことが…」

 

「人は見かけによらねぇもんだな…」

 

緋鞠の初恋話題に周囲もきゃいきゃいと騒ぐ。

 

「まったく、今何時だと思ってるのですか? あまり騒ぐとご近所迷惑ですよ?」

 

先生らしくロスヴァイセがそう言う。

 

こうしてパジャマパーティーも賑やかに幕を閉じるのであった。

 

 

 

翌日からリアスのイッセーに対する態度も少しだけ柔らかくなったものの、流石に昨日の今日ではギクシャクしたままであった。

 

そのままの状態で、サイラオーグとのゲーム当日を迎えるのであった。



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第五十四話『激突! 龍vs獅子』

あの熱き戦いを一話に濃縮してお届けする愚をお許しください…。


グレモリー眷属vsバアル眷属。

そのゲーム当日が遂にやってきた。

 

ゲームを行う場所はアガレス領の空中都市『アグレアス』。

空を浮かぶ島の上に存在する都市であり、島の都市から地上に水が落ちる様は滝のようで、それがいくつも点在する様は幻想的である。

島を浮かせている動力は旧魔王時代のものらしく、現状では魔王アジュカ・ベルゼブブしか詳細を知らないようであり、深奥部での調整はそのベルゼブブ眷属が行っているとのこと。

 

それ故か、アグレアスは冥界の世界遺産や観光地としても有名である。

移動方法は三つ。

魔法による転移ジャンプ(但し、VIPや特別なことがないと許可されない)。

飛行船などの空の乗り物。

ゴンドラによる地上からの移動。

 

イッセー達はゴンドラからの景色を見るために三番目の手段を使ってアグレアス入りをしている。

忍達、紅神眷属もまた別のゴンドラでアグレアス入りしていた。

 

その後、会場となるアグレアス・ドームの横の高層高級ホテルにてグレモリー眷属と紅神眷属が合流し、それぞれの部屋で時間まで待機となる予定である。

 

余談だが、同時期には別会場でシトリー眷属vsアガレス眷属のゲームも行われるのである。

そちらの注目度はあまり高くないが、それでも若手悪魔のゲームともなるとそれなりに注目を浴びているだろう。

 

………

……

 

部屋まで両眷属の合流後、ボーイに部屋まで案内されている時のこと。

 

《これはこれは…珍しい所で会ったな。紅髪のグレモリーに、堕天使の総督よ》

 

司祭服を身に纏った骸骨こと冥府の神『ハーデス』と、それに付き従う死神(グリムリッパー)の集団と遭遇していた。

 

「(冥府の神…ハーデス…これが死の匂いというやつか?)」

 

ハーデスとアザゼルが言葉を交わしてる間、他の者達はまるで生きた心地がしなかったとか…。

 

その後は、ハーデスと同じ神話体系であるギリシャ側の神『ゼウス』と『ポセイドン』に遭遇したり、チビドラゴン化したタンニーンに出会ったり、新しいお付きヴァルキリーを従えたオーディンを見つけたりと、待機部屋に辿り着くまでちょっと騒がしかった。

 

グレモリー眷属が待機部屋へと向かう途中で、紅神眷属は別れて一足先に会場のVIPルームの一つへと案内されていた。

 

「あれが会場か」

 

VIPルームの観戦窓からドーム内を見て忍が一言漏らす。

 

「意外と狭いわね」

 

ドーム中心であるだろう両陣地の仕様を見て暗七がそう呟く。

 

「きっと特殊ルールでもあるのよ。ゲームにはあまり興味がないから知らないけど…」

 

カーネリアがそんなことを言う。

 

「そ、それに、しても…す、凄い、人…」

 

観戦窓から会場を見れば既に観客席は満席のような状態であった。

それだけ注目度が高いとも言える。

 

「しかし、さっきは驚いたわね。まさか、冥府の神とかが出てくるなんて…」

 

吹雪が思い出したように身震いしていた。

 

「アレが死を司る神様ってわけ。いつかはお世話になるのかしらね?」

 

朝陽が壁際に背を預けながらそんなことを言い出す。

 

「そんな不吉なこと…」

 

「ないとも限らないでしょ?」

 

フェイトの否定の言葉を朝陽が一蹴する。

 

「紅神は次元辺境伯だなんて持ち上げられてるけど、実際は便利屋みたいなもんでしょ? それがテロ組織と命懸けの戦闘。いつ死んでもおかしくない状況にいるのよ」

 

これまで避けてきた話題を朝陽は口にする。

 

「そうよね。敢えて黙ってきたけど…結構な修羅場を潜ってきてるのよね。私は面白いからいいのだけれど…」

 

朝陽の言葉にカーネリアはフフッと妖艶な笑みを浮かべて付け足す。

 

「笑い事じゃありません!」

 

カーネリアの言動に智鶴が怒る。

 

「……………(俺は死なない。と言いたいとこなんだがな…)」

 

しかし、忍は今の会話で思うところがあるのか、黙っていた。

 

「しぃ君?」

 

「忍さん?」

 

「忍様?」

 

忍が黙っていることに智鶴、シア、エルメスが不安そうな視線を送る。

 

「あぁ、すまん。ちょっと考え事をな」

 

そう言って忍は柔らかい笑みを浮かべつつ…

 

「さて、時間まで少しのんびりしてようかな」

 

部屋を一旦出てしまった。

 

すると、そこには…

 

《む?》

 

さっき出会ったばかりのはずのハーデスが死神集団を従えて通りかかろうとしていた。

 

「……………」

 

まさかの出会いに忍も固まっていると…

 

《ほぉ…貴殿が噂に聞く次元辺境伯という犬か》

 

「ッ!」

 

犬発言に忍は少し苛立ちを覚えたが…

 

「え、えぇ…冥界でも異例なことなので、まだ右も左もわかりませんが…」

 

相手が神ということを思い出し、平静を装いながらもそう答えていた。

 

《しかし、妙な話だ。貴殿からは微かな神格を感じる。それは一体何なのだろうな?》

 

「(俺から…神格…?)」

 

ハーデスの言葉に忍は無意識に自分の胸の前に拳を作る。

 

《ふむ。異世界の存在を容認するつもりはないが、それ関係か。ファファファ、面白い。いずれ行われるだろう貴殿のゲームも興味半分に見てやろうぞ》

 

そう言い残し、ハーデス一行は忍の横を通り過ぎていった。

 

「……………」

 

それを見送る形で忍はハーデス一行の後ろを睨むように見ていた。

 

「死を司る神との邂逅か。縁起の悪いことだ」

 

ハーデス一行が見えなくなってから忍は独り言のように呟いていた。

 

………

……

 

そして、いよいよゲームの始まる時間になった。

グレモリー眷属とバアル眷属の入場に観客達は沸いていた。

 

「遂に始まるのか」

 

観客達の歓声はVIPルームにまで響いていた。

 

今回の特殊ルール『ダイス・フィギュア』。

両陣営の王がダイスを振り、その出た目の合計値によって出せる眷属の基準を決める。

基準となる数字はチェスの駒の価値と同じ。

つまり、兵士なら1、騎士よ僧侶なら3、戦車なら5、女王なら9という具合になる。

但し、グレモリー眷属もバアル眷属も兵士はイッセーとポーンの一人ずつのみ。

よって駒の価値はイッセーが8、ポーンが7という具合になる。

また、王の数値は事前に審査委員会が決めた駒価値になる。

リアスは8、サイラオーグは12。

サイラオーグは出た目がマックスでなければ出られないことになる。

さらに同じ選手を連続して出すことは出来ない。

これは王も同様とのこと。

なお、フェニックスの涙は両陣営に一つずつ支給されている。

 

実況によってそのような説明がなされていく。

また、実況は元七十二柱ガミジン家『ナウド・ガミジン』、解説にはアザゼルと、現王者『ディハウザー・べリアル』、審判には人間の転生悪魔にして最上級悪魔でゲームランキング7位の『リュディガー・ローゼンクロイツ』といった豪華なメンバーである。

 

「なるほど。こういう内容のゲームなのか」

 

実況の説明を受け、忍は何となく理解する。

 

「出た目の数で出られる人が変わり、組み合わせも重要か…」

 

「それだけじゃありません。相手の手を読み、最適の人選を行わなければならないと思います」

 

「同感。それだけにグレモリー眷属はわかりやすい人選よね」

 

忍の言葉にシアと朝陽が付け加えるように言う。

 

「確かに、な…」

 

グレモリー眷属の情報は互いに訓練をしていることや客観的に見てもわかりやすいパワー重視のチームであることは明白だった。

対してバアル眷属の情報はあまりわからないので、どういう人選で組まれたのかまでは予想が出来ない。

 

そんな中、出た目は…リアスが2、サイラオーグが1…合計値は3。

つまり、これで両眷属の騎士と僧侶が出られる。

 

「騎士か、僧侶…うちで例えるなら朝陽、萌莉、フェイト、シアになるな」

 

「ま、萌莉は除外でしょ」

 

「グレモリー眷属の方もアーシアさん、ギャスパーさんは単体では使えませんし、ゼノヴィアさんもパワー重視の傾向がありますから…」

 

「ここは木場君だね。さて、それを見越して向こうの陣地は誰を差し向けてくるか…」

 

忍、朝陽、シアが他の紅神眷属にもわかりやすいように話していると…

 

第一試合のステージがスクリーンに映し出され、そこに木場とバアル眷属の騎士であろう馬に乗った騎士『ベルーガ・フールカス』が広大な平原へと降り立っていた。

その後、互いに名乗りを上げるとそれぞれの得物を構える。

木場は聖魔剣、ベルーガは円錐形のランス。

 

「やはり、木場君か」

 

「あの馬…普通じゃないわね」

 

その後、アザゼルの説明でベルーガの駆る馬(名は『アルトブラウ』という)は地獄の最下層ことコキュートスの深部に生息するという高位の魔物『青ざめた馬(ペイル・ホース)』であることが判明。

死と破滅を呼ぶ馬と言われ、気性は荒く、気に入らない者ならば主でさえ蹴り殺すという。

 

『第一試合、開始してください!』

 

審判の合図と共に第一試合が開始される。

 

その瞬間、両者の姿が見えなくなる。

 

ギンッ! ギィンッ!!

 

普通の人なら剣戟で生じる金属音と火花しか見えない程の超高速戦闘。

常に木場と訓練してきたイッセーですらぶつかる瞬間だけ姿を捉えることが出来る程度である。

 

「(これは…目で追うのはきついか)」

 

同じく高速戦闘を得意とする忍も気配や匂いで感知出来ない以上、辛うじて目で追うのがやっとといったところだった。

それでも黙った上にかなり集中して見ないとならないが…。

 

ギィィンッ!!!

 

鍔迫り合いをする形で両者の姿が観客達にも見えるようになる。

 

「…………すぅ…ふぅ…流石に速いな…」

 

軽く目頭を押さえながら忍が呟く。

 

「忍君…もしかして、見えたの?」

 

そんなフェイトの問いに…

 

「ん、少しだけなら、な」

 

そう答える。

 

「アレが見えたっての!?」

 

「映像越しで見えるとか…お前、どんだけ目が良いんだよ!」

 

吹雪とクリスが忍の視力の異常さを感じていた。

 

その後、木場とベルーガの試合は少しだけベルーガが押すものの、木場が後天的に会得した『聖剣創造』の亜種禁手『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』の発現によって決着を着けた。

 

第一試合を制したのは木場であった。

 

………

……

 

第二試合、出た目はリアスが6、サイラオーグが4…合計値は10。

 

「10か。わりとでかい数値だが…」

 

ふむ、と忍は考え込む。

 

「ダブル戦車、戦車+騎士or僧侶+兵士×2、騎士×2+僧侶+兵士、僧侶×2+騎士+兵士、騎士+僧侶+兵士×3、女王+兵士ってとこかな?」

 

今の自軍の眷属を見て忍はそう呟く。

考えうる組み合わせを瞬時にして組み立てたようだ。

 

「あら、私単体じゃダメなのかしら?」

 

その呟きにカーネリアは忍の背中から首に手を回して絡みつきながら尋ねる。

 

「お姫様やお嬢ちゃん達と組むのって…私的には結構気を遣うのよ?」

 

そう言って忍の頬を指で撫でる。

この中では一番の最年長に当たるだろうカーネリアの戦闘は力押しに近い傾向にあり、さらに破壊衝動に従って動くことからチーム戦よりも単体での方が動きやすいのだ。

 

「カーネリアさん! しぃ君から離れてください!」

 

そう言って智鶴はカーネリアを忍から引き剥がす。

 

「ただのスキンシップくらいで目くじら立てるなんて…ホントに坊やの事が大好きなのね~」

 

そう言ってくるりと智鶴の手から逃れてスクリーンに映る戦闘を観戦する。

 

見れば、既に第二試合が始まっており、グレモリー眷属からは小猫とロスヴァイセ、バアル眷属からは断絶したはずのクロセル家の末裔で魔法剣士の騎士『リーバン・クロセル』と巨人の戦車『ガンドマ・バラム』が戦闘を繰り広げていた。

小猫はガンドマの大振りな攻撃を避け、確実に一撃一撃を当てにいっている。

対するロスヴァイセとリーバンの戦いは魔法合戦となっていた。

 

そして、状況はすぐに変わる。

リーバンの持つ神器『魔眼の生む枷(グラビティ・ジェイル)』を防ごうと仕掛けたロスヴァイセの魔法を鏡で防御するリーバンだが、その鏡を利用してロスヴァイセがガンドマと位置を交換。

小猫の仙術で防御力を削られたガンドマとリーバンに向けてロスヴァイセがフルバーストを発動させる。

しかし、リーバンは勝利した時に生じる隙を突き、2人を重力でこうそく。

そこに満身創痍のガンドマの最後の一撃が小猫に直撃。

結果、リーバン、ガンドマ、小猫の3名がリタイヤしてしまった。

 

………

……

 

第三試合、合計値は8。

イッセーが出られる数字でもある。

しかし、そのタイミングでサイラオーグから提案が挙げられた。

 

「こちらは『僧侶』のコリアナ・アンドレアルフスを出す」

 

この宣言に会場もどよめく。

 

「ここで選手を宣言? どういうつもりだ?」

 

忍も困惑する中、サイラオーグは続ける。

 

「兵藤 一誠のスケベな技に対抗する術を彼女が持っていたとしたら、兵藤 一誠はどう応えるか?」

 

何という宣言だろうか…。

完全なイッセー対策を用意してきたらしい。

 

「イッセー君のスケベ技の攻略法? そんなの………」

 

相手が男なら絶対に使用しない。

使わせる前に打倒するにも触れられただけで衣服バラバラ…。

対策が遅れれば女子限定で胸の内を読まれる。

 

「………地味に隙が無いな。女性限定だけど…」

 

考えるだけでもそんな風に思えてしまっていた。

 

「(しかし、それの対策…?)」

 

唸っても答えが出ない忍を他所に第三試合にイッセーが出ることが決まり、バトルフィールドへと転送されてた。

それによって冥界の子供達のボルテージが上がっていた。

 

「相変わらず、凄い人気だな…」

 

女性にはともかく、子供人気だけは凄まじいイッセーであるため、クリスがそんなことを呟く。

 

そうこうしてる内に戦闘開始。

コリアナの魔法攻撃を龍気を纏わせた拳や蹴りで捌きながら禁手の準備に入る。

 

「流石にイッセー君が優勢か…」

 

その様子を見て忍はそう漏らす。

 

そして、イッセーが禁手と化し、乳語翻訳を展開しようとした時…

 

「「「「ぶっ…!?」」」」

 

コリアナがいきなり脱ぎ始めて、お茶を飲んでいた数名(朝陽、暗七、吹雪、フェイト)がお茶を噴き出す。

 

「しぃ君は見ちゃいけません!」

 

そう言って忍の眼を智鶴が手で覆う。

 

いきなり始まったストリップに観客の男性陣はもちろん、イッセーやアザゼルもガン見していた。

そんな状態で乳語翻訳を使っても次に脱ぐ箇所を言うだけで、イッセーもストリップを邪魔するような愚行を犯さぬために攻撃が出来なかった。

しかし、下着に差し掛かったところで互いの性癖の相違のため、コリアナはイッセーに敗北したのだった。

 

「酷い試合だったな…」

 

おおよそ誰もが思っていたことを忍もまた思っていた。

 

………

……

 

第四試合、再び合計値は8。

ルールのため、イッセーは出場出来ない。

 

グレモリー眷属からはゼノヴィアとギャスパー、バアル眷属からはリーバンと同じく断絶した家の末裔である戦車の『ラードラ・ブネ』と僧侶の『ミスティータ・サブノック』が出てきた。

しかし、ゲームも中盤…何が起こるかわからない。

 

「これは…ちょっ予想外だな」

 

グレモリーの人選を見て忍がそう漏らす。

 

「予想外?」

 

智鶴が首を傾げて忍を見ると…

 

「あの吸血鬼が出てきたことでしょ?」

 

朝陽が答える。

 

「あぁ…サポートが主目的だと思うが、あの気弱なギャスパー君を出すなんて…何か思うところでもあったのかな?」

 

出場前の陣地の会話まではわからないため、忍はそんなことを考えていた。

 

「そうね。あの聖剣使いと出すなら数値ギリギリの戦乙女か、聖魔剣のどちらかが適任かとも思ったけれど…」

 

「ゲームも中盤…不測の事態に対処するためでしょ?」

 

「そういうもんなの?」

 

「あたしに聞くなよ…」

 

カーネリアと暗七のそれぞれの見解に吹雪は隣のクリスに尋ねるが、クリスはこういうのは苦手だとばかりに口をへの字に曲げる。

 

「ともかく、この試合…ちょっと荒れるかもな…」

 

そう言った忍の予想は的中してしまう。

 

試合開始後、ラドーラはドラゴンへと変身した。

ブネ家は悪魔であると同時にドラゴンを司る一族であり、変身できるのはごく一部らしいのだが…ラードラは修行して変身能力を獲得していたのだ。

それを見たゼノヴィアがデュランダル砲を撃とうとしたが、ミスティータの持つ神器『異能の棺(トリック・バニッシュ)』を用いてゼノヴィアの聖剣を扱う能力を封じてしまった。

そのため、デュランダルは機能しなくなり、ただのお荷物となってしまう。

そんなゼノヴィアをコウモリと化したギャスパーがゼノヴィアを包み込んで一時的に退却した。

 

「これは…相性が悪いのと当ったな…」

 

その試合運びを見て忍は眉を顰める。

 

「ゼノヴィアさんは…パワー傾向にあります。それが仇になったかもしれませんね」

 

「ったく、なんだって剣にパワーを求めるのよ」

 

シアの言葉に同じ騎士である朝陽が苦言を呈する。

 

「で、でも…け、剣は、人、それぞれ、ですし…」

 

萌莉はゼノヴィアをフォローしようとする。

 

「こうなると、鍵はギャスパー君だが…」

 

不安そうな目で試合を見ていると…

 

ゼノヴィアの呪いをギャスパーが解こうと地面に魔法陣を描き、持参していたイッセーの血を使って呪いの解除に当てた。

そして、その間…ギャスパーはその身を挺して時間を稼ぐことにしていた。

しかし、それは凄惨な時間の幕開けだった。

時間を稼ぐギャスパーはラドーラによって徹底的に痛めつけられた。

 

「……………」

 

忍はその光景を目を逸らさずに見据えていた。

 

「こんな、酷いです…!」

 

その光景に目を逸らす者は少なからずいた。

エルメスや萌莉、フェイト、シアなどが目を逸らしていた。

 

「グレモリー先輩…この光景を見てあなたは、何を思いますか?」

 

陣地でイッセーに諭され、ギャスパーの勇姿を見るリアスを見た。

 

「(ギャスパー君…君も立派な"男"ということか…)」

 

その後、無事に呪いから解放されたゼノヴィアが最高の一撃を仕掛けようとしていた。

それを見てミスティータは再び能力を発動させようとした。

しかし、それはリタイヤギリギリのギャスパーの停止の邪眼によって時間を停止させられていた。

その光景にラドーラは絶叫、ゼノヴィアの咆哮と共にデュランダル砲が2人を直撃。

勝敗はグレモリー眷属の勝利となった。

勇敢な僧侶の活躍によって…。

 

………

……

 

第五試合、いくどかの振り直しがあって合計値は9。

グレモリー眷属からは朱乃、バアル眷属からは『番外の悪魔(エキストラ・デーモン)』の出身である女王『クイーシャ・アバドン』が出る。

奇しくも女王対決となった。

 

「この対決、勝負は短期で決まるわね」

 

朝陽が率直な意見を出す。

どちらも魔法の使い手であり、互いに特殊な特性を持つ者同士であった。

 

「同感です。魔法体系は違うけど、朱乃さんは魔法に秀でてる。見たところ相手側も魔法戦に長けた方だと思いますので…」

 

シアも朝陽の意見に頷いていた。

 

「勝負の分かれ目は…それぞれの持つ特性ってところか…」

 

そうこうしている内に、朱乃とクイーシャの魔法戦が開始された。

そして、試合は朱乃の放つ雷光をクイーシャはアバドンの特性である『(ホール)』によって吸い込み、その中で雷光を光と雷に分解し、光だけを朱乃に返すというカウンターで決着を着けていた。

忍達の予想通り、短期での決着であった。

 

………

……

 

第六試合、合計値は…出目のマックス、12が出た。

終盤に差し掛かってのこの合計値が意味するところは…

 

「サイラオーグ・バアルの…出陣」

 

静かに呟く忍の予測通り、バアル眷属の陣地ではサイラオーグが上着を脱いで下の戦闘服姿を晒していた。

 

バトルフィールドに転送されたのはバアル眷属はサイラオーグ。

対するグレモリー眷属は…

 

「3人か…」

 

木場、ゼノヴィア、ロスヴァイセの3名であった。

 

「敵大将の首を取る…まではいかなくても、ダメージを蓄積させるのが目的、か」

 

「そうね」

 

その布陣を見て忍が呟くと、それに同意するように朝陽が頷く。

 

「モニター越しだけど、あいつらからは覚悟が見受けられるわ」

 

同じ騎士としての眼から、朝陽はそう判断する。

 

「ふふ…良い戦いになりそうね」

 

カーネリアもまた楽しそうにそう呟いていた。

 

そして、試合開始の合図が告げられる。

サイラオーグは自ら施していた枷を外すと共に、彼から溢れ出す活力と生命力を闘気として纏って3人を相手にした。

フルバーストで迎え撃とうとしたロスヴァイセの魔法をサイラオーグは拳のみで弾き、次にロスヴァイセの腹部を殴って湖の方へと吹き飛ばした。

残った剣士2人を相手にサイラオーグは聖魔剣を拳で砕き、デュランダルの波動を闘気で相殺するという芸当を見せていた。

 

「若手最強…ここまでのものか…!!」

 

それをモニターで見ていた誰もが息を呑んでいた。

 

木場の新たな禁手によって撹乱しようにも防御力が足りないため、それほど足止めにもならなかった。

そのサイラオーグの一撃をまともに受け、木場もゼノヴィアも一度は地に倒れるが、少しでもサイラオーグの体力を削るために立ち上がる。

そこへ最初の一撃を喰らったはずのロスヴァイセが現れ、至近距離からの魔法フルバーストを叩き込む。

 

「な、何が起きたの?!」

 

予想外のことにフェイトが驚きの声を漏らす。

 

「け、剣…?」

 

ロスヴァイセが持つ一振りの剣に萌莉が気付く。

 

「エクスカリバーか!」

 

それを聞き、忍が合点のいったような声を出す。

 

「なるほどね。アレは鍛え直す際に七つの特殊な力を七本の聖剣に分けたものだったものね」

 

カーネリアも聖剣に関する知識を持っていたことから頷いていた。

 

そんな3人の見事な連携にサイラオーグは敬意を表し、掠っただけでも致命傷となりうる拳打を打ち込み、ロスヴァイセを撃破した。

そこへ木場とゼノヴィアが同時に斬り掛かるものの、木場の聖魔剣では歯が立たず、デュランダルもまた傷が浅い程度であった。

そこに木場もデュランダルの柄に手を掛け、2人がかりで何とか右腕を斬り落とすだけだった。

その後はサイラオーグの左拳と蹴りの空中コンボでゼノヴィアを屠り、それを目の当たりにした木場を捕まえて地面を抉りながら走り、空中に蹴り上げた後に左拳の正拳突きを木場の腹に突き刺してトドメを刺した。

 

結果は当然ながらサイラオーグの勝利。

しかし、サイラオーグは右腕の修復にフェニックスの涙を使用し、イッセーとの決戦に備えるのであった。

 

………

……

 

第七試合、出目はリアスが5、サイラオーグが4の合計値9。

グレモリー眷属からはイッセー、バアル眷属からはクイーシャが出た。

 

「イッセー君…」

 

バトルフィールドに現れたイッセーの表情を見て、忍はただ彼の心情を考えていた。

 

「この勝負…イッセー君が勝つ」

 

そして、その後に起こるだろう戦闘状況も予測出来てしまう。

 

「次の試合でアーシアさんを捨て駒にして兵士を退け、最後はイッセー君とサイラオーグさんの一騎打ち…」

 

誰もがそうした予測をした時だった。

イッセーがクイーシャを文字通り瞬殺しようと仕掛け、それを見たサイラオーグが強制的にリタイヤさせていた。

イッセーの殺意に満ちた視線と言葉を受け、サイラオーグが互いの全てでの団体戦を提案していた。

 

委員会はそれを承諾し、最終決戦の幕が開こうとしていた。

 

………

……

 

最終試合。

グレモリー眷属からは既に禁手化となっているイッセーとリアス。

バアル眷属からはサイラオーグと謎に満ちた選手『ポーン』。

それぞれが最後の舞台である広大な平地へと降り立っていた。

 

「これが最終決戦…!」

 

熱き戦いもこの一戦で決まる。

観客のボルテージもかなり上がっている。

 

そんな中、イッセーとサイラオーグの戦いが始まった。

まずは互いにクロスカウンター気味に拳を交わらせるが、イッセーの増加能力でインパクト時に一撃を強化する。

その結果、サイラオーグの体を若干だが吹き飛ばす。

 

「木場君達を圧倒したあのサイラオーグさんに一撃を加えた…!?」

 

その光景に忍は目をパチクリさせて驚いた。

 

「流石は赤龍帝。力押しには力押し…嫌いじゃないわよ」

 

「しかも、悪魔になって短い月日でここまで成長するなんて…」

 

カーネリアと暗七がそれぞれ考えていたことを口にする。

 

それからもイッセーとサイラオーグの拳打合戦が続く。

 

一方、リアスとポーンの戦いはというと…

ポーンは少年のような姿から巨大な獅子へとその姿を変貌させていた。

その姿を見てアザゼルから説明が入る。

獅子の正体は十三ある神滅具の一つ『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』。

極めれば一振りで大地を割る威力を放ち、獅子にも変化出来て、敵の放った飛び道具からも所有者を守るという。

しかし、サイラオーグによれば発見した時には所有者は謎の集団に殺害され、主を失った戦斧は次の所有者も元へと向かうはずだったが、意志を持ったかのように獅子に変化すると集団を全滅させたのこと。

その時にサイラオーグはその獅子を眷属にしたらしい。

だが、所有者がいないせいか力が不安定であり、サイラオーグと組める場面でしか出せれなかったという。

そんな相手と、リアスは戦うことになる。

 

「リアスちゃん…大丈夫かしら?」

 

友人の事が心配な智鶴も声が不安げであった。

 

それでも最後の戦いらしく、イッセーとサイラオーグの戦いは白熱した。

しかし、戦いの中、イッセーはサイラオーグの右拳に違和感を覚え、先の戦いで木場の台詞が脳裏を過ぎって鎧の中で涙を溢れ出す。

その右腕をトリアイナの戦車で突いて打ち上げ、トリアイナの僧侶による砲撃をサイラオーグに向けて放つ。

しかし、片方の砲撃は外れてしまうものの、片方の砲撃に巻き込まれてダメージを貰っていた。

また、智鶴の心配通り、リアスは獅子に手傷を負わされてしまい、フェニックスの涙を使わざるを得なかった。

その時、獅子はサイラオーグに自らを纏うように進言し、更なる力を提示した。

 

「この上、まだ上限があるのか!?」

 

「正にチートってやつか?」

 

忍の驚き様にクリスが目元を引くつかせて聞く。

 

しかし、イッセーは獅子の力を纏ったサイラオーグとの決戦を選んだ。

 

「バッ!? あいつ、正気か!!?」

 

「男には意地を突き通す場面もあるが…これは…」

 

叫ぶクリスに、忍も苦々しい表情を見せる。

 

そして、覚悟を決めたサイラオーグはレグルスを…黄金の獅子の全身鎧を纏っていた。

獅子王の戦斧の禁手『獅子王の剛皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)』。

それを目の前に

イッセーは戦車の力で対抗しようとした。

しかし、それはあまりにも無謀であり、あまりにも呆気なくイッセーの戦車の鎧を粉砕していた。

 

「あの堅さを一撃で…?!」

 

模擬戦で何度か攻撃をしたものの、忍や牙では全く傷をつけられなかった戦車の鎧をサイラオーグは一撃で穿っていた。

しかも攻撃されたサイラオーグの方は無傷。

 

「ここまで、か…」

 

その様子をモニターから見ていた忍は静かに目を閉じる。

 

しかし…観客の子供達はイッセーが立ち上がることを願った。

泣く子もいたが、1人の少年やイリナの声で子供達はイッセーを呼び続ける。

サイラオーグもまたイッセーが立ち上がることを望んでいた。

そして、リアスがイッセーの元に駆け寄り、彼の復活を望む。

 

そして、奇跡は起きる。

 

カッ!!

 

「なんだ!?」

 

突如としてイッセーの体を紅きオーラが包み込むと共にリアスの胸が光り、赤き鎧が真紅の鎧へと変貌していた。

 

『お、俺は…?』

 

そして、何事もなかったように立ち上がるイッセー。

 

『赤いオーラ…いや、もっと濃い…真紅のオーラだ。そう、紅の輝き。『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』と称されし魔王と同じ…あのバカの惚れた女と同じ髪の色……あいつにだけ許された奇跡か!!』

 

解説のアザゼルも興奮気味に叫んでいた。

 

『………『真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)』と言ったところか。その色は紅と称された魔王様と同じ……そして、リアスの髪と同じ色』

 

サイラオーグもまたそんなことを口にしていた。

 

『惚れた女のイメージカラーだ。部長は、リアス・グレモリーは俺が惚れた女だ。惚れた女を勝たせたい。惚れた女を守りたい。惚れた女のために戦いたい。俺は…俺はッ! 俺を求める冥界の子供達と、惚れた女の目の前であなたを倒すッ! 俺の夢のためッ! 子供達の夢のためッ! リアス・グレモリーの夢のためッ! 俺は今日あなたを超える!! 俺はリアス・グレモリーが大好きだぁぁぁぁぁ!』

 

立ち上がったイッセーは会場に木霊する程の告白を叫んでいた。

 

「ここで告白かよ!?」

 

「あら、この場面では情熱的じゃない?」

 

「告白された本人は…顔が真っ赤ね」

 

クリス、カーネリア、暗七がそれぞれ呟いた後…

 

「ははっ…イッセー君。君はまだ成長を止めないんだね。なら、俺も…まだまだ上を目指せそうだ…」

 

自らの可能性を信じ、忍はイッセーの姿を見て呟いていた。

 

「(俺に宿るという神格…龍騎士の血肉…未知なる吸血鬼…それを知ることで俺も更なるステージに上がる…!)」

 

イッセーとサイラオーグの壮絶な殴り合いの戦いを見ながら忍は決意する。

 

殴り合いはバトルフィールドを壊さんばかりの威力を誇った。

イッセーはサイラオーグの僅かな隙を突き、新たな砲撃『クリムゾンブラスター』によって一度はサイラオーグを打倒した。

だが、サイラオーグは咆哮と共に立ち上がった。

それでも終わらないイッセーとサイラオーグの戦い。

 

しかし、決着は意外な展開を見せる。

禁手が解けたイッセーはそれでもサイラオーグに立ち向かおうとした。

だが、サイラオーグは既に意識を失っていた。

それも立ったまま、目をギラギラとした闘志を燃やしながら…。

それに対し、イッセーは精一杯の感謝を向けて叫んだ。

 

こうして、グレモリー眷属vsバアル眷属の試合は…グレモリー眷属の勝利に終わったのだった。



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第五十五話『告白は蜜の味、再会は危険な香り…?』

グレモリー眷属vsバアル眷属のレーティングゲームから数日。

駒王学園では学園祭が行われていた。

オカルト研究部は旧校舎を丸々使った『オカルトの館』なるイベントをしていて大盛況であった。

 

そんな駒王学園に三人一組の男女がやってきた。

 

「駒王学園、か…」

 

白に近い水色の短髪にエメラルドグリーンの瞳を持った凛々しさを含んだ端正な顔立ちに、青みがかった銀縁のハーフフレーム眼鏡を掛け、ほっそりとした体格の男性が校門の前で感慨深そうに呟いていた。

服装は黒の長袖長ズボンに蒼いパーカーを羽織り、スニーカーを履いた姿をしている。

 

「そっか。アンタは何事もなければここに通ってたんだっけ?」

 

男性よりもちょっとだけ身長の高い前髪に白いメッシュを入れた背中まで伸ばした黒髪と藍色の瞳を持った少し中性的で綺麗な顔立ちに、長身に対して少しだけ控えめな凹凸に見えるが、十分に女性らしさを有する体型をした女性がそんなことを言う。

服装は白のノースリーブに黒のホットパンツにロングブーツを履いたちょっと季節外れな姿をしている。

 

「そ、そうでしたね…」

 

首の後ろで一纏めに束ねた腰まで伸びた白い髪と黒い瞳を持った綺麗というよりも可愛らしい顔立ちに、均等の取れた平均的な体型をした女性がちょっと不安気な表情で男性の様子をチラチラと確認する。

服装は白のワンピースに水色のビーチサンダルを履いたこれまた季節外れな姿をしている。

 

「『シルト』、気にする必要はないよ。『アルカ』もあまり不用意な一言は控えてくれ」

 

男性は『シルト』と呼ばれた男性をチラチラ見ていた女性にそう言った後、『アルカ』と呼ばれた長身の女性に苦言を呈していた。

 

「あいはい、悪かったよ。『海斗(かいと)』」

 

そう言って男性のことをアルカは『海斗』と呼ぶ。

 

「本当にわかってるのかな?」

 

やれやれといった感じで海斗は駒王学園の校門を潜る。

 

「あ、待ってください」

 

シルトが海斗の後を慌てて追い、その後ろをアルカがゆっくりとした歩調でついていく。

 

「はわっ!?」

 

何もないところでシルトが転びそうになるが…

 

「慌てなくても置いて行きはしないから…」

 

苦笑しながら海斗がシルトを抱きかかえる。

 

「す、すみません…///」

 

恥ずかしいのか、シルトは顔を赤くして俯く。

 

「相変わらず何もないとこでよく転べるねぇ…」

 

アルカがそんな2人の横を通り過ぎながらそんなことを呟く。

 

「あぅぅ…////」

 

アルカに言われて余計に恥ずかしくなったのかさらに顔が赤くなる。

 

「しかし、学園祭か。一般公開されているのはありがたいね」

 

シルトが可哀想になったのか、海斗は話題を変えるように各クラスの出し物を見ながら校舎へと続く道を歩いていく。

 

「色々とやってるんだな…」

 

入り口でもらったパンフレットを見ながらアルカが呟く。

 

「…………」

 

楽しそうにしている学生の姿を見ながら海斗は物思いに(ふけ)っている。

 

「気ぃ抜くんじゃないよ。いつ"あいつらが襲ってくる"か、わからないんだからね」

 

アルカがそんな海斗に耳打ちする。

 

「そう、だね。ありがとう、アルカ」

 

この楽しいイベントに水を差すのも野暮かと思い、海斗は少し回って駒王学園から去ろうと考えていた。

 

「ま、それでも楽しめる時には楽しまないとね」

 

アルカはそう言うと、プールの方へと歩いていこうとする。

 

「アルカ、別行動は…」

 

それを海斗が止めようとするが…

 

「こんな季節に寒中水泳を催そうなんざ良い度胸じゃない。ちょっと行って来るだけだけだからアンタ達も2人でデートでもしてな」

 

そう言ってアルカはさっさと行ってしまった。

 

「まったく…緊張感があるのか、ないのか…」

 

困ったなと言わんばかりの海斗はシルトに向き直る。

 

「仕方ないから少し回ろうか?」

 

「え…で、でも…」

 

シルトはアルカの歩いて行った方を見る。

 

「アルカならすぐに戻ってくるさ。それに彼女なら大丈夫って知ってるだろ?」

 

「それは…そうですけど…」

 

「だから、俺達も少しだけ楽しもうか」

 

そう言って海斗はシルトの手を優しく握って歩き出す。

 

「ぁ…////」

 

それに抵抗することもなく、シルトも海斗と一緒に歩いていく。

 

「それにしても向こうの方が賑やかだね。何があったかな?」

 

アルカの見ていたパンフレットの内容を思い出しながら海斗は歩く。

 

「確か…『オカルトの館』だったかな? オカルト研究部の催しだったはず」

 

少ししか見てないはずなのに、海斗はパンフレットの内容を完璧に暗記していた。

そうして海斗とシルトがオカルトの館に到着すると…

 

「凄い行列だね」

 

「で、ですね…」

 

長蛇の列を見て海斗とシルトは驚いていた。

 

「お~、大盛況デスね」

 

「…想像以上に並んでる」

 

「なんで俺がこんなことを…」

 

その横を調と切歌を連れた紅牙が歩いてきた。

どうやら2人に無理矢理(?)連れて来られたのかもしれない。

 

「というよりもお前ら、学院はいいのか?」

 

学園祭ではしゃぐ様子の2人に対して紅牙は当然の疑問を聞いていた。

 

「こ、細かいことは気にしないでデス!」

 

「…興味があったから来てみたかったの」

 

「要はサボりか…」

 

それを聞いて紅牙は頭をクシャクシャと掻く。

 

「そ、そう言う紅牙こそなんで学園に入らないんデスか?」

 

「今更学園に入る気にはならん。第一、これでも年齢的には3年生くらいだからな。入って一年も満たない内に卒業というのも味気ない。だったら敢えて入る必要もない。それだけだ」

 

切歌の問いに紅牙はそう言ってのけた。

 

「(? どういう意味だ?)」

 

それを横で偶然にも聞いてしまった海斗は少し首を傾げていた。

 

「それよりも…」

 

そう言葉を切って紅牙は横にいた海斗に視線を向ける。

 

「お前、ここの人間じゃないな?」

 

「ッ!?」

 

一目で海斗がこの辺りの人間ではないと判断する紅牙に一瞬警戒レベルを上げようとする海斗だが…

 

「観光か?」

 

その一言で海斗は最低限の警戒に留めていた。

 

「え、えぇ…とは言っても昔はこの辺りに住んでまして…今は全国を転々としてますが…」

 

海斗は苦笑しながらそう言っていた。

 

「女同伴でか?」

 

シルトの方をチラ見してから尋ねる。

 

「家族ですので」

 

「……そうか」

 

紅牙と海斗が話している横では…

 

「…お姉さんは寒くないんですか?」

 

調と切歌が薄着のシルトに寒くないのか聞いていた。

 

「えぇ、このくらいの気温なら大丈夫」

 

「寒さに強いんデスか?」

 

「そんな感じかしら…」

 

まさか"本当のこと"を言う訳にもいかず、シルトはそう答えていた。

 

「それにしても時期が良かったな。学園祭の時にこの町に来れたんだ。せいぜい楽しんでけよ」

 

「ありがとう。えっと…」

 

そこで互いにまだ名乗ってなかったことに気付く。

 

「紅牙だ。神宮寺 紅牙」

 

「ありがとう、紅牙。俺は…水神(みずがみ) 海斗というんだ」

 

「海斗か」

 

「…私は月読 調」

 

「あたしは暁 切歌っていいますデス」

 

「私はシルトと申します」

 

それぞれ名乗っていると…

 

「お、紅牙じゃねぇの。お前も祭りに来たのか?」

 

焼きそばとたこ焼き片手にアザゼルが旧校舎裏の方から歩いてきた。

 

「アザゼルか。見ての通りこいつらのお守だ」

 

そう言って調と切歌を指す。

 

「…お守とは心外」

 

「そうデスそうデス!」

 

紅牙の言葉に2人して抗議する。

 

「で、そっちのカップルは?」

 

「今さっき知り合ったばかりだ」

 

「どうも」

 

海斗はアザゼルに一礼していた。

 

「(どっか良いとこの坊ちゃんか? 所作に品がありやがる)」

 

海斗の一礼だけでアザゼルはそんなことを思うが…

 

「ま、祭りだからな。楽しんでってくれや」

 

そう言い残してアザゼルは校舎の方へと向かってしまった。

 

「アレでも一応はこの学園の教師らしい」

 

紅牙が補足するように海斗に説明する。

 

「そのわりに遊んでるような…」

 

「…気にしたら負け」

 

「そういうことデス」

 

海斗の苦笑を見て調と切歌がそんなことを言う。

 

「しかし、ここのイベントは他と比べて一際賑わってるような…」

 

話題をオカルトの館に移す。

 

「部員が美人揃いでイケメン役もいるからな。男女共に人気なんだろう。俺は興味ないが…」

 

紅牙がそう言うと…

 

「もう、まだそんなことを言ってるデスか?」

 

「…いい加減に観念するべき」

 

「ちっ…」

 

調と切歌が来たかったらしく、紅牙はそれに付き合わされたのだろう。

 

「良かったらお二人も一緒にどうデス?」

 

「…結構並ばないとならないけれど…」

 

調と切歌が海斗達を誘うが…

 

「気持ちだけ受け取っておくよ。もう一人の連れがプールで寒中水泳とやらに参加してるからね…」

 

海斗はそう言ってやんわりと断っていた。

 

「こんな肌寒くなってきたのに寒中水泳に参加だぁ!?」

 

「もっと猛者がいたデス!」

 

シルトもそうだが、寒さ耐性を持つ者がまだいたことに紅牙も切歌も驚いていた。

 

「まぁ、驚かれても仕方ないかな…」

 

「…それよりも何故寒中水泳が…」

 

海斗が今日何度目かの苦笑を浮かべていると、調が当然な疑問を口にする。

 

「アルカさん…無茶をしてないといいんですけど…」

 

シルトはアルカのことを心配しているが、その心配は無用な気がする。

 

「とにかく、お誘いありがとう。俺達はこの辺でお暇させてもらうよ」

 

「では、失礼します」

 

海斗とシルトはそう言ってその場から立ち去ろうとする。

 

「"また"、とは言わないのか?」

 

そんな海斗の背に紅牙はそう投げ掛ける。

 

「…………」

 

海斗がその言葉に一瞬だけ立ち止まるが…

 

「気のせいじゃないかな?」

 

笑顔という仮面を着けて振り向いた海斗はそう言い放っていた。

 

「…そうか」

 

そう言う紅牙は少し鋭い視線を海斗に送っていた。

 

「(彼、なかなかに鋭いな…)」

 

「(あいつ、何者だ?)」

 

海斗と紅牙が互いに相手についてそのようなことを考えていた。

 

そんな時だった。

 

「あら、調ちゃんに切歌ちゃん?」

 

「紅牙、お前も来てた、の、か…?」

 

海斗と入れ替わるようにして海斗の横を通り過ぎようとしていた一組のカップルが…

 

「潮の、香り…?」

 

「ッ!?」

 

振り向き様に互いの姿を見て目を見開く。

 

「海、斗…?」

 

「し、忍…?」

 

そのカップルは忍と智鶴であり、海斗の匂いを察知した忍がその存在に気づき、海斗もその成長した親友の姿に驚きを覚えていた。

それは古き親友との再会であった。

 

………

……

 

学園祭が後夜祭に様変わりする中…

イッセーは部室にいたリアスに名前を呼びながら告白し、それをリアスが受け入れる形でやっとスタートラインに立った2人だったが、その様子を眷属達に見られてしまい、部室で告白したイッセーが悪いことになってしまっていた。

 

しかし、その夜…。

別問題が浮上していた。

 

場所は兵藤家のVIPルーム。

 

「…………」

 

そこに海斗が通されていた。

当然、アルカとシルトも同じ部屋で待機している。

 

「ま、一先ず此処なら安全は保障出来るけどな」

 

アザゼルが開口一番にそう言う。

 

「そんで、お前さん達は何者で、"何処"から来たんだ?」

 

「ッ」

 

アザゼルの言葉にバツが悪そうにアルカが逃げる隙を窺うが…

 

「「…………」」

 

窓の近くには忍と紅牙が控えていた。

さらにアザゼルがそう簡単に隙を与えるはずもない。

告白した日の夜に押し掛けられたせいもあり、リアスもご立腹。

イッセーも困惑していたりする。

ちなみに神宮寺眷属として調と切歌も同席している。

 

何故、こうなったかは少し時間を遡る。

 

………

……

 

それは後夜祭も近付いてきた夕刻のこと。

 

「どうして、何も言わずに行っちまったんだ?」

 

「家の事情でね。何も言えなかったんだ…そのことについては悪いと思ってる」

 

場所を旧校舎裏に移し、忍は海斗に詰め寄っていた。

 

「連絡の一つもなく…これでも心配してたんだぞ?」

 

「すまない…」

 

何度忍が言葉をぶつけても海斗は謝るだけの一点張りであった。

 

「埒があかんな…」

 

その様子を傍目から見ていた紅牙がそう呟く。

 

「やったデス! マリアに声がそっくりなリアスさんとの写真が撮れたデ~ス♪」

 

「…まだ、やってたの?」

 

忍と海斗のやり取りを紅牙に任せ、調と切歌は智鶴やシルトと一緒にオカルトの館に入っていた。

 

「あぁ、見ての通り平行線でな」

 

「困ったわね。海斗君はしぃ君の親友だし、手荒な真似は控えたいし…」

 

「ッ?!」

 

智鶴の物騒な発言にシルトがおっかなびっくりする。

 

「海斗。本当のことを言ってくれ。お前は一体どうして姿を……ッ!!」

 

改めて忍が海斗に詰め寄ろうとした時、何かの匂いを察知し…

 

四重結界(しじゅうけっかい)!」

 

魔・気・霊・妖の順序で力を練り、それを四重構造の結界状にして展開する烈神拳の防御技。

応用技として力の順序を変えることで色々な場面や攻撃に対応可能で、さらに忍は龍気も保有しているので五重の結界も不可能ではない点も見過ごせないだろうか。

その四重結界を自分を含め、智鶴や海斗達を守るようにして展開していた。

 

ビシュッ!!

 

その結界に阻まれるようにして一筋の閃光が弾ける。

 

「水…? それに今の軌道は…」

 

近くに水飛沫が飛び散った後のように水が弾けており、その軌道を読んで忍は余計に困惑した。

水は明らかに海斗を狙っていたのだから…。

 

「忍…その力は…?!」

 

「海斗。お前は…」

 

海斗は忍の扱った力に驚き、忍は海斗に『何者なんだ?』と投げ掛けようとした時…

 

バキッ!

ドカッ!!

 

「海斗! 無事かい?!」

 

そこに黒いローブで身を隠したであろう人物を2人ほど殴り飛ばし、その内の1人の胸倉を掴み上げながら競泳水着姿のアルカが出てきた。

さっきまで水に浸かっていたのか、髪はしっとりしており、体中から水が滴っていた。

 

「何故に競泳水着デスか!?」

 

「…寒そう」

 

「あ、アルカさん!////」

 

「あらあら…」

 

そのあられもない姿に女性4人がそれぞれの反応を示す。

 

「そんなことは今はどうでもいい! とにかく、ここからさっさと去るよ!」

 

アルカの言葉を聞き、海斗も潮時だと判断し…

 

「忍。また会えて良かったよ。さよならだ…」

 

そう言いながら忍から少しずつ離れていく。

 

「海斗!?」

 

それを忍は追おうとした時…

 

「なんだなんだ? こんな祭りの時ぐらい仕事を増やさんでほしいんだがな…」

 

空から黒い翼を生やしてやってきたアザゼルが海斗達の退路を断った。

夕刻の薄暗さに認識阻害の術を使っているので、一般生徒や一般客にはバレてはいないが…。

 

「察するに襲撃があったな? だが、おかしいな…この辺一帯はそれなりに強力な結界が張り巡らせてあって滅多なことじゃ通り抜けられんのだが…」

 

首を傾げるアザゼルに…

 

「だからこの町に来る時に少し苦労したのか…」

 

海斗が得心したような呟きを発する。

 

「どういう意味だ?」

 

「単純な話です。"俺達にとって魔力は日常的に使ってきたモノ"だから、如何に強力な結界でも"波長さえわかれば水の中を泳ぐみたいに通り抜けられる"。それが…俺の"種族の特性"」

 

「ほぉ?」

 

海斗の話に少なからず興味を抱くアザゼル。

 

「種族、だって…?(確かに海斗からは潮の香り以外にも…魔、霊、妖の匂いもする。昔はわからなかったが、今ならハッキリとわかる。じゃあ、海斗も異種族?)」

 

その事実に忍は少なからずの動揺を隠せないでいた。

 

こうして海斗達の身柄は一時的にアザゼルが預かり、学園祭が終わった夜に改めて話を聞くことになった。

 

………

……

 

以上が夕刻の出来事である。

別に明幸邸でも良かったのだが、気密性と安全性は兵藤家の方がより確実で襲撃の心配もないから兵藤家での事情聴取となった。

 

「あたしらの話を聞いてどうする気だい?」

 

「話の内容にもよる。今は結構微妙な時期でもあるからな」

 

アルカの問いに対してアザゼルはそう答えた。

 

「微妙な時期?」

 

「お前さんらもどこかで見たはずだ。どっかの野郎が多次元世界のことを流布した映像をよ」

 

「アレ、か…」

 

ノヴァが流布したフィライトの戦争映像のことを言ってるのだと海斗は察した。

 

「ただでさえ人間界ではあの映像かどうかの真偽も政治の世界で未だ賛否両論状態なんだわ」

 

「先生、政治にも詳しかったんすね」

 

そんなことを言うアザゼルにイッセーが口を挟むと…

 

「ニュース見て、弦十郎との会話もしてりゃこのくらいはな」

 

さも当然とばかりに言い放つ。

 

「で、最初の質問に戻るが…お前さんらは何処から来た誰なんだ?」

 

「…………」

 

アザゼルの眼が海斗を捉え、海斗もしばし逡巡した後…

 

「俺達は…正確には俺は『ブルートピア』と呼ばれる次元世界の"人間"だ」

 

海斗は静かに語り出した。

 

「海斗!」

 

「海斗さん!?」

 

それにアルカとシルトが驚く。

 

「いいんだ。これ以上の隠し事は逆に怪しまれるだけだからね」

 

2人を宥めた後、海斗は話を続けようとする。

 

「ブルートピア…聞いたことねぇ世界だな。ま、俺達は俺達の世界でまだ手一杯だから仕方ねぇんだが…それよりも多次元世界を全て網羅してる世界がありゃお目にかかりてぇとこだな…」

 

アザゼルがそんなことを言いながら目で先を促す。

 

「ブルートピアは世界の九割を海は占める世界のことを言う。そこでは『ネオアトランティス』という一つの国がブルートピアの全土を統べているといっても過言ではない」

 

「へぇ、そりゃ凄ぇな」

 

「海しかないって…冥界とはまるで逆ね」

 

海斗の話をアザゼルを含め、その場の全員が耳を傾けていた。

 

「昔は当然ながらバラバラな国が乱立していたが、初代のネオアトランティス国王がブルートピアの守護龍と契約したのを皮切りに全土を統一していったらしい。主に話し合いでだそうだが、武力行使も少なからずあったと思う」

 

「ま、そりゃ当然か」

 

「その結果、ネオアトランティスはブルートピア唯一の大国となり、今に至る。各地の政治は当時の支配していた地域の王や族長に連なる者に任せていて今もそれは変わらない」

 

「その初代国王ってのは余程の徳の人間だったんだろうな」

 

「てか、海しかないなら人間はどうやって生きてんだ?」

 

一区切りしたのを確認してからイッセーが当然の疑問を持ちかける。

 

「俺達には元からリンカーコアが存在する。その魔力や環境に適応して進化した呼吸器官から海中でも長時間の行動が可能だ。しかし、人間のそれと変わりないから海の中でも窒息する場合がある。そこで俺達の祖先は海中都市と海上都市を作り、そこで生活するようになった。素材は海中にあった石や砂を用いた建造物を作ったんだ」

 

「な、なるほど…」

 

イッセーの突然の質問にも海斗は普通に解説してみせた。

 

「海に住む人間…『海人族(かいじんぞく)』ってとこか」

 

海斗の解説を聞き、アザゼルはそう評した。

 

「呼称はご自由に」

 

その呼称を海斗は平然と受け止める。

 

「海斗。さっき"正確には俺は…"って言ってたけど、そこの2人はなんなんだ? 同じ海人族じゃないのか?」

 

忍が気になっていたことを聞く。

 

「そういえば…そんなことを言ってたような気もするデスね」

 

「…切ちゃん、言ってたよ」

 

一度に色んな話を聞かされたせいか、切歌やイッセーは頭から湯気が出そうだった。

 

「彼女達は…"人間じゃない"。俺の"使い魔"だ」

 

その言葉に使い魔という単語に馴染みのない調と切歌だけが驚く。

 

「え? 驚いたのはあたし達だけデスか?」

 

その反応を見て切歌が他の人達を見る。

 

「使い魔なら私も持っているわ」

 

「俺は未だいないけど…」

 

「使い魔の存在では驚かん」

 

「まぁ、萌莉も召喚獣を育ててる訳だしな…」

 

「ごめんなさいね」

 

リアス、イッセー、紅牙、忍、智鶴の順でそう答えた。

 

「…なんだか、疎外感」

 

調がちょっといじけていると…

 

「ブルートピアの人間は一定の年齢になると使い魔を必ず持つ風習がある。人によって使い魔はそれぞれだが…」

 

「なるほどなぁ」

 

アザゼルは海斗の話の大部分を理解したようだ。

 

「で、肝心のお前さんの"正体"ってやつは教えないのかい?」

 

そこまで聞き、海斗が襲撃されたという事実を鑑みれば自ずと答えは出てくるが、敢えてアザゼルは海斗の口から言わせたいらしい。

 

「それは…」

 

海斗が言いよどむと…

 

「先生はわかってるんすか!?」

 

「正体ってなんデス?」

 

「…?」

 

イッセー、調、切歌がアザゼルに教えを乞う。

 

「察しの良い奴なら大体の予想は出来てるはずだ。なぁ、お前ら?」

 

アザゼルはリアス、智鶴、紅牙、忍に視線を投げ掛ける。

 

「確信は無いわ」

 

「そうね。でも、ある程度は…」

 

「そうだな」

 

「………」

 

アザゼルに振られた4人も予測が出来ているような反応である。

 

「……わかりました。では、言ってしまうけど…俺はネオアトランティスの王族。その直系に当たる存在なんだ…」

 

観念したように海斗は自らの出自を話す。

 

「やっぱりな」

 

予想してたらしいアザゼル達はそんなに驚かなかったが…

 

「えぇぇぇ!?」

 

「お、王族デスか!?」

 

「…つまり、リアル王子様?」

 

イッセーと切歌は声を大にして驚き、調もそれなりに驚いてそう聞いていた。

 

「ま、王族の醜い争いに巻き込まれたんだろ。だから命を狙われてる、ってとこだろ」

 

「えぇ、まぁ…そんなところです」

 

もう隠す必要がなくなったせいか、海斗も開き直る。

 

「ちなみにそれはいつ頃からだ?」

 

「先代の王…つまり、俺の父が崩御したのは小学校を卒業する直前だったので…それからアルカやシルトと契約し、一緒に雲隠れしてきました」

 

「だから、俺にも何も言わず、去ったのか…?」

 

「あぁ…すまない、忍…話せば君を巻き込む可能性もあったから…」

 

「…………」

 

当時の自分のことを考え、忍は悔しさのあまり拳を強く握っていた。

 

「そういえば、お前さん。右腕は怪我でもしてんのか? チラチラと包帯が見えるんだが?」

 

「これは…次期国王の証を隠しているだけですよ」

 

「ほぉ? そんなのもわかるもんなのか?」

 

ちょっと興味深そうに海斗の右腕を見る。

 

「代々の王は右腕に初代が契約した守護龍の頭部を模したような痣が表れるんです。それと同時に臣下も代を変える度に代わります。これは王と同様に右腕に龍の各部を模した痣が表れるのが目印なんですが…今のところ、俺は見つけられていないんです」

 

「ふむふむ。それがお前さんの右腕に表れたから命を狙われてんのか…」

 

「そうなりますね」

 

「なら、今のネオアトランティスには王様不在なのか?」

 

「それなんですが…ずっと雲隠れしてたせいで、わからないんです。おそらくは叔父か誰かが代行を務めてる可能性が高いと思いますが…」

 

そう言って海斗は険しい表情を見せる。

 

「その叔父ってのが胡散臭そうだな」

 

「叔父は特に権力などに固執してた傾向があると記憶してますので…何事もなければいいのですが…」

 

「ま、心配事は尽きないか」

 

すると、アザゼルは忍の方を見て…

 

「おい、忍。次元辺境伯権限でこいつらを保護したらどうだ? お前ら知り合いなんだろ?」

 

ニヤニヤ顔でそう提案してきた。

 

「それは別に構いませんが…海斗自身の心情もありますから…」

 

「この町にいる限りは俺達三大勢力が目を光らせてるんだ。何の問題もねぇよ」

 

アザゼルの言葉に…

 

「既に学園で襲撃を受けたが…?」

 

紅牙が事実を突きつける。

 

「それを受けて結界も強化したんだ。今度はそう簡単に抜けられねぇよ」

 

「だといいんだがな」

 

紅牙はそう言って口を閉ざした。

 

「それでどうする? 今ならもれなく駒王学園への編入も特典に含んでやるよ」

 

「駒王学園への編入、か…」

 

しばらく考えた後…

 

「さっき、さよならと言ったのに…それでも俺を受け入れてくれるなら…」

 

と言ったところで…

 

「水臭いんだよ。俺達は親友だろ?」

 

忍がそっぽを向きながらそう言い放つ。

 

「忍……ありがとう。その話、受けさせてもらいます」

 

海斗は保護を受け入れると決めてくれた。

 

「また、勝手に決めて…」

 

困ったようなリアスの声が漏れる。

 

 

こうして海斗達の身柄は一時的に次元辺境伯である忍が預かることになった。

仮住まいとしては木場とギャスパー、紅牙と同じマンションに海斗達は同棲するような形で住むことになる。

また、海斗とシルトの駒王学園への編入手続きも行われることになった。

 

また、新たな次元世界『ブルートピア』や『海人族』のことはリアスやアザゼル経由で冥界と天界に、忍からフェイトや朝陽経由で管理局にも知らされることとなった。

果たして、この情報がどのような事態をもたらすのか…。



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10.異世界留学のスレイヤー
第五十六話『次元を越えた留学』


学園祭も終わり、次は中間テストが控えている中…

 

「俺が…留学?」

 

急に職員室に呼び出されたかと思うと、呼び出したアザゼルから留学のことを話され、忍はポカンとした表情を見せていた。

 

「あぁ、書類上は海外だが…実際は次元を越えてもらう」

 

職員室にはアザゼルしかいなかったため、特に問題はなかったのだが…

 

「え゛?」

 

言われた本人は訳が分からないような表情でアザゼルを見る。

 

「これはゼーラからの要請でな。お前には見聞を広めてもらうため、ミッドチルダにあるっていう魔法学校に行ってもらうことになった」

 

「ちょっ!? 待っ!!? えぇ!??」

 

いきなりのことに当然ながら忍は大いに困惑していた。

 

「良い機会だし、ミッドチルダ側の魔法技術を本格的に修得してこいや」

 

「んな無茶苦茶な…」

 

忍の力が抜けそうになると…

 

「ちなみに拒否権は無いぞ?」

 

「拒否すら許されない!? 中間テストはどうするのさ?!」

 

もっともな疑問が浮かび上がる。

 

「そんなもん行く前に受けてもらうに決まってんだろ? 安心しろ。お前の答案はこっちに帰ってきてから返してやるからお前の答案が盗み見られる心配はない。というか、テスト直前に留学した事と先んじてテストを受けたことを発表してやるから」

 

あっけらかんとアザゼルは言う。

 

「そういう問題じゃなくて!?」

 

「じゃあ、何が問題なんだよ?」

 

「留学自体に決まってるでしょうが!!」

 

急に言われても色々と準備というものが出来ないというものである。

 

「でも決まっちまったもんは仕方ないだろ?」

 

「決定事項だった!?」

 

本人の知らぬ間に決まっていたことに忍は軽い絶望感を抱く。

 

「てなわけだから明後日にテストを受けてもらうからな」

 

「早いな!?」

 

「ロスヴァイセも自分磨きに故郷に行っちまうし、こういうのは早い内が良いしな。あ、それとお前の眷属達にもちゃんと話とくんだぞ」

 

「何となく予想はしてたが、丸投げかよ!!」

 

こんな話、特に智鶴が病んでしまうのではないかと不安になる忍だった。

 

「自分の眷属くらい御してこそだぞ」

 

「丸投げしてきた奴に言われたくねぇ!!」

 

そう言ってアザゼルに殴り掛かるが、アザゼルはイスを滑らせて軽く避けていた。

 

「はっはっはっ、じゃあなぁ~」

 

そう言ってイスから立ち上がると、手をひらひらさせてアザゼルは職員室を後にしてしまった。

 

「この、バカ総督めぇぇぇッ!!」

 

そんな忍の叫びは職員室内を虚しく木霊した。

 

………

……

 

その夜。

アザゼルからの衝撃的な話を眷属達に話すため、急遽明幸邸に招集された紅神眷属…プラス紅崎姉妹。

 

「…という訳でして、何故か次元を渡って留学することになりました…はい…」

 

恐る恐るといった感じで、忍は正座して縮こまりがらも眷属達に事の詳細を話していた。

これじゃあ、まるで忍が怒られてるような感じだが…。

 

「しぃ君が…留学…?」

 

ピシャアァァァ!!

という効果音と背景に稲妻が走るようなイメージが智鶴の背後に見えたような見えなかったような…。

 

「しかも次元を渡るとか…アザゼル、本気だったのですね」

 

「姉様は知ってたんですか?」

 

雲雀の反応を見て緋鞠が尋ねる。

 

「まさか、テスト前に本当に留学の話を進めるとは予想だにしませんでしたが…一応、監視役として話は聞いてました」

 

平然と言ってのける雲雀に対し…

 

「あたしは知らなかったんですけど…」

 

緋鞠はそんなこと知らなかったようだ。

 

「あなたはテストに集中していなさい」

 

「うっ…」

 

駒王学園に入るため、事前に日本の勉強を雲雀に徹底的に叩き込まれて途中編入してきた緋鞠はこの中間テストで成績が明らかになるので気を抜けないのである。

 

「しかも行き先がミッドだなんて…先方もよく承諾しましたね?」

 

「それには同感。地球なんてまだ次元航行技術もないのに、そんなとこからの留学なんて"普通は"受け入れられないわよ?」

 

フェイトと朝陽も留学が確定してることに驚いていた。

特に朝陽は『普通は』という言葉を強調した。

 

「その辺はよくわからんが…シュトライクス少将がなんか手を回したんじゃないのか?」

 

「可能性は…まぁ、低くは無いでしょうね」

 

直属の上司のすることにいちいち疑問を持つ気はないが、今回ばかりは朝陽も何を考えてるんだか、と思わざるを得なかった。

 

「行き先の魔法学校の名前とかは聞いてないの?」

 

「留学の件だけで、その他は全っ然話してもらってねぇ…」

 

それを聞いてフェイトも困ったな、という表情をする。

学校名を聞けば、少しは調べることも可能なのだが、それすらも許さないのだろうか?

 

「で、あたし達はあたし達で忍不在のまま地球で生活しろってのか?」

 

智鶴が一番気にしているだろうことをクリスが尋ねる。

 

「た、多分、そうなるんじゃないか? 第一、留学がどのくらいの期間なのかも不明なんだし…」

 

ダラダラと汗を流しながら忍は微妙に智鶴から視線を逸らして言う。

 

「………ッ!!?」

 

ガッガッガッガーン!!

その言葉を聞き、遂に石化までしてしまった。

いや、どれだけ溺愛してるんですか?

 

「あらあら…困ったわねぇ~」

 

全然困った様子ではないカーネリアが面白そうにそんなことを口にする。

 

「良い機会です。明幸 智鶴は紅神 忍離れすべきです。いつまでもそのような浮ついた姿勢を叩き直すべきかと思います」

 

そう言ったのは…雲雀だった。

その言葉を聞き、一同が雲雀に視線を向ける。

 

「悪魔の駒でも重要な地位にいるはずの女王が、王に依存しっ放しというのも捨て置けない事案です。これを機に互いに距離を置き、自分を見つめ直すことを推薦しておきましょうか。特に女王の方は自分の立場を理解すべきです」

 

「一理あるわね」

 

雲雀の言葉に賛同したのは暗七であった。

 

「智鶴には悪いけど…この際、忍には留学の事にだけ集中して実力を上げてもらわないと…この前のゲームで見せたバアルの実力や赤龍帝の急成長振り。アレ以上の実力者はまだまだいるもの。それこそ神クラスの存在が…もし仮にそういうのと対峙した時、私達の中では忍だけが対抗策となりうるし、その忍がいない間の眷属を纏めるべき役目は女王にある。それを考えると、今の智鶴じゃ統率は無理よ。忍ばかり見てて私達の能力をちゃんと把握していないでしょ?」

 

「そ、それは…」

 

暗七に言われ、智鶴も強くは言い返せないでいた。

 

「別に永遠に別れろなんて言ってるんじゃないわ。距離が近過ぎるのが問題なのよ。だから、ここらでしっかりと公私や分別を付けてもらわないとね」

 

「うぅ…」

 

暗七の言い分に智鶴は唸り声を上げていた。

 

「それに…智鶴にはデバイスを使った戦術や魔法行使も視野に入れてもらわないと。せっかくの女王の駒もその特性が活かし切れてないんじゃ意味ないでしょ?」

 

「あ、それには同感かも」

 

「そういや、忍の駒を通してあたし達にも忍の持つ力が少し流れてるんだっけか?」

 

暗七の何気ない言葉に他の眷属達も自分の役目や忍から流れてくる力の事を思い出す。

 

「眷属がこの始末だもの。この際だし、忍がいない間に私達もレベルアップすべきなのよ」

 

今まで溜め込んでしたのかだろうか、暗七が珍しく熱く語り出していた。

 

「あたしは賛成」

 

「わたくしも賛成です」

 

「特訓とか、そういうノリは苦手なんだけどな…」

 

「頑張りましょう、クリスさん」

 

「眷属というチーム全体の底上げ、か…」

 

吹雪、エルメス、クリス、シア、フェイトは賛成のようだが…

 

「私は特に必要ないと思うんだけどねぇ…」

 

「あたしも」

 

単独行動が多そうなカーネリアと朝陽は参加しなさそうな雰囲気である。

 

「わ、私、は…その、お、お邪魔に…あらない、くらいなら…」

 

一番消極的なのは萌莉くらいだろうか。

 

「で、王と女王の判断は?」

 

半分以上が賛成してくれたことに少し喜んだ感じの暗七が忍と智鶴に向き直る。

 

「俺も賛成かな。言われて気付いたが、皆も少なからず力を持ってる。本当に助ける時に助けられるように俺も精進したいし、いつまでも守るばかりじゃ皆の技量を落としてしまう可能性だってあるし、それが実戦に響いたら洒落にならないからな…だったら、俺は俺のやれることをやってこようと思う」

 

忍も概ね賛成のようだった。

 

「し、しぃ君まで…」

 

忍が賛成したことに智鶴はちょっとショックを受けたようだった。

 

「智鶴。確かに雲雀さんや暗七の言う通り、俺達は一旦距離を置いてみよう。それで俺は自分の可能性を見つけてくる。智鶴は眷属の皆ともっと交流してその特性を把握してくれ。これからのためにも…」

 

忍はいつか来るだろうノヴァとの戦いを見据えていた。

 

「しぃ君と離れ離れは嫌……でも、しぃ君がそう言うなら…私も我慢して頑張ってみる…」

 

忍に諭されて、智鶴も折れる感じで承諾するのだった。

 

「それじゃあ、俺は留学の準備をしてくるよ。長旅になりそうだからな」

 

そう言い残し、忍は自室へと引っ込んでしまう。

 

忍が引っ込んだ後の居間では…

 

「うぅ…しぃ君が、行っちゃうぅ~…」

 

「ホントに大丈夫かしらねぇ~」

 

「はぁ…」

 

智鶴の様子にカーネリアが笑い、暗七が盛大な溜息を吐いていた。

 

一方で自室に引っ込んだ忍は…

 

「はぁ~…よかった…」

 

ドッと疲れたように壁に背を付けてへたり込んでいた。

 

「明後日にはテストか…眷属以外の学園の皆には別れも言えないけど、これが永遠ってわけでもないし、何とかなるか」

 

忍は独り言を零すようにそんなことを呟いていた。

 

が、まさか、あのような事態になろうとは…この時は誰も想像だにしていなかった。

 

………

……

 

あれから三日後。

忍は一日で全ての中間テストを消化し、留学の準備を進めてその時を待った。

試験後に聞いた話では試験翌日に出発を聞かされたからだ。

準備していたとは言え、急な留学もまだ公開されてはおらず、見送りも紅神眷属と紅崎姉妹、そして留学の件を進めていたアザゼルのみの構成だった。

 

「ヴェル・セイバレス経由でミッドチルダの首都クラナガン行きの次元航行便に乗り込むと…」

 

駒王学園の制服とは異なる白を基調にしたブレザーと紺色のスラックス姿の制服を身に纏い、大型のスーツケース二つをアステリアの後部タイヤの左右に挟み込むように縛り付け、その横に立つ忍が最終確認を行っていた。

 

「まるで密入国ね」

 

最終確認を聞いていたカーネリアが可笑しそうにそう言う。

 

「しょっ引いても文句は言われなさそうね」

 

その言葉に朝陽がそんな風に返す。

 

「やめてくれ…」

 

忍はホントにやりそうな朝陽にそう言ってアステリアに乗り込む。

 

「しぃ君。気をつけてね…」

 

智鶴は智鶴でやはりそわそわしながら見送りの言葉を紡いでいた。

 

「あぁ、留守を頼むよ」

 

最後に…

 

「ま、お前と入れ替わるように"ある奴"がこっちに来るんだが…お前は気にせず、魔法を修得してこい」

 

「"ある奴"?」

 

「あぁ、ちょっとばかり訳アリでな。そっちはイッセー達に任せるからお前はお前でしっかりな」

 

「はぁ…」

 

アザゼルの言う"ある奴"が気になったが、そうこうしてる間に忍の乗り込んだアステリアの真下に転移陣が展開される。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

パアァァ!!

 

一閃の閃光と共に忍はその場から姿を消した。

 

「行ったな」

 

空を見上げるアザゼルに…

 

「アザゼル。あなた、一体何を企んでるの?」

 

カーネリアがそんなことを尋ねる。

 

「何も。強いて言うなら…未来への投資さ」

 

「そう。でも、あまり坊やを巻き込まないことね」

 

「おう、怖い怖い。少しは色気づいてきたのか?」

 

「さてね…」

 

そんな不穏な会話を残し、一同は解散した。

 

………

……

 

その後、忍はヴェル・セイバレスを経由し、次元航行便に乗り込むことが出来たのだが…。

如何せん、荷物が荷物だけに色々と注目されてしまっていた。

 

「(ま、普通に考えたらバイクで行き来するなんて珍し過ぎるわな…)」

 

流石に待機状態がないことを説明し、アステリアがデバイスである証明書も特務隊から発行してもらっていたのでアステリアは無事に貨物置場送りになった。

 

「(次元航行か…超先史文明なら次元を渡る術もあったのかな?)」

 

次元航行便の中から外を眺めつつ、忍はそんな考えを馳せらせていた。

 

 

 

そして、予定通りに便がクラナガンの次元航行発着場に到着する、貨物区画からアステリアを引き取ってそのまま公道へと続く駐車場に案内された。

 

「確か、ホームで案内してくれる人と合流だっけか」

 

適当な駐車スペースにアステリアを停め、用心のためスーツケースに霊力を用いた簡易結界を張っておいてからホーム側へと入る。

 

「えっと…合流地点は…」

 

人の邪魔にならないよう壁際でネクサスを起動させると合流場所を確認する。

 

「東側の第13ゲートか」

 

現在地点を確認後、合流地点へと移動を開始する。

 

「(しかし、何処の世界も駅や空港みたいな場所は似通ってるんだな…)」

 

人の多さや混み具合などを比較してもそれほど大差ないように忍には見えた。

 

すると…

 

「紅神 忍さ~ん、いらっしゃいますか~?」

 

合流地点付近で忍の名を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。

 

「あの人かな?」

 

自分の名を呼ぶ女性の元へと素早く近づくことにした。

 

「紅神 忍さ~ん」

 

「はい。俺が忍ですが…」

 

そう言って忍は女性の所にやってきた。

 

「あ、紅神 忍さんですか?」

 

「えぇ」

 

忍の前にいる女性は、胸元まであるだろう黒髪を大きな赤いリボンでポニーテールに結い、茶色の瞳を持って少し幼さの残る可愛らしい顔立ちに、スレンダー以上、豊満未満な程良い肉付きをした標準的な体型をしていた。

そして、管理局の制服を着用している。

 

「(管理局の人だったよな…)」

 

「私は『ティラミス・イリス』三等陸士と申します。この度は紅神さんをご案内するようにとご命令をいただきました」

 

軽く敬礼しながらティラミスと名乗った女性は忍にそう挨拶していた。

 

「これはどうも。では、早速で悪いけど…俺が向かうべき留学先を教えてもらえませんか?」

 

ここまで何の情報も貰ってない身としてはさっさと情報が欲しいところであった。

 

「あ、はい。これから紅神さんはここクラナガンの郊外にある魔法学園『フィクシス魔法学園』に向かっていただきます。その道中の案内を私が任されています」

 

「そうなんですか。フィクシス魔法学園…」

 

やっと聞けた留学先の名を静かに呟く。

 

「それでは、行きましょうか」

 

「わかりました」

 

ティラミスの促しに頷き、忍はティラミスを連れてアステリアの元へと戻る。

 

「紅神さんってバイクに乗られるんですね」

 

アステリアを見てティラミスはそんな感想を口にする。

 

「この歳でバイク乗車はマズいかな?」

 

「免許を持っているなら問題ないかと」

 

「(ヴェル・セイバレスでこっち用の免許は貰ったから問題ないか…)」

 

軽い感じの会話をしながらアステリアに近寄る。

しかし、ここで困ったことが…

 

「あ…これじゃあ、スーツケースが邪魔になるか…?」

 

ティラミスを乗せるのにスーツケースが少し邪魔にならないか不安になっていた。

 

「このくらいなら大丈夫ですよ」

 

「う~ん…大丈夫、なのか?」

 

とりあえず、乗ってみることにした。

 

「窮屈じゃないか?」

 

ヴェル・セイバレスで受け取っていたヘルメットを被り、ティラミスにも予備のヘルメットを渡しながら背中越しに尋ねる。

 

「少し、きついですね…」

 

車体とスーツケースの隙間に足を入れ、忍の背中にぴったりとくっつく感じでティラミスはアステリアに乗っている。

 

「しばらくの辛抱…とは言え、あんまりきついとマズいか…規定速度内でさっさとフィクシス魔法学園まで急ぐか」

 

「ナビゲートは念話でしますので、指示通りに運転してくれれば問題ないです」

 

「了解した。じゃあ、行くぞ?」

 

ブルルルル…!!

 

そう確認してから忍はアステリアを起動させる。

 

こうしてティラミスの念話ナビゲートで忍は発着場の駐車場から郊外にあるというフィクシス魔法学園へと出発するのであった。

 

………

……

 

数時間後。

ティラミスに色々と案内してもらいつつ無事にフィクシス魔法学園へと到着していた。

それでも時刻は夕刻の下校時間になってしまったが…

 

「ここが、フィクシス魔法学園」

 

校門らしき場所の前でアステリアを停め、ヘルメットを脱いでフィクシス魔法学園を見る。

 

「はい。ここが明日から紅神さんが通うことになります。フィクシス魔法学園です」

 

そう説明しながらティラミスもヘルメットを脱ぎ去って髪を整える。

放課後の下校時間ということもあり、多くの生徒が忍とティラミスを注目しながら帰路についていた。

 

「(思ったよりも大きいな。駒王学園とは違った雰囲気と魔力の匂いがする…)」

 

学園から感じる魔力を匂いとして感知し、駒王学園と比較していた。

 

「紅神さん?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

少しだけ呆けているように見えた忍にティラミスが声を掛け、忍が何でもないように答える。

 

「それにしても…」

 

「うん?」

 

「珍しい時期に編入するんですね」

 

「まぁ、色々あってな…」

 

ティラミスの素朴な質問を忍は曖昧に答えていた。

 

「色々、ですか」

 

「あぁ」

 

忍はそれ以上語ろうとはしなかったが…

 

「そうなんですか。頑張ってください」

 

何を勘違いしたのか、そのように励まされてしまった。

 

「え? あ、あぁ…ありがとう…?」

 

思わぬ返しにどう返したらいいかわからず、そのまま素で返答してしまった。

 

「また、何か困ったことがありましたらこちらに連絡してください。私に出来ることなら色々とサポートしますから」

 

そう言って互いの連絡先を交換することになった。

 

「あぁ、すまない。しかし、そこまで世話になるつもりは…」

 

「いえいえ、気にしないでください。きっと色々と苦労してきたんでしょうし…」

 

「(なんだか勘違いされてるような…)」

 

ネクサスにティラミスの連絡先を登録しながら今更なことを考えていた。

 

「ともかく、今日はありがとう。場所さえ把握できれば問題はない」

 

「それは良かったです」

 

そう言ってから夕暮れ具合を見て…

 

「もう暗くなるし、よかったら送っていくが?」

 

そう提案していた。

 

「そこまで気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ」

 

それをティラミスはやんわりと断ろうとしたが…

 

「いや、流石に女性1人をこのまま返すのは男としてどうかと思うし…このくらいはさせてくれ」

 

「そうですか? では、お言葉に甘えちゃいます」

 

忍の紳士的な発言にティラミスも素直に送ってもらうことにした。

 

「それじゃあ、またナビゲートを頼む」

 

「はい」

 

こうして忍はティラミスを送るべくアステリアを走らせたのだった。

 

………

……

 

ティラミスを送ってから用意されたマンションの部屋へと到着した頃にはすっかり夜になっていた。

 

「遅くなったな…」

 

部屋に入り、制服を脱いでハンガーに掛けた後、スーツケースの中から寝てもいいように適当な服装に着替えてから荷物の整理をし始める。

 

「飯は…当分の間は自分で何とかするしかないわな…」

 

当然のことながら忍は自炊の経験がない。

いつも智鶴が世話を焼いていたのが原因だが、それでも家庭科で習得した技術は健在だったりする。

だからこれと言って問題はないのだが…

 

「ここって、どんな食材があるんだろう?」

 

そこまで大差ないとは思うが、ここは異世界。

色々と不安な面もあったりするのだ。

 

「とにかく、買い物…は明日に回して今日は風呂入ってから体を解して寝るか」

 

整理を終えた忍は風呂に入ってから寝ることにしたのだった。

 

しかし…

 

「……………」

 

ベッドに横たわったはいいが、如何せん眠れなかった。

 

「こうして1人ってのもなんだか寂しいもんだな」

 

なんだかんだで周囲に女性陣が部屋別とは言え、屋根の下で共同生活を送ってる状態が続いたのだ。

いざ1人となると、妙に物静かに感じてしまっていた。

 

「(恵まれた環境か…当分はこの生活が続くんだし、早く慣れないとな)」

 

そう思って目を閉じて意識を深い所に持っていくような感覚で寝るように努めた。

 

………

……

 

翌朝。

 

「この世界での初登校か」

 

あまり寝付けなかった忍だったが、余裕を持ってアステリアを走らせてフィクシス魔法学園へと登校していた。

制服は少しだけ着崩している。

 

「ここに停めても問題ないかな?」

 

職員用の駐車場にアステリアを停め、スクールバックを手に教員室へと向かう。

 

その途中のこと。

 

「(この世界にも当然ながら部活があるんだよな…魔法も加味したものだろうか?)」

 

校庭や体育館などから聞こえる活気ある声や朝練の光景を見てそんなことを考えていた。

 

「(ま、とにかく俺は教員室に向かわないとな。さて、と…)」

 

匂いを頼りに場所を教員室を探していると…

 

「ちょっと、そこのあなた!」

 

忍の背後より声が掛かる。

 

「?」

 

何事かと思い、振り返ってみると…

 

「そう、あなたです!」

 

忍を指さす1人の女生徒がいた。

見た目は胸元辺りまで伸ばした桜色の髪と空色の瞳に可愛らしい顔立ちに、少しスレンダー気味だが、中身はそれなりに詰まってそうな体型をしたフィクシス魔法学園のセーラー服を着用した少女だ。

 

「……俺か?」

 

一応、周囲を確認してから自分を指さして尋ねる。

 

「他に誰がいますか!」

 

「まぁ、この辺には俺しかいないが…」

 

少女の言葉にそう返すと…

 

「あなた、見ない顔ですね。転入生か何かですの?」

 

まるで生徒全員を暗記してるような物言いである。

 

「ん。まぁ、そんなとこだ」

 

なので、忍も否定はしなかった。

 

「バイク登校とは…もしや不良的な何かですか?!」

 

「………何故そうなる?」

 

バイクでの登校を見られたためか、そのうような誤解を受ける。

 

「違うとでも?」

 

「少なくとも君の言う不良的なことはしていない(極道に厄介にはなってるけど…)」

 

心の中で自分の居候先が極道だと思いつつ、自分の素行は悪くないと思っている忍だった。

 

「まぁいいです。それなら教員室でまでご同行して差し上げます。どうせ、転入生ならわからないでしょうし…」

 

「それはそれで助かる(不必要に匂いを嗅ぐ訳にもいかんからな…)」

 

ある意味で奇行を見られずに済むならそれに越したことはないと、忍は少女の提案を聞き入れる。

 

「それでは参ります」

 

「(しかし、この身の熟し方…何処かの良いとこの御嬢さんか?)」

 

少女の後ろをついていきながら忍は少女の所作を見てそう考えていた。

 

 

 

それから少女に連れられて教員室まで辿り着くことが出来た。

 

「ここが教員室です」

 

「ありがとう。えっと…」

 

お礼を言ったところで忍は相手の名前を聞いてないことに気付く。

 

「そういえば、名乗ってませんでしたね。私はラピス。『ラピス・シルフォニア』と申します」

 

「ありがとう、シルフォニアさん」

 

「ラピスで構いませんよ」

 

「そうかい。俺は紅神 忍。紅神が名字で、忍が名前な」

 

そこで互いに名乗ると…

 

「ベニガミ…変わった名字ですね」

 

「ま、気にしないでくれ」

 

「そ、なら気にしません」

 

紅神という名字の珍しさに少女『ラピス』は少し興味を抱かれたが、すぐに気にしない方向になった。

 

「それにしても…転入生が来るなんて話、聞いてませんけど…」

 

「急に決まったことなんでな。だから噂も立ちようがなかったんじゃないか?」

 

「そうなんですの?」

 

「確証はないが…」

 

「そうですの。なら、せめて私の組に入ることを願いますね。見知った人がいた方があなたも安心でしょ?」

 

「それは確かにそうだが…」

 

ラピスとの会話の中で忍はそう言ったものの…

 

「そろそろ先生方に挨拶した方が良くては?」

 

「そう、だな。じゃあな」

 

「えぇ。では、縁がありましたら」

 

そう言ってラピスは教員室の前に忍を残して去ってしまった。

 

「さてと…じゃあ、俺も行きますか」

 

ガラガラ…

 

「失礼します」

 

扉を開け、教員室へと入る。

 

 

 

教員室に入った後、忍は隣接する学園長室に通されていた。

今では時空管理局の少将であり、此処のОBらしいゼーラの推薦もあって特別に留学を許可されたことを学園長から知らされて、忍はちょっと意外そうな表情を見せた。

あの武闘派なゼーラがこの学園の卒業生とは、と…。

しかし、それで謎が一つ解けた気分だった。

 

また、忍の出身が本当は地球で、書類上はベルカ自治領の出身ということにしていることも学園長以外には知らされていないことも話してくれた。

そのことについては少しホッとした忍だった。

 

あとは学園長から生徒手帳を受け取り、担任の教員を紹介された。

教本などは急なこともあってか、翌日に受け取ることになっていた。

また、デバイスの所持は申請することで可能であることもあり、忍はネクサス、ファルゼン、ライト・フューラー/レフト・フューラー、アステリアの4基の所持を正式に申請していた。

ブリザード・アクエリアスやブラッド・シリーズについては出自が出自だけに隠して所持することになる。

 

そして、朝のSHRの時間が来たので担任と共に教室へと歩いていく。

ちなみに忍のクラスは2-Aであった。

それと、これもお約束だが、転入生は廊下で担任の呼び出しが来るまで待つことになった。

 

「(こういう扱いは何処の世界も一緒だな)」

 

忍は苦笑しながらしみじみと思う。

 

「それと追加の知らせがある。なんと、今日からお前達と共に勉学を共にする新しい生徒がやって来た」

 

『えぇ~~!!?』

 

担任の知らせに教室内が湧くのが扉越しにわかる。

 

「先生、女の子ですか!?」

 

そして、当然とばかりに男子がそんなことを聞く。

 

「残念ながら男だ」

 

『ええ~~…』

 

男子達から明らかな消沈の声が上がる。

 

「(そこまで落胆するか?)」

 

自分があちら側の時はそこまで気にしたことがないので、忍は少し頭を捻っていた。

 

「(今頃、海斗も似た心境なのかね…?)」

 

忍の留学と入れ違いに駒王学園に編入した海斗の事を思い出し、そんな考えが過ぎる。

 

「では、入っていいぞ」

 

担任からのお呼びが掛かり、忍は気を取り直して…

 

ガラガラ…

 

教室の中へと足を踏み入れた。

 

こうして、忍の異世界留学の幕が開いたのだった。



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第五十七話『学年合同授業』

忍がフィクシス魔法学園へと留学となり、最初の登校日。

 

忍が教室の中に入ると…

 

「なんだ、男かよ!」

「でも、結構カッコ良くない?」

「だよねだよね~」

「イケメンは死ね!」

 

男子と女子とで反応がまるで違う。

何処の世界でも転入生というのはこういう扱いなのだろうか?

 

「え~、今日からお前達と勉学を共にする…」

 

「紅神 忍です。紅神が姓、忍が名です」

 

翻訳魔法が上手く機能しているのか、忍はそう伝えていた。

 

「変わった名前だな…」

 

生徒からは当然そんな声が漏れる。

 

「席は…スフィーリアの隣の窓際だな」

 

一番後ろの窓際という生徒から見たら座りたい席の有力候補である。

 

「こっちだよ」

 

わかってるとは思うが、一応と言った感じでスフィーリアと呼ばれた女子生徒が手招きしていた。

 

「ついでにスフィーリア、ベニガミの面倒も見てやってくれ」

 

「は~い、わかりました」

 

先生の頼みを二つ返事で返していた。

 

「よろしく」

 

忍も席に着くと、隣のスフィーリアに一言挨拶していた。

 

「ん、あたしは『ラト・スフィーリア』。こちらこそよろしくね」

 

『ラト』と名乗った少女は胸元辺りまで伸ばした青みがかった銀髪と色素の薄い青紫色の瞳を持ち、可愛らしくも綺麗な顔立ちに、標準的よりも少し豊かに見える体型をしていた。

 

「では、SHRは以上だ。一時限目までの間に紅神への質問は済ませておくように」

 

そう言い残し、担任の教員は教室を後にしていった。

 

それからは女子が早かった。

 

「ねぇねぇ、ベニガミ君って何処から来たの?」

「使ってる魔法体系とかは?」

「好きな食べ物とかある?」

「デバイスは?」

「彼女とかいるの?」

 

即座に女子生徒に囲まれて一気に質問攻めにあった。

 

「あはは…ちゃんと答えるから、そんないっぺんに聞かないでくれ」

 

それに忍は苦笑しながら一つ一つの質問に答える。

 

「ベルカ自治領の方から来たかな」

「古代ベルカ式を使ってるよ」

「う~ん…好きなものか…から揚げとか?」

「一応、4つ所持してるかな。必要に応じて変えてる感じ」

「それは…年上の人がいて今は離れ離れになってるけど…」

 

最後の質問の答えに女子生徒はガッカリしたような声を上げる。

 

「けっ、彼女持ちかよ」

「人生勝ち組ってか?」

「イケメンはなんでも有能か?」

「4つもあって切り替え出来るはずねぇだろ」

 

それを遠巻きに聞いていた男子達がぼやき始める。

 

「(う~ん…なんだろう、これは放課後に何かあるか?)」

 

忍はそう考えていたが、放課後を待たずにちょっとした小競り合いが授業中に起こることになった。

 

………

……

 

時刻は4時限目の魔法実技になっていた。

黒いジャージに着替え、校庭に集合した男子達は対戦形式の個人戦を行うことになっていた。

ちなみにデバイスの使用は無しの魔力を用いた打撃戦オンリーである。

 

「(個人戦か…)」

 

教員の話を聞きながら忍は周囲から向けられる敵意をチクチクと感じていた。

 

「(良い憂さ晴らしと考えているんだろうが、生憎と俺もただでは負けられん)」

 

その敵意を真っ向から受け止め、忍は手加減を間違えないよう考えていた。

 

「まずは転入生の実力を見せてもらおうじゃないか」

 

「はい」

 

ガタイの良い教員に名指しされ、忍は立ち上がる。

 

「じゃあ、相手は…」

 

「先生、俺が相手になります」

 

自ら名乗り出たのは、これまたガタイの良い生徒だった。

 

「おっ、あいつが出るのかよ」

「よっ、我がクラスの男子エース!」

「男子の中じゃ実技が一番得意だもんな」

「こりゃ転入生、怪我確定か?」

 

他の男子からそんな声が上がり、その男子生徒がクラスの男子の中でも実力が高いことが窺えた。

 

「グラフハイトか。いいだろう」

 

男子生徒ことグラフハイトが忍の前に立つ。

 

「よろしく。グラフハイト君」

 

忍は礼儀として握手を求めたが…

 

「良い気になるなよ、転入生。少しばかり女子にちやほやされたくらいで…」

 

「別に良い気になんか…」

 

グラフハイトの言葉を否定しようとするが…

 

「グラフハイト、やっちまえ!」

「転入生のここの厳しさを教えてやれ!」

 

そんな野次が飛び交う。

 

「あいつらもあいつらでうるさいが…俺は俺で転入生、お前の実力を測らせてもらう」

 

グラフハイトはそう言って構えを取る。

 

「握手はその後ね…」

 

「お前がそれに足る人間ならな」

 

「了解」

 

忍も構えることでグラフハイトに応える。

 

「では、始め!」

 

教員の合図で忍とグラフハイトが同時に動く。

 

「チャージ・ブロー!」

 

魔力を込めた強撃を放つグラフハイトに対して…

 

「ふっ!」

 

忍はその一撃を避け、伸び切った腕を捕らえると同時に足払いをしようとする。

 

「ッ!!」

 

が、グラフハイトは腕を曲げて忍の足払いから自らの足を近づけて軸を逸らす。

 

「ちっ!」

 

足払いが失敗するとわかった忍は即座にグラフハイトの腕を放し、足払いに回した足でグラフハイトの足を蹴って横に跳びながら距離を開けようとする。

 

「逃がさん!」

 

それをグラフハイトは忍の足を捕まえてから一気に振り下ろそうとする。

 

「ッ!」

 

忍は体を捩じって捕まれてない方の足でグラフハイトの後頭部を狙って蹴りを入れる。

 

「ぐっ!」

 

ガタイの良いグラフハイトも後頭部に一撃を貰って少しだけ怯み、忍の足を放してしまう。

それを受け、忍は地面に両手を着いてバク転の要領で再び距離を開ける。

 

「おいおい、マジかよ」

「あのグラフハイトが決めきれてない?」

 

忍の奮戦に他の男子生徒達からも動揺が広がる。

 

「やるな、転入生」

 

「そいつはどうも」

 

どちらも魔力を用いた肉体強化を施しているのでまだダメージというダメージは見受けられない。

 

「(これ、どういう基準で決着を着けるんだ?)」

 

今更ながら忍はそんなことを考えるが…

 

「チャージ・タックル!」

 

そんなことはお構いなしにグラフハイトが魔力を帯びた突進を仕掛けてきた。

 

「(捕まったら厄介か…)」

 

今は目の前のことに集中し、魔力を足に流して加速する。

 

「「「「ッ!? 速い!?」」」」

 

忍の急加速に男子生徒達が驚き…

 

「スピードタイプか…?」

 

教員も忍の速さに目を見開き…

 

「ッ! ならば!」

 

それを見たグラフハイトは魔力を込めた一撃を地面に叩き込んで校庭の砂を一気に粉塵として巻き上げる。

 

「(これなら粉塵の外に出るしかあるまい!)」

 

フィールドタイプの魔力障壁を張って自身の体を守りながら忍が粉塵から出るのを待つ。

 

しかし…

 

「受けになったら無防備だぜ!」

 

"空気を蹴って空に跳び上がっていた"忍がそう言いながら粉塵の中へと一気に降下する。

 

「なにっ!?」

 

思わず上を見上げたグラフハイトの顔面を掴み、その勢いで地面に叩き付ける。

その衝撃で粉塵も収まり、その場には体勢を崩して地面に仰向けに倒れるグラフハイトと、その顔面を抑え付けている忍の姿が残っていた。

 

「勝負あり。勝者、ベニガミ」

 

教員がそう告げると、忍は静かにグラフハイトから手を退け、手を差し出す。

 

「くっ…俺の負けか。強いな、"ベニガミ"」

 

「アンタもね」

 

忍の差し出した手を握って立ち上がりながらグラフハイトは笑っていた。

 

「「「「………………」」」」

 

その光景に男子生徒達は開いた口が塞がらない様子だった。

 

「よし、転入生の実力もわかったところで次!」

 

教員が次の生徒達を呼び出していた。

 

 

 

その様子は同じく実技であった女子生徒も授業そっちのけで見ていたようで…

 

「あのグラフハイトが…負けた?」

「やっば、ベニガミ君…超カッコいいかも♪」

「でも、今日の男子のやつって魔力による肉体強化でしょ? 魔法の方が疎かになってたらいくら強くても、ねぇ?」

「あ、それは確かに…ベニガミ君、古代ベルカ式って言ってたよね?」

「じゃあ、近接系が得意なのかな?」

 

ミーハーな反応もあれば、冷静な反応も見受けられて賛否両論といった具合か。

その中でも…

 

「へぇ~、面白いじゃん♪」

 

ラトだけはとても楽しそうな笑みを浮かべて忍を見ていた。

 

この4時限目の授業の内容も相俟って転入生の噂はさらに広がることになった。

 

………

……

 

~昼休み~

 

昼飯のことを考えてなかった忍はラトに案内してもらって学食へとやってきていた。

 

「(しまったな…買い物のことを二の次にしてたせいで飯のことも忘れてた…)」

 

とてもじゃないが、そんなことは口に出来ないでいた。

 

「ここが学食ね。流石にわかると思うけど、食券買ってカウンターに持ってって少し待つのね」

 

ラトは苦笑しながらそんな説明も付け加えていた。

 

「あぁ、それはわかる」

 

次元を越えてもやはり似ている部分は似ているんだな、と改めて実感する忍だった。

 

「それじゃあ、あたしは妹と一緒に食べる約束があるから」

 

「あぁ、すまなかったな」

 

「気にしない気にしない」

 

そう言い残してラトは少し早足に学食を去っていった。

 

「さて、何を食うか…」

 

食券販売機の横にあるメニューを見て頭を捻る。

 

「これにしとくか」

 

超無難なカレーを選択すると、忍は食券を買ってカウンターまで順番を守って移動した。

 

「(今日から自炊しないとなぁ…)」

 

そう考えつつ家庭科で習得した技術を思い出しながらカレーを食べるのだった。

 

………

……

 

~放課後~

 

「(やはり、歴史が難点か。他の教科は基礎さえ覚えてれば問題なさそうだが…)」

 

今日一日を振り返って忍が痛感したのは歴史だった。

幸いにも当てられなかったからミッドチルダの基本的な歴史知識の無さが露見することはなかったが、これは早急に手を打たなければと考えていた。

 

「(図書館ならそれらしい本がいっぱいあるだろ。予習か復習と称して読み込めば問題ないはず…)」

 

そんな計画を立てながら忍はラトに図書館の場所を尋ねていた。

 

「あ~、図書館ねぇ…」

 

明らかに嫌そうな顔をするラトだった。

 

「(勉強嫌いか?)」

 

そう思ってしまうくらいにあからさまな反応だった。

 

「あ、そうだ。他の場所も案内しとかないとだよね。図書館には…まぁ、用事もなくはないけど…最後でいい?」

 

よくよく考えれば、学園内の案内もまだだったのでラトはそう提案していた。

 

「それはそれで助かるが…妹さんはいいのか?」

 

昼休みの会話の中でラトには妹の存在が出てたので、それを懸念して忍は尋ねていた。

 

「大丈夫。あの娘ならきっと図書館にいると思うし…」

 

そう言ってラトは忍を連れて学園内を案内しだした。

 

 

 

ラトに連れられての案内。

まずは…

 

「ここが講堂。全校集会とか、大きなイベントは大抵ここでやるんだよ」

 

「そうなのか」

 

「まぁ、普段は閉められてるけど…」

 

講堂前でラトの説明を受けながら忍は周囲を見回す。

 

「校舎からは独立してるんだな」

 

「まぁね。理由はよく知らないけど…あ、でも噂だと対魔力素材で出来てて、何かあった時用の避難シェルターじゃないかって……それに避難訓練とかでもよく使われてるんだ」

 

「へぇ…」

 

言われてみると確かに頑丈そうな造りになっているのであながち間違いでもなさそうだな、と忍は思っていた。

 

「それじゃあ、次行くよ」

 

「あぁ…」

 

2人はその場から次の場所へと移動した。

 

 

 

次は…

 

「ここが部活棟。ここも校舎からは独立してて、なんと屋内プールがあるんだよ!」

 

「そうなのか」

 

「うん。だから水泳部とかは結構プールの管理とかもしてるって話だよ」

 

それを聞き…

 

「スフィーリアは部活とかに入ってないのか?」

 

そう尋ねると…

 

「ラトでいいよ。あたしもシノブって呼ぶから。ほら、ちょっとベニガミって言いづらいし…」

 

ラトはそう言ってきた。

 

「(本人を前にしてそれを言うか…)」

 

ラトの率直さに感心と呆れを半々に覚えていると…

 

「まぁ、入ってないかな…妹がインドア派でね。なかなか家族以外に心を開いてくれないから心配で」

 

忍の質問にそう答えていた。

 

「そうか…野暮なことを聞いてすまんな」

 

「ううん、気にしないで。今に始まったことじゃないし」

 

そんな会話をしながら次の場所へと向かう。

 

 

 

次は…

 

「ここが特殊学科専用棟。ま、実験とか家庭科の実習とか…あとは文系の部活の部屋なんかや教員室、学生会の部屋もあるんだけどね」

 

「あぁ、ここなら知ってる」

 

ラピスに案内された場所でもあるので覚えている。

 

「あ、そっか。ここは来てたっけ」

 

「まぁ、な。他にも色々な部屋があるとは知らなかったが…」

 

「学園でも中心に近いから駐車場は別のとこにあるんだけどね」

 

「道理で…近場にないのは不思議だったが…」

 

「え?」

 

「こっちの話だ」

 

アステリアによるバイク通学のことは話してなかったので、そう誤魔化していた。

 

 

 

最後に…

 

「ここが図書館」

 

「ここも独立してたのか…」

 

「うん。あたしはあんまり寄り付かないけど…」

 

「それはなんとなくわかってた」

 

図書館の前でそんなやり取りをしている。

 

「じゃあ、一緒に入ろっか」

 

「妹さんを迎えに、か?」

 

「まぁね。そのついでにシノブがどんな本を読むのか気になるし…」

 

「別に大したことじゃないが…」

 

そう言って2人は図書館の中へと入る。

 

「うぅ…頭痛い」

 

「(入っただけだぞ?!)」

 

入って早々、そんなことを言うラトに忍は隣で驚いていた。

 

「え~っと…"フィー"はっと…」

 

「(妹さんか…)」

 

妹を捜すラトを放置し、忍は歴史の本が並ぶ区画に立ち入っていた。

 

「(いくつか借りてくか…)」

 

歴史書をいくつか借り出すことにした忍は本を数冊だけ持って入り口横にあるカウンターへと本を持っていき、駆り出し手続きをする。

 

と、そこへ…

 

「うげぇ、歴史書とか読むの?」

 

ラトが1人の少女を連れて合流していた。

 

「復習を兼ねてな。そちらが…?」

 

そう返しながら視線をラトの背中に隠れ気味にしている少女に向ける。

 

「あ、うん。あたしの可愛い妹の『シルフィー』。フィー、この人が今日からこの学園に転入してきたシノブね」

 

そう言ってラトが忍に"フィー"ことシルフィーを紹介し、シルフィーに忍を紹介していた。

シルフィーはラトの妹だけあって似ており、腰まで伸ばした赤みがかった銀髪を白いリボンを使って首の後ろで一纏めに結っており、色素の薄い赤紫色の瞳を持ち、歳相応の可愛らしい顔立ちに、ラト比べると一回りくらい小さくスレンダー気味な体型をしていた。

 

「よろしく…えっと、シルフィーちゃん?」

 

「…………」

 

忍の言葉にシルフィーはラトの背中に隠れるのだった。

 

「もう、フィーったら…初対面の人にもちゃんと挨拶はしなさいっていつも言ってるでしょ? だから友達も少ないんだよ?」

 

「(それを姉が言うか? いや、姉だからこそか?)」

 

ラトの言い分には一理あるものの、それをこんな堂々と言ってもいいものかとも考えていた。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

 

図書館に長居したくないのか、ラトはそう切り出す。

 

「そうだな。もうそろそろ暗くなる頃合いか」

 

ネクサスの時間表示を見て忍も帰ることにした。

 

「それってデバイス?」

 

ネクサスを見てラトが忍に尋ねる。

 

「ん? あぁ、バリアジャケット展開に特化した仕様でな」

 

そう答えると…

 

「って、よく見るとシノブって指輪とか腕輪とかしてるし、それもデバイスだよね?」

 

「あぁ…申請はしたから着けてても問題ないと思うが…」

 

それを聞いて…

 

「シノブって…どこかのお坊ちゃま?」

 

ラトはそう尋ねる。

 

「いや、普通(とは言えないが…)の家…というよりも故郷じゃ居候の身でな。両親がどっかに蒸発してて行方がわからないんだ」

 

「あ、ごめん…」

 

流石に話題のチョイスをミスしたと思って謝る。

 

「気にする必要はないさ。どこかで生きてるならいつか会えるだろうし、会ったら会ったで殴ってやろうとも思ってるしな」

 

そう言いながら忍達は図書館から出る。

 

「……お母さんも…?」

 

そこでシルフィーが忍に尋ねる。

 

「いや、親父だけ殴ってやろうと思ってる。伯父さんとも約束したしな…」

 

シルフィーの問いにそう答える。

 

「シノブも苦労してるんだね」

 

「まぁな。っと、俺はここまでだな」

 

そう言ってから忍は校門とは別方向になる駐車場の方へと歩いて行こうとする。

 

「なんで? そっちは駐車場だよ?」

 

当然の疑問を発するラトに…

 

「これでもバイク通学でな。特別に駐車場を借りてんだよ」

 

「なにそれ!?」

 

「じゃあ、また明日な」

 

驚くラトを尻目に忍は片手を挙げていた。

 

そんな忍の後ろ姿を見送りつつ…

 

「ねぇ、フィー。ちょっと見に行かない?」

 

「………ちょっとだけ、なら…」

 

気になったのか、スフィーリア姉妹は忍を追いかけていた。

 

 

 

そして、駐車場にて…

 

「ネクサスがないと動かないとは言え、よくもまぁ…」

 

そう言いながら忍は目の前の光景を見て呆れる。

 

「くそ、なんで動かねぇんだよ!」

「ストッパーを外そうにも固過ぎだろ!」

「こんな良いバイク、何処の誰だか知らねぇがそいつには勿体ねぇしな!」

 

そこにはアステリアに群がる男子生徒の集団がいてアステリアを動かそうと四苦八苦していた。

見るからに不良グループと思われる粗野な面が目立つ生徒達である。

 

「(ミッドにもいるんだな…当たり前かもしれないが…)」

 

そう思いつつも忍はその集団へと近付き…

 

「俺のバイクに何か用か?」

 

声を掛けていた。

 

「あぁ!?」

「誰だ、テメェは…?」

 

忍に声を掛けられ、少し慌てたように男子生徒達は忍を睨む。

が、すぐに忍が1人だとわかると忍を囲むように広がる。

 

「そのバイクの持ち主だ。これから帰るのに邪魔だから退いてくれないか?」

 

それだけ言うと忍はアステリアに近づこうとするが…

 

「おっと、待ちな」

 

アステリアの前にいた不良が忍の肩を掴む。

 

「テメェが乗るには勿体ねぇよ。俺が使ってやるからさっさとキーを寄越しな」

 

そして、忍を格下だと思い込んで一方的な要求を突きつける。

 

「断る。こちらも足に使ってるんでな。第一、お前達が使うにはアステリアは分不相応だと思わないのか?」

 

そう言って不良の要求を突っぱねる忍に…

 

「テメェ…!!」

 

目の前の不良が忍に殴り掛かる。

 

ガシッ!

 

忍は簡単にその拳を受け止めると…

 

「少し…頭を冷やしたらどうだ?」

 

ギリリッ…!!

 

不良の拳を握り潰すように握力を込めていき、周囲の気温も下げていく。

 

「がぁぁ!!?」

「な、なんだ? 急に寒く…?!」

 

何が起こったかわからない不良達は慌て始める。

 

「往来の邪魔だ。さっさと失せな」

 

不良の拳を放すと、そう言ってアステリアに跨って起動させる。

 

「ち、ちくしょう! お、覚えてやがれ!!」

 

ありきたりな捨て台詞を最後に不良グループはその場から立ち去っていた。

 

「少しやり過ぎたかな? 魔法を使わなかっただけ安心だったが…」

 

そう呟き、忍はアステリアを発進させていた。

 

「(ま、何とかなるだろ…)」

 

あ、買い物してかなきゃな…という呟きを残して…。

 

 

 

その様子を…

 

「見た?」

 

「………うん」

 

ラトとシルフィーが物陰に隠れて見ていた。

 

「あれって魔力変換だよね?」

 

忍が使っていた周囲の温度を下げる様をシルフィーに確認していた。

ただ、距離があったため、不良が急に寒いと言ったので判断しただけだから確証はないが…。

 

「……多分、『凍結』…」

 

シルフィーも少ない単語の中でその可能性が一番高いものを選んで答える。

 

「レアものじゃん。シノブってホント、何者なんだろうね?」

 

「……知らない…」

 

ちょっと楽しそうなラトに対して興味なさそうなシルフィーだった。

 

………

……

 

その二日後。

フィクシス魔法学園でちょっとしたイベントが行われることとなった。

 

「学年合同授業?」

 

忍が隣のラトにオウム返しのように尋ねる。

 

「うん、今日の授業はお昼も挟んでの高等部の三学年合同の授業なんだ」

 

それを聞いた忍は…

 

「……初耳なんだが…?」

 

そう答えていた。

 

「連絡し忘れたんじゃない?」

 

ラトがあっけらかんと言う。

 

「だからってこんなイベント…誰も話題にしないとか…」

 

「あたし達にとってはあんま重要視してないもん。ただ、他の学年の子とも組めるって程度の認識で、実戦形式の授業とあんまり変わらないって感じだし…そのせいか、この機に堂々とサボる生徒も多いんだけどね~」

 

「おいおい…」

 

その説明を聞き、忍は耳を疑った。

 

「魔法制限は特に無し。他の人と組む場合は本人同士の同意と教員への報告だけ。ルールとしてはこんなもんかな?」

 

「随分と緩いルールだな」

 

そう言う忍だが…

 

「ん~…そうでもないよ? 確かに教員の数よりも生徒の数が多いから全部の戦闘を眼で見るのは大変だから監視用自動カメラも総動員して色々な場面の記録をしてから休日とかも使って教員が生徒の実力を把握する感じだし、サボってるのが見つかったら単位が落ちるし…」

 

ラトはそう返していた。

 

「(ま、それ故に抜け道も存在しそうだが…)」

 

自動監視カメラがどのくらいの性能かは知らないが、忍はそう考えていた。

 

「ラトはこのイベント、どう思ってるんだ?」

 

「もち、全力参加するよ。こんな単位の稼ぎ時を逃す手はないしね♪」

 

忍の問いにラトは笑顔で答える。

 

「そうか。ちなみに誰かと組む予定とかは?」

 

ダメ元で聞いてみると…

 

「あたしはフィーと組むかな。遭遇しても手加減しないからね?」

 

意外にもあっさりと答えてもらえた。

 

「そりゃ遠慮願いたいもんだ…」

 

二対一というものそうだが、ラト達の実力が不明な以上、出来るだけ遭遇したくはないというと、女性を相手に本気になれるか心配なのが忍の本心だった。

 

「ちなみに開始は10時から16時の6時間でお昼休みに30分の休憩を挟むの。場所は…人数が人数だから管理局の許可を前から取って無人世界でやるんだけどね。安全のために局員の人も何人か監視役として来てくれるんだよ」

 

「つまり、教員に加えて局員の眼も気にしないとならない訳か」

 

「まぁ、そういうことだね」

 

ラトの説明を聞きながら…

 

「(これにもシュトライクス少将でも絡んでるのか?)」

 

忍はゼーラのことを思い浮かべていた。

 

「そういう訳でそろそろあたし達も移動する時間だよ」

 

「アステリアは…流石に持っていけないな…」

 

それを聞いて忍は学園にアステリアを残すことに決めた。

 

「(解放形態やアステリアの全貌を一般の生徒や管理局員に見せる訳にもいかないしな…)」

 

そう考えながら忍は席を立つ。

 

生徒達は特別次元航行便に乗るためバス移動で次元航行ポートへの移動が開始された。

 

………

……

 

~第47無人世界~

 

ここは温暖な気候と青い空に包まれた森林、荒野、山岳、高地、豊富な水場など自然がそのままが残った世界である。

不思議なことに何度調査しても人が住んでいる形跡や痕跡が見つかっていないため、無人世界ということになっている。

 

到着後、生徒達は管理局員の指導の下に各地にばらける形となった。

生徒達は学年やクラスの垣根を越え、自分の得意とするフィールドへと赴くようになっている。

もちろん、最初にいたフィールドから離れても問題ないが、生徒が遠くに行かないように簡易的な魔力結界も張られている。

結界の外に出れば即座に局員が連れ戻すことになっている。

また、生徒達は極力自然を傷つけないようにとの注意もされている。

 

「良い場所だな…」

 

この世界の空気を吸い、忍はそんな感想を漏らしていた。

 

「(こんな世界もあるんだな…)」

 

ちなみに忍は森林に近い場所に移動して時間を潰していた。

 

すると…

 

「あれ? 紅神さん?」

 

そこに忍の見知った人が現れた。

 

「イリスさん? なんで、ここに…?」

 

ティラミスがいたのだ。

 

「はい。こちらの学園の監視要員として派遣されまして…」

 

「また、派遣ですか…」

 

忍が苦笑していると…

 

「これもお仕事ですから」

 

ティラミスは微笑みながらそう答える。

 

「(健気だな…)」

 

そんな微笑みを見て忍も自然と微笑んでしまった。

 

「あ、ちなみに紅神さんの学年って…?」

 

「俺か? 2年生だが…?」

 

「あ、じゃあ、年上だったんですね」

 

それを聞いて忍は驚く。

 

「私は高等部で言うと1年生になりますから」

 

「ということは…中等部を卒業してすぐ管理局に…?」

 

「はい。進学でも良かったんですが、こういうのは早め早めが良いかなと思いまして」

 

「(人の道は人それぞれか…)」

 

ティラミスとの会話を続けていると…

 

ピピピ…!

 

ネクサスから10時を知らせるアラームが鳴り響く。

 

「ん、時間か」

 

「では、頑張ってくださいね」

 

「ありがとう」

 

そう言ってティラミスと別れる忍だった。

 

 

開始から10分後。

 

「(とは言え、どうしたものか…)」

 

忍は森林の中、木々の枝を伝って移動していた。

自慢の嗅覚と気配を断つ技術を使って戦闘をやり過ごしているが、いつまでもそうしてる訳にもいかない。

が、忍は生死を賭けた戦闘を経験してるが故に下手に生徒達を相手することを避けている。

 

「(いつまでもこうしてる訳にもいかないし…困った…)」

 

グラフハイトとの戦闘は他の生徒達の手前、手加減していたことを可能な限り表に出さずに勝利したからいいものの、ここでは魔法も無制限で実戦に近い形式を取っているので下手な行動で素が出ないとも限らないのだ。

何より解放形態を使わずに戦うには打って付けなのもそうだが…。

 

「(ここにきてあの2人との訓練が仇になったかな?)」

 

イッセーや木場との戦闘訓練は互いに手の内を知ってるからこその本気度もあったが、今回はそうはいかない。

如何に他の力を抑えつつ素の状態でどこまで戦え、魔法技術の向上も視野に入れているのだ。

それを早々にして行えるこのイベントは嬉しい誤算だが、実際に行うとなると思わぬ誤算でもあった。

 

「(とにかく、今は実力が高そうな3年生を中心に狙って2年生と1年生には牽制を……!?)」

 

と忍が即席プランを構築していると、周囲の空気が凍る感覚が伝わってきた。

 

「(これは…俺と同じ魔力変換資質『凍結』か?)」

 

気になったのか、冷気の漂う方向へと移動する。

 

 

 

森から抜けると、忍の目の前には険しい岩場と、そこから流れるいくつかの滝が佇んだ場所が広がっていた。

 

「あれは…」

 

そこで戦っているのはどちらも忍の見知った存在だった。

 

「相変わらずの魔法の冴えね、シルフィー」

 

「…………」

 

滝の前に浮遊しながら冷気を溢れさせているラピスと、その対岸でいくつもの魔法陣を展開するシルフィーがいた。

 

「頑張れ、フィー!」

 

シルフィーの後ろではラトが応援していた。

 

「マズいな…見つかったら俺も巻き込まれそうだ…」

 

物陰に隠れてその様子を見ながら少し愚痴る。

 

「……っ!」

 

が、シルフィーが何かに気づき、忍の方へと魔力弾を放ってきた。

 

「なぁっ!?」

 

まさか、気付かれるとは思わず、変な声を上げて飛び出してしまった。

 

「あ、シノブ」

 

「あの時の転入生!」

 

飛び出した結果、ラトとラピスに気付かれてしまった。

 

「しまった…(というか、何故わかった?)」

 

シルフィーには高い索敵能力でもあるのかと考えていると…

 

「それにしてもよくわかったね、フィー」

 

「………なんとなく、違和感があったから…」

 

「(なんとなく!?)」

 

その言葉に忍はかなり驚く。

 

「でも、嬉しいなぁ~。こんな早くシノブと出会えるなんて♪」

 

そう言いながらラトは忍の方へと歩き出す。

 

「……お姉ちゃん、援護は?」

 

「ん~、今はパス。フィーもライバルの相手に集中しなさいな」

 

そう答えるラトの眼は完全にやる気満々だった。

 

「……ライバルじゃない…」

 

「なんですって!? 私は眼中にないとでも!?」

 

「……そこまで言ってない…」

 

こっちはこっちで妙に息が合っている。

 

「一応、聞いとくが…拒否権は?」

 

「そんなんないに決まってんじゃん♪」

 

良い笑顔でラトは忍の言葉を否定する。

 

「(やるしか、ないか…)」

 

ここまで来たらやるしかないと判断した忍も臨戦態勢に移行するのだった。

 

 

こうして幕を開けた学年合同授業。

はたして、ラトの実力とは?

そして、シルフィーとラピスの戦いは?



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第五十八話『学園最強の姉妹と名門少女』

第47無人世界で行われているフィクシス魔法学園の学年合同授業。

 

開始後、間もなくして忍は交戦中だったラピスとスフィーリア姉妹の戦闘を影から見ていたが、簡単に探知されて姿を見せざるを得ない状況に立たされてしまった。

 

「正直な話…シノブってグラフハイトを手加減で倒したでしょ?」

 

「ッ……何のことかな?」

 

一瞬だけ眉を顰める忍の反応を見て…

 

「白を切るんだぁ。まぁ、あたしくらいしか気づいてないっぽかったからいいけど…」

 

笑顔のままラトはそんなことを言う。

 

「(まさか、俺の正体がバレた? いや、そんなはずはないか…なら、この間の不良達を相手した時か? あの時は確かに匂いで見つけてはいたが、そのまま気付かぬ振りをして帰ったしな…)」

 

不良グループを相手した時のことを思い出すが、少しだけ自身の魔力変換資質を発揮しただけで終わったので、それだけでは手加減してるという確証にはならないはずだ。

 

「(なら、ブラフ? いや、だが…ラトは何か確信してる様にも見える。その根拠はなんだ?)」

 

考えても答えが出ない以上、この問答に意味はないと判断した忍は…

 

「参考までにそう思う根拠を聞いてもいいか?」

 

ラトに直接聞くことにした。

 

「根拠? う~ん、そうだな…」

 

ラトは腕を組んで少し考える素振りを見せると…

 

「なんていうのかな? シノブの戦い方には無駄がないというか、敢えて無駄を演じてるみたいな…あたしから見てちょっとした違和感があってね? あとは、あたしの勘かな?」

 

その答えを聞き、忍は…

 

「(この姉妹…勘とか、なんとなくで俺の予測を超えてきたのか?)」

 

頭が痛くなる思いだった。

 

「もういいでしょ? さ、早く始めようよ♪」

 

そう言ってその場で軽いステップを踏むラトだった。

 

「(なんか嬉々としてるな…)」

 

そう思いながら忍も軽くステップを踏む。

 

「それじゃあ、いっくよぉ~!」

 

ダンッ!

 

足を踏み出す瞬間に魔力で足を瞬間強化し、ほぼ一歩で忍との間合いを詰める。

 

「ッ!」

 

一気に詰め寄られた忍は…

 

「シールド!」

 

古代ベルカ式の防御魔法陣を即座に左手から展開してラトの打撃に備えた。

 

「ブレイク・フィスト!」

 

ガッ!

バリンッ!!

 

ラトの打撃で忍のシールドが簡単に砕ける。

 

「なっ?!」

 

その光景に流石の忍も驚く。

 

「まだまだぁ!!」

 

忍に避ける暇を与えないように打撃の連打を加えようとする。

 

「ちぃっ!」

 

が、忍は理力の型の瞬間予知を用いてその連打を回避してみせる。

 

「あはっ♪ これ、避けちゃうんだ?」

 

心底楽しそうにラトは忍に尋ねる。

 

「(戦闘狂…って訳ではなさそうだ。本当に楽しんでるのか?)」

 

答える余裕が無い様子で忍はラトの心境を分析しようとしていた。

 

「じゃあ、これは?」

 

ブンッ!

 

連打から一転、後ろ回し蹴りを放っていた。

 

「(切り替えが速い!)」

 

腕をクロスしてラト後ろ回し蹴りを受けると、その勢いを利用して少し後退する。

 

「あれ? 切り返してこないの?」

 

忍の切り返しを期待してたような発言と共に首を傾げる。

 

「(受けてわかった。ラトはインパクト時の魔力操作が上手いんだ。それに加えて格闘センスも悪くない…厄介な相手だ…)」

 

忍はさっきの攻防でラトという少女の戦闘スタイルを分析していた。

それでわかったことはいくつかある。

 

まずは打撃の当たる瞬間、つまりはインパクト時、最小限の魔力を最大限に活かす形で強化・放出していると考えられる。

これはイッセーが禁手状態で見せる龍気による拳打に近いかもしれない。

それをラトは自分の感覚で行っており、その格闘センスは侮れないものがある。

その証拠に先ほど忍のシールドを容易に破壊したのが良い例である。

 

次に魔力による身体強化。

前衛向きで、尚且つ彼女の戦闘スタイルに合ったスピードと手数を重視した強化に割り振っている。

そういう点では忍とラトは似ているのかもしれない。

 

「(まだ全部を見たわけじゃないが、それでも前衛として手強いのは確かか…)」

 

そう考えながら忍は魔力を左手に集中させる。

 

「お? 来る?」

 

忍から流れる魔力を感知したのか、ラトが身構える。

 

「ブリザード・ファング!」

 

忍の十八番である中距離拡散型砲撃を放つ。

 

「中距離!?」

 

今度はラトが驚く番だった。

堪らずその場から下がると…

 

シュゥゥ…

 

着弾した岩場が凍り付いていく。

 

「しかも凍結効果付きって!?」

 

それでも襲ってくる中距離拡散型砲撃をバリアを張って凌いでいく。

 

「(ホントに古代ベルカなの? 近代の間違いじゃ…)」

 

ラトがそう思うのも無理はなく、本来なら古代ベルカ式は対人戦闘や近接系を最も得意とする魔法体系。

広域攻撃魔法や支援特化デバイスなども存在するが、あくまでもそれは一部の例外だろう。

それを忍は古代ベルカ式でありながら本来不得手であるはずの中距離拡散型の砲撃を撃ってきたのだ。

それ故にラトは自分と同じ近代ベルカ式ではないかと疑った。

 

「(でもさっき見たシールドは間違いなく古代ベルカ式だったような気もするし…)」

 

自分で壊した忍のシールドを思い出しながらラトは頭を捻った。

 

「(………あ~もう、細かいことは後で考えよ!)」

 

考えるのを放棄したラトはバリアを張ったまま忍へと突っ込む。

 

「(そもそも考えるのはあたしの担当じゃないしね)」

 

そう考えながら凍り付いたバリアを前に飛ばして空に跳ぶ。

 

「上か!」

 

それを匂いで察知した忍も空へと跳び…

 

「はぁッ!」

 

「てやっ!」

 

互いに魔力を纏わせた拳をぶつける。

 

 

 

忍とラトが戦っている頃…

 

「お姉ちゃん…」

 

その様子を横目に見ながらシルフィーがラピスとの魔法合戦を行っていた。

 

「よそ見とはいい度胸ですね!」

 

ミッドチルダ式の魔法陣を足元に展開したラピスが純粋魔力砲撃を放つ。

 

「………プロテクション」

 

それをシルフィーは左手に展開した魔力バリアで防ぐ。

 

「……ライト・シューター、行って」

 

さらに右手から小さな魔力弾をいくつか生成し、それをラピスに向けて発射する。

 

「くっ…フロスト・ガード!」

 

足元に広がる水場を利用し、冷気の壁を作って魔力弾を防いでいく。

 

「相変わらず、手数が多いですね」

 

「……あなたが一辺倒過ぎるだけ」

 

シルフィーの言う通り、ラピスの魔法は必ず凍結属性が付与されていた。

 

「名門故の視野の狭さと言いたいんでしょうが、こちらにも伝統の技術があります!」

 

「……誰もそこまで言ってない」

 

対するシルフィーは属性付与こそないが、複数の魔法を駆使した戦法を取っている。

 

「それはそうと…あなたはどう思いまして?」

 

「……?」

 

ラピスの言わんがしてることがわからなかった。

 

「あなたのお姉様と戦ってる転入生の事です!」

 

そう言ってラピスは再び魔力砲撃…今度は凍結効果付き…をシルフィーに目掛けて放った。

 

「……あぁ、お姉ちゃんのクラスに入った…」

 

やっと話題が飲み込めたシルフィーはその砲撃を受けるのではなく、移動魔法で回避していた。

 

「じゃあ、年上だったんですか?!」

 

「……うん」

 

ラトから話を聞いていたシルフィーはラピスの驚きの声に頷いていた。

 

「…はっ!? そういうことではありません! 先程のシールドを見てませんでしたの!」

 

自分の驚きはさておき、ラピスは忍が見せたシールドのことを言っていた。

 

「……古代ベルカ式…」

 

シルフィーも戦闘をチラ見していただけにそこは気にしていたようだ。

 

「そうです! それなのに、さっきあの人は…」

 

「……中距離砲撃を撃った。しかも拡散型で凍結効果付与の…」

 

魔法を扱う者として忍が行っていた魔法が気になっている様子だった。

 

「一体何なんですか? あの人は…?」

 

「……知らない…」

 

そう言いながら互いに魔力砲撃を放って相殺し合っていた。

 

「知らないなら直接聞き出すまでです!」

 

「……ご自由に…」

 

完全に投げやりなシルフィーの反応に…

 

「あなたは興味がないんですか!?」

 

ラピスが大声を出す。

 

「……別に…関係ないし…」

 

とは言いつつもチラリとラトの様子を見る辺り、ラトが心配なのだろうか。

 

 

 

その一方で…

 

「(魔法合戦か…姫島先輩とアバドンの試合も凄かったが、こちらも引けを取らないか…)」

 

ラトとの攻防の中、シルフィーとラピスの戦闘風景をチラ見していた忍がそんな感想を抱く。

 

「よそ見厳禁!」

 

その僅かな隙を突いてラトが拳を放つが…

 

「ふっ…!」

 

その拳を掌底で相殺しながら後ろ向きに回転し…

 

ヒュッ!

 

その勢いを利用してサマーソルトキックを決めようとする。

 

「わっぷ!?」

 

顎下にバリアを展開してダメージを軽減したものの、その衝撃によって少し頭がグラグラと揺れる。

 

スタッ!

 

それでも両者は上手く着地していた。

 

「やっておいてなんだが…大丈夫か?」

 

「うぅ~…ちょっとクラクラする~…」

 

そう言って頭を何度か叩いてからブンブンと頭を振り…

 

「…よし、何とか大丈夫」

 

「(……ホントか?)」

 

そのあまりの回復の早さに忍が内心首を傾げていた。

 

「う~ん…それにしてもこりゃ、想像以上かも」

 

「?」

 

ラトが言わんとしてることが見当もつかず、忍はリアルでも首を傾げる。

 

「すぅ~……フィー! そろそろ援護してちょうだい!」

 

息を吸い込んだと思えば、そう大声で叫んでいた。

 

「なに…?」

 

忍が軽く驚く中、ラトの要請に…

 

「……了解」

 

応えたシルフィーが仕掛ける。

 

「……クイック・シューター」

 

高速発射された魔力弾が忍を横撃しようとしていた。

 

「ッ! エア・ステップ!」

 

周囲の空間に魔力球を散布し、それを足場に空中に逃げる。

 

「逃がさないよ!」

 

その魔力球をラトも利用して忍を追撃する。

 

「……」

 

それを見てシルフィーもラピスを無視して忍の追撃に参加するため、浮遊魔法で飛んでいく。

 

「あ、待ちなさい!」

 

それをラピスも追う。

 

「フィー!」

 

忍のエア・ステップを利用して空に上がったラトがシルフィーを呼ぶと…

 

「……フレイム・ショット」

 

シルフィーは忍とラトの間に向かって火炎弾を放っていた。

 

「(誤射?)」

 

忍はそう考えていたが…

 

「流石フィー! ジャストタイミング!」

 

ラトが拳をシルフィーのフレイム・ショットを捉え…

 

「フレイム・マグナム!」

 

無理矢理軌道を曲げた上にラトの魔力も混ぜて威力を底上げした火炎弾が忍に迫る。

 

「ッ!?」

 

その様に忍は一瞬驚いたものの…

 

「ハウリング・バスター!」

 

すぐさま反転して白銀の砲撃を放って相殺する。

 

「また砲撃!?」

 

「……本当に古代ベルカ式?」

 

魔力球の一つに着地したラトは再度驚き、ラトの隣に移動したシルフィーも疑っていた。

 

「ちょっと、そこの転入生!」

 

そこへラピスまで乱入する。

 

「ラピスちゃんか。あの時は助かったよ」

 

お礼をちゃんとしてなかったと思い、忍はその場で礼を言うが…

 

「そんなことよりも…あなた、年上だったんですね! しかも古代ベルカ式で砲撃魔法だなんて…!」

 

「(後半はともかく、前半はそこなのか?)」

 

後半の疑問はともかくとして前半のことは特に気にしてなかったりする。

 

「大事なことです! まさか、先輩だったとは…」

 

「別に口調に関して俺は気にしないけど…」

 

そう言う忍だが…

 

「そういう問題ではありません!」

 

ラピスは別のことで怒っているようだった。

 

「?」

 

状況がよくわからない忍は首を傾げる。

 

「まぁ、いいです。今、大事なのはシルフィーとの戦闘ですから…」

 

「(よくわからない子だな…)」

 

そんなことを考えていると…

 

「話、終わった~?」

 

ラトが器用に魔力球に胡坐を掻いて座ってそう尋ねてくる。

 

「待ってたのか、律儀だな…」

 

「まぁね~、っと」

 

忍の言葉にラトは短く答えると、魔力球の上に立つ。

 

「でも、ラピちゃんの疑問ももっともかな? なんでシノブは古代ベルカ式を使ってるのに、砲撃とかが使えるの?」

 

そして、この場の誰もが思っていた疑問を代弁する。

 

「それは…」

 

改めて聞かれても忍には答えようがなかった。

 

「出来たものは出来た、としか言い様がないんだが…」

 

そして、結論から言ってしまえばこうなってしまう。

 

「……そんなのおかしい」

 

「まったく非常識です」

 

「対人戦闘向きならまだわかるんだけどねぇ~」

 

流石に魔法学園に通ってるだけあって常識外の忍の運用法には色々と疑問が持たれていた。

 

「そこまで言われてもなぁ…」

 

頭を掻いて困ったというアピールをする。

 

「ま、細かい詮索は後にして続きしない?」

 

いち早く考えるのを放棄したラトがそう切り出す。

 

「(結局、あとで詮索されるのな…)」

 

そう思った忍は足元の魔力球を消し去って地面に降下する。

 

「あ、逃げる気!?」

 

それを追ってラト、それをさらに追ってシルフィーとラピスも降下する。

 

「フィー!」

 

「……スターダスト・レボリューション」

 

話し込んでる間にチャージしてたのか広域対応型の砲撃魔法を忍へと放っていた。

 

「マジか!?」

 

星屑が落ちてくるような砲撃の雨に驚き、忍は思わず…

 

「神速!」

 

魔力・気・妖力をミックスさせた移動術を使ってその砲撃の雨を回避してしまった。

 

「(しまった…妖力を使っちまった…!?)」

 

気ならまだ許容範囲だったが、妖力の使用は出来るだけ控えていた忍は少し後悔した。

 

「(気付かれ…たか?)」

 

あまりにも速い移動術によって広域砲撃魔法を回避したため、忍は少し焦る。

 

「……なに、今の…?」

 

「移動系、ですよね?」

 

魔法に敏感なシルフィーとラピスが困惑したような表情になっている。

 

「あれを避けちゃうんだ…魔力を速さに割り振り、ってわりにフィーとラピちゃんの様子が変か。何かしたのかな?」

 

2人の様子を見たラトも少なからず警戒しているようだった。

 

「(妖力の存在までは知らなかったか。だとしても違和感は確実に覚えられたよな…)」

 

一先ずはバレてないと思い、ホッとした忍だが、妖力を使った時の違和感が伝わってるのではないかと考える。

 

スタッ!

 

忍よりも少し遅れてラトも着地し、シルフィーもラトの隣に、ラピスは距離を取って忍の反対側くらいの位置にそれぞれ着地していた。

 

「(さて、どうしたものか…)」

 

次の手を考えていると…

 

「あ、紅神さん」

 

ティラミスとまたも遭遇していた。

 

「イリスちゃんか。今日はよく会うな」

 

「そうですね」

 

さっきの緊張感は何処へやら何とも和やかな会話を繰り広げてしまった。

 

「……局員の人?」

 

ティラミスの服装を見てシルフィーが首を傾げる。

 

「知り合い?」

 

親しそうに話してる様子からラトが尋ねる。

 

「あぁ、ちょっとな」

 

忍は手短にそう答えた。

 

「こんにちは。フィクシス魔法学園も面白い催しをするんですね」

 

マイペース気味にティラミスはその場の皆に挨拶していた。

 

「なんか調子狂うな…」

 

ティラミスのマイペース気味な発言にラトがそう漏らす。

 

そんな中…

 

「……?」

 

忍が周囲の気配が妙に静かなのを気にしていた。

 

「(なんだ? 急に静かになったような…)」

 

距離があるためにわかりづらいせいもあるのだが、周囲から感じていた他の生徒達の戦いの空気を再度嗅ぐように確かめると…

 

「(気のせい…? いや、この匂いの感覚には覚えが…!)」

 

過去、明幸邸の夜に感じたあの気配が周囲に漂い始めたことに気付く。

 

「ッ!!」

 

それに気付いた瞬間…

 

「四重結界!!」

 

この後の事など、あとで考えると言わんが如く魔気霊妖の力を収束した結界を周囲に張り巡らせる。

 

「紅神さん?」

 

「シノブ?」

 

「……なに、この壁?」

 

「どういうつもりですか!?」

 

いきなりのことにティラミスとラトは忍を見、シルフィーは忍の張った結界から感じる異質な力に眉を顰め、ラピスは忍に怒鳴っていた。

 

「話は後だ! "ティラミス"、他の局員に連絡して生徒達の避難を要請してくれ!」

 

それに怒鳴り返すようにして忍はティラミスにそんな要請をしてからネクサスを素早く起動させて制服姿からバリアジャケット姿になる。

 

「は、はい?」

 

いきなり呼び捨てにされたこともそうだが、突然の要請にティラミスは鳩が豆鉄砲を食ったような反応になってしまう。

 

「あり? 急に本気になったの? それならとそうと言ってくれれば…」

 

ラトが茶化すようにそう言っていると…

 

「……何か、来る?」

 

シルフィーが四重結界の外を見て呟く。

 

「ちっ!!」

 

その声に反応して忍が舌打ちしながら魔力と妖力をミックスさせて球体状に形成していく。

 

「ハウリング・デバスター!!」

 

シルフィーの見ていた方向に向かって砲撃を放つと、砲撃は壁をすり抜けていき…

 

カッ!!

チュドォォンッ!!

 

直後に飛来してきた"何か"と衝突して爆発する。

 

「「「「ッ!?!」」」」

 

その光景にその場にした忍以外の4人が息を呑む。

 

「くっ! 間に合うか!?」

 

そう叫びつつ…

 

「ネクサス、緊急事態コードを管理局の周波数に合わせて送信。生徒達の避難が最優先だ! これを聞いてる局員や教員は近場の生徒達を避難させろ! これは特務隊のシュトライクス少将からの命令だ! あと、緊急避難用に集合用の信号弾も使用しろ!」

 

ネクサスに向かってそんな命令を指示していた。

半分、嘘を混ぜているが…事態が事態なので仕方ないと忍は判断していた。

 

「シュトライクス少将って…えぇ?!」

 

忍の口から出たゼーラの名前を聞いてティラミスも流石に驚く。

 

「フィー、シュトライクス少将って…誰だっけ?」

 

「……時空管理局の現役少将の1人で学園のОBだよ」

 

呑気にそんなことを話してる姉妹を他所に…

 

『誰だ? この回線を使ったのは?』

『悪戯か? それにしては悪質過ぎるが…』

『声からして若いな…生徒か?』

 

ネクサスから聞こえる声も何とも呑気なものであった。

 

「人的被害が出る前にさっさと行動しろ! それでも大人か!!」

 

イラついた様子の忍がさらに叫んでから通信を切ると…

 

「お前ら、さっさと避難するんだ! ここは"戦場"になる!」

 

忍は目の前にいる4人にも避難するように呼びかけていた。

 

「戦場って、もうなってるでしょ?」

 

「「(コクコク)」」

 

ラトのもっともな言葉にシルフィーとラピスが頷く。

 

「そういう問題じゃねぇ!」

 

そんな問答を続けていると…

 

「あっれ~? 狼じゃん?」

 

「なんで、こんなとこにいんのさ?」

 

近くの岩場から聞き覚えのある声が二つ聞こえてきた。

 

「ッ!!」

 

そちらを振り向くと…

 

「ディーに、クーガ!」

 

そこには死神の鎌を肩に担いでしゃがみ込んでいるディーと岩場に胡坐を掻いて座ってるクーガの2人がいた。

 

「こりゃ想定外の出会いだ」

 

「だよねぇ。でも、実験には打って付けじゃね?」

 

「確かにぃ~」

 

2人してそんな会話を繰り広げていると…

 

「あ~! 前に変な放送に映ってた内の2人だ!」

 

ラトが思い出したように2人を指さして叫ぶ。

 

「あん?」

 

「なんか平凡そうな血だなぁ」

 

ディーとクーガの視線が忍の後ろにいる4人に移る。

 

「あぁ、この世界に来たって連中と管理局の人間か」

 

ポンと手を叩いてクーガがわざとらしく言う。

 

「じゃ、ちょうどいいわな」

 

そう言ってディーが死神の鎌を掲げ…

 

「量産型龍騎士兵、GO!!」

 

死神の鎌を忍の方へ向けて言い放つ。

 

「ッ!?(量産型龍騎士兵…アザゼル先生の推測が当たったか!)」

 

そして、ディーとクーガの背後より4体の龍騎士兵が姿を現す。

 

「こいつらはオリジナルの龍騎士や狼君の喰った復元率50%のクローン龍騎士よりもランクダウンした代物だけど…局員相手なら圧倒出来る実力を持ってんだよねぇ~」

 

「ま、質が落ちた分は量で補うってね。よくあること、よくあること♪」

 

クーガの説明とディーの言葉に…

 

「なんかムカつく言い方だな…」

 

「私じゃ、歯が立たないとでも…?」

 

「……でも、凄い威圧感…」

 

「わ、私が守らないと…」

 

2人の言葉にラトとラピスが反応し、シルフィーは龍騎士兵から感じる威圧感を警戒し、ティラミスは局員として生徒を守ろうとワンハンドタイプの拳銃型デバイスを起動させる。

 

ギィィンッ!!

 

その直後、龍騎士兵が四重結界を破ろうと口からブレス攻撃を放っていた。

 

「見た目はただのトカゲ人間でしょ!」

 

そう言ってラトが四重結界から抜け出すと、横から龍騎士兵の1体に殴り掛かる。

 

「ストレイト・ナックル!」

 

次のブレス攻撃の合間を狙っての攻撃であったが…

 

バシッ!!

 

龍騎士兵の尻尾がそれを阻んでいた。

 

「……お姉ちゃん!?」

 

「っ!?」

 

まさか、尻尾で弾かれるとは思ってもみなかったラトは少しの間、硬直してしまう。

 

「んじゃ、まず1人♪」

 

『グウゥゥ…』

 

ディーの合図で攻撃された龍騎士兵がラトの方を向いてブレス攻撃を放とうとする。

 

「妖華撃!!」

 

そこに再び神速を使って移動した忍がラトと龍騎士兵の間に割って入ると、妖力を主体に魔力と気をミックスさせた右拳の一撃を龍騎士兵の今にもブレスを放とうとする口内へと叩き込んでいた。

 

『グガァッ!?』

 

「爆ぜろ!」

 

そう言う忍の左手はラトの方に向けて魔力シールドを張っていた。

 

チュドオォォォンッ!!!

 

妖華撃に加えてブレスに用いていた龍気が体内で暴発し、龍騎士兵が忍を巻き込んで爆散する。

それを予期していたため、ラトの方に魔力シールドを張って爆風からラトを守っていた。

 

「シノブ!?」

 

「……先輩!?」

 

「紅神さん!?」

 

「あんなの、まともに食らったら…!?」

 

4人の悲鳴に近い声が聞こえるが…

 

「いやいや、このくらいじゃ狼君は死なないから」

 

「つか、ピンピンしてるだろうねぇ~」

 

忍と対峙したことのある2人がそのようなことを漏らす。

 

「そんなはずは…!!」

 

ラトが否定しようとした時…

 

バサァッ!!

 

爆炎の中から4対8枚の紅蓮の翼が出てくる。

 

「え…?」

 

その光景にラトは目を丸くする。

 

「悪いな、ラト…そいつらの言葉は正しい」

 

その言葉と共に爆炎が収まると…

 

「…………」

 

紅蓮冥王と化した忍が無傷で立っていた。

 

「やっぱりねぇ~」

 

「ひゃひゃひゃ♪」

 

そんな忍の様子をディーとクーガは見て笑っている。

 

「(確かにあの時よりもランクが低く感じる。クローニングを繰り返した影響か?)」

 

右拳から感じた龍騎士兵の強さに違和感を覚える。

 

「(だが、それでもティラミスみたいな一般局員が相手だと…この強さは脅威か)」

 

そう考えて残り3体の龍騎士兵を見る。

 

「(これだけじゃないはずだ。なんとかしてこの状況を打開しなければ…!)」

 

そう考える忍の背後では…

 

「シノブ…? 本当に、シノブなの…?」

 

未だ自分の眼が信じられないのか、ラトが忍の背に声を掛けていた。

 

「まったく…だからさっさと避難しろと言ったんだ」

 

やれやれと言った感じで忍がそう漏らす。

 

「まさか、四重結界から抜け出して攻撃を仕掛けるとは…その勇気は買うが、あまり無茶をするな。妹さんが悲しむぞ?」

 

そう言いながら振り返ってラトに忠告をしていると…

 

バッ!!

 

3体の龍騎士兵が忍に向かって一斉に飛び掛かってきた。

 

「シノブ!?」

 

ラトが叫ぶ中…

 

「蜘蛛の巣」

 

忍は冷静に妖力で練られた糸を背後に展開し、龍騎士兵の動きを封じていた。

 

「よっと…」

 

「わわっ!?」

 

それを確認するまでもなく、忍はラトを抱き上げると四重結界の中へと移動した。

 

「お姉ちゃん!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

ラトの身を案じてシルフィーとティラミスが駆け寄る。

 

「あ、あたしは平気だけど…」

 

「俺も平気だから心配すんな」

 

ラトを降ろすと、シルフィーがラトに抱き着く。

 

「あなた…一体何者なんですか?」

 

そこにラピスが神妙な面持ちで忍に尋ねていた。

その言葉にラト達も忍の方を見る。

 

「それを答えるのはここを乗り切ってからな」

 

そう答えると、忍は四重結界の中から再び外に出る。

 

「ディー! クーガ! この龍騎士兵達はあとどのくらい連れてきやがった!!」

 

忍がディーとクーガに怒鳴るように尋ねると、2人は顔を見合わせてからプッと噴き出し…

 

「そんなの答える訳ねぇじゃん!」

 

「自慢の鼻で確かめたらどうよ?」

 

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら2人揃ってそう言い放っていた。

 

「それもそうだな。が、今は時間が惜しいんでな…」

 

そう言うと…

 

猛牙墜衝撃(もうがついしょうげき)爆焔陣(ばくえんじん)!!」

 

魔気霊妖の力を右拳に収束し、先ほどの爆炎から吸収した熱エネルギーを追加して強化した一撃を蜘蛛の巣に捕らえている3体の龍騎士兵に纏めてぶつけていた。

 

ドゴオォォォンッ!!!

 

激しい爆発と共に3体の龍騎士兵を一網打尽にしていた。

 

「やっぱ、劣化版じゃ狼君相手には足りないか?」

 

「でも、今回は龍騎士兵の性能テストだし、こんなもんじゃね?」

 

「ま、そうだな。じゃあ、俺らはこれで失礼するわ」

 

「せいぜい頑張って残りの龍騎士兵を掃討してねぇ~♪」

 

そう言い残し、ディーとクーガはその場から消え去ってしまった。

 

「ちっ…やることやったら即時撤退かよ。相変わらず読めねぇ…」

 

忍は右拳を強く握り締めながら険しい表情をしていた。

 

しかし、ディー達の置き土産は未だ数多く残っているだろう。

この学年合同授業、無事に終わることが出来るのだろうか?



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第五十九話『出撃、特務隊』

学年合同授業の最中に起きた量産型龍騎士兵の襲撃。

この騒動にいち早く気付いた忍は即座に行動を起こす。

だが、その声は誰にも届かず、それどころか悪戯と一蹴されてしまっていた。

 

その結果…。

 

「なんだ、こいつらは!?」

「トカゲ人間!?」

「生徒達を避難させろ!」

「くそっ! さっきの非常用通信は悪戯じゃなかったってのか!?」

 

教員と局員が龍騎士兵の襲撃に遭い、負傷者が出たことでやっと動き始めた始末。

 

「な、なんなの!?」

「う、うわあぁぁぁ!?」

「きゃあああっ!!?」

 

生徒達もその光景を見て逃げ出す者が多くを占めていた。

 

「早く行け!」

「このくらい、俺達で!」

 

中には勇敢にも龍騎士兵に立ち向かおうとした生徒もいたが…

 

「ぐっ…ぁが…」

「つ、強ぇぇ…」

 

逆に返り討ちに遭って危険な状態に陥るのがほとんどであった。

 

 

 

この状況を打開すべく忍が動こうとしていた。

 

「動くにしても戦力が足りないか。くそっ!」

 

そう言いながら右拳を左手に叩き付ける。

 

龍騎士兵の数は不明。

第47無人世界という広大なフィールドの何処でどんな戦いが繰り広げられているのかも不明。

 

今の忍には圧倒的に情報が足りていない。

 

「(どうする…今の状態で情報網なんて…)」

 

匂いを確かめただけでも最低5、6ヵ所から戦いの匂いがしてくるのがわかったが、その内の一つに絞っていたら他の場所に間に合わないのは目に見えて明らかである。

 

「(それに…こいつらを置いていけるか?)」

 

他の局員に連絡を取ろうとしてるが、何が起きてるのかわからず混乱している様子の相手側にどうしようか悩んでいるティラミスの周りにラト、シルフィー、ラピスの3人がそわそわした様子でいた。

ラトはチラチラと忍を見ているが…。

 

ピピピ…

 

すると、ネクサスに通信が入る。

 

「? こんな時に何処から…?」

 

ネクサスを操作して通信に応じると…

 

『……繋がった? アンタがネクサスの所持者?』

 

通信用投影ディスプレイに表示されたのは見知らぬ少女だった。

見た目は忍よりも年下な感じで、髪は胸元辺りまで伸ばした茜色の髪に深緑色の瞳を持った幼さが残る可愛らしい顔立ちの少女である。

 

「誰だ?」

 

当然知らない少女なのでそう聞き返してしまう。

 

『あたしのことなんてどうでもいいでしょ。それよりもさっさと解析データを受け取る準備してよね、ノロマなの?』

 

初対面であるはずなのに少女は不遜な態度である。

しかし、忍は怒りの前にある単語に引っ掛かっていた。

 

「解析データ?」

 

『………………』

 

少女が無言になると、通信魔法陣の向こうからピコピコとコンソールを操作する音が聞こえてくる。

仕方なく、ネクサスを操作して情報の受信を行うと…

 

ピピッ!

 

あるデータが送られてきた。

 

「これは…!?」

 

それは第47無人世界の地図から地形データ、さらには量産型龍騎士兵達との戦闘が行われているだろう場所の予測ポイントであった。

 

『……いった?』

 

「な、なんでこの情報を…?」

 

忍が困惑していると…

 

『我が隊の優秀なオペレーターだ』

 

別の投影ディスプレイが出現すると、そこにゼーラの姿が映し出される。

 

「シュトライクス少将…!」

 

その声に困惑していたティラミス達も忍の方を見る。

 

『先日振りだな、紅神』

 

「なんで、アンタまで…?」

 

当然の疑問をぶつけてみると…

 

『なに、任務帰りに母校の催しを見学しに来たつもりだったんだが…思わぬ客が来たようだな。それにお前の発した緊急通信もキャッチしたからこの世界に立ち寄らざるを得なかった』

 

ゼーラはそう返していた。

 

「そうだったのか…」

 

『既にうちの隊員も何人か降下して事に当たっている。お前も急げ』

 

それを聞き、忍は慌てた様子で…

 

「だが、龍騎士兵の実力は普通の局員じゃ歯が立たないんだぞ?」

 

そう伝えていた。

 

が…

 

『我が特務隊を舐めてもらっては困る。この程度の雑兵を相手にして後れを取る隊員ではない』

 

ゼーラは不敵な笑みを浮かべてそう答えていた。

 

「(朝陽のこともあるし…意外とそうなのか?)」

 

朝陽の実力を知る忍もそれと同格の隊員がいるならと期待する。

 

『ともかく、お前もすぐに行動しろ。そこから一番近い場所は…』

 

「俺はアンタの部下じゃないが、形振り構ってられないか…」

 

『そういうことだ』

 

「了解だ。紅神 忍。行動を起こす!」

 

『期待しているぞ、次元辺境伯』

 

それで通信は終わり、忍はティラミス達に向き直る。

 

「聞いての通りだ。俺はこれから他の生徒や教員の方々を助けに向かう。お前達はティラミスの先導で合流支店まで行くんだ。護衛はこいつらに任せる」

 

そう言って三種のエンブレムを取り出して放り投げる。

 

「「「「?」」」」

 

その行為にラト達が首を傾げていると…

 

「セットアップ」

 

魔力石を指で弾き、エンブレムに直撃させると…

 

カッ!

 

機械で出来た紺色の鷲、朱色の虎、赤いドラゴンが現れる。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

その光景にティラミス達は驚く。

 

「イーグル、タイガー、ドラゴン。こいつらの面倒を頼む」

 

『了解』

 

『護衛対象、4名を確認』

 

『護衛任務の後は?』

 

「適当な場所に隠れてろ。お前らの存在はあまり公にする訳にもいかないからな」

 

『『『了解』』』

 

三機のドライバーに指示を出してから忍は一度人間形態に戻る。

 

「あ、あの、紅神さん…これは一体…」

 

ティラミスが今にも泣きそうな表情で忍を見る。

他の3人も少なからずドライバーに興味を示していたが…。

 

「はぁ…事情は事態が好転した後、ゆっくり話すさ…お前らだけにだが…」

 

そう言って忍はティラミスの頭を軽く撫で…

 

「真狼、解禁」

 

今度は真狼の姿となる。

 

「ワンコ?」

 

その姿を見たラトが一言漏らすと…

 

「犬じゃなく狼だ!!」

 

ブンッ!!

 

怒鳴ると同時に超高速移動でその場から姿を消してしまった。

 

「なんで怒鳴るのさ?」

 

「……さぁ?」

 

怒鳴られた意味が分からないラトにシルフィーも肩を竦めていた。

 

「と、とにかく…今は移動しましょうか」

 

気を取り直してティラミスが3人を連れて合流地点へと向かうのだった。

その護衛にドライバー三機が付きながら…、。

 

………

……

 

~戦闘地点A・草原地帯~

 

『グゥゥ…』

 

3体の龍騎士兵の前に1人の少年が立ち塞がる。

見た目は全体的にツンツンした赤い髪と黄色い瞳を持ち、まだ幼さが残るが整った顔立ちに線は細く見えるが、それなりに鍛えてることが窺える体格をした少年だ。

服装は上に黒いシャツを着て、下にベージュ色の長ズボンを穿き、その上から赤いジャケットを羽織り、両足にコンバットブーツを履いた姿をしており、両手には手の甲部分に小型の円盤状の装甲を持つオープンフィンガーグローブを着けている。

 

「お前みたいな子供が相手出来るレベルじゃないぞ?!」

 

あまりにも無謀なことだと思い、近くにいて生徒の避難誘導をしてる教員が少年に向かって叫ぶ。

 

「いいからお前らは下がってな! ここは特務隊の斬り込み隊長こと、『ジェス・ガレクトン』が出張ってやるからよ!」

 

『ジェス』と名乗った少年はそう言うと右手のオープンフィンガーグローブの手の甲にある装甲に魔力をディスク状に形成したモノを装填していた。

 

「行くぜ!」

 

ダンッ!

 

力強く踏み出すと同時に龍騎士兵の1体に迫ると…

 

「唸れ、魔拳!」

 

ドスンッ!!

 

重たい音と共に龍騎士兵の腹部に直撃する。

 

『グゥ…ッ!?』

 

その意外に重い一撃に龍騎士兵は数歩後退る。

 

「まだまだぁ!」

 

タンッと腰の左右にあるケースを叩いて色の異なるディスク(右側は赤色、左側は黄色)を取り出して空中に投げ…

 

カシャッ!

 

それを両手を伸ばしてから思いっきり引くことで空中でディスク装填すると…

 

双異拳(そういけん)・炎雷ッ!!」

 

ガッ!!

バキッ!!

 

左右から襲い掛かってきた残りの龍騎士兵2体に向かって両腕を広げるような軌道の拳打を叩き込む。

その叩き込んだ拳からは炎と雷が放出されており、龍騎士兵の甲殻を少なからず焦がしていた。

 

『『ッ!?』』

 

思わぬ攻撃に龍騎士兵も驚きながら軽く吹き飛ぶ。

 

「隊長や姉御の地獄の特訓に比べたら…こんなの楽勝だぜ!」

 

そんなことを叫んでいると…

 

ボアァッ!!×3

 

正面、右、左の三方向より火球が放たれていた。

 

「え゛…?!」

 

チュドォォン!!

 

回避する暇もなく、物の見事にジェスは三方向からの火球の直撃を喰らった。

 

「お、おい!?」

 

教員の1人がジェスへと声を掛ける。

 

「けほっ…」

 

黒焦げになって黒い煙を吐き出していた。

無駄に頑丈である。

 

「やりやがったな、この野郎ぉぉぉ!!」

 

黒焦げにされた怒りからか、ジェスは右側のオープンフィンガーグローブの装甲に2枚のディスクを一気に装填する。

 

「激・魔拳弾!!」

 

正面で体勢を崩している龍騎士兵へと右拳を突き出す。

 

ゴオォッ!!

 

龍騎士兵へと拳が当たった瞬間、拳が巨大化したような魔力の塊が撃ち出され、龍騎士兵を吹き飛ばす。

それと同時に龍騎士兵の胴体に大きな風穴を開けていた。

 

『グ、ガガ…!?!?』

 

ドサッ!!

 

倒れた龍騎士兵からは緑色の血が溢れ、地面を濡らしていた。

 

「……………あ、やっべ」

 

つい、勢いで倒してしまったが、ここは未だに避難中の生徒がいる。

今の光景を見て気分を悪くした人間がいるかもしれないし、いくら異形の者でも殺してしまっては尋問のしようがない。

そのことに今更ながら気付いたジェスは少し考えてから…

 

「ま、いっか。まだ2体もいるし」

 

なんというポジティブ(?)な思考だろうか…。

 

「「「よくねぇだろ!!?」」」

 

それを聞き、避難中だった数人の生徒と教員がツッコミを入れる。

 

「次は加減して倒さないとな」

 

そんなツッコミを無視してジェスは残った左右の2体を見比べる。

 

「さて、次はどっちだ?」

 

『『グゥゥ…』』

 

2体の龍騎士兵はジェスを狙って周囲を円状に歩き出す。

 

………

……

 

~戦闘地点B・湖畔地帯~

 

『グゥゥ…』

 

場所は変わり、湖畔地帯では4体の龍騎士兵が背中の龍翼を羽ばたかせて水面スレスレに浮かんでおり、それに対峙するように湖畔の岸にいる青年が1人いた。

見た目はうなじが隠れる程度の金髪と紅い瞳を持ち、野性味のある端正な顔立ちに中肉のように見えるが引き締まった筋肉の持ち主の青年だ。

服装は上に赤いシャツを着て、下に黒い長ズボンを穿き、その上から各所(胸部、両肩、両腕、腰部、両脛、両足)に黒い軽量型の鎧を模した騎士甲冑を装着した姿をしており、右手には片刃の長剣を握っていた。

 

「さて、どうしたもんか…」

 

青年は龍騎士兵と対峙しながら悩んでいた。

何故なら湖畔の周辺にはまだ数多くの生徒がおり、中には動けない負傷者もいるのだ。

局員の姿もあるが、その局員も負傷していてその場にいる全員を避難させるには目の前の龍騎士兵を全て倒してからとなる。

 

「(任務帰りの残業がこんな異形との戦闘なんてな。後で追加手当でも貰いたいもんだ)」

 

しかし、青年の思考は別のとこにあった。

先程、青年と龍騎士兵の間には少し小競り合いがあった。

 

「(火を吐くトカゲに水場、か…)」

 

青年が飛べないとわかると龍騎士兵は火球を空から吐くという戦法に切り替えていた。

それを如何にして攻略するかを考えていた。

 

「……よっしゃ、いっちょ賭けるか」

 

考えが纏まったらしく、青年はニヤッと笑みを浮かべる。

 

「行くぜ! カートリッジ、ダブルロード!」

 

ガシュッ!!

 

長剣の刀身を挟んで鍔に仕込まれた2連装のカートリッジが炸裂する。

 

バチバチッ!!

 

それに同調するように長剣の刀身に稲妻が発生する。

 

『ッ!!』

 

それを見て1体の龍騎士兵が火球を放とうとする。

 

「そこだ! ライトニング・サンダー!!」

 

稲妻の斬撃を龍騎士兵達が浮かぶ"水面"へと放つ。

 

「あ…全員伏せるか、防御しとけよ!」

 

斬撃を放った直後、青年は思い出したように周囲の人間に叫ぶ。

 

その結果…。

 

ジュワァァァ!!

 

水面の水が雷撃によって電気分解、それが気体と化して蒸発したように見える。

 

ゴアァッ!!

 

そこに龍騎士兵が火球を放とうとした瞬間…

 

バチッ!

チュドオォォォンッ!!!

 

気化した酸素と水素に引火し、4体の龍騎士兵達を巻き込んでの大爆発が起こる。

 

『『『『ガアアァァァァ!?!』』』』

 

思わぬダメージに龍騎士兵達は悲鳴を上げる。

 

「よし、大成功!」

 

青年はガッツポーズを決めるが…

 

「何が、"よし"だぁぁ!!」

「こっちまで死ぬかと思ったわ!!」

「危ないじゃないのよ!!」

「何考えてんのよ、このバカ!!」

「てか、忠告するの遅いわ!!」

 

危うく二次災害に繋がりそうになり、周囲の人間からは盛大な罵声が飛び交う。

 

「うっせぇ! この特務隊の『ラルフ・エスカリオン』が助けてやったんだから文句言ってんじゃねぇ!」

 

ラルフと名乗った青年はそんな罵声にそう返していた。

 

しかし…

 

『グガアアア!!』

 

龍騎士兵の怒りの咆哮が木霊する。

 

「タフな連中だな…」

 

そう言いつつラルフは新たなカートリッジを装填する。

 

「怒ってるならこっちに来いよ! 叩き落としてやっからよ!!」

 

『ガアアッ!!』

 

ラルフの挑発が伝わったのか、龍騎士兵の1体がラルフへと突撃する。

 

「もういっちょカートリッジ、ダブルロード!」

 

ガシュッ!!

ボアアアッ!!

 

今度は稲妻ではなく、真っ赤に染まる業火が刀身に灯る。

 

業騎炎斬剣(ごうきえんざんけん)ッ!!」

 

龍騎士兵の特攻を真っ向から受け…

 

斬ッ!!

 

業火の一太刀を浴びせて斬り伏せていた。

 

「次、来いや!」

 

ドゴォォンッ!!

 

斬り伏せた龍騎士兵がラルフの背後で爆発し、ラルフは次の龍騎士兵を待つ。

 

………

……

 

~戦闘地点C・山岳地帯~

 

再び場所は変わり、山岳地帯では3体の龍騎士兵がその龍翼を羽ばたかせて避難する生徒や教員達を追い掛けていた。

 

「くそっ…このままでは…!」

 

殿を務める教員が迫ってくる龍騎士兵をどうしたらいいか考えていると…

 

「クリスタル・シューター!」

 

避難する先から12個の飛来物が飛んできて龍騎士兵達へと迫る。

 

「今のは…?」

 

教員がそちらの方を向くとそこには…

 

「今の内です。早く避難を!」

 

腰まで伸ばした銀髪を赤いリボンで右側ポニーテールに結い、水色の瞳を持ち、綺麗というよりも可愛い系の顔立ちに均等の取れた標準的な体型の少女が浮かんでいた。

服装は上に白のノースリーブを着て、下に青いロングスカートを穿き、その上から青い長袖のジャケットを羽織り、両足に藍色のブーツを履いた姿をしており、その左手には魔導杖を握っている。

 

「助かった。アンタは?」

 

殿の教員が少女の元に辿り着くと、そう尋ねていた。

 

「時空管理局の特務隊所属、『シルヴィア・フューリス』三等空尉です。それよりも早く皆さんの避難誘導を」

 

「わかった。気をつけろよ!」

 

教員が走り去っていくのを確認してから…

 

「さて…私は本来、後衛役なんですが…四の五の言ってる場合でもありませんね」

 

龍騎士兵達を足止めしていた飛来物がシルヴィアの元に集まり、円状に回り始める。

 

『グゥゥ…』

 

それを見て龍騎士兵達もシルヴィアに狙いを定める。

 

『チャージ完了。いつでも撃てるぞ』

 

「わかったわ。ヴェスタ」

 

そうしてる間に魔導杖から電子音が響き、シルヴィアも頷くと魔導杖を龍騎士兵へと向け…

 

「いきます、ディバインバスター!」

 

その先端から直射型砲撃魔法を放っていた。

 

『ガァッ!!』

 

それを見て1体の龍騎士兵が前に出て腕をクロスして防御態勢を取る。

 

ゴオォォォッ!!

 

シルヴィアのディバインバスターの直撃を受け、龍騎士兵の甲殻が融解していく。

しかし、それだけで決定打にはなっていない。

 

「頑丈ですね。なら、追加です。ヴェスタ」

 

それを見てシルヴィアも追撃を行うことにした。

 

『了解。ロードカートリッジ』

 

ガシュッ!

 

カートリッジを一発消費し、12個のクリスタルを直撃を受けている龍騎士兵の周囲に3個4組の編成で配置すると…

 

「クリスタルバスター・クルセイドシフト!」

 

直射の直撃を受けている龍騎士兵へさらに別角度の四方から砲撃が放たれていき…

 

ギュイィンッ!!

 

その砲撃が龍騎士兵の急所を確実に捉え…

 

『グガッ!?!?』

 

チュドォォンッ!!

 

魔力攻撃のみで龍騎士兵は爆発していた。

 

「まず1体!」

 

『しかし、次のチャージまでの時間が惜しい。残り2体はどう攻略する?』

 

シルヴィアの声に魔導杖がそう尋ねる。

 

「こういう時に後衛って不便ね。朝陽か、ジェス、ラルフ辺りがいればもう少し作戦の幅も決まるんだけど…」

 

『そうも言ってられんからな』

 

「皆、それぞれの場所で交戦中。朝陽も向かってる最中だとは聞いてるけど…」

 

『だが、決して倒せない相手でもないことが今でのわかった。ここは敵を倒すよりも学生達の避難時間を稼ぐことに集中すべきだ』

 

「そうね。なら、上手く立ち回らないと…」

 

これからの方針が決まったのか、残り2体の龍騎士兵を睨みながら行く手を塞ぐように構える。

 

「ここから先は通しません!」

 

『グオォォッ!!』

 

シルヴィアの戦い方を本能的に感じたのか、その距離を詰めようと龍騎士兵2体は同時に迫っていた。

 

………

……

 

~戦闘地点D・森林地点(合流ポイント)~

 

さらに別の場所では一風変わった戦況を見せていた。

相対する龍騎士兵はなんと10体、対して女性を筆頭に避難してきた学生や教員、局員達の一部が戦っていた。

 

「次! 左側からの打撃後、すぐさま離脱してから砲撃!」

 

腰まで伸ばした銀髪とサファイアブルーの瞳を持ち、凛とした面持ちの綺麗な顔立ちに健康的で均等の取れた体型の女性が、まるで生徒や教員達を指導するようにして龍騎士兵との戦い方を教えていた。

服装は上にモスグリーンのノースリーブを着て、下に赤を基調にしたストライプ柄のミニスカートを穿き、頭に赤色のベレー帽を被り、首周りに赤色の長いマフラーをマント状に巻き付け、両腕に肘から手の甲までを覆う服から独立したような袖を着け、両足にショートブーツを履いた姿をしており、その右手には円柱型の柄と両端にある円錐型の穂が一体化した長さ2m程の槍を持っていた。

 

「所詮は力しか知らぬ有象無象。我らがしっかりと連携を取れば勝機はある!」

 

そう言いつつ女性自らも槍を振るい、一度に3体の龍騎士兵と戦っていた。

 

「後方は陣形を保ちつつ防御魔法に秀でた者達が魔法を展開し、避難してきた負傷者を守れ! シェーラ、そちらは任せたぞ!」

 

「は、はい!」

 

『シェーラ』と呼ばれた胸元辺りまで伸ばしたウェーブの掛かった桜色の髪とエメラルドグリーンの瞳を持ち、可愛らしい顔立ちに全体的に均等の取れた標準的な体型の少女が後方の防御結界の中で負傷者の治療を行っていた。

服装は上に白いノースリーブを着て、下に緋色のロングスカートを穿き、その上から赤い長袖のジャケットを羽織り、両足に赤いローヒールを履いた姿をしており、その両手の指全てに指輪を嵌めている。

 

「エリザさんもお気をつけて!」

 

シェーラも『エリザ』と呼んだ槍使いの女性に向かってエールを送っていた。

 

「この程度の有象無象に後れを取る、エリザベータ・アルスではない! そこ! もっと魔力を込めて砲撃を撃たんか!」

 

そう答えつつ砲撃を撃とうとしていた学生に厳しい一言を告げていた。

 

「は、はい!」

 

その学生は慌てた様子でチャージ時間を延ばしてからタイミングを見計らっていた。

 

「チャージ・タックル!」

 

そこには忍のクラスメイトであるグラフハイトの姿もあり、チャージ時間を延ばした学生のために一撃を加えていた。

 

「うむ、良い判断と攻撃だ。だが、防御にももっと注意を払え!」

 

そう言いつつエリザはグラフハイトの攻撃後に魔力弾を放ってグラフハイトを捕まえようとした龍騎士兵の手を弾いていた。

 

「ッ?! す、すみません…!」

 

「いや、その勇気には敬意を表しよう。今の内に態勢を整え直せ!」

 

「はい!」

 

エリザの援護もあり、グラフハイトは無事に後退する。

 

「(ベニガミも無事だろうか?)」

 

後退しながらグラフハイトは敗北を喫してその実力を認めた忍のことを考えていた。

 

「(こんなことにならんかったらリベンジマッチを仕掛けたものを…!)」

 

突然襲撃してきた龍騎士兵に対しての怒りも抱いていた。

 

しかしながら10体もの龍騎士兵を相手に善戦してはいるものの、学生や教員では決定打に欠けているのが現状であった。

この数をひっくり返すには…

 

………

……

 

~戦闘地点E・渓谷地帯~

 

「瞬狼斬ッ!!」

 

ギギギギンッ!!

 

渓谷の谷間を飛び交いながら龍騎士兵2体をファルゼンによって斬り伏せた後…

 

「ブリザード・ファン・エクシード!」

 

予め放っていたブリザード・ファングの着弾後収束地点をレフト・フューラーの魔力弾によって撃ち抜き、その勢いで残りの龍騎士兵3体を氷漬けにして動きを封じる。

 

「砕けろ! スパイラルマグナム!」

 

ダダダンッ!!

バリィィンッ!!

 

さらにレフト・フューラーから回転を加えた魔力弾を氷漬けになった龍騎士兵3体に見舞って粉々に砕いていた。

 

「(次は…)」

 

龍の頭部を模した目元を隠す仮面を装着した忍はネクサスに表示された戦闘地点を転々としていた。

 

「(最新情報…こんなことまで出来るのかよ…)」

 

さらにネクサスに送られてきた情報が詳細化していくのに対して忍も舌を巻いていた。

 

「(とは言え、合流ポイントが10体か…内3体を特務隊の人が相手してるとは言え残りの7体に決定打が無いのは厳しいよな。正体は仮面で隠してるし、何とかなるだろ…最悪、一撃離脱すりゃいいし…)」

 

そう考え、忍は合流ポイントへと向かうことにした。

 

「(そういや、あいつら…無事に合流ポイントに向かえたのか? 合流ポイントの状況も状況だし、いない方が楽ではあるが…)」

 

ティラミスやラト達が合流ポイントに着いたかも気にしていた。

特にラトは口が滑りそうな気がして気がならないという厄介な状況に陥りそうな予感もしていた。

 

「……行くか…」

 

仕方なしに忍は合流ポイントへと向かうのだった。

 

………

……

 

~戦闘地点D・森林地点(合流ポイント)~

 

場所は再び合流ポイントに戻る。

 

「わっ! ここにもさっきのがいるよ!」

 

「しかも10体も…!?」

 

10体の龍騎士兵がいることにラトとラピスが驚いていると…

 

「避難学生か? 戦う意志があるなら手伝うがいい」

 

未だ3体の龍騎士兵と戦うエリザがラト達に気付き、そう声を掛けていた。

 

「手伝うって…ホント!?」

 

その申し出に何故かラトは嬉しそうだった。

ちなみにドライバー達は動体反応がしたので森の出入り口付近に待機しており、この場にはいない。

 

「……お姉ちゃん…」

 

さっきやられそうになった鬱憤でも晴らしたいのだろうか、とシルフィーは考えてラトを見る。

 

「やられっぱなしは主義じゃないの!」

 

そう言ってラトは先陣を切るように苦戦中の学生達のいる方の龍騎士兵へと突撃していった。

どうもシルフィーの読みは当たったらしい。

 

「……はぁ…援護します」

 

頭を抱えつつラトの援護にシルフィーが向かう。

 

「負けてられません!」

 

シルフィーが動くとなればラピスも別の龍騎士兵へと向かっていた。

 

「え、え~と…」

 

ティラミスは困ったようにおろおろとしている。

 

「戦意無き者は下がっていろ!」

 

「は、はい!」

 

言われてティラミスもエリザ達の後方へと下がっていた。

 

「ブレイク・フィスト!」

 

戦線に加わって早々ラトは龍騎士兵の腹部に一撃を加えてから下がっていた。

 

「……ライトバスター」

 

そこにすかさずシルフィーが追撃として砲撃を放っていた。

 

「ほぉ、良い連携だ」

 

その息の合い方を見たエリザも感心していた。

 

「凍て付きなさい!」

 

ラピスはバインド魔法に凍結効果を付与して龍騎士兵の動きを封じていた。

 

「こちらもなかなかやるではないか」

 

ラピスの魔法技能も褒めている。

 

「(しかし、普通の学生や教員では決定打に欠けるか。私の一撃でも構わないが、10体というのは流石に多過ぎか…)」

 

エリザが決定打に悩んでいると…

 

「三獣合体!」

 

くぐもった声が合流ポイントに響き渡ると…

 

ジャキンッ!

 

謎の装着音と共に全身が紺色、朱色、赤色のアーマーによって彩られて複数の武装を装着した1人の戦士が現れる。

 

「サーベルバグナウ!」

 

その戦士は右腕の巨大爪装備を振るい、龍騎士兵の1体を縦に引き裂いていた。

 

『ガアァァッ!!?』

 

その一撃に龍騎士兵は木っ端微塵に粉砕される。

 

「何奴!?」

 

流石のエリザも突然の乱入者に警戒するが…

 

「ネクサス…」

 

「ッ!!」

 

その一言でエリザはゼーラから見せてもらった朝陽の報告書のことを思い出す。

 

「残りを排除する。手を貸せ」

 

「わかってる」

 

エリザの要請に戦士は頷く。

その正体は変声魔法も組み合わせてブラッドシリーズを全身に纏い、仮面も被ったままの状態の忍なのだが…。

 

「あ~! シ…」

 

纏っていたのがさっきまで一緒だったドライバーなのでラトが何か言おうとした瞬間…

 

「デュアルバスター!」

 

それに被せるように大声を出す忍はラトの背後から迫る龍騎士兵を狙い撃ちにしていた。

 

「(次、言おうとしたら当てるからな?)」

 

そして、念話で釘を刺しておく。

 

「(え~、秘密なの?)」

 

「(当たり前だ!!)」

 

ラトの不満そうな内心に忍はツッコミを入れる。

 

「ブラッドブレード!」

 

左腕の盾から二又の剣を引き抜くと…

 

キィィン…

 

音叉のような共鳴現象を引き起こしながら魔力を高めていき…

 

「ブラッドフォール!」

 

威力の増した魔力斬撃を放って龍騎士兵の1体を斬り裂いていた。

これで残り8体。

 

「これぞ、好機!」

 

忍の参戦で好機と見たエリザも仕掛ける。

 

「唸れ、ヴェルランサー!」

 

龍騎士兵の1体を踏み台に跳び上がると…

 

キュィィンッ!

 

バリアジャケットのマフラーを魔力へと変換し、槍に付与していく。

 

「ミラージュ・ストライクッ!」

 

ヒュッ!!

グサッ!!

 

『ッ!!?』

 

踏み台にした龍騎士兵にヴェルランサーを投擲し、その心臓を射抜くと…

 

「加速!」

 

近場の木の枝を蹴り、串刺しにした龍騎士兵の背後に移動すると…

 

ギンッ!!

 

ショートブーツの爪先に魔力障壁を張ってヴェルランサーの穂先を蹴って別の龍騎士兵を標的にする。

 

グサッ!!

 

『ガッ!?!?』

 

2体目にも決まると…

 

「三度目だ!」

 

同じ方法で今度はラトの背後にいて忍のデュアルバスターを受けた龍騎士兵へとヴェルランサーを蹴り飛ばしていた。

 

「「「「(怖ッ!?)」」」」

 

その攻撃方法に皆寿命が縮む気がしたとか…。

だが、これで残りは5体にまで減っていた。

 

「(このまま押し切る!)」

 

忍も負けじとブラッドブレードを構え直していた。

 

 

こうして残りの龍騎士兵も特務隊や忍の活躍によって撃破されていった。

最後の龍騎士兵が倒されたタイミングで忍も合流ポイントから一時撤退し、ドライバーを待機状態にして再合流を果たしていた。

負傷者が出たものの、幸いなことに死者は出ることが無かった。

これも特務隊が近場にいた幸運だと学生の大多数が思っていた。

 

しかし、教員や局員は知っている。

この異変にいち早く気付き、行動した者がいることを…。

それが誰かまではわからなかったが、大人として後手に回らざるを得なかったことを少なからず後悔している者が多かったとか…。

 

今回の襲撃事件は何とか無事にその幕を閉じたが、一部の人間はまだ終わってなかった。

そう…忍の正体を知った少女達の疑問に答えるべき時間が…。



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第六十話『女の修羅場(?)と眷属強化合宿』

学年合同授業で起きた量産型龍騎士兵襲撃事件。

それは特務隊の活躍によって無事収束した。

だが、特務隊以外にも動いていた者がいることを彼女達は知っている。

 

襲撃事件から一日経った昼頃のこと。

襲撃事件もあり、フィクシス魔法学園は数日間の休学になっており、生徒達や教員に一時の休息を与えていた。

その間に話すべきこともあるので、忍はミッドでの仮住まいであるマンションの一室へと少女達を招待することにしていた。

 

「適当に掛けてくれ。すぐにお茶の用意をするから」

 

そう言って忍はキッチンで人数分のお茶を用意し始める。

 

「男の子の部屋って初めてだけど、綺麗にしてるんだね~」

 

「……意外」

 

「というか、殺風景過ぎませんか?」

 

「失礼します」

 

興味津々なのかラトとラピスはあちこちを見て回り、シルフィーはテーブルの横にある座布団にちょこんと座り、ティラミスもシルフィーの向かい側の座布団に座る。

 

「粗茶ですまないが、勘弁してくれよ」

 

人数分の湯飲みに緑茶を注ぎ終えたのか、湯飲みを乗せたお盆をテーブルに置く。

 

「緑色?」

 

あまり見たことのない色のお茶だったのか、ラトが首を傾げる。

 

「俺の故郷の茶だ。美味いぞ?」

 

そう言って自分用に淹れた緑茶を一口飲む。

それを見てラトとラピスが一口飲むが…

 

「「苦っ!?」」

 

やはり慣れてないからかそんな反応を示す。

 

「でも、なんだかホッとして美味しいですね」

 

「……ん」

 

それに対してティラミスとシルフィーは緑茶を気に入ってもらえたようだ。

 

「さて…何から話したものかな」

 

お茶で一服してから忍は湯飲みをテーブルに置くと、本題に移ろうとする。

 

「「「「…………」」」」

 

忍の一言にお茶を飲んでいた4人の緊張感も高まる。

 

「そう、身構えなくていい。とは言え、事が事だからな…身構えない方がおかしいか…」

 

そう言って忍は苦笑する。

 

「じゃあさ」

 

そこでラトが声を出す。

 

「うん?」

 

「シノブって何者なの?」

 

「何者、か…難しい質問だな…」

 

ラトの質問にふむと少し考える素振りを見せてから…

 

「まず俺は人の姿をしているが…その実、人間とは程遠い存在だ。この世界の人間の言葉を借りれば…そうだな。簡単に言えば、魔獣と怪物のハーフ…いや、今は混血か。そういった類の存在だ」

 

そう答えていた。

 

「魔獣…」

 

「怪物…」

 

その言葉に襲撃事件で見せた忍の姿を思い出す。

 

「でも…リンカーコアを持って魔術も扱えてる…」

 

ラピスがそう呟くと…

 

「そうだな。それに人の言葉も介してる。まぁ、そこは翻訳魔法を使ってるが…」

 

「怪物にしては人を襲ったとかの噂も聞かないし…」

 

「そんなことする理由が俺にはない。が、他の世界には人の姿をして人を襲ったりする類の存在も確かに存在しているんだ」

 

忍の冷静過ぎる口調にティラミス達はなんとなくそれが真実なんだとどこかで感じていた。

 

「あれ? それってどっかで聞いたことあるような……なんだっけ…?」

 

「……前に起きた電波ジャックの時…」

 

ラトの疑問にシルフィーが答える。

 

「やはり、この世界でも起きてたか。アレは真実だ。信じられないかもしれないが…」

 

忍は直接見た訳ではないが、話を聞く限りそれが真実であることを知っていた。

 

「多次元世界の事は授業でもやってるからわかるけど…でも…」

 

「……人間以外の他種族の存在」

 

「流石に、信じがたいです…」

 

「でも、目の前にいるんですよね…」

 

現役学生の3人の言葉に対してティラミスは目の前の忍を見ていた。

 

「そういうこった。実際、こういうことも出来る」

 

そう言ってから忍が淡い光に包まれていく。

 

「シノブ?!」

 

「紅神さん!?」

 

その光景にラトとティラミスが驚く。

 

「大丈夫だ。ちょっとした変身魔法の類だと思えばな」

 

その瞬間、カッと光が溢れて忍がいた場所には…

 

『………』

 

黒の混ざった白銀色の毛並みと右は琥珀、左は真紅の瞳を持った大型犬かと見紛う狼の姿があった。

 

「でっかいワンコ!」

 

『だから狼だってぇの!』

 

ラトの言葉に狼こと忍がツッコミを入れる。

 

「ワンコが喋った?!」

 

狼が喋ったことにまた驚く。

 

「この声は…紅神さん?」

 

しかし、この声を聞いてティラミスは狼が忍であると気付く。

 

「え?」

 

「………」

 

ティラミスの言葉にラトは目を丸くし、シルフィーは何か仕掛けがあると思ってそこらじゅうを見回って忍を捜すが、姿が見えない。

 

「……おかしい…」

 

『目の前の狼が俺だって可能性を考えないのか?』

 

そう言うと、狼の体が光り出して今度は忍の姿に戻る。

 

「ひ、非常識です…」

 

ラピスは目の前で起きた現実をなかなか受け入れることが出来なかった。

 

「ともかく…この多次元世界には他種族も多く生存している。それは事実なんだ」

 

忍はティラミス達にそう伝えていた。

 

「他に聞きたいことはあるか?」

 

"忍が何者か?"から始まった他種族のことを話し終え、次の話題に移ろうとする。

 

「それじゃあ…」

 

「……あのデバイスのこと」

 

ラトが悩んでいるとシルフィーが代わりにドライバーのことを聞いていた。

 

「それに触れるか。一応、それなりの機密事項なんだが…」

 

「勝手に見せたのはあなたでしょうに…」

 

「それを言われるとな…」

 

緊急事態だったとは言え、見せたのはマズかったなと今更ながら後悔する忍だった。

 

「はぁ…わかった。が、あまり口外するな。これは管理局内でも扱いに困ってる代物の類だからな」

 

そう前置きをしてから待機状態のドライバーを取り出し、ネクサスからアステリアの画像も表示する。

 

「これらのデバイスは『ドライバーデバイス』と呼ばれる独自の魔力源を基に動く自立支援型デバイスのことだ。そして、俺のアステリアも元はドライバーデバイスで、それを改造して作られた『ライディングデバイス』って新機種だ」

 

「デバイス技術がそこまで進歩しているなんて聞いたことがありませんけど…」

 

時空管理局に務めているティラミスがそう言うと…

 

「あぁ、これはある次元での紛争の間で作られた"兵器"に近いデバイスだからな…」

 

「……兵器…」

 

「実際、その次元世界の技術レベルでは作製不可能だったんだが、ある奴が極秘裏に作ったものをその次元世界に大量に流してな。それが人の命をいくつも失った。その現場を俺は見聞きしたからわかる。この三機はその雛型なんだと思う」

 

「なんでそんなものをシノブが持ってるの?」

 

そこで当然の疑問が浮かび上がる。

 

「元々は…俺の伯父が所有してた物さ。その伯父は…邪狼って名乗ってて次元犯罪者だったらしいな…」

 

「「「「邪狼!?」」」」

 

その名を聞いて4人共反応を示す。

 

「傭兵、殺し屋、殺戮主義者……正直、そんなところか。実際、俺も殺されかけたしな…」

 

知ってるなら話は早いとばかりに忍はそう漏らす。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! え? つまり、シノブって邪狼の親戚?」

 

「甥に当たるな」

 

忍は冷静な口調でこれも話す。

 

「犯罪者の…親族…!」

 

「……」

 

それを聞いてかラピスとシルフィーの警戒心が増す。

 

「で、でも…殺されかけたって…」

 

穏やかな話じゃないとはわかっていてもティラミスはそう聞かざるを得なかった。

 

「ちょっと当時は敵対しててな。伯父を俺の手で殺した。その時の記憶は曖昧だが…確かな実感があるんだ…」

 

そう言ってから右瞼を触れる。

 

「その時に俺は右眼を失ってな。代わりに伯父の眼を移植されたのさ」

 

それに応えるように普段は隠している右眼の傷が浮かび上がる。

 

「っ!?」

 

「伯父の形見として右眼と伯父が使っていたドライバーを俺が使ってるんだ。その上で俺はまだ生き続けてる。俺は今、数多の屍の上に立って生きてるんだ。それだけ俺の業は深い…」

 

遠くを見るような視線を窓に向け…

 

「君達の平和を壊したくはない。これ以上、俺には関わらない方がいい。そう思って今の話をした。まぁ、それを聞いてくれない人が俺の周りには多いんだが…」

 

今は離れ離れになっている眷属達の事を思い出しながら苦笑する。

 

「それじゃあ…紅神さんは、ずっと独りで抱え続けて…?」

 

「まぁ、そうなるかな。それでも支えてくれる人達がいるから平気なんだが…」

 

「………」

 

「俺も近い内に転校手続きを済ませてこの世界から元の世界に戻るつもりだ。もう少しミッドでの魔法を修得したかったが…先の事件で少し目立ち過ぎたかもしれない。知られたのが君達だけというのは不幸中の幸いだったよ。ここでの話は忘れて、残りの人生を平穏に…」

 

そこまで言った時だった。

 

バコッ!!

 

「ぐはっ!?」

 

ラトのグーパンチが忍の顔面に炸裂する。

 

「……お姉ちゃん!?」

 

ラトの行動に妹のシルフィーも驚く。

 

「そんな話聞かされて、"はい、そうですか"って引き下がれるわけないでしょ!」

 

殴ってから忍の胸倉を掴んで引き寄せながら叫ぶように言う。

 

「ら、ラト?」

 

「そうです。こんな重大な機密を知った以上、他人事ではいられません!」

 

ティラミスも机に乗り出して忍に詰め寄る。

 

「ティラミスまで…?」

 

忍は嫌な予感がしてならなかった。

 

「あたしが共犯者になったげるから!」

 

「私もなりますから、独りで抱え込まないでください!」

 

ラトとティラミスの申し出に…

 

「ちょっ!? 正気ですか!? 相手は犯罪者の親族なんですよ!」

 

「……お姉ちゃん…」

 

ラピスとシルフィーの後輩コンビは賛成しかねている。

 

「だからってこんな悲しい話されて…ほっとけるわけないでしょ!」

 

「私も…紅神さんが悪い人とは思えません」

 

「未だ訳も分からない他種族というだけでも信用出来ません!」

 

「……今回ばかりはお姉ちゃんの考えがわからない…」

 

ここに来て4人の少女達が対立する。

 

「お、おい…」

 

忍が何か言おうにも…

 

「フィー! 人は見掛けによらないんだよ!」

 

「……だからって、安易に信用するのは危険だよ…」

 

「シルフィーの言う通りです!」

 

「でも、こうして私達に事情を話してくれたじゃないですか」

 

誰も聞く耳を持たずである。

 

「……だとしても、信用する根拠にはならない…」

 

「同感です!」

 

普段はそれほど仲良くないシルフィーとラピスがこの時ばかりは同調する。

 

「あたし達に話してくれたのに、あたし達が信じないで誰が信じてあげんのよ!」

 

「先日だって紅神さんが助けてくれたじゃありませんか」

 

ティラミスがそう言うと…

 

「……そんなの結果論で、恩着せがましい…」

 

「助けてくれとも頼んでませんし」

 

シルフィーもラピスもそう言い放っていた。

 

「フィー! ラピちゃん!」

 

2人の態度にラトが怒る。

 

「……そもそも、お姉ちゃんが考えなしに突っ込むから…」

 

「あたしが悪いっての!?」

 

「あなたも局員なんでしょ? あれくらい自分で対処出来なかったんですか?」

 

「そ、それは…」

 

話の矛先がティラミスに向くと…

 

「いい加減にしなさいよ! 2人だって結局はシノブに守られてたでしょ!」

 

ラトが後輩2人を叱咤する。

 

「……っ! お姉ちゃんが一番助けられてたくせに…」

 

「なんですって!?」

 

「……(プイッ)」

 

ラトが怒り気味の声を上げる中、シルフィーはそっぽを向く。

 

「さっきの話だって同情を引くための作り話かもしれませんよ!」

 

「それは言い過ぎです。紅神さんだって辛いはずなのに話してくれたことを…」

 

「それが狙いだったらどうするんですか?」

 

「紅神さんはそんな悪い人じゃありません!」

 

「口では何とでも言えます!」

 

ティラミスの言葉やさっきの忍の話をラピスは真っ向から否定する。

 

そうしてしばらくラトとティラミス、シルフィーとラピスの組で睨み合いが続いたが、話が好転することはなかった。

むしろ、話が(こじ)れて仲の良いスフィーリア姉妹が仲違いする結果になってしまった。

それぞれの帰路に着く頃も、ラトとシルフィーはそっぽを向き合って歩いていたとか…。

 

そして、部屋に残る忍はと言えば…

 

「あ~…また、ややこしいことになってしまった…俺が悪いんだろうな…」

 

自己嫌悪に陥っていた。

 

………

……

 

忍が4人の少女に事情を説明し終え、事態がややこしい流れになってしまった頃…。

中間テストや昇格試験の日が近づいている中、冥界のグレモリー領にあるトレーニング施設では…

 

「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」

 

智鶴がアーマー状態のスコルピアを纏って訓練していた。

スコルピアのアーマー形態はポイズンブラッドの効果もあって魔力の感受性や身体機能も向上するので、慣れておいて損はないという判断だった。

そして、その目の前にはスコルピアの武装が並んでいる。

 

「片手用の大剣、連結機構のある刀、自律移動砲台、小型バルカン砲、シザー装備、カッター、加速装備、尾型特殊兵装…さらに固有魔法」

 

それを一緒になって見ているのは…なんと雲雀だった。

 

「エクセンシェダーデバイスというのは武装が豊富ね。けど、その分はやはり使用者の負担になる。私としては主兵装は一つに絞っておき、残りは補助に回すべきだと思う訳ですが…」

 

雲雀が至極まともな意見を述べると…

 

『……お言葉ですが、我々の装備はマスターに使ってもらってこそ真価を発揮します。特に我々生物型は鎧型と違ってマスターの許可さえあれば単体での運用も可能なのです。鎧型が固有魔法のみにコアドライブを注ぎ込むのに対して、生物型は武装などにもコアドライブを注ぎます。これは無尽蔵に吸収し続ける魔力を武装などに分散させて安定させる役目も担っているからです。なので、使うならどの兵装も自由に扱える方がいいと進言します』

 

スコルピアが反論していた。

 

「人はそこまで器用には出来ない生物です。天才も努力を怠れば慢心に繋がります。無理に全てを使うよりもまずは身の丈に合った戦法を学ぶべきです」

 

『……マスターなら問題ないと思います』

 

「それを決めるのは機械ではありません」

 

『……あなたにも決める権利はないかと…』

 

「………」

 

『………』

 

ジジジジジ…!!

 

雲雀の冷たい視線とスコルピアの無機質な複眼部から火花が飛び散る。

 

「2人共、落ち着いてください」

 

そこに当事者である智鶴が口を挟む。

 

「スコルピアちゃん、気持ちは嬉しいけど…私も雲雀さんの意見に賛成なの。しぃ君の足手纏いにならないように、まずはあなたとちゃんと向き合いたいの」

 

『……マスターがそう仰るなら…』

 

智鶴に言われてスコルピアも納得したようだ。

 

「では、まずはそれぞれの武装を一つずつ使ってみてください。その上で一番使いやすい武装を軸に戦術を組み立てましょう」

 

「はい、わかりました」

 

それから智鶴は装備の一つ一つを使い、雲雀に挑んでいった。

当然ながら雲雀はかなり手加減して相手を務めている。

ちなみに一通りの装備を使い終わった頃の結論は…

 

「次元刀、でしたか? それを軸にした戦い方をすべきですね」

 

「日本刀を使ってるみたいな感覚と同じでしたから、比較的使いやすかったです」

 

そう言って次元刀を軽く振るいながら感触を確かめる。

ちょっと待て…日本刀を使う機会なんて………確かに何度か手にしてた気もする…。

 

「あとは連結機構を自由に使いこなせれば問題はないでしょう」

 

「う~ん…何を参考にしたらいいのかしら?」

 

連結機構…つまり、刀の刀身を延長して斬りつけるイメージをどうやって体得しようか智鶴は唸っていた。

 

「それもありますが、補助に回すテイルユニットやフライヤーの操作技術も向上させるべきです。アレは死角を補うためにも使えますから…」

 

追加メニューとしてフライヤーリンクシステムの操作技術の向上も並行して行うことになった。

 

「強くなる道のりは険しいですね…」

 

「当たり前です」

 

智鶴の言葉に雲雀は厳しい一言を漏らす。

 

「それでも…しぃ君の力になるなら…」

 

これも愛する忍のため、智鶴はその刃を磨くことを決意する。

 

 

 

別の場所では…

 

「こ、こうか?」

 

クリスがシアと緋鞠に指導してもらって霊力の出力方法を修得しようとしていた。

 

「はい、そのまま意識を手の平に集中してください」

 

「要は感覚の問題よ。一回でもコツを掴めばあとは楽なもんよ」

 

的確で丁寧な指導をするシアに対して抽象的な表現とどこか大雑把な緋鞠。

使い手によってここまで異なるか。

 

「………」

 

この訓練を始めてから数日ともなると、集中力も高まり次第にクリスの手に淡い光が集まり出した。

 

「(手が温かい…これが、霊力ってやつなのか…?)」

 

それを知覚した瞬間…

 

パァァ…

 

クリスの手の平に霊力の球体が出現していた。

 

「やりましたね、クリスさん」

 

「ま、素人にしては上々なんじゃない?」

 

それぞれ反応は異なるが、クリスに賛辞を送っていた。

 

「これが…忍達が使ってる力の一端…」

 

改めて駒を通して流れ込む霊力を感じていた。

 

「霊力は主に霊体や実体を持たない存在に対して有効です。また、霊力には少なからず浄化の力も備わってます」

 

「それ以外となるとあんまり効果は薄い力だけどね。だから"攻め"よりも"守り"に使うのが通例ね」

 

2人は霊力の特性を改めてクリスに教える。

 

「守るのはあんまり得意じゃねぇんだよ」

 

それを聞いてクリスはそう答えていた。

イチイバルによる広域殲滅戦を得意とするクリスに今更結界を使う気はないようだ。

 

「でも、結界術は修得しておいて損はないと思いますけど…」

 

「そうね。あったに越したことはないもの」

 

「………わぁったよ。覚えりゃいいんだろ、覚えりゃ…」

 

シアと緋鞠の言葉もあり、追加メニューとして今度は結界術を修得することになった。

 

「(忍の奴、厄介なもんを流しやがって……まぁ、結界術ってのを覚えて驚かせてやるか)」

 

ちょっとした意気込みを抱き、クリスはシアと緋鞠から結界術を教わるのだった。

 

 

 

他の場所では…

 

「むぅ…」

 

エルメスは萌莉と共に自分の属性探しをしていた。

 

「ど、どうですか…?」

 

魔力石で作った属性パネルを手に萌莉がエルメスに尋ねる。

エルメスの一族は自らの先天属性を見つけ出し、それを自分独自の魔術体系へと昇華させることで戦闘技能を修得するものである。

 

そのため、自らの先天属性探しは基本中の基本。

それを怠ればオリジナルドラゴニック式の完成は遠のいてしまうのと同義である。

 

「天空属性はわかっているんですが…他の属性がよくわからないんですよね…」

 

エルメスの母であるシルファーは『閃光』、『天空』、『幻影』の三つを合わせ持つ近接系に特化したドラゴニック式になっている。

 

「そ、そう、ですか…」

 

エルメスの問題なのだが、萌莉もつられて落ち込んでしまう。

 

『きゅ!』

 

そんな2人を励まそうと萌莉の召喚獣達が2人の周りを走り回ったりする。

 

「あ、ありがとうございます。励ましてくれてるんですね?」

 

『きゅ!』

 

同じ龍種故か、エルメスはファーストが何を言ってるのか何となくわかるらしい。

 

「みんな、も…ありがと…」

 

そう言って萌莉はサードとフィフスの頭を撫でる。

 

「(先天属性…お母様はどうやって見つけたのかしら…?)」

 

そんな考えを馳せながら徐に属性パネルの一枚を持ち上げる。

 

「そういえば、龍気だとどんな反応を示すのかしら…?」

 

ちょっとした疑問のつもりで、パネルに龍気を流してみる。

 

すると…

 

バチッ!

 

「ふぇ…?」

 

何故か、パネルがエルメスの手から独りでに弾かれてしまった。

 

「い、今、のは…?」

 

それを見ていた萌莉も驚いているようだ。

 

「先天属性…それは何も魔力に限ったことではない…?」

 

そう気づいた時、エルメスは他のパネルにも龍気を流してみた。

 

バチッ!

キィンッ!

 

弾かれるパネルもあれば、同調するような反応を示すパネルが表れ始めた。

 

「これなら…!」

 

先天属性を見つける糸口を掴み、エルメスは一気に自らの先天属性を見極めていった。

その結果…。

 

「これが…私の先天属性…」

 

手元に同調したパネルが揃う。

 

『天空』、『疾風』、『鉄壁』、『森緑』、『封印』の五つ。

 

それがエルメスの先天属性だった。

 

「や、やりましたね…!」

 

「ありがとうございます、萌莉さん! でも、まだまだこれからです。先天属性が判明してもそれを独自の魔術体系に昇華しなければなりませんから…」

 

それでも大きな一歩を踏み出したことに変わりはなく、エルメスのドラゴニック式が完成するのも時間の問題となった。

 

 

 

さらに別の場所では…

 

「…………」

 

暗七が座禅を組んで瞑想していた。

 

「(ドクターから移植された鵺の力…それをもう少し使いこなすには忍みたいに自分の深層世界に入る必要性がある)」

 

暗七が深層世界に入る中、その周りをフェイトと吹雪の2人が結界を張って待機していた。

 

「これで何回目かな?」

 

「数えるのもバカらしいわね…」

 

ここまで何度か深層世界に入って鵺と邂逅した暗七だが、その度に肉体は暴走に近い状態に陥っていた。

 

「ふぅ…相手する身にもなってほしいわね」

 

それを嬉々として相手しているのはカーネリアで、暴走した暗七の体を気絶させて意識だけを呼び戻すことを何度も行っている。

 

「きっと、あの娘が納得するまで終わらないわよ」

 

そう言いながらカーネリアは汚れた服の埃を払い、髪をサラリと梳かす。

 

ドクンッ!

 

そうこうしてる内に暗七の体が跳ねる。

 

「さてはて、今度はどう痛めつけましょうかね」

 

バキ、ボキ…

 

そう言ってカーネリアは拳を鳴らしている。

 

「あまり暗七さんの負担にならないように…」

 

「向こうがそれを望めばね」

 

フェイトの心配をカーネリアは一蹴する。

 

『シャアア…!!』

 

暗七の四肢が変異し、背中から翼も生えて一匹の獣と化す。

 

「さぁ、始めましょうか、妖怪さん。あなたの本体があなたを屈伏させるまで…!!」

 

残忍な笑みを浮かべてカーネリアが結界内に飛翔する。

 

 

 

そして、暗七の深層世界では…

 

「ナイトメア・クライシス!」

 

暗黒系魔法の波動を放つ。

 

『しつけぇんだよ!!』

 

巨躯の獣が腕の一振りで暗七の魔法を一蹴していた。

 

「ちっ!」

 

『いい加減、俺にテメェの体を明け渡しな!』

 

そう叫びながら巨躯の獣は暗七へと攻撃を仕掛ける。

 

「アンタみたいな下品の塊に明け渡すほど安くはないの」

 

そう言って暗七は右腕を異形の腕にする。

 

『その力だって俺のモノだ! だったら…』

 

「うるさいわね…もう聞き飽きたわ」

 

異形の腕を伸ばして巨躯の獣の首を掴む。

 

「私はアンタ、アンタは私…正直な話、嫌だけど…アンタが私の中に入って来た日からそういうことなのよね」

 

『ハッ! なんだ、そりゃ?』

 

「この数日…ずっと考えてたわ。アンタと戦いながらもね…」

 

『だからどうした? 俺はテメェみたいにひねくれちゃいねぇよ!』

 

「アンタは理性が薄いだけよ。でも、これならどうかしら?」

 

暗七の足元から魔法陣が伸び、自分と巨躯の獣を覆う。

 

「グラヴィタス・フォール」

 

ブゥンッ!!!

 

次第に超重力が暗七と獣を押し潰し始める。

 

『テメェ!? 正気か!?』

 

「何を慌てる必要があるの? 一緒に喰らいなさい!」

 

『このクソアマぁぁぁ!!』

 

ガガガガガ!!!

 

互いにダメージを負っていく。

 

『グゥゥ…!?!?』

 

「アンタは私の一部よ。だから力を貸しなさい!」

 

『調子に乗るなよ! 力を得るってことはテメェは俺に近くなるってことだ! その内、テメェの肉体を奪ってやるからな!!』

 

巨躯の獣の遠吠えを聞きながら…

 

「そうしたければそうしなさい。但し、怖い怖い狼の相手がアンタに出来るなら、ね…」

 

暗七は不思議と笑みを零していた。

そうして暗七の意識はブラックアウトした。

 

 

 

次に暗七が目覚めた時…

 

「…………」

 

「まったく…疲れるわね」

 

カーネリアの憎まれ口を地面に突っ伏した状態で聞いていた。

互いにボロボロの姿をしていたが…。

 

「アンタ…また盛大にやってくれたわね?」

 

「あなたが遅いのが悪いのよ?」

 

「ちっ…」

 

「坊やがなんて言うかしらね?」

 

「うるさいわよ」

 

そんな口喧嘩をしていると…

 

「2人共、大丈夫ですか?!」

 

フェイトが慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「「このくらい平気よ」」

 

口を揃えて同じことを言う暗七とカーネリア。

 

「で、でも…」

 

「どうせ聞きゃしないわよ…」

 

呆れた様子の吹雪も合流する。

 

「それで?」

 

「鵺に近くなったわ。これで前よりも力が振るえる」

 

吹雪の問いに暗七は短く答えた。

しかし、そのリスクとして暗七は常に鵺に肉体の主導権を狙われることになるが…。

 

「忍もいるし、問題ないわよ」

 

暗七はそう微笑んで呟いていた。

 

 

 

こうして、紅神眷属はそれぞれの形でレベルアップを果たしていくのであった。

次に忍と再会する時、彼女達はどう変わっているのだろうか…?

 

そして、忍は忍で目の前の問題をどう解決するのか?



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第六十一話『龍を喰らう者と天輪聖王』

駒王学園で中間テスト直前の日の事。

 

「そういや、最近忍の奴を見かけないよな…」

 

「イッセー、なんか聞いてないのかよ?」

 

「いや、何も聞いてねぇけど…」

 

変態三人組がそんな会話をしていた。

だが、その話はすぐに明らかなものとなる。

 

朝のSHRで…

 

「あ~、今日は紅神についてちょっとした知らせがある」

 

担任と共にやってきたアザゼルが開口一番そう漏らす。

 

「忍がどうかしたんすか? そういや、最近姿を見てませんでしたけど…」

 

イッセーがアザゼルに尋ねると…

 

「あぁ、あいつは今海外に留学中だ」

 

アザゼルは一言で済ませた。

 

「「「「「えええええええ!??!」」」」」

 

その言葉にクラス中がどよめく。

 

「ちょ、留学って…!?」

「中間テスト前なのに!?」

「なんで? なんで?」

「あいつ、試験免除されたのか?!」

「てか、何処に留学したんだ!?」

「明幸先輩はそれを許したのか!?」

 

クラス中からの一斉の質問に…

 

「試験は事前に受けさせた。その上で海外に行った。行き先は…ヨーロッパ辺りだな。あいつの嫁なら何とか説き伏せたらしいぞ?」

 

アザゼルは事前に用意していた適当な理由と行き先を言って、クラスを鎮めようとした

 

「マジか!?」

「なら、紅神の答案は既に教師陣の手に…?」

「つか、明幸先輩もよく許したなぁ…」

 

そんな会話があちこちで囁かれる。

 

「あいつの答案は俺が預かってるから盗んで見ようなんて思わないこった」

 

アザゼルはそう言っていた。

 

「マジかよ…あいつ何も言わずに行っちまったのかよ…」

 

その話を聞き、イッセーは軽いショックを受けていた。

 

「ま、明日は中間テストの本番だ。しっかり復習しとけよ」

 

そう言ってアザゼルが退出した。

 

………

……

 

その日の放課後。

オカ研の部室では…

 

「紅神君の留学は私も後で知ったのよ。ごめんなさいね」

 

リアスがイッセー達に謝罪していた。

ちなみに部室にグレモリー眷属+αが集まっていた。

 

「俺が口止めしてたのもあるがな。あいつの留学先はちょいと特殊だったしな」

 

まるで悪びれた様子のないアザゼルはそう言っていた。

 

「特殊? ヨーロッパじゃないんですか?」

 

アーシアの質問にアザゼルは…

 

「あいつは今、次元を越えた別世界…ミッドチルダに留学してる」

 

「「「ッ!?!?」」」

 

それを聞いて一同はかなり驚いていた。

 

「次元を越えてって…そんなことが可能なのか!?」

 

ゼノヴィアの驚き声に同調するように何人か頷いてみせる。

 

「可能にしてみせた、ってのが正直なところか。お前ら、時空管理局のゼーラは知ってるだろ? あいつの母校に忍を送り込んでミッド式の魔法を勉強させてるところだ。どんな進捗具合かは俺もわからんが…」

 

と、そこで…

 

「ゼーラと言えば、厄介な情報も仕入れた。あいつの留学中、絶魔らしき勢力の侵攻に遭ったそうだ」

 

「絶魔…確か、忍が言ってた…」

 

絶魔のは話は各勢力に通達済みだったりする。

 

「あぁ、その先兵…量産型の龍騎士兵が出張ってきたって話だ」

 

アザゼルは緊張感に満ちた表情でそう告げる。

 

「お前達クラスの強さがあれば問題はないが…一般人とか、力をかじったような人間だと歯が立たんらしい。実際、局員の何人かは病院送りにされ、生徒達にも少なからず被害が出たようだ」

 

「「「「「…………」」」」」

 

その話を聞き、全員の表情も引き締まる。

 

「試験前に言うことじゃないのは重々承知だが…心構えはしておけ。お前達は対禍の団の戦力を担ってる部分もある。だが、敵は一つの勢力だけとは限らんからな」

 

そう言い残してアザゼルはオカ研メンバーを解散させた。

 

「(先生はそのためにオーフィスを俺達に引き合わせたのかな?)」

 

忍の留学と入れ違いにやってきた人物を考えながらイッセーは思う。

 

そう、忍と入れ違いにやってきた『ある奴』とは…禍の団のトップである無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)と称される最強のドラゴン『オーフィス』であった。

忍が旅立った二日後くらいに兵藤家へと来訪してからずっとイッセー達の様子を見続けている。

その仲介にはアザゼルとヴァーリが関わっており、アザゼルは下手すれば今の立場を追われることとなる危険な賭けを行ったのだ。

 

………

……

 

駒王学園が中間テストに突入した頃、フィクシス魔法学園では…

 

「なぁ、ラト」

 

「なぁに?」

 

あの話以降、忍はラトと行動を共にするようになっていた。

 

「いい加減、妹さんと仲直りしたらだうだ?」

 

「嫌」

 

忍の言葉にラトは即答していた。

 

「そんなに意固地にならなくても…」

 

「フィーがわかってくれるまでは嫌」

 

「はぁ…」

 

何とか仲直りさせようと考えているものの、ラトも意固地になっているのかシルフィーと疎遠状態が続いていた。

そんな会話をしていると…

 

「あ…」

 

ラピスと共に歩いているシルフィーと廊下でばったり会う。

 

「「「…………」」」

 

「(き、気まずい…)」

 

重い沈黙の後…

 

「「(プイッ)」」

 

互いにそっぽを向いてラトとシルフィーは擦れ違ってしまう。

 

「(どうしたらいいんだ…)」

 

ラピスから鋭い視線を向けられながら、忍はこの状況をどう打開すべきか考えていた。

 

………

……

 

それから数日後の休日。

 

「そういえば…今日辺りだったか」

 

「何がです?」

 

「何かあるの?」

 

外でもう少し詳しい話をすべくティラミスとラトと会っていた忍が思い出したように呟き、それを2人に尋ねられていた。

 

「友人の…その、昇格試験が今日辺りだったなと思ってな」

 

「「昇格試験?」」

 

あまりピンとこない響きに2人揃って首を傾げる。

 

「前に多種族の話をしたろ? その中には神話に出てくるような天使や悪魔の存在も当然ながら実在しているんだ。だ、堕天使も加えたその三勢力は大昔の戦争でそれぞれ数を減らしてしまってな。それで悪魔は自らのチェスの駒に例えて眷属を集める少数精鋭の制度を確立したんだ」

 

「へぇ~」

 

「神話の存在が現実に…?」

 

ラトはポカンとそんな反応を示し、ティラミスも驚いていた。

 

「あぁ。で、その眷属に俺の友人が一回死にそうになり、下級悪魔として転生した。これを転生悪魔と言うんだ。だが、彼はたゆまぬ努力と数々の経験を得て今日辺りに中級悪魔になるための試験を受けることになったんだ。仲間の人と一緒にね」

 

一応、遮音結界を張って話しているので周りの人間には詳しい内容はわからないでいた。

 

「他の世界にも試験なんかあるんだねぇ~」

 

「まぁ、冥界は貴族社会が未だ根強いからな…」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ…かく言う俺も悪魔でないのに辺境伯に任命される始末だし…」

 

「「え?」」

 

忍の一言で2人はまた揃って忍を見る。

 

「貴族? シノブが…?」

 

「辺境伯って…それなりに地位が高かったような…」

 

「まぁ、まだ未成年だし…本格的な権限は成人してからだろうしな…」

 

忍は苦笑しながらそう答えていた。

 

そうしていしばらく3人で歩いていると…

 

「「「「あ…」」」」

 

また、ラピスとシルフィーのコンビに出会っていた。

この2人もまたあの話以降、よく一緒にいることが多くなったようだ。

しかも今回は忍の事情を知る者が揃い踏みとなった。

余計に空気が悪くなってしまう。

 

「(せっかく会えたんだ。ここらで関係の修復を…)」

 

忍がそう意気込んだ時だった。

 

ブゥンッ!!

 

白昼堂々、青と黒の混ざった禍々しい魔法陣が5人の足元に展開されていた。

 

「これは…?!」

「な、なに…この魔法陣…!?」

「……転移系…?」

「こんな街中で…!?」

「誰がこんなことを…!」

 

5人が一斉に周りを気にする中…

 

シュンッ!!

 

あっという間に5人の姿がその場から消えてしまった。

不思議なことに周りで騒ぐ者がいなかった。

 

「5名様、闇の世界へご案内な~い♪」

 

近場の影の中ではそんなことを言う鎌を持った少年の姿があったが、誰かに認識される前にすぐさま消えてしまっていた。

 

………

……

 

~冥界~

忍達が転移させられた場所、それは…

 

「ここは…冥界!?」

 

冥界のとあるホテルの前であった。

しかし、人の気配がまるでなく、むしろこの気配は…

 

「忍!?」

 

「イッセー君!?」

 

戦いの気配が忍の肌にヒシヒシと伝わってきていた。

そこには禁手化と化したイッセーを始め、グレモリー眷属やアザゼル、ヴァーリなどの顔触れがいた。

 

「龍を宿した狼か。これはこれは思わぬ来客だ」

 

「ッ!」

 

その声に忍が振り返ると、そこには…

 

「やぁ、狼君」

 

「曹操!」

 

禍の団・英雄派のリーダー、曹操がいた。

 

「誰の指図かは…まぁ、大体の予想はつく。彼かな…?」

 

曹操は忍が誰によって転移させられたのか予想をつけていた。

 

「な、なにが起きてんのさ!?」

「ここが、冥界…? さっきの話に出た…?」

「……冥界…?」

「誘拐か、何かですか!?」

 

忍と共に転移してきたラト達はかなり取り乱していた。

 

「なんで女連れなんだよ!?」

 

「ノヴァの野郎にまた強制転移させられたんだよ!! くそ、何とかこいつらだけでも…!!」

 

忍は何とか4人の保護を求めるが…

 

「今は状況が状況だ! お前が何とかしろ!」

 

アザゼルが一喝して戦闘態勢を整える。

 

「忍! ここは京都での結界と同じだ!」

 

「ちっ…マジかよ!」

 

その一言で忍も状況を少しだけ理解した。

つまり、霧使いの結界内で援軍は期待出来ず、ラト達の無事も忍の手に掛かっていることになる。

 

「てか、こっちも疑問なんだが…なんで敵の頭がお前らと一緒なんだよ!?」

 

匂いを察知してわかったが、忍もイッセー達側にオーフィスがいるのは理解出来なかった。

 

「内部分裂か何かか!?」

 

「こっちにも事情があんだよ!」

 

そんなことを叫び合っていると…

 

「そろそろいいかな?」

 

軽く忘れられている曹操とゲオルグが何かをしようとしていた。

 

「二天龍、龍を宿した狼、龍神…ここには龍を持つ者が豊富だからな。そろそろ頃合いと見た。ゲオルグ」

 

「わかった」

 

ゲオルグの背後には不気味な魔法陣が展開されており、そこから何かが出てきそうな雰囲気だった。

 

「噂の『龍喰者(ドラゴン・イーター)』か。一体何者なんだ? 龍殺しに特化した新手の神器使いか…新たな神滅具使いか?」

 

ヴァーリはその魔法陣を見ながら曹操に尋ねていた。

 

「違う。違うんだよ、ヴァーリ。『龍喰者』とは既に存在しているモノに俺達が勝手に付けたコードネームみたいなものさ。そして、今…それを呼ぼうじゃないか…地獄の窯の蓋を開いてね」

 

「ふっ…今この瞬間が…無限を喰らう時だ」

 

曹操とゲオルグがそう言った瞬間…

 

ズオオォォォォォ…!!!

 

魔法陣からさらに不気味な気配が湧きだしてきて…

 

「「「ッ!!?」」」

 

イッセー、ヴァーリ、忍の三者がその気配にぞっとしたものを感じ取っていた。

 

『これは…! ドラゴンに対する圧倒的な悪意…!?』

 

赤龍帝であるドライグの声も心なしか震えてるように聞こえた。

 

「な、なに…?」

「……召喚魔法陣…?」

「シノブ?」

「何か、出てくる…?」

 

4人を背後に庇いながら忍は身震いを覚えていた。

 

そして、魔法陣から現れた存在は…

 

『オオオオォォォオオォォォォォォ…』

 

上半身が堕天使、下半身は東洋の龍のような細い長い体躯に体中をがんじがらめにした拘束具、無数に突き刺さった杭、上半身を磔にした十字架、その隙間から見える血涙…と異様な姿の者だった。

 

その姿を見たアザゼルは…

 

「こ、こいつは…!? なんてものを呼びやがった…!! コキュートスの封印を解いたのか!?」

 

驚愕と憤怒の面持ちだった。

 

「曰く『神の毒』。曰く『神の悪意』。聖書に記されし神の呪いを一身に受けた天使であり、ドラゴン。今は亡き聖書の神の呪いが未だ渦巻く原初の罪…。それはエデンにいた者に禁断の果実を食わせた禁忌の存在。そして、その存在を抹消されたドラゴン……『龍喰者』・サマエルだ」

 

そんなアザゼルをよそに曹操はそう言葉を紡いでいた。

 

その存在を知らない者が多い中、アザゼルは語る。

 

蛇に化け、エデンのアダムとイヴに知恵の実を食べさせた存在。

それが聖書に記されし神の逆鱗に触れ、神は極度の蛇…ひいてはドラゴン嫌いとなった。

それが教会の書などでドラゴンが悪として描かれている由縁だとか…。

サマエルは、ドラゴンを憎悪した神の悪意、毒、呪いというものをその身に全て受けた存在。

本来は神聖であるはずの神の悪意はあり得ない。

それだけに存在そのものが猛毒。

ドラゴン以外にも影響がある上、ドラゴンを絶滅しかねない…。

だからこそ地獄の底…コキュートスの深奥で封印されていた。

故にサマエルに掛かった神の呪いは究極の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)

存在するだけで凶悪な龍殺しである、と…。

 

その話を聞き、イッセー達もかなり驚いていた。

無論、その身に龍を宿してしまった忍も例外ではない。

 

「ハーデスの野郎! 何考えてやがる…?」

 

しかし、その答えはすぐに見当がついたようだ。

 

「! ま、まさか…!」

 

「えぇ、ハーデスと交渉して幾分かの制限を設けて彼の召喚を許可してもらいましたよ」

 

「野郎! ゼウスが各勢力との協力態勢に入ったのがそんなに気に入らなかったのか…ッ!!」

 

いつもはふてぶてしいくらいのアザゼルが激昂した様子で叫んでいた。

 

「ま、時間も限られてるんで手っ取り早く行こうか。アザゼル殿、ヴァーリ、赤龍帝、狼君。彼の龍殺しは龍に対して必殺だ。それを忘れないでくれよ?」

 

そう言ってから曹操は聖槍をオーフィスへと向け…

 

「……喰らえ」

 

一言発していた。

 

その刹那…

 

バクンッ!!

 

オーフィスがいた空間が黒い球体で覆われていた。

 

「オーフィス!?」

 

その球体は如何な攻撃も寄せ付けず…

 

ゴクン…ゴクン…

 

不気味な音を立てて何かを吸い取っているようだった。

 

「ラト、ティラミス、シルフィー、ラピス! お前らは彼女の元まで下がってろ!」

 

オーフィス救出の間に忍はレイヴェルを指さし、4人に避難を警告していた。

 

「で、でも…!」

 

「いいから行け! お前らは本来この場に居てはいけない存在なんだ!」

 

ラトが何か言い掛けたが、忍はそれを最後まで言わせずに叫んだ。

 

「わ、わかりました…!」

 

「……お姉ちゃん!」

 

「行きますよ!」

 

ラトの手を引っ張ったシルフィーとラピスがティラミスの先導でレイヴェルの元に走る。

 

「さてと…これだけのメンツを相手にするんだ。俺も少し本気を見せようか」

 

そう言って曹操は聖槍をクルリと回してから…

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

静かな、しかし確かな強さを秘めた言葉を発し、曹操の背後に神々しく輝く輪後光が現れ、曹操を囲むようにボウリング並みの大きさの七つの球体が宙に浮かんで出現していた。

 

「これが『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の禁手、『|極夜なる天輪聖王の輝廻槍《ポーラーナイト・ロンギヌス・チャクラヴァルティン》』………まぁ、未だに未完成なんだけど」

 

その姿を見て…

 

「亜種か!? 『黄昏の聖槍』の今までの所有者が発現してきたのは『真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』という禁手だった!」

 

アザゼルも驚く。

 

「未完成…?」

 

曹操の言葉に疑問を持った忍は1人呟いていた。

 

「気をつけろ。あの禁手には『七宝(しっぽう)』と呼ばれる能力が備わっていて、神器としての能力が七つある。あの球体一つ一つがその具現化したものと考えていい」

 

「七つだぁ!? 二つや三つとかじゃなくて!?」

 

ヴァーリの一言にイッセーが驚く。

 

「あぁ、七つだ。とは言え、俺の知っているのは三つ…そのどれもが凶悪な能力だ。故に称される訳だ、最強の神滅具と。紛れもなく、人間の中では最強の男だよ…」

 

ヴァーリをしてそう言わしめる曹操の実力とは…。

 

「七宝が一つ、『輪宝(チャッカラタナ)』」

 

フッ!

 

七宝の一つが消えたかと思うと…

 

バギャアンッ!!

 

「エクス・デュランダルが…!?」

 

盛大な破壊音を立ててゼノヴィアの持つ複合型の聖剣が砕け散っていた。

 

「速い!?」

 

その攻撃を誰も止めることが出来なかった。

 

「輪宝の能力は武器破壊。相当な手練れでない限り回避は無理だね」

 

曹操が言葉を漏らした次の瞬間…

 

ブシャアアァァ!!

 

「かはっ!?」

 

ゼノヴィアの体から鮮血が飛び散り、ゼノヴィア自身も口から吐血していた。

 

「な、なにが起きたのよ!?」

 

「きゃあああっ!!」

 

その光景を見てラトの驚きとティラミスの悲鳴が聞こえる。

 

「ゼノヴィアさん!? いやああぁぁぁぁ!」

 

そんなゼノヴィアを泣き叫びながらアーシアが回復し始めた。

 

「テメェ!!」

 

「許さない!!」

 

それに激昂したイッセーと木場の同時攻撃を曹操は聖槍で軽く捌くと、七宝の一つをリアスと朱乃の方へと飛ばしていた。

 

「迎撃します!」

 

2人がその球体を迎撃しようとした時…

 

「弾けろ、『女宝(イッティラタナ)』」

 

球体から光が発せられ、リアスと朱乃を包み込む。

 

「この程度!」

 

そうして2人は手を突き出したまま……何も起こらなかった。

 

「女宝は異能を持つ女性の力を一定時間、完全に封じる。これも相当な手練れじゃないと無力化出来ないよ」

 

曹操はニヤリとそう説明していた。

 

「(この状況、この戦況の中で既に3人が封じられた…!)」

 

サマエルとゲオルグを守りながら、最小限の動きだけで曹操は目の前のメンツを相手にしている。

 

「ならば防衛対象を直接叩くのみ!」

 

忍に合わせるように別方向から黒歌とルフェイが魔法攻撃を放とうとする。

 

「よせ、忍!!」

 

アザゼルは止めに入ろうとするが…

 

「ゲオルグ! 狼は任せた!」

 

そう言って曹操は球体の一つを黒歌達の方に放つ。

 

「『馬宝(アッサラタナ)』、これは任意の相手を転移させる」

 

その瞬間、黒歌とルフェイは転移させられ、その攻撃方向はゼノヴィアを回復中のアーシアの元に移る。

 

「ッ!! 『龍星の騎士』!!」

 

それを見たイッセーは即座に対応し、薄い装甲の騎士状態のままアーシア達の前に出て…

 

「稲妻を…喰らえ!」

 

戦車になる時間が惜しいのか、音速の拳打で黒歌とルフェイの魔法を食い止めようとするが…

 

ズガガガガガ!!!

 

「ぐわああああ!!?」

 

サマエルとゲオルグを攻撃しようとしただけのことはあり、威力が高く音速の拳打でも食い止められずにイッセーの右腕を中心に焼け焦げる。

 

「ブリザード・ファング・エクシー…!!」

 

片や忍も得意の収束砲撃魔法紛いの攻撃を仕掛けようとした時だった。

 

『オオオォォォオオオォォォォォォッ』

 

ブゥゥンッ!!

 

「ッ!!?!?!?」

 

サマエルの咆哮と共に忍もまた黒い球体に包み込まれたかと思えば…

 

キュバンッ!!

 

すぐさま黒い球体が弾け飛び…

 

「ごぼっ!!?」

 

ベチャ…!

 

忍は何とか倒れることはなかったが、それでも片膝を着いて大量の血を口から吐き出し、それを手で押さえるので必死だった。

 

「シノブ!?」

 

「紅神さん!?」

 

それを見ていたラトとティラミスが駆け寄ろうとしたが…

 

「……ダメ…」

 

「行ったところで私達には何も出来ません…!」

 

ラトはシルフィー、ティラミスはラピスがそれぞれ手を引っ張って引き留めていた。

 

「ヴァーリ! 俺に合わせろ!」

 

「まったく…俺は単独で挑みたいというのに…!」

 

そう言いながらもヴァーリはしっかりとアザゼルに合わせて曹操に攻撃を仕掛ける。

 

「金色の龍王を纏った堕天使の総督に白龍皇が相手ともなると厄介極まりないが…これを御すれば俺は更なる高みへと至れるかもね!」

 

そう言って曹操は2人の攻撃を…特に龍気の流れを見ながら回避していた。

 

「ならば、こうだ!」

 

ヴァーリは隙を見て強大な魔力攻撃を敢行していた。

 

ギュイィィンッ!!

 

しかし、その攻撃は曹操の前に現れた球体の一つに吸い込まれてしまう。

 

「『珠宝(マニラタナ)』、襲い掛かってくる攻撃を他者に受け流す。俺でも当たれば死に、防御も難しい一撃だ。でも、受け流す手段ならあるのさ」

 

そして、吸収されたヴァーリの魔力攻撃は小猫の前方に撃ち出されていた。

 

「小猫ちゃん!!」

 

傷だらけのイッセーがそれを見て動くが、いくら騎士の速度でも間に合わない距離にあった。

 

「バカ! なんで避けないの、白音!」

 

その攻撃を受けたのは小猫を庇った黒歌だった。

 

「黒歌!? おのれ、曹操…俺の手で仲間を…!!」

 

この一連の結果にヴァーリの怒りも高まっていく。

 

「焦るな、ヴァーリ! 焦れば奴の思うつぼだぞ!」

 

そう言ってアザゼルが光の槍で曹操に攻撃を仕掛けるが…

 

カッ!!

 

曹操の右眼が金色に光り、アザゼルの足元を石化させる。

 

「っ!? メデューサの眼か?!」

 

「以前の戦いで失った右眼の代用さ。だが、これで総督の隙は作れた」

 

そう言うと曹操はアザゼルの金色の鎧を破壊しながら確実な一撃を加えていた。

 

「がはっ!?」

 

「アザゼル!? 貴様…!!」

 

親代わりだったアザゼルをやられ、ヴァーリの怒りも頂点に達したのか…

 

「我、目覚めるは…!」

 

覇龍の呪文を唱え始める。

 

「ゲオルグ!」

 

「わかってる。サマエルよ!」

 

それを察し、曹操がゲオルグに指示を出してサマエルを動かす。

 

ブゥゥンッ!!

 

「ッ!?!?」

 

『オオオォォォオオオォォォォォォッ』

 

再びサマエルの咆哮が木霊し、ヴァーリが黒い球体に包み込まれると…

 

バリィンッ!!

 

「がはっ!!?」

 

黒い球体が弾け、中にいたヴァーリも血を吐きながら倒れる。

 

「さてと…これで目ぼしい脅威はいなくなったかな? 赤龍帝、白龍皇、アザゼル総督、狼…残りは聖魔剣の木場祐斗に、ミカエルの天使、ルフェイ…あと、迷い込んだ小娘が何人かっと…」

 

曹操は指折り数えながらそんなことを言っていた。

 

「あ、でも赤龍帝はまだ少し動けるっぽいか?」

 

イッセーが多少動けることを考慮しているようだが…

 

「木場君!! 俺に合わせろ!!」

 

「忍君!?」

 

血を吐き出しながら真狼と化した忍が曹操に仕掛ける。

それに驚いたものの、木場も一太刀入れようと忍の後に続く。

 

「これは驚いた。サマエルの毒を受けてまだ立てるのかい? 君には龍騎士力も宿っているのだろう?」

 

それに驚きつつも曹操は忍と木場の攻撃を捌いていた。

 

「かはっ…テメェの、好きにさせんのが…癪なんだよ!」

 

「つまりは意地か。でも、実際のところ…俺に対抗できる人材は君と木場祐斗なんだよね。後者は力こそないが、聖魔剣の特性を変えて臨機応変に対応出来る柔軟性がある。前者は近接系でありながら万能に近い要素を持った厄介な相手だ。弱点を着かないと厳しいが…」

 

そう言って聖槍から光の刃を創り出すと…

 

「こういうのも効果的かな?」

 

光の斬撃をラト達目掛けて放っていた。

 

「ッ!!」

 

ブンッ!!

 

それを見た忍は神速でラト達の前に立つと…

 

ザシュッ!!!

 

「がぁっ!!?」

 

その身を挺してラト達を庇う。

 

「シノブ!?」

 

「紅神さん、しっかりしてください!」

 

近くで倒れそうになる忍をラトとティラミスが支える。

服を忍の血で汚しても今は気にしてる余裕が無いらしい。

 

「あの状態でも神速で動けるとは恐れ入った。が、狼は元来群れで行動し、仲間想いな動物だ。それを突けば攻略もしやすいかな?」

 

忍の行動を見ながら曹操は独りごちるようにそう呟いていた。

 

 

その後、オーフィスは球体から解放され、曹操も何を思ったのかイッセーやヴァーリ達に止めを刺すことなく1人撤退していった。

その曹操と入れ替わるようにゲオルグに召喚されるジークフリートと、ハーデスの命を受けてオーフィスを回収しに死神一団がやってくるそうだ。

 

そこで、曹操は一つのゲームを提案していた。

この空間からグレモリー眷属、ヴァーリチーム、忍達がオーフィスを死守しながら無事に抜け出せるかどうかという…。

ハーデスにオーフィスが渡れば、何が起きるかわからない状況でそのようなことがをさせるとは…。

しかし、曹操はこのくらいの危機を脱しなければ相手にする気はないという。

強者の余裕か、それとも…。

 

こうして、急遽共同戦線を張ることになった一同の運命は…?



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第六十二話『天龍として、男として、友として…』

曹操によって壊滅的なダメージを受けたグレモリー眷属、ヴァーリチーム、忍達はホテルの中間地点である30階に移動し、その階層を丸々ルフェイの強固な結界で何重にも覆い、陣地として使っていた。

 

特にダメージの大きかった忍とヴァーリはルフェイに解呪の術を掛けられていたが、それでもサマエルの毒は強力で、ちょっとやそっとじゃ解けない代物だった。

それでも最善の解呪処置をしたので、あとは本人達から呪いが抜けるのを待つしかない。

その間、忍もヴァーリも呪いの苦痛に耐えなければならないらしいが…。

 

「不甲斐ないものだな…」

 

「お互いにね」

 

そんなヴァーリと忍は同じ部屋に放り込まれていた。

同じ呪いを受けた者同士、少し話しでもしてろとアザゼルに言われていた。

 

「紅神 忍。兵藤 一誠の成長と共に君の名も聞いていた。最初に会った頃は考えてもいなかったが、君の異常な成長と力の入手を聞き、いずれは戦いとも思っていたんだが…」

 

「よしてくれ…歴代最強の白龍皇が相手とか…俺もしんどいぞ」

 

「しかし、太古の龍を喰らったのだろう?」

 

「あの時は妙な衝動に駆られただけだ。あの後、気分最悪でロキ戦に挑んだし…」

 

そこでヴァーリは…

 

「そういえば、あの時ははぐらかされたが、その時のことを聞かせてもらおうか?」

 

思い出したように尋ねる。

 

「あぁ、そういやそんなことも言ったな。手短に話すとだな…」

 

忍は復元率50%にクローニングされた龍騎士との夜の対決を話していた。

 

「………最後の方はさっきも言ったが、妙な衝動に駆られてな。そのまま、龍騎士を捕食したんだ。文字通り…この口でな」

 

そう言って自分の口を指さす。

 

「なるほど。異世界に存在した龍の血を継ぎし戦士か。絶滅していなければ戦ってみたいところだったが…」

 

「言うと思ったよ。でも、そのせいでこうして呪いに犯されてる訳だが…」

 

「力の代償と言うものだ」

 

ヴァーリはそう言ってのける。

 

「そういえば、紅牙とは上手くいっているのか?」

 

「多少棘があるけど、概ね良好かな? 未来の兄貴殿は悪魔嫌いもそこそこ治ってきたし、今ならアンタとも良い話し相手になるんじゃないか?」

 

「ふっ…それは少し楽しみだ。あいつともまた戦いとも思っていたからな」

 

それを聞き…

 

「戦いばかりだな…」

 

忍は呆れたように言う。

 

「それしか興味が無いのでね」

 

「そうかい…」

 

そこまで言うと…

 

「そういう君はどうなんだ? 戦いは嫌いか?」

 

「嫌い……じゃない、のかもな。俺に流れる血がそうさせるのか知らないが…でも、俺は守りたい人達がいるから戦えるんだ。今は離れ離れでも…。そして、巻き込んでしまったあの4人も無事に帰さないとならない。守るためなら、俺はこの身を犠牲に出来るよ」

 

「ふむ、よくわからないな」

 

ヴァーリは忍の言葉を理解出来ていないようだった。

 

「仲間想いの天龍なのに、そういうところはイッセー君に似て不器用なのな」

 

「俺と兵藤 一誠が似ている?」

 

その言葉にヴァーリはキョトンとする。

 

「あぁ、似てるよ。力量や考え方は違うのに、そういう不器用なところはそっくりだと俺は思うよ」

 

「俺が…?」

 

忍に言われてヴァーリは唸るように考え込んでしまった。

 

「いつかアンタにも大切な人が出来ればわかるさ…大切な人を守るために出る力ってもんが…」

 

「むぅ…」

 

ヴァーリには珍しく難しい顔で悩んでいた。

 

………

……

 

忍とヴァーリがそのような会話をしてる時、別室では…

 

「忍のこと?」

 

先の戦闘で無事だった人達が集まって脱出計画を練ろうとしていたが…

 

「うん、シノブのこと。教えてよ」

 

その中にはラト達の姿もあり、イッセー達に忍の事を尋ねていた。

 

「私達は紅神さんに会って日も浅いんです。でも、紅神さんが悪い人だとは思えません。でも…」

 

ティラミスがそう言うと…

 

「犯罪者の親族を全面的に信用なんて出来ませんから」

 

ラピスが気丈にもそう言っていた。

 

「犯罪者の親族って…忍はな!」

 

その物言いが気に入らなかったのか、イッセーがラピスに何か言おうとしたが…

 

「落ち着け、イッセー。忍も忍で中途半端な話をしちまったんだろうよ」

 

アザゼルがイッセーを宥めながらそう言う。

 

「……中途半端?」

 

アザゼルの言葉にシルフィーが首を傾げる。

 

「そ、お前さんらはあいつのことでどこまで知ってる?」

 

アザゼルに聞かれ…

 

「えっと、確か…シノブ曰く『自分は怪物と魔獣の混血』で、他種族は確かに存在しているって」

 

「魔界で辺境伯にさせられたとか…」

 

「邪狼の甥」

 

「……たくさんの業を背負って生きてきたとか…」

 

ラト、ティラミス、ラピス、シルフィーの順に忍が話してくれた内容を掻い摘んで言っていた。

 

「説明下手過ぎだな、おい…」

 

それを聞いてアザゼルは別室で寝ている忍に呆れ果てていた。

 

「時間もないが、手っ取り早く説明してやるよ…」

 

そうして、アザゼルは語り出す。

 

「まず…あいつには両親がいない」

 

「「「「え…?」」」」

 

いきなりのことに4人は驚く。

 

「正確には探してる最中だそうだ。あいつは小さい頃にある家に預けられた」

 

「そんな…」

 

ティラミスは口元を手で押さえる。

 

「ここの兵藤 一誠の死に際に際したことを切っ掛けにあいつの人生は一変した」

 

「まるで俺があいつの人生を狂わせたような言い方はやめてくださいよ…」

 

アザゼルの言葉にイッセーがツッコミを入れる。

 

「似たようなもんだろ? とにかく、あいつは変わり始めた。俺も最初の頃までは詳しくは知らないが…」

 

アザゼルが本格的に動き出したのは三大勢力の協力態勢を取り付ける会議があってからである。

それ以前の忍にはネクサスの件もあって注目はしていたようだが…。

 

「あいつの出自がわかったのは氷に覆われた次元世界でだ。あいつは女系の家の出でありながら男として生を受けた。実際、その世界では初めてのことだったらしくてな。そこからどういう経緯かは知らないが、忍はさっき言った家に預けられ、両親がいないままに育っていた」

 

「あの人に、そんな過去が…」

 

「人間誰しも多かれ少なかれ何か背負ってるもんさ」

 

ラピスが意外そうに言うのでアザゼルはそう返していた。

 

「それからあいつはこの冥界…正確にはこの疑似空間の外にある本物の冥界で『眷属の駒』というものを授かった。それとあある種族との橋渡しとして辺境伯の地位に就いたりもした。本格的な権限はまだないがな…」

 

「……それは初耳」

 

「あたしとティラちゃんは転移前に聞いたけどね…」

 

シルフィーの反応にラトはそう漏らす。

 

「眷属の駒については脱出後の落ち着いた時間に話すが、あいつの眷属集めの方針は『自分の手に届く範囲で守りたい奴等を守りたい』って理由だったかな?」

 

「忍は"全てを守りたいとは思わない。でも、自分の手の届く範囲で救える命は救いたい"、って言ってました」

 

アザゼルの説明にイッセーが補足する。

 

「そうか。それはあいつの生き様みたいなもんだな」

 

イッセーの補足にアザゼルは軽く頷く。

 

「あいつは…ある事件の最中に伯父である狼夜…お前さんらには"邪狼"と言った方が良いか? そいつと生死を賭けた戦いを繰り広げた」

 

「あ、その話は聞いた」

 

「……確か、最後は曖昧だったけど、殺した実感はあるって言ってた」

 

「右眼も…その、伯父さんのモノだったと…」

 

「あと、ドライバーとかいうデバイスも」

 

それを聞いて…

 

「その辺の話はしっかりしてんのな。ま、手間が省けていいが…」

 

アザゼルは苦笑する。

 

「それであいつは紆余曲折を経てまた別次元に渡ることになる。その時は記憶も失ってたらしくてな。その次元で右眼も移植されたらしい」

 

「そう、だったんですか…」

 

ティラミスがそう漏らす。

 

「あいつは色々と命のやり取りを経験した。その結果、今のあいつに繋がる。結果的に巻き込んじまったお前さんらのこともきっと悔やんでるはずさ」

 

アザゼルからの話を聞いた4人は…

 

「……だから、先輩は忘れて平穏にって…」

 

「だからって…無理だよ。だってあたし達はあの時、確かにシノブに助けられたんだもん…」

 

「そんな過去を持っている人なのに…私達は何も知らなかった…ただ、上辺だけ見て可哀想だと思って…」

 

「…犯罪者の親族だと決めつけて何も知ろうとしなかった…」

 

それぞれ忍に対して色々と考えることがあるようだった。

 

「ま、お前さんらはまだ若いんだから修正も効くだろ。さてと、だいぶ脱線したが、こっからの脱出作戦を立てるぞ。イッセー、お前はそこの小娘共を忍のとこに連れてってやんな」

 

「まぁ、いいですけど…」

 

こうしてイッセーは4人を連れて部屋を後にした。

忍の様子を見るついでにヴァーリの様子や黒歌達の様子も見たかったようだ。

 

 

 

忍とヴァーリのいる部屋の前で…

 

「忍は…あんまり自分の事を話す奴じゃないんだよ。ずっと独りで抱え込んじまう。そういう奴なんだ…。あいつの友人として、これだけは言える。あいつは優しい奴だ。だから、アンタらもそんな忍をちゃんと見てほしい。犯罪者の親族なんかじゃなくて…あいつ自身のことを…」

 

「「「「……………」」」」

 

そんなイッセーの言葉に4人は無言だった。

 

「じゃ、俺はちょっと寄るとこがあるから…後で様子見に来るわ」

 

そう言ってイッセーは別室の様子を見に行ってしまった。

 

「……入らないんですか?」

 

ラピスが気まずそうに言う。

 

「だって…一応は病人だし…いきなり大勢で押しかけても…」

 

ラトにしては消極的な言葉だった。

 

「し、失礼します」

 

先陣としてティラミスがそう言って扉を開けて部屋に入る。

 

「ティラミス? それにラト達も?」

 

ヴァーリと何気ない会話をしていた忍がティラミス達の登場に驚く。

 

「どうしたんだ? そんな難しい表情をして…」

 

「あ、あのさ…シノブ…」

 

ラトが何か言おうとするが言葉が出てこないようだった。

 

すると…

 

「……先輩、すみません…」

 

「申し訳ありません」

 

シルフィーとラピスの2人が忍に謝っていた。

 

「急にどうした?」

 

いきなり謝られて忍も困惑する。

 

「何も知らないのに、勝手に犯罪者の親族だと決めつけて話を聞こうともしないで…」

 

「……それで勝手に避けて、お姉ちゃん達とも喧嘩して…」

 

「フィー…」

 

そんな2人の姿を見てラトも少し考えてから…

 

「ごめん、シノブ。簡単に共犯者になるとか言って…あたし達、何もわかってなかったのに」

 

「ごめんなさい…」

 

ラトとティラミスも忍に謝っていた。

 

「ラトとティラミスまで…」

 

「さっき、アザゼルって人から色々と聞いたよ。シノブがどういう人なのか…」

 

「…そうか。それで急に……謝るのは俺の方なのにな…」

 

アザゼルやイッセーの言う通り、忍は4人を巻き込んでしまったことを悔やんでいるようだった。

 

「シノブが気にすることじゃないでしょ!」

 

「……あの転移は、誰かの作為的なものだったはずです」

 

「だから、あなたが悔やむ必要はありません」

 

「そうですよ」

 

4人はそう言ってるが…

 

「そうは言ってもだな…」

 

忍の近くにいたせいでノヴァの転移魔法陣に巻き込んでしまったようなものだから忍としては気にしない訳にもいかなかった。

 

「そうやって独りで抱え込まないでよ!」

 

「っ…」

 

ラトの言葉に忍は言葉を詰まらせる。

 

「どんな人かは知らないけど…シノブの大切な人もきっとそう思ってるよ!」

 

「……正確には人達かもしれないけど…」

 

ラトに続くようにシルフィーが呟く。

 

「………そう、だな…」

 

しばらく考えてから忍もそう呟く。

 

「もう少し、あいつらに頼ってもいいんだよな…」

 

そう言ってから…

 

「だが、今は俺しかいないんだ。お前達は必ず俺がミッドに帰すから安心してくれ」

 

忍はラト達に約束をしていた。

 

「そうじゃなくて…あたし達のことも頼ってもいいんだよ?」

 

「何かお手伝いしますから…」

 

「……出来ることをやる」

 

「覚悟は出来てます」

 

そう言う4人の瞳には確かな決意が宿っていた。

 

「お前ら…」

 

それを見て少し困ったような表情になる忍だった。

 

ちなみに…

 

「やれやれ、騒がしいことだ」

 

ヴァーリは完全に蚊帳の外だったが…。

 

………

……

 

その後、動けるまでに回復したイッセー達を中心に脱出作戦が実行されようとしていた。

 

「忍、ホントに大丈夫か?」

 

「動けるなら動いた方が楽なんだよ。これでも眷属を預かる王なんでね」

 

ダブルフューラーの調子をチェックしながら忍はイッセーにそう答える。

 

「ヴァーリと似たようなことを…」

 

イッセーはさっきヴァーリと話した時と同じことを言う忍に呆れていた。

 

「後方からの支援だけだから平気だよ。それにその方がラト達も守りやすい」

 

そう呟く忍に…

 

「あの娘達を眷属にするのか?」

 

イッセーはそう尋ねていた。

 

「さてね。それは彼女達次第かな? 彼女達が俺と共に進みたいというなら…俺はその気持ちに応えたい。でも、本心では平穏に暮らしてほしいとこなんだけどね」

 

カシャッ

 

レフト・フューラーにマガジンを装填しながら忍はそう答えていた。

 

「イッセー、そろそろ時間だぞ」

 

「あ、はい!」

 

アザゼルに呼ばれ、イッセーは部屋から出ていく。

 

「忍、生きて帰ろうぜ!」

 

「無論だ」

 

イッセーの言葉にそう返しながら忍も部屋から出る。

 

「(必ず、生きて帰る…)」

 

そう、心の中で誓い…。

 

 

 

そして、作戦が開始された。

まずはイッセーが『龍牙の僧侶』形態で、屋上と二階ホールに設置された結界の維持装置を30階の位置から砲撃で死神共々吹き飛ばす。

その後、残る駐車場の装置と死神を屠れば脱出することが出来るという寸法だった。

 

また、この最初の砲撃に合わせてルフェイの転移魔法でゼノヴィアとイリナも脱出し、事の次第を天界や冥界に報告するという大事な任務を背負っていた。

この転移には数が限られているので、一般人であるはずのラト達は一緒に行けず、むしろ彼女達の強い要望で忍の側で一緒に戦うことになってしまった。

 

作戦の次の段階…第二のイッセーの砲撃後の掃討戦での配置は…

 

前衛…アザゼル、リアス、朱乃、木場、イッセー

 

後衛…ヴァーリ、黒歌、アーシア、小猫、レイヴェル、オーフィス、忍、ティラミス、ラト、シルフィー、ラピス

 

と、後衛組が多い配置となっている。

 

「流石に攻め手が少ないとそっちに割く戦力の方が多いか」

 

前線の状況を匂いで察知しながら忍が呟く。

 

「そのための俺達だ。紅神 忍、外すなよ」

 

「アンタもな、ヴァーリ・ルシファー」

 

互いに名前を呼び合うと、ヴァーリは魔力による一撃で多数を屠る攻撃を、忍は双銃による弾数で複数を撃ち抜くスタイルでそれぞれ空中を飛び交う死神を倒していた。

共にサマエルの呪いを受けてるとは思えないほどの貢献ぶりだが…。

 

 

 

一方で、前衛では…

 

「でやぁ!!」

 

ジークフリートが連れていた死神を相手にイッセーが一気呵成に攻めていた。

 

「ッ! 赤龍帝の相手は中級の死神だというのに…ここまでのものか!」

 

その光景にジークフリートは驚愕の表情をしていた。

 

「現赤龍帝は強敵との連戦と日々の鍛錬で確実にレベルアップしてるからな。このくらいの死神程度邪束になっても敵わねぇよ。俺みたいにな」

 

そんなイッセーの横にアザゼルが降り立ち、ジークフリートに言う。

 

すると…

 

《死神を舐めてもらっては困りますな》

 

空間に歪みが生じ、そこから装飾が施されたローブを身に纏い、道化師が被るような仮面を着け、ドス黒い色の刀身の鎌を手にした死神が現れた。

 

「お前は…!」

 

《お初にお目にかかります、堕天使の総督殿。私はハーデス様にお仕えする死神の1人…プルートと申します》

 

「伝説にも残る最上級死神…! ハーデスの骸骨ジジイめ、それほどまでに本気ってことか!!」

 

《さて、何の話やら…我々はテロリストの首領であるオーフィスと結託し、同盟勢力との連携を陰から崩そうとした。それは万死に値します。しかもそれを主導したのが協力態勢を一番に唱えていたアザゼル総督とは…》

 

「ちっ…そういう筋書きか! テメェら!!」

 

プルートの話を聞き、激昂した様子のアザゼル。

 

《さて、無駄話はここまでに…偽物ということになったオーフィスを頂きましょうか》

 

そう言ってプルートがフッと消えるようにいなくなった時…

 

ギィィィンッ!!

 

「そうはさせるか!」

 

万全ではないものの、再び人工神器の禁手を解放したアザゼルがプルートとの激闘を演じ始める。

 

「さてと…それじゃあ、こっちも始めようか?」

 

既に阿修羅状態の禁手になったジークフリートがイッセーに告げる。

 

「……………」

 

イッセーが構えを取っていると、そこへ…

 

「悪いけどイッセー君。彼は僕がやるよ」

 

木場がジークフリートに敵意を向けながらやって来た。

 

木場とジークフリートの対決は複数の魔剣を持つジークフリートが有利に最初は見えた。

しかし、木場は聖魔剣から聖剣に得物を変え、龍騎士団を生み出して対抗する。

その土壇場で自身の不得手を武器にジークフリートの隙を突き、創造系神器で創造が一番困難とされる龍殺しの力を宿した聖剣でジークフリートに確実なダメージを与えていた。

 

「くっ…」

 

赤龍帝(しんゆう)がどこまでも僕を高めさせてくれる。だからこそあなたにも剣が届いたんだ」

 

「なら、これはどうかな? これでも君たちは避け切れるかい?」

 

一度態勢を立て直す意味でジークフリートはゲオルグに合図して大量の死神を呼び出し、物量で鎌を当てようと画策した。

 

「この物量は…!!」

 

流石に数を揃えられては少数のこちらが不利。

 

その時だった。

 

「せ、先生! 大変なことが起きてる!」

 

突然、イッセーがアザゼルに向かって叫んでいた。

 

「なんだ、バカ野郎! こっちは死神様と超絶バトル中だぞ! って、待てよ? この会話の流れ…!! まさか、アレか? アレなのか!!?」

 

プルートの鎌を掻い潜りながらアザゼルは興奮気味にイッセーに聞く。

 

「歴代の先輩達がリアスの乳を次の段階に進めようって言ってるんですけど…!」

 

それを聞き…

 

「よっしゃ、きたぁぁぁぁ!!! なら今すぐつつけ、揉め、触れ!! ふははははは!! うちのおっぱい夫婦が噂の乳力(にゅうパワー)を発揮させるぞ!! これがグレモリー眷属必勝のパターンだぁぁぁ!!」

 

アザゼルは狂喜乱舞した。

 

 

 

ちなみに…

 

「……は?」

 

「お、おっぱ…!?////」

 

「何言ってんの、あの人…?」

 

「下品です」

 

事情を知らないシルフィー、ティラミス、ラト、ラピスの4人娘の反応はとても冷ややかだった。

 

「(まぁ、これが普通の反応だよな…)」

 

そんなことを思いつつ忍は援護射撃を継続していた。

 

 

 

そうして、イッセーはリアスの乳に龍気を譲渡し、新たな進化を果たすのだった。

そう…それは乳のサイズをダウンさせる代わりにイッセーの龍気を回復させるという…なんとも度し難い能力の発現であった。

その力もあり、イッセーはドラゴンブラスターを連射…彼にとって耐え難い犠牲と共に死神共を葬っていた。

その結果、残るはジークフリート、ゲオルグ、プルートの3名のみ。

 

しかし、ここで事態が大きく変わる。

 

この疑似空間に英雄派も感知しなかった乱入者が現れたのだ。

その名は『シャルバ・ベルゼブブ』。

旧魔王派のトップにして前ベルゼブブの子孫の登場である。

シャルバは英雄派の1人であり、『魔獣創造』の滅神具の使い手であるレオナルドを拉致していた。

そして、能力を無理矢理解放させ、超巨大なアンチモンスターを創り出したのだ。

それも複数体…。

さらにシャルバはそのアンチモンスター達を冥界に転移させて暴れさせようと目論んでいた。

それを阻止しようにも巨大な体躯を持つアンチモンスターに通常攻撃は蚊が刺した程度にしか効かなかった。

 

アンチモンスター達が転移した後、疑似空間も崩壊を始めていた。

ジークフリートとゲオルグはレオナルドを回収すると、そのまま撤退。

しかし、その直前…プルートの姿は既に消え去っていた。

 

だが、シャルバの暴走はそれに留まらなかった。

呪いに犯されたヴァーリを一方的に攻撃しつつ、力の不安定なオーフィスを捕らえたのだった。

オーフィスを協力者の手土産にするとか…。

さらにシャルバは呪いと称し、復讐の怨嗟を冥界の子供達にも加えようとしていた。

それを見聞きしたイッセーは…

 

「俺がオーフィスを救います。ついでにシャルバの野郎をぶっ飛ばします!!」

 

そう言って1人崩壊する疑似空間に残ろうとしたが…

 

「アクエリアス、頼むよ」

 

『マスターの御心のままに』

 

何が起きるかわからない以上、1人に出来なかった忍がその満身創痍な体で援護をするために転移魔法陣から抜け出していた。

その身に白銀の鎧を身に纏ってだが…。

 

「次元を漂流していた経験のあるエクセンシェダーデバイスなら問題なく援護できるはずだ」

 

「でも、お前…」

 

「嫌な予感がするんだ。頼む」

 

「わかった。でも手は貸さねぇからな?」

 

「わかってる」

 

言葉を短めに交わすと…

 

「イッセー!」

 

「必ず戻ります!」

 

最後にイッセーはリアスとの言葉を交わし、2人はシャルバを追っていったのだった。

 

………

……

 

「まさか、貴殿のような天龍の出来損ないと、偽りの魔王が遣わした犬風情に追撃されるとは…!!」

 

「誰が犬だ! 第一、俺は魔王に忠誠を誓った覚えはないぞ!」

 

シャルバの言葉に忍が激昂する。

 

「私を追撃する理由は何だ!? 貴殿らも真なる魔王を蔑ろにするつもりか!? それともオーフィスが目的か!?」

 

そう叫ぶシャルバを見て2人は思う。

 

「(こいつ…復讐にしか意識が向いてない?)」

 

「(血筋だの覇権だの…それしか見てないのか?)」

 

シャルバの言葉からは重みが感じられないでいた。

 

「そんな薄っぺらい理屈で冥界の子供達を殺そうってのか!?」

 

「薄っぺらいだと!? 真なる魔王に言う言葉がそれか!!」

 

「あぁ、今のアンタからは薄っぺらい復讐の匂いしかしない。そんな奴が…赤龍帝に勝てるとも思えないが…」

 

その言葉にシャルバは怒り狂う。

 

「貴殿らは何もわかっていない! 今の冥界に必要なのは真なる魔王の血統とその強大な力なのだよ!!」

 

「わかってねぇのはテメェの方だ! そんなもんで子供達を殺そうだなんてとんだお門違いだ! 今から俺がテメェをぶっ飛ばす!!」

 

そう叫んだ後…

 

「我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!」

 

「無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往く! 我、紅き龍の帝王と成りて…」

 

「「「汝を、真紅に光り輝く天道へ導こうッ!!」」」

 

『Cardinal Crimson Full Drive!!!』

 

新たな呪文と共にイッセーの鎧が赤から真紅へと変わりゆく。

 

「!? なんだ、その鎧は!? 紅…!! あの忌々しい紅髪の男を連想させる…!!」

 

「勝手に言ってろ!」

 

シャルバの言葉を蹴ってイッセーが飛び出す。

 

シャルバを相手にイッセーはほとんど一方的な攻勢を見せていた。

 

「(これほどまでに差が出るか…これが底辺から這い上がってきた人間と、自らを高みと決め込んで周りを見下してきた者の違いか…)」

 

その戦いとも言えぬ一方的な光景を見て忍はそう感じていた。

 

ところが…

 

「これならどうだぁぁぁ!!」

 

シャルバが突き出した魔法陣から一本の矢が飛び出した。

 

「(この匂い!?)イッセー君、それを受けるな!?」

 

そこから漂う匂いを察知し、忍が回避を促すが…

 

「え?」

 

時既に遅し…矢はイッセーの右腕を貫いていた。

 

「ッ!?!?!」

 

「フハハハッフハハッハハ!! その矢にはサマエルの血が塗り込んである! いくら貴殿が強かろうが、魔力の程度が低い貴殿ではヴァーリのように耐えられぬだろう!! もしもの時のためにハーデスからもらい受けたヴァーリ対策だったが…よもやゴミクズ同然の貴殿に使うことになろうとは…!!」

 

イッセーの動きが一瞬、鈍ったのを見てシャルバが高笑いしながらそう言い放った。

 

「やはり、サマエルの毒か!!(これじゃあ、何のために残ったんだか…!!)」

 

一度身に受けた匂いを忘れる訳なく、忍は嫌な予感が当たってしまったことと、それを防げなかったことを悔しく思っていた。

 

しかし…

 

「うぉぉりゃぁぁぁ!!」

 

イッセーは毒を受けてるにも関わらずシャルバに向かっていた。

 

「イッセー君!?」

 

「バカな!? サマエルの毒は確実に受けたはず!!? なのに、何故動ける!?」

 

その光景に忍もシャルバも驚いていた。

 

その後、イッセーは呪いを受けた身でシャルバを圧倒し、崩壊するホテルの屋上でオーフィスに助けを乞うシャルバを追い詰めた。

最後の悪足掻きとして逃げようとしたシャルバをクリムゾンブラスターで葬り去った。

 

そうしてイッセーはオーフィスを解放し、イッセーはオーフィスと言葉を交わしてオーフィスの初めての友達となった。

あとは脱出するのみ。

 

だが…

 

「…………」

 

「イッセー君! 意識をしっかり保て! 帰るんだろ!!」

 

『狼の言う通りだ! もうすぐアザゼル達が俺達を呼ぶための龍門(ドラゴン・ゲート)を開いてくれる!』

 

オーフィスと忍に肩を借りてやっと歩けるような状態でイッセーは移動していた。

そんなイッセーを忍やドライグが必死に呼びかけていた。

 

「あ、ぁ……わぁ、って…よ…」

 

そう答えるイッセーだが、意識は朦朧としていてもはや限界に近かった。

 

「ドライグ。この者は呪いが全身に回ってる。限界」

 

それの現実をオーフィスが付きつける。

 

『わかっている! だが、こいつはいつだって立ち上がってきたんだ! そうだろう!?』

 

「そうだとも! いつでもイッセー君は立ってきた。今度も!!」

 

ドライグに応えるように忍も叫ぶ。

 

しかし、それでも…

 

「大好きだよ…リアス…………」

 

その言葉を最後にイッセーの体から意識と力が抜けていった。

 

「イッセー君? イッセー君!!」

 

忍の呼びかけに応じない。

 

「ドライグ。この者、もう…」

 

『言うな…』

 

「ドライグ、泣いてる?」

 

『…………あぁ…』

 

魂だけのドライグも悲しみに染まり…

 

「くっそぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

忍の叫び声が崩壊する空間に木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その悲しみの慟哭が引き金となり…

 

ゴオオオオォォォォォォ!!!!

 

忍から五気の濁流が溢れ出ていた。

 

『なんだ、狼から溢れ出るこの波動は…!?』

 

その波動を感じ、ドライグが驚く。

 

「うわあああああああッ!!!!」

 

叫び続ける忍の眼はそれぞれ右は漆黒、左は白銀の色に染まり、さらに眼が光り輝いていた。

 

『暴走? いや、それとは違う。なんだ!?』

 

忍の様子が尋常じゃないと悟ったドライグは困惑するばかりだった。

 

すると…

 

「? なにか、干渉する?」

 

オーフィスが何かを感じ取っていた。

 

『なに…?』

 

オーフィスの言葉にドライグは周囲の様子を窺う。

 

バチッ!

バチッ!!

 

崩壊する空間の一部…忍から溢れ出る五気が衝突する上空…がさらに歪み…

 

『グオオオオ…ッ!!!』

 

その空間が歪んだ上空に一匹の白銀色に染まる鱗を持った東洋の龍を思わせるような巨躯のドラゴンの姿が映し出されていた。

 

『なんだ、あのドラゴンは…!?』

 

「我も知らない…ドラゴン…?」

 

ドライグもオーフィスもそのドラゴンが何者なのかわからないでいた。

 

『オオオオォォォォ…ッ!!!』

 

しかし、よく見ればそのドラゴンは深い傷をあちこちに負っており、綺麗なはずの白銀の鱗が血で汚れていて苦しんでいるようにも見えた。

死の間際…なのかもしれない。

 

すると…

 

『グオオオオォォォォ…ッ!!!』

 

そのドラゴンは何を思ったのか、次元の裂け目から頭部を無理矢理押し込むようにこちら側の空間に干渉したかと思えば…

 

「あああああああ…ッ!!!」

 

未だ絶叫を続ける忍の正面まで頭を伸ばしてくると…

 

『オオオオオオ…ッ!!!』

 

その巨大な口を大きく開き…

 

『ま、待て!! 貴様、その男を…!!』

 

ドライグが何かを察した直後…

 

バクンッ!!!

 

崩壊したホテルの瓦礫ごと忍を一飲みにしていた。

 

『狼!!?』

 

「喰われた…」

 

ドライグは驚き、オーフィスも目の前で起きたことを口にしていた。

 

ジ、ジジ…!!

バチバチッ!!!

 

忍から溢れた五気の衝突が止まったため、空間が元に戻ろうとしていた。

 

ズズズ…!

 

それを感知したドラゴンも頭を引っ込め始めた。

 

『待て! 貴様は何者だ!? 何故、狼を喰った!?』

 

何事もなく去ろうとするドラゴンにドライグが問い掛けるも…

 

「ドライグ…今はこっちが優先」

 

イッセーの体を抱えてオーフィスが空間に飛び立つ。

 

『オーフィス!?』

 

何を思ってオーフィスは崩壊する空間に飛んだのか…?

 

そして、忍を喰ったドラゴンの正体とは…?

 

………

……

 

~冥界~

 

中級悪魔の昇格試験センターの転移魔法陣フロアでは…

 

『この騒ぎだというのに、わざわざ呼び出されるとは…』

 

「そう言うな。これもイッセーのバカを呼び出すためだ」

 

元龍王のタンニーン、アザゼルの持つファーブニルの玉、呪いに耐えながらもその場で協力するヴァーリによってイッセー達を呼び出すための龍門を開こうとしていた。

 

「よし、これで繋がった!」

 

ファーブニルの玉が黄金、タンニーンの体が紫、ヴァーリの体が白という具合にそれぞれ光り輝くと、目の前に展開していた巨大な魔法陣から輝きが増してくる。

 

「(イッセー君…君の力が必要だ。だから、早く帰ってきてくれ!)」

 

木場もイッセーの帰還を信じて揺るがなかった。

 

そして…

 

パァンッ!!

 

魔法陣の光が勢いよく弾け、そこに召喚していた。

 

………紅に染まる兵士の駒、8個を…

 

………………………………

 

その光景に誰もがポカンとしていた。

 

ガンッ!!

 

「バカ、野郎が…ッ!!」

 

その事態に…いち早く気付いたアザゼルが床を殴りながら絞り出すような声を上げていた。

 

「シノブは? あいつと一緒だったシノブは!?」

 

イッセーの駒しか出てこなかった以上、一緒にいた忍の安否も気になり、ラトが声を荒げる。

 

「それは…」

 

イッセーが戻らなかった事態も含め、考えがいまいち纏まらないアザゼルは何を言おうか迷っていた。

 

イッセーと忍が戻らない理由。

それは限られている。

シャルバにやられた…とは考えにくかった。

呪いを受けているとは言え、それに耐えて残っている忍や真紅の鎧と化したイッセーがシャルバに負ける道理が無かった。

 

ならば、どうしてか?

不測の事態が起きたに違いない。

しかもその事態は2人が帰ってこず、イッセーは駒のみを帰し、忍に至っては痕跡すらも残っていないので、何が起こったのかわからない状況だった。

 

しかし、これだけは言えた。

イッセーの死と、忍の謎の消失…。

これによってグレモリー眷属、並びに紅神眷属は…。



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11.龍魂復活のヒーローズ
第六十三話『赤龍帝と狼の不在』


中級悪魔昇格の試験日から二日が経過した日の昼頃。

 

場所はグレモリー城。

そのフロアの一角に1人の男がいた。

 

「…………」

 

その男は木場 祐斗。

グレモリー眷属の騎士である。

 

『ご覧ください! 突如として現れた超巨大モンスターの進撃は止まる事なく続いております!』

 

フロアに備え付けられている大型テレビでは、トップニュースとして超巨大なアンチモンスターの進撃模様を報じていた。

 

シャルバ・ベルゼブブの外法によって生み出された『魔獣創造』の超巨大なアンチモンスターが冥界に出現後、各重要拠点及び都市部に進撃を開始していた。

そのアンチモンスター群の容貌は様々であり、二足歩行の人型がいれば、四足歩行の獣がいたりもし、さらに言えば各魔獣は合成獣『キメラ』によく似ており、様々な生物や魔獣の各部位を備えているのだ。

その上、超巨大なアンチモンスター群は進撃しながらも小型のアンチモンスターを独自に生み出しているのだ。

 

超巨大なアンチモンスターの数はざっと13体。

その中でも他の魔獣よりも一回り大きな巨体で人型の魔獣を冥界政府は『超獣鬼(ジャバウォック)』、残り12体の魔獣は『豪獣鬼(バンダースナッチ)』とそれぞれ呼称している。

そんな魔獣を相手に冥界の戦士達を始め、各勢力から堕天使の部隊、天界の『御使い』、ヴァルハラから戦乙女たるヴァルキリー部隊、ギリシャからも戦士の大隊が悪魔と連携している状況だった。

 

しかし、問題は魔獣だけではない。

この混乱に乗じて各地で旧魔王派の残党がクーデターを頻発させているのだ。

さらに上級悪魔によって無理矢理悪魔に転生させられた神器所有者もその怨恨を晴らすべく各地で反旗を翻しているとか…。

 

そのため、現在冥界は深刻な危機に直面していると言っても過言ではなかった。

また、旧魔王派やハーデスに一杯食わされた形となった英雄派の動向もわかったものではないので、各神話体系の神仏や現魔王達も迂闊に動けない状況となっている。

 

不幸中の幸いというか、冥界の各地域の民衆の避難が最優先で行われており、その被害は最小限に留められていることだろうか。

 

「(イッセー君…紅神君…)」

 

木場が考え事をしていると…

 

「『超獣鬼』と『豪獣鬼』の迎撃に魔王様方の眷属が出撃されるそうだぞ」

 

「ッ!?」

 

突然の声に木場はそちらを向くと、そこにはライザー・フェニックスの姿があった。

 

「兄貴の付き添いでな。ついでにリアスとレイヴェルの様子も見に来たんだが…やっぱり、状況が状況だけにな………察するぜ、木場 祐斗」

 

その言葉から木場はライザーがイッセーの死を知っているのだと気付いた。

 

先の戦い…この事件の発端である中級悪魔昇格の試験日での英雄派の襲撃と、シャルバの介入によってオーフィスが誘拐された。

それを助け出そうとしたイッセーと、それに同行した忍は元の世界で龍門を開いて彼らを呼び戻そうとした。

しかし、戻ってきたのはイッセーの転生に使用した兵士の駒8個のみであり、忍に関しては姿形もなかった。

つまり、グレモリー眷属はイッセーを、紅神眷属は王である忍をそれぞれ失っていたのだ。

 

特にイッセーの場合、龍門からサマエルの龍気らしき反応も微量に検知されていたため、魔力の扱いが不得手なイッセーではまずその毒に耐えられないだろうとアザゼルも断言していた。

シャルバが裏でハーデスと取引してサマエルの毒を入手し、それが何らかの形でイッセーに発揮したのだという見解に落ち着いてしまった。

そのため、イッセーは帰還出来ず、駒のみを帰したのではないかと…。

駒だけが帰る事例は過去にもあり、駒を主の元に帰すという強い意志を持った眷属がその現象を起こすと…。

その際、帰還した駒は二度と使用出来ず、その駒の持ち主も生きてはいないと聞かされていた。

現在は赤龍帝の魂の行方とオーフィスの行方を捜している状況だった。

前者は使い手が死ねば次の使い手にを探すために漂流するからそれを探っているが、どの機関の調査でもその進歩状況は芳しくない様子だった。

後者に関しては次元の狭間に留まっているのか、サマエルの毒を受けて滅びたか…とにかくシャルバがイッセーに討たれた以上、ハーデスの元に行った可能性は低いとされている。

 

次に忍だが…一切の手掛かりがない状態である。

サマエルの毒を受けた状態なのはヴァーリと同じだが、彼には魔力の他にも霊力や妖力があるため浄化の力と拮抗していたのではないかという仮説があった。

事実、忍は呪いを受けた状態でもイッセーの助けなしで次元の狭間に残っていた。

しかし、それ以上の情報が無かった。

イッセー達と一緒にいたのは間違いないのだろうが、その後に何が起きて龍門を通ってこなかったのか?

少なくとも駒と一緒に彼も帰還してもおかしくはなかったはずである。

そこからイッセーに関する話の詳細も聞けるはずであった。

だが、それが無かった。

考えられる最悪の事態は忍がイッセーと共にサマエルの毒を再び受けてしまい、その毒によって拮抗していた浄化の力が力負けてしまって肉体と魂が消滅してしまったというものである。

特に神器を持つ訳でもない忍の捜索は困難を極めていた。

 

という具合に今も赤龍帝と忍の捜索は続いていた。

 

「若手最強対異例の次元辺境伯のゲーム。わりと楽しみだったんだがな」

 

ライザーは独りごちるように呟いていた。

 

「それは…もう日取りが決まったんですか?」

 

ライザーの意外な一言に木場が尋ねる。

 

「中級悪魔への昇格合格が発表された後って聞いたぞ。だが、この状況だ…それも難しくなるだろう…」

 

ライザーは心底残念そうにしていた。

 

「僕達と紅神君達の試合、か…」

 

木場もこんな状況じゃなければ心から楽しみだと言いたかっただろう。

だが、両眷属の要…イッセーも忍も今はいない。

 

その後、木場はフェニックス家の長男でレーティングゲームのトップテンにも入ったことのあり、最上級悪魔への昇格も近いと噂される男性『ルヴァル・フェニックス』氏からフェニックスの涙を受け取っていた。

木場とも少し話をしてから、ルヴァル氏はライザーと共に戦場へと向かった。

ちなみにレイヴェルはしばらく学友である小猫と一緒にいるように言われており、同じ悲しみを持つ小猫と共にフロアで涙を流していた。

 

その次に現れたのは朱乃の父であるバラキエルだった。

木場は状況をバラキエルに説明しながら朱乃のいるゲストルームに案内していた。

その間に、レイヴェルと小猫に悲しむアーシアのフォローを頼んでいた。

 

「(自分が情けない…僕じゃイッセー君の代わりなんてとても…)」

 

自分の不甲斐なさを悔やみながら、木場はバラキエルを朱乃の元へと連れていき、しばらく親子水入らずにしていた。

 

フロアに戻る途中…

 

「よぉ、木場」

 

「匙君」

 

シトリー眷属の兵士、匙がいた。

 

「ちょいと会長の付き添いでな」

 

ソーナ会長もまたリアスに会いに来たのだろう。

匙はその付き添いらしい。

 

「そっか、ありがとう」

 

匙と共にフロアに戻った木場に…

 

「木場、俺も今回の一件に参加して戦うつもりだ。都市部の一般人を救う」

 

決意の宿った瞳で匙はそう言っていた。

 

「僕達もあとで必ず合流するよ」

 

それを聞き…

 

「リアス先輩達は…大丈夫なのか?」

 

「立ち上がってもらうさ。必ず…僕らは力ある悪魔なんだから…冥界の危機に立ち向かわないとダメなんだ…」

 

「そっか。そうだよな」

 

木場の言葉を聞いた後、匙は…

 

「兵藤を殺った奴はわかるか?」

 

笑みを浮かべてた表情から一変して怖い顔になる。

 

「わかるけど…もう、この世には存在しないよ。その者はきっとイッセー君が確実に屠ったからね」

 

絶対なる信頼と確信を持って木場はそう答えていた。

 

「そっか。相討ち……いや、負けるはずがねぇ! あいつは勝って死んだんだ…そうに決まってる!」

 

大粒の涙を流しながら匙も断言する。

 

「匙君…」

 

「俺の目標だったんだ、あいつは! あいつがいたからこそ俺はここまで頑張れた。同じ『兵士』のあいつがいたから厳しいトレーニングも耐えてこれた! あいつを殺した奴がいないなら、そいつが属してた『禍の団』を焼き尽くしてやる! ヴリトラの黒炎は死んでも消えない呪いの炎だ。たとえ刺し違えてでもそいつらの命を削り切ってやる…!!」

 

そう叫ぶ匙に…

 

「死んでは困りますよ、サジ」

 

ソーナ会長がフロアにやってくる。

 

「会長…」

 

「サジ、感情的になるのはわかりますが、あなたに死なれては困ります。やるなら生きて燃やしなさい」

 

「はいっ!」

 

ソーナ会長の言葉に匙は涙を拭いながら頷く。

 

「私達はこれにて失礼します。セラフォルー・レヴィアタン様から魔王領にある首都リリスの防衛、及び市民の避難誘導を仰せつかっているので…」

 

ソーナ会長は木場に視線を向けると、そう言っていた。

 

「部長にはお会い出来ましたか?」

 

「えぇ…でも、部屋に籠ったきりで、私が問い掛けても反応はありませんでした」

 

「そうですか…」

 

ソーナ会長の反応を見て木場も少し声のトーンが落ちる。

 

「ですが、こういう時にうってつけの相手を呼んでおきました」

 

「うってつけの相手、ですか?」

 

「えぇ」

 

薄い笑みを浮かべると、ソーナ会長は匙を連れて戦場へと向かってしまった。

 

 

 

一方、フロアのテレビでは…

 

『ぼく、怖くはない?』

 

レポーターの女性が子供に質問していた。

 

『こわくないよ! だって、あんなモンスター、おっぱいドラゴンがきてたおしてくれるもん!』

 

それに笑顔で答える子供。

 

『そうだよ! おっぱいドラゴンならやっつけてくれるよ!』

『おっぱい! おっぱい!』

『はやくきて、おっぱいドラゴン!』

 

その質問の答えを皮切りに次々と子供達の笑顔と声が映像に映る。

 

「っ!」

 

その映像を見て木場は必死にこみあげてくるものを抑えていた。

 

「冥界の子供達は俺達が思っている以上に強い」

 

木場がそうしていると、1人の男が現れた。

 

「っ!? あなたは!?」

 

「久しいな、木場祐斗。兵藤 一誠はとてつもないものを冥界の子供達に宿したようだな」

 

その男の名は『サイラオーグ・バアル』。

イッセーと激闘を繰り広げた好敵手の1人だ。

 

「リアスに会いに来た」

 

そう言ってサイラオーグは木場を連れてリアスの部屋の前まで足を運んでいた。

 

「入るぞ、リアス」

 

そして、リアスの部屋へと堂々と入っていく。

部屋を進むと、リアスは自分のベッドで体育座りしていて、目元は赤く腫れあがっていた。

 

「随分と情けない姿を見せてくれるものだな、リアス」

 

それを見てサイラオーグは一言そう漏らしていた。

 

「……サイラオーグ、何しに来たの?」

 

それに対してリアスは不機嫌な表情と口調で聞く。

 

「ソーナ・シトリーから連絡があってな。心配するな、プライベート回線だ。大王側にあの男がどのような状態になっているかは一切漏れてはいない」

 

それを聞いて木場も少しホッとしたようだった。

 

「…行くぞ、リアス。冥界の危機だ。強力な眷属を率いるお前が立たずしてどうする? 俺とお前は若手最有力として後続の手本となるべく戦場に赴かねばならない。それに今まで俺達を見守ってくれた上層部の方々…魔王様の恩に報いるまたとない機会ではないか」

 

そんなサイラオーグの説得に…

 

「………知らないわ」

 

リアスは耳を貸さなかった。

 

「自分の男が行方知れずというだけでここまで堕ちるか、リアス。お前はもっと良い女だったはずだ」

 

それを聞き…

 

ぼすんっ!

 

「彼のいない世界なんて! イッセーのいない世界なんてどうでもいいわ! 彼は…あの人は…私にとって大切な人だった。その彼がいないまま、生きるなんて…!」

 

サイラオーグに枕を投げつけながらリアスは再び顔を落とそうとするが…

 

「あの男が…赤龍帝の兵藤 一誠が愛したお前がこの程度の女ではなかったはずだッ! 立て、立つんだ、リアス。あの男はどんな時でも立っていたぞ? この俺を真正面から殴り飛ばした男を、お前は誰よりもよく知っているはずだッ!!」

 

サイラオーグはそう大きく言い放っていた。

 

「それにだ…お前達は本当にあの男が死んだと思っているのか?」

 

「「っ?!」」

 

その一言を言われ、リアスも木場も言葉を失った。

 

「ふっ…それこそ滑稽だ。一つ聞いておこう。お前はあの男に抱かれたか?」

 

「いいえ…」

 

その問いの答えを聞き…

 

「ハハハハハハハ!!!」

 

サイラオーグは盛大に笑ってから強い眼差しをリアスに向けた。

 

「ならばあの男は死んではいまい。愛した女を…あいつを好いていた周りの女を置いて、あいつが死ぬわけがない! 兵藤 一誠は誰よりもお前を抱きたかったに違いない。それが果たされていないならなおさらだ!」

 

そう言ってからサイラオーグは踵を返し…

 

「先に行って戦場で待っているぞ。リアス、グレモリー眷属、必ず来い! あの男が守ろうとした冥界の子供達を守らずして何が『おっぱいドラゴン』の仲間か!!」

 

リアスの部屋から出て行った。

 

イッセー生存の可能性。

サイラオーグに示された可能性を確信に変えるべく、木場はグレモリー城に現れたというある人物を訪ねていた。

その者は『初代孫悟空』。

ヴァーリの呪いを解くために来訪していたのだ。

その初代に木場は呪いに触れた上で、生き残る可能性を尋ねていた。

初代は肉体の崩壊はまず確実だと言った。

だが、その次…魂と直結した悪魔の駒の帰還の話に移る。

帰還したイッセーの駒からはサマエルの呪いは検知されなかった。

ならば、魂は次元の狭間のどこかでひょっこり漂っているのではないかと…。

 

その後、木場は前線に向かうグレイフィアからサーゼクスとアザゼルからのメモを受け取り、リアス達を連れてアジュカの元へと向かうように言われていた。

イッセーの駒を調べてもらい、僅かな可能性を拾い上げてくれるだろうと…。

そして、グレイフィアはこうも漏らしていた。

 

「私の義弟(おとうと)になる者がこの程度で死ぬなど許されない。早く生存の報を得てリアス達を奮い立たせなさい。力ある若手が冥界の危機に立ち上がらずして次世代を名乗るなどおこがましいことです。私は義妹(いもうと)と義弟がこの冥界を背負える程の逸材だと信じていますから」

 

優しくも厳しい…最強の女王の一言だった。

 

………

……

 

一方、人間界では…

 

「くそっ、やっぱダメだ!」

 

クリスが手の平から霊力を出そうとしているが、一向に発現する様子が無かった。

 

「こっちも、なんか出力が落ちた感じがするわ」

 

そう言って暗七も力の加減を確かめていた。

 

忍の不在と共に眷属達は忍から流れて得ていた力の出力が出来ないでいた。

まるで忍との繋がりが断たれてしまったかのように…。

 

「しぃ君…」

 

忍の行方不明の報はすぐに紅神眷属に知れ渡っていた。

なにせ、忍から流れていた力が急に消えたので、何事かとカーネリアがアザゼルに問い合わせたところ、すぐに白状したのだ。

 

それと同時に…

 

「「「「……………」」」」

 

先の件で一緒に転移させられてしまったティラミス達の身柄を一時的に明幸邸で預かることになっていた。

 

「お茶をどうぞ」

 

そんな4人にシアがお茶を出していた。

 

「ぁ、すみません…」

 

ティラミスがシアに頭を下げる。

 

「ったく…まさか、ミッドから冥界なんて場所に次元転移するなんて…アンタ達もとんだ災難ね」

 

縁側近くに立っていた朝陽が4人にそう言う。

 

「流星さん、その言い方だと忍君に非があるみたいですよ?」

 

その言い方に何か引っ掛かりを覚えたのか、フェイトが朝陽を咎めるような言葉を向ける。

 

「事実でしょうが…あいつに巻き込まれて転移させられたんだから…」

 

「それは…そうかもしれませんけど、もう少し言い方と言うものも…」

 

時空管理局所属の騎士と執務官の言い合いを見て…

 

「あ、あの…そこまで言わなくても…」

 

同じく時空管理局に所属するティラミスが堪らず止めに入る。

 

「アンタ自身の事でしょうに、甘いわね」

 

そんなティラミスの言葉に朝陽は少なからず呆れていた。

 

「す、すみません…」

 

相手が自分よりも階級も年齢も上だと思い、ティラミスも委縮してしまう。

 

「ともかく…坊やの不在はかなりの痛手よね」

 

「わたくし達にも…冥界の危機に立ち向かってほしいとのアザゼル様から連絡がありましたが…」

 

「今の状態で行ったとしても足手纏いになりかねないわよね…」

 

話題を変えようと珍しくカーネリアが発言し、それに続くようにエルメスと吹雪も意見を出す。

 

「まったく、困ったものです」

 

既に戦支度を済ました雲雀がそんなことを言う。

その隣には同じく戦支度を済ました緋鞠が立っていた。

 

「雲雀さん、それに緋鞠ちゃんも…」

 

それに気付き、智鶴が2人を見る。

 

「何のための訓練だったのか…こういう時に備えてあなたは眷属の能力把握、及び自分を高めてきたのでしょう?」

 

雲雀の言葉は厳しかった。

 

「それは…そうですけど…でも!」

 

「でも、ではありません。我々姉妹はあなた方のような狼の眷属ではありません。よって自らの意志で冥界の危機に馳せ参じるつもりです。冥界は私達の故郷でもあります故」

 

忍がいないからこそ、女王である智鶴が紅神眷属の代表として忍の分まで冥界の危機に向かうべきだと雲雀は言う。

 

「悪魔に手を貸す。昔なら考えなかったことですが、冥界の危機となれば話は別です。故郷を守るために戦う。それが我々冥族の誇りに繋がるのならば…」

 

そう言って雲雀は踵を返す。

 

「ま、父様も母様も出るっていうし、あたしだけ待ってるのも嫌だからね。それにこんなことで故郷がなくなるのも嫌だし…」

 

「行きますよ、緋鞠」

 

「あ、はい。姉様。じゃあ、生きてたらまた会いましょう」

 

緋鞠もそう言い残して雲雀の後をついていくのだった。

 

「(しぃ君…私はどうしたらいいの?)」

 

雲雀達の背中を見送りながら智鶴が苦悩していた。

 

「あたしも隊長から特務隊が冥界に行くようなことを言われてるし…相手が規格外な相手ならやらなきゃ仕方ないでしょ」

 

そう言うと朝陽も縁側から転移魔法陣を展開しようとしていた。

 

「あたしは眷属入りしたけど、勝手に動かせてもらうわ。戦場に来るなら早く決断することね。その判断の遅れがどれだけの被害をもたらすか…よく考えてみなさい」

 

そう言い残し、朝陽もまた消えてしまった。

 

「智鶴さん…」

 

心配そうにシアが智鶴を見る。

 

「…………」

 

しばらく考えた後…

 

「私は…私達は…今のしぃ君のいない紅神眷属がどこまで役に立つかわかりません…」

 

「「「……………」」」

 

冥界出身者達は智鶴を見る。

 

「ですが…私達もまた冥界に(ゆかり)のある一つの勢力なんです…」

 

「「「「「……………」」」」」

 

冥界出身者でない者も智鶴を見る。

 

「だから…私達紅神眷属は…冥界に赴こうと思います。何が出来るかわからないけど…しぃ君の…王の帰還を信じてやれるべきことをやろうと思います…!」

 

「「「「………」」」」

 

ティラミス達もそんな智鶴の言葉を聞いて頭を上げる。

 

「しぃ君との繋がりは消えたのかもしれない…でも、しぃ君がいなくなったなんて信じたくない…だから、必ず帰ってきてくれると信じて、私達は私達で出来ることをしましょう」

 

今この時…智鶴が女王として一皮剥けた瞬間かもしれない。

 

「だから、皆さん…私に力を貸してください。お願いします…!」

 

そう言って智鶴は他の眷属に頭を下げる。

 

「ったく、水臭ぇっての」

 

「はい。私はもう決めてましたから…」

 

「わたくしも…まだ未熟な身ですが、ご助力します」

 

「管轄外だけど…悪意ある人の件なら見逃せません…」

 

「ま、父親の勤め先がなくなっても困るしね」

 

「肩慣らしに都合がいいわ」

 

「うふふ…楽しくなりそうね」

 

その場にいたクリス、シア、エルメス、フェイト、吹雪、暗七、カーネリアの眷属達はやる気のようだ。

 

「あ、あの…!」

 

「あたし達にも手伝わせて!」

 

「……私も…」

 

「あの人にはまだ言いたいことが山ほどありますし…」

 

ティラミス達もまたそう言っていた。

 

 

 

ただ1人を除いては…

 

「…………」

 

1人、縁側に隠れるようにいる萌莉である。

彼女は…家族である召喚獣を守るために戦う心優しい騎士…。

いくらアンチモンスターと言えど魔物を倒すのに抵抗があるのだ。

それが足を引っ張り、智鶴の号令に応じられないでいた。

 

「(戦いは嫌い…でも、あの智鶴さんが…忍さんがいなくても、頑張ってるのに…私は…)」

 

そのことで1人、この環に入れない自分に耐えられずにいた。

 

「萌莉ちゃん…」

 

「萌莉さん…」

 

そのことをわかっているのか…智鶴と修行で一緒に行動していたエルメスが彼女を気に掛ける。

 

「私、に…もっと、勇気、が…あれば…一緒、に…行きたい…でも…」

 

そう言ってボロボロと涙を流す萌莉…。

 

『きゅぅ…』

 

泣いている萌莉をファースト達が慰める。

 

「無理をしないでいいの…萌莉さんは私達の帰りを待ってて…」

 

「そうですよ。気に病む必要はありません。人には得手不得手があるんですから…」

 

そう言って智鶴とエルメスも萌莉を慰める。

 

「智、鶴さん…エ、ルメス、さん……ぅ、ぁ…」

 

萌莉は1人静かに泣いていた。

 

 

 

その後、紅神眷属+αは萌莉を明幸邸に1人残してスコルピアのディメンションゲイトを用いてグレモリー城へと赴いていた。

それと入れ違いになるようにグレモリー眷属は地球にあるアジュカ・ベルゼブブの隠れ家の一つに向かっていた。

イッセー生存の可能性を見い出すためだ。

 

その代わり、紅神眷属もまた不完全な状態故にシトリー眷属と同じく首都リリスでの防衛、及び避難誘導に尽力することになった。

 

それぞれの要…イッセーと忍。

その生存を信じ、両眷属は動き出す。



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第六十四話『友との誓い、義兄として』

深夜。

木場はリアス達を連れて駒王町から電車で八駅も離れた市街だった。

その町外れにある廃棄されたビルがアジュカの人間界(地球)での隠れ家の一つらしい。

 

アジュカはそのビルの屋上に作られた庭園にいた。

リアスはイッセーの駒をアジュカに見てもらおうとしたが、もう一組の来客によってそれは中断されてしまう。

 

それは禍の団…。

その英雄派であるジークフリートと、英雄派に協力する上級悪魔クラスの旧魔王派数名だった。

 

「(何故、禍の団がこんな場所に…?)」

 

その登場にアーシア以外の女性陣は殺気立ち、木場も禍の団が何故いるのか違和感を覚えていた。

 

「初めまして、アジュカ・ベルゼブブ。僕は英雄派のジークフリート。こちらは英雄派に協力してくれている前魔王の関係者だ」

 

「知っているよ。魔帝(カオス・エッジ)ジークと言ったかな? 教会でも上位に入る戦士だったね。協力態勢前の我々からしたら脅威だったけど…その君が俺に何のようだい?」

 

「前から打診していたことですよ。我々と同盟を結んではくれないかな、アジュカ・ベルゼブブ」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

それを聞いたグレモリー眷属は驚いていた。

 

ジークフリート曰く、アジュカはサーゼクスに対抗出来る唯一の悪魔。

アジュカの研究もまた魅力的であり、その力と技術が加わればテロリストも一気に強化してしまうだろう。

 

しかし、アジュカは現魔王の1人として、その申し出を蹴った。

サーゼクスの友として、彼とは昔馴染みであり、互いに互いを理解し合っているからこそ、その申し出を断ったのだ。

 

それを受け、ジークフリートと共にいた悪魔達がアジュカを襲うが、アジュカは魔術式のみでそれを返り討ちにしていた。

アジュカ曰く、この世で起こるあらゆる現象、異能は大概法則性が決まっており、数式や方程式に当てはめることで答えを導き出すことが出来る。

これがアジュカ・ベルゼブブの『覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)』。

 

「さて、残るは君だけだ、ジークフリート君。どうする?」

 

「まだ、切り札を切ってないので、それを使ってから撤退させていただきますよ」

 

アジュカの問いに嫌な笑みを浮かべるジークフリート。

それを見て…

 

「それは楽しみだ。しかし、グレモリー眷属の騎士君が良い殺気を君らに送ってるし、ここは彼に譲ろうじゃないか。なに、心配はない。この庭園はちょっとやそっとじゃ崩壊しない堅牢な造りになってるからね」

 

「ッ!!」

 

アジュカは木場の殺気に気付いて、そう言っていた。

 

「……祐斗?」

 

その言葉に木場が動くのを見てリアスが声を掛ける。

 

「部長、僕は行きます。もし、共に戦ってくださるのなら…その時はよろしくお願いします」

 

そう言いながら木場は聖魔剣を一振り創ると、ジークフリートに向けて足を運んでいた。

 

無二の親友を、親しくなれた友人を、彼らの下らない計画のせいで失った木場の激情。

それは計り知れないだろう。

それでも木場は冷静でいようと頑張った。

眷属のために、友人を失ってもその分まで眷属のために戦うと誓った親友のために…感情を押し殺していた。

だが、それも憎き相手の出現によって限界だった。

 

「ジークフリート。僕はあなた達を許さない。僕の…大切な親友を奪った代償は高くつく。あなたが死ぬには十分な理由だ…!」

 

それを聞いてジークフリートも愉快そうに口の端を吊り上げる。

 

「君からかつてないほどの重圧を感じる。だが、面白い。このような場でも君達グレモリー眷属と出会うとは予想外だったが……まぁいいか。さぁ、始めようじゃないか。赤龍帝の無二の親友騎士君?」

 

そう言ってジークフリートは禁手と化し、龍の腕を背中から4本生やすと、帯刀していた魔剣を全て抜き放っていた。

 

ギィィィンッ!!!

 

それを見て木場が一気に駆け出すと、その一太刀目をジークフリートが軽々と魔剣で防ぐ。

 

「…………」

 

その一撃を受け、目を細めるジークフリート。

何かを考え込むような仕草から溜息を一つ吐く。

 

「やれやれ…現状の君と戦い、勝ったとしても深手は免れない。かと言ってこのままアジュカ・ベルゼブブとの交渉が失敗したまま君らグレモリー眷属の相手をせずに帰ったとしても仲間や下の者に示しがつかない。僕も難しい立ち位置にいるものだ。特にジャンヌやヘラクレスに笑われるのはこの上なく不愉快だ」

 

そう言うと、ジークフリートは光の剣を地面に突き立てて懐から拳銃型の注射器を取り出していた。

 

「これは旧魔王シャルバ・ベルゼブブの協力によって完成した代物だ。いわばドーピング剤だ。神器のね」

 

「神器能力を強化するということか」

 

「ご名答」

 

木場の言うことを肯定するジークフリート。

 

「聖書に記されし神が生み出した神器に、宿敵である真の魔王の血を加工した場合、どのような結果を生み出すか。それが研究テーマだった。かなりの犠牲と膨大なデータ蓄積の末に神聖なアイテムと深淵の魔性は融合を果たした」

 

「魔王の血…!?」

 

その情報に木場は驚かずにはいられなかった。

 

「本来、この魔帝剣グラムの力を出し切れば君を倒せるだろう。しかし、残念ながら僕はこの件に選ばれながらも呪われていると言ってもいい。その理由…君ならわかるね? 木場 祐斗」

 

「…………………」

 

魔帝剣グラム。

その特徴は攻撃的なオーラを有し、その切れ味は如何なものも断ち斬ると言われる鋭利さにある最強の魔剣。

しかし、もう一つこの魔剣には特性がある。

それは『龍殺し』の能力。

過去、五大龍王の一角であるファーブニルを討ち滅ぼしたこともある強力な特性を合わせ持っている。

 

しかし、それを加味して現在の持ち主であるジークフリートの持つ神器を考えると、これほど皮肉な答えが生まれる。

それは彼の神器『龍の手』、その亜種である。

この神器を含めた龍の関する神器はドラゴン系神器と呼ばれており、多かれ少なかれ龍の性質と龍気を所有者に与える。

通常時でグラムを使うのであれば、それほど危険も少ないだろう。

しかし、これが力が格段に跳ね上がる禁手ともなると話は別になる。

ジークフリートは力を高めれば高めるだけ、グラムとの相性が恐ろしく最悪になる。

 

イッセーが同じく龍殺しの聖剣であるアスカロンを籠手に収納し、何事もなく使えるのは天界の助力と神器が規格外の類のためである。

その点、ジークフリートの神器は亜種であっても規格外ではなかったらしい。

最強の魔剣に選ばれても、持ち主の有した能力までは祝福しなかった…。

これがジークフリートがグラムに選ばれたにも関わらず、呪われていると言った理由である。

 

「禁手状態でも攻撃的なオーラを殺して使えば、鋭利で強固なバランスの良い魔剣なんだけどね。しかし、それではこの魔剣の真の特性を発揮出来ない。かと言って力を解放してもね…。僕の身が滅びてしまう。この魔剣は主の体を気遣う…そんな殊勝なことをしてくれないのさ」

 

そう言いながらグラムをひゅんひゅんと片手で回してみせる。

 

「グラムを使いたければ通常状態でやればいい。が、君達グレモリー眷属相手だと禁手六刀流でないと通常時よりも対応出来ないのが正直なところさ。でも…もしも禁手状態でもグラムの力を解放出来たら? 話は別さ」

 

そして、ジークフリートは自身の首筋に注射器を打ち込み、その中身を注入していく。

 

ドクンッ!!

 

僅かな静寂の後、ジークフリートの体が脈動する音が響く。

 

ミチミチ…!!

 

ジークフリートの背後から生える4本の龍の腕が音を立てて太く肥大化していき、五指も徐々に形を崩して持っていた魔剣と同化していく。

ジークフリートの表情も険しくなり、顔中に血管が浮かび上がり、全身も別の生物のように蠢き回って身に着けていた英雄派の制服も端々から破れていく。

地に届きそうなほどに太く長くなった4本の腕を背から生やす怪人。

もはや人の身では無くなっていた。

 

『これが『業魔人(カオス・ドライブ)』。そして、この状態になるためのドーピング剤を『魔人化(カオス・ブレイク)』と僕らは呼称している。それぞれ覇龍と禁手から名称の一部を拝借してるんだよ』

 

声すらも変調したジークフリートはそう言い放つ。

 

「素晴らしい。人間とは、時に天使や悪魔以上のモノを創り出してしまう。やはり、俺は人間こそが可能性の塊だと思えてならないよ」

 

魔人と化したジークフリートを見てアジュカがそう漏らす。

 

『ふっ…』

 

ジークフリートの背中から生えた4本の変異した腕がしなる。

 

「ッ!!」

 

木場は攻撃を視認する前に動き、ジークフリートの4本の魔剣での攻撃を回避していた。

見れば、先ほどまで木場のいた場所には渦巻き状の鋭いオーラが刺さり、氷柱が生え、地が抉れ、次元の裂け目まで見えていた。

 

「(魔剣同士の相乗攻撃!)」

 

一瞬でも判断が遅れていれば、木場の五体は易々と引き裂かれていたかもしれない。

 

「ッ!?」

 

木場は前方から感じる異様な悪寒を感じ取り、持っていた剣を聖魔剣から聖剣に変化させ、龍騎士団の甲冑を1体創り出すと、それを足場にして空中に跳ぶ。

 

ズガアアアア!!

 

その刹那、極太で凄まじいオーラの奔流が通り過ぎていき、木場の創り出した龍騎士団の甲冑を跡形もなく消し去っていた。

見れば、ジークフリートがグラムを振るった後であった。

 

「(これがグラム…! なんて威力なんだ…これじゃあ、まるで溜め無しのデュランダルと相対してる気分だ…!)」

 

回避した木場だが、グラムの攻撃的なオーラの余波で体にダメージを受けていた。

 

それから数度の打ち合い…と言えるかも怪しい一方的なジークフリートの攻撃を回避しながら木場は龍殺しの聖魔剣を手に奮戦していた。

そして、ジークフリートが全ての魔剣を使った攻撃を仕掛けた時に出来た僅かな隙を突き、足の爪先に展開した龍殺しの聖魔剣の刃をジークフリートの脇腹へと蹴り抜こうとしたが…

 

パリィンッ!!

 

儚い音を立てて聖魔剣の刃は砕け散ってしまう。

 

『僕の強化された肉体は君の龍殺しの聖魔剣を超えていたようだね』

 

その結果を見て笑ったジークフリートは…

 

ガシッ!

 

光の剣を無くした左手で木場の足を掴み上げ…

 

ブンッ!!

 

力任せに地面に叩き付けていた。

 

ブォンッ!!

 

さらに追撃とばかりにディルヴィングの一撃によって、倒れた木場へと強い衝撃が走り、その勢いでクレーターが出来上がる。

 

「がぁっ!?」

 

ジークフリートの連続攻撃に木場は血反吐を吐き、意識が飛びそうになるものの…

 

「……ッ!!」

 

何とか立ち上がって態勢を立て直してから再びジークフリートに聖魔剣を振るう。

 

ガキィンッ!!

 

その一撃を魔剣をクロスさせてジークフリートは易々と防ぐ。

 

『防御の薄い君では、さっきの連撃はかなり効いたと思うけど?』

 

そう言ってドンッと木場の体を押し返すと同時に…

 

キィンッ!!

 

ダインスレイブの凍結攻撃によって両足の動きを封じられてしまう。

 

「(しまった!?)」

 

すぐさま炎の聖魔剣で氷を溶かそうとするが…

 

ズシャアアッ!!

 

地面から新たに現れた氷柱によって両足を貫く。

さらに動けなくなった木場に容赦なく魔剣の一撃が振るわれようとしていた。

 

「ッ!?」

 

木場は複数の聖魔剣を束にして盾の様にして防ごうとするが…

 

バキバキバキィンッ!!

ザシュッ!!

 

無残にも聖魔剣は砕かれ、左腕を肩口から斬り落とされてしまった。

 

「ッ!!?」

 

それでも足の氷を炎の聖魔剣で取り除いて後退する。

そして、聖魔剣の属性を炎から氷に変化させて傷口を塞いで応急処置を施す。

 

「祐斗…!」

 

沈痛な面持ちでリアスが木場の名を叫ぶ。

その両手に持つイッセーの駒を握り締めて…。

 

「(部長…気持ちはわかりますが、イッセー君に頼ろうとしても、彼はここには来られないんですよ?)」

 

リアスの動揺はそのまま眷属にも影響する。

朱乃も小猫もハラハラした様子で木場を見るばかり…。

 

「木場さんまで…いや、そんなのはいや…」

 

アーシアは木場を回復させようとオーラを出そうとしてもいつもの出力が出ていない。

他にもリアスや朱乃の魔力攻撃は弱々しくジークフリートの一振りで掻き消えてしまい、小猫の闘気もレイヴェルの炎の翼も力がかげっている。

 

「(僕が皆を守らないと…イッセー君の代わりに戦わないと…!)」

 

そう思いながら木場はルヴァル・フェニックス氏から貰い受けたフェニックスの涙を一つ取り出して左肩口に振り掛ける。

傷口は塞がったものの、左腕の再生までには至らなかった。

 

『酷いな。これが今のグレモリー眷属か。赤龍帝を失っただけでこうも脆くなるとは…』

 

つまらなさそうにジークフリートは呟く。

 

『兵藤 一誠は無駄死にをしたのさ。出涸らしとなったオーフィスを救うために狼と共にあの空間に残り、シャルバを葬ったんだろう? シャルバが生きていれば、今頃は僕達や冥界に対して宣戦布告しているだろうからね。でも、あのまま兵藤 一誠や狼が帰還していれば体勢を立て直して再出撃出来たはずだ。オーフィスはともかくシャルバはあとで確実に屠れたはずだよ? 自分の後先考えないで行動するのは赤龍帝の悪いところだった。狼まで消えてくれたのは計算外の幸運だったよ。彼もまた危険な因子だったからね。シャルバの奸計によってか、それ以外の要因かは知らないが…これはなかなか大きく嬉しい誤算だった』

 

そんなジークフリートの台詞を聞き…

 

「………ッ!!!」

 

木場の中からどす黒い感情が湧き上がってくる。

 

「オオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

普段の冷静な木場からは考えられないような声量での叫びだった。

 

「……まだだ…!」

 

木場は右手に聖魔剣を創り出しながらジークフリートへと歩を近づける。

 

「まだ僕は戦える! あの男のように僕も立ち上がらないといけないッ! グレモリー眷属の兵藤 一誠はどんな時も、どんな相手にも立ち向かっていったのだから!!」

 

そう叫びながら木場はジークフリートを睨む。

 

「赤龍帝は…彼はあなたのような奴が貶していい男なんかじゃない! 僕の親友を…バカにするなッ!!」

 

涙混じりの咆哮を上げる木場。

 

『無駄だッ! 赤龍帝のように立とうとも、君では限界がある! ただの人からの転生者では、才能がいくらあろうが…君の肉体に受けたダメージが君自身の足枷になる!!』

 

そう叫び返すジークフリートに木場が再び挑もうとした時だった…。

 

カアアアアッ!!

 

「イッセーの駒が…?!」

 

リアスの持っていたイッセーの駒が紅く輝き、その一つが木場の元へと飛来し、更なる光量を発したかと思えば…

 

パァンッ!

 

光が弾けて一振りの聖剣が姿を現す。

 

「イッセー君の駒が…アスカロンに…?」

 

困惑する木場の耳に…

 

『行こうぜ、ダチ公』

 

幻聴のようなイッセーの声が聞こえた。

 

「…ッ!!」

 

涙を溢れさせ、顔がぐちゃぐちゃになりながらも木場は聖魔剣を消してアスカロンを握る。

 

「あぁ、行こうよ! イッセー君! 君となら、僕はどこまでも強くなれる! どんな相手だろうと、斬り刻める!!」

 

不思議と活力に溢れ出した木場は一気に駆け出し、ジークフリートに斬り掛かる。

 

ギィィンッ!!!

 

『ッッ!!? ば、バカな?! 立つというのか!? 血をあれだけ失えば自慢の足も動かないはず!!』

 

先程までの剣撃とは違う重さを感じ、ジークフリートは驚愕の声を漏らす。

 

「行けってさ。イッセー君がこの聖剣を通して無茶を言うんだ。なら、行かないとね!!」

 

アスカロンから放たれる一撃にジークフリートは苦悶の表情を浮かべる。

 

『ぐぉぉっ!? なんだ、その聖剣から感じる力は…!?』

 

グラムに対応出来ても、イッセーの持っていた龍殺しの聖剣『アスカロン』の力には対応出来ない様子だった。

 

その時だった。

ジークフリートが持つグラムに変化が起き始めた。

突然、輝き始めたかと思えば、その輝きを木場へと向けていたのだ。

 

ここに来て、グラムは己の主の再選定を行ったのだ。

木場はグラムを受け入れた。

その声に応じるようにしてグラムはジークフリートの手から木場の元へと飛来していた。

 

『こ、こんなことが…!? 赤龍帝は…駒だけでも戦うというのか!? この男を奮い立たせるのか!!?』

 

その状況にジークフリートは絶叫していた。

 

そして、イッセーの駒は他の皆にも手をしており、それぞれにイッセーの声が聞こえていたようだった。

アーシア、小猫、レイヴェルは木場の体を支え、斬り裂かれた左腕を接着させようとし、リアスや朱乃もまた立ち上がっていた。

朱乃の新能力『堕天使化』とリアスの消滅魔力により、ジークフリートは黒焦げとなって背中から生える4本の腕もまた消滅していった。

トドメに木場がアスカロンとグラムを突き立ててジークフリートとの決着は着いた。

 

『この僕…負ける…?』

 

未だ信じられないような…

 

『兵藤 一誠は殺しても戦い続ける、か…!!』

 

そのような言葉を発し…

 

『やっぱり…あの戦士育成機関で育った教会の戦士は…まともな生き方をしないのさ…』

 

ジークフリートの体は崩れ去っていった。

 

 

その後、特異な現象を引き起こしたイッセーの駒をアジュカに調べてもらったところ。

八つの駒の内、四つの駒が価値にバラつきがあるものの『変異の駒』と化していたという。

さらに先程の現象もイッセーの想いがダイレクトに伝わったからではないかとアジュカは言う。

 

そして、一番聞きたかった言葉…。

イッセーの生存の可能性は…どんな状態になっているかは不明だが、かなりの確率で高いとアジュカは分析してた。

イッセーの魂は赤龍帝の籠手と共にあり、駒もその機能が死んでおらず、彼限定にだが駒も戻せるという事実が判明した。

その情報を聞き、グレモリー眷属とレイヴェルは歓喜していた。

 

そして、もう一つ。

 

「赤龍帝ドライグが帰還すれば狼君の行方も分かるかもしれない。彼の意識は先の出来事の全てを見ているはずだからね」

 

アジュカはそうも言っていた。

 

………

……

 

~冥界~

 

豪獣鬼1体の侵攻ルート上にその男達はいた。

 

「よぉ、紅牙。久し振りだな」

 

「秀一郎か」

 

腕組みして仁王立ちする紅牙の横に秀一郎が姿を現す。

 

「あれから調子の方はど~よ?」

 

久し振りに会う戦友に話し掛ける。

 

「順調、なのかな……あれから故郷にも行って話し合いの場が設けられた」

 

「そうかそうか。そりゃ良かった」

 

紅牙の様子が予想よりも穏やかなのを見てうんうんと頷く秀一郎。

 

「お前の方こそ、どうしていたんだ? あれから一向に連絡もなかったが…」

 

最後に会ったのは病院以来だったか、と紅牙は呟いていた。

 

「ん~? いやはや、悪魔の皆さんも人使いが荒くてな。各地を転々としながら元所属テロ組織の壊滅に尽力してましたよ? 孫悟空の爺さんとも共闘したっけかな。ありゃ出る幕がなくなるってもんだぜ」

 

やれやれといった具合に秀一郎は肩を竦めていた。

 

「そうか」

 

「反応薄いな…」

 

紅牙の反応の薄さに秀一郎は呆れる。

 

が…

 

「聞いたぜ、あの狼小僧が行方不明なんだって?」

 

すぐに佇まいを直すと、紅牙にそう切り出した。

 

「あぁ、そうらしいな…」

 

「そうらしいな、って…心配とかじゃねぇのかよ?」

 

意外にも淡白な反応に秀一郎は驚く。

 

「あいつは大切な者を守るために戦うと言っていた。この程度で行方をくらますような男じゃない。第一…」

 

ゴゴゴゴゴ…!!!

 

紅牙の背後より炎が立ち昇る。

 

「シアを悲しませるようなことをしたら…たとえ恩人だろうと容赦はせん…!」

 

「おおぅ…シスコンみたいなことを…(こいつ、こんな奴だったっけか?)」

 

人は変わるもんだな、と秀一郎はしみじみ思ったとか…。

 

「ともかく…あいつは俺の義弟になるかもしれない男だ。何が起きようとも帰ってもらわなければ困る」

 

「義弟、ね。狼小僧も大変な兄貴を持ったもんだ」

 

そう言いながらも秀一郎はシュティーゲルを起動させていた。

 

「そういや、聞いたぜ。狼小僧と同じく眷属の駒ってのを魔王から貰ったとか」

 

「俺は眷属など作らん予定だったんだがな…」

 

紅牙も秀一郎がデバイスを起動させたのと同時に冥王と化していた。

 

「年下の女を2人も眷属にしたんだって?」

 

ニヤニヤと笑いながら秀一郎は尋ねる。

 

「不可抗力だ。こうなった以上、貴様にも駒を渡してやろうか?」

 

イラついた表情で秀一郎を睨みつつ、紅牙は戦車の駒を取り出してみせる。

 

「また、こき使う気じゃねぇだろうな?」

 

「そうしても一向に構わんが?」

 

「やれやれ…俺の雇い主ってのはどいつもこいつも人使いが荒くてしょうがねぇや…」

 

そう言いながら秀一郎が戦車の駒を分捕(ぶんど)るように受け取る。

 

「交渉成立だ」

 

「これが交渉か?」

 

そんなやり取りをしていると…

 

『ギャアアアッ!!』

 

アンチモンスターの群れが押し寄せてきた。

 

「「失せろ!!」」

 

その言葉と同時に…

 

「エレキトリック・ハマーッ!!!」

 

「ブレイジング・フレアッ!!!」

 

秀一郎の両腕から稲妻が周囲一帯に迸り、紅牙の背後から巨大な火球が降り注ぐ。

それぞれの攻撃がアンチモンスター群へと放たれていた。

 

「背中は預けるぞ、秀一郎!」

 

「お互いにな!!」

 

そう言いながら互いに背中合わせでアンチモンスター群を相手にしていた。

どちらも広域破壊の能力に優れていたため、瞬く間に豪獣鬼の生み出すアンチモンスター群を殲滅していったのだった。

元禍の団の構成員だった2人が、今は冥界のために戦っている。

 

「(紅神…早く戻ってこい。貴様を待つ者がいるのだからな…)」

 

紅牙は戦いながら忍の帰還を待っていた。

 

 

生存がわかったイッセーと、未だ行方知れずということになっている謎の龍に喰われた忍。

果たして、2人の今の状態とは…?



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第六十五話『真龍と始龍』

グレモリー眷属がイッセーの生存の可能性を見い出していた頃…。

次元の狭間では…

 

『んぁ?』

 

赤い大地の上でイッセーが目を覚ましていた。

 

『起きたか。一時はどうなるかと冷や冷やしたぞ』

 

『ドライグ? あれ? 俺、どうして…? 体の感覚も変な気が…』

 

相棒の声を聞き、徐々に意識を戻していくと自らの体に違和感を覚えるイッセー。

試しにマスクを収納しようとも出来ない。

ならば、と鎧の手の部分だけを解除すると…

 

『ッ!? 無い!? 俺の手が無いんだけどぉぉぉ!!?』

 

そして、さっきから感じていた違和感の正体にも気づく。

 

『ま、まさか…これって全身に及んでるんじゃ…?』

 

『現在、お前は魂だけの状態だ。サマエルの毒を受けた影響で肉体が滅びたからな。その滅びかけた瞬間、お前の魂だけを抜き出し、鎧に定着させたのが今の状況だ』

 

そんなイッセーの疑問にドライグがそう答える。

 

『……え? 体が無い?』

 

その答えを受け…

 

『……なんてこった! これじゃあ、リアスとエッチなことが出来ないじゃないかぁぁぁッ!!!』

 

イッセーは盛大に叫んでいた。

 

『え? そ、それが感想なのか?』

 

そんなイッセーの叫びにドライグは間の抜けた返事をするので精一杯だった。

 

『俺にとっちゃ死活問題なんだよ!!』

 

ああだこうだとエロいことが出来ないと喚くイッセーだったが、すぐさまオーフィスのことを思い出す。

 

「えいえいえい」

 

周りを見てみると、オーフィスは赤い大地をペチペチ叩いていた。

 

『なにしてんだ、お前?』

 

「グレートレッド、倒す」

 

イッセーが尋ねてみると、オーフィスはそう答えていた。

 

『へ…?』

 

それを聞いて赤い大地…と思っていた場所を走り回ってみると、そこはグレートレッドの背中だった。

 

『お、俺…どうして、グレートレッドの背中にいんの?』

 

『やれやれ…俺の話を聞け。お前はシャルバ・ベルゼブブを倒した後、崩壊する空間の中で力尽きた。あのフィールドも崩壊した時だった。グレートレッドが偶然にも通りかかり、オーフィスがお前を連れてグレートレッドの背中に飛び移ったのだ。つまり、ここは次元の狭間だ。ちなみに、アレから数日経っている』

 

『マジか……ん?』

 

そこでイッセーはある事に気づく。

 

『そういや、忍はどうしたんだよ? あいつも一緒だったろ?』

 

忍の姿が見当たらないことを怪訝に思う。

 

『狼は、だな…』

 

それに対して何か言いづらそうなドライグだった。

 

『あ、そういや、先生達からの召喚は無かったのかよ?』

 

『それはあった。だが、お前の中にあった駒だけがあちらに帰還してな。特異な現象だった。悪魔の駒とは謎の多い代物だな』

 

『え゛!? あ、ホントだ!? 駒を感じられない…。あ、でも忍はそれで先に帰ったのかな?』

 

駒を感じられないイッセーは忍が先に帰ったものと勘違いするが…

 

「狼…喰われた…」

 

オーフィスがそう漏らす。

 

『は…?』

 

「謎のドラゴンにバクンって…一飲みにされた」

 

『え…ちょっ…?』

 

オーフィスが何を言ってるのかわからず、ドライグに助けを求めるが…

 

『うむ…お前が力尽きた後のことだ。突然、狼の力が奔流となって溢れ出してな。恐らくはお前を助けられなかったために心の中で何か弾けたんじゃないかと思うが…それが空間に亀裂を生み、そこから俺もオーフィスも知らないドラゴンの姿が見えてな。大きさはグレートレッドにも引けを取らなかったように思えるが、見る限り瀕死の状態だった。そして、そのドラゴンは頭だけをこちらに寄越すと、狼を一飲みにしたのだ。その後、狼とあのドラゴンがどうなったのかは俺にもわからん…』

 

ドライグの説明を受け…

 

『…………』

 

イッセーも信じられない、といった具合だった。

 

『お前達の巡り合わせを考慮すると、相棒はグレートレッドを、狼はあのドラゴンを呼び寄せたように思えてならんが……まったく、他者を引き寄せる己の力で危機を脱するとは、流石に読めんかった………狼の事は残念でならない』

 

ドライグはそう称していたが…

 

『いや! あいつならきっと生きてるさ! 俺だってこうして生きてんだ。あいつが死ぬなんて有り得ない!』

 

イッセーは忍の生存を信じていた。

 

『狼もまたサマエルの呪いを受けている以上、無事…というのも考えにくいが…』

 

『あいつには霊力があるだろ? きっと大丈夫だって』

 

『だといいんだが…』

 

イッセーはドライグにそう言った後…

 

『そういや、お前は元の世界に戻らなかったのか?』

 

オーフィスにそう尋ねる。

 

「元の世界…我にとってはここ」

 

『あ、言い間違えた。地球、もしくは冥界には戻らなかったのか?』

 

「ドライグが共に帰ろうと言った。だからここにいる。一緒に帰る」

 

『お前、やっぱり変な奴だよな。でも、悪い奴じゃねぇし…』

 

イッセーがオーフィスをそう称していた。

 

その後、イッセーは自らの魂が助かったのは歴代の残留思念達によって守られたからだとドライグに告げられ、その別れ際の言葉を貰ったのだが…。

 

『ポチっとポチっと、ずむずむいや~ん』

 

……………おっぱいドラゴンの歌の一節だった。

 

イッセーが軽い絶望感に打ちひしがれていると、ドライグから右奥を見るように言われる。

そこには繭…いや、培養カプセルがあった。

真龍の体の一部と龍神の力によってイッセーの肉体が新たな受肉を果たそうとしていた。

そう、反撃の準備は既に始まっていたのだ。

 

………

……

 

~???~

 

「……………」

 

その空間は静寂に支配されていた。

そして、空間の中央には空中に横たわる忍の姿があった。

 

「ん…ぅぅ…」

 

その空間で忍は目を覚ます。

 

「……ここは…何処だ?」

 

限りなく暗いが、その周りにはまるで星々の煌きのような光点が遠くまで広がっていた。

 

「俺は、何処にいる? ここは一体…」

 

空中で起き上がるような姿勢で忍は周囲を見回す。

 

『目覚めたか…五つの力を宿す者よ』

 

すると突如として何者かの声が忍の脳内に響く。

 

「ッ?! だ、誰だ!?」

 

その声の主を探すように忍は周囲を見回す。

 

『警戒する必要はない。我が命の時間はもはや風前の灯火だからな…』

 

そう語る声はどこか重みを感じさせるような…そんな口調と声音をしていた。

 

「命の時間が風前の灯火? どういうことだ?」

 

その言葉に疑問を抱いた忍は声の主に問う。

当然ながら"はい、そうですか"と警戒を解く気配もなかったが…。

 

『文字通りの意味だ。我は既に永き時を生きてきた。その命もまた我が眷属達の反抗によって尽きようとしているのだ』

 

「眷属達?」

 

怪訝に思って首を傾げる。

 

『我が世界の人の子は、我を始まりの龍…『始龍(しりゅう)』と呼び、我が7体いる眷属のことを『七源龍(しちげんりゅう)』と呼んでいた』

 

「異世界の、龍…!? それも複数体だと…!?」

 

龍騎士の存在も確認されている以上、他にもまだ知らぬ異世界のドラゴンや生物がいてもおかしくはなかったが、いきなり始龍と呼ばれる存在に合わせて7体もの未確認龍の名が出て忍も驚いていた。

 

「その始龍が…なんだって俺なんかを…? いや、そもそも此処は何処だ? 俺は確か…あの異空間でイッセー君が死ぬのを……!? そうだ、イッセー君は!? あれからどのくらい経ったんだ?!」

 

そこでようやく忍はイッセーが力尽きてからの記憶が曖昧なことに気付く。

 

『"イッセー"とは、赤き龍の衣を纏った者か? 次元が完全に閉じる直前、その者は小さき者によって共に異空間に飛び去ったのを見た。それ以上は我も知らぬ』

 

「オーフィスがイッセー君を…? どういうことだ? わからない…材料が少な過ぎる…」

 

いくら考えても答えが出ず、忍は次第に焦り始める。

 

『次に…そこは我の腹の中だ。お主の力が奔流となって流れていた故、我がいた次元と異空間が繋がった。そのままでは危険と思い、残った力の半分を使ってお主を一飲みにした』

 

「一飲…っ!? じゃあ、俺はアンタに喰われたのか!?」

 

『案ずる必要はない。もやは、我にお主を養分にするだけの力は残っておらん。それに我に食事などという概念は存在しない』

 

始龍の言葉に少しだけホッとするが…

 

『一飲みにしてから既に数日は経過している』

 

「なに?!」

 

すぐに取り乱す。

 

「イッセー君がいない以上、グレモリー眷属の皆も苦労しているはず…それに俺の不在によってうちの眷属も情緒不安定になる可能性が高い…早く戻らないと…!」

 

まだ心配な部分がある以上、忍は帰還のことを最優先で考えるものの…

 

『待て』

 

始龍が待ったを掛ける。

 

「なんだよ!?」

 

『我の最期の願いをお主に託したい』

 

「最期の願い?」

 

『うむ。先も言ったが、我の命は永くない』

 

「あぁ、そういえば……その割には余裕を感じられるけどな…」

 

始龍の言葉にそんな感想を漏らす。

 

『そんなことはない。残り半分だった力もそろそろ尽きる頃だ。そうすればお主を外界に吐き出すことも出来よう』

 

「つまり、次元の狭間にほっぽり出されるってことか」

 

『だが、お主の力なら問題あるまい』

 

「何故、そう言い切れる?」

 

その疑問に対して始龍は…

 

『お主の中から神格を感じる。我もまた元の世界では"神"に近しい存在だった故な…』

 

そう答えていた。

 

「(また、神か…)」

 

以前、グレモリー眷属対バアル眷属のゲーム観戦時、ハーデスに邂逅した時だった。

ハーデスは忍の中から僅かな神格を感じ取っていた。

そして、今話し掛けられている始龍にも神格があると言われていた。

これは偶然か?

それとも忍の先祖である古の狼に由来したことか?

 

「で、最期の願いってのは何だよ? 聞ける範囲で善処してやる」

 

先を急ぐ忍だったが、目の前で命が尽きるという存在を見捨てていける程の残忍さは持ち合わせていなかった。

 

『すまない。最期の願いというのは他でもない。我が眷属達のことだ』

 

「アンタに反抗したっていう?」

 

『うむ。眷属にも眷属の考えがあっての事だろう。だが、それでも…我にとっては我が子も同然の存在。それが何故あのような行動に出たのか知りたかったが…もはや我には時間もない。だからお主に託したいのだ。我が眷属達を見守るための…我が力を…』

 

「力…?」

 

『お主の中にある龍の力に我が力を注ぎ込もう。きっとお主の助けになってくれるだろう…』

 

それを聞き…

 

「待ってくれ! 龍騎士の力はまだ制御が出来てない未完成な力なんだ! それにアンタの力を注ぎ込んだりなんかしたら…!?」

 

忍は少し取り乱し気味に言う。

 

『安心しろ。お主に宿る凶暴な龍の力を我が力で制御できるようにしてやる』

 

「そんなことが…!?」

 

『伊達に神格を宿しているわけではない。しかし、それはあくまでも応急処置に過ぎない。お主が己の中の龍の力を御せるように成長せねばならない。それだけは忘れぬことだ』

 

始龍がそう言うと同時に黒く暗い世界が白くぼやけ始めてきた。

 

「ッ…!?」

 

『もう、時間のようだ』

 

それはつまり…始龍の命が尽きるということだ。

 

『お主の名は…?』

 

「紅神…忍…」

 

忍の名前を聞き…

 

『神の名を冠していたか。忍よ…我はこれよりお主の魂と共にある。我が眷属達…我が子らの事を頼むぞ』

 

その言葉を最後に世界は真っ白になりつつ…

 

パァァ…

 

星々のような光点が忍の中へと次々と収束していったのだった。

 

「ッ!? これが…始龍の…!」

 

その星々のような光点から感じる力をその身に受け、徐々に視界が白くなっていく。

 

「があああああっ!?」

 

あまりにも強い力に忍は絶叫を上げる。

 

………

……

 

「はっ?!」

 

忍はその場で飛び起きる。

 

『マスター、目が覚めましたか?』

 

「アクエリアス…? ってことはさっきのは、夢…?」

 

忍は周囲を見回しながら独り言ちに呟く。

 

『夢? 何のことでしょうか?』

 

「いや…俺は、一体…」

 

当惑する忍に…

 

『一からご説明しますと、イッセー殿が倒れた直後、マスターから強大な力が放出されました。その後、その力によって開かれた次元の裂け目から巨大な龍が現れましてマスターを一飲みに…アレから既に二日ほど経った頃です。しかし、どういう訳か龍はマスターを残して先程消失し、私がシェライズを最大稼働でマスターの身を守っている状況です』

 

アクエリアスはそう説明していた。

 

「始龍の言う通り、か。なら、さっきのは夢じゃなく…」

 

『マスター?』

 

忍の反応にアクエリアスも困惑気味だった。

 

「アクエリアス、今の座標はわかるか?」

 

『はっ、龍の腹の中にいたので正確な座標は算出中ですが…正直、次元の狭間は未知の領域です。正確な座標は期待できないかと…』

 

「そうか。なら自力で何とかするしかないか…」

 

そう呟く忍に…

 

『お言葉ですが…先も申し上げた通り、次元の狭間は我等エクセンシェダーデバイスでも未知の領域です。自力で何とかするにも私の装備ではマスターを守るくらいしか……スコルピアなら何とか出来たかもしれませんが…』

 

アクエリアスはそう申し開く。

その口調は少し悔しそうな感じでもあった。

 

「やるしかないだろ。今の俺の力を結集させて、次元の扉を開くしか…」

 

真狼、紅蓮冥王、蒼雪冥王、吸血鬼、龍騎士。

現在、忍が持つ解放形態は五つ。

それらを使い、忍は次元の扉を開こうというのだ。

 

『龍騎士は未だ不安定な上に危険です。それにいくらマスターでも無謀です!』

 

始龍との邂逅を知らないアクエリアスはそう進言していた。

 

「無謀とわかっていても男にはやらなきゃならない時もあるもんさ」

 

そう言いつつ忍は真狼となる。

 

「全てはここから始まった。俺の原点…狼の血筋がもたらす奇跡。今、見せる!!」

 

ゴオオオォォォォォッ!!!!

 

内に眠りし力を今度は自身の意志で解放する。

 

「俺に本当に神格があるというのなら応えろ! 俺に宿りし神格よ! 俺の声に応えて奇跡を起こせ!!」

 

真狼状態の忍の体から霊力が溢れ出し、他の力は別々の形になりつつあった。

魔力と気はミックスされて紅蓮冥王と蒼雪冥王、妖力は吸血鬼、龍気は龍騎士へとそれぞれの解放形態を模ったような影となっていた。

 

「俺を皆の元へ! 愛する者達の待つ場所へ!!」

 

五つの力と四つの影が一瞬だけ忍に重なると陽炎のように新たな姿を見せたが、その姿はほんの一瞬であってすぐに消えてしまった。

 

『こ、この力は一体!? マスター…あなたは……』

 

忍の成長…いや、進化にアクエリアスは言葉を失っていた。

 

「我が速度は神速の領域! その神速を以って俺は次元の壁を越える!!」

 

まるで地面を駆けるが如く次元の狭間を疾駆する。

その様はまるで…黒き閃光を纏いし白銀の流星。

 

「うおおおおおおッ!!!」

 

キランッ!!

 

咆哮と共に忍は次元の壁を越えた。

 

 

 

忍とイッセー。

共に生存し、それぞれの方法での帰還を果たそうとしていた。

それに呼応すべく眷属や仲間達もまた己が行動を起こしていた。



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第六十六話『真紅と白銀の帰還』

冥府。

それは冥界の下層に位置する死者の魂が選別される場所。

そこにサーゼクスとアザゼルが訪問していた。

その護衛には天界の切り札にして神滅具『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』の保有者である御使いのジョーカー『デュリオ・ジェズアルド』が同伴していた。

その後衛には堕天使側の神滅具『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』の保有者『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』も待機していた。

 

何故、この面子が冥府に赴いたか?

理由はハーデスへの牽制。

先の件で、ハーデスが裏で糸を引いているのは明白であり、今の冥界の混乱に乗じて何を仕掛けるかわからないからである。

そこで冥界は…魔王自らの訪問という手でハーデスを牽制したのである。

 

しかし、相手は神。

いくら魔王と言っても足止めには限界がある。

しかし、サーゼクスの発案とハーデスの言葉からサーゼクスはその真なる姿を顕現した。

圧倒的な滅びの魔力の塊…。

それは魔王…いや、悪魔とカテゴライズしてもいいのかも疑問に持ち上がる程であった。

 

さらにそれに合わせるかのように冥府に現れた一団があった。

ヴァーリチームである。

神を屠る事の出来る牙を持つフェンリルを有し、それぞれが一騎当千とも言える強者揃いであるヴァーリチームの乱入もあり、ハーデスは冥府から離れることが出来なくなってしまった。

これにてハーデスの横槍を心配する必要はなくなった。

サーゼクスとアザゼルはそんなハーデスに私的な言葉を言い放っていた。

 

「冥府の神ハーデスよ。我が妹リアスと義弟兵藤 一誠に向けた悪意…万死に値する。もしもこの場で立ち会うことになったら私は一切の手加減も躊躇も捨ててあなたを滅ぼし尽くす。その時は覚悟していただこう…!!」

 

「骸骨神様よぉ。俺も一応キレててよ。一言言わせてもらうぜ? 俺の教え子たちを泣かせてんじゃねぇよ!!」

 

残る問題は冥界を進撃中の巨獣軍団のみ。

若手悪魔達の本領を見せる時である。

 

………

……

 

アジュカ・ベルゼブブの隠れ家からグレモリー城に帰還したリアス達は首都に向かう準備をしていた。

その途中で天界から帰還したゼノヴィアとイリナ、北欧から帰還したロスヴァイセも合流を果たし、残るグレモリー眷属はイッセーとギャスパーのみとなった。

 

そんな折、首都リリスで活動中だったシトリー眷属の前に英雄派が現れたとの情報がもたらされてグレモリー眷属の出陣の狼煙となった。

 

 

 

シトリー眷属の救援に向かう途中でギャスパーとも合流を果たしたグレモリー眷属一行はシトリー眷属と戦闘を繰り広げている英雄派と接触した。

 

「ぐぅっ!?」

 

「こんなもんかよ? アガレスと良い勝負したって聞いてたから期待してたのによ」

 

そこには巨漢のヘラクレスが匙の喉元を掴みながらソーナ会長の背中を踏みつけているところであった。

 

「ふざけないで! 子供の乗ったバスを執拗に狙い続けたくせに! それを庇う為に会長も匙も実力を出せなかったのよ! そう仕向けたのはあなた達じゃない!!」

 

真羅副会長が珍しく激昂した様子で悔しそうにしていた。

 

「私はやめとけばって言ったわよ? ま、止めるつもりもなかったけどね!」

 

そんな物言いのジャンヌが聖剣を創り出して足場を破壊し、真羅副会長を押し返す。

 

「っ!?」

 

「さよなら、シトリーの女王さん」

 

ジャンヌの聖剣が真羅副会長に襲い掛かろうとした時…

 

ギィンッ!!

 

「いい加減にしてくれないかな」

 

木場がすぐさま動き、グラムを抜いてその聖剣を防いでいた。

 

「ッ?! それはグラム!? まさか、ジークフリートが!?」

 

「あぁ、僕達が倒した。そして、彼の魔剣達は僕を次の主に選んだらしい」

 

そう言う木場の腰には今引き抜いたグラムの他にジークフリートが所有していた4本の魔剣が帯刀されていた。

 

「はっ! こんな連中に負けたんならあいつもたかが知れたって訳だ」

 

ヘラクレスはジークフリートの敗北を嘲笑する。

 

「…英雄派の正規メンバーがやられ続きか。これ以上、グレモリー眷属に関わると根こそぎ全滅しかねないな」

 

そう言って霧と共に現れたのはゲオルグだった。

 

ゲオルグは匙の黒炎の解呪に手間取っていたらしい。

それを見て木場は右手にグラム、左手に聖魔剣を持つと交差するように斬撃を飛ばす。

その攻撃をヘラクレスとジャンヌは容易に回避し、ヘラクレスは回避と共に匙を放り投げる。

木場は龍騎士団を精製すると、ソーナ会長、真羅副会長、匙の3人を仲間の元へと運ぶように指示し、ゲオルグの炎の魔法をグラムで一刀両断にしていた。

 

この一連の流れを見て…

 

「強い…これほどまでの騎士を保有しているとは…侮りがたしグレモリー眷属」

 

ゲオルグは舌を巻いていた。

 

「僕は影でいいのさ。ヒーローはイッセー君だ。僕はリアス・グレモリーの剣でいい」

 

木場はそう言っていた。

 

匙とソーナ会長はアーシアに回復してもらっている。

その間にも動きはあった。

イリナは京都でのジャンヌ戦での雪辱を晴らすために量産型の聖魔剣を携えていた。

新生エクス・デュランダルを持つゼノヴィアと、魔人化を警戒して堕天使化した朱乃がそんなイリナに加勢していた。

ただ、その際にしたゼノヴィアの破壊一筋宣言を聞いて木場が心の中で泣いたのは言うまでもないが…。

エクス・デュランダルは7本のエクスカリバーの能力を合わせ持っているため、使い方次第では曹操と十分…いや、十二分に渡り合えるだろう性能を発揮させられるのだが…使い手が他の能力に目を向けないせいで宝の持ち腐れ状態なのかもしれない。

 

何故、ここに英雄派がいるのか?

それに対する答えは明快だった。

曹操が巨獣軍団がどこまで攻め込めるか見学しに来たからである。

それに同行していたゲオルグ達だったが、ヘラクレスが退屈しのぎでシトリー眷属乗っていたの子供達のバスを発見し、挑発した上で戦闘開始…という流れらしい。

 

さらにここでサイラオーグの登場である。

ヘラクレスの言動を見てサイラオーグは、ヘラクレスは赤龍帝よりも弱いと断じていた。

現にただの拳打だけでヘラクレスは地に膝を着けたが、彼がバカにしていたイッセーはそれを喰らっても立ち向かっていたのだから…。

禁手化となって爆砕ミサイルを撃ち出すヘラクレスだが、サイラオーグはそれを拳一つで弾いていた。

そんなサイラオーグに子供達からの声援が送られる。

最初はキョトンとしていたサイラオーグだったが、子供からも声援されない英雄の魂を継ぐ者に強烈な一撃を加えていた。

魔人化しようとするヘラクレスを見てサイラオーグはそれすらも超えると断言し、最後の最後でヘラクレスは英雄としての誇りを取り戻したようにも見えた。

 

その姿を見て…

 

『なぁ、木場。サイラオーグさんって不思議な人なんだよ。あの人と真正面から殴り合うなんざ正気の沙汰じゃねぇ…誰もが避けて通ると思う。けどさ…頭ではそう考えてても気づいたら殴っちまう俺がいるんだよ。そう言う人なんだよ、あの人は……殴り合いたくなる。そこに理屈なんて関係ねぇのかもな…』

 

木場はいつかイッセーの言っていた言葉を思い出していた。

 

 

 

ゲオルグがヘラクレスを倒したサイラオーグと、ジークフリートを倒したグレモリー眷属を一瞥してから小猫とギャスパーも情報通りではないと予測した。

しかし、グリゴリに赴いていたギャスパーは顔を青褪めるだけであった。

彼は言う。

 

「僕、強くなれなかったんです…!」

 

嗚咽を漏らしながらそう告白するギャスパーは泣き崩れる。

その告白にグレモリー眷属の誰もが驚いていた。

 

「亡き赤龍帝もこんな後輩の姿を見ては浮かばれないだろう」

 

それを見てゲオルグはそう漏らした。

 

それを聞いたギャスパーはイッセーの死を初めて知る。

しかし、それは誤りだとリアスが言おうとした時、それをサイラオーグが止めた。

何か切っ掛けがあれば化けるのではないかと…何かに目覚めるのではないかと、2人の王は考えたのだ。

 

だが、その結果…。

 

その区画を覆う程の暗黒が広がっていた。

それは暴走とも禁手とも違う、異質な力であった。

ギャスパーから広がった闇は周囲の空間を支配し、暗黒に染めていった。

 

「な、なんだ、これは…!?」

 

その闇は全てを喰らい尽していた。

ゲオルグの魔法も、霧も…何もかもを赤い眼で停止させながら侵食していったのだ。

 

「くっ!? ここは一時撤退を…!!」

 

転移用の魔法陣を展開した直後だった。

 

ボアアアッ!!

 

ゲオルグの体に黒い炎が蛇のように巻き付いていた。

 

「逃がすかよ…お前らは、俺のダチをやったんだ。ただで済む訳ねぇだろ!!」

 

アーシアの回復で意識を取り戻した匙がゲオルグに呪いの黒炎を巻き付けていたのだった。

 

呪いの黒炎と異質の闇によってゲオルグは倒されたのだった。

 

 

 

闇の空間から元の空間に戻った時、ギャスパーは道路に横たわりスヤスヤと寝息を立てていた。

ただでさえ悪魔を嫌う吸血鬼に対し、ギャスパーについて詳しく聞く必要性が出てきた。

それと同時に魔法使いにも気をつけるようにと復活したソーナ会長は言っていた。

 

と、そこに…

 

「あらら、ヘラクレスがやられちゃってる。ゲオルグも…? これは参ったわね…」

 

小さな男の子を小脇に抱えたジャンヌが戻ってきた。

 

「待て、ジャンヌ!」

 

そこに戦いを優勢に進めてたであろうゼノヴィア達も合流する。

 

「卑怯だな」

 

サイラオーグの言葉に…

 

「悪魔に言われたくないわね。でも、仕方ないじゃない。あなた達、強過ぎるわ。私が逃げの一手になるなんて……とりあえず、この子は曹操が来るまでの人質よ。OK?」

 

そう言ってからジャンヌは…

 

「それにしても…意外に静かね、ボク。怖くて声も出せないのかしら?」

 

人質にされている男の子の様子にそんな感想を漏らしていた。

 

男の子は言う。

夢の中でおっぱいドラゴンが約束したという。

もうすぐそっちに行くから泣かないようにと…。

その夢はその男の子だけではなく、他の子供達も見ていたという。

そして、男の子が彼を慕うあの曲を歌い始めると…奇跡は起きた。

 

首都上空に次元の亀裂が入り、そこから懐かしいオーラを木場達は感じ取っていた。

子供達の英雄(ヒーロー)の帰還である。

 

………

……

 

次元の狭間より現れたグレートレッド。

その背にはイッセーとオーフィスの姿があり、その眼前には超獣鬼(ジャバウォック)がいた。

超獣鬼を相手に立ち回っているのはサーゼクスのルシファー眷属。

ルシファー眷属の力を持ってしても未だ超獣鬼はダメージを受けた様子はなかった。

 

そうしている内に超獣鬼はグレートレッドを視認し、敵意を剥き出しにする。

それを『ガン付けられた』と認識したグレートレッドの怒りに触れ、イッセーに手を貸すから倒そうと持ち掛けていた。

イッセーは困惑する一方だったが、グレートレッドの体が神々しく光り輝くと同時にそれは起きた。

なんと、グレートレッドサイズにイッセーの体を再現した巨大化合体である。

 

『なんで俺、でっかくなってんのぉぉぉぉ!!?』

 

当然、イッセー自身もその巨大化に驚いていた。

しかし、超獣鬼との体格差は頭二つ分くらい低いまでになったので十分に戦闘可能となった。

グレートレッドサイズでも動きはイッセーに任せる形になっていたので、イッセーが戦いを優位にしたものの決定打に欠けていた。

そんなイッセーにグレートレッドからドライグを通して決め技があるという朗報がもたらされる。

そこでイッセーはグレイフィアに協力を仰ぎ、超獣鬼を空へ飛ばすように願い出ていた。

グレイフィアはそれを承諾し、ルシファー眷属の力を合わせて超獣鬼を上空へと上げる。

そして、本来は得てはならない力『ロンギヌス・スマッシャー』を以ってイッセーは超獣鬼を粉砕していた。

 

その後、グレートレッドと分離したイッセー。

グレートレッドの別れの言葉は……『ずむずむいや~ん』であった。

それを聞き、またしても軽い絶望感に苛まれるイッセーとドライグ。

 

「ずむずむいや~ん」

 

そして、いつの間にか隣にいるオーフィスまでもそれを口にする。

 

「なんで、伝説のドラゴンやそれに関わった連中はそんなにそのフレーズが好きなんだよぉぉぉぉ!!!」

 

そう叫ばずにはいられないイッセーだった。

 

 

 

禁手状態のイッセーの背にオーフィスが乗って空を飛び、首都リリスの上空を巡っていると、オーフィスが西の方からアーシアとイリナの気配を感じると言い、それを頼りにどうにかグレモリー眷属に合流したものの…。

皆、狐に抓まれたようにキョトンとするばかりだった。

そして、『おっぱい』の一言を言わないと存在を認識されないという非情な現実を目の当たりにしたイッセーだった。

 

その後、木場が隙だらけのジャンヌから人質の子供を解放し、イッセーがジャンヌを下してからアレからどうなったかの経緯を説明をすることになった。

当然ながら忍が謎の龍に喰われた事も含めてだ。

 

「オーフィスの力を借りて…グレートレッドの体の一部で体を再生させた!?」

 

その中でもロスヴァイセが素っ頓狂な声を上げる。

他の皆も驚いていたが、魔法に秀でたロスヴァイセの反応は当然かもしれない。

 

「生きているとは思いましたが…ここまで非常識というか、常軌を逸した助かり方をしてるとは…」

 

「紅神君が謎の龍に食べられたというのも…少し智鶴に言いづらい事実ね」

 

「でも、忍は無事ですよ! あいつだってこんなところで死ぬような玉じゃないし…!」

 

すると…

 

「強者を引き寄せる力…ここまでくると恐ろしい。まさか、モンスターの進撃を見学しに来たというのに、グレートレッドと共に君が現れるとは…」

 

第三者…曹操が登場してそう言っていた。

 

「僅かな間に超えたというのか…業魔人を。恐ろしきはグレモリー眷属の成長率…」

 

倒れている仲間を一瞥した後、曹操は異質なものを見るかのような視線をイッセーに送る。

 

「帰ってきたというのか、兵藤 一誠。シャルバの奸計から…!」

 

「あぁ、サマエルの毒を受けて体が一度ダメになったけど…先輩達やオーフィス、グレートレッドが力を貸してくれて体を再生させてもらったぜ?」

 

「信じられない…。あの毒を受けて君が生存出来る確率はゼロだったはず。それが真龍との邂逅と力によって自力で帰還など…! 真龍との遭遇だって偶然では済まされないレベルなんだぞ…!!」

 

イッセーの帰還に曹操は信じられないという表情になっていた。

 

その隙にイッセーは再びリアスから駒を受け取り、眷属として復帰。

そうしてると、今度はプルートが現れてオーフィス奪取を企てるが、そこにヴァーリが参上する。

異空間にて曹操やサマエルにやられた鬱憤をプルートで晴らすという。

そして、ヴァーリが見せるのは新たな覇龍の形…。

 

「我、目覚めるは…」

 

「律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり」

 

「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く…」

 

「我、無垢なる龍の皇帝と成りて」

 

「汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう」

 

『Juggernaut Over Drive!!!』

 

ヴァーリが編み出した彼だけの強化形態『|白銀の極覇龍《エレンピオ・ジャガーノート・オーバードライブ》』。

その破壊力は最上級死神であるプルートをも一瞬の内に消滅させてしまう程であった。

 

その後、イッセーはヴァーリから曹操の禁手に宿る残り三つの能力を聞かされ、曹操との一対一の勝負をすることになった。

それを察して他の皆は動かない。

曹操もまたそれに応えるべく禁手を発現させて赤龍帝を相手にする。

 

………

……

 

イッセーが曹操と戦い始めた頃。

 

「逃げ遅れた人は…もういませんね?」

 

『周囲の動体反応…我々以外、感知出来ず』

 

智鶴の声にスコルピアがそう答える。

 

「それにしても…さっきの衝撃はなんだったのかしらねぇ?」

 

近くの瓦礫に座って空を見上げながらカーネリアがそう漏らす。

その空は未だ紅く染まっていた。

 

「冥界の空は紫色です。それがあんなに真っ赤になるなんて…」

 

シアもこの光景には不安を抱いていた。

 

『先程の次元反応と何か関わりがあるのでは?』

 

スコルピアがそう伝えると…

 

「グレートレッド、ね」

 

ビルの隙間から見えていたのか、カーネリアが言う。

 

「あんなでっかいドラゴン、あたし初めて見たよ」

 

「……お姉ちゃん。ドラゴン自体、初めて見たから」

 

「ホントに管理外世界なんです、よね…?」

 

「もう無茶苦茶よ…」

 

グレートレッドの巨体やらその後の巨大化した人型(イッセー)を見させられてミッドから飛ばされた4人はそれぞれ何とも言えないような反応を示していた。

 

「(そういえば、アレって確か…第一級の特別指定危険生物だったような気が…)」

 

多次元世界の非常識にだいぶ慣れつつあったフェイトもグレートレッドの出現には驚き、内心で特別指定危険生物などが掲載された資料の事を思い出していた。

 

そうしていると、遠くから何やら戦闘音が響き渡ってくる。

 

「この力の波動…赤龍帝ね。相手は……聖槍かしら?」

 

力に関しては敏感な感性を持つカーネリアが遠くの戦闘音を聞き、そんなことを言う。

 

「兵藤君が帰ってきた? なら、しぃ君のことも…」

 

それを求めて智鶴が戦闘音が聞こえてくる方角を見る。

 

「今、あっちは戦闘中よ。そんな暇があると思う? 第一、こっちも仕事がまだ残ってるんだから」

 

暗七が愚痴るように言う。

 

「っ…そう、ですね…」

 

ホントは今すぐにでも行きたい衝動を抑え込み、智鶴は次の地点に向かうように指示を出そうとする。

 

すると…

 

「あっれ~? 狼眷属じゃん。なんで冥界なんて関係なさそうな場所にいんの?」

 

「旧魔王派の雑魚共の悪足掻きを見物に来たつもりだったが…これは面白い連中と出くわしたようだ」

 

龍騎士軍団を引き連れたディーとグリードが現れていた。

 

「あなた達は…!」

 

直接的な面識こそなかったが、例の映像で見た紅神眷属は警戒する。

 

「てか、狼は? いなくね?」

 

死神の鎌を地面に突き立てながら忍の姿を探すディー。

 

「奴がいないなら俺達が出張る必要もないだろう。おい、貴様らの出番だ。そこの女共を血祭りにあげろ」

 

忍がいないとわかると退屈そうにグリードは背後の龍騎士軍団に指示を送る。

 

『グルルル…』

 

それを受け、龍騎士軍団が紅神眷属へと仕掛けようと飛翔したり、地面を走ったりして接近する。

 

「「ふざけんな!」」

 

それに激昂したのはクリスと吹雪であり、クリスは腰部アーマーを展開してミサイルを撃ち、吹雪は魔力をレーザー状にしてそれぞれ龍騎士軍団に放っていた。

 

「エルメスさんはラトちゃん達の防御をお願いします! シアちゃんとクリスちゃんは後方支援に徹してください。暗七ちゃん、カーネリアさん、私で前線を務めます! フェイトちゃんと吹雪ちゃんはエルメスさんのフォローえを…!」

 

両騎士が不在の中、智鶴は忍がいない間に勉強したことを実践するべく皆に指示を出していた。

 

「「はい!」」

 

「はいはい」

 

「わかりました!」

 

「ま、ほどほどにね」

 

「了解だ!」

 

「了解よ!」

 

智鶴の指示に従い、それぞれが行動に移る。

 

前線では智鶴が次元刀、カーネリアが光の槍、暗七が手を異形と化して龍騎士と渡り合い…。

後衛ではクリスがイチイバルでの射撃が火を噴き、シアによる多彩な魔法や霊術、妖術が繰り出される。

ラト達の防衛を任されたエルメスは自らの龍気を魔法陣と組み合わせて鉄壁の防壁として展開し、近付く龍騎士はフェイトと吹雪が迎撃していた。

 

「フィー! この間の借りを返すよ!」

 

「……うん!」

 

智鶴に指示を貰えなかったラトとシルフィーが勝手に動く。

 

「あ、2人共…!?」

 

それを止めようとティラミスが声を上げる。

 

「はぁ…また無鉄砲な…」

 

そう言いつつもラピスも足元にミッド式の魔法陣を展開していた。

 

そんな戦況を見て…

 

「女のくせに龍騎士軍団に抗う、か」

 

「いいねぇ~、俺は殺し甲斐があると思うよ?」

 

グリードは目を細め、ディーは楽しそうに鎌をグルグルと回していた。

 

すると…

 

『ッ!? 高エネルギー反応、来ます!』

 

スコルピアが驚いた様子で叫ぶように報告する。

 

「えっ!?」

 

「これは…聖なるオーラを攻撃に転用したものかしら? ちょっとマズいわね…」

 

スコルピアの報告に前線にいた智鶴とカーネリアが驚く。

 

それはビルを次々と倒壊させながら智鶴達の方へと向かってきていた。

 

「皆、逃げ…」

 

『マスター、ダメです。間に合いません!』

 

智鶴が他の眷属に逃げるように言おうとするが、スコルピアは間に合わないと判断する。

 

「(しぃ君…!)」

 

智鶴が目をつむって想い人のことを考える。

 

と、その時…。

 

『次元反応増大? 何か、来る…?』

 

今まさに聖なるオーラが迫ろうとした時、智鶴達の上空に次元の裂け目が現れ…

 

バリィンッ!!

 

ガラスが砕けるような効果音と共に次元が裂け目が開き…

 

「ッ!! 五重結界(ごじゅうけっかい)ッ!!!」

 

ズガァァァンッ!!!

 

そこから現れた人物によって絶大な聖なるオーラの攻撃を五つの力が障壁となって防いでいた。

 

『この反応は…!?』

 

スコルピアがその反応を捉えたのと同時に智鶴の前にシュタッと着地する人影。

それは…

 

「しぃ、君…?」

 

それを見上げるようにして智鶴はその人影の名を呼ぶ。

 

「ただいま。智鶴、皆」

 

それは紛れもない…忍の帰還だった。

 

「次元の裂け目から狼が現れただと?」

 

「ありゃりゃ…何処に行ってたか知らないけど、これで面白くなってきたじゃん♪」

 

グリードは右腕に籠手を出現させ、ディーも鎌を忍に向ける。

 

「絶魔勢力? どういうことだ?」

 

既に真狼状態の忍は目の前の絶魔勢力を見て怪訝に思う。

 

「それに…ここは冥界? なんでこんなところに智鶴達が…?」

 

疑問が尽きない忍だったが、今は…

 

「この場を切り抜けるか…」

 

そう言って鎌鼬は発生させるグリードとそれに紛れて斬り込むディーを一瞥し…

 

「アクエリアス」

 

『シェライズ、展開します』

 

忍の一言でアクエリアスはシェライズを展開し、鎌鼬を防ぎ…

 

ギィンッ!

 

ディーの斬撃をファルゼンで受け止める。

 

「ッ!!」

 

斬撃を受け止められた瞬間、ディーの表情が一気に険しくなった。

そして、そのまま宙を蹴ってグリードの真横に着地すると…

 

「こりゃなんか知らないけど…また強くなってるよ、この狼…」

 

そう低い声音で呟くティー。

たった一度の交錯だけでディーは忍の中に何かを感じ取っていたようだ。

 

「(こいつがそんなことを言うとは珍しい…が、こいつの観察眼は間違いない)」

 

それを聞き、グリードも警戒を厳にする。

 

「グリード、ここは退こうよ。どうせ見学ついでの性能テストだったんだし…悪魔相手に出来なかったのは残念だけど、他の連中がきっとそれを果たしてる。俺らはノヴァ様に狼の変化を伝えないと、ね」

 

「……わかった。お前が珍しく退くというのならそれも仕方あるまい」

 

グリードが手を挙げると、他の眷属と交戦中だった龍騎士軍団の残りが退いていく。

 

「狼。何があったか知らないけど…ここは退かせてもらうわ。お前、なんか危険だわ。今の俺らじゃちょっと厳しいかもね。束になっても、かもだけど…」

 

「(なんだと…?)」

 

ディーの言葉にグリードは細めていた目をさらに細めていた。

 

「ほんじゃま、グッバイ。次、会える時はその変化、見極めさせてもらうわ」

 

いつもの飄々とした態度の中にも警戒の色を濃くしながらディーは鎌を振るって次元の裂け目を作り出す。

そして、その中へと消え去るようにディー達は消えていった。

 

「……………」

 

ディーの危険という言葉に少しばかり思い当たる節があるものの、忍はもう戻れないと考えていた。

 

「しぃ君…?」

 

そんな忍の背中を見て智鶴は何かを感じていた。

 

 

 

その後、事態は収束していく。

曹操と戦っていたイッセーは奇策を用いてからくも曹操に勝利したのだった。

冥界を進撃していた他の豪獣鬼も他の勢力の元に殲滅していった。

こうして冥界の危機はとりあえず去ったと言っても差し支えなかった。

 

ただ、アザゼルはオーフィスを勝手に連れてきたことが問題となり、神の子を見張る者の総督を更迭された。

だが、その殊勲や功績は多く、特に異常な成長を見せる現赤龍帝と歴代最強と称される現白龍皇を指導したことが何よりも大きいだろう。

 

また、先日の中級悪魔昇格試験の結果は…。

イッセー、木場、朱乃の3名は無事に昇格を果たし、中級悪魔となった。

 

そして、イッセーと忍も無事に帰還したことで(かね)てより決まっていた対戦が実現する。

若手ナンバーワンとなったグレモリー眷属と、冥族との和解の切っ掛けを作った紅神眷属とのレーティングゲームである。



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第六十七話『新たな仲間達』

冥界での騒動の後のこと。

ラト達4人娘は無事にミッドへと送られることとなった。

が、結果から言えば、家の人に多大な心配と迷惑を掛けたのでお説教は免れなかった。

それは局員であるが、未成年でもあるティラミスにも言えたことである。

学園と仕事場の無断欠席で、あらぬ噂も立つこともあるが…。

 

この時ばかりは特務隊…ゼーラの顔が役に立った。

大人が対応することで4人娘の親御さん達に適当な転移事故(ということにした)に巻き込まれ、偶然その場にいた特務隊の人間により保護され、数日間行動を共にしていた。

主な筋書きはそういう感じである。

 

ちなみに、その隊員というのは…

 

「なんで、俺が特務隊の制服を…」

 

地上本部の廊下を歩きながら忍がぼやく。

 

「無駄な仕事を増やした張本人が言う台詞ではないな」

 

その前方にはゼーラが歩いていた。

 

「ぐぬ…」

 

そう、それは特務隊の制服を着させられた忍である。

 

「それに誰だったかな? 特務隊(うち)の試作機を偶然とは言え、勝手に運用しているのは…?」

 

「ぐぐぐ…」

 

「他にもあるぞ。専用装備を回したり、多次元世界へ輸送したり、学園を紹介したり、任務終わりの隊を動かしたり…」

 

次から次へと出てくる特務隊への借り(というかゼーラへの借りか?)を並べられて忍は次第に小さくなっていく。

 

「この際だ。お前には特務隊の席を特別に用意してやろうか? なに、嘱託騎士とでもしておけば問題なかろう」

 

いや、色々と問題がある気がする。

 

「俺が特務隊に? そんなことしてアンタに何のメリットがあるんだよ…?」

 

忍は当然とばかりに聞き返す。

 

「俺としては別にどうでもいいが…そうだな。強いて言うなら、人員の確保。なにせ人が少ないからな。何ならあの子娘共も準隊員として迎えてもいいんだぞ?」

 

それからゼーラはふむ、と考えてから…

 

「さらに言えば、ネクサスの正式な譲渡、その実戦データの回収、特務隊権限によるセイバレスへの搭乗許可などなど…お前としても十分なメリットがあると思うが?」

 

半分以上は忍へ対する措置である。

 

「(この上、まだ利用する気か!?)」

 

それを聞き、忍は顔を引きつらせる。

 

「次元辺境伯を名乗るなら多次元世界を渡るルート確保も重要だろう?」

 

忍の足元を見た発言である。

 

「(確かに眷属総出の場合、スコルピアの能力ばかりを頼る訳にもいかないが…)」

 

そうすると必然的に智鶴への負担も大きくなるため、色々と考えさせられる忍だった。

 

「ともかく、お前には特務隊のメンバーを紹介しておこう。歳は近いはずだからすぐに馴染めるだろう」

 

そうこうしている内に特務隊の執務室に到着してしまう。

 

「入るぞ」

 

「なんかまた転校をやってる気分だ…」

 

そんなことを言いつつゼーラが先導して執務室に入る。

 

ウィーン…

 

自動ドアが開き、執務室の中が明らかとなる。

 

「全員、揃っているな?」

 

ゼーラが来たことで何人かはゼーラに敬礼していた。

 

「? 隊長、そいつは?」

 

忍の存在に気付き、ジェスが尋ねる。

 

「なんでウチの制服着てんのよ…?」

 

さらに朝陽も忍が制服を着てることに対して驚きと苛立ちが混じったような声音で聞く。

 

「こっちにも色々とあるんだよ」

 

朝陽にそう返すと…

 

「流星以外は初めてだな。こいつの名は紅神 忍。今後、特務隊の嘱託騎士となる者だ」

 

「はぁ!?」

 

ゼーラの言葉に朝陽が意味わかんないと言いたげに驚く。

 

「紅神…確か、ネクサスを所持している者だったはずでは?」

 

報告書のことを思い出し、そう漏らすのはエリザであった。

 

「え? ネクサスって…前に朝陽さんが始末書を書いてた?」

 

そんな不用意なことを言ったジェスに対し…

 

ゲシッ!!

 

「い゛っ!!?」

 

「うっさいわよ、この体力バカ」

 

朝陽は思いっきりその足を踏みつけていた。

 

「~~~っ!!?」

 

ジェスは足を押さえて必死に痛みを堪える。

 

「ですが、何故に今になって? それに人員補充なんて聞いてませんけど…」

 

シルヴィアが鋭い指摘をする。

 

「あぁ、それもそうだろう。たった今決めたからな」

 

そんなゼーラの一言に…

 

「「「「え…?」」」」

 

「………」

 

「はぁ…」

 

「いつものことか」

 

ジェス、ラルフ、シルヴィア、シェーラは鳩が豆鉄砲を食らったような声を漏らし、ハクアは興味なし、朝陽は溜息を吐き、エリザは特に驚いた様子はなかったとそれぞれの反応を示していた。

 

「紅神。流星は知っているから今更の紹介はいらんな。特に驚いた様子のないのがエリザベータ・アルス。これも特に興味が無いのがハクア・ミューテシア。そして、残りは流星に足を踏まれたのがジェス・ガレクトン、もう1人の男がラルフ・エスカリオン、鋭い指摘したのがシルヴィア・フューリス、医務官のシェーラ・レヴェランス。以上が特務隊のメンバーだ」

 

ゼーラが各隊員を指で指し示しながら簡潔な紹介をする。

 

「は、はぁ…(随分と簡潔過ぎな気もするが…)」

 

「覇気のない声だな」

 

エリザが忍の気のない返事に対してそう言う。

 

「てか、特務隊に入るんだから…当然、強いんだよな?」

 

ラルフが確認するように忍を見る。

 

「前衛でも後衛でも活躍出来るが、本領は近接寄りのオールラウンダーだ。指揮能力も備えている」

 

ゼーラがそう答えていた。

 

「万能型、ですか」

 

シルヴィアがそう漏らす。

 

「じゃあ、隊長のテストも受けたんすか?」

 

未だに足を押さえてるジェスが尋ねる。

 

「テストする必要はない。何ならお前達自身で確かめたらどうだ?」

 

えらく挑発的なゼーラの物言いに…

 

「ならいっちょ試してみますか!」

 

「ふむ…前は少ししか手前を見られなかったからな。この際、見極めさせてもらおう」

 

「俺も賛成。朝陽さんはどうします?」

 

ラルフとエリザが承諾し、ジェスも賛成しながら朝陽に尋ねる。

 

「あたしはパス」

 

が、朝陽は忍の実力を知っているので、参戦する気はないらしい。

一応、王に刃を向けるのは騎士として如何なものか、という思いも少なからず朝陽の中にはあった。

 

「私も見学する分には問題ありませんが…1人相手に複数というのは…」

 

「私もシルヴィアさんと同じ意見です…」

 

シルヴィアとシェーラは忍1人で複数相手は問題があると思っていた。

 

「……はぁ、どうでもいい…」

 

ハクアは本当に興味が無さそうに端末を弄っている。

 

「まぁ、見ればわかる」

 

面白いものが見れるとあり、ゼーラは薄ら笑いを浮かべていた。

 

「(バカ2人はともかく…教官が相手となると忍でも厳しいかしらね)」

 

朝陽は朝陽で別の心配をしていた。

 

 

 

場所は変わり、市街戦を想定した訓練場に移っていた。

 

「って、マジでやるのかよ!」

 

ネクサスを起動させながらも忍はゼーラに苦情を言っていた。

 

『これも奴等を納得させるための儀式だと思え。それに流星みたく経験を積む良い機会だからな』

 

投影ディスプレイからゼーラがそのようなことを言う。

 

「(つまり、アクエリアスやドライバーデバイス、解放形態も使っていいと…匂いからしてここには特務隊メンバーしかいないようだが…)」

 

ゼーラの手が回っているのだろう、訓練場には特務隊しかいなかった。

その内の3人は忍とは離れた場所でそれぞれデバイスを起動させており、残りのメンバーも戦闘が見れる場所で望遠魔法を使って観戦するつもりらしい。

 

『準備は良いな? では、模擬戦開始だ』

 

忍が考え込んでる内に模擬戦が開始してしまう。

 

「問答無用か!?」

 

忍がそう叫んでいると…

 

「一番槍、頂くぜ!」

 

ビルの壁を蹴ってショートカットしてきたジェスが忍に殴り掛かる。

 

「(また、えらく直情的だな…)」

 

それを見て忍はすぐさま回避運動に移る。

 

「逃がすか!」

 

一枚の魔力ディスクを弾き出すと、それを右グローブに装填し…

 

「魔拳弾!」

 

拳大の魔力攻撃を忍に仕掛けていた。

 

「(なんだ、この戦い方は!?)」

 

初めて見る戦法に忍も驚きつつも魔拳弾をバク転の要領で上に蹴り弾く。

 

「まだまだぁ!!」

 

そのまま忍を追いかけて拳のラッシュを仕掛ける。

 

「(近接戦闘…拳に特化したスタイルか? なら、魔法体系はベルカ式…?)」

 

ジェスのラッシュを理力の型を用いて紙一重で回避しつつジェスの戦い方と魔法体系を分析と予想してみるが…

 

「これならどうだぁぁ!!」

 

"ミッド式"の魔法陣を眼前に展開し、そこへ赤いディスクをセットした右拳を叩き込む。

 

「バースト・インパクト!」

 

忍側に向いた魔法陣から爆発が巻き起こる。

 

「ッ!? ミッド式!?」

 

その爆発を回避することも忘れ、忍はジェスの使った魔法陣に驚いていた。

 

「よっしゃ! まずは一撃!」

 

忍に一撃を入れたことにジェスは喜んでいたが…

 

「あっぶねぇなぁ…」

 

ゴゥッ!!

 

その言葉と共に一陣の風が吹き荒び、爆発で発生した煙を吹き飛ばす。

 

「なんだ、そりゃ!?」

 

ジェスは忍の姿に驚く。

忍の身にはネクサスのバリアジャケットの上からアクエリアスを纏っていたのだから…。

 

『ストリームオーラ、正常稼働』

 

さらに言えば、自動防衛システムもあるので忍へのダメージはゼロに等しかった。

 

「ま、これもデバイスの一種ということ、で!」

 

そう言いながら忍はジェスを殴ろうとしたが、それを止めて後退する。

 

その直後…

 

「ちっ! 勘付きやがったか」

 

横合いから迫ってきていたラルフが舌打ちしながらヴェルブレードで斬り掛かっていた。

 

「(ま、匂いとか空気には敏感でね)」

 

そう思いつつ忍は両手にベルカ式の魔法陣を展開し…

 

「ブリザード・ファング・デュアルシフト!」

 

両腕を広げるようにして中距離拡散型凍結魔法を撃ち出す。

 

「げっ!?」

 

「マジか!?」

 

まさかベルカ式から砲撃が来るとは思わず、反射的にそれぞれ防御魔法で防いでいた。

 

「も一つおまけに…!」

 

拡散砲撃の内、いくつかを別地点で収束させていたところに神速で移動し、環状の魔法陣を右腕に展開しながら…

 

「ブリザード・ファング・エクシード!」

 

そのチャージしていた球体を殴って収束砲撃並みの砲撃を2人に撃ち込んでいた。

 

「ッ!? カートリッジ、ダブルロード!」

 

それに反応したラルフがヴェルブレードを構え…

 

「業気炎斬剣!!」

 

ブリザード・ファング・エクシードを真っ向から受け止める。

 

ブォォッ!!

 

熱気と冷気がその場を中心に渦巻く。

 

「(カートリッジの同時炸裂か? 燃費は悪そうだが、威力は今の通りか)」

 

それを見て忍はラルフのデバイスの特性を把握する。

 

「寒っ!?」

 

「熱っ?!」

 

熱気と冷気に当てられてジェスもラルフも身震いしていた。

 

「(二つの冥王のおかげで、どっちにも耐性が出来てきたかな?)」

 

対する忍は特に熱がったり寒がったりする様子はなかった。

 

「2人掛かりで情けない…これはまた訓練メニューを追加すべきだな」

 

そこへエリザが合流して忍と対峙する。

 

「(得物は槍か…)ファルゼン」

 

エリザのデバイスを見て即座にファルゼンを起動させる。

 

「ふむ…」

 

それを眼で見てエリザは静かに構える。

 

「(さっきの2人と比べると隙が全然ねぇ…)」

 

その構えを見て忍は隙の無さを感じていた。

 

「ったく、教官殿も手厳しいぜ」

 

「でも、強くなれるなら俺はいいかな?」

 

「お前、相変わらず前向きだな…」

 

そう言い合いながら忍を三方向から包囲するように移動していた。

 

「(囲まれたか…)」

 

ジェスとラルフの動向を鼻で追いながら目の前のエリザに集中する。

 

「(ほぉ、良い眼をしている)」

 

そう思いつつエリザはヴェルランサーを矛先を忍に向け…

 

「いざ、参る!」

 

「ッ!!」

 

キンキンッ!!

 

エリザの連続突きを忍は理力の型でかろうじて防いでいたが、エリザの突きは見た目以上に鋭く重かった。

 

「くっ…!(凌ぐだけで精一杯か!)」

 

「どうした。貴殿の力とはその程度のものか?」

 

そんなエリザの言葉に忍は…

 

「真狼、解禁…!」

 

これ以上、通常形態での勝負は危険と判断して真狼を解放して速度に対応する。

 

「むっ?」

 

急に速度が上がったことにエリザは違和感を覚える。

 

「なんだ? 尻尾?」

 

「頭から犬みたいな耳が生えたぞ?」

 

それを外側から見ていたジェスとラルフが忍の変化を口にする。

 

「犬じゃなくて狼だ!」

 

いつものツッコミを入れつつ忍は…

 

霊鎧装(れいがいそう)!」

 

霊力を薄い膜状にして体全体を覆う結界のような防御霊術を展開する。

 

「瞬狼斬ッ!」

 

次の突きを当たるスレスレのところで回避すると共に忍は神速の速度で動き…

 

「ッ!?」

 

「消えた!?」

 

「何処、行った!?」

 

周囲を見回すが、忍の姿は見えなかった。

それはエリザ達に消えたと錯覚させる程の動きであった。

 

タンッ…

 

「…………」

 

次に忍が姿を現すと同時に…

 

『それまでだ。全員引き揚げるぞ』

 

ゼーラが模擬戦の終了を告知していた。

 

「え!? 終わり?」

 

「旦那、どういうこった!?」

 

ジェスとラルフが不満の声を上げるが…

 

「無念だ」

 

「俺も結構危ないとこでしたけどね…」

 

そう言ってエリザも忍も固まっていた。

よくよく見れば、エリザの持つ槍の反対側の穂は忍の喉元に突き立てそうな位置にあった。

 

「げっ!?」

 

「危なっ!?」

 

それを見てジェスもラルフも肝を冷やしていた。

 

「(打たれた一撃でやっと気配を察知出来た、か…私もまだまだ修練不足かもしれないな…)」

 

エリザはエリザで自分の力を不足だと感じ…

 

「(霊鎧装を展開してたとは言え…これは、相当な手練れだな…)」

 

忍も忍でエリザの実力に舌を巻いていた。

 

こうして模擬戦を通じてその強さを示してしまった忍は特務隊に新たな席が設けられてしまったのだった。

 

………

……

 

その翌日。

場所はフィクシス魔法学園の屋上。

昼休みのこと。

 

「こうしてまだここに通えてるのもひとえにあの人(シュトライクス少将)のおかげか…」

 

フィクシス魔法学園の屋上は開放されており、多くの生徒がそこでお昼を楽しんでいたりする。

その隅の方に忍はいた。

 

「いやぁ、あの人には頭が上がらないね」

 

「………それ、私達もだから…」

 

「そうですね…」

 

ラト達と共に…。

 

「それはそうと、お前達な…」

 

忍が何かを言おうとするが…

 

「あ、そうそう。シノブがいない間にティラちゃんとも話したんだけどね」

 

「……眷属の駒のことも聞きました」

 

「チヅルさんという方達のお話しも聞かせてもらいました」

 

ラト達は前置きとしてそのようなことを言い出す。

 

「人の話を聞け!? そして、なんだその決意に満ちた眼は!?」

 

忍は忍で嫌な予感がしてならなかった。

一応、遮音結界を張っておき…

 

「先の件で分かっただろ? 俺といると危険な可能性が多々纏わりつくんだ。もし、その決意が固かったとしてももう後戻りは出来なくなるんだぞ?!」

 

そんな忍の慌て様を見て…

 

「危険上等!」

 

「……先輩も先輩ですが、お姉ちゃんだけだと危なっかしいから…」

 

「普通では出来ない経験を積めるんです。それを活かさずして何が名門でしょう」

 

ラトは何やら危ない発言をし、シルフィーとラピスはそれぞれの決意表明をしていた。

 

「ちなみにティラちゃんは『私にも背負うことのお手伝いくらい出来ますよ?』だそうだよ」

 

ここにはいないティラミスの言葉をラトが代弁する。

 

「~~~」

 

もはや言葉も出なかった。

それから数瞬の間の後、忍は溜息を吐くと…

 

「一応、最後の確認だが…本当に後悔しないんだな?」

 

それは眷属を持つ王としての、最後の忠告であった。

 

「もちろん!」

 

「……うん」

 

「はい」

 

しかし、その忠告も目の前の3人娘には意味がなかったようだ。

 

「(後でティラミスにも聞かないとな…)」

 

そう心の中でぼやきつつ、忍は懐から残る眷属の駒…兵士の駒を3つ取り出していた。

 

「これが俺も持つ残りの駒…兵士の駒の内の三つだ。後でティラミスにも確認してから渡すが…今の内にお前達には渡しておく」

 

そう言って忍はラト、シルフィー、ラピスの順に駒を渡していく。

 

「わぁ、なんか綺麗だね」

 

「……虹色に輝く白銀色?」

 

「異世界の技術…ホントに私達と同化するんですか?」

 

そんな声が飛び交う中…

 

トクン…

 

手の平から駒が3人娘の中へと溶け込むように融合を果たした。

 

「わっ!? ホントに中に入った!?」

 

「……不思議」

 

「ですが、これで…」

 

三者三様の反応だった。

 

「あぁ、お前達も紅神眷属入りだ」

 

困ったような表情で忍はそう告げた。

 

「あとはティラミスか…(しかし、これで眷属の駒の枠は残り一つか)」

 

そう言いながら忍は空を見上げた。

 

眷属の駒の枠はティラミスの分を除けば残り一つ。

今後、どのような人物が兵士の駒を手にするのか…?

 

その答えは…意外に早くわかるかもしれないが…。

 

………

……

 

その日の放課後。

ティラミスにも3人娘と同じような質問をしてからその決意が固いことを知った忍は兵士の駒を渡していた。

また、そのことを経てかは知らないが、ティラミスが人事異動することになった。

異動先はなんと特務隊である。

忍と共にいる以上、少しばかり融通の利く部署が良いだろうとのゼーラのお節介である。

 

それから忍は始龍との影響で新たに会得していた次元転移魔法を使い、ティラミス達を連れてミッドから地球へと飛んでいた。

 

「という訳で、皆も知ってるだろうが…彼女達が新たに眷属入りし、兵士の駒を渡したティラミス、ラト、シルフィー、ラピスの4人だ。ミッドでの学友と後輩になるが…」

 

もう諦めたような感じで4人娘をみんなに紹介していた。

 

「これで残る枠は一つね。フルメンバーまでもう少しじゃない」

 

クスクスと笑いながらカーネリアが言う。

 

「ティラミスは朝陽の同僚にもなるが…」

 

「そうらしいわね。隊長も何考えてんだか…」

 

「私みたいなのが特務隊に入ってもいいものか…不安です…」

 

ティラミスは元々デスク仕事が多い部署だったが、今後は特務隊で何かしらの訓練を受けることになるだろう。

 

「まぁまぁ、ティラちゃん。細かい事は後で考えようよ」

 

楽観的なラトがティラミスを励ます。

 

「あと、冥界からの通達だ。次の休日にグレモリー眷属との正式なゲームが予定されることになった」

 

その言葉に新規の4人を除くみんなの表情が変わる。

 

「ゲーム?」

 

「……例のレーティングゲームのこと?」

 

ラトが頭の上に?を浮かべる横で、シルフィーが呟く。

 

「そうなる。冥界のメディアが色々と取り上げてるらしくてな…」

 

若手悪魔ナンバーワン対異例の辺境伯冥族の眷属。

注目度はグレモリー対バアルにも引けを取らない程の話題性を呼んでいるという。

 

「あと、こっちは俺以外が女性なのでイッセー君の技は一部使用禁止にしてもらったから安心してほしい」

 

それを聞いて新規4人以外の女性陣はホッとした様子だった。

 

「次の休日までにまだ少し時間がある。その間にラト達も含んだ新たな連携態勢を作っておきたい」

 

その忍の言葉で短い間だが、訓練が催されることとなった。

 

 

新たに4人のメンバーを迎えた紅神眷属。

次の休日がグレモリー眷属との戦いになる。

果たして、その対戦内容とは…?



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第六十八話『テイク・ア・ポイント』

ちょっとオリジナル(かな?)なゲームを考えてみました。

果たしてこれが吉と出るか、凶と出るか……わからない。
けど、作ってしまったから仕方ない。

内容は本編にも書いてありますが…。
ま、簡単に言えば、要は点取り合戦だと思ってください。


来たる次の休日。

グレモリー眷属vs紅神眷属のゲームが開催されることとなった。

 

冥界、場所は魔王領にある悪魔側の首都・リリス。

大部分は未だ復興作業中ではあるものの、レーティングゲームを行うためのドームを優先的に修復したので何の問題もない。

そのドームに隣接する高層高級ホテルにグレモリー眷属と紅神眷属は入っていた。

無論、別々の控室でそれぞれ最終調整を行ったり、精神を統一させたり、気分を和ませたりと様々なリラックス方法で過ごしていた。

 

………

……

 

・グレモリー眷属の場合

 

「いよいよ、忍達とのゲームか…」

 

軽いストレッチをし終えたイッセーが独りごちるように呟く。

 

「一時は中止も視野に入ってたそうだけど…イッセー君も忍君も無事に帰ってきたから実現出来たカードだよね」

 

そんなイッセーの言葉に木場がそう伝える。

 

「イッセー達が中級悪魔になって最初の相手が智鶴達だなんて…上役もやってくれるものね」

 

紅茶を一口飲んでからリアスが愚痴るように呟く。

 

「それにこの一戦は大事な意味もありますしね」

 

「冥族との和解を大々的にアピールする…でしたっけ?」

 

ロスヴァイセの一言にイッセーがそう聞き返すと…

 

「えぇ、そうよ。この一戦は冥族初の眷属持ちで、辺境伯に任命された紅神君の実力を測りつつ冥族との和解を悪魔達に伝える大事な一戦なのよ」

 

リアスがそう答えていた。

 

「難しいことはともかく、紅神達と戦えるのは少し楽しみではあるな」

 

ゼノヴィアのその言葉に何人かの眷属達は頷いていた。

 

「いつもは味方だったからな。こうして戦えるとなるとやっぱ楽しみだよな」

 

「手の内はお互いに明らかな部分もあるけど、向こうには新しく入った眷属もいるみたいだし」

 

「そこが不安要素ですわね」

 

「……それに今回もきっと特殊ルールがあると思いますし…」

 

「それによってはどちらも有利不利に繋がりますね」

 

イッセー、木場、朱乃、小猫、ロスヴァイセの順にそれぞれの見解を示す。

 

「ともかく、今回の一戦は冥族側の他にも様々なところに中継されるそうだから無様な姿は見せられないわ。サイラオーグを倒した手前、若手ナンバーワンになったんだもの。今回も勝ちに行くわよ!」

 

「「「「はい、部長!」」」」

 

ゲーム前からグレモリー眷属は意気込んでいた。

 

………

……

 

・紅神眷属の場合

 

「ゲーム観戦は何度か経験があるけど…自分がいざ舞台に立つとなると流石に緊張するな…」

 

これまではゲームを見てきた側だったが、今日はゲームをする側に回ったことで忍も少し落ち着きがなかった。

 

「各勢力との和平や冥族と和解して初めて行われる異種ゲームですからね。冥界中が注目してると言っても過言じゃありません」

 

妙にそわそわしながらシアがそんなことを言う。

 

「それに堕天使側や天界、各勢力にも中継されるそうじゃない」

 

カーネリアも楽しそうに言う。

 

「先輩達の所にも中継されてんだよな…なんか気恥ずかしいぜ…」

 

クリスは二課のメンツに見られることを意識していた。

 

「こっちも似たようなもんよ。なんで隊長はこんなことに興味を持つんだか…」

 

クリスと同様に朝陽もうんざりした様子だった。

 

「フィー、変じゃない?」

 

「……大丈夫」

 

フィクシス魔法学園の制服姿を確認しながらラトがシルフィーに確認を取っていた。

 

「まったく、こういう時だというのに…マイペースな」

 

そう言うラピスだが、少し手が震えているように見えた。

 

「ティラミス。アンタの方も大丈夫でしょうね?」

 

「は、はい。デバイスのチェックは済ませましたし…朝陽さん達のおかげで少しは自信が付いた気がします」

 

「そ、ならいいけど…」

 

うんざりした様子の朝陽だったが、同僚の心配もしていたようだ。

 

「リアスちゃんと朱乃ちゃんと戦う、か…」

 

「智鶴、辛いか?」

 

「ううん、大丈夫。リアスちゃんには夢があるもの。それにはちゃんと応えなくちゃね」

 

「そうだな…」

 

忍は智鶴と言葉を交わしてから…

 

「この一戦。俺は冥王として戦いの場に立つ。たとえ、誰かがやられそうになっても俺は動かないつもりだ。ゲームだからと手を抜くつもりはないが、それでも俺は皆を信じる。相手はグレモリー眷属。無傷で勝とうなどとおこがましい愚は犯さない。相対するなら全力で…相手を噛み砕く。それが紅神眷属だと、世間に知らしめてやろう!」

 

「「「「はい」」」」

 

「「「おう」」」

 

忍の号令に一同は呼応する。

 

「……………」

 

やはり、萌莉以外だが…

 

「萌莉…すまないが、君もゲームの現場に出てもらわないとならない。戦いが嫌いなのは知っているが…耐えてくれないか?」

 

「は、ぃ……わかって、ます…から…」

 

萌莉は悲しそうな笑みを浮かべて答えていた。

 

………

……

 

そして…決戦の夜。

 

『さぁ、やって参りました! 冥界初の異種対抗ゲーム! 今夜の実況は前回のグレモリー眷属vsバアル眷属でもお世話になった私、ナウド・ガミジンがお送りさせていただきます!』

 

ドーム内の中央に設置された巨大な四面型モニターにイヤホンマイクを耳に着けた派手な格好のナウドが姿を現す。

 

『今回の審判役は誰もが知る最強の女王! グレイフィア・ルキフグス様だ!』

 

いつものメイド服ではなく、正装したグレイフィアが現れると会場の観客から歓声が沸く。

 

『我が主、サーゼクス・ルシファー様の名のもとに、今回はルシファー眷属の女王として審判役を引き受けました。悪魔側のグレモリー眷属、並びに冥王側の紅神眷属の試合を見守らせていただきます』

 

それから画面が変わり…

 

『そして、今回も解説役として特別ゲスト! 堕天使"元"総督、アザゼル様に来ていただきました!』

 

『元を強調すんな、元を! まぁ、事実なんだけどな』

 

前回のゲームで解説役を務めたアザゼルも特別に招待されていた。

 

『さて、グレモリー眷属に関しましては前回のゲームであのサイラオーグ・バアル率いるバアル眷属を撃破したことで実質的に若手ナンバーワンの座を手にしたと言ってもいいでしょう! そのグレモリー眷属が今回相手にするのは…なんと、同じ冥界に住む種族、冥族からの初めて出来た眷属チーム! その名も紅神眷属! 資料によりますとアジュカ・ベルゼブブ様直々に新たな駒を渡されたそうですが…』

 

『らしいですね。私も直接、現場を見た訳ではないですが、現ベルゼブブが冥族用に調整し直した駒を渡したのは間違いありません』

 

ナウドの言葉にアザゼルが答える。

 

『アザゼル元総督も知る紅神眷属の実力とは一体…!? さぁ、いよいよ選手の入場です! まず、先に現れるのは…!』

 

東ゲートより、グレモリー眷属が姿を現す。

 

『若手ナンバーワンをの座を手にしたグレモリー眷属だぁぁ!!』

 

「「「「「おおおおおおおおお!!!」」」」」

 

グレモリー眷属の姿を見て観客から大歓声が沸く。

グレモリー眷属の衣装はいつもの駒王学園の制服や自前の戦闘服、シスター服とそれなりに統一感がある。

 

「アウェー感が半端なさそうだ…」

 

その様子を見て西ゲート内で待機していた忍がぼやきつつ…

 

「さて、行きますか。向こうや観客を待たせても仕方ないし…」

 

忍を先頭に紅神眷属も進む。

 

『さぁ、続いて現れたのは紅神眷属! 王以外は女性という構成だが、その意図は王の趣味か、それとも別の意図があるのか!』

 

忍と智鶴、萌莉はグレモリー眷属と同様に駒王学園の制服姿、フェイトと朝陽、ティラミスは管理局のそれぞれの制服姿、ラトとシルフィー、ラピスはフィクシス魔法学園の制服姿、クリスはリディアンの制服姿、残りはそれぞれの私服といった具合で見事にバラバラである。

 

『また、紅神眷属の王と女王はおっぱいドラゴンとスイッチ姫と同じ学園の出身で友人同士とのこと! それがゲームにどう影響するのか!』

 

『友人同士の対戦ではあるからお互いの手の内は知っているだろう。そこがゲームの行方を左右するかもしれませんなぁ』

 

アザゼルが面白そうに呟く。

 

『さて、今回もフェニックスの涙について最初に説明をします。以前にも申し上げましたが、禍の団によるテロの連続でフェニックスの涙の需要はまたまた跳ね上がっております。入手するのも困難な状況ではあります。が!!』

 

中央モニターに二瓶のフェニックスの涙が映し出される。

 

『今回もフェニックス家現当主のご厚意とグレモリーを支持される皆さまや各勢力のお偉方のご要望もあって、なんとか両陣営に一つずつのフェニックスの涙が支給されることになりました!』

 

「「「わああああ!!!」」」

 

その知らせに観客が沸く。

 

「(フェニックスの涙か。使うのは初めてだな…)」

 

紅神眷属にとってフェニックスの涙を使うのは地味に初めてだったりする。

 

『今回もまた特殊ルールがございます!』

 

「初参戦で特殊ルールからとは…」

 

ナウドから特殊ルールの説明が始まる。

 

『今回のゲームもまた短期決戦(ブリッツ)を想定したものとなっております。しかし、今回は前回の試合形式ではなく、眷属全員がフィールドを駆け回るタイプのものです! よって制限時間を設けさせていただきます!』

 

「(制限時間あり、か…シトリー戦の時みたいなものか?)」

 

ナウドの説明に忍はシトリー戦の事を思い出す。

 

『そして、気になるゲーム内容の特殊ルールですが、『テイク・ア・ポイント』です!』

 

「「(テイク・ア・ポイント?)」」

 

忍とイッセーが同じことを思い、紅神眷属のほとんども頭に?マークを浮かべていた。

 

『ご存じない方のために"テイク・ア・ポイント"をご説明します。以前の試合でも駒の価値を参照したと思いますが、今回のゲームもまた駒の価値を参照いたします!』

 

中央モニターにそれぞれの駒の価値が映し出される。

 

『今回のゲーム、"テイク・ア・ポイント"はその名の通り、相手の眷属を"撃破(テイク)"することで得点を加算していく方式となっております。つまり、相手側の女王を撃破したらその駒価値である9が得点となる訳です』

 

駒を撃破した側のチームの上に得点が表示される。

 

『ここでゲームの肝になるのが、兵士の駒を持つ方の価値です。兵士の駒は相手本陣まで到達すれば昇格することが可能となります。よってその価値は変動することになります。例えば、兵士の方が相手本陣で戦車に昇格し、撃破された場合はその時点で昇格した駒の価値…つまり、5が得点として加算されることになります。また、兵士の駒を複数消費した方の場合は、"消費した兵士の駒×各駒の価値"の数値になります』

 

兵士の駒から騎士、僧侶、戦車、女王に昇格した場合に撃破したなら、その時に兵士の駒から昇格した駒の価値に比例して得点になる。

 

『また、基本ルール通り、王が撃破された場合は得点が勝っていたとしても、その眷属の敗北が確定しますのでご注意ください』

 

王が撃破されればその時点で負けになる。

 

『以上が特殊ルール"テイク・ア・ポイント"となります!』

 

その説明を聞き、両眷属の王は表情を険しくしていた。

 

『そして、今回されたバトルフィールドは…!!』

 

中央モニターにバトルフィールドが映し出される。

そこは…

 

『広大な自然を舞台にしたバトルフィールドです! それぞれの本陣はグレモリー眷属が東側の丘地帯、紅神眷属が西側の渓谷地帯となります!』

 

中央に巨大な湖があり、その東側には小高い丘があり、逆の西側には少し入り組んだ渓谷があった。

さらに丘側から渓谷側に流れる河川が湖を経由して存在したり、湖の周りを森林が囲っていたり、北側には山岳地帯が点在したり、南側には砂漠地帯があったりとバラエティに富んだバトルフィールドとなっている。

ちなみに天候は晴れ。

 

『ゲーム開始は30分後! 両眷属はそれぞれの本陣にて作戦会議を行ってください! また、作戦会議中に相手側チームとの接触は禁止となりますのでご注意を…。それでは両眷属、転送!!』

 

両眷属の足元に転移用魔法陣が展開され、それぞれの自陣へと転送される。

それぞれの作戦会議が始まる。

 

………

……

 

・東陣地、グレモリー眷属

 

「丘の上。守りやすく攻めにくい陣地ね」

 

自陣を見ながらリアスが呟く。

 

「ですが、向こうの渓谷も攻める側からしたら少々厄介ですわね」

 

朱乃は相手側の陣地のことを口に出していた。

 

「お互いに守りやすく攻めにくい点では同じ、かしらね」

 

「しかし、人数的には向こうの方が勝っています。防衛に徹せられたら少し厳しいかもしれません」

 

リアスの言葉に木場が意見を出す。

 

「そうね…。それに今回は制限時間内に相手よりも多くの眷属を倒して得点を稼ぐか、紅神君を倒さないとならないものね」

 

「フェニックスの涙の使用は…恐らくサイラオーグ・バアルと同じく最大戦力でもある忍君に使われるでしょうね」

 

リアス達は回復要員がいない紅神眷属はフェニックスの涙を忍が使うと予想していた。

 

「こちらにはアーシアちゃんがいますからフェニックスの涙の必要性は少し低いですわね」

 

「でもアーシアを前線には出せないから誰かしらに持ってもらった方がいいわよね」

 

こちらは前線に出るメンバーの誰かにフェニックスの涙を持たせるようだ。

 

「攻撃に出てもらうメンバーだけど…まずはイッセー、祐斗、ゼノヴィア。そのサポートに小猫とギャスパーの5人に任せようかしら」

 

「高得点の対象であるイッセー君を相手が狙う可能性が高いですわよ?」

 

リアスの采配に朱乃が意見を出す。

 

「だからこそよ。イッセーを囮に祐斗とゼノヴィアが北と南から相手の陣営に斬り込むの」

 

「囮、ですか?」

 

囮と言われたイッセーが聞き返す。

 

「今回、イッセーは技を一部禁じられているから…でも、その他のトリアイナや真紅の鎧に関しては音沙汰が無かったのよ。つまり、向こうもその能力については容認してるはず。だからイッセーは単騎で真正面から相手を引き付けてほしいのよ。可能なら得点を狙ってもいいわ」

 

「了解です!」

 

「小猫は祐斗のサポートと援護を、ギャスパーはゼノヴィアのサポートをそれぞれお願いね」

 

「……わかりました」

 

「は、はいぃ!」

 

攻撃陣の采配は決まった。

 

「なら残った私達は防衛に徹すればいいのですね?」

 

ロスヴァイセが確認するように発言する。

 

「えぇ、朱乃は空から、ロスヴァイセは丘の麓を固めてちょうだい。アーシアは私と一緒にいてもらうわね。あとは戦況に応じて指示を出していくわ」

 

「「「はい」」」

 

グレモリー眷属の基本方針は決まり、あとは時間を待つのみとなった。

 

………

……

 

・西陣地、紅神眷属

 

「さてと…」

 

忍は少し考えを纏めてから作戦を決めていた。

 

「まずは吹雪に中央の湖を制してもらおうかな?」

 

「湖を?」

 

「あぁ、あんな大量の水場…俺達が活用しないでどうするよ?」

 

「まぁ、そうね」

 

忍の意図が何となくわかって吹雪も頷く。

 

「吹雪と一緒にラピスも行ってもらう。護衛はカーネリアに任せる」

 

「あら? 私なんかでいいの?」

 

空中に漂うカーネリアがそんなことを聞く。

 

「この中で唯一悪魔に対して弱点攻撃出来るのは光を使えるカーネリアだけだからな。誰が中央から来てもいいようにって対策だ。吹雪とラピスと協力して事に当たってほしい」

 

「私は単身の方が気が楽なのに…」

 

「大物が釣れたら、殺さない程度に遊んでいいから…」

 

「まぁ、それならいいかしらね」

 

そんなカーネリアの答えに忍も内心で溜息を吐きつつ…

 

「次に北側から攻める人材だが、朝陽を中心にラトとシルフィー、シアがサポートに入ってくれ」

 

「あたしにお守させる気?」

 

その人選に朝陽が口を尖らせる。

 

「お守って何よ!」

 

「……心外」

 

「朝陽さんは突っ込み過ぎるから…私達でフォローする。ということでいいんですよね?」

 

朝陽の物言いにラトとシルフィーが抗議し、シアは忍に確認を取っていた。

 

「あぁ、頼む。朝陽を1人で行かせるのは心配なだけなんだよ」

 

シアの確認に忍も頷く。

 

「南側から攻めるのはフェイトを中心に暗七とティラミスがフォローしてくれ」

 

「私が中心になって?」

 

意外な人選にフェイト自身が驚く。

 

「あぁ、短期決戦が念頭に置かれている以上、スピードも重視するからな。奇襲要員として機能してもらいたいんだ」

 

「忍君がそう言うんなら…やってみるよ」

 

「そのフォローに私と新米ちゃんね…」

 

「よ、よろしくお願いします…!」

 

これで攻撃要員はほぼ決まったと言える。

 

「残った智鶴、萌莉、クリス、エルメスは防衛に回ってもらう。戦況によっては打って出るかもしれないから全員念話には注意を払ってくれ」

 

「「はい」」

 

「おう」

 

「は、い…」

 

こうして紅神眷属も基本方針が決まり、残りの時間は出発の準備に取り掛かっていた。

 

………

……

 

~30分後~

 

『作戦時間の終了です。これよりゲームを開始してください。制限時間は三時間です』

 

グレイフィアによる開始の合図と共に各眷属が動き出す。

三時間という時間制限の中、ゲームが始まった。

 

グレモリー眷属、紅神眷属共に基本方針通りにまずは動く。

 

北側を進む木場と小猫、朝陽とシア、ラト、シルフィー。

 

中央を進むイッセー、吹雪とラピス、カーネリア。

 

南側を進むゼノヴィアとギャスパー、フェイトとティラミス、暗七。

 

残りのメンバーは防衛と称して体力も温存している。

 

『さぁ、始まりました! 冥界初の異種対抗ゲーム! どちらもまずは小手調べなのか、三方から進んでいますね』

 

実況のナウドが解説のアザゼルに振る。

 

『そうだな。どちらも短期決戦と聞いて同じような戦法を使ってきたように見えるが…問題はここからだ。それぞれ相対したチーム同士がどう戦果を挙げるか…』

 

中央の四方モニターの内、一つが実況と解説、残りの三つが進行している三チームをそれぞれ映し出していた。

 

………

……

 

・北側

 

「っ……祐斗先輩。来ます」

 

いち早く気配に気づいた小猫が木場に報告する。

 

「読まれた? それとも…」

 

木場と小猫が立ち止まると、反対側から…

 

「神速の貴公子に猫娘か…」

 

「厄介な方達に出会いましたね」

 

「えっと…イケメン君が騎士で、ちっこい娘が戦車だっけ?」

 

「……うん、合ってる」

 

セイバーを起動させた朝陽、シア、ラト、シルフィーの4人が現れる。

 

「……ちっこい…」

 

ラトのちっこい発言に小猫から殺気が湧き立つ。

 

「時空管理局の騎士…一度本気で手合せしてみたいと思ってたんだ」

 

「言ってくれるじゃない。そっちも騎士を名乗ってるなら決闘でもする?」

 

木場と朝陽の会話に…

 

「朝陽さん!?」

 

シアが止めようとするが…

 

「邪魔すんじゃないわよ? ここでこいつを仕留められるなら今後の試合運びが楽になる。それに騎士なら一対一の方がやりやすいのよ」

 

「それには同意しますよ。同じ騎士の駒を賜った者同士。剣で勝負しましょう」

 

騎士同士の決闘が開始されようとしていた。

 

「小猫ちゃん、悪いけど…」

 

「……わかってます。私も少し向こうの兵士の人と拳を交えようと思ってますから…」

 

よっぽど気に障ったのか、ラトへの敵意が増していた。

 

「冷静にね?」

 

「……はい」

 

木場の忠告に小猫はラトに狙いを移す。

 

「あたしの相手はちっこい猫ちゃんか。ま、何とかなるでしょ」

 

楽観的なラトに…

 

「油断したらダメですよ? 小猫さんはラトさんよりも実戦経験があります。そういう意味では気の緩みが敗北に繋がります」

 

シアがラトを諫めていた。

 

「うっ…シアちゃんも手厳しいなぁ…」

 

ラトはラトで頭を掻いて困った表情をしていた。

 

「……援護するから…」

 

北側では騎士vs騎士、戦車vs兵士コンビの戦いが開始されようとしていた。

 

………

……

 

・南側

 

「ぜ、ゼノヴィア先輩!」

 

「誰か来たか?」

 

ギャスパーの警告にゼノヴィアがエクス・デュランダルを構える。

 

「あなた達は…」

 

「脳筋のゼノヴィアと女装趣味のギャスパーじゃない」

 

バルディッシュを起動させたフェイトと暗七に加え…

 

「そ、その言い方もどうかと思いますが…」

 

新デバイス『ヴェルブラスター』を起動させたティラミスも後から来ていた。

ちなみに服装(バリアジャケット)は、上に薄い翠色のノースリーブを着て、下に緑色のロングスカートを穿き、その上からスカートと同じ色の緑色の長袖のジャケットを羽織り、両足に黒のローヒールを履いた姿となる。

 

「ギャスパー、前衛は私に任せてお前は後衛に徹しろ」

 

「は、はい!」

 

ギャスパーはコウモリへと変身すると、ゼノヴィアの周りに待機する。

 

「ニンニクでも持ってくればよかったかしら?」

 

そう言って暗七は両腕を異形の腕に変化させる。

 

「油断は禁物です。特にギャスパー君は…」

 

バアル戦で見せたガッツ。

それを思い出してフェイトは警戒を強める。

 

「そうだったわね。あの赤龍帝に感化された後輩君だったわね」

 

その時の光景を思い出し、暗七も警戒を強めた。

 

「私も以前のような失態はしないつもりだ」

 

そう言ってゼノヴィアはエクス・デュランダルを握る手に力を込めていた。

 

「エクス・デュランダルの能力は厄介だけど…ゼノヴィアはまだ完全には使いこなしてない。そこが狙いよ」

 

「ふんっ…やられる前にパワーで押し切るだけだ!」

 

「だから脳筋なのよ…」

 

「ティラミスさんは無理せず、後方支援に徹して。前衛は私と暗七さんで何とかするから」

 

「は、はい!」

 

南側の対決はコンビネーション対決となりそうだった。

 

………

……

 

・中央

 

湖の沿岸部では…

 

「ふふ、これはこれは大きな獲物は釣れたみたいねぇ~」

 

「よりによって赤龍帝か…」

 

「破廉恥な人ですか…」

 

カーネリアが楽しそうに言うが、吹雪とラピスは険しい顔をしていた。

 

「3人、か…」

 

籠手を出現させたイッセーはその顔触れを見て少し考える。

 

「(よりによって堕天使の姉ちゃんがいるとか…ちょっと相性的にヤバいかも…ここはトリアイナのコンボで早々に決着を着けるべきか? でも、いきなりトリアイナは…後々のことを考えると温存しておきたいしな…)」

 

鎧を装着すれば吹雪とラピスの魔法はほぼ無力化出来るだろう。

カーネリアの光攻撃もある程度なら対抗出来ると予測したイッセーは…

 

「(ともかく、ここは…)禁手化!」

 

赤龍帝の鎧を装着して相手の攻撃に備えることにした。

 

「うふふ…せいぜい楽しませてちょうだいな♪」

 

ギラリと目から怪しい輝きを放ちながらカーネリアは光の槍を作り出す。

 

「カーネリア。一応、聞いとくけど…援護は?」

 

「いらないわ。私は私で楽しませてもらうもの」

 

「だと思ったわ。忍には一応連絡しとくから…」

 

呆れたように吹雪が念話で忍へと連絡を入れる。

 

「いいんですか? そんな勝手なことをしても…」

 

ラピスが吹雪に尋ねる。

 

「いいのよ。赤龍帝が相手なら私やアンタの魔法も効かないだろうし、ここはカーネリアに任せるのがいいのよ。それにあの変態技が使われないだけでもマシな方だし」

 

「へ、変態技…」

 

資料映像を思い出してか、ラピスは自分の胸を隠すように両腕で守る仕草をする。

 

「変態技とは失敬な! アレは少ない魔力の才能を注ぎ込んだ俺なりの成果なんだぞ!」

 

吹雪の言葉が聞こえたのか、イッセーが抗議する。

 

「余計に質が悪い…」

 

「最低です…」

 

そう言って吹雪もラピスも冷ややかな目でイッセーを見ていた。

もっとマシな才能の活かし方はなかったのだろうか?

 

ともかく、中央ではイッセーとカーネリアの戦いが始まろうとしていた。

 

………

……

 

・東側、グレモリー眷属陣地

 

「イッセーを狙わず、三方からの同時攻撃…ってとこかしら?」

 

リアスは通信機で送られてきた情報を基に忍の戦略を考え、予測していた。

 

「奇しくも、どちらも三方からの同時進行になり、それぞれ遭遇戦になった感じね…」

 

「お姉さま。どうしましょうか?」

 

「慌ててはダメよ。こういう時こそ冷静に…遭遇戦になったのならそれに対応すればいいのよ」

 

アーシアの心配そうな声にリアスは考えを巡らす。

 

「とにかく、今はそれぞれの戦況が動くのを待ちましょう。それが序盤戦なら尚更にね…」

 

序盤戦が遭遇戦になった以上、それぞれの戦果報告を待つしかないと考えたリアスは朱乃とロスヴァイセにいつでも動けるように指示を送っていた。

 

………

……

 

・西側、紅神眷属陣地

 

「イッセー君が1人?」

 

吹雪からの念話を聞き、忍は考える。

 

「向こうは中央から進撃するイッセー君を囮に北と南からの挟撃を狙ってたのか?」

 

「もしも、そうなら…木場君やゼノヴィアちゃんがそれぞれ北と南で動いてるのも頷けるわ」

 

「それぞれサポート役もいるようですし…攻撃の要はその二チームだったのでは?」

 

忍の考えに智鶴とエルメスが答える。

 

「とは言え、残りの女王と戦車がいないのはきな臭ぇ…」

 

「あ、アーシア、さんは…リアス、せ、先輩と…い、一緒…?」

 

「まぁ、アーシアさんについてはほぼ間違いなくそうだろうな。姫島先輩とロスヴァイセ先生は…防衛か、温存か…どっちにしろ。まだまだ序盤…短期決戦と言えどもまずはこの遭遇戦を制さないと動かないだろうな…」

 

クリスと萌莉の意見に忍はそう返していた。

 

「(得点的には…北側は3+5対3+3+1+1、中央は8対5+1+1、南側は3+3対3+1+1…。数字的にはやはりこちらが取る点数の方が大きいな。それに戦闘面や個人での質も加味されるからな…)」

 

内心で点数を考えてから空気の匂いを嗅ぐ。

 

「問題は中央のイッセー君と北側の木場君か。鎧を着たイッセー君に吹雪やラピスの魔法は通じ難いだろうし…木場君は魔剣群を使ってきたら朝陽も手を焼くような気がする。シアをつけて正解だったか?」

 

北と中央の戦闘場面を考えていると…

 

「南は?」

 

クリスから質問が来る。

 

「ギャスパー君もそうだけど、ゼノヴィアさんも強化されたエクス・デュランダルを持ってるからな。油断は出来ない。唯一の救いは彼女はパワー傾向が強いからフェイト達なら上手く捌いてくれるだろう。第一、彼らはゲームに関してはこちらよりも経験豊富だし…グレモリー先輩の動き方も気になる…」

 

ふと忍は思った。

これまでのゲームを振り返ると、リアスは必ずと言っていいほど動いてくる、と…。

 

「グレモリー先輩は中盤の最後か、終盤戦で動いてくる可能性が高いと俺は読んでる。その時は智鶴…頼めるか?」

 

「うん。リアスちゃんの相手は私達がするから、しぃ君は…」

 

忍の意図を汲み取り、智鶴は頷いていた。

 

「イッセー君と木場君…仮にその両方が生き残ってたら俺が取りに行く…!」

 

グレモリー眷属のエース(木場)と大黒柱(イッセー)を叩こうと冥王は言う。

 

 

ゲームはまだ始まったばかりにも関わらず、図らずも遭遇戦となった両眷属。

果たして、この序盤戦を制し、中盤戦を有利に進めるのはどちらの眷属か!?



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第六十九話『激闘! グレモリー眷属vs紅神眷属』

遂に始まったグレモリー眷属vs紅神眷属のゲーム。

 

グレモリー眷属は中央を進ませるイッセーを囮に北と南からの攻撃を想定して動き出す。

 

紅神眷属は中央の湖を制しに行かせるチームと、北から攻めるチーム、南から奇襲を仕掛けるチームの三チーム体制で動いていた。

 

しかし、その動きによって奇しくも三方向での遭遇戦になってしまった序盤戦。

 

その中継は冥界全土だけでなく、天界や妖怪世界、協力体制にある他勢力の他、地球の特異災害対策機動部二課の仮設本部や時空管理局の特務隊執務室にも届けられていた。

 

………

……

 

・特異災害対策機動部二課の場合

 

「司令からの呼び出しということで来てみれば…なんですか、これは?」

 

翼は若干目くじらを立てながら仮設本部ブリッジの正面モニターに映されるレーティングゲームの様子を指差して聞いていた。

 

「あ、一誠さんだ! なんかカッコいい鎧を着込んでますよ!」

 

モニターに映るイッセーの禁手化を見て響がはしゃぐ。

 

「もう、響ってばはしゃぎ過ぎだよ」

 

何故か、未来も一緒についてきていた。

 

「これが悪魔世界の少数精鋭制度によって成り立つ仮想戦闘『レーティングゲーム』だ。冥界でも初めてだと言う異種対抗ゲームを見られるように特殊回線を使っている」

 

弦十郎がそんな説明をする。

 

「私が聞きたいのはそういうことではなく、何故本部でこのような戦いを娯楽の様に扱うモノを見ているのか、ということです!」

 

防人としてのプライドか、レーティングゲームにあまり良い印象を持ってなさそうな翼の怒鳴り声がブリッジに響く。

 

「そう怒るな。お前の気持ちもわからんでもないが、このゲームには見ての通り弟子でもある一誠君や、クリス君も出ているんだ」

 

「雪音が!?」

 

弦十郎の言葉に翼が驚く。

 

「あ、ホントだ! なんだか、渓谷っぽいとこに忍さん達と一緒にいますよ!」

 

画面が移ったのだろう、西側の紅神陣営で待機してる忍達の姿が映し出されていたが、それも一瞬で戦いを行っている場面に移る。

 

「装者が私的な理由でシンフォギアを使うなど! それに相手は悪魔だろうが、人の姿をしてるではありませんか!」

 

翼の言ってることももっともだろう。

 

「まぁ、翼もよく見ていろ。お前も剣を扱う者なら、この一戦を見て損はない」

 

そう言って弦十郎が視線を向けた先の画面では、朝陽と木場の一騎打ちが中継されていた。

 

………

……

 

・特務隊の場合

 

「朝陽さん!?」

 

特務隊執務室でも同じ場面が映っていたのか、ジェスが声を上げる。

 

「ふむ。相手の少年…なかなかの手練れだと見受けられるな」

 

エリザは朝陽の相手をしている木場の力量を映像を見て判断していた。

 

「あの、隊長…? これは一体…? それに何故高町教官達までお呼びになったのでしょう?」

 

真面目なシルヴィアがこの映像の事を尋ねると同時に執務室にいるなのはと八神一家に視線を移す。

 

「あはは…お邪魔してます…」

 

「というか、確かになんでやろね…」

 

なのはとはやてが困った表情で用意された椅子に座って観戦していた。

 

「これは悪魔世界で行われている一種のゲームだ。名を『レーティングゲーム』と言い、少数精鋭制度で作られた眷属同士が様々な状況下やルールによって仮想戦闘を行うものだ。今回は冥界初の異種対抗ゲームの様子を特別回線でこの世界でも視聴出来るようにした。お前達も今後、このような異種族と戦う機会が増えるだろうしな。見ておいて損はないだろうという俺の判断だ。もちろん、そこの高町や八神も例外ではないということだ」

 

ゼーラが簡潔に説明していると場面が変わり…

 

「あれ!? フェイトちゃん!?」

 

「何故、テスタロッサまで…?」

 

なのはが驚き、長身ポニーテールの女性『シグナム』が眉を顰めていた。

そこには親友の1人が2人の女性(暗七とティラミス)と共にゼノヴィアとギャスパーを相手に戦闘していた。

 

「イリスさんまで…!?」

 

ティラミスの存在にシェーラも驚いていた。

 

「執務官もまた自ら選んであの道にいる。それは新米のイリスとて同じ。同じ王に己の力と命を託したんだ。今後、お前達にも似たような選択を迫られることがあるかもしれない」

 

そう話すゼーラに執務室内の全員が注目する。

 

「多次元世界は今、戦乱期の兆候にあると俺は踏んでいる。いずれ大きな戦いが起きるだろう…。その時、己の力を託すに値する人間を見極めることもお前達、未来を担う若者共には必要だということだ。それを知った上で、このゲームを見ることだな。異種族と戦う、その覚悟を持つためにも…」

 

そう語るゼーラの眼には果たして何が映っているのだろうか?

 

………

……

 

~バトルフィールド北側・騎士の一騎打ち~

 

「魔剣群は使わないのかしら?」

 

朝陽の挑発的な物言いに…

 

「生憎と、まだ色々と研究中でしてね。今は手に馴染んでる聖魔剣の方が戦いやすいんですよ」

 

木場はクールに返す。

 

「そ、なら別にいいわ。魔剣群を使わなかったことを後悔させるだけだから!」

 

そう言って先に仕掛けたのは朝陽だった。

 

ギィンッ!!

 

「ッ!」

 

「(こいつ…!)」

 

聖魔剣でセイバーを受け止める木場に朝陽が剣を通して何かを感じる。

 

ギギギギギンッ!!!

 

だが、そんなことはすぐさま切り捨て、高速の激しい剣戟戦へと突入する。

 

「(これが時空管理局に所属する騎士! 僕らのスタイル基準で言えば、テクニックとウィザードの中間といったところか。しかも彼女からはパワーの要素も感じさせられる! 三種のスタイルを兼ね揃えた騎士…!)」

 

「(伊達に場数は踏んでないか…。これだけの力量…才能と努力で積み上げてきたに違いない。赤龍帝に目が行きがちなグレモリーの評判はこの騎士の支えがあってこそかしら?)」

 

剣を交え、剣を通し、互いにそのような感想を抱いていた。

 

「セイバー!」

 

カシュッ!!

 

『バイパーフォーム』

 

一旦距離を離したかと思えば、朝陽はセイバーを連結剣状態にして木場に振るう。

 

「ッ!!」

 

ジャキンッ!!

 

聖魔剣の刀身にセイバーの刀身が絡みつく。

しかし…

 

バッ!

 

木場はすぐさまその聖魔剣を手放すと、新たな聖魔剣を二振り創り出して二刀流で朝陽に接近する。

 

「っ!!」

 

朝陽もまさか剣を捨てるとは思わず、反応に若干の遅れが出る。

 

「(もらった!)」

 

この一撃で決めようとする木場だが…

 

「甘い!」

 

朝陽はセイバーの刀身を"聖魔剣ごと"引き戻すと…

 

ギギィンッ!!

 

「ッ!?」

 

朝陽もまたセイバーと聖魔剣の二刀流で、木場の二刀流を受け止めていた。

 

「剣は簡単に捨てるもんじゃないわよ!」

 

「くっ!」

 

朝陽の言葉に苦い表情をする木場。

 

「(とは言え、これは相手の得物…いつ消されてもおかしくないわね)」

 

朝陽は手元の聖魔剣がいつ消えるか気にしつつ…

 

カシュッ!

 

『ライトニングカートリッジ、ロード』

 

「プラズマホールド!」

 

属性カートリッジを消費し、セイバーの刀身から相手の剣へと電気エネルギーを伝達させて木場に流し込む。

 

「がッ!?」

 

思わぬ雷撃に木場も怯んでしまう。

 

「卑怯だなんて言わないわよね? デバイスも神器も種類としては違うけど、結局は使い方次第なんだから」

 

ゲシッ!

 

そう言って朝陽は木場の腹を踏み台代わりに蹴って距離を開けながら聖魔剣を投擲する。

 

「ぐっ!」

 

ギンッ!!

 

木場は左側の聖魔剣で投擲された聖魔剣を受けるが、手が痺れてしまっていたのか聖魔剣を手放してしまう。

 

「グレモリーの支柱の片割れ、取った!」

 

カシュッ!!×3

 

そう言って朝陽はカートリッジを炸裂させて決めに掛かる。

 

『わぉ、カートリッジミックス、トリプルロード!』

 

ノーマル、炎熱、疾風の三種のカートリッジを消費し、連結剣と化したセイバーの刀身から風で強化された炎が噴き出していた。

 

「フランベージュ・サーペント!!」

 

業炎の連結剣の刀身は蛇のような軌道を辿って木場に迫る。

 

「ッ! 禁手化!!」

 

それを見て木場は聖魔剣から龍騎士団へと禁手をチェンジさせ、龍騎士団の鎧を盾に後退しようとする。

 

「往生際が悪い!」

 

セイバーを軽く振るい、刀身を鎧の横へと滑らせて回避しながら木場へとさらに迫る。

 

「ッ!」

 

その瞬間…

 

ギィンッ!!

 

木場はセイバーの刀身を阻む剣を亜空間から取り出していた。

 

「っ!」

 

その剣の名は…魔帝剣グラム。

 

「遂に出したわね…」

 

刀身を引き戻しながら朝陽は呟く。

 

「出さざるを得なかった…というのが正しいとこですね。忍君対策の一つでもあったグラムをこの段階で出すのは予定外でした」

 

そう言いながら木場はグラムを両手で構える。

 

「この一撃で決めます。全力で防御してください」

 

木場は後のことを考えるのを止め、この一戦で朝陽という戦力を削ることに集中したらしい。

 

「冗談。ここで逃げたら騎士の名折れよ。セイバー、こっちもこの一撃に全ての力で行くわよ!」

 

『ラジャー!』

 

セイバーのカートリッジの内、消費した5発を取り換えながら朝陽も真っ向勝負を挑むようだ。

 

「グラム!」

 

「セイバー!」

 

カシュッ!!×6

 

『ライトニングカートリッジ、フルロード!』

 

バッ!!×2

 

木場と朝陽が同時に駆け出す。

お互いに最大の一撃を相手に与えるために…。

 

「はぁぁッ!!」

 

雷影断(らいえいだん)ッ!!」

 

閃ッ!!

 

二つの剣閃が交差し、互いに背中を向けたまま剣を振り抜いた状態で立ち止まっていた。

 

 

 

「朝陽さん!?」

 

「……祐斗先輩!?」

 

それを見守っていたシアと、ラトとシルフィーの相手をしていた小猫が同時に声を上げる。

 

 

 

………………………………。

 

ひと時の静寂の後…

 

「くっ…」

 

「がっ…」

 

木場と朝陽からリタイヤを意味する帰還の発光現象が起きる。

 

「すみません…部長、イッセー君……僕はここまでのようです…」

 

胸に雷撃による焦げ目と斬撃の傷を負いながら木場は悔しそうに語る。

 

「はっ…グレモリーのエースは取ったわよ、忍…」

 

バリアジャケットを斬り裂かれながら鮮血を流す朝陽は逆に少し笑い気味に呟きていた。

 

「まさか、バリアジャケットが容易に斬り裂かれるなんて…魔剣最強の名は伊達じゃないのね…」

 

「それはこちらの台詞ですよ。グラムを相手に真っ向勝負するなんて…騎士の誇り、見せてもらいました…」

 

そう言い合ってから互いに仲間の方を向き…

 

「小猫ちゃん。ここは一旦退いて部長達と合流するんだ」

 

「シア、後は頼むわね。あと、そこの猫娘を逃がすんじゃないわよ?」

 

それぞれ最後の言葉を仲間に言い放ってから消えていった。

 

『リアス・グレモリー選手の「騎士」一名、リタイヤです。3点が紅神眷属に入ります』

『紅神 忍選手の「騎士」一名、リタイヤです。3点がグレモリー眷属に入ります』

 

そのアナウンスがフィールド上に響き渡った。

 

………

……

 

・中央側

 

「ッ!?(木場か!? それともゼノヴィアか!?)」

 

アナウンスを聞いてイッセーの動きが一瞬だが止まる。

 

「隙あり♪」

 

その隙を見逃さず、カーネリアは光の槍による鋭い突きの一撃をイッセーに見舞う。

 

「ッ!?」

 

それを寸でのところで回避しながらイッセーは通信機に少しだけ意識を回す。

 

『祐斗がやられたようだわ。小猫を下げるために朱乃、小猫の援護に向かってちょうだい』

 

『了解ですわ』

 

「(木場が!? じゃあ、向こうの騎士と相討ちってか?!)」

 

通信の内容にイッセーは少なからず動揺していた。

 

「ふふ…そっちはエースを欠いた状態でどこまで持つかしらね?」

 

「ちっ…!」

 

カーネリアの言動に少しイラッときたイッセーの龍気が上昇する。

 

「いいわ。力の質が高まったわね。感情的になればなるほど龍は強くなる…!」

 

戦闘狂染みた発言にイッセーはカーネリアから薄ら寒い感じを抱いていた。

 

………

……

 

・南側

 

「木場が取られた!?」

 

騎士の特性と天閃の聖剣の力を利用したゼノヴィアとバリアジャケットの仕様をソニックフォームにしたフェイトのスピード勝負の中、ゼノヴィアが驚いていた。

 

パワー傾向の強いグレモリー眷属の中でも貴重なテクニックタイプの木場が撃破された事はグレモリー眷属にとってはかなりの痛手と言えよう。

 

『ゼノヴィア、ギャスパー、一度戻って! 作戦を変更するわ!』

 

「っ! しかし、このまま目の前の相手を放っておくわけには…!」

 

ギィンッ!!

 

エクス・デュランダルとバルディッシュが交差する。

 

『祐斗がやられた以上、テクニックタイプに一番近いのはあなたよ! あなたまでやられたら立て直しが困難になるわ!』

 

「くっ! 了解。ギャスパー!」

 

「は、はい!」

 

ゼノヴィアの声に合わせてコウモリと化したギャスパーの眼が紅く光る。

 

「っ!?」

 

それに当てられたフェイトがその時間を停止させる。

 

「ちっ…時間停止の邪眼か!」

 

右腕を肥大化させて盾代わりにした暗七は右腕だけを停止させられていた。

 

「ティラミス! そこから先に踏み込むんじゃないわよ!」

 

「わ、わかりました…!」

 

暗七の剣幕に近付こうとしたティラミスも足を止める。

 

「よし、一旦退くぞ!」

 

ゼノヴィアとギャスパーはその場から撤退する。

 

「……………はっ!? な、なにが?」

 

ギャスパーの撤退で停止の邪眼の効力が消えたのか、フェイトの時間が元に戻る。

 

「ギャスパーの時間停止にやられたのよ。追撃は…難しいかしら?」

 

そう言ってフェイトに近寄る暗七だった。

既に姿が見えないゼノヴィアとギャスパーに対して少しやられたと感じていた。

 

「とにかく、エースは朝陽が取ったのよ。それだけでも収穫は大きいわ」

 

暗七はそう言って忍に次の指示を仰ぐのだった。

 

………

……

 

・特異災害対策機動部二課

 

「アレが…異界の剣士の戦い…」

 

そう呟きながら無意識に翼は右手を握り締めていた。

防人としてノイズと戦ってきた翼だが、木場と朝陽の一騎打ちを目の当たりにして何か感じるものがあったのだろうか…?

 

「そうだ。例え、理由が異なろうとも剣を扱う者同士…互いの信念を賭けて戦いに挑んでいる。それがこのような見世物であっても…自分達の意志で戦っていたんだ」

 

弦十郎はそう言って翼の肩を叩く。

 

「いつか、お前も自分の意志でその剣を抜く時が来るだろう」

 

「それは…防人として、ですか?」

 

「いや、風鳴 翼という一個人としてだ」

 

「私自身の意志…」

 

そんな会話の後…

 

「さて、次は一誠君がどこまで成長してるか見てみるか」

 

弦十郎はイッセーとカーネリアの一戦に注目していた。

 

「私は…」

 

翼は握り締めていた手を開き、その手を見つめる。

 

………

……

 

・北側

 

「っ!」

 

シア、ラト、シルフィーの3人に包囲された小猫だったが…

 

「雷よ!」

 

空から朱乃が落雷を起こして援護し、小猫の周りを土煙で覆って視界を奪う。

 

「……朱乃先輩!」

 

「一度、退きますわよ!」

 

「……はい…!」

 

悪魔の翼を広げて小猫も朱乃に合流し、東陣地へと後退していた。

 

「逃がすか!」

 

それに対し、土煙から飛び出したラトが駆けだそうとしたが…

 

「ラトさん!」

 

シアがラトの手を引いて引き留める。

 

「なんでさ、シアちゃん!? 追撃のチャンスでしょ!?」

 

不満そうなラトに対して…

 

「相手は女王と戦車です。迂闊に飛び込めば相手の思う壺です!」

 

シアは強めの口調でラトを諫める。

 

「それよりも次の中盤戦に対する命令を忍さんから貰いませんと…」

 

そう言っていると…

 

『(シア、ラト、シルフィー、聞こえるな?)』

 

忍から念話が飛んでくる。

 

「(あ、はい。忍さん)」

 

そこから忍の新たな指示が下る。

 

………

……

 

・ドーム側

 

『序盤戦はなんと! 両眷属の騎士が相討ちという形で決着を迎えてしまった!!』

 

ドーム内にナウドの実況が響く。

 

『これはグレモリー眷属にとっては痛い展開ですな。得点的には痛み分けとも見える訳だが、グレモリー眷属はエースを早々に失ったと考えるべきでしょう。立て直すために作戦を練り直す必要性が出てきましたな』

 

そんなアザゼルの解説に…

 

『だからこそおっぱいドラゴンを残して他の眷属を呼び戻したと?』

 

ナウドが尋ねる。

 

『赤龍帝の相手は堕天使。相性的に分が悪いが、赤龍帝の鎧でそれも少ない損傷で済むと踏んだんでしょうが…紅神眷属側がこのまま静観してるとも思えませんからねぇ』

 

アザゼルの言う通り、忍は既に次の手を打とうとしていた。

 

………

……

 

・東陣地

 

今は中央でカーネリアと戦っているイッセー以外のグレモリー眷属が集結して作戦を練り直していた。

 

「祐斗が取られた以上、時間はかけられないわ。ロスヴァイセは中央のイッセーの援護に行ってちょうだい。私達はその内に北と南から再度攻め込むわ」

 

「王自らの出陣ですか? 些か速い気もしますが…」

 

「そうも言ってられないわ。相手は同じくらい実戦経験を持ってるのよ。ここは私が動かないと…」

 

ロスヴァイセの心配そうな発言にリアスがそう答えていると…

 

「……っ?! 何か、飛んできます!」

 

異常を察知した小猫がそう叫ぶ。

 

「え?」

 

驚くのも束の間…

 

チュドドドド…!!

 

陣地の周辺で突然の爆発が起きた。

 

「これは…!?」

 

北側から飛来する小型ミサイル群と、南側から飛来する魔力弾。

 

「アウトレンジからの攻撃…!」

 

「ということは…北は雪音さんね…!」

 

「ですが、南側は誰が!?」

 

リアス、朱乃、ロスヴァイセが魔法陣を展開して防御する中、攻撃してきた人間を推測していた。

 

「でも、これで私達に選択の余地はなくなったわね…!」

 

リアスが少し苛立ったように言う。

 

「中盤戦を捨てての中央での総力戦…!」

 

「加えて、中央に行けば私達は三方から同時攻撃を受けますね…!」

 

朱乃とロスヴァイセがそれに続くように言う。

 

「話が決まったなら動いた方がいい。互いに昇格が出来ない以上、こちらは向こうの王か、一人でも多くの眷属を倒すしかないのだから!」

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルで魔力弾を打ち落としながら叫ぶ。

 

「なら今の内にアーシア、回復を!」

 

「はい!」

 

移動する前に全員の傷を癒すアーシア。

 

「あとはイッセーをと合流して中央突破を仕掛けるわ!」

 

リアスの号令で、一斉にその場から飛び立つ。

 

………

……

 

・西陣地

 

「北と南からの砲撃によって中盤戦を捨てさせ、一気に中央で総力戦を持ち込ませる…」

 

「相手の突破力を考えたら無謀かと思うけど…そこに三方から仕掛けたらどうなるかな?」

 

エルメスの呟きに忍はそう答えていた。

 

「しぃ君…なんだか悪い顔してる」

 

「これはゲームだが、どちらも本気でぶつかり合ってこそだからな…使える手段は有効に使わないとね」

 

智鶴の言葉に苦笑しながらも忍は決意に満ちた眼で中央を見据え…

 

「さて、ここからが本当の短期決戦(ブリッツ)だ。どちらが先に王を仕留めるか…」

 

忍はリアスが出てくることを予測し、先にそうするように仕掛けた。

例え、それでどのような評価を受けようと…忍は後悔することはない。

それはまるで…覇道の如く…。

 

………

……

 

・中央側

 

……………ッ………ッ…

 

「っ!?(なんだ? 後の方からなんか聞こえ…)」

 

後ろの遠方(東陣地)より聞こえる不可解な音にイッセーが気を散らす。

 

「ふふっ! また隙ありよ!!」

 

ズドドドド!!!

 

光の槍が無数に空から飛来し、イッセーの鎧に突き刺さろうとする。

 

「くっ!?」

 

それを殴って弾き飛ばしながら僅かに後退していく。

カーネリアの攻撃は苛烈さを増していた。

 

「破壊、破壊しましょう! 全てを!」

 

イッセーを相手してから少しカーネリアの様子が変化していく。

 

「な、なんだか危ない気配が…」

 

「ありゃちょっと様子が変ね…」

 

近くにいたラピスと吹雪もカーネリアの異常に気付き始めた。

 

すると…

 

「はっ!」

 

バシッ!!

 

「っ!?」

 

いきなりの打撃にカーネリアは背後を見る。

 

「これ以上はダメだ。カーネリア」

 

そこには真狼状態の忍が立っており、それだけ伝えていた。

 

「坊や…!!………ッ!!?」

 

戦いの邪魔されたことに怒りを感じたカーネリアが動こうとするが、上手く体が機能しないことに気付く。

 

「眠ってください。今だけは…」

 

そう言ってカーネリアの額に霊力を込めた手を当てて、強制的に眠らせる。

 

「すみませんが、戦車を一名リタイヤさせます。得点も加算してくれて構いません」

 

その要請に従い…

 

『紅神選手の戦車一名、リタイヤです。グレモリー眷属に5点が入ります』

 

了承したのか、グレイフィアが宣言する。

 

「なっ…」

 

いきなりの出来事にイッセーも驚く。

 

「イッセー君との戦いでカーネリアの本能が刺激されたみたいだったからね。彼女には強制退場をしてもらったんだ…」

 

そう語る忍の眼はどこか悲しそうであったが、すぐに決意に満ちた眼に変わる。

 

「君の陣地を砲撃させてもらった。すぐにグレモリー先輩達も来るだろう」

 

淡々とした口調で話す忍。

 

「砲撃って…忍、お前…!!」

 

それを聞いて僅かながらに怒りを覚えるイッセー。

 

「吹雪とラピスは智鶴達に合流して迎撃準備。ここは俺達の領域だ。存分に力を発揮してやれ」

 

「わかったわ」

 

「わかりました」

 

吹雪とラピスは忍の指示に従い、智鶴達と合流すべく東側の方へと向かう。

 

「ここからは中盤戦を省いた終盤戦の総力戦だ。全力で君達を取らせてもらう!」

 

「忍ッ!!」

 

その言葉を切っ掛けに忍とイッセーの戦闘が始まる。

 

………

……

 

・ドーム側

 

『はて、これはどういうことでしょうか。紅神選手は自らの戦車を自滅させてしまいました!』

 

その実況にドーム内も困惑する。

 

『いや、俺は良い判断だと思うぜ?』

 

唯一、アザゼルの見解は違うようだ。

 

『と言いますと?』

 

『紅神眷属の戦車の1人は堕天使。俺の元部下だった奴なんだが…ちょっと精神的に不安な部分がある奴でな。簡単に言えば、破壊衝動に忠実なんだよ。赤龍帝との戦いでそのタガが外れそうになったんだろうよ。そうなっちゃゲームは台無しになってただろうからな。そこで紅神選手は自らの手で退場させたんだろう』

 

『なるほど。しかし、破壊衝動ですか』

 

『誰しも多かれ少なかれ持ってるもんだが、奴はそれが異常でな。普段は快楽主義的な言動で安定してるように見えるんだが、一度タガが外れると手に負えないんだよ。敵味方関係なく破壊しようとするだろうな』

 

『そんな危険な選手だったとは…大丈夫だったんでしょうか?』

 

ナウドの心配そうな発言にアザゼルは…

 

『問題ないだろ? 実際に紅神が手を打ったし、今の紅神の実力なら恐らくは問題ないだろう』

 

そう答えていた。

 

『なるほど。では、このおっぱいドラゴンと紅神選手の戦いの方は?』

 

『そこは何とも言えん。どっちも成長率が高いからなぁ…』

 

イッセーと忍…どちらも異常な成長を見せてきたからこそアザゼルもこの勝負の勝敗はわからなかった。

 

………

……

 

・中央、湖のフィールド

 

ゴオオオッ!!!

 

忍の拳とイッセーの拳がぶつかり、その衝撃によって湖に激しい波が立つ。

 

「得点上、こちらが負けている。なら、ここで君を倒してダメ押しさせてもらう!」

 

「それはこっちの台詞だ! お前を倒して俺達が勝つ!!」

 

互いに己の信念を賭けた男同士の勝負。

 

 

 

「智鶴…!」

 

「待ってたよ、リアスちゃん」

 

リアス率いるグレモリー眷属と智鶴が率いる紅神眷属。

 

「紅神君はよくもやってくれたわね」

 

「ごめんなさい。でも、真剣勝負だからこそしぃ君も色んな手を使って勝ちに行くの」

 

リアスの言葉に智鶴は謝りながらも忍の勝つ想いに応えようとしている。

 

「でも、ここまでよ。イッセーが紅神君を取るはずだから!」

 

グレモリー眷属の王は大黒柱たる兵士の勝ちを信じ…

 

「しぃ君は負けない。きっと勝ってくれる…!」

 

紅神眷属の女王は王の勝ちを信じていた。

 

どちらも互いに好いた男の勝利を信じて揺るがなかった。

 

「増援が来る前にあなた達を撃破させてもらうわ!」

 

「させないわ。しぃ君が信じてくれてるんだから…!」

 

グレモリー眷属は残りの紅神眷属が集結する前に目の前の智鶴達を倒さなければならなかった。

 

 

 

今、終盤戦の幕が上がった。



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第七十話『決着! 真狼vs赤龍帝』

グレモリー眷属vs紅神眷属の戦いは序盤戦に双方の騎士が相討ちになったことから事態が動き始めた。

 

グレモリー眷属は木場の脱落から一度イッセー以外を呼び戻して再編成を考えたが、逆に紅神眷属はその隙を突いて北と南から東陣地へと砲撃を浴びせていた。

 

忍はリアス達に中盤戦を捨てさせて、一気に終盤戦に突入させるべく手を打ったと言える。

この一手で状況は終盤戦の総力戦へと移行した。

 

中央の湖で繰り広げられる戦い。

 

忍とイッセーの一騎打ち。

両眷属の最大戦力のぶつかり合いとなる。

だが、価値としては兵士8個分の得点が大きいイッセーと倒されれば即負けが確実な王である忍。

一見すれば忍の方の判断ミスとも取れる采配に上流階級の悪魔達はどのような判断を見せるだろうか?

 

リアスが率いるグレモリー眷属と智鶴が率いる紅神眷属のチーム戦。

今のところは数で勝っているグレモリー眷属だが、北と南から残りの紅神眷属も集結しつつある状況はかなり厳しいと言える。

 

グレモリー眷属の攻撃要員はリアスを含め、朱乃、ゼノヴィア、小猫、ロスヴァイセの4人が主軸となるだろう。

残ったアーシアとギャスパーは後方で身を隠してるか、サポートに徹することになるだろう。

 

紅神眷属の攻撃要員は智鶴、エルメス、中央で合流した吹雪とラピスになる。

萌莉はその性格上、騎士だが戦闘には未だ参戦出来ない状態にあるから西陣地でお留守番。

さらに北からは砲戦要員として送られたクリスを含めたシア、ラト、シルフィーの4人、南からはフェイト、暗七、ティラミスがそれぞれ中央を目指して移動を開始している。

 

………

……

 

~バトルフィールド中央・湖上の戦い・チーム戦~

 

「吹雪ちゃん!」

 

「はいはい!」

 

バサリと漆黒の翼を広げると同時に吹雪の容姿が変化する。

 

「忘れてもらっちゃ困るけど、私はこれでも冥王と堕天使、二つの面があるのよ!」

 

冥王と化した堕天使は湖上の表面を氷で覆っていく。

 

「これで移動しやすくなりました」

 

魔法陣から降りたラピスが靴の底に小さな魔法陣を作り出しながら凍り付いた湖上を滑るように移動する。

 

「っ!」

 

それを見てリアスが目を細めた。

これでグレモリー眷属は空中戦を余儀なくされることになる。

下手に着地すれば、湖上表面の氷に足を取られかねないからである。

 

「ですが、魔力攻撃なら容易に氷は破壊出来ます!」

 

そう言って朱乃が空から雷光を放とうとする。

 

「させるか!」

 

それに吹雪が即座に対応する。

氷の上に着地すると態勢を低くし、両腕を交差させるようにしながら氷に手を付ける。

 

「リフレクト・ミラージュ!」

 

その瞬間、吹雪を中心にして氷上が鏡のような輝きを見せる。

 

「これは!? ダメです、朱乃さん!」

 

吹雪の展開した魔法を一目で看破したロスヴァイセが朱乃の雷光を雷属性の魔法を使って阻止する。

 

「ロスヴァイセさん!? 一体何を…?!」

 

まさか、味方に邪魔されるとは思わず、ロスヴァイセを見る朱乃。

 

「ちっ…失敗か」

 

それに対して吹雪は舌打ちをする。

 

「どういうこと?」

 

リアスがロスヴァイセに尋ねると…

 

「雪白さんが使ったのは氷を媒介にした反射系の魔法です。もし、朱乃さんの雷光が反射されてたら…悪魔に転生してもいない彼女達はともかく、悪魔である私達には致命的なダメージになりかねなかったからです…」

 

「「「っ!?」」」

 

それを聞いてリアスと朱乃、小猫は吹雪達を見る。

 

「ま、ご名答ってことで。実際は看破されちゃったけど…」

 

「そっちの娘(ラピス)が自由に動けることとこちらが不利になりそうな足場を作ったこと自体…ブラフだったの?」

 

吹雪のあっけらかんとした答えにリアスは智鶴に問う。

 

「ブラフではないけど、実際問題として空中戦は必須でしょう? でも私達は基本が人間だから、空中戦は不利なの。だから氷の属性に長けてるしぃ君、吹雪ちゃん、ラピスちゃんが中央の湖を利用しようって…そうしたら自然とそういう副産物も出来たの」

 

智鶴の返答にリアスは内心で舌打ちを打つ。

 

「(迂闊だったわ。相手に氷使いがいることはわかってたのに…誘いに乗り過ぎた。紅神君はそこまで計算してたの?)」

 

忍本人がイッセーと戦ってる以上、その真意は見抜けないがともかくこの場は…

 

「ゼノヴィアは智鶴を、小猫は雪白さんを相手して! 私と朱乃、ロスヴァイセで後衛を務めるから!」

 

「「「「了解!」」」」

 

リアスの言葉に即座に動き出し、ゼノヴィアが智鶴に斬り掛かり、小猫が吹雪に突撃する。

リアス、朱乃、ロスヴァイセは少し下がって援護攻撃を見計らっていた。

 

「前衛は私と吹雪ちゃんで押さえます! エルメスちゃんとラピスちゃんは援護をお願い!」

 

「了解!」

 

「「はい!」」

 

スコルピアを纏った智鶴が右手に次元刀を抜き、左手にスティンガーブレードを持ちながら指示を出し、それに応えて吹雪は小猫の相手を、エルメスとラピスは下がる。

 

 

 

「ここは相手の女王を取るチャンス! 先輩だとしても容赦はしない!」

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルを振りかぶって智鶴に肉薄する。

 

「(ゼノヴィアちゃん相手に剣の勝負は不利よね…)」

 

パワー傾向が強いとは言え、相手は生粋の剣士。

智鶴は普通に相手するには不利だと当然ながら考えていた。

 

「フライヤー、展開」

 

スカートアーマーと化していたテイルフライヤーの一部、4基が切り離されて小型自律砲台ユニットとなってゼノヴィアの周囲を飛び交い、四方から魔力レーザーを照射する。

 

「っ!?」

 

それをまともに受けつつゼノヴィアは智鶴を見る。

 

「ごめんなさい。でも、ゼノヴィアちゃんを相手に今の私じゃ勝てる気がしないの。だから、ここは"時間を稼がせてもらう"ね」

 

そう言って次元刀の連結機構を利用した中距離攻撃を放つ。

 

「ちっ!」

 

エクス・デュランダルで次元刀の斬撃を弾きつつフライヤーを意識して回避に徹しようとするが、オールレンジ攻撃をそう簡単に回避できるはずもなく、被弾しながら徐々に後退させられてしまうことになる。

 

「雷よ!」

 

そこに朱乃が魔力による援護攻撃を仕掛けてフライヤーの軌道を阻害する。

 

「朱乃ちゃん…!」

 

「智鶴、時間稼ぎはさせませんわよ」

 

そう言ってゼノヴィアを援護し、フライヤーを迎撃する。

 

「朱乃副部長、助かる! これなら…!」

 

ゼノヴィアも再び智鶴に肉薄してエクス・デュランダルを振るう。

 

ガキンッ!!

 

「くぅ…!?」

 

デュランダルの威力と破壊の聖剣の相乗効果に次元刀とスティンガーブレードをクロスさせて何とか耐えるが、完全に智鶴の方が押し負けている。

 

「これで9点は頂く!」

 

「えぇ、確実に…!」

 

ゼノヴィアも朱乃もここで智鶴を討つ気満々であった。

 

「智鶴さん!?」

 

エルメスも智鶴の援護に向かいたいが…

 

「させないわ!」

 

リアスの消滅魔力を鉄壁属性の魔力と龍気の混合防御陣で用いてかろうじて防いでいて手が離せなかった。

 

「くっ…こちらの弱い属性を…」

 

「氷単体なら私だけで十分に抑えられます!」

 

ラピスもどちらかと言えば、ロスヴァイセの多彩な魔法攻撃を受け、ほとんど動けない状態にある。

 

「大丈夫、最速でも彼女は来てくれる…!」

 

だが、今向かってる眷属の中でも、忍に次ぐスピードを持つのは…

 

「トライデントスマッシャー!」

 

と、智鶴と鍔迫り合いをしているゼノヴィアの横合いから雷属性の魔力砲撃魔法が放たれる。

 

「「っ!?」」

 

その声と砲撃にゼノヴィアと朱乃が驚く。

驚いた拍子の間に背後にゲートを開き、智鶴はゼノヴィアの剣撃の力を利用し、その中へと素早く消える。

 

「しまった!?」

 

「くっ!」

 

完全な無防備を晒すゼノヴィアに対し、朱乃が素早く移動して魔法陣を展開する。

 

チュドォォンッ!!

 

朱乃の展開した魔法陣に砲撃が直撃する。

 

「くぅ…」

 

その威力に朱乃は片腕を押さえる。

 

「朱乃副部長!?」

 

「平気ですわ。それよりも…」

 

ゼノヴィアの心配の声を制し、視線を砲撃が来た方へと向ける。

 

「はぁ…はぁ…間に合いましたね」

 

少し肩で息をしているバリアジャケットがソニックフォームと化しているフェイトがいた。

 

キィンッ…

 

その右前方にゲートが開き、智鶴が吹き飛ばされるような形で出てくるとスカートアーマーのブースターを使って上手く姿勢制御する。

 

「ありがとう、フェイトちゃん。おかげで助かったわ」

 

「いえ…それに、暗七さんやティラミスさんを置いてきてしまいました…」

 

フェイトの速度は忍の神速に次ぐ速さを有しており、暗七とティラミスを置いて先行してきたのだろう。

少し体力の消耗もあるが、素早く合流出来た点で言えば上々かもしれない。

 

「この場合は仕方ないわ。ともかく、フェイトちゃんはゼノヴィアちゃんの相手をお願い出来るかしら?」

 

「はい。彼女とはさっき戦ってましたので…何とかしてみます」

 

「お願いね。私は朱乃ちゃんを押さえるから…」

 

短く言葉を交わした後、2人も動き出す。

 

「確か、時空管理局の執務官だったか? 木場も時空管理局の騎士と一騎打ちをした手前、私も負けるわけにはいかないな…!」

 

「騎士の相手は慣れてます。ですが、油断はしません!」

 

フェイトとゼノヴィアの高速戦闘が始まる。

 

「お互い9点同士…でも、朱乃ちゃんの方が女王としての経験が勝ってる」

 

「でも、性能で言えば智鶴も破格のモノを手にしてますわ。どちらが勝っても9点が入る。でも、他の紅神眷属が来る前に勝負を決めなくてはなりませんもの…」

 

「得点を総なめしても兵藤君が取られれば逆転は可能よ?」

 

「イッセー君が負けるはずがありませんわ」

 

「それはしぃ君も同じよ」

 

そう言い合ってから智鶴と朱乃の女王対決も始まる。

 

………

……

 

~バトルフィールド中央・湖上の戦い・狼と龍~

 

グレモリー眷属と紅神眷属のチーム戦が行われている東寄りから離れ、西寄りの湖上では…

 

「でやぁぁッ!!」

 

龍の翼を広げたイッセーの回し蹴りが忍に放たれる。

 

「はぁッ!!」

 

それに真っ向から受けて立つように忍は気・妖・龍の三種の力をミックスさせて右足に足具のような装甲を纏った蹴りで迎撃する。

 

ブワアァァァ!!

ザザアァァァ!!

 

その衝突した衝撃で湖上に波が立つ。

 

バキバキッ!!

 

「「ぐっ…!!?」」

 

互いの装甲が音を立てて破壊される程に2人の威力は拮抗していた。

 

「お前、いつからそんなにパワーを上げやがった!?」

 

「そっちもパワーの質が跳ね上がってるじゃないか!」

 

イッセーは忍のパワーが上がったことに驚き、忍もまたイッセーがさらにパワーに磨きをかけたことを指摘していた。

 

「ならこいつはどうだ! ドラゴンショット!」

 

一旦距離を開けたかと思えば、間髪入れずに散弾式のドラゴンショットを放つ。

 

「ブリザード・ファング!」

 

それを忍はブリザード・ファングで迎撃しつつ、別の着弾点にブリザード・ファングの魔力を収束する。

 

「ついでに、ブリザード・ファング・エクシード!!」

 

神速で移動した忍はその収束した魔力体を殴って収束砲撃並みの砲撃をイッセーに放つ。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

火の息(フレイムブレイズ)!!」

 

イッセーはその砲撃を体内の火種を増幅させて吐き出した炎で相殺する。

 

「ちっ…(熱吸収が出来なかったか…)」

 

紅蓮冥王の冥王スキルを発揮させるチャンスだったが、相殺されてしまっては使う暇もなかったらしい。

 

「(ならば…)氷雪冥王」

 

真狼から氷雪冥王へと姿を変えた忍は…

 

「訪れよ、我が氷河期。アイス・エイジ!」

 

忍を中心とした空間の温度が急激に低下していき、周囲に白い(もや)が出てきて湖上も凍結していく。

 

「ちっ…忍十八番の氷地帯か!」

 

「ここは俺達、氷使いにとっては都合のいいフィールドだからな」

 

忍、吹雪、ラピス。

紅神眷属には氷の使い手が3人いる。

 

「(ま、それだけじゃないんだけどな)」

 

周囲の温度を低下させると同時に、忍はイッセーの体温も少しずつ低下させていた。

 

「(やっべ…そういや、前に言ってたっけ。やろうと思えば相手の体温も低下させて動きを鈍らせることも出来るかもって…)」

 

それにイッセーも気づくと…

 

「(相手は向こうの王。なら、やることは決まってる!)龍星の騎士!!」

 

『Change Star Sonic!!』

 

イッセーも短期での決着を想定し、速攻を仕掛ける。

 

「確かに速いが、動きが直線的だ!」

 

自身も高速戦が得意な忍はイッセーの動きを読んで回避行動に移るが…

 

「んなことは俺が一番わかってんだよ!!」

 

ズガガガ…!!!

 

氷上に拳を突き立てて無理矢理軌道を修正すると忍に突貫する。

 

「なにっ!?」

 

その行動に忍も理力の型を使ってなかったことから予測が出来ず、対応が遅れる。

 

バキッ!!

 

「がっ!?」

 

その拳が忍の顔面を捉え、後方へと吹き飛ばす。

 

「まだだ!!」

 

さらに加速すると忍へと肉薄し、体術コンボを決める。

 

「ぐっ!!?」

 

吹き飛ばされながらも霊鎧装を瞬間的に展開した忍だが、イッセーの打撃力に圧倒されてしまう。

 

「これで決める! 龍剛の戦車!!」

 

『Change Solid Impact!!』

 

体術コンボを決めたイッセーはさらに加速し、忍を追い越すと戦車形態へと変化して拳を振りかぶる。

 

「うおおぉぉぉぉぉッ!!!」

 

バキッ!!

 

「ソリッドインパクト!!」

 

吹き飛んできた忍の背中に特大の拳が激突し、さらに肘部分の撃鉄が作動して忍の体を打ち上げる。

 

「ぐがぁぁっ!?!」

 

戦車状態の一撃をまともに受け、忍も苦悶の叫びをあげる。

 

「ラスト! 龍牙の僧侶!!」

 

『Change Fang Blast!!』

 

イッセーの背中にバックパックが出現し、チャージが行われる。

 

「ぶち抜け! ドラゴンブラスター!!!」

 

ゴオオオォォォォッ!!!

 

そして、二門の砲口から龍気の収束された砲撃が忍に襲い掛かる。

 

「ッ!?!?」

 

チュドオオォォォォンッ!!!

 

盛大な爆発と共に忍が爆炎の中に消える。

 

「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」

 

元の禁手状態に戻ると、イッセーは体力の著しい消耗から息を切らせていた。

 

「(涙を使われる隙は与えなかったつもりだ。これならいくら忍でも…)」

 

そう思って上空を見ながらアナウンスを待つが、一向にアナウンスが流れない。

 

つまり…

 

「(耐えたってのかよ!? 俺のトリアイナのコンボに…!?)」

 

その事実を突きつけられるように…

 

「ブラッド・レイン!!」

 

爆炎の中から血の雨が弾丸のようにしてイッセーに襲い掛かる。

 

「ッ!?」

 

それを両腕をクロスさせながら防いでいると、爆炎が晴れていき…

 

「ぐっ…がぁっ…!!」

 

吸血鬼の姿になった忍が苦しそうにしていた。

いくら忍でも先のイッセーのコンボは堪えたらしいことが窺える。

しかし、それと同じくして…

 

ゴキュ…グギュ…

 

何やら忍の体内から異様な怪音が聞こえてくる。

 

「確か…霊接脈…だったっけ…?」

 

それは忍の深層記憶に眠っていた邪狼だった頃の狼夜との戦いの記憶…その終盤に狼夜が使っていた霊力を用いた自己回復系の異様な霊術。

それを妖力も用いて自らの体内を修復するという荒業を忍は以前使っていたが、それは暴走状態での出来事であり、忍自身は覚えてなかったはずである。

しかし、窮地に追い込まれた瞬間、その出来事が急にフラッシュバックし、今この瞬間に使用を可能にしていた。

 

「がぁ…!?!」

 

しかし、受けたダメージは予想よりも深く、霊接脈だけでは到底回復が追いつけなかった。

 

バキッ!!

 

従って忍は頭上でフェニックスの涙の小瓶を握り砕き、その中身を浴びていた。

 

「これがフェニックスの涙…なるほど、こりゃ重宝される訳だ…!」

 

体力までは回復しないまでも傷を完治させるには十分だった。

 

「くそ…! 仕留めきれなかったか…!」

 

湖上表面の氷を殴りながらイッセーは悔しそうな声を漏らす。

 

「いや…正直、ノックアウト手前だった。意識も飛びかけたが…何とか踏ん張りが利いたみたいだ…」

 

そう言いながら忍は氷上に舞い降りる。

だが、氷雪冥王から吸血鬼に移行したことでイッセーの体力をこれ以上奪うことは出来なかった。

いや、正確にはなれるにはなれるが…体力切れで勝負が着いては忍の中の何かが許さなかった。

 

「そっちもそろそろなったらどうだい? 紅の鎧に…」

 

ダメージの比に対して体力も奪われてる状況で忍はイッセーに紅の鎧になることを勧める。

 

「ッ!」

 

その瞬間、何かを感じ取ったイッセーがその場から跳び上がると…

 

ビィィ…!

 

一筋の紅い閃光がイッセーに届く。

それと同時にイッセーの龍気が回復していく。

 

「これが噂の……………2人の絆か…」

 

言葉を選んでからイッセーとリアスの絆を目の当たりにする。

 

「なら、お望み通りに見せてやるよ。我、目覚めるは…」

 

「王の真理を天に掲げし赤龍帝なり」

 

「無限の希望と不滅の夢を抱いて王道を往く」

 

「我、紅き龍の帝王と成りて」

 

「汝を真紅に光り輝く天道へ導こう!!」

 

『Cardinal Crimson Full Drive!!』

 

赤から紅の鎧に変化したイッセーを前に忍は目を閉じ…

 

「異世界の龍の始祖よ。同じく異世界の龍の力を宿した騎士の狂気を御し、我に一時の力を貸したまえ…!」

 

封印していた力を解放する。

 

ゴアアアッ!!!

 

忍を中心に龍気が溢れ出し、その体を鎧のような甲殻が覆い始め、顔の目元には龍の頭部を模った仮面を着け、背中から一対の龍翼と臀部から龍尾が生えた姿となる。

しかし、その鎧は石化したように灰色で所々が罅割れており、胸部、両肩、両掌、両膝の計七ヵ所には同じく石化したような七つの宝玉が嵌め込まれていた。

それと比較して龍翼と龍尾は白銀の鱗に包まれた綺麗なものとなっており、仮面も白く何かが抜け落ちたような仕様となっている。

 

「な、なんだそりゃ…!?」

 

その何とも言えない残念な風体にイッセーも言葉が出ない。

 

「始龍との邂逅で制御下に置いた龍騎士…のはずなんだが…やはり、完全には御しきれてないようでな。それでも龍気の扱いならこの形態が一番出力が高いんだ」

 

ゲーム前に一度どのようなものか試していたが、この形態での顕現であった。

龍気を扱うエルメスの意見も聞いてみたが、何か抜け殻の様に感じるという見解を頂いていた。

忍も龍騎士のような戦意や狂気に満ちた感覚はないが、力を託してくれたはずの始龍の息吹も感じられなかった。

忍がまだ完全に掌握出来ていないからなのか、はたまた他に条件でもあるのか…それは謎であった。

しかし、この形態では龍気の出力が他の形態よりも桁違いに跳ね上がるので、対イッセー対策として準備していたのだ。

 

………

……

 

・ドーム側

 

『冥王を始めとした異能の力を宿した狼と、純粋なドラゴン…』

 

アザゼルは忍とイッセーをそう評していた。

 

『終盤戦もいよいよ大詰めか!? この戦いの行方がゲームの勝敗を大きく分けるのか!!』

 

ナウドもまた絶叫気味に叫んでいた。

 

『ま、その男の勝ちを信じて女達も戦ってるんだがな』

 

アザゼルの視線の先にはイッセーと忍の勝ちを信じて戦うリアスや智鶴達の映像があった。

 

………

……

 

・忍vsイッセー

 

「正直に聞くけど…そっちのフェニックスの涙はイッセー君が持ってるんじゃないかな?」

 

「ッ…」

 

ズバリ言い当てた忍にイッセーは隠しても無駄だと懐からフェニックスの涙を出す。

 

「真紅の赫龍帝を二回倒す、か…なかなか骨が折れそうだ」

 

それを言ってからしばしの間が流れ…

 

バッ!!

 

『Star Sonic Booster!!』

 

ほぼ同時に動くと共にイッセーの方が速く忍の間合いに入る。

 

『Solid Impact Booster!!』

 

「はぁッ!!!」

 

そして、右腕が龍剛の戦車の形態へと変化すると一撃を加えようとする。

 

「猛牙墜衝撃・改、『激龍衝(げきりゅうしょう)』ッ!!」

 

それに合わせるようにして忍は右手に龍気を中心に残りの四つの力を収束した掌底を放つ。

 

ゴオオオォォォォッ!!

 

お互いの一撃が衝突すると、氷結していた湖上の氷を破壊しながら強い衝撃波を生み出し、最初の激突時とは比べものにはならない波を生み出す。

 

ビキビキ…!!

 

その余波を食らい、忍側の鎧がさらに罅割れる。

 

「見た目通り、耐久性は低いみたいだな!!」

 

「だが、力は振るえている!!」

 

忍は鎧の破壊を気にせず、次の一手を打つ。

 

破鎧装(はがいそう)ッ!!」

 

それは自らの鎧を破壊することで至近距離での鎧の欠片を散弾のように放つ自壊技。

今回、忍は右腕の鎧を腕に通した魔力で破壊していた。

 

「なっ!?」

 

その光景にイッセーも思わず、反射的に顔を腕で覆う動作をしてしまう。

人は誰しも危険と感じた時には思わず危機回避の反応をしてしまうもの、それが人型ドラゴンの転生悪魔だとしても…人間基準なイッセーならなおの事…。

 

「(隙ありだ!)」

 

ゲシッ!!

 

それを好機と見て忍はイッセーの腹を思いっきり蹴り上げる。

 

「しまっ…がっ?!」

 

今度は逆に打ち上げられたイッセーに…

 

龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)ッ!!!」

 

忍は口内に龍気を収束させ、それを吐き出すような形で龍気の砲撃を放つ。

威力はイッセーのドラゴンブラスターよりも低いが、その代わり貫通力に秀でた砲撃となっている。

 

「ッ!?」

 

それを龍剛の戦車形態の両腕をクロスさせて耐えようとする。

 

ズゴゴゴゴ…!!!

 

「ッ!?!」

 

シュゥゥ…!!

 

予想以上の貫通力に分厚い籠手から煙が上がる。

 

「こなくそっ!!」

 

両腕を広げるようにして龍の咆哮の軌道を無理矢理逸らす。

 

「忍は…!?」

 

忍の方を見ると、その周りには五つの球体(魔力、気、霊力、妖力、龍気)が漂っており、龍気を中心に他の四つの力が再び収束していくのが見えた。

 

「砲撃勝負なら…!!」

 

イッセーもまた翼から砲身を出し、チャージを開始する。

 

「「(この一撃で決める…!)」」

 

互いにこの一撃で勝負を着けようとしていた。

 

「『絶牙龍撃咆(ぜつがりゅうげきほう)』ッ!!!」

 

「クリムゾンブラスタァァァァァァ!!!」

 

『Fang Blast Booster!!』

 

ゴオオオォォォォッ!!!!

 

どちらも龍気を練られた砲撃…。

衝突した時の爆発で忍もイッセーも巻き込まれてしまう。

 

 

 

その衝撃は近いようで遠くで戦っていた女性陣にも伝達される。

 

「イッセー!?」

「しぃ君!?」

 

一時的に手が止まったチーム戦は、2人の男がいると思われる…衝撃の激突した方向へと目を向けざるを得なかった。

 

 

 

そして、響き渡るアナウンス。

 

『リアス・グレモリー選手の「兵士」、リタイヤです。さらに女王への昇格を確認しましたので72点が紅神眷属に入ります』

 

「そんな…!?」

 

イッセーの敗北。

その事実と得点の差にリアスは驚く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、続くアナウンスで…

 

『紅神 忍選手、撃破。よってこのゲームはリアス・グレモリー選手の勝ちとなります』

 

忍の撃破も確認されていた。

 

「しぃ君が…!?」

 

忍の敗北に今度は智鶴が驚く。

 

つまり、このゲーム…。

忍とイッセーは試合に引き分け、勝負に忍が負けた。

…ということになる。

 

 

 

こうして冥界初の異種対抗ゲームは悪魔側チームの勝利に終わった。

しかし、このゲームの内容と結果がどのように悪魔業界で話題になって評価されるか…。



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12.邪神降臨のパラレル
第七十一話『極めて遠く、極めて近い…』


これは決して別作品の話ではありません。
ちゃんと意味のある話です。


~???~

 

それは不思議な光景であった。

 

戦場の中、一組の男女が1人の少女を魔法陣の中に閉じ込めていた。

 

「義兄さん!!」

 

少女は男のことを義兄(あに)と呼んで、魔法陣の円に沿うように張り付けられた障壁をドンドンと叩く。

 

「お前は生きろ。そのための道は用意した。例え、世界が変わろうと俺達の義理の兄妹(きょうだい)としての(えにし)は消えないはずだからな」

 

「でも、あたしだけだなんて! だったら義兄さんと義姉さんも一緒に…!!」

 

男の言葉に、少女はポニーテールに結った黒髪を揺らしながら涙を流して懇願していた。

 

「それは出来ないの。これはたった1人のための…私達が一緒に作れる最初で最期の時空転移魔法だから…」

 

女性の方も涙を流しながら少女に笑顔を向けていた。

 

「でも…でも…!!」

 

義姉と呼ばれた女性の言葉に少女は崩れ落ちるようにその場に座り込む。

 

「お前は生きるべきなんだ。この戦いは俺と『桐葉(きりは)』が必ず終わらせる。だが、きっと無事では済まないだろう。そんな戦いに大切な義妹であるお前を巻き込みたくはないんだ。それは桐葉とて同じなんだが…」

 

男は桐葉と呼んだ女性を見る。

 

「あなたがいない世界なんて考えたくないわ。だから一緒に戦います。それであなたが死するようなら…共に逝きましょう」

 

「頑固者め…」

 

男は諦めたように桐葉から少女へと目を移す。

 

「『夜琉(よる)』。お前がどのような世界に行っても…幸せになることを願っているよ」

 

男は優しい笑みを浮かべて『夜琉』と呼ばれた少女に最後の言葉を送り、魔法陣に魔力を注ぎ込む。

 

「っ!!?」

 

それに応えるように魔法陣の上空に次元の裂け目が発生し、そこに吸い込まれるようにして夜琉の体が浮かび上がる。

 

「義兄さん!! 義姉さん!!」

 

夜琉は最後まで2人のことを追い求めようとしたが、それも叶わなかった。

 

「さらばだ、義妹よ」

 

「元気でね」

 

2人は…夜琉が吸い込まれる最後の時まで笑顔でいた。

 

「いや…いやあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

泣き叫ぶ夜琉の意志に反して次元の裂け目は夜琉を吸い込むと同時に、その口を閉じたのだった。

 

それを見届けた後…

 

「っ…ごめんね…夜琉ちゃん…」

 

桐葉はその場で泣き崩れる。

 

「すまない…お前に余計な業を背負わせてしまって…」

 

泣き崩れた桐葉に近寄ると、男はそっと彼女を抱き締めた。

 

「いいえ…私が決めたことだから…あなたの罪を一緒に背負いたかったから…」

 

泣きながらも桐葉はそう訴えていた。

 

「ありがとう…桐葉…」

 

そう言ってくれる桐葉を強く抱き締めながら男は誓う。

 

「(必ず…守ってみせる。もう二度と泣かせないためにも…)」

 

しかし、この誓いが果たされることはなかった…。

 

………

……

 

~???~

 

場面は変わり、戦場の最前線。

 

「俺達は決して負けないッ!!」

 

桐葉と共にいた男が味方を鼓舞しながら敵兵を斬り捨てていた。

 

「例え、相手が"神"であろうと…それが悪に染まり、闇に堕ちたのならば、それを打倒するのが我等の役目! 皆、俺に続け! 俺達が人類最後の希望になるのだ!!」

 

「「「「オオオオオオオオオッ!!!」」」」

 

男の言葉に味方も雄叫びを上げていた。

 

「(この戦いが終われば、人はまた平和な世界を取り戻す…! そのために俺達は立ち上がったんだ!!)」

 

男はこの戦いの後に平和な世界が広がるだろうと思っていた。

 

その世界は"神"によって平和を保っていた。

しかし、その神は堕落し、人を害する存在へと変貌してしまった。

その経緯は人間達も知らない。

しかし、人間達はそんな神の横暴に振り回されるだけであった。

 

だが、1人の青年が立ち上がり、神に対抗するだけの力と組織を築き上げ、神を打倒しようと動き出したのがこの戦い…戦争の発端であった。

最初は劣勢だった青年達だが、1人の女性…神側からの離反者との協力によって徐々に攻勢を強めていった。

 

その女性とは、桐葉である。

彼女は若くして聖女と奉られる程の高位の神官だったが、神の堕落を嘆いて青年の組織へと近付いた。

最初こそ周りの人間に信用されなかったが、青年は彼女を信じた。

人と人とが疑心暗鬼になっては神を倒すなど夢のまた夢であると説いて…。

その甲斐あって桐葉は青年と並んで組織の重要な人物となった。

 

彼女が持ち出した資料を参考に人々は神の勢力に対抗する武器を作り出し、戦い始めた。

その効果は劣勢だった人々に希望を与えていき、徐々に組織は拡大していった。

4年という歳月の戦いの果てに…人類は遂に神の喉元まで肉薄した。

 

それは現在の最終決戦に繋がる長い月日だった。

 

「(長かった…。だが、これで最後だ!!)」

 

男は長かった戦いの終止符を打つべく、神の待つ天の城へと駆けようとした。

 

だが、その時…

 

「死ねぇぇぇぇ!!!」

 

味方の1人が何を思ったのか、男を背後から手に持っていた剣で突き刺そうとしていた。

 

「危ないっ!!」

 

ザシュッ!!

 

それを庇い、桐葉がその凶刃を受ける。

 

「なっ!?」

 

その光景に男も立ち止まるしかなかった。

 

「ちぃ! 外したか…だが…!!」

 

見方が何か言う前に…

 

「貴様…!!!」

 

桐葉から剣を引き抜こうとした味方を男は即座に斬り捨てた。

 

「がぁ!?」

 

そして…その男が味方を殺す瞬間だけの光景が戦場に映し出される。

 

『見よ、人の子等よ。お前達が英雄と称える男もまた人間。愛する者を傷つけられたら、その者を始末する。そのような男が我を討ったとしてもお前達を支配するだけではないか?』

 

それは神の声だった。

 

ざわざわ…ざわざわ…

 

戦場の味方が神の声に(ざわ)めき出す。

 

「っ!? 騙されるな! これは神が仕掛けた罠だ! 俺が斬った奴は俺に明らかな敵意を向けてきたんだ。それに気付いた時には桐葉が俺を庇ってくれて…」

 

男はそう弁解する。

しかし、一度芽生えた感情は払拭されることはなかった。

 

『人の子等よ。選べ…貴様らが英雄と呼ぶ男を奉るか、我を奉るか。それとも奉る存在など最初から存在せぬ方が良いか?』

 

「今更何を言うか!!」

 

神の言葉に男は激昂する。

 

『人の子よ。貴様の勇猛には敬意を払おう。だが、我がいなくなったらその後はどうする? お前が新たな指導者になって皆を引っ張るのか? 我と同じように邪魔な奴を排除しながら…』

 

「俺はそんなことはしない! 第一、俺はそんな指導者になんかなるつもりはない…!!」

 

『ここまで来て逃げるのか? やはり、人の子よな。自分勝手である。お前が先導した者達を最終的には捨てるのであろう?』

 

「違う! これからは人と人とが手を取り合って世界を回すんだ! 俺が先導しなくても世界は回っていく。それは貴様がいなくとも同じことだ!!」

 

そのような舌戦を繰り広げる間、味方達は男の背中を見ていた。

 

『浅はかな…。我がいなければ、祈りも成就されぬ。厄災も防げぬ。人の子は脆くか弱い。だからこそ我が守っているのだ。それが出来ぬのであれば、貴様は何のために我に立ち向かったのだ?』

 

「それは…!!」

 

『女1人が倒れただけで立ち止まる者の言葉を信用などできるものか?』

 

「「「「ッ!!!?」」」」

 

その言葉によって味方の感情が傾く。

 

すると…

 

「だ、め…相手にしちゃ…神の、お言葉は…人心を…操る…」

 

桐葉が苦しそうに言葉を発する。

 

「桐葉!?」

 

男はすぐさま駆け寄り、桐葉の容体を確かめる。

 

『見よ。これがこの男の本性だ。こやつが本気ならば女など構わず、我の元に来るものであろう?』

 

ざわざわ…

 

神の言葉に味方が徐々にその敵意を男に向け始める。

 

『さぁ、この数年間を戦争で費やしてきた男を断罪する時ぞ。勇気ある者はその男を討て』

 

ザ…ザ…

 

神の言葉に操られるように味方が男の背後に迫る。

 

「ッ!? よせ! あんな神の戯言に耳を傾けるな!!」

 

だが、時は既に遅し…。

 

斬ッ!!

 

味方の1人が剣を振り下ろしていた。

 

ギィンッ!!

 

男は寸でのところでそれを防ぐが、これまで一緒に戦ってkチア仲間に刃を向けられて感情がコントロールできなくなってきていた。

 

「逃げ、て…私を、置いて…」

 

「そんなこと、出来るはずがないだろう!!」

 

そう叫んだ刹那…

 

ザシュッ!!

 

別の味方が剣を振り下ろして、男の右肩を斬り裂き、右腕を落としていた。

 

「ぐわあああああっ!!?!?」

 

それからは悲惨であった。

 

男は桐葉を背負いながら、味方だった者達の間を掻い潜りその場から逃げたのだ…。

その間、味方だった者達はそれぞれの武器を振り下ろして男を攻撃していた。

 

戦場からやっと離脱し、深い山奥へと逃げ込んだ男の体は血だらけになっていた。

それは自らが負った傷と桐葉から流れる血の両方であった。

 

「くそっ……なんで、なんでこんなことに…!!」

 

英雄だった男は味方だった者達の裏切りに遭い、最愛の人も亡くそうとしていた。

 

「あ、なた…」

 

「桐葉…!!」

 

人気が完全になくなったちょっとだけ開けた場所に桐葉を寝かせ、血の気が引いた青褪めた顔を見る。

 

「ご、めん…なさい…神の、御言葉が…あれほどの、力を持って…いた、なんて…」

 

「お前が謝る事じゃない。待ってろ、すぐに治療して…」

 

ふるふる、と力弱く顔を振る。

 

「もう…手遅れ、です……ここまで、息が出来てるのが…不思議なくらいで…あなたの…お顔も、見えないのに…」

 

「ッ!?!?」

 

それを聞いて桐葉の双眸を見れば、完全に輝きを失い、虚ろになっていた。

 

「そ、そんな…!!?」

 

男は絶望する。

 

「あなた…本当は、戦いの後に…話す、つもりでしたが…あなたは…父親に、なれたんですよ…?」

 

「なっ!?」

 

このタイミングでの衝撃の告白に男は言葉を失う。

 

「ですが…私達の…小さな、命の灯火は…消えて…しまいました…」

 

その告白と共に死を悟り、涙を流す桐葉。

 

「…俺は…俺はぁ!!!」

 

男は大粒の涙を流しながら慟哭する。

 

「ごめ、ん…なさぃ…あなたよりも…先に逝く、不幸を…お許し、ください…」

 

「っ! 死ぬな! 死ぬんじゃない! 俺達の未来はまだ…!」

 

男はそう言って桐葉を抱き寄せるが…

 

「愛してます…あ、な…た…………………」

 

コトリ、と力なく瞼を閉じて桐葉の全身から力が抜けていく。

 

「桐葉? 桐葉……!!!」

 

「……………………」

 

揺さぶっても反応を示さない。

 

「う、うう…うわああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

男の声からは絶望しか感じ取られなかった。

 

………

……

 

桐葉を失っから数日。

 

男は変わった。

 

自らの名を捨て、自分と桐葉を裏切った世界を恨み、憎しみ、呪った。

そして、桐葉の亡骸と共に山奥へと籠り、元より使っていた技を殺人技へと昇華させていったのだ。

その実験として村を壊滅させるという…以前では考えられない暴挙へと打って出ていた。

人々を信じ、戦ってきた男は…今では殺人鬼となり果て、世界を呪いながら戦う戦闘狂と化していたのだ。

 

そんなある日。

男は桐葉が持ち出していた資料の中にあった禁術を用い、桐葉の死体を素体にして殺戮に特化し、自らの武器にもなる人形を作ることにした。

闇に堕ちきった男に捨てるモノなど、もはや何もなかった。

 

「我が求めるは最凶にして絶対なる剣…」

 

村一つを犠牲にし、村人の血で塗られた魔法陣を描き、供物として生け捕りにして虐待の限りを尽くして口を封じた女子供を用意し、その中心に桐葉の死体を置いた。

 

「贄を喰らい、我が最愛なる者だった体よ、転生して我が剣となれ…」

 

血の魔法陣から暗黒の瘴気が立ち昇り、女子供を喰らい始める。

 

「生まれ出でよ。我が右腕となりしモノ…。我が呪いと憎しみを以って昇華せよ!!」

 

夥しいほどの血が流れて魔法陣に吸い込まれると、桐葉の死体が宙に浮かび、瘴気を吸い込み始める。

 

「恨め、怨め、憎め、呪え…!! 我が魂魄の呪詛を聞き入れ、地獄の底より這い出て我が力となれ!!」

 

カッ!!!

 

その呪詛に従い、桐葉の死体が暗黒色に染まりきると同時に血の球体の中で新たな受肉を果たそうとする。

 

「世界の全てを呪いし、我が魂魄を喰らいて目覚めよ! 暗黒の傀儡よ!!」

 

男から発生する闇色の生気が血の球体に注がれていく。

 

そして…

 

パァンッ!!

 

血の球体が弾け、中から桐葉の肉体を用いて誕生した人形が現れる。

 

「………………」

 

その肉体は確かに桐葉のモノであったが、闇の受肉を果たす際に若返ったのか、それとも別の要因があったのかは不明だが…少女のような体躯での誕生であった。

 

「桐葉の肉体を使っていようが、貴様は俺の傀儡だ。貴様の名は『オルタ』。それだけで十分だ」

 

「傀、儡……マス、ター……オル、タ……」

 

少女の名は『オルタ』。

男によって生み出された殺戮の人形、闇の傀儡。

まだ、受肉を果たしたばかりで言語も覚束(おぼつか)なかった。

 

「人も神も関係ない。俺は全てを抹殺してやる…!!」

 

「……………」

 

それを聞き、オルタは何を思ったのだろうか…。

虚ろな眼に彼はどう映ったのか…?

 

………

……

 

数日後。

 

男はオルタを用いることで人々を虐殺していた。

オルタの性能は男の想像以上であった。

 

オルタは男の体に漆黒の鎧と化して纏わり着くと同時に失った右腕を一時的にだが異形の腕として再生していた。

そして、その右腕からは憎悪の黒炎が噴き出し、人々を次々と燃やし尽くした。

さらに黒き剣を左手に持ち、人々を斬り伏せていき、その血を剣に吸わせていた。

鎧の背中からは漆黒の翼を生やし、その翼を以って空から死という呪いを撒き散らす。

 

そして、男は再び神の前へと姿を現す。

今度は世界の英雄ではなく、世界の復讐者として…。

 

『禍々しい姿になったな、人の子よ』

 

「黙れ、貴様の戯言など聞きたくもない」

 

神の居城にて神と対峙する男。

 

『かの神官を贄に武器を作ったか。お前もまた邪悪な存在だな』

 

「黙れと言っている!!」

 

堕落した神と深淵の闇に堕ちた英雄…。

 

その戦いは呆気ないものであった。

神は成す術なく男によって葬り去られた。

 

『我がいなくなれば、世界はいずれ消滅する。それが世の理というモノだ』

 

絶命する寸前、神はそう言い残していた。

 

「知ったことではない…世界は滅びようが滅びまいが、俺には関係ないからな」

 

神の死を見てから男はその場から立ち去る。

 

「全てを無に帰す。それがこの世界の末路だ…」

 

男の憎悪は止まらないし、満たされない。

それは神を討ったとしても変わらなかった。

 

………

……

 

荒廃した世界…。

全てが血に塗れ、人間の生を許さない世界。

そんな世界へと変貌したこの世界に、唯一生きる人間…。

 

「…………」

 

ギチッ!!

 

無言のまま人肉を加工した干し肉を食い千切る男。

 

「マスター。これからどうするのですか?」

 

そんな男の背後からオルタが問い掛ける。

 

「人間という生物は死滅した今、マスターのみがこの世界の人間です。この後、マスターは如何なされますか?」

 

オルタの問いに男は…

 

「いや、この世界の人間にはまだ生き残りがいる」

 

「それは…?」

 

「我が義妹…時空の彼方へと飛ばした最後の抹殺対象だ」

 

それは男と桐葉が苦渋の決断で何処か知らない世界へと送り出した義妹の存在だった。

しかし、今の男に愛など欠片もない。

この世界で生を受けた人間は皆、抹殺対象でしかなかったからだ。

 

「しかし、義妹殿は何処へ行ったかもわからぬのであれば…」

 

バシッ!!

 

オルタを殴る男。

 

「出来損ないが俺に意見する気か?」

 

「申し訳ありません…」

 

オルタは闇色のドレスを正して男に謝罪する。

 

「行き先など問題ではない。必ず見つけ出す。それだけだ」

 

そう言って男は魔法陣を作り出す。

 

「(もし邪魔者が現れれば、そいつもまた殺すのみ…)」

 

男はオルタと共に時空の壁を超えて義妹を捜す。

 

その先に、激しい死闘が待っているとも知らずに…。



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第七十二話『時空漂流者』

冥界初の異種対抗ゲーム。

その結末はイッセーが忍と相討ちという形でのグレモリー眷属の勝利で幕を閉じた。

 

しかし、その試合運びを振り返ってみると紅神眷属の思惑によって動いていた面が強かったかもしれない。

序盤で互いの騎士が相討ちになったのも大きな要因かもしれないが、特にここで大きな分かれ目となったのは騎士の質かもしれない。

グレモリー眷属の騎士はエースである木場 祐斗、対する紅神眷属の騎士は戦力の中核を成す流星 朝陽。

それほど違うとは思えないように見えるが、グレモリー眷属にとってテクニックタイプの損失は大きく、パワー傾向がより際立って強まった結果になってしまった。

 

その後はグレモリー眷属の一時撤退、そこへ降り掛かる紅神眷属の砲撃、中盤戦を捨てさせての終盤戦。

それらを経て、湖上での決戦。

チーム戦ではグレモリー眷属が少し優勢であったのだろうが、その状況を作ったのは紅神眷属である。

 

そして、王と兵士の戦い。

始龍によって一時的に制御下に置いた龍騎士の力を発揮させた忍と、真紅となったイッセーの勝負はこれもまた相討ちという形で決着が着き、ゲーム上での勝負はグレモリー眷属の勝利となった。

 

このゲーム結果は各方面で賛否を呼んだ。

 

忍の戦略を評価する者、しない者、グレモリー眷属がまたしてもゲームで赤龍帝を失ったこと、早々にエースを失ったこと、紅神眷属の騎士の1人が全く動かなかったこと、アウトレンジからの陣営砲撃に異を唱える者、唱えない者、忍の最後の勝負は王として必要だったのか?

それはそれは様々であった。

 

そのような議論が冥界の一部で繰り広げられている中、当の本人達はというと…

 

………

……

 

魔獣騒動や異種対抗ゲームから数日が経った日のこと。

 

「魔法使いとの契約?」

 

フィクシス魔法学園の屋上にてラトが忍に尋ねていた。

 

「あぁ、悪魔には魔法使いとの契約期間があり、その目的は様々だと聞く。用心棒だったり、魔力の研究だったり、自らのステータスにしたりと…」

 

アザゼルから聞き及んだ悪魔と魔法使いの関係をそう説明する。

 

「……使い魔とは違うんですか?」

 

「こちらでの使い魔の狭義がいまいちまだわからないが…少なくともそれは違うだろうな」

 

シルフィーの問いに忍もミッド側での使い魔のことをわからないので答えに困っていた。

 

「なんだかややこしいですね」

 

その話を聞いてラピスも首を傾げる。

 

「だが、それは古くから続いてることだからな。イッセー君達もいずれは魔法使いと契約するだろうな」

 

「……先輩は?」

 

忍の語りにシルフィーが尋ねる。

 

「俺は爵位を貰ってるとは言え、悪魔ではないし、冥族にそんな習わしもないそうだからな。関係ないだろう」

 

一蹴していた。

 

「しかし、今夜は地球に戻らなければならない事情もある」

 

「なんかあったっけ?」

 

ラトが頭に?を浮かべる。

 

「駒王学園で吸血鬼との会談が行われる予定なんだ。そこに俺も出席することになる。そこで俺の中に眠る吸血鬼のことを問い合わせるつもりだ。ま、グレモリー先輩に便乗する形になるが…」

 

そう言って忍は吸血鬼の力を知るために動くことを決意する。

 

「まぁ、頑張ってね。あ、その前に宿題写させてよ」

 

ラトがあっけらかんとしてそう言うと…

 

「そこは自分でやれよ」

 

忍はそう言い切っていた。

 

………

……

 

その深夜、駒王学園にて…

 

吸血鬼世界の二大派閥、『カーミラ派』との接触、会談が行われた。

そこに出席したのは悪魔側からグレモリー眷属、シトリー眷属、堕天使側はアザゼル、天界側は四大セラフの一柱ガブリエルのQ『グリゼルダ・クァルタ』、そして各次元や世界にパイプを作り続けてる次元辺境伯こと忍だった。

 

何故、この時期に接触してきたのか…。

このことをリアスが尋ねると、カーミラ派の特使『エルメンヒルデ・カルンスタイン』は答える。

もう一つの派閥『ツェペシュ』側のハーフから滅神具保有者が現れたというのだ。

そして、その滅神具の名は…『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』。

聖遺物(レリック)の一つである。

 

 

 

ここで聖遺物に関して少し触れておく。

聖遺物は大きく分けて二つに分類される。

 

『レリック』と呼ばれる神話系に属する聖なるアイテム。

聖杯や聖十字架などがこのレリックに挙げられる。

 

もう一つは完全聖遺物や聖遺物と呼ばれるシンフォギア装者が身に着けているレリックを見本に超先史文明時代に人の手によって生み出された人工的なアイテムである。

現在は天羽々斬、イチイバル、ガングニール、シュルシャガナ、イガリマ、アガートラームの6種が確認されており、そのどれもがシンフォギアになっている。

但し、アガートラームはコアが無事なだけでシンフォギアを生成することは出来ないでいる。

 

完全聖遺物・デュランダルも、元は聖剣・デュランダルを基に作られた人工物であったことが明かされている。

 

 

 

そのレリックである聖杯がツェペシュ側の手に渡り、吸血鬼が死ににくい肉体を手に入れ、カーミラ側を襲撃してきたのだと言う。

それを受け、カーミラ派はギャスパーの身柄を戦力として扱い、吸血鬼間での争いを吸血鬼だけで解決させようとしていた。

そんな身勝手が許される訳もないが、さらに言えば、エルメンヒルデは休戦条約という外交カードを切ってきた。

要するに吸血鬼側は『和平に応じてやるからギャスパーを出せ』と言ってきてるようなものなのだ。

 

そんな会談を横で聞かされている忍も心中穏やかではなかった。

 

「(吸血鬼の力について問い合わせる気で来たが、クソ胸糞が悪ぃな…!!)」

 

その怒りは他の者も感じていたが、この場での発言は誰もが許されるものではなかった。

その証拠に果敢にもイッセーが口を開いたが、エルメンヒルデは一蹴していた。

 

「なら辺境伯である俺の話も聞いちゃくれないのか?」

 

それに続くようにして忍も口を開いたが…

 

「……あら? 狼という卑しい駄犬如きが辺境伯とは…悪魔社会も人手不足なのかしら?」

 

エルメンヒルデは"今、存在に気付きました"的な言い方で忍の言葉を一蹴していた。

 

「あぁ?」

 

その瞬間、忍の怒りが表に出たかのように双眸が真紅と化し、瞳孔が縦に変化する。

 

「おい、よせ忍」

 

それを見てアザゼルが忍の肩を押さえる。

 

「ちっ…」

 

アザゼルの制止に不本意ながら従う忍だったが…双眸は真紅のままで怒りが収まっていないことを示していた。

 

だが…

 

「……どういうことでしょうか?」

 

エルメンヒルデの表情はさっきよりも冷たい印象をその場にいた全員に与えていた。

 

「…何がだ?」

 

アザゼルもエルメンヒルデの変化に何があったのかわからず対応する。

 

「その瞳…何故、駄犬如きが吸血鬼の…それも高位の瞳を宿しているのか、ということです」

 

「なに?」

 

その問いにアザゼルも忍を見る。

 

「知るかよ。俺は異常な学者に吸血鬼の血を注がれただけだ。今は力の一端を使ってるに過ぎない」

 

イラついて言葉遣いが雑になったが、事実のみを答えることにした。

 

「バカな…高潔な吸血鬼の血が駄犬などの体内に…」

 

少しばかり狼狽していたエルメンヒルデだったが、すぐに平静を取り戻して会談を続行した。

 

その後、エルメンヒルデが退室した後に決まったことは…

 

一つ、リアス(木場の護衛付き)がヴラディ家に訪問してギャスパーの事を聞くこと。

 

二つ、アザゼルもまた吸血鬼の世界でカーミラ派に接触すること。

 

三つ、残りのグレモリー眷属はここに待機して有事の際に備えること。

 

以上の三つの事が決まった。

 

ちなみに忍は留学中という建前のため、目立った動きが出来ない。

というよりも今回ばかりは同行が難しかった。

狼と吸血鬼の関係はそれほどまでに険悪だったりする。

しかも忍はその狼なのに吸血鬼の血を後天的に宿した上に力の一端を使っているから余計に悪目立ちする可能性が高いのだ。

 

その後、イッセーはアザゼルの診断を受け、そこで邪龍の話を聞いていた。

 

龍種の中でもとりわけ危険で邪悪な存在『邪龍』。

共通してしぶとく、他の龍種でも相手をするのを避けたとされる存在である。

 

そんな邪龍の中でも凶悪な筆頭だった3匹。

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ。

魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ。

原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプス。

 

その他にも北欧のニーズヘッグ、初代ベオウルフが倒したグレンデル、初代ヘラクレスが試練で倒したラードゥン、日本の八岐大蛇などがいる。

 

ちなみに診断を受けた理由だが、イッセーの体やドライグの調子を診てもらう為である。

先の異種対抗ゲームまでは問題なかったが、それからというものドライグの調子があまりよろしくなかった。

眠る時間が極端に増えたというか…本調子ではないのだ。

その原因はイッセーの体をグレートレッドとオーフィスの力を借りて新調したことにあった。

だから今のところ禁手化も出来ると言えば出来るが、トリアイナや真・女王にはなれないでいた。

 

その後、アザゼルはリアスと今後のスケジュールを決めるべく話し合いをした。

その際、アザゼルはアーシアに個人的な話があったそうなので、同席したという。

 

こうして吸血鬼との会談は不穏な空気を纏って終わった。

 

………

……

 

吸血鬼との会談より数日が経った頃。

地球ではリアスと木場、アザゼルがルーマニアの山奥へと出発する日となっていた。

 

一方で…

 

「時空転移反応?」

 

フィクシス魔法学園の屋上でゼーラからの通信を受けた忍は頭に?を浮かべていた。

 

『うむ。次元転移反応は知っているだろうが、稀に時空間を超えて検出される反応があるのだ。その反応がある次元にて観測された。我々、特務隊はそれに調査に駆り出されることになった。もちろん、嘱託騎士のお前にも出張ってもらうことになる』

 

「それは構いませんが…学園の方には?」

 

『既に話は通してある。アステリアで急行せよ』

 

「(手際がホントに良いな…アザゼル先生並みに…)了解。紅神 忍、ただちに向かいます」

 

ゼーラの手際の良さをアザゼルと比較しながらぼやく様に了承する忍だった。

 

「(しかし、時空転移反応か。具体的にはどういうことなんだ?)」

 

そう考えながら忍はアステリアを停めている職員用の駐車場へと急ぎ、アステリアを発進させていた。

 

………

……

 

~第61無人世界~

 

荒廃した大地と乾いた風の吹く次元世界。

何処もかしこも枯れ果てた印象を与える世界だった。

人が住むにはあまりにも荒れ果てているので、入植調査もされずにいた。

 

そんな世界で時空転移反応が起きたのは…あまりにも危険だった。

もしも人がいるのであれば早急に保護しなくてはならない。

 

ヴェル・セイバレスを拠点に各方面に機動力の優れた者が捜索に当たっていた。

 

「(こうも空気が悪いと匂いも感知しにくいな…)」

 

その中の1人、アステリアを駆る忍は鼻が利かないことを気にしていた。

 

「(ともかく、何とかその時空転移反応の原因を見つけ出さないとな…)」

 

そう思って一旦アステリアを停めた時だった。

 

『動体反応を確認。こちらに向かってきます』

 

アクエリアスからの報告が上がる。

 

「当たりか!?」

 

『おそらくは…味方ならば念話の一つもあって然るべきかと…』

 

「動体反応ってことは…生き物だな。方角は?」

 

『北北東より移動中』

 

それを聞き…

 

「こちら紅神。動体反応を確認した。合流を求む」

 

オープンチャンネルで各方面に散った特務隊メンバーとヴェル・セイバレスで待機してるゼーラ達に連絡を入れる。

 

「さて、何が出るかな」

 

そう言って忍はその場に魔力マーカーを打ち込むと、動体反応のする北北東の方角へとアステリアを走らせた。

 

 

 

しばらくして…

 

「女の子?」

 

動体反応が停止したことから急行した忍の目の前には倒れている少女がいた。

歳は忍達とそれほど変わらないように見えるが、背中まで伸ばしただろう黒髪を白いシュシュでポニーテールに結っており、目と閉じているから瞳の色はわからないが、顔立ちは可愛らしいもので、スレンダーながらも少し筋肉質な肉付きをしており、服装は軽装で上着が道着を改造したような動きやすい形状をしていた。

また、黒髪は癖っ毛なのか、猫耳の様に見えなくもない形状をしていた。

 

『生体反応はあります。ですが、このままでは危険かと…』

 

「そうだな…」

 

アクエリアスの意見も聞き、忍はヴェル・セイバレスに治療と検査の準備を要請していた。

 

「(この匂い…妖怪?)」

 

この距離になって忍も分かったが、少女からは妖怪特有の匂いと妖力を感知していた。

 

「(それも人間とのハーフ…だが、何かが違う気がする。もし、仮に彼女が妖怪とのハーフなら次元転移反応でもいいはず。それが時空転移反応? わからない…)」

 

時空転移反応という未知の出来事もそうだが、少女から感じる微妙な違和感を忍はどう説明していいのかわからなかった。

 

その後、合流した他のメンバーと共に少女をヴェル・セイバレスに搬送してから特務隊は第61無人世界を後にするのだった。

 

………

……

 

~ヴェル・セイバレス艦内~

 

「時空漂流者か」

 

忍の報告を聞き、ゼーラはそう漏らす。

 

「また、レアなケースね…」

 

ゼーラの言葉に朝陽がそう付け足す。

 

「いまいちピンと来ないんだが…次元と時空…何がどう違うんだ?」

 

忍がそんなことを尋ねると…

 

「"次元"とは我々のいるこの多次元世界のことを指す。"時空"とは時間を超えた世界、もしくは時間と空間が異なる世界のことを指す。つまり、我々のいる時間軸とは異なる時の流れと歴史を持つパラレルワールドが無数に存在するという考え方だ。パラレルワールドからの漂流者…即ちそれが時空漂流者ということだ」

 

教官らしくエリザがその問いに答える。

 

「わかるか?」

 

「全っ然」

 

ラルフとジェスが管理局員とも思えない発言をする。

 

「バカはほっとくとして…その時空漂流者の扱いは結構難しいのよ。なんせ、時空間が異なる…要は根本的な世界観の違いよね。こればかりはどの国、どの世界、どの次元にも言えることなんだけど…それに加えて時空間を渡る術は管理局だって持ってないし…」

 

朝陽が呆れたように補足する。

 

「なるほど…」

 

その説明に忍も頭の中では理解していた。

 

すると…

 

『失礼します。彼女の身体検査、及び治療が完了しました』

 

医務室のシェーラから通信が入る。

 

「ご苦労。漂流者の容体は?」

 

『はい。バイタルは安定してます。目立った外傷も少ないですが、微かな外傷や筋肉の付き方から見ると何かと戦っていたことがわかりました。あと、血液検査なんですが…通常とは異なる血液反応も検出されました』

 

シェーラの報告に…

 

「それは彼女が妖怪とのハーフだからだろう。妖怪の血液を人が調べたってわからないことが多いからな」

 

忍が付け足すように言う。

 

『妖怪、ですか?』

 

ミッド出身のシェーラにはあまりピンと来ない響きだった。

 

「要は異種族ということか。時空漂流者の上に厄介なものも付け加えられたな」

 

忍の発言にゼーラも顔を渋らせる。

 

「ともかく、そちらに向かう。紅神、流星、ついて来い」

 

そう言って席を立つとゼーラは少女との面会をすべく移動を開始する。

 

「了解…」

 

「なんであたしまで…」

 

あまり乗り気ではない2人を連れてゼーラは医務室へと向かった。

 

………

……

 

・医務室

 

医務室に入ると少女はベッドの上に横になっていた。

その横にはシルヴィアが看病するように座っており、シェーラも少女の顔色を窺っていた。

 

「シェーラ、漂流者は?」

 

「寝ています。いつ起きてもおかしくはなのですが…」

 

「そうか。なら、その間に検査結果の詳細を聞く」

 

「わかりました」

 

ゼーラがシェーラとコンソールパネルに向かったのとは逆に…

 

「年下かしらね?」

 

少女の顔を覗き込んで朝陽がそう漏らす。

 

「そうですね。それで戦闘を経験してるなんて…あまり想像したくない世界です」

 

シルヴィアもそう言って少女の顔を見ていた。

 

「どんな世界でも戦いは起きている、か…違うとすればそれが多いか少ないかくらいだろうな」

 

忍が壁に背を預けながらそう漏らす。

 

すると…

 

「義兄さん…義姉さん…」

 

少女の口が動く。

 

「起きたか?」

 

その声に反応するようにうっすらと少女は目を開く。

 

「? ここは…?」

 

見知らぬ部屋に少女は疑問を浮かべていると…

 

「シュトライクス少将、シェーラさん、彼女が起きました」

 

忍がコンソールパネルで会話していた2人を呼ぶ。

 

「義兄、さん…?」

 

その声と忍の姿を見て少女が反応を示す。

 

「ん?」

 

視線に気づき、忍も少女の方を見る。

 

「義兄さん!?」

 

少女はバッと起き上がると、忍へと近付く。

 

「は?」

 

言われた本人には何のことやらサッパリだったので、素の反応をしてしまう。

 

「なんで、義兄さんがここに…? というかちょっと若返った?」

 

訳のわからないことを言う少女だった。

 

「なによ、またアンタの知り合い?」

 

朝陽が呆れたように言うが…

 

「言ってる意味が分からんが…俺に妹なんていないぞ?」

 

当然ながら忍も知らないものは知らないとキッパリした態度を取る。

 

「…………違う……義兄さん、じゃない…?」

 

忍の物言いや纏っている雰囲気からやっと少女も正常な判断が出来たようで、人違いだと気付く。

 

「(でも…この人からは…確かに義兄さんの面影が…する気がする…)」

 

急に動いたせいか、少女がよろける。

 

「っと…急に動くからだ。もう少し安静にして…」

 

忍が少女を支えると、ベッドまで連れ戻す。

 

「いや、起きたのならちょうどいい。色々と事情を聞きたい」

 

やってきたゼーラが少女の前に立つ。

 

「お前の名前は?」

 

「…………(くれない)夜琉(よる)…」

 

ゼーラの迫力と物言いに警戒しながらも少女…夜琉は名乗る。

 

「紅 夜琉。名前の感覚からすれば紅神や流星と同じ地球の日本に近しい世界かもしれんな」

 

「何言ってんの? 地球っていうか…世界には…あの胸糞悪い"神"が居座ってるじゃない!」

 

ゼーラの言葉に夜琉は反射的にそう答える。

 

「"神"? 聖書に記された神なら当の昔に死んでいる。まぁ、その他の神話体系の神々は別にいるが…」

 

「"神"が複数? なに? アンタこそ何を言ってんの?」

 

会話が噛み合わず成立しない。

 

「ふむ。これは一から説明せねばならないな…」

 

夜琉の言動からゼーラはこの"世界"について話すことにした。

 

「まず最初に…ここはお前の属していた世界ではない。時空の境界線を隔てて存在する並行世界だ」

 

「並行、世界…?」

 

「そうだ。世界は時空という壁を隔てて無数の可能性の中で様々な世界を作っている。お前の属していた"世界"もその一つに過ぎず、我々のいるこの"多次元世界"もまたその一つだ」

 

「………………」

 

夜琉は胡散臭そうな話に眉を顰めていた。

 

「信じられないか? まぁ、当然の反応と言えばそうだな。いきなりこのような話を聞いて信じる者は余程の愚か者か、楽観主義者か、はたまた高度知性生命体のどれかだ」

 

「(何気に酷い言い様だな…)」

「(例えが極端ね…)」

「(まぁ、確かに信じるには理解も必要ですが…)」

「(あまり無理はさせないでほしいんですけど…)」

 

ゼーラの説明を横で聞いていた一同はそれぞれ別の感想を抱いていた。

 

「だが、事実は事実だ。お前は荒廃した世界にいたはずなのに、このような施設にいる。おかしいとは思わないか? あれほど荒廃した世界にこのような設備があるのは不自然だと…それは当然だ。あの世界はこの多次元世界の次元世界、その一つでここは次元航行艦という船の中なのだから」

 

「船? あんな場所に海があるなんて思えないけど…」

 

「そうだ。あの世界の海は既に枯れている。我々が"海"と呼ぶものはもう一つある」

 

パチンと指を鳴らすと、投影ディスプレイが表示されて次元の狭間…いわゆる次元空間が夜琉の前に映し出される。

 

「それがこの次元空間だ」

 

「ッ!?!?」

 

見たこともない光景に夜琉も驚く。

 

「我々はこの海を渡る術を持って様々な次元世界にコンタクトすることもある。だが、それは同じく次元航行技術を持つ世界に限る。その他の未開の地や文明はあれど次元航行技術を持たない世界に対しては静観する姿勢を見せている。それが我々、『ミッドチルダ』という次元世界に存在する『時空管理局』という組織だ」

 

「………………」

 

ゼーラの言葉に夜琉は呆然としていた。

 

「紅神」

 

「なんですか?」

 

「地球生活が長いお前にこの娘の面倒を任せる。"兄"とも呼ばれていたみたいだし、ちょうどいいだろう」

 

「何となく嫌な予感はしたし、言うと思ったよ!」

 

ゼーラの言葉に忍はそう返す。

 

「というか、俺には妹はいないってさっきも言ったし、勘違いだともわかったはずだろう?」

 

そう言って忍は渋るが…

 

「だが、勘違いだとしてもその"兄"とやらにお前はそれだけ似ている可能性が高い。もしくは…」

 

「もしくは…なんだよ?」

 

「いや、憶測の域を出んからこれはいいだろう」

 

「はぁ?」

 

ゼーラの言いたいことがわからず、忍はさらに顔を顰める。

 

「ともかく、娘の面倒はお前に任せる。地球で降ろすから娘に多次元世界の実態を見せてやれ」

 

「(それならミッドに降ろした方がいいんじゃねぇか?)」

 

そんなことを言ってもゼーラはどうせ聞かないと思い、内心で文句を言う。

 

「(地球で降ろす?)」

 

夜琉は夜琉でその言葉を不審に思っていた。

 

「まぁ、確かに百聞は一見に如かずとも言うか…」

 

頭をポリポリと掻きながら忍も仕方ないと割り切ることにした。

 

「夜琉ちゃん、だっけ? 一旦俺が居候してる家に来てくれ。そこで地球の現状を知ってもらうから」

 

「はぁ…」

 

こうして夜琉は一時的に忍の保護下に置き、明幸邸で預かる事となった。

 

………

……

 

・明幸邸

 

「本当に"神"との戦いなんてないの?」

 

「だから何度も言ってるだろう? 確かに神と戦いはあったと言えばあったが、それは北欧神話のロキという悪神であって、それ以外だと過去の大戦で聖書に記された神は死んだことくらいしかわからないって…第一、君の言う"神"の存在なんてこの世界ではいないんだ」

 

明幸邸の居間で集まれる眷属だけで夜琉に現状の地球での状況を何度も繰り返し説明していた。

 

「だから、こんな平和な…」

 

「確かに宗教はある。が、それは色々な国にあったり、人それぞれに信仰してたりと様々だ。まぁ、俺は特に信仰してるものはないが…」

 

「争いだってある。この国の表側では滅多に無いけど、遠い国とか、裏の世界では様々な思惑を持つ奴がいるからな」

 

忍の言葉に続き、クリスも争いについて話す。

 

「しばらくはここに留まって駒王学園に来てみない? そこで平和な時間を過ごすというのもありだと思うの」

 

「学校、か…」

 

智鶴の申し出に夜琉は小さく呟く。

 

「リアスちゃんはもう出発しちゃっていないから…後で書類を用意するけど…今はこの世界について学んでほしいかな」

 

優し気な智鶴の言葉に夜琉は…

 

「わからないことばかりだけど…あたし、義兄さんと義姉さんの覚悟を無駄にしたくない。だから少しの間…ここで色々なことを見聞きしてみたい」

 

そんなことを口にしていた。

 

「そうか。なら、この世界だけでなく、そっちの世界のことも教えてもらわないとな」

 

夜琉の言葉に忍達は彼女を迎え入れようとしていた。

 

 

 

その後、与えられた部屋で布団に潜り込んだ夜琉は…

 

「(義兄さんや義姉さんも…この世界なら幸せに暮らせてたんだろうな…)」

 

夜琉の安全のために時空転移を敢行した2人の事を思い出していた。

 

「(でも、きっと勝ってるよね。義兄さんがあんな"神"に負ける訳ないもん)」

 

そう思いながら窓のカーテンの隙間から微かに見える夜空を見ながら眠りにつくのだった。

 

だが、この時の夜琉は…何も知らなかった。

彼女が時空転移した後、あの世界で何が起きたのかを…。



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第七十三話『邪龍と邪神』

リアス達が日本を発ってから数日後のこと。

 

イッセーのクラスが体育の授業でグラウンドにいた時にそれは起きた。

魔法使いの集団が現れたのだ。

一般生徒はコスプレ集団だと認識していたが、イッセー達はそうはいかなかった。

何故ならそれは本物の魔法使いの一団だったからだ。

 

その存在に気付いたイッセーはすぐさま行動に移す。

松田と元浜に逃げるよう言ってから自らも人気のない場所へ移動したのだ。

 

そこでイッセーはドラゴンの体となった身で戦い、魔法使いを相手にしたが、魔法使い達はすぐさま撤退した。

彼らの目的は…レイヴェルだったからだ。

そして、レイヴェルは小猫とギャスパーと共に別動隊の魔法使い達にさらわれてしまった。

 

この一連の事態はアザゼルの残していた生徒の記憶を司るシステムが働き、『変質者が構内に侵入し、学園が臨時休校になった』ということに記憶が置き換わったので、問題はない。

また、破壊された学園内の箇所は緊急の補修作業が重なったということになっている。

 

残ったグレモリー眷属にシトリー眷属、さらに紅神眷属も加わって今後の対策が行われようとしている時に敵の一団より連絡が入った。

『一年生組の3人を返してほしければ、地下のホームまで来い。但し、来るのはグレモリー眷属、紫藤 イリナ、シトリー眷属、紅神眷属、神宮寺眷属のみ』

というものだった。

 

グレモリー眷属とシトリー眷属、イリナはともかく…何故、紅神眷属と紅牙が率いる神宮寺眷属まで指定したのか?

禍の団が絡んでる可能性がある以上、紅牙に対する復讐かもしれないが…。

 

そのためミッドにいる忍達にも招集が掛かり、地下のホームへと向かう最寄りの駅へと集まっていた。

 

「まさか、昼間に襲撃を受けていたとは…」

 

集合して事情を聞いた忍は顔を顰めていた。

 

「まぁ、魔法使いなんて連中は…特にはぐれなんて常識に囚われてないだろうからな。そんなことも平気ですんだろ」

 

元いた組織の一派とは言え、秀一郎もそう言いながらまた難色を示していた。

 

「というかロキ戦以来だな、お前ら。元気してたか?」

 

かれこれ秀一郎とは魔獣騒動で紅牙が眷属にする以前では、ロキ戦で静観してたくらいの面識なので改めて挨拶が行われていた。

 

「確か…元禍の団の…」

 

「おう。元冥王派所属、雇われ傭兵だった識上 秀一郎ってもんだ。今は紅牙の戦車になったんでよろしく」

 

イッセーの言葉に秀一郎が自己紹介する。

 

「そういえば、雪女の里にもいたな」

 

「赤龍帝や狼とはそこが初対面だったか」

 

当時の事を…と言っても数か月前だが…思い出すように秀一郎はニカッと笑う。

 

「アンタ、よく顔出せたわね」

 

吹雪は吹雪で当時のこともあるのか、秀一郎を睨んでいる。

 

「っと、こりゃ旗色が悪ぃな。ま、今は味方なんだから水に流してくれよ。俺だって仕事だったんだし」

 

「なんか釈然としないわね」

 

そんなやり取りをしてる横では…

 

「そういや、お前らも事故って眷属になってたんだっけか?」

 

クリスが調と切歌の2人と顔を会わせていた。

 

「まぁ、これも成り行きデス」

 

「……一応、紅牙の兵士になってる」

 

「まぁ、あたしも兵士だし…来年からは先輩だし…面倒見てやっか」

 

後輩が出来たことに少し嬉しそうなクリスだった。

 

「こちらも新しい眷属が2名ほどいます。こちらが駒王学園大学部に在籍する大学生の方で、シトリーの新しい戦車です」

 

そう言いながらソーナ会長が見知らぬ大柄の男性を紹介する。

 

「……ルー・ガルーと呼んでくれ」

 

「私達はルガールさんと呼んでいます。皆さんもそう呼んであげてください」

 

真羅副会長がそう言っていると…

 

「「…………」」

 

忍と男性…ルガールが視線を交わし…

 

「よろしく」

 

「……こちらもな」

 

ガシッと握手を交わしていた。

 

「な、なんだ? この妙な組み合わせは?」

 

「あ~、もしかしたら…」

 

イッセーの当惑に匙は心当たりがありそうだった。

 

すると…

 

《マスター、周辺の準備は整ったようですぜ》

 

駅の天井からシトリーの魔法陣が出て、そこから死神が出てきていた。

 

「グ、死神(グリム・リッパー)!?」

 

イッセーが驚いていると…

 

「彼女が私の新しい騎士の…」

 

《あっしはベンニーアと申します。元死神であります》

 

死神少女が自己紹介をする。

 

ソーナ会長や匙が言うにはベンニーアは最上級死神・オルクスと人間との間に生まれた半神であり、人間の血の方が濃いので騎士の駒一つで賄えたのだとか…。

また、本人が言うにはハーデスや父親のやり方が気に入らないので出奔してシトリーに自らを売り込んだのだとか…。

しかし、相手が死神ということでソーナ会長も少し疑心暗鬼になっていたが、ある一点において信じることにしたらしい。

それは……おっぱいドラゴンのファンであること。

その証拠にマントの裏地にはおっぱいドラゴンの詩集が入っていたり、イッセーにサインを貰うなどそれは明らかだった。

 

「ベンニーアとルガールは外でのバックアップをお願いします」

 

「……あぁ」

 

《了解ですぜ、マスター》

 

ソーナ会長が言うと、ルガールは歩いて、ベンニーアは魔法陣を潜ってそれぞれ持ち場に向かった。

 

「大事な作戦前に眷属の紹介になってしまいましたね」

 

「必要なことだろう。それにこれで少しはリラックスも出来ただろうしな。とは言え、月読と暁はノイズ以外を相手にすることになるが…」

 

ソーナ会長の言葉に紅牙がそう付け加えると…

 

「……装者同士の戦いなら何度か経験してる」

 

「生身の人間でも何とかしてみせるデス!」

 

2人は大丈夫だと言い張る。

 

「クリス、あの2人のフォローを頼むな」

 

「わぁってるよ」

 

それを見て忍がクリスに調と切歌のフォローを頼んでいた。

 

「しかし、3人の王がいる訳だが…指揮系統はどうなんだ?」

 

秀一郎が率直な疑問を口にする。

 

「グレモリー眷属は私の指揮で動いてもらいます。紅神君や神宮司さんはどうしますか?」

 

「俺は…そうだな。会長の指揮に入らせてもらおうかな? 会長の指揮を直に体験して糧にしてみたいし」

 

「俺もそれでいい。まだ人数も少なく王としての経験も浅いからな」

 

ソーナ会長の質問に2人の冥王もその指揮下に入ることにしたようだ。

 

「わかりました。では、両眷属の皆さんにも私の指示に従ってもらいますね」

 

そこで忍と紅牙はソーナ会長に自軍の戦力情報を伝えていた。

 

「………そうですか。わかりました。即席ですが、作戦に組み込んでみましょう」

 

眼鏡をクイッと軽く上げながらソーナ会長はそう言っていた。

 

こうしてソーナ会長の下に自前の眷属以外にもグレモリー眷属の居残り組とイリナ、紅神眷属、神宮寺眷属も加わる事となった。

 

………

……

 

地下へと降りた一行。

なかなかの大所帯となってしまったが、それでも作戦や犯人グループの要求もあるので仕方なく前に進む。

そして、しばらく進んだ先の前方の空間から不穏な気配を察知し、一行は陣形を整えることになる。

シンフォギア装者もそれぞれシンフォギアを纏う。

 

前衛…忍、朝陽、カーネリア、暗七、ラト、秀一郎、ゼノヴィア、イリナ、匙、巡、由良

 

中衛…フェイト、シア、吹雪、紅牙、調、切歌、イッセー、朱乃、ロスヴァイセ、真羅副会長、仁村

 

後衛…智鶴、エルメス、萌莉、クリス、ティラミス、シルフィー、ラピス、ソーナ会長、アーシア、草下、花戒

 

配置についてから兵士の駒を持つ者はイッセーを除いて王の承認を得てから女王へと昇格する。

イッセーはリアスがいなくても昇格が可能なので…。

 

最終確認をアイコンタクトで取った後、通路を抜けてひらけた空間に出る。

 

そこで待ち構えていたのは百は超えるだろう魔法使いの集団に加え、召喚魔法で呼び出したであろう魔物などもいた。

それと…

 

「裏切り者の神宮寺兄妹!」

 

魔法使いとは違った装いの集団もいた。

 

「冥王派か…」

 

それを確認して紅牙が少し顔を顰める。

紅牙という旗頭を失い、禍の団の残党と化している若い冥王達の姿もあったのだ。

 

「ならこの件には禍の団も関わっていると見るべきかね?」

 

「でしょうね」

 

忍の呟きにソーナ会長も同意する。

 

「あなた達の目的はなんですか? フェニックス? それとも私達でしょうか?」

 

そして、一行を代表してソーナ会長が冥王と魔法使いの集団に問い掛ける。

 

「どっちもだな。まぁ、フェニックスのお嬢さんはリーダーの命令で丁重に扱ってるけどね」

 

一歩踏み出した魔法使いがそう言う。

 

「「「(リーダー?)」」」

 

忍、紅牙、イッセーを含めてその場にいた何人かはそのリーダーという言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

「とりあえず、フェニックスの件はOKなんで、次はアンタ達との件だ。気になって仕方ないんですよ。メフィストのクソ理事とクソ協会の評価したアンタ達の力がね。それにそっちの狼眷属はあのグレモリーに負けはしたが、優勢に事を進めてたらしいじゃないか。あと、裏切り者が作ったっていう眷属ってのも気になってさ。試したくなるんだよ、俺達は魔法を乱暴に扱うからよ!」

 

そう言って前に出た魔法使いがパチンと指を鳴らした途端、他の魔法使いは魔法陣を展開し、冥王派は冥王と化したりして臨戦態勢に移る。

 

「やろうぜ! 悪魔と冥王! 魔法と魔力の超決戦ってのをよ!!」

 

それが開戦の合図となり、魔法使い達は一斉に様々な属性の魔法を放ち、魔物も突っ込ませていた。

 

「では、見せてあげましょうか。若手悪魔の力を…。それと駒王学園の悪魔を敵に回したことを後悔させてあげましょう」

 

「俺は学園の生徒でも悪魔でもないが…身内に降り掛かる火の粉くらいは払ってやろう」

 

「ま、俺も悪魔じゃなく今は駒王学園を離れているが、駒王学園の生徒であることには変わりないんでね。落とし前はつけさせてもらう」

 

ソーナ会長の言葉に紅牙と忍が続きながらそれぞれ紅と蒼の冥王の力を解放させていく。

それと同時にゼノヴィアが前に出て、エクス・デュランダルの聖なるオーラで魔法を叩き落としていく。

また、ロスヴァイセもまた魔法のフルバーストを放って魔物を迎撃していたが、如何せん数が多いため撃ち漏らしもある。

その残った魔法や魔物は由良の人工神器『精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)』によって防がれていた。

ちなみに生徒会メンバーにはアザゼルより人工神器が与えられているのだ。

 

「オフェンスに入ります」

 

ソーナ会長の言葉で攻勢に転じる。

 

「一番手はもらうぜ!!」

 

シュティーゲルを起動させた秀一郎が前に出る。

 

「雪白さん、彼に合わせて反射魔法をお願いします」

 

そこにソーナ会長から中衛に位置していた吹雪に指示が伝わる。

 

「なんであたしが…!」

 

「吹雪!」

 

「あ~もう! 仕方ないわね!」

 

忍の声もあり、吹雪が秀一郎の周りに氷で出来た鏡を作り出す。

角度や向き的には魔法使い達をちゃんと捉えている。

 

「殲滅の稲妻! エレキトリック・ハマー!!」

 

ピガガガガガッ!!!

 

秀一郎の両腕から迸る雷撃が周囲に拡散していき…

 

ピシャアァァァ!!

 

それが氷の鏡にも反射してさらに拡大していく。

 

「うぉっ!?」

 

「意外と拡散するもんね…」

 

思った以上に拡散したので魔法を使った秀一郎とアシストした吹雪も驚いていた。

 

「紅神君。例の砲撃準備を」

 

「了解。ブリザード・ファング!」

 

ソーナ会長の指示で忍もブリザード・ファングを放ち、いくつかの地点で収束させる。

 

「流星さん、ハラオウンさん、イリスさん。お願いします」

 

「「はい!」」

 

「仕方ないわね…」

 

呼ばれた3人が収束したブリザード・ファングへと魔力を込めた一撃を加える。

 

「エクシード・スラッシュ!!」

 

朝陽の魔力斬撃によってブリザード・ファングが巨大な氷の刃となり…

 

「エクシード・セイバー!!」

 

フェイトのハーケンセイバーによってブリザード・ファングが巨大な円環状の刃となり…

 

「エクシード・シュート!!」

 

ティラミスの魔力弾によってブリザード・ファングが一筋の光線状になってそれぞれ魔法使い達や魔物に襲い掛かる。

 

「神宮寺さんは重力制御を。それに合わせて月読さんと暁さんは中距離攻撃を」

 

「わかった。グラヴィティ・スフィア」

 

無数の極小重力球を前方に展開した紅牙の横から調と切歌が飛び出す。

 

「行くデスよ、調!」

 

《切・呪リeッTぉ》

 

「……うん、切ちゃん」

 

《α式 百輪廻》

 

それを合図にそれぞれ鎌の刃を三枚にしたブーメランと無数の小型丸鋸を射出していく。

 

「曲がれ」

 

紅牙の重力制御により、それらのブーメランと丸鋸はまるで意思を持ったかのように軌道を変幻自在に変えていき、魔物達を屠っていく。

ちなみにこの攻撃は紅牙の配慮によって魔物群に対してのみ操作されており、人の姿をしている冥王や魔法使い達に対しては他のメンバーが攻撃を仕掛けているので問題ない。

 

その後も匙のラインによる吸収や呪いの黒炎による呪撃を始め、イッセーの譲渡、ゼノヴィアのパワーだけではない剣技、朱乃やソーナ会長の魔力攻撃等など、数の差を感じさせない圧倒的とも言える戦力を持って魔法使いと冥王の混成集団を撃退していた。

 

その結果…。

 

「はぁ……わかったわかった。俺らの降参だから。それとリーダーが来いってよ」

 

魔法使い達が降参とばかりに両手を上げたのだ。

そして、そう言った魔法使いの視線の先に転移魔法陣が出現する。

 

「その先にアンタらの後輩と今回の襲撃のリーダーがいる。さっさと行けよ。但し、赤龍帝、ヴリトラ、デュランダル使い、雷光の巫女、癒しの聖女、ヴァルキリー、ミカエルのA、狼、紅の冥王だけは確実に来いってさ」

 

まるで不貞腐れたような反応を見せるはぐれ魔法使い。

その態度に匙もイッセーも怒りを露わにしていたが、結局のところ魔法使いと冥王達は上に待機していた同盟中の方々に捕らえられることとなった。

 

………

……

 

魔法使いの要望通り、グレモリー眷属とイリナ、シトリー眷属からはソーナ会長と匙、紅神眷属からは忍と智鶴、朝陽、フェイト、神宮寺眷属からは紅牙と秀一郎がそれぞれ転移魔法陣を通ってだだっ広い白い空間へとやって来た。

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

そこには装飾の凝った銀色のローブを深く被った人物がいた。

声からして若い男だということはわかったが…

 

「(なんだ…? この匂いは…悪魔? それにどこかで嗅いだことのあるような…?)」

 

忍は男から漂ってくる匂いを感じ…

 

「アンタ、悪魔だな?」

 

そう端的に尋ねていた。

 

「流石は狼。噂以上に良き鼻を持っておりますね。その問いにはイエスと答えておきましょうか」

 

男はそれを否定することもなく自分が悪魔だと認める。

 

「悪魔? ならば旧魔王派の残党?」

 

「さて、それ以上はお答えいたしかねますね。それよりもあなた達にはもっと優先すべきことがあるでしょう?」

 

ローブ男がそう言った時…

 

「イッセー様!」

 

レイヴェル、ギャスパーを背負う小猫の姿があった。

 

「彼女達を返しましょう」

 

3人と合流する一行に対してローブ男は何も仕掛けてはこなかった。

 

それからローブ男の話と会長による推察によって今回の件の全貌が明るみになる。

 

禍の団内部は旧魔王派と英雄派という二大勢力を失い、乱れに乱れており、比較的少数であった冥王派残党と魔法使いの派閥、さらにその魔法使いの派閥と交流があったはぐれ魔法使いの集団の意見が通りやすくなっていたそうだ。

その好奇心を満たす対象として挙がったのが、協会より発表された若手悪魔の実力と眷属が揃いつつある紅神眷属と裏切り者である神宮寺眷属であったらしい。

それが今回の襲撃に繋がる理由の一点目。

 

二点目の理由は…フェニックスの涙である。

最近、闇マーケットで出回っているという本物の効果に匹敵するという偽物の正体が、魔法使い達がクローニングした悪魔フェニックスを大量に用意し、培養カプセルの中で涙を大量生産して闇マーケットで取引する。

最近、フェニックス家の者が狙われていたのもその精度を上げるために本物のフェニックス家の者の生体魔力データを得ることが目的だったようだ。

そうして集めた資金で何をやらかすのか…考えただけでおぞましい限りである。

 

そして、もう一点気になることもある。

『クローニング』という手段は絶魔陣営も使っている手法である。

"もしかしたら裏で繋がっているのでは?"という疑念が忍の中で生まれていた。

 

最後に…

 

「まぁ、魔法使い達の用事など"些細な事"です。私の主目的は本来これなのですよ」

 

まるで他人事のように言いつつ、ローブ男と一行の間に巨大な魔法陣が現れる。

だが、それは…

 

「あなた達のような強者と戦いたがる者がいまして…その相手をお願いしたいのです」

 

龍門(ドラゴン・ゲート)であった。

門の色は一見して緑に見える。

 

「緑…って確か、五代龍王の一角、玉龍(ウーロン)か!?」

 

イッセーがそう言うが…

 

「いえ、あれは緑色ではありません…もっと深い、緑色…」

 

ソーナ会長がそれを否定する。

そう、龍門の色は"緑"ではなく"深緑"。

 

「深緑を司るドラゴンなんていたっけ?」

 

イリナがぽつりと呟くと…

 

「いたのですよ。過去に深緑を司るドラゴンがね」

 

ローブ男がそれに答えるようにして言った瞬間…

 

『グオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

龍門より現れたのは、浅黒い鱗、太い手足に鋭い爪と牙と角、スケールの違う両翼、長く大きい尾を持った二足歩行型の巨大なドラゴン。

その銀色の双眸と眼光は鋭く、ギラギラとした戦意と殺気に満ちていた。

 

「伝説のドラゴン、『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル」

 

ローブ男の呟きを受け、ドラゴンが牙の並んだ口を開く。

 

『グハハハハ。久方ぶりに龍門なんてものを潜ったぞ! さぁて、俺の相手はどいつだ? いるんだろ? 俺好みのクソ強ぇのがよぉっ!!』

 

突然の謎のドラゴンの出現に絶句する一行。

 

『……グレンデルだと!?』

 

匙の横に黒い蛇、ヴリトラが現れて驚いたような声音を出す。

 

『……あり得ぬ…奴は暴虐の果てに初代ベオウルフに完膚なきまでに滅されたはずだ…』

 

グレンデルの視線がイッセーとヴリトラを捉える。

 

『ッ! こいつは面白ぇ! 天龍、赤いのか! それにヴリトラもいやがる! なんだなんだ、その格好は?』

 

「二天龍もまた滅ぼされ、神器に封印されていますよ」

 

『グハハハハ!! なんだよ、お前らもやられたのかよ! ザマァねぇな!! だが、目覚めの相手にはちょうどいいか!』

 

ローブ男の言葉にグレンデルは哄笑する。

 

「それはそうと、赤龍帝。鎧を纏わないのですか?」

 

グレンデルが臨戦態勢を取ってるのも関わらず、一向にイッセーが禁手化しないのを見てローブ男が尋ねる。

 

「悪いが、ちと調子が悪くてな」

 

ドライグが万全ではないため、イッセーも禁手化になれずにいた。

 

「それは困りました。本題の一つがあなたとグレンデルの戦いでしたから」

 

そう言われてイッセーもドライグに呼びかけたのだが、そこからが問題だった。

 

『…………お兄ちゃんは誰?』

 

なんとドライグが精神を幼児退行させていたのだ。

 

「えええええええええええええええ!!?」

 

この幼児退行は単にイッセーのおっぱい関連で気疲れした結果ではないかと…。

 

その光景に龍を宿す2人とそのライバルの知り合いは…

 

「天龍が幼児退行だ!? どうすりゃそこまで伝説のドラゴンを追いつめられるんだよ!?」

 

「………これは、酷いな。主にイッセー君のせいなんだが…」

 

「ヴァーリ。お前には同情するぞ…ライバルがこんなんじゃ、な…」

 

匙、忍、紅牙の順にそのような酷評が飛び交う。

 

「ヴリトラ。何とかできないか?」

 

友人の危機でもあるので、匙はヴリトラに尋ねる。

 

『……もう一体、龍王がいればドライグの意識を引っ張ってこれるやもしれぬ』

 

この場で龍王クラスと言えば…目の前にいる絶対に協力しそうにないグレンデルと、隣にいる神に近しい始龍を取り込んだ忍しかいない訳だが…。

そう思い、イッセーが忍を見るが…

 

「すまんが、俺もまだ完全に龍騎士の力を掌握してる訳じゃないから期待しても無駄だぞ?」

 

となると手立てがない。

と思われたのだが…意外な救世主が現れた。

 

「私に任せてください!」

 

アーシアである。

オーフィスの加護を受け、アザゼルより契約を引き継いだ黄金の龍王『ファーブニル』を呼び出したのだ。

しかし、この龍王…度し難い契約の対価をアーシアに要求していた。

その契約の対価とは……女性用の下着、所謂『パンティ』だった。

 

ともかく、ドライグを治すための対価(これもパンティ)を支払い、ファーブニルとヴリトラのオーラを受けてドライグは幼児退行から脱したのだった。

事の真実はとてもドライグには言えないが…。

 

「アーシアの気持ちを無駄にはしない! 禁手化!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

そして、嬉しいことにカウント無しで禁手が発動するようになっていた。

 

『ッ! グレンデルだと…? どういうことだ? こいつは俺よりもだいぶ前に滅ぼされたはずだが…』

 

イッセーがグレンデルの目の前に立つと同時にドライグも驚いたように呟く。

 

『グハハハハ。酷ぇ有り様だったな。でもこれでようやく殺し合えるってわけだ。さぁ、来いよ! ドライグ!!』

 

そう叫ぶグレンデルは態勢を低くして突撃する格好となる。

 

『相棒。奴は暴れることにしか興味のない異常なドラゴンだ。やるなら徹底的に情けを掛けることなく倒せ』

 

そんなドライグの言葉に…

 

『言ってくれるじゃねぇかよ! 天龍なんて呼ばれやがって。ドラゴンに天も神も(まこと)もねぇんだよッ!!』

 

グレンデルは咆哮する。

 

その後、グレンデルの提案によってイッセーとの一対一での勝負となった。

通常の禁手から龍剛の戦車へと駒を変えて拳をグレンデルに叩き込むイッセーだが、その一撃はグレンデルを仰け反らせるだけで大したダメージにはならなかった。

その結果を受け、グレンデルも愚痴を零す始末。

その愚痴を受けてイッセーとドライグもまた『真紅の赫龍帝』となってグレンデルと打ち合いを始めた。

イッセーはドライグの助言もあり、左腕に収納されているアスカロンの龍殺しの力を付与した龍剛の戦車の一撃をグレンデルへと見舞った。

しかし、それでもグレンデルは血反吐を吐きながらも嬉々として立ち上がり、殺し合いを楽しもうとしていた。

 

その光景に…

 

「確かにイカレてやがる」

 

「異常なドラゴンというのもあながち間違いでもないか」

 

「戦闘狂みたいなもんか?」

 

忍、紅牙、秀一郎の順に意見を述べる。

 

と、そこへグレンデルの吐き出した火炎弾が飛来してくる。

 

「んな他人事みたいに言ってる場合かよ!」

 

匙が3人に叫ぶと共に眷属達が迎撃する。

 

「イッセー君、もう一対一に拘る必要はありません。全員で掛かりましょう!」

 

「了解です!」

 

火炎弾を迎撃したソーナ会長の言葉にイッセーも答え、全員でグレンデルを相手にしようとした。

 

が、ここで異変が起きる。

 

バチッ!バチッ!

ボタッ…ボタッ…

 

白い空間の天井から見たこともないどす黒い魔法陣が出現し、そこから黒い液体のようなもの滴り落ちてきた。

 

『なんだぁ?』

 

「ふむ。この反応は…なんでしょうか?」

 

この事態はローブ男とグレンデルも想定外のようだった。

 

『これって…!』

 

『時空転移反応、確認』

 

セイバーとバルディッシュが時空転移反応を検出する。

 

「時空転移反応ですって!?」

 

「こんな時に、なんで…!?」

 

その事実に朝陽とフェイトも驚く。

 

「時空転移反応…これはまた興味深い現象が起きたものですね」

 

時空管理局所属の2人の言葉を聞いてローブ男もこの現象に興味を抱く。

 

「なんだ…この血の匂いは…!!?」

 

黒い液体から感じる血の匂いに忍は天井の魔法陣を見る。

 

そして…

 

ズゥゥ…

 

一際大きな黒い液体の塊が出てくる。

 

ボタンッ!!

 

それが白い空間の地面に落ちると、地面を黒い液体が飛び散って汚し、その中心から一組の男女が現れる。

 

「なんだ。ここは…?」

 

男の方は…身長2mはありそうな無造作に切られた短めの黒髪、琥珀色の瞳、渋く壮年な顔立ちに全体的に筋肉質な体格で、ボロボロになった服の隙間から見える体中には無数の傷痕を持っており、何よりも右肩から先は無かった。

 

「マスター。ここはどうやら特殊な空間のようです。魔法に近しい…ですが、何らかの結界系の応用かと…」

 

女の方はまだ少女とも言えそうな背中まで伸ばした黒髪、深紅の瞳、可愛らしい顔立ちに全体的に華奢でスレンダーな体型で、闇色のドレスを身に纏っていた。

 

「ふんっ…時空転移の先がこんな場所とは…」

 

男は戦場の真っただ中に転移したというのに、そのことに関してまるで興味がないように少女の言葉に耳を傾けていた。

 

「こんな場所に『夜琉』がいるとは思えんが…」

 

その呟きを聞き…

 

「夜琉だと…?」

「夜琉ちゃん?」

 

忍と智鶴が同時に声を漏らす。

 

「!!」

 

夜琉のことを口にした忍と智鶴を男のギラついた眼が捉える。

 

「っ!?!」

 

その眼光と男の顔を見て智鶴は二重の意味で驚く。

 

「ククク…転移先で早々に夜琉の情報を得るとは僥倖だ」

 

「(しぃ、君…?)」

 

その残忍で凶悪な表情は…まるで数年後、歳を取った忍のように智鶴には見えていた。

 

「夜琉の奴は何処にいる?」

 

圧倒的な殺意を抱き、呪詛のような言葉を吐く。

 

「ッ…それを聞いてどうする気だ?」

 

その殺意に押されながらも忍が問う。

 

「知れたこと。奴を葬ることで俺の"世界に対する復讐"は幕を閉じる。もしそれを邪魔すると言うのならば…」

 

ブンッ!!

 

「貴様らも殺すのみ…!!」

 

言い終わる前に男は瞬時に忍の間合いへと入り、左拳を心臓に向けて振り抜こうとしていた。

 

「ッ!?(速い!? それにこの歩法は!!?)」

 

男の使う歩法に自分の神速を重ねつつ忍は本能的な反射速度でそれをバク転で回避していた。

 

「ほぉ…?」

 

回避された事に驚きつつも男は振り抜いた左拳を素早く引き戻すと、今度は智鶴を狙う。

 

「ッ!!」

 

それを見て忍はすぐさま空中で魔力球を作り出し、それを足場にして男へと肉薄する。

 

「猛牙墜衝撃ッ!!」

 

滅牙墜衝破(めつがついしょうは)ッ!!」

 

ゴオォォォッ!!!

 

忍の掌打と男の拳がぶつかり、激しい衝撃波の余波を生む。

 

「烈神拳…それも四力使いか。夜琉からでも教わったか?」

 

「ッ…(こいつ、やっぱり夜琉の関係者か? それにこの技は…烈神拳…?)」

 

忍が少し苦しそうにしているのに対し、男は余裕そうな表情でそんなことを尋ねていた。

 

「だが、所詮は烈神拳…俺の『邪神拳(じゃしんけん)』には及ばん」

 

男がそう言った時…

 

「しぃ君から離れて!」

 

「紅神はやらせん!」

 

「忍! 離れろ!」

 

『俺の得物を横取りすんじゃねぇよぉぉぉ!!!』

 

側にいた智鶴から次元刀による攻撃、紅牙による火炎砲撃、イッセーの腕が龍剛の戦車状態による拳打、獲物を横取りされたと勘違いしたグレンデルの火炎弾が男に向かう。

 

が…

 

ビシッ!!!

 

「え…?」

 

「なっ!?」

 

「にぃっ?!」

 

『あぁ?』

 

それらの攻撃は全て"黒いライン状の魔力"によって止められていた。

 

「匙?」

 

「お、俺じゃないですよ!?」

 

グレモリー眷属やソーナ会長もその攻撃方法は匙かと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「マスター。この空間自体がそろそろ限界のようですが…如何致しますか?」

 

そう尋ねた少女の足元から黒いライン状の魔力が伸びていた。

 

「ふんっ…脆いな…」

 

興醒めでもしたのか、男は少女の元へと再び神速に似た歩法で移動していた。

 

ベシッ!!

 

「余計な真似をするな、出来損ないが…」

 

そして、何を思ったのか、男は少女の頬を殴る。

 

「申し訳ありません。マスター」

 

それを受けても泣きもせず淡々と謝罪する少女。

その頬は殴られて赤く染まっている。

 

「テメェ! 女の子を殴るとか最低じゃねぇか!」

 

それを見て憤怒するイッセー。

 

「ガキがほざくな。"道具"をどう扱おうが俺の勝手だ」

 

「なにぃっ!?」

 

男の言動にイッセーの意識がグレンデルから男へとシフトしていく。

 

「今の言葉…流石に聞き捨てならねぇな…」

 

「反吐が出る」

 

「同感だ」

 

「そんな横暴、ミカエル様だって許さないわよ!」

 

忍、紅牙、ゼノヴィア、イリナもまたグレンデルから男へと敵意が向く。

 

「皆さん、冷静に。ここにはまだ敵もいるんですから」

 

「そうですわよ。いくら言動が許せなくても今は禍の団を優先しませんと…」

 

ソーナ会長と朱乃が怒りを抑えながらグレンデルへの警戒を怠っていなかった。

 

「でも!!」

 

何か言いたそうなイッセーだったが、真・女王状態も長くは続かないことに若干の焦りを感じていた。

 

「良いものを見せてもらいました。実験も一先ずは成功したので、今日は退きましょうか」

 

ローブ男はそう言うが…

 

『あぁ!? 不完全燃焼のまま退けってのか!? 俺はまだ戦えるぞ!!』

 

グレンデルが不平不満を口にする。

 

「また『骸』と化したいのならそれでもいいですが…?」

 

『チッ…クソが。それを持ち出されちゃ敵わねぇな…』

 

ローブ男の言葉に矛を収めるグレンデル。

 

「そうそう…先程、報告がありまして白い方で苦戦してるとのことなのでそちらに行きますよ」

 

『おほっ! 今度はアルビオンか! ならいいぜ!!』

 

次の戦いの場があると聞いてグレンデルはそちらに意識を向けていた。

 

「マスター。この世界に目的があるのなら、いずれ機会は巡ってきます。なので、ここは一旦退くべきかと…」

 

「出来損ないが…こんな弱い連中相手に退けというのか?」

 

「はい。それに時空転移の影響で相応の魔力消費もしましたので…」

 

「ふんっ…いいだろう、『オルタ』。今日はお前の言う通りにしてやる」

 

少女…『オルタ』の進言に耳を傾け、男は転移魔法陣を用意した。

 

「待ちやがれ! テメェの名前はなんだ?!」

 

イッセーが男に名前を聞くと…

 

「俺の名は……牙狼。『邪神(じゃしん) 牙狼(がろう)』とでも覚えておけ」

 

男は少し考えら素振りを見せてからそう答えていた。

 

「邪神…牙狼…」

 

男が名乗った名前を口にする忍。

 

「次に会う時は夜琉の奴も呼んでおけ。"貴様の義兄(あに)が会いに来た"とな…」

 

「なに…?」

 

それを最後に牙狼はオルタと共にその場から消えてしまった。

 

その後、ローブ男も自らの素性を明かした。

『ユーグリット・ルキフグス』。

グレイフィアの弟であり、禍の団の現トップの配下でもあるという。

同じ家の者ならば町の結界も通り抜け、魔法使い達を招き入れたのも彼なのだとソーナ会長は推測した。

 

最後にユーグリットはこう残して転移魔法陣の中に消えていた。

 

「グレモリーの従僕に成り下がった姉、グレイフィア・ルキフグスにお伝えください。"あなたがルキフグスの役目を放棄して自由に生きるのならば、私にもその権利はある"、と」

 

それを機に白い空間も崩壊していく。

その崩壊から脱出する寸前、レイヴェルとソーナ会長は魔法陣を停止したカプセルへと放っていた。

 

こうして一連の騒動は一先ずの幕を引くことになった。

 

だが、新たな敵の襲来に予断は許されない状況であることは変わりなかった。



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第七十四話『もう1人の狼』

魔法使い達の襲撃から数日が経った。

 

イッセーは自宅でレイヴェルと共に契約する魔法使いの書類に目を通していた。

しかし、心此処に在らずといった具合である。

先日の騒動の主犯が滅んだはずのルキフグスの生き残りがグレイフィア以外にもいたからだ。

その件でグレイフィアは査問に掛けられているという。

こればかりはどうしても政治的な話になるため、考えても仕方ないと思うのだが…。

 

そんな中、思わぬ来訪者が兵藤家にやって来た。

ソーナ会長とベンニーアである。

ソーナ会長は朱乃達と今後の話し合いをするというのだ。

ベンニーアは…まぁ、おっぱいドラゴンの自宅に行けるというファンならではな理由だったが…。

 

それからイッセー達は気分転換も含めて自宅地下のプールに移動していた。

そこにヴァーリに呼ばれていた黒歌とルフェイが帰ってきた。

黒歌曰く、ヴァーリチームの相手は滅んだ邪龍の一匹『アジ・ダハーカ』だという。

黒歌はイッセーにあんなドラゴンにはならないようにと忠告を送っていた。

 

それから新たな来訪者も来た。

シスター・グリゼルダと2人の男性。

1人は金髪にグリーンの瞳の神父服姿の端正な顔立ちの青年で、天界の切り札こと"ジョーカー"『デュリオ・ジェズアルド』。

もう1人は日本人にして曹操以外でヴァーリに覇龍を出させた"人間"『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』こと『幾瀬(いくせ) 鳶雄(とびお)』。

奇しくも三大勢力の滅神具所有者が勢揃いした形になった。

そして、刃狗とジョーカーも交えた訓練が…話し合いの後に行われることとなった。

 

………

……

 

時を同じくして、明幸邸では…。

 

「え…? 義兄さん、が…?」

 

先日の騒動の中で、牙狼が現れたことを夜琉に伝えていた。

 

「あぁ…"貴様の義兄が会いに来た"ってな…」

 

その場にはあの時現場にいた忍、智鶴、朝陽、フェイト、紅牙、秀一郎がいた。

 

「あはは、何かの間違いだよ。だってあの義兄さんが"神"との戦いで勝ったんだろうし、義姉さんと一緒に平和に暮らしてるはずだもん………あたしは決戦前にこの世界に飛ばされたからあの後のことはわからないけど…」

 

夜琉は笑ってそれを否定していた。

その笑みは…どこか悲しげでもあったが…。

 

「これを見ても…そう思えるか?」

 

そう言って忍はネクサスをテーブルの上に置き、そのディスプレイに先の戦闘光景を映し出していた。

 

「…………………」

 

その映像を見て夜琉の表情が見る見るうちに驚愕に染まっていく。

 

「う、そ……これが、義兄さん…?」

 

そのあまりの禍々しさを目の当たりにして夜琉は言葉が出なかった。

 

「な、なにが…あったの…?」

 

「それはこちらが聞きたいくらいだがな」

 

夜琉の言葉に紅牙が言う。

 

「あの拳からは負の感情…特に"憎しみ"が強く感じられた。一体何に対する憎しみなのかはわからないが…」

 

実際に拳を受けた忍がそう漏らす。

 

「それにあの女の子からは…相当な魔力を感じたよ?」

 

牙狼の隣に映るオルタからフェイトはかなりの魔力を感じたという。

 

「あんな子、あたしも見たことないよ。強いて言うなら…義姉さんに似てる気もしないけど……でも、それはそれでおかしいし…」

 

夜琉も見たことが無いと言うオルタの正体も不明なままである。

 

「いずれにしろ、情報が少ないわな…」

 

胡坐を掻いてた秀一郎がもっともな意見を言う。

 

「一体、牙狼に何があったのか…」

 

「牙狼?」

 

「あいつ自身がそう名乗ってたんだよ。『邪神 牙狼』ってな」

 

「義兄さんの名前…」

 

忍の言葉に夜琉が思考を巡らせる。

 

「(考えなかった訳じゃないけど……もしかして…)」

 

そして、夜琉は自分の記憶にある牙狼と目の前にいる忍を横目で見比べていた。

 

「夜琉ちゃん?」

 

その視線に気づき、智鶴が声を掛ける。

 

「あ、いや…何でもないよ…うん、何でもない…」

 

そう言うものの明らかに何かあるようなニュアンスである。

 

「以前の話の続きだが…夜琉の世界について聞かせてくれ。確か、"神"と呼ばれる存在がいたんだよな?」

 

牙狼の素性を探るため、夜琉の世界について改めて聞く必要性が出てきたので、忍は夜琉に説明を求めていた。

 

「そうだよ。"神"…あたし達の住んでた世界の唯一にして絶対の存在。人間の誰もが崇拝していた存在…」

 

夜琉は忌々しげに語る。

 

「だけど、"神"は堕落して害悪を振りまく存在になった。それに立ち向かおうと立ち上がったのが…あたしの義理の兄である………『(くれない)』の義兄さんだった…」

 

「じゃあ、あの『牙狼』ってのは便宜上の名前になるか…」

 

「義理の兄なら本来の名前くらい知っていて当然だろう。その名前は?」

 

夜琉の説明に忍はそう漏らし、紅牙が夜琉に問いただす。

 

「それは……」

 

何故か、牙狼の本当の名に関して夜琉は言い淀んでいた。

 

すると…

 

「ひょっとして……『(しのぶ)』、じゃない?」

 

不意に智鶴がそんなことを言っていた。

 

「え?」

 

夜琉は驚いた表情で智鶴を見る。

その顔には"なんでわかったの?"と書いてあった。

 

「"忍"って…」

 

その言葉を聞き、紅牙、秀一郎、朝陽、フェイトが一斉に忍を見る。

 

「俺と、同じ名前…?」

 

そう呟いて忍もまた驚いた表情で夜琉を見る。

 

「うん…。『紅 忍』。それが義兄さんの名前だよ…」

 

諦めたように夜琉はそう答えていた。

 

「なんで…智鶴はわかったんだ?」

 

そんな忍に疑問に…

 

「それは…あの人の顔…なんだか、しぃ君に似てたから…もしかしたらって…」

 

「それはあたしも思ってた。最初に会った時、あたしは忍さんのことを義兄さんと間違えたし、あの時は深く考えなかったけど…」

 

智鶴と夜琉はそう答えていた。

 

「パラレルワールドから来た…同じ名前…同じ顔……まさか、隊長があの時濁した言葉って…」

 

朝陽もまたゼーラがあの時濁した言葉の真意に気付いたようだった。

 

「流星さん?」

 

「どういうこった?」

 

朝陽が何かに気付いたことにフェイトと秀一郎が頭に?を浮かべる。

 

「つまり、あいつは…」

 

朝陽の言葉と重なるように…

 

「「並行世界での同一人物」」

 

夜琉もそう答えていた。

 

「「「っ!?」」」

 

2人の言葉に智鶴、フェイト、秀一郎も驚く。

 

「なるほど。そういうことなら辻褄が合うこともある」

 

「確かにな…」

 

実際に技や歩法を間近で見たこともあり、忍と紅牙も何となくだが理解していた。

ただ、忍に関してはあまり納得した様子ではなかったが…。

 

「あの歩法…俺の神速に近かった」

 

「"滅牙墜衝破"と言ったか。あの技も紅神の使う"猛牙墜衝撃"に似ていたしな」

 

忍と紅牙はそう分析していた。

 

「義兄さんもあたしと同じで烈神拳を使ってたから…そのせいだと思うよ。けど…滅牙なんて技…烈神拳にはない」

 

2人の分析に夜琉もそう言う。

 

「牙狼は…邪神拳と言っていたが…」

 

「ううん。邪神拳なんて聞いたこともないよ」

 

夜琉も邪神拳については知らないようだった。

 

「他に奴が使っていた技や流派はないか?」

 

「義兄さんは…刀術にも優れてたよ。それで天使とか使徒とかを斬ってたりするのを見たことあるし…」

 

紅牙の質問に夜琉はそう答える。

 

「ますます忍に近いわね。格闘技に剣術…これで魔法戦も得意とかならほぼ確定的ね」

 

忍と牙狼の類似点の多さに朝陽が面倒そうに言う。

 

「魔法戦は…そんなに得意じゃなかったかな? どちらかと言えば、素早く動いて敵に接近、そこから一気呵成に仕掛ける、みたいな感じの戦法を多用してたよ」

 

それを聞いて…

 

「「あぁ…」」

 

なんかそれっぽい戦法、忍もしてたな…的な空気が朝陽とフェイトから漂う。

 

「それにあの腕じゃ、やれることもかなり制限されるだろうしな」

 

今更ながら牙狼の片腕が無いことに秀一郎も気づき、そう付け足す。

 

「それを差し引いたとしてもあの技量…かなりのものだぞ」

 

「そりゃまぁ、確かに…ありゃ"何年も"使い込んでた感があるしな」

 

紅牙の言葉に秀一郎も頷く。

 

「"何年も"?」

 

秀一郎の何気ない一言に夜琉が反応する。

 

「つまり、夜琉が時空転移してから向こうではそれなりの時間が経ってると…?」

 

「片腕失くしてアレだけの技量だ。可能性としては高いだろうな」

 

とは言いつつも…

 

「そもそも義兄さんがあんな"神"相手に腕を失くすとか…あたしには信じられないんだけど…」

 

夜琉はそこが納得いかないようであった。

 

「その、"神"との決戦時に何かあったという可能性は?」

 

「それは……あるかもしれないけど…あたしにはわからないもん」

 

決戦前に転移してきた夜琉にあの決戦時に何が起きたのか、知る由もなかった。

 

「こういうのは本人に直接聞いた方が速いだろうが…」

 

「そんな簡単に口を割るかね?」

 

紅牙の意見に秀一郎も難色を見せる。

 

「それに何処にいるのかも見当がつかないし…」

 

あの白い空間から転移した以上、この世界にいるのは確実だろうが…如何せん情報が無い。

 

「情報か…」

 

「とりあえず、このことは隊長にも報告しとくわ。忍、さっきの映像記録を添付しとくからセイバーに送っといて」

 

「わかった」

 

朝陽の言葉にすぐさまネクサスを操作してセイバーに映像を送信した。

 

『ほいほ~い、受信完了』

 

セイバーからも受信完了の言葉が飛ぶ。

 

それから朝陽はゼーラと通信を行い、並行世界の忍こと牙狼が来た事を伝えていた。

しかも何故か理由は知らないが、牙狼は同じ世界から来た夜琉を狙っているということも含めて…。

 

それを聞いたゼーラの反応はというと…

 

『そうか…』

 

あまり驚いた様子が無かった。

可能性として考えていたことが当たった程度の認識なのだろうが…。

 

とは言え、悪意を持って夜琉に接触することがわかっているので、十分に警戒するようにとの指示を受けていた。

 

昔の牙狼について夜琉からの話を聞いたくらいで、収穫はそれほどなかった。

だが、牙狼が夜琉を狙っている以上、いつかは対面することになるだろう。

その時に真実を知るか、それとも…。



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第七十五話『交錯する悪意』

ルーマニアで動きがあった。

 

その報せをアザゼルから聞くべく、オカルト研究部、ソーナ会長、真羅副会長、天界サイド(シスター・グリゼルダ、ジョーカー・デュリオ)、紅神眷属、神宮寺眷属が兵藤家のVIPルームで一堂に会していた。

 

アザゼルが言うには吸血鬼の領内…ツェペシュ側でクーデターが起きたらしい。

男尊派の当主であるツェペシュの王も首都から退避したらしい。

その影響か、ツェペシュに出向いていたリアスと木場が巻き込まれて拘束されている可能性が高いらしい。

 

ツェペシュは『禍の団』に裏から支配されたものと推測される。

それは聖杯に関係しての事であることが窺えた。

 

裏に吸血鬼以上に厄介な存在がいることが予期されたため、急遽増援としてルーマニアへの遠征が決まった。

遠征メンバーはグレモリー眷属とイリナ、シトリー眷属からルガールとベンニーアの2名が実戦経験を積むために選抜された。

その他にヴァーリが現地にいると聞き、紅牙も自ら吸血鬼領に行くという意志を示して同行を許可された。

残ったシトリー眷属や紅神眷属、神宮寺眷属、天界サイド、刃狗は駒王町の防衛に当たられることとなった。

グレモリーの客分であるレイヴェルもまた居残り組として駒王町に残る。

忍は忍で夜琉のことが心配なようで、今回の遠征には不参加を自ら申し出ている。

 

こうしてルーマニアへ発つメンバーは転移魔法陣を使って一気にジャンプすることになった。

 

………

……

 

ルーマニアに着いた一同をアザゼルとカーミラ派の吸血鬼達が出迎えていた。

その際、ルガールを見て吸血鬼達は嫌悪と畏怖の視線を向けていたが…。

 

そこから車で移動し、特別なゴンドラでツェペシュ側の城下町へと入る一同。

その途中で状況を色々と聞かされた。

 

ツェペシュ側の新たな王は、ギャスパーの恩人でもあるハーフ吸血鬼の女性『ヴァレリー・ツェペシュ』であること。

裏で禍の団が働きかけ、ツェペシュ側の反政府組が現政権の不満と吸血鬼の『弱点克服』クーデターを引き起こしたこと。

カーミラ派も報復する相手がわかったので、今回のクーデター鎮静に参戦するらしい。

既にその準備も進んでおり、ゴンドラもカーミラ派が確保できたツェペシュ城下町へとのルートの一つらしい。

さらに黒幕はアザゼル曰く『あの野郎』で、高い確率でろくでもないことになるようだ。

 

ゴンドラがツェペシュ城下町近郊のゴンドラ乗り場に到着した途端、ツェペシュ側の吸血鬼数名が現れた。

その吸血鬼曰く、リアスはツェペシュ本城にて待っているとのこと。

その際、ルガール、ベンニーア、紅牙の三名は別行動を取ることになっており、音も気配もなく既に姿を消していた。

理由は独自に町の様子を探るのと、脱出用のルート確保である。

 

但し、紅牙には別の意図があったので、そちらを優先させていた。

 

「(ここが吸血鬼の城下町…何とも静かな場所だ)」

 

周囲からの視線など気にせず、目的の者達を捜す紅牙。

 

「(アザゼル前総督の話では、既にこちら側に来ていてもおかしくはないはずだが…)」

 

周囲の気配を探りながら紅牙は町中を歩いていく。

 

「(紅神のように匂いを辿れば簡単なんだが…流石にそこまでの芸当は俺には出来ないしな)」

 

天狐の血を引いているとはいえ、匂いに敏感なわけではないのだ。

 

「(足で捜すしかない、か…)」

 

そう思い直してから再び捜索を開始しようと街角を曲がろうとした時だった。

 

「「「……ぁ…」」」

 

「ん?」

 

紅牙の眼の前に3人の少女がバッタリといった感じで鉢合わせる。

どの娘も低めの身長に少し幼さを残した感じの可愛らしい顔立ちをしているが…

 

「姉貴!」

 

胸元辺りまで伸ばした緋色の髪と藍色の瞳を持ち、体つきは均等の取れた平均的な少女も…

 

「お姉さま…」

 

腰まで伸ばした黒髪と紫色の瞳を持ち、体つきは3人の中でもふくよかな少女も…

 

「お姉ちゃん!」

 

肩に掛かる程度に伸ばした水色の髪と黄色い瞳を持ち、体つきは全体的にスレンダー気味な少女も…

 

三者一同に紅牙の地雷を踏む。

 

ブチッ!

 

「………………」

 

いくら女顔で間違われることが多いとしても言われた本人はそのことに関してはかなり気が短く…

 

結果…。

 

ゴンッ!!×3

 

「いってぇ~!?」

「ぁぅぅ…」

「ひぎゃんっ!?」

 

盛大な音と共に少女達の悲鳴も木霊する。

 

「誰が姉貴だ? 誰がお姉さまだ? 誰がお姉ちゃんだ? あぁ? 殴るぞ、貴様ら!」

 

いや、既に拳骨で3人の頭を殴った後では…?

 

「す、すみません…久し振りに会ったから、つい…」

 

「つい…?」

 

緋色の髪の少女の言葉に眉をさらに吊り上げる紅牙。

 

「い、いえ…その、お、おねえ…じゃない、紅牙様の方こそ、どうしてこちらに…?」

 

黒髪の少女が慌てて緋色の髪の少女の援護とばかりに紅牙に質問する。

 

「それはこちらの台詞でもある。何故、お前達が此処にいる?」

 

しかし、その質問は藪蛇だったらしく、紅牙の方も質問返しをしていた。

 

「え、え~っと…それはぁ~…」

 

水色の髪の少女はあからさまに視線を逸らしていた。

 

「……………」

 

その様子を見て紅牙は考える。

 

「再編した禍の団か?」

 

「「「っ…」」」

 

ズバリ言い当てられて3人の表情はわかりやすいくらいに動揺する。

 

「先の魔法使い達との連合でも姿が見えなかったから、どうしたものかと思えば…」

 

先の駒王町で起きた事件のことを思い出していた。

 

「まさか、こっちにいたとはな。ちょうどいい…今の禍の団の頂点が誰なのか、聞こうじゃないか」

 

飛んで火にいる夏の虫とでも言うかのように紅牙は3人から情報を聞き出そうとする。

 

「えっと…紅牙様? その、今更なんですが…本当なんですか?」

 

「何がだ?」

 

黒髪の少女の言葉に紅牙は首を傾げる。

 

「悪魔との和平に冥族が応じて…悪魔嫌いな紅牙様もそれに賛成してる、って…」

 

そんな黒髪の少女に…

 

「そ、そーだそーだ! あの悪魔嫌いで有名だった紅牙様が賛成なんて何かの間違いだよな!?」

 

「そうですよ! 紅牙様がそんな選択するなんて…あたし達には信じられません!」

 

緋色の髪の少女と水色の髪の少女も紅牙に向けてそれが真実か確かめようとする。

 

「事実だ。俺もその場で聞いていたから間違いない。そして、俺もまたその決定に賛同することにした。俺の意思でだ」

 

そんな3人の思いとは裏腹に紅牙は力強く言い放っていた。

 

「「「……………」」」

 

それを聞き、目の前の3人は…

 

「なんか…紅牙様、変わったよな…」

 

「はい。前はあんなに禍々しい程でしたのに…」

 

「うん。今は何というか…清々しいみたいな……憑き物が落ちたみたい」

 

過去の紅牙と今の紅牙を比較し、今の紅牙の方が好ましく思っていた。

 

「俺自身も驚いていることだ。だが、悪い気分ではないのも確かだ」

 

それが一体、誰の影響なのかは…今の紅牙にとって難しい問題ではなかった。

 

「(紅神(あいつ)のせいだろうな…)」

 

ふとそんなことを思ってから紅牙は改めて少女達を見る。

 

天宮(あまみや) 早紀(さき)

 

「うぇ?」

 

葛原(くずはら) 沙羅(さら)

 

「は、はい…?」

 

水杜(みずもり) 紗奈(さな)

 

「うにゃ?」

 

いきなり名前を呼ばれ、3人の少女…早紀・沙羅・紗奈…は驚いて紅牙を見る。

 

「禍の団を抜け、今より我が眷属となれ」

 

そう言って兵士の駒3個を左手で取り出していた。

あれだけ眷属集めに消極的だったはずの紅牙が眷属を増やすと言い出したのだ。

一体どんな心境の変化だろうか?

 

「今の禍の団にいてもお前達のためにはならない。先の作戦の人数から考えて、少数だった冥王派はもうお前達くらいしかいないのだろう?」

 

冥王派の頭を張っていただけあって紅牙は人数を把握していたらしく、今の人数を逆算したようだった。

 

「そ、それは…」

 

何か言おうと沙羅が反応するが…

 

「し、知ったような口をきくなよ! 紅牙様や秀一郎の奴が抜けてからボク達がどれだけ苦労したか…!」

 

「そ、そうだよ! 今更現れて、悪魔と和解したし、紅牙様の眷属になれだなんて…そんなの身勝手だよ!」

 

沙羅と紗奈が紅牙が抜けてからの事を思い出し、抗議する。

 

「そうだな。お前達があれからどんな苦労をしてきたかまでは俺にはわからん…。俺は紅神との勝負に優先し過ぎて、お前達のことを置いてきてしまったことには変わりないしな」

 

その抗議を甘んじて受ける紅牙。

 

「そ、そーだろ?」

 

早紀が当然とばかりに胸を張る。

 

「だが…」

 

「「「?」」」

 

紅牙はその場で深く頭を下げた。

 

「……すまない…」

 

「「「え…?」」」

 

紅牙の行いに3人は鳩が豆鉄砲を食ったような反応を示してしまう。

 

「お前達が…冥王派の同志達が、理由は皆それぞれあったにも関わらず、何故俺の決起についてきてくれたのかを知っていたのに…俺はそれに応えられなかった。それどころか私怨を募らせ、1人の男を標的にするようにしていき…あまつさえ勝手に冥王派から抜けてしまった」

 

「「「……………」」」

 

紅牙の独白に3人は静かに耳を傾けていた。

 

「そして、お前達が苦労している間も俺は安穏とした生活を送っていたのかもしれない。周りからどのような非難や(そし)りを受けようが、お前達を探し出して接触するべきだったんだ。そして、どのようなことをしてでも、裏切り者と誹られようと説得するべきだったんだ。その覚悟が、俺には足りなかった…」

 

そう言う紅牙の右拳は無意識なのか、強く握られていて爪が食い込んで血を滲ましている。

 

「ここでお前達と再会して…正直、どうしようか迷った。捕縛するべきか、見逃すべきか……しかし、お前達3人が冥王派に加わった時に聞いた理由は…あの気持ちは痛いほどわかる。俺も悪魔に両親を殺されたからな」

 

それが直接的な動機かは別として、同じ境遇である3人をどうするか、紅牙は迷っていたのだ。

 

「だからこそ、という訳ではないが………いや、どう言い繕っても同じか…」

 

一度言葉を区切ってから紅牙は…

 

「俺はただ…償いたいだけなのかもしれない。俺が先導していた冥王派の皆に対して…俺が出来る精一杯のことをしてでも…」

 

そう、言葉を続けていた。

 

「禍の団に加わってしまった冥族の処遇については俺も最大限、配慮してもらうように働きかけている。だが、それでもテロに加担したという事実は重い。俺も眷属を得て特例で動けてはいるが、未だ不自由な立場にいるからな」

 

それでも駒王町内限定ではかなり自由に暮らしているように感じるが…。

 

「その償いの第一歩として…お前達を俺の眷属に迎えたい。お前達がどのような感情を抱いていようが構わない。この誘いを蹴って俺への不満をぶつけても構わないとも思っている」

 

そう言うと、紅牙はその場に兵士の駒を置き…

 

「背後から襲いたければ襲え。その資格がお前達にはあるんだからな…」

 

3人の合間を抜けるようにして先へと歩いていく。

 

 

 

紅牙が去ってから数分…。

 

「「「………………」」」

 

結局、3人は紅牙を襲うことはなかった。

 

「紅牙様…本当に変わられたよね…」

 

紗奈が一番に口を開く。

 

「そう、ですね。昔はあんなにお優しくはなかったはずですけど…」

 

沙羅もまた紅牙の変化に驚いていた。

 

「だからって…どうしろっていうんだよ…!」

 

早紀は早紀で何とも言い表せない感情に苛まれていた。

 

「まぁ、早紀の気持ちはわからなくもないかな。あたしもどうしたらいいかわからないし…」

 

「私もです…」

 

早紀と同様に沙羅と紗奈もまた揺れていた。

 

「で、どうするよ、これ…?」

 

紅牙が置いていった眷属の駒を指す。

 

「どうするもこうするも…」

 

困ったように紗奈も駒を見る。

 

「私は…持ってようと思います…」

 

沙羅はそう言うと、駒の一つを拾い上げる。

 

「沙羅?」

 

「沙羅ちゃん?」

 

沙羅の行動に2人は少なからず驚く。

 

「あの紅牙様が…シア様の言うような優しいお方に戻られたなら…持ってた方が、良い気がするから…」

 

そう言うと沙羅は駒を懐にしまう。

 

「ん~…小難しいことはわからないけど…あたしも貰っとこうかな?」

 

沙羅を真似てかどうかはわからないが、紗奈も駒を手に取ってズボンの後ろポケットにしまう。

 

「紗奈まで…2人とも、正気かよ?」

 

早紀は未だに警戒心を高めていた。

 

「まぁ、紅牙様のことを全面的に信用したわけじゃないけど…あんな態度の紅牙様は初めて見るし…持っててもいいかなって…」

 

「紅牙様は…きっと変わられたんだと思うよ?」

 

紗奈と沙羅が早紀にそう言っていると…

 

「皆さま、ここにいましたか」

 

ユーグリットが現れる。

 

「っ!?」

 

一瞬の事だった。

反射的に早紀は駒を拾い上げると、それを素早くチノパンのポケットにしまってそのまま手をポケットに突っこんだままにする。

 

「? どうかしましたか?」

 

その一瞬の出来事を見てなかったユーグリットは早紀に尋ねる。

 

「な、なんでもねーよ! それで、ボク達に何か用かよ?」

 

若干慌てた感じで早紀が質問返しをする。

 

「えぇ、仕事を一つ依頼したく捜していましたよ…」

 

「仕事?」

 

沙羅は既に紗奈の後ろに隠れ、早紀がユーグリットに対応する。

 

「えぇ。私と『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』と共に白龍皇が率いる一派に仕掛けてもらいます」

 

「魔女の夜…確か、聖十字架の…」

 

紗奈の後ろから沙羅がそう呟く。

 

「はい。いくら白龍皇でも私と聖十字架、それに冥王3名が相手ですから無視することは出来ないでしょう」

 

「………わぁったよ。行けばいいんだろ、行けば…」

 

今の早紀達に拒否するような権利はなく、3人はユーグリットの後ろについていくように歩いていく。

 

「(反射的とはいえ、取っちゃったよ…)」

 

そんな中、早紀はさっきの自分の行動に驚いていた。

 

「(……紅牙様……………まぁ、持っててやるよ)」

 

そう思いながら早紀はポケットにしまったままの駒を強く握っていた。

 

………

……

 

一方で、ツェペシュ本城では…

 

イッセー達がリアスと木場と合流を果たし、謁見の間でヴァレリーと暫定政府の宰相であり、クーデターの首謀者でもある王位継承第五位の『マリウス・ツェペシュ』と会談していた。

マリウスは神器研究最高顧問でもあり、本職はそちらだと言っていた。

但し、マリウスの言動は最悪で、自身は聖杯を自由に扱える環境を整えることにしか頭になかったのだ。

そのためには実の親兄弟でも関係なく退陣してもらったという…。

 

さらに、マリウスには強気に出られる要因もあった。

それは護衛だと言う邪龍最強格の筆頭『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハがいたからだ。

 

怪談が終わり、用意された部屋へと向かう途中…。

彼らは出会う。

"悪意の中心人物達"と…

 

「やっぱり、テメェだったのか…!」

 

その人物の片割れと対面してアザゼルが怒気を含んだ口調でそいつを睨む。

 

「おろろ? アザゼルのおっちゃんじゃん! 元気してた?」

 

そいつは…銀色が目立つ魔王の衣装を身に纏い、四十代くらいの銀髪中年男性であった。

しかも軽口を叩いてアザゼルに話し掛けていた。

 

「アザゼル、誰なの?」

 

男性の正体を知らないリアスが一行を代表してアザゼルに尋ねる。

 

「……………リゼヴィム。若いお前でも親から聞いてるだろ。グレモリーなら尚更知っていてもおかしくはない男だ」

 

「?! ウソ……でしょ…?」

 

アザゼルの言葉にリアスは絶句していた。

 

「他の連中にもわかりやすく教えてやる。こいつの名は『リリン』。いや、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。前ルシファーと悪魔にとって始まりの母たる『リリス』との間に生まれた正真正銘の息子だ。そして、歴代歴代最強と名高い現白龍皇ヴァーリの実の祖父だ…!!」

 

「「「「「「「「っ!!?」」」」」」」」

 

アザゼルの説明にその場にいた全員が驚く。

 

「そして、こいつが現禍の団の首領。俺がここまでくる間に言ってた『あの野郎』ってやつだ…!!」

 

その言葉を受け、もはや一行に言葉はなかった。

 

「もう1人は俺も見たことが無いが…こいつに付き合ってることから禍の団の新幹部ってとこか?」

 

もう1人の男を見てアザゼルはそう推測する。

しかし、この場に忍がいればもっと早く分かったことだろうに…。

 

「うひゃひゃひゃ♪ それはちっと違うんだよなぁ。アザゼルのおっちゃん。こいつは俺の部下じゃない。いわば…そう、お友達さ。お・と・も・だ・ち♪」

 

リゼヴィムがそう言うと…

 

「ふふふ…堕天使元総督様は狼さんから聞いてませんか? 私の名前を…」

 

隣の男は不快な笑みを浮かべていた。

 

「忍から…?」

 

忍の名が出た瞬間…

 

「ッ!! まさか…!!」

 

アザゼルは忍から聞かされていた絶魔の話を思い出す。

 

「えぇ、お察しの通りですよ、元総督様。私の名は『ノヴァ・エルデナイデ』。山羊座のエクセンシェダーデバイス『リデューション・カプリコーン』を預かり、絶望の使徒『絶魔』を率いさせてもらっています。赤龍帝やその他の皆さまも以後お見知りおきを…」

 

そう言って男…ノヴァはゆっくりと頭を下げて挨拶をしていた。

 

「ッ! じゃあ、前に俺と忍を雪女の里に飛ばしたのは…!?」

 

「えぇ、私です」

 

イッセーの言葉を簡単に肯定する。

 

「ついでに言うなら、以前のフィライトでの紛争模様を多次元世界へと放送したのも私です」

 

「「「「「「「「っ!!?」」」」」」」」

 

一行の何度目かの絶句である。

 

「あなた達にも見せて差し上げたかったですよ。皇帝ゼノライヤさんとその騎士ギルフォードさんの最期の瞬間を……まぁ、私が現地に行ったせいで放送も途中で終わってしまいましたが…」

 

そう語るノヴァの瞳は完全に濁り切っていた。

 

「腐ってやがるな…!!」

 

「絶望こそ絶魔にとっては最高の甘露なんですがね」

 

「おっと、ついでに紹介しとくと…」

 

リゼヴィムの背後から小さな少女が現れる。

 

「……………」

 

オーフィスそっくりの少女である。

違うとしたらオーフィス以上に無口で無表情なところだろうか。

 

「この子は『リリス』。俺っち専属のボディガード。まぁ、曹操君が奪ったオーフィスの力を再構築した娘だからか~な~り強いよ? まぁ、ユーグリット君が留守の間はこの娘が俺っちを守ってくれるのさ♪」

 

ふざけた口調でリゼヴィムはリリスを紹介する。

 

「リゼヴィムさん、楽しいところで申し訳ありませんが、そろそろ行かないとマリウスさんとのお話に間に合いませんよ?」

 

「おおっと、そうだったそうだった。まぁ、ノヴァっちも結構時間に厳しいからねぇ~。そいじゃま、まったねぇ~♪」

 

そう言ってリゼヴィム、ノヴァ、リリスの3人がアザゼル達の横を通り過ぎようとした時…

 

「あ、そうそう。カーミラ派と組んでんのは知ってるし、クーデター返しするならいいでもいいよ♪ 俺っち、結構期待してっから♪」

 

「ふふふ…狼さんがいないのが残念ですよ。ま、此処では仕方ないでしょうが…」

 

リゼヴィムとノヴァはそう呟いていた。

 

3人の姿が消えてから…

 

ズガンッ!!

 

アザゼルが怒りのあまり、廊下の壁を拳で破壊していた。

 

「ヴァーリ、お前の気持ちが理解出来て仕方ないよ…」

 

その後、用意された部屋に通された一行は地下に幽閉されているギャスパーの父親へと面会することになったとか…。

 

そこでギャスパー出生の秘密が語られた。

 

………

……

 

~???~

 

『桐葉? 桐葉……!!!』

 

「(これは…?)」

 

忍は不思議な夢を見ていた。

 

『う、うう…うわああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

愛する人を失い、絶望する男の慟哭。

 

「(夢…? にしてはどこか他人事とは思えない…)」

 

忍は知る。

それが誰の記憶なのかを…。

そして、どれだけ辛く凄惨で重苦しいものだったかを…。

 

………

……

 

~???~

 

『どうして? どうしてしぃ君は戦うの? 私が守ってあげるのに…』

 

「(なんだ、これは…?)」

 

『俺が戦うのは…ちぃ姉…あなたを守りたいから…いつまでも守られてばかりは俺も嫌なんだよ』

 

愛する者を守るため、戦うと決めた男の言葉…。

 

『俺はもう…小さな忍じゃないんだ。戦える力もある…だから守らせてほしい』

 

「("忍"、だと…?)」

 

牙狼は知る。

それが誰の記憶なのか…。

どれだけ現実を甘く見ている男の幻想かということを…。

 

………

……

 

悪意は止まらない。

ここからが本当の悪夢の始まりだと、誰もが知ることになる。

これから起きるだろう戦いで、聖杯の巡る一連の出来事の行く末が一先ずは決まる。

そして、並行世界での同一人物の死闘も始まる。



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第七十六話『覚醒せし紅の冥王、射手座の輝きと共に…』

イッセー達がルーマニアに来て早二日が過ぎようとしていた今日この頃…。

 

この二日間、ギャスパーと小猫はヴァレリーの招待でお茶会に参加していた。

アザゼルはアザゼルで吸血鬼側の神器研究機関に招かれ、色々と情報を開示していた。

イッセー達はイッセー達で町の様子を見たりもしていた。

リアスはギャスパーの父親であるヴラディ家当主と正式にギャスパーを引き取る会談を行っていた。

 

そして、イッセーも参加した最初のお茶会で、マリウスも顔を出し、ヴァレリーを『解放する』と約束した。

しかし、この『解放』とは…聖杯を"抜き取る"ということだ。

そういった神器に関する堕天使の技術は既に流出しており、マリウスのバックにはリゼヴィム率いる禍の団とノヴァ率いる絶魔がいる。

『解放』を口にしたことからマリウスも近々行動を起こすことだろうと予想されていた。

 

そんな中、これからのアザゼル達が会話している時、滞在している部屋と外を結界を通して繋げたベンニーアが現れ、ルガール、そしてエルメンヒルデも部屋へと転移していた。

この時、エルメンヒルデは着地に失敗したようだったが…。

ともかく、エルメンヒルデが言うにはマリウス一派が聖杯を巡る一連の出来事の最終段階に入るとのことであった。

それを阻止するべく、火力バカとも言えるグレモリー眷属達が本城地下へと進撃することになる。

 

………

……

 

グレモリー眷属が行動を起こす少し前…。

ツェペシュ領の外部では…。

 

「ちっ…まさか、そのようなモノを作っていたとは…」

 

禁手化したヴァーリがユーグリットを前に珍しく悪態を吐く。

 

「"これ"はレプリカですが、私自身が持ち主以上の力を持っていますので…」

 

そう言うユーグリットの体には"赤い龍を模した鎧"が纏われていた。

 

「それよりも…何故、あなたは本気を出さないのですか? 極覇龍の情報は私共も把握しております。それになればさらに高度な戦闘を繰り広げられると思いますが…?」

 

そんなユーグリットの言葉にヴァーリは…

 

「そんなことか。下らな過ぎて答える気にもならないな」

 

一蹴していた。

 

「ふむ…?」

 

しかし、ユーグリットはその理由がわからないでいた。

 

「わからないか? なら、教えてやる。俺が極覇龍を使いたいと思う赤龍帝は兵藤 一誠だけだ。偽りの赤い龍にアレを使うなど、俺のプライドが許さない。お前は俺が死力を尽くして戦いたい赤龍帝とは違う…!」

 

そう言うとヴァーリは右手から魔力砲撃を放つ。

 

「よくわかりませんね」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

ユーグリットもまた倍加した魔力弾を放ち、ヴァーリの砲撃を真正面から受け止める。

 

「それほどの価値が現赤龍帝…兵藤 一誠にあるのですか?」

 

「お前にはわからないさ。偽者のお前ではな…!!」

 

ゴオォォォッ!!

 

ヴァーリとユーグリットの拳がぶつかり、周囲の雪が吹き飛ぶ。

 

 

 

「おほほほ、これが噂に聞く白龍皇のチーム。真正面からは戦いたくないわねん」

 

ゴシック調の傘にゴスロリ風の衣装を身に纏った女性が空から高らかに笑っていた。

 

「って、お前はほとんど何もしてねぇだろ!!」

 

「そーだそーだ!」

 

「つ、疲れます…」

 

それに文句を言うのは早紀、紗奈、沙羅の冥王3人(既に冥王化済み)だった。

しかも早紀はアーサー、沙羅はフェンリル、紗奈は美猴を相手にしている。

 

「何を言ってるのん? ちゃんと要所要所で援護してあげてるでしょう?」

 

そう言って女性は苦戦してる早紀達と美猴達の間に十字架の形をした紫色の炎を立ち昇らせる。

 

「ね?」

 

が、一歩間違えれば味方も巻き添えになるようなタイミングでの援護である。

 

「"ね?"、じゃねぇぇぇ!!」

 

「危ない、かなり危ないから!!」

 

「もう、やだ…」

 

かれこれ同じようなことを何度もされて早紀達も疲労困憊といった具合だ。

 

「ちっ…こっちの嬢ちゃん達は大したことないんだが、あの姉ちゃんの紫炎が厄介だぜぃ」

 

「そうですね。とは言え、彼女達の連携もなかなか侮りがたいと思いますが…」

 

『………』

 

個で勝るヴァーリチームとやり合えてるのはひとえに早紀達の連携にあった。

早紀と紗奈が前に出てアーサーや美猴、フェンリルの攻撃を何とか凌ぎつつ、後方から沙羅が魔法で援護し、その沙羅を早紀と紗奈が交代で守ってるのだ。

 

「(ま、別に冥王の小娘共も纏めてやってもいいんだけどね♪)」

 

そう考えていた女性は…

 

「行くぞ、沙羅、紗奈!」

 

「おー!」

 

「はい…!」

 

次に早紀達が美猴達に仕掛けるこのタイミングを見計らい…

 

「(ここかしらねん♪)」

 

特大の紫炎を地面から噴き出さそうとしていた。

 

「「「っ!?」」」

 

それに気付いた時には遅く、早紀達も対応が出来ないでいた。

 

だが、その時…

 

「ブレイジング・フィールドッ!!」

 

紅の焔が立ち昇ろうとした紫炎を抑え込んでいた。

 

「あらん?」

 

思わぬ邪魔に女性も驚く。

 

「『紫炎のヴァルブルガ』。まさか、味方ごと敵を焼き払おうとするとは…いや、そもそもが味方という認識ではなかったか?」

 

冥王化した紅牙が腕組みしながら紅の翼を翻し、女性…『ヴァルブルガ』…と対峙するようにして空に飛翔していた。

 

「「「紅牙様!?」」」

 

「おぅ、紅の冥王じゃねぇかぃ!」

 

「紅の冥王、助かりました」

 

『ッ!』

 

紅牙の登場に早紀達はもちろん美猴達も驚いていた。

 

「ヴァーリは?」

 

「向こうでルキフグスの生き残りとやり合ってんぜぃ」

 

「そうか」

 

紅牙は美猴にヴァーリのことを聞くと、そのままヴァルブルガに狙いを定める。

 

「裏切り者が何のつもりですのん?」

 

わかってるとは思うが、一応の理由を聞くヴァルブルガ。

 

「なに、お前のような奴に"俺の部下達"をやらせる訳にはいかないだけだ」

 

そう言って紅牙は早紀達を軽く見る。

その眼は優しさと力強さを感じさせるものだった。

 

「部下、ねぇ。ということは冥王派は前から裏切ってたってことかしらん?」

 

ヴァルブルガの探るような視線に…

 

「……少なくとも、俺自身は既に禍の団と決別したつもりだ」

 

紅牙はそう言い切る。

 

「おほほほ、語るに落ちるとはこのことですわん。なら、そこの小娘共や先の作戦で捕まった冥王派のメンバーはなんで禍の団に居続けたんですのん?」

 

「俺の不徳だ」

 

ヴァルブルガの言葉に紅牙はそれだけ返していた。

 

「……………」

 

「……………」

 

しばらく睨み合いが続き…

 

「………ふんっ、面白くもない答えですわね」

 

ヴァルブルガがそう吐き捨てると同時に…

 

「燃えなさい!!」

 

紅牙の体を紫炎が襲う。

 

「紅牙様!?」

 

それを見て沙羅が叫ぶ。

 

ボアァッ!!

 

「騒ぐな。熱には慣れてる。それに悪魔ではないから必殺とまではいかん」

 

紅の焔で紫炎を吹き飛ばしながら紅牙が沙羅に告げる。

それでも少なくないダメージは受けているんだが…。

 

「おほほほ、いくら冥族と言えど魔の存在なのだから紫炎が効かないなんてことはないわよん?」

 

こればかりはヴァルブルガの言う通りだろう。

何度も無防備に受けていれば、いずれ紅牙でも取り返しのつかないことになりかねない。

 

「だからどうした?」

 

しかし、紅牙は腕組みを崩さないままで答える。

 

「なんですって?」

 

その答えにヴァルブルガも眉を顰める。

 

「俺はもう二度と後悔しないと決めた。それがどのような結末に繋がっていようと、己の道を進み続けると俺は義弟に教わった。ならば、俺も迷うことなどしない。俺は俺の意思で貴様ら外道と戦う…!!」

 

ゴオオオォォォォォッ!!!

 

紅牙の意思を示すかのように紅の焔が紅牙の全身より勢いよく立ち昇る。

 

「紅牙様…」

 

「これが本当の…紅の、冥王…」

 

「熱い…熱いですよ…紅牙様…!」

 

その紅牙の姿を見て沙羅、紗奈、早紀が奮い立つ。

 

「ならば、今一度問う。早紀」

 

「はい!」

 

「沙羅」

 

「はい…!」

 

「紗奈」

 

「は~い!」

 

紅牙の声に早紀達が答える。

 

「我が眷属となり、俺の進む道に再び付き合う気はあるか?」

 

「愚問だぜ!」

 

「もう、さっきみたいなことされるのも嫌ですし…」

 

「ここが去り際ってやつですよね?」

 

三者三様の反応だが、要は禍の団から抜ける決心がついたということだろう。

 

「ならば、目の前の魔女に名乗ってやれ!」

 

「応! 神宮寺眷属、兵士! 天宮 早紀!」

 

「同じく神宮寺眷属、兵士。葛原 沙羅…!」

 

「同じく神宮寺眷属、兵士! 水杜 紗奈!」

 

トクンッ!×3

 

早紀達の名乗りを受けてか、それぞれが手にしていた兵士の駒が彼女達の中に溶け込んでいく。

 

すると…

 

「ふっ…ついに君も本格的な眷属集めか?」

 

ユーグリットの相手をしていたはずのヴァーリが紅牙の横に飛来する。

 

「ヴァーリか。そっちの相手はどうした?」

 

「先程、用事が出来たとかで去っていったよ。だが、これで俺は心置きなく奴の元まで進める…!」

 

珍しく憎悪の言葉を口にしたヴァーリを見て…

 

「そうか。なら俺も付き合ってやろう」

 

紅牙がそう言いだす。

 

「悪魔嫌いの君がかい?」

 

「不満か?」

 

その言葉を受け…

 

「いや、今の君なら背中を預けられる」

 

ヴァーリも不敵に笑む。

 

「美猴、ここは君らに任せる」

 

「早紀、沙羅、紗奈はそこの魔女に冥王の力を見せてやれ」

 

それぞれ仲間と部下にヴァルブルガの相手を任せるようだ。

 

「冥王が味方になってくれたんならいくらでもやりようが出てくるぜぃ」

 

「昨日の敵は今日の友、とも言いますし…」

 

『……………』

 

「やってやるぜ!」

 

「魔女狩り…」

 

「さっきのお礼もしないとね!」

 

それぞれがヴァルブルガに視線を向ける。

 

「あららん? これはちょっとばかり不利だわねん」

 

しかし、当の本人は少し余裕がありそうだった。

 

「行くぞ、紅牙!」

 

「あぁ、ヴァーリ!」

 

そう短く言葉を交わし、ヴァーリと紅牙が共に飛翔する。

 

目的地は…ツェペシュ本城地下。

 

………

……

 

結界の外でそんなことが起きていたとも知らず、グレモリー眷属は地下に進撃していた。

 

その中で聖杯で強化されたであろう元人間の吸血鬼を死神騎士のベンニーアと魔女と狼男のハーフであるルガールが相手取り。

次の階層では上階よりも格上の吸血鬼が相手になったが、小猫の新たな技『白音モード』による浄化の力で吸血鬼達を一蹴していた。

ちなみに白音モードの際の小猫の姿は黒歌並みの美女になっていた。

 

そして、次の階層では…グレンデルが待ち構えていた。

この後に控えているだろう存在のことからイッセーは真紅の鎧にはならず、チーム戦でグレンデルに立ち向かうこととなった。

この馬鹿げた防御力を誇るグレンデルに一行は苦戦する一方だったが、リアスの新必殺技『消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)』によって頭半分だけを残して消滅した。

しかし、そこへクロウ・クルワッハが登場し、グレンデルを後退させ、それと交代するようにして一行の前に立ちはだかる。

 

だが、そこへ…

 

ズガンッ!!

 

その階層の扉をぶち壊し、ヴァーリと紅牙の両名が到着する。

 

「お前がクロウ・クルワッハか」

 

「あぁ、そうだ。現白龍皇」

 

ヴァーリとクロウ・クルワッハから尋常でない戦いのオーラが滲み出ていた。

 

「ヴァーリ! それに紅牙! 遅かったじゃねぇか! だが、無事に合流出来てたようで何よりだが…何故、ここまで到着が遅れた?」

 

アザゼルがヴァーリと紅牙の2人に問う。

 

「合流出来たのはついさっきだ。正直、城下町外で戦闘していたとは思わなかったんでな」

 

そう答えるのは紅牙だった。

と、そこで…

 

「合流? 紅牙、君は俺と合流するために単独で動いていたのか?」

 

「………悪いか?」

 

「ふっ…随分と変わったものだと思っただけだ」

 

紅牙とヴァーリのそんな会話を聞き…

 

「城下町外での戦闘だと?」

 

アザゼルが眉を顰める。

 

「あのルキフグスの者と『魔女の夜』に所属する聖十字架の使い手、さらには冥王派の残党が襲撃してきてね」

 

「但し、冥王派についてはもう味方だから安心していい。俺の眷属にしたからな」

 

「眷属にしたって…マジかよ?」

 

紅牙の言葉にアザゼルは耳を疑った。

 

「事実だ。元々は部下だし、何の問題もない」

 

「今は美猴達と共に聖十字架の使い手と戦ってもらっている」

 

「そうかよ。しかし、レリックが聞いて呆れるな。滅神具のレリックは全部テロに加担してるじゃねぇかよ、聖書の神よぉ…!!」

 

アザゼルが苦虫を潰したような表情で呟く。

それもそうだろう。

聖槍、聖杯、聖十字架…そのどれもが禍の団に加担してしまっていた。

 

「兵藤 一誠。君はクロウ・クルワッハに勝てる自信はあるかい?」

 

「身に纏うオーラから察するに…尋常でない強さなのはわかる」

 

「そうだな。今の君よりも遥かに格上の存在だろう……かく言う俺も勝算があるようでないんだが…」

 

いつになくヴァーリから自信がないように聞こえた。

 

「だが、俺はこの先にいる者に用がある。だから余計な消耗は出来るだけ避けたいと思っている。このドラゴンを追い求めてたのは事実だが、それはそれだ。そこで…」

 

そこでイッセーはヴァーリが何を求めているのか、理解する。

 

「つまりは共同戦線ってか?」

 

「嫌か?」

 

「いや、悪くねぇ。ギャー助の身内を助けるにも苦労してな。俺も余計な体力は使いたくないのが本音だ」

 

イッセーの言葉を聞き…

 

「交渉成立だ。ふっ、ロキ戦以来か」

 

ヴァーリも不敵に笑う。

その後、真紅の鎧となったイッセーだが、ヴァーリは極覇龍にはならなかった。

 

「やはり、奴との戦いで消耗していたか…」

 

その様子に紅牙が言葉を漏らす。

 

二天龍とクロウ・クルワッハの戦いは…正直に言って二天龍の劣勢だった。

対邪龍用に開発したクリムゾンブラスター+アスカロンによる砲撃もクロウ・クルワッハの片翼と人間としての皮を剥いだくらいだったからだ。

その戦いの中、新事実が発覚する。

キリスト教の介入によって現地民の信仰心が弱まって滅んだとされるクロウ・クルワッハではあるが…。

その実、キリスト教の介入が煩わしくなり、かの地を去ってから修行と見聞を広めるために人間界や冥界を渡り歩いていたというのだ。

つまり、今のクロウ・クルワッハは一度も滅びず、聖杯の強化ではなく"自身の鍛錬"によって磨き上げた肉体と精神で戦っていたことになる。

 

その事実を聞き…

 

「くくく…ははははは! 戦いを司るドラゴンと呼ばれるだけある。俺以上に戦闘と探求を求めるドラゴンがいたようだな」

 

ヴァーリは可笑しそうに笑っていた。

 

「ドラゴンの行き着く先を見てみたいのでね」

 

「俺と似たタイプか。ますます興味を抱かされるよ、クロウ・クルワッハ」

 

要はこの邪龍と現白龍皇は似た者同士だったということだ。

 

「俺も参加すべきか?」

 

ヴァルブルガによって受けた紫炎のダメージを完治しないまま紅牙が前に出ようとする。

 

「仕方ない。これ以上は時間をかけられん。アーシア、呼べ。ファーブニルを!」

 

が、アザゼルが提案したのはファーブニルの召喚だった。

 

そこからまた酷い時間が始まった。

今回、ファーブニルにはアザゼルとの契約時に与えていた宝物の中から魔弾タスラムのレプリカを出してほしいと頼んだ。

そして、ファーブニルは今回もまた宝物を要求してきた。

それは…………アーシアのスク水だった。

ハッキリ言って、そんなものこんな地に持ってこれるはずがない。

のだが、そのことを読んでいたソーナ会長のご助言により、アーシアはスク水を持ち込んでいたようで、それをファーブニルに与えていた。

そのスク水をファーブニルは咀嚼していた。

当然と言えば、当然なのだが…あまりにあまりな現実にアーシアは現実逃避をしてしまった。

 

その際、アルビオンにも被害が及び…。

アルビオンがおっぱいドラゴンで苦しむのはドライグだけではないと語り始め、二天龍はお互いの傷を癒すかのように語らい始めたのだった。

こんなことで二天龍が和解しようとしてるのだ。

正直、これもこれで大概と言えるだろう。

 

ちなみにタスラムのレプリカだが、クロウ・クルワッハは"噛んで"、その回避不可の魔弾を受け止めてみせた。

魔弾を受け止めて吐き捨てた後、クロウ・クルワッハは足止めは十分だろうと判断し、その場での戦闘行為を終了させていた。

追撃もせず、グレモリー眷属達を地下へと向かわせた。

ただ、その際…彼はギャスパーを見ていたという…。

 

………

……

 

ツェペシュ本城の地下最下層。

そこでヴァレリーから聖杯を抜き取る儀式が行われ、実行された。

その光景を見てイッセーは嫌な記憶を思い出す。

それは以前、堕天使レイナーレによってアーシアから神器を抜き取られた時の光景だ。

それを今度は後輩の目の前で行われたのだ。

 

しかし、滅神具を抜き取られたにしては妙だと感じる者がいた。

アザゼルである。

 

ヴァレリーに駆け寄るギャスパー。

短い言葉を交わし、ヴァレリーはその意識を手放していた。

 

その悲しい光景を見ても何とも思ってもいない風にマリウスがグレモリー眷属を挑発する。

リアスの怒りの滅びの魔力を食らったにも関わらず、マリウスは超速再生していく。

ヴァレリーから抜き取られた聖杯の力である。

そこにマリウスに加担していた上役の吸血鬼達が現れる。

彼らの危険極まりない思想にリアスやアザゼルは聖杯の明け渡すように促す。

しかし、それをマリウスは笑うだけで渡す気はさらさらないようだった。

 

その時だった。

最下層を闇が覆い尽くしたのは…。

その闇はギャスパーから広がり、ギャスパー自身もまた異形の存在へと変貌していったのだ。

その闇からは闇の魔物が生まれ、その魔物は吸血鬼の上役達を次々と屠っていく。

強化されたはずの吸血鬼達がこうも簡単に屠れるには理由があった。

それは強化された吸血鬼の"能力を停止"させているからだ…。

そして、最後に残ったマリウスもまたギャスパーだったモノの逆鱗に触れ、闇の魔物に喰われていた。

それは聖杯を持っていようと関係なく、だ。

 

その後、闇のフィールドは解除されたが、ギャスパーだったモノは未だ黒い魔物のような姿をしていた。

ヴァレリーの変化を訝しんだアザゼルによって違和感の正体が判明した。

聖杯は複数で一個とカウントされる亜種の滅神具だったのだ。

マリウスが引き抜いた分を戻せば意識が回復するかもしれないと早速アザゼルが作業を開始する。

 

魔物は自身もまたギャスパーだと言い、その正体を語った。

彼はギャスパーが母体にいた時に宿った、ケルト神話の魔神バロールの断片化した意識の一部だと言う。

本来のバロールはルー神によって滅ぼされており、その神性は失っていて魔の力だけが残ったのだと推測された。

故に彼はバロールであって、バロールではなく、『ギャスパー・ヴラディ』であると語った。

何故、ギャスパーにバロールの意識が宿ったのか…その真実は推測の域を出ないが…まだ神器に覚醒してなかったヴァレリーが無意識の内に聖杯の力を使っていたからかもしれないという。

そして、その禁手であるようで、そうでもないこの状態を『|禁夜と真闇たりし翳の朔獣《フォービトゥン・インヴェイド・バロール・ザ・ビースト》』と自ら命名していた。

その特異性から"14番目の滅神具"になりうる可能性も見出されていた。

力を使い、消耗した彼は再び眠りにつく。

 

しかし、ここで問題が発生する。

蘇生術式が完了したヴァレリーが目を覚まさないのだ。

そこに第三者が現れる。

 

「こいつも戻さないと本格的な覚醒は無理なんでない?」

 

リゼヴィムとノヴァである。

そのリゼヴィムの横には聖杯らしき杯が宙に浮かんでおり、さらにはリリスもいた。

 

「此度の聖杯三個一組という特異な滅神具だったようでしたので、リゼヴィムさんが既に一つ拝借していたのですよ。彼…マリウスさんも聖杯研究者を自称するのであればこれくらいの事は知っておいてほしかったのですが…残念ですよ。あまりにも無能でね」

 

ノヴァはマリウスのことをそう評していた。

 

「うひゃひゃひゃ、ノヴァっち。そりゃ言い過ぎってもんだぜ。でも、まぁ、そうなんだけどね♪」

 

「私は事実を言ったまでです。それにしても…」

 

そう言ってからノヴァはグレモリー眷属、アザゼル、ヴァーリ、紅牙と一瞥する。

 

「これだけいて、"これ"の存在に気付かないとは…いえ、持ってない者が勘付くはずもありませんか」

 

そう言ってノヴァは最下層の一角に黒い布と埃を被ったモノに向けて魔力弾を放つ。

 

ボワァ!!

 

魔力弾の着弾と共に黒い布が燃え尽き、中から…

 

「白銀の人馬像?」

 

特徴的な弓を構える白銀の人馬像が現れた。

 

「まさか、こんな場所でお目に掛かるとは思いませんでしたよ。射手座のエクセンシェダーデバイス」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

ノヴァの言葉にヴァーリやリゼヴィム以外の者が驚く。

 

「エクセンシェダーデバイスだと!?」

 

「ふふふ…形態から見るに未だ選定中ですか。果たして、どういった性質を求めるのでしょうね?」

 

ノヴァは楽しそうに射手座のエクセンシェダーデバイス(選定形態)を見る。

 

「それにしても、あのメソメソしてた孫がこんな立派な殺意を向けえてくるなんて…お祖父ちゃんは嬉しくて泣きそうだぞ☆」

 

「…………ッ!!」

 

ノヴァの横ではリゼヴィムがヴァーリから向けられる殺気に対してそんなことを言っていた。

 

「落ち着け、と言っても無駄だろうな。あのふざけた態度を見れば事情をよく知らない俺ですら殺意が湧く」

 

ヴァーリの横で紅牙がリゼヴィムの言動にイラついているのがわかる。

 

「おやおや、ヴァーリきゅんのお友達は冥族かい? また、珍しい組み合わせだねぇ。冥族って悪魔の事を恨んでなかったっけ?」

 

「生憎と、今は和平政策の進行中だ」

 

「あら、そう。時代は変わるもんだねぇ~」

 

そんなやり取りをした後、アザゼルがリゼヴィムに問う。

 

「その聖杯で何をやらかすつもりだ? 邪龍共を復活させて何を企んでやがる?」

 

その問いに、リゼヴィムは…

 

「多次元世界。俺っち達が認識してた世界観を根底から覆すような実例だ。それは太古から続いてたっていうじゃん? まさか、そんな楽しいことが昔からあったとは俺も知らなかったぜ。でも、それは最近になって徐々に冥界や天界、果ては人間界にも認識されつつあるよな?」

 

「私の一計もありましたからね」

 

「ったく、世界ってのは広いもんだな。俺っち達のいるこの世界もその多次元世界の一つでしかないっていうから困ったもんだ。でもよ、そんなこの世界にも別次元の神様が接触してきただろ? それで僕ちんは考えました。向こうが接触してきたなら、こっちも接触してみようぜ? ってな! し・か・も…こっちは接触は接触でも、多次元世界に対して攻め込んでみようってな!!」

 

そう答えていた。

 

「攻め込むだと!? 別次元の世界に対して宣戦布告でもするというのか!」

 

その答えにアザゼルが叫ぶ。

 

「おうさ! でも、それはちっと厳しいんだな。だって次元の狭間にはグレートレッドがいるからね。いくら遭遇率が低くても絶対に遭遇しないって保証はない。なら、先にグレートレッドちゃんを倒した方が後々楽じゃね? ってね」

 

「ですが、グレートレッドは強大です。いくら邪龍が束になろうとも、超越者であるリゼヴィムさんがいても…不完全な存在となったオーフィスさんでも…勝てる見込みは少ないでしょう」

 

「そこで考えたのが…黙示録の一節を再現しようってな!!」

 

リゼヴィムとノヴァの答えを聞き、アザゼルは貌を青褪めさせる。

 

「『666(トライヘキサ)』…!!!」

 

「ビンゴ! 正解、大正解! 流石はアザゼル君! 何か景品が欲しいかい? でも、残念。そんな特典ありません! でも、正解は正解だから教えますよ? そんな『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)』と赤龍神帝をぶつけたらいい勝負になるんじゃね? てか、なるよね? ならない訳ないじゃん!!」

 

アザゼルの答えにリゼヴィムは嬉々として言葉を紡ぐ。

 

「アレは存在の可能性が示唆されてるだけで何処にいるかは未だわからんから、どの勢力も議論の最中だったはずだ!!」

 

「それがねぇ。い・た・の・よ♪ 聖杯使って命の理に潜った結果、俺達は見つけたのさ。忘れ去られた世界の果てでね」

 

「しかし、リゼヴィムさん達よりも先に666に接触し、堅い封印を施した存在がいました。それが聖書の神です」

 

「いやぁ~、驚いたわぁ。まさか、あんな超弩級に禁止級の封印術式がわんさかと組まれてたからね。あんな封印術式した後で三大勢力の戦争じゃ、聖書の神も疲労困憊で消滅しても仕方ないかもよ?」

 

リゼヴィムとノヴァの言葉にアザゼル達は言葉を失う。

聖書の神の死因がそのような可能性もあったとは…。

 

「つーわけで、俺達は666君を復活させ、グレートレッド君を撃破、撃滅、撃退してから悠々と各次元世界に攻め込む訳だ。その中の一つを俺だけのユートピアにしてもいいかな? どうよどうよ? なかなかに素敵で素晴らしい考えだと思わない!?」

 

「私も以前言いましたよね? 次元戦争の始まりだと…その第一歩をリゼヴィムさんがやってくれるというので私も協力させていただいております」

 

「本格的な次元戦争の第一人者! こんなのなかなか出来るもんじゃねぇよな!」

 

リゼヴィムとノヴァの言葉にグレモリー眷属は2人を睨んでいた。

 

「はっは~。嫌だね~。何その眼。そいつは『正義』の眼だ。今の悪魔はろくでもねーな。俺らは悪魔よ? 悪魔だったらもっと別の眼があるでしょうよ?」

 

そう言ってリゼヴィムは手で眼鏡を作ると、それを前後に移動させる。

 

「言ってろ、この野郎!!」

 

イッセーが特大のドラゴンショットをリゼヴィムに向けて撃ち出す。

が、リゼヴィムもノヴァも特に何をする訳でもなく、ドラゴンショットを無防備で受けようとしていた。

しかし、ドラゴンショットはリゼヴィムに当たると途端に霧散してしまった。

 

「ッ!?」

 

その結果にイッセーも驚く。

 

「奴の能力は悪魔の中で唯一の異能…『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』だ。神器によるいかなる特性、神器によって底上げされた全ての能力が効かないんだ…ッ。つまり、イッセーの赤龍帝の力も、木場の聖魔剣も神器である以上、奴に一切のダメージを与えられない…!」

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

アザゼルの言葉にグレモリー眷属が絶句する。

 

「なら、聖剣で!」

 

ゼノヴィアがデュランダルから聖なるオーラを飛ばす。

しかし、これはリリスによって防がれてしまう。

 

「ならば、俺がやる!」

 

紅牙が周囲に火炎弾を展開する。

 

「俺は別に神器を持っているわけでもない。それに今の動作からそいつは動きが遅いと見た!」

 

そう言って紅牙は展開した火炎弾を全方位から仕掛けさせる。

 

「私もいることをお忘れなく」

 

ギュイイィィィン!!!

 

カプリコーンを瞬時に起動、さらには纏い、リデュースパイラルによって火炎弾の魔力を削り取っていく。

 

「うひゃひゃひゃ! 流石はノヴァ君。このくらいの焔…いや、弱火なら問題なく払えるわな」

 

そう言ってパッパと弱くなった火炎弾を振り払う。

 

「ちっ…だったらこれならどうだ!」

 

そう言うと紅牙は冥王化から天狐モードへと一瞬で変化すると右手を突き出し…

 

「包囲結界」

 

リゼヴィム達の周りを包囲するかのように結界が張られる。

さらに紅牙の周りに今度は青白い焔が灯りだす。

 

「これは…?」

 

ノヴァの表情が少しだけ変わる。

 

「天狐妖術の一つ、狐火だ。魔力が効かない以上、他の力を使ってみるだけのこと!」

 

そう言って紅牙は結界内に狐火を送り込んでいく。

 

「ノヴァ君!」

 

「申し訳ありません。マナリデューションは魔力のみにしか働かないのですよ」

 

「え? マジ?」

 

まさかのことにリゼヴィムも驚く。

 

「えぇ、困ったことに」

 

ノヴァは困った表情で肩を竦めていたが…。

 

「リリス、リゼヴィム、守る」

 

迫る狐火をリリスが拳圧で吹き飛ばす。

 

ビキビキ…!!

 

リリスの拳圧で結界が罅割れていく。

 

「くっ…拳圧だけで壊れそうになるとは…流石はオーフィスの分身体ということか…!」

 

紅牙が表情を歪める。

 

すると…

 

『いいね。良い塩梅の人がいるじゃん。ここってなかなか候補が多かったけど…これなら"彼女"に決まりかな?』

 

射手座のエクセンシェダーデバイスの胸部プロテクターに嵌め込まれたアメジストが点滅する。

 

『ここに来て選定が終わったと? 相変わらず、空気を読まないことですね、サジタリアス』

 

その声に反応し、カプリコーンが口を開く。

 

『あ、カプリコーンってば酷いこと言うなぁ。でも決めたものは決めたんだから気にしない気にしない♪』

 

対するサジタリアスは陽気な風に言い放つ。

 

『ちっ……マスター。ここは退くべきかと…サジタリアスが本格的に起動したら少々厄介なことになります』

 

サジタリアスに対し、舌打ちっぽい音を出しながらカプリコーンがノヴァに後退を進言する。

 

「ほぉ? それは楽しそうだ。誰が選ばれたのか気になりますし、しばし静観しましょか」

 

しかし、ノヴァは狐火を己の蒼炎で払いながらサジタリアスの定めた人間を見ることを選ぶ。

 

『じゃあ、そこの"狐のお嬢さん"。君を俺の選定者にしたいんだけど…問題ない?』

 

狐+お嬢さん+彼女……それはもしかして…

 

「……………まさか、俺のことか?」

 

今にもキレそうな勢いの紅牙がサジタリアスを睨む。

 

『あれ? なんか俺、間違った?』

 

真実に気付かず、サジタリアスは疑問を口にする。

 

「俺は男だぁぁぁぁッ!!!」

 

怒りによって狐火の火力も上がる。

 

『わぉ! そりゃメンゴ! でも、俺が見込んだ選定者なんだ。君の力になるから、それで勘弁してちょ♪』

 

そう言うが早いか…

 

バリンッ!!

 

射手座の像がバラバラになると、紅牙の身に纏い始め、余ったパーツは別の生き物へと形成されていった。

 

『我が名は"アークドライブ・サジタリアス"。主の名前は?』

 

「……神宮寺 紅牙だ」

 

サジタリアスの軽い口調に頭を抱えそうになるが、一応名乗っておく律儀な紅牙だった。

 

『よろしくね、マスター紅牙。じゃあ、いっちょ俺の機能を見せちゃるよ!』

 

そう言うと…

 

『行くぜ! アームドドライバー!!』

 

余ったパーツで出来た生物達『アームドドライバー』がサジタリアスの表面に後付け装備のように装着する。

装着箇所は背中、両腕、両足で、左手に弓が持たれる。

 

「ほぉ、ドライバーとしての機能を有しつつも基本は鎧型と同じという訳ですか」

 

興味深そうにノヴァはサジタリアスを見る。

 

「ハッキリ言って初見のものを使うのは主義じゃないが、そうも言ってられんか!」

 

新たな力を手に紅牙が攻勢に出ようとした時…

 

「はい、注も~く♪」

 

突然、リゼヴィムが叫んで全員の視線を集める。

 

「ふむ…少々時間を浪費し過ぎましたか。申し訳ありませんね、リゼヴィムさん」

 

その意図に気付いたノヴァがリゼヴィムに謝罪する。

 

「いやいや、気にしないでいいよ。それよりもだ。君らには見せておくもんがあるんだな~」

 

そう言って展開された魔法陣にはカーミラ側の城下町が映し出される。

 

「俺がこうして指を鳴らすと……」

 

パチンと軽快に指を鳴らすリゼヴィム。

 

「ん~、ちょ~っと待っててね……あ、ほらほら、"アレ"を見てみ」

 

するとどうだろう。

魔法陣に映し出された城下町に次々と黒いドラゴンが現れ始める。

 

「これはどういうことだ、リゼヴィム!?」

 

アザゼルの絶叫にリゼヴィムは…

 

「いやね、カーミラ派にもツェペシュの甘言に乗っかてくる奴らはいるんだわ。それでそいつらとはカーミラ側からの情報を流す契約をしててね。その代わりに強化してやったのよ。だが、ここがポイント! なんと改造された吸血鬼は俺様が指を鳴らすと量産型邪龍になるという豪華特典を付けておきました~~!!」

 

「なっ!?」

 

今、カーミラ側の戦闘要員はツェペシュ側に集中している。

このままではカーミラ側の城下町は元吸血鬼の量産型邪龍によって全滅しかねない。

 

ゴゴゴゴゴ…!!

 

さらに地響きが地下最下層まで伝わってくる。

 

「おっと、言い忘れてた。俺が指を鳴らすとこっち側の豪華特典も発動するのでした~☆」

 

「それでは皆様も気になるでしょうから…」

 

最下層の床一面に見たこともない魔法陣が展開される。

 

「これは絶魔が使う魔法陣でしてね。ちょうどいい具合に魔力も散らしたの転移もスムーズにいきますよ」

 

どうやら先程の紅牙の火炎弾から削り取った魔力を用いて転移魔法を可能にしたようだ。

 

カッ!!

 

転移魔法陣が光り輝く。

 

 

 

次の瞬間、一行は外に出ていた。

カーミラ、ツェペシュの両城下町は酷い惨状になっていた。

 

「リゼヴィム達は?!」

 

しかし、一緒に転移したはずのリゼヴィム達の姿が無かった。

 

「リゼヴィムッ!!」

 

ヴァーリは空を見上げてそいつの姿を見つけていた。

 

「やっほ~☆ ヴァーリきゅん。お祖父ちゃんが遊んでやるぞい♪ それで肩を叩いてくれんかねぇ?」

 

その挑発に乗り、ヴァーリは光翼を広げると高速で移動し、リゼヴィムを追う。

 

「ノヴァの奴は既に消えてるな。俺はヴァーリのフォローに入りつつ邪龍を片付ける」

 

ノヴァの気配がないことを確認してから紅牙はヴァーリを追う。

 

それからグレモリー眷属はツーマンセルで邪龍の駆除に向かった。

イッセーとアザゼルは単騎での出撃となったが、真紅の鎧と堕天使の元総督にその心配は無用だろう。

 

その途中、イッセーはユーグリットと対峙した。

そこでイッセーはレプリカの赤龍帝の籠手と相対することになり、真紅と互角に渡り合うユーグリットに戦意を失い掛ける。

だが、ドライグの言葉で吹っ切れたイッセーと思いの丈をぶちまけたドライグによって新たな力…いや、以前奪った白龍皇の力が形を変えて具現化する。

それを用いてユーグリットとの戦闘を優位に進めるイッセー。

そこに起きてきたギャスパーも量産型邪龍退治に参戦する。

さらにそこへリゼヴィム、、それを追ってヴァーリと紅牙もやってくる。

強制転移で撤退しようとするリゼヴィム達を神器保有者3人が攻撃しても無意味だった。

唯一紅牙だけが攻撃を通せたが、その攻撃もリリスによって防がれる。

その際、リゼヴィムは『禍の団』に代わる新たな組織名を『クリフォト』とすることを宣言していた。

理由は生命の樹「セフィロト」の逆位置を示し、セフィロトの名を冠する聖杯を悪用し、尚且つ悪の勢力という意味合いも多分に含まれていた。

 

リゼヴィム達が強制転移した後…

 

「俺の夢はグレートレッドを倒すことだった……。クソッ。俺の夢は奴と一緒なのか!? いや、違う! 俺は……俺は奴とは…!!」

 

ヴァーリが怒りに打ち震えているのを見て…

 

ズガンッ!!

 

「ッ!?!」

 

「…………」

 

紅牙がその顔面にグーパンチを決め込んでいた。

しかも結構な威力のもので、ヴァーリの鎧のマスクが破壊されていた。

 

「こ、紅牙…?」

 

まさか、紅牙に殴られるとは露にも思わず、ヴァーリは紅牙を見る。

 

「貴様はバカか? あいつは666とかいう化物をグレートレッドにけし掛けるのに対し、お前は自らの手でグレートレッドを屠り、真なる白龍神皇になるのではなかったのか? それが同じ夢などと、バカバカしい」

 

「そ、それは…」

 

紅牙にそう言われ、ヴァーリは困惑する。

 

「ふんっ…あんな外道と夢が似通っているからとこんな様では目も当てられん」

 

わざとらしくキツイ言葉を言い放ってから…

 

「ライバルの目の前で弱気な姿など見せないことだな。現に見ろ、この間抜け面を」

 

イッセーを指差す。

ちなみにその様子はポカンとした表情でイッセーが見ていたりする。

 

「ッ!?」

 

見られていたことに気付き、珍しくヴァーリが驚きの表情を見せる。

 

「まったく…こんな奴を認めていたとは、我ながら見る眼が無かったか?」

 

「……………」

 

紅牙に散々な言われ様をされたヴァーリだが…

 

「……そうだな。こんな程度で我を忘れるとは…俺らしくもない。奴は確かに憎いが…それとこれとは話が別だったな…」

 

不思議と笑っていた。

 

「俺は俺の手で必ずグレートレッドを倒す。あのような奴と夢が同じなどと言わせるものか…!」

 

その眼には闘志が再び宿っていた。

 

「それでこそだ」

 

紅牙もそれを受けて不敵に笑みを浮かべていた。

 

「(あれって…絶対に励ましてるよな?)」

 

イッセーは紅牙とヴァーリのやり取りを見てそう思ったとか…。

 

 

 

その後、吸血鬼の領土で起きたテロは一先ずの収束を見せた。

今後、吸血鬼達がどのような変化を見せるかはわからないが、とにかくこれで事件は一段落した。

 

だが、新たな問題も浮上した。

新生禍の団『クリフォト』の今後の動向、レプリカの赤龍帝の籠手、奪われたままの聖杯、次元戦争の開戦…。

これらの問題はいずれ少しずつ片付けなくてはならない。

 

しかし、吸血鬼達の領土でテロが起きていたのと時を同じくして…日本でも死闘が行われていた。



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第七十七話『"忍"の死闘』

イッセー達がルーマニアに発ってから二日が過ぎようとしていた今日この頃。

日本の駒王町では…

 

「ふぅ…教師というのも大変ですね」

 

アザゼルとロスヴァイセがルーマニアに向かっている間の穴を埋めるように雲雀が奮闘していた。

 

「(というよりも…最近、本来の目的を果たせてないように思えてならないのですが…)」

 

本来の目的。

それは忍の監視である。

しかし、肝心の忍は留学と称して別次元の学園に行ってしまっている。

何のために大学部ではなく、教師になったのか…それを考えると雲雀は珍しくため息を吐いてしまう思いだった。

 

「(……いけませんね。この程度で疲労を表に出すだなんて…気を引き締めないと…)」

 

ちょっとした事でも自分を律し、常に気を張り詰めている。

それが紅崎 雲雀という女性なのだろう。

 

………

……

 

その日の深夜。

 

皆が寝静まった頃…。

部屋からこっそりと抜け出す人陰があった。

 

「…………」

 

夜琉である。

 

「(アレが本当に義兄さんなのか…あたしには確かめる義務があるもんね)」

 

忍から見せてもらった牙狼の映像。

それが信じられず、人知れずここから離れて牙狼を捜し出す…という目的のために今日を選んだ。

 

「(皆さん、勝手に出ていってごめんなさい。でも、こればかりは譲れないの)」

 

幸いにして夜琉には隠密の心得もあり、明幸邸を抜け出すのは比較的容易であった。

 

「(あとは、義兄さんをどうやって捜すかだけど…)」

 

忍程の嗅覚もなく、探知系魔法もあまり得意ではない夜琉にとってはこれからが問題であった。

 

「(う~ん…一先ず、この町を覆ってる結界から出てみますか)」

 

そう思い、まずは駒王町内から出ることにした夜琉は夜の町中を家の屋根を走って跳んでという具合に駆け抜けていた。

 

「(結界から出れば、向こうもあたしを見つけやすくなると思うし…)」

 

そう考えている内に駒王町に張られた結界に迫る。

 

「…すぅ…ふぅ…(結界通過の術)」

 

そして、独特の呼吸法を用いて結界と自らの覆う生体オーラを同調させ、そこから抜け出す。

 

「(あとは…)」

 

わざと魔力を垂れ流す。

これで牙狼は夜琉のことを見つけやすいだろうという魂胆である。

 

「(でも、もしものことがあるし…あんまり人はいない方が良いよね)」

 

そう考えた後、人気の無い場所まで急いで駆け出す。

 

 

 

そして…

 

「ここなら大丈夫かな?」

 

周囲に人の気配が無く、仮に被害が出ても大丈夫そうな緑が生い茂る山奥へと到着していた。

 

「本当に…この世界は平和なんだな…」

 

ここまで駆けてくる間に垣間見たこの世界の日本という国の状況。

裏の事情など何も知らず、表の人間は自由に生きている。

そこには少しの(いさか)いはあっても、大きな戦いを知らない人達が多かったと、夜琉はそんな印象を受けていた。

 

「この世界の"神"は……この場合、"神達"か。表の人間にはその存在を神話や信仰程度でしか認識されてないんだな…」

 

月夜の空を見上げながら夜琉はそう呟く。

 

「……………………」

 

そして、こちらに近付いてくる気配を察し、気を引き締める。

 

ザッ…ザッ…ザッ…

 

一歩一歩近づいてくる足音を鳴らす存在からは圧倒的な殺意が夜琉に向けられていた。

 

「(なんて、憎しみに満ちた殺意なんだろう…これが本当に…あの優しかった義兄さんなの…?)」

 

そう思い、夜琉は足音のする方に顔を向けた。

 

そこには…

 

「夜琉…」

 

既にオルタをその身に纏い、背中に漆黒の翼を生やした漆黒の鎧に、右腕が異形の腕へと再生した姿を取る牙狼が立っていた。

その眼はもはや優しかった義兄の眼ではなく、憎悪と殺意に彩られていた。

 

「義兄、さん…」

 

その姿を改めて間近で見て夜琉は悲しそうな表情をする。

 

「……………」

 

そんな夜琉の表情を見ても、表情を一切変えずに冷たい殺意を向けていた。

 

「なんでなの…? どうして、そんな風になっちゃったの…?」

 

今にも泣きそうな感情を押し殺して夜琉は牙狼に問う。

 

「今から死ぬ貴様が知る必要のないことだ」

 

牙狼から漏れた言葉も冷たかった。

 

「どうしてよ!? なんであたしが義兄さんに殺されなきゃならないの!? それに義姉さんや他の皆は!?」

 

それを聞いた瞬間…

 

ズゥン…!!

 

「っ!?」

 

周囲の空気が殺気によってさらに重苦しくなるような感覚に陥る。

 

「他の皆? それは"俺と桐葉を裏切った人間共"のことか…?」

 

「う、裏切った…? なに…どういうこと!?」

 

一体、あれから何が起きたのかわからず、夜琉は牙狼に再度問う。

 

「奴等は"神の御言葉"とやらに踊らされ、俺と桐葉を裏切ったのだ。俺の右腕を奪ったのも奴等だ…!!!」

 

それを聞き…

 

「そ、そんな…う、嘘だよ! だって皆、あれだけ一緒に頑張ってきたのに…」

 

夜琉は信じられないという表情をする。

 

「所詮、貴様も奴等の本性を見抜けなかったに過ぎない」

 

そう言いながら、牙狼は夜琉に近付いていく。

 

「じゃ、じゃあ、義姉さんは!? 義姉さんはどうしたのさ!!?」

 

お互いに信頼し、愛し合ってた桐葉はどうなったのか、夜琉は気になった。

 

「桐葉は死んだ。俺を庇ったばかりに…そして、俺の手の中で…」

 

桐葉の話題になった途端、牙狼の殺意が増していき、憎悪が膨れ上がる。

 

「っ…!!?」

 

最初は嫌っていたが、今では本当の姉妹以上の仲を築いていた女性の死に夜琉も動揺する。

 

「そして、その亡骸は…この"人造魔導兵器"…オルタを生み出すための贄に使った」

 

「なっ…!?」

 

それを聞き、夜琉は牙狼に対して怒りを覚えた。

 

「そんなこと、義姉さんが望むはずないよ!! それに人造魔導兵器ってなによ?! そのために義姉さんの亡骸を使うとか……そんなのただの外道じゃない!!!」

 

そんな夜琉の怒声に牙狼は…

 

「外道か…。言い得て妙だな。だからこそ、俺は"この力を以ってして全ての生命を葬り去った"のだからな」

 

「なによ、それ…?」

 

牙狼の言ってる意味がわからず、夜琉は牙狼を睨みつける。

 

「言葉通りの意味だ。あの世界に未練などない。"神"を殺した後は俺と桐葉を裏切った人間共への…"あの世界"への復讐を開始したからな。生きとし生けるモノは全て、この黒焔にて葬ってきた。人間も、動物も、植物も…」

 

そう言って牙狼は右腕に黒焔を宿らせていた。

 

「女子供も関係ない。一般人など知ったことか。俺は全ての存在に対して復讐を遂げた。そして…あの世界の唯一の生き残りであるのは夜琉…貴様と俺のみだ。あとは貴様を葬るだけで俺のあの世界に対する復讐は終わる」

 

「…!!!!」

 

その言葉に、夜琉は我慢の限界を迎えた。

 

「ふざけんなあああああっ!!!!!」

 

牙狼が近付いていたこともあり、ほぼノーモーションからの拳が牙狼の顔面に向かい…

 

ズッガッ!!!

 

完全に捉えていた。

 

「アンタなんかもう義兄さんじゃない!! 怨念に憑りつかれた復讐の鬼だ!! そんな奴が…あたしや義姉さんが好きだった義兄さんであるもんか!!!!」

 

泣き叫ぶというのに近い絶叫で夜琉が言葉を紡ぎ、拳に力を込めて牙狼を吹き飛ばそうとするが…

 

「…………この程度か?」

 

まるで拍子抜けという具合で夜琉を見下ろしていた。

 

「なっ!?」

 

いくら怒りに任せていたとは言え、今の一撃をまるで蚊に刺された程度にしか感じていないような牙狼の反応に夜琉は戦慄する。

 

「俺は人間共の駆逐に数年を費やしてきた。だが、こっちではそれほど時間が経ってないようだな」

 

そう言って牙狼は夜琉の腹を思いっきり蹴る。

 

ゴスッ!!

 

「ぐふっ!?」

 

ただの蹴りでさえ夜琉の体を軽く吹き飛ばす威力を持つ。

 

バキバキッ!!

 

「がっ!?」

 

木に背中から衝突し、一瞬だけ呼吸が出来なくなるが、すぐに立ち上がろうとする。

 

「……お前の実力はこの程度のものだったか…」

 

どこかガッカリするような言い方だった。

そんな今の牙狼から感じる圧倒的なプレッシャーを前に夜琉は…

 

「それでも…!!!」

 

ゴオォッ!!

 

夜琉の持つ四つの力が一つに纏まり、凝縮されたオーラと化して夜琉の体中から噴き出し、特に背中と肩から噴き出すオーラによって上着が弾け飛ぶ。

 

「『瞬煌(しゅんこう)』ッ!!」

 

夜琉が最も得意とする烈神拳の奥義の一つである。

 

『瞬煌』

烈神拳の奥義の中でも四つの力(魔・気・霊・妖)を持つ者にしか扱えない技の一つとされている。

己の持つ四つの力を一つに纏めることで濃密なオーラを作り出し、それを体中から噴き出して身体能力を飛躍的に向上させる技である。

身体に影響を及ぼす気と妖をベースに攻撃を魔、防御を霊で補強したような感じであり、それぞれの特性を活かした構成の技となっている。

また、この状態のままでも他の烈神拳の技を放って威力を底上げすることも可能で、常に四つの力を纏っている状態なので燃費も見た目ほど悪くない。

さらに打撃のインパクト時に背中から噴き出すオーラを炸裂させて両手足に送り込むことで更なる破壊力を得たり、防御時には相手の術式攻撃の威力を軽減、もしくは使い手によっては相殺することにも使える。

 

それを見て牙狼は…

 

「瞬煌か。お前の得意な技だったな…」

 

夜琉と戦っていた頃の記憶を思い出すようにそう漏らしていた。

 

「うるさい!! お前が義兄さんの記憶を語るな!!」

 

激情のまま叫ぶ夜琉に更なる変化が訪れる。

 

ぴょこっ!

 

夜琉の頭から黒いネコ科系の耳、臀部から同じく黒いネコ科系の細くて長い尻尾が現れる。

 

「『黒豹解禁(くろひょうかいきん)』ッ!!」

 

忍の真狼解禁のような解放技を使い、自らの身体能力をさらに上げる。

 

「なるほど。速度で俺を上回るつもりか…」

 

夜琉の意図を理解し、牙狼は瞑目する。

 

「その余裕…! 崩してみせる!!」

 

ブンッ!!!

 

その場から一瞬にして消え去る夜琉。

 

バババババンッ!!!

 

それと同時に牙狼の周囲から空気が爆ぜるような音が響き渡る。

瞬煌の炸裂動作を利用し、黒豹解禁の速度をさらに上げると同時に炸裂音で自らのいる場所の特定を困難にしているのだ。

 

「速度は申し分ない。場所の特定も炸裂音で阻害されている。良い手ではあるが…」

 

牙狼の足元から黒いライン状の魔力…『闇の波動』が四方に伸びる。

 

「俺には無駄と知れ」

 

そう言うと同時に闇の波動が蜘蛛の巣状に広がる。

 

「『黒邪の巣(こくじゃのす)』」

 

闇の波動によって練られたそれは夜琉の体を吸引するかの如く引き寄せる。

 

「っ!?」

 

体が引っ張られる感覚に抗うため、夜琉は足を止めてしまう。

 

「そこか」

 

足が止まった夜琉に対して牙狼は歩いて近付くと…

 

「邪神拳奥義」

 

そう言い、夜琉の腹部に左拳をそっと押し付けると…

 

「っ!?」

 

「『獄死の蝶(ごくしのちょう)』」

 

ゴオォッ!!

 

深淵の魔力と邪なる気で練られた一撃が夜琉の腹部を突き抜ける。

 

「がっ!?」

 

瞬煌を纏っていながらもそれを貫くほどの威力に夜琉は数歩後退り…

 

「な、なに、これ…お腹が…熱い…?!」

 

自身の腹部に異常を感じていた。

 

「その技を受けた者は皆一様に死を遂げてきた。腹部を見るがいい」

 

「?」

 

牙狼の言葉に従い、服を破って腹部を見ると、そこには…

 

「蝶の…痣…?」

 

黒い蝶の痣が刻まれていた。

 

「そうだ。その蝶が貴様の額まで達した時、お前は確実に死ぬ」

 

そう言うと黒い蝶の痣が淡く輝き、ひらひらと腹部から少し上へと移動して停止する。

 

「っ!?」

 

「もはや俺は手を下すまでもなく、お前の死は時間の問題となった。じわじわと苦しみながら死ぬがいい…!」

 

牙狼の言葉に…

 

「い、嫌だ…! こ、こんな…こんなことくらいで…!!」

 

夜琉は気丈にもそう言うが、その言動は明らかに動揺していた。

 

「どう足掻こうとも無駄だ。貴様が死ぬ運命に変わりはない」

 

無慈悲にもそう言い放つ牙狼。

 

と、その時…。

 

「エクスプロージョン・バイト」

 

何らかの牙状に練られた紅蓮の魔力の塊が牙狼に向かった飛来する。

 

「?」

 

それを牙狼は異形の右腕で受け止める。

 

ゴガアァァァッ!!!

 

しかし、受け止めた瞬間、牙状の魔力は紅蓮の焔を撒き散らし、牙狼を巻き込みながら爆発する。

 

「これは…!?」

 

それを見て夜琉は魔力が飛来してきた方角を見る。

そこには…

 

「まったく…残業を片付けて帰る途中だったというのに…まさか、このような場面に遭遇するとは思いませんでした」

 

緋色のスーツ姿の雲雀が歩いてきていた。

 

「あ、あなたは…確か…」

 

明幸邸で見た…というか保護された翌日に顔合わせしたはずだが、夜琉はパッとは思い出せないようだった。

やたらと女性が多かった印象も大きかったし…。

 

「紅崎 雲雀。あの屋敷に厄介になっている、駒王学園の教員です。そして、紅神 忍の監視者でもあります」

 

雲雀はそんな夜琉の反応を読み、簡潔に言い放つ。

 

「そ、その雲雀さんが…なんで、こんなとこに…?」

 

確かに誰にも気づかれずに出てきたはずなのに、と夜琉は考えていた。

 

「はぁ…先も言いましたが、残業で帰ってくる時間が遅くなったのです。そんな折、屋敷から出る人影を見つけまして、後をつけてきたのです。山に入ってから見失ってしまいましたが、妙な魔力のざわめきを感じたので、こうしてやって来たわけですが…」

 

雲雀は夜琉にそう説明しながら爆発地点と夜琉を交互に見る。

 

「あまり状況は芳しくないようですね」

 

スーツのネクタイを緩めながら臨戦態勢に移行する。

 

「邪魔が入ったか…」

 

紅蓮の焔の中から黒焔が噴き出し、紅蓮の焔を打ち消してから牙狼が姿を現す。

 

「だが、夜琉に刻まれた死の刻印はもう止められない」

 

「っ!」

 

その事実に夜琉もどうしたらいいのかわからなかったが…

 

「それはどうでしょうか?」

 

牙狼の言葉に雲雀が異議を唱える。

 

「なに…?」

 

その異議に牙狼は眉を一瞬だけ顰める。

 

「どのような技や術でもそれを行った術者を倒す、もしくは殺害すればその技や術は効力を失う可能性が高い。少なくとも私はそう考えています」

 

「ほぉ…?」

 

雲雀の言葉に牙狼も面白そうに反応する。

 

「倒すか殺すって…そんなの…!」

 

技を掛けられたにも関わらず夜琉は雲雀の極論に耳を疑った。

 

「それ以外に方法がないのも事実だと知りなさい」

 

「くっ…!」

 

雲雀の厳しい言葉が夜琉を射抜く。

 

「ククク…ならば貴様は俺を殺せると本気で思ってるのか?」

 

牙狼は可笑しそうに雲雀に問う。

 

「えぇ。私は情になど流されませんので…第一、あなたがどこの誰だろうと私には関係ありませんし、あなたの身の上など大して興味もありません。憎悪に塗れた殺意を持ち、"強さ"の意味をはき違えているような輩を私は許容したくないだけです」

 

その冷徹にして淡々とした雲雀の言葉に…

 

「……ふんっ、下らんな…」

 

牙狼は雲雀に殺意を向ける。

 

「…………」

 

「だが、確かに殺す相手の事情など知る必要はないな」

 

その部分だけは同意したように言う牙狼。

 

「冥王の前にひれ伏しなさい」

 

その言葉を呟いた瞬間、雲雀は静かに紅蓮冥王としての姿(4対8枚の紅蓮の翼に炎髪灼眼)を顕現させる。

 

「冥王…?」

 

「あなたが知る必要はありません。私が紅蓮の焔を以って葬って差し上げます」

 

「なら俺は苦しむ夜琉を見ながら邪魔立てする貴様を憎悪の黒焔で葬るのみ」

 

両者の足元からそれぞれ紅蓮と漆黒の焔が立ち昇る。

結界もないのにそんな大それた焔を出すことに躊躇が全く無い雲雀と牙狼。

幸いなのが今が深夜でこんな山奥に人がいないことだろうか…?

いや、幸いも何も山火事になったら大事である。

 

「エクスプロージョン」

 

そんな事などお構いなしに雲雀が先制魔法(炎熱系)をぶっ放す。

 

ゴアアアッ!!

 

魔法の直撃後、それは爆発するが…

 

「この程度の火力…どうということはない」

 

その魔法を受けても牙狼には余裕があった。

 

「ならば…」

 

雲雀は霊力を収束していき…

 

「スピリチュアル・バスター」

 

砲撃として牙狼に撃ち込む。

 

「霊力の、砲撃…?」

 

その砲撃に使われた力に夜琉が驚く。

 

「何をしようが、無駄だ」

 

黒焔を纏った異形の右腕で雲雀の砲撃を受け止める。

 

が…

 

ゴアアアッ!!

 

砲撃は着弾と共に爆発し、周囲に霊力の粒子が舞い散る。

 

「これは…?」

 

夜琉がこの現象に目を丸くする。

心なしか、牙狼の黒焔の出力が弱くなっていく気がする。

 

「オルタ」

 

『原因はこの散布された霊力にあるかと…』

 

牙狼の質問に鎧状態のオルタはそう答える。

 

「ふんっ…小賢しい真似を…」

 

そう呟くと牙狼は左手で漆黒の刀を逆手で抜刀するが…

 

「いない?」

 

目の前に雲雀の姿はなく…

 

「ナチュラルオーラ・バスター」

 

代わりに背後から雲雀が気を収束した砲撃を放っていた。

 

「その程度で…」

 

振り向き様に砲撃を真っ向から斬り裂いていた。

 

チュドォォンッ!!

 

真っ二つにされた砲撃は牙狼の背後で爆発する。

 

「よほど爆発が好きだと見える」

 

そう言う牙狼の周りには気の粒子が舞う。

 

「む…?」

 

今度は自らの動きが重く感じていた。

 

「これもさっきの爆発のせいか…」

 

そう考えたところで…

 

「マテリアルオーラ・バスター」

 

三度目の砲撃が向かってくる。

 

「オルタ」

 

『はい、マスター』

 

着弾して爆発し、何らかの効力を発揮する…という雲雀の戦術に気付き、砲撃を受けるでもなく斬るでもなく"吸収"することを選択する牙狼はオルタに命じて闇の波動を砲撃面に対して網目状に張る。

 

「無駄です」

 

パチンッ!

 

雲雀が指を鳴らすと…

 

チュドォォンッ!!

 

網目状の闇の波動の目の前で砲撃が爆発する。

 

「……………」

 

今度はどのような効力か見定めていると…

 

「エクスプロード・ブラスター」

 

雲雀は間髪入れずに魔力砲撃を撃ち込む。

 

ゴオォォッ!!!

 

着弾すると共に爆発したその威力は先のエクスプロージョンの比ではなかった。

 

夜琉の側にひらりと着地した雲雀は…

 

「私の冥王スキル『エクスプロージョン・ブラスト』は龍気以外の力を砲撃へと昇華させ、様々な効力を与えます。それは着弾後の爆発とて例外ではありません」

 

何が起きたのかまるでわかってないだろう夜琉にそのような説明をしていた。

 

つまり、雲雀は気で動きを鈍らせ、霊で異能を鈍らせ、妖で魔の威力を上げる。

そういう具合の効力を持たせた砲撃を撃って爆発させることで効力の及ぶ範囲を広げていたのだ。

 

「まぁ、これだけで終われば楽なのですが…」

 

そう言って夜琉の様子を見ると…

 

「痣は…まだある…」

 

牙狼に刻まれた蝶の痣は胸の辺りまで昇っていた。

 

「でしょうね」

 

先程の爆発源から発せられる殺気に雲雀は気付いていた。

 

ブンッ!!

 

爆風が一刀両断され、その中より牙狼が姿を現す。

 

「小娘の分際で舐めた真似を…」

 

髪が多少焦げた程度で、ほとんどダメージが通っていないようだった。

 

「些か火力不足でしたか」

 

「(あれで火力不足とか言っちゃうの?!)」

 

雲雀の発言に夜琉は別の意味で心配になってきていた。

 

「人間界への影響も考えての火力調整でしたが、それでは話にならなかったようですね」

 

牙狼と本気でやり合うなら火力や地形などを二の次にしなくてはならないと雲雀は認識していた。

 

「訳の分からんことをごちゃごちゃと…」

 

「冥界ならいざ知らず、人間界はやはり不便ですね」

 

そう言って雲雀は…

 

「『四力刀(しりょくとう)』」

 

妖力をベースに気で柄、霊で刀身、魔で刃を形成した一振りの刀を生み出していた。

 

「元々、私は砲撃戦よりも近接戦の方が好みなので」

 

そう言うと、雲雀は一気に牙狼へと肉薄する。

 

ギィンッ!!

 

雲雀の一撃を牙狼は簡単に左手の刀で受け止める。

 

「近接戦で俺に勝てるとでも?」

 

「勝てる勝てないの話ではありません。勝つ、ただそれだけです」

 

「勝つだと? 随分な大口を叩く女だな」

 

鍔迫り合いをしながら2人は言葉を交わす。

 

「紅蓮冥王を名乗る者として、勝利を手に出来なくてはならないので」

 

「下らん…」

 

「なんですって…?」

 

雲雀の言葉を牙狼は嘲笑する。

 

「下らんと言った。紅蓮冥王だか何だか知らないが、所詮は雑魚の言い訳に過ぎない。そんなことでしか自分を正当化出来ない弱者の思考だ」

 

そんな牙狼の言葉に…

 

「(ギリッ)」

 

雲雀にしては珍しく歯を軋らせ、怒髪天を衝くような、そんな形相で牙狼を睨んでいた。

 

「冥王を…私を舐めるなッ!!!」

 

四力刀を左手にも作り出すと、それで牙狼の首を取りに行く。

 

ギンッ!!

 

しかし、牙狼の首を守るように闇の波動が鎧から生み出され、その四力刀を防ぐ。

 

「事実を言われて怒ったか? さっきまでの余裕はどうした?」

 

牙狼はむしろ煽るように雲雀を挑発する。

 

「黙りなさい! 戦いの最中にそのような軽い言葉で語るなど…戦士として恥ずべき行為だと知りなさい!!」

 

冥王としてのプライドを傷つけられたせいか、いつもの冷静さを見失っているかもしれない。

 

これは…仕方ないのかもしれない。

いくら父親似であろうと、どれだけ冷静さを持っていようと、紅蓮冥王の跡目として周りからどれだけの重圧に晒されていようと、どれだけ冷徹な自分であろうとしていても…。

彼女とて…まだ、19歳の女性なのだから…。

 

「その言葉、そのままそっくり貴様に返してやろう。貴様も少々お喋りが過ぎるだろう?」

 

その牙狼の言葉を聞き…

 

「ッ!!!」

 

紅蓮の焔が四力刀を中心に逆巻き始める。

 

「『紅蓮斬(ぐれんざん)煌翼の太刀(こうよくのたち)』ッ!!!」

 

逆巻く焔が収束していき、紅蓮の翼のような太刀に変貌すると、それを振るって牙狼を仕留めようとする。

 

が…

 

「つまらん」

 

刀を地面に突き刺し、闇の波動を左手に手鏡くらいのサイズで収束する。

 

「自分の技で朽ち果てろ。『暗闇鏡(くらやみきょう)』」

 

パッとそれを大きく広げると、暗闇の鏡のように雲雀の姿を映し出して同じような技を繰り出す影を作り出す。

 

その時の自分の表情を見て…

 

「(ッ!? なんて、感情的で…醜い姿なの……)」

 

技を放ってる最中だと言うのに、不覚にもそのような思考が頭を過ぎる。

そのせいか、紅蓮の焔の出力が少し落ちる。

しかし、影の焔の出力は落ちていない…このままいけば確実に雲雀本人の方が大きなダメージを負うことになる。

 

「雲雀さん!?」

 

蝶の痣が肩甲骨くらいにまで上がった夜琉の叫びも虚しく響き渡り、雲雀の件が交差する…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その時…。

 

『モード・斬艦刀』

 

ゴオォッ!!

ザッ!!

ガキィィンッ!!!

 

巨大な刀身を持つ刀が雲雀と影の間に割り込み、その攻撃を防いでいた。

そして、次の瞬間には周囲一帯を強固な結界が張り巡らされる。

 

「匂いを辿って来てみれば…何をしてるんですか」

 

その声の主は、その場に近付きながら雲雀に対して怒っているように思えた。

 

「邪魔立ては無用! あいつは私が確実に燃やし尽くして…!!」

 

今の雲雀には何を言っても無駄かもしれない。

ならば…

 

パァンッ!!!

 

「っ!?!」

 

()たれた頬を押さえ、目を見開く雲雀。

 

「この場合、俺だって謝りたいです。女性に手を挙げるなんて本当はしたくない。でも、今のあなたにはこうでもしないと話すら聞いてもらえなさそうだったので」

 

雲雀の前までやってきた声の主…忍はそう言って雲雀を見据える。

 

「雲雀さん。何があって、どんなことを言われたのか知りませんが…あなたらしくないです。あんな感情に任せる戦い方…とてもいつもクールな人の戦い方だとは思えません。別に感情を殺せとまでは言いません。ですが、あんな冷静さを失ったあなたは…見るに堪えませんでした」

 

そう言って雲雀に背を向ける忍は…

 

「でも…雲雀さんもまだまだ"女の子"なんですね。意外というか、新たな一面を知れてよかったです」

 

最後にそう漏らしていた。

 

そして…

 

ギッ…ズズ…ガシャン

 

魔力鋼糸で牙狼との間にファルゼンを回収すると…

 

「邪神 牙狼……いや、紅 忍」

 

「紅神 忍…」

 

牙狼の前に忍が立ち塞がり、互いの名前を呟く。

 

「雑魚との話は終わったのか?」

 

「雲雀さんは雑魚なんかじゃない」

 

「同じだよ。俺からしたら貴様も、そこの小娘も…」

 

世界への復讐に身を捧げてきた牙狼からしたらどちらも格下なのだろう。

 

「だからと言って夜琉を狙う理由にはならない」

 

しかし、忍は毅然とした態度で牙狼の前に立つ。

その迷いなき眼差しを見て牙狼は…

 

「やはり、貴様も見たか…」

 

「それはお互い様だろ」

 

それが何を指すのか、忍と牙狼はわかっていた。

 

「並行世界の自分というのも厄介なものだ」

 

「同じ並行世界に同じ人間は2人も存在してはならない、ということだろう」

 

互いの記憶が夢という形で表れた…。

それが意味することは…

 

「それが世界の定めなら…俺は世界を壊すのみ」

 

憎悪の黒焔が牙狼の右腕から噴き出す。

 

「俺の答えは違う。お前やオルタ、夜琉に居場所が無いと言うのなら…俺が新たな居場所を作ってやる」

 

対して忍の体中からは大量の霊力が噴き出す。

 

「甘い…甘い甘い甘い甘い甘い甘い!! 所詮この世は偽りだらけ!! その偽りを破壊してこそ、"俺"という存在は維持されると知れ!!!」

 

「偽りだけじゃない! 確かに人は弱く脆い。だが、その中に真実がある事を人は知っている! お前にだってあったはずだ! 桐葉さんと、その"お腹にいた新たな生命"が…!!!」

 

牙狼と忍の舌戦が続く中…

 

「ぇ…?」

 

忍の発した言葉に夜琉は何故か涙を流していた。

 

「黙れ!! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇッ!!!」

 

牙狼の狂気が一気に膨れ上がる。

 

「貴様に何がわかる!!? 愛する者を目の前で亡くし、生まれるはずであった命が俺の手の中で…大切なものが二つとも消えたあの苦しみ!!! 愛する者とのうのうと生きてきた貴様にはわかるまいッ!!!」

 

「あぁ、確かにわからない。もしそうなったら俺もアンタみたいになるかもしれない。だが、だからと言って全てを怨んでも、最後には何が残る? 虚しさだけじゃないのか?」

 

牙狼の記憶を夢として見てきた忍はそう言い放つ。

 

「知ったような口を利くなッ!!」

 

同じく忍の記憶を夢として見てきた牙狼は一蹴する。

 

「なら、仮に夜琉を殺した後…お前には何が残るんだ!? 世界への怨みだけでは何も生み出せやしない!!」

 

「貴様とのこれ以上の問答に意味などない!! あるのは貴様と俺。どちらかが死に、どちらかが生き残る。ただ、それだけだと知れ!!!」

 

そう言うと、牙狼は地面に刺した刀を抜いて忍に斬り掛かる。

 

ガキィィンッ!!!

 

「それしか本当に道はないのか!!?」

 

それを斬艦刀状態のファルゼンで防ぎながら忍は牙狼との対話を続けようとする。

 

(くど)い!! 貴様の戯言になど聞く耳持たんッ!!!」

 

そう言うと牙狼は刀の刀身に闇の波動を収束させていき、ファルゼンの斬艦刀に似せた巨大な漆黒の刀身を形成する。

 

「斬艦刀と同規模の刀!?」

 

「貴様と同じ土俵で戦ってやるんだ、感謝するがいい!!」

 

ギィィィンッ!!!

ズザアァァッ!!!

 

力任せに弾かれ、忍は地面を滑りながら後退してしまう。

 

「くっ!」

 

「大振りであまり気に入らんが…まぁいい。これはこれで大量虐殺に使えそうだしな」

 

「ッ!!!」

 

それを聞き、忍からの殺気が増す。

 

「殺気が増したな。そうだ、それでこそ殺し甲斐がある!!」

 

忍の殺気を受けて牙狼は狂気の色を濃くする。

 

「っ…(落ち着け、あいつのペースに乗せられてどうする…俺は、俺の出来うることをするまでだ)」

 

そう考えなおし、チラリと夜琉の方を見る。

 

「…義兄さんと義姉さんの子供……そんな、そんなのって…」

 

忍が言い、牙狼が肯定した事実に夜琉は涙を流すばかりであった。

黒き蝶の痣は首筋にまで達しているのに…。

 

「(時間はもうそれほど残っていないか…)」

 

それを悟り、忍は覚悟を決めることにした。

 

「(まだ…"一度も試したことはない"。しかし、短期間で決着を着けないとならない上に、相手は俺よりも遥かに格上の強敵だ。しかもいつか辿るかもしれない未来の俺自身と言っても過言じゃない存在…そんな相手と既に記憶も交差し始めている。きっと"普通の方法"じゃ届かない。なら、答えは一つしかないよな)」

 

忍は斬艦刀を自らの横に突き立てる。

 

「むっ?」

 

その様子の牙狼は訝しむ。

 

「(たとえ、どのような反動、もしくは後遺症が出ても…今この時、この瞬間に全力を出さなくてどうする? 俺は後悔しないと決めたじゃないか。全てを守ることはしない。だが、俺の手の届く範囲で救える命は救ってみせると…それが、目の前にいる怨みに憑りつかれた"自分"であっても…)」

 

忍の価値観でよほどの腐った敵でない限りは、その者も助けたいという考え…。

それは決して賢い選択とは言えない。

むしろ危険な思想と言ってもいいぐらいである。

だが、忍はその考えを改めないだろう。

たとえ、今が敵であったとしても相容れない存在以外となら分かり合える日が必ず来ると信じて…。

 

「戦意喪失か? 俺との力量に怖気づいたか?」

 

忍の行動をそう受け取ったのか、牙狼はつまらなさそうに言い放つ。

 

「そうじゃない。俺は、俺の"限界を超える"つもりだ」

 

先程までの殺気が嘘のように消え、落ち着いた雰囲気を見せる忍。

 

「…………(何をするつもりだ?)」

 

その落ち着き様に牙狼は警戒を強める。

 

「まだ、全てを把握した訳じゃない。未だわからないことも多いこの身に巣食う我が力達よ」

 

忍は己の中に存在する深層世界をイメージしていき…

 

「古の神を喰ろうた狼の始祖よ、紅蓮の覇者たる冥王よ、氷獄を統べる蒼き冥王よ、未だ静観を続ける吸血鬼よ、異世界の龍達よ。今この時、この瞬間だけでもいい。"一つ"となりて…俺に力を貸してくれ」

 

その境界線を自らの手で破壊し、一つの世界へと形成していく。

だが…

 

ズキッ!!!

 

「ぐぅぅ…!!?」

 

異なる力同士を統合する、というのはかなりの負荷を宿主に与える。

互いが互いの力を押し付け合い、反発し合い、拒絶し合い、溶け合うことなどない…。

 

「力が乱れているな。所詮は突拍子もない賭けだったか。それも負け博打…」

 

それを見て牙狼はそう判断していた。

 

「(やはり、無理なのか…? 全ての力を一つに束ねることは…!?)」

 

忍の姿が真狼、紅蓮冥王、蒼雪冥王、吸血鬼、龍騎士の五つの姿に次々と不規則に変わり続けながらブレ始めていき、見るからに安定してない様子であった。

 

「無理です…異なる力を統合するなんて…ましてやあなたの中にはいくつのモノが宿っているのか、忘れたのですか?」

 

忍に打たれてから少し放心状態だった雲雀は忍の様子を見て冷静に言葉を発する。

 

ヒラヒラ…

 

そうこうしてる間にも蝶の痣は夜琉の顎に達する。

 

「(時間が無いんだ! 頼む! 五気だって一つに出来たんだ! 解放形態だって…きっと一つになれる! 俺達"混血"だからこそ出来ることもあるはずなんだ! だから、俺は限界を超えてみせる!!!)」

 

忍は五気を最大限まで高めて一つに束ねる。

 

「限界を、超えろぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

そして、想いの限り叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇跡は起きた。

 

ゴオオオオオオッ!!!!

 

高まった五気が虹色に彩られた白銀へと光り輝き、光の柱となって天高くまで伸びる。

 

「なに…?」

 

「これは…!?」

 

「綺麗…」

 

牙狼は何が起きたのかわからず、雲雀は目を見開いて驚き、夜琉は見たままの感想をそれぞれ口にしていた。

 

………

……

 

光の柱の中では…

 

「(俺は…限界を、超えたのか…?)」

 

どこかおぼろげな感覚に意識を支配されながらも忍は自分の体の感覚を取り戻そうとする。

 

すると…

 

『ククク…(まこと)、面白い小童じゃ』

 

忍の目の前に真紅のドレスを身に纏った銀髪紅眼の妖艶な女性が姿を現す。

 

「アンタは、確か…」

 

『会うのは二回目だったかの? (わらわ)はお主の中にいる"吸血鬼"じゃよ』

 

「吸血鬼!?」

 

『うむ。苦しゅうないぞ』

 

どこか古めかしく高圧的というか高貴な態度で吸血鬼は忍の前に、いつの間にやら用意された椅子に座る。

 

『では、時間も限られとるし、手短に話すとしようかの』

 

「なにを…?」

 

『単刀直入に言うとじゃ。お主は限界を突破した。五つの力を一つに束ねることに成功した』

 

「っ!? だ、だったら何故こんな状態に…?」

 

『そう急くでない。成功はしたが、お主の深層世界は無茶したせいかボロボロになってしまっての。こうして妾達はお主の体に憑依してるような感じなんじゃよ』

 

「え…?」

 

『何も不思議なことではない。お主は無意識の内にそうやって力を解放し、使ってきたのだからの。だから安心せぃ』

 

吸血鬼が語る新事実に忍は少し頭が追いつけていなかった。

 

「しかし、問題はここからじゃ。今までいた深層世界はお主の無茶でボロボロ…解放形態を居座らせるには少々…いや、結構な無理がある。そこでじゃ、この戦いに勝利した暁には妾達に新たな居場所を作ってほしいのじゃ」

 

「新たな、居場所?」

 

「うむ。あの深層世界ではもう力を持たない状態でのお主しか許容できないじゃろう。だから深層世界とは別に解放形態の力や能力を封じて保管する"何か"をお主に用意してほしいんじゃよ」

 

「そんな急に言われても…」

 

『難しく考えるでない。所詮は妾達がお主の元にいるための道具が必要となっただけじゃわい。今後、どのようなことが起こるかわからぬでの。出来るだけ小さく携帯出来るモノがいいじゃろうて…』

 

「(そんな都合のいいものなんてあったかな?)」

 

吸血鬼の言葉に忍は考え込んでしまう。

 

『ほれ、話は終わりじゃ。とっとともう1人の自分とやらと決着を着けてこい』

 

それを最後に吸血鬼の姿は消え、光の柱も罅が入り始める。

 

………

……

 

そんな刹那の刻を過ごしてから数瞬の後…

 

ビキビキ…!!!

ズゴゴゴゴゴゴ…!!!

 

光の柱が崩れ去っていく。

 

そして、そこから現れたのは…

 

バサァ!!

 

背中から生える4対8枚の翼は、右側は紅蓮、左側は瑠璃色という色合いを見せ…

 

ぴょこんっ!

 

髪は黒の混ざった白銀色で、その頭と臀部からは髪と同色の毛並みを持つ狼の耳と尻尾が生え…

 

ガシャンッ!!

 

体は白銀の龍鱗を模した薄く洗練された兜の無い龍を連想させるような鎧(胸部アーマー、肩当て、籠手、腰部アーマー、足具)で覆われ…

 

キラッ!

 

瞳は右側は琥珀のままだが、左側は真紅となり、両方の瞳孔は獣のように縦に鋭くなり、口元から少し見えるほどに八重歯も肥大化していた。

 

真狼、紅蓮冥王、蒼雪冥王、吸血鬼、龍騎士。

それら全ての要素を兼ね備えた忍は今、大地に降り立つ。

 

ゴオォォッ!!

 

降り立っただけで軽い衝撃波が全方位に放たれる。

 

「ッ!!!」

 

その衝撃波を受け、牙狼の眼が驚きと警戒に染まる。

明らかに先程の忍とは違う…威圧感というか、プレッシャーを放っているからだ。

 

「牙狼。もう一度だけ問う」

 

その忍が口を開く。

 

「何のことだ?」

 

「お前は…仮に夜琉を殺した後、どうするつもりなんだ?」

 

「……………」

 

その問いに牙狼は答えることはなかった。

その代わり…

 

ブンッ!!

 

黒き斬艦刀を忍に向かって振るっていた。

 

ガキィィンッ!!!

 

「それが答えなのか?」

 

その一撃を突き立てていた斬艦刀を素早く引き抜いて受け止め、忍は対話を続ける。

 

「牙狼。それで本当にお前の心が晴れるのか? 復讐なんて非生産的なことはやめて夜琉と共に静かに暮らすという選択肢はないのか?」

 

「そのような甘い選択肢…とうの昔に捨て去ったわ!!」

 

キュピィンッ!!

 

そう言い合う2人の間に互いの意識が流れ込む。

 

「「ッ!!」」

 

忍が見たのは…桐葉が生きてた頃、牙狼と桐葉、夜琉の3人で夜の散歩に赴いていた時の映像。

牙狼が見たのは…泣き虫だった頃の忍が、泣いていた迷子の女の子を連れて歩いている時の映像。

 

それぞれの映像が何を意味するのか…。

 

「くそが!!」

 

すぐさま牙狼はその場を後退し、黒い翼を羽ばたかせて空へと飛翔する。

 

「我が憎悪の象徴、黒焔よ!! 邪魔な奴等を葬り去れ!!!」

 

牙狼は異形の右手を天に掲げ、巨大な黒焔の玉を作り出す。

 

「消え失せろ!!」

 

その巨大な黒焔を手を振り下ろして忍達の方へと落とす。

 

「ッ!!」

 

ダンッ!!

 

斬艦刀を構えながら地面を蹴り、忍が黒焔の前に躍り出る。

 

「それがお前が象徴なら…俺の象徴は、これだ!!」

 

斬艦刀に霊力を込めるとそれを下から斬り上げるように振るう。

 

ギィィィンッ!!

 

霊力での斬撃が巨大な黒焔を真っ二つにしてしまう。

その瞬間、忍は斬艦刀から手を離して空へと投げる。

 

ゴオオオオオオッ!!!!

 

真っ二つにされた黒焔は空中で爆散する。

 

「冥王スキル、同時発動!」

 

そんな中で忍は爆散する黒焔に両手を向け、自身の持つ冥王スキルを同時に発動させる。

右側は爆散の熱エネルギーを吸収していき、左側は爆散の熱を急速に奪っていき、黒い氷の粒子と化していた。

 

「っ!? 冥王スキルの、同時発動!?」

 

その光景にはさしもの雲雀も驚かざるを得なかったらしい。

 

「ぐっ!!(これが…牙狼の怨み…!!)」

 

黒焔の熱エネルギーを吸収した際に牙狼の負の感情も取り込んだらしく、忍は軽い頭痛に見舞われる。

 

「(だが、それでも…俺はあいつを…!!)」

 

すぐに頭を振って意識を正常に戻すと、空に投げた斬艦刀をキャッチして牙狼に肉薄する。

 

「くたばり損ないがぁぁ!!」

 

そう言い、牙狼は黒き斬艦刀を振るって忍を迎え撃つ。

 

「『焔天牙(えんてんが)』!!」

 

ギィンッ!!!

 

先程吸収した熱エネルギーを加味した焔の斬撃で黒き斬艦刀を吹き飛ばす。

 

「なにっ!?!」

 

まさか自分が力負けするとは思わず、牙狼は驚きの声を漏らす。

 

「これで決める!!」

 

忍が一気に勝負を決めようとするが…

 

「させるかぁぁぁッ!!!」

 

牙狼は異形の右手を突き出し…

 

ピガガガガガ!!!!

 

紫色に輝く雷撃を放って忍を拘束していた。

 

「ッ!?」

 

思わぬ攻撃に忍は拘束から逃れようと力を収束する。

 

「このまま貴様を灰燼に帰してやる!!!」

 

だが、その僅かな間を見逃す牙狼ではなく、黒焔を纏った異形の右手で忍の頭を掴もうとする。

 

「ちっ…!」

 

ブチッ!

 

忍は自らの唇の一部をわざと歯で噛み千切って血を出すと…

 

「ブラッド・ブレス!!」

 

血に龍気と妖力を混ぜて固めたものを砲撃として放っていた。

 

「口から砲撃!? 貴様は魔物か何かか!!」

 

黒焔と砲撃が衝突し、牙狼が後退するような形となる。

 

「テメェにだけは言われたかねぇよ!!」

 

そう言いながら力を収束させて雷撃の枷を外す。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

見れば夜琉に刻まれた痣は目元の下まで移動しており、夜琉自身も苦しそうにしていた。

 

「(時間はもう僅か…なら、この一撃に賭ける!!)」

 

忍は己の中の霊力を全て放出するかの如く霊力を全身から迸らせる。

 

「怨みの連鎖から今、"俺自身"を救い出す!!!」

 

その霊力を斬艦刀に注ぎ込み、白銀の閃光となって空を駆ける。

 

「ッ!!?」

 

その閃光を受け止めようと右手を盾に黒焔を全開で放出する牙狼。

 

「牙狼ぉぉぉぉッ!!!」

 

ザシュッ!!!!

 

「がっ!!?!?」

 

白銀の閃光と漆黒の壁が衝突したかと思えば、白銀の閃光の刃が漆黒の壁を突き破り、右手ごと牙狼の体を貫いていた。

 

その瞬間…

 

カアアアアアアアッ!!!!!

 

(まばゆ)い閃光が結界内を満たしていく。

 

………

……

 

~???~

 

「ここは…?」

 

牙狼は真っ白な空間の中に漂っていた。

 

「俺は…奴に…もう1人の俺に敗れた、はずだ…」

 

そう呟く牙狼の前に水色の光が収束していく。

 

「なんだ…?」

 

水色の光は人の形へと姿を変えていき…

 

『あなた…』

 

桐葉の姿を取り、喋っていた。

 

「桐葉…!?」

 

その光景に牙狼は驚く。

 

『また、あなたと出会うことが出来ました。この奇跡に感謝を…』

 

「桐葉…!!」

 

すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られるが、牙狼にはそれが出来なかった。

 

「すまない…桐葉。俺はもう…お前の知る男じゃないんだ。お前の遺体を利用し、外道にまで成り下がった…復讐の鬼なんだ…そんな男に、愛想を尽かされても仕方ない男に…いったい、何の用なんだ?」

 

桐葉から顔を背けるようにして牙狼は今まで犯してきた大罪を独白する。

 

『確かに、今のあなたは昔のあなたではないかもしれません…』

 

「…………」

 

『ですが…』

 

悲しそうな表情をした桐葉だったが、スッと牙狼の体を抱き締める。

 

「!?」

 

『それでも私は、あなたのことを想っています。あなたがどのような姿になろうと、私を失ってからどのように生きていようと…私はあなたを決して嫌いにはなりません。だって…あなたは、私の唯一絶対の想い人なのですから…』

 

「あ…あああ、あああああ…」

 

桐葉の言葉に牙狼は涙を溢れさせる。

その言葉だけで牙狼の心がどれだけ救われることか…。

 

『ですから…もう苦しまなくてもいいのです。これからは私が一緒です。いついかなる時も…私とあなたはもう二度と離れることはないのです』

 

「だが、夜琉やオルタは…」

 

死の刻印を刻んでしまった夜琉と、牙狼がいなくなった後のオルタを心配する牙狼。

 

『大丈夫です。"もう1人のあなた"を信じましょう。私達の大切な大切な義妹(いもうと)と、"娘"のことを…』

 

「娘……あぁ。そうか。そう、だったのか…」

 

桐葉の言葉に、涙の色を濃くする牙狼は…

 

「桐葉。お前の魂は常に俺と共にあったんだな…それなのに、気付けなくてすまなかった…」

 

そう言って桐葉をようやく抱き締め返す。

 

『はい…』

 

「桐葉。もう、お前を絶対に離さない…」

 

『はい……はい…』

 

「さらばだ。我が最愛の義妹、夜琉。我が最愛の娘、オルタ…」

 

周囲の白い空間から光の粒子が舞い上がり始める。

 

「そして、もう1人の俺、紅神 忍よ。俺は桐葉と共にお前達を見守り続けよう…」

 

その言葉を最後に光の粒子は一層の輝きを放っていた。

 

………

……

 

~現実世界~

 

忍の斬艦刀が牙狼へと深々と突き刺さり、空中で静止し続けていると…

 

「紅神 忍…」

 

「ッ?! 牙狼!?」

 

今の一撃でも息があるのかと、忍が警戒していると…

 

「夜琉と、オルタを…頼む」

 

今までの狂気が嘘かのような、とても穏やかな表情で牙狼は忍にそう伝えていた。

 

「オルタ…すまなかったな…お前をモノ扱いしてきて…」

 

『マスター?』

 

「俺は…桐葉と、共に…お前達を、見、ま……も………る……………」

 

その言葉を最後に牙狼は事切れ…

 

パアアアッ!!

 

白い光の粒子と化して忍の中へと、その存在を同化させていった。

中身を失った鎧は幼女の姿となり、呆然としていた。

そして、夜琉に刻まれた死の刻印もまた白い光の粒子となって霧散していく。

 

「牙狼…お前は、最後の最後で"人"に戻れたんだな…」

 

その事実を同化後に悟り、忍は天に顔を向けながら涙を零していた。

 

 

 

こうして並行世界から来た復讐者との死闘は終わった。

戦闘後、2人の"忍"はその存在を一つへと同化したが、ベースとなった紅神 忍の体内に紅 忍の魂や肉体が宿ったような感じなので、今まで通り"紅神 忍"として認識していいだろう。

しかし、その魂には牙狼が背負ってきた業もまた一緒に引き継いでしまったとも言える状態である。

 

だが、問題もまだ残っている。

主を失った人造魔導兵器『オルタ』や時空漂流者である夜琉の処遇と今後。

2人を託された忍の判断とは…?



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第七十八話『結成! チームD×D』

ツェペシュとカーミラの城下町で起きたテロによる壊滅的な被害、並びに2人の"忍"の死闘と同化から5日が過ぎた頃…。

 

ルーマニアへと旅立っていた一行が日本に戻り、各神話勢力の出方を待っていた。

事が事だけにどの神話体系も大混乱となっている状態である。

 

当然と言えば当然だろう。

『禍の団』改め『クリフォト』の首領は前ルシファーの息子『リゼヴィム・リヴァン・ルシファー』。

聖杯の力によって滅びた邪龍を蘇らせて使い、量産型邪龍なんてものも作り出し、世界に混乱をもたらそうとしている。

その上、伝説の魔獣『666(トライヘキサ)』を復活させ、グレートレッドへとぶつける。

果ては各次元世界への侵攻を行い、本格的な次元戦争を引き起こそうとしているのだ。

 

さらにそのクリフォトと同盟関係にあるのは『絶魔』と呼ばれる謎多き種族組織。

 

この事態に各神話体系の主神達は過去最大の危機レベルと断定し、各神話体系において史上初の宗教や思想を超えた国際問題に発展しようとしていた。

 

………

……

 

そんな中、深夜の駒王学園では…

 

オカ研メンバー、生徒会メンバー、アザゼル、シスター・グリゼルダ、ジョーカー・デュリオ、刃狗・幾瀬 鳶雄、サイラオーグ、シーグヴァイラ・アガレス、初代孫悟空、ヴァーリチーム、紅神眷属代表兼次元辺境伯・紅神 忍、神宮寺眷属代表・神宮寺 紅牙、時空管理局代表代行・ゼーラ、特異災害対策機動部二課代表・風鳴 弦十郎、フィライト三国同盟代表・シルファーといった具合のメンツが集まっていた。

 

これはこれで第二回次元サミットを開けるくらいの規模である。

 

「……それで、上の反応はどうなっているの?」

 

顔合わせもそこそこにリアスがアザゼルに問う。

 

「流石に今回の件は軽視、無視出来ないとして今まで非協力的だったところも話し合いに応じると言ってきている」

 

全員の視線がアザゼルに注目する中、アザゼルは話を続ける。

 

「リゼヴィムの野郎は危険な思想でこの世界や他の多次元世界を混沌に陥れようとしている。現に、無視出来ない規模の破壊を吸血鬼の領土で出してしまったからな…」

 

吸血鬼の領土で起きたテロ事件。

それが約5日前の出来事である。

 

「しかもリゼヴィムは絶魔と結託している。どういった理由で結託したまでかは定かではないが、少なくとも次元戦争の本格的な開幕を狙っての事だろう」

 

次元戦争。

それはノヴァが各次元世界に対して電波ジャックした際に発していた次元間抗争のことである。

 

アザゼルは仮にグレートレッドと666が戦った場合の被害について語った。

 

「ハッキリ言って、どれくらいの被害が出るかは想像が出来ん。少なくとも戦いの余波だけでこの世界や隣接する冥界や天界とかは崩壊するかもしれん」

 

『……ッ!!』

 

アザゼルの分析に全員が言葉を失う。

 

「話の規模がデカ過ぎて実感が湧かないぞ…」

 

「確かにな。我等ミッドや各次元世界への被害も考えると、それだけでは済まないと思うが…」

 

アザゼルの言葉を聞き、最初に口を開いたのは弦十郎とゼーラだった。

 

「まぁ、人間の尺度で測ればそんなもんさ。かく言う俺も実例を見た訳じゃないから、何とも言えないんだが……ま、そんな実例なんて起きないことが一番なんだがな」

 

とは言うものの、そうも言ってられないのが現状である。

 

「そこで一つ、各勢力の首脳から提案がされた。これは以前の次元サミットでも出た議題ではあるが…これを機に本格的に設立することになった対テロ組織のチームだ」

 

その言葉に前回の次元サミットに参加していた数名を含め、その場にいた者の多くが勘づく。

 

「そう、この場にいる者達、もしくはその部下達などが対テロ組織の混成チームとして名が挙がっている。冥界の『若手四王(ルーキーズ・フォー)』。天界の御使い。堕天使からは俺や刃狗チーム。人間界からは装者と呼ばれる聖遺物の担い手達。時空管理局からは特務隊や"エース"と呼ばれる娘達。二天龍や龍王達。初代孫悟空。次元辺境伯や冥王が率いる新たな眷属チーム」

 

アザゼルが名前を列挙していくと…

 

「うちには若いのがいなくて悪かったね」

 

機嫌悪そうにシルファーがそっぽを向く。

 

「混成チームとしちゃ破格と言っていいだろうさ。何よりも物凄く動きやすい」

 

アザゼルの言うように各勢力から猛者が集っており、一部学生という肩書きに目をつむれば動きやすさとしても十分である。

 

「私は結成に賛成よ。こういう時だからこそ力を合わせないと」

 

そのリアスの発言を筆頭に…

 

「問題ないでしょう。俺もリアスや兵藤 一誠と共に戦わせてもらおう」

 

「異論はありません」

 

「こちらも。私共は主に後方支援になりそうですが…」

 

「特務隊ならいつでも貸してやる。任務とでも言えば、どうとでもなる。小娘達の方は…まぁ、何とか伝手を探ってみよう」

 

「子供ばかりに戦わせては大人のメンツに関わるが…超常的な存在との戦いではかえって俺の方が足手纏いになりかねないしな。わかった…こちらからも装者を預けよう。うちの組織ももっと身軽になれればいいんだが…」

 

(わし)も別にないぜぃ。年寄り一人よりも若いのとやった方が楽じゃい」

 

サイラオーグ、ソーナ会長、シーグヴァイラ、ゼーラ、弦十郎、初代と概ね賛成意見が占めていた。

 

「う~ん…」

 

そんな中、デュリオが腕を組んで唸っていた。

 

「どうした、何か不満か?」

 

デュリオの態度を見てアザゼルが問う。

 

「あ、いえ。結成には賛成なんですけど、名前とか必要なんじゃないかな~って思ったり」

 

「名前か…」

 

デュリオの発言を受け、皆が名前について考えていると…

 

「『D×D(ディーディー)』」

 

小猫が何気ない一言を漏らす。

その呟きに室内にいる全員が小猫を見る。

 

「いえ、その…異形達の多い混成チームだったので…つい、そう感じてしまって…」

 

小猫曰く『デビルだったり、ドラゴンだったり、堕天使の堕天…ダウンフォールだったり』との事だった。

 

「まぁ、Dから始まる単語で無理矢理こじつけてもいいんだけどな。しかし、なるほど…『D×D』か。『D×D』たるグレートレッドを守るという意味や次元戦争を防ぐという意味でもわかりやすいかもしれん。他の連中はどうだ?」

 

アザゼルが他の者に尋ねる。

 

「まぁ、変な名前じゃなきゃいいんじゃないんスかね。無難だと思いますよ~」

 

「儂はどうでもいいさね。若いもんに任せるわい」

 

「次元という"海"を守るのも管理局の仕事だ。特に異議はない」

 

「俺達は生粋の人間なんだが…まぁ、名前が必要なのは確かだし、そちらの方が数が多いのも確かだからな」

 

「はいはい。いいんじゃないの?」

 

「女王陛下、そこまで拗ねなくても……次元辺境伯としても問題ありません」

 

言い出しっぺのデュリオを始め、初代、ゼーラ、弦十郎、シルファー、忍という具合に賛成のようだ。

 

「よし、各方面も納得したところで、ジョーカー。お前がリーダーをやれ」

 

アザゼルはそう言ってデュリオを指差す。

 

「………………」

 

一瞬、指を指されてポカンとするデュリオだったが…

 

「えええええええええ!? じ、自分ですか? なんで!? どして!? いや、マジでなんでなんスか!?」

 

一拍開けて盛大に狼狽していた。

 

「今後、人間達に対しても俺達の存在が明らかとなった場合、テロ対策チームのリーダーが悪魔や堕天使とかだと体裁的にマズい。どう逆立ちしても悪役のイメージで固まってる。その点、天使なら良いイメージで満載だ。やっておいて損はない。それに人間から天使になったというのもポイント的に高い。人間にもイメージがいいぞ」

 

「そ、そんなんで…? いやいや、俺、そういうのはちょっと…というか、そういうことで言うなら、そこの冥王さんとか、人間で戦える装者の人とか、時空管理局の人とか、狼君とか…」

 

そんなアザゼルの説明にデュリオは明らかに困った様子で代案を導き出すが…

 

「冥王という存在はどの神話にも記述されていない。そんな見知らぬモノよりも天使の方が適任かと思うぞ?」

 

「装者達は基本的に顔バレしないように細心の注意を払っているからな…」

 

「うちの部隊にこのチームのリーダーを張れるような人材はいない。どいつも専門分野はあるが…」

 

「狼も…個人的に思うよりも、体裁的に悪に属してそうでな。リーダーは天使に譲りますよ」

 

紅牙、弦十郎、ゼーラ、忍はそれぞれの理由からリーダー役を辞退していた。

 

「と、いうことらしい。いい加減、腹を括れ」

 

「そうですよ、デュリオ。これは大変名誉なことです。歴史に名を残せるかもしれないのですよ? やっておきなさい。いえ、やりなさい。『切り札』を体現した役職にいる以上、やるべきです」

 

妙な三段活用を用いながらグリゼルダさんがデュリオに言う。

 

「……あ~、はい。わかりました。やりますです!」

 

こうして天界のジョーカーがチームのリーダーとなった。

 

「サブリーダーには初代でいいだろうか? 副職で大変申し訳ないが…」

 

「ええよええよ。若いもんが頭になるのは当然じゃて。儂はせいぜいケツ持ちとして機能させてもらおうかのぅ」

 

サブリーダーも決まったところでアザゼルはヴァーリの方を見る。

 

「俺はリゼヴィムが行った今回の計画の抑止力としてお前達ヴァーリチームをこの混成チームに参加させるべきだと主張する。それによって、お前達にかかっていた不信感を少しでも払拭させるつもりだ」

 

ヴァーリ達は禍の団に所属していた時期もあり、体裁的にはあまり印象がよろしくなく、不信感を抱かれている。

 

「……それは俺も同じだと思うがな」

 

紅牙もまた冥王派の首領として禍の団に参加していた時期がある。

 

「紅牙…」

 

そんな紅牙の言葉に忍が心配そうな視線を向ける。

 

「そのことで、一つ提案がある。全てを承知した上でオーディンの爺さんがお前達2人を養子に迎えたいと申し出てきた」

 

驚きの提案にその場の何人かはアザゼルを見る。

 

「先生じゃダメなんですか? 育ての親なんでしょ?」

 

思わずイッセーが口を出す。

 

「俺は堕ちた天使の頭やってた身だ。さっきも言ったが、堕天使や悪魔は体裁的にイメージが悪くてな…」

 

やれやれと言った具合に肩を竦めた後…

 

「だが、オーディンの爺さんなら話は別だ。あの爺さんは古い神の一角。そのオーディンが養子に迎えたいと言ったなら他のアースガルズの神族も他の神話の神々もおいそれとは文句は言えない。条件と制限は付くが、今よりもずっと身軽に動けることになる。ヴァーリ、紅牙、お前達はオーディンの養子になるのは嫌か?」

 

ヴァーリと紅牙は互いに視線だけを交わしていた。

 

「お前と義理の兄弟か」

 

「ふっ…それはこちらの台詞だよ」

 

軽口を叩き合った後…

 

「お互いに利益が出そうな時は協力しよう。あとは独自にやらせてもらう」

 

「今の生活でも十分だが、動けるに越したことはないか。俺も独自に動かせてもらう時はそうさせてもらう」

 

明確な答えではないにしろ、2人共概ね了解と見ていいのだろうか?

 

そうこうしてる内にチームの基本方針も決まった。

基本は普段通りの生活を送りつつ、事件が起きた時に動ける者同士で連絡を取り合いながら協力して事件解決に尽力すること。

 

「さての。若いもんで強くなりたい奴はおるかねぇ?」

 

「!? それはどういう事でしょうか?」

 

初代の言葉にリアスが尋ねる。

 

「これよりお前さん達を儂が一から鍛えるでな。全員、上級悪魔クラス、上級天使クラスにまでなってもらわんとこれを結成した意味もなかろうて。まぁ、ゆくゆくは最上級クラスになってもらうわけじゃぃ」

 

初代孫悟空による鍛錬。

それが意味することは何か…?

 

初代やアザゼルは今回のリゼヴィム達によるテロもそうだが、もっと未来を見据えているようだった。

 

………

……

 

その翌日。

 

「………………」

 

忍は朝早くから屋敷の縁側で座禅を組んで考え事をしていた。

 

「(牙狼の魂は桐葉さんの魂と共に逝った。だが、その際…残った牙狼の器は俺という存在と同化した。それがどういう反作用、もしくは副作用をこれから引き起こすかわからない。それに解放形態もまた深層世界の壁を無理矢理に壊してしまったからもう今まで通りにはいかないはず…いくら時間が無かったとはいえ、かなり無理をしてしまったことには変わりないからな…)」

 

約5日前の牙狼との死闘で崩壊してしまった深層世界は現状、牙狼の残した"人"としての器に残されたモノで補強して正常を保っているが、あくまでもそれは同じ存在だからこそ出来た芸当と言える。

再び同じようなことをしてしまったら今度は取り返しのつかないことになりかねない。

それだけ危険な橋を渡っていたとも言える。

 

それに深層世界で忍と共にあった解放形態もまた深層世界の無理矢理な破壊という事態を受け、急遽別の器が必要となっていた。

これは忍の中に巣食っていたそれぞれの解放形態の力の源が今の忍の中では共存出来ず、新たな受け皿を必要としていたのだ。

現在、各解放形態は子供ならば昔は集めていただろう"あるモノ"の中に封印という形で閉じ込められ、その中でそれぞれの力の再構築作業を行っている。

無理矢理とも言える方法で一つに束ねられた影響で、それぞれの解放形態にどのような影響があるのか未だ不明瞭であるので、忍も解放形態を使うことを今は控えている。

 

「(それに、魂は逝っても牙狼の記憶は俺の中に残っている。あいつの行ってきた業も、使っていた技も…)」

 

牙狼がこれまで行ってきた悪逆非道な行いもまた忍の中で渦巻いている。

その深き業もまた同化した忍が引き継いだ形になってしまっていた。

その中にはオルタを創造した時のものもあり、牙狼の業の深さがハッキリとわかる程であった。

普通ならこのような負の記憶を押し付けられた場合、無意識の内に封印されるのが当然だろうが、忍は牙狼と記憶を共有していたこともあり、ある程度の耐性が出来ていた。

が、全てを受け入れることは今の状態では不可能なので無意識内でセーブはしている。

それでも牙狼が行ってきた虐殺の記憶が消えた訳ではない。

 

また、牙狼の使っていた邪神拳や紅流・羅刹剣術は忍の中にしっかりと記憶として引き継いでいるが、忍がこれらを使うかと問われれば…正直、考えている最中らしい。

どれも殺人に特化したという点を除けば、技としての完成度は忍の使っている烈神拳や叢雲流魔剣術を軽く凌駕しており、完全に切り捨てるにしてはもったいないと言わざるを得なかった。

 

「(清濁併せ呑むことも時には必要か…だが、その前に夜琉やオルタのことか)」

 

あれから夜琉は1人で無茶したことを眷属の大多数から心配したと怒られていた。

それは忍も同様でいくら夜琉や雲雀を助けるためとは言え、無茶が過ぎると特に智鶴からは涙ながらに怒られていた。

雲雀についても連絡の一つもあって然るべきだと年齢を気にしない朝陽や暗七などから苦言を呈されていた。

 

「(夜琉はともかく、問題はオルタの方か…)」

 

オルタについては…牙狼がいなくなり、茫然自失気味になっていたので忍が明幸の屋敷で預かっている。

人造魔導兵器である彼女は食事や睡眠が無くても有り余る魔力によって活動が出来る。

しかし、彼女は牙狼の世界に対する憎しみや怨みといった負の感情で生まれた存在だから故に他にも色々な感情があることを知らない。

さらに生来の性格からそれらに対する興味が希薄で、牙狼という絶対の存在の喪失もあってか非常に閉鎖的になってしまっている。

 

「駒は残り一つ。なら、ついにアレの出番か…」

 

今まで使わなかった代物を使う時が来たようだった。

 

「正直、未だわからない部分もあるが、四の五の言ってる場合でもないか」

 

そう言って忍が懐から取り出したのは…狂戦士の絵が描かれた眷属の絵札であった。

 

………

……

 

その日の夜。

 

「皆に集まってもらったのは他でもない。夜琉とオルタについてだ」

 

眷属を招集し、夜琉とオルタも集めた忍はそう告げた。

 

「俺は2人を我が眷属に迎えたいと思っている」

 

そんな忍の言葉に…

 

「でも、しぃ君。眷属の駒はあと一つだけじゃ…」

 

智鶴が現状の事実を言う。

 

「あぁ。だから、これを使うことにした」

 

そう言うと忍は絵札の一枚を取り出していた。

 

「絵札か。まぁ、駒が足りてない以上、そうなるでしょうけど…」

 

「絵札の効力はまだ不明瞭だったはずでしょ? それをいきなり使うなんて…」

 

「まぁ、埃を被ってるよりもマシじゃないかしら?」

 

「そうね。使えるものは何であれ使うべきよ」

 

暗七や吹雪が難色を示す反面、カーネリアや朝陽は肯定的だった。

 

「そういう訳で、駒は夜琉。君に与える」

 

そう言うと忍は最後の兵士の駒を夜琉に渡す。

 

「でも…あたしはこの世界の人間じゃ…」

 

駒を受け取ることに躊躇する夜琉。

 

「俺は牙狼から…あいつからお前とオルタを託された責任がある。その責を果たさせてくれ」

 

真剣な眼で夜琉に語り掛けていた。

 

「……………」

 

「無論。その責任だけじゃなく、俺自身が夜琉を守りたいとも思っている。これがどのような気持ちに起因しているかは関係ない。俺が最終的に決めたことだから信じてほしい」

 

たとえ、その感情が牙狼と同化したことによって芽生えた感情だとしても、それを肯定して受け入れたのは間違いなく忍自身の意思なのだと、そう言っていた。

 

「………わかった。あたしはもう天涯孤独の身…身寄りもいないし、元の世界にも戻れない。だったら、この世界で義兄さんや義姉さんの分まで生きようと思う。きっと2人もそう願ってると思うし…」

 

夜琉は改めてそう決意していた。

 

「…ありがとう」

 

「お礼を言うのはこっちだよ。あ、でも…呼び方どうしよう? 一応、義兄さんとも同化したんでしょ?」

 

「好きに呼べばいい。俺は俺でもあり、あいつでもあるんだからな」

 

「そう…じゃあ、"義兄さん"って呼ばせてもらうよ」

 

「わかった」

 

トクン…

 

互いの了を得たことにより、駒は夜琉の中へと溶け込んでいた。

 

「これで駒によるメンバーはフルになったわね」

 

「あぁ、そうだな…」

 

夏休みに駒を受け取り、今は二学期も終わりに近付いている頃。

そう考えると長いようで短い間で、15人もの女性を眷属にしたことになる。

 

「さて、待たせたな」

 

「……………」

 

話を振られたオルタは…無表情であった。

 

「夜琉にも言ったが、オルタ。君の事もまた牙狼から託されている」

 

「私は…マスターに捨てられたのですか?」

 

「そうじゃない。君には新しい道を歩めるようになっただけだ」

 

「新しい、道…?」

 

「あぁ…そうだとも」

 

首を傾げるオルタの頭を優しく撫でる。

 

「君は牙狼の負の感情から生まれてきた。だが、世の中には憎しみや怨み以外にも感情はたくさんあるんだ。俺は君にそれを知ってほしい」

 

「………?」

 

忍の言っていることがいまいちわかっていないようだった。

 

「百聞は一見に如かず、だ。これを受け取ってほしい」

 

そう言うと忍は眷属の絵札をオルタに手渡す。

 

「………」

 

それを両手で受け取った瞬間…

 

「っ!?」

 

絵札を通してオルタに忍がこれまで感じてきた感情…喜び、哀しみ、愛しさ、怒り、楽しさなど…本当に様々な感情が彼女の中に流れ込んでいた。

 

「……………」

 

その感情の波にオルタは当然のことながら困惑した。

 

「戸惑うのも無理はないか。君は今まで牙狼の側にいてその復讐しか見てこなかったんだから…」

 

忍は苦笑しながらオルタに語る。

 

「でも、これからは違う。君は多くのものを見聞きしてその中で"自分"というものを確立していくんだ。ただの人造魔導兵器じゃない"オルタ"という普通の女の子に…それは牙狼も望んだことだ」

 

「マスター、が…?」

 

「あぁ…最後に言っていただろう? "モノ扱いして、すまなかった"と…それは謝罪と同時に君に新たな道を歩んでほしいという表れだったんだ…」

 

少なくとも忍はそう感じていた。

 

「………………」

 

それを聞き、オルタは自然と涙を流す。

 

「これは…?」

 

「涙という。生きてる者なら誰でも流すものだ」

 

「涙…?」

 

「そう。悲しい時や嬉しい時、涙は自然と流れるものだ。君はきっと嬉しかったんだろうさ。牙狼に本当は大切にされていたことを知って…」

 

「私が、マスターに…?」

 

「あぁ…俺が保証しよう。君は牙狼に大切されていたんだ」

 

たとえ、酷い仕打ちをされていたとしても、その根っこの部分では大切に想っていたに違いない。

そう、忍は感じていた。

 

「………………」

 

しばらく涙を流し続けたオルタは…

 

「私は…マスターのいない世界で、生きていいのでしょうか?」

 

「生きることに資格なんていらない。君は君の道を歩み、牙狼のことを忘れないでやってくれればいいんだ」

 

忍はそう言っていた。

 

「ぁ…」

 

そんな忍の姿と牙狼の最期の姿がオルタには被って見えていた。

 

「はい……主様(あるじさま)

 

オルタがそう答えると…

 

トクン…

 

絵札もまた駒と同じようにオルタの中へと溶け込んでいた。

 

「主様、しばし休息を頂きます…」

 

そう言い残すと、オルタはその場で態勢を崩してしまった。

 

「オルタ!?」

 

オルタの様子を見れば…

 

「すぅ…すぅ…」

 

どうやら眠ってしまったらしい。

 

「寝ただけか…」

 

人造魔導兵器と眷属の絵札…その組み合わせがどのような結果になるのか…?

 

 

こうして忍は眷属の駒によるフルメンバーを揃えることが出来た。

そして、絵札による眷属も最初の1人を得ることとなった。

 

これから先、まだまだ予断は許されないが、今は一時の平和に身を寄せるのもいいかもしれなかった。



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13.電脳世界のヴァルキリー
第七十九話『修行の日々』


地球の駒王学園。

二学期の十一月も終わりを告げ、十二月に突入していた。

イッセー達、学生組は二学期最後の学事、期末テストも終わっていた。

 

そんな中、休日を利用して初代孫悟空による修行の日々が繰り広げられていた。

参加者は基本的にD×Dに参加している者達である。

ちなみに修行場として提供されているのは『第47無人世界』である。

参加する人数が人数だけに改装された兵藤家の地下トレーニングルームだけではとても収まらないとしてゼーラが極秘裏に場所の提供を行ったのだ。

さらに専用の次元間転移魔法陣をアザゼルが用意したので、兵藤家の地下や明幸邸の地下からの転移が容易となっている。

 

修行場ではいくつかのチームを作って修行を行っていたりする。

 

イッセーとヴァーリの二天龍。

 

忍と紅牙、智鶴のエクセンシェダーデバイス組。

 

リアス、朱乃、ロスヴァイセ、アーシア、フェイト、シルフィー、ラピス、ティラミス、なのは、はやて、シャマル、リインフォースⅡ、シルヴィア、シェーラの魔力魔法組。

 

木場、ゼノヴィア、イリナ、朝陽、萌莉、シグナム、ヴィータ、エリザ、ラルフ、翼の剣士騎士組。

 

ラト、夜琉、秀一郎、ジェス、響の格闘組。

 

吹雪、シア、早紀、沙羅、紗奈の冥王組。

 

クリス、調、切歌の装者組。

 

黒歌、小猫、ギャスパーの師弟組。

 

暗七、エルメス、カーネリア、ザフィーラの異形組。

 

匙とデュリオの進化促進組。

 

グレモリー眷属、シトリー眷属、紅神眷属、神宮寺眷属を始め、錚々(そうそう)たるメンツが集まっていた。

また、特務隊や管理局員であるなのは達、特にどこの眷属にも属していない装者2人(響と翼)は半ば強引に参加させられている。

 

では、それぞれの修行様子を観察してみよう。

 

………

……

 

・冥王組

 

山の麓にある岩場付近。

 

「まさか、アンタ達と組んで修行することになるなんてね…」

 

「それはこっちの台詞だっての」

 

「人生、何があるかわからないもんだねぇ~」

 

吹雪の言葉に早紀と紗奈が反応する。

 

「あ、もしかして…」

 

「はい、シア様。私達は当時の作戦で遭遇戦を繰り広げてましたので…」

 

そのやり取りを見ていてある事を察したシアに頷くように沙羅が補足してくれた。

 

冥王派がまだ禍の団に所属していた頃、雪女の里を襲った事件があった。

忍やイッセーが紅牙と交戦していた時、早紀達は氷姫と別行動になってしまった吹雪と交戦していたのだ。

 

「まぁ、あの時は悪かったよ。冥族の末裔だなんて知ってたら紅牙様も侵攻は考えてただろうし…」

 

「まぁ、もう過ぎたことだし…許せないけど、許してあげるわよ」

 

どっちだ?

 

「ともかく全員、冥王化しましょうか。せっかく集まったんですから、それぞれの冥王スキルを見せ合って他にどういう使い道があるか、考えましょうよ」

 

この中で仕切り役はシアになりそうだった。

 

「はい、シア様」

 

「オッケー♪」

 

「よっしゃ、行くぜ!」

 

「わかってるわよ」

 

その場で全員が冥王化する。

冥王が5人も揃うと圧巻と言わざるを得ないな…。

 

「まずは…私からいきます」

 

シアが先陣を切るようだ。

 

「冥王スキル、スカーレット・ソーサラー」

 

そう呟くと共にシアの周りに四つの異なる色をした焔が灯る。

 

「赤は魔、黄は気、青は霊、紫は妖をそれぞれ表しています」

 

わかりやすくシアはそう説明する。

 

「これらを媒介に様々な術式を展開するのが主な使い方です」

 

そう言うと、赤い焔で砲撃、黄色い焔で身体強化、青い焔で結界、紫色の焔で誘導弾をそれぞれ繰り出していく。

 

「もちろん、別々の力を合わせて使うことも出来ます」

 

そう言うと、赤と紫の焔を合わせて砲撃の威力を増していた。

 

「後衛としては破格の能力だけど…接近されたらちょっと苦しそうよね」

 

それらの行動を見ていて吹雪がそう漏らす。

 

「はい。そこは私も痛感してます。私自身、兄さん達よりもあまり運動神経は良くありませんから…」

 

「わかります。シア様」

 

シアの言葉に沙羅が同意するように頷いていた。

沙羅もどちらかと言えば、後衛で真価を発揮するタイプなので、シアの事情は痛いほどわかるらしい。

 

「まぁ、短所を埋めるよりも長所を伸ばす方がいいわよね。特にシアはこの中じゃ唯一の僧侶なんだし…」

 

「そっか。そういう考え方もあるんだよな」

 

「なるほど~」

 

吹雪の言葉に早紀と紗奈がなんだか納得したような感想を漏らしていた。

 

「………あたし達は兵士の駒を与えられてるんだから、昇格した場合の事を考えてそれぞれの能力幅を上げないとでしょうが」

 

早紀と紗奈の反応に少し頭を抱えつつ吹雪はそう言っていた。

 

「えっと…昇格先は女王、騎士、戦車、僧侶だから…」

 

「能力全般、速度、攻防、魔法という感じですね」

 

紗奈の確認するような言葉にシアが答える。

 

「それを踏まえた上であたし達はそれぞれの能力を見るわよ」

 

そう言って吹雪は自身の能力を発現させる。

 

「スノーウィザード。それがあたしの冥王スキルよ。簡単に言えば、自分の魔力と妖力を冷気に変換して氷を操る感じの能力よ」

 

そう説明しながら右手から魔力、左手から妖力のオーラを出すと、それを冷気へと変換させていた。

 

「僧侶向きっぽいけど、やりようによっては騎士や戦車とも相性良さそうだよな」

 

「そうね。あたしはこうやって近接戦もやってるし」

 

早紀の意見に吹雪は両手のオーラを変換した冷気で両手を覆い、氷の爪を作り出していた。

 

「それにあたしは堕天使でもあるから、こうやって光力を出力することも出来るし」

 

光の球を作り出してレーザー状に撃ってみせる。

 

「全体的にバランスが良いんですね」

 

「いいな~」

 

沙羅と紗奈がそう言う反面…

 

「でも、突出するような…一撃に欠けないか?」

 

早紀がそう指摘する。

 

「それを言われるとちょっと痛いわね」

 

バランスが良いということは、ここぞという時の…特に必殺技的なモノがないのと同義である。

 

「そういえば、吹雪さんが強力な攻撃をしたりするのをあまり見たことが無いような…」

 

言われてシアも吹雪のこれまでの戦闘を思い返してみる。

 

「あたしの課題はそれかしらね…」

 

吹雪は吹雪で一撃の重さが課題となるようだった。

 

「次はボクだな。冥王スキル、バーニング・チャクラム!」

 

そう言うと、早紀の周りに炎で作られた戦輪がいくつも出現する。

 

「炎の戦輪か…」

 

吹雪はそれを見て少し考え込む。

 

「戦輪の使い方も色々ありますからね」

 

「投擲、拘束、防御…」

 

シアの言葉に考え込んでいた吹雪が答える。

 

「ボク的な目標としてはこれで身体強化も出来ればいいと思ってんだけどな」

 

そう言って早紀は戦輪を手足に装着し、大きな戦輪を背中に光輪のように背負った姿を見せていた。

 

「出たよ、早紀の見栄っ張りモード」

 

「あはは…」

 

何回も見てきた沙羅と紗奈には呆れられていた。

 

「なんだよ、2人して…いいだろ、別に!」

 

沙羅と紗奈の反応に早紀は口を尖らせてしまう。

 

「いや、一概に見栄っ張りとも言えませんよ?」

 

「そうね。少なくとも今は何とかなるでしょ」

 

しかし、シアと吹雪の見解は違うようだった。

 

「「え…?」」

 

沙羅と紗奈はそんな2人の反応に驚いていた。

 

「今は兄さんの眷属…それも兵士なんですから、女王に昇格さえすれば、全体的な能力も上がりますから。その状態でも十分に強化出来るんじゃないかしら?」

 

「そうね。今まではわからないけど…これからはそれも絡めて自分の能力を上げることだって出来るだろうし、気を使っての身体強化なら冥王スキルとも併用出来るわけだし…要はやり様の問題なんじゃないの?」

 

こんなことを真面目に理解し、アドバイスまでしてくれるシアと吹雪に早紀は…

 

「………………」

 

間抜けそうな表情で口を半開きにしてポカンとしてしまっていた。

 

「ちょっと、聞いてんの?」

 

「ぇ、ぁ…うん…」

 

吹雪の問いに早紀は生返事するくらいしか出来なかった。

 

「気の扱いならシアに聞くか。あの黒猫(黒歌)に聞くことね。その方が効率がいいし…」

 

気の代わりに妖力を持つ吹雪には教えられない部分でもあった。

 

「それじゃあ、次は?」

 

「ぁ…じゃあ、私がいきます。冥王スキル…カラミティ・ショック」

 

沙羅はそう言うと地面に手を当てて震動を発生させ、軽い地震を起こす。

 

「私の冥王スキルは目に見えないので…こういう形でないと認識されにくいんです」

 

自嘲するように沙羅は自分の能力を分析する。

 

「地震を発生させるのが冥王スキルなの?」

 

「いえ、正確には"震動を与える"能力です」

 

「震動を与える?」

 

沙羅の冥王スキルが初見な吹雪は聞き返していた。

 

「はい。さっきみたいに簡易的な地震を起こしたり、空気に震動を与えて衝撃波を発生させたりすることが出来るんです」

 

「……何気にえげつないわね」

 

震動を与えるという能力に吹雪はそんな感想を抱いた。

 

「よく言われます…」

 

沙羅の性格上、それほど大胆なことは出来ないが、それでも震動を与える能力には脅威を覚えてしまう。

 

「使い方によっちゃ周囲の魔力素に震動を与えて他の連中を魔力酔いとかに陥れるとかしてたよな」

 

「あ~、アレはあたし達も結構被害を被ったよね~」

 

そんなことを思い出しながら早紀と紗奈が笑い合う。

 

「震動を与える対象は特に固定じゃないのね…」

 

「多分、体術に組み込んで相手を吹き飛ばすことも可能なんでしょうが…私と同じで沙羅さんは肉弾戦が苦手ですから…」

 

「それはそれで結構なダメージを体内に与えると思うけどね…」

 

ともかく沙羅の冥王スキルは危険な部類に入るという認識を共有出来た。

 

「じゃあ、次はあたしか。冥王スキル、ミスティック・クリア」

 

紗奈の周りに魔力の通った水が霧状に散布される。

 

「清涼感はあるわね」

 

吹雪の第一印象はそんなものだった。

 

「でもこれって意外に役立つんだよ?」

 

そう言うと、紗奈は霧状の水を用いて分身を作ったり、収束して槍を作ったりと色々と芸を見せていた。

 

「随分と多芸ね」

 

「一応、この霧を吸って魔力を少し回復なんてことも出来るけど…結局は放出した魔力を再補給する感じだからねぇ」

 

「……ん? それって結構重要じゃないの?」

 

話を聞いていた吹雪がそう漏らす。

 

「え? なんで?」

 

当の本人はわからないようだ。

 

「だって、少なくとも魔力で放出したんだから周囲の魔力素を少しは取り込んでるだろうし、少なくとも回復量はマイナスって訳じゃないだろうし……それにアンタ以外が吸っても補給は可能なはずでしょ?」

 

その説明を聞き…

 

「…………お~!」

 

やっとその有用性に気づいたようだった。

 

「…………シア、こいつら本当に大丈夫なの?」

 

「あ、あははは…」

 

今更ながら吹雪はシアにそう尋ねていた。

それに対してシアは苦笑するしかなかったようだが…。

 

不安要素もあるが、概ね冥王組の修行は順調(?)と言えた。

 

………

……

 

・格闘組

 

草原地帯では…

 

「よっしゃ、行くぜ。テメェら!!」

 

変則四対一の模擬戦を行っていた。

秀一郎1人に対してラト、夜琉、ジェス、響の4人が相手取るというものだった。

 

「ほ、本当にいいんですか!?」

 

その模擬戦内容に響は躊躇していた。

 

「兵士2人に拳闘士、装者くらい1人で捌けなきゃ戦車の駒を貰った意味がないからな。遠慮なく来い!!」

 

秀一郎は既にデバイス『シュティーゲル』を起動させて臨戦態勢を作っていた。

 

「なら遠慮なくいくぜ!!」

 

「あたし的にはフィーと一緒の方がやりやすいんだけどなぁ。でも、そうも言ってられないか」

 

ジェスとラトの2人が秀一郎に左右から飛び掛かる。

 

「魔拳ッ!!」

 

「ストレイト・ナックル!!」

 

共に魔力を込めた拳を秀一郎に向けて打ち込んでいた。

 

「甘ぇ!!」

 

2人の拳を両手を広げるような感じの裏拳で対処すると…

 

バチバチ!!

 

「ライトニング・フォース!!」

 

防いだ拳から雷撃をジェスとラトの体へと流し込む。

 

「あばばばばばば!?!?」

 

「あわわわわわわ!?!?」

 

いくら非殺傷設定を設けているとはいえ、雷撃をまともにくらって無事ではいられまい。

ジェスもラトも雷撃の影響で体中が麻痺してしまう。

 

「烈神拳、蜘蛛の巣!」

 

それを見た夜琉はまず相手の手足を封じることを選択する。

 

「妖力で練られた糸か…! 解呪が面倒だな!!」

 

四肢を蜘蛛の巣で絡め取られた秀一郎は力任せに糸を引き千切ろうとする。

 

「動きが止まってる内に一撃を加えましょう」

 

そう提案する夜琉に対し、響は…

 

「い、いいのかな…?」

 

まだ躊躇している様子だった。

 

「戦闘とはそういうものです。特にこれからあたし達は色んな敵と相対することになりますから、躊躇は自分の足枷になりますよ?」

 

まだ"人(と、それに近しい存在)"との戦闘に慣れていない響に夜琉の言葉は少し辛辣かもしれない。

まぁ、代わりにノイズなどの存在との戦闘には慣れているのだが…。

 

「よく言った。それでなきゃ模擬戦の意味がないから、なッ!!!」

 

ブチブチブチッ!!!

 

夜琉の言葉を褒めながら、秀一郎は無理矢理に蜘蛛の巣を引き千切っていた。

 

「な、なんて馬鹿力…!?」

 

秀一郎の人並み外れたパワーに夜琉は驚く。

 

「力の行使を躊躇うくらいなら戦場に出るな! 覚悟のない奴に"力"は不必要だからな!!」

 

それは響に対して言っていた。

 

「っ!?」

 

ズバリ言われて動揺する響。

 

「隙だらけなんだよ!!!」

 

そんな無防備な響に向かい…

 

「ブレイズ・ブロー!!」

 

炎の拳を叩き込もうとする。

 

「立花さん!」

 

それを守ろうと夜琉が前に出て秀一郎の拳を受けようと…

 

「猛牙墜衝撃!!」

 

烈神拳の大技を放つ。

 

「あっ…!」

 

それを見て響も何かしようとするが…

 

「そんな甘い覚悟で俺を止められると思うな!!」

 

ガシュッ!!

 

シュティーゲルのカートリッジが炸裂すると…

 

「バーニング・ブロウラー!!!」

 

ブレイズ・ブローの炎の勢いが増し、技の段階を一気に昇華させていく。

 

「っ?!」

 

技の威力が増したことによって夜琉の猛牙墜衝撃が押され、ついには…

 

ゴアアアッ!!!

 

背後にいた響もろとも夜琉を吹き飛ばす。

 

「うわあああっ!?」

「くっ…!?!」

 

響は盛大に背中から墜落し、夜琉は受け身を取って上手く着地するものの、予想以上の威力に膝を着く。

 

「ったく、情けねぇ。4人がかりで俺一人やれねぇのか?」

 

秀一郎はこの結果に呆れていた。

ジェスとラトは先制攻撃から反撃を受けて麻痺中、夜琉は多少善戦したかというところで、響に関してはまともに一撃も打ててない。

 

「拳闘士の坊主は…馬鹿正直過ぎる。もう1人の嬢ちゃんは…まぁ、向こうの小娘との連携が前提だから多少は仕方ねぇかとも思ったが、まだまだ荒い。烈神拳の嬢ちゃんは流石に狼の義妹だけの事はあるが、こっちも未成熟だ。そして、立花 響。テメェの覚悟はその程度なのか!?」

 

今の攻防を間近で見て秀一郎はそれぞれをそう評していた。

 

「くっ…!!」

 

「悔しかったら俺に一撃を加えてみせろ!!」

 

戦車の特性は秀一郎とはかなり相性が良いのか、攻撃も防御も以前よりも上昇していた。

 

「なら…行きます!」

 

ダンッ!!

 

両足に装備されたジャッキを作動させて一気に秀一郎との距離を詰める。

 

「そうでなきゃな!!」

 

嬉しそうにそれを迎え撃つ秀一郎。

 

「ダメだしされたまま終われるか!」

 

「フィーがいなくてもあたしだって日々進歩してるし!」

 

「義兄さんをあたしの引き合いに出さないでください!」

 

麻痺から復活したジェスとラトに、忍を引き合いに出されて怒った夜琉も交えて秀一郎へと向かっていく。

 

そうして何とも脳筋な模擬戦は続いていくのであった。

………色んな意味で大丈夫かな?

 

………

……

 

・剣士騎士組

 

滝が流れているのが見える河川地帯では…

 

「噂に名高い剣の騎士と手合せ出来る機会があるとは…隊長には感謝しなくてはな」

 

「特務隊の槍使い。部署は違えどその名は聞き及んでいます」

 

川の中央でエリザとシグナムがそれぞれの得物を手に対峙していた。

 

「「………………」」

 

互いに間合いを測りながら円を描くように歩く。

 

すると…

 

バッシャアァァン!!

 

わりと近場で水飛沫が舞う。

 

「「ッ!!」」

 

それを合図にしてエリザとシグナムが動く。

 

ガキィィンッ!!

 

槍の穂と剣の切っ先が交わり、甲高い音を響かせる。

 

「ふっ!」

 

交わった直後の反動を利用し、エリザは槍を半回転させて向きを反転させると、そのまま連続突きを繰り出す。

 

「っ!」

 

その連続突きをシグナムは剣型デバイス『レヴァンティン』とその鞘によって最小限の動きで捌いていく。

 

ガキンッ!!

 

剣と鞘を交差させて槍の一撃を受け止めると…

 

「紫電…」

 

ボァ!!

 

剣に炎が灯る。

 

「っ!」

 

それを見てすぐさま槍を受け止められた方とは反対側へと回転させると…

 

ギンッ!!

 

剣と鞘の交差を崩していた。

 

「一閃ッ!!」

 

だが、それでもシグナムの一撃は止まらない。

 

「ヴェルランサー、モード・リリース!」

 

すると、何を思ったのか、槍を待機状態の小さい状態にすると…

 

「バリアジャケット、魔力変換!」

 

ベレー帽を魔力へと再変換し、待機状態のヴェルランサーに纏わせると…

 

「ストライク・スピアー!」

 

正確な投擲でシグナムの紫電一閃を迎撃していた。

 

「っ!?」

 

まさか、こういう手で防ぐとは思わずにシグナムは少しだけ硬直する。

その隙に弾かれたヴェルランサーを後方に飛び退きながら回収し、再度元の槍へと戻すエリザ。

 

「(流石にやる…!)」

 

「(槍捌きもさることながら体術にも隙が無い…!)」

 

互いに互いを内心で称賛しながらも即座に次の行動に移る両騎士。

 

 

 

ちなみに…

 

「うへぇ…教官とタメ張れるとか、どんだけよ?」

 

水飛沫の原因である水浸しのラルフはシグナムとエリザの戦いを見てそんな感想を抱いていた。

 

「戦闘中によそ見とは…随分と余裕ですね?」

 

そう言ってラルフに近付くのは…翼であった。

 

「いやいや、戦闘中に歌うこともそうだけどよ。なんでそんな剣がでっかくなったり、いっぱい出てくるわけよ? 聞いたところによればデバイスや魔法でもないっていうのに…」

 

そう言いながらラルフは剣を杖代わりにして立ち上がる。

どうやらラルフが翼に押されているようだった。

 

「シンフォギアは機密の塊ですからそう多くは語れません」

 

「(こういう真面目なの苦手だわ~)」

 

真面目な対応を取る翼にラルフは内心苦手意識を募らせる。

 

「(これが異世界の騎士…想像していたよりも彼は不真面目そうだけど、それだけでは侮れない)」

 

最初こそ対人戦闘に抵抗を持っていた翼だったが、ラルフを相手取ってから少しずつ順応しているようだ。

 

「(さてはて、どうすっかな。魔法じゃないから俺の魔法もあんま意味ねぇし…)」

 

かく言うラルフもやられっぱなしは性分ではないらしく、何か対策を取ろうと考えていた。

 

「(ま、いっちょ賭けるかね)」

 

そう思いながら炎と破壊のエレメントカートリッジをヴェルブレードに装填する。

 

「(何か仕掛ける気?)」

 

それを見て翼も警戒する。

 

「カートリッジ、ダブルロード!」

 

ガシュッ!!

 

破壊の属性を付加した炎がヴェルブレードの刀身を覆う。

 

業破炎刃剣(ごうはえんじんけん)ッ!!」

 

そのままラルフは翼に向かって剣を振るう。

 

「っ!!」

 

《風輪火斬》

 

アームドギアを双剣にするとその柄を繋ぎ、炎を纏わせながら回転させてラルフの斬撃を受け止め、カウンターを仕掛けようとするが…

 

バキンッ!!

 

「っ!?」

 

双剣は容易く砕けてしまい、翼は後退を余儀なくされてしまう。

 

「アームドギアが…砕けた!?」

 

その事実に翼は目を見開き…

 

「へぇ、破壊属性ってのは結構使い勝手がよさそうだな」

 

ラルフの方は破壊属性の新たな活用法を見つけて満足そうだった。

 

「じゃ、仕切り直しと行こうぜ!」

 

「くっ…!」

 

戦略法を見つけて強気に出るラルフと、破壊の攻撃を警戒する翼。

 

 

 

一方で…

 

「きゃっ!?」

 

河原で尻もちをつく萌莉。

 

「お前、やる気あんのかよ!」

 

ヴィータが萌莉の稽古に付き合っていた。

 

「す、すみ…ま、せん…」

 

ヴィータに怒鳴られ、シュンとなる萌莉。

 

「珍しく木刀を持ったと思ったら…まぁ…」

 

その稽古には呆れ顔の朝陽も立ち会っていた。

同じ忍の騎士(ナイト)として萌莉の覚悟を見定めようという思惑もあった。

 

「(筋は確かに良い。けど、萌莉からは攻勢が感じられない…)」

 

"剣術"ということで言えば、萌莉はかなり高い潜在能力を秘めている。

しかし、相手を傷つけることへの恐怖心から一向に攻勢に出られないでいた。

 

「(なんでか知らねぇけど、なんでこんなへなちょこにあたしの攻撃が当たらねぇんだ?)」

 

叢雲流の理力の型を知らないヴィータからしたらこんなドジっぷりを見せる萌莉に攻撃が当たらないのが不思議でならないようだ。

 

『きゅ…』

 

そんな萌莉を心配するようにファーストが遠目から見守っていた。

 

「(何か…きっかけがあれば、化ける気がするんだけど…)」

 

萌莉の稽古はかなり難航していた。

 

ちなみに木場は魔帝剣グラムを制御する方法をゼノヴィアのエクス・デュランダルを参考に模索していた。

 

………

……

 

・魔力魔法組

 

人数的に一番規模の大きい組でもあるため、その中でも幾分か細分化されていた。

 

生体魔力を扱うリアス、朱乃、ロスヴァイセ。

 

大気魔力を扱うフェイト、シルフィー、ラピス、ティラミス、なのは、はやて、リインフォースⅡ、シルヴィア。

 

治療を専門にするアーシア、シャマル、シェーラ。

 

という具合になっている。

 

その中でも多い大気魔力組は…

 

「えっと…じゃあ、まずはこのターゲットスフィアを撃ってみてくれないかな?」

 

「……はい」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

なのはの指導の下、シルフィー、ラピス、ティラミスの3人が射撃魔法の練習をしていた。

 

「高町教官の指導か…」

 

「そっか。シルヴィアちゃんはなのはちゃんの教え子なんやっけ?」

 

「はい。高町教官は私の憧れです」

 

はやての言葉にシルヴィアはそう答えていた。

 

「それにしても…」

 

傍らで練習の様子を見ていたフェイトに視線を向けるはやて。

 

「な、なに…?」

 

親友の何とも言えぬ視線にたじろぐフェイト。

 

「いや、なんだかフェイトちゃんが一足先に大人になったんやなぁ~って思うて…」

 

「は、はやて!? べ、別に忍君とはその…なんというか…///」

 

忍との関係を言われたと思い、急にもじもじし始めるフェイトの反応に…

 

「………あかん。可愛すぎるで、フェイトちゃん」

 

そんな親友の姿にほのぼのしながらはやては抱き着きたい衝動をグッと堪える。

 

「そ、それはそうと!///」

 

「(あ、話題を逸らした…)」

 

「前にはやては神宮寺さんと一緒にストロラーベって次元世界に行ったんでしょ?」

 

「そうやね。地球よりも電脳文化が栄えた感じの世界やったね」

 

前に特務隊の任務を手伝った時に訪れた次元世界のことを思い出しながらはやては語る。

 

「うん。ちょっと気になる噂があって…ストロラーベで不可解な事件が起きてるとか…」

 

「不可解な事件?」

 

「詳細はまだわからないけど…もしかしたら捜査することになるかもしれないから…」

 

フェイトは近い内に現場となるストロラーベに行く可能性を示唆していた。

 

「ストロラーベと言うたら…"あの放送"には驚いたなぁ」

 

「はやて達はストロラーベで見たんだ?」

 

例のノヴァの全次元に対する電波ジャックのことである。

 

「そやで。そん時に紅牙君が変身したのもよく覚えてるわ」

 

「大丈夫だったの?」

 

「うん。ヴィータが封鎖領域を展開してくれたから変な噂にはなってへんと思うよ。それにみんな放送の方に目が向いてたから…」

 

「そうなんだ…」

 

あの放送がストロラーベでどのくらいの影響を出しているのか…そこが不安要素でもある。

 

「この場にいる以上、他種族の存在を認識しているつもりですが…」

 

そこにシルヴィアが口を挟む。

 

「外見的には人と変わりないとしか思えません…」

 

そう言ってその視線をリアスや朱乃、アーシアなどに向ける。

 

「そやね。これだけ人が集まっていて何が違うんやろか?」

 

「それは……わからないね」

 

使っている魔力が生体か大気かの違い、外見的に人と似ていようと何かしら違いがある。

しかし、それを明確にする手段は案外難しいのかもしれない。

 

と、そこに…

 

「俺達人外の者は古くから人の社会に溶け込む術を知っているからな」

 

紅牙がやってきた。

その身にはサジタリアスが纏われていた。

 

「あれ? 紅牙君」

 

「エクセンシェダーデバイスを持ってる人で集まってたんじゃ…」

 

はやてとフェイトの言葉を聞き…

 

「俺だって空気ぐらい読む。それに鎧型とドライバー型では勝手が違うしな」

 

苦笑混じりにそう答えていた。

 

「それはあいつらもわかっているから、明幸は叢雲の様子を見に行っている。紅神も二天龍の相手をしてる初代の下に向かった」

 

智鶴は萌莉が心配で、忍は初代に己の力のことを聞きに行ったようだ。

 

「それにしても…それがロストロギア指定のデバイスかぁ」

 

物珍しそうにペタペタと触るはやて。

 

「ここにはないが、双子座も冥界と天界が共同管理していると聞く。アレ以来、奴も静かだと聞くしな…」

 

グレイスは地球のどこかで冥界と天界が共同で監視しているらしい。

どこかは不明だが…。

 

「えっと…現在確認されているのが…忍君の水瓶座、智鶴さんの蠍座、神宮寺さんの射手座…」

 

「それとノヴァの山羊座、現世の神の双子座。黄道十二星座の内、五つだな」

 

「となると、まだ発見されてないのは…牡羊座、牡牛座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、魚座の七つかぁ」

 

エクセンシェダーデバイスの打ち分けを話していた。

 

「改めて聞くと、多いですね…」

 

(はた)から聞いていたシルヴィアがそう漏らす。

 

「まぁ、星座がモチーフならもっとあると思うけどなぁ…」

 

星座全体で数えるならばそれはそうだろうが、エクセンシェダーデバイスは黄道に属する十二の星座がモチーフになっている。

 

「それでもコアドライブの恩恵は凄まじい。それが敵にも渡っている以上、楽観は出来ん。はたして、どれだけこちら側に引き込めるか…」

 

射手座を手にしたことでわかったコアドライブの恩恵に紅牙はそう漏らしていた。

 

「一種の旗取り合戦やね」

 

「エクセンシェダーデバイスの捜索は特務隊でも行ってますが、今のところ目ぼしい情報はありませんね。それぞれのデバイスが必要とする選定条件も曖昧ですし」

 

「その辺はどうなんだ、サジタリアス」

 

紅牙が情報を求めてサジタリアスに尋ねる。

 

『ん~、残念ながら他の奴等の選定条件に関してはデータにないんだよね』

 

「そうですか…」

 

それを聞き、シルヴィアも表情を暗くする。

 

『俺達って基本的に単独で選定者を決めるからねぇ。その辺のデータ交流はないんだよね』

 

「…地道に探す他ないか」

 

結論としてはそうなってしまう。

 

「さて…お喋りはそこそこに俺も砲撃の訓練でもするか」

 

「砲撃の訓練?」

 

「こいつの固有魔法『サジットブラスター』は砲撃魔法の一種でな。十全に使いこなすには俺自身も砲撃魔法を色々と修得しとく必要があるらしい」

 

「へぇ~、そうなんや」

 

「あぁ…本当に厄介なものだ」

 

そう言って紅牙は空へと上がってしまう。

 

「…………」

 

それを見送った後…

 

「はやて?」

 

「うん?」

 

「神宮寺さんと何かあった?」

 

「いや、何もないけど?」

 

「そう?」

 

「うん」

 

そのような会話が親友間で行われていた。

 

………

……

 

こうしてそれぞれの修行は開始された。

 

しかし、全ての修行が順調と言われればそれは否だろう。

順調な者もいれば、からっきしという者もいるのは仕方ないのかもしれない。

 

そんな中、フェイトの示唆した通りのことが起きる。

 

第84管理世界『ストロラーベ』で、不可解な事件が発生してその捜査に向かうことになる。

そこでの出会いがまた波乱を呼ぶとも知らずに…。



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第八十話『次なる舞台へ』

忍がミッドチルダに渡り、数ヵ月か経った頃のこと。

 

それが担任の口から告げられたのは朝のSHRであった。

 

「え~、突然ではあるが、ベニガミが転校することになった」

 

「「「「「えええええ!?」」」」」

 

クラスにも馴染んできた頃に転校とは忙しない事である。

 

そんな中…

 

「(聞いてねぇぞ…)」

 

当の本人である忍も何のことかわからないでいた。

 

「(また、あの大人共の仕業か?)」

 

忍の脳裏にはアザゼルとゼーラの姿が過ぎっていた。

というか、今回の件に関してはゼーラだけの気がしないでもないが…。

 

「急なことに先生も驚いているが、ベニガミはこの後学園長室に行ってくれ」

 

「わかりました」

 

出来るだけ平静を装いながら忍はそう答えていた。

 

………

……

 

・学園長室

 

コンコン…

 

「失礼します」

 

そう言って学園長室に入る忍を中で待っていたのは…

 

「来たか」

 

予想通りと言ったらいいのか、ゼーラであった。

学園長は席を外している。

 

「また、急な転校とか…今度は何処に飛ばそうってんだよ?」

 

学園長がいないのもあり、ゼーラに対してそのような口を利いてしまう。

 

「ストロラーベにある『フェイタル学園』だ」

 

そんな口調も気にせず、ゼーラはそう答えていた。

 

「ストロラーベ?」

 

「管理世界の一つだ。最近、そこで奇妙な事件が多発しているらしくてな。お前にはその調査を行ってもらうということだ」

 

「そのための転校だと?」

 

「そうだ」

 

真顔で肯定するゼーラにもう何も言い返すことが出来ないのか…。

 

「もうちょっとで地球に帰れるというのに…また面倒なことを…」

 

そんな愚痴を漏らす忍だった。

 

「そう悲観しなくても短期編入だ。三学期には地球に帰れるだろう。それまでに事件が解決すればの話だが…」

 

「お~い…」

 

つまり、積極的に事件に首を突っ込めと言ってるような物言いに忍は抗議の声を上げる。

 

「既に手続きは済ませてある。明後日には現地に入れるように準備しておけ」

 

「ホントに急だな…本人にすら連絡がないのはどうかと思ったぞ?」

 

ゼーラの用意周到さには今更文句を言っても仕方がないとしても、忍はそれくらいの愚痴を言ってもいい気がしていた。

 

「それに関しては悪いと思っている。が、それ以上に事態は緊迫しているかもしれんということだ」

 

「いったい、その世界で何が起きてんだよ?」

 

当然ながらそれほどの事態なのか、気になるところではあった。

 

「こちらで報告を受けた限りでは…不明、としか言いようがない。が、あるネットゲームが関わっている可能性があるらしい」

 

「ネットゲーム?」

 

「ストロラーベで流行っているというものだ。詳しい情報は向こうで集めろ」

 

「アンタも丸投げか?!」

 

ゼーラもアザゼルのようにほぼ丸投げ状態で忍を送り出そうとしていた。

 

「ともかく、現地での情報収集は基本だ。捜査には八神三佐やハラオウン執務官、神宮寺も協力するようになっている」

 

「話を逸らすな!」

 

「また、現地には有名な私立探偵とやらが住んでいるらしい。そいつと接触して事件の概要を探るのも視野に入れておけ」

 

忍の言葉を無視してゼーラは言葉を続ける。

 

「……………」

 

もはや反論することすら馬鹿らしくなり、忍は押し黙ってしまう。

 

「なお、ストロラーベでは魔法などの術式は物珍しくなるので、控えるようにしろ」

 

「要はあまり目立たないようにしろと…」

 

「そういうことだ」

 

「はぁ…了解しましたよ…」

 

これは何を言っても受け付けてもらえないと考え、忍は相槌(あいづち)を打つことにしていた。

 

「話は以上だ。良い報告を期待しているぞ」

 

「俺はアンタの正式な部下じゃないんだけどな…」

 

「何か言ったか?」

 

「いいえ、何も」

 

そのようなこともあり、忍はストロラーベへと赴くことになったのだった。

 

………

……

 

・翌々日

 

「ここがストロラーベか…」

 

忍はゼーラの要望通りに現地入りしていた。

 

格好はミッドチルダにやってきた時と同じく駒王学園やフィクシス魔法学園の制服ではなく、赤を基調にしたブレザーに黒のスラックスという出で立ちで、傍らには大型のスーツケース二つを後部タイヤの左右に挟み込むように縛り付けたアステリアがある。

 

「(地球にどことなく似てるが、地球よりも近未来っぽい雰囲気なんだな…)」

 

そんなことを思いながら町の空気を確認する。

 

「(それにしても…)」

 

次元航行便の発着場は首都にしかなく、便の数もそれほど多くはないため、使う人は例外なく珍しがられる。

忍もその例に漏れず、さらに学生服且つバイクの隣に立っているためにかなり目立っていた。

 

「(目立つなと言われても、これは仕方ないと思うんだが…)」

 

ともかく、これ以上目立つ前にその場から移動することにした。

 

「(確か、フェイトや紅牙もこっちに来る予定なんだよな)」

 

そんなことを考えて移動している途中…。

 

「(ゲーセンか?)」

 

近場にあったのだろう、それなりに大きなゲームセンターが目に飛び込んできた。

 

「(あまり地球と変わりないな…)」

 

そんな印象を抱いていると、あるポスターに目が行く。

 

「ぱ、PANZER(パンツァー) DRIVE(ドライブ)』?」

 

そのポスターには宣伝文句なのだろう、でかでかと『君の意識を電脳世界にDrive-in!』と書かれていた。

 

「電脳世界…?」

 

ストロラーベに来たばかりということもあり、どういう意味なのか全く分かっていない様子だった。

 

「(全く訳が分からん…)」

 

頭に?を浮かべながらも気になったので、忍は調べることにした。

ゲームセンターの駐車場にアステリアを停め、結界霊術でスーツケースを保護した後にゲーセン内へと入っていく。

 

「(中は意外と普通なんだな…)」

 

何処の世界でもゲーセンとは似たような造りなのか、と思いながら少し散策してみる。

 

「(クレジットは既にこの世界のモノに変換してるし、少しだけなら遊んでもいいか…)」

 

そんな軽い気持ちで適当なゲームを探す。

 

「(しかし、どれもハイテクっぽいよな。やっぱ、地球のやつとは質が違うのかね?)」

 

忍が見たのは、キャラが美麗な立体映像となって戦っている格ゲー、知らない楽曲によるリズムゲームとダンスゲームが組み合わさったようなモノ、クレーンゲームらしきモノ等など…初見では操作性が問われそうなモノが多い気がしないでもなかった。

 

「(無難なモノにするか…)」

 

そう思ってガンシューティングゲームがあるゲーセンの一角に入る。

 

「へぇ…」

 

目の前に広がる光景を見て思わず声を漏らす忍。

そこには立体映像の敵を銃で倒していくタイプやターゲットマーカーを撃っていくタイプ、対戦形式のタイプなどそれなりに充実してるように見えた。

 

「じゃあ、人気のありそうなやつでもやりますか」

 

そう呟きながら『最新作』という看板があるガンシューティングゲームへと向かう。

 

「(えっと…やり方は地球のと似た感じか。違いがあるとすれば、四方に画面があって立体映像の敵が迫ってくること、敵の攻撃を回避することが出来るくらいだな)」

 

モデルガンを持ちながらゲームの概要を探るように確かめる。

その様子は上京したての田舎者みたいな目で見られているが、忍は一向に気にしていない。

 

「(スコアは……って、凄いな。ほぼ2人で競ってる感じだぞ…)」

 

最新作と言ってるわりに『Y.A』と『ミーシャ』という名前が交互に上位を独占していた。

現在の一位は『Y.A』だったが…。

 

「(ゲーム内容は…どれだけの敵を撃ち倒せるかというシンプルなものか。でも説明文やスコアからして特に上限は設定されてないっぽいんだよな…)」

 

ゲームの説明文を読み、スコアが最近も更新されているのを見て分析した結果、忍はそう判断する。

 

「(敵を撃破する度にポイントが加算されていく感じか。それとゲームオーバー条件は…敵の攻撃を三回受けた場合に終了するか…)」

 

少しだけひらけているとは言え、激しい行動は取れず、出来ても体を逸らしたりしゃがんだりといった最小限の動きだけだろう。

その上で四方に目を向けながら敵を撃ち倒すのだからそこそこ高い難易度と言ってもいいだろう。

 

「(さて、じゃあ…やってみますか…)」

 

クレジットを支払い、ゲームが開始される。

 

「(それにしても…やっぱり軽いな…)」

 

ゲーム用のモデルガンの軽さに忍は少し違和感を覚えるが…

 

「(まぁ、やれないこともないか…)」

 

違和感を気にしつつも目の前に現れた敵(ゾンビとエイリアンを足して二で割ったみたいな感じ)に向かって容赦なく弾丸を撃ち込む。

 

「(だいたい3発で倒せる感じか)」

 

3発撃ち込んだ結果を見てそう判断した忍は…

 

「………………」

 

しばし、無言で四方に気を張ってゲームに集中していた。

ちなみにモデルガンの装弾数は12発で、マガジンを途中まで取り出し、再装填することでリロードが出来るようになっている。

 

「(単純計算で一度のリロードで倒せるのは4体。一度に出現する数も次第に多くなっていく。回避とリロードの速度が鍵か?)」

 

冷静に分析しながら敵の攻撃を回避してリロードを行う。

 

「(出現パターンに規則性は無し。ランダムに次々と出てくるか…)」

 

そんなことを考えていると…

 

「ちっ…」

 

背後からきた敵の攻撃を受け、忍は舌打ちする。

 

「(あと二回の被弾でゲームオーバーか)」

 

忍の闘争心に火が付く。

 

「(たかがゲームとは言え、被弾したのは面白くないな…!)」

 

立体映像故に気配や匂いを感知出来ないが、それでも視界を最大限に活かしてのゲーム攻略を始める。

 

 

 

数分後。

 

「こんなもんか…」

 

画面にゲームオーバーと表示されたが、忍自身は妙に納得した様子であった。

 

「(縦横無尽に動ければもう少しスコアを伸ばせたが、流石にそれは無理な話か…)」

 

さらにゲームオーバーの表示が消えると、スコア更新という表示が出てくる。

 

「(ま、これは適当に…)」

 

スコアは一位を僅差で取った感じで、『S.B』というイニシャルを撃ち抜いていた。

 

「(さてと…って)」

 

その場を後にしようとした時だった。

 

「(滅茶苦茶ギャラリーが集まってる…!?)」

 

周りの視線や匂いを気にしてなかった故、ギャラリーが集まっていたのに気付かなかったようだ。

 

「(やべぇ…また、目立ってしまった…)」

 

一先ず、その場から離れるようにモデルガンを置くと、そそくさと歩き出してしまう。

 

「(まさか、アレだけのことで注目を浴びてしまうとは…軽く見た限り、似たような制服を着てる奴もいたし…これはまた厄介なことになるかもしれん…)」

 

ゼーラから出来るだけ目立つなとは言われているものの、忍は外見で言えばイケメンに分類される容姿に成長してしまったし、瞳も今では珍しいオッドアイ、背もそこそこ高く、多くの戦闘を経験したことによって筋肉もそれなりに付いてる。

その上、一度経験したことは覚えてるし、成績は上位に食い込む勢い、それらの身体的特徴や能力を鼻に掛けたりせず、今では正義感もそこそこ強く、男女の対応には分け隔てない。

 

こうして改めて見ると、かなりの好青年に見えるが、本人にその自覚はない。

 

「(ともかく、PANZER DRIVEとやらの情報を集めないと…)」

 

ガンシューティングで忘れていたが、忍がこのゲーセンに寄った一番の理由はPANZER DRIVEのことを調べることであった。

 

「(というか、何処にあるんだ?)」

 

ゲーセンの案内板を探していると…

 

「なぁなぁ、いいだろ?」

 

「こ、困ります…」

 

「ちょっとだけでいいからさ、俺達と遊ぼうよ。な?」

 

何処の世界でも同じような光景を目撃するものである。

いかにもチャラそうな男2人が困っている様子の少女をナンパしているのだ。

 

「(ああいう輩の"遊ぶ"ってのは大抵の場合、"遊ぶ"だけじゃ済まないからな…)」

 

その様子を偶然にも目撃してしまった忍は、ナンパされてる少女の所へと歩いていくと…

 

「すまない。待たせたかな?」

 

自然な風を装って少女に語り掛ける。

 

「ふぇ…?」

 

少女は忍の登場に間の抜けた声を漏らしてしまう。

ちなみに少女の容姿は腰まで伸ばしたストレートの白銀色の髪と紫色の瞳を持ち、幼さの残る綺麗な顔立ちに発育の良いスタイルをしており、頭には黒いカチューシャを着けている。

また、服装は赤を基調にしたブレザーに縁に白いラインの入った黒いミニスカートという出で立ちだった。

 

「あぁ? なんだ、テメェは?」

 

忍の登場にチャラ男Aが不機嫌な声を上げる。

 

「なにって、彼女の連れさ。少しの間、席を外しただけで絡まれるとは思わなくてね」

 

即席の嘘をよくもまぁペラペラと語れるな…。

 

「ちっ…連れがいたのかよ!」

 

「あ~あ、なんか白けたぜ…」

 

そう言ってチャラ男AとBはその場から立ち去ろうとする。

 

「…………」

 

チャラ男の姿が完全になくなるのを待ってから…

 

「ごめんね。驚かせちゃって…」

 

忍は少女に謝っていた。

 

「ぁ、いえ…こちらもおかげで助かりました。ありがとうございます」

 

少女の方も忍にお礼を言っていた。

 

「気にしないで。ああいうのは同じ男として見るに堪えないからね。それじゃあ、俺はこれで…気をつけるんだよ」

 

そう言い残して忍はその場から立ち去ってしまう。

 

「あ…」

 

何か言いたそうな少女を残して…。

 

 

 

しばらくして案内板を見つけた忍は二階から上に『PANZER DRIVE』に関する施設がある事を知る。

 

「(まさか、個室を完備しているとは…ますますわからないぞ、PANZER DRIVE)」

 

そこでふと先程のことを思い出す。

 

「(あの娘の匂い…初めて会ったはずなのにどこか懐かしい匂いがしたな。それに…この世界じゃかなり珍しいだろう"四つの力(魔・気・霊・妖)"の匂いもしたが…あの様子じゃ使った経験が無いんだろうな…)」

 

少女から漂ってきた不思議な匂いに忍は少しだけ懐かしさを感じていた。

 

「(とりあえず、今日はPANZER DRIVEに関するパンフレットでも持ち帰って、ネットとかで詳細を調べるとするか…)」

 

そう決めた忍は、ゲーセンの受付でPANZER DRIVEのパンフレットを貰うと、ゲーセンから出た。

 

「(PANZER DRIVE。通称『パンドラ』。第三のネット『パンドラネットワーク』という電脳世界で行われている意識と感覚をネット内に移すことで日常では味わえない剣と銃と魔法などを体感することが出来る登録制のネットゲーム、か)」

 

アステリアに寄り掛かりながらパンフレットの中身をサラッと黙読する。

 

「(もしかして、今回の事件とやらに関係してるネットゲームって…これなのか?)」

 

ゼーラから聞いた話を思い出しながらそんなことを頭の中で考える。

 

「とりあえず、今回の拠点に向かうか」

 

アステリアに跨るとネクサスのナビに従って指定されたマンションへと走る。

 

………

……

 

その翌日。

 

「今日から短い間ですが、こちらに編入させてもらいます。紅神 忍です。よろしく」

 

忍は予定通り、フェイタル学園に短期編入という形で潜入していた。

 

「イケメンは死ね!」

「きゃああ♪ 格好いい!」

「あ、昨日ゲーセンにいた…!」

 

クラスからの反応は概ねフィクシス魔法学園と同じようなものだった。

 

「はいはい、あまり騒ぐな。次の時間は幸いにも俺の授業だから特別に編入生への質問を許可してやるから…」

 

担任がそう言ってクラスに対して制止を掛ける。

 

「(また質問攻めかな…)」

 

そんなことを思いながら忍は空いている席に移動し、隣の生徒に挨拶する。

 

「短い間だけど、よろしく」

 

「あ、はい。よろしくお願いします。紅神さん」

 

隣の席の生徒は…ミディアムくらいの長さの金色に近い茶髪で全体的な線は細く華奢な印象の体型の少年だった。

前髪が目元を隠すくらい長いので顔立ちや瞳はわかりづらいが、制服は男子のものなので少年と判断した。

 

「あぁ、えっと…」

 

「僕はユウマって言います。天崎(あまがさき) ユウマ」

 

「ユウマか。俺の事も忍でいいぞ?」

 

「じゃあ、忍さんで…」

 

「(さん付けもしなくていいんだがな…)」

 

ユウマと名乗った少年の真面目さに苦笑しながら忍は質問攻めに対する気構えをしていた。

 

 

 

そして…

 

「何処から来たの?」

「なんでこっちに来たの?」

「パンドラ、やってる?」

「彼女とかいるの?」

 

何というか…デジャヴである。

 

「ミッドチルダの方から来た」

「ちょっとした家の用事でね」

「いや、こっちには来たばかりだからやってない…というよりもわからないのが正直なところかな」

「彼女ならいるよ。将来を誓い合っててね」

 

忍は苦笑しつつも一つ一つの質問に返していく。

彼女がいると言った時の女子の反応は"ええ~"と残念そうでフィクシス魔法学園でも見た光景だった。

 

「パンドラ、知らないなら私達が教えてあげるから!」

 

しかし、女子とは強かなものでパンドラを口実に忍に接近しようとしていた。

 

「ていうか、ミッドチルダから来たってことは、魔法とか使えるの?」

 

その他、魔法にも関心を持っているようだった。

 

「いや、俺は魔力が乏しくてね。人様に見せれるような魔法とかは…ちょっと持ってなくてね」

 

「な~んだ、残念…」

 

「悪いね」

 

とは言え、どちらかと言えば戦闘では頻繁に使ってるのだが…平和な日常に水を差す訳にもいかないので黙っておく必要があった。

 

「しかし、パンドラか。ちょっと興味はあるんだよな…」

 

実際のところ、事件に関係している可能性が高いため、情報は多いに越したことはないという判断だろう。

 

「(だが、事件の詳細もわからない以上、下手に潜り込んでもな…)」

 

そう、肝心の事件に関する情報は皆無だったりする。

 

「(私立探偵だったか…そこに行ってみるしかなさそうだな…)」

 

そう思い…

 

「そういえば、こっちに来る時に聞いたんだが、ここには有名な私立探偵がいるとか…」

 

忍は思い切って周りにいる女子達に尋ねていた。

 

「探偵って…あぁ、あの"雪白"探偵さん」

 

「(雪白?)」

 

思わぬ名字に忍は内心首を傾げる。

 

「なに、忍君って探偵にも興味あるの?」

 

「あ、あぁ…パンドラの次くらいにはね」

 

そう誤魔化すと…

 

「だったら"ユウマちゃん"に聞いてみなよ」

 

「ユウマ、ちゃん…?」

 

「忍君の隣の席に座ってる子だよ」

 

「ユウマに?」

 

「うん。確か、雪白探偵って娘さんがいてね。その娘とユウマちゃん、幼馴染みのはずだよ」

 

思わぬ情報を入手したところで…

 

「そうなのか。ところで、なんでちゃん付け?」

 

さっきから気になってた疑問を口にする。

 

「えっとね」

 

そう言っておもむろに1人の女子がユウマの背後に回ると…

 

「こういうことだから♪」

 

いきなりユウマの前髪をオールバック状に掻き揚げてみせた。

 

「ひゃっ!?」

 

まるで女の子の悲鳴みたいな声を上げるユウマ。

と、前髪で隠れてた顔が見えた。

ユウマの顔立ちはまるで女の子みたいに可愛らしく、瞳はブラウンだったりする。

 

「ぁ、ぁぅ…///」

 

当の本人は恥ずかしそうに机に突っ伏す。

 

「もう、相変わらずユウマちゃんは可愛いなぁ~」

 

「………なるほど」

 

少しだけ反応が遅れたが、忍は納得したようだった。

 

「じゃあ、悪いがユウマ。その私立探偵の所に案内してくれるか? ついでにパンドラのことも教えてくれると助かる」

 

「ぼ、僕でよければ…いいよ…////」

 

忍はちゃっかりユウマにパンドラを教えてもらうようにも頼んでいた。

 

 

こうして忍は当初の予定通り(かは不明だが…)、事件の概要を知るために私立探偵の元へと赴くことになった。

しかし、この時…あんなことになるとは誰も思わなかったし、知る由もなかった。



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第八十一話『再会』

フェイタル学園に潜入を果たした忍は、そこで『雪白探偵』と呼ばれる私立探偵の娘と幼馴染みだという『天崎 ユウマ』と出会った。

思いがけない出会いではあったが、早々に事件の事を知る必要があったため、忍はユウマを頼りに雪白探偵に会うことにしたのだった。

 

 

・放課後

 

「急な話ですまなかったな。ユウマにも予定があるだろうに…」

 

忍は帰り支度をしながら隣の席にいるユウマに謝る。

 

「ううん、気にしないで。今日はパンドラの定期メンテナンスの日だったから…」

 

そう答えながらユウマも鞄を持つ。

 

「あ、でも雪絵ちゃんを紹介したら僕は帰らないとかな。今日はスーパーの特売日でもあるから…」

 

「買い物か? にしてはまるで主婦みたいな発言だな。両親はいるんだろう?」

 

「うん。でも…なんというか、ちょっとお母さんには任せておけないというか…」

 

何と言っていいのか、困っているような様子を見せる。

 

「? まぁ、無理には聞かないが…家の手伝いをしてるのか」

 

「そんなところ」

 

忍の言葉に誤魔化すように頷くユウマだった。

 

「そうか。なら、今度その辺も教えてくれ。俺も今は1人暮らしだから少しでも安いものを買いたいしな」

 

「うん。そういうことなら喜んで」

 

そんな会話をしながら2人は教室を出て、一年生の教室へと赴く。

 

「すみません。雪白さんっていますか?」

 

下級生の生徒に尋ねるユウマ。

 

「(何度聞いても落ち着かないな…)」

 

『雪白』という名字は忍にとってはそれなりに意味深いものであるため、別の次元世界で同じ名字を持つ家があるとは考えてもみなかったのもあってか、少し落ち着かなかった。

 

と、そこへ…

 

「ユウマ先輩。どうかしたんですか?」

 

1人の少女がやってきた。

 

「あ、雪絵ちゃん。今日はちょっとお願いがあって…」

 

そう言って忍の方を見るユウマにつられて少女もそちらを向くと…

 

「ぁ…」

 

「君は、昨日の…」

 

それは昨日ゲーセンでナンパを受けていた少女であった。

 

「あれ? 忍さん、雪絵ちゃんのことを知ってるんですか?」

 

「あぁ、昨日ちょっとな」

 

敢えてナンパの件は出さないようにして忍はそう答える。

 

「なら、話が早いかも…雪絵ちゃん、この人は紅神 忍さん。今日から僕達のクラスに編入してきた人なんだ」

 

「『雪白(ゆきしろ) 雪絵(ゆきえ)』です。昨日はありがとうございました」

 

ユウマの紹介に少女…雪絵も丁寧にお辞儀しながら忍に挨拶する。

 

「紅神 忍だ。今日はちょっと不躾な頼みをしに来たんだ」

 

「不躾な頼み?」

 

忍の言葉に雪絵は首を傾げる。

 

「あぁ、実は君のお父さん…雪白探偵に会いたいんだ」

 

「お父さんに?」

 

「ちょっとした事情があってね。話を聞きたいと思ってるんだ」

 

忍の真剣な表情に…

 

「わかりました。多分、家にいると思うのでご案内しますね」

 

雪絵も了解していた。

 

「ありがとう」

 

これで捜査の第一歩が踏めるなと内心で思っていると…

 

「それじゃあ、僕はこれで…」

 

「ユウマもありがとうな」

 

「気にしないで。また明日ね」

 

「あぁ、また明日な」

 

足早にユウマが帰路についてしまった。

 

「(確か、今日はスーパーの特売日だって言ってたな…)」

 

心なしか少しウキウキしてるようにも見えたそうな…。

 

「(そういえば、微かだったが…ユウマからも魔力の匂いがした。でも、本人は気付いてないのか?)」

 

そんなことを考えつつ、忍は目の前にいる雪絵という少女の存在にも気を配っていた。

 

「(この娘からは本当に懐かしい匂いを感じる。何故なんだ?)」

 

名前に雪白が付いていたり、懐かしさを感じることに忍はなんだか不思議な気持ちにしていた。

 

「? どうかしましたか?」

 

「あ、いや…大丈夫だ。そろそろ行こうか?」

 

「はい」

 

そう言うと、忍は雪絵の歩調に合わせて移動を開始した。

 

………

……

 

・雪白探偵事務所前

 

「ここが…」

 

「はい。私の家でもあります、『雪白探偵事務所』です」

 

「一軒家なんだな…」

 

「はい。そうなんですよ」

 

そう言いながら雪絵の先導で家の中へと入れてもらう。

 

「ただいま」

 

すると…

 

「あら、雪絵ちゃん。お帰りなさい」

 

背中まで伸ばした白銀色の髪と瑠璃色の瞳を持ち、可愛らしい部類に入る顔立ちに肌は色白で細身の平均的な体型の女性がやって来た。

ちなみに浴衣の上にエプロンというちょっと割烹着を思わせるような恰好をしている。

 

「お母さん、お父さんは?」

 

「あの人ならリビングでお仕事してるけど…あら?」

 

そこで女性は雪絵の後ろに控える忍の姿を捉える。

 

「(雪女…?)」

 

その匂いを嗅いで忍は驚く。

 

「(雪白姓の…雪女…)」

 

どこか引っ掛かる単語に忍の動悸は無意識の内に速くなっていく。

 

「あら、あらあら…もしかして、雪絵ちゃんにも彼氏が出来たの?」

 

「ち、違います…!////」

 

母親らしき女性の言葉に雪絵は赤面しながら否定していると…

 

「なんだ、騒がしい。雪絵に男がどうしたって…?」

 

リビングの方から資料を持った、背中まで伸びたボサボサ気味の白銀色の髪と真紅の瞳を持ち、渋めのワイルド系な野性味溢れる顔立ちに全体的な線は細くもなく太くもないという感じの男性がやって来た。

 

「あなた、あなた。雪絵ちゃんが男の子を連れてきたの。しかも結構なイケメン君よ!」

 

男性に駆け寄り、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねる女性を見て…

 

「男だぁ? あの雪絵がか? おいおい、何の冗談……だ…?」

 

男性が忍の方を見るのと同時に驚愕したような表情と目となり、手にしていた資料をバサリと落としていた。

 

「(この匂いは……俺と同じ、狼…?)」

 

男性から感じる匂いに忍の中で何かが溢れる。

 

「し、忍…なの、か…?」

 

「え…?」

 

男性が恐る恐るといった感じで呟くと共に、女性の方も驚いたように忍を見る。

 

「? どうしてお父さんが"紅神"先輩の名前を…?」

 

疑問を抱いた雪絵が発した一言で…

 

「「っ!!!」」

 

『紅神』という名字を聞き、男性と女性の表情がいよいよもって穏やかじゃなくなる。

男性はバツが悪そうに、女性は口元に両手を当てて今にも泣きそうな表情になる。

 

「お、お父さん? お母さん?」

 

その見たこともない表情に雪絵は困惑し、無意識に忍の制服の袖を掴んでいた。

 

「……………」

 

そんな3人とは対照的に忍は…どこか冷静だった。

だが、その沈黙はかえって重く、嵐の前の静けさのようにも感じられていた。

 

そして…

 

「俺の名前は…紅神 忍。あなた達の…"息子"でいいんだな?」

 

そう、静かに確認するように呟いていた。

 

「え…?」

 

その言葉に雪絵が忍を見上げる。

 

「お兄、ちゃん…?」

 

それは親子の再会ではなく、家族の再会だった。

 

 

 

場所を雪白探偵事務所のリビングに移し、リビングにあるソファーに座る一同。

座った位置は大型テレビに対して横向きに配置された大きめのソファーに男性と女性、その横にある大型テレビを正面から見れる小さめのソファーに雪絵、男性と女性の反対側のソファーに忍である。

その中心にはソファーがコの字状に囲われているような形で少し大きめのテーブルが置かれており、さっきまで男性がそこで仕事をしていたのか資料が散らばっている。

また、資料に零れないようにお茶が出されている。

 

「「「「………………」」」」

 

何とも言えない空気が漂い、誰一人喋ろうとしない。

 

それはそうだろう。

片や捜してきた両親が別次元で探偵業などやってるのだから対応に少し戸惑っている。

片や結果的に地球に置き去りにしてしまった実の息子になんて説明したらいいのかと悩んでいる。

片や昨日助けてくれた恩人が実は兄だったなんて…普通に考えて誰が思うだろうか?

 

「(そういえば、"あの人"から伝言を預かってたな…)」

 

深層世界ので出来事を思い出し、忍は口を開くことにした。

 

「ある人から親父に伝言を預かってる」

 

「あ、ある人…?」

 

実の息子に何を言われるかと思い、男性もおっかなびっくりに聞き返す。

忍は自分の左目を右手で隠し、右目を男性に向けると…

 

「『悪かったな…先に逝ってるぜ』」

 

そんな忍の言葉と姿に…

 

「ッ!!?」

 

男性は兄である狼夜の姿を忍に重ねていた。

 

「兄さん…なのか…?」

 

右手を顔から離しつつ忍は頷く。

 

「遺言だよ。伯父さんのね…」

 

「遺言、か………そうか…兄さんはもう…」

 

それを聞いて男性は…天井に顔を上げて…静かに目を閉じていた。

その眼尻にはうっすらと涙が溢れていたのを忍はもちろん、隣に座っている女性や雪絵も見逃さなかった。

 

しばらくしてから…

 

「お前を地球に置いてっちまった時以来だから…俺らの名前なんて忘れてるよな…」

 

気を取り直したのか、軽く眼を擦って涙を拭うと男性はそう言っていた。

 

「正直…両親の名前すら憶えてなくて申し訳ないと思ってる」

 

そのことに関しては忍も居心地が悪そうだった。

 

「別にいいさ。お前はまだ小さかったからな。俺の名は『狼牙(ろうが)』だ」

 

「えっと…私の名前は『雪音(ゆきね)』だよ…」

 

男性は『狼牙』、女性は『雪音』とそれぞれ名乗った。

親子なのに改めて自己紹介するというのもなんだか変な感じではあるが…。

 

「しかし、なんだな…何から話していいのやらわからねぇな…」

 

「それは俺も同じだよ」

 

狼牙の言葉に忍も苦笑しながら同意していた。

 

「ね、ねぇ…忍君は、私達のことをどう思ってるのかな?」

 

おずおずと雪音が忍に尋ねる。

 

「やっぱり、私達がいつまでも迎えに行けなかったから…恨んでる?」

 

雪音は雪音なりに気にしているらしい。

 

「……正直、わからない。とりあえず、会ったら親父は殴ると決めてたんだがな…」

 

「おい…」

 

忍の殴る宣言に狼牙が声を上げるが…

 

「実際に会うと、なんだかわからなくなった……なんで俺の前から突然いなくなったんだろうとは思ってはいるが…」

 

忍自身、どうしていいかわからなくなっていた。

 

「それは…」

 

「俺が話す。当時、俺達は明幸家に世話になってた。お前はお嬢のお気に入りだったから放っておいたんだがな。ある時、当時の幹部が俺達の存在を疎ましく思ってたらしくてな。悪魔の力を借りて転移魔法陣を敷いて、俺達をそこに誘き出した。だが、その魔法陣は不完全だったらしくてな。何の因果か、俺と雪絵を身籠ってた雪音は次元跳躍して、このストロラーベに飛ばされちまったんだよ」

 

そう簡潔に説明したのだが…

 

「つっても悪魔だの転移魔法陣だの言われてもピンと来ないか…」

 

説明の後にあはは、と力なく笑う狼牙だった。

 

しかし…

 

「なるほど。だからアレ以来、あの人の姿を見なかったのか。きっとケジメをつけさせられたんだろうな…」

 

忍は妙に納得したような様子だった。

 

「あれ!? 通じてる!?」

 

忍の反応に逆に狼牙の方が驚いていた。

 

「俺もここ数ヵ月の間に色々とあったからな…」

 

しみじみと思い返してみて、遠い眼をしながら乾いた笑いを浮かべる。

 

「というか、お嬢とはどうなんだよ?」

 

そんな様子の忍を見て、狼牙は話題転換として冗談半分でそう聞きながらお茶を(すす)る。

 

「智鶴と? 既に将来を誓い合ってるが…?」

 

平然と言ってのける忍に…

 

「ぶっ!?」

 

狼牙としては予想外の答えにお茶を噴き出してしまう。

 

キィン…

 

ある程度、予想していた忍は資料にお茶が掛からないように冷気を使ってテーブルと自分をきっちりとガードしていた。

 

「汚ねぇな…というか、自分から振っておいてその反応はどうなのよ?」

 

呆れた物言いで忍は冷気を収束して凍った狼牙の噴き出したお茶の一点に纏めると、キッチンの流しに移動させていた。

 

「忍君…今のって妖力…?」

 

「あぁ…まぁ、どちらかと言えば、魔法なんだが…」

 

雪音の驚いた様子に忍はちょっと困ったようにそう答える。

 

「今のが魔法…実物を初めて見ました…」

 

雪絵がパチパチと拍手を送る。

 

「そんな大層なもんじゃないんだがな…」

 

雪絵の反応に若干の気恥ずかしさを感じる忍だった。

 

「げほっ、げほっ……まさか、お嬢とそこまでの関係になっていたとは…」

 

咳をしながら狼牙は忍と智鶴の関係性に驚きを感じていた。

 

「あと、これもかなり言いづらいことなんだが……俺の他にも今の明幸家には堕天使や雪女、冥族等などが居候として暮らしてる。あと、義妹も出来てしまった」

 

「はぁ!?」

 

あまりにあまりの衝撃告白に狼牙は思わず叫んでしまう。

 

「さらに言えば、俺は彼女達を守ると誓っている」

 

「あら、まぁまぁまぁ♪」

 

その発言に今度は雪音が嬉しそうに声を上げる。

 

「いやいやいや、待て待て待て!! 一体全体、何があったらそうなる!? 三大勢力的に悪魔の領内に堕天使がいるのはマズいだろう!? ていうか冥族ってなんだ?!」

 

「親父よ。情報が古いぞ。この数ヵ月の間に今や三大勢力は協力体制を敷いている。しかもそれを先導したのは堕天使前総督のアザゼルだ。各神話体系にも協力体制を仰いでる」

 

「なにぃぃぃ!?」

 

その事実に狼牙は絶叫していた。

 

「というか母さん」

 

「なぁに?」

 

忍に『母さん』と呼ばれて雪音はちょっと嬉しそうだった。

 

「俺に従姉妹の許嫁がいるとか知らなかったぞ」

 

「あら? なんでそのことを?」

 

「氷姫さんから聞いたからだよ」

 

ここで氷姫の名を出す。

 

「氷姫ちゃんに会ったの!?」

 

「あぁ。おかげで俺がどういう存在なのかわかった。雪女の血を引いていながらも男として生まれた雪女の里でも初めての事だったんだろ? そこで吹雪…氷姫さんの娘さんとも会って今は明幸家に居候中だ」

 

「あ、だからさっき雪女も居候してるって…」

 

「そういうこと。ちなみに俺達の遠い先祖に冥族っていう種族がいてだな。俺達がリンカーコア…雪女の里流に言えば、魔力玉か? それを遺伝してるのはその種族の血が流れてるからなんだよ」

 

「へぇ~。魔力玉にそんな秘密があったんだぁ」

 

冥族の祖先がいる事を雪音に教えたが、どうも雪音は忍と話せてることが嬉しくて頭にあまり入ってないように見える…。

 

「この数ヵ月、お前の身の回りで一体どれだけのイベントが起きたんだよ…?」

 

頭を抱えた狼牙は忍にそう問いかけていた。

 

「それはもう色々と…俺の身にも色々と起きたしな…」

 

そうして、忍は自分の身に何が起きたのかを話すのだった。

 

一学期、悪魔や堕天使、時空管理局との邂逅。

マッドサイエンティストに異種族の血を二種類も注入させられたこと。

聖剣騒動、フィーネとの戦い。

三大勢力の会談と、テロ組織『禍の団』との開戦。

 

夏休み、冥界入りに眷属の駒の入手。

雪女の里での戦い。

 

二学期、狼夜こと邪狼との死闘。

箱舟を巡る装者の戦い、邪神ロキとの戦い、修学旅行での英雄派との戦い、別次元の世界で起こった動乱への介入。

辺境伯の地位を受け取ったこと。

学園祭で旧友との出会い。

ミッドへの留学、友人の中級悪魔昇格で起きた襲撃事件。

始龍との邂逅、友人達とのレーティングゲーム。

伝説の邪龍達が復活し、吸血鬼の領土が壊滅的な被害を被ったこと。

前ルシファーの息子が『クリフォト』を組織し、多次元世界に攻めようと企んでいること。

時空を越えたパラレルワールドからやって来たもう1人の自分との死闘と存在の統合。

対テロ組織『D×D』の発足。

 

そして、一族の仇敵『絶魔』の暗躍と、今回の件で調査にやって来たこと。

 

をれを聞き…

 

「なんというか…過密だな」

 

狼牙はそう言うだけで精一杯だった。

 

「「………………」」

 

忍の体験してきた様々な出来事に雪音と雪絵は言葉を失っていた。

 

「話の流れでわかったかもしれないが…狂気に満ちた伯父さんにトドメを刺したのは、俺だ。その時に本来の右目も潰れた。その後、別世界で伯父さんの右眼を移植してもらって今に至る。その際に伯父さんの残留思念が俺の中で留まり、助けてくれた。そして、最期には一族のことや"真なる狼"の情報も教えてくれて、遺言もその時に聞いたものだ」

 

「そう、だったのか。あの兄さんが…」

 

喧嘩別れのまま、遂に二度と会うことのなかった兄の最期を息子に聞かされ、狼牙は複雑な心境だった。

 

「……今日は驚くことの連続だ。不本意とは言え、地球に置いてきちまった息子を娘が連れて来るわ。兄さんは息子の手で死に、その息子はここ数ヵ月で色んなことを体験してるときたもんだ」

 

ソファーにぐったりと体を預けながら独り言ちに呟く。

 

「そうだね…」

 

雪音もまたなんだか疲れたようにソファーに体を預ける。

 

「俺も…まさか、こんな形で両親に出会えるとは思わなかった。それに妹がいたってのも驚いたんだが…」

 

そう言いながら忍は最初から冷めていたお茶を啜る。

 

「お兄ちゃんのことは…お父さんとお母さんから聞いてましたから…」

 

雪絵は忍の隣に移動すると…

 

「こんなに素敵な人で、良かったです…」

 

ピトっと寄り添い、忍に肩に頭を乗せていた。

心なしか雪絵の表情も上気しているようにも見えなくもないのだが…?

 

「あ~、雪絵のブラコン化が加速していくな…」

 

「いったい俺のいない間に雪絵に何を吹き込んだ?」

 

狼牙の言葉に忍は何やら悪寒を感じた。

 

「えっと…『あなたにはお兄さんがいるの。ここにはいないけど私達の大切な家族だから会えたらちゃんと挨拶しましょうね。きっと素敵に育ってくれてるはずだから…それに釣り合うようにあなたも素敵な女性になってお嫁さんになってあげてね』だったかな?」

 

思い出すように雪音が答える。

 

「それを雪音は赤ん坊の頃から幼稚園か、小学生の頃まで言い聞かせてたからな」

 

狼牙もほのぼのとした感じでお茶を啜る。

 

「雪女の里の癖というか風習は直ってないのな…つか、血の繋がった妹に何を吹き込んでるんだ!?」

 

サラッと流しそうになったが、忍はさっきの雪音の発言にツッコミを入れる。

 

「え? 実家にいた頃はそういうのも当たり前だったけど…?」

 

「マジか!? どんだけ深刻だったんだ、雪女の里の婿事情!!? つか、親父も何とか言ったらどうだ!?」

 

雪女の里の深刻な婿事情を聞きながら、お茶を啜る狼牙に矛先を変える忍だったが…。

 

「兄さんが死んだ以上、俺達霊狼の血はかなり貴重だからな。実の兄妹だろうと血が濃くなって未来に繋がるなら別にいいだろ?」

 

こちらもサラッととんでもないことを言い出す始末。

 

「おおぅ…ここにも身内の貞操に関して緩い考えの奴らがいた…!!」

 

氷姫といい、雪音といい、狼牙といい…何故、忍の親族は身内に対してこうも貞操観念が破綻してるのだろうか?

事情が事情だからか?

 

Case.1『雪女の里の婿事情』。

雪女は基本的に女系。

生まれてくるのは基本が女(忍という例外は除く)。

よって外から婿を探さないとならない。

しかし、極寒の世界に順応出来る男が一体どれだけいるだろうか?

なら、男が複数の女性と関係を持つしかない。

狼牙やセラールは共に1人の女性と添い遂げてるため、除外するが…。

その点、雪女の血を引いていながら男である忍は種の存続のために複数の女性と結ばれるべきだと考えられる。

それがたとえ、従姉妹や実の姉妹であろうと…。

 

Case.2『霊狼』

地球によく似た惑星の神の使者として繁栄していた。

しかし、絶魔によって衰退し、絶滅の危機にまで瀕してしまった。

その中で、生き残ったのは神を捕食した狼の直系である狼夜と狼牙のみ。

しかし、前者は死亡。

後者は雪女との間に二児を設けることに成功。

しかし、3人しかいない霊狼が果たしてこれから子孫を残せるだろうか?

だったら、身内だろうと血を濃くするために実の兄妹だろうと関係を持ってもいいんじゃないか?

という危ない考えに至る可能性が高い。

 

(以上の2つは勝手な憶測に基づいた推測の域を出ない不確定な情報なので、信憑性はかなり低いとされるので悪しからず)

 

そんな風に忍が頭を抱えていると…

 

「お兄ちゃんは…私がお嫁さんになるの…ご迷惑ですか?」

 

うるうるとした瞳で忍を見上げる雪絵はそう問う。

 

「あ、いや、別にそういう訳じゃないんだぞ? 世間的に考えてだな……雪絵みたいな可愛い子がお嫁さんになってくれると言ってくれるのは大変嬉しいんだが、俺と雪絵は実の兄妹な訳であって、それを世間様が許すかと言われれば…多分、絶対に許されないと思う訳で…」

 

今にも泣きそうな雪絵を見て忍はしどろもどろになりながら世間体の話をする。

 

「お前らが自分から兄妹だなんて言わなきゃバレねぇだろ?」

 

「そういう問題か!?」

 

「この世界の戸籍上は忍は家族じゃないからな。実際は家族なんだが…」

 

"この世界"と限定した場合ならそうかもしれないが…。

いや、事実を非公開にしたままなら忍と雪白探偵事務所は無関係を貫けるのか?

 

「アンタら、どうしても俺と雪絵をくっ付けたいのか?!」

 

再度言っておくが、忍と雪絵は血の繋がったれっきとした兄妹である。

……………その事実は現在、この4人家族以外知らないが…。

 

「だってなぁ。変な男に引っ掛かるよりも狼の血を濃く残せるお前の方がまだマシに思えてな」

 

「そうだよ。家族なんだから一緒にいても不思議じゃないのよ?」

 

狼牙と雪音の言い分は何とも言えないモノだった。

 

「外では紅神先輩か、忍先輩って呼びますから…家ではお兄ちゃんって呼んでもいいですよね?」

 

雪絵も雪絵で別方向の心配をしていた。

 

「こ、この家族は…」

 

本当に困ったように頭を抱える忍だった。

しかし、忍もまたこの家族の一員であり、眷属という形で自分の身を呈してでも守りたい女性を囲っているので、完全に人の事は言えないのである。

 

「あら、もうこんな時間」

 

すると、雪音が時計を見て既に暗くなってることに気付く。

 

「今から作るから待っててね♪ あと、忍君の分も用意するからね♪」

 

「あ、なら私も手伝います」

 

雪音と雪絵がキッチンに移動し、"4人分の夕食"を準備する。

 

「いや、流石にそれは…」

 

そう言ってソファーから立とうとする忍を…

 

「ば~か。家族なんだから遠慮なんてするんじゃねぇよ。つか、一家全員揃っての飯が食える日がくるなんてな…」

 

狼牙が無理矢理に座らせてそんなことを言う。

 

「………そっか…そう、なんだよな…」

 

狼牙の呟きに忍も感慨深そうにそう漏らす。

 

「(やっと…見つけることが出来た、俺の家族…)」

 

そう改めて考えると、忍は泣きそうな気持ちになるが、食事前ということもあってグッと堪えていた。

 

 

 

こうして忍はずっと探し続けていた両親…いや、家族との再会を果たした。

一家団欒の食事をしながら忍は家族の味なんだと、ちょっと冷たい食卓を前に思っていた。

時間が時間だったので、今夜は泊めてもらうことにした。

忍は1人で帰るくらい大丈夫だと言ったのだが、雪音がそれを許さなかった。

せっかく会えたのに、明日起きたらこれが夢だったんじゃないかと思ってしまいそうで怖いから泊っていってと…。

その熱意に当てられ、忍も結局は折れてしまって泊まることが確定した。

そして、案内された部屋は…もしも、忍と再会出来た時のために空けていた部屋だったらしい。

つまり、忍の部屋があったのだ。

ベッドと蒼いカーテン、勉強机しかない簡素な部屋だったが、それでも自分の部屋があったことに忍は少なからずの驚きを覚えた。

そして、忍はその部屋で一夜を過ごすこととなった。

 

今回の事件の概要を聞くのは明日になりそうだ。

だが、それ以上に大切なモノを忍は取り戻したのかもしれない…。



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第八十二話『PANZER DRIVE』

次元世界『ストロラーベ』で忍は捜していた家族と再会する。

思わぬ再会ではあったが、この出会いは忍にとって変えがたいものであるのに違いなかった。

そして、一夜を雪白探偵事務所で過ごした忍は…

 

「ん…んんぅ…」

 

朝日が昇り始めた頃にその意識を覚醒させていく。

 

「(そうか……俺は昨日、泊まったんだっけか…)」

 

朝ボケの頭でも昨日のことが夢ではないのだと実感させられる。

 

「(母さんの言葉にも一理あったか…)」

 

昨日の母親の言葉も今朝になってわからなくもないことがわかったような気がしていた。

 

「(さて、朝の稽古でもするか…)」

 

そう思ってベッドから上体を起こす忍だったが…

 

むにゅん…

 

「ぁ、ん…」

 

何故か左手を着いたところから柔らかい感触が返ってくるかと思えば、隣から女の子の声も聞こえてきた。

 

「………………は?」

 

朝ボケということもあり、正常な思考回路が追いついてない忍は隣を見ることにした。

そこには…

 

「んぅ…お兄ちゃん…」

 

薄手の白いパジャマに身を包んだ雪絵が忍のベッドで忍の方に体の正面を向けたような横向きに眠っていた。

ご丁寧に自分の枕を持参している。

そして、忍の左手はそんな無防備な姿を晒す雪絵の横乳の上にある。

 

「………………」

 

とりあえず、無言のまま左手を退かすと…

 

「家族に会って気が緩んでいたかな?」

 

雪絵の接近に気付かなかった自分の気の緩みを少しばかり気にしていた。

 

「って、冷静になってる場合じゃないよな…」

 

が、すぐさま頭を振って我に返る。

 

「(この時間に起こすのも可哀想だが…というか、雪絵はいつの間にここに潜り込んだんだ?)」

 

とりあえず、忍は静かにベッドから抜け出すと勉強机に置いてあった複数のデバイス群…その中から待機状態のファルゼンだけを手にする。

 

「(ま、もう少し寝かしてやってもいいか…)」

 

出会い自体は偶然かもしれないが、それでも大切な妹であることに変わりないと思い、そのままベッドで寝かせて忍は部屋を出ていた。

階段を下り、玄関から外に出て庭へと移動するとファルゼンを起動させる。

 

「………………」

 

ファルゼンを構え、意識を集中させる。

周囲の空気を嗅ぎ分け、魔力素の流れを肌で感じる。

 

「(ストロラーベは魔力素の濃度が薄いのか? だからあまり魔法も繁栄しなかったのかもしれないな…)」

 

そんなことを感じながらファルゼンを振るう。

軽く振るってからファルゼンを待機状態に戻すと、筋トレを開始した。

 

「(解放形態の問題もそうだが、今の素の状態でも基礎体力や筋力はつけておかないと…)」

 

今の忍の中に各解放形態は存在しない。

牙狼との戦いで無理をしたせいで、深層世界に解放形態が入れるだけのスペースを失ってしまったのが原因である。

今の深層世界は牙狼の"人間"としての深層世界が反映されたものであり、人間故に解放形態を擁するスペースが元々存在しないのだ。

その代わりとして、忍は昔集めていたビー玉を新たな媒介として解放形態の各種能力を封印しているが、今はビー玉内に解放能力を定着させるために不安定な状態が続いているのだ。

現在は真狼のものだけを手元に置いて状態を観察しており、残りの"五つ"は明幸邸の自室に置いてきている。

 

 

 

筋トレを開始してからしばらくすると…

 

『朝っぱらから精が出るな……ふわぁ~あ…』

 

大きな欠伸をしながら縁側に歩いてくる影が一つある。

声からして狼牙だ。

しかし、足音が妙に不自然である。

 

「親父も朝早いんだな……って!?」

 

縁側に来たのは狼姿の狼牙であった。

 

『あん? なに驚いてんだ?』

 

忍の驚き様に狼牙は頭に?を浮かべながら縁側に寝そべる。

 

「そりゃ驚くわ! なんで狼の姿になってんだよ!?」

 

朝ということもあり、少しボリュームを下げながら忍はそう言っていた。

 

『これが俺のリラックスモードなんだよ。仕事ない時とか、基本こうだぞ? つか、そもそもこっちが俺達の本来の姿なんだがな…』

 

そう言いながら、もうひと眠りしそうな勢いで瞼を閉じる。

 

「そういや、雪絵には戦う術とか教えてないだろ?」

 

思い出したように忍は狼牙に尋ねる。

 

『んぁ? まぁ、この世界は平和だからな。必要ないと思っただけだ……昨日までは、な』

 

寝惚け眼から一変、真剣な顔つきになる。

 

「次元戦争のこともあるんだ。何かしら覚えさせといた方がいいと俺は思うぞ?」

 

『とは言え、あいつ運動はからっきしだしな…』

 

「そうなのか…なら術式系をだな」

 

『俺はどっちかと言えば近接型だから無理』

 

ほぼ即答である。

 

「はぁ…」

 

その答えに思わず溜息を吐く。

 

『そういうお前の方はどうなんだよ?』

 

「俺は…中距離攻撃くらいまでなら…でも、親父と似て近接寄りだな」

 

『人の事、言えねぇだろ』

 

それには忍もぐうの音も出なかったので…

 

「後衛なら…シア辺りが適任か? 同じ混血だし、シアなら丁寧に教えてくれそうだし…あ、でも同じ雪女としてなら吹雪の方が…」

 

とりあえず、眷属の中から雪絵に何かを教えることが出来るだろう人材をピックアップする。

 

『人材豊富だな。王様?』

 

「ほっとけ…」

 

狼牙の言葉にそう返しながら筋トレを終了させる。

 

『終わったんならシャワー浴びろよ』

 

そう言いながら狼牙は軽く体を伸ばす。

 

「なら遠慮なく借りる」

 

『"借りる"じゃねぇだろ? ここはお前の家でもあるんだから普通に使えよ』

 

「……なら、そうする」

 

忍は庭から玄関を通り、風呂場へと移動する。

 

「誰もいないな…」

 

匂いで誰もいないことを確認すると寝間着代わりにしてた汗で濡れたワイシャツを脱ぐ。

 

「あ、しまった…着替え…」

 

急に泊まることになったために着替えの事を完全に失念していたことに今気づいたようだった。

 

「どうするか…」

 

上半身裸のまま、困ったと悩んでいると…

 

コンコン…

 

「忍君、いる~?」

 

雪音が風呂場のドアをノックしてきた。

 

「母さん? いるけど、どうかしたのか? というか、俺は今ちょっとした問題に直面しててだな」

 

忍がそう答えると…

 

「その問題を解消しに来たんだよ~」

 

そう言ってドアを開けて入ってくると…

 

「はい、これ」

 

雪音は特に気にした様子を見せることなく、忍に着替えを渡していた。

 

「これは?」

 

「あの人のお古で悪いんだけど…そういえば、着替えを用意してなかったな~って思って持ってきたの」

 

狼牙のお古だという服を受け取ると…

 

「ありがとう。無いより全然マシだよ」

 

雪音にお礼を言っていた。

 

「うん。それじゃあ、朝ごはんの準備してくるね♪」

 

「わかった」

 

そのやり取りの後に雪音はキッチンへと向かい、忍はドアを閉めてシャワーを浴び始めた。

 

 

 

シャワーを浴びた後、着替えを済ませてリビングに移動すると…

 

「むぅ…」

 

いつの間に起きてきたのか、雪絵がパジャマ姿のままソファーに座っていた。

心なしか頬を膨らませて怒ってる様にも見えなくはないが…。

 

「(起こさなかったのが悪かったかな?)」

 

そんなことを考えながら雪絵の隣に腰を下ろす。

 

「おはよう、雪絵」

 

バスタオルで髪を乾かしながら軽く挨拶してみる。

 

「おはようございます。お兄ちゃん」

 

プイッとそっぽを向きながらどこか棘を感じる返しに…

 

「(やっぱり起こさなかったことを怒ってるか…)」

 

忍はそう考えていた。

 

「起こさなかったのは悪かったよ。でも、お前もなんで俺のベッドに潜り込んでたんだ?」

 

とりあえず、謝ることにした忍だが、ベッドに潜り込んでいたことに対しては嫌な予感がしないでもなかったが、聞かずにはいられなかった。

 

「だって…昨日のことが本当に夢じゃないって実感が欲しかったから…」

 

「雪絵…(母さんと似たようなことか…)」

 

だからと言って男のベッドに潜り込むのもどうかと思うが…。

 

「それに…朝一番にお兄ちゃんの顔を見たかったですし…私だけ寝顔を見られたのはなんだか、不公平です…」

 

「(………理由がちょっと病んでないか?)」

 

ブラコンも度が過ぎれば病み気味になるか…?

 

「2人共、今日も学園でしょ? 朝ごはんの前に着替えてきてね」

 

「あ、はい」

 

「あぁ、わかった」

 

雪音に言われ、忍と雪絵はそれぞれの自室に戻って制服に着替える。

 

「これが…家族というものか…」

 

制服に着替えた後、忍はデバイス群のチェックをしながら身に着けられるモノを着けていく。

具体的に言えば、右手首にファルゼン、左手首にアクエリアス、両手の中指にダブルフューラーを身に着け、ネクサスやブラッドシリーズは今回は鞄の中へと放り込んでいる。

 

『嬉しそうですね、マスター』

 

アクエリアスが今の忍を見てそう呟く。

 

「そう見えるか?」

 

『はい。家族に会えたのが、本当に嬉しそうに感じます』

 

「……なら、少し気を引き締めないとな…」

 

『マスターらしいですね…』

 

そんな忍の言葉にアクエリアスは苦笑していた。

 

「とりあえず、学園で事件の噂でも聞きながら、ユウマにパンドラについて聞くか。ついでに親父にも事件の概要を聞かないとな」

 

『そうですね。それに少々気になることもありますし…』

 

「気になること?」

 

『はい。私の勘違いかもしれませんが…』

 

「?」

 

珍しくアクエリアスが言い淀む様に忍も首を傾げながら自室を出てキッチンへと向かう。

 

「おう、来たか」

 

そこには既に食卓に着いてる狼牙(人間体)の姿もあった。

 

「はい、これ。忍君用ね」

 

そう言って雪音は蒼い茶碗を忍に差し出す。

 

「昨日も思ったが…ずっと用意しててくれたのか?」

 

「ったりめぇだ。俺達はお前のことを片時も忘れたことはないからな」

 

雪音から黒い茶碗を受け取りながら狼牙が言う。

 

「そうだよ。正直、恨まれてるかもって思ってたけど…杞憂みたいだったし…」

 

そう言いながら雪絵にピンクの茶碗を渡し、自分は白い茶碗を持つと食卓に着く。

 

「それじゃあ、朝飯も一家団欒と洒落込もうぜ? いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

そう言って朝食も一家で食べることになった忍達。

但し、ご飯は冷たいが…。

 

 

 

朝食を終えてからしばらくして…

 

「「行ってきます」」

 

兄妹揃っての登校である。

 

「はい、いってらっしゃい」

 

玄関前には雪音と狼牙が揃って立っている。

 

「忍。帰ってきたら昨日の話の続きだ。いいな?」

 

「わかってるよ。というか本来はそっちが本題だったんだからな」

 

「はっ、そっちよりもこっちの方が重要だったんだから別にいいだろ。資料は纏めとく」

 

「頼む。こっちもこっちで学園に短期編入したんだから独自に調べてみるつもりだしな」

 

狼牙と忍はそれだけ言葉を交わす。

 

「お兄ちゃ…じゃなくて、忍先輩。早く行きましょ」

 

昨日確認したばかりだというのに、早速"お兄ちゃん"と言おうとした雪絵はすぐさま言い直す。

 

「学園で"お兄ちゃん"ってのは言うなよ。色々と説明が面倒だからな」

 

困ったように言ってから歩き出す忍に対して…

 

「はい。わかりました」

 

嬉しそうにそれを追い掛ける雪絵の足取りは軽かった。

 

 

 

そんな2人を送り出した両親は…

 

「雪絵ちゃん。本当に嬉しそう」

 

「それはお前もだろ?」

 

「まぁ、そりゃね。あなたもそうでしょ?」

 

「……違いねぇ」

 

忍との再会を心から喜んでいたようだった。

 

………

……

 

・フェイタル学園

 

時間的に言えば、朝練する部活動や登校する生徒がまばらな時間帯のはずだが、今日に限っては人が妙に多く感じていた。

そのため…

 

「お、おい…雪白さんと一緒に歩いてる奴、誰だ!?」

「ま、まさか…彼氏!?」

「嘘だろ!? あの雪白さんがだぞ!?」

「俺だって告ったけどフラれたんだぞ!?」

 

朝練もあるというのに男子の悲痛な叫びが所々から聞こえてきて…

 

「あれって…昨日編入した紅神君!?」

「一年の雪白さんと一緒って…」

「ま、まさか、昨日の恋人って雪白さんのことだったの!?」

「で、でも…雪白さんってここ出身でしょ? 紅神君はミッドから来たって言ってたし…接点がわからないよ!」

 

同じクラスの女生徒もいたのか、そんな囁きも聞こえてきた。

 

「お前、こんなに人気があったんだな」

 

「忍先輩も人のことは言えませんよね?」

 

忍の言葉に雪絵がぷくっと膨れながら言い返す。

 

「こりゃお互い、説明に時間を食いそうだな…」

 

「でも…本当の事は言ったらダメなんですよね?」

 

「当たり前だ。こんな騒ぎに油を注ぐような真似できるか…」

 

この騒ぎの中、忍と雪絵が兄妹だという事実を言えば、何が起こるかわかったものじゃない…。

しかも雪絵の性癖と忍の倫理観を疑われたら悪目立ちしてしまうことこの上ない。

 

「とりあえず、お前は俺が…雪白探偵の客ってことで言い貫け。俺の方も何とかする」

 

「それはわかりましたけど…一緒に登校した理由は…?」

 

「無難に偶然出会ったでいいだろ」

 

ちなみにこれらの会話は忍が周りに遮音結界を張っているので漏れる心配はない。

 

「じゃあ、またな」

 

「はい」

 

玄関で別れると、それぞれ自分の教室へと向かう。

 

が…

 

「おい、編入生。ちっとツラ貸せや」

 

いかにもスポーツマン的な奴を筆頭に多様な人物の集団が忍の前に立ちはだかる。

 

「(別れた途端、これかよ)」

 

うんざりしたような表情を表に出さないようにしながら…

 

「何か?」

 

至って平然な風に問い掛けていた。

 

「いいから、ツラを貸せ」

 

問答無用と言いたげである。

 

「(雪絵のファンクラブかなんかか?)」

 

ひたすら面倒だなと思いつつ…

 

「まぁ、少しだけなら…」

 

と言って集団に連れてかれて空き教室まで来てしまった。

 

「(さてはて、何を言われるかな…)」

 

素人相手に体術を使う訳にはいかないが、出口までの道のりだけはしっかりと確認しておく忍だった。

 

「お前、雪絵さんのなんなんだ?」

 

リーダー格らしきスポーツマン的な奴が開口一番、そう聞いてきた。

 

「何と言われても…俺は彼女の父親の方に用事があっただけで、これといって何も関係ないけど…」

 

そう言い張る忍に対して…

 

「じゃあ、これはなんだ?」

 

スポーツマン的な奴はそう言ってこの世界の携帯端末の画面を忍に向ける。

そこには今朝、雪絵と共に雪白探偵事務所から出る忍の姿が映し出されていた。

 

「これ、盗撮じゃねぇか?」

 

当然の反応に周囲の男子生徒達は"うっ"となるが…

 

「そんなことはどうでもいい!」

 

スポーツマン的な奴はそう断じる。

 

「(どうでもよくねぇだろ…)」

 

その物言いに忍は内心ツッコミを入れる。

 

「それは…昨日、色々と話を聞いてたらかなり遅くなってな。俺は帰ると言ったんだが、彼女のお母さんが危ないからと泊めてくれたんだ」

 

「「「「泊めてくれただと!!?」」」」

 

忍の言葉に周囲の男子生徒達が絶叫する。

 

「ただ、それだけだよ。やましいことなんて何もない」

 

忍のその堂々とした立ち振る舞いに男子生徒達はこれ以上、強気に出れないでいた。

実際は添い寝までしたのだが、それをこの場で言う必要性は皆無である。

 

「くっ…ならば、パンドラで勝負だ!」

 

「は?」

 

"なんでそこでパンドラが出てくる?"という不思議な表情をする忍を前に…

 

「俺が勝ったら今後一切雪絵さんに近付くな! いいな!?」

 

スポーツマン的な奴はそう言っていた。

 

「パンドラがどういうものかも未だわかってない相手にそんなこと言われてもな…」

 

「それなら俺の不戦勝で、お前は二度と雪絵さんに近付くことは出来ない。それでいいんだな?」

 

そこまで言われては忍も黙ってはいられなかった。

 

「はぁ…売られた勝負は買う主義だけどよ。俺はパンドラ自体への登録がまだなんだよ。そんな相手に不戦勝って、お前にプライドはないのか?」

 

「なんだと…?」

 

忍の言葉にスポーツマン的な奴の眉がピクリと動く。

 

「ま、俺としては、こんな些細なことに時間もかけられねぇし、別に登録直後に勝負してもいいんだけどよ」

 

ざわざわ…

 

そんな挑発的な忍の発言に周囲の男子生徒達も(ざわ)めき出す。

 

「俺も舐められたものだ…」

 

言われた当の本人は拳をわなわなと震わせていた。

 

「俺のランクは3だ。登録したての奴が勝てるほど、パンドラは甘くないんだよ!!」

 

「ま、やってみなきゃわからんこともあるさ…」

 

そう言うと話が終わったとばかりに忍は出口に向かう。

 

「あ、そうそう…俺が勝った時な」

 

思い出したように忍は立ち止まると…

 

「なに?」

 

「テメェだけが勝った場合の条件付きなんてのは不公平だろ? 俺が勝ったら、そうだな。お前らが持ってる彼女の盗撮写真…全部処分しろよ?」

 

そう言い残していた。

 

「ハッキリ言って、男らしくないんだよ。影からこそこそ人の写真を勝手に撮るとか…人として恥ずかしくないのか?」

 

そう言って鋭く冷たい視線だけを集団に向けると、空き教室から出て行った。

 

………

……

 

昼休み。

 

「という訳で放課後、パンドラの登録に付き合ってほしい」

 

「し、忍さん…また、なんというか…」

 

昼食を食べながら忍の話を聞いたユウマが何とも言えない表情になる。

 

「無謀は承知の上だ。それでも男には戦わなきゃならない時がある」

 

「……………」

 

忍の真剣な表情を見て…

 

「わかりました。僕に出来ることなら協力させてもらいます」

 

ユウマも快く引き受けてくれた。

 

「ありがとな、ユウマ」

 

「いえ、これも雪絵ちゃんのためなんですよね?」

 

「まぁ、そうとも言える」

 

窓の外を見ながら答える忍を見て…

 

「忍さんって世話焼きなんですね」

 

「そう見えるのか?」

 

「はい」

 

クスクスと笑うユウマだった。

 

ちなみに…

 

「それよりも…そのお弁当は?」

 

「僕の手作りですけど…?」

 

「マジか…」

 

それを聞いてユウマの女子力が高いと心底思ったとか…。

 

………

……

 

放課後。

 

忍はパンドラに登録すべく、ユウマと雪絵を伴って近場のユウマが通っているというゲーセンに訪れていた。

 

「まさか、雪絵まで登録してたなんてな…」

 

「友達に勧められた形ですが、あまり利用はしてないので初心者も同然なんですよ」

 

「(いつの間に雪絵ちゃんのことを呼び捨てに…?)」

 

忍と雪絵の会話からユウマは不思議に思っていたが、昨日何かあったのかもと詮索はしなかった。

 

すると…

 

「いらっしゃいまし~☆」

 

ゲーセンの中では異彩を放つ胸元が開いて丈の短いミニスカートのメイド服を身に纏った爆乳店員が忍達の前に現れる。

 

「(何故にゲーセンでメイド?)」

 

不思議に思う忍の横では…

 

「あ、アイビスさん…////」

 

その店員の姿を見てユウマは赤面していた。

 

「ユウマの知り合いか?」

 

「は、はい…この人は…////」

 

ユウマが店員を紹介しようとすると…

 

「いやん、"この人"だなんて他人行儀なこと言わないでよ~」

 

むぎゅ~っと自らの爆乳を押し付けるようにユウマの真正面から抱き着く。

女性店員とユウマの身長差的にユウマの方が低いため、自然とユウマの顔が女性店員の爆乳に埋もれる形になる。

 

「~~~~~っ//////」

 

声にならない悲鳴がユウマから上がり、顔の赤みも増す。

 

「(あ、これは絶対に遊ばれてるな…)」

 

その光景を見て忍は何故かそう確信した。

 

「私とユウマちゃんはそんな他人行儀な関係じゃないでしょ?」

 

ニヤニヤと笑いながら女性店員はうりうりと自分の胸をユウマに押し付ける。

 

「~~~~~~~~~っ/////////」

 

恥ずかしさのあまりか…もがく様にジタバタするユウマ。

 

「そろそろ解放したらどうですか? そのままじゃユウマが窒息か酸欠か恥ずかしさのあまり死んでしまうような気が…?」

 

「えぇ~、これからがいいんじゃないのさ。このおっぱい星人め~♪ 役得だぞ~♪」

 

この人、忍の発言を軽く無視してユウマを弄り倒すつもりだ。

 

「(わざとか……というか、この世界にもそんな単語があったんだな…)」

 

そんなことを思いながら…

 

「俺はパンドラに登録したいと思ってる。ユウマにはその案内を頼んでるんだ。そろそろ返してくれないか?」

 

女性店員に少し鋭い視線を向けながらそう言っていた。

 

「むぅ~、なら仕方ないなぁ~」

 

女性店員は残念そうにユウマを解放する。

 

「ぷはぁ…あ、ありがとうございます、忍さん…///////」

 

顔が真っ赤になりながら忍にお礼を言うユウマ。

 

「だ、大丈夫ですか? ユウマ先輩」

 

その様子に流石の雪絵も心配そうにする。

 

「だ、大丈夫…大丈夫…//////」

 

とてもそうには見えないが…。

 

「で、結局誰なんだ?」

 

紹介の途中で女性店員が割り込んだためにわからなかったが、今度は大丈夫だろうと踏んでの質問だった。

 

「こ、こちらは…『アイビス・アザベクト』さん…フェイタル学園の近くにある大学に通ってる大学生です…//////」

 

忍の背に隠れながらユウマは女性店員…アイビスを紹介する。

 

「アイビスだよ。ま、ユウマちゃんの遊び相手って記憶しといてね♪」

 

ちなみにアイビスの容姿はセミロングの白髪とブラウンの瞳を持ち、若干童顔気味の綺麗な顔立ちに…高めの身長とそれに見合ったダイナマイトボディを持った女性である。

 

「(遊び相手、ねぇ…)」

 

むしろ遊んでるのはアイビスの方なのでは…?

 

「で、こっちのイケメン君がパンドラに登録したいんだっけ?」

 

「あ、はい。そうなんです…//////」

 

「(ふざけてるようでちゃんと話を聞いてるとは…)」

 

アイビスの発言に忍は少しだけ認識を改めようとした。

 

「じゃ、サクッと登録しちゃおっか♪」

 

そう言って二階に続く階段横にあるボックス部屋に案内する。

 

「まずはそこに入ってね。そしたらスキャナーが作動するからしばらく動かないでね」

 

「入ってじっとしてればいいのか?」

 

「はい。パンドラネットワークに入るのに、アバター作成は必要なことですから…」

 

「ふむ…」

 

そう言われ、忍はボックス部屋へと進む。

 

「ほいじゃあ、いっくよ~。ポチッとな♪」

 

忍がボックス部屋に入ったのを確認してからアイビスが横のパネルを操作してスキャナーを作動させる。

 

「………………」

 

しばらくしてスキャナーが完了したことが電子音声で告げられる。

それを聞き、ボックス部屋から出ると…

 

「それじゃあ、次はこっちで設定を決めてね」

 

アイビスが操作していたパネルの前に移動すると、画面にはスキャナーで読み取った忍の姿が映し出されていた。

 

「設定ね…」

 

とりあえず、忍は髪を黒から銀髪、左の瞳を真紅にするという真狼形態に近い容姿に変更した。

 

「下手に身体を弄るよりも自分の体の方が感覚が伝わりやすそうだからな…」

 

パンドラの説明にあった"意識と感覚を電脳世界に移す"という単語を思い出し、髪色と瞳の色を調整しただけに留めていた。

 

「それでは、次は観戦者か、冒険者を選んでください」

 

ユウマがそう口にする。

 

「何か違うのか?」

 

「はい。観戦者は文字通り冒険者のダンジョン攻略やモンスター討伐を観戦することが主な目的で、お気に入り登録した冒険者の攻略模様を観戦したり、電脳内通貨をお気に入りの人に賭けることでポイントを稼いでいくんですよ。ちなみにポイントは電脳内通貨に変換することも出来ます。電脳内通貨はアクセサリーを購入するのに使えますし、冒険者に転身する時の資金にもなりますから…」

 

「ふむふむ…なら、冒険者は?」

 

「冒険者は基礎ステータスを割り振るんですが、これは100の数値を体力(HP)、魔力(MP)、攻撃力、防御力、速度の五つのステータスに割り振ります。あ、でも…基礎ステータスはいずれも最低でも10は必ず割り振り、最高でも50までしか割り振れませんから気をつけてくださいね。あとで変更することも出来ませんから基礎ステータスの割り振りは慎重に決めてくださいね。冒険者の主な目的は、様々なダンジョンに入っての攻略になります。ダンジョン内にはいろんなモンスターもいて、それを討伐するクエストとかも発行されているんですよ。たまにレアモンスターやレアドロップアイテムとかもあって、それは"こういうのも入手したり、討伐したことがありますよ"的なステータスになるんです。あとは対人戦闘や大きなイベントへの参加ですかね」

 

ユウマの説明を聞き…

 

「なるほど。レア系は泊を付ける感じか。なら、俺は冒険者だな」

 

忍は迷うことなく冒険者を選んでいた。

 

「パラメーターは…こうだな」

 

忍は基礎ステータスの割り振りを体力:15、魔力:15、攻撃力:10、防御力:10、速度:50という風に振り分けていた。

 

「え…? 忍さん、本当にこれでいいんですか?」

 

忍のステータスの割り振りにユウマは目を疑った。

 

「あぁ、俺は速度を追求したいんでね」

 

「は、はぁ…」

 

ユウマは"まぁ、ステータスは人それぞれですし"と納得したようだった。

 

「最後にアバター名ですね。これは皆ファーストネームを使うことが多いんですよ」

 

「自分の名前を? セキュリティ的に大丈夫なのか?」

 

「その辺はしっかりしてるみたいです」

 

「そうか。なら…」

 

アバター名に『シノブ』と入力する。

 

すると、最後に"この設定で問題ありませんか?"という表示が出る。

 

「これを承諾すると、パンドラの登録は完了します。あ、ちなみに冒険者と観戦者はいつでも変更出来るんですよ。観戦者から冒険者になる時は基礎ステータスを設定しないといけませんけど」

 

「そうなのか」

 

そう相槌を打ちながら忍は承諾ボタンを押す。

 

ピーーーッ

 

すると、ボックス部屋の横から一枚のカード型端末が出てくる。

 

「ほい。登録は無事完了だね。それが二階に行くための身分証明書みたいなもんだから失くさないようにね」

 

アイビスもそれを確認すると、カード型端末を忍に渡す。

 

「これでパンドラネットワークにアクセス出来るのか」

 

地球じゃ考えられないハイテクな技術に忍は舌を巻いていた。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

説明してる内に顔の熱も収まったらしいユウマを先頭に忍と雪絵も二階へと上がる。

 

「個室内に案内があるので、2人共それに従ってくださいね。ログインしてください。エントランスで待ってますから」

 

「わかった」

 

「はい」

 

そうして3人はそれぞれ空いている個室に入り、ユウマは手慣れた感じでパンドラネットワークにアクセスした。

 

「えっと…まずは寝台に設置されてるバンドを装着して…」

 

寝台に座り、鉄製のバンドを手首と足首に装着する。

 

「次にこのヘッドギアを額に装着する」

 

寝台横にあるデスクの上からヘッドギアを取り、それを額に装着する。

 

「最後にIDカードをデスクに差し込んで、寝台に横になる、と…」

 

IDカードをデスクに差し込んでから清代に横になると、ヘッドギアから目元を隠すゴーグルが下がり、意識がだんだんと遠退いていく感覚に襲われる。

 

「(これで本当に電脳世界とやらに行けるのか?)」

 

半信半疑であったものの、忍はその意識を手放していた。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・エントランス』

 

「うっ…う~ん…」

 

忍が目を覚めると、そこは見たこともないような世界が広がっていた。

 

如何にも電脳世界、という感じの全体的に白い空間で、その中に無機質な壁や通路など等間隔で設置されていたり、中央には様々な戦闘シーンを映し出す巨大モニターが四方に設置されていたりしていた。

 

「ここが…電脳世界…」

 

そう呟きながら忍は自分の体(アバター)の感覚を確認し始める。

 

「(まぁまぁ、軽いか。これなら問題なく動けそうだ)」

 

速度に半分も注ぎ込めばそれは体は軽くなるだろう。

その分、体力と魔力、攻撃力、防御力は低くなるが、忍的には速度重視の方が性に合っているらしい。

 

と、そこへ…

 

「あ、忍先輩」

 

同じく電脳世界にやってきた雪絵が合流する。

雪絵のアバターもそれほど弄ったりしてないのか、現実とほぼ同じような格好である。

 

「雪絵、大丈夫か?」

 

「はい。なんだか不思議な感じがしますけど…」

 

「最初の内はこうなのかもな」

 

ちなみに両者共にフェイタル学園の制服姿である。

最初にスキャンした服装まで忠実に再現するとは…。

当然ながらただの制服に耐久力などはないので、早急に装備を整える必要があるが…。

 

と、そこに…

 

「あ、2人共…ここにいたんだ」

 

ユウマ似の美少女が現れる。

 

「えっと…どちら様?」

 

雪絵が困ったように忍の背に隠れながら問う。

 

「ぼ、僕だよ。ユウマ」

 

「ユウマ? にしては女のアバターに見えるんだが?」

 

「うぅ…僕だって好きでこのアバターにしたんじゃないもん。でも機械が僕を女の子だって誤認して…」

 

どうやらユウマは機械でさえ少女と間違われるようだった。

 

「そ、そうなのか…(こいつもこいつで苦労してんだな…)」

 

何故か同情を禁じ得なかった。

 

「そ、それよりも…忍さんは装備を調達しないとね。幸いにも貸し出し武具があるから、そこで借りよ?」

 

「そうだな…」

 

そうしてユウマの先導で忍と雪絵は武具の貸し出し屋にやってきた。

 

「ふむふむ…ステータスに合った武具が揃ってるのか…」

 

忍があれこれチェックしている間…

 

「雪絵ちゃんは観戦者なんだね」

 

「はい。争い事はちょっと…」

 

「そうだったね…」

 

雪絵とユウマがそんな会話をしていた。

 

「よし、こんなもんか」

 

スピードタイプということもあり、忍は防具に体力ゲージと防御力を少し上げる赤いTシャツと黒いスラックス、対魔性のロングコート状の黒衣、速度を補助するスニーカーという奇しくもネクサスのバリアジャケットに近い形になった。

 

「武器はどうしますか?」

 

「そうだな…」

 

武器のコーナーを見ると、近代的な銃器から昔からある刀剣類まで様々なものがあった。

貸し出しの初期装備のため、ステータス自体はどれも低めに設定されているが…。

 

「やっぱり、二刀流かな…」

 

そう言って忍はステータスの異なる刀を2本手に取っていた。

右手側のステータスは軽いため攻撃力と速度が高くなり、左手側のステータスは重いため防御力が高くなる代わりに速度が少し低くなるという代物だった。

 

「大丈夫なんですか? そんな相反するような武器で…」

 

「問題ない。後は慣れなんだが…」

 

そうこうしていると…

 

ピピンッ!

 

新着情報という表示が目の前に現れる。

それはユウマや雪絵、他のプレイヤーにも届いているようだった。

 

それを開くと、ただ一文だけが書いてあった。

 

『編入生、コロシアムまで来い』

 

という内容だった。

 

「へぇ、こんなことも出来るのか」

 

「運営に頼めばある程度は融通が利きますから…」

 

忍の疑問にユウマが答える。

 

「これで逃げ場はなくなったな。少し慣らしたかったが…ま、ぶっつけ本番で何とかするかね」

 

そう言って二刀を腰に携えた鞘に収めると…

 

「じゃあ、ユウマ。コロシアムとやらまで案内を頼む」

 

「もしもの時は僕も加勢するからね?」

 

心配してそうな雰囲気でユウマはそう言う。

 

「そこまで心配しなくても大丈夫だろ」

 

そう答えて忍は歩き出す。

 

「あ、忍さん!」

 

「忍先輩…」

 

忍の後を追い掛けるユウマと雪絵。

 

 

こうして、忍のパンドラ内での初戦闘が始まろうとしていた。



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第八十三話『乙女の祈り』

雪絵のファンクラブらしき集団を難癖をつけられた忍は向こうの提案でパンドラで勝負をすることになった。

 

パンドラへの登録を済ませ、初の電脳世界にログインを果たした忍。

装備を調達し、いざ勝負の場へと赴く。

 

しかし、忍は現実世界と仮想世界との違いを思い知ることになる。

 

 

 

『パンドラネットワーク・コロシアム』

 

円形状の闘技場らしき場所の中央広場、その中心で待っていたのは…

 

「逃げずによく来たな」

 

重厚な騎士甲冑を身に着け、左手に大型の五角盾、右手にバスタードソードを保持する如何にも重騎士といった風貌のスポーツマン的な奴だった。

 

「生憎と、逃げるなんて選択肢を選ぶつもりはないんでね」

 

それに対峙するように忍は立つ。

ちなみにユウマと雪絵は観客席から戦いの様子を見ることになっている。

 

また、新着情報で挑戦状を出したせいか、観客もそれなりに集まってしまっている。

 

「公衆の面前で恥を掻く前に降参したらどうだ? 初心者」

 

「降参なんてしてたまるかよ」

 

そう言いながら忍は鞘に収めた二刀を抜く。

 

「ふんっ、そんな初期装備で俺に勝つなど…!」

 

相手は盾を構え、後ろ側に剣を保持する形を取る。

 

「(相手は防御の型か…ならば、一気に加速して懐に入ってから手数で勝負だな)」

 

そう考えた忍は…

 

『デュエル・スタート』

 

その表示が出た瞬間に一気に加速する。

 

が…

 

「(っ!? 思ったよりも速度が出ない!?)」

 

現実感覚で足を動かすものの、アバター自身の速度はそれほど速く動く訳ではなかった。

言うなれば、最高でも神速の一割程度か、それ未満の速度しか発揮できていないという感じであった。

それに気付いた忍は、即座急停止しながらバックステップで後退した。

 

しかし…

 

「その程度の速度で俺を翻弄する気だったのか?」

 

動いていたのは相手も同じであり、速度は忍程ではないが、確実に距離を詰めていた。

 

「ッ!?」

 

そして、距離がそんなに開いてないことに忍も気付くが…

 

「遅い!」

 

後ろに構えていた剣が忍に襲い掛かる。

 

「ちぃっ!!」

 

その剣を忍は左の刀で受け止めるが…

 

グググ…!!

 

攻撃力のステータス差から来る力によってじりじりと押されていく。

 

「(お、重い…!?)」

 

いつもの"現実世界"の忍ならば軽く受けられる剣も"仮想世界"の中では重く感じてしまっていた。

 

「(こ、これが仮想世界での感覚なのか…!?)」

 

今更ながら忍は現実世界と仮想世界の違いを痛感していた。

その戸惑いは相手にも見抜かれているらしく…

 

「ふんっ、やはり初心者だな。この程度の感覚差異で自分の動きが出来なくなるとは」

 

「ぐっ…」

 

忍は右の刀を鞘に収めると、両手で左の刀を持って相手の剣の軌道を逸らす。

弾き返すのではなく、軌道を逸らすことがステータス的に限界なのだ。

 

「このくらい想定内だ!」

 

剣を逸らされたことを意に返さず、相手は忍に回し蹴りを食らわしていた。

 

「ぐっ…!?」

 

思いの外、重い一撃を食らって忍の体力が1/3くらい減ってしまう。

これは単純に相手の攻撃力が忍の低い防御力を上回り、装備の違いもあって弾き出されたダメージ量である。

 

「随分と減ったな? さっきの速度を見る限り、スピードタイプか? なら、他のステータスが低いのも納得できる。が、俺相手には相性が悪かったな!」

 

「くっ…(言いたい放題言いやがって…!)」

 

とは言え、今回の言は相手側の方が正論だろう。

 

速度を最大値にして他を低ステータスにした忍に対し、相手は重騎士という風貌から推測するに体力、攻撃力、防御力の三つにステータスを多めに割り振っている可能性が高い。

忍が貸し出し用の初期装備に対して、相手はランクに応じた相応の装備を揃えている。

忍はパンドラに登録したばかりの素人で、相手はパンドラ歴もランクから考えてそこそこ長いのだろう。

さらに言えば、相手の指定した場所で忍は戦っている。

これほどまでに不利な状況も珍しいものだと思う。

 

これが現実世界となれば、また話は違うのかもしれないが…ここは仮想世界である。

現実の感覚で戦えるほど仮想世界の戦闘は甘くないということなのだろうか…。

 

「(とにかく、相手の隙でも突かないことには厳しいか…)」

 

そう考えて忍が再び右の刀を抜いたところで…

 

「ふっ…シールド・バッシュッ!!」

 

相手はそれも織り込み済みといった感じで盾を突き出したままの突進を仕掛けてきた。

 

「(マズいっ!)」

 

忍はその突進を両手の刀をクロスさせて防御しようとするが…

 

「忍さん、それは悪手!?」

 

ユウマの叫びも虚しく…

 

ガッ!!!

 

「ぐぁっ!!?」

 

忍はその突進を受けてコロシアムの壁際まで押し込まれてしまう。

 

「やはり、所詮は初心者! この程度のことも読めないとは!」

 

「ぐっ!」

 

壁際に押し込まれたことと盾によって壁に押し付けられていることによるダメージが忍のただでさえ少ない体力に蓄積されていく。

 

「こ、の…!!」

 

忍はありったけの力を使って押し返そうとするが、スピードタイプの非力さがあって少ししか押し返せないでいた。

 

「無駄だ。スピードタイプの貴様では抜け出せまい」

 

相手の言う通り、元々のガタイの良さも相俟って重騎士の押さえ込みから忍は抜け出せないでいた。

そうしてる内にもダメージは蓄積していき、危険ゾーンに突入した証としてレッドアラートが忍の耳に響き渡っていた。

 

「(くそっ…完全に甘く見てた…心のどっかでゲームだからと油断してたのか? これって、慢心だよな……そうだよな…よくよく考えればわかることじゃないか。この仮想世界では、現実の肉体で得た能力が十分に発揮出来るわけない。何故なら、ここは"仮想世界"なんだから…いくら感覚があってもそれを活かすための能力は今のアバターには備わっていない。俺は登録したてなんだから…)」

 

レッドアラートを耳にしながら忍は考えていた。

 

「(そうか…ここでは俺は…"ただの人間"なのか。特別な能力も無ければ、嗅覚も人並み、叢雲流の先読みも無い、五気の存在も無い……そう考えると、俺って…最近は能力に頼り過ぎてたんだな……昔は物覚えだけが取り柄だったにな…いつの間にこんな能力に頼るようになってたんだろう…?)」

 

そんな意識が別の所にある様子を見て…

 

「戦意喪失か。ならば最後くらい、俺の手で葬ってやる!」

 

そう言って相手は盾の向こう側から剣を忍の顔目掛けて突き立てようと構えていた。

 

「忍先輩!!」

 

雪絵の叫び声が聞こえた瞬間…

 

「ッ!?!」

 

ギィンッ!!!

 

左の刀で相手の剣の軌道を逸らし、顔も逸らしてダメージを受けずに済んだ。

と、剣の刺突に邪魔だったのか盾も離れていたため、その隙を突いて忍はその場から脱出し、コロシアムの中央へと移動していた。

そして、考える。

 

「(俺は…あいつに勝てるのか?)」

 

体力も残り僅か、これ以上のダメージは致命傷になりうる。

アバターの感覚もやっと掴み始めたところだが、忍の状況としては圧倒的な不利と敗北の確定といったところだろう。

 

「(俺が負ければ…雪絵と距離を置くことになる。せっかく会えた家族から離れることになる…?)」

 

そう考えた瞬間…

 

「(そんなの御免だ。やっと出会えた家族だぞ? そう簡単に諦められるわけにいくかよ…!!)」

 

だが、相手との力量の差は歴然。

 

「ふんっ、九死に一生を得たところでこの戦いの結末は変わらん」

 

そう言って再び相手は盾を前に突き出し、剣を後ろ側に回す構えを取る。

 

「(あの構えは…剣を後ろに回すことで一見防御に見せているようで実は攻撃にも転用可能な構えか。攻防一体を体現してるのか…?)」

 

そこでふと忍は気付く。

 

「(相手の事をよく見て冷静に分析し、攻撃を回避し続ければ…もしかしたら…)」

 

しかし、それは難易度で言えばかなり難しいことである。

一撃でも見誤れば、そこで負けが確定してしまうのだから…。

 

「("物覚えだけが取り柄のただの人間"、か………いいじゃないか、それでも…勝てる可能性があるなら、俺はなんだって…)」

 

そう考えを纏めると、忍は相手の一挙手一投足に己の全神経を集中させて注視する。

 

「もう抵抗も無駄だと感じたか。ならば、潔く散るがいい!!」

 

相手の勝負を決める一撃が忍に襲い掛かる。

 

が…

 

ヒュッ!

 

聞こえてくるのはデュエル終了の合図ではなく、風を斬る音だった。

 

「なに?!」

 

その出来事に勝利を確信した攻撃を放った本人も驚く。

 

「………………」

 

忍は黙って次の相手の動作を見る。

 

「こんなの、ただのまぐれに決まっている! 次で仕留める!!」

 

そう叫びながら相手は刺突の構えを取る。

 

「(刺突、動きから見て3秒後…)」

 

忍が相手の動きを注視してその動きを予測する。

予測通り、その3秒後に刺突が繰り出され、忍はそれを最小限の動きで回避してみせた。

 

「ッ!? これも避けられただと!?」

 

まぐれは二度も続かない。

しかし、相手は忍が初心者だということもあり、今のは偶然が重なっただけのことだと割り捨てる。

 

「次こそは!」

 

そう意気込んで忍に仕掛けるが、結果は先と同じ。

 

何度も繰り返される攻撃の雨だったが、その全てが回避され続けていた。

 

「(何故だ!? 何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ…!!!)」

 

たった一撃を与えるだけで勝敗が決するというのに、相手の攻撃は一向に忍に当たる気配が無かった。

その事実に相手の動きは散漫になっていき、攻撃も大振りなものが多くなってきていた。

 

「凄い…」

 

その光景にユウマを始め、観客席で観戦していた者達も驚愕を覚えていた。

 

ランク3の重騎士相手に初心者がその攻撃を回避し続けている。

それも当たれば、即終了という現状でだ。

最初の試合運びから見て、皆重騎士が勝つと確信していたし、初心者には気の毒だが、面白半分、興味半分、話のネタになるかと思って見に来た野次馬も多かった。

だが、今の状況はその絶対的な勝利条件を覆そうとしている初心者に注目が集まっていた。

 

「(だいぶ動きに隙が出てきたか…)」

 

相手の動きが散漫になってきたのを見て、攻撃を回避し続けていた忍が攻勢に転じようとしていた。

 

「(しかし、相手を一撃で仕留めないともう後がないしな…)」

 

そう考えながらもしっかりと攻撃を回避するくらいに余裕が出てきていた。

 

「(あ、そういえば…入る前にユウマに教わったことがあったな…)」

 

そこで忍は決闘前にユウマに教わったことを思い出す。

 

………

……

 

・決闘前のコロシアム前

 

「スキル?」

 

「はい。冒険者には初期ステータスを割り振った時点で、そのステータスに合ったスキルがランダムに選定される仕組みになってるんです」

 

「へぇ、そうなのか」

 

「だから、戦う前に確認しといた方が良いと思いますけど…」

 

「必要ない気がするが…」

 

この時の忍はそう言っていたが…

 

「忍さん、油断してると手痛いことになりますよ? 相手は格上の相手なんですし…」

 

ユウマに窘められる。

 

「(ゲーム内では格上だけど、現実ならまず負ける気はしないが…)」

 

そう思ったのだが、ユウマに窘められた手前、確認しない訳にもいかずにステータス画面を開いて与えられたスキルを確認する。

 

「えっと…俺のスキルは、『逆境の牙』?」

 

ステータス画面に表示されたスキル名を見て忍は首を傾げる。

 

「カウンター系ですね。相手との体力差が開いてる状態で、相手の攻撃を逆利用して攻撃を放つカウンター系の中でも難易度の高い部類に入るスキルですよ」

 

「ふ~ん…」

 

ユウマの説明を聞きながら忍は"まぁ、使うことはないだろう"と考えていた。

 

「このスキルで気をつけることは相手との体力差です。忍さんの場合は攻撃力と防御力が最低限しか備わってませんから…それに体力も少なめですし、無理に体力差を広げるとかえって一撃で倒されてしまう可能性も高いんですよ。でもその分、体力差が開いてる状態なら最低限の攻撃力でも狙う部位によっては格上のランク冒険者相手でも一撃で倒せる可能性もあるんですよ」

 

「狙う部位?」

 

「はい。部位によって発生するダメージ量も変動するんです。例えば、胴体よりも手足の方がダメージ量が多くなります。そして、一番ダメージ量が高いのが頭なんです」

 

「なるほど」

 

「使うスキルと狙う部位、武器の特性、防具の相性など…パンドラの対戦ではそういう細かいことも気にしないといけないゲームなんですよ」

 

この時、忍はユウマの言葉を話半分で聞いていた。

 

………

……

 

・現在

 

そんなことを言っていたユウマの言葉を今になって痛感した忍は…

 

「(真面目にしっかりと聞いて作戦を立てればよかった…)」

 

後悔の念を強く抱いていた。

 

「(だが、今はこのスキルに感謝しないとな)」

 

体力差は十分開いている。

さらに言えば、相手の動きも散漫になって付け入る隙はある。

あとはスキルを使うタイミングと、相手の攻撃をどう利用するかに掛かっている。

 

「くそぉぉぉぉ!!!」

 

相手は苛立ちの末、再び盾を正面に構える。

 

「シールドバッシュッ!!!」

 

盾を正面に構えての全力突進。

 

「(ここだ!)」

 

ここが勝負所と踏み、忍はスキルを発動させる。

 

『スキル発動・逆境の牙』

 

忍の体を赤いオーラが覆い、忍は直線に突進してくる相手に対し、一気に駆け抜けてギリギリ当たらない程度の距離を保ちながら相手の横側に移動し、二刀の刃の部分を相手の盾に向けていた。

 

そして…

 

ギィンッ!!!

 

盾が刃に激突した瞬間…

 

グルンッ!!!

 

忍の体が一回転するように回り…

 

ゴスッ!!!

 

相手の後頭部に二刀の峰が当たり…

 

「ッ!!?!?」

 

相手の意識を刈り取ると同時に一気に体力ゲージを逆転させていた。

逆転と言っても忍よりも体力ゲージが低くなった程度だが…。

それでも相手の意識を刈り取ったのは大きく…

 

『ブライアン、意識不明により戦闘続行不可能。よって勝者をシノブとする』

 

そのような画面がコロシアムの観客席にも見えるように大きく表示されていた。

 

「(電脳世界でも気絶とかするんだな………てか、あいつ、"ブライアン"って言うのか…)」

 

勝ったというのに忍はそのようなことを考えていた。

 

『………………』

 

一旦の静寂の後…

 

『うおおおおお!!!!』

 

観客席から歓声が上がる。

 

「あのブライアンっての、確かランク3だったよな?」

「相手のシノブってのは初期装備から見るに初心者だろ?」

「それが上位ランクの冒険者に勝つなんて…」

「こりゃ期待のルーキー現るってか?」

 

色々と噂されている。

 

「うわ、なんだこりゃ…?」

 

いつの間にか歓声の上がる観客席の状態に忍は当惑する。

 

「忍さん、こっちです」

 

コロシアムの出入り口に来ていたユウマが手招きする。

 

「さっさと退散するに限る、か」

 

そう呟き、忍はユウマの元へと走る。

そこからユウマの先導で別のエリアへと移動する。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・ショッピングモール街』

 

ユウマに連れられてやってきたショッピングモール街の一角で忍は盛大な溜息を吐いていた。

 

「やれやれ…危ないとこだった…」

 

さっきの決闘内容を思い返しているようだった。

 

「本当ですよ。こっちも見てて冷や冷やしましたから…」

 

ユウマもまた忍とブライアンの決闘を見ててかなり冷や冷やしたらしい。

 

「すまん…」

 

色んな意味を込めて忍も謝る。

 

「でも、後半の回避は凄かったですね。なにかコツでもあったんですか?」

 

後半の回避率の凄さに思わずそう聞いていた。

 

「いや、相手の挙動を見て相手の攻撃パターンを読んだ上で回避しただけなんだが…」

 

「………………」

 

それを聞いてユウマは開いた口が塞がらないようだった。

 

「物覚えだけは得意だからな」

 

「い、いやいや…物覚えだけで回避できるような動きじゃなかったような…」

 

事実、ブライアンの攻撃はランク3ということもあってそこそこ綺麗で鋭い軌道を描いていた。

 

「あいつも途中で攻撃が散漫になってただろ? その隙を突いただけだよ…」

 

「それは…だって、あそこまで当たらないと逆に焦って混乱しちゃいますよ…」

 

例え、それが自分だったとしても焦るとユウマは感じていた。

 

「意図せずしてそうなってくれたのが今回は幸いだったかな」

 

「意図してなかったんですか!?」

 

その言葉に驚くユウマ。

 

「あぁ、あの時はとにかく回避だけに集中して他の事には気を配ってる余裕が無かったからな。途中から余裕は出てきたが…」

 

「す、凄い集中力…」

 

忍の集中力にユウマは舌を巻いていた。

 

「それにしても…忍さんって現実世界で何かしてたんですか? こういうのを聞くのはあまり良くないんですが…ちょっと気になって…」

 

「まぁ…そうだな。剣術や格闘技とかをちょっとな」

 

ちょっとどころではないが、やってることは事実なので軽い感じで頷いていた。

 

「剣術…ならファムさんとも話が合うかも…」

 

「ファム?」

 

知らない名前に首を傾げていると…

 

「あ、僕達のクラスメイトで風紀委員なんですよ。あと、僕の作ったチームの一員でもあるんです」

 

そう答えていた。

 

「クラスメイトか。しかし、チーム?」

 

また知らない単語が出てきて首を傾げる忍。

 

「はい。パンドラ内で作れるチームのことなんです。今、僕達のチームは僕を含めて3人の弱小チームなんですが…」

 

「そうなのか。ちなみにユウマ達のランクやステータスはどうなってるんだ?」

 

合点がいったように頷きながら忍はユウマに尋ねる。

 

「僕のランクは"6"です。それでこちらが僕の基礎ステータスです」

 

そう言って見せてくれたユウマの基礎ステータスは『体力:25、魔力:10、攻撃力:15、防御力:20、速度:30』という具合だった。

 

「………………ちなみにここの最高ランクっていくつなんだ?」

 

ブライアンの倍ものランクに驚いた忍はそんな基礎的なことを尋ねていた。

 

「最高ランクは、"7"ですね。あ、ちなみにファムさんとアイリさんはランク5なんですよ」

 

と平然と言うユウマだが…

 

「(上級者!!?)」

 

忍は目の前にいるのが、ゲームの上級者だということに初めて気付く。

 

「全然弱小チームじゃないだろ…」

 

ユウマの言葉にそう返す忍だったが…

 

「でも、大きなイベントだと数の暴力とかで大変なんですよ。3人しかいませんから…もう何人か知り合いを誘いたいとは思ってるんですが…」

 

そう言ってチラッと忍を見るユウマ。

 

「悪いが、俺はソロでやるつもりだ。パンドラに入ったのもちょっと用事があったからなんだし、こっちには短期留学って形だからな……ぁ」

 

そこまで言って忍は口を押さえる。

 

「短期…留学? 編入じゃなくて?」

 

不思議に思ったユウマが口を挟む。

 

「(しまった…つい口が滑った…)」

 

勝利への余韻と、これでまた雪絵や狼牙、雪音と離れずに済むという事実が忍の油断を招いたようだった。

 

「(し、仕方ない)…詳細は現実世界で話してやる。今日のところはログアウトしようか」

 

そう言って忍はエントランス方面に歩き出した。

 

「あ、忍さん」

 

「忍先輩…」

 

それを追って2人も忍の後に続き、エントランス方面に行く。

 

エントランスに着くと、3人は電脳世界からログアウトするのだった。

 

………

……

 

・現実世界

 

電脳世界から現実世界に帰還した忍達はゲーセンから出て近くのカフェに移動する途中のこと。

 

「おい、そこの編入生」

 

明らかにガラの悪いヤンキー然とした連中が忍達の前に立ち塞がる。

 

「(またか…)」

 

内心でうんざりしながら忍は雪絵とユウマを背にして一歩前に出る。

 

「何か用か?」

 

「おう、パンドラでブライアンに勝ったからって調子に乗んなや。所詮ゲームはゲーム。現実世界では違うってことをきっちり教えてやるってんだよ」

 

集団のリーダー格がそんなことを言う。

 

「ちぃっとツラ貸せや。さもないと…」

 

リーダー格が目配せした仲間の1人がユウマの背後に回る。

 

「ダチが危険な目に遭うぞ?」

 

「(脅してるつもりか? しかし、ユウマを巻き込ませる訳にもいかないが…)」

 

魔法を使おうにも人目が付き過ぎて言う事を聞くしかなさそうだった。

 

「……わかった」

 

「忍さん!?」

 

「忍先輩?!」

 

忍が承諾したことにユウマも雪絵も驚く。

 

「なら、こっちだ。おっと、妙な真似できんようにお前も来い。雪白さんはここで待っててもらおうか」

 

「うっ…」

 

その場に雪絵を置いていき、ユウマを人質にして路地裏へと消える一団。

 

 

 

人気の無い路地裏。

あるのは忍を囲うヤンキー然とした連中と、ユウマを人質にその後ろにいるリーダー格だった。

 

「で、集団リンチなんかで俺に何を要求する気だ?」

 

至極面倒そうに忍はリーダー格に尋ねる。

 

「決まってるだろ。雪白さんへの接触禁止だ。あの人に近付かないようにたっぷりと体に教え込んでやる」

 

「そんな一方的な!?」

 

リーダー格の言葉にユウマが反発するが…

 

「お前は雪白さんの幼馴染みだから特別に無視してるんだ。それを忘れさせないように見せしめも必要だろうが?」

 

ギロリとユウマを睨みながらリーダー格はそう言い放つ。

 

「見せしめだなんて…そんなの雪絵ちゃんが知ったら…!」

 

そんな睨みに怯まないようにユウマも声を上げる。

 

「いいんだよ。別に俺らは好かれようと思ってる訳じゃない。ただ、影から見てるだけでも幸せなんだよ。表の連中は知らないが…」

 

ファンクラブ内にも裏と表というものがあるらしい。

 

その様子を見て…

 

「はぁ…くだらない」

 

忍は一蹴していた。

 

「なに?」

 

その言葉にリーダー格が眉をピクリとさせる。

 

「"くだらない"と言ったんだ。俺から言わせたら表も裏もそんなに変わりない集団だ。こんなことをしても雪絵は喜ばないし、悲しむだけだ。それがわかってない時点で表も裏も関係ない」

 

忍は思ったことを口にする。

 

「テメェ…この状況でよくそんなことが言えたな…!」

 

「あぁ、言うとも。人質を取らないと男1人、呼び出せない連中に語る言葉は本来ないが…」

 

忍の言葉に囲んでいた連中も殺気立つ。

 

「いい度胸だ。なら遠慮なくぶちのめしてやる! やっちまえッ!!」

 

『オオオオ!!!』

 

囲っていた連中が忍に向かって一斉に飛び掛かる。

 

「忍さん!?」

 

その光景に思わず目をつむるユウマだった。

 

しかし…

 

ガッ!

ドスッ!

ベシッ!

バタバタッ!!

 

「は…?」

 

聞こえてくるのは軽い打撃音や複数の倒れる音、そしてリーダー格の間の抜けた声だけだった。

 

「え…?」

 

その音を不審に思ったユウマが目を開けると、そこには…

 

「加減はした。次はお前の番だ」

 

囲っていた連中の全員が地に伏せ、平然とした様子の忍がユウマとリーダー格の方へと歩いてくる光景だった。

 

「て、テメェ、い、いったいなにを…??」

 

「ゲームは確かに初心者だが…現実世界(こっち)ではお前達よりも修羅場を潜って来てるからな…」

 

困惑するリーダー格の前に立ちながらそう答えていた。

 

「こ、この野郎…!!」

 

激昂した様子のリーダー格が忍を殴ろうとした瞬間…

 

ゴスッ!!

 

「がっ!?!」

 

「攻撃が大振りで隙だらけなんだよ」

 

忍に腹パンを食らって地に伏せるリーダー格。

 

「大丈夫か? ユウマ」

 

「は、はい。でも…」

 

忍の問いに答えたユウマはリーダー格を見る。

 

「ぐっ…ぅぅ…」

 

他の連中と違い、腹を押さえながら苦しんでいた。

 

「少し加減を間違えたか?」

 

リーダー格の様子を見てそんなことを呟く。

 

「仕方ない。この場で治療して…」

 

そう言って忍が右手に魔力を集中していると…

 

「大丈夫ですか?」

 

リーダー格の近くにしゃがみ込むユウマを見て…

 

「おい、ユウマ。何をして…」

 

声を掛ける忍だったが、次の瞬間、予想だにしなかったモノを見ることになる。

 

「『ハートネス』」

 

鞄の中から"乙女座のシンボルとハートの意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のサードニクスを携えた白銀色のチェーンブレスレット"を取り出すと、それを片手に持ちながら両手をリーダー格の方に向け、サードニクスオレンジ色の魔力を放出していたのだ。

 

「なっ!?」

 

その光景に忍は驚き…

 

「あ、あれ? 痛みが…???」

 

リーダー格も何が起きたのかわからないでいた。

 

「ユウマ、お前…」

 

"まさか、魔法が使えたのか?"と尋ねようとした時…

 

『やはり、君だったんだね。"ヴァルゴ"』

 

忍の左手首に巻かれたアクエリアスがその名を呼ぶ。

 

「ヴァルゴ…乙女座!?」

 

アクエリアスの言葉に忍はさらに驚く。

 

『お久し振りですね、アクエリアス』

 

「え…? やっぱり、忍さんのそれも…ヴァルゴと同じものだったんですか?」

 

驚く忍を前に新たな選定者が現れた瞬間だった。



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第八十四話『読モと、剣士と、参謀と、駄女と、留学生と…』

長らくお待たせしました。

言い訳は活動報告にて行います。

とりあえず、年内最後の日に年内最後の投稿を行います。


雪絵のファンクラブを退けた忍と、裏のリーダー格を手当てしたユウマは足早に路地裏から出ていき、雪絵と合流を果たす。

エクセンシェダーデバイスのことを説明するべくユウマもまた雪白探偵事務所へと同行することになった。

 

そして、雪白探偵事務所へと向かう途中のこと。

 

ピピピ…!

 

忍の鞄の中からネクサスの通信受信音が響く。

 

「っと、誰からだ?」

 

鞄の中からネクサスを取り出して画面を見ると、そこには紅牙の名が…。

 

「あ…マズい…」

 

紅牙の名を見て冷や汗を流す。

 

「忍さん?」

 

「忍先輩?」

 

その様子にユウマと雪絵も首を傾げる。

 

「いや、ちょっと知り合いからな…」

 

目を逸らしながら恐る恐るといった感じにネクサスを操作して通信回線を開く。

 

「はい。こちらしの…」

 

『紅神ぃぃッ! 貴様、どこで油を売っているッ!!』

 

答える間もなく、紅牙の怒りの表情と怒声がその場に響き、周囲の人は何だろう?と忍の方を見る。

 

「お、落ち着け、紅牙。こっちは人だかりがあるんだから…」

 

『これが落ち着いていられるか! 拠点には荷物しかなく一向に帰ってくる気配が無いとはどういうことだ!?』

 

「そ、それは…こっちにも色々と事情があってだな…」

 

傍から見れば、妙にハスキーな声の女性に何やら言い訳してる男の図が出来上がってしまう。

 

「(わぁ、綺麗な人…この人が忍さんの彼女さんなのかな?)」

 

「………………」

 

ユウマはそんなことを考え、雪絵は少し不機嫌そうな表情になっている。

 

「と、ともかく、こっちが指定する座標に来てくれ。ついでに荷物も持ってきてくれると助かる、かな?」

 

『はぁ!? 何故、俺が貴様の荷物を運ばんとならんのだ!』

 

「だから、その事情も諸々含めて説明するから…まずは合流しよう。な?」

 

『ちっ…これは貸しにしておくからな?』

 

「……あぁ、うん…」

 

この貸しは少し高くなりそうな予感がしてならない忍であった。

通信終わりに忍は紅牙へと雪白探偵事務所の座標を送り、そこで合流することとなった。

 

………

……

 

・雪白探偵事務所前

 

「(さて…紅牙達には家族のことを話すとして、ユウマにはどうするかな…)」

 

雪白探偵事務所の前で紅牙達の到着を待つ忍はそんなことを考えていた。

 

「(流石にユウマは一般人…こちらの事情に巻き込む訳にもいかないな…エクセンシェダーデバイスのことだけ話して帰ってもらうのが一番か…)」

 

いくらエクセンシェダーデバイスを所持していたとしてもユウマを巻き込むことはないと判断する。

 

「(幸い、ユウマの魔力はかなり低い。俺も微かにその匂いを感じたくらいだし、深く触れなければ多分大丈夫だろう)」

 

ユウマから感じた魔力のことが心配ではあるが、忍はあまり触れないようにしようと考えた。

 

「(それにしても…この世界で一体何が起きてるんだ?)」

 

狼牙が事件の資料を準備しているから後でもわかることだが、この平和な世界で何が起きているのか、忍は考えていた。

 

すると…

 

「忍く~ん!」

 

手を振ってこちらにやってくる執務官の制服を着たフェイトと…

 

「紅神、貴様というやつは…!!」

 

「まぁまぁ、そう怒らんと…」

 

その後ろから忍の荷物を持った怒れる紅牙と、それを宥める苦笑気味のはやての姿があった。

幸いにも荷物はまだ荷解きしてなかったので、そのままスーツケース二つを持ってきた形である。

 

「フェイト、紅牙に八神さんも…勝手に拠点からいなくなった上にこっちの事情で呼び出してすまない」

 

忍はやってきた3人に対してまず謝っていた。

 

「それはいいけど…」

 

「よくあるか!」

 

フェイトが許しそうになるのを紅牙が怒声で止める。

 

「というか、なんだってこんな場所に呼び出した?」

 

紅牙が忍に一気に詰め寄る。

 

「それは、だな…」

 

忍が何か言おうと考えている横で…

 

「雪白探偵事務所?」

 

「雪白?」

 

はやてが探偵事務所の看板を読み、その最初の名字らしき名にフェイトが首を傾げる。

 

「探偵…確か、シュトライクスも言ってたな。しっかりと使えるんだろうな?」

 

「その点は安心していいと思う。今、今回の事件の資料を纏めてもらってるとこだ」

 

「忍君はもう探偵さんに会ってるの?」

 

「昨日、クラスメイトになった奴の紹介でな…」

 

「クラスメイト?」

 

「その話も中でしますよ」

 

そう言うと、忍は紅牙から荷物を受け取り、雪白探偵事務所の中へと入っていく。

 

中に入ってリビングに移動すると…

 

「おかえり、忍君♪」

 

上機嫌な雪音が忍を出迎えていた。

 

「「「「おかえり?」」」」

 

先にリビングに来ていたユウマを始め、忍の後ろにいた紅牙達も雪音の言葉に首を傾げる。

 

「…………」

 

出鼻からこれか、と忍は少し頭を抱えたい気分だったが…その気持ちを押し込んで…。

 

「この人は雪白探偵…雪白 狼牙さんの奥さん、雪音さん。そして…」

 

幼馴染みのユウマはともかく、初めて会う紅牙達にそう紹介した後…

 

「……"俺の、実の母親"でもある」

 

少し躊躇しながらも真実を打ち明ける。

 

「「「「………………」」」」

 

その言葉に4人はしばらく反応出来なかったが…。

 

「え…? はい…?」

 

それを聞いたユウマは意味が分からないとばかりに困惑していた。

 

「ど、どういうことなん?」

 

同様にはやても困惑気味だった。

 

しかし、忍の事情を知る残りの2人の反応は少し違った。

 

「おめでとう、忍君」

 

「ということは、ここの探偵がお前の…?」

 

フェイトからは祝福の声、紅牙は確認の声を上げる。

 

「あぁ、"ずっと捜していた俺の父親"だ」

 

その確認に忍も頷く。

 

「殴れたのか?」

 

「残念ながら…実際に会うとどうしていいかわからなくなってな…」

 

紅牙の言葉に忍は肩を竦めてみせた。

 

「ふんっ…そうか」

 

そんなやり取りをしていると…

 

『おんや? ヴァルゴじゃないか。おっひさ~♪』

 

サジタリアスがユウマの持つヴァルゴに反応する。

 

『あら、サジタリアスもいらっしゃたんですね』

 

それに答えるようにヴァルゴもサジタリアスに挨拶する。

 

「ヴァルゴ……乙女座か?」

 

『うん、そだよ~』

 

紅牙の問いにサジタリアスは軽い感じで答える。

 

『これで我々を含め、こちら側のスコルピア、敵陣のカプリコーン、中立のジェミニ…6機のエクセンシェダーデバイスが出揃いましたね』

 

アクエリアスが感慨深そうに呟く。

 

『まぁ…スコルピアやカプリコーン、ジェミニにも選定者が…?』

 

『あぁ、いるよ。残りの半分に関してはまだ情報はないが…エクセンシェダーデバイスも集まり始めたのかもしれないね』

 

『集まったら集まったでまた騒がしくなりそうだけどな~』

 

エクセンシェダーデバイス達の会話を聞く限り、エクセンシェダーデバイスが作られた次元世界の崩壊後に散り散りとなったエクセンシェダーデバイスが集まるのはこれが初めてなのかもしれない。

しかも現在判明している6機には既に選定者がいる。

 

「え、えっと…?」

 

デバイス間の会話の意味がわからず、さっきから頭に?が無数に浮かび上がってるユウマは忍と、サジタリアスの声が聞こえてきた紅牙の方を見る。

 

「エクセンシェダーデバイスの所有者なのに貴様は何も知らないのか?」

 

その反応にギロリとユウマを睨む紅牙に対し…

 

『申し訳ありません。我が主は平和な世で暮らしてきましたので、その辺りの説明を疎かにしてました』

 

「それは仕方ないって…何も、所有者全員が俺達みたいな"特殊な人間"じゃないんだから…」

 

ヴァルゴと忍が紅牙を説得する。

 

「ちっ…それはそうだが…ここまで何も知らないとなると、無闇には話せんぞ?」

 

「わかってる。だから、ユウマにはエクセンシェダーデバイスの事と俺がこの世界に来た理由を話して出来るだけ関わらないように釘を刺すつもりだしな」

 

「"この世界に来た理由"…?」

 

忍の言葉にユウマも身構える。

 

「あぁ…俺は時空管理局の特務隊という特殊部隊に嘱託騎士として登録されてる。まったくもって遺憾だが…」

 

ゼーラのやり口がやり口だったために忍の表情は苦虫を噛み潰したようなものになっていた。

 

「この世界で変な事件があると聞き、その調査に駆り出されたんだよ」

 

「変な事件…って」

 

ユウマが何か言おうとした時…

 

「パンドラに登録してる奴が次々に失踪してるっていう怪事件だよ」

 

資料を纏めたらしい狼牙がリビングにやって来た。

 

「あ、おじさん…」

 

狼牙の姿にユウマも軽くお辞儀する。

 

「親父、資料の方は?」

 

「出来てるぞ。つか、なんだ…管理局の制服組とも知り合いなのかよ。うちの倅は顔が広いな」

 

やれやれといった感じで狼牙は忍の顔の広さに呆れていた。

 

「知り合いと言っても、フェイトは俺の眷属の僧侶だし…八神さんは修行の時に何度か顔を合わせたくらいだし…紅牙に至っては結構本気で戦った仲だからな…」

 

そんな何気ない会話をしていると…

 

「は、初めまして。フェイト・T・ハラオウンと申します。忍君とは、その…」

 

「忍君とは…?」

 

キラキラした目でフェイトを見る雪音。

 

「母さん…」

 

「お母さん…」

 

実の母親のミーハーな一面に忍と雪絵は恥ずかしそうにしていた。

 

「ん? そこの娘は?」

 

今更気付いたように紅牙が雪絵のことを聞く。

 

「俺の妹だ。雪絵という。こっちに来て初めて会ってな…」

 

「お前にも妹がいたのか」

 

「あぁ…まぁな」

 

少しだけ、ほんの少しだけ複雑そうな表情を見せたが…。

 

「?」

 

その一瞬の表情の変化に紅牙は気付くが、その意味はわからなかった。

 

「雪絵ちゃんが、忍さんの妹…?」

 

ユウマは忍と雪絵を交互に見比べる。

 

「ま、急には信じられんよな…」

 

肩を竦めた後、忍は真剣な表情になると…

 

「それはともかく、お前が持っているヴァルゴは俺のアクエリアスや紅牙のサジタリアスのような『エクセンシェダーデバイス』という管理局でもロストロギアと呼ばれる類の代物の12機ある内の1機でな。それを狙ってくる奴もいるかもしれないという事だけでも知らせておきたかったんだ」

 

「ヴァルゴを…狙う?」

 

忍の言葉にユウマは首を傾げる。

 

「あぁ…エクセンシェダーデバイスの持つ半永久魔導機関『コアドライブ』はブラックボックス化されているが、見る人が見れば、かなり魅力的なものなんだ。幸い、と言っていいのかわからんが…選定者はユウマを除いて自衛の手段を持ってる者が多い。とは言え、カプリコーンという機体は俺達にとっての敵対勢力に利用されているのが現状なんだが…」

 

「そのカプリコーンという機体のデータから兵器型デバイスなんてものも作られ、ある次元世界では大量投入された事例もある」

 

忍の説明に紅牙も事実を付け加える。

 

「だから、ユウマも気をつけてほしいんだ」

 

『特にヴァルゴの固有魔法は我々の中でも唯一待機状態でも扱えますからね。気に留めていただくだけでもかなり違いますよ』

 

忍とアクエリアスの忠告に…

 

「………………」

 

ユウマはどう返したらいいのか困っていた。

 

それはそうだろう。

今まで平和に暮らしていたのに、いきなりエクセンシェダーデバイスだの、狙われる可能性があるだの言われてもピンと来ないだろう。

 

「僕は…」

 

ヴァルゴをギュッと握り締めながら何か言いたそうだったが…

 

「………すまん…いきなり色々と言い過ぎたな」

 

その様子を見て忍はユウマに謝罪する。

 

「俺は俺で今回の事件を探るためにフェイタル学園に潜入したつもりだが…学園では普通に接してくれると助かる」

 

「少し…考えさせてください…」

 

「それはもちろんだ」

 

「失礼します…」

 

色々な話を聞かされながらも、ユウマはその場にいる全員に一礼してからリビングを出る。

 

「……いいのか?」

 

「あぁ…あいつは一般人なんだ。こちら側の世界に足を踏み入れさせるわけにはいかない」

 

「そうか…」

 

紅牙の問いにそう答えながら忍は狼牙に向き直る。

 

「それじゃあ、事件の大まかな概要を聞かせてくれ」

 

「あいよ」

 

そして、狼牙による事件概要の説明が始まる。

 

………

……

 

「………………」

 

雪白探偵事務所を出てから帰路に着いたユウマの表情は…少し複雑だった。

 

「(忍さんは…管理局の嘱託騎士で、事件の捜査でこの世界に来た。その事件は…噂になってるパンドラ登録者の謎の失踪……狼牙おじさんでも解決には至ってない難事件…)」

 

少し前…具体的に言えば、先のノヴァによる次元放送ジャックの頃くらい…から噂になっている怪事件。

パンドラに登録している者が謎の失踪をしているというのだ。

それも複数人であり、失踪する場所や時間はバラバラ、失踪した人物に共通点などパンドラに登録している以外は何も無く、パンドラ内での交流もない場合の方が多い。

警察はもちろん捜査を続けているが、少しでも手掛かりが欲しいと狼牙にも要請が出ていた。

しかし、捜査系に強いはずの狼牙でさえ、未だに誰一人も見つけられていないのが現状である。

 

だが、それはあくまでも噂話の範囲でのことだ。

ユウマの周りや知っている範囲では失踪した人物はいなかったし、ただの噂話なんだと…。

でも、あの場にいた忍や狼牙の表情は真剣だった。

つまり、噂ではなく本当に起こっていることであることに違いなかった。

 

「(もし…本当に失踪者が出てるなら…それはなんでだろう…?)」

 

パンドラは仮想世界での冒険や戦闘をメインにしてるところが大きい。

普段は出来ないようなことを電脳世界で体験できるのが最大の売りであり、醍醐味と言ってもいい。

それなのに、現実世界で謎の失踪を遂げる人物の心理がイマイチわからない。

 

「(って…僕が考えても仕方ないよね…)」

 

何か思うところはあるものの、無理矢理に割り切ると少し早足に家への帰路を歩くのであった。

 

………

……

 

・翌日

 

「はぁ…」

 

登校中のユウマはちょっと憂鬱気味に溜息を吐いていた。

 

「(忍さんはああ言ってたけど…気になってあんまり眠れなかったな…)」

 

昨日の件が気になってあまり眠れなかったようだ。

 

「(エクセンシェダーデバイス、か……ヴァルゴのことは凄いとは思ってたけど、そんな貴重なモノだったなんて…)」

 

いつもは鞄の中にしまっているヴァルゴのことを考えていた。

 

「(雪絵ちゃんも…捜査に協力するのかな? 流石にそれはないか…)」

 

雪絵のことは小さな頃から知っているが、そういうことに狼牙が巻き込むようなことはしなかった。

それは忍も同様だろう。

 

「(でも…忍さんやあの人達は危険を承知で動いている。噂話のはずの事件を…)」

 

ユウマが難しいことを考えていると…

 

「ユ・ウ・マ・ちゃ~ん!」

 

バシィンッ!!

 

ユウマの名を呼ぶ声と共に、ユウマの背中に鈍い衝撃が走る。

 

「っ!?」

 

驚いて後ろを振り返るユウマ。

そこには…

 

「おっはろ~♪」

 

腰まで伸ばした亜麻色の髪、頭の左右に白いリボンをアクセント程度に結い、エメラルドグリーンの瞳、可愛らしくも綺麗な顔立ちの全体的に均等の取れていながら出てることは出て引っ込んでるとこは引っ込んでる体型の少女がユウマに笑顔を向けて挨拶していた。

ちなみに制服姿は学園指定のブレザーではなく、薄めの黄色いカーディガンを羽織っていた。

 

「で、デヒューラさん?!」

 

その少女の登場に驚くユウマ。

 

「なによ、そんなに驚いて。ちょっと傷ついちゃうな~」

 

少女…『デヒューラ』は本気で言ってる訳ではないのだが…

 

「わわっ、そ、そんなことは…」

 

ユウマはそれを真に受けてしまう。

 

「ふふっ、冗談だよ。もう、可愛いなぁ~、ユウマちゃんは」

 

「うぅ…からかわないでくださいよぉ」

 

そんな風に若干涙目になっては弄りたくもなるという心境もわからないでもない。

 

「ごめんごめん」

 

デヒューラもユウマのその姿を見て軽い感じで謝る。

 

「あと、ちゃん付けもやめてください」

 

「それは無理♪」

 

そんなやり取りをしながら登校していると…

 

「よっ、ユウマ」

 

「おはようございます、ユウマ先輩」

 

昨日の今日ではあるが、まだ忍達との付き合い方を決めかねているユウマの前に忍と雪絵が現れた。

忍の方は至って平然とした対応をしているが…。

 

「ぁ…お、おはようございます。忍さん、雪絵ちゃん」

 

「紅神君、おっはろ~」

 

少しだけ戸惑いを見せるユウマと、それに気付かずに忍に挨拶するデヒューラ。

 

「あぁ、おはよう。ユウマと…えっと…」

 

忍もまたユウマ達に挨拶を返しながらデヒューラの名が出てこずにいた。

先日編入してきて質問攻めにあった時、ユウマのことをちゃん付けで呼び、その理由の説明にユウマの髪の毛をかき上げた女子のクラスメイト、というのは思い出せるのだが…。

 

「あ、そういや、名前は言ってなかったっけ。私はデヒューラ。デヒューラ・スイミランだよ。よろしくね~」

 

デヒューラは忍に簡単な自己紹介をしていた。

 

「あぁ、スイミランさんか。よろしく」

 

デヒューラに対して普通の対応を見せる忍の姿に、昨日忍が見せた裏の顔を垣間見ていたユウマは少しだけ怖くなっていた。

 

「(こんな風にしていても…忍さんには裏の顔がある。僕は、それを昨日見てしまった…)」

 

昨日のことを思い出しながら少しだけ歩調が遅れるユウマ。

 

「そういえば、紅神君と雪白さんって同じ方向から来たけど、家が近いとか?」

 

「あぁ、引っ越した先がたまたま同じ方向らしくってな」

 

一時的とは言え、同じ家に住んでいるとはとても言えないので、そういう噓を吐く。

 

「(そっか。忍さんと雪絵ちゃんが兄妹だってことは秘密なんだ…)」

 

その嘘を聞き、ユウマは今更のように気付く。

事情を知るというのは案外、難しいものである。

 

「へぇ~、そうなんだ。それにしては親しげに見えるけど…?」

 

「この前も言ったが、探偵に興味があってね。ユウマの紹介で探偵と会ったから満足してる。まぁ、その娘さんとこうして登校してるってのもなんだか不思議な感じだけどな」

 

「忍先輩には先日助けてもらいましたから」

 

「助けてもらった?」

 

「まぁ、ちょっとな」

 

先日、雪絵がナンパされた時のことだが、あまり言っても仕方ないので適当に濁しておく。

 

「ふ~ん」

 

デヒューラも深くは追究しなかった。

 

 

 

そうこうしながらも登校していく一行はフェイタル学園へと到着する。

 

「では、先輩方。私はここで…」

 

校舎の入り口前で雪絵が一礼してから一年の下駄箱へと歩いていく。

 

「ぁ、僕もちょっと図書室に用事があるので、これで…」

 

ユウマもデヒューラと忍にそう言うと、そそくさと上履きに履き替えると図書室がある方角へと早歩きに移動してしまう。

 

「? どうしたんだろ、ユウマちゃん」

 

「さてな…(ま、昨日の今日じゃそりゃ答えなんて出る訳ねぇか)」

 

そんなユウマの様子にデヒューラは首を傾げ、忍は内心で仕方ないと割り切っていた。

 

………

……

 

・フェイタル学園、図書室

 

今更だが、フェイタル学園の構造をお教えしよう。

 

このフェイタル学園は三階建ての中等部の校舎と三階建ての高等部の校舎があり、向かい合うように並列している。

それを北側に設置された特別教科用の教室や教員室、学園長室などが密集した四階建ての特別校舎が中等部と高等部の校舎を繋いでいる。

言わば、Π(パイ)の字状である。

入り口はそれぞれ南側にあり、左側が中等部、右側が高等部となっている。

ちなみにΠの中は中庭として機能している。

校舎裏に当たる東側と西側にはそれぞれ体育館が設置されており、北側には中高共通で使えるように広いグラウンドがあり、グラウンドの東側にプール、西側に部室棟がそれぞれ設置されている。

 

図書室は中高共有となっており、特別校舎の二階は丸々図書室として機能している。

 

その図書室にユウマがやってきていた。

 

「(………嘘、ついちゃったな…)」

 

忍の前から逃げるように図書室にやってきてしまい、ユウマは少し居心地が悪かった。

 

どうせ教室に行けば否が応でも隣の席に座る忍と会うというのに…。

しかし、それも仕方ないことかもしれない。

出会って間もない、それも裏の顔を持つ人物に恐怖心を抱かないというのも無理な話である。

かと言ってせっかく出来た友人といきなりよそよそしく接するというのも相手にとって失礼なのではと考えてしまっていた(決して友達が少ないという訳ではないが…)。

 

「はぁ…」

 

そんな風に考えていると、軽い溜息を吐いてしまう。

ともかく、どうしたらいいのかわからないのがユウマの本音だった。

 

…………傍から見れば、図書室の一角に佇み、苦悩する美少女の絵になる…(制服は男物だが)。

 

そこへ…

 

「ユウマさん」

「ユウマ先輩…」

 

2人の少女が顔を出す。

 

片や学園指定の高等部のブレザーをキチっと着こなした背中まで伸ばした桜色の髪をポニーテールに結い、空色の瞳、凛とした雰囲気を有する綺麗な顔立ちの全体的にほっそりしているスレンダー気味の体型の少女。

 

片や学園指定の中等部のセーラーが少しだけ窮屈そうに見える腰まで伸ばした黒髪、ブラウンの瞳、まだ幼さを残す可愛らしい顔立ちの低身長に対してアンバランスな凹凸を持つ何とも悩ましい体型の少女。

ちなみに黒縁ビン底眼鏡を着用しているので一見したら顔立ちはわかりにくいのだが…。

もっとも素顔を知るユウマからしたら何の問題もない。

 

「ぁ…ファムさん、アイリさん…」

 

声を掛けてきた少女達に気付き、ユウマもそちらを向く。

 

「どうかしたんですか?」

 

2人の少女にどうかしたのかと尋ねるユウマ。

 

「どうかしたじゃないです。昨日はどうして顔を出してくれなかったんですか?」

 

そう言ったのはポニーテールの少女『ファム』だった。

 

「………ぁ」

 

言われて気付く。

そういえば、昨日は色々あってチームへの顔出しをしてなかったのだと…。

 

「ユウマ先輩…珍しく、その…何も連絡がなかったので…」

 

心配そうな声音で眼鏡の少女『アイリ』も呟く。

 

「すみません。ちょっと昨日は急用があって連絡する暇もなくて…」

 

事実、昨日はパンドラに入ったものの忍や雪絵に合わせて早々にログアウトしてしまい、チームメイトに連絡する暇もなかったのだ。

 

「それなら仕方ありませんけど…」

 

ユウマの言葉を聞いて仕方ないと漏らすファム。

そんなファムに対して…

 

「あれ? ファムさん、今日部活の方は?」

 

思い出したようにファムに尋ねる。

 

「今日は珍しく両方ともお休みです」

 

ユウマを安心させるようにそう答える。

 

「そうなんですか」

 

それから3人は他愛のない話をしていたが、予鈴が鳴ったのでそれぞれの教室へと向かう。

ちなみにアイリは制服の通り中等部なので図書室で別れ、ユウマとファムはクラスメイトなので同じ教室へと向かうことになる。

 

………

……

 

・昼休み

 

時間は過ぎて昼休みとなる。

 

「はぁ…(また逃げてきちゃった…)」

 

昼休みになった途端、ユウマはお弁当を持って教室から逃げるように出てきてしまっていた。

 

「(どうしようかな…)」

 

とりあえず、1人で考えるために屋上へと向かうユウマだった。

 

フェイタル学園の屋上は特別校舎が四階建てという都合上、多くの生徒達が容易に出入りするためか、学園側も思い切って屋上を開放していたりする。

 

そんな感じに特別校舎から中等部側、もしくは高等部側の校舎の屋上には出入り自由なので、気分の重めなユウマも何の気兼ねもなく扉を開けて屋上へと出る。

季節が季節だけに少し寒いが、それ以外は何の変哲もない高等部側の屋上…

 

「……………?」

 

のはずだった。

 

屋上の扉を開いたユウマの目の前に広がったのは、屋上の中心地で乱雑に置かれたお菓子の袋や菓子パンの袋があり、さらにその中心には…

 

「……………」

 

肩まで伸ばしたボサボサ状態のくすんだ茶髪に全体的に細身でスレンダーな体型の少女が横たわっていた。

制服は学園指定の中等部のセーラー服なのだが、とにかく適当に着た感が半端ない上に乱れており、スカートも風に煽られて今にもその中が見えそうである。

 

「っ!?!?」

 

まさか、自分の学園でこのような事態に遭遇するとは露とも思わずフリーズしていたユウマだが、それがただならぬことだと思い至って再起動する。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

お弁当を落としながらも少女に駆け寄り、体を揺する。

 

「う、う~ん…」

 

少女から呻き声が聞こえてきたので、ひとまず安堵するユウマだったのだが…

 

ゴチンッ!!

 

「はぅあ!?」

 

いきなり額に重い何かがぶつかり、変な声を上げて尻餅をついてしまう。

 

「…うるさい…」

 

そんな声と共に少女が薄く眼を開け、その琥珀色の瞳がユウマに向けられる。

ちなみに少女の顔立ちだが、綺麗というよりも可愛い部類に入るタイプであったりする。

 

バサッ!

 

そして、ユウマの額に直撃したモノの正体は…辞書だった。

 

「……誰?」

 

上体を起き上げた少女は不機嫌そうな目つきでユウマを見ながら問う。

風に舞いそうなスカートを押さえるとかいう行動はしてない。

 

「え、えっと…ぼ、僕は天崎 ユウマ。き、君は…?」

 

少女の目つきに若干怯えながらも答えるユウマを見て…

 

「あ、そ」

 

それだけだった。

 

「あの、君の名前は…?」

 

「はぁ? なんであたしがアンタに名乗らないとならないの?」

 

「(えぇ~…)」

 

少女の横暴な態度にユウマは困惑した。

 

「そ、それよりも…何かあったの? こんな状況で寝てただけなんて思えないし…」

 

が、気を取り直して周りの惨状を見てユウマは少女に尋ねる。

 

「はぁ? 二日振りに食事を取ってただ寝てただけなのに大袈裟な…」

 

周りを見ながら少女はそう言い放つ。

 

「二日振り!?」

 

ユウマとしては寝てた云々よりも"二日振りに食事した"という事実の方が衝撃が大きかったようだ。

 

「成長期なんだからもっと栄養のあるモノを食べた方が良いような…」

 

そう言いながら律儀にも少女が食べ散らかしたと思われるゴミを回収して屋上にあるゴミ箱に捨てるユウマ。

 

「エネルギー摂取できれば別になんだっていいわよ」

 

これまでの言動からどうも少女は食事に関しては特に頓着しないようだった。

いや、それにも限度というものはあるが…。

 

「あと、女の子なんですから身支度ぐらいちゃんとしましょうよ…」

 

そう言いつつユウマは少女の制服を正していく。

心なしか手際が良いように感じる。

 

「……………」

 

そんなユウマを冷めた眼で見る少女。

 

「はい。あとは髪ですね」

 

ボサボサの髪を手入れしようとするユウマに…

 

「アンタ、ホントに男?」

 

少女は切れ味の鋭いツッコミを入れる。

ユウマの服装から男だと認識していたようだが、その手際の良さから疑い始めたらしい。

 

グサッ!!

 

「う、うぅ…」

 

そのツッコミに胸を抉られるような感覚に陥ったユウマはしくしくと涙を我慢する。

 

「まぁ、いいけど…」

 

そう言うと少女は立ち上がって屋上から出ようとした。

 

「あ、ちょっと…」

 

その後ろ姿を追い掛けようとするも…

 

燦瑚(さんご)・グルボラス」

 

「へっ?」

 

「あたしの名前」

 

『燦瑚』と名乗った少女はそのまま屋上から出て行ってしまった。

…………ユウマのお弁当を蹴飛ばして…。

 

「あぁ!?」

 

悩んでいたユウマに追い打ちをかけるようなこの少女との出会いは、後日思わぬ形で再会することになる。

が、それはまた別のお話で…。

 

………

……

 

・放課後

 

時間はさらに過ぎて放課後となる。

部活に行く者、帰宅部な者、教室に残って駄弁ってる者等などが見られる。

 

「はぁ…」

 

そんな中、昼休みの出来事…幸いにもお弁当は無事だったが…でさらに心労を重ねたユウマは重い溜息を吐いていた。

 

「じゃあな、ユウマ」

 

「……ぁ、はい。また明日…」

 

軽い挨拶を残して教室を後にする忍に遅れて返事をすると…

 

「何してるんだろ、僕…」

 

机に突っ伏して独り言ちるように呟く。

 

「今日は…どうしようかな…」

 

パンドラに行けば忍と遭遇する可能性も高い。

しかし、それではまたファムやアイリに心配をかけてしまうかもしれない。

けど、行ったら行ったでまた誰かに絡まれてしまうかもしれない…。

 

そんな思考の悪循環に陥っていると…

 

「あ、いたいた。お~い、ユーマ~」

 

教室前の廊下からユウマを呼ぶ女生徒がいた。

その女生徒とは学園指定の高等部のブレザーを着崩した腰まで伸ばした銀髪、サファイアブルーの瞳、ほんわかとした雰囲気の綺麗な顔立ちの大人顔負けの豊満でスタイル抜群な体型の少女だった。

 

「ミーシャ先輩…?」

 

机から顔を上げて呼ばれた方を向くと、ユウマは相手の名を呟く。

 

「もう、ユーマってばノリが悪いな~」

 

そう言いながらミーシャと呼ばれた少女はユウマの机までやってくる。

 

「早く行こうよ~」

 

「行くって、何処に?」

 

「決まってるよ。遊びに、ね♪」

 

「えっ…」

 

答える間もなく、ユウマは自分の鞄を持たされてミーシャに手を引っ張られる。

 

「レッツゴー!」

 

「わわっ…」

 

こうして問答無用で連れ去られたユウマだった。

 

………

……

 

・ゲームセンター

 

「見てよ。このゲーム、私とユーマの独壇場だったのに、誰かが更新したんだよね」

 

「ぁ、本当だ」

 

それは三日前くらいに忍がやったこの世界でのガンシューティングゲームであり、それ以降の更新はされていなかった。

 

「むむむ、『S.B』。何者なのかしらね?」

 

「『S.B』…(もしかして、忍さん?)」

 

その文字を見て『紅神 忍』かもしれないという疑問が浮かび上がり、知らない内に表情が暗くなってしまう。

そんなユウマの表情を見逃さなかったのか…。

 

「知り合い?」

 

ミーシャはそう尋ねる。

 

「ぁ、いえ…多分、違うかと…」

 

そう答えるユウマに対して…

 

「う~ん……えいっ」

 

ミーシャは何を思ったのか、ユウマを抱き締める。

 

「み、ミーシャ先輩!?///」

 

その行動にユウマは驚き、顔を赤くする。

 

「やっぱり、ユーマには暗い顔は似合わないよ」

 

「ミーシャ、先輩…?」

 

言われて初めて気づいたようにユウマはミーシャの顔を見上げる。

 

「今日のユーマはなんだか見てて暗くなるよ。それでもって本人は気付いてないみたいな感じだったし」

 

「僕、そんなに暗かったですか…?」

 

「アザカが心配してたくらいだよ」

 

「鮮花先輩が…」

 

鮮花という先輩から見ても今日のユウマは全体的に暗かったのだろう。

事実、授業もノートは取ってたが、どこか上の空のようにも見えていたはずだ。

 

「何か悩みでもあるの?」

 

「それは…」

 

流石にこの悩みは人には言えない。

言ったら…もしかしたら巻き込んでしまうかもしれない、ということもユウマの頭の隅にあったからだ。

 

「ふむ。ま、誰しも言えない悩みはあるよね。なら深くは聞かない。でも、ユーマ自身はどうしたいの?」

 

「僕自身…?」

 

「そ、ユーマ自身の心はなんて言ってるのかな?」

 

「僕は…」

 

そこでユウマは改めて考える。

ユウマはこれまで忍とのこれからの付き合い方を考えていた。

でも、それ以上に…楽しいはずのパンドラが誰かによって楽しめないようになっているのではないかと…。

そんな事件を事情はどうあれ知ってしまったのには変わりない。

そんな誰とも知らない人が行方不明、それもパンドラに関係があるなら放っておけないとも感じていた。

パンドラが閉鎖してしまっては困るというのもあるが、何より楽しいゲームなのだからそれを悪用する人が許せなかった。

それにあのメンバーを見たら、1人くらいパンドラに詳しい人がいた方が良いとも思った。

 

そんな風に考えを纏めると…

 

「……ありがとうございます。ミーシャ先輩」

 

ミーシャのホールドから抜け出すと、頭を下げていた。

 

「うん?」

 

「僕、ちょっと行ってきます」

 

ミーシャはちょっとポカンとしてユウマのお礼の言葉を聞いていたが…

 

「ん~、いってらっしゃい?」

 

とりあえず、そう言っていた。

ミーシャに見送られてユウマは雪白探偵事務所まで走った。

 

 

 

そして、雪白探偵事務所にやってきたユウマは…

 

「はぁ…はぁ…」

 

走ってきたので息切れしていたが…

 

ピンポーン!

 

それでもとインターフォンを鳴らす。

 

「は~い、どちら様?」

 

そう言って出てきたのは雪音だった。

 

「あら、ユウマ君。どうしたの? そんなに息を切らせて…」

 

ユウマの姿に雪音は驚く。

 

「雪音さん…おじさんや忍さん達はいますか…?」

 

「え? えぇ、リビングでお話してるけど…」

 

「そう、ですか。なら、お邪魔します」

 

そう断りを入れると、ユウマは雪白探偵事務所へと入っていった。

 

「あ、ユウマ君?」

 

慌てて雪音もその後をついていく。

 

「? なんだ?」

 

「ユウマ? どうかしたのか?」

 

リビングで事件の話をしていた忍や狼牙達がリビングの入り口にやってきたユウマの方を見る。

 

「僕にも…事件解決のために捜査の協力をさせてください!」

 

意を決したように叫んでいた。

その言葉に忍を始め、狼牙も目を見開いて驚いていた。



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第八十五話『電脳世界での闇』

新年あけましておめでとうございます!

これが今年最初の投稿となります。


事件への捜査協力を申し出たユウマ。

それには忍を始め、小さい頃から知っている狼牙や雪音、そして雪絵も驚いていた。

 

「正気か?」

 

それにまず疑問を抱いたのは紅牙だった。

 

「いくらヴァルゴに選ばれたからと言っても今回の件、素人に口出しできるような問題でもないだろ?」

 

「そうやねぇ。こればっかりは民間人を巻き込むわけにもいかへんし」

 

紅牙の言葉にはやても同意するように頷く。

 

「でも、この中でパンドラのことをよく知ってるのは僕だけです!」

 

そんな2人の物言いに珍しく真っ向から意見を述べる。

 

「それは…まぁ、確かに…」

 

先日、登録してユウマのランクを聞いていた忍はそれを認めていた。

 

「そうなの?」

 

フェイトが忍に尋ねる。

 

「あぁ、最大ランクは7というパンドラのゲーム内でユウマはランクが6だってよ。チームメイトもランク5らしいが…」

 

「かなりやり込んでいるのは確かか。というか、紅神。貴様、どっちの味方だ?」

 

忍の弁護的な言い方に紅牙は眉を顰める。

 

「いや、どっちの味方も何もないんだが…事実としてユウマの言い分も正しいっちゃ正しいしな…」

 

頭を掻きながら困ったように狼牙の方を見る忍だった。

 

「俺に振るな、俺に…」

 

こっちもこっちで困ったように頭を掻く狼牙。

その動作はやはり親子なのか、そっくりである。

 

「(なんだか、そっくり…)」

 

「(やっぱり、親子だねぇ)」

 

その様子を見ていたフェイトと雪音がそんなことを思う中…

 

「お願いします! きっとお役に立ちますから!」

 

ユウマは懸命に頭を下げていた。

 

「……ユウマ。お前さん、どうしてそこまで捜査に協力したいんだ?」

 

そんなユウマの姿勢に何かを思ったのか、狼牙が尋ねる。

 

「パンドラは…楽しいはずのゲームなんです。でも、それが失踪事件に悪用されてると思うと悲しくて…それに我慢できないんです。楽しいはずのゲームを悪用する人達が許せなくて…」

 

「要はゲーム惜しさか…」

 

ユウマの言葉に紅牙は辛辣だった。

 

「そう思われても仕方ないですよね…。でも、今のが僕の本心です」

 

目に涙を溜めながらもユウマは一歩も退かなかった。

 

「(あの坊主が頑張って主張してるたぁ、時間が過ぎるのも早いもんだな…)」

 

その姿を見て狼牙は時間が経つのは早いと感じていた。

 

「……ま、いいだろうさ」

 

そう言って狼牙はユウマの加入を認める姿勢を示していた。

 

「親父?」

 

その判断を下した狼牙に視線が集まる。

 

「ユウマのことは小さい頃から知ってるが、こいつがここまで主張するのも珍しくてな。その心意気を信じてやろうと思っただけだ」

 

「じゃあ…!」

 

狼牙の言葉にユウマは嬉しそうに何か言おうとしたが…

 

「但し」

 

狼牙は手を前に出して告げる。

 

「無茶な真似だけはするな。お前に何かあればお前の家族が、友が悲しむことになる。だから協力するということも出来るだけ他の人間には伏せておけ。お前の行動一つで家族や友に被害が及ぶかもしれないからな。それだけは忘れるな。いいな?」

 

「…っ、はい!」

 

狼牙の言葉にユウマは強く頷く。

 

「そうなると、今回の事件概要をユウマにも説明しておくか」

 

そう言うと狼牙は資料の一部を軽く纏めてユウマに差し出す。

 

「今回の事件は簡単に言えば、失踪事件。しかも規模がやけに大きいのが特徴だ」

 

「規模が大きい?」

 

「ハッキリ言ってこのストロラーベという次元世界規模だ」

 

「えっ!?」

 

狼牙の口から語られた規模の大きさに驚く。

 

「特に首都であるこの地域での失踪件数は他の地域よりも多い。パンドラを運営し、パンドラネットワークのメインサーバーのある本社が近いからこの辺りのパンドラユーザーは他の地域よりも多いことが由来してると俺は睨んでいる」

 

狼牙の見解を聞き…

 

「で、でも…僕達の周りで失踪者が出たなんて噂は聞きませんよ?」

 

ユウマは疑問をそんな抱く。

 

「確かにフェイタル学園を中心にした地域での失踪者はまだいない。が、他の地域からきた噂はお前も聞いたことがあるだろ?」

 

その疑問に狼牙はそう答える。

 

「それは…はい、たまに話題になったりしてます」

 

他の地域に友達のいる生徒達が会話してるのを聞いたことがあるらしい。

 

「失踪した奴の共通点はパンドラをやってた若い連中だけ。失踪者間のゲーム内や現実世界での交流は一切なく、若いってだけで趣味趣向やプレイ内容などに共通点は見られていない。また、何の前触れもなくいなくなったって点も共通はしてるが、失踪に気付いた時間もバラバラで何処に行ったのかも見当がつかない」

 

「匂いの痕跡も消えてたんだったな…」

 

昨日聞いていた忍がそう付け加える。

 

「匂い?」

 

その言葉にユウマが首を傾げる。

 

「ま、俺や忍の十八番でな。匂いには敏感なんだが、一回失踪した奴の1人の自宅まで行って匂いを嗅いだんだが…これがまた部屋から移動した形跡がないんだわ。微かな魔力の匂いを残して…」

 

「それってどういう…?」

 

狼牙の言葉にさらに首を傾げるユウマに…

 

「おそらく、転移系の魔法か何かが使われた可能性がある、ということだ」

 

忍が簡単に説明する。

 

「魔法、ですか?」

 

管理世界でありながら魔法とはあまり縁のない世界であるため、いくらパンドラで身近に感じていても実際に現実の話となるとユウマもあまりピンとは来ていないようだった。

 

「あぁ。しかし、この世界に魔法を扱える奴なんて…ほとんどいないだろ? それに魔法を扱う部署もないと思うんだが…」

 

「そうだな。そんな部署がありゃ話が面倒にならずに済むんだが、そうもいかないからな」

 

どうもこの事実を狼牙は先方の警察機構には伝えていないらしい。

 

「とは言え、今更管理局に任せるってのもこっちの面子に関わるからな…そうそう公表は出来ないんだよ」

 

やれやれといった感じに狼牙は肩を竦めてみせる。

 

「そんな…!」

 

そのことにユウマは当然の如く驚く。

 

「何処の世界でもそういうところは変わらんな」

 

吐き捨てるように紅牙が呟く。

 

「人間の社会なんてそんなもんさ。で、それはともかくとして…問題は失踪した連中は何処に転移したか、だ」

 

狼牙も呆れながらも話題を元に戻す。

 

「何処に転移したか?」

 

「いくら俺の嗅覚でも何処に転移したかまではわからん。魔力の残り香を探れてもそこまでなんだよ」

 

ユウマの疑問に答えながらお手上げ状態とばかりに手を振る狼牙だった。

 

「親父でそれなんだから、俺が探っても似たような結果だろうな」

 

忍もまた苦虫を嚙み潰したような表情で答える。

 

「だからこそ、失踪の共通点であるパンドラ内での捜査も必要だと話し合ってたんだが…」

 

「タイミングが良いのか悪いのか、お前が来て捜査の協力をしたいと言ってきたわけだ」

 

ユウマ的にはタイミングが良い時に来たようだ。

 

「俺は既にアバターを取得してるから中から捜査してみるが…他の連中はどうする?」

 

ユウマの協力を得られたからか、忍もパンドラ内での捜査を行うために他のメンバーに確認を取ってみる。

 

「俺はパスする。そのパンドラとかいうもので体の自由を奪われたらいざという時に動けんからな」

 

「わたしも遠慮しとこうかな…」

 

「私も…流石に仕事とはいえ、ゲームに入るのは抵抗があるかな…?」

 

「俺も今時のもんはわからんからな…」

 

紅牙、はやて、フェイト、狼牙の順に忍の申し出を断っていた。

 

「なら、パンドラ内での捜査は俺とユウマの2人でやることにするか」

 

ある程度、予測していたのか…忍はそう言ってユウマを見る。

 

「は、はい。頑張ります…!」

 

「そう力むなって…」

 

そんなユウマの姿に忍は苦笑する。

 

「じゃあ、俺とユウマで明日から中を調査してみる。ま、簡単に尻尾が見つかるかどうかは怪しいが…」

 

「頼む。俺ももう一回資料を見直してみる」

 

忍の言葉に狼牙も頷きながらそう返す。

 

「なら、俺はゲームに入っている貴様らの護衛でもしてやる」

 

万が一のことを考え、紅牙はそう言っていた。

 

「頼む」

 

「あぁ」

 

忍と紅牙はそれだけ言葉を交わす。

今では互いに信頼しているからこそ出来る意思疎通である。

 

こうして捜査チームにユウマを迎えた忍達はパンドラ内での調査を行うことになった。

 

………

……

 

・翌日

 

それは登校時に発覚した。

 

「おい、編入生」

 

フェイタル学園の校門に着くや否や、二日前に現れた雪絵の裏親衛隊のリーダー格が待ち構えていた。

但し、今回は1人だけである。

 

「……なんか用か?」

 

雪絵とユウマの前に出て忍が対応する。

 

「そう構えんな。今日はお前に聞きたいことがあるだけだ」

 

「聞きたいこと?」

 

裏リーダー格の言葉に首を傾げる。

 

「あぁ。お前、ブライアンの奴を知らないか?」

 

「ブライアン……あぁ、あの重騎士スポーツマンか」

 

初のパンドラでの対戦で戦ったあの重騎士のことだとわかり、納得するが…

 

「知らないが、どうかしたのか?」

 

新たな疑問が生じる。

 

「そうか。知らないか…」

 

忍の言葉を聞き、神妙な面持ちになる裏リーダー格。

 

「「?」」

 

その会話を忍の後ろで聞いていたユウマと雪絵が顔を見合わせて首を傾げていると…

 

「まさかとは思うが…連絡が取れないのか?」

 

嫌な予感がした忍がド直球に尋ねる。

 

「……………」

 

朝早くだからか、人通りがないのを確認すると…

 

「あぁ…表の連中が昨日から捜してるが、見つからないそうだ」

 

「「っ!?」」

 

裏リーダー格の言葉を聞いてユウマと雪絵が驚く。

 

「(この学園でも遂に出たのか…)」

 

新たな失踪者が身近で現れたのだ。

 

「時間を取らせて悪かったな」

 

そう言って裏リーダー格は踵を返していた。

 

「あと、先日の借りはいずれ返させてもらう」

 

忍に背を向けたまま裏リーダー格はそう言っていた。

 

「それはユウマへの礼のつもりか?」

 

少し苦笑しながらそう問うが…

 

「……………」

 

裏リーダー格は黙って去っていった。

 

「この世界にも律儀な奴もいたもんだ…」

 

肩を竦める忍の後ろでは不安な表情のユウマと雪絵がいた。

 

「忍さん…」

 

「忍先輩…」

 

忍を呼ぶ声を聞きながら…

 

「わかってる。放課後、即行でパンドラに行くぞ」

 

表情を引き締めた忍が静かに呟いていた。

 

………

……

 

・放課後

 

忍とユウマが揃って近場のゲーセンに向かってる途中のこと…。

 

「そういや、協力してくれるのは助かるが…チームはいいのか?」

 

「ぁ…」

 

言われて気付いたように間の抜けた声を漏らすユウマ。

 

「な、何とか誤魔化してみせます…」

 

「ま、無理せずにな」

 

元々ソロで行動するつもりだった忍はそうユウマに言っていた。

 

すると…

 

「ユウマ!」

 

後方よりユウマを呼び止める声が響く。

その声に聞き覚えがあるのか…。

 

「ぁ、フィーナ先輩」

 

ユウマが振り返りながら答える。

 

「どうかしたんですか?」

 

「どうかしたじゃないわよ! なんで最近顔を出さないのか問い質しに来たのよ!」

 

やけに高圧的な態度のその人物は…腰まで伸ばしたプラチナブロンドの髪、切れ長な眼、トパーズイエローの瞳に凛とした雰囲気の綺麗な顔立ちのスタイル抜群な体型の女性だった。

制服は学園指定の高等部のブレザーであるため、同じ学園の生徒だとわかる。

 

「……誰だ?」

 

その女性を知らない忍はユウマに尋ねる。

 

「あ、忍さん。ご紹介しますね。こちらはフィーナ・フェルテッシェ先輩。高等部三年生の先輩で、僕や雪絵ちゃんの幼馴染みでもあるんですよ」

 

「へぇ~」

 

「それとフィーナ先輩のお家はパンドラの運営会社にも投資してるんですよ」

 

「出資者の娘…つまり、結構なお嬢様か?」

 

「まぁ、世間一般で言うと、そうなりますかね」

 

「そんなのと知り合いとは…お前もお前で顔が広いな?」

 

「そうですか?」

 

そんな風な会話をしていると…

 

「あなた達、わたくしを前に世間話とはいい度胸ね?」

 

女性こと『フィーナ・フェルテッシェ』がちょっとキレ気味である。

 

「(なんでこんなに怒ってんだ?)」

 

その姿に忍は疑問でしかなかったが…

 

「す、すみません…。あ、フィーナ先輩、こちらは紅神 忍さん。四日前に編入してきた僕の新しいお友達です」

 

ユウマは慣れているのか、忍をフィーナに紹介していた。

 

「あなたが噂の編入生? なんか、パッとしないわね」

 

目の前の忍に対して失礼であるが、フィーナは構わずに続ける。

 

「四日前ということは…あなたのせいね! ここ最近ユウマが来なくなったのは!」

 

そう言うとフィーナは忍に指を突きつけていた。

 

「え…なんのことだ?」

 

何故、指を突きつけられたのかわからず、聞き返してしまう。

 

「パンドラのことよ! 待っても待っても顔を出さないからこうして探してたんじゃないの!」

 

「(えぇ~…そんなことのためだけに因縁をつけられたのか~?)」

 

フィーナの言葉に思わず、露骨に表情に出てしまったのか…

 

「なによ、その顔は!」

 

指摘されてしまう。

 

「あ、いや…」

 

とりあえず、弁明しようとしたところ…

 

「ま、まぁまぁ…フィーナ先輩。今日はちゃんと顔を出しますから…許してください、ね?」

 

ユウマが2人の間に入ってフィーナを説得する。

 

「………本当でしょうね?」

 

「はい」

 

フィーナの睨みにも怯まず、笑顔で返すユウマ。

その姿を見て…

 

「(なんか、手慣れてるな…)」

 

忍はそんなことを思っていた。

 

「そう、ならさっさと行くわよ」

 

そう言って2人を先導するかの如く前を歩き始めるフィーナ。

 

「あ、待ってくださいよ」

 

それに遅れないようにユウマが追いかけ、忍も後に続く。

 

「(なぁ、ユウマ)」

 

「(はい?)」

 

忍はユウマに小声で話し掛ける。

 

「(あのお嬢様っていつもああなのか?)」

 

「(そうですね。当たりはキツイですけど、根は優しい人なんですよ)」

 

「(とてもそうは思えねぇけどな…)」

 

ユウマの言葉に忍は頭を捻る。

 

「(そんなこと言っちゃダメですよ。それにフェルテッシェ家と狼牙おじさんって古い付き合いらしいですよ?)」

 

「(なにぃ?)」

 

それを聞いて軽く驚いたようだ。

 

「(おじさん、昔はフェルテッシェ家の護衛だったらしくて今でも付き合いがあるって雪絵ちゃんも言ってました)」

 

「(マジか…)」

 

新たな事実に忍は少し頭が痛くなっていた。

 

「何をこそこそ話してるのよ!」

 

前を歩いていたフィーナがお怒りの声を上げる。

 

「ぁ、いえ…」

 

「なんでもないです」

 

ユウマは控え目に言うのに対して、忍は平然と返す。

 

「というか、なんであなたまでついてくるのよ?」

 

ユウマはともかくとして忍がついてくるのが疑問だったらしい。

 

「俺もパンドラをやるからですよ」

 

平然と答える忍に…

 

「そうなの?」

 

キッとユウマを睨みながら聞く。

 

「はい。忍さんは初心者ですから…色々と教えようと思いまして」

 

「そう。なら仕方ないわね。でもランク6のあなたがなんでこんな初心者を直々に教えるの?」

 

ユウマの言葉に疑問に思ったフィーナはそう問いかける。

 

「忍さんが編入してきたのは僕のクラスで、僕は忍さんの隣に座ってますから…その縁と言いますか…」

 

「ふ~ん…」

 

ユウマの答えにあまり興味なさそうにフィーナは相槌を打つ。

 

 

 

そうこうしていると目的地であるゲーセンに着く。

 

「やっほ~、ユウマちゃん。それとお嬢様にイケメン君」

 

そこでは何かのゲームのキャラなのか、いやに露出が多めな衣装を着たアイビスが接客してきた。

 

「あ、アイビスさん…////」

 

その姿にユウマは顔を赤くして目を逸らす。

 

「相変わらず品のない格好ね」

 

フィーナはアイビスの姿を一蹴していた。

 

「(こんな格好の接客によく許可が出たもんだ…)」

 

忍は忍で大いな疑問を抱いていた。

 

「にゅふふ、今日は『フォルトゥーナ』のメンバーが揃ったね」

 

そう楽しげに言うアイビス。

 

「『フォルトゥーナ』?」

 

その単語に忍は首を傾げる。

 

「あ、僕達のチーム名です。なんでも異世界から漂ってきた本に書かれてた女神様の名前だって、アイリさんが言ってました」

 

「なるほど…(確か、地球の神話にそんな名前の運命を司る女神がいたような…? 偶然か?)」

 

ユウマの説明を受け、忍はそんな考えを巡らせていた。

 

「ファムさんとアイリさん、先に来てたんですね」

 

「ユウマちゃん、昨日も来なかったから心配だったんじゃないの?」

 

「あ…」

 

アイビスに言われてユウマはバツが悪そうな表情になる。

 

「とにかく謝っておきなよ?」

 

「…はい…」

 

アイビスの助言に素直に頷き、二階へと続く階段を目指す。

 

「そいじゃ、ごゆっくり~♪」

 

アイビスの声を背に忍達は二階のパンドラ専用の個室へと移動して電脳世界へとダイブする。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・エントランス』

 

エントランスで合流した忍とユウマの前に…

 

「やっと来ましたね、ユウマさん」

 

少し不機嫌そうな表情の軽装タイプの騎士甲冑を身に纏い、腰には刀とレイピアという異なる剣を帯刀したファムと…

 

「あの…ユウマ先輩…そちらの方は…?」

 

そのファムの背に隠れるように忍に視線を向けている、セーラー服の上から魔導師が纏うようなローブを羽織って大きな辞書みたいな本を両手で抱えるアイリが待っていた。

 

「あなたは…確か、編入してきたベニガミ君? 随分と派手な格好ですね」

 

同じクラスのために知っていたのか、ファムは今の忍のことをそう評する。

ちなみに忍の格好は以前の貸し出し装備のままだったりする。

 

「えっと…ユウマ、彼女達が?」

 

確認するように忍はユウマに尋ねる。

 

「はい。前衛を務めてくれる同じクラスの風紀委員のファムさんと、二つ年下で後衛を務めてくれるアイリさんです」

 

そう答えていた。

 

「ファムさん、アイリさん。最近はなかなか顔を出せなくてごめんなさい」

 

そして、最近来れなかった謝罪としてファムとアイリに頭を下げる。

 

「まぁ、来てくれたならいいんです」

 

「はい…」

 

そう言うファムに続き、ホッとしたような感じのアイリ。

 

「それよりもなんでベニガミ君と一緒なのですか? まさか、チームに入れるなんてことは…」

 

訝しげにユウマを見るファムだが…

 

「いえ、それは断られたんですが…」

 

そこは素直に答えるユウマだった。

 

「流石にランク1で変な目立ち方をしちゃいましたから1人じゃ危ないと思って、今日はパンドラでのプレイを教えるために一緒にダンジョンを進もうかと…」

 

「変な目立ち方………あぁ、あの決闘ですか…」

 

それを聞いてファムも合点がいったようだ。

どうもあの決闘のことを噂で聞いていたらしい。

 

「ネットでの、書き込みも…その、凄いことに、なってましたね…」

 

アイリもアイリでネットの書き込みを見たらしい。

 

「至らないこともあるが、今日はよろしく頼む」

 

忍はファムとアイリに頭を下げる。

 

「じゃあ、忍さんはファムさんと一緒に前衛をお願いします。僕はアイリさんを守るので…」

 

そういうフォーメーションを決めてからダンジョンへと足を向ける。

 

「二刀流ですか。足を引っ張らないでくださいね?」

 

「善処はする」

 

同じ剣士タイプと思ったのか、ファムはそう言い、忍もそう答える。

 

「大丈夫、なんですか…?」

 

「うん。忍さんならきっと大丈夫ですよ」

 

アイリが一抹の不安を抱いているが、ユウマは大丈夫だと言う。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・カフェスペース』

 

「何度味わっても味気ないわね。やっぱり、ユウマが淹れてくれる紅茶の方が良いわね」

 

そう愚痴りながらデータの紅茶を優雅に楽しむ…とは言い難い様子のフィーナがテーブルに設置された画面に目を移す。

 

「本当に同行させるなんて…正気かしら?」

 

そう言って画面に映るフォルトゥーナ+忍というメンバー構成に眉を顰める。

 

すると…

 

「あ、フィーナだ。お~い」

 

カフェスペースにやってきたミーシャがフィーナを見つけるなり、大声で呼んでいた。

 

「ミーシャさん。そんな大きな声を出さなくても…」

 

そんなミーシャを咎めるように1人の女性が言葉を紡ぐ。

 

「あぁ、ゴメンゴメン。アザカは耳が良いもんね」

 

ミーシャもその女性に謝る。

ちなみに先日ユウマとミーシャの会話の中で名前が出た『鮮花(アザカ)』と呼ばれた女性は、背中まで伸ばした金髪、黒い瞳、優しい雰囲気の綺麗な顔立ちのミーシャに負けず劣らずの豊満な体型だったりする。

 

「あら、鮮花さんにミーシャさん。相変わらず仲がよろしいようで」

 

そう言ってフィーナは視線をミーシャと鮮花に向ける。

 

「うん。だってアザカは私の親友だもん」

 

「もう、ミーシャさんったら…」

 

ミーシャの言葉に鮮花も少し照れたような表情を見せる。

 

「ところでフィーナはユウマの観戦?」

 

「えぇ。お邪魔虫が1人いるけど…」

 

「お邪魔虫?」

 

フィーナの言葉に首を傾げるミーシャに…。

 

「これよ」

 

今見ていた画面を2人に見せる。

 

「男性の方が1人増えましたか?」

 

「新しいチームメイト?」

 

そんな2人の疑問に…

 

「いいえ、ただの初心者よ。ユウマが面倒を見るから今日は一緒なんですって」

 

フィーナは不機嫌そうに答える。

 

「へぇ~。見るからに前衛だけど…名前は?」

 

「さぁ? 自分で調べたら?」

 

本当に興味がないのか、そう言って紅茶に口をつける。

 

「それよりも立ってないであなた達も座ったら?」

 

そして、同席を進める。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「失礼します」

 

フィーナの右隣にミーシャ、左隣に鮮花が座る。

こうして3人は(主に)ユウマ達のダンジョン攻略を見物することになった。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・洞窟型遺跡ダンジョン』

 

「はぁ!」

 

下級のモンスター相手に一対一を挑むファムは左手に持つレイピアによる鋭い突きを繰り出していた。

 

『ギャアアッ!!?』

 

その突きで体力を奪われたモンスターは塵状になって消えていく。

 

『シャアアッ!!』

 

別方向から別の下級モンスターがファムに襲い掛かるが…

 

「っ!」

 

バンバンッ!!

 

後方のユウマによる援護射撃が火を噴き、その下級モンスターの体勢を崩す。

 

「はっ!」

 

その隙を見逃さず、ファムは右手に持つ刀でその下級モンスターを斬り裂く。

 

「ファム先輩…次は、右から来ます……ベニガミ先輩は、そのまま…ファム先輩の、取りこぼした敵を、叩いてください…!」

 

ユウマの背に隠れるようにしながらも指示を出すアイリは防御魔法を使って前衛の2人を援護していた。

 

「了解(しっかし、流石は上級者チーム。見事な連携だ。ファムは独特の二刀流だし、アイリもオドオドしてるようで的確な指示を出す…。しかもそれを的確にサポートしてるユウマも凄い…普段の姿からは考えられんな)」

 

そう答えつつ、忍は忍で左手の刀で防御しつつ右の刀で下級モンスターを斬り伏せていく。

まだ初心者が通うようなエリアのため、忍でも容易に倒せるモンスターが多い様だ。

そして、忍はこのフォルトゥーナというチームの連携や個々の技量にも舌を巻いていた。

 

そんな具合にそのエリアで忍の経験値を集めている中…

 

「(あれ? あれって…)」

 

ユウマは奥に続く通路の先で、亜麻色の髪を見たような気がした。

 

「(デヒューラ、さん…?)」

 

もしかして、という思いがあったので…

 

「すみません。ファムさん、アイリさんの護衛をお願いします。忍さんはそのまま経験値を集めててください」

 

そう言ってその場から離れるユウマ。

 

「ちょ、ユウマさん!?」

 

いきなりのことに動揺しながらファムがアイリの近くまで下がる。

 

「これを俺一人で捌くのか?」

 

目の前に群がるゾンビ型モンスターを見て忍がぼやく。

 

 

 

そして…

 

「えっと、確かこっちに…」

 

奥に続く道から少し逸れ、ユウマは普段から人が来ないような細い道を進んでいた。

 

「(というか、こんな道…この場所にあったっけ?)」

 

何度かこのダンジョンに来ていたが、こんな道があったかなと疑問に思うユウマだが…

 

「(そっか。この間のメンテナンスで新しく増えたのかも…)」

 

ならば知らないのも無理はないと、そう結論付けていた。

 

しばらく歩いていくと…

 

「(あ、ちょっと明るくなってきたかも…)」

 

薄暗い道の先から光明が見えてきた。

 

すると…

 

「------」

 

「------」

 

誰かと誰かが話をする声が、微かに聞こえてくる。

 

「(この声…やっぱり、デヒューラさんかな?)」

 

そう思いながら光明の先へと進もうとした時だった。

 

「本当に…これで本当にこの世界から出られるのね?」

 

「えぇ、そうですよ。この世界から飛び出して新たな世界に旅立てるのです」

 

「(え…?)」

 

聞こえてきた会話の内容で、光明n発生源となる小さな空間の手前の壁際でユウマは立ち止まることになった。

 

それはそうだろう。

いつも明るいはずのデヒューラの声が、今は別人のように冷え切っていたのだから…。

 

「本当に…こんな世界から飛び出せるのね?」

 

もう一度、確かめるような声が聞こえてくる。

 

「はい。その魔法陣はゲーム内から現実世界のあなたの持つパンドラの端末へと自動的にインストールされます。そして、それを現実世界で起動したならば、あなたを素晴らしき世界に連れて行って差し上げましょう」

 

それを聞き…

 

「あの両親から離れられるならなんだっていいわ」

 

冷め切ったような口調が聞こえる。

 

「それでは、現実世界でその時を待っていますよ。デヒューラ・スイミランさん」

 

そんな会話の後、2人の人物はその場から転移魔法を使い、エントランスへと戻ってしまった。

 

「デヒューラ、さん…?」

 

物陰から出てきたユウマは1人、困惑の極みに立っていた。

 

何かが起きている…。

 

「(どういうこと? あの両親から離れられるなら…? 新しい世界って…?)」

 

それはわかっているのに…うまく言葉に出来なかった。

 

そして、数分間その場で考え込んだ末に辿り着いた結論は…

 

「(もしかして…これが…失踪事件の、前触れ…?)」

 

とても嫌な予感が…電脳世界だというのに悪寒が走り、背中に冷や汗を流しながらユウマは忍の元へと急ぐ。

 

「(このままだと…デヒューラさんが、いなくなっちゃう…!)」

 

クラスメイトが消えるかもしれないという考えが…ユウマを焦らせる。



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第八十六話『小さな出会い』

ユウマが聞いた怪しげな内容の会話。

それがパンドラ内で失踪者を次々と出している可能性が高いと思ったユウマは急ぎ、忍と合流するべく走っていた。

 

「(デヒューラさん…どうして…)」

 

急いで走っていきたため、すぐに忍達と合流することが出来そうである。

ユウマのステータスもどちらかと言えば、サポートに徹するためにスピードを少し重視しているのでそこそこ速いのである。

 

「はぁ…しんどい…」

 

ゾンビ型モンスターの群れを1人で相手するという経験値及び装備調達の資金稼ぎを知らぬ間に課せられてしまった忍であった。

ちなみに忍が討ち漏らしたゾンビ型モンスターはファムがしっかりと処理しているので、アイリは無傷である。

 

と、そこに…

 

「ぁ…ユウマ先輩」

 

アイリが奥の通路から走ってくるユウマに気付く。

 

「ユウマさん! 一体何処に…」

 

ファムがお怒りのようで、小言を言おうとしたが…

 

「ごめんなさい! 話は後でしますから!」

 

そう言うと、ユウマは忍の腕を掴んで無理やり引っ張ってしまう。

 

「うおっ!?」

 

ゲーム内だからかどうか知らないが、ユウマに引っ張られた勢いで忍の体が浮いてそのまま引きずられていく。

 

「ユウマさん!?」

 

「ユウマ先輩…!?」

 

「ユウマ!?」

 

ファム、アイリ、忍とユウマの行いに驚いていると…

 

「エントランスに転移後、そこから現実世界に戻ります!」

 

「ちょ、待て!? 一体どうした!!?」

 

そう言葉早に言うと忍の了解も得ず、ユウマは転移魔法が使えるアイテムを取り出してそれを前方の地面に投げつける。

その行動には忍も理解が出来ず、説明を求めていたが…。

 

「行きます!」

 

余程慌てているのか、忍の声も聞かずに一緒にエントランスへと転移してしまう。

 

「ユウマ、さん…?」

 

「???」

 

その行動がわからず、置いてけぼりを食らったファムとアイリはただただ呆然としてしまっていた。

 

………

……

 

『パンドラネットワーク・カフェスペース』

 

「どうなってるの?」

 

「さ、さぁ?」

 

観戦組が見ていた画面はフォルトゥーナを中心に映っていたため、ユウマが何故急に離脱したのかまではわからないでいた。

つまり、ユウマが1人で行動していた映像は見れていなかったので、何が何だかわかっていないのだ。

 

これはパンドラの観戦がソロでプレイしているプレイヤー以外は登録しているプレイヤーの所属しているチームが優先となるために起こる現象である。

今回の場合、ユウマが抜けた後のファムとアイリの姿がフィーナ達の元へと届けられていたので、ユウマが単独で何をしていたかまでは映されていなかったのだ。

 

そんなことで途中から見ていなかったフィーナも事態の把握が出来ないでいた。

 

「(ユウマったら、何を血相変えてたのかしら?)」

 

一瞬しか見れなかったユウマの表情を思い返しながらフィーナは席を立つ。

 

「フィーナ? どこ行くの?」

 

それを見てミーシャが尋ねる。

 

「ユウマに会いに行くのよ」

 

そう言ってエントランス方面に続くゲートへと歩いていく。

 

「そっか。なら、ユーマによろしくって伝えて~」

 

「気が向いたらね」

 

素っ気ない返事とは裏腹にフィーナの足は急いでいた。

 

………

……

 

・現実世界

 

「で、急いでログアウトしたのはなんでだよ?」

 

個室から出た忍は先に出て待っていたユウマに訳を聞いていた。

 

「あの…もしかしたら、デヒューラさんが失踪しちゃうんじゃないかって思って…だから居ても立っても居られなくて…」

 

動揺しているのか、かなり端折った説明を忍にしていた。

 

「はぁ? なんで、そんなことがお前にわかる? しかも名指しだなんて……つか、もう少し落ち着いて状況を教えろ」

 

一番大事なとこが抜けているため、忍も訳が分からなかった。

 

「えっと、その…さっき、奥の通路で僕も知らない道があったんです。そしたら、その奥で怪しい会話が聞こえて…」

 

「怪しい会話?」

 

「はい。えっと、確か…新しい世界に旅立てるとか…あの両親から離れられるとか…魔法陣が端末にインストールされるとかどうとか…」

 

かなり慌てていたため、会話の内容もあまり覚えてないようだが…

 

「なに…?」

 

忍は"魔法陣が端末にインストールされる"という部分に引っ掛かりを覚えた。

 

「魔法陣をインストールだと…? パンドラにそんな機能があるのか?」

 

「し、知りません。というか、そんな機能があったらもっと騒ぎになってると思いますし…」

 

魔法があまり普及していない世界だからこそ、その話題性は高いはずである。

しかし、そんな話題は今まで出てこなかったし、ユウマも知らない様子であった。

 

「それもそうか。なら、外部からのハッキングの可能性は?」

 

「パンドラを運営してる会社のセキュリティがしっかりしてるからまず不可能かと…」

 

「とは言え、ハッカーがいない訳じゃないだろ?」

 

「それは、そうですけど…」

 

忍の言葉にユウマも頷くしかなかった。

 

「今から片っ端からハッカーを探すわけにもいかねぇしな…」

 

これからどうするか頭を捻っていると…

 

「とにかく、デヒューラさんを探さないと…!」

 

ユウマはさっきの会話でデヒューラのことが心配で仕方ないらしい。

 

「とは言ってもな…彼女の匂いなら多少は覚えているが…ここにはそれらしい匂いはないから、別の施設でアクセスしてたんじゃないか?」

 

「そんな…!」

 

そんな言葉にユウマは軽いショックを受ける。

 

「せめて彼女の家が何処かわかれば、先回りでもできるんだが…」

 

「デヒューラさんの家の場所…」

 

その一言にユウマは…

 

「あ…!」

 

何かを思い出したように声を上げる。

 

「どうかしたのか?」

 

「僕、知ってるかもしれません!」

 

「なに?」

 

「前にデヒューラさんが休んだ時に届け物を頼まれたことがあって、確かマンションの入り口まで行った記憶があります。結局、入り口の近くでデヒューラさんに会ったのでそこで渡しましたけど…多分、あそこのマンションで間違いないはず…」

 

そう言ってはみるものの、あまり自信はなさそうな様子だった。

 

「今は時間がないんだろ? だったら、その記憶に賭けてみろ」

 

「っ、はい!」

 

忍に言われ、ユウマも自分の(曖昧な)記憶を信じようと考えた。

 

「じゃ、案内は頼む。俺はこっちの地理に疎くてな」

 

「はい、わかりまし…」

 

ユウマと忍が歩き出そうとした時だった。

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

その前にパンドラからログアウトしてきたフィーナが立ち塞がる。

 

「ふ、フィーナ先輩…!?」

 

「(また厄介な時に…)」

 

ユウマの話から考えると、ここで時間を掛ける訳にはいかないと感じた忍は念話を使って外で待機してるだろう紅牙に連絡することにした。

 

「何処に行こうっていうの?」

 

「そ、それは…」

 

フィーナの質問にユウマは言葉を詰まらせる。

 

「(フィーナ先輩を危ない目に遭わせる訳には…)い、言えません…!」

 

ユウマはユウマでフィーナを危険な目に遭わせたくないからこそ、そう言うが…

 

「わたくしにも言えないことなの!?」

 

逆に火に油を注ぐ結果になる。

 

「だ、だって…」

 

危ないから、と続けようとしたが…

 

「………」

 

それを予期した忍から軽く肘で小突かれる。

 

「(言ったら余計にややこしくなるから言うなよ?)」

 

一応、念話でそう釘を刺しとく。

 

「っ!?」

 

頭の中で忍の声が聞こえたので驚き、忍の方を見る。

念話自体も初めてなのだから仕方ないのだが…。

 

「ユウマ!」

 

話をしてる最中なのに忍の方を見たのが、お気に召さなかったらしいフィーナが詰め寄ってくる。

 

「(ど、どうしよう…)」

 

場合によっては一刻を争う時なのに、ここでフィーナを突き放すことが出来ない様子のユウマであった。

 

「(仕方ない。心苦しいが、こうなったら強硬手段もやむなしか…?)」

 

それを見てか…最悪、フィーナをこの場で気絶させることを考え始めた忍だった。

 

「(でも、ここで躊躇してたら…デヒューラさんが…)」

 

そんな忍の考えを知ってか知らずか、ユウマも決心する。

 

「フィーナ先輩。ごめんなさい!」

 

謝りながらユウマは回れ右して二階の非常用階段へと向かって走っていく。

 

「なっ!? ユウマっ!!」

 

ユウマが逃げるとは思わず反応が遅れたが、それでもユウマを追い掛けようとするフィーナ。

 

「ユウマ。紅牙と一緒に先に行け!」

 

が、それを遮るように忍がフィーナの前に立ちはだかる。

 

「忍さん!?」

 

忍が追ってこないのを感じたのか、ユウマが振り返るが…

 

「いいから行け!」

 

そう言って忍はフィーナの前から退こうとしなかった。

 

「すみません!」

 

それを見てユウマも振り切るようにして走る。

 

「退きなさい!!」

 

護身術でも習ってるのか、鋭いパンチが忍に襲い掛かる。

 

「悪いが、こっちにも事情がある!」

 

ユウマのさっきの必死さから感じたものを信じ、忍はフィーナの拳を手の甲で受け止める。

 

「どんな事情があろうが、わたくしとユウマの間で起きたことよ! お邪魔虫は退いてなさい!!」

 

「(そうか…彼女はユウマを…)」

 

パンチから伝わってくる怒りと悲しみを感じ、忍はフィーナがユウマのことを好いているのだと理解する。

 

「お嬢様!」

 

一階に続く階段の方からわらわらと雪崩れ込んでくる護衛役らしい人間達。

 

「このお邪魔虫を排除なさい!」

 

拳を引きながら護衛役達に忍の排除を命令するフィーナ。

 

「ちっ…」

 

今更ながらこんな場所で騒ぎを起こしたことを後悔し始める忍。

 

「(親父には悪いが…ここはユウマの意思を尊重させてもらう…!)」

 

この世界で出来た友人のため、敢えて汚名を被ることを選んでいた。

 

………

……

 

一方、ゲーセンの外では…

 

「状況は紅神から念話で聞いている。さっさと行くぞ」

 

「は、はい…!」

 

忍からの念話である程度の事情を聞いた紅牙がユウマと合流していた。

多少、息切れしているが…。

 

「こっちです…!」

 

ユウマの先導でデヒューラの家があるマンション方面へとさらに走っていく。

 

 

 

そして…

 

「ここか?」

 

「はぁ…は、はぁ…は、い…」

 

あるマンションの前に到着する紅牙とユウマ。

ここまで一緒に走ってきて息切れしない紅牙にユウマは軽く自分の体力に自信をなくしていたが、現在進行形で鍛えている紅牙と一般人よりも少し体力のあるユウマを比べるのは酷というものである。

 

「紅神のように匂いがわかる訳ではないが…この不自然な気の流れは、魔力によるものか?」

 

紅牙の中に流れる天狐としての血が周囲から感じる異変を告げていた。

 

「はぁ…はぁ…き、気の流れ…?」

 

「説明する時間が惜しい。俺もこういう索敵系に慣れてる訳じゃないから期待はするな」

 

ユウマの疑問に答えず、意識を集中させて異変の中心点となる場所を探り始める。

こういうことはシアに任せてきたため、紅牙は少し苦戦しているようだった。

 

「…………あそこか」

 

しばらくして紅牙の視線の先に異変の中心点となっているだろうマンションの一室が映る。

 

「冥王化して飛べば楽なんだが…如何せん人目があってはな…」

 

そう呟きつつ周囲にいる一般人の存在が紅牙の行動を阻害する。

暗くなり始めた夕暮れということもあり、帰宅途中の学生や主婦などがちらほらと目立つ。

 

「(こういう世界では極力目立つな、というのも仕方ないが…このままではみすみす情報を見逃すことになる。それは避けなければ…)」

 

多少の危険を承知で冥王化することを考え出す紅牙を他所に…

 

「デヒューラさん…!」

 

息を整えたユウマはマンションへと向かって走っていた。

 

「あ、おい!」

 

それを見て紅牙もユウマを追う。

 

「おっと、見ない顔だね。お嬢ちゃん達、何かご用かい?」

 

と、そこに警備員らしきおじさんが立ちはだかる。

 

「誰が…!」

 

"お嬢ちゃんだ、ゴラァ!"と怒鳴ろうとした紅牙だが…

 

「すみません、通してください。友達に会いに来ただけなんです!」

 

紅牙よりも先にユウマが警備員のおじさんに問いかけていたので未遂に終わった。

 

「友達ぃ? そのお友達の名前は?」

 

その問いに対して…

 

「デヒューラ・スイミランさんです」

 

ユウマはフルネームで答える。

 

「え、スイミランの嬢ちゃんの…?」

 

が、警備員のおじさんはかなり驚いた様子であった。

 

「? それが、何か…?」

 

その驚き様に違和感を覚えたユウマが尋ねる。

 

「いや、こりゃ失礼したね。なんせスイミランの嬢ちゃんのとこに友達が訪ねてくるなんざ初めてでね」

 

そんな警備員のおじさんの言葉に…

 

「え…?」

 

ユウマは信じられないような感じの声を漏らす。

 

「どういうことだ?」

 

イマイチ話が繋がらない紅牙が警備員のおじさんに尋ねる。

 

「いや、これはプライバシーにも関わるからオフレコで頼みたいんだがね」

 

そう言うと、警備員のおじさんは周囲にユウマと紅牙しかいないのを確かめてから口を開く。

 

「スイミランさんとこはね。なんていうか、その…家庭が冷え切ってるんだよ」

 

誰の耳があるかわからないため、小声で切り出す。

 

「冷え切ってる…?」

 

その言葉の意味がわからず、首を傾げるユウマに…

 

「あぁ。スイミランさんとこは両親共に仕事人間でね。どうして子供なんて作ったのかってくらい忙しいんだわ。だから昔からスイミランの嬢ちゃんの面倒はベビーシッターがやってたね。でもって、幼稚園か小学生くらいの時にはもう寂しそうに1人で帰ってくるのを見てきたよ…可哀想なことにな。たまに俺とは喋ってくれてたっけかな」

 

警備員のおじさんはそう説明していた。

 

「それって…」

 

「あぁ、察しの通り。学校での行事なんてのも家族で一緒に出掛けるってことも俺が記憶してる限り、ほとんど無いな。スイミランの嬢ちゃんは両親に関心を持たれないままここ十数年を1人で生活してきたんだよ」

 

警備員のおじさんもバツが悪そうに説明を続ける。

 

「…………」

 

「高校生になってからだっけかな? あの娘が雑誌に載るようになったのは…? その雑誌をたまに見て思うよ。きっと無理してあんな笑顔を作ってんだろうなって…正直、見てて痛々しくなるよ。モデル仲間なんてのを連れてくるなんてことはないし、帰ってくる時はいつも1人で、冷たそうな表情だったからな。こうして友達が訪ねてくるなんて思いもよらなかったのさ」

 

言葉を失うユウマに更なる追撃とばかりに警備員のおじさんは言う。

 

「……………」

 

それを聞いていたユウマの拳は無意識なのか、ギュッと握り締められてプルプルと震えていた。

 

「スイミランの嬢ちゃんに初めて家まで会いに来てくれた友達だ。黙って通してやりたいが…俺も仕事なんでね」

 

困ったように警備員のおじさんは言うと…

 

「とは言え、俺もずっとここにいる訳じゃねぇし…そろそろ飯でも買いに行こうかと思ってたとこだ。その間に誰かが、六階の友達ん家に行っても気付けねぇわな」

 

わざとらしく口笛を吹きながらユウマと紅牙の横を通り過ぎる警備員のおじさんだった。

 

「……………」

 

ユウマは振り返って警備員のおじさんに一礼してから…

 

「行きましょう!」

 

紅牙よりも先にマンションに入っていく。

 

「…不器用なおっさんだ」

 

そう言い残して紅牙もユウマを追いかけていく。

 

 

 

マンションの六階。

 

「気の乱れが強くなってきたな。近いぞ」

 

六階の通路を歩きながら紅牙がユウマに注意を促す。

 

「(ゴクッ)は、はい…」

 

今になって怖くなってきたのか、少し震えながら答えるユウマ。

 

「……引き返すなら今の内だぞ。これは本来お前のような民間人が関わっていい案件ではないんだからな」

 

その様子を見た紅牙が最後通告のようなことを言う。

 

「で、でも…」

 

「ここまで来ただけでも大いに助かった。後は俺達に任せてお前はお前の日常に帰れ」

 

そう言いながら紅牙はユウマを追い越していく。

それは震えるユウマのことを紅牙なりに案じての言葉だった。

 

「だ、大丈夫です…! デヒューラさんが危ない時に黙って見過ごすなんて…できませんから…!」

 

しかし、気丈にもユウマはそう言って自分を無理矢理にでも奮い立たせる。

 

「何故、そこまでして関わろうとする? さっきの警備員の話を聞いて、その女に同情でもしたか?」

 

そう尋ねる紅牙に対して…

 

「違います!」

 

ユウマは即否定する。

 

「デヒューラさんは…明るくて、社交的で、いつも僕のことをからかってきますけど…そんな、あの明るい人の姿が嘘だったなんて思いたくなくて…そんなずっと辛い状況だったのに、笑って僕達と話していたなんて知らなくて…それが僕は、自分自身が許せなくて…っ」

 

紅牙に訴えかけるようなユウマの眼からは大粒の涙が流れていた。

 

「聞いていた限り、誰にも教えていないのだから仕方のないことだろう?」

 

ユウマの涙を見ても紅牙はそう言い切るが…

 

「でも…それでも…! 僕はデヒューラさんの味方でいてあげたいんです…! あんな悲しい話を聞いた後だから、余計にそう思えてならないんです…!」

 

「(感受性の強い奴だ…)」

 

ゴシゴシと涙を拭うユウマを見て紅牙はそう感じていた。

 

「なら、もう何も言わないから好きにしろ…」

 

そう言って先を歩いていく。

 

「っ、はい…!」

 

目を赤くさせながらも紅牙の後についていく。

 

 

 

そして、2人は『スイミラン』の表札のある一室の前に立つ。

 

「電子錠相手に解除魔法が効くかわからんが…やるだけやってみるか」

 

そう言って紅牙は扉の前に右手をかざすと、魔力を集中させて解除魔法を発動させる。

 

「…………ちっ…」

 

流石に電子錠を外すことは出来なかったのか、舌打ちする紅牙…。

 

「流石に中の魔力の質も高まってきている。時間も惜しいか…」

 

「ど、どうするんですか?」

 

紅牙の様子を後ろから見ていたユウマが尋ねると…

 

「こうする」

 

右足を上げてそこに妖力と気を集中させて…

 

「ふんっ!!」

 

ガラガッシャァンッ!!!

 

思いっきり扉を蹴破った。

元々、紅牙はこういう短気なところがあったりする。

というか、ここまで色々と騒ぎにならないように頑張ってきたのに最後は力技か…?

 

「わわわ…!?」

 

流石のユウマも驚き、あわあわと慌てだす。

今の音で隣に住んでいる住民も何事かと出てきそうではあるが…。

 

「行くぞ」

 

そんなことはお構いなしとばかりに紅牙がスイミラン一家が借りている一室へとズカズカと入っていく。

 

「ま、待ってください!?」

 

ここにいても色々と誤解されそうなので、急いで紅牙の後を追っていく。

 

「この部屋か」

 

先に土足で踏み込んでいた紅牙はある部屋の前に立っていた。

 

「な、なんなの!?」

 

部屋の中からはその主であるだろう少女の声が聞こえてきた。

 

「デヒューラさん…!」

 

その声を聞いてユウマが声を上げると…

 

「え、その声って…ユウマちゃん?!」

 

中から動揺したような声が聞こえてくる。

 

「今開けますから…!」

 

「ちょ、待っ…!!?」

 

デヒューラの許可なしに部屋のドアを開けると…

 

「これは…!?」

 

その部屋の床には黒と蒼の混ざったような未知の魔法陣が展開されており、その中心にデヒューラが立っていた。

 

「(紅神の言っていた魔法陣…絶魔勢のものか!)」

 

その魔法陣を見て即座に忍の言っていた絶魔が使う魔法陣だと理解した紅牙だった。

 

「デヒューラさん! 行かないでください!」

 

既に臨界点に達していた魔法陣が輝きを増していく中、ユウマが魔法陣の中へと飛び込む。

 

「待て、天崎!?」

 

それを止める間もなく…

 

キィィンッ!!!

バッ!!

 

魔法陣の転移が発動し、その場からデヒューラとユウマの姿を消していた。

 

「くっ…しまった!」

 

ユウマを止めることが出来なかったことを後悔する紅牙は…

 

ウゥゥゥン!!!

 

「ちっ…あいつらにどう顔向けすればいいんだ…!」

 

警察機構の車がやってくる音を聞きながらその場から転移して雪白探偵事務所の庭へと消えていく。

 

「(天崎…無事でいろよ…!)」

 

………

……

 

~???~

 

デヒューラ、とユウマが転移した先は…

 

「ここが、新しい世界…?」

 

「ここは…?」

 

多次元空間に隠れている変貌したフロンティア内部の遺跡だった。

 

「おや、招かれざるお客様がいるようですね。デヒューラ・スイミランさん」

 

そこに現れたのは…上に蒼いワイシャツを着て、下に黒いスラックスを穿き、黒の革靴を履いて、その上から白衣を羽織った姿という出で立ちのノヴァであった。

そう言いながらノヴァはその濁り切った瞳をユウマへと向ける。

 

「っ!?」

 

その瞳で見られ、ユウマは背中がゾッとするような感覚に見舞われる。

 

「この子は違うの! 勝手に付いてきただけで…!」

 

デヒューラがノヴァに言い訳をするが…

 

「問題ありません。不慮の事故とは言え、お客様はここの存在を知ってしまいした。なら、"処分する"までです」

 

つとめて平静に人の命などどうでもいいような感じに言い放つ。

 

「なっ!?」

 

ノヴァの一言にデヒューラは言葉を失う。

 

「ユウマちゃん、逃げて…!!」

 

「ッ!?!?」

 

デヒューラの叫び声で我に返ったユウマは一目散にその場から逃げだす。

 

「ふむ、困りますね。デヒューラ・スイミランさん」

 

そう言いながらも全く困った様子には見えないノヴァは白銀のチェーンブレスレットを取り出すと…

 

「カプリコーン。お客様を排除してきなさい」

 

それを起動させ、白銀の山羊ことカプリコーンを出現させて命令を下す。

 

『了解よ、マスター』

 

それを聞き入れたカプリコーンはその場の床を蹴ってユウマを追い掛け始める。

 

「な、なによ…今のは…?」

 

他の次元世界でも使われているデバイスの実物を見たことのないデヒューラが自律稼働することが可能なエクセンシェダーデバイスを見て驚くのも当然である。

 

「あなたも手にする"デバイス"という代物ですよ」

 

「あなた、"も"…?」

 

ノヴァの言葉に疑問を抱くデヒューラ。

 

「ふふふ…」

 

微笑んでる様にしか見えない彼の表情は、邪悪でしかなかった。

 

 

 

一方のユウマはというと…

 

「はぁ…はぁ…んっ…はぁ…はぁ…!!」

 

カプリコーンの追撃から必死に逃げ回っていた。

 

『ちっ…ウロチョロと小賢しい…』

 

カプリコーンは山羊形態から人型悪魔形態『バフォメットフォーム』となってユウマを追い掛けていた。

 

「な、なんなの…あれは…?!」

 

追ってくる白銀の山羊の頭を持つ人型悪魔を少しだけ振り向き様に見てしまったユウマは独りごちるように呟く。

 

『アレは…私と同じエクセンシェダーデバイス。山羊座を司る生物型の一機です』

 

「アレが…!?」

 

ポケットにしまっていたヴァルゴからの説明でさらに驚く。

 

『やっぱり、ヴァルゴ。アンタがいたのね』

 

『やはり、気付いていましたか』

 

曲がり角を曲がりながらカプリコーンが確認するように音声を出し、それに答えるようにヴァルゴも音声を出していた。

 

『お互い…長い付き合いだからね』

 

『そうですね』

 

その間にもユウマは次の曲がり角を曲がっていく。

もはや元の場所に戻るのは不可能なくらいで逃げ回っていた。

 

「(もう、ここが何処かもわからないけど…もし捕まったら…)」

 

『処分する』という言葉の意味…普通に考えれば、口封じのために殺されるということだろう。

 

「(そんなの…絶対に嫌だ…!)」

 

デヒューラを連れ戻さないといけないし、家族に心配をかける訳にもいかないし、まだまだやりたいことや将来のことも考えないとならない年頃のユウマはそう頭で考えてはいるのだが…

 

「はぁ…っ…は、はぁ…!!」

 

もう何分も逃げ回っており、デヒューラの家に行くまでにも大量の体力を消費したこともあってか疲労がピークに達していた。

 

「(も、もう…げ、限界…!)」

 

フラフラと走っていると…

 

『いい加減、鬼ごっこも飽きてきたし…これで消えちゃいな!』

 

道が直線的になったと見るや、カプリコーンは右手側に位置するリデュースユニットの前部中央から大型砲門を出現させてユウマに狙いをつける。

 

キュイィィィ…!!

 

『ファイア!』

 

ゴォォ!!

 

リデュースユニットから発射された魔力砲撃がユウマへ目掛けて飛来する。

 

『マスター!』

 

ヴァルゴの悲鳴も叶わず、ユウマに直撃しようとした時…

 

「あっ!?」

 

足がもつれてその場で転んでしまう。

 

チュドォォンッ!!

 

そのおかげか、砲撃は目標を失って前方の壁へと直撃して爆発する。

 

『あ、ヤバ…(確か、この辺って…)』

 

カプリコーンのそんな呟きをよそに…

 

「(い、今の内に…)」

 

土煙が舞って視界が悪くなる中、ユウマは這ってカプリコーンの開けた壁の穴へと入り込む。

 

「(ここ、は…?)」

 

そこもまた遺跡の施設だろうが、ユウマには何の施設かわからないでいた。

 

「(と、とにかく…隠れなきゃ…)」

 

疲れた体を引きずりながら何処かに隠れようとするユウマの前に…

 

「ひっ…!?」

 

何処からか落ちてきたのだろう、身長約26cmの小さな女の子が恐怖に満ちた表情で怯えていた。

 

「え…?」

 

その女の子の存在にユウマもキョトンとした表情になる。

 

「どうして、こんなところに…女の子が……? というか、あれ? 疲れてるのかな…小さく見えるけど…」

 

そう言って手を伸ばすと…

 

「ぃ、いや…怖いこと、もう…しない、で…」

 

ユウマの伸ばした手の指を弱々しく押し返す女の子。

 

「え…???」

 

女の子との距離は遠近法だとばかり思っていたユウマはさらに混乱していた。

それよりも…

 

「怖い、こと…?」

 

女の子が発した言葉の意味を考え、ユウマは女の子を観察する。

 

「ひっく…えぐっ…」

 

女の子の外見は足先まで伸びた銀髪、金色の瞳、可愛らしい顔立ちの華奢なスレンダー体型だった。

しかし、よく見ると女の子の身に纏っているのはまるで入院してる患者に着せるような薄着だけであり、そこから見える肢体は青白く痩せ細っていてあまり生気が感じられない。

さらに所々に傷がそのままにされているのか、青い痣も見え隠れしていた。

 

『この子は…もしかして、ユニゾンデバイス?』

 

「ユニゾン、デバイス…?」

 

ヴァルゴの言葉にユウマはまた疑問が増える。

 

『今は時間がありませんので、説明は後で致します。今はその子を連れて逃げるべきかと…』

 

「そう、だね…」

 

ヴァルゴの言いたいこともわかたため、ユウマは頑張って立ち上がると…

 

「よい、しょ…」

 

女の子を優しくすくい上げるようにして持ち上げる。

 

「ひっ…! 怖いのは、いや……もう、いやなの…!」

 

何かと誤解してるのか、女の子はユウマの手の平の中で後退る。

 

「大丈夫。怖がらなくても僕は何もしないから…」

 

疲労困憊でいながらもユウマは笑顔を女の子に向けると、右にあった扉から外に出てまた走りだす。

 

 

 

この小さな出会いによってユウマの運命は大きく変わることになる。



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第八十七話『覚醒、白き雷』

『かみなり』ではなく、『いかずち』と読んでください。


~ストロラーベ・雪白探偵事務所~

 

ユウマが1人、変貌したフロンティア内を彷徨っている頃…

 

「バカ野郎!!」

 

「「ッ…」」

 

ここでは今、忍と紅牙が狼牙に叱られていた。

 

「よりにもよって一番気をつけなきゃならない奴を一緒に転移させちまうとは…!」

 

珍しく狼牙が怒ってるせいか、雪音と雪絵は少しビックリしている。

 

「悪い…」

 

「面目ない…」

 

忍と紅牙は狼牙の前で正座させられながら縮こまっていた。

 

「つか、お前らは…加減というもんを知らんのか!?」

 

ユウマを止められなかったこともそうだが、狼牙は忍と紅牙がやらかしたことにも怒っていた。

 

「いや、十分に加減はしたんだが…その…変に目を付けられたというか…」

 

あの後、忍はフィーナの警護役達から逃げたものの、外にもいたらしい警護役達に囲まれてしまい、大立ち回りをする羽目になったのだ。

しかも加減して撃退したらしたで、今度は警護役から勧誘を持ち掛けられてしまい、それを断るのに苦労してしまった。

結局、フィーナの一言で勧誘は無かったことになったが…。

とにかく、フィーナの機嫌を損ねたという時点で狼牙としてはフェルテッシェ家に対して気まずいことこの上なかったりする。

これが忍のやらかしたこと。

 

「時間が惜しかったので、つい…」

 

紅牙の場合は言わずもがな。

スイミラン家の玄関を蹴破ったことである。

普通の人間ではまず不可能なことをやってしまったこともあるが、その時の監視カメラの映像が不幸にも夕方のニュース速報で取り上げられてしまい、絶賛手配中だったりする。

すぐさま転移して逃げてきたので、幸いにもまだ見つかってはないが…一応、匿っている狼牙からしたら当然のお冠ものである。

 

「つい、でやらかすことじゃねぇだろうが! あと、忍もなにフィーナ嬢ちゃんの機嫌を損ねてんだよ! こっちの事情を知らないとは言え、俺からしたら心労が増えるわ!!」

 

かなり私情も挟んでいるように聞こえるが…。

 

「とにかく! テメェらはしばらく大人しくしてろ!!」

 

と狼牙は言うものの…

 

「それはいいんだが、その…すまないが、親父…明日明後日はこっちの用事に付き合ってもらいたい」

 

正座させられたままの忍が申し訳なさそうに狼牙に言う。

 

「はぁ? なんでだよ?」

 

突然の申し出に狼牙は当然の反応を示す。

 

「実は…D×Dからの要請で俺と紅牙は眷属を連れて冥界に行かないとならないんだよ」

 

「それならちょうどいい。ほとぼりが冷めるまで雲隠れしてろ。幸いにもそっちの小僧は学園とかに行ってないから問題はないだろう」

 

忍の言葉に狼牙はそう言っていた。

 

「で、なんだって俺が付き合わにゃならん?」

 

「いや、正確には親父と母さん、雪絵にも冥界に来てほしいんだ」

 

「だからなんで?」

 

再三の聞き返しに忍は…

 

「その…智鶴にも久々に会わせたいし…雪絵にもちゃんと会わせておきたくて…」

 

そう答えていた。

 

「う゛っ…」

 

それを聞いて狼牙は露骨に嫌そうな表情をする。

 

「智鶴ちゃんかぁ。そういえば、どんな風になってるか見てみたいかも」

 

「お兄ちゃんの、恋人…」

 

狼牙の反応とは裏腹に雪音は興味津々といった感じで、雪絵は複雑そうな表情をしていた。

 

「母さんもこう言ってるし…良い機会だから、会ってくれないか?」

 

怒られていた側から一変し、忍は狼牙に詰め寄っていた。

 

「お嬢に何を言われるかわからないのに、ノコノコと行くと思うか?」

 

「事情を話せば、智鶴もわかってくれる」

 

忍に言いくるめられそうになり…

 

「ゆ、雪音はどうなんだ?」

 

新たな逃げ道として妻に尋ねる。

 

「私は別にいいけど…」

 

「雪絵は!?」

 

「私も…特に予定はないので…」

 

「ぐぬぬ…」

 

妻と娘に見放され、いよいよ狼牙も焦り始めた。

 

「親父よ、腹を括れ」

 

その一言に…

 

「…………くっ…わ、わかったよ…」

 

遂に狼牙も折れた。

 

「あと、泊まりになるからちゃんと準備しておいてくれよ」

 

それを確かめてから忍がそう言うと…

 

「わぁい♪ 初めての一家揃っての家族旅行だね♪」

 

「別に遊びに行くわけじゃないんだが…」

 

雪音の言葉に忍は苦笑しつつも…

 

「(ユウマ。絶対に見つけてやるからな…!)」

 

行方の知れないユウマを見つけるべく、忍も忍なりに冥界で情報を集める気のようだ。

 

………

……

 

~変異フロンティア内部の遺跡~

 

一方、ユウマはというと…

 

「はぁ…はぁ…ふぅ…」

 

カプリコーンから逃げること早数時間。

あれからなんとかカプリコーンの眼が届かないところまで逃げてきたはいいものの…

 

「なんだか…不気味だな…」

 

遺跡の内部が様変わりしてきていた。

ユウマがいる場所は通路なのだが、通路のあちこちにまるで生きているような脈動を打つ木の根のような物体が不規則に張り巡らされているのだ。

 

「ヴァルゴ、どう?」

 

『今のところカプリコーンの反応は見られません。しかし、彼女の性格を考えるとまだ私達を探している可能性が高いかと…』

 

だいぶ遠くまで逃げてきたが、カプリコーンのことを知るヴァルゴはそう告げる。

 

「そう…なんだ」

 

ヴァルゴの言葉からカプリコーンがまだ諦めてないと知り、ユウマは少し憂鬱となる。

 

『反応があればすぐに知らせますので、ご安心を。それよりも…』

 

「?」

 

『そろそろユニゾンデバイスの説明をさせていただきたいのですが…よろしいですか?』

 

ヴァルゴが小さな女の子…つまりはユニゾンデバイスについての説明をするらしい。

 

「ぁ…そうだね。この子がその、ユニゾンデバイス…なの?」

 

『はい。おそらくですが…』

 

「っ…」

 

自分の事が話題に挙がったためか、女の子はユウマの手の平の中でビクビクと震えていた。

 

「大丈夫だよ。僕は何もしないから…」

 

そんな女の子を怖がらせないようにユウマはそう言ってみるが…

 

「ほん、とう…? こわい、こと…しな、い…?」

 

女の子は今にも泣きそうな顔でそう尋ねる。

 

「うん。何も怖くないからね」

 

そう言いながら人差し指を使って女の子の頭を優しく撫でる。

 

「っ!?」

 

撫でられたことに対して女の子は最初こそビックリして怖がっていたが…

 

「…………」

 

何度も撫でられる内にそれが女の子の言う"怖いこと"ではないと徐々にわかっていき、少しずつだが安堵したような表情になっていく。

 

「(頭を撫でただけなのに…こんな表情になるなんて…いったい、この子に何が…)」

 

女の子の心配をするユウマに…

 

『マスター』

 

ヴァルゴからの声が聞こえる。

 

「あ、ごめん…」

 

『いえ、その子が落ち着いた方が話もしやすいでしょうし…』

 

ヴァルゴがそう言ってからしばらくして…

 

「それでユニゾンデバイスって? 前に忍さん達から聞いたヴァルゴ達みたいな…えっと、エクセンシェダーデバイスだっけ? それとはまた違うの?」

 

女の子を撫でつつ通路を進みながらユウマはヴァルゴに尋ねる。

 

『はい。私達エクセンシェダーデバイスは黄道12星座と呼ばれる地球の天体をモデルに作られております。ですが、ユニゾンデバイスは一つの生命体としても創造されております』

 

「一つの生命体としても…?」

 

『はい。"デバイス"という魔導師が魔法使用の補助に用いる機械の一面と、生命体としての一個体という人格や性格などを兼ね備えた存在だと言えます』

 

「う、うん…?」

 

ヴァルゴの噛み砕いた説明にユウマは首を傾げる。

 

『マスターはあまりデバイスが普及した世界で生活してきませんでしたので、理解に苦しむのもわかります。ですが、後学のためにも知識を有していただけると幸いかと…』

 

「が、頑張ってみるよ」

 

そう意気込んでみるが、少々頼りない。

 

『とは言え、私もユニゾンデバイスの実物…と言っていいのかわかりかねますが……とにかく、彼女のような存在を見るのは初めてなのです』

 

「そうなの…?」

 

『はい。ですが、見たところマイスターもロードもいないような…』

 

「ま、マイスター? ロード?」

 

またわからない単語が出てきて困惑するユウマ。

 

『失礼しました。"マイスター"とは、ユニゾンデバイスの創造主。つまりはこの世に生んだ人物を指します。それに対して"ロード"とは、ユニゾンデバイスの所有者のことを指します』

 

その様子を見てヴァルゴはすぐさま補足する。

 

「じゃあ、この子は誰かの…?」

 

ユウマが女の子を見ると…

 

「マイスター…ロード…」

 

その単語に女の子が反応する。

 

「何か言いたいのかな?」

 

その反応を見てユウマが話し掛けると…

 

「もう…いない、の…」

 

「え…?」

 

「マイスターも…ロードも…いない、の…」

 

ユウマの聞き返しに女の子はそう呟く。

 

「そ、そうなんだ…(なんだか、悪いこと聞いちゃったかな…?)」

 

バツが悪そうなユウマだったが、ふとあることに気付き…

 

「そういえば、君のお名前は…?」

 

最初に聞くべきだったことを尋ねていた。

 

「な、まえ…?」

 

「そう。君のお名前、聞かせてくれるかな?」

 

「なまえ…」

 

そこでユウマはまた別の事に気付く。

 

「ぁ、その前に僕が名乗らないとね。僕は天崎 ユウマって言うんだ。それとさっきから僕と話しているのは…」

 

『ハートネス・ヴァルゴと申します。ヴァルゴとお呼びくださいませ』

 

「ゆうま…ばるご…」

 

ユウマとヴァルゴの名前を聞いて女の子はそれを繰り返す。

 

「うん、そう。それで君は…?」

 

「わたしは…」

 

女の子から出てきた答えは…

 

「『Y-77』」

 

名前とはかけ離れた、まるで型番のような感じの名称だった。

 

「え…?」

 

「みんな…わたし、そう、よんでた…ひけんたい、Y-77、って…」

 

「…………」

 

その言葉を聞いてユウマは足が止まってしまった。

それと同時にユウマの中でふつふつと何かがこみ上げてくる思いがあった。

 

『……ユニゾンデバイスは私達のような特殊なデバイス群を除けば普及していない稀少な存在です。もし、オリジナルのユニゾンデバイス…仮にレプリカだとしても、その稀少性から研究対象にされる場合が多いかと…』

 

ヴァルゴの悲痛な言葉がユウマの耳に入る。

 

「そんな…!」

 

"じゃあ、この子も…"と言いかけて、ユウマはその口を閉ざす。

 

気付いてしまったのだ。

この子の言う"怖いこと"が指す行為と、他の人物から言われてきた被験体という言葉から…。

 

「…………」

 

そして、それと同時にデヒューラや他の失踪者達にもそんな非道なことが行われていると考えてしまい、ユウマの顔が青褪める。

 

「…………ッ!」

 

すると、ユウマはその場を回れ右して元来た道を戻り始める。

 

『マスター!?』

 

その行動にヴァルゴも驚く。

 

「戻らなきゃ…デヒューラさんが…危ない…!」

 

そう呟くユウマの瞳には…明らかな怒りの感情が宿っていた。

 

『いけません! いくら私の所有者だとしても、戦闘が苦手な私ではカプリコーン相手に…単独での撃破など無理です! ましてや生身での実戦経験のないマスターでは殺されに行くようなものです!』

 

ヴァルゴは正論でユウマを引き留めようとするが…

 

「それでも…! 僕はデヒューラさんを助けに行きたいんです…!」

 

ユウマはいつになく感情的になっていた。

 

「デヒューラさんだけじゃない。もし、本当にそんなことが他の失踪した人達の身にも起きてるなら…僕は、それを放っておいてなんか出来ないんです…!」

 

『マスター…!』

 

ヴァルゴの言葉は聞き届けられることはなかった。

 

「ごめんね。また怖いところに戻るかもしれないけど…絶対に君のことも守るから…!」

 

ユウマは手の平の中の女の子にそんなことを言っていた。

 

「……まも、る?」

 

女の子はきょとんとした表情でユウマを見上げる。

 

「うん。絶対に…もう二度と、怖い思いはさせないから…」

 

そう言うユウマの表情はさっきの青褪めたものと違い、覚悟を決めた男の顔をしていた。

 

 

 

とは言え…

 

「流石に丸腰じゃ…」

 

覚悟も決まって行動に移ろうにも、まずは武器になりそうなモノを探すところから始まっていた。

 

『私を纏えば最低限の防御にはなりますが…申し訳ありません。武器の類は一切無いのです』

 

ヴァルゴは他のエクセンシェダーデバイスと異なり、支援特化型とも言える代物なので所有者の魔法センスや戦闘技能に依存する欠点があるのだ。

 

「何かないかな…?」

 

そうは言うものの、未だに長い通路を歩いてる状況なので武器らしいモノは見つかっていない。

というか、来た道を戻ってるだけなのであるなら最初から気付いてるはずである。

まぁ、周囲を見る余裕があったとは言い難いが…。

 

それからしばらく歩くこと数十分近く…周囲の風景がさっきの通路よりも最初の石造り風なものになってきた辺りだろうか。

 

「ここは…?」

 

通路の途中で扉を見つけていた。

 

『動体反応なし。しかし、魔力とは別のエネルギーを検知。入るのは危険かと…』

 

「でも、通路に武器なんか都合よく落ちてないし…こういうところも探さないと…」

 

ヴァルゴの助言も耳にしつつ注意しながら扉の中へと入る。

 

そこは…

 

ガポッ…

ドクンッ…

 

『……………』

 

大量のカプセルが並び、その一つ一つの中には培養中であろう量産型龍騎士兵の姿があった。

覚醒前なのだろうか、眼は白目を剥いているので余計に気味が悪い。

 

「「ひっ…!?」」

 

その姿を見てユウマと女の子は同時に短い悲鳴を上げる。

 

『これは一体…?』

 

ストロラーベにいたユウマ達では量産型龍騎士兵を知らないので無理もないが…。

 

「と、とにかく…奥に進んみます…」

 

そう言うとユウマは勇気を振り絞ってカプセルの横を通り過ぎていく。

 

「ゆうま…こわい…」

 

「だ、大丈夫…動いてないから…多分、大丈夫…」

 

女の子が手の中で震えている中、ユウマも震えながら答える。

 

「行き止まり…かな?」

 

結局、広い空間を歩いて行き着いたのは行き止まりらしい壁だった。

 

『真っ直ぐ来ましたから…横も確認した方がいいのでは?』

 

「そ、そうだね」

 

少なくとも量産型龍騎士兵の眼を見ることはないので、ヴァルゴの進言通りに横…ユウマから見て右に行ってみることにした。

 

しばらく歩いていると…

 

「あ…」

 

隣の部屋か、はたまた別の通路に続くだろう扉があった。

 

「今度は何が…」

 

戦々恐々としながら扉を潜ると、そこには…

 

「ここは…?」

 

さっきの量産型龍騎士兵培養プラントとは異なって一、二回りくらい小さな部屋であり、中央には実験台のようなテーブルのようなモノが複数並んで鎮座しており、その上には何やら機械的…というよりも何かの武具やら装飾品といった類のモノが置いてあるが、どれも作ってる最中なのか未完成の品が多い印象を受ける。

 

「ここなら何かありそうだね」

 

パッと見の判断だが、ユウマは少し安心したような感じで手前にあるテーブルの上のモノを確認する。

 

「これは…短剣…?」

 

そこにあったのは紛れもない短剣だった。

しかし、その鍔には禍々しい蒼と黒の混ざったような色の宝玉が備わっており、不気味な感じを醸し出していた。

だが、武器を探していたユウマは無いよりマシという判断で手を伸ばそうとする。

 

『お待ちください、マスター。その武器からは先程検知した未知のエネルギーが微量ながら発生しております』

 

が、それにヴァルゴが待ったを掛けた。

 

「え?」

 

それを聞いてユウマは反射的にスッと手を引く。

 

『無闇に選ぶのは危険かと…どんなデメリットがあるかわかりませんので…』

 

「そ、それも、そっか…」

 

今度はヴァルゴの忠言に耳を傾けたユウマは他のテーブルも見て回る。

 

他のテーブルにあったのは刀剣類、長物、弓、銃器、盾や鎧といった防具、アクセサリーなど人が装備出来そうなモノばかりだったが、全て最初の短剣と同様に青と黒の混ざったような色の宝玉がどこかしらに備わっていた。

 

「一体、これってなんなんだろう?」

 

一通り見て回った後、一番気になったハンドガンタイプのモノのテーブルで立ち止まりながらユウマは独り言を呟く。

 

すると…

 

「困りますね。ネズミ風情がここまで迷い込んでいるとは…」

 

ヴァルゴ以外に返ってくるはずのない答えが返ってくる。

 

「っ!?」

 

驚いて声のした方を向くユウマの視線の先に…

 

「とは言え、何も知らないまま死ぬのも可哀想ですし…慈悲としていくつかお教えして差し上げましょうか」

 

ユウマが入ってきた扉とは違う扉の前にノヴァの姿があった。

 

「あ、あなたは…!?」

 

「私の名はノヴァ。ノヴァ・エルデナイデ。短い間ですが、お見知りおきを…ヴァルゴの選定者」

 

『マスターの手を煩わせるなんて…申し訳ありません…』

 

自らの名を名乗ったノヴァの傍らには山羊の姿に戻ったカプリコーンが控えていた。

 

「しかし、驚きました。まさか、迷い込んだネズミがヴァルゴの選定者だったとは…」

 

合流したカプリコーンから聞いたのか、ノヴァは少しだけ興味深そうにユウマを見る。

 

「しかし、不思議ですね。何故あなたのような非力な存在が私の仕組んだ転移魔法陣に気付けたのですか? 参考までにお聞かせ願いたいですね」

 

ユウマがデヒューラと共に転移してきたことは、つまりユウマがその存在に気づき、その場に居合わせたからという結論に至っていたノヴァはその当人であるユウマに尋ねる。

 

「………パンドラで…ゲームの中でデヒューラさんを見かけて…それを追い掛けた先で変な会話を聞いたので…それを陰で聞いてたら、もしかしてと思って…だから、デヒューラさんの家に行って…」

 

馬鹿正直にも答えてしまうユウマ。

 

「ふむ。あの会話を聞かれていましたか。やれやれ…五感を投影出来るゲームとは言え、気配を察知出来ないのは不便なものです。これが広がれば無闇に材料を調達することも難しくなりますが…まぁ、些細なことでしょう」

 

そう独り言ちるように呟くノヴァの言動から…

 

「あ、あなたが仕組んだことなんですか!? しかも材料って…!?」

 

デヒューラ達を失踪に導いたのがノヴァなんだとユウマは判断する。

 

「我々、絶魔にとって人間とそれに準ずる人型生物などは実験材料、もしくは下等生物にしか過ぎませんので…」

 

「なっ…!?」

 

ノヴァの物言いにユウマも開いた口が塞がらなかった。

 

「しかしながら人間とは実に面白い。人間やそれに準ずる人型生物には感情というものがあります。その中でも絶魔は『絶望』という概念を好んでいます。それは何故か? 絶望した時に生まれる負のエネルギーが絶魔にとってはとても心地よいからですよ」

 

そう語るノヴァの瞳に宿るモノは狂気以外の何物でもなかった。

 

「あ、あなただって…人間じゃないですか…!!」

 

当然、ユウマはそんなノヴァに対して反発するが…

 

「姿形こそ人間に近しいですがね。ですが、これが一番動きやすく、人間達に対して絶望を与えやすいのですよ。同じ"人"という形をした者から与えられる絶望は人の希望を砕くのに適しているので…」

 

まるで他人事のようにノヴァは自身のことをそう評する。

 

「な、なにを言って…?」

 

そんなノヴァの言葉の意味がユウマにはわからなかった。

 

「ふふふ…あなたには少し難しかったですかね? それにしても、研究中のY-77も連れ出してしまうとは本当に困ったものです」

 

そう言いながらノヴァはユウマの手にいる女の子に目を向ける。

 

「ひっ…」

 

「この子に…何をしたんですか?」

 

怖がる女の子を庇いながらユウマが尋ねる。

 

「簡潔に言えば…"調査"、ですかね? 古代ベルカの遺跡で眠っていたのを我々の下部組織が見つけましてね。その性能を調べるために体を少し、ね」

 

嗤いながら答えるノヴァを見てユウマは…

 

「っ…!!」

 

人間を実験材料と称するノヴァが人道的なことをするはずもないと感じ、ノヴァのことを無意識に睨んでいた。

 

「調べている内にオリジナルの融合騎であることは確かだと分かったまではいいのですが、実装されているシステムは未だ解明出来ていないので、返していただけないでしょうか?」

 

まるで女の子を物のように扱うノヴァに対して…

 

「嫌です!」

 

ユウマは即答していた。

 

「そうですか。では、あなたが屍となってからヴァルゴ共々ゆっくりと回収しましょう」

 

余裕の様子を見せるノヴァはさらに言葉を続ける。

 

「そうそう。この場にある道具についてもお教えしましょう。これは『神器(セイクリッド・ギア)』と呼ばれる代物を人工的に作ったものです」

 

「セイクリッド…ギア…?」

 

聞き覚えのない単語に首を傾げる。

 

「あなたの世界には存在しない技術で作られた神秘のアイテムです。本来は地球に存在した聖書に記されし神が創造した物ですが…それを人工的に作ることは既に実証されています。私は堕天使側から流出した神器の情報を基に我が絶魔の技術の一端で復活させた龍騎士の力を、この人工神器に宿らせることに成功しました。あなたの目の前にあるモノが試作品であり、"彼ら"に渡す力なのですよ」

 

ノヴァの説明の大半は理解できなかったが、聞き逃すことの出来ない単語もあった。

 

「"彼ら"…?」

 

ノヴァの指す"彼ら"…。

それは…

 

「あなたの世界の失踪者の皆さんに、ですよ」

 

「っ!?」

 

それを聞いてユウマは驚く。

 

「龍騎士の力の宿った人工神器なら普通の人間でも生身の戦闘を可能にさせます。かのネットゲームさながらの戦いを現実のものとして体感出来るのです。まぁ、架空の電脳世界と現実世界の違いとして、命の保証はしませんがね。そんな些細なことを言う程、私も野暮ではないのですよ。そもそも…」

 

そこまで言いながらさらに続けようとするノヴァに対し…

 

「ふざけないでください!!」

 

ユウマの怒りも限界に達していた。

 

「あなたは…人を、何だと思ってるんですか!!」

 

「さっきも言いましたが…ただの下等生物、もしくは実験材料ですよ」

 

ユウマの怒りの言葉をノヴァは簡単に言い捨てる。

 

「なら、デヒューラさんにも同じことを…!」

 

「彼女ならまだ"調整段階前"なのですよ。如何せん、他の方とは少々行動原理が異なっていたようなので、あなたのこともあって非協力的でして…少し催眠魔法を使わせてもらいました。まぁ、お互いに二度と会うことはないでしょうが、ね…」

 

それを聞いてか…

 

「っ!!」

 

ドクンッ!

 

ユウマの中で何かが鼓動する。

 

「はぁ…はぁ…!!」

 

ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ!!

 

それは動悸とは異なり、まるで血の奥底から湧き上がるような…そんな感覚にユウマは見舞われていた。

 

「ほぉ…?」

 

ユウマの変化を目敏く察したノヴァはさらに興味深そうな眼でユウマを見る。

 

 

 

ユウマの中で時間がゆっくりと流れ始める。

 

「(あの人を…許しちゃいけない……でも、僕には何の力も無い。きっとあの人の言う通りに殺されるかもしれない…)」

 

心の中で考えていることが頭の中に浮かんでくる。

 

「(けど、だからと言って僕が死んだら…家族のみんなが…ファムさんやアイリさん達が…悲しむ。何よりも…)」

 

その脳裏に家族や友人といった人達の姿が次々と走馬灯のように映像として流れる中…

 

「(デヒューラさんや、この子が…)」

 

デヒューラと手の平の女の子の姿で映像が止まる。

 

「(そんなの嫌だ…! だって、あんな悲しい顔のままでいてほしくない…!)」

 

止まった映像のデヒューラと女の子の表情は…悲しそうな顔をしてるようにユウマには見えていた。

 

「(ヴァルゴだって悪用されるかもしれない…)」

 

忍達が言っていたようにポケットにしまっているヴァルゴを悪用される可能性もある。

特に、目の前のノヴァには絶対に渡したらいけないと思えてならなかった。

 

「(僕に、力があったら…!)」

 

この場を逃げ出すだけでもいい。

たったそれだけでも女の子をノヴァから守れる。

デヒューラだって、助け出すチャンスを作れる。

 

そのためだったら…

 

「(僕は…力が、欲しい…!!)」

 

ユウマは強く、願った。

 

そして…

 

『ならば、我が血に眠る力を解放しよう』

 

それは叶った…。

 

「(っ!?)」

 

ユウマの頭にダイレクトに伝わってくる声は、ユウマのモノでもあった。

 

「(あ、あなたは…?)」

 

ユウマの目の前、ノヴァとの間に陽炎のような、"もう1人のユウマ"の存在が現れる。

周囲は風景は時間が止まったかのようなモノクロとなっており、もう1人のユウマは白髪金眼の背中から3対6枚の真っ白な翼を生やしたような姿をしていた。

その姿はまるで…。

 

『我はお前であり、お前は我でもある。古き血筋より忘れられた存在…薄まっていた血の奥底より、お前の願いを受けて目覚めた。お前が欲した"力"である』

 

陽炎はそう答えていた。

 

「(ち、力…?)」

 

『そうだ。しかし、心せよ。力…つまり、我を受け入れた瞬間から、お前は闇の住人になるということを…』

 

「(闇の、住人…?)」

 

『お前の光の日常を壊したくないのなら、決してこの姿を光の住人に見られないことだ。それが叶わぬ時…お前の居場所は闇の中のみとなる…』

 

「(……………)」

 

その言葉を受け、ユウマは生唾を飲み込む。

 

『臆したか? ならば、我は姿を消すのみ…』

 

そう言って陽炎が消え去ろうとした時…

 

「(ま、待って!)」

 

『…………』

 

ユウマの言葉に陽炎は待つ。

 

「(僕には…まだ状況がよくわかってません。でも、僕にそんな力があるのなら…デヒューラさん達を助けられる力があるなら…僕は…)」

 

ユウマの答えは…

 

「(僕は…受け入れます。あなたを……たとえ、それで僕が変わったとしても、絶対にデヒューラさん達を助けたいから…!!)」

 

力を受け入れていた。

 

その答えを聞き、陽炎は優しい笑顔を見せ…

 

『安心して…君は…いや、僕は何も変わらない。ただ、肉体が普通の人とは少し違うことになるだで、僕の心は今のまま。僕は切っ掛け。血の奥底に眠っていた力を目覚めさせるための…』

 

さっきの威厳そうな口調とは裏腹に、ユウマのような口調でそう答えていた。

 

「(あなたは…?)」

 

『さっきも言ったでしょ? 僕は君で、君は僕でもある。その優しい心がある限り、きっと力を誤った方向へは使わないよ』

 

「(あなたは僕で、僕は…あなた…?)」

 

『そう。そして、忘れないで…優しい心を。僕の力の根源…それは僕の優しさなんだから』

 

そう言うと陽炎はユウマの元へと移動し、その存在を重ね合わせる。

 

 

 

次の瞬間…

 

カッ!!

 

ユウマから溢れ出る"白き魔力光"が部屋内を満たしていく。

 

「これは…魔力、ですか。ふむ…潜在的な魔力持ちでしたか」

 

そんな中、ノヴァは冷静にユウマから溢れる魔力について考察を立てていた。

 

『マスターから魔力が…!?』

 

対してヴァルゴは選定者から魔力が溢れていることに驚いていた。

いや、正確には"それほどの魔力量があったこと"に対する驚きであった。

忍同様、ヴァルゴもユウマに魔力がある事には気づいていた。

しかし、それは微々たるものであり、日常生活では特にあってもなくても変わらないものだとユウマには知らせていなかったのだ。

だが、現在…ヴァルゴの計測値よりも遥かに多い魔力量がユウマから放出されている。

これはどういうことなのか、ヴァルゴにも理解出来ていなかった。

 

「しかし、魔力があったところで問題ありません。それだけでは私に殺される未来は覆せない」

 

実働は六天王に任せているが、ノヴァ自身もカプリコーンを扱うだけの技量は備えている。

たとえ、ヴァルゴを纏ったところで支援特化型のエクセンシェダーデバイスを纏ったド素人に後れを取る訳がない、と…。

 

しかし…その認識はノヴァにしては甘かった。

 

何故なら…

 

バリィンッ!!

 

白き魔力光の中から現れたユウマの姿は…

 

「……………」

 

金髪に近かった茶髪は白髪へと変色し、制服を中から破って背中から3対6枚の真っ白な翼が生えていたのだから…。

 

「…!」

 

その姿にさしものノヴァも少々驚いたような目を向けていた。

 

「………」

 

ゆっくりと眼を開いたユウマの瞳は黄金色に染まっていた。

 

「まさか、冥王…!」

 

ノヴァの呟きに…

 

「冥、王…?」

 

ユウマもオウム返しのように呟く。

 

「ふふふ…ふはははは…」

 

その光景に心底可笑しそうに嗤い出すノヴァ。

 

『マスター?』

 

「ふふふ…他の次元世界で冥王の末裔がいたのは知っていましたが、まさかあの世界にもいたとは驚きです」

 

カプリコーンの訝しげな問いにノヴァはそう答える。

 

「予定変更です。あなたも我が実験材料になってもらいましょうか。冥王の血も多いに越したことはないですしね」

 

そして、ユウマを殺すのではなく捕獲することにしたらしい。

 

「お断り、します…!」

 

ユウマは女の子を左手に移してから、右手を軽く薙ぐと…

 

ピシャアアア!!!

 

白き雷撃が周囲を焼き払う。

 

「冥王への覚醒で、魔力変換資質にも目覚めましたか。しかも『電気』、ですか…」

 

蒼と黒の混ざった防御魔法陣を展開しながらノヴァはユウマの身に起こったことを分析する。

 

「今の内に…!」

 

一番近かった後ろの扉を破壊しながらユウマは逃走していく。

 

『待て!』

 

それを追おうとするカプリコーンだが…

 

「放っておきなさい」

 

ノヴァはそれを制止していた。

 

『でも!』

 

「いいのですよ。どうせ、ここからは逃げられないのですから…」

 

『くっ…了解』

 

カプリコーンはノヴァの命令に従い、追撃を止めた。

 

「ふふふ……しかし、次の合同作戦までに捕獲が間に合えばいいのですがね」

 

そう言いながらノヴァは破壊された試作品を一瞥し、興味を失ったかのようにその場を後にした。

 

 

 

ノヴァとの邂逅によって冥王へと覚醒したユウマ。

この後、彼はどのように行動するのだろうか?

 

そして、ノヴァの言う『合同作戦』とは…?



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第八十八話『再会の後は修羅場…なのか?』

来たる地球で言うところの土曜日。

 

オカ研を始めとした紅神眷属+α(紅崎姉妹)、神宮寺眷属が冥界のある地方に招かれていた。

そこは以前、グレモリー眷属とバアル眷属が試合をした空中都市アグレアスから目と鼻の先にある町『アウロス』。

冥界でも農産業を随一とするアガレス領を体現する町の一つである。

 

その南端に位置する場所にソーナ会長が目標としていた『誰でも通えるレーティングゲームの学校』、その第一号が試験的に建設されていたのだ。

その名も『アウロス学園』。

本館や体育館、運動場などは彼女達の母校である駒王学園に倣った配置の学園となっている。

 

そして、オカ研メンバーや紅神、神宮寺の両眷属は土日を利用して体験入学の手伝いをしにやって来たわけだ。

都合により、ストロラーベにいる忍や紅牙達は少し遅れてやってくることになっている。

 

 

 

結局、忍達がアウロスに来たのはお昼頃だったろうか…。

 

「ここが冥界だ」

 

旅行トランクを両手に忍が雪音や雪絵に冥界を説明する。

右側が自分ので、左側が雪絵のものである。

 

「ほわぁ~、空が紫色だね~」

 

「……………」

 

興味津々な雪音と、驚いたように空を見上げる雪絵だった。

 

「あ~、気が重い…」

 

自分と雪音の荷物を持つ狼牙は溜息を吐くばかりであった。

 

「あいつら、ちゃんとやってるだろうか…?」

 

紅牙は紅牙で早紀達のことが心配であるらしい。

……主に問題を起こしていないか、ということでだが…。

 

しばらく南端を目指して歩いていると…

 

「見えてきた。アレが目的地の学校だ」

 

アウロス学園が見えてきた。

 

「学校、ね。しかし、なんだってこんなとこに学校なんて建てたんだか…」

 

「政治的なことも絡んでるんだろ。学校を作りたいって人は現レヴィアタンの妹さんだし…」

 

「はぁ…そんなのとも知り合いなのか?」

 

「知り合いというか、俺の通ってる駒王学園の生徒会長なんだよ」

 

「あれま…そうなのか」

 

「D×Dにも参加してる戦術家だよ」

 

「へぇ~」

 

忍と狼牙がそのような話をしていると…

 

「しぃ~くぅ~~ん!」

 

前方より駆け寄ってくる人影が…。

 

「と、智鶴が来たか」

 

それに気付き、忍も少し身構える。

 

「(何故、身構える?)」

 

狼牙がそんな疑問を抱いたが、その答えはすぐにわかった。

 

「しぃ君っ!」

 

だきっ!

 

「っと…」

 

忍は勢いよく抱き着いてきた智鶴をしっかりと受け止めていた。

 

「しぃ君、しぃ君、しぃ君、しぃ君!」

 

人目も憚らず、智鶴は忍に抱き着いてスリスリと頬擦りまでし出す。

心なしか、2人の周りはピンク色の空間に見えなくもないし、智鶴からはハートマークがたくさん出てる様にも見えるが…気にしたら負けだろう。

 

「なんか…昔よりも酷くなってねぇか?」

 

「本当に智鶴ちゃんは忍君のことが大好きなんだね~」

 

「綺麗な人…」

 

その様子を後ろから見ていた狼牙は昔のことを思い出し、雪音は微笑ましく見ていて、雪絵に関しては智鶴を見てますます複雑な表情になっていく。

 

「毎度のことながら騒がしい連中だ…」

 

「あ、あはは…(ちょっと羨ましいかも…)」

 

この光景に慣れてしまったのか、紅牙もフェイトも呆れるやら苦笑するやらであった。

 

「えっと…智鶴? いくらお昼とは言え、全く子供達がいないという訳でもないんだから、そろそろ…」

 

「でもでも、もう五日間も会ってなかったんだよ? しぃ君分を補充しないと…」

 

未だ離れる気配のない智鶴の言葉に…

 

「たった五日間でそれかよ!?」

 

狼牙もたまらず声を上げて驚く。

 

「あら…? この声って…」

 

一旦、忍への頬擦りを止めた智鶴は後ろに控えていた狼牙達を見つけた。

 

「おじさまに、おばさま?!」

 

智鶴も小さかったが、忍よりは記憶がしっかりしていたのか狼牙と雪音の姿を見て驚く。

…………一向に忍を放す気配はないが…。

 

「お久し振りです、お嬢。随分と忍が世話になってたようで…」

 

狼牙はその場で正座すると深々と頭を下げていた。

 

「智鶴ちゃん、やっほ~♪」

 

対する雪音は嬉しそうに笑っている。

 

「し、しぃ君…?」

 

「あぁ…次元の向こう側でやっと見つけたんだ…それと、もう1人…」

 

そう言って雪絵の方を見ると…

 

「は、初めまして…ゆ、雪白 雪絵と申します。その…お兄ちゃんの、妹、です…」

 

もじもじとしながら雪絵は智鶴に挨拶すると、恥ずかしいのか雪音の背中に隠れてしまう。

 

「え…?」

 

それを聞いて智鶴もさらに驚いて忍の顔を見る。

 

「実の妹が出来てたんだよ。驚きだろ?」

 

忍も忍で苦笑しながらそう言っていた。

 

その後、忍や紅牙も講師の手伝いや冥王の王としての意見など、様々な質問に答えていくことになっていた。

ちなみに客人である狼牙と雪音、雪絵は別室で待機していた。

 

…のだが、暇だった狼牙が本来の姿である狼の姿で散歩してたのが見つかって子供達に群がられたり、職員やスタッフに迷い込んだ犬かと思われて摘み出されそうになったのを忍が止めに入ったりと忙しなかったとかどうとか…。

 

………

……

 

その夜。

 

学園敷地内にある学生寮となる予定の建物。

比率的に集まりやすい女子寮の食堂に招集させられた紅神眷属+紅崎姉妹は呼び出した本人である忍を待っていた。

 

「何の用かしら?」

 

「さぁ? 詳しくは後で話すとか聞いてるけど?」

 

暗七と朝陽がそんな会話をする中…

 

「てか、なんだってあたしと姉様まで…」

 

「…………」

 

集められた紅崎姉妹はちょっと不満そうだった。

 

「うふふ…みんなきっと驚くだろうな~」

 

「そ、そうですね」

 

事情を既に知っている智鶴とフェイトはそんなことを呟いている。

 

「なんか知ってんなら教えてくれてもいいだろうがよ」

 

「そうだそうだ~」

 

その2人の様子にクリスとラトが代表で抗議する。

 

「そういえば…冥界にもワンちゃんっているものなんですね」

 

「はぁ?」

 

ティラミスの発言に珍しくカーネリアが変な声を上げる。

 

「あ、私も見ました。結構大きな犬でしたね。どこからか、迷い込んできたんでしょうか?」

 

ラピスも目撃していたらしくそんな疑問を抱いていた。

 

「そういえば、義兄さんがあのワンコに対してやけに気を使ってたような…というか、怒ってたような…」

 

その様子を移動中に目撃したのか、夜琉も思い出したように呟く。

 

そんな会話が続いていると…

 

「はぁ…遅れてすまん…」

 

なんだか嫌に疲れた様子の忍が食堂に入ってきた。

その傍らには…

 

「あ、昼間のワンコ!」

 

大型犬?がついてきていた。

 

「大型犬じゃない、狼だ…」

 

即座に訂正する忍を見て…

 

『忍。お前、いつも訂正してんのか?』

 

大型犬…じゃなく狼がそう聞いていた。

 

「「「「喋った!?」」」」

 

狼が喋ることは忍で慣れてるはずだが、見知らぬ狼が喋るとなると話は別らしい。

ちなみに狼が学園内にうろついてるのは一応、総責任者であるソーナ会長に話を通して許可を得ているので問題はない。

 

「テメェはいいのか? 間違った認識をされたままで…!」

 

『こう長く言われ続けて生活してっとな。もう諦めたよ』

 

「誇りはないのか、誇りは…」

 

『お前もその内そうなる』

 

「そんな訳あるか」

 

忍と狼の漫才にも似た光景を前に…

 

「茶番を見せるためだけに呼び出したのなら部屋に戻りますが…?」

 

少しイラついた様子の雲雀がそう告げる。

 

「あ~、すみません。待ってください。ちゃんと説明しますから…」

 

雲雀の一言に忍が平謝りをしてから…

 

「ほら、さっさと変化しろ」

 

『ったく、たりぃな…』

 

カッ!

 

そう言うと狼の体から霊力が溢れてきて、その姿を人型へと変える。

ちなみにどういう仕組みかは知らないが、ちゃんと服は着てるので大丈夫である。

 

「これでいいんだろ? これで…」

 

そこには人型となった男性こと狼牙がその姿を見せていた。

 

「お~い、お前らもさっさと入ってこい」

 

その狼牙が廊下にいるであろう人物達を呼びつける。

 

「ほ~ら、雪絵ちゃん。大丈夫だから」

 

「う、うぅ~…」

 

廊下から雪音に背を押される形で雪絵も入ってくる。

 

「「「「「「「誰…?」」」」」」」

 

大半が声に出して狼牙達の登場に疑問を抱く。

 

そして…

 

「あ~、紹介する。長らく探してた俺の両親と、両親との再会後に存在がわかった実の妹だ」

 

簡単に狼牙達を眷属と紅崎姉妹に紹介する。

 

「「「「「「………え?」」」」」」

 

その簡潔な紹介に眷属の大半が口を半開きにしてしまう。

 

「倅が世話になってる。父親の狼牙だ」

 

「私が忍君と雪絵ちゃんのお母さんの雪音です♪」

 

「ゆ、雪絵です…」

 

智鶴と再会した時のように正座して頭を下げる狼牙、母親には見えないが朗らかで嬉しそうにする雪音、大勢の前からか緊張してる雪絵の順に名前を名乗る。

 

「え、お母さん? 兄弟姉妹じゃなくて?」

 

雪音が母親ということに驚いたラトがそんなことを尋ねる。

 

「あら、嬉しい♪ そう見える? 見える?」

 

「お、お母さんってば…」

 

そんな雪音の言動に恥ずかしそうにする雪絵の様子を見て…

 

「「「「「「(親子っていうよりも姉妹のような…)」」」」」」

 

何人かの眷属はそう思ったそうな…。

 

「雪音伯母さんのことは母さんから聞いてたけど…実際に見ると、余計に若く見えるわね…」

 

雪音の言動を見て吹雪がそう漏らす。

 

「あなたが吹雪ちゃん? 氷姫ちゃんは元気にしてる?」

 

「え、えぇ、まぁ…」

 

勢いよく詰め寄ってきた雪音に驚き、生返事する吹雪だった。

 

「雪音、ねぇ…」

 

意味深気に呟きながらカーネリアはクリスを見る。

 

「なんだよ?」

 

「別に…ただ、呼び間違われなければいいかなって思っただけよ」

 

「うるせぇよ!」

 

『"雪音" クリス』と『雪白 "雪音"』…名字と名前の違いだが、ちょっと紛らわしいかもしれない。

 

「えっと…それじゃあ、親父達に眷属を紹介してくぞ。と言っても智鶴とフェイトは知ってるか?」

 

「悪魔の眷属制度か。確か、その冥族版だって話だが…」

 

「あぁ。その認識でいい。じゃあ、まずは…」

 

そう言って忍が狼牙達に眷属を紹介しようとすると…

 

「改めまして、しぃ君の女王になっています。明幸 智鶴です。おじさま、おばさま、それに雪絵ちゃん、よろしくお願いします」

 

智鶴が改めてといった感じで3人に挨拶していた。

それに倣ってか…

 

「坊やの戦車、堕天使カーネリアよ」

 

「同じく戦車、異世界フィライト、イーサ王国第一王女、エルメス・ファル・イーサと申します」

 

「騎士、時空管理局特務隊所属の騎士でもある流星 朝陽二等空尉よ」

 

「えっと、その…な、騎士の…む、叢雲 め、萌莉、です…」

 

「僧侶を務めさせていただいてます、神宮寺 フレイシアス。気軽にシアとお呼びください」

 

「えっと、私も僧侶になってます、時空管理局執務官フェイト・T・ハラオウンです」

 

「兵士をやってるイチイバルのシンフォギア装者、雪音 クリスだ」

 

「同じく兵士、暗七よ」

 

「兵士で、ミッドチルダにあるフィクシス魔法学園でシノブのクラスメイトでもあるラト・スフィーリアだよ」

 

「……兵士…シルフィー・スフィーリア…」

 

「同じ兵士のシルフィーさんやラトさんと同じフィクシス魔法学園出身のラピス・シルフォニアです」

 

「えっと…兵士で、時空管理局の特務隊に所属することになりましたティラミス・イリス三等陸士です」

 

「兵士役、冥族の血を引く堕天使と雪女のハーフ、雪白 吹雪」

 

「最後の兵士、義兄さんの義理の妹になってます、紅 夜琉です」

 

眷属1人1人がそれぞれ名乗っていく。

 

「確か、眷属制度はチェスの駒割りを基本にしてたな。今のでちょうど15人か。なら、そっちの嬢ちゃん達は?」

 

狼牙の疑問に答える様に…

 

「冥族代表の命により、紅神 忍を監視してます。紅崎 雲雀」

 

「その補佐をしてる妹の紅崎 緋鞠よ」

 

雲雀と緋鞠も簡単な自己紹介をする。

 

「監視?」

 

"監視"という言葉に疑問を持った狼牙に…

 

「冥族との和平の際に起きたちょっとした出来事が原因でな…雲雀さんは俺を監視してるんだと…」

 

「もっとも、現在は留学という名目で私も責務を果たせてませんが…」

 

忍は簡単に説明し、雲雀も忌々しげに言葉を漏らす。

 

「ついでに言うなら、緋鞠とは多分昔一度だけ会ってるんだと思う…」

 

「は?」

 

忍の言葉に緋鞠は間の抜けた声を漏らすが…

 

「冗談。アンタなんかと会った事なんてないわよ?」

 

その直後、緋鞠はすぐさま否定する。

 

「だから多分だと言っただろ? ほら、地球で迷子になってたのを俺が助けてやったんだと思うが…」

 

「……………え…?」

 

その言葉を聞いて緋鞠の動きが止まる。

 

「う、嘘…え、じゃあ、あの時のって……」

 

緋鞠がブツブツと独り言を呟いていると…

 

「俺も牙狼との死闘の後、牙狼が見たらしい俺の記憶を思い出してみたんだが…その容姿に合致する人間は緋鞠くらいだったから…どうかと思ってたんだが、違ってたか?」

 

忍も忍で記憶が曖昧だったので、確認のために尋ねていた。

 

「(た、確かに今思うと…あの男の子って、こいつに面影があるような……で、でも…そういうことなら、あたしって…こいつのことが…)////」

 

その問いに答えず、頭で色々と考えていた緋鞠の顔がだんだんと赤くなっていく。

 

「? 緋鞠?」

 

その様子を見て忍が緋鞠の肩を揺らすと…

 

「ひゃ、ひゃい…!////」

 

驚いて声が上ずる。

 

「どうかしたのか?」

 

「な、なんでもないわよ!////」

 

「?」

 

緋鞠の様子がおかしいことはわかったが、何故急におかしくなったのかイマイチわからない忍だった。

 

この緋鞠の様子を見た紅神眷属は…

 

「それって…」

 

「もしかして…」

 

「だよね~」

 

「そんな…緋鞠ちゃんまで…」

 

「ふふふ、面白くなってきたわねぇ」

 

以前、兵藤家で行われたパジャマパーティーで暴露された緋鞠の恋バナを思い出し、確信を得ていた。

 

「……………」

 

それとは別に雲雀の表情も心なしか、あまり優れていないようにも見えた。

 

「…むぅ…」

 

それと同じく雪絵も心なしか頬を膨らませているような…

 

その様子を見て…

 

「……………知らん内に罪作りな男に育ったもんだな」

 

「でもでも、これで雪絵ちゃんも安心して忍君に預けられるよ♪」

 

外野(狼牙と雪音)もそう言っていた。

 

だが、この発言を耳ざとく聞いていた者もいた。

 

「雪絵ちゃんを預けられる…って、どういうことですか?」

 

意外にも2人の近くにいたティラミスであった。

 

「それはね…」

 

「ちょ、待っ!?!」

 

雪音がティラミスに何か吹き込もうとしてるのを察知した忍が止めようとするが…

 

「忍君に雪絵ちゃんをお嫁さんとしてもらってもらうと思って♪」

 

屈託のない笑みで雪音が答えていた。

 

「…………はい?」

 

一瞬、何を言ったのか理解できずにティラミスが聞き返すと…

 

「だから、雪絵ちゃんを忍君のお嫁さんに…」

 

雪音が再度言ったところで…

 

「「「「「「はぁ!!!?」」」」」」

 

それを耳にしていた気が強めの良識ある眷属達が口を揃えて驚き、各々の武器を構えて忍に突き付ける。

主に朝陽はセイバー、ラトは拳、ラピスが氷の刃、暗七は異形の右手、クリスはガトリング砲、(これは初耳の)フェイトはバルディッシュを…。

 

「ま、待て! 落ち着いて話そう、な?!」

 

四方八方から武器を突き付けられた忍は身の危険を感じて必死の説得を試みる。

 

「あぁ、なるほど。雪女の里の風習か」

 

唯一理解してくれたのは吹雪だけだが…。

 

「……なに、それ?」

 

シルフィーが尋ねると…

 

「里の風習でね。極寒の世界で生きられる男なんてそうそういないから、血を残すために男は一夫多妻が認められてるのよ。ただ、雪女の里で男が生まれたのは忍が初めての事例だったから…それを踏まえて雪音伯母さんの言動を考えると、"親戚や実の兄妹でも血を残せるなら添い遂げてもいい"ってことになるんだと思う。一応、私と忍も従姉妹関係なのに許嫁なんだし…」

 

吹雪の解説を聞き…

 

「きゅ~…」

 

バタンッ!

 

萌莉が気絶する。

 

『きゅ、きゅぅ~~!?』

 

「萌莉さん!?」

 

それをすぐさまファーストとティラミスが介抱する。

 

「おじさまも同じ考えなんですか?」

 

笑顔なんだが、目が笑っておらず背に蠍の残像が見えるほどの怒気を纏った智鶴が狼牙に詰め寄る。

 

「え? いや、まぁ…霊狼って種も兄さんがいなくなって俺ら家族だけだし…血を濃く残せるなら問題ねぇかな~って思いまして………だ、第一、こっちの世界(ストロラーベ)では忍と雪絵が実の兄妹ってことは秘匿してますんで…その…大丈夫かな~って」

 

詰め寄る智鶴にビビりながらも狼牙はそう答える。

 

「オメェの親類はどういう価値観してんだ!?」

 

「見損なったよ、忍君!」

 

「どうしよう、こんなのの騎士だなんて…」

 

「シノブ! どういうことなのさ!?」

 

「なんて鬼畜…いえ、畜生なんですか!」

 

「随分と良いご身分ね…?」

 

武器を突き付けたメンバーから批判を受ける忍は…

 

「お、俺だって反対したんだぞ!?」

 

そう言うが…

 

「ぐす…やっぱり、お兄ちゃんは私のこと、嫌いなんですか?」

 

それをどう捉えたのか、雪絵が泣き始める。

 

「あ、いや、別に嫌いって訳じゃなくてな? 前にも言ったが、世間様的にというやつで…」

 

忍が雪絵を宥めようとするも…

 

「女の子を泣かすな~!」

 

バキッ!!

 

「ぐはっ!?」

 

もはや誰の味方かもわからないラトが忍を殴り飛ばす。

 

「……………」

 

そんな一幕を見て…

 

「(あたし、なんでこんな奴に惹かれてんだろ?)」

 

緋鞠は嬉しさ半分、後悔半分といった微妙な表情をしていたとか…。

 

「(なんでしょう…妙に胸の内がモヤモヤしますね…)」

 

その変化は雲雀にも起きていた。

 

 

 

こうして騒がしくも楽しい(か?)時間は過ぎていき、体験入学も次の日を迎える。

 

しかし、この時は誰も予想していなかった。

あんな事態が起こるとは…。



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第八十九話『アウロス学園防衛戦』

地球で言うところの日曜日。

アウロス学園の体験入学も二日目に突入していた。

 

それぞれがそれぞれの役割を果たして色々な講義に参加していた。

 

…のだが、その現象は不意に起こった。

 

アグレアスからアウロスに渡る地域を楕円形の結界が覆ったのだ。

結界内の空は真っ白となり、外部との連絡や転移は不可能。

さらに魔法使い達が会談しているアウロスの町の集会場でも異変が起きていた。

魔法使い達が魔法の大半を封印されてしまったのだ。

 

この異変にグレモリー眷属、シトリー眷属、紅神眷属、神宮寺眷属はアウロス学園の職員室に集まり、通信が繋がったアグレアスのサイラオーグと町の集会場のロスヴァイセの祖母『ゲンドゥル』と状況の確認を行っていた。

 

結論から言えば、この結界と魔法使い達への封印は伝説の邪龍の一角『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン) アジ・ダハーカ』と、レプリカの赤龍帝の籠手を持つユーグリットの仕業であると仮定し、クリフォトが動き出したのではないかと予測を立てる。

しかし、目的に関してはいくつか候補があるだけで、決定打になる理由はなかった。

 

一つは集会場にいる魔法使い達。

彼らは666に関する研究もしていたと聞く。

666復活を目論み、次元大戦を引き起こそうとするクリフォトにとっては格好の餌とも言える。

 

一つはアグレアス。

かの空中都市は旧魔王時代の技術で造られており、アジュカの研究機関も未だその深部で解析中とのこと。

それ自体が巨大な遺産、もしくは異世界への移動手段、はたまた兵器の類があるかもしれないためである。

 

そんな憶測を職員室で立てていると、1人のスタッフが職員室にやってきた。

空に映像が現れたそうだ。

 

上空には綺麗なお花畑の中心に『しばらくお待ちください』という悪魔文字があった。

見ようによっては放送事故のようにも見えなくもない。

 

『え? もう始まってんの? ちょ、待てよ。おじさん、まだお弁当食べ終わってな……いいから出ろって? OKOK、わかったよ』

 

この軽い口調に外に出たD×Dのメンバーは不快感からか顔を顰める。

 

『やっほろ~☆ 皆元気してたぁ? 皆のリゼヴィムおじさんだよ~、キラッ☆』

 

キラッとか、おっさんがやるにしてはハッキリ言って不快感しかない。

 

「なんだ、このウゼェ野郎は?」

 

眷属達と共に外に出てきた狼牙が上空を見ながら息子に尋ねる。

 

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー…前ルシファーの息子だとよ」

 

心底めんどくさそうに忍は答える。

 

「アレがか?」

 

「アレがだ。そして、次元大戦を引き起こそうって首魁の1人だよ」

 

「ったく、面倒なとこに面倒な時に来ちまったもんだ」

 

ちなみに雪音と雪絵は父兄や子供達と一緒に体育館に避難してもらっていた。

 

『なんとな~くわかってると思うけどさ。俺達、その辺一帯を丸ごと結界で覆っちまったんだよ☆ やったのはこの方! 邪龍軍の防御担当、ラードゥンさん! 彼の持ってる守護防壁、結界の類はひっじょ~に強力で我らがキーアイテム『聖☆杯』で復活させた後も健在なんだよ? そこにユーグリット君のレプリカ赤龍帝の籠手の力を加味させたらま、あら不思議! ここの領土一帯を覆える結界を張れることが出来た訳だ! 神滅具ってやっぱすっげ~!!』

 

そう言うリゼヴィムの背後には樹木のようなドラゴンが鎮座していた。

 

『さ・ら・に! そこの町に集まってる名立たる魔法使いさん達の魔法も封じちゃったんだよ~ん! これをやってのけたのは邪龍中の邪龍、アジ・ダハーカ先生だ!! あ、心配しなくてもこっちもレプリカで強化済みなのよ~ん!! あと、ついでに言っちゃうと、そこの空間は外界と完全に時間ごと隔絶されてっから外の連中には気づかれてないよ~! 邪龍と神滅具の組み合わせってすんげ~!!』

 

さらに言葉を続けるリゼヴィムの背後に三つ首の巨大なドラゴンが現れる。

 

『何故、こんなことをするかって? そんなん決まってる。魔法使いの皆さんが邪魔になりそうだし、ここらで潰しとこうかな~って。ついでにアグレアスの技術も盗みたい! だって相続権的に考えて僕ちんにその優先権がありそうじゃな~い?』

 

相も変わらずふざけた口調で語るリゼヴィム。

 

『それと、さ! そこにいるんだろ~? 俺らに対抗するために結成された『D×D』って組織がさ! だったら、勝負といこうぜ~? 量産型邪龍の大群と伝説の邪龍様がその町と、あの空中都市に向かうぜ? それを止めてみてくれよ! 踏ん張って止めてみせてくれよ!!』

 

その矛先はD×Dへと向けられる。

 

『あっと忘れるとこだった! それと、ノヴァきゅんのとこからスペシャルなゲストの皆さんも来るって話だから、それの相手もしっかり頼むよ~?』

 

そう言ってからリゼヴィムがパチンの指を鳴らすと…

 

ボアアアッ!!!

 

町を囲うかのように無数の紫色の火柱が天高く立ち昇っていく。

 

『さぁ、ゲーム開始は三時間後だ! 皆の活躍、期待してるよ~~んっ!!!』

 

ブツッ!

 

それを最後に映像は途切れてしまった。

 

「こりゃ…マジでイカれてやがるな…」

 

そう漏らすのは初めてリゼヴィムを目にした狼牙だった。

 

 

 

こうして始まった防衛作戦。

 

体験入学に参加してくれた家族や町の住民は学園地下に造られたシェルターに避難してもらっていた。

戦いに参加するのはD×Dのメンバー、それに少しでも力になりたいという父兄の方達だ。

 

学園の防衛は基本的にD×Dのメンバーが担当し、父兄の方々は逃げ遅れた住民がいないかどうかを見て回ることになっていた。

これは父兄の方々を戦死させないための配慮でもあった。

 

そして、作戦はシンプル。

学園防衛はメンバーが八方に散らばり、それぞれのテリトリー全力で死守することにあった。

 

八方で死守するためにフォーマンセルで組むことになり、組み合わせは以下の通りになる。

 

『王』リアス+『騎士』ベンニーア+『僧侶』フェイト+『戦車』秀一郎

『騎士』木場+『女王』真羅副会長+『兵士』夜琉+『兵士』早紀

『騎士』ゼノヴィア+『戦車』由良+『兵士』吹雪+『兵士』沙羅

『女王』朱乃+『騎士』巡+『兵士』クリス+『兵士』紗奈

『A』イリナ+『僧侶』花戒+『女王』智鶴+『兵士』調

『戦車』ルガール+『僧侶』草下+『兵士』暗七+『兵士』切歌

『兵士』匙+『戦車』小猫+『騎士』朝陽+『僧侶』シア

『兵士』イッセー+『兵士』仁村+『戦車』エルメス+『冥王』緋鞠

 

学園の校庭にはソーナ会長とギャスパーが陣取り、ギャスパーが生み出した闇の獣をソーナ会長の指示で各方面に散らばせることになっており、その護衛には実戦経験のまだ浅く量産型とは言え邪龍に対して決定打に欠ける萌莉、ティラミス、ラト、シルフィー、ラピスの5人が割り振られていた。

アーシアはイッセーの使い魔である『スキーズブラズニル』こと『龍帝丸』で移動しながら回復行動を行い、その護衛はロスヴァイセが担当することになっている。

そして、単独での戦闘力が高く遊撃隊に向いているとして忍と紅牙、カーネリア、雲雀の4名が劣勢方面へと加勢しに行くことになっている。

また、この戦闘には狼牙も加わっており、主に父兄達の護衛役を買って出ている。

 

こうして着々と防衛線の構築は進められていく。

 

………

……

 

~三時間後~

 

そして、リゼヴィムが指定した時間となり、各自がそれぞれの担当する配置に着いたのを皮切りに戦闘が始まる。

 

『オオオオオオオオオッ!!!!』

 

量産型邪龍達の咆哮が周辺地域一帯に轟き、その群れが一斉にアウロス学園へと向かって飛来していく。

それを八方から死守するD×Dのメンバー達。

 

 

 

・『王』リアス+『騎士』ベンニーア+『僧侶』フェイト+『戦車』秀一郎

 

「邪魔よ!」

 

《行きますぜ!》

 

「オラオラ、邪魔だぁぁ!!」

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト!!」

 

前に出る秀一郎が量産型邪龍達を時に炎の拳打で殴り飛ばし、時に雷撃による広域殲滅魔法で屠っていく中、その横をすり抜けようとする量産型邪龍達をベンニーアが死神の鎌でその命を削っていく。

それを援護するようにフェイトの雷撃魔法とリアスの消滅魔力が2人の合間を縫うようにして飛来し、量産型邪龍達にトドメを刺していく。

 

「合わせな、死神の嬢ちゃん達!」

 

秀一郎がシュティーゲルのカートリッジを消費させ、手足に稲妻を迸らせる。

 

《はいでさ!》

 

「え…わ、私もですか!?」

 

ノリのいいベンニーアに対して死神呼ばわりされて驚くフェイトだった。

 

「当たり前だ! 他に誰がいやがる?」

 

「え、えぇ~…」

 

そんな秀一郎の言葉にフェイトはかなり困惑するが…

 

「とにかく構えろ!」

 

「は、はい!」

 

怒鳴られて慌ててバルディッシュをハーケンフォームにしてベンニーアと一緒に構える。

 

「行くぜ! エレキトリック・ハマー!!」

 

ピガガガガガッ!!

 

秀一郎の発した雷撃が、ベンニーアとフェイトの鎌へと飛来し…

 

《ビリビリしやすぜ!》

 

「でも、これなら…!」

 

その雷撃のエネルギーを纏った鎌を同時に振るい…

 

《ダブル…!!》

 

「プラズマハーケン…ッ!!」

 

ズガアァァァァ…ッ!!

 

鎌の刃に収束した雷撃エネルギーが×字のようになって特大の斬撃を生み出し、前方の量産型邪龍達を一気に屠っていく。

 

「なんて無茶苦茶な方法を…」

 

その攻撃方法にはリアスも呆れていた。

 

「まだまだ、こんなのは準備運動だぜ?」

 

まだまだ余力を残している様子の秀一郎はそう他のメンバーに言っていた。

 

「い、いやいや…流石にそれはないんじゃないかと…」

 

「そうね。流石にそれは言い過ぎでしょ」

 

フェイトとリアスのツッコミが秀一郎に突き刺さる中…

 

《び、ビリビリがぁ~》

 

雷撃に慣れてなかったらしく、ベンニーアはまだ体が痺れている様子だ。

 

「ほら見なさい。あなたの無茶な行動でベンニーアが動けなくなったじゃない!」

 

「そんなもん根性で何とかしな! ま、その分は働いてやるよ!!」

 

リアスの小言を受け流し、秀一郎は量産型邪龍の群れに特攻する。

 

「あ、待ちなさい!」

 

その秀一郎の突撃に頭を悩ませるリアス。

 

「まったく…神宮寺眷属の戦車は突撃好きね…!」

 

「あ、あはは…」

 

嘆息するリアスの横でベンニーアを介抱するフェイトも苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

・『騎士』木場+『女王』真羅副会長+『兵士』夜琉+『兵士』早紀

 

「行きます!」

 

「サポートは任せてください!」

 

「行くよ!」

 

「燃え尽きな!」

 

木場が龍殺しの力を付与した聖魔剣で量産型邪龍の群れを翻弄し、その隙を突いて夜琉の烈神拳と早紀の冥王スキルによる連続攻撃で量産型邪龍を次々と撃破していく。

木場、夜琉、早紀に攻撃してくる邪龍の攻撃は真羅副会長の神器である『追憶の鏡』が全て防いでおり、その衝撃は倍加して量産型邪龍達に跳ね返っているので、他の地域と違ってかなりの速度でその数を減らしているが、如何せんただでさえ数の多い量産型邪龍に対してはスタミナ切れが心配される。

 

「流石に数が多い…!」

 

「木場君、少しペースを落として。それじゃあ、体力が持たないですよ!」

 

「ッ…はい、真羅副会長」

 

真羅副会長の言葉に頷く木場だが、伊達にイッセーや忍と特訓していただけあってまだ息が上がっておらず、速度も健在である。

 

「速いな…なら、あたしも騎士に昇格しようかな?」

 

「そうだね。ここはスピードを合わせておこっか」

 

木場に追いつくため、夜琉と早紀は騎士へと昇格することにしていた。

 

「ついでに黒豹解禁っと」

 

さらに夜琉はネコ科系の耳と尻尾を生やしていた。

 

「これで速度は申し分ないかな?」

 

軽いステップを踏みながら夜琉は身軽さを確かめていた。

 

「それじゃあ、第二ラウンドと行きますか!」

 

ブンッ!!

 

夜琉が本来持つ俊足と騎士のスピードとが合わさることで忍の神速にも通じる程の速度で移動し…

 

「猛牙墜衝撃ッ!!」

 

そこに四つの力を備えた一撃で量産型邪龍を屠っていく。

 

「流石は忍君の義理の妹さん。烈神拳の技の冴えも抜群だ」

 

それに感化されてか、木場も神速の貴公子の名に恥じぬ速度で移動し…

 

「はぁッ!!」

 

量産型邪龍の四肢を斬り刻んでいた。

 

「速っ!?」

 

2人の常軌を逸した速度に同じく騎士に昇格した早紀は舌を巻いていた。

 

「アレほどの速度…私達では追いつけないかもしれませんね」

 

真羅副会長もまた早紀の隣でそう漏らしていた。

 

 

 

・『騎士』ゼノヴィア+『戦車』由良+『兵士』吹雪+『兵士』沙羅

 

「行くぞ!」

 

「守ってみせる!」

 

「凍て付け!」

 

「行きます…!」

 

この地域ではゼノヴィアがエクス・デュランダルで量産型邪龍に斬り掛かり、由良が人工神器で守りを固め、吹雪がゼノヴィアの討ち漏らした邪龍を狩り、沙羅は後方から援護魔法を繰り出すといった具合に役割分担がハッキリしたチームと言える。

 

「天閃+擬態+破壊!」

 

ゼノヴィアは騎士のスピードと天閃の聖剣の力で速度を増した後、擬態の聖剣の力で刀身を包む鞘を枝分かれさせて複数の量産型邪龍を破壊の聖剣とデュランダルが持つ本来のパワーで一網打尽にするという芸当を見せていた。

 

「隙が大きいわね!」

 

その隙を埋めるべく吹雪がゼノヴィアの死角に入って青白い光の槍を複数生成して襲い掛かってくる邪龍を串刺しにする。

 

「そっちは大丈夫かい?」

 

「はい。私はなんとか…ですが、数が多くて…」

 

「まぁ、確かに…」

 

主に沙羅を守っている由良が沙羅に話しかけていた。

 

「君の冥王スキルで何とかならないかい?」

 

チームを組むことに際して事前に聞いていた沙羅の冥王スキルで何とかできないかと由良は尋ねる。

 

「すみません…私の冥王スキルはこういう乱戦には不向きなんです…」

 

「ごめん。少しでも隙を作れればいいと思っただけなんだけど…」

 

申し訳なさそうにする沙羅に軽く謝りながら…

 

「隙、ですか?」

 

「うん。そうすればゼノヴィアも大きな一撃が撃てるかと思って…」

 

そう説明していた。

 

「……少しだけ、我慢してもらえるなら…何とか…してみます…」

 

「大丈夫。私が何とか守ってみせるよ」

 

少し顔を伏せがちにする沙羅に対して由良はそう答える。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……ゼノヴィアさん、吹雪さん、一旦下がってください…!」

 

意を決したように沙羅が2人を呼び戻す。

 

「? どうした?」

 

「何か問題?」

 

それぞれ邪龍を屠りながら沙羅と由良の近くまで後退する。

 

「少し揺らしますので…我慢してくださいね?」

 

「なに…?」

 

「その間にゼノヴィアはチャージを…その間は私が守るよ」

 

「小難しいことはわからんが、わかった。デカいのを撃つぞ!」

 

そう答えてゼノヴィアはエクス・デュランダルの力を高めていく。

 

「はぁ…ふぅ…行きます!」

 

そう言って沙羅が冥王スキルを発動させると共に…

 

「精霊と栄光の盾よ、皆を守ってくれ!」

 

由良が精霊の力を借りて4人を包む結界を張る。

 

「カラミティ・ショック…!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!

 

『ッ!!?』

 

空間の震動に量産型邪龍の群れが動揺していると…

 

「っ…今だ!」

 

揺れを耐えた由良が結界を解除すると…

 

「いっけぇぇぇっ!!」

 

ゼノヴィア必殺のデュランダル砲が量産型邪龍の群れに向けて放たれる。

 

 

 

・『女王』朱乃+『騎士』巡+『兵士』クリス+『兵士』紗奈

 

「雷光龍ッ!」

 

「はぁっ!」

 

「ちょせぇ!!」

 

「いっくよ~!」

 

地上ではクリスがガトリング砲と小型ミサイルで弾幕を張り、空では朱乃が雷光龍を複数生み出して量産型邪龍を近づけないでいた。

それでもそれらを掻い潜って近づいてくる量産型邪龍は巡と紗奈が迎撃していた。

 

「~♪」

 

戦闘中に歌うことでフォニックゲインを高め、シンフォギアの機能を強化・解放していく装者の戦い方。

それを間近で目の当たりにするのは初めてな巡と紗奈は…

 

「綺麗な歌声……歌詞は物騒な部分もあるけど…」

 

量産型邪龍を斬り伏せながら巡が呟く。

 

「うんうん。しかも歌って戦うとか、普通なら考えられないよね~」

 

紗奈もクリスの歌声には聞き惚れているようだが、その戦い方に関しては疑問を抱いていた。

 

「的になったりしないのかな?」

 

「あと、"イチイバル"って確か…魔弓のはずよね? なんで銃器や重火器なの?」

 

クリスが歌ってるからと言いたい放題の2人だった。

 

「お前ら、戦闘中になに話し込んでんだよ!」

 

流石のクリスも頭に来たのか、歌うのを中断して巡と紗奈に怒鳴る。

 

「まぁまぁ、今はこのアウロス学園を守ることに集中しましょう。シンフォギアというのは機密の塊らしいですから…」

 

「ちっ、わぁってるよ! すぅ……~♪」

 

朱乃に言われてクリスは歌を再開して量産型邪龍を次々と撃ち落としていく。

 

「ほらほら、私達も負けてられませんわよ?」

 

「はい!」

 

「は~い!」

 

クリスの歌に合わせて朱乃、巡、紗奈も次々と量産型邪龍をそれぞれの方法で打倒していく。

 

 

 

・『A』イリナ+『僧侶』花戒+『女王』智鶴+『兵士』調

 

「ここから先は…!」

 

「通しません!」

 

「スコルピアちゃん、お願い!」

 

「……シュルシャガナ!」

 

智鶴から借り受けたスティンガーブレードと量産型聖魔剣を手にイリナが先陣を切り、その背を次元刀を手にしながらフライヤーで量産型邪龍を牽制する智鶴が守り、後方からは小型丸鋸を射出して空の量産型邪龍を牽制する調に近付いてきた量産型邪龍を結界で守る花戒という布陣だった。

 

「……やっぱり、小さいのじゃ牽制くらいにしか役に立たない…」

 

そう言ってから調は一旦小型丸鋸の射出を止めると…

 

《γ式 卍火車》

 

ツインテール部から伸びたアーム先から大型鋸を投擲して量産型邪龍2体を足止めさせる。

 

「それ、どういう仕組みになってるの!?」

 

それを守っていた花戒から驚きの声が上がる。

 

「……シンフォギアは機密の塊だから…でも、敢えて言うならシンフォギアだから…?」

 

「なに、その理由!?」

 

花戒のツッコミをスルーして調は自分の攻撃を受け止める邪龍を見る。

 

「……やっぱり、ノイズと全然手応えが違う…」

 

ノイズ相手なら容易に倒せるシンフォギアの攻撃でも量産型とは言え邪龍相手には足止めが精一杯といったところか。

 

「はぁ!!」

 

「やぁ!!」

 

調が足止めした2体の量産型邪龍を智鶴とイリナが斬り裂く。

 

「………」

 

調も前に出ようとした時だった。

 

「エクスプロージョン・ランダムシフト」

 

チュドドドドンッ!!

 

「……っ!?」

 

量産型邪龍数体がいくつかの爆発に巻き込まれて墜落する。

 

「今のは…?!」

 

「雲雀さん…!」

 

今の爆発に巻き込まれそうになったイリナと智鶴はそれを引き起こしただろう後方にいる人物を見る。

 

「…………」

 

紅崎 雲雀。

紅蓮冥王を継ぐ者。

 

「あなた達は後方で援護に徹してなさい」

 

静かに歩きながら調と花戒にそう言いつける。

 

「……で、でも…!」

 

調が何か反論しようとしたが…

 

「無理に戦果を挙げようなどという思考は必要はありません。自分の出来る範囲で戦いなさい」

 

そう調に言い放って雲雀も参戦していた。

 

「……自分に出来る範囲…」

 

調は悔しそうにし…

 

「相変わらず厳しい人…」

 

教師としての雲雀を見てる花戒はそう漏らす。

 

 

 

・『戦車』ルガール+『僧侶』草下+『兵士』暗七+『兵士』切歌

 

「……出る…!」

 

「来ます…!」

 

「吹っ飛ばす!」

 

「行くデス!」

 

人狼と化したルガールと両腕両足を異形のモノへと変化させた暗七、イガリマを構えた切歌が前に出てそれを草下が仮面を用いて守るという少し攻撃的な布陣である。

特に防御されているのは切歌だが…。

 

ギィンッ!!

 

「想像以上に硬いデスね…!」

 

量産型邪龍相手に苦戦気味の切歌をフォローするのは…

 

「弱音吐いてないで、一発でも多くぶちかましなさい!」

 

暗七だった。

 

「は、はいデス!」

 

とは言え、アームドギアが鎌な切歌に手数を期待するのは酷というものである気がする。

 

「…………」

 

一方のルガールは魔法と体術を組み合わせた攻撃で着実に量産型邪龍を屠っていた。

 

「ちっ…それにしても空ががら空きなのが心配よね…!」

 

今はルガールと暗七の魔法で空の量産型邪龍を迎撃してるが、如何せん数が多くて突破されるのは時間の問題であった。

 

と、そこへ…

 

「なら、私が担当してあげましょうか?」

 

3対6枚の黒翼を広げたカーネリアがやってきた。

 

「カーネリア!?」

 

「うふふ…単独で動いていいなんて、坊やもやっと私のやり方をわかってきたのかしらね?」

 

ズシャァ!!

 

暗七が驚いてる間にカーネリアは空から攻めてくる量産型邪龍を屠る。

 

「ちっ…仕方ないわね。でも、暴走するんじゃないわよ!」

 

「それは聞けない相談ね。こんな壊し甲斐のある獲物…!!」

 

そう言うと妖しい光を眼に宿らせながらカーネリアは量産型邪龍の群れに突撃していく。

 

「……いいのか?」

 

今の会話を聞いていたルガールが暗七に尋ねる。

 

「最悪の場合、忍に連絡するわ」

 

「い、いいんですか? そんな紅神君に丸投げにして…」

 

「いいのよ。あいつを抑える自信なんて私にはないもの」

 

その発言に草下と切歌はギョッとする。

 

「ともかく、空はあいつに任せて、こっちはこっちで片付けるわよ!」

 

そう言い残して暗七も地上に降りてくる、もしくは"墜ちてくる"量産型邪龍を倒しに動く。

 

 

 

・『兵士』匙+『戦車』小猫+『騎士』朝陽+『僧侶』シア

 

「ここから先に通すかよ!」

 

「……行きます!」

 

「行くわよ!」

 

「援護はお任せください!」

 

朝陽と小猫が前衛を担当し、匙がラインや黒炎などヴリトラの能力を用いて前衛のサポートを行い、天狐モードになったシアが結界術で守りを固めていた。

 

「セイバー! カートリッジロード!」

 

カシュッ!

 

『いっけぇ! 朝陽ちゃん!』

 

魔光連斬(まこうれんざん)ッ!!」

 

一時的に底上げされた魔力をセイバーの刀身に纏わせ、空中を飛ぶ量産型邪龍の群れの合間を縫うようにして移動しながら擦れ違い様に斬り裂いていく。

それから一拍を置いて…

 

「邪龍だかなんだか知らないけど、所詮量産型は量産型」

 

ズガガガガガッ!!

 

そう言う朝陽の背後で斬り裂かれた部分から爆発していく量産型邪龍の群れだった。

 

「す、すっげ…」

 

「……負けてられません…!」

 

朝陽の攻撃に匙は戦慄し、小猫は対抗心を燃やす。

 

「もう、朝陽さんは…」

 

その様子を見て朝陽と組むことが比較的多いシアは困っていたが、朝陽に向かう邪龍の火炎弾をしっかり結界で守っている。

 

『シアちゃん、ありがと~』

 

そんなシアの防御結界にセイバーが朝陽の代わりにお礼を言う。

 

「余計なことを…」

 

とは言うものの、その表情は少し笑みがこぼれていた。

 

「そこの兵士! あたしにラインってやつを繋げなさい! 対象はシアと猫娘よ!」

 

「はぁ? なんだって味方に…?」

 

朝陽の言葉に困惑する匙をよそに…

 

「いいからさっさとする! 猫娘は気、シアは魔力をあたしに送り込んでちょうだい!」

 

朝陽はさらなる命令を小猫とシアに言う。

 

「……気を?」

 

「おそらく、2人分の魔力と気を一時的に取り込んで一気に決めたいんだと思います」

 

困惑する匙と小猫にシアが推測を話す。

 

「そういうことなら…!」

 

「……わかりました」

 

シアの説明で納得した匙と小猫はそれぞれ行動に移す。

匙はラインを朝陽に繋ぎ、そのラインの先をシアと小猫に繋げる。

 

「……はぁ…!」

 

「行きますよ、朝陽さん!」

 

小猫から気、シアから魔力を供給された朝陽は…

 

「はぁ…!!」

 

オーラ状に練り上げた魔力と気をその身に纏い…

 

瞬閃刃(しゅんせんじん)ッ!!」

 

その名が示す通り、"瞬"く間に"閃"光の如き"刃"で敵を討つ。

 

 

 

・『兵士』イッセー+『兵士』仁村+『戦車』エルメス+『冥王』緋鞠

 

「行くぜ!」

 

「てやぁ!」

 

「退きなさい!」

 

「燃えなさい!」

 

先制攻撃としてイッセーが『龍牙の僧侶』となって町を破壊しない程度の砲撃を量産型邪龍の群れに放った後、イッセー、仁村の両名が近付いてくる量産型邪龍を吹き飛ばしていく。

そんな2人に負けじと緋鞠もまた量産型邪龍の火炎弾を冥王スキルで吸収し、そのエネルギーを用いた強力な炎熱系魔法で量産型邪龍を焼いていく。

そんな3人を後方から援護するエルメスは風系統の回復魔法を用いてダメージを回復させていた。

 

「同じ龍種だというのに…こんな禍々しい存在がいるなんて…」

 

量産型邪龍を見てエルメスは悲しそうな表情になる。

 

「こんな時に悲しんでる場合じゃないでしょうが!」

 

既に冥王化している緋鞠がエルメスにそんなことを言ってる。

 

「ですが…」

 

「今は戦闘中なのよ! 個人の感情よりも優先することがあるでしょうが!」

 

「っ…はい」

 

緋鞠の言葉にエルメスは気を引き締めたような表情になる。

アウロス学園を守る。

それが今のD×Dに与えられた任務であり、子供達の希望を守るための戦いなのだから…。

 

「赤龍帝! ちょっとアンタの炎を貸しなさい!」

 

「何する気だ!?」

 

「いいから! 一発デカいのを撃ち込むだけよ!」

 

朝陽みたく説明不足なため、意図は伝わりづらいが…

 

「わかったよ、とにかく炎だけでいいんだな?」

 

「えぇ。炎だけならまだしも、アンタの譲渡を貰ったらそれこそ暴発しかねないし!」

 

そう言った緋鞠は左手をイッセーの方に向け、右手を量産型邪龍達の方に向ける。

 

「なら、行くぜ。火の息!」

 

イッセーは龍王直伝の炎の息吹を緋鞠に向けて放つ。

 

「ブレイズ・ギャザー!」

 

緋鞠はその炎を吸収し…

 

「(くっ…流石に龍気は質量が違うか…!?)」

 

龍気で練られた炎を吸収するのは初めてで少し顔を顰めるものの…

 

「バーニング・ブレイザーッ!!」

 

その炎を自らの紅蓮の焔へと再変換して特大の砲撃として放つ。

町への影響も考えて空に向かって使っているが…発射地点である緋鞠の周りは少し(?)プチ焼け野原と化していた。

 

「すご…!?」

 

「俺の火の息をあんな風に使うなんて…!?」

 

「!?」

 

その光景に3人は少々度肝を抜かれたようだ。

 

「さぁ、どんどん行くわよ!」

 

そう言って緋鞠がさらに前に出る。

 

 

 

こうして量産型邪龍を撃退していくD×Dのメンバー達。

しかし、未だ予断の許された状況ではない。

 

何故なら北から紫炎のヴァルブルガ、南から邪龍グレンデルとラードゥンの襲来。

そして、これから絶望の尖兵が現れるのだから…。



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第九十話『邪龍騎降臨』

アウロス学園防衛戦、開始から十数分。

北方面から紫炎のヴァルブルガ、南西方面から邪龍グレンデルとラードゥンが本格的な進軍を開始したのだ。

 

その報せを受け、北の救援に紅牙が向かい、南西の救援には隣接した地域にいて邪龍との戦闘経験のあるイッセーがそれぞれ駆けつけることとなった。

そのイッセーの空いた穴を埋めるべく忍が南地域に参戦する。

 

しかし、ここで更なる敵戦力が投入されようとしていた。

リゼヴィムが言っていたノヴァのところから派遣されるスペシャルゲストの一団である。

 

 

 

~変異フロンティア~

 

「皆さん、時は満ちました」

 

変異フロンティアの中でもドーム状になっている施設の中、その中央広場に集められた全身が隠れるようなローブを纏った集団にノヴァが語り掛ける。

 

「かの種族、"悪魔"は自らの領土である冥界の一角にある学び舎を設立させました。それはかの種族が得意とする戦い方を学ばせるための学び舎であり、いずれは前線基地となりうるであろう施設でもあります」

 

そう言ったノヴァの背にアウロス学園が映し出される。

 

「なんだよ、ありゃ?」

「学園?」

「つか、見ろよ。空が紫色とか…マジかよ?」

「異世界なんて初めて見るけど、こんな世界もあるんだな…」

「てか、あんなんで本当に前線基地になるのかよ?」

 

ザワザワとローブを纏った人物達が話し合う。

 

「ふふふ…皆さんの疑問も尤もですね。しかし、かの種族を舐めてはなりません。外見だけで騙すというのは悪魔の常套手段。問題は中身なのですよ」

 

ノヴァの言葉に合わせ、背の映像が移り変わる。

そこにはグレモリー眷属の戦闘映像がいくつもの画面となって映し出されていた。

 

「うっは、なんだあの爆乳」

「わっ、イケメンもいるじゃん!」

「つか、女子の美人率たっけぇ」

 

グレモリー眷属の外見に湧くローブの人物達を…

 

「ほらほら、皆さん。外見に惑わされてはなりませんよ。彼女達は悪魔なのですから、その攻撃方法をよく見てください」

 

ノヴァは窘めつつその攻撃方法を注視するように言う。

 

「おいおい…何も残らねぇとか…マジかよ!?」

「うっそ…速過ぎ!?」

「動きが止まってる奴もいるぞ!」

「これが現実の…魔力ってやつなのか?」

 

好奇の目から一転し、戦々恐々とした思いを抱いていく。

 

「(正確には生体魔力や神器の力なのですが…まぁ、彼らに言っても違いなんてわかりませんからね)」

 

それを見下しながら…

 

「恐れる必要はありません。あなた方には私からのプレゼントがあるのです。それをもってすればあの悪魔達に後れを取ることなどありませんよ」

 

ノヴァはつらつらと言葉を並べる。

 

「そう、あなた方は選ばれし者。他世界から侵略してくるだろう者達に対する抑止力となりうるのです。ゲームで磨いてきたその力を存分に振るってください」

 

まるでパンドラをやっていたことが現実でも役に立つみたいなことを言っていた。

 

「ははは! やってやろうぜ!」

「悪魔だろうが何だろうが俺達なら出来る!」

「そうよね!」

「どうせ、こんなの楽なゲームだしな!」

「あの前線基地ってのを制圧すりゃいいんだろ?」

「制圧戦なら得意だぜ!」

 

その様子を見ていたノヴァは…

 

「(ふふふ…本当に何も知らない無知な存在は簡単に騙されてくれる)」

 

内心でほくそ笑みながら転移用の魔法陣を起動させ始める。

 

「敵はあくまでも悪魔とそれに組する者達です。既に先行して我が同盟軍…黒きドラゴン達が奮闘してますのでそれに加勢してもらえれば問題ありませんよ」

 

決して"邪龍"とは言わず、"味方の黒きドラゴン"と言っていた。

 

「ははは、ドラゴンが味方だなんて心強いったらありゃしねぇよ!」

 

ローブの1人がそんなことを叫んでいると、転移魔法陣が起動する。

 

「ふふふ…では、皆さん。良い戦果を期待していますよ」

 

ノヴァの見送りの言葉を聞きながらローブの人物達は次々と転移していく。

そして、全員の転移を確認した後…

 

「ふふふ…せいぜい、良いデータを提供してください。モルモットの皆さん…」

 

ノヴァは邪悪な笑みを浮かべながらそう言い残してその場から消えていた。

 

ノヴァが消えたことで転移魔法陣もまた消えそうになるが…

 

バッ!!

 

その一瞬の隙を突いて人影が転移魔法陣に飛び込み…

 

「待っててください…デヒューラさん…!」

 

ローブの人物達と同じく冥界へと転移していた。

 

そうして転移魔法陣は完全に消えてしまう。

 

………

……

 

・アウロス学園周辺地域

 

「この匂いは…!」

 

南へと参戦するべくアステリアで移動していた忍の鼻が何かを感知する。

 

「ソーナ会長、絶魔勢が来る…!」

 

何度も忍を転移させてきた魔法陣の匂いを覚えていたらしく、中央のソーナ会長に報告する。

 

『わかりました。各方面にも警戒を強めるように言います。紅神君はそのまま南へ向かってください』

 

「了解!」

 

そして、そのまま移動しようとした時だった。

 

キィンッ!

 

「っ!?」

 

目の前に転移魔法陣が展開されてしまい、その中から数人のローブの人物達が現れる。

 

「ちっ…! アステリアはこのまま南へ向かってエルメス達の援護をしろ!」

 

『ラジャ』

 

ブロロロロ…!!

 

アステリアから飛び降りながらアステリアに命令を下し、目の前に現れたローブの人物達の相手をすることにしたらしい。

アステリアは人型へと変形後、迂回しながら南へと向かう。

 

「なんだあのバイク!? 変形しやがったぞ!!」

「レアものなんじゃね!?」

 

アステリアの変形に興味を抱いたのか、ローブの人物達がそっちに注目する。

 

「(やけにノリが軽いな。それにこの匂いは…人間?)」

 

その様子を見て忍は少し目の前の集団が場違いな感じを覚える。

 

そんな中…

 

「お前は…!!?」

 

ローブの1人が忍を見て驚きの声を上げる。

 

「?」

 

身に覚えのない忍としてはローブから漂う怒りの混じった匂いに困惑する。

 

「どうした? 目の前の野郎になんか因縁でもあんのか?」

 

それに別のローブが話しかける。

 

「あるさ…! 俺に屈辱を与えた奴を忘れる訳がない! 何故ここにいるかはわからんが、ちょうどいい! あの時の雪辱を晴らさせてもらう!!」

 

「あの時の雪辱…?」

 

いまいち話がわからない忍はローブの動向を見る。

 

「俺だよ、"編入生"!!!」

 

バッ!!

 

ローブを脱ぎ去ると、そこにいたのは…

 

「なっ…お前は、ブライアン!?」

 

フェイタル学園の雪絵の表側のファンクラブ筆頭でいかにもスポーツマン的な体型をした男子、ブライアンである。

しかもご丁寧なことにパンドラ内で着用していたような鎧を身に纏い、その手には盾と剣が握られていた。

その手にした剣の鍔には蒼と黒の混ざった宝玉が備わっていた。

 

「どういうことだ。なんでお前が此処に…!」

 

「それはこっちの台詞だ、編入生! お前の方こそ何故この冥界にいる!」

 

「(冥界を知ってる!? ノヴァの入れ知恵か?)」

 

ブライアンから出た単語に驚きながらも警戒を怠らない。

特にブライアンが手にしてる剣から発せられる異様な匂いを気にしながら…。

 

「(この異様な匂い…あの宝玉からか?)」

 

「答えろ、編入生!」

 

痺れを切らしたのか、ブライアンが怒声を上げる。

 

「お前こそ、なんだってそんな危険なものを持ってる? 今からでも間に合うからそれを捨てるんだ!」

 

「はぁ? お前は何を言ってるんだ?」

 

「いいから捨てろ!」

 

忍が強めに言うものの、ブライアンはそれを聞かなかった。

 

「それは聞けない相談だ。これはノヴァさんから頂いた大切な悪魔を倒すための道具。そう簡単に捨てられるか」

 

「悪魔を倒す、だと…?」

 

「そうだ。この先にある悪魔の前線基地になるだろう施設を破壊して悪魔を倒す。そうすることでストロラーベへの侵攻を阻止するんだよ!」

 

ブライアンの言葉を聞き…

 

「なっ!?(そういう筋書きか! アウロス学園をそういう設定にしてこいつらにそういう風に吹き込んだのか!)」

 

忍はノヴァが具体的に何を企んでるかまではわからないものの、行方不明者達を使って何かしらさせようというのは理解した。

 

「あそこはただの学園だ! お前らは罪もない悪魔の子供達にまで手を掛ける気か!?」

 

忍が必死の説得を試みるが…

 

「モブがいちいちうるせぇんだよ!」

「こんなゲーム、滅多に出来ねぇからな!」

「どうせ、その子供ってのも設定かなんかで実際はデータみたいなもんだろ?」

 

他のローブ達はそう話していた。

 

「バカ野郎! これは現実だ! 現実で人の生き死にが決まるんだぞ!」

 

出来るだけこの集団を傷つけることなくストロラーベに帰そうと考えた忍は説得を続ける。

 

「悪魔に人と同じ理があるかっての!」

「あんな得体の知れない力を出してる時点で人と同じな訳ねぇだろ!」

 

事前にノヴァに見せられた悪魔の戦い方を思い出したのか、ローブ達はヒートアップする。

 

「違う! お前達は騙されてるんだ!」

 

ノヴァが何を言ったかまではわからないので言葉が詰まりそうになる。

 

「もういい。編入生、これ以上邪魔立てするならお前も敵と見なすぞ!」

 

ブライアンが剣の切っ先を忍に向けて宣言する。

 

「っ…!」

 

忍は考える。

下手に魔法などを使えば、その矛先をこちらに向けてくる可能性もある。

そうなれば戦闘は不可避となってしまう。

しかし、このまま黙って放っておくわけにもいかない。

 

どうしたらいいのか、考えていると…

 

『グオオオッ!!』

 

「っ!?」

 

量産型邪龍の1体がこちらに向かってきたのだ。

 

「ちっ…!」

 

ここを通す訳にはいかない忍はすぐさま行動に移す。

それが目の前の連中に見られたとしても、だ。

 

「ブリザード・ファング!」

 

忍の十八番である凍結魔法を繰り出して量産型邪龍の動きを一時的に封じると…

 

「猛牙墜衝撃ッ!」

 

神速で一気に距離を詰めて魔・気・霊・妖の力を収束した一撃を食らわせていた。

 

『ガァアッ!!??』

 

その一撃に量産型邪龍は吹き飛ぶ。

 

「なっ!?」

「おいおい、ドラゴンを殴り飛ばしやがったぞ!?」

「今のも魔法か何かか!?」

「てことは…こいつも…!!」

 

ブライアンを始めとしたローブ達も忍の行動に驚き、ある結論に達する。

 

「編入生…貴様も悪魔の一味だったのか!!」

 

「……………」

 

言葉を尽くしたところで今の彼らには通じないと判断した忍は押し黙る。

 

「無言の肯定か。ならば容赦はせん!!」

 

忍が悪魔の一味と判断したブライアンが先陣を切り…

 

「そういうことなら加勢するぜ!」

「イケメンだけど、悪魔の一味なら倒さないとね!」

「ここでこのモブを倒して一気に城攻めといこうぜ!!」

 

ローブ達もそれぞれのローブを脱ぎ去って戦闘態勢に移行する。

その誰もが共通して青と黒の混ざった宝玉を備えた武具やアクセサリーを持っていた。

 

「くっ…!」

 

忍もダブルフューラーを抜いて応戦しようとする。

 

「フリージングバレット!」

 

とりあえず、無力化することを第一に考えた忍は氷属性の弾丸を撃って牽制する。

 

しかし…

 

「こんなもの、どうということはない!!」

 

ギギィンッ!!

 

「なにっ!?」

 

氷属性の弾丸はブライアンの構えた盾によって弾かれていた。

その結果とある事実に忍も驚く。

 

「(今、微かにだが龍気の匂いが…)」

 

弾丸が弾かれた瞬間、盾から微かに龍気を感じたらしい。

 

「(いや、そんなはずは…普通の人間に龍気を扱えるはずがない…)」

 

自身やイッセー、他のドラゴン達ならまだしも龍気は五気の中でも龍種しか持たない力…それを普通の人間が扱えるはずがないと忍も考えていた。

 

「はっはぁ! くたばれよ、化け物が!」

「当たりなさいよ!」

「ちょこまかとよく動くな!」

 

しかし、現にブライアン達は微かに龍気を放つ攻撃を繰り出してきている。

 

「(どういうことだ? これにもノヴァが関わってるのか!?)」

 

もし、そうであれば彼らの持つ武器を早々に手放せさせないとならないと考えた忍は…

 

「少し手痛い目に遭うかもしれんが、我慢してくれよ!」

 

そう先に言っていた。

 

「はぁ? 貴様、何を言って…」

 

ブンッ!!

 

ブライアン達が反応するよりも速い速度で駆け抜ける。

 

「っ!?」

「嘘!? いなくなった!?」

「いや、あのイケメンみたく速過ぎるんだ!?」

 

そうブライアン達が認識するのも束の間…

 

ババババッ!!

 

蒼と黒の混ざった宝玉の備わった装備だけを的確に落としていく。

 

「くっ!?」

「きゃあっ!?」

「ぐぁっ!?」

 

その僅かな痛みと衝撃に悲鳴が上がる。

 

「これで終わりだ。投降して大人しくストロラーベに帰るんだ」

 

最初にいた位置に戻りながら忍は警告を発していた。

 

「編入生…貴様ッ!!」

 

怒りに燃えるブライアンが痛めた手で剣を再び握ろうとする。

 

「やめろ。これ以上、俺はお前達を傷つけたくない」

 

それにこの場で時間を費やしている暇もなかった。

今も必死に戦っている仲間達のためにも、目の前の人間達を無事にストロラーベに送り帰すことも…。

 

「ふざけるな…!!」

 

ブライアンから怒りの感情と共に憎しみの感情が溢れてきた。

 

「貴様は…貴様だけは許してたまるか…! あの場には雪絵さんもいたそうだな…俺の無様な姿を見せびらかすために呼んだそうじゃないか!?」

 

「! それは違う!」

 

恐らくはノヴァが吹き込んだことだと悟った忍は即座に否定する。

 

「何が違うものか! 結局は俺の惨めな姿を曝してしまったことに変わりはない! そのせいで俺は…!!」

 

「雪絵がそんな些細なことで人を見る眼が変わると思ってるのか!?」

 

「些細なことだと!? 俺にとっては重大なことだ! ただでさえ彼女は俺達の存在を少なからず困った様子にしていたのに…!」

 

「(その自覚はあったのか…)」

 

「なのに、貴様が現れてからの彼女はどこか雰囲気が変わった…!」

 

それは確かにそうかもしれないが、この状況で語るようなことではない気がする。

 

「だからこそ、貴様は許せないんだ…! 彼女から笑顔を向けられ、俺の惨めな姿を見せた貴様だけは…!!」

 

剣を拾ったブライアンは剣を掲げ…

 

「だから俺はノヴァさんからこの力を手にした。そして、この力を最大限に使う言葉も…!!」

 

「言葉、だと…?」

 

怪訝にする忍を他所に…

 

「見るがいい、編入生。これが俺の力だ!! 『禁手化(バランス・ブレイク)』ッ!!!」

 

ブライアンはそう唱えていた。

 

「なにっ!? 禁手化だと!?」

 

その言葉の意味から忍はそれが神器の可能性を見い出したが、アザゼルという専門家がいない状況では判断に困っていた。

 

ゴオオオオオオッ!!!

 

ブライアンの足元から青と黒の炎が弐重螺旋のように舞い上がり、その姿を包み込んでいく。

 

「くっ…!?」

 

思わず、その炎から距離を取る忍は…

 

「こちら紅神。ソーナ会長、厄介なことが起きてる…!」

 

急いでこのことをソーナ会長を通じて各方面の味方に伝えていた。

 

『禁手化!? 間違いないのですか?』

 

「専門家でないんで確証はないですが…この感じはあながち間違いじゃなさそうです」

 

『まさか…神器までも絶魔勢が手にしていたとは…』

 

通信魔法陣越しだが、ソーナ会長も苦虫を潰した表情になっているのが何となくわかる。

 

「力を解放される前にこの人間達は出来るだけ傷付けずに捕獲してほしいが…」

 

『難しい注文でしょうね…』

 

「ですよね…」

 

そう言いながら忍は目の前で今にも弾けそうな炎の塊に注視する。

 

「とりあえず、また後で連絡します」

 

『油断しないように気をつけてください』

 

「了解です」

 

禁手化した相手の対処はイッセーや木場との模擬戦で散々経験してるが、未知の相手となるとどんなことになるか想像もつかないので慎重になる。

 

そして…

 

ゴバァァ!!

 

炎が弾け、中からブライアンが…

 

『グオオオオオオオッ!!!!』

 

異形の姿と化して現れていた。

 

しかし、その見た目は忍には見覚えがあった。

 

「龍騎士、だと…!?」

 

そう。

それは頭部がドラゴンと化し、背中から龍翼、臀部から龍の尾が生え、四肢も龍のような鋭い爪が備わり、その身は鎧のような甲殻で覆われた人型ドラゴン…龍騎士であった。

 

「(バカな!? 龍騎士は異界の、それも絶滅した種だぞ!? ノヴァがクローニングしてるのは知ってたが…神器に組み込めるものなのか!?)」

 

その事実に忍は目の前で起きた出来事を正確に捉えられないでいた。

 

『力ガ…力ガ漲ル…!!』

 

龍騎士と化したブライアンから龍気が溢れ出している。

 

「な、なんかすげぇぞ…」

「これが…悪魔に対抗する力…」

「あの言葉に、こんな力が…」

 

それに当てられたのか、ブライアンと一緒に来た連中もそれぞれ忍に落とされた装備品を拾い上げる。

まるでブライアンの姿に魅入ってしまい、自分達もそれを行おうとしてるような…。

 

「っ!? やめろ! それがどういうことになるかわかっているのか!? 元の人間に戻る保証があるのかよ!?」

 

その行動に気付いた忍は他の連中に忠告を促す。

 

「ノヴァさんは言った。恐れるなと…」

「私達は選ばれたんだって…」

「だから、恐れる必要はない…!」

 

まるで催眠術にでも掛ったかのように一同は装備品を空に掲げ…

 

「「「禁手化ッ!!!」」」

 

一斉にその言葉を発していた。

 

ゴオオオオオオッ!!

 

それと同時に装備品にある宝玉から龍気が溢れて一同を呑み込む。

 

「くっ…!?」

 

さらに3人分の龍気の余波を受け、忍も後退する。

 

『凄ェ、凄ェゾ!!』

『アハハハハ…!!』

『確カニ、力ガ漲ル…!!』

 

それぞれが龍騎士へと変貌したのを見届けてしまった忍は…

 

「バカ野郎共が…!!」

 

そう漏らしていた。

 

「(ともかく今はこいつらを正気に戻す方法を考えないと…。これが通常の禁手なら何か解除する手段があるはず…だが、ノヴァの野郎が関わってる以上、そんな簡単な方法じゃないかもしれん…なら、俺が取るべき手段は…)」

 

過程はともかく、結果として成ってしまったことを考えても仕方ないと考えた忍は即座に意識を切り替え、相手を無力化させることを優先することにしていた。

 

「多少手荒になるが、許せよ…!!」

 

そう前置きを言い、忍はダブルフューラーを待機状態に戻すと、格闘スタイルに移行する。

 

『何ヲ言ッテイル? コノ力ヲ手ニシタ俺達ヲ相手ニ貴様ニ何ガ出来ルトイウノダ?』

 

既に勝ちを確信しているのか、ブライアンは忍の言葉を一蹴していた。

 

「悪いが、龍気を扱えるのはお前達だけじゃないんでな…」

 

そう言ってスッと目を閉じる忍だった。

 

『? 何ヲ言ッテ……ッ!?』

 

ブライアンが訝しげにしていると、忍からブライアン達から発する力と"同種"のモノが滲み出てくるのが感覚的にわかった。

 

『バ、馬鹿ナ!?』

『ナ、ナンデ!? アノイケメンモ私達ト同ジノガ出セルノ!?』

『オ、俺ガ知ルカ!?』

 

自分達だけの力だと思っていたモノを忍から感じ、動揺を隠せない龍騎士達。

 

「行くぞ…!」

 

バッ!!

 

神速で一気にブライアンの目の前まで移動してきた忍は…

 

『ナッ!?』

 

「"眠れ"…!」

 

右手に霊力を込め、ブライアンの額に人差し指と中指を押し当てて力強い言葉を発していた。

 

『ガッ…アァ…?』

 

その瞬間、ブライアンの意識は朦朧としていき…

 

『編入、生…貴様、ナ、ニ…ヲ………』

 

バタンッと背中から倒れ、そのまま意識を暗闇の中へと沈めていった。

 

「『言霊(ことだま)』ってやつだ」

 

それだけ呟くと、眠ったブライアンの様子を観察する。

 

「(意識を失っても禁手が解けない。やはり、何か細工が施されていそうだな…)」

 

そう考えた忍はすぐさまブライアンを結界へと閉じ込めた。

 

『ナ、何ガ…?』

『ワ、訳ガワカンナイワヨ!』

『コ、コトダマ…?』

 

事態を未だ吞み込めていない残りの龍騎士達に対し、忍は…

 

「(やはり、混乱してるか。なら、その間に…)」

 

ブンッ!!

バッ!!×3

 

「お前達も"眠れ"」

 

神速で間合いに入るや否や再び言霊を使って龍騎士達を眠らせていた。

 

「とりあえず、これで一段落…とはいかないわな」

 

ノヴァが送り込んできた以上、これだけとは考えられなかった忍はすぐさまソーナ会長を通じて各方面に警戒を促していた。

結界に閉じ込めた龍騎士化したブライアン達をソーナ会長の元へと転送し、忍も戦線に復帰する。

 

 

 

しかしながら、それは完全に後手に回っており、かなりの数の人間が禁手化して龍騎士となっていた。

邪龍軍勢に加えて、ノヴァの送り込んだ龍騎士軍団がその猛威を振るっていたのだ。

 

そんな中、白き冥王は大切な者を救うべくその身を戦いの中へと投じようとしていた。



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第九十一話『白き冥王、戦場で愛を叫ぶ』

学園防衛組が邪龍軍と龍騎士達の猛威に晒されている一方で…

 

「こ、ここは…?」

 

ユウマもまた結界内へと転移に成功していた。

 

「おそら…まっしろ…」

 

女の子が結界内の空を見上げて呟く。

 

「ぁ…」

 

その声につられてユウマも空を見上げて息を漏らす。

 

「ここが…異世界…?」

 

初めて異界の地に足を踏み入れた感慨からしばし空を見上げたままだったが…

 

『グオオオオオッ!!!』

 

遠くから聞こえる量産型邪龍の咆哮により、それもすぐに中断されてしまう。

 

「「っ!?」」

 

その咆哮にユウマと女の子は同時にビクッと驚く。

 

『マスター。お気を確かに…ここは既に戦場となっているようです』

 

ヴァルゴからの忠告で気付く。

 

「……………」

 

そして、感じる…今この場が戦場と化しているということを…。

 

「(ごくっ)」

 

その戦場の空気に当てられたのか、生唾を飲み込む。

 

「こんなところに…デヒューラさん達が…」

 

戦の空気漂う町の中でユウマは心苦しそうに右拳を胸の前で握り締める。

 

そんな中…

 

「あ、こっちに女の子がいるぞ!」

 

町の方で動いていた父兄の1人がユウマを見つけて声を上げる。

 

「君、大丈夫か!?」

 

「え…?」

 

その声に間の抜けた声を出すユウマ。

 

「避難勧告を聞いてなかったのか? とにかく、ここは危ない。さぁ、我々と一緒にアウロス学園に避難しよう」

 

「え…で、でも…僕には…」

 

まだやることがあると言おうとして…

 

「っ!? 隠れて!」

 

父兄の人に物陰に押し隠されてしまう。

 

「わっ!?」

 

その直後…

 

『グルルルル…』

 

群れから離れたのか、邪龍一匹が飛来する。

 

「じゃ、邪龍め…こんなところにまで…!」

 

父兄の人は魔法陣を作って防御の姿勢に入る。

 

「(じゃ、邪龍…? って、それよりもあの人だけじゃ…!?)」

 

慌ててユウマも飛び出そうとするが…

 

「大丈夫か!?」

 

別の父兄の人達も応援に来た。

 

「退け!!」

 

そして、何よりも…

 

霊獣牙(れいじゅうが)!」

 

ズシャアア!!

 

『グオオオオオッ!?!?』

 

腕の一振りで邪龍を倒す猛者がいた。

 

「す、凄い…」

 

その光景を見てユウマも驚きの声を漏らす。

 

「ゆ、雪白さん…」

 

「ありがとうございます…!」

 

父兄の人達はその人物にお礼を述べていた。

 

「良いってことよ。アンタらを無事に帰すのが俺の仕事みたいなもんだからな。それよりも…」

 

ちなみにその猛者はユウマも良く知る人物…

 

「よぉ、どうやら何とか無事だったみたいだな? ユウマ」

 

狼牙であった。

 

「お、おじさん!?」

 

別の意味でまた驚くユウマだった。

 

「ったく、神宮寺の小僧から事情を聞いた時には肝が冷や冷やしたが…無事で何より…と言いたいところだが」

 

そう言いながらユウマに近寄る狼牙は…

 

「無茶した挙句、こんな危ないとこまで来やがって…少しは反省しろ!」

 

ユウマのこめかみに両拳を当ててグリグリとし始める。

 

「い、痛い!? 痛い痛い痛い!?!?」

 

「テメェの家族になんて説明していいのか結構悩んだんだぞ? わかってんのか、あぁ?」

 

「す、すみません…! ごめんなさい!?」

 

その光景を父兄の人達はポカンとした表情で見ていた。

 

「あ、あの…雪白さん? その子は一体…?」

 

父兄の1人が痺れを切らしたのか、狼牙に尋ねる。

 

「あぁ、こいつは悪魔じゃなく人間…のはずなんだが、なんか変な匂いが混ざってんな? どういうことだ?」

 

変異フロンティアでの出来事など知らない狼牙もわからないようで、ユウマに説明を求める。

 

「人間が冥界に…? しかし、どうやって…?」

 

「さてな。そこらの事情も聞きたいが、それは後回しに今はこいつを学園に避難させっぞ。そしたらこの辺も取り残しはいないしな…」

 

「は、はい!」

 

そう言って移動を開始しようとする一行だが…

 

「ま、待ってください! 僕にはまだやることがあるんです」

 

「やることだぁ?」

 

ユウマの一言に狼牙が訝しげな表情をする。

 

「僕はデヒューラさんを助けなきゃならないんです!」

 

「デヒューラ?」

 

「僕や忍さんのクラスメイトの女の子です!」

 

「あ~、お前が行方不明になる切っ掛けになった」

 

紅牙から聞いていた事情を考え、そう結論付けた。

 

「うぐっ…僕が不用意だったのは確かですけど…」

 

そんなユウマに…

 

「だが、諦めな。もう手遅れかもしれん」

 

狼牙は現実を突き付ける。

 

「っ!? 手遅れって、どういう…?」

 

「忍から連絡があってな。行方不明になってた連中が知らずの内に絶魔の手先となってこの冥界に送り込まれた。そして、連中の持ってた装飾品によって『龍騎士』って存在に成り果てたそうだ」

 

「龍、騎士…?」

 

「要は人の姿に近いドラゴンみたいなもんだとよ。行方不明だった連中が神器らしきものの禁手を発動させて変身したらしい。しかも悪いことに禁手の解除方法がわからない」

 

「神器…?」

 

そこでユウマは変異フロンティアの中でノヴァが語っていたことや、培養カプセル群の中にいた存在を思い出す。

 

「人工、神器…」

 

「なに…?」

 

ユウマから口にした単語に狼牙が眉を顰めるが…

 

「それって人工神器のこと…? じゃ、じゃあ…デヒューラさんも…?」

 

「おい、ユウマ?」

 

どんどん青ざめていくユウマの表情を見て狼牙が声を掛ける。

 

「っ! 退いてください! 僕は何としても行きます!!」

 

それに反応してか、ユウマが弾かれたように動き出す。

 

「あっ、こら待て! 誰か、そいつを取り押さえろ!!」

 

子供だと思い、他の父兄の人達に呼びかけるが…

 

「ごめんなさい!」

 

ピシャアア!!

 

その瞬間、ユウマの体から白い稲妻が迸る。

 

「なっ!?」

「があ!!??」

「し、痺れる~~!?!?」

 

その光景に誰もが息を呑む中…

 

「デヒューラさん、今行きますから…!!」

 

バサリッ!!

 

ユウマの姿が白髪金眼になり、背中から3対6枚の白い翼が生えて飛び去って行く。

 

「おいおい…なんだよ、ありゃ…」

 

その場に取り残された狼牙はそう呟き、痺れさせられた父兄の人達を担ぐことになった。

 

………

……

 

・南地域

 

「なに、ユウマが!?」

 

狼牙からの連絡を受け、忍は驚いていた。

 

『あぁ。どういう訳か、この世界に来てた。逃がしちまったが…』

 

そういう狼牙の話を聞き…

 

「話を聞く限り、冥王の可能性が高いだろうな…流石に天使ってのは考えにくいし…」

 

忍はそう答えていた。

 

「しかし、まさかユウマが冥王だったとはな…」

 

そう言いつつ忍はやってくる量産型邪龍を吹き飛ばしていく。

 

『そういや、気になることも言ってたぞ』

 

「気になること?」

 

『人工神器…聞いたことあるか?』

 

「人工神器? 確か、アザゼル先生が研究してたな…」

 

『堕天使元総督の研究物か…どういう経緯で流れたか知らんが、どうもそれが今回出回った代物らしいな』

 

「今回の件が一段落したらアザゼル先生にも報告しとかないとな」

 

少し険しい表情を見せながら次の標的へと砲撃を放つ。

 

『しかし、あいつ…大丈夫か?』

 

「こっちでも気に掛けるが、正直余裕が無い。それにこの乱戦の中、意中の相手と出会う確率の方が低いと思うが…」

 

『しかも最悪、龍騎士になってる可能性も捨てきれん。他の連中が捕獲する前か、変身する前に出会わないと認識だって難しいしな…』

 

「だよな…」

 

親子揃って同じような結論に至ったらしく、かなり表情を険しくしていた。

 

「ともかく、ユウマのことは了解した。そっちは引き続き、避難の遅れた民間人の捜索を頼む」

 

『あぁ、そっちも気張れよ』

 

それを最後に通信は切れて…

 

「とは言え、何とかしたいが…」

 

そう呟きつつ迫ってくる量産型邪龍の顎を殴ってから回し蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「無駄に数が多くて手が空きそうもないからな…」

 

次々に飛来してくる量産型邪龍に対して流石に嫌気が差していた。

 

「(ユウマ…悪いが、自分で何とかしてみせろよ…)」

 

………

……

 

一方、その頃…

 

「は~あ…つまんないの~」

 

混乱渦巻く戦場の中、ある一軒家の屋根の上に寝っ転がっている奴がいた。

 

「なんだって俺がこんなののお守しなくちゃならないんだか…」

 

そう言ってそいつは視線を近くに待機している少女へと向ける。

 

「……………」

 

そこにいるのは瞳から光が失われているフェイタル学園の制服姿のデヒューラだった。

ご丁寧にその首には蒼と黒の混ざった宝石のペンダントが掛けられていた。

 

「は~…暇だな~」

 

そうぼやくそいつは…六天王の1人、クーガ・ブラスティだった。

 

「(ノヴァ様の指令だと、この戦場に新しい冥王が現れるだろうから、こいつをぶつけろって言われてるけど…その前に味見してもいいのかな~?)」

 

どうやらユウマの行動はノヴァに予測されているらしく、デヒューラはその餌として使われているようだった。

 

「(う~ん…冥王の血はあっても困らないし、良い研究材料と俺のコレクションになるけど…こいつはどうせ使い捨てだしな~)」

 

デヒューラを使い捨てと言い切るクーガはその場でゴロゴロと転がっていた。

屋根の上なのだが、決して落ちることはない。

 

「ん~…………ま、いっか。考えるのはロンドとかノヴァ様に任せて俺は俺のお仕事をしますかね、っと。それに来たっぽいし…」

 

そう呟くと器用に首の力を利用して跳び起きると、奇しくもこちらに向かってくる飛翔体を眺める。

 

「アレかな? 飛ぶのぎこちないし、白いし…少なくとも大きさから邪龍や禁手龍騎士でもなさそうだし」

 

遠目で見た感じからそう判断したクーガは…

 

「とりあえず、味見しても罰は当たらないよね?」

 

覚醒した冥王の血ということもあってか、クーガの眼は少し細くなっており、舌なめずりをしていた。

 

「よし、そうと決まれば…」

 

クーガは右親指を噛み切ると、そこから溢れた血で円を描いてミッド式の魔法陣を作り出し…

 

「ブラッディ・レイン!」

 

飛翔体に向けて血の雨の如き血の弾丸を放っていた。

 

 

 

そして…

 

『前方より魔力反応を確認!』

 

「え!?」

 

そんなヴァルゴの警報を聞いて驚いたユウマはというと…

 

「ど、どど、どうしたら…!?」

 

かなり慌てていた。

 

『とにかく回避運動を! 幸いにも真っ直ぐ来ますので地面に降りて回避するのも手です!』

 

「わ、わかったよ…!」

 

ヴァルゴの指示に従い、慌てて地面へと降下するユウマだったが…

 

ポケッ!

 

「はぅわっ!?」

 

着地に失敗して盛大に転んでしまう。

 

「だ、大丈夫?」

 

「う、うん…」

 

転んだユウマだが、女の子はちゃんと守っていた。

 

すると…

 

「ひゃ~はっはっはっは♪ だっせ~~の!」

 

ゲラゲラと品の笑いをあげてさっきの攻撃を仕掛けてきた人物がユウマの前方にある屋根に降り立つ。

 

「あ、あなたは…!?」

 

その人物を見て慌てて立ち上がるユウマ。

 

「俺はクーガ。クーガ・ブラスティ。ま、別に覚えなくてもいいよ~」

 

その傍らには…

 

「………」

 

デヒューラの姿もあった。

 

「デヒューラさん!」

 

「へぇ、この使い捨ての知り合いってことはお前がノヴァ様の言ってた冥王で間違いないっぽいか。にしても女々しい顔の奴!」

 

人が気にしてそうなことをズバリ言うクーガ。

 

「め、女々しくなんかありません! ちょっと女の子っぽくて気にしてるけど……って顔のことはどうでもいいじゃないですか!?」

 

それについつい本気で返してしまったユウマはすぐさまそう返していた。

 

「ひゃはは。ま、細かい事は確かにどうでもいっか」

 

本当にどうでもいいのか、クーガは簡単に受け流す。

 

「それよりも…デヒューラさんが使い捨てってどういうことですか!?」

 

気を取り直したユウマはクーガの言ってたことが気になって声を荒げて聞いていた。

 

「使い捨ては使い捨てだよ? ま、この女に限ったことじゃないけど…」

 

「それってどういう…」

 

「そんなん、お前が気にすることじゃないって…」

 

クーガの意味深な言葉にユウマは嫌な予感がしてならなかった。

 

「あ、忘れてた。お前が連れだしたY-77も回収しないとだっけか」

 

そして、思い出したように女の子をコードで呼んでいた。

 

「ひっ…」

 

その視線に気づいて女の子は怯える。

 

「この子は絶対に渡しません!」

 

それを庇うように右手で胸ポケットにいる女の子を隠す。

 

「別にお前の許可なんて必要ないんだよ。第一、お前が勝手にY-77を連れ出したんだし、こっちとしては被害者よ? だから、お前がなんと言おうとY-77は俺達が回収するんだよ。ノヴァ様もまだまだ解明し足りないだろうしさ」

 

まるでユウマなど眼中にないかのような物言いに…

 

「っ!」

 

ユウマから少しだけ怒りの感情が表れたらしい。

 

「お? なに、怒ったの? 弱っちいくせに生意気~」

 

クーガがゲラゲラと笑う中…

 

「デヒューラさん! 僕です! ユウマです!」

 

ユウマはクーガを無視してデヒューラへと声を掛けていた。

 

「………………………」

 

しかし、ユウマの声に反応することもなく、デヒューラはただただその場に立ち尽くしていた。

 

「無駄無駄ぁ。こいつは今、精神制御を受けてる状態だし、お前の声なんて聞こえない聞こえない」

 

そんなユウマを見てクーガはさらに笑う。

 

「デヒューラさん…!」

 

デヒューラに向かって飛ぼうした時…

 

「おっと、させないよ?」

 

ゲシッ!!

 

「がっ!?」

 

屋根から飛び降りながらクーガがユウマを蹴り飛ばしていた。

 

「弱い弱い。冥王になっても元がただの人間って話だし、こんなもんかな?」

 

そう呟きつつ、クーガはユウマの元へと歩いていく。

 

「じゃ、その被験体はいただいてくわ」

 

そして、女の子へと手を伸ばそうとした時…

 

「っ!」

 

バチッ!!

 

「おろ?」

 

クーガのその手が雷撃で焼かれ弾かれる。

 

「へぇ~…」

 

焼かれた手を見てから、クーガは目を細めてユウマを見据える。

 

「っ!?」

 

その視線にはれっきとした殺気が乗せられており、それを受けたユウマは体を硬直させてしまう。

 

「いい度胸じゃん。そんなに死に急ぎたいんだ?」

 

スッ…!

 

焼かれた手を自らさらに傷つけ、血を流すとそれを凝結させて鋭い爪を作り出す。

 

「(血が…!?)」

 

「お前を殺した後で被験体を回収すりゃいいよね?」

 

そう言ってユウマにその凶爪を突き立てようとして…

 

「っと、いけね。その前にあの使い捨てをお前に使わないとか」

 

思い出したかのように未だ屋根の上にいるデヒューラを見上げる。

 

「まぁ、どっちにしろ…どっちも死ぬんだから俺が直に手を下す必要もないか」

 

そう漏らしてクーガは屋根の上へと跳び上がり…

 

「さぁ、その力を解放してあいつを殺せ! 死体からでも血は回収できるしな! ひゃ~はっはっはっは!!!」

 

狂気に満ちた笑い声をあげてデヒューラに命令を下す。

 

「……禁、手…化…」

 

デヒューラはクーガの命令の下、ペンダントに手を掛けてからその禁断の言葉を紡ぐ。

 

ゴオオオオッ!!

 

その瞬間、デヒューラの足元から蒼と黒の混ざった炎が渦巻き上がり、龍気が膨れ上がる。

 

「デヒューラさん!?」

 

その場にユウマの叫び声が虚しく響く。

 

『グウウウッ!!!』

 

そして、炎の渦が消えると、そこには亜麻色の龍鱗が特徴的な龍騎士がいた。

 

「デヒューラ、さん…!?」

 

その光景にユウマは絶句していると…

 

「さぁ、存分に殺し合いな!!」

 

クーガが喜々として煽る。

 

『ガアアアア!!!』

 

その命令に従うように龍騎士と化したデヒューラがユウマに襲い掛かる。

 

『マスター!!』

 

「っ!?!」

 

ヴァルゴの声に慌ててその場から空に飛んで逃げようとするが…

 

バサッ!!

 

デヒューラもまた背中の龍翼を広げてユウマを追撃する。

 

「やめてください、デヒューラさん! 僕はあなたと戦いたくなんてありません!!」

 

ユウマの必死の叫びも…

 

『ガアアアア!!!』

 

今のデヒューラの耳には届かないでいた。

 

ブンッ!!

 

無造作に放たれたデヒューラの右ストレートがユウマの頬を掠める。

 

「っ…!」

 

掠っただけだが、硬い龍鱗で覆われた拳によってユウマの頬の皮は切れてしまい、そこから血が流れる。

 

『戦ってください、マスター! でなければマスターの身が…!』

 

それを見兼ねてヴァルゴが進言するも…

 

「い、嫌だ…! たとえ、姿が変わったとしても…デヒューラさんを…女の子を傷つけるなんて…僕にはできないよ…!」

 

『しかし…このままでは…!』

 

譲れない想いがユウマを縛る。

 

「ゆうま…」

 

そんな苦悩するユウマを胸ポケットの中から女の子が見上げる。

 

「(何か…何か、手はあるはず…! その鍵は、きっと…)」

 

そう考えてからユウマは大振りな攻撃を仕掛けてくるデヒューラの隙を突いて、クーガへと向かう。

 

「(あの子にあるはず…!)」

 

狙いとしては悪くない。

しかし、相手が悪いことこの上ない。

 

「俺との力量差、わかってるのかな、っと!!」

 

そう言ってクーガは向かってくるユウマを迎撃すべく跳んで、その腹を思いっきり蹴飛ばす。

 

「がはっ!?」

 

理性のない獣と化してるデヒューラと違い、確実にユウマへと打撃を当てたクーガは…

 

「ほ~ら、しっかり狙いな!」

 

ユウマを蹴飛ばした方向にはユウマを追い掛けるデヒューラがおり…

 

『ガアアアア!!!』

 

両拳を組んでユウマの背中へと思いっきり振り下ろす。

 

ゴスッ!!

 

「っ!?!?」

 

普通なら有り得ない力によって背骨が折れるような錯覚に見舞われながらユウマは地面に激突する。

 

『マスター!?』

 

「ゆうま…!?」

 

ヴァルゴと女の子の悲鳴が上がる。

 

「が、は…ぁ…ぐぁ…!?!」

 

胸ポケットの女の子を庇いながらも懸命に立とうとするユウマ。

 

「助け、なきゃ…デヒ、ューラ…さ、んを…」

 

ズリッ!

 

しかし、その気持ちとは裏腹に体の言う事は聞かず、手が滑って再び地面に崩れ落ちる。

 

「ぐぅ…ぅぅ…っ…」

 

力を求めても、力があっても…それを使うための修練をしないまま、体を動かすための体力もなくなりかけている。

そんな今の自分が情けなく思い、ユウマは静かに涙を零す。

 

「(僕は…なんて、無力なんだろう…)」

 

その事実にユウマは己の無力感に打ちひしがれる。

 

「(力を手にしても…僕は、女の子一人、助けることが出来ないの…?)」

 

ユウマがそんな考えを巡らせていると…

 

ゆさ、ゆさ…

 

「ゆうま…! ゆうま…!」

 

胸ポケットから抜け出した女の子がユウマの頭をそのか弱い力で揺さぶろうとする。

その表情は既に涙で濡れていた。

 

『ガアアアア!!!』

 

その間にもデヒューラが地上に降り、ユウマにトドメを刺そうとその歩を近づけてくる。

 

「(もう…どうしようもないの…?)」

 

そんな考えがユウマの脳裏を過ぎる中…

 

ポタッ…

 

「(あれ? 何か、聞こえて…)」

 

ポタッ…ポタッ…

 

音のする方に顔を向けると…

 

『ガアアアア!!!』

 

そこは咆哮を上げながらも、その眼から赤い涙を流していた。

 

「(デヒューラ、さんが…泣い、て…?)」

 

その姿を見て…

 

「(デヒューラさんも…苦しいんだ…苦しんでるんだ…)」

 

そう考えたユウマは…震える体で立ち上がる。

 

「(だったら…助けなきゃ…! だって…僕は、デヒューラさんのことが…!)」

 

しかし、立ったところで今のユウマには避ける体力がない。

このままでは…

 

「ゆうま…!」

 

『ガアアアア!!!』

 

心配そうにユウマを足元から見上げる女の子と、襲い掛かってくるデヒューラ…。

 

「僕が…僕が、彼女達を…守るんだ!!」

 

気合を込めてそう叫ぶが…

 

「ひゃはは!! お前なんかに何が守れるってんだよ!!」

 

クーガがゲラゲラを屋根の上で笑い転げる。

 

「デヒューラさん…っ!!!」

 

両手を広げ、その一撃を受け止めようとするユウマ。

 

その姿に…

 

「だ、だめええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

女の子が絶叫を上げる。

 

カッ!!

 

その絶叫をキーに女の子から光が溢れる。

 

「え…?」

 

『ガアアアア!!!』

 

その光はユウマとデヒューラを包み込む。

 

「なんだ?」

 

予想外の出来事にクーガも眉を顰める。

 

………

……

 

~???~

 

「っ…」

 

白き空間に漂うユウマが目を覚ます。

 

「ここは…?」

 

周りを見ても白が続いている。

 

「僕は…死んだの…?」

 

あの状況下ではそう錯覚しても仕方ないのかもしれないが…

 

「だいじょうぶ」

 

ユウマの近くに白銀の球体がやってきてそう呟く。

 

「君は…」

 

その球体の中にはあの女の子が入っていた。

 

「ゆうま。まだ、しんでない。ここは、せいしんのせかい…」

 

「え…?」

 

目の前の女の子からは出会った頃か感じていた気弱なものを感じられず、ユウマは少し困惑していた。

 

「あのひとと、ゆうまのせいしんを、わたしがつなげた。だから、ここにはあのひともいる」

 

「あの人?」

 

困惑気味なため、女の子が言う"あの人"というのがピンと来ない様子だ。

 

「ゆうまが、"でひゅーら"っていってたひと」

 

「デヒューラさんが、ここに…?!」

 

そう言われて慌てて周りを見るが、デヒューラらしき人影は見当たらない。

 

「でも、ここはせいしんのせかい…だからあのひとをたすけるには…」

 

「助けられるの!?」

 

女の子の言葉に食いつく。

 

「うん。わたしの"ちから"をつかえば…もしかしたら…」

 

「力…?」

 

「でも、せいこうするかはわからない…」

 

そんな女の子の言葉にユウマは…

 

「僅かでも構わない。そこに、デヒューラさんを助けられる可能性があるのなら…僕はやるよ…!」

 

その瞳に確かな力を宿してそう言っていた。

 

「……わかった。いま、あのひとは"した"にいるから…」

 

「下?」

 

下を見れば…遠くに小さな黒い点があることに気付く。

 

「あのひとのこころは…かなしみでしずんでて、くらいやみのなかでくるしんでる……だから、このずっとしたでふさぎこんでる。それをどうにかできるのは…ゆうまだけ」

 

「僕、だけ…」

 

「あのひとをすくえれば、わたしもゆうまにちからをかせるから…」

 

「君は一体…?」

 

「いまはわたしよりもあのひとを…」

 

「……うん。わかったよ」

 

しばしの逡巡の後、ユウマは大きく頷いて下の黒い点へと向かって降り始める。

 

「がんばって…わたしの、あたらしいろーど…」

 

そのユウマを見送りながら女の子はそう呟いていた。

 

………

……

 

~???~

 

「(暗い…こんな場所に本当にデヒューラさんが…?)」

 

女の子の言葉を信じない訳ではないが、あまりにも真っ暗な闇の世界にユウマだけがその存在を切り取ったような感じでクッキリと見えていた。

さっきの白い空間とはまた違う感じである。

 

「(でも、捜さなきゃ…きっと、どこかにいるんだから…!)」

 

そう思い、ユウマは方向感覚が失われつつあるものの、下へと降り続ける。

 

「(深い…もしかして、これがデヒューラさんが抱えてた心の深さなの…?)」

 

もし、そうだとしたら…

 

「(本当に、僕に救うことが出来るのかな…?)」

 

不安に駆られるユウマ。

 

と…

 

「あ…」

 

膝を抱え、その膝に顔をうずくめるような状態で暗い空間の中を漂うデヒューラの姿を見つける。

 

「デヒューラさん!」

 

それを見てユウマはすぐさまデヒューラも元へと向かう。

 

「…………」

 

しかし、ユウマの声を聞いても反応はない。

 

「デヒューラさん! 僕です、ユウマです!」

 

近付いて叫ぶユウマに対して…

 

「……うるさいな…わかってるわよ、そんなこと…」

 

デヒューラの声は酷く冷たいものだった。

声音はいつもユウマが聞いてる通りなのだが、その声の質は酷く冷たく刺々しい感じであった。

 

「で、デヒューラさん…?」

 

その声質にユウマは驚く。

 

「なによ? いつもの明るい私じゃなくて驚いてるの? ま、猫被ってたから仕方ないか…」

 

膝から少しだけ顔を上げ、ジトッとした目でユウマを見る。

 

「なんで私の家に来たの?」

 

地の底から響くような冷たい声でユウマに問う。

 

「え…だ、だって…デヒューラさんがいなくなると思ったら…いてもたってもいられなくて…」

 

そう答えるユウマに…

 

「余計なお世話よ。私がどうしようとアンタには関係ないじゃない」

 

デヒューラの反応はあくまでも冷たかった。

 

「で、でも…!」

 

「第一…アンタ、お節介なのよ。それにお人好し過ぎ…」

 

「え…?」

 

「頼んでもないのに助けに来た? 余計なお世話なのよ。それで一緒に知らないとこに行ったら行ったで殺されそうになってるし…あの後、私がどれくらい辛かったか知ってるの? アンタの安否もそうだけど、あのマッドサイエンティストに変な催眠術を掛けられて身動きは取れなくなるし、意識はあるのに体は言う事を聞かず、あの血マニアに同行してアンタと戦う羽目になって…挙句の果てに使い捨てにされて死ぬ? アンタがいようがいまいが結果は変わらないじゃない。なのに、性懲りもなくまた助けに来たとか…うざったいのよ!!」

 

「うぅっ…」

 

デヒューラの言葉が心に刺さったらしくユウマが項垂れる。

 

「てか、人の心にまでずけずけ入り込んできて…ホンット、お節介よね」

 

「そ、それは…」

 

言い淀むユウマに…

 

「いいから、私のことなんてほっておいてさっさと逃げなさいよ。どうせ、私なんか助けたってアンタには良い事なんて一つもないでしょ」

 

デヒューラは拒絶の一言を放つ。

 

「っ…!」

 

その言葉にカチンときたのか…

 

「ほっておける訳ないじゃないですか!」

 

ユウマはデヒューラの目の前に移動する。

 

「なんでよ?」

 

冷めた目でユウマを見る。

 

「警備員のおじさんに聞きました。デヒューラさんの家庭のこと」

 

「あのおっさん…また余計なことを……で、なに? それ聞いて哀れに思ったから助けに来たの? そういうのがうざいっていうのよ。第一、アンタに関係ないでしょ?」

 

心底うんざりした様子でデヒューラは言い放つ。

 

「確かに関係ないかもしれません。でも、デヒューラさんを哀れと思った事なんて一度もありません」

 

「じゃあ、何よ?」

 

「僕は…デヒューラさんの両親と、僕自身に怒りを覚えました」

 

「は…?」

 

百歩譲ってデヒューラの両親に怒りを覚えるのはわかるとして、何故自分にまで怒るのか?

それがデヒューラにはわからなかった。

 

「学園であれだけ親しくしてくれたのに…僕はデヒューラさんのことを何一つ知らなかった。知ろうともしなかった…その事実が無性にイライラして、情けなくて…泣けてきました…」

 

「意味わかんないんだけど…」

 

「学園ではいつも明るくて気さくなデヒューラさんが…本当は孤独だったって聞いて、僕は思いました。この人の力になりたい、この人には本当の意味で笑っていてほしいって…」

 

「え…?」

 

デヒューラもキョトンとする。

 

「そしたら、僕の中で一つの感情が溢れてきました。これは紛れもない僕自身の明確な意思であり、想いです」

 

すぅ、っと息を吸い込むと…

 

「好きです。デヒューラさんのことが愛おしいんです…!」

 

ユウマはその真っ直ぐな瞳で告げていた。

 

「………はぁ!?」

 

まさかの告白にデヒューラも困惑して思わず顔を上げる。

 

「あ、アンタ、何を言って…?!」

 

「本当です! この気持ちに嘘偽りはありません!」

 

「いや、そういうことじゃなくて…!」

 

「好きなんです! だから、あの家を出て僕の家に来てください!」

 

「はぁぁ!?!?」

 

かなりぶっ飛んだ告白になってきた。

 

「僕達はまだ学生ですけど、居候からなら一緒に始められるじゃないですか。それに冷たい家庭にいるよりも僕と僕の家族と一緒にいた方がデヒューラさんのためになります!」

 

「あ、あの…」

 

そのぶっ飛んだ思考にはデヒューラも度肝が抜かれたらしい。

 

「大丈夫です。絶対に両方の家族を説得してみせますから…だから」

 

徐にユウマはデヒューラの手を取り…

 

「僕と一緒に暮らしましょう、デヒューラさん」

 

そう告げていた。

 

「…………無理よ」

 

だが、デヒューラはそう呟いていた。

 

「無理なんかじゃありません!」

 

「無理よ。だって、私達はもうすぐ死ぬのよ?」

 

「まだ僕達の意識は死んでいません。だったら、体の方だって何とか…」

 

「無理よ! 仮にアンタが無事でも私の体はもう…」

 

龍騎士へと変貌した自分の体が無事ではなくなるのはデヒューラ自身が一番よく知っていた。

 

「それでもです! 僕が何としても助けますから!」

 

「なんで、そんなに…私に構うのよ…?」

 

今にも泣きそうな表情でデヒューラが問い掛ける。

 

「さっきも言いましたけど…好きだからです。好きな女の子一人助けられないようじゃ…僕は男失格になるでしょうから」

 

そう言ってユウマはデヒューラの顔に自身の顔を近づけ…

 

「んっ…」

 

「っ!?」

 

そっとその唇を奪った。

 

「絶対に、この手は放しません。だから一緒に生きていきましょう。デヒューラさん」

 

「……………バカ…」

 

その言葉を皮切りにボロボロと涙を流すデヒューラ。

 

「ユウマちゃんの、バカ…」

 

デヒューラの涙が流れると共に黒い闇が少しずつ剥がれ落ちていく。

 

「私だって…まだ、死にたくない…!」

 

今のデヒューラの真っ直ぐな気持ちが闇を払い…

 

「ユウマちゃんと…生きたい…!」

 

白き空間へと変貌する。

 

すると…

 

「いま、ふたつのたましいが…つながった…」

 

ユウマとデヒューラの頭上から白銀の球体が舞い降りてきた。

 

「君は…」

 

「なに?」

 

頭上を見る2人に女の子は言う。

 

「となえて。"トライユニゾン"と…」

 

と…

 

「デヒューラさん。今はあの子を信じて」

 

「う、うん…」

 

ユウマの言葉を信じ、デヒューラと共に唱える。

 

「「トライ、ユニゾン」」

 

その瞬間…

 

カッ!!

 

光が空間を満たす。

 

………

……

 

・南地域

 

「!?」

 

南地域で量産型邪龍と戦っていた忍の鼻がある匂いを察知する。

 

「(なんだ、この匂いは…?)」

 

………

……

 

・北地域

 

「(この、まるで魂が重なったような波動は一体…?)」

 

紫炎のヴァルブルガと戦っていた紅牙もまたその異変に気付いていた。

 

………

……

 

・民家付近

 

「なんだ? 何が起こってんだ!?」

 

目の前で起きた現象がわからなくてクーガも慌てていた。

 

ユウマとデヒューラを包み込んだ光は収縮していこうとしていた。

それに伴い、あり得ない現象も引き起こしていた。

それは…

 

『グガアアアアッ!!!!』

 

亜麻色から漆黒の龍鱗へと変貌した龍騎士が光から弾かれるようにして出てきたのだ。

 

「どういうことだ!? こいつは禁手龍騎士…いや、"中身の女"が感じられねぇ!!?」

 

クーガの言が正しいのならば、禁手の媒介となったデヒューラが龍騎士という殻を脱ぎ去ったということになる。

ならば、そのデヒューラは何処に行ったのか?

 

シュウゥゥ…

 

そして、光が収束した地点に立つのは…

 

「……………」

 

冥王化したユウマだが、その細部は些か異なっていた。

白髪の毛先には亜麻色が帯びており、その背には薄い桜色のオーラに包まれた半透明の女性がユウマの首に手を回してその頭をユウマの頭の横に置いていた。

その女性というのは…もちろん、デヒューラである。

 

「テメェ…一体何をしやがった!!」

 

いつもの陽気な人格からは想像できないような怒声を上げてユウマを睨む。

それくらい常識外れな現象が起こったとも言える。

 

「…………」

 

クーガの問いに答えない。

正確には、今の状態を自分でもよくわかっておらず、答えに困っているのだが…

 

「(ギリッ)!!」

 

そんなことクーガの知ったことではないので、無視されたと勘違いして殺気を膨らませる。

 

「いいぜ…そんなに死にたいなら今から殺してやるよ! 殺れ!!」

 

『グガアアアア!!!!』

 

クーガの命令に龍騎士が呼応し、ユウマへと一直線に向かう。

 

「っ!」

 

そんな龍騎士の突進を前に身構えるユウマに…

 

『だいじょうぶ。あれはぬけがら…ゆうまがきおうひつようはもうないから…』

 

ユウマの頭の中に女の子の声が響く。

 

「で、でも…」

 

生物を殺めることに対してユウマは戸惑いを隠せないでいた。

 

『やさしいゆうま。なら、あいてのうごきをとめることだけにしゅうちゅうして…』

 

「う、うん…」

 

そう言われ、ユウマは相手を動けないようにするイメージを頭の中で想像する。

 

「(相手の動きを封じる……鎖で腕や足を縛るとか?)」

 

そんな考えを浮かべていると…

 

『ユニゾンレアスキル、はつどう』

 

ジャキンッ!!

 

次の瞬間、突如として地面から現れた光の鎖が龍騎士の四肢を縛る。

 

「ふぇ!?」

 

「なにぃ!?」

 

『ガアッ!?』

 

ユウマを始め、屋根から見ていたクーガと自身の身に何が起こったのかわからない龍騎士が驚きの声を上げる。

 

「(バインド系の魔法か? いや、魔法陣は見当たらねぇし、魔力の流れもなんか不自然だ…何がどうなってやがる!?)」

 

その現象をクーガは分析しようとするが、一向に答えが出ないでいた。

 

「こ、これって…どういう…?」

 

当のユウマ自身もよくわからないでいたりするが…。

 

『ゆうま。いまがこうきだよ』

 

「え?」

 

『あっちのひとをおいはらおう』

 

「で、でも…どうやって…?」

 

『なんでもいいからいめーじして。あっちのひとをおいはらうような…』

 

「そ、そんなことを言われても…」

 

今がどういう状態なのかもわからないのに、クーガを追い払うイメージだと言われてもパッとは思いつかない。

 

「(う~ん…せめて武器でもあれば違うんだろうけど…そんな都合よく落ちてるはずもないし…)」

 

そう考えて思い浮かべたのは…パンドラ内でいつも使ってるハンドガンのイメージだった。

 

ボムッ!

 

「え!?」

 

すると、今度はそのイメージしたハンドガンがユウマの手元に現れる。

 

「はわわっ!?」

 

慌ててそれをキャッチすると何故か手に馴染むような感覚がユウマの手から伝わる。

 

「これは…?」

 

『それはゆうまのいめーじをぐげんかしたものだよ』

 

「僕の、イメージを…?」

 

『うん』

 

「よくわからないけど…これなら!」

 

初めて手にしたはずなのに、いつも使ってるような感覚でハンドガンを構える。

 

「なっ!? 物体を創造したのか?!」

 

それを見ていたクーガはあり得ないものを見たような錯覚を覚えていた。

 

「有り得ねぇ有り得ねぇ有り得ねぇ有り得ねぇ有り得ねぇ!!」

 

そして、錯乱したようにブツブツと小言を繰り返し…

 

「っ!! そうか、これが…!!」

 

何かに思い至ったような声を上げるが…

 

バンッ!!

 

ユウマの発砲した魔力弾がクーガの顔面を捉え、クーガの頭が仰け反る。

 

「あ…」

 

ゲームのノリでヘッドショットを決めてしまい、これが現実であることを思い出す。

 

「だ、大丈夫ですか~?」

 

いくら敵対してるとは言え、殺してしまったのではないかと心配になって声を掛けてしまう。

ハッキリ言って間の抜けた場面とも言える。

 

が…

 

ぐぐぐ…

 

「危ねぇな…!!」

 

仰け反った頭が元に戻ると、魔力弾を噛んで受け止めていたクーガが憤怒の表情でユウマを睨む。

 

バリンッ!!

 

魔力弾を噛み砕いたクーガは…

 

「興が削がれたし、ノヴァ様に報告しないとならないことも出来たから帰るわ」

 

そう言って結界内から出るための魔法陣を展開する。

 

「しばらくの間、そのY-77は預けといてやるよ。次に会った時は必ず殺してやるから覚悟しとけ!!」

 

それだけ言い残すと、クーガはこの空間内から姿を消した。

 

「お、終わった、の…?」

 

『たぶん…』

 

「はぁ~……」

 

緊張の糸が切れたのか、その場にへたれ込んでしまうユウマ。

 

『お疲れ様です。マスター』

 

『ゆうま、だいじょうぶ?』

 

ヴァルゴと女の子から労いの言葉を受けたユウマは…

 

「うん、ありがとう。デヒューラさんも大丈夫ですか?」

 

未だにユウマの首に手を回し、頭の横に己の頭をくっつけてるデヒューラに声を掛ける。

 

『……………』

 

「デヒューラさん?」

 

『……すぅ…』

 

聞こえてきたのは静かな寝息だった。

 

『たぶん、はじめてのトライユニゾンだったからつかれたんだとおもう』

 

「ぁ…そう、なんだ…」

 

女の子の説明を受け、ユウマはデヒューラの髪をそっと撫でていた。

 

「本当に、無事で良かったです。デヒューラさん…」

 

心の底から安堵したような言葉を口にするユウマ。

 

これでユウマの戦いも一先ずの幕を閉じた。

 

しかし、これはユウマにとっては始まりでしかなかった。

ユニゾンデバイスである女の子の持つ謎の能力『トライユニゾン』。

そして、女の子が戦闘中に発した謎のキーワード『ユニゾンレアスキル』。

ユウマもまたこの大きな戦いのうねりへと巻き込まれてしまったが、今は考えまい。

今は愛する少女を取り戻したことへの達成感を胸にユウマは結界内の白い空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

ただ…

 

『グガアアアア!!』

 

まぁ、龍騎士がさっきから鎖から逃れようともがいているが…

 

「あ…この、人? どうしよう…?」

 

ユウマは龍騎士を前にどうしたらいいのか困っていた。

 

だが、この偶然にも捕獲してしまった抜け殻の龍騎士が後に役立つとは知らずに…。



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第九十二話『戦後処理』

ユウマが戦っている間にも事態は大きく動いていた。

 

邪龍グレンデルとラードゥンと戦うために南から南西地域へと救援に向かったイッセー。

そこでは匙を始めとした小猫、朝陽、シアの4人がグレンデルと対峙していた。

そして、イッセーの前には木のドラゴン『宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)ラードゥン』がその姿を現したのだ。

 

グレンデルがアウロス学園を狙って火球を放とうとした際の隙を突かれ、ラードゥンがイッセーを結界内に閉じ込め、そのパワーと己の障壁、どちらが上かという勝負を持ち掛ける。

獲物を横取りされた形のグレンデルだが、目標をヴリトラこと匙に変更して"遊ぶ"ことを決める。

ラードゥンの障壁の硬さにイッセーは真紅の鎧へとなって障壁を突破することを考えるが、想像以上にラードゥンの障壁は硬く、クリムゾンブラスターでも決定打にはならなかった。

 

一方、グレンデルと相対する南西チーム。

グレンデルの火球は匙の黒炎で何とか相殺したものの、量産型邪龍の邪魔もあり、匙と小猫達は分断されてしまう。

そんな中で匙はたった一人でもグレンデルと相対する。

しかし、それはあまりにも無謀だった。

何度叩き潰されようと匙はグレンデルを押さえようと奮闘するが、グレンデルはそれを歯牙にもかけなかった。

徐々にグレンデルが学園の方へと向かっていく。

そこへ避難民の確認を行っていた父兄の方々だった。

果敢にもグレンデルの前に立つが、グレンデルの攻撃力に父兄の方々も吹き飛ばされ怪我を負っていく。

 

そんな中、量産型邪龍の群れを吹き飛ばす一人の男が現れたことによって戦況が変わる。

その男の名は、『サイラオーグ・バアル』。

真紅の鎧を纏ったイッセーと打撃合戦を繰り広げた男だ。

サイラオーグの言葉によれば、アグレアスでの戦いは悪魔側の優勢だったようで、サイラオーグ一人だけでもと応援に送り出されたそうだ。

 

そして、それを機に二匹の邪龍に通信が入り、ラードゥンがその場から離脱。

おそらくはアグレアスへと向かったのだろう。

しかし、グレンデルはその場に残ってイッセーとサイラオーグのタッグと戦うことを選択していた。

真紅の鎧を纏ったイッセーと、金色の獅子の鎧を纏ったサイラオーグ。

真紅と金色の協奏曲によってグレンデルは圧倒されていた。

 

しかし、ここで問題が起きる。

北地域で紅牙と戦闘を繰り広げていたはずの紫炎のヴァルブルガが突如として来襲。

その聖なる炎によってサイラオーグを強襲したのだ。

その攻撃によってサイラオーグは一時的に戦闘不能まで追い込まれる。

そこへヴァルブルガを追い掛けてきた紅牙とギャスパー。

ヴァルブルガは紅牙が別の事へと意識を向けた一瞬の隙を突き、各地の戦況を乱し始めたという。

そのまま、ヴァルブルガと紅牙・ギャスパーはまた別の方面へと向かってしまう。

 

ここぞとばかりに倒れたサイラオーグを踏み潰すグレンデル。

それに激昂したイッセーの攻撃を回避し、グレンデルは一時的に後退する。

そんな中、致命傷を受けたはずの獅子王が立ち上がる。

その身に滅びの魔力を宿さぬとも、目の前の邪龍に滅びを贈るために…。

だが、ここでグレンデルに再度通信が入り、撤退命令が下された。

聖杯を盾にされている以上、グレンデルに拒否の文字はない。

龍の門が開かれ、そこへと足を進めるグレンデル。

しかし、それは獅子王によって阻まれる。

渾身の力によって投げ出されたグレンデルにクリムゾンブラスターが直撃し、落下するグレンデルにサイラオーグの鉄拳が突き刺さり、遂にグレンデルを打ち倒すことに成功する。

そこへ白音モードとなった小猫がイッセーの鎧の宝玉を触媒にグレンデルの魂を封印することに成功する。

こうして邪龍グレンデルを完全に倒すことが出来たD×Dだった。

 

その後、ソーナ会長から全体指示が伝達される。

アウロス学園の周辺に集合せよ、と…。

それは即ち、地下シェルターで作成が行われていた魔法使い達による新型の転移魔法陣の完成が間近に迫った証拠である。

 

………

……

 

学園周囲に集結しつつあるD×Dのメンバー。

しかし、転移の準備が着々と進んで魔法陣が発動する直前に、それは起きてしまった。

転移魔法陣の光がアグレアスへと向け、放たれたのだ。

そこへヴァルブルガが現れ、事の経緯を嬉々として語り出す。

簡単に言えば、魔法使いの中に裏切り者がおり、そいつがギリギリのタイミングで転移魔法陣に細工を施して対象を住民からアグレアスへと変更させたのだ。

それは見事に成功し、アグレアスは結界の中からその姿を消したのだった。

何故、アグレアスを狙ったのか、ヴァルブルガが喜々として語ろうとした時だった。

結界を破壊して一筋の流星がアウロス学園の校庭に突き刺さる。

 

その流星とは…『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』。

 

その持ち主が結界を破壊したということになる。

しかし、その持ち主は…。

 

だが、そんなことを考える間もなくD×Dの前にヴァルブルガと残りの量産型邪龍や禁手龍騎士が現れる。

そして、ヴァルブルガは学園へと攻撃を開始する。

それを阻止しようとするが、悪魔では紫炎は致命傷になりうる。

紅神・神宮寺眷属がヴァルブルガを止めようとするが、量産型邪龍や禁手龍騎士のせいで時間が掛かる。

その間にもヴァルブルガの攻勢は止まらない。

と、そこに匙が黒炎を身に纏い、決死の覚悟で紫炎を相殺しようとする。

しかし、それはあまりにも無謀であった。

相殺しきれずに匙の体は紫炎に焼かれ始める。

そこで匙は己の中にあった想いを吐露する。

イッセーへの憧れを…。

しかし、匙はイッセーではない。

イッセーはイッセーなりに頑張った結果が今の姿ならば、匙は匙なりに己の道を、『先生』になるという夢を追いかけることを宣言していた。

そこへとある理由にてある神器(滅神具といった方がいいか)の深奥に潜っていたヴリトラが帰還した。

そして、匙の成長を待ちわびたとばかりに禁手へと至る。

罪科の獄炎龍王(マーレボルジェ・ヴリトラ・プロモーション)』。

暗黒の鎧からいくつもの黒い触手が伸び、黒炎を滾らせる。

匙とヴリトラの黒炎と、ヴァルブルガの紫炎による対決が空で繰り広げられる。

 

そんな空中激戦をしている一方で…

帰還したファーブニルを召喚するアーシア。

だが、これはこれで酷かった。

何を思ったのか、某クッキング番組の如きセットを用意し、自身もまたクッキング帽を被っていたのだ。

そして、アーシアから対価のパンツを貰うと、それを調理し始めたのだ。

完成したファーブニル式「ディアボラ風アーシアたんのおパンティー揚げ」なるものをファーブニルは咀嚼して食べてから一言。

『………ありのままのキミでいてほしい』

その一言に量産型邪龍の何匹かは号泣してしまった。

こんなことで量産型邪龍が攻撃を止めるのもおかしな話だが…。

当のアーシアはと言えば、流石に倒れ込んでしまっていた。

まぁ、当然と言えば当然と言えるが…。

 

その間にイッセーもまたドライグから歴代白龍皇の説得の経緯を聞いていた。

それは…一言で言えば、ファーブニルのパンツ講座で説き伏せてしまったようで…。

ヴァーリの心情が心配なくらいだろうか…。

 

その時だった。

レプリカ赤龍帝の鎧を纏ったユーグリットがロスヴァイセを(さら)いに来たのだ。

そこへ地下で裏切り者の相手をしていたゲンドゥルさんが現れてロスヴァイセを助けようとする。

しかし、疲弊しきった体では無理があったのだが、ユーグリットが転移しそうになったところを転移封じで逃げれなくする。

転移を封じられたユーグリットはそのまま龍翼を広げて逃亡。

それをイッセーとリアスが追いかける。

 

イッセーとユーグリット。

本物と偽物の赤龍帝対決が始まる。

以前の対決ではワイバーンもあってイッセーが勝利を収めたが、今回はそれを踏まえてユーグリットも最初から油断なく攻撃を繰り出していた。

しかし、歴代白龍皇の説得に成功し、ワイバーンも赤龍帝の力に変化させられるようになっていたイッセーがユーグリット相手に優勢に立つ。

そして、禁じられた攻撃法『ロンギヌス・スマッシャー』によって勝利をもぎ取っていた。

それを食らい、ユーグリットはロンギヌス・スマッシャーで紅く染まった空を見て呟いていた。

「………姉上。そんなに『赤』が好きですか? 私も…『赤』になったのですよ?」

そうして、ユーグリットは捕まえられた。

 

………

……

 

戦後処理となったアウロス。

町は邪龍の爪痕が色濃く残っていた。

学園もまたユーグリットの最後の一撃で半壊してしまっていた。

また、結界内の一時間は外では一分しか経過しておらず、結界外では三分しか経ってなかったそうだ。

今は結界があの聖槍によって破壊されたので、同じ時間を進んでいるが…。

ヴァルブルガはアジ・ダハーカや残りの量産型邪龍と共に転移魔法陣で退散していた。

 

そして…

 

「絶魔勢が、人工神器を…?」

 

現場に駆け付けたアザゼルに忍が報告を行っていた。

 

「えぇ、そのせいでストロラーベという次元世界の人間が人工神器の禁手によって龍騎士と化しました」

 

「人工神器の禁手だと…? あれは一種の暴走状態なんだぞ。それを龍騎士なんて不確定なもんに変身させることに特化させたっていうのか?」

 

アザゼルが何やら思案していると…

 

「問題は意識を刈り取っても元に戻らなかったことです。この状態が続けば、あいつらは…?」

 

忍がそう付け加える。

 

「元に戻らないだと? 何かしらのデータ取りか? それとも最初から捨て駒同然に扱ってたのか…少なくともそれで元に戻らないなら由々しき問題だな。暴走状態がこれ以上続けば命にだって関わるだろうしな」

 

「そう、ですか…」

 

「せめて何かしらのサンプルでもありゃ調べようもあるんだが…」

 

「そう簡単には見つからないですよね…」

 

アザゼルと忍が頭を悩ませていると…

 

「お~い、忍。やっと"こいつ"を見つけたぜ」

 

狼牙が、ユウマを連れてやってきた。

その手には何やら鎖をぶら下げて…。

 

「親父! それにユウマも!」

 

「親父?」

 

忍の言葉にアザゼルは首を傾げる。

 

「ぁ、アザゼル先生は初めてか。俺の親父の狼牙です。ストロラーベで再会したので、家族と一緒にこちらに来てもらってました。眷属を紹介するために…」

 

「そうか。良かったな」

 

「えぇ……妹が出来てたのには驚きましたがね…」

 

そんな会話をしている間に…

 

「しっかし、これはどうすっかねぇ?」

 

狼牙が鎖の先を見てぼやく。

 

『ガアアアア!!!』

 

見れば、漆黒の龍騎士が鎖でグルグル巻きにされていた。

 

「なんで、龍騎士がいるんだ?」

 

「詳しいことはこいつから聞け。どうも俺にはサッパリな話なんでな」

 

そう言って狼牙は龍騎士を踏みつけながら暴れないように霊力の鎖でさらに縛り上げる。

 

「ユウマ、これは一体どういことだ?」

 

「えっと…その…」

 

事の経緯をユウマなりに説明する。

 

「つまり、なんだ? そのユニゾンデバイスの力でスイミランさんを助け出したと?」

 

「…はい」

 

「で、その反動かどうかは知らないが、龍騎士って皮が剥がれたのが、こいつだと?」

 

「そう、なっちゃいます」

 

「それでこいつを拘束したはいいが、移動手段がないところに親父が捜しに来たので助けてもらったと…」

 

「……はい」

 

ユウマの説明を聞き、それを確認する忍達。

 

「まぁ、今回は無事で良かったが…頼むから心配させないでくれよ。もしものことがあったら親御さん達にどう説明したらいいのか…」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

狼牙の言葉にユウマも謝るしかなかった。

 

「で、どうします? これ…」

 

『グルルルル…!!』

 

狼牙に縛り上げられた龍騎士を指して忍が困ったような声を出す。

 

「始末するのが手っ取り早いんだがな…流石にこう人目が多いとな…」

 

狼牙もいちいち移動させるのが面倒なのかそう言うと…

 

「いや、こいつは良いサンプルだ」

 

アザゼルが龍騎士を見て呟く。

 

「サンプル?」

 

その言葉にユウマが首を傾げると…

 

「こいつを調べ上げればもしかしたら龍騎士化した人間を元に戻せるかもしれねぇ」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ、可能性は高いだろう。早速、調べてみる」

 

「お願いします!」

 

こうして龍騎士はアザゼルが預かる事となった。

 

 

 

アウロス学園の校庭に設置された臨時テント。

アザゼルと別れた後、忍がユウマや狼牙と共にそこに向かっていると…

 

「「「「えええええええええええええ!!?」」」」

 

何やら絶叫が聞こえてきた。

 

「はぅわっ!?」

 

「なんだ?」

 

「何かあったか?」

 

絶叫に驚くユウマをよそに忍と狼牙は平然と歩を進める。

 

「(え~…驚いたの、僕だけ…?)」

 

その事実に急に恥ずかしくなるユウマだった。

 

「声からしてイッセー君とレイヴェルさん…あとは珍しい木場君と小猫ちゃんかな?」

 

そんな分析をしながら絶叫のあったテントに向かうと、そこにはグレモリー眷属がいた。

 

「どうしたのさ?」

 

「おぉ! し、忍! き、聞いてくれよ! ゼノヴィアのやつが…!!」

 

「彼女がどうかしたの?」

 

「生徒会長の選挙に立候補するってよ!!」

 

「………………………は?」

 

イッセーの言葉を聞き、忍も鳩が豆鉄砲を食らったような表情になってゼノヴィアを見る。

見れば、ゼノヴィアは天に指を突き指して堂々としている。

 

「え、生徒会長って…え、ええええ!?」

 

その事実に忍もかなり動揺していた。

 

「忍さん?」

 

「その娘っ子が生徒会長になるのがそんなに不思議なのか?」

 

事情を知らないユウマと狼牙が呑気にそんなことを言っている。

 

「いや、まぁ…失礼なのは重々承知なんだが…かなりイメージに合わなくて……でも、そうか…ゼノヴィアさんが生徒会長に立候補か…うむむ…」

 

何度も脳筋な部分を見せつけられてきたせいか、忍も困惑の色が濃い。

 

「???」

 

そもそもこのメンバーをよく知らないユウマからしたら首を傾げるしかなかった。

 

「てか、忍…」

 

「なんだよ?」

 

「その女の子誰?」

 

忍が見知らぬ人を連れてる=女の子…という図式がイッセーには少なからずあるのかもしれない。

 

「うぐっ…お、女の子…」

 

知らない人にまた女の子と言われたユウマはその場に女の子座りしてしまう。

 

「あ~…こいつ、れっきとした男だからな?」

 

「え゛!? じゃあ、まさか…ギャー助と同じか!?」

 

つまり、女装趣味の持ち主かと言われております。

 

「ギャー助?」

 

また知らぬ単語が出てきてユウマはまたも首を傾げる。

 

「いや、そんな趣味は無いはずだぞ」

 

至極真っ当に答える忍も趣味までは詮索してなかったと思い立ったので、ちょっと語尾が怪しい。

 

「あの、忍さん? さっきから何の話を…?」

 

それでも気になるユウマはその真意を聞こうと声を出す。

 

「ん? あぁ、簡単に言うとだ。お前に女装癖の疑いが掛かった」

 

「えぇ!? 僕、そんな趣味ないです!!」

 

まさかの疑いにユウマはハッキリを言い切った。

 

「だ、そうだ」

 

「そ、そっか。なんか悪かったな」

 

「い、いえ…」

 

何とも言えない微妙な空気が流れる。

 

「…………っ?!////」

 

その微妙な空気のせいか、ユウマは視線を彷徨わせた挙句、ある一点を見てから即座に目を背ける。

 

「ユウマ?」

 

「い、いえ…なんでもないです! あ、ぼ、僕、デヒューラさんとあの子の様子を見に行かないと…!////」

 

そう言うと、そそくさとユウマはデヒューラと女の子を預けたテントへと走っていく。

 

「どうしたんだ、あいつ…?」

 

「ふむ…」

 

ユウマの見ただろう視線の先を見てみると…

 

「あらあら、どうしたのかしらね?」

 

朱乃がいた。

 

「…………………」

 

そこから忍はイッセーを見て…

 

「な、なんだよ?」

 

「いや、意外とユウマとイッセー君って、波長が合いそうかな~って思ってみたりしただけだ」

 

そんなことを言い出す。

 

「は?」

 

言われた本人は訳が分からないとばかりに疑問符を浮かべる。

 

 

 

グレモリー眷属のいるテントでいくつかの情報交換をした後、忍はユウマの後を追っていた。

 

「ここか」

 

そのテントの中の様子を窺うと…

 

「だから、少しデータを取るだけだっての」

 

「それでもです!」

 

何やら言い争うような声が聞こえてきた。

 

「何の騒ぎだ?」

 

不思議に思って中へと進むと…

 

「あ、忍さん」

 

「よぉ、邪魔してるぜ?」

 

簡易ベッドで寝ているデヒューラと女の子の前に立つユウマと、困り顔のアザゼルだった。

 

「アザゼル先生。龍騎士の調査は?」

 

「あのサンプルならさっさと俺の研究室に送った。で、俺はアレから脱した人間も調べようと思った訳だ」

 

この構図とアザゼルの言から…

 

「なるほど。でも、ユウマがそれを許さないって感じか?」

 

忍はそう推測していた。

 

「そういうこった」

 

「デヒューラさんとこの子を調べるだなんて…これ以上、関わっちゃダメだと思うんです」

 

「ずっとこの調子でな」

 

肩を竦めるアザゼルはやれやれといった感じだった。

 

「気持ちはわかるが…ユウマ。お前ももう既に巻き込まれてる身なんだ。それにここまで関わった以上、簡単には抜け出せないんだぞ?」

 

「それは…!」

 

「事情はどうあれ、今のとこ唯一の禁手龍騎士から脱した例だ。その身体データを取るだけだっての。それにユニゾンデバイスだっけか? そっちは専門外だから何も出来ないし、出来たとしても何もしねぇよ」

 

「うぅ…!」

 

忍とアザゼルの言葉にユウマはただ唸るだけだった。

 

「こう見えてアザゼル先生は信頼出来る。だからユウマ、ここは任せてくれないか?」

 

「身体データっても異常がないかどうか見る程度だからな」

 

「でも…!」

 

「精神制御の後遺症も調べないとだろ?」

 

「それは、確かにそうですけど…」

 

ユウマが渋っていると…

 

「私なら別にいいわよ」

 

簡易ベッドで寝ていたデヒューラが上体を起こしながらそう言う。

 

「デヒューラさん!?」

 

デヒューラが起きたことに驚いたようだ。

 

「もう、起きて大丈夫なんですか?」

 

「さっきからうるさくて寝れなかったのよ」

 

「ぁぅ…ごめんなさい…」

 

そのやり取りを見て…

 

「(彼女、こんな感じだったか?)」

 

忍はフェイタル学園での印象とだいぶ違う事に違和感を覚える。

 

「体を調べるくらい別にいいわよ。実際、自分でも生きてるのが不思議なんだし…」

 

「つまり、絶魔勢にとってお前さん達は"使い捨ての駒"って訳か」

 

そんなアザゼルの言葉に…

 

「っ!」

 

「そうね。そうだったんでしょうね…」

 

ユウマが少しカチンときたのに対してデヒューラはクールな反応だった。

 

「デヒューラさん…」

 

「そんな心配しなくても平気よ、"ユウ"。もう、どうでもいいことだし…」

 

心配そうなユウマとそれを軽く受け流すデヒューラだった。

 

「じゃあ、本人のOKも貰えたんでさっさと採取しちまうか」

 

そう言うとアザゼルは簡易ベッドに座っているデヒューラの頭上に記録用の魔法陣を展開していた。

 

「あ、そこの小さな嬢ちゃんは退けとけよ? 一緒にデータが取れちまうからな」

 

「は、はい」

 

寝ている女の子を優しく手の上に乗せるとユウマはデヒューラから少し距離を取る。

 

「んじゃ、失礼して…」

 

記録用魔法陣をデヒューラの頭上から下へと通過させると、その魔法陣が小さくなってアザゼルの手元に移動する。

 

「これで完了だ。この魔法陣に記録させた身体データと、あの龍騎士を解析することで何とか龍騎士になった連中を元に戻してやるよ。元々、人工神器は俺達の研究物だしな」

 

アザゼルの言葉に…

 

「………………」

 

デヒューラは特に何も言わないでいた。

 

「邪魔したな」

 

「じゃあ、俺もこれで…」

 

デヒューラの身体データを取り終えたアザゼルと、元々様子を見に来ただけの忍はそのテントを後にする。

 

それから少しして…

 

「あの、デヒューラさん」

 

「なによ?」

 

「さっきの、"ユウ"っていうのは…?」

 

「私なりのアンタの呼び方よ。いつまでもちゃん付けは嫌なんでしょ?」

 

「そうですけど…」

 

「私、もうひと眠りするわ…」

 

「あ、はい。じゃあ、僕はここにいますので…」

 

「………ボソッ(ありがと)」

 

「え?」

 

「何でもないわよ」

 

そうしてデヒューラは簡易ベッドに横になる。

 

「(本当に、良かった…デヒューラさんが無事で…)」

 

デヒューラの横になるベッドの側にイスを置いてそこに座る。

 

と、そこへ…

 

「邪魔だったか?」

 

紅牙がやってくる。

 

「あなたは…確か、神宮寺さん」

 

「紅牙でいい」

 

そう言うと紅牙は近くのイスを引っ張り出して座る。

 

「お前に話があってきた」

 

「お話、ですか?」

 

紅牙の言葉にキョトンとするユウマ。

 

「単刀直入に言う。お前、俺の眷属にならないか?」

 

そう言って取り出したのは、僧侶の駒だった。

 

「眷、属…?」

 

疑問符を浮かべるユウマ。

 

まさかの眷属勧誘。

この話を聞き、ユウマがどのように判断するのか…。

 

悪魔の裏切り者の示唆、クリフォトや絶魔勢の動き…。

まだまだ予断は許されないだろう。

 

そして、来たる師走の終わりの時期。

激動の二学期の終わりを告げる。

 

しかし、激動の時代はその歩をまだ緩めてはくれない。

新たな星座もまた…やってくるだろう。



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14.復讐怨嗟のクリスマス
第九十三話『余波と近況と、そして…』


アウロス学園襲撃事件より数日が経った。

 

ストロラーベで行方不明者となった者達。

つまり、龍騎士へと変貌した者達はアザゼルの手によって一命を取り留めた。

しかし、龍騎士化は依然として解呪されていない状態である。

現在、龍騎士化したストロラーベの住民達は冥界の堕天使領にある研究施設で保護されている状態にある。

そして、ストロラーベにおける行方不明者達の扱いは、探偵・雪白 狼牙が発見したものの、皆無事とは言い難く現在は面会謝絶の上である隔離病棟で集中治療を受けているという発表が政府からなされた。

これはノヴァによるある種の精神制御を完全に取り除くことと、ノヴァの元にいた時や龍騎士化した時などの記憶をいくらか操作するためである。

下手に野放しにすればまたいらぬ混乱が生まれる可能性もあるからだ。

 

当然ながらこの決定を下した政府に対し、行方不明者達の縁者から非難が殺到した。

行方不明者達の今がどのような状態かも知らされず、一方的に面会謝絶を言い渡されたのだ。

そりゃ抗議の一つや二つもしたくなるというものだ。

 

そして、その影響は狼牙にも及んでいた。

第一発見者である(ということになっている)狼牙にも機密保持のために黙秘を貫いており、行方不明者達の縁者から非難が少なからずやってきているのだ。

雪音や雪絵にも取材の手が伸びているが、実際の事実を知らない2人は困っていた。

 

そんな中、デヒューラとユウマはというと…

行方不明になった時期が比較的早く、見つかったのも早期だったために行方不明ということにはならず、"駆け落ち"という形で少しばかり雲隠れしていたことになっている。

何故、このような筋書きになったかと言えば…

ユウマや紅牙があの警備員から聞いた事実を加味し、ユウマによるデヒューラの救出劇を基にアザゼルが(面白半分に)脚本を仕立て上げた結果だったりする。

 

そして、駆け落ちした張本人である(ということになっている)ユウマは、両家族の前で…

 

「僕は…デヒューラさんのためを思って行動しました」

 

何の迷いもなくそう言い切っていた。

ちなみに場所は雪白探偵事務所のリビングを貸してもらっており、狼牙も立会人として見守っている。

 

それに対して…

 

「子供の戯言など聞いていられるか」

 

「そうね。こんなことで貴重な時間を費やしたくはないわね」

 

「今は行方不明者の子達も見つかったそうですが、物騒なのは変わりありませんしね…」

 

「でも、2人が無事で良かったです」

 

前半のデヒューラの両親からは時間の無駄だとばかりの言葉が投げかけられ、後半のユウマの両親からは子供を心配したものであった。

 

「…………」

 

その言葉を聞き…

 

「ご心配をかけて申し訳ありませんでした」

 

ユウマは形式上の謝罪をデヒューラの両親に告げながら頭を下げる。

 

「ふんっ…さっさと帰るぞ」

 

「ほら、行くわよ」

 

そう言ってデヒューラの母親がデヒューラの手を掴もうとすると…

 

「…………」

 

スッと、デヒューラの前に立ち塞がる。

 

「ユウ…?」

 

「何の真似かしら?」

 

デヒューラの母親が怪訝に思っていると…

 

「………いい加減にしてください…!」

 

意を決したようにユウマが言葉をぶつける。

 

「は? 何を言って…」

 

「時間がないんだ。さっさと連れてこい!」

 

「わかってます! けど、この子が…」

 

デヒューラの母親がモタモタしてるのを見てデヒューラの父親が口を出す。

 

「何のつもりか知らんが、小僧。私達には時間がないんだ。いいから、そいつをこっちに寄越せ!」

 

「っ! それでも親ですか!」

 

デヒューラの父親の物言いにカチンときたユウマが珍しく怒気を含んで叫ぶ。

 

「なんだと…?」

 

その言葉にデヒューラの父親は眉を顰めるだけだった。

 

「デヒューラさんは物なんかじゃない! それにあなた達の子供のはずでしょう!? なのに、さっきの言い方はあんまりじゃないんですか!?」

 

「ふんっ…人の家族のことに余所者が口を出すなど…お宅の息子さんは教育がなっていないようだな」

 

「いやはや、すみませんね…」

 

デヒューラの父親の言葉をユウマの父親は軽く受け流していた。

 

「それにしてもユウマ。なんで彼女と駆け落ちなんてしたんだい? 理由を教えてくれないかな?」

 

やんわりとした態度でありながらユウマに尋ねるユウマの父親の眼は真剣だった。

 

「はっ…それこそ時間の無駄だ。どうせ、子供の幼稚な出来心が働いたに過ぎない!」

 

その問いをデヒューラの父親はそう断じる。

 

「ん~、僕はユウマに聞いているのですがね…」

 

困ったように頭を掻くユウマの父親。

 

すると…

 

「僕は…最近までデヒューラさんの家族事情を知りませんでした」

 

おもむろにユウマが語る。

 

「いつも明るくて、友達も多くて、僕に悪戯することもあるけれど…そんなのは、デヒューラさんの一面に過ぎなかった。一度(ひとたび)家に帰れば、孤独で寂しい…独りぼっちの生活…そんなのが長く続けば、仮面の一つや二つ、被りたくもなりますよ」

 

その言葉に…

 

「ふんっ…何を言い出すかと思えば…」

 

「私達は忙しいのよ。その子に構ってる暇なんかないわ」

 

デヒューラの両親は冷たい…冷酷とも思える言葉を発していた。

 

「じゃあ、どうしてデヒューラさんを産んだんですか!?」

 

ユウマの悲痛な叫びは…

 

「そんなもの出来たからに決まってるでしょ。それにいちいち構っていられないわ」

 

その一言で片づけられる。

 

「子供が何をしようが勝手だが、こちらに迷惑だけはかけてほしくないな。時間の無駄だ」

 

「そうね。出来れば家で大人しくしててもらいたいのに…この子は雑誌に出たりして…」

 

「まったく、いちいち出版社に確認を取られたらこちらの貴重な時間が…」

 

その無責任とも言える言葉を聞き…

 

「そんな風にしたのは、あなた達じゃないですかッ!!!」

 

ユウマは我慢の限界らしく吠えていた。

 

「こんな子供の心配もしない親に育てられたら、悲し過ぎます!! だから僕はデヒューラさんを連れ出して一緒に暮らそうと考えたんです!!」

 

「子供に何がわかる? "心配"してるからこそ、この場にいるというものを…」

 

「そんなの"心配"なものか!!」

 

珍しく感情的なユウマを見て…

 

「なるほど。それが理由ですか」

 

その様子を見ていたユウマの父親が口を開く。

 

「あの大人しくて人様に迷惑を掛けないユウマが…しばらく見ない内に立派に成長したものだね」

 

「そうね」

 

ユウマの父親の言葉にユウマの母親も微笑んでいた。

 

「成長だと? こんなのが成長のはずがない!!」

 

「そうですかね? 狼牙さんはどう思いますか?」

 

すると、これまでのことを一部始終見ていた狼牙に話を振る。

 

「ん? まぁ、俺は探偵であって弁護士じゃないから何とも言えないが…少なくとも、女のために体を張る男を成長してないとは言えないわな…同じ男として立派だと思うぜ?」

 

狼牙はそう返していた。

 

「アンタは関係ないだろ!」

 

「ここは俺の家なんだがな…」

 

デヒューラの父親に狼牙は即座に言葉を返す。

 

「とにかく、これ以上はアンタ達には関係ない話だ! もういいだろ。さっさとそいつを渡せ!!」

 

「デヒューラさんを"そいつ"呼ばわりしないでください!! 僕はそんな人達の元なんかにデヒューラさんを帰したくありません!!」

 

ユウマの怒りに対してデヒューラの父親は…

 

「ほぉ? じゃあ、どうするというのだ? 子供に何ができる?」

 

勝ち誇ったような顔でそう尋ねる。

 

「デヒューラさんは…僕の家で暮らしてもらいます。もし、それが許されないなら…僕は、デヒューラさんを連れて…!!」

 

その決意に満ちた表情を見て、ユウマの両親は…

 

「まぁ、いいんじゃないかな?」

 

「家族が一人増えたくらい、あなたが何とかしてくれるでしょ?」

 

「あはは…耳が痛いなぁ…」

 

概ね賛成の意を示していた。

 

「なっ…?!」

 

思いがけない言葉にデヒューラの父親は言葉を失っていた。

 

「ふざけるな!」

 

「その子はうちの娘なのよ!」

 

が、すぐさま母親と共に抗議していた。

 

「そんなことを言うくらいなら…もっと前からデヒューラさんに関心を持っていてください!」

 

至極もっともな言葉をユウマに言われる。

 

「っ…この…ガキが!!」

 

頭に血が昇ったのかデヒューラの父親がユウマを殴ろうとするが…

 

「はいはい。心証最悪だな…」

 

デヒューラの父親を狼牙が羽交い絞めにしながら呟く。

 

「暴力はいかんよ、暴力は。それも他所様の子供に暴力は、心証としては最悪だね。これで裁判なんか起こしてもアンタらに勝ち目ないから…」

 

やれやれといった感じで狼牙はぼやく。

 

「さ、裁判だと!?」

 

「そりゃそうでしょうよ。こういうのを家庭内裁判とか言うのかな? アンタらが何を言おうと、証拠や証言が物語ってる」

 

「ぐっ…!!」

 

「アンタらに『親』を名乗る資格はないのさ…」

 

狼牙に言われ、拳を収めるデヒューラの父親だった。

 

こうしてデヒューラの両親は結局は何も言わずに雪白探偵事務所から去っていった。

残ったデヒューラはというと…

 

「あ、あの…その…」

 

こういう時、なんて言えばいいのか…ちょっと悩んでいた。

 

「いやぁ…しかし、この歳でもう将来を誓い合うとは…若いとはいいものですね」

 

「ま、無鉄砲とも言えるがな。しかし、早い内に身を固めておくのもそれもまた一つの選択だろ」

 

ユウマの父親と狼牙が何やら言葉を交わしていた。

 

「デヒューラちゃんだっけ? うちのユウマ君をよろしくね♪」

 

「え? は、はぁ…」

 

ユウマの母親にそんなことを言われ、デヒューラは少し困惑してしまう。

 

「そうだ。空いてるお部屋のお片付けしないとね。それに嫌かもしれないけど、デヒューラちゃんのお家から家具や服とかも持ってこないとならないわよね…」

 

「…………」

 

今後のことを考え出すユウマの母親にデヒューラも何と言っていいのかわからなかった。

 

「大丈夫ですよ。僕がいつまでもついてますから…」

 

そんなデヒューラの手にユウマはそっと自分の手を重ねて言っていた。

 

「…………えぇ、そうね…」

 

デヒューラにとっては新たな門出であった。

 

………

……

 

そのようなこともあったストロラーベでの生活も一旦の終わりを告げる。

一応の事件解決を受け、忍もまた任務を終えたこととなり、そのまま地球へと帰還することになったのだ。

 

「それじゃあ、俺達は行くよ」

 

荷物を纏めた忍達は雪白探偵事務所の前にいた。

 

「本当に行っちゃうの?」

 

「まぁ、向こうの学園にも行かないとだしな。それに俺にはまだまだやらないとならないこともたくさんあるし」

 

雪音の言葉に忍はそう返していた。

 

「うぅ…せっかく一緒に暮らせると思ったのにぃ~」

 

そんなことを言う雪音は今にも泣きそうだった。

 

「やれやれ、事件も一応は一段落したってのに忙しないな」

 

「ノヴァの野郎を放置するわけにはいかないからな…」

 

「絶魔か…」

 

その単語を聞き、狼牙も難しい表情をする。

 

「我が一族の仇…向こうの神が目覚めつつあるのかもしれんな…」

 

「我等が神が封じた絶魔の神、か…」

 

「あぁ。遅かれ早かれ、お前はそんな巨大な奴とぶつかる可能性が高い。忍、死ぬんじゃねぇぞ?」

 

「死ぬ気はない。まだやり残してることだってたくさんあるしな」

 

「それでこそ、俺達の子だ」

 

言葉を交わしながら互いの拳を軽く合わせていた。

 

「う~ん…それにしても、わたしは今回もあんま役には立たなかったな~」

 

そんなやり取りをしている忍達の後ろではやてがぼやく。

 

「仕方ないよ。私は忍君の僧侶として一緒に行ったけど、はやてまで冥界に行くわけにはいかなかったでしょ?」

 

「そりゃそうなんやけど…なんか、仕事らしい仕事もせずに帰還っていうのも納得いかないというか…」

 

「相手は量産型とは言え邪龍の大軍や伝説に残る程の邪龍を率いている悪魔の筆頭とも言える存在だ。管理局の人間をホイホイと連れて行くわけにはいかん。第一、そんな異形との戦い…お前達は経験したことがないだろうが」

 

はやての不満げな言葉に紅牙が釘を刺す。

 

「ぶ~ぶ~、紅牙君のいけず~」

 

「俺は事実を言ったまでだ」

 

すると…

 

「そなら、わたしも紅牙君の眷属にしたってぇな」

 

「なんだと…?」

 

「は、はやて!?」

 

突然の言葉に紅牙もフェイトも驚く。

 

「駒、まだ残ってんのやろ? なら、わたしに似合う駒をくれたってええやんか」

 

そのはやての言葉に…

 

「はぁ…」

 

紅牙は溜息を吐いていた。

 

「眷属になってどうするつもりだ。生憎と僧侶の駒はあと一個しかないし、お前は騎士の駒でもないだろう」

 

「む。失礼やな。わたしかて魔導騎士の称号を持ってるんやで?」

 

「魔導騎士…」

 

「確か、ベルカの称号の一つで、今ははやてしか名乗れてないよね?」

 

「そうやで」

 

フェイトの解説にえっへんと言いたげに胸を張るはやて。

 

「で、具体的に何が出来るんだ?」

 

紅牙が鋭いツッコミを入れる。

 

「えっと…そうやね。攻撃魔法は遠距離や広域、遠隔発生が多くて…あとは支援系の魔法が主体かな?」

 

「それと私から見ると、はやては指揮官向きかなって思うよ?」

 

「ふむ…」

 

はやての自己申告とフェイトの意見を加味して出した紅牙の結論は…

 

「仮に…あくまでも仮にだが、駒を渡すとなるなら…女王になるだろうな」

 

そう言って紅牙は懐から女王の駒を取り出していた。

 

「俺はどちらかと言えば、指揮官には向かないだろう。サイラオーグ・バアルのように自ら前に出るタイプだ。もちろん、最低限の指揮能力はあるつもりだ。これでも冥王派のリーダーをしていたからな」

 

若干自嘲気味に語る紅牙は女王の駒を手の中で遊ばせながら続ける。

 

「しかし、それは本当に最低限のものであるし、俺は王が前に出て皆を率いる。少なからずそのような考えがあるからかもしれない。だからこそ、俺の女王の駒を与える人物は…指揮能力に長けた人材であり、俺の補佐をしてほしいと考えているんだ。それに女王という立場上、王に最も近しい人物…それこそ紅神のように……いや、俺には過ぎた願いか…」

 

「「?」」

 

最後の部分は声のトーンが小さくなったのでフェイトとはやても首を傾げていたが…

 

「要するに、紅牙君を補佐して尚且つ指揮能力のある人を探すと…」

 

「ま、そういうことになるな」

 

はやての言葉に頷きながら紅牙は駒を懐に仕舞い込もうとするが…

 

ひょいっ!

 

「む?」

 

はやてが素早くそれ(女王の駒)を手に取ってしまっていた。

というか、完全に紅牙の手から強奪したような…。

 

「おい! 何の真似だ!?」

 

紅牙がはやてに詰め寄ると…

 

「まぁまぁ、そう怒らんと…わたしが紅牙君の女王になってあげるから」

 

まるでそれを狙っていたかのような物言いに…

 

「はぁ!? 何故そうなる!?」

 

当の紅牙は困惑する。

 

「紅牙君。本当は寂しいんと違う?」

 

笑っていた表情から真剣な表情になるはやて。

 

「はぁ? お前、何を言って…」

 

「フェイトちゃんから少し聞いたけど…紅牙君、ご両親はもういないんだよね?」

 

「おい、執務官…!」

 

それを聞き、怒る対象をフェイトに移行させようとするが…

 

「それに妹のシアちゃんやて。紅神君のとこに行ってもうたし、本当は一人で寂しいんじゃないかなって…」

 

その言葉を聞いて…

 

「……別に、そういうのは無い。姦しい部下もいるし、お節介な奴等もいる。それに妹にもたまに会っているしな。完全な孤独という訳じゃ…」

 

「わたしもね。昔は独りぼっちやったんよ」

 

「はやて…」

 

当時の事を知るフェイトは少し表情を曇らせる。

 

「でも、今は家族や友達もいっぱいおるから寂しくないんよ。でも、紅牙君を見てるとな…なんだか他人事とは思えないんよ」

 

「独りぼっち、か……詮索はせん。人にはそれぞれの過去があり、それぞれの未来に向かって歩むのが人生だからな。それを俺は、紅神から教わった」

 

「でもな。人間……人は一人では生きていけないんよ。それは冥族だって同じじゃないかな?」

 

「それは………」

 

はやての言わんがしていることを理解し、紅牙は言葉が続かなかった。

 

「だから…わたしが一緒にいてあげようか?」

 

「そんなことをしてお前に何の得がある?」

 

「損得の問題じゃないよ。少なくとも、わたしは紅牙君のこと…その、気になってるんだから」

 

一緒に行動した回数も少なく付き合いも短いが…はやてはその数回の接触と紅牙から孤独感を感じ取り、いつしかそれは"気になる存在"へと変化していたようだ。

それが興味から来るものなのか、同じ孤独を知る者としてなのか、はたまた恋なのか…現時点で立証する術はない。

 

「………………」

 

紅牙は黙ってはやての眼を見る。

 

「……………」

 

その視線を真正面から受け止め、はやても紅牙の眼を真剣に見つめる。

そこには…確かに迷いはなく、真剣な眼差しそのものだった。

 

「…………はぁ…」

 

再度、大きな溜息を吐くと…

 

「好きにしろ」

 

紅牙は根負けしたようにそう言っていた。

 

「うん…!」

 

トクン…!

 

それを受けてか、女王の駒ははやての中へと溶け込んでしまった。

 

「あとは…天崎の返答も近い内に聞かないとか…」

 

あのアウロス学園襲撃事件の直後、紅牙はユウマに僧侶の駒を渡していた。

しかし、まだ答えを聞いていなかった。

 

現在の冥界の悪魔の制度から始まり、悪魔の駒や眷属の駒の概要を大まかに説明した後、駒を与えた上でしばらく考える時間を設けていたのだ。

もちろん、ユウマにはそれが如何に危険なことか、それを踏まえて考えてもらっている。

だが、その一方で力を発現させてしまった以上、遠からずユウマは狙われる可能性がある。

その筆頭となるのが、おそらく絶魔である。

理由はユウマが冥王であることと、ヴァルゴの選定者であること、そして何よりも…あのユニゾンデバイスの女の子のシステム『トライユニゾン』を発現させたから…というのが忍や紅牙、アザゼルといった人達の見解だからだ。

 

日常を選ぶか、敢えて危険な道を選ぶか…。

ユウマは今…大いに悩んでいる時期でもあった。

 

紅牙がユウマの回答のことを考えていると…

 

「あ、そうだ」

 

「なんだ?」

 

はやてが何か思いついたように手をポンと叩き、それを紅牙が問う。

 

「せっかく紅牙君の眷属になったんやから、紅牙君にはわたしの家族にもちゃんと挨拶してもらわんとな」

 

「な、に…?」

 

それはつまり…ヴォルケンリッターに挨拶することになるということであって…

 

「(なんだか嫌な予感しかしないんだが…)」

 

その予感はある意味で的中することになる。

 

「紅牙の眷属もついに女王を得るか。ただ、ちょっと大変そうだが…」

 

「あ、忍君」

 

そこに家族との別れがやっと終えたらしい忍がやってくる。

 

「すまん。雪絵を宥めてたら時間が経ってた。また会えるんだから大丈夫だと言ってはおいたが…」

 

「お疲れさま。でも、ちゃんと会いに来ないとダメだよ?」

 

「あぁ、わかってるさ」

 

フェイトの忠告に答えながら忍は紅牙を見る。

 

「(兄に幸せが訪れるかもしれないと知ったら…シアも喜ぶかな?)」

 

そんなことを思いながら忍達はストロラーベを後にするのだった。

 

………

……

 

そして、地球。

 

駒王学園。

二学期の終業式の日のことだ。

 

「いやはや…終業式までにこっちに戻れてよかった…」

 

久し振りの地球の空気と、駒王学園の制服の袖に腕を通し、忍は帰ってきたのだと実感していた。

 

「なんだか色々あったみたいだね」

 

そこに同じく駒王学園の制服を着た海斗が話しかける。

 

「ま、本当に色々とな……それにしても、だ」

 

「なんだい?」

 

「また、こうして海斗と一緒に学園に通えるなんてな」

 

忍は海斗とこうして話せることが嬉しそうであった。

 

「それは俺がお礼を言うべきなのかな? 次元辺境伯殿」

 

「その名は一般の前であんま口にするなよ?」

 

「わかってるよ」

 

海斗も海斗で忍と話せるのが嬉しそうだ。

 

「入れ違いになるように海斗は転入、俺は留学したからな…」

 

「確かにね」

 

ははは、と笑い合う忍と海斗。

 

「「………………」」

 

ひとしきり笑い合った後、しばしの沈黙が支配する。

 

「それで…真面目な話、お前はこれからどうするんだ?」

 

「そうだね…」

 

忍の問いに海斗は…

 

「本来なら国に帰って王位を継ぐつもりだったけど…次元大戦なんてものが各次元世界に迫っている状況だ。あの叔父がそれに対して動かない、なんて保証もないしね…」

 

「そう、か…」

 

「とにかく、今は俺の臣下となりうる海龍神の痣を持つ者を探すのが先決かな。それを以って、俺自身が正当な王位継承者だと民に伝えたいと思ってるよ」

 

「早く見つかるといいな。その臣下って人達…」

 

「あぁ、そうだね…」

 

そんな真面目な話をしていると…

 

「お~い、忍に海斗~」

 

イッセーが2人を呼びに来ていた。

 

「皆待ってんだから、さっさと来いよ!」

 

「あぁ、今行くよ」

 

イッセー達の所へと小走りで向かう忍と海斗だった。

 

………

……

 

終業式の終わった後の午後。

グレモリー眷属、紅神眷属、神宮寺眷属、紅崎姉妹、シスター・グリゼルダは兵藤家のVIPルームへと集まっていた。

 

来たるクリスマスで、駒王町にプレゼントを配って回るための作戦会議のためだ。

それも都市伝説ぐらいに留めた内容でだが…。

ちなみにシトリー眷属はアウロス学園の修復、修繕のためにギリギリまでこの会議には参加できないそうであった。

 

その後、イリナとシスター・グリゼルダの先導の下、一行は天界へと赴くことになったのだ。

ただ、人数が人数だけに今回は人数分の天使の輪っかが作れておらず、代表としてグレモリー眷属の他には忍と紅牙の二名だけが天界に赴くことになった。

 

その間、地上に残った紅神眷属と神宮寺眷属は神宮寺眷属の新たなメンバーである女王のはやての紹介を受けることになっていた。

 

一方で天界に行ったメンバーはセラフの住む天界の中枢である第六天『ゼブル』でミカエルと面会していた。

 

その夜、兵藤家ではイリナの父親『紫藤 トウジ』が来訪していた。

ミカエルからの手土産を持ってだが…。

その話はまた別の機会に…。

 

その一方で、紅神眷属は明幸の屋敷、神宮寺眷属はマンションへと既に帰宅していた。

 

そして、その真夜中のこと。

 

「……すぅ………すぅ…」

 

自室にて既に就寝していた忍の枕元に忍び寄る影が一つ。

 

「………………」

 

その者は、漆黒のローブにその身を包み込み、その手に白銀の長剣(刀身は白銀、刃渡り70cm、柄は空色、鍔はV字状、柄頭に小さな輪っかが付いた両刃の片手剣)を逆手に持って忍の喉元に向けて何の迷いもなく突き刺そうと長剣を振り下ろしたのだった。

 

この者の正体とは?

そして、忍の運命は…!?



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第九十四話『魚座の暗殺者』

終業式が無事終わり、日付が変わって本格的な冬休みとなろうとした真夜中のこと。

忍の自室で何者かが就寝中の忍の命を狙い、その凶刃を突き刺そうとしていた。

 

ザシュッ!!

 

襲撃者の凶刃は…

 

「………………」

 

忍の"いた敷き布団"を貫いていた。

当の忍本人はというと…

 

「あ、あっぶねぇ…」

 

冷や汗を流しながら布団から転がって抜け出ていた。

一歩遅ければ喉を貫かれていただろう。

もしそうなっていたら長剣を引き抜くか、横に移動させて頸動脈を断ち斬るかで失血させて忍の命を奪っていたに違いない。

いくら人間離れしてきた忍でも寝てる間に失血なんぞしたら死ぬ。

 

なら何故、忍はその襲撃を感知出来たのか?

それは彼の異常発達した嗅覚にある。

微かに漂ってきた見知らぬ匂いに対して体が反応し、忍は意識を無理矢理覚醒させたのだ。

その結果、状況は不明のまま布団から転がってやり過ごしたということになる。

そして、意識が徐々に覚醒していくとそれがどういう状況だったのか、鮮明に思い知らされることになったのだ。

 

「何者だ?!」

 

忍はすぐさま立ち上がると、襲撃者を観察する。

 

「………………」

 

漆黒のローブを纏ったその人物は喋ることもせず、手にしていた長剣を逆手から普通に持ち替えていた。

 

「ちっ…だんまりかよ…」

 

忍は思考を別の方向へと巡らせる。

それは結界である。

駒王町や明幸の屋敷の周辺にはそれなりに強固な結界が張られており、侵入者はまずそれに引っ掛かることになる。

少なくとも侵入者の報せは三大勢力にも届くし、エージェント達も目を光らせているのだから侵入は容易ではないだろう。

それなのに、三大勢力のエージェント達は目の前の侵入者に気付いた様子が見られないし、結界自体にも異常が無いのを忍は感知していた。

よほど高度な気配遮断能力や結界を潜り抜けるだけの高い技量を持っていなければ、こんな所までやってこれないだろう。

 

つまり…

 

「(相当な手練れで、且つ凄腕の暗殺者ってとこか…?)」

 

そんな思考に辿り着いた瞬間…

 

ヒュッ!

 

「………………」

 

特に詠唱や魔法名も言わずに風の刃を忍に放っていた。

それも首筋を狙って…。

 

「ッ!?」

 

ギィンッ!

 

即座に霊鎧装を展開し、その一撃を何とか受け流したのだが…

 

「(魔法!? それにこの感じは…)」

 

フェイトやシルフィー達が使っているものとは何かが根本的に違う。

そんな感覚が忍を襲っていた。

 

「………………」

 

忍が硬直した瞬間を見逃さず、暗殺者は長剣を手に突きを放つ。

狙いは……目。

 

「ッ!?」

 

一切の迷いのない突きに忍は戦慄を覚える。

 

「(急所を躊躇いもなく狙ってくるとか…マズいな…)」

 

ここは忍の自室。

それほど広いわけでもないが、派手に動くとなると狭いのは確かである。

それにあまり大きな音を立てれば皆を起こして余計に混乱する可能性も高い。

 

「(仕方ねぇ、か…!)」

 

忍は暗殺者の突きをしゃがむことで回避すると…

 

「ふっ!」

 

素早くその手を掴んで窓に向けて放り投げる。

 

ガシャアアンッ!!!

 

窓のガラスが盛大な音を立てて割れ、暗殺者を外へと放り出す。

 

「(とは言え、ここで逃がすつもりもないが…)」

 

忍もまた窓から外に飛び出そうとすると…

 

バッ!

 

暗殺者が纏っていた漆黒のローブを投げつけ、その広がったローブで忍の視界を塞いでいた。

 

「ちっ!」

 

舌打ちしながらローブを左腕で薙ぎ払うと…

 

ヒュッ!

 

「ッ!?」

 

何やら風を切る音がしたので、体を捻ってみる。

 

ドッ!

 

捻った体を掠るように魔力矢が自室の壁へと突き刺さる。

 

「(魔力矢!? 弓も隠し持ってたのか!?)」

 

それに驚いて暗殺者の方を見ると、その正体が月明かりに照らされていた。

 

「………………」

 

白銀の弓を構えているのは…膝まで伸びた紅髪と金色の瞳を持ち、年相応に整っていながらも可愛らしい顔立ちに豊満な部類に入る体型の少女だった。

しかし、その表情は感情が読み取れない無表情であり、その身には白銀色の鎧を纏っていた。

あと…心なしか鎧以外の衣服が見えず肌色成分が強いような気もしないでもない…。

 

「なっ…」

 

その姿に忍は言葉を失っていた。

 

「(お、女…? しかもその鎧は、まさか…!?)」

 

「………………」

 

忍が混乱している合間にも少女は弓を腰裏にしまい、腰に帯刀していた長剣を再び手にして忍に向かって走り出した。

 

「(来るか…!)」

 

それを正面から迎え撃とうとした時…

 

ブンッ…

 

一瞬にして少女の姿が消え、その気配も探れなくなっていた。

 

「なにっ!?」

 

その光景に驚く忍だが、すぐさまその場から退避することにした。

 

何故なら…

 

ヒュンッ!

 

「っ!?」

 

さっきまで忍がいた場所で風を斬るような音がした。

 

「(透明化!? それに気配がまるで感じられねぇ!?)」

 

この状況に混乱する忍だが…

 

「(だが、匂いは…微かにある…!)」

 

さっき感じた微かな匂いを頼りに回避に専念することにした。

動き続けなければ、立ち止まった瞬間…確実に急所を突かれる。

そんな予感があったからだ。

 

と、そこへ…

 

「しぃ君!」

 

「さっきの音は何なのよ?!」

 

「てか、何してんのよ?!」

 

さっきの窓ガラスが割れた音とこの騒ぎで起きた紅神眷属が縁側に集結していた。

 

「来るな! "こいつ"は俺を狙ってるらしい!」

 

忍の叫びに…

 

「"こいつ"?」

 

眷属達は首を傾げていた。

暗殺者が透明化してからやってきたので無理もないが…。

 

ザシュッ!

 

「ちっ…!」

 

すると、余所見をしたせいか、浅い一撃を受けてパジャマに血が滲む。

 

「しぃ君!?」

 

「な、何が起きてんのよ…?」

 

見えない何かが忍に傷を与えている。

そういう認識でしかないが、その仕組みを理解した存在がいた。

 

『……この反応…間違いありません』

 

スコルピアである。

 

「スコルピアちゃん?」

 

『……この透明化の持続時間の長さ…あなたなのでしょう? "ピスケス"』

 

すると…

 

『あぁ~、スコルピアだぁ~。おひさぁ~』

 

スコルピアの声に反応するように、そんな声が聞こえてきた。

 

「ピスケス……確か、魚座?」

 

そんな声がする中…

 

「やっぱり、エクセンシェダーデバイスだったか…!」

 

唯一暗殺者の姿を見ていた忍がそう漏らす。

 

「(微かな匂いを追うのにも限界がある。ならば…!)」

 

忍はそ中庭の中心でピタリと立ち止まってしまう。

 

「(勝負は一瞬。それは俺の生死にも関わるだろうが…何とかするしかない…!)」

 

すぅ、ふぅ、っと息を吐くと全神経を嗅覚に集める。

 

「(これまでの行動から、あいつは俺の急所を確実に狙って即死させようとしてきた。なら、そこに捕らえるための光明があるはずだ…!)」

 

正に己の生死を賭けた行動である。

一歩でも見極めを誤れば、そこに待つのは死のみ。

 

「(こんなとこで死んでたまるかよ…!!)」

 

暗殺者の微かな匂いを辿り、その時を待つ。

 

…………………………………………

 

一時の静寂がその場を支配する。

 

「くしゅんっ!」

 

すると、誰かのくしゃみが沈黙を破る。

 

…………ッ!!!

 

「(そこか…!!)」

 

忍は己の左後ろ側へと体の向きを変えると、そちらへ向かって突っ込む。

 

そして、次の瞬間…

 

ザシュッ!!

 

「ぐぅっ!!」

 

忍の心臓を狙っただろう一撃を忍は左手を前に出すことで、長剣を受け止めていた。

その結果、長剣は忍の手を深く貫き、その刀身の根元まで貫通していたが、僅かな差で心臓までは届かないでいた。

手を貫通したために剣の刀身が血で染まり、そこでやっと眷属達にも姿無き暗殺者の武器が見えることになる。

 

「捕まえ、た…!!」

 

剣で貫かれた左手でその剣を掴む。

 

が、しかし…

 

「………………」

 

暗殺者は剣を簡単に手放すと、即座にサマーソルトキックを放とうとしていた。

しかもその狙いは忍の顎であり、暗殺者の足にはスケートシューズのブレードのようなモノが備わっている。

 

「くッ!!?」

 

空気の流れから暗殺者がサマーソルトキックを放とうとするのを予見した忍は、その場から後退してしまう。

 

シュッ!

 

微かにそれが前髪に当たったのか、髪の毛がハラリと何本か斬れる。

 

「ッ!?」

 

さらに暗殺者の攻撃は止まらない。

 

ドドドドッ!!

 

「ぐぁっ!!?」

 

いつの間にか用意していたのか、4本の魔力矢が霊鎧装を展開している忍の肩口と太腿を正確に貫き、その動きを制限していたのだ。

 

「(ま、マズい…身動きが…!?)」

 

この至近距離で人体の急所を正確に射抜く技術もそうだが、武器を即座に捨て別の武器を用いる判断力の早さも並みではなかったようだ。

 

「しぃ君っ!!?」

 

智鶴の悲痛な悲鳴があがり、眷属達もそれぞれ忍を助けようとするのだが…如何せん暗殺者の姿が見えないので下手に動けないでいた。

 

「………………」

 

身動きの取れない忍に対し、姿無き暗殺者はその弓の狙いを忍の額に定めていた。

あとは弓の弦を引いて放すだけで決着が着く。

忍の死…という決着が…。

 

「くっ…」

 

流石に詰んだ…。

そう考えてしまうくらいの窮地に陥ってしまった忍は…。

 

「…………」

 

まるで観念したかのように目を閉じる忍だった。

だが、その瞬間…全神経を嗅覚から聴覚へと移行させていたのだ。

 

「(微かな音を聞き逃すなよ、俺…)」

 

この至近距離からなら、忍は音を聞き取れるはずだと暗殺者の一挙手一投足に耳を傾けていた。

 

キィィ…

 

静かに弦が引かれる微かな音を忍の聴覚が拾う。

 

そして…

 

バチュンッ!

 

その弓が矢を放った瞬間…

 

「(ここだ…!!)」

 

忍は目を見開き…

 

「破ァッ!!」

 

龍気による衝撃波をドーム状に放っていた。

 

「…………っ!?!?」

 

その衝撃波を受けて魔力矢は弾かれ、暗殺者はまるでドラゴンと対峙した時に感じる威圧感をその肌で感じていた。

 

「ブースト!」

 

その僅かな隙を見逃さず、今度は忍が背部に魔法陣を展開し、そこから魔力を放出して体を目の前の空間に体当たりの要領で突っ込む。

 

ドンッ!!

 

至近距離からの体当たりをもろに喰らった暗殺者は忍の体ごと一緒に中庭に倒れ込むことになる。

 

ドサッ!!

 

「っ、つぅ~…」

 

忍は何とか妖力で無理矢理回復させた四肢に力を入れて四つん這いの形になると、倒れた先の空間を見る。

 

すると…

 

ブォンッ…

 

「………………」

 

暗殺者の姿が見えるようになった。

その表情は…相変わらずの無表情だったが…。

 

「お前…一体、何者なんだよ…?」

 

「………………」

 

その問いに答えず、暗殺者の少女は不意に視線を別方向に向ける。

 

「?」

 

それを追って忍もそちらを向くと…

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!!

 

何故だか、お冠な眷属達の姿があった。

 

「え゛っ…」

 

忍は即座に固まった。

 

まぁ、当然と言えば当然かもしれない。

何しろ、今の忍の状態と言えば…真夜中、中庭でやけに肌色成分の多い鎧姿の少女を押し倒して襲ってる様に見えるのだから…。

いくら暗殺者の襲撃を受け、危ない目に遭ってしまったとは言え…今この瞬間だけを見た奴がいるのなら、"立場が逆ではなかろうか?"と思えてならないからだ。

しかも忍はそれが少女であるという情報を一切言ってなかったのもいけなかった。

その事実を知り、この状態を見た眷属達の大半は嫉妬の炎で燃えていたのだ。

冬だというのに、妙に暑くなったような錯覚に陥る程に…。

 

「いや、その…違うんだ! 俺は被害者であって加害者では…!?」

 

固まった状態からすぐさま回復すると、忍は弁明を開始する。

 

「………襲われる?」

 

が、忍の下にいる少女が首を傾げながらそう問うてきた。

 

「ち、ちがっ!? てか、お前が先に俺の命をだな!?」

 

「………………」

 

忍の声を無視して少女はだんまりを決め込む。

 

「しぃ君…?」

 

先陣を切るのは眷属の女王であり、正妻の智鶴だった。

その身には既にスコルピアを纏っていたりする。

 

「ち、智鶴!? これは、違うんだ!? 俺は決して…」

 

「しぃ君」

 

「は、はい!?!」

 

智鶴の冷たい一言に佇まいを改める忍。

 

「少し、お話しましょ?」

 

「えっと…そ、それは…」

 

「お・は・な・し、しましょ?」

 

「……………………はい…」

 

有無を言わせぬ物言いに忍は従うしかなかった。

 

こうして忍は命を狙われた挙句、お説教をされてしまったのだった。

当然ながら暗殺者の少女の身柄は拘束され、明幸の屋敷でその身を預かる事となった。

 

………

……

 

次の日。

午前中のこと。

 

「…はぁ…」

 

なんだかげっそりとした様子の忍が訓練世界(第47無人世界)にいた。

 

「忍の奴、一体どうしたんだ?」

 

「昨日は至って普通に見えたが…?」

 

「さぁ?」

 

イッセー、紅牙、木場が忍の様子を遠目から見ていると、忍に近付く影が一つ。

 

「紅神 忍、何かあったのか?」

 

ヴァーリであった。

 

「珍しいこともあるものだ」

 

珍しい光景にしばし様子を見ていると…

 

「あぁ…ヴァーリか。いや、ちょっと昨日の夜、暗殺されかかってね」

 

「ほぉ? 君を暗殺か」

 

その会話を聞き…

 

「「「暗殺!?」」」

 

イッセー達も驚いて忍の周りに集まる。

 

「大丈夫だったのかよ!?」

 

「何故、知らせなかった!」

 

「というか、よく結界に入り込めたね。それほどの実力者だったのかい?」

 

「強かったのか?」

 

皆一様に忍に尋ねていた。

約一名、心配してるかどうか怪しい発言もあったが…。

 

「あぁ、皆…おかげさまで何とか捕まえることは出来たよ。今は屋敷で拘束して暗七やカーネリアが見張ってる。午後になったら事情聴取するつもりだ」

 

忍はなんだか生気のない返答をしていた。

ちなみに昨夜受けた傷は既に塞がっているから問題はない。

問題があるとしたら…心、だろうか?

 

「ありゃ凄腕の暗殺者だった。身のこなし、急所を狙う迷いの無さ、咄嗟の判断力…どれを取っても並みの相手じゃなかった。それに…魚座の選定者だったし」

 

「ほぉ、それは興味深い」

 

「なにっ!?」

 

忍の話にヴァーリが珍しく興味を持ち、魚座の件の辺りで紅牙は驚いていた。

 

「いやぁ…寝てるとこに襲い掛かって来られてな。危うく死ぬとこだった…」

 

「ホントに無事で良かったぜ」

 

「そうだね」

 

忍の言葉にイッセーと木場が安堵する。

 

「魚座…一体、どんな能力を持っていた?」

 

紅牙は魚座のエクセンシェダーデバイスの性能を聞いていた。

 

「う~ん…あの感じだと多分、固有魔法は使ってなかったと思う。透明化はしてきたが…その上に気配も全然感じられなくてな…」

 

「透明化…確か、幻術魔法の一種だったか。それほど燃費は良くないと聞いたが…」

 

「多分、コアドライブでそれを補ってるんだろ。ただ、アレが魔法だったかと言われると、ちょっとわかりづらくてな」

 

「わかりづらい?」

 

「ん~、なんていうかな? 一回だけ魔法名も詠唱も無しに魔法を使ってきてな。それがわかりづらい要因になってるんだよ」

 

「魔法の無詠唱に魔法名も明かさないか……確かにわかりづらいな…」

 

「だろ? ま、詳細がわかればまた教えるさ」

 

「そうか」

 

忍と紅牙の会話を横で聞いていたイッセー達は…

 

「それにしても…忍君が暗殺されるなんて…」

 

「まぁ、当然だろう。次元辺境伯なんてものを疎ましく思う者達も増えてきた、ということだろうからな」

 

木場とヴァーリがそれぞれ口にする。

 

「それに暗殺されかかったのなら元気ないのもわかるけど…なんか、それだけじゃなくね?」

 

そんなイッセーの言葉に…

 

「わかるかい?」

 

忍は瞳の光がやや失い掛けながらもそう言っていた。

 

「「(一体、何があった?)」」

 

イッセーと紅牙が同じことを考えていると…

 

「いや…その暗殺者ってのが"女"でな…それを最後、捕まえる時に不可抗力で押し倒しちまって…智鶴達に在らぬ誤解を与えてしまい……最終的にお説教されてしまいました…」

 

忍はそんなことを独白していた。

暗殺未遂の直後だったため、むしろこちらの方が効いたのではなかろうか?

 

「「………………」」

 

「あ~」

 

「なるほど、それで…」

 

ヴァーリと紅牙は無言となり、イッセーと木場も視線でご愁傷さまと語っていた。

 

「違うんだ…ありゃ事故であって故意じゃないんだ…」

 

そして、忍はブツブツと何やら呟き出す。

 

「こりゃ傷が深そうだ…」

 

「やれやれ…」

 

そうして午前中のトレーニングは、忍はあまり身が入らなかったという…。

 

………

……

 

そして、その日の午後。

 

イッセー達はイリナの父親である紫藤局長と一緒に遠出していた。

クリスマスで配るプレゼントの下見などをするためだ。

 

そんな中、雨が降る。

その雨の中を一人の男性がイッセー達の前に現れる。

名は『八重垣 正臣』。

元教会の戦士にして、紫藤局長の元部下であり、既に"死んだ"はずの存在。

その手には『霊妙を喰らう狂龍(ヴェノム・ブラッド・ドラゴン)八岐大蛇』の魂を宿した修復中だった神霊剣『天叢雲剣』が握られていた。

 

今の彼は憎悪によって動いていると言っても過言ではなかった。

彼は復讐のために紫藤局長の命を狙い、既に教会の関係者も襲撃していた。

その中には、なんとバアル家の関係者もいたのだ(その事実をイッセー達が知るのはもう少し後になるが…)。

 

そして、八岐大蛇の力を解放した天叢雲剣を振り下ろす八重垣。

その八つの首はそれぞれが独立して動いており、攻防一体の役割も担っていた。

その中の一つが、紫藤局長とアーシアを襲おうとするが、寸でのところでロスヴァイセの魔法陣がその襲撃を阻止する。

しかし、破裂した頭部から牙が飛来し、紫藤局長の肩を掠めてしまう。

傷はアーシアが塞いだものの、その毒は確かに紫藤局長の体内に入り込んでしまったのだ。

 

その直後、リアスを除く残りのオカ研メンバーが揃うのを見ると、八重垣は撤退していた。

その転移魔法陣は…クリフォトが使うものだった。

 

………

……

 

そんな出来事が起こる少し前。

イッセー達が遠出した頃、明幸の屋敷ではというと…

 

「さて…それじゃあ、事情聴取といきますか」

 

屋敷の居間、午前中で何とか調子を取り戻した様子の忍がそう切り出す。

ちなみに居間の中と外には紅神眷属と紅崎姉妹が集合しており、ちょっと手狭に感じる。

 

「………………」

 

暗殺者の少女は居間の中心に座らされ、昨日の漆黒のローブを纏っていた。

フードの部分は脱いでおり、今回は最初から顔を見せていた。

それと逃げられないように少女の周りには結界が張られている。

 

「まずは…そうだな。名前を聞かせてくれないか?」

 

手始めに少女の名前を聞いてみるが…

 

「………………」

 

当然ながら答えは返ってこない。

 

「(まぁ、そう簡単に口を割るくらいなら暗殺者なんてしてないか…)」

 

ある意味で想定通りの反応に忍は困ったような表情になる。

 

「(さて、どうするかな…)」

 

少女を観察し、忍はどう切り崩すか考える。

 

「(ん? というか、ちょっと待てよ?)」

 

ふと、ある違和感を覚える忍だった。

 

「誰か、この娘にローブを返したか?」

 

そんな問いを眷属達にする。

 

「え?」

 

「ローブ?」

 

「何のことよ?」

 

忍の問いに眷属達は首を傾げる。

 

「(どういうことだ? そういえば、捕まえた時は確かに鎧姿のままだったはず…それがいつの間にローブ姿に…いや、ローブの存在は智鶴達が来る前に俺が、薙ぎ払ってたから中庭にまだ落ちてる可能性も…………!!)」

 

そこで忍は何かに思い至ったのか、結界を解いて少女に近寄ると…

 

「おい! お前は本当に"実体"なのか!?」

 

そんなことを聞きながら少女の肩をグラグラと揺する。

 

「ちょっと、忍!?」

 

「危ないよ、しぃ君!」

 

そんな忍の様子に暗七と智鶴が駆け寄る。

 

すると…

 

「……………」

 

ザ、ザザ…!

 

揺さぶられていた少女の体がまるでノイズが走ったかのようにブレ始める。

 

「これは…!?」

 

『……ファンタズマ…!』

 

『やられましたね。これは…虚像です』

 

その少女の姿に驚いた忍にスコルピアとアクエリアスが口を揃えて言う。

 

「虚像!? 私とカーネリアの目を盗んでそんなことしたの!?」

 

暗七は油断したつもりはなかった。

カーネリアは知らないが、少なくともそんな隙を見せた気はなかった。

 

「なら、本体は…!?」

 

「既に逃げてるでしょうね…」

 

「い、いつの間に…」

 

少女の虚像が消え去るのを見て眷属達が驚愕していた。

 

「気配遮断に虚像、透明…それらを駆使した暗殺者、か…」

 

「坊やも厄介なのに目を付けられたわね」

 

忍の呟きにカーネリアは微笑みを見せていた。

 

「勘弁してくれ…」

 

その言葉に忍は頭を抱えてしまった。

 

せっかく捕まえたはずの暗殺者は既に逃亡していた。

その事実に紅神眷属は慌てて捜索しようとするが、相手はプロ。

そう簡単に足取りを追えるはずもなく、結局は捜索自体無駄だと忍に言われて断念せざるを得なかった。

つまり、忍はまた暗殺者に狙われることになるだろう。

今度はいつ来るのか…。

 

そんな対策を考える間もなく、忍の元に連絡が入る。

遠出していたイッセー達がクリフォトに襲撃されたというものだ。

その中で、紫藤局長は邪龍の毒を受けたことも伝わっていた。

 

大事なクリスマスの前にこのようなことが起きるとは…。

だが、これだけでは終わらない。

復讐の使徒は…何も八重垣だけではない。

 

もう一組の復讐者もまた…動き出そうとしていた。

それは今の忍にとっては決して避けては通れない、ある種『負の遺産』とも言えるものだからだ。

そのもう一組の復讐者とは…。



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第九十五話『残酷な真実と復讐の魔女』

紫藤局長が邪龍の毒を受け、天界へと移送される直前のこと。

 

紫藤局長は襲撃者、八重垣のことを集まったD×Dのメンバーに話していた。

彼が元部下であり、教会側によって粛清されて既に亡くなっていたことを…。

その切っ掛けとなったのが…上級悪魔との禁じられた恋だったということを…。

その上級悪魔の名は…『クレーリア・ベリアル』。

 

紫藤局長が天界に移送された後、集まっていたD×Dのメンバー(グレモリー眷属+イリナ、紅神眷属+紅崎姉妹、神宮寺眷属)の中でグレモリー眷属とイリナだけが冥界、グレモリー城へと赴いていた。

 

その応接室にて彼らを待っていたのは…大王バアル家初代当主『ゼクラム・バアル』であった。

まさかの超大物の出現に言葉を失う一行。

そこでゼクラムは駒王町や前任者・クレーリアの時に起きたことを語る。

 

駒王町は元々、グレモリーとバアルが共同で管理していた地域であった。

しかし、一時は駒王町は上流貴族の子息子女の経験のために短期間貸し与えていたことがあるらしい。

その中の一人が前任者のクレーリア・ベリアル。

レーティングゲーム現王者『ディハウザー・ベリアル』の従姉妹だった。

 

クレーリア・ベリアルの運営は順調だったが、彼女はある人間の男性と通じてしまった。

それが当時、教会の戦士であった八重垣 正臣だった。

悪魔と教会…双方はそれぞれの立場からクレーリアと八重垣の説得を試みた。

しかし、2人の仲は既に深いところまで行っていたらしい。

2人の仲を強引に引き裂こうとし、悪魔と教会は結束したという。

それぞれの体裁を守るために…。

 

結果的に2人は粛清…亡くなった。

しかし、それは業を煮やした教会側、もしくは悪魔側…今でこそ真偽は不明だが、2人に手を出して互いの不備を正したのだ。

 

悪魔側は一時的に駒王町を縄張りにする悪魔がいなくなり、主を守ろうとした眷属悪魔も始末され、生き残った悪魔も十分な"褒美"を受け取って僻地へと飛ばされたという。

 

教会側は人事異動という整理が行われ、ある者は恩賞によって役職を得、ある者は自らの手で仲間を粛清したために自己の正義と神への信仰の狭間で苛まれて心を崩したという。

 

その話はグレモリー現当主であるリアスの父も初耳だという。

そして、ゼクラムは早めに後任者を決めなければいらぬ邪推も飛び交う可能性があったと語る。

たとえ、今回のように事件が明るみになっても有望な若手悪魔ならその事件を上書きする程の功績を立てるだろう、と…。

事実、リアスは駒王町で輝かしい実績を積み重ねており、それに加えてあの地は三大勢力の和平の場としての意味合いも強かった。

過去の出来事を上書きするには過分とも言える功績である。

 

ちなみにこの事実は既にサーゼクスには伝えてあるという。

妹への愛情とバアルの意思との狭間で葛藤した上で、サーゼクスは妹に過去の出来事を隠し、あの地を預けた。

その事実にリアスを語気を強めて反論めいたことを言う。

それをゼクラムは若いと称する。

 

その際、ゼクラムはイッセーに対し、『将来、魔王でもやってみたらどうだね?』と言っていた。

当然ながらイッセーも困惑した。

魔王のポジションはあのサイラオーグ"ですら"狙えると言い、イッセーの人気も鑑みて"出来る"と言い放っていた。

 

その後、ゼクラムは悪魔の在り方…『悪魔』とは、古くから伝わる上級悪魔の血縁者を指し、それ以外は眷属…下僕であり、本当の悪魔ではない…平民と転生者であると語る。

リゼヴィムやユーグリットが語る邪悪である必要性はないとも語り、貴族社会を未来永劫存続させることが『悪魔』のすべきこと、だと…。

 

そうして、ゼクラムの話は終わり、彼は退席していった。

その際、リアスはハッキリとイッセーを愛しているのだと宣言。

ゼクラムもまたイッセーに対し、上級悪魔になるべきだと伝えていた。

そして、こうも付け加えていた。

『アグレアスは何としても奪取した方がいい』、と…。

一体、あの空中都市には何があるというのか…?

 

………

……

 

ゼクラムの話の後、リアスの父とも今後の話をした。

ともかく、まずは迫りくる危機を迎え撃たねばならない。

過去の詮索はそれからでも遅くはないという結論に達していた。

リアスの父は事情を話してもらうようにベリアル家と交渉するつもりらしい。

 

その後、イッセー達はグレモリー城を後にして駒王町に戻り、事の顛末をD×Dのメンバーに話していた。

 

「和平前はな…どうしようもない出来事なんて、割りとよく起こってたよ…」

 

その話を聞き…アザゼルが一言、そう漏らしていた。

 

「もしかしたら…お祖父様も知っていたのかしら…?」

 

智鶴は祖父の名を挙げていた。

 

「そうか。明幸家は…ここを古くから拠点としてる極道の一族…この件に関与してる可能性も…」

 

「少なくとも、悪魔側に寄ってたから…知らないはずはないと思うけど…」

 

「俺達の知らない間に起きた悲恋、か…」

 

「お祖父様にも事情を聞かないといけないかもしれないね…」

 

忍と智鶴がそのような話をしていると…

 

「それなら、私も同行するわ」

 

「私も行きます!」

 

リアスとイリナが同行を申し出ていた。

 

「なら、お祖父様に会いに行くのは私としぃ君、リアスちゃん、兵藤君、イリナちゃんだけでいいかしら? あまり大勢で行くとお祖父様の体に障るし…」

 

「御屋形様はご病気だったかしら?」

 

「「(御屋形様!?)」」

 

リアスの『御屋形様』呼ばわりにイッセーとイリナは内心で驚いていた。

 

「えぇ…今は敷地の山奥にある離れで療養中なの」

 

それを気にする様子もなく智鶴は頷いていた。

 

「なら、早いところ行きましょう。あまり遅くなっても迷惑でしょうし…」

 

「そうね」

 

そうして智鶴の先導で忍、イッセー、リアス、イリナは一路、明幸の敷地内にあるという山奥の別荘へと武空くのだった。

 

 

 

そして…

 

「ここが、離れ…」

 

一行が山奥へと登った先にあったのは木造建築の一階建ての離れだった。

 

「今はここにお祖父様が暮らしているの」

 

そう言って智鶴が離れの呼び鈴を鳴らすと…

 

「お祖父様。お久しゅうございます。智鶴です」

 

離れの中に聞こえるように声を掛けていた。

 

すると…

 

『おぉ、智鶴か。よく来たな』

 

玄関に設置されたスピーカーから老人にしては貫禄のある声が聞こえてきた。

 

「突然の来訪、申し訳ありません。今日はお祖父様に聞きたいことがあって参上しました」

 

『聞きたいこと?』

 

「この駒王町、リアス・グレモリーの前任者…クレーリア・ベリアルについてです」

 

怪訝に思う祖父に対し、智鶴は堂々と言い切っていた。

 

『……………ッ!? 智鶴、何故その名を…!!』

 

驚いたように祖父が言うと…

 

「その問いは…客人の顔ぶれを見ていただければお分かりになるかと…」

 

『……………』

 

その答えに祖父はしばし考えてから…

 

『…………わかった。客人も一緒に通しなさい』

 

「はい、お祖父様」

 

カチッ!

 

智鶴が返事をすると玄関の鍵が開く音がする。

 

「さぁ、行きましょう」

 

「えぇ…」

 

「は、はい」

 

「…………」

 

「うぅ、なんか緊張するな…」

 

智鶴を筆頭にリアス、イリナ、忍、イッセーの順に離れに入っていく。

 

そして、一番奥の部屋の前に着くと…

 

「入りなさい」

 

気配を察したのか、中から老人の声が聞こえてくる。

 

「失礼します」

 

智鶴を先頭に忍達も部屋の中に入ると…

 

「ようこそ、いらっしゃいましたな。リアス嬢」

 

ベッドに横たわっていた老人…智鶴の祖父が上体を起こしてリアスに挨拶していた。

 

「えぇ、ごきげんよう。御屋形様」

 

リアスもまた智鶴の祖父に挨拶していた。

 

「して、智鶴。そちらの3人は?」

 

リアスはともかく、忍とも面識がありそうだが、智鶴の祖父は見覚えがなさそうに首を傾げる。

 

「ご無沙汰しております。お会いになるのは今年の年始以来ですね。紅神 忍です」

 

その場に正座し、佇まいを正すと忍はそう挨拶していた。

 

「なんじゃと!? あの小僧だというのか!?」

 

「この数ヵ月で色々あり、こうしてご報告が遅れたこと、申し訳なく思っております」

 

「むぅ…」

 

未だ信じられない様子で智鶴の祖父は忍を見る。

 

「あ、えっと…俺は兵藤 一誠です。リアスの兵士をやってます」

 

「紫藤 イリナです。転生天使です」

 

忍に続くようにイッセーとイリナも挨拶すると…

 

「紫藤、だと…?」

 

イリナの姓に聞き覚えがあったのか、反応する。

 

「やはり、ご存知でしたか?」

 

「む…」

 

しまった、というような表情をするが…

 

「ここに来る前にゼクラム・バアル様より大まかな話を聞いております。前任者と、教会の戦士の悲恋も…」

 

リアスがそう口にする。

 

「………そうか。もう、ご存知でしたか…」

 

諦めたように智鶴の祖父はそう漏らす。

 

「お祖父様は、ご存じだったのですか? その前任者、クレーリア・ベリアルさんのことを…?」

 

「あぁ…少しだけ世話をしたのを覚えておる。そして…その後の顛末と、"あの悲劇"も…」

 

そう語る智鶴の祖父は悲しそうな表情となる。

 

「あの、"悲劇"…?」

 

智鶴がその単語に首を傾げると…

 

「そのバアルの者が語ったのがどのような内容かは知りませぬが…きっとそれはまごうことなき事実だ。それを我々もまた秘匿してきた」

 

「そう、でしたか…」

 

智鶴の祖父の言葉にリアスもそう呟いていた。

 

「だが、よもやあのようなことも起きようとは…」

 

「一体、何が起きたのですか?」

 

智鶴の祖父の呟きにリアスが尋ねる。

 

「あの時…クレーリア嬢を守って散ったのは…何も悪魔だけではなかった」

 

「それって…どういう…?」

 

智鶴の祖父は意を決したように孫の顔を見て言い放つ。

 

「智鶴。お前の両親もまたクレーリア嬢を守ろうとして、この世を去ったのだ」

 

「え…?」

 

その言葉に智鶴は頭を工具で殴られたような衝撃を受ける。

 

「え……だ、って……え…?…お父様とお母様は、事故で死んだって…」

 

「すまない…それは嘘なのだ。本当はクレーリア嬢とあの若者を庇って死んだのだ…」

 

「う、そ…」

 

「「智鶴!?」」

 

その場で崩れ落ちそうになる智鶴を忍とリアスが支える。

 

「当時、あの件に関わることを儂は頑なに禁じていた。悪魔と教会の問題だ。そこに首を突っ込めばただでは済まされないことは目に見えていた。だからこそ、儂は悪魔側の要請もあって見て見ぬふりを決め込んでいた。だが、それを娘夫婦は良しとは思わなんだ。それに娘夫婦はクレーリア嬢と個人的な繋がりを持っていたようでな…」

 

その様子を見ながらも智鶴の祖父は更なる真実を語り始める。

 

「だからかもしれん。あの時のあやつらは儂の命に背き、クレーリア嬢の元へと駆け付けていた。"友"を、助けたいと思ったからかもしれん。だから、儂は信頼を置く者…狼牙と共にあの場へと駆け付けた」

 

「親父も…知っていたっていうんですか?!」

 

「あぁ…当時、儂の側近で悪魔と対等に渡り合える強者は狼牙しかおらんかったからな。だが、儂と狼牙が駆け付けた時にはもう…全てが終わった後だった。その時、当時の教会の戦士の一人、紫藤と出会った」

 

「パパと…」

 

「うむ……結局、クレーリア嬢とあの若者は粛清され、それを庇った者も死んだとそやつから聞かされ…儂は…後悔した。あの時、もっと強く言い含めておれば…あの時、娘夫婦にクレーリア嬢を紹介しなければ…そんなことを考えていたよ」

 

智鶴の祖父はその拳を強く握り締めていた。

 

「だが、結果として智鶴から両親を奪ってしまった事には変わりなかった。そのことで悪魔や教会に報復しようかとも思った時期もあった。しかし、それと同時期に狼牙もその妻と一緒に行方がわからなくなっての。真相を知る者が減ったことで儂も悪魔側の要請に従うしかなかったんじゃ。それだけ自分と悪魔との決定的な差というものを知っておったのでな…」

 

それはつまり…その時、狼牙がいたらまた違った結末になっていたかもしれない、ということだろうか?

たかだか人が悪魔に喧嘩を売るとなると…それ相応の戦力と覚悟がいるだろう。

しかし、智鶴の祖父は…生きることを選んだ。

 

「儂は…娘夫婦の死は事故死ということにした。そして、智鶴に真実を告げぬまま今日まで生きてきた。しかし、クレーリア嬢のことを聞きに来たお前達を目の前に…儂もいつまでも隠し通すことが出来ないと思ったんじゃ。だからこそ、今ここで話をしたんじゃ」

 

「………………」

 

「まさか、このような日が来るとは……いや、いずれは暴かれる真実だった。もしかしたら、今日まで孫を欺いてきた報いなのかもしれんな…」

 

まるで自嘲するかのように呟きながら智鶴の祖父は目を閉じる。

 

「当主。一つ、願いがございます」

 

リアスに智鶴を任せた忍は、智鶴の祖父の前へと移動する。

 

「しぃ、君…?」

 

「なんじゃ?」

 

智鶴と智鶴の祖父が怪訝に思っていると…

 

「智鶴を…俺の"嫁"にすることをお許しください。そして…」

 

忍は…

 

「明幸組の全権を俺にお譲りください」

 

そう申し出ていた。

 

「っ!?」

 

「なっ…」

 

忍の申し出に智鶴と智鶴の祖父は言葉を失う。

 

「小僧。その言葉がどういう意味か、わかって言ってるんだろうな?」

 

「無論です」

 

智鶴の祖父の問いに忍は一切の迷いなく言い切る。

 

「………………」

 

智鶴の祖父は忍の眼を見る。

 

「………………」

 

それを忍は真っ向から受け止める。

 

「…………いずれにせよ、儂の後継者は決めねばならぬ、か…」

 

その眼に覚悟を見た智鶴の祖父は…

 

「………いいだろう。次の年末年始の総会にて儂の後継者としてお主を指名しよう。智鶴の…夫として、な…」

 

そう静かに承諾していた。

 

「ありがとうございます…!」

 

そう言い、忍は頭を下げる。

 

「じゃが、お主は未だ学生の身。卒業か、成人するまでの間は儂が当主で居続けよう。何よりも…曾孫をこの目で見るまでは、な…」

 

「お祖父様…!」

 

「智鶴よ。これが儂に出来る償いなのかもしれぬ……虫のいい話かもしれぬがな…」

 

そう告げて智鶴の祖父はその身をベッドに預けていた。

 

「なんだか、とんでもない場面に出くわしたな…」

 

「私達、完全に空気になってたよね…」

 

イッセーとイリナがそのようなことを言ってこの訪問は幕を閉じるのだった。

 

………

……

 

その帰り道。

 

「すっかり遅くなっちゃったわね」

 

離れから出て数分、すっかり暗くなった山道を歩く一行。

 

「…………」

 

その中で智鶴は少し沈んでいた。

 

それはそうだろう。

ずっと事故死だと思っていた両親の本当の死が今回の件に関わっていたなんて思ってもみなかったのだから…。

 

「智鶴…」

 

その智鶴を気遣い、智鶴の側を歩いている忍。

 

「それにしても…あの忍の発言には驚かされたわ」

 

暗い雰囲気をどうにかしようとイッセーがさっきのことを話す。

 

「確かに…ちょっと憧れちゃうかも」

 

「俺もあれくらい言えた方がいいのかな…?」

 

そんなことを真剣に悩むイッセーに…

 

「あら、だったら私の両親に言ってみたら? きっとお二人も喜ぶと思うのだけれど…」

 

「え……そ、それは…」

 

リアスの思わぬ言葉にイッセーは一瞬固まってしまう。

 

「し、忍はどう思う!?」

 

「え…? やっぱり、決める時は決めた方がいいと思うけど…?」

 

いきなり振られた話題だが、聞いてたらしく忍はそう返していた。

 

「そりゃ、お前はもう決めたからいいけどよ…!」

 

「まぁ、ガンバ?」

 

「なんで疑問形なんだよ!?」

 

そんなことを言い合っていると…

 

ブォン…!

 

山道を歩いていた一行の周囲を謎の結界が張られる。

 

「クリフォトか…?」

 

「もしかしたら、明幸先輩のお祖父さんを狙って…?」

 

「だったら、もっと早い段階で狙ってきそうなものだけど…」

 

イッセー達が警戒している横では…

 

「ッ!?」

 

結界が発動した瞬間、忍の体に異変が起きる。

 

「(なんだ…この、妙に息苦しい感覚は…?)」

 

「しぃ君…?」

 

自分の胸倉を掴む忍の姿に智鶴が怪訝な表情をする。

 

そんな中、前方より二つの影がやってくる。

影からして背の高い方と低い方がいるのがわかる。

 

「5人、ですか」

 

声を発した背の高い方の人物は、肩に掛かる程度の青みがかった銀髪と藍色の瞳を持ち、冷たい印象の綺麗な顔立ちに引き締まった体型の女性だった。

 

「………………」

 

逆に黙っている背の低い方の人物は、腰まで伸ばした赤みがかった銀髪を細長い青いリボンでツーサイドアップに結い、薄紫色の瞳を持ち、小動物のような愛らしさを持った可愛らしい顔立ちに線が細く華奢でスレンダーな体型の少女だった。

ただ、無表情ではあるものの、顔色が忍と同じくらい優れていないのが傍目からでもわかる。

 

「何者?」

 

リアスが警戒しながら尋ねると…

 

「あなた達悪魔や天使に用はありません。用があるのは…」

 

そう言った瞬間、女性から圧倒的な敵意と憎悪が忍を射抜く。

 

「俺…?」

 

その憎悪を向けられた忍は訳が分からなかった。

 

「………"黒い狼"…」

 

「?」

 

「"あいつ"の、仲間…!!!」

 

女性が声を荒げると…

 

「死になさい! 狼ッ!!」

 

問答無用で忍に向かって特大の魔力弾が放たれる。

その攻撃に対して…

 

「くっ…」

 

忍はその場で膝を着いてしまう。

 

「しぃ君!?」

 

「忍!?」

 

いつもの忍なら回避や防御出来るはずの攻撃だが、この結界が発動してから忍の様子がどうにもおかしい。

 

「ちっ!」

 

即座に禁手化したイッセーが前に出ると、女性の放った魔力弾を殴り飛ばす。

 

「邪魔立てするか、赤龍帝!!」

 

女性の視線を受けながらも、まだ多少の距離がある余裕から…

 

「おい、忍! らしくないぞ! これくらいお前なら…」

 

イッセーが忍に叱責するようなことを言うが…

 

「智鶴やイッセー君達は…平気なのか…?」

 

忍は苦しそうにそう呟く。

 

「は? 何が?」

 

何のことかわからないイッセー達も困惑する。

 

「この結界が発動してから…どうにも息苦しくてな…正直、今にもぶっ倒れそうなんだよ…」

 

「え…? でも、私達は…」

 

何ともない、そう言いかけた時…

 

領明(えりあ)。赤龍帝を足止めなさい。私はその間に狼を…!!」

 

「………うん、"お母さん"…」

 

女性を"母"と呼ぶ『領明』と呼ばれた少女がイッセーに向かって突撃する。

 

「なっ、イッセー相手に1人だなんて…!」

 

「私達もいるのに、いくらなんでも無謀だよ!」

 

リアスとイリナがイッセーに加勢しようとするが、相手が1人…それも女の子ということもあって少し躊躇してしまう。

しかもイッセーを相手に少女をぶつけるとは…正気とは思えなかった。

 

だが、女性も何の勝算もなく少女をぶつけた訳ではない。

その理由とは…。

 

「………『キャンサー』」

 

そう呟いた瞬間、少女の前に"白銀の蟹"が現れる。

 

『は~い、お呼びでしょうか? マイマスター』

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

何とも和やかな声の蟹の出現に一行も驚く。

 

『……っ!?』

 

『キャンサーだって!?』

 

スコルピアとアクエリアスもかなり驚いていた。

 

『あら~、スコルピアにアクエリアスではありませんか。ご無沙汰しております』

 

スコルピアとアクエリアスに気付き、キャンサーも手短な挨拶をする。

 

「………キャンサー、アーマー…」

 

『はいはい。かしこまりました』

 

少女の声にキャンサーは即座に鎧となって少女の身に装着される。

 

「………」

 

少女は腰に帯刀した二刀を抜き放つと、イッセーに斬り掛かっていた。

 

「ちっ!?」

 

その二刀を両腕の籠手で受け止める。

 

「(軽い! この娘、もしかしたら…近接系じゃない…?)」

 

そう思った矢先…

 

ダンッ!

 

少女の背中に備わった歩脚の一番下が魔法陣を作り出し、それを蹴ってイッセーの頭上へと移動すると…

 

くるんっ…

 

「………クレッセイション…」

 

イッセーの頭上で素早く一回転した少女はイッセーの背後からクロスした魔力斬撃を至近距離から放っていた。

 

「ぐわっ!?」

 

その軽業師のような一撃にイッセーも少しよろめく。

 

「イッセー!?」

 

「イッセー君!?」

 

リアスとイリナが声を上げるが…

 

「大丈夫! それほど騒ぐことでもない! それよりも2人は忍を…!」

 

イッセーはそう言ってリアスとイリナを忍達の方へと行かせようとする。

 

「………行かせない…」

 

シュッ!

 

言うが早いか、少女は背部の一番上の歩脚から魔力鋼糸を照射し、リアスとイリナを捕まえる。

 

「なっ!? これって…!?」

 

「魔力鋼糸!?」

 

魔力鋼糸によって拘束された2人を見て…

 

「2人を放せ!」

 

振り向き様にイッセーが少女を殴ろうとする。

 

「………っ…」

 

少女はそれを二刀をクロスさせることで防ぐも、後ろに吹き飛ばされてしまう。

 

『まぁまぁ、乱暴なこと』

 

それに合わせるようにしてキャンサーが魔力鋼糸で捕まえた2人をイッセーに向かって投げ飛ばす。

 

「「きゃっ!?」」

 

「うぉっ!?」

 

その2人を受け止めながらイッセーも少し後退ってしまう。

 

「………水よ…結界となれ…」

 

その隙を見逃さず、少女は魔力と霊力を混ぜた水の結界をイッセー達の周りに張る。

 

「くそっ…これじゃあ、忍が…!」

 

そう言ってイッセー達が忍の方を見ると…

 

「お前が…お前達がぁぁぁ!!」

 

「くっ…!?」

 

忍を庇うようにして智鶴がスコルピアを纏ってスティンガーブレードを盾に魔力バリアを展開してるが、攻撃の隙を与えぬが如く女性の多彩な攻撃魔法を繰り出していた。

 

「智鶴! 無茶はよせ。俺なら何とかなるから…!」

 

「でも、それだとしぃ君が…!」

 

忍が前に立とうとするのを智鶴が止める。

2人の間にある確かな絆を見て…

 

「(ギリッ)!!」

 

結果的に女性の憎悪に油を注ぐことになる。

 

「ふざけるな…ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなっ!!!!」

 

「「っ!?」」

 

狂気にも似た憎悪に忍と智鶴が驚くと…

 

「何が支え合いだ。何が愛だ。何が絆だ。そんなものが無かったから、私は…私の母と祖母は!!!!」

 

怒りと憎悪から口の端から血を流し、本物の血涙を流す女性。

 

「"狼殺結界"、効力最大!!!」

 

『っ?! いけません! そんなことしたらマイマスターまで!?』

 

女性の声にキャンサーが止めの言葉を放つが…

 

「………キャンサー、私の事は気にしなくてもいい…」

 

『ですが!?』

 

「………お母さんのためなら、私は…」

 

『マイマスター…!』

 

そんなキャンサーと少女の反応から…

 

「(どういうこと?)」

 

リアスは怪訝に思う。

 

「苦しみながら死ね! 狼の血族!!!」

 

ズンッ…!!

 

「ぐぶっ…!?!」

 

「………がっ…!?」

 

結界内の重圧が変わると同時に忍と"少女"が同時に苦しみ出す。

 

「しぃ君!?」

 

「どうしてこの娘まで!?」

 

『狼殺結界』。

名前からして狼種の動きを封じるか、何かしらの作用で殺すために設計された結界と推測。

その効力は狼種のみを苦しめる類だと思われる。

そう考えると、忍はわかる。

霊狼の直系である忍に効果が及ぶのは必然だからだ。

しかし、だったら何故…娘の少女までも苦しむのか?

その答えは意外と単純なのかもしれない…。

 

「彼女も…狼の血族…?」

 

リアスがそう漏らす。

 

「アハハ…アハハハハハハハ!!!」

 

狂気に満ちた嗤いを上げる女性。

 

「自分の娘諸共、紅神君を殺すつもり!?」

 

「彼女はあなたの娘じゃないの!?」

 

「知ったことじゃない! あの"黒い狼"を殺せるなら、私はなんだってやってやるわ!!!」

 

リアスとイリナの声に女性はそう返していた。

 

「"黒い、狼"」

 

苦しみながらも忍は懸命に頭の中でこの場の匂いとそのワードを結び付けようとする。

 

「(この匂い…それにあの娘から感じる面影…そして、"黒い狼"…)」

 

忍は覚えていた。

この匂いを発していて…黒い狼…その正体を…。

 

「(まさか…!?)」

 

その答えに行き着いた時、忍は信じられなかった。

 

「狼夜、伯父さん…のことか…?」

 

「それって…」

 

「邪狼!?」

 

忍の言葉にイッセー達も驚く。

 

「その名を口にするなああああああ!!!!」

 

それを聞き、女性は魔力砲撃を準備する。

 

その時だった。

 

ヒュッ!!

ビキビキッ!!

 

外部からの攻撃で結界が破壊されようとしていた。

 

「ちっ…! 後少しのところで!!!」

 

「………っ、はぁ…お母さん…」

 

それを見て少女もまた女性の側に移動していた。

 

「今回は退きます。ですが、次があなたの最期です…!!」

 

そう言い残し、女性は転移魔法陣を作り出すと少女と共にその場から消え去った。

 

バリィンッ!!

 

それと同時に結界も破壊された。

 

「帰りが遅いから迎えに来てみれば、何か面白い事でもあったのかしら?」

 

そして、そこにやって来たカーネリアがそのように聞いてきた。

 

「あんま…面白くも、ないけど、な……ぐっ…」

 

さっきとは逆に智鶴に支えられる忍だった。

 

 

 

新た現れたエクセンシェダーデバイスの選定者と、その母。

狙いは今は亡き邪狼こと狼夜らしいが、死者に復讐が果たせえるとは思えない。

ならば、何故彼女達は今になって狼の血縁を狙ったのか?

 

その真相がわからぬまま、彼らは天界へと向かうことになる。

そこで彼らを待つ真実とは…?



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第九十六話『攻め込まれる天界』

今回は省略形説明文が多めです。

次話では、詳しい描写が書けるように頑張ります…!


驚くべき真実を知り、忍が魔女の襲撃を受けた翌日。

 

駒王町に集まっていたD×Dのメンバーは一部を除いて天界へと向かっていた。

グレモリー眷属とイリナは当事者という面も強いので当然向かうことになっている。

駒王町の防衛を疎かにするのも考え物だと言うので神宮寺眷属は天界には向かわないことになったのだ。

紅神眷属も多くは明幸の屋敷で待機することとなり、天界に向かうのは忍、智鶴、カーネリアの3人に加え、未だ眠っているが、唯一の絵札眷属であるとしてオルタの身柄も一緒に連れていくこととなっていた。

 

一行はまず第一天の医療施設にいる紫藤局長に面会に訪れていた。

先日のゼクラム・バアルと智鶴の祖父の話を紫藤局長に報告するためだ。

その話を聞いた後、紫藤局長もまた当時の事を思い出しながら後悔しており、もっと上手く生きていけたんじゃないかと漏らしていた。

その時、クレーリアと八重垣を守ろうとした智鶴の両親の死もまた想定外の事だったそうだ。

まさか、両人を守ろうとした人間達がいるとは思いもしなかったそうで、悪魔側もまた穏便に済ませるつもりだったらしいが、結果としてその人間達の命も奪ってしまった。

その人間達は悪魔側に近しいということもあって悪魔側が事後処理を担当したらしく、教会側も詳しいことまではわからなかったようだ。

それが時を経てその娘に真実を知られることとなったのは…因果なのだろうか。

 

また、紫藤局長が来日したのはクリスマス企画のためだけではなく、イリナに渡す物があったからだという。

その渡す物とは…聖剣『オートクレール』。

デュランダルの持ち主だったパラディン・ローランの親友であり、幼馴染みであるパラディン・オリヴィエが持っていたとされる剣だった。

 

その後、紫藤局長はイッセーにだけ話があると彼を引き留め、残りのメンバーは病室を後にしていた。

その話が終わった後、イッセーはイリナとも話をしていた。

 

シスター・グリゼルダが人間界から上がってきてリアス、朱乃、イリナと話をしている間、グレモリー眷属と忍達は第一天の公園のような広場で休憩していた。

そこでアーシアは新たに契約を結んだ4体のドラゴンを龍門で呼び出せるか試していた。

ちなみにこの4体のドラゴンというのは、先のアウロス学園襲撃事件でファーブニルのパンツ料理教室で改心した(と言っていいのだろうか?)量産型邪龍である。

アウロス学園襲撃事件の後、アーシアに接近してきたのだが、驚くことに邪気は一切なかったという。

この結果にはさしものアザゼルもかなり驚いたようである。

名前はアンセルムス、キュリロス、グレゴリオス、シメオンというらしく、いずれもキリスト教の歴代の聖人から取っているそうだ。

その呼び出された量産型邪龍4体は天使の研究者達によって(恐る恐るではあるが)調べられている。

アザゼルもアーシアの協力で量産型邪龍の研究を行っているらしい。

 

「…………」

 

そんな中、智鶴はその輪に入らずに少し気落ちしていた。

 

「智鶴、大丈夫か? 向こうで待ってても良かったんだぞ?」

 

そんな智鶴に忍が話しかける。

 

「…うん、平気だよ」

 

そう言って笑みを浮かべるが、どこか無理をしているようにも見えた。

 

「智鶴…」

 

「それよりも…オルタちゃん、大丈夫かしら?」

 

忍に心配を掛けまいとしてか、話題を変える。

 

「今は第五天の研究施設で、検査を受けてるはずだが…」

 

「あれから、ずっと目覚めてないものね」

 

忍が狂戦士の絵札をオルタに渡したのが牙狼戦の直後だから…約一ヵ月近くは眠っていることになる。

 

「(並行世界での…俺の娘になるはずだった存在、か…)」

 

牙狼が最期に体験した桐葉との魂の邂逅もまた忍は記憶として受け継いでおり、オルタが本来なら牙狼と桐葉の娘になるはずだったことも知っていた。

しかし、その事実を忍は自分の中だけに仕舞い込んで眷属達にも伏せている。

 

「早く目覚めえるといいね」

 

「あぁ、そうだな…」

 

忍としてはオルタに色々な世界を見てほしいと思っていた。

 

すると…

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!

 

天界が大きく揺れる。

 

「なんだ!?」

 

イッセー達も驚いた様子で周囲に視線を巡らせていた。

 

そこへ一人の警備の天使がやってきた。

彼が言うには天界に邪龍…クリフォトが攻め入ってきたのだという。

それを聞き、誰もが警戒レベルを一気に上げた。

 

………

……

 

第一天の作戦司令室に集合するD×Dのメンバーと『御使い』。

中央の台を囲うように集まった面々の前には各層の様子が立体映像として映し出されていた。

第二天、第三天、第四天に敵…量産型邪龍が攻め込んできており、天使の兵団と交戦状態にあった。

クリフォトは第三天…信徒達の魂が行き着く場所とされる『天国』から侵入したようであり、第三天の映像には空中都市『アグレアス』の姿もあった。

さらにラードゥン、紫炎のヴァルブルガ、クロウ・クルワッハの姿も確認されており、その中には先日忍を襲撃してきた魔女とその娘の姿もあった。

 

「あれは…!」

 

「昨日の…」

 

その姿にイッセーやリアス、イリナも驚いていたが、魔女とその娘は攻撃に参加しておらず、何かを待っているかのように魔法で天使の攻撃をいなしていた。

それはクロウ・クルワッハも同様で、どこか作業的な動きで天使達の攻撃をいなして攻撃を仕掛けようとしなかった。

但し、ラードゥンとヴァルブルガは天使達を積極的に攻撃して大暴れしている。

 

「(俺を…待ってるのか…?)」

 

魔女の言動を思い出しながら忍は眼を細くしていた。

 

「でも、一体どうやってクリフォトは天界に攻め込んできたんだ? ルートは限られてるはずだろ…?」

 

その横でイッセーが疑問を口にする。

すると、台の一角にアザゼルの映像が映し出される。

 

『冥府サイドだろうな』

 

「アザゼル、そっちはどうなの?」

 

『あぁ、ダメだ。天界への入り口がこっちからも閉じててな…』

 

原因は不明だが、天界と人間界を繋ぐ門が閉じてしまい、双方から開けることが出来ない状態なのだ。

 

『まぁ、こういう時は使えるもんを総動員しないとな。そうだろ、明幸?』

 

アザゼルの言葉に一同が智鶴に視線を向ける。

 

「私、ですか?」

 

『そうだ。お前とエクセンシェダーデバイスなら次元の壁を越えることが出来るはずだ。なら、そっちからお前さんがゲイトを開けば、援軍を出せる可能性もある』

 

「………わかりました。やってみます」

 

『頼むぜ。第一陣はこっちに残ってた紅神眷属と神宮寺眷属を予定してる』

 

これで援軍の目処は立ったことになる。

 

「それで先生! 冥府サイドってのは!?」

 

『もしも、天界に入り込めるとしたら手段は限られる。お前らみたいに正規の門を潜るか、死後に教会の信徒として迎え入れられるか。それとも、他から上がるか…』

 

アザゼルがそこまで言ってシスター・グリゼルダが何かに気付く。

 

「辺獄と煉獄!」

 

『あぁ、天国とも地獄とも違う…信徒が死後に辿り着く場所だ。辺獄も煉獄も特殊な事情を抱いたまま亡くなった者のために用意された。どちらも行き着いた者は身を清めた後に天国へと誘われる。つまり、どちらにも天国に通ずる扉がある訳だ。辺獄も煉獄も聖書の神が冥府を参考に定義したと言われてる。そして、これはあくまでも推測の域を出ないんだが…冥府の神ことハーデスの野郎は辺獄か、煉獄…そのどちらかに侵入出来る方法を知ってたか、もしくは編み出した可能性がある』

 

アザゼルがそこまで言った時、新たな報告が作戦司令室に響く。

 

「報告します。煉獄から第三天に通じる扉が破壊されているそうです!」

 

その報告に一同はアザゼルの予想が当たっているかもしれないと思うようになる。

 

「……聖杯で復活したであろう伝説の邪龍『アポプス』が冥府に降りたという報告は受けてましたが…」

 

「伝説では、アポプスは冥府…地獄と関連性の強いドラゴンの一体とされているわ。冥府に降りたとしても不思議ではないけれど…」

 

「あのハーデスがただで協力する訳がない、か…」

 

リアスの言葉に忍が付け加える。

 

「えぇ。それにお兄さまやアザゼルから『次はない』とまで警告されてたのに…」

 

以前…魔獣騒動の直前に起きた英雄派によるテロ。

その裏で動いていたのがハーデスだった。

それに対して冥界は魔王の訪問という手で魔獣騒動時の動きを牽制したのだ。

そして、事態収束後、サーゼクスとアザゼルはハーデスに警告をしていた。

 

『ユーグリットから聞き出した最新の情報でな。復活した伝説の邪龍の中でリゼヴィムの支配を受け付けなくなってきたものがいるそうだ。それがクロウ・クルワッハ、アジ・ダハーカ、アポプスの3体。いずれも化物クラスだ。そいつらは…リゼヴィムと取り引きし始めていると言っていた』

 

「取り引き?」

 

『あぁ。「条件を呑めば、解放してやってもいい」とな。内容までは詳しく知れなかったが…おそらくその取り引きとは「どの勢力でもいいから神クラスと契約しろ」というものだろう。クロウ・クルワッハとアジ・ダハーカはわからないが、少なくともアポプスはハーデスと契約を結んだ。そこからアポプス経由でハーデスから天界への侵入経路を得た。と俺は睨んでいる』

 

そのアザゼルの推測に…

 

「つ、つまり、なんですか!? クリフォト的にはアポプス達は『解放した』、もしくは『逃げ出した』ってことにして勝手に神と契約したって言い訳を!? それでハーデスはハーデスで逃げた邪龍と契約しただけで、クリフォトには協力してないと!? そんなの無茶苦茶じゃないですか!!?」

 

イッセーが怒りを露わにしていた。

それはイッセーだけではなく、他のメンバーも同じのようだが…。

 

『………わかってる。悔しいが、それを追及してる場合でもないのも確かだ。とにかく、こっちからも門を開けようと思う。そっちからも門への対応を頼む。明幸の次元転移にも限界があるだろうしな』

 

それに頷き合って御使いが動き出す。

 

「奴らの狙いはなんだ…?」

 

ゼノヴィアがクリフォトの目的を考えていた。

 

まず第七天は除外。

理由はセラフ以外に立ち入りが出来ないことと、異物が混入すると強力な転移でどこかに吹き飛ばされるという(アザゼルの体験談より)。

 

次に第六天。

天界本部があり、セラフの本拠地でもある。

しかし、行ってどうする?

セラフを全滅させるにしてもメリットに対してデメリットの方が大きい。

 

第五天。

研究施設がある。

御使いのカードもここで生成されている。

が、興味があるからと言って易々と乗り込めるものでもないはずである。

 

第二天。

バベルの塔の関係者が囚われているが、それだけだろう。

 

第三天と第四天。

第三天には生命の樹、第四天はエデンの園で有名な知恵の樹がそれぞれ存在する。

しかし、神の不在によって生命の実も知恵の実も久しく生っていないそうだ。

 

皆でクリフォトの目的を考えていると、第五天を映し出していた映像の中で邪龍の宿った天叢雲剣を持った男が足を踏み入れていた。

 

「…………いけません。現在、第五天には解毒の最終段階のために紫藤局長が上がっています!」

 

『っ!?』

 

それを聞き、皆驚く。

 

「行きましょう! どちらにしてもここでじっとなんてしていられないわ! 上層に上がりながら天使と共闘して邪龍を倒しましょう!」

 

リアスが力強く言い放つ。

 

「イリナは第五天へ行きなさい。そこまでの道は私達が切り開くわ!」

 

「ありがとう、リアスさん! 私だってミカエル様のAなんだから!」

 

「あそこにはオルタもいる。俺も行かせてもらう。智鶴は駒王町にいる残りの眷属と紅牙達の移送を頼む」

 

「うん、任せて」

 

『散発的だが、小勢力の援軍は明幸の開いたゲイトで送る! 門が開き次第、大部隊の援軍も送るからな! お前ら、気張れよ!』

 

それぞれの役割を果たすため、行動を開始する。

 

………

……

 

第一天から第二天に上がったグレモリー眷属とイリナ、シスター・グリゼルダ、忍、カーネリアは第三天へと続く門へと急いでいた。

第二天は暗闇が支配する世界であり、主に星の観測や罪を犯した天使を幽閉するために存在しているという。

その途中で御使いの戦いも見ることが出来た。

御使いの特性はポーカーのようなトランプゲームの役に倣ったフォーメーションを組むことで爆発的に能力が引き上がるのだ。

つまり、強い役を作れば作る程に強力となるが、その分体力や天使特有の光力をごっそり持っていかれるという。

その威力は量産型邪龍を複数体、屠れるほどのものとなる。

その御使いの戦線指揮を買って出たシスター・グリゼルダを残し、グレモリー眷属は進んでいく。

第三天に通ずる門が見えてきた時だった。

 

『これはこれは…お久しいですね』

 

邪龍ラードゥンが現れたのだ。

 

『ひとつ、私と遊んでくださいな』

 

そう言った瞬間、ラードゥンの眼が光り、シャボン玉のような結界がグレモリー眷属とイリナ、カーネリアを覆う。

 

しかし…

 

「もう捕まってたまるかよ!」

 

「捕まる前に移動すればどうということはないな」

 

龍星の騎士と化したイッセーと、忍がラードゥンの前に立っていた。

 

『なっ!?』

 

その結果にはさしものラードゥンも驚いたようですぐさま目の前に結界を張る。

 

「砕けろ!!」

 

右腕に集中させた龍気を龍星の騎士の速度で結界で守られたラードゥンへと打ち込む。

その結果、結界ごとラードゥンを殴り飛ばすこととなる。

 

『ぐぅぅぅ!!!?』

 

その攻撃でグレモリー眷属を覆っていたラードゥンの結界も解除される。

 

「見たか! 名付けて『龍星拳(りゅうせいけん)』ッ!!」

 

『おのれ、赤龍帝…!!』

 

イッセーとラードゥンが対峙する形になりそうになった時だった。

 

ヒュッ!!

 

両者の間に飛来する物体があった。

 

それは…

 

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)…!」

 

聖なる波動を放つ槍。

最強の滅神具である聖槍。

そして、その使い手の名は…

 

「曹操ッ!?」

 

漢服を羽織った若い男…元禍の団、英雄派リーダー『曹操』。

 

「少しは戦い方を研究してるみたいだが、まだまだパワー重視か? 赤龍帝、それにグレモリー眷属」

 

聖槍を引き抜き、肩をトントンと叩く曹操はイッセー達に尋ねる。

 

「冥府から這い上がってきたとは聞いていたが…まさか、お前が間を持つとはな」

 

忍も曹操の登場には驚いていた。

 

「狼か。君にも一言忠告しておこう。あの魔女には…気をつけた方がいい」

 

「………知ってるのか?」

 

「直接的な面識はないが、噂は少しだけ耳に届いていてね。あの魔女は『狼殺しの魔女』と言い、狼を殺すための研究を続けてきたという」

 

「そこまで根が深かったのか…」

 

「いずれにせよ…彼女の背後にはあの絶望の使徒がいる可能性も高いからね」

 

「あいつか…」

 

曹操の言葉に忍は山羊座を従える男の存在を再確認する。

 

「さて…話はここまでだ。行け」

 

ラードゥンの前に立ちながら曹操はイッセー達を先に進ませようとする。

 

「イッセー! アーシア、ゼノヴィア、イリナを連れて先に行きなさい! ここは私達が受け持つわ! 紅神君もイッセー達のことを頼むわね!」

 

リアスがイッセー達に指示を送る。

 

「リアス、皆! ここは頼みます!」

 

龍星の騎士から元の禁手状態に戻ると、イッセーはアーシア、ゼノヴィア、イリナに目配せをしてから曹操の横を通り過ぎようとする。

 

その時…

 

「いつだって異形を倒すのは…『人間』だ」

 

イッセーにだけ聞こえるように曹操はそう呟いていた。

 

「………………」

 

それをどう捉えたのか、イッセーは何も言わずに第三天へと向かう。

 

「礼は言わないからな…」

 

イッセーを追うようにして曹操の横を横切る際、忍もそう呟いていた。

 

………

……

 

第二天での戦いをリアス達と曹操に任せたイッセー達は、第三天『天国』に突入していた。

 

そこで待っていたのは…

 

「おほほほほ♪ こんにちは~♪ 燃え萌えさせにきたわよん」

 

紫炎のヴァルブルガ。

 

「………………」

 

クロウ・クルワッハ。

 

「狼…!!」

 

「……………」

 

復讐の魔女と、その娘。

 

「…………………」

 

「やるしかないか…!」

 

緊張した面持ちでそれぞれの得物を手にした時だった。

 

「ありま、これまた大変なことになってんね」

 

天界のジョーカー・デュリオがイッセー達に合流を果たした。

ちなみにデュリオは現在進行形で量産型邪龍を雷雲と竜巻によって広域殲滅を行っていたりする。

その想像以上の実力にヴァルブルガも警戒を露わにしていた。

 

そして…

 

デュリオとヴァルブルガ。

 

イッセーとクロウ・クルワッハ。

 

忍と魔女。

 

といった具合に戦闘が開始される。

 

しかし、真紅の鎧と化したイッセーと殴り合っていたクロウ・クルワッハの横合いからヴァルブルガが援護と称して攻撃を仕掛ける。

それがどうにも気に入らなかったようでクロウ・クルワッハは一時戦線を離脱することとなる。

 

一方で、忍と魔女の戦いも先日のこともあって忍は狼殺結界を警戒して魔法戦で対抗していた。

カーネリアはエクセンシェダーデバイス使いである魔女の娘を抑えていた。

 

ヴァルブルガはヴァルブルガで戦闘が劣勢と見るや否や即時撤退を決めて逃げ出してしまう始末。

 

それを見たクロウ・クルワッハはイッセーとデュリオの組み合わせを前に1人で戦おうとしていた。

本当なら忍とも戦ってみたかったと漏らしてもいたが…。

 

そんな中、デュリオがクロウ・クルワッハを1人で押さえると言い出し、イッセー達を先に行かせようとする。

その提案に乗るクロウ・クルワッハ。

 

忍も忍で魔女の相手をするとこの場に留まることを選択していた。

 

その場をジョーカーと忍に任せ、イッセー達は第四天へと向かう。

 

果たして、イッセー達は紫藤局長を救い出せることが出来るのだろうか?



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第九十七話『やりきれない気持ち』

第四天、エデンの園に突入するイッセー達。

 

第五天へと向かう途中、二つの影に遭遇する。

八岐大蛇を宿す天叢雲剣を持つ八重垣と、その傍らで座り込む紫藤局長だった。

 

紫藤局長は自らを犠牲にして八重垣の復讐を止めようとしていた。

しかし、それを許すイッセー達ではない。

 

八重垣がその狂剣を振るう刹那、イッセーが飛び出して紫藤局長を救い出す。

そして、紫藤局長はイッセーに八重垣を止めてもらうように頼む。

 

それに応えるようにしてイッセーはクリムゾンブラスターを放ち、八岐大蛇の首を吹き飛ばす。

そこへゼノヴィアとイリナのコンビがそれぞれの聖剣を掲げる。

それに合わせるようにイッセーもまた左腕にあるアスカロンを出して聖なる波動を放つ。

三人の放つ聖なる波動によって八重垣から邪悪な波動が潰える。

 

その瞬間…

 

「………クレーリア…僕も、天使になれたのかな…?」

 

八重垣の体を1人の女性が優しく抱き寄せるビジョンが…。

 

 

 

オートクレールの浄化の力によって天叢雲剣に宿っていた邪龍の邪気は消え、八重垣もまた地に倒れていた。

イッセーは八重垣に自らも悪魔の女性を愛していると言う。

そんなイッセーに八重垣が尋ねる。

 

「もしかしたら…君達の間を引き裂く者が現れるかもしれない。その時、その悪魔の女性を、君は…守れるかい…?」

 

「守る。守ってみせる! たとえ、世界が否定しても、強大な敵が現れたとしても…俺は彼女を守り抜いてやる!!」

 

「悪魔の君は…そこの天使も守れるのかい?」

 

「種族なんて関係ない。離れたくないなら、側にいりゃいいのさ…」

 

そんな問いにイッセーはそう答えていた。

 

「そうか……そうなんだな……俺も、彼女を守りたくて…」

 

それを聞き、涙を流す八重垣。

 

「俺達なら…きっと…」

 

分かり合える、という意味を込めてイッセーは八重垣に手を差し伸べる。

 

「あぁ…そうなってたら、どれだけ……」

 

そう答えて八重垣もまた身を起こしてイッセーの手を掴もうとした。

 

だが、その瞬間…

 

ドンッ!!

 

起き上がった八重垣の上半身の胸を魔力が撃ち貫いていた。

 

「がっ…!?」

 

大量の血を吐いて再度倒れる八重垣。

 

「なっ…」

 

その光景に絶句するイッセー達。

 

「うひゃひゃひゃ! そりゃダメっしょ?」

 

そこへ聞こえる耳障りな笑い声…。

 

「リゼヴィムッ!!」

 

クリフォトの首魁、リゼヴィムだった。

 

「八重垣君!」

 

イリナに肩を借りながら八重垣の元へとやってくる紫藤局長。

 

「……いいんです…これで…」

 

その八重垣は、どこか安らいだような表情をしていた。

 

「こんな…こんなの、悲し過ぎます…!」

 

そう言って回復を行うアーシアだが、八重垣の傷は塞がらなかった。

 

「……あぁ…僕も…きっと彼女も…この時代で、君達に…出会いたかったよ……」

 

そう言い残し、八重垣の体は崩壊して塵と化していた。

 

イッセー達は怒りを胸にリゼヴィムと対峙する。

 

………

……

 

時は少しだけ遡ってデュリオと忍がイッセー達を送り出してすぐの第三天では…

 

「ほいじゃま、いっちょ気張りますかね」

 

クロウ・クルワッハを前にデュリオは…

 

「禁手化!」

 

ゴオオオオッ!!!

 

煌天雷獄の禁手を発動させていた。

 

「あれが、ジョーカーの禁手…!!」

 

それを遠目から見ていた忍もその強い波動を受けて戦慄を覚えていた。

 

「さて、クロウさんや。いっちょ俺と踊ってくれよ」

 

天使の輪が四つに増え、黄金の天使の翼を12枚も広げた転生天使が邪龍最強と称されるドラゴンの前に立ちはだかる。

 

「ふっ…面白い…!!」

 

その変化を嬉々として受け入れたクロウ・クルワッハはデュリオに肉薄する。

 

 

 

一方で…

 

「ふふっ、エクセンシェダーデバイス使いと言ってもその武装が必ずしも選定者とマッチしてる訳じゃないのね」

 

カーネリアが漆黒に輝く光の槍で少女の斬撃を受け流しながらそう言っていた。

 

「……………」

 

少女は無表情のまま、さらに刀を振るう。

 

「反応が薄いわね。それとも、何か事情でもあるのかしら?」

 

「……………」

 

『その事情も知らない人が領明ちゃんを語らないでくれるかしら?』

 

カーネリアの言葉に沈黙してる少女に代わり、キャンサーが口を開く。

 

「随分と過保護なデバイスね」

 

ギンッ!!

 

「………っ……」

 

カーネリアの力任せな一撃で少女は後退してしまう。

 

「やっと人間らしい顔をしたわね?」

 

その僅かな表情の変化を見逃さずに指摘する。

 

「………………」

 

それに反応することなく少女は二刀に魔力を集める。

 

『クレッセイション、発動!』

 

「………………」

 

斬ッ!!

 

少女はカーネリアの真正面から斬り掛かる。

 

「このくらいの斬撃。私には効果ないわよ?」

 

戦車の特性から攻撃力と防御力に優れている上にカーネリア自身もまた近接戦闘には慣れているから余裕で少女の斬撃を受け止めていた。

 

「………………」

 

『コアドライブ、最大稼働!』

 

ギュイィィィ…!!

 

パールホワイトの魔力粒子が二刀に集まり、その威力を水増ししていく。

 

ビキッ…!

 

威力が増したことによってカーネリアの光の槍にも罅が入っていく。

 

「これは…」

 

流石に少しマズいと判断したのか、カーネリアは槍を手放して一時後退する。

 

「………………」

 

少女はそのまま二刀を振り下ろすと、光の槍を砕いて魔力斬撃を繰り出していた。

 

「そんな直線状の攻撃なんて…」

 

カーネリアもまたその場からさらに空へと飛び上がり、攻撃を回避しようとする。

 

『追撃します!』

 

しかし、魔力斬撃はまるでホーミングミサイルのようにカーネリアを追尾し始める。

 

「へぇ…そんな機能もあったのね」

 

再度光の槍を生成すると、カーネリアはその光の槍を魔力斬撃に向けて投擲する。

 

「…………散って……」

 

投擲された光の槍が直撃する瞬間、魔力斬撃が拡散して小さな魔力斬撃となって四方からカーネリアを追い詰めようとする。

 

「ちっ…」

 

堪らず舌打ちをするカーネリアは手元に光の槍を作り出して防御に徹する。

 

 

 

カーネリアが少女と戦って少し防戦になっている頃…

 

「ハウリング・バスター!」

 

「クレセント・バスター!」

 

忍と魔女による純粋魔力砲撃合戦が繰り広げられていた。

 

「(あの魔女は狼夜伯父さんを憎んでる。しかし、伯父さんはもう…)」

 

そこには恐らくリゼヴィムが関わっており、聖杯を用いて狼夜を復活させてから復讐の機会を与える。

そんな契約があったのかもしれないと、忍は考えていた。

 

「(だが、そんなことをして今更何になる…! 悲しみの連鎖が広がるだけだ…!)」

 

一応、フィライトで狼夜を火葬した時に残った遺灰は未だ自室に保管している。

 

「(だったら、俺が止める他ないのか…?)」

 

しかし、そうなると次なる問題も浮上する。

カーネリアと戦っている少女だ。

 

「(母親殺しとなった俺を怨む可能性もあり、結局はこの悲しみの連鎖を断ち切れないことになる…)」

 

それでは本末転倒だ。

復讐が復讐を呼ぶ結果になる。

 

「(そんな悲しい結末…誰も望んじゃいない…!!)」

 

だが、結局はどうしたらいいのかわからず、堂々巡りとなる。

 

「(くそっ! どうしたらいいんだよ…!!)」

 

その焦りが僅かな隙を生み…

 

「クラレット・バイパー!!」

 

まるで蛇のような軌道を描く砲撃が、単調になっていた忍の砲撃をすり抜けていき…

 

ズガァァッ!!

 

「しまっ……がぁ!?」

 

忍の体に直撃していた。

 

「これで終わりだ、狼ッ!!」

 

忍に直撃するのを見るや、魔女は忍の周囲に結界を張る。

 

「ッ!?」

 

「潰えろ、狼! 狼殺結界ッ!!」

 

ブゥンッ!!

 

「ぐっ…がぁあぁぁぁ!?!?」

 

結界が張られると忍の体に激痛が走る。

 

「この前は範囲を優先したが、今回はお前だけに対するピンポイントでの結界。この間の比ではないと知れ!!」

 

つまり、前回の襲撃時は効果範囲を広げたために威力が弱まっていた。

それでも威力を最大にすることで中にいた忍と少女は苦痛に苦しんでいたが…。

しかし、今回は忍のみを対象に結界の範囲を絞って使用したということだ。

そのため、前回よりも狼に対して高い威力を発揮する。

 

「(な、なんで…ここまでして、狼のことを…?)」

 

なんとか打開策を開こうと…

 

「れ、霊鎧装…!」

 

霊鎧装を展開した時だった。

 

「ぐあああああああ!!!?」

 

さっきよりも激しい激痛が忍の体を支配する。

 

「(れ、霊力を…出力した、瞬間…また、激痛が……ま、さか…?)」

 

それを踏まえ、忍はあることに気付く。

 

「(この結界は……対、霊狼、用…!?)」

 

この結界内では霊力が何かしらの形で利用され、苦痛を伴うようになっているのだと考えた。

 

「(だが…どうやって、霊力を…?)」

 

そこで忍の眼にはカーネリアと戦う少女が映る。

 

「ッ!?(まさか…自分の娘を、実験台に…?)」

 

もし、そうだとしたら…目の前の魔女は、それほどまでに狼…徳に霊狼を怨んでいたことになる。

 

「(だとしても…そんな…そんなこと…!)」

 

激痛に苦しめられながらも…

 

「許しておけるかよおおおぉぉぉぉッ!!」

 

忍は立ち上がる。

 

「無駄よ! 霊狼である限り、その結界からは…」

 

「妖華撃ッ!!」

 

妖力を用いた一撃で結界を粉砕していた。

 

「バカなっ!?」

 

「要するに、霊力を使わなきゃいいだけだろ? 絡繰りさえわかれば何とでもなる…!」

 

忍の中には魔・気・霊・妖・龍の力が巣食っている。

それらの内、魔女が研究していないだろう力を用いれば、結界も容易に破壊出来るのだ。

 

「ちっ、狼風情が…!!」

 

魔女が激昂していると…

 

「あらよ、っと!!」

 

「ッ!?」

 

横合いからの奇襲に忍も思わず、その場から退避する。

 

「ちぇっ、外したかぁ~」

 

クルクルと得物を振り回すのは…

 

「ディー!?」

 

絶魔勢のノヴァの部下であるディーだった。

 

「よぉ、狼。久し振りじゃん? なんだって力を使わないのか不思議だから、ちょっち横槍入れてみました!」

 

悪気もなくそう言ってのけるディーは死神の鎌を肩に担いでいた。

 

「邪魔をするな!」

 

この横槍には魔女の方も大変ご立腹な様子だった。

 

「まぁまぁ、おばさん。ここはノヴァ様に免じて退いてくれよ。アンタには必要になるだろうってノヴァ様の判断なんだぜ?」

 

「ちっ!」

 

ギリッと歯軋りを立てそうな勢いで舌打ちする魔女は…

 

「領明! ここは一旦退きます! 下がりなさい!!」

 

カーネリアと戦っていた少女を呼びつけていた。

 

「………………」

 

それを聞いてカーネリアに魔力斬撃を放った後、少女が魔女の元へと合流する。

 

「本当に私に必要なものなのでしょうね?」

 

「あぁ。少なくともノヴァ様はそう考えてるみたいだぜ?」

 

「なら、せいぜい当てにさせてもらいます」

 

そのやり取りを見て忍も驚く。

 

「(あの魔女、絶魔とも関係が…!?)」

 

いや、それよりも…

 

「待て! 絶魔に関わるな! そいつらは…!」

 

霊狼族の仇。

そう言おうとしたが…

 

「狼を殺せるなら…私はどんな手でも使う…!!」

 

魔女は怨嗟の念を込め、それだけを言い放っていた。

 

「ッ…」

 

その言葉に忍は何も言い返せなかった。

 

「次こそは貴様を討つ。首を洗って待っているがいい…!!」

 

そう言い残し、魔女と少女はディーの敷いた絶魔の使う転移魔法陣で共に消え去っていた。

 

「…………く、そ…っ!!!」

 

バキッ!!

 

忍はその場で拳を足元に叩き付ける。

 

「(俺は、あの2人に対して何も出来ないのか…?)」

 

魔女と少女の復讐劇は終わらない。

その終止符を打てるとしたら、それは狼夜を殺させるしかないのか…?

そんな考えが忍の頭の中を過ぎる。

 

「(それに、絶魔が絡むとなれば…)」

 

皮肉…と言わざるを得ないか…。

霊狼の少女が一族の仇である絶魔に手を貸している。

それが、どれだけ忍に精神的ダメージを与えているか…。

 

「まったく…エクセンシェダーデバイスも厄介なものね」

 

そう言って己の髪を軽く撫でてカーネリアが忍の元へとやってくる。

 

「立ちなさい、坊や。戦いはまだ終わってないわよ」

 

「………あぁ…わかってるさ…」

 

カーネリアの言葉に忍は立ち上がると、クロウ・クルワッハと絶賛戦闘中のジョーカーの元へと移動する。

 

「ジョーカー! 助太刀する!!」

 

龍気を纏った一撃をデュリオとクロウ・クルワッハの間に叩き込みながら忍が加勢する。

 

「あなた、一体多が好きな龍なんでしょう?」

 

その横合いからカーネリアが光の槍を突き出していく。

が、それをクロウ・クルワッハは裏拳で砕いていた。

 

「おぉ、狼君に堕天使の姉さん。助かるわ。いやね、このドラゴンの兄さん、強いこと強いこと」

 

禁手化してるデュリオがそんな風に軽口を叩いていると…

 

「よく言う。さっきから絶妙な間合いからの攻撃を繰り返し、隙の無さも相俟って多少攻めあぐねているというのに…」

 

クロウ・クルワッハからの賛辞(?)が飛ぶ。

 

「そいつはどうも。で、そっちの方は大丈夫なのかい?」

 

クロウ・クルワッハの言葉を受け流しながら忍に尋ねる。

 

「……あまりよくはないが、今はこちらに集中させてもらう」

 

感情を呑み込んだような忍の物言いに…

 

「あんまり無理は良くないぜ?」

 

デュリオは心配そうに声を掛けていた。

 

「…………………」

 

デュリオの言葉に何も言い返せていないと…

 

「些か興が削がれたな」

 

クロウ・クルワッハが拳を引く。

 

「行くなら行け。次にまみえる時までにそっちの狼は万全な状態になっていてほしいがな」

 

「………っ」

 

クロウ・クルワッハの言葉に思い当たることでもあるのか、忍は苦々しい表情をしていた。

 

「では、お言葉に甘えましょうかね、っと」

 

禁手を解くと同時にデュリオが第四天に続く門へと飛び立つ。

 

「行くわよ、坊や」

 

「……………あぁ……」

 

クロウ・クルワッハの横を通り過ぎる瞬間…

 

「龍を御せるのは…何者でもない。その龍自身だけだ」

 

忍の耳に聞こえるような呟きをクロウ・クルワッハは言い残していた。

 

「…………………」

 

それに応じることなく忍は駆けていく。

 

………

……

 

第四天では、リゼヴィムを相手にイッセー達が苦戦を強いられていた。

腐っても前魔王ルシファーの息子。

神器無効化を持っていたとしても、その打撃力や魔力はやはり魔王クラスと言っても過言ではなく、イッセー達はほとんど手も足も出せずにいた。

 

だが、リゼヴィムはここで一つの過ちを犯した。

それは…アーシアを殴ったことだ。

それを契機にして召喚されたファーブニルは烈火の如き怒りを露わにしてリゼヴィムへと襲い掛かる。

 

『逆鱗』

それはドラゴンが何かしらの形で持つとされるモノ。

それに触れたら下級のドラゴンであったとしても豹変する。

ドラゴンを怒らせてはいけない、という戒めでもあるのだろう。

 

それをリゼヴィムは…無遠慮にも触れた。

"アーシアに危害を加える"という、最も愚かな選択をしたのだ。

 

ファーブニルの猛攻に当てられ、イッセーも新たな力を持ってリゼヴィムに挑む。

その力とは…赤龍帝・ドライグが生前持っていた能力の一つ『透過』であった。

鎧は消え去ったが、透過の力によってイッセーはリゼヴィムを叩きのめすことに成功する。

 

そして、ドライグもまたリゼヴィムに対して…

 

『ルシファーの息子よ。お前は何を敵に回しているのかわかっているのか? 聖書の神が忌み嫌った力の塊、ドラゴンだ。俺も、白龍皇も、ファーブニルも決して舐めてくれるなよ? 我等はその気になればただの力任せの暴力で世界を何度だって破壊出来る。それをしないのは、お前よりも今の生き方を楽しめているからだ』

 

そのように言い放ち…

 

『神如きが、魔王如きが、俺達の楽しみを邪魔してくれるなよ』

 

そう、宣告していた。

 

それは奇しくも三大勢力の戦争時、二天龍が神と魔王に吼えた口上に似ているという…。

 

そこへ駆けつけるD×Dのメンバーと曹操。

それに上層から降りてきた天使長・ミカエル。

 

ミカエルからの慈悲の無い攻撃を受けるリゼヴィム。

だが、リゼヴィムはルシファーの黒翼によってその攻撃を受け切っていた。

そして、愉快犯の空気から一変し、冷徹な一面を見せて改めてD×Dを自らの夢の障害だと認定していた。

 

リゼヴィムは既に目的を達成したという折をその場にいた者達に聞かせていた。

それはリゼヴィムの母、リリスが神の目を盗んで隠したという干からびた知恵の実と生命の実…。

それを聖杯で復活させていたのだ。

その隠し場所があったのは、煉獄の奥地にある冥府に繋がる隠れ道だという。

ならば、何故天界まで攻めてきたのか…?

リゼヴィム曰く『実を探す、ついで…』だそうだった。

 

その答えに殆どの者がリゼヴィムへの敵意を向けたが、それを阻んだのがオーフィスの分身体であるリリス。

それに興が醒めたように撤退するクリフォト。

だが、クロウ・クルワッハだけはリゼヴィムの帰還命令を無視してその場に残ったのだった。

 

 

 

その後の戦後処理は主に天使達が行っていた。

不幸中の幸いなのが、『システム』には特に影響がない事だろうか。

 

「結局、出遅れてしまったか」

 

結局、戦闘の終盤で天界へと送り込まれた残りの紅神眷属と神宮寺眷属。

 

「ごめんね、しぃ君。どうも結界のせいで次元転移も不安定だったから遅くなっちゃった」

 

「いや、気にしないでくれ。来てくれただけでも感謝してるさ」

 

そんなことを言い合っていた。

 

「しかし、まさか曹操まで来ていたとはな…」

 

「あぁ、それには俺も少し驚いたがな…」

 

忍と紅牙の視線の先ではイッセーと何やら会話している曹操の姿があった。

 

「…………………」

 

「元同僚として話さないのか?」

 

「いずれ時が来たら、な」

 

立ち去る曹操の背中を見つめていた紅牙だった。

 

その後、イッセーの元にクロウ・クルワッハがやってきて戦えと要求したものの、流石に疲れが溜まっていたイッセーが休憩させてくれと頼んだところ…あっさり、引き下がっていた。

クロウ・クルワッハはそのままその場から飛び去ってしまっていた。

 

そして、イッセーもイッセーで新たな力を邪なことに使って天界の警告を受け、皆に認知されてしまうのだった。

 

 

 

だが、これで全てが終わった訳ではない。

忍にはまだ、やらなくてはならないことがあるからだ。

それは絶魔と接点を持っていたあの魔女と同族であるあの少女のことである。

 

来たるクリスマスの日。

それは思いがけない決着を迎えることになる。



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第九十八話『クリスマスの復讐劇』

クリスマス当日。

プレゼントを配り終えた企画に参加者達は兵藤家の地下でちょっと遅めのパーティーを楽しんでいた。

 

その中でオカ研の新部長と新副部長が発表される。

新副部長には木場、新部長には…アーシアが指名されたのだ。

最初は戸惑っていたアーシアだったが、皆の賛成の意見を聞いて意を決して新部長を引き受けるのであった。

 

皆が賑わう中、1人静かに会場から姿を消す者もいた。

 

「…………………」

 

忍である。

 

「(龍の力を御せるのは、その龍自身だけ、か…)」

 

先の天界での一件で、クロウ・クルワッハに言われたことを思い返していた。

自分のそれぞれの力を封印したビー玉を取り出し、そのうちの一つを曇り空に向けて眺める。

 

「(俺は、本来なら龍騎士じゃないし、始龍でもない。だが、力を奪い、託された。それを…本当に御することが出来るのか?)」

 

今の揺らいだ心ではそれは不可能だろう。

 

「(復讐、か…)」

 

かつて死闘を繰り広げ、その存在を受け入れたもう一人の自分…牙狼こと『紅 忍』の記憶を辿り、とても虚しい気持ちになる。

 

「(仮に復讐を完遂したとしても…そこに残るのは虚無感だけだ。満たされる訳じゃない…)」

 

並行世界で"神"と呼ばれる存在を抹殺した時の感覚は…牙狼の記憶と体験を受け継いだ忍の中にも記憶として残っている。

それを知っているだけに忍はあの親子のことを気に掛けていた。

 

「(狼に対する圧倒的な憎悪と怨嗟…あの人の過去に何が起きたのか…今ではもう伯父さんの言葉を聞けないから何とも言えない…だけど、あの人を止めることが出来るとしたら…俺、しかいない…)」

 

眺めていたビー玉をギュッと握り締める。

 

「(俺が、何としても止めてみせる…)」

 

そんな決意を固めていると…

 

ビュッ!

 

夜の曇った暗闇に紛れて忍の額へと向かう音がする。

 

「ッ!?」

 

微かな魔力の匂いを頼りに感知した忍はそれを仰け反るようにして回避する。

 

「この攻撃は…!」

 

その攻撃には覚えがあった。

 

「見えない攻撃……魚座の暗殺者…!」

 

先日、忍の命を狙った魚座に選ばれし暗殺者の少女…。

だが、その姿は見えない。

矢を射ってきたことから考えて忍からそれなりに離れた位置にいるのに違いない。

 

「(とは言え、こんな街中で仕掛けてくるとはな…)」

 

そう考えると手早くその場から跳び上がり、住宅街の屋根を伝って移動を開始する。

 

「(奴の狙いが俺だけなら、他の皆を巻き込む訳にはいかない……ついて来いよ…!)」

 

ヒュッ!!

ズドドドドッ!!

 

正確に忍を狙う魔力矢だが、忍は僅かな魔力の変化を嗅ぎ分けてそれを回避し続ける。

 

「(しかし、相変わらず凄い腕だな…あれから日もあまり経ってないからあんまり調べられなかったのもあるが…)」

 

暗殺者の素性を調べるには時間が足りなかったという他なかった。

それに外見的な容姿だけでは探すにも一苦労するというものだ。

さらに言えば、相手が凄腕の暗殺者ならばその情報は限りなくゼロに近い、とも言える。

何故なら標的はその暗殺者に気付かずに必ず死ぬ可能性が高い。

そんな状態で情報を残すのは無理がある。

暗殺者を雇うようなクライアントは皆総じて足がつかないように気をつけるものだし、暗殺者側から自分が不利になるような情報を与えるような真似もしないだろう。

 

つまるところ、調べるにしても"お手上げ状態"なのだ。

手掛かりである容姿やエクセンシェダーデバイスについても前者はそれだけで割り出すのは実質的に不可能に近く、後者はそもそもが散らばっていてどのデバイスがどんな選定者を選んだのかわからないのもあった。

 

「(ついてきてるみたいだが……さて、どうするか…)」

 

このまま逃げの一手、という訳にもいかない。

 

「(どこかに誘導するか……そこでなら思う存分相手になってやる…)」

 

そう考え、忍はネクサスで周囲の地形データを表示し、どこに誘導するかを考えていると…

 

ブォン…!!

 

何かを通過するような感覚を肌で感じる。

 

「っ!?(なんだ!?)」

 

住宅街の屋根を走っていたはずなのに、周囲の風景は一変して…まるで地面の無い異空間に大小様々な岩場だけが浮遊しているような空間となっていた。

ネクサスの表示データも『ERROR』となってしまっていた。

 

「ここは…?」

 

近くの岩場に上手く着地しながら周囲の気配を探る。

 

すると…

 

「ここは亜空間の中に作った特別な決戦場ですよ」

 

そんな男の声が響く。

 

「お前は…!?」

 

驚いて声のした方を向くと、そこには…

 

「ふふふ…お久し振りですね。狼さん」

 

「ノヴァ…!!」

 

白衣を纏ったノヴァが忍からかなり離れた位置の岩場に立っていた。

 

「いつ以来でしたか。あぁ、そうそう。ゼノライヤさんを葬った時以来でしたかな?」

 

まるで些細なことでも思い出すかのような言動だった。

 

「テメェにとってあいつは利用するだけの存在ってか?」

 

その言動に怒りを覚えた忍はそう問うていた。

 

「利用するも何も…お互いにわかり切っていたのですから、別に構わないでしょう?」

 

事実、ゼノライヤはノヴァの存在を利用して軍事強化を計っていた。

それを実験と称して色々と組していたノヴァもノヴァだが…。

 

「テメェ…!」

 

ゼノライヤにはそれなりの信念があったように見えた忍は、それを踏みにじったノヴァに対してあまりいい感情を抱いていなかった。

無論、絶魔が一族の仇というのもあるが…。

 

「それよりも…ここはなんだ!? 決戦場とかほざいてたが…」

 

この空間のことを問い詰める。

 

「ここに招待したのは他でもありません。同族同士の殺し合いを見せてもらうためですよ」

 

「同族同士の殺し合いだと!?」

 

「えぇ。もちろん、わかっているのでしょう?」

 

邪悪な笑みを見せるノヴァは…

 

「さぁ、お膳立てはここまでです。後はお好きにしてください。『紫牙(しきば) 翠蓮(すいれん)』さん」

 

そう言って視線を下へと落とす。

 

「同族などと括るな!」

 

ノヴァの物言いに激怒する魔女『紫牙 翠蓮』と…

 

「…………………」

 

キャンサーを纏う少女『領明』がいた。

 

「出来れば、私は娘さんと狼さんの戦いを見たいのですがね…」

 

やれやれと言った具合にノヴァは…

 

「まぁ、いいでしょう。どうせ、お互いに殺し合うのですから…」

 

そう言い残してこの場から姿を消そうとする。

 

「待ちやがれ!!」

 

忍が飛び出そうとした時…

 

ピシャアァァァ!!!

 

ノヴァの頭上に雷雲が発生し、特大の雷が落ち…

 

ヒュッ!!

 

魔力矢が忍を襲う。

 

「ふむ…?」

 

「なっ!?」

 

ノヴァは頭上に魔法陣を展開して雷を防御し、忍は別の岩場に跳び移っていた。

それぞれが驚いていると…

 

「やれやれ…パーティーを抜け出したかと思えば、なんかヤバいことに巻き込まれてるし…狼君も狼君で厄介な体質持ちだね~」

 

忍の頭上からそんな声がしていた。

 

「その声…ジョーカー!?」

 

見れば、天使化しているデュリオの姿があった。

 

「ほぉ、あなたが噂の天界の切り札ですか」

 

ノヴァもノヴァで面白いものを見れたような声を漏らしていた。

 

「アンタが絶魔の首領? 同族の殺し合いを高みの見物とか、悪趣味だね~」

 

「好奇心が旺盛なものでしてね」

 

「そりゃ、好奇心とは言わないぜ?」

 

「ふふふ…受け方は人それぞれでしょう?」

 

そんな言い合いをしていると…

 

「…………ダメだわ。なんだか…アンタ、生理的に受け付けそうもないわ」

 

少し言葉を交わしただけなのに、デュリオがそんなことを言う。

 

「それはそれは、大変結構なことですね。私も天使などという羽が生えて感情を抑制するだけの生物には微塵も興味がありません」

 

ノヴァもまたそんなことを言っていた。

 

「では、思わぬ客人も交えたところで、私は失礼しましょうかね」

 

「逃がすと思ってる?」

 

パチン、とデュリオが指を鳴らすと…

 

ピシャアァァァ!!!

ビュオオォォォ!!!

 

雷撃と吹雪が同時に巻き起こってノヴァへと襲い掛かる。

 

だが…

 

ボアアアッ!!!

 

「ふふふ、無駄なことを…」

 

ノヴァの周囲に蒼い焔が燃え上がり、雷撃と吹雪を完全に防いでいた。

 

「っ!?」

 

まさか、攻撃が防がれるとは思っていなかったデュリオもその光景には驚いていた。

 

「では、さようなら。次に会う時は…いつでしょうね?」

 

そう言い残し、今度こそこの空間から消え去るノヴァ。

 

「アレが絶魔の頭で、次元戦争を起こそうって首魁の片割れか…帰ったらミカエル様に俺の感じたことを報告しないとな…」

 

いつになくシリアスな雰囲気でデュリオはそう呟いていた。

 

「ジョーカー…なんでまたこんなところに…?」

 

魔力矢を避けながら忍はデュリオに尋ねる。

 

「さっきも言ったけど、気になって追いかけてみたんだよ。なんかを避けるのに夢中で気付いてなさそうだったから、ここまで追ってきたんよ」

 

デュリオの答えに…

 

「そうかよ。で、手を貸してくれるのか?」

 

忍は共闘が可能か聞いていた。

 

「まぁ、同じD×Dのメンバーだし、それもやぶさかじゃないよ」

 

「それは助かる。じゃあ、俺を狙ってる暗殺者の方を頼むわ。魚座のエクセンシェダーデバイス使いだから気をつけろよ」

 

「それだとあの蒼焔使いの言葉通りになるけど…いいのかい?」

 

「彼女達は…俺が止めないとならないからな…」

 

そんなことを言い出す忍に…

 

「…………ま、危なくなったら援護するからさ」

 

少しだけ間を置いてからそう言うデュリオだった。

 

「じゃあ、頼む」

 

「はいさい」

 

そう言い合い、魔力矢が飛んできたところで忍は翠蓮と領明の方へと跳び出し、デュリオは魔力矢が飛んできた方へと飛ぶ。

 

………

……

 

デュリオ側。

 

「見えない相手なら…こうしてみそ」

 

ザアアア…

 

周囲に雨雲を発生させて雨を降らせる。

その雨に打たれて暗殺者の輪郭が浮き出てくる。

 

「そこか」

 

光力を剣状に形成して輪郭が浮き出たところへと攻撃を仕掛ける。

 

ギィンッ!!

 

それを暗殺者の少女は片手剣を用いて防ぐ。

 

『ありゃりゃ、こんな風に姿を捉えるなんてね~』

 

ピスケスが驚いたように…あんま聞こえないが…間の抜けた声を漏らす。

 

「…………………」

 

それを受け、少女も己の透明化を解いていた。

雨に打たれた髪が濡れているが、表情一つ変えていない。

 

「なんか肌色成分、多くね?」

 

その姿にデュリオも以前忍が感じた疑問を口にする。

 

「…………………」

 

左肩に備わった肩当てと一体化している小型ガトリング砲の砲口がデュリオに向けられる。

 

「おっと」

 

それに気付き、デュリオは一旦距離を取ると…

 

「これならどうよ?」

 

ピシャアァァァ!!!

 

雨雲から雷雲へと変化した雲から雷が落ちる。

 

「…………………」

 

少女がその場で宙返りを行うと…

 

『は~い、パ~ジっと』

 

ピスケスがその意図を汲んで両足の側面に備わっていた鉄扇二つが空へと飛び上がり、それが開いて雷を防いでいた。

 

「…………………」

 

その間に少女は剣と弓をそれぞれの収納位置にマウントすると、落ちてきた鉄扇を両手に持って構える。

 

「多彩な芸をお持ちのようで」

 

かく言うデュリオも自然界の属性を支配できる上位滅神具を持っているので、人のことは言えない気がする。

 

「…………………」

 

『おっ? じゃあ、使っちゃう~?』

 

何やらピスケスが少女に確認を取っていた。

 

「なんだ?」

 

挙動に変化がなかったため、デュリオも首を傾げていると…

 

『"ファンタズマ"、起動~』

 

ギュイィィィ…!!

 

スカイブルーの魔力粒子が各部から放出されると…

 

ブォンッ!!

 

スカイブルーの魔力粒子が収束していくと、魚座の鎧を纏った暗殺者の少女と瓜二つの存在が…2人も現れる。

 

「なにっ?!」

 

その現象にはさしものデュリオも驚くしかなかった。

 

「ど、どういう手品だよ…?」

 

それが魚座のエクセンシェダーデバイスの持つ固有魔法だということを知らないデュリオはただただ困惑していた。

 

「「「…………………」」」

 

それぞれ得物を手に、1人はデュリオへと向かい、1人はその援護を行い、1人は忍へと向かうようなまるで個別の意思でもあるかのような動きを見せていた。

 

「ちょっ?! 狼君の所へは、って!」

 

ギンッ!

 

咄嗟に光の剣で向かってきた少女の攻撃を受け止めるが…

 

ビュッ!

 

その横から魔力矢が迫ってくる。

 

「うそん!?」

 

雷でその魔力矢を打ち落とすが…

 

ヒュッ!

 

そちらに意識を向けた瞬間に近接攻撃を仕掛けてきた方の少女が蹴りを放ってくる。

その足にはスケートシューズのようなブレードが備わっているので、当たればただでは済まないのは明白だ。

 

「うぉ?!」

 

それをかろうじて避けるデュリオだった。

 

「技量までそっくりとか、そんなんあり!?」

 

ただでさえ1人でも厄介なのが3人になり、その内の2人が連携して仕掛けてくるのだ。

厄介なことこの上ない。

 

「ごめん、狼君! そっちに1人行ったから!」

 

いくら天界の切り札でもそう言うので精一杯だったようだ。

 

………

……

 

一方の忍側。

 

「復讐なんて虚しいだけだ!」

 

岩場を跳び移りながら忍は懸命な説得を試みていた。

 

「黙りなさい!」

 

しかし、翠蓮は忍の言葉に耳を貸さず、ただただ攻撃魔法を繰り出していた。

 

「お前に私の何がわかるというの! この十数年を…あいつを殺すためだけに生きてきた私の悲願を!!」

 

「確かに伯父さんは狂気に染まっていた。だが、それは…!」

 

「うるさいうるさいうるさい!!」

 

砲撃魔法を乱射する翠蓮の攻撃の一つが忍へと向かい…

 

「くっ…」

 

それを防御魔法で防いでいた。

 

「私が殺すはずだったあいつを横取りしたお前が、何を言おうが関係ない! 私はお前を殺し、あいつを聖杯で復活させて改めて殺す!! そのためなら手段は選ばない!!!」

 

「(やはり、聖杯か…!)」

 

翠蓮の言葉に忍もやっと確信を持てた。

 

「そんなことをしても誰も喜ばないし、あなたも心も救われない!!」

 

「(ギリッ!!)何も知らないくせに知ったような口を利くな!!」

 

翠蓮から放たれる殺意の密度が増す。

 

「私の母と祖母は…私の目の前であいつに喰い殺されたんだから!!!」

 

「っ!?」

 

その言葉に忍は衝撃を受ける。

 

「そして、私達家族と懇意だった村人達の命を糧にし、最後には私を犯し抜いたっ!!!」

 

あまりの興奮状態に翠蓮の眼から赤い涙が流れだす。

 

「その結果、私は…この『領明』を産むしかなかったのよ!!!」

 

それはあまりにも酷く悲しい過去だった。

 

「あなたに、そんな過去が…」

 

言葉は短かったが、それだけでも十分に伝わってくる。

それだけの憎悪と怨嗟が翠蓮にはあった。

 

「伯父さんがあなたにしたことは確かに許されないかもしれない…」

 

「ふんっ…だったら潔くその命を私に差し出しなさい!!」

 

「だが、だからと言って既に終わった命を再び蘇らせて復讐を果たすなんて、間違ってる!!」

 

「それの何が悪い! 私の復讐はまだ終わっていない! あいつを殺すという目的を果たすまでは…!!」

 

「そんなの…悲し過ぎるだろうが!!!」

 

そのような言い合いをしていると…

 

「ごめん、狼君! そっちに1人行ったから!」

 

デュリオの言葉が響く。

 

「なに?」

 

その意味がよくわからなかった忍だが…

 

ビュッ!

 

「ッ!!」

 

何かの匂いを察知して左側へと回避行動に移る。

 

ズシャッ!!!

 

が、それも間に合わずに忍の胸部から剣の刃が生えてくる。

 

「がっ!?」

 

ズガッ!!

 

反射的に右肘を後ろへと放つと、手応えがあって刃もすぐに引っこ抜かれる。

 

「魚座の暗殺者…!?」

 

見れば、攻撃を受けて近くの岩場に着地する暗殺者の少女の姿があった。

 

「じゃあ、ジョーカーの相手してるのは…!?」

 

見ると、デュリオは"2人"の暗殺者の少女と戦っていた。

 

「どうなってやがる?!」

 

ズガンッ!!!

 

「ぐわっ!?」

 

忍が意味が分からないと頭を捻っていると、背中に魔力斬撃が直撃していた。

 

「……………」

 

キャンサーを纏い、黒い刀身の二刀を持った領明である。

 

「エクセンシェダーデバイス使いが2人も相手とか…!」

 

そんな愚痴を零していると…

 

「狼殺結界・弐式!!」

 

ブォンッ!!

 

「っ!?」

 

忍の周りを狼殺結界が円状に覆う。

 

「妖華げ…!」

 

即座に妖力で打ち砕こうとするが…

 

ズキッ!!!

 

「ぐぅぅっ!?」

 

妖力を出力した段階で激痛が走る。

 

「弐式は以前の改良型。妖力と龍気にも対応させたもの。いくらお前が特異な存在だろうと、全ての力が毒に変われば終わりよ!!」

 

「がああああっ?!」

 

翠蓮の言葉が正しいのなら、忍が持つ五気が毒性に変化するということになる。

その五気を毒性に変性している原理がわからない限り、忍はその場から抜け出せない。

 

すると…

 

「これ以上は流石に見てられないか…」

 

デュリオがそんな言葉を発していた。

 

「この場にいる者全てに、祝福を…『虹色の希望(スペランツァ・ボッラ・ディ・サポネ)』」

 

そう呟いた瞬間、デュリオが自分の前に手で輪を作り、そこに息を吹きかけると七色に輝くシャボン玉が大量に発生して亜空間を満たしていく。

それは狼殺結界に閉じ込められた忍の元にも届いていた。

 

「なに…?」

 

「…?」

 

「…………………」

 

「こ、これ、は…?」

 

翠蓮、領明、暗殺者の少女、忍の順に戸惑い、それぞれがシャボン玉へと触れていく。

 

「っ!?」

 

「……っ」

 

「…………………?」

 

「ッ!?」

 

それぞれの頭の中にあるヴィジョンが映し出される。

 

………

……

 

~???~

 

『翠蓮』

 

『翠蓮ちゃん』

 

「っ?! ま、ママ…? お祖母ちゃん?」

 

その声に翠蓮は声のした方を向く。

 

そこには…

 

『ママ、おばあちゃん。わたしもいつかママたちみたいなりっぱなまじょになる!』

 

『ふふ。じゃあ、頑張ってお勉強しないとね』

 

『うん! わたし、がんばるよ!』

 

小さな女の子が自分の母と祖母に自分の夢を笑顔で言っていた。

そんな女の子の頭を祖母は優しく撫でていた。

 

「これは…昔の、私…?」

 

そこは記憶の海。

翠蓮が復讐にのめり込む前の…大切な記憶。

 

『ママ、お祖母ちゃん! 大変なの! 怪我した狼が…!』

 

場面は変わり、かつての邪狼を担ぎ込んだ時の記憶になる。

 

「この時、私があいつを助けなければ…!!」

 

しかし、本当にそうなのだろうか?

この時、翠蓮の中にあった感情は…

 

『大丈夫。絶対に良くなるからね。だから諦めないで…』

 

「やめろ! そいつを看病したところで、あの悲劇は…!!」

 

かつての自分に叫ぶが、それは届かない。

何故ならこれは記憶なのだから…。

 

『命は尊いもの…ママやお祖母ちゃんもよく言ってるもんね。だから、あなたも精一杯生きないとね』

 

「っ!?」

 

『だから早く良くなってね、狼さん』

 

笑顔で看病を続けるかつての自分に翠蓮は数歩後退ってしまう。

 

場面はさらに変わり…

 

『ぐっ…はぁ…はぁ…ぁああ?!』

 

裏の世界に踏み込み、祖母の伝手を頼って医療の知識を持つ魔女に立ち会ってもらった出産。

 

『頑張りなさい。小さくても、この子供はあなたの大切な宝となるのだから…!』

 

「宝…」

 

立ち会った魔女の言葉を思い返す。

 

そして…

 

『まぁ、ま』

 

『領明…私の可愛い娘…』

 

最後に映し出されたのは…慈愛に満ちた表情で赤ん坊の領明を抱く自分自身。

 

「ママ、お祖母ちゃん、領明…」

 

それらの記憶を垣間見て…

 

「あ、ああああ…」

 

大切なことを思い出していた。

 

………

……

 

~現実世界・亜空間内~

 

「私……わ、たし、は…これまで…なにを、していたの…?」

 

透明の涙を流しながら翠蓮は岩場の上で崩れ落ちるように顔を手で覆ってしまう。

 

「……お母さん?」

 

そんな翠蓮に領明が近付くと…

 

「ごめんね…ごめんね…領明…」

 

領明を優しく抱き締めながら翠蓮は領明に謝っていた。

 

「……ぇ」

 

その母の行動に領明自身も困惑していた。

 

「私に…復讐なんて、本当は必要なかった……領明がいれば…領明と一緒に暮らせれば……たとえ、憎い狼の血を受け継いでいようと…あなたは、私の…たった一人の、娘で…宝なのだから……それなのに…私は…」

 

「…………っ…」

 

その言葉を聞き、領明の眼からも大粒の涙が溢れ出る。

 

「………お母さん、お母さん…っ!」

 

領明もまた翠蓮を抱きついて母を呼ぶ。

 

復讐心よりも大切なものがあり、それが勝っていた…その結果がこれのだろう。

 

 

 

一方で…

 

バリンッ!!

 

デュリオが光の剣で狼殺結界を破壊して忍を救出していた。

 

「ジョーカー…これは?」

 

「煌天雷獄の応用技でね。このシャボン玉に触れた者は大切なことや大切な者を思い出させる。たったそれだけの能力さ」

 

「そう、か…」

 

それを聞き、忍は暗殺者の少女へと視線を向ける。

 

「…………………」

 

少女は涙こそ流していなかったが、攻撃の手を止めて少し考え事をしていた。

 

「(彼女にも…大切なことがあったみたいだな…)」

 

虹色の希望に触れ、それぞれが大切なことや大切な者を思い出す。

これでこの復讐劇も終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もがそう思った。

しかし、それを許さない者がいた。

 

「ふふふ…このような結末を私が容認するとでも思いましたか?」

 

ノヴァがシャボン玉を掻き消しながら再び現れた。

 

「ノヴァ!」

 

「いやはや、こういう空気を読んでくれないのが敵なのか…それに結構早めに会ったしね~」

 

デュリオがさっきのノヴァの言葉(次に会うのはいつでしょうね?)を軽くディスっている。

 

「……このような結末になるのなら最初にあなたをこの場から排除すべきでしたね、ジョーカー」

 

デュリオの言葉が気に食わなかったのか、ノヴァは平静そうな声で若干の怒りを露わにしていた。

 

「おっと、ご立腹かい? なら、俺だって全力で相手になるよ?」

 

臨戦態勢となる忍とデュリオだったが…

 

「抜かしてなさい、天使風情が……多少、予定は狂いましたが、『アレ』の起動には十分な数値でしょう」

 

ノヴァは何やら魔法陣をいくつか展開すると…

 

「まずはジョーカー。あなたには退場していただきます」

 

「そう簡単に俺が引き下がると…」

 

デュリオが最後まで言い切る前に…

 

ブォンッ!!

 

デュリオの足元に絶魔の使う転移魔法陣が展開され、亜空間から弾き出される。

 

「ジョーカー?!」

 

忍が驚いていると…

 

「次はあなたです。翠蓮さん」

 

「っ!」

 

何かに気付き、領明を突き飛ばす。

 

「っ、お母さん!?」

 

領明が驚いた次の瞬間…

 

「あああああああああああああ!?!!??!」

 

翠蓮が頭を抱えて叫びながら苦しみ出し、その肉体が徐々に変化していく。

 

ゴキュ…ボキュ…グボッ…

 

体の節々が膨れ上がり、人としての原形を留めないような変化が起き続ける。

 

「ノヴァ! テメェ、一体何をしやがった!?」

 

「これも実験の一つですよ。復讐の鬼と化した人間に絶魔の因子を投与した場合、どのような変化を起こすかという、ね」

 

忍の言葉にノヴァは平然と答える。

 

「なっ…!? じゃあ、テメェはあの人を…!!」

 

「復讐を完遂するためなら、と…自ら被験体となることを厭わなかったのですから、別に構わないでしょう?」

 

「テメェ!!」

 

そう叫ぶ忍よりも先にノヴァに仕掛ける影があった。

 

「お母さんを…返せっ!!」

 

今まで無感情を貫いてきたはずの領明が感情を剥き出しにしてノヴァに斬り掛かったのだ。

 

「おやおや、復讐する相手を間違ってませんか?」

 

「お母さんを…あんな姿にしたのは、お前だ…!」

 

実際、目の前でノヴァが魔法陣を展開してから翠蓮がおかしくなったので、間違いではない。

 

「なら仕方ありませんね。霊狼の末裔は抹殺あるのみ、です」

 

そう言って魔法陣の中心を手で押すような動作をしてから…

 

「まぁ、私自身の手を汚すような真似はしませんがね」

 

再度その姿を消していた。

 

「待てっ!」

 

領明がノヴァを追いかけようとするが…

 

ブンッ!!

 

それを阻むように肥大化して変質した翠蓮の腕が振るわれる。

 

「危ない!」

 

忍が神速を用いて無防備な領明を抱えて近くの岩場に着地する。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

巨大な怪物と化した翠蓮が咆哮を上げる。

 

「お母さん…」

 

「くそっ…せっかく復讐から解放された人をこんな姿にするなんて…」

 

領明が心配そうに翠蓮の成れの果てを見上げる中、忍はノヴァに対する怒りを再確認していた。

 

「(一思いに命を…いや、ダメだ。せっかく復讐から解放されたんだ。だったら生きてもらわないと…この娘のためにも…)って、あれ? あの娘は?」

 

今一緒に連れてきたはずの領明がいなくて周囲を探すと…

 

「……お母さん……待ってて…」

 

キャンサーの背部にある歩脚ユニットを使って翠蓮の元へと向かっていた。

 

「なっ、何をやってやがる?!」

 

それを追いかけようとするが…

 

「…………………」

 

その前に暗殺者の少女が立ち塞がる。

 

「お前もさっきのジョーカーの技で何か考えてなかったか!?」

 

時間が惜しいので、そう尋ねてみるが…

 

「…………………」

 

答えの代わりに片手剣の切っ先を突き付ける。

 

「あぁ、もう! どいつもこいつも…!!」

 

"好き勝手に動きやがって"と叫ぼうとした時だった。

 

ギュオオオォォォォォ!!

 

領明からパールホワイトの魔力粒子が大量に発生していた。

 

「これは…コアドライブの!?」

 

「…………………」

 

忍と少女は領明のいる方を向く。

 

「何をする気だ!?」

 

忍は思わず叫ぶと…

 

「私は…お母さんを置いてはいけない。だから、一緒に…」

 

そう領明は呟いていた。

 

「ッ!!」

 

聴覚に意識を集中させてその声を拾うと、忍は血相を変えて領明の後を追う。

 

「…………………」

 

それを無慈悲にも魔力矢で追撃する少女。

 

「ぐっ!!」

 

急所を射抜かれても忍は立ち止まらず、領明の元まで駆けて跳ぶ。

 

その領明はというと…

 

「キャンサー、付き合ってくれてありがとう…」

 

怪物と化した翠蓮の頭部にやってきてキャンサーにお礼を言っていた。

 

『いいえ、いいんです。このような姿になる前に、あなたのお母様が復讐を諦めてくれたのがせめてもの救いでした。だから、共に逝きましょう。マイマスター』

 

キャンサーもまた選定者の意図を汲んで魔法の補助を行っていた。

 

「ありがとう、キャンサー…」

 

そう言って胸部プロテクターに備わったコアドライブユニットを一撫ですると…

 

「お母さん…私と一緒に、安らかに眠ろう…」

 

己の持つ最大の魔法を口にする。

 

「ローレライ・レクイエム」

 

ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

その瞬間、パールホワイトの魔力粒子が巨大な渦となりて怪物と化した翠蓮を巻き込んでいく。

 

「やめろおおぉぉぉぉぉッ!!!」

 

忍が叫んだ瞬間、その想いに応えるかのようにビー玉に封印していた力が一時的に解放され、忍を以前の牙狼戦で見せた真狼の耳と尻尾、紅蓮と蒼雪の翼が半々にそれぞれ生え、八重歯が鋭くなって白銀の龍の鎧を着込んだ状態へと進化させる。

 

「うおおおおおおおッ!!!」

 

その状態でパールホワイトの魔力粒子が渦巻く竜巻に突入すると…

 

『娘を…救ってあげて…』

 

「ッ!!?」

 

忍の耳に確かに怪物と化したはずの翠蓮の声が聞こえてきた、ような気がした。

 

『ギャアアアアアア!!!』

 

しかし、一瞬で翠蓮は渦の中心で苦しそうにもがいている。

その頭上には今も魔力放出を止めない領明の姿もある。

 

「俺の中の神格よ! 彼女の願いを…ッ!!!」

 

ファルゼンを起動させ、斬艦刀にする。

その刀身にありったけの力を付与して翠蓮の頭部へと突撃する。

 

「俺が断つのはただ一つ! 絶魔の因子だけだあああぁぁぁぁぁッ!!!」

 

斬ッ!!!!

 

その一撃が放たれた瞬間…

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!!

 

領明の放出し続けた魔力粒子が満たされた亜空間内に、忍の力が加わることで大崩壊を起こし…

 

バリンッ!!

 

時空の裂け目を生み出し、その中へと亜空間内にいた4人の人物を取り込んでしまっていた。

 

………

……

 

~変異フロンティア・観測室~

 

「ふむ…観測不能ですか。まぁ、いいでしょう」

 

亜空間内の状況をモニターしていたノヴァは興味が失せたようにその場から立ち去る。

 

「我等が神の復活も近いことでしょうし……そろそろ私専用のデバイスの最終調整といきましょうか」

 

そう言ってやってきた部屋の中には…

 

『『………………』』

 

2機のキメラ型ドライバーデバイスと…

 

「ふふふ…」

 

その間に"未完成状態の白銀の鎧"が鎮座していた。



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15.年末年始のタイムトラベル
第九十九話『新たな舞台』


クリスマスに起きた復讐劇はその幕を閉じた。

 

亜空間で行われたその復讐はノヴァの思惑とは別の形で終結しようとし、それを良しとしなかったノヴァによって翠蓮は異形の怪物となって暴走した。

それを娘が自らのエクセンシェダーデバイスのコアドライブを最大稼働させ、その命を賭けて母を止めようと試みた。

しかし、それを見過ごせなかった忍の介入によって亜空間内に残された4人の人物は時空の狭間へとその姿を消したのだ。

 

一方、亜空間から追い出されたデュリオは再度亜空間への突入を試みるも結界によって阻まれてしまう。

そこでデュリオは応援を要請したが、果たして間に合うかというところで亜空間で起きた時空の歪みの余波が通常空間に地震として発生する。

アザゼルの協力もあってパーティー会場にいたD×Dのメンバーが亜空間へと突入しようとした。

だが、亜空間は既に崩壊しており、中にいたであろう4人の人物は行方不明となってしまっていた。

 

彼らが今どこにいるのか?

それを知る者は誰もいない…。

 

………

……

 

~???~

 

とある次元世界。

ある皇城の一室にて…

 

「あれから、もう10年が経つのか…」

 

部屋にいる背中まで伸びた光沢のある白髪と金色の瞳を持ち、しわくちゃだが威圧感と威厳を感じさせるような顔立ちをしている老人……にしてはかなりの高身長にしてまるで衰えを知らぬというばかりに筋肉隆々とした野太い体格の持ち主が窓の外を見ながらそう漏らしていた。

また、その老人の頭には額の真ん中と頭の左右から太く立派な角が生えていた。

 

「あの出来事を機に徹底抗戦を宣言したが、状況は刻一刻とこちらに不利となっていくばかり…"奴等"め、一体どれだけの戦力を保有しておるのだ?」

 

老人は瞑目しながら今もこの世界に迫っている"敵"のことを考えていた。

 

「…この10年の戦いでも奴等の戦力は計り知れず、今もなお勢力を拡大していく始末。まったく、嫌になるわい」

 

すると、老人は…

 

「と、いかんの。今日は特別な日じゃった。あやつの祝いの席にこんな辛気臭い顔は似合わぬの」

 

思い出したようにそう呟いていた。

 

そう、この日は特別な日なのだ。

 

「このような状況であってもめでたい席には変わりないのだ。今はこの小さな幸福を天に感謝すべきかのぉ」

 

そんなことを言って老人が窓から空を見上げた時だった。

 

ピシリッ!!

 

空に亀裂が走ったのだ。

 

「む…?」

 

その奇怪な現象に老人も目を細めた。

 

次の瞬間…

 

バリィンッ!!!

 

亀裂が広がり、砕け散るとそこから次元の狭間が見え、そこから…

 

ゴオオオオッ!!!

 

巨大な白き流星が皇城に向かって降ってきたのだ。

 

キランッ!

 

流星が出現すると同時にその流星から六つの小さな流星が分離して各地に降り注いでいた。

 

「『皇鬼(すめらぎ)』様!!」

 

ドタドタと慌てた様子で兵の1人が老人のいる部屋に駆け込んできた。

 

「『武天十鬼(ぶてんじっき)』を招集せよ! あの流星を打ち砕く!!」

 

老人は慌てた様子もなく兵に命令を下す。

 

「はっ!」

 

老人の言葉に兵はすぐさま部屋を後にする。

 

「これは凶兆かの? それとも…」

 

空の亀裂から墜ちてくる流星を見ながら老人はそう漏らし、窓から皇城の屋根へと飛び出していた。

 

………

……

 

流星が現れる少し前…。

 

「あたしも今日で17か…」

 

皇城の城壁の近くを少女が歩いていた。

肘辺りまで伸ばした桃色の髪と蒼い瞳を持ち、可愛い系の綺麗な顔立ちにかなり豊かな体型で、額の左右に小さな角が2本生えていた。

 

「(この10年…あたしはあたしなりに強くなってきた。それもこれも"あいつら"を打ち倒すために…!)」

 

その場で立ち止まると、少女は拳を握り締めながら空を見上げる。

 

「(父さん、母さん…必ず仇は取るからね…!)」

 

少女の眼には、確かな復讐の炎が宿っていた。

 

すると…

 

ピシリッ!!

 

空に亀裂が走ったのだ。

 

「?」

 

その奇怪な現象に少女は首を傾げる。

 

次の瞬間…

 

バリィンッ!!!

 

亀裂が広がり、砕け散るとそこから次元の狭間が見え、そこから…

 

ゴオオオオッ!!!

 

巨大な白き流星が皇城に向かって降ってきたのだ。

 

キランッ!

 

流星が出現すると同時にその流星から六つの小さな流星が分離して各地に降り注いでいた。

 

「なっ!?」

 

いきなり空から流星が墜ちてきたのだから誰でも驚くというものである。

 

「なによ、あれは!?」

 

慌てふためく兵達の1人をとっ捕まえて少女は尋ねる。

 

「ひ、姫様! それが、その…あれは突然現れたとしか言いようがなく…」

 

「そんなの見りゃわかるっての! お祖父ちゃんはなんて?」

 

「はっ、武天十鬼の皆さまを招集し、迎撃するとのことです!」

 

「そう…ありがと。アンタも持ち場に戻って」

 

「はっ!」

 

少女から解放され、兵はすぐさま持ち場に戻る。

 

「ったく、とんだ日になったわね…」

 

少女もまた誕生日にこんなことが起きるとは予想だにしなかっただろう。

 

「(でも、なんだろう…なんだか、変な予感がする…)」

 

墜ちてくる流星を見上げながらそんな感覚を覚えていた。

 

………

……

 

一方で、皇城の屋根の上には続々と集結する影があった。

その数は、10人。

 

「皇鬼様。武天十鬼、揃いました」

 

その中の一人…背中まで伸びた光沢のある白銀色の髪と血の滴るような紅い瞳を持ち、厳格な印象を与える渋く壮年な顔立ちに体格は高身長に加え、線は太めだがシャープで無駄のない筋肉の持ち主が老人を前にそう言って跪く。

そのこめかみの部分に太く立派な角が2本生えている。

 

(かしら)ぁ! あの流星を砕くって話ですが、本気ですかい!?」

 

燃えるような赤い短髪と朱色の瞳を持ち、野性味に溢れたような顔立ちに線が細く見えるものの、中身は徹底して無駄な筋肉を削ぎ落したような感じの体格の男が老人に尋ねる。

その額から一本角が生えている。

 

「せっかくの飯の支度が台無しになるんだな…」

 

坊主刈りにした目が痛くなるような金髪と琥珀色の瞳を持ち、ぽっちゃりしたような顔立ちに体格は肥満型の巨漢であり、かなり線が太い男が何やらのんびりした口調で怒った様子だった。

その頭頂部に円錐状の一本角が生えている。

 

「一応、冷気で傷まないようにしてはいますが…」

 

腰まで伸ばした群青色の髪と空色の瞳を持ち、淑やかな雰囲気に溢れた綺麗な顔立ちに均等の取れたバランスの良い体型の女性が巨漢の男にそう伝えていた。

その頭の左側に一本角が生えており、それを隠すような感じで髪をサイドポニーテールに結っている。

 

「まったく、たまに表に出ればこれだ…」

 

うなじが隠れる程度の深緑色の髪と緑色の瞳を持ち、クールな雰囲気を纏った顔立ちに体格は全体的に線が細く、あまり筋肉はついていない男が愚痴っぽいことを言っている。

その額に丸っこいような一本角が生えており、黒縁の眼鏡を着用している。

 

「そう言わないの! せっかくの姫様の誕生日なんだから!」

 

腰まで伸ばした瑠璃色の髪と水色の瞳を持ち、活発な印象を与える可愛らしい顔立ちにバランスの取れた程良い肉付きな体型の女性が愚痴る男を叱るような言葉を投げる。

その頭の右側に一本角が生えており、それを隠すような感じで髪をサイドポニーテールに結っている。

 

「そういうこった! なら、せいぜいあの流星をデカい花火にでもしようかね!」

 

肩に掛かる程度に伸ばした黄緑色の髪と翡翠色の瞳を持ち、少し野性味のある綺麗な顔立ちに高身長に見合った抜群のプロポーションの持ち主の女性がそんなことを言い出す。

その額に一本角が生えている。

 

「………………」

 

黄土色の短髪と茶色の瞳を持ち、厳格そうな雰囲気の渋い顔立ちに体格は線が太く筋肉隆々としている男が無言で流星を睨んでいる。

その額の右側から太い一本角が生えている。

 

「皇鬼様、命令を…」

 

角刈りにした鋼色の髪と灰色の瞳を持ち、見る者を威圧するような厳つい顔立ちに体格は巨漢に並ぶ高身長でありながらスマートなフォルムをしている男が老人に指示を仰ぐ。

その額に鋭利な刃を思わせる一本角が生えている

 

「なんでもいいから、さっさと片付けようぜ? 俺、これから逢引なんだけどなぁ~」

 

背中まで伸びた紫色の髪と薄紫色の瞳を持ち、凛々しさを含んだ端正な顔立ちに体格は標準的で筋肉もそこそこといったところの男が面倒そうにそんなことを漏らす。

その額の左側の方に一本角が生えている。

 

何とも個性豊かな面々である。

 

「ふむ、花火か。それは妙案じゃの!」

 

黄緑の髪の女性の言葉を聞いた老人の身から高濃度の妖力が溢れ出す。

 

「これは…いかんな」

 

跪いていた白銀の髪の男がそれを悟ると…

 

「風鬼、風の壁を作って衝撃から城や城下町を守れ。重鬼は皇鬼様を宙に浮かせろ」

 

白銀の髪の男が黄緑の髪の女性と紫色の髪の男にそれぞれ指示を送る。

 

「あいよ!」

 

黄緑の髪の女性はそう答えると、風の壁を作り出して皇城を中心に城下町をも覆っていく。

 

「へ~い」

 

紫色の髪の男も老人に右手を向けて力を集中させると、その老人を風の壁の外側へと浮かせていた。

 

「では、行くぞい!!」

 

それを確認した老人は、その高濃度の妖力を右腕に収束していき…

 

ダンッ!!!

 

まるで空気の上を地面を踏みつけるようにして一歩踏み出すと…

 

覇王(はおう)弾劾拳(だんがいけん)ッ!!!」

 

轟ッ!!!!

 

右腕を一気に振り抜く。

そうすることで右腕に収束していた高濃度の妖力が拳圧と共に白き流星へと向かって放たれる。

 

その結果…。

 

ドガアアアアアアアアアンッ!!!!!

 

流星と妖力が衝突し、とてつもない大爆発を巻き起こすが、風の壁に阻まれてその衝撃波は地上に降り注ぐことはなかった。

 

「ふむ…?」

 

その大爆発を間近で見ていた老人はある違和感を覚える。

 

「これは…"人間"の気配、か…?」

 

老人が訝しげに大爆発の様子を見ていると、大爆発の衝撃でその中から出てくるように白銀の鎧を着た少女二人、かなりの重傷を負っていそうな女性、服がボロボロとなっている青年の計4人の姿を確認する。

 

「氷鬼と水鬼はあの鎧を着た女子(おなご)達を、風鬼は重傷の婦人をそれぞれ受け止めよ」

 

群青色の髪の女性、瑠璃色の髪の女性、黄緑の髪の女性に指示を出し、自らも青年の元へと跳ぶ。

老人に言われ、群青色の髪の女性と瑠璃色の髪の女性は鎧の少女、黄緑の髪の女性は重傷を負った女性の落下地点に急いで移動していた。

 

ムンズッ!

 

落下する青年の首根っこを摑まえると、その頭に角がないのを確かめていた。

 

「ふむ。やはり、人間か。しかし、何故流星からこのような者…いや、者達か? どちらにせよ、不可思議なことじゃ。それに…」

 

意識を失っている青年から感じる五つの波動を察知し、老人は目を細めた。

 

「こやつ…人の身にも関わらず、"五つの力"をその身に宿しておる。どういうことじゃ…?」

 

青年を不可解なものを見るような目で観察するが、今は目覚める気配もないため、老人は一先ず皇城の屋根へと降り立ち、回収した人間達の応急処置を指示していた。

 

青年と少女二人は大した怪我ではなかったものの、女性の傷は深くもうそれほど長くはないだろうと診断されてしまった。

 

………

……

 

その夜。

昼間の流星騒ぎが嘘のように皇城では盛大な宴が行われていた。

姫君の誕生日を祝う宴である。

堅苦しい挨拶もそこそこに宴は無礼講で盛り上がった。

 

 

 

そんな中、いち早く目覚めた者がいた。

 

「………………」

 

鎧を着ていた少女の片割れである。

 

「……………?」

 

上体を起こして周囲を見回し、ここが何処なのか首を傾げる。

自分の身を見れば、浴衣のような薄めの着物を着ていた。

状況がいまいち飲み込めない様子だ。

 

「………………」

 

しかし、自分のやるべきことは変わらない。

そういう目をしていた。

布団から起き上がると、何か武器になりそうなものがないかと部屋の中を物色し始める。

 

「………………」

 

しばらく部屋の中を探したが、武器になりそうなものはなかった。

だが、それでも構わない。

自分には魔法があるのだから…。

そう考えると、少女は気配を消して襖の戸を開いて廊下へと出る。

すぐ隣の部屋から感じる標的の気配を目指して…。

 

スーッ…

 

隣の部屋の襖の戸を開け、部屋の中へと侵入を果たす。

 

「………………」

 

そして、少女は標的である青年の姿を目視で確認する。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

青年は布団で寝ており、こちらに気付いた様子はない。

しかし、油断は出来ない。

この青年は既に二度、自分の襲撃を退けているのだから…。

 

「………………」

 

慎重に、だが迅速に青年の息の根を止めなくてはならない。

それが少女に課せられた依頼であり、生きていくために必要なことだから…。

例え、ここが何処かもわからない場所だとしても、こうして標的がいるのならば遂行しなくてはならないからだ。

 

「………………」

 

眠る青年の横まで気配無く移動すると…

 

ギチィ…!

 

バインド系の魔法を展開し、青年の四肢と首を絞め始める。

 

「……っ……っ……」

 

寝息を立てていた青年は苦しそうに息をしたそうに口をパクパクとさせ、四肢に力を入れて暴れようとするも動きを封じられてそれも叶わない。

 

「………………」

 

このままいけば今度こそこの青年を殺せる。

そう、少女が確信した。

 

その時だった。

 

トンッ!!

 

「っ!?」

 

少女の首筋に衝撃が加わり、少女の意識は黒く染まってしまう。

 

バタリッ!

 

青年の上に覆いかぶさるように倒れる少女。

その影響で青年を縛っていたバインド系の魔法も解ける。

 

「……っ……はぁ……はぁ……」

 

拘束が解けると青年も息が出来るようになる。

 

「やれやれ、少し様子を見に来てみれば…まさかこのような場面に出くわすとはのぉ」

 

倒れた少女の背後には老人が立っており、困った様子で少女を見下ろしていた。

 

「この小僧。この女子に命を狙われているのかの? しかし、なんでまた……それにさっきの術は…」

 

謎が謎を呼ぶ此度の事態、老人は何か思うところがあったのか…。

 

………

……

 

翌朝。

 

「んっ…くっ…」

 

窓の隙間から差し込む朝の陽射しに顔を照らされ、その意識を覚醒させる青年。

 

「こ、こは…?」

 

見知らぬ木造の天井が視界に飛び込んできて上体を起こす。

 

「これは…?」

 

見慣れぬ生地の浴衣のような着物を着させられており、布団に寝ていたという状況。

 

「………………」

 

何やら強烈に嫌な予感がした青年は身を起こして窓を開け放つ。

そこに広がる景色は…

 

「………………」

 

まるで戦国時代を思わせるような木造の家屋が軒を並べる城下町らしきものが見える。

そして、少し窓から身を乗り出して周囲を見ると、小高い丘の上に木造式の立派な城が(そび)え立っており、今彼がいるのはその城の中腹くらいの場所の一室だろうか。

 

「あぁ…またか…」

 

その風景に青年は盛大な溜息を吐いてしまっていた。

 

「あの最後の一撃を放った時に何らかの作用が働き、亜空間を維持していた次元の壁が崩れ、また別の異世界に飛ばされた、って感じかな?」

 

青年は冷静に自らに起きた現象を分析していた。

 

「それに着替えさせられているということは…一応、保護されたってことでいいのだろうか?」

 

ともかく情報が少ないな、と思ってネクサスを探すが…

 

「押収されたか。まぁ、風景を見る限りこの世界では機械とかが珍しいのかもしれないし、誰か来たらそれとなく聞いてみるか…」

 

部屋にないことからそう考えていた。

 

「あとは…彼女達か…」

 

匂いからして近くにいることは確かなのだろう。

しかし、その匂いにも違和感があった。

 

「この世界…大気中の魔力が少ないのか? それにこれは妖力、か? なら、ここは妖怪か、それに属するか、もしくは類する世界の可能性もあるか……ともかく、早く智鶴達に無事を知らせないとな。ネクサスやアクエリアスがあれば、次元間通信も可能だろうし」

 

伊達に何度もこんな状況に陥っている訳ではないらしく、何とも冷静…過ぎる気もしないでもないが…。

 

すると…

 

スーッ…

 

「おや? 目覚めたのかの、小僧」

 

襖の戸が開き、そこから老人が現れる。

その後ろには白銀の髪の男と群青色の髪の女性が供として控えていた。

 

「ん? あぁ、おかげさまで……爺さん達が助けてくれたのか?」

 

青年のその何気ない一言で…

 

「っ!」

 

「貴様…!」

 

群青色の髪の女性と白銀の髪の男から殺気に近しいものを向けられてしまう。

 

「(あ、もしかしてなんかマズった?)」

 

今更ながら相手の素性を考えずに素で対応してしまったことを少し後悔する。

 

「ほっほっほっ、月鬼に氷鬼よ。よいよい」

 

「しかし、皇鬼様」

 

白銀の髪の男が何やら不満げにしていると…

 

「構わん。こやつには色々と聞きたいこともある故な。あまり堅苦しくされても息が詰まるわい」

 

「はっ…」

 

白銀の髪の男が老人の言葉に大人しく引き下がる。

 

「(もしかして…)」

 

そのやり取りを見て青年は…

 

「すみません。もしかしなくても、あなたがこの城の主ですか?」

 

そう老人に尋ねていた。

 

「うむ、如何にも。儂がこの城の今の主じゃ」

 

それを聞き、あちゃ~、と言いたげに顔を左手で覆う青年だった。

 

「(シルファー様もそうだが、どうして俺の周りの王様系ってこうも活動的なのかね?)」

 

そして、指の隙間から老人達を観察し、一つ気になったことがあった。

 

「(というか…角?)」

 

老人達は人の姿をしているが、頭に角が生えていたのだ。

 

「儂等の顔に何か付いておるかの?」

 

その視線を感じ、老人が青年に尋ねる。

 

「あ、いや…つかぬことをお聞きしますが…あなた達の"種族"を教えていただけませんか?」

 

そんな青年の問いに…

 

「種族…?」

 

「貴様、何を言っている?」

 

群青色の髪の女性と白銀の髪の男が青年の言っていることがわからないとばかりに首を傾げる。

 

そんな中…

 

「"鬼"じゃよ」

 

老人だけが青年の言葉を理解したように答える。

 

「鬼…」

 

「うむ。儂等は鬼じゃよ。"人間"の小僧よ」

 

老人の言葉に…

 

「え…?」

 

「"人間"、だと…?」

 

群青色の髪の女性と白銀の髪の男がまたも驚いたような声を漏らす。

 

「この世界に、人間っていないんですか?」

 

「隣の世界にはおる。が、儂等は必要以上に接触はしておらんからの。人間という言葉を知っておってもその姿を見た者は少ない。この者達もそうじゃ。まぁ、興味本位で隣の世界に渡る者もいるがの」

 

そう語る老人はまるで自分は見てきたかのような物言いだった。

 

「……ちなみにその隣の世界というのは?」

 

「儂等は"人間界"と呼んでおる。じゃが、必要以上の接触をしておらんから詳しいことまでは知らぬがの…」

 

「必要以上ってことは少しは接点があるということでは?」

 

「この世界に迷い込んできた人間を送り帰すくらいじゃよ。だから向こうの事情なぞ知らんわい」

 

老人の言葉に青年も考え込む。

 

「(地球、の可能性もなくはない、か……いや、ここはいっそ聞いてみるべきか)」

 

青年は思い切って質問することにした。

 

「その"人間界"って、『地球』って星だと思うんだが…どうだろうか?」

 

そんな青年の言葉に…

 

「「「?」」」

 

老人達はキョトンとしたような表情をする。

 

「(あれ…?)」

 

青年もまたその反応に首を傾げる。

隣の世界…つまり次元間の話が出たということは星の話も通じると思ったからだ。

しかし、老人達の反応は違った。

 

「星…天に煌くあの星かの?」

 

「バカバカしい。星に人間が住んでいるとでも言うのか?」

 

「そもそも、星に名前が付いてることも初耳ですけど…?」

 

そんな感じの反応だった。

 

「い、いや、ちょっと待ってくれ! さっき"隣の世界"って言ってたよな?」

 

なんか反応が予想と違い、慌てて聞き直す。

 

「うむ、言ったの」

 

「それって、"次元間の繋がり"のことを知ってるんじゃないのか!?」

 

「じげんかんのつながり…?」

 

「多次元世界のことだよ! 世界は一つや二つじゃない。いくつもの世界が次元という壁に隔たれて存在するって話なんだけど…」

 

青年が必死に語るが…

 

「「???」」

 

老人の供は意味が分からないような反応で、青年の顔を見て"こいつ、大丈夫か?"的な視線を送っていた。

 

「多次元世界……聞いたこともないのぉ」

 

老人もまたそのような反応をするが…

 

「しかし、なるほど。世界は儂等の住むこの世界や人間界…そして、"奴等のいる世界"だけではない、か…」

 

一定の理解を示していた。

 

「(奴等?)」

 

老人の言葉に青年はちょっとした違和感を覚えた。

 

「少なくとも、儂等は既にその"多次元世界"とやらの理を"知っておる"ことになるの」

 

「え!?」

 

「皇鬼様。それは(まこと)なのですか?」

 

老人の言葉に後ろの2人が驚く。

 

「うむ。要するにこの小僧は『外敵の(ことわり)』のことを言っておるのじゃ」

 

「外敵の理?」

 

聞き慣れない言葉が出てきて今度は青年が首を傾げる。

 

「外敵の理……まさか、あれにそのような意味があったとは…」

 

白銀の髪の男が信じられないような面持ちで声を出す。

 

「あの、外敵の理ってのは?」

 

「簡単に言ってしまえば、侵略者じゃ。今までもこの世界には別の世の理を持つ存在が度々攻め込んできたのじゃよ。それを儂等は『外敵の理』と呼んでおる。中には話し合いに応じた世界もあったようじゃがの。そして、"今現在もこの世界は外敵の理を持つ存在と戦っておる"」

 

青年の質問に老人はそう答えていた。

 

「次元を越えての侵略、か…(なんか、どっかで聞いたことがあるような…)」

 

青年が何となく理解していると…

 

「って、ちょっと待て。"今現在も戦っている"?」

 

「うむ。今、この世界は戦時中じゃ。本来ならば防衛戦に徹していたかったがの。此度の敵対勢力に使者として送り出した息子夫婦を殺されてしまっての。徹底抗戦を宣言したのじゃよ。それが約10年前の話じゃがな」

 

「なっ?!」

 

サラッと告げられた現実に青年はギョッとする。

 

「じゃが、状況は芳しくなくてのぉ」

 

「皇鬼様。だからこそ我が出陣するのです。我が前線に出ることで兵の士気を高め、我が力を持って奴等…"絶魔"の勢力を削ぎ落してご覧にいれましょう」

 

白銀の髪の男が老人にそう進言していると…

 

「絶魔だと!?」

 

青年もかなり驚いた様子で声を出す。

 

「む? 小僧、どうかしたのかの? もしやお主、絶魔を知っておるのか?」

 

「知ってるも何も…多次元世界間での戦争。つまり、次元大戦を引き起こそうと裏で暗躍している勢力だ。俺の仲間達も追っている最中で、その所在を今も探してるとこなんだ」

 

老人の言葉に青年はそう答えるが…

 

「しかし、解せん。絶魔が直接戦争を仕掛けている? それも10年前から…? それならどこかしらの勢力が気付いてそうな気もするが、そんな情報は一切ないぞ…?」

 

青年も青年で困惑している様子だった。

 

「ふむ…事情は知らぬが、そちらもそちらで色々あるのじゃろう。少し頭を冷やすがよい」

 

「あぁ…そうさせてもらいたいが、そうも言ってられない。俺の身に着けていた装飾品の類はどうなってる? 出来れば、返してもらいたいんだが…」

 

今の状況を皆に報告しなくてはならない。

あと、自分が無事であることも…。

 

「あの奇妙な箱やら何やらかの?」

 

「多分、それだ。あと、俺の他にここに来た人達はどうなってる?」

 

押収されたものが早めに戻ってきそうな予感を抱きつつ、彼女達のことを尋ねる。

 

「女子達に関してはまだ目覚めておらんよ。まぁ、片方は昨夜お主の命を奪おうとしていたがの」

 

「なっ…こんな時でも暗殺かよ!」

 

「本当にどんな事情があるのやら…」

 

老人が何やら呆れていると…

 

「ん? "女子達に関しては"…?」

 

その言葉に引っ掛かりを覚える。

 

「うむ。もう一人、重傷を負っておった婦人がおっての。そちらは残念ながら長くは持たんじゃろう…」

 

「っ…そう、か…(だが、復讐から解放することは出来たんだよな…?)」

 

今はそれだけでも良しとしようと踏ん切りをつけたところで…

 

「そういえば、お主。名は何と申す? いつまでもお主では不便じゃからな」

 

今更のように老人が尋ねる。

 

「あ~…そういや、まだ名乗ってなかったか」

 

青年も青年で名乗ってなかったことに気付く。

 

「俺は、忍。紅神 忍だ」

 

青年…忍は己の名を名乗る。

 

 

 

この時、忍は知る由もなかった。

 

この世界が、単純に次元転移で訪れた異世界ではないということに…。

それを知った時、忍はどのような選択をするのだろうか…?

 

歯車は止まらない。

これもまた必要な過程なのだと…いずれ知る時も来るだろう。

その時、後悔の無いように彼は歩んでいけるのだろうか…?



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第百話『母の願いと衝撃の事実』

忍達は絶魔と10年もの間、戦争状態にあるという次元世界に飛ばされていた。

その世界では『鬼』という種族が住んでおり、過去にも似たような別次元からの侵略者が幾度となく攻め込んできたという。

それをこの世界の住民は『外敵の理』と呼称していた。

 

そして、此度の外敵の理は…絶魔。

それは忍にとっても因縁浅からぬ敵の名であった。

 

 

 

皇城の忍に当てられた部屋では…

 

「紅神 忍、か……この世界ではとても珍しい名じゃな。人間界じゃと、そうでもない気がするがの」

 

「(やはり、人間界とは地球の事、なのか? だとしたら不幸中の幸いか。この分なら早く戻れる)」

 

その可能性が捨て切れない以上、帰還法も意外と容易なのかもしれないと考える。

 

「それであなた達の名は? こっちもこっちで名前がわからないとずっとこの調子なんだが…」

 

「よかろう。名乗られたからには名乗らんのも失礼じゃしな」

 

忍の言い分に老人は快く頷く。

 

「儂の名は『皇鬼(すめらぎ)』。この『鬼神界(きしんかい)』を統べておる皇じゃ。そして、儂の後ろに控えておるのが我が鬼神界の精鋭『武天十鬼(ぶてんじっき)』。その筆頭の…」

 

「『月鬼(げっき)』だ」

 

「同じく武天十鬼に属しています、『氷鬼(ひょうき)』と申します」

 

老人、白銀の髪の男、群青色の髪の女性の順番にそれぞれ名乗っていた。

 

「武天、十鬼…?」

 

「左様。我が鬼神界の守りの要であると同時に儂が信頼を置く臣でもある10人の精鋭達のことよ」

 

そんな皇鬼の言葉に…

 

「(正直、この人達がここに来た時から凄い妖力の匂いがしてたが…間違いじゃなかったか。しかも、この感じ…氷鬼って女性の方でも狼夜伯父さんや親父の霊力と同等、残る2人はそれ以上な感じがするんだよな……つまり、こんな化物級があと8人もいんのか!?)」

 

内心でかなり驚いていた。

 

「……して、忍よ」

 

何やら神妙な面持ちで尋ねてくる皇鬼。

 

「な、なんだよ?」

 

その神妙な面持ちにも驚いて忍は少し後退る。

 

「お主、本当に"人間"かの?」

 

「ッ…(それを、聞くか…というか、気付かれたか…)」

 

直球な質問をされ、忍も生唾を飲み込む。

 

「皇鬼様。それはどういう…?」

 

「………………」

 

氷鬼が皇鬼に尋ねる一方で、月鬼は変化した忍の顔を見ていた。

 

「言った通りの意味じゃよ。こやつからは魔、気、霊、妖、龍…五つの波動を感じるでの」

 

「まさか!?」

 

皇鬼の言葉に氷鬼は信じられないような表情で忍を見る。

 

「だが、こいつは動揺している。それは事実なのだろう。本当に人間であるならそれは異常な状態だ。では、何故そんな状態でも無事でいられるか? 答えは一つ。こいつは人間ではないかもしれない、と…」

 

そんな氷鬼に月鬼は己の導き出した見解を述べる。

 

「勝手に人の話題で盛り上がらないでもらいたいがね。ま、事実っちゃ事実だから否定はしないけどな」

 

隠し事をしても得策ではないと判断した忍はそう答えていた。

 

「では、お主は…お主の言うところの、何という種族、なのかの?」

 

「俺は…混血だ。元は霊狼って狼の種と雪女って妖怪のハーフだったんだがな。変な学者に冥族とヴァンパイア…要は吸血鬼って種族の血を投与された。その後、俺はある出来事で相対したある龍種の血肉を衝動に駆られるまま食らった。それが五つの力を手にした経緯さ。これで満足か?」

 

皇鬼の問いに忍は簡潔にそう答えていた。

 

「お主も破天荒な人生を送っておるようじゃのう?」

 

「ま、いつも必死だけどな…」

 

そう答える特に気負った様子のない忍を見て…

 

「ふむふむ。よいのぉ、実によい塩梅じゃ…」

 

キラリ、と皇鬼の眼が光ったような気がした。

 

「…これって」

 

「はぁ…また、いつもの悪い癖が…」

 

氷鬼は月鬼の様子を窺うように視線を向けると、月鬼もまた呆れたような溜息を吐いていた。

 

「???」

 

その意図がわからず、忍も首を傾げる。

 

「忍よ。お主、儂の元で修行してみんか?」

 

「…………はい?」

 

皇鬼の突然の申し出に忍も生返事してしまう。

 

「善は急げという。今から始めるぞい!」

 

「ちょっ!?」

 

そう言うや否や皇鬼は忍の胸倉を掴んで部屋から出て行ってしまう。

 

「今回はいつまで持つか…」

 

「皇鬼様にも困ったものです…」

 

月鬼と氷鬼は揃って深い溜息を吐くのであった。

 

………

……

 

皇城近くにある演習場。

そこへと強制的に連れて来られた忍は…

 

「とりあえず、お主がどれだけ出来るかを確かめてみようかの」

 

「いや、だからってこんな格好で…?」

 

寝間着姿のような格好で皇鬼の修行とやらに付き合わされることとなっていた。

 

「着物なんぞに振り回されるようならそれだけの実力じゃて」

 

「なんか、釈然としねぇ…」

 

そんな会話の後…

 

「さぁ、どこからでも打って来い!」

 

「はぁ…」

 

とは言え、仁王立ちしていても隙らしい隙が見当たらない皇鬼相手にどうせい言う話なのだが…

 

「(こうも隙が無いと逆に攻めにくいんだよな…)」

 

困って頭を掻く仕草をすると…

 

「(ま、言っても仕方ないか。なら…)」

 

瞬時に霊鎧装と瞬煌を掛け合わせた術式を展開する。

 

「(俺の性じゃないが、正面からぶつかってみるか…!)」

 

ドンッ!

 

両足に力を送り、一気に加速して皇鬼の間合いへと入り…

 

「激龍衝ッ!!」

 

瞬煌の瞬間炸裂で威力を底上げした掌底を繰り出す。

 

「(ほほぉ、五つの力をそのように使うか。やはり、良い逸材のようじゃの!)」

 

皇鬼は自分の眼に狂いがないのを確認したように笑みを浮かべ…

 

「むんっ!!」

 

濃密な妖力を右腕に纏い、忍の一撃を迎え撃つ。

 

ゴオオオオッ!!!

 

両者の激突で大気が震える。

 

「(嘘だろ、おい!?)」

 

五つの力を用いた掌底を妖力のみの拳で相殺され、忍は信じられないような表情になる。

 

「ほっほっほっ、老骨に対してちと遠慮がないのぉ?」

 

「ッ!!」

 

ドンッ!

バッ!!

 

忍は即座に掌底からエネルギーを炸裂放出させ、空中で一回転しながらその場から離脱する。

 

「ブリザード・ファング!」

 

そして、十八番の中距離拡散氷結魔法を繰り出す。

 

「ふむ」

 

ダダダダダ!!

 

それを皇鬼は拳打のみで弾き返していた。

 

「(まるで鎧型禁手と相対してる気分だな…)」

 

そう思いながらも主だった攻撃を隠れ蓑に別地点に収束させていた魔力球体の後ろに移動すると…

 

「ブリザード・ファング・エクシード!」

 

これもまた忍の十八番と言える収束風の砲撃を瞬煌の瞬間炸裂で威力を底上げして放つ。

 

「ほほぉ、あの砲撃に紛れ込ませてそのような大技を放つ、か」

 

そう言いつつも忍の収束風砲撃(威力底上げ仕様)を片手で受け止める。

 

「マジかよ!?」

 

その光景に思わず忍も叫ぶ。

 

「ほれ、余所見をするでない!」

 

その受け止めた砲撃を逆に利用して忍に返していた。

 

「くっ!?」

 

左手から炸裂させた力を解き放ち、それを利用して側転するように回避する。

 

「(無茶苦茶だ、この爺さん!?)」

 

そう考えながらも着地すると同時に…

 

「冥王スキル、アイス・エイジ!!!」

 

何かを取り出す仕草をしてから、そう叫ぶものの…

 

し~ん…

 

何も起こらない。

というか、何かを取り出そうとしてもその"何か"が無かったというか…。

 

「む?」

 

「………………あ、あれ?」

 

皇鬼も忍のその奇行に首を傾げ、忍もまた何かを探すように着物のあちこちをまさぐる。

 

「あの、皇鬼さん」

 

「なんじゃ?」

 

「その、つかぬ事をお聞きしますが…俺が発見された時、近くに小さなガラス玉みたいなの、ありませんでした?」

 

「がらすだま?」

 

忍の言葉にさらに首を傾げる皇鬼。

 

「このくらいの…宝石もどきというか、そんなに価値がない水晶というか…そういうのです」

 

とりあえず、身振り手振りと言葉で説明する。

 

「いや、そんなものは知らんの」

 

「え? そ、そんなはずは…」

 

皇鬼が嘘を吐いてるようには見えず、余計におかしく思う忍。

 

「(おかしいな…確かにあの時、力を一時的に解放して、それで………………あれ?)」

 

そこで自身の記憶も曖昧だということに気付く。

 

「……………どうしよ…マジでどうしよ…」

 

あのビー玉が無いと解放形態への移行が出来ないということは先の戦闘で実証されたと言ってもいい。

つまり、この世界でビー玉の行方も探さなければならない。

 

すると…

 

「ふむ。もしかすると…"アレ"、かの?」

 

皇鬼が意味深な言い方をする。

 

「なんか知ってるなら教えてくれ!」

 

それを聞き、忍も皇鬼に詰め寄る。

 

「確証はないがの。あれはお主達を見つけた時のことじゃ。お主達は天の裂け目から墜ちてきた白き流星から吹き飛ぶように現れたのじゃが……その直前に、流星から六つの小さな光が分散し、各地に落ちるのを見た」

 

「………………ん?」

 

何か色々と引っ掛かる言い方に忍は思考が停止する。

 

「(なんか、とんでもない現れ方をしたのでは…?)」

 

その辺りをもう少し詳しく聞きたかったが、今は藁にも縋る気持ちだったので、その気持ちを呑み込んで数を確かめた。

 

「六つ。確かに"六つ"だったんだな?」

 

「うむ。間違いないじゃろう。後で武天十鬼にも確認してもよいぞ?」

 

それを聞き…

 

「そうか…それならいい。あと、大まかな方位だけでもわからないか?」

 

さらに詳しい情報を聞くものの…

 

「方位か…そうじゃな……ちと難しいじゃろう。城下町の住民に聞き込みをしなければ詳しいとこまでは流石にのぉ」

 

「そ、っか…」

 

それ以上は流石にわからずじまいであった。

 

「それほどまでに大切な物なのかの?」

 

忍の落乱ぶりを見て皇鬼が尋ねる。

 

「あぁ…俺の、"力"を封印した水晶玉でな。ある戦いでちょっと無理して、人間としての存在以外が俺の体内に居座れなくなったから外部に新しい器を用意しろって俺の中の存在に言われたからそれ用に調達してな……今は力を安定させるために解放は控えてたんだけど、先の戦いの中で敵だったはずの人を助けるために一時的に解放しちまって…」

 

「ほほぉ、興味深い話じゃの。しかし、解せんこともある」

 

忍の話に興味を抱いていた皇鬼は一つだけわからないことがあった。

 

「なんだよ?」

 

「何故、敵だった者を助けようとした?」

 

それがあまり理解出来ないようだった。

 

「あの人は…復讐に囚われてただけなんだよ…」

 

「ッ!」

 

それを聞き、皇鬼も目の色を変える。

 

「その復讐の種もわかってた。だが、俺の手では救えなかった。でも、俺の仲間が…あの人に大切な心を取り戻させてくれた。それなのに…」

 

ギリッと歯が軋む音がする。

 

「"あいつ"が…その心を取り戻した人を無理矢理に異形の怪物へと変化させた。それが復讐のために身を犠牲にしようとあの人が望んでたことだとしても…俺は、助けずにはいられなかったんだ」

 

「しかし、話を聞く限り、そやつの行動は全て自業自得だったんじゃろう? それをお主が助ける道理はあるまい?」

 

当然な話だ。

身から出た錆、とでも言うのか…確かに自業自得だったとも言える。

そんな敵だった者を助ける道理はない。

 

しかし…

 

「それでもだ。俺は全てを救えるなんて思っちゃいない。ただ、目の前で繰り広げられた悲しい現実で命を落とす人を助けたかっただけだからな…」

 

忍は後悔のないような顔で言い切っていた。

 

「それは…偽善じゃよ」

 

「わかってるさ…それが俺の独り善がりなことだってことくらいはな…」

 

皇鬼の言葉にも自嘲を含んだように答えていた。

 

「それに…"復讐"なんてのは、どんなに綺麗事を並べたって虚しいだけだからな…あの人の復讐は、もう終わったんだ」

 

「まるで経験があるような物言いじゃな?」

 

忍の言い方にそのような感じ方をした皇鬼はそう聞く。

 

「俺自身はない。だが、俺の魂には"その記憶と体験"が刻まれてるからな…」

 

「どういうことじゃ?」

 

牙狼のことを話すとなるとまた長くなりそうだな、と思い…

 

「話せば長くなる…」

 

そう答える。

 

「なに、そのくらいの時間は…」

 

皇鬼が言いかけた時だった。

 

「皇鬼様~」

 

演習場に駆けてくるのは、瑠璃色の髪の女性だった。

 

「水鬼か。どうかしたのか?」

 

「どうかした、じゃないですよ! やっと他の人も目を覚ましたっていうのに、その内の1人を勝手に連れ出して…姉さん達も困ってるんですからね!」

 

瑠璃色の髪の女性が皇鬼に苦言を呈すように言い放っていた。

 

「うむむ…そうは言ってものぉ」

 

「ともかく、早くその人も連れてきてください! そんな寝間着姿のままじゃ色々不便でしょうし、いいですね!?」

 

瑠璃色の髪の女性の言われ…

 

「はぁ…わかったわかった。すぐに向かうわい」

 

皇鬼もやれやれと言わんばかりに溜息を吐いていた。

 

「他の皆も謁見の間で待ってますからね。それじゃ!」

 

そう言って瑠璃色の髪の女性はその場を去っていく。

 

「今の人は?」

 

「あやつも武天十鬼の一人での。名は『水鬼(すいき)』といって氷鬼の妹じゃよ」

 

「へぇ~(これで後7人、か…)」

 

そうして忍は皇鬼に連れられて部屋へと戻り、用意された服に着替えたのだった。

 

………

……

 

~皇城・謁見の間~

 

忍が一足先に謁見の間へと着くと…

 

「あっ!」

 

先に来ていたであろう水鬼が何か驚いたように声を上げ…

 

「よっ、と!」

 

次の瞬間、忍は自分に仕掛けてきた少女を組み敷いていた。

 

「っ……」

 

「狙ってくるかもしれないから一応匂いに気をつけて構えてたが、こんな状況でも本当に仕掛けてくるとはな…アンタのその仕事熱心さには頭が下がるね」

 

そう言いつつバインド魔法を使って少女を拘束する忍だった。

 

「随分と手際が良いな」

 

それを見ていた月鬼からそのような言葉を貰うが…

 

「だが、畏れ多くもここは謁見の間だ。次に騒いだら…わかるな?」

 

次の瞬間には殺気を放たれてしまう。

 

「肝に銘じます」

 

「………………」

 

忍と並んで暗殺者の少女が謁見の間の中央に移動させられる。

 

それから少しして…

 

「……お母さん、大丈夫?」

 

「えぇ…なんとか…」

 

領明の手を借りて翠蓮もやって来た。

 

「あ…」

 

「どうも」

 

先に来てた忍達に気付き、少し気まずいような雰囲気となる。

 

すると…

 

「鬼神界の皇、皇鬼。ご出座である!!」

 

鋼色の髪の男性が謁見の間全体に響くように叫ぶ。

 

『………………』

 

それと同時に謁見の間にいた忍達以外の者が頭を下げていた。

 

「どうにも堅くて敵わんわい…」

 

謁見の間の奥に姿を現す皇鬼はやれやれと言った感じで玉座に腰掛ける。

 

「皆、先日はご苦労だったの」

 

『はっ』

 

とは言え、ほとんど皇鬼一人で流星を砕いたようなものであるが、何事も形式というものが必要らしい。

 

「して、此度の流星騒ぎで保護した人間達のことじゃが…」

 

ざわざわ…

 

"人間"という言葉に臣下達は少しばかり物珍しそうな目で忍達を見る。

 

「「「「………………」」」」

 

その視線をそれぞれ受け、あまり居心地の良さそうではない忍達だった。

 

「これこれ、見世物でもあるまいし、あまり見るんじゃない。客人に失礼じゃろう?」

 

皇鬼に言われ、臣下達も見るのをやめる。

 

「客人達よ、申し訳ないの。なにせ、戦争が起きてからあまり心休まる日がないのでの」

 

「いえ…」

 

「そちらにも事情があるのでしょうから仕方ありません」

 

皇鬼の謝罪に翠蓮と忍がそれぞれ答える。

 

「して、お主らはこれからどうするのじゃ? 必要とあれば人間界へと送り帰すが…」

 

皇鬼の問いに…

 

「それは…叶うのでしたら…そのようにしていただいた方が…」

 

翠蓮が控え目に言う一方で…

 

「俺は残ります。この世界に散らばった力を取り戻すために」

 

忍は堂々とした態度でそう答える。

 

「ふむふむ……そちらの女子達はどうする?」

 

翠蓮と忍の意見はわかったが、領明と暗殺者の少女の意見を聞くために再度問う。

 

「……私は…お母さんと一緒にいられれば、それで…」

 

「………………」

 

領明は翠蓮と共にいられればいいらしいが、暗殺者の少女は忍をじっと見るだけだった。

 

「ふむ。忍とそちらの女子は明確な理由があってこの世界に残るというのじゃな?」

 

「あぁ。まぁ、力を取り戻したら俺も人間界に戻るが…」

 

「………………」

 

皇鬼の問いに忍はそう答え、少女もこくりと頷く。

少女の場合、理由が理由なんだが…。

 

「あい、わかった。なら、その身柄はしばしの間、儂が預かろう」

 

ざわざわ…!

 

「皇鬼様!」

 

臣下を代表して月鬼が皇鬼に意見しようとするが…

 

「年寄りの我儘じゃよ。それくらい許せぃ」

 

「しかし…!」

 

「それに人間にしては見所のある若い者だしの。少し鍛えてやるだけじゃよ」

 

「あなたという人は…」

 

心底困ったように頭を抱える月鬼を他所に…

 

「しかし、じゃ…」

 

皇鬼はしばし躊躇った様子だったが、改めて翠蓮と領明を見て…

 

「酷なことを言うようじゃが、そちらの女子の願いはあまり長くはないじゃろうな」

 

そう言っていた。

 

「………………」

 

「……お母さん?」

 

その言葉に領明が母を見るが、翠蓮も娘の視線から目を逸らす。

 

「やはり、言っておらなんだか…」

 

その様子に皇鬼も悪いことをしたと思ったのだろうが…避けては通れない道だと思い…

 

「その婦人はの。もう、長くないのじゃよ」

 

そう、告げていた。

 

「!?」

 

その言葉に領明は目を見開く。

 

「……そ、そんな…」

 

その事実に愕然とする領明をよそに…

 

「……いいんですよ、これで…」

 

翠蓮は静かにそう漏らしていた。

 

「……お母さん!?」

 

翠蓮の言葉に領明が泣きそうな顔で見る。

 

「私は、それだけのことをしてきました。もちろん、あなた達に怨まれてもおかしくはないくらいに…」

 

そんな翠蓮の独白に周りもまた静まり返っていた。

 

「私は、手を出してはいけないものにも手を出してしまった…これはその報いなのでしょう」

 

絶魔因子の投与による命を削った復讐を果たすために…。

 

「ただ、心残りがあるとしたら…娘の領明のこと…」

 

そこで翠蓮は忍へと視線を向ける。

 

「私の復讐に付き合わせ、命まで狙っていた相手に頼むのは都合のいいことだとわかっています。ですが…あなたにしか頼めません。この娘と、同じ血を引くあなたにしか…」

 

「………………」

 

忍は黙って翠蓮の眼を見る。

 

「どうか…どうか、この娘のことを…守ってあげてください…お願いします…」

 

そう言って翠蓮は忍に頭を下げる。

 

「そんな身勝手な願い…俺が聞くとでも?」

 

「……………」

 

「元々は伯父さんの蒔いた種で、俺からしたら理不尽な理由で命を狙われたんだ。それを今更になって娘を頼むだって? 確かに都合が良過ぎるよな…」

 

流石の忍も今回の件については都合が良過ぎると思ったらしい。

 

「…っ…あなたは…!」

 

忍の言い方に領明も飛び出そうとするが…

 

「よしなさい、領明」

 

翠蓮に止められる。

 

「……でも…!」

 

「いいのよ。わかっていたことだもの…」

 

翠蓮も無理を承知で頼んだのでその結果には仕方ないと考えていた。

 

ただ…

 

「一つだけ確認したい」

 

忍が確認をする。

 

「なんでしょうか?」

 

「アンタの復讐は…もう、終わったんだよな?」

 

「…………えぇ…」

 

その問いに翠蓮はしばし考えてからそう答える。

 

「ならいい。それが聞ければ十分だ」

 

「……?」

 

その問いの意図がわからないでいると…

 

「"父方の従姉妹"を路頭に迷わせたくもないし…その願い、聞き受けるさ…"伯母さん"」

 

忍はそう告げていた。

 

「っ!?」

 

思いがけない言葉に翠蓮も驚いて顔を上げる。

 

「伯父さんの忘れ形見で、伯母さんの大切な娘…それがわかってるなら、俺から言う事は何もない。伯母さんが余命短いとしても、今この時を大切に悔いのないように過ごしてくれれば、俺は伯母さんの願いを叶える。ただ、それだけだよ…」

 

その答えを聞き…

 

「…ぁ、ありがとう、ございます…」

 

翠蓮は人目も憚らず、涙を零す。

 

「話は終わったかの?」

 

話が一区切りしたところで、皇鬼が声を掛ける。

 

「あぁ、とりあえずはな」

 

それに忍が答える。

 

「なら、そちらの2人もしばらくこの世界に滞在するということでよいかの?」

 

「はい…ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

 

その問いに袖で涙を拭った翠蓮が答える。

 

「うむ。わかった。皆も聞いての通りじゃ。しばらくの間、この客人達を城で世話するでの。そのつもりでおるように」

 

『はっ!』

 

臣下達は皇の決定に従っていた。

 

「では、武天十鬼以外は退室してよいぞ。なに、ちょっとした世間話をするだけじゃし、武天十鬼がいれば安心じゃろ?」

 

「……では、解散!」

 

鋼色の髪の男の声を皮切りに謁見の間から皇鬼、武天十鬼、忍達を除いた臣下達が退室していく。

 

そして、残った者達は…

 

「え~、これから町の女の子と逢引だってのに…」

 

不満を持つ紫色の髪の男。

 

「んぁ? 終わったのか?」

 

どうも寝てたらしい赤い髪の男。

 

「あ~、腹減った~」

 

ぐぅぅぅ!

 

腹の虫を盛大に鳴らす金髪の巨漢。

 

「やれやれ、たまに来てみれば…面倒なことだ」

 

何やら面倒そうな深緑色の髪の男。

 

「お前達という奴は…」

 

怒りが顔に出ている月鬼。

 

「それにしても坊主! なかなかの度量じゃねぇか!」

 

忍に近寄って背中をバシバシと叩く黄緑の髪の女性。

 

「「………………」」

 

その様子を傍から黙って見る鋼色の髪の男と、黄土色の髪の男。

 

「なんだろうね、姉さん?」

 

「さぁ?」

 

皇鬼の待機命令に首を傾げる水鬼と氷鬼の姉妹。

 

で、その場に残った者に言い渡された皇鬼の言葉は…

 

「まぁ、今後の付き合いもあるじゃろうし、それぞれ自己紹介しておけぃ。特に忍は食客として扱いたいしのぉ」

 

というものだった。

 

「なんか私情が混じってるな…だが、自己紹介ね。確かに世話になるんだから名前くらい知っておいても損はないか」

 

そんなことを言うと…

 

「紅神 忍。見ての通り、人間っぽいが実際は色々と混じってる混血なんで…魔、気、霊、妖、龍の力が使えます。あと、俺の身につけてた装飾品とか返してくれたら嬉しいです」

 

忍はそう自己紹介していた。

当然、持ち物の返還も要求していたが…

 

「紫牙 翠蓮と申します。娘の領明と共に暮らせる時間を与えてくださり、ありがとうございます」

 

忍に倣い、翠蓮もそのような自己紹介をしていた。

 

「……紫牙 領明…です…」

 

領明はあまりこういうのに慣れてないのか、名前以外は特に言わずに終わってしまう。

 

「………………」

 

人間側の最後の一人…暗殺者の少女は頑なに口を開かなかった。

 

「はぁ…仕方あるまい。武天十鬼が筆頭、月鬼。次、炎鬼」

 

言葉少なめに語る月鬼は次を指名する。

 

「応よ、旦那! 武天十鬼の特攻隊長! 炎鬼様とは俺のことよ!」

 

何とも暑苦しい限りの赤い髪の男『炎鬼(えんき)』が名乗る。

 

「オラは雷鬼って言うんだな~。飯の事なら任せておけ~」

 

金髪の巨漢『雷鬼(らいき)』は何とものんびりした様子だった。

 

「わたくしは氷鬼と申します。この城の筆頭侍女でもありますので、何かあればお声をかけてもらえれば幸いです」

 

礼儀正しくお辞儀する氷鬼。

 

「あたしは水鬼。いつもは姫様の護衛してるわ。今日はまだお部屋から出てきてないみたいだけど」

 

氷鬼とは対照的にはつらつと答える水鬼。

 

「僕は樹鬼。しがない植物学者だ」

 

忍達に興味がなさそうな態度を示しながら律儀にも挨拶をする深緑色の髪の男『樹鬼(じゅき)』。

 

「あたしゃ、風鬼ってもんだよ。ま、よろしく頼むわな♪」

 

そう言って腰に下げてた徳利から酒を飲む黄緑の髪の女性『風鬼(ふうき)』。

 

「…………地鬼…」

 

名前だけを口にする黄土色の髪の男『地鬼(ちき)』。

 

「我が名は鉄鬼。今は聖上に命を預ける武人だ」

 

お堅く武人然とした鋼色の髪の男『鉄鬼(てっき)』。

 

「女の子となら仲良くしてもいいけど、野郎とはご勘弁。だから女の子は俺のことを重鬼って覚えてくれると嬉しいな~」

 

このなんともチャラいのも武天十鬼の一人なのだと疑いたくなるような紫色の髪の男『重鬼(じゅうき)』。

 

「お主も名乗るくらいしたらどうじゃ?」

 

「………………」

 

皇鬼は暗殺者の少女に向かって口を開くが、当の本人は沈黙を続けていた。

 

「やれやれ…」

 

「はぁ…」

 

その沈黙に皇鬼と忍が溜息を吐く。

 

「それにしても…現代でも戦国時代みたいな世界があるもんなんだな…」

 

何気に呟いた忍の一言に…

 

「げんだいに、せんごくじだい? また、何の話をしておる?」

 

皇鬼がそのように尋ねる。

 

「え? だって、人間界って今は現代だろ? 20XX年だよな?」

 

「「「(こくこく)」」」

 

同じ時代で生きていた翠蓮、領明、暗殺者の少女も忍の言葉に頷く。

 

「20XX? 何を言うちょる。確か、今の人間界の暦は……"太陰暦"のはずじゃぞ?」

 

皇鬼はにべもなくそう言い放つ。

 

「「「「………………」」」」

 

それを聞き、固まる忍達は…

 

「「「……………え?」」」

 

「………………?」

 

暗殺者の少女以外、何を言われたのかわからないように声を漏らす。

 

「儂は変なことを言ったかの?」

 

「いえ、特に問題はないかと。報告された人間界の暦はそれで間違いないと記憶しております」

 

皇鬼の言葉に月鬼はいつか聞いただろう僅かな情報を思い出して答えていた。

 

「あははははは! 何言っちゃってんの?! 20XXとか…意味わかんないんだけど!」

 

忍の言葉を重鬼が笑い飛ばす。

 

「え、え~っと…」

 

頭の回転が追いつかない忍は…

 

「あの、今現在敵対してる絶魔に"神"という存在はいますか?」

 

そんなことを聞いていた。

 

「"神"か。忌々しい事じゃが…宣戦してきた者は自らを神を自称していたと記憶しておるわい」

 

「ッ!?」

 

その事実に忍は頭をハンマーで叩かれたような衝撃を受ける。

 

「ま、マジか…」

 

以前、深層世界で聞いた狼夜の話と、今の皇鬼の言葉の食い違いが忍をある結論に至らせる。

 

「紅神さん…?」

 

「……?」

 

忍の様子に翠蓮と領明も不安げな様子だった。

 

「俺達は……太古の世界に飛ばされた…?」

 

「「っ!?」」

 

「……………!?」

 

その言葉に翠蓮と領明、さらに暗殺者の少女もまた驚いていた。

 

 

 

なんと、あの時空の亀裂によって過去に飛ばされていた可能性が出てきた。

 

絶魔の神が存在してる。

それは忍が聞いた情報とは異なる。

何故なら忍が狼夜から聞いた話では、絶魔の神は霊狼の始祖が仕えていた神によって封印されたはずなのだから…。

その事実がない以上、この世界は太古の世界ということになりうる。

 

未来という可能性もないわけではないが、その場合だと次元世界や機械を知らないのが納得できない。

それに皇鬼の言った"太陰暦"は太古に使われていた暦である。

そう考えると、過去の可能性の方が高いのだ。

 

はたして、忍達は無事に元の世界…いや、元の時代に戻れるのか?

そして、忍の散らばった力の行方は…?



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第百一話『決断』

祝・PC復活!

オリジナルを始めたという時にタイミング的に最悪かもしれないけど…
まぁ、それはそれ、これはこれ、ということで…。

スマホでオリジナルは続けますが…。
まぁ、亀更新になるでしょう。
ともかく、久々の再開です。


現代から太古の世界へと飛ばされてしまったということに気付く忍達。

実際問題として、帰還の目処が立たないというのもある。

次元間航行の術はあっても、並行世界に通ずる時空間や過去・現在・未来という時間を行き来する術はないのだから…。

 

しかもここは過去の世界。

どう逆立ちしても過去の技術で未来へと行く方法は確立出来ない。

八方塞がりである。

 

 

 

それから忍は自分達が遥か未来よりこの世界に来てしまったことを皇鬼達に伝えるのだが…

 

「ふ~む…にわかには信じがたいのぉ」

 

流石の皇鬼も困惑していた。

 

「未来から過去へとやってきただと? ふざけているのか?」

 

「ふざけてなんかない! そうとしか説明のしようがないんだよ!」

 

月鬼の疑いの眼差しを受けても忍は断固として主張を変えないでいた。

 

「(こやつの眼は嘘を吐く者のそれとは違う。だとしたら、真実かもしれぬ。じゃが、そうだとしてもそれを確かめる術を儂等は持っておらん。堂々巡りじゃな…)」

 

忍の真剣な眼を見て皇鬼は内心で困ったことになった、と頭を捻る。

 

「俺達が身につけてた装飾品もこの世界から見たら未来の産物なんだ! 今すぐ返却を求める!」

 

忍がそう要求すると…

 

「まぁ、道理じゃの。樹鬼よ。確か、お主に任せておったな。今すぐ取りに向かうがいい」

 

皇鬼がそれに応じる。

 

「? どういうことっすか?」

 

皇鬼の迅速な対応に重鬼が頭を傾げる。

 

「仮に忍の言が正しいものだとしよう。そうすると、あの装飾品類は何らかの技術が盛り込まれておる可能性が高い。事実、あれらは鎧から装飾品に姿を変えたしのう。それらは今の時代には過多な技術やもしれぬ。高度な技術は時に我が身を滅ぼす。それを恐れて忍は早急に返却を求めておるんじゃよ」

 

「なるほど。しかし、それは逆に言えば、我等の戦力になるのでは?」

 

それに樹鬼は頷くが、そういう可能性もあると指摘する。

 

「愚問だぞ、樹鬼。先程、皇鬼様も仰っていただろう。高度な技術は我が身を滅ぼす、と…」

 

「…失言でした。では、取りに向かいますか」

 

月鬼に言われ、樹鬼もすぐに理解して忍達が身につけていた装飾品を取りに向かう。

 

「そんな大層な代物なんすかね~?」

 

樹鬼の後姿を見ながら重鬼が怪訝そうに言う。

 

「少なくとも、儂は忍の言を信じようと思うでの」

 

「買い被り過ぎじゃないっすか~?」

 

やけに忍に突っかかるような発言をする重鬼。

 

「くどいぞ、重鬼」

 

「へ~い」

 

月鬼に窘められるも反省の色はなかった。

 

「雷鬼。お前、今の頭達の話、わかったか?」

 

「うんにゃ、サッパリだ~」

 

「だよな~」

 

炎鬼と雷鬼はそんな会話をしていた。

 

「お前達はもう少し頭を使え!」

 

そうこうしていると…

 

「お持ちしましたよ」

 

樹鬼が装飾品を入れた籠を持ってきた。

 

「では、それらを返却するでの」

 

皇鬼の言葉に樹鬼は籠を忍に手渡す。

 

「……キャンサー!」

 

その中からキャンサーのチェーンブレスレットを取ると…

 

『あぁ、マスター。ご無事で何よりです』

 

そのキャンサーから音声が響き…

 

『っ!?』

 

皇鬼や樹鬼を除く武天十鬼達が周囲を見回して警戒する。

 

「アクエリアス。異常はなかったか?」

 

『えぇ。丁重な扱いをされましたので、それほど問題はありません。ただ、この世界の魔力は微弱ですので、我々の動きも制限される可能性が高いかと…』

 

「やはり、そうか。ということはネクサスやブラッドシリーズもあまり役に立たなそうだな…」

 

『面目次第もございません』

 

「いや、気にするな。それならそれでやりようはある」

 

そんな武天十鬼をよそにアクエリアスのチェーンブレスレットと会話する忍。

 

『"シンシア"ちゃ~ん』

 

「………………」

 

ピスケスのチェーンブレスレットを無言で取ろうとする暗殺者の少女。

 

「"シンシア"? それがこの娘の名前なのか?」

 

ひょいっ、とピスケスのチェーンブレスレットを忍が先に取り上げて尋ねる。

 

『そだよ~』

 

その問いに軽い感じで答えるピスケス。

 

「………………」

 

若干ムスッとしたような眼でピスケスを見る暗殺者の少女こと『シンシア』。

 

『あ、でも、これ内緒だったっけ~?』

 

「いや、知らんがな…」

 

『ねぇねぇ、シンシアちゃ~ん。これ、ダメなやつだった~?』

 

「………………」

 

とにかく、忍からピスケスを奪還しようとするシンシアだった。

 

「ちょうどいいから色々と聞かせろ。特に俺を狙う理由とか」

 

『え~、でも~、守秘義務? ってのもあるし~』

 

「この世界でそんなもの、もう意味をなさないだろ」

 

ピスケスの言葉に忍はそう言っていた。

 

『どういうことでしょうか? マスター』

 

事情がわかっていないエクセンシェダーデバイス達に…

 

「信じがたいことだが、この世界は…俺達のいた時代よりも遥か昔の時代の世界なんだよ」

 

そう答えていた。

 

『『『っ!?』』』

 

さしものエクセンシェダーデバイス達も驚いていた。

 

すると…

 

「お前達は、一体何と会話している?」

 

月鬼が異様なものを見るような目で忍達を見ながら聞く。

 

「あぁ、これは失礼しました。これは意思を持った道具でしてね。意思疎通が出来るんですよ」

 

「そんな…バカな…!?」

 

信じられないような目で忍達の手にしているチェーンブレスレットを見る。

 

「ふむ…確かにこの時代には過ぎた代物のようじゃのぉ」

 

「えぇ…意思のある道具など…伝承に語られるものくらいしか我々は知りません。それが当たり前という反応は、この世界では異質でしょう」

 

皇鬼の言葉に樹鬼も同意していた。

 

「こうなると、忍を食客にしようというのも見送らねばならんのぉ…」

 

心底残念そうに言う皇鬼だった。

 

「どういうことでしょうか?」

 

今度は氷鬼が尋ねる。

 

「未来の人間が不必要に過去へと干渉してはならない。その結果、未来にどのような影響が出るかわからないからな…」

 

その問いに答えたのは忍だった。

 

「例えばの話じゃ。過去に死ぬべきだった者を救えば、そやつが生き残った世界と死んだ世界とで未来が枝分かれる。そうした場合、過去にやって来た者は未来へと帰る時にその者が死んだ世界へと帰るが、一方でその者が生き残る世界も生まれてしまうということじゃよ」

 

「そういう現象を未来では『タイムパラドックス』、分岐した別の未来の形として並行世界『パラレルワールド』と呼んでる」

 

皇鬼と忍の説明に…

 

『????』

 

武天十鬼の大半は疑問符を浮かべていた。

 

「仮の話じゃが…もし、10年前…覇鬼達を絶魔への使者に送ったりなどしていなかったら、今この場にいる皇は覇鬼となっていたかもしれん。ということじゃよ」

 

「なるほど…」

 

「そういう可能性もあったという訳ですか…」

 

武天十鬼の中ではかろうじて月鬼と樹鬼がその解釈を理解していた。

 

「しかし、皇鬼さんはよく理解出来てるな…」

 

「なに、伊達に歳は食っておらんしの。それに人間界でもそういう考えを持つ者は少なからずおったでの。その者達の受け売りじゃよ」

 

「アンタ、本当に何者だよ…」

 

皇鬼に関心するやら呆れるやら、そんな複雑な感情を抱く忍だった。

 

「(それにしても…"鬼神界"、なんて世界は聞いたことがない。地球と隣接してる世界なら何かしら文献にも残ってる可能性が高いが…もしかしたら…)」

 

その中で、忍は一つの可能性を考えたが、詮無いことだと切り捨てる。

 

「(考えても仕方ない。ともかく、俺は俺のやるべきことをやるだけだな…)」

 

各地に分散した力を取り戻す。

今はそれが最重要だろう。

未来への帰還は、この際二の次に考えるべきだと…。

 

「(だが、その前に…)」

 

横目でちらっとシンシアを見る。

 

「(この娘をなんとかしないとな…)」

 

力を探してる最中に暗殺しに来れられても困る、という感じで溜息を吐く。

 

「(とは言え、どうするかな…)」

 

情報が名前以外に何にもない上に対策らしい対策が思いつかないのも事実だった。

 

「(このピスケスを返したが最後、また雲隠れされそうで怖いしな…)」

 

彼女自身の気配遮断能力もそうだが、ピスケスの透明化や幻術魔法を使われるのも厄介であるのは、以前捕縛した時に痛感していた。

 

「(う~ん…せめて彼女の身の上でもわかれば、また違うんだろうが…)」

 

そんな簡単に話してもらえるような内容でもないし、彼女自身無口なのもあって聞ける気がしなかった。

 

ヒュッ!

 

というか、さっきからピスケス奪還よりも忍の暗殺にシフトし始めていた。

それを理力の型を用いて巧みに避ける忍も忍だが…。

 

「(見える分には…こう、対処も出来るが…)」

 

気配を遮断され、見えないともなると理力の型もあまり意味を為さないのだ。

 

すると…

 

「てか、元の世界に戻る方法もわからないのに俺を暗殺しても意味あんのか?」

 

今更の疑問のように呟いた一言に…

 

「………………」

 

シンシアの手も止まる。

 

「………………」

 

そして、少しばかり思考を巡らす仕草をしてから…

 

「………報酬…出ない?」

 

「いや、まぁ…送り先がここにいるしな…。いくらなんでも過去に報酬は持ってこれないだろ」

 

その言葉に…

 

「………………」

 

シンシアはしばしポカンとしていた。

 

「お~い…?」

 

やや放心状態のシンシアに声をかけるが…

 

「………………」

 

反応がない。

というかあったとしても非常にわかりづらいだけかもしれないが…。

 

「まぁ、ともかく…報酬は諦めろ。俺も死にたくないし…」

 

「……………はぁ…」

 

忍の言葉にシンシアも心底ガッカリしたような、そんな溜息を吐いていた。

正直、今のが彼女の心情を一番表したのではなかろうか?

 

「(なんか…初めて彼女から感情というものを感じた気がする…)」

 

失礼かもしれないが、それもまた事実なので黙認してくれるとありがたい。

 

「(この際だし…聞いてみるか)」

 

そして、忍は意を決して聞くことにした。

 

「君は、どうして暗殺者なんてしてるんだ?」

 

「………………?」

 

何を言ってるのかわからないような…無表情だが…気分的にそんな感じの表情で見てくるシンシアに…

 

「その、他にも生き方があったりとか…しなかったのか? ご両親も知ってたりするのか?」

 

「………………」

 

それを聞き…

 

「…………私、親とか、いないから…」

 

シンシアはそう答えていた。

 

「え…?」

 

その思わぬ答えに忍も驚く。

 

「………………」

 

その後、シンシアも口をつぐんでしまい、沈黙が続く。

 

「あ~、その…なんだ……悪い…ちょっと不躾だったな」

 

その沈黙に耐えかねて忍から謝罪する。

 

すると…

 

「おっほん」

 

「あ…」

 

皇鬼の咳払いに忍もここがどこだか思い出す。

 

「まぁ、お主らにもお主らの事情があるじゃろうから、今宵ゆっくりと語り合うがよい。それまではそれぞれ好きに行動するがよい。何なら城下に出てもいいしの」

 

その申し出に…

 

「皇鬼様…何もそこまでしなくても…」

 

月鬼が異議を申し立てる。

 

「よいよい。少しは気晴らしも必要じゃろうて…」

 

そんな言葉の後…

 

「では、そろそろ解散しようかの。皆、時間を取らせてすまなかったの」

 

「いえ」

 

この場での邂逅は終わりを告げたのだった。

 

「じゃあ、俺は城下に降りてみるか…少し頭も整理させたいし…」

 

「あまり出かけられる状態でもありませんから部屋に戻らせていただきます」

 

「……私は、お母さんと一緒にいます」

 

「……………」

 

忍達もそれぞれ行動を決め、謁見の間から出ていくのだった。

 

「(紅神 忍、か。もしかしたら、あの娘の"復讐心"も何とかしてくれるやもしれんな…)」

 

皇鬼は謁見の間から出ていく忍の背中を見て密かに期待していた。

 

………

……

 

・城下町

 

「戦時中にしては活気があるな」

 

皇鬼の許可も得ていた忍は早速城下町に繰り出していた。

当然ながら自分以外は皆、鬼であるが…種族の違いなどは些細なことだろうと忍は思っていた。

 

「(ま、こんな時だからこそ明るいというか…あの皇に武天十鬼なんてのもいたら、そりゃ安心なんだろうか?)」

 

城下町の様子を見ながら忍は思案していた。

 

「(だが、絶魔…それも神がいるとなると、その戦力はわからないからな……それに神がいるということは俺達の祖先の星はこの後に侵攻されるってことだろうし…それを踏まえて考えるとかなり複雑極まりないというか……最悪の事態も考えるべきだろうな…)」

 

そんな思考を巡らせた後…

 

「で、お前は何してんだ?」

 

すぐそばから漂ってくる匂いに忍は振り返りながら尋ねる。

 

「………………」

 

そこにはシンシアがいた。

どうも城下町に降りてからずっと忍の後を追ってきたらしい。

 

「………………返して」

 

忍に掌を見せる。

 

「あん?」

 

「………………ピスケス」

 

「あ~、そうだな…」

 

そういえば、ピスケスを持ったまま出掛けてたことを思い出し…

 

「(このまま返して雲隠れされても困るしな…)」

 

とりあえず…

 

「返しても雲隠れしないって約束するなら返してやる」

 

そう言ってみた。

 

「………………」

 

シンシアもしばし考えた後…

 

「………………ん」

 

頷いていた。

 

「………………」

 

いまいち表情が読めない娘だが…

 

「わかった。今は同じ異邦人同士だし、信じるからな?」

 

忍もそれを信じ、ピスケスをシンシアへと返還していた。

 

「………………」

 

ピスケスを受け取ると…

 

「………………ありがと」

 

そう言っていた。

 

「あ、あぁ…」

 

お礼を言われたことに少しばかり驚いてから…

 

「じゃあ、また夜にな」

 

そう言って忍は歩き出す。

 

「………………」

 

それを見送る…

 

スタスタ…

 

訳でもなく、忍についていくシンシア。

 

「………………」

 

ぴたりと忍が立ち止まれば…

 

「………………」

 

シンシアもまた立ち止まる。

 

「………………」

 

忍がまた歩き出せば…

 

「………………」

 

シンシアもまた歩き出す。

 

「………………」

 

「………………」

 

それを何回か繰り返すと…

 

「なぁ」

 

流石に気になって話し掛ける。

 

「………………?」

 

首を傾げるシンシアに…

 

「お前さん、何がしたいの?」

 

忍は至極当然な質問をしていた。

 

「………………ついてく」

 

何とも簡潔した答えに…

 

「いや、まぁ…それは別にいいんだけどな? せめて隣に来るとかしないか? 後ろにべったりつかれても俺も対応しにくいんだが…」

 

忍は困ったようにそう言っていた。

 

「………………」

 

「あと、周りからの視線もそれとなく痛いんだよ…」

 

さっきの繰り返しを周りの人達は奇妙なものを見るような目で見ていたりする。

 

「だからな。ついてくるなら隣を歩いてほしいんだよ」

 

こんな所で無用な騒ぎを起こしたら皇鬼達に迷惑をかけてしまうとも思ったからだ。

 

「……………ん」

 

それを承諾したのか、シンシアは忍の隣に移動する。

 

「(とは言え、俺も行き先なんて特に決めてないしな…)」

 

そう思いながら適当に歩くこと数分。

 

「………なぁ、聞いていもいいか?」

 

特に会話もなかったが、忍から話を切り出す。

 

「……………?」

 

忍の隣を歩くシンシアが忍の顔を見て首を傾げる。

 

「城でも聞いたが…どうして暗殺者なんかしてるんだ?」

 

「………………」

 

その問いにシンシアは無表情を貫いていた。

 

「まぁ、別に答えたくないなら答えなくてもいいけどな…」

 

そう言って忍はシンシアの頭をポンポンと撫でていた。

 

「……………?」

 

今の忍の行動(頭を撫でる行為)に首を傾げる。

 

「ん?」

 

すると、忍が鼻を少し動かす。

 

「(この匂いは…?)」

 

なんだか皇鬼の匂いに近しく一際強い妖力の匂いと、さっき顔を合わせた武天十鬼の誰かの妖力の匂いを感じ…

 

「ちょっと行ってみるか…」

 

そう呟くと興味本位でその匂いを辿ることにしていた。

 

「……………?」

 

そんな忍についていくシンシア。

 

………

……

 

それから忍とシンシアは城下町の少し外れにある荒れ地に到着していた。

 

「あれは…」

 

その荒れ地には先客がおり…

 

「………………」

 

地鬼と名乗っていた寡黙な鬼が腕組しながら荒れ地の中心に立ち…

 

「でやあぁぁぁっ!!!」

 

その地鬼に向かって一人の鬼の少女が突貫していた。

 

「………………」

 

地鬼は微動だにせず…

 

ズドドドドッ!!

 

地鬼の周囲の荒れ地の地面から無数の土で出来た槍が発生して少女の行く手を阻んでいた。

 

「ちぃっ!」

 

しかし、少女は自らの四肢に妖力を纏っており、その身体能力は向上している事が窺える。

しかも少女は逆に土で出来た槍を足場にして地鬼へと接近している。

 

「………………」

 

そんな状況でも地鬼は身動き一つせずにいた。

 

「このぉっ!!」

 

少女は土の槍の合間から地鬼に向かって氷柱を撃ち出す氷の妖術を繰り出す。

 

ズンッ!

ピキンピキン…ッ!!

 

地鬼の周囲に今度は土の壁が現れ、氷柱を防いでいく。

 

「……………姫様」

 

ずっと無言だった地鬼が少女に話しかける。

 

「なによ?」

 

「……………客人が参ったようです…」

 

そう言って地鬼は視線を忍達の方へと向ける。

 

「客?」

 

地鬼に『姫様』と呼ばれた少女もその視線を追って忍達を見つける。

 

「………誰…?」

 

が、少女は首を傾げる。

 

「……………先日の謎の流星より現れた人間達です。水鬼からは何も…?」

 

「人間…」

 

地鬼の言葉を聞き、戦闘の手を止めた少女は忍達の方へと歩いていく。

それを見て地鬼も少女を追いかける。

 

こちらにやってくる少女と地鬼を見て…

 

「邪魔したかな?」

 

忍はシンシアに話を振るが…

 

「………………」

 

「なんか言ってくれ…」

 

相変わらずの無反応だった。

そうこうしている内に少女が忍達の元へと辿り着き…

 

「ふ~ん…これが人間…」

 

背丈的には忍と同等くらいの少女は興味深そうに忍とシンシアを観察する。

 

「鍛えてはいそうだけど…なんか貧弱そうね」

 

そして、失礼極まりない一言を漏らす。

 

「……………姫様」

 

「(姫…?)」

 

地鬼の言葉に忍も少女の方を見る。

 

「なに?」

 

「……………客人に対して些か礼を失しているかと…」

 

「だって素直な感想なんだもん」

 

悪びれた様子もなく少女は地鬼の言葉にそう返していた。

 

「………………」

 

やれやれといった具合に地鬼は首を振る。

 

「それで、その姫様とやらがこんな所で何してんだよ?」

 

武天十鬼である地鬼の態度から目の前の少女を本物の姫だと判断した忍はそう尋ねていた。

 

「あたしは今、地鬼と話してるんだけど?」

 

「そりゃ失礼しましたね」

 

「なんか生意気な物言いね」

 

「そうですか?」

 

互いに軽い言葉のジャブを仕掛ける。

 

「………………」

 

「………………」

 

そして、互いに少し睨み合った後…

 

「鬼神界の皇、皇鬼が孫娘、『桃鬼(とうき)』よ」

 

「…紅神 忍だ」

 

お互いの名を名乗り合う。

 

「さっきの答えだけど、見ての通り実戦訓練よ」

 

少女…桃鬼はさっきの忍の問いに対してそう答えていた。

 

「…ここの姫は最前線で戦う気なのか?」

 

「相手があいつらに限っては、ね…」

 

そう言う桃鬼から憎しみの妖力が立ち昇る。

 

「(これは…復讐の匂い…)」

 

ごく最近に翠蓮から同じ匂いを感じていたため、即座に目の前の桃鬼が復讐のために力を求めていると理解してしまった。

 

「(事情は知らない。が、しかし…)」

 

忍が何か言おうとした時だった。

 

「姫様~!」

 

城下町の方から水鬼が走ってきた。

 

「げっ、水鬼…」

 

なんだか、あからさまにマズいといった表情で水鬼から逃げるようにその場から走り去ってしまう桃鬼。

 

「あ、ちょっと! なんで、逃げるんですか! 姫様~!」

 

それを追って水鬼もその場を突き抜けていく。

 

「「「………………」」」

 

残された忍達はそれを見送るしか出来なかった。

 

ただ…

 

「(皇鬼さん…アンタは、孫娘を復讐者にするつもりなのか…?)」

 

あれほどの人物がそれを望んでいるのか、それが疑問として忍の中に芽生えていた。

 

………

……

 

その後、地鬼と別れて皇城へと戻った忍とシンシアは夕餉まで時間を潰し、翠蓮と領明と共に夕餉を馳走になっていた。

そして、翠蓮の部屋へと赴き、今後の話をするのであった。

 

「俺、しばらく皇鬼さんの修行とやらを受けることにするよ」

 

開口一番、忍はそんなことを言っていた。

 

「……あなたの、能力探しは…?」

 

忍のその言葉に驚いたように領明が尋ねる。

 

「それももちろん並行してやる。が、ちょっと気になることが出来たんでな。あの人の考えに触れたいんだよ…」

 

忍は先の接触で桃鬼のことが気になっていたようだ。

 

「その気になることというのは…?」

 

今度は翠蓮が尋ねる。

 

「別に大したことじゃないよ。伯母さんは領明と一緒にいることを考えてくれれば…」

 

忍がそこまで言うが…

 

「そうはいきません。死期が近いとはいえ、この中では私が年長者なんですからあなた達の保護者も同然です。それに…今ではあなたも私の大切な親族…甥なのですから、少しくらい頼ってもいいのですよ?」

 

翠蓮は布団から上体を起こしてそう言っていた。

 

「……お母さん…」

 

「伯母さん…」

 

翠蓮の言葉に領明と忍は何と言っていいかわからなかった。

 

「シンシアさん、今はあなたもそうなのですよ?」

 

「……………?」

 

矛先が自分に向けられ、シンシアも首を傾げていた。

 

「私は、あなたに何があって裏の世界に入ったのかまでは聞きません。でも、忍さんを狙うのはもうおやめなさい」

 

その言葉に…

 

「……………報酬…」

 

シンシアはそう漏らす。

 

「なら、今は私達を頼りなさい。ここは私達のいた元の世界じゃない。元の世界の諍いを引きずっても仕方ないのよ。だから、今はあなたも一人の女の子としてこの世界を見てみなさい」

 

「………………」

 

翠蓮の言葉を聞いてもシンシアは正直よくわからないでいた。

今まで暗殺者として生きてきたため、他の生き方というのが本当にわからないのだ。

 

「………………」

 

そんな風に無表情で困っていると…

 

「なら、まずは…あの氷鬼って人の下で色々と手伝ってみたらどうだ?」

 

忍がそんなことを言っていた。

その一言に三人の視線が忍に集まる。

 

「別にあの人に限らなくてもいいが…とにかくここでしばらく厄介になるんだから、手伝いくらいしないとだろ? シンシアもそうだが、領明もやっておいて損はないと思うぞ?」

 

そんな忍の発言に…

 

「そうね。この子達には必要なことかもね…」

 

翠蓮も概ね賛成のようだ。

 

「……ぇ…で、でも…」

 

領明が不安そうに翠蓮を見る。

 

「大丈夫。あなたがいない間に死んだりなんかしないから…」

 

翠蓮はそう言って微笑む。

 

「………………」

 

シンシアはシンシアで最後まで無表情だったが…。

 

「じゃあ、明日。俺から皇鬼さんに伝えておくよ」

 

「えぇ、お願いね」

 

こうして忍達の相談は終わり、忍とシンシアはそれぞれの部屋へと戻った。

 

………

……

 

翌朝。

謁見の間にて…

 

「して、昨夜は語り合えたかの?」

 

「えぇ、一通りは話し合えました」

 

玉座に座る皇鬼を前に忍は堂々としていた。

 

「それはよかった。で、結論は?」

 

余計な話を省いていきなり本題に入る皇鬼。

 

「俺達をしばらくの間、ここで生活させてほしい。そして、俺は皇鬼さん…アンタの修行を受けることにする」

 

ざわざわ…

 

その言葉に臣下達もざわめく。

 

「ほぉ…?」

 

忍の言葉に皇鬼は嬉しさ半分、疑問半分といった表情を見せる。

 

「あと、シンシアと領明もここに滞在している間、侍女の手伝いとして使ってくれて構わない」

 

「まぁ、今は人手がいくらあっても足りないくらいじゃからのぉ。しかし、いいのかの?」

 

それは最終確認であった。

 

「構わない。あの二人にはもっと自分の世界を広げてもらいたいからな」

 

それに対して忍は頷いていた。

 

「じゃあ、そちらは氷鬼に任せるかの。じゃが、お主は自ら志願したのじゃ。生半可な覚悟であった場合は…儂も容赦しないでの?」

 

「覚悟の上だ」

 

そう答える忍の眼は本気であった。

 

「………あい、わかった。なら、お主の身柄、この皇鬼が預かろう」

 

「よろしくお願いする」

 

皇鬼の言葉を聞くと、忍は深々と頭を下げていた。

 

 

 

その日から忍は皇鬼の指導を受けることになった。

領明とシンシアも侍女見習いとして皇城で働くことになった。

 

そして、散らばった忍の力の行方は…?



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第百二話『破壊される募らせてきた復讐心』

忍達が皇鬼に正式に保護下へと入り、早一週間が経とうとしていた。

 

その一週間の間、翠蓮は皇城の一室を借りて外の景色を眺めながらの寝た生活を送っており、仕事の合間に来る領明を話し相手にしている。

 

シンシアと領明は侍女見習いとして氷鬼の下で、まずは簡単な仕事を手伝っていた。

簡単な仕事と言えど、暗殺者生活と研究(実験台)生活が長かったシンシアと領明にとっては未知の経験であり、失敗が多かった。

一週間が経った今も失敗することが多いが、日常最低限以外のことをほぼ何も出来なかったことを考えれば短期間で成長したと褒めるべきか?

それでもやはり慣れないのか、動きがぎこちなくまだまだ『日常』というものに戸惑いを覚えているような雰囲気が見て取れる。

 

そして、シンシアと領明がそんな風に『日常生活』に苦戦している一方で、忍はというと…

 

………

……

 

・訓練場

 

「『真・瞬煌(しん・しゅんこう)』」

 

ドンッ!

 

誰もいない訓練場の真ん中に立つ忍は瞬煌に龍気をミックスさせて作り出した五気の濃密なオーラを全身に纏っていた。

特に背部と肩から立ち昇るオーラの質量は夜琉が発動させる通常の瞬煌よりも格段に濃かった。

 

『真・瞬煌』

瞬煌に龍気を加えた忍独自の身体能力強化技。

元々完成度の高かった瞬煌に龍気が加わることで、攻撃力と防御力をさらに上げることに成功させた五気使いとなった忍ならではの技。

瞬煌がベースになっているため、瞬煌で可能であった動作は同じように扱える。

五気を常に出力している関係上、燃費は瞬煌よりも悪くなっているが、それを補って余りある完成度を誇る。

ただ、龍気を加えたせいで一つ一つの挙動の威力が増してしまい、オーラの制御をするにも一苦労するという難点を抱えてしまった。

 

このようにして忍はこの一週間、通常の人間状態で使えるだろう技や魔法などといった様々な技術を進化させようと試みていた。

しかし、五気の中でも龍気は元々術に変換させるのは難しい力なので、他の力と混ぜ合わせたり絡めたりして行使する必要性があった。

しかも龍気の扱いは教わるものではなく、己自身で感じなければならないこともあって少し難航していた。

これは以前、天界でクロウ・クルワッハが忍に向けて呟いた一言(『龍を御せるのは…何者でもない。その龍自身だけだ』という言葉)からも推察でき、忍は忍なりにその言葉を実践しようとしていた。

 

「(とにかく、今は維持を最優先。体に馴染ませないとならんか…)」

 

五気の扱いには慣れていた忍だったが、皇鬼の指摘と修行の一環として習得している技術を五気の全てを用いて研磨するように言いつけられていた。

 

「(改めて…自分の中の力と向き合う、か…)」

 

忍はまず己の中に存在する五気と向き合うことにしていた。

そうすることで自ずとこれからやるべきことが見えてきて、尚且つ分散した能力を取り戻した時にそれを即座に自らの力として還元せねばならないのだ。

 

ちなみにその分散した力については今も捜索中である。

城下町でも聞き込みをしたが、流星の方に気を取られてそれから散らばった六つの星についてはあまり見ていない、というのが大多数だった。

山に落ちるのを見たとか、川の方に流れてったとかいう情報も少なからずあるにはあったが、それから先の情報が全く無かったのだ。

仮に山に落ちたり、川に流されたりしていたとしたら…正直、どう探せばいいのか忍も皆目見当がつかなかった。

手当たり次第に山を捜索するにも人手や時間が必要だ。

それは川も同じ。

そんな不確定な情報で動ける人員など今はない…というか、今の忍にそんな余裕はないし、皇鬼に頼っても人手を貸してもらえる訳でもない。

しかも忍は皇鬼に修行をつけてもらっている最中であり、ある意味で居候も同然である。

居候生活には慣れている忍だが、流石に修行を受けると言っておいてそれを投げ捨ててまで力の行方を探すほど不義理ではない。

よって忍は一旦力の捜索をやめ、修行の方に注力していた。

決して諦めた訳ではないが、今は最善の手を打たねばならない。

それに何より…今後起きるだろう戦いの中で、忍も更なる力を求めなければならなくなるだろう。

それは牙狼戦での無茶なことを今後行わないため、それと力を自在に使えるようになるために必要なことだと思っての選択だった。

 

そうしてしばし忍が己の中の五気と向き合っていると…

 

「忍よ。研磨の方はどうじゃ?」

 

忍に声を掛けながら皇鬼が訓練場にやってきた。

その傍らには桃鬼がいた。

明らかに不満そうな表情で…。

 

「ねぇ、お祖父ちゃん。本当にやんなきゃダメなの?」

 

不満そうな表情のまま桃鬼が皇鬼に尋ねる。

 

「もちろんじゃ。いつまでも我が鬼神界の要たる武天十鬼共を貸すわけにもいくまいしのぉ。だったら歳の近いもん同士で高め合えばよい」

 

忍はもう一月ちょっと程すれば17歳になり、桃鬼も17歳になったばかりである。

それに皇鬼の言葉にも一理ある。

戦争状態にある以上、武天十鬼もまた前線に赴くことがあり、桃鬼の修行にいつまでも付き合ってはいられないだろう。

ならば、同い年で同じ師を仰ぐ者として互いに高め合う必要性があった。

 

「こんな貧弱そうな奴と高め合いなんて出来るのかしら?」

 

「人を見た目で判断するでないと何度も教えてきたはずじゃぞ? 足元掬われても知らんぞい」

 

「はっ、冗談」

 

皇鬼の言葉に桃鬼は鼻で笑っていた。

 

「………人の意思を無視して勝手に話を進めないでもらいたいんだが…」

 

真・瞬煌を解除した忍が肩を解すようにして会話に加わる。

 

「居候で弟子の分際で意見する気かの?」

 

「それを言われちゃおしまいだよ。まぁ、俺としても相手がいるってのは嬉しいんだけどな。流石に一人だけだと限界もあるし…」

 

「それがわかっておる分、お主の方が桃鬼よりも物分かりが良さそうじゃの」

 

「ちょっ、なによ、それ!?」

 

皇鬼の言葉に桃鬼が口を尖らす。

 

「まぁ、良い。ともかく、一度手合わせしてみるがいい。儂も見物してやるでの」

 

そう言って皇鬼は訓練場の端に移動する。

 

「力の制限は?」

 

そんな皇鬼に忍が尋ねると…

 

「特に設けておらん。存分に手合わせぃ!」

 

そう答えていた。

 

「だってさ」

 

「ま、じゃなきゃ意味ないしね!」

 

言うが早いか、互いに距離を開けて対峙する。

 

「(匂いから察するに…この͡娘の妖力は、武天十鬼クラスか…)」

 

桃鬼から感じる妖力の匂いから忍はそう判断する。

 

「(一発で仕留めて、お祖父ちゃんにあたしの相手は武天十鬼くらいしかいないってのを教えてあげなきゃ)」

 

対する桃鬼は人間ということもあってか、忍のことを過小評価しているようだった。

 

「「………………」」

 

互いにしばし睨み合っていると…

 

「では、始めぃ!!」

 

皇鬼の声で戦闘が開始される。

 

「真・瞬煌!」

 

「展開!」

 

忍は真・瞬煌を纏い、桃鬼もまた四肢に妖力を纏っていた。

 

「(ま、お祖父ちゃんの手前だし…軽くあしらって…)」

 

という具合に考えていた桃鬼だったが…

 

ドンッ!!

 

真・瞬煌のオーラを足へと向けて炸裂させ、一瞬で桃鬼との間合いを詰める忍。

 

「……………は?」

 

その一瞬の出来事に桃鬼が目をパチクリさせていると…

 

「桃鬼ッ!!」

 

皇鬼の喝が木霊する。

 

「ッ!?」

 

すぐさまその場から飛び退き…

 

「(な、なに?! 今、一瞬で…!?)」

 

今の状況が呑み込めないでいた。

 

「あれほど戦闘中は油断するなと言ったろうに…戦場であったら死んでおったぞ?」

 

祖父の辛辣な言葉に…

 

「くっ…!」

 

桃鬼もバツが悪そうに表情を歪めていた。

 

「忍も何故、追撃せなんだ?」

 

そして、今度は忍に矛先を向けていた。

 

「………良かったのか?」

 

忍のその何気ない一言で…

 

「なっ…」

 

桃鬼はあの一瞬でさらに追撃されていたかもしれない可能性もあったと気付かされた。

 

「当たり前じゃ。実戦訓練とは実戦を想定した状況でないと意味がないと儂は思っとる。そして、どのような形であれ手を緩めてはならん。それは命のやり取りをする戦場では当たり前のこと。そこに敵も味方もない。大事な孫娘であろうと戦場に出れば、その当たり前のことには逆らえん。ならば、答えは一つ。訓練だろうと甘い考えの者に戦場に出る資格なぞない! 実戦訓練をやるからには徹底的にお互いの全てをぶつけあってこそ、じゃ…!!」

 

そんな皇鬼の言葉を聞き…

 

「(あたしの考えが…甘かったっての…?)」

 

桃鬼は愕然としていた。

 

桃鬼は修行をしていてもその立場上、戦場に立ったことは一度たりともない。

だからこそ絶魔への復讐も頭の隅のどこかでは甘い考えがあったのかもしれない。

力をつけて絶魔と戦えれば、いつか両親の仇が取れる、と…。

 

しかし、今は戦時中であり、戦いとは…命のやり取りをすることを意味する。

いくら訓練や修行していても、戦場の空気を知らない新兵はその空気に当てられた時、どのように反応するのか…?

答えは単純……使い物になるか、ならないか……極端な話だとその二択だろう。

前者なら戦士として生きていけよう。

しかし、後者なら…それは覚悟が足りなかったことになる。

桃鬼は…果たしてどちらになるのか…?

 

ブンブンと桃鬼は頭を振ると…

 

「(っ…そんなことない! あたしは必ず父さんと母さんの仇を取るんだ…!)」

 

今の原動力…復讐心が燃え滾っていた。

 

「(だから…こんなとこで躓いてなんていられない…!!)」

 

そして、その敵意は目の前の人物…忍へと向けられていた。

 

「(それが、アンタのやり方かよ…?)」

 

そんな桃鬼の視線を気にせず、忍は皇鬼の方を見ていた。

その視線からは強い殺意にも似たものが宿っていた。

 

「なんじゃ?」

 

その視線を真っ向から受け、皇鬼も忍に問いかける。

 

「アンタ程の人が…本当にそれでいいと思っているのか?」

 

忍の地の底から這い出てきそうな声音に…

 

「っ!?」

 

「ほぉ…?」

 

桃鬼はその声音と殺意に似たものに驚き、皇鬼もまた興味深そうに忍を見据える。

 

「なら、俺は俺のやり方をさせてもらう」

 

そう皇鬼に言い放つと…

 

「続きだ。さっさと構えろ…」

 

桃鬼に向き直っていた。

先程とは打って変わって忍の眼の色も変わる。

 

「っ! 調子に乗って…!!」

 

ちょっと頭に来たらしい桃鬼も構える。

さっきと違い、今度は油断のない構えを取る。

 

「(戦場を知らない姫様、か……そういう意味ではエルメスはちょっと度胸があったらしいな…そこは母親似か?)」

 

つい、そんなことを考えていた。

 

「一つ聞く」

 

そして…

 

「なによ…!」

 

「何故、力を求める? 何のために戦いたい?」

 

その心に踏み込もうとしていた。

 

「そんなの、部外者のアンタには関係ないでしょうが!!」

 

そう叫びながら地面を蹴って忍との距離を詰め、拳を振り抜く。

 

「確かに俺は部外者だ。が、少なくとも温室育ちのお嬢様よりは戦いを知っている」

 

その拳を最低限の動きで避けながら忍は桃鬼に挑発的な物言いを投げつける。

 

「な、に…?」

 

その言葉の意味はよくわからなかったが、桃鬼は直感的に馬鹿にされていると考え、その額には青筋が立っていた。

 

「聞こえなかったか? 温室育ち…部屋から一歩も外に出してもらえずにいる、大事な大事な"お飾り"のお嬢様よりも戦いの常識は持ち合わせてる、と言ったんだ」

 

"お飾り"という言葉を強調し、桃鬼の耳元に確実に聞こえるようにハッキリとした物言いで挑発していた。

 

その瞬間…

 

ブチッ!!

 

「て…テメエェェェェッ!!!」

 

何かが切れたような音が聞こえたような気がすると、桃鬼の纏う妖力の濃度が底上げされる。

怒りで力が増したらしい。

 

「忍…お主…!!」

 

さしもの皇鬼も今の発言にはカチンと来たらしく、忍に殺気を向けていた。

 

そして、その殺気は皇鬼だけではなかった。

 

「ちょっと気になって様子を見に来てみれば……部外者が勝手なことを…ッ!!!」

 

「部外者風情が…姫様になんという口の利き方を…ッ!!!」

 

訓練場の入り口付近に水鬼と氷鬼の姉妹が立っていた。

しかも今の忍の桃鬼への挑発を聞いていたのか、水鬼はもちろん、普段はクールな氷鬼でさえ怒髪天を衝くような表情で尋常でない殺気を放っていた。

 

「外野は黙ってろッ!!!」

 

ブォンッ!!

 

忍の瞳孔が縦に鋭くなると同時に龍気が放たれ…

 

「むっ…」

 

「「っ!?」」

 

皇鬼は平気そうだが、氷鬼・水鬼姉妹は身動きが取れなくなっていた。

 

ドンッ!

 

「もう一度問う。お前は何のために戦いたい?」

 

忍はまるで読んでいたかのようにバク転で桃鬼の拳打を回避すると、もう一度だけ問う。

 

「うるさい!! あたしは父さんと母さんの仇を取るために今まで頑張ってきたんだ!! 絶魔を倒せるなら…あたしはなんだってやってやる!!」

 

忍に攻撃を繰り出しながら桃鬼は叫ぶ。

 

「やはり、復讐か…くだらん理由で戦いたがるとは…」

 

「お前に何がわかる!!」

 

バシンッ!!

 

桃鬼の力の籠った拳を片手で受け止めると…

 

「わかるさ。俺にだって"復讐に身を費やしてきた記憶と体験"がある」

 

そう言い放っていた。

 

「(その言葉…以前にも…)」

 

忍の言葉に皇鬼は前に言っていたことを思い出す。

 

「俺は…"神"と呼ばれる存在と対峙し、仲間だった者達がその"神"の言葉に惑わされ、その際に愛する者と、その中にいた命を奪われたんだ」

 

「ッ!」

 

「そして、俺は復讐を誓い、愛する者の亡骸を道具に変え、"神"を倒し…最終的には…同じ人間を虐殺していき、世界を滅ぼしたのだからな」

 

そう言う忍の眼は酷く冷たくなっていた。

 

それは牙狼の記憶と体験。

一体化したことで忍が背負うことになった牙狼の業。

その記憶と体験は今でも忍の中に息づいている。

だが、決して目を逸らさない。

たとえ復讐に染まっていたとしても、それは牙狼の生きてきた、人生の軌跡なのだから…。

牙狼の生きてきた証…それを忘れないため、忍は牙狼の記憶と体験と共に生きると誓っていた。

 

それを聞いた女性陣の反応は…

 

「「「-----」」」

 

目を見開いての絶句だった。

 

「だが…復讐を果たした先にあるものは…虚しさだけだった」

 

忍は絶句する桃鬼達を無視して言葉を続ける。

 

「そして、俺は気付けなかった。復讐に曇った眼では当然なのかもしれないが…彼女の魂は、ずっと俺の側にいたのに…気付けなかったんだ…!!」

 

その事実を思い出し、まるで牙狼の心情が反映されたかのような言葉を紡ぐと…

 

つーっ…

 

忍の眼から一筋の涙が流れる。

 

「(牙狼…桐葉さん…)」

 

並行世界の自分と、その最愛の人のことを想い、忍は目の前の桃鬼を見据える。

 

「復讐の先に未来などない。あるのは、虚しさだけだ……それでもなお、復讐をしたいと言うのなら…」

 

その視線に殺気が混じり始め…

 

「ここでお前を殺す…!」

 

そう宣言する。

 

「「っ!?」」

 

忍の言葉に氷鬼と水鬼はすぐにでも動きたかったが、忍の放った龍気のせいで満足に動けなかった。

 

「………………」

 

皇鬼は何か思うところがあるのか、動こうとしない。

 

「………ざ、けんな…」

 

そして、当の桃鬼はと言えば…

 

「ふざけんな…! あたしのこの10年を、テメェみたいなぽっと出の奴なんかに否定させてたまるか…!!」

 

怒りに身を任せ、忍と真っ向からやり合う気でいた。

 

「そうか。残念だ」

 

そう言って忍も真・瞬煌の出力を上げる。

 

「ブリザード・ファング!」

 

古代ベルカ式の魔法陣を右手に展開すると、真・瞬煌のオーラを炸裂させて右手に流し込み、通常よりも威力を増した中距離対応の拡散型砲撃を放つ。

 

「このぐらい!」

 

迫るブリザード・ファングを拳打で打ち落としていく。

 

ギギギギンッ!!

 

打ち落とされ、弾かれたブリザード・ファングは桃鬼の周りで氷塊となっていた。

 

「っ! いけません、姫様!」

 

同じ氷使いとして何かを悟ったらしい氷鬼が声を上げるが…

 

「遅い…!」

 

ドンッ!

 

それより速く忍は動き、拡散砲撃の本流とは別地点に収束させていた着弾地点…桃鬼の背後に移動すると…

 

「ブリザード・ファング・エクシードッ!!」

 

その収束していたエネルギー体を真・瞬煌で炸裂させたオーラと共に殴ると、その力が一気に解放されて収束砲撃並みの砲撃となって桃鬼に襲い掛かる。

 

「そのくら…!?」

 

桃鬼も迎撃するために振り返ろうとしたところでやっと気付く。

足元の氷塊がまるで足枷のようになって自身の動きを阻害していることに…。

 

「ちぃっ!!」

 

バキンッ!!

 

足踏みするような動作と同時に妖力を解放させることで氷塊を砕くが、砲撃されてからの一動作が遅い。

 

ゴオオォォォッ!!!

 

「ぐっ!?」

 

背後から氷の砲撃をもろに受け、桃鬼の体が吹き飛ぶ。

 

「「姫様!?」」

 

氷鬼と水鬼が同時に悲鳴に似た声を上げる。

 

「こ、のぉ…!!」

 

吹き飛ばされた桃鬼は四肢以外がまるで凍結したように薄い氷の膜で覆われていたが…

 

「『(ほむら)』!」

 

妖術の一種なのか、四肢に纏った妖力が炎へと変化し、氷を溶かしていく。

 

「ふむ…?」

 

以前、地鬼との模擬戦をしていた時、桃鬼は氷の妖術を使っていたが、今は炎の妖術を使っている。

忍も人のことは言えないが、そこに少し違和感を覚えていた。

 

そう考えていると、吹き飛ばされた桃鬼は何とか着地し…

 

「次はこっちの番だ!」

 

攻撃の手が止んだと勘違いして桃鬼がそんなことを叫ぶ。

 

「『地槍撃(ちそうげき)』!」

 

忍の方へと一歩踏み出すと、そこから忍に向けて地面が盛り上がって土の槍を生み出していた。

しかもその合間を器用にすり抜けながら土の槍と共に桃鬼自身も忍に特攻していた。

 

「(今度は土……もしかして…?)」

 

ある可能性に行き着く忍だった。

 

「(ま、"これ"が終わった後にでも聞けばいいか…)」

 

が、今は目の前の目的のために動くことを優先した。

 

「『獣牙天衝・裂(じゅうがてんしょう・れつ)』」

 

ジャキンッ!

 

そう漏らすと忍の両手を覆うように獣を思わせる巨大な4本の爪が現れる。

 

「っ!?」

 

それを見て桃鬼は身近な土の槍を蹴って空に上がる。

 

それを無視して忍は両手を広げ、前から来る土の槍を引き裂くような感じで振り上げて両腕をクロスさせると…

 

「戦いに順番なんてものはない」

 

そう告げて両手を瞬時に反転させると…

 

「それと空中では良い的になる。走れ、『獣牙天衝』!」

 

今度はさっきの動作とは逆の動きで両腕を広げるように振り下げ、纏っていた片方4本の計8本の爪を桃鬼に向けて放っていた。

 

「! 『流天風(るてんふう)』!」

 

桃鬼の足元に風が巻き起こると、その場からさらに上昇して忍の攻撃を回避する。

 

「(あいつの頭上は取った! 空中からの攻撃なら…)」

 

制空権を取ったと思い、桃鬼はそこから忍への攻撃へと移ろうとする。

 

「制空権の奪取。それ自体は悪くない手だ。地上に対して空中の方が有利になるからな。しかし…」

 

ドンッ!

 

忍はオーラを炸裂させて足に送り込むと、まるで空気を蹴るように上昇していき…

 

「っ!?」

 

桃鬼と同じところまであっという間に辿り着いてしまう。

 

「相手に制空権の奪取の心得があったり、同じ土俵に立たれた場合の対処が出来ていないな」

 

そう言って忍はくるりと一回転すると…

 

ドガッ!!

 

「がっ!?」

 

その左肩に踵落としを決めて桃鬼を撃墜する。

撃墜された桃鬼は地面に激突し、派手な土煙をもうもうと上げていた。

 

「これで左腕は使用出来ないだろう」

 

確かな手応えを感じながら忍は着地する。

 

と、そこに…

 

「お前! よくも姫様を!!」

 

「些か無礼が過ぎます…!!」

 

動けるようになったらしい水鬼と氷鬼が忍を左右から囲むように立つ。

 

「外野は黙っていろと警告はしたはずだが…?」

 

一応、そんな脅し文句を言ってみるものの…

 

「我等、武天十鬼を舐めてもらっては困ります…!」

 

「そういうこと! 姫様がやられるのを黙って見てるだけなんて出来ないもんね!」

 

彼女達には彼女達の誇りがあるようだった。

 

「……そのわりにさっきは動けなかったみたいだが?」

 

忍の放った龍気を浴び、行動不能に陥ったのは事実。

が、忍の想定していた拘束時間よりも早い段階で復活したことに忍も少なからず驚いていた。

 

「(武天十鬼が凄いのか、俺が龍気をまだまだ扱いきれていないのか……両方の可能性もあるか…)」

 

忍がそんな風に考えを纏めていると…

 

「水鬼!」

 

「うん、姉さん!」

 

水鬼が自身を中心に水場を形成し、氷鬼は自身の周囲に冷気を漂わせる。

 

「『氷雨(ひさめ)』!」

 

「『水茨(みいばら)』!」

 

そして、ほぼ同時に氷鬼は冷気から氷の飛礫(つぶて)を放ち、水鬼は水場から水で出来た茨のような触手を放っていた。

 

「………………」

 

それを忍は、横眼だけでそれぞれ確認しただけで最小限の動きで回避する。

 

「なっ…!?」

 

「嘘っ!?」

 

その結果に氷鬼も水鬼も驚く。

 

「悪いが、退場してもらう…!」

 

ピンッ!

 

すると妖力で練られた細い糸が忍の手から左右の氷鬼と水鬼に伸びていき…

 

ガシッ!

 

その身をがっしりと拘束していた。

 

「この程度…!」

 

それを氷鬼は凍らせようとするが…

 

「無駄だ」

 

魔力と霊力で糸をコーティングしているのか、なかなか凍らない。

 

「ふっ!」

 

そして、忍は拘束した2人を皇鬼の近くまで投げ飛ばしていた。

 

「くっ!?」

「きゃあっ!?」

 

しかもご丁寧に糸で拘束したまま動けないようにしている。

 

「これで邪魔は入らないだろう」

 

そう言って忍が桃鬼の沈んだ方へと歩こうとすると…

 

「このぉ! よくも2人を!!」

 

土煙から桃鬼が飛び出してきて忍を殴ろうとする。

 

「奇襲ならもっと上手くやるんだな。あの2人が攻撃を仕掛けてきた時なんかが本来なら最適だったかもしれんが…」

 

そんなダメ出しと共に桃鬼の拳を軽く避けると…

 

ヒョイッ…

 

「あっ!?」

 

ズザアァァ!!

 

足を引っ掛けて桃鬼を転倒させる。

 

「………この程度で復讐を果たそうなどとは…笑わせてくれる」

 

倒れ込んだ桃鬼に忍は見下すような視線を向ける。

 

成す術もなく転倒した桃鬼は…

 

「(くっ…こんな、はずじゃ…)」

 

バシッ!!

 

悔し涙を流し、地面に右拳を叩き付ける。

 

「悔しむ暇があるとでも?」

 

ドガッ!!

 

「がっ!?」

 

忍の容赦ない蹴りが桃鬼の腹に決まり、その体が軽く引き飛んでからゴロゴロと転がる。

 

「姫様!?」

 

「こんのぉ! なんで解けないのよ!?」

 

氷鬼と水鬼が糸の中でもがくが、一向に糸は緩まない。

 

「復讐のために力をつけてもこの程度。やはり、お前には"覚悟"が足りないようだな」

 

一歩ずつ桃鬼に近付きながら忍は率直な感想を述べた。

 

「覚、悟…だと…?(そんなの…昔からとっくに出来て…!)」

 

忍の言葉に怒りを覚えた桃鬼だが…

 

「いないんだよ。そんな薄っぺらい覚悟…」

 

「っ!?」

 

まるで心を読まれたかのような忍の言葉に桃鬼の表情が凍り付く。

 

「て、テメェに…何が、わかる…!!」

 

苦虫を噛み潰したかのような言葉を吐く。

 

「わかるさ。昔の俺がそうだったからな」

 

「ぇ…」

 

忍の言葉に桃鬼は目を丸くする。

 

「昔の俺は…とにかくビクビクしてて何事にも臆病で、ある女性に守られてばかりだった。それが心の底では嫌で情けなくて本当に自分の弱さを呪った時期もあった」

 

「………………」

 

「だが、ある理由から友人が目の前で殺されたのを機に、俺は自分の中の力を自覚するようになった。しかし、戦うことへの覚悟は未だ定まってはいなかった」

 

それはまだ忍達が進級して間もない頃の出来事だった。

 

「それから幾度となく戦いに巻き込まれた。流されるまま戦い、人の命も奪ってきた。これでいいのか?と何度も思った。だが、俺にも戦う理由があった。守りたい人がいたからだ。だからこそ、頑張ってきた側面もある。しかし、それと同時に何度も危ない目に遭い、何度も心配をかけてきた。きっと今も心配をかけているだろう。だから、俺は一つの信念と共に覚悟を決めた」

 

忍は今までの戦いを振り返りながらその中で命を奪ってきた者のことも考えていた。

 

「『全てを守るつもりはない。俺は俺の出来うる範囲で…少なくとも目の前で救える命は救ってみせる』、と…これは俺の偽善とも言えない独善だと認識している。が、こればかりは譲る気も変える気もない。何故なら、それが俺の覚悟の表れでもあるからだ」

 

事実、忍はその信念と覚悟を貫いてきた。

 

「俺はこの先も強くあらねばならない。強くなるためならば、どんなことでもしてやる。だが、これだけは…この信念と覚悟だけは忘れはしない。これを忘れた時…きっと俺は俺ではなくなってしまうかもしれないからな…」

 

そして、桃鬼の前に立つと…

 

「お前は復讐以前に…未来に目を向けたことがあるのか?」

 

そう聞いていた。

 

「未、来…?」

 

「そうだ。未来への可能性を信じる俺と、未来を見ずに過去に囚われたまま復讐だけに生きてきたお前…それがこの差になったんだ」

 

それを聞き…

 

「じゃあ…過去を忘れろって言うのか!? 父さんと母さんの無念を、忘れて…復讐せずにいろってのかよ!!」

 

激昂したように桃鬼は忍に言い返す。

 

「……何か勘違いをしているようだから、ハッキリ言ってやる」

 

呆れたような口調で忍は桃鬼を見下ろし…

 

「その復讐を、本当にお前の両親は望んでいるのか?」

 

そんな質問を投げかけていた。

 

「え…」

 

それは今の桃鬼にとって頭を金槌で殴られたような言葉だった。

 

「本当にお前の両親はお前に復讐なんてのを望んでいたのか?」

 

「そ、それは…」

 

「最期を看取った訳でもあるまいし、お前の身勝手な想いで死者の想いを捻じ曲げるな」

 

「っ…」

 

忍の言葉に反論出来ない桃鬼だった。

 

「違…あたしは、両親の仇を、討つために…」

 

「それはお前の意思だ。お前の両親のじゃない」

 

語気が弱くなる桃鬼の言葉を忍は即座に否定する。

 

「(いかん、このままでは…桃鬼の心が壊れてしまう…!)」

 

その様子をずっと見ていた皇鬼が動こうとする。

 

「よく思い出せ。生前、お前の両親がお前に何を望んでいたのかを…」

 

そう言って忍は霊力を指先に集中させて桃鬼の額に押し当てていた。

 

「父さんと母さんが、望んだ…あたし…?」

 

桃鬼は両親との思い出を頭の中に浮かべる。

 

………

……

 

それはまだ両親が生きていた頃、絶魔への使者を買って出て出発する前のことだ。

 

『桃鬼は、大人になったら何になりたい?』

 

母親の膝に座り、母の言葉を聞き…

 

『う~ん…お祖父ちゃんみたいな立派な皇!』

 

幼かった桃鬼はそう答える。

 

『ははは、それはまた難しい夢だね』

 

近くにいた父親が笑っていた。

 

『難しいの?』

 

父親の言葉に首を傾げる桃鬼。

 

『父さんは立派過ぎるきらいがあるからね。それでいて周りのことを考え、時には突拍子もないことを平然とやってのけてしまう。そんな父さん…お祖父ちゃんに桃鬼はなれるかな?』

 

『なる!』

 

そんな父親の言葉に元気よく答える桃鬼に…

 

『ふふ。じゃあ、頑張らないとね。お義父様の修行以外で…』

 

母親が苦笑しながらそう漏らしていた。

 

『え~』

 

不満そうな声を出す桃鬼に両親は苦笑していた。

 

それから少しして両親は絶魔への使者として出発し、帰らぬ人となった。

その報を受け、皇鬼は珍しく憤慨して徹底抗戦の意思を鬼神界に示したのだ。

そして、両親を亡くした桃鬼は絶魔を激しく憎むようになり、両親から止められていた皇鬼の修行を自ら志願していた。

いつしか両親に言った"祖父のような立派な皇"になりたいという夢を投げ捨て、復讐のためだけに生きてきたことに気付く。

 

………

……

 

「あ……ぁあ……ああああ…!」

 

それを思い出し、桃鬼の眼からとめどなく涙が溢れる。

 

「復讐ではなく、自分自身の未来を勝ち取るために戦え。それが絶望を糧とする絶魔に一矢報いることにも繋がるはずだと、俺は思う」

 

そう言い残すと忍は桃鬼から離れる。

 

「…………お主、不器用じゃのぉ…」

 

忍が皇鬼の横を通り過ぎようとした時、皇鬼が言葉を漏らす。

 

「知ってるさ。礼は不要だからな」

 

それを聞いてか、足を止めるとそう返す忍だった。

 

「誰が礼なぞするか。生意気な小童め」

 

「そうか…なら、二つだけ言わせてもらう」

 

「なんじゃい?」

 

「アンタにもアンタの考えがあるんだろうが…やり方が回りくどいんだよ…」

 

そう言うと忍は再び歩き出す。

 

「………もう一つは?」

 

「復讐を続けるか、未来を掴み取るか…決めるのはあいつ自身なんだ。その選択肢くらい用意しとけよ」

 

背を向け合ったまま忍と皇鬼の会話は終わった。

 

パチンッ!

 

そして、忍が指を鳴らすと氷鬼と水鬼を縛っていた糸が解ける。

糸が解けると2人は一目散に桃鬼の元へと駆け出していた。

 

「儂も…復讐で目が曇っておったのかのぉ…? なぁ、覇鬼よ…」

 

今は亡き息子に問いかけるように空を見上げる皇鬼だった。

 

 

 

復讐の虚しさを知るからこそ忍は桃鬼の中の復讐心を何とかしようとした。

その場の勢いもあるだろうが、忍はそんな桃鬼を煽り、その心情を掻き乱して本来の自分のなりたいものを思い出してほしかった。

かつて牙狼が辿った道を歩ませたくないという気持ちも多分にあったのだろう。

しかし、結果はまだわからない。

果たして、桃鬼が選ぶ道とは…?



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第百三話『満月の夜に煌めくは…』

忍と桃鬼が手合わせしてから、二週間が経った頃のこと。

 

遂に、別れの時が訪れていた。

 

「ぐすっ…ひっぐ…」

 

「領明…」

 

翠蓮の横たわる布団の前で泣く領明の肩に忍はそっと手を置いていた。

 

「ここまで、生きられたことに…感謝しないと、ね…」

 

布団の中で寝ている翠蓮の表情はとても安らかなものだった。

 

「お母さん…お母さぁん…」

 

母を呼ぶ娘は涙で顔をくしゃくしゃにしていた。

 

「泣かないの…私は、あの人と共に…あなたを見守ることにするわ。大丈夫…きっと和解してみせるから…」

 

そう言いながら翠蓮は弱々しくなった手で領明の頭を撫でる。

 

「伯母さん…」

 

「忍さん…領明のこと、よろしくね。この娘、本当は寂しがり屋だから…」

 

領明の頭を撫でながら忍に領明のことを託していた。

 

「はい…」

 

それを忍はしっかりと頷いていた。

 

「あぁ…私は本当に…人生の大半を愚かな行為で、費やしてしまったのですね…」

 

今更ながら翠蓮は己の行為を悔いていた。

 

「心残りがあるとするなら…領明の幸せを見れないことと……一度でいいから、生きていた時にあの人のことを…"あなた"と、呼んで…親子3人で過ごしてみたかった…」

 

もう叶わぬ夢であったとしても、翠蓮は一筋の涙を零しながら領明と狼夜への想いを吐露していた。

 

「伯母さん…」

 

「お母さん…!」

 

もう、時間もないのだろう…。

 

「シンシアさん…」

 

翠蓮がその名を呼ぶと…

 

「………………」

 

忍達の後ろに控えていたシンシアも前に出てきた。

 

「シンシアさん…領明と仲良くしてあげてくださいね」

 

「……………それは、依頼…?」

 

その言葉を仕事と勘違いしているのか、シンシアはそう聞き返す。

 

「依頼ではないわ。お願いよ」

 

「……………お願い…?」

 

翠蓮の言葉に首を傾げる。

 

「そう…聞いてくれるかしら?」

 

「………………」

 

しばし思考を逡巡させると…

 

「……………ん」

 

翠蓮に向かって頷いていた。

 

「ありがとう、シンシアさん…」

 

翠蓮はシンシアに向かって微笑んでみせる。

 

「時間を超えた先で逝っても…あの人に、会えるかしら…?」

 

そんなことを呟いた後、翠蓮はその目をゆっくりと閉じていき…

 

「………………………………」

 

そして、その息を引き取るのであった。

 

「お母、さん……っ…」

 

静かに、だが安らかに永眠した翠蓮の枕元に顔を埋める領明…。

 

「領明…」

 

そんな領明を忍はただ見ることしか出来なかった。

 

「………………」

 

それはシンシアも同じだった。

 

しばらくして領明が泣き疲れて眠ってしまい、そのまま翌日になるまで起きなかった。

 

………

……

 

そして、その翌日。

 

「いいんだな?」

 

翠蓮の遺体を前に忍は領明への最終確認をしていた。

 

「……はい」

 

表情は悲しみに満ちているが、その瞳は覚悟が出来ているのが見て取れた。

 

「………わかった」

 

ボアァ!

 

その決意を確認し、忍は右手に紅蓮の焔を発生させる。

 

「では、始める…」

 

そう言って紅蓮の焔を翠蓮の遺体へと燃え移らせ、その遺体を骨ごと灰へと還す。

残った灰は皇鬼に用意してもらった壺の中へと魔法を使って全て入れる。

 

「これで簡略だが、火葬は済ませた。あとは…元の時代に戻ったら、俺の部屋に置いてある伯父さんの遺灰と共に小さな墓を作って一緒に埋葬しようか…」

 

「……うん」

 

忍の提案を受け入れつつ壺を受け取り、抱き抱えるようにする。

 

「ここにいる間は領明が持ってるといい」

 

「……ありがと」

 

「なに、気にするな。それにお互い…ここではやることがあるだろう?」

 

忍は更なる高みを目指した修行と能力の捜索、領明は侍女見習いとして皇城のお手伝いがある。

 

「……私も、手伝う?」

 

「気持ちだけ貰っておくよ。なんせ、能力はビー玉に封じてあるからな。城の手伝いしながら探すには範囲もわからないし、一苦労するだろ?」

 

そう言って忍は領明の頭を撫でる。

 

「……そう…」

 

そんな領明は少し残念そうな表情をする。

 

「…別に頼りないって思ってる訳じゃないぞ? 従妹に俺の苦労を手伝ってもらうのが悪いと思ってるだけだ」

 

その表情を見てか、忍は頭を掻きながらそう答える。

 

「……水臭い…」

 

領明は領明でそう返していた。

 

「……………かもな」

 

それを受け、少し驚いたような表情をしてからそう漏らす。

 

………

……

 

それからさらに一週間が経ち、忍達が過去の世界にやってきて実に一月が経とうとしていた。

 

「なんだかんだ言って、もう一月も経っちまうのか…」

 

自室として借りている部屋の窓から夜空の月を見上げ、忍はそんなことを呟いていた。

 

「(過去と未来との時間経過が一緒とは考えたくないが……皆、どうしているだろうか…?)」

 

今は離れ離れになっている眷属達や仲間達のことを考える。

 

「(敵対していたとは言え、今は蟹座と魚座が共にいる。シンシアはどうかわからんが、蟹座を持つ領明は俺が責任持って預かると伯母さんにも約束したからな。戦力として数えるのもおかしな話だが、これでエクセンシェダーデバイスの内、五つがこちら側にあるか…)」

 

そう思考を巡らせ、現在のエクセンシェダーデバイスの状況を改めて考える。

 

忍の持つ水瓶座、智鶴の持つ蠍座、紅牙の持つ射手座、ユウマの持つ乙女座、そして領明の持つ蟹座の五つが味方にいる。

現世の神ことグレイスの持つ双子座、今も何を考えているのかイマイチわからないシンシア魚座の二つが中立にいる。

ノヴァの持つ山羊座が敵側にいる。

残る牡羊座、牡牛座、獅子座、天秤座の四つは未だ所在不明。

 

「(エクセンシェダーデバイスの所在が分かり、だんだんと集まってきたということは、何かの兆候なのか?)」

 

嫌な予感を感じていた。

 

「(ま、わからないことを考えても埒が明かんか…)」

 

そう結論付けていると…

 

「……………ん」

 

近くで忍に盃を差し出す影があった。

 

「あぁ、すまん…」

 

それを受け取り、口をつけると…

 

「…………………ん?」

 

そこで違和感というか…何故、盃が?という疑問が出てきて差し出された方を見ると…

 

「………………」

 

徳利が2本載ったお盆を持った侍女姿のシンシアがいた。

 

「んくっ…相変わらず気配を消すのが上手いよな、お前って…」

 

盃の中身を飲み下すと、忍は呆れたようにシンシアを見る。

 

「てか、これ…酒だろ?」

 

「……………ん」

 

その問いに軽く頷くシンシアであった。

 

「確かに月見酒には良い頃合いだがな…」

 

「……………?」

 

「一応、未成年……って言ってもここじゃあんま関係ないのか…」

 

そんなことを愚痴り、額に指を押し当てて困ったような顔をする。

事実、ここ一月の間に何度皇鬼に酒を飲まされてきたことか…。

そのおかげか、忍に酒に対する耐性もついたが…。

 

ついでに言うなら、シンシアがこうして忍の元にやってくるのも今日に限ったことではなかった。

暗殺はしてこなくなったが、代わりに気配もなく近づいてくることが多くなった。

その度に何かしら持っていたりするのだが…。

 

すると…

 

コンコン…

 

控えめに部屋の戸をノックする音がする。

 

「(この匂いは…)領明か。入ってもいいぞ」

 

匂いで判別出来るので先にそう言っていた。

 

スーッ

 

「……失礼します」

 

戸を開け、正座していたらしい侍女姿の領明が忍の部屋に入ってくる。

そして、また正座すると戸をゆっくりと閉めていた。

氷鬼の教育もあるのだろうが、一月もあればそれなりの所作や仕草を身に着けたようだ。

 

「……シンシアさん。また、忍さんの所に来てたんですね…」

 

部屋に入り、シンシアを見つけると領明は困ったような声を出していた。

 

「しかも酒まで持ってきてな…」

 

「……はぁ…」

 

その言葉に領明も溜息を吐く。

 

「どうする? 領明も一献、どうだ?」

 

「……私はまだ未成年…」

 

「そら俺もなんだがな……ここじゃ通用しんらしい」

 

そう言ってシンシアの持つお盆から徳利を取ろうとすると…

 

「……………給仕」

 

忍が取るより先にシンシアがお盆を床に置き、徳利の一つを持って空になっていた盃に酒を注ぐ。

 

「……………」

 

領明がジト目で忍を見る。

 

「そんな目で見ないでくれ…酒が不味くなる…」

 

と言いつつも盃を傾ける辺り、この一月の間も似たような状況が何度かあったのだろう。

 

「……………一緒にやる?」

 

そんな領明を見てシンシアがそんな風に誘う。

 

「……!? し、知りません…!///」

 

何故か少し顔を赤くしてプイっとそっぽを向く領明だった。

 

「(ま、一月前に比べて少しは感情豊かになったと思えば、格段の成長か…)」

 

そんな領明の様子を見て忍は少しだけ笑みを零す。

 

「……なんですか? その笑みは?」

 

「いや、なんでもないさ」

 

少しむくれ気味の従妹に忍は逃げるように顔を背けて月を見る。

 

「満月、か」

 

それほど遠くない過去の記憶を呼び起こす。

 

「……………?」

 

「……満月が、どうかしましたか?」

 

事情を知らないシンシアと領明は忍に尋ねてみた。

 

「いや、昔は満月が嫌いだったな、と思い返してな…」

 

今でこそ普通にしているが、昔の忍…当時と言ってもまだ銀狼としての力に目覚める前までは狼に追いかけられる夢を満月の夜に見ては怖がっていたというのを2人に話していた。

 

「……………意外」

 

「……そう、ですね…」

 

これには2人もビックリしたような表情をする。

シンシアに関してはポーカーフェイスなのであまりわからないが…。

 

「人は誰しも得手不得手があるもんなんだよ。まぁ、今はそんなことはないがな」

 

余計なことを言ったかな、と思いつつ忍は満月を見上げる。

満天の星空に浮かぶ鬼神界の満月は煌々と煌めいていた。

 

「(俺の解放形態を封じたビー玉は一体何処へ行ったのやら…)」

 

そんなことを考えていると…

 

ウォオオオオン……!!

 

狼の遠吠えのような鳴き声が忍の耳に入る。

いや、正確には脳に直接響くような…そんな感じだ。

 

「っ!」

 

それを聞き、忍は窓から身を乗り出す。

 

「……………?」

 

「……忍さん?」

 

どうやら2人にはその鳴き声が聞こえなかったようで、忍の行動が不思議がる。

 

「今のは…まさか…」

 

そう呟きつつ窓から外を見渡していると…

 

「あれは…?」

 

城下町の外に点在する山々の一つ、その麓辺りにまるで満月の光を受けて淡く輝いているような現象が起きていた。

 

「あそこは…?」

 

その一点を見つけ、なんだ?と首を傾げる。

 

「……………光ってる?」

 

「……この力は…霊力?」

 

そんな忍の両隣から顔を覗かせるシンシアと領明はそれぞれ抱いた感想を述べていた。

特に領明は術式系が得意なのもあってか、微かに感じる力の波動で判断しているようだった。

 

「あぁ、確かにこの匂いは霊力だ。しかも、"俺の匂い"がする…!」

 

それは、つまり…

 

「……………探してる力?」

 

シンシアが忍に問う。

 

「その可能性が高い。しかもこの感じは…おそらく真狼だ」

 

それは忍が持つ解放形態、その筆頭とも言える能力だった。

 

「(だが、おかしい…微かにだが、他にもなんかの匂いが混じってる…?)」

 

距離があるために正確な把握は難しいが、忍は微かな匂いで違和感を感じていた。

 

「……行ってみますか?」

 

領明が忍に尋ねると…

 

「やっと見つけた手掛かりだ。行くしかないだろ?」

 

その目は既に獲物を狙う狼のようなものに変化していた。

 

………

……

 

夜中、ある山の麓で月の光を受けて何かが淡く光るという現象を見つけた忍達は夜中の皇城を抜け出していた。

シンシアは持ち前の技術で普通に抜け出していたが、忍はともかく領明はそんな技術がないので忍がお姫様抱っこして神速の歩法を用いて衛士達の目を盗んで皇城から抜け出していた…………のだが…。

 

「何故、お前がいる?」

 

既に領明を降ろしている忍が額に指を当てながら隣を歩く人物に問う。

その人物とは…。

 

「なによ? あたしがいちゃ都合が悪いわけ?」

 

桃鬼だった。

三週間前の忍との戦いの際に負った左肩の怪我は既に樹鬼の作った薬草を用いて回復させていたので心配はないが…。

 

「悪いというか、なんというか…いいのか? 姫がこんな夜分に城を抜け出して…」

 

忍はそんな疑問を口にしていた。

それに何かあった場合、きっと忍に責任があるとか言われそうである。

ただでさえ先の桃鬼との戦いで武天十鬼…特に氷鬼と水鬼からは目の敵にされているというのに…。

 

「いいのよ。いつまでも怪我人扱いとか、気が滅入るし」

 

「やれやれ…」

 

桃鬼の言葉に忍も呆れていた。

 

「で、なんで俺達に付いてくるんだよ? というか、何故気付いた?」

 

事実、夜中ということもあってか、外への警戒はしてても中から抜け出すことに関してはあまり警戒されてなかったのもあり、忍達は神速と気配遮断を使って容易に抜け出しに成功したのだが、何故か同行者の中に本来はいないはずの桃鬼が混じっている。

これはどういうことなのか…?

 

「なんでって…そりゃ、たまたま見つけたから?」

 

「俺の神速とシンシアの気配遮断をたまたま見つけただと…?」

 

一瞬、『なんつう野生の勘だ』と思ったが、決して口にはしなかった。

 

「まぁ、お祖父ちゃんや月鬼も気付いてると思うけどね」

 

「確かに…あの2人は別格だからな…」

 

最初に会った時から匂いで他の武天十鬼とは別格だと思っていたので、そこは同意せざるを得なかった。

それにこの一月は皇鬼に修行をつけられていたので、それをより実感したというのもあった。

 

「ん? てことは…もしかしなくても泳がされてる?」

 

ふとそんなことを口にいてしまった。

 

「じゃないの?」

 

にべもなく桃鬼はそう言い放つ。

 

「……………」

 

本当に頭が痛くなってきたらしい忍だが…

 

「まぁいいや。やっと見つけた手掛かりだしな」

 

目的地に近付くにつれ、匂いも鮮明になってきてより精度の高い判断材料が手に入っていた。

 

「(にしても、おかしい…何故、俺の霊力と共に"知らん龍気の匂い"と"なんか錆びたような匂い"がする?)」

 

それに疑問に抱いていると…

 

ちょんちょん…

 

「ん?」

 

後ろから裾を引っ張られる感覚で意識を元に戻す。

 

「……………そろそろ着く」

 

「……はい。この先から強い霊力を感じます」

 

シンシアはポーカーフェイスで、領明はちょっと緊張した面持ちでいた。

 

「あれ? この先って確か…」

 

隣を歩いていた桃鬼もなんだか首を捻っていた。

 

そして、一行が行き着いたのは…

 

「社?」

 

古ぼけたような、でも立派な社が建っていた。

 

但し…

 

「なんか知らんが、結界が張られてるな。しかもこの匂いからして、中に何かいるな…」

 

社の周りに結界が張られ、その中に得体の知れない何かが存在しているらしい。

 

「……どうします?」

 

「……………強行突破?」

 

「鬼が出るか、蛇が出るか…っと鬼はここにいたな」

 

そう言って桃鬼を見る。

 

「は?」

 

「いや、何でもない」

 

桃鬼が間抜けな声を上げると忍もそれ以上のことは言わず…

 

「さて…じゃあ、入るか」

 

まずは結界内に入ることにしたらしく、忍は結界へと足を踏み入れる。

 

「「…………………」」

 

シンシアと領明も黙って忍についていく。

 

「ん~…なんだったかな……って、ちょっと待ちなさいよ!」

 

考え事をしていたらしい桃鬼も遅れて結界へと足を踏み入れる。

 

と…

 

『グルルルル…!!!』

 

社の前には巨大な、全長が3、4m近くはあるだろう黒の混ざった白銀の毛並みと右は琥珀、左は真紅の瞳を持つ狼が威嚇するように睨んでいた。

その口には何やら刀身が錆び付いた古ぼけたような刀が咥えられていた。

 

「真狼…!」

 

その姿と力の波動、そして匂いで忍は即座にそれが散り散りになった力の一つだと確信した。

 

「あの刀って……まさか!?」

 

真狼が咥えている刀を見て桃鬼も驚きの声を上げる。

 

「………………?」

 

「……あの、ボロボロの刀が何か?」

 

桃鬼の驚いた様子に2人がそちらを向く。

 

「いや、多分だけど…アレ、伝説の武具って言われる七振りある刀の内の一振り…だと、思う…」

 

そんな桃鬼の発言に…

 

「「……アレが?」」

 

忍と領明が真狼の咥えるボロ刀を見て一言聞き返す。

 

「………み、見た目で判断するな、ってことでしょ!?」

 

伝説の武具と謂われているものがボロ刀などとは桃鬼も信じられないのだろう。

 

「……………来る」

 

シンシアはピスケスを構えながら呟く。

 

「「っ!?」」

 

それを聞き、慌ててキャンサーを取り出す領明と、構えを取る桃鬼。

 

「………………」

 

しかし、忍は敵意を向けてくる真狼に向かってゆっくりと歩いていた。

 

「……忍さん?!」

 

「ちょっ、危ないわよ!?」

 

「………………っ!」

 

すぐにでも飛び出しそうな3人を背中越しに…

 

「手出しは無用。これは…俺自身の問題だ」

 

忍は静かに、だが力強い言葉で制していた。

 

「……で、でも…」

 

それを受け、領明は躊躇しているようだ。

 

「見つけるのに、一月も待たせてしまったからな……そりゃ怒りもするよな……悪かったな」

 

そんな風に真狼に向かって謝罪するかのようなことを言いつつ…

 

「真・瞬煌」

 

即座に真・瞬煌を纏い、背中と両肩の衣服が弾ける。

 

「……え?」

 

「は?」

 

「………………?」

 

その忍の動作に3人は首を傾げる。

さっきの忍の言葉は…一体なんだったんだろうか?、と言いたげな反応だった。

 

「だが、俺の力の一つ…それも大元の片割れでありながら、その訳わからずの力に侵食されて牙を剥けるとはな…少し俺の力を再確認させてやるよ…!」

 

ブォンッ!!

 

忍から濃密なオーラと共に重圧なプレッシャーが広がる。

 

「っ…(こいつ、また強くなってる…?)」

 

「……忍さん…」

 

「………………」

 

その後ろ姿を見た3人はそれぞれの感想を抱いていた。

 

『グルルルル…!!』

 

その忍のプレッシャーを受けても真狼は怯む様子はない。

いや、むしろ敵意が増してきたか?

 

「………………」

 

忍もまた真狼を睨んでいた。

 

次の瞬間…。

 

ブンッ!!

 

風を切るような音と共に忍と真狼の姿が消え…

 

ドドドドドドドドド…!!!

 

大気が震え、激しくぶつかり合う音がそこらじゅうで木霊する。

 

「……!?」

 

「………………」

 

「は、速い!?」

 

もはや3人の目では視認することが不可能な領域であった。

 

ベチャッ!

 

さらにそこらにはどちらのかわらかないが、血が飛び散っていた。

 

ドォンッ!!

 

すると社の前辺りの地面に何かが盛大な音と共に叩き付けられていた。

 

「大人しくしろ!!」

 

『ガアアアッ!!』

 

見れば、血塗れの忍がこれまた血塗れの真狼の喉元を右手で掴み、抑え付けようとしていた。

しかし、真狼の方も暴れ回っており、そう簡単に組み伏せられそうにない。

 

すると…

 

カッ!!

 

真狼の咥えていた刀が瞬間的に煌々とした光を発光する。

 

「くっ!」

 

それを受け、忍も真狼から手を放して一旦下がる。

 

「なんだ…?」

 

刀の光が収まると、そこには…

 

『グルルルル…!!』

 

『ガルルルル…!!』

 

先程の真狼よりも一回りだけ小さくしたような白銀の毛並みと真紅の瞳を持つ狼と、漆黒の毛並みと琥珀の瞳を持つ狼という2匹の狼がそれぞれ別々の刀を咥えて忍の前に並び立っていた。

 

「銀狼に、黒狼だと…!?」

 

2匹となった狼の姿に忍は何が起きてるのか、困惑していた。

 

ブンッ!!

 

忍が困惑している間に銀狼と黒狼の2匹は同時に忍へと仕掛ける。

 

「ちっ、考える暇もないか…!」

 

そう愚痴ると忍も神速を用いて2匹を相手取る。

 

「(にしても気のせいか? あの刀、さっきよりも切れ味が増してるような…?)」

 

その攻防の中、忍はそんな違和感を覚えていた。

 

「(それに…なんか見てくれも変わってるような…?)」

 

よくよく見ると、銀狼の持つ刀はその毛並みと同じように白銀に輝き、黒狼の持つ刀もまたその毛並みと同じような漆黒に輝いていた。

 

「(訳わからずの刀に、訳わからずの龍気、そして俺の力…それらが合わさり、この狼達になっている…?)」

 

その様子と今までの感じ方からそんな推測をしてみる。

 

「(ということは…他の力も、同様に…?)」

 

真狼以外の力…紅蓮冥王、蒼雪冥王、吸血鬼、龍騎士(+始龍)、牙狼の闇の五つが該当するが、それらもまた真狼と同じような状態になっているのだろうか?

断定は出来ないが、否定も出来ない状況であった。

 

「(どれも一筋縄ではいかない力だからな……少なくとも真狼と蒼雪冥王が揃えば、俺の大元は回収出来たと言えるし、残り四つに関しても何とかするしかない訳だが…)」

 

銀狼の速さに追従しつつ、時折迫ってくる黒狼の奇襲をいなしながら考えを纏める。

 

「(……………よし、小難しいことは後で考えるか)」

 

そこまで逡巡してから目の前の狼達に思考を戻す。

 

「ッ!!!」

 

狼達が同時に仕掛けてくるタイミングをわざと作ると…

 

ガシッ!!

 

『『ッ!?!』』

 

狼達の口を真正面から同時に鷲掴みにする。

 

「我は、真なる狼なり…!!」

 

ギラリッ!

 

瞳孔が鋭くなる。

 

「その証たる銀狼と黒狼よ。我が命に従い、我が元に還れ…!!」

 

『『ッ!!!』』

 

ゴオオォォォ!!!

 

その瞬間、忍を中心に光の柱が発生する。

 

………

……

 

・真狼の深層世界

 

「ここは…」

 

そこは、目の前に広がる広大な草原と小さな丘、その後ろには夜空に浮かぶ満月を背に丘に佇む一匹の狼がいた。

 

「そうか。ここは真狼の深層世界だったな…」

 

そう言って丘の上にいる狼を見る。

 

『………………』

 

その狼も忍をじっと見つめていた。

 

「すまなかったな。随分と待たせて…」

 

その視線をしっかりと受け、忍は狼に謝っていた。

 

『………………』

 

フルフル、と首を横に振る狼。

 

「そうか。ありがとな…」

 

それだけで狼が何を言っているのか伝わるらしく、忍は微笑んでいた。

 

「それで、あの龍気と刀の正体は?」

 

『………………』

 

狼は満月の浮かぶ夜空を見上げる。

 

「?」

 

狼の視線を追いかけて忍も夜空を見上げると…

 

『………………』

 

こちらを見下ろすようにして西洋の龍を思わせる白銀の鱗と真紅の瞳、そして6色(紅蓮、瑠璃、深紅、黄金、漆黒、純白)に輝く6枚の色鮮やかな翼を持つ龍が佇んでいた。

 

「おいおい…ここに入り込んだのか?」

 

『………………』

 

忍の疑問にこくりと狼は頷く。

 

「相当な力があると見て間違いないか…」

 

そんなことを呟いていると…

 

『我が名は…"真龍(しんりゅう)"。"七煌龍(しちこうりゅう)"が一柱であり、盟主なり』

 

自らを『真龍』と名乗る龍が口を開く。

 

「七煌龍…?(始龍の眷属、七源龍みたいなものか? いや、盟主というからには龍による同盟のようなものなのか?)」

 

そんな考えをしていると…

 

『如何にも。しかして我等、既にこの世の肉体はなく、魂もまた欠片なり』

 

真龍がそのように語る。

 

「うん? それはつまり…既に死んでるってことか? 七煌龍、全員?」

 

『うむ』

 

忍の問いに頷く真龍。

 

「にも関わらず、ここにいるということは…残留思念の類か?」

 

『そう捉えて相違ない』

 

「それがなんでまた俺の力の…しかも深層世界の中にいるのかね?」

 

少し頭が痛くなったらしい忍が頭上の真龍に尋ねる。

 

『波長が合った。それ故に間借りさせてもらった』

 

「そ、そんな理由で…(てか、"波長が合う"ってどういうことだ?)」

 

そこでふと疑問に思った。

 

「じゃあ、俺を襲ってきたのはなんでだ? しかも真狼の姿やらなんやらで攻めてきやがって…」

 

間借りしてる程度なら別に襲ってくる必要性はないのでは?

そんな疑問に真龍は…

 

『それは…かの刀に宿った意思と、我が意思だ。そこな狼は最後まで反対の姿勢だったがな』

 

「そうか。つまり、真龍とその刀とやらは俺が本当に真狼の器として相応しいか試した訳か」

 

『少なくとも我が意思は其方の言う通りだ。が、刀の意思はわからぬ』

 

「わからない?」

 

真龍の言葉に忍は首を傾げる。

 

『我と狼、刀は別々の意思を持っている。狼は最初から其方を信頼していた。我は間借りしている関係上、その意には従おうと思っていたが、これだけの存在が信頼する者を我は試したかった。それは刀も同じだったようだが、我とは少し違うものも含まれているようだった』

 

「違うもの、ねぇ…」

 

すると…

 

『左様』

 

ドォンッ!!

 

満月の方から刀が降り、忍の眼前に突き刺さっていた。

 

(それがし)は牙。古の鬼神界で生まれ、数多の使い手の牙となりしもの』

 

龍の次は刀が語りだす始末。

 

「牙、ね。その割にはボロボロだったが…?」

 

『それは、ここ数百年の間、使い手が見つからなんだからな。ただ一振りを除いては…』

 

「どういうことだ?」

 

『某等、七つの牙にはそれぞれ力が宿っている。それを解放出来る者こそが代々の継承者になるのだが…その血もほとんどが絶えた。故に某等は祀られていたのだが…』

 

「そこに何の因果か、俺の力と、真龍の魂の欠片が来たって訳か」

 

そう推察する忍だった。

 

『うむ。そして、我等三位の相性はこの上なく合致していた』

 

『某の力をここまで発現出来るのは初代の使い手以来だ。それだけ狼殿と真龍殿の力が強かったのだろう』

 

「ふむふむ…それでその狼の器である俺を試したと? なかなか迷惑な話だが……で、それぞれ評価は?」

 

わかりたくないが、何となく事情を察してしまった忍は結果を聞くことにした。

 

『我は既に其方を認めた故、これ以上の意見は控えよう』

 

『某も新たな使い手として貴殿を認めようと思う』

 

真龍と刀は先の一戦で忍の実力を認めたようだ。

 

「そうかい」

 

やれやれといった感じで忍が肩を竦めていると…

 

『認めたついでに依頼をしたい』

 

真龍が何やら言ってくる。

 

「なんだよ?」

 

意見しないと言った割にはすぐに何か言ってきたので怪訝に思った。

 

『我が盟友達の魂の欠片を集めてほしい。さすれば、我等は其方の力になろう』

 

「また、なんでそんなことを…?」

 

『これだけ波長の合う存在に巡り合えたのだ。もはや欠片となりし我等だが、集まれば何かの役に立つだろうと思ってな』

 

「それは…俺としても助かるが、いいのか?」

 

『うむ。盟友達に遭遇したら我も口添えしよう』

 

「アンタがそれでいいならこれ以上は無粋か。いいだろう。アンタの盟友ってのも探してやるよ」

 

真龍との会話が終わると…

 

『某達のことも頼むぞ、新たな使い手よ』

 

「おいおい…刀も集めろってか?」

 

『そうは言わん。だが、相まみえた時は相手をしてもらえると助かる。一振り以外はおそらく使い手がおらぬしな』

 

「はぁ…なんかまた面倒事を任された気分だ…」

 

龍は力を引き寄せる。

それはイッセーに言われた言葉だが、忍にも十分該当するようだった。

 

「と、そうだ。牙、お前の銘は?」

 

『銘はない。代々の使い手に牙と称されてきた故、そう名乗っている』

 

「そうか…」

 

それを聞き…

 

「でも七本もあると区別がしにくくないか?」

 

当然の疑問を口に出す。

 

『ふむ、言われてみれば…確かに使い手は某等を"牙"とだけ呼んでいたからな。まぁ、使い手が認識していれば問題なかったしな』

 

「それでいいのか…?」

 

『事実、問題なかったからな』

 

「………………」

 

それを聞いてますます頭が痛くなったらしい。

 

「ともかく、アンタらの身柄(でいいのか?)は俺が預かる。一先ず、ここから現実世界に戻るぞ」

 

『………………』

 

『承知した』

 

『御意』

 

忍の言葉に三者は頷く。

 

そして、忍は現実の世界へと戻る。

 

………

……

 

・現実世界

 

バリンッ!!

 

「……………」

 

光の柱が割れると、そこから髪が黒の混ざった白銀に染まり、その色と同じ毛並みの狼の耳と尻尾を生やした忍が現れる。

 

「……………」

 

ゆっくりとその眼を開ければ、右の琥珀の瞳はそのままに左の瞳は真紅に変わっていた。

 

チャキッ…

 

そして、その右手には漆黒の刀身が煌めき、柄は白銀の装飾が施された刀、左手には白銀の鞘を持っていた。

 

ゾクリッ…

 

「「「!?」」」

 

その忍を見て3人の少女は息を呑むのと同時にその神々しさを感じる姿に魅入ってしまわれていた。

 

「これでやっと一つ目、か……先はまだ長そうだな…」

 

そう漏らす忍が夜空を見上げれば、そこに社を中心に張られていた結界は無く、満月が顔を覗かせていた。

 

キラリッ…

 

忍の足元にはその月光を受けて輝く白銀の欠片があった。

きっと、これが真龍の言っていた魂の欠片なのだろう。

 

 

 

こうして忍は解放能力の一つにして大元の片割れ、真狼を取り戻した。

しかも何やらお土産付きだったが…。

ともかく、これで能力探しも進展したことになる。

 

残りは五つ。

 

果たして、何処で忍を待っているのか…?

そして、残りの力にも七煌龍や牙は宿っているのだろうか?

いずれにせよ…鬼神界での生活もまだまだ続きそうである。



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第百四話『力の代償』

忍が真狼の力を取り戻した翌朝。

 

「探していた力を取り戻したようじゃな?」

 

朝の評定で謁見の間に忍を呼び出した皇鬼がそう問うていた。

 

「まだ、一つ目だけどな」

 

そう答えて白銀のビー玉を見せる。

 

「それがお前さんの力を封じた水晶か。確かに小さいのぉ」

 

「だが、これで俺の戦術の幅が広がる。というよりも元に戻りつつある、と言った方が適切か。それと…」

 

ビー玉を引っ込めると…

 

「こんなものも一緒に入手したんだが…」

 

そう言って見せたのは…白銀の結晶の欠片と、鞘に収まった白銀の刀だった。

 

「それは…もしや、"牙"か…!」

 

皇鬼は刀を見て驚いたように声を上げる。

 

ざわざわ…!

 

その言葉に臣下達も驚いている様子だった。

 

「何故、貴様がそれを持っている?」

 

そんな中、月鬼が当然の疑問を口にする。

 

「さてな。俺も成り行きとしか言いようがないんだが……強いて言うなら巡り合わせ、かな?」

 

「巡り合わせ、だと…?」

 

その言に月鬼は眉を顰める。

 

「あぁ。そして、こっちの欠片は七煌龍っていう存在の魂の欠片らしい。知ってるか?」

 

「七煌龍…?(はて、どこかで聞いたような聞かないような…)」

 

忍の質問に皇鬼は古い記憶を辿っているようだった。

 

「ともかく、その牙は我等鬼神界のもの。直ちに返却願おうか」

 

そう言って月鬼が忍の持つ刀に手を伸ばそうとすると…

 

「待て、月鬼よ」

 

それを皇鬼が制す。

 

「皇鬼様?」

 

皇鬼が止めたことを怪訝に思う月鬼。

 

「牙は己の意思で持ち主を決める。おそらく、その牙は既に忍を認めておるよ」

 

「なっ…?!」

 

皇鬼の言葉に月鬼を始め、他の臣下達も驚きの目で忍を見る。

 

「馬鹿な! 皇鬼様以外に牙に認められる者など…!」

 

「(つまり、皇鬼さんが七振りの内の一振りを持ってるってことか…)」

 

薄々感じていたのか、月鬼の言葉で忍は確信を得ていた。

 

「しかし、鬼神界の太古より存在する由緒正しい武具である牙をこやつに預けるなどと…!」

 

「武具は飾り物ではないからのぉ。使い手が現れたのなら有効に活用せんとの」

 

「それは…! しかし…」

 

皇鬼の言葉に月鬼は納得がいかないようだった。

 

「皇鬼さん、一つ聞きたいんだけど…」

 

「なんじゃ?」

 

「他の牙の所在で、何か異常なことは起きてないか?」

 

真正面から問うていた。

 

「ふむ…それを聞いてどうする?」

 

それは…暗に何か起きている、というのを言っているようなものだった。

 

「確かめに行く」

 

「何をじゃ?」

 

「そこに俺の力が介在していないかを、だ」

 

問われて忍はそう答えていた。

 

「………………」

 

「………………」

 

しばし視線が交差した後…

 

「いいじゃろう。確かに小規模だが、牙の所在地を中心に異常気象やら不思議な現象が起きておるのは事実だしの」

 

皇鬼は忍を向かわせることを許可する。

 

「皇鬼様…!?」

 

小さな報告だったからか、武天十鬼でも月鬼にだけ知らされていた情報を開示したことに月鬼も驚いていた。

 

「うむ。まぁ、修行の成果を試す良い場にもなろうしな」

 

「実際、真狼の時も少なからず戦闘はあったからな…良い機会と言えば、そうだが…」

 

話がとんとん拍子に決まってしまい…

 

「ならば、せめて監視役をお付けください」

 

僅かながらの抵抗とばかりに月鬼が進言する。

 

「当然じゃな。しかし、誰がいいかのぉ…?」

 

流石に戦の最中であり、鬼神界の要たる武天十鬼を付けるわけにもいかない。

しかし、他の臣下ではもしもの時に忍を抑えることが出来ない可能性もあるので困っていた。

 

「それは…」

 

それは月鬼も重々承知なのか、少し険しい表情になっている。

 

すると…

 

「なら、あたしが行くわ」

 

謁見の間に声が響く。

 

「皇女…!?」

 

「姫様!?」

 

そこには桃鬼の姿があった。

 

「桃鬼、か……ふむ」

 

その申し出に皇鬼はしばし思考を逡巡させる。

 

「良かろう。忍のことはお前に任せよう」

 

「ありがとう、お祖父ちゃん」

 

そのやり取りを見て…

 

「待ってください! なんでよりにもよって姫様がそんな奴の監視なんて…!!」

 

水鬼が立ち上がって異を唱える。

 

「水鬼、控えなさい。御前ですよ」

 

すぐさま氷鬼が水鬼を止めに入る。

 

「でも、姉さん!」

 

「少しは抑えなさい」

 

「くっ…!」

 

氷鬼に言われ、水鬼も黙るが…

 

「ですが、私も賛成は出来ません。姫様に任せるくらいなら、武天十鬼の誰かにして頂きたいです」

 

氷鬼も納得は出来ていないらしく、そう申し出ていた。

 

「そうは言うがの。他の武天十鬼もそうじゃが、お主達にも任務があるじゃろう?」

 

「姫様はこの鬼神界を統べる次世代の器。その御身を守ることを優先すればこそ、このような些事は私達に回していただきたいのです」

 

珍しく氷鬼が皇鬼に対して意見を言っていた。

 

「まぁ、言いたいことはわかるがのぉ…」

 

いつもは控えにいる氷鬼が前に出てきたことに皇鬼も困ったような声を出す。

 

「ふむ…」

 

氷鬼と水鬼は忍と桃鬼が戦った場にいたため、桃鬼の身の安全を心配してこんな申し出をしている。

それをわかっているので、皇鬼も無下には出来ないといった感じなのだ。

 

「氷鬼も水鬼も心配し過ぎ。あたしだってもう子供じゃないんだから」

 

桃鬼が姉役の2人にそう言うも…

 

「ですが…」

「でも…!」

 

2人は2人で何か言いたげだった。

 

すると、今度は…

 

「いいじゃないのさ。姫様が行きたいってんなら行かせりゃ」

 

風鬼が謁見の間に現れてそう言っていた。

 

「風鬼の姐さん!」

 

つまらなそうにしてた重鬼が風鬼の登場に目を輝かせる。

 

「風鬼さん! また、そんな勝手なことを…!!」

 

「氷鬼も水鬼も過保護なんだよ。姫様だってもういいお年頃なんだ。好きにさせりゃいいのさ」

 

氷鬼の言葉をのらりくらりと躱しながら風鬼は悠然と皇鬼の前にやってきて跪く。

 

「御大将。風鬼、ただいま戻しやした」

 

「うむ。して風鬼よ。前線の様子はどうじゃった?」

 

どうやら風鬼は絶魔と交戦してる最前線に出張っていたらしい。

 

「はっ。依然、膠着状態が続いてますが…どうも絶魔は何か様子を見てるような気がしてならんのですわ」

 

「様子見、じゃと?」

 

「えぇ。まぁ、あたしの勘でしかありませんが…」

 

「そうか…」

 

風鬼の報告に皇鬼も口を噤んでしまう。

 

「それはそうと、坊主の監視の話ですけど…何なら姫様と一緒にあたしが受け持ちましょうか?」

 

重苦しい空気を変えようとしてか、風鬼がそのような提案をしていた。

 

「風鬼さん!?」

 

まさかの提案に氷鬼が驚く。

 

「どうせ、次の出陣までは休養も同然なんだ。だったら手の空いてる内に坊主の監視をすりゃいい。姫様が行くってんならその護衛も兼ねてね。違うかい?」

 

「それは…」

 

風鬼の言葉に氷鬼も言い返せないでいた。

 

「俺は反対っす! なんで風鬼の姐さんがこんなんの監視なんてしなきゃならないんすか!?」

 

そこに重鬼が猛反対とばかりに抗議する。

 

「(なんてわかりやすい奴…)」

 

女遊びが激しいくせに本命にはちょっかい掛けないとか…と思いつつ忍は重鬼の態度をそう分析する。

 

「とは言え、他に手の空いてる者もおらんしの。今は風鬼の提案が最良か」

 

皇鬼はそんな重鬼の心情を知っているのか、わざとらしくそう言ってみせる。

 

「だったら私が…!」

「あたしだって!」

 

そこに氷鬼と水鬼が名乗りを挙げるが…

 

「いや、お主達には任務があるとさっきも言ったじゃろう?」

 

皇鬼がバッサリと切り捨てる。

 

「くっ…」

 

「うぅ…」

 

事実を言われ、ぐうの音も出ない様子の2人に対し…

 

「………………」

 

重鬼は何も言えずにいた。

"男の監視なんぞやってたまるか"という気持ちと、"風鬼が監視に付くぐらいなら…"という気持ちがせめぎ合っているのだろう。

 

「では、忍の監視には桃鬼と風鬼を付ける。但し、風鬼はいつでも招集に応じれるようにしておけ」

 

「あいよ、御大将」

 

片手を挙げて答える風鬼を見て…

 

「では、今朝はこんなもんかの」

 

今朝の評定はこれにて終了と判断したらしい。

 

「一同、解散!!」

 

鉄鬼の掛け声と共に臣下達も謁見の間から下がる。

 

………

……

 

その後、忍は皇鬼の執務室、もしくは書斎と呼ばれる場所に連れてかれると…

 

「して、何処から回るつもりじゃ?」

 

机に地図を広げた皇鬼が尋ねてくる。

 

「近場から…と言いたいが、もしも被害が出てるならそこから行きたいと思う」

 

「わかった。なら、この辺りじゃな」

 

そう言って地図で指したのは皇城からかなり離れた辺境の地だった。

 

「遠いな…」

 

「この辺りの集落一帯では今、住民が謎の失踪と共に何かを食い散らかされた痕跡が出ておっての。兵の派遣を検討しておったところなのじゃ」

 

忍の言葉を無視し、皇鬼はそこで起きていることを簡潔に説明する。

 

「食い散らかす、か…(となると、龍騎士の可能性が高いか。しかし、そこは始龍も抑えてる………いや、七煌龍の龍気も加わって増大した力が暴走してる可能性もあるか……もしくは…)」

 

その説明を聞き、忍は二つの力を思い起こす。

 

「心当たりがあるのか?」

 

「俺の力の中でもまだ全てを把握してない力と、制御に苦慮してる力があるからな。そのどちらかと踏んでる」

 

素直にそう答えると…

 

「はた迷惑なことじゃな」

 

皇鬼は困ったように呟く。

 

「……すまない」

 

「まぁ、過ぎたこととは言え、これには人命も関わっておる。早急に手にするのじゃな」

 

「あぁ、わかった」

 

そう答えると忍は立ち上がる。

 

「地図は貸してやるから、桃鬼か風鬼に道案内をさせるんじゃな」

 

皇鬼は印を付けた地図を丸めると忍に放り投げる。

 

「わかった。あと、領明とシンシアのことだが…」

 

地図を受け取りながら2人を任せようかとも思って口を開くと…

 

「おそらくは無理じゃろ。好きにさせてやればいい」

 

先手を言われてしまい…

 

「…………はぁ…」

 

溜息を吐いてしまった。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「武運を祈るぞい」

 

忍が退出するのを待ってから…

 

「さて、少し文献を漁ってみるかの…」

 

忍の口から出た『七煌龍』について調べるため、皇鬼は蔵の方へと向かうのだった。

 

………

……

 

皇鬼の執務室を出て少ししたところで…

 

「で、何か用なのか?」

 

忍は見向きもせずにそう問うていた。

 

「………………」

 

柱の後ろから重鬼が現れる。

いつもはチャラい重鬼だが、今回に限っては本気の殺気を忍に放っていた。

 

「男に絡むなんてのは俺の性じゃないんだがな」

 

「そりゃこっちの台詞だ」

 

重鬼の言葉に忍も『面倒だな…』と思いつつ返してしまう。

 

「テメェ、風鬼の姐さんに手を出したらどうなるかわかってんだろうな?」

 

「あぁ? やっぱ、そんなことかよ」

 

案の定の言葉に忍は脱力する。

 

「そんなことだぁ!?」

 

忍の一言に重鬼が激昂する。

 

「うるせぇよ、このヘタレが…」

 

「ヘタ…?」

 

忍の言った言葉の意味が分からず、首を傾げる。

 

「要は根性なしってことだ」

 

「なっ…!?」

 

「本命すっぽかして女遊びなんてしてるからそんな風になるんだよ」

 

「ななな…!?」

 

忍の一方的な言葉に重鬼は後退ってしまう。

 

「そんなに本命が大事なら、さっさと告白でもなんでもしやがれ。玉砕する覚悟もないから女遊びなんて逃げの一手になってんだよ」

 

そう言って振り向き様に重鬼に指を突き付ける。

 

ただ…

 

「(なんか、言ってて虚しくなるのは…気のせいだろうか…?)」

 

忍自身もまた自分の言葉で微妙に傷ついていた。

 

とは言え、忍は女遊びなんてしていないし、しないだろう。

仮にしようものなら、きっと簀巻きにされたり、燃やされたり、蜂の巣にされたり、根切りにされたり…と色んな罰が待っていること間違いなしである。

というか、自分なりに本気で行動した結果、好かれるようになったので下手すりゃこっちの方がもっと質が悪いかもしれない。

 

「て、テメェに俺の何がわかるんだよ…!!」

 

そんな忍の心中を知らずに重鬼は前に一歩踏み出す。

 

「確かに知らん。だが、同じ男として最低だということだけはわかる」

 

「ぐぬぬっ…!」

 

が、言い返せないのか、すぐにその一歩を引っ込めてしまう。

 

「話が終わったのなら、俺は行くからな」

 

そう言って踵を返す。

 

「こ、の、野郎…!!」

 

怒りで周りが見えなくなった重鬼が手を伸ばして、忍を重力で圧殺しようとするが…

 

「重力の相手には慣れてんだよ」

 

紅牙との戦いで重力には慣れているのか、悠然とその場を後にした。

 

「ちっ、くしょうが…!!」

 

バキッ!!

 

自身の重力が効かなかった事実に重鬼は床に拳を叩き付けていた。

 

………

……

 

そんな重鬼との一幕があった後、忍は領明、シンシア、桃鬼、風鬼と共に目的地へと出発していた。

目的の辺境地には風鬼の操る風を用いて空を飛ぶようにして移動していた。

風鬼に時間がないのもそうだが、人命に関わる被害が出てる以上、迅速に事を納めなければならないのだ。

 

「(アステリアがあればなぁ…)」

 

現在は地球の明幸の屋敷の車庫にあるはずの愛車を思い浮かべていた。

 

「(まぁ、無い物強請りしても仕方ないか…)」

 

それに空を飛ぶのにも慣れていたので問題はない。

 

「「………………」」

 

領明やシンシアもエクセンシェダーデバイスを用いて空を滑空していた。

 

「ホントに便利な絡繰りだねぇ」

 

「どういう仕組みなのよ?」

 

風で空を飛ぶ桃鬼と風鬼もその様を見て呆れるのやら何なのか…。

 

「ま、俺達からして見ても未知の技術なんだよ」

 

かく言う忍は桃鬼と風鬼と同じように風で飛んでいる。

アクエリアスは鎧型なので、蟹座や魚座のように変形機構は持ち合わせていないのだ。

 

 

 

そうこうしてる内に…

 

「見えてきた。あの辺だよ」

 

目的地に到着したようだった。

 

「………………」

 

到着した途端、忍は自分に向けられる突き刺さるような殺気を感じていた。

 

「……忍さん?」

 

「いやがるな…この殺気は…」

 

低い体勢を作りながら忍は匂いを確かめる。

 

「この匂い…龍騎士か!」

 

そう叫んだ瞬間…

 

『グオオォォォッ!!!』

 

近くから獣…いや、それよりも強い存在の咆哮が聞こえる。

 

「っ! この咆哮…ただもんじゃなさそうさね」

 

風鬼が警戒の色を強くしていた。

 

「……なに? この龍気の禍々しさは…?!」

 

近くから発せられる邪悪な龍気に領明は寒気を感じていた。

 

「風鬼さん、3人を頼む」

 

「そいつはいいが…坊主は?」

 

忍の頼みに風鬼はそれを聞くと…

 

「ちょっと奴と死合ってくる…!」

 

忍はギラギラした目で近くの気配を探る。

 

「(まるで獣だね…)」

 

その様子を見て風鬼は内心でそう思っていた。

 

忍がしばしの間、気配を探っていると…

 

『グオオォォォッ!!!』

 

ドドドド…!!

 

雄叫びと共に龍騎士が地中から現れていた。

 

「っ……真・瞬煌!」

 

地中から現れたことは想定外だったらしく、少しだけ傷を負いながらも即座に後ろに下がると真・瞬煌を発動させていた。

 

『グオオォォォッ!!!』

 

人間大の大きさをしたどす黒く赤い体色に狂気に染まった黄金の瞳を持つ人型ドラゴン、その身には灰色の鎧を纏っており、その右手には刀を握っていた。

 

「ちっ…やっぱり、牙持ちかよ!」

 

ある程度の予想はしていたとは言え、実際に目にすると他の力にも関与してそうに思えてならなかった。

 

『ガアアァァァッ!!!』

 

龍騎士は忍に捕食されたことを覚えてるのか、刀をその場に突き刺して殺気をばら撒きながら忍へと一直線に向かってくる。

 

「俺だって、あの時とは違うんだよ…!」

 

その殺気を受け止めながら忍は真・瞬煌で高めた身体能力を用いて龍騎士と近接戦を演じる。

 

バキッ!!

 

「ぐっ…!?」

 

『グガッ!?』

 

開幕の合図はクロスカウンターから始まり…

 

「ま、だ、まだぁ!!」

 

ドンッ!!

 

真・瞬煌のオーラを炸裂させて拳のインパクト時に威力を上乗せさせ…

 

「お、らあぁぁぁぁ!!!」

 

ゴォンッ!!

 

力任せに龍騎士の顔面を殴り飛ばしていた。

その光景はさながらグレモリー眷属vsバアル眷属の最終試合でイッセーが見せた攻撃にも似ていた。

 

『グギャッ!?!』

 

思わぬ攻撃に龍騎士は空中で体勢を整える。

 

「ブリザード・ファング!!」

 

そうはさせまいと忍十八番の魔法を繰り出す。

 

『グウウゥゥゥッ!!?』

 

真・瞬煌で威力を上げたブリザード・ファングを受け、龍騎士の鎧が凍結していく。

 

「ブリザード・ファング・エクシードプラス・ゼロシフト!!」

 

動きが鈍った龍騎士の眼前まで神速で移動すると、同じ眼前に溜めていた氷属性の魔力球に向けてアッパーカットを繰り出すかのように拳を振るい、龍騎士の体を打ち上げながら収束風の砲撃をゼロ距離で見舞う。

 

『グガアアァァァッ!?!?』

 

打ち上げられた龍騎士からは苦悶の声が上がる。

 

「お前も俺の中にいたのなら覚悟を決めろ。俺に従い、その力を委ねる覚悟を…!!」

 

ドクンッ!!

 

『グゥッ!!?』

 

その言葉に龍騎士の中の何かが鼓動する。

 

「聞こえてるなら答えろ、始龍! もうお前も俺の一部なんだ!! そして、七煌龍! テメェら纏めて、俺が面倒見てやるよッ!!!」

 

その言葉をトリガーに…

 

『グガアアァァァッ!!!??!?』

 

龍騎士が苦しみだす。

 

「我が元に、来いッ!! 我が力となりし龍達よッ!!!」

 

忍の力強い言葉と共に手を伸ばすと…

 

『ガアアァァァッ!!!!』

『グオオォォォッ!!!!』

『ウオオォォォッ!!!!』

 

龍騎士の口から普通ではあり得ない"三つの雄叫び"がその場に木霊する。

 

その龍騎士に対して忍は手を伸ばしながら一歩一歩近づいていき…

 

「はああぁぁぁッ!!!!」

 

伸ばした手で龍騎士の顔を鷲掴みにすると、龍騎士の龍気と己の龍気を同調させ…

 

ゴオオォォォッ!!!!

 

その存在と同化する。

 

「ぐっ…うぅぅ…!?」

 

同化すると忍が苦しそうに顔を歪める。

 

「……忍さん!」

 

「待ちな」

 

領明が前に出そうになるのを風鬼が止める。

 

「男を信じてやるのも良い女の条件さね」

 

そんなことを領明に言って風鬼も忍の様子を見る。

 

「ぐぅっ…!!」

 

一気に三種の龍気を取り込んだためか、急激な力に体が対応出来ていないようにも見えた。

 

「(これが…暴走の原因か…?)」

 

忍は自らに起きていることを感じることで龍騎士がなんで暴走気味になって近隣の村に住む人を襲ったのか、それを感覚的に理解しようとしていた。

 

つまるところ、こうだ。

始龍の龍気で抑えられた龍騎士の龍気だが、そこに新たに七煌龍の龍気を加わったことで力の均衡が崩れてしまい、龍騎士の力が七煌龍の力で増大して始龍でも抑えが利かなくなってしまったのだ。

その影響で力が暴走し、周囲にあっただろう血肉を欲した。

それがこの被害に繋がったのだろう。

 

そして、今…

 

「ぐ、おおおぉぉぉぉぉ…!!!」

 

忍はその力の権化とも言える三種の龍気を支配下に置こうとしていた。

その眼は妖しく赤く光り輝き、忍の理性を今にも吹き飛ばそうとしていたが、忍の精神力もまた成長しているのでそう簡単には吹き飛ばせないでいた。

 

「があああぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

忍を中心に膨大な龍気が放出される。

 

「(熱い……体が、熱イ…!!)」

 

忍は内側から湧き上がるような熱を感じるも…

 

「(だが! この衝動に、呑まれてたまるか…!!)」

 

赤かった眼の輝きは徐々にだが、黄金色に染まっていく。

 

「(そうか……これが、始龍本来の…)」

 

それを知覚した時、忍の髪が銀髪と化し、前髪の一部に紅いメッシュが入り、その両の瞳が黄金色に染まり、背と臀部から白銀の鱗を纏った龍の翼と尻尾が生え、その身には龍を模した銀色の鎧が纏われ、顔には龍を模した銀の仮面を着けていた。

しかし、鎧は以前と違って灰色で罅割れた状態ではなく、ちゃんとした防具としての機能を持ったものへとなっていた。

但し、胸部、両肩、両手の甲、両膝の七か所にある宝玉は石化したままだったが…。

 

ブンッ!!

 

無造作に振るった右腕が滾っていた龍気を霧散させ、より洗練された濃密なオーラとなった龍気が忍の体を包んでいた。

 

「これは、また…」

 

その忍の変容に風鬼は冷や汗を流していた。

 

「……さっきまでの禍々しさが、消えてる…」

 

領明もまたその光景に眼を見開いていた。

 

「これで二つ目か…」

 

キィンッ…

 

忍は龍の力を解くと、右手に黄金色のビー玉と結晶の欠片が収まっていた。

 

キラッ…

 

「七煌龍が一柱…『皇龍(おうりゅう)』か」

 

結晶の欠片が微かに輝いたかと思うと、最低限の情報が頭に流れてきた。

 

「(真龍もそうだったが、始龍と違って七煌龍は生前の能力がないのかもしれないな……いや、始龍が特殊なだけか…?)」

 

そんな考えをしていると…

 

くい、くい…

 

「ん?」

 

「………………」

 

シンシアが忍の服の裾を引っ張っていた。

 

「なんだ?」

 

「………………あれ」

 

シンシアが指差す方には龍騎士が地面に突き刺したままの牙がある。

 

「2本目の牙、か…」

 

牙の前まで行くと…

 

「ふっ…!」

 

無造作に牙を引き抜く。

 

「……………」

 

そして、それが自然かのように龍気を纏った左手で刀身の表面をなぞるように滑らせていく。

 

キィンッ…

 

すると不思議なことに刀身が黒い輝きを放つ刀へと変化し、その場にはなかった鞘も現れる。

黄金色の柄と鞘に黒い刀身の牙が忍の手にある。

 

「嘘だろ……牙が…一人の、それも人間の手に…2本も…?!」

 

牙の伝承がどの程度、認知されているかは知らないが、これは異例なことなのだろう。

 

「(御大将。こいつ、本当に何者なんですかね…?)」

 

風鬼は忍を見てそんな疑問を浮かべていた。

 

………

……

 

龍騎士・始龍・皇龍・第二の牙を入手した忍だったが、移動と戦ってる間にそれなりの(とき)が過ぎていたようで、夕刻となっていた。

なので、今晩は近くの集落にある空き家に泊めてもらうことになった。

その空き家も本来なら住民がいたのだが、龍騎士の被害で帰らぬ人となってしまったのだ。

 

そして、その深夜にその出来事は起きた。

 

「ッ!」

 

その気配を察知し、布団から飛び起きる忍。

 

「この気配……まさか!」

 

その覚えのある気配に忍は部屋から飛び出していた。

 

だが、忍が飛び出して外に出ると、そこには…

 

「ふふっ…久しいの、小童」

 

扇情的な真紅のドレスを身に纏った銀髪紅眼の妖艶な美女。

その八重歯は不自然なほど尖っており、さらにその四肢には不釣り合いで特徴的な真紅の篭手と足具を装着していた。

そして、何よりも…その瞳には明確な殺気が宿っていた。

 

「吸血鬼、なのか…?」

 

その姿は深層世界で見た時と異なるものの、ほぼ吸血鬼の化身そのものであった。

 

「如何にも。じゃが、情報はより正確に伝えるとしようかの」

 

そう言うと…

 

「妾の名は『カーミラ』とも呼ばれておる吸血鬼の祖。所謂、『真祖』じゃな」

 

吸血鬼…真祖・カーミラはそのように名乗っていた。

 

「なっ…!?」

 

その言葉に忍は耳を疑う。

 

「真祖、だと…?」

 

「そう名乗ったが…信じられないのかのぉ?」

 

妖しい笑みを浮かべながら忍の反応を愉しむかのようにする。

 

「(おい、それが本当なら…洒落になんねぇぞ…)」

 

忍は以前、暗七から聞いた情報を思い出す。

 

『吸血鬼ってのはこの人間界の闇と共に古くからる種族よ。ただ、悪魔以上に頑固で純血絶対主義とでも言うのかしら、そんな風な格差社会が出来上がってるって話よ。ドクターがどういった経緯でそんな血液を入手したかなんて今となっちゃわからないけど…かなり危ないわよ?』

 

『そうなのか?』

 

『今は実感が湧かないだろうけど、吸血鬼って本来は弱点やら制約が多いの。それこそニンニクやら十字架、銀、聖水が苦手で、招かれないと建物に入れない、流水なんかも渡れない、自分の棺で寝ないと回復だって満足に出来ない』

 

『…………マジか?』

 

『冗談でこんなこと言わないわよ。それにその血が真祖とかにより近かったりなんかしたらもう最悪ね』

 

『どう、最悪なんだ…?』

 

『まず普通の食事が出来ない。味覚がおかしくなるのよ。それこそ血液以外を受け付けないくらいに……それと日光よね。日中ってだけでかなり動きに制限が掛かるんじゃないかしら?』

 

『そこまでか?』

 

『自覚症状が……いえ、この場合、まだ完全に掌握出来てないのが幸いなのか…まだ、そんな予兆は出てない。でも、覚悟してなさい。いずれ、アンタがその血を掌握した時…自分の身に何が起きるのかを…』

 

『………………』

 

そんな会話をしたのが、吸血鬼と判明してすぐのことだったか…。

 

「(よりにもよって…真祖とか…)」

 

その事実は計り知れないものかもしれなかった。

 

「(もし、俺がこいつを完全に掌握したら…)」

 

元の生活を送れるかどうか…。

そんな疑念を知ってか…。

 

「ふふっ、揺らいでおるな。結構結構」

 

真祖・カーミラは忍の様子を見て笑みを零す。

 

「くっ…」

 

「そんな揺らいだ心で妾を愉しませられるかの?」

 

そう言った瞬間…

 

ドンッ!!

 

真祖・カーミラがいた地点が一瞬にして陥没すると同時に忍の間合いへと近づく。

 

「なっ…!?」

 

深夜になって何度目の驚きだろうか…。

 

「ふっ!!」

 

その驚きの間も逃さず、真祖・カーミラは篭手を纏った右拳で忍へと殴り掛かる。

 

「ちっ!!」

 

すぐさま真・瞬煌を発動し、両腕をクロスして防ぐ。

 

が…

 

メキメキッ!!

 

「ぐっ…!?」

 

真・瞬煌を纏っているにも関わらず、真祖・カーミラの拳は忍の両腕の骨を砕かんとしていた。

 

「(この力…単なる妖力だけじゃない! 龍気を混じってやがるのか!?)」

 

そもそも五気を掛け合わせることを教えたのはこの真祖・カーミラである。

つまり、真祖・カーミラも忍の中に居続けたことでそれを感覚的に習得した可能性が高かった。

それに加え…

 

「(この篭手に宿ってる力も何かしら作用してる可能性もある、か…!!)」

 

無理に受け止めるのをやめると、忍は後方に跳んで真祖・カーミラの攻撃を流すことにした。

 

「ふむ。"牙"とやらの力もさほどのものではないのう」

 

そう言いながら篭手の具合を確かめるように呟く。

 

「牙、だと…?」

 

忍は改めて真祖・カーミラを見るが、牙らしき刀は持っていない。

あるとしたら篭手と足具くらいだが…。

 

「なんじゃ、知らぬのか? 牙は刀という仮初の姿から真なる姿へと変化するのじゃよ。まぁ、妾もこの世界で牙と龍の力を以ってして受肉を果たした際に知ったことじゃが…」

 

「なんだと!?」

 

初めて知る情報に忍は困惑する。

 

「(つまり、あの篭手と足具は牙の真の姿ってことか…?)」

 

言われてみれば、最初の牙…真狼と共にあった牙も戦闘中に二刀となったことを思い出していた。

 

「しかし、小童といい、この牙といい…良い塩梅じゃな。妾ももう少しギアを上げても問題なかろう」

 

ゴオオォォォッ!!!

 

真祖・カーミラを中心にして濃密な妖力のオーラが立ち昇る。

 

「これが…真祖の妖力…」

 

今まで底を見せてなかった、吸血鬼…その本来の妖力なのだろう。

その膨大な妖力の波動を忍もピリピリと肌で感じていた。

 

「思わぬ形で受肉を果たした今、小童という器はもういらぬ。妾は妾の好きにさせてもらうぞ?」

 

「………………」

 

真祖・カーミラを今の自分が止められるかどうかを考える忍に対し…

 

「そうさの。まず手始めに妾の下僕となる眷属を作らねばな。差し当たっては、そこな小娘共でよかろう」

 

真祖・カーミラは忍の後方に目を向けていた。

 

「っ!?」

 

目の前の真祖・カーミラに意識を向け過ぎて周囲へ意識を向けるのを怠っていた忍はその一言で後ろを見る。

 

そこには…

 

「……忍さん」

 

「………………」

 

領明とシンシアの2人がいた。

 

「領明、シンシア…」

 

「狼の血が混ざっているのは、この際仕方なかろう。どちらも人間には違いないしのぉ」

 

「ッ!!」

 

真祖・カーミラがそう言った瞬間…。

 

ゴオオォォォッ!!!

 

忍の内から膨大な五気が溢れ出してきた。

 

「ほぉ…?」

 

「あの2人に手を出してみろ。ただじゃおかねぇぞ?」

 

忍の変貌に目を細める真祖・カーミラは…

 

「妾を喰らう覚悟が決まったか?」

 

挑発的な言葉を紡いでいた。

 

「もう、ああだこうだ考えるのはやめだ。まずはテメェの力を掌握する。その後のことなんて、後で考えればいい…!」

 

「くくっ…それでこそ、妾の器よ…!」

 

吹っ切れた忍と愉しそうな真祖・カーミラは互いに強烈な一撃を放ち、拳同士がぶつかり合って衝撃波を周囲に撒き散らす。

 

「……っ」

 

「………………」

 

その衝撃波を受け、怯む領明と相変わらず表情を変えないシンシア。

 

「な、何事よ!?」

 

「夜中だってのに、騒がしいねぇ…って、こいつはまた…派手にやってまぁ…」

 

そこに飛び起きたらしい桃鬼と風鬼も合流していた。

というか、今の今まで寝てたのだろうか…?

 

一方で、忍と真祖・カーミラは互いの拳をぶつけ合ったままの状態が続いていた。

それは互いに譲れぬものがあり、押し通す覚悟を見定める戦い。

引けば、それ即ち負けを意味する。

 

「小童、お主の力はこの程度かの?」

 

まだ余裕がありそうな真祖・カーミラが忍に尋ねる。

 

「んなわけあるかよ…!」

 

真・瞬煌を背中と右腕だけに限定展開し、その密度を底上げしていた。

 

「そうでなくてはの!」

 

「負けてたまるかよ…!!」

 

ブオォォッ!!!

 

互いの力がぶつかり合い、それが衝撃波となって周囲の物体を破壊しようとする。

 

「っと、これ以上の被害は勘弁願いたいね」

 

その衝撃波を風鬼が風を操って相殺していたが…

 

「(流石に長時間の維持は厳しいか…)」

 

予想以上の力の衝撃波に風鬼も表情を厳しくする。

 

状況は一進一退に見えるが…

 

グググ…

 

徐々にだが、忍が押され始めていた。

 

「(このままでは…押し負ける!)」

 

「やはり、所詮器は器に過ぎぬか…まぁ、妾を受け止めれるかも不安だったが…この際、もうどうでもいいことよ」

 

残念そうなものを見るかのような視線を忍に送りつつ…

 

「満月は過ぎてしまった故、しばし待つことになるが妾の下僕となることを誇りに思うがよいぞ、小娘共」

 

既に勝利を確信したようなことを言う。

 

「ふ、ざけんな…ッ!!!」

 

踏ん張るもそれ以上の力が忍を抑え込む。

 

「(ダメなのか…? 真祖に負け、領明達を…)」

 

弱気なことを考えるだけで押される力が増す感覚が襲ってくる。

 

だが…

 

"領明のこと、よろしくね"

 

「(ッ!!)」

 

ドンッ!!

 

もうひと踏ん張りするが如く、地面に足を踏みしめていた。

 

「む?」

 

まさか、持ち直すとは思わずに真祖・カーミラが眉を顰める。

 

「負けるわけには、いかねぇんだ…」

 

ギラリッ!

 

そんな低い声音と共に忍の力が増していき、その瞳孔が鋭くなっていく。

 

「俺には…まだまだ、やらなきゃならねぇことがあるんだ…」

 

「ッ!」

 

グググ…!!

 

「だから、ここで止まる訳にはいかねぇんだよ…!!」

 

ドドドンッ!!

 

真・瞬煌のオーラを連続炸裂させてその力を一気に高めていき…

 

「お、りゃああああああ!!!!」

 

「むぅっ!?」

 

忍の拳が真祖・カーミラの拳を押し返し…

 

ドゴンッ!!

 

最後には後方へと吹き飛ばしていた。

 

「はぁ……はぁ…っ…はぁ…」

 

息を整えようとしながら忍は真祖・カーミラの元へと歩いていく。

 

「見事じゃな…器よ…」

 

風鬼の操る風に激突していた真祖・カーミラはそう漏らしていた。

 

「俺の勝ちだ。俺の一部になってもらうぞ…」

 

そう言って忍は右手を真祖・カーミラに向ける。

 

「じゃが、本当に良いのだな? 妾を取り込むということは…お主はもう普通な生活を送れぬということ…」

 

「百も承知だ」

 

「そうか。なら、これ以上は無粋よな…」

 

パアァァ…

 

その答えを聞いて満足したのか、真祖・カーミラは光の粒子と化していき、忍の手元で真紅のビー玉と結晶の欠片、そして刀となって消えていた。

 

「これで、俺も本格的な人外、か…」

 

三つ目の力を取り戻した忍だったが、その代償は思いの外…いや、かなり大きかったようだった。

 

 

 

残る力は…紅蓮冥王、蒼雪冥王、牙狼の闇の力…。



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第百五話『集結する力』

真狼に続き、龍騎士と吸血鬼…否、真祖の力を取り戻した忍。

しかし、真祖の力を掌握した忍の身に待っていたのは、その代償だった。

 

それは龍騎士と真祖を掌握して数日の間のことだった。

 

「げほっ…ごほっ…!!」

 

今日も今日とて忍は食事を口にした瞬間に戻してしまっていた。

ここ最近、そんなことが続いていて忍はまともな食事が出来ないでいた。

 

「はぁ……はぁ……くそっ…!」

 

出された食事を食べようにも真祖を掌握した影響で、口が受け付けてくれなかった。

 

「(まさか、ここまで酷いもんだったとは…)」

 

今まで食べれたものが食べられないという事実に、忍は頭を抱えるしかなかった。

 

「悪いな、せっかく作ってもらってるってのに…」

 

「……いえ…」

 

そんな忍に付き合うように領明が料理を担当して食事を持ってきているが、今の"普通の食事が出来ない"という忍の身を案じていた。

 

「吸血鬼ってのは…こんなにも不便なもんだったんだな…」

 

力を行使するだけならば問題もなかったろう。

しかし、今の忍はその力を掌握し、その特性までも取り込んでしまっていた。

皇城に入るにも一苦労し、城の主たる皇鬼に招待してもらう形で皇城に入り、自室として間借りしている部屋にやっと入れた状態だった。

しかも日中は酷い倦怠感に襲われ、意識してなかったが影もなかったという。

 

「(それとも、俺が完全に掌握してないからこんな状態になってるんじゃ…?)」

 

そんな風にも考えているが、あれからビー玉の中にある深層世界にいるだろう真祖・カーミラに接触していないので何とも言えなかった。

 

「(ともかく、後三つなんだ。それらを回収してからまた考えるか……それまでに体が保てばいいが…)」

 

食事抜き、日中での活動制限、精神的な負担を考えると早急に見つける必要性があった。

 

「……では、下げますね」

 

忍がもう食事をしないと察し、領明が食事を片付け始める。

 

「あぁ…すまんな…」

 

そう言って何気なく領明の所作を見ていると…

 

「………………」

 

徐々にだが、忍の瞳が琥珀と紫から真紅に変わり始めていた。

真祖の力は解放していない。

なら何故か?

 

「(欲しい……血が、欲しい…)」

 

まともな食事をしていなかったことから来るだろう吸血衝動。

無意識なのか、忍はゆらりと立ち上がると、領明の元まで歩いていく。

 

「……? 忍さ…」

 

忍の接近に気付き、領明も片付けの手を止めると…

 

くいっ…

 

「……え?」

 

その手を掴まれ、ゆっくり優しく上へと引き上げられると…

 

「領明…」

 

忍は領明の顔を覗き込むように見つめる。

 

「……え、ぇ?」

 

顔を見つめられ、困惑する領明だが…

 

「(眼が、紅く…?)」

 

忍の異変に気付く。

しかし、それでも魅入られたように身動きが取れずにいると…

 

カプッ…

 

忍が領明の首筋にその牙を立てる。

 

「……ひっ!?」

 

一瞬何をされたのかわからなかったらしいが、首から伝わる痛みに短い悲鳴を上げる。

 

「んくっ…こくっ…」

 

そんな領明の反応を意に介さず、忍は領明の血を飲んでいた。

 

「ちゅるっ…ちゅぴっ…」

 

領明に付けてしまった牙による傷痕から溢れる血を舐め取り、その傷痕をまるで慈しむかのように舐めて傷痕を塞いでいく。

 

「……ふ、ぁ……な、に…これ…?///」

 

忍に血を飲まれ、舐められているというのに…何故か、領明の体を変な感覚が駆け巡る。

 

「(……ダメ…これ、なんだかダメになる…)」

 

領明の意識が微妙に薄れつつあると…

 

「………………はっ!?」

 

眼の色が元に戻り、正気に戻った忍が慌てて領明の首筋から顔を離す。

 

「(俺は、何を…?)」

 

状況を未だ呑み込めずにいると…

 

「……し、忍、さん…」

 

弱々しくだが、領明の方から忍に話しかけていた。

 

「え、領明……俺は……………っ!?」

 

そして、先程まで自分が何をしていたのかを思い出し…

 

「領明、すまない! 俺はお前の血を…」

 

すぐに領明の意識を繋ぎ止めようと声を掛け、抱き寄せていた。

 

「……平気、です。でも…ちょっと体がほわほわしてますけど…」

 

「っ! 大丈夫だ。お前は絶対に離さない…意識をしっかりと保つんだ!」

 

「……は、い…」

 

それから領明の意識はなんとか繋ぎ止められていた。

 

「(暗七から聞いたが…吸血鬼に血を吸われた者の抵抗力が低いと…アンデッド化する。領明は、大丈夫なのか…?)」

 

こういうことに詳しい暗七がいればよかったかもしれないが、過去の世界にいるはずもなく吸血鬼のこともまだ完全に把握してない忍にとっては不注意な行動を取ってしまったと悔やんでいた。

 

「(これが吸血衝動……血を欲する、か…)」

 

ぎゅっ…

 

今の自分に恐怖してか、無意識に領明を抱き締める力が強くなる

 

しかし、そんな忍の状況などお構いなしに事態は動き出す。

 

………

……

 

「前線での絶魔の動きがやはりおかしい?」

 

朝の評定で皇鬼は氷鬼の報告を受けていた。

 

「はい。風鬼さんの報告でもありましたが…まるで何かを待ってるような動きというか…そんな感じが致しました」

 

水鬼と共に前線へと赴いた際に感じた違和感を報告していた。

 

「ふむ…水鬼よ、お主の見解はどうじゃ?」

 

皇鬼は一緒にいた水鬼の言葉も聞く。

 

「あたしも姉さんと同意見ですかね。ただ、あんだけ動きが遅いと逆に攻めていきたいところなんですけど…」

 

「それはなりません。前衛向きの炎鬼さんや雷鬼さん達ならともかく、私達がむやみに突っ込めばどうなるか…」

 

「わ、わかってるから…そう何度も言わないでよ…」

 

このやり取りで前線でも何度か水鬼が氷鬼に諫められたのがわかる。

 

「何かを待っておる、か…」

 

その言葉を聞き…

 

「忍。お主がどう見る?」

 

「……部外者が口を出してもいいのか?」

 

謁見の間の出入り口付近の壁に寄り掛かっていた少し顔色の悪い忍に皇鬼が尋ねるが、忍の方は"流石にこれ以上は国是に関わるのでは?"と思い、口出しを控えていた。

 

「構わん。奴らとの戦闘経験があるなら尚更じゃ」

 

「…………じゃあ、一つだけ」

 

一拍空けてから忍は…

 

「絶魔の原動力は…相手の絶望だ。だから、最悪の場合を想定すべきだと俺は思ってる」

 

それだけを口にしていた。

 

「最悪の場合、か…」

 

「あぁ…相手を絶望に陥れるためなら、どんな手段も厭わない。それが、俺の知る絶魔像だ」

 

それを言う忍の脳裏にはフィライトで皇帝ゼノライヤとその側近ギルフォードを無残にも殺害したノヴァ達の姿が思い起こされていた。

 

「(おそらく、絶魔の狙いは…武天十鬼)」

 

民の生活を守る鬼神界の要とも言える存在の抹殺。

それが絶魔の狙いだと忍は考えていた。

一人が欠けたとしても武天十鬼や皇鬼自体は揺るがないかもしれない。

しかし、民はそういうわけにもいかない。

民の不安は兵にも伝播し、その兵の不安はいずれ士気に重大な亀裂を与えるかもしれない。

それと武天十鬼を慕う兵達の怒りを買うだろうが、それも一時のことだろう。

心に付け込まれる可能性がある限り、絶魔はそこを突いてくるかも…。

 

そんな考えを忍が巡らしていると…

 

「ご、ご報告します!!」

 

そこに何やら慌てた様子の兵士が駆け込んできた。

 

「控えよ。現在は評定の最中であるぞ!」

 

その兵士を睨む鉄鬼だが…

 

「し、しかし、火急の事態でして…」

 

兵士も困ったように立ちすくんでしまう。

 

「よい。その場で報告せよ」

 

そこに皇鬼がその場でその報告を聞こうと声を出す。

 

「はっ!」

 

皇鬼の言葉を受け、兵士が報告をする。

 

「現在、この皇城に向かい、侵攻してくる集団があるとの報告が物見兵からありました!」

 

「なに…?」

 

ざわざわ…

 

兵士の報告に臣下達も騒ぎ始める。

 

「静まれぃ!」

 

皇鬼が一喝して臣下達を静めると…

 

「その集団の規模は?」

 

兵士に更なる情報を求めていた。

 

「はっ。それが物見からの報告ですと、紅蓮の装束を纏った男、白い着物を着た女、それと漆黒の巨大な虎といった混成で…」

 

「ッ!」

 

その報告を聞いて忍が反応を示す。

 

「たった2人と1匹でか?」

 

「はっ。それがどうもここに続く関所を次々と突破しているようでして…被害もそれなりに出ております。また、その2人と1匹の進路は真っ直ぐにこの皇城のようで、他の砦や関所には目もくれていない様子」

 

それを聞き…

 

「なら、出迎えねばならんのぉ。月鬼よ」

 

「はっ」

 

「儂は忍を連れてその者達を迎撃に向かうがよいかの?」

 

皇鬼はそんなことを言っていた。

 

「良いわけありません。が、言っても聞かないのでしょう?」

 

月鬼も皇鬼とは長い付き合い故にそういうとこが分かってしまっていた。

 

「うむ。残りの力が向こうから来たのじゃ。なら、一時の師とは言え、それを見届けるのが儂の務めじゃよ」

 

「はぁ…」

 

皇鬼の言葉に溜息がこぼれる月鬼。

 

「では、忍。見届けさせてもらうぞ」

 

「あぁ…わかってる」

 

既に頭を切り替えていた忍も皇鬼と共に皇城から出て、城下町の外に布陣するための準備をするのだった。

 

………

……

 

・城下町の外

 

「まさか、力の方から攻めてくるとはのぉ」

 

何やら楽しそうに忍に話しかける皇鬼。

 

「力にもそれぞれの意思がある。さらに七煌龍や牙の意思の影響もあるんだろう。それらが渾然一体となったのがそれぞれの現界した姿だと俺は推測している」

 

そんなことを言っていると、徐々にだが力が来るのを感知出来るようになってきた。

 

「俺は示さねばならない。あいつらに俺の今の力を…」

 

「気負うな、というのは酷じゃろうな。だが、今のお主に全力が出せるかの?」

 

真祖を取り込んでからの忍の状態は皇鬼も把握しているのだろう、それを案じての言葉だった。

 

「どんな状態でも…戦いってのは起きるんだ。だったら、その状態でもやらなきゃならんのが男でしょ?」

 

「かもしれんの」

 

昔を思い出してか、皇鬼も忍の言葉に頷いていた。

 

「それに…俺の戦友達はそんな泣き言も許しちゃくれないような相手とだって戦ってきたんだ。俺だって、やってやるさ」

 

「遥か未来の戦士達か。その者達とも会ってみたかったの」

 

「……縁起でもないことは言うもんじゃねぇよ…」

 

忍の仲間に会えぬことを少し残念そうにしているようだった。

 

「果たして、そうかの?」

 

「………………」

 

その言葉に忍も口を閉ざす。

 

「そうか…やはり、そういうことか…」

 

その沈黙で何かを悟ったらしい。

 

「なぁ、忍よ」

 

「なんだよ?」

 

「お主に桃鬼を託したいのじゃが…ダメかの?」

 

不意に皇鬼はそんなことを忍に持ち掛けていた。

 

「またか…」

 

その言葉にシルファーのことを思い出してか、そう漏らしてしまう。

 

「また?」

 

その呟きに首を傾げる。

 

「アンタの前にも自分の娘をやると言い出した別世界の女王陛下様がいたんだよ。それを最終的に承諾してしまった俺も俺だが…」

 

フィライトでの最終決戦前のシルファーやエルメスとのやり取りを思い出していた。

 

「その女王陛下というのもなかなかに目の付け所が良いな。それでお主…何人おる?」

 

「あ?」

 

皇鬼の質問の意味が分からぬとばかりに疑問符を浮かべる忍。

 

「お主ほどの者なら愛妾の一人や二人いるじゃろ?」

 

「あ、愛しょ…!?」

 

そういう言い方をされたのは初めてだったので、忍は驚いて息を呑む。

 

「どうなんじゃ?」

 

「そ、それは…」

 

皇鬼に詰め寄られ、忍は頭の中で改めて勘定し始める。

 

「(えっと…眷属、というか今現在の守りたい人のリストは…正妻、じゃなくて筆頭が智鶴になって、そこからカーネリア、暗七、フェイト、クリス、シア、吹雪、萌莉、朝陽、エルメス、ラト、シルフィー、ラピス、ティラミス、夜琉、オルタの眷属枠に加え、あとは残りの絵札の眷属候補として緋鞠、雲雀さん、領明…シンシアはまだわからんが…さらにそこに雪絵も加味するとなったら……)」

 

そこまで考えるとただでさえ悪かった顔色がますます悪くなっていく。

 

「に、21人…?」

 

「何故、疑問になる? というか、多いのぉ」

 

それを聞いて流石の皇鬼も呆れ果てていた。

 

「あ、いや、その…この人数なのは本心から守りたいと、そう思えて側にいて欲しいと考えてる数であって、決して無節操な訳じゃなくてだな……あと、まだその内の5人はまだ確定って訳じゃなくて候補というか、なんというか…」

 

そんな皇鬼の反応を受け、忍もしどろもどろになってしまう。

 

「それでも確定で16人か。どちらにせよ、多いわい」

 

「…仰る通りです…」

 

ズーン、という音が聞こえそうな感じで、がっくりと項垂れる忍だった。

 

「しかし、それだけの女子(おなご)を虜にする何かをお主は持っているのじゃろう。そうでなければ、二桁に達する時点で愛想を尽かされておるじゃろうて…」

 

「ソウ、デスネ…」

 

何故か片言で忍も相槌を打ってしまう。

 

「そう落ち込むでない。人を惹き付ける才能というのは意外と稀有なものじゃ。それ故にその才能を持つ者は多かれ少なかれ上に立つ立場に身を置くもの。儂もそうじゃったし、きっとお主もそうなるじゃろう。その時、王道を歩くか、覇道を歩むかはそれぞれの考え方や立場にもよる。儂の場合は、覇道であり王道でもあった」

 

「覇道であり王道でもある…?」

 

その言葉に忍は首を傾げる。

 

「うむ。戦乱時、儂は覇王の如く進軍を果たし、鬼神界を統一した後は王道のように政を進めてきた。その絶妙な塩梅が今の儂を形成しているのかもしれん。しかし、本来ならば両立することが難しい二つの道じゃ…それを出来る者などそうそういないし、儂が出来たのも天の巡り合わせに過ぎんじゃろう」

 

「………………」

 

忍は皇鬼の話を黙って聞く。

 

「忍よ。お主の道は…どちらかの?」

 

「俺の道、か…」

 

王道か、覇道か…どちらかを選ばなくてはならない時、忍は…。

 

「俺は…」

 

忍がその答えを言おうとした時…

 

「来たぞい」

 

前方から三つの力強い波動が迫ってきた。

 

「ッ!」

 

忍もすぐにそちらに意識を向ける。

 

そこには…

 

「………………」

 

「我が君…」

 

『ガオオォォォッ!!』

 

兵士の報告にあった通りの、紅蓮の焔を刀身に宿した刀を持つ紅蓮の装束を纏った朱堕似の男、冷気を纏う大きな弓を持つ白い着物を纏った雪女、前足の付け根の辺りに漆黒の曲刀を備えた漆黒の虎が忍の前にその姿を現していた。

 

「紅蓮冥王、蒼雪冥王、牙狼の闇…」

 

忍はその2人と1匹を見てそれぞれ力の化身だと確信を得る。

 

「顔色が悪いな、我が宿主よ」

 

「我が君。もしかして…その身に宿る吸血鬼を…?」

 

『ガルルルル…!!』

 

忍の様子を見て三者三様の反応だが、その眼には共通して忍への戦いを望んでるような色を示していた。

 

「貴殿の覚悟が健在か。そして、この力を扱うに相応しいか…改めて試させてもらうぞ?」

 

「我が君。あなたの力は重々承知しております。しかし、これから先の戦いを考えると不安になります。なので、今一度我が君の力を私達に見せてください…!」

 

『ガオオォォォッ!!』

 

2人と1匹はすぐさま臨戦態勢に移ると…

 

「あぁ、わかってる。今の俺がこれから通用するのかどうか。そして、お前達を再び取り戻すために相手をしてやるよ…!」

 

忍もまた真・瞬煌を展開して臨戦態勢となる。

 

「新たな技か。上等!」

 

先陣を切る紅蓮冥王は刀を振るって紅蓮の焔の斬撃を繰り出していた。

 

「獣牙天衝・裂!」

 

忍は両手に爪を展開すると、それをクロスさせて斬撃をやり過ごそうとする。

 

が…

 

ブォンッ!

 

忍と斬撃の間に黒い空間が現れると、斬撃を吸い込んでいき…

 

ブォンッ!

ズシャッ!!

 

次の瞬間には忍の背後に黒い空間が広がり、そこから吸い込んだ紅蓮の焔の斬撃が忍に襲い掛かる。

 

「ぐっ!?」

 

それをまともに受けてしまうも、真・瞬煌のおかげで多少の傷を負うに留まるが…

 

ギィンッ!!

 

今度は正面で獣牙天衝・裂と刀が衝突し合う。

 

「どうした、我が宿主。貴殿の力はこの程度か?」

 

「そんな訳、あるか…!」

 

忍が両腕を開くような形で紅蓮冥王を押し返すと…

 

ヒュッ!

 

「ちぃっ!?」

 

正確無比な精度で氷の矢が飛んできて忍の急所を射抜こうとするが、忍は真・瞬煌を両足へと炸裂させることで空中に跳んで回避する。

 

ジャキンッ!!

 

しかし、そこに鎖で繋がれた漆黒の曲刀が飛んできて忍を拘束してしまう。

 

「くっ!」

 

ドンッ!!

バキンッ!!

 

真・瞬煌を四肢に炸裂させ、その同時解放で鎖を破壊して脱出する。

 

「流石に三対一では分が悪いと見える」

 

距離を取って着地する忍を見て紅蓮冥王がそう漏らす。

 

「………………」

 

忍も体の不調と相俟ってか、苦しい表情をしていた。

 

「だが、容赦はせん。我が欲するはいつでも冴えのある技と如何なる戦場からも生き延びる術」

 

「我が君に求めるは確固たる決意と何に対しても挫けぬ精神力」

 

『ガオオォォォッ!!(強靭な肉体と鋼の魂)』

 

それぞれ求めるものは違えど、それらは心技体に通ずるものがあった。

 

「それを言われちゃ、応えないわけにもいかないか…」

 

体の不調がどうのなんて言い訳をしないため、忍はパンッと自らの両頬を叩いて気合を入れ直した。

 

「見せてやるよ。俺の新たな戦技…『覇神拳(はじんけん)』と『紅神流煌剣術(べにがみりゅうこうけんじゅつ)』を…」

 

そう言うと忍はファルゼンを取り出して起動させる。

但し、ネクサスは魔力粒子節約のために起動はさせてないが…。

 

「面白い…!」

 

それを受け、紅蓮冥王が飛び出す。

 

「『先駆(さきがけ)』!」

 

それに対応してか、忍もすぐさま霞の構えの取ると一気に飛び出す。

 

「そのような構えで何が出来る!」

 

紅蓮冥王が叫ぶと共に刀が一気に振り抜かれる。

 

「『地走(ちばし)り』!」

 

が、忍はその先を読んだかのように剣先から五気を放出して直前で紅蓮冥王の斬撃を避けると、放出した五気で加速させたファルゼンを半回転させるようにして振るい、切っ先が地面を走るような形で滑り、紅蓮冥王に斬り上げ斬撃を繰り出す。

 

「ちっ!」

 

紅蓮冥王もすぐさま後退して忍の斬撃を避ける。

 

「これは…叢雲流の技か!」

 

伊達に忍の中にいた訳ではなく、忍の使う技はある程度把握しているようだった。

 

「これは…叢雲流に加え、牙狼の紅流をミックスさせてこの一月で研磨してきたものだ」

 

『ガルルルル…』

 

牙狼の名を出すと虎が反応する。

 

「あいつの殺戮に特化した剣技を取り込むのはある意味で抵抗があった。が、俺が何かを守るための剣技に昇華させてみせると誓った。牙狼のためにも…」

 

ファルゼンを眼前の地面に突き刺すと…

 

「それはこの覇神拳も同じだ。烈神拳と邪神拳を掛け合わせることで新たな可能性を生み出すことを選んだんだ」

 

右腕に霊力を高めていく。

 

「『霊覇緋天朱雀(れいはひてんすざく)』ッ!!!」

 

真・瞬煌を炸裂させながら右腕を振り抜くと…

 

キュオオォォォッ!!

 

霊力が燃え猛り、その姿を火の鳥のような形として紅蓮冥王達に向かって飛翔していた。

 

「これは…!」

 

その攻撃に紅蓮冥王は口元を愉悦に歪めていた。

 

「紅蓮!」

 

「邪魔をするなよ、蒼雪! これは我が領分だ!!」

 

そう言うや否や…

 

「冥王スキル『イグニッション・アグニ』!」

 

紅蓮冥王が冥王スキルを発動させて忍の攻撃を吸収しようとする。

 

「やはり使えたか…!」

 

だが、それは忍も予想として織り込み済みである。

 

「ファルゼン、モード・斬艦刀!」

 

地面に突き刺していたファルゼンの柄にヴェルメモリーを装填し、一気に引き抜くと共に斬艦刀へと変形させる。

 

「っ! 我が君、やらせません!」

 

『ガオオォォォッ!!』

 

忍の邪魔をせんと蒼雪冥王と虎がそれぞれ弓矢と曲刀を用いて攻撃を仕掛ける。

 

「『妖覇玄武掌打(ようはげんぶしょうだ)絶甲(ぜっこう)』!」

 

今度は妖力が高まったかと思えば、まるで亀の甲羅のようなシールドが発生すると蒼雪冥王と虎の攻撃を防いでいた。

 

「なっ!?」

 

『グルッ!?』

 

たった一手で防がれたことに蒼雪冥王と虎は驚いていた。

 

「まずはお前だ。紅蓮冥王!」

 

再び霞の構えを取ると…

 

ドンッ!!

 

真・瞬煌を連続炸裂させ、まるで地面を滑るかのように滑走して紅蓮冥王へと向かう。

 

「ちっ…(まだ吸収が不十分だというのに…)!」

 

思いの外、霊覇緋天朱雀の熱エネルギーが多かったらしく、それを全て吸収するには至らなかったようだ。

 

「『牙皇閃烈斬(がおうせんれつざん)』!」

 

「(致し方なし!)『紅蓮鳳翼斬(ぐれんほうよくざん)』!」

 

霊覇緋天朱雀の軌道を逸らすと同時に忍の斬撃に合わせて紅蓮冥王も特大な焔の斬撃を繰り出す。

 

ギィンッ!!

 

斬艦刀と焔を纏った刀がぶつかり合うも…

 

グググ…

 

大きさの関係上、忍の方が僅かに押していた。

 

「ここに来て、力技とは…!!」

 

それを受け、紅蓮冥王はそのようなことを言うが…

 

「負けるわけにはいかないからな。だから、俺は…」

 

すると…

 

「紅蓮!?」

 

蒼雪冥王の叫びと共に…

 

キュオオォォォ!!!

 

ゴォォ!!

 

霊覇緋天朱雀が紅蓮冥王の背後より飛来し、その身を焦がす。

 

「ぐぉっ!? こ、これは先程の…!?」

 

「叢雲流の応用だ。これで技もある程度なら自由に動かせる」

 

そう話す忍は一度斬艦刀を引き、紅蓮冥王の腹を蹴って少しだけ距離を稼ぐ。

 

「我が、宿主…!!」

 

「終わりだ」

 

斬ッ!!

 

その一瞬の隙を突き、紅蓮冥王に十字閃を決める。

 

「見事だ…我が宿主……否、紅神 忍よ…」

 

焔に包まれ、斬撃をもらった紅蓮冥王は心なしか満足そうに笑っていた。

 

「我が元に還れ、紅蓮冥王よ」

 

「御意…」

 

ボアアッ!!

 

一際強い焔の煌めきを見せた後、紅蓮冥王は紅蓮の焔と共にビー玉と化し、紅蓮の水晶の欠片と牙を残して忍の元へと戻った。

 

「我が君…」

 

『ガルルルル…』

 

残った蒼雪冥王と虎は忍を見ながらそれぞれ二手に分かれるようにして包囲する。

 

「次は…お前だ。牙狼の闇…」

 

斬艦刀をその場に突き刺すと、狙いを虎へと定める。

 

『グル…!!』

 

虎もそれを察して身構えていると…

 

ブンッ!!

 

『ガルッ!?』

 

一瞬で距離を詰め…

 

「『気覇白虎乱撃(きはびゃっこらんげき)』ッ!!!」

 

両拳に高めた気を纏い、虎の体に無数の拳打を打ち込む。

真・瞬煌の炸裂作用も相俟って相当な破壊力を誇る。

 

『グルァ!?!?』

 

その攻撃を受け、虎が吐血する。

 

「お前の闇は…俺の闇でもある。だから、戻ってこい…!」

 

吐血して倒れそうになる虎を支え、忍はそう語りかける。

 

『グル、ルル、ル……』

 

その言葉が届いたのか、虎は最後には忍にその身を預けていた。

 

「いい子だ…」

 

虎の頭を軽く撫でると、虎は闇の粒子と化してビー玉となり、漆黒の水晶の欠片と牙を残した。

 

「………………」

 

それを見ていた蒼雪冥王は…

 

スッ…

 

弓を下げ…

 

「我が君…」

 

忍の前に跪いていた。

 

「蒼雪冥王…いや、雪女と呼ぶべきか?」

 

「どちらでも…我が君のお好きなようにお呼びください」

 

「なら雪女と呼ばせてもらう」

 

「はい…」

 

そんな短い問答の後…

 

「我が元に還ってこい」

 

「はい…」

 

ビュオォォッ!!

 

雪女を中心に軽い吹雪が巻き起こると、そこに残ったのは瑠璃色のビー玉と水晶の欠片、牙の三つだった。

 

「これで…全ての力が揃ったな…(まぁ、七煌龍と牙は一つずつ欠けてるが…)」

 

そんな呟きをしながらビー玉、結晶の欠片、牙をそれぞれ回収していると…

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!

 

「ッ!?!」

 

忍の背後よりとてつもない重圧が襲ってくる。

 

その重圧を放っているのは、当然…

 

「いや、まだじゃよ」

 

そう言い放つ皇鬼であった。

 

「皇鬼、さん…?」

 

忍が恐る恐る背後を見ると…

 

「構えよ、忍…」

 

いつの間にか、その手に刀を持つ皇鬼の姿があり、その眼は…本気だった。

 

「何の、つもりだ…?」

 

「言った通りじゃよ。お主の力を巡る戦いは…まだ終わっておらぬ」

 

「何を言って…ッ!?」

 

皇鬼が振るった刀から放たれる"ただの斬撃"が衝撃波となって忍に襲い掛かり、それを忍は慌てて回避していた。

 

「六つの力が揃った以上、お主の真の力を見られるというもの。それを見極めさせてもらうぞい?」

 

「(あの人の眼は、本気だ。ずっと、この時を待っていたのか…?)」

 

当惑する忍を他所に…

 

「(もしも…儂の予想が事実だとして、忍に何か遺せるとしたら…"これら"しかあるまい。そして、忍には"儂等の力"を遺すだけの価値がある。それだけの器を秘めておる。ならば、それを少しでも育て上げるのが、儂の最後の望み…)」

 

皇鬼はそのような考えをしていた。

 

「忍よ。本気で来い。でなければ、死を覚悟してもらうぞ…!」

 

「ッ!!」

 

その言葉に忍もまた覚悟を決め、回収したビー玉を持つ手に力が篭る。

 

 

果たして、皇鬼の考える"これら"とは?

皇鬼は忍に何を遺すつもりなのか…?

 

全てはこの戦いの決着が着いた時にわかるのだろうか…。



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第百六話『忍vs皇鬼~覚悟と決意の再確認~』

真狼、龍騎士、真祖、紅蓮冥王、牙狼の闇、雪女。

離散していた全ての力が忍の元へと還ってきた。

 

だが、それも束の間。

 

今度は皇鬼が忍の前に立ちはだかったのだ。

その理由を多くは語らぬ皇鬼。

訳分からずも、その圧倒的な重圧を前に忍も覚悟を決めて皇鬼に挑もうとしていた。

 

………

……

 

・城下町の外

 

「これぞ、我が牙。そして…」

 

皇鬼は刀を見せつつ、懐から純白の結晶の欠片を取り出す。

 

「それは…!?」

 

その結晶の欠片を見て忍は驚く。

 

「そう。お主の言っておった七煌龍。その内の一つじゃな」

 

「なんで、アンタがそれを…!?」

 

「蔵で七煌龍について調べておったら、声が聞こえたような気がしての。その方角を調べてみたら、これがあった」

 

「(灯台下暗し…まさか、そんな身近にあったとは…)」

 

「しかし、肝心の七煌龍についての情報は皆無。ただで渡してもよかったのじゃが…いい機会じゃ。お主の全力を見極めてから渡そうと思う」

 

「(どっちにしろ、本気ってことかよ…)」

 

今の問答の間、皇鬼は一切の隙を見せず、忍に相対していた。

 

「ま、生きておればの話じゃがの…」

 

再び結晶の欠片を懐に仕舞うと、刀を構え…

 

「目覚めよ、我が牙よ」

 

カッ!!

 

短く声を紡ぐと同時に刀が光り輝く。

 

「くっ!?」

 

その光量に腕で目を覆ってやり過ごすと…

 

「これを用いるのも久々じゃな」

 

そう言う皇鬼の持つ刀は円盤型の盾の左右に大剣並みの刀身を2本備えた特殊な純白の盾剣へとその形を変化させていた。

 

「では、行くぞ?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!

 

圧倒的なプレッシャーを放ち、皇鬼が一歩一歩ゆっくりと忍へと進撃していく。

 

「ッ!!?」

 

そのプレッシャーに押し潰されそうになるのを必死で堪えながら、忍は…

 

「真…瞬煌…!!」

 

再び真・瞬煌を身に纏い、未だ斬艦刀状態で放置していたファルゼンを引き抜いていた。

 

「そのような得物で儂を止められるかの?」

 

ブォンッ!!

シュッ!!

 

そう言いながら軽く振るった盾剣の風圧が鎌鼬となって忍を襲い、その服を切り裂く。

 

「(おいおい…風圧だけで鎌鼬が発生するとか…)」

 

薄皮一枚くらい忍の肌も切れたのか、血が少しだけ滲んでいる。

 

「(出し惜しみするなってことか…)」

 

そう考えるとすぐさま深紅のビー玉を取り出す。

 

「ほぉ、お主の日常を壊した力を早速使うか」

 

それを見て皇鬼は目を細める。

 

「(真祖の力がどこまで通用するかわからない…しかも妖力は相手の方が格上…あまり条件はよろしくないが、やるしかない)」

 

ピンッ、とビー玉を弾くと深紅の光が忍を包み込む。

 

「真祖、解放ッ!!」

 

髪は銀髪、両目は深紅と化し、背中から蝙蝠の翼を生やした姿となる。

 

「来いッ!!!」

 

「うおおおおおッ!!!」

 

斬艦刀を携え、一気に皇鬼との距離を詰めると…

 

「斬艦刀・地走り!!」

 

先の紅蓮冥王との戦闘で見せた剣技を皇鬼に向けて放つ。

先程と違うのは通常の刀よりも巨大な斬艦刀で行うためにかなり大振りなのと、それに見合った威力であるということだろう。

さらにそこに真祖による怪力を加味すれば並みの相手なら容易に両断出来うる斬撃となる。

 

が、しかし…

 

ガキンッ!!

 

相手は鬼神界最強の皇、皇鬼である。

その巨大な斬撃を盾剣の盾部分を用いて簡単に防いでしまう。

 

「ッ!?」

 

「そのような力任せに大振りな攻撃、避けるまでもないわい」

 

ギンッ!

 

皇鬼は斬艦刀を軽く押し返すと…

 

「むんっ!!」

 

盾剣を持っていない左拳で忍を殴りに行く。

 

「妖覇玄武掌打ッ!!」

 

それに対抗すべく忍も咄嗟に右手を斬艦刀から離し、覇神拳の『四神奥義(しじんおうぎ)』の一つを繰り出す。

 

ゴオォォッ!!!

 

「腰が入っておらん!!」

 

衝突した瞬間、そう叫びながら皇鬼の拳が忍の掌打を真正面から吹き飛ばす。

 

「ぐっ!?」

 

斬艦刀を左手に持ちながら忍の体も吹き飛ぶが…

 

ズザアァァッ!!

 

背中の蝙蝠の翼を用いて姿勢制御を行い、上手い具合に地面を滑るようにして着地する。

 

「(くっそ…今ので少し麻痺した…)」

 

右腕に妖力を流し、無理矢理麻痺を治していると…

 

「余所見などしている場合かの?」

 

ゴォッ!!!

 

「カハッ!?」

 

瞬時に間合いを詰めてきた皇鬼の拳を腹部にもろに受けて再び吹き飛ぶ。

その一撃で意識も飛びそうになるが、必死に繋ぎ止める。

 

ガガガガガガッ!!!

 

「(たった一撃で…ここまで吹き飛ぶもんかよ!?)」

 

斬艦刀を地面に突き刺すことで無理矢理吹き飛ぶ勢いを殺しながら、そんなことを考える。

 

「この程度では、準備運動にもならんわい」

 

そう言い放つ皇鬼はまだまだ余裕がありそうだった。

 

「っ…はぁ…はぁっ…!」

 

忍はよろよろと立ち上がりながら漆黒のビー玉を指で弾く。

 

「行くぞ、闇の力…!」

 

髪が銀髪から漆黒に変わり、瞳の色も深紅から翡翠色へと変わる。

牙狼から得た闇の力とは…?

 

ボアァッ!!!

 

斬艦刀の刀身に黒焔が宿る。

 

「『斬艦刀・黒焔斬(こくえんざん)』!」

 

斬艦刀を横一閃に振るい、黒焔の斬撃を皇鬼に放つ。

 

紅蓮の焔とは違う、忍の新たな焔『黒焔』。

本来なら牙狼の憎しみを糧に燃えていたものだが、力が忍に宿ったことによりその様相も変わっていた。

牙狼が憎しみを糧にしていたのに対し、忍は強さへの渇望を糧にしていた。

これは牙狼が本来持っていただろう心の強さを求めることで忍は黒焔を燃やしていた。

だから、今の黒焔には特殊な力は備わっていない。

しかし、いずれは忍の想いに応えてくれるかもしれない…。

そんな願いも籠っていた。

 

その黒焔の斬撃を…

 

「温いわ!!」

 

ゴゥッ!!!

 

皇鬼は盾剣の一振りで掻き消していた。

 

だが…

 

キュオオォォォッ!!

 

その斬撃を隠れ蓑にして漆黒の朱雀が皇鬼に迫っていた。

 

「『霊覇緋天朱雀・黒曜(こくよう)』…!!」

 

斬撃後、すぐさま霊力を収束して撃っていたらしい。

 

「無駄な小細工を…」

 

それを皇鬼は詰まらなそうにして振り払おうとしたが…

 

「(ここだ!)開け、『黒点(こくてん)』!」

 

すると、皇鬼と朱雀の間に漆黒の穴が発生し…

 

「吸い込め!」

 

漆黒の穴が朱雀を吸い込み…

 

「むっ?」

 

皇鬼の拳が空を切る。

 

「再び開け、黒点」

 

ブォンッ!!

 

皇鬼の周りに複数の漆黒の穴が現れると…

 

キュオオォォォッ!!!

 

その複数の穴から漆黒の朱雀が現れて皇鬼に襲い掛かる。

 

「むぅ…!」

 

流石の皇鬼も一度に多くは捌き切れないのか…いや、単に捌かなかったのか…?

これすらも皇鬼にとっては児戯なのか…?

 

黒焔に包まれた皇鬼は…

 

「熱さが足りんわい! それに小賢しいわ!!」

 

ゴォッ!!!

 

自らの妖力を爆発させることで黒焔を吹き飛ばしていた。

 

「ちっ…!」

 

忍はすぐさま紅蓮のビー玉を弾いて次の解放形態を展開する。

髪と瞳が焔髪灼眼と化し、背中から4対8枚の紅蓮の翼が生えた紅蓮冥王となる。

 

「冥王スキル『イグニッション・アグニ』!」

 

吹き飛ばされた黒焔の熱エネルギーを吸収していく。

 

「『魔覇青龍鱗衝(まはせいりゅうりんしょう)紅蓮弾(ぐれんだん)』ッ!!!」

 

その熱エネルギーを加味させた魔力を主体にした五気の砲撃、さらにそれを一つの砲弾へと収束して放っていた。

 

「さっきよりはマシじゃが…」

 

ズガガガガッ!!!

 

再び盾剣の盾部分で忍の砲弾を受け止めると…

 

「むんっ!!」

 

それを力技で軌道を上へと打ち上げてやり過ごす。

 

「まだまだ練り方が足りん!」

 

今の攻撃も皇鬼にとってはまだ足りないらしい。

 

「まだだ!」

 

右手を空に向け、紅蓮弾を理力の型で操作する。

 

「爆ぜろ!」

 

ドンッ!!

 

紅蓮の砲弾が複数の小型砲弾へと姿を変えると、皇鬼を包囲するように散らばる。

 

「紅蓮包囲弾ッ!!」

 

後はこの包囲網を一斉に皇鬼に向けて放つだけ、だが…

 

「この程度で包囲とは、笑止ッ!!」

 

皇鬼は盾剣を頭上に掲げ…

 

ビュオォォッ!!

チュドドドドドッ!!!

 

回転させることで旋風を巻き起こして包囲していた紅蓮の小型砲弾を破壊していた。

 

「くそっ…!」

 

たった一手で攻撃を防がれてしまい、忍は思わず舌打ちする。

 

「さっきお主がやったことじゃよ」

 

雪女と虎の攻撃を同時に防いだことを言っているのだろう。

 

「ッ!!」

 

爆発の煙に紛れる形で気配を消すと、一気に皇鬼に肉薄し…

 

「『猛牙墜衝撃・無拍子(むびょうし)』ッ!!」

 

近距離からのほぼノーモーションで打ち込む猛牙墜衝撃を皇鬼に放つ。

 

ズゴンッ!!!

 

忍の拳には確かな手応えがあった。

 

「ぐっ…!?」

 

しかし、忍は苦悶の表情を浮かべている。

何故なら…

 

「良い奇襲ではあったが、儂には届かんよ」

 

皇鬼は己の妖力を濃密なオーラのように纏い、その身を守っていたから忍の攻撃をまるで蚊に刺された程度で済ませていた。

 

「(まるで闘気じゃねぇかよ…)」

 

質は違えど、それはまるで闘気と同じだった。

 

「ほれ、休んでる暇なぞない、ぞ!」

 

ドゴンッ!!

 

「がっ!?」

 

皇鬼の蹴りが忍の腹に入り、忍の体を再び吹き飛ばす。

 

「この程度でよく飛ぶわい」

 

吹き飛ばした本人はそんなことを呟いているが…

 

「アンタの力が強過ぎんだよ…!」

 

何とか空中で姿勢を取ったやられた本人としてはそう言うしかなかった。

 

「(長期戦はこちらの不利なのは理解してるが、決定打がない…!)」

 

そう思いながらも次のビー玉…雪女の力を取り出していた。

 

すると…

 

「何故…力を一つずつしか使わない?」

 

不意に皇鬼からそのような指摘が飛び出す。

 

「なに…?」

 

いきなりの指摘に忍も手を止めてしまう。

 

「五つの力を一つにする術を得ておるお主が、何故力を小出しにしているのか、と問うている」

 

「そ、それは…」

 

確かに力を複数発動すればこれまで以上の戦法を獲得出来るだろう。

さらに発動させる力の組み合わせはそれこそ多岐に渡る。

それぞれの長所を伸ばしつつ短所を補っていくことも可能となるだろう。

 

しかし、忍は以前にも似たようなことをしているが、その時は体内にある力の境界線を破壊して新たな器を必要とする事態に陥った。

さらに翠蓮と領明を救うために解放したこともあるが、その時はほぼ無意識に近くもう一度やるとなると難しいと考えていた。

それに後者の場合、時空転移後に力が散らばってしまった。

 

だからこそ、今の忍は力は一つずつしか使えないと勝手に思い込んでいる。

再び力を同時に使ったら今度はどうなるかわからない、という恐怖にも似た感情によって…。

 

「(お主がその壁を乗り越えない限り、儂には勝てんぞ?)」

 

そう思いつつも一切の手加減をしないつもりでいる皇鬼は忍に向かって歩き出す。

 

「くっ…(どうする…?)」

 

皇鬼に言われるまでもなく、忍は複数の力を同時に解放することも考えていた。

しかし、前述の通り、それをやる度に何かしらの…よくない出来事が起きてきた。

だから、忍は能力の同時解放には消極的になり、今もやる踏ん切りをつけられないでいた。

 

「注意散漫じゃな」

 

「しまっ…!?」

 

あれこれ考えてる内に間合いに入られ…

 

ドゴンッ!!

 

「ガハッ!?」

 

皇鬼の拳を顔面に受け、その勢いまま地面に叩き付けられる。

 

「むんっ!!」

 

拳を即座に解放し、忍の顔面を掴みながら地面を滑らせダメージを蓄積させていくと…

 

ブンッ!!

 

空中へと勢いよく放り投げる。

 

「これで終い、かの?」

 

忍の落下に合わせ、盾剣を構えて一気に振り下ろそうとする。

 

「ぐぅっ!!?」

 

忍は何とか斬艦刀を構えて直撃を避けるも、ただの一振りでも必殺に近い一撃を受けてはただでは済まず、もう何度目かとなる吹き飛びを経験していた。

しかも今回は頭から地面に落ちてしまい、意識が朦朧としていた。

 

「(この、ままじゃ…)」

 

薄れゆく意識の中、忍は考える。

 

「(だが、あの人に勝つには…それしかない。わかってる…わかってるつもりだが…)」

 

また、何かよくないことでも起きたら…と考えるだけで忍は一歩前に踏み出せないでいた。

 

「(こんな…自分のことしか考えれない状態で、誰かを守るなんて…)」

 

そこでふと気付く。

 

「(守、る…?)」

 

そこで過去二回の同時発動の際の出来事を思い出す。

 

「(そうだ……牙狼の時も夜琉と牙狼を助けたくて……伯母さんや領明を助け出そうとした時も、2人を救いたくて……俺はその力を解放してきた……その時、こんな損得勘定みたいな考えなんてしなかった…)」

 

そこで忍は狼夜達に言ってきた自分の言葉を思い出す。

 

「(全てを守ろうなんて思わない。俺の手の届く範囲で、俺の大切な人達を守り、目の前の命を救ってみせる、と…!!)」

 

グッ…!

 

それを思い出すと共に忍は右手に力を入れてよろよろと立ち上がる。

 

「むっ…?」

 

その様子に皇鬼も歩を止めていた。

 

「(後のことなんて考えるな……それに、未来は自分の手で切り開くもんだしな…!)」

 

立ち上がり、見開いた忍の眼には確かな覚悟が宿っていた。

 

「行くぞ! ダブル冥王!!」

 

瑠璃色のビー玉を弾くと共に更なる変化が起きる。

紅蓮の4対8枚だった翼が、左半分が瑠璃色へと変色していき、焔髪灼眼も前髪辺りに白銀のメッシュが入り、左の瞳が瑠璃色へと変色していた。

紅蓮冥王と蒼雪冥王の同時解放である。

 

「ほぉ…やっと壁を乗り越えおったか…」

 

それを見て皇鬼も感心したように呟く。

 

「じゃが、たかが二つの力で何が出来る?」

 

紅蓮冥王の能力は先程見せている。

しかも皇鬼は紅蓮冥王達との戦闘も見ているから、おそらくは予想も出来ているだろう。

 

「たかが二つと侮るなかれ!」

 

斬艦刀を傍らの地面に突き刺すと…

 

「冥王スキル『アイス・エイジ』!」

 

左手を皇鬼に向けると…

 

ピキピキ…!!

 

周囲の地面が凍てつき、空気が一気に冷めて雪結晶を作り出す。

 

「む?(体が妙に寒く感じる…これも能力の一つか?)」

 

冥王スキル『アイス・エイジ』。

それは周囲の温度を下げることで物質を凍結させる能力。

その応用で相手の体温を下げ、相手の動きを制限させることも出来る。

 

「急激な温度の変化は綻びを生む」

 

「ッ!」

 

「同時発動、冥王スキル『イグニッション・アグニ』!」

 

右手を後ろに向け、前方の凍結から逃げてきただろう熱エネルギーを吸収し…

 

「『魔覇青龍鱗衝・爆焔砲(ばくえんほう)』!!」

 

それを今度は前方に向けて一気に解放する。

 

「むぅ…ッ!!」

 

さしもの皇鬼も急激な温度変化には対応出来なかったのか、両腕をクロスして耐えていた。

 

シュゥゥ…ッ!!

 

その皇鬼から少し煙が上がる。

 

「(好機!)」

 

その様子を見て忍は神速で一気に皇鬼の懐へと飛び込む。

 

「『気覇白虎乱撃・咬鎧(こうがい)』ッ!!」

 

そして、怒涛の連撃を見舞って皇鬼の纏うオーラを削り取っていく。

 

「調子に乗るでない!」

 

ブォンッ!!

 

クロスした両腕を広げながらその風圧で忍の威勢を挫こうとする。

 

「ッ!」

 

それを理力の型で予知した忍は即座に後退する。

 

「(始龍。今こそ、アンタの力を借りる…!)」

 

黄金のビー玉を弾くと、忍の体を龍の意匠をした白銀の鎧が覆う。

それでいて髪や瞳、翼の色は変化していない。

 

「龍の力か…」

 

それを見て皇鬼もそれを悟る。

 

「あぁ…だが、ただの龍じゃねぇ…」

 

右手に熱気、左手に冷気をそれぞれ収束させると…

 

「行け、蒼龍、焔龍!!」

 

熱気と冷気が龍の形となって顕現し、皇鬼へと放たれる。

 

「ふんっ、この程度…!」

 

皇鬼が牙で龍を薙ぎ払おうとすると…

 

ブンッ!!

 

それは空振りに終わる。

 

「なんと…!」

 

2匹の龍はまるで意思を持ったかのように、するりと皇鬼の斬撃を避けていた。

そして、2匹の龍は忍と皇鬼の周囲を物凄い勢いで渦巻いていく。

 

「むぅ…これは…!」

 

熱さと寒さ…その温度差の連鎖が皇鬼の肉体を襲う。

 

「さぁ、行くぜ!」

 

そこにさらに深紅のビー玉を弾いて真祖の力も展開する。

髪と瞳、翼の色は変わらず、鎧も変化しなかったが、その両肩後部辺りから蝙蝠の翼が生え、それがマント状に変化し、八重歯が少し肥大化して瞳孔は縦に鋭くなっていた。

 

「うおおおおッ!!!」

 

神速で一気に皇鬼の間合いに入ると、拳打、蹴り、掌打、回し蹴りなどのあらゆる体術を一撃一撃の合間を開けないコンボのようにして叩き込み…

 

「破ぁぁッ!!!」

 

最後に五気の塊を皇鬼に放ち、その体を上空へと吹き飛ばす。

 

「儂を吹き飛ばすとは…!」

 

吹き飛びながらも次に来るだろう一撃に備え、盾剣を構える。

 

「来い! 蒼龍! 焔龍!」

 

渦巻いていた2匹の龍が忍の呼応に応じて忍の元へと集まり、さらに収束して1匹の龍となる。

 

真覇(しんは)轟撃烈破(ごうげきれっぱ)ッ!!」

 

その龍と共に忍が皇鬼へと飛び出して蹴りによる渾身の一撃を叩き込む。

 

「ぐぅっ!」

 

盾剣で受け止めるも、その勢いと力強さに皇鬼もさらに吹き飛んでしまう。

 

「追撃する!」

 

そう言って漆黒のビー玉を弾くと、白銀の鎧に漆黒の刻印のようなものが浮かび上がっていた。

 

「霊覇緋天朱雀・黒曜! プラス『煌翼(こうよく)』!」

 

右腕から紅蓮の朱雀、左腕から漆黒の朱雀をそれぞれ放つと共に忍も空を駆けるように飛び立つ。

 

キュオオォォォッ!!!

 

紅蓮と漆黒…2羽の朱雀が追撃とばかりに皇鬼に迫る。

 

「この程度で!」

 

2羽の朱雀を盾剣で軽く斬り裂く。

 

「ちぃっ…!」

 

2羽の朱雀を即座に斬り捨てられ、舌打ちするも忍は接近を緩めない。

 

「『妖華螺旋撃(ようからせんげき)』!!」

 

そして、皇鬼よりも上の空に位置すると、マントを翻して螺旋状に渦巻くとそのまま一気に落下するようにして突撃する。

 

「ちぃっ!!」

 

それも盾剣で防ぐが、攻撃を逸らした勢いの余り盾剣を手放していた。

 

「むんっ!!」

 

手放してしまった盾剣を無視し、妖力の籠った一撃で忍を殴り飛ばす。

 

「くっ…!!」

 

その一撃を受けて忍も落下するが上手く着地する。

皇鬼もまた上手く着地すると、忍と対峙するように仁王立ちとなる。

 

「さぁ、最後の力を見せてみろ!」

 

「あぁ、そのつもりだ…!」

 

その言葉を受け、最後の…真狼を封じた白銀のビー玉を弾く。

 

カッ!!

 

髪は白銀のメッシュが入った焔髪から黒の混ざった銀髪へ、灼眼と瑠璃の瞳から右が琥珀、左が真紅の瞳へと変化すると、その頭と臀部から髪と同色の狼の耳と尻尾が生える。

 

「これが、今の俺の全力の姿だ」

 

今ある力の全ての要素を兼ね備えた忍の姿を見て…

 

「(なんという神々しさ…まるで古の伝説にあったとされる覇を唱えたという鬼神じゃな…)」

 

皇鬼はそのようなことを考えていた。

 

「真・神速!」

 

ブンッ!!

 

真狼の速度よりも速い動きで一気に皇鬼の間合いへと迫ると…

 

「ッ!!(儂の反応速度を上回るか!!)」

 

皇鬼の反応が若干遅れるほどの速さを見せた忍は…

 

「『牙皇瞬撃破(がおうしゅんげきは)』ッ!!!」

 

その一瞬の隙に全ての力を注ぎ込んだ拳による神速の一撃を放っていた。

 

「ぐっ…がっ…!」

 

忍の一撃を受け、少し後退った後に片膝を着く皇鬼。

 

「ふっ……片膝を着くなんぞ、もういつ以来かの…?」

 

その事実に皇鬼はなんだか嬉しそうな声を漏らしていた。

 

「そんなの、俺が…知るかよ…」

 

あの一撃でも片膝を着かせるだけかと思った忍は肩で息をしながらそう返していた。

 

「ふぉっふぉっふぉ…いいじゃろう。此度のお主の実力を測る戦い…儂の負けを認めてやろう」

 

そう言いながら皇鬼はその場で胡坐を掻いて座り込む。

 

「そりゃ、どうも…」

 

バタンッ!!

 

それを聞いてから忍は背中から地面に大の字になって倒れ込む。

それと同時に解放していた力もビー玉に戻ってその場に散らばる。

 

「あ~…流石に疲れた…」

 

紅蓮冥王達を取り戻す戦いから、皇鬼との戦いで忍の疲労はピークに達していた。

 

「だらしないのぉ」

 

そう言いつつも皇鬼もその場から動かない辺り疲れたのだろう。

 

「時に忍よ」

 

「あぁ? なんだよ?」

 

互いに疲れていても回復するまで話し相手は欲しいらしく、何気ない会話を始める。

 

「その力の玉の総称は何という?」

 

「総称? あ~、特に決めてないんだが…」

 

そういえば、力の総称なんて決めてなかったな、と思いながら答える。

 

「なんじゃい。だったら、儂が良い名を送ってやろうか?」

 

「どんなだよ…?」

 

皇鬼がどんな名を与えてくれるのか、気になったので聞いてみた。

 

「『解放陣(かいほうじん)』、というのはどうじゃ?」

 

「解放陣、か……悪くないな」

 

「気に入ったようなら、これからはその名を名乗るがよい」

 

「そうさせてもらう」

 

忍の力の総称…『解放陣』。

その名を胸に忍は更なる力の研磨を誓った。

 

「そうじゃ…約束通り、七煌龍の欠片は渡すぞ。儂の牙と共にな」

 

「え? でも、牙はアンタが所有者なんじゃ…」

 

「時代は移り変わる。牙の持ち主もな……それにもう一本渡したい刀もあるしの」

 

「なんか、貰ってばかりだな…」

 

「儂から物を貰えることを光栄に思うのじゃな」

 

「はいはい…」

 

そんな会話をしていると…

 

「それと、桃鬼のことも頼むぞ」

 

「はぁ!? それをまだ言うか!?」

 

「お主にしか頼めんことじゃよ…」

 

それを言われてしまうと忍としても答えに困っていた。

 

「……あいつが簡単に頷くとは思えんがな…」

 

「なに、いずれ来たる時のことじゃよ…あやつもわかってくれるじゃろう」

 

「…………そうだと、いいがな…」

 

それから2人は回復まで他愛ない話を続け、体が動く程度に回復すると皇城へと帰還していった。

 

 

 

皇鬼の言う『いずれ来たる時』とは…?

 

そして、揃う七つの牙と龍の欠片…。

果たして、これで何が起こるのか?

はたまた、何も起きないのか…。



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第百七話『皇鬼の継承者』

皇鬼との戦いから早二日が経とうとしていた。

 

真祖の力によって忍の体に起きていた不調は現在、他の力を全て取り戻した影響なのか、かなり落ち着いてきていた。

おかげで今は忍も普通の食事も出来るようになり、日中においても以前のような活力を取り戻していた。

 

解放陣と七煌龍の魂の結晶の欠片を回収し、7本の牙も結果的に入手してしまったが…。

 

そして…

 

………

……

 

・皇鬼の書斎

 

「これを…お主に授けようと思う」

 

書斎に呼び出された忍は二日前に言われた通り、牙とは別の刀を差し出されていた。

 

「こんな立派な刀…本当に、貰っていいのか?」

 

渡された刀を簡単に調べると、忍はそんな疑問を浮かべていた。

それだけの業物なのかもしれない。

 

「うむ。儂に二言はない」

 

そうキッパリと言われてしまうと逆に返し難くなってしまう。

 

「……銘は?」

 

「『神威(かむい)』という。牙のような力はないが、儂と共に戦乱期を生き抜いた逸品じゃ。もしも、儂に何かあり、この鬼神界の未来に陰りがあるようなら、儂の認めた者に神威を渡したいと決めておったのでな」

 

そんなことを言う皇鬼に対して…

 

「だから、縁起でもないことは言うもんじゃない…」

 

忍もそう返していた。

 

「果たして、そう言い切れるものかの?」

 

「……相変わらず痛いとこを突く」

 

しかし、皇鬼は忍の言葉からある程度の未来を予測しているらしく、忍もそれ以上は何も言えないでいた。

 

「だからこそ、儂は今の内に出来うることは全てやりたいと思っておる。無論、お主のことも含めてな」

 

「それが…俺に神威や牙を渡したり、俺を鍛えることだってのか?」

 

「うむ。そして、願わくば未来へと帰してもやりたいが…こればかりは儂等にはどうにも出来んしの…」

 

「………………」

 

それを聞いて忍も押し黙ってしまう。

 

「なに、そう悲愴になることもあるまい。ただ、儂等のこの魂もお主に託したいのじゃよ」

 

「魂を?」

 

「うむ。儂等は人間に比べれば長寿故な。魂を少しくらい削ろうが、問題はないのじゃよ」

 

「それは、どういう…?」

 

忍が疑問に思っていると…

 

「時に忍よ。解放陣に新たな力は欲しくないかの?」

 

不意に皇鬼はそのようなことを聞いていた。

 

「え…?」

 

「儂等…『鬼』の力じゃよ」

 

皇鬼はニヤリと笑っていた。

 

………

……

 

・皇城地下『儀式の間』

 

「武天十鬼よ。揃っておるな?」

 

忍を伴って地下へと降りた皇鬼は既に招集をかけていた武天十鬼に声を掛けていた。

 

「はっ。武天十鬼、揃っております」

 

皇鬼の登場に月鬼は跪いていた。

 

「相変わらずお主は堅いのぉ」

 

「それが性分故…」

 

「まぁよい。お主達との付き合いもそれなりに長いからの。だからこそ、改めて言わせてもらおうと思ってな。こうして集まってもらった」

 

改まった言い方に他の武天十鬼達も皇鬼の方を見て首を傾げる。

 

「? 皇鬼様?」

 

月鬼もまた疑問を抱いていると…

 

「我が武天十鬼達よ! 次の大戦には儂自らが出る! そして、絶魔との因縁を断ち切ってくれようぞ!!」

 

『ッ!!!』

 

皇鬼自らの出陣宣言。

その宣言を受けて武天十鬼の誰もが息を呑んだ。

そして、それが意味するのは…。

 

「っしゃあ! 頭が出るんなら俺らも全員参加の大喧嘩ってことだよな!?」

 

炎鬼が盛大に叫んでいた。

そう、次の戦いで絶魔との戦争に終止符を打とうというのだ。

 

「皇鬼様! しかし、それは…あまりにも危険です!」

 

「そうだよ! だってもし皇鬼様に何かあったら…!!」

 

氷鬼と水鬼が不穏なことを言う。

 

「口を慎め。聖上に万が一があってたまるものか!」

 

そんな2人に鉄鬼が釘を刺す。

 

「……………不可解…」

 

「だね。なんだって、御大将が今になって前に出るんで?」

 

しかし、地鬼と風鬼が皇鬼に疑念の目を向ける。

 

「………………」

 

その問いに皇鬼は…

 

「儂がこの手で決着を着けたいのじゃよ。そして、それが今という時期なのじゃ」

 

そう答えていた。

 

「「………………」」

 

その答えに地鬼と風鬼はあまり納得していないようだが…

 

「じゃが、まぁ…万が一、ということもあるでの。儂は忍に未来を託したくなったのじゃよ」

 

『ッ!!?』

 

次の一言に武天十鬼の誰もが驚く。

 

「ちょっ!? そいつがお嬢とくっつくって事っすか!?」

 

重鬼が何の躊躇もなく皇鬼に聞く。

 

「儂はそのつもりじゃがの」

 

「「反対です!!」」

 

その皇鬼の言葉に氷鬼と水鬼が揃って反対する。

 

「まぁ、本人にもまだ確認しておらんからの。それは置いておくとして…儂等の力を忍へと託す。これは決定事項じゃ」

 

前半はともかく、後半の言葉は真面目に言っていた。

 

「だから、我等をこの儀式の間に呼んだのですか?」

 

月鬼が皇鬼にそう問うていた。

 

「そうじゃ。我等の魂の一部と妖力を用いてそれぞれの武具を創造する。そして、それを忍へと託す」

 

『………………』

 

それを聞き、武天十鬼も押し黙ってしまう。

 

「反対する者がおるなら、今ここで申せ。それを聞いた上で武天十鬼を解任する」

 

「なっ…!?」

 

その言葉に月鬼が言葉を失う。

 

「これより先の戦い…儂は修羅道に入る。それについてこれる者のみを連れて行くつもりじゃ。その最初の一歩として忍への力の継承を行う。それが嫌なら、今この場から早々に立ち去るがいい!!」

 

圧倒的で威圧的な覇気をその場に放ちながら、皇鬼は覚悟の言葉を紡ぐ。

 

「ッ!!」

 

その覇気を受け、月鬼は怯んでしまう。

 

だが…

 

「俺ぁ、頭に付いていくぜ? それはあの時、負けてからずっと変わらないからな」

 

「だな。オラも大親分に付いていくんだな」

 

炎鬼と雷鬼は皇鬼に付いていくことを表明していた。

 

「お前達!?」

 

そのあっさりとした表明に月鬼も驚いて2人を見る。

 

「旦那は違うのかい?」

 

「おやっさん、オラ達はずっと一緒だろ?」

 

「………………」

 

その簡単過ぎるようで真意を突いた言葉に月鬼は…

 

「……まさか、お前達に諭される日が来ようとはな…」

 

苦笑いを浮かべていた。

 

「あ、それどういう意味だよ!」

 

「んだ!」

 

そんな月鬼の言葉に炎鬼と雷鬼が抗議する。

 

「申し訳ありませんでした。皇鬼様。あの時、唯一の敗北を味わった日から、あなたに仕えようとしたのは我自身です。それを今更放棄するなど出来はしません。例え、その道が修羅道だとしても、どこまでもお供します」

 

それを無視し、過去を思い出しながら改めて皇鬼に跪くと、共に行くことを誓っていた。

 

「やはり、お主は堅いの。じゃが、炎鬼も雷鬼もよぉ言うてくれた。感謝するぞ」

 

初期から仕えてくれた3人の言葉を嬉しく思い、皇鬼は礼を述べていた。

 

「へへっ、頭に礼なんて言われる日が来るなんてな…」

 

「あんま褒められたことないから嬉しいなぁ」

 

そんなことを言っていると…

 

「今更口に出すのが恥ずかしいだけで、お主達には感謝しとったぞ?」

 

皇鬼もそのように言っていた。

 

「無論、他の者達にもじゃが……さて、残りの者はどうする?」

 

月鬼、炎鬼、雷鬼以外の者に改めて尋ねる。

 

「あたしゃ、御大将には色々と恩義があるからね。今更逃げるなんてことはしないさ。それにあの絶魔ってのを放置してたらゆっくりも出来なさそうだし……何より、あいつらの今の生活を守ってやらんとね。修羅道、上等だよ!」

 

風鬼は最近になって家族を持ってきた元子分達のことを考え、そう答えていた。

 

「我が命は既に聖上に捧げている。それに我が使命は聖上の道を最後まで見届けることでもある。それが武天十鬼に入った条件でもあったはずだ」

 

鉄鬼は自らの使命に殉じる覚悟で皇鬼の道を共に行くつもりらしい。

 

「僕は学者であって戦士じゃない。だからこんなのに付き合う義理もないんだけど…資金提供者に死なれても困るんで、仕方なく同行しようと思います。まだまだ研究し足りないんで…」

 

なんだかんだ言いながらも樹鬼もここまで来たのなら最後まで付き合うらしい。

 

「…………それで…子供達の未来を守れるなら…」

 

地鬼は地鬼で鬼神界の子供達のことを案じており、それを守れるのなら命は惜しまないとばかりに言っていた。

 

「まぁ、元々好き勝手にやらせてきたからの。別に理由はどんなもんでもいいんじゃ。さて、残るは…」

 

皇鬼は未だ答えていない氷鬼、水鬼、重鬼の3人に目を向ける。

 

「私は…姫様のため、皇鬼様を必ず連れて帰らねばなりません。それは武天十鬼としてではなく、筆頭侍女としての務めでもあります。故に例え、武天十鬼を解任されたとしても私は裏方として皇鬼様をお守りします」

 

「あたしは…姉さん程の覚悟はない。けど、姫様を守るくらいなら出来るから…武天十鬼を解任されたとしたら、そっちに力を注ぐよ」

 

「男のために俺の魂を削るなんて真っ平っすよ。それに武天十鬼を解任するなら勝手にどうぞ。そんなかったるい道に付き合う気なんてないんで…」

 

それぞれの言い分をしてからその場を立ち去ろうとする3人に…

 

「そうか。残念じゃな…」

 

皇鬼は心底残念そうな声を漏らす。

 

「………………」

 

すると、事の成り行きをずっと見ていた忍が3人の前を阻むように立ちはだかると…

 

「本当にそれでいいのか?」

 

神威を引き抜き、その切っ先を3人に向けて問う。

 

「いいも何も、それが私達の選んだことです。それにあなたのことは認めていませんので」

 

「そうよ! 誰がアンタなんかに姫様を…!」

 

「つか、邪魔なんだけど? もう武天十鬼じゃねぇんだし、勝手にやらせてもらうから」

 

三者三様の言葉を受け、忍は…

 

「俺は…武天十鬼ってのはもっと誇り高い者達の集まりだと思ってた。だからこそ、今まで鬼神界を守ってこれたんだって…そんな想いを抱いてた」

 

そう語りだす。

 

「だが、肝心な時に自らの責務を果たさず、逃げるだなんて…ハッキリ言って失望した。特にアンタら3人の覚悟なんてそんなもんだったんだな…」

 

「「ッ!!」」

 

「うぜぇんだよ! 俺の勝手だろうが!!」

 

忍の言葉を受けて3人は激昂する。

 

「まぁ、百歩譲ってそっちの姉妹はいい。なんだかんだ言ってあのじゃじゃ馬のためだって言ってるからな。問題はテメェだよ、負け犬」

 

氷鬼と水鬼を標的から外し、忍は重鬼に狙いを絞る。

 

「負け…!?」

 

「だって、そうだろ? 結局は自分の意思を持たず、流されるままに生きてきたんだろ? そのくせ、肝心な時にはそうやって適当な言い訳をつけて逃げ出してきたんだろ? だから本気になれない、なろうともしない」

 

「テメェ…言いたい放題言いやがって…!!」

 

イライラしてきたのか、重鬼が妖力を高めていく。

 

「事実を言われて怒るとか、子供か? 俺よりも長く生きてんなら、もっと気合を見せてみろよ。例えば、この場で想いを告げるとか…」

 

ガシッ!!

 

「テメェ、それ以上言ってみろ! 言ったら殺すぞ!!」

 

その言葉を発した瞬間、重鬼は忍の喉を掴み、今にも本当に殺しかねない勢いで締め上げる。

 

「いいや、言うね。今この場に想い人がいて、その人は皇の修羅道に付き従うと言ってるんだ。それを聞いて男として、どう思ったんだ?」

 

ここまで言えば、重鬼が誰を好いているのか明確な答えを言ってるようなものだ。

いや、他の武天十鬼はもう知っていたのかもしれない。

 

『………………』

 

誰一人として何も言わないのだから…。

風鬼に至っては頬を掻いてる始末。

 

「想いも告げず、逃げるってんなら…テメェは男として大切なもんを捨てるってことだ。わかってんだな?」

 

「ッ!!!」

 

ギリッ!というくらい大きな歯軋りをして重鬼はその手に最後の力を入れる。

 

しかし…

 

「なっ!?」

 

いくら力を込めても忍の首は折れない。

 

「悪いが、俺はここで死ねる体じゃないんだよ。俺を待ってる人達のためにもな…」

 

自らの妖力を首に集中させて重鬼の握力に対抗していた。

 

「ちっ…!!」

 

それがわかるとすぐさま手を引っ込める。

 

「で、言うつもりにはなったのか?」

 

「うるせぇんだよ!!」

 

「そんな醜態、見るに堪えん」

 

「黙れって言ってんだよ!!!」

 

「ここまで言ったらもう同じだと思うがな」

 

そう言って周りを見ると、誰もが微妙な面持ちをしていた。

 

「ぐっ…」

 

それを今更ながら気づき、重鬼も逃げるように出ていこうとするが…

 

「結局逃げるのか…」

 

「………………」

 

忍の言葉にその場で立ち止まってプルプルと震えていると…

 

「だあああ!! 言やいいんだろ、言や!!」

 

もう訳も分からんように風鬼の前まで行くと…

 

「風鬼の姐さん! 好きです! 俺と付き合ってください!!」

 

勢いのままやけっぱちになった告白をする。

 

「いや、まぁ…知ってたけど…」

 

言われた本人は困ったように頭を掻いていた。

 

「悪い。お前のことは眼中になかったんだわ」

 

そして、即答に近い答えを告げていた。

 

「………………」

 

それを聞いて真っ白になる重鬼。

 

「まぁ、こんな勢いじゃな…」

 

焚きつけておいてこの扱い…。

忍も大概、人が悪い。

 

「それに素行もね…」

 

「女遊び激しいし…」

 

同じ女性として氷鬼と水鬼の意見ももっともな気がする。

 

「いや、別に女遊びはいいんだけどよ…」

 

「いいのですか!?」

「いいの!?」

 

風鬼の意外な言葉に氷鬼と水鬼は驚く。

 

「なんつうかな? こいつの本気が見てみたいんだよ。それを見れたら、また印象とかも変わるんだろうけどさ」

 

「………………へ?」

 

風鬼の答えの続きに重鬼も変な声を出して復活する。

 

「そ、そそそ、それって…これから本気出しゃ、もしかしてってことも!?」

 

「まぁ、なくはない、かな? あくまで印象が変わるだけかもだが」

 

それを聞き…

 

「っしゃああ!! だったら修羅道でもなんでも入ってやる!!」

 

重鬼は意気揚々としていた。

この変わり身の早さ…。

 

「それで…そっちの2人はどうなんだ?」

 

重鬼のことは見なかったことにして、忍は氷鬼と水鬼に向き直る。

 

「答えは変わりません」

 

「そうよ。あんな単細胞と一緒にされたくないし…」

 

流石に重鬼ほど甘くはないらしい。

 

「それを本当にあのじゃじゃ馬が望んでいるのか?」

 

「それは…」

 

「なんて言うかな…」

 

桃鬼を引き合いに出したものの、少し揺れたくらいだった。

 

「アンタ達ほどの奴が、ここまで来て逃げるなんて姿…あのじゃじゃ馬は見たくないと思うがな」

 

「それはあなたの勝手な想像でしょう?」

 

忍の言葉を氷鬼が一蹴するが…

 

「いや、そうでもない。あいつと拳を交わしたからこそわかることもある」

 

「拳を交わしたからこそわかること?」

 

水鬼が疑問符を浮かべる。

 

「そうだ。あいつの拳からは何も復讐だけじゃない。あの時、お前達を助けたいという確かな想いも含まれていた。それは…お前達のことを慕っているからこそなんじゃないのか?」

 

「「っ!」」

 

「その想いに応える術はそれこそ色々あるだろうさ。けどな、未来のためにその魂を削る奴だってこの場にはいるんだ。その想いを…アンタ達は踏みにじるのか?」

 

「ぐっ…」

 

「そ、それは…」

 

武天十鬼としての付き合いが長いからこそ、それが誰を指すのか2人はなんとなくわかっていた。

 

「別に俺を信用しろとは言わん。だが、桃鬼のために何かを遺すという選択肢もあるんじゃないのか?」

 

「姫様のために…」

 

「遺す…」

 

それは暗にこれから先の戦いで誰かが死ぬことを案じていたが、今この場で追及することは出来なかった。

 

『………………』

 

もう、誰もがその覚悟を持っていたのだから…。

 

「………わかりました」

 

「姉さん!?」

 

氷鬼の心変わりに水鬼が驚く。

 

「勘違いしないことです。私は生きてこの地に…姫様の元に帰ってくるのです。そのために魂の一部を道標として残しておくだけです」

 

「そういうことなら…あたしもそういう風にしようかな…?」

 

氷鬼の言葉に水鬼もそういうことならと腹を括っていた。

 

「これで全員か。皆、すまぬな…儂の我儘に付き合ってもらって」

 

「今に始まったことでもありますまいに…」

 

そんな皇鬼の言葉に月鬼が軽く返していた。

 

「ふっ…違いない。では、始めるぞい!!」

 

『応ッ!!』

 

儀式の間の中央で皇鬼を中心に武天十鬼が輪を作るように配置し、それぞれの妖力を高めていく。

 

『はぁああああああ!!!』

 

己が魂の一部を触媒に自らの妖力を注ぎ込んで独自の武具へと創造する。

 

………

……

 

それからどれほど経ったろうか?

 

皇鬼と武天十鬼の前に様々な武具が顕現し始める。

 

「さぁ、忍よ! 受け取るがよい!!」

 

そして、いち早く完成させたのだろう皇鬼がその武具を忍へと向けて放つ。

 

「ッ!!」

 

皇鬼の魂の一部から作られた武具を受け止めると共に…

 

カッ!!

 

忍の体が光に包まれていき…

 

パァッ!!

 

光が弾けると、そこにいた忍の姿は…

 

「………………」

 

髪が光沢のある純白へと変化し、瞳も両方が真紅に染まり、額の左右(こめかみ辺り)に2本の角が生え、その両腕には有機的でシャープなフォルムの篭手が備わっていた。

その篭手はまるで指先から肘までを覆っており、手の甲の辺りには宝玉を埋め込むような窪みがあった。

 

「我が魂魄と妖力を込めて創りし鬼神界の…皇鬼の継承者の証…『皇鬼双腕(こうきそうわん)』。そして、それを受け取りしその姿こそ、儂の真の継承者の証じゃ」

 

そう言うと、皇鬼は疲れたかのようにその場に座り込む。

 

「皇鬼さん!?」

 

「大丈夫じゃ。ただ、疲れただけじゃよ」

 

慌てた様子の忍を皇鬼は片手を挙げて制す。

 

「しかし、姿まで変わるとは思わなんだが…良い面構えじゃ。儂の魂の影響かの?」

 

「さぁ? そこまではわからんが…凄く力強い波動は感じてるよ」

 

そう言って両拳に力を込めると妖力が迸る。

 

「ふぉっふぉっふぉ、良い塩梅じゃの」

 

その姿を見て皇鬼も満足そうだった。

 

「さて、そろそろ他の者達からも受け取るがよかろう」

 

「わかった」

 

それを受け、忍は武天十鬼からそれぞれの武具を受け取っていた。

すると、不思議なことに武具は忍が受け取るとそれぞれ宝玉という形を取り、まるで数珠のように連なって忍の首に掛かっていた。

武具を渡した武天十鬼も全員、皇鬼と同様にどっと疲れたようにその場に座り込んでいた。

 

「忍よ。儂の創り出した篭手は武天十鬼の武具を受け止めるために(しつら)えておる。武天十鬼の武具を使いたい時は手の甲の窪みに対応する宝玉を填め込むのじゃよ」

 

座り込みながら皇鬼はそのような説明をしてくれた。

 

「アンタ、そんな能力まで組み込んでたのかよ?!」

 

その説明にそんなツッコミを入れてしまう。

 

「伊達に皇をやっておらんでの。そのくらい受け止められるように調整しておいただけじゃよ」

 

「我等は武具を創り出すのに精一杯だったというのに、あなたという人は…」

 

それ近くで聞いてた月鬼が頭を少し押さえながら呟いていた。

 

「これは…色で判別出来るな…」

 

首から数珠を取ると、その色を確かめていた。

月鬼は銀色、炎鬼は赤色、雷鬼は黄色、氷鬼は蒼色、水鬼は水色、樹鬼は深緑色、風鬼は薄緑色、地鬼は茶色、鉄鬼は灰色、重鬼は紫色といった具合になっていた。

 

「これで前だけを見れて戦えるのぉ」

 

忍の様子を見て皇鬼は次の大戦へと意識を向けていた。

 

「武天十鬼よ。次の大戦、後ろは振り返るな。前だけを見て奴等を…絶魔を蹂躙してくれようぞ!」

 

『御意!』

 

疲れていながらも皇鬼の号令に応える武天十鬼。

 

「(絶魔の神がいる以上…果たして、勝てるのか…?)」

 

決して表情には出さなかったが、ただ一人…忍はそんな不安を抱えていた。

 

………

……

 

・忍の部屋

 

「今戻った」

 

皇鬼の呼び出しで書斎に行き、そのまま儀式の間に連れてかれたため、帰りが遅くなっていた。

 

「……お帰りなさい、忍さ……え!?」

 

「………………」

 

しかも新しいビー玉が無かったので、解放形態を維持したままの状態で部屋に戻ってきたので領明やシンシアもその姿に驚いていた。

 

「領明。すまないが、結晶媒体なんか作れないか? 一時的な措置でそれにこの鬼の力を封じたいんだが…」

 

「……は、はい。今、用意しますね」

 

忍の要請を受け、領明が水差しの水を凝固させて簡易的な水晶体を創り出す。

 

「……本当に簡易水晶なので、多分一回解放したら壊れてしまうので早めに取り替えてくださいね?」

 

「十分だ。ありがとう」

 

その簡易水晶を受け取ると、忍は鬼の力をその簡易水晶へと封じる作業を行う。

 

「ふぅ…」

 

やっと解放形態を解けて一息つく。

 

「これで解放陣、牙、七煌龍と…七つずつになったな…」

 

解放陣は真狼、雪女、紅蓮冥王、真祖、龍騎士、牙狼の闇、そして鬼の7種。

牙も7本。

七煌龍の魂の結晶の欠片が7つ。

 

「……解放陣や七煌龍の結晶はともかく…刀の置き場所が困りますね」

 

「そうだな…」

 

改めて並べていると、牙のスペースが大きかった。

しかも神威もあるので、余計に置き場所に困ることになりそうだ。

 

「というか、牙にもいい加減、個別の銘を付けないと分かりにくいな…」

 

こうして集まった以上、いつまでも牙と一括りにするのもどうかと思って銘を考えることにした。

 

「………………七煌龍は?」

 

シンシアが気になったように尋ねる。

 

「ん? あぁ…そういや、真龍の話じゃ、集めたらなんか起きそうなことを言ってたが…」

 

集まったはいいが、結局何も起きていない。

 

「ま、欠片じゃ仕方ないわな」

 

そんなことをボヤいていると…

 

キィィィ…

 

突然、七煌龍の魂の結晶の欠片が宙を舞い始める。

 

「あれ…?」

 

その現象に忍は間の抜けた声を出す。

 

「……あんなことを言ったから気に障ったのでは…?」

 

「え、ぁ…」

 

領明に言われ、流石に失言だったと思っていると…

 

カッ!!

 

欠片達が一ヵ所に集まり、目映い光を放っていた。

 

「くっ!?」

 

「……きゃあ!?」

 

「………………!?」

 

部屋にいた全員が光から目を隠す。

 

 

 

果たして、七煌龍に何が起きたのか?

そして、忍の考える牙の銘とは?



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第百八話『帰還』

皇鬼の計らいによって解放陣に新たな力『鬼』が加わった。

それに伴い、武天十鬼の魂の一部と妖力で創造された武具一式も授かる。

 

それから自室に戻り、この時代で取り戻したり入手したモノを改めて検分する中、七煌龍の魂の結晶の欠片に変化が起きる。

 

………

……

 

・忍の部屋

 

七煌龍の欠片が一つとなり、目映い光を放つこと数瞬。

光量が下がり、やっと周りが視認出来そうなくらいに回復していた。

 

「ったく…なんだってんだよ…?」

 

忍がぼやけた目を開けると…

 

「………………」

 

目の前に見知らぬ美女(長身スタイル抜群+裸)が立っていた。

いなみにその容姿だが、腰まで伸びた銀髪と琥珀色の瞳を持ち、凛とした雰囲気の綺麗な顔立ちに長身でそれに見合ったグラマラスな体型で、髪型はストレートだが、毛先が若干カールしている。

 

「…………………………あ?」

 

それを凝視してしまい、また間の抜けた声が出てしまう。

 

と…

 

「………忍さん!!///」

 

叫び声にも似た悲鳴を上げる領明と、忍の眼を隠すために背後から抱き着くような形になるシンシア。

どちらにしても厄介事が増えるのは明白だった。

 

 

 

その後…

 

「……むぅ…///」

 

「………………」

 

頬を染めてジト目で忍を睨む領明と、相変わらず表情はないもののシンシアもどこか非難めいた視線を送ってる…ような気がしてならなかった。

 

「なんで俺がこんな目に…」

 

解せない…と言わんばかりに簀巻きにされた忍が呟く。

 

「……女性の裸を凝視したからです…」

 

無慈悲な言葉である。

 

「いや、そりゃ悪いとは思ったけど…あんな光量の後じゃ仕方ないだろ?」

 

目が眩み、光に早く慣れるために目の前を凝視した。

そこにたまたま目の前に裸の女性がいただけ…なのだが、凝視した事実は変えようがなく、それが領明とシンシアには許せなかったようだ。

 

「………………」

 

そして、当の裸を見られた女性はというと…(何故か)チャイナドレス風の体のラインがくっきりと見え、スリットの深い服を着て正座していた。

ちなみにこの服は領明に『何か着てください!』と言われ、"龍気"で体を覆って服として形成したものである。

 

「まぁ、それはともかくとして…アンタは何者なんだ?」

 

簀巻きのまま忍は女性に尋ねる。

 

「我は…七煌龍が化身」

 

「七煌龍の化身……まぁ、欠片が集まって光ってそこに現れたからな…」

 

それは間違いないだろう、という結論に至る。

 

「じゃあ、名前は?」

 

「名は無い」

 

即答である。

 

「そりゃ困った…」

 

名前がないと呼びにくいなと考えていると…

 

「ならば、(あるじ)が付けてくれ」

 

女性がそのような提案をする。

 

「主、って…もしかして、俺?」

 

当然の質問を聞き返す。

 

「うむ。主以外、他にいない」

 

「急にそう言われてもな…」

 

色々と急展開だったので、頭がついていけていなかった。

 

「う~ん……七煌龍だし…しち、なな……なな? ふむ………『七海(ななみ)』ってのは、どうかな?」

 

それでも女性の名前を即席で考えてしまい、それでいいか確かめるように周りの反応を見る。

 

「七海……悪くない」

 

「……まぁ、悪くないと思います」

 

「………………」

 

女性陣の評価はまずまずといったところだった。

 

「じゃあ、今から七海って呼ぶことにするから…」

 

「わかった」

 

女性…七海は頷く。

 

「それで、七海は……どうして、現界したんだ?」

 

それから忍は、少し考えてから七海に問うていた。

 

「主が何も起きぬようなことを言っていたので、試しに起こしてみた。これは七煌龍の残留思念の総意である」

 

「………………」

 

やはり、忍の余計な一言が原因らしい。

 

「……やっぱり」

 

それを聞いて領明も呆れていた。

 

「しかし、やってみるものだな。まさか、本当に起きるとは、我々も予想外であった」

 

だが、一つの存在と化した七海もこの事態は予想していなかったらしい。

 

「意志の力はバカにならんからな…」

 

戦友の起こした意志の力による奇跡の数々を思い出し、忍はそんなことを漏らす。

 

「それで、七海は…何か能力は持ってるのか?」

 

「能力…」

 

「生前の能力が蘇ったとか、一つになったことで何か新しい能力に目覚めたとか…そういう感じはないか?」

 

忍の質問に七海は…

 

「残念ながら、やはり生前の能力などは失ったままだ」

 

「そうか…」

 

その答えに忍は少し残念そうにするも…

 

「しかし…恐らくだが、これは新しい能力…と言えるのだろうか?」

 

そう言うと七海は簀巻き状態の忍に近付くと…

 

ポワァ…

 

まるで憑依するかのように忍の中へと消える。

 

『このように主の体へと憑依することが出来る。しかし、特にこれといった技能や能力の発現などはない』

 

「なんだ、そりゃ…」

 

それを聞いて忍は何とも言えぬ表情となる。

 

七海は忍に憑依するだけで能力の発現がない。

果たして、これに何の意味があるのだろうか…?

 

「我にもわからぬ」

 

忍の中から出てきて七海もそう呟く。

 

「……それで…七海さんは、これからどうするのですか…?」

 

現界した七海自身、今後どうするのかを領明が尋ねる。

 

「とりあえずは主に付いていく。他に行く当てもない故」

 

「そうか。ま、よろしく頼むわ」

 

「うむ」

 

忍は改めて七海を歓迎することにした。

簀巻きのままだが…。

 

「で、俺はいつまでこのままなんだ?」

 

「……知りません…」

 

従姉妹のお怒りはまだ治まっていないようだった。

 

「おいおい…」

 

困ったようにシンシアの方を見ると…

 

「………………」

 

こちらはこちらで何故か簀巻きにされた忍に添い寝するような形で横になっていた。

しかも忍の顔をジッと見つめて…

 

「……なんだよ?」

 

改めて顔を見つめられ、忍は疑問符を浮かべる。

 

「………………」

 

「………………」

 

互いに無言で見つめ合ってるような感じになってると…

 

「……ゴホン…」

 

領明の咳払いが聞こえてくる。

 

「……七海さんだけでは飽き足らず、シンシアさんにまで色目ですか?」

 

言葉の節々から棘が感じずにはいられなかった。

 

「いや、あの…別にそういうわけじゃ…(汗)」

 

なんだか、今日は領明の地雷を踏みまくりな忍だった。

 

「………………やきもち…?」

 

シンシアがポーカーフェイスのまま領明に尋ねる。

 

「……やき…!? ち、違います!///」

 

シンシアはシンシアで遠慮というものを知らないらしく、その言葉に領明は慌てた様子になる。

 

「あとは…元の時代に戻るだけか。こればかりはどうしたもんかな…」

 

そんな領明とシンシアの様子を見ながら忍は最大の難題を口にしていた。

 

「元の時代?」

 

その言葉に七海が尋ねる。

 

「俺達は今よりも遥か未来からこの時代にやってきてしまったんだ。ほとんど事故みたいなもんだったからな…戻る術がないんだよ」

 

それを聞き…

 

「ふむ…」

 

七海は何やら考える素振りを見せる。

 

「どうした?」

 

そんな七海の様子が気になって尋ねると…

 

「時を渡る方法ならば、知っている」

 

「………………なに?」

 

思わぬ言葉に忍達の視線が七海に集まる。

 

「古代の大魔法『時渡(ときわた)り』。本来は過去へと渡る魔法だが、発動者の想像力次第で未来へと渡ることも可能とする禁術だ」

 

「……禁術…」

 

領明が少し難色を示す。

 

「うむ。発動させるには最低でも3人分の魔力供給源が必要であり、超越級の魔力を保持していなければならない」

 

「超越級……つまり、EX級の魔力保持が3人は必要なのか?」

 

「いーえっくす…?」

 

聞き慣れない言葉に七海は首を傾げる。

 

「つまりは超越級ってことだ」

 

「ふむ、そうか」

 

「話の腰を折って悪かった。それから?」

 

「魔力供給源を揃えた後に魔法陣を形成し、その上で発動者は行き先を頭の中で描き続けなければならない。ちなみに一度に時を渡れるのは最大で5人だ」

 

「5人、か…」

 

そう呟いて忍はこの場にいる人数を数える。

忍、領明、シンシア、七海…ギリギリな人数である。

 

「しかし、3人分で5人とは…それだけ超越級は常軌を逸しているのか…」

 

超越級…EX級の妖力を持つ皇鬼や武天十鬼はそれだけ常軌を逸してるということになる。

 

「……ですが、ここにはEX…超越級の魔力を持つ人が忍さん以外いません。残り2人分の魔力をどこから調達するんですか?」

 

領明とシンシアの魔力を掛け合わせてももう1人分くらいだろう。

しかし、それでは領明とシンシアが先に参ってしまう。

 

「……いや、俺達にはそれだけの魔力を引き出せる方法を持ってる」

 

だが、忍には何か考えがあるらしい。

 

「……忍さん? それってどういう…?」

 

領明は忍が何を指しているのかわからないようだったが…

 

「…………………これ?」

 

シンシアがピスケスを取り出して忍に問う。

 

「そうだ。幸いにもここには三機のエクセンシェダーデバイスがある」

 

「……ぁ」

 

言われて領明も気付いたようだ。

 

「魔力供給源という意味では、これほど適したものもないだろ」

 

『マスター達のお役に立てるなら、我々も善処しましょう』

 

『はい。元の時代に戻るためにも』

 

『任せて~』

 

アクエリアス、キャンサー、ピスケスの了解も得たことで、魔力供給源の目処は立ったと言ってもいい。

 

「あとは…万全を期すのであれば、満月の日が良いだろう」

 

「……月は魔力とも関係があると言われてます」

 

そう言う七海と領明だが…

 

「問題は、それだけの猶予があるかどうかだな…」

 

忍は別の心配をしていた。

 

次の大戦…皇鬼が出陣するということもあり、万全の態勢を取ることになるだろう。

しかし、敵…絶魔がその間に何もしてこない、という確証がなかった。

この機だからこそ、何かしらの行動を移す可能性もあった。

 

「ともかく、各自やれることをやろう。俺は皇鬼さんに話して、どこかいい場所を教えてもらう。七海は覚えてる限りでいいから魔法陣の書き出しを頼む。領明とシンシアは…いつも通りにしてくれればいい」

 

「御意」

 

「……わかりました」

 

「…………………」

 

こうして忍達は未来への帰還のために動き出す。

 

………

……

 

それから数日後のこと。

 

「…………………」

 

皇城のとある一部屋の窓際で、彼女は月を眺めていた。

 

「…………………」

 

『ねぇ、シンシアちゃん』

 

そんな彼女…シンシアに話し掛けるのは、相棒のピスケス。

 

「…………………」

 

『元の時代に戻ったら、またお仕事するの?』

 

シンシアの仕事…忍の暗殺。

それを再開するのか、とピスケスはシンシアに聞いていた。

 

「…………………」

 

『今の彼…シンシアちゃんじゃ勝てないかもよ?』

 

答えないシンシアにピスケスはそう言う。

 

「…………………勝つ必要なんて、ない。ただ…殺す、だけ…」

 

『そんなに苦しそうなのに?』

 

ピスケスにそんな風に言われ、シンシアは…

 

「…………………それが、私に課せられた依頼だから…」

 

そう、返していた。

自分ではわかっていないだろうが、なんだか辛そうな目をしながら…。

 

『シンシアちゃん…』

 

そんなシンシアを案じるピスケスでは何も出来なかった。

出来るとしても話し相手くらいだろうか…。

 

すると…

 

コンコン…

 

部屋に来訪者がやってきた。

 

「…………………」

 

ノックする相手なんてもう二択しかいなかったので、返事はしなかったが…。

 

「返事くらいしたらどうなんだ?」

 

そう言って入ってきたのは…さっきの話題に出た標的…。

 

「…………………」

 

なんだかムスッとしたような表情…にはなってないが、そんな雰囲気を出しながら忍を見る。

 

「お前も、もうちょっと感情を曝け出してもいいと思うけどな。ま、それでも前に比べたら俺も少しはわかるようになったけど…」

 

そう言って忍はシンシアの隣へと歩み寄ってから外を見る。

 

「なぁ、シンシア…」

 

「…………………?」

 

窓際に並んで佇むシンシアに忍は…

 

「元の時代に戻ったら…また、俺を狙うのか?」

 

そんな問いかけをしていた。

 

「…………………っ」

 

標的である本人から言われ、シンシアもバツが悪そうに顔を伏せる。

 

「正直なことを言えば…俺はお前とは戦いたくない。ここで一緒に生活してきて、そう思えるようになっちまったよ」

 

そんな様子のシンシアの状態を知ってか知らずか、忍は語り続ける。

 

「気配を消して突然現れたり、人の真似したり…そういうとこを見たせいかな。お前のことを敵と認識出来そうにない。これは俺からしたら致命的なことをお前に言ってるようなもんだ」

 

暗殺者に自らの認識の甘さを曝すことは、暗殺者に殺してくださいと言っているようなものだ。

だが、忍はそれを承知で話している。

 

「でも、まぁ…ここでの生活を通して、お前も普通にしてればちゃんと女の子なとこもあるんだなって考えると、どうにもな。お前は俺の命を狙ってるのに…」

 

「…………………っ…」

 

忍の言葉を聞いてるシンシアは顔を伏せたまま、自らの中に芽生え始めた感情に戸惑いを覚えていた。

 

「とは言え、お前のことを俺達は何も知らないんだよな…」

 

「…………………」

 

「こればかりはお前の気持ち次第だから、何とも言えない。でもな…」

 

忍はそう言うと、シンシアの頭を軽く撫でる。

 

「向こうに戻っても、いつでも遊びに来いよ。俺を狙う暗殺者としてじゃなく、領明の友人としてな…」

 

「………………ぁ…」

 

ポタッ…

 

その言葉にシンシアも知らず知らずのうちに涙を流していた。

 

「…………………っ…」

 

それを悟られまいと懸命に声を殺すが…

 

「……泣くことは、別に悪いことじゃない。お前も、もっと素直に生きればいいんだよ」

 

それに気付いたらしい忍に優しい言葉を掛けられる。

 

「…………っ………っ…」

 

シンシアは顔を伏せたまま、静かに涙を流し続けた。

 

「………………」

 

忍はそんなシンシアの頭を撫で続けていた。

 

その後、泣き疲れたのだろうシンシアを布団に寝かせてから忍は部屋を去っていた。

 

………

……

 

さらに数日後。

 

「はああぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

桃鬼の絶叫が木霊する。

 

「ふむ…そんなに驚くことかの?」

 

「そりゃいきなりんなこと言われたら誰でも驚くだろ…」

 

桃鬼の絶叫を前に皇鬼と忍は普通の会話をしていた。

 

「最終決戦を前に孫娘を嫁に送り出すとか……正直、本気だったのかと俺も未だ信じられん」

 

「儂はいつでも本気じゃよ?」

 

「そうかい…」

 

忍も一応当事者なのだが、前々から言われてた分、桃鬼よりは冷静だったりする。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、お祖父ちゃん! これから大事な大戦だってのに、あたしだけ逃げろって言うの!?」

 

桃鬼としてはとても承諾出来ない案件だった。

 

「しかも、なんでよりにもよってこいつが嫁ぎ先なのよ!」

 

そう言って桃鬼は忍を指さす。

 

「なんじゃ、不服か? なかなかの好条件を揃えた若者で、歳も近くて言いたいことを言い合える関係を築けそうな、儂の認めた漢じゃぞ?」

 

皇鬼からしたら褒めてるのだが、忍からしたら物件扱いにされてるような気分だった。

 

「そういう問題じゃなくて!」

 

「じゃあ、何が問題なんじゃ?」

 

皇鬼の問いに…

 

「こんな大事な時期にあたしだけが逃げるような真似が問題なんだって!」

 

桃鬼はそう答えていた。

 

「なんじゃ、そんなことか」

 

それを皇鬼は一蹴する。

 

「そんなことって…!?」

 

「戦において最悪の場合や万が一のことを考えるのは至極当然のこと。此度の場合、決戦ということもあって儂等は最大の戦力を前線に投入する。それが万が一、突破された時のことを考えての措置じゃ。ま、そう易々とは抜かせるつもりはないが…何が起きるかわからぬのが戦場故な」

 

皇鬼の説明に…

 

「そ、そんなのあたし一人でだって!」

 

桃鬼はそう反発するが…

 

「無理だ」

「無理じゃ」

 

忍と皇鬼が揃って否定する。

 

「なんでアンタまで否定すんのよ?!」

 

祖父である皇鬼ならわかるが、忍まで否定してきたことに驚く。

 

「よく考えることだ。前線を抜けられるってことはここが戦場になる可能性だってあるんだ。それはつまり、この城下町の住民のことも念頭に置いて戦うことになる。住民達を城へと避難させ、尚且つ防衛に専念せねばならない。それをたった一人で出来ると思うか?」

 

「うっ…」

 

「町を守る最低限の兵を置いていくとしても、それを指揮する者の判断一つでこの町の行く末が決まると言ってもいい。そんな大役をお前は務められるのか?」

 

「そ、それは…」

 

そこまで言われて桃鬼も事の重要さを知り、尻込みしていた。

 

「そのような及び腰では任せられんよ」

 

「うぐっ…」

 

トドメとばかりに皇鬼が桃鬼に伝える。

 

「よって桃鬼は忍達と共にこの城から退避するんじゃ。なに、儂等が負ける道理は無かろう?」

 

「それは…そうかもだけど……でも、だからって嫁に出すって!」

 

「忍は儂の継承者じゃ。そのまま勝ったとしても鬼神界の未来を共に担ってくれればそれでよい。儂もいい加減隠居したいのでな」

 

そんなことを笑って言う皇鬼を…

 

「………………」

 

忍は表情を変えずに見ていた。

 

「うぅ…なんか納得いかない…」

 

桃鬼はそう言って皇鬼の部屋から出ていく。

それを見てから少しして…

 

「これは…絶対に怨まれるな」

 

忍はボヤくように呟く。

 

「すまぬな。損な役回りをさせることになって…」

 

皇鬼も忍に謝っていた。

 

「別に…誰かが受け止めないといけないだろうしな…」

 

「お主達の逃げ場所は最後まで明かさぬ。向こうで、桃鬼のことを頼むぞ」

 

「あぁ…わかってるよ……だから、アンタも死に急ぐなよ?」

 

最後に忍は皇鬼に釘を刺していた。

 

「相手が相手じゃからな。確約は出来んわい」

 

「それでもだ」

 

「……わかった。無理はせんよ。じゃが、儂は儂の全力を以って奴等と相対する。それだけは譲れん」

 

「これでも戦士の端くれだ。それくらいはわかるつもりだ」

 

そう言うと忍は皇鬼に拳を向ける。

 

「なんじゃ?」

 

「互いの拳を合わせるんだよ。それが未来での…なんていうかな。男同士の約束や友情の証みたいなもんなんだよ」

 

「ほぉ、そういう習わしがあるのか…」

 

そう言って皇鬼も拳を忍に向けると、コツンと合わせる。

 

「武運を祈る」

 

「応。お主も達者でな」

 

これが…この時代、この世界における忍と皇鬼、最後の会話となった。

 

………

……

 

そして…

 

「いよいよか…」

 

満月の夜を迎えていた。

 

その間に皇鬼は武天十鬼や近衛、兵達を率いて最前線へと赴いていた。

皇城にも兵は残っているが、必要最低限の人員だけである。

 

忍達は皇城より北西に位置する山頂にいた。

そこが皇鬼から聞いた月の力を最も受け、魔の力を発揮するのに適していると聞いたからだ。

 

「こんなとこで何しようってのよ?」

 

あまり詳しく説明されていない桃鬼が忍達に尋ねる。

 

「ここから人間界に跳ぶんだよ」

 

「人間界まで逃げる必要なんてあるの?」

 

「だから何度も言ってるだろ? 万が一のためだ」

 

「うむむ…」

 

忍の言葉に桃鬼はあまり納得出来ていないようだった。

 

「じゃあ、始めるぞ」

 

「うむ」

 

「……はい」

 

「………………(こくっ)」

 

忍、領明、シンシアはそれぞれのエクセンシェダーデバイスを身に纏うと…

 

「コアドライブ、最大稼働!」

 

キュイイィィィィ…!!

 

忍の言葉を切っ掛けに三機のエクセンシェダーデバイスからサファイアブルー、パールホワイト、スカイブルーの魔力粒子が迸り始める。

 

「結!」

 

さらに魔力が逃げないように結界を張り、魔力粒子を満たしていく。

しかし、この結界にはもう一つ役割があった。

 

「魔法陣、展開」

 

結界内の地面に七海が書き起こした魔法陣を展開していく。

 

「(あとは…俺のイメージ次第か…)」

 

忍が未来…智鶴達のいる現代の世界を思い描こうとした時…

 

ブォンッ!!

 

夜空が裂けるように亀裂が入ると、そこにある映像が映し出される。

 

「あれは…!」

 

「う、そ…」

 

そこは夜の戦場、月が赤く染まっている。

そして、その戦場の中心では上半身は四本腕を持つ異形の人型で、蛇のような尾で形成されたような下半身を持つ巨大な存在がその手に何かを握っていた。

 

『う、ぐぅっ…!』

 

『がぁっ!?』

 

その何かとは、皇鬼と月鬼であり、かなりの負傷をしているのが映像から見てもわかった。

さらにその尾元には地に伏せる武天十鬼の姿があり、何人かは既に…。

 

『聞くがいい。か弱き鬼共よ』

 

すると、巨大な存在が声を発する。

 

『神に刃向かう貴様らの愚かな希望は我が潰した』

 

その威容を見せつけるかのようにして巨大な存在は月鬼を地面に叩き付けるようにして投げつける。

 

『がっ!?』

 

『全ての生物よ。この光景を見て絶望せよ』

 

その言葉と共に映像の中で多くの絶魔が進軍していく。

 

「アレが…絶魔の神…!」

 

その巨大な存在が絶魔の神だと直感した忍だったが、その横では…

 

「お祖父ちゃんが…武天十鬼が…」

 

信じられないようなものを見たかのようにその場に崩れ落ちる桃鬼。

 

「っ!」

 

しかし、何かを思ったのか、その場から駆け出すように走ろうとするが…

 

ガンッ!

 

忍の張った結界がそれを阻む。

 

「なっ!? 出して! 出しなさいよ!!」

 

桃鬼が焦ったように忍に詰め寄るが…

 

「それは…出来ない。俺にもあの人との約束がある」

 

魔力供給を止めず、忍は転移先のイメージを固め始めていた。

 

「なにを……っ!? まさか…お祖父ちゃんもアンタも最初からあたしを…!!」

 

「………………」

 

ここにきて気付かれたことに忍は何も言わなかった。

 

「どうして…どうしてよ! あたしだって戦士としての訓練は受けてた!! いつでも死ぬ覚悟だって…!!」

 

泣き叫ぶようにして忍の胸倉を掴む桃鬼に…

 

「孫娘を…むざむざ死地に向かわせる祖父がいるもんかよ」

 

忍はそれだけ答えていた。

 

「それは…そうかもだけど…!! でも、あたしはみんなと一緒に…!!」

 

「お前が生きててくれれば…鬼神界の未来は、また一からでも作り出せる。だからこそ、あの人達は命を懸けたんだ。その決意と覚悟を無為にするな…!」

 

「でも…だけど!!」

 

桃鬼はそれが認められないらしい。

 

「怨むなら、俺を怨め…俺は、この結果を頭のどこかでわかっていたんだ…」

 

「なっ…!? じゃあ、なんで…なんで、助けようとしないのよ! アンタだってお祖父ちゃんに世話になってたんでしょ!!? それなのに、なんで!!」

 

「俺は…未来からきた人間だ。未来の知識を持つ俺が歴史を…これから起こることを変えちゃ、ダメなんだよ…それが例え、親しくなった人達を見殺すことになっても…!!」

 

それは忍にとっても苦渋の決断だった。

ここで未来を変えたら、忍の知らない別の未来になっているかもしれない。

現代に戻るためにはこのまま事実を受け止めなければならないのだと…。

頭では理解してても、やはり心は納得出来ないでいたが…。

 

「そんなの知ったことじゃない! 今からでも遅くない! あそこに行ってお祖父ちゃん達を…!」

 

「もう…時間切れだ…」

 

行き先のイメージは固まり、魔法陣に魔力も満ち満ちた。

そして、月の魔力の加味した『時渡り』が発動する。

 

時渡りが発動する中、夜空の映像に変化が起きる。

 

『うおおおおおお!!!』

 

皇鬼が絶魔の神の手を逃れ、血塗れになりながらも対峙していた。

 

『絶魔の神よ…儂はまだ健在じゃぞ?』

 

膨大な妖力を迸らせながら皇鬼は言葉を紡ぐ。

 

「皇鬼さん…!」

 

「お祖父ちゃん…!」

 

その姿に忍と桃鬼は揃ってそちらを見る。

 

『愚かな皇よ。身の程を知れ。そのような体で何が出来る?』

 

『愚かなのはお主よ。絶魔の神よ』

 

『何?』

 

『絶望が深ければ深いほど、希望というものが煌めくのじゃ。そして、儂等の希望は未来におる』

 

『未来? 笑止。貴様らに未来などない』

 

『それはどうかの? 遥か先の未来にて、お主を屠る者が現れる。儂はそう確信しておる』

 

『戯言を…』

 

『戯言かどうかはお主自身で確かめるのじゃな』

 

そう言うと、皇鬼は絶魔の神へと突貫していった。

 

『後は頼むぞ、忍よ。桃鬼よ、幸せにの…』

 

最後に小さく言葉を紡ぎながら…

 

「「ッ!!」」

 

その小さな言葉は、確かに2人の耳へと届いていた。

 

「皇鬼さぁぁぁぁん!!」

「お祖父ちゃぁぁぁぁん!!」

 

その最後の光景を目に焼き付けながら、忍達は未来へと時を渡り始めたのだった。

 

 

 

そして、この後…皇と武天十鬼を喪った鬼神界は程なくして滅亡を迎えた。

絶魔は勢力を伸ばすものの、遠征先のある惑星でそこにいた神によって絶魔の神は封じられる。

神を封じられた絶魔も数世紀に及んで勢力の後退を余儀なくされた。

 

しかし、現代という時間の中で再び絶魔は動き始めた。

だが、その絶魔を倒すべく、過去から希望が舞い戻ってくる。



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第百九話『牡牛座の強襲と牡羊座の台頭』

・現代

 

忍達が消えたクリスマスの夜から早三日が過ぎようとしていた。

 

明幸家では年末の大掃除の真っ最中だったりする。

 

「………退屈ねぇ…」

 

特に何をするでもなく中庭に面した縁側に座るカーネリアがボヤく。

 

「だったら少しは手伝いなさいよ」

 

「オメェも居候だろうが!」

 

暗七とクリスがそんなカーネリアに文句を言いつつも大掃除の手伝いをしていた。

 

「嫌よ。坊やもいないし、ホント退屈ねぇ…」

 

そう言ってゴロンと縁側に体を預けてしまう。

 

「ちょっと、そこに寝られると邪魔なんだけど?」

 

そう言うのは縁側の雑巾がけをしていた吹雪だった。

 

「はいはい。退けばいいのでしょう? 退けば…」

 

そう言ってカーネリアは堕天使の黒翼を展開して寝たままの状態で羽ばたく。

 

「羽を散らかすな!」

 

そのせいで何枚かの羽が散ってその場を汚してしまう。

 

「注文が多いわね…」

 

そう言うとふわりとスカートを翻しながら中庭に着地する。

 

「だったら手伝え!」

 

「嫌」

 

大掃除の手伝いを頑なに拒否するカーネリアは…

 

「そういえば、あの超内気な騎士ちゃんが来るんだったわね。そのお迎えにでも行こうかしら」

 

萌莉が来るのを思い出して、その出迎えに出掛けることにしていた。

黒のワンピースに紫色のショール一枚を羽織ってるだけという…何とも適当な格好だが…。

 

「じゃあ、後はよろしく」

 

そう言って手をひらひらさせながらカーネリアは悠々と門から外に出て行った。

 

「あいつもあいつで大概だよな…」

 

「自由というか何というか…忍がいないと余計に際立つわね」

 

クリスと暗七がそんなカーネリアの背を見送りながらボヤいていると…

 

「その忍だけどさ…」

 

「「?」」

 

吹雪が不意に…

 

「また…増えてないわよね?」

 

そんなことを口にする。

 

「「…………………」」

 

その呟きに対しての答えは…正直、2人も言いたくなさそうだった。

 

「……ごめん」

 

吹雪も詮無きことを聞いたと言いたげに雑巾がけに戻る。

 

「いや、まぁ…あいつ、行方不明になると何かしらが起きてる中心地にいるからな」

 

「そうね…難儀な体質だけど、付き合うこっちも大変なのよね…」

 

「赤龍帝の影響も少なからずあるんだっけ?」

 

「龍やドラゴンみたいな龍種は力を引き寄せる。龍騎士を取り込んだ時点で忍もその力が発動してるんだとしたら…相乗効果になってそうね」

 

「まだまだ厄介事は尽きないか…」

 

「ま、現在進行形であいつは何かやってるかもだけどな…」

 

中庭にいた3人はそんなことを話していた。

 

………

……

 

一方…。

 

「す、すみま、せん……荷物、一緒、に、持って、もらって…」

 

「ううん、気にしないで。私も明幸のお屋敷に行く途中だったし」

 

今日が大掃除だと聞き、何か差し入れでもということで萌莉は色々と買っていたら大荷物になってしまい、困っていたところにフェイトが通りかかり、一緒に荷物を持ってもらっていた。

 

『きゅっ♪』

 

いつもの如くファーストは萌莉に抱えられており、その肩にはセカンドとフォースがいて、腕にはサードが巻き付き、その横をフィフスが歩いているという萌莉にとっては普通な光景だった。

 

「相変わらず仲が良いんだね」

 

その様子を見てフェイトがそんなことを言う。

 

「は、ぃ…私の…大切な、家族…です、から…」

 

『きゅっ!』

 

そんな慈愛に満ちた眼差しをファースト達に向けていた。

 

「ふふっ…」

 

こういう時だけは萌莉も素に戻れるのか、微笑ましい姿にフェイトも笑みを浮かべる。

 

その時だった。

 

ブォンッ!!

 

突如として2人の周囲が結界で覆われていた。

 

『きゅっ!?』

 

その光景に驚き、ファースト達が震える。

 

「この子達、怯え、て…?」

 

その感情を機敏に感じ、萌莉はしゃがんでフィフスも抱き上げる。

 

「萌莉さん。ここは私が何とかするから…あなたは…」

 

「い、え…」

 

抱き上げたフィフスとファースト、両肩にいたセカンドとフォース、腕に巻き付いていたサードを1ヵ所に集めていた。

 

「この、子達が、怯えてる…つまり、相手、は…この子、達を、狙ってる…かも、しれない、から…私、も…!」

 

召喚獣達を守るために萌莉は自らの魔力を刀状にして正眼に構える。

 

「萌莉さん…」

 

萌莉の姿にフェイトは少し驚くが…

 

「わかりました。でも、萌莉さんはその子達を守ることに専念してください。私が前衛を務めますから」

 

すぐにフェイトは待機状態のバルディッシュを取り出すと、荷物を置いてから臨戦態勢へと移る。

 

「は、い…!」

 

萌莉もそれに応えて召喚獣達を守るべく剣を取る。

 

「(とは言え、解せない。この辺りには結界があるはずなのに、どうして結界の中で結界が…?)」

 

フェイトは周囲に展開された結界を見る。

 

「(この結界…私達の魔法体系に近い…?)」

 

それはつまり…ミッド、もしくはベルカの魔法体系ということになる。

 

「(まだ次元航行技術が確立されていない地球に一体何の目的が…? もし、本当に萌莉さんの召喚獣が狙いだとしたら…)」

 

ちらりと萌莉の方を見てから周囲の気配を探ると…

 

「(既に囲まれてる。なら…)」

 

フェイトはすぐさま足元に魔法陣を展開し…

 

「サンダーブレイド!」

 

気配を頼りに雷撃で形成された剣を複数作り出すと、気配のある場所へと向けて放つ。

 

ズドドドドドッ!!

 

気配だけで狙ったためにそのほとんどが壁などの遮蔽物に突き刺さる。

 

「ブレイク!」

 

しかし、フェイトは気にせず追加キーワードを発して剣を爆破し、その周囲に雷撃によるダメージを与えていく。

 

「ちっ…この世界に魔法を使える奴がいるなんてな!」

「事前情報にはなかったぞ!」

「でも、珍しいのの宝庫なのは違いねぇ!」

 

雷撃から逃れて出てきたのは、いかにも人相や服装、ガラの悪い人間達だった。

そいつらの視線は、萌莉の背にいる召喚獣達に向けられていた。

 

「やっ、ぱり…狙いは…この、子達…!」

 

それを知り、萌莉の眼が珍しく鋭くなる。

 

「まぁ、たかが女2人だ。さっさと片付けっぞ!」

「ゲヘヘ、にしても良い体してるじゃねぇか…あの動物共を確保した後に遊んでもいいかもな?」

「? てか、あの金髪…どっかで見たような…?」

 

そのなんとも言えない会話にフェイトと萌莉は少し鳥肌が立つ。

 

「行くよ、バルディッシュ!」

 

『了解』

 

フェイトがバルディッシュを起動させ、バリアジャケットを展開した姿を見せると…

 

「ッ!! 思い出した! あいつ、時空管理局の執務官じゃねぇか!?」

 

集団の一人が思い出したように叫ぶ。

 

「マジか?! なんで時空管理局がこんな世界にいんだよ!?」

「俺が知るかよ!」

「とにかく、相手が時空管理局の執務官だろうと、たった2人には変わりねぇんだ!」

 

どうやら集団は数の有利から勝つ気でいるらしい。

 

「やっちまえ!!」

 

その声を合図に集団が一斉に動き出す。

 

「トライデントスマッシャー!!」

 

左手から直射系砲撃が放たれ、それが左右に枝分かれして計三つの砲撃となって集団へと着弾する。

 

「「「ぐわああああ!?!?」」」

 

着弾時の雷撃の効果もあって一気に複数人を昏倒させる。

 

「オラァ!!」

 

正面じゃなく、側面からやってきていた剣を持った一人がフェイトに斬りかかる。

 

「危、ない…!」

 

しかし、それを魔力斬撃で萌莉が迎撃する。

 

「ぐぁ!?」

 

横っ面からの直撃にその一人も吹き飛ぶ。

 

「萌莉さん…!?」

 

萌莉が人相手に攻撃を仕掛ける。

少なくともフェイトは初めて見た光景だった。

 

「ぁ…わ、わた、し……」

 

対人攻撃をあまり良しとしない萌莉が体を震わせる。

 

「大丈夫! 萌莉さん、気をしっかり持って!」

 

『フォトンランサー・マルチショット』

 

そう言いながらフェイトは周囲に複数のフォトンスフィアを展開して高速戦闘を仕掛ける。

 

「(萌莉さんに負担はかけれない。私がなんとかしないと…!)」

 

そうしてフェイトの奮戦もあって集団は着実にその数を減らしていった。

 

だが…

 

「なんだなんだ、テメェら! たかがこんな楽な仕事に手間取りやがって!!」

 

そこに灰色の短髪と黄色い瞳を持ち、いかにも悪者っぽい顔立ちに体格はガッシリした筋肉質の持ち主が怒声をあげながら現れる。

 

「隊長! ですが、相手が時空管理局の執務官だなんて聞いてやせんぜ!?」

 

その現れた男に集団の一人が不満そうに言う。

 

「馬鹿野郎! 文句言ってんじゃねぇぞ! この世界は意外と金になるんだ! たかが管理局くらいで音を上げてんじゃねぇぞ!」

 

その言動からこの集団の隊長格らしいのはわかったが、フェイトはその顔を見てある資料を思い出していた。

 

「『クライヴ・エストラーデ』!? 密猟グループの幹部がどうして地球に!?」

 

その資料とは時空管理局が追っている広域指名手配犯の人相が書かれていたものだ。

 

「あぁ? 俺のことを知ってんのか? ったく、顔割れしてるとか面倒だぜ…」

 

そのフェイトの驚きの声が聞こえたのか、男…クライヴは面倒そうに顔を歪める。

しかし、驚いていたのはフェイトだけではなかった。

 

「ぁ…ぁぁ…」

 

萌莉が尋常ではない感じで震え出していた。

 

『きゅ、きゅう!』

 

それを宥めようとファースト達が萌莉の元へと駆け寄る。

 

「あぁ?」

 

クライヴはその鋭い眼光で萌莉を見る。

 

「ひっ…」

 

その萌莉の怖がりようと、ファースト達が群がる様を見てクライヴはあることを思い出していた。

 

「……テメェ、あの時のガキか?」

 

「っ!?!」

 

その問いかけに心臓が鷲掴みにされるような感覚に陥る萌莉。

 

「萌莉さん!?」

 

その様子に気付き、フェイトも萌莉の方へと少し下がる。

 

「メイリ? はっ! やっぱ、あの時のガキか!!」

 

萌莉の名を聞き、クライヴは面白そうな感じで笑い出す。

 

「隊長?」

 

「いや、なに…ちょっと昔の失敗談でな。だが、そうか…性懲りもなく、"また"保護してたか!」

 

部下に質問されるも、それを軽く流して愉快そうに萌莉に言葉を投げつける。

 

「(また?)」

 

クライヴの言葉に引っ掛かりを覚えていると…

 

「せっかくの再会だ! 派手に行くぞ!!」

 

そう言ってクライヴが取り出したのは、牡牛座のシンボルと髑髏の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のエメラルドを携えた白銀色のチェーンブレスレットだった。

 

「あれは!?」

 

「出てこいや! 『タウラス』!!」

 

カッ!!

 

クライヴの呼び掛けと共にチェーンブレスレットが輝き、その場に…

 

『ヒャッハー! 呼んだかい? クライヴ』

 

白銀の牛が出現していた。

 

「牡牛座の…エクセンシェダーデバイス…!!」

 

フェイトが冷や汗を流していると…

 

『はっ、アタイらのことを知ってんのかい?』

 

タウラスがフェイトに尋ねる。

 

「牡牛座の…? 他にもこいつの仲間がいるような言い方だな…?」

 

フェイトの言葉が気になり、そんなことを呟くと…

 

『あぁ。アタイの他にもエクセンシェダーデバイスはいるよ。アタイを含め12機、ね』

 

タウラスが今更のように説明する。

 

「あぁ? そんなの初耳だぞ?」

 

『そりゃ聞かれなかったからね』

 

「ちっ…このクソデバイスが!」

 

それを聞き、ガンッ!とタウラスを蹴るクライヴ。

 

『痛っ!? テメェ、何しやがる!!』

 

「うっせぇ! テメェがんな大事な情報を言わなかったのが悪いんだろうが!」

 

『んだと!?』

 

「あぁ? やんのか、ゴラァ!?」

 

未だ戦闘中にも関わらず、デバイスと喧嘩する所有者。

 

「(な、何なの…?)」

 

今まで見てきたエクセンシェダーデバイスとその所有者の関係とは異なる感じに困惑するフェイト。

 

「隊長! 喧嘩なら向こうとしてくだせぇ!」

 

そんな部下の声に…

 

「『うるせぇ!!』」

 

クライヴとタウラスが同時に怒声をあげ…

 

キュイィィィッ!!!

 

タウラスの背部にある2門の砲撃ユニットが急速チャージされていく。

 

「やべっ!?」

 

部下の方も身の危険を感じ、即座に退避するが…

 

『逃がすかよ! 行きな、ブレイクホイール!』

 

バキンッ!

 

牛の前足の肩に相当する部分に装着していた車輪型装備が外れ、それが部下を足止めする。

 

「ちょっ、待っ…俺、味方!?」

 

『知るかよ。んなこと』

 

そして、無慈悲にも…部下にチャージされた砲撃が放たれる。

 

「ぎゃあああ!?!」

 

砲撃を受けて吹き飛ぶ部下。

 

「なっ…味方を攻撃した!?」

 

その光景にフェイトも目を疑った。

 

「ったく、邪魔しやがって…」

 

そんな部下を尻目にクライヴは目標をフェイトと萌莉に移すが…

 

「隊長! なんか知りやせんが、ここに集まってくる奴らがいますぜ!!」

 

「あぁ? ったく、これからって時に……ッ!!」

 

が、クライヴはその場からすぐさま退く。

 

「あら、良い反応ね?」

 

そこに現れたのは…

 

「カーネリアさん!」

 

堕天使の翼を広げたカーネリアだった。

 

「~♪ こりゃ珍しいもんが見れたぜ。羽の生えた人間かよ…!」

 

口笛を吹いてクライヴはカーネリアを奇異の眼で見る。

 

「こんなのがたくさんいるとなると…いい狩場になりそうだな!!」

 

そう言いながらタウラスの横へと着地すると…

 

「テメェら、引き上げだ! 当分はこの世界で狩りを愉しめそうだ!!」

 

『ヒャッハー!!』

 

クライヴの声に応えるよう部下達も歓声を上げる。

 

「ま、待ちなさい!」

 

フェイトがクライヴ達を追いかけようとするが…

 

「撃てや、タウラス!!」

 

『あいよ!!』

 

タウラスの背部にある砲撃ユニットが火を噴き、フェイト達の足を止める。

 

「あばよ。今度はちゃんと手加減してお前の召喚獣を奪ってやるよ!」

 

そう言い残してクライヴの一団はその場を去っていた。

 

「っ!?」

 

その最後の言葉を聞き、ペタリとその場に座り込んでしまう萌莉。

 

『きゅ…』

 

「…………………」

 

心配そうなファースト達を無言で抱き寄せ、震えていた。

 

「萌莉さん…」

 

「さてはて…どうしたものかしらね?」

 

状況が呑み込めていないが、また厄介事になりそうだと察したカーネリアがそう漏らす。

 

その後、駒王町に配備された三大勢力のエージェントが駆けつけ、フェイト達は大まかな事情聴取を受けたのだった。

今年も後僅かだというのに、ここにきて牡牛座の襲来とは…。

 

だが、出現したのは何も牡牛座だけではないことを、この時の彼女達はまだ知る由もなかった。

 

………

……

 

牡牛座を持つクライヴの一団(密猟グループ)の襲撃からさらに三日経った大晦日。

 

明幸のお屋敷の大広間では幹部達が集まっての総会が開かれていた。

その席にはもちろん、智鶴の祖父である組長の姿もあった。

 

「この一年で…この駒王町の様相も随分と変わったものじゃ」

 

しみじみと、組長はそんなことを呟きながら天井を仰ぐ。

 

「今では三大勢力の和平の象徴と化しておりやすからね…」

 

幹部の一人もそのようなことを漏らしていた。

 

「儂が山に引っ込んでる内に色々な出来事が起きていたとはのぉ」

 

とは言え、組長が山で養生したのはここ数年での話。

まさか、ここに来てここまで情勢が変わるとは、誰もが思いもしなかったのは事実である。

 

「それもこれも…あの赤龍帝の小僧が覚醒してからでさぁ!」

 

「だが、誰があんな堅気の小僧に気付けた?」

 

「そりゃ、そうだがよ…」

 

イッセーが赤龍帝として覚醒し、悪魔に転生してから全ては動き出したとも言える展開に幹部達は意見を出し合っていた。

 

「それと並行して紅神の倅が頭角を現してきたのも驚きだったな…」

 

「あぁ、それは確かにな」

 

「あの貧弱な坊主が、今じゃ冥界の方で次元辺境伯だったか?」

 

「いつまでも泣き虫なガキじゃねぇってことか?」

 

イッセーの話題と並行して忍の話題も浮上してきた。

 

「ふむ…して、その紅神の倅の行方は?」

 

組長が忍の行方を幹部達に尋ねる。

 

「へい。それが依然として掴めてやせん。かの堕天使の元総督でも行方はわからないそうでして…」

 

「まったく…この一年で何度姿を消しゃ気が済むんだか…」

 

「………そんなに行方不明になっておるのか?」

 

幹部の言葉に組長もそんな感想を抱く。

 

「へい。まぁ、その度に何かしら得ているようでして…」

 

「女だったり、力だったりと…果たして、今回はどうなることか…」

 

「まぁ、お嬢の方も気が気でないようでして…」

 

そう言って幹部の一人が組長の隣で正座している和服姿の智鶴をチラ見する。

 

「余計なことは言わないでください…」

 

かくいう智鶴もその幹部を一睨みだけする。

 

「す、すいやせん…!」

 

その幹部もすぐさま智鶴に頭を下げる。

 

「ふむ…」

 

それを聞き、組長は思案していた。

 

「(この一年の激動は確かに赤龍帝が発端じゃろう。しかし、それに触発されたかの如く、あの小僧もまた中心に近しいところにいて、その度に何かしらを得てきたのじゃろう。その経験はいずれ上に立つ者にとって貴重なものとなるだろう。それに…智鶴が好いておるにも関わらず、他にも女に好かれている。これはあの小僧に何かしら惹かれるものがあり、それは上に立つ者に必要な素質じゃな。そういう意味では、やはり…)」

 

組長が真剣に何かを考えてる様子を幹部達が見守る中…

 

「あぁん? テメェは…っ!?」

「な、何故、ご子息が…?」

「本日はこの一年の締め括りとなる組長と幹部のみでの総会であってご子息の出席は…!」

 

何やら大広間の入り口の外が騒がしかった。

 

「なんだ?」

 

その場に一番近かった幹部が様子見のために入り口を開け放つ。

 

「おい、テメェら! 何事だ? 今、頭が考え事をしてる最中なんだぞ!? ちったぁ静かにしろってんだ!」

 

「あ、兄貴!? そ、それが…」

 

幹部の一人が出てきたことに下っ端らしい組員が驚き、騒ぎの原因となっている人物を見る。

 

「あぁ?」

 

下っ端の視線を追いかけて幹部もそちらを見ると…

 

「なっ!? なんでテメェが、ここにいやがる!?」

 

幹部の方も驚いたように声を荒げる。

 

「む?」

 

その騒ぎに組長も入口の方を見る。

 

「おい、明智(あけち)! なんで、テメェの倅が来てんだよ!!」

 

外を見に行った幹部が明智と呼ばれる幹部に食って掛かる。

 

「あぁ? 雅紀(まさき)が? なんかの間違いじゃねぇのか?」

 

明智という幹部がそう言うと…

 

「間違いじゃないさ。父さん」

 

入り口の方から一人の青年が顔を出す。

その青年はうなじが隠れる程度の黒髪とブラウンの瞳を持ち、凛とした雰囲気の二枚目な顔立ちに、中肉中背といった具合の標準的な体格をしていえ、駒王学園の制服を身に纏っていた。

 

「なっ?! ま、雅紀!! お前、何しに来やがった!!」

 

その姿を見て幹部・明智も驚きながらも息子に詰め寄っていた。

 

「何って…組長と幹部が集まって何か話をするっていうから、ちょっと興味が湧いてね。お邪魔しようかなって」

 

「お前にはまだ関係ない! さっさと家に戻れ!!」

 

「へぇ~。そんな大切な話なんだ?」

 

「いいからさっさと戻れ!!」

 

幹部・明智の剣幕に雅紀と呼ばれた青年は怯むことなく…

 

「うるさいなぁ…『アリエス』」

 

ズボンのポケットから牡羊座のシンボルと立方体の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のダイヤモンドを携えた白銀色のチェーンブレスレットを取り出していた。

 

「なんだ、そりゃ?」

 

幹部・明智が怪訝そうな表情をすると…

 

カッ!!

 

「うおっ!?」

 

突然、チェーンブレスレットが輝くと、周囲に目映い光を放ち、次の瞬間には…

 

『おう、呼んだか? マスター』

 

白銀の羊が雅紀の横に姿を現していた。

 

「っ!?」

 

その光景に智鶴は息を呑んでいた。

 

「そいつは…蔵にあった羊の置きもんじゃねぇか!?」

 

幹部・明智も驚いたように叫ぶ。

 

「それが置き物じゃなくて、デバイスって代物らしくてね。今はこの俺がその主人って訳さ」

 

『選定条件に合ったからな。だからこそ、俺はマスターに力を貸してる。ま、"ご同類"も近くにいることだし、な』

 

そう言ってアリエスは智鶴の方を見る。

 

「っ」

 

その視線に気づき、智鶴も身構える。

 

「そ、それがどうした!? そんなもん引っ提げったってここに来る必要性はないだろうが!!」

 

他の幹部が根本的なことを言い出す。

 

「そ、そうだ! それにどんな力があろうと、お前がここに来る理由にはならねぇぞ!!」

 

それに触発されるように幹部・明智もそう雅紀に言っていた。

 

「だから~、その子供にも黙ってる事情が知りたいんだって。アリエスを持っている以上、自分の身に何が起こるかわからないしさ…それに、いつまでも隠し通せるとでも?」

 

雅紀は自分の父親である幹部・明智に問うていた。

 

「な、何をだ?」

 

「二学期の頃、変な放送あったよね? 異世界がどうのとか、俺達の身近に悪魔や天使がどうのとか…俺も信じちゃいなかったんだけどさ。アリエスの存在が、ねぇ?」

 

そう言うと、雅紀はアリエスに視線を落とす。

 

『ま、この世界の技術じゃ、俺は作れないからな。その辺は少し話した。悪ぃな』

 

なんとも軽い感じでアリエスは答える。

 

「(くっ…余計なことを…)」

 

幹部・明智を含め、数人の幹部も同じようなことを考えていた。

 

「で、だ。こりゃ組長も含め、幹部もなんか知ってるな、と思って今日の総会に乗り込んできたわけだよ」

 

雅紀は堂々とした態度で言ってのける。

 

「それで? どんな話をしてたのさ?」

 

そして、不遜にもそんなことを聞いてくる。

 

「それは…」

 

幹部達が口を噤む中…

 

「はぁ…まぁ、いいじゃろう。デバイス、とやらも儂にはよくわからんが…裏事情を知るには十分な理由じゃ」

 

組長から鶴の一声があがる。

 

「ありがとうございます、組長」

 

雅紀は組長に頭を下げる。

 

「しかし、頭。本当にいいんですかい?」

 

「どうせ、いずれは知ることになるんじゃ。それが早いか遅いかの違いじゃよ」

 

「はぁ…頭がいいのなら、俺達も文句はありゃしませんが…」

 

組長の言葉というのもあって幹部達もそれ以上のことは言わなかった。

 

「さて…予想外にも明智の所の倅が来たが、特に変わりはせん。さっきの話は赤龍帝に関するところが大きかったしの」

 

「赤龍帝?」

 

組長の言葉に雅紀は首を傾げる。

 

「お前とお嬢が通ってる駒王学園の兵藤 一誠とかいうガキだよ」

 

「っ! あの変態三人組の兵藤がなんだって話題に?」

 

「赤龍帝。赤い龍をその身に宿した稀な存在だ。ま、今年の春ぐらいに覚醒したって話だが…それも悪魔に転生したって話だしな…」

 

「あ、悪魔に転生? わ、訳が分からない…」

 

当然ながら雅紀は話題に頭がついていっていなかった。

 

「ふんっ…詳しいことは父親から聞くのじゃな。さて…」

 

そう言い捨て組長は"あのこと"を切り出すことにした。

 

「皆、これより儂はこの組を次世代の若者に託そうと思うておる」

 

その組長の言葉に幹部達が沸く。

 

「おぉ! では、遂に後継者を!」

 

「いったい誰を頭の後継者にするんで?!」

 

幹部達の視線を一身に受け、組長は…

 

「そう急くでない。儂の後継者は…」

 

誰もが固唾を飲む中…

 

「(ふっ…そんなの分かり切ってる。あの人に相応しいのは、俺だけだ。俺は幹部だけに留まることはない。行く行くは組の未来を…)」

 

雅紀だけはそのように考えていた。

 

しかし…

 

「"紅神 忍"じゃ」

 

組長は忍の名を挙げていた。

 

「なっ!?」

 

「な、なんと…!?」

 

「は…?」

 

その言葉に幹部の誰もが驚き、雅紀も信じられないような顔をする。

 

「奴はクリスマスの前…智鶴と、友人達と共に儂の元へ来た。理由は…クレーリア・ベリアル嬢の件だ」

 

『ッ!!!』

 

その名を聞き、幹部達にも緊張が走る。

 

「(クレーリア・ベリアル…?)」

 

唯一わからない雅紀は再び首を傾げる。

 

「何故、今になってあのことを!」

 

「初代大王が、話したそうじゃ。そして、それに付随した智鶴の、両親のことも儂が話した」

 

幹部の一人が激昂する中、組長が真実を智鶴に明かしたことを言う。

 

「お、お嬢…!」

 

「これは、その…!」

 

「俺達は…!」

 

そして、数名の幹部は取り繕うように智鶴に弁解しようとするが…

 

「いいんです。今は…真相が知れただけでも…」

 

智鶴は智鶴で懸命に堪えていた。

 

「お、お嬢…」

 

「智鶴さん…」

 

幹部と雅紀はそんな智鶴を見てなんと声を掛けたものかと悩む。

 

「そこでじゃ…奴は、智鶴を娶ると言い、そして組の全権を譲るように言ってきおった」

 

そんな重たい空気の中でも組長は言葉を続ける。

 

「なんて大それたことを…!」

 

「いや、しかし…頭に真っ向から言葉を向けるとは…」

 

忍の行いを幹部達はそれぞれの見解を示していた。

 

「いずれにせよ、後継者は決めなければならん。だったら、儂は奴の眼を信じようと思う。覚悟を持った、あの眼を…」

 

クリスマス前の出来事で見た忍の眼を思い出すように組長は言葉を漏らす。

 

『…………………』

 

幹部達がその言葉で静まる中…

 

「その後継者様は何処にいるんです? この場にはいないじゃないですか?」

 

雅紀が声を発する。

 

「いない人間を後継者に、というのは現実的じゃありませんね」

 

この場にいない忍を…いや、遠回しに組長を非難するかのような物言いである。

 

「雅紀! テメェは黙ってろ!」

 

その尊大な態度に父親である幹部・明智が怒鳴る。

 

「嫌だね。こればかりは俺も譲れない。あんなどこの骨ともわからん奴に組の未来を預けるなんて…正気とは思えませんよ」

 

「なっ!?」

 

雅紀の言葉に誰もが驚く。

 

「テメェ、何様のつもりだ!?」

「明智の倅だからって容赦しねぇぞ!!」

「今すぐに頭に詫び入れろや!!」

 

雅紀に対して集中砲火である。

 

「うるさいよ。アリエス、邪魔者を閉じ込めろ」

 

『あいよ。キュービック、発動』

 

キィンッ!!

 

その瞬間、幹部達は立方体型の結界に囚われてしまう。

 

「------!!」

 

しかも結界内部からの声は聞こえない。

 

「これで少しは静かになるな。さて、組長」

 

雅紀はアリエスを従え、組長の前まで歩み寄る。

 

「雅紀君! それ以上、お祖父様に近付かないで!」

 

その雅紀の前に智鶴が立ちはだかる。

 

「未来のフィアンセにその態度はないでしょう?」

 

「何を、言ってるの…?」

 

雅紀の言葉の意味が分からず、智鶴も困惑する。

 

「組長。あいつが智鶴さんを娶るだって? 冗談はやめてくださいよ。智鶴さんは俺と結ばれるべきだ!」

 

そう言う雅紀の眼は狂気を孕んでおり、危険な色をしていた。

 

「…………………」

 

「ま、雅紀君…?」

 

組長は静かに雅紀の眼を見、智鶴は困惑の色を濃くしていた。

 

「だってそうでしょう? あいつは部外者だ! ただただ智鶴さんに気に入られただけの部外者に過ぎない! その点で言えば、俺は智鶴さんと同い年で組の関係者だ! あんな奴よりも俺の方がよっぽど彼女に相応しい!!」

 

狂気に支配された雅紀は忍よりも自分が智鶴に相応しいと言う。

 

「しぃ君のことを悪く言わないで! どうしたの、雅紀君? 今のあなた、おかしいわよ?」

 

普通じゃない様子の雅紀を心配するものの…

 

「しぃ君? 結局はあいつが優先ですか。ですが、俺は事実を言ったまで! 本来ならあいつがここにいること自体おかしいんですよ!!」

 

「っ!?」

 

「元側近の狼牙、でしたっけ? あいつが勝手にいなくなって置いていった孤児でしょうが! それを明幸が保護して育ててやっただけでしょう!? それなのに、組の未来を担う後継者? 思い上がりも甚だしい!!」

 

雅紀の言葉はある意味で正しいのかもしれない。

 

忍は…組長の側近として付いていたものの、流れ者であることには変わりない狼牙の息子で、組には本来関係ない出自の人物だ。

しかも狼牙と雪音が他の幹部によって別次元に跳ばされた際に難を逃れた…孤児である。

理由はどうあれ、それを明幸が保護して今まで育ててきた。

 

見方によれば雅紀のような考えを持つのも仕方のないことかもしれない。

 

「ふむ…一理あるのぉ」

 

冷静な組長は雅紀の話を聞き、そう漏らす。

 

「お祖父様!?」

 

「流石は組長。慧眼でいらっしゃる」

 

その言葉に智鶴は驚き、雅紀は笑みを浮かべる。

 

「智鶴。明智の倅が言うように、奴は本来ならこの家を出てもおかしくはない人間じゃぞ? それを繋ぎ止めているのは…お前じゃ」

 

「それは…ですが!」

 

「お前が突き放せば、奴もここにいる理由は無くなる。それに奴には他にも女がおるのじゃろう? 何を心配することがある?」

 

「うぅ…」

 

祖父の言葉に何も言い返せない智鶴。

 

「では、組長。あなたの後継者には自分を…」

 

雅紀がダメ押しとばかりに自分を推挙すると…

 

「それはならん」

 

組長は一蹴していた。

 

「なっ…!?」

 

「お主の眼の狂気…それはいずれ組を終わらせる危険なものじゃ。そのような奴を後継者に選ぶほど儂も耄碌したつもりはない…!」

 

そう言って雅紀に鋭い眼光を向ける組長。

 

「ぐっ…!」

 

それに怯んで一歩だけ下がった時だった。

 

キィィンッ!!!

 

組長と雅紀の間…いや、もっと正確に言うなら智鶴の目の前に見たことのない魔法陣が突然現れる。

 

「な、なんだ!?」

 

「これは…?」

 

「むぅ…?」

 

三者三様の反応を示していると、魔法陣から徐々に物体が浮かび上がっていき、次第にそれは人の形を成していく。

その数は…五つ。

そう…時渡りを行った人数と同じである。

 

パァンッ!!

 

そして、魔法陣から放たれる光が一際強く弾けた時…

 

「ぁ…」

 

智鶴はその人影を見て涙を零す。

 

魔法陣の光が消えると、そこには…

 

「…………………」

 

神妙な面持ちをした…忍が立っていた。

 

「しぃく…」

 

智鶴が抱き着こうとしたが…

 

スパンッ!!!

 

それよりも早く忍を叩く者がいた。

 

「え…?」

 

それに驚き、智鶴も動きを止める。

 

「今すぐあたしを鬼神界に帰せ! お祖父ちゃんや武天十鬼を…皆を助けに行かせろッ!!!」

 

忍の胸倉を両手で持ち上げ、正に鬼気迫る表情で涙をボロボロと流しながら訴える桃鬼である。

 

「それは…出来ない。俺にも男同士の約束がある」

 

「っ……ふざけんなぁっ!!!」

 

ズゴンッ!!

バコンッ!!

 

忍の言葉に激昂した桃鬼は右手を離し、拳を作って忍の顔を殴り続ける。

 

「この恩知らず!! なんで…なんで皆を助けに行かないんだよ!! なんで…なんでぇッ!!!」

 

「…………………」

 

「なんとか言いやがれぇぇぇぇ!!!」

 

妖力の籠った最大の一撃を忍に与えようとした時…

 

「……桃鬼さん! もうやめて!」

 

「…………………」

 

領明とシンシアの2人掛かりで桃鬼の右腕にしがみついて動きを止める。

 

「邪魔するな!!」

 

2人を振りほどこうと力を込めようとしたが…

 

「……忍さんだって、本当は辛いんです! 感情を押し殺して…桃鬼さんの怒りを受け止めてるんです!」

 

「それがなんだってんだ! こいつは恩を仇で返すような…!!」

 

「……違うんです…忍さんだって、恩師を目の前で失って本当は悲しいはずなんです。悔しいはずなんです…だって、忍さんの手…」

 

「手? 手がなん………っ!!?」

 

見ると、忍の右手からは(おびただ)しい量の血が流れていた。

握った拳の爪が手に深く食い込み、とめどなく血を流していたのだ。

 

「あ、アンタ…」

 

「…………………」

 

震える声を漏らす桃鬼に忍は何も答えず、周りを見渡す。

 

「総会の途中でしたか…当主、このような様で申し訳ありません。紅神 忍。ただいま帰還しました」

 

状況を把握したのか、神妙な面持ちから柔らかな笑みを浮かべると、忍は組長に謝罪と帰還の報告をしていた。

 

「う、うむ…よく戻った…(聖夜前に来た時よりも雰囲気がガラリと変わっておる。また、成長してきおったか…)」

 

その忍を見て組長もどこか可笑しそうに笑みを浮かべていた。

 

「智鶴。ただいま」

 

そして、忍は最愛の人に帰ってきたことを伝える。

 

「しぃ、君…」

 

智鶴はよろよろと忍に近寄り…

 

「お帰り、なさい…」

 

涙を流しながらも笑みを浮かべて忍の帰還を喜んだ。

 

「それで…この状況は? なんで、雅紀さんが牡羊座を持ってこの場に?」

 

「それはこっちの台詞だよ! どうしてこんなに血を流して……何があったの?」

 

それは…とてもじゃないが、一晩では話せる内容ではなかった。

 

『へぇ…スコルピアだけじゃなく、キャンサーにアクエリアス、ピスケスまでいるとはな』

 

『アリエス! 君も近くにいたのか!?』

 

アリエスの存在に驚くアクエリアス。

 

「貴様さえ…貴様さえ、いなければ…!!」

 

雅紀の怨嗟の声は忍の耳にも届く。

 

「場が混沌としてきた。明智の倅よ、今日の総会はこれまでじゃ。さっさと皆を解放せよ」

 

「は、い……ッ!」

 

組長の言葉に従いつつも雅紀は忍を睨んでいた。

 

 

 

こうして年末の総会は幕を閉じてしまった。

 

話の続きは翌日、年が明けてから改めて行うことになった。

そこで何が起きるのかは…誰にも予想が出来ないだろう。



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第百十話『新たな道を…』

大晦日の夜に行われた明幸組の総会。

しかし、事態は思わぬ方向へと流れていく。

 

明幸組の幹部の一人、明智の一人息子『明智 雅紀』が牡羊座のエクセンシェダーデバイス『キュービクル・アリエス』を持って総会に乱入。

過去の世界から忍達の帰還。

 

事態が事態だけに大晦日の総会はお開きとなり、翌日の元旦へと持ち越されていた。

 

………

……

 

大晦日の総会が終わり、幹部達も解散した直後。

 

「さて、と…」

 

大広間には智鶴と組長、帰還した忍達が残っていた。

ちなみに雅紀は父親である幹部に首根っこを掴まれて引きずられるようにしてこの場を去っていた。

 

「しぃ君…」

 

心配そうな表情で忍を見つめる智鶴。

それ以上に智鶴はさっきの雅紀の言葉で動揺しているので、今すぐにでも(すが)りたいのだが、忍が想像以上の体験をしてきたのだろうと察して懸命に堪えていた。

 

「智鶴…」

 

そんな様子に気付いたのか、桃鬼の手から抜け出すと忍の方から智鶴を抱き寄せる。

 

「ぁ…」

 

智鶴からしたら、たった六日しか会ってないだけなのに、忍はまた一回り大きくなってきたような…そんな感覚を覚えていた。

 

「無理はしないでほしい…君は、俺の大切な人なんだから…」

 

「しぃ君……しぃ君…!」

 

ポロポロと涙を流しながら智鶴も忍の胸に顔を埋める。

 

「帰って、これたんだな…」

 

忍はその実感がやっと持てたようだった。

 

「まったく…保護者の前で堂々と…」

 

組長は何とも変な気分だったという。

 

「ふぅ…儂はもう休む。小僧、明日その身に何があったか説明せよ」

 

「はい、わかっています」

 

「うむ」

 

そう言い残して組長も大広間から姿を消す。

残ったのは忍達だけとなった。

 

「………ッ!」

 

桃鬼はこのやり切れない気持ちをどこにぶつければいいのか、わからなかった。

 

「……氷鬼さん…水鬼さん…」

 

領明もまたお世話になっていた氷鬼や水鬼の死にどう反応していいのか、わからなかった。

 

「…………………」

 

シンシアもまた…一時とは言え、親しくなった人達との別れをどう受け止めていいのか、わからずにいた。

 

「して、主よ。ここが未来なのか?」

 

そんな中、七海が忍に尋ねる。

 

「未来…?」

 

智鶴が七海の言葉に疑問符を浮かべていると…

 

「あぁ、そうだ。俺や領明、シンシアが過ごしてきた…未来の地球、人間界だ」

 

忍は七海の問いにそう答えていた。

 

「待って、しぃ君。何のお話をしてるの? それにこの娘達って…」

 

『……キャンサーとピスケスとは、敵対してたはず…』

 

智鶴が堪らず会話に割り込み、スコルピアもまた警戒の色を濃くしていた。

 

「それと…そっちの2人は、誰なの?」

 

智鶴の視線が桃鬼と七海を捉える。

 

「……眷属の皆は集まってるか?」

 

一拍置いてから忍は智鶴に尋ねる。

 

「え? えぇ…一応、居間の方に皆いるよ。雲雀さんや緋鞠ちゃんも一緒にいてもらってるけど…」

 

「そうか。なら、そこで話すよ。少し…長くなるけど…」

 

そう言って忍は懐かしい匂いを感じながら皆がいる居間へと歩き出す。

 

………

……

 

そして、忍が居間へと入ると…

 

『忍(君)(さん)(様)!?』

 

忍の登場に誰もが驚いていた。

 

「皆、"久し振り"だな」

 

忍の何気ない一言に…

 

「久し振りって…忍君がいなくなってまだ一週間も経ってないよ?」

 

「大体、約六日くらいかしらね?」

 

フェイトと暗七がそのように言う。

 

「六日、か。こっちではそれだけしか経ってなかったのか…」

 

それはまるで、自分達はそれ以上の日数を過ごしてきたかのような言い方だった。

 

「? 忍様? それは一体どういう…?」

 

エルメスが忍の言葉を問おうとした時、居間の入り口から領明とシンシアが姿を現す。

 

「お前らは…!」

 

「なんで、ここに…!」

 

クリスと朝陽がそれぞれイチイバルとセイバーを起動させようとしたが…

 

「いいんだ。彼女達はもう敵じゃない…」

 

その間に割り込むように忍が立ち塞がる。

 

「はぁ!? お前、正気かよ!!」

 

「アンタの命を狙ってた奴等よ? それでも引かない気?」

 

クリスは言葉は強めだが、イチイバルを展開するのを躊躇した。

しかし、朝陽は一切の躊躇を見せずにセイバーを起動させ、その切っ先を忍の喉元に向けていた。

 

「あぁ…それでも、だ…」

 

そう言って朝陽の眼を見る忍。

その眼には…反論は許さない、という強い意志が宿っているようだった。

 

「……っ」

 

その眼を見て朝陽も珍しく怯んで剣先を鈍らせる。

 

「(あの朝陽さんが…)」

 

「(剣先を鈍らせた…?)」

 

その様子を見ていた他の眷属達も驚いていた。

 

朝陽はこの眷属の中でも結構強い部類に入り、意志も強くちょっとやそっとじゃ揺らがない。

それなのに、忍は視線だけで朝陽の剣先を鈍らせたのだ。

彼女達からしたら、この短期間に何が起きたのか、詳しく聞きたいところであったが、それとは別にやはり領明とシンシアにはあまりいい感情が持てなかった。

どちらも忍の命を狙った…いや、シンシアは今も狙ってるかもしれないというのに、いい感情を持てるはずがなかった。

 

そのことを忍も承知してるのか…

 

「皆の心配もわかる。だが、ここは俺を信じてくれないか? これでも領明やシンシア達とは"一月以上、一緒に暮らしてきた"からな」

 

そう言ってこの場を収束させようとするも…

 

「「「一月以上!?」」」

 

良識あるシアを始めとしたフェイトやエルメスが驚きの声を上げる。

 

しかし…

 

「一緒に暮らしただぁ!!?」

「どういうことさ!?」

「なんて、羨まし…じゃなくて、破廉恥な…!」

 

むしろ、後半の"一緒に暮らしていた"発言に食いつく眷属の方が多かった。

 

「あ、あれ?」

 

「私達、間違ってたかな?」

 

「ど、どうなのでしょう…?」

 

他の眷属の反応を見て若干自分達がおかしいのではと思い始める3人だった。

 

「ま、間違、って…ない、と…思い、ます…」

 

そんな3人を同じく良識的な方の萌莉がフォローする。

 

「つまり、私達にとって六日でも、あなた方にとっては一月以上の時が流れていたと?」

 

それに見かねて生真面目を地で行く雲雀が会話の流れを強引に持っていこうとした。

 

「えぇ、そうです。しかも、俺達は…過去の世界に飛ばされましたから…」

 

雲雀の問いに忍は答えつつも、その事実を伝える。

 

「過去の世界ぃ!?」

 

緋鞠が素っ頓狂な声を上げる。

 

「あぁ…遥かな過去…『鬼神界』と呼ばれる人間界に隣接した次元世界に、俺達は飛ばされたんだ」

 

「鬼神界…聞かない世界ですね」

 

雲雀を始めとした次元世界にそれとなく知識を持つ者は皆一様に首を傾げていた。

 

「鬼神界は…俺達があの世界を発った後に、絶魔によって滅ぼされたからな…」

 

ギリッという歯軋りの音をさせながら忍は答えていた。

眷属の前だからか、その表情は悔しさに満ちており、再び右手を強く握り締めて血を流していた。

 

「っ!? 忍様、血が…」

 

エルメスが忍の手を手当てしようとするが…

 

「俺は…そこで出来た恩師を、親しくなった人達を…見殺しにしてきたんだ…!!」

 

今まで抑えてきた感情を吐露する。

 

「未来の知識を持つ者が過去に干渉したら未来が分岐し、帰ってこれなくなる可能性もあった。理屈ではわかってる。だが、俺は…本当は見殺しに何かしたくなかった!!!」

 

「っ!?」

 

そんな忍の声を聞き、居間の入り口の方から息を呑む人の気配がする。

 

「本当ならあの場に駆け付けたかった! 男同士の約束を蹴ってでも! だが、それでは俺達は…帰ってこれなかった可能性だってあるのはわかってた!! それでも、俺は…皇鬼さんとの約束を優先したんだ!! 感情を殺して、どんなに辛くても、あの人達の覚悟を見届けて…!!!」

 

ボロボロと大粒の涙を流しながら忍はその場で膝を着いてしまう。

 

『…………………』

 

忍がここまで感情を露にするのが珍しく、そして今まで見たこともなかった姿に眷属の誰もが押し黙ってしまう。

 

「くっ…ぅぅっ…!!」

 

居間の入り口の方でも何やら泣き声が聞こえてきた。

 

………

……

 

「…………………」

 

ひとしきり涙を流した後…

 

「すまないな。みっともない姿を曝して…」

 

そう言って忍はいつもの様子に戻っていた。

 

「そういえば…忍君。なんで、そんなに刀を持ってるの…?」

 

「あと、結構髪が伸びてるよね」

 

「それに…力の流れも洗練されてるような…?」

 

眷属達は今の忍の姿や雰囲気を観察し、それぞれ思ったことを口にしていた。

 

「あと、そっちの気配…2人かしら? その正体も教えてちょうだい」

 

居間の入り口の方で姿がちょうど見えない位置にいるのもあり、気配だけで察知した朝陽が2人の正体を知りたがる。

 

「あぁ、それも含めて今から説明する。桃鬼、七海もこっちに来てくれ」

 

「「…………………」」

 

忍に言われるまま目元を少し腫らした桃鬼と、周りの景色が物珍しいらしい七海が居間に入ってくる。

 

「また女かよ!!」

 

その姿にクリスが叫ぶが…

 

「角?」

 

ラトが桃鬼の頭に生えた角に気付き…

 

「それにこの波動…そちらは龍種、かしらね?」

 

カーネリアも七海から発せられる龍気を感じ取っていた。

 

「じゃあ、改めて紹介する」

 

忍は眷属の前で領明達の紹介することにした。

 

「まずは…紫牙 領明。俺の、"父方の従姉妹"だ」

 

「………………」

 

領明は居心地が悪そうでも忍の隣に移動してお辞儀する。

 

「父方の従姉妹…」

 

「領明は…邪狼時代の狼夜伯父さんが…あの魔女、翠蓮さんの無理矢理犯して生まれた子なんだ」

 

『なっ…』

 

その言葉にその場の女性陣(しかいないが)は言葉を失う。

 

「あの戦争屋…そんなことまでしてたの!?」

 

「……最低」

 

そして、眷属達から嫌悪感が溢れ出る。

 

「その、翠蓮さんという方は…?」

 

帰還した中に翠蓮の姿がなかったことに気付いたフェイトが尋ねる。

 

「過去の世界で…亡くなったよ。遺体は骨ごと俺が遺灰に変えて領明に託した」

 

「そう、なんだ…」

 

それを聞き、場の空気が重くなる。

 

「だからと言って、邪狼のやったことは許されないよ!」

 

「そうですね。女性の尊厳を踏みにじったその行為は許容出来るものではありません」

 

そんな中、ラトとラピスが未だ嫌悪感バリバリと放ちながら言葉を発する。

 

「だが、伯母さん…翠蓮さんは最期には伯父さんのことを想って逝ったんだ。死後の世界で会えることを…願いながら…」

 

「し、信じられねぇ…」

 

その言葉にクリスが目を丸くして疑う。

 

「だからこそ…俺はあの2人が会えるように、遺灰を同じところに埋葬してやりたいと思ってる」

 

忍の部屋にある狼夜の遺灰と、領明が持っている翠蓮の遺灰を同じ場所へと埋葬することを忍は決めていた。

 

「それは…」

 

眷属達がお互いの顔を見合わせていると…

 

「王が決めたことだし、別にいいんじゃないの?」

 

珍しくカーネリアが忍の意見を後押しする。

 

「カーネリアさん…」

 

「アンタが忍の言葉を肯定するなんて珍しい」

 

フェイトと暗七がカーネリアの発言に驚く。

 

「そうかしら?」

 

飄々としながらもその視線は忍に注がれていた。

 

「次は…桃鬼。俺達が飛ばされた鬼神界…その皇であった皇鬼さんの、孫娘だ」

 

「ふんっ…」

 

忍の紹介に対して桃鬼はそっぽを向くだけだった。

 

「彼女は絶魔に両親を殺されててな。そのせいか、復讐に染まっていたのを俺が見かねて力で捩じ伏せた。その後に改心したかはともかくとして…」

 

「うるさい。アンタの勝手なお節介でしょうが…」

 

そっぽを向いたまま桃鬼が棘のある言葉を投げつける。

 

「その、スメラギさんって…?」

 

ラトが挙手して尋ねる。

 

「皇鬼さん…俺の鬼神界での恩師だ。覇王でもあり賢王でもあった。本当に破天荒な人だったが、その実力は…おそらく神にも匹敵しただろうな…」

 

忍の言葉に…

 

「神クラス…!?」

 

「へぇ…」

 

「まさか…」

 

暗七、カーネリア、雲雀が反応する。

 

「だが、実際は…絶魔の神に重傷を負わされていた。だが、あの後…あの人は最後の最期まで抵抗を続けたんだと思う。それが…あの人なりの意地の通し方だろうからな…一矢報いずに死んでなどいないさ」

 

「当たり前じゃない! お祖父ちゃんは…あたしの自慢の…鬼神界の誇る最強の皇なんだから…!」

 

忍の言葉に桃鬼は…涙ながらに肯定する。

 

「その最強でも絶魔の神は倒せなかった。それが事実なのでしょう?」

 

しかし、冷静な雲雀からの一言に…

 

「えぇ、残念ながらそれが事実です。だからこそ、俺達は未来に逃げてきた、とも言えますが…」

 

「くっ…」

 

忍は雲雀の一言に怒るでもなく冷静に事実を受け止めていた。

桃鬼の方は悔しさからか、歯を食いしばってしまったが…。

 

「ですが、鬼神界での一月以上の生活は全く無意味ではなかった。そう感じています」

 

「………………」

 

雲雀に忍のその言葉を否定する材料は持ち得なかった。

何よりも…今の忍から感じる力強い波動…それが忍の言葉を物語っているようにも感じたから、雲雀もそれ以上のことは言わなかった。

 

「次に、七海だ」

 

「七煌龍が化身。主から頂いた名を七海という。以後よろしく頼む」

 

領明と桃鬼とは違い、堂々とした名乗りを挙げる。

 

「七煌龍…?」

 

今度は暗七が首を傾げる。

 

「俺達が飛ばされた鬼神界よりも過去に存在していた7体の龍のことを指す。簡単に言えば、龍同士の同盟みたいなもんだな。鬼神界の時点では既に肉体は滅び、魂の欠片が結晶体となって遺ってたくらいだったんだが……七つの欠片が一つになったことで顕現したのが七海なんだ」

 

忍が七煌龍と七海について簡潔に説明する。

 

「うむ。残留思念であった我等七煌龍の総意により、今は主の力となることを決めている」

 

「まぁ、感覚としては眷属というよりも使い魔に近いけどな…」

 

そう言って忍は最後に紹介する人間を見る。

 

「…………………」

 

そこには相変わらず無表情のシンシアが立っていた。

 

「ありがとな。逃げないでくれて」

 

忍はシンシアが逃げなかったことに感謝していた。

 

「………………ぁ…」

 

お礼を言われ、どう返していいのかわからずにいたが…

 

「…………………別に…」

 

それだけ言葉を発していた。

 

「最後に、魚座の暗殺者こと、シンシアだ。ま、名前以外、俺もわかってないんだが…」

 

忍がそう言ってシンシアを紹介すると…

 

「………………シンシア…"ルミナス"…」

 

シンシアがおもむろに口を開き、その単語を発する。

 

「え…?」

 

領明も驚いたようにシンシアを見る。

 

「……それが、フルネーム…なのか?」

 

それは忍も同様だったようで、そう聞き返していた。

 

「………………ん…」

 

シンシアはそれにこくりと小さく頷く。

 

「そうか。『シンシア・ルミナス』…良い名前じゃないか」

 

「………………ありがと…」

 

暗殺者として名前を明かすことなく、身近な存在もいなかったために名前を褒められたことなんてなかったシンシアだったが、お礼の言葉は出てきた。

 

「領明と桃鬼は伯母さんや皇鬼さんとの約束もあるから保護することにしてるんだが…シンシアは、どうしたい?」

 

シンシアの今の気持ちを知りたくて、忍は少し意地悪な質問をする。

 

「………………私は…」

 

そのシンシアの心も少し揺れていた。

 

この一月以上の鬼神界での生活で、忍との力量差がついてしまったと判断している。

それは暗殺に成功する確率が低くなるのを意味する。

そして、何よりもシンシア自身にそんな自覚はなくとも、今の…忍や領明と共にいる生活を心のどこか居心地が良いと感じ始めていることだ。

暗殺者として感情を殺して生きてきた彼女にとって、これはある種の致命的な心の揺れとも言える。

 

「………………私は…」

 

そうやって思い悩むシンシアの心の揺れを知ったのか、忍は…

 

「なら…明日の総会が終わるまでに決めてくれて構わない。逃げてもいいし、残ってもいい。その間、シンシアは客人として扱う。領明の、大切な友人だしな…」

 

忍はそんな決断を下していた。

 

「いいのかよ! こいつ、またお前を狙うかもしれないんだぞ!?」

 

「そうだよ! シノブが危険な目に遭うのは反対!」

 

「……流石に不用心…」

 

クリス、ラト、シルフィーが眷属の総意を代弁するかのように反対する。

 

その懸念は正しい。

忍はシンシアに対し、今の心境ではアクションを起こせないと鬼神界で告げている。

それに付け込み、シンシアが懐まで入り込んでその刃を突き立てるなら…忍と言えど危ないことには変わりはない。

 

しかし…

 

「いいんだ。それはシンシアが決めることだからな」

 

今の忍には"きっと大丈夫だ"という確信があった。

 

「(鬼神界とやらで過ごした一件で坊やは…更なる成長をしたのね。それが言動の節々から見て取れる…そして、それは…)」

 

忍の言動を観察し、カーネリアは忍の在り方を見極めていた。

 

「流石に質問攻めは疲れるな。明日のこともあるし、俺は休ませてもらうよ。智鶴、4人に空き部屋を手配してくれないかな?」

 

「え…えぇ、わかったわ」

 

今の忍の姿を見て直感的に何かを察したのか、智鶴も生返事をしていた。

 

「じゃあ、皆…おやすみ。それと、明けましておめでとう」

 

時計を見れば既に大晦日は過ぎ、新たな年へと移行していた。

 

………

……

 

元旦。

 

オカ研メンバーは伏見稲荷大社へと初詣へと出掛けていた。

 

アザゼルはトップ会談とかで席を外しているが、場は混沌と化しているそうだ。

 

そして、午前中から明幸の屋敷の大広間では昨夜の総会の続きが行われていた。

今度は忍や雅紀も最初から参加している。

そこで忍は自らの身に起きたことと、今は滅びて名前も残らなかった過去の鬼神界での出来事を話した。

それと同時に絶魔の危険性も…。

 

「……以上が、俺の身に起きた出来事と、絶魔を危険視する理由です」

 

その堂々とした発言の仕方に幹部達は…

 

「(まさか、ここまで化けているとは…)」

「(あの気弱な小僧が…信じられん…)」

 

忍の変貌ぶりに驚いていた。

 

「(紅神ぃ…!!)」

 

忍の態度を見て雅紀が怨嗟の眼差しを送っている。

 

「ふむ…理由はどうあれ、その絶魔とやらは世界を滅ぼすだけの力がある、か…」

 

「はい。実際にその瞬間を見たわけではありませんが、鬼神界という名が人間界から消えてるのがその証かと…」

 

「ふむ…」

 

組長は忍の話を聞き、目を細める。

 

「時に…紅神と明智の倅達よ」

 

「はい」

 

「は、はい」

 

組長は忍と雅紀に…

 

「お主達は、この組をどう発展させていくつもりじゃ?」

 

そのような問いを掛ける。

 

「それは、今まで通りこの地域に密着しつつも人々との関係を維持していく感じですか?」

 

そんな質問を質問で返すような感じの雅紀に対し…

 

「人だけではなく他種族との交流にも重きを置き、表事情や裏事情を逐一把握。その上で良好な関係を築きます。それが叶わなかった場合は、武力を用いた対話を提案させてもらいます」

 

忍はそのような解答をしていた。

 

『ッ!!?』

 

忍の迷いなき答えに幹部達はまたも驚く。

 

「ほぉ、武力を用いた対話、か…」

 

「えぇ。言語だけが対話の道ではありません。力でものを言う輩も少なからずいます。それを武力を以って対話という枠に収めます」

 

「馬鹿か! 負けたらどうする気だ?!」

 

忍の言葉にカッとなった幹部の一人がそう言うと…

 

「負けなければいいんですよ。もちろん、勝つ必要もありませんけど…」

 

そう返していた。

 

「負けることなく、相手に俺達の力を認めさせ、矛を引かせる。それも負けたことにはなりません。勝てば、それはそれで遺恨が残りますしね」

 

「しかし、相手が勝敗に拘ってきたらどうする?」

 

「その時は勝たせてもらいます。勝ちを譲るなんて失礼なことはしませんよ。まぁ、全力を出して負けたら…そこは諦めてください」

 

そんなことを平然と言ってのける忍に…

 

「ククク…」

 

組長は可笑しそうに笑いだす。

 

「か、頭…?」

 

幹部の一人が組長に声を掛ける。

 

「いや、あの小僧がそこまで考えているとは思わなんでな……つい、笑ってしまったわい」

 

そう言ってから…

 

「紅神の倅よ」

 

忍を呼ぶ。

 

「はい」

 

忍も姿勢を正して組長に向き直る。

 

「お前は…孫を幸せに出来るか?」

 

「します。いえ、してみせます」

 

その問いに忍はハッキリと答える。

 

「………………」

 

「………………」

 

その答えを聞き、組長は忍の眼を見る。

忍もまた眼を逸らさない。

 

「………いいじゃろう。孫のことはお前に任せ、組の未来も預ける」

 

「では…」

 

「うむ。これより紅神 忍を儂の後継者…次期当主として迎え入れよう」

 

組長の言葉にザワザワと幹部達も驚く中…

 

「ありがとうございます」

 

深々と頭を下げる忍の姿があった。

 

「………………ッッ!!」

 

一方の雅紀は狂気を孕んだ怨嗟の眼差しを忍に送っていた。

不満そうではあるが、流石に組長の決定が下った後に騒ぐほど愚かではないようだ。

しかし、この狂気は危険である。

その視線に気付きつつ忍もその警戒度を引き上げるのだった。

 

………

……

 

そうして総会は程なくして終わり、新年の挨拶と共に幹部達は帰路へと着く。

その中には当然、雅紀もいたが…挨拶をしただけで即刻帰ってしまった。

本人は無自覚だろうが、憎悪のオーラをその身に宿して…。

総会が終わった後、組長もまた離れに戻っていった。

 

屋敷に残った忍と智鶴は眷属達の元へと行き、忍が正式に明幸組の次期当主になったことを話した。

 

「そういうわけで無事、後継者の座につくことが出来た」

 

そう言う忍だったが…

 

『…………………』

 

眷属達の反応は…嬉しさ半分、複雑半分といった面持ちだった。

 

「(まぁ、そうなるよな…)」

 

忍も何となくわかっていた反応だった。

 

これは実質、智鶴とくっついた宣言にも等しい。

忍も眷属の皆が少なからず自分を慕ってきてるのを知ってるし、それにも出来るだけ応えようとしてきた。

しかし、此度の件…明幸組の次期当主の座についたことで智鶴との関係が明確化してしまった。

その明確化した関係を…今度は眷属達にもしなくてはならないのだ。

 

「(とは言え…どうしたものかな…)」

 

序列を付けるなんてことはしたくない忍は盛大に悩んでいた。

 

すると…

 

「…………………」

 

黒いローブを纏ったシンシアが姿を現す。

 

「逃げなかったのか?」

 

それを見て忍が尋ねると…

 

「………………依頼放棄…と、見なされたみたい…」

 

そう答えていた。

 

要するに、シンシアの腕は確かで今まで仕事も早かったのが災いしたのか、時間を掛け過ぎた(と思われたらしい)ために依頼放棄と見なされて、忍への暗殺依頼が白紙になったらしい。

それを今朝方、依頼主に確認をしたところによるとそういうことになっていたらしい。

 

「そうか。ならちょうどいいかもな」

 

「?」

 

忍の言葉に首を傾げるシンシアに…

 

「これをお前に託す」

 

そう言って取り出したのは……眷属の絵札『暗殺者』だった。

 

「それと、雲雀さんと緋鞠にも…」

 

さらに雲雀には『剣の騎士』、緋鞠には『弓の騎士』の絵札をそれぞれ渡していた。

 

「領明にはこれだ」

 

そして、眷属に混じってた領明にも『魔術師』の絵札を渡していた。

 

「おいおい…敵だった奴を眷属にする気かよ?!」

 

クリスの批判的な言葉に…

 

「そのつもりだ。絵札の効果が未だわからない状況だが、戦力の補強はしておきたい。何より…彼女達もまた守りたい対象なんでね」

 

忍はそう返していた。

 

「見くびらないでください。私にそのようなものは必要ありません」

 

だが、雲雀は渡された絵札を忍に押し返そうとするが…

 

「この先、何があるかわかりません。少しでも地力を上げるためというだけでも持っててください」

 

忍は逆にそう言って雲雀に渡したままにする。

 

「地力を上げる?」

 

「えぇ…少なくとも眷属の駒でも悪魔の駒と同じ効果があるんです。その絵札をきっと持ってても損はありませんよ?」

 

「………………」

 

それを聞き、少しだけ考える雲雀は…

 

「騙されたと思って持っていますが…逆に私が誰かに渡すことになっても知りませんよ?」

 

そう言って絵札を懐に仕舞う。

 

「雲雀さんがそんなことをしないって信じてますから」

 

「………ふんっ」

 

雲雀は鼻を鳴らして壁に寄り掛かる。

 

「緋鞠、領明、シンシアはどうだ?」

 

視線を雲雀から残りの3人に向ける。

 

「あ、あたしは……まぁ、別に眷属になってもいいけど…」

 

「……私も、これからは忍さんについていくと決めてますから…」

 

「………………眷属になったとして…何があるの?」

 

緋鞠と領明は承諾気味だが、シンシアが質問してくる。

 

「そうだな。もう依頼は受けられなくなるが、代わり毎日領明と一緒にいられるぞ。あと、生活費もお小遣いとして払ってもいいし…ただ、眷属として戦闘にさんかしてもらわないといけないが…」

 

シンシアの問いにそう答えると…

 

「…………………」

 

しばし考え込む仕草をしてから…

 

「…………………ん…」

 

軽く頷いていた。

 

「そうか。ありがとう」

 

それを肯定と取った忍がお礼を言うと…

 

トクン…(×3)

 

それぞれの絵札が持ち主の中へと入り込んでいった。

しかし、絵札を受け取った3人はオルタのように昏睡状態には至らなかった。

やはり、オルタが特別な存在だからなのだろうか…?

 

 

こうして忍は新たな立場と眷属を得た。

牡羊座もこのまま静観したままではないのは総会でも感じたところ。

また、忍はまだ知らないが牡牛座も動き出している。

クリフォトや絶魔もまた水面下で何かを企んでるかもしれない。

そして、教会の戦士達の不穏な動き…。

 

これから何が起こるのかは…まだ、誰にもわからない。



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16.生徒会選挙のデュランダル
第百十一話『新たな決意と共に~鬼vs白龍皇~』


年末年始も明け、駒王学園は三学期の始業式を迎えていた。

 

始業式とホームルームを終え、イッセー達は新生したオカルト研究部へと向かう。

 

一方の忍はと言えば…

 

『ふぅ…』

 

帰宅部らしく、早々に居候先である明幸の屋敷に戻ったかと思えば、狼の姿となって縁側に寝ていた。

 

『(こうして一年が過ぎて…俺の周りの環境は変わった。いや、"変わり過ぎた"、か…)』

 

そう考え、その切っ掛けとなった事件を思い返す。

 

『(堕天使レイナーレ…彼女がイッセー君を殺したのが切っ掛けとなり、イッセー君は悪魔へと転生し、俺も内に眠っていた狼の血に目覚めた)』

 

僅か一年前…正確にはまだ数ヵ月前だが…その事件を契機にして忍とイッセーを取り巻く状況は一変していった。

 

『(そう言えば、当時はまだノイズ被害もあったんだっけ…)』

 

最近はもう収束したが、数ヵ月前まではノイズ被害もあり、忍やイッセーも遭遇したこともあった。

 

『(そういや、カーネリアやクリス、フェイト、朝陽とかとはこの頃からの付き合いだったな…)』

 

カーネリアは当時、レイナーレに協力する振りをして暇潰しを探していた。

クリスも当時は敵として響や翼の前に何度か立ちはだかっていた。

朝陽も最初は任務でこちらに来て少し接触しただけだった。

フェイトには助けてもらい、その後は魔法を教わる関係だった。

 

『(その後にも色々あったな…)』

 

思い返せば、去年は本当に色々なことが起きた。

 

『(聖剣騒動と並行したルナ・アタック、禍の団の活発化、眷属の駒、若手同士のレーティングゲーム、フロンティア事変、フィライトでの紛争介入、修学旅行、英雄派との戦い、海斗との再会、異世界留学、俺達とイッセー君達のレーティングゲーム、並行世界での自分との邂逅、家族との再会、クリフォトや絶魔の暗躍、クリスマスの復讐劇、鬼神界での生活…)』

 

去年起きたことを思い出しながら、そこでの出会いに感謝を覚えていた。

 

『(こうして俺を支えてくれる大切な人達とも出会えた…)』

 

それと同時に多くの別れもあった。

 

『(伯父さん…伯母さん…牙狼…桐葉さん…皇鬼さん…武天十鬼の皆…)』

 

狼夜と翠蓮、牙狼とは敵同士だったが、最終的には忍に力や娘達を託して逝った。

 

『(領明とオルタ……そして、真なる狼…)』

 

娘達のことはともかくとして、忍には"真なる狼"という謎がまだ残っていた。

 

『(結局、"真なる狼"ってのも詳細は分からずじまい。今度、親父にも聞いてみるか…)』

 

狼夜の知る以上のことを狼牙が知っているとは限らないが、何も聞かないよりはマシ程度に忍も考えていた。

 

『(そして、この一年でエクセンシェダーデバイスが一気に現れ出した…)』

 

最初は智鶴の持つ蠍座だった。

それを皮切りに忍の水瓶座、グレイスの双子座、ノヴァの山羊座、紅牙の射手座、ユウマの乙女座、シンシアの魚座、領明の蟹座、クライヴの牡牛座、雅紀の牡羊座と10機が出揃っていた。

残る所在不明のエクセンシェダーデバイスは獅子座と天秤座の2機のみ。

 

『(なんだかんだで去年の内に10機も見つかるとはな……しかし、気掛かりなのは牡牛座と牡羊座、か…)』

 

この数日で萌莉の過去に起きた悲劇を聞き、そっと慰めていた。

萌莉にとって因縁の相手が時を経て牡牛座の選定者として現れたのだ。

 

それと同時期に現れた牡羊座の選定者…忍にとっても幼馴染みと言える男はとても危険な目をしていた。

 

『(雅紀さん…)』

 

卒業を控え、自由登校となっている三年生の中に智鶴や雅紀もいる。

 

『(不安がっていても仕方ないか。今、俺に出来ることをしないとな)』

 

次元辺境伯として、明幸組の後継者として…忍にはやるべきことがあった。

 

『(何かしらの特産物…考えないとな)』

 

忍の冥界での領地は冥族が暮らしている土地となっている。

冥界側では冥族に領地を任せている状態で、地球での組の運営は未だ現組長である智鶴の祖父に任せている状態だ。

忍が成人するにはまだしばしの時間がいる。

しかし、忍もただ座してその時を待つだけという訳にはいかないと考えており、何かしら特産物となるようなものを考えていた。

だが、それも難航しているのが現状である。

 

『(う~ん…特産物、特産物……今度、冥界に視察に行かないとなのかな?)』

 

この町は基本リアスの領域なので、あまり目立つようなことは出来ない。

なら、冥界側で特産物を探すしかないのだと判断していた。

 

『(とは言え、特産物なんてどう探せばいいんだろ?)』

 

うむむ、と真面目に悩む忍だが、傍から見ると完全に大型犬が縁側で寝転んでいる姿に見えなくもない。

 

すると…

 

「何をしているんだ、貴様は…?」

 

「? 大型犬?」

 

忍の様子を見に来た紅牙と、同じく帰宅部で忍に相談したいことがある海斗が屋敷を訪ねてきたようで忍の部屋前まで通されていた。

 

『大型犬じゃなく狼だ!』

 

そして、海斗の不用意な一言に忍は寝転がってた姿勢から立ち上がって抗議する。

 

「うおっ?! 喋った!? てか、この声…忍!?」

 

海斗も驚いて飛び退いてしまうが、声が忍のものだったのでさらに驚く。

 

『そういや、海斗にはこの姿とか能力とか開示してなかったな…次元辺境伯って地位だけは開示してたけど…』

 

一応、海斗の保護は次元辺境伯としてのお役目みたいなものだったので、その地位は明かしていたが、忍が戦う姿などは見せていなかったりする。

 

「まったく、この程度で驚くな。というか、紅神…貴様も貴様で情報の開示くらいしておけ」

 

拳を交え、共闘もしてきた紅牙はこのくらいでは驚くことはなく、むしろこの程度で驚く海斗を叱咤し、忍にも情報くらい教えておけと説教じみたことを言う。

 

「うぐっ…」

 

『そりゃ…俺も悪かったが…』

 

海斗は怯んだものの、忍はそんなことを言う紅牙を見上げ…

 

「なんだ?」

 

『いや、紅牙も随分と変わったなって…』

 

「ふんっ…誰のせいだ、愚弟が…」

 

そう言ってそっぽを向く紅牙に忍も苦笑していた。

 

『で、珍しい組み合わせの2人だけど…俺に何か用なのか?』

 

改まって紅牙と海斗に尋ねると…

 

「俺は帰還したという貴様の様子を見に来ただけだ」

 

「俺は…忍に折り入って頼みたいことがあってね」

 

紅牙は忍の様子を見に来たと言い、海斗はそう言っていた。

 

『そうか、気を遣わせて悪かったな。俺なら平気だよ。って、俺に頼み…?』

 

紅牙にそう答えつつも海斗の言葉に首を傾げる。

 

「あぁ。忍に…戦闘術を教えてほしいんだ」

 

『えっ…』

 

「………………」

 

その意外な答えに忍はもちろん、紅牙も海斗の方を見る。

 

「俺はこれから国を取り戻さないとならない可能性もあるんだ。そのために力を身に付ける必要性がある。アルカからも手解きは受けているが、それでも限界はある。特に俺は忍や神宮寺さんみたいに四つの力をこの身に宿している。アルカからじゃ、魔力や気の操作を教われても、霊力や妖力は未開発でね。だから、その辺りを忍に教わろうかなって思ってさ。あと、神宮寺さんからも別の角度から何か助言を貰えると嬉しいんだけど…」

 

そんな海斗の独白に…

 

「俺はついでか…?」

 

『まぁまぁ』

 

少し怒りを覚えた紅牙を忍が宥めつつ…

 

『本当に俺達でいいのか?』

 

海斗にそう尋ね返していた。

 

「あぁ」

 

海斗も即答していた。

 

『なら、善は急げとも言う。俺もまだ新しい能力を完全に把握した訳じゃないからな』

 

そう言うと忍はその身から妖力を迸らせる。

 

「(紅神の新たな能力…!)」

 

その言葉に紅牙は知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。

 

『この能力はあの人の…いや、あの人達が生きた証だ。だからこそ、俺も全力で応えたいと思っている』

 

忍は2人にそう告げていた。

 

「この短期間で更なる成長を遂げたということか」

 

『これが成長かはわからんがな。けど、俺の中で確固たるものが出来たのは違いない事実だ』

 

「そうか」

 

その言葉を聞き、紅牙は忍の中に何かを見出した。

 

『さて…"今はまだ"ここじゃ力を出せないし、イッセー君のとこにお邪魔しようか?』

 

「近場で訓練出来る所が限られてるのがもどかしいな」

 

『まぁな』

 

そう言って忍は縁側から庭に降りる。

 

「………その格好で行く気か?」

 

『あ? あぁ、そうだな…』

 

そんなやり取りをしていると…

 

ピピピ…!

 

自室のネクサスから緊急コールを知らせるアラームが鳴る。

 

『……呼び出しか』

 

間が悪いなぁ、と思いながら忍は自室へと戻ってコール先を確認する。

 

「らしいな。水神、貴様は自室で待機していろ」

 

「…わかりました」

 

すると、自室から人型で駒王学園の制服を着た忍が戻ってきた。

 

「ったく、帰宅部なのにまた学園に呼び出しとか…嫌になるね」

 

「本当に間が悪かったみたいだね」

 

その姿を見て海斗も忍の心情を察した。

 

「あぁ…本当にな」

 

こうして忍は紅牙を連れて転移魔法を使って駒王学園の旧校舎へと向かったのだった。

 

………

……

 

紅神眷属代表の忍と、神宮寺眷属代表の紅牙が駒王学園旧校舎へと向かうと、そこには新体制のオカ研に加え、リアスと朱乃、シトリー眷属、生徒会選挙に向けて話してたゼノヴィアとイリナ、さらにアザゼルが勢揃いしていた。

 

「紅神 忍、並びに神宮寺 紅牙、来ました」

 

「来たな…」

 

『ッ!』

 

忍の登場で揃っていたメンバーが目を見張る。

 

それはそうだろう。

この短期間で更なる成長を遂げてきた忍の今の力の質はこの場の誰よりも高い位置にあるかもしれないのだから…。

イッセーやアザゼル達は始業式で会ってるからあまり驚かないが、会った時の驚きようは皆それぞれだった。

 

「始業式早々で悪いが、あまりよくないニュースだ」

 

その空気を察し、アザゼルが早速本題に移る。

 

それは去年の暮れにも話題に出た教会の戦士によるクーデターである。

首謀者の三名は未だ数多くの戦士と共に逃亡中。

その首謀者とは、司教枢機卿『テオドロ・レグレンツィ』猊下、司祭枢機卿『ヴァスコ・ストラーダ』猊下、助祭枢機卿『エヴァルド・クリスタルディ』猊下。

教会側の上から二、三、四番目に偉い人物が連なってクーデターを起こしたことになる。

その中でもストラーダ猊下とクリスタルディ猊下は元デュランダル使いと元エクスカリバー使いとして名を馳せた怪物とのこと。

 

ストラーダ猊下は御年87歳だが、その肉体は衰え知らずであるという。

さらに四大セラフのA候補にも挙がった程だが、曰く『人の身で死にたい…』と断ったそうだ。

 

クリスタルディ猊下は現役時代、教会が保有していた六本の内三本のエクスカリバーを使っていたという。

 

残るレグレンツィ猊下は最年少で司教枢機卿に抜擢されたこと以外は情報が全くなかった。

 

そして、彼らが目指すのは…『D×D』がいる駒王町。

捕らえた戦士からの情報では、彼らはD×Dとの邂逅を望んでいるらしい。

穏便な話し合いが叶うとは思えないが…。

 

また、不幸中の幸いと言っていいのか、ヴァチカンで起きたクーデターでは怪我人は出たものの、死者は出なかったようだ。

 

アザゼルは最後にクーデター組もそうだが、クリフォトにも警戒を怠らないよう言っていた。

 

そうして緊急報告会は幕を閉じた。

 

………

……

 

その日の深夜。

 

兵藤家地下にある室内プールに集うオカ研メンバー、ヴァーリチーム(ヴァーリ、美猴、アーサー、黒歌、ルフェイ)、デュリオ、シスター・グリゼルダ、『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』幾瀬鳶雄、忍、海斗、紅牙といったD×Dの主力メンバー(と、その関係者)。

 

そこではイッセーとリアスの合体技のお披露目をしていた。

技のお披露目が終わると、プールということもあって一時のブレイクタイムとなる。

 

プールの中で水球で遊ぶ組、イッセーにオイルを塗ってもらう組、何気ない会話する組と分かれていた。

 

その何気ない会話をする組では…

 

「紅神 忍」

 

美猴達と軽い会話をして幾瀬鳶雄さんから何やら注意を受けたヴァーリが忍に話しかける。

 

「ん? なんだよ?」

 

紅牙と海斗と今後の訓練メニューを考えていた忍は振り返って尋ねる。

 

「また新たな能力を身に付けたようだな」

 

「あぁ…まぁな」

 

「その力…今度、味わわせてもらいたいものだ」

 

「模擬戦の申し出ならいつでも受ける。俺も早く力を体に馴染ませたいからな…」

 

「それは嬉しい返答だ。なら、これからやるか?」

 

闘争心に満ちた目を忍に向けながらヴァーリが提案する。

 

「クーデター組やらテロリストのことを考えれば早いに越したことはないか……いいぜ」

 

忍もこれからのことを考え、承諾する。

 

「なら、上で先に待っている」

 

そう言い残し、ヴァーリは地下1階のトレーニングルームへと上がっていく。

 

「という訳で少し白龍皇の相手をしてくる。海斗も戦闘を見に来るか?」

 

紅牙と海斗にそう伝えながら海斗に尋ねる。

 

「あぁ。参考になるかはともかく、見ておいて損はないと思うからね」

 

「いい判断だ。これからの戦い…おそらく想像も出来ないような相手とも戦うことになるだろうからな。模擬戦とは言え、確かに見て損はないカードだ」

 

そう言う紅牙も見に来る気満々のようだ。

 

すると…

 

「ヴァーリの我儘に付き合わせてすまないね」

 

イッセーと話していた幾瀬鳶雄さんが忍達の元にやってきてそんなことを言う。

 

「『刃狗』…」

 

「いえ、俺にとっても渡りに船だったんで気にしないでください」

 

「そう言ってもらえるといいんだけどね」

 

そんな他愛ない会話をしていると…

 

「時に神宮寺君。秀一郎は元気かい?」

 

不意に幾瀬鳶雄さんが紅牙に秀一郎のことを尋ねる。

 

「? 秀一郎を知っているのか?」

 

「あぁ。彼が冥王派に行く前は堕天使側の傭兵として働いていて、4年前の大騒動の時には共に戦場を駆けた仲でね」

 

「4年前…」

 

4年前というワードに眉を顰める紅牙。

 

「当時は神器関係の事件が頻発してね。堕天使側も傭兵として当時中学生くらいだった秀一郎を雇ってたんだ」

 

「あいつ、そんな時から傭兵だったのか…」

 

「まぁ、実力はそれなりだったからね。まだまだ未熟だった俺達の助けになってくれたよ」

 

「そうだったのか…」

 

そういえば、あいつの昔の話を聞くのは初めてかもしれないと思った紅牙は今度秀一郎に問い詰めることにしていた。

 

「そういえば、"彼女達"とはどうなったんだろ?」

 

「"彼女達"?」

 

「おっと、口が滑ったかな? 気になるなら本人に聞いてみればいいさ。俺から聞いたと言えば、もしかしたら聞けるかもしれないからね」

 

そう言うと幾瀬鳶雄さんは『模擬戦、俺も観戦させてもらうよ』と言い残してその場から去っていく。

 

「さてと…じゃあ、俺達も行くか」

 

そう言って忍達もヴァーリが待つトレーニングルームへと向かう。

 

………

……

 

トレーニングルームでは既にヴァーリが待っていた。

 

「では、始めようか」

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』

 

言うが早いか、ヴァーリは即座に禁手へと至る。

 

「紅牙。一応、結界で空間の補強と防音を頼むわ」

 

「わかった」

 

忍に言われて紅牙も天狐モードになるとトレーニングルーム全体を結界で強化し、遮音結界も張り巡らせていた。

 

「『武鬼(ぶき)』解放」

 

そして、ヴァーリの前に歩きながら純白のビー玉を指で弾いてその力を解放する。

すると、忍が純白の光に包まれていき、その中から髪が光沢のある純白、両の瞳は真紅へと変わり、額の左右(こめかみ辺り)に2本の角が生え、両腕に有機的でシャープなフォルムの篭手を装着し、十色の宝珠が連なった数珠を首に下げた姿となって現れる。

 

「ほぉ…」

 

「これが、紅神の新たな能力か…」

 

「………………」

 

ヴァーリと紅牙は興味深そうに忍の変化した姿を観察する中、海斗だけは息を呑んで驚いていた。

 

「(皇と呼ばれし鬼の長と、その臣下達が遺した力…必ず使いこなしてみせる…!)」

 

忍は忍でこの形態となり、改めて決意を胸に誓っていた。

 

「では、行こうか」

 

篭手調べとしてヴァーリが魔力砲撃を忍に放っていた。

 

「ッ!!」

 

忍は皇鬼双腕を纏った右手を前に突き出し…

 

ゴォッ!!

 

ヴァーリの魔力砲撃を受け止める。

しかし、小手調べだとしてもその威力は非常に高く、忍はその魔力砲撃を握り潰すようにして周りに拡散させることでその威力を流していた。

 

「今のを防ぐ…いや、流すか。なかなかやるようだな」

 

「そいつはどうも…(とは言え、今ので皮膚が焼けた。流石は魔王の血統か…)」

 

互いにまだ様子見のようなものだが、ヴァーリの方がまだ余裕がありそうだった。

忍は即座に気を右手に流して自然治癒能力を上げて皮膚を再生させる。

 

「まだまだ行くぞ!」

 

言うが早いか、ヴァーリは魔力砲撃を連続して放つ。

 

「ッ! 『金剛鉄槍(こんごうてっそう)』!」

 

その砲撃を回避しながら数珠の内の一つ…灰色の宝珠を外し、素早く左手の甲に装填すると、左手に先端の刃が十文字となった灰色の槍が出現する。

 

「『鉄騎鎧装(てっきがいそう)』!」

 

槍を手にした瞬間、頭の中にイメージが湧き、妖力を身体全体へと流して妖術を発動させる。

 

「ふんっ!!」

 

そして、向かってくる魔力砲撃を右拳で弾いていく。

 

『鉄騎鎧装』

生前の鉄鬼が使っていた妖術の一つ。

鉄鬼の使う妖術は基本的に肉体強化型であったため、近距離戦でしか効力を発揮しないが、その防御力は武天十鬼の中でも屈指のものだった。

これは妖力を身体全体へと流すことで肉体の強度を鋼の如く硬質化させる効果がある。

"鋼の如く"というのは一種の目安であり、身体に流した妖力の質量によってその硬度は変動する。

今回の模擬戦ではヴァーリの魔力に対応すべくそれなりの質量の妖力を流している。

だが、真祖と皇鬼達の妖力を得た今の忍にとっては妖力プールにまだ何とか余裕があるくらいである。

 

「ッ! 俺の砲撃を弾くとは…!」

 

「かつて武天十鬼と呼ばれた鬼の集団。その内の1人の妖術だからな」

 

ヴァーリの驚くように忍はそう告げていた。

 

「『迅雷蹴兎(じんらいしゅうと)』!」

 

さらに忍は右側の手の甲に黄色の宝珠を装填させ、両足に稲妻の意匠を施した足の爪先から膝までを覆う黄色い脚甲を出現させる。

 

「槍の次は脚甲とは…その数珠…いや、宝珠の一つ一つに武具が宿っている感じかな?」

 

「初見でそこまで見抜くのかよ。まぁ、当たりだが…」

 

左手に十文字槍、両足に脚甲を装備した忍はヴァーリの推測に素直に肯定する。

 

「だが、その様子…いや、"仕様"だと一度に使えるのは二つまでと見た」

 

「痛いとこを突く…」

 

そう言うということは図星だということを明かしてるようなものだが、ヴァーリ相手となると下手な小細工は無用と判断したのだろう。

 

「そんな状態で、一体どこまで出来るのか試すという意味合いもあるのか…」

 

「それだけまだ実戦じゃ使用してないってことだ。察してくれ」

 

「ふっ…俺はその試運転の相手という訳か…」

 

「悪いな、付き合わせて」

 

「いや、気にすることはない。俺も君が行ったという太古の世界にいたという鬼の王の力…その一端に少し興味があったからな」

 

ヴァーリもまた見知らぬ強者への興味が湧いたようだった。

 

「あの人は…相当に強かったぜ」

 

「君…いや、俺よりもか?」

 

「少なくとも…白銀になっても勝てるかどうか、かな…?」

 

「ふふ…それは惜しい人…いや、鬼を亡くしたようだ…」

 

「正に『鬼神』と呼ぶべき存在だったのは認めるがな…」

 

忍は皇鬼の最期の姿を思い出しながらそう語っていた。

 

「さて、つい話し込んでしまったが…続きといくか」

 

「ふっ…あぁ…」

 

ブンッ!!×2

 

そう言った瞬間、2人の姿が消える。

 

「き、消えた…!?」

 

「いや…」

 

「これは、かなりの高速戦闘だね」

 

見学していた海斗、紅牙、鳶雄さんがそのように呟いていた。

その中でも紅牙と鳶雄さんは見えていそうな感じだが…。

 

「紅神君は、得物がまだ手に馴染んでないのかな?」

 

鳶雄さんが忍の動きを見てか、そんな感想を漏らす。

 

「そういえば、あいつが長物を扱うのはあまり見たことがないな…」

 

その言葉に紅牙もそのようなことを呟いていた。

 

「つまり…それも含めた慣らし…ということですか?」

 

2人の言葉を聞き、海斗が尋ねる。

 

「だとしても…普通、慣らしの相手に白龍皇を選ぶか?」

 

「はは、確かに…ちょっとお勧めはしない、かな?」

 

「(どれだけ強いんだ、白龍皇…)」

 

紅牙と鳶雄の言葉に海斗は少しだけ親友のことが心配になったそうな…。

 

すると…

 

ギィンッ!!

 

一際大きな激突音がすると、両者の姿が見える。

 

「ちっ…やっぱ、慣れない武器は使うもんじゃないな…」

 

「よく言う。後半になるにつれて槍の使い方を独自に模索していたくせに…」

 

「ま、一回だけ槍使いとは戦ってたのを思い出したからな」

 

「それでこの練度とは…ある意味で恐れ入る」

 

忍は若干武器の選択を後悔したようなことを言うものの、ヴァーリはこの短期間で槍の扱い方を模索している忍に驚いたような口調で言う。

 

「とは言え、これ以上は俺も歯止めが利かなくなる可能性も高い。今回はここまでにしておかないか?」

 

「それは…確かに色々とキツイな」

 

そう言うと、互いに鎧と能力を解除する。

 

「十色全ての武器が見れなくて残念だが、それはまたの機会に取っておこうかな」

 

「あぁ。その時が来るまでには俺もこの鬼の力を完全に把握しておくさ」

 

「ふふ、それは俺の楽しみが増えて結構なことだ」

 

「別にアンタのためじゃないんだがな…」

 

そんなことを言い合いつつ戻ってくる忍とヴァーリ。

 

「鬼の力、か。まだまだ十全ではなさそうだな」

 

そう言う紅牙もまた天狐モードから戻の姿に戻ると、結界を解除していた。

 

「あぁ…それにあの状態を形作っている皇鬼双腕…まだ底を見せていないような気がしてな。流石は皇鬼さんの創った武具というか…」

 

紅牙の言葉に答えつつ忍も少しだけ誇らしそうにしながらも苦笑していた。

 

「今日はなかなか興味深い日だったな」

 

その様子を見ながら鳶雄さんはそのようなことを呟く。

 

「(俺も…国のために頑張らないとな)」

 

海斗は海斗で少しでも国を取り戻すために力を付けようと意思を固めていた。

 

 

 

そうこうしているその日は終わり、翌日となる。

だが、翌日の放課後にはある出来事が起きようとしていた。

それにより、また新たな、しかして予見されていた戦いの幕が上がろうとしていたのだ。



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第百十二話『目覚める娘と再会の風神と雷神』

翌日の放課後。

 

イッセー達は三年生のリアスと朱乃、選挙活動をしているゼノヴィアなどと久々に集まり、海鳴市方面へと繰り出そうとしていた。

その中には忍や智鶴、萌莉、海斗、シルトといった面子もいた。

 

皆でわいわいと海鳴市へと向かっている途中のこと。

 

『っ!!』

 

一行は言い知れぬプレッシャーを感じ、萌莉やシルト以外が身構える。

 

そこへ…

 

「Buon giorno。悪魔の子らに異種の子らよ」

 

祭服を身に纏った身長2mはありそうな巨漢の老人が前方に現れる。

しかもこの老人、顔はしわくちゃだがその下が年齢と比較してあり得ないくらい体が図太く若々しかった。

 

だが、次の瞬間、老人はまるで瞬間移動したかのように消え去り…

 

「ッ!?」

 

イッセーの背後に現れてその両手をイッセーの肩へと置いていた。

 

しかし、それと同時に動いた者もいた。

 

「ほぉ、異種の子よ。何故、私がここに移動すると分かった?」

 

驚いたように巨漢の老人は自らの背後に陣取る者に尋ねる。

 

「…………………」

 

それはライト・フューラーを手に巨漢の老人へとその銃口を向けた忍である。

 

「しぃ君!?」

「紅神!?」

 

その行動に智鶴やゼノヴィアも驚いたようだった。

 

「前にアンタと似たような雰囲気の人…いや、"鬼"と出会ってたんでな。見た瞬間、もしかしてとヤマを張ったまでだ」

 

巨漢の老人の問いに忍は静かにそう答えていた。

 

「ほぉ、"鬼"…それも私と似たような雰囲気の…」

 

「体格とか雰囲気も似ているが…それよりも"何かやりそうな空気"も漂ってたからな。それを踏まえての行動だ」

 

そう言いながらも忍は銃口を下げる気はさらさらないようだった。

 

「ふふ、いやはや見事だ。異種の子…いや、戦士よ。その齢で私を捉えるとはなかなかどうして…将来有望ではないか」

 

そんなことを言いつつも巨漢の老人はまだまだ余裕そうであった。

 

「そういえば、まだ名乗ってもらってないが…ここまでの"人間"、いくらか想像はつくな」

 

忍の言葉に…

 

「ふふ、では名乗らせてもらおう。私はヴァチカンから来たヴァスコ・ストラーダというものだ」

 

巨漢の老人…ストラーダ猊下はそう名乗っていた。

 

「(やはりか…)」

 

その正体を知り、事情を知らない海斗とシルト以外は警戒の色を濃くする。

 

「そう慌てるな。今日はこれを渡しに来ただけよ」

 

ストラーダ猊下は懐から封筒を取り出すと、それをリアスに向けた。

 

「こ、これは…?」

 

恐る恐る受け取りながらリアスが尋ねると…

 

「挑戦状だ。私達は貴殿ら…D×Dに挑戦状を叩き付けさせてもらおうと思ってな」

 

『ッ!!』

 

その言葉にその場の殆どに緊張が走る。

 

「じょ、冗談じゃないわ! 今がどういう状況かわかってるの!?」

 

リアスもその言葉には反発を覚えたらしく声を荒げる。

 

「魔王の妹よ。若い…若過ぎる」

 

リアスの言葉にストラーダ猊下はそう言って右手の指を左右に振っていた。

 

「ッ!!」

 

その行為に我慢出来なかったのか、イッセーが間に入り…

 

「この人には触れさせないぜ…アンタが誰であろうとな…!」

 

ストラーダ猊下を睨みながら言い放つ。

 

「いい目だ、悪魔の子よ」

 

そんなイッセーを最初はきょとんとした表情で見ていたストラーダ猊下だが、満面の笑みを浮かべてイッセーの頭を豪快に撫でた。

 

「ッ!!」

 

バカにされたと思ったイッセーはその手を払い除けようとするも、それよりも早くストラーダ猊下は動いており、既にイッセー達からかなりの距離を取っていた。

 

「さぁ、レグレンツィ猊下。宣言をお任せ致します」

 

ストラーダ猊下の言葉を受け、現れる一つの影。

しかし、その影は小さく、現れたのは小学校高学年程度の黒髪の少年だった。

その少年はストラーダ猊下と同様に祭服を身に纏っていた。

 

「(この匂い…まさか…)」

 

少年の匂いを嗅ぎ、忍も驚いたような表情になる。

 

「私は…エクソシストとしての権利と主張を守る! そなた達が例え『良い』悪魔だったとしても…この世には断罪せねばならない『悪い』悪魔や吸血鬼もいるのだ! その任を彼らから奪うなど…主や大天使ミカエル様の意に反するとしても、納得出来ないことなのだ!」

 

その間にもレグレンツィ猊下は緊張していても強い瞳を持ってそのような宣言を下していた。

そして、それに呼応するかのように周囲から無数の戦意が取り囲むように現れだした。

 

「(妙に不自然な匂いを感じると思ってはいたが…こういうことだったか…)」

 

取り囲んでいたのは猊下達に付き従ってきた教会の戦士達だった。

 

「ストラーダ猊下…」

 

その中でゼノヴィアがエクス・デュランダルを明空間から取り出して構える。

 

「戦士ゼノヴィア。デュランダルは使いこなせているかね?」

 

その問いに答えることなく、ゼノヴィアはストラーダ猊下に突貫する。

 

「なるほど。言葉よりも行動か…。いいぞ、デュランダルの使い手はそうでなくてはな!」

 

そう言ってストラーダ猊下は真正面からゼノヴィアの一太刀を受け止めようとしていた。

 

結果、ゼノヴィアの一太刀は…ストラーダ猊下の指一本で止められていた。

 

「っ!!」

 

「まだまだのようだな」

 

この結果にゼノヴィアは歯軋りするくらいに悔しがり、ストラーダ猊下も首を横に振っていた。

 

「ゼノヴィア! 猊下! 失礼を承知でいかせてもらいます!」

 

そこにイリナがオートクレールを構えて突っ込む。

しかし、そこに黒髪の中年男性が間に入ってイリナの攻撃を軽く受けていた。

 

「っ!? クリスタルディ先生!」

 

この中年男性が残る首謀者の一人…エヴァルド・クリスタルディということになる。

そして、彼は…元エクスカリバーの使い手である。

 

「視野を狭めてはいけないな。戦士イリナよ」

 

彼の手には聖なるオーラを纏った剣が握られていた。

 

「いざ、勝負!!」

 

そこに木場が聖魔剣を創り出して参戦していた。

 

「聖魔剣。君が聖剣計画の生き残りか。良い波動を放つ」

 

木場の攻撃を最小限の剣捌きと体捌きで全て回避し流していき、最後に剣を木場に向かって振り下ろす。

 

ドォンッ!!

 

「ぐっ…!?」

 

その一撃で木場は路面に叩き付けられ、その余波で軽くクレーターも生じてしまう。

 

「が、しかし…私をフリードのような下の下と一緒だとは思わないことだ」

 

そう言い放つクリスタルディ猊下は木場を見下ろし、剣を鞘へと戻す。

それを見て、イッセーとリアスが歩みだそうとするが…

 

「グレモリー先輩。ここは矛を収めましょう」

 

ライト・フューラーを待機状態に戻した忍がそう提案していた。

 

「次元辺境伯の名は伊達ではないようだ。グレモリーの姫君。私達は戦争をしに来たのではない。ただ最後の訴えをしに来たのだ。それをわかってもらいたい…」

 

ストラーダ猊下がそう言った途端、囲っていた戦士達が退いていくのが気配でわかる。

 

「……わかったわ」

 

リアスもそれに応じ、ここでの戦いは回避の流れとなる。

 

「では、再び見えよう。若き戦士達よ」

 

その言葉を残し、クーデター組もこの場から去る。

 

………

……

 

その日の夜。

 

兵藤家のVIPルームへと集まるD×Dのメンバー。

オカ研、生徒会、シスター・グリゼルダ、デュリオ、紅神眷属、神宮寺眷属といった主に駒王町を拠点にしている面々だ。

 

『申し訳ありません。立て続けにこちらの関与する事件に巻き込んでしまって…』

 

通信用魔法陣に投影させるミカエルの立体映像が開口一番、謝罪の言葉を紡いでいた。

 

『彼らの要求は「D×D」との一戦です。特に駒王町に住まうあなた達との戦いを所望しているようです』

 

曰く駒王町は各同盟のスタート地点となった場所である。

その切っ掛けとなった事件に関わった者達との戦いを望んでいるんだと…。

 

同盟が無ければエクソシスト達の任務の制限もなかった。

クーデターに参加している者の殆どは悪魔や吸血鬼などに家族を奪われたり、人生を狂わされたりしており、復讐、或いは自分達のような悲劇を繰り返さないために剣を取った者達でもある。

 

そして、首謀者の一人…テオドロ・レグレンツィは『奇跡の子』でもあった。

奇跡の子…つまり、天使と人間との間に生まれたハーフである。

奇跡の子の中でもレグレンツィ猊下は能力が最も秀でており、それ故に枢機卿に抜擢された経緯があるという。

 

総括としてクーデター組の挑戦は受けることとなった。

D×Dからはグレモリー眷属、シトリー眷属、紅神眷属、神宮寺眷属、ジョーカー・デュリオ、イリナ、シスター・グリゼルダが参戦する。

さらにこの地に派遣された天界のスタッフもバックアップするとこのこだった。

また、裏方要員として『刃狗』も回してくれるらしい。

 

決戦は…三日後となった。

 

………

……

 

その翌日。

 

明幸家のとある一室。

 

「…………………」

 

そこには去年から休眠状態にあるオルタが静かに眠っていた。

 

「そろそろ目覚めてくれてもいいんだがな…」

 

その様子を見に来た忍が少しボヤくように呟いていた。

 

「…………………」

 

「ま、これで起きてくれたら世話ないか。今はゆっくりと待つか」

 

安定しているように見えるオルタの様子を確認出来ただけでも良しとしようとして忍が退室しようとした。

 

その時…

 

「……ぉ……と…ぅ……さ、ん…」

 

オルタの口から言葉が発せられる。

 

「っ?!」

 

その声に驚き、忍が振り返ると、そこには僅かに目の端に涙を浮かべて眠るオルタの姿があった。

 

「オルタ…」

 

その姿を見て忍は再びオルタの側まで近寄ると…

 

「獄帝、解放」

 

牙狼の闇の力を顕現させた解放陣の一つ『獄帝』を解放していた。

 

「(少しでもあいつの雰囲気に近付けば…もしかしたら…)」

 

そんな淡い期待を胸に忍は獄帝となった手でオルタの手をそっと握った。

 

すると…

 

トクンッ…

 

握った手を通して確かな脈動をオルタから感じた。

 

そして…

 

「………ん………」

 

僅かにオルタの眼が開く。

 

「ぉ…父、さん…?」

 

その僅かに見開いた眼が忍を捉えると、そのような言葉を漏らしていた。

 

「っ……おはよう、オルタ」

 

目頭が熱くなるのを感じつつもそれを堪えて忍は琉他の目覚めを祝福した。

 

「……ぁ…」

 

そこでオルタもそれが本当の父ではなく、その存在を同じくする並行世界の人物だということを認識した。

 

「おはようございます…"主様"」

 

そう認識した以上は前のような呼び方をする必要があると思ってすぐに訂正していた。

 

「別に好きに呼んでいいんだぞ? お前は本来あいつと桐葉さんの娘な訳だし…あの2人も気にするような人達でもあるまい。まぁ、羨ましがられる可能性はあるが…」

 

そんなオルタの反応を見て忍は苦笑しながらそう答える。

 

「ですが…ご迷惑ではないでしょうか? このような大きな娘がいるなんて…」

 

それに対してオルタは気を遣っているようだった。

 

「俺は気にしないさ。皆にもちゃんと事情は話してるしな。まぁ、家の中限定でならの話になるが…」

 

流石の忍も外でオルタの『お父さん』呼びは恥ずかしいのか、それとも世間を気にしてなのか、躊躇しているようだった。

 

「それはそうと、身体の方は大丈夫か? ずっと休眠状態だったんだから、すぐには動けないだろう?」

 

呼び方は後でもどうとでもなると考えた忍は、オルタの体のことを心配していた。

かれこれ数ヵ月近くは眠って過ごしていたのだ。

いくら人と体の構造が根本的に違うとはいえ、目覚めたばかりで身体機能がどれくらい機能するか気になっていた。

 

「そう、かもしれません…」

 

「試しに今握ってる手を握り締めてみてくれないか?」

 

「はい…」

 

忍に言われ、きゅっ、と弱々しい感じで忍の手を握るオルタ。

 

「ふむ…とりあえず、支えてやるから起き上がってみろ」

 

「ぁ、はい」

 

忍に支えてもらいながら布団から上体を起き上がらせる。

 

「食事はいるか?」

 

「いえ、私は人造魔導兵器ですので…主様からの魔力供給を糧に生きていけますから…」

 

忍の質問にオルタはそう答える。

 

「そういうものか?」

 

「はい。ですから、私に食事という概念は必要ないかと…」

 

「う~ん…」

 

それを聞いて少し頭を悩ます忍。

 

「いや、この際だから食事の楽しさを覚えていくのもいいだろうさ」

 

だが、すぐに思考を切り替えてオルタにそう告げる。

 

「食事の、楽しさ…?」

 

「あぁ」

 

その後、忍は獄帝を解除すると部屋を出てオルタが目覚めたことと"あること"を明幸家にいる眷属メンバーに伝えた。

 

 

 

そして、その夜のこと。

 

「大丈夫か?」

 

「はい。なんとか大丈夫です」

 

オルタは寝巻のまま忍の支えもあって居間へと移動してきていた。

 

すると…

 

パンッ!

パパンッ!!

 

「ふぇ…?」

 

突然、クラッカーが鳴り響き、オルタも驚いたように目の前を見る。

 

そこには…

 

『祝☆ オルタちゃん、快復!』

 

という文字の書かれた垂れ幕があり、豪勢な食卓が広がっていた。

 

「ここまで派手でなくてもいいだろうに…」

 

予想以上の豪華さに忍も若干の苦笑いを浮かべていた。

 

「何を言ってんのさ。やっとその子が起きたんだから」

 

そう言うのは…同じ並行世界にいた夜琉だった。

 

「あ、義叔母様…」

 

「誰が義叔母様だって!?」

 

それを聞いて夜琉が半ばキレる。

まぁ、一応…夜琉は牙狼の義理の妹であるから、オルタからしたら義理の叔母、という認識になる訳であって…。

 

「ははは…」

 

その様子を見て忍が笑う。

 

「義兄さん! そこ、笑うとこじゃないからね!?」

 

「はは、すまんすまん」

 

夜琉の怒りを受けても笑って受け流す忍だった。

 

「"お父さん"が好きに呼べばいいと仰ってましたので…」

 

しゅんとした感じでオルタがそう言うと…

 

『"お父さん"…?』

 

気の強い部類に入る眷属(眷属ではない雲雀や桃鬼も含む)が眉を顰めて忍を睨む。

 

「この子…オルタは本来なら牙狼と桐葉さんの娘として生を受けるはずだったんだ。それはいくらか歪んでしまったが、それでも牙狼と同化した俺にとってもある意味で娘も同然だろう? だから、俺のことは好きに呼んでいいと言ったのさ。もちろん、外では別の呼び方にしてもらうつもりだが…」

 

「そりゃそれで面倒じゃねぇのか?」

 

忍の言葉にクリスがそんなことを言う。

 

「まぁ、それはそうなんだが…出来れば、そこはオルタの好きにさせてやりたいんだよ」

 

そう言いながら忍はオルタの頭を優しく撫でる。

 

「アンタって、意外と過保護なのかもね」

 

「誰かさんのせいじゃないの?」

 

朝陽の言葉に緋鞠が智鶴の方をチラ見しながら付け足す。

 

「それよか早く食べましょう? いつまでもそこで話し込んでたらせっかくの料理が冷めるわよ?」

 

暗七に言われ、各々席に座っていく。

主役のオルタは上座の真ん中で忍と智鶴に挟まれる形で座っていた。

 

「それじゃあ、オルタの回復を祝って…乾杯!」

 

『乾杯!』

 

忍の音頭と共に皆グラスを手にして乾杯する。

 

「オルタ。遠慮することはないからな?」

 

「えっと…?」

 

忍の言葉にオルタは少しだけ首を傾げる。

 

「好きなものを好きなだけ食べていいんだよ」

 

「好きなもの…」

 

智鶴にも言われるが、牙狼と共にいた時からあまりまともな食事というものをしてこなかったためか、少し戸惑いを感じていた。

 

「ま、百聞は一見に如かずとも言うからな。まずは何でもいいから食べてみな」

 

「はい…」

 

おそらく箸は使えないだろうという忍の配慮でスプーンとフォーク、ナイフがオルタの前にはある。

とは言え、色々な料理があるから目移りしてしまうのも仕方ないことだろうが…。

 

「(って言っても困るだけだよな。なら、手本を見せないとか…)」

 

そう考え、手身近にあった唐揚げに箸を伸ばすといくつかを取り皿に取り…

 

「はむ…」

 

それを一口食べてからご飯をかき込む。

 

「……………」

 

忍の食べる様子を見ていると…

 

「食べてみるか?」

 

その視線に気づき、取り皿にある唐揚げを一つ、オルタの取り皿に移す。

 

「えっと…」

 

これからどうすべきか少し考える素振りをする。

 

「ふむ…そういえば、牙狼との旅は野宿が多かったな……しかもあいつ、あまり食器とか使わなかったっけ…」

 

牙狼の記憶を思い出し、そう漏らすと…

 

「なら、まずはこのフォークを使いましょうか」

 

それを聞いたらしい智鶴がオルタにフォークを持たせて…

 

「これの先端で食べ物を刺して、口に運ぶのよ」

 

オルタにそう説明していた。

 

「はい」

 

言われた通りにフォークで唐揚げを刺すと口まで運び…

 

「あむ…」

 

唐揚げを一口食べる。

 

「どうだ?」

 

初めて食べるだろう食事の感想を尋ねる。

 

「……美味しい…です…」

 

人造魔導兵器と言えど、ちゃんと味覚もあるようでそのように呟いていた。

 

「これが、"食事"…」

 

少しばかり感動しているようにも見えるオルタの姿に…

 

「ふふ、気に入ったのなら良かった」

 

智鶴が優しげな笑みを浮かべてオルタの頭を撫でる。

 

「ぁ…」

 

撫でられ、若干嬉しそうにする。

 

これだけ見るなら、オルタは紛れもない年相応の少女であり、人造魔導兵器などというのもとてもじゃないが信じられない程だ。

それほどまでにオルタの表情は自然体となっていた。

出来ることならば、このまま平穏な生活を送ってほしいとも考える。

 

だが…

 

「(俺は…覇王の気質が強いのかもな…)」

 

以前、皇鬼にも言われた王道か、覇道か…。

その答えは、後者なのかもしれない、と忍は考えていた。

 

このように自然と笑えるようになったオルタでさえ、己の戦力の一部として換算している自分がいることに気付き、自らを軽蔑すると共に納得もしてしまっていた。

 

「(牙狼、桐葉さん…すまん…)」

 

心の中で2人に謝罪するのであった。

 

 

 

忍がそのような考えをしているなど露知らず、宴は夜遅くまで盛り上がっていったのだった。

 

………

……

 

そのさらに翌日。

 

兵藤家では珍しい客が訪問していた。

元龍王であるタンニーンの来訪だ。

 

話によれば、龍種の中でも希少種である『虹龍(スペクター・ドラゴン)』の卵が産まれたが、冥界の風では孵化に悪影響がありそうであり、人間界…つまり駒王町の地下空間で預かってもらえないかというものだった。

だが、駒王町も百パー安全ではないのだが、そのリスクを承知で頼み込んできたのだ。

その話をリアス達は了承し、卵を持ってくる者を待った。

 

しかし、その卵を持ってきたのは…邪龍クロウ・クルワッハ(人型)であった。

 

話によると、今現在のクロウ・クルワッハはタンニーンの食客という立場で冥界にあるドラゴンの里に世話になっているそうで、そこでドラゴン達のことを見て回っているのだとか…。

 

そんなこんなで兵藤家が大変(?)な時、ある場所では…

 

 

 

場所は海鳴市の海鳴臨海公園。

そこで神宮寺眷属の戦車枠である識上 秀一郎は"とある人物達"と待ち合わせをしていた。

 

「あいつら、元気にしてっかな?」

 

私服姿でベンチに腰掛けている秀一郎は久々に会うその人物達のことを考えていた。

 

そもそもその人物達と再会しようとした切っ掛けは紅牙にあった。

 

先日の鳶雄さんとの会話で秀一郎の話題が少し出たのだが、鳶雄さんは本人から聞いたらいいとしてその場は聞けずじまいだった。

そこで、紅牙は思い立ったら即実行に移し、同じマンションに住む秀一郎の元に向かい、直接話を聞きに行ったのだ。

 

 

 

ちなみにその時の会話は以下の通りである。

 

『おま、それ誰から聞いた?!』

 

『「刃狗」からだが?』

 

『鳶雄ぉぉぉ!!!』

 

一応、秀一郎よりも年上なのだが、鳶雄さんの方から呼び捨てを許してもらっていた。

 

『で、気になることも呟いていてな』

 

『気になること?』

 

『"彼女達"がどうの…』

 

『ぶっ!!?』

 

『汚ねぇな…』

 

噴き出された唾を魔法でガードしながら紅牙が問い詰める。

 

結果として、秀一郎は紅牙には最近は会ってないと答えたものの、久々に会って近況を聞くのもいいかもしれないと思い至ったのだった。

そして、主が主なら眷属も眷属であり、秀一郎も即行動に移して久々の連絡回線を開き、音声のみでやり取りしてその人物達と会うことにしたのだ。

 

 

 

場面は戻る。

 

「(音声だけにしたから姿までは見えなかったが、声からしたら元気そうではあったな。若干怒ってそうなきもしないでもなかったが……まぁ、アイツだしな…)」

 

そんなことを考えながら空を見上げていると…

 

「ホント、しつこいんだけど…」

 

「そ、その…こ、困ります…!」

 

「いいじゃんか。ちょっとくらい付き合ってもさ~」

 

「そうそう。俺らと来れば絶対に楽しいからさ」

 

うんざりしたような少女の声と、なんだかおっかなびっくりしたような少女の声、さらにチャラそうな男の声が二つが秀一郎の耳に聞こえてきた。

 

「あぁ?」

 

見れば、チャラい男2人が少女達をナンパしている。

 

「(ったく、んなとこでナンパなんてしてんじゃねぇよ…)」

 

呆れながらも放っておくのも出来なかったため、ベンチから立ち上がり…

 

「オラぁ!」

 

問答無用で男の一人に膝蹴りをかます。

 

「ぐぼらぁ!?!?」

 

見事に男の一人が吹き飛ぶ。

 

「な、ななな…!?」

 

それに対してもう一人のチャラ男が驚いていると…

 

「おい、テメェ…さっさと仲間連れて失せろや。こっちも暇じゃねぇんだよ」

 

もう一人の男の胸倉を掴み上げ、そいつを睨みながら脅す。

 

「ひ、ひぃぃ!?!?」

 

どうもその秀一郎の凄みに当てられ、手を離された瞬間に蹴られた男を担いで逃げ去っていく。

 

「ちっ…ったく、胸糞悪いったらありゃしねぇ」

 

そう言いながら少女達の方に向き直り…

 

「お前らもお前らだ。ああいうのはさっさと撒けばいいものを……ま、たまたま俺の視界に入ったのがあいつらの運の尽きか。ほら、お前らもさっさとどっかに行くんだな」

 

なんとも愚痴るように少女達に文句を言いつつベンチへと戻ろうとした時…

 

「あ…えっと、どうもありがとうございます…」

 

一人の少女が秀一郎の背にお礼を言っていると…

 

「……もしかして…シュウ?」

 

もう一人の少女が秀一郎に声を掛ける。

 

「あ?」

 

「え…?」

 

その言葉に秀一郎と、お礼を言った方の少女が驚く。

 

「おい、なんで俺の………つか、その愛称を呼ぶってことは…」

 

振り返りながら少女の顔をまじまじと見る秀一郎に対して…

 

「ねぇ、人の顔をジロジロと見ないでくれる? あと、その失礼な反応からしてやっぱりシュウなのね」

 

呆れたように少女は肩を竦める。

その少女は背中が隠れるくらいに伸ばした黒髪と紺色の瞳を持ち、ツンとした雰囲気の綺麗で整った顔立ちをしており、標準的且つ平均的な体型をしていた。

髪はストレートにし、服装もそれなりにオシャレで美少女と言っても過言ではない程である。

 

「やっぱ、お前…藍香、か?」

 

「そうだけど…何か文句あるの?」

 

そう尋ねる秀一郎に『藍香(あいか)』と呼ばれた少女は秀一郎を睨んでいた。

 

「いや…お前、そんなしゃれっ気あったか?」

 

「むっ」

 

その言葉にムンズ!と秀一郎の足を思いっきり踏みつける藍香。

 

「い゛っ!?!?」

 

口は災いの元とはよく言ったもので…。

 

「ホント、アンタってデリカシーが無いわね」

 

「~~ってぇな! つか、相棒はどうした?」

 

文句を言いつつ秀一郎は藍香に尋ねる。

 

「はぁ…アンタの眼は節穴? ずっと隣にいるでしょ」

 

そう言って藍香は隣の少女を見る。

 

「うぅ…///」

 

その少女は恥ずかしそうにハンドバッグで顔の下半分を隠しつつも秀一郎を見ていた。

そっちの少女は肩にかかるくらいの藍色の髪と緋色の瞳を持ち、凛とした雰囲気の可愛らしくもあどけない顔立ちをしており、標準的だが、少し肉付きの良い体型をしていた。

服装も今時の女の子らしくしていた。

 

「あ? さ、翔霧…なのか?」

 

以前…というか数年前に見た時よりも女性らしい体つきになっていた(らしい)ので、秀一郎も驚いていた。

 

「う、うん…久し振り、秀一郎…///」

 

翔霧(さぎり)』と呼ばれた少女はまだハンドバッグで顔を隠しながら秀一郎に挨拶する。

 

「おま…"いつもの格好"じゃねぇのかよ!?」

 

「だ、だって…久し振りに秀一郎に会うんだし…少しくらいオシャレしろって、藍香が…///」

 

「ちょっ! それは言わなくていいのよ!///」

 

翔霧の言葉を少し頬を染めた藍香が遮る。

 

「(相変わらずみたいだな……しかし…)」

 

わいのわいの言い合う2人を眺め…

 

「? どうかしたの?」

 

頬の赤みが引いた藍香が秀一郎に尋ねると…

 

「ん? いや、大したことじゃないんだが…お前ら、綺麗になったなって」

 

「「っ?!////」」

 

その秀一郎の何気ない一言に同時にボンッと言いそうなくらい顔を真っ赤にする藍香と翔霧。

 

「? どうかしたか?」

 

しかし、悲しいかな…秀一郎は鈍感な部類に入るらしい。

 

「(この朴念仁…)////」

 

「(うぅ…やっぱり、いつもの格好で来ればよかったかも…)////」

 

勝手に赤面してるのが恥ずかしくなりつつも…

 

「で、結局私達に何の用なのよ?////」

 

顔が赤いままあいか藍香が本題を切り出す。

 

「いや、大した用事は無いぞ? 強いて言うなら通信でも言ったが、久々に顔が見たくなったからな。あと、近況でも聞ければなって」

 

「………え?」

 

その答えに藍香が固まる。

 

まさか、本当にそれだけの理由で?

アレから今まで連絡の一つも寄こさなかったくせに?

 

という具合に藍香が思っていると…

 

「いやぁ、鳶雄の野郎が今の雇い主…まぁ、主って言った方がいいのか?…に昔話をちょこっとしたらしくてな。お前らのことも言いやがって。それでそういや、どうしてっかなって思ってよ。それでこの間、連絡して会えないか聞いた訳だが…」

 

秀一郎がそこまで言うと…

 

「………ちょっと待って。アンタ、まさか…その時まで私達のことを忘れてたんじゃないでしょうね?」

 

今の話の流れからしてその可能性が高そうだと判断し、そう尋ねると…

 

「いや、別に忘れてた訳じゃねぇんだけどさ。俺も仕事で忙しくってよ。いつ連絡したらいいのか考えてたんだが、なかなか時間が無くてな。で、今回ちょいと時間も出来たし、"ついでに"って」

 

秀一郎は何の気なしに言うが、これがいけなかった。

 

「ねぇ、藍香…」

 

「えぇ、翔霧」

 

何故か互いの拳…藍香は左拳、翔霧は右拳…にそれぞれ魔力変換した雷と風を纏い…

 

「(あれ…なんだか嫌な予感が…)」

 

秀一郎が悪寒を感じると同時に…

 

「「それを忘れてたって言うのよ、バカぁぁぁ!!」」

 

ドッガッ!!!

 

2人の拳が秀一郎の顔面と鳩尾に突き刺さる。

 

「ぐぼっ!!?」

 

それを無防備に受けた秀一郎だったが…

 

「ってぇぇな、おい!? 何しやがる!?」

 

踏ん張っただけでその同時攻撃を耐えていた。

これも紅牙から受け取った戦車の駒の影響で防御力が高まっており、尚且つD×Dでの修行で更なる力を手にしていた成果でもあった。

 

「なっ!?」

 

「嘘!?」

 

その結果に藍香と翔霧も目を見開いて驚いていた。

それもそのはず、前の秀一郎なら確実に今ので吹き飛んでいたはずだし、互いに知らぬ内に成長したのを加味したとしてもそこそこ本気だった2人の拳を受けて耐えたのだから驚かない方がおかしかった。

 

「つか、顔面と鳩尾とか…お前ら、マジだったろ? 俺じゃなきゃガチで危なかったからな…?」

 

それでもダメージは通っているのか、若干苦しそうではあった。

 

「シュウ…アンタこそ、そこまで強かったっけ?」

 

「私と藍香の攻撃を受けてピンピンしてるなんて…」

 

信じられないといった感じで秀一郎を見る。

 

「伊達に鍛えてる訳じゃねぇしな…(それと駒との相性が良かったからか…)」

 

2人の攻撃を受けられたのが駒の力もあると感じ、秀一郎としては微妙な気持ちだった。

 

「それで…近況って何よ?」

 

これ以上の攻撃はしないと言いたげに藍香が秀一郎に切り出す。

 

「あぁ…それは…」

 

そうして、秀一郎は2人に話すことにした。

今、自分が置かれてる状況と、そして…。



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第百十三話『神宮寺眷属の強化プラン』

公園から場所を移し、近場のカフェに入ってその一角で秀一郎は藍香と翔霧に今の状況…というよりも本当に自身の近況を伝えていた。

 

アレからテログループ『禍の団』の冥王派に雇われ、それが解散した時に今度は悪魔の依頼で各地のテロに対処したり、その間に何度か初代孫悟空の爺さんと共闘したり…。

それから元冥王派の筆頭『神宮寺 紅牙』の眷属、戦車の一人として今は駒王町を拠点に活動していることと、対テロ組織『D×D』で修行を重ねてきたこと…。

そして、今現在の駒王町で教会の戦士のクーデターに巻き込まれ、それに参戦しないとならないということも包み隠さず話していた。

 

ちなみに遮音結界を張っているので会話の流出はない。

 

「………ってなわけだ。これでも元テロリストだからな。おいそれと連絡出来なかったんだよ。わかったか?」

 

「「…………………」」

 

そんなことを言う秀一郎をジト目で見る藍香と翔霧。

 

「な、なんだよ? 別にいいだろ。お前らにはお前らの、俺には俺の生活があんだからよ」

 

そんな視線を受ける言われはないとばかりに開き直る秀一郎。

 

「はぁ…まぁ、それはそうなんだけど…」

 

「もう少し相談してくれてもいいような…気がしないでもないよ?」

 

「どっちだよ…」

 

なんだかんだで付き合いがあるので、そんな談笑に花を咲かせる。

 

「それにしても…冥族ってのが悪魔の駒みたいな代物を持つなんてね」

 

「そうだね。三大勢力が和平を結んで、それを色んな勢力に押し広げてるっていうのもあながち間違いでもなさそうだし…」

 

「あぁ? なんでお前らがそこまで知ってんだよ?」

 

秀一郎が不思議そうに尋ねると…

 

「ここ数年で私達もそれなりに情報を集めてたのよ」

 

「秀一郎を探し出してお説教するって目的もあったしね」

 

やれやれといった感じで2人はそんなことを言う。

 

「なんで俺が説教されなきゃならんのだ…」

 

解せぬ、という風に秀一郎が言うと…

 

「だって黙って姿消したし」

 

「置いてくんだもん。酷いよ~」

 

そこには若干の乙女心もあったようだ。

 

「うっせぇ。で、そっちはどうなんだよ?」

 

秀一郎は一蹴すると、逆に藍香と翔霧の近況を尋ねる。

 

「別に大したことないわよ。私は"管理局を辞めて"フリーランスの魔導師になって、翔霧と一緒に適当な依頼を受けてるわよ…」

 

「今は藍香と一緒に住んでるんだ。あ、お父さんとお母さんにももう会ってもらってるから…ただ、お父さんは"なんで女なんだよ"って愚痴ってたかな?」

 

こちらも何の気なしに言い合う藍香と翔霧。

 

「ちょっと待て…お前、管理局を辞めたのか? それに一緒にって…大丈夫かよ?」

 

「えぇ。自業自得な部分もあるけど、良い機会だったしね」

 

「なんだか引っ掛かる言い方だけど…大丈夫だよ。女の子2人なんだし」

 

「そうか……いや、そういう意味じゃなくてよ。お前、趣味が趣味だからな…」

 

藍香には相槌を打ちつつ、翔霧を見て微妙な表情をする。

 

「あ~…まぁ、周囲の反応は色々ね。一番の有力が…恋人同士だったかしら?」

 

「だ、だって…その方が藍香の護衛っぽく見えるし、私だってそこそこ強く見えるでしょ?」

 

それを察し、藍香も微妙な顔をして翔霧はあわあわとする。

 

「……ノーコメントよ」

 

「藍香ぁ~」

 

相棒の無慈悲な言葉に翔霧は泣きつく。

 

「そっちは相変わらずみてぇだな…」

 

やれやれといった感じに秀一郎がコーヒーを飲む。

 

と、そんな時…

 

『秀一郎、聞こえるか?』

 

紅牙からの念話が聞こえてきた。

 

『んあ? どうかしたのか?』

 

『あぁ。教会の戦士との戦いに俺達も参戦するのは知ってると思うが…そろそろ俺達も戦力補充を行うべきかと思ってな』

 

『戦力補充、ねぇ…』

 

それを聞いて秀一郎は冥王三人娘と小さな装者コンビ(調と切歌)、それと最近女王になったはやてを思い出す。

 

『まぁ、確かに戦力補充は必要そうだが…当てはあんのか?』

 

装者コンビはシンフォギアの展開が不安定だし、冥王三人娘は落ち着きがねぇし、はやてとかいう姉ちゃんの実力はまだよくわからねぇし、等といったことを考えてそう返していた。

 

『前から訓練に参加している八神の所の騎士達は覚えているか?』

 

『あぁ、あのやたら強いベルカ騎士の姉ちゃん達か』

 

紅牙に言われ、ヴォルケンリッター達の姿を思い出す。

 

『そうだ。今日、そいつらと模擬戦をすることになった』

 

『おいおい、また急だな…』

 

『八神に相談したら何故かそういう流れになったんだよ。場所はいつも使ってる無人の次元世界だ』

 

『ま、あそこなら全力が出せるわな』

 

何故、そういう流れになったのかは置いとくとして、秀一郎もそこは察した。

 

『結果がどうあれ、模擬戦後に眷属になってもらえるよう交渉するつもりだ』

 

『ふむ…』

 

それを聞きながら秀一郎は目の前の藍香と翔霧を見る。

 

『なぁ、紅牙。それって追加参加者を出してもいいのか?』

 

『なに?』

 

『俺の方にもある意味当てがあるっちゃあるからな。今からそいつら連れてそっちに向かわせてもらうぜ?』

 

その言葉に紅牙は珍しいと素直に思ったそうだ。

 

『お前が推薦するとはな。それほどまでの使い手なのか?』

 

『あぁ、そこは保証してやるぜ。眷属になるかならないかはまた話が別だがな』

 

『問題ない。そこは俺の交渉力次第だろう』

 

『じゃ、決まりな』

 

そう言って互いに念話を打ち切ると…

 

「藍香、翔霧。ちょっとした依頼を受けてみないか?」

 

いきなりそう切り出す。

 

「依頼?」

 

「何をするの?」

 

依頼と聞き、表情を変える2人。

 

「なに、俺の今の雇い主にお前達の力を示せばいい。で、その後はお前達次第なんだが…」

 

「どういうこと?」

 

「力を示せばいい、って…戦闘になるの?」

 

秀一郎の適当な説明に疑問符を浮かべる藍香と翔霧。

 

「ま、行けばわかるさ。さっさと行こうぜ?」

 

秀一郎がカフェでの勘定を済ませ、店を出るとそのまま駒王町へと案内する形となる。

 

………

……

 

『第47無人世界』

 

「よ~っす。待ったか?」

 

藍香と翔霧を伴い、秀一郎が集合場所に到着する。

 

「来たか」

 

集合場所には紅牙を筆頭とした神宮寺眷属が集まっていた。

つまり、装者コンビ、冥王三人娘、はやてである。

さらにそこに秀一郎が加わることで現状の神宮寺眷属が揃ったことになる。

 

そして、そこにははやてが連れてきたヴォルケンリッター、秀一郎が連れてきた藍香と翔霧、さらに眷属への勧誘を受けていたユウマがデヒューラとユニゾンデバイスの女の子を伴ってやってきていた。

 

微妙にピリピリした空気もしてるような気がしないでもない。

それに怯えてる人もいるくらいだし…。

 

「知らねぇ奴も多いし、自己紹介からしね?」

 

その空気を感じ取り、秀一郎が紅牙に提案する。

 

「あぁ、そうだな」

 

その提案を受けると…

 

「神宮寺 紅牙だ。一応、という訳ではないが、神宮寺眷属の王になる」

 

その場にいる全員に向けてそう自己紹介をする。

 

「紅牙? なんか男の子っぽい名前だけど…」

 

「(あ、やっべ…)」

 

適当な説明だけで連れてきたため、翔霧に口止めするのを忘れてた秀一郎が冷や汗を流す。

 

「あぁ? 俺は男なんだが…?」

 

見た目…というか女顔を気にしてる紅牙は今発言しただろう翔霧を睨みつける。

さらに魔力がダダ洩れし、周囲に熱気を放つ。

 

「え…!?」

 

「翔霧…」

 

相棒の不用意な一言に頭を押さえる藍香。

 

「まぁまぁ、そう目くじら立てんなって。俺ももう慣れてたから言い忘れてたし」

 

「ちっ…」

 

秀一郎が間に入り、紅牙も舌打ち程度に留める。

 

「てな訳で、神宮寺眷属の戦車をやってる識上 秀一郎ってもんだ。ま、よろしく頼むわ」

 

ついでとばかりに自分の自己紹介を済ませる。

 

「普通、女王が先やないかな? まぁいいけど…神宮寺眷属の女王、八神 はやてと言います。皆気軽に名前で呼んでや」

 

何ともフレンドリーな感じではやてが秀一郎に続いて自己紹介する。

 

「姉…じゃなくて紅牙様の兵士、天宮 早紀だ」

 

「同じく兵士の葛原 沙羅です」

 

「同じく兵士の水杜 紗奈だよ~」

 

「……兵士の一人、月読 調」

 

「同じく暁 切歌デス!」

 

兵士組が連続して名乗る。

 

これで眷属メンバーは一通り自己紹介したことになる。

 

『…………………』

 

まだ自己紹介してない面子はそれぞれの様子を窺うようにしている。

 

「はぁ…デヒューラ・スイミラン。私は別に関係ないんだけど、今日はユウと"ユーナ"の付き添いで来たわ」

 

すると、この空気に耐えかねてか、デヒューラが溜息交じりにそう伝える。

 

「ぁ、えっと…天崎 ユウマです。一応、言っておきますけど…僕は男ですから、そこのところを…」

 

デヒューラに続くようにユウマが挨拶をすると…

 

『え゛っ!?』

 

周囲から驚きの声が上がる。

 

「うぅ…(泣)」

 

その反応にしくしくと泣き始めるユウマ…(不憫である)。

 

「よしよし…」

 

「はぁ…」

 

ユニゾンデバイスの女の子に頭を撫でられて慰められる。

その様子にまたも溜息を吐くデヒューラ。

 

「それで、天崎。俺の僧侶になる決心がついたのか? それとも…断りに来たのか?」

 

仕方ないとばかりに紅牙がユウマに本題を切り出す。

 

「っ…は、はい。それなんですけど…」

 

意を決したように目を閉じてユウマは言葉を紡ぐ。

 

「僕は…争い事が今でも嫌いです。人を傷つけることなんてしたくありません。例え、それがどんな理由でもです」

 

「………………」

 

静かにユウマの言葉に耳を傾ける。

 

「でも…」

 

目を開き、真っすぐに紅牙の眼を見る。

 

「僕には守りたい人がいます。そのために僕は力を欲し、そして目覚めてしまいました。この、"冥王"という力に…」

 

バサァ!

 

次の瞬間、ユウマの姿が白髪金眼となり、背中から3対6枚の真っ白な翼を生やしたものへと変わる。

 

『ッ!?』

 

ユウマの変身に事情を知らないメンバーが驚く。

 

「僕に力があって…デヒューラさんや"ユーナちゃん"を少しでも守る確率が上がるなら…僕は茨の道を進みます。どんなに困難でも、僕は前に進むと決めましたから…」

 

そんな覚悟の言葉を受け…

 

「後悔しないな?」

 

紅牙は最後の確認を取る。

これはユウマが後戻り出来る最後の機会でもあった。

 

「はい」

 

だが、ユウマはそれを蹴って茨の道を進むことを選んでいた。

 

「わかった。お前の覚悟が固いのは理解した。が、お前はまだ実戦に出せるレベルじゃない。冥王スキルだって未だ目覚めていなさそうだしな。あの時、生き残れたのは運が良かったからだと理解しているな?」

 

「それは……はい…」

 

あの時…冥界のアウロス学園での襲撃を生き残れたのはユウマ自身の実力、とはとても言い難い。

いくつもの幸運が重なった結果だと言える。

その事実はユウマ自身もわかっていたのだが、事実を突きつけられるとシュンとしてしまう。

 

「ともかく、今は訓練に重きを置いた方が…」

 

そこまで紅牙が言おうとすると…

 

「ちょい待ち、紅牙。どうせ次の戦いは死者が出ないんだろ? そこで戦場の空気を吸わせるってのはどうだ?」

 

秀一郎がそんな進言をしていた。

 

「確かに情報ではクーデター組での戦闘で死者は出ていない。しかし、そこにクリフォトが出しゃばる可能性も捨て切れん。そんな戦場にほぼ一般人を連れて行くわけにもいくまい」

 

紅牙の言葉も尤もである。

 

「ん~、それはそうだが…こんな絶好の場を見逃すのも勿体ないだろ?」

 

しかし、秀一郎の言葉も捨て切れないのは事実。

 

「その話もええけど…そろそろ他の皆の紹介もしないとやろ?」

 

というはやての声に…

 

「む。それもそうだな…じゃあ、ユウマ。改めて名乗れ」

 

紅牙も本来の目的を思い出してユウマに改めて自己紹介を促す。

 

「え、あ、はい」

 

ユウマが佇まいを直し、改めてその場の皆に宣言する。

 

「神宮寺眷属の僧侶、天崎 ユウマです。皆さん、よろしくお願いします!」

 

トクン…

 

それと同時に僧侶の駒がユウマの中へと溶け込んでいく。

これでユウマも正式な眷属入りを果たしたことになる。

 

「あ、ちなみにこの子の名前は『ユーナ』ちゃんって言います」

 

そう言ってユウマはユニゾンデバイスの女の子こと『ユーナ』を紹介する。

 

「ユーナ、って言います。今は新しいロードと共にある三位一体の融合騎です」

 

前に比べたら言語機能が回復しているようでそれなりに喋れるようになっていた。

 

『三位一体?』

 

ユーナの"三位一体"という言葉にはやて達が反応する。

 

「私は…古代ベルカの時代に創造されたユニゾンデバイスの一騎です。但し、その設計思想はユニゾンデバイス一騎に対し、二名の人間と共に融合するというものです」

 

ユーナから語られた内容に食いついたのは…八神家だった。

 

「融合騎一騎に対して2人の人間と融合!? そんなことが可能なの!?」

 

「我々も聞いたことがありません」

 

「けどよぉ、流石に一騎で2人もユニゾンは出来ねぇだろ?」

 

「そうですよね。流石にそんな机上の空論のような計画があったとは…」

 

『だが、無いとも一概に断言出来ないのも事実だ』

 

「でもでも…もし可能だとしてもかなり危険な気がします~」

 

八神家がユーナの爆弾的発言を議論していると…

 

「だが、実際に融合現象は起きた」

 

紅牙が横からその議論に介入する。

 

「あの戦いの時、まるで魂と魂が重なるような波動を感じた。それが何なのかわからなかったが、もしやユニゾンの波動だったんじゃないのか?」

 

「魂と魂が、重なる…」

 

そう言う紅牙の言葉にはやてもユーナの方を見ると…

 

「はい。私に搭載されているトライユニゾンというシステムは、まずロードと適性者の魂と魂の間に強い繋がりを作ります。深い場所で繋がり合った魂と魂を共鳴させるのが私の役目です。そうした状態でユニゾンを行うことで三位一体の融合…トライユニゾンは成立します」

 

「そ、そんなユニゾン方法が…」

 

ユーナの説明に八神家のメンツが驚いていると…

 

「ですが、トライユニゾンには致命的な欠陥があります。それは、ロードとなる人と、もう一人の融合相手となる人との相性です」

 

『相性か…』

 

「はい。例え、様々な面で優れた人であろうと、ロードの魂と深い繋がりを持てなければ、融合は成立しません」

 

「通常のユニゾンでも相性があるからな。そこにさらにもう一人というと、どれだけ狭き門となるか…」

 

リインという融合騎がいる八神家にとっても相性の問題は熟知しているようだった。

 

「幸い、デヒューラさんとロードの相性は問題なく、ユニゾンレアスキルの発動も可能でした」

 

「ユニゾンレアスキル?」

 

また新しい単語に首を傾げる。

 

「トライユニゾン発動時にロードのパートナーとなった人から得られる情報を基に追加される特殊な稀少技能です。デヒューラさんとのユニゾンで得られたレアスキルは『イメージを具現化する』能力です」

 

そのユーナの言い方に…

 

「ん? それってそいつのパートナーが違えば、別のレアスキルが目覚めることもあるってことか?」

 

ヴィータが何の気なしに尋ねる。

 

「はい」

 

それに頷くユーナ。

 

『……………はぁぁぁ!?!?』

 

一拍空けて八神家のメンツが驚きの声を上げる。

 

「まぁ、ロードの魂と深く繋がりを持つ人間がそんな簡単に見つかるとも思えませんが…」

 

驚きの声を無視してユーナはそう漏らす。

 

ちなみに…

 

『????』

 

ユーナと八神家を除いた面々は頭に?マークを浮かべていた。

当の本人であるユウマですら…。

 

「その議題はまあ後にしろ。まずは互いに名乗るべきだろう?」

 

最初の目的から逸れたが、紅牙が改めてそう言っていた。

 

「そ、それもそうやね。皆、挨拶挨拶」

 

はやても気を取り直してヴォルケンリッター達に促す。

 

「剣の騎士、シグナム」

 

「鉄槌の騎士、ヴィータだ」

 

「湖の騎士、シャマルです」

 

『盾の守護獣、ザフィーラ』

 

「リインフォースⅡです」

 

ヴォルケンリッターが名乗ったのを確認すると…

 

栄崎(さかさき) 藍香よ」

 

「お、音無(おとなし) 翔霧です…」

 

残った藍香と翔霧が自己紹介をする。

 

「藍香は管理局に所属してたんだぜ? で、翔霧の方は…男装趣味だ」

 

2人の簡潔な自己紹介に秀一郎が付け足す。

 

「"元"、ね。今はフリーランスの魔導師だから関係ないし」

 

「ちょっ!? それは言わなくてもいいよね!?///」

 

藍香の淡々とした感じに対し、翔霧は顔を赤くして慌てたようにあわあわする。

 

「だってお前の個性ったらそれくらいだろ?」

 

「うぅ~…秀一郎のバカバカバカ!///」

 

「はぁ…」

 

そんな秀一郎と翔霧のやり取りに溜息を吐く藍香。

 

「元管理局員? その、なんで辞めたの?」

 

現管理局員であるはやてが少し気まずそうに聞くと…

 

「別に大した理由じゃないわ。ちょっと合わなくなっただけの話よ」

 

藍香は藍香でその話をはぐらかす。

 

「それでシュウ。私達は何をすればいいの?」

 

「確か、戦闘になるようなことを言ってたけど…」

 

そもそも秀一郎に具体的な説明もないまま連れてこられたので藍香と翔霧が秀一郎に尋ねる。

 

「なに、単純な話。俺達、紅牙の眷属組と眷属候補との模擬戦だよ。つまり、そこの古代ベルカ騎士の姉ちゃん達とお前達が組んで正規組の俺達と戦う。で、いいんだよな?」

 

そこまで言いながら秀一郎は紅牙に確認を取る。

 

「あぁ、それで間違いない。対戦カードとしてはヴォルケンリッターと秀一郎が連れてきた2人の計7人対…俺、秀一郎、早紀、沙羅、紗奈、そして…ユウマ達だ」

 

「ふぇ!?」

 

まさかの指名にユウマも驚く。

 

「おいおい…俺だけ冥王じゃねぇし…つか、さっきの戦場には出さない発言は何だったんだ?」

 

という秀一郎のツッコミに対し、紅牙は…

 

「よくよく考えてみたらユウマの実力が定かではない。なら、この際だから見極めることにした。八神、調、切歌。お前達は見学だ」

 

そう言ってはやてと調とあたし切歌に見学を命じた。

 

「対戦カードにはリインも含むんだ?」

 

「ユウマもユニゾンを使うならいい見本になるだろう。まぁ、運用自体が異なっていそうだが…これも経験だろう」

 

「なるほど」

 

はやては納得したようだが…

 

「なんであたし達まで見学なのデスか!?」

 

「……理由を求む」

 

解せぬと言いたげな2人に…

 

「お前らの力は時限式だろうが…おいそれと使わせると思ってるのか? 第一、"アレ"は?」

 

「「うっ…」」

 

そこまで言われて調も切歌も言い淀む。

 

「アレも数が少ないと聞いてる。無暗に貴重なサンプルを減らすこともないだろ」

 

正規シンフォギア装者である響、翼、クリスと違い、調と切歌は『LiNKER』と呼ばれる薬物を投与しないと適合係数が上がらず、シンフォギアの発現まで出来ない制約がある。

しかも現在改良型LiNKERの精製方法は逮捕されたウェル博士が知っているため、フロンティア事変以降の彼の所在が秘匿されていることもあり、二課に残った旧型のLiNKERしか使えない状況にある。

それも有限であり、いつかは底が尽きてしまうので時間も問題とも言える。

底が尽きるまでに改良型LiNKERのレシピとそれを精製出来る学者が必要となるのだが…今のところ両方共に目処はたっていないのが現状である。

 

「わかったら大人しく見学してろ」

 

「「……はい(デス)」」

 

しょんぼりしながら調と切歌がはやての元に歩いていく。

 

「魔法やデバイスの使用は無制限だ。能力などもフル活用してくれて構わない。これは互いの力量を知るための模擬戦だからな」

 

そう紅牙が言うと早速サジタリアスを構える。

 

「ま、王がそういうなら遠慮なしで行きますか!」

 

秀一郎もシュティーゲルを指で弾く。

 

「え、えっと…僕も、頑張らないと、ですよね…」

 

戦いに消極的なユウマも一応、ヴァルゴを取り出すが…

 

「お前はまずユニゾンしてみろ」

 

紅牙に釘を刺される。

 

「は、はい…」

 

萎縮しながらデヒューラの元に行くと…

 

「すみません、デヒューラさん…守るって言っておきながら巻き込んじゃって…」

 

「別に…アレを使うのに私が必要なだけでしょ」

 

そう言ってデヒューラが手を出すと、その手にそっとユウマも手を重ねる。

現状、ユウマがトライユニゾンを発動させるにはデヒューラの協力が必要不可欠なのである。

 

「では、参ります」

 

その重ねた手の上にユーナが立つと…

 

「「トライユニゾン」」

 

2人の声が重なり、トライユニゾンが発動する。

 

ユウマの姿は冥王と化し、白髪の毛先が亜麻色に染まり、その背からは薄い桜色のオーラを纏って半透明となったデヒューラが現れる。

 

「これが、トライユニゾンか…」

 

「ほんまに…2人と一騎でユニゾンが…」

 

実際にユニゾンした姿を見て改めて驚く。

 

「では、改めて模擬戦を開始する。サジタリアス!」

 

「行くぜ、シュティーゲル!」

 

「ヴァルゴ、お願い!」

 

正規眷属組のデバイス持ちはそれぞれのデバイスを起動させ、冥王三人娘もそれぞれ冥王の姿となる。

 

「行くぞ、レヴァンティン」

 

「アイゼン!」

 

「クラールヴィント」

 

「雷神!」

 

「風神!」

 

眷属候補組はザフィーラを除く6名がデバイスを所持しており、ほぼ全員が展開することとなった。

 

ちなみに藍香のデバイス『雷神(らいじん)』と翔霧のデバイス『風神(ふうじん)』は数年前にある組織によって対となるように作製された代物であるが、現在の現行デバイス機種にも引けを取らない性能を秘めている。

 

「行くわよ、翔霧!」

 

右手に白銀で三尺の刀身、雷鼓を模した黄金色の鍔、黄色い柄を持つ刀を持ち、藍香が翔霧に合図を出す。

藍香の纏うバリアジャケットは上に黄色いノースリーブを着て、下に縁に黄色いラインの入った白いミニのフレアスカートを穿き、足には黄色いローヒールを履き、その背に雷鼓を備え、頭に二本の角付きの黒いカチューシャを着けた姿となる。

 

「うん、藍香!」

 

両腕に風と翼の装飾を持った緑色の篭手を纏った翔霧もそれに応える。

翔霧の纏うバリアジャケットは上に緑色のノースリーブを着て、下に縁に緑色のラインの入った白いミニのフレアスカートを穿き、足には緑色のローヒールを履き、その背に半透明な白い羽衣を備え、黒いカチューシャを着けた姿となる。

 

「早速来るのかよ!?」

 

その初動を察知した秀一郎は…

 

「(あいつらにぶつけるのはちと厳しいかもだが…)天宮、水杜、お前達に一番槍を譲ってやるから藍香と翔霧の相手を頼むわ!」

 

紅牙の代わりに指示を飛ばす。

 

「なんでお前があたし達に指示出してんだよ!?」

 

「でも、一番槍をくれるって…」

 

「それはそうだけど…なんか納得が!」

 

そんな2人に…

 

「早紀、紗奈、秀一郎の言う通りに動け」

 

紅牙が命令を下す。

 

「わ、わかりましたよ!」

 

「は~い!」

 

そう返事をすると早紀と紗奈は藍香と翔霧へと向かう。

紅牙の言うことは素直に聞くのだった。

 

「沙羅。お前は湖の騎士を牽制しろ。アレの回復は厄介だ」

 

「は、はい。頑張ります」

 

開始の合図と共に下がったシャマルとリインを沙羅が捜索しに動く。

 

「ユウマは後方支援に徹しろ。秀一郎と俺で残りを相手する」

 

「あいよ!」

 

「わ、わかりました」

 

そう言ってユウマは下がりながらハンドガンをポンと出現させる。

 

「(あれが物質創造か。ある意味厄介かもしれんな…)」

 

それを横目で見ながら紅牙はシグナムの前に立つ。

 

「じゃ、俺はこっちのちびっ子か」

 

対して秀一郎もヴィータの前に立つ。

 

「ザフィーラ」

 

『わかっている。あの融合者は私が抑える』

 

シグナムの声にザフィーラも心得たように駆け出す。

 

「あ、待ちやが…っと!」

 

ガキンッ!!

 

秀一郎がザフィーラを止める前にヴィータがグラーフアイゼンを振るい、その攻撃を秀一郎が左腕で受け止める形となる。

 

「テメェの相手はあたしだ!」

 

「ちっ…紅牙、も無理か。ま、あいつにもいい経験になるか!」

 

と叫び、秀一郎は力任せにヴィータを振り払う。

 

ガキンッ!!

 

見れば、紅牙もサジット・ファルコンを剣形態に移行させ、シグナムのレヴァンティンと斬り結んでいた。

 

「(敢えて相手のフィールドで戦う、か…まぁ、そういう場面もあるだろうがな…)」

 

ゴンッ!!

 

両拳をぶつけてから、秀一郎も目の前の相手に突っ込んでいく。

 

 

 

神宮寺眷属、正規メンバー対眷属候補の模擬戦が始まった。

 

紅牙対シグナム。

秀一郎対ヴィータ。

早紀・紗奈対藍香・翔霧。

沙羅対シャマル・リイン。

ユウマ(・デヒューラ・ユーナ)対ザフィーラ。

 

果たして、この模擬戦…どのような結果になるのだろうか…?



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第百十四話『模擬戦。後に眷属交渉』

紅牙は眷属の補充と強化のため、模擬戦を開催した。

とは言え、正規メンバー以外はほぼ知人の知人といった構成での模擬戦なので、相手に自分らの実力を示した上で模擬戦後は紅牙が交渉しなくてはいけないわけだが…。

 

また、模擬戦前にユウマも正式に眷属入りしたのでその戦闘能力を確認する意味も含まれている。

そして、模擬戦は開始直後、五つのグループに分かれての戦闘へと突入していた。

 

 

 

~早紀・紗奈対藍香・翔霧~

 

「ったく、なんでボク達が秀一郎の指示を受けなきゃならないんだよ…」

 

「まぁまぁ、修行の成果を見せるチャンスじゃない?」

 

「そりゃあ、そうだけどよ…」

 

そんな風に悠長に早紀と紗奈が話していると…

 

「翔霧!」

 

「うん!」

 

一気に距離を詰めに来ていた2人は直感的に藍香は紗奈、翔霧は早紀へとそれぞれ別の進路を取る。

 

「冥王スキル、バーニング・チャクラム!」

 

「冥王スキル、ミスティック・クリア!」

 

複数の炎の戦輪と霧状の水をそれぞれ出現させると、早紀は両手で二つの戦輪を掴み、紗奈は水を集めて槍を作って構える。

だが、この時点で早紀・紗奈コンビは属性的な意味で相性が最悪な相手と相対することになった。

 

 

 

藍香vs紗奈の場合。

 

「水の槍とは、またやりやすい」

 

「間合いに入らせるわけないでしょ!」

 

紗奈が藍香を間合いに入らせないようにしながらもミスティック・クリアで形成した水弾を放つ。

 

「へぇ…」

 

飛んでくる水弾を刀で斬り落としながら紗奈の隙を窺おうとしてるが、流石に槍を扱ってるだけあって隙がない。

 

「(なら…押し通る!)」

 

バチバチ!!

 

藍香の魔力に反応し、背中の雷鼓が反応する。

 

「いっ?!」

 

それが電気だとわかり、紗奈の表情が明らかに引き攣る。

 

「『迅雷(じんらい)』!」

 

刀の切っ先を紗奈へと向けると、雷鼓から発生する雷を収束して一点に向けて解き放たれる。

雷のレーザーが紗奈へと向かうが、紗奈の属性は『水』。

相性的に悪いので、回避することにした。

 

「流石に避けるわよね。じゃあ…こっちは如何かしら?」

 

今度は刀を頭上に向けると、そこから雲に向かって雷を打ち上げる。

 

「な、なにを…!?」

 

「落ちなさい、『落雷(らくらい)』!」

 

晴れた日であるにも関わらず、その名の通り落雷が紗奈に向かって落ちる。

 

「きゃああ!?」

 

それを咄嗟に水の槍を地面に突き刺し、避雷針代わりにして紗奈自身は逃げることでやり過ごす。

 

「どうにも私とあなたでは相性が悪いみたいね?」

 

「うぅ…こんなことになるなんて…」

 

まだまだ余裕そうな藍香に対し、紗奈は冷や汗を流していた。

 

 

 

翔霧vs早紀の場合。

 

「ふっ! しっ!」

 

早紀に接近した翔霧は軽いステップを踏みながらワンツーを放っていた。

 

「ちっ!」

 

それを戦輪で防御する早紀。

 

「(これくらいは受け止められるか。なら、ギアを少し上げてもいいかな?)」

 

そう考えると、翔霧の動きが速くなり始める。

 

「(こいつ!? まだ速くなんのかよ!?)」

 

翔霧のギアが上がることを恐れた早紀が一旦離れると…

 

「(なら、拘束すりゃいい話か!)飛べ! チャクラム!」

 

戦輪を4枚ほど翔霧に向かって投擲する。

 

「『無風拳(むふうけん)』!」

 

ボァ!

 

それを迎撃した翔霧の拳が戦輪に当たると小さな音を立てて消えてしまう。

 

「なっ!?」

 

その光景に早紀は一瞬何が何だかわからなくなった。

 

「(ど、どういうことだよ!? なんでボクの戦輪が拳一つで消えるんだよ!?)」

 

「吹き荒べ、『疾風(しっぷう)』!」

 

そう言って翔霧が右手で空を一閃すると、風が巻き起こって早紀に襲い掛かる。

 

「くっ、このくらいで…!」

 

この攻撃に直接的なダメージを与える威力はない。

が、火を消すには十分な威力と速度を持っていた故に…

 

「あ、ボクの戦輪が!?」

 

早紀の戦輪が綺麗さっぱり消えてしまっていた。

 

「風は火を強くするけど、消しもする。その応用だね」

 

などと言う翔霧に…

 

「嘘だろ…」

 

早紀はある意味で相性が悪かったと今更ながら実感した。

 

 

 

そうして一対一では敵いそうもないと判断した早紀と紗奈はすぐさま合流した。

が、これも悪手になるとは本人達は思いもしなかった。

 

「紗奈! 沙羅がいない分は攻めで補い合うぞ!」

 

「わかってるよ!」

 

早紀と紗奈が合流したのに合わせて藍香と翔霧も合流する。

 

「なら、こっちも本領発揮よ」

 

「ここからが私達の本番だもんね」

 

互いに背中合わせになると視線を早紀と紗奈に向ける。

 

「疾風!」

 

「迅雷!」

 

その掛け声と共に翔霧と藍香が揃って駆け出す。

 

「同時かよ! 紗奈、風使いは任せた!」

 

「そっちも雷使いをお願いね!」

 

苦手な相手を頼みながら左右からバラバラに仕掛ける。

 

「『風壁(ふうへき)』!」

 

すると、翔霧が風の壁を両側に作って早紀と紗奈の攻撃を受け止めると…

 

「『雷鳴閃(らいめいせん)』!!」

 

その翔霧の肩を足場にして跳び上がると、紗奈の方に向かって上段から斬りかかる。

 

「え゛っ!?」

 

「紗奈!!」

 

早紀が風の壁を押し切ろうとするが…

 

「『風衝波(ふうしょうは)』!」

 

それを翔霧が風の壁ごと早紀を吹き飛ばした。

 

「うわぁっ!?」

 

「さ…!?」

 

紗奈が早紀を呼ぼうとするもその前に藍香の斬撃が襲い掛かってきて…

 

ピシャアァァ!!

 

「ぴきゃあああ!?!?」

 

峰打ちとは言え、雷撃をまともに喰らったので紗奈が地面に大の字になってダウンする。

 

「くっそぉ! よくも紗奈を!」

 

吹き飛ばされた早紀が体勢を立て直すと、大量に展開したチャクラムを藍香に向かって一斉に飛ばしてきた。

 

「すぅ…」

 

その藍香の背を守るように翔霧が陣取ると、深呼吸を一つしてから両手の中に風の塊を圧縮していき…

 

「『風翔砲(ふうしょうほう)』!!」

 

向かってくるチャクラム達に向かって一気に解放して風の砲撃を放っていた。

チャクラムの軌道が風の砲撃で逸らされて散る中、砲撃は真っすぐ早紀へと向かい…

 

「えっ、ちょっ、嘘!!?」

 

チュドォォンッ!!

 

「あああああ!?!?」

 

ものの見事に着弾すると、早紀の悲鳴が上がってきた。

 

「切り札を使うまでもなかったか」

 

「藍香、どうする?」

 

「ま、私達の技量は示せたでしょ。あとは待ってればいいと思うわ」

 

「それもそうだね」

 

早紀と紗奈を降した藍香と翔霧はそのままでは暇ということで、秀一郎の戦いを見に行くことにしたのだった。

 

………

……

 

~沙羅対シャマル・リイン~

 

「確か…こっちに来たはず…」

 

模擬戦開始早々、シャマルとリインのペアが森の中へと後退したため、沙羅は紅牙の命もあって捜索していた。

 

「(相手はサポートに特化した人だったはず。まぁ、私も人のことは言えないけど…)」

 

内心で自分の立ち位置を思い出して微妙な表情を浮かべる。

早紀と紗奈という、いつも行動を共にする友達であり、仲間を後ろでサポートし過ぎて自らが前に出るということをあまりしないようになった自分を客観的に見たのだろう。

 

「(元々、そんな前に出る性分でもないしなぁ…)」

 

などとネガティブな方面に思考が寄っていた。

 

「(とにかく、今は紅牙様の命令通りにあの人達を牽制しないと…)」

 

が、すぐに頭を振って思考を模擬戦に集中させて周囲の様子を窺う。

 

「(近くには…いない…?)」

 

そう思って森の開けた場所に出る。

 

と、次の瞬間…

 

「捕捉!」

 

「っ!?」

 

その声と共に魔力で出来た穴が沙羅の胸元に開き、そこからぬっと腕が伸びて沙羅のリンカーコアが摘出される。

 

「これ、って…!?」

 

思わぬ奇襲に沙羅が動揺していると…

 

「すみません。でも、確実な手を打たせてもらいます」

 

そう言って姿を現したシャマルがクラールヴィントで作った魔力の穴に手を差し込んで沙羅のリンカーコアを手中に収める。

 

「この手は使いたくなかったんですが、能力をフルに使えと言ったのはそちらなので…」

 

どこか罪悪感を覚えたような表情でシャマルが沙羅に告げる。

 

「(確かに、紅牙様は言ってた…)」

 

つまり、これも立派な戦術ということになる。

 

「この状態なら、私も他に手が出せませんが…シグナムやヴィータちゃん、ザフィーラなら上手く動いてくれるはずです」

 

「くっ…」

 

身動きが取れない沙羅も苦悶の表情を浮かべる。

 

「少しの間ですが…付き合ってもらいますね?」

 

「(ごめんなさい…紅牙様、早紀、紗奈…)」

 

シャマルの言葉に沙羅は心の中で紅牙達に謝るのだった。

 

こうして沙羅はそのまま模擬戦が終わるまでシャマルにリンカーコアを握られたまま拘束されてしまうのだった。

 

しかし、1つだけ懸念があった。

シャマルと一緒に後退したはずのリインはいずこへ…?

 

………

……

 

~ユウマ(・デヒューラ・ユーナ)対ザフィーラ~

 

紅牙から後方支援を命じられていたユウマだが、その前にはザフィーラが立ち塞がっていた。

 

「お、大型犬?」

 

『………………』

 

ユウマの失礼かもしれない発言にザフィーラは特に何も言わなかった。

 

『ユウ。模擬戦って言っても油断しないようにしなさいよ』

 

『はい。相手の能力などは未知数ですので、慎重に』

 

『ユウマ。気を付けてね』

 

デヒューラ、ヴァルゴ、ユーナの順にユウマに声を掛けていた。

 

「う、うん…」

 

そう答えながらユウマは物質創造で出現させたハンドガンの銃口をザフィーラに向ける。

 

『(ふむ。どこかぎこちないが、妙に様になっている。しかし…)』

 

若干だが、銃口が震えていることに気付き、ザフィーラもユウマが戦いには不向きな性格だということを察していた。

 

『(ならば、早々に行動不能にしてしまうのがいいだろう)』

 

そう結論付けたザフィーラが体勢を低くする。

 

「っ…」

 

そのザフィーラの動きを察し、ユウマにも緊張が走る。

 

「すぅ……ふぅ……(パンドラでの動きを思い出せ…これはゲームじゃないけど、あそこで培った経験を活かせれば…)」

 

一度だけ深呼吸したユウマはパンドラでの日々を思い出す。ゲームという仮想世界での出来事だが、ユウマにとっては唯一の戦いの経験値。

 

「(遮蔽物のない地形。なら…)」

 

バンッ!

 

ハンドガンを一発だけザフィーラの足元に発砲すると、すぐさま横に移動を開始する。

 

『む?』

 

ユウマの一手を怪訝に思いながらもザフィーラは慌てず…

 

『鋼の軛!』

 

ユウマの進行方向を塞ぐべく魔法による障壁を展開する。

 

「っ!」

 

それを横目に確認すると…

 

タンッ!

 

障壁を蹴って空へと跳び上がる。

 

『させん!』

 

ザフィーラはさらに障壁を地面から発生させると、それでユウマを囲うようにして包囲しようとする。

 

「っ…」

 

バババンッ!!

 

ハンドガンを連射させ、ザフィーラの展開した障壁の先へと魔力弾をぶつけて少しだけ速度を減衰させる。

 

「(足場をイメージして…)」

 

その隙にユウマはイメージを膨らませて足場を空中に創造し、そこからさらに跳び上がって障壁が囲われる前に空へと至る。

 

「はぁ…はぁ…」

 

空中の足場で息を少し整えながら、ユウマはザフィーラに銃口を向けて発砲する。

 

『っ!』

 

それを飛び退くことで回避したザフィーラは空に陣取るユウマを見上げる。

 

『ふむ…(意外と動けるのか?)』

 

「(体力…持つ、かな?)」

 

思わぬ動きをしてみせたユウマにザフィーラは少し感心したような感想を抱くが、当のユウマは体力面を気にしていた。

 

こうして、ユウマはザフィーラ相手に思わぬ粘りを見せるのだった。

ただ、ユウマはまだまだ一般人に近い体力しか持っていない。それを今後、どう克服するのか…。

 

………

……

 

~秀一郎対ヴィータ~

 

「ブレイズ・ブロー!!」

 

「テートリヒ・シュラーク!!」

 

篭手に纏った炎の拳と、ハンマーヘッドが激しく衝突する。

 

「「カートリッジ、ロード!!」」

 

バシュッ!!×2

 

ほぼ同時のタイミングで声を発した秀一郎とヴィータの篭手とハンマーから空薬莢が排出される。

それと同時に互いの魔力も高まっていき、秀一郎の拳の炎も猛り、ヴィータのグラーフアイゼンもまた魔力を纏っていた。

 

「バーニング・ブロウラー!!」

 

「ぶち抜け!!」

 

ギギギ…ッ!!!

 

一見、互いに力が拮抗しているように見えるが…

 

「ちっ…!」

 

先にヴィータが舌打ちするのが聞こえる。

 

「悪ぃが、こっちは既に駒を貰ってる身なんでな! このまま押し通るッ!!」

 

既に戦車の駒を有していてその攻撃力と防御力が上がっている秀一郎がそのままヴィータを押し切ろうとした時だった。

 

「こうなったら…!」

 

すると、ヴィータは"わざと"グラーフアイゼンを持つ力を抜いて秀一郎の拳の威力をそのまま受けることにしていた。

 

「?」

 

その意図が一瞬わからず、秀一郎もそのままヴィータを吹き飛ばしてしまうが、次の瞬間…

 

「アイゼン!!」

 

『了解』

 

バシュッ!

 

秀一郎に吹き飛ばされながら横に回転するかのような動きからグラーフアイゼンがカートリッジを炸裂させ、その形態をラケーテンフォルムへと変更する。

 

「ッ!? まさか!」

 

その行動に秀一郎も意図が読めたらしく、すぐさま両腕をクロスさせて防御用にカートリッジも消費しながら身構えた。

 

「ラケーテンハンマぁぁあああああ!!!!」

 

秀一郎によって吹き飛ばされて回転した遠心力も加え、さらにハンマーヘッドの片方から出現した噴射機からのブーストによる更なる遠心力によって一気に秀一郎の元へと戻ったヴィータは渾身の一撃を秀一郎に叩き込んでいた。

 

「ぐぅううう!!!?」

 

その一撃に戦車の防御力を得た秀一郎も苦悶の表情を見せる。

 

「吹っ飛べぇえええ!!!」

 

ガコンッ!!

 

ヴィータの雄叫びと共に今度は秀一郎が両足が地面を滑りながら吹き飛ばされる。

 

「どうだ、こんにゃろう!」

 

やられたらやり返すの精神だろうか?

そんな微妙にドヤ顔を見せるヴィータに対し…

 

「っ~~…マジかよ。今の状態で、戦車の防御力を吹き飛ばすのかよ…」

 

秀一郎は両腕が痺れるのを感じつつも、両腕に妖力を流して無理矢理回復させる。

 

すると…

 

「シュウが吹き飛ぶなんて珍しいものが見れたわ」

 

「だ、大丈夫? 秀一郎?」

 

早紀と紗奈を降した藍香と翔霧がやってきていた。

 

「お前等!? やっぱ、あの2人じゃ荷が重かったか…」

 

人選ミスったかな、と思いつつも、メンツ的に仕方ねぇしな、という気持ちもあったので深くは考えなかった。

 

「ん? そっちの姉ちゃん達はもう勝ったのか?」

 

ヴィータが藍香と翔霧に尋ねると…

 

「えぇ、相性が良かったみたいでね」

 

「準備運動くらいにはなったかな?」

 

事実ではあるが、翔霧の方は何気に酷い言い草だった。

 

「私達はシュウの戦いでも見学してるわ」

 

「あれからどんだけ強くなったか。ちゃんと見せてよね♪」

 

そんなことを言って本当に観戦し始める藍香と翔霧。

 

「お前等な~」

 

物凄くやりにくそうな表情で秀一郎はシュティーゲルに消費した分のカートリッジを装填する。

それはヴィータも同じで秀一郎達が会話してる合間に消費したカートリッジを装填していた。

 

「しゃあねぇ、仕切り直しだ」

 

秀一郎の言葉にヴィータも軽く頷くと…

 

「今度こそ、突破してやるからな!」

 

「ハッ! 言ってろ。俺だってそう易々と抜かせるつもりはねぇよ!」

 

そう言い合って再度構える秀一郎とヴィータ。

 

「相変わらず熱い奴…」

 

「それをあんまり自覚してないけどね~」

 

などと外野の2人は呆れたような眼で秀一郎を見ていた。

 

………

……

 

~紅牙対シグナム~

 

そして、紅牙とシグナムの戦いはというと…

 

ガキンッ!!

 

剣形態に移行したサジット・ファルコンとレヴァンティンが交差していた。

 

「どうやら、剣の腕はまだまだのようだな」

 

鍔迫り合いになった際、シグナムが紅牙に放った言葉だ。

 

「………………」

 

紅牙もそれは自覚していたので、敢えて何も言わなかった。

 

「しかし、剣の腕が未熟だとしても容赦はせん!」

 

そう言い放つと同時に紅牙を一度押し込んでから一旦下がって距離を稼ぐと…

 

ガシュッ!

 

『シュランゲフォルム』

 

カートリッジを消費し、剣形態から連結刃形態へと移行させたレヴァンティンを振るい、紅牙へと攻撃を仕掛ける。

 

「ちっ…!」

 

紅牙も素早く後退しながら剣形態のサジット・ファルコンでレヴァンティンの刃を弾いていく。

 

「飛竜…」

 

それを見ると、シグナムは一旦レヴァンティンを鞘へと収納し、カートリッジを消費させて魔力を圧縮する。

 

「ッ…!」

 

それを見た紅牙もサジット・ファルコンを弓形態へと移行させて左手に持ち直すと、尾を引っ張って魔力を収束させて矢を形成する。

 

「一閃ッ!!」

 

しかし、シグナムの方が動作的に速かったらしく、魔力を乗せた連結刃による強力な一撃を繰り出していた。

 

「(間に合うか!?)」

 

紅牙は内心で焦りつつもサジット・ファルコンから一条の砲撃を撃ち放った。

 

轟ッ!!

 

魔力の乗った連結刃とサジットブラスターが紅牙寄りで衝突すると、凄まじい衝撃波を生んで周囲に拡散していった。

 

「ぐっ…!?」

 

紅牙寄りということもあって衝撃波が鎧越しに伝わり、紅牙も表情が少し険しくなる。

 

「リイン!」

 

「はいです!」

 

と、そんな紅牙の隙を突いていつの間にかシグナムの傍に控えていたっぽいリインが出てきた。

 

「ユニゾンだと…!?」

 

シャマルと共に退いたのを確認していたが、どうやら一度退いてから戻ってきた、というところなのだろうか。

 

「ユニゾン・イン!」

 

シグナムとリインがユニゾンを果たし、その力を底上げする。

 

「ならば、こちらも相応の力を出すか…」

 

そう呟くと、紅牙もまた冥王の力を解放する。

 

「冥王スキル『グラヴィタス・イフリート』」

 

自らの冥王スキルを発動させ、重力を固めて作った球状の魔力球を周囲一帯に配置した。

 

「………………」

 

紅牙の行動に警戒を強めてレヴァンティンを両手で持ち直して構えるシグナム。

 

「ここからは物量戦で行かせてもらう!」

 

自身の周囲に紅の炎を球状にした魔力弾を形成すると、サジット・ファルコンも構える。

 

「(砲撃に、おそらくは誘導弾…それに周辺に配置された妙な魔力球…1人で捌くには少々不利か…)」

 

シグナムは冷静に状況を見極め、レヴァンティンを握る手を少し強める。

 

「リイン。すまないが、魔力を私の身体強化に割り振ってくれ」

 

『攻撃や防御に回さなくていいんですか?』

 

「物量戦で来ると言った以上、本当に物量で押されたらこちらが詰む。ならば、テスタロッサのように回避に専念し、一撃を与える隙を見極める」

 

『了解です!』

 

ユニゾン中のリインとのやり取りを終えると、シグナムは一気に紅牙の懐に入り込もうと加速する。

 

「(やはり、クロスレンジで仕掛けるつもりか)」

 

紅牙もまたそれを察し、シグナムの動きを制限すべく重力球を操り、周囲の物体を吸引する。

 

「っ!」

 

『し、姿勢制御します!』

 

それをリインが魔力で以って姿勢制御する。

 

「この場は既に俺のフィールドだ!」

 

そう言ってサジット・ファルコンからサジットブラスター(通常砲撃)を放つ。

 

「っ!」

 

それを魔力で強化した身体能力で回避するが…

 

「超重力!」

 

砲撃が重力球によって歪曲し、横合いからシグナムに襲い掛かる。

 

「くっ…!」

 

その横合いから来た砲撃を鞘で受け流そうとする。

 

「行け!」

 

しかし、それを素直に紅牙が許すはずもなく、展開してた紅の炎で出来た誘導弾を飛ばして邪魔をしようとする。

 

『フリジットダガー!』

 

シグナムの周囲に青白い短剣型の魔力刃が展開され、紅牙の誘導弾を迎撃する。

 

ジュワッ!!

 

炎熱と凍結の属性攻撃がぶつかり合い、水蒸気が上がる。

 

「ユニゾンとは、このような芸当も出来たのか…(だが、確か…)」

 

その迎撃の様子を見ながらも紅牙は一つ疑問に思ったこともあったようだ。

 

「(まぁいい。ユニゾンのことに関してはユウマも交えて話す必要があるしな)」

 

チラッとはやての方を見た紅牙は頭を戦闘に集中させる。

 

こうしてリインとユニゾンしたシグナムと、冥王とエクセンシェダーデバイスを用いる紅牙との戦闘はお互いに決定打を打たない膠着状態と化していたのだった。

 

………

……

 

模擬戦後。

 

「「「ず~ん…」」」

 

自分で沈んでいるという効果音を呟くぐらいに凹んでいた冥王三人娘。

早紀と紗奈は藍香と翔霧のペアに完敗し、沙羅もシャマルに動きを封じられて良いとこなしだったのが精神的にも辛かったのだろうか。

 

「やれやれ…こりゃ相当に凹んでんな」

 

ヴィータとの模擬戦で結局決着は着かなかったが、概ね力を示せた秀一郎は冥王三人娘を見て肩を竦めていた。

 

「はぁ~…」

 

ユウマはユウマで結局体力が尽きてザフィーラに捕えられたが、善戦した方だろう。今はユニゾンも解いてデヒューラに膝枕されている。

 

「まぁ、私は特に何もしてなかったから…別にこれくらいなら…」

 

などと言ってデヒューラは照れ隠しをしていたが…。

 

そして、紅牙は…

 

「些か不安材料もあるかもしれないが、これが今の俺の眷属の力だ」

 

模擬戦で相手になったヴォルケンリッター、及び藍香と翔霧に現状の眷属の力を説明していた。

 

「まぁ、八神や装者2人の力を見せてはいないが…前者はともかく、後者は力を使うにしても時限式かつ不安定だから許してほしい」

 

「…なんか、不本意な説明なんですけど…」

 

「異議を申し立てるデース!」

 

紅牙の説明に調と切歌が文句を言う。

 

「早くレシピの入手と、それを精製出来る人材を見つけないとな…(ウェルの奴、一体何処に収容されてんだ?)」

 

レシピさえあればアザゼル辺りに人材を紹介してもらうという選択肢もあるが…流石に畑違いが過ぎるかと、すぐさま意識を交渉に戻す。

 

「あと、明日…俺達は仲間と共に教会のクーデター派と一戦交えることになっている。これはあいつらなりのD×Dに対する挑戦であり、おそらくクリフォトもどこかしらで介入してくる可能性が高い」

 

眷属候補のヴォルケンリッターも、飛び入り参加の藍香と翔霧も黙って紅牙の話を聞く。

 

「少なくとも、俺はこの戦いに参戦するつもりだ。死者が出ない実戦形式の戦い、とは聞こえがいいが…おそらく裏ではそれなりの大捕物もあるだろう。教会のナンバー2から4…特に3と4がその辺を考えていないとも思えん。そして、クリフォトがこの戦闘に乗じて仕掛けてきて死者が出るかもしれん。推測の域を出ないかもしれんが…クリフォトのことだ。確実に疲弊した頃合いに仕掛けてくると俺は思っている」

 

「何故、そう言い切れる?」

 

そんな紅牙の意見に対し、シグナムが問う。

 

「元居た組織の後釜だ。そのくらいはしてくるだろう。それに…あのリゼヴィムという男…一度だけ直接見たことがあるが…かなり頭のネジが飛んでいた。聖杯を持つ者としては危険極まりない。それが俺の所感だ」

 

リゼヴィムの言動やヴァーリを挑発していたところを思い出したのか、険しい表情で紅牙も呟く。

 

「その戦いには、シュウ…秀一郎も連れてくつもりなの?」

 

黙って聞いてた藍香が紅牙に尋ねる。

 

「少なくとも眷属の何人かは連れていくつもりだ。秀一郎はその筆頭だな」

 

「そう…」

 

藍香が少し悩む様子を見せていた。

 

「俺が眷属に求めるものは、俺への抑止力だ。王である俺を力づくにでも止められるような、そんな眷属を作る」

 

「おいおい、そりゃ初耳だぞ?」

 

まだ体力的に元気で紅牙の話を聞いてた秀一郎も今の言葉には驚いたようだ。

 

「だからこそ、眷属内でもいくつかの派閥を作るようにしてきたつもりだ。八神、秀一郎、冥王、装者…それをより盤石のものとするためにそれぞれの派閥に組み込む人材が必要だった」

 

それが紅牙なりに考えた眷属の集め方なのだろう。

 

「別に俺のために動けとは言わない。が、力を貸してほしい。これからの戦いを生き抜くために…」

 

そんな紅牙の言葉を聞き…

 

「……いいだろう。主を守るのが騎士の務め。だが、私達ヴォルケンリッターの主はただ1人。それだけは忘れないでおいてもらおう」

 

ヴォルケンリッター側は代表としてシグナムが答える。

 

「十分だ。で、駒を受け取るのは?」

 

「私とヴィータ、そしてシャマルの3人だ」

 

「わかった」

 

それを聞いて紅牙は騎士の駒をシグナムとヴィータに、僧侶の駒をシャマルにそれぞれ渡す。

 

「そっちの2人はどうする?」

 

紅牙は未だ何かを考え込んでいる藍香と、妙にソワソワしてる翔霧の方を見る。

 

「藍香、どうする?」

 

「………………」

 

翔霧の言葉に返答もせずに藍香は考え込む。

 

「今の俺に権限などないが、何か必要なら上に掛け合ってもいい」

 

その紅牙の言葉に…

 

「なら、一つ条件があるわ」

 

藍香が食いつく。

 

「なんだ?」

 

「私と翔霧をシュウの近くに置いてほしいの」

 

「はぁ!?」

 

藍香の申し出に秀一郎が声を上げる。

 

「アンタの言う眷属内での派閥を作るのなら、私と翔霧も何処かの派閥に入った方がいいんでしょ? なら、私達はシュウの派閥に入るわ」

 

「ちょっ、待てお前…なに勝手に話を進めて…」

 

「翔霧も、それでいいわよね?」

 

秀一郎を無視して藍香は相棒の翔霧にも確認を取る。

 

「え? う、うん。秀一郎とまた一緒にいられるなら…私は別にいいけど…」

 

翔霧も承諾するのを確認すると…

 

「なら決まりね。とりあえず、明日の戦闘にも参加するわ。引っ越しはその後にでも…」

 

「わかった。グレモリーに話を通しておこう」

 

紅牙は頷きながら兵士の駒を藍香と翔霧に渡す。

 

「なんでこんなことに…」

 

2人の眷属加入に秀一郎は頭を抱えるが、元々連れてきたのは秀一郎自身なので自業自得とも言える。

 

トクンッ…×5

 

「これで残るは戦車と兵士が一つずつ、か…」

 

渡した駒がそれぞれの人物の体内に入ったのを確認してから紅牙は一言漏らす。

 

 

 

こうして神宮寺眷属も新たなメンバーが加入することになり、戦力を補強するのだった。

 

そして、翌日の夜には教会のクーデター派との決戦が控えていた。

そこでは何が起こるのか…。



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第百十五話『クーデター派との喧嘩・前編~剣の宴~』

神宮寺眷属がその戦力を補強した翌日の夜。

教会のクーデター派との決戦の幕が上がろうとしていた。

 

兵藤家地下に続々と集まるD×Dに名を連ねるメンバー達。

オカ研メンバー、シトリーメンバー、紅神眷属、神宮寺眷属、シスター・グリゼルダ、デュリオ。

ただ、紅神眷属と神宮寺眷属の二組は人数がそれなりに多いため、王以外はそれぞれ指名したメンバーでの参戦となっている。

ちなみに紅神眷属からは忍を筆頭に緋鞠、領明、オルタが、神宮寺眷属からは紅牙を筆頭に秀一郎、藍香、翔霧がそれぞれ参戦することとなった。

忍の方は絵札の眷属を連れてきたことになるが、殺さない喧嘩となるとシンシアには少々厳しい条件だろうと外されていた。

サポートにはアザゼルや天界のスタッフ、『刃狗』こと幾瀬 鳶雄が裏で動くようだ。

 

そんな中、アザゼルが一歩前に出て作戦概要を改めて説明する。

 

「いいか、お前ら。今回の一戦は教会のクーデター派とのある種の喧嘩だ。場所は急遽用意したレーティングゲーム用のバトルフィールドだ。この地よりも多少は暴れられるが、殺しは厳禁だ。それを理解してほしい。なお、向こう側もこのバトルフィールドでの戦闘に同意してくれている」

 

そこにソーナが言葉を続ける。

 

「深夜零時ちょうどに戦闘が始まる予定です。相手側もこちらの用意した転移型魔法陣でやってくることになっています」

 

その言葉にシトリーメンバーの中から匙が疑問を投げかける。

 

「それにしても、相手もよく承諾されましたね? 何かしらの罠があるんじゃないかって、普通なら考えますよね?」

 

匙の言葉に、アザゼルが苦笑交じりに答える。

 

「じゃあ、逆に聞くが…お前等はその罠ってのを考えたとして、実行に移したか? 一応、俺も色々と考えちゃいたが、実行には移さなかった。それが答えさ。あっちもあっちでこっちがそんな無粋な真似をしないって踏んでいる。これは生死を賭けた戦闘じゃねぇ。喧嘩なのさ。だからこそ、この喧嘩で人死には避けないとならん。それをやると禍根がもっと深くなって残っちまうからな。喧嘩ってのはストレートに応えりゃいいんだよ。両陣営共、クーデター派に退路がないのは重々承知なんだからよ」

 

相手を信じる。

それがどれだけ難しいことか…。

 

「お前らばかりが貧乏くじを引いていて申し訳なく思う。だが、ストラーダ、クリスタルディ…この両名がただイタズラに不満を抱いた戦士達を連れてきてはいないだろう。戦士達が俺達にその憤りをぶつけたいのは本音だろうが…枢機卿三名の真意は他にある。ヴァチカン本部から、ある程度の情報は得ている。あいつらは…本当の大馬鹿野郎だったってことがわかった」

 

アザゼルはそう続けていた。

アザゼル自身は苦笑していたが、その眼にどこか呆れているような、それでいて悲哀の色も宿していた。

 

『………………』

 

それを見たからか、この喧嘩に参戦するメンバーは神妙な面持ちで頷いていた。

そして、話は喧嘩の内容へと戻り、ソーナの目配せで椿姫が魔力で出来た鏡を作り出し、そこにバトルフィールドの全体図を映し出した。

 

「フィールドのモデルは駒王町となっています。駒王学園を中心に半径10kmの周辺地域を再現したものです。また、今回のフィールドの形成にはロスヴァイセ先生のご協力もありました」

 

「例のトライヘキサ用に研究中の封印術を応用したものを今回のバトルフィールドに反映させています。良い結果が得られればいいんですけど…」

 

椿姫の説明にロスヴァイセも補足するように説明していた。

 

「相手の戦力ですが…中隊規模の部隊を二つに分けるとのことです。主にエヴァルド・クリスタルディと、ヴァスコ・ストラーダをリーダーとした二つの部隊となります」

 

椿姫の報告に続いてソーナがこちら…D×D側の編制を発表する。

 

「それに伴い、私達も二つのチームに分けます。編制は、エヴァルド・クリスタルディ側に『ジョーカー』デュリオ・ジェズアルドさんを中心として、シスター・グリゼルダさん、紫藤 イリナさん及び『御使い』の参戦メンバー、そこにサジ以外の私達シトリー眷属と紅神君の率いる眷属の絵札チームの三名がサポートとして入ります」

 

「え、忍達がそっちなんですか?」

 

その編制を聞いてイッセーが思わず、ソーナに尋ねる。

 

「えぇ、今回はこちらを手伝ってもらいます。何か不都合でも?」

 

「あ、いえ…あの爺さんと出会った時、対応出来たのが忍だけだったんで…」

 

挑戦状を叩き付けられた時のことを思い出し、イッセーが頬を掻きながら答える。

 

「その話はリアスからも聞いています。私も紅神君はそちらに編制しようかと思いましたが、紅神君からの要望もあって今回はこちら側で動いてもらうことになりました」

 

「忍からの要望?」

 

そんなソーナの言葉に一同が忍を見る。

 

「あぁ。今回は殺し合いが目的じゃない喧嘩だ。なら俺はこの際、まだ慣れてない能力や剣術系の熟練度を上げようかと思ってな。それでサポートに回ることにした。ま、俺もエクスカリバーの使い手には興味あるから、そっちに加勢するかもだが…」

 

不慣れな能力…つまり、鬼の力であろう。さらに忍は七本の刀『七星狼牙』を帯刀しており、それらを使った刀術の鍛錬を今回の戦闘で行おうとしているのだろう。

 

「ということは、私達グレモリー眷属と匙くん、それと神宮寺眷属がヴァスコ・ストラーダ氏の部隊と戦うことになるのね?」

 

「えぇ」

 

リアスの確認にソーナも頷く。

 

「ついでに言っとくと、黒歌、ルフェイ、刃狗が裏でのサポートに入る」

 

そこにアザゼルからも追加の情報が入る。

 

と、そこで一歩前に出る者がいた。木場 裕斗だ。

 

「ソーナ前会長。僕もジョーカー側に付いてもいいですか?」

 

『っ!』

 

その言葉に誰もが驚き、それと同時に察する。

 

「……エクスカリバー、ですね?」

 

「はい」

 

ソーナの問いに木場も頷く。

 

「クリスタルディ氏は元エクスカリバーの使い手として聞いていますが…」

 

「はい。現役を退いたとは言え、数少ない天然のエクスカリバー適合者です。あの方が若かりし頃の話ですが、一時期3本のエクスカリバーを同時に使いこなしていたと聞いています」

 

ソーナがシスター・グリゼルダに尋ねると、そのような逸話が返ってきた。

 

「エクス・デュランダルの製法の過程で作ったエクスカリバーのレプリカを教皇聖下から賜った唯一の御方でもあります」

 

シスター・グリゼルダはさらに続けてそのように伝える。

 

「エクスカリバーのレプリカ?」

 

イッセーの疑問にリアスが思い出すように答える。

 

「話では、一応7本揃った訳だから、解析してその力を再現したレプリカを作り上げた、と聞いてるわ。確か、本物の五分の一にも満たない力しかないとか…」

 

「ストラーダ猊下も同様に聖下から賜ったデュランダルのレプリカを所有しているはずです」

 

リアスの言葉に続くようにシスター・グリゼルダも情報を伝える。

 

「……戦わせてください。僕はもう一度…エクスカリバーを、エクスカリバーの使い手を超えたいと思っています。これは復讐ではありません。挑戦なんです…!」

 

「(物は言い様だなぁ…)」

 

木場の言葉に忍は少しだけ苦笑していた。

 

すると…

 

「やらせてあげてもよろしいのでは?」

 

そこにアーサー・ペンドラゴンが現れて肯定の言葉を発していた。

 

「剣士の拘りは、剣士にしか癒せませんよ。ねぇ、木場 裕斗君?」

 

「………………」

 

それは剣士にしかわからない矜持なのかもしれない。

 

「代わりと言ってはなんですが、私がヴァスコ・ストラーダとの戦いに参戦致しましょう。長年、興味がありましたので。最強のデュランダル使いと称されたご老体の力に、ね」

 

アーサーの言葉を聞き…

 

「……ソーナ。そちらに入れてあげてちょうだい」

 

リアスも折れたのか、ソーナに頼んでいた。

 

「いいのですか? リアス」

 

ソーナの確認にリアスは、木場に向き直ると…

 

「裕斗。今度こそ、あなたの気持ちに決着を着けなさい」

 

「はい。ありがとうございます!」

 

木場は感謝と共に戦意に満ちた剣士の決意が見て取れる、勇ましい顔つきでリアスの前に跪いていた。

周りからもそのような感じで見られていただろう。

 

「………………」

 

ただ、1人…イッセーを除いては…。

 

その後、作戦についての確認を取り、バトルフィールドに向かう零時までの残り時間は最後の休憩に当てられていた。

 

「鳶雄、テメェ…よくも紅牙のやつに藍香と翔霧のことを言いやがったな!?」

 

「いいじゃないか。こうしてまた組めるようになったんだし…何より久し振りに会って秀一郎だって嬉しいだろう?」

 

「別に嬉しかねぇよ!」

 

「それは地雷だと思うけどな」

 

などと言って秀一郎が鳶雄さんに食って掛かる。まぁ、秀一郎の背後には今の発言を聞いて怒りのオーラを纏った藍香と翔霧がいるわけだが…。

 

「お久し振りです。鳶雄さん」

 

「久し振りね。ちょっとシュウを借りてもいいかしら?」

 

丁寧に鳶雄さんに挨拶する2人は秀一郎の首根っこを掴んで連れ去ろうとする。

 

「ちょ、待てお前ら!? 戦闘前に何を…!?」

 

「あはは、相変わらずだな」

 

そんな光景に笑みを浮かべる鳶雄さんだった。

 

「何をしているんだか…」

 

やれやれと紅牙が呆れていると…

 

「紅牙。眷属を増やしたんだな」

 

忍がやって来てそう聞いてくる。

 

「あぁ。今後のためにも戦力を補強しようと思ってな」

 

「で、あの2人が新人さん?」

 

「秀一郎の連れだ。昨日の模擬戦では早紀と紗奈の2人を早々に降していたらしい」

 

「へぇ~。てか、模擬戦してたのか…」

 

「休息は十分に取ってるから安心しろ」

 

そんなことを言った後、紅牙が視線をイッセーへと向けていた。

 

「周りへの気配りが出来ているようだな」

 

イッセーは何やら木場へと話し掛けていたようだった。

 

「イッセー君にも王としての資質が表れてきたのかもな。それにイッセー君は木場君の親友だし、何か俺達よりも察せることがあったのかも…」

 

「そうか。そうかもしれんな」

 

その後、イッセーはアーシアにも話し掛け、ゼノヴィアとイリナの様子を見たり何かを思って悩んだり、そんなイッセーの元に色んな人がやってきて話し掛けたりと、それなりに有意義な時間を過ごしていたようにも見えた。

 

そして…

 

「時間です」

 

クーデター派との喧嘩の時間がやってきた。

参戦する者達が転移型魔法陣の中心に集い、バトルフィールドへと転送される。

 

………

……

 

転移型魔法陣からバトルフィールドに移り、数分が経過した。

御使いとシトリー眷属、紅神眷属、そして木場のチームは、かつて堕天使レイナーレが拠点としていた廃墟と化した教会周辺にやってきていた。

ここがエヴァルド・クリスタルディ率いるクーデター派チームとの戦場になるようだ。

 

「また、アンタと共闘することになるとはな」

 

「クリスマスの時以来だね」

 

忍とデュリオが会話していた。

 

「あの時は途中で退場させられちったからね。最後まで付き合えずにすまないと思ってた」

 

「いえ。もし一緒だったら最悪過去の世界に誰かしら取り残されてた可能性もありましたし…」

 

「過去の世界、か…一応、リーダーだし、報告は聞いてるけどさ」

 

「なかなか信じにくいですよね」

 

「そりゃね。ま、元気そうで何よりだよ」

 

そう言ってデュリオが忍の肩をポンポンと叩く。

 

「さて、ちょっと俺は木場きゅんと話してくるよ」

 

「えぇ、それでは」

 

そう言ってデュリオが木場の元へと行くのを見て、忍も自らの眷属の元へと向かう。

 

「オルタ。大丈夫か?」

 

「はい、主様。身体機能に問題はありません」

 

「そういうことじゃないんだが…まぁいい」

 

気を取り直してオルタの視線に合わせるようにしゃがみ込むと…

 

「すまないな。本来なら平穏な暮らしをさせてやりたいとこだが…」

 

オルタの頭を撫でながら謝罪の言葉を紡いでいた。

 

「いえ。私の本質は人造魔導兵器…戦いにこそお役に立てるかと…」

 

「そういうことは考えなくてもいいんだがな…」

 

なら何故連れてきたのか…?

 

「ともかく、オルタは後衛で援護に徹してくれていい。緋鞠、領明、オルタのことを頼む」

 

「それはいいけど…」

 

「今更ですが、本当によかったのですか?」

 

緋鞠も領明もまだ賛成しかねているのか、表情が複雑だった。

 

「絵札の本質を知るにはちょうどいいと判断した。だからこそ、絵札眷属であるお前達を連れてきたんだ」

 

絵札の概要はまだ完全に把握した訳ではない。だったら、この際に解き明かしていこうという魂胆なのだろう。

そして、奇しくも今回連れてきた眷属の見た目は皆、ロリ、もしくはスレンダー系だったりする。

肉感的な身体を持つ者が多めの紅神眷属内では、少々珍しい部類だろう。

 

「……なんか今…凄く失礼なこと言われた気が…」

 

緋鞠がそんな独り言を呟いていると…

 

「来たか…」

 

忍の鼻が教会の戦士達の匂いを察知する。

 

 

 

両チームが対峙する。

少数精鋭のD×Dに対し、エヴァルド・クリスタルディ率いるクーデター派チームはざっと100人近い人数だった。

そんな中、デュリオがまず対話を試みていた。

だが、その対話は互いに譲れないものがあるという事実だけが残る結果となる。

 

こうしてエヴァルド・クリスタルディ率いるクーデター派チームと、D×Dとの戦いの幕が上がる。

 

クーデター派チームの初撃…光力による銃弾や神器による遠隔攻撃の一斉射撃がD×Dへと襲い掛かる中、ソーナの的確な判断で、椿姫と由良の2人のおかげで防ぎ切ることに成功する。

 

その後、クーデター派チームの前衛に対し、D×D側もアタッカー(忍、木場、仁村、巡、ベンニーア、ルガール、転生天使数名)をぶつけることで応える。

但し、クーデター派の戦士達が本気で倒しに来るのに対し、D×D側は相手を殺さずに抑える、ある種の『手加減』を強いられているが…。

 

そんな中、防御に徹していた椿姫から合図があり、ソーナもそれを承諾してアタッカー陣を下げさせる。

そして、発現する椿姫の神器『追憶の鏡(ミラー・アリス)』、その禁手にして亜種『望郷の茶会(ノスタルジア・マッド・ティー・パーティ)』。

発動条件は追憶の鏡で一定数カウンターすることで、その能力は『異能を有した魔物を鏡の中から出現させる』ものだった。

その能力で現れた3体の魔物『帽子屋(マッド・ハッター)』、『冬眠鼠(ドーマウス)』、『三月兎(マーチ・ラビット)』がクーデター派の戦士達を無力化させていく。

 

その戦闘光景を見てか…

 

「下がれ」

 

ずっと静観を決め込んでいたクリスタルディ猊下がエクスカリバー・レプリカを握って前線へと赴く。

その進路を邪魔しないように戦士達も道を開けていた。

 

「人の身で、ここまでのプレッシャー、か…」

 

木場の元までやってきた忍がそのように呟く。

 

「木場きゅん、狼君。聞いてるだろうけど、クリスタルディ先生は元エクスカリバーの使い手なんだよね。んで、アレがレプリカ。一応、七つの力を有してる。イメージしてる最強の聖剣使いの四つ上は覚悟しておいてほしい」

 

さらにデュリオも合流すると、そのように警告してきた。

 

『引き続き、戦士の相手は私の眷属と御使い、紅神君の絵札眷属に任せてください。エヴァルド・クリスタルディの相手は…今まで待機してもらっていましたデュリオ・ジェズアルドさんを筆頭に、イリナさん、グリゼルダさん、木場君、紅神君の5名に担当してもらいます』

 

「「「「「了解」」」」」

 

ソーナからの指示もあり、5人の天使・悪魔・狼が1人の人間を迎え撃つ。

 

「………………」

 

クリスタルディ猊下が近付く中、それは唐突に起きる。クリスタルディ猊下が無数に分身してみせたのだ。

これは当然エクスカリバーの力…しかし、天閃による高速移動による分身か、夢幻の力による幻影による分身なのか…?

初見では判断がつかなかった。

 

「クリスタルディ先生、行かせていただきます!」

 

その中で最初に動いたのはシスター・グリゼルダであり、無数の光球を分身したクリスタルディ猊下に撃ち出していた。

シスター・グリゼルダの攻撃は分身を貫き、その形を崩して無へと帰す。

つまり、この分身は夢幻による力だと判明する。

その中の1人が光球を剣で弾き、そのまま突撃してくる。

 

「「ッ!!」」

 

木場とイリナがそれを本物と判断したようで2人揃って仕掛けたが…

 

「それは擬態だッ!!」

 

デュリオの叫びに木場はその場から横に飛び退く。が、イリナはそうはせずに勢いのままオートクレールを擬態とされた分身体に一太刀入れる。

しかし、その分身体は形を崩してヒモ状となり、シスター・グリゼルダが倒して四散させた幻術の中から、ハッキリとした姿を見せるクリスタルディ猊下。ヒモはクリスタルディ猊下の手元に戻ると、一本の剣へと再構築され、イリナへと仕掛ける。

 

「割り込み御免!」

 

ギィンッ!!

 

そこに忍が割り込み、7本も帯刀していた刀の一本『武天牙』を抜いて防いでいた。

 

「ッ!!」

 

しかし、防ぐのをわかっていたのか、クリスタルディ猊下は破壊の力を加えて忍を地面に縫い付けようとした。

 

「ストラーダ猊下を捉えた戦士か。確かに良い腕をしているようだな」

 

「そいつは、どうも!」

 

武天牙でエクスカリバー・レプリカを弾いてクリスタルディ猊下を吹き飛ばすも、クリスタルディ猊下はすぐさま次の手を打つ。懐から出した複数の十字架を取り出し、天に放る。さらにクリスタルディ猊下が念じると共に十字架はクリスタルディ猊下と相対している5名を囲うような結界を作り出していた。

 

「祝福の特性で十字架の結界を底上げしている。そこのシトリー家の悪魔でもそう易々とは近付けまい。さらに言えば、天使でもそう簡単に打ち破れはしない。つまり、高速で逃げることも、空を飛んで距離を取ることも無理だということだ」

 

「俺達を分断するだけじゃなく、俺と木場君の足封じに、転生天使組の制空権まで奪いやがったのか…」

 

そんなクリスタルディ猊下の説明に忍もまた嫌な汗を流していた。

 

「では、続きといこうか」

 

そう言うとクリスタルディ猊下は聖なる波動を飛ばしてきた。

それに対し、木場、イリナ、忍がそれぞれ波動と魔力斬撃を放って相殺しようとするが、クリスタルディ猊下の放った波動には幻術も混ざっており、それらを回避しようにも支配の特性を使って飛ばした波動を操作するという技を見せられ、翻弄されてしまう。

そこにデュリオの援護もあって、一旦忍、木場、イリナはクリスタルディ猊下から距離を置くが、限定されてしまった空間ではそれぞれ別方向に下がる必要があった。

 

「たとえレプリカであろうと、私がエクスカリバーを握れば、これぐらいは造作もないのだよ」

 

そう言うと、クリスタルディ猊下は予備動作なしで姿を消す。

 

「(くっそ、匂いが全部同じだから判別出来ねぇ!)」

 

クリスタルディ猊下の使う夢幻の特性は、忍の嗅覚でも判別が難しい代物のようだった。

そのため、忍も木場とイリナ同様に気配と視線で周囲に気を配る。

だが、次の瞬間、3人の横合いから複数のクリスタルディ猊下が現れ、それぞれが迎撃行動に移るが…。

 

ガキンッ!!×3

 

「「「ッ!?」」」

 

どれも質量を持っており、高速剣技の後、それぞれが相手を斬り伏せると、それが霧散する。

 

「質量を持った残像!? 夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)の特性で作り出しただと!?」

 

木場が思わずといった感じで叫ぶ。

 

「天閃と夢幻の組み合わせだ。高速と幻術、それによって質量を持った残像は作れるのだよ」

 

その声は木場の背から聞こえてくる。

 

「木場君!」

 

「くっ!?」

 

木場も咄嗟に聖魔剣を消して聖剣創造の禁手を発動させて騎士甲冑を召喚するが、それを斬り伏せてクリスタルディ猊下が木場に肉薄する。

 

「君達のような強力な悪魔にはあまり効果がない聖水だが…」

 

聖水の小瓶を木場の頭上で叩き割って、聖水が木場に降りかかるのを確認してからクリスタルディ猊下が念じると…

 

ズキッ!!

 

「ッッ!!!!」

 

祝福の特性で底上げされた聖水の力が木場を襲う。

 

「先生ッ!」

 

木場を助けようとイリナがオートクレールから波動を飛ばす。

 

ザシュッ!!

 

「え…?」

 

オートクレールの波動によってクリスタルディ猊下の首から上が飛び、それを見てイリナが狼狽する。

 

「甘いな。紫藤 イリナ」

 

が、それは幻術であってイリナの背後から現れたクリスタルディ猊下がエクスカリバー・レプリカを振り下ろす。

 

「っ!?」

 

それをイリナは何とか受け止めるが、破壊の特性が発動して破壊の重圧がイリナに襲い掛かる。

 

「俺のこともお忘れなく!」

 

クリスタルディ猊下に対し、デュリオが炎の球体と氷の槍を同時に放つ。が、それはクリスタルディ猊下に直撃する寸でのところで軌道を変えて横に逸れていく。

デュリオはそれを気にせず、イリナに当たらぬように周囲一帯に鋭い氷柱を発生させるが、クリスタルディ猊下の周囲には氷柱は現れなかった。

 

「まさか…支配したというのですか!? ジョーカーの攻撃を…?!」

 

その光景にシスター・グリゼルダが叫ぶ。

 

「支配の力を以ってすれば神滅具であろうとも…」

 

が、よく見れば、クリスタルディ猊下の衣装の一部が氷柱によって貫かれている。

 

「と言いたいところであったが、流石に攻撃を逸らすだけで精一杯のようだ。天使化の恩恵に救われたな、デュリオよ」

 

そう言ってからクリスタルディ猊下は忍を見る。

 

「それで? そんな御大層な刀をぶら下げておいて使うのは一本だけなのかな?」

 

「………すぅ………ふぅ…」

 

それを聞き、大きく息を吐くと忍は武天牙を一旦鞘へと収める。

 

「出し惜しみしてる場合でもないか。それに実戦で使えるかも確かめておきたかったしな」

 

そう言うと、忍は七星狼牙の一本『真狼牙』を抜くと、その柄を口に咥え始める。

 

「? 東洋人は刀を口に咥える風習でもあるのか?」

 

「いや、俺がちょっと特殊な使い方をするだけだ」

 

そう答えると、残りの六本の刀を両手で一気に抜き放つ。

 

「紅神流煌剣術『絶爪の型(ぜっそうのかた)』」

 

口に咥えた一本と、両手の指の間に挟み込んで三本ずつの刀をまるで爪のように持った忍の刀術の新たな形。

 

「なんとも破天荒な…」

 

その様子に思わず苦笑してしまうクリスタルディ猊下。

 

「なんとでも言ってくれ。変則七刀流の力を見せてやる…!」

 

そう言うと、忍はクリスタルディ猊下との距離を詰めて攻撃を仕掛ける。

 

「むっ…!」

 

それをクリスタルディ猊下は天閃と夢幻の特性を用いて再び質量を持った分身体を作り出して忍の背後と横合いから襲い掛かる。

 

ガキンッ!!×3

 

忍もすぐさま振り向くと、口に咥えた一刀で右側、右手に持った三刀で左側、左手に持った三刀で正面を同時に防いでいた。

 

「その態勢では迎撃も難しいだろう」

 

そこにもう一体、背後に現れると、忍に向かって斬りかかる。

 

「紅神君!?」

 

木場が叫ぶ中…

 

「破ッ!!」

 

腕を広げるような動作と共に分身体を吹き飛ばすと、その勢いのまま回転し、奇襲してきたクリスタルディ猊下の剣を口に咥えた一刀で防ぐ。

 

「ッ!!」

 

だが、クリスタルディ猊下は慌てずに破壊の重圧を与える。口で咥えているだけの一刀だけならこれで外れるだろうと確信しての行動だった。

 

「ぐっ…!!」

 

だが、忍は口に咥えた一刀で耐えてみせた。

 

「なに…!?」

 

「これで…どうだ!」

 

驚くクリスタルディ猊下に、両手に持つ六刀で斬りかかる。

 

「ちっ…!」

 

クリスタルディ猊下は破壊の重圧を解き、天閃の特性でその場を飛び退く。

 

「やっぱ、まだ慣れないことはするもんじゃねぇな……ペッ…」

 

六刀を鞘に戻し、口に咥えてた一刀も手に持って鞘に戻してから血の混じった唾を吐く。

 

「末恐ろしいことだ」

 

そんな忍に対してクリスタルディ猊下はそう漏らす。

 

「そりゃこっちの台詞だっての。人間でも技術を極めればここまでのものになるのかよ…」

 

忍もまたクリスタルディ猊下の技量に舌を巻いていた。

 

そんな中、聖水のダメージから多少回復した木場がよろよろと立ち上がると宣言する。

 

「グラムを使います。いくらエクスカリバーと言えど…」

 

それを聞き、待ったを掛ける者がいた。

 

「それはダメだ」

 

そうハッキリと言ったのは、デュリオだ。

 

「命、削るつもりなんだろう? そんなのはダメだって。これは身内同士の肉体を使った会話みたいなもんだよ? お互いの不満を拳に乗せて殴り合う場だ。そこで君が命を削る必要なんてないだろう?」

 

「ッ! しかし、相手は本気だ! あなたは味方の不満を全て受け続けるというのか!?」

 

そのデュリオの言葉に木場も不満を爆発させる。

 

「いやいや、ちゃんと俺だって殴るさ。『この大馬鹿野郎』ってね。でもね、君が命を張ってその魔剣を使うべき相手は…クリフォトだ」

 

そんな木場をデュリオは諭すように抱き寄せる。

 

「木場きゅん…いや、裕斗。確か、元は教会の施設の出身だろう? なら、俺の弟も同然だ。兄ちゃんとして、弟の無茶は容認出来ないってね。まぁ、俺に任せておきんしゃい。伊達にリーダーを張ってる訳じゃないんでね」

 

そう言うと、デュリオは木場から離れ、クリスタルディ猊下の前に立つ。

 

「デュリオ。教会最強と称された男は、何のために戦う?」

 

クリスタルディ猊下の質問にデュリオは…

 

「皆が平穏無事に暮らすために。それが唯一絶対の理由でいいじゃないっすか」

 

とびっきりの笑顔でそう答えると、デュリオは天使の10枚の白き翼を広げ、黄金のオーラをその身に纏いながら両手で輪を作り、息を吹きかけていた。

 

「これは…あの時の…!」

 

その技をクリスマスの日に見ていた忍は、デュリオがこれから行うことを察した。

 

デュリオの『虹色の希望』。

そのシャボン玉が戦場に広がり、それに触れた者は皆、大切な者と大切な者を思い出させる。

 

戦場が無力化しつつある中…

 

「……だとしてもだ! 一応の決着を着けなければ、我等の決起は無駄になるのだよ!! デュリオッッ!!!」

 

クリスタルディ猊下もまた涙を流しながらも、その強靭な精神力でエクスカリバー・レプリカを握っていた。

 

迎える最終盤面。

木場とイリナが再び立ち上がってクリスタルディ猊下に向かって進撃する。

その中で木場の聖魔剣とクリスタルディ猊下のエクスカリバー・レプリカが交差する。

すると、不思議なことにエクスカリバー・レプリカの聖の波動を聖魔剣の魔の力が吸い取り、聖の力を高めていたのだ。

聖魔剣の新たな一面が発見された瞬間だった。

そして、聖魔剣がエクスカリバー・レプリカの聖の波動を吸い取った直後、イリナがオートクレールの浄化の力を解放する。

 

だが、それでもなお戦意を喪失させないクリスタルディ猊下。

そこにシスター・グリゼルダの光の矢…天使の力を高める、それをイリナに放ち、オートクレールの浄化の力を底上げさせてエクスカリバー・レプリカを無力させていく。

そして、デュリオによる最後の一撃がクリスタルディ猊下を呑み込むのだった。

 

 

 

この場での戦闘は終結しつつあった。

デュリオのシャボン玉、クリスタルディ猊下の敗北によってほとんどの戦士達が戦意を喪失させたからだ。

 

そして、クリスタルディ猊下は罰を求めたが、デュリオはそれを否定した。

彼曰く『先生を倒したら、そっちの方が恨まれるに決まってるでしょう? それに、生きてりゃ美味いもん食い放題っす。世の中、それがdpれだけ尊いか知らない奴が多すぎるんすよ』とのこと。

その言葉を聞き、クリスタルディ猊下は苦言を呈しながらも涙を浮かべていた。

 

「狼君、裕斗、イリナちゃん。行きなよ。こっちはもう大丈夫。イッセーどん達の方に行ってきなよ。俺は、もう少しクリスタルディ先生と話しでもしてるからさ」

 

その申し出に忍、木場、イリナは頷きながらイッセー達の元へと向かうのだった。

 

その際、クリスタルディ猊下から一言、忠告があった。

 

「ストラーダ猊下は…正真正銘の怪物だ」

 

手練れであろう5人を相手取った人間から、そのようなことを言わしめさせる。

果たして、ストラーダ猊下という人物とは…?



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第百十六話『クーデター派との喧嘩・後編~力こそ真実~』

エヴァルド・クリスタルディ率いるクーデター派チームとの戦闘は無事に幕を閉じた。

しかし、まだヴァスコ・ストラーダ率いるクーデター派チームとの戦闘も続いてたが、それでもデュリオの『虹色の希望』によって戦士達は無力化されていた。

残るは未だ戦意が衰えない老兵…ヴァスコ・ストラーダのみ。

この戦闘の行方は如何に…?

 

 

 

こちら側では駒王学園の校庭(レプリカ)が戦場となっていた。

 

そんな中、戦場に広がってきた虹色のシャボン玉を見つめ、リアスが呟く。

 

「このシャボン玉は…こちらの陣営のものかしら?」

 

それに答えたのは…

 

「えぇ、そうです」

 

こちら側にやってきた木場だった。

 

「このシャボン玉はジョーカーが作ったもので、相手の大切なモノを思い返させて戦意を鈍らせるものだそうです」

 

同じく木場に同行していたイリナが報告してくれる。

 

「エヴァルド・クリスタルディは戦意喪失。今はジョーカーが話し相手になってますよ」

 

さらに忍も状況を簡潔に説明する。

 

「そう。なら、残るは…」

 

それを聞き、リアスはストラーダ猊下を見る。

そのストラーダ猊下も祭服を脱ぎ去り、齢80代という顔に不釣り合いな瑞々しい鋼の肉体をさらし、デュランダル・レプリカを持ってD×Dの前に立つ。

 

「では、教義の時間といこうか。悪魔の子ら、そして異種の子らよ。存分に学んでいきなさい」

 

そう言い放つと、ストラーダ猊下から濃密な重圧が解き放たれる。

 

『---ッ!!?』

 

そのプレッシャーにD×D側の全員が息を呑んだ。

 

「……デュランダルのレプリカ。力は本物の五分の一だと聞くが…猊下が持つ以上、その限りではないだろう」

 

「確かに。さっきのエクスカリバーのレプリカだって本来は本物の五分の一しかないはずだ。それをあそこまで使いこなした人間以上、って考えた方がいいのかね…?」

 

ゼノヴィアの言葉に先程まで戦っていたクリスタルディ猊下の技巧を思い出し、忍がストラーダ猊下を見る。

 

と、最初に木場とイリナが仕掛けようと飛び出す。

 

「ッ!?」

 

が、木場の聖魔剣をストラーダ猊下は素手で掴んでいた。

 

「良い剣筋だ。的確であり、何よりも人間相手にも躊躇いもない。しかし」

 

パキンッ!!

 

聖魔剣が乾いた音を立てながら、その刀身を"素手で"折られる。

 

「素直過ぎる。まだまだ鍛錬が足りない」

 

そう言うと、裏拳を木場に放つ。木場も折れた聖魔剣で防御を試みるが、元々防御力が薄く、裏拳の威力が絶大ということもあってかなり遠くまで吹き飛ばされてしまう。

そこにイリナも仕掛けるが、指で真剣白刃取りを行われた上に遠方に投げ飛ばされてしまう。

 

「なら、魔法で!」

 

ロスヴァイセが魔法のフルバースト攻撃を仕掛ける。

だが、ストラーダ猊下はそれすら避けることもせず、指先一つでロスヴァイセの放った魔法を高速で触れると、その触れた魔法が何故か威力を失っていくように四散していく。

 

「なっ!? 魔法…術式自体を崩したというのですか!?」

 

「魔法とは、計算だ。となると、方程式を崩す理をぶつければ相殺、或いは壊すことも可能なのだよ。特に若い術者は式が洗練されておらず、形だけの場合が多い。僅かな綻びを見つければ、物の数ではないぞ。作りさえわかれば、力で押し通せるのだ」

 

『-----』

 

ストラーダ猊下の言葉にその場の全員が絶句する。

 

《それなら、僕が…!》

 

「加勢するぜ!」

 

闇の獣と化したギャスパーと秀一郎が飛び出す。

それに応えるストラーダ猊下の右拳を一度引く。それに合わせて右腕の筋肉が異常なほど肥大する。

 

「ふんッッ!!」

 

気合一閃と共に右の正拳が繰り出される。その予備動作を見てたギャスパーと秀一郎もそれを寸でのところで避ける。が、2人が避けた先の建物が拳圧の衝撃によって崩壊してく。

 

「嘘でしょ!? 拳の余波だけで、サイラオーグ並みだというの!?」

 

「猊下のパンチは『聖拳』と呼ばれるものだ。パンチにすら聖なる力が宿っている。気を付けてくれ、当たれば悪魔は大ダメージだ!」

 

リアスの驚きにゼノヴィアが解説と警告をする。

 

「だが…!」

 

《懐に入れば…!》

 

ストラーダ猊下の左右から仕掛けるギャスパーと秀一郎。

だが、ストラーダ猊下がデュランダル・レプリカを構えると濃密な聖なるオーラが刀身を包み込み、その刀身と体捌きのみで左右から迫る2人の乱打撃を軽い感じで受け流していた。

 

「《ッ!!?》」

 

信じられないといった表情のギャスパーと秀一郎だが、乱打撃は続いている。

それでもギャスパーがデュランダル・レプリカを抑えようとするが、その膨大な聖なるオーラを目の当たりにして一旦退いてしまう。

それに合わせるように秀一郎もまた一時的に後退する。

 

《なんだ、この聖剣の力強さは!?》

 

「決定打が打てなかった…いや、そもそも決定打なんて与えられんのか…?」

 

ギャスパーと秀一郎がそれぞれ退いたのを見て…

 

『なら、今度は俺が!』

 

匙が邪炎を滾らせ、複数のラインを伸ばしてストラーダ猊下に仕掛ける。

それを受け、ストラーダ猊下がデュランダル・レプリカを軽く薙ぐ。たったそれだけの動作にも関わらず、D×D側の全員が体勢を低くしていた。その直後、全員の頭上に何かが通り過ぎていく。

見れば、模造の建物に横一文字の斬撃による痕跡が残っていたが、その波動が鋭過ぎたためなのか、建物は崩壊もしておらず、余波で窓ガラスにも異常がない、という現象を引き起こしていた。

 

『クソッ!』

 

匙のラインも真っ二つになるが、それでも邪炎を放ち続ける。

しかし、その邪炎もデュランダル・レプリカや聖拳の余波でその全てが打ち払われる。

 

『なら…!』

 

結界技で封じ込めようとした匙であるが、ストラーダ猊下はその場で一回転する勢いを利用してデュランダル・レプリカを振るい、その結界技をも斬り裂いていた。

 

『なんなんだ、このジジイッ!?』

 

あまりの状況に匙も思わず叫んでいた。

 

「貴殿らはあまりに神より賜った力……神器に頼り過ぎている。まぁ、一部例外もあるようだが…」

 

そう言うとストラーダ猊下はチラリと忍を見る。

 

「私の力に理屈なんてものはない。愚直なまでの鍛錬と無数の戦闘経験が私の血となり肉となっただけだ。一心不乱なまでの神への信仰と、己の肉体への敬愛を忘れなければ、パワーは魂にすら宿るのだ。悪魔と異種の子らよ。貴殿らの魂にパワーは宿っているのか?」

 

そう問われたD×Dのメンバーはそれぞれ思うところがあったようだ。

 

「爺さん。俺も、本気を出させてもらうぜ…!」

 

「魂、か。この受け継いだ魂に恥じないように…!」

 

「意味が分からん。が、要は力で捩じ伏せれば問題なかろう?」

 

イッセー、忍、紅牙が前に出て、それぞれ『真紅の赫龍帝』、『武鬼』、『紅冥王』の姿と化して横並びになる。

 

「一番手は貰うぜ!!」

 

龍翼を広げたイッセーが真っ直ぐにストラーダ猊下へと向かい、その右腕を龍剛の戦車形態へと変化させて渾身の一撃を放っていた。

 

「……ッ!!!」

 

その一撃をストラーダ猊下はデュランダル・レプリカを用いて真っ向から受け止め、イッセー渾身の一撃を完全に呑み込んでいた。

両者はそれぞれ一旦退くと同時にストラーダ猊下の左右から忍と紅牙が仕掛ける。

 

「ふッ!!」

 

忍は皇鬼双腕の右腕側に妖力を一極集中させた渾身の一撃を…。

 

「はぁッ!!」

 

紅牙は紅の炎を右腕に纏わせた一極集中させた渾身の一撃を…。

 

どちらも本気の一撃である。しかし、ストラーダ猊下はデュランダル・レプリカの刀身で忍の拳を受け止め、紅牙の拳は素手で受け止めていた。

 

「「ッ!!」」

 

イッセー同様、紅牙の拳の威力が完全に呑み込まれる中、忍の拳はというと…

 

「良い拳だ。が、借りものの力では私には届かないぞ、異種の戦士よ」

 

「ぐっ…!」

 

ストラーダ猊下がそれだけ言うと、忍は悔しそうに紅牙と共に一旦離れる。

それに合わせ、戻ってきた木場とイリナが再びストラーダ猊下に仕掛け、そこに朱乃と小猫も参加する。

しかし、それをも歯牙に掛けないストラーダ猊下の"(パワー)"。

 

そんな中、遂にゼノヴィアも参戦する。

 

「いいぞ! そうだ! それでいい! 何も考えてはいけない! いいか、戦士ゼノヴィアよ! 例え、エクスカリバーと同化していようと、デュランダルの本質は、純粋なパワーだ!! だからこそ、貴殿は選ばれた!! パワーを否定するな! 否定してはいけないッッ!!!」

 

本物とレプリカのデュランダルが鍔迫り合いをする中、まるで教え諭すような言葉をストラーダ猊下は叫んでいた。

 

「だが…パワーの表現は一つではない。この剣の姿は…貴殿が本当に求めたものなのか?」

 

「ッ!!」

 

ストラーダ猊下の言葉にゼノヴィアは何かしら思うところがあったらしく、一旦退いていた。

 

「なら、これならどう?」

 

そこにリアスの必殺技『消滅の魔星』が放たれる。

いくら常軌を逸していようと、この攻撃が当たれば…。

 

だが…

 

「これはこれは……老体にはちと厳しい代物だ。しかし…」

 

ストラーダ猊下はデュランダル・レプリカを天高く掲げると、尋常じゃない聖なるオーラをその刀身に収束していく。

 

カッ!!!

 

そして、それを徐々に迫ってきた魔星に対して振り下ろすと、凄まじい光量が周囲を包み込んで全員の視界を遮っていた。

そして、再び目を開けた時、彼等が見たのは…

 

「ッ!!?」

 

真っ二つに斬られた魔星の姿だった。

 

「……こういう時、笑うしかないのかしらね…?」

 

引き攣った笑みを浮かべるリアスに対し、流石に肩で息をしていたストラーダ猊下が告げる。

 

「ふぅ……いいかね? デュランダルは、『全て』を斬れるのだよ。例え、それがバアルの滅びだろうと…例外は、ない」

 

レプリカでこれをやってのけたストラーダ猊下に、現所有者のゼノヴィアは何を思うのか?

 

「さて…それでは次は私の番、ということでよろしいでしょうか?」

 

そう申し出てきたのは、アーサーだ。ずっと静観していたが、遂に動くようだった。

 

「ほぉ……まさか、この歳になって見ることが叶うとは…」

 

アーサーの持つ聖王剣『コールブランド』を見ながら感嘆の声を上げるストラーダ猊下。

 

「あなたの持つ剣が本物ではなくて残念ですが…そのパワーだけでもこの身に受けたいと思いましてね」

 

対するアーサーもまた不敵に返していた。

 

そこからのストラーダ猊下とアーサーの戦闘は壮絶の一言だった。

力の体現者にして最強の人間であるストラーダ猊下。

最強の聖剣である聖王剣・コールブランドの使い手に選ばれし技巧派の剣士アーサー・ペンドラゴン。

2人の戦闘は一線を画し、高速剣技の中でお互い狂喜の笑みを浮かべていた。

 

だが、その戦闘も数分しか経たずに終わりを告げる。

何故なら…

 

「……素晴らしい。が、ここでやめましょう。これ以上は、私がショックで立ち直れなくなる」

 

「……すまないな、若い剣士よ」

 

アーサーから戦いをやめ、老戦士は苦笑しながらもそれを了承し、謝罪していた。

 

「あと、30年……いや、20年早く出会っていれば、最高の戦いが出来たでしょう。これ以上は……悲しくなるのでね」

 

アーサーが戦いから退いた際、そのようなことを漏らしていた。

 

そして、その戦いに触発されたかのようにゼノヴィアが前に出る。

今度はエクス・デュランダルではなく、右手にデュランダル、左手に七つが統合された真のエクスカリバーを持って…。

 

「そうだ! それでいいッ! デュランダルの元使い手である私からしたら、エクス・デュランダルは疑問の塊でしかない! デュランダルもエクスカリバーもそれぞれで既に完成されている。何故、組み合わせる必要があった? それは貴殿がデュランダルに翻弄され、『補助』などという愚行をエクスカリバーに課したからに他ならない。貴殿は…一刀でも二刀でも戦える戦闘の申し子だ! 否定するな! パワーを信じてこそ、力は本物になるッ!!」

 

まるで今のゼノヴィアの姿に歓喜するかのようにストラーダ猊下は言葉を紡ぐ。

対するゼノヴィアの方も二刀流となった聖剣から聖なるオーラが溢れ出していた。

 

「ようやく、再会出来たな。デュランダルよ。そう、そのデュランダルこそが本当の姿だ! さぁ、戦士ゼノヴィアよ。何も考えず、ただただ来るがいい。デュランダルの真実は破壊の中にしかないのだ!」

 

「……はい!」

 

2人のパワーを体現する剣士は、ゆっくりとしていながらも力強い歩幅で距離を詰めていく。

 

そして…

 

「おおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

「はあああああああああああああッ!!!」

 

2人の剣戟はバトルフィールドの空間をその破壊の余波だけで壊さんばかりの波動を放っていた。

が、ゼノヴィアの持つ二刀の聖剣にデュランダル・レプリカとストラーダ猊下の体力が先に参る結果となり、これで決着かというところでレグレンツィ猊下が間に入る。

 

彼の訴えは…尊く、そして純粋であった。だからこそ、ストラーダ猊下も再び剣を取ったのだという。

レグレンツィ猊下の両親は悪魔に殺され、他の戦士も悪魔や吸血鬼、異種によって人生を変えられた者が多い。だからこそ、蜂起に参加した。

イッセー達が感じる平和の中にも、苦痛や憤りを感じる者がいる。

その訴えを…したかったのだ。

 

それでも、と…仲間を、大切な人達との平穏な暮らしを守るために戦ったのだと…木場やゼノヴィア、イリナが声を上げる。

その声にストラーダ猊下も満足そうな笑みを浮かべていた。

 

だが、一度振り上げた拳の落としどころは必要だと、自らの首とクリスタルディ猊下の首を差し出すと言い出すストラーダ猊下。

しかし、それは誰も求めていないし、どのように落とし込むかで悩んでいた。

 

そんな時だ。

 

「私がころころしてあげるわよ~ん♪」

 

魔女ヴァルブルガ…クリフォトの乱入だ。

さらに邪龍軍団を召喚し、この場を蹂躙しようと企んでいた。

 

しかし、その企みはロスヴァイセによって阻止される。

彼女がトライヘキサの封印術式を研究する過程で、アーシアが手懐けた量産型邪龍を解析し、今回のバトルフィールドにその機能を停止させる術式を組み込んでいたようだった。

このようなイベントに乱入するのはクリフォトの常套手段。それを逆手に取った形となる。

 

状況が不利になった途端、ヴァルブルガは逃げの一手を取るが、それも阻止される。

その阻止した者の名は、『刃狗』こと幾瀬 鳶雄。

彼はヴァルブルガが予め仕込んでいた数万単位のランダム脱出経路を"全て断った"のだ。

しかもヴァルブルガ出現からの僅かな時間で、だ。

 

退路を断たれたヴァルブルガは自らの神滅具の亜種禁手『|最終審判者による覇焰の裁き《インシネレート・アンティフォナ・カルヴァリオ》』を発現させた。

この禁手の特徴は聖十字架に磔にした対象によってその姿や特性を変化させるというものらしい。

ヴァルブルガが磔にした対象は、八岐大蛇の魂の半分。

 

それに立ち向かうのはイッセーとゼノヴィア。

イッセーは宝玉から出した小型飛竜を飛ばし、ゼノヴィアは2本の聖剣の聖なるオーラを聖剣の相乗効果で高めていく。

その邪魔をしてくる紫炎の八岐大蛇だが、それを仲間達が防ぎ守ってくれる。

 

そして、ゼノヴィアの新技『クロス・クライシス』によって禁手である八岐大蛇を倒し、イッセーもまたヴァルブルガにクリムゾンブラスターを見舞って撃破していた。

 

 

 

戦後。

全てが終わったバトルフィールド内で、クーデター派の戦士達は各々の武器を下げ、投降の意を示していた。

先導していた3人の枢機卿も素直に投降することとなる。

 

そんな中、撃破したヴァルブルガの傍に紫炎の種火が落ちていて、それを鳶雄さんが専用のランタンで以って回収していた。

彼曰く『この神滅具はね。通常起こる次代所有者への継承とは別に己の意思で主を渡り歩くこともあるんだよ。今回はあの魔女の神器だったけど、ある時は違う使い手の神器だったこともあるんだよ。話では、この神器自体に何者かの意思が宿っていて、次々に主を変えることが出来る特性を有しているそうだ。だから、こうやって回収しておかないと、また主を求めて彷徨うだろうからね』とのことだった。

 

ただ、ストラーダ猊下は連行される前に置き土産を残していた。

 

一つはアーシアが教会に居た頃に治癒を行った人達からの感謝の手紙。

 

一つは本物の聖杯の欠片。

 

そして…

 

「……イザイヤ?」

 

「っ!? ま、まさか……そ、そんな…っ! トスカ、なのかい…?」

 

木場の教会時代…つまり、聖剣計画時代の生き残りである12、3歳程度で時が止まったままになっていた同志の1人…『トスカ』という少女を保護し、木場達に預けることだった。

彼女は強固な結界型の神器持ちで仮死状態でもその力が解けることはなく、同盟時の堕天使側からの技術提供でようやく解放されたそうだ。

ただ、仮死状態で成長が止まったままだったので、木場とは少し歳が離れた感じになっていたが…。

 

多大なモノを残して連行されていくストラーダ猊下にイッセーが声を掛ける。

 

「待ってくれよ! アンタは…最初からアーシアへの手紙も、木場の同志も、聖杯の欠片も、前部用意してから戦いに臨んでいたのか?」

 

その問いにストラーダ猊下は笑みを浮かべ、右の拳を天高く掲げるのみだった。

その背中は、あまりにも…大き過ぎたのだ。

 

「(皇鬼さん…)」

 

ストラーダ猊下の背を見た忍は、太古の時代で出会った師の姿を思い出していた。

 

………

……

 

クーデター派との戦いから数日後。

駒王学園の生徒会選挙の日がやってきていた。

全校生徒が集められた体育館では生徒会立候補者達によるスピーチが行われていた。

次々とスピーチが続く中、最後にスピーチしたのは、ゼノヴィアだった。

彼女は、スピーチの内容を急遽変更し、自らが感じた駒王学園での学園生活のこと…授業、休憩時間での些細な会話、部活など、それらのかけがえない時間で自分の感じたことを一生懸命に訴えていた。

その締めくくりにとびっきりの笑顔を添えて…。

 

そのスピーチを聞き、全校生徒が湧き上がった。

また、そのスピーチと笑顔を密かに見に来ていたシスター・グリゼルダも涙していた。

小さい頃から見知ったはずのゼノヴィアのスピーチに泣かされたことを嬉しく思うと同時に立派になったのだと、『妹』のことを想っていた。

 

ただ、そのゼノヴィア本人が体育館の外にやってきて、妙なことを『姉』であるシスター・グリゼルダに相談したことでお怒りを受けてしまってしまっていたが…。

 

 

 

後日、駒王学園・新生徒会役員は以下のように決まった。

 

新生徒会長、ゼノヴィア・クァルタ。

新副会長、匙 元士郎。

新書記、巡 巴柄、加茂 忠美、百鬼 黄龍。

新会計、草下 憐耶、仁村 留流子、ミラーカ・ヴォルデンベルグ。

 

………

……

 

ゼノヴィアの生徒会長当選パーティーが兵藤家で行われた日の夜。

アザゼルからの呼び出しでオカ研のメンバーが彼の研究ラボに呼び出されていた。

要件はヴァレリー・ツェペシュのことだ。

先日の戦後処理の時にストラーダ猊下から渡された本物の聖杯の欠片によってヴァレリー・ツェペシュが目覚めたのだ。

 

ただ、それは亜種である神器側の聖杯をクリフォトから奪還出来なかった時の『保険』という意味合いもあった。

奴等が聖杯を盾にする可能性もあるからだ。

 

そんな中、ソーナからリアスに連絡が入る。

ライザー・フェニックスとレイヴェルについてだ…。

 

 

 

時を同じくして…

 

「………………」

 

とある海辺の町の浜辺に騎士甲冑を身に纏った少女が佇んでおり、彼女は蒼く輝く月を見上げていた。

 

「姉さん。"あの人"の居場所がわかったよ」

 

そこに同じ騎士甲冑を身に纏った少女と似た風貌の少女が現れて報告する。

 

「そう…どこに?」

 

「地球ってところの駒王町って場所みたい。隣接した世界ってのが幸いだったね」

 

「なら、私が行ってくるわ」

 

「騎士団長自らが動かなくても、私が…」

 

少女は姉と呼んだ少女にそのように言うが…。

 

「いえ…私自らが赴きたいんです。だって…あの人は、私の…」

 

そう言って憂いの表情を見せる少女。

 

「姉さん…」

 

そんな少女を妹の少女が心配そうに見つめる。

 

「……カイト…どうして…」

 

少女は確かに『カイト』と呟いていた。

 

 

 

この少女達は何者なのか?

妹は姉のことを騎士団長とも言っていたが…。

 

新たな運命の歯車。

それが回り出す時、新たな王が誕生するための戦いが始まる。

その代償は…きっと…。



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17.進路相談のアトランダム
第百十七話『王の駒、王の証、集う痣、そして…』


クーデター派との一件が片付いた後のこと。

 

ライザー・フェニックスのレーティングゲーム復帰戦があった。

対戦相手は王者ディハウザー・ベリアル。

しかし、そこで問題が発生する。

ゲーム終盤、ライザーとレイヴェル、王者が忽然と姿を消したという。

しかもその少し前にゲーム運営側の緊急用プログラムが発動したとのこと。

このプログラムはゲーム中に不正行為があった可能性を示唆していたらしく、兵藤家のVIPルームに集められた駒王町にいたD×Dのメンツはこの情報に様々な感情を見せていた。

そんな中、アザゼルは何か知っていそうな雰囲気であったが、詳しい説明をせずに信じてほしいと言っていた。

一体、何があったのだろうか?

 

 

 

それから数日後。

三者面談という学生にとって進路について親も交えて相談する大切な日だ。

生徒は順番が来るのを校内で待機しており、部活がある生徒もそちらでの待機となる。

オカ研は旧校舎で待機していて、忍や海斗、シルトも旧校舎にお邪魔しており、親御さんも旧校舎に集まるようになっている。

そんな中、最初に来たのはこちらに用事があったイリナの父である紫藤局長、次いでシスター・グリゼルダもやってきた。

イリナと紫藤局長の親子漫才やらゼノヴィアとシスター・グリゼルダの面談時に話す内容の再確認などが行われている横で…

 

「そういや、忍や海斗んとこは誰が来るんだ?」

 

イッセーが木場とギャスパーにした質問を忍と海斗にも尋ねていた。

 

「ん~…一応、前は組の誰かに頼んでたんだけど…こっちでは蒸発した扱いの親父と母さんが見つかった訳だし、そっちに来てほしいんだけど…次元を隔てたストロラーベから地球に来てもらうのも手間だしな、と思ったり…」

 

要するに要請はしたが、確実に来るのかはわからないといった感じだ。

 

「忍も大変だな…」

 

そんな忍の答えにイッセーが苦笑していると、海斗が次いで答える。

 

「俺とシルトはアルカが親代わりとして来てくれる予定だよ」

 

海斗とシルトはアルカが保護者役なので、アルカが両方を担当するらしい。

イッセーとアーシアと似たようなものだった。

 

「出来れば、親父が来てほしいもんだ…母さんだと何を口走るか…」

 

忍は忍で雪音の来訪でないと祈っていた。

 

「忍の母さんってどんな人だよ?」

 

「ん~…俺と交流があった頃にはいなかったし…確かにどんな人か気になるね」

 

そんな忍の様子を見てイッセーと海斗が尋ねてくる。

イッセーに関してはアウロス学園の時に面識を持ってそうだが、事件のこともあってか意外とその辺はまだ直接会っていなかったりする。

 

「勘弁してくれ。あの人は、わりと天然で爆弾を落とすような人だからな…面談中にあの件に触れられてもみろ…俺の社会的な地位は死ぬ」

 

「「あの件?」」

 

「……失言だ。気にしなくていい…」

 

身内だけの話(雪絵関係)を思い出して口を滑らせてもいいものではないと、忍も2人に気にしないでくれと言う。

 

「「?」」

 

イッセーと海斗が顔を見合わせて同時に首を傾げる、

 

すると…

 

「お前なぁ。ちっとは雪音を信用してやれ」

 

部室の扉から狼牙が入ってくる。

 

「親父!」

 

「よぉ、三者面談は俺が来てやったぞ。むせび泣いて喜べ」

 

「誰が泣くか」

 

そんなことを言い合いながら互いに相手の服装を見る。

 

「お前も、もうこんな立派になったんだな」

 

「うるせぇよ。つか、スーツて…」

 

「そっちこそうるせぇよ。これでも組のもんにも久々に挨拶しときてぇからな。そのついでだ」

 

「そうかよ」

 

まるで口喧嘩のように聞こえるが、これがこの親子のスタイルだ(……多分)。

 

「……なんか妙な迫力あるね」

 

「……だよな」

 

イッセーはアウロス学園の事件の際にちょっと挨拶してたからいいが、海斗は初見のために驚いていた。

 

「おう、お前が海斗ってのか? 倅が世話になってんな」

 

絡み方が極道の流儀になってるような…気がしないでもない?

 

「あ、いえ…世話になってるのは俺達の方なので…」

 

「そうか。ま、面倒事に巻き込まれたら忍を頼れよ」

 

「えぇ、その時は力を借りますよ」

 

などと会話していると、アルカやイッセーの母もやってきてそれぞれ思い思いの時間を過ごして面談の時を待つ。

 

 

 

イッセー達の面談が終わり、忍達に順番になる。

 

・忍の場合

 

「紅神君の希望進路先は、駒王学園大学部への進学でしたね」

 

「はい」

 

学園での態度や成績などを話した後に進路についての話が始まった。

 

「それで、紅神君はその先…大学部を卒業した後のことは何か決めてるかな?」

 

「えぇ、まぁ…今も厄介になってる明幸先輩の家に恩返しが出来たらなと…そのために自分で事業を始められたらと思っています」

 

「そ、そう。明幸さんの…」

 

明幸家も地域密着型の極道だ。教師にもそれなりに知られている。だから担任の先生も微妙な表情をしていたが…。

 

「お父さんの方はどうですか? 今の息子さんの希望を聞いて…」

 

「ん? そうですな。ずっとほったらかしにしてきて虫の良い話かとも思いますが、俺も元々は明幸家に世話になった身ですから…倅がやりたいことを応援したいと思ってますよ」

 

「そ、そうなんですか…」

 

どっちも極道に連なるのだろうか、と担任の先生が微妙に不安がっていると…

 

「大丈夫ですよ、先生。倅はそんな人の道を外れたことなんてしませんから」

 

「親父、それあんまフォローになってねぇよ」

 

「あはは…」

 

こうして忍の面談は微妙な雰囲気で終わったのだった。

 

 

 

・海斗の場合

 

途中までは忍やイッセー達の内容と同じで、大学部から先のことを聞かれた際…

 

「俺は…卒業したら故郷に戻って家業を継ごうと思っています」

 

「それはどんな家業なのかしら?」

 

「一般的な会社みたいなことですね。社員に仕事を割り振ったり、会議をしたり…そういったことを纏める立場になると思うので…」

 

「そう…」

 

海斗の答えに担任の先生は"社長の御曹司かな?"とも思ったが、それは口にせず頷くだけだった。

 

「お姉さんはどう思いですか?」

 

「海斗が本気で目指す気ならあたしは全力で応援しますよ」

 

「ふむふむ」

 

こうして海斗側も面談を終えていった。

ちなみにシルトは海斗の傍で支えたいといった内容を答えていた。

 

………

……

 

その日の夕食時のこと。

兵藤家では、イッセーが将来のことをしっかり考えていたことが母から父に伝わり、それに喜んだ父がイッセーのことを肴に酒を飲み、それをイッセーが内心で恥ずかしがっていたりとしていた。

 

時を同じくして明幸家では…

 

『ろ、狼牙の兄さん!!?』

 

「よぉ、テメェら。元気にしてたか?」

 

明幸家に下宿している組員の何人かが狼牙の来訪に驚いていた。

 

「兄貴、誰なんですか?」

 

新米の下っ端達を代表して1人の若者が驚く組員に尋ねる。

 

「バカ野郎! 狼牙の兄さんは、蒸発してたと思われてた坊ちゃん…じゃなく、若の親父さんだ! しかも現当主の側近としても活躍してた方だぞ!」

 

「そ、そんな凄い人が……でも、なんで蒸発なんて?」

 

「それは知らん!」

 

「え~…?」

 

狼牙の件に関しては事情が事情だったので、組内でも限られた人間にしか知られていなかった。だから下っ端組員が事情を知らなくても仕方ない。

 

「まぁ、色々とあってな。ようやくこっちに戻ってこれたわけよ。で、倅の面談にも顔を出した訳だ」

 

「おぉ! では、坊ちゃん…じゃなく、若の進路相談に!?」

 

「そういうわけだ。まぁ、表向きは進学と将来の応援をすると言ってあるから大丈夫だろうよ」

 

「表向き、ですかい?」

 

「あぁ。お嬢との婚約は俺としても嬉しいが、極道を継ぐとなると一般の周りがうるさいからな。そこは上手く合わせてやったよ」

 

「流石です、兄さん!」

 

「よせよせ。つか、お前らも部下を持つような身分になりやがって!」

 

「それなりに時間が経ちましたからね」

 

「あぁ、そうだったな。それで、棟梁は元気か?」

 

「へい。坊ちゃん…じゃなく、若が成人するまでは頑張ると…」

 

「そうか…直接会って詫びも入れなきゃな。勝手に居なくなった上に、今まで倅の面倒まで見てくれたわけだし」

 

「組長もきっと喜びますよ」

 

「どうだかな」

 

狼牙を慕っていたのだろう組員が周りに集まり、色々と話し込んでいた。

 

「……親父って、結構人望あったんだな」

 

「えぇ。狼牙の兄さんは、戦闘面も凄かったですが、面倒見も良かったですから慕ってた奴は多いんですよ」

 

「へぇ~」

 

そんな風に忍に説明したのは狼牙の側近時代を知る組員だった。

 

「なら、俺も親父に負けないようにしないとな」

 

「坊ちゃん…じゃなく、若なら大丈夫ですよ」

 

「そういうもんかね。あと、呼び方は別に直さなくても…」

 

「いえ、こういうことはしっかりしておかないと。いつまでも坊ちゃん呼びは嫌でしょう?」

 

「まぁ…一応、次期当主として認められたしな」

 

「なら、若というのにも慣れて頂かないと」

 

「わかったよ」

 

そんなこんなあって明幸家でも狼牙が帰ってきたことで夕食時はプチ宴会状態となっていた。

 

………

……

 

それから四日後の休日のこと。

面談の翌日にはライザーとレイヴェルの無事が確認されていた。

身柄を保護していたのは、魔王アジュカ・ベルゼブブ。

そして、アジュカの打診で2人の身柄はD×Dが受け取ることになっていた。

ただ、当日イッセーは父から釣りに行かないかと誘われていたが、事が事だったために断ってしまった。この返答があのような結果になるとは、この時は誰も想像していなかった。

 

ちなみに兵藤家の地下室の転移陣に集まったのはオカ研、シトリー、シスター・グリゼルダ、忍、紅牙、アザゼルだ。

デュリオは天界の警備、鳶雄さんも別の任務で外し、ヴァーリチームも別行動を取っている。

紅神、神宮寺の眷属達は王以外はそれぞれ自由に動いている。

 

そして、集まった彼等が転移陣で指定された空間へと赴くと、そこには予想だにしなかった光景が広がっていた。

 

「ここは…?」

 

見れば、周囲は夜の帳が降りた砂浜であり、海が細波を打っていた。

だが、注目すべきは空…月と思しきものが"二つ"あった。

 

「ここは『異世界』…多次元世界の内の一つとされる別次元の一部を再現させたフィールドだ」

 

そのように言ってきたのは、アジュカ・ベルゼブブ。

彼の近くにはベッドがあり、そこにはレイヴェルが眠っていた。

ライザーの身柄も既にフェニックス家に移送されており、その護衛に刃狗チームが派遣されていた。

2人の身柄と無事は確認出来た。

しかし、アジュカの話はこれで終わりではなかった。

 

「これを見てほしい」

 

そう言ってアジュカが懐から取り出したのは…悪魔の駒だ。

しかし、兵士、僧侶、騎士、戦車、女王の駒とは違う。

そして、D×Dの面子は、その形状にちょっとだけ覚えがあった。

それは…

 

「王の、駒?」

 

それは眷属の駒を受け取った忍と紅牙が取り込んだ『王の駒』にそっくりということだ。

 

「そう。既に次元辺境伯君に渡した時に見せてしまったから知っていると思うが、これは正真正銘、悪魔の駒の王の駒だ」

 

『ッ!?』

 

その説明に皆が驚く。

 

「悪魔の駒の王は登録制であったし、俺達冥族用に特別に形だけを取ったものだと思っていたが…」

 

アジュカの説明に紅牙が頭を抱えながらそんなことを呟く。

 

「原型もちゃんとあったんだよ。それに悪魔の駒のシステムは敢えて登録制にしてある。それは王の駒を表に出さないためと、眷属が昇格して王の駒を得た場合、既にある駒との重複と融合を危険視してね」

 

「なら、王の駒の特性は?」

 

「単純な強化だね。ただ、その数値は二倍、三倍程度ではなく、十倍から百倍以上の強化だ。流石にそれは危険だと判断して禁止にしたよ。力を得ることで暴走する輩が出ても困るし、絶大な力は眼を曇らせてしまう」

 

アジュカはさらにレーティングゲームの現トップランカー達の真実…王の駒の使用によって実力を向上させた純血の上級悪魔達のこと、レーティングゲームの運営の闇までも告白していた。

その事実にリアスやソーナを始めとした悪魔達は言葉が無かった。特にソーナの夢にとっては猛毒に近い情報だった。

 

「ちなみに言うと…眷属の駒の王の駒は悪魔の駒の転用した物だ」

 

「「なっ!?」」

 

アジュカの追加情報に忍と紅牙が胸に手を当てて驚く。

 

「安心してほしい。君達の今の実力はちゃんと君達自身が研磨し、磨き上げてきたものだ。眷属の駒に改修した際、幾重もの封印術式を織り交ぜているから、よほどのことがない限りは君達の力が強化されることはない。もっとも、次元辺境伯君の方は少し調整し直す必要があるかもだが…」

 

安心していいのかどうか、凄く悩ましい問題だった。

 

その後、アジュカはディハウザー・ベリアルに関しても話した。

彼は生粋の、己の力で王者までのし上がった本物であること、ベリアル家の特性『無価値』のこと、王の駒のことを公表し、真実を求めるためにリゼヴィムに協力していることも判明した。

王者がテロに加担していることにリアスは憤りを感じていたが、それでもアジュカは彼を目聡いと評していた。

 

「アジュカ。現存する王の駒の数は?」

 

そして、アザゼルはアジュカの王の駒の現存数を確認していた。

 

「生産ライン自体は初期ロットで停止してます。製造方法は知らせていないどころか、俺にしか出来ないため、新たに作り出すことは不可能ですね。したがって、現存しているのは初期ロットで製造した分の余り。俺が把握してる限り、残りはこの手にある分を含めて九つでしょう。王者の分は俺が受け取りました。俺の手元にあるのは全てで四つありました。二つは今も俺の手元にありますが、残りの二つは次元辺境伯君と紅の冥王君に使った分ですね」

 

「つまり、残り五つは上役共の手の内か…」

 

アジュカの返答にアザゼルは険しい表情をする。

 

「俺は、数千年かかろうとも回収する気でいますけどね。製造した手前、そのくらいはしますよ」

 

そう言うアジュカの瞳には強い決意が見て取れた。

 

「それと、王の駒はあまりにも強過ぎる者や特異な能力を持つ者が使用すると、オーバーフローを起こして命の危険が生じることもある。だから、次元辺境伯君は細心の注意を払ってほしい。君は後天的に色々と混ざっているからね」

 

「………はい」

 

アジュカの言葉に忍も素直に頷くのだった。

 

それからアジュカはアザゼルへも忠告していた。

自分が敵なら真っ先に狙うのは、アザゼルだからだと…。

そこはアザゼルも気にしていたらしく、自衛の対策も取っているらしいが…。

 

また、アジュカは残る神滅具『蒼き革新の箱庭』と『究極の羯磨』をとあるゲームを通じて捉えているとアザゼルは聞くが、それは自分の領域だとアジュカは伝える。

アジュカ曰く『この世界の理の外』だからだとか…。

 

そこでアジュカにホットラインが繋がれる。

オーフィスが邪龍に襲われたらしい。

 

さらに悪い報告は続く。

イッセーのご両親が…クリフォトに拉致られたのだった。

 

それを聞き、イッセーの中で何かが弾けた。

 

………

……

 

事態が悪い方へと流れていた同時刻。

駒王町でも動きがあった。

 

「あなたまで来なくてもよかったのよ。奈緒」

 

「そうはいかないって…我らが真の王様を出迎えるのに団長様だけってのもね」

 

そう言って駒王町を歩くのは、長袖ロングスカートのワンピースを身に纏った少女と、逆に半袖短パン風のラフな格好をした少女だ。

どちらも季節外れな服装なのと、美少女であることからかなり目立っている。

 

「唯様」

 

と、そこへ長身の執事服を着て右手に革手袋を着けた男性がやってくる。

 

「あの方は?」

 

「使い魔と思しき2人と共にいるのを確認しました」

 

「そう。ありがとう」

 

「………………」

 

ワンピースの少女が執事の男性にお礼を言うと、執事の男性も一礼していた。

 

「行きましょう」

 

「うん」

 

「………………」

 

ワンピースの少女が先頭を歩くと、それに付いて行くようにラフな少女と執事の男性も歩いていく。

 

 

 

一方…。

 

「助けていただきありがとうございます、先輩」

 

「いえ、気にしないでください。困ってる人を助けるのは当然のことですから」

 

シスター服を身に纏った少女と、長袖のセーターにロングスカートを身に纏った少女が共に歩いていた。

 

彼女達が出会ったのはついさっき。

シスター服の少女がナンパに遭っているのをセーターの少女が助けたのだ。

セーターの少女は何か武術の心得でもあるのか、少しだけナンパしていた男の手を捻っていたが…。

そして、少し話して分かったことだが、シスター服の少女は日本に来たばかりで、駒王学園に転校する予定だとか。

セーターの少女も駒王学園に通っており、今は高等部卒業を待つ身で大学部への進学を控えているらしい。

 

「日本には来たばかりで色々とわからないことが多くて…」

 

「そうなの。それにしても日本語が上手なのね」

 

「ありがとうございます」

 

そのように会話しながらセーターの少女がシスター服の少女を駒王町を案内しているのが今の状況だ。

 

「海斗さん、アルカさん。今晩の夕食はどうしましょうか?」

 

「シルトの料理なら何でもいいさね」

 

「アルカ。シルトが困るからもうちょっと具体的な献立を言おうか」

 

そんな2人の少女達の前から海斗達が歩いてきていた。

その二組が擦れ違う際…

 

ズキッ!

 

「「「っ!?」」」

 

海斗と、2人の少女の右腕に痛みが走り、咄嗟に3人は自らの右腕を左手で押さえる。

 

「海斗?」

 

「海斗さん!?」

 

その様子にアルカとシルトが声を上げる。

 

「な、なんでもない。なんでも…」

 

海斗はそう答えるが…

 

ズキッ!

 

「ッ!?」

 

海斗はさらに右腕…正確には右腕に宿っている蒼き龍の痣に痛みが走るのを感じる。

 

すると…

 

「お迎えに上がりました。カイト…様」

 

海斗や今しがた擦れ違おうとした2人の少女達とは別の方向から声が掛けられる。

そこには右腕を押さえるワンピースの少女と、ラフな少女がおり、近くには執事の男性も控えていた。

 

「お前等は…!」

 

その気配を敏感に察したアルカは海斗の前に出て庇うような形になる。

 

「海斗さん、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ…シルト、大丈夫だよ」

 

海斗とシルトの親しげな様子に…

 

「-----」

 

ワンピースの少女の表情は少しだけ険しく、それでいて悲しそうにしていた。

 

「(姉さん…)」

 

そんなワンピースの少女の様子をラフな少女は心配そうに見ていた。

 

「君達、は…?」

 

「………………」

 

今の海斗の反応にワンピースの少女の眼は悲しみに満ちるが、表情は元の真剣なものへと変える。

 

「私達はブルートピアから来た…先王派の者です」

 

「先王派…?」

 

「はい。そして…」

 

首を傾げる海斗にワンピースの少女は右腕側の長袖を捲り上げ、ラフな少女も自身の右腕を見せる。

 

「そ、それは…!?」

 

「はい。私達は…痣の継承者です」

 

「ブルートピアに、いたのか…」

 

海斗もまた右腕の包帯を解き、蒼き龍の痣を見せる。

 

すると…

 

「その痣は…!」

 

「まぁ…」

 

先程、擦れ違おうとしていたシスター服の少女とセーターの少女が驚いたように右袖を捲り上げると、そこには海斗達と似た蒼い痣が浮かび上がっていた。

 

「なっ…!? 痣持ちが全員揃った!?」

 

この偶然とも言える状況にアルカが驚愕の声を漏らす。

 

「僥倖だね。あたし達以外の痣持ちが地球に居たのは驚きだけど…現王代理派に属してないのはラッキーかな?」

 

ラフな少女がそんなことを言う。

 

「どういうことなのですか?」

 

理解が追い付かないのか、シスター服の少女が困惑の表情を海斗達に向けてくる。

 

「あなた方は…この痣の意味を知ってるのですか?」

 

セーターの少女もまた海斗達に説明を求めていた。

 

「もう、何が何やらだね…」

 

アルカが頭痛を抑えるように片手で頭を抱える。

 

 

 

こうして出会った蒼き龍の痣を持つ者達は、海斗が住まうグレモリーが管理しているマンションへと場所を変えていた。

そこで最初に行われたのは…

 

「俺は海斗。水神 海斗。一応、駒王学園の高等部二年生で、もうすぐ三年生に進級予定だよ」

 

自己紹介だった。

 

「私は、『灰原 唯』と申します。若輩者ですが、マリンナイツの団長を務めさせていただいております」

 

「同じくマリンナイツに所属してる『灰原 奈緒』よ」

 

「これはご丁寧に。私は『アリア・クラシエル』と申します。三学期でもうすぐ卒業式があると聞きましたが、私もあるお方の口添えで駒王学園の高等部一年生に転校することになりました。とは言っても、もうすぐ二年生に進級することになると思います」

 

「『久瀬 薫』と申します。駒王学園高等部三年生ですが、もうすぐ大学部へと進学する予定でもあります」

 

海斗に続き、ワンピースの少女『灰原 唯』、ラフな少女『灰原 奈緒』、シスター服の少女『アリア・クラシエル』、セーターの少女『久瀬 薫』の順番で簡単な自己紹介を行っていた。

 

「あたしはアルカ。海斗の使い魔兼護衛さ」

 

「私はシルトです。海斗さんの使い魔です」

 

「……『ハイネ』と申します。唯様の使い魔として付き従っております」

 

さらにアルカとシルト、執事の男性『ハイネ』もまた簡単な自己紹介を行っていた。

 

「使い魔…悪魔や魔法使いが使役すると言われている存在ですか?」

 

アリアが首を傾げながら尋ねる。

 

「まぁ、広い意味じゃ似たり寄ったりかね? あたしらはだいたいが海洋系の生物だけど…」

 

その問いにアルカがそのように答える。

 

「人にしか見えませんが…?」

 

薫もアルカ達が使い魔ということに半信半疑といった具合だ。

 

「そういう風に化けてるだけさね。流石にこの部屋じゃ本来の姿にはなれないけど…」

 

アルカはそう言って海斗に視線を投げる。

そろそろ本題に入った方がいいというアルカなりの合図だろう。

 

「さて…では、この俺達の右腕に宿った痣についてだけど…」

 

それを受け、海斗も痣についての説明を行うことにした。

 

「まず、俺や灰原さん達の故郷…出身世界とも言えるが、ブルートピアと呼称されている次元世界だ。そこはネオアトランティス王国という一つの国が治めている世界の九割が海で構成されている世界なんだ」

 

「「次元世界…」」

 

「そう。俺達はそこに住む人間。堕天使元総督殿の言葉を借りると、海に住む人間『海人族』と呼称されるのが適切かな?」

 

「ブルートピアでは人間として生きてきましたから、あまり馴染みのない言葉ではありますが…」

 

「まぁ、でも…言い得て妙かもね」

 

ブルートピア出身の灰原姉妹も『海人族』呼ばわりにそこまで強く突っ込まなかった。

 

「まぁ、種族のことはともかく…この痣の持つ意味だったね。この痣…蒼き龍の痣は俺に宿った頭部を含めて五つあり、他はそれぞれ逆鱗、背鰭、腹鰭、尻尾という具合になっている。で、この痣はネオアトランティス王国の初代国王がブルートピアを守護している伝説の守護龍と契約した神聖と絆の証であり、代々の国王にはこの頭部の痣が宿るんだ。そして、他の四つの痣の持ち主も国王が変わる度に代変わりをしてきた。頭部以外の痣を持つ者は臣下になりうる存在と言われているけれど…俺は、仲間として迎え入れたいと考えているんだ」

 

海斗の説明の後…

 

「つまり、この痣はそのネオアトランティス王国の国王の臣下に与えられるものであると?」

 

「まぁ、有り体に言えば…」

 

「選定方法や宿る条件などは?」

 

「蒼き龍の導き、としか言えませんね」

 

薫が質問し、海斗がそれに答えていた。

 

「なるほど…この痣にはそのような意味があったのですね」

 

「(これは、ミカエル様にお伺いを立てないとですね)」

 

薫は釈然としないものの、一応の納得の意を見せ、アリアも内心でミカエルに伝えるべき案件だと思っていた。

 

「それで? 正統な王位継承権を持つ王子様としては、これからどうすんの?」

 

「奈緒。カイト様に対して不敬ですよ」

 

奈緒の発言に姉の唯が注意する。

 

「だって、いずれは"義兄(あに)になる人"でしょ? だったら不敬も何もないって」

 

「奈緒!!」

 

妹の不必要な言葉に唯が怒りだす。

 

「え…?」

 

「ぇ…?」

 

海斗とシルトがその奈緒の発言に衝撃を受けていた。

 

「はぁ…王子様は薄情なんだね。姉さんが"婚約者"だって…覚えてないの?」

 

「………………」

 

「え、っと…それ、は…いったい…」

 

奈緒の言葉に唯は無言で睨み、言われた海斗は動揺してか言葉が無かった。

 

「そんな凄んでもあたしは引かないよ、姉さん。姉さんが言わないならあたしがハッキリ言う。王子様。アンタと姉さんはれっきとした婚約者だよ。家の父さんが前の逆鱗の持ち主で、先王陛下との親交もあった。そこで王子様と姉さんの婚約が決まり、小さい頃はお付きとして遊び相手もしてた。けど、王子様は母君と共に地球へと渡った。本来なら姉さんもお付きとして行くはずだったけど、どうにもキナ臭く感じた父さんがブルートピアに留まることを決めた。それから姉さんは王子様のことをずっと想い続けていた。それなのに、肝心の王子様と言えば…姉さんのことなんて忘れたみたいな振る舞いだし、姉さんのことを思い出した様子もない。そんな人が誰かを幸せになんて出来っこない。あたしは…姉さんの想いを踏みにじるような奴との婚約なんて反対だよ。王子様には今日初めて会ったけど、それだけは譲らないし、認めない」

 

「奈緒…!?」

 

唯の怒りにも引かない妹の姿勢に唯は驚く。

 

「………………………………」

 

奈緒に言われたい放題の海斗だが、珍しく思考が追い付いていないようで、視線を唯へと向ける。

 

「申し訳ありません、カイト様。妹には私から厳しく言っておきますので…何卒、ご容赦を…」

 

しかし、肝心の唯も自らの心を律するような立ち振る舞いに海斗はますます動揺する。

 

「俺、は…」

 

海斗が意気消沈する中…

 

「(ま、そりゃ…王子なんだから婚約者くらいいるのは当然か…)」

 

「(いずれ、こういう時が来るとは思っていましたが…この気持ちを否定してしまうのは…)」

 

アルカはあまり触れてこなかった話題に達観した姿勢を見せ、シルトは苦しくなる胸の痛みに表情を歪めていた。

 

「(カイト…)」

 

「(灰原…唯…)」

 

この出会いで、新たな運命の歯車が回り出す。

海斗の歩む道に寄り添う者…それは誰なのか…?



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第百十八話『奇跡と絶望、黙示録の獣』

イッセーのご両親がクリフォトに拉致られ、オーフィスもまたクリフォトの襲撃を受け、事態が悪い方へと向かう。

その報を聞き、イッセーは静かに…しかして、怒りで我を忘れていた。

それを律したのは親友の1人でもある木場だった。

そうしてイッセーが冷静さを取り戻した直後、ヴァーリと共にいた黒歌とルフェイが合流し、アグレアスの位置を特定したと情報をもたらした。

 

だが、問題は他にもあった。

ブルートピアからの来訪者と蒼き龍の痣を持つ者達の出現だ。

何とも間が悪いとしか言いようがないが、海斗の問題でもあるので、そちらに丸投げして今はアグレアスへの奇襲作戦を優先することをD×Dのメンバーには通達されている。

 

アグレアスへの突入メンバーはグレモリー眷属、シトリー眷属、御使い、鳶雄さん、黒歌、ルフェイ、忍、紅牙が中核となる。

サイラオーグ・バアル眷属とシーグヴァイラ・アガレス眷属は冥界、紅神眷属と神宮寺眷属の残りのメンバーは駒王町でそれぞれ待機し、頃合いを見て合流することになっている。

 

アジュカの協力もあり、アグレアスの都市部へと転移する作戦を立てたD×D。

だが、その転移術は禁呪法の類らしく、転移させる人数にも制限があるとのこと。

第一陣は陽動の意味も込めてシトリー眷属とデュリオを筆頭とした御使い、紅牙。

第二陣は本隊としてグレモリー眷属、イリナ、黒歌、ルフェイ、忍。

鳶雄さんは本隊と一緒に行くと同時に単独行動に移るとのこと。

そこにアグレアスの近くで待機しているというヴァーリチームも参戦する予定だ。

また、アザゼルも単独でアグレアスの動力部へと向かうことになっている。

 

アグレアスの情報がもたらされてから僅か半日で、奇襲作戦は実行に移された。

 

………

……

 

アグレアスでの奇襲作戦が実行されていた頃と同時刻。

 

「ふふふ…随分と焦っていますね、リゼヴィムさん」

 

変異フロンティアの内部で投影されたアグレアスの様子を見ていたノヴァがそのように漏らす。

 

「しかし、龍の逆鱗ですか。リゼヴィムさんの焦燥していた様子を見る限り、流石に馬鹿に出来ませんね。確か、彼に悪夢を見せていたのは…黄金の龍王でしたか」

 

ノヴァは邪悪な笑みを浮かべながらリゼヴィムの様子を思い出していた。

 

「ふふふ…リゼヴィムさん。あなたはどのような絶望を抱いて死ぬのでしょうね?」

 

ノヴァが愉悦的な笑みを零していると…

 

「ノヴァ様」

 

ノヴァに仕える六天王の1人であるロンドが姿を現した。

 

「あぁ、ロンドさん。ちょうどいい所に来てくれました」

 

「ノヴァ様のお呼びに応えたまで。それで私に何かご用命で?」

 

「ふふふ。少しばかり駒王町へ赴いてください。素体集めをお願いしたいのです」

 

そのような命令をロンドに伝えていた。

駒王町にはまだ紅神眷属と神宮寺眷属のメンバーが控えている。

そんな中、わざわざ駒王町を選ぶ必要とは…?

 

「実験用の素体を?」

 

「えぇ、今回は"あの世界の使い魔"を使った実験をと思いましてね」

 

それを聞き、ロンドは"あの世界"というのを察した。

 

「あの世界……"獅子"の眠る世界ですか」

 

「そうです。彼の世界には未だ適合者は現れていません。まぁ、あのような人物では御せるモノでもありませんしね。選定条件も不明ですが…まぁ、獅子なのだからそれ相応の条件であることには違いありません。そこは予測して何とでもしましょう」

 

「なるほど。ならば、狙いは…」

 

ロンドもノヴァの意図を察し、標的を確認する。

 

「カイト・アトランタ・アクエリアス。彼の使い魔達を連れてきてください。あぁ、別に殺しても構いませんよ。肉体さえあれば、心など如何様にも作り替えられますから」

 

「御意」

 

ノヴァの命を受けたロンドはノヴァへと一礼し、その場から去っていく。

 

「ふふふ…最近は量産型龍騎士や"アレら"に時間を費やしていましたが、たまには新鮮な素体も使いませんと、鈍りますからね」

 

邪悪な笑みを浮かべたまま、ノヴァはアグレアスの映った投影映像に目を向けた。

 

………

……

 

一方、アグレアスでの戦闘はかなり派手に行われていた。

 

シトリー眷属、御使い、紅牙からなる先遣隊による陽動でアグレアスの都市部のあちこちから黒煙が上がっていた。

そこに本隊であるグレモリー眷属、イリナ、黒歌、ルフェイ、忍、鳶雄さんもアグレアスへと転移し、それぞれの戦いが始まった。

 

オカ研メンバーはアグレアスの庁舎へと向かい、それをフォローするために陽動部隊と同様に忍が単独で派手に騒ぎを起こす。

鳶雄さんに関しても単独で行動を開始していた。

 

オカ研メンバーはアグレアス庁舎を守るニーズヘッグを筆頭とした量産型邪龍を相手にしていたが、イッセーとリアスの合体技『深紅の滅殺龍姫(クリムゾン・エクスティンクト・ドラグナー)』を披露していた。

この合体技は簡単に言えば、イッセーが出現させた飛龍をリアスの身体に張り付かせて鎧を形成させたものだ。

但し、イッセーは飛竜の能力は使えなくなるが、その分リアスも赤龍帝の力を一部使えるという利点が生まれていた(もちろん、時間制限ありだが…)。

 

そうしてイッセーとリアスがニーズヘッグを圧倒していたが、フェニックスの涙を用いて回復したニーズヘッグの前にクロウ・クルワッハが現れる。

本来のドラゴンの姿となってニーズヘッグを圧倒する最凶の邪龍…クロウ・クルワッハ。

 

その姿を見て、イッセーは僅かながらも心を奪われていた。

彼の理想とするドラゴンの在り方…それをクロウ・クルワッハにも見出したが故だろう。

 

そして、イッセーはアーシアを連れて庁舎へと突入する。

その護衛にはゼノヴィアとイリナが同行していた。

 

アグレアス庁舎を進む中、量産型邪龍の相手をゼノヴィアとイリナに任せ、イッセーとアーシアは先へと進む。

 

だが、そこでディハウザー・ベリアルによる冥界全土に向けての放送が流れていた。

レーティングゲームの闇。

それはアジュカがD×Dへと伝えた情報そのものだ。

その過程で、王者ディハウザー・ベリアルは従姉妹であるクレーリアのことも少し触れていた。

全ては愛していた家族を古い悪魔によって消されてしまったことへの復讐…。

 

放送が終わる頃にはイッセーとアーシアも最上階の展望台へと辿り着いていた。

そこで待っていたのは王者ディハウザー・ベリアルと、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

さらにそこにヴァーリもやってきた。

そして、そこにはイッセーのご両親が観客と称されて連れてこられていた。

 

イッセーは王者と、ヴァーリはリゼヴィムと対峙し、それぞれの戦いが始まる。

 

しかし、戦いはイッセーとヴァーリの劣勢。

その中でリゼヴィムは王者に指示を出し、イッセーに赤い液体を飲ませた。

その結果、イッセーの頭部はドラゴンのものとなり、リゼヴィムはその事実と共にイッセーが一度は死に、今の彼はその座を奪ったバケモノなのだと、彼のご両親に告げた。

 

リゼヴィムの告発にイッセーは絶望し、ご両親を助けた後に消えることを決意しながらご両親に謝罪した。

 

が…

 

「お前…イッセーだよな? そうなんだろ?」

 

彼の…兵藤一誠のご両親は、結果的にバケモノの姿になってしまった息子を…受け入れていた。

それは彼が生まれ、生きてきた17年間…普通の、一般家庭で、異形とも関わりのない極々平凡な家族の絆が見せた奇跡。

それに呼応するかのようにイッセー達家族を温かな光が包み込む。

 

そこでイッセーは自分が望まれて生まれたことを知る。

本当なら兄弟姉妹がいたかもしれないという事実も知ったが、それでも望まれて生まれてきたのだと…イッセーは両親から愛情を注がれて育ってきたのだと…知った。

 

光が収まり、現実世界へと意識を戻したイッセーは…リゼヴィムへと何度も突貫する。

家族の声援を受け、倒れても倒れても何度も何度も立ち上がり、遂には王者の戦意を挫く。

 

そんな中、リゼヴィムがご両親とアーシアを狙うが、アーシアが遂に禁手を発現させ、黄金の龍王の加護を得た聖女の守りが、その攻撃を無力化する。

 

そして…更なる奇跡が起きる。

 

「我に宿りし紅蓮の赤龍よ、覇から醒めよ」

 

『我が宿りし真紅の天龍よ、王と成り啼け』

 

「濡羽色の無限の神よ」

 

赫赫(かっかく)たる夢幻の神よ』

 

「『際涯を超越する我等が禁を見届けよ』」

 

「『汝、燦爛の如く我等が燚にて紊れ舞え』」

 

「『《Dragon ∞ Drive!!!》』」

 

龍神化。

オーフィスの力を得たイッセーの新たな力の発現だ。

 

この力によってイッセーはリゼヴィムの神器無効化を無限という質量で突破し、追い詰めることに成功する。

多大なダメージを負ったリゼヴィムは逃亡したが、それをヴァーリが追い掛ける。

その際、ヴァーリはイッセーに賛辞を送っていた。

 

残った王者は、イッセーから天界で邂逅したクレーリア・ベリアルの魂について聞くと、己の負けを認めて投降するのだった。

しかし、龍神化の代償で、イッセーは…。

 

………

……

 

少しだけ時は戻り、アグレアスに本隊が突入した頃、駒王町では…。

 

「………………」

 

海斗が1人、出歩いていた。

 

「(ちょっと考えればわかることなのに…俺は、なんてバカなんだろう…)」

 

海斗は半日前に出会った4人の痣を持つ少女達…その内の1人である唯のことを考えていた。

 

「(昔の記憶は朧気だ。母さんとこっちに来る前の記憶は曖昧だ。その曖昧の中に、唯さんと過ごした記憶があるのか?)」

 

だが、それでも…

 

「(だけど…シルトと過ごした時間を否定することも出来ない…いや、したくないのか…)」

 

雲隠れしてから共に過ごし、心を通わせてきたシルトのことを想うと、胸が苦しくなった。

 

「(わかってる。本来、使い魔との恋愛はご法度だ。なら、唯さんを選ぶのは自然なことだ。けど…それはシルトの想いを否定することになる。しかし、唯さんの想いはどうなる…?)」

 

海斗は答えの出ない問答を心の中で繰り返していた。

 

「(俺は…どちらを選べばいいんだ…?)」

 

ハーレムを目指すイッセーや大切な人を守るという名目で女性を囲う忍を短い期間ながら間近で見てきた海斗だが、こと恋愛に関しては真摯でいたいと感じていた。即ち、1人の女性を愛すること。王の身分でありながら父も1人の女性を愛していた。それの影響も少なからずあるのだろうか…?

そのせいか、今代は海斗以外に王位継承権を持つ子供はいない。それはそれで問題だろう。王子が死ねば、次の王位は誰が継ぐのか?

一応、ネオアトランティス王国では蒼き龍の痣の頭部が出現した者、とはなるが…それも不確定要素が大き過ぎる。

どこの馬とも知れぬ者が王位を継げば、それは国の破滅に繋がる可能性が高いからだ。

 

そういう事情を加味したとしても、痣が出現した海斗はいずれは王となる身。ならば、王としての務めを果たさなくてはならない。

その務めとは、世継ぎを残すこと。ネオアトランティス王国は話に聞く限り王制が敷かれている。ならば、次世代…子供を作ることがもっとも大事となろう。

正妻に側室…そういうものも本来なら考えなくてはならない。

しかし、海斗は思い悩んでいた。

1人の女性を愛するべきだ、という考えに囚われた故の苦悩だろう。

 

「………………」

 

白い息を吐きながら、海斗は空を見上げる。

時間は深夜。

夜空の星を見つめ、海斗は自らの答えを出そうと考えていた。

 

「こんなざまじゃ、王位なんてとても継げないな…」

 

自嘲するように言葉を紡ぐと、帰路へと着こうとする。

 

すると…

 

「カイト・アトランタ・アクエリアス」

 

海斗の向かおうとした先から人影が向かってきており、その人影は海斗の名を口にしていた。

 

「誰だ…?!」

 

ブルートピアからの追手かと身構える海斗だが…

 

「貴様に名乗る必要はない」

 

その人影はそう言い放つ。

 

「(追手か? いや、なら何故こんなにも堂々と? 俺の名前を知ってた理由…目的はなんだ?)」

 

海斗が色々と疑問を浮かべていると…

 

「魔剣創造」

 

人影はそう呟き、両手に夫婦剣を握る。

 

「っ!?」

 

「任務を遂行する」

 

海斗が息を呑む中、人影…ロンドはノヴァからの命を実行するために行動を開始する。

 

「海斗ッ!!」

 

と、そこに様子を見に来ただろうアルカがロンドに仕掛ける。

 

「(探す手間が省けたか)」

 

ロンドはそんなことを考えながら右手の魔剣の刀身でアルカの拳を受け流し、そのまま海斗の方へと誘導する。

 

「(ッ!? こいつ…!)」

 

ロンドの顔を見てアルカの表情が険しくなる。

 

「(もう1体は…)」

 

シルトの姿を気配で探るロンドだが…

 

「ッ!!」

 

そこにさらに別の人物が仕掛ける。

 

「?」

 

その気配に疑問を抱きながらもロンドは左手の魔剣でその攻撃を逸らす。

 

ギィンッ!!

 

まるで金属と硬い何かがぶつかり合ったような音と火花を散らし、ロンドは右目をそちらに向ける。

 

「何者だ?」

 

そこにはハイネの姿があり、右手で手刀を突き出した形でロンドの魔剣と斬り結んでいた。

 

「ハイネ! 下がりなさい!」

 

「ハッ!」

 

さらに声が上がると同時にハイネもその場から後退し、そこに間髪入れずクナイのような物体が投げつけられる。

 

「………………」

 

ロンドは投擲された物体を一瞥すると、流れるような体の動きだけでその全てを回避してみせた。

 

「避けられた!?」

 

「只者ではなさそうですね…」

 

驚きの声と冷静な声を漏らすのは奈緒と唯の灰原姉妹だった。

 

「海斗さん、大丈夫ですか!?」

 

その後ろにはシルトの姿もあった。

 

「(対象2体を捕捉)」

 

海斗を守るアルカと、灰原姉妹の後ろに控えるシルトを見つけ…

 

「禁手化」

 

ロンドは躊躇なく禁手を発動する。

ノヴァから殺してもいいと言われている以上、任務を迅速に達成するために必要だと判断しての行動だろう。

ロンドの力強い言葉を受け、周囲の空間に無数の夫婦剣が一斉に地面に突き刺さるように形成されていく。

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

海斗、アルカ、唯、ハイネ、奈緒がその現象に驚くのを感じながらも、ロンドは特に感情を表に出すこともなく最初に両手で持っていた夫婦剣を海斗目掛けて投擲する。

 

「させっかよ!」

 

それを当然の如くアルカが魔力を纏わせた拳で迎撃する。

 

「………………」

 

さらにロンドは近くにある夫婦剣を手に取ると、連続して唯、奈緒、ハイネへと投擲する。

 

「っ…」

 

「こなくそ!」

 

「ッ!」

 

それぞれが夫婦剣を迎撃する中…

 

「まず、1体…」

 

ロンドがそう呟くと…

 

グサッ!!

 

「………………ぇ…??」

 

投擲されたのか、それとも別の手段によるものか、唯達の後ろに控えていたシルトの背中から大量の夫婦剣が飛来し、その体を貫いていた。

 

「「シルト!!?」」

 

その光景に海斗とアルカが声を上げる中…

 

「わ、たし…な、ん…?」

 

自分に起こったことがいまひとつわかっていないシルトが焦点の合わない瞳で自らの腹部から突き出た夫婦剣の刀身を見る。

 

「--------」

 

シルトが自らに起きたことを理解し、声にならない声を上げると…

 

「お前ぇぇええ!!」

 

「テメェぇええ!!」

 

激昂した海斗が魔力砲撃をチャージし、アルカもまた憤怒の表情でロンドに向かう。

 

「………………」

 

その2人の様子を冷めた表情で見るロンドは機械的な言葉を紡ぐ。

 

「2体目」

 

その手には、いつの間にか柄頭にベルトの付いた特殊なレイピアが保持されていた。

 

ヒュッ!!

 

ロンドはレイピアをアルカに向けて投擲した。

 

「そんな攻げ……」

 

ザシュッ!!

 

アルカの言葉が最後まで紡がれることはなく、さらに回避しようとしたアルカの額にはロンドが投げたはずのレイピアが深々と貫いていた。

 

「アルカぁああ!!!」

 

シルトに続き、アルカまでも目の前で傷つけ…否、殺された海斗は怒りのままに魔力砲撃をロンドへと叩き込む。

 

「………………」

 

しかし、そんな怒りの感情任せな砲撃がロンドに通用する訳もなく、大量の夫婦剣による盾で防がれる。

 

「あああああああああ!!!」

 

それでも魔力砲撃に気や霊力、妖力を上乗せして威力を高めようとする。

 

「………………」

 

ロンドは冷静にベルトを引き戻しながらアルカの遺体を手繰り寄せると、盾にしてた夫婦剣が吹き飛ぶのを見てアルカの遺体を盾に使った。

 

「はぁ……はぁ……ッ!?!」

 

全力の魔力砲撃を撃ち尽くした海斗は、ロンドが盾にしたアルカの遺体を目にして心が砕けそうになった。

 

「お、俺、は……はっ、はっ…!?」

 

「カイト様!」

 

海斗の元に唯が駆け寄り、ハイネと奈緒が再びロンドに仕掛けようとしたが…

 

「任務遂行を確認。これより撤退する」

 

気による身体強化で、その場を飛び退いてシルトの近くに着地すると、アルカの遺体と死に体のシルトをまるで物のように担ぎ上げる。

 

「ッ!? ま、待て!!」

 

それを見て唯に支えられながら海斗がロンドに手を伸ばすが…

 

「………………」

 

ロンドは反応せず、その場に出現した次元の裂け目に飛び込み、その姿を消していた。

 

「あ、るか……しる、と……」

 

伸ばした手は虚空を彷徨い…

 

「あ、ああ…あ……」

 

海斗は自らの無力さを呪い…

 

「うわあああああああああああ!!!!」

 

絶望の絶叫を上げていた。

 

これがアグレアス奇襲戦の裏で駒王町で起きた出来事。

海斗は…大切な人達を同時に失ったのだった。

 

………

……

 

アグレアスの裏でそんなことが起きてるなど誰も思わず、事態は動いていく。

 

単独でアグレアスの動力室へと向かっていたアザゼルがオーフィスの分身体である『リリス』と接触していた。

そこにイッセーとの戦闘でボロボロになったリゼヴィムが現れる。

その様子にアザゼルはどこか予想通りといった具合の反応を見せる。

 

そこに更なる来訪者が現れる。

翼を生やした三つ首の巨大な黒いドラゴン『アジ・ダハーカ』と、褐色の青年のような人間体の姿を取っている『アポプス』だ。

2体の邪龍はリゼヴィムに見切りをつけ、彼の隠し持っていた聖杯を奪取し独自に動くと言い出したのだ。

しかも異世界との闘争に興味を持っていたらしいことも発覚する。

 

そして、2体の邪龍はその場から消えていく。

それと入れ替わるようにヴァーリも動力室前にやってくる。

 

ヴァーリに事の顛末をかいつまんで説明され、上の戦闘風景を何となく察したアザゼルだった。

そして、極覇龍となってリゼヴィムに神器を介さない魔力の刃を向けるヴァーリ。

だが、リゼヴィムを真に屠りたいと願う者がいたため、ヴァーリはその刃を収めた。

 

その者とは…黄金の龍王『ファーブニル』。

夢の中まで執拗にリゼヴィムを追い詰め、今の状況…つまり、雑なイージーミスを連発させた影の功労者。

そして、夢の中で何度も体験した絶望を、遂に現実で受けることになる。

ファーブニルの顎によってリゼヴィムは…この世から退場する。

 

しかし、リゼヴィムの悪意は死んでもなお残り続けた。

動力室に赴いたアザゼルとヴァーリはそこで、復元が進められていた『666(トライヘキサ)』と、大量に量産されていた赤龍帝の鎧を目の当たりにすることとなる。

しかも悪いことに死んだリゼヴィムの魂をエネルギー源としてトライヘキサを強制的に復活させるというものだった。

それだけならまだ…いや、事態は最悪の方向に向かい出していたが、そこにアポプスとアジ・ダハーカが音声のみを飛ばしてトライヘキサと偽赤龍帝軍団をいただき、その上で邪龍のみの世界を築くという野望と宣言を残していた。

 

龍種、ドラゴン。

それは最強の種族の一角。

純粋な力を求め、戦いを好み、己が最強であることを信じ、己の好きなように生きる。

 

そのドラゴン達による戦役が、今幕を上げる。

 

………

……

 

「ふふふ…最後の最期に悪意を振り撒きますか。まぁ、遺言もこの程度のものしか用意できないとは…残念ですよ、リゼヴィムさん」

 

アグレアスでの出来事をモニターしていたノヴァは嘲笑していた。

 

「ですが、次は邪龍の皆さんが次元大戦を引き継いでくれるのなら問題ありません。それにリゼヴィムさんの最期の絶望も糧に出来ました。これで我等が神の復活も近付きました」

 

絶魔の神の像の数か所が僅かに罅割れたような状態なのを確認したノヴァは両手を広げて高らかに宣言した。

 

「さぁ、絶望と混沌の時代の開幕です」

 

これからの時代…。

それはノヴァの言うように絶望と混沌が支配する時代になるのだろうか…?

それとも…。



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第百十九話『天秤が揺れ、新たな王は目覚める』

一つの戦いが終わっても、また次の戦いの火蓋が切られた。

リゼヴィムを見限り、邪龍達は己の戦いを始めた。

そのリゼヴィムも死んだが、その悪意だけは未だに健在だった。

 

復活を果たした『666』、そしてそれに追従する偽赤龍帝の鎧軍団。

リゼヴィム亡き後、それらを用いて邪龍達の進撃が始まったのだ。

 

『666』復活後、邪龍軍は堕天使の世界と天界に攻め入り、グレゴリの主要施設を、天界の第六天までを破壊っし、蹂躙し尽くしていた。

その中で堕天使幹部やセラフメンバーは重傷を負い、戦死者も大勢出た。

また、四大セラフのラファエルは片足を失い、ウリエルもまた片目と片腕を失ったらしい。

ただ、不幸中の幸いとでも言うべきか、天界の第七天を死守することには成功していた。

しかし、その代償はあまりにも大きく、数多くの天使が亡くなっている。

 

これが『666』復活から僅か2日で起きた事柄だ。

そして、3日目からの邪龍軍の標的は、北欧の世界だ。

北欧の世界は三階層に分かれていて、最下層の死の国『ヘルヘイム』や氷の世界『ニヴルヘイム』が存在し、最上層に神々の住むアースガルズ…ヴァルハラが存在していた。

邪龍軍は最下層から1日毎に上層へと上がっていき、復活から5日目でそのヴァルハラに到達しようとしていた。

 

その様子を見ていた冥界側の首脳陣…悪魔と堕天使はそれを目の当たりにして戦慄していた。

黙示録の獣の脅威を…。

そして、それらを駆使して侵略を繰り返す邪龍軍の脅威を…。

 

この状況にD×Dのメンバーもまた北欧の世界にて『666』や邪龍軍と戦っていた。

しかも3日間だ。

他にも懸念すべき事柄がある中で、この戦いは熾烈を極めていた。

 

そんな中、北欧戦線に増援が来る。

インド神話の神々だ。

しかし、その増援をもってしても黙示録の獣は傷一つつかないという事実が残る。

 

だが、そんな戦闘も意外なことにあっさりと幕が降ろされる。

邪龍軍が突如として撤退したのだ。

北欧戦線を防衛した同盟軍は勝鬨の声を上げるが、首脳陣の中には疑念を抱く者もいた。

邪龍軍の手に渡ってしまった聖杯絡みだろうか…?

 

しかし、この貴重なインターバルに首脳陣は動き出す。

さらにある計画も密かに準備が進んいた。

その事実を知る者は、計画に参加する者と、極々一部の者のみの…最終計画を…。

 

………

……

 

北欧戦線から帰還したD×Dのメンバーはそれぞれの部署に戻り、行動を開始する。

 

ただ、今回の北欧戦線にイッセーの姿はない。

理由はリゼヴィムとの戦いで行った龍神化。

その後遺症によって生命の危機に陥っていたからだ。

今はアザゼル考案の施術で復調したらしく、首都リリスにあるセラフォルー記念病院に入院していた。

だが、そこで驚愕の事実が判明する。

イッセーの力の源…『おっぱいドラゴン』の象徴…女性の胸を認識出来ないという事実が…。

さらに悪いことに、その胸のことを考えるだけでイッセーは苦しむ事態にも陥っていた。

 

 

 

イッセーがそのようなことになっていた一方で…。

 

忍は海斗の元を訪れていた。

アグレアス奪還作戦時、忍不在の間に駒王町で起きた出来事を改めて聞く必要があったのと、今の海斗の状態を知りたかったから北欧戦線から帰還してすぐに駒王町に戻ってきたのだ。

そのはずなのだが…。

 

「海斗に会わせられないだと?」

 

「これはあたし達の問題だから、部外者は引っ込んでて」

 

海斗の部屋に訪れた忍は、部屋から出てきた奈緒によって海斗本人と会うことが出来ないでいた。

 

「今は火急の事態なんだ。いいから、海斗に会わせろ!」

 

「生憎と、知らない奴をあの人に会わせる訳にもいかないのよ」

 

「俺はあいつの親友だ!」

 

「その証拠は?」

 

「なんだと…?」

 

「親友って言うなら…なんで、あの場に駆け付けなかったの?」

 

奈緒の忍に向ける眼は批難しているようにも見えた。

 

「それは…こっちにもこっちの都合ってもんが…!」

 

アグレアスの重要性を知らない奈緒にそれを言っても詮無いことだとわかっていても、こうも突っ張られ続けると、忍も少々冷静でいられなくなっていた。

 

「海斗! 俺だ、忍だ! 話があるから、出てきてくれ!」

 

その場に結界を張り、部屋の中へと届くように忍は声を張り上げる。

 

「うるさいわね! 近所迷惑よ!」

 

結界に気付いていない奈緒がそのように文句を言うが…

 

「海斗!!」

 

忍は構わずに海斗の名を呼ぶ。

 

すると…

 

「………………」

 

まるで幽鬼のような、静かな殺意を滾らせた海斗が出てきた。

 

「海斗…お前…!?」

 

親友の変わり果てた姿に忍は少し驚く。

しかもその姿を、忍はよく知っていた。

 

「忍か…何の用だ?」

 

いつもの海斗ではない。

復讐の念に取りつかれている。

それが忍には手に取るようにわかった。

 

「俺は…お前のそんな姿を見に来たわけじゃない」

 

「………………」

 

忍の言葉に海斗は何も反応しない。

ただただ、憎い相手を捜しているような…。

 

「海斗。聞かせてくれ…俺達がアグレアスで戦っている間に一体何があったのかを…」

 

「何があったか、だって?」

 

「…お前の口から聞きたいんだ」

 

「………………」

 

忍はそれでも海斗の口から真実を聞きたいと伝える。

 

「アルカと、シルトが…連れ去られた。俺の…目の前で…」

 

「あの2人が…」

 

「相手は剣を使って…シルトを串刺しにし、アルカの脳天を貫き、俺の砲撃の盾にした。そして、2人を物のように扱って連れ去ったんだ…!!」

 

「相手の特徴は?」

 

「眼帯の男だった。無数の双剣や変なレイピアなんかを使った…」

 

「…ロンドか」

 

その特徴に一致しうる人物に心当たりがあった忍は、裏にいる存在のことも考え、苦い表情を作る。

 

「(ここに来て、絶魔勢の介入…一体何を考えてやがる?)」

 

忍がロンドの名を口にした途端…

 

「知っているのか!? あいつのことを!!」

 

忍の胸倉を掴み、海斗がまるで鬼の形相の如く怒りに満ちた表情で問い質す。

 

「……俺があいつのことを知ってたとして…無力なお前に何が出来る?」

 

「なに!?」

 

「海斗…別に(いか)るな、とは言わない。大切な…家族も同然の2人を目の前で傷つけられ、連れ去られたんだ。その心中は…」

 

「お前に何がわかる!?」

 

忍の言葉を聞き、海斗が声を荒げる。

 

「わかるんだよ。俺には…」

 

そう言う忍の瞳には僅かに悲しみの色が見えていた。

 

かつて、もう1人の自分…パラレルワールドで起きたことを海斗が知る由もないが、忍には大切な人を亡くした記憶と体験が魂に刻まれている。

そして、太古の時代にて恩師を目の前で切り捨てなければならなかった事実もある。

まぁ、その話をしている時間も今は惜しいため、伝えないが…いずれは話す機会もあるだろうと忍は考えていた。

 

「忍…?」

 

その僅かな悲しみの色を、海斗は忍から読み取った。

いくら怒りで目が曇っていようが、親友の瞳の色を間違えるほど、海斗も愚かではない。

それがどのような理由かまではわからない。

ただ、親友の…その言葉を否定することが出来なかった…否、したくなかったのかもしれない。

 

「海斗。今、世界は邪龍軍によって混沌と化している。絶魔勢も動いているとなると、俺も無視はできない。だが、だからと言って怒りで我を忘れちゃ駄目だ。こういう時こそ冷静に…その怒りは、今は胸の内にしまっておけ。ここぞという時に、解放してぶつけてやればいい。それに…お前は王になるんだろ? 一時の感情で全てを台無しにするな。必ず、反撃出来る時はくる」

 

「………………」

 

忍の言葉に、海斗は忍から手を離し、ギュッと拳を握り締める。

 

「海斗…」

 

「俺には…為すべきことがある」

 

顔を上げた海斗の瞳には、確かな決意の炎が灯っていた。

 

「行くのか?」

 

「こんな時に悪いけど…行かないとならない」

 

「いいさ。お前は俺の親友なんだ。その親友が、行くってんなら…止めはしない」

 

「……ありがとう、忍」

 

海斗は忍に一礼すると、部屋へと戻り…

 

「唯」

 

中にいた唯に声を掛けていた。

 

「はい」

 

事の成り行きを見守っていた唯は静かに頭を下げる。

 

「本当に申し訳ない。覚えがないと言ってしまえば、それまでだが…俺は君の想いをずっと裏切り続けていたんだね。そのことについては…謝る他ない」

 

「カイト、様…」

 

「都合がいいのは承知の上だ。君の気持ちに応えられるかどうか…今はまだ正直わからない…」

 

「っ!」

 

それを近くで聞いてた奈緒はあからさまに嫌な表情を浮かべるが…。

 

「それでも、今は俺の責務を果たしたい。この痣に恥じないように…俺は、カイル叔父さんに会いに行く」

 

「………………」

 

「そして、この…第二の故郷を守りたい。それが俺の…今の、偽ることのない気持ちだ」

 

「御意」

 

「行こう、ブルートピアへ…!」

 

こうして、海斗は故郷…ブルートピアへと向かうことになった。

 

 

 

邪龍軍の進撃が再開するまでの時間は残り少ないと思うが、海斗もこの世界を守りたいと、行動を開始した。

 

………

……

 

海斗がブルートピア行きを決める少し前…。

 

「お忙しい時に申し訳ありません。ミカエル様」

 

『あなたから連絡をくれるとは珍しいですね、アリア』

 

駒王町の教会にてアリアが天界で復興作業の陣頭指揮を執っているだろうミカエルに連絡を入れていた。

 

「はい。実は、以前よりご相談していた痣の件でご報告が…」

 

『あなたの右腕に表れたという例の痣ですか。何かわかったのですか?』

 

「はい。この痣は…」

 

アリアはミカエルに海斗から聞いた情報を伝えていた。

 

『なるほど。その痣は、異世界由来のものでしたか。ふむ…』

 

「私は、どうしたらよいのでしょうか?」

 

アリアはミカエルにそんな風に尋ねていた。

 

『……アリア』

 

「はい」

 

『あなたのやりたいようにやりなさい』

 

「私の…?」

 

『えぇ。あなたの心の赴くままに…自由に羽ばたいてください。あなたの翼は、そのためにあるのですから』

 

ミカエルは優しい笑みを浮かべながらそのように伝えていた。

 

「自由に…」

 

『では、私はまだ復興作業があるので、失礼しますね』

 

「はい。貴重なお時間をありがとうございます」

 

『お気になさらず』

 

そうしてミカエルとの通信が終わる。

 

「私の、やりたいように…」

 

アリアは静かに目を閉じ、しばらく考え込む。

 

そうして、アリアの出した決断は…

 

………

……

 

「………………」

 

借りている部屋の中で正座をしながら瞑想に耽る薫。

 

『あぁ、我が愛しくも美しいマスターよ。何を悩んでいるのかな?』

 

そんな彼女に誰かが声を掛ける。

いや、声を掛けるというよりかは音声が聞いてきたといった方がいいか…。

 

「あなたですか。今は息を潜めているのではなかったのですか?」

 

『つれないなぁ。まぁ、状況が動きつつあるからね。久し振りにこの僕の力も必要になるんじゃないかな?』

 

「………………」

 

『ふふ…"僕ら"が揃い始めてきた。これは何を意味するのかな?』

 

「"僕ら"?」

 

『そういえば、マスターには言ってなかったね。まったく、不本意ながら僕らは全部で12機あるんだ。もちろん、姿形や性格は異なるけどね。僕的には彼等と一緒のカテゴリーというのが不本意でならないんだけどね。まぁ、美しい同胞もいるから多少は我慢してるけど』

 

「あなたみたいな存在が12機…」

 

『そう、僕ら"エクセンシェダーデバイス"は黄道が由来だからね』

 

どうやら声の正体はまだ未確認のエクセンシェダーデバイスのようだ。

 

「何故、黄道が…」

 

『さぁ? そこまでは僕も理由を知らないかな』

 

「………………」

 

『最近までに僕が感じただけでも、ひぃ、ふぅ、みぃ……少なくとも7体は確認したかな』

 

「よく向こう側に気付かれませんでしたね」

 

『休眠状態でもそのくらいは察知できるさ。ま、活動してないと、互いの存在は確認できないと思うけどね』

 

「なるほど。となると、今は察知されてるのでは?」

 

『最低限の機能しか使ってないから、よほど近くにいないと勘付かれないよ』

 

「そうですか…」

 

薫がそのように納得していると…

 

『それで? 最初の質問に戻るけど、マスターは何を悩んでいるのかな?』

 

「私自身の在り方を…」

 

『ほぅ?』

 

薫の言葉にエクセンシェダーデバイスが興味深そうに声を漏らす。

 

「私は実家から逃れるために、この町に来ました。ですが…三大勢力の和平に伴い、賞金稼ぎも難しくなっていたのも確かです。そこにきて、この痣の正体が知れたのは僥倖です。でも、王の臣下。それも異世界の、となると…意味が分かりません。何故、私が選ばれたのか…妹の命で生き長らえている、私が…」

 

『………………』

 

「私は…」

 

薫が自問自答を繰り返そうとすると…

 

『マスター』

 

「?」

 

『あなたは僕が選んだマスターだ。あの家の誰でもない。あなただからこそ、僕はあなたに力を貸しているんだ。それを忘れないでおくれよ』

 

「……肝に銘じておきます」

 

エクセンシェダーデバイスの言葉に、薫はそのように答えると、スクールバッグの中からそれなりに小綺麗な箱を取り出す。

 

「では、私も私なりの流儀を通しましょう。行きますよ、『ライブラ』」

 

薫は箱の中から、天秤座のシンボルと十字架の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のカーネリアンを携えた白銀色のチェーンブレスレットを取り出した。

 

『もちろんだ。我が愛しくも美しいマスター』

 

駒王学園の制服に着替え、右腕にライブラを巻くと薫は部屋を出た。

 

ライブラ…天秤座が今、動き出す。

 

………

……

 

そして、海斗が唯と奈緒、ハイネを引き連れてブルートピアへ向かう途中のこと。

 

「ホントにあの2人は置いてくの?」

 

奈緒が薫とアリアについて海斗に尋ねていた。

 

「元々、こちら側の人間なんだ。俺達の国の事情に巻き込むわけにもいかないだろう」

 

「カイト様がそう仰るのなら…」

 

「でも、あの2人は痣の持ち主であって全くの無関係ってわけでもないでしょ?」

 

海斗の言葉に唯は従順っぽく頷くが、奈緒の方は難色を示していた。

 

「それでも、だ。特にクラシエルさんはおそらく三大勢力に属してる。そうおいそれとは抜け出せないだろう」

 

「三大勢力?」

 

「こちらの宗教的な勢力だ。他にも色々あるが、今はこの三大勢力が中心に他の勢力と和平を結んでいるんだよ」

 

「ふ~ん…」

 

奈緒の疑問に海斗が答えていると…

 

「ですが、その同盟勢力も邪龍軍の変則的な動きのせいで機能していないようです」

 

「今は沈黙を保っていますが、それも時間の問題でしょう」

 

シスター服を身に纏ったアリアと、駒王学園の制服を着た薫が現れる。

 

「久瀬先輩に、クラシエルさん…?」

 

2人の登場に海斗も目を丸くしている。

 

「どうして、ここに?」

 

実は駒王町にもブルートピアへ向かうための次元の裂け目があったりする。

 

「アザゼル様より、駒王町のいくつかの地点に不審な歪みがあると聞きました。その内の一つに水神様達が向かうとエージェントの方に聞き、ここまで来ました」

 

アリアはそのように説明したが…

 

「私は…あなたの正義を計りに来ました」

 

薫の目的は違うようだった。

 

「俺の、正義…?」

 

「はい。そのために…私はここに来ました」

 

そう言って薫は白銀のチェーンブレスレットを巻いた右手を海斗に向ける。

 

「目覚めなさい。エクスキューター・ライブラ!」

 

『いいとも。我が愛しくも美しいマスターよ』

 

カッ!

 

一瞬の閃光の後、駒王学園の制服の上から白銀の鎧が装着される。

 

「なっ!?」

 

「「「!!」」」

 

その姿に海斗が驚き、唯と奈緒、ハイネが臨戦態勢を取る。

 

「邪魔立て無用!」

 

薫が素早く腕を横一閃に振るうと…

 

『ジャッジメント、発動!』

 

ジャキンッ!!

 

突如として、海斗、唯、奈緒、ハイネの身体に鎖が巻かれていく。

 

「拘束系の魔法!?」

 

「たかが鎖程度、で!?」

 

「!?」

 

「な…? 身体が、重く…!?」

 

拘束された4人は、まるで何か重い物でも持たされたかのような錯覚に陥り、身動きが取れなくなっていた。

 

『ふふっ、無駄だよ。僕の固有魔法は相手の罪の数と質によって拘束した相手の重さが変わるのさ。それは連帯責任でも有効。数と質が多ければ多い程に、罪の重さは君達に重くのしかかるのさ』

 

自らの固有魔法をライブラが得意げに話す。

 

「完全無欠の清廉潔白な人間など、この世には極少数しかいないでしょう。罪の意識があるからこそ、人は自らを律するのです。罪を罪と認めている。それは人として正常です。しかし、時にそれは残酷でもある」

 

そう呟きながら薫は両肩からロッドを1本ずつ両手に持つと、それらを組み合わせて棍状にする。

 

「王となるのなら…この程度の重さは耐えてみなさい。それが上に立つということ…!」

 

ガンッ!!

 

「がっ!?」

 

薫は海斗にのみ攻撃を加える。

 

「カイト、様…!」

 

「くっ…この…!」

 

重く感じる身体のせいで上手く動けない唯と奈緒が藻掻く最中…

 

「そして、向き合ってみなさい。己の罪と…!!」

 

ボァ!!

 

赤い炎が棍の両先に灯り、それを海斗に叩き付けようと鋭い突きを放つ。

 

「くっ!?」

 

拘束されていても魔法の行使は可能だと踏んだ海斗がシールドを張るが…

 

「無駄です!!」

 

ドンッ!!

 

シールドに突きが衝突した瞬間、まるでシールドが脆くなったように簡単に貫通し、海斗の胸に突き刺さる。

 

「がはっ!?」

 

その突きに海斗は成す術もなく吹き飛ぶ。

 

「(なんだ、今のは…?)」

 

ただ炎が灯っただけで刃状にもなっていない棍の突きが、海斗のシールドを貫通した。

この事実に、海斗は混乱した。

 

「あなたに、休む暇があるとでも?」

 

根を突き刺したまま、僅かに棍を持っていた手を緩め、反対側の先を叩くと、突き刺していた方の先が上昇し、海斗の顎にクリーンヒットする。

 

「っ!?」

 

回転しながら上に飛ぶ棍を無視し、新たに背中から2本ずつのロッドを取り出すと、それらを組み合わせて今度はトンファー状の形態にする。

 

「しっ!」

 

再び赤い炎をトンファーに纏わせた薫が海斗に殴り掛かる。

 

「ティア・シューター!」

 

これ以上、貰うわけにはいかないと判断した海斗が水属性の誘導弾を周りに展開し、発射するが…

 

「ふんっ!」

 

カンフー映画もビックリのトンファー捌きで全ての水弾を弾いてしまった。

しかも気のせいか、赤色だった炎が橙色へと変化しているようにも見えるが…?

 

「(炎の色が…?)」

 

海斗もそれに気付いたようだが、向かってくる薫に対して今度は砲撃を撃つことを選択していた。

 

「アクア・バスター!!」

 

水属性の砲撃を撃つ。

 

「………………」

 

それを薫は両腕をクロスし、トンファーに灯った炎の色を緑色へと変えて防御の構えを取る。

 

「(また、色が…?)」

 

ゴオォォ!!

 

「この程度ですか?」

 

防御した薫は少しだけ下がったようだが、それでも大したダメージにはなっていないようだった。

 

「ぐっ…!」

 

海斗はなんとか立ち上がろうとするが…拘束され、重くなった身体では思うようにいかないらしい。

 

「王を自称するなら、清濁併せ呑む度量を見せてください。それが出来ないのなら…」

 

ザッ…。

 

そう言って薫は海斗の目の前に立つと…

 

「あなたに王の資質はないでしょう」

 

いつの間にかトンファーをロッドに戻して背中に収納していた薫は頭上から落ちてきた棍状のロッドを手にし、海斗の眼前に突きつける。

 

「………………」

 

「………………」

 

しばしの間、静寂がその場を支配する。

 

「………………」

 

しかし、海斗の眼はまだ死んでいなかった。

 

「諦める気はない、と?」

 

その眼を見て薫は尋ねる。

 

「えぇ。俺は諦めたくない。王になることを…」

 

「この状況でも?」

 

「そうです。確かに俺は罪を犯してきた。でも…それでも、俺は…王子として、あの世界に戻らなければならないんです」

 

「それは何故? 血筋や痣を理由にするのであれば…」

 

「違う!」

 

「………」

 

「確かに、俺の血筋は前王の系譜だ。痣もあるから正統性だってある。けど…それだけじゃ駄目だ。俺が目指すべき王の姿は…あの背中を…偉大な背中を超えたいからだ!」

 

その時、海斗の眼の奥には前王として、父として、男として…その思い出は少ないが、何よりも厳しかったあの人を超えたいという願いの炎が灯っていた。

 

「もう会うことも、教えを乞うことも出来ないが…俺は、俺なりの方法で、前王を超える…!」

 

その瞬間…

 

カッ!!

 

海斗、唯、奈緒、薫、アリアの右腕に宿る痣が輝きだしたかと思えば、それぞれの右腕から消失し、海斗の背へと収束していき、海龍神の姿を模した痣が浮かび上がる。

 

そして…

 

バサリッ!!

 

変化はそれだけに留まらず、海斗の背中から瑠璃色の4対8枚の翼が広がり、髪も白に近い水色から澄んだ蒼へ、瞳もエメラルドグリーンから鮮やかな深紅へと変貌を遂げる。

 

「な!?」

 

『魔力量、急激に増大!? 一体何が…!?』

 

その現象に薫とライブラが困惑する。

 

「………………」

 

この変貌には海斗自身もまた驚いているが、不思議と頭の中はクリアになっていた。

そして、自身に何が出来るのかも…。

 

「ライブラ!」

 

『スキルキャンセラーシステム、起動!』

 

「これであなた達の異能の力は振るえない!」

 

だが、薫もすぐに相手の能力を封じることを決めていた。

ただ…何故、最初からそのシステムを起動しなかったのか…。

使っていれば、文字通り封殺していたのに…。

 

「問題ありません」

 

しかし、今の僅かな時間に海斗は既に手を打っていた。

いや、正確には…

 

「ッ!!」

 

バキンッ!!

 

内側から力づくで鎖を打ち破るようにして引きちぎる。

 

「なっ!? 異能は封じたはずなのに!?」

 

「封じられる前にちょっと力を込めました。既に発動し、残留した力までは無効化出来ないようですね」

 

なんてことないように聞こえるが、あの一瞬でそこまで思考が巡るものか…?

 

『バカな! 完璧な僕のシステムにそんな穴があるはずがない!!』

 

「実際、こうしてどうにか出来た。それが答えでは?」

 

『貴様…!!』

 

海斗の挑発にライブラがいつになく感情的になるが…

 

「落ち着きなさい、ライブラ」

 

『ぐっ…!』

 

薫がライブラを諫める。

 

「ですが、状況が五分になっただけ。まだ勝敗がついたわけでは…」

 

「いえ、この時点で俺の勝ちです」

 

海斗は静かに目を閉じていた。

 

「え…?」

 

その意味が分からず、薫が足を動かすと…

 

チャプッ…

 

「?」

 

まるで水に足を取られているような感覚に陥り、自らの足元を見ると…

 

「な…?」

 

何故か、水気のなかった場所にまるで川か池、湖…いや、海があり、そこに足を取られているかのような…

 

「冥王スキル『ハザード・オーシャン』」

 

海斗がそう口にした瞬間…

 

ブンッ…!

 

海斗と薫を取り込むように大量の水が出現し、球体状となって2人を包み込む。

海人族である海斗は問題ないが…

 

「ごっぽ!?」

 

普通の人間である薫は突然の水中に取り乱したようだった。

 

「これでおしまいです」

 

海斗はそう言って薫の意識を刈り取るべく彼女の首筋に手刀を決める。

 

「っ!?」

 

薫が意識を手放した直後、海斗と薫を包み込んでいた水が消える。

 

「っと…」

 

水から解放され、地面に衝突しそうになる薫を海斗が抱き留める。

 

「アクア・ブレイク」

 

ガキンッ!!

 

さらに海斗は水を凝縮した小型球体で唯、奈緒、ハイネのジャッジメントを破壊する。

 

「時間が惜しい。急ごう」

 

「………………」

 

唯はちょっと羨ましそうな視線を薫に向けるが、すぐに佇まいを直して気を引き締めたような表情に戻る。

 

「(姉さん…)」

 

その僅かながらも微妙な変化を妹は察したが、多くは言うまいと口を閉ざしていた。

 

「あ、待ってくださ~い」

 

さっきからずっと蚊帳の外だったアリアも正気に戻ると、海斗達を追い掛けるのだった。

ちなみに海斗の背に集まっていた痣はそれぞれの右腕に戻っていたりもする。

 

 

 

こうして、海斗達はブルートピアへと赴く。

 

だが、事態は刻一刻と変化していた。

冥界では暴徒鎮圧に駆り出されていたサイラオーグや匙がレーティングゲームのトップランカーと戦い、勝利を収めていたりもした。

 

そして、邪龍軍の動きも再開の兆しを見せつつあった。



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第百二十話『邪龍戦役、終幕』

海斗達がブルートピアへと赴いたのと同時刻。

 

人間界に『666』の出現の報が届いたのだ。

しかも『666』は頭の分だけ分裂が出来るようだったので、ギリシャ、インド、ケルト、エジプトの各神話勢力の領域、人間界の日本近海とヨーロッパ方面のとある高山地方、そして次元の狭間に現れたらしい。

邪龍軍の首魁…アジ・ダハーカとアポプスはそれぞれアジ・ダハーカはヨーロッパ方面、アポプスは日本方面にいるとのことだ。

どちらかが聖杯を所持しているだろうと予測し、アザゼルは『刃狗』チームに調査を要請していた。

 

 

 

この重要局面で、入院中だったイッセーはというと…

 

「………………」

 

病室で静かに駒王学園の制服に着替えていた。

つまり、日本に現れた『666』との戦いに行くことを決めたのだ。

仲間や医師から絶対安静を言い渡されていたが、故郷がピンチの時に自分だけ寝てる訳にもいかないと、イッセーは戦うことを選んだのだ。

 

そして、着替え終えたイッセーは病室から出ると、ヴァーリと出くわす。

その時、イッセーとご両親、ヴァーリとでのちょっとした一幕があり、ヴァーリは楽しそうに笑ったとか…。

 

イッセーとヴァーリ。

現赤龍帝と現白龍皇。

 

この2人の参戦なくして、この戦いの終局は迎えられないだろう。

 

「死ぬなよ、兵藤一誠」

 

「お前こそな、ヴァーリ」

 

生涯のライバルでありながら戦友みたいな2人は、自然と互いの拳をコツンと合わせていた。

 

「来たな、ご両人」

 

病院のあるフロアでアザゼルを見つけたイッセーとヴァーリ。

アザゼルの背にはオカ研、ヴァーリチーム、刃狗チーム、忍、紅牙と勢揃いしていた。

人数の関係から紅神・神宮寺眷属は病院の外で待機しているらしいが…。

 

アザゼルから作戦概要が説明される。

未だ揃わぬヴァレリーの聖杯…それを停止させることが第一目標。

そのために今回は特例としてヴァレリーにも参戦してもらうこととなった。

その準備も抜かりはなかったが、作戦は一発勝負である。

 

そして、この場に集まっているチームの配分は日本方面にはオカ研と紅神眷属が、ヨーロッパ方面にはヴァーリチーム、刃狗チーム、神宮寺眷属がそれぞれ向かうことになっている。

 

そして、現地で合流する予定の勢力もいる。

日本方面ではシトリー眷属、アガレス眷属、御使い、さらに日本を拠点にしている上級悪魔や日本の古くから存在する異能集団『五大宗家』や妖怪連合、特異災害対策機動部二課といった勢力もいる。

ヨーロッパ方面では魔法使い、吸血鬼、教会の戦士、ヨーロッパを拠点に持つ上級悪魔勢や元龍王タンニーンが組織の垣根を超えて集うとのことだった。

 

また、次元の狭間に出た『666』の1体には時空管理局の艦隊も向かったとの情報もあり、特務隊もそこに含まれていた。

流石の管理局も次元の狭間に出たバケモノを放置することを良しとはしなかったか?

色々と憶測もあるが、とにかく各地での戦いが始まる。

 

………

……

 

・ヨーロッパ方面

 

とある山岳地帯にて開戦した邪龍軍と連合軍との戦い。

 

「オラオラ! 吹き飛べや!! エレキトリック・ハマーッ!!!」

 

偽赤龍帝と量産型邪龍を両手足に纏った雷で纏めて薙ぎ払うように吹き飛ばすのは、神宮寺眷属の戦車こと秀一郎だった。

 

「ちょっと、シュウ! 飛ばし過ぎよ!」

 

「そうだよ。もうちょっとペース考えないと!」

 

秀一郎のお目付け役っぽい藍香と翔霧は2人して苦言を呈していた。

 

「うっせぇ! こういうのは勢いも大事だろうが! それに俺ら以外であの偽物の相手も苦しいだろうしな!!」

 

秀一郎は秀一郎で偽赤龍帝の脅威をしっかりと認識しているようだった。

 

「あ~もう! 仕方ないわね。翔霧!」

 

「あいさ!」

 

秀一郎の両脇から出るようにして前に出た藍香と翔霧はそれぞれ刀と拳を構え…

 

「疾風!」

 

「迅雷!」

 

2人の間合いに入ってきた偽赤龍帝と量産型邪龍を瞬く間に屠っていく。

具体的には翔霧が偽赤龍帝を風の拳で殴り、その隙を突こうとした量産型邪龍を藍香が雷の刀で斬り伏せ、さらにその隙を突こうとした量産型邪龍を翔霧がサマーソルトキックを決め、翔霧が体勢を立て直すまでの間に藍香が刀を横一閃に薙ぎ…といった感じで互いの隙を突こうとする敵を次々と捌いていったのだ。

正に阿吽の呼吸と呼ぶに相応しい光景だった。

 

「相変わらず良いコンビだな。お前ら!」

 

その光景に秀一郎は笑いながらもグレンデル型の量産型邪龍と力比べをしていた。

 

「あの頃と一緒にしないでちょうだい!」

 

「そうそう。秀一郎がいない間も、私達だって成長してるんだから!」

 

「ははは。そいつはは悪かった、なッ!!!」

 

そんな会話をしながらも藍香と翔霧が同時に跳んだタイミングでグレンデル型の量産型邪龍を団体様へと投げつける秀一郎だった。

 

「吹き飛べ!!」

 

「散りなさい!!」

 

「消し飛びな!!」

 

秀一郎の炎、藍香の雷、翔霧の風…三位一体の魔法攻撃が団体様に衝突し、大爆発を巻き起こす。

 

「ふん…そっちも少しは進歩してるのね?」

 

「まぁ、お互いデバイスは当時のままだけどね」

 

「ハッ! だからどうした?」

 

秀一郎の傍に着地した藍香と翔霧と共にそんなことを言い合いながらも周囲を警戒する。

 

「デバイスも所詮は道具だ。要は使い方次第ってな」

 

「アンタがそれを言う?」

 

「あはは、秀一郎らしいね?」

 

まだまだ偽赤龍帝と量産型邪龍が迫る中…

 

「まだまだ、戦いはこっからだぜ? お前ら、ついてこれるか?」

 

「「……上等!!」」

 

秀一郎の声に、藍香と翔霧は揃ってどこか嬉しそうに声を上げて答える。

 

 

 

秀一郎達がそんな戦いを繰り広げている中…

 

「やべぇ…なんで同じ3人組なのに、こっちはこんな苦戦してんだ!?」

 

「知らないよ~!」

 

「はぁ…はぁ…相手も、悪いかと…」

 

冥王三人娘はラードゥン型の量産型邪龍と当たっており、なかなかその守りを突破できずに苦戦を強いられていた。

というか、早紀も沙羅も紗奈も突破力に欠けているので、苦戦してるのも頷ける。

 

と、そこに…

 

「こんのぉ!! ぶち抜けぇぇええ!!」

 

神宮寺眷属の一員としてヨーロッパ方面の戦いに参戦していたヴィータがグラーフアイゼンをラケーテンフォルムにして三人娘の相手をしているラードゥン型の量産型邪龍の結界を力技で粉砕する。

 

「紫電、一閃!!」

 

同じ理由で参戦していたシグナムがその隙を突いてレヴァンティンで一撃を加えていた。

 

「「「………………」」」

 

自分達が苦労してたというのに、たった2人の連携でラードゥン型の量産型邪龍を倒され、どこか遠い目をしてしまう冥王三人娘。

 

「ったく、おめぇらなぁ…」

 

アイゼンを自らの肩に担いでヴィータが呆れたように三人娘を見る。

 

「うぐ…」

 

「うっ…」

 

「あぅ…」

 

あからさまに凹む三人娘。

一応、これでも他の量産型邪龍を相手取るくらいの力量はあるのだが…。

 

「落ち込んでいる暇はないぞ。次が来る」

 

「じゃ、オレはさっきの硬いのの殻を破っかな」

 

「だが、ペースも考えろ。カートリッジも無限ではないのだからな」

 

「わぁってるよ」

 

そう言い合いながらシグナムとヴィータがその場から次の戦場へと飛んで向かう。

 

「と、とにかく! ボクらだっていつまでも残念な存在じゃないってアピールしないと!」

 

「そうは言うけどさ…」

 

「他の方達に比べると私達は…」

 

自分で残念と自覚してる辺り、それも自信の無さを助長しているのではないだろうか?

 

 

 

そんな感じで押され気味な冥王三人娘の戦いぶりを後方から見ていた紅牙はというと…

 

「何をしているんだ、あいつらは…」

 

顔を手で覆いながら頭が痛そうにしていた。

 

「ま、まぁまぁ、紅牙君」

 

その傍にははやてが控えていて紅牙を宥めていた。

 

「ユウマ達の方はどうだ?」

 

「そっちはシャマルにはリィンとザフィーラがついてて、ユウマ君には調ちゃんと切歌ちゃんが護衛についてそれぞれ治癒に回ってるよ」

 

「そうか…」

 

はやての報告を聞き、紅牙は静かに独白する。

 

「正直、ユウマを連れてくるのは最後まで迷った。こんな大規模戦闘、死傷者の数も多くなるだろう。負傷者だって重傷者がきっと多い。あいつの持っている治癒能力はあくまでも対象の自然治癒を高めるもの。焼け石に水だろうが…無いよりはきっとマシだ。しかし…」

 

「ユウマ君に悪いと思っとる?」

 

「……あぁ」

 

そんな紅牙の空いている手をはやてはそっと握ると…

 

「優しいね、紅牙君は」

 

「………………」

 

「大丈夫やよ。ユウマ君だって、覚悟してきてくれたんやから…信じよう?」

 

そう微笑みかけていた。

 

「……そうだな」

 

それに答えるように呟いた後、紅牙はサジタリアスを身に纏い…

 

「そろそろ俺も向かう。この場での眷属の指揮は頼む」

 

「うん。任せておいて」

 

はやてにこの場を任せ、ある場所へと向かうことにした。

 

 

 

その場所とは…

 

「………………」

 

ヴァーリが静かに、それでいて自らの龍気と魔力を体内で練っていた。

それはこの戦場に決着を着けるべき者がいるという証だ。

 

と、その時、戦場にいた『666』を見覚えのない結界術式が包み込み、その動きを封じる。

 

そして、彼の元に、数名の人物が集まっていた。

 

「ヴァーリ、行くといい」

 

「決着を着けたい奴がいるんだろう?」

 

鳶雄さんと紅牙がヴァーリの元にやってくると、そんなことを言っていた。

 

「こいつらをこれ以上、暴れさせたくないと思っているんじゃないのか? 破壊が続けば、ヨーロッパ諸国の都市部だけじゃなく…いずれ、のどかな田舎町(・・・)にまで被害が及ぶ」

 

「?」

 

鳶雄さんの言い回しに紅牙が首を傾げるが、ヴァーリにはそれだけで伝わった。

鳶雄さんはヴァーリの…ある事情を知っているのだと…。

 

「だが…」

 

その感情に、ヴァーリ自身、戸惑いを感じているものの、決して不快なものではなく…むしろ…。

 

「そうなのです。ここは私やトビー、ヴァーくんのお友達に任せるのです」

 

そう言ってやってきたのは、ヴァーリの姉役であり、神滅具『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』の保持者の魔女『ラヴィニア・レーニ』だ。

 

「カッカッカッ、そういうこった!」

 

「リーダーらしいところ、見せてくださいな」

 

「私、ヴァーリについてきてよかったと思ってるわよ?」

 

「私、今世の二天龍はどちらも好きですよ!」

 

さらにはヴァーリチームの面々もやってきてリーダーに向けて激励を送る。

 

「何を躊躇う必要がある? お前は、お前の道を行け!」

 

サジタリアスを纏った紅牙も砲撃を撃ってヴァーリの道を切り開く。

 

「二天龍として、ルシファーとして、その生き方を選んだお前の、一つの答えをこの世界に見せつけてみるんだ」

 

鳶雄さんも優しい笑みを浮かべながらヴァーリにエールを送ると…

 

「さぁ、刃。俺達も行こうか」

 

その瞬間、飛雄さんを中心に闇の世界が広がる。

 

《人と理を斬るなら幾千まで啼こう》

 

《化生と凶兆斬るなら幾万まで謳おう》

 

《遠き深淵に届く名は、極夜と白夜を騙る擬いの神なり》

 

《汝、我らが漆黒の魔刃で滅せよ》

 

《儚きものなり、超常の創造主(かみ)よ》

 

言葉を紡いだ鳶雄さんは、闇の衣を纏った人型の獣と化し、その周囲には暗黒を吐く大型の『狗』達が群れを成していた。

これが、『黒刃の狗神』の禁手『|夜天光の乱刃狗神《ナイト・セレスティアル・スラッシュ・ドッグズ》』…否、鳶雄さんがその禁手を研磨し続けて至った神器の深淵面(アビス・サイド)

 

『|深淵なりし冥漠の獣魔、英傑であれ常夜刃の狗神《ペルフェクトゥス・テネブラエ・リュカオン・エト・フォルティス・デンス・ライラプス》』。

 

闇の獣に斬れぬモノなし。

唯一の例外は、『666』だけだった。

しかし、それでも十分過ぎる戦果を挙げる。

 

「これが…幾瀬鳶雄の…」

 

初めて見る彼の禁手に紅牙も慄いていると…

 

「さぁ、行くのです。ヴァーくん。ここはもうすぐ氷と刃の世界になってしまうのですよ?」

 

ラヴィニアの言葉を聞き、ヴァーリは飛翔した。

ヴァーリが飛翔していった直後、山脈地帯を氷が覆い、そこから歪な刃が生えていくのだった。

 

そして、ヴァーリが目指すは、この戦場での一番の脅威…アジ・ダハーカ。

 

………

……

 

山岳地帯で邂逅せし、ヴァーリとアジ・ダハーカ。

 

そのアジ・ダハーカが語る。

 

今現在起きている各神話世界で広がる破壊の光景。

その光景は、アジ・ダハーカからすれば、『ま、こんなもんだよな』と…。

そして、アジ・ダハーカが思いを馳せる異世界の存在。

 

E×E(エヴィー・エトゥルデ)』。

機械生命体と精霊とが争っている世界。

精霊を司る善神レセトラスと、機械生命体を司る悪神メルヴァゾアが世界を二分して争っているという。

 

その情報を如何にして手にしたのかはわからないが、手始めにそこからコンタクトを取ろうとしているような口振りだった。

 

だが、それらを語るアジ・ダハーカに、ヴァーリはどこか好意的な感情を抱きつつも、危険だと判断していた。

 

そうして両者が、互いに戦いのオーラを滲み出したところで、両者の戦いが始まる。

 

しかし、通常の禁手状態ではアジ・ダハーカの幾万を超える魔法を捌き切れず、白銀の極覇龍に強化して対抗する。

が、それでも極覇龍の力はヴァーリも慣れておらず、体力と魔力をだいぶ消耗してしまっていた。

 

それらの攻防を神器から見ていたアルビオンのよれば、アジ・ダハーカもまた天龍クラスの強さを獲得しているらしい。

 

さらにアジ・ダハーカは煽るようにアルビオンの昔の名…『グウィバー』を出して挑発する。

『グウィバー』…ウェールズの言葉で『毒蛇』を意味する。

白く美しい身体に似合わぬ、毒の力を白龍皇は持っているのだ。

 

さらに、そこでアジ・ダハーカはヴァーリの眼に守るべき何かを見出し、それを確かめるべくアジ・ダハーカはある魔法を発動させた。

 

それは、ヴァーリの深層心理の中で求めた世界を再現する、幻惑の魔法。

この魔法で幾多もの強者を堕とした魔法。

 

その中で、ヴァーリは欲した世界…。

それは、極々一般的な普通の家庭。

イッセーが持ち、ヴァーリが持たなかったモノだ。

その中で、彼は母と名も知らない弟と妹と共に食事をし、遊び、弟妹と共に寝て過ごした。

 

だが、それはヴァーリに新たな覚悟を決めさせるものだった。

あの家族を、守りたい…。

そう誓い、ヴァーリは夢の幻想の中から目覚め、現実へと帰還する。

 

そして、それはヴァーリに新たな力を発現させる。

 

「我に宿りし無垢なる白龍よ、覇の理を降せ」

 

『我が宿りし白銀の明星よ、黎明の王位に至れ』

 

「濡羽色の無限の神よ」

 

『玄玄たる悪魔の父よ』

 

「『窮極を超克する我らが誡を受け入れよ』」

 

「『『汝、玲瓏のごとく我らが燿にて跪拝せよッッ!!』』」

 

顕現せしは、新たなる明けの明星。

ヴァーリの中に眠っていた悪魔の父の血と白龍皇アルビオン・グウィバーとしての力…それら全てが顕現した形態。

すなわち『魔王化』。

背には12枚ものルシファーの翼を広げ、白銀だった鎧も白銀と黒が基調となり、形も覇龍を思わせるような有機的でありながらも流麗なフォルムと化していた。

 

その新たなる姿でヴァーリは天龍クラスとなっているアジ・ダハーカとの死闘を繰り広げる。

ヴァーリの見せるルシファーとしての燿と、アジ・ダハーカの無尽蔵とも言える魔法力のぶつかり合いは、山頂付近の景観をことごとく破壊し続けていた。

 

途中、量産型邪龍と偽赤龍帝がヴァーリとアジ・ダハーカの戦いを邪魔しようとやってきたが、ヴァーリの…否、アルビオン・グウィバーの毒こと『減少』によって量産型邪龍は苦しみ、落下していく。

ちなみに偽赤龍帝の鎧はアジ・ダハーカの怒りに触れたとしてアジ・ダハーカが消し去っていた。

 

そして、ヴァーリとアジ・ダハーカの戦いは終幕を迎える。

三つ首の内、左右の首を吹き飛ばされたアジ・ダハーカは魔法での応戦をやめ、生身での特攻にシフトした。

それを回避しようとしたヴァーリだが、思いの外魔王化のスタミナ消費が激しく回避に失敗する。

しかし、それでもヴァーリは誓ったのだ。

守ると…。

鎧の胸と腹の部分から何らかの発射口が姿を現し、そこに膨大なまでの魔力が収束していく。

アジ・ダハーカを逃がすまいと、捕まえていたヴァーリは…白銀と漆黒の入り混じった絶大の砲撃をアジ・ダハーカへと撃ち込み、勝利を掴み取ったのだった。

 

最期にいずれまた会おうと言い残し、アジ・ダハーカは消え去る。

 

こうしてヨーロッパ方面での戦いは、量産型邪龍と偽赤龍帝の鎧を掃討する戦闘に移行する。

だが、それも日本方面でのギャスパーとヴァレリーの活躍もあって増殖が止まっていた。

しかし、それでも『666』が活動を再開するまでの話。

『666』の活動が再開した時、どうすべきか…?

 

………

……

 

一方の日本方面。

 

幸いにして無人島の多い日本近海に現れた『666』に対し、連合は量産型邪龍と偽赤龍帝の鎧を相手にしていた。

通常の量産型邪龍はともかく、グレンデル型やラードゥン型、偽赤龍帝の鎧はやはりそれなりの強者でないと相手が難しく、主にD×Dに連なる者が相手をしていた。

 

「………………」

 

海面をフィギュアスケートのように滑りながらシンシアが流れるような動きで量産型邪龍を一撃で屠っていく。

それも大掛かりな技ではなく、小さくとも鋭い一撃で的確に急所を突いて絶命させているのだ。

 

「クレッセイション」

 

そんなシンシアを援護するように甲殻刀の一振りで特大の魔力斬撃を放ち、空中の偽赤龍帝の鎧を屠るのは領明だ。

 

「行って、フライヤー!」

 

さらには智鶴がスコルピアの兵装の一つ、フライヤーで量産型邪龍と偽赤龍帝の鎧を牽制する。

 

エクセンシェダーデバイスの所持者3名による連携でそれなりの数を倒していく。

 

 

 

他にも…

 

「「「~♪」」」

 

歌を歌いながら量産型邪龍と偽赤龍帝の鎧を倒す装者3名の姿もあった。

 

「防人として、この国難は見過ごせない!」

 

「張り切ってんな、先輩!」

 

「イッセーさんみたいな鎧でも中が空洞なら…!」

 

響は偽赤龍帝の鎧を殴り飛ばし、翼は量産型邪龍を斬り伏せ、クリスは両名の援護射撃を担っていた。

 

 

 

また、この戦線を単騎で走る者もいる。

 

「ブリザード・ロード!!」

 

ネクサス、アクエリアスを身に纏い、アステリアに跨った忍が海面を凍らせて道を作るとそこを疾走する。

 

「ヴァリアブル・バスター!!」

 

アステリアに走行を任せ、忍自身は氷結能力とダブル・フューラーによる跳弾砲撃を敢行し、様々な角度から多勢を援護、または量産型邪龍を屠っていく。

 

 

 

しかし、それらの掃討戦も聖杯が敵の手にある限り、無限に続くためにジリ貧と言えた。

 

だが、日本方面にも数多の助っ人がやってきた。

かつての敵だった者達やライバル達だ。

 

そうして『666』の動きを封じることに成功し、各戦線の『666』もまた活動を停止させる。

 

 

 

そして、ギャスパーとヴァレリーが聖杯の制御に成功し、量産型邪龍と偽赤龍帝の鎧が打ち止めとなった中…

 

イッセーは単身、無人島に降り立ったアポプスへと向かい、戦いを繰り広げていた。

しかし、真紅の鎧までしか使わないイッセーが劣勢になっている時、病院で母親から預かっていたお守りの中身が、イッセーに覚悟を決めさせた。

最後の龍神化でもってイッセーはアポプスと張り合い、勝利をもぎ取っていた。

 

しかし、事態は少しだけ別の変化を起こす。

『666』からコアのようなモノが吐き出され、イッセーの元へと飛来したのだ。

さらにはサーゼクスもイッセーの元へとやってきて、コアを2人で相手することになる。

 

龍神化したイッセーと、真の姿…滅びの魔力が人型を成したモノ…を見せるサーゼクス。

真紅と深紅の義兄弟の共闘だ。

 

だが、その2人をもってしても『666』のコアを圧倒できないでいた。

何故ならば、コアは肉片の一つでも残っていると、凄まじい再生能力で復活を果たしてしまうからだ。

しかし、そんな中、神器内のドライグからイッセーにある技がイメージとして送られる。

 

燚焱(いつえき)炎火(えんか)』。

赤龍帝ア・ドライグ・ゴッホの絶技だ。

全てのものを燃やし尽くす究極の炎。一度、喰らえば消すことは不可能らしい(唯一効かなかったのが、アルビオンであり、グレートレッドや現役時代のオーフィスにも効かないだろうとのことらしいが…)。

但し、我慢強い奴や再生能力がずば抜けて高い相手は炎に包まれながらも向かってくるようだ。

そして、目の前のコアは後者であり、燃えながらも向かってきていた。

 

しかしながらイッセーもタイムリミットが迫っていた。

いや、既にイッセーは力尽きようと、倒れてしまっていた。

それを見てサーゼクスはコアに特殊な束縛術を放って拘束し、同時に小型魔法陣を展開して自らの眷属を集めた。

しかし、サーゼクスは女王であり妻であるグレイフィアに対し、息子のミリキャスには母親が必要だと言い残し、アザゼルから教えてもらった催眠術式を使い、深い眠りにつかせていた。

そのグレイフィアは倒れたイッセーの隣に寝かせられ、サーゼクスはイッセーに事の次第を伝えた。

 

それは、『666』の本体とコアを『隔離結界領域』という特殊なフィールドに閉じ込め、その中で各勢力のトップ陣…サーゼクスを始めとしたセラフォルー・レヴィアタン、ファルビウム・アスモデウス、ミカエル、アザゼル、ゼウス、オーディンといった神・魔王クラスとその眷属などが共に入り込み、いつ終わるともわからない戦いに身を投じるというものだった。

 

イッセーはそれを聞き、何も言葉が紡げなかった。

言いたいことは多かったのに、身体がそれを許さなかったのだ。

 

そうして各戦線でその作戦が実行され、隔離結界領域に活動の兆しの見えた『666』と、各勢力のトップ陣が向かった。

 

 

 

後に『邪龍戦役』と呼ばれる一連の騒動は、こうして幕を閉じたのだった。



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第百二十一話『獅子座を纏いし海王。そして…』

邪龍戦役の最終盤。

イッセーやヴァーリ達が日本近海やヨーロッパで激戦を繰り広げていたのと時を同じくしてブルートピアに赴いていた海斗達にも動きがあった。

 

ネオアトランティス王国の首都『ネオアトランダム』。

夜の大通りを堂々と歩く海斗一行。

向かう先は王城。

 

「まさか、堂々と乗り込もうなんてね」

 

「………………」

 

奈緒の呆れたような言葉に海斗は答えず、王城へと続く大通りを進んでいく。

 

 

 

そして、王城を囲む城壁の門へと辿り着くと…

 

「止まれ! こんな時間に何者だ!?」

 

当然ながら門番が海斗達の行方を阻む。

 

「私達の顔を忘れましたか?」

 

そう言って唯と奈緒が前に出ると…

 

「こ、これは騎士団長様。しかし、こんな夜分遅くに…」

 

門番が少したじろぎながら疑問符を浮かべる。

 

「王の帰還です。道を開けなさい」

 

「……は?」

 

唯の言葉が理解できずにいると、海斗が前に出てきて…

 

「我が名はカイト。カイト・アトランタ・アクエリアスだ」

 

右腕に宿る蒼き龍の痣…その頭部を門番に見せつける。

 

「そ、その痣とお名前は!?」

 

門番の驚いたような反応を見つつ、海斗は王城へと歩を進める。

 

「か、開門! 急いで開聞しろ!!」

 

門番の大声で王城へと続く道が開かれる。

 

「行こう」

 

「はい」

 

海斗の言葉に応えながら唯が続く。

 

「随分と強引ですね…」

 

「いいんでしょうか?」

 

薫とアリアが海斗の強引な進み方に疑問を抱いていると…

 

「ま、このぐらい強引な方が今はいいかもね」

 

奈緒がそんなことを言いながら海斗を追い掛け、薫とアリアもその後を追う。

 

 

 

突然の海斗の来訪。

城は大いに混乱した。

そして、それは国王代理の耳にも届く。

 

「カイトが戻ってきた、だと!?」

 

「はっ。既に城内に入り、謁見の間へと向かわれているとのこと」

 

「ちっ…今になって戻ってくるとは…!」

 

ダンッ!!

 

机を叩き、忌々しそうに海斗の名を呼び捨てる。

 

「如何なさいますか?」

 

「行かぬわけにもいくまい! 行くぞ、グラッセ!」

 

「御意」

 

執事服を身に纏った老執事であり使い魔でもある『グラッセ』を引き連れ、国王代理『カイル・アトランタ・アクエリアス』が謁見の間へと向かう。

 

 

 

謁見の間。

夜遅くということもあり、謁見の間に臣下はおらず、海斗一行とカイル、グラッセしかいなかった。

立ち位置としては玉座にカイルが座り、その傍らにグラッセが控え、対する海斗はカイルに対峙するように謁見の間の中間辺りに立ち、その傍らには唯と奈緒、薫、アリアが控えている。

 

「久しいな、カイト」

 

「お久し振りです、カイル叔父さん」

 

甥と叔父…肉親であるものの、2人を取り巻く空気は…まるで敵同士のものだった。

とても再会を喜び合うような関係ではない。

 

「今更、どの面下げて戻ってきたんだ? 王座を取り戻しに来たのか?」

 

「………………」

 

「だんまりか?」

 

カイルが海斗に声を掛けるが、海斗は静かに周りを見て思う。

 

「叔父さん。ここはこんなに煌びやかでしたか?」

 

そして、その思いを疑問としてカイルにぶつけた。

 

「お前がいないせいで、俺が国王代理だったんだ。この程度の見栄は必要だろう?」

 

「父は…先王は質実剛健でした。だから無駄なことに注力しない。このように見栄を張らなくても…」

 

「それはお前達親子の価値観だ。俺は違う。俺は国王代理だからな。ある程度の見栄が必要だったんだ!」

 

「だから…謁見の間がこのように煌びやかなのですか?」

 

「そうだ! お前のいない間、俺がどれだけ苦労したと思っている!?」

 

そう言いながらもカイルの表情は、海斗に向けた憎悪に満ちていた。

 

「……父が突然、崩御したんです。何かあると警戒するのは当然では?」

 

「それならば、すぐに戻ってくればよかったのだ! お前には痣がある!」

 

「それを口実に俺が操り人形のようになるのを避ける必要もあったはずですが?」

 

「だが、兄貴亡き後、すぐに王子も消えたのだ。今更、民がお前を王と認めると思うのか!?」

 

「難しいでしょうね」

 

「ならば、王位を俺に譲れ! そうすれば、今までのように俺が統治して…」

 

「それで、民が安心するのであれば、そうしましょう。ですが…」

 

海斗はカイルに鋭い視線を向け…

 

「父を…先王を暗殺した者が明らかになるまで、俺は王位継承権を破棄することはあり得ません。何より…それでは、父に顔向けできないし、民を守る義務を放棄するつもりもない!」

 

そう言い放っていた。

 

「今更、民を守るだと!? どの口が言うのだ! 今まで、ネオアトランティス王国の民を守ってきたのは俺だぞ!?」

 

「確かに…今まで国を空けていた俺が言っても無駄でしょう。ですが…これからは違う。俺はこうして戻ってきた。先王…『カイバ・アトランタ・アクエリアス』の息子として、務めを果たすために」

 

「ッ…!!」

 

カイルは海斗の今の立ち振る舞いに先王の姿を重ねていた。

それを感じ、カイルは激しい憎悪の感情を抱く。

 

「どこまで邪魔な親子なんだ…!」

 

そして、小さく怨嗟の声を漏らす。

 

「兄貴の忘れ形見め。兄貴と似たようなことを言いやがって…!!」

 

そして、その憎悪が激しくなるにつれ、カイルの言動が狂い始める。

 

「そうだ。兄貴と同じように、お前も消えれば、痣は俺を選ぶはず…そうすれば、俺が真の国王として君臨できる…!!」

 

国王ではなく、国王代理としてネオアトランティス王国を纏めてきたが、やはり求心力は先王には劣り、権力や財に目が向きがちな性質だった。

そうして肥大化した欲望は、狂気へと変じていく。

 

その狂気に付け入る者も当然いた。

 

『もし、あなたにとっての障害が現れたのなら、これをお使いください。きっと、お役に立ちますよ?』

 

その者の言葉をカイルは思い出し、いつも持ち歩いていた小瓶を取り出す。

 

「そうだ…邪魔な奴等は全員…消えてしまえばいい…。兄貴も殺せたんだ…その息子だって…!!」

 

取り出した小瓶の中身…黒い液体をその場で飲み下すカイル。

 

「カイル様!?」

 

「叔父さん? 何を!?」

 

突然のカイルの行動に傍に控えていたグラッセも驚き、海斗も何事かと声を上げる。

 

「ゲハハハハハ!! カイトぉぉ!! お前も兄貴の後を追わせてやるぅぅぅ!!!」

 

狂喜に満ちた高笑いを出した後、カイルの身体に異変が起きる。

ボコボコと音を立ててカイルの肉体のあちこちが膨張していき、肌も黒く染まっていき、異形の化け物へと変貌させていく。

 

「カイル、様…!?」

 

主の変貌にグラッセも面食らっていた。

 

「叔父さんが…化け物になった!?」

 

「カイト様! お下がりください!」

 

その状況に唯と薫が海斗よりも前に出て迎撃態勢に移る。

奈緒はアリアの近くにいて、そちらの護衛をするようだった。

 

『力ガ…力ガ漲ルゥゥゥ!!!』

 

変貌したカイルが吠えると、黒い靄のような波動が謁見の間に広がる。

 

「ライブラ!」

 

『あぁ、我が愛しくも美しいマスター』

 

「こんなことになるなんて…!」

 

薫がライブラを身に纏い、唯も帯剣してた細身のレイピア状の剣を抜く。

 

「なんて…憎悪に満ちた波動でしょう…」

 

アリアが苦しそうな表情を浮かべる。

 

「大丈夫?」

 

そんなアリアを奈緒が支える。

 

「叔父さん…!」

 

そんな叔父の姿を見て、海斗も腹を括ることにした。

 

「アクア・ブレット!!」

 

海斗はすぐさま水球を展開し、牽制するようにカイルに向けて放つ。

 

『無駄ダァァァ!!!』

 

しかし、カイルは肥大化した拳でもって海斗の水球弾幕を軽々と打ち落としていく。

 

「ハッ!!」

 

アリアを連れて退避する奈緒が棒手裏剣のようなものを投擲していた。

 

キンッ!!

 

だが、それも硬化したらしいカイルには傷一つついていなかった。

 

「くっそ!」

 

「あの…これを…」

 

奈緒が悪態を吐いていると、アリアがどこから取り出したのかわからないダガーを渡してくる。

 

「アンタ…いつの間にこんなものを…?」

 

「これには光属性が付与されています。もしかしたら…」

 

「……ま、物は試しか」

 

奈緒がアリアの持つダガーに驚いていると、アリアがそのように説明してきた。

なので、奈緒も一旦アリアの事情を脇に置いておいて、ダガーを試すことにした。

 

「己の罪に縛られなさい!!」

 

『ジャッジメント、並びにスキルキャンセラーシステム起動』

 

薫がライブラの固有魔法『ジャッジメント』を起動させ、それによってカイルを拘束し、異能を封じようとする。

 

「ハッ!!」

 

その隙を突いて奈緒が光属性を付与したというダガーをカイルに投擲する。

 

グサッ!!

 

『グオオオオオ!!?』

 

それは見事にカイルの胸に突き刺さり、苦しみ出した。

 

「効いたの!?」

 

「………っ」

 

奈緒が驚いていると、アリアも意を決したように祈るポーズをして…

 

「主よ。我が行いをお許しください…」

 

バサリ…

 

アリアの背から純白の翼が広がる。

 

「転生天使!?」

 

海斗がアリアの正体を推理するが…

 

「皆さん、これらをお使いください」

 

アリアは気にした様子もなく、翼から羽が抜け落ち、それが光属性を纏った剣やダガーといった武具へと変化していく。

 

「神器!?」

 

「今はとにかく、あの方を…」

 

「姉さん!」

 

薫も驚く中、奈緒が剣を持って唯へと投げる。

 

「これでなら…!」

 

身動きが十分に取れないカイルに唯、奈緒、薫が攻勢を仕掛ける。

 

『調子ニ乗ルナァァァ!!!』

 

だが、カイルの咆哮と共に黒い靄の波動が広がって近くにいた唯と薫を吹き飛ばす。

 

「きゃっ!?」

 

「くっ!?」

 

2人は謁見の間の左右の壁に激突する。

 

「姉さん!?」

 

「薫さん!?」

 

奈緒とアリアが声を上げると…

 

バキンッ!!

 

ジャッジメントを力づくで引きちぎったカイルが視線を奈緒とアリアに向ける。

 

「させるか!」

 

己の力を封じていた枷を外し、海斗がカイルの前に立ち塞がる。

 

『カイトォォォォ!!!!』

 

カイルが両拳を海斗に向けて振るう。

 

「ぐっ…!!?」

 

その両拳を海斗は真っ向から受け止めるが、体格差と異常な力によって両足を中心に床を陥没させていた。

海斗にも吸血鬼としての血が流れているから、多少は拮抗したものの、力を使うことに慣れていないというのもあってすぐに押し戻されていたのだ。

 

『潰レロォォォ!!!』

 

そのままカイルは海斗を圧し潰そうとするが…

 

「俺は、今度こそ守ると誓ったんだ…」

 

海斗はその重圧を踏ん張って耐え…

 

「だから、こんなところで負けてたまるかぁぁぁぁ!!!」

 

そして、復讐のためじゃなく、今度こそ約束や民を守ると誓い、戦うことを選択した。

 

その時…

 

『ガオオオオオオ!!!』

 

まるで獅子の咆哮のような雄叫びが響いてきた。

 

「なに!?」

 

突然の雄叫びに誰もが驚く。

 

『この雄叫びは…まさか!?』

 

さらにライブラがその咆哮を察していると…

 

ドガァァァンッ!!!

 

謁見の間の入り口を破壊し、白銀の影が姿を現す。

 

『汝に王の資質を見出したり』

 

そこにいたのは、白銀の獅子だった。

 

『貴様は…レオ!?』

 

『ライブラか。久しいな』

 

白銀の獅子…ライブラの言が正しいなら、『レオ』はライブラを身に纏う薫を一瞥してから海斗に視線を向け…

 

『邪魔だ、下郎』

 

そう言ってレオが一咆哮すると…

 

『グオオオオオ!!?』

 

カイルの体表が、まるで爆発でもしたかのように炸裂し、カイルの身体を吹き飛ばしていた。

 

『相変わらずの凄まじさだ』

 

ライブラがそんなことを言う中、レオは海斗の元まで歩いていくと…

 

『汝、名は?』

 

「…カイト。水神 海斗。もしくはカイト・アトランタ・アクエリアス…」

 

『ほぉ、この世界の王族か』

 

それを聞き、レオはしばし海斗を注視する。

 

『先王が存命ならば、我が選定者に選んだものだが…良い眼をしている』

 

実はこの世界でレオが見つかったのは先王カイバが崩御してからだ。

カイルが発見したレオは、宝物庫に安置されていたが、ずっと己の選定者を見つけるべく世界を観察していた。

 

『未来の王よ。我が力を欲するか?』

 

「……力は力でしかない。使う人間次第で変わると、俺は考えている。そんな俺に、あなたを使う資格があるのか?」

 

『ふむ。ならば、質問を変えよう。汝、己の誓いを果たす覚悟はあるか?』

 

「二度と誓いを違いたくない。そう考えているが…俺は未熟過ぎる…また過ちを犯したら…」

 

『………………』

 

海斗のネガティブな答えを聞き…

 

『随分と甘いが、将来性を考えれば素養は十分か。いいだろう』

 

レオも決断した。

 

『カイト・アトランタ・アクエリアス。汝を今より、我が選定者として認めよう』

 

「なに…?」

 

『だが、努々忘れるなかれ。我が力に溺れれば、我は汝を即座に切り捨てる』

 

「………………」

 

『返答は如何に?』

 

「あぁ…わかった。あなたの名は?」

 

『我が名は「マジェスティ・レオ」。獅子座を冠するエクセンシェダーデバイス也!』

 

バキンッ!!

 

レオの身体がバラバラとなり、それが海斗の身体に鎧状となって装着されていく。

 

『カイトォォォォ!!!!』

 

それと同時にカイルも起き上がり、海斗に怨嗟の眼差しを向ける。

 

『一度に全ての武装を使う必要はない。今はこれだけを使うがいい』

 

そう言ってレオが目元を覆うバイザーに二つの武装情報を提示する。

 

「マジェスティキャリバー、マジェスティブラスター」

 

武装名を呟き、その情報を即座に目を通した海斗は…右手のバスタードソード型の長剣『マジェスティキャリバー』を強く握る。

 

「ロイヤルブルー・スラッシュ!!」

 

マジェスティキャリバーを横一閃に振るい、蒼く澄んだ斬撃をカイルに向けて放つ。

 

『グウゥゥゥゥ!!?』

 

カイルが防御の姿勢を取って耐えるが…

 

「マジェスティブラスター、ブレイカーモード!」

 

そこに海斗は加速して懐近くに入り込むと、左手のライフルの銃口を先に放った斬撃に合わせる。

 

「大海に沈め…オーシャン・ブレイカー!!」

 

ライフルの引き金を引き、瞬時に収束砲撃並みの砲撃を撃ち込み、斬撃の威力も合わせてカイルの身体を横半分に引き裂く。

 

『ガアアァァァァッ!?!?』

 

カイルが絶叫を上げ、下半身が仰向けになるように力なく倒れ、上半身もうつ伏せになるようにその場に落ちる。

 

『俺、コソガ…王ニ…!!』

 

それでも執念と呼ぶべきか、カイルは海斗に近寄ろうとして…

 

「さよなら、叔父さん…」

 

それを見た海斗は、それだけポツリと漏らすと…

 

グサッ!!!

 

マジェスティキャリバーを逆手に持ち直して、その切っ先をカイルの頭部へと突き刺していた。

 

『ガ…ガガ………ガ…ガ……』

 

それを最期にカイルは黒い灰のようになって消滅していった。

 

「カイル様…」

 

それをずっと見ていたグラッセは疲れ果てたようにその場に跪いていた。

 

 

 

こうして邪龍戦役の最終盤と時を同じくした海の世界の、ちょっとした戦いは終わりを告げた。

 

後日、グラッセから事情を聞いた海斗による演説があり、ネオアトランティス王国に新たな王が誕生することになる。

 

 

 

そして…

 

「ふふふ…遂に、全てが揃いましたか…」

 

変異フロンティアにてノヴァがおかしそうに笑っていた。

 

「12の星座が揃い、それぞれの選定者を得た。素晴らしいことです」

 

未だ完成を見ぬ『13番目の白銀の鎧』を前にノヴァは言う。

 

「さぁ、ここに"最後のエクセンシェダーデバイス"を完成させましょう。そのためには…」

 

にたり、と笑みを浮かべるノヴァの視線の先には、"とある世界で平凡に過ごす少女"が映っていた。



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第百二十二話『それぞれが進むべき道は…』

『邪龍戦役』が終局し、それぞれの勢力は事後処理をしていた。

 

特に人間界で起きた『666』との戦闘は一部メディアで取り扱われたりもしたが、それぞれの神話勢力下で色々と手を回したり、神の御業によって自然を回復させるなど超常的な力をもってして一般人の記憶からも『何か大変なことが起こってた』という認識程度に落とし込むのが精一杯だった。

というもの以前、絶魔勢の各次元世界に敢行したフィライトでの戦争映像の効果もあって、完全には払拭出来ていないのだ。

 

なので、人間界…地球では一般人でも一部ネット界隈では別次元世界は実在するなどという話題で沸騰していたりもする。

もちろん、一部で沸騰してるだけで一般人全体で見れば、極僅かなものではあるものの、そういった話題が出てきているのも事実であった。

また、次元世界の存在を認知している異形界隈もまた隠蔽するのに一苦労している。

 

此度の戦いで、失った者も多いが、ちゃんと希望が育っていたことも判明した。

 

明星の白龍皇『ヴァーリ・ルシファー』。

燚誠の赤龍帝『兵藤 一誠』。

次元辺境伯にして覇王『紅神 忍』。

紅の冥王『神宮寺 紅牙』。

次期海王『海斗・アトランタ・アクエリアス』。

 

次世代の若者達の中でも特に注目を集める5人の名が挙がる。

 

イッセーとヴァーリはそれぞれ邪龍最強格のアポプスとアジ・ダハーカを単騎で撃破し、冥界では新たなる超越者候補として認識されている。

さらにイッセーには上級悪魔への昇格の話もあった。

悪魔に転生してからたった1年足らずで上級悪魔へと昇格するのは異例中の異例なことだ。

 

先の戦いでは上記の2人のサポートに徹していた忍と紅牙の注目もそれなりに高い。

それぞれ眷属の駒を持ち、先の戦いでは量産型邪龍と偽赤龍帝の鎧の討伐に多大なる貢献をしていた。

 

そして、海斗。

邪龍戦役とは直接関わりはないものの、忍を通じて地球の各神話勢力に対して、隣接する次元世界『ブルートピア』の『ネオアトランティス王国』代表として正式な和平を結ぶために動き出す。

忍が間を持った結果、次元世界『フィライト』に続く第二の認識次元世界として各勢力との和平同盟に加入することになる。

 

 

 

そうして事後処理は続いていき、邪龍戦役が終結してから実に数日が経った頃のこと。

 

「これで確認できる範囲でエクセンシェダーデバイスは全て出揃ったことになるな」

 

明幸家の居間で忍がこの場に集まった紅牙と海斗に向けてそう言っていた。

 

「そうなるな」

 

紅牙が静かに頷く。

 

「俺の陣営にはアクエリアス、スコルピア、キャンサー、ピスケス」

 

忍の陣営に4機。

 

「俺のところにはサジタリアスとヴァルゴがいるな」

 

紅牙の陣営の2機。

 

「俺のレオと、薫さんのライブラ」

 

海斗の陣営に2機。

 

「そして、明確に敵に属しているのがカプリコーンとタウラス。特に勢力には属していないはずのアリエスとジェミニ」

 

敵勢力に2機、所属不明が2機といった具合だ。

 

「う~ん…俺はいまいちピンときてないけど…揃ったからと言って、どうにかなるのか?」

 

そこに海斗が首を傾げながら質問する。

 

「それは俺も思った。揃ったから、どうだと言うんだ?」

 

それに紅牙も同調し、忍を見る。

視線を向けられた忍の答えは…

 

「いや、俺も知らん」

 

言い出しておいて、わかっていなかったらしい。

 

「「おい」」

 

紅牙と海斗が揃ってツッコミを入れるが…

 

「時空管理局でロストロギア指定の代物ってのは前にフェイトから聞いたが、それらが集まったからと言って何かが起きる訳でもないだろ?」

 

忍はあっけらかんと答える。

 

「当事者として、その辺どうなんだ?」

 

そして、チェーンブレスレットを取り出してアクエリアスに尋ねる。

 

『そうですね。私達としてもこうして再び集まることが叶うとは思いませんでしたので…』

 

『そだね~。僕ら自身も再集結するなんて思ってもみなかったし』

 

『うむ。こうして再び同胞に会えるのは実に久しい』

 

このようにエクセンシェダーデバイス達自身も口を揃えて集まることはないと思っていたらしい。

 

「まぁ、半分以上が味方陣営にいるのはいいとして…残りの4機だな」

 

紅牙が残りの4機について言及する。

 

「カプリコーンは確実に敵対する。ノヴァの野郎が持ってる以上、今のところは完全な敵だ」

 

「絶魔勢とかいうのの首魁か…」

 

「あぁ…そして、ロンドの奴が所属してる陣営だ」

 

「………………」

 

それを聞いて海斗の表情が一瞬だけ怒りに染まるが、すぐに深呼吸して平静を取り戻す。

 

「確か、タウラスの選定者も敵だったな?」

 

「あぁ。次元間で活動する密猟者らしい。昔、萌莉が世話になったらしくてな…どっちも俺の敵には違いない」

 

紅牙の問いに忍は苛立ちを隠そうともせずに答える。

 

「なら、所属不明のジェミニやアリエスは?」

 

場の空気を変えるために海斗が質問すると、忍が微妙な表情をする。

 

「アリエスに関しては近くにいるのだろう?」

 

「まぁ、一応は…」

 

続いた紅牙の問いにも微妙な顔のまま答える。

 

「雅紀さんとは、アレからまともに話せてないんだよな。あの人も3年生で、大学部に確か進学のはずなんだけど…」

 

正月の集会のことを言っているのだろう。

忍も何度か暇を見つけて接触しようとしたのだが、ことごとく無視されている。

 

「根が深そうだな」

 

「まぁ、これも俺が解決しないといけないことなんだよな…」

 

敵対しているにしても、所属不明の機種にしても、なんだか忍の負担が大きいようにも感じる。

 

「じゃあ、ジェミニは?」

 

残るジェミニの所在を聞くが…

 

「そいつは…俺も知らないんだよな」

 

忍は首を横に振った。

しかし…

 

「俺は先日遭遇した」

 

意外なことに紅牙は遭遇したらしい。

 

「会ったのか?」

 

忍が尋ねると…

 

「あぁ。邪龍戦役の最終盤戦…俺はヨーロッパに向かっただろう? そこで、少しばかりな」

 

「どんな感じだった?」

 

「ふむ、なんと言ったらいいものか…」

 

「?」

 

以前、冥界で遭遇した時のことを知らない海斗は首を傾げていたが…

 

「奴は…」

 

紅牙はあるがままを伝えることにした。

 

………

……

 

それは、邪龍戦役の最終盤戦の時。

ヴァーリがアジ・ダハーカと死闘を繰り広げていた頃のことだ。

 

「また随分と派手にやっているらしいな」

 

氷と刃の世界から離れ、量産型邪龍と偽赤龍帝の鎧の鎧に向かい、紅牙は砲撃の雨を降らしていた。

 

そんな風に移動しながら戦っていると…

 

『ん? マスター、ヴァルゴ以外のコアドライブパターンを感知したよ?』

 

「なに?」

 

この時、紅牙もエクセンシェダーデバイスを保持する者がすぐには思い浮かんでなかった。

敵だったら厄介と考え、サジタリアスが示した地点へと急行した。

 

そこで、紅牙が見たのは…

 

「サニィブラスター!」

 

双子座を象った白銀の鎧を身に纏った1人の男だった。

 

「現世の神!?」

 

天使と悪魔のハーフにして神クラスの力を持つとされ、双子座のエクセンシェダーデバイス『サンシャイン・ジェミニ』の保有者…『現世の神』の異名を持つ男『グレイス・ゼムナシオ』がグレンデル型の量産型邪龍を太陽の如き砲撃で打ち倒していた。

 

「? お前は…」

 

だが、以前冥界で遭遇した時よりも、どこか冷静というか落ち着いた雰囲気を纏っていた。

 

「(どっちだ?)」

 

天使の人格なのか、悪魔の人格なのか…?

紅牙は警戒しながらもグレイスの様子を窺った。

 

「サニィボム」

 

すると、グレイスはサニィスフィアを1個、紅牙の背後に向けて放ち、爆発させていた。

 

「!?」

 

紅牙が慌てて振り返ると、そこには量産型邪龍の屍が転がっていた。

 

「油断が過ぎる」

 

そう言ってグレイスは、その場から立ち去って次の戦場へと向かってしまった。

 

「………………」

 

呆気にとられた紅牙もすぐに別の戦場へと駆け付けることになった。

なので、それ以降…グレイスがどうなったのかはわからない。

ただ、あの戦いで死んだというのはあり得ないだろう。

 

………

……

 

「そんなことがあったのか…」

 

「あぁ…」

 

グレイスが暴れていた当時を知る忍と紅牙からしたら、その落ち着きようが気になって仕方なかった。

 

「話を聞いてる限りだと…少なくとも敵ではない?」

 

「楽観視は出来ないがな」

 

海斗がそう言うと、紅牙が否定気味に呟く。

 

「今の天界と冥界の体制を考えると…どう扱っていいのか、まだ手探りなのかもしれないな」

 

「奇跡の子、か…」

 

海斗はアリアの姿を思い出す。

ネオアトランティスでの一件の後、アリア自身が自ら告白してきた事実だ。

それと彼女自身に宿る血と神器についても…。

 

「悪魔との混血はそれなりに多いらしいが、天使との混血は正に奇跡に等しいレベルで少ないみたいだからな」

 

「それに…あれだけの力を持っているんだ。戦役時に出し渋る余裕もなかったんだろう」

 

「それでヨーロッパ方面に駆り出されたのか?」

 

「推測の域を出ないけどな」

 

そんな感じで他愛のない話をしていると…

 

「世界は…これから、どう動いていくのかね?」

 

「さぁな…」

 

「………………」

 

忍が漏らした一言に紅牙も海斗も明確な答えを返さなかった。

いや、返せなかった、というのが正しいか…。

 

しばらく沈黙した時が居間に流れた後…

 

「今日はありがとな。わざわざ来てくれて」

 

「気にするな。改めて確かめておきたかったからな」

 

「俺も今日は一応オフだったからね」

 

紅牙と海斗が帰宅するらしく、忍が見送りに玄関まで来ていた。

 

「じゃあな」

 

「あぁ」

 

「またね」

 

こうして3人は別れる。

しかし、それぞれの行く道はもう決まっていた。

 

忍は絶魔勢の野望を阻止するため、更なる高みを目指すために…。

 

紅牙は冥族の未来を確かなものとし、自らの贖罪のために…。

 

海斗はブルートピアの更なる発展のため、平和な世界を築くために…。

 

世界に希望を紡ぐため、若者達の道は続く。

 

 

 

そして、物語は新たな舞台へと移行していく。

激動する今の時代において、強者達の宴もまた…始まろうとしていた。



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18.卒業式のランクアップ
第百二十三話『一時の平和』


邪龍戦役が終局し、2月も下旬になった頃のこと。

『666』との戦いに旅立ったトップ陣を失った各勢力は代替わりとなり、新体制が敷かれつつあった。

 

その中で、各勢力の首脳陣から重大な発表がなされた。

 

『レーティングゲーム国際大会』。

和平協定に加盟している全勢力を巻き込んだレーティングゲームの大会が開催されるのである。

 

その発表に各勢力は大騒ぎだ。

だが、この時期にやるからこそ意味もある。

『666』との戦いに隔離結界領域へと向かった魔王や主神クラスといった者達の穴を埋めるべく、各勢力は後進を育成する時間が圧倒的に足りない。

次世代の者達による新体制も確立しつつあるが、それでも弱体化しているのには変わりない。

そこでどこかしらの勢力が他の勢力を攻め込んでみたら…その勢力が取り込まれる、もしくは壊滅的な被害を被る可能性だってある。

その可能性を極力避けるため、和平を進める過程で溜まっていたガス抜きを『レーティングゲーム』という名の代理戦争を行うことで発散させるのも目的の1つであった。

 

だからこそ、この国際大会の開催が決定されたのだ。

 

 

 

まぁ、それはさておき、そんな2月の暮れから3月初頭には高校生にとって年度最後の壁…そう、期末テストがあった。

それは駒王学園も例外ではなく、D×Dに参加していたり、色々と抱え込んでいた学生組もテストを受けていた。

そして、期末テストを終えた学生達は部活に勤しんだり、テスト明けの解放感もあって遊びに行ったりとしている中…

 

D×Dに所属する…というよりも異種族関係の者達はというと…

 

「いよいよ俺達も進級か」

 

旧校舎のオカルト研究部の部室にある程度の人数が集まっていた。

 

「色々あったからな」

 

イッセーの呟きに忍が肩を竦めながら答えると、この場にいる海斗に視線を向ける。

 

「海斗は国の方はいいのか?」

 

「今は宰相に任せてある。王位を継ぐなら、最低限学園は卒業しておこうかなってね」

 

「となると、まだ1年はこっちにいるのか?」

 

「まぁ、基本的にはね。他にも色々とやることがあるけど…」

 

そんな風に話し合っていると…

 

「そっちも気になるけど、イッセー君はこっちにも注意してね」

 

「あぁ、悪い」

 

木場に注意され、イッセーも部活内の話に戻る。

 

「来月からの新入生もそうだけど、他にもこちら関係でルフェイさん、九重さん、トスカ、ベンニーアさん…」

 

「俺の方からも領明やオルタ、シンシアなんかも正式にここに通うことになったな」

 

「こちらからも唯と奈緒が留学生扱いで来る予定だよ」

 

木場の説明に加え、忍と海斗からもそんなことが伝わる。

 

「随分と賑やかになりそうだな」

 

それを聞いてイッセー達も苦笑していた。

 

そうした明るい話題から、少し暗い話題も挙がったが、皆概ねいつも通りと言えた。

そして、話題は…

 

「そういえば、イッセー君も上級悪魔に昇格するんだって? 俺んとこに儀式の招待状が来たぜ?」

 

「俺の方にも早速招待状が届いたよ」

 

「マジか~。もう外堀は完全に埋められてるな…」

 

忍と海斗の言葉にイッセーがそんなことを言う。

 

「? 嬉しくないのか?」

 

「嬉しいのは嬉しいし、光栄なんだけどな」

 

どこか歯切れの悪いイッセーにイリナが声を掛ける。

 

「なんだか、複雑そうよね?」

 

「まぁ…そう見られてるのなら、そうなんだろうな…」

 

この1年で起きた数々の出来事。

頭では理解していても、心の奥底ではまだ咀嚼しきれていない。

イッセーは、そんなことを吐露していた。

そんなイッセーをアーシアが言葉で癒していた。

 

そんな時だ。

 

コンコン。

 

部室のドアを叩く音がして、全員が訝しげにそちらを向く。

 

「失礼します。ここに会長が…って、やっぱりいた」

 

一年生らしき男子生徒が書類を持って入ってくると、ゼノヴィアを見つけて溜息を吐く。

 

「黄龍か。どうした?」

 

「どうした? じゃないですよ。例のレポートが纏まったので、確認してください」

 

「あぁ、わざわざすまない」

 

「(黄龍? それにこの匂いは…)」

 

今のやり取りで忍は男子生徒の名前と纏っている空気に敏感に反応していた。

その間にも黄龍と呼ばれた男子生徒は物珍しげにイッセー達を見る。

 

「そういえば、皆との挨拶はまだだったか?」

 

それに気づき、ゼノヴィアが声を掛ける。

 

「えぇ、いつか紹介してくれると言って、そろそろ一月です。会長」

 

「すまんすまん」

 

ゼノヴィアが黄龍に謝りながら隣に立つと、彼を紹介する。

 

「こいつは、うちの生徒会に所属する書記で一年生の…」

 

「百鬼勾陳黄龍です。皆さんのお噂は色々と伺っています」

 

ゼノヴィアの言葉を引き継ぐ感じで、黄龍が挨拶する。

 

「ここでお会いするなんて珍しいですわ」

 

「百鬼くん、こんにちは」

 

「……コーチン、仕事?」

 

「よっ、いつもの三人組。あと、塔城。その呼び方とイントネーションはやめてくれって…名古屋コーチンみたいで嫌なんだよ」

 

一年生組がそんな風に会話していると…

 

「百鬼…五大宗家の筆頭。しかも名前から察するに次期当主か?」

 

忍が単刀直入に尋ねる。

 

「はい。まぁ、現状では、と言いますか。実は4年前に先代の『黄龍』が白龍皇や幾瀬 鳶雄さんとの事件で色々ありまして…」

 

なんとも歯切れが悪そうに黄龍は答える。

その後もゼノヴィアが黄龍はアジュカの元で残る神滅具『蒼き革新の箱庭』と『究極の羯磨』の捜索も手伝っているということを明かした。

その直後…

 

「赤龍帝の兵藤 一誠先輩」

 

姿勢を正してイッセーに一礼する黄龍は…

 

「あ、あぁ。なんだい?」

 

「実は俺…あなたを目標にしているんです。『赤い龍』の神滅具を宿しながらも、その身はごく普通の一般男子高校生だった。けど、あらゆる凶事が降りかかろうとも、全て乗り越えてきた。俺も…あなたのように運命に逆らうだけの力を得たいと思って生きてます」

 

イッセーを真っ直ぐとした眼で見てそのような想いを伝えていた。

 

「お、大袈裟だって。俺は、目の前に毎度訪れる理不尽を、仲間と一緒に振り切ってきただけだからさ」

 

「それが凄いことなんだと思いますよ。兵藤先輩、俺…あなたに山ほど教わりたいことがあります。もし、何かあったら遠慮なく言ってください。俺もあなた方の力になりますので。アジュカさんも、きっと許してくれるはずです」

 

そんな会話を横で聞きながら…

 

「イッセー君は人気者だねぇ~」

 

忍が出されたお茶をすすりながら和やかに言う。

 

「イッセー様が上級悪魔になるということは、それだけ注目が高いということですからね。これからも、様々な方達がイッセー様の元に訪れると思います」

 

忍の呟きにレイヴェルがそのように補足する。

 

すると…

 

コンコン。

 

再び部室のドアからノック音が響き、そこからリアスが現れる。

 

「イッセーはいるかしら?」

 

「え、俺?」

 

「えぇ、あなたにお客さんが来ているの。駒王町の地下まで付き合ってちょうだい」

 

「? 悪ぃ、ちょっと行ってくるわ」

 

リアスの言葉に首を傾げながらもイッセーが皆に一言断ってから席を立つ。

 

「わたくしもご一緒しますわ」

 

赤龍帝のマネージャーとしてレイヴェルも同行するみたいだ。

 

「早速、その来訪者かね?」

 

イッセー達が出て行った後、忍が何気なく呟いた。

 

「上級悪魔…と言っても、イッセー君の人気を考えれば、既に出てきてもおかしくはないかもね」

 

木場も忍の呟きに同意していた。

 

………

……

 

次の休日。

 

イッセー達オカ研メンバーを中心とした団体は、悪魔関係者に関連する無人島へと小旅行に赴いていた。

事の発端は、先日の兵藤家の夕食時、イッセーの父親が釣りに関する話題が持ち上がって熱弁した結果、急遽決まった企画だ。

参加メンバーはお馴染みのイッセー達オカ研メンバーに加え、紅神眷属、神宮寺眷属、海斗達、そしてヴァーリチームの面々だ。

なかなかの大所帯である。

 

「よ~し! 釣るぞ! わからないことがあったら、俺に聞いてくれ!」

 

『おおっ!!』

 

引率も兼ねてるイッセーの父親がそのように言うと、周囲からも声が上がる。

 

「お腹が空いたら言ってちょうだいね。色々と用意してきたから」

 

浜辺の一角でパラソルを開いて陣を敷いたイッセーの母親がそのように言う。

それに付き合うのはリアスや朱乃、智鶴、ユウマなどといった面々だ。

 

そこからは各個様々なグループに分かれて釣りを楽しむことに…。

 

ゼノヴィアとイリナが釣り勝負をするべくアーシアを連れていったり…。

 

後輩組(小猫、ギャスパー、レイヴェル、領明、オルタ)の釣り模様に便乗し、魚を美味しく頂こうと画策する黒歌がいたり…。

 

ウェットスーツを着て海に潜り、銛で魚を取ろうとするロスヴァイセに対抗して、秀一郎が海パン一丁で素潜りして素手で捕まえようとしたり…。

 

美猴がフェンリルに噛まれたり…。

 

木場がトスカに海を見せていたり…。

 

そして…イッセー、ヴァーリ、忍、紅牙、海斗の5人で連れ立っての釣りが始まったりと…。

 

とにかく、平和な時間を過ごす。

 

 

 

そんな中、注目株5人の釣りはと言うと…

 

「おっ、早速一匹目か」

 

ヴァーリが最初に釣り上げていた。

ちなみに場所は陣のちょうど反対側に位置する磯部で、少しだけ間隔を開けて5人並んで釣り糸を垂らしている(右から順番に紅牙、ヴァーリ、イッセー、忍、海斗といった感じだ)。

 

「ぬぅ~…こういうのは性に合わん…」

 

どこかじれったそうに紅牙が竿の先を見つめる。

 

「紅牙。あまり殺気立つな。まぁ、その魚がこちらに来るなら何も問題ないが…」

 

「なんだと!?」

 

ヴァーリの言葉に紅牙が驚いて大声を出す。

 

「……あと、大きい音も厳禁だ。魚が驚いて逃げる」

 

それをヴァーリが注意する、というなんとも珍しい光景だ。

 

「やけに詳しいな?」

 

「アザゼルによく連れてこられたんでね」

 

「そっか。先生も釣りしてたって言ってたっけ」

 

「堕天使の長が釣りか…」

 

「あまり想像できないかも…」

 

イッセーとヴァーリの会話に忍と海斗が想像しようとするも、出来なかったりと…。

 

『………………』

 

しかし、そのアザゼルの話題になった途端、全員が黙りこくる。

 

「もうすぐ、上級悪魔昇格の儀式か」

 

しばらくしてヴァーリがイッセーに話題の水を向ける。

 

「あぁ、明後日だ」

 

イッセーの上級悪魔昇格の儀式は日本時間では平日であり、当日は学園を休むことになっている。

関係者全員のスケジュール的な問題で、その日しか合わなかったらしいのだ。

 

「明後日は紅神眷属を代表して、俺だけが参加するけどな」

 

「俺も似たようなものだ」

 

「俺もかな?」

 

その話題を聞き、忍、紅牙、海斗もそれぞれ答える。

 

「……ぶっちゃけ、あんまし実感がないんだよな」

 

過去に例のないほど注目を集めるイッセーの上級悪魔昇格の儀式。

冥界のメディアだけでなく、各勢力も注目していて招待を受けているところもある。

 

「当然だろう。君は冥界を何度も救った英雄だ。冥界だけじゃなく、各勢力からも注目されてもなんらおかしくはない。なに、儀式なんてすぐに済むさ。そして、こんなものをいただく」

 

ヴァーリは自らの釣り竿を一旦横に置いてイッセーに近寄ると、懐から丸めた羊皮紙を取り出して見せる。

そこには悪魔文字で難しい文章が書かれていたが、ある一文にイッセーの目は留まった。

 

『汝、ヴァーリ・ルシファーを最上級悪魔とする』

 

「ッ!?」

 

「なんだなんだ?」

 

イッセーが何も言わないものだから、他の3人も何事かと釣り竿を置いて見に来る。

それで仲良くヴァーリの最上級悪魔になったことを知ると…

 

「なに!? お前、いつの間に!?」

 

「わ~お…」

 

「今更感すらあるんだが…」

 

「お、おい、マジかよ!?」

 

紅牙、海斗、忍、イッセーの順にヴァーリに声を掛ける。

 

「一度は断ったんだが、これもアザゼルの遺志と聞かされてな。秘密裏にだが、受けさせてもらった」

 

何事もないようなことを言ったヴァーリに対し…

 

「ぷっ、あっはははは!」

 

それを聞いてイッセーは大笑いしていた。

 

「実感がない? 俺もだよ。そんなものだ。特に君の場合はかなり特殊でもある。悪魔となって僅か1年未満での昇格だからね。そして、それは君の身に降りかかった出来事の数や質もそうだ」

 

そこでヴァーリはイッセーの身に降りかかった出来事を列挙していく。

半分くらいは忍も関与していたこともあるので、忍も自らの頬を指で掻いていたが…。

 

「こんな歴史が変わるほどの出来事が1年の間に何度も起こるなんて、例がほぼないだろう。俺達は、そんな時代を生きているんだな。それを生き抜いてきたら、当然格が上がるなんてことも起きるだろう。下級、中級の酸いも甘いも味わい尽くす前に上級へと昇ったんだ。戸惑いが強く、心が追い付かなくても仕方ないことさ」

 

そんなヴァーリの言葉を、イッセーは…

 

「……なんか、アザゼル先生みたいな言い方だったぞ?」

 

笑いながらそう言っていた。

 

「……そうか」

 

ヴァーリがそう返すのを見て、残る3人も微笑ましそうに自分達の釣り竿の元に戻る。

 

そんな感じに再び無言の釣りの時間となったのだが…

 

「「ところで」」

 

不意にイッセーとヴァーリが口を揃えて声を出す。

 

「……言えよ」

 

「出るのだろう?」

 

「レーティングゲームの大会か? どうすっかね…そっちは当然…」

 

「あぁ、出る。君が出ずともね。これは好機だ。既に登録済みの選手の中には神クラスが何柱か確認している。誰にも迷惑をかけずに、それも公式に神に挑めるなど、このチャンスを逃す手はない」

 

そう言いながらもどこか戦闘狂らしい好戦的な笑みを浮かべ…

 

「これで昂らなかったら嘘だろう?」

 

ヴァーリはそう言っていた。

 

「……そっか。そっちの3人は?」

 

話に耳を傾けていた忍達にも話題を振ると…

 

「俺は出る予定だ」

 

紅牙が率先して参加表明していた。

 

「う~ん…実を言うと、俺も出てみたいけど…周りがなかなか首を縦に振ってくれなくてね。それに人材不足の問題もあるし」

 

海斗の方はちょっと参加が難しそうだと言っていた。

 

「俺も出るかな。神クラスと戦えるなら、絶魔の神とやらとぶつかった時の演習にもなるしな」

 

忍はレーティングゲーム大会というよりも、その先で待っているだろう絶魔との戦いを見据えて動いているようだった。

 

「そこで兵藤 一誠。君のチームと戦えたらと思ったら…これ以上ないものになると思っているのだがね。それは既に参加を表明している曹操やサイラオーグ・バアル、デュリオ・ジェズアルド、紅神 忍、紅牙も同じ思いだろう。あの温厚な幾瀬 鳶雄ですら自らが『王』となって参加する予定らしいからね」

 

「………………」

 

それを聞き、イッセーは自らの思いを馳せる。

 

「君は変わった。性欲に正直なところは変わっていないが、それでも君の瞳には女以外にも欲しいモノが出来たと、そう言っているようにも見える」

 

「………………」

 

イッセーが押し黙っていると、ヴァーリが今日一の引きを見せ、大物である魚を見事に釣り上げる。

 

「だが、まぁ…今日の釣りは俺の1人勝ちだな」

 

そう言って片付けを始めるヴァーリは…

 

「それと、俺の所にも君の儀式に関して招待状が来ている。気が向いたら、見に行くよ」

 

「そりゃ、ど~も」

 

頭を掻きながらイッセーがそう言って天を仰ぐ。

 

「(わかってる…俺だって、俺だけのチームで…)」

 

その強い想いはふつふつと、イッセーの中にこみ上げていた。

 

………

……

 

その頃…

 

「やれやれ…些か計画が狂いましたね」

 

邪龍戦役を経て、ノヴァが変異フロンティアの中で困ったように首を振っていた。

 

「ですが、着実に多次元世界への干渉が始まりつつあります。まぁ、それもまだ微々たるものですが…」

 

わざとらしく溜息を吐き、報告にあった案件の書類を手にする。

 

「それにしても、レーティングゲームの国際大会ですか…」

 

そこにはレーティングゲーム国際大会に関する報告がある程度書かれていた。

 

「破壊神シヴァもバックにいるとなると、些か厄介ですね…」

 

しばし、眼を閉じて思考の海へと潜る。

 

「………………」

 

そして…

 

「いいでしょう。茶番…というわけでもないでしょうが、この企画に乗ってあげましょうか」

 

ノヴァの中で考えがまとまったのか、そんなことを言う。

 

「ふふふ…例の計画と同時進行になりますが…まぁ、いいでしょう。そろそろ彼等も堪え切れない頃でしょうしね。たまには宴に参加するのも一興ですかね」

 

そんなことを呟き、自室として使っている部屋から出るノヴァは…

 

「それに…『彼等』の初陣にはもってこいでしょう…」

 

暗く黒い笑みを浮かべていた。



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第百二十四話『イッセー、上級悪魔に昇格す』

イッセーの上級悪魔昇格の儀式、当日。

 

場所は魔王領にある式場。

イッセー達はVIP待遇で会場入りした反面、招待状を貰った面々は別で会場入りしていた。

 

「いやはや…イッセー君もこの1年で随分と存在が大きくなったもんだ」

 

会場の厳重な警備や冥界のメディアを見て忍が嘆息する。

 

「お前も似たようなものだろう」

 

それを聞いて隣にいた紅牙が肩を竦める。

 

「俺としては馴染みのない儀式だね」

 

「こればかりは現状、まだ悪魔特有というしかないからな」

 

そんな海斗の呟きにまたも紅牙が答える。

この中で冥界の事情に一番詳しいのは紅牙なので必然的に答える側になっていたのだ。

ちなみに3人の服装はスーツ姿である。

 

 

 

そして、程なくして儀式が始まる。

入城してきたリアスとイッセーを入城の演奏と来賓の拍手が迎える。

その中にはオカ研メンバーやシトリー眷属、サイラオーグ達、忍、海斗、紅牙、そしてヴァーリといった面々もいた。

 

そうして祭壇に上がるイッセーを魔王アジュカが出迎える。

 

「待っていた。君はこれより、立派な上級悪魔になる」

 

儀式は滞りなく進行していき…

 

「……以上、リアス・グレモリー眷属たる汝、兵藤 一誠を上級悪魔とする」

 

アジュカから承認証が片膝を突いたイッセーに渡される。

 

「謹んでお受け致します」

 

イッセーはそう答え、承認証を受け取り、それを広げたまま来賓の方々へと掲げて見せる。

すると、拍手とフラッシュが次々とイッセーを祝福する。

承認証を係の者に一旦預けた後、主であるリアスから王冠を被せてもらう儀式へと移行し、そこでも拍手喝采となる。

そして、最後に黒光りする大きな碑石が現れ、イッセーを王として登録する儀式が始まり、終わりを告げる。

その後、イッセーは未使用の悪魔の駒一式をアジュカから受け取り、晴れて上級悪魔の王として昇格したのだった。

 

………

……

 

全ての行程を終え、控室へと戻るイッセーとリアス。

その後、会場も解散となったのか、家族や仲間達が続々と集まってきた。

 

そんな中…

 

「兵藤 一誠! ここにいたか!」

 

ライザー・フェニックスが控室にやってきた。

 

「ライザーさん! 来てくれてたんですね!」

 

「ふん! 呼ばれた以上は見に来てやるのが俺としての流儀だ! それに今回は付き添いでもあってな」

 

イッセーの言葉に照れくさそうに告げるライザーは、次に入ってくる人の付き添いらしい。

 

「ごきげんよう、兵藤 一誠さん。上級悪魔になられたようで、改めておめでとうございます」

 

それはフェニックス夫人…つまるところ、ライザーやレイヴェルの母親だ。

 

「こ、これはレイヴェルのお母さん! お久し振りです! それと、ありがとうございます!」

 

「お、お母さま!? 来られていたんですの!?」

 

これにはイッセーもレイヴェルも驚いた様子だった。

 

「さて、兵藤 一誠さん。以前した約束を覚えていらっしゃるかしら?」

 

フェニックス夫人の言葉に、事情を知らない面子、とド忘れしたっぽいイッセーも首を傾げていると…

 

「トレードですわ。私の娘にして、眷属でもあるレイヴェルについてです。あなたが上級悪魔になった暁には、是非トレードをお願いしたはずです」

 

上級悪魔となって早速、眷属のトレードの話だった。

 

「なら、ちょうどいいわ。こちらともトレードしましょう。アーシアとゼノヴィアをね?」

 

それに便乗し、リアスもイッセーと眷属をトレードするつもりらしい。

 

そうして三者の間で行われるトレード。

イッセーの未使用の悪魔の駒…僧侶枠2つをアーシアとレイヴェル、騎士枠の1つをゼノヴィアという具合にトレードする。

 

その様子を見て…

 

「俺達ではまだ無理なシステムだよな」

 

「そうだな。俺達の眷属の駒はそれに対応してない側面もあるが、何より悪魔の駒とは別規格のはずだからな」

 

「だな。ま、俺はトレードする気なんざ無いが…」

 

「今はまだ将来的な話だろう」

 

忍と紅牙がこんな会話をしていた。

 

そして、トレードを無事終えた後、フェニックス夫人はイッセーにレイヴェルについて一言忠告を与えていた。

 

「それで、兵藤 一誠。念願の上級悪魔になったが、目標に変わりはないんだろうな?」

 

ライザーがイッセーに尋ねる。

 

「そりゃもちろん! 酒池肉林! おっぱいいっぱい夢いっぱい! 目指せ、ハーレム王!」

 

と嬉々としていった後…

 

「ってのが、スタートだったんですけどね。今はそれにプラスして、身内、仲間、家族で平和に過ごせたらいいなと。そうしていきたい、そうでありたいです」

 

とても穏やかな面持ちで言った後…

 

「あ、それともう一つありました」

 

ハッとしたように人差し指を立てると…

 

「俺の大切なモノを傷つける者は、何人であろうと、例え神だろうと…絶対に倒す」

 

絶対の誓いを込めて、皆に宣誓でもするかのように呟いていた。

 

「ハッ! 言うようになったもんだぜ。これなら、レイヴェルを任せられそうだぜ。なら、来るんだろう?」

 

ライザーの言葉にイッセーが首を傾げると…

 

「国際大会だ。フェニックス家からは俺と、長兄のチームが出る。例え、俺の優勝が難しいとしても、出ることに意義があると判断した。神クラスと公式に戦えるなど、こんなことでもない限りできない経験だからな」

 

嘆息しながらもライザーはそうイッセーに言ってきた。

 

「俺はお前が『王』として出てくると信じている。いや、望んでいる! そこで戦えることができたら……。俺を燃えさせてくれ、赤龍帝! 待っているからな!!」

 

そして、ライザーはイッセーの頭をわしゃわしゃと撫でながらそう言っていた。

その後、ライザーとフェニックス夫人は挨拶とトレードが済むと控室を後にする。

 

 

 

残ってたメンバーもこの後に開かれるパーティーの会場へと向かう途中のこと。

 

『ッ!』

 

イッセーを始めとした数名が警戒レベルを上げて少しだけ身構えた。

その直後、青光りする黒髪を持つ中学生くらいの少年がイッセー達の前にやってきた。

 

「へぇ。初めて見るけど、噂通りの面と、そうでない面が見えるね。とは言え、賛辞は贈らないと。上級悪魔昇格おめでとう。赤龍帝」

 

そう言って拍手を送る少年。

 

「(この匂いは…神格…! それもこんな濃密な神性は…)」

 

忍が少年から神格を感じ取っていると、少年の後ろからアジュカと、民族衣装…サリーというのを身に纏った長身の見知らぬ男性がやってきた。

また、その長身の男性からも神性を感じられ、まるで品定めでもするかのようにイッセーと、周囲の者を見る。

 

「アジュカ様」

 

リアスがアジュカの名を呼ぶと…

 

「皆、警戒を解いてくれ。このお方が君達に会いたいとおっしゃられるものだから、突然で驚いたかもしれないが、お連れした」

 

そう一言、アジュカが断ってから少年を紹介する。

 

「シヴァ様だ」

 

『ッ!?』

 

アジュカの紹介にその場にいた者(イッセーのご両親を除く)が息を呑んで驚く。

 

「はじめまして、D×Dの…駒王学園サイド、と呼ぶべきかな? 僕はインドの三柱神の一柱、シヴァだ。今後は長い付き合いになるだろうから、改めてよろしく」

 

そう言ってシヴァが手を差し出したので…

 

「あ、ありがとうございます……」

 

イッセーがこれに応じて恐る恐る握手を交わす。

 

「上級悪魔昇格の件、私からも祝辞を述べよう」

 

「あ、あなたは…え~と…」

 

長身の男性とも初対面のため、イッセーが言いあぐねていると…

 

「彼は阿修羅神族の若き王子だよ」

 

「『マハーバリ』という。お初にお目にかかる」

 

シヴァの紹介を受け、男性…マハーバリが挨拶し、イッセーと握手を交わす。

 

「特に赤龍帝の兵藤 一誠。貴殿には会いたいと思っていた。邪龍戦役での活躍は耳にしている。私も貴殿と共に『666』と打ち合いたかったぞ」

 

「そ、それはどうも…」

 

マハーバリの言葉に恐縮しながらも笑顔で対応するイッセーを見て…

 

「性欲に正直と聞いてたけど、あまりそんな風には見えないね。ハーレム王が夢だっけ?」

 

シヴァがそのように指摘していた。

 

「は、はい。そうですけど…」

 

「では、今君は一番何が欲しい? 女かい? それとも富?」

 

「えっと…どっちも……ということじゃないですよね?」

 

「あぁ、もっと根底の部分だ。一番欲しているもの……個ではなく、全とした場合だよ?」

 

そんなシヴァとの問答にイッセーは…

 

「それなら…平穏、でしょうか。争いもなく、普通に暮らしたいです。そのために全力で戦ってます」

 

スッと、そんな言葉が口から出ていた。

 

「ふむ。そうか……そういうことか…」

 

それを聞き、シヴァなりの考察を聞かせる。

曰く、第二の肉親たるグレートレッドとオーフィスが平穏を求めるという性質が、肉体と力を通してイッセーにも影響を及ぼしているのだという。

イッセー側からの影響も少なからずあるだろうが、それはイッセー自身にも当てはまるという話だ。

世界が平穏にならなければ、子作りもろくに出来ないと…イッセーの根底の部分が引っ掛かりを覚えているのだという。

平和を勝ち取らないと限り、その業とも言える枷は外れない。

それも神クラスのドラゴン2体分なのだから、元人間程度では簡単には外せない、おまけ付きだ。

 

「………………」

 

それを聞いて思い悩むイッセーを見て…

 

「僕をも超えるドラゴン2体の力を得ている冗談のような存在が、何よりも平和を望み、ハーレム王を目指す、か。ふふ、気に入った」

 

シヴァはそう呟き、話の相手をアジュカに切り替えて言う。

 

「アジュカ、アザゼルが僕に出した条件を覚えているかい?」

 

「……欲しいものがあれば、何でも用意するという件、ですか?」

 

「そう。それだ」

 

アジュカの言葉に頷きつつ、シヴァは改めてイッセーを見据えると…

 

「赤龍帝」

 

「え? あ、はい」

 

「僕の陣営に来ないかい?」

 

『ッ!!?』

 

シヴァの突然の言葉に周囲も驚きで固まる。

 

「あ、誤解なきように。リアス・グレモリーの元を去れと言っているんじゃない。もしも、こちら側の神話体系を中心にした争い事が勃発したら、僕の陣営に来ないか? という話だよ。君の仲間込みでもいい。君の仲間なら将来有望だろうしね」

 

「シヴァ様!? しかし、それは!」

 

アジュカの言葉を手で遮り、シヴァはこう伝える。

 

「帝釈天…インドラは既に『次』を見据え、自陣を太らせている。そこには曹操や初代孫悟空達もいる。こちらにも面白い駒の1つや2つは用意しておかないとね。それに彼ならこの大会に乗じてくる可能性も高い。自分でチームを率いるかもしれないしね。なら、オファーは早めの方がいい」

 

「シヴァ様…」

 

「それと、君にも興味があるよ。次元辺境伯」

 

シヴァの矛先が、今度は忍にも向く。

 

「確か、君の一族の起源は異星…異世界の星の神の眷属だったね?」

 

「えぇ、まぁ…そう聞いてます」

 

どこから仕入れたのか知らないが、シヴァは忍の一族の起源について話す。

 

「君の中から覚えのない神格の波動を感じる。君自身、気付いているのではないのかな?」

 

「神格の存在自体は、割と前から…でも、それを表に出す方法までは流石に…」

 

「その神格がいずれどう覚醒するのか…興味深くはあるが、もしこの世界の害になるなら…」

 

「…………………」

 

妙な緊張感がその場を支配する。

 

「まぁ、そうならないことを祈るよ。僕だって若い芽を摘みたくはないしね?」

 

「……はい」

 

忍に忠告したシヴァは再びイッセーを見て言う。

 

「『燚誠の赤龍帝』。覚えておくといい。君と『明星の白龍皇』の元には今後、友好的だろうと、敵対心を抱いていようと、神クラスの存在が多く訪れることになるはずだ。必然的に付き合いも、戦いも…神クラスが基準になることになるだろう。それだけのことを、君達はしてきたのさ。特に君は女人と平和を愛するドラゴンかもしれない。それで奇跡を何度も起こしてきた。けど、僕は君にもう一つの真実を見出した」

 

そして…

 

「君は、強者(つわもの)が好きなのだろう? 味方であれ、敵であれ、信念を持った戦士(おとこ)の戦いが何よりも大好物のはずだ。見るのも、打ち合うのも…両方ともね。この激動の1年で君が女への興味と同等に得たのは、そんな強い戦士(おとこ)とやり合うことだと…僕は見ているよ」

 

そんな指摘をしていた。

 

「僕が主催する国際大会。名は邪龍戦役の英雄の1人…堕天使の長の名から拝借して、『アザゼル(カップ)』とするつもりだ。そこには、君の大好きな戦士(おとこ)達がたくさん現れる。そこにいる、君の仲間である彼等も…そんな大会に、君は指をくわえて見てるだけでいいのかい?」

 

続けて、シヴァはレーティングゲーム国際大会のことも言及していた。

 

「当然、私も出る」

 

マハーバリも国際大会に参加するようだ。

 

「君も一言ないのかい? 帝釈天の刺客君」

 

すると、シヴァが扉の方に視線を向ける。

そこから現れたのは…曹操だった。

 

「申し訳ありません、シヴァ様。隠れるつもりはなかったのですが、お話し中だったもので」

 

「ふふ、君も赤龍帝に会いに来たのだろう?」

 

「えぇ」

 

シヴァの問いに答え、曹操がイッセーを見る。

 

「まさか、シヴァ様に気に入られるとは…君は、会う度に大きくなる」

 

「お前まで来てるなんてな」

 

イッセーは苦笑していたが、曹操はちょうどいいとばかりに宣言していく。

 

「俺も当然、大会に出る。天帝の許しもいただいた。自分の力がどこまで行くのか…俺の用意したチームと共に挑むつもりだ。そこで、君達に再戦できるのなら、それ以上のことはない。上級悪魔の兵藤 一誠…君のチームを真正面から叩き潰したいものだよ。俺はいつだって…君やヴァーリに焦がれているのだから」

 

そう宣言した曹操はその場を去り、シヴァとマハーバリもまた用事が済んだとばかりに去っていく。

この邂逅でイッセーは…心の導火線に火を点けられて、強い想いを募らせていた。

 

 

 

その後のパーティーも終わり、それぞれが帰路に着く中…

 

「3人共、俺の話を聞いてくれ」

 

イッセーは自らの眷属になったアーシア、ゼノヴィア、レイヴェルに己の想いを吐露していた。

その内容が何なのかは…いずれ、すぐにわかることだ。



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第百二十五話『卒業式の狂宴』

駒王学園、卒業式当日。

 

卒業生達にとって高校生活最後の日。

早く目覚めて、朝早くから来る者もいれば、いつも通りにやってくる者もいる。

 

朝早く来た者達の中にはリアスや朱乃、ソーナ、椿姫などがおり、ソーナと椿姫は校門の掃除、リアスと朱乃は旧校舎のオカ研の部室に向かって昔話をイッセーに話したりと、残りの時間を有意義に過ごしていた。

 

そんな中…

 

「………………」

 

三年生のある教室…窓際の席に座り、窓の外を見る雅紀。

その視線の先には、忍と共に登校してきた智鶴の姿があり、とても幸せそうでいて、少し寂しそうな表情をしている。

 

「(ふんっ…忌々しい…)」

 

雅紀はそんな智鶴の表情を見つめつつも、隣にいる忍へと怨嗟の籠った視線をぶつけている。

卒業式には相応しくない憎悪のオーラを人知れず纏って…。

 

「(何が異種族との交流だ……何が武力を用いた対話だ…)」

 

年末年始での総会の続きにて忍が言っていた組の未来について否定的な考えを燻らせていた。

 

「(そんな思想…組の未来には必要ない…!)」

 

雅紀にとって大事なことは一つ。

 

「(智鶴さんさえいれば、他のことなどどうでもいいんだ)」

 

智鶴の意識を自分に向けること。

それが叶えば、他の事柄など気にしない…いずれ破滅を迎えそうな思想だ。

 

「(そのために邪魔なのは…やはり、紅神…)」

 

瞳が濁り、深く暗い憎悪のオーラを無意識の内に表に出さず、その身に秘めて卒業式へと赴く雅紀。

 

この歪んだ想いが爆発するのは、そう遠くないかもしれない…。

 

………

……

 

そして、卒業式は粛々と進行していき、在校生代表の送辞をゼノヴィア、卒業生代表の答辞をソーナが読み上げていた。

また、保護者の中にはリアスの両親、グレイフィアやミリキャス、バラキエル、智鶴の祖父などの姿もあった。

 

そうして式が終わり、三年生はそれぞれ笑い合い、泣き合い、抱き合い、最後に一緒に写真を撮ったりとしている中…

 

オカ研のメンバーはリアスと朱乃を出迎えた後、人目のつかないところに向かい、色々と大事な話をしていた。

 

木場、小猫、ギャスパーはリアスへの呼び方を改め、姉と呼ぶことに。

イッセーのリアスへの敬語卒業。

イッセーが王として自らチームを率いて国際大会に参加することを表明。

ロスヴァイセがリアスの元からイッセーの眷属に入り、イリナが国際大会でのチーム入りを表明。

そして、イッセーがリアスに将来を共に歩んでほしいと告げ、その告白をリアスは受ける。

 

ちなみにイッセーの歓喜の叫び声を聞きつけたイッセーの友人である松田と元浜もやってきて、イッセーが改めてリアスと付き合っていると告げ、ちょっとしたケジメをつけていた。

その後の卒業式の二次会で2人にイッセーが色々と言われたが、それでも楽しい時間を過ごしていた。

 

………

……

 

オカ研メンバーがそのようなことをしていた一方…。

 

式が終わった直後、駒王学園に通っていた紅神眷属も集まっていた。

 

「ち、智鶴、さん…卒業、おめでとう、ございます…」

 

「まぁ、無事卒業できたようで、おめでと」

 

「ありがとう、萌莉ちゃん、緋鞠ちゃん」

 

卒業証書の入った丸筒を手にした智鶴に萌莉と緋鞠がお祝いの言葉を送る。

 

「卒業おめでとう。智鶴」

 

「ありがとう、しぃ君」

 

忍もまた智鶴にお祝いの言葉を送る。

 

「彼がいないから寂しいと、大学部からこちらに来ないように」

 

雲雀がそのような釘を刺す。

 

「雲雀さん。流石に智鶴だってそんなことは…」

 

「………………」

 

忍が弁明しようとしたが、当の智鶴がサッと目を逸らした。

 

「……ま、まぁ…節度さえ守ってもらえれば…」

 

「甘やかすような発言はしないでください」

 

忍の言葉に、すかさず雲雀が釘を刺す。

 

「あ、あはは…」

 

萌莉がその様子に苦笑し…

 

「笑い事じゃないでしょうに…」

 

緋鞠も呆れている。

 

そうしてこちらは特に大事な話はなく、紅神眷属もまた卒業式の二次会を行うべく、智鶴の祖父である組長や一部の側近と合流して明幸の屋敷へと戻ることになった。

 

しかし、無事に卒業式を迎え、全員の気が少し緩んでいたせいか…

 

「アリエス、やれ」

 

ある男による、『襲撃』が始まる。

 

『ホントにいいんだな?』

 

「いいから、やるんだ!」

 

『あいよ。キュービック、発動』

 

ブンッ!!

 

強固な結界が智鶴1人と、忍、萌莉、雲雀、緋鞠の4人を別々にして閉じ込める。

 

『ッ!?』

 

突然のことに全員の反応が遅れる。

 

「ふ、ふはははは…遂に、この時が来た!」

 

その場にアリエスを従えた雅紀が現れ、狂気に満ちた暗い笑みを浮かべていた。

 

「(雅紀さん!?)」

 

「(雅紀君!?)」

 

結界の中で忍と智鶴が同時に声を上げるが、それは外に漏れなかった。

同時に雅紀が何を言ってるのかも皆にはわからないが…。

 

「紅神…貴様に智鶴さんは渡さない…!」

 

「(雅紀さん!)」

 

雅紀の言葉は聞こえないが、忍は結界の中からドンドンと壁を叩く。

 

「何を言ってるのか聞こえないが…しばらくそのままでいることだな」

 

『ま、向こうにも聞こえちゃいないだろうがな』

 

「行くぞ、アリエス。智鶴さんだけを連れていく」

 

そう言って雅紀は懐から魔法陣の描かれた紙を取り出すと、それを地面に投げつける。

 

『転移は専門外なんだがな。ま、指定した地点に移動するだけの簡単な陣だし、俺でも魔力を供給すりゃ使えるんだがな。ま、一応と付くが…』

 

そう言ってアリエスがコアドライブからダイヤモンドシルバーの魔力を魔法陣に流すと、それが拡大して雅紀とアリエス、そして智鶴を閉じ込めた結界を包み込み…

 

「(しぃ君…!)」

 

「(智鶴!!)」

 

互いに手を伸ばし合ったが、次の瞬間には雅紀とアリエス、閉じ込められた智鶴は消え去ることとなった。

 

そして、アリエスが消え、しばらくして4人を閉じ込めていた結界は消失する。

 

「雅紀さん…」

 

結界から解放された忍は、雅紀の匂いを追おうとするが…

 

『マスター。申し上げにくいですが…捜索は困難です』

 

「油断しました。まさか、こんな身近にこのようなことをしでかす者がいるとは…」

 

アクエリアスは捜索が困難と言い、雲雀も己の不覚を恥じていた。

 

「卒業生の明智 雅紀。やってくれたものです」

 

「………………」

 

忍はグッと歯を食いしばりながらも…

 

「皆は、先に待ってるだろう組長達と合流して事の次第を伝えてくれ」

 

その場の3人にそう伝えていた。

 

「し、忍さん、は…?」

 

心配そうな萌莉の言葉に…

 

「俺は…智鶴を迎えに行く」

 

確固たる意志の下、忍はそう告げていた。

 

「雅紀さんの問題を先送りにしてきたツケを…払いに行く…」

 

そう言って忍はその場から走り去っていた。

 

「忍!」

 

「緋鞠。やめておきなさい」

 

忍を追おうとした緋鞠を雲雀が制止させる。

 

「でも、姉様!」

 

「これは…あの子自身が解決しないとならないことなのよ」

 

「それは、そうだけど…でも!」

 

「わかってあげなさい。こればかりは、あの3人の問題なのだから…」

 

「っ…」

 

雲雀はそう言って踵を返し、組長の元へと向かうのだった。

それを慌てて緋鞠と萌莉も追う。

 

その後、雲雀が智鶴の祖父に事の次第を伝えた。

また、雅紀も卒業生だったことから一緒に来ていた幹部・明智にも事情が話されたものの、雅紀の父である幹部・明智は他の幹部から集中砲火を受けることになった。

組長は静かに瞑目し、先に屋敷に戻る、と雲雀達や他の幹部を引き連れて屋敷へと戻るのだった。

 

「(紅神の倅よ…孫娘を、頼む)」

 

組長は帰路に着く中、心の中でそう呟いていた。

 

………

……

 

~???~

 

とある海沿いの廃倉庫が立ち並ぶ地区。

そこの倉庫の中に結界に閉じ込められた智鶴と、雅紀とアリエスがいた。

 

『それで? マスター、こっからどうする気だ?』

 

アリエスが智鶴を閉じ込めた結界を維持した状態のまま、雅紀へと問いかける。

 

「彼女が俺を受け入れるまで…閉じ込めておくさ」

 

そう言う雅紀の眼は狂気に満ち満ちていた。

 

『アクエリアスのマスターがそれを許すとは思えんがな』

 

「来るならば、迎え撃つだけだ。お前の力なら、可能だろう?」

 

『まぁ、守る分ならエクセンシェダーデバイスの中でも屈指の耐久戦を演じてやるよ』

 

「奴も隔離してしまえば、問題あるまい」

 

『まぁ、な…』

 

アリエスは基本、守りに特化したエクセンシェダーデバイスである。

その防御力はエクセンシェダーデバイス内でも屈指の性能を誇るのは間違いない。

しかし、アリエスには懸念があった。

 

『(アクエリアスのマスターと、俺のマスターとじゃ…そもそもの経験値が違う。おそらく、マスターは勝てねぇな。俺の性能をフルに使えたとしても、多分負ける。せっかく俺に合致する選定者を見つけたってのになぁ…)』

 

アリエスの方が雅紀よりも今の状況を冷静に分析できているようだった。

 

『(さてはて、どうしたもんかね?)』

 

アリエスはしばし考えた後…

 

『(ま、結末だけは見届けてやるかな。せっかくマスターと認めたんだからよ)』

 

選んだ手前、雅紀の結末を見届けようと考えていた。

 

「智鶴さん…あなたを真に愛せるのは、俺だけなんだ…」

 

そう呟き、結界に触れる雅紀。

 

「(雅紀君。私は…)」

 

智鶴が何かを言おうにも結界が邪魔をして言葉を聞かせることも、聞くことも出来ないでいた。

 

「さぁ、来い…紅神。決着を着けてやる」

 

その言葉に呼応するかのように…

 

キィッ!

 

タイヤが擦れたような音が倉庫の外から聞こえる。

 

『来たようだぜ?』

 

「あぁ…アリエス。スローンフォームだ」

 

『あいよ』

 

ガシャン…!

 

倉庫の奥にアリエスが分離・変形した玉座が出現し、一部装備が雅紀の手に渡り、雅紀は玉座へと腰掛ける。

 

『(さてさて、俺の防御がどこまで通用するかね?)』

 

アリエスは玉座のまま、そのようなことを思う。

 

コツ、コツ…

 

駒王学園の制服のまま、忍が廃倉庫の中へと入ってくる。

 

「雅紀さん…」

 

「紅神…」

 

お互いに駒王学園の制服姿であるが…忍は、すぐさまネクサスを起動させるべく、起動シークエンスを行う。

 

ピッ、ピッ、ピッ…

 

「智鶴を…返してもらいます」

 

ピッ…

 

『Complete』

 

ネクサスを起動させ、バリアジャケットを展開した忍は、進むのをやめない。

 

「アリエス! キュービックを積み上げろ!!」

 

『あぁ…』

 

キンッ!!

 

雅紀の指示通りにアリエスは小さな立方体型の結界を積み上げていき、壁を作り出す。

さらにアリエスに搭載されているマナリフレクションシステムが発動しているので、魔法の類は全て反射されるようになっている。

 

「………………」

 

しかし、忍は静かに歩を進めていき、キュービックが集積されて作られた壁の前まで行く。

 

「それ以上は進めまい!」

 

「………………」

 

雅紀の嘲笑を聞きながら、忍は静かにキュービックの壁に右手を置くと…

 

「ッ!!」

 

濃密な龍気の波動を右手から瞬間的に放出し、キュービックの壁を粉砕する。

 

「なっ…」

 

その光景に雅紀は絶句する。

 

「………………」

 

忍は何も言わず、雅紀の元へと向かう。

 

「くっ…止まれ!!」

 

雅紀はアリエスの装備である杖『ツインヘッドスタッフ』を掲げ、今度は忍を閉じ込めるように結界を展開する。

 

「………………」

 

ブンッ!!

 

結界が展開されるよりも速く移動したことで、忍はアリエスの結界から逃れていた。

 

「何故だ!? 何故、捕まえられない!?」

 

結界が展開し終わる前に真・神速の速度によって忍は結界を回避している。

それを理解できていない様子の雅紀。

 

「雅紀さん……俺はもう、昔の泣き虫だった頃の俺とは違うんだよ」

 

そう言いながら、忍は着々と雅紀との距離を縮めていく。

 

「ちっ! アリエス!」

 

堪らず、雅紀はアリエスから立ち上がると、アリエスに命令する。

 

『チェンジ、アーマーフォーム』

 

すると、アリエスが玉座形態から雅紀の身体に鎧として装着される。

 

「紅神ぃぃぃ!!!」

 

ツインヘッドスタッフの裏…狼の頭部の口から魔力刃を形成し、大鎌のようにし、忍へと大振りで斬りかかる。

 

ガシッ!

 

「雅紀さん…あなたの気持ちは、わからないでもない」

 

雅紀の振るってきた魔力刃を素手で掴む忍は雅紀に向けて言葉を紡ぐ。

 

「何を知った風な口を…!!」

 

「聞いてくれ。俺だって…昔は大きくなったら、明幸から出て行こうと考えてた時期もあったんだ」

 

「なにぃ…?」

 

「俺は…ちぃ姉に気に入られてただけだから…雅紀さんみたいに組の人間じゃない。部外者だと思ってたんだ…」

 

「ッ!?」

 

それは奇しくも大晦日の総会で雅紀が言い放っていた言葉だ。

 

「お前、智鶴さんから聞いて…!!」

 

「? 何のことです?」

 

今の忍の反応を見て…

 

「(まさか…こいつも同じことを思ってた…?)」

 

雅紀の大鎌を持つ力が少しだけ緩む。

 

「本当ならいちゃいけない人間なんだって思ってた。きっと、俺の存在が邪魔になる時が来るんだろうなって…そんなことを思ってた時期もあったんだ」

 

「………………」

 

「でもさ…この1年…色々なことが起きて、俺自身も色々と変わってった。そして、ちぃ姉のことが大事なんだって…何度も再認識できたんだ」

 

素手で掴んでるせいか、忍の手から血が流れて地面に滴り落ちる。

 

「雅紀さんがちぃ姉のことが好きだってことも重々承知してる。けれど、ちぃ姉の…智鶴の隣に居ること。これだけは誰にも譲らない。譲りたくないんだ」

 

そう言って忍は雅紀の顔を見る。

 

「ぁ…」

 

その表情はとても穏やかだった。

 

「雅紀さん…ごめんね」

 

「……ッ!?」

 

忍の謝罪の言葉に雅紀の心が揺らぐ。

 

「俺がいたばかりに…雅紀さんの想いを…奪ってしまって…ごめんなさい」

 

「…………ょ…」

 

雅紀は忍の謝罪を受け…

 

「今更遅いんだよ!! お前がいなきゃよかった!! ホントにそうだ!! お前さえいなきゃ、俺が智鶴さんを支えてくつもりだったんだ!! それなのに、お前は…お前はッ!!!!」

 

「………………」

 

雅紀の慟哭を忍は正面から受け止める。

 

「どこまで俺を惨めにするんだ!! 俺はお前が憎い!! 智鶴さんと結ばれた"忍"!! お前が心底憎いのに…」

 

ガタガタとツインヘッドスタッフが震える。

 

「どうして…どうして、俺はお前のことを許しちまいそうになるんだよ!!」

 

ポタッ、ポタッ…

 

そう叫ぶ雅紀の眼からは大粒の涙がこぼれていた。

 

「雅紀さん…」

 

「忍…これだけは答えろ…」

 

ツインヘッドスタッフから手を離し、忍の胸倉を掴み、頭突きをかましながら雅紀は言う。

 

「……はい」

 

「お前は…必ず、智鶴さんを…幸せに出来るって胸を張って言えるのかよ…?」

 

「必ず、幸せにしてみせるよ。"雅紀兄"」

 

頭突きをかましたため、お互いの顔同士が至近距離にあり、お互いの眼を見ながらそんな問答をした忍と雅紀。

 

「……生意気なんだよ、泣き虫が…」

 

「………………」

 

雅紀が忍の胸倉を放し、少しだけ距離を置くと…

 

「アリエス。智鶴さんの結界を解け…」

 

『……わかったよ、マスター』

 

アリエスに指示し、智鶴を閉じ込めていた結界を解く。

 

「しぃ君! 雅紀君!」

 

結界から解放された智鶴は2人の名を呼ぶ。

 

「……昔から、敵わなかった訳だ…」

 

それを聞き、雅紀は自嘲するかのように呟き…

 

「紅神。智鶴さんと、幸せにな」

 

穏やかな笑みを浮かべ、それだけ言い残していた。

 

「雅紀君…」

 

智鶴は何と言っていいのか迷ったらしいが…

 

「はい」

 

忍はそう答えていた。

 

「アリエス。お前とも、ここまでだ」

 

『そうかい。短い間だったが、世話んなったな。雅紀』

 

鎧から待機状態に戻ったアリエスとそんな会話をした後…

 

「紅神。アリエスを頼む」

 

「いいん、ですか?」

 

「ケジメは、しっかりとつけないといけないからな」

 

雅紀はそう言うと、アリエスを忍へと手渡していた。

 

その後、忍が転移魔法陣を展開し、外に置いてあったアステリア、そして智鶴と雅紀と共に駒王町の明幸家の屋敷へと戻った。

戻った後、雅紀は非は自分にあると認め、駒王町から出て行くことを決めた。

駒王学園大学部への編入も蹴って地方へと旅立つことになる。

 

 

 

明智家は当然見送りなどせず、1人で静かに出て行くことになると思われたが…。

 

「紅神。それに、智鶴さん…」

 

雅紀の旅立ちに、忍と智鶴が見送りに来ていた。

 

「雅紀兄…元気で」

 

忍は簡潔にそれだけ伝えた。

 

「雅紀君…」

 

智鶴は雅紀を一回だけ抱き締めると…

 

「あなたの想いに応えられなくて、ごめんなさい…」

 

それだけ伝えていた。

 

「……いいんです。あなたが幸せなら、俺は…」

 

雅紀もそれだけ伝えると、智鶴から距離を取って一礼していた。

 

「さようなら」

 

そして、踵を返すと雅紀は電車に乗り込むのだった。

 

 

 

春は出会いと別れの季節。

新たな出会いがあれば、様々な形での別れもある。

そんな季節の、一幕だった…。



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19.狂春予選のディストピア
第百二十六話『始まる宴』


卒業シーズンの中、私立リディアン音楽院でもまた卒業式が行われており、翼が卒業することになっていた。

 

式が無事終わった直後、特異災害対策機動部二課から召集を受け、響、翼、クリスはとある作戦に参加することとなる。

 

それは、宇宙空間に漂っていたフロンティアの一部…かつてフロンティア事変にてウェル博士によってナスターシャ教授ごとフロンティアの一部を切り離されつつも、ナスターシャ教授は月の遺跡を再起動させた。

その残骸を回収すべくシャトルが打ち上げられ、ナスターシャ教授の遺体とその一部に残ったフロンティアの異端技術を回収した後、帰還する最中にエンジントラブルに見舞われた。

そのシャトルを助けるべく、日本政府から国連に打診し、シンフォギア装者3名による救出活動が実行されたのだ。

シャトルは装者3名の尽力によって無事不時着を果たした。

 

この事件を機に特異災害対策機動部二課は国連直轄の超常災害対策機動タスクフォース『S.O.N.G.』として再編されることとなり、表向きは世界各地の災害救助が主な任務としているが、その裏では各国の思惑がありながらもこの1年の間に起きた出来事に付随する多次元世界や他種族に対する抑止力的な意味合いも持たれていた。

それが果たしてどこまで通用するのかはともかくとして、人間界でもそうした動きがあるも事実であった。

人間界で起きたルナアタック、フロンティア事変を解決した二課に白羽の矢が立つのも仕方ないことかもしれないが…。

 

そして…

 

………

……

 

4月の半ばを過ぎた頃。

 

遂にレーティングゲーム国際大会『アザゼル杯』が始まろうとしていた。

開会式は冥界の魔王領に新設された真新しい大会用の巨大スタジアム(東京ドーム換算で10個分らしい)で行われる。

その開会式には最低でもチームの『王』か『女王』が出席しなくてはならない。

それでも参加チームが軽く1000を超えていれば、スタジアムも手狭に感じてしまう訳だが…。

中にはチームメンバーを引き連れているチームもいるので、余計にそう感じてしまうようだ。

 

~~~

 

肝心の大会ルールはこうだ。

 

まず、参加資格の条件は特に設けられていない。

悪魔、天使、堕天使、妖怪、神、人間と、かなりの幅広さで参加資格がある。

また、悪魔は自らの眷属以外でメンバーを揃えて参加することも可能になっている。

但し、どのようなチームでも『王』だけは確実に登録しなくてはならない。

それ以外のメンバーについては試合前に登録し直せば、入れ替えも可能としているが、同時に入れ替える人数には制限が設けられている。

当然だが、『王』の入れ替えは不可能になっている。

さらに選手の二重登録は失格の対象となっており、その選手を起用したチームにもペナルティが課せられる。

 

次にチーム構成。

これは悪魔の駒…つまるところチェスに準じる形になっている。

王と女王が各1人、戦車・騎士・僧侶が各2人、兵士が8人の最大16人構成となる。

選手は対応したクラスに登録することになる。

ここで面白いのが、仮に転生悪魔で与えられた駒が騎士でも、この大会では他のクラスとして登録ができることだろう。

そうしてチーム編成を行う都合上、悪魔の駒での眷属にするにあたり、素養や才能によって使用する駒の価値や数があるのだが、今回の大会ルールではほぼ(・・)撤廃されている。

 

しかし、神クラスの選手は別である。

神一柱に対し、戦車・騎士・僧侶を二枠使い切ることが多い。

ただでさえ強大な力を保有する神クラスの選手は、一柱いるだけでも戦況を一変しかねないからだ。

 

さらに兵士の枠にも厳しい制限が設けられている。

兵士の特徴としては『昇格』がある。

これを利用し、かなりの実力者が女王に昇格するとなると、ゲームバランスが著しく悪くなることが予想される。

そのため、兵士に配置する人員に制限が設けられるのも頷ける。

 

そして、今大会の優勝賞品だが…。

『あらゆる願いを可能な限りに叶える』。

各勢力の様々な神秘や技術を用いて、優勝チームの願いを叶える。

そういうものだった。

但し、『世界に混乱をもたらす願い』は否としている。

 

本選である決勝トーナメントに進めるのは、16チーム。

予選に参加するチームの総数からしたら、かなりの狭き門となる。

 

予選では、悪魔が行っていた従来のレーティングゲームに倣ったレート…つまるところ、ポイントで競い合う形式を採用している。

最初は各チーム、1500ポイントを保持し、ゲームを進めていく中でポイントを増減させていく。

自チームよりも高いポイントを持つチームに勝てば、それだけ多くのポイントを得られる反面、ポイントの低いチームに負ければ数値も下落を強めることになる。

ちなみに予選での試合参加は各々の判断によって決められるようになっていて、戦いたい、ポイントを稼ぎたいなどの理由から運営に事前登録を行い、同時期に試合をしたいチームとのマッチング方式となる。

そのため、勝ち星よりもチームの管理が重要になってくる仕様となっている。

 

予選期間は4月の半ばから夏頃までを予定している。

また、試合には通常のルールに加え、特殊ルールも当然ながらある。

 

~~~

 

そして、スタジアムではイッセーがド派手な登場の仕方をしていた。

彼の使い魔『龍帝丸』でスタジアム上空に飛来し、そこから会場入りしたのだ。

イッセーの登場に、仲間やライバル達が続々と集まっていた。

 

 

 

そして、始まる開会式。

 

宴の幕が上がる。

決勝トーナメントに進出するのは…いったいどのチームか?



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第百二十七話『大会の裏で行われていた、青春と禁忌』

レーティングゲーム国際大会『アザゼル杯』が開幕した。

 

開会式より早10日が経とうとしていた。

既に試合を数戦行っているチームもあれば、試合を行っていないチームもあった。

 

イッセー率いる『燚誠の赤龍帝』チームは既にこの10日で三戦こなしており、いずれも勝利しているが、どうにも苦手を突かれて苦戦を強いられているようなことが評論家などに酷評されていて、事前の期待が高まっていただけに落胆の声も多かったようだ。

 

一方で、ヴァーリやリアス、サイラオーグ、ソーナ、デュリオ、曹操、鳶雄さんなどのチームは順調に勝ち星を挙げていて評価もそこまで悪くはないらしい。

他にも神クラスを有するチームも基本的には勝利を収めている。

 

ただ、未だ試合をしてないチーム。

帝釈天のチームなどがそうだが、様子見なのか、それとも別の思惑があるのか…。

そうしたチームの中には忍率いる『紅神眷属』チームや紅牙率いる『紅』チーム、海斗率いる『海王』チームもいた。

 

何故、次世代を代表する三チームが未だ試合をしていないのか…?

これにはそれぞれの事情があった。

 

………

……

 

『紅神眷属』チームの場合。

 

「ふむ…」

 

忍が自室にて、これまで実戦と訓練の中で得た眷属の戦闘経験や特性、さらには性格を改めて一から分析し直していた。

 

「………………」

 

そうして黙々と、眷属にしてきた娘達(智鶴を始めとした駒と絵札のメンバー)、並びに眷属ではないが距離感的に近しい娘達(雲雀や桃鬼など)の情報をネクサスを用いて精査していた。

さらに今大会専用に運営から配信された大会基準での駒価値がわかるアプリもあり、それも用いることで大会用のチーム編成を考えている真っ最中だった。

ただ、予選ではチーム編成の変更が可能なので、忍は少し慎重になり過ぎているのかもしれないが…。

 

しかし、忍が慎重になり過ぎる理由もあった。

以前、一回とはいえ、グレモリー眷属とレーティングゲームを経験し、敗北を喫して冥界のメディアからは色々と言われたのもある。

現に期待のホープとして注目されていた燚誠の赤龍帝チームが冥界のメディアにぶっ叩かれているのだ。

 

それともう一つ…今大会に参加している"とあるチーム"の存在である。

そのチーム名は…

 

「『ディストピア』チーム…」

 

忍が特に警戒を強めているチームだ。

その理由は…

 

「ノヴァ…一体どういうつもりだ?」

 

『ディストピア』チームの王は現絶魔勢を率いている黒幕『ノヴァ』であり、チームメンバーは六天王に加え、知らないメンバーも2名ほど増えて参加している。

ちなみにチーム編成は王のノヴァを筆頭とし、女王に『リヴァーレ(忍が知らない人物)』、戦車に『ヴァイクル(同じく忍の知らない人物)』とジン、騎士にロンドとジャガー、僧侶にディーとグリード、兵士にクーガ(駒価値は5個分)という布陣だった。

六天王はいずれも神器保有者であり、しかも禁手に至っているので、兵士の駒価値の基準が高くなっていることも想定されており、兵士以外の駒の役目を与えるのは何らおかしい話ではない。

兵士以外に収まるのなら問題ないが、忍も知らない未知の人物…それも2人が女王と戦車という重要な枠を取っていることが少し不可解だった。

 

「俺の知らない絶魔の古参勢? いや…だったら、何故今まで俺達の前に出てこなかった…?」

 

何か理由があるのか、それとも最近になって見つけた新参者なのか…?

 

「……判断材料が少ないか…」

 

幸い、と言っていいのかどうか…ノヴァ率いる『ディストピア』チームもまだ試合をしていないチームの一つだ。

なので、ノヴァ達が動いてから、自分達も動くのも一つの手だろうという考えも頭の隅にチラついていた。

しかし…

 

「……受け身に構えてちゃ、まるで怯えてるようだよな…」

 

そんな自分の今の在り方に苦笑し…

 

「皇鬼さん…」

 

師の名を呟き、パンッと両手で頬を叩くと気合を入れ直す。

 

「確か、今日が組み合わせの発表だったか。次の組み合わせ発表までに色々と試したい組み合わせを決めないとな」

 

そして、忍の熟考は再開される。

 

ちなみに眷属である女性陣は忍がチーム編成を決めている間、それぞれが訓練メニューをこなしていた。

 

………

……

 

『紅』チームの場合。

 

「で? お前はまたなんで出渋ってるんだよ?」

 

駒王町にあるマンション。

その一室を借りている紅牙の元に秀一郎がやってきていて、そう尋ねていた。

 

「調と切歌のことだ。駒経由で俺の魔力を受けた影響かどうかは知らんが、適合係数が若干上がったらしい。しかし、正規装者3人に比べたらまだまだだ。そんな状態では戦闘に向かない。それにもうあいつらもリディアンに通うことになった。その辺のスケジュールも考えなくてはな」

 

「王ってのも大変だねぇ~」

 

他人事のように紅牙の話を聞き、秀一郎は肩を竦める。

 

「それよりも、お前の方はいいのか?」

 

「何が?」

 

「『刃狗』チーム。声を掛けられていないのか?」

 

「あ~、まぁ…一応、な…」

 

その反応から何となく察する。

 

「何故、蹴った? 旧知の仲なのだろう?」

 

「そりゃまぁ、鳶雄の方とも交流はあるし、昔馴染みだけどよ…」

 

紅牙の問いに、秀一郎は…

 

「でも…だからこそ、対戦してみてぇんだよ。間近で見てきたからこそ、あいつと…戦いてぇってな」

 

獰猛な笑みを浮かべながら、そう答えていた。

 

「お前も物好きだな」

 

「そんな物好きを眷属にした奴には言われたくねぇよ」

 

「ふんっ…」

 

互いに軽口を叩き合った後…

 

「ん? そろそろ時間か」

 

紅牙が時計を見つつ、その場から立ち上がる。

 

「何か用でもあんのか?」

 

「八神に呼ばれていてな。2人で話がしたいのだそうだ」

 

そう紅牙は答えると…

 

「へぇ~…(それってデートじゃね?)」

 

秀一郎は内心でそんなことを思う。

 

「次の対戦発表までには答えを出す。それまで、お前もゆっくりしていてくれ」

 

「あいよ」

 

戸締りの関係上、一緒に部屋を出た2人はそれぞれの行く場所へと向かう。

紅牙ははやての元に、そして秀一郎は…相方2人の元へ…。

 

………

……

 

『海王』チームの場合。

 

「親善のために大会への登録はしたものの…正直、人材不足なんだよね」

 

海斗は借りているマンションの一室で困ったように呟いていた。

 

海斗の陣営はお世辞にも人材豊富とは言い難かった。

ぶっちゃけ、海斗を含めた痣を持つ4人を合わせた5人しかいないわけだ。

しかもその中でも戦闘できるのはアリア以外の4人となってしまうわけで、4人でこの大会を戦い抜くのは厳し過ぎると言わざるを得ない。

 

「とは言え、一回も試合をせずにいるのも問題か」

 

しかし、現状では人材を探すパイプやコネがないのも事実。

どうしたものかと、海斗は考えを巡らせていた。

 

「いくら自陣にエクセンシェダーデバイスが2機あるとは言え、神器保有者も油断ならない相手だしな。出来れば、その辺の知識か、それに準じた知識を持つ人をスカウトしたいものだ」

 

そんな願望を口にしたところで叶うとは限らないが、口にするだけならタダなので言ってみただけである。

 

「とりあえず、探してみるかな…」

 

そう呟き、海斗もまたマンションの一室から外へ出かけることにしたのだった。

 

そう、『海王』チームは単純な人材不足のせいで試合になるか不安だったので、まだ対戦を見送っていただけなのだ。

海斗は人材を見つけ、確保できるのか?

 

………

……

 

そういった具合に次世代の三チームはそれぞれの理由で試合を見送っていたが、『紅神眷属』と『紅』チームは近々参戦しそうな雰囲気がある。

 

そんな中、燚誠の赤龍帝チームの対戦相手が決まっていた。

相手は堕天使陣営所属のバラキエルが率いる『雷光(ライトニング)』チームだ。

三大勢力的に注目されている二チームの対戦カードに周囲の期待も高まっている。

 

『燚誠の赤龍帝』チームと『雷光』チームが『オブジェクト・ブレイク』という内容のゲームでぶつかり合い、白熱したゲーム展開を繰り広げ、イッセーが朱乃に対する想いやハーレム王になるという想いをバラキエルにぶつけていた。

 

………

……

 

そんな中、ちょうどアザゼル杯の開会式の翌日辺りだろうか…。

とある次元世界にて…。

 

「初めまして、『蒼真(そうま) 新星(しんせい)』です。短い間ですが、よろしくお願いします」

 

礼儀正しい挨拶と一礼をして蒼い髪の美少年…『蒼真 新星』が転校の挨拶をしていた。

 

「蒼真は家の都合で短い間しか通えないそうだ。みんな、短い間だとしても仲良くしてやってくれ」

 

担任の教師が教室内の生徒達にそう言っていた。

 

「じゃあ、蒼真の席は…蛇神の隣か…」

 

教師は、あからさま、とは言わないが、微妙な表情で空いている席の隣を見た。

 

「ぼそっ(何かあったら、先生に言うように…)」

 

「?」

 

「ともかく、蒼真は蛇神の隣だ。さ、席に着け」

 

教師の囁きに新星は首を傾げたが、すぐにそれを払拭するように席に着くように促す。

 

「お隣、失礼しますね」

 

外が見える窓際の最後尾の席に座った新星は、その隣に座る蒼い髪の少女に挨拶する。

 

「………………」

 

だが、少女は気にした風もなく、チラッと新星を見ただけで挨拶はしなかった。

 

「僕は蒼真 新星と言います。よろしければ、お名前を伺っても?」

 

「……『蛇神(へびがみ) 莉緒(りお)』。短い間だけど、よろしく」

 

軽い溜息を吐いた後、なんともぶっきらぼうな感じで返事をする女生徒こと、『蛇神 莉緒』。

 

「よろしく。蛇神さん」

 

「………………」

 

笑みを浮かべて挨拶する新星に対し、莉緒は関係なさそうに正面を見る。

 

これが、2人の始まりだった…。

 

………

……

 

新星が転校してから早3日が経った。

 

莉緒(・・)さん。今日は何処に行きましょうか?」

 

「……アンタの行きたい場所でいいよ」

 

この次元世界において休日の今日、新星は莉緒とデート(・・・)していた。

 

何故、そんなことになっているのか?

事の発端は、新星が転校した放課後のこと。

 

………

……

 

「蛇神さん。少しよろしいですか?」

 

「…なに?」

 

面倒そうに新星に問い掛ける莉緒。

 

「ここではなんですので、こちらに…」

 

「?」

 

そうして莉緒が新星に付いて行き、やってきたのは校舎裏。

 

「で、私に何の用なの?」

 

やや警戒した様子を見せつつ莉緒が新星に尋ねる。

 

「その…今日初めて会ったのに、こんなことを言うのは正直どうかと思われますが…」

 

「なによ? ハッキリ言って」

 

新星の煮え切らない態度に莉緒がそう言うと…

 

「……好きです。僕と付き合っていただけませんか?」

 

告白された。

 

「………………は?」

 

突然のことに莉緒も少し間の抜けた表情になる。

 

「一目惚れ、というのでしょうか? あなたを一目見た時から、妙に胸の高鳴りを感じていまして…」

 

そんな莉緒を置いて新星が告白の理由を告げている。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」

 

「はい?」

 

「なんで、いきなり告ってんのよ!? 確かに、私達は今日出会ったばかりなのは否定しないけど、なんで私なのよ!?」

 

「ですから、一目惚れかと…あなたを見ていると、こう胸の高鳴りが……ずっと転校生活を続けてますが、こんなことは初めてで、僕も正直戸惑ってます」

 

「………………」

 

新星の言葉に莉緒が口をパクパクとさせていると…

 

「それで…出来れば、返答を聞きたいのですが…?」

 

「へ、返事って…告白の!?」

 

「そうですが?」

 

「~~~っ!///」

 

新星の言葉に莉緒の顔が赤くなり、言葉を詰まらせる。

 

「……ほ、保留、じゃ、ダメかしら?」

 

「保留、ですか…」

 

莉緒の返答にあからさまにシュンとなる新星。

 

「当たり前でしょ!? 出会って早々付き合ったら、それはそれで問題でしょ!?」

 

「そうですかね?」

 

「(こ、こいつ…!)」

 

新星が首を傾げたのを見て莉緒のこめかみがピクつく。

 

「では、こうしましょう。僕とデートしてください」

 

「だから、なんでそうなるのよ!?」

 

代案を思いついたみたいに表情を輝かせ、新星がそのようなことを言い、またしても莉緒が驚く。

 

「デートして僕達の相性を確かめたいだけなんですが…ダメですか?」

 

「ぐっ…つ、次の休みの日なら…まぁ、空いてるけど…」

 

「じゃあ、その日にしましょう」

 

即断即決と言わんばかりに決める新星の勢いに莉緒がガックリと肩を落とす。

 

「(こいつ…見かけによらず肉食系?)」

 

そんなことを思いつつ、新星とのデートが決まってしまった莉緒は溜息を吐くのだった。

 

………

……

 

そうして新星が転校してからデートまでの2日間にも新星のアプローチは続いた。

新星の莉緒への名前呼びもその一つだった。

そして、2人は散策デートを行い、相性というものを確かめていた。

 

そして、デート後のこと。

 

「それで、僕と付き合ってもらえますか?」

 

「………………」

 

新星とのデート。

莉緒にとってはそれほど苦でもなかった。

むしろ、こんなに人の温もりを感じたのは久方振りにも思え、自然と新星のことを考えるようになっていた。

 

「……はぁ。いいわ。付き合ったげる。但し、浮気とかしたら承知しないから」

 

「ありがとうございます、莉緒さん」

 

そうして付き合うことになった新星と莉緒。

 

だが、この答えが…あんな結末になるとは…莉緒自身、思いもしなかったのだった。

 

………

……

 

それから1週間。

新星と莉緒が正式に交際を始めて1週間が経つ。

2人の親密度は、それなりに高くなっていて2人で行動する姿をよく見かけるほどだ。

 

そんな2人は今…

 

「莉緒さん…」

 

「新星…その、ホントに行っていいの?」

 

「はい。問題ありませんよ」

 

新星が住んでいるマンションに莉緒がお呼ばれしていた。

 

「どうぞ」

 

「お、お邪魔します…」

 

莉緒が恐る恐るマンションの…新星の借りている一室へと入る。

 

「ご、ご両親は?」

 

「実は、今日は帰ってこないんですよ」

 

「え…?」

 

「だから、今日は莉緒さんとずっと一緒にいれますね?」

 

屈託のない笑みを浮かべてそんなことを言う新星に…

 

「ぁ、ぅ…あ…////」

 

何と答えていいのかわからない様子の莉緒だった。

 

「莉緒さん」

 

「は、はひ!?////」

 

新星に呼ばれ、莉緒がガッチガチに緊張する。

 

「実は、大切なお話があるんです」

 

「た、大切な話…?」

 

「はい…」

 

そう前置きをしてから新星は…

 

「僕は、そろそろ次の場所へ行かなくてはならないのです」

 

「………………え?」

 

それを聞いて莉緒の頭は真っ白になる。

 

「各地を転々としている生活ですから…莉緒さんと別れるのは心苦しいのですが…」

 

悲しげな表情のまま語る新星。

 

「………………」

 

それを莉緒は呆然と聞き流していた。

 

「僕から想いを伝えたのに、このような別れ方をするのも嫌なのですが…」

 

「いや!」

 

莉緒は新星に背を向け、耳を塞いでそれ以上聞きたくないとアピールする。

 

「聞きたくない! そんな、そんなこと聞きたくない!!」

 

「莉緒さん…」

 

そんな莉緒の姿に新星はそっと後ろから抱き締める。

 

「……アンタとは、まだ10日程度の付き合いなのはわかってるけど…それでも、別れるって思ったら…なんだか…」

 

この10日という短い期間だが、それでも2人の間には確かなモノがあったのだろう。

それが、どれだけ残酷なことであっても…。

 

「……僕と、離れたくありませんか?」

 

新星は莉緒にそう問いかける。

 

「離れたくないよ…新星。私…」

 

莉緒がそう答えた時、彼女の運命は…決まった。決まって、しまった…。

 

「そうですか…」

 

その時、新星の優しかった笑みが…歪んだ暗い笑みへと変貌する。

 

「莉緒さん…」

 

抱き締めていた腕を解き、莉緒の名を呼んで彼女を振り向かせようとする。

 

「新せ…」

 

ズシャッ!!!

 

「……ぇ…?」

 

振り向いた瞬間、新星の腕が莉緒の胸を貫く。

ベチャッと、返り血が新星を汚すが、新星は邪悪な笑みを浮かべたまま…。

 

「な、ぇ…?」

 

状況は掴めない莉緒が何かを言おうとするが、声にならずに口をパクパクと動かすだけに留まる。

 

「ふふふ…良いですね。その愛した者に殺されかけているという絶望の表情。これだから絶望の瞬間というのは堪りません」

 

その口調、暗く黒い邪悪な笑み…それは…

 

「し…ん…せ…ぃ…?」

 

「ふふふ…未練がましくまだこの個体の名を呼びますか。しかし、流石はEX級のリンカーコアを持つ者です。無意識だとしても魔力で生に執着しますか。ですが、もうお遊び(・・・)の時間は終わりです」

 

「な…を…って……?」

 

「必要なのはあなたではなく、あなたの保有するリンカーコアです。まぁ、この世界では知覚されていないようですから言っても無駄でしょうが…」

 

「………………」

 

「意識が遠退き始めましたか。安心なさい。あなたとこの個体はずっと一緒です。この世界では、火事で心中した。そういう筋書きです」

 

ボァッ!!

 

部屋の中で蒼き炎が渦巻き、周囲の燃えやすい物体に燃え移っていく。

 

「……………………………」

 

莉緒の瞳が虚ろになっていき…

 

「さようなら、蛇神 莉緒さん。そして、ようこそ…新たなるコア(・・・・・・)よ」

 

新星がそのように言うと同時に莉緒の胸を貫き、その際に摘出していたリンカーコアを転送陣に乗せて、いずこかへと転送させていた。

その直後、部屋のガスに引火したのか、爆発が起きてマンションの一室から火災が発生した。

 

この火災によってマンションにいた被害者が続出し、鎮火後に焼死体となった2人の学生の遺体が見つかった。

その名は出火元の一室を借りていた『蒼真 新星』と、その部屋にいたであろう『蛇神 莉緒』。

 

この次元世界では、何らかの事情による学生心中として報道された。

しかし、事実は違う。

この事実を知る者は…もう、この次元世界には誰もいない。

 

………

……

 

~変異フロンティア~

 

「ふふふ…ご苦労でした」

 

莉緒から摘出されたリンカーコアが手元にきたことで、ノヴァは目の前に鎮座する白銀色の鎧の胸部プロテクター…その六芒星型の空洞部にリンカーコアを取り付ける。

 

「さぁ…目覚めなさい。13番目の黄道星座…蛇遣座のエクセンシェダーデバイスよ」

 

そして、始まる…禁忌の外法が…。

 

『………………』

 

それを傍らで見せられていたカプリコーンは…絶句していた。

 

『(そんな…この技法は…失われたはず。私達だけ(・・・・)で、終わったはずなのに…どうして…?)』

 

そんなことを思いながら、カプリコーンは新たに誕生する同胞(・・)の存在に戦慄を覚えていた。

 

「ふふ…」

 

「………………」

 

さらにノヴァが禁忌の外法を行っている空間には、2人の男女の姿もあった。

 

 

 

13番目のエクセンシェダーデバイス。

いや、そもそも『エクセンシェダーデバイス』とは…?

13番目の機体が、日の目を見た時…山羊座以外の11機は、どのような反応を見せるのだろうか?



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第百二十八話『13番目のエクセンシェダーデバイス』

『燚誠の赤龍帝』チームと『雷光』チームとの試合。

それは圧倒的なパワーによって盤上を覆した燚誠の赤龍帝チームの勝利に終わった。

その際、イッセーは朱乃への想いをバラキエルに伝え、真にハーレム王を目指すことも声高らかに宣言してみせたのだ。

 

この試合の後、評論家の厳しい意見は変わらなかったが、一つ新たな意見が付け加えられた。

『彼らは多くのチームにとって単純明快な恐怖(パワー)である』、と。

 

それから数日後、今後の対戦カードの発表が行われていた。

その中でも特に注目されたのが…

 

『紫金の獅子王』サイラオーグ・バアルチームvs『天帝の槍』曹操チーム。

 

『燚誠の赤龍帝』兵藤 一誠チームvs『天界の切り札(ジョーカー)』デュリオ・ジェズアルドチーム。

 

『紅神眷属』紅神 忍チームvs『刃狗』幾瀬 鳶雄チーム。

 

『紅』神宮寺 紅牙チームvs『明星の白龍皇』ヴァーリ・ルシファーチーム。

 

以上、4つの試合だ。

 

力の体現者たるサイラオーグと技の天才である曹操との一戦。

冥界の英雄たるイッセーと天界のジョーカーであるデュリオの一戦。

ここまで沈黙を保ってきた忍と紅牙もそれぞれ刃狗チームとヴァーリチームと当たることになった。

 

この組み合わせが発表された時の会場はかなりの歓声が上がっていたようだ。

 

だが、忍にはもう一つ気になる組み合わせもあった。

 

『ディストピア』ノヴァチームvs『ソーナ・シトリー』ソーナ・シトリーチーム。

 

絶魔勢と冥界の若手チームという組み合わせの一戦だ。

ノヴァが一体どのような戦法を取るのか…特殊ルールにもよるだろうが、これでノヴァの出方がわかるというものだ。

試合の日は、先に挙げた4つの試合よりも比較的早い段階で行われるらしい。

 

しかし、この時の忍達はまだ知らない…。

この試合前に行っていたノヴァの下準備を…。

 

………

……

 

注目の試合があったとしても、それまでの間には当然ながら細々(こまごま)とした試合はある。

 

様々なフィールド、ルール、対戦相手。

勝つチーム、負けるチーム。

 

そうして大会が進んでいく中…。

 

遂に忍が注目するカードの試合の日となる。

シトリー眷属vs絶魔勢の試合だ。

 

『さぁ、本日もアザゼル杯の一戦が始まろうとしています! 本日の対戦カードは、魔王レヴィアタンの妹にして「若手四王」の一角、ソーナ・シトリーチームと、謎のベールに包まれたディストピアチームの一戦だ! それでは、早速ルールの選定といきまっしょう!!』

 

悪魔の実況がテンション高めに宣言していく。

 

「………………」

 

「ふふふ…」

 

忍からある程度の話を聞いていたソーナが警戒しながらノヴァを見ているが、ノヴァはそれを軽く流していた。

 

『今回のルールは……おっと、ダイス・フィギュアに決定しました!』

 

会場の観戦室の一室には忍の姿もあった。

 

「ダイス・フィギュア。以前、イッセー君達とサイラオーグ・バアルとが戦ったルールか」

 

ルールを聞きながらも、忍はノヴァの姿に注視していた。

 

「(ずっと身を隠してきたはずのノヴァが、この場に姿を晒す。どういうつもりだ?)」

 

『なお、ディストピアチームには駒価値が3以上の選手しかいないようなので、ダイスが2の場合でも振り直しとなります。また、互いの王の価値ですが……ソーナ選手が6、ノヴァ選手が7ということになりました』

 

忍が思慮している間にも実況が駒価値や細かなルールを説明していた。

 

『では、互いの陣地への移動を!』

 

「あなたの所業は紅神君から聞いています。油断はしませんよ」

 

「ふふふ…狼さんですか。では、彼にも改めて見て頂きましょう。我ら絶魔の力を…」

 

一言だけ、王同士が言葉を交わした後、互いの陣地へと向かい、ソーナとノヴァが台座の前へと立つ。

 

『ダイス・シュート!!』

 

実況の合図と共に2人が、ダイスを振る。

 

『出た目はソーナ選手が2、ノヴァ選手が3…合計は5!』

 

出た目が決まり、互いの陣地が隔離されて選手の選定に入る。

 

「(いきなり戦車が出れる数値。匙君を出してもいいが…ソーナ先輩の陣地で最大戦力である匙君を出すのはまだ早い。となると、ルガールさんか? もしくはベンニーアさんや巡さんと、駒価値が低い仁村さんか、火照君だったか? を出す可能性もあるが……ノヴァ側が誰を出すかで話は変わってくる。新規の2人はともかく、残る六天王は全員が禁手に至ってる。それだけに厳しいかもしれないな…)」

 

忍がそのようなことを考えていると、出場選手が決まったのか…バトルフィールドに選手が転送される。

 

『ソーナ・シトリーチームからはルー・ガルー選手! 対するディストピアチームからは…ジン・マドロックス選手!』

 

「いきなりジンのやつか…」

 

森林のバトルフィールドで対峙するルガールとジン。

 

『………………』

 

『あ゛ぁ゛?』

 

無口なルガールに殺気をぶち当てるジンといった構図だが、ルガールは冷静にジンを観察していた。

 

『では、第一試合。開始!!』

 

審判の開始の合図でジンが早速動く。

 

『オラァ!!』

 

ジンが大振りな拳でルガールを殴りに行く。

 

『………………』

 

ルガールの方は冷静に狼男へと変身すると魔法で身体強化を行い、ジンの大振りな拳を避ける。

 

が…

 

ズガァンッ!!!

 

避けたジンの拳はルガールの後ろにあった木々を纏めて吹き飛ばしていた。

 

「ジンはイッセー君やサイラオーグ・バアルと同じく格闘系のパワータイプ。それが戦車枠なんだ。このくらいはしてくるだろうが…あいつの真価は…」

 

ジンの攻撃を見て忍も冷静に分析していた。

 

『パワータイプか。ならば…!』

 

一方でジンの戦闘スタイルを察したルガールの対応も早かった。

ジンとの肉弾戦を避け、魔法戦へと移行したのだ。

 

『チッ』

 

それを受け、ジンはあからさまにうざったそうな舌打ちをする。

しかし、いくら魔法を受けたところで…。

 

『あぁ~っと! ジン選手! ルー選手の攻撃に防戦一方か!?』

 

実況が場を盛り上げようと声を発した次の瞬間…

 

『…死ね!!!』

 

ゴォォ!!!

 

ジンの怒りが表れたかのような業火がジンから巻き起こると、周囲の森林に燃え移り、それらを灰塵に帰すかの如く燃え盛り始める。

 

『これは…!?』

 

『だぁー…チマチマチマチマ、鬱陶しいんだよ!!! 戦車ならこれ(・・)でこいや!!!』

 

驚くルガールを見ながらジンは己の右拳を握り、一直線にルガールに向かう。

 

『っ!?』

 

その攻勢に一瞬だけ反応が遅れたルガールだが、両腕をクロスしてそこに防御魔法を何枚か重ねて守りに徹する。

しかし…

 

『そんな柔い薄皮で、俺を止められると思うな!!!』

 

バリンッ!!

バリンッ!!!

バリンッ!!!!

 

ジンの拳はルガールの防御魔法をまるで紙くずのように割っていき、ルガールのクロスした両腕を捉える。

 

『ッ!!?』

 

『そんな程度の腕で、俺の戦場に立つなや!!!!』

 

ジンの拳がルガールの狼男と化した強靭な肉体を軽々と吹き飛ばす。

 

『がっ!?』

 

後方で燃え盛っていた巨木に背中から激突したことで、意識が刈り取られたのか、バトルフィールドからの退場エフェクトが発生する。

 

『そこまで! ソーナ・シトリーチーム、戦車一名の脱落を確認。勝者はディストピアチーム、ジン・マドロックス選手です』

 

審判が高らかに宣言を下す。

 

『決まったぁぁぁぁ!!! 此度のダイス・フィギュア! 初戦を制したのはディストピアチームだ!!』

 

実況の声に会場は場の雰囲気に流され、歓声を上げる。

 

『………フンッ』

 

その声が聞こえたわけでもあるまいにジンは鼻を一鳴らししてから消えていくルガールに背を向けた。

 

「やはり、ほぼノーダメージか…」

 

そんなジンの挙動を見て忍は別の視点から分析を行っていた。

 

「(ジンの真価は、単純な火力パワーファイターバカではなく、その異常な修復(・・)能力にある。回復なんて生易しくはない。あいつは、傷を負っても瞬時に修復しちまう。そんな能力を持って死なないのは、奴がそれだけ濃い妖力、ないし魔力を持ってるからだ。そして、それはきっと禁手にも反映されているはず。今回は禁手にはならなかったが…いや、そもそも今更能力を隠す必要性もない、か)」

 

このアザゼル杯に出場した以上、能力は運営側にも割れているはず。

それに公開しなくても勘の良い者や忍のように接触してる者からしたら、情報は出回っているとも言える。

だが、まだ忍達も知らない情報は確かにある。

ノヴァも神を相手にアレ(・・)を隠し通すには無理があるだろうから、おそらくは運営側には提示しただろう。しかし、公の場で披露したことはない。それを晒した時、忍達は…いや、エクセンシェダーデバイス達は何を思うのか…?

 

『さぁ、続いていきましょう! ダイス・シュート!!』

 

忍の考察中もゲームの状況は続き、次なるダイスが振られる。

 

『出た目の合計は、ソーナ選手が6…ノヴァ選手は5! つまり、合計11までの選手が出られます』

 

「これはまたデカい目が出たな…」

 

この結果を受け、両陣営が作戦会議を始める。

 

「(流石にお互い女王はまだ温存だろう。だが、ソーナ先輩側も厳しいか。出てくるとしたら、初期メンバー組か? いや、由良とベンニーア、巡のダブル騎士で攻める方法もある。少なくとも、絶魔勢相手に一人一人で当たっては、自殺行為にも等しいのはルガールさんのことで分かったはず。あいつらはそれだけ危険なんだ)」

 

忍が次の展開を考察する中、両陣営の出るメンバーが決まったらしく、遮蔽物のない平原のバトルフィールドに複数の転移陣が現れる。

 

『え~、ソーナ・シトリーチームからは戦車の由良 翼紗選手、そして騎士の巡 巴柄選手とベンニーア選手が出てきました。11という大きな目をフル活用してきましたね』

 

「(やはり、堅実に取りに来たか。問題は、ノヴァの奴がどういう組み合わせで六天王をぶつけてくるか…このルール、確か連続出撃はできなかったから、ジンは必然的に除外か。となると…向こうも戦車と騎士、或いは僧侶で…)」

 

そう考えていた忍だったが、実況からの声に思考を中断した。

 

『おっと! ディストピアチームからは転移陣が一つしか出ていません! そして、そこから現れたのは…なんと、ディストピアチームの女王(・・)リヴァーレ(・・・・・)選手だ!!』

 

「………なに…?」

 

実況の思わぬ言葉に忍は、バトルフィールドを注視する。

 

『………………』

 

そこには蒼い髪をポニーテールに結い、黒い瞳を持った可愛らしくも綺麗な顔立ちの女性が蒼い装飾が施された漆黒のドレスを身に纏って佇んでいた。

おおよそ戦いとは無縁そうな雰囲気、第一印象を持ってしまうが、ディストピアチームの…それも女王枠なのだ。油断大敵というやつだろう。

 

「女王枠…つまり駒価値は9。駒価値2以下がいないノヴァのチームにとって最大値でないとディー達とも組ませられない。それを今切ってきただと!?」

 

まさか、ここで女王を出してくるとは予想だにしなかったので、忍も動揺してしまう。

だが、これは逆にチャンスとも言える。得体のしれない女王枠…その実力の一端を垣間見ることができるのだから。

 

『それでは第二試合。開始!!』

 

両選手が出揃ったところで、審判が試合開始を告げると共にシトリーチームが動き出す。

 

『先手必勝! いくら女王枠だとしても一人で出てきたのならチャンスありですぜぇ!』

 

そう言っていきなり飛び出したベンニーアが死神の鎌でもってリヴァーレを強襲する。

 

『巴柄!』

 

『わかってる!』

 

ベンニーアに合わせて巡も自らの得物を持って前に出て、由良がいつでも二人を守れるように人工神器を構える。

 

『………………』

 

しかし、一向に動きを見せないリヴァーレ。

 

『『(取った!!)』』

 

一瞬で背後に回り、死神の鎌を振るったベンニーアと前から斬りかかる巡の斬撃がリヴァーレに肉薄した、次の瞬間…

 

ガキンッ!!!

 

まるで鉄と鉄とがぶつかり合うような音がした。

 

『『『なっ!?』』』

 

リヴァーレの背中に突如として現れた機械翼にベンニーアの死神の鎌は阻まれ、同じく突如として現れたコブラの頭を模した"何か"によって巡の持つ光と闇が混在した日本刀の刀身は噛まれて止まってしまう。

その光景にシトリーチームの三人は唖然としてしまった。

 

『がら空き、ですよ?』

 

そして、いつの間にか両手に持っていた二挺のライフルの銃口を未だ硬直しているベンニーアと巡に向けるリヴァーレ。

 

『ッ!! 間に合え!!』

 

由良が人工神器の盾から精霊の力を借りて生み出した光の盾を二枚、今まさに撃たれようとしていた二人に向かって全力投球した。

戦車のパワーによって投げられた盾は寸でのところで二人とリヴァーレの間に差し込まれる。

 

『ラピッドシュート』

 

それでもリヴァーレは引き金を引くのを止めず、そのままライフルから低出力の魔力弾を掃射した。

 

『うおっ!?』

 

『きゃああ!?』

 

その掃射にベンニーアと巡は少なくない衝撃を受けながらも光の盾で守られながら吹き飛ぶ。

しかし、光の盾はその八割を損壊させていたので、少なからぬダメージが二人に入っていた。

 

『ベンニーア! 巴柄!』

 

由良が二人の元へと駆け寄ろうとするが…

 

『スナイパーシュート』

 

自然な動作で二挺のライフルを前後に合体させたリヴァーレは由良に狙いを定める。

 

『っ!?!』

 

由良も即座に反応して盾を構えるが、思いの外重い一撃に足で地面をガリガリと削りながら後方へと無理矢理押し返されてしまう。

 

「なんだ、アレは…?」

 

観戦室から様子を見ていた忍は、リヴァーレの戦い方に違和感を覚える。

 

「(機械系の技術…ノヴァが絡んでるならデバイス技術か? いや、しかし…今見た限りだと、突然現れたようにしか見えなかった。どういうことだ?)」

 

何かからくりでもあるのかと、注視していてもよくわからなかった。

 

『まだ、続けますか?』

 

唐突なリヴァーレの問い。

それは、『これ以上続けても結果は変わりないのだから、さっさと降参しろ』とでも言っているような気がした。

 

『『『………………』』』

 

その問いに三人は悔しそうな表情を浮かべながらも、武器を降ろす選択をした。

 

『あら、残念』

 

とてもそんなことは考えていなさそうな笑みを浮かべながらリヴァーレは言葉を漏らす。

 

『せっかく絶望の淵に叩き込んで差し上げようと思いましたのに』

 

まだ何か隠してたような口振りに三人は白旗を挙げるのだった。

 

『それまで! 勝者、ディストピアチーム女王、リヴァーレ選手!』

 

三人に戦意がないと判断した審判によって第二試合も終了を告げる。

 

「ここまで一方的とは…」

 

ソーナも実力者であることには変わりない。しかし、相手が悪い、なんてことはざらである。特にこのレーティングゲーム国際大会では神クラスとだって戦うのだ。神を打ち倒す者がいても、それは限られた者達だけであろう。

 

「(決してソーナ先輩達も弱いわけではない。だが、それでも…)」

 

そうこうしながらも第三試合のダイスシュートが行われる。

 

『出ました! 最大値! 12の目が出たぞーーー!!!』

 

実況も場を盛り上げようと頑張っているが、これではまるで消化試合のようになってしまっている。

 

「12。ここまでくれば、ソーナ先輩は匙君を出してくるか。そのサポートに残りの僧侶と仁村さんを出すかもしれないが…」

 

問題はノヴァも出てきそうというとこだ。

ノヴァの駒価値は7。ギリギリ戦車枠と共に出ることができる数値でもある。

 

『さぁ、ここで出場するのは…シトリーチームは僧侶の花戒 桃選手、草下 憐耶選手、そして兵士の匙 元 士郎選手と、仁村 留流子選手ですね!』

 

匙を主軸としてそのサポートを固めた編成だろうか。

そして対するディストピアチームは…

 

『これは…! ノヴァ選手自らが出る模様です! それに付き従うのは戦車(・・)ヴァイクル(・・・・・)選手だ!!!』

 

実況の言う通り、転移陣からノヴァ、その傍に控えるように膝をつく蒼い装飾が施された漆黒の鎧を身に纏った短めの白髪に紅い瞳に凛々しめの雰囲気の顔立ちをし、全体的に線が太めで筋肉質な青年…ヴァイクルの姿が現れる。

そして、王自らの出陣に会場が湧く中…。

 

「ノヴァ…」

 

忍は観戦室から警戒度を引き上げてその様子を見ていた。

 

人数的には2対4と一見不利に見えるが、ノヴァとヴァイクルの実力が未知数な以上、数的有利はあまり取れていないようにも見える。

 

『それでは第三試合。開始!!』

 

審判の掛け声に匙は即座に禁手状態となり、他のメンバーも人工神器を展開する。

 

『ふふふ…ヴァイクル、あなたはあの兵士の娘の相手をしてあげなさい。私はヴリトラさんの相手をしましょう』

 

その様子を見ながらノヴァがヴァイクルに指示を出す。

 

『……御意』

 

ノヴァの命を受け、ヴァイクルが立ち上がる。

見るからに重装備、かつ戦車という駒の特性からスピードはあまりないものと考えるが、その分攻撃力と防御力が高いことは予想される。ただ、リヴァーレと同じく丸腰なのが気になるところだが…。

 

『うわぁ…イケメンなのに、バチクソ悪役騎士じゃん。あんなのと戦わないとなんですか~?』

 

仁村が心底嫌そうな表情で先輩達に尋ねる。

 

『仕方ないでしょ。元ちゃんがあっちの首魁を相手しないとなんだから』

 

『その分、私達もフォローするから頑張って』

 

『悪いが、仁村。あっちの騎士っぽい戦車は任すぜ。紅神には悪いが、俺があの首魁を倒す…!!』

 

先輩達にも色々と言われてしまったため、肩をがっくりと落としながら仁村も覚悟を決める。

 

『目覚めなさい、カプリコーン』

 

『………………』

 

そして、ノヴァもカプリコーンを呼び出すが、当のカプリコーンの反応が薄い。

 

『カプリコーン?』

 

その様子を見て忍の右手首に下げられたアクエリアスが怪訝そうに呟く。

 

『カプリコーン、アーマーフォーム』

 

『………了解』

 

山羊座のエクセンシェダーデバイスがノヴァの身に纏われたことで、互いの準備が整ったのだろう。

 

『行くぜ!!』

 

匙が先陣を切って飛び出す。

 

『………………』

 

それを迎撃…するのではなく、仁村を標的としたヴァイクルがその横を素通りする。

 

『うぇぇえ!? マジですか~~!?』

 

匙をガン無視したヴァイクルの行動に驚きながらも人工神器を展開していた仁村は高速移動で、ヴァイクルを翻弄しようとする。

 

『ふふふ…それでは龍王の絶望。味合わせていただきましょうか』

 

『やれるもんならやってみろ!!』

 

そう言ってノヴァもカプリコーンの装備の一つ『リデュースパイラル』を構えて匙を迎え撃つ。

 

 

 

しかし、王が出陣したのだから早々に決着が着くかと思われたこの第三試合だが…。

 

『オラオラ、どうしたどうした?!』

 

『………………』

 

カプリコーンを身に纏ったノヴァはいつもの笑い声すら出さず、匙の攻撃に対して防御に徹していた。

 

理由は単純。

カプリコーンが固有魔法で削り取り、吸収できるのは魔力だけ。龍気主体の匙との相性は思いの外悪いのだ。

そして、匙が操るのは呪詛の籠った黒き炎。

いくら炎への耐性を持っていても、じわじわと呪いが侵蝕していく。

さらにヴァイクルには仁村を中心に僧侶二人がサポートしていることもあり、未だ撃破には至っていない。

そもそもヴァイクルもノヴァの命に実直に従って仁村のみを目標としているのだ。

そういった経緯もあってか、両陣営共にまだ撃破者は出ていない。

最悪、この第三試合で王のノヴァを撃破することができれば、シトリーチームの勝利となる。

 

『(いける! このままいけば、呪いの効力で倒せる!!)』

 

そう確信していた匙だった。

 

『(紅神にはホント悪いが、ここで絶魔の首魁を倒させてもらうぜ!!)』

 

僅かな光明を見た匙だが…。

 

『仕方ありませんね…』

 

ノヴァはそう呟くと共に…

 

『カプリコーン。眠りなさい』

 

『っ………待ってください、マスター。私はまだ…』

 

どこか怯えた様子でカプリコーンがノヴァに進言するが…

 

『カプリコーン』

 

『っ…』

 

『二度は言いませんよ?』

 

『は、はい…』

 

すると、カプリコーンは自分から待機状態へと戻ってしまった。

 

「? どういうことだ?」

 

その様子に観戦室にいた忍も訝しげになる。

 

『なんだなんだ? 絶魔の大将。もう降参すんのか?』

 

『ふふふ…いえ、思いの外、善戦したあなたに敬意を評し…そして、これを見ているだろう彼等(・・)にも見てもらおうと思いましてね』

 

『見せる? この期に及んで何をだよ?』

 

匙の質問にノヴァは邪悪な笑みを浮かべ…

 

新たな同胞(・・・・・)を…』

 

チャリン…

 

そう言ってノヴァが取り出したのは…『蛇遣座のシンボルと六芒星の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のブラックコーラルを携えた白銀色のチェーンブレスレット』だった。

 

『バカなッ!!!!!』

 

それを認知した瞬間、アクエリアスが今までにないくらいの絶叫を上げた。

 

「アクエリアス!?」

 

その絶叫に忍も何事かとアクエリアスを見る。

 

『そんなはずはありません!! 我々は…我々は、12機です!! 新たな同胞など……!!!』

 

「新たな同胞? エクセンシェダーデバイスが新たに造られたとでもいうのか?」

 

『いいえ…いいえ!! そんな…アレは…あの技術(・・・・)は、とうに失われたはずです!!! なのに、同胞だなんて…まさか…まさか、そんな!!!』

 

「(あのアクエリアスがここまで動揺する。一体何なんだ…エクセンシェダーデバイスってのは…)」

 

アクエリアスから目を離し、改めてノヴァの方を向くと…

 

『さぁ、目覚めなさい。新たに生まれし13番目のエクセンシェダーデバイス。その名は…「ディスロード・アスクレピオーズ」』

 

ノヴァの静かなる詠唱によってチェーンブレスレットから黒き魔力粒子が溢れ出し、ノヴァの身体に新たな白銀の鎧が身に纏われる。

額にヘッドギア、胸部に六芒星の紋章を象ったブラックコーラルを嵌め込んだプロテクター、両肩に肩当て、両腕に篭手、腰部にプロテクター、両足に足具をそれぞれ装着したシンプルな装いの姿となっていた。

 

『大仰なことを言っといて、随分とシンプルな格好じゃねぇの』

 

演出のわりに大したことはないと思った匙だが、妙な悪寒を感じていた。

 

『ふふふ…』

 

とはいえ、別に呪いを解呪したわけでもなく、今もノヴァは呪いを受けた状態にある。

ここからどう形勢を逆転させるのか…?

 

『ヴァイクル。本来の姿(・・・・)を見せなさい』

 

『御意』

 

ボァ!!

 

ノヴァの一言にヴァイクルの足元から蒼炎が立ち昇り、その姿が変貌していく。

 

『な、なんだありゃ!?』

 

突然、ヴァイクルの姿が人の身から、まるで『ワニの背に剣状の針を背負っているような、機械仕掛けの合成獣』の姿となる。

その姿に匙達が驚く中…

 

『ヴァイクル、絶魔武装』

 

バキンッ!

 

ノヴァが続けて言葉を発すると、ヴァイクルという機械仕掛けの合成獣がいくつのかのパーツに分解され、ノヴァの纏う鎧の左肩にワニの頭部が武装化したユニット、右手にワニの尻尾が武装化した大剣、腰部に剣状のパーツがスカートアーマーのように10基、両足に重装甲型の足具が装備される。

その姿は見るからに重装備といった感じであり、機動力はあまりないような印象を与える。

 

「ドライバーデバイスか…!」

 

その様子を観戦室から見てた忍はヴァイクルの正体をいち早く見抜く。

 

「コンセプトとしては…射手座に近いのか…?」

 

射手座もまた専用のドライバーを運用するタイプなので近いと感じていたが、あっちと違い、ヴァイクル自体はドライバーデバイスとして完成しているように見えた。

どちらかと言えば、忍が持つことになったブラッドシリーズに近いかもしれない。

人に化ける機能は不可解だが…。

 

『……旦那のレグルスみたいなもんか?』

 

匙は匙で、今のノヴァの状態をサイラオーグと似たような感じで捉えていた。

 

『まぁいいか。的が一つになったのなら、このまま押し切る!!』

 

妙な悪寒を感じつつも、攻勢の姿勢を崩さない匙はそのままノヴァに突貫する。

 

『ふふふ…絶望の海に沈みなさい』

 

ブォォ!!

 

ノヴァの装備した足具から魔力が噴射し、一気に加速しながら匙に向かう。

 

『!?』

 

思わぬ加速に匙も回避行動を取るが…

 

『ヴァイクル』

 

『捕捉』

 

匙から見て右側…つまるところノヴァの左肩にはワニの頭部が武装化した『アリゲーターヘッド』があり、それが大口を開き、匙の胴体に噛みつく。

 

『ぐがっ!?』

 

思ってもみない攻撃に匙が苦悶の声を上げる。

しかも機械に呪いは効かないので、ノヴァとしても問題はない。

 

『元ちゃん!!』

 

『元士郎先輩を放せ!!』

 

そこに花戒の魔力攻撃、仁村の飛び蹴りがノヴァに襲い掛かるが…

 

『カプリコーン。相手をして差し上げなさい』

 

『はい』

 

待機状態に戻ったはずのカプリコーンを再び呼び出し、2人の攻撃を受け止めさせる。

 

『2人共、一旦離れて!』

 

そこに草下の援護が入るが…

 

『ソードスレイヤー、展開』

 

ヴァイクルの電子音に合わせ、スカートアーマーと化してた剣状の装備が展開し、草下の仮面を的確に砕いていく。

 

「スコルピアのフライヤー!?」

 

ソードスレイヤーと呼ばれた装備は蠍座の装備に酷似していたので、思わず忍も声を上げる。

 

『さぁ、あなたの呪詛と私の絶望の炎。どちらが強力か…勝負しましょうか?』

 

ボアァ!!!

 

その言葉と共にノヴァの特異魔力変換資質『蒼炎』が発動する。

 

『こ、こんな炎…俺の黒炎…で……がぁあああああ!!?!!?』

 

蒼炎に当てられ、匙の脳裏に己の一番見たくない絶望の光景が広がりだす。

 

『ふふふ…無傷とはいきませんでしたが…私の勝ちのようですね?』

 

蒼く燃え盛る炎の中から撃破のエフェクトが発生する。

 

『元ちゃん!!?』

 

『あとを追わせてあげましょう。カプリコーン、ヴァイクル』

 

『……ブラスト』

 

『ファイア』

 

タンクモードへと移行したカプリコーンと、アリゲーターヘッドからの砲撃が残りの3人に襲い掛かる。

 

『そこまで。勝者、ディストピアチーム』

 

審判の宣言にノヴァは邪悪な笑みを浮かべたまま、中継用のカメラを見て…

 

『エクセンシェダーデバイスを持つ方々。そして、エクセンシェダーデバイス達よ』

 

「っ!」

 

『ッ!!』

 

『戦慄し、喜びなさい。あなた達に、新しいお仲間ができたんです。この誕生を祝福してはいかがでしょう?』

 

そう言い残し、ノヴァはその場から陣営へと戻る。

 

『ふざけるな!! 何が祝福だ。我々の…我々の業(・・・・)を、増やしておいて…なにが祝福だ!!』

 

「アクエリアス…」

 

アクエリアスの悲痛な叫びに忍は何も言えずにいた。

 

 

 

そして、その後の試合の展開だが…ソーナが投了したことで、ディストピアチームの勝利が確定した。

 

ノヴァの挑発にも似た発言。

アクエリアスの動揺。

忍は、味方陣営にいるエクセンシェダーデバイスを持つ者を集めて事の真相を聞こうと決意するのだった。



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