推しの夫【本編完結】 (蓮田ヒトリ)
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本編
イントロダクション


初投稿です。
原作が辛すぎたので幸せな世界線が見たかったと供述しており…


金剛(ダイヤモンド)く~ん」

「なんですかアイさん。あと本名ではなく『こんごう』と呼んでください」

「見てこれ」

 

 

 そういって見せてきたアイさんの手元には、妊娠検査薬とその結果が示されていた。

 そしてその表示に僕は目を見開き、アイさんは流れるように綺麗な土下座をした。

 

 

「ちょ、アイさん!?」

「本当に申し訳ないです多分時期的に無理強いしてゴムもなしでいいとか言った時だよねどうしよう金剛くんも大変な時期なのに」

「い、一旦落ち着きましょう!お茶いれますから!」

 

 

 「ハイ…」と消え入るような声で冷や汗だらだらのアイさんの姿を初めて見たが、正直こんな事なろうとは思わなかった。

 お茶を淹れてお互い一息ついたところで、改めて本題に移そうと思う。

 

 

「アイさん」

「は、ははは、はい!」

「堕ろす、とか考えてます?」

「・・・!!」

 

 

 アイさんの言う妊娠した時期というのは僕もなんとなく想像がつく。だったら、法律的には堕胎は可能なはずだ。

 そんな僕の質問に、アイさんはすごく今にも泣きそうな悲しそうな顔になる。困ったな。僕はアイさんのそんな顔も好きだけど、わざわざ悲しませる気は毛頭ない。

 

 

「わ、(わだじ)はぁ…、本当(ほんどう)金剛(ごんごお)くんのだめにもぉ…!産まないほうがいいど思ってるげどぉ・・・!」

「別に産むなとは言ってないですよ」

「え・・・?」

 

 

 本当に泣き出したアイさんを見て、本当に出会った頃と本当に変わったなぁと思わず笑ってしまう。あの嘘を張り固めた笑顔の彼女がこんなにも本当の感情をさらけ出してくれるだなんて、誰も信じちゃくれないだろう。

 

 

「おめでとうございますアイさん。僕も嬉しいですよ」

「っ!金剛く~ん!!!」

「こ、こらっ!もう一人だけの体じゃないんですよ!」

 

 

 感極まって抱き着いてくるアイさんから逆らえずに、ちょうど僕の顔に15歳にしてはよく実っている胸を押し付けられて、思わずつい赤面してしまう。年齢(・・)的にも身長的にもアイさんの腕を簡単に振りほどけないのに…!

 

 

「ん~?金剛くんどうしたの~?」

「……っ!もう、朝っぱらからいい加減にしてください!」

 

 

 からかってくるアイさんを引き離そうとすると僕を抱きしめる力が強くなる。そのわずかな震えを見て、僕は引き離すのをやめてアイさんを抱きしめ返す。

 

 

「…でもごめんね。金剛くんまだ11歳(・・・)なのに、パパにさせちゃって…」

「まあ僕も思うところがないわけじゃありませんけど、そこはなんとかなります。むしろ、産むアイさんへの負担が心配です」

「それもなんとかなる!だって私と金剛くんの子供だよ?」

「それはどういう根拠ですか」

 

 

 そうやって二人で笑いながら、これから起こるあらゆる困難もアイさんとなら立ち向かえるだろうと確信したのだ。

 この物語は、僕たちが出会ったからこそ起こった、ある平穏な日常である。

 

 

 

 僕は斉藤金剛(だいやもんど)。年齢11歳。秀知院初等部出身にして現役子役。芸名、斉藤ダイヤ。そして、アイドル星野アイの夫だ。



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母と父と子

アクアとルビーのために転生タグつける必要あるのかな…


「とりあえず、どこの産婦人科に行きましょうか」

「えっ?そこら辺でよくない?」

「……」

 

 

 さすが「勉強したくないから」で芸能界で生きることを決めたアイさんだ。僕が頑張って支えてあげないと…!

 

 

「B小町はここら辺で活動しているんですよね?なんかの拍子にバレたらどうするんですか?」

「え〜?でもまだそんなに知名度なくない?」

「何か言いました????」

「エッイエナンデモナイデス…」

 

 

 全く、アイさんは自分の魅力をもっと把握すべきだ。そもそもテレビで全国発信されているアイドルが知名度がないわけないのに。

 また、もし今は知名度がなくとも、今後売れるにつれ過去の不祥事は血眼になって探し出される。妊娠ネタなんてマスコミの格好の餌食だろう。

 それに、僕もこれでもテレビにたくさん出演している子役だ。僕だけ顔を出さない、なんて選択肢は当然ないので、なるべく僕らを知らないところで出産すべきなんだろう。

 でも家での出産はアイさん自身に負担をかけてしまうし、そんな地方の病院に紹介できるほどコネは持ってないし……。

 

 

「……仕方ないか。アイさん、社長(兄さん)に電話しましょう」

「うん?分かった!どうせ言わなきゃな〜って思っていたところだしね!」

「そうですね。早速兄さんのところに行きましょう」

 

 

 申し訳ない、兄さん、胃痛の生贄へとなってくれ。

 

 

 

 

 ☆☆ゴローside☆☆

 

 

(えええええええ!!!本物のアイ!!!???)

 

 

 アイ(?)が帽子を取った後、一旦その場から離れて、俺は心の中で絶叫した。病院で大声出さないのは医者とて同じだ。

 

 

(いや、俺が見間違えるわけがない!あれは本物のアイだ!!それも出産!!?つまり、妊娠しているわけで……アッアッアッアッ)

 

 

 動揺で死にそうになるもなんとか耐えて、改めてカルテを読み直す。

 

 

(本人の年齢が16で相手の年齢が11なんて圧倒的訳アリだからきちんと読むのもマズいと思ったのが仇となった…!それに11ってことは、あの子供がアイの‼︎‼︎?)

 

 

 金髪グラサンの男と、もう一人付き添いで来ていた小中学生くらいの少年をドアの隙間からこっそり見る。

 金髪でサラサラヘアーの身長の低い顔立ちの整った美少年。どっかのテレビで見たことある気もするけど、アイ以外にさほど興味がないので思い出せない。

 てかいくらなんでも弟とかそんな風に思うだろ!むしろ見た目のチャラさ的にも父親(戸籍上)との方がヤってそうだろ!は?アイが枕営業とか地雷です。ファンやめ…ないけど、流石に問いただしたい!

 

 

「ふー、本当、どうしてこうなった……」

「社長さん、本当にすみません……」

「いや、金剛が悪いわけじゃない!もちろんアイにも……責任はあるが子供を授かること自体を悪いとは言えないからな!しかし、付き合うにしてももっと節度のある付き合いをというか……」

「それは金剛くんが可愛すぎるのが悪い。私は悪くない」

「アイさんが綺麗すぎるのがいけません。僕は悪くありません」

「さいですか……」(社長の弟と所属アイドル恋愛って、マスコミにバレたらと思うと……俺も内科受けようかな……胃が…………!)

 

 

 ァーーーーーー!!!!脳が破壊される!!!助けてさりなちゃん!!推しのアイドルが砂糖吐きそうなほどのイチャイチャ繰り広げているよ!!アイ過激派のキミになら止められるはず!!!

 

 そんな願いも虚しく、おとなしく検査をした結果妊娠は確定。まだ確定事項ではないが、今までの経験則からおそらく双子だろう。

 16歳の母体で双子を産むのは中々リスキーだが、本人達の決意は固いらしく出産する方向で話を進めることが決定した。

 もちろん、医者としての俺は患者の意見につつがなく従う。しかし、ファンとしての俺は……。

 

 あの後同僚に色々聞いてみると、アイを妊娠させた男、斉藤金剛(ダイヤモンド)(名前すごいな…)もアイに負けず劣らずの有名人で、一時期一世を風靡した天才子役らしい。

 今も子役の時のネームバリューから様々な作品に出演している、超有名俳優らしい。だからアイしか知らない俺でも見たことあるんだなと自己解決した。

 看護師たちが色めきだってもてはやしていたが、どうやら兄(公表はしていないがあのグラサン男らしい)の付き添いに来ていると思われているらしく、彼自身が種を蒔いたとは思われてないらしい。まあまだ小学生だし俺もカルテ見なけりゃ信じなかったよ。

 あまりアイとの接点は表の限りではなく、同時に休止宣言したのにも関わらず別界隈だったので特に二人がどうこうしているみたいな話は出なかったらしい。

 俺もアイを追っていても彼を知らなかったということは、実際関わりはなかったのだろう。ならなおさらどうしてそこまで仲良くなったのかは少し気になるけど。

 

 そして、彼自身も小学生とは思えないほどしっかりしているというのが交流を続けていて分かってきた。

 むしろどこか抜けているアイをしっかりサポートできる、とても相性のいいふ、ふふふ、夫婦、というのが分かってきた……推しのアイドルが夫婦って、すごいダメージくらうな……。

 そして、アイの彼と話しているあの笑顔、アイドルの時と同じ、いやそれ以上に輝いているあの笑顔を見てしまうと、嫉妬する気も失せるというものだ。

 一応彼の出演作品も見たが中々素晴らしいものだった。アイの次くらいには、推してもいいかもしれない。

 

 しかしやっぱり羨ましいものは羨ましいので、気を紛らわすために休憩時間は屋上で黄昏れていると、そこにアイがやってきた。

 そして、アイは語った。自分のことを。

 自身がアイドルなこと。世間に公表しないこと。アイドルもやめずに、嘘をつき続けながら母の幸せとアイドルの幸せを手に入れること。

 その顔は、俺がいつも見ていたキラキラ輝くアイドルの顔でありながらも、俺がいつも見ていた出産を控えた強い母の顔でもあった。

 ……ようやく、医者としての俺とファンとしても俺の意見が一致した。

 君の幸せというのなら、俺はそれに従おう。

 どうしたって、君はアイドルで、俺は君の奴隷(ファン)なんだから。

 

 そして時は流れ、出産予定日を控えた。

 アイの夫、金剛さんもいたそうにしていたが、夜も遅いこと、まだ小学生らしく夜は長く起きれないのか眠そうにしていたこともあり、先に帰らせた。

 俺も当直の先生達に任せ、帰路についていると、不審者に声をかけられた。

 

 

「なああんた、星野アイの担当医?」

「…………彼女の受診の際は偽名を使っている。そして、彼女の本名も公表されていない。何者だあんた?」

「ふ、ふふふ、ふふふふふ……!」

 

 

 フードで顔はよく見えないものの、俺はその姿を見て思わずぞっとした。

 そして、目の前の男は自分の功績をベラベラと喋り始めた。

 自分は天才ハッカーで、アイの足取りを追っていたらこの病院に辿り着いた。そこの監視カメラをみると、アイの姿と彼女の妊婦姿を捉えた。

 そして今がちょうど出産予定日なのも筒抜けで、彼女に罰を与えに来たという。

 

 

(コイツ、狂ってやがる……!)

 

 

 いくら地方の病院とはいえセキュリティが甘いなんてことはない。しかしそれをコイツは突破してきた。マジでその技術を他のところで活かせよ…!

 そんなこと言っている暇もないので、大急ぎで病院に戻る。アイが危ない!

 ここから最短距離の山道ルートを通りつつ、急いでうちの守衛に電話する。

 

 

「すみません守衛さんですか!?雨宮です!うちの病院の近くにストーカーが現れて、患者が危ないです!すぐに警備を強化してください!!あと会話を録音したので、これを元に──」

 

 

 俺は失念していた。

 俺自身運動能力が高くなく、この山道は知識としてあってこんな走りながら通ったことがなかったので、暗闇なことも相まって足の踏み場を見失ってしまった。

 そして体勢を崩しそのまま──

 最期に見たのは、こちらを追ってきていたストーカーの姿だった。

 

 

 

 

 

 そして目が覚めたら、体が縮んでしまっていた!!

 みたいなこと、本当に我が身に起きるとは思わなかった。正確には、アイの子供、星野愛久愛(あくあ)として生まれたらしい。

 生まれ変わり?転生?そこらへんは分からないが、なんにせよ、推しのアイドルに甘やかされているというこの現状、天国として言わずしてなんという!!

 正直名前に関しては物申したい気持ちはあるが、当初の『愛久愛海(あくあまりん)』から金剛さんがなんとか妥協案を見つけてきたらしい。俺は思わず父親を拝んだ。

 一個人としてはアイと金剛さんには普通の子供を育てて欲しかったが、これは不可抗力なのだ。いずれ解き明かすにしても、今はこの赤ちゃんライフを堪能したい。

 

 

「ほんぎゃー!ほんぎゃー!」

「はぁーい、どうしたんでちゅかー?」

「ルビーは僕が対応するので、アクアを頼みます」

「あっ、はーい」(そっか、こっちがアクアじゃん)

 

 

 そうだ、この家族にはアイと金剛さんと俺、そしてもう一人いる。俺の双子の妹、瑠美衣(るびい)だ。

 こちらもまあまあキラキラしているが、どうやらアイが金剛さんと似たような宝石の名前にしたいらしく、金剛さんもまんざらではなさそうに決めたらしい。

 ただ金剛さんも自分の名前でかなり苦労したそうなので、まだギリギリセーフな名前に落とし所をつけたという。初期案が亜歴参銅鑼糸(あれきさんどらいと)だったと聞いて思わず震え上がったわ。

 

 

「お前は本当に母親かよアイ。金剛の方が子守りしてんじゃねーか」

「人には向き不向きがあるって知らないの佐藤社長?いやでちゅねー、日本の男は母親を神聖視して」

「パスポートも持ってない奴が知ったようなこと言うな!あと俺は斉藤だ!自分の義理の兄の名前くらい覚えろよ!」

「えー、だって私人の顔と名前覚えるの苦手なんだもーん。ねー?」

「きゃははは!!」

「このクソアイドルとクソガキめ……!」

「兄さん、アイさん、そこらへんで……」

 

 

 言い争いをしながら入ってきたのは、俺の前世とも関わりがあるアイの事務所の社長にして、俺の伯父にあたる人だ。あと、その後ろについてきたのはその夫人のミヤコさん……今日もバッチしメイク決めてきてんな。

 そして仲裁に入ったのは、俺の父親、そう、金剛さんだ。ちなみに、最期に会ってからわずか一年しか経っていないからか全然身長が変わってない。そのため、俺達とは歳の離れた兄くらいにしか見えないだろう。

 というかルビー、今笑ったの絶対確信犯だろ。

 

 

「とにかく、アイドル「アイ」は本日復帰し、その打ち合わせを行う!まず、今夜の復帰第一弾の歌番組だが、いけるな?」

「もちろん」

「その間、金剛が子守りをする手筈だが、その金剛も近々復帰予定だ。二人が面倒を見れない間は俺の妻が面倒をみることになっている。今日はその予行練習だな」

「すみません義姉さん。僕ももう中学生ですので…」

「い、いえいえ!大丈夫です!」

 

 

 大人な対応をする金剛さんを見ているとついつい成人として扱いそうになるが、彼もれっきとした子供だ。ちなみに学校は役作りのために離れていると言って公欠扱いだったらしい。

 金剛さんの通う秀知院は上流階級が集う学園で、俺が前世で卒業した医学部とはまた違った意味で入るのが困難らしいが、その分授業などはある程度融通してくれるらしい。

 にしても、ミヤコさんの金剛さんに対する対応が結構違うんだが、ファンだったのかな?俺もアイと話している時あんな感じになっていたと思う。

 

 

「えーめんどーい。困っちゃうよねルビー?」

「そっちはアクアですよアイさん」

「あっ、そうだった」

「お前な……」

 

 

 あっはっはっと笑うアイは母親としては相当ダメな部類に入るだろう。それでも、父親の金剛さんや社長さんとかの手厚いフォローのおかげで、案外なんとかなるかもしれない。

 

 

「よし、リハまでもう時間がない。移動するぞ」

「はーい……あっ」

 

 

 俺を抱えたままアイが立ちあがろうとすると、左肩から服がはだけて思わずその胸を曝け出す──!

 その前に腕の中で動くふりをしてなんとか隠す!よしっ、ギリギリセーフ!

 

 

「あぶな〜社長におっぱい晒すところだったよ〜」

「アイさん??」

「アッスミマセン…チャントキマス…」

「……外ではちゃんとしまっとけよ。あと金剛、顔怖い。ルビー泣くぞ」

「あっ、ごめんねルビー」

「ほんぎゃー!ほんぎゃー!」

「ありがとねルビー!」

「そっちはアクアだ……いや、怒りの矛先を変えたルビーに感謝したのか?」

 

 

 そして夜の歌番組が始まり、ルビーが寝ている横で俺はそれを見ていた。

 金剛さんとミヤコさんは今のうちに育児のお勉強会だという。以前アイの録画を見せたところ俺達がそれに釘付けになった(ファンとして当然)ことで、アイを見せていたら大人しくなると気づいたらしい。それ正解。

 そしてアイが周りの目を奪っているところを見ながら、起きてきた(アホ)と過ごしていると、扉を開く音が聞こえて急いで赤ん坊のフリをした。

 

 

「あれ、ルビー起きちゃった?」

「だ、だぁー」

「う〜ん、アイさんにはよく懐いているけど、僕には中々懐いてくれないなあ……やっぱり身長かな……」

 

 

 俺と同じく前世の記憶を持っているルビーだが、前世で推していたアイとは違い金剛さんには少しぎこちない対応をしている。

 むしろ推しのアイドルに母乳をねだる方が抵抗感あると思うのだが、そこはやはり異性ということなのだろうか。

 そんなやり取りを横目にアイの出演を目に焼き付けていると、頭に何か乗った感触がした。

 そして、隣を見て、金剛さんが僕の頭を撫ででいることに気づいた。

 

 

「アクア、さっきはありがとね。アイさんの胸を隠してくれたでしょ?」

「ば、ばぶー?」

「うふふ、まだ分からないかな。でも、偶然だとしても、ありがとう」

 

 

 その手の温もりから、心の方も温かくなるのを感じた。

 

 

「お、おぎゃー!おぎゃー!」

「ん?ルビーも構って欲しいのかい?」

 

 

 そうして俺とルビーは、寝るまで金剛さんの横に並んでアイの動画を一緒に見ていた。

 そのまま三人仲良く寝落ちした時の写真でアイから鉄板のいじられ話として言われるとは、俺達はこの時想像はつかないのだった。

 ………… まあ、最初の言葉はアイなのは譲れないけど、次は『パパ』くらい、言ってあげてもいいかな。

 

 

(イクメンのダイヤさん……尊い……!!)

 

 

 息を潜めて俺達を見ているミヤコさんもいたことは、また別の話である。

 

 

 余談だが、俺の死体は見つかったらしい(・・・・・・・・)

 守衛さんに電話したこともありそのGPSで追跡。証拠隠滅のためにストーカーが俺のスマホを持っていたこともあり無事に捕まったという。

 ただ死因が俺の不注意による事故なのでどういう罪状になるのか議論がされているらしいが、まあ前世は前世だ。そこまで気にしても仕方ないだろう。

 

 何はともあれ、俺は今世はこの四人家族で生きていく。願わくば、ずっと変わらない平穏を過ごしていきたい。

 




一応ここの世界線ではアイ15歳時に妊娠発覚、16歳で出産ってことにしてます。


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ベビーシッター

特殊タグの扱い難しい・・・

一部内容に変更を加えました。


⭐︎⭐︎ルビーside⭐︎⭐︎

 

 

 私の名前は星野ルビー!今をきらめくピチピチの二歳児!

 何を隠そう、私には前世の記憶があり、世界のトップアイドル(私調べ)のアイの子供として生まれ変わったの!

 最初はアイに子供が出来た‼︎‼︎‼︎???みたいな衝撃を受けたけど、今は充実した赤ちゃん生活を満喫しています!

 

 そして、私の家族は私を含めて四人いる。

 まずはやっぱりママ!私の前世からの最推しオブ最推し!

 めっちゃ可愛いし綺麗だし歌も上手いしダンスもできる!そしてなにより魅せ方が超絶上手い!誰も彼もがアイに、ママに目線を奪われるの!

 

 そして、私の双子のお兄ちゃん。星野アクア。

 私と同じ前世の記憶を持っていて、アイのオタクだったらしい。正直自分のオタクが息子になるなんてママ超可哀想だけど、まあ自分から母乳をねだるみたいなクソムーブは自重しているので、まだ許せるかな。

 そしてなによりアイが好きなのもきちんと伝わってくるので、お兄ちゃんのことはそこまで嫌いじゃない。キモいから貶しはするけど。

 

 そして私のパパ……パパが、ねぇ……。

  パパ……パパがねぇ……。

 そうして私は、初めてパパを認識した時のことを思い出した。

 

 

「ほらルビー?パパでちゅよー?」

「なんですかその紹介……」

 

(えっっっっっっ!!!!?パパがいるなんて聞いてない!!!)

 

 

 起きていられずずっと寝てばかりの赤ちゃんの体だった私にとって、それが初めてのパパとの邂逅だった。

 だって私達処女受胎で生まれてきたんでしょ?知ってるんだから。パパなんていないはずだよね????しかも前世の私とそんな変わらない年齢だよね!??しかもどこかで見たことあると思ったら斉藤ダイヤ!!?えっ、斉藤ダイヤってアイの弟だったの!!!?いやでもパパってことは近親…………。

 そんな処理しきれない情報量に幼児の脳が耐えられるわけもなく、私は不本意ながら泣き始めてしまった。

 

 

「ふ、ふぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!」

「あらら、オムツかな?ちょっと準備してくるからあやしてて!」

「えっアイさん?えー……ほ、ほーら、ルビー、すぐママが来るからねー。よしよし」

 

 

 そうやって私を抱き抱えられると、ものすごい安心感に包まれた。ゆらゆらと揺らしてくれるリズムが心地よく、それでいて決して落とされるような不安感もない。

 それでいて彼の声、私は知らなかったんだけど1/fゆらぎという安心感を与える声で、すっかり私は眠りについてしまった。

 それを見た私の兄が『前世持ちが小中学生くらいにあやされてる……』とドン引きしていたとか。いずれあんたもこうなるんだからな!

 

 それから起きた私は正気に戻り、ある決意をした。

 

 

「こんなんで勝ったと思うなよ……!絶対にママを取り返してやる!!」

「何と戦っているんだよ」

「そもそも、私の認めた男じゃなきゃ話にならない!これは見極めなの!」

「何様だよクソ厄介オタク」

「娘様ですけどー?それに、アイツにお世話され始めたら、推しに四六時中オギャリ放題という夢のような時間が短くなっちゃうじゃない!ちょっとは考えたら!?」

「お前は自分の発言のキモさを鑑みろ」

「てかアイに男がいるなんて、誑かされたに違いないわ!お兄ちゃんは心配じゃないの!?」

「いや、そんな感じの人じゃなかったけどな」(前世でも会ったことあるし)

「もういい、お兄ちゃんがやらなくても私がやる!」

 

 

 それからと言うものの、パ……アイツがいるたびにぐずったり、変なところにハイハイしたり、とにかく困らせようとした。ママがいるとき?そんな困らせることなんかしないけど、何か?

 しかし、その度にパーフェクトな対応をしてきて、アイがとにかくもてはやすところをみて歯軋りが止まらなかった。特にハイハイした時なんか動画撮りつつ安全なところに誘導という高次元なことされた。

 何なの!?本当に中学生!?私達と同じ前世の記憶があるって言われた方がまだ納得いくよ!?

 

 でも、一緒に過ごしていくうちに、私やアクアのことをとても愛してくれているっていうのがちゃんと伝わってきた。言葉にはされないけど、少なくとも前世の両親とは比べるのも烏滸がましいくらいには大事にされているのが分かって、なんかむず痒い気持ちになった。

 そして何より、見るからにアイと相思相愛なところを見せつけられた。恋する乙女はより美しくなるとか聞いたことあるけど、あんなに輝いているアイを見たことは一度だってなかった。

 そしてパパ(・・)にあやされているお兄ちゃんを尻目に、私は敗北を認めた。星野ルビーはクールに去るぜ……。

 

 そんなこともあって、もうパパに対して対抗心とかはない。むしろ末長く幸せになって、ついでに私もその幸せをお裾分けして欲しいくらいにはパパのことが好きだ。けど、最初どうにかして存在を消してやろうとしていたこともあってどこか気まずい……!

 勿論パパは優しいからそんなこと気にしないし、そもそも赤ちゃんの抵抗心なんて可愛らしいものなんだろう。それでも私は気にしちゃうの……!そういうわけで、ちょっと心の整理のためにもパパから距離を置いている。その度に寂しそうにするパパの表情に罪悪感がチクチクと……!

 

 ちなみに、私達家族はママの姓である星野一家で通すらしい。籍はさすがに入れてないからまだ別姓だけど。

 別に私はママの名前で嬉しいからいいんだけど、パパのお兄ちゃんでもある社長が聞いたところ、パパは苗字も公開して活動してたのに対してママは苗字を公開していないから、何かとこっちの方が都合がいいらしい。

 それでも社長は食いさがってたし(自分の苗字がある子供が欲しいらしい)ママも施設生まれだからそんなに愛着がなかったらしいけど、パパが「アイさんの苗字が名乗れて嬉しいです」とか言ったからママに押し倒されてうやむやにされていた。全く羨まけしからんので私も混ざったけどね!

 最終的に「アイが今後斉藤姓を名乗った時に自分の事務所の社長と結婚したと邪推されないため」ということで、星野一家となったという。ちなみに社長は崩れ落ちていた。そんなに悔しがるならミヤコさんと子供作ればいいのにね。あ、そうすると私達のお世話係がいなくなるのか。やっぱりもうちょっと待ってね。

 

 そんなこんなで少し一方的に避けているある日、いつものように仕事行く前にママの母乳をもらいながらお兄ちゃんのオタクの僻みを嘲笑いつつ過ごしていると、つい催してしまったのでお兄ちゃんには目を背けてもらう。赤ちゃんライフはまさに天国だけれどこういうところが我慢できないのが難点だ。

 ……まあ、すぐ察してくれてすぐ目を背けてくれるところは、少し評価しないでもない。オタクのくせに。

 大声で泣くと、休んでいたミヤコさんが疲れたような顔をしてオムツを替えてくれる。ママがお仕事、パパが学校やお仕事の時はミヤコさんがお世話してくれることになっているのだ。

 ちょっと申し訳ない気もするけど、私の世話はアイのために尽くしているのと同義なんだからむしろ癒されるはずなのに、なんでこんなに疲れているんだろう??

 

 

「は〜、なんで私がこんなことしなきゃならないのよ?私は社長夫人なのよね……?ベビーシッターやるために結婚したんじゃないのに!ハァ、こんなことあんたらに愚痴っても仕方ないけど……」

(アイに尽くせて幸福以外何物でもないはずなのに、頭おかしいんじゃない?)

(まー前世の職場で子供の世話は大変だってよく知ってるからなあ……同情はする)

 

「てか、なんでダイヤくんの子供!?いやダイヤくんの子供の世話はいいけど、まだ中学生、しかも年齢から逆算して小学生の頃にアイさんを妊娠させたってことでしょ!?普通に事案じゃん!!闇深すぎでしょこの業界!!」

(あ〜……それはそう……)

(意外と彼女の言っていることに正論が見受けられるな)

 

 

 確かに、よくよく考えなくても普通に事案だよね……パパが至極当然のように私たちのお世話をしてくれているから時々忘れそうになる。私前世でもなっていないけど、中学生ってもっと子供っぽいはずだよね……。

 むしろたまに私達と一緒にアイに撫でられているから、傍目には赤ちゃんと一緒に可愛がられる歳の離れた兄くらいにしか見えないと思う。そもそもアイもお母さんというより構いたがりのお姉ちゃんくらいにしか見えないだろうし。

 ママの魅力がとどまることを知らないばかりにこんなことになるなんて、これが美しさゆえの苦悩って奴ね。

 「美少年と仕事できると思っていたのに……ダイヤくんと育児の勉強って仕事って言えるのかしら……?」とボソボソ呟いているミヤコさんから、不意に不穏な空気を感じる。

 

 

「あー、てかこれって不祥事の隠蔽よね……これネタに売ったら金になるんじゃ……」

 

「うわっやばっ!どうする!?殴って記憶消す!?」

「いや、幼児の筋力と体格差じゃ無理がありすぎる…!」

「一応冗談で言ったんだけど本気?」

「とりあえず、俺に考えがある。話を合わせろ」

 

 

 そう言ってお兄ちゃんと一緒に机に登ると、突然お兄ちゃんが喋り出す。なるほど、超常現象として私達に注意を向けさせるつもりなのね。

 なら、私はどうしようかな…… てかお兄ちゃん演技あんまり上手じゃないね……私がフォローしてあげないと……うん、よりインパクトのある名前……アマテラスとかでいいかな……口調は仰々しくして……あっ手を伸ばしてきた、ここで……!!

 

「慎め。我はアマテラスの化身。貴様らの言う神なるぞ」

 

「か、神……!?アマテラス……!?い、いや、そんなわけ……!」

「よく考えてもみよ。我はアイとダイヤの子供ぞ?」

「な、なるほど!」

(あっ、それで納得するんだ……)

 

 

 なんかお兄ちゃんが(それで納得するんだ……)みたいな顔してるけど、当たり前でしょ?アイの子供は神の子っていう常識知らないの?

 その後、色々丸め込もうと脅したり揺さぶったり条件を出したりしていると、だいぶぐらついているように見える。あともう一押しで行けそうかな。どうせこの人は私達とは同類(・・)だから、有効打は分かりきっている!

 

 

「そうさな……もし仮に貴様がこのことを告発したとしよう。そうすれば、我が父はとても悲しむだろうな……?」

「すぐやめます!!!!!」

「うるさっ」

「うむ、精進するがよい」

 

 

 お兄ちゃんがうわって顔をしているけど、まだまだオタクの生態を分かっていないわね。推しが金をくれって言ったら生活費削っても渡すし、推しがやめろって言ったら両手足縛ってでもやめるのが一般的なのよ。(個人差はあります)

 そうして私達は便利な協力者を得たのだった!ラッキー!

 

 

 

「…………アイさん、またテレビつけっぱで寝ましたね?」

「え"!?あれぇ?ちゃんと消したはずなんだけどなあ〜?」

「嘘をつくと一緒に寝ませんよ」

「それは困る!!本当に覚えがないんだって〜!」

 

「…………お兄ちゃん?」

「やべっ、忘れてた!ごめんアイ……!」




誤字修正ありがとうございます。非常に助かっています


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笑顔の作り方

 僕とアイさんが復帰しておよそ数ヶ月、星野一家は徐々に生活もまわり始め…………ていなかった。

 僕らの家にはお互いの通帳と睨めっこしている僕とアイさん、何が面白いのかそれを一緒に見つめるアクアとルビー、そして事務所の経理をしているミヤコさんがいた。

 

 

「うーん……結構渋いなあ。ダイくんはどう?」

「僕も以前より全然ですねえ」

 

 

 ちなみにアイさんの僕への呼び方は結構変わる。最初の方は金剛くんや本名の方で呼んでいたが、最近はダイくんで固定されつつある。僕的には本名で呼ばれなければ割となんでもいい。

 というか、僕自身子供達にそれなりのキラキラネームをつけてしまったので、僕もあの名付け親と同罪だ。ごめんな、アイさんの「金剛くんと似たような名前にしたい!」という可愛いおねだりに弱い僕を許してくれ……。

 そんな僕たちの隣で真似をしているのか同じ難しい顔をしている子供達の顔が可愛くて、ついつい顔を緩めて撫でてしまう。それを甘んじて受け入れる子供のなんと可愛いことか。

 最近ルビーも僕に慣れてきたのか顔を綻ばせるようになってきたし、アクアも表情が分からないながらも拒否しないのはそういうことなのだろう。

 

 

「うちの事務所中抜きエグすぎないー?」

「しょうがないでしょ?製造から流通までやってる大手とは違ってうちは弱小芸プロ。利益が薄いのは当たり前」

「じゃーダイくんの方もー?」

「そりゃ以前のコネもあるからB小町よりかはオファーはあるけど、それでもうちに来たからにはお金は少なくなるのは自然よ……これでもダイヤくんのおかげで全体の給料上がってるのよ?本当助かってるけど、なんでうちにきたのか……」

「だって僕たちの子供の面倒を見たいですし」

 

 

 実は僕は今まで兄さんの事務所ではなく、もっと大きい事務所で子役として働いていた。元々子役として始めたのは兄さんの夢を手伝うためだ。

 「自分の育てたアイドルをドームに連れて行く」、兄さんから耳にタコができるぐらい聞かされた夢だ。

 それを成し遂げるために独立して自分の事務所を立ち上げた時のお金や、僕の通う秀知院の学費も相まって一時期は本当に身売り寸前まで追い詰められていた。

 そこでとにかくお金がいると気づいた僕は、兄さんのところではなくスカウトされた大手のプロダクションに所属(血眼になって兄さんが見極めていた)し、気づいたら天才子役としてもてはやされていた。

 今はまだ大手とは言えないまでも苺プロも軌道に乗り、アイさんとの子供も生まれたのでお金よりある程度の子育ての時間が必要と感じて、色々融通のきく苺プロに移籍したのだ。もちろんその内情は兄さんとミヤコさんとアイさんくらいしか知らないし、なんなら世間的にも兄さんとの血縁関係も知られていないはずだ。

 そのために色々一悶着あって兄さんに負担をかけちゃったけど、後悔はしていない。アイさんとも一緒にいれる時間も増えたしね。

 

 

「んー、けどやっぱり世の中お金だよねー」

「どしたの突然」

「嫌なことに気づきましたね」

「私だけだったらそんな気にならなかったけど、ダイくんと一緒に暮らしたり、この子達をいい学校とか習い事に行かせるために、色んな選択肢をあげるためには、私がもっと稼がないといけないんだよね?」

「……アイさん……」

 

 

 …………正直なところ、僕は不安だった。

 アイさんのことはす、すすす、好きだし、子供達もとても可愛い。でも、アイさんが嘘に塗り固められた人生を過ごしてきたのは知っているし、出産直前も周りには気丈に振る舞っていたけど本当にいい母親になれるか心配で夜も眠れなかったのも知っている。

 今でもたまにアクアとルビーを間違えるし、まだ無責任なところとかもあって大人としては少しどうしようもない人なのは間違いない。あまり子守りが出来ていないこともあってミヤコさんより手際が悪いことも知っている。そこら辺はおとなしくお世話されてくれている子供達に感謝しかない。

 それでも、頑張って育児の勉強をミヤコさんや僕から学んでいたり、こうやって家庭のことを考えているアイさんの顔は、間違いなく母親の顔なのだ。

 

 

「今もダイくんの貯金で過ごしているようなものだし、お姉さんとしての威厳がないよ〜うまっ」

「じゃあまずはその高いアイスからやめなさい」

「そうですよアイさん、僕にも一口ください」

「ダイヤくんもイチャイチャしないでくれる?」

「だぁーだぁー!」(私にもちょーだい!アイの間接キスつき高級アイス!)

「まだあなた達には早いです!大人しくしてなさい!」

「なんか、ミヤコさんとってもうちに慣れたよね〜」

「そりゃあ何ヶ月もあなた達と過ごしていたら嫌でも慣れますよ!」

 

 

 本人曰く「推しが幸せならもうなんでもいいです」とのこと。いつも理解のあるファンの行動には助かっています。

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎アイside⭐︎⭐︎

 

 

 

『アイって最近変わったよな』

『良くも悪くもプロって顔だけど、たまにいい表情するよね〜』

『それでもなんか人間臭くないっていうか、イマイチ推しきれない』

 

 

 そんなエゴサを見て、不意に思考がよぎる。

 私はダイくんと出会って、相当変わった、と思う。

 いつも貼り付けた笑顔は自然な笑顔になっているらしいし、愛するってことがなんとなく分かってきた気もする。

 それでも、私の身に染みついた嘘は簡単に剥がれ落ちてくれない。

 私がダイくんを、ルビーとアクアを、まだ愛せてないと言われている気がして……

 

 

「痛いところつくなあ」

 

 

 そして迎えたB小町のライブ、いつものおまじないを頭に浮かべる。

 ダイくんは天才子役と言われるだけあって笑顔の作り方も心得ている。巷では天使の笑顔と言われているらしい。まあ?私には本当の天使の笑顔が向けられていますけど?貴方達は?

 みたいな心の中でマウントとりつつ聞いてみると、こんな返答が返ってきた。

 

 

「そうですね、僕の場合はアイさんを思い浮かべている時が一番笑顔ができている気がします」

 

 

 そんなこと言われたら押し倒しちゃってもしょうがないよね?多分時期的にもその時に妊娠したのかなーって思っている。今となっては大きくなった二人に聞かせてあげようかなって思っているくらいには振り切れているけど、後から気づいた時は本当に申し訳なさで死にそうになったもん……いや、今でもたまに罪悪感で謝っている。いつも困った笑顔で許してくれるダイくんには本当に頭が上がらない。

 そういうわけで、私はいつもそんな自然な笑顔をするべくダイくんの顔を思い浮かべて、改めて鏡を見る。うん、いい笑顔。行ってきます、ダイくん。

 

 でも、私自身天才な自覚はあるけど、あまり覚えの良くないのも自覚している。だから、ライブの振り付けは頑張って体に染み付かせて、かつ思い出しながら踊っていたりしている。

 そうしていると脳内でダイくんの顔が薄れていくわけで、普段の、いつもの一番喜んでもらえる笑顔を浮かべてしまう。

 私の()の笑顔。みんなが求めている笑顔。人間っぽくないとか言われているけど、だって私は偶像(アイドル)だし。私の体は嘘でできているのだ。

 そうして観客に目線を向けると……

 

「「ばぶばぶばぶばぶばぶ!!!!」」

 

「なんだあの赤ん坊、ヲタ芸やってるぞ!」「乳児とは思えないキレだ!」「なにあれすげー」「とっとこ」

 

 

 

 

うちの子、きゃわ〜〜〜〜♡♡♡♡

 

 

 

 

 幸いなことに私の子供っていうことはバレなかったけど、大バズりをしてミヤコさんは監督責任で社長に連れられていた。

 ダイくんは心配もしていたけど最終的にうちの子かわいいで思考を放棄していた。うん、分かるよ。ダイくんもかなりの親バカだね。お揃いだ。

 勿論これでB小町も私自身も少し知名度が上がり、お仕事もだんだん増えていくだろう。

 でもそれより、私はもっといいことを知ったのだ。

 

 

「なるほど〜〜〜〜、これがイイ(・・)のね、覚えちゃったぞ〜〜〜〜!」

 

 

 あんな可愛いこと、そうそう記憶飛ばさない!

 

 




原作アイにはおそらく「表情を作る」才能がありますが、本作では少しグレードダウンさせてます。無意識ながら愛を知った人に嘘の顔を作る必要はなくなってきたのです。


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監督と女優と天才子役

⭐︎⭐︎アクアside⭐︎⭐︎

 

 

 俺達が起こした『ヲタ芸を打つ双子の赤ちゃん事件』から約一年、俺たちは立っても喋っても疑われない程度に大きくなった。

 俺は順当に、対して妹は……

 

 

「ママァママァ!よしよししてぇ!」

「いいよー?よーしよしよしー!」

「きゃーー!!」

 

 

 アイドルをママ呼ばわりして甘えるヤバいファンと化してしまった。ただの子供なら平常かもしれないが、本性知っているからな……。

 まあ赤ちゃん時代から母乳をねだる奴だし、羞恥心というものをアイのお腹の中に置いてきたんだろう。可哀想に。

 

 

「は〜〜極楽浄土〜〜〜♡」

「うん?極楽浄土なんて言葉どこで覚えたんだろ?」

((やべっ))

 

 

 もしかして、アイは僕達のことを怪しいと──

 

 

「ヤバい位の天才っぽいな……私に似たのかな?」

((セーフ…!))

 

 思うこともなく、平穏に日々を過ごしている。アイは相当親バカらしく、割とボロを出しても全然切り抜けられる。もしバレるとしたら父さんくらいで……

 

 

「アクア、どうかした?」

「ッ!!!!??」

「あっ、ダイくーん」

 

 

 と、父さん!?いつの間に後ろに!!?

 

 

「ルビーが極楽浄土って言ったんだよ〜?すごくない〜?」

「えっ?それは……」

 

 

 ま、まずい、ルビーも冷や汗をかいている。父さんは頭がいい。それは俺らの子守りに加えて子役の仕事もあるのに秀知院を余裕で進級している事実が証明している。流石にこれはバレたか……!?

 

 

「すごいですね、ギフテッドというものでしょうか?うちの幼等部に入れることも検討しましょう」

「えっ、それめっちゃアリ!うちの子めっちゃ賢いしいいと思う!」

 

 

 ──そうだ、うちの親は両方とも相当な親バカだった。全肯定botもかくやというくらいには俺らのことを溺愛している。こういうやらかしがあっても見逃してくれることが多いから個人的にはありがたいけど。

 

 

「アイさーん?ダイヤくんー?そろそろ出発しますよー?」

「はーい!ほらダイくん、アクア任せたよ~」

「はい。アクア、ばんざいして」

 

 

 そう言って、アイはルビーを、父さんは俺の着替えを準備し始めた。一応まだ三歳なので、着替えはまだできない設定でさせてもらっている。

 初めて喋った時とか初めて歩いた時なんかはビデオ撮りながら号泣している二人を見て、これくらいはまだ世話を焼かせてあげた方がいいのだろう。推しのためならこれくらいの羞恥心なんて安いものだ。

 

 

「アクア、さっきはアイさんにルビーが甘えていたけど、アクアも甘えていいからね。もちろん僕にも」

「…………そんなんじゃないし」

「はいはい」

 

 

 強情な息子みたいに扱うな、バカ父さん。

 

 

 

 

⭐︎⭐︎金剛side⭐︎⭐︎

 

 

 ミヤコさんがワゴン車を運転して向かっている先は、僕とアイさんの初共演する作品の撮影現場だ。今まで苺プロのアイさん以外のB小町とは何人かコラボさせていただいたけど、邪推されないためにもようやくアイさんと一緒に仕事する機会がきたわけだ。

 もっとも、僕は主演、アイさんはそのクラスメイトという明らかに立場の違うキャストになった。僕は長年この業界に携わっていたのに対しアイさんは初めて関わるからしょうがないんだけどね。

 そして僕ら三人がお仕事で子供達の面倒を誰も見れない状況で子供達(特にルビー)がせがんだこともあって、子供達も初めて仕事場に連れて行くことになった。アイさんのライブにはこの前行ったみたいだけど、今度は僕の仕事場にも来るわけだ。少し気合いが入るな。

 そして、早熟な子供達はミヤコさんの注意事項を理解しながら聞いている。賢すぎない?と思わないわけでもないけど、僕も子供の頃から頭良かったし、僕の子供だからこんなもんかと思っている。

 

 

「現場では私の子供という設定で、絶対にお二人にパパママは言わないでくださいね」

「はいはいママママ、なでなでして」

「ママ私にもしてー」

「ママお小遣いちょーだい」

「ふふ、ママ、僕にもください」

「お二人は呼んだらマジで事案なので勘弁してください!!」

 

 

 どうやらママは運転で忙しいらしいので、代わりにアイさんが一緒に後部座席で座っているアクアとルビーをなでなでして、助手席の僕は財布を出した。え?いらない?そっか……(しゅん)

 

 

「はい、着きましたよ。じゃあこれからくれぐれも……って、お二人なら大丈夫か」

「うん、任せて」

「これでもプロですから」

 

 

 ここから先は『斉藤ダイヤ』と『アイ』という関係だ。芸能界、食うか食われるかの戦いにおいて、僕らの関係は絶対に守り切る必要がある。

 

 

「苺プロの斉藤ダイヤです。本日はよろしくお願いします」

「同じく苺プロのアイです。よろしくお願いします」

 

 

 現場に入りある程度顔合わせをしていると、五反田監督がアイさんのことを睨みつけていた。

 いや、ただ見極めているだけで、そんな意図はないだろう。仲裁に入るのは簡単だけど、アイさんは結構図太いし五反田監督はああ見えてイイ人だし割とアホなので大丈夫だ。

 アクアとルビーは、同じ共演者に可愛がられている。愛憎渦巻く芸能界の大人達とはいえ、子供を可愛がるのは変わらない。むしろアイさんと僕の子供なら芸能界に関わるのはほぼ確定している。今のうちに慣れてもらうのも手だろう。

  

 

 そうこうしているうちに撮影が進み、順調に進んでいる中で、カメラの位置に少し違和感を覚える。

 今のシーンは僕ら主演とアイさん達脇役の演者が和気藹々と話す場面だ。そこで、今まで特に動かなかったカメラマンの大きな動き。そこまで動きを必要とされる場面でもない。

 …………十中八九、アイさんを映さないためだろう。アイさんは贔屓目で見ても目を引く魅力のあるアイドルだ。曰くMVを撮る要領でいいなら得意分野と言っていたけど、それを実行できるのはまさしく才能だ。

 そんな人が同じ画角にいると、主演の存在が薄れてしまう。そして誰を長く映すかは会社間のパワーバランスで決まってしまう。うちは弱小だから蹴落とされ始めたのだろう。

 人は僕を大人びているというけど、こんな世界に幼少期からいたらそりゃあ大人びるに決まっている。兄さんの後ろで間接的に関わっていたのも大きい。

 アイさんはこのことには、流石に初めての撮影で気づいていないみたいだ。いや、違和感こそ感じているけどドラマの撮影のノウハウがないために言い出せないのだろう。

 …………僕から直談判でアイさんの出番を勝ち取ることは、おそらくできる。それぐらいのコネと実力を兼ね備えているのは自分が一番分かっている。

 けど、これくらいの逆境、一人で乗り越えてくれないとこの業界は生きていけない。だけど、まあ、軽い手助けくらいはしてあげましょうか。だって、『同じ事務所の人を贔屓する』のなんて、この業界では当たり前なんですから。

 

 

「…………!」

(……?もっとこっちか)

(…………そういうことかい、この天才子役め)

 

 

 

⭐︎⭐︎アクアside⭐︎⭐︎

 

 

 アイと父さんと一緒に一ヶ月前に撮ったドラマの放送を見ていると、アイが全然映っていない!父さんは主演だからそれなりに映っているけど、アイがたった数回(・・・・・)しか映らないなんて!

 実際エゴサでもアイに目を奪われたという人もいるけど、それでもたったあれだけじゃアイの魅力の1%も伝わらない!

 そしてドラマを見ていたアイと父さんの物寂しいような背中を見て、俺はいてもたってもいられなくなり、あの監督からもらった名刺を見ながら電話をした。

 監督にクレームを入れると、芸能界の仕組みについて詳しく話された。イメージ戦略、会社間のパワーバランス、それに伴う必要な犠牲のことも……。

 そして彼の話が一区切りついた時、一拍置いてため息をつきながら監督が話し始めた。

 

 

「とは言っても、本当はもっとなくす予定だった。最初のワンシーンの、それもほんの少ししか出番を与えないつもりだった」

「え……?でも、アイはもっと映っていた……もしかして、アイの魅力が抑えきれなくて編集陣も」

「んなわけあるか強火ファンの早熟ベイビー。お宅のところの天才子役様のせいだよ。全く、してやられたぜ」

「は……?」

 

 

 父さんが……?でも、俺もある程度見ていたとはいえ、特に直接掛け合っているところも、撮影中なにかアクション起こした感じもなかったはずだ。

 

 

「早熟ベイビー、お前なら気づかなかったか?カメラワークの不自然さによ」

「うん……?確かに、言われてみればちょっと違和感があったけど」

 

「アイツのやったことは単純だ。元々決められた位置から少しズレたところ(・・・・・・・・)演技(アドリブ)をした。それも、わざわざシーンを止める必要もないくらい少しな。だが、斉藤ダイヤを映すとなると、アイがどうしても映る位置(・・・・・・・・・・・・)に移動しやがった」

「!!!?」

 

 

 よくよく考えてみると、アイが映っている時はほとんど父さんが一緒の画角だった。そして、アイがきちんと映らない時は、父さんも微妙な位置に立っていた。そこから少しの違和感を感じたのだ。

 

 

「向こうで話した役者の3タイプ覚えているか?」

「うん、看板役者、実力派、新人役者でしょ?」

「やっぱテメー本当早熟だな……斉藤ダイヤは今回の現場は実力派に該当する。主演ということもあり映さないわけにもいかん。だから、強制的にアイの映像も増やさざるをえなかった」

「でも、あんたらなら撮り直しとか要求してきそうだけど?」

「ハハ、やさぐれたか?撮り直すほどのズレじゃねーって言ったろ。そんなことしたら、主演の女優がアイに完全敗北しましたって認めているようなもんだ。そんなの女優の面子的にも会社の面子的にも出来るわけねーんだよ」

 

 

 そして斉藤ダイヤを出す思惑とアイを映らせたくない思惑がぶつかり、最終的にどちらも少し中途半端になってしまい、違和感のある画角になってしまったという。全く編集泣かせだと監督は愚痴っていた。

 それを聞いて、俺は鳥肌が止まらなくなっていた。俺の父さんは、役者っていうのは、立ち位置一つだけでこんなにも人の思惑が飛び交い、悩ませ、操作することが出来るのか……!

 そしてアイ。父さんはあくまで『アイの映る可能性を増やしただけ』、それなのにあそこまで印象に残らせるような演技をしたアイも、やっぱり本物の天才アイドルなんだ…!

 

 

「にしても、お前も大概だがあの子役も相当だな。お前ら親子とかか?」

「ア、アハハ、ソンナワケナイジャナイデスカー」

「ガハハ、そうだよな!中学生と幼児の親子なんてフィクションでもありえねぇよな!」

 

 

 地味に真実に辿り着きそうだったが、結構酔っ払っているのか普通に与太話として流してくれた。危ねえー……!

 

 

「……まあ、お前もまだ納得してないだろう。俺自身、アイに悪いと思っている。そこで、アイに仕事を振りたい。それで今回の件は手打ちにしようや」

「えっマジで」

「ただし、交換条件としてお前も来い。あ、斉藤ダイヤは使えんぞ。上の方から二人の共演はなるべく避けるようになった」

 

 

 そんな芸能界への誘い(スカウト)に俺は………。

 

 



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子役達

⭐︎⭐︎アクアside⭐︎⭐︎

 

 

 

 監督の取引を俺は受け、俺とルビー、そして母親役のミヤコさんは撮影現場に来た。ちなみにアイは別日の撮影らしい。

 それに気づいたルビーがギャン泣きしているのを冷たい目で見ていると、共演する子役が声をかけてきた。

 

 

「ちょっと!ここはプロの現場なの!遊びに来ているなら帰りなさい!」

「えと……どちら様?」

「有馬かな!私の名前を知らないなんて、テレビ見てないの?芸能人失格ね!」

「この子あれじゃない?えっと……重曹を舐める天才子役?」

「十秒で泣ける天才子役!!ドラマでの泣きっぷりがすごいって評判なの!未来の大女優なんだから少しは知っておきなさい!」

「ふ〜ん?天才子役ねぇ…………23点」

「お前父さんと比べてない?あの人はもう別格だろ」

 

 

 たまに子役に対して異様にキビシー人がいるけど、どうしてもうちの父さんに比べられてしまうので、生まれた時期が悪かったとしか言いようがない。この日のために情報収集したけど、父さんほど目を引くような子役は見つからなかった事実がそれを証明してしまっている。

 

 

「知ってるわよ、あんたコネの子でしょ!本読みの段階じゃアイドルの子もあんたもいなかったもん!あんた達が入るくらいならダイヤ様の方がよかった!」

「ダイヤ様?」

「そうよ!斉藤ダイヤ様くらいは知ってるわよね?あのルックスにガキじみた男どもとは違う大人びて優しいあの性格、全子役の憧れなの!ああ、ダイヤ様……!」

「うわキモ。ああいうのが厄介オタクっていうのよ」

「お前ブーメラン刺さってるからな」

 

 

 いつもアイについて語るお前とそっくりだぞと呟いたら隣で軽く小突かれた。やめろ、女性の方が幼少期の成長が早いんだぞ。幼児の柔肌には地味に痛い。

 こっちでじゃれついていると、トリップしていた有馬が正気に戻りこっちの方を睨みつけてきた。

 

 

「かなはダイヤ様と共演するのが夢なの!どっちでもいいから今からでもダイヤ様に交代しなさいよ!!」

「いや無理だろ。それにアイも実力はちゃんと……」

「この前のドラマ見たけど全然映っていなかったじゃん!ダイヤ様に情けかけられて、それくらいしないと映せないくらい下手だったんでしょ?媚び売るのは上手みたいだけどね!」

 

 

 そう言い捨てて、有馬は離れていった。

 あのドラマの演出のやり方は、界隈では斉藤ダイヤが同事務所のアイのフォローをするべく近くにいたので画面に映ったという意見が多い。

 それ自体大きく間違っているわけでもないし、世論までには察せられていないが、関係者達には『アイに情けをかけた』というのが主流の考えだ。

 つまり、アイはそんなフォローをしないと移せないくらい演技が下手という誤解が生まれてしまったのだろう。

 しかし、アイが下手??????よりにもよって、よく俺らの前でそんな口がきけたものだな……!!

 

 

「お兄ちゃん」

「ああ分かっている…………。相手はガキだ……殺しはしない……!ちょっと痛い目見させるだけだ」

 

 

 

 改めて撮影に行く前に、父さんとの会話を思い出す。

 

 

『え?演技のコツ?』

『うん、父さんは天才子役なんでしょ?』

『もうそう呼ばれる年齢じゃないんだけどね……未だにベテランの人達に飴玉もらうのは勘弁してほしいなあ』

(正直身長だけ見たら全然子役でも通じそう)

『う〜んそうだな……色々あるけど、やっぱり一番は監督の意図を汲むことかな』

『意図を汲む?』

『そう、簡単に言えば、一番偉い人の心を読むんだ。どんな演技が求められているか、どんな役に成るのか……キャスティングの段階で監督の頭の中ではある程度の画は浮かんでる。それを忠実にこなせば、まず間違い無いよ』

『なるほど……』

 

 

 となるとあの監督の意図は……と思考を飛ばしていると、父さんは俺の頭に手を置き、巷では天使とも評される笑顔を向けてきた。

 

 

『それを踏まえて、カメラを使うことかな』

『カメラ?この前の父さんみたいに?』

『あれはまたちょっと違うかな。どっちかっていうと、お母さん(アイさん)みたいなやり方が効果的だよ』

 

 

 

「はーい、撮影スタート!」

 

「ようこそおきゃくさん、かんげいします…………」

 

 

 さすがに父さんと同じく天才子役と呼ばれるだけあるな。もし俺が彼女と演技勝負したらどうしたってボロ負けだろう。

 だから演技では勝負しない。監督の意図なら、俺に監督から求めてられているのは『演技しないこと』だろう。

 でもそれだけじゃ隣のメスガキに吠え面をかかせられない。だから、こうする。

 

 

「この村には民宿が一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」

 

 

 

 

「カット!OKだ」(このガキ……!)

 

 

 その声で一息つくと、隣の有馬が声をかけてきた。目には今にも泣きそうなほど涙を溜めていたので思わずギョッとしてしまう。

 

 

「ねえ今の、何やったの?」

「ちょ、どうした!?」

「何やったの!!」

「い、一回落ち着いて……」

「何やったのおおおおおお!!!!!うわああああん!!!」

「ちょ、監督ー!監督ー!」

「あーあ、お兄ちゃんが幼女泣かしたー」

(人聞きの悪いこと呟いてんじゃねぇよ!そもそも一番テメーが乗り気だったじゃねーか!!)

 

 

 スタッフ総出で宥めながらなんとか落ち着かせた後、監督達はスタッフは違う撮影に、俺と有馬は近くのベンチで座って待機していた。

 なんで泣いたかは分からないけど、俺きっかけなのは分かっているのでどこか気まずい……!てかなんで俺の隣に座ったんだよ!こういう時ルビーは寝ていて役に立たないし!…いや、起きていても大して役に立たないな。

 

 

「…………さっきの、どうやったの」

「……どうって、何が?」

「さっきのかな、あんたより全然ダメだった。でも何がダメなのか分からなかった。だから教えて」

「…………じゃあ、アイの演技が下手だって言ったこと謝れ。そしたら教えてやる」

「……ごめんなさい。言いすぎたわよ」

「!」

 

 

 正直意外だった。今までの言動からかなりプライドの高いタイプだから、ダメ元で言ってみたつもりだったのだが。

 まあ、アイの悪口は許容出来なかったものの、自分の見せ場を奪われる形で俺がねじ込まれたのだ。憎まれ口の一つでも叩きたくなるのが子供なら普通なんだろう。

 教えると言った手前何も言わないというわけにもいかず、結局父さんの言っていたことを教えることにした。別に門外不出ってわけでもないだろうし。

 

 

「まず、俺はお前と比べて演技力がない。だから、あえて演技せずにすることで、監督の意図に答えた」

「…………それだけ?」

「いや、それに加えて、カメラを凝視した」

「えっ、それはダメだよ。カメラを意識しちゃいけませんってママに言われてるもん」

 

 

 本来子供にそこまで高い演技力を求めている現場はない。カメラを意識してしまうと、どうしてもぎこちなくなってしまいがちだからだ。大人顔負けの演技力を持つ有馬でさえそう習っているならなおさらなんだろう。

 勿論演技経験のない俺もそうなってしまうだろう。だが、前世では一歩間違えれば命が消える職業に就いていたのだ。演技しないのであれば、緊張なんて特にすることはなかった。故にこのテクニックが使えたというわけである。

 

 

「でも実際に電波に入るのはカメラの映像からだ。だから焦点をずらして、カメラに俺が不気味に映るよう意識したんだ」

「…………よく分からない」

 

 

 

 父さんが言っていたことは、撮影の時に必要なのは、カメラに魅せることらしい。これはアイがいつもやっていることなので、俺にもイメージが出来た。だからよりカメラ目線にすることで俺に目をつかせ、前世で知った目線の使い方でなおさら不気味さを演出したのだ。

 あとはもう簡単だ。演技しなくても俺自身が十分に気味が悪いのだと監督の意図をそのまま映してもらい、さらにカメラにもっと不気味に映るようにした。それが俺が今回したことだった。

 これを有馬に伝えると、一生懸命理解したあとに、突然立ち上がって俺の方に指をさした。

 

 

「…………っ!あんた、名前!」

「は?」

「名前言いなさい!」

「ほ、星野アクア……」

「一丁前に芸名なのね……まあいいわ!アクア!光栄(こーえー)に思いなさい!この私があんたをライバルとして認めてあげる!!」

「ハァ!?」

「今回は私のま、ままま、負けだけど、次はぜぇったい負けないから、覚えておきなさい!!フン!」

 

「あっ、かなちゃん。今手空いてるからかばんもってあげようか?」

「いい!これくらい自分で持てる!」

 

 え、えぇ〜…………。また面倒な奴に目をつけられたな……。てか負けを認めるの悔しいなら言わなきゃいいのに。

 てか、役者になる気はないんだけどなあ…………。

 

 

 

 この時の出会いが、長い年月が経ち大きな意味を持つことになるなんて、俺はまだ知る由もなかったのだ。

 

 

 




重曹ちゃんは父パワーで強くなったアクアに完敗したので、早い段階で挫折を経験しました。これから彼女はどんどん成長していくでしょう、多分。


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転ぶのを恐れれば余計に転ぶ

 アイさんとアクアの映画から約二年、あれからきっかけなのかアイさんの仕事が増えてきた。一言で表すなら、絶賛売り出し中のアイドルタレントと言うべきだろうか。

 クイズ番組、雑誌モデル、バラエティのドッキリなど……過激なものは兄さんが弾いているのもあり、アイドルの売れ方にしてはかなり真っ当に進んでいるのだろう。普段は三枚目みたいな兄さんだけど、芸能界には長年いることもあってそこら辺の審美眼は十分信頼できる。

 アイさんも今年で20歳になることもあって、様々な挑戦ができるようになったのだろう。その度に、その、魅力的になってきてちょっと僕の方の抑えがきかなくなりそうだけど。うん、僕たちは清いお付き合いをしているんだ……もうじき小学生になる子供がいてどの口がっていう話だけど。

 苺プロが徐々に大きくなってきたのもあって、僕の方も前のプロダクションにいた時と遜色ないくらいのお仕事をやらせてもらっている。

 学校の方も無事(余裕で)進級できて、年齢的にももう高校生で子役と呼ばれることがなくなった……わけではない。身長がほとんど伸びないので、未だに小学生だと勘違いしている人もいるくらいだ。特に長年芸能界に携わっている大御所の方たちは孫かなんかと勘違いして顔を合わせるたび飴をくれる。正直複雑だけど、受け取ると喜ぶので断るに断れないのが最近の悩みだ。

 そのこともあり家に中々いれずにミヤコさんや子供達に負担をかけているけど、子供達もミヤコさんに懐いてるみたいだし、僕達のことが世間の目に晒されることもなく日常を過ごしている。この子達はすごいいい子で手のかからないっていうのもあるし、ミヤコさん共々本当に感謝してもしきれないよ。

 勉強にお仕事に子育て……いろいろ大変だけれど、子供達の顔を見ると疲れが吹っ飛ぶ。子供のいる芸能人の話は本当なんだってすごい感動した。

 

 

「んー、今日も可愛い!可愛いよ二人ともー!」

 

 

 しかしそれでもミヤコさんのワンオペには限界があるので、来年で小学生になることもあって社会勉強のためにも二人を幼稚園に預けることになった。

 ちなみにルビーがママから離れることにギャン泣きしアクアも言葉巧みにルビーのサポートしてひと悶着あったけど、それはまた別のお話だ。

 今日はその登園式。もちろん僕らは行けずミヤコさんに任せることになるけど、それにしても幼稚園服がかわいい。うちの学校の幼等部なこともあってセキュリティもばっちりだ。

 

 

「まあトータルではママの方が可愛いけど」

「なんの対抗意識」

「あっ、もちろんダイくんも二人と同じくらい可愛いよー!」

「なんのフォローですか。あっ、ちょ、抱きつかないでください!」

「パパも高校生なのに何この犯罪臭」

「まだ犯罪だからだろ」

「ミヤコさーん、準備できたから早くいこー」

 

 

 二人はそのままミヤコさんと共に登園しに行った。やれやれという風でスルースキルが磨かれているけど、出来れば助けて欲しい。

 特にルビー!誕生日プレゼントに弟か妹を強請るんじゃありません!あれからアイさんの目つきが怖いんだから……。ちなみにアクアは京極夏彦のサイコロ本だった。今日もかばんに入れて持っていっているけど、向こうでも読むんだろうか……。正直父さんも中々読むのに苦労するよ?さすが僕たちの子供、天才だな……。

 

 

 

⭐︎⭐︎ルビーside⭐︎⭐︎

 

 

 

 順調な幼稚園生活を送っていた時、突如踊りのお遊戯会が決定してしまった。

 運動なんか出来る気がしなくて、うちの事務所のレッスン場を借りて練習してみるも、どうもうまくいかない。そうして挫けそうになった時、ママがやってきた。

 

 

「あれ?ダンスの練習?」

「ママ……」

「あんまり夜遅いと大きくなれないぞー?パパみたいにね」

「パパはあれで可愛いからいいの」

「うふふ、そうだね!やっぱりルビーはママ派だ。どうも最近伸ばそうとしているっぽくてアクアと一緒に牛乳とか飲んでいるんだって」

「そーなんだ……って、ママも何してるの?」

「んー?ママもダンスの練習しようかなって。あっ、パパには内緒だぞ?怒ったら怖いんだから」

「はーい」

 

 

 そうして、ママの踊りをじっと見ていると、少し振りが違うところがあったので指摘する。そしてこうしてたと見せようと踊るも、やっぱり転んでしまう。

 あんなに見てたのに、網膜に焼き付けていたのに、やっぱり私には…………。

 

 

「うーん、ルビーの動き方、なんか倒れるような準備をしているみたいだね」

「…………っ!」

「転ぶのを恐れたら、もっと転んじゃうものだよ?堂々と、胸を張って立つの。大丈夫、ママ(アイ)を信じて?」

 

 

 ……ああ、その言葉で、私はどれだけ救われるか。

 ママのように、アイのように、あんな風に動けたらどんなに気持ちいいか。

 もっと動け私の体!あんな風に、自由に!!

 

 

「うん、いい感じ。ママも一緒に踊っちゃお!」

「ママ!楽しいね!踊るの、楽しいね!!」

 

 

 

「…………今日は、見逃そうかな。アクアも混ざる?」

「……………いや、いい」(アイ譲りのルックスに父さん譲りの演技の才能、そしてダンスのセンス……怖い想像をしてしまった)

「そっか、じゃあホットミルクでも入れて寝ようね」

「うん」

 

 

 そうして来たお遊戯会の日、幼稚園児の踊りだからか特段難しいものもなく、ママの振り付けの練習をしていた私にとって簡単すぎるものだった。なんであんなに怖かったのか分からないくらい。

 隣のアクアは、すごい死んだ目で踊ってる。普段から無表情だけど、なおさら『無』って感じ。なんか目の中の星が黒く輝いてない?気のせいかな?

 そうして踊っていると、保護者席の隅の隅の方で、何やら手を振っている人が目についた。

 頭を抱えているミヤコさんと、その隣に帽子、サングラス、マスクをつけた全身不審者の──

 

 

(ま、ママとパパあぁぁぁぁぁ!!!?)

 

 

「あっ、こっち気づいた感じ?」

「あんまり声を出すと気づかれますよ。大丈夫です、このビデオカメラは最新機種ですので鮮明に二人の姿が映ってますよ」

「ああ、また社長にどやされる……」

 

 

 アクアの方をばって見ると、アクアも気づいたのか顔が見たこともないくらい真っ赤になってる。というか二人むしろ目立ってるからね!?近くの親御さん達中々踊りに集中できてないからね!?

 正直なんで来てるのとか、社長に怒られちゃうとか、その変装なにとか、周りにバレちゃわないとか、色々言いたいことはある。

 

 

 でも、それでも、めっっっっっちゃ嬉しい!!!!

 

 

 

 

「あらいい笑顔。私よりいい笑顔かも」

「僕たちも負けていられませんね」

「なんの対抗心ですか」

 



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星野アイ

⭐︎⭐︎アイside⭐︎⭐︎

 

 

 

 仕事も順調に進み、フォロワーも100万人の大台を突破した。世間は私を見ていてくれている。だけど……最近、本当にこのままでいいのかなって思ってしまう自分がいる。

 

 

「全く酒がうめぇな!ほら新居祝いだ!飲め飲め〜!」

「わぁ、森伊蔵だ。赤兎馬もある」

「ダメですよ。アイさんが二十歳になるのは来週。もうちょっと我慢してください」

「かぁー!ちょっとくらいいいじゃねぇーか。ほら、金剛も飲むか?」

「もっとダメです。自重してください」

「俺の時なんかもう飲んでたがな!ガハハハハ」

「兄さん……」

(うお、十四代の本丸もある。久しぶりに飲みたいな……)

「アクア?何物欲しそうな目でお酒見てるの?ダイヤくん以上にダメだからね??」

「…………わかってる」

(お兄ちゃん、ちょっと不貞腐れててウケる)

 

 

 そうして宴は進んでいく。いつも言ってる社長の夢を改めて聞いたり、ミヤコさんがその凄さを語ってみんなで驚いたり、それでみんな嬉しそうにするから私も嬉しそうにする。

 子供達と一緒にオレンジジュースを飲んでいるダイくんを見ながら、彼との出会いに思いを馳せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私とダイくん、斉藤金剛くんとの出会いは、私が社長の誘いに乗ってアイドルになってから数ヶ月経った時だった。なんてことのない、事務所での顔合わせの時だ。

 

 

「こんにちはー」

「こんにちは」

 

 

 なんて、ありきたりなものが私達の第一声だった。

 なにやら佐藤?社長の実の弟で私達と同じく芸能人らしく、最近私たちのレッスン場の近くで撮影があるのでここにしばらく住むらしい。

 実際人一人くらい住める程度の設備はあるし、私はともかく他のメンバーも彼のファンだったこともあり快く歓迎された。子役とは言っても小学生とアイドルなんて間違いが起きるわけもないしね。今思えばやろうと思えばヤれるっていうことがわかったけど。

 私自身彼のことは何とも思っていなかったし、向こうも大して印象はなかったはずだ。……いや、何とも思っていないのは嘘かも。今にして思えば、こっちに来てすぐに、まだちょっと馴染めていないB小町()のメンバーと楽しく会話をしている彼を見て、多分ちょびっとだけ嫉妬していたんだと思う。今は逆の意味で嫉妬しそうだけどね。

 

 そんなちょっと仲良くするには遠い関係の中、ある日彼と二人っきりの時があった。わざわざ話す仲でもないし適当にエゴサでもしよっかなと思っていると、向こうの方から話しかけて来た。

 

 

「えっと、アイさん、でしたっけ」

「そうだよー。ええと……加藤くんだっけ?」

「斉藤です……なんでアイドルになったとか聞いてもいいですか?」

「うーん?」

 

 

 普段の私なら、ほぼ初対面の相手には当たり障りのない嘘をついただろう。考えるよりも先にその場に沿ったことを言う、嘘つきな自分がいつものように適当なことを言うだろうと思っていた。

 でもなぜか、この時は自然と『本当』が出てきた。

 

 

「誰かを愛してみたいから」

「え?」

「嘘でも愛してるっていえば、それが本当になるとなると思ったから…………なんてね」

 

 

 そう言って誤魔化すように席を離れると、彼が私の腕を掴んできた。その目の中に薄暗く輝いてる星は揺らいでいた。

 

 

「僕と、一緒です」

 

 

 そう語った彼の一生は私とはまるで正反対で、それでいて凄惨なものだった。

 彼の母親は、彼のことをそれはそれは溺愛していた。とある財閥と深い関係で、お金も権力も潤沢にあったという。父親が彼の生まれる前に他界したことも影響しているかもしれない。

 美味しい食事を与えられ、綺麗な服を着せてもらって、好きなものを与えて温かいベッドで子守唄を聞かせながら寝かせていた。全部全部、私が体験出来なかったもの。

 何か欲しいと言った次の瞬間にはそれが用意されていて、何もかもが思い通りだったという。芸能界入りのきっかけも、なんとなくやりたかったからという理由で入ることが決まり、その舞台もすぐ用意されたんだって。

 その愛情はとどまることを知らず、まるで真綿で首を絞めるかのように、溺れるほどの愛を彼に惜しみなく与えていた。たったそれだけなら、私も羨ましいっていう感想で済んだのかな。

 

 

 普通ならそれで天狗にでもなりながら成長してそうなものだけど、そうならなかった、彼が正気に戻ることができた瞬間があった。

 いつものように母親と帰っている最中、ふと公園で遊んでいた子供達のサッカーボールが目に止まり、ただ無邪気に「あれがほしい」と口に出た。

 その次の瞬間、母親は笑顔で「いいわよ」といい、彼らからボールを奪って渡して来た。まるでそれが当たり前かのように。後ろで泣いている子供達のことがまるで存在していないかのように。

 その瞬間、彼はこれ以上ないほどの恐怖を感じ、すぐさま「いらない」と言って子供達に返し、その場を去った。母親は終始にこやかな笑顔を浮かべ、ボールを返した時は不思議そうな表情を浮かべていたという。

 

 その時から、彼の我儘はなりを潜めた。芸能界は良くも悪くも大人達の集まりで、厳しい世界だったからこそ彼にとって救いになったのかもしれない。

 そこで過ごしているうちに自分の起用が実力ではなく母親の圧力だったこと、初めてのオーデションもほぼ八百長だったこと、自分への賛辞のほとんどが母親へのごますりだったこと……芸能界の闇に気づいた彼は、齢5歳にして、大人にならざるをえなかった。

 そこから彼は自分の力でも生きられるようになるべく、様々なことを試すようになった。演技力やコミュ力はもちろん、運動能力や家事といった技能も身に着けていった。それに危惧したのは母親で、自分から離れると感じた彼女は彼を縛りつけるようにさらに愛と言う名の呪縛を彼に課した。

 成長した彼も無抵抗でやられるわけではないので、初めて母親へ反抗した。

 

 

『僕をこれ以上甘やかさないで!』

『…………そう、それなら仕方ないわね』

 

 

 分かってくれた!そう思った次の瞬間目が覚めたら、彼の腕と足には枷がついていた。

 暗く薄暗い部屋で、愛の言葉と一緒にご飯を与えられる毎日。その甘ったれた狂った愛情に、思わず吐きそうだったという。『これはあなたの為なのよ』まるで洗脳のように幾度となく繰り返し囁かれたらしい。

 実際に吐いたこともあるらしいけど、心配という名の愛に晒されただけだったので、それ以降はご飯を口にしなかったり、吐きそうになっても飲み込んでいた、そんな日々を過ごしていたと言う。

 異常に気づいた当時の社長が警察に届け、家宅捜索が入るまでそれは続いていた。近親相姦の一歩手前の段階で救出され、問答無用でその身柄を確保したらしい。

 流石の財閥も芸能界にたった二人のために喧嘩を売るわけもなく彼の元母親はお縄につき、彼も保護された。

 後の健康診断で分かったことだが、彼は本来違う家庭の子で、子供が出来る前に夫が他界してしまい、病院でたまたま見つけた生まれたばかりの彼を母親が誘拐して育てていたらしい。今までの健康診断はお金に物を言わせて隠ぺいしていたらしい。それらの事実も浮き彫りになったんだって。

 本当は社長(自分を助けてくれた人)の弟だったらしく、何か兄弟愛のようなものが働いたのかもしれないと、目の前の彼はまるで他人事のように話していた。私はその姿を見て、初めて人と話してて愛想笑いが出なかった。

 

 私と同じで一見普通に見えるけど、その実どうしようもなく歪んでいて、自分を嘘で塗り固めているんだろう。多分そうしないと、彼はとっくのとうに狂っていたのだろう。もしかしたらそのまま命を絶っていてもおかしくないくらいには壮絶な過去だったのだろう。

 この話が嘘で、私の気を引くための作り話ならどんなによかったか。嘘つきな私は、彼の話が本当だということが嫌が応にも分かってしまった。

 今も子役として芸能界に関わっているのは兄への恩返しのためのお金集めともう一つ、偏愛でしか愛されなかった自分でも『愛』を知りたかったからだという。実際芸能界に入った時の評価は母親ありきの物だったので実際の自分を評価してもらうため、という目的もあるらしいけど。

 実際今も天才子役として活躍しているのだから、彼は名実ともに天才子役になったのだろう。あの時の経験も無駄じゃなかったですと言った彼の目には、確かに目の中に黒い星が浮かんでいた。

 別にどっちが不幸か勝負なんてするつもりは毛頭ないけど、彼の話は確かに私の心を揺さぶって、彼の目が私の目に映った。その時、初めて彼という存在を認識したと思う。

 

 それからというものの、ついつい彼のことを目で追ってしまっていた。ふとした時に話すと、やっぱり私達は似たもの同士で会話も弾んでいた。私の事情も話したり、一緒にご飯も食べたり、どうすれば『愛』を知れるのか作戦会議みたいなこともしたっけ。

 気づいたら彼のことを考えていて、なんか彼と他の人が話しているのを見てるとモヤモヤして、とにかく心が落ち着かなかった。本人に直接聞いて見ると、顔を真っ赤にしながらそれを教えてくれた。 ふ〜ん?これが『恋』っていうのか……。これが……そっか……えへへ、これが恋なのかぁ……!

 それから私は彼に積極的にアピールをした!だってこれが恋なら、誰かを愛せる機会なら逃すわけにはいかない!

 もちろん彼の事情が事情なので一線は弁えつつもガンガン押せ押せで過ごしているうちに気づいたら恋人になってて、お互いの好きなところを見つけあって、いつの間にかアクアとルビーが生まれた。正直彼の境遇から考えて一番しちゃいけないことをしちゃったと今でも思っているけど、二人を産んだこと自体は後悔していないしそれでも許してくれた彼には本当頭が上がらない。だから一生かけてこの三人を幸せにするって、あの日私は誓ったんだ。

 

 

 …………でも私はまだ「愛してる」の言葉を出したことがない。そして、ダイくんからも聞いたことはない。

 これが好きで、恋なのはなんとなくわかる。でも『愛』なのかは、ちょっと分からない。どっちかっていうと、『依存』とか『同族意識』とか、そっちの方が近いのかも。

 ううん、多分口にするのが怖いんだ。もしその言葉を言った時それが嘘だと気づいてしまったら、これが『愛』じゃなかったら、多分私達は離れ離れになってしまうだろう。

 だって私達はアイドルで子役で、こんな関係は本当はダメで、それでもそれぞれ『愛』を確かめるために生きている。それが違うのなら、これ以上一緒にいる意味がなくなってしまう。アクアとルビーとも離れ離れになってしまう予感がある。そうなるのは、本当に怖い。

 

 だから今日もひた隠す。嘘をつく。騙し通す。この感情が、本物の愛になることを信じて。そんな時が来ると信じて。

 …………もしその代償が訪れるとしても。

 

 

 

 

 

 今日はドーム公演当日、私と子供達は新居で社長達が来るまで待機することになっていた。

 ダイくんは今まだお仕事らしく早朝に出かけていった。なんとかドーム公演を生で見るべく溜まっている追い込みしているんだって。そう言ってくれたことを思い出して、ついついにやけてしまう。

 

 

「アイ、ニヤニヤしてるよ」

「えっ?う〜ん、本番まで戻るかな〜」

 

 

 アクアからの指摘を受けて頬をむにむにしても、口角はまだちょっと上がったままだ。自然な笑顔ができるようになったのはいいけど、こういう弊害があるのはちょっと考えものだ。こんな顔でも私は可愛いけど、ダイくんやファン達にだらしないって思われたらど〜しよ〜?

 

 そんな時、ふいにピンポーンと、玄関のチャイムが鳴った。

 

 

「社長達かな?はーい」

 

 

 アクアと寝ているルビーを残して、玄関に向かう。

 心のどこかで胸騒ぎがするも、ドーム公演への緊張とワクワクで、私はそれに気づかなかった。

 そして、玄関を開けると──

 

 

目の前いっぱいの花束が視界を埋め尽くした。




次回で完結です


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斉藤ダイヤ

 僕の人生は、ただの玩具にすぎなかった。いや、あの人の愛情を注ぐだけのコップって言った方が正しいかな。

 それが受け止めきれなくて壊れたものだから、表に出さずに修理しようとしたのだろう。

 

「ああ私達の金剛(ダイヤモンド)なんであんなことを言ったのかしら。おかしいわよねこんなに愛しているのだから。あなたはそれを受け入れるだけでいいのよ何か不満があるのかしら。あの時の子供?一緒に共演した男?突然握手してきた監督?なんでも言いなさいあなたの嫌いな人はいつでも消してあげるわ。だって私達の愛する息子なんだから当然よね。特にあなたがそれにお返しする必要もないのよだってそれが親子の絆というものなんでしょう?強いて言えばあなたも私に情を返してほしいわ。いえもう返してもらっているわね何言っているのかしら私。これも全部あなたのためなのよ?こんなところに監禁しているのだって、ご飯を抜くのだって、あなたを愛しているからなの。私だって辛いのよ?でもあんたも少し悪い子だったってお母さん思うの。だって誰かに唆されてあんなこと言ったのでしょう?私達の金剛(ダイヤモンド)はいい子だから、あんなの気の迷いよね。ああいっそのこと全部消そうかしら。だってあなたを惑わす物は全て消した方が手っ取り早いでしょう?大丈夫お母さん愛する息子のためならなんだってできるから。ねえあなたもなんとか言って?愛しているっていって?お母さんでしょ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?」

 

 

 

 そんなことを毎日毎日聞かされて、僕もだんだん狂っていたのだろう。いや、もしかしたら元々だったかもしれない。

 あの人の狂言を聞いてよくしゃべるなあとか、監禁されて躾と称して泣きながらご飯を抜いてくるのも不器用だなあとしか思えなかった。

 それでも身体の方はだんだん限界を迎えて、体は痩せ細り毎日のように嘔吐して生きる気力もだんだんなくなってきて、そんな僕を見たあの人はとうとう発狂してついに親子としての一線を越えようとしたところで助けが来た。

 

 

『あんなに愛してあげたのに!!!』

 

 

 それが僕が聞いた、最後の母親の言葉だった。

 確かにあの人は、僕のことを愛してくれたと思う。だって結局は僕とあの人は血の繋がらない他人だったわけで、それなのにあんな大金を使えるのはどうしたって愛があったんだろう。

 だからって連れ去られるあの人をどうこうする気は全く起きなかったし、今も減刑してあげようという気持ちは全くない。でも、もっと苦しめとか、報いをうけろだなんて思ってもいない。ただただあの人に対しては無感情なんだ。曲がりなりにもあそこまでした人に特に心を動かさないなんて、やっぱり僕はどこか欠けている人間なんだなと思う。

 

 それから僕は色々なケアをされながら壱護さん、兄さんの世話になった。僕の本当の両親が死に、その遺言で僕のことを知って今まで探していたらしい。

 ただ兄さんも当時は大学生で自分も夢を叶えるために色々奔走していた時期でもあったので、そんな時に僕が来て申し訳なさでいっぱいだった。兄さんは疲労なんか微塵も見せなかったけどね。

 流石にお世話されっぱなしはまずいと思って、まず家事を色々手伝ってみた。掃除から始まり、料理とか洗濯とか、やったことはないけれどこの体の覚えは非常に良いので習得するのはとても速かった。

 僕は今までお世話される側で人のお世話をしたことなんかなかった。それがすごい新鮮で、僕の心を確かに慰めてくれたのだ。兄さんは「絵面がまずい……」とか言って頭抱えていたけど。結局は僕のやりたいことを止めはしなかった。多分あからさまに心配されたらあの人のこと(トラウマ)を思い出して吐いちゃっていたのかもしれないので、そういう細かな気遣いが今まで本当に助かっている。絵面に関しては、うん、アクアくらいの子が家事してることになるもんね。ごめん。

 

 またある程度回復した時期くらいで兄さんの夢を知って、僕はまた芸能界に復帰することに決めた。兄さんはとても真剣に聞いてくれて、色んなメリットデメリットを上げて検討してくれたけど、決して頭ごなしに否定はしなかった。

 多分兄さんの負担となっているからせめて金銭的な援助のため、なんて理由なら有無を言わせず反対しただろう。「そんなこと年下にさせられるか」とか、プライド面を全面に出しながら僕を丸め込んだのかもしれない。それでも兄さんが許可を出したのは、明言はしていないけど僕自身やりたいことがあると感じ取ったのだろう。

 

 僕の夢は、誰かを愛してみたい、ただそれだけだ。

 アイさんには『愛』が知りたいと言ったけど、実はちょっと違う。むしろ僕は『愛』を知りすぎてしまった。あの人に愛されすぎたせいで、普通の感情はあるのにこと愛することに関しては分からなくなってしまったのだ。

 この芸能界は色んな『愛』が渦巻いている。芸能人同士で『愛』が成立することもあれば、『愛』のせいで人生が絶たれることだってある。そんな多種多様な『愛』を間近で見れるからこそ、僕は芸能界へ帰ってきたのだ。

 不幸中の幸いともいうべきか、あの人といた経験は子役をする時には非常に有用だった。愛を注がれすぎたが故にどうすれば愛されるのか体が覚えているので、どうすれば人に愛されるように、魅力的に見てもらえるかなんて僕にとっては日常茶飯事の行動だった。

 芸能界の『愛』は濃いようで薄い。たまに気持ち悪くなるほどの愛を僕に向けてくる人もいたけどそういうのは上手く立ち回って遠くに置いたし、ほとんどが打算的な関係で僕に近寄ってきたので、むしろそういう存在の方がありがたかった。後々聞いた話だけど、兄さんも兄さんで弱小プロの社長なりに危ない輩は遠ざけてくれていたこともあって、順調に僕の名声はどんどん轟いていった。

 

 しかし、実際に『愛』するというのは思ったより難しく、周りに聞いたところ恩人とはいえこの年齢で全ての家事をお世話をするのはやはり『おかしい』という。実際兄さんが結婚するまではお仕事しながらも全て家事をしていたし、今も稼ぎのほとんどを兄さんに渡している。直接言ったら絶対受け取ってもらえないので、まだ小学生だから大金は受け取ってほしいとか、芸能界で培ったコミュ力を駆使してありとあらゆる手段でお金を渡している。今のところ渡せなかったことはない。

 そんなことをしているのだから、確かに僕は兄さんのことを『愛している』はずだ。でなければここまで心を砕くことなんてしない。色々調べてみると、僕には未だにあの人の呪縛がかかっていた。

 僕が送る愛は際限がなくなってしまっており、いわゆる『重い』のだという。それもとてつもなく。確かに新婚祝いに新居を贈るのはやりすぎだったと思う。ちなみに僕一人じゃ広すぎるという理由で二人に住んでもらい、僕の家と言う名目ではあるけどほとんど帰らずに二人に明け渡している。そんな理由もありミヤコさんとはじめて顔合わせをしたのはアイさんとの子供ができたからだったりする。

 ともかく、自分があの人と同じことをしてしまうかもしれないと気づいた僕は、なぜかこの『愛』の重さを変えられるとは思えなく、むしろ一生誰かをちゃんと愛することなんて出来ないと思ってしまった。

 

 だからこそ、普通の『愛』をしてみたくなった。 アイさんは愛を知らないからこそ愛に憧れ、僕は愛を知っているからこそ愛に焦がれた。結論は同じだけれど、その実情はかなり違う。

 そんな僕らだからこそ、アイさんが僕に恋したと気づいた時、本当に驚いたのだ。僕が小学生だからでも、アイさんがアイドルだからでもない。僕らは同類で、愛することも出来なければ恋することも出来ない人種だと思っていたから。

 そもそもアイさんに声をかけたことだって、兄さんが連れてきた人を見極めるためでもあった。他のB小町の人達にもアイさんと似たような話をしたし……ただ、あそこまできちんと過去を話したのはアイさんだけだった。それがなぜなのか、当時は分からなかったけど。

 

 そんな彼女が恋をしたというのは、その対象が僕であっても、なんだか裏切られた気分で、むしゃくしゃしてて、嫉妬をしてしまった。とは言ってもそれを表には出していないけど。

 でもそれは無関心よりよっぽど関係が進む契機となり、彼女からのアプローチを受けているうちになぜか彼女に惹かれていった。彼女のあけすけな感情を、好きというものをぶつけられたことで、僕はどうもおかしくなってしまったらしい。もしくは、あの人に歪められた僕をもとに戻してくれたのかも。

 僕は「愛している」がいえない。それは僕にとっての呪いの言葉だからだ。でも、「好き」くらいなら、なんとか言える気がした。アイさんなら、僕の『愛』を受け止めてもらえる気がした。

 

 それから僕達は恋人という関係になった。色んな話をして、お忍びで色んなスポットを回って、お互いがお互いにバレちゃまずい関係ではあったけど、アイさんは「むしろ燃える!」と言って……確かに僕らの間に『愛』はあったんだと思う。

 そしていつの間にか体を重ねて、妊娠が発覚して初めてアイさんからの好意は気持ち悪くないと気づいた。遅すぎるくらいだなって自嘲したのも今となっては懐かしい思い出だ。

 日に日にアイさんのお腹が大きくなるにつれだんだんとアイさんへの『愛』が増してきて、アクアとルビーが産まれたときも二人にアイさんと同じくらい愛情を注げると直感的に理解できた。そこでようやく、僕はアイさんと産まれてきた子供達を愛することができるようになった、『愛』を知ることが出来たと思えた。

 

 …………だからこそ、「愛している」と、実際に言葉にするのが怖い。

 僕の愛はあの人の呪縛にまだ囚われている。本当に口にしてしまったら、何よりも大切な家族に僕もあの人と同じことをしそうで、その愛で家族を押しつぶしそうで、僕は言葉を紡げない。どうしたって喉奥に言葉がつっかえてしまう。

 だから僕は──

 

 

 

 

 

 

 

「せめて行動で、僕の思う最高に素敵なプレゼントをしようと思いました」

「…………」

「すみません、僕の方も忙しくて、渡すとなると今日しかなかったんです」

「…………」

「友人達にも相談して何が一番いいか考えて、ハートの風船を渡すとか、夜景の見えるレストランでプロポーズとか色々考えたんですけど、こういうベタでサプライズみたいなものが一番アイさんの好みなのかなって」

「…………」

「とはいっても時間が中々取れなくて、こんな大事な日に渡すことになってすみません……でも、なるべく早く伝えないとアイさんに先越されそうな気がしたので

「…………」

「これが僕の気持ちです…………まいったな、泣かせるつもりじゃなかったんですけどね」

「……っ!」

 

 

 アイさんが思い切り抱きついてきた。わずかな震えを感じて、僕も抱きしめる。頭にかかる涙の感触を感じて、やっぱり赤い薔薇108本の花束は失敗だったかな……?これ受け取るにも中々勇気いるよね。準備段階で気づけばよかったかな……。

 

 

「私っ……!私っ……!」

「あー、やっぱり何か間違えちゃいました……?すみません、また日を改めて……」

「違う!違うの!私っ……!嬉しくて…………!!」

「…………本当ですか?」

 

 

 そう言って赤べこのように頷くアイさんがなんだか可笑しくてつい笑ってしまう。

 

 

「今日、実は付き合ってから五年たったんですよ?アイさん覚えていました?」

「ううん!気づかなかった!だって、毎日幸せだったから……!」

「んふふ、そうですか。それは嬉しいなあ…………」

 

 

 

 別に僕はただ花束を渡すためだけに来たわけじゃない。僕はアイさんに伝えたいことがある。

 

 

「アイさん……僕はまだ高校生で、アイさんはアイドルです。でも、アイさんを誰にも渡したくありません。今後、どんな人が現れても」

 

 

 

「僕を、あなたの夫にしてください」

 

 

 

 法律的にも世論的にも、僕達の関係を許しはしないだろう。こんな口約束、反故にすることなんてとても簡単だ。

 ただ、僕はアイさんと確かな関係性が欲しい。確固たる結びつきが欲しい。言葉にできなくとも『愛している』と思われたい。思ってほしい。これが今の僕にできる最大の愛情表現だ。

 辺りが沈黙を包む。抱きしめられていることもあって、アイさんの顔を上手く見れない。

 少しして、突然アイさんが僕と離れる。そのぬくもりが消えて体が一瞬で冷えて、その意味を理解し絶望した途端、アイさんの顔が近づいてきて──

 

 

 

 

 

「これが私の気持ちだよ」

 

 

 

 

 

「ねえ!離して!見えないんだけど!」

「来るなルビー、お前にはまだ早い」

「うっさい子供扱いすんな!(バシィ!」

「ぐっ!?頭は脳震盪の可能性が……ガクッ」

「わ、わああぁぁ…………!あ、あんなところまで…………!」

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎No side⭐︎⭐︎

 

 ドーム公演後…………

 

 

「ねぇ今日のアイめっちゃヤバくなかった!?」「ああめっちゃヤバかった!あんな笑顔見たことない!」「やっぱドームだからかな?」「多分!マジでアイが輝いて見えた!!」「キラキラしてたよね!?まるで星が輝いているみたい!」「バカ、アイは俺らの一等星だって知ってただろ!」「お前泣きながら言っても説得力ねぇぞ」「うるせぇ!ああ、本当この時代に生まれてきてよかった……!」

 

 

 ファンが様々な盛り上がりを見せながら帰る最中、アイと金剛は個室でその様子を見ていた。B小町の面々とは一度別れ、アクアとルビーがいる部屋で改めて感傷に浸っていた。アクアとルビーも大興奮だったが、ライブで盛り上がりすぎて疲れて寝てしまっている。

 

 

「今日、今までで一番良かったですよ」

「うん、私もそう思った。だって〜、あんなことあったんだもん」

「うっ……恥ずかしいのでやめてください……」

「何で〜?かっこよかったよ〜?」

 

 

 うりうりぃ〜♪と金剛を弄るアイは、まさしく今日の主役で、誰よりも輝いていた存在だった。金剛もやったことに悔いはなかったが、様々な準備不足による即興のテンションでしたプロポーズだったので、もう少しかっこよくできたんじゃないかと自己反省していた。

 そして、ある程度ファンたちの様子を見た後、アイがなんとなく持ってきていたビデオカメラを持ち出す。

 

 

「…………動画、録る?」

「……そうですね。社長達ももう少し運営の片付けで忙しそうですし」

 

 

 

 

 

『あ、あー、撮れてるかなー?うん、こういうのも残しておくのもいいかもって、ダイくんが提案したの』

『今日はアイさんの初のドーム公演の日に撮ったものだよ。二人が赤ん坊の頃からたくさん撮っているので、大人になったらこれ見ながら一緒にお酒でも飲もうね。まだ僕お酒飲めないけど』

『その時になったら、私ももう引退してるかなー?あっ、でもルビーはアイドルやってそうだし、親子共演とかしたいからそれまでは続けよーっと』

『アクアは役者かな?いや、頭が良いから医者とかもいいと思う』

『うんうん。それもいいねえ……何にせよ、元気に育っていてね』

『親の願いとしてはそれだけだよ。元気なら、どんな人生を歩んでいようと、僕たちはあなたたちを応援する』

 

 

 未来の二人に向けて言いたいことを言った二人は、一息ついてお互いに寄り合い合う。

 

 

「んふふ……そんなの願わなくても、ちゃんと育ってくれそう。本当にもう、可愛く寝ちゃって♡」

「そうですね……アイさんが妊娠したと言われたときはどうなることかと思いましたけどね」

「うっ、その節は大変申し訳なく……」

「いつまで引きずっているんですか……今こんなに幸せなら、むしろお礼を言いたいくらいです。ありがとう、アイさん」

「そっか……よかったぁ…………」

 

 

 

 

「ねえダイくん」

 

 

 

 

「なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

「あぁ、やっと言えた……ごめんね、子供できて、プロポーズの後に、こんなの、順序おかしいよね……!でも、この言葉は絶対、絶対嘘じゃない……!嘘じゃないよ……!」

 

 

 

 

 

「…………本当は、僕から言いたかったんですけどね」

 

 

 

 

「僕も、愛してますよ。アイさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!何回見てもこの時のママとパパ超キュンキュンするー!なんで本当私この時起きてなかったんだろー!?」

「る、ルビー、その辺でやめにしない?ほら、美味しいご飯あるよー?」

「じゃあそれ食べながらもっと見る!お兄ちゃんもう一回巻き戻して!!」

「まかせろ」

「アクアもうやめて!これで何回目!?ってかちょっとダイくん!なんでカメラ止めなかったの!?なんでここ編集してないの!?」

「安心しろ母さん、ありとあらゆるところにバックアップはとってるからいつでも再生可能だ」

「どこに安心しろと!?」

「というかママもパパも全然変わんないねー!まだアイドルとか出来るんじゃない?」

「え、えー?いやいや、アイドルになった目的も達成、お金も一生分稼いだし、ルビーと親子共演もした!もう未練はないよ〜」

「僕も今教師していて充実しているからいいかな。芸能人ばかりだから僕の経験も十分役に立つし。なにより一番手のかかった生徒に比べれば、みんないい子で助かっているよ」

「そ、そうなんだー!あ、あー!みてみて!パパがママの肩に寄りかかった!私ぃ〜!世界一尊い光景見逃してるぞー!!起きろー!!」

「うん、推しを肴にして飲む酒がうまい」

「あー!私もこんな恋してみたいー!!」

「「「ルビーにはまだ早い」」」

「口を揃えて何なの!?私もう二十歳なんだけどー!?」

 

 

 そんな幸せな声が家中に響く。この平穏がいつまでも続くようにと、神様に届くように。

 

 

「ルビー姉うるさい」

「あー、起こしちゃった?ごめんねぇ」

「何見てたの?お父さんとお母さんの動画?」

「あ、そうそう!真理愛(まりあ)も見てみる?ちょーきゅんきゅんするよ!」

「別にいい。明日斉藤と遊びに行く予定だし……アクア兄、牛乳ある?」

「はいこれ。飲んだら寝ろよ」

「…………アイさん、なんで笑っているんです?」

「そういうダイくんだって笑顔じゃん!んふふ、いやあなんだか、すっごく愛おしいなあって!」

 

 

 彼ら一家の人生はむしろこれからだ。しかし、いつか苦難に当たる日が来ようともこの家族なら乗り越えられるだろうと、アイ達はそう確信したのだった。

 




これにて本編は一旦完結です。処女作なのでいくつもいたらぬ点はあったと思いますが、これまでのご愛読ありがとうございました。
アニメの第一話で衝撃を受け、書きたいところは書けたのかと思います。これ以降は、原作軸でのお話ややまだ書き足りていない部分を描く番外編となります。

改めて、多くの閲覧、評価、ご感想、誤字修正など本当にありがとうございました。



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番外編
人物紹介


ストックがなくなったのでお茶濁し回です。出来上がったら続きも今日中に投稿できたら、いいなあ。
特に本編とは関係なく私情マシマシの人物紹介なので、読み飛ばしていただいても構いません。

随時更新していきます


斉藤金剛→星野金剛

芸名:斉藤ダイヤ

本作の主人公。

見た目はアクアの少し大きくしてより可愛らしさに振った感じ。

目の星は両方にあり、当初は暗く輝いていたがアイと出会ってからは徐々に浄化されて今は白く輝いている。

愛を知りすぎたがゆえに普通の愛を知りたかった少年。本来なら普通の子供であったが、家庭環境ゆえに早熟せざるをえなかった人物。

原作軸の星野一家の不幸をあらかじめ一身に受けたので、これから家族みんなで幸せになる未来が確約してされている。というかなれ。

アイに出会ったことで、人のために生きていた彼の人生は、ようやく自分の人生を歩めることになる。

原作時には既に芸能界を引退、しかしそこで培った繋がりを切るにはお世話になりすぎたので、ある高校の芸能科の先生として後進を育てることに。本人の愛したがりの性格も幸いしてとてもいい先生になる。

ちなみに身長が伸びなかったのは幼少期の栄養失調や心が当時のまま成長していなかったから。これからすくすくと伸びていくが、作者の策略により子供達には全員身長抜かれるしアイにも勝てる未来はない。

最近の悩みはルビーにも身長が抜かれそうなこと。

 

 

 

 

 

星野アイ

本作のヒロイン。

愛を知らないがゆえに誰かを愛してみたかった、ごくごく普通の少女。それが母となり、愛を知り、今後は一人の女性としてさらなる幸せを追い求めていく。

裏設定として、『愛』を知らなかったのでタガが外れると襲ってしまうくらいには不器用。それでもその愛は間違いではなく、自分本位ばかりではないいい子。

末っ子の真理亜を産む前にB小町を脱退、次のステップのためと称して育休を取り、産んだ後は『アイ』としてさらなるステージへと目指していく。

もう一生分稼いで知りたかった愛も知ったのでアイドルを続ける理由もないが、ファンのことも愛していること、念願である親子共演したいがために原作開始時でも未だに伝説のアイドルとして君臨している。

ちなみに親子共演出来たらスパッと引退して子供達を思う存分可愛がるつもり。授業参観で心底驚かれる未来が待っている。

身長も伸びていき、すらっとした体型はまさに国民的アイドルに相応しい姿になる。最近楽しいことは夫への身長マウント。

 

 

 

 

 

星野愛久愛

復讐に進まなかったただ前世があるだけの子供。

本作では原作軸より諸々弱体化しているが、それでも幸せな人生を送れているのは間違いない。

将来は役者に進むか医者に進むか非常に贅沢な二択が用意されている。それを決めた時、初めて前世との折り合いがつくのかもしれない。

アイドルとの結婚は一番の成功例が身近にいるので、某重曹ちゃんは百八本のバラの花束を渡されながらプロポーズされる未来が約束されている。しかしそこに至るまでがとてつもなく遠い。頑張れ重曹ちゃん!

最近は有馬といることが家族といる次くらいに楽しいと気付き始めた。

 

 

 

 

 

星野瑠美衣

親の背中を見て憧れたただ前世があるだけの子供。

原作通りB小町を結成し、後々元B小町のアイとのコラボが実現する。

後々前世の初恋相手の最期を知ってしまいショックを受けるも、温かい家族に支えられて闇堕ちは回避する。

初恋が初恋なため中々吹っ切れないものの、母親の姿を見て恋愛自体はしてみたい欲は普通にある。

ちなみに両親のような恋愛が基準になっているので、彼女と付き合うにはかなり高いハードルになっている。ついでに母父兄伯父伯母全員の合格をもらわないといけない。頑張れ未来の彼氏くん。

最近は兄と同じメンバーの恋愛模様を見ることが楽しくて仕方ないらしい。

 

 

 

 

 

有馬かな

この世界線では大勝利な原作ヒロイン。作者の最推しなのでかなり優遇されている。

この世界線ではオリ主と同じ天才子役の名を冠しているだけありその実力も強化されている。そして早めに挫折を経験したこともあり大成した彼女は、一大役者として歴史に名を残すことになる。

原作よりアクアが擦れてなく、父親のおかげでパーフェクトヒューマンになったので原作より恋愛感情を早く認識するかもしれない。しかし当の本人は朴念仁なので「有馬かなは告らせたい〜天才子役の恋愛頭脳戦〜」が開幕する。

最近の悩みは自分の最推しかつ憧れの人が好きな人の父親という情報量の多さで脳がバグっていること。

 

 

 

 

 

星野真理愛

星野家次男。女の子っぽい名前だけど確かに男の子。

オリ主が結婚可能年齢なった瞬間に出来た子供。前世の記憶はなし。

名前の由来は感想でも予想されていたあのOPから。アクアマリンの最高峰がサンタマリアっていうらしいのを聞いて、作者はコイツを出すことを決意した。

国民的アイドルの母と世紀の天才子役の父を持ち、前世持ちの兄姉を持っているので自己肯定感が少し低いが、こいつもコイツで才能溢れるやべー奴。

最近の悩みはまだまだ有名な両親が父母会で無双することと、幼馴染の親友が姉にぞっこんらしくて頭抱えている。苦労人ポジションかも。

あとでこの子メインの話も書くつもり。

つい先日兄達の一つ上の女優に一目惚れしたようで……?

 

 

 

 

 

斉藤壱護

オリ主の兄。

オリ主の境遇もあって全力でお兄ちゃんを遂行した結果、多分一番原作より強化された人。具体的には次話を読んでほしいです。

アイ生存や天才子役の弟が自分の事務所に所属したこともあり、かなり大手のプロダクションへと成長する。そしてそれを十分に経営出来るくらいには敏腕社長へと進化を遂げた。

そのせいでルビーのB小町結成イベントの難易度がめちゃめちゃ高くなっていたりする。

しかし一癖も二癖もある星野一家のお世話をしていたミヤコさんには徐々に頭が上がらなくなっている。

最近の悩みは一人息子が自身の姪っ子兼看板アイドルの娘兼次世代の稼ぎ頭筆頭にお熱なこと。最近の口癖は「従兄弟同士の結婚は法律上ギリセーフだけども……!」

 

 

 

 

 

斉藤ミヤコ

オリ主の義理の姉。

作者の2番目の推しなのでこの人も幸せになる(断言)。

当初社長夫人になれたと思ったら唐突に不祥事の塊みたいな子供を育てることになった大変不憫な人。しかし自分の最推しの子供なのでモチベ的にも手間的にも原作より数倍マシになっていた。

アクアとルビーがある程度大きくなった段階で自分も子供が欲しくなったので、晴れて長男が授かることになる。同じタイミングで星野夫妻も末っ子を授かったことに驚きを隠せない。

どちらも普通の子供で夜泣きなどが大変だったけれども、前世持ちという癖ありすぎの子供をお世話した経験もあってしっかり育てることが出来た。

経理を担当していることもありお金の管理にはかなり厳しい。普段はちゃらんぽらんな夫や親バカ炸裂している星野夫妻に雷を落とすことができる貴重な人材でもある。

最近は「うちの事務所、こと恋愛に関しては厄ネタ抱え込みすぎね……」と遠い目をしている。



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兄は弟の幸せを唯願う

時系列的には、アイの出産発覚後にそのことを話すために金剛の兄の家に行ったところら辺です。


「ねー社長、いま時間ある?」

「あ?まぁあるが……って土下座!?おいおい何してんだこんなとこすっぱ抜かれたらどうなるか──」

「現在斉藤金剛くんと交際しており、肉体関係も持っています。そしてつい先日妊娠が発覚しました」

「…………は?」

「そこで義兄さんには私と金剛くんとの交際とお腹の中の子供の出産を認めて──」

 

 

 

「ふっざけんな!!!!!!!」

 

 

 

 まだ日が上りきっていない時で小さい雑ビルの一室、苺プロにて怒号が響く。その部屋には、怒気を放っているその声の主である斉藤壱護と、その前で土下座しているアイがいた。

 その怒声を聞いて、アイに言われて外で待機していた金剛が急いで中に突入する。そしてその場面を見て一瞬でアイのやろうとしたことを理解し、言われるがままに外で待っていたことに後悔した。

 しかしその後悔は長くは続かない。というのも、未だ土下座をやめないアイに向かっている、今まで見たこともないほどブチ切れている兄を見たからだ。そんな後悔より彼を止めるべきだと一瞬で判断し、暴走寸前の兄を羽交い締めする。

 

 

「兄さん!落ち着いて!」

「金剛の子を孕んだぁ!?テメェそんな人格破綻者(キチガイ)だったのかこのクソ──」

「兄さん!!」

「止めんな馬鹿野郎!いくらコイツがうちの稼ぎ頭だろうと、地獄に送んなきゃ気がすまねぇんだよ!!」

 

「いいの金剛くん。社長の怒りはごもっともだよ。むしろこれでも優しいくらい」

 

 

 土下座から顔を上げたアイに、二人は動きを止める。その表情は普段のアイからは感じられない、強い覚悟が見て取れたからである。

 彼女を見つけた壱護や付き合っている金剛ですらそんな表情を今まで見たことはなかった。金剛は歯を食いしばりながら、既に動きを止めた自分の兄をゆっくりと離す。あくまでまた暴走したら抑えられる位置にはいるが。

 

 

「…………すでにアイさんは身重なんです。暴力だけはやめてください……お願いします……」

「…………ハッ!!到底無理な話だ…………が、今はお前の顔を立ててやる。確かにアイドルの顔(うちの商品)に傷はつけられねぇしな……一旦頭を冷やす。だが、お咎めなしじゃいられねぇぞ。わかってんな」

「はい。本当にすみませんでした」

「ケッ、殊勝なフリしやがって」

「兄さん!!……アイさん、大丈夫ですか?」

「私は大丈夫。むしろ金剛くんは社長についてあげて。あんなに他の人のために怒ってくれる人、絶対手放しちゃダメだからね」

「…………はい。でも、あとでお説教ですからね」

「それは……キツいなあ」

 

 

 苦笑を浮かべたアイからいったん離れ、金剛は外でタバコを吸っている自分の兄を見つける。しかし、あそこまで怒った兄を見たのは初めてで、なんて声をかけたらいいのか躊躇ってしまう。

 そんな様子の金剛に気づいたのか、壱護はタバコを灰皿に押し付け、しかし金剛の方を向かないまま言葉を投げかける。

 

 

「あ"ー…………何のようだ」

「いや、えっと、兄さんがタバコ吸っているの、久しぶりに見るなって」

「そうかよ」

 

 

 再び沈黙。今まで芸能界で多くの人に好かれるようになった金剛のコミュ力も、実の兄には中々発揮されないらしい。

 

 

「えーっと、その、アイさんをあんまり責めないで欲しいんだ。僕にも責任はあるし、アイさんだってあんな言い方してたけど……」

「んなこと分かってんだよ。テメェを庇うために私が悪いですよ〜っつーアイお得意の嘘だ。いや、嘘っつーよりそう魅せてきやがった(・・・・・・・・)。俺相手にそんなことしたことにも、それを踏まえたところでアイツのことを許せる気がしねぇ」

「…………そっ、か」

 

 

 アイがなぜ金剛と一緒に社長に報告しなかったのか、もし仮に一緒に報告すると、金剛は必ず自分も土下座して認めてもらおうとしていたはずである。アイはそれを確信していたし、金剛自身そうするつもりだった。

 実の弟に土下座までされたら拒否するにもできないし、なによりそういうのにトラウマを持っている金剛を襲ったのはアイである。いくら合意であってもその事実は変わらないし、そのうえ彼にまで土下座させていたら、壱護は金剛のフォローの前にアイのことを問答無用で殴り飛ばしていただろう。

 そしてなにより、アイ自ら母親になると言っておいて、一番自分たちの関係を認めてもらいたい相手の説得を自分の伴侶に任せていては、子供を育てると言っても説得力がなかった。

 そんなアイの思惑を全て見通したうえで、なおも怒りが収まっていない様子に、金剛はどうフォローしたらいいかこの11年間で学ぶことはできていなかった。

 そしてまたいくらかの沈黙の後に、壱護が口を開いた。

 

 

「…………あーおい、アイとは、その、なんだ、仲良いのか?」

「…………そうだね、少なくとも、兄さんに認めて欲しいくらいには」

「…………チッ」

 

 

 その返答をした金剛の顔は実に幸せそうで、まるで後悔をしていない様子を見て、壱護は再度タバコに火をつける。まるで己の無念を煙に巻くように。

 

 

「俺は、お前にただ幸せになって欲しいんだ」

「うん」

「お前が愛情恐怖症なのも知ってる。性行為なんてもってのほかだ。だからお前のためなら、心配する姿も見せないようにした」

「うん」

「そんなちんちくりんな体じゃ大人にゃ抵抗が難しいから、クソみたいな性癖している奴らを近寄らせないよう手を回していたんだぜ?お前はどうやらそんな奴らを引き付ける才能もあるらしいからな」

「一言二言余計だけどね……そんなことしてたんだ」

「ばーか、俺ぁテメェの兄貴だぞ…………まさか、よりにもよってアイがそんな奴らの一人でそのうえやらかすなんて、思ってもみなかった」

「アイさんはそんな人じゃないよ」

「んなこと知ってる。だが、状況証拠的にそう考えるしかねぇんだよ………クソッ」

「…………許されるようなことじゃないのは僕もアイさんもわかってる。でも、たった一人の家族だから、兄さんに認めてほしいんだ」

「……………………」

 

 

 それが現実逃避と知りながら体にニコチンを染み渡らせて、ぼんやりと、空に舞い上がる煙を見つめる。そのまま煩わしい心もつれていってくれたらいいのにと、柄にもなくそう思った。

 改めて、自分の愛しい弟の顔を見る。そして、出会ってからとは比較にならないほど綺麗に輝いている目を見つめて、俺も腹を括らなきゃなと思い真剣に言葉を繰り出した。

 

 

「もう治ったのか?」

「ううん、多分まだ……今でも兄さんの言葉が少し辛い……そんなことされていたっていう罪悪感からかも」

「その冗談笑えねぇぞ…………震えてんぞ」

「けど、それが愛されている証拠だって今はもう思えるから、悪くない気分だよ……兄さん、ありがとう。今までも、これからも」

「…………全く、いつの間にか大きくなりやがって……クソ」

「わっ」

「お前が幸せなら兄さんは何も言わないよ…………本当、治ってよかったなあ……!」

「…………顔見えなくても泣いてるの分かってるからね。あと、あんまりタバコ吸うと寿命縮むから程々にね」

「今日くらい勘弁しろ…………ったく、兄離れが早えこって」

 

 

 その後少しして、二人は部屋に戻った。ソファに座っていたアイがそれに気づくと立とうとするも社長が楽にしろと言われそのまま座った。

 そして「一度しか言わねぇから耳かっぽじって聞け」と前置きをして、壱護はアイに言い聞かせた。

 

 

「一つ、絶対育児放棄なんかするな。俺らも可能な限りサポートする。産むって決めたんならテメェがどれだけ売れっ子アイドルになろうが子供を蔑ろにするな」

「うん、産むって決めた時からその覚悟はできてる」

「一つ、子供は勿論、金剛との関係も必ず隠し通せ。バレたらその時点で俺ら全員の人生が終わる。嘘は得意なんだろ?」

「言うね……自慢したい気持ちはなくはないけど、それが必要なら我慢する」

「一つ、金剛()を悲しませたら殺す。今でもアイツの愛情恐怖症は完治してねぇしまだ不安定な状態だ。もし仮にでも無理矢理襲ったと分かったら楽に死ねると思うなよ。合意の上だからこそ今は首の皮一枚繋がっている状態だって自覚しろ。少なくとも俺とお前の信頼関係はマイナスに限界突破してんだ。覚悟しとけ」

「それは勿論。信頼取り戻せるように頑張るね」

 

 ある程度母親として必要な心構えを一通り言った後、一息ついて彼の兄としてでもアイの社長としてでもなく、長年アイの面倒を見てきた斉藤壱護として、彼女の頭に手をのせる。

 

 

「そして最後……お前も幸せになれ

「え?」

「元々妹みたいなモンが義妹になっただけだ。そう変わりはしねぇよ……せいぜい、俺の弟のついでに幸せになりやがれ」

「っ〜〜〜〜!!!ありがとう社長!!大好き!!!」

「ばっ、急に抱きつくなオイ!!激しい動きは赤ん坊の方にも負担が……おい金剛なんだその目は兄に向ける目じゃないよな!?ハイライトどこ行った!?なんか目の中に星が黒く光っているように見えんぞ!?ちょ、アイ早くどけ!!や、やめ、話せばわか、あ、アーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

「あー、酷い目にあった……」

「親しき仲にも礼儀あり、です!アイさんの頭をなでるなんて、まだ僕もしてないのに……アイさんも、こんな軽率な行動は控えてください!そもそも、さっき僕を置いてったことまだ怒っていますからね?」

「ご、ゴメンナサイ……」

「それは一旦後だ。それよりとっととアイの出産計画を立てるぞ。まず産婦人科だが、宮崎の病院にツテがある。口も固い奴もいるし年寄りも多いところの病院だから、アイの人気度もここら辺に比べりゃ少ないだろ。いったん掛け合ってみるから、お前らも向こうに行く準備くらいはしておけ」

「え、わ、わかった!」

「それと出産後だが、俺の妻にもサポートしてもらう。子供はまだいないが家事能力は十分、責任感もあって情も深いから愛着さえ湧かせばこっちのもんだ。特に金剛の大ファンだからな、悪いようにはならないはずだぞ。お前のことだから心配はしていないが、上手く操縦しろ」

「りょ、了解。……けど、義姉さんに辛辣……」

「たまに変な思考にかっとぶ奴だからな。念のためだ。ほら、お前らもとっととスケジュール調整しろ売れっ子ども。今日から忙しくなるんだからな」

 

 

 

 

「ねえ、社長ってこんなに頼りになる人だったっけ?」

「やる時はやる人なんですよ?あと、多分初めての甥っ子に大分テンションが上がっていると思います」

 

 

 

「聞こえてんぞ、バカ夫婦」

 

 

 忙しくなりそうだなと、彼は笑顔を抑えきれなかった。



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紅玉はなおも光り輝く

ルビーメイン回です
人物紹介の前に一つ投稿しているので、そちらを見ていない方はぜひご覧ください。


⭐︎⭐︎ルビーside⭐︎⭐︎

 

 

「宮崎ー!」

「高千穂ー!」

「「いぇーい!!!」」

「いぇーい……」

 

 私達星野一家は今宮崎旅行に来ている。というのも、パパが高千穂でお仕事の予定があり、私達の小学校卒業旅行も兼ねて一緒にきたのだ。パパもスケジュール調整してくれたおかげで最終日は一緒に旅行できる!

 本当はついこの前5歳になった私達の末っ子、真理亜も連れてくる予定だっだんだけど、社長とミヤコさんが自ら預かることを進言してくれたので今回はお留守番だ。私達みたいに前世の記憶は無さそうなのにいい子で泣ける。ちなみに、斉藤さん家も真理亜と同い年の子がいるので今も楽しく過ごしているらしい。

 勿論邪魔なんて言うつもりはないけど、パパもママも産まれたばかりの真理亜に付きっきりで少し寂しかったのは本当だ。そんな中でママと一緒にいれるのは本当に久々ですごい嬉しい!お兄ちゃんがいるのはちょっと邪魔だけど、今の私は許容しちゃう!

 

 

「へ〜、チーズ饅頭だって!美味しそうじゃない?」

「わー!美味しそうー!お兄ちゃんも食べる?」

「いや、俺はいい」(前世で死ぬほど食べたしな……)

 

 

 前世の私はここら辺に住んでいたけど、体が弱いこともあってあんまりこういうのは食べれなかった。だから懐かしさもあるけど新鮮さもあって超楽しい!今の私は高千穂を楽しんでるランキングNo.1なのだ!!

 

 

 

「あっ、ここら辺……」

「…………」

 

 

 高千穂を色々観光していてしばらくすると、丘の上に病院を見かけた。前世の私の死んだ場所、そして、私がママから産まれた場所。そう言う意味では、一番思い入れの深いところかも。

 

 

「あー、二人は知ってる?あの上の病院で二人は産まれたんだよ〜?」

「知ってる」

「前社長が酔っ払って教えてくれたよ?」

「えー!?あのグラサン、私には誰にも言うなって言ってたのに…………」

 

 

 不貞腐れるママも可愛い!ってそうじゃなくて、私達身内しかいない宴会の席だったからっていうのもあったと思うよ。

 その時もママもいたけど、成人した時のお酒飲みだったので既にダウンして聞いていなかったらしい。ちなみにパパはずっとニコニコしてて適当に相槌を打っていた。お酒が入ったパパは普段のキリっとした姿からはかけ離れてぽやぽやしていたのがとってもかわいかったなあ。

 

 それにしても、ここに来るとどうしても前世のこと、ゴロー先生(せんせ)のことを思い出す。

 私がずーっと一人だった時にそばにいてくれて、いつも励ましてくれて……あの頃の私の心の支えは、アイとせんせだったのは間違いない。

 せんせがいなかったら頑張って生きようなんて思えなかったし、アイドルになろうとも思わなかった、私に生きる意味をくれた人……。

 あの人はアイドルオタクだから私がアイドルになればまた会えるかもしれないし、いつかママみたいにドームで公演やって、皆んなが知っているようなアイドルになってせんせに会うんだ。

 

 そう言えば、七年前の初のドーム公演も今までのライブも、私がママの子供になってからはせんせの姿は見れなかった。勿論私の存在自体がアイのスキャンダルだからきちんと探せてはいないけど、それでもそれっぽい人は見つけられなかった。

 まああの人結構運が悪いみたいだし、倍率もめちゃくちゃ高いから病院で泣きながらサイリウムでも振っているんだろう。その姿を想像するだけでつい顔が緩んじゃう。

 ま、まあ?ママもお世話になったみたいだし?お礼として私のチケットくらいは渡してあげてもいいけどね?……せんせ、喜んでくれるかなあ……ふへへ…………!

 

 

「…………でも、ちょっとママの戒めみたいな場所でもあるんだ」

「いましめ?」

「う〜ん、ルビーがアイドルになるなら言ったほうがいいかな……私の担当だったお医者さんがね、殺されちゃったの」

「!」

 

 

 え?

 

 

 

「犯人は私のファンでストーカー。すぐ捕まったけど、私の出産日にあの人は死んじゃったの」

 

 

 でも、まだ、他にもお医者さんはいるし、私の担当だったってことは、産婦人科の先生じゃ…………

 

 

「若くて優秀な先生だって言われてて、色んなところにお手伝いしていたんだって。ゴロー先生って言ってたっけ」

 

 

 あ

 

 

「だからルビーもアイドルになるなら極力身バレには気をつけて…………ルビー?」

「おい、ルビー、どうしたんだ」

「ルビー?おーい、もしもーし……これヤバいやつ?」

「ルビー!ルビー!」

 

 

 だって そんな せんせ 私は じゃあ なんのために

 

 

「ルビー!!!!」

「…………え、なに?お兄ちゃん?」

「どーしたの?疲れちゃった?もういい時間だし、宿に戻ろうか?」

「え、ううん!まだまだ元気だよ!」

「…………俺が疲れた。風呂入りたいから帰る」

「…………そっか!じゃあ帰ろう!ルビーもほら!」

「……………………うん」

 

 

 そうして宿に戻り、ママが部屋付きのお風呂に入っている間に早めに出てこっそりとインターネットを開き、せんせの名前を調べると、一番上の記事が目に入ってしまう。

 

 『アイドル、アイのストーカーによる凶刃で、一般男性死去』

 

 恐る恐るその記事を見てみると、被害者の名前に『雨宮吾郎』という文字が確かに書いてあった。

 諸々の事情が上手く隠されているけど、その被害自体は確かにあったみたい。

 嫌な予感が、一番最悪な考えが当たってしまった。当たって欲しくなった。それでも目の前の文字が、詳細に書かれている内容がこれが現実だって否が応でも分からされてしまう。

 お風呂上がりなのに震えが止まらなくて、長風呂していないのにのぼせたみたいに眩暈がして、目の前が真っ暗になって、ああ、もう、なんか、どうでも……………

 

 

「おい」

 

 

「…………なに」

「なにじゃねーよ。旅行初めのテンションはどうした」

 

 

 突然、お兄ちゃんが声をかけてきた。

 

 

「別に、ちょっとそんな気分じゃないだけ。明日にはパパも来るしちゃんと……」

「すでに取り繕えてない時点で自分がいっぱいいっぱいだって自覚しろアホ……で、どーしたよ」

「お兄ちゃんには関係ないでしょ」

「は?」

 

 

 急にお兄ちゃんから聞いたことのないような低い声でびっくりするけど、今の私はどうにも止まらなくてお兄ちゃんを睨む。

 

 

「ハァー…………前世のことだろ?」

「ッ!?な、なんで……」

「生まれた時から一緒にいるんだから分かるっつーの……こればかりは俺くらいしか話せんだろ。言ってみ」

 

 

 ……お兄ちゃんは、本当にずるい。ぶっきらぼうで、前世からアイのオタクで、それでも言葉の節々から優しさがにじみ出ていて、一瞬、せんせと姿が被って見えちゃった。

 そのせいか、当時の状況ともうせんせに会えない今の状況を思い出して、思わず目から涙が出てしまう。

 

 

「あのね」

「おう」

「私、好きな人がいたの」

「……そう、か」

「私が病弱だった時の支えの人で、アイドルをやろうって思えたきっかけの人で」

「ふむ」

「私のおかげでママも推してくれて、モラリストでたまにいじわるだけど、それでも両親に避けられていた私には確かに救いになっていて」

「ふむ…………ふむ?」

「でももう会えないってわかっちゃって、私これからどうしたらいいんだろうって……」

「…………」

 

 

 沈黙が流れて、どうしたらいいのか分からなくなって、お兄ちゃんの顔が見れない。こんな理由で、とか思われていないかなって不安に感じて急いで言い繕う。

 

 

「って、私の前世も知らないし、こんなこと言われてもしょうがないよね〜!別に犯人も捕まっているみたいだし、私のすることは何もない!だからお兄ちゃんもそんなに気にしないで──」

「やっぱお前アホだろ」

「あ、アホ!?傷心中の乙女に向かってよりにもよってアホ!?」

 

 

 唐突な暴言に流石の私も驚きを隠せない。いい加減グーが出そうなところに、頭をかきながらお兄ちゃんが提案してくる。

 

 

「あー、そうだな……ほら、俺らみたいな前例がある以上、その人も生まれ変わってるかもしれないだろ?前世の記憶はないかもしれないが、いずれ会うかもしれないぞ?」

 

 

 ぱちくり。

 

 

これじゃやっぱ弱いか……言うしかないか……!ルビー、実は俺──」

「その発想はなかった」

「あめ…………お?」

「そうじゃん!もしかしたら会えるかもしれないじゃん!超天才!お兄ちゃんありがとう!大好き!!」

「うぐっ、お、おお……そうか、元気出たならよかった……うん」

 

 

 そうと決まれば、やるべきことはただ一つ!せんせが記憶を思い出すくらいすごいアイドルになって、せんせを私の前に引きずり出す!勿論本当にそんなことできたら超ロマンティックで、俄然やる気が上がってきた!

 

 

「たまにはお兄ちゃんのリアリストな意見も役に立つもんだね〜」

「どう言う意味だコラ」

「んふふ、なんでも〜?」

「あーいいお風呂だった〜あれ?ルビー復活?大丈夫だった?」

「うん!もう完全復活です!」

「そ!ならよかった!」

「今何もよくない!ちょ、せめて服着て!?」

「いやあ、あんまりこういうところ来たことないから忘れちゃってさ〜。別にママの裸なんか昔よく見てたでしょ?」

「俺もう来年から中学生!!本当やめろ!!」

「ただいま〜…………ん?」

「あっ」

「まずっ」

「アイさん?」

 

 

 結局ママが服を着させられた上で正座して説教されていた。パパとママめっちゃ仲良いし、いずれせんせともこんなこと出来るかなあ……?

 ううん、もうせんせじゃなくても、こんな関係を持てるような恋をしてみたい!そのためには、やっぱりアイドルかな?だって、ママもアイドルしてたからパパと出会ったんだから!

 よーし、そうと決まればママ(アイ)に並ぶアイドルに、いや、超えるアイドルになってみせる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべー、まさかさりなちゃんだったとは……」

 

 

 俺はもうほぼ風化していた前世の記憶を遡る。あんなに好意をぶつけてきてくれたさりなちゃんが、まさかの実の双子の妹になっていたとは……。ところどころその面影はあるように感じたけど、世間は狭いというか何というか……。

 

 

「前世の頃から引っ張り続けている恋心……もし俺が先生だとバレたらと思うと……」

 

 

 こうして俺は、墓場まで持っていくであろう秘密を抱えたのだった。

 

 




ちなみにルート次第では小学生との間に生まれた双子夫婦という地獄の(ある意味幸せな)星野一家が誕生します


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藍玉は改めて母を受け入れる

結構難産だったアクアメイン回です。


「進路相談……」

 

 

 宮崎旅行の後、俺は改めて目の前の自身の進路を書く紙を見つめた。ルビーが前世のことを整理して、俺も改めて前世のことを思い直す。

 俺は前世では医者だった。その選択に悔いはないし、もう一度医者をやることにしても特に抵抗はない。

 ただ、ありがたいことに今の俺には役者という道も示されている。父さんという役者としてのお手本のような人は身近にいて、役者になるにあたってこれ以上の環境はないだろう。

 今も俺の初演映画の監督と交流があるのでそれなりの指導は受けているが、どうにも父さん達のように上手くは行かない。

 あの時俺が評価されたのは、見た目と中身のギャップが生み出した印象によるものだ。父さんなんかはその典型で、一応身長自体は伸びているものの童顔なため、一部では不老説が出ていると頭を抱えていた。正直一緒に生活している俺からしても不思議なもので、俺達の生まれ変わりの次くらいに解き明かしてみたかったりする。

 

 父さんの不老の秘密はいったん置いておいて、俺の進路について改めて考えてみる。医者か役者か、特にそれも限定しなくていいと考えると、本当に恵まれすぎていて逆に困ってしまう。

 正直今世ではアイと父さん、ついでにルビーを推していくだけで満足出来るような人生だと思う。最推しが家族というだけで、俺にはすぎた環境だ。

 …………こう言う時は、やはり他の人の意見を聞くのが一番か。

 

 

 

「で、私に聞いてきたわけ?」

「今日はルビーは友達と遊んでいて、父さんも母さんも仕事で聞けてない。有馬が今日オフでちょうどよかった」

「ちょうどよくって、あんたねぇ……」

 

 

 そうして俺は有馬とコンタクトをとって、前世のことや本当の家族のことなどを伏せて有馬に相談した。

 一方的に連絡先を交換され、たまに連絡がかかってきてはたまに意見交換などをしていたが、今回俺から初めて連絡して相談に乗ってもらったというわけだ。

 

 

「やっぱり進路は役者?」

「そうよ!最近は9秒で泣ける天才子役とか言われてるんだから!」

「とうとう重曹舐めなくなったのか」

「いい加減にしろ!お前んとこの妹のせいでたまに重曹の子とかで覚えられているんだからな!」

 

 

 記録更新おめでとうと適当に褒めると「フン」と満更でもなさげな表情を浮かべるので、やはり有馬はチョロいと思う。

 

 

「にしても、医者か役者か、なんてどっちもなろうと思ってもなれない職業で迷っているなんて、とんだ贅沢者ね。というか、あんたそんなに頭いいの?」

「これ」

「んー、なになに……?全国小学生模試……?は、ハァ!?偏差値70!!?そんな頭持ってて役者と悩んでんの!!?」

「だからそう言ってるだろ」

 

 

 正直前世で国立大に出ていた俺にとって、小学生の問題ならある程度対策すれば簡単だった。これもある意味ズルだから、これだけで進路を決めることは出来ない。

 

 

「一意見として、お前はどう思う?」

「当然役者よ!役者やりなさい!」

「なんでだ?」

「え、だって、そりゃあ……また一緒に共演したいし……

「悪い聞こえなかった。なんて?」

「な、なんでもない!……まあ一番は、演技の楽しさを知ってるってことかしらね。大人の思惑が介在して思うように演技できない現場もあるけれど、それ以上に楽しいわよ。あんたもそれは薄々分かってるんじゃない?」

「…………それは、まあ」

 

 

 初演に出来た、あの演技。正確には演技ですらなかったが、全員が自分に注目して撮影現場を自分の手中に収めたような感覚は今でも忘れていない。

 まるで自分が主人公のように感じたあの瞬間がなければ、いくら環境が整っていてもおそらく役者になりたいとも思っていなかっただろう。

 

 

「だが、俺には演技の才能がない。それは監督のもとで指導を受けていて身に染みてる……父さん(斉藤ダイヤ)のようにはなれない」

「は?何言ってんの、当たり前でしょ」

「…………」

 

 

 何当たり前のこと言ってんのとジト目を受けて、ついたじろいでしまう。いや、まあ確かに父さんは別格だけれども。

 一応生まれ変わりとはいえ父さんの血が流れている俺には、どうして父さんみたいになれないのか、そう思ってしまうことがあるのだ。こんなこと有馬には言えないけど。

 

 

「ふふ、あんたって何でも客観視出来る系の人かと思ったけど、意外と自己評価高いのね。なんかびっくりしちゃったわ」

「うるせぇ……お前はどうなんだよ、天才子役さん?」

「……私が今でもそう呼ばれているのは、私自身の身の丈を早めに知れたから。私はダイヤ様のようにはなれない。アクア、あんたもね」

「…………」

「ダイヤ様や私に比べたら才能がないかもしれない。でも少なくとも私はあんたのことをライバルとして認めてる。それだけで十分じゃない?だから、そんなつまらない理由で辞めたら承知しないからね」

 

 

 そうやって俺に指をさしてきた有馬がどこか眩しくて、星みたいに輝いているように見えて、目を細める。

 

 

「ま、まあ?まだ話が聞きたいっていうなら?この後ご飯食べながらでも聞いてあげてもいいけど!?」

「いや、この後家族と食べるからいい。今日は助かった。じゃあまた」

「あ、うん。ソッカ……マタネ……」

 

 

 

 

 

「んー?進路相談ー?お兄ちゃんってば真面目だねー」

「ほっとけ。お前ももう提出だろ。なんて書いた?」

 

 

 俺は家に帰って、同じく友達と別れたルビーに話を聞いた。友達には相談しないの?とか言われた。は?別に友達いないんじゃなくて作らないだけだが??そもそも前世の俺とは精神年齢が違うし、上流階級の奴らとは話が少し合わないだけで話し相手くらいはいるが???そんな身の上話をするくらい仲がいい人がいないだけだが????わかる?????

 

 

「(めっちゃ饒舌……)あー、なんかごめんね……勿論私はアイドルやるよ?今はその修行期間なのだ!」

「修業期間…?アイス食べておいて?」

「今日はチートデイってやつだからいいの!」

「普段運動してから言えよ」

「してるし!ちゃんとアイドルって書いて提出したから、私の将来はもう決定されているんだから!」

「書いたことが叶う紙じゃないし、進路希望でアイドルが許されるのは小学校低学年までだろ」

「聞いておいて何その言い草!」

 

 

 来年中学生でアイドルなるとか書くやつ本当にいるんだ。……もしかして、最近ルビーの担任の先生から思わしげな視線もらっているのって、そのせいか……?

 ……いや、そんな一見夢みがちな進路だけど、コイツは本気でそれを目指している。それは一緒にいて十分理解しているし反対するつもりもない。そもそも母親がアイドルだしな……もっとも、デビューするなら苺プロ以外認めないけど。

 

 

「うーん、役者か医者か……やっぱり医者じゃない?」

「へぇ、意外。てっきり役者を推すもんだと」

「まあお兄ちゃんがやりたいことすればいいって言うのが本音なんだけど、せんせ……前世の私の好きな人がお医者さんだったから、前世ただのオタクだったお兄ちゃんにはそういう人になってもらいたいなって」

「お、おう。そうか……」

 

 

 あの旅行の後、ルビーは自身の内情をかなりストレートに言うようになってきた。こうして前世のことをネタにして言ってくるのは、いい方向に吹っ切れたのだろう。

 しかし、その好きな人は前世の俺だったわけで、それだけに気まずすぎる……!それでも「それ俺だぞ」とは口が裂けてもいえないので反応に困る……!

 

 

「というか、あんな模試の成績出して秀知院の人に色々言われたりしてないの?」

「ああいうのには興味ない」

 

 

 今俺とルビーが通っている秀知院学園は父さんの母校にして様々な上流階級の子供が在籍する学園だ。国内トップレベルで偏差値が高いが、そんな中で学年一位の俺は色んな派閥に誘われたりしている。医者になれた頭脳は前世の頃から引き継がれているから余裕がある。ルビーはそんなのないのでいつも赤点スレスレだが。

 今は役者の練習やルビーの勉強の面倒を見るのに忙しいと言って派閥に加わるのは断っているが、それでもあの手この手で面倒な派閥争いに関わらせようとするのはやめてほしい。そんなので将来を決められたらたまったもんじゃないしな。

 

 

「まーなんでもいいけど。それよりお兄ちゃん」

「ん?」

「いつまでママをアイ呼びするの?」

「…………」

 

 

 この話に飽きたのかルビーが振ってきた話題に俺はつい目を逸らす。

 

 

「パパは割と早い段階で父さん呼びしていたけど、ママにはずっと『アイ』って呼んでて、最近悩んでるらしいよ〜?」

「ぐっ……」

「最近はパパと夜な夜な『アクアにママと呼ばれたい会議』開いているんだって」

「そんなの開いてるのか……」

「推しの悩みの種になっている気分はどうですか〜?」

「…………分かってる

 

 

 俺は、アイの息子の以前にアイのファンだ。最初のアイは俺とルビーを間違えるくらいには母親として良くなかったし、その度に俺はファンとして支えてやらないとと思っていた。

 しかし、アイを父さんがサポートするにつれアイも子育て能力が高くなってきて、最終的にはアイ一人でも俺ら二人を育てるのに随分と余裕が出てきた。この前産まれた真理愛にもその経験は遺憾無く発揮されているのがその証拠である。

 そういうのもあって、いつの間にかアイを母親呼びするタイミングを失って、今の今まで呼んでこないままだった。今更呼ぶのも恥ずかしいというのも理由の一つだったりする。

 ルビー、さりなちゃんは前世の両親との愛情が薄かったのもあって、より今の両親を受け入れられる体制ができていたのだろう。俺は医者になれる費用は出してくれるくらいには愛されていたから、前世との切り替えがまだ出来ていないのかもしれない。

 だと今の父親を父さん呼び出来るのはおかしい。やはり、俺にはアイは推しで俺はただの奴隷(ファン)で、どうも母親という実感がないのだろう。そう思うと母親と呼ぶ気にはどうしてもなれなかった。

 

 

「んー、なんかお兄ちゃんは難しく考えすぎなんだよね〜。もっと気楽にママ呼びすればいいのに」

「…………まだ前世の俺より年下相手にか?」

「前世は前世でしょー?最近それ理解した私が言うのもなんだけどね」

 

 

 なるべく早めにねーと言い残し、ルビーは部屋を後にした。新たな悩みが増えたな、と俺はため息をついた。

 

 その夜、俺は何故か目が覚めてしまい、一回飲み物を飲むかと台所へ行った。そこで、リビングから明かりが漏れていることに気づいて中を覗き見ると、アイと父さんが話していた。

 

 

「それで、やっぱり手っ取り早いのは──って、アクア?どしたのーこんな時間に」

「僕たちがうるさかったのかな?起こしてごめんね」

「いや、そういうわけじゃ…………ねぇ、相談があるんだけど」

 

 

 そうして俺は二人に自分の進路について悩んでいることを話した。

 そう話すと、父さんは思案顔に、アイが難しい顔をしながら唸っていた。

 

 

「役者か医者か……確かに難しい二択ね。僕としてはアクアにはどっちにも適正あると思うから、これといった正解は出せないかな」

「う〜ん?」

「アイさんはさっきから唸っているけど、何かいい案あります?」

 

「いや、これ、どっちもやればよくない?」

 

 

 うん?

 

 

「そこまで簡単な話じゃないと思うけど?どっちもなるの大変って聞くし」

「アクアなら大丈夫でしょ?だって私達の子供だし」

「そんな理由で……」

「…………いや、確かにそれはアリですね」

「父さんまで!?」

「例えば、アイさんもクイズ番組に出ていたように、芸能人は頭脳を求められる場面はある。医者を目指せるほどの頭脳は芸能界においても役立つし、ある程度芸能界のコネも作っておけば医者になった時にも利用できる。実際医者をしながら歌手活動している人達もいるし」

「そうそう!欲張りにどっちも目指しちゃえば?別に今すぐ決めなきゃ死ぬわけじゃないんだし」

 

 

 …………二人の言っていることは確かに一理ある。俺は手元に書いた白紙の進路記入用紙を見つめる。第一希望と書いてあるのだから、どっちがなりたいかを白黒ハッキリつける必要があると思い込んでいただけかもしれない。

 どっちも選べないないならどっちも選ぶ、アイらしい回答だなとつい微笑んでしまう。

 

 

「やっぱり、アクアは父親似だね〜、ダイくんもけっこー優柔不断でさ、この前も新しいソファ買うか小一時間悩んでいたし」

「一言余計ですけど……こういう判断の早さはアイさんの美徳ですね。いつも助かってます」

「うんうん、なんてったって私はお母さんですから!」

 

 

 ありありと自信に満ちた、アイドルのアイじゃ考えられないようなその一言に、何故だか俺はすごくしっくり来たのだった。

 

 

「そっか……じゃあ、そろそろ寝るね」

「うん、おやすみー!」

「おやすみなさい」

「おやすみ……父さん……………母さん

「……ッ!!?アクア、今なんて!!?

「え、ちょ、か、カメラ、カメラ回してなかった!もう一回、もう一回お願い!!」

「んぅ〜?なにぃ〜?」

「ま、真理愛!?ごめんねぇ大きい声出して!でもアクア、アクアが……あれ!?もう寝室に行ったの!?早っ!」

「あ、アイさん、真理愛を寝かしつけたら、急いで計画練りましょう!2回目は必ず記録するんです!」

「う、うん!」

 

 

 こうして、いつもより騒がしい星野一家の夜は流れた。

 ちなみに「父さんいつまで母さんと敬語で話すの問題」も後々の議題に上がってくることを、今はまだ誰も知らない。

 



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斉藤金剛はプロポーズしたい

かぐや様メンバーとのコラボ回です。
かぐや様は告らせたいのアニメ最新話までのネタバレが含まれます。


⭐︎⭐︎生徒会side⭐︎⭐︎

 

 

「恋愛相談?」

「はい、生徒会のメンバーはこのようなこともやっているとお聞きして」

 

 秀知院高等部。日本でも屈指の偏差値を誇り、日本有数の著名人達の親族の多くがこの学園の出身であることは最早公然の秘密となっている。

 そんな学園のトップに立つ生徒会は非常に強い権力と実力を兼ね備え、様々な相談事を持ちかけられることも少なくない。

 実際、恋愛相談も会長である白銀や副会長であるかぐやに持ちかけられたこともあり、その噂が広まったのだろうと解釈した。

 もう新年も十分に明けて生徒会の業務も優秀なメンバーが滞りなく捌いていることもあり、快く相談者、斉藤金剛を招き入れた。

 

 

「それにしても、あの斉藤ダイヤに好きな人ですか……うっ、脳が……焼かれそう……!」

「伊井野、あの人誰か知ってんの?」

ハァ!?石上あんた、斉藤ダイヤ知らないの!?世紀の天才子役、その年相応に思えない物腰柔らかい微笑みは「天使の笑顔」とも称されて、今も若手俳優として大活躍しているのよ!?バカじゃないの!?」

「そんな言われるほど有名人なのか……すみません、知らなくて」

「あ、あはは、もう子役って言われる年齢じゃないから、そんな畏まらなくていいよ。数年前まで活動休止してたし」

「石上くん、『今日あま』アニメのストーカー役の声優さんダイヤくんですよ」

ええ!?ほ、本当ですか藤原先輩!?ファンですサインください!!」

「う、うん」

「なんで色紙持ち歩いているんだ石上……」

「あのー、そろそろ本題に入られては?」

 

 

 ミーハーを発揮する伊井野、声優ヲタではなかったが推し作品の声優だと知ってテンションが上がる石上、それを焚き付けた藤原を他所に、かぐやは舵を取り直した。

 斉藤金剛は、ここ秀知院でもかなりの有名人だ。そもそも、テレビでよく見る同年代の人物など意識しないわけもなく、一部を除くほとんどの生徒が彼のことを知っていると言っても過言ではない。

 そして、一時期休学していたのにも関わらず進級のハードルが高い内部進学を余裕でパスし、本人の性格も相まって学内でもかなりの人気を誇っている。

 現在白銀が生徒会長であるが、持ち前の学力やその知名度からもし彼自身が生徒会選挙に出ていたら結果は分からないと、白銀は心の中で警戒度を上げている存在でもある。

 それはさておき石上達がある程度落ち着いたところで、会長は話を切り出した。ちなみに、他の生徒会メンバーにも意見が聞きたいと言われて一緒に座っている。

 

 

「して、具体的にどんな相談なんだ?」

「実は、付き合っている人がいまして」

「ぐはっ」

「ミコちゃん!?しっかりして!」

「だ、大丈夫です……!かなりショックですが、推しの幸せを願うのがファンの務めですから……!」

「えー、それでですね、そろそろ付き合って長いので、まだ結婚出来ないんですけど、プロポーズしようと思いまして」

「プロポーズ!?」

チーン……

「伊井野が死んだ!この人でなし!」

 

 

 ショックで魂が抜け出した伊井野を慌てて介抱する石上と藤原を他所目に、白銀とかぐやは強い衝撃を受けた。

 何故ならこの二人、まだ秘密にしているもののクリスマス前の文化祭の時から付き合っており、そろそろ次の段階へと思考をシフトしようと思っている時期でもあった。

 勿論白銀は海外進学の準備、四宮は実家への対応に追われる身なので本格的な計画は練っていないが、ゆくゆくはと考えている最中であった。

 そんな中でのタイムリーな相談事に対し、二人の思考は当然こうなる。

 

 

(プロポーズの相談とは驚いたがこれはチャンスだ。相談される以上ある程度の進展は聞けると考えていい。実際の体験談ほど貴重なものはないからな。それに機会がなかっただけで、斉藤とはいずれ話してみたかったんだ)

(芸能界にはさほど手を伸ばしていない四宮家にとって、彼とのコネを作るいい機会です。そして、上手く誘導して会長の好きなプロポーズシチュエーションを聞ければ、それはもう勝ったも同然!)

 

 

「まあ、流石にプロポーズの経験はないが、なにか力になれるかもしれん。話してみろ」

「あ、ありがとうございます。それで、どんなプロポーズが本人に喜ばれるかなって思いまして……」

 

 

 その問いに、伊井野が手を挙げて発言する。

 

 

「質問の腰を折るようで悪いんですけど、別に今すぐプロポーズしなくてもいいのでは?法律上結婚は出来ないですし、わざわざ焦る必要もないと思います。今すぐ責任を取らなきゃいけないというわけでもないでしょうし」

「そっ!?それは、そうなんですけど……」

 

 

 その返答は非常に正論であり、金剛自身その発言にどこか気まずく感じてしまっている。

 上流階級で過ごしているかぐや、そしてそれらに多くの人脈を持つ白銀はその明晰な頭脳から彼の後ろめたい気持ちを読み取った。

 未だ貴族制が根強く残っている日本にとって、政略結婚というのも大して珍しくはない。それゆえに、幼い頃からの婚約者や親同士の決めた会ってすらいない人との結婚など、まるで漫画や映画のような設定を持つ人も少なくない。

 おそらく、お互い相思相愛の人がいるのだろうが、金剛自身は比較的一般家庭と考えるとお相手は上流階級の人間、いずれ自分の手元から離れてしまうと思っているのだろうか。それとも、もうそのカウントダウンが始まっているのだろうか……。

 それを防ぐべく、プロポーズを遂行することでお互いの既成事実を作り上げ、あらかじめ婚約者というバリアで守ろうとしているのだろう。それだけで守れるとは言えないが、斉藤金剛の名前であればそれなりの牽制にもできる。かなりいい案であると分析できる。

 白銀と四宮も言ってしまえばお互い身分違いのカップルである。自分達のために成功例としても、彼の依頼を失敗で終わらすわけにはいかないと決心した。

 …………本当は責任を取らなきゃいけないどころか子供まですくすくと成長しているなんて、さすがの天才達も思い当たらないようだけど。

 

 

「おそらく斉藤も承知の上だろう。それを踏まえて彼は相談しに来ているんだ。今は彼のプロポーズ方法という観点からアドバイスを考えよう」

「そ、そうですよね、失礼いたしました……」

 

 

 そして伊井野に変わり、石上が代わりにと手を挙げる。

 普段なら恋愛相談など話半分で聞く石上であったが、現在子安つばめと付き合うために、少しでも恋愛経験談を仕入れたかったこともあり、この話には真剣に考える姿勢を見せた。

 

 

「とは言っても、そのプロポーズ相手がどんな人か分からないんじゃアドバイス出来るものも出来ないです。何か情報が欲しいです」

「は、はい!」

 

 

 そうして彼が話す姿は、まさに大切な人を紹介するようだった。

 とても美人なこと、嘘が得意なこと、色々不器用なこと、いつでも元気づけられること、少し複雑な事情があって恋愛というものに疎いこと、自身も普通の恋というのは知らないこと…………

 そうやって思い人を語る彼の顔はまさに幸せそうで、全員が思わず顔を赤らめるほどだった。

 

 

「──くらいで、大丈夫そうですか?」

「あ、ああ、貴重な情報だ。ありがとう」

「か、かわっ……」

「ほへー……」

「あんな斉藤ダイヤ見た事ない……脳が破壊される……」

「なんか、中性的な彼の顔であんな顔されると、こっちまで変な気分になっちゃいますね……」

「言うな石上……」

 

 

 そして改めてみんなでどのようなプロポーズがいいか考えると、最初に口を開いたのは石上だった。

 

 

「やはり、恋愛に疎いのならそれだけ恋愛を神聖視しているのではないでしょうか」

「神聖視……」

「ハードルが上がっていれば上がっているほど、そのプロポーズの難易度は高くなってしまいます。ここは、ウルトラロマンティックなプロポーズで行きましょう」

「ウルトラロマンティック?具体的には?」

「その彼女の机に、毎日花を置くんです。月曜日はアガパンサス、火曜日はイチゴの……」

「石上くん、それは却下したわよね?」

 

 

 石上は諦めが悪かった。本人は「知らない人からじゃないなら気持ち悪くないかなって思って……」と供述している。

 

 

「石上はキモいけど、花というのはいい目線だと思います。バラとか渡されながらのプロポーズなんて憧れます!」

「お前もその妄想イタイからやめとけ」

「石上にもう発言権ないから」

「ええ、ひどっ……」

 

 

 花、と金剛は頭にメモをした。

 

 

「まああのお二人は置いておいて、やはり定番なものが安定しているのではないでしょうか」

「定番、ですか」

「ええ、定番というのはそれだけ試行回数が多く、そして成功も多いものですから、恋愛に疎いからこその威力は発揮できると思いますよ」

「なるほど……」

 

 

 かぐやの意見に金剛は思案顔をした。白銀も脳内にメモしておいた。

 

 

「ふむ、四宮の意見も尤もだが、単純ではやはりインパクトに欠けるだろう。例えば、物を渡しながらのサプライズでプロポーズなんてどうだ?」

 

 

 実体験。それは正解のない恋愛において非常に貴重な情報であり、そこから恋愛においての正解を導き出そうとするのも難しくない。

 そして白銀は自分の告白シチュエーションを伝えた。それは少し気恥ずかしいものであったが、金剛のさきほど見せた顔に、自分の恥ずかしさを犠牲にしてでも成功して欲しいと思ったからである。

 さすが生徒会長と、金剛は称賛した。白銀はその眩しい笑顔につい顔を逸らした。

 そして、今まで不気味なくらいに黙っていた藤原が頷きながら立ち上がる。

 

 

「うんうん、皆さんいい意見ですねぇ。ですが、一番大事なことを忘れてますよ!」

「藤原書記は一体なんの立場なんだ」

「それは当然、ラブ探偵の立場ですけど?」

「藤原さん、大事なことってなんですか?」

「んふふ、どんなシチュエーションでも、そのプロポーズの言葉がダサかったら意味がないです!どんな言葉でも構いません。自分の心の叫びを言うんです!!」

「……尤もらしいこと言ってますけど、具体的にはどんな風なんですか?」

「え"、えっと、それは、本人次第なので私には言えないです!」

「藤原先輩ってああ見えてウブですから、プロポーズのアドバイスとか特に思いつかなかったんでしょうね」

「うるさいなあぶっころすよ?」

 

 

 そうしてぎゃいぎゃい騒ぐ生徒会を見て、金剛はつい笑みを浮かべる。今は自分の恋人と子供たちで手一杯で、仕事の都合もあって高校生らしい青春は経験したことがない。

 それを目の前で見て、もしアイさんと同級生でこんな青春が送れたなら、なんていうifを思い浮かべると、笑顔が止まらなくなる。それを見た生徒会メンバーは天才子役の綺麗な笑顔を見て固まってしまう。

 

 

「今日はありがとうございました。また何かあれば相談しにきますね。もし何かお手伝いできることがあるなら、僕も頼ってくださいね。では失礼します」

「お、おう、ではまた…………」

 

 

 

((って、あーー!!肝心の彼の体験談が聞けてない!!!))

 

 

 本日の勝敗、金剛の勝利

(アイとの関係をバラさずに、プロポーズのヒントをもらったから)

 




先ほど活動報告を上げました。見に行ってくれたらもれなく私が喜びます。よろしくお願いします。


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短編まとめ

これでいったん毎日投稿は終わりです。
今後どうするかは活動報告に記載しているので、もしよろしければご覧くださいませ。


【ハロウィンにて】

 

「きゃーーカワイイーーー!!!」

「手作りとは言え中々クオリティ高いんじゃないですか?」

 

「がおー!血を吸っちゃうぞー!」

「この年(肉体年齢5歳)でこの仮装は恥ずかしい……」

 

 

 明日は俺達の通う幼稚園のハロウィンパーティーということで、その衣装合わせとして俺とルビーは吸血鬼の仮装をした。ルビーはノリノリだが、俺は正直恥ずかしい。

 俺達の衣装は父さんとミヤコさんが頑張って作ってくれたらしい。アイは応援しているだけだったが、アイの応援にはむしろお金を払う価値があるので何の問題もない。

 

 

「そういえば、ミヤコさんの仮装は何になるんだろー?」

「父さん達は来れないしな……」

 

 

 夜のパーティーということで親子同伴は必須、相変わらず身バレ=死の俺達家族にはこういったイベントごとにはほぼ毎回ミヤコさんが付き添いで来てくれることになっていた。

 

 

「ふっふっふっふっふっ……要は身バレしなきゃいいんでしょ?ということで、私達も着ぐるみとかで対策した上で今回は参加するよ!!」

「え、えーー!?本当!!?」

「勿論!早速着替えてくるねー!」

「でも、こういうのって顔を知らないと不審者と間違われるんじゃ……」

「大丈夫。秀知院のハロウィンパーティーは中世の仮面舞踏会の意を汲んでいて、上流階級の人達とも無礼講で楽しめる場となっているんだ。だからむしろ顔を隠しての参加は伝統的と言えるね」

「そうなんだ……」

 

 

 父さんは現在秀知院高等部に通っていることもあって、そういった事情には詳しい。ただ学内の非常時の隠し通路を教えてもらったところでどうしろと。

 そうしてアイが着替えて来たのは、なにやらリスのような生き物だが顔はとてもふてぶてしく、口周りのそばかすと開いた口がどことなく知性を感じさせない。というかこれって……

 

 

ヨク◯リス!?なんで!?」

「だって、アイはヨクバリだから♪」

「この前の番組でイジられたことネタにしてるのか!?強かだな!!」

「キャーー!!!ママぶさかわいいーー!!!」

「でしょ〜?やっぱりルビーは分かってくれるか〜」

「かわいいか?これ」

 

 

 女子の考えは理解できん、と頭を抱えていると、着替え終わったのか父さんもお披露目してきた。

 赤と白のコントラストが映え、その関節部分には無骨なシルバーの球体関節がある。両腕には鋭い刃が三本存在し、背中の青い翼は堂々とはためいている。もしやこれは……!

 

 

ゲッ◯ー!?しかも真ゲッ◯ー1!?父さんマジでナイスチョイスだ!!」

「実は、父さん前々からロボになってみたくて……」

「か、かっけー!!こ、このメタリックな質感、すごいぞ……!」

「そこはこだわりポイントなんだ。兄さんを言いくるめれば簡単だよ。経費で落としてくれた」

「さすが社長話が分かる!後で俺も着たい!!」

「勿論いいよ。でも一応アクアの仮装を脱いでからね」

 

「ねえママ、なんで男ってああいうのが好きなの?」

「さあね?やっぱり男子の考えは分からないねー」

 

 

 ちなみにこの後アイは女子に、父さんは男子にめちゃくちゃ群がられてパーティーどころじゃなかったのはまた別のお話だ。

 そして、ミヤコさんに父さんの出費がバレて怒られていたのもまた別の話である。

 

 

【カラオケにて】

 

「ーーーーー♪」

 

「キャー!!ママ素敵ーー!!!」

「さすがアイさん」

「推しの生声尊い」

 

 

 盛大にはしゃぐ私、後方彼氏面(マジ)のパパ、尊死したお兄ちゃん、そして今完璧に歌い上げたママはカラオケに来ている。

 完全個室で店員にさえ気をつければ身バレが防げる、私達御用達の娯楽スポットだ。

 やっぱり今をときめく人気アイドルなだけあって、歌も超すごい!93点を出したママは嬉しそうに頷く。

 

 

「うん、今日の私も完璧!次は誰〜?」

「アタシ〜!」

 

 

 ここでとうとう私の出番!未来のアイドルの歌に酔いしれるがいい!!

 

 

「な、71点……」

「まあ、あの音程の外れ具合からしたら妥当だろ」

「下手だったね!」

「げ、元気で良かったよルビー!」

 

 

 お兄ちゃんとママはせめてもう少しオブラートに包んで言って!そして、パパの不器用な優しさが心に染みる……。

 だって、前世では病院過ごしだったし、演技の練習は出来ても歌の練習だって出来なかったし……私は伸びしろがあるタイプのアイドルなの!

 

 

「ほら、次お兄ちゃんの番!」

「ん、そうか」

 

「ーーーー♪」

 

「う、うまっ……」

「すご〜!今度一緒にデュエットやってみよっか!」

「でも、よくそんな昔の曲知ってたね……?」

 

 

 お兄ちゃんのくせに、私よりも高い点数出して……!選曲はママでも知らないくらい古いやつだったってことは、前世の十八番歌って、全く大人気ない……!

 

 

「パパ〜!私の仇をとって〜!」

「え?」

「父さんさっきから歌ってないし、聞いてみたい」

「え、えー……僕あまり上手くないんだけど……」

「いいよいいよ!じゃーママのこれ!」

「あっ耳栓忘れた……」

 

 

 そうして渋々ながらパパはマイクを受け取り、そして──

 

 意識が、飛んだ。

 

 私達はその日、ナマコの内臓が耳に入る経験をした。

 その後、あまりに下手すぎて歌系の収録は全てNGを出していたと知った。

 パパの珍しい弱点を見つけたものの『パパにはもうマイクは持たせない』ことが家族会議で満場一致で可決された。

 

 

 

 

【悪夢】

 

「社長かな?はーい」

 

 

 アイが、チャイムの音が鳴ってそのまま玄関へ行った。

 それにとても胸騒ぎがして、でも俺の腕は重くアイを引き止められない。

 そして、扉を開けると、目の前には、

 

 血まみれのアイと

 

 赤く染まった花束と

 

 凶器を振り回す犯人がいて

 

 アイツの喚く声も

 

 アイの言った言葉も

 

 ルビーの悲痛な叫びも

 

 何も聞こえなくなって

 

 そのまま、目の前が──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!!!」

 

 

 隣には、ルビーが寝ている。

 寝汗も、心臓の鼓動もひどい。あのリアルすぎる夢は一体…………。

 すぐ寝れる気にもなれず、水を飲んでどうしようと思ったら、父さん達が寝ている寝室が開いていた。ふと覗くと、二人が寄り添うように寝ている。

 起こすのも悪いと思いその場を後にしようとすると、足元が暗く見えなかったのでついガタッと音を立ててしまう。

 

 

「んぅ〜〜〜〜?アクア…………?どしたのこんな時間に」

「いや、別に……起こして、ごめん」

 

 

 ついアイを起こしてしまったようで、咄嗟に謝ってしまう。というか、よく寝起きでこの暗さで俺って分かるな……ルビーと間違えていた頃とは本当に見違えるくらいだ。

 

 

「…………よいしょっ」

「わ、わわっ」

 

 

 そうして、突然俺の手を取ったアイは、そのままベッドに連れ込んできた。ま、待て待てそんなことファンとして他の人に申し訳ないし何よりアイには父さんという人がーー!

 

 

「怖い夢見ちゃったんだね〜。こうやって一緒に寝るとね、不安とか、怖さとか、そういうのがなくなるの。だって、誰かと一緒にその夢に立ち向かってくれるから」

「ふわぁ……アイさん……?」

「別に起きなくていいよダイくん。おやすみー」

「おやすみなさぃ…………」

「アクアも、おやすみ」

 

 

 そうして、アイと父さんの温もりで、俺はだんだん微睡みを感じ、そのまま寝てしまった。悪夢は、見なかった。

 

 

「あー!いないと思ったら、羨ましい!!私も混ざろうっと」

 

 

 

 

「アイさーん?ダイヤくーん?どこで…………そう。ふふ、写真でも撮ろうかしら」

 

 

 後々、ミヤコさんから受け取った四人の寝ている写真は俺の待ち受けになっているが、それはまた別の話だ。

 

 

 




①ハロウィン
ネットミームが面白かったから書きたかったやつです。初期案は金剛くんの女装でした()

②カラオケ
歌も上手くなったら最強生物になってしまうのでナーフしました。

③悪夢
時系列的には初のドーム公演の数日後の話です。


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有馬かなは告らせたい

かなり難産でした。多分続きます。


 私、有馬かなには気になっている人がいる。

 そいつは私より年下で、そのくせ生意気で、イケメンだけどその澄ました顔がムカつく奴で……でも、苦しい時に私のことを助けてくれたり、今の私がいる一番のきっかけのような、私の唯一のライバル。

 星野アクア。アイツには、まあ、感謝していなくもない。

 というか、事あるごとに私を助けてくれたり、色々相談して来たり、アイツ私のこと好きすぎじゃないだろうか。ま、まあ、私は人気役者でビジュアルもいいし?惚れる気持ちも分からなくもない。芸能人の恋愛ゴシップはかなりリスキーだけど、どうしてもっていうなら、受け入れてやらなくもない?くらいには気になっている。

 ただ、アイツはシャイなのかそんな素振りを見せない。ならばしょうがないので、私自ら告白させるようなシチュエーションを作ってあげてやろうと、そう思っている。

 

 

「はい、これにて撮影終了です!お疲れ様でしたー!!」

『お疲れさまでしたー!!』

 

 

 とは言っても私はプロ。こんな恋愛映画のヒロイン役でも私情は挟まない。むしろ、これで嫉妬して向こうが行動を起こさないか期待心配しているくらいだ。……アイツが嫉妬している姿なんて想像つかないのが悔しいところなんだけど。

 

 

「かなちゃん!初めて起用したけど、とってもよかったよ!」

「ありがとうございます。私もいい経験になりました」

 

 

 撮影最終日で最終撮影が終了したので打ち上げムードになっている中、監督が話しかけてきた。普段の撮影はキリっとしているのに、オフになると結構馴れ馴れしいのよね……。実力はある分本当にいい経験になったし、悪い人じゃないのは間違いないんだけどね。

 

 

「そういえば渡していなかったかな。はいこれ」

「?これは?」

「今回の映画の一般チケット。他の観客と同じ状態で見たいって人も多くて、いつも撮影終わりに映画に関わってくれた全員に渡しているんだ。」

「あ、ありがとうございます。でも、いいんですか?」

「もちろん。私が撮った映画は全ていい映画。誰もかれもに素晴らしい2時間を届けられる自信がある。それは出演者も例外ではないよ」

 

 

 プライド、ただそれだけと言った監督に、私の生きる世界はこんな人が五万といるところなんだと、改めて自覚してつい身震いする。勿論これは武者震い。

 そして、これはアクアを揺さぶるのに使えるのでは、と私はいい考えを思いついた。

 

 

「監督、お願いがあるんですけど──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「映画のチケット?」

「そ。監督からもらったから、せっかくならあなた達に上げようと思って。兄妹水入らずで行ってきなさい」

「ふーん……」

 

 

 ところ変わって高校の放課後、私は星野兄妹にチケットを渡した。もちろん監督には許可を取ってある。一般チケットだし、問題はないだろう。

 

 

「あ、みなみちゃんとこの映画観に行く約束してるからパス。お兄ちゃんにあげる」

「へー?それは残念ね」

 

 

 私が監督にお願いしたのは、その一般チケットを4枚に増やしてもらうこと。友人におすすめしたいからと言ったら快く準備してくれた。正直その分のお金払うつもりだったけど、断固として受け取ってくれなかったから罪悪感に苛まれていたりした。

 ともかく、あらかじめルビーの友達であるみなみにチケットを渡しておいたのだ。こういう時に人脈が役に立つ。あちら側も快く受け取ってくれて、私が渡したことも秘密にしてくれた。というか彼女妙に恐縮してたけど、そんなに怖いかな私……子役時代より高飛車なつもりはないんだけど……。

 

 

「じゃあ、友達とでも行けば?」

「駄目だよロリ先輩!お兄ちゃんに友達がいないんだから」

「えっ……ごめんなさい」

「謝んな。さすがにいるわ。というか男同士で恋愛映画観に行くなんて普通しねーんだよ」

 

 

 勿論それはリサーチ済み。アクアが恋愛映画を一緒に見に行くほど親しい友人はいないことは織り込み済み。まあ、センシティブな部分な可能性もあるのでここを利用するのは気が引けるけど、これもアクアがさっさと告白してこないせいよ。これはそう、自業自得なんだから!

 これでアクアが誘える人はいない……そう、ここにいる私以外にはね!さあ、観念して私を恋愛映画に誘いなさい!

 

 

「じゃあ父さんと母さんに渡すか」

「は、ハァ!!!?」

「うぇ、どしたのそんな大声出して」

「な、何でもないわよ……」

 

 

 まさかの両親に!?恋愛映画のチケット渡すの!?そんなの想定してないわよ……!

 というか、二人の両親がイマイチ掴めないのよね。二人が所属している苺プロの社長の息子娘らしいけど、私には何か違和感がある。どちらとも面識はある私からすると、社長の方にはどこか面影あるけれど奥さんとは特に似ていないのよね……。

 そんな疑問は今は置いておいて、この状況はまずい……!なんとかしてやめさせないと……!

 

 

「け、結構青春してる映画だから、観るなとは言わないけど、ご両親にはキツいんじゃないかな?」

「…………いや、母さんなら嬉々として見るな。そんな時間があるかはともかく」

「うん、なんならアクアの分買って三人で見に行くと思う。なら私も2回目行きたい〜」

「まだ見ていない映画をか」

 

 

 和気藹々と家族談義している横で、私は冷や汗だらだらで思考を巡らせる。このままじゃアクアと映画デートの計画が水の泡に……!

 もう決定しそうな雰囲気に、私はつい、アクアの服の袖を引っ張ってしまう。

 

 

「……有馬?」

「…………わ、私、今回ちょっと気合い入れて演技してるから、その、演技、指導、的な?アドバイスとかあれば、教えて欲しいなって……」

「いや、いいけど……むしろ俺の方が指導してもらう側だぞ?」

「それはそれでいいの!あと、感想と魚は鮮度が命って言うでしょ!?だからもう観てすぐ、5秒後くらいに感想が欲しいな〜!!」

「へー、そんな言葉あるんだ」

「いや聞いたことないぞ……」

 

 

 勢いで変なこと言っちゃった〜〜!ヤバい、アクアの顔が見れない……!

 

 

「ハァ……よく分からんが、一緒に観に行くか?」

「…………!うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 映画館デート当日……

 

 

 

「って、なんで五反田監督も一緒にいるの!?」

「演技のアドバイス欲しいって言ったの有馬だろ。これでも演技指導のプロなんだから、有馬にも良いアドバイスくれると思うぞ」

「なんで誘われたのに罵倒されてんだ俺……ってかこういう感じって聞いてたら俺も断ってたぞ……」

 

 

 

 本日の勝敗、有馬の勝ち

 監督が空気を読んで二人きりにしてくれたため。




たくさんのアンケートありがとうございました。他のアンケート入れて下さった話も順次投稿できたらなと思っております。


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星野一家のインタビュー

【まるで本物の家族!?『恋するステラ』にて共演した苺プロ所属の主演4人の素顔に迫る!】

 

 

現在若者を中心に大ヒットしている恋愛映画『恋するステラ』。高校生四人が主役となり、それぞれの恋模様を追う青春映画である。ただ告白だけではなく、年の差恋愛や結婚なども表現され、禁断の恋を上手く落とし込んだ大人も注目されている映画でもある。

この映画で主演を演じた四人、アイ、星野ルビー、星野アクア、そして本日限りの復帰となった斉藤ダイヤが抜擢された。全員が大物芸能人にもかかわらず同じ事務所から選出されたことはかなり話題になった。特に、数年前に引退宣言をした世紀の天才子役、斉藤ダイヤのキャスティングは世間を騒がせた。

 

 

ダイヤ「今回話を振られた時は本当に驚きましたよ(笑)ただ監督や主演の皆さんにはお世話になっていましたし、後進育成した二人の実力を確かめるちょうどいい機会だったのかなと、今回のキャスティングを受けました」

 

 

 どうやら、様々な関係者に口説き落とされた結果出演を決意したという。その甲斐があったのか引退した身であっても他の役者と一歩も引けを取らない演技だったことが彼の異名に偽りなしだと思わせる。

 

 

ダイヤ「それでも、教師役ではなく生徒役としての起用は想定外でしたけどね(苦笑)」

ルビー「そうそう、私の担任でもあるから同じ生徒として一緒に撮影するのはとっても新鮮でした!」

 

 

 そう元気に返答をしたのは、現在B小町として活躍中の新進気鋭のアイドル、星野ルビー。アイが独立してしばらくして解散と相成ったB小町の再結成は時の話題となっていた。その時の心境を、元祖B小町メンバーであるアイに聞いてみる。

 

 

──ルビーさんはB小町を引き継いだ形でデビューを果たしていますが、アイさんはそのことについてはどのような考えをお持ちでしょうか?

アイ「今でこそ独立したけど、B小町は私にとって思い入れのあるグループで、ルビー達はきちんとそれを引き継いでいるよ。だから私からは何も言わない。強いていうなら、この調子で頑張ってね!」

ルビー「アイにそんなこと言ってもらえるなんて……私、もっと頑張ります!」

 

 

 当時の若々しいままの姿で語るアイの姿は、国民的アイドルとしての風格を感じた。ルビーのその先輩の激励を受けて奮起する姿は、世代交代、国民的アイドルの後釜として認められたということだろうか。

 そして、この中で知名度こそ一歩劣るものの、一部の層からは確かな評価を得ている星野アクアにも、このキャスティングについて問いてみた。

 

 

アクア「元々アイは僕の憧れで、斎藤ダイヤは僕の目標です。同じ事務所とはいえ雲の上のような存在でしたので今回の共演はまさに青天の霹靂のようなものでしたね」

ルビー「アクア固すぎ難しい言葉使い過ぎ(笑)」

アクア「お前はもっと勉強しろ」

──今回主演が全員苺プロでしたが、その点についてはどう思いますか?

アクア「元々彼(斉藤ダイヤ)とはいつか共演するのが夢でしたから、社長が彼を復帰させるお膳立てしてくれたのは本当にありがたかったです。妹とも共演は初だったので、関係各所に迷惑をかけていないか心配でもありましたけど」

ルビー「何言っているのアクア!私も、私も憧れの二人と共演できて、本当に貴重な体験でした!アクアは思ったより普通の演技で面白味にかけてましたね(笑)」

 

 

 二人は実際の双子の兄妹であるので、そのじゃれあいは自然でいつものことのようになっているようだった。ここで、普段のお互いの交流について話を振る。

 

 

──普段から皆さんは交流があるとお伺いしておりますが、そのきっかけなどはありますか?

ダイヤ「私は先ほども話したように、アクアとルビーの演技指導をしています。アイとは、十数年前に共演させていただいたのをきっかけに交流していましたね」

アイ「そうだったっけ?わ~懐かし~!」

 

 

 二人の最初の共演映像は、当時アイは役者としてまだ知名度は無くほんの数秒程度である。しかしそれゆえにとても貴重で現在ではプレミア価格がついているという噂があるらしい。

 

 

ダイヤ「アクアとルビーは、さっきも言いましたが教え子なのでそこから交流しています」

ルビー「うん!先生は厳しいけど、オフだと結構優しいよね!」

ダイヤ「オンオフのメリハリは大事ですから」

──お二人とアイは今回初対面ですか?

アクア「確かにアイは忙しいので事務所でも中々会えませんが、それでも同じ事務所所属ですからそれなりに顔を合わせています」

アイ「うん、なんなら事務所の案内したの私だったよね?」

ルビー「そう!めっちゃ贅沢だったよね!てかそんなことも覚えてくれてすごい嬉しい!」

 

 

 今回が初共演の面々がほとんどだったが、それ以前から交流があるからなのかとても仲よさそうである。

 最後に、今回『恋するステラ』にあやかって、アイドルの二人にも配慮したうえで、この四人に恋の一問一答をさせていただいた。

 

 

【好きなタイプは?】

アイ「私を支えてくれる人かなー?」

ダイヤ「少し不器用な方が好みです」

ルビー「とっても頭がよくて、それでいて人に寄り添える人!」

アクア「自分を持っている人」

 

【学生生活の思い出】

アイ「アイドル生活で忙しかったからあんまり印象に残ってないなぁ」

ダイヤ「生徒会の面々が個性的で、その交流が楽しかったです」

ルビー「今思い出作ってます!毎日が楽しい!」

アクア「一つ上の先輩が面白い」

 

【付き合うなら年上?年下?】

アイ「どっちかっていうなら年下かな~」

ダイヤ「僕の見た目は頼りないので、年上の方と一緒になれるならありがたいですね」

ルビー「年上!やっぱり大人の余裕とかいいよね~」

アクア「特に気にしたことないです。強いて言うなら年齢が近いほうが話があっていいかも」

 

 

【プロポーズする(男性)orされる(女性)なら?】

アイ「サプライズで花束渡されながら、みたいな定番は夢見るよね~」

ダイヤ「言葉ではなく行動で愛を示すのがいいと思います」

ルビー「アイと同じやつ!女の子の憧れだよ~!」

アクア「やるとしたら、男らしくやりたいかな」

 

 

 各々の描いた恋愛模様が映画にもあるのか、非常に注目したい。今もなお人気真っ只中の『恋するステラ』がどこまで行くのか、非常に楽しみである。

 

 ライター:紀出版 紀かれん

 



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