うちは一族のレッドアイズ・ブラック・ブレット (gurasan)
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うちはカガリと呼ばれる少年

 うちはカガリと呼ばれる少年はかつて鈴木大河と呼ばれていた。遠い過去どころか、前世でのことである。

 カガリが二度目の生を受けたのはまるでフィクションのような忍者が当たり前にいる世界。彼は最初こそなにも疑問に思わなかったが、成長し、徐々に前世のことを思いだすに連れて混乱していった。その世界が前世の記憶にあるフィクションと酷似していたからである。

 そして、その記憶の断片を思い出すたびに嫌な予感を感じていた。このままではなにか取り返しのつかないことが起こってしまいそうな、そんな予感。まるで喉に骨がひっかかったような顔をして悩む彼を家族やアカデミーの友人は心配した。カガリは彼らを不安にさせないように考えるのを止め、忍になるための修業に打ち込んだ。それでも夢から覚めたとき、うちはの家紋を見つめているとき、同じ家名をもつ後輩とその兄である先輩の名前を聞いたとき、彼の第六感が警鐘を鳴らすことがあった。

 しかし、結局はその悪い予感の原因を思い出すことはなく、運命の日を迎えてしまう。

 

『うちは一族殺害事件』

 

 うちはイタチと呼ばれる一人の忍によってうちは一族はうちはサスケ一人を残して皆殺しにされた事件。当時、一介の下忍ですらない子供だった彼は訳も分からぬまま殺されてしまう。

 漠然とした無念と後悔を抱いたのは三度目の生を受けてから。なんの因果か三度目の世界は一度目の世界と同じに見えた。

 しかし、彼はうちはカガリと呼ばれ、幼少の頃の彼はうろ覚えながらもその名に嫌な予感を感じていた。まるでフィクションの世界から抜け出せていないような。

 そして、その嫌な予感はまたしても間違っていなかった。

 

 彼が十歳のとき世界は一変する。

 崩れ去るビル群。空を飛び交う戦闘機と降り注ぐミサイル。人を殺す異形の怪物。平和だった日常は街と共に崩れ去り、非日常は地平線まで続く荒れ果てた荒野のように終わりが見えない。

 そんな中、カガリは家族に連れられて異形の魔の手から逃げていた。

 

「カガリ、お前は母さんと逃げなさい」と父は言った。

「嫌だ!」とカガリは叫んだ。

「カガリ、聞き分けなさい」と母は悲痛な表情で諭すように言った。

「絶対に嫌だ!」とカガリはより大きな声で叫んだ。

 

 この世界のうちは一族が前世と同じく特殊な力をもっていることはカガリも知っている。しかし、それが写輪眼とチャクラによるものということは平和なはずだった現代においては失伝し、力もほとんど失われていた。それでもわずかに残ったチャクラにより常人とは比べ物にならない力を持ち、天童式や司馬流にも劣らぬ武を誇る家。正体不明の異形を倒すまではいかなくとも足止めするぐらいは出来る。カガリの父はそう信じ、捨て駒になろうとしているのだ。

 

「そんなの絶対に嫌だ!」

 

 前世でも愛する家族を失ったカガリは父が犠牲になることを認められなかった。いや、前世のことがなくとも認めることはないだろう。それは母も同じ。そのことはその表情が物語っている。

 しかし、事態は切迫していた。キマイラのような様々な生物の特徴が混ざり合った異形の怪物ガストレアがカガリ達の目の前に立ち塞がろうとしている。

 もう一刻の猶予もない。そう感じた母はカガリを無理矢理抱き上げ、走り出した。その動きに反応して襲い掛かるガストレアの前に父が立ち塞がる。

 そのガストレアがステージⅠならば武器がなくともどうにか倒すことも出来ただろう。ステージⅡならば倒せなくとも足止めぐらいならば可能性がある。しかし、そのガストレアのステージはⅢ。

 

 駄目だ。死んでしまう。

 

 カガリはそう直感した。彼の赤い瞳には異形の怪物と父の一手二手先の動きが未来予知のように映し出される。そして、その予測をなぞるように父と異形の動きがスローモーションで流れていく。

 

 また、家族を失ってしまうのか?

 

 カガリの脳裏に前世での両親の死にざまと自身の呆気ない死が鮮明に蘇る。何かが落ちる音、母の来るなという叫び、暗い室内に広がる鉄の匂い、月明かりを微かに反射する水溜りのような……、そして、暗転する視界が最後に移した倒れ伏す両親。

 その姿が今世の父と重なってゆく。

 どうにかしたい。どうにかしなければならない。他の誰かではない自分が。何もできなかった前世とは違うことを証明しなければならない。

 カガリは全身にチャクラを巡らせた。まだ出来上がってない身体ではチャクラの後押しがあったとしても不十分。むしろ成長する身体に悪影響を及ぼすだろう。それでも彼の頭は前世の短い間で学んだことを急速に思い出し、体現しようとしていた。縄抜けの要領で母の腕を抜け出し、母の制止を振り切って真正面からガストレアと対峙する。

 勝てない、逃げられないのは百も承知。だが、うちは一族として大切な家族が殺されるのをなにもせずに見ていることなど出来るはずがない。

 刹那、カガリの瞳に三つの勾玉模様が浮かび、新たな獲物へと目を向けたガストレアは幾本もの杭によって地面へと縫い止められた。

 

『魔幻・枷杭の術』いわば金縛りである。

 

 殺せてはいない。だがガストレアはもう動けないだろう。拍子抜けするようなあまりに呆気ない幕引き。しかし、そんなことは気にならない。

 

「父さん!」

 

 カガリと母は父の元へと駆け寄った。

 

 

 

 

 かくして二度目の生とは違い、彼とその家族は生き延びた。ガストレアと呼ばれるようになる怪物が侵攻し、住んでいた街が激戦地となろうとも生き延びることが出来た。それだけでも進歩したといえるだろう。

 後にガストレア戦争と呼ばれるこの戦いは人類の敗北で終わり、人は地上の支配者ではなくなった。

 平和な世ではうちは一族特有の写輪眼が覚醒することはほとんどない。なぜなら身内や友人など大切な者を失うことによる喪失感や自身への失意が写輪眼への覚醒を促すからだ。故に現代では稀に覚醒したとしても人生半ばを過ぎていることがほとんどである。事実、カガリの両親は写輪眼に目覚めていなかった。それどころかチャクラも無意識に使っているような状態。

 しかし、ガストレア戦争によりカガリ以外のうちは一族も写輪眼に目覚める者が出始めた。中でも前世というものを持っていたカガリは先祖返り、または原作通りともいえるほどの力を受け継いでいる。

 その力のおかげでどうにか生き延びることが出来たカガリ。しかし、降りかかる試練は終わりではなく始まりにすぎなかった。

 

 

『呪われた子供達』

 

 

 ガストレアにより多くの、否、全ての人々が何かしらを奪われた。それは家族であったり、友人であったり、財産であったり、夢であったりと様々だが、一様に何かを奪われた。そして、その奪われた人々は当然ガストレアを憎む。壊された街を見るたび、呼びかける誰かがいないことに気付くたび、怒りと悲しみを糧に憎悪と恐怖が膨れ上がっていく。

 無事だったとしても精神を病んだ者も多く、ガストレアに似た赤い瞳を見るだけでトラウマがフラッシュバックしてしまう。その症状はガストレアショックと呼ばれた。

 そして、ガストレアウイルスに感染した人間から生まれた子供達はウイルスに対して抗体を持ち、即座に異形と化すことなく人と同じ姿形でありながら常人ではありえないほどの身体能力やなんらかの特殊能力、そしてガストレアと同じ赤い眼を持つ。

 その存在は神が人類に与えたガストレアへの対抗手段であると同時に憎きガストレアの同属という憎悪の対象でもあった。どちらにせよ真っ当な人権が保障されることはなく、呪われた子供達と呼ばれる彼女達は人の輪に入り命がけでガストレアと戦うか、人の輪から外れ野たれ死ぬかの二択しかないといっても過言ではない。

 そして、不幸にもこの世界のうちはの家系は常人ではありえないほどの身体能力と特殊な能力、そして赤い瞳を持っていた。

 そんな類似性にカガリは「なんでイシュヴァール人タイプなんだよ、せめてクルタ族タイプでいいだろ」と嘆いたという。

 呪われた子供達は皆女性であり、さらによく見ればガストレアの瞳とは違うことが分かる。しかし、奪われた人々が冷静に赤い瞳を観察することなど出来るはずもない。彼らは呪われた子供達と同じく迫害を受け、殺されそうになったことも多々あった。

 だが、ここでカガリは起死回生の一手を打つ。

 

「カラーコンタクトをつけよう」

 

 カガリの一言により、両親はすぐさまカラーコンタクトの製作を頼んだ。しかし、赤い眼をしているだけで取り合ってもらえない世の中。一先ずサングラスをかけながら業者と交渉し、時にカガリが写輪眼による瞳術を用いて無理矢理カラーコンタクトを創り上げさせた。

 それは長期使用に耐えるハードタイプであることに加え、光対策としてスポーツなどで使われるサングラスのような効果もある。

 もしも、呪われた子供達だった場合、ここまでスムーズにはいかなかっただろう。彼女たちはほぼ確実に捨て子といっていいため、親の庇護もなければ金銭など持っているはずもない。例え持っていたとしてもまともに相手にされないだろう。

 そして、カガリ達は考える。

 このコンタクトを呪われた子供達に提供すれば普通の孤児として匿えるのではないかと。

 ガストレアの襲来により、呪われた子供達でなくとも孤児は大勢いる。ただの孤児であるならばその子供を保護したとして称賛はされど批判は受けないはず。

 未だ失っていなかった常識観念と同じ扱いを受けたことで抱いた親近感からカガリ達は呪われた子供達を保護し始める。

 中には心に傷を負った子供も少なくない所か全員が大なり小なり心に傷を負っていたが、写輪眼を使ってでも無理矢理彼女らを保護した。強引な手だったが、時間が経つに連れて心を閉ざしていた子供も心を開くようになっていく。そうやって子供が増えていけば生活費も増えていく。

 ただ、幸いにもカガリが仕事に困ることはなかった。

 世界が変わってから数年、人類はモノリスと呼ばれる巨大な黒い壁の内側に引きこもり、民警と呼ばれる対ガストレアの組織を結成した。彼らの仕事はガストレアを狩ること。そのために試験を突破しライセンスを取得した者はプロモーターと呼ばれ、呪われた子供たちをイニシエーターと呼ばれるパートナーとしてガストレアと戦う。その際、プロモーターは高い戦闘力を誇るイニシエーターの精神的な支柱兼司令塔とならなければならないのだが、差別意識やプロモーターのほとんどがチンピラっぽく民度が低いため、十全に役目を果たしているとは言い難いとカガリは思っていた。

 そんなプロモーターにシンリは属して、いない。

 理由は単純で稼ぎが悪いからである。加えてカガリとしては家族や新たな妹たちを守るためなら命がけでガストレアと戦う覚悟はあるが、命がけで金を稼ぐ気はない。家族を残して死ぬわけにはいかないからだ。

 ではどうやって金を稼いでいるか?

 答えは写輪眼を利用した犯罪である。

 たとえばバラニウムと呼ばれる対ガストレア用の武器などに使われる金属を合法または非合法に採掘して取引している輩や浸食抑制剤を扱う国際イニシエーター監督機構、略称IISOの人間などを催眠眼で操ったり、弱みを吐かせて脅迫したり、ときに彼らの仕事に協力したりなどして金を巻き上げていた。

 このことは母も黙認している。むしろ無事だったうちはの親戚を集め、巻き上げた金で孤児院を運営し、学校代わりに勉強や自分で身を守れるようにと護身術(実際にはカガリが前世より忍者してると思うほどの暗殺術)を子供達に教え、ガストレア戦争に伴い写輪眼に目覚めた者をカガリの補佐につけるぐらいには協力的である。

 そんな仕事と生活を続ける内にうちはは多くの要人や資産家を傘下に持つ組織として。カガリはその組織の裏ボスのような扱いになってしまっていた。

 さらに他のエリアからも集められた呪われた子供たちは数年で百を超えていた。一応は普通の孤児として保護しているものの、気付く者は気付いてしまう。

 そして、気付いた者は戦慄する。

 うちは一族は廃れているとはいえ、そこそこ名の知れた武家だ。彼らは特殊な能力を持ち、ガストレアが現れて以来それがより顕著になっていた。そのうちは一族が一堂に会し、百を超える呪われた子供達に暗殺術を教えている。さらに裏ではバラニウムの取引を行い、IISOとも秘密裏に繋がっていた。

 

 これはなにかある。なければおかしい。

 

 そんな噂がまことしやかに囁かれ、ついには慈善事業すら邪推される始末。

 カガリ達うちは一族は頭を抱えた。

 善意で始めたはずの活動がここまでややこしい事態を引き起こすとは。やはり犯罪者相手とはいえ犯罪に手を染めたのがいけなかったのか。しかし、今更手を洗うことも出来ず、その犯罪によって子供達の生活が守られているのもまた事実。むしろ、犯罪者から巻き上げた金で子供達を救うことのなにが悪いのか。

 彼らは一つの結論をだした。隠しているからいけないのではないかと。

 倫理的にはそこまで間違っていないのだからいっそのこと公表すればいいのではないかと。

 カガリ達は孤児院の子供達が呪われた子供達であることを正式に公表し、バラニウムの裏取引やIISOの汚職・癒着などを東京エリアの統治者である聖天子陣営すなわち政府に公開した。

 東京エリアは初代聖天子の頃から呪われた子供達との共生のための法案などが挙げられており、他のエリアに比べれば呪われた子供達への差別意識は低い方である。故に今までのことも情状酌量の余地ありとして大目に見てくれた上で誤解も解けるだろう。あわよくば正式に活動が認められるかもしれないと嘆願した。

 しかし、彼らの公開した情報は孤児院の子供達が呪われた子供達であるということ以外、今代の聖天子には伝わっておらず、表にも出回っていない。

 なぜか?

 視点を変えてみよう。

 政府は一枚岩でないどころか、各エリア間のバラニウムを巡る利権争いや聖天子暗殺計画が持ち上がるほどガタガタである。当然ながら汚職や癒着も凄まじい。そして、この時代の汚職や癒着といえば金になるバラニウムの採掘・取引や戦力である民警、そして民警と関わりが深いIISOなどが中心となる。そんな彼らの元に黒い噂の絶えないうちは一族から汚職・癒着の証拠をまとめた情報を公開するという届出があり、しかもそこには活動を合法化したいという旨が加えられていた。

 

 完全に脅迫である。準備が整ったので表舞台に出ようとしているとしか思えない。

 

 こうして、裏ルートだったバラニウムの取引は正式なものと認められ、一部の人物としか繋がりがなかったIISOと正式な契約を結ぶこととなり、孤児院は呪われた子供達の養成施設として援助を受けるようになる。孤児院はより大きくなりカガリの前世に存在したうちはの里のように、外周区ではないものの東京エリアの片隅が丸ごとあてがわれた。

その前世うちは一族のように特別扱いされているのか、それともハブられているのか判断しにくい状況にうちは一族影の首領と噂されるカガリは首をひねる。

 

「どうしてこうなった?」

 

 勘違いが現実となった瞬間だった。

 




 次回予告

 カガリは私怪しい者ですと主張しているかのような仮面男と出会う。

「私のイマジナリィ・ギミックを見切るとは」
「(こいつ厨二病か?)」


 天童民間会社がうちはの里の真相に迫る。

「うちは流暗殺術?」
「ええ。彼らは子供達にそのうちは流暗殺術を教えているらしいわ。あくまで表向きは護身術としてね」
「それは違うぞ!」
「「!」」


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厨二の星

 ガストレア戦争から十年。里見蓮太郎は高校生でありながらプロモーターとして働いていた。そして、今日も今日とて仕事の入らない天童民間警備会社にイニシエーターの少女、延珠と共に顔を出していた。

 依頼があるとのことだったが、その説明の前に依頼人をブッ飛ばしてしまい、報酬を貰い損ねたことで会社の女社長である木更から叱責を受けていたのが先ほどまでのこと。

 

「里見くんはうちは流暗殺術って知ってる?」叱責が終わり、ふとした拍子に木更がそんなことを言った。

「あ? なんだよいきなり」唐突な問いに蓮太郎は眉を潜める。

「知らないのね」いかにも失望しましたとばかりに木更は肩を竦めて見せた。

「悪いかよ」蓮太郎は眼を逸らして開き直る。

「妾は知っているぞ」と延珠は胸を張るようにして言った。

「ホントか?」蓮太郎の眼は疑わしそうな目をしていた。

「嘘ではない。妾達の間では有名だぞ」と少しむくれて延珠は言う。

「そうね。延珠ちゃんたちとは繋がりが深いかも」

「イニシエーター関連ってことか?」

「まあ、そうね。ただ私達も無関係なわけじゃないわよ」

「東京警務部隊だろ」

 民警を取り締まる民警。それが東京警務部隊であり、その構成員はほとんどはうちは一族で構成されていた。

「あら、里見くんのことだからてっきり知らないと思ってたわ」

「さすがにそれぐらいは知ってるっての」

 民警を取り締まる権限を持つ以上、警察以上に民警にとって厄介な組織。あまり表に出てこないとはいえ、民警ならば知っていて当然である。

「うちは流暗殺術は知らなかったくせに」

「……で、そのうちは流暗殺術がどうしたんだよ?」

「うちはの武術は昔こそうちの天童式に劣らないものだったって話だけど十年前の時点ではっきり言って廃れた状態だったわ。なんでだと思う?」

 ちなみに天童式はその強さこそ本物だが100年強しか経っていない武道であり、正しい例を挙げるならば司馬流とかではないだろうかと蓮太郎は思ったが、そんなことをいえば木更が烈火のごとく怒り出すのは想像に難くない。

 君子危うきに近寄らず。ツッコミは無用だろう。

「後継者がいなかったとかじゃねえのか?」

「お金がなかったからではないか?」

 

「「「……」」」延珠の言葉に三人はしばし押し黙る。

 

「……二人とも正解よ」他人事ではないとばかりに木更は真面目な表情で言う。「かつての平和な時代になって、科学技術が発展して、暗殺術なんてものは必要とされなくなった。そして、うちは流暗殺術はうちはの人間にしか使えなかったこともあって武術で食べていくことも出来なかった。この二つが主な要因でしょうね」

「うちはの人間にしか使えないって秘伝とかいう意味じゃないんだよな?」木更の言い方から蓮太郎は彼女の意図を読み取った。

「ええ。そもそもうちは一族は他の人間とは構造が違うのよ」

 木更の言葉に延珠が一瞬暗い表情を浮かべた。

 人とは構造が違う。呪われた子供達が差別される一番の要因だ。せめて赤い目でさえなければ多くの呪われた子供たちが迫害されることなく、命を救われただろう。

「かつて中国では経絡なんてものがあるとされていたけど彼らは経絡系と呼ばれる独自の器官を持っている。それがイニシエーターにも匹敵する身体能力を生み出していると言われているわ」

「……なあ、なんでその経絡系ってのがあるって分かったんだ?」と蓮太郎は半ば答えが分かっていながらもきいた。

「……解剖したのよ」

 答えは予想通りのものだった。

「昔からうちは一族は研究対象としてその身を狙われていたらしいわ。中でも目は鑑賞用としても価値があったらしいから特に狙われていたとか。今は見たいなんて人はモノ好きか研究者以外いないでしょうけど」

 人の眼を観賞用として飾る。余りのおぞましさに蓮太郎は顔を歪めた。が、知り合いにそういうことをしそうな人間がいることを思いだして、苦笑いを浮かべる。

「話を戻すけど彼らの暗殺術は前提として超人的な動きが出来ないといけないの。だから一般に広まらなかったってこと」

 超人的な動きが前提条件。蓮太郎はすぐ横に座る延珠を横目で見た。それに気づいた延珠は笑顔を向ける。蓮太郎は苦笑いを浮かべた。

「そう。イニシエーターはその条件を満たす。それでもって、うちはの里なんて呼ばれる地区に外周区に住んでいた子供達が集められているのは知っているわよね」

「まさか……」

「ええ。彼らは子供達にそのうちは流暗殺術を教えているらしいわ。あくまで表向きは護身術としてね」

「それってIISOは認めてるのか?」

 IISOの活動の一つはイニシエーターの育成だ。うちは一族の行動はそのお株を奪うような行為である。本来ならどんな武術を学ぼうが個人の自由だが、よくも悪くも世界の中心である呪われた子供達となると話は変わる。それも集団でとなると尚更だ。

「黙認してるみたいね。孤児院自体は聖天子様からも正式に認められているし。あっちに民警を取り締まる権限を与えられている以上、民警では太刀打ちできないでしょうね」

「それで、それがどうかしたのか?」

「そのうちはの里で臨時の先生または保育士をして欲しいって依頼が来てるのよ」

 蓮太郎はそれをきいてうちはの里の調査かと考えた。

「依頼者はどこだ?」

「うちはよ」

「あ? どういうことだ?」

 民警と警察の仲が悪いのは周知の事実だが、民警を取り締まる警務部隊に民警が良い感情を持つはずがない。それはあちらも分かっているだろうになぜ民警に依頼したのか?

「さあね。でも民警の中にはうちはが子供達に対して無条件で門出を広げていることからイニシエーターを送り込んで内情を探らせるなんてこともあったらしいわ」

「過去形なのは?」

「そのイニシエーターが戻って来ないからよ。場合によってはプロモーターもね」

「キナ臭い話だな」

 警務部隊が出来る前からプロモーターが行方不明になるケースは少なくなかったが、行方不明のほとんどがうちはの仕業だったという噂もある。

「里見くんが報酬をちゃんと受け取っていればこの依頼も受けなくて済んだかもしれないのに。ほんと甲斐性無しなんだから」

「その話はもう終わっただろ」

「それで、どうするの? 今回はまだ選択権があるけど」

 依頼を受けるか受けないか。蓮太郎は悩んだ。呪われた子供達を保護しているという点を素直に受け取るならば少なくとも延珠に危険はないだろう。しかし、呪われた子供達を集めて、洗脳し、兵に仕立てあげようとしているのだとしたら……。

「なにを悩んでいるのだ?」

「お前、話きいてたか?」

「うむ。教師が足りなくなったから教師をして欲しいのだろう? 蓮太郎が教師役になれば問題ない」

「いやだからその依頼の裏になにがあるか……」

「蓮太郎は知らないかもしれないがうちはの人達は良い人たちだ。優しいし、皆を助けてくれた。悪い人たちじゃない」

「世の中には良い人そうに見えて悪い奴もいる」

「……」延珠は悲しそうな顔をして蓮太郎を見る。

「でもまあ、会わずに決めつけるのはよくないよな」蓮太郎はバツが悪そうに顔を逸らして言った。

「……蓮太郎。さすが妾のふぃあんせだ」

「いや、違えから」

「はいはい。依頼は受けるってことで良いわね?」木更が注目とばかりに手を叩いて確認をとる。

「ああ。うちはのことはこの眼で確かめる」

「それじゃあ、三人で行きましょう」

「「三人?」」蓮太郎と延珠は間の抜けた声を上げた。

「なんか給食が出るらしいのよ。それも希望があれば三食も」

 目を輝かせて言う木更に蓮太郎は、飯だけ食って自分は帰るつもりじゃないだろうなと邪推した。

「ちなみに契約期間は一月更新。シフトは応相談で拘束時間は二時間からだけど緊急時の抜け出しはOKみたい。時給換算するとなんと2000円。でも交通費は出ないらしいわ。その代り寝泊まり可みたい」

「バイトじゃねえか。いや給料は高いけど」

 蓮太郎は一応高校生である。そうなると行けるのは土日の二日間。終日八時間働くとして一日一万六千円。それが八回で月額約十二万八千円。しかも食う、寝るに困らない。むしろ学校を止めて週休二日にすればと考え、背筋が凍るような笑みを浮かべる生徒会長の顔が思い浮かび、蓮太郎は考えるのを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は逃げていた。辺りは闇に包まれ、廃墟が乱立している。

 誘い込まれたのだと男は悟った。

 しかし、男は追いかけてくる影を振り切るように走る。彼はまだ諦めていなかった。

 男は元囚人でありながら民警に所属する、それなりに腕の立つプロモーターだった。故に増長し、犯罪を繰り返していたが、大量殺人などの重大な事件を起こさない限りライセンスが剥奪されることはない。それが彼をより増長させる一因となった。

 そして、今日。カッとなってパートナーのイニシエーターに重傷を負わせてしまう。彼は任務中の負傷ということで処理しようとしたが、それは叶わなかった。

 親会社からの命令で上司からクビを言い渡されペアも解消させられたため、IP序列もリセットされてしまう。とうとうブチ切れた男はその上司を殺害して逃亡した。

 そして、今彼は影に追われている。

 違反したプロモーターやイニシエーターを取り締まり、場合によっては始末する対ガストレアではなく、対人戦に特化した組織からの追手。

 男はそれこそ死ぬ気で走り続け、開けた場所へと出る。

 そこへ降り立つ黒い装束と仮面を付けた存在。

 四足獣のように身体を丸めるその人間が地面に着地するのを見届けると同時に男の視界に黒光りするクナイが迫りくるのが写る。

 腐ってもプロモーターの一人である男はそのクナイを手に持つナイフで弾こうとする。だが可笑しなことにそのナイフが男の元へと到達する前に、男の頭が上から掴まれた。クナイを投げ、地面に着地したばかりだったはずの存在によって。

 尋常ならざる力によって男の視界は一回転する。

 

「極死・七夜……(なんちゃって)」

 

 男が最後に見たのは倒れ伏す自らの身体と赤い輝きを放つ瞳だった。

 

 

 

 

 着地と同時にチャクラを足に込め、獣のごとく跳躍し、先に投げたクナイを追い越して相手の頭を掴み、ねじ切る。そんなフィクションの技を再現したカガリは清々しい達成感と共に技の考察をしていた。

 殺傷力は高いが暗殺術というには派手なのが欠点か。後処理が面倒だし。それでも螺旋丸とか千鳥よりはかなりマシなのが不忍たる所以だな。とカガリは仮面の裏で苦笑いを浮かべた。

 在りえないと思いたいがイニシエーターのような強化人間相手には効果的だろう。

 それに極死はともかくとして、七夜の体術のように四足獣の動きを真似るというのは子供達と相性がいいかもしれない。

 勿論、カガリは七夜の体術など知りようもない。しかし、いくつかの技の概要と獣拳ならば知っていた。

 人を殺す術を教えるのはどうかと思ったが、今更なこともあって中途半端が一番危ないという結論に達する。それに最近なにやらキナ臭い。うちはの里に戻ったら一族に提案してみようと彼は心に決めた。

 

「いやはや恐ろしい技。絶技とでもいうのかな。まるでイニシエーターを殺すための技のようだ」

 

 一仕事終えたカガリへと赤い燕尾服にシルクハット、加えて仮面を被った怪しい男が拍手をしながら声をかけた。怪しいを絵に描いたような奴だとカガリは思うが、怪しさという点では前世の暗部を参考にしたカガリの恰好も五十歩百歩である。

「死神と言われるだけのことはある。その力を……」

 仮面男が言い終わる前に仮面目掛けてクナイが投げられる。しかし、そのクナイは見えない壁にぶつかったかのように弾かれた。

「バリア。いや斥力か」クナイの弾かれ方から推察し、ペインみたいな能力だとカガリは思う。

「ほう。私の斥力フィールド(イマジナリィ・ギミック)を初見で見破りますか」

 その言葉を聞いてまさか真の厨二病変質者かとカガリは戦慄する。こいつ銃に名前付けてたりするのかとカガリは訊いてみたくなったが、極死・七夜とか言っちゃった手前厨二病と煽るのは憚られた。

「しかし、随分な挨拶だ」

「仮面を付けている奴にはろくな奴はいない」

「なるほど。君が言うと説得力がある」

 あん? ケンカ売ってんのか厨二野郎、と言いたいのを堪えてカガリは仮面男を睨みつけた。

 カガリの付ける仮面に穿たれた二つの穴から赤い光が漏れる。仕事の時は売名行為のため隠していない写輪眼によるものだ。

「ふむ。それが噂に聞くうちは一族特有の赤い瞳か。実に良い眼をしている」仮面の男は茶化すように口笛を吹いた。

 その次の瞬間、カガリの身体が真っ二つに別たれる。

 彼の背後にはいつのまにか一人の少女が二本の小太刀を振り抜いた態勢で立っていた。

 先の口笛は彼女への合図。彼女はカガリの背後にある廃墟で機会を伺っていたのだ。

「……切れなかった」少女は呟き、目の真にある真っ二つになった頭のない死体を見やる。

 肝心のカガリはもぎ取った首と一緒にどこかへと消えていた。

「変わり身の術というわけか。うちはが忍の系譜というのも嘘ではないらしい。それにしてもこのご時世に忍者とは」

「バパ、切らなくていいの?」と少女は一定の方向へ身体を向けたまま言った。

姿は見えなくとも直感でカガリが逃げた方向が分かるのだろう。今にも飛び出しそうなほど気が高ぶっている。

「いいさ。今はまだ、ね」男は仮面に描かれた模様のように笑みを浮かべる。「それにしても生首か。サプライズにはいいかもしれないな」

 

 

 一方のカガリは厄介な奴らに目を付けられたと溜息を吐いた。一応目を合わせた際、家族に手を出さず、これからも自分に接触するよう暗示をかけたが、狂人相手にどこまで効果があるか分からない。

 カガリはもう一度溜息を吐き、供養した生首に手を合わせる。

 どんな人間も死ねば仏。死んだら罪が許されるなんてことは認められないが、死が重いこともまた事実。

 来世では真っ当な人間として生きられるようにとカガリは祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 うちはの武術は忍のそれであり、対ガストレア戦よりも対人戦向きである。そこでうちは一族は民警をとりしまる民警、その名も東京警務部隊として東京エリアの治安維持活動を任されることになった。

 この前世との妙な符合はガストレア戦争前にうちはという家名に抱いていた予感のようにカガリをひどく不安にさせた。

 そこでカガリはほとんど失伝したチャクラ運用術を一族全員に伝授することを決意する。

 その運用術とはカガリが幼少の頃から考え、試行錯誤を繰り返した血と汗と涙の結晶だった。

 

 

 ガストレア戦争を生き延びたカガリは将来のために一族や他の流派から武術を教わるだけでなく、チャクラの運用術を身に着けようとした。とはいえ彼もチャクラの全てを完全に理解していとは言い難い。前世ではアカデミーを卒業前に死んだのだから当然だ。

 そこで役に立ったのが成長とともに鮮明に思い出せるようになった前々世での記憶。

 まずチャクラとは身体エネルギーと精神エネルギーを合わせたものであり、前者は八極拳でいう勁に近く、後者は武道の気に近い。他の漫画や小説で例えるならハンターハンターの念であり、ドラゴンボールの気であり、レギオスの勁である。経絡系が存在することから一番近いのは勁脈が存在するレギオスかもしれない。

 そして、カガリはナルトで描かれた修行法だけでなく他の作品での修行法を吟味し、現代まで伝わっているうちはの武術と合わせればなんか良い感じになるのではないかと考えた。

 

 しかし、言うは易く行うは難し。

 

 両親にチャクラの概念を説明するだけでも苦労し、

「チャクラだと? たしかヨガで身体に複数ある中枢のことだったか」

「いや、それとは違くて、どちらかといえば気とか勁みたいなやつなんだけど」

 

ナルトに登場する木登りや水面歩行や、

「木登りというより壁登りだな」

「カガリ、ご飯だから早く降りてきなさい」

 

レギオスに登場する勁息をもとにした気息とボールを用いた修業、

「あれ? 気息って仙術チャクラなんじゃ……うん、やめよう」

「座禅を組んでいたんじゃなかったのか?」

 

 形態変化を習得するためにハンターハンターの穴掘り修行や変化系修行などなど思いつく限りの修行法を試した。

「なんでカガリさんも採掘に?」

「穴掘りも修業のうち。そんなことより後一息で休憩だ。朱理ちゃんに会えるぞ、ロリコンの常弘くん」

「ろ、ロリコンちゃうわ。じゃなくて違います」

「君も大分ネタに染まってきたね」

 

 さらに偶然知り合った別の転生者から評価を貰い、修正し、

「再不斬さん、どうか弟子にしてください!」

「今は将監だ。こっちの条件を呑むなら考えてやる」

「将監さん。だれですかその人?」

 

 そして、ようやく完成した。

 

 そんな同じうちはとはいえ簡単に教えることを禁じられていた秘伝を明かす決意を固め、一族の年長者たちもそれを了承する。

 

 新生うちは流(暗殺)護身術の誕生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 繰り返している、と将監は思う。再不斬と呼ばれていた前世、無音殺人術と首切り包丁を使い、人を殺していた。

 今も変わらない。前世と同じく口布を巻き、首切り包丁がバラニウムとかいう金属になって、殺しす相手が人に加えてガストレアなんて怪物が増えただけ。結局、自分にはそういう道しかなかったということだろう。

 自分には地獄がふさわしい。前世で忍の世界が似合わなかったように白にはこんな地獄のような世界は似合わない。だから、この世界に白はいないだろう。将監と呼ばれるようになった男はそう思っていた。

 実際、今の所自分を前世の名で呼ぶ人間はいない。

 

「将監さん」

 

 しかし、今世での名を呼ぶ少女はいた。少女の名は夏世。プロモーターになる際、送られてきたイニシエーターだ。彼女はイニシエーターの中では身体能力が高い方ではなく、代わりにずば抜けた知能をもつ。ゆえに戦闘ではなく事務仕事などを任せていた。そのことに夏世は不満があるようだったが、仮に彼女が戦闘力に秀でていたとしても将監は自分一人で充分だと言っただろう。将監にはそれだけの実力があったし、前世で白を忍の世界に巻き込んだことに対する負い目のようなものもある。だからこそ、ガストレア化の危険を冒すような戦闘に参加させなかった。

 差別意識からイニシエーターを道具扱いするプロモーターが多く、そういう人間を見ると、忍に必要なのは道具だと言って、心を殺していた前世の自分を見るようで無性に気分が悪くなる。そして、ほとんどの場合その相手を殺してしまう。三桁というIP序列がなければライセンスを剥奪されていたかもしれない。

 残されたイニシエーターたちをどうするか悩んでいた時、前世で因縁のあるうちは一族が呪われた子供達の保護しているのを知った。

 なぜそんなことをするのかと考え、そういえばあいつらも赤目だったと彼は思い出す。

 相手を見極めるためうちはカガリとも話し、術などを教えるかもしれないという契約をもとに信用に足ると判断した将監は、丁度良いとばかりに夏世を含めたイニシエーターをうちはの里に預けた。

 しかし、誤算があった。

 

「ただの道具としてで構いません。だから、どうか傍に置いてください」

 そう言って夏世は眼に涙を浮かべながら頭を下げてきたのだ。

 

 まさか前世での白と同じようなことを言われるとは思わなかった将監は面食らってしまう。にやにやと笑みを浮かべるカガリが鬱陶しくて首切り包丁を振るい、背を向けた。

「付いてきたいなら勝手について来い」そう言う他なかった。

「は、はい」夏世は満面の笑みを浮かべて将監の隣へと走り寄る。

 

 

「俺の知り合いはロリコンばっか」

「……前払いだ。一つ術を教えてやろう」

「へ?」

 

『水遁・水龍弾の術』

 

「じょ、冗談だってばばばばああああぁぁぁ……」

 流されていくカガリはドップラー効果のような悲鳴を残してフェードアウトしていった。

 




 次回予告

 うちはの里へやってきた蓮太郎たち。そこで待っていたのは鬼の男とイルカの少女だった。

「今日からお前達に無音殺人術……」
「護身術です。将監さん」
「……今日からお前達に無音護身術を教える」
「おい延珠。あいつ今殺人術って言ったぞ」
「先生がそんなこと言うはずなかろう。きっと気のせいだ」

「こいつは首切り包丁といって……」
「ほら! 今度は首切りとか言ってるぞ!」
「蓮太郎だってドクロカブトとか言っているではないか。どっちも頭のことなのだろう?」
「轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)だ!」


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うちはの里アルバイト職員募集のお知らせ

 

 

 仕事内容

 昼間はうちはの里にある校舎で学習指導や体育指導。夜間は宿舎での学童保育や里の見 回りをしてもらいます。昼間か夜間のどちらかだけでも結構です。どちらもある程度の戦闘技能が必要となる場合があるのでご注意ください。

 

 募集形態

 アルバイト職員

 

 勤務先企業

 東京警務部隊

 

 勤務期間

 短期でも長期でも大歓迎。契約は一月毎の更新となります。

 

 休日・休暇

 交代制。週1~シフト自由で働けます。

 

 勤務時間

 一日二時間(2コマ)から。ガストレア出現など民警としての仕事が入った場合はそちらを優先して戴いて構いません。

 

 経験・資格

 民間警備会社で働くプロモーターの方。イニシエーターがご一緒でも構いません。序列問わず大歓迎です。

 

 待遇

 時給2000円。一月ごとに昇給を審査します。

 服装・髪型自由。ただし子供の教育に悪い恰好はNG。口布を巻き、背中に大剣を背負う程度までなら大丈夫です。

 朝食・昼食・夕食は支給されます。

 交通費の支給はありません。

 研修・サポートあり。最初は副担任のように補佐となるので指導経験のない方でも安心してご応募下さい。

 宿舎への寝泊まりは可能。ただし一月の勤務時間が120時間を超える方のみとなります。

 

 

「それはなんだ?」と将監はカガリが印刷した求人広告を見て言った。

「求人広告。最近、人手が足りなくなってきてね。人を雇おうってことになったんです」

 うちはの里創設から数年。創設時には100人強だった子供達は四百を超え、学校一つ分にまで膨れ上がった。現在、うちは一族総出で対応しているが、他の仕事もあり、影分身を使わなければとても手が回らない。

「プロモーター限定なのはなぜだ?」その中途半端な影分身と完璧な水分身をカガリに伝授した将監が問う。ほとんどのプロモーターは彼自身を含めてモラルの欠片もなかったりするので当然の疑問だろう。

「ある程度強くないと死んじゃうかもしれませんし」

 保護した呪われた子供達の中には自分の持つ力を上手くコントロールできないものもいる。さらにうちはの里の周囲では反ガストレア主義の人間によるデモ活動が毎日のように行われ、一部過激派によるテロ紛いの活動も行われていた。

 どちらの場合でも最低、生き残れるだけの実力は欲しい。そこでプロモーターの資格を持つ者に頼もうというわけだ。

「それに黒い噂が絶えないので、門出を開けておこうと」

「いっそのこと民警に依頼として出したらどうだ?」カガリの背後で将監はにやにやと笑みを浮かべながら言った。

「あー。たしかにそっちの方がいいかもしれません」

 

 こうして民警へと依頼がなされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 うちはの里は外周区ではないものの東京エリアの片隅にある。それがどういう事態を招くかといえば。

「朝ごはんを貰うためとはいえ、五時出はきつい」交通費節約のため、自転車を漕ぎながら蓮太郎は言う。目元の隈と半開きの眼のせいでいつもより悪人面に見える。その背中に延珠が寝息を立てながらしがみついていた。

 現地集合と言われ、木更はどうやって行くつもりなのだろうかと彼は思っていたが、そんな考えに反して木更はうちはの里に続く巨大な門の前で仁王立ちしていた。

 さらに彼女と門の間にはうちはの家紋が描かれた服を着た男が立っている。

「遅いわよ。里見くん」

「どうやってきたんですか?」

「連絡して頼み込んだら迎えに来てくれたわ」

「天童としての最後のプライドがどうとか言ってなかったか?」

「それはミワ女に通うってことだけよ。ご飯を貰うためなら泣き落としでも平気でやるわ」

「俺も他人のことはいえないけど、少しは自重してくれよ」

「私だって相手ぐらいは選ぶわよ」

「はいはい、そうですね。ほら、延珠。もうついたぞってあれ?」

 気づけば後部座席とは名ばかりの荷台で蓮太郎の背中にしがみついていた延珠がいなかった。

「里見くん。まさか今度は報酬じゃなくて延珠ちゃんを忘れてきたわけじゃないわよね」

「ははっ、そんなわけないじゃないですか」日和った蓮太郎は途中で落としてきましたとも言えず、渇いた笑みと冷や汗を浮かべた。

 しかし、嘘とは儚い物。

「蓮太郎! フィアンセの妾を捨てるとは何事だ!」

 物騒な言葉を叫びながら跳び蹴りかましてきた延珠によって嘘はブレイクされ、蓮太郎はくの字になって吹っ飛び、九の字になって蹲る。

「これで全員揃いましたか?」我関せずと目の前のコントをスルーしたうちはの男は木更へと問いかける。

「ええ。揃ったわ」

「では門を開けますので少々お待ちください」男はそう言うとうちはの家紋が描かれた門に両手を置き、渾身の力を込める。

 その時、蓮太郎たちはまるで得体の知れない何かがプレッシャーとなって男から放たれているように感じた。

 音を立ててゆっくりと扉が開き、その扉の異常な分厚さが明らかになる。見上げるような高さと相まって、一体何キロあるのか想像できない。

 そんな疑問が顔に出ていたのか「片方500㎏です」と男は言う。

「この羅生門を開けるのに必要なのは鍵ではなく単純な力のみ。これを考案した倅のカガリは片方2tにしようなんて言っていたのですが、それでは一族の者でも開けられないので軽くしました」

 2tとかどんだけ怪力なんだよと蓮太郎は思ったが、2tはカガリでも無理である。彼はただハンターハンターのゾルディック家を再現したかっただけなのだ。

 

 

 四人全員が門を潜り、男が手を放すと門は一人でに閉まった。

「塀を超えた方が早いんじゃねえか?」

「外部の人間がそれをやると番をしている者に食い殺されます」

「は?」蓮太郎はつい素の返事を返してしまい、すぐにすいませんと頭を下げる。

「驚くのも無理はありません。でも事実です。もうすぐ来るでしょう」

 男の言葉通り、すぐになにかがやってきた。

 それは狼のような姿をしたガストレアであり、その赤い瞳には写輪眼のような三つの勾玉模様が浮かんでいる。身体は墨を染み込ませたかのように黒く、その上から筆で描かれたような赤い文様が走っていた。そして、時折足元から火の粉が立ち昇っている。

字面だけみれば格好良さげな姿に思えるが毛並みはふさふさモフモフというよりは老いた猫のようにしんなりしていて、光沢もないためチョイ微妙。

 とはいえ明らかに特殊な能力に目覚めたガストレア。

 蓮太郎はすぐさま戦闘態勢をとろうとするが、男がそれを制す。

「彼が門から入ったあなた方を襲うことはありません。あくまで排除するのは不法侵入者だけです」

「そんなことが可能なの?」木更が問う。

「カガリだけでなく一族の者が複数で制御しているので一族が滅びない限り問題ないでしょう。こうやって近くにいる分には感染もしません」

「一体どうやって」

「それはお教え出来ません」

 その赤い目には明確な拒絶が現れていた。

 しばし、二人の間でにらみ合いが続く。

「一つ言えるのは彼も同じうちはということです」

 それはつまりガストレア化した同胞を番犬として飼っているということ。

「殺してやった方がそいつの為なんじゃないのか?」

 蓮太郎の言葉に男は一度眉を潜めたが、それだけだった。

「それは当人と遺族が決めること。それに私達はガストレアとしての本能を抑え、理性を保ち、行動の指針を与えているだけ。簡単な意思疎通も可能です」

 男が合図を送ると、そのガストレアは去っていく。どういう仕組か蓮太郎には分からないがガストレアを制御しているのは本当らしい。

 木更はなにか思案するように目を細めて、去りゆくガストレアの後ろ姿を眺めていた。

「他にも何人かのガストレア化した一族が里を守っています。ここにいれば出会うこともあるでしょう。一先ずは応接間に案内しますので付いて来てください」そう言って男は歩き出す。

 蓮太郎はその後を追いながらも木更に目を向けた。

 イニシエーターとプロモーターが行方不明になったのはこれが原因なのではないかと目で語る。しかし、木更はまだ断定は出来ないとばかりに首を振った。

 一方の延珠は男に話しかけていた。

「頼めば背中に乗せてもらえるだろうか?」

「目の前でお辞儀をして、お辞儀を返したら乗ってもいいという合図だ。機会があったら試してみなさい」

「うむ。分かった!」

 蓮太郎は無言で延珠の頭を小突いた。

「む、なにをする?」

「いや、なんとなくだ」

「蓮太郎。お主まさか、DVに目覚めたのか!」

「馬鹿なことを言うな!」蓮太郎は再び延珠の頭に拳骨を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪しい仮面男と対峙した日の夜深く、カガリは七夜の体術を教えるべきかどうか父に相談していた。

「確かに獣拳のような動きはあの子たちと相性がいいかもしれない。いや、おそらく既存の獣拳よりも獣染みたより強力なものになるだろう。だがそれは常に力の解放を強いる技だ」

「でも、あいつらを見ていると力を使わなさ過ぎるのも辛そうに見えるんだ」

 呪われた子供達は身体能力が高いとされているが、真に注目すべきはその成長速度だ。成長限界点に達するまでは飛躍的にその能力を向上させる。しかし、それはガストレアに近くなっているということでもあり、手放しで喜べるものではない。

 だが、自らの成長を目に見える形で体感できるのは途轍もなく楽しく、面白いのだ。カガリもアカデミーで忍術を教わったときは早く実践したくてたまらなかった。今でもフィクションの技などを再現する際はどうしてもテンションが上がってしまう。

 だからこそ、力を使いたくなる気持ちはよく分かる。それが知識的なものではなく肉体的なものならば尚更だ。

「たしかに力を抑えて生きるのは息苦しいだろう。子供ならば尚更だ。だがしかし、私達が暗殺術たる術を護身術として教えているのは第一に己の命を守るため。

 第二に無用な争いを避けられるよう隠密と逃走術を身に着けさせるため。

 第三に戦闘を強いられても力を使用する時間を短くし、傷を負わないようにするため。

 故に鍛錬も私達と違い、力の解放を必要としないもの、また瞬間的に力を発揮するものがメインとなっている。加えて肉体の治癒を促すような筋力トレニーングはやらせていない。

 お前もガス抜きに遊びとして全力の鬼ごっこなり、缶蹴りなりを行っているのだろう?」

「まあね」カガリは頷いた。

「だがまあ、私達が知る分には問題ないだろう」

「えっ、父さんも『極死・七夜!』とかやりたいの?」

「……」

「沈黙肯定と判断し、ってちょっと待って、もげる。首もげるから!」無言のアイアンクロウからの捻じ曲げによりカガリは悲鳴を上げた。

 

 

「というわけで七夜の代表的な技を教えようと思う。あくまで俺がアレンジしたものだから改善点や気になる点があったらどしどし言うように」アイアンクロウから一夜明け、うちは一族の従妹であるクヨウの前でカガリは言った。朝練として日の出ともに彼女を起こして、演習場に行くのがカガリの日課である。

「まず七夜とは?」

「今は亡き一族に伝わる暗殺術だそうだ。動きの肝はチャクラで身体を強化することにあるから基本的にうちは流と変わらない。ただうちはのように特異な力を持つ人間を殺す目的で編み出された技のためオーバーキル感があるかもしれんがな」

 最終形の極死・七夜死式なんて一度に背骨、首、頭、心臓を破壊する技であり、吸血鬼が相手でもない限り使い道はないだろう。というより、死式は某格闘ゲームにも登場していないため、見た目どういう技か分からず、カガリもマスターしていない。

 そう、七夜の技を再現する際、最もお世話になったのがその某格闘ゲームでの動き。それでもよく分からない技もある。

 例えば『閃走・六兎』は相手を蹴り上げつつ、空中で多段ヒットさせているように見えるが、概要だと瞬時に六発の蹴りを同じ箇所に叩き込む技となっており、試行錯誤の末に何故かトリコの釘パンチならぬ、釘キックになってしまった。

 その点、『八点衝』は分かり易く、ひらすら相手を斬りつければいいという、手数で勝負する乱の技。

 手数を増やすというのはシンプル故に極めればそのまま奥義となる。相手の攻撃を封殺し、殺しきる。いわばガード固めからの削り十割。居合のような一撃を極めるものとは対を成す技だろう。

 そんな技の数々を披露したカガリに待っていた言葉。

「見栄えはいいですけど、暗殺術っぽくないですね」

 格ゲーを参考にしたから仕方ないね。とは言えないカガリ。よくよく考えれば格ゲーは真正面からのタイマンが基本。もうすでに暗殺の前提が崩れている。

「でも格好良いだろ」

「はい。恰好良いです」

 相手が十歳の子供で良かったとカガリは思った。

「それじゃあ、次は螺旋丸を教える。写輪眼でチャクラの流れを良く見て動きを真似るといい」

 カガリが仕事をしながらとはいえ、修得に一年かかった技だ。さすがは形態変化の極致の一つ。ちなみに性質変化を加えるのは途中で断念している。

 カガリとしては千鳥や雷切の方も憶えたかったのだが、螺旋丸と違って印が必要となる。つまり、覚えていない。将監なら雷切を食らっているので知っているかと思ったが、露骨に嫌そうな顔をされたのでこちらも断念した。

「はい、兄さん」

 クヨウの瞳に映る文様が万華鏡のように変化し、カガリの持つ写輪眼とは異なる曼荼羅のような文様が浮かび上がった。瞳孔は黒目のまま、周囲を囲む虹彩に八つの円が描かれている。

 そう彼女は万華鏡に目覚めているのだ。

 曼荼羅は仏教において宇宙を含む世界を表すとされているが、彼女の万華鏡に宿った力も宇宙っぽく重力関係である。

 無理矢理ナルトで例えるならば輪廻眼の天道が使う神羅天征と地爆天星だが、他の漫画で例えるなら金色のガッシュベルのバベルガグラビトンとディオガグラビトンに近い。

 右目は眼に映る範囲内にある全てを重くして押し潰しているのか、神羅天征のようになんらかの力で押し潰しているのか分からないが、どちらにせよ広範囲を押し潰す力を持つ。

 一方の左目は目に映る範囲を小さく圧縮するという恐ろしい力を持っている。

 どちらにせよ、一度ずつしか使わせていないため、詳細は分からない。須佐能乎が使えるかも不明だ。カガリ達としては失明を避けてもらいたいので使用は禁じて他の技術を教えている。

 そして、彼女はうちは一族であると同時に呪われた子供達でもある。そうでなければカガリは見つけられなかっただろう。

 カガリが彼女を保護した時、彼女は一人で血の涙を流し、瓦礫の上で蹲っていた。

 一体どんな経緯で生まれ、万華鏡を得たのかはカガリも知らない。ただ、愛を知りながら、愛を失ったのだろうとカガリは漠然と思った。

 そうして保護したばかりのクヨウは半ば人間不信となっており、カガリや一族の者、他の子供達が根気強く接し続けたことで近年ようやく心を開くようになった。

 なかでも万華鏡のことを唯一知っていたカガリは彼女の教育や指導を任されており、そんな彼にはよく懐いていた。

「いくぞ、螺旋丸」

 カガリの手の平に高速で乱回転する小さな台風のような塊が現れる。

 その様子をクヨウは言われた通り食い入るように眺めていた。

「これが完成形だ。まずはチャクラで数字の1作れるか?」

「はい」と返事をしてクヨウは指先に数字の1を創る。そして2、3と数字を変えていく。

 ハンターハンターであった変化系の修業方法だが、これを行うことでチャクラの形態変化で重要な形を変えたまま留めるという操作を身に着けることが出来るのだ。これが出来ればチャクラを刃物のように形態変化させて斬るなんてことも出来るようになる。

 しかし、それは基礎のようなもので螺旋丸といえばあの修業しかない。

「じゃあ、今度はこれを使う」そう言ってカガリが取り出したのは水風船だ。

「これをチャクラの回転で割る」

 カガリの持つ水風船がボコボコと動き出し、破裂する。

「第一段階だからまだチャクラを留めることは考えなくていい。クヨウならすぐ出来るようになるんじゃないか?」カガリは水風船をもう一つ取り出し、クヨウに放り投げて寄越した。

 受け取ったクヨウは一度深呼吸をし、写輪眼で見たチャクラの流れを再現するように手に持った水風船へとチャクラを放出する。

 結果、一回目にして水風船は呆気なく割れた。

「兄さん、出来ました!」クヨウは先ほどまでとは違い、年相応のはしゃぎようを見せる。

「おお、さすがクヨウ。やはり天才か」

 ハイブリットなだけあって、最初こそ力の使い分けや力加減に苦労したものの、ハンターハンターの心を鍛える方の燃を基にした点の修業や水面歩行の修業によりガストレアの力を使わずにチャクラだけをコントロール出来るようになった。

 特に『点』とは心を一つの集中し、己を見つめ目的を定める精神統一のような行。これはどの流派の武術にも似たようなものが存在し、ガストレアの力をコントロールするため呪われた子供達にも行わせている。

 また、その気になればガストレアの力も使えるため、潜在能力では先祖返りと呼ばれてきたカガリを大きく上回るだろう。今でさえカガリが勝っているのは知識と経験、技術の三つだけ。技術に至っては写輪眼で模倣が可能なため年内にも並ばれてしまうかもしれない。

「そんな、天才なんて。私は真似しているだけで兄さんみたいに技とか考えられませんよ?」

「うん、まあ、そう、かもしれなくも……ないな」

 カガリの言葉にクヨウは首を傾げる。

 自分が考案したものではないのに自分の功績とされるのはなんとなく罪悪感を抱いてしまうカガリ。さっさと次の段階に進んでうやむやにすることに決めた。

「次はさっきと同じ要領でゴムボールを割る」そう言ってカガリは今度はゴムボールを一つクヨウに渡す。

 クヨウは先ほどと同じ要領でチャクラを込めるが、今度は割れなかった。水風船に比べるとゴムボールの強度は段違いに高いのだ。

 第一段階の目的がチャクラの流れを操作することなら第二段階の目的は放出するチャクラの出力を上げること。

「むっ」クヨウから不満げな声が上がる。

「まあ、日が暮れるまでには出来るようになるさ。ちゃんと朝ごはんと昼ごはんは食べるんだぞ」カガリはそう言い残してその場から去ろうと歩き出す。

「えっ、どこ行くんですか?」クヨウは慌てて手に持ったボールをカガリ目掛けて投げつける。

「ちょっと新しいバイトの面接をしないといけないからな」カガリはそれを難なく掴み、クヨウへと返した。

「見ていてくれないんですか?」クヨウは恨みがましそうな目でカガリを見つめる。

「しょうがないな」

 溜息を吐いて近づいてくるカガリにクヨウは顔を綻ばせるが、カガリはそんな彼女の額を人差し指と中指で小突く。

「許せクヨウ。また今度だ」カガリは内心のドヤ顔を表に出さないようにクールを装ってその場から去る。幾度も繰り返してきたことだが、カガリは未だに飽きていなかった。

「むぅ」と後ろからクヨウの不満そうな声が聞こえ、カガリは微笑ましい気分でその場を後にした。

 




 あんまり当てにならなかった次回予告

 天童民間警備会社一行はとうとうカガリ(仕事モード)と出会う。

「お待たせしました。私がうちはカガリです。まずは……」
「ご飯にしましょう」
「依頼の説明を……」
「ごはんにしましょう」
「……今から用意させますので少々お待ちください」
「やった」
「木更さん、あんたすげえよ」蓮太郎は呆れ顔で言った。




 ノリでラスボス風な雰囲気を醸し出すカガリとそれに立ち向かう蓮太郎。
 
「この眼をもってすればガストレアの掌握など造作もない。いづれはゾディアックすらも掌握してみせよう」
「お前は一体なにが目的なんだ!」
「知れたこと。これからは私が天に立つ」
「天、だと? まさか聖天子様の座を奪おうってのか!」
 


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世界はこんなはずじゃなかったことばかり

 クヨウと別れたカガリの元に蓮太郎たちの前に現れたモデル・ウルフのガストレアが現れる。

 カガリは写輪眼へと切り替え、相手を見据えた。

 そして、相手の精神世界へと入り込む。

 そこにいたのは一人の老人。瞳は赤く、うちはの家紋が描かれた着物を着ている。

「シジマさん。どうでした?」

「青いガキだが、今までに来た奴らよりはずっとマシだな」

「そうですか。それなら期待してもいいんですかね」

「イニシエーターじゃない女の方は中々のやり手だぞ。胸もでかいしな」

「ガストレアになっても色ボケですか?」

「ガッハッハ。姿が変わろうと変わらんものもある。まあ、この姿になってから子供には人気だがよ」

 シジマの言葉にカガリはなにも返さない。

 輪廻転生を体験している彼にとって、ガストレア化した状態でこの世に縛り付けるというのは罪悪感があった。

 サスケがナルトの中の九尾と対峙したように写輪眼による瞳術は相手の精神世界にも干渉できる。そこで幻術によってガストレアとしての本能を抑え、意識を無理矢理表に出すことでガストレアと化しても意識を保たせることが出来た。しかし、それだけでは不安定なのでいくつかの制約で行動を縛っているのだ。

 そうやって不自由を強いているというのもカガリの心を責め立てる。人として死なせた方が良かったのではないかと。

「気にすんなと言っただろう。ガストレアになって倅たちを殺しそうになってたところを止めてくれたのがお前だ」

「運が良かっただけですよ。体内浸食率が七割に達していたら無理でした。その場合は殺すつもりでしたから」

 カガリ自身実験を繰り返したわけではないから正確な数値は分からないが、ただ操るだけならともかく、長時間ガストレアとなった個体から意識をサルベージすることは不可能だった。

「それは本来倅の役目だったからな。そうなったとしても俺はお前に感謝してたさ。あいつは殺せといってもきかないだからよ。こんなクソジジイ生きてたって老い先長くねえってのに」

 それはとてつもなく酷なことだ。

 うちはにとって家族を殺すというのは血の涙を流すほど辛いこと。事情があったとはいえ一族を皆殺しにしたイタチの苦悩はどれだけのものだったのかカガリには想像もつかない。

 両親を殺された恨みがないと問われれば分からないとカガリは答える。

 前世ではイタチが両親を殺している所を見ていないし、協力者のマダラもといオビトの方が殺したのかもしれない。

 むしろ事情を知っているカガリからすればどうしても彼に同情してしまう。前々世では好きなキャラクターであったし、前世では尊敬の対象だった。

 シジマの件もカガリは殺せないからこそ幻術をかけるという方法を取ったのだ。シジマには先のように言ったが、もし失敗していたら息子夫婦と子供たちの目の前で彼を殺せたのか、今でも分からない。

「それだけ大切に思っていたってことでしょう」

 シジマは照れ隠しのように「けっ」と吐き捨てた。

「なんにせよ、お前のおかげで俺は今でも他の奴らを守ってやれる。そりゃ、酒の味も分かんねえのは不便だが」

 言葉の途中でシジマの手に酒瓶が現れる。

「所詮幻ですけど。幻術で誤認させているので味は感じると思います。今度は現実で本物を樽で持ってきますので今はそれで我慢し下さい」

「わりいな。そうなったら八岐大蛇みてえに呑んでやるよ」

「シジマさんは狼でしょうに」

「ガッハッハ。そういやそうだった」

「それではまた」

「ああ、コウリの奴にもよろしくな」

コウリとはカガリの父の名である。

 カガリは頷き、現実へと戻ってきた。

 シジマは制約に則って、のっそのっそと覚束ない足取りで歩き始める。シジマの意識が引っ込んで酒盛りを始めたため、傀儡モードになったのだろう。本人の意識が表へ出ていられる時間はそう多くない。だからこそ、それ以外の時間は完全に操られた状態にする必要があるのだ。

 シジマに背を向けたカガリは応接間へと足を進めようとし、後ろから声をかけられた。

「面接をするんだってな」

「将監さん。夏世ちゃんはどうしたんですか?」

「置いてきた」と将監は特に悪びれもせずに言う。

「また、怒られますよ」とカガリは呆れ顔で言った。

将監のことだから黙って無音殺人術を駆使し、抜け出してきたのだろうとカガリは予想する。

 どうせ追いかけてくるのだから一緒に来てあげればいいのにとカガリは思う。

「そんなことよりその面接、俺にも一枚噛ませろ」

「はあ、殺さないで下さいよ」

「それは相手によるな」と将監は凶悪な笑みを浮かべて言った。

 その様子を見て、カガリは溜息を吐きながら今度こそ応接間へと急いだ。

 

 

 

 

 応接間。そこで蓮太郎たちは待たされている。

 十分ほど経ち、木更の腹の虫が鳴ってきた所で扉が開いた。

「お待たせしました。警務部隊隊長うちはカガリです」

「天童民間警備会社社長天童木更と申します」

「同じく天童民間警備会社所属のプロモーターの里見蓮太郎です」

「イニシエーターの里見延珠だ」

「お前の苗字は藍原だろ」

「結婚すればそうなるのだから問題ない」

「むしろ問題しかねえよ。せめて人様の前で言うのは止めろ! 俺、最近ロリコンヒモ野郎って呼ばれてんだぞ!」

「事実ではないか」

「違う。濡れ衣だ!」

 蓮太郎はそう言うがアパートの家賃を払うため延珠に金を借りたことがあるのは事実である。ただそれ以降は死にもの狂いでやりくりして一度も金を借りずに済んでいる。しかし、一度貼られたレッテルは中々剥がれないのであった。

「うちのものが騒いで申し訳ありません」と木更は苦笑いを浮かべて言った。

「いえ、久々に仲の良いペアを見ることが出来て安心しました」

 カガリは木更に着席を促し、自分も対面に座る。

「まずは……」

「食事にしましょう」

「依頼内容の確認を……」

「食事にしましょう」

「……食事しながら話しましょう」

 一応、天童民間警備会社の懐事情を知っていたカガリの方が折れる形となった。

「それなら俺が持ってくるように伝えておこう」コウリはそう言って部屋を出ようとする。

「あっ、父さん」その背にカガリは声をかけた。

「なんだ?」

「クヨウがまだ朝ご飯を食べてないようだったら、連れていくか、持っていくかしてくれない? いつもの演習場にいるからさ」

「分かった」そう言ってコウリは部屋を出た。

「さて、会食が始まるまで、依頼内容を確認するとしましょう」

 カガリはそう言って蓮太郎たちの方へと向き直った。

「(それにしても将監さん待たせてるんだけど大丈夫だろうか)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 コウリは朝食を応接間に運ぶよう頼んだ後、演習場を訪れていた。

 そこではクヨウがゴムボール片手に悪戦苦闘している。未だにゴムボールを割るには至ってないようだった。

「クヨウ。もう朝食の時間だから休みなさい」

「コウリさん。あの、でも、もうちょっとで出来そうな」

「いいから休みなさい。カガリも心配していたぞ」

「兄さんが。そうですか、分かりました」 カガリの名を出すとクヨウは素直にゴムボールをしまった。

クヨウはカガリの言ったことならばほとんど無条件に従う。おそらく、カガリが人を殺せと言えば殺すだろう。それどころか、カガリの仕事内容を知っても尚、彼の仕事を手伝いたいといつも言っている。

 褒められたいがために人を殺し、笑顔でカガリにそのこと報告する。

 そんな危険性をコウリは彼女に感じていた。

「クヨウ。お前はカガリのことをどう思っている?」

「どどど、どうってそんな、いえ、その」クヨウは目に見えて狼狽え、顔を赤くした。

 その様子を見るとコウリの懸念は無駄なものに見える。

 なにしろクヨウはまだ子供。これから先の人生で如何様にも変わるだろう。

「いや、すまん。変なことをきいたな」そう言ってコウリは屋敷へと歩き出す。

 しばらく放心していたクヨウは慌ててその後を追った。

 

 

 カガリの父であるうちはコウリはカガリと一族のことで頭を悩ましていた。

 カガリが前世の記憶をもつことをコウリは本人からきいている。そして、前世の記憶から様々なものを模倣していることも。

 コウリが思うにカガリは模倣することに取り憑かれている。その姿はテレビに登場するヒーローを真似る子供のようにも見えた。

 写輪眼には他者を模倣する力があり、その力を持つが故に模倣したいという欲求が生まれるのかもしれないとコウリは考えていた。

 また、カガリはまるで面白い漫画を薦めるような気安さで人を殺す技を教えようとする。

 チャクラの扱いもその一つ。たしかに人類が危機に陥った今の世界では必要とされる力だろう。しかし、チャクラは使い方を誤れば簡単に人を殺す凶器となる。故にコウリは軽々しく教えることを禁じたのだ。

 それからは誰かに何かを教える前に一度相談するようにとコウリは言い聞かせており、カガリも今のところはそれを守っている。

 愛する息子のため、今の自分が出来るのは行き過ぎないようにブレーキをかけるだけなのだろうかとコウリは頭を悩ましていた。

 今のカガリは夢でも見ているかのように生きている。前世の記憶があるためにオマケの人生とでも思っているのかもしれない。目を覚ますにはそれこそ万華鏡に目覚めるほどの強いショックが必要だろう。もしくは前世の記憶を消してしまうか。

 そして、こちらはカガリだけでなく一族の者全員に見られる傾向だが、身内以外の命はどうでもいいと考えている節がある。いや、どうでもいいのではなく身内の優先順位が高すぎるのだろう。

 なんにせよ生きた人間で殺人術の練習をするなど、正気の沙汰ではない。一応、犯罪者のみを対象としているようだが、それは免罪符になりえない。

 戦争は人をおかしくするというが、コウリはその通りかもしれないと思った。

 自分に一族内での発言力がある内はまだ抑えることが出来る。しかし、遠くない内にうちははカガリを筆頭とする写輪眼に目覚めた武闘派が指揮するようになるだろう。

 その原因の一つがうちはを取り囲む状況の悪化だ。

 うちはの里が創設されてからは反ガストレア主義者、政府関係者、IISO、民警による公、秘密裏を問わない工作が日に日に増している。

 侵入やテロ紛いの活動も頻発しており、一族のフラストレーションも高まってきていた。

 今では門から入らない不法侵入者はほとんど問答無用でガストレアと化した同胞に食い殺されても構わないという案が通るほどだ。コウリは反対したが見知った者とガストレアウイルスに感染した者は襲わせないから問題ないとして可決されてしまった。

 本当に身内と呪われた子供達以外の人間はどうでもいいのだとコウリは感じた。

 カガリは特に気にしていないようだが、一族には人間とガストレアの両方に憎しみを抱く者が多い。

 コウリもその気持ちは分かるし、家族を失い、虐げられてきた一族の者に憎しみはなにも産まないなんて言葉はかけられなかった。

 しかし、このままではクーデターを起こすような事態になりかねないとコウリは懸念を抱いていた。

 なにせ、万華鏡をもつクヨウがいる。彼女の力を使えば東京エリアは一瞬で滅びかねない。

 さらにカガリは尾獣と呼ばれる存在を操れる万華鏡写輪眼を用いればゾディアックすらも意のままだろうとコウリに話していた。それは冗談抜きで世界を相手どって勝つ可能性があるということ。コウリはそのことを口外しないよう口止めした。

 幸いにも一族に子供を戦わせようとするものはいない。しかし、それは大人になれば意見が変わるかもしれないということ。

 早くて5年。遅くとも10年後には大人と認められる。そうなれば人に良い印象を持たない彼女は率先して力を使いかねない。

 そうでなくとも大人の誰か一人でも万華鏡に目覚めれば全ての呪われた子供たちを救うためと世界に喧嘩を売るだろう。

「やはり誰も死なすわけにはいかんな」

 万華鏡に目覚める条件は目の前で大切な者を失うことならば一族の犠牲を0にすることが火種をなくすことにもつながる。特に政府の人間に殺されるという事態は避けなければならない。

 何事もない内に世界が変われば、とコウリはありきたりなことを願った。

 




 次回予告

 試験として将監と対峙する蓮太郎。

「誰が来るかと思えばガキか。最近の民警はよほど人手不足とみえる」
「アンタ何者だよ? 人と話すときはまず名乗りやがれ」
「止めなさい、里見くん。彼は伊熊将監。IP序列323位。鬼人の異名をもつプロモーターよ」
「323位だと」
「それだけじゃないわ。恐ろしいのはその序列に至るまでの功績のほとんどがガストレアの討伐ではなくプロモーターを殺したきたことによるものってこと」
「なんだ、そんなことまで知っているのか。なら話が早い。
 精々殺されないよう足掻いてみせろ」
「くそったれ。こうなりゃ、とことんやってやろうじゃねえか!」


 一方、クヨウと出会った延珠はといえば、

「蓮太郎は凄いのだぞ。おまけに夜もすごいのだ」
「よ、夜って。でもすごさなら兄さんも負けてませんよ」
「一緒に寝るときなど、妾を全然寝かせてくれぬのだ」
「意中の人と一緒に寝るなんて、なんて羨ましい。私も兄さんと……」
「俺がどうかしたか?」
「ふぁっ!?」


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