緋弾を撃つ者 (sigurui)
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プロローグ

 

 

 

俺はこうして生きている。

 

何故生きているのかは解らない。

 

俺が生まれたのは試験管の中だった。

 

人から生み出されたのではない。

 

ある男の遺伝子を使って生み出された存在なのだ。

 

俺を語るにはその男、ここではジジイと記す。

 

その男の名はジェームズ・モリアーティと言う。

 

かつてシャーロック・ホームズに破れ、ラインバッハの滝に落とされ死んだかに見えた。

 

しかし、ジジイは生きていた。

 

ジジイは世間から身を隠し、ホームズの残党狩りから逃れる為に地下に潜り、地下組織を作り上げた。

 

ジジイはその後、研究に力を注ぎこむ。

 

ES細胞や万能細胞によるアンチエイジングや人の脳内のリミッターの事。

 

果ては超古代の文明が残したロストテクノロジーと言うオカルト染みた物まで手を出した。

 

そして、ジジイは賢者の石と呼ばれる物の生成に成功した。

 

これはあのアーカムやトライデントですら遺跡から掘り出す代物をジジイは作る事が出来たのだ。

 

ジジイは賢者の石を使い、金やオリハルコンを精製する金属、オリハルコニウムと言う金属を使い莫大な資金を元手にPMCを組織した。

 

オリハルコニウムと鉄を混ぜる事でオリハルコンを作り、銀と混ぜることでミスリル銀を精製、更に銅を混ぜる事でダマスカスなど数多くの物体を作り出し、ソレを兵器に転用した。

 

そのおかげでジジイのPMCは最強の軍隊となった。

 

そして、ジジイは過去の犯罪コンサルタントから戦争コンサルタントへと鞍替えした。

 

手始めにジジイは1989年に南アフリカでエグゼクティブ・アウトカムズ、通称EO社を設立。そして、ネルソン・マンデラ政権下でアパルトヘイト廃止や軍縮であぶれた軍人達を招きいれ会社を拡大。アンゴラ内戦をジジイが画策し更に会社を拡大させた。

 

シエラレオネ内戦を画策し、自分達の実力をアピールする場もメイキングした。

 

それに危機感を覚えた南アフリカ政府がPMCを解体した。

 

しかし、ジジイには関係の無い事だった。

 

EO社などジジイの末端の機関の一つでしか無いのだから。

 

そしてジジイは戦争を世界にばら撒き始めた。

 

アメリカ同時多発テロのコンサルティングをアルカイダに行い。

 

アメリカにはアフガニスタン侵攻やイラク侵攻のシナリオまで用意した。

 

ジジイはここで俺を投入した。

 

そう、俺はジジイから生まれたときから暗殺術や謀略、犯罪学やスリ、更には拷問や尋問、戦闘スキルにいたるまで徹底的に叩き込んだ。

 

そう、来るべきシャーロック・ホームズを殺す為に俺は鍛えられた刃なのだ。

 

しかし、俺の本心は過去の遺物であるホームズには興味も無かったし、ホームズ家を狩るのに興味も無かった。

 

俺が心から殺したいのはジジイ。

 

ジェームズ・モリアーティ唯一人。

 

俺から自由を奪い、殺人人形にしたあの男唯一人だ。

 

俺がジジイ殺害を決意したのは5歳の時だった。

 

俺はこの時、初めて人を殺した。

 

そして、悟った。

 

この男から逃れるにはこの男を殺すしかない事を。

 

その想いを悟られない為に俺は心を閉ざし、計画実現の為に殺す男に頭を垂れて教えを乞うたし、計画実現の為に資金と人と物をかき集めた。

 

そして、俺は任務中に俺の右腕となるべき女を拾った。

 

その女と出会ったのはイギリスのロンドンの夜だった。

 

その女の名はジル・バレンティーナ。

 

かの切り裂きジャックの末裔であり有能な外科医でありナイフ戦闘の天才だった。

 

そもそもこの切り裂きジャックが引き起こした娼婦連続斬殺事件は素人から見れば猟奇的な斬殺死体だろうが、医者や解剖学的見地から見るなら理想的な殺しであったと言う。

 

それもその筈、切り裂きジャックはロンドンでは有名な外科医だったのだ。

 

そしてこの殺戮者は代々、優秀な男にはジャックを優秀な女にはジルを名乗らせ、自分のスキルを叩き込んだ。

 

彼女はその4代目切り裂きジルと言うわけだ。

 

俺は偶々仕事の暗殺を片付け、ロンドンの闇夜を歩いていた時だった。

 

刃物が肉を切り裂く音と女性の悲鳴が聞こえた。

 

その現場に駆けつけるとジルが丁度女を解体している所だった。

 

「これは、これは……お嬢さん、中々の腕前だ」

 

その瞬間、俺の急所と言う急所目掛けてメスが飛んできた。

 

俺はソレを難無くかわすが女は2本のナイフを引き抜き、信じられない速度で俺に迫った。

 

そこで俺の頭の中の冷酷な暗殺者としての知能が働く。

 

(大した身体能力だ。武偵の強襲Sクラスに匹敵する。年齢は20歳くらいか……)

 

俺の喉元に向けられて突き出されるナイフをかわすが女はソレにもめげず俺の鳩尾目掛けてナイフを突き立てる。

 

(狙いは全て人体の急所や血管部。しかも相手を確実に仕留められる所ばかりを狙う)

 

女は俺が鮮やかにかわすから次は格闘を交えての戦闘を開始した。

 

(目潰しや金的、更には鼻柱や鳩尾。更には人体のツボにまで……容赦が無いにも程がある)

 

俺は女が放った拳を掴み、一本背負いで女を地面に叩きつけた。

 

「ガッハ!?」

 

女は可愛らしい声が台無しになるようなうめき声を上げる。

 

俺は懐からFN社のファイブセブンを引き抜き、女の眉間に狙いを定める。

 

「もう良いだろ? 君と俺とでは力の差が歴然だ。俺に無用な殺生をさせるなよ」

 

その俺の言葉に女は俺を睨みながら言い放った。

 

「殺せ」

 

と。

 

俺は無言のまま銃を懐のホルスターに仕舞い歩き出した。

 

女は俺の背に殺気をぶつけながら叫ぶ。

 

「何故だ!! 何故殺さない!?」

 

その言葉に振り向く事無く俺は言い放った。

 

「殺す必要があるのかよ」

 

と。

 

事実、殺す必要が無い者を殺すなど無駄な事を俺はしない。

 

たとえソレが未来への脅威になったとしても俺は殺さない。

 

俺にとって殺しとは“手段”であって“目的”ではない。

 

唯殺すなど犬でも出来る。

 

俺は“人”だ。

 

“人形”でもなければ“猟犬”でもない。

 

“人”としての誇りがある。

 

「後悔するぞ」

 

女は負け惜しみを言うが俺は振り向きながら言う。

 

「させてみな」

 

と。

 

それ以来だ、ジルと俺が組んで行動する様になったのは。

 

あの後、ジルは俺に付き纏った。

 

俺を殺す為に執拗に俺に張り付いた。

 

寝込みを襲われた事は一度や二度ではない。

 

その度に俺は軽くあしらった。

 

しかし、ジルがある時、俺の仕事に興味を持ち出した。

 

そして、ジジイが俺に右腕を作れと五月蝿かった事からも俺はジルを連れて仕事をするようになった。

 

ジルは俺に着いて来た。

 

俺が立案する暗殺計画に彼女は着いて来た。

 

狙撃の時も観測手となって俺をサポートした。

 

今では俺の任務に無くてはならない存在となった。

 

さて、今日はどんな事やらされるのか。

 

 

そうそう、俺の名前を言い忘れていた。

 

俺の名はラインバッハ・ダーク・モリアーティだ。

 

ジジイと同じ、人でなしの外道で悪党だ。

 

 

 

 



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化け物殺し

 

 

 

俺とジルはジジイからの依頼である男を殺せと言う依頼を受け、とあるイギリスの片田舎を訪れた。

 

何の事は無い。殺しの依頼だろうと思っていたらジジイから聞かされた単語に俺もジルも驚きの声を上げた。

 

ジジイ曰く。

 

「お前達が消す相手は吸血鬼、分類は死徒だ」

 

と。

 

オイオイそれはバチカンの仕事だろ。

 

そう言うとジジイはこう言った。

 

「我が社の重役が吸血鬼の研究で吸血鬼になり猛威を振るっている。見逃す訳には行くまい? その男を足がかりに我等にたどり着かれても困る。故に消せ」

 

そう言われては仕方ない。

 

まあ、対バケモノ用の兵装は装備させてくれるそうだ。

 

じゃ無きゃ死徒殺しなんて出来るか。チキショウ。

 

俺の兵装はメインウエポンとしてFN社のP90サブマシンガン。

サイドアームはFN社のファイブセブン。

使用弾はミスリル銀弾頭。

ミスリル銀、通称“覇者の銀”は昔から対バケモノ用としてよく用いられる兵装だ。

始祖を含む吸血鬼や人狼、サキュバスや魔族にいたるまで幅広く使われてきた。

 

しかし、バチカンを含む何処の組織でも実用化されない。答えは簡単。

 

合成するにはオリハルコニウム合金、ひいては賢者の石が無ければ作れない。

 

ジジイの組織以外での賢者の石の製造は不可能。

遺跡から発掘するしかなくなる。

 

自然と奪い合いだ。

 

アーカムはスプリガンと言うS級工作員を使ってるし、トライデントもそれなりのアタッカーを投入する。

 

武偵もチームを組んで発掘するほど貴重な代物なのだ。

 

最近ではヘルシングやイ・ウーも獲得の為に動く。

 

ご苦労な事だ。

 

ジルの兵装はミスリル銀で鍛えた小太刀が2本とミスリル銀の投げナイフ20本と言った兵装だ。

 

なりたての死徒を殺すのに過剰な装備だ。

 

まあ、いい。

 

さて、殺しをするぞ。

 

 

 

 

ロンドンから車を走らせて30キロの片田舎。

 

車を止めてその死徒の潜伏している教会の地形を把握にかかる。

 

地形の把握が終わると車に戻り、作戦会議を始めた。

 

助手席でシートを倒しながらジルは俺に質問を投げかけた。

 

「ねえ、死徒ってどんな奴等?」

 

その問い掛けに俺は答える。

 

「吸血鬼の一種だ。人間から吸血種に成った者達。真祖や他の死徒に吸血され、その血を体内に入れられた人間の内、肉体、霊的資質に優れた者が成った場合と、魔術師が研究の果てにその身を吸血種へと変えた場合とがあるな。吸血による死徒化の場合、血を入れた側を“親”、血を入れられた側を“子”とも呼び、“親”である吸血鬼は“子”の力や吸血衝動に影響を与える。また、童貞や処女が噛まれた場合も死徒になる。死徒の肉体は不老であるうえに、肉体も人間に比べれば頑強になり、“復元呪詛”と呼ばれる時間逆行によって生きている限りは損傷部位も元に戻る。しかし、精神や魂の劣化を防ぐことはできず、またその肉体は何もしなくても常に崩壊を続ける。そのため、生前と同じ種類の生き物の血を定期的に摂取することで遺伝情報の補完を繰り返す必要のある『不完全な』不老不死であるな」

 

その説明にジルは問いかける。

 

「殺す方法は?」

 

その問いに俺は答える。

 

「色々ある。一つは細胞の完全焼却。灰も残らぬほどの完全な焼却さ。幾ら彼等の復元呪詛でも再生する依り代たる肉体が完全に消え去れば意味を成さない。魂と肉体そのどちらかが欠けては復元呪詛は意味が無い。この理由から二つ目は魂の破壊。これはバチカンが得意とする所だろうさ。事実、バチカンはその類稀なる信奉心で異教弾圧や異生物の弾圧をしている」

 

それを聞いた瞬間ジルは嫌そうな顔をしながら質問する。

 

「他には?」

 

「法礼措置を施した銀兵装、魔術的処理を施した思念兵装、太陽の様な紫外線、後は……ミスリル銀かなミスリル銀はそもそも古代のBOW、バイオオーガニックウエポンを殺す為に考案された兵器だ。オリハルコニウムの特性である精神集約感応の性質を銀の殺菌、抗菌作用と結びつけソレを増幅させると言う事から開発が始まったらしい。元々死徒は地球が生み出したウィルス性の病原体だったらしいと言う古代の碑石もある。事実、コイツを喰らってマトモなフリークスはそうはいない。

人間が『死徒二十七祖』を殺す事が出来る切り札みたいなものだ。

まあ、最も、死徒二十七祖相手に当てられればの話ではあるが……

解るだろ? バチカンやその他の組織が賢者の石を血眼になって探す理由が?」

 

その問い掛けにジルは次の質問をした。

 

「バチカンにも賢者の石はあるんでしょ? ならなんでミスリルを作らないの?」

 

その問い掛けに俺は答える。

 

「製法が解らないのさ。かのアーカム最高の科学者でオリハルコンの権威であるメーゼル博士すらようやくオリハルコンを兵装として運用した段階だぜ? まあ、各国でもオリハルコンの弾丸やソレを使ったマッスルスーツなんかも開発してるみたいだけど。俺達くらいだろ? オリハルコニウムをバカスカ生産してそれらの合金を大量投入してるのは」

 

「まあ、ね」

 

俺達は対死徒殲滅に向けて会議を終えた。

 

 

 

 

 

俺とジルは教会に潜入するべく準備を開始した。

 

ジルはパソコンを操作し、周囲の警報装置や電子トラップを解除していく。

 

俺はアナログなトラップを解除する。

 

まあ、潜入できるのは教会の正面玄関しかなかった。

 

後はトラップで内側から栓をされてる。

 

解除は出来るが時間が掛かりすぎる。

 

それではターゲットに逃げられる。

 

なら強襲あるのみだ。

 

俺は正門のドアに指向性のC4を設置しスイッチを押した。

 

ジルは裏口のドアにC4を設置した。

 

教会のドアは大爆発し、ドアが吹き飛ぶ。

 

「タイミング合わせ」

 

インカムにそう言うとジルの声が響き渡る。

 

『了解』

 

「3、2、1、GO!!」

 

その瞬間、同時に正門と裏口の方角から爆発音が響く

 

俺がそう叫び突入すると協会の祭壇中央に男が立っていた。

 

「ようこそ。死にたがり殺し屋君。私に殺されに来たかね?」

 

スーツ姿で身長178センチくらい。

痩せ型でメガネをかけていた。

 

メガネからは血の様に赤い眼光が俺を覗き込む。

 

「正解だ。用件は解ってるな? 我等組織を裏切った代償、高くつくと思え」

 

「私を殺せる気でいると? ハッ、御目出度いな。殺し屋」

 

ふん、死徒になって浮かれてラリった。

 

「死ねええええええええええええええええええええええええ!!」

 

死徒がそう言うと人間にあるまじき速度で俺に迫る。

 

「ほう、大した速度だ」

 

俺はそう言いながら俺はP90を構えた。

 

「だが、遅い」

 

そして、死徒に指切りでの3バーストで叩き込む。

 

「ゴハッ!?」

 

死徒は無様に叫びながら悶絶する。

 

「何故だ!? 何故再生しない!? 痛てえええええええええええええ!! 体から煙が!?」

 

俺はP90の銃口を向けながら言う。

 

「簡単だ。ミスリル銀の5.7×28mmの対アンデット用の弾頭だ。そもそも5.7mm弾はボディーアーマーの様な硬質物質に対しては破格の貫通力を持ち、人体の様な軟体物質には弾が横転して衝撃を物体に最大限伝えようとする性質が有る。更に弾頭はミスリル銀。そんなのが体内で3発も暴れて平気なフリークスがいる訳が無いだろう。地獄の苦しみだろうさ」

 

死徒は無様に悶絶しながらのた打ち回る。

 

「あら、決着は着いたみたいね?」

 

裏口からジルが血塗れで入ってきた。

 

「そっちは終わったのか?」

 

俺の問い掛けにジルは詰まらなそうに答える。

 

「グールが数匹相手よ? これでも時間が掛かった位だわ」

 

そう言いながらジルは俺に歩み寄る。

 

「噛まれたか?」

 

俺の問い掛けにジルは鼻を鳴らしながら答える。

 

「ハン、まさか。相手はグールよ? スローすぎて欠伸が出るわ」

 

俺はソレを聞きながら死徒の苦しみを終わらせてやる為にP90のセレクターをフルオートからセミオートに切り替え、頭部に銃口を向ける。

 

そして、俺は無言の内にトリガーを引いた。

 

死徒は頭を吹き飛ばされ脳味噌を飛び散らせながら煙を吐き出し消滅した。

 

「ミッションコンプリート。帰るぞ、ジル。後は始末屋が後始末をしてくれる」

 

「了解」

 

そういい俺達は教会を後にした。

 

イギリスの地方紙の三面記事に小さく書かれている記事がある。

 

『教会にて火災。神父以下シスターが焼死体で発見される』

 

と。

 

 

 

 



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