【長期更新停止】やはり俺の人間関係は中学時代からどこか可笑しい (Mr,嶺上開花)
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1話 雪ノ下雪乃は毅然としている

1話を騙ったプロローグです。


 

 

 

義務教育は善意でもなく、悪意でもない。

 

そもそも世の中に善意で展開される物は慈善事業以外あまりない。ましてや政府の基本事業である、打算の無い事に貴重な税金を消費しないだろう。

 

この日本全土の子供に義務として教育を受けさせるのは要約すると二つの理由に集約される。

一つは常識やモラルの定着化、これによる影響は主な例を上げると犯罪率の低下だ。犯罪は悪いこと、いけないことだと小さい頃から教えればその考えが誰でも身につく。洗脳教育とも言えるだろう。

二つ目は言わずもがな、優秀な人間の育成だろう。この国の次世代を担っていく跡継ぎを残すのはどの国でも大切なことだ。当たり前の事だが、とても重要だ。

 

これらの点を踏まえると、やはり義務教育というのがこの国を形成する上での優先事項になり多額の資金を国が投資するのは言わずもがなである。

 

 

しかしつまり、それをよくよく考えてみると俺たち義務過程の学生に求められている物は第一にモラルの定着だ。もう一つは別に全員に対象を取って居るわけではない、優秀な人間に任せておけば良いだろう。

だから定期試験で良い点を取る、何て事は別に国は求めてないという事実が分かる。そんなの個人の勝手であってそれは義務ではない。それに成績不審によって義務過程で退学になるなんて事例は聞いたことはないのだから気にする必要はないだろう。敢えていうなら気にするのは担任教師と両親くらいだ。そう思えば人数的には3人だ、麻雀だったらジャストで全員敵だ。俺だったらそのくらいの人数の抗議は軽く聞き流せる。

 

それに俺の場合、両親と担任のどちらもそこまで俺の点数に関心があるわけではない。むしろ無関心だ。特に担任には未だに名前も覚えられてないはずだ。なぜなら未だに授業中に一回も名前を呼ばれたことが無い。両親にも自己申告しない限りは勝手に内申の書類に家の判子を押しても全くばれない、嬉しいのか寂しのか分からん状態である。

 

 

まあそんなわけで、お手軽簡単にこんな結論が浮かび上がる。

 

ーーーテストでどんだけ悪い点数を取ろうが、犠牲になるのは俺の内申と少しのポジティブ精神だけだということが。

 

 

ヒラリと俺の手から舞い落ちた数学と書かれた答案用紙には、数多ものバツ印が赤く、殴書きされていたのは言うまでもない。点数は言わない、言わないって言ったら言わない。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ国語の模範解答と回答用紙を返すぞー」

 

そんな教師の宣言と共に前からどんどん回ってくる模範解答の用紙。これって毎回後ろに回す時に手渡しで回すと後ろの人が奪い取ったように感じるんだよな。

 

 

「1番から順番で来い、良いなー?二度は言わんぞ?」

 

なぜか教師はそう強調しつつ一番から順々にテストを返していく。その間表情は殆ど変えてない。…いや、たまに険しい表情をして返す時もある、ほんの少しだが。それを受け取った生徒の様子を鑑みるにあまり点数が宜しくなかったのであろう。ナンマイダブツ。

 

 

1人1人にテストを返す時間は短かったためか、ハ行である俺の順番もすぐに回ってきた。

 

「比企谷……」

 

 

おいコラ何で険しい表情しながら声漏らしてテストを渡してくるんだよ。点数悪くても何も無いとは言えむっちゃ焦るだろ?

 

ちらりと渡された点数を見ると書かれていた数字は97点、推測するに大体1ミスか2ミスと言ったところだろうか?

…何でこの教師物凄く険しい顔してるんだ?それとも生徒の不安を見て楽しむ趣味でもあるの?

 

 

「……もう少し他教科の成績も上がればな……」

 

 

聞こえてんぞおい。

 

意外とそれはそれで気にしてんだからあまり口に出さないで欲しいんだけど。じゃないと俺の豆腐メンタルが傷つくだろ。

 

 

それに今回の国語の全体的な平均点は40後半だから別に良いだろ?他教科気にするなよホント。

 

 

そんなことを思っていると、前から少し大きな声が聞こえた。発言元はあの教師だった。

 

「雪ノ下、流石だな。また全教科95点以上だ。他の人もこれを見習うように」

 

 

うわ、ロクなことしないなあの教師。確かこの担任…だったはずだ。だからその、雪ノ下の点数を全教科知ってるのか。

それにしてもその発言は非常に危うい、これが俺主催のミニテストだったら0点をあの教師には上げてやるくらいバッドな答えだ。

 

人は優秀であるほどに羨まられ、嫉妬され、ハブられる。それがこの世界での真理だ。優秀さと生きづらさは紙一重と言っても良い。だから優秀な人は必ずしも負の感情には機敏なのだ。それは多分あの雪ノ下…て人も同じだろうと思う。

 

 

 

だが、あの雪ノ下はまた少し違った表情をしている。何か、周りを、クラス全体を見下して居るようにも感じる。現に全く気にした様子もなく、淡々と礼を言って自分の席に戻って行くだけだ。

 

俺は彼女を知らない、全くと言って良いほど。しかし、愚かだが、推測することは出来る。内容はあまりに幼稚で浅いのだけれど。

 

 

…きっと彼女は害意から身を守るため、自分にプロテクターをかけて居るのだと思う。そしてきっとそれは他人を見下すことで発動している。俺には彼女がどんな経験をしたかは分からないが、他人と無関係でいれば、全く無関心を貫き自分に驕ってさえいれば悪意から逃れられると感じたのだろう。

 

 

 

もちろん俺はその彼女の結論を穢す気も、壊す気も一切ない。だがしかし、もしそうなら俺には受け入れられないだろう。

なぜならその結論は、自分の視界の中の他人を醜く映さなければ受容不可能な、常に自己を正しい肯定しなければ存在が出来ない酷く崩れた物だからだ。

 




わけわからなくてすみません。。


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2話 静かに比企谷八幡は計られる

サブタイはそのままです。


 

普段の日常というのはいつも突然に消え散ってしまう。勿論それはいつも誰かの意思が介在していて、自分からどうこうするわけではない。というか俺がそんな事をするわけがない。ET、メンドイノ、キライ。

 

夏休みまで後2、3週間というところの日付を彷徨って居る今日この頃、なぜか俺は数学部という世にも奇妙な部活動に向かってた。当然そこまでの過程に俺の意思は全くない。

 

 

きっかけは担任の呼び出しだった。お前数学が破滅的にヤバイだろ?と言われ、思わず

 

「じゃあ世の中には毎回数学が出来る人間がどれだけ居るのか分からないですよ?そもそも数学的理念何てものは無事学生生活終えたらその瞬間に要らなくなってゴミ箱にポイです。しかし国語などの知識は世間でもコミュニケーションや報告書などの様々な場で使われ、とても大きな存在価値を発揮しています。つまりは寧ろ世間で役に立たない数学の方が学業の中で最も要らない知識だと言えませんか?」

 

という中学生の頭を捻りに捻って考え出した証明を

 

「だがお前にはまだ最低でも学生生活が2年残っている」

 

と見事な論破をされ、更には親にこの成績のことを先日話したらしく、ついては成績改善のため担任が数学部への入部許可を親に出したらあっさり認めたらしい。…このように俺の知らないところで知らない部活への入部が決定した訳である。自由権は俺には無いのかよ……。

 

そうした俺の知らぬ水面下の取り引きは無事終了し、この数学部なんていう訳の分からん部に俺は今歩かされている訳である。

 

 

 

「安心しろ、一応部員はもう3人居る」

 

「はっ、どうせアレですよね?全く喋らない根暗な奴とか内申点上げるための小細工してる奴とか、そういう奴らばかりだろ?だったら1人の方が気楽ですよ」

 

「…なんでお前はそんな捻くれた発想しか湧かないんだ?」

 

 

ため息を一つ溢す、担任である。…別にそんな捻くれた発想ではないと俺自身は思うんだがな。

 

 

 

「だって文化系の部活って何か引きこもってる感があるじゃないですか。それに高校と違って対した活動もやらないから、より一層根暗な雰囲気みたいのが漂ってる気がするんですよ」

 

 

「それは偏見だ。文化系でもうるさい奴は居るし、運動神経良い奴もいる。」

 

 

「そりゃ学校全体での全ての文化系の部活を見たらの話じゃないですか。俺が言ってるのはこの数学部だけにそんな人望ありそうなリア充街道まっしぐらな奴がいるかどうか何ですよ」

 

 

「…妬みか?比企谷?」

 

 

「違いますよ、これは謂わば状況調査、環境アセスメントですよ。石橋を叩いて渡るのとも全く同じです。例えばリア充ばかりの部活に入るの嫌じゃないすか」

 

 

そう俺が言い放つと、担任は少しばかり納得した表情した。そして、突然こんな爆弾発言をしてきた。

 

 

「…まあ、確かにそうだな。安心していいぞ、他3人は全員女子だ」

 

 

「………すいません、どこをどうすりゃ安心出来るのか俺には全く分からないんですけど」

 

 

「比企谷、喜べ、ハーレムだぞハーレム。お前の性格改善にもちょうど良いんじゃないか?」

 

 

何を言ってるんだこの教師は。そんな事で俺の根っこを変えることが出来ると思ってるのか?俺には的外れにしか思えん、てか寧ろこの部活から俺が弾き出されて終わりそう。あ、そうなりゃ別に俺なんの遺恨もなく部活辞めれんじゃん。全員女子サイコー。

 

 

「まあ後は本人たちを見て確かめろ。一応着いたぞ、ここが数学研究同好部、略して数学部だ」

 

 

なんつう略式名称、というか本名も酷いな。同好会なのか部活なのかはっきりしてほしい。

 

前を見るとドアノブで押し引きするタイプの扉がある。おそらく中は教室だろう、まあ当然だが。にしてもうちの中学はほとんどの扉が二枚でスライドさせて開閉させるタイプなのに、何で時々こんな感じの扉があるのだろうか?統一させないことが我が校のモットーみたいな感じか?

 

変な事を勘ぐっている間に担任はコンコンと二回ノックをすると、返事を待たずにドアを開けた。

 

 

「お前ら。突然だが、新入部員を紹介するぞー」

 

雑だなオイ。

 

 

「ほら比企谷早く前でろ新しい仲間だぞ」

 

そんな、アンパ◯マーン、新しい顔よー、みたいなノリで言われてもな。…ちょっと違うか。うん、違う。

 

 

「へー、君が新しい部員?」

 

すると唐突に奥から声をかけられる。黄色い髪のショートカットの子だ。…中学で染め毛とか、俺そんなキャラとあんまり関わりたくないんだが…。

 

 

「…そうらしいな」

 

取り敢えず見知らなぬ人に質問されたからには返さないのは気分が悪いので返事はしておく。…と言っても返事と言えるほど満足な物ではないだろうが。

 

教室の中を見渡すと、確かに3人の女子生徒が手頃な椅子を持って来て座っていた。彼女らの前には机もある、まあ数学を勉強するという内容くらいは分かってるから予想も出来るが。

 

 

「紹介しよう、こいつは2年4組の比企谷八幡。成績一部優秀で数学は破滅的、それに加えて性格がひん曲がってる。後、そろそろ目が腐りそうだ」

 

「おい何で俺のことを初対面の人に向かってナチュラルに悪口言ってんの?大体成績一部優秀って…、俺はな、やりたい勉強はやるし、やらない勉強はやらないんだよ。だから、自分で言っちゃなんだが得意教科は伸びてるし、不得意教科も取り敢えず大きい隙間はない。ある意味万能型なんだぞ」

 

 

奥の女子生徒の手が上がる。…さっきの黄色の髪の毛でショートだ、と言っても全く分からないだろうがまだ名前分からないからそれしか説明しようが無いんだよな。思わぬところで名前の重要性を知った気がする。まあ黄色の髪の毛というだけでかなりの特徴だから千葉の道端で見かけたら多分こいつだと思うぞ。…名前知らないから呼びかけられないけどな。

 

 

「ちなみにさっきの数学のテスト何点だったの?」

 

「……………29点、だったような気がしなくもない…」

 

「それ結構ダメじゃないのー?」

 

 

いやお前、逆に考えろよ?29点ってことはほぼ30点に等しい、つまり100%中の30%取っていることになる。つまり10問に3問確実に合っている確証があるわけだ。それ即ちサイコロの目を一個指定してを一回振るの33%とほぼ同程度、このくらいならギャンブルでは日常茶飯判事だ。むしろ今回は勝った方と言っても良いんだぞ?

 

 

……という言い訳をしようと思ったが、流石にそれは醜いんじゃないかと考え直す。

まあ、別に数学だけが人生じゃないからな。

 

 

そんな事を思っていると、またもや突然担任がこんな事を言い出す。

 

「そうだな、ついでに後でお前らも自己紹介しとけ。俺はまだ職員室でやることあるから、まあまた後で来るわ………多分」

 

じゃ、と言って素早くフェードアウトする担任。その速度に全くついて来れなかった俺は瞬きを数回し、そうしてやっと女子の中に放置された事実に気づいた。

 

 

「それで、比企谷君」

 

唐突に黒髪の長髪の女子がそんな言葉を発する。清楚感があるが、ただ一見すると同時に厳しさ兼ね備えているようにみえる。後、何か威厳みたいのも背後に見える。一言コメントするなら、怖いで集約されるだろう。

 

「貴方はこの部の事をどれくらい知っているのかしら?」

 

 

…まあ当然だな、部活に入るんだからそのくらいの質問はされてもおかしくない、とさっき廊下で頭の隅で考えていた。まあ実際のところ名前しか知らんが。

 

「そうだな、ここが数学研究同好部って名前からまあ数学の勉強をするんじゃないか?数検とか定期試験とか入試に向けて」

 

「何それ?貴方巫山戯てるのかしら?」

 

 

へっ?

何か間違ったこと言ったか?

 

 

黒髪の女子生徒が言う前に、この場で始めて発言する茶色の髪の女子生徒が先に答えた。

 

「ここの名前は数学研きゅう…なんとかじゃくて!シンプルに数学部だよ!」

 

 

その言葉を聞いて、俺は一瞬で理解した。

 

………あの担任、嘘吹きやがったな……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話 比企谷八幡はこうして輪に加わる

プロットがそろそろ切れそう…


 

 

 

「…まあそれはいいわ、とにかくある程度の内容は察しているようだしまずは自己紹介しときましょう」

 

 

俺があの担任を一発殴る…とまではいかなくとも何か嫌がらせくらいはしてやろうと決意を固めたその時、黒髪…もう黒でいいか。その黒の女子生徒がそう切り出した。

 

「じゃあまずは貴方からお願いして欲しいのだけど…」

 

 

そりゃ、もう三人いるコミュニティーに今から入るから、まあそうなるわな。

 

「さっき担任が言ってたとおり、2年4組比企谷八幡。前の部活は帰宅部。これでいいか?」

 

 

「…よろしく、とか無いのね」

 

「まだ宜しくするのかしないのか出来るのかは決まっとらんでしょ。そもそも俺自身無理矢理担任に押し込められたから、正直今後どうなるか分からん。だからそこは勘弁してくれ」

 

 

以上、俺の弁明である。本人の同意が無い状態で第三者が勝手に部活に放り込める訳が無いはずだ。幾ら保護者の同意があろうとも人権とかで引っ掛かるだろう。……多分。部活入ったことないから自信無いが。

 

 

「じゃあ、ここに所属してる限り宜しく…と言う形でいいのね?」

 

 

「ああ、その解釈で十分だ」

 

 

何か黄色と茶色は不満気な表情をしている。…博愛主義的なところでもあるのだろうか?それは関係無いか。

 

 

「じゃあ次は私ね。私は雪ノ下雪乃、趣味は読書…くらいかしら」

 

 

まさに見た目通り、もしこれが趣味はオカルトマニアですとかだったら驚愕していただろう。ちなみに俺はオカルトではないが、千葉マニアだ。千葉知識なら誰にも負けないという自負がある。レッツ千葉愛、さあ君も今日から千葉ラーだ!

 

 

「…何か?」

 

瞬間、雪ノ下から途轍もない威圧感が飛んできたのを感じる。まるで暗闇を一筋の閃光が飲み込むが如くの勢いで……って冷静に説明してるけど痛いって…!肌で実感するとホント痛いから反省しますから!

 

 

「…まあいいわ、じゃあ次は小坪さんでいいかしら?」

 

 

ふっと痛いほどの気圧が消える。何だアレ、ニュータイプ?それとも覚醒とかして能力増えたりするの?

 

 

「はいはーい!3年2組の小坪空です宜しくー!」

 

 

そう言ったのは茶髪の女子生徒だった。つまり最初に話しかけてきた人で合ってるだろう。まあ言動を見てもわかる通りにとても活発な雰囲気が出ている。てかショートカットの女子で性格が明るい殆どはリア充なんだよな、経験で分かる。

 

というかあそこの雪ノ下とカラフル二人(髪色的な意味で)は全く性格とかが違うのに良く噛み合うよな。毎回クラスではリア充の影に隠れてる俺的には結構関心する。あ、リア充の影じゃなくて教科書の影か。教科書立てて寝てるから。

 

 

「ああ、俺が退部するまで宜しくな」

 

 

あくまで説明しておくが、この宜しくというのは【俺は基本1人がいいからあまり干渉せずにして欲しい、なのでその辺宜しく】の略でもある。だが因みに全文言うとかなりの確率でめんどくさい事になる。ソースは俺。この前これ言ったらムキになった女子と論争になって泣かせてしまい、挙句の果てに教師に叱られた。…俺あんまり悪いことしてなくね?泣かせたのはやりすぎだと思うけど、自分の意見が論破されたから泣くとか完全に逃げだろ。某ロンパのモ◯クマとか自分の意見が崩れ去っても殆ど動揺してなかったぞ?…まあそうなるためには世界を混乱させるくらいの絶望が必要な為、一般人には実行不可能だが。

 

 

 

そんな脱線した思考を巡っていると、黄色がこんな事を言ってきた。

 

「何か感じ悪ー」

 

「別に感じは悪くないぞ、事実を言っただけだ」

 

そう事実論で反論すると、ぶーという声を上げ俺に反論する意思を見せて来た…が、それ以外言葉は発しなかった。なんでブーイングしたんだよ、てかブーイングあるならスタンディングオペーションもあるのか?ちょっと立ち上がって賞賛の拍手をしてくれ。

 

 

「そういやまだお前の名前だけ知らんのだけど、そろそろ自己紹介してくれないか?」

 

頭の中があまりに本筋から逸れてしまったので取り敢えず矯正するために話を進める。

 

 

「うん。私は2年2組、谷津美涼って名前ねー。谷に津田塾の津って書いて、やとって読むんだよー。苗字は間違われやすいから一応ねー」

 

 

「…すごい名字だな……」

 

不敬ながら少し感心してしまった。ここまで読みにくいのもそうそうないだろう。普通は『たにつ』、だとか『やつ』、とか読みそうなのに…。彼女は絶対病院で間違って読まれた経験があると俺は推測する。

 

 

 

 

 

自己紹介が終わってちょうど良い合間だと思ったのか、雪ノ下は、では、と間を一つ置いて話し始めた。

 

 

「これから比企谷君は我が数学部唯一の男子部員としてこの部屋をメインにして活動していくのだけれど、この部について何か質問はあるかしら?」

 

 

そりゃもちろん

 

「あるに決まってるだろ。まだ自己紹介以外は何一つやってないんだぞ」

 

 

「じゃあどうぞ比企谷君」

 

 

この際なので、今まで思っていたこと全部質問する事にした

 

 

「まず一つ目、活動日と活動時間が知りたい」

 

 

「…浅浦先生は何か言ってなかったかしら?」

 

その疑問に俺は少し眉を潜めて考える。

……浅浦あさうらアサウラasaura…。

 

「…浅浦先生って誰だ?」

 

 

思考がループを始めて進まなくなったせいか、つい言葉に出してしまった。…あっ、そういやそんなラノベを書いてる作者の名前もあったような……。

そんな俺の答えに雪ノ下は軽くため息ついたかと思うと、直ぐに言い直した。

 

 

「…あなたのクラスの担任よ?それくらいも覚えてないのかしら」

 

 

「ああ、自慢じゃないが人の名前を忘れるのは俺の108の特技の一つだ」

 

「本当に自慢出来ないわね。それに特技の数が煩悩の数と同じなんて気持ち悪い」

 

「どこが気持ち悪いんだ?煩悩の数は昔から除夜の鐘の鳴らす回数にもなっている、つまりとてもポピュラーな区分だ」

 

「そういう事を真顔で言う辺りがすでに気持ち悪いわ」

 

 

そう語る雪ノ下の顔はどこか晴れ晴れとしていた。多分俺を貶してスッキリとしたのだろう。俺的にはもやっとボールでも投げつけたい所存である。…古いか。

 

 

「それで結局比企谷は何が聞きたいのー?」

 

 

谷津にそう言われ、やっと話が脇道へ大きく逸れていたのに思い出す。

 

 

「…で、どうなんだ雪ノ下。日時を早く教えてくれ」

 

 

「毎週月曜と水曜と木曜、後土曜よ。時間は平日は放課後、土曜日は全日ね」

 

「まじかよ…」

 

 

何それ、超オーバーワークな気がするんだけど…。しかも土曜は全日?朝から夕方まで?

 

…本当にここ文化系の部活か?実は朝はランニングとか言わないよね。

 

……俺がそんな無意味な詮索をしてしまうのも無理はないと思う。だって今まで帰宅部だったんだもん☆

………………………無いな。

 

 

 

「他に質問は?」

 

 

そうしてちょうど会話が切れてしまったのを雪ノ下が繋いでくれた。ので、俺もそれに乗っかることにする。別名では絨毯爆撃とも言う。

 

 

「ここの顧問は?」

「浅浦先生よ」

「この部は今何に向けて勉強してる?」

「そうね、まあ当然次の定期試験ね」

「ここの教室は放課後鍵はかかってるか?」

「いいえ、空き教室ではなくここは中学3年の英語の少人数授業を行う教室だから殆どの場合空いてるわ」

「閉まってた場合は俺はどうすれば良い?」

「浅浦先生を職員室で探して呼んで、鍵を貰って来てくれれば大丈夫よ」

「じゃあ次にこの部は夏も活動するのか?」

「ええ、浅浦先生によると今年は合宿もやるとの事よ。楽しみにしてると良いわ」

「後、部活を休む場合は?」

「基本的に私たちのいずれか、あるいは浅浦先生に伝えてくれないかしら?後ついでに言っとくのだけれど、学校を休む場合は別に部活の誰かに電話しなくとも学校に電話してくれれば浅浦先生に伝わるから問題ないわ」

 

 

 

 

「……雪乃凄過ぎ…、聞かれてからほぼノータイムで答えてるよ…」

 

 

「それ言ったら比企谷も次から次へと良くあんな質問出来るよねー…。雪ノ下さんの返答の後にすぐ質問してるけど、あんな弾幕みたいに間を空けず普通に出来るとか少しおかしいー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンキュー、取り敢えず粗方は理解した」

 

俺の思いつく質問は殆ど終わったので雪ノ下に礼を言う。

 

「そう、なら貴方の馬鹿みたいな速度の悪意見え見えな質問に答えたかいもあったわね」

 

 

………流石にばれたか。これくらいすればさしもの雪ノ下でも答えに詰まると思ったんだが……すみません違います、ただ雪ノ下の答えに詰まった表情を見たかっただけなんです殴らないで…!

 

 

 

 

「…で、今日も部活するのか?」

 

 

そう俺が聞くと雪ノ下は俺だけではなく小坪や谷津の方にも顔を向けてこう話した。

 

「ええ、と言っても今日は少し時間を使い過ぎたから自習で良いかしら?」

 

 

「うん!おっけー!何の問題もないよ!」

 

 

「私も別に大丈夫、問題なんか無い」

 

 

「なら良いわね、各自自習で」

 

 

……やっぱり部活っていう集団に集まる人間はみんな仲良いのか?まだ俺にはよく分からんが、この部活の人間関係はとても良好なものに見える。

…まあそれは本質的なものではなく、俺主観の見た目だけだが。だからこそと言うべきか、これから過ごす場所だからせめてドロドロは勘弁して欲しい限りである。

 



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4話 それとなく比企谷小町はどこか抜けている

4話です。。


四話 それとなく比企谷小町はどこか抜けている

 

 

ふと外を見ると日は沈みかけ、夜の帳が下りようとしている現在。時計を見ると、大体六時半というところだろうか?

 

…つまりは最終下校時間なわけである。

 

 

同じくそのことを感じたのか、シャーペンを動かす音だけ響くこの空間で雪ノ下が最初にこう切り出した。

 

 

「…あの、そろそろ今日の部活は終わりで良いと思うのだけれど、どうかしら?」

 

 

「そうだな、もう最終下校時間も近い。俺はそれで良いと思う」

 

すかさず俺は肯定の意見を挟む。…決して早く帰りたいわけではない。決して。辞めたいとは思ってるが。

 

 

「何で比企谷入ったばっかなのに副部長みたいな振る舞いなの⁉︎」

 

「いや、このまま話が進まないと帰れないしな」

 

 

別に間違ったこと言ってないだろ。常識的には少しばかり微妙な発言だと思ったが…。

 

 

「まあどっちにしろもう帰っても良いんじゃないー?むしろそろそろ帰らないと先生に怒られちゃうよー?」

     

 

「……そうだね、帰ろっか」

 

 

途中から谷津のフォローもあり、どうやら意見は一つに纏まったようである。

 

 

「なら決まりね、早く荷物を纏めてドアを施錠しましょう」

 

 

 

そうした雪ノ下の発言を起点に、俺たちは勉強道具を片付け始める。と言ってもさして手間の掛かる作業ではない。机の上の問題集とノートと筆記用具を片付けて消しカスをゴミ箱に捨てれば良いだけだ。

 

全員がその作業を終わらすのに使った時間は約1分というところだった。教室から四人全員が出た後雪ノ下が手慣れた手つきで扉に鍵を掛ける。そうして強制的に入れられた初めての部活動初日は終わった。

 

 

 

…今思い出したんだが、あの担任結局来なかったな。やっぱしという感じはあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流石に女子3人と一緒に帰るなんてことをやるのはキツイと思ったので、ちょっと教室に忘れ物が…、と言って離脱する。俺の計算に間違いはない。……計算方法にはあるかもしれないが。

そうして何事もなく携帯を弄くりながら教室で10分程待った後に帰路に着く。…完璧だ、これで俺は安全無事、何の噂もされることもなく帰ることが出来る。

 

 

しかし俺は教室を出て2分、直ぐに間違いに気づく。

 

 

「まだいたのね、比企こもり君」

 

「待て、俺の名前をそんな社会的不適合者のように呼ぶんじゃない」

 

 

というかそもそも何故突然出会い頭に俺の名前使って遊んだの?俺じゃなかったらどうなると思ってんだよ?…全く、俺みたいな寛大な心の持ち主で良かったな。

 

 

「てか雪ノ下は何でまだここにいるんだ?あの二人は?」

 

「谷津さんと小坪さんには先に帰って貰ったわ。私は部長だから鍵を職員室に返しに行く役目があるの」

 

 

…そう言うことか、油断した。だがまあ女子複数人と帰るよりはましだ、ましましだ。というか何だよ女子複数人と帰るって、何処の量産型ラノベのハーレム系主人公だよオイ。ちょっとそこ代われ主人公。

 

 

そんな俺の馬鹿な考えを雪ノ下が読めるはずもなく、代わりに一つの質問が飛んできた。

 

 

「そう言う比企谷君もただ教室から物を取ってくるだけには時間かかり過ぎてないかしら?」

 

 

「…ああ、少し探すのに手間取ったんだよ。教科書と塾のテキスト間違えて置いてしまってな」

 

何となく嘘がばれないよう咄嗟に考えだした答えなのだが、雪ノ下は何の違和感もなく受け取ってくれた。…もしかしたら嘘ついてるのを分かりつつ了承したのかもしれないが。そうだったら超優しいんじゃん、今度からゆきのんって呼んであげよう。

…間違えなく殺されるな、俺。

 

 

 

「そう、じゃあ帰りましょうか」

 

「そだな、ゆき…ノ下……」

 

「?」

 

あっぶね、マジでゆきのん言いそうになった。幸い雪ノ下は首を傾げるだけであんまり疑問には思ってなさそうだから良かったものの……。

今日の教訓、本人がいる前でその人の変なあだ名を考えるのは止めましょう。殺されます。

 

 

「そういや貴方、どの門から出るの?聞いておきたいんだけど」

 

 

これはこの学校の門の事だ。この学校には西門東門南門の三つがある。ちなみに正門が無いのは仕様である。何でも正門を作ると他の門がオマケみたいに聞こえてしまうかららしい。…別にオマケでも良いんだけどな、本当に何で北門無いんだよ。俺北門があったらそこから抜けた方が絶対早いのに。もしあったら今のクラスで一番早く直帰出来る自信がある。家まで10分以上あるけど。

 

 

「あー、まあ今日は東門だな。コンビニにも寄りたいし」

 

 

ーーーそして部活に入れられた事を悔やむ為に安いパンでも買ってヤケ食いをする予定だ。…というのはまあ嘘で、ただMAXコーヒーが飲みたいだけだったりする。甘くてね、美味いのだよ、MAXコーヒー。字余り。

 

 

廊下を抜けて下駄箱に着く。バックを置いて上履きと靴を交換する。…毎回思うがこんなことしなくても普通に校舎汚いよな?そろそろ土足オッケーにして欲しいんだけど。…まあ無理か

 

そうして校舎を出ると、雪ノ下は俺とはほぼ反対側の方向に数歩歩いて振り向いた。

 

 

「私は南門帰るから、ここで別れましょう」

 

 

「おう。じゃあな」

 

 

そうして雪ノ下は俺に背を向けて歩き始めた。俺も雪の下に背を向け東門を進む。日は既に沈みきり、明かりは仄暗い街灯を残すのみになっている。

 

 

 

東門から夢のマイホームへ向かう所要時間はだいたい15分ちょっとだ。まあまあ近いと言ったところだろう。しかし、これが高校になると俺の志望している高校に入れれば、めでたく自転車通学になる。歩けばかなり遠い。高校と言えば色んな青春漫画やライトノベルの舞台になっているが、実際は多分それも無いのだろう。そう思うと少し鬱になる。長い距離の学校と家を行き来するだけの生活とかどんだけだよ、鬱になんぞ。現代社会の学生はマゾヒストなのか?

…って今も状況同じじゃん。

 

 

 

 

道中、雪ノ下に宣言した通りコンビニに入る。すぐさま飲み物棚に行き、MAXコーヒーを手に取りついでにその手でメロンパンも掴む。レジは全く混んでおらず、すぐに買うことが出来た。

 

目的達成した俺はすぐさまコンビニから出る。早く帰りたいというのもあるが、同級とのブッキングを避ける為という理由が一番大きい。間違えて会ってでもしまえば

【うわっ、アレうちらのクラスにボッチだよね?】

【だよねだよね、超気持ち悪いー。あ、こっち見てきてきやがったよあいつ】

【ガン飛ばせばー?】

【そするー】

………みたいな会話が副次的に発生してしまう可能性が150%くらいはある。すると不思議、俺の精神汚染度数MAXに!

…じゃあいつもクラスでそれをされている俺は精神汚染しているってことになるな。そろそろ初号機動かせる見込みあるんじゃん、ちょっとN○RV本部行って来る。

 

 

 

コンビニを出て道なりに家へと向かう。そうしてその途中で俺は異世界に飛ばされたり、美少女が空から降ってきたりは全くせずに安穏に家へと着いた。最近のネット小説万歳。

 

鍵を制服のズボンのポケットから取り出して扉を解錠する。

 

「ただいま小町〜」

 

「あ、お帰りお兄ちゃん。今日はなんだか遅かったね〜」

 

 

こうして今玄関で俺と会話しているのは我が家の可愛さ担当、妹の小町である。何時もは俺よりは遅く帰っているのだが、それでも五時半には帰ってくる。

…と言うかむしろまだ小学生の癖にそれまで何をしているのか気になる次第である。多分外で遊んでいるんだろうが、その時くらいは一回家に帰ってから行って欲しいもんだ。

 

 

「ちょっと部活にぶち込まれてな」

 

 

「ふ〜ん。まさかお兄ちゃんが部活に入るなんてね〜」

 

 

いや、ちゃんと聞けよ。ぶち込まれたって言ったろ?そこに俺の意思は全く存在していないの。あの担任のほぼ独断にうちの両親が乗っちゃっただけなの。

 

 

「てか突然入った事には驚かないのかよ…」

 

「だってお兄ちゃんだし」

 

 

おいそれどういう意味だよ。

 

「言っとくが俺の帰宅部を貫こうとした意思はかなり固かったぞ?今回の入部だって担任と親の無理強いだしな」

 

 

「それは分かってるよ〜。毎回お父さんとお母さんとどこか行く時も途中で買う飲み物はMAXコーヒーしか飲まないし…。小町的にはもうちょっと臨機攻変?になってほしいんだけどなぁ…」

 

 

何を言うかと思えば、MAXコーヒーは至高だろうが。炭酸なんて歯に悪い物を飲むならMAXコーヒーの方がよっぽど良いぞ。後、臨機攻変じゃなくて臨機応変な。何を攻めるんだよ何を。

 

 

「お前確か漢検…何級か受けるんじゃなかったのか?ならもうちょっと四字熟語やった方が良いぞ?」

 

 

「うん、五級ね。まあ別に過去問で合格点を余裕で超えたから大丈夫かなーって小町は思ってるから今日はやんない」

 

 

それ絶対受験とかで足元掬われるタイプの人間じゃねえか。お兄ちゃんはそんな妹の楽天的すぎる脳内が心配です。……本当まじで。

 

 

「あ!もうお肉焼けてると思うから行ってくるー!」

 

「おい」

 

肉焼いてる間に玄関まで来るなよ…、家がキャンプファイヤーみたいなったら本当にどうするんだよ。

 

「あ、小町。今日は出来るだけ焦がすなよ?」

 

 

慌てて俺はそう注意する。何しろ昨日の小町は我が家の豚肉を焦げすみに化学反応させてしまったのだ。それくらいしとかないと夕飯が怖い。怖すぎる。

というかそもそも毎回焦げたやつ食ってたら体に悪過ぎだろ。

 

 

「うん、頑張る〜……出来るだけ」

 

そんな些細に不安を残す発言を後にキッチンへ走っていく小町。

…小町に料理させてる俺が言うのもなんだが、もう少し普通の小学生みたいに外で遊んでくれると俺的には安心なんだがな。…まあそんなことは決して口には出せないが。

 

 

そんなことを考えつつも、疲れた体を少し休めるついでに制服から着替える為に自分の部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

バッグを置いてちゃっちゃかと着替え終わったので下のリビングに降りる。小町の料理の行く末を見に行く為だ。…もしかしたらもう焦がし切っているかもしれない。その焦燥感が俺を急かす。階段を降りる速度が少し速まる。

 

そもそも小町が料理を任せてと言ったのはまだ1ヶ月、それまでは俺が作っていたのだ。なぜ小町がそんなに主張したのか俺には分からんが、ならば任せてみようと一任した次第である。決してめんどくさくて放り投げたわけじゃない。…ホントですからね?

 

 

まあとにかくそんな理由もあって、キッチンへ向かってみる。…何か妙な臭いがするんですけど……。肉と野菜を炒めすぎました的な異臭が……。

 

 

………うーーん、これは今日も失敗してたみたいだな。因みにこの家庭料理研究家の小町さん、未だ全戦全敗である。まあまだ一ヶ月だから仕方のないことかもしれない。

 

 

「お兄〜〜ちゃん」

 

 

そう思ってたりしていると、くだんの人物である小町さんがキッチンから走ってきた。見た感じ何か余裕無さそうな雰囲気が漂っている。

…嫌な予感がひしひしと俺のつむじセンサーに反応しているんだけど、そこんところはどうなんですか?大丈夫ですか?

 

 

「おう、何だ小町?」

 

「何かフライパンから火が出てるの!ガス止めても消えないの‼︎」

 

「っておい!」

 

 

…えっ?おい。マジでか….⁉︎しかも俺のさっきの予想以上の事件が発生してるし‼︎

 

その言葉を聞いた俺はキッチンに文字通り走って向かう。家が火事で全焼なんかしてみろ、俺はあの両親に殺される…!そしてもしかしなくとも小町も何かお仕置きされる!

 

 

うちは広い豪邸の類では無い一般住宅なので、キッチンにはすぐにたどり着いた。

見ると確かにフライパンから火が出ているが、幸い壁には飛び移ってないらしい。だからと言って何かの拍子で飛び散ったら目も当てられない。

 

ガスは確かに止まってるらしい。と言うことはフライパンの中身が原因だろう、それが分かった俺は取り敢えず洗い場から500mのカップで水を汲んでフライパンへと投げ入れる。しかし、あまり効果は無いようで止まる気配はない。

 

「……お兄ちゃん………」

 

「心配すんな、必ず止めるからな」

 

 

小町が心配そうな声を上げるのを励ましつつ、俺は手短かなゴミ袋を探す。…っと、あったあった。まあ100Lのだが別に大丈夫だろう。ゴミ袋の口を開き、日を上げるフライパンに被せる(というか覆い尽くした)。火は酸素がなきゃ燃える通りが無い。多分これで消えるはずだ。

 

俺のその予想は何とか当たり、暫くすると火はみるみる衰えて行った。

そうして残ったのはフライパンと気になるその中身。恐る恐る俺はフライパンを覗き込んで見る。

 

 

「っておまっ、油のプールが出来てんじゃねえか⁉︎」

 

中は普通に大惨事だった。言い訳のしようがなく小町が悪い。注ぎ過ぎってレベルじゃねえし、故意にやったって言われても信じられるよこりゃ。

 

「小町、お前半年シェフ免職な」

 

「ううぅぅぅ……」

 

 

可愛い、じゃなかった、可哀想だが仕方ない。火事まで後5秒くらいの事を仕出かしたのだ。そうこれは愛の鞭だ、必要悪なんだ。

………だから俺の口よ、小町に慰めの言葉と許しの言葉と愛の言葉を囁こうとするんじゃない!俺の封印されし口がぁぁぁぁっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………晩飯、買ってこようか。

 

 




宿題終わらない…真っ白だ……


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5話どうやら小坪空は邪険に扱われている

やはり俺のプロットは切れ始めているらしい


 

 

 

火災未遂が発生した翌日、親が作り置きした朝ごはんを掻き込んだ俺はスクールバックを持って登校していた。

 

 

…それにしても暑い、暑すぎる。日本晴れの良い天気と言えば聞こえは良いが、その実ヒートアイランド現象が起きていて、俺の前はボヤけて見える。暑い。

 

 

 

学校に着いても今日は冷房は着いていないようで、教室は窓全開になっている。この時ばかりは窓際でよかっと思うばかりだ、暑いことには変わりないが風が少し気持ち良い。

…暑い。

 

そんな風に暑い暑い暑すぎるとそんなことばかりを考えていると、雪ノ下が教室に入って来た。名前は確か……雪乃…だったか?そう考えると、どちらも雪が名前に入っていてとても涼しそうだが、別にあいつに近寄っても気温も湿度も変化しないし、寧ろ蔑んだ視線でも送られて来て別の意味で俺の体内の気温が下がりそうだ。…って何訳の分からない事を考えているんだ俺。

 

 

その噂の雪ノ下は俺の方に遠くから軽く会釈をして来たので、一応俺も会釈をする。…何で、遠くから?クラス内で話すくらいは別に良いんじゃないだろうか?

 

ーーーーーまああいつにはあいつの事情があるのだろう。

 

最後にその結論に達した俺は、雪ノ下が自分の席に座るところから目線を外して外の景色を眺める。今日の天気は相変わらずの日本晴れで、何度瞬きしてもその事実から目を逸らす事は出来ない。ああ、曇れば良いのに。

そんな事を考えつつ、俺は冷たい水の入った水筒の半分を一気飲みして喉を潤した。

 

 

 

 

 

 

 

授業が終わっても今日は数学部はない…らしい。昨日入らされたばかりだが、確か俺の記憶だとそうだったはずだ。今日は火曜日、部活がある日は月水土、ほらこの記憶力!この性能でお値段はなんと今なら5万円!

…あ、木曜もあったような……。

 

 

「あの、比企谷君……」

 

「んっ…雪ノ下?」

 

 

突然話しかけられた相手は何と雪ノ下だった、朝に遠くから会釈されたのは話したくなかったからでは無いのかよ。

 

 

「今日これから部室でミーティングがあるから来てくれないかしら」

 

「ミーティング?」

 

「ええ、我が部は毎月1日を定例ミーティングをしているの。そこでその月の主な活動を決めるわ」

 

 

主な活動って…数学を勉強するだけじゃないか?別にそれ以外の事はないだろ普通。

 

 

「でも勉強するだけじゃないのか?」

 

 

「違うわ。毎月最低一回は部内の関係を良くする為に親睦会を開くの」

 

 

「……何か少し大袈裟すぎる表現だな、親睦会なんて堅苦しい言葉を使う必要あるのか?」

 

 

「まあ…そうね、簡単に表すならお遊戯会、と言ったところかしら。ただ名目上少し難しい言葉を用いているに過ぎないわ」

 

 

…はあ、さいですか……。

 

…まあ別に良いか。ただ遊ぶだけだろうし。

 

 

「あ、言い忘れていたわ。今年の親睦会は長野に合宿で行くから」

 

 

……………はっ?

 

 

「合宿って校内でするもんじゃないのか普通?」

 

何故親睦会に長野?最早それは旅行じゃないのか?

 

「そう…ね。ただこれは浅浦先生の決定だから覆ることはないと思うし、何より私には口出し出来ないわ」

 

「部長の権限とか普通はあるんじゃないのか?」

 

「いいえ、言って無かったのだけれどこの部はまだ設立して1年と少し程度なの。それで私が最初に入ったから部長になっただけであって特に何かしらの目立った権利とかは有してないの」

 

「それはまた面倒な……」

 

 

つまり雪ノ下は部長ではあるがそれは肩書きのみで、予算などの使用権は全て浅浦先生の支配下にあると。

……それってありなのか?

 

 

「そろそろ行きましょう、他の人もそろそろ集まってる時間だわ」

 

「…おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、これよりミーティングを始めるわ」

 

 

その後部室に来た俺たちは既に集まっていた2人を交え少しのそれとない雑談をした後、雪ノ下が本題を切り出していた。

 

 

「今回の議題、と言うより連絡事項の方が正しいかしら」

 

「それってつまり、もう決定して変更不可能ってことだよねー」

 

 

谷津がそう言うと雪ノ下はええ、と相槌を打って話を進める。…小坪だけは理解してなさそうな顔をしているが、いつもの事なのか、全く気にも留めず雪ノ下は話を続ける。無視するらしい。やだ、クールビューティーってこの事ですか。ここでのクールの意味はかっこいいじゃなくて冷たいって意味だが。

 

 

「今月は夏休みもあると言うのもあって、合宿を行うわ。日にちは三週間後の今日から三日間」

 

「ええ⁉︎三日間って事は1泊3日⁉︎」

 

「それ言うなら2泊3日ねー」

 

 

1泊3日とかお前1日野宿する気か?

…とかそんなツッコミをしようとしたが、谷津に先にツッコミを入れられてしまった。流石リア充っぽい髪色(黄髪)していることだけあって人の言葉に対しての反応早い、俺には一生無理な芸当だ。

 

そんな多少の悲観をしていると雪ノ下は軽く咳払いをして続きを説明し始めた。

 

 

「場所は長野県の標高1600mくらい…だったかしら?詳しくは覚えていないのだけれど、そこにあるホテルに宿泊するわ。移動は部費で賄うことになっているから宿泊費用のみで計三万円を再来週の部活までに持って来てくれれば良いわ」

 

「おおっ!何か分からないけど凄そうだね!」

 

「にしてもアレだな、よくそんな部費あるよな」

 

 

俺は小坪の発言を無視して思ったことを口にした。何しろ長野までの移動費はバカにならないくらい高いはずだ。ここらへん(千葉)からだと東京までに千円以上、新幹線で1万以上は確実だろう。さらにそこからバスとか使うんなら余計にかかると思われる。その往復の合計金額を4万程度と仮定すると四人分で16万円、普通の中学校の部活で使う部費のレベルじゃない。

 

 

「それはさっきも言ったけれど、私には分からないわ。それとも貴方のその耳はお飾りなのかしら」

 

「俺が悪かったからその威圧感を引っ込めてくれ、本当に」

 

 

その発言が気に入らなかったのか、雪ノ下はいつだかを思い出させるようなプレッシャーを俺に放っていた。だから怖いって、後恐い。

 

 

「ねえねえ、因みにここからホテルまでどの位時間かかるのー?取り敢えず知っときたいんだけどー」

 

谷津のその質問を受けて雪ノ下は自分のスカートのポケットからメモ帳を切り取ったような紙切れを取り出した。多分浅浦先生からでも受け取ったのだろう。

 

 

「…浅浦先生によると4時間らしわ。それまでは電車やバスを乗り継いでの長時間移動の予定ね」

 

 

そんな俺のどうでも良い予想は何故か当たり、少しモチベが上がる。それが何のモチベかと言われたらまあ、今日と言うこの日の残り時間、つまりは約7・8時間程度を有意義に過ごすモチベである。

無いか?無いな。

 

 

そんな感じの意味不明の思考回路を回していると、小坪が元気良くハイハイ!と手を上げて来た。…正直あざといが、まあそれがこいつのキャラなんだろうと思い直す。

 

「ねえねえ!お菓子は何円分⁉︎」

「…ここは小学校では無いわ、小坪さん」

「ふぇ?」

 

 

雪ノ下は暗にお菓子の制限がないと言うことを軽く皮肉を含めて言ったが当然天然キャラには全く通じず、頭を軽く押さえていた。

…またまたこれは2あざといポイント、このポイントは1ポイントにつき−500八幡ポイントに変えれるぞ‼︎

 

 

「雪乃が言ってる事を要約すると、何個でも買ってもいいって事だよー」

 

「そうなの⁉︎いやぁー、美涼ありがと!分からなかった事が分かるのって気持ち良いね!」

 

 

もうお前どっかのリア充グループ入って来いよ。俺の見立てだと良いとこまで戦えるぞ。

 

そんな言葉を言いそうになり、少しばかり自制する。そんな事言ったら完全に誤解されるだろう、それも確実に悪い方で。まじ危ない、もう今日の一句を【あざといは 危険の合図 気を付けろ】みたいな5・7・5の俳句にして良いんでは無いか?よしそうしよう。

 

 

「雪乃ゴメンね、私ちょっとバカっぽいから…」

 

「え…ええ」

 

流石の雪ノ下と言ってもやはりこのようなキャラに戸惑うのだろう。何しろちょっとしたことで自虐しつつ謝ってくるなんてやりにくいったらありゃしない。俺だったら即刻【お、俺トイレい行ってくる】と、どもりつつ緊急撤退と見せかけて家へ帰るまでである。

 

 

「他には無いかしら?」

 

 

雪ノ下のその発言で俺含まず他のメンバーは悩む表情を作る。さながらクイズ大会のようだ。

つか別に南の変哲もない質疑応答なのに何でそんな悩ましげな表情なのか俺には分からない。別に質問一個につき100円貰えるとか抽選1000名様に図書カードが当たるとかじゃないよな。

 

………そう…だよな?

 

 

「そういや待ち合わせ場所とか時間とかはどうなんだ?」

 

 

あんな自分でも下らないと思える事を考えていたとしても、別の脳でしっかり質問に関して考えていたらしい。

…もしかして俺のIQ、高すぎ?

 

 

「そうね、そちらも貴方には伝えておかなければいけないことだったわね。うっかり忘れてたわ」

 

 

…何で俺にしぼって伝えておかなければいけないとか言ってるんだよ。まさか俺ハブられる予定だったのか?本当にうっかり忘れてたのか?そこんとこちょっと大丈夫ですか雪ノ下さん。

 

 

……ぼっち故か、このような恐らくは無意味と思われる勘ぐりをしてしまうのはもはや習性としか言いようがないだろう。

…本当に伝えなかったのわざとじゃないよな?やば、また不安が込め上げて来たんだけど……。

 

そんな俺の不安を全く取り除くことなく、雪ノ下は淡々と告げる

 

「そうね、集合はこの中学校で午前6時。これで良いかしら?比企谷君?」

「おい待て何で名指しで言ったんだよ。本当に俺ハブるつもりだったのかよ」

「比企谷どうしたの〜?…何か難しいことになってて分からないから誰か説明して!」

「空は黙ってて」

 

 

やはり小坪がスルーされたり邪険に扱われるのは日常茶飯事らしい。何か可哀想だ………

 

……って違う、そうじゃなかった。

 

 

「なぜ私が比企やる気ゼロ君をハブる必要があるのかしら?まずはそこから説明してくれないと貴方の考えは成立しないわ」

 

「その前にいつ俺がやる気ゼロになった?俺はやる気はない方だがやる気ゼロとまでは行かないぞ」

 

「……そんな事を言っている時点で駄目なことに気付けないのかしらこの比企こもりは」

 

「おいそれレベルアップしたのか?やる気ゼロになって部屋でニートに就職したから上位職にジョブチェンジしたのか?つかそれ昨日も聞いたぞ」

 

レパートリーが少なくなっているのだろうか?まあ多くても困るが。

 

『比企……比企…比企止まり?だけれど少しイントネーションが悪いわね。他には…比企………』

 

「それ聞こえてるから、小声で言ってるつもりだろうが俺にばっちり聞こえてるから。つか今更だが俺の名前を弄るな」

 

 

…このままではマズイ、某化け物的な物語の主人公に俺はなってしまう。まだ俺は吸血鬼なんかに成りたくない。

てかそのせいか雪ノ下がだんだん何ヶ原さんに見えて来たんだけど、これどうすれば治るの?昭和のテレビみたく殴れば治るの?

 

 

これがもし雪ノ下が文房具を体中に仕込んでたらすぐ退避、と心に刻んだ瞬間だった。

……これ伏線じゃないよな?超回収したくないんだけど……。

 

 

 

 

 

「ねえねえ!私も質問あるんだけどいい⁉︎」

 

雪ノ下に対する評価を改めていると突然、横槍ならぬ横ウザが入ってきた。あ、横ウザは横ウザいの略な、念のため言っとくけど。

 

 

「……何かしら小坪さん?」

 

これには雪ノ下も驚き…というか少々ご立腹だ。まあ確かにこいつ(小坪)の話に限って真面目な話はありえなそうだし、自分が考えてる時に話しかけられた少しはイラッとはくるけど。…考えてる内容はアレだが。

それに表情には出てないからバレないだろう……まあ俺には分かるが。なぜなら既に数回浴びている威圧感がダダ漏れてるから。

…本当にこいつ女子中学生なのか?俺、こいつが転生してて実は中身はDI◯様でしたーとか言われても納得できる自信があるぞ?

 

 

「あのねあのねー!お土産とかどこで買うのか分かる⁉︎」

 

予想は出来てたが、本当にくだらない質問だった。んなのあったら買えば良いだろ、そこまで綿密に日程決めなくとも良いんだよ。

 

「ホテルに売ってるわ」

 

それに対し雪ノ下選手、即答でカウンターしました!おおっと小坪選手はあまり早いカウンターに動揺しております!

 

…ボクシングの試合風に話してみたが、正直これは無いな。

 

 

 

他の人面子も話すことがなくなったので少々の沈黙、俺にとっては話しやすくなったので取り敢えずこんな話題を俺から提供させてもらおうか。

 

 

 

 

「……今日はもう、帰らないか?」

 

 

話題と言うより提案に近いが。

 

 

 



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6話 比企谷八幡は決意する

更新遅くなりました!申し訳ない!
まだリアルの方が忙しくなりそうで、また更に懲りずに新しい小説を書いているためにまた次の更新は遅くなります!
申し訳ない!(2度目)

…本編、どうぞ。。


 

 

 

いつもなら家へ帰る時はコンビニにも寄れる超万能な東口から下校しているのだが、今日は少し事情が違った。

 

 

なんと、雪ノ下が【少し相談したいことがあるのだけれど、良いかしら?】と声を掛けてきたのだ。

小坪と谷津には内密にと言われたので俺はその二人が帰るのをトイレから隠れて見送った後に数分経って雪ノ下が鍵を職員室に返し終わるのを見計らって、下駄箱で待機していた。あれ、職員室じゃなくて教員室だったっけか?…まあいいか。

 

 

そうして3分ほど立ち尽くしていると当の本人である雪ノ下が姿を現した。

 

「少し待たせてしまったかしら?」

 

 

「…まあ、そうだな。気にする必要は無いぞ?」

 

 

「そこは嘘でも全く待ってないよ、とか言うところじゃないかしら」

 

 

お前はアレか、メルヘン志望なのか?少女漫画読みすぎて頭の中お花畑なのか?

 

とかそんな本人に聞かれたら即罵倒されるレベルの事を考えつつも、冷静に言い返す。

 

 

「そもそもさっきのミーティング終わってからずっと待ってたんだから流石にその台詞はキツイだろうが」

 

 

 

その事に言われて気付いたのか、ハッとした顔をする雪ノ下。…こいつ意外に表情分かりやすいな。

 

 

 

「確かにその貴方の主張も一理あるわね。…まあそれは良いわ、とにかくそろそろ行きましょうか」

 

 

 

明らかな逃げをしたな、おい。しかも他人の発言を認めつつも華麗に躱すとか、何かロンパに出たら強そうだぞ。学◯裁判で無双しそう。

 

 

 

雪ノ下は俺のことはあまり視野に入っていないのか、下駄箱を出てからキビキビ進んでいく。俺もその後をちょこちょことしながら影武者のように着いていく。

 

そうして俺の家と反対方向の南門から学校を出ると、ちょうど大通りに差し掛かった。信号を待って雪ノ下が直進したので俺もそれに着いて行く。

 

 

 

 

「……なあ、どこ行くんだ?」

 

数分経っても全く状況にに変化が無いのでついに言葉が漏れてしまう。

 

 

「この先のファミレスよ。そこで話そうと思うのだけれど…」

 

 

「そうか」

 

 

これきり会話が途切れてしまう。…超気まずい。そもそもこいつと会ってまだ1日だぞ。それも24時間もまだ経ってないくらいだ。それで順調に会話が弾むはずが無い。と言うかぼっちの俺がそんな相手に合わせて話題を振るなんていう上級テクが出来るはずがない。

 

まあだがこのくらいの沈黙ならまだ俺の許容圏範囲内だ。射程距離と言っても良い。なぜなら互いに嫌いな奴とかと出会わせて同じ空間に居ると最早気まずいのレベルを越して早く明日になって欲しいとさえ思ってしまうからだ。ソースは俺、この前駅で偶然俺を嫌いな奴と居合わせて、電車に乗るまでの10分間に30回くらい舌打ちされた。

 

 

「ついたわ、ここよ」

 

 

雪ノ下が歩いていく先には値段がとてもチープなことで学生から絶大な人気を博している某ファミレスがあった。中に入ると、いらっしゃいませーと言うアルバイトらしき店員の声があちらこちらで聞こえる。

 

俺は何名様ですか?と言う質問を二人で、と返すと空いている席に案内された。俺と雪ノ下は対面で座る。男女の学生で向かい合うその光景はさながらカップルのようだ…あり得ないが。

 

 

 

 

「……初めて来たのだけれど、意外とずいぶん綺麗なのね。安いからその点が少し不安だったわ」

 

 

「いやどこもこんなもんだろ?むしろ今時汚いファミレスの方が珍しいぞ?」

 

 

「そんなもんかしら…」

 

 

流石雪ノ下、見た目にそぐわぬ経験である。つかファミレス来たことないってどこのお嬢様だよ。…まさか本物のお嬢様か?じゃあ俺は多額の払いきれない借金抱えてそのお嬢様に執事として働けば良いのか?

 

……借金は勘弁……。

 

 

 

 

呼び鈴を押し、出てきた店員に取り敢えずクリームパスタを二つ頼む。

店員がかしこまりましたと言って厨房の方へ戻っていくのを見届けてから俺は発言する。

 

 

「それでどうしたんだよ。自分で言うのもなんだが、あんまり俺は相談役として不向きだと思うんだが」

 

 

「そうね、確かに私でもそう思う。だけれど、今日は相談と言うよりお願いしたいの」

 

 

「……意外だな、お前はお願いとかしないタチだと思ってた」

 

 

「そうね、確かにそうだわ。自分でも何で貴方に相談しているのか分からないもの」

 

 

そう語る雪ノ下の内心はきっと複雑なのだろう。

 

 

俺にとって雪ノ下雪乃という人間は完璧、という表現が一番当てはまる。いつも毅然としていて、何事も淀みなくこなしてしまう。

まだ1日しか観察してないが授業中の質疑応答も日常生活も、仕草も礼儀も中学生にして完成されたものであった。

 

 

だが、俺はそんな雪ノ下雪乃でも悩みや弱みがあるのだと思うと、意外性もあったが、それを超す勢いで安心感があった。

 

人間誰しも必ず一つは悩みや苦しみ、あるいは罪と言った形で自分自身の負の感情と対面し向き合う。だが雪ノ下はそのような表情を何一つせずに淡々と自分で考え出した最良の結論に従って動いて見えた。まるで長い間ずっと同じルーチンワークをしてきた機械のように。

 

人間から感情を除いたらもう機械と同類だ。それは既に人間と呼ぶには相応しくない。完成された機械という方が正しいとさえ思う。

 

 

だからだろうか、雪ノ下に悩みがあると聞いた時に俺は逆に安心してしまった。

 

別に完璧か悪いとは言わない、いや言えない。学生社会ではテストを完璧に答案するのは大切なことであるし、社会でも完璧に物事をこなす人材はとても貴重がられる。つまりは完璧とは人間真理における最終到達点でもあるのだ。

 

 

だが雪ノ下の場合、成績や態度などAとかCとか評価が付く事柄どころか身の回りの日常全てで欠点がない様に感じた。

それははっきり言って万能と言うよりは異常だ。

 

どうやっても出来ないことは誰だってあるし、逆に何故か呆気なく出来てしまうこともある。適材適所、という言葉もそこから来ているのだから。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました、クリームパスタです」

 

 

少し考えすぎていたのか、気づいたら既に頼んだものが運ばれてきていた。腕時計を確認してもまだ5分して経ってない。流石ファミレス、仕事が早い。

 

 

ガタッ、という音を立てて料理が乗った皿を二つ置く。そして伝票を透明な伝票用に立っている筒の中に丸めて押し込むと店員は、それではごゆっくりと言って厨房へ去る。

…凄く熟練された技術だ、この間5秒掛かってない。アルバイトを始めたらここまで技術を上げなければ行けないのか、キツイな。

 

 

「すごい早いわね………、ただこれだけ早いと逆に不安になるわ」

 

 

これはファミレス初体験の雪ノ下には驚きだろう。…てかファミレスからこの料理の速さを取ったら何も残らんが。

 

 

「まあ冷凍パスタを解凍してるだけだしな。手間が掛かって美味い、本物のパスタ屋には負けるだろ」

 

 

ファミレスの強い点は安い、早い、味安定の三つだ。美味しくもないが不味くは無い年中金欠である学生にはとても優しいお店である。

 

 

「…そろそろ話題を変えて良いかしら?良い時間だし、早く相談がしたいのだけど」

 

 

「そだな、時間も勿体無いしな」

 

 

そうして俺は雪ノ下雪乃の相談に耳を傾ける。

 

 

 

「貴方クラスの雰囲気とか風潮とか覚えているかしら?」

 

「何だ藪から棒に。…まあ俺は基本ぼっちだからクラスの全体とか集団とか分からんが、ただ最近の体育の授業とか少し嫌なムードな気がするな。何つーか、敢えて言うなら弱い者を挫く感じか?」

 

 

…そういや先週の体育の時間、いつも俺はぼっちで練習するのだが、何か人口密度が多い方がそん時は少し騒がしかった気がするな。金切り声とかが聞こえた気がする。無視したが。

 

 

雪ノ下はその中心…に居るわけないか、あいつも俺同様、殆どぼっちだからな。ただ人望は全然俺よりあるが。

 

 

「そうね、そんな感じで合ってるわ。それで私はそのグループと本当に僅かな、ナノ単位で付き合いがあるのだけれども今度は私が標的にされてるらしいの」

 

 

「ちなみに聞くが何の標的だ?」

 

 

「分かりやすく言えばイジメ…かしら」

 

「オーケー、よく分かった」

 

 

まあ確かに、中途半端に馴れ合いがあって、かつ付き合いが悪い奴ほど省かれる。俺とかは全く関わっていないし話したこともないからそのような事態になることは無いのだが、雪ノ下は多分授業のグループとかで他の生徒と組んでいるのだろう。だがあいつのことだ、プライベートな事には全く踏み越えさせてないのだろう。

 

そこまで行き着いたところで俺は一つ疑問が浮かんだ。

 

 

 

「…なあ雪ノ下、何で会ってまだ24時間くらいの見知らぬ奴にこんな重い質問するんだ?正直俺には全く理由が分からないんだけど」

 

 

雪ノ下はそんな俺の本心を汲み取ったのか、俺の目を見据えてこう言った。

 

 

「それは私にも分からないわ、けれども直感…かしら?貴方とは上手くやっていけそうだと思ったのよ。ただここまでの行動力を発揮したのは自分でも驚きだけれど……。」

 

 

上手く…か………。

 

上手くやっていける、と言うのが何に対してだが俺には分からなかった。部活仲間としてかもしれないし、あるいは友達としてかもしれない。流石に恋人とか好きな人としてなんて勘違いはしない、そんなのは既に捨てている。

 

 

少し抽象的な理由ではあったが、雪ノ下雪乃は俺の事を肯定した。会ってただの1日だから俺の本質全てを垣間見たわけではないと思うが、それでも今まで見てきた俺を認めた。

 

なら、俺も雪ノ下のことを肯定しなければいけないのであろう。今まで、たった1日、しかも学校にいる間という短い期間で俺が見てきた雪ノ下を認め、信頼する。

 

そしてもう一つ、そこから派生してやらなければいけない事も発生する。

 

 

 

 

 

ーーーー雪ノ下雪乃は比企谷八幡を信頼した。その逆も然りである。

ならその信頼に答えなければ、比企谷八幡は雪ノ下雪乃を信頼することも、されることも不可能だ。

 

 

 

…仕方ない、解消でもなく論点のすり替えでもなく、しっかりまるっと解決をしてやる。覚悟してろ雪ノ下。




最近自分の(執筆)能力に限界を感じてきたこの頃


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7話 どこまでも比企谷八幡はいつも通りだ

無理がある今回の内容。

8月29日:小町が小学五年生になっていたのを六年生に訂正しました。


その後雪ノ下とは半時間前にあのファミレスで別れ、現時点では俺は自分の部屋で雪ノ下の悩みの解決法を模索している。

 

あの場では、「解った、後は任せろ」と見栄を張ってしまい、雪ノ下に策があるのだと思われてしまったが、その実何も考えてなかった。

 

 

というか本当にどうすんだよ俺。クラス内の関係とか一切合切無知だぞ?事前調査とかしてるんだったらともかく何もしてないからクラスのリーダー格とかカースト上位の人間とか全く知らん、名前も知らん。

 

それに、俺は俺自身で論点のすり替えやら問題の解消はしないと決めてしまった。これも手の打ち用が少なくなる一因である。

 

論点のすり替えが出来たなら雪ノ下の代わりを用意すりゃ良い話だ。問題の解消も同じような話で、グループの霧散化やら最悪は学級崩壊を狙えばお手軽簡単に雪ノ下を救える。

 

 

ただ、これは雪ノ下だけが助かる方法だ。他のクラスの連中は巻き添えをくらい、瓦解してしまう。

そしてそれを雪ノ下は望んでいない。あいつは周りを見下している様に見ているが、その周りを壊す事はしない、少し面倒な思考なのだ。

…まあ俺も似た感じだから否定の使用が無いが。

 

 

ともかく作戦成功の条件をまとめると、周りはいつも通り、雪ノ下はイジメの標的にならず、かと言って他の誰かもイジメの標的になってはいけない。…難易度ナイトメアだろこりゃ。

 

 

 

だが、やらなくてはいけない。

机上の空論でも良い、可能性が1%でもある公式を考えだして実行するのが俺の役目。

 

 

 

 

 

 

……何て考えていても中々考えつかないもので、時間は既に7時、そろそろ晩飯を作らなきゃいけない時間になっていた。

 

 

俺は目の前に広げていた真っ白なルーズリーフとシャーペンを取り払い、自分の部屋を出る。向かうはキッチン。小町は約束通り今日は大人しくしてるだろうから、また今日から俺が夕飯を作らなければいけない。

 

 

料理しながらも解決法について考える…が、全く思いつかない。

雪ノ下自身が輪に入る…は、ダメだろう。あいつが特定グループとかの7・8人で仲良くするなんて想像つかん。

 

次にクラス内のリア充グループの関心を雪ノ下から別の何かに変わらせる。…それも難しいだろう。何と言ってもその関心を人に向けるのはNGなのだから。

 

 

 

考えている間にも時間は過ぎ、既にフライパンの中のチャーハンは出来上がってしまう。それを皿に盛り付け、脇で作っていた中華スープが入った鍋の火を止める。そして器に流し込む。

 

 

リビングにそれを持っていく(リビングからキッチンは見えている)と、いつの間にか小町が椅子に座って待っていた。

 

 

「今日は早いな。いつもならお前呼ぶまで来ないだろ?」

 

「いんやー……、昨日ちょっとやっちゃったじゃん?だから同じ兄妹であるお兄ちゃんもやるんじゃないかと小町心配で」

 

「もう少しお兄ちゃんを信用しろよ」

 

「だってお兄ちゃん変なところで鈍感だし…」

 

 

失礼な、俺にはそんな事はないぞ。ちゃんと材料分量方法時間全てを守って調理してる。ゆえに失敗するなどあり得ない。多分。

 

 

「…お兄ちゃん何か目が腐ってきたんじゃない?」

 

「おい、そんな冷蔵庫に放置し続けた食材みたいなニュアンスで俺の目を表すな」

 

「まあお兄ちゃんなら心配ないかなー。…あ、これ小町的にポイント高い!」

 

「いや知らんし」

 

 

そんな会話を交わしつつもキッチンから料理を運ぶ。こういう時に楽だからキッチンとリビングが繋がってるのは重宝する。

ただ調理で火を使うと必然的にリビングの室温まで上がってしまうのは少し難だが。

 

 

 

食器を全て並べ終わったので俺と小町は料理を食べ始める。

 

 

「お兄ちゃんの料理って、何か学校の家庭科の味がする…、いや美味しいんだけどね?」

 

 

地味に俺のハートを抉る発言をするの止めてくれませんか小町ちゃん?

 

 

 

 

そんなこんなで食器を洗い、風呂に入るともう何もすることはないのがいつもの日常である。

だがしかし、まだ俺は雪ノ下対策法案を考え出していない。取り敢えず形骸だけ掴めれば今日は寝るつもりだが、まだそれには全然及んでいない。

 

 

シャーペンでルーズリーフをトントン叩きながら考える。考えれば考える程にど壺に嵌っていく気もするが、考えなければ思いつかない。故に解を出す為の要素を探すが、検討もつかないし逆転の発想も閃かない。もしあるとしたら、雪ノ下が転校する…などという逃げの発想くらいである。もちろんこんな提案は死んでもしない。

 

 

 

何か…、何か無いのか……?

 

 

 

そう考え、思考し、頭を捻るが、要素も形骸も解答も出ずに真っ白のルーズリーフを見つめる。

 

そうしていると必然的にか、俺の意識は段々と自分でも分かるくらいに沈み始め、遂にブラックアウトした。

 

まあ、簡単に説明するなら寝落ちである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……痛っ」

 

額の辺りがじんじんと痛みを発する。

上半身を起こすと、昨日はそのまま机の上で寝てしまっていたらしいと分かった。なぜなら目に映るのはルーズリーフだったからだ。

 

 

寝落ちと言うことはつまり、まだ何も考えついていない、昨夜何も要素が考えつかなかったのだろう。なのになぜかだろうか?頭の中がとてもクリアだ。まるで運動した後に極度の疲労で倒れこんでしまった時のようなーーーー

 

 

ーーーそこで俺は真っ白のはずであるルーズリーフに何か書かれている事に気づく。薄い字で分かりにくいが確かにこう書いてある

 

【事前調査は大切である。】

 

書いてある内容は俺自身に対する言い訳のようであったが。

 

と言うかなんで俺は明日までに解決するという脅迫概念に囚われていたんだ?普通に考えて明日までとか無理だろ。クラスに関しては誰よりも無知であることは俺自身が1番知っているはずなのに。

 

思えば少し舞い上がっていたのかもしれない。女子からの相談などこれまでの人生で一回も経験したことがなかったから、自分ならそれを解決出来ると過信していたのだろう。

 

 

それに雪ノ下は優等生とは言え、会って1日目の男子に悩みを打ち明けるような女子だ、恐らくはなから期待していないかあたふたする様を見て愉快に思っているのかのどちらかだろう。そう思うと昨日の自分が物凄く情けなく思える。

 

だが、確かに昨日の俺の決意は本物だった。ならば、突き通さなければ【比企谷八幡】という人間の心臓部の考えが変化してしまう。俺が俺でなくなってしまう。

 

 

ならば話は簡単だ。昨日の俺の構造通り雪ノ下の問題を解決して、その後俺はその出来事に触れなければ良い。雪ノ下の感謝が欲しくてやるわけではない、ましてや何かと等価交換したいわけでもない。俺自身のアイデンティティ、自己満足でしかない。解決したら俺はこの事を忘れ、雪ノ下との関係をリセットすれば良い。

 

となると、やはりこの問題を解決しなければならないのだろう。

 

 

欠伸と共に伸びを一つ、そして俺は机上にある時計で時間を見た。6時少し前だ。今から朝ご飯を作れば十分学校には間に合う。

そう考えた俺は、早速制服に着替えて台所へ行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然リビング兼台所には誰も居なかった。実は一昨日の深夜俺は親とリビングで会っていて今日まで泊まり込みで帰って来ないことを一応知っていた。小町は知らされてないが、まあ感覚で分かるのだろう。何せほもんどいつもの事だしな。

 

 

パンをトースターで焼き、洗った野菜を刻んでボールに放り込み、卵を割ってフライパンでぐしゃぐしゃに混ぜてスクランブルエッグを作る。

これで何時もの朝ご飯の完成だ。敢えて言うなら後は野菜を皿に飾ることくらいだろう。しかし、小町が

「流石にそれくらいは小町でも大丈夫だよお兄ちゃん!」

とかなんとか前言ってたのでボールに入れたまま放置だ。これだけ小町にやってもらおう。

 

起きて来ない小町は無視して先に朝サラダ以外を食べる。あ、コーヒー忘れてた。いや、お湯沸かしてないから無理か。まあ今日くらい牛乳で良いか。今からお湯沸かすのは面倒だしな。

 

 

 

野菜以外を食べ終わってテレビを眺めていると、廊下の方から足音が聞こえてきた。多分小町が起きてきたのだろう。まあいつもの時間だし、絶対そうだ。

そんな俺の予想は裏切られず、見慣れた姿で我が妹は現れた。

 

 

「お兄ちゃんおはよ〜」

「おう小町、昨日は良く眠れたか?」

「お兄ちゃんキモッ」

 

 

流石俺の妹なだけあって俺の弱点をピンポイントで知り尽くしている。そのおかげで今俺かなり傷ついたぞ。グリグリと包丁を突き刺されているような感覚だ。

 

「頼むから朝から誹謗中傷だけは止めてくれ」

 

「お兄ちゃんが気持ち悪いこと言わなければね」

 

理不尽だ。

 

「あれ?何で野菜の入ったボールが台所にあるの?」

 

「いや、お前が[サラダくらいは作れるよー]とか言ってたから」

 

「うっわ…冗談を真に受けるとか小町悲しいよ…」

 

「いやだからさっきから何なんだよ」

 

 

お前さっきから俺に当たり過ぎだろ。何?俺に構って欲しいの?構ってちゃんなの?さっきから罵倒してるのも俺のこと嫌いなんじゃなくて好きだからなの?

 

「…まあいいや!お兄ちゃんはゴミいちゃんだから仕方ないよね!…あ、これ小町的にポイント高い」

 

「俺の社会的地位が最下位なのは良いがそれに合わせて呼び名まで変えるな」

 

お兄ちゃん泣いちゃうよ?小6の妹にここまで言われて心に傷がつかない兄なんていないから泣いちゃうぞ?

 

 

 

小町はそんな俺の思考など当然のように総スルーして台所へ行く。…何かサラダの盛り合わせだけやらせるのに罪悪感が……。

 

 

「出来たからお兄ちゃん自分の持って行ってー」

 

 

いつから我が家の妹はこんなに逞しく成長したのだろう。何か負けた気分だ。

 

 

「はいよー」

 

劣等感を感じつつもしっかり返事をしてサラダ運ぶ俺偉い。なんなら100八幡ポイントは欲しいくらいである。

 

 

「…お兄ちゃん……」

「何だよ?」

「また目が腐ってきてるよ」

 

 

お前は俺を何回罵倒すれば気が済むんだ。

 

 

 

小学6年生である妹の将来が気になった俺であった

 

 

 

 

 

 

 

 

粗方の準備が全て終わると俺はバックを肩にかけて家を出る。ちなみに小町は俺より先に出ている。まあ小学生だしな、元気があるのはよろしい。

 

 

……ただ俺に家事を全て押し付けるな、少しはやってくれ。

 

そう思いつつ、玄関の片隅に置いてあったゴミ袋を利き手で持ち上げる。今日は燃えるゴミの日だからな、これ捨てないと家にゴミが溜まってしまう。ゴミが溜まりすぎてテレビが来るくらい世間で有名なゴミ屋敷とかになるのはゴメンだしな。

 

 

家の鍵を閉めると通学路を歩く。ゴミ回収の場所も通学路にあるからこういう時大変便利だと思う。

 

 

通学路を歩いていると、私服でランドセルを背負って歩く登校中の小学生が何人も見える。やはり中学に上がると制服になるから、小学生の私服で過ごせる点が少し羨ましかったりする。夏は短パン、冬は厚手の服を着ていたあの頃が懐かしい。まあその度に【比企谷またキモい服着てるー!キャハハハ!】と言った感じで蔑まれていたが。…そう考えると、中学になってからは服の事に関しての罵倒は無くなったな。

それ以外は大して変わんないが。

 

 

 

道中、ゴミ袋をゴミ回収の場所に置き、学校を目指す。もうほとんど距離は無いので同じ中学の制服を着ている連中もかなり増えている。だからと言って挨拶をしたりする仲の奴は居ないが。

 

無言で校門をくぐる。俺の周りには今青春をいかにも満喫しているような奴らが所狭しと並んで歩いている。俺のような完全無垢なぼっちはこの学校にはあまり居ないようだ。つまり数少ない俺みたいなエリートぼっちのは希少種、レアと言えるのではないだろうか。違うか、違うな。

 

 

下駄箱で上履きに履き替える。周りにクラスメイトらしき人物が数人ほど俺と同じことをしているが、当然挨拶はしないしされない。まあそもそもその彼ら彼女らはグループとして会話をしている。そこに俺みたいな奴が入る隙などないのだろう。

 

それは数学部でも一緒だ。上っ面では仲良くしたそうな態度をとっていても、心の内では何を思っているのか不透明だ。大抵のグループでは余所者がその輪に入ろうとすると、それまでのグループ内での関係の変化を恐れ、誰かがそいつは排斥される。

 

それは多分数学部でもそうなのだろう。

 

まあ気分としてはそこまで良くはないが、部活をこちらの落ち度ではなく相手のせいにして辞めれるというのはとても清々しい。そう考えればこれはこれで結構得な話だな。ちょっと俺のことハブってくれないかな?何なら【お前の席ねぇから!】とか罵倒されても良い。そうすれば俺は確実に部を辞めれる。

…おお、これぞ利害の一致か。

 

 

教室に入り、いつもの席に座ると俺は窓の外を眺める。テスト期間の番号順の席では出来ないことだ。なぜなら俺の番号だと真ん中よりになるからだ。なのでその時は安定のうつ伏せで過ごしている。そして[俺は寝てるから邪魔するな」オーラを発すれば完璧、寄って来る人物はほぼ居なくなる。因みに今の窓の外を眺めてるのもその応用で、ぼーっとしていて一見話しやすそうにしているがその実硬い空気を放っていて地味に話かけにくい、かつ存在自体が目立たないというような効果を発揮する。名付けて[ステルスヒッキー]。どうだ、ドラク○とかで使えそうだろ?敵とエンカウントしない的な効果有りそうだし。

 

 

 

そうして俺はチャイムの時間まで雪ノ下の問題を忘れて惚けていたのである。

 

 

 

 




今回主要キャラ比企谷家しか出てきてない( ˘ω˘)


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8話 密やかに浅浦健治は知っている

浅浦健治は浅浦先生の事です

もう一つ、遅くなって申し訳ない…!




 

 

 

今日は水曜日である。そう、水曜日。何があるかと言うと、別に楽しいことではない。水曜ど○でしょうとかがやってるとかだけだったどれだけ良かったことか。…まあ個人的にはアレが北海道テレビじゃなくてチバテレビであったら速攻全てのDVDを買ってたが。

 

ともかく、水曜日である。部活である。数学部である。面倒だ。

 

 

「はぁぁぁ………」

 

思わず溜息をついてしまう。授業中とは言え、こればかりは許して欲しい。始めて部活めんどくさがる奴の気持ちを理解した気がする。こんな放課後に勉強するような部活、誰が入りたいと思うのか…。あ、雪ノ下か。

 

 

「おい、比企谷。ため息をするな」

 

それくらい見逃せよケチ教師。そう思いつつ前を見ると数学の教師である浅浦先生が教鞭をふるっていた。俺に。

 

「…うぃっす」

 

無視するともっと面倒なことになりそうなので仕方なく返事を返しておく。別にいいだろ、数学なんて俺の将来構造的には絶対使わないから。むしろ家庭科の方が数倍使う、だから家庭科の授業増やしとけよ。

 

「心がこもってないぞ比企谷。昼に職員室来い」

 

「…………うっす」

 

理不尽だ。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこともあったが現在3限が過ぎ、次の授業が終われば昼食となる。教室全体が空腹オーラで包まれているのがその証拠だ。クラスメイトの半分は空腹からか机に沈んでいる。残り約半分は近くの席の人と会話、もう約半分は黒板をぼーっと眺めている。後少数派としてクラスを観察している少年もいる。

というか俺だった。

後もう残り少数は【ブラック企業の足跡】なんてタイトルの本を読んでいる。

というか雪ノ下だった。あいつは何てもん読んでんだよ、労働組合でも作る気か?

 

 

クラスメイトを観察対象にするのも飽きてきたので窓の外を眺める。中学2年の教室は全て3階にあるからか、とても見晴らしが良い。住宅地が一望出来、俺の家も見える。ついでに小町の通う小学校も見える。小町ーお兄ちゃんはいつでもお前を見てるぞー。

 

…小町に聞かれたら「うわキモ」とか真顔で冷たく言われそうだな。止めとこう、うん。

 

 

「授業始めんぞー」

 

そんなのんびりした声と共に入って来るのは理科の幸野先生だ。いつも理科室にこもっていることで有名でもある。出て来るのは登下校を除くと授業の時と職員会議の時くらいらしい。我が校の変人でもある。

 

 

「えーっ!まだ鐘鳴ってませんよ先生!」

 

前からそんな声が聞こえる。発言主を見てみたが、顔も名前も全く知らない生徒だ。まあクラスメイトだしな。

ちなみに俺にとってのクラスメイトは、クラスという箱があるとして、そこで偶然同じ箱へ詰められた知らない人である。知らない人である。

大切だから二回言った。

 

 

「別に鐘が鳴ってから授業を始めるなんて憲法も法律もないだろ。安心しろ、早く始まった時間分終わる時間も早くしてやる」

 

それで良いのか教師。

 

「早く始めましょう先生!僕に新たなる知識を植え付けてください!」

 

こっちは変わり身早いし…、しかも何かその言い方がすごく引っかかるだけど。植え付けるってなんだよ植え付けるって。お前は苗床か?

 

 

 

 

 

そんな訳の分からないやり取りの後はしっかりと幸野先生は授業をしてくれた。植え付けてください宣言をしてた生徒は20分くらいで寝てた。植え付け拒否してんじゃねえかおい。

 

 

 

 

 

そうして昼になる。クラス一同弁当箱をパカパカ開けている中俺だけは教室から出て職員室に向かう。ホント俺何で呼ばれたんだよ。

 

職員室に着くとノックを手早く2回して返事を待たず入る。早く弁当食べたい。

 

「失礼します、浅浦先生はいらっしゃいますか?」

 

 

いなかったら帰る。そう腹に決めて手短に要件を近くの教師に聞いた。

 

「浅浦先生は用があるとかで外に行きましたよ?」

 

「そうですか、ありがとうございます失礼します」

 

そう言って素早く礼をしてドアを閉める。ラッキーだ、これで帰れる。

 

 

 

「お、比企谷来てたか。取り敢えずこっち来い」

 

 

ーー帰れるわけないよな…。

 

後ろから声を掛けられる。浅浦先生だ、確実に。振り向く必要すら感じない。

 

「…了解です」

 

上げて落とされたからか、自分でもかなり変なテンションになっている。…早めに帰れると良いな。

 

 

 

そう思いながら浅浦先生の後ろをついて行くと、すぐに空き教室に着いた。ここは多分、数学部の部活だ。まだ俺数学部の場所を自信持って言えないんだよな。月曜日は浅浦先生の後ろに着いていって始めて行ったし、火曜日も雪ノ下の後ろに着いて行ってただけだし。つまり2回しか行ってない。むしろそれなのに場所を推測できる俺を褒めてほしい。

 

 

「当然ここがどこか分かるな?」

 

「数学部の部室…ですよね」

 

やはり自信を持てない。しかしその答えは合っていたようで、浅浦先生は意味深な表情を浮かべる。

 

「ああそうだ。ここは本来数学の少人数教室に使われているんだが、実は今日から少人数教室が別の教室に変更した為にここは空き教室となった」

 

 

「………は?」

 

思考が少し停止する。だがそれを見て見ぬ振りか、浅浦先生は話を続ける。

 

「で、だな。ついてはここの教室を本当の意味で数学部の部室として活用したいと思う」

 

「いやっ…ちょっと待ってください」

 

意味が分からない、何が意味が分からないかと言うとほとんど全てだ。

取り敢えず気になったことを一つ質問する。

 

「あの、何で部長である雪ノ下ではなく俺にそれを教えるんですか?」

 

「それは雪ノ下の為を思って…!」

 

 

…意外である。浅浦先生は雪ノ下がイジメの対象になりかけているのを知っていたのか。

その状況で突然雪ノ下が部長を務める部である数学部の部室が専属に変わったら雪ノ下を虐めようとしている人間にどう思われるか。そんなのは決まっている、格好の種だ。それを口実に[調子乗ってる]などとイジメの中心が言っていれば周りも初めはそれに乗じて、他のことは見て見ぬ振りをして盲目に縋りつき、やがてはその虚実を真実として自己完結させてしまう。

そうして雪ノ下の誤ったイジメの認識度は広がってゆき、更にあいつの敵には塩を送るどころか毒を塗りたくそうな性格も考慮するとそれがエスカレートとするのは簡単に分かる。

最終的には下手をすると、雪ノ下は学校に居場所が無くなり、不登校になる可能性だって存在する。

 

 

 

 

 

ーーーだから浅浦先生はその種である数学部に専属教室が手に入ったことを隠し通そうと代わりに俺に伝えたのか……。

 

 

続く言葉を紡ごうと浅浦先生は口を開く。

 

 

 

 

 

「まあ嘘だが」

 

「嘘かよっ!」

 

放たれた一言はあまりにも酷いものだった。俺の純情を返せ。

 

 

「別にお前じゃなくとも小坪でも良かったんだ。…いや、小坪は少しバカの素質があるから谷津か。だがお前にした」

 

…教師が『バカの素質がある』とか言っていいのかよ。

 

「と言うか別に俺じゃなくともいいんなら谷津にして下さいよ、早く昼飯食いたんですけど」

 

そんな嫌味を言うが全く動じずに浅浦先生は話を続ける。

 

「そうだな…そう言えば比企谷、お前にした理由が一つあったぞ」

 

「それは俺じゃなきゃいけない理由ですか?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

 

それは何ですかと言おうとしたが、その前に浅浦先生がその答えを言った。

 

 

 

 

 

 

「ーー俺の憂さ晴らしにちょうどいい」

 

「帰らせてもらいます」

 

さて、昼飯食うか。まだ昼が始まって10分ちょっと経ってないくらいだから弁当食べてからも寝る時間はたっぷりある。そして五時間目と六時間目受けて俺は帰え……れないな。数学部があった。カマクラと一緒にソファーで寝転がりたかったのに。

 

 

 

「まあ待て比企谷、話すことは一応ある」

 

「一応なんすね…」

 

 

引き止める理由がかなり雑な気もしたが、気になったのでクラスに戻るのを止める。最初からその事を言えよ本当に。そして早く弁当食わせろ。

 

 

「ああ、10円ガムの存在価値についてだ」

 

「浅浦先生はもう少し真面目かと思ってました」

 

つかなんだよ10円ガムの存在価値って。確かに他のガムと比べりゃ手軽かつ単体で安いが、某キ○リトールみたいな100円のガムも大体が10個くらいは入っているし、そもそもそっちの方が美味しい。それを考えるとコスパで最強なのはガムではなくて100円でそれなりの量が入っているグミだ。特に多く噛める奴ハードグミなんかだったら最高である。

 

 

「まあとにかく今度こそ帰らせてもらいます」

 

「まあまあ待て待て比企谷比企谷」

 

 

帰ろうとすると、またもや浅浦先生に引き止められる。しかも今度は何か反復法使ってるし、何だよ新しいキャラ作りですか?それに俺を巻き込まないで欲しいんですけど。

 

 

「本当に話はあるんだ」

 

「何かドラマの裁判とかで容疑者が自己弁護する時に言いそうな台詞ですね」

 

あるいはオオカミ少年のようにも思える。本当に○○はあったんだ!みたいな。

 

「まあ聞け、数学部の現状についてだ」

 

今度こそは真面目な話のようで、浅浦先生も表情を引き締めた。

 

 

「実は数学部の部員は全員訳ありだ。まあそれは良い」

 

良いのかよ…!

あと本人目の前にしてそれを言うなよ、少し傷付くから。

 

 

そんなツッコミをしそうになったが、ツッコミを入れたら最後、またふざけそうなので浅浦先生の次の言葉を待つ。こっちは早く弁当食いたんだよ…。

 

 

「それでだ比企谷、雪ノ下は現在イジメの対象にされかけている」

 

「はい、それは雪ノ下から聴きました」

 

 

一瞬浅浦先生は驚いたような顔をしたが、直ぐに話を続けた。

 

「それなら話が早い。お前、クラスの中心人物知ってるか?」

 

「知りません」

 

ーーこの人、俺がぼっちなこと分かってて言ってるだろ。

 

まあそんな事を言い出すとキリが無いので黙っているが。浅浦先生に何を言っても逆の結果が帰ってくるのはもはや学習済みである。

 

 

「そうか。勿体ぶらずに言うと、そいつの名前は長谷秀典。【秀でる】という漢字が入ってはいるが別に頭が良い方じゃない。寧ろ学年では平均より少し下だ。数学の点数もお前と同じレベルでもあるな」

 

 

いや要らないしその情報。頭が良いとか悪いとか関係ないだろ。

そんなことを思うがグッと堪える。

 

「それでそいつがどうしたんですか?」

 

とにかくまずは話を促す。そうしないと雪ノ下に関する事が聞き出せない。

 

「ああ。その長谷は頭こそ悪いものの顔は良いんだ、ここまで言えば分かるな?」

 

「【リア充爆発しろ】という事ですね」

 

「何故そうなる。…お前本当にクラスの事知らないんだな」

 

喧しい。別に俺だって知る必要があったら知るし、知らなくて良いのなら知らない。この世の中では知らぬが仏なんて言葉もあるくらいだ、全てを知っている必要は無いだろう。寧ろ知りすぎたせいで苦労する事も大いにあるくらいである。なら知らないものは知らない、それで良いのだろう。

 

ーーそんな何時もの弁論が出てきてしまったが、先程と同じように心に抑え込む。言ってもどうにもならない上、言ったら言ったで話が長くなって最悪昼の時間が無くなってしまう。そんな自分のエゴでこれからの予定を崩すのはあまりにもアホらしいしな。

 

 

「そうっすね。なんなら隣の席の人の名前も知らないですしね俺」

 

「お前のそれはそこまでなのか…」

 

何か呆れられている気もするが、敢えて無視する。

 

「それで、早く話を進めて下さい」

 

「そうだな、俺も早く頼んだ弁当が食べたい」

 

まだ食べてないのかよ。てっきり自分だけは食べてからここに来たのかと思ったぞ。

 

 

「つまりだな、長谷はモテるんだ。そして問題の中核はそこにある」

 

そこまで言われたら俺でも気づける。というか誰でも気づく。

 

「…そうですか。つまりは長谷は雪ノ下の事が好きで、それを恨んだ長谷を好きな女子が嫌がらせをしようとしている、あるいはもう既にされていると」

 

「そう、その通りだ」

 

 

つまり解決するにはまずは長谷自身、更に周りの惚れている女子軍団をどうにかしなければいけないと。

…かなり面倒な状況になってるな。

 

 

「そう言えば浅浦先生は何故それを知ってたんですか?」

 

「決まってるだろ。部活の生徒だからだ」

 

理由になっているような、それでいて少しずれているような、そんな理由。だがその抽象的で先の見えない答えは浅浦先生らしくもあった。

それと同時に少し怖くもあるが。

 

 

「まあ、言いたかったのはそれだけだ。出来ればお前が円満に解決してやれ。俺はこれから職員会議で飯食わなきゃならないからもう行くぞ」

 

 

そう告げて職員室の方へ去って行く浅浦先生を俺は軽く見送りつつ、俺自身も自分のクラスへ戻った。

 

 




次の投稿は夏が過ぎた9月上旬くらいに上げれればと思っています。
…9月は忙しいのでこれ以上に更新速度が遅くなる可能性があります。ご了承下さい。



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