推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA (重曹ちゃんかわいい)
しおりを挟む

第一話 ギフテッド


*幼少期にアクアがヒロインを攻略していくRTA風小説です。アクアが作中年齢9歳でエンディングなので、幼少期以降のストーリーには関わらずに完結予定です。お読みいただけると幸いです。


 

 はい、よーいスタート。

 

 最速でヒロイン全員の好感度100達成を目指すRTA、はーじまーるよー。

 

 今回持ち出したゲームはこちら。大人気漫画『【推しの子】』原作にオリジナルシナリオやIFルートを加えた結果、全回収するのが苦行すぎるとまで言われるシナリオ量と自由度を誇る『推しの子 IF』です。

 

 このゲームでは原作に登場するキャラクターと原作とは違う形で出会ったり、絆を育んだり、対立したりする事ができ、ルビーに速攻前世バレして原作以上のブラコン、シスコン関係かつ性的に狙われたり、重曹ちゃんと子役同士、ライバル関係を築きながら恋愛したり、あかねと真っ当な恋人関係を築いたりと原作の没ルートなんかも大量に入れられているため、ファンなら買った方が良い作品です。というか買え。動画で満足するな。と私が布教活動しているくらい面白いゲームなのでリンク欄から今から買おう(ダイマ)

 

 ちなみに幼少期に劇団ララライ所属すると一瞬でラスボスにたどり着いてしまったりして、原作のサスペンス要素が速攻で消えたりします。というか復讐を無視してるとラスボスそっちのけで話が進みますし、いつの間にか逮捕されたりコロコロされて勝手に終わります。さらっとニュースでラスボスが逮捕されるゲームなんて聞いたことないよ。ギャルゲー要素の邪魔だからって専用ルートの後半に入ったあたりでラスボス雑に退場させるな。ヒロインとイチャイチャした方が敵討ちできるとか、闇落ちしちゃってる原作のアクアが馬鹿みたいだろ。

 

 そんな感じで一例だけでもマジで自由度が高いゲームなので、ラスボス逮捕で復讐要素やサスペンス要素が抜けたルートもたくさんあり、作品内でいくらでも作品が出てきます。おまえらあたまおかしいよ(褒め言葉)

 

 さて、少し脱線してしまいましたが、ムービーを背景に改めて本RTAの簡単な説明をしていきます。今回のRTAでは今作のメインヒロインのアイ、ルビー、かな、あかねの4人の好感度を100にして同時攻略をするというRTAになります。

 

 このゲームではあるフラグを立てると、アイがヒロインとして攻略可能になり、アイ死亡イベントの回避ができるようになるのですが、幼少期のプレイ可能年数が増えることで、あかねとの出会いイベントもおこせるので幼少期にヒロインたちと出会えます。

 

 今回はアイルートに乗っかりつつ、幼少期にヒロインたちの好感度を100まで上げきることで最速を目指すRTAになっています。

 

 このルートの特徴として本来アイ死亡イベントが起きる時系列以降もアイが死ぬまで幼少期を続けられます。とはいえ、アイルートは幼少期に完走しきることを前提にしており、そのまま、高校入学まで幼少期状態で進めるなんてことはできません。そして、アイ生存確定イベント後はエンディングになってしまいます。なので、アイ死亡後の青年期のイベントは一切使えず、ほぼ、幼少期のゲーム独自イベントのみを使って他のヒロインの好感度上げをしないといけないことになります。

 

 ここでなんで原作時点まで生存させられないのか?と初見の皆様がおいてかれてしまうので説明すると、ラスボスのサイコパスしいたけさんが原作のアイ死亡イベントの頃から殺しに来てそのイベント回避後も執拗に殺しに来るからです。風来のシレンの風が吹いてきたみたいな感じで、延々とレベル上げばかりしないようにする役割を担っており、アイの攻略でなく、別のヒロインの好感度稼ぎを幼少期にするのを防ぐための要素ですね。

 

 つまり、死亡回避イベント後も殺しに来るので、回避イベントを過ぎれば良いと言うわけではなく、回避イベント後にサイコパスしいたけが定期的に起こす殺害イベントを回避しながらアイの好感度を上げきる必要があるわけです。まじでラスボスの風格すらない扱い。ただの妨害イベント要因でしかないラスボスさんですが、この幼少期では勝てません。そして回避のためのイベントをどんどん起こしていかないといけなくて、時間がたつごとに難易度というか手間が増えます。一度でも回避のためのイベントを挟み忘れるとアイが死んで、原作開始する羽目になり、アイの好感度を上げられなくなるため今回のRTAでは事実上のゲームオーバーになります。

 

 原作年齢までアイの殺害イベントを回避しまくって原作の年齢に達してしまおう!みたいなプレイをしていた同士も居ましたが、結局、作中時間で6年ほどの猶予は取られてますが、それ以降になると乱数弄ろうがなにしようがアイが殺されるみたいですね。ラスト一年はまじめに殺意ましましで来て面倒なので、アイがMEMちょと同じアラサーアイドルになる前になんとか好感度上げをしましょう。

 

 殺人未遂が何十回起きても警察が仕事をしない推しの子時空の治安が心配ですが、原作でもがばがば警察なので、ある意味原作再現です。というかゲームで青年期になるといきなり警察が有能になってイベント進行度によって強制的に逮捕される方がおかしいです。

 

 色々言いましたが簡単に言ってしまうと本RTAを完走するためには最長でも10歳までに母親と妹を含む少女3人をメロメロにしていく前世もちショタになるしかないというわけです。よくいるなろう系主人公っぽい感じですね。

 

 では簡単な説明が終わったところで早速、みなさん大好き地獄のリマセラを開始します。

 

 このゲームでは主人公はアクア固定であり、基礎の能力値なんかは変わりません。アクアはもともとアラサーの医者の前世持ちなので、作中でも描写されていますが、能力がかなり高いです。なので、幼少期の初期能力や成長率がかなり高く設定されており、闇落ち前なのでコミュニケーション能力も高く好感度の上がり方も補正がのります。大人から見れば容姿端麗かつコミュ強の天才少年ですね。

 

 そんな天才少年アクアくんにゲームでは追加のギフテッド要素がのります。このギフテッドによって、役者やアイドル、裏方として働く時に経験点が乗数でのったり、コミュニケーション能力系統で好感度補正がのったりします。初期ギフテッドによっては才能に目を付けられて原作ではできないような場所に所属できたりします。ララライ所属なんかは役者系ギフテッドがないと入るのが厳しかったりするので、どのルートを目指したいのかを考えてギフテッドをリセマラしていく必要があるわけです。

 

 ルビールートだとアイドル活動をサポートすることになるので、裏方系ギフテッドが役に立ちますし、かなルートだと役者ギフテッド、アイやあかねルートだとコミュ力系ギフテッド持っていると攻略しやすいです。

 

 ここではコミュ力関係を狙います。なぜなら幼少期で好感度を上げきろうとすると殆どイベントがないあかねの好感度上げが間に合わないからです。芸能界入りが5歳という設定上、アイシナリオ以外では会うことすら出来ないキャラなので出会いイベントなどはありますが、幼少期のイベントが他のキャラよりはるかに少ないです。イベントで一気に上げられない分、時間がかかります。

 

 あかねと安定してコミュするには6歳から可能になるララライ所属イベントを起こして好感度上げをしなければならないのですが、幼少期から所属を移すのに高い能力値が必要なので、コミュに大半の時間を使う今RTAでは安定して走れません。子役をしていると、かなが落ち目になる6歳から相方があかねに変わっていくので共演者としてコミュで取る予定です。

 

 人気が無くなり立場もアクアも自分のファンのあかねに寝取られ、親は離婚してしまいどん底まで追い詰められる重曹ちゃんをどん底から掬い上げて一気に好感度を上げましょう。あかねとの好感度を上げるためだから許してクレメンス。あとで責任もって苺プロで囲うのでへーきへーき。

 

 そしてあかねは幼少期は引っ込み思案な為、初期好感度稼ぎが重要で、失敗すると幼少期では上げきる事ができなくなります。好感度上げが一番運要素が強いので少しでも楽にするためにコミュ力系ギフテッドを取ります。ちなみに原作のイベント通りに進めるだけで好感度ブーストがかかるので攻略難易度が一番低いのですが、今回では一番の難関キャラですので、出会うたびにストーカーしていく予定です。

 

 あかねが持っている役者系ギフテッドである「没入型演技」でも好感度補正が掛かるのですが、青年期にならないと伸びにくいギフテッドかつかなの好感度上げに役に立たないので見送ります。

 

 目指すギフテッドはコミュ系でヒロインに効果が高い「信頼」か「信愛」です。特に「信愛」はアイ特効なので、アイルートなら選びたいギフテッドです。また他のヒロインにも好感度が上げにくくなる80以降の上げに効果を発揮します。「信頼」もヒロイン好感度80までの伸びに高い倍率をかけるので、今回のRTAではかなり有用です。原作シナリオならイベントで勝手に上がるのですが、幼少期だと0からスタートな為、高い好感度になるまでのコミュ回数が増えるので、そこを短縮出来るため幼少期には価値が高いです。

 

 ちなみに信愛と信頼は1%未満なので、沼ると全然出ません。

 

 ではリセマラ開始です。

 

「ダンス」

 

 いらないゴミですね。次

 

「歌唱力」

 

 アイドル路線ではないですね。次

 

「2.5次元」

 

 特定舞台の補正は効果が高い代わりにそれ以外の場所ではゴミなんですよね。次

 

「仁愛」

 

 外れではないですが、モブの問題にすら無駄に首を突っ込みたがるようになるので駄目ですね。はい、次

 

「建築型演技」

 

 はい、演技系の当たりですが、今回はコミュなので、次

 

「指導」

 

 次、次です。

 

「出産型演技」

 

 演技系はいらないです。次

 

「作曲」

 

 裏方系なら優秀ですが駄目ですね。次

 

「学習」

 

 経験値アップ系も悪くないですが駄目。次

 

 

 

 

 

 リセマラ中……

 

 

 

 

 

 

 リセマラ中……

 

 

 

 

 

 

 リセマラ中……

 

 

 

 

 

 

 リセマラ中……

 

 

 

 

 

 お、金文字ギフテッドが出ましたね。

 

 金文字スキルは通常ギフテッドより効果範囲が広く、「アイドル」ならダンス、歌唱力、カリスマなど複合的に高い効果をもたらします。「役者」なら「◯◯演技」系統全般に補正が乗ったりするので、アイルートに乗らない場合でもスキップしたら青年期には、不知火フリル並に有名人になっています。ここで一番欲しいのは「コミュニケーション」でコミュニケーション全般に補正がかかるギフテッドなのですが……

 

「天才」

 

 うーん、かなり悩ましいギフテッドが来ましたね。

 

 天才はコミュ系以外の能力、経験点全般に補正をかけてきます。器用万能になるため、アイドル、役者もこなすマルチタレント、業界のトップスターを目指すRTAなら大当たりと泣いて喜ぶレベルなのですが、幼少期だと過剰スペックぎみなんですよね。

 

 でもこのギフテッドがあれば、かなと共にトップ子役としてイベントをこなせる上に、かなが落ち目になるタイミングで乗りかえて、あかねコミュに切り替えて、ララライに入る事も出来ると思うので、そこからララライコミュで稼ぐ事も可能……

 

 アイとルビーは幼少期のイベントがあるので良いのですが、かなとあかねの同時攻略は上手く切り替えないとどっちも好感度を下げてくるので、むずかしいのですが、まあ、なんとかなるでしょう。

 

 ここまででもう1000人以上のアクアくんが犠牲になっているので、彼らの犠牲の為にも出来そうなら走るしかないのです。もうリセマラ飽きたとか駄目ならまたやり直せばいいやという妥協ではなく、新たな記録に挑戦なのです(白目)

 

 さて、アクアくん赤ちゃんライフスタートのシーンが流れている間に序盤の大まかな流れを説明すると、アイ生存のためにアイの好感度イベントを最優先で進めつつ、ルビーの好感度も3歳の時点で起きるかなとの出会いイベントの前までに出来るだけ好感度を上げて、それ以降はかなとの好感度イベントを攻略していくという流れになります。

 

 ムービーも終わって赤ん坊のころからスタートするわけですが、まずやることはルビーに前世の正体バレすることです!

 

 ルビーの好感度をちびちびと上げていく時間はありません。なので、ぱっぱと原作崩壊させていきます。

 

 初期好感度爆上がり&好感度ボーナスに加え好感度上限突破イベントがつくのと、アイ生存ルートへの入り口になる今RTA必須イベントなので、初期からばらしていきます!!

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 はい、好感度上がりましたね。一気に好感度80になりました。

 

 今後、ストーリーを進めていくと、秘密であるはずのアイの出産の情報すら手に入れ、担当医すらも殺害するやばいストーカーの存在をルビーと共有し、お互いに警戒してアイを守ろう!という意識が芽生えます。それによって警戒ゲージが新しく出現。この警戒ゲージが高い状態でいるとアイ死亡イベントを回避することが可能になります。

 

 アイルートの特徴はアイの好感度上げをするだけではなく、この警戒ゲージを高く維持することが重要になってきます。特に後半はラスボスさんが自ら殺しに来たりするので、警戒度を上げ忘れるとバッドエンドまっしぐらなので注意が必要です。

 

 

 

 ではまた次回。サラバダー。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話 裏 アクア①

 

 星野愛久愛海の独白

 

 

 

 

 俺は産科医の雨宮吾郎。

 

 ど田舎で産科医として働いていた所、推しのアイドルが妊娠し患者として来院してきた。

 

 心中複雑な思いをしつつも、推しのアイドルの出産をサポートしていた所、怪しげな男に声をかけられる。

 

 怪しげな男に逆質問を行うと逃げ出した男を追った俺は殺され、目が覚めたら……推しのアイドルの子供に転生していた。

 

 俺が転生したアラサーだという事がバレたら推しのアイドルが思いっきり甘やかしてくれる環境が無くなってしまう。俺は「星野愛久愛海」というキラキラネーム感ばりばりの名前で楽しく生きていく事を決意する。

 

 見た目は赤ん坊、頭脳はドルオタ、その名は星野愛久愛海。

 

 ……某名探偵風に過去を振り返ったが、三十路間近のドルオタが転生して赤ん坊をやっているという気持ち悪い現実しか見えてこなかった。

 

 いや、現実逃避をやめよう。問題は目の前で泣き出したやばい妹である。

 

「はいはい、またおっぱい? ルビーはおっぱい好きだねー」

 

 前世からの推しのアイドルにして今世の母であるアイが妹のルビーを抱き上げると今日、何度目か分からない授乳を行っていた。

 

 これがただの赤ん坊であれば、母親は大変だなぁで済ませられるのだが、この妹であるルビー、俺と同じ転生者である。あと付け加えるなら、俺以上にオタク、しかもわざわざエゴサしてアンチとリプ合戦をするような超好戦的なオタクである。そんなやつが、推しアイドルの迷惑を鑑みずに授乳を何度も要望する為に泣き続けてる。

 

 あきれた目で見ていると、妹はニヤッと勝ち誇った目でこちらを見てきた。だめだこいつ、俺がなんとかしないと。

 

 もし、こいつが俺と同じく男なら、アイが可愛そうすぎる。前世で何したら、自分のオタクのおっさんを二人も育てるなんて罰ゲームをするはめになるのか……いや、女のオタクでも相当やばいので、あまり変わらないかもしれない。妹にはせめて遠慮をしろと言っておかねばならない。

 

 アイが仕事に行った後に問題児の妹に声をかける。この年の赤ん坊は流暢にしゃべれないので、周りに人が居ない時にしか話せないからだ。

 

「お前、ちょっとは遠慮しろよな」

 

「なんで?」

 

 目の前の妹はきょとんと何がおかしいのかという表情をしながらとんでもない事を主張しはじめた。

 

「娘の私がおっぱいを吸うのは自然の摂理なんですけど。当然の権利なんですけど」

 

「いや、お前、それは普通の赤ん坊の理屈であって、前世をもったオタクが推しにやったら駄目なやつだろ……一応聞いておくけど、お前前世でも女?」

 

 これがおっさんなら、こいつを見る度に、授乳を求めて泣くイマジナリーおっさんをみることになって嫌すぎるんだが。

 

「うん」

 

「なら、ぎりぎり許容できなくないかも。許せなくもないというか」

 

「オタクの嫉妬きもーい」

 

 ぐさり、と心にナイフを突き立てられたような痛みを感じる。いや、推しのアイドルにしてみたい気持ちは分からなくない。嫉妬しているのかと言えばしてないとは言えないだろう。だが、そこは倫理観で押さえるものなはずだ。きもいオタクというのは反論できないが、最低限のラインはある。

 

「まあ、いい年した男が授乳とか倫理的にまじやばいもんね。良かった! 合法的におっぱいを味わえる女に生まれて!」

 

「いや、女でもやばいのは変わらないだろ。女同士でもセクハラは成立するんだぞ」

 

 突っ込みを入れてもまったく効いてない。なんて面の皮が厚いんだこいつ。

 

「ママも可愛そう。自分の子供が自分のオタとか超キモいもん。あ-、ママは一生わたしがまもろーっと」

 

 同意見なのだが、自分でいった事を胸に手を当てて考えて欲しい。

 

「いや、お前のは女ってだけで相殺できるきもさじゃないからな」

 

「あ、そうだ、そろそろNステの時間だ~」

 

 とこちらの意見をスルーし、「やっぱり、生放送はリアタイに意味があるよね~」とつぶやきながら、リモコンを操作していた。

 

 話聞けよ。と言おうとしたが、あきらめた。まあ、リアタイの楽しさは分かっている。アイの復帰第一弾だ。久しぶりに見るアイの歌とダンスを生で見ないなんてありえない。お互い、アイの熱狂的なファンなことは一緒に過ごしていてよく分かる。お互いの許容できると考えるラインが違うだけだ。

 

 そこからはアイのうちの子発言にお互いやばいやばいと言いながらアイの出番の感想を言い合って時間を過ごしていた。

 

「きゃー、やばー!! 今のターンの表現力まじやばない!? さっきおむつかえたばっかりなのに失禁しそう!! 顔よし! スタイル良し! ダンスに加えて歌も上手いなんてウチの母、まじで逸材すぎる! 視聴者はみんな億払うべき!!」

 

 指を指しながらそんな感想を言う妹を見て少し苦笑してしまった。アイの熱狂的なファンであり、俺をアイドルの沼に嵌まらせたさりなちゃんそっくりだった。

 

「こうしてると懐かしいな」

 

「え、なになに?」

 

 こちらを見ずにテレビのアイを追いかけながら問いかけてくる。

 

「昔、お前みたいにアイのことが大好きな女の子がいたんだ。毎日、アイのライブ映像を見て、毎日、アイについて熱く語ってた」

 

「へー、すごく気が合いそうな気がする! なになに、前世の彼女? ドルオタなのに?」

 

「違う。研修医の頃に担当していた患者さん」

 

「患者さん?? へー、前世お医者さんなんだ」

 

「ああ、前世は産婦人科医で、アイの主治医だった。アイがアイドルとしての幸せと母親としての幸せ両方欲しいなんて言うから、ファンとして助け船を出さないわけにはいかないからな。出産までのサポートもしたんだ。まあ、出産予定日にアイのストーカーに殺されたから、出産に立ち会えないどころか転生して子供になっていたんだが……」

 

 そう言うとまだアイが歌っているというのに、こちらに目線をむけ、真剣そうな眼差しでこちらを見てくる姿が見える。こいつがアイの出番なのにこっちに目線を向けるなんてどうかしたのだろうか? そもそもこいつの真剣な目なんて初めて見た気がする。

 

「ねえ、どこで働いてたの?」

 

「ん? 宮崎総合病院……といってもわからないか。まあ、なにもない宮崎の片田舎だ」

 

 宮崎総合……そう、つぶやくと意を決したような眼差しをこちらに声をかけようとする姿が見える。

 

「もしかして……ごろーせんせ??」

 

 はっ?? 俺を知っている? 俺にこんな女の知り合いなんていないは居なかったはずだ。ドルオタの女なんて俺の知り合いには一人しか……

 

「えっ、なんで俺の前世の名前を」

 

「うそ、本当にごろーせんせなの?? わたしだよ。さりなだよ!」

 

「さりなちゃん??」

 

 たしかにアイを見ている時の姿は似ていたがこんな偶然があるのだろうか? 

 

「夢みたい、アイちゃんの娘に産まれられて、せんせにも再会できるなんて」

 

 

 俺の胸に飛び込んで泣く妹を俺はただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 アイドル

感想、誤字報告ありがとうございます。


 

 前回はルビーに正体ばらしをして、ルビーの好感度上げをしていきました。

 

 アイルートはアイのことを愛しているとアピールし、自分が愛されていることをアイに実感させるような言動や行動をし続けることが最重要事項なのですが、ルビーとかなの好感度上げをしながらだとどうしても4歳で起こす予定のアイ死亡回避イベントを実行するための好感度が足りなくなります。何人もヒロイン攻略しようとせずにアイとの好感度上げをしろ!という運営の調整を感じます。(嫌です)

 

 とはいえ、アイの好感度だけ上げていては今回のRTAはクリアできないので、アイルートクリアのためのアイの必要な好感度はアクアとルビーの合算の数字であることを利用します。本来、アイからルビーへの好感度は内部で勝手に伸びますのでテコ入れは必要ないのですが、ルビーの行動を変えることで、アイからルビーへの好感度を本来の4歳時点でのものより上げて、アクアの不足分を補います。

 

 そのため、早い時期に転生バレを行い、おぎゃばぶを楽しむルビーをアイドルになる方向へ転換し、ルビーがアイドルを目指す過程で起こるイベントでアイからルビーへの好感度も上げていく必要があったわけですね。

 

 自分に憧れてアイドルを目指して努力する娘との交流イベントは好感度が上がりやすいです。最初は、母親に憧れてアイドルを目指す娘とそれを応援する兄という形から始め、アイとルビーの好感度を両方回収していきます。

 

 そして、今回は金文字ギフテッドの「天才」があるため、ルビーの能力を効率的に上げることが可能です。ルビーのアイドル活動を12年ほど早く実現させられるので、スター街道を走り抜きます。

 

 レア過ぎて見たことがある人も少ないと思いますので、説明すると「天才」の効果は、技能系のスキルの成長速度2倍です。そして、ともに訓練をした相手にも適応されます。

 

 

 ルビーは元々「アイドル」ギフテッド持ちなので、アイドル関係分野の経験値効率が2倍になります。さらにアクアとのトレーニングの場合、経験値に補正が効きます。前世補正に加えてゴローバレの補正の合計倍率が加算されるため、元々合同トレーニングの経験値効率が良いのですが、これが「天才」が加わるとさらに2倍になり、アイドル関連の経験値効率が激増し、才能と補正値なしキャラの4倍以上の成長速度になります。

 

さらに、ルビーはアクアとのイベントボーナスも多く、これらがすべて倍加していきます。ボーナス値もイベントも多いルビーはヒロインになるとガンガン成長していきますし、たまにアクアとの合同トレーニングにアイが加わる時の効率は化物ですね。

 

 これを単純に見るとアクアはルビーより成長しないの?と思うでしょう。私も最初はそう思いました。ですが、この「天才」は一人なら2倍なのですが、タッグを組んだりすると、その相手の倍率と同じ倍率分、経験点が上がります。なのでタッグを組んだ相手と同じくらい成長していきます。なので、出来るだけ才能のあるキャラと一緒に訓練しましょう。才能を持った奴の才能をさらに倍にして、それを自分の糧にしていきます。

 

 ルビーのアイドルスキルを上げるついでにアクアのアイドル適性もガンガン上がるので、最終的には双子アイドルデビューをさせます。

 

 これで、アイからルビーへの好感度アップイベントに便乗する形でアクアの好感度も上がるので、ターン消費せずに好感度を上げられます。このRTAではいかに他のキャラの好感度アップイベントに便乗するかが勝負なので、出来るだけ一人で行動せずに二人以上参加のイベントを選んでいきます。

 

 本来、アイの妊娠、出産の証拠である双子を隠さないといけないので、表に出したがらない斎藤社長も、ルビーとアクアの才能に脳みそを焼かれて表舞台に出ようとしている二人を止められなくなります。

 

 成長速度は「天才」の効果で、ルビーとアクアが組むと作中ナンバーワンのアイの才能すら霞むようになります。子供が居ることがバレれば自身が破綻するのに、アイのアイドル活動を続けさせようとするほど、心を焼かれてる彼にはアイ以上の天才が羽ばたくのを見たいという思いをおさえられなくなります。

 

 とはいえ、まず、業界デビューは原作における五反田監督のところですので、アクアで原作以上の好感度を稼いで、ルビーも映画出演出来るようにすることが優先です。

 

 ルビーは前世では人生のほとんどの時間を演技で過ごしているため、初期能力の数値は演技の方が高いです。才能もアイドルほどではないですが高いので、引っ張りだこな子役にもなれます。

 

 役者としての訓練も事前にしておきたいのですが、その前にやっておく事が一つあります。ルビーはアイドルのギフテッド持ちなのですが、「ダンス×」と「音痴」というマイナススキルを持っています。これを取らないとアイドルデビューなんて夢のまた夢なので早めに取ってしまいます。これを忘れてしまってデビューさせると大失敗して、精神面の回復に相当な時間を取られてしまいます。(12敗)

 

 アクアくんがゴローの時の知識を使ってリハビリしてくれるのと、アイとのイベントを起こせるので、1歳で華麗にダンスする赤ん坊を爆誕させましょう。ほらアクアくん甘い言葉でルビーの好感度をあげて、こういう時に力になる男がモテるんだ。

 

 口説け!口説け!キスしろ!キスしろ!

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 はい!一週間ほどかかりましたが、ルビーの「ダンス×」がなくなりましたね。ずっとつきっきりで支えていたおかげで、好感度も上がりました。80以上は判定が辛いのですが、上がって良かったです。あと、ずっとルビーを支え、応援していたアクアの姿を見たアイの好感度も上がってますね。ラッキーです。

 

 

 アイは仕事とレッスンで不在な時も多いので好感度上げが本当に運ゲーなので、こういうルビーイベントの時に一緒に上がってくれると助かりますね。

 

 あとは「音痴」の修正は腹式呼吸とかそういう基礎を押さえておけば直ぐに治るので、知識のある人にレッスンを受けさせるとすぐに治ります。これは知識のある人なら誰でもいいのですが、アイに頼みましょう。「音痴」を取るついでにアイの好感度も上げられる機会を逃しはしません。自分を尊敬する実の娘に自分の歌を教え、導く喜びを教えてやる!

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 はい、「音痴」も取れて、アイの好感度も上がりましたね。これで究極完全体ルビーの誕生です。

 

 初期値が低いのですが、アクアと組ませると常人とは比べられないような進化をしていく進化の獣です。一歳半の時点できちんと会話が出来る時点でやばいのですが、きちんと歌えるというのは早熟すぎて色々と疑われるのでは?と思いますが、原作でかなが2歳の時に十秒で泣ける天才子役していたのでたぶん大丈夫でしょう。推しの子時空は子供の成長が早いので、へーき、へーき。

 

 毎日訓練に次ぐ訓練に、人気が出たら仕事、仕事、仕事の毎日です。これをリアルにしたら児童虐待で通報されそうですが、そんなものこのゲームにはありません。ハードスケジュールでスキル上げしまくります。体力管理さえしてれば好き放題にやれます。

 

 アイと一緒にテレビ出演して一緒にアイドルさせる過程で得られる好感度のためにルビーは犠牲になったのだ。犠牲の犠牲、その犠牲にな。

 

 

 あとはアクアとのトレーニングでアイドル関連スキルを上げるついでにB小町のメンバーとも仲良くなりましょう。五反田監督に会ってからはたぶん会わないし、会得できるスキルもたいした事はないのですが、アイとばかり話していると、好感度の上がり方が下がってしまうので3回に1回は話しかけましょう。B小町との仲を取り持つことで少しですが、アイの精神が安定して好感度が上げやすくなります。

 

 みやえもんと社長は?デビューして人気になれば勝手に好感度上がるし、別にスキルも経験点も得られないので放置です。

 

 

 おら、5年以上前から応援してきた古参ファン(1歳児)が来たぞ!スキル寄越せ!

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 はい、なんか知りませんが、B小町メンバーとアイが和解?みたいなことしましたね。B小町関係、メリットが薄すぎて特にイベント起こさなかったのですが、まあ、よし!です。

 

 

 次は五反田監督の脳みそを焼いていきます。ではまた次回。サラバダー。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 裏 ルビー①

日間一位ありがとうございます!


 

 星野ルビーは走り出す

 

 

 

 私、天童寺さりなはいつもいい子を演じていた。

 

 物心がついた時から病院で暮らしていて、ひ弱で人の助けが無ければ生きていけないと嫌というほど分からされて育った私は、助けて貰えるように自分の気持ちに蓋をして、わがままを言わず、病気に向き合い、健気に生きる少女を演じた。私の存在自体を邪魔に思っていた両親の気持ちに応えて、仕事だから仕方ないと、お見舞いに来ない両親に対して理解があるように振る舞ってた。

 

 本当の私は健気でも両親に理解があるわけでもなかった。ただ、誰かに助けて貰えない事が恐ろしくて、なにも返すことができない私が助けて貰えるように、醜い気持ちに蓋をして生きてきた。

 

 だけど、気持ちを我慢して良い子を演じた私は愛して貰えなかった。

 

 健気で理解のあるいい子を演じて、辛い気持ちを我慢して我慢して我慢して演じても、パパもママも私が死ぬ時にすら来てくれなかった。最後まで愛してもらえなかった。最後だけでも、嘘でもいいから私を心配してほしかったのに、それすらもしてもらえなかった。

 

 私に最後まで寄り添ってくれたのはせんせだけ。たくさん診ている患者さんの中の一人でしかなかった私の為に最後までずっと励ましてくれた。会いに来ない両親を怒ってくれた。最後まで私のわがままを聞いてくれた。

 

 ずっと部屋の外に出れない生活。治る見込みもなく、ただ苦しいだけの生活が続く私は未来に希望なんてなかった。それでもアイちゃんっていう推しを見つけて、せんせに恋をして、せんせの言葉でアイドルへの夢をみて、その夢の為にどんなに苦しくても頑張って生きてきた。最後の一年だけは二人のおかげでなんのどきどきもわくわくもない人生が楽しくなった。

 

 世界に色彩をくれた人たち。誰にも愛されず、誰からも必要とされず、なにも出来ず、ただまわりに迷惑をかけることしか出来ない私が生きようと思えたのはこの二人のおかげだ。

 

 死んだ時は悲しかったけど少し嬉しかった。私はいらない子じゃなくて、私のために泣いてくれて、怒ってくれて、大切に思ってくれる人がたった一人でも居たんだって思えたから。

 

 だから、転生を本当にした時はすごく驚いた。しかも、大好きだったアイちゃんの子供に産まれたなんて、せんせと一緒に語った夢そのものだったから。

 

 叶わなかった夢を叶えられると、わくわくした気持ちで私はしゃべれるようになると直ぐにアイちゃんから電話を拝借して、せんせに電話をした。声を聞きたかったし、私が生きている事を知らせたかったから。

 

 けど、せんせは居なかった。行方を知らせず居なくなったらしい。

 

 その後、私は少し荒れた。だって、せんせは女の人からモテてたし、お医者さんはよく女の人に言い寄られて大変だという話はきいていた。せんせは押しが弱いから、押し切られそうになってそのまま逃げた姿がすぐに想像できたからだ。

 

 だからその鬱憤をはらすようにSNSでアイちゃんのアンチとレスバしたりしたけど、そのうち飽きて、私は赤ん坊に許されるわがままをいっぱいするようになった。甘えるという事がこんなに幸せだなんて知らなかった私はアイちゃんに甘えることが楽しくて仕方が無かった。せんせと話せなかったさみしさを、もう会えないんじゃないか。という不安を埋めるように夢中になっていった。

 

 だから、双子の兄の苦言がどうしても耳障りに聞こえた。

 

 双子の兄も転生者らしく、私から見るとかなり年上の男の人で、アイちゃんのオタクだった。

 

 人生の殆どが病院生活だった私は男の人は病院の先生とパパくらいしか話したことがなかったから少し怖かったし、アイちゃんのライブであったアイドルオタクの男の人は、本来ならその年齢くらいの子供がいるであろう大人がアイちゃんたちを気持ち悪い目で見ていて、そういう人は変なことを押し付ける発言をする人たちで苦手だった。

 

 あんな大人かもしれないと思うと嫌悪感が隠しきれなかったし、隠す気持ちもあまり沸かなかった。これからそういう人と十数年も過ごすことを考えると気が重くなった。

 

 ただ、初対面の印象は最悪だったけど、話していくうちに、悪い人ではないということも分かってきて、人生で初めて軽口の叩き合いをする仲になった。お互い寝る時間以外は暇すぎてしゃべって暇を潰すしかなかったから、アイちゃんという共通の話題で何時間、何十時間と話した。私が死んでから、4年の月日が流れていたから、その4年分の軌跡を聞くのは楽しかったし、私と違って甘えることは極力控えていたので、口煩かったけど、そこまで嫌悪感は沸かなかった。

 

 そして、いつも通り、からかっていると兄はせんせが私を見ているときのような目をして話しかけてきた。

 

「昔、お前みたいにアイのことが大好きな女の子がいたんだ。毎日、アイのライブ映像を見て、毎日、アイについて熱く語ってた」

 

「へー、すごく気が合いそうな気がする! なになに、前世の彼女? ドルオタなのに?」

 

「違う。研修医の頃に担当していた患者さん」

 

 ドキッと、した。それはかつての私みたいだったから。

 

「患者さん?? へー、前世お医者さんなんだ」

 

「ああ、前世は産婦人科医で、アイの主治医だった。アイがアイドルとしての幸せと母親としての幸せ両方欲しいなんて言うから、ファンとして助け船を出さないわけにはいかないからな。出産までのサポートもしたんだ。まあ、出産予定日にアイのストーカーに殺されたから、出産に立ち会えないどころか転生して子供になっていたんだが……」

 

 産婦人科医。せんせが希望していたところだった。男の人でなろうとするのが意外だったから、色々と聞いたのを覚えてる。そしてせんせがいなくなったのと同じ時期だった。

 

「ねえ、どこで働いてたの?」

 

 そんなわけがないと思いつつも聞いてしまう。

 

「ん? 宮崎総合病院……といってもわからないか。まあ、なにもない宮崎の片田舎だ」

 

 それはあまりに出来すぎていて、あまりにも現実味がなかったけど、聞かない選択肢は私にはなかった。

 

「もしかして……ごろーせんせ??」

 

「えっ、なんで俺の前世の名前を」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は叫ぶように伝える。

 

「うそ、本当にごろーせんせなの?? わたしだよ。さりなだよ!」

 

「さりなちゃん??」

 

「夢みたい、アイちゃんの娘に産まれられて、せんせにも再会できるなんて」

 

 それはあまりに自分の都合の良い夢だった。死んだと思ったら私の世界で二人だけの大切な人たちと家族になれるなんてあまりに出来すぎている。でも、これが死ぬ前の私が見ている夢だったとしても、この気持ちだけは本物だから、止めどなく溢れる涙を押さえるなんて出来なかった。

 

 

 

 

 それからせんせは私が泣き止むまで胸を貸してくれて、落ち着いたら私が死んだ後の話をしてくれた。私が死んだ後は病院を転々として、病院に戻ってきたこと、ドルオタを続けていた事、そうしたらアイちゃんが患者として来たこと、出産までのサポートをしていたこと。そしてストーカーに殺されてしまったこと。

 

「えっ、じゃあ、秘密だったはずのアイちゃんの妊娠の情報を得られる立場かつ人殺しをするような危険なストーカーがアイちゃんの周りにいるかもしれないってこと?」

 

「……そう言われるとそうだ。なんで俺はその可能性を考えなかったんだろう。なんとかしないと」

 

 アイちゃんを守る為にせんせと相談していると、お世話をしてくれている社長夫人の人が部屋に入って来て、いきなり叫び始めたと思うと母子手帳を撮り始めたのを止めるために一緒に一芝居うつことになった。

 

 神の遣いを名乗って、その時にアイが命を狙われている事、それを止めるために私たちに協力することなどを約束させた。

 

「すごいね。せんせ、全部せんせの言うとおりになったよ」

 

「いや、俺もあんなに上手くいくなんて思っていなかったよ。さりなちゃんの演技が本当に凄かった。まるで役者みたいだった」

 

「そう? 嬉しいな」

 

「別に演技とかやったことないでしょ?」

 

 演技ならしていた。それも毎日。でもそれは言わない。

 

「うん」

 

「なら、才能だ。将来はすごい女優にだってなれるかもしれない」

 

「……将来」

 

 せんせの言葉で思い出した。私は、アイちゃんみたいになりたいって、そして、せんせにそれを応援して貰いたいって思っていた。だから治療も頑張って受けて、でも駄目で、死んでしまった。けど、今ならどうなんだろう? 将来は分からないけど、特に病気も持っていないし、アイちゃんの子供だから顔はどんどん可愛くなると思う。芸能事務所のところで育っていくことになるからコネもある。

 

 私の夢だけど、挑戦することすらなく終わってしまった。アイドルになりたい。そして先生の推しになりたいって夢が叶うかもしれない。

 

「せんせ、あのね。アイちゃんの事が終わった後、もし、もしだよ。私がアイドルになりたいって言ったら、応援してくれる?」

 

 アイちゃんより優先してほしいなんて言わない。でも、せんせが応援してくれるなら私はいくらでも頑張れる。

 

 どきどきしながら聞くと、せんせは笑顔で私に語りかけてきた。

 

「もちろん。約束しただろ。君がアイドルになったら、君を推しにするって。もしかしたら、前世で出来なかったアイをストーカーから守ることと、さりなちゃんの夢を支える事のために俺は君と一緒に転生したのかもしれない。アイの事は俺に任せて、さりなちゃんはさりなちゃんのやりたいことをすればいい。俺は全力で応援する」

 

 その言葉を聞いて、私はまた泣いてしまった。さりなちゃんは泣き虫になったねなんて言う朴念仁のせんせに「せんせのせいだよ」と返すことしか出来なかった。

 

 

 それからは私の人生はアイドルになるための行動一色になった。もちろん、ママの出演番組を見たり、オタ活以外の話だ。せんせと一緒の時間もアイドルになるのと同じくらい大事な時間だから。

 

 一緒に興奮してしまって、ママのライブでオタ芸をして三〇万リツイートを超えるような騒動を起こしてしまったりしたのは今ではいい思い出だ。

 

 せんせ、いや、お兄ちゃんは本当に私の夢に献身的になってくれた。

 

 私は前世できちんと歩けなかった。歩くときは常に受け身の準備をしないと怪我をして痛い思いをするから。それが癖になってしまっていて、だからダンスを真似しようとすると体をかばってしまい転んでしまう。

 

 それを解消するための方法をお兄ちゃんは探してきて、教えてくれた。そして、常に私の近くに居て、転びそうになると支えてくれる。私たちの体はまだ赤ちゃんで体のバランスが崩れて他人を支えることが出来ない事も多くて私に潰されてしまうことも何十回もあった。

 

 それでもお兄ちゃんは何時間でも何日でもつきあってくれた。

 

「約束したからね。踊れるようになるまできみを支えるって」

 

 そこまでしなくていいよ。と言うときまってそう言って私が怪我をしないようにかばってくれた。

 

 練習を始めて一週間で、私は転んでもお兄ちゃんが支えてくれると信じて思いっきりダンス出来るまでになった。お兄ちゃんのそばでなら出来るようになって、お兄ちゃんのそばで何回も出来たという自信が私を支えて、お兄ちゃんがそばに居なくてもダンスが出来るようになった。

 

 その後はママに出来るようになったダンスを披露すると「さすが私の娘。天才だね」と褒めてくれた。嬉しかった。あの憧れたダンスを少しだけど出来るようになって、憧れのママから褒めて貰えて、あまりに嬉しくて熱を出して心配をさせてしまうほどだった。

 

 

 それから、私はママにどうすればママみたいになれるのかを聞くようになった。ママは努力家で色々なレッスンを受けていて、そのやり方を私に伝授してくれた。

 

 呼吸の仕方だったり、声の出し方、笑顔の作り方だったり、アイドルになるために必要な事は沢山あったけど、どれも楽しかった。おにいちゃんも巻き込んでママと一緒に大好きな人と一緒に過ごして、そして出来るようになるとママとお兄ちゃんに褒めて貰えるのがうれしかった。

 

 兄妹だからおにいちゃんと結婚できないことだけが不満だけどそれ以外はきらきらした幸せな生活。大好きなママの娘として育って、大好きなお兄ちゃんにアイドルとして応援してもらって過ごす毎日は楽しくて楽しくて仕方ない。

 

 

 

 だから、あまりに幸せすぎて、楽しすぎて、これは夢なんじゃないかと、ふと、考えてしまうことがある。特に寝る前は、このまま寝て目を覚ましたら病院で、これは死ぬ前に見ている自分の都合の良い夢なのかもしれないと思うと怖くて眠れなくなることもあった。

 

 それでも私は夢に向かって走るのをやめない。やめられない。だって、こんな気持ちになれたのは初めてだから、例えこれが夢でも、これから夢から覚めてしまって死んでしまうしかないのだとしても、今、私が感じている幸せは本物だから。ママとお兄ちゃんを愛してるっていう気持ちはどんどん溢れてきて、こぼれてしまいそうなくらい受ける愛情が心地よくて、例え、一秒後に夢から覚めて死んでしまうのだとしても私の人生は幸せだったと自信を持って言えるから。

 

 これが死ぬ前の私が見ている泡沫の夢だったとしても、私の最後のわがままで一緒にいてくれているせんせに楽しかった夢の話をするために、幸せだったと伝えるその時の為に、今日も私は夢に向かって走り出す。

 

 

 

 

 




 あまりにうまくいきすぎて、あまりに理想的すぎて、あまりに幸せすぎて現実感のないルビー。明日には夢が覚めてしまうのではないかと思い日々を噛み締めて、1日、1日を懸命に生きる彼女の瞳は太陽のように輝いている。もし、明日、夢から覚めたとしても、彼女には、最後に幸せだったと言いたい大切な人がいるから今日も走り出す。みたいなイメージです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 裏 B小町

 

 45510

 

 それはB小町全体でのダンスのレッスンの休憩中のことだった。ハードな振り付けの多いB小町の曲を2時間ぶっ通しでやったこともあり、私を含め、みんな疲れて座り込んでいると、声が聞こえた。

 

「あれっ、珍しいね、ミヤコさんだ」

 

「しかも、赤ん坊連れ。なんか見たことある」

 

 そんな声を聞こえて、扉の方を見ると、1年くらい前に販促ライブで会った双子だった。オタ芸をする双子の赤ん坊なんて本来ありえない光景にアイドル界隈はもちろん、SNSでもバズりにバズった。未だにSNSであの動画を貼り付けてるファンがいるくらいだ。

 

「はい、練習中ごめんね。ちょっとみんなに紹介しないといけない子達がいるから」

 

 ミヤコさんがそう言うと双子にほらっと挨拶を促す。

 

「斉藤アクアマリンです。よろしくお願いします」

 

「斉藤ルビーです! よろしくお願いします!」

 

 ずいぶんとはきはきとしっかりとした挨拶が出来る赤ちゃんだな~。と思ったけど、同じ頃くらいの年齢の子を見たことがないので、こんなものなのかも知れない。それよりも注目するのは二人の容姿の良さだった。

 

 二人とも煌めく金髪を靡かせていて、瞳はそれぞれ名前の宝石のように輝いていて、そこだけは現実ではないような独特な風格を漂わせていた。私はそれをよく見てきた。隣で話を聞いているアイの瞳と見比べるとあまりにそっくりで、まるで小さなアイみたいな子たちだった。

 

 斉藤姓は、この事務所所属で社長とミヤコさんだけなのでどちらかの親戚の子かな。と思っているとミヤコさんが爆弾を投げ込んだ。

 

「えーっと、私の息子と娘になったアクアマリンとルビー。これから事務所の方にもたまに顔を出す事になるから仲良くしてね」

 

 当然だが、ひそひそとどういう事なのか話し始めた。だって、私達はミヤコさんが妊娠している様子を見たことがない。なので、実子ではない事は明白だった。

 

「詳しくは言わないけど、社長が外で作って来たのを引き取った子だからべらべら吹聴しないように。外聞悪すぎるから外では私の子って事にしてるし、戸籍上もそうするから。そういう風に扱って」

 

 ため息をつきながらミヤコさんが続けるが、さすがにやばすぎる爆弾だった。

 

「どう見ても一歳くらいでしょ。ってことは結婚して直ぐの頃じゃん」

 

「うわ、社長、最悪すぎ、新妻に自分の愛人の子供の世話させるって何考えてるの?」

 

「みやこさんかわいそー」

 

「いや、さすがにありえないんだけど」

 

 社長の若い子好きにはどん引きしているメンバーは居たが、婚外子作ってくるレベルだと引く。しかも愛人が産んだ子を新妻に世話させているのは軽蔑しかない。

 

 ミヤコさんはしばらく、質問に答えていたが、一応、事務所の人間には手を出していないらしいので安心した。まあ、社長と二人きりになんてことならないように今後は態度を改めないとだけど。

 

「はいはい、あの人のことは好きなだけ軽蔑していいけど、外では話さないようにしてね」

 

 と締めくくった。ミヤコさん、もっと軽い人だと思っていたけど、意外と責任感強いんだなあと思った。新婚早々、浮気発覚して子供のお世話なんて。離婚しても許されるというか、離婚しかないと思う。

 

「今回はアクアマリンとルビーがB小町のファンでね。1度会いたいって言うから連れてきたの」

 

 

 

 

 こういう時、みんなアイの下にばかり行くのに、二人は特にそんな様子もなくみんなに話しかけていた。なんでもアイは事務所の社長が後見人みたいなのになっているからか、以前から知っていたらしく面倒を見ていて仲がいいみたいだ。今日はいつも会えるアイではなく、私たちとお話をしたいという事らしい。

 

 ああ、それで憧れのお姉ちゃんのファンになって、オタ芸踊っていたのか。と納得した。そこから箱推しになっていったと思うと、赤ん坊からドルオタなエリートオタでも育てているのかと思うところはあるけど、まあ、可愛いしいいか。と思った。

 

 双子が私の歌が好きだと言うので話しかけると、すごく饒舌に語り始めた。特に妹のルビーちゃんは私達がデビューしてすぐの曲から最新の曲まで余すところなく知っていて、メンバーみんなの好きな所とか得意なことなんかを事詳しく語っていた。

 

 B小町といえばアイという事が多くて、私のここまでのファンとなると指で数えるほどしか知らない。チョロいかもしれないが、可愛い妹みたいに思えてきた。

 

 この間、B小町の歌とダンスを覚えたんだ! と笑顔で言うルビーちゃんに見せてと言うと、お兄ちゃんのアクアくんを近くに居てと言って歌い出した。

 

 そう言ったことを私は後悔した。

 

 ルビーちゃんの歌を、ダンスを少し見ただけでぞわっと背筋が凍った。

 

 そこには拙いダンスに音程も合っていないような歌を歌っている子供が居た。だけど、それは正真正銘アイドルだった。

 

 アイみたいだった瞳は、歌と同時に太陽のように一層に輝き出し、表情からは今が楽しくて幸せで仕方ないとばかりの笑顔で溢れていて、私達に対してのものなのか、感謝とか好きという感情がどんどん伝わってくる。

 

 ああ、これは本物だ。

 

 何人もアイドルを見てきたけど、これは違う。アイドルへ対する熱量が段違いで、可愛いという気持ちと、ずっと見ていたいという気持ちでいっぱいになる。眩しすぎて、嫉妬するのも嫉むのも馬鹿らしくなる。これからどんどん可愛くなってどんどん技術が上がっていったら、どうなってしまうんだろう。

 

 ずっとアイが完璧なアイドルだと思っていた。アイが一番だと思っていた。事務所が小さいだけで、注目度が低いだけで、もし今からでも大手の事務所なんかに行けば直ぐにでもトップになってしまうようなアイドルだと思っていた。でも……

 

 つい、隣のアイを見てしまう。これを見てどう思うのか気になってしまった。鏡を見てないけど、私は顔を真っ青にしているのが分かる。

 

 それに対して、隣のアイは微笑ましいものをみるかのように笑っていた。

 

 想像はついていた。アイは嫉妬をしない、他人と比較してどうこう思ったりはしない。超然としていて、誰にも縋らず、奔放で、孤高で、強くて、後悔なんて一度もせず、無敵で最強で唯一無二なアイドルだ。

 

 分かっていたはずなのにすこしほっとしてしまった。自分の中のなにかが崩れてしまいそうになった。唯一無二の存在だったはずなのに、それが違ったみたいな言葉に出来ないなにかが壊れそうになった。

 

 そうしてしばらく見ているとルビーちゃんがバランスを崩していた。B小町の曲はハードなものが多い。疲れればそうなってしまうことも少なくない。

 

 転んでしまうかな。と思うと、先に動いていたお兄ちゃんのアクアくんが慣れた手つきでルビーちゃんが倒れそうになるのを受け止めていた。

 

 その姿をみて美しいと思った。容姿が綺麗なのもあるけど、物語の王子様がお姫様を助けるシーンそのものが具現化したような、手を出してはいけないような神々しさのようなものがあった。 

 

 そして、兄妹の美しい絆があった。妹は兄に絶対の信頼を寄せていて、その妹の信頼に答える兄の姿があった。そうして見ていると隣で信じられない声が聞こえてきた。

 

「……いいなぁ」

 

 そんな姿を心の底から羨ましいという表情でつぶやくアイの姿があった。私の中の何かが壊れる音がした。

 

 

 

 

 それからの事は覚えていない。それほどまでにアイの表情に、言葉に私はショックを受けていた。

 

 誰にも縋らず、奔放で、孤高で、強くて、後悔なんて一度もせず、無敵で最強で唯一無二なアイドルだったはずのアイの弱い、縋るような姿を見てしまった。

 

 そういえば、昔はアイの事をそんな風に思っていなかったと思った。私はいつからアイの事をそんな風に思っていたんだろう? と思い返すと一つのブログを思い出した。

 

 まだ皆が仲良くしてた頃に、共同アカウントのブログを作ろうという話があった。子供が4人で、無邪気に。明るい未来を夢想しながら作ったブログが。

 

 ネットに接続し、検索しログイン画面に移る。登録したメールアドレスは、私のサブアドレスだった筈だ。そして……

 

 45510

 

 高峯、ニノ、アイ、渡辺の結成メンバーの頭文字を、フリックで入力した時の数字を入れた。

 

 すると、そこには非公開になっているページが1つあった。投稿者はタグで分かった。アイだ。

 

 私はプレビュー画面を開いて文章を読むと、最初期に仲良くしていた事を懐かしむアイ、今はギスギスするようになったB小町に対して責任を感じているアイ、また仲良くしたいと思っているのに言えなくて、こんな所に書き残すしかない……無敵でも最強でも唯一無二でもないただのアイが居た。

 

「あれっ、なんで、どうして……私は」

 

 つい言葉が漏れた。だって、どう考えてもこれはアイからの私たちへ向けたSOSだった。日付はアイの休養する1年ほど前になっている。この頃から精神的に追い詰められていて、それで鬱病や適応障害で休養することになったのではないか。と思ったが、記憶を引き出すと最悪の妄想をしてしまった。

 

 アイはその頃、練習中に何度か吐いていた。そこらへんからいきなり休養の話になっていたけど、あれは悪阻だったんじゃないか? その後、社長が外出が多くなっていたけど、あれは口の堅い産婦人科を探していた? とかだったり、しないだろうか? そして出産した後にミヤコさんに押しつけた。この事がバレれば会社は終わりだし、ミヤコさんも職を失う。だから協力せざるを得なかったのではないか? 

 

 アイは施設出身だ。後見人との関係が破綻すれば施設に戻されるからそれで……考え出すとなにもかもがぴったり嵌まるような気がした。なによりあの双子の瞳はアイの瞳に似すぎていた。

 

 なんで産む決断をしたのかは分からない。社長ならぜったいに堕ろさせたいはずなのに、アイが強行して産みたいと思わないとこうはならない。

 

 確かめないと。アイが今も助けを求めているなら、今度こそ助けないと。そう思い私はアイに話があると電話で連絡をした。

 

 

 

 

 事務所の近くにある業界人が使っている紹介制の個室で待っていると、アイが来た。

 

「こうやってニノとプライベートで会うのは久しぶりだね。二人きりは初めて?」

 

 アイはいつも通りだった。相変わらずとぼけたような声をしてマイペースな姿に力が少し抜けた。

 

「うん、そうだね。最後にプライベートで会ったのは4年くらい前かな。ごめんね。急にこんな所に呼んじゃって。どうしても話したいことがあって」

 

「うん、いいよ。で、なにかな?」

 

「……単刀直入に言うと、あの四人で作ったブログのアイのメッセージを見たんだ」

 

 その言葉を聞いて、アイはなぜか少し気が緩んだ感じがした。

 

「あー、あれね。なんかごめんね。あの時、すごくギスギスしててつい書いちゃったんだ。結局、ニノ以外は辞めちゃったし、もう昔の話だし消せば良かったね」

 

 そうだ。もう初期メンバーは私達しか居なくなってしまった。アイがあれを書いてから3年……今更だ。

 

「うん、それで、その後、しばらくしてからアイ変わったじゃない?」

 

「…………そうかな?」

 

 そうだ、思い出すとアイが15歳の頃、この頃からアイがアイでは無くなっていった気がした。なんという元々アイには無かった要素がどんどん増えていった。というか外付けされていた感覚だった。

 

「なんというか女性的になっていて、表情を取り繕うのが上手くなっていて、それで、男の人と関係をもつようになったんじゃないかな。と思ってて。そして、半年くらいしたら、アイ休養する前に何度か吐いていたけど、あれって、悪阻だったんじゃないかと思ったんだ」

 

 そう言った後、アイの顔を見てたけど、なにを考えているのかよく分からなかった。

 

「あの双子のアクアくんとルビーちゃんって本当はアイの子供なんじゃない? ミヤコさんは社長に命令されて、それを知っていてそのサポートをしていて、戸籍とかそういうのを整えて誤魔化そうとしてるんじゃない?」

 

 のどがカラカラに渇いていた。でも言わないといけない。

 

「アイ、本当は未成年後見人って事を利用されて斉藤社長の愛人にされてるんじゃないの? 愛人は事務所外なんて嘘で本当はアイが愛人にされているんじゃないの? それで、妊娠することになっちゃってるんじゃないかって私は……」

 

 そこまで言うと続きを言う前にアイの笑い声がした。

 

「えっ?」

 

「あははは、ニノ、相変わらず面白いなあ。私が佐藤社長とそういうことになるわけないじゃん」

 

 ケラケラと笑うアイは心底おかしそうにしていた。

 

「いや、だから斉藤ね。斉藤社長。って、えっ、えっ? 違うの?」

 

「ありえないよ」

 

 そう断言した。いつもの外向きの態度ではなくガチの否定だった。という事はあれ、全部私の被害妄想というか、ただの考えすぎって事? ついさっきまであった頭の熱が冷めていく気がした。

 

「ご、ごめん、ごめんね。なんか先走って変な妄想して。突っ走って。こんな風に呼び出しちゃって」

 

 私は顔を真っ赤にして謝罪するしかなかった。

 

「でも、嬉しいよ。ニノ、私の事、心配してくれたんでしょ?」

 

「本当にごめんなさい。今までアイのSOSを全部見逃していたから、今度は見逃してなるものか。みたいになって、熱くなっちゃって。周りが見えなくなって……」

 

「…………」

 

「本当に今更だよね。アイはさ。誰にも縋らず、奔放で、孤高で、強くて、後悔なんて一度もせずに生きてるみたいに見えて、私たちとは違うなあとか、私達の気持ちなんて分からないくらい強いんだと思ってたんだ」

 

 私はアイを理想のアイドルみたいに見ていた。アイの弱い所なんかを見ないふりをして。

 

「でも、今日のアイを見て思ったんだ。ああ、アイもあんな顔するんだって。アイだって、人を羨んだりもするんだって。そして思ったんだ。私はアイの事を追い詰めていたんだって」

 

 アイに対する態度は仲間にするようなものじゃなかった。酷い態度をとってもどこかアイならどうも感じないだろうみたいな感覚でいた。テレビの有名人に対するSNSの中傷みたいな感覚でやっていた。

 

「私たちはアイを傷つけてさ、そしてあなたからのSOSを受け取らなかった。このブログのことだけじゃない。アイのお母さんの話をしていた時も、アイはずっと苦しそうにしていたのに、弱音を吐いちゃうくらい追い詰められていた事なんて想像がついたのに私達はみんなアイのことを嫉妬したり、妬んだりして助けなかった。だから、謝りたかったの。力になりたかったの。ごめんなさい。私達は仲間だったのに、あなたを傷つけてばかりだった」

 

 言わなくて良いことまで言ってしまった。これはただ贖罪をして楽になりたいだけの私のわがままだった。いじめっ子がいじめられた子に謝ったから、今後はチャラな。みたいな感覚に近い。最悪だ。

 

「謝らなくていいよ。私のせいでもあるから、でも……もし出来るなら」

 

 そういうとアイは手を伸ばしてきた。

 

「私はニノちゃんと仲直りしてもう一度昔のように仲良くなりたいな」

 

「えっ?」

 

「本当はニノちゃんと仲直りしたかったんだ。でも迷惑かなって思って言えなかったんだ」

 

 都合のいい言葉だった。でもアイの昔のような笑顔を見て、断るなんて出来なかった。

 

「うん、私もアイと仲直りしたい」

 

 

 

 

 それから私達は少しずつだけど、会話も増えて、昔の思い出話、黒歴史のアイドル活動について話したり、双子ちゃんの可愛い写真を一緒に見て、感想を言い合ったりするようになったり、別に意味の無い雑談なんかをするようになった。

 

 アイの事は今でもうらやましいと思っているし、嫉みがないかと言われればある。でも隣にいるのは完璧なアイドルなんてものではなく、かなり天然で、不器用で、嘘つきな友達なんだと思うとどうでもよくなってしまうので、人間って不思議だった。

 

 そんな私達の様子を見て、話しかけてくるメンバーも居て、和気藹々なんてことはなくても、少しだけみんなが仲良くなったように感じた。

 

 

 




 B小町についてはよく分からない部分が多いのでほとんど妄想です。でもアイが幸せになるには双子との関係だけでなくて仕事面でも人間関係を改善したいなあと思って独自設定、独自解釈てんこ盛りな話を入れました。後見人とかあそこらへんどうなってるんでしょうね? 

 アイは子供の事は教えてないですし、会話を誘導して誤魔化しています。ニノちゃんは好感度がまだ足りないので要努力ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 役者





 

 

 おっさんに才能を売り込むRTAはじまるよー

 

 

 さて、前回はパーフェクトルビーを作っていきつつも、アイの好感度上げをしていきましたが、ここからが本当の原作崩壊だ。と言う事で、五反田監督の評価を上げていって、がっつりと原作にないゲームのオリジナルルートを走る下準備をしていきましょう。

 

 今回のRTAでは「天才」ギフテッドを活用して、天才子役やって知名度稼ぎをしてから、ルビーと一緒に双子アイドルして、アイの好感度イベントを稼いでいきます。今回はそのルートにのる為に五反田監督の評価をひたすらに上げる事が大切です。

 

 アクアの役者としての才能は作中で描かれていますが、かなやあかねには劣るものの高い水準にあり、秀才といって良いレベルなのに加えて高い知性や欠けた人間だからこそ得られる吸収力や適応能力があります。

 

 ゲームではずっと演技に極ぶりすると原作の映画編くらいには業界トップ層である姫川並みになれるポテンシャルを持ちますが、アイの死から克服イベントまで感情演技が使用禁止になるので、途中まで十全に能力が発揮できません。中盤までは玄人好みの上手な演技をする役者止まりです。ですが、アイ死亡前なら感情演技縛りは関係なく、ガンガンステータスを上げて、知名度を上げていけます。

 

 さらに今回のRTAにおいてはスキル「天才」補正が乗るので才能なら作中トップになります。そのため、作中の役者やその関係者からの評価補正がのりますし、実力もガンガン上がるので、スターダムにのしあがっていけるポテンシャルがあります。

 

 とはいえ、苺プロは弱小芸能事務所で子役部門なんてものもなく、仕事を取ってくるなんてしてもらえません。その代わりに五反田監督に才能を認められて、五反田監督の作品に出させて貰うなり仕事を紹介してもらう必要があります。ここで失敗すると役者として立身出世出来ません(44敗)。なので意地でもここで原作以上の評価を得る必要があります。

 

 前回なぜかB小町関連のコミュが取れたので、B小町関連イベントに同行出来るようになりました。なので、B小町やモブスタッフとコミュが出来ます。なのでモブの人に話しかけましょう。

 

 ここでなんでB小町ではなくスタッフなんだと思うかも知れませんが、裏方のスキルを学ぶ為です。

 

 五反田監督とのイベントまでに裏方スキルを出来るだけ手にしておくと、裏方への理解度が高いと評価されてすごい演技よりぴったりの演技ができる役者を欲しがる傾向にある五反田監督の評価が上がります。

 

 モブとのコミュで得られる経験値効率はネームドキャラよりかなり悪いのですが、序盤で裏方のスキルを手にできる機会は少ないので、ルビーで補填できるアイドルスキルより、優先して取ります。

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 よし、裏方スキルは初期のものを大方手に入れられたのと、アイのミュージックビデオを裏方から見ることでアイのカメラへの意識の仕方などを盗めましたね。アイのスキルは経験値効率は良いので旨味です。

 

 あとはイベントまでの時間をアイのコミュをかねて、アイの観察をしていきます。原作でアクアは、アイが演技をしている事、嘘をついている事を見抜けませんでした。なので、アイの事をうまく理解出来ていません。それゆえにあかねのアイの考察を必要としていた訳ですが、今回はアイとのコミュを多くしていくのでアイの演技を見抜く事が出来るようになります。

 

 アイが演技をしていると気がついている状態でのコミュとしていない状態のコミュだと演技の経験値効率が違うので、イベントが多くなる前に実績解除していきましょう。

 

 さあ、スケスケだぜ! 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 よし、これでアクアくんもアイの演技に気がつきましたね。これでアイのカウンセリングができるようになるぞ! 精神科医の世界だけど、推しの子世界で精神科医なんてクソの役にも立たないので頑張れ。頑張れ。元産婦人科医なら妊婦さんのフォローも仕事、母親のカウンセリングもやって見せろ! (無茶ぶり)

 

 これで身近でアイがラスボスから習ったララライの超実力派の演技を見て学ぶことができるようになりました。五反田イベントまでアイとコミュして、ラスボスの「人を騙す眼」を手に入れ、嘘を真実だと思わせる力を伸ばしましょう。

 

 

 この「人を騙す眼」はこのゲームでは最強格のスキルとして君臨しています。ラスボス、アイ、あかね、ルビー、アクアなど限られたキャラしか手に入らず、このスキル一つあれば役者の評価補正がかなり上がるなど利益も大きいのですが、簡単に伸ばそうとすると闇落ちリスクもあるので、上手く伸ばしていきましょう。アイを光落ちさせようとしてるのに、自分が闇落ちしてたら本末転倒です。

 

 お、五反田監督のドラマ出演イベントが来ましたね。

 

 現場に着いたら、五反田監督と可能な限りコミュを取りましょう。ほら、現場の理解度が高くて、くっそ有能な天才ベイビーだぞという事で、知性とコミュニケーション能力アピールの時間です。

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 はい、成功です。とはいえ、本番は次の映画の仕事での評価です。アクアを子役ルートに乗せたいならここで原作以上の評価が必要になります。

 

 まず、前提として、今回の撮影は「人を騙す眼」は使えません。なぜなら、求められているのが、演技力では無いからです。監督はアクアのコミュニケーション能力を評価して現場に呼んでいます。ここで下手に凄い演技をしても評価はかなと一緒になってしまいますし、かなにお灸を据えるという目的が果たせなくなります。

 

 なので、求められている能力アピールの時間です。監督はもちろん、ADやカメラマン、共演する役者への挨拶やコミュニケーションを怠らずに行います。そのついでにアドバイスなどを貰いましょう。そうしてアドバイスをもらいそれを実行することが出来る事をアピールしましょう。

 

 役者に一番必要な要素がコミュ力だというのが持論の五反田監督はこれで評価が上がります。

 

 ただこれだけでは足らないので、原作では演技中に監督の意図に気がついて実行しましたが、それを事前に確認し、自分の意見もぶつけます。ここでの意見の有用度は裏方スキルの数と高さで評価が決まります。B小町イベントでモブと交流出来たため、予定以上の経験値があるのと、それが天才補正で乗っかる為、五反田監督もアクアのコミュニケーション能力と高い知性に加えて現場への理解度や演技のセンスなどもあると評価してくれます。

 

 実際の演技自体は原作と違いは殆ど出せません。ですが、これで現場の人間にアクアという人物の有用性を知らせることになります。使いやすい、性格が良い、現場のことへの理解がある。1歳で大人の演技者がしている事が出来る事を多くの人に理解させ、アピールしようと動いている。それを五反田監督は評価します。

 

 次を意識した立ち回りは原作では出来ていませんでしたが、バーターでアイの仕事を取ってきた以上、それを期待以上の成果で返そうとするという姿勢は大切です。次もバーターで仕事を取ってこられるように動かします。あと、ついでにルビーの営業もしましょう。美男美女双子赤ん坊という唯一無二の個性もアピールします。

 

 原作でも五反田監督がアクアに語っているように、新人は存在感を示すか、スタッフと友好な関係を築けないと次の新人にとって変わられます。

 

 そのアンサーとして、スタッフと友好関係を築きつつも与えられた役で存在感を示す。さらに妹まで売り込むという結果を提示します。これには五反田監督もにっこりです。

 

 そして、肝心なのはかなとのコミュです。

 

 原作では、ルビーが泣き叫び、注意されると重曹を舐める天才子役などと煽り、かなもアイの悪口を言うせいで、仲が悪くなるのですが、ここからスタートすると好感度マイナススタートになるのでロスです。

 

 なので、かなに対しても紳士的に接しましょう。今回はルビーがゴローバレをしているので泣き叫ばないので、突っ込まれるのはコネの子要素だけです。うまくいなしましょう。

 

 そうするとわがままかなちゃんと比較してアクアの評価も上がります。ちなみにかなの評価は比較相手が居ることでさらに下がっています(笑)

 

 さて、あとは演技をするだけです。

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 はい、成功です。五反田監督からも次の出演候補に入れておくと言われました。これは最高の評価なので、これで無事に子役ルートに入っていくことになります。

 

 これからは「人を騙す眼」やララライ流の演技に天才補正を乗っけていくのでどんどん出れば出るほど進化していく天才子役アクアくんになるため、知名度をどんどん稼いで行きましょう。

 

 自分より上の演技(演技ではない)に、自分より高い現場評価を得たアクアをかなは意識していく事になります。原作よりチョロいかなの好感度も共演していくたびに稼げるのでガンガンコミュしていくことになります。

 

 帰りの車の中でルビーとコミュを取ったところで今回はここまでです。

 

 ではまた次回、サラダバー! 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 裏 アクア②

 

 推しのために生きる

 

 

 転生して、アイとルビーと一緒に暮らすことで前世での俺は医者として失格だったんじゃないか。と、思うようになった。

 

 担当医をしていた頃に感じたアイはカラッとした明るい性格の女性だった。そして、約1年半、アイと一緒に過ごして分かったことは、その実はとても繊細で傷つきやすく、臆病な性格を隠すための擬態であるという事だった。

 

 アイは他人と接するとき、常日頃から演技をしている。嘘をついている。あまりにも自然すぎて、あまりにも日常的に溶け込み過ぎていて、長い時間一緒に生活をしないと気がつかなかった。

 

 気がついたのも、俺たちと話すときと他の人と話す時での微妙な違和感を感じ取って、その違和感の正体を探ろうと、アイとその周りの人の観察をし始めたからだった。そうでなければ、今でも気がつかなかっただろう。

 

 アイは発達障害を抱えていた。そしてそれは日々の生活で支障をきたすレベルであり、それを演技でカバーしている。それが性格であるかのように見せかけている。

 

 しばらく俺とルビーの名前を覚えられなかったように、斉藤社長の名前を覚えられなかったように、身近な人や深く関わりを持ったはずの人の名前や顔を覚えられない。これは自閉スペクトラム症では珍しくない症状だった。

 

 これが常人であれば、孤立して、仕事をなくしたりして、うつ病や不安障害などの他の精神疾患を併発していたかもしれない。だが、アイはアイドルとしての才能があり、そういうキャラのアイドルとして許されていた。

 

 自由奔放で明るくて、強くてみんなが憧れるアイドルなんてそこには居なかった。ただ、生きにくさを抱えながらも、懸命に生きる少女の姿があった。

 

 女性の自閉スペクトラム症の人は、独自に対処戦略を構築し、「普通のふりをする」傾向がある。そして、普通のふりをしつつも葛藤をより内面に向けやすいから、産後うつになる可能性も考慮しないとだし、養育不全に陥りやすい。妊娠期からケアプランの提示と社会福祉との連携をさせないと駄目だった。

 

 俺とルビーが子供であったから面倒事なんて普通の半分もなかったし、ミヤコさんが子育てをしていたから問題がなかっただけで、アイがシングルマザーとして普通に育てていたら、そういう未来だってあり得た。

 

 本当なら担当医である俺が気がつかなくてはいけなかった。妊婦で気をつけなければならない事の一つだろ。なんで気がつかなかった。

 

 彼女のファンだったからだ。そういう性格なんだと思い込んでいたからだ。彼女には輝かしい存在であってほしいと願っていたからだ。アイドルと母としての幸せを両立して欲しいという個人的な感情を持ち込んでしまった。

 

 なにが俺はこのために生まれてきたのかもしれないだ。

 

 ヤブ医者め。

 

 俺は今、アイが復帰直後に行っていたライブ配信のアーカイブを見ている。

 

 

 画面の中で母親が投げたグラスの破片が、白米の中に入っていた話をしており、その後からは見た事もないくらいに弱音をこぼしていた。

 

 愛着障害という言葉を思い出す。

 

 子供の頃に虐待などによって長期にわたってトラウマにさらされる事で、脳に変化が起きてしまい相互関係のないうつ病や不安障害、そして発達障害に繋がるケースも報告されている。

 

 俺は精神科医ではない。詳しい検査をしないと適切な対応も出来ないが、今、アイを医者に診せる事も難しい。

 

 俺がフォローしていくしかない。

 

 この時のようにアイが精神的に不安定になった事は俺の知る限りではない。とはいえ、これからならないとも限らない。そうならないように大人である俺が彼女を守らないといけない。

 

 シークバーを動かして彼女の発言を改めて聞く。これがアイの願いの根幹にあるのではないか。と思った。

 

「変な感じ。私あんまり自分の事、話すの得意じゃないし、変な事、言って嫌われるもイヤだし。でも別に自分の事話すのって嫌いじゃないんだよね、矛盾してるみたいだけど。知って欲しい。私の汚いところとか、やなところも全部ひっくるめて、それで良いって言って欲しい」

 

 嘘つきな彼女は素の自分を好いて欲しいと言う。彼女はそう言いながらもどんどん嘘を重ねている。嘘で塗り固めた姿しか見せない。それを愛だと言って、誰からも愛されるアイドルという仮面をかぶっている。

 

 これは素の自分は受け入れられないという不安から来るものなのではないかと思った。アイは幼少期に皆が当たり前に受けている母親からの無償の愛を受けずに育っている。

 

 それゆえにかつて貰えなかった無償の愛を求めているが、それを本当の自分では受けられないと思っている。本当の自分では愛されなかったという実体験ゆえにそう思ってしまう。だから本当の自分を愛して欲しいのに、嘘の自分を作っている。

 

 その結果が、今のアイなんだろう。

 

 嘘の自分が愛されても、自分が愛されるわけではないから、満たされない。嘘の自分だけが求められるから本当の感情を出せなくなる。人と接する時は愛されている嘘の自分を出す事が当たり前になる。

 

 それと似た人を俺は知っている。

 

 さりなちゃん。今は俺の妹になったルビーは前世では同じような状態であったと今更気がついた。

 

 俺はさりなちゃんの事を物わかりがよく、病気に向き合い、健気に生きるドルオタの少女として見てきたし、実際にそういう子に周りからも見られていた。

 

 だけど、俺の事を雨宮吾郎として認識せず、素に近いさりなちゃんに接してみて分かった。彼女は年相応のよく居る思春期の女の子だった。

 

 さりなちゃんも、年頃の女の子なら当たり前に持っている異性への嫌悪感をもっていた。彼女はもっと純粋であり、俺に懐いてくれていたのはそういった方面での知識や感性が長い病院生活で育っていないのではないか? と当時の俺は推察していたがそれは誤りだった。さりなちゃんは年齢より成熟しており、だからこそ、周りからどう見られるのかという事に敏感で、どうすれば人に好かれるのかという事を理解していた。

 

 さりなちゃんの場合、虐待ではない。しかし、物心が付く前から病気になっていた事で、両親から邪険にされていた。彼女が病院を転々としており、医療設備が整っていて会いやすい都心部ではなく、なにもない地方病院に居たことを考えると育児放棄に近い扱いを受けていた事は想像がつく。

 

 そんな彼女の生存戦略が「いい子でいる」事だったのだろう。周りから愛される、好かれる人物像として、素の自分では無く、わがままを言わない素直で明るい子の虚像をかぶっていた。

 

 死ぬ最後の最後まで……

 

 今のさりなちゃん、いや、ルビーは雨宮吾郎に対する態度と、今まで星野アクアマリンにしていた態度が混ざっている。

 

 以前は推しのアイドルの子供に転生したおっさんキモオタだから嫌われても良いから言えた事も、俺だと分かった時点で言えなくなった。だが、完全に以前に戻すようなこともしていない。嫌われるか嫌われないかどうかのラインを見定められている気がする。

 

 そんな今、俺が出来る事はさりなちゃんのどんな言動も受け入れる事だった。

 

 もちろん、傷つくような言動があれば、やめてくれと言うようにはするが、オーバーリアクションを取ってみたり、軽く仕返しの言動をしてみたりして、その後に無視をしたり、怒ったり、しかったりなどはしないように心がける。

 

 転生してルビーとなった彼女は、好かれたい、愛されたいという思いを持っているが、それ以上にありのままの自分の考えを受け入れて欲しいという欲求もある。

 

 良くも悪くも、俺もルビーもお互いに転生した事を知らなかった事で、ルビーが気がつくまで素でのコミュニケーションを取ってから、互いの素性を知れたのが良かった。

 

 ありのままの自分でも、受け入れられる経験を一人でも積めば、あとは次からより上手に上手くやろうとする。ルビーは今、まさにその真っ最中だ。

 

 俺はルビーの夢を応援し、ルビーの支えになることでルビーに「いい子」でなくても周りから受け入れられると分かって貰えるようにしてきた。もちろん前世で妹のように可愛がっていた子を応援したい、夢を掴んで欲しいという気持ちが強いが贖罪でもある。

 

 ルビーは死ぬまで、誰にも泣き言も怒りも言えず、「いい子」として死んでしまった。最後まで、ルビーに本当に寄り添えていたのかは分からないし、今でも彼女に聞けていない。

 

 でも、夢に向かって走る彼女は楽しそうで幸せそうで、ちょっと口が悪くて、偏見も多く、オタクっぽさも感じさせるがとにかく明るい素のルビーを見て、昔よりも好きになっている自分が居る。

 

 今度こそつらいときや苦しいときなんかには、その気持ちを言葉にして欲しいと思う。俺なんかが心の支えになるとは思えないが、出来るだけ力になってあげたいから。

 

 アイにもルビーのようになって欲しかった。

 

 アイの嘘に気がついて、本当のアイを愛してくれる人が現れてくれる事を祈りつつも、素の彼女を受け入れるように、素の自分を出しても良いと思える人になりたいと思う。アイはかつて思い描いたアイドルでは無かったけれど、俺とルビーに対して見せる愛情は本物で、彼女の優しさを日々感じている。

 

 アイは自分に自信がないようだけど、俺はテレビで見て、聞いただけのアイよりも、今、この瞬間のアイの方が好きになったのだから、自信を持って欲しいと思った。どんな過去を知っても、彼女がどんな考えを持っていたとしても、彼女を好きな気持ち、力になりたいという気持ちは変わらないと思うから。

 

 目の前にいるお昼寝をしている二人に掛け布団をかける。幸せそうに眠る彼女達を見て、この光景をずっと見守っていたいと思った。

 

 

 

 俺は二人の患者の心に寄り添えて居なかった。

 

 力不足で力になってあげられなかった。

 

 だから、前世では出来なかったことを今世でしよう。

 

 この器用なようで不器用な二人を支えよう。二人の未来が明るいものであるようにしよう。彼女達が愛を知り、幸せに生きていけるように。医者として、家族としてサポートしよう。

 

 

 そのために俺は生きていこう。

 

 





 アイは虐待からの愛着障害・ASD想定で書いてます。多分、多動性とか知的障害描写ないのとあかねの考察からASDの特徴が出てきているので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 裏 五反田監督

とりあえず、ここまでは更新したかったので、更新優先で書きました。
感想ありがとうございます。いつも励みになってます。お返しはまた後ほどさせていただきます。


 

 

 

 100年に1人の天才

 

 

 

 居酒屋で酒を飲んでいると電話の鳴る音がする。知らない番号だ。悪戯電話だったら、ただじゃおかねえ。と思って出ると聞き覚えのある声がした。

 

「ちょっと監督! アイ全然使ってないじゃん!」

 

 一ヶ月前に苺プロのマネージャーの子供として来ていたあまりに早熟すぎる赤ん坊だった。赤ん坊のくせにあまりにも高い知性に、コミュ力、理解力もあった。その上、演技の世界のトップ連中がたまに持っているような瞳をもっていた。あと赤ん坊なのに苺プロのアイの事を共演者やスタッフに営業してたのを見て、絵面からなにまで面白くて将来性を見込んで名刺をくれてやったんだったな。

 

「お、早熟ベイビーか、おー、いい仕上がりだったのに残念だったな」

 

「じゃあ、どうして!」

 

 おー、若いな。当たり前か、赤ん坊だし。とおもいつつ、説明してやる。

 

「あの主演している女優は可愛すぎる演技派として売り込んでるって事は知ってるか?」

 

「まあ、知ってるけど……」

 

「なら、わかるだろうが、可愛すぎるなんて謳ってる女優の隣にさらに可愛い女の子が居たらイメージ戦略的に問題になる。アイが可愛すぎてその女優が食われちゃ困る上が出来るだけカットするように連絡が来たんだよ。あの女優は大手の事務所に所属してるから、大手との関係を優先したってことだろ」

 

「なにそれ」

 

「こういった出演時間の尺や出番は会社間のパワーバランスで決まる。アイが大手に所属していれば違っただろうが、苺プロじゃ太刀打ちできないだろうな。ま、事故にあったと思って諦めろ」

 

「納得いかない」

 

「芸能界を夢みるのは良いが。芸能界に夢見るなよ。早熟ベイビー。ここはアートではなくビジネスの場だ」

 

 とはいえ、俺も割り切れてるわけではない。良い演技をしたやつを会社都合で外すなんて反対したが押し切られただけだ。アイもこの早熟ベイビーと一緒でトップ女優になるような資質を持っている。こんな事でチャンスを潰してしまうのも惜しいのは事実だった。

 

「そっちの主張も分かるし、悪かったとも思ってる。替わりといっちゃなんだが、アイに仕事をふってやってもいい」

 

「仕事?」

 

「ああ、映画の仕事だ。文句ないだろ?」

 

「えっ、マジで」

 

「ただし、お前が出るのが条件だ」

 

 撮りたい画もある。勉強させたい奴も居る。せっかくだし、こいつの品定めもしておくか。

 

「…………」

 

「んっ、どうした?」

 

「……監督は俺になにをさせたいの?」

 

 やっぱ、こいつ、頭の回転速いな。面白いから出すだけじゃないってわかってやがる。

 

「さあな。それを考えるのも仕事のうちだ」

 

「分かった。俺のできる限りの事をする。ありがとう」

 

「ああ、仕事の話は事務所に通しておくからな」

 

 その言葉を最後に電話を切った。

 

「さて、あの早熟ベイビーはどうすんのかな」

 

 俺はなにが出るかも分からないびっくり箱みたいな赤ん坊の行動を想像し、それを肴に夜を楽しむことにした。

 

 

 そして、一週間後。

 

「あ、監督、おはようございます!」

 

 そこにはいかにも育ちが良さそうで礼儀正しく挨拶をする美少年を装った早熟ベイビーがいた。

 

「いや、誰だよお前」

 

 つい、口が出た。

 

「えっ、なんですかいきなり」

 

 挨拶に来たこいつを見て、まず思ったのはこれだった。誰だよお前。出会った時の気安いというか、友達にでも語りかけるような雰囲気はがらっとかわり、女子向きの漫画とかで登場するシーンで無駄にキラキラした雰囲気を出してるキャラ。あれだ。そんな雰囲気じゃなかっただろ。お前。

 

 いつものというか前の雰囲気と違い過ぎて気持ち悪い。

 

「いや、俺、B小町のアイドルの仕事によく同行するんだけど、仕事について行く時のキャラこれだから」

 

「キャラ? はっ? お前、仕事でキャラ作ってんの? その歳で?」

 

 とんでもねえ赤ん坊だ。雰囲気は戻ったが、なんかさっきのイメージがちらつく。いくら何でも早熟すぎんだろ。

 

「今回、共演する主演の人と子役の子も女性だって言うから、こっちの方が受けがいいと思って。なんか知らないけど、こういう感じであいさつに行くとなにかと世話焼いてくれたりするから便利なんだよね。さっきも主演の人に偶然会ったから挨拶したら、相談とかにのってくれて、カメラマンの人とかADさんへの挨拶のときに紹介してくれるって言っていたし」

 

「お前、顔良いもんな。主演の子そういう雰囲気好きそうだし」

 

 なんというかこいつを見てるとつっこみが追いつかないな。

 

「というか、なんでカメラマンとかADに挨拶とかすんだ。別にいらんだろ」

 

「いや、監督言ってたじゃん。新人俳優は客に売れるか、スタッフに好かれるかしないとって。俺に次があるかなんて誰も分からない訳だし、共演者とかスタッフの人に良い印象を持って貰うために、初めての子役で不安なんです。相談に乗ってください。なんて言えるのは初めだけなんだから、こういう時に顔を売らないと」

 

 アドバイスというか、仕組みは説明したが、それを赤ん坊が実践するな。これ出来なくて何人の新人が次なく終わると思ってんだ。迷惑かもしれないが、初めてなら許される事はある。それを利用して、顔を売ろうとするなよ。どんな赤ん坊だ。

 

「……すげー嫌な赤ん坊だな。それ周りに言うなよ。引かれる」

 

「俺だって言うべき相手は選んでるよ。アイの仕事を紹介してもらったけど、俺とアイはコネでごり押しされたって言われても仕方ないし、俺が横柄な態度をとったりしたら急に押し込んだ監督のメンツを潰すことになるから気をつかってるんだよ」

 

「そりゃどうも。なんというか早熟なんて言っていたが、そこら辺の俳優より大人な対応してるんだが、これも時代なのか? ぜったい違うだろ」

 

 明らかにこいつがおかしい。

 

「あっ、そうだ。妹も連れてきてるから後で紹介していい?」

 

「ああ、あの双子の妹ちゃんか、まあ、いいが」

 

「俺より演技も上手いから、いい子役が見つからなかったら苺プロに連絡してよ」

 

「前はアイの営業してたけど妹の営業までするのかよ!」

 

「だって、せっかくのコネなわけだし。紹介するだけならタダでしょ? 妹も小中学生くらいの判断能力あるから使い勝手いいと思う。将来、アイドルになりたいって言ってるから、知名度を稼げる仕事はいくらあっても足りないし」

 

 駄目だ。これ以上、こいつのペースにのったまま突っ込みをいれていると日が暮れる。

 

「わかった。わかった。後で見てやるよ。で、仕事の話だが、台本は読んだか? 俺が何を求めてるか? 分かるか?」

 

 普通なら分からないんだろうが、こいつの余裕っぷりを考えると、正解に辿りついてるんだろうな。

 

「まあ、俺が演技ができるかも分からないのに呼んだって事は多分、演技力そのものを要求しているわけじゃないってのは分かる。その上で求められた役が気味の悪い子供役。そしてあきらかに子供が言わないような言葉使いに台詞の長さと内容を考えると、まあ、答えは一つだと思う」

 

「ほう?」

 

「ここでの気味が悪い子供は、姿形は子供なのにまるで中身が大人みたいな口調や台詞回しをする。そんな気味が悪い子供。そのまま読むだけでもお前は気味が悪いから、演技なんていらない。そのままやれ。みたいな感じ? いや、これ、子供が言われたら普通は泣くんじゃ無い?」

 

「正解だ。普通の子供にこんな役つけないから安心しろ」

 

 正直なところ、ここまで深く見破られるとは思わなかった。やっぱり、立ち回りといい、こいつの理解力と応用力、頭の回転の速さは尋常じゃない。頭の良い俳優は腐るほどいるが、それより、さらに飛び抜けている。

 

「怪しさを表現する一番初めのここで主演の人の感情演技が欲しいわけだから、より意外性を出すために王子みたいなキャラで挨拶してたわけだし。前の子で台詞ミスがあった時は直ぐに止めてよ。初めてだからこそインパクトがあると思うから」

 

「は?」

 

 なに言ってるんだ? こいつ。

 

「いや、導入シーンで怪しさ、怖さを上手く表現出来れば、感情の入り口になるからさ。それをより表現してもらう助けになればと思って、こういうキャラで現場入りしたんだよ。キャラにギャップがあればあるほど自然にそういうのって出るし」

 

 おいおい、こいつ、主演女優にサポートとか手助けなんて言葉こそ使ってるが演技をさせるとか言い放ちやがったぞ。しかも初めからキャラを作っていたのはこのワンシーンの為の仕込みのためでもあるからとか言いやがって。

 

「アイが注目されるためにも映画自体が人気になってくれないと困るからね」

 

 演技初心者のくせにそんな風に不敵に笑うこいつを見て俺はこの映画は良くなると確信した。

 

 

 

 

 

 撮影を終えて、俺の想定以上の演出を引き出したあいつには次回作にはもっと出番を用意してやるから出ろと言って帰した。

 

「おもしれぇな。こういう奴がでてくるのか」

 

 酒を飲みながら、つい呟いてしまった。

 

 たったワンシーンだけで惚れてしまった。顔を売るなんて言い方をしていたが、出演者とより良いシーンを作る為に動いていた。演技力なんてまったく無くても、あれは欲しい。高いコミュニケーション能力に、賢い立ち回りと役を理解する頭の良さだけでここまでやれると思うと、演技力なんてつけた日には手が付けられなくなるな。と思った。

 

 たった数秒の出番を観ただけで次を観てみたいと思うようになってしまった。

 

 あいつは100年に1人の天才だと思った。

 

「くそ、将来あいつが育った時は主演に使ってみてえなぁ」

 

 100年後にも評価されるような作品を作るにはこういうやつが欲しい。こういうとんでもない天才となら自分が表現したい世界を映像として再現出来るような気がする。

 

 10年後、20年後の事を考え、俺はしばらく感じていなかった自分の中の熱が高まっていくのを感じていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 天才子役

 

 かなちゃんとスーパータッグ()を組むRTAはっじまるよー! 

 

 さて、前回はこどおじこと五反田監督の好感度上げをして、お仕事を取ってきましたが、ここから約2年後の幼稚園入園までになるべく、役者系の経験点を手に入れつつ、かなの好感度を上げていきます。

 

 アイの死亡イベントはアイ20歳の時の誕生日に起きます。ここまでにストーカーに対する警戒度とアイの好感度上げをしなければいけないのですが、これはアイドルイベントで一気に補うことが出来ます。

 

 ここでのアイドルイベントとは、ルビーとアクアの知名度や能力値、斎藤社長好感度が一定以上の時に発生するイベントで、3歳~アイ死亡の間に双子アイドルデビューをして、オリコン1位を狙えるイベントになります。ここで良い感じの順位を取れると、苺プロの事務所ランクが上がるのと、アイの好感度及び財務面が強化されていきます。

 

 アイはこの2年で人気アイドルとして有名になっていくわけですが、アイドルは売れないうちは儲からない事で有名で、地下アイドルの年収は150万円と言われるくらい儲かりません。アイがオリコン3位のグループのセンターで稼ぎ頭なのに推定年収300万前後と地味にリアルの数字を出されています。

 

 基本給がこんなものなので、都心で家賃も高いのでそれなりの所になってしまい、赤ん坊の生活費などを踏まえてオートロック式などのセキュリティのしっかりした建物に住むという選択肢が出てきません。ドラマやCMなどは固定給ではないので当てに出来るのかと言えばきびしいでしょう。よくも悪くもアイはこれからのアイドルなので、一本単価が低いのです。

 

 なのでアクアとルビーにもお金を稼いでもらって、アイちゃんに二重オートロック式のお部屋を用意してあげましょう。まあ、親でも勝手に子供のお金を使えば犯罪なのですが、そこら辺はゲームの都合で福利厚生とかで内々に処理されてるんだと思います。というか今回はアクアとルビーの2人をトップアイドル兼俳優、ユーチューバーのマルチタレントにしてしまうので年収億クラスになるんですよね。そんなのをセキュリティの低い所に住まわせるなんて無理でしょう。

 

 アイルートにおけるはじめの死亡イベント回避はアイと交流していくにつれてアイのアイドル活動がどんどん順調にいき年収が上がる。すると警備がしっかりした建物に住める。という事で結果として死亡イベントが回避されます。なお、最終年のころは、ラスボスが鉄砲玉みたいな人とか増やし、芸能界で情報を集めたり、ハニトラして味方を増やしてきたりと色々し出すので無理です。

 

 アイルートの正攻法なクリア方法はアイとのコミュを繰り返していくことです。好感度80まではアイは人としての感情を獲得していくにつれてガンガン魅力が上がって、フィーバーっぷりが加熱していくので、年収が上がり、結果として良い所に住めるので、原作より19歳時点の年収を上げる事、またどういう所に住みたいのかというアイの問いにセキュリティのしっかりした所と双子で答えることでクリアできます。

 

 なので、コミュを怠るほど、アイの死亡イベントに近づいていきます。本当にセキュリティがぎりっぎりの物件の場合、ラスボスくんに住所を教えられたので殺しに行ったらオートロック式で入れずに出待ちして殺そうとして、ライブの迎えに来た斉藤社長のカンフーで一撃でのされて逮捕まで行くリョースケくんは必見です。

 

 アイが大成功した場合はそもそも住所だけ知っていても無理な所に住むので、鉄砲玉を煽るだけではアイを殺せず、ラスボスさん自ら殺しに行かないといけなくなるので、お金、お金こそが正義です。

 

 めんどくさいラスボスの鉄砲玉たちは、お金の力で解決だ! 

 

 まあ、このゲームの年収なんてアイイベント以外だとパワプロマイライフ並の雑処理される上に使い道がないので必要以上に増やしてもあまり価値ないんですけどね。

 

 このRTAだと結構ぎりぎりまでかなとのコミュに時間とターンを使ってしまうので序盤の好感度が上がらないんですよね。19歳時点の年収を上げるには18歳までの実績が参照されてるっぽくて、アイが18歳の時の年収が上がらないといけないので、本来なら18歳の頃にコミュ取れよ。というのももっともな意見なのですが、かなのぶっ壊れギフテッド「巨星の演技」は通常だと4歳から陰りが出てきて、5歳前後で消えるので、経験値的に早めにかなと出会っておきたいんですよね。せっかく、「天才」でぶっ壊れ倍率で俳優関連の経験値ががっつり稼げる旨味イベント目白押しなのにもったいないです。なので不足分は、アイドルイベントの好感度アップと、高順位になることでの財政面強化で補います。オリコン10位以内に入れなかったらリセです。(44敗)

 

 かなの「巨星の演技」はアイの「一番星のアイドル」に次ぐ壊れです。なので制限が付いていて好感度によって、何歳までもつのかが決まります。アクアへの好感度が100まで上がると永続になるので、最強無敵の大女優かなちゃんを爆誕させたければ、ここで100まで好感度をあげた方が良いのですが、それだとずっとかなが共演相手になってしまうので、あかねとの共演ができなくなります。なので、好感度80で、ちょうど6歳になるので、6歳あたりで消えるように調整しましょう。

 

 そこら辺から落ち目になってあかねと立場が逆転してきます。責任は仕事に口をだして、かなの立場を悪くする毒マッマが悪いので都合のいい感じに乗り換えたアクア君はセーフです。(アウト)

 

 というわけで、仕事を取って、重曹ちゃんと共演&好感度上げをしたいのですが、当たり前ですが、アクアくんに仕事は選べません。五反田監督の映画を見て、出したいと思った関係者から仕事が来ることがありますが、まあ、稀です。確率的にこれをチャートに組み込むと安定しないので、実力で集めていきます。

 

 五反田監督の映画に出演したこと、また五反田監督の評価を得た事で、役者としての仕事はこれから増えていきます。ですが、それだけだと、アイドルイベントをするくらいまで知名度が上がらないので、役者として仕事をする傍らで、他の仕事を取ってきて知名度を上げる必要があります。

 

 仕事を手に入れるには、ネームドキャラとの関係作りも大切ですが、現場モブスタッフとの関係を築いて、その知り合い経由で仕事を紹介して貰えたりもします。

 

 なのでモブの好感度上げを効率的にやるために、アイの演技を模倣して「完璧な子役」を演じる事で、スター性のある子供に擬態し、仕事を集めます。

 

 アクアは「人を騙す瞳」が片目しかないので、アイほど完璧な擬態はできないのですが、陰キャオーラばりばりの赤ん坊よりは好感度稼げます。モブにしか通じませんが、モブにしか使わないのでいいでしょう。

 

 さて、アイの雰囲気を真似て、特に異性向けにチューンアップした今からガチ恋始めますのアクアすら超えるホスト系アクアを食らえ!! 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 お、ミヤエモンが仕事を持ってきましたね。

 

 しかも、3つも。さすが顔面偏差値70のアクア。数的に1度の出演だけで映画、ドラマ以外の仕事も持ってきましたね。

 

 

 

 一つ目は「子供服の雑誌モデル」

 

 これはモブカメラマンさん経由ですね。知名度補正もお金も微妙ですが、ルビーと男女ペアルックな服装なので旨味です。知名度2の仕事も二人でやれば4になるんで、双子セットだとおいしいです。あと、こういった仕事は拘束ターンが少ない上に継続的に仕事が来るのでありがた案件です。

 

 

 

 二つ目は「知育グッズのモデル」

 

 これはアクアくんの映画評価ですね。大人のようなしゃべり方、大人のような知性を持った子供を演じた事で、動画宣伝モデルとして使えると判断されてますね。まあ、ごろー先生の出身と思われる大学が偏差値トップ5の医学部出身なので、ごろー自体がヤバいのでこういう仕事の獲得率は高めです。

 

 三つ目は「月9ドラマの子役」

 

 これは大当たりですね。五反田監督のところで共演した主演女優さんがメインキャストとして出てるので、そこ経由ですかね。子役にはかなもいるので、かなと一緒に出演して経験値を集めます。アクかなコンビ結成して金魚の糞になって仕事を貰おう!

 

 

 やはり、コミュ力、コミュ力が全てを解決する(五反田教)

 

 

 

 あ、さすがに斉藤社長に子役で出ていたことバレてますね。ミヤコさんが怒られてます。でも、アクアくんのハーレム作りの為にはここで立ち止まる訳にはいかないので説得します。くらえ! アクアくんの正論()攻撃! おら! おら! 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 よし! アイの助けもあり、説得出来ましたね。やはり、原作より早く戸籍変更かけておかせて良かったです。斉藤姓を名乗り、アイも孤児院出身ということで、アイと同じく、斉藤家の実質的な子供ということで誤魔化すことになりました。ついでにアイの事を外ではアイお姉ちゃんと呼ぶことになりました。

 

 斉藤社長は才能ある子を引き取って芸能人にする人になりましたね。評判? 評判はもとからわるいからへーきへーき。

 

 これで問題も解決しました。仕事が仕事を呼ぶサイクルの完成です。仕事をこなしつつ、ルビーの営業もしていきましょう。

 

 月9ドラマ以外は全スキップして月9ドラマ撮影も備えて、アイとコミュをとりましょう。「人を騙す瞳」の訓練や! 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 よし、月9ドラマでも結果を出せるステに育ちましたね。あとはかなにひっついてコミュを取り、一緒に練習をしたり、一緒に過ごして、かなのわがままからスタッフを守る防波堤としての役割を全うします。

 

 そうすると監督や共演している人、スタッフさんから感謝の視線。

 

 このころのかなは態度がキツく、口が悪いので周りと不和を起こすのですが、知名度のせいで使わないといけない面倒な子役です。そんな子役を制御していると評価されてセット運用されるようになります。

 

 大人気絶頂中の間は仕事を取る為にかなにひっついておきましょう。ステ的にもかなりおいしいので、ひっつかない理由が無いです。金魚の糞してこびこびします。

 

 妹の為に、接待をするホストアクアくんを最後に今回はここまでです。

 

 

 

 ではまた次回、サラダバー! 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 裏 かな①





 

 

 アクかなコンビ

 

 

 私がアクアと初めて出会った時、天使みたいな子だと思った。

 

 

「初めまして、有馬かなさんですね。共演することになったアクアと申します。本日はよろしくお願いします」

 

 明るく透き通るような綺麗な声。艶やかに輝いている金髪。星のような輝きを見せる大きな蒼い瞳。その瞳は人を惹き付けるような力があって、つい目で追ってしまうような、カリスマというものがあるというのなら、これなんだろうな。と納得してしまうような存在感があった。

 

 本読みの段階でも居なかったから監督のゴリ押しで決まったとママが言っていたし、コネの子なんだと思ったけど、これは違う。芸能界でも数人しか見たことがない、最近では人気子役の片寄ゆらちゃんを見たときに感じた。この人は売れるべくして売れた人だ。という感覚。

 

「この間のドラマ見ました。共演できてうれしいです」

 

「よろしく! 足は引っ張らないでよね」

 

 負けたみたいで嫌になって話を切った後、あいつは少し驚いた顔になったが、直ぐに立て直して他の共演者にあいさつにいった。

 

 

 

 アクアは周りとの関係を築くのがとても上手かった。特に主演の人とは仲よさそうにしていた。

 

 

「僕、アイドル部門の事務所に所属しているんですけど、そこのアイドルの人達みたいな綺麗な俳優さんばかりで緊張してしまって」

 

「えー、お世辞でもアイドルと比べられるなんてうれしいな。どこのグループの事務所なの?」

 

「B小町の苺プロです」

 

「あ、今回の撮影で来るアイのところだ。あの子可愛いよね。あれ、君、あの動画の双子ちゃんに似てるね。もしかして、その子だったりする?」

 

「はい、それ僕です。アイお姉ちゃんとはずっと仲良くて、本当の姉弟みたいにして貰ってるんです」

 

「そうなんだ。うわー、赤ちゃんの頃からずっと一緒にいればファンになっちゃうよね。妹ちゃんとそろってる所見たいな~」

 

「今日、一緒に来ているので、後で紹介していいですか?」

 

「いいの? やった。後で会うの楽しみ。あれ、じゃあ、今回はアイからお仕事紹介されたの?」

 

「いえ、今回は監督さんが、前の撮影の時に僕のことを気に入ってくれて、お前が出るならアイお姉ちゃんを使ってやってもいいぞ! というので、お姉ちゃんの役に立てればと思って。だけど、今回、子役初めてで心配で」

 

「めちゃくちゃいい子だ~!お姉ちゃんの力になりたいなんて、私も弟いるけど、そんなこと絶対に言わないよ。アクアくんみたいな弟が欲しかった! 現場の事知りたいんだっけ? いいよ。いいよ。教えてあげるね」

 

 そうやって、主演の人からスタッフ、スタッフの知り合いのカメラマンへ、人から人経由で紹介してもらい人脈を増やしているアクアを当時の私は媚びを売っていると思っていた。だって、大切なのは演技であって、どんなに仲良くなったとしても演技が下手なら使われなくなるからだ。

 

 やっぱり、こうやって媚びを売って役を手に入れたんだと、私は確信した。あの敗北感のようなものは気のせいだと。

 

 そうして接しているとやはり性格的に不気味な子供役なんて出来るのだろうか? という思いが出る。リハでも悪くは無いけど良くもないものだった。主演の人はそんなものだという顔をしていたが、作品の質が落ちる。という気持ちは出ていたと思う。

 

 でも、それは本番で覆された。

 

「この村に民宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」

 

 なにもおかしくもないのに不気味だった。それは言葉に出来ないような違和感。おとなしい品行方正な子供なのは変わらないのに声が、表情が、姿勢が、なにより瞳がおかしい。さっきまで当たり前に受け入れられていたのに、少し変わっただけで違和感の塊になった。

 

 まるで、なにか別の生き物が肉体に乗り移っているような気味の悪さだった。綺麗な顔をしている分、より一層違和感が出ていた。

 

「ではご案内いたします」

 

 その言葉を受けた主演の人の表情はリハなんかとは比べものにならないくらい、恐怖や後悔を感じさせる表情をしていた。

 

 負けた。と思った。

 

 そして、負けたからやり直して欲しい。もっと良い演技をする。という言葉を飲み込むしか無かった。

 

 だって、主演の人を見れば分かる。

 

 全部この一回の為の仕込みだった。初めて会った所から全部、全部このシーンに主演の人に恐怖心や気味の悪さを感じさせるためのものだった。あの表情は演技では出来ない。この一回の為に会ってからみんな仕込んでいた事がわかった。自分が凄い演技をするだけでなくて、周りの人を巻き込んで凄いシーンにする。今まで見たことがないやり方だった。

 

 一つのシーンにかける心意気も、演技の質も負けた。私に出来るのは、このシーンが使われるように黙っていることだけだった。

 

「カット! オーケーだ!」

 

 その言葉を聞くと涙がこぼれ落ちた。

 

「ひっ、ひぐ」

 

「どうしました? かなさん」

 

 泣き出した私に声をかけるアクア。あなたに負けた事が悔しく泣いているなんて言いたくなかった。

 

「なんでもない! かまわないで」

 

「でも、かなさん」

 

「かなでいい、アクア、あんたとはライバルだから、さん付けなんていらない! 敬語なんて使わないで! 今回は私の負けでいい。でも次は絶対負けない!!」

 

 私はこいつとは何度も共演することになる。そう確信し、困惑するアクアを尻目にライバル宣言した。

 

 

 

 

 

 次にアクアと出会ったのはドラマの撮影だった。

 

 

 ダブル主演ドラマ。父親と娘の絆を描いた物語で、私はその娘役。ダブル主演とはいえ主演だ。

 

 美しい雨

 

 事故で若年性アルツハイマーを煩った父親と、娘の美雨の親子愛を描いた作品。30年前に大ヒットをして海外展開までした傑作ドラマのリメイク作品だった。

 

 このドラマでは全一二話のうち、泣いているシーンがない回がないほど多い。一〇秒で泣ける天才子役の私だからこそ出来る役。私の仕事が評価された証拠。私が力を出せる私の為の役柄だ。 そして、あいつは私の幼なじみで親友の男の子役だ。間近で私の力をみせてやる。

 

「久しぶりねアクア。今度は負けないわよ」

 

「久しぶりです「敬語はいいって言ったわよ」久しぶり、かな」

 

 敬語を使おうとしたので、制した。年齢が上ってだけで偉ぶるなんてかっこ悪い。使わせるなら実力で上下をつけてから。

 

「僕たちは共演者なんだから、良い作品を作ろうとする仲間で、勝負するものではないと思うんだけど」

 

「そんなきれい事はいらないわよ。だってより良い演技をした人が注目されて良い役を貰っていくのがこの業界よ。こういう機会によりいいシーンを演技して目立たないと次なんてないのよ」

 

 この業界は弱肉強食なんだから、負けたらつぎはその子に全部役をもってかれるし、私は全部勝ってきたからここに居る。負ければ次はまたやり直しになる。2番じゃ駄目、1番でないと。

 

「次はないか……そうだね。色んな人の中から選ばれないといけないわけだし、それも当たり前か」

 

 アクアは目を伏せると納得したようにわたしを見る。

 

「今度は負けないから見てなさい」

 

「うん、わかった」

 

 

 

 私の演技は絶好調だった。父親が若年性アルツハイマーで、荷物を忘れてしまう、授業参観で酷い服装で来たあげく寝てしまう。旅行でチケットを忘れて行けなくなってしまったシーンなど、悲しいシーン、困惑するシーン、怒るシーン、すべてで感情が乗った演技が出来ていたと思う。だけど、それなのに視聴率がどんどん下がっていった。

 

【あまりにも涙を流すシーンが多すぎる!】

 

【ヤングケアラーの肯定みたいでイライラする!】

 

【なんで周りの大人がこんな状態の子を放っておくの? リアリティがなさ過ぎる。こんな状態ならもう保護されるべき案件】

 

【さすがに泣くシーン多すぎ、子供に負荷をかけまくる親のシーンばっかりだし、感動なんてしない。ただの毒親だろ】

 

【これは虐待。普通に不快すぎる】

 

 ドラマはネットの炎上からの視聴率の低迷から路線変更を迫られた。

 

 

「まあ、現代ではこういう問題は社会が解決すべきっていうのは理解してるし、こういった意見が出るのは分かっていたんだけどね。さすがにここまで炎上するとは思わなかった」

 

 監督がやつれた姿で呟くように役者達に向かって言った。

 

「視聴率は今、6%だ。5%になるとスポンサーも離れていつ打ち切られてもおかしくない。特に主婦層に支持されていないというのは問題だ。これにテコ入れをしないといけない」

 

 監督が私を見た。

 

「かなちゃん、悪いけど泣くようなシーンを削る。そして、感情演技を押さえてもらって、父親との絆が分かる過去回想シーンを出来るだけ増やす。可哀想と思われるシーンを削ればマイルドな作風になるはずだ」

 

「まってください!それだとわざと手を抜くことになるじゃないですか!」

 

 批判が怖くて手を抜くなんておかしい。

 

「決定だ。この炎上はさすがに手を打たないとまずい。病気の進行がするシーンはより過激なシーンが続く。これでは炎上にガソリンを投下するに等しい」

 

 誰も否定も肯定もしなかった。このドラマはそういった闘病していく姿と、支える周りの姿が魅力であって、そこを削ると無味無臭の作品になる。

 

 そんな中、一人手を上げる人がいた。

 

「監督、僕を使ってくれませんか?」

 

 アクアだった。

 

 

 

 アクアの役は良くも悪くも近所の子供、娘の学校での描写シーンを書く上でのキャラであって、物語に深く関わらない。本来なら後半につれて出番もどんどん減るはずだった。

 

「大丈夫、僕がついてる」

 

「僕も美雨の力になりたいんだ」

 

「美雨の為ならつらくなんてないよ」

 

「つらいことも楽しいことも一緒に過ごしてきた。今回だけは仲間外れなんてさせないから」

 

 ただの幼なじみ役だったのにいつの間にか私の恋人役みたいな台詞ばっかりになっていた。

 

「一人で父親の問題をまるごと抱える子供なんて今だと燃えるよ。だからさ。それを分散しないと。あとは今のつらい境遇ばっかりのシーンが続くなんて、前の作品を見た人は分かっているわけだし、これからより酷くなると分かっているからこその今の炎上。ならそれ以外の明るい、主婦層が好きそうなストーリーを間に挟んでおけば、リメイクで変わるかもしれないって希望を見せれば、サイレントマジョリティーになって静観する層も出てくる」

 

 アクアはにやりと笑った。

 

「成功すれば俺たち主演のドラマになるし、泣く演技だけじゃない有馬かなを見せられるけど、やる?」

 

「もちろんでしょ。私が主演のドラマで打ち切りなんてさせない」

 

 

 

 それからは父親と娘の絡みのシーンが削られて、幼馴染の少年が好きな少女を助ける為に奔走し、その少女との苦難を乗り越えていくシーンが増えた。

 

 

【幼馴染みの子役の子とかなちゃんの関係めっちゃいい】

 

【この作品唯一の清涼感。不器用な男の子の優しさがめちゃくちゃ好き。そして、かなちゃんが、この子の前だと一話で見せていた笑顔に戻るの尊い】

 

【この男の子可愛い、可愛くない? こんなに可愛いのに大変な時には頼りになる男の子になるなんて惚れちゃうよ】

 

【かなちゃんこんな顔出来るんだ。小さくても女の子なんだな。って分かるかわいい乙女顔】

 

【この子役の子アクアくんって言うんだ。容姿はめちゃくちゃ可愛いのに、行動のカッコよさのギャップがいいね。こんな子欲しい】

 

【お父さんがアメリカへ行ってもこの子が支えてくれるんだな。ってのが分かる。安心した】

 

 

 私とアクアのシーンが増えれば増えるほど、視聴率は良くなっていたから、本来、撮り終えていた話にも追加、追加で撮っていった。

 

 そして最後のシーンは父と娘の二人だけのシーンだったはずなのに、好評すぎてアクアの出番まで足されていた。

 

 

「おじさんが帰ってくるまで、僕が美雨を守るよ」

 

 

【アメリカで治るかも分からない治療を受ける父親とする男と男の約束シーン、めちゃくちゃ泣ける】

 

【最初は無邪気な明るい子なのに、今は好きな女の子を守る覚悟を決めた顔してる。良い。好き】

 

【また、アクかなコンビ観たいな。今度は明るい話も観てみたい】

 

【アクかな。ほんと好き。30年前の作品のリメイク、最初はどうかと思ったけど、この二人の関係の追加は正解】

 

【女の子してるかなちゃん可愛いし、そんなかなちゃんを守ろうとするアクアくんかっこいい。画面が幸せすぎる】

 

【やっぱり、報われない物語って観ててつらいんだけど、この男の子の存在で、もし治療が上手くいかなくても幸せになってくれるのは希望があって観ていて安心する】

 

【好きな子のためにひた走って、大切な娘を預けるくらいに父親に信頼されて、信頼した父親はすべての記憶を失ったとしても、自分が戻れなかったとしても幸せになれると確信するのすき。そして、それに対して戻ってくると心から信じて返すのいい】

 

 

 

 最後の最後にはもう一人の主役みたいになっていた。

 

「私の主演だったのに、今度は勝ってやると思ったのに」

 

 つい愚痴がこぼれる。

 

 私の代名詞の泣き演技が多い作品で勝てなかった。アクアは10分にも満たない出番の役だったのに、いつの間にか父親と娘の物語の添え役が、つらい思いをする娘を支える幼馴染、最後には死にゆく父親と託される義息子みたいな作品自体の結末すら変えて結果を出していた。

 

 一番酷いときは視聴率6%になったけど、最後には12%まで回復して、瞬間最大視聴率も15%にまでなった。監督やスタッフ、共演者たちも胸を撫で下ろしていた。

 

 これは全部アクアのおかげだった。けど、アクアはそうじゃないと言う。

 

「かなのおかげだよ。俺だけでできたわけじゃない。かなが父親パートと俺のパートで上手く演技を使い分けてやってくれたから、ここまで出来た。俺のは前回も今回も素で考えていたことややっていたことが上手く流用できたからに過ぎないよ」

 

「だから、かなの経験と引き出しの多さに助けられたし、俺のギャンブルみたいな方法が上手くいったのはかなのおかげだった。だから今回は引き分けってことでいいかな?」

 

 そう言うとアクアは手をさしのべて来た。

 

「いいわ。今回は引き分けってことにしてあげる」

 

 そう言って私達は握手をしあった。私は恋なんてしたことがないから幼馴染関連のシーンでは私はどういう表情をすればいいのかよく分からなくて、もし私が役と同じ状態でアクアが助けてくれるならどう感じるのかだけを想像して、殆んど素の状態で役に臨んだことは恥ずかしくて言えなかった。

 

 それからアクアと私は一緒に話すようになった。すると、アクアの本来の性格はあの良いところの御曹司みたいな感じではなく結構、ラフで気安い感じだと付き合ううちにわかった。

 

「監督もさ。今回、俺の活躍で視聴率稼げて助かった。アイとルビーの事も次観てくれる。って言ってくれて、俺のところの社長も、ドラマでの成功で俺のことを認めてくれて、俺とルビーで子役部門を作るって約束してくれたんだ。だから、本当に助かった。ありがとう。かな。」

 

 そして思った以上に愛情深い性格をしていることも。

 

 人のためにこんなに一生懸命になってるやつなんて見たことがなかった。アクアは本当に家族に愛されていて、愛してるんだなって言うのが分かって、少し羨ましかった。

 

 現場で妹とも会ったけど、本当に毎日幸せそうだった。もし、ほんとうにアクアに愛されて彼女になる人がいるとするならどんなに幸せなんだろう。と思ってしまったけど、それを想像して嫌な気持ちになったので考えるのをやめた。

 

 私はこの作品でテレビドラマアカデミーの新人賞をとって、アクアはその立役者として知名度を上げた。出会ってから約4年間、私たちはアクかなコンビなんて呼ばれて、映画、ドラマではよく組まされていくことになる。

 

 同年代の子役でメイン級の仕事はスケジュール上どうしようもないもの以外全部私達でやったなんて言えるくらいだった。

 

 私の芸能人生での絶頂期。テレビ番組にドラマに映画に見ない日はないとまで言われるほどに役者として、タレントとして活躍して、きちんと寝られた日が無いほど忙しくてつらかったけど人生で一番幸せを感じていた時期だった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 ブレイク

 

 ルビーをアイドルにするRTAはっじまるよー! 

 

 さて、前回はかなと一緒に月9のドラマに出た所まででしたが……外れ引いていたので、キャラ操作して視聴率上げしないとですね。これ、大当たりを引くと視聴率20%くらいなんですけど、低いと打ち切りあるんで困るんですよね。ちなみに打ち切りの場合、リセになります。

 

 まあ、低視聴率かつアクアの能力が高い場合、操作次第では大人気作品に脇役として出るよりも遙かに知名度や現場評価、経験点をもらえます。中途半端なのが一番駄目なので、ありと言えばありです。

 

 月9ドラマは視聴率の良さそうな番組が割り当てられる傾向にあります。なので視聴率が高く、知名度も上がりやすい一方で、リメイク作品なんかも混ざってきて、それに当たるとまあ、半分は外れです。

 

 そもそもリメイクをするくらい前の作品と現代では価値観が違うのと、前作を近い形でコピーして役者を変えるだけだと質がどうしても落ちるんですよね。あと展開が分かっているというのがつらい。

 

 さて、アクアを操作して打ち切りにならないようにしていくついでに今後の進め方について説明します。

 

 かなの好感度上げについてなんですが、これはひたすら共演しておけばいいです。

 

 かなは演技力の高いキャラに対して好感度が上がりやすくなっています。そして演技力が低いと全然好感度があがりません。なので、演技系のギフテッドがないと結構苦労するんですが、今回は「天才」で「巨星の演技」を倍加して成長していくので成長率ボーナスもあってガンガン伸びていきます。

 

 さすがに80以上はきちんとフラグ立てていかないと上がらないんですが、むしろ上げる気がないので、かなはコミュらなくてもいいです。確率で起きるイベントをスキップしとけばいいです。演技力関係のギフテッドがある時はかなの好感度上げに苦労したことないですね。

 

 問題なのはルビーです。

 

 アイの好感度上げが完全にルビーイベントに乗っかる形でしか上げられないのでルビーイベントで失敗すると同時にアイの好感度上げに失敗してしまいます。特にアイの好感度は原作の死亡イベント回避、そしてドームライブまでに80とかなり高いハードルがあるので、ルビーのアイドルデビュー、テレビデビュー、オリコン高順位などの特別イベントボーナスは必要不可欠になってきます。

 

 特に序盤での最大の壁はアイドルデビューです。

 

 アイドルデビューにおけるオリコンチャートは、アクア&ルビーのアイドルグループ時のみ通常の計算方式と違う方法になります。

 

 幼少期において所属になる苺プロは弱小プロダクション事務所です。なので、大手事務所に所属するよりもデビューの敷居も売上数なんかも少なくなってしまいます。

 

 もちろんアイの人気上昇によってその補正値もがんがん上がっていきます。原作のアイのドームコンサート後の補正値は中堅どころ並にはありますし、アイ生存の時間が長引くにつれて所属を移す必要の無いくらい成長していきますが、まだまだ弱小事務所です。

 

 ですが、アクアとルビーの双子アイドルユニットは知名度補正が一度だけ有名アイドル並みにつきます。そう、オタ芸をする赤ん坊というアイドル界隈では知らないものが居ないようなネット人気補正があるためです。

 

 かつて騒がれたオタ芸をする双子が、憧れのアイの事務所で双子のアイドルとしてデビューする。上手くいくと注目度は高くなります。なので、一回のみならオリコンチャート一位を目指せるので、それを利用して、アイドルにすることが可能です。

 

 オリコン順位が良いと様々なアイ好感度アップイベントが起こせるようになり、時間経過なしのイベントで好感度を稼ぐ事が出来るので、今回のRTAにおいて必須というか、失敗すると即リセ。なのにめちゃくちゃ高い壁なんですよね。

 

 なんでかって、これ完全に運ゲーなんですよね。

 

 悪いと、数百枚程度になってしまうし、乗りに乗れば一位になる。ネットでの知名度頼りなのでバズるかバズらないかで完全に決まるという地獄です。

 

 なので少しでも運要素を減らすために知名度をガンガン上げていく必要があります。今回は「天才」でガンガン強化されたルビーに、そのルビーの成長をコピーしたアクアなので実力だけはぶっ飛んでるんですが、ほんと3歳になる頃までに知名度を稼ぐのがキツいんですよね。固定ファンが少ないので、安定性が全くなく、ネットみたいにその時の流行にうまく乗れるかが全てです。

 

 今、MEMちょみたいな有名YouTuberが居ればそこからバズらせられるんですけど、まだミヤコさんも覚醒してないので、苺事務所のネット宣伝弱いんですよね。

 

 っと、喋りながらなんとか打ち切り回避して、アクアくんをもう一人の主人公にまで昇格させました。あとはチートもりもりアクアくんのパワーで勝手に視聴率あがりますね。あとはスキップします。

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 うわ、視聴率を6%も上げましたね。やっぱり、かなの「巨星の演技」×「天才」×「人を騙す瞳」で成長していくので演技ステがえぐいことになってますね。かなの好感度の上がり方もすごいことに。打ち切りドラマを回復させたことで業界注目度が上がって、知名度も一気に伸びました。人気ドラマの主演級ですね。

 

 今度の仕事も全部メインキャストばっかりだし、かなとのコラボばっかりですね。しかも、子役のいいやつ上から持ってきたようなリスト。こりゃ、完全にブレイクしてますね。しばらく脇役を覚悟していただけにラッキーです。

 

 さて、かなと共演もできるやつで、おまけにルビーも出して貰えるところを条件に一番視聴率を稼げそうなやつを3歳までひたすら選んでいきます。ルビーの知名度上がれ! 上がれ! 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 あ、特別イベントだ。なになに、はぁ? なんだこれ。

 

 

 うえ、ごほんごほん、すみません。ただ、これだけは言わせてください。

 

 

 五反田監督!!!!! ナイス──! 

 

 

 うわー、今回、どんな確率だよ。メインキャストが男女ペア、かつアクアがメインキャストに入れる知名度と能力がある場合、かなが優先的に配置されるんですが、都合よく、かなが別のドラマのダブル主演になってますね。しかも、月9で。内容は、メインキャスト全員女性のドラマ。アクアくんに入り込む余地なしって感じです。

 

 しかも題材がえぐいですね。これ、リアルの賞を総なめした最優秀作品賞なので、これかなの出世作&覚醒イベントのやつだ。この時期にかなの演技の覚醒来るとかやっぱ「天才」補正やばいな。これじゃなかったら、多分、普通のかなとの共演でしたね。

 

 一言で言い表せないですが、これはアイドルイベントよりおいしいイベント来た! って感じです。

 

 今回、来た仕事はダブル主演の仕事で、双子役の子供が、事故で死んだ親の親友に引き取られて生きていくというテーマですね。つまり、リアル双子補正かかるのでうま味です。さらにドラマ主題歌オファー来てますね。ドラマの主題歌を歌えるのはヤバいです。

 

 アイドルイベントの場合、知名度補正がいままでの実績+オタ芸双子なので3歳までの数値だと足りないんですよね。今回、一回でブレイクしてくれたのでアクアの知名度が高いんですが、ルビーの知名度がまだ低いのでトータルの数値が少なくなってしまって、初回ボーナス込み&バズでギリ5位以内が狙えるかなって感じだったんですが、こっちだと視聴率のバフがかかるので、オリコン1位いけますね。

 

 まあ、これはアイドルデビューというより歌手デビューっぽいので、ここで歌で結果を残して、ファンを増やすイベント挟めば、アイドルイベントなんて簡単にクリアできるので、先に歌手のルビー&アクアでデビューしてしまいますか。

 

 しっかし、五反田監督が当たってくれたおかげでルビーのスカウト来ましたし、主題歌のオファーも五反田監督でなかったら、普通に外注してたと思うので、完全に運ですね。

 

 ちょうどかなの覚醒イベントがアクアの参加出来ない作品で、五反田監督が作成&双子をテーマにした作品&主題歌がキャスト作品ってどんな確率だよって感じですね。これ再現なんて出来ないぞ。まあ、良い方向での結果なのでよし! 

 

 という事でオリチャー発動します。映画主題歌の方が美味しいので初回ボーナスはこっちで使ってしまって、その知名度で改めてアイドルデビューさせますね。

 

 その為にはまず演技ですが、アクアのステもエグいことになってるのでもう一人の主演がポカしなければいける! いけ! いけ! 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 よっし、視聴率22%良い感じですね。これは普通は覇権なんですが、かなの主演作がチートなので多分勝てませんね。五反田監督可哀想。またノミネート止まりですねw

 

 

 さーて、あとは主題歌。いけ! いけ! 持って行け! 

 

 

 

 よし! オリコン1位です! B小町と一緒にこれでミュージックビデオ出演決定! 

 

 

 知名度がガンガン乗るので、これからアイドルデビューすればオッケーですね。

 

 涙を流して喜んでいるルビーちゃんを眺めつつ今回は終了です。

 

 ではまた次回、サラダバー! 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 裏 ルビー②

 沢山の感想ありがとうございます。感想返せきれてませんが全部読んでます。ただ6月中旬からちょっと仕事が忙しくなる予定なのでそこまでにアイ生存からの原作からの分岐点、そして折り返し地点になるアイの裏までは書き切らないとエタりそうで怖いので返信返すより更新優先させていただきます。すみません。


 

 夢への道しるべ

 

 

 日曜日の休日。私は監督の家に来ていた。月に2、3回はお兄ちゃんと一緒にここへ来る。お兄ちゃんはなにか監督のところで演出? の勉強をしているらしい。ママがお休みの時ならママと一緒にいるけど、仕事なら、私はこっちについて行ってその間、監督の所で映画を見ている。

 

「あははは、おもしろー」

 

 監督の部屋のDVDレコーダーでハリウッド映画を見ていると監督が声をかけてきた。

 

「毎度毎度自分の家みたいにくつろいでんじゃねえよ! お前、ほんと自由なやつだな」

 

「あっ、監督、お兄ちゃんとの勉強会は終わったの?」

 

「いや、今回は早熟のやつに頼み事をしてただけだよ。あいつ、マクロ組めるらしいからな。しかも、英語だけじゃなくてドイツ語を話せたり、プログラミング言語も出来たりわけが分からん。いつ何の為にどこで勉強してるんだ?」

 

 プログラミング? は知らないけど、お兄ちゃんがせんせだった時に英語とドイツ語は仕事で不自由をしないくらいに話せるとか言っていたから前世で話せるようになったんだろうけど知らないふりしとかないと。

 

「さあ? よくパソコンとか見ているからそれでじゃない?」

 

「いや、普通はそんなもんで出来ないからな……って、なに見てるかと思えばホームアローンか名作だな」

 

「めっちゃ面白いよね」

 

「これでカルキンも世界一有名な子役なんて言われるようになったらしいからな。迫真の演技もあって30年経った今でも見て楽しめる傑作だ。くっそ俺もこんな作品作りてえな」

 

 私が見ている映画を見て、監督が口を挟み始めたり感想を言い合ったり、しばらく雑談をしているとお兄ちゃんが帰ってきた。

 

「監督、データ収集マクロ作ったけど、これでいい?」

 

「お、早熟、出来たか。うわ、マジで作ってやがる。ほんと、お前、なんでもできるな」

 

「まあ、俺も最近は情報収集が面倒だから自動で収集させて簡素化したりしたやつを見るだけにしているから、その流用だし、たいしたことじゃないよ」

 

「いや、3歳児はマクロなんて組まないし、情報収集なんてしない。なんて今更だな。さんきゅ。これで無駄に時間使わずに済む」

 

 お兄ちゃんと監督は毎回、こんな感じで監督の下でなにかを手伝ったりしていて、その対価に演出のことについて教わったり、仕事の時に助言を貰ったりしているらしい。

 

「で、早熟、この馬鹿のことなんだが」

 

 監督が私のことを指さして失礼な事を言い出した。

 

「馬鹿って誰のこと?」

 

「誰ってお前以外居ないだろ」

 

「しゃー! しゃー!」

 

「ばっか、爪立てるな。わかった訂正するからやめろルビー」

 

 ひっかいてあげようとしたけど、すぐに訂正したので許してあげた。私はどう考えても年齢的に考えれば相当賢いはず。お兄ちゃんが早熟なのに、私が馬鹿なのは納得がいかない。

 

「で、監督。ルビーがなに?」

 

「なに? じゃねえよ。こいつこれからどうするつもりなんだ?」

 

 私のことについてらしい。

 

「どうって、雑誌とかでのモデルとかやりながら映画、ドラマに出て知名度を稼いで将来的にはアイドルさせようって話だったと思うけど」

 

「早熟、それは俺も悪くないと思ったけど、これからこいつ映画にもドラマにも大して出れなくなるぞ」

 

「えっ? なんで?」

 

 この2年くらいの間、私は結構ドラマにも映画にも出てきたと自負してるし、エゴサしても結構かわいいとか凄いとか言われてたと思うんだけど。

 

「単刀直入に言うとお前使いにくすぎ。一回使ってくれたやつは特殊な役以外あんまりお前に出番与えたくないと思うぞ」

 

「じゃあ、監督が私に出番ちょうだい! 私演技上手いでしょ!」

 

「お前は突っ立ってるだけで目立ちすぎるんだよ。エキストラしても主演より目を引くときすらあるからアイより遙かに使いにくいぞ」

 

 私に自覚は無いけど、私は目立つらしい。まあ、ママの娘だし、超美少女だから仕方ないかもしれないと言ったら呆れられた記憶がある。オーラ? とかそういうのがあるらしい。まあ、ママも可愛すぎて監督が使えないことあったし。と言ったらめちゃくちゃ渋い顔された。なんで? 

 

「じゃあ、主演にして!」

 

「ふざけんな。メインキャストもろくにやったことないやつを抜擢なんて出来るか」

 

「じゃあ、そっちやらせてよ」

 

「お前が出来る役が限られすぎるんだよ。下手な役だと主役を食っちまうし、最悪、物語をめちゃくちゃにする。この間もたしかに評判は良かったよ。でも使えるのが超常の存在とかじゃねえか。普通の役柄やらせようとすると目立ち過ぎるからキャストに顔のいい一流どころをつれて来ないといけないし使いにくいんだよ、低予算の作品の監督があつめられるか」

 

「じゃあ、監督もはやくビッグになって高予算つかえる監督になってよ」

 

「そう簡単になれるか! お前ほんと馬鹿。もう早熟もよくこんなやつが務まるキャスト持ってくるな。なんだ? 前は語り手の怪しい少女役で、その前は神様、さらに前なんて天使、悪魔とかそんなのじゃねえか。まじでどこでそんなの見つけてくるんだ?」

 

「いや別に。出演する監督にルビーを紹介すると顔もいいからって割と簡単に出してくれる約束してくれるんだけど、実際に撮影して困るから困らないような役がないか知り合いに聞いてくれる」

 

「たらい回しにされてんじゃねえか」

 

 監督は頭を抱えてる。

 

「本当、アイちゃんもだけど可愛いすぎるって罪だよね。中途半端な役だと主役食べちゃうから駄目って」

 

 そう言うと監督がため息をついた後、お説教が始まった。

 

「お前はたしかに子役じゃずば抜けて可愛いしカリスマ性みたいなもんもある。演技だって才能あるよ。だが、そもそも子役でメインキャストの作品はあっても小学生高学年とか中学生あたりの世代からだ。幼稚園、小学生低学年で主演級の作品なんてあんまり無いんだよ。そんな数少ないやつを馬鹿食いしてる有馬かなとお前の兄貴のアクアで需要は満ちてるの! あとの食い残しみたいなのはみんな大手の子役のやつがコネで奪い合いやってるから」

 

「えー! かなちゃんのせいで仕事ないの?」

 

 監督の所で出会ってからお兄ちゃんと共演することが多い人でお兄ちゃんと一緒にアクかなコンビなんて呼ばれてる。からかうと反応が面白い愉快な人だけど、メスの顔をしているので確実にお兄ちゃんを狙ってる。お兄ちゃんを毒牙から守らねばならないのでよくけんかになる。

 

「この業界は1番のやつに仕事をまず振って断られたら残りのやつに振り分けるってのが基本で、お前は同年代で実力なら2番手だけど存在感ありすぎて使いにくいし、知名度ないのと事務所が弱すぎて主演級の仕事じゃ仕事が振られるのは10番目とかになってる。あとお前の顔の需要は似てるアクアで十分なの。出られてるの全部アクアが監督とのコネ作って、そういう変な役ないかみたいなのわざわざ見つけてるだけだから、ほんとは仕事ないぞルビー」

 

「えー、それでも私にもやりやすい仕事ってないわけじゃないよね。なのになんでこんなに仕事ないの?」

 

「有馬かなはお前より態度がでかいし、口は悪いし、協調性もないやつだが、それだけのもんは持ってる。主演になるためのような存在感にオーラ、顔だってモデル並みにいい。知名度はダントツ。主演も何度もやってるから起用する側も安心して任せられる。なにより演技力はずば抜けて良いからな。最近の伸びは化け物みたいにやべぇし。同世代の女の子役はこいつが落ちるか、仕事量自体が増える小学校の高学年帯までずっとこいつの残り物だけだ。お前だけじゃないが、圧倒的な一番手のいる子役の二番手、三番手でメインキャストなんぞこの年代のやつらに殆ど出来ない。特にお前は有馬かなと特徴が被ってるからより状況は悪い」

 

 容姿と存在感を除けばマイナス面もプラス面もお前の上位互換だな。と付け加える監督。小学生にもなってない子供に対して辛辣すぎる気がする。

 

「かなちゃんの世代の女の子達の子役さんたちかわいそ-」

 

「男の子役なんてアクアと比較されるんだぞ。最悪すぎんだろ。2年前に頭の良さと立ち回りは知っていたが、出演作品を増やす度にどんどん演技も学んできて、ここで演出もかじってるからな。出来る事が多すぎる。しかもリテイク出さないことでこいつ有名だからな。使いたいだろ」

 

 それはそう。せんせが世界一格好いいのは知ってたけど、アクアになってから中身だけじゃなくて外見も世界一になっちゃったから、比べられる男の子は可哀想だ。

 

「主演級の役や存在感があり過ぎても違和感のない役しか出来ないけど、主演やメインキャストはかなが独占してしまって、スケジュールの都合上出られないのは大手の子役が奪い合いをしている。存在感がありすぎても大丈夫な役は少なすぎるか……まあ、考えがないわけじゃないけど」

 

「んっ、なんだ早熟。手があるのか?」

 

「一応ね。メディア上の俺のキャラはF2(35歳~49歳の女性)層にウケがいいんだよね」

 

「あの詐欺みたいな女性層がん刺さりのキラキラ王子キャラ。気持ち悪いけどほんとウケいいよな」

 

「その年代の人達は特定の異性の人に対する特別のやさしさとかより、家族を大切にする姿がすごく好きなんだよ。実際の現場だと同じ子役の子達を纏めてる姿とか年上に対する礼儀正しさとかで絶賛されていてインタビューとかでそれが認知されてるからね。自分の子供とかがこうやって育って欲しいみたいな理想像をあえて演じてるからね」

 

「俺から出演を依頼したときからそんなこと考えてたのか」

 

「まあね。結婚、出産を機に価値観が変わる人はみてきたからね。今の若い層ってテレビを見ない人が多くて、視聴率を大切にするメディアからしたら発掘はしていきたいだろうけど、それより目の前の数字を優先したいと思ってる。そして俺は年齢的にF1(20~34歳の女性)層の若い女性受けを取りにくいからF2層以上の女性に対して数値を取れるようにしていかないとってこのキャラを始めたわけだけど、ブームだから一時的だろうけど潜在視聴率が約3%くらいはあるって広告代理店からは認知されはじめてる」

 

「そんなに数字持ってんのかよ。お前のギャラ1本15万とかだろ。コスパいいな」

 

「だから俺の出演が欲しいところは家族ドラマとかそっちで使いたいから兄妹枠でルビーが取れるんじゃ無いかと思ってね。こうやって俺が仕事を選べる時になって、アイやルビーを使ってくれる所を優先して出るっていうのは散々関係者の人との間でも答えたから、ルビーにも機会はきっとくる。そこで結果をだせば一気に認知度だって上がるはず。正直、邪道だけどこうでもしないと有馬かなの牙城は崩せないと思ってる」

 

 あのキラキラキャラ、最初は笑っちゃったけど、そういう意図があったんだ。私のために……そう思うと胸が熱くなる。

 

「これだけ数値を持ってれば、主演級の子役で妹、もしくは姉が居る作品だって獲れるはず。今まで仕事をした監督達にも連絡を取り合ってるし、そういう脚本なら予定を空けて出るって言い続けた。ギャラなんて少なくてもいいからこの状況が欲しかった。そしてその作品で知名度を稼いでアイドルに乗り込むつもり。地下アイドルなんかを経由せずに一気にメジャーに乗り込ませる為に社長と前々から準備はしてた。それに監督が今出してる企画書いいよ。あれが通ってくれれば俺の計画はずっとスムーズに進む」

 

「あれか? 一応、ルビーのやつをキャスティング希望に出してるが、多分有馬かなの出演依頼が出ると思うぞ」

 

「アクかなコンビか……最初は知名度を稼ぐ為にかなに近づいたところはあったけど、自分でやったことが回り回ってきた感じがする」

 

「ただの踏み台になんて出来るやつじゃなかったし、お前も現場でフォローしちゃってるからな。このお人好しめ」

 

「そんなんじゃない」

 

「映画やドラマで俺の要請があれば最優先で出る。そのかわり、お前の妹のデビューに協力するって約束だしな。出来るかどうかはともかく協力はしてやるよ」

 

 そんなことを考えてくれてたんだ。私は色んな人に応援してもらえてる事が実感できる。昔、病院でアイドルになりたいなんて言って応援してくれる人はせんせしか居なかった。今はお兄ちゃんにママに監督、社長、ミヤコさん、B小町のみんな、私のファンの人達、みんなが応援してくれている。私にみんなが期待してくれてる。

 

 アイドルになりたい! そしてみんなに恩返ししたい! 

 

 私は二人に抱きついた。

 

「えへへ、二人とも大好き!!」

 

 私は今、幸せだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 裏 アクア③





 

 幸せになるために

 

 

「昨年はドラマの主演級、メインキャスト級だけで10本、あとゲスト3本にCM含めて出演料から事務所取り分が半々。そのかわりに事務所所属の基本給が毎月5万で年収810万着地。基本給5万ってなんだよってなるけど、歩合の割合多いから仕方ないか」

 

 芸能界の闇をみたような気がするが、とりあえず、2歳の時の活躍だけでこれだけ稼げるのは夢がある。かななんてドラマで1本が100万が10話とすると1000万で俺以上の本数出ていたはずだから……事務所からいくら引かれてるかしらないけど何千万なんだよってなる。やめよう。比べるだけむなしくなる。医者の頃に比べると半額とまではいかないがだいぶ下がったな。あっちと違って仕事サボれない分、社畜度は上がった気がする。ため息が出た。

 

「金額になにか文句ある? 酷いところだと1割しか貰えなかったり、固定給だけだったりするんだけど」

 

 そうしていると隣で給与計算ツールに打ち込んでいるミヤコさんに突っ込まれる。

 

「すみませんでした。5割も貰えて嬉しいです」

 

「まあ、うちはアイドル部門はあっても役者部門も子役部門もなかったから演技指導もないし、アクアは仕事を勝手に取って来ちゃうから、中抜きされてるようにしか感じないだろうけど、契約は契約だから」

 

「いや、俺のわがままで低い値段で抑えて貰ってる事を考えると取り分減らされても仕方ないし」

 

 アイやルビーの仕事を取ってくる為にかなり抑えてもらって数をこなして知り合いを増やそうとしている。これは社長からも了承を貰ってるけど、本来なら去年の段階で1本30万はふっかけられるのに新人の壁の15万で止めて貰っているのだ。会社としては長期的に回収できるかもしれないけど短期的には1000万近い減収を覚悟することになる。きちんと応援してもらっていると思うべきだ。勝手に降ってきたお金かもしれないけど、それを2歳のガキのコミュ力なんかを頼りに失うことに理解をして貰えて、説得までしてくれたミヤコさんには感謝しかない。

 

「はあ、そんなことないわよ。貴方のおかげでルビーの分で50万くらい収入があるし、アイも映画とかドラマに出て100万はプラス、B小町もちょっとした脇役かもしれないけど出られて知名度アップに貢献しているから、再来年には回収できるわよ。貴方の貢献にみんな感謝してる。これは嘘じゃないわよ」

 

「でもさ」

 

「うわー、わかっていたけど私よりアクアの方が稼いでる」

 

 給与について話していると、後ろからアイがのぞき見をしていたのか自分と俺の給与を比べて低いことにショックを受けたような声でアイが叫んでいた。

 

「私の親としての威厳がなくなっちゃうよ。もっと儲かるお仕事ないの?」

 

「無理に決まってるでしょ。B小町としての仕事はメンバーで等分するけど、アクアは来年の契約からは30万を単独で稼ぐわけだし、アイの個人としての単価も15万でしょ。倍は働かないと」

 

「えー、アクアは来年、1本単価倍になるの? って事は来年は1600万?」

 

「まあ、この単価で売れればね。子役の有馬かなが1本100万でしょ? 同じかそれ以上の評価があるんだから大丈夫だとは思うけど、アクアはルビーとセットで使いたいのもあるからね。単価を高くしすぎると仕事自体が減るから、今年はこれくらいかな。さすがにあそこまでつり上げるのは旬が終わった後怖いし、こういう時、子役大手は強いわね。こっちは子役のマネジメントなんてやったことないから駆け引きもできないし」

 

「後先考えずに単価上げればアクアはギャラだけで1億か~。子は親を超えていくものだ~なんていうけど、さすがに2歳で抜かれちゃうのはショックだなぁ」

 

「まあ、この子は特別だからね。アクかなブームが過ぎたあとどれくらい仕事が残るのかが問題。中堅の役者で年収500万~600万あれば良い方なんだから、今年はアイもドラマの主演も決まって、そこで結果を出せたら単価も上がるとおもうわよ。あとB小町もこのままならドームにいけるかもしれない。これからよ。アイもB小町も」

 

「そうだね。アクア、私、頑張るからね」

 

 アイはこうやって俺やルビーの事を大切に思って頑張ろうとしてくれている。それだけで俺は嬉しいし、この子の為にならいくらでも頑張ろうと思えた。

 

「うん、頑張って。でも無理しないでよ。俺はアイとルビーと一緒に楽しく過ごして暮らせれば十分なんだ。お金なんて俺がどうにでもするからさ」

 

 もし、この業界で生きていけなくなったら、また国立の医学部へ行って、返済不要の奨学金で通いつつ、家庭教師でもしながら暮らせば良い。医者になって二人を養っていけばいい。それくらい余裕で稼げるだろう。今はネットでもなんでもいくらでも稼げる手段がある。お金なんかにこだわる必要なんてない。

 

「ああ、もう、いい子だなぁ。アクアは」

 

 そういって抱きしめられると胸のふくらみが当たって少しどきどきしてしまう。年齢を重ねるごとに子供っぽさが抜けてきて、表情もどんどん豊かになっていき、アイはどんどん綺麗になっていく。子供の体だからいいが、大人になったらどうなってしまうのか今から心配だ。

 

「大好きだよ。アクア」

 

「お、俺もアイの事大好き」

 

 正直恥ずかしいがアイのこういった台詞には絶対に返すようにしている。

 

 アイは人から好かれるという事に対してなにかしらのバイアスがある。昔、ルビーがアイに対して世界一愛してると言った時、アイは一瞬、フリーズしたあと、ルビーに愛しているではなく、好きと返したのをみた。アイの性格上、本来、「私も世界一愛してるよ」みたいな返事になるはずだ。

 

 思い返すと生まれてから一度もアイから愛していると言われたことは無かった。愛着障害の人は人を愛する距離感が分からずに過度に離れたり、依存するくらい近づいてしまうことも少なくない。だから、アイも距離感の測り方とかが苦手で、好きと愛しているの違いが分からないとかそういうパターンなんだろうと思った。

 

 ここら辺は専門家ではない俺には判断しづらいが、やることは変わらない。

 

 アイには何度でも好きなこと、好意を持っていること、愛していると伝えることが大切だと思う。

 

 アイは愛してるという言葉が苦手だから、これを除いて、好きと何度も言っていき、好きな人に対する行動もする。もちろん、アイは嘘をつかれてそういう事を言われたら気がつく。だから心からそう思えるときには出来るだけ言うようにしているし、アイが好意的な言葉を言った時はそれを嬉しいと感じていることを伝えるようにしている。

 

 愛されなかった子供が親になって子供を愛することで自分が愛されたように感じることで、愛着障害のトラウマから解放されるなんて話はよくある。ただの代償行為なんて言われるかも知れないが、少しでもアイの心が軽くなるのであればどうでもいいことだ。

 

 これは必要なことなんだとは分かってはいる。分かっているのだが羞恥心で真っ赤になってしまう。もし、アイが心の傷が癒えて、愛していると言えるようになったら……この子に愛しているなんて言われたらと思うと、どうなってしまうのかと不安になる。

 

「えへへ、ありがと。アクア、すごく嬉しいな」

 

 こんなことを続けて2年は経つが、アイの嬉しそうにしている笑顔は未だに慣れないし、今後も慣れそうにも無かった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 裏 アクア④





 

 分岐点

 

 

 思えばこのドラマが俺の人生の分岐点になった。

 

 

「おい、早熟。例の脚本のドラマ、キャスティング通ったぞ」

 

 監督の部屋で編集作業を手伝っていると、監督からそう声をかけられた。

 

「まじで通ったのか? ルビーも?」

 

「ああ、スポンサーはアクかなで使いたかったらしいんだが、月9で実力派女優を集めたかなり金のかかったドラマをやるらしくてな。かなりセンシティブなテーマだけに有馬かなのリアルな演技が欲しいって熱望があったらしいな。こっちは主演じゃないってのもあるからそっちを選んだみたいだ」

 

「そうか。まあ、知名度を考えると、有馬かな推しになるだろうから、諦めていたけど、これも巡り合わせか」

 

「まあ、むこうはルビーの事は知らなかったけど、お前とリアル双子で、例の超常キャラばっかりの履歴も別に気にしてなかったからゴリ押ししてやったぞ」

 

「さんきゅー。それ突っ込まれたら、普通の役は周りにイケメン、美女集めないと主演食いますみたいな説明するしかないし、それじゃ通るものも通らないしな」

 

「主演男優はあのイケメンばっかりの事務所の顔の良い奴とりあえず突っ込んでおいた。こいつは演技はそこそこだが、こいつのファンのスポンサーが、こいつ主演なら制作費全部出すとか言った婆がいたからな。プロデューサーが即決定した。悪いな」

 

「そこだけは不安だけど、まあ俺がなんとかするよ」

 

 主演は1度共演したことはあるから実力は分かる。人気アイドルグループの一人で出演の経験は多いがそれに見合っているかどうかは微妙な人だ。フォローすればまあ、いけるだろう。

 

「こいつのヒロイン役にアイを突っ込んどいたぞ。最近人気ってことであっちも是非欲しいって言われた。アイはF1層とM1層、M2層と広い幅に人気だからな。これで見れる絵面になる」

 

「えっ、まじで。アイも入れてくれたのか?」

 

「ほんと、めちゃくちゃ使いにくい妹の為に、双子の兄妹の役柄入りの脚本つかって、さらにアイをヒロインにしてやって、妹がアイドルデビューする下地に主題歌歌わせてやってんだかんな。2年前とかに面白半分で出してやったやつが偉くなったもんだ」

 

 にやにやと喋る監督の姿は普段ならいらつくが、今回ばかりは感謝しかない。

 

「ほんとうに助かったよ。監督。まあ、ここまでして貰ったんだから、俺も結果で応えるよ」

 

 ここまでして貰ったんだ。結果で返さないと申し訳が無い。

 

「まあ、なんだ。俺もあいつが埋もれる姿は見たくないしな」

 

 なんだかんだ言っているが、監督はルビーの事を可愛がってる。こういうキャスティングだとわりと好き勝手言うし、クオリティ最優先でものごとを考えるから、かな推しなんじゃないかと思っていたが、ちゃんとルビーの事を気にかけてくれているみたいだ。なら、その決断を間違えにしないようにしないとな。

 

「主演男優の人は知っている。前回同様、いや前回以上に俺が良い演技をさせる。人気ドラマにするさ」

 

「ほんと相変わらず可愛くないガキめ。お前と組めば出来ない事なんてないって思っちまう。おら、やるぞ。お前がやりたい脚本でルビーとアイまで揃えてやったんだかんな。やる気も出るだろ。そろそろ監督賞でも取って、もっとでかい仕事もやりたいしな」

 

「俺も本気で演技をして、その本気の演技を受け止めて、応えられる役者だけと組んで監督の作品で100年後でも評価される名作を作ってやりたいと思ってるからね。そのためにはキャスティング権を持ってるような大物監督になって貰わないとね。これはその第一歩だ」

 

「こいつ、言ってくれるな。くそ、やってやるか!」

 

 拳を付き合わせる。

 

 体の歳は離れているが実年齢は俺に近い。前世の俺は夢を諦めてしまったから、同年代の夢追い人のことが眩しかったし、こうやっていると友人のような感覚になってしまう。成功して欲しい。アイやルビーの為だけに生きると決めたけど、こいつに夢を叶えて欲しいと心から思う。

 

 夢を叶えないとこいつずっと子供部屋おじさんしてそうだしな。

 

 

 

 

 

 

 今回の脚本はルビーの才能、気質を全国のメディアに知らしめる事が結果的に数字として出るような作品にしている。明るくて、少し馬鹿っぽくて、そして人なつっこいけど繊細な人柄。すべてがルビーそのものみたいなキャラだ。演じない方がそれっぽくなる。

 

「へっ、そのままでいいの?」

 

「お前は演技なんて枷でしかないんだからそのままでいい。何度も使ったが、お前に味をつけようとすると魅力を損なうだけなんだよ。ある意味お前は一番役者に向いてねえ。そのままが一番魅力的な素材だ。お前を使う監督みんな思ってる」

 

「監督! 大好き!!」

 

「くそ、前回といいほんと調子良いな! こいつ」

 

 これでいい。ありのままの自分を沢山の人に受け入れてもらう。他人に好かれようと嘘をつくルビーがそんな事をしなくてもいいと思える環境を作る事。

 

 ルビーの宮崎の病院に捨てられたトラウマを乗り越えるには、それを乗り越える成功経験が必要だ。

 

 俺だけじゃない。たくさんの人から愛されて、たくさんの人から祝福されてありのままの自分に自信を持って欲しい。ルビーはよく外見が良いからというがそれだけじゃなくて、自分自身の性格とかやってきた行動が好きだからという理由で力を貸してくれる存在が君にはたくさん居るんだよってことを教えてあげたい。監督も照れて俺に言わせようとしたけど、それは意味がない。俺だけではなく、もっと多くの人がルビーの事を好きな事を知って貰わないと。

 

 主演男優をサポートしながら、ルビーの方もきちんと絵になるようにコントロールしないと作品が崩れる。だが、問題ない。そのために演技を努力してきたし、そのためにこの脚本も用意した。演技では有馬かなに勝てないが、ルビーそのままの魅力を生かすことが出来れば勝てる。勝算はある。

 

 

 

 俺の計画も順調に来ている。まずはアイの安全確保。次に俺たちの存在の露見防止策。そしてアイとルビーが業界で成功する為の手助けをすること。全てが1年以内に整う予定だ。レールには乗せた。あとは走りきるだけだ。

 

 アイの安全確保については、ドラマ撮影後には24時間オンラインセキュリティーが施されたICカードキーシステムの所へ引越しをすることをミヤコさんとルビーに協力して貰ってアイに納得させた。月20万以上の物件だからアイは渋っていたが、俺が今年から年収1000万を超えることから誘拐などのリスクを考えたら当然のことという事でゴリ押した。

 

 そして俺たちの存在の露見防止だ。ミヤコさんには前々から、社長の婚外子を養子にしたと身内には言って貰って居たが、ようやく未成年かつ育児困難者だと認められて里親制度を使って公文書には斉藤という名字を使えるようにしたから、学校や幼稚園などの書類から漏れる心配も無くなっている。表向きは家族のように育った義姉という設定で押し通す。アイと俺たちを調べてDNA検査などをされたらどうしようもないが、それは気をつけるしかない。

 

 アイとルビーについてもルビーは今回ヒットすればアイドルとしてデビューするための準備がすべて整う。ここでメディア受けをしなかった場合はミヤコさんがネット関係の事に興味があったようだからYouTuberとしてアイドル活動の下地作りをしていこう。ジュニアとかはどうにも危なっかしいし、地下も安全とは言いがたいし、アイみたいにいくなんて夢は見れない。ルビーには男の汚い欲求の部分に直接関わらないで生きられるようにしてあげたい。

 

 アイも順調にいけば今年には東京ドーム公演まで行き着ける。まず一流のアイドルとしての格を手に入れられる。5万の箱を埋められるアイドルという信頼はこの業界では重い。ここまで行けば5年は安泰だ。できるなら今後のキャリアプランが安定するまで俺が手を貸せるなら良いが、俺自身の活動も先がよく分からないから、もっと安定した……そうだ。18までに地位を確立出来ないようなら前世の夢である外科医になるなんていいかもしれない。アイやルビーが生活に困るようなことになった時、いつでも助けてあげられる収入は得ておきたい。

 

 構想から3年経ってしまったが、ようやく一段落付く。アイとルビーが幸せに過ごせる環境を作る事。その為に生きる覚悟を決めてから長かったような短かったような不思議な感覚だ。

 

 

「あと1年……やりきってやるさ」

 

 

 前世でやれなかった事をやりきるため、俺は小さくなってしまった拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 半年後、俺たちのドラマは最高瞬間視聴率22%を達成するドラマになり、俺とルビーの主題歌は大人気となり、オリコン1位を達成。その勢いはドラマ開始からドラマ終了の3ヶ月間売れ続け、紅白歌合戦出場の最年少出場記録という花まで添えてた。そして、紅白決定がほぼ確定していたことから、紅白出場者発表式の翌日、ニュースから取り上げられることを見越し、俺とルビーのアイドルグループ「双子星」からすぐに発表した新曲も、その話題性からオリコン一位を記録。アイドルグループとしての認知度はどんどん上がっていくことになる。

 

 ドラマは順調ではあったが強力なライバルが居た。

 

「母親」

 

 虐待を受け母親に捨てられた女の子と、1人の教師の逃避行の物語。あまりにリアルすぎる演技と脚本、本当の親子とは、母親とはなにかを問われる作品にネットからは賞賛の声が止まない傑作だった。主演もメインキャストも一流しかいない全てが一流の作品で瞬間最高視聴率は25%超えた。

 

 俺たちと一緒で血の繋がらない家族をテーマにしたドラマということもあり、比べられることも多く、どちらが最優秀作品かは長いこと議論された。

 

 

 授賞式では欲しかった監督賞、主題歌賞、新人賞は手に入れたが、最優秀作品賞などは軒並み持って行かれた。

 

「しかし、かなのやつ、あんな演技出来なかったはずだけど、やられたな」

 

 虐待を受けた子供というのをリアルに演技しきっていた。そこからの主演女優との絡みも見事だったとしか言いようがない。泣きの演技も凄かった。実力派女優のギャラだけで億はとんだだろう。低予算ドラマでは勝てないクオリティーがあった。かなもそれに見劣りしない出来だった。今回、ルビーをアイドル方向で進められて良かったと思う。同年代だからといってあれと比較されるのはつらいだろう。

 

 今回の授賞式ではひさしぶりに会うかなが居た。冬のシーズンが終わってからはしばらく会っていなかったから、ドレス姿なのもあって新鮮だった。

 

「かな、最優秀作品賞おめでとう」

 

「ありがとう。アクアも新人賞おめでとう。まあ、シスコンの貴方は妹の成功の方が嬉しいんでしょうけど。良かったじゃない。ようやく妹の夢叶ったんでしょ」

 

「ああ、メジャーデビューもして紅白で宣伝も出来た。あと社長夫人が新しくネットの興隆に乗ろうとしてYouTuberとかを集めようとしているからそのビジネスの広告塔になると思う」

 

「そう、頑張りなさいよ」

 

「そういえば、かなは最近大丈夫か? 最近忙しそうにしてるけど、寝られてるか? 受賞式でもいつもより元気無さそうに見えたから心配だったんだ。いつものかななら、最優秀賞とった時点で煽ってきただろ」

 

「はぁ? なに? 喧嘩売ってるの?」

 

「そんなんじゃないけど、まあ、体には気をつけろよ」

 

「アクアが言えることじゃないでしょ。アイドルとかそんな事ばかりして、役者としての仕事に穴を空けることになっても知らないんだから。今年も10本以上出て、新人賞もとったわけだし、去年の私みたいに仕事はどんどん増えるわよ。アイドルはすぐ引退かもね」

 

「ああ。かなには言っておかないとな。俺はこれからの活動はルビーとのアイドル活動を優先してやっていくことにしたんだ。だからその活動の支障に出そうなものは出なくなると思う。もちろん、出れるものについては今まで通り全力でやるけど、ルビーと一緒にアイドルとしてやっていくから主演級やメインキャスト以外は基本断るし、それもルビーとの活動に支障が出るなら辞退する予定だ」

 

「……はぁ? あんた何考えてるの? シスコンにもほどがある! いつまでもルビーのやつの尻ぬぐいばっかりして、馬鹿じゃないの?」

 

「でも、俺にとってはこれが一番大事な事なんだ」

 

「……もういいわ。シスコンに何を言っても無駄なのは知ってる。妹とお遊戯の練習でもしてなさい」

 

 

 

 

 

 

「怒らせちゃったな」

 

 ライバルであり、目指すべき目標の一人でもあった友達に嫌われてしまう事を言うのは正直心苦しい。かなは演劇への情熱が強い。だから俺みたいな中途半端な姿勢で演技をする奴が嫌いだ。

 

 本当は俺もルビーには一人でアイドルをやってもらう予定だったが、やはりこの業界で一人でやっていくことの難しさは知っている。せめて、固定のファンをつかめるまでは一緒にいてあげないといけない。夢を叶えたらすべてハッピーエンドに終わるわけじゃない。叶えた後にも人生はある。ルビーがアイドルになんてならない方が良かったと思うような目に合わないように兄として支えたい。

 

 言い訳をさせて貰うなら俺は望んだ未来を手に掴んだ事でこの時浮かれていた。前世で出来なかった事をして、みんなで一緒に考えたアイとルビーのB小町世代交代プロジェクトを成功させれば自分の転生してやらないといけない事もすべてやりきることが出来ると思ったから。

 

 結果的に言えば……俺はこの時、有馬かなのSOSを見逃した。これを知るのはもう少し後の話。

 

 

 




ノリとしては第一部完!って感じです。少しだけ時間を飛ばします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 好感度

 

 

 死亡フラグをぶった切るRTAはっじまるよー! 

 

 さて、前回は、ドラマ主題歌でオリコン一位をとった所ですね。このままミュージックビデオでB小町と共演でアイの好感度を上げていき、そのままアクア&ルビーのアイドルデビュー、そして死亡イベント回避からのドームツアーに行きます。

 

 ここからはかなりギリギリのタイムスケジュールになるので、時系列に沿って進めていきます。ガバ進行すると直ぐに死ぬので(33敗)

 

 まず、前提として、12月3週にアイの誕生日=死亡イベントが来ます。なのでここまでにアイドルデビューまで進めてアイの好感度を上げていく必要があります。まあ、正確には死亡イベント回避というより、アイのドームイベントを起こしたいんですよね。死亡回避自体はアクアくんが天才な為、稼ぎまくって出来てるので。アイの好感度=年収だったのに、なぜか3歳で1000万プレイヤーにまで上り詰めてしまい、むしろアイを養ってしまえるようになってしまった。やっぱり天才って頭おかしいよ! 

 

 とりあえず、ラスボス君が送ってくる鉄砲玉くん達が立ち入り不可能な物件は借りました。なのであとはラスボスくんが直接くるか、なんかしらのイベントを起こしてくるまでは忘れて貰ってかまいません。もっと良い物件もあるにはあるんですが、ぶっちゃけ意味無いし良いかな。豪華なマンションだ! ってテキストとどっかで見たことがあるプールの写真みたいなのが出てくるだけなので。

 

 ラスボスさんの扱いが酷いって? ぶっちゃけただのお邪魔虫でしかないし……このRTAにおいて、彼の悲惨な過去とか性癖とかが明かされるイベントまで行き着かないからね。仕方ないね。あと、だれだっけ、殺人犯の人……忘れたのでアサシンとでも呼んどきますか。アサシンさんもちゃらっと流します。正直、テキストで捕まったみたいな一行で終わる人なんてもう名前も覚えてないです。

 

 さて、気を取り直して11月2週目の現在の好感度ですね。

 

 アイ……70

 

 ルビー……92

 

 かな……80

 

 思った以上に高くなってますね。とりあえず、アイの好感度を80に上げて、アクアとルビーに「愛してる」と言えるくらいにしないとドーム前にイベントが起こせないのであと10足りない好感度を一気に上げていきます。アイは好感度の上がり方が一番渋いので今回のRTAだと純粋にコミュ回数足りてません。ルビーとかなに浮気したからね。仕方ないね。

 

 あとかなちゃんきみ演技力高い相手だとちょろい! ちょろい! よ。天才だから仕方ないけどまともにコミュもしてないのに勝手に上がってる。チョロQかなちゃんすぎる。だから君は本編でもあれなんだぞ。

 

 今後の流れをさくっと言えば、

 

 11月3週にミュージックビデオにB小町と出演イベント

 

 11月4週でB小町とアクア&ルビーの紅白出場決定&アクアとルビーのアイドルグループ発足イベント

 

 12月1週でデビュー曲のオリコン結果発表回

 

 12月2週で好感度80に達していると起こるアイとのコミュ

 

 12月3週で死亡イベント回避&アイのドームライブ

 

 12月4週で紅白歌合戦イベント

 

 

 って感じですね。イベントで足りない好感度を一気に回収してからのアイとのコミュに持ち込めないとリセです! 

 

 とはいえ、ぶっちゃけ、あとはイベントを読み流していくだけなんですよね。必要なステータスはもう全部上げきったのでこのまま放置していても勝手にクリアしていきます。では、死亡イベントまで飛ばしますね。

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 さて、問題の死亡イベントどうなるのか! 

 

 

 あ、アイの引っ越し先の建物の近くで白い薔薇と刃物をもった怪しい男が目撃され、警察と鬼ごっこの末に捕まったそうです。南無。

 

 これは黙秘してる感じですかね。アイを殺してやろうとしたんだ! みたいな感じで自白して殺人未遂でしょっぴかれたりしたら、また引っ越しイベント起こすことにリアルではなるんでしょうけど、そういうのないんですよね。

 

 まあ、多分建物のイラスト数が増えてしまうのでそういう処理してないんでしょうけど。

 

 ってことで死亡回避イベ終わり! 解散! ということで後はドームイベントですね。これも飛ばします! 長いし、これは本ゲームを買って楽しんでくださいね(外道)

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 はい、紅白まで終了です。ドーム前のコミュで10一気に上がりましたね。そしてドームと紅白イベントを含めて好感度が91に。あと9回好感度アップのイベントを起こせば100になります。

 

 ここまで来れば、あと作中時間だけで5年もあるのでかなとあかねの好感度上げをしている中で自然に起きるイベントだけでも好感度が足りるので、アイとルビーの好感度上げは特に狙わなくても良さそうですね(フラグ)

 

 そしてアイドル活動! もう必要なアイの好感度稼いだし、どうでもよくない? (本音)

 

 まあ、実際、アイドル活動は12月までは大切だったんですけど、アイのコミュで欲しかった好感度10アップが終わったので、さすがになんにもしないわけではないですよ。まあ、4月超えたら怒涛のイベントラッシュも終わって、ルビーの好感度上げに余裕が出来て別にアイドルなんて力を入れなくてもよくなって暇になるので適当にアイドルYouTuberやってお茶を濁しときましょうかね(ルビー激怒)

 

 正直、話題性だけでオリコンとか取ったから、しばらくはやるよ。やるけどさ、そろそろカンストしそうなルビーの好感度より、あかねちゃん好感度の方が大切なんだ!! 

 

 っということで、あかねちゃん登場まで暇になりましたね。

 

 なんか思っていた以上に余裕が出来たのでオリチャー発動!! 4歳からは小学校イベントのフラグ起こします! 

 

 あかねー! お前が俺の新たな光だ! ということで、あかねちゃんと同じ学校にいきましょうかね。このゲーム、一応、学校選べます。かなとあかねの学校と地元の3択です。

 

 普通にやると地元の小学校に入るんですけど、アクアも今年からは何千万儲けるかわからないようなリッチマンなので、私立小学校でも入れます。なので、一応選択肢が出てきます。

 

 ちなみにあかねの学校のモデルは慶○義塾幼稚舎です。めっちゃ頭良いです。学費? 高いよ。

 

 そもそもなんですがララライ所属イベントが6歳からなので、きっついんですよね。なので、学校が一緒(同学年ではない)みたいな知り合いの知り合いみたいな関係性でもてにいれましょう。

 

 仲良くなると一緒に待ち合わせしてあかねちゃんの家に送り迎えに便乗して、一緒にララライにいく。うん、彼女かな。みたいな関係になります。まあ、隣にルビーも居ますけど。

 

 そもそも、お前、なんのために行くんだよ! ってレベルで演技のレベルが高いので、正直ララライ行かなくても良いけど、あかねの好感度が足りないんだよ! ってことで入ります。たぶん、元看板役者の生き写しみたいなのが来て驚愕されること間違いなしです。

 

 名門私立なので受験勉強させないとですね。ルビーに。

 

 かなの学校なら要らないんですけど、あかねちゃんの学校は一応、隠しステの学力が反映されるので、アクアくんは偏差値70の国立大学卒なんでほぼマックスですが、ルビーちゃんはアホの子なので。

 

 かなちゃんの学校なら勉強なんていらないんですが、ルビーにさせないと、勝手に行けなくされます。アクアくんは絶対にルビーと一緒の学校に行くからね。仕方ないね。

 

 ルビー! お前は兄の輝かしいリア充学校生活の為に結構暇になるアイドル活動の間で勉強しててね。という事であかねガチャ回せるようになるまでアイドル活動をメインに、残りの時間は役者業しまくりますね。あかねガチャまわせるようになったら?ルビーには勉強してて貰います!

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 さーて、あかねガチャ回せるようになりました。

 

 兄は4歳の間はずっとあかねガチャ回しますね。かなと一緒に共演してるといつか出てきます。6月からはもうアイドルなんかより演技復帰してかなちゃんに引っ付いて行きますね。

 

 アクかなコンビ再結成だね(半年ぶり)。かなちゃんも嬉しそうだね。思ったよりアイドルに集中する期間が短かったからかな。アイドル? あいつは死んだ! 

 

 あっ!! あかねとの出会いイベント一回目で来ましたね。アクかなコンビ解散のお知らせです!

 




佐藤巧様より支援絵頂きました
私はちょうどこんなイメージだったので、皆様のイメージの助けになれば
https://imgur.com/a/BnXahQ7


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 裏 アイ①

 アイについては各人解釈があると思いますが、自分としてはこんなキャラかな~と思いながら見てます。
 当初の予定より裏が増えてその裏描写を書くと思ったより長いので分割して投稿しています。


 

 

 

 愛してる

 

 

 

 「皆愛してるって言っている内に嘘が本当になるかもしれない」

 

 

 

 そう信じて三年の月日が流れて……私は未だに誰も愛する事が出来ずにいた。

 

 

 鏡を見る。

 

 

 そこにはミリ単位で調整をして一番ウケのいい笑顔をする私の顔があった。目を細めて口角を上げて笑顔を作っただけの打算でできた笑みだった。

 

 歌にダンスに笑顔。それなりに出来るようになってきたし、アイドルとしては成功をして、いろいろな人に知られるようになってきたけど、私はアイドルをする意味が分からなくなってきていた。

 

 休憩室の前でしばらく立ち尽くしていると部屋の中から声が聞こえてきた。

 

「アイってさあ、人間を区別できてないんじゃない?」

 

「あ~、分かる気がする。この間も斉藤社長の事間違えていたしね」

 

「態度がADさん、マネージャーさん、カメラマンさんみたいにしか認識してない感じだしね」

 

「なんなら自分自身もゲームのプレイヤー感覚なんじゃないかって思うことあるもん」

 

「ほんと、自分の事も他人事みたいなときあるよね~」

 

「私達のこともバックダンサーとしか思ってないよね」

 

「まあ、ここに居るってことはアイのバックダンサーとして生きるしかないよね」

 

「引き立て役Bなんて思われてそう」

 

「ほんとあの子嫌いだわ」

 

 それは三年間ともに過ごした仲間たちが私に対してどう思っているのかの答えだった。

 

 私は昔から人の顔と名前を覚えるのが苦手だった。

 

 人嫌いで嘘つきで人に興味を持つことが上手く出来ない。そんな私は数少ない顔と名前を覚えられるくらい親しかった人達からも嫌われていた。

 

 やっぱり、私にアイドルなんて向いていない。

 

 だから、鏑木さんから紹介された劇団ララライのワークショップの紹介も受けてみた。

 

 なにか別の方法がないか、逃げ道を探して……

 

 

 

 

 

 

 劇団ララライには私と同じ人が居た。

 

 彼と私は愛が分からない者同士だった。

 

 彼は私と同じだったけど、演技というものが出来ていて、人から愛されるような言葉や仕草、行動を知っていた。私はそこで人に愛される方法を彼から学んだ。

 

 愛想をよくして、明るく振る舞って、女らしい仕草や服装なんかもするようになると人からの目線が変わったのを感じた。

 

 そうしていると彼から付き合わないか?という誘いが来た。

 

 私は誰かを愛したい。愛する対象が欲しかった。だから、愛する人を作るには恋愛をすることが近道なんじゃないかとは前から思っていた。

 

 だから、彼氏ってやつを作ってみた。彼氏とか彼女とかになれば愛せると思ったから。

 

 だから、デートってやつをしてみた。それをすれば愛せるかもしれないと思ったから

 

 だから、体を重ねてみた。それをすれば愛情が生まれると思ったから。

 

 でも駄目だった。

 

 どうしても彼を愛することが出来る未来が見えなかった。

 

 愛を知らない者同士がかたちだけそれっぽくしただけで、これから何年付き合おうと体を重ねても彼は私を愛してくれないし、私は彼を愛せない。それだけは分かった。

 

「別れよう」

 

 人を愛せない者同士の私達が一緒にいても、ただそれっぽいことだけをしてるだけで先にはなにもない。

 

 彼は私を引き留めていたけど、しばらくすると諦めてくれた。

 

 最悪な彼女でごめんなさい。でも私は誰かを愛したい。

 

 私は愛することを諦められない。

 

 

 

 

 

 

「皆愛してるって言っている内に嘘が本当になるかもしれない」

 

 

 この言葉に縋るしかなくなり振り出しにもどった私はアイドル活動に戻った。けど、しばらくするとアイドル活動は出来なくなる。妊娠が発覚したからだ。

 

 正直、たった一回でできるとは思わなかったな。

 

 一応、彼には相談したけど、堕ろすって話になった。まあ、別れたわけだし、当然と言えば当然だった。

 

 でも、私の中では、一つのささやきがあった。

 

 母親になれば子供を愛せるんじゃないか。

 

 このままただアイドルを続けるよりもそっちの方が良いんじゃ無いかと思うようになった。だから彼には産む事を伝え、だけど関わらなくていいよと言った。

 

 そして中絶が出来なくなる22週まで体調不良とか言って逃げていようとしたけど、20週の時点で社長に見つかってしまった。

 

 妊娠が発覚してからは社長は大騒ぎをして、誰にも見つからなそうな九州の病院で診てもらう事になった。

 

 そこではすごくいいせんせが居て、アイドルということも隠して出産する準備とサポートをしてくれることになった。出産予定日近くになると彼から電話があった。

 

 出産に立ち会おうか?というものだった。

 

 少し悩んだけど、病院を教えることにした。九州の宮崎と聞くと驚いていたけど、行けるかもしれないと言っていた。

 

 結局、彼は来なかったし、そして、あんなに献身的にサポートしてくれたせんせもなぜか来てくれなくなった。

 

 一週間もしないうちに退院することになり、お礼も言えないまま東京の家に帰る事になった。

 

 

 

 

 

 

 2ヶ月くらい経って、仕事に復帰する時期になった頃、私は母親になっても子供を愛することが出来ていない事が分かった。

 

 双子だから大変……なんて聞いていたけど、夜泣きなんかも一切なくて思っていたよりも問題なく過ごせていたけど、私は未だに二人の区別がついて居なかった。

 

 毎日一緒に居るのに顔と名前が一致しない。

 

 私は昔から人の顔と名前を覚えるのが苦手だったし、同じ施設でも名前も覚えられない子も居たからそういう事もあるかもしれないけど、それが自分の子供でも分からないなんて思わなかった。

 

 母親になれば子供を愛せるんじゃないか。

 

 そんな都合のいい話は無かったという事だけが分かって、現実として二人の子供が残った。

 

 疲れた。ちょっとそんな事を思ってしまった。

 

 誰かを愛する為にアイドルをして駄目で、恋人を作ってみても、子供を作って母親になっても私は人を愛することが出来ないでいる。私は誰も愛せずに終わるのかもしれないと思った。

 

 でも、子供から逃げる母親になってはいけない。

 

 かつての私を思い出す。

 

「つまり、お母さんはいつまでも女だったんだよね。母親になれなかったの。男が好きで、女が嫌いで…だからかな?お母さんが迎えに来てくれないのは」

 

 あんな気持ちを子供たちに味わわせるのは絶対に駄目だ。

 

 たとえ愛せなくても、お金だけは出してあげて色んな選択肢を上げて……それだけでもしてあげないと。

 

 私は子供を愛せなかった。母親にもなれなかった。私の今までしてきたことはなんだったんだろう。

 

 そんな気持ちがぐるぐると頭の中を駆け巡っていた。

 

 それでも私は嘘をつく。いつかそれが本当になると信じて。信じないと折れてしまいそうだから。

 

 

 

 

 転換期があったのは、販促イベントのミニライブだった。

 

 

 いつも通りに笑顔を作って歌ってライブをしていた所、ミヤコさんがアクアとルビーを連れてきていて、その二人が……私の赤色のサイリウムをベビーカーの上で必死になって振っていた。

 

 それを見て私は、ああ、この子たちって私の事が好きなんだ。って思った。あんなにがむしゃらになって、あんなに楽しそうに、あんなにうれしそうにして。

 

 なんだろう。この気持ち。すごく胸が温かくなって気持ちが溢れてくる。ただの自分の子供だから育てないとっていう気持ちじゃなくて、この子たちが本当に可愛くて仕方なくなってしまった。

 

 

 

 うちの子きゃわ~~~~♡♡♡

 

 

 

 私は本当にひさしぶりにこころの底からの笑顔になれた。

 

 

 

 それから、私はアクアとルビーのことを間違える事もなくなった。

 

 アクアは私とルビーの事をとても大切にしてくれる子で、頭がすごく良くてしっかり者だけど恥ずかしがり屋さん。お風呂とかも一緒に入れると恥ずかしがってしまったりする。

 

 ルビーは私とアクアの事が大好きな、元気で明るくて甘えん坊。ちょっと言動に危ないところがあるけど、私に憧れてアイドルになりたいといってくれる可愛い子だ。

 

 二人に共通しているのは私の事が大好きで、よく私の昔の動画なんかを仕事中に見ているらしい。人にここまで好かれた経験のない私は恥ずかしいような嬉しいような気持ちになる。

 

 そして、少し嫉妬してしまうのは、二人は本当に仲が良くて特にルビーがアクアに向ける視線は、ドラマとか映画で見るような恋する女の子の目線だった。ルビーは心の底から信頼出来て、愛することが出来る人を生まれた時から得ているのが、愛する対象が欲しくて仕方の無い私には眩しかった。

 

 そして、そのルビーの信頼に絶対に応えているアクアを見て、ああ、私もこんな子が小さい時に居たら。と思ってしまった。

 

 ルビーが私みたいなアイドルになりたいと言っているので教えられることは教えてあげた。ルビーは本当に才能があって、歌も前は駄目だったけど、今ではすごく上手になっていた。そんなルビーを支えてあげようとアクアも一緒に練習をしていると、家族って感じがして楽しかった。

 

 そうしている内に、ミヤコさんから未成年のシングルマザーかつ育児困難者という事で戸籍を斉藤家に移したいというはなしをされた。名目上、アクアとルビーが弟と妹という立場にするということらしい。

 

 星野姓を使うと幼稚園入園の時にバレかねないので、斉藤姓にするとの事だった。あくまで親権などは私にあって、公的な書類に斉藤を使った方がバレにくいとの事なので受け入れた。

 

 アクアとルビーは事務所のみんなに社長の愛人の子供として紹介するらしい。ただでさえ若い子好きってことで嫌われてるのに可哀想だと思ったけど、私のせいなのであとでお礼をいっておこう。

 

 そして、アクアとルビーをB小町に紹介したとき、ニノにアクアとルビーが私の子供なんじゃないか?って突き止められてしまった。社長の愛人にされているとか結構な飛躍をしてしまっていたから、それを否定する事でなし崩しで誤魔化したけど、騙されてくれた。ニノちゃん、こういうところ変わってないな~と懐かしくなった。私が言えることじゃないけどおばかっぽくて、流されやすいところもあるけどまっすぐでいい子だった。

 

 ニノは社長に愛人にされているんじゃないかって心配になって味方になりに来てくれたみたいで、その後は私に嫉妬して意地悪な事を言ってしまったと謝ってくれた。

 

 謝らなくていいのに。と思った。だってあれは私が悪かったから、責任は私にあるから。

 

 でもうれしかった。あんなに昔に書いた書き置き。気づかれないからもう忘れられてしまったんだと思っていた。あんな書き置きを見て助けに来てくれたんだ。

 

 そして、私はニノと仲直りをした。昔、喋りたかったこととかを一緒に話すと、むかしみたいに仲良く話す事も出来た。B小町で一緒に居る時間が楽しくなった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 裏 アイ②

 

 

「ママ! ママ! よしよししてぇ!」

 

「よしよし、ルビーは甘えん坊だね」

 

「は~極楽浄土~♡」

 

 私は日課になったルビーのよしよしをして、難しい言葉を覚えているルビーにやっぱりうちの子はヤバいくらいの天才なんだと改めて思った。

 

 社長さんに、アクアとルビーは頭が良すぎるから知能検査をしておいた方が良いと言われてうぃぷしーとかいうのをチェックして貰ったところ、ルビーもアクアも7歳児までの検査基準では正確な数字が測れないくらい高かったらしい。日本で一番の大学の人の平均より高いと聞いて、多分私ではなく元カレの遺伝なんだろうな~と思いつつ、なぜかミヤコさんがほっとしたような表情をしていた。

 

 アクアとルビーは頭が良い。特にアクアは、この子は天才なんだと思う事は多かった。

 

 

 

「アイ! 見て! これから演技の仕事をするからアイの演技の真似をしてみたんだ」

 

 いつもは難しい事を考えていそうな顔をしているのに、振り返ると太陽みたいな笑顔、吸い寄せられるような瞳にまるで無敵みたいな自信をもった雰囲気をしたアクアが居た。

 

 私ってこんな風に見られてたんだ。と思った後に引っかかった言葉があった。

 

 私の演技の真似? 

 

「ねえ、アクア、私の演技の真似って?」

 

「んっ? だってアイ、アイドルをしている時って演技してるでしょ? 格好いいから真似したんだよ。普段の優しくて頑張り屋さんのアイも好きだけど、アイドルをしているアイも好きだからさ」

 

「うーん、今まで演技だって分かった人ってニノちゃんしか居なかったのに……」

 

 ニノちゃんの場合、私の演技をする前と後を知っているから分かった。それでも違和感に気がつくまで、私が気がつかずに素で独り言を言ってたのを見てようやくわかっただけで、二年以上気がつかなかった。と言っていたので、演技をする事が日常的になってしまった今、自分でも嘘か本当か分からない事が多いのに、気がつくなんてやっぱり、アクアは凄いんだな~と思った。私は馬鹿だから分からないけどIQってのが高いとこんなこと出来るんだ。

 

 優しくて頑張り屋さん……初めて言われた言葉だった。アクアには私がどう見えてるんだろう? 

 

「うん、アイの助けになろうと思って、アイの行動を観察して困っていそうな事とその解決策を抜き出したんだ。それをする過程でアイの演技の部分以外を抽出してたらアイの演技の部分が出てきたからそれを真似したんだ」

 

 アクアはそう言って、私にノートを渡してきた。

 

 困っていそうな事リストの一つ目に「人の顔と名前の覚え方!」と書いてあった。

 

「アイは好意を抱いて来た相手は覚えやすいみたいだから、例えばお菓子をくれた加藤さんみたいに、好意的な行動をしてくれた事と人の顔を結びつけて覚えるようにしたらどう?」

 

 と書かれていた。そういえば、アクアとルビーの名前を覚えられるようになったタイミングも同じだったと思った。私に好意があったのを見てから名前を覚えられるようになった。

 

 思い当たるのは、私は愛せる相手を探していて、その相手ではないと分かると興味を失っているのではないか? というものだった。

 

 次のページ、次のページを見ても、実際に私が困っている事とかが幾つも書いてあって、アクアからこうすれば良いんじゃ無いか? みたいなのが沢山かいてあった。

 

 この子からすると私って相当頼りなさそうに見えてるんだな。と思うのと一緒に、この子は私でも分からなくなってきていた素の私が見えていると思うと嬉しかった。

 

「なにか困ったことがあったらなんでも言ってよ。僕が力になるから」

 

 私の駄目な所とか誤魔化してきたところとかを見ても助けたいと思ってくれるアクアは、ルビーを大切にする時の姿とダブってしまう。ああ、この子はルビーと同じくらい私の事を大切に思ってくれて、同じように助けようとしてくれるんだな。って思うと胸が温かくなる。

 

「ありがとう。アクア。大好きだよ」

 

 嘘か本当か分からなくなったからこういう事はあまり言いたくなかったけど自然に出て、つい抱きしめてしまった。するとアクアは抱きしめ返してきた。

 

「僕もアイの事が大好きだよ」

 

 私はその言葉が嬉しくて少し涙が出てしまった。作った私じゃなくて、お馬鹿でドジばっかりする私に向けられた言葉はとても温かった。

 

 

 アクアは私より私の事が分かっていると思えるかのようにどんどん解決策を出してくれるので、困ったことを相談しやすかった。そして、まだ小さいのに私の為に頑張ってくれることもとても多かった。

 

 

 監督の所に映画の撮影のキャストに急に追加された時もそうだった。

 

「今回の件はありがとうございます。本日はよろしくお願いします」

 

「おう、よろしく。ったく、あの早熟ベイビーに愛されてるねぇ」

 

「愛されてる? ですか? アクアに?」

 

「んっ? そりゃそうだろ。ドラマでお前の出番が少なかったと文句の電話入れてきたり、早熟にかわりに出るならお前を映画に出してやるって言ったら、出るって言いやがったぞ。しかも昨日の仕事は完璧だった。お前が大好きだから仕事もあんなに真剣だったんだろう。もしかして言ってなかったのか?」

 

「はい、聞いてません」

 

「照れてやがるな。あの早熟め。今度からかってやるか。まあ、いい。せっかくあの早熟ベイビーがお前の為に掴んだチャンスなんだ。爪痕残せよ」

 

 そう言って肩を叩いて去って行った監督になにも言えなかった。

 

 アクアが私のために……

 

 そう思うと力が入る。あの子は私のためにたくさんのことをしてくれている。それに応えてあげたい。

 

 そして私が活躍すると、アクアもルビーも本当に嬉しそうにする。あの姿を家に帰ってまた見たかった。

 

 いつの頃からか分からないけど、私は愛したい相手を見つけたい為でも、嘘が本当になるようにでもなく、アクアとルビーの喜んだ顔を見たい為に仕事を頑張りたいと思うようになっていった。

 

 私はあの子達に愛されている。その事が実感できるあの瞬間が大好きだった。

 

 

 

 けど、私はまだあの子達に愛していると言えなかった。

 

 なんの脈絡もなかったと思う。

 

「ママ、世界一愛してる」

 

 ルビーがそう言って胸に飛び込んできてきた。

 

 ルビーはこうやって甘えてくることはよくあった。その時にはママもルビーが好きだよ。とかママもルビーが大好きだよとか返していた。

 

 だから、ここでは「ママもルビーを世界一愛しているよ」と返すべきだった。いつも通り言えばいい。

 

 そう思っているのに。口が動かなかった。

 

 だって、この子達はこんなにも私を愛してくれているのに、愛しているって言葉が嘘だったら。そう思ってしまうとあまりに恐ろしかった。だって、あの時の自分の気持ちをあの子達にさせてしまう事になるから。

 

 次に出たのは

 

「ママもルビーが世界一好きだよ」

 

 だった。

 

 その後もルビーが離れるまで平静を装っていたが、ルビーが離れると脱力してしまった。私はこの子達にこんなに愛されているのに、愛しているという言葉すらかけられない。

 

「アイ……」

 

 心配そうに見つめるアクアが私の背中をさすっていた。最初は誤魔化そうとしたけど、アクアはそんなのお見通しだろう。私は縋るようにアクアに聞いた。

 

「ねえ、アクア……愛してるってなんなんだろうね。私は分からないんだ」

 

 アクアはなんでも知っていた。いつもみたいに教えて欲しかった。

 

「それは、僕も分からない。人によって愛の定義って違うから、アイにとって愛がなにかは分からない。だから、僕が愛だと思っている事を話すよ」

 

 アクアはそう言って、私の手を握る。

 

「僕にとって愛は取引じゃない好意だと思ってる。例えばなんだけど、子供が絶対に治ることのない病にかかってしまったとして、その子供にお見舞いなんてもう意味がないからやめてしまおうとか、世間体の為に行っておこうって親の人は愛がない人だと思ってる。だけど逆に、少しでも子供の為に、子供が心配だからとか、子供になにか出来る事がないかと会いに来てくれる人なら、愛があるんだと思ってるんだ」

 

 アクアは私の目を見て話し出す。

 

「もうすぐその行為が自分にとって無駄になってしまうかもしれないけど、その子にとってなにかをしてあげたいと思う心があるのなら愛なんだと思ってる。アイ、もし僕があと一ヶ月もしないうちに死んでしまうと分かったら、もう意味がないからって、お見舞いにもこなくなる?」

 

「そんなわけないよ。最後までアクアのそばに居る」

 

「アイ、ありがとう。だとしたら、僕の中の愛の基準ならアイは僕を愛してくれているし、僕はアイに愛されてる」

 

 アクアは言葉を続けた。

 

「僕は例えアイがよぼよぼのおばあちゃんになっても、アイが僕のことを忘れてしまっても、アイが僕のことを嫌いになってもアイの幸せを願い続けるよ。たとえ、アイに好かれなくなったとしても僕はアイのことを好きで居続けるし、アイが僕を愛してくれなくても、僕はアイを愛し続けるよ」

 

「愛は取引じゃないから、愛されたからといって、愛し返さないといけないわけじゃない。だから愛してるって言えない事自体は気にしなくてもいいけど、アイも自分の愛がなんなのかを考えないといけないと思う。それだけは僕が教えてあげられない。僕が出来るのはアイがその答えを出すまで寄り添ってあげることと相談にのることくらいしかできない。でも、いくらでも待つし、いくらでも相談にのる。だから、一緒に見つけよう。アイにとって愛ってなんなのか」

 

「うん、うん」

 

 私は嬉しくて泣いてしまった。

 

 未だに愛してるってなにかは分からないし、いつ言えるようになるのか分からないけど、もし、愛してるって言えるようになったら、一番始めに愛してるって言うなら私はアクアに言いたかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 裏 アイ③

一昨日更新すると言いましたが、無理でした。済みません。そして思ったより話が長くなってしまったのでとりあえず途中まで……やっぱり、書くイベント入れすぎた感が凄いです。④で終わるので、ほんと多分きっと。


 

 私の人生を大きく変えることになる一ヶ月は怒濤の勢いで押し寄せてきた。

 

 

 

 アクアが主演で妹役にルビー、ヒロイン役が私だったドラマが大ヒットし、アクアとルビーの主題歌はそれ以上に社会に反響をもたらしたらしい。幼稚園や小学校ではその曲が流行りに流行って、いまでは聞いた事が無い人が居ないくらいのヒットをして、何週もオリコン1位を獲得した。

 

 私も初めて聞いた時はあまりにも可愛くて、世界一可愛いのはこれだと思ったし、今でもそう思ってる。

 

 そして私たちと一緒にゴールデンタイムの生音楽ミュージックビデオに出演するまでになった。

 

 登場シーンで正装をした二人が手をつないで降りてくると、「可愛い」という声と歓声が響いた。

 

「初めまして!」

 

「初めまして、アクアです。今日はよろしくお願いします」

 

「はじめまして、ルビーです。よろしくおねがいします」

 

「いやーまだ3歳なのにしっかりしてますね」

 

「ありがとうございます。そういっていただけると嬉しいです」

 

「はじめてのミュージックビデオだけど、ルビーちゃんどう?」

 

「はい! はい! アイお姉ちゃんと一緒にミュージックビデオに出られるなんて夢みたいです!」

 

「元気ですね~B小町のアイさんとは生まれた時から一緒に暮らしていたとか?」

 

「はい、僕達にとっては本当の姉みたいに育ったひとで尊敬するアイドルでもあります。なので一緒にこうやって出演できたのは夢が叶った気分ですね」

 

「そういえば、ツイッターではなんと30万もRTされたアイさんのライブで赤ん坊がオタ芸を行う動画のお二人らしいですね」

 

「当時、僕達はB小町の過去の動画とかをずっと見て育ったので、B小町、特にアイお姉ちゃんはヒーローみたいに思っていた事を覚えています。なんでオタ芸を二人してやっていたのかは覚えて居ませんが、多分、面白そうだったからだったような気がします。ルビーどうだっけ?」

 

「これは私達が生まれる前からアイお姉ちゃんを推していたことによる私たちのオタ本能ゆえの行動だよ!」

 

「ルビー、ここで適当なこと言わないでよ」

 

「えへ☆だって、生まれる前からアイお姉ちゃんの歌を聴いていたのは本当でしょ?」

 

「お二人は本当にアイさんの事が好きなんですね。今回はアイさんと一緒にドラマにも出演されていましたが、どうでしたか?」

 

「とてもハラハラした現場でした。今回はルビーが自由裁量権を与えられたようなものだったので、ルビーが暴れる現場を僕や同じ主演の松本さん、アイお姉ちゃんがなんとかしていた感じです」

 

「酷い。だってあれは監督がお前は演技はしない方が魅力的って言うからじゃん!」

 

「さすがに元気すぎて、振り回されっぱなしでした。まあ、そんなトラブルメーカー役だったからこそ、ドラマを見た視聴者の方もルビーがどんな大暴れをするか毎回ハラハラして見てくれた方も多かったみたいです。僕自身もそれが成功の要因だと思っているのでなんとも言えない感じですね」

 

 

 

 そんな風に生放送なのに質疑もきちんとしているアクアと反応がかわいいルビー。どっちも私の事を好きって言ってくれていて可愛かったのを覚えてる。

 

 本当は姉ではなくお母さんとして紹介されたかったけど、テレビでは私達は一緒に家族みたいに育ったお姉ちゃんという設定で通してる。お姉ちゃんとして接するのも楽しかった。

 

 後ろでは生放送でやらかさないかヒヤヒヤしていた斉藤社長が居たけど、なんとか無事に乗り切って安心していた。

 

 

 

 

 

 その後はついに、二人がアイドルデビューをすることになった。

 

 社長とアクアが紅白歌合戦に出場すれば最年少出場になるからニュースになる。その時に一気に全国へアイドルグループの立ち上げと新曲発表をすればアピールできると言って、ここまでずらしていた。

 

 双子星

 

 双子の二人のユニットらしい名前だった。

 

「ねえ、ママ、私ほんとうにアイドルになるんだよね」

 

 目を輝かせたルビーが聞いてきたので答える。

 

「うん、ママと一緒だね。ルビーがアイドルとしてテレビに映るの楽しみだな」

 

 本当に楽しみ。ダンスも歌も笑顔も全部すてきなルビーならわたしよりずっとアイドルとして人気になる。

 

「本当になれるんだ。嬉しいな。私はずっとアイドルになりたかった。ママみたいにキラキラしたアイドルに憧れて、それをお兄ちゃんに応援してもらうことがずっとずっと夢だった」

 

 そんな風に言うルビーはほんとうに可愛かったのでつい抱きしめてしまった。

 

「じゃあ、夢叶っちゃったね。ルビーなら私より素敵なアイドルになれるよ。ひみつだけど、社長もアクアも将来はルビーをB小町に入れたいって言ってるんだ」

 

 まだ秘密だって言っていたけど、言っちゃおう。

 

「私がB小町に?」

 

「うん、私と一緒に歌って踊って、そして私が引退をしたらルビーにB小町のセンターを任せたいって言ってる」

 

「私がママと一緒に、そしてママのあとに……」

 

「その時は何歳だろうな~。ルビーが14歳とか15歳の頃かな。だとすると私も30歳か~。そこまでやれるか不安だけど、ルビーと一緒にアイドルをするの楽しみだから頑張ろうかな」

 

 そんな未来があると思うとわくわくしてしまう。だって絶対に楽しいってわかるから。

 

「本当に夢みたい。でもこんなに幸せで良いのかな? こんなに幸せなのは夢だからって思ってた。そして夢でも良いって思っていた。けど、今はそれが怖いくらい幸せなの」

 

 いつの間にかルビーは涙を流しながら話していた。

 

「叶わない夢だと思ってた。お兄ちゃんに応援してもらえるだけで十分だったのに、今はママとお兄ちゃんだけじゃなくて沢山の人が私を応援してくれて、助けてくれて、私の夢を応援してくれてる。それが嬉しくて仕方ないの。だからもしこれが夢だったらって思うと怖いんだ」

 

 胸の中で泣いてるルビー。この子は本当に明るくて元気で不安なんてないようで、実はこんな事を考えてたんだ。そう思うとルビーの事を一つ知れたようで、少し嬉しくなってしまった。

 

「ルビー。もし夢だったとしてもやり直しちゃえばいいよ。そしたらこんな夢みちゃった。こうなりたいから応援してって言ってくれれば、私もアクアもみんなも全力でルビーを応援する」

 

「本当?」

 

「だって私もアクアもみんなも、みんなルビーの事が大好きだからね」

 

「うん、ありがとう。ママ」

 

 胸の中で泣き続けるルビーの頭をなでる。

 

 夢みたいなのは一緒だよ。ルビー。私も毎日がこんなにドキドキして楽しくて仕方のないものなんて知らなかった。これが全部夢でしたなんて言われたらと思うと怖い。でも、アクアとルビーが居ればどんな事があっても幸せになれるって信じてる。

 

 

 

 この後の二人のアイドルデビューも大成功だった。初週からオリコン1位になって世間を騒がせる大ヒットになった。

 

 

 

 

 

 私は毎日、アクアとルビーの活躍する姿を見て、楽しく過ごして、こんな時間がずっと続けばいい。そんな事を思って過ごしていた。

 

 

 

 今日も楽しかったと思って寝る準備をしていると、電話が鳴った。

 

 

 

「あれ、ヒカル君だ。なんだろう電話をかけてくるなんて」

 

 出産に立ち会うと言って来なくて、それからは音信不通になっていた元カレだった。

 

「もしもし、アイ、今大丈夫?」

 

「うーん、大丈夫だけど、なに? 出産の時、結局来なかったのに」

 

「ごめん、ごめん、さすがに九州は遠くて」

 

「せめて連絡くらい欲しかったよ」

 

「……本当にごめん。あの時は色々あって気が動転していて、今は大丈夫、いまは生活も安定して大学に通ってるんだ」

 

「まあ、私が勝手にやったことだから良いけど……で、何か用があって電話かけてきたんでしょ」

 

「じゃあ、まずはおめでとう。ドーム公演に紅白出演。さすが、アイだ」

 

「ありがとう。ヒカル君も元気そうで良かった」

 

「……それで用件なんだけど、子供と1度顔を合わせたいと思って」

 

「アクアとルビーと?」

 

「ああ、テレビみたよ。ルビーも、特にアクアは僕の小さい頃そっくりでね。やっぱり僕の子供なんだな。って思ってしまったんだ。だから父親として1度会いたいって思って」

 

「う──ん、今は二人とも忙しいし、紅白も直前だから無理だけど、年明けなら時間を取れるかも」

 

「……アイも忙しいだろうし、僕が直接行くよ。住所はどこなんだい?」

 

「◯◯区××町の▽▽って建物の4階の405号室だよ」

 

「分かった。空いてる日にちが分かったら連絡をしてほしい」

 

「うん、じゃあまたね」

 

「うん、また会おう」

 

 なんだろう。と思ったけど、アクアとルビーにも1度紹介する良い機会だと思った。さすがにあれだけ助けてくれたヒカル君を愛してくれなさそうって理由でポイッとしてしまった罪悪感はあった。

 

 アクアとルビーが受け入れてくれるなら……今更一緒に暮らすとかやり直すなんてことは出来なくても、ヒカル君も同じ苦しみを持つ者同士、力になってあげたいと思えるようになった。私がアクアとルビーに救われたように。

 

 これは一人でどうにかするのは無理だから。私にはアクアがずっと相談にのってくれて寄り添ってくれるから、いつかどうにかなるという希望があった。今の気持ちが大きくなった先に愛の答えがあるって信じてるから今を楽しく生きられてる。

 

 彼を今更愛することは出来ないと思う。けど、彼が私の為にやってくれた事に対してなにか返してあげたいと思った。自分の好意を無視される事は悲しいことだ。あの時、私は自分のことばっかりで、彼の気持ちを踏みにじった。だからせめて彼の力になろう。だって、好意を無視されるのは本当にツライことなんだから。

 

 

 

 あれっ、私はいつ好意を無視されてツライことなんてされたんだっけ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ…………

 

 

 

 

 

 私は思い出した。

 

 

 

 私は過去に愛した事も愛された事もないと言ったけど、私は過去に人を愛した事があった。私はお母さんを愛していた。

 

 

 

 付き合っていた男の人に愛されなくてお酒に手を出して泣いていたお母さんに、言ったんだ。

 

 

 

「私が居るよ。私はお母さんを愛してるよ。だから泣かないで」

 

 

 

 その答えは暴力で返ってきて、殴られて、蹴られて、どれだけ泣いてもやめてくれなくて、最後に……

 

 

 

「あんたなんか産むんじゃなかった」

 

 

 

 そう言われたのを覚えてる。その後、私は高熱を出して、本当に死んでいまいそうになった。人の名前を覚えられなくなったり、前に出来ていたいろいろなことが出来なくなってしまったのもこの頃だった。

 

 

 

 多分、その頃に私は壊れてしまった。

 

 

 

 それでも壊れてしまったことを悟られるのが嫌で、捨てられてしまうのが嫌で、殺されてしまうのが嫌で、いい子になろうとした。

 

 

 

 けど、結局、愛されずに終わってしまって、ただ、ドジで馬鹿で嘘だけが得意になった私だけが残った。たくさん愛しても愛されるとは限らないというのをこの時学んだ。

 

 どんなに愛しても、それを目障りに思ってくる人が居ることを知った。どんなに愛しても嫌われてしまう事を知った。

 

 この頃があまりに辛くて苦しくて、記憶から消したんだ。

 

 私は誰かを愛したい。愛する対象が欲しかった。それは本当。だけど、本当は愛を受け入れてくれる人が欲しかった。でも期待するのが怖くて、返ってくるかもしれない拒絶が、暴力が罵倒が、なによりも愛する気持ちを踏みにじられることが恐かった。痛くて死んでしまいそうなあの時の気持ちはもう二度と感じたくなかった。 

 

 もう一度、同じ事をされたら私は生きていけないと思うから。

 

 ヒカル君は優しかった記憶しかない。なのになんでヒカル君の言葉を聞いてお母さんを思い出したんだろう? あの愛を踏みにじられる痛みの感覚が来たんだろう? 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 裏 アイ④

 お母さんとの生活を思い出すと胸が苦しくなる。

 

 脈を打つたびにドクドクいう痛みとゆっくりと死が近づいて来るあの恐怖が蘇る。

 

「アイ? ルビーはもう寝ちゃったよ。さっきまで電話してたみたいだけど、まだ起きているの?」

 

 眠いのか目を擦りながらアクアが来た。

 

「アイ!? どうしたの、顔が真っ青だよ」

 

 そうなのかな? 私には分からないけど……アクアは凄く心配そうな顔をしている。

 

「少し横になろう。今、水を持ってくるから」

 

 アクアがそう言って水を取りに行った。心配してくれてるし、ちょっと疲れてる気がするから横になる。

 

「どこか痛かったり、違和感のあるところないか教えて」

 

 首を横に振った。どこも痛くないし、違和感のある所もなかった。

 

「ありがとう、アクア、大丈夫。ちょっと昔の事を思い出して、気分が悪くなっちゃっただけだから」

 

「少し落ち着こう。水は飲めそう?」

 

「ありがとう。もらうね」

 

 水を飲むと少し落ち着いてきた。やっぱりアクアは頼りになるなぁ。とのんきに思ってしまった。

 

 こうして顔を近くで改めてみるとアクアはヒカル君に似ている。似ているけど、なにかが違う。そのなにかが出てこない。

 

「アクアは……さ。昔、言ったよね。愛は取引じゃないから、愛情を返されなくてもかまわないって」

 

「うん、言ったよ。俺はアイとルビーになら嫌われようがなにしようが2人を愛し続けるって」

 

「もしそうなら辛くならない?」

 

 私は苦しかった。死んでしまいたくなるくらい。けどアクアはそれでも良いって言う。その答えの意味が知れれば、少しアクアを理解できるかなって思った。アクアみたいになれたら、私ももうちょっと違う未来があったのかな。って思った。

 

 アクアは少し考えるようにして言葉にした。

 

「そうだね。確かに傷つくし、なんでこんなにしているのに嫌われるんだろう? って止めたくなることもあると思う。愛は無限じゃないし、気持ちが折れてしまって最愛の人から離れてしまう人を俺は止めることは出来ない。でも……出来る事はしたいと思ってる」

 

「出来る事?」

 

「俺は子供で、出来る事は本当に少ない。芸能界という特殊な環境だからお金とかも稼げるし、仕事が貰えるから人とコミュニケーションを取って付き合うことが出来るけど、そうで無ければアイに対して出来る事なんて殆どないんだ」

 

「そんな事ないよ。私は毎日の生活でもアクアに沢山助けられてる」

 

 アクアから貰ったノート。本当に嬉しかった。二年経った今でも一緒にやってるし、二人で色々なことを解決してきた。もう使わなくなってしまった一冊目もずっとずっと取っておくつもり。私の宝物。

 

「それはアイが俺を信じてくれたから。子供の言うことなんて。なんて思わずに、否定せずに自分の弱い所を見て治そうという意思があったからだよ。本当はそんな人は少ないんだ」

 

 アクアが手を握ってくる。温かかった。

 

「俺は仕事で何度もそういった事は拒絶されてきたから分かるよ。自分より小さい子供に注意されたりするのはもちろんだけど、アドバイスを貰ったり、間違いを訂正されたりすると殆どの人は拒絶したり、聞き流すのが当然だって。俺はそれは仕方ない事だと思ってるし、だからこそ他人と接する時はそういう事を受け入れやすいキャラになるように努めているつもり。ある意味、俺の言うことを聞いてくれる人なんて殆ど居ないって諦めてるって言っても良いと思う。諦めてるから嘘をついて、波風を立てないように立ち回ってる」

 

 アクアの手を握る力が強くなる。

 

「でも、アイは俺のそんな言葉を受け入れて、信じてくれた。何の肩書きも実績もない子供の俺の言葉を真剣に受け止めてくれた。そんなアイだから助けたいんだ。力になりたいんだ。そんなアイの事が好きだし、そういうアイを愛してる。愛は1度愛すれば永遠に続くものではないって分かってるけど、それでも永遠に愛したいと思えたアイだから、嫌われても、愛されなくてもいいって思えたんだ」

 

 そう言うアクアは本当に真剣に私にいろいろな事を伝えようとしてくるのが伝わる。心から私を思ってくれてるんだっていう事が伝わってくる。

 

 今まで、アクア以上に親身になって私の為にこんなことをしてくれる人なんて居なかった。だから、ノートの事も解決なんてしなくてもその気持ちだけで十分だった。

 

「もし、アイが俺の事を信じてくれなかったり、それに怒ったり、殴ったりするような人だったら、そんな事は思ってないよ。アイの人柄を知って、一緒に暮らして、一緒に話して、一緒に色々な事を乗り越えて、その中で、アイなら俺がアイの為を思って行動すれば、分かって貰えるって信じているからこそ言うんだ。嫌われても、アイならまた愛する事が出来るって信じてるから言える事なんだ」

 

 

 顔が真っ赤になっているのが分かる。だってこんな事言われたことないから。顔が可愛いだけの私は嘘をつくことでしか愛されなかった。でも、そんな私をまっすぐ愛してくれるアクアが愛おしくて仕方なかった。

 

「で、でも、アクアは知らないかもしれないけど、元々、私は無責任で、どうしようもない人間で、アクアとルビーが生まれた経緯だってどうしようもない身勝手な理由なんだよ。愛されたくて、愛されなかったら名前もまともに覚えないような人間で……アクアとルビーがもっと小さかった頃だってまともに名前も顔も覚えられなかったし」

 

 なんでこんな事いってるんだろう? あんなに愛して欲しいと思ってたのに、なんで嫌われてしまうようなことを言ってしまうんだろう。

 

「でも、変わろうと頑張ってる姿を俺は知ってるんだ。俺とルビーが生まれた経緯とか過去とかなんて関係ないよ。今、アイは俺たちを愛そうと努力している事を知ってる。愛が分からないって言ってても、ファンのみんなを愛そうと頑張ってきてるのは分かるしずっと見てきたよ。頑張って、努力して、分からないものをアイなりのやり方で伝えようとしてるのを知ってるんだ」

 

「アクア……」

 

「だからさ。アイには幸せになって欲しいんだ。アイの頑張りが報われて欲しいんだ。例えアイに好きな人が出来て、俺やルビーがアイの中で二番目とか三番目になってしまっても、アイが求めたものを手に入れるならそれを応援することが出来るし、アイの事はずっと好きで居られると思うから」

 

 ああ、分かった。分かってしまった。ヒカル君とアクアの違いが。ヒカル君は別れる時に「どうせ本当の愛なんて見つかるわけがない。きみが傷つくのを見たくない。ここに居るのが君の幸せだ」と言って、私を引き留めたけど、あれって、本当は自分の為だったんだ。私の為って言っていたけど、嘘だったんだって今、分かってしまった。彼は優しかったけど、優しい時は、彼の望む反応をしていた時だけだった。

 

 彼の所に居たくなかったのは多分、それがなんとなく分かってしまったからだって。彼は彼の為に言ったのであって、私の気持ちを理解してくれたわけじゃないし、心配してくれたわけでもなかったって。

 

 お互いに自分の気持ちだけが大切なある意味お似合いのカップルだったなって。

 

 本当の幸せを願ってくれる人を、私を愛してくれる人を見て、そう思ってしまった。

 

 アクアはいつもそばに居てくれた。私がずっと隠していたことも理解してくれた。あらゆることから守ってくれた。全てを惜しみなく与えてくれた。私はただ受け入れるだけで幸せだった。

 

 だから、一歩踏み出そう。恐いけど、また拒否されたらと思うと本当に恐いけど、それでも、この気持ちを伝えたいって思えたから。この子の事を愛したいって思ったから。アクアから沢山受け取った愛を少しでも返したいから。

 

「アクア……」

 

「アイ?」

 

「愛してる」

 

 この日、私はずっと追い求めていたものを手に入れた。

 

 

 

 

 

 私にとって世界ってもう少し淡々とした、毎日がコピーされたみたいな平坦なものだったのに、今は毎日刺激に溢れるようになった。

 

 子供達の声が聞けて、姿が見られて、目が合って、それだけで胸が温かくなって、その些細な幸せで心が満たされていく。笑っている姿を見るだけでこっちも自然と笑顔になって、喜んでいるとこっちも嬉しくなる。これが愛なんだ。

 

 そして……そんな気持ちを私に対して感じてくれる人がいる。私を愛してくれている人達がいる。

 

 社長やミヤコさん、B小町のみんなに、スタッフの人やファンの人達も私を愛してくれている。

 

 なら、その人達に愛を返そう。私にそんな気持ちを持ってくれるなら、歌でダンスで笑顔で、私のできるやり方で愛を返して、すこしでも私が今、感じている幸せな気持ちを感じて欲しい。

 

 私はアクアを愛して、愛することが出来るようになってそんな風に思えるようになった。

 

 あれからアクアと話すと胸がドキドキするようになって、肌を触れあうと満ち足りた気持ちになるようになったりした。ルビーへの気持ちもいつかこうなってしまったら、私は毎日ドキドキして過ごすようになってしまって困るかも。なんて思いながらも、それはそれで楽しそうとも思ってしまう。

 

 最前列にいる二人の子供を見る。

 

 赤いサイリウムを元気よくふって私を応援してくれている。

 

「アクア、ルビー……愛してる」

 

 今まで恐くて言えなかったけど、今はこうやって当たり前に言えるようになった。

 

 そして、愛したいと思っていたファンの人達にもようやく心から愛してるって言えるようになった。

 

 今度は嘘じゃない私の愛の言葉をみんなに伝えたい。

 

 私がこんなに幸せなのはたくさんの人が応援してくれてるからってわかったからその感謝の気持ちを言葉で伝えたい。

 

「みんな~!!ありがと~!!愛してる~!!!」

 

 

 

 私たちの新曲「アイドル」は発売して一ヶ月が経たない内にユーチューブ再生数1億を達成し、日本どころか世界でも大ヒットしていく曲となった。私はこれからどんどんアイドルとして大躍進を遂げていくけど、心残りが一つだけある。

 

 それからヒカル君の電話番号にいくらかけても「現在使われておりません」という言葉が聞こえるだけだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 友達

 

 あかねちゃんを攻略するRTAはっじまるよー! 

 

 さて、前回は、あかねガチャを一発で引けたところまでですね。今回のRTAにおいて、かなはまだ落ちぶれていないどころか、年収億プレイヤーかつテレビドラマアカデミーの新人賞をとった実力派なので、オーディションなんて受けないどころか出演依頼を複数持っていて、いくつもの選択肢があるレベルです。

 

 なのでオーディションで出会う可能性はなく、共演という形であかねとかなが出会う形なんですが、通常、かなと出会うまで、あかねはプロファイリング能力など様々な特殊能力覚醒をしていないので、並の子役に過ぎません。なので、基本的にかなとあかねの出演が被る確率は低いんで、最悪、最終月になるかもしれないな。と思いつつプレイしていたんですが、なにがあったんだろう? 

 

 正直、現在の格で言えば今のかなは 原作あかねの最終章時より上なんですよね。ちなみに現時点でアクアはフリルより格上になりました。役者として新人賞&オリコン1位独占してと暴れまくりなので知名度が化け物すぎて、こいつ持ってくるだけで視聴率が大御所並に上がります。

 

 やっぱり、紅白の補正強いですね。ルビー含めて支持されている年齢データを見ると、ほぼ全世帯に刺さるので、視聴率もですが、宣伝効果も強いのでCM系の依頼が多く来てますね。今年は年収、億プレイヤーは確実です。アイ? 覚醒アイは日本超えて世界なので……

 

 B小町も今までのことが報われて1000万プレイヤーになります。バックダンサー頑張って良かったね。頑張って20万とかなら我慢出来ないけど月収100万とかになったら我慢できるよね。不満がめちゃくちゃ下がる音がする気がする! 

 

 さて、脱線しましたが、かなとあかねはゲームの設定的にモブ役では出会わないはずなので、メインキャストなはず。にしては時期が早すぎるので、出演作品を確認しますね。

 

 あっ、出演するドラマの配役が子供だけかつ、ルビーと共演になってますね。だとすると顔枠として呼ばれてますね。

 

 ここまで説明して来ませんでしたが、ルビーはアクアの中身がごろーせんせだと気がつくと覚醒し、アイドルのギフテッドが機能するようになるんですが、この際に低確率で天性のカリスマも付いてきます。このカリスマは他人に注目される力で、センター適性とか、ファン獲得率、注目度などさまざまな能力が上がる良スキルなんですが、芝居だと、ルビーの容姿が最高値なので、それとカリスマが合わさって、最強の存在感のキャラになります。アイドルとしては良いんですが、これが役者として使うと、まあ、使いにくい。天性つきは倍率が高い代わりに制御できないので。

 

 初期はモブしか出来ないのに、モブをやっても目立つので、そこで経験値が溜まらず、評価も低くなるので、役者としては停滞してしまいます。

 

 カリスマがある超絶美少女がモブとか出来ない! ということで、アイドルとして活躍してから役者してね。という流れに通常はなります。

 

 今回はバーターシステムを使って仕事を手にしましたけど、本来、仕事もらえません。周りの人たちの容姿が85以上ないと目立ちすぎるみたいな超劇薬ですね。原作のアイが努力の結果としての疑似カリスマなんですが、ルビーの場合、天然物になります。コントロールできません。

 

 なのでルビーを出す場合、普通の役なら主演級やメインキャストを85以上にしないと使えないとかいう縛りにさせられます。じゃないとカリスマでバンバン目立って、主演たちを食ってしまいます。

 

 この85以上って原作キャラや鏑木Pのお気に入り並の容姿以外駄目ってことなので、自然と原作キャラが集まることになるので、こういった確率操作するのには便利です。この為にルビーに役者をさせてきたと言っても過言では無いです。あかねちゃんは顔面レベルの高いキャラを集めるおじさんにホイホイと釣られたわけですね。

 

 五反田監督、撮る映画やドラマがロリ美男美女ばっかりになってるけど大丈夫か? ……大丈夫じゃないですね。頑張れロリコンおじさん。

 

 まあ、そんな感じであかねを釣れましたので、好感度を上げていこうとするわけですが……まずはアクアに対する好感度チェックしていきます。

 

 

 やった!! 好感度でアクかなコンビ補正が付いてます。(コロンビアのポーズ)

 

 

 説明しますと、あかねは原作ではかなの厄介ファンかつ反転アンチですが、初期は熱心なファン(マイルドな表現)として描かれています。なのでかなと一緒に活動してアクかなコンビで活躍していくと高確率でアクかなコンビのカプ推しになってくれます。なお超低確率で反抗心とか嫉妬心とかを持つツンデレあかねちゃんになります。ツンデレあかねちゃんを出したければセーブしてリマセラしまくりましょう。100回に1回くらいの確率でツンデレあかねちゃんが現れます。

 

 好感度が無い状態で始めると、あかねって男キャラに対する壁があって逃げちゃうんですよね。多分、好きな女の子にちょっかいをかける男の子特有のあれのせいですね。あれを何度もやられたら男嫌いになるのも当然なので仕方ないね。

 

 ですが、アクかなコンビ補正があれば逃げずにコミュニケーション出来ます。コミュっちまえば、洗脳し放題だぜ。

 

 ということでファーストコミュニケーションです。おらおら、友達になれたら死んじゃうくらい嬉しいアクア様のお通りだ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 よし! これでもう逃がさないぞ! ストーカーになって好感度を稼ぎます……とその前にかなちゃんを紹介しないと(ゲス顔)

 

 

 本来なら早く出会ってしまうとかなの好感度上げが間に合わなくなるのですが、今回のRTAにおいてはもう80まで貯まっているので、かなの好感度上げをしなくても良くなっています。

 

 かなは嫉妬深いのであかねにばっかり構うと好感度が上がらなくなるので、80まで上げてから出会わないと普通なら再走になるので、早すぎると駄目、遅すぎてもロスが増える鬼門な部分。最適なタイミングで来てくれたので、普通にかなと一緒にトレーニングできますね。

 

 

 かなちゃん! あかねちゃんと親友になって将来のライバルを育ててよ! 

 

 

 ってことで、かなとあかねのお互いの好感度をあげて友達にしましょう。

 

 かなの「巨星の演技」とアクアの「天才」の相性が抜群なので一緒にトレーニングするとあかねも通常の3倍くらいの早さで成長してくれます。赤い彗星みたいな早さです。あかねは他のキャラと違ってギフテッドが汎用のやつな代わりに基礎スペックが化け物なキャラなので、効率がいいです。

 

 今はかなり役者として差があるけどアクかなの間に挟まれてモチベーション最高な状態で最適な環境で鍛えれば成長速度は化け物になります。かなの「巨星の演技」が消える6歳まではずっ友だよ! 

 

 1年だけでも友達になって欲しいので、あかねコミュとかなコミュ取ります。アクア君は百合の間に挟まる男になりたいんだ!! 頼むぞ! 頼むぞ~! 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 やりました! (コロンビアのポーズ)

 

 

 性格がアレなかなちゃんも自分を本当の姉のように慕ってくれるあかねちゃんは可愛いみたいですね。うんうん、いい事だ。幸せにおなり。

 

 原作ではありえない友情のシーンです。これこそゲームならではのイベントですね。仲の悪かったキャラ同士が初めての出会いの改変で親友になる。

 

 原作ファン必見のイベントですね。

 

 これであかねの好感度上げはアクかなあかねの友情タッグトレーニングで勝手に上がるので、あかねは1年後には忙しくなると思うので、今のうちに能力を上げていきます! 

 

 ついでにルビーも加えて練習! 練習! 練習していきます! 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 う~ん、あかねさんと呼ばないといけないステになりました。天才じゃったか! と言いたくなる成長率です。

 

 やっぱり「天才」と「巨星の演技」って凄いんですね。金色だけあるし、あかねも馬鹿みたいな高スペックなので、それをかけ算で上げられると、一気に伸びます。

 

 

 かなが居なければ子役ナンバーワンになれたくらいにあかねの能力を上げたところで今回はここまでです。

 

 

 

 ではまた次回、サラダバー! 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 裏 アクア⑤

本日2話目です。短いですが、カミキくん、さすがに雑処理過ぎたので補足として。まあ、多分あとは殆ど出てこないですが、アクアがこうやって封殺するために動いてますよ的な感じです。
かなちゃんは後半ではメインヒロインなのでへーきへーき。少しだけヒロインらしい境遇とイベントがあるだけですよ。


 

 

 

 カミキ ヒカル

 

 

 俺たちの近隣で起きた事件。刃物を持ち歩き、不審に思った警察官の職務質問に対し逃走した男についての裁判結果が出たので、裁判議事録や周辺の人達の話を聞き、顔写真なども確認し、そして確信した。

 

「やはり、間違いない。前世で俺を殺した男だ」

 

 アイから俺の父親に近々会うという事を聞いてから警戒はしていたが、少し前に捕まった不審者がかつて俺を殺した男だった。九州の片田舎にある病院にアイが居たことを知っていた件に関して、奴が地元民で、たまたまアイを見つけた可能性はあったが、今回でそれは否定された。アイ、もしくは社長付近の人間が漏らさないと、こいつが俺たちの新居をこんなにも早く特定出来ない。

 

 アイはかつて言っていた。立会人が来るかも知れないと。そいつが俺の父親だとするなら、全ての辻褄が合う。

 

 俺を殺した時にアイの事を犯人に情報提供をした奴こそ、俺の父親だという事に。

 

「アイの話した情報から推測するにいくつか候補は挙がったが、ララライの可能性が高いと思い、ララライの所属名簿のアーカイブから発掘した顔写真から俺と顔の似ている男を見つけて、調べて、確信した。こいつが俺等の父親」

 

 パソコンにまとめた資料を見る。

 

「今はK大学理工学部の学生カミキヒカルか...経歴を見るとずっと、K大系列なのか。あそこは創業者の御曹司が多いし、親がその系列大学卒じゃないと系列幼稚園や小学校、中学に入るのは相当な学力と資金が必要だ。親がどこかの社長なんてこともあるかもしれない。元劇団ララライの看板役者にして、俺の父親。そして前世の俺の死因の男。調べないといけない」

 

 ネットのアーカイブに残っていて助かった。魚拓で保存していたオタクサイトの残骸から探し当てるのには苦労した。やはりネットで集められる情報は少ない。

 

「社長にも話しておかないとな。アイの護衛体制をどうするのかも話さないとだし、探偵を雇うなり、興信所を使うなりするにも大人の手がいる。手駒が一人ならいい。だが、またこんな殺人すら厭わないような奴がこっちに送ってこられるなら問題だ」

 

 殺意のある人間を止めることは難しい。何十人もの警備体制を整えても、一人の素人が手製の拳銃を作ってしまえば護衛対象を簡単に殺す事ができるのが現状だ。

 

 完全な対策なんてない。ゆえに殺意のある人間をいかに減らすか、そして把握しておくのかが重要だ。

 

 外からの情報は社長に任せるしか無い。なら俺は中から集めることにしたい。まず、あそこの大学系列は身内意識が強い。創業家の血筋を引く2世、3世が多く通う点もあって、他の大学系列と少し毛並みが違う。情報を集めるなら中から。なら幼学舎に入るのが手っ取り早い。OBを探して入りやすい幼稚園へはいるための推薦状を確保しないと。

 

「あとは奴の古巣であるララライ。そこへ入るのはリスクが高いかもしれない。中に渡りをつけられる人と関係を作って調べないといけない。……が、相手にこっちが知っていることを知られていないというのが一番のアドバンテージ。これは大事にしないといけない」

 

 アイは父親の携帯の電話番号にかけても繋がらないと言っていた。解約のアナウンスなのか、使われていない番号に転送しているのかは分からないが、不審者が見つかったタイミングでのことを考えると黒に限りなく近いグレーだ。

 

 手駒が捕まってしばらくは警戒をしていただろうが、半年近く何もなかったら警戒も解いてるだろう。今のうちに動いておきたい。

 

 アイには言えない。

 

 アイは今、精神的に安定してきたところだ。そんな所に、俺を殺した犯人の事、そしてその情報提供者が自分の元恋人だったなんて事を知ればどうなるか分からない。

 

 もし、また電話が来るようなら相談して欲しいと言ってある。もし次来るようであればそこに罠を張ることもできる。まだ逼迫した状況ではない。

 

 

「愛してる」

 

 アイのあの時の言葉と顔を思い出す。

 

 あの子を守らないといけない。あの子を守る為なら何だってやってやる。

 

「ようやくアイは人生を謳歌できるようになったんだ。それを邪魔なんてさせない」

 

 何もかもやり遂げたと思っていたらと考えると少し憂鬱になったが、俺はアイとルビーの幸せを守らなければならない。

 

 カミキ ヒカル

 

 こいつは俺が排除する。

 

 

 

 

 

 

 そう決めてしばらくして、ルビーの事を思い出した。

 

 俺が入るなら、ルビーも必然的に一緒の学校に通うことになる。

 

 小学校の入試はかなり特殊だ。数量・図形・記憶・言語・常識・推理・制作・絵画・運動・行動観察・口頭試問とやるべき対策が多い。だから大体3歳から特殊なトレーニングをしないと受からない。早いやつは1歳からやっている。あと名門は学閥があって、親がその系列の出身かどうかをチェックされるので、その系列出身者が親に居ないと不利になる傾向もあったりする。学内順位10%に入るくらいでないとキツい。

 

 中身が中学生くらいとは言え、仕事をしながらこれはキツいだろうと思って止めた。

 

 止めたのだが、ルビーが「お兄ちゃんは私が幼稚園児に負けると思ってるんだ!酷い!」とか言い出した。

 

 そして、今では時間がある時は問題集のアプリを延々と解いてる。あれ脳トレを延々とやり続けるようなものだからキツいだろうに。これで諦めたら幼稚園児以下と認めることになると思って必死に勉強していた。

 

 受かったらよし、駄目ならかなの行く予定の私立小学校に行けばいい。そんな気持ちで居たが、共演者の中に幼学舎の受験組の子役の子が居た。黒川あかね。3月時点での小学受験統一模試の主席らしい。

 

 ルビーが頭を捻っていると、教えてあげていた。かなり面倒見が良い性格だ。

 

 話してみると、こちらに驚くくらい好意的でアドバイスをしてくれて、やっぱり現役受験組の情報はありがたかった。話を聞くと有意義な情報を手に入れたし、お下がりで良ければ受験資料なんかをくれるなんて話も出たので、仲良くしたいと思った。

 

 そうして仲を深めていくと、今年の受験が終わった後、本格的に演技を学ぶため劇団ララライに所属する為のオーディションを受けるという話を聞くことになった。

 

 全てが噛み合ったような、今、出会いたい人物が目の前に居る。

 

 俺は黒川あかねと仲良くすることにした。とはいえ、黒川あかねは男性に苦手意識があるように見えたので、ルビー、そしてかなも巻き込んで会うことにした。特にかなに強い関心があるように見えたので紹介することにする。口の悪いかなは友達が居ないし、すぐに人が離れていってしまうので、これくらい好意的な子の方がうまくいくと思った。

 

 最近、かなは忙しそうにしている。子供の就労時間は週40までだが、それに稽古なんかは含まれない。就労可能時間の制限はあるが、家、もしくは事務所のレクレーションルームを自称する部屋でされたら自主的にやったことにされる。学校に行きながら、稽古をしながら40時間働く。はっきり言って頭がおかしいスケジュールだ。医者時代も地獄だと思ったが、芸で生きる人達の倫理観はそれを超えておかしい。

 

 同世代で同性の友人が居ないと相談相手が大人になる。その大人は倫理観がバグったやつらばかりだ。

 

 話した感じでしかないが、黒川あかねはまともだ。かなにはまともな友人関係を作って欲しい。俺はライバル視されすぎてアドバイスが逆効果になりがちだ。まともな倫理観をもった友人を一人でも作っておくことはかなの為になる。

 

 カミキ対策は黒川あかねと親しくすることで進めていく。

 

 利用するようで悪いが、仕事では精一杯フォローするから……と、小さい子供を利用することに罪悪感を覚えながら、今日も彼女と仲良くなるために話しかける。

 

 




 アイが生きてるのでさらっと情報抜き取り放題。億単位で稼ぐ芸能人を複数抱える事務所社長のパワーを使って監視&調査。そして前世とかいうクソ要素で把握されている殺人事件や人間関係。ミステリー小説なら許されない行動ばっかしてるアクアくん。

そして、

アクア「黒川あかねは使える。ここで手放すわけにはいかない」

罪悪感からあかねちゃんを接待しまくるアクアくん。練習に付き合ったり、本番でもフォローしたり、一緒に遊んだり、親御さんと仲良くしたり、同じ学校志望なんですとか言い出したり、入る予定の劇団に興味あります!一緒に見学行こうとか言い出したりする。微笑ましいね。初恋かな。次はあかねちゃん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 裏 あかね①

演技のパートがすごく長くなってしまったので、分割して投稿します(白目)。



 

 

 

 

 憧れて……

 

 

 

 私が演技を始めたのはいつだったっけ? そんな事を思い出す。

 

 そうだ。何十回も見た大好きなシーン。はじめてみたアクかなコンビの作品「美しい雨」の最終回のシーンを見ていた時のことだった。

 

「巻き戻し! 巻き戻ししてママ!」

 

「あかねは本当にかなちゃんとアクアくん好きね」

 

「うん……だってすごいんだよ。どんな役でもこなせるアクかなコンビなんだよ!」

 

 初めて見てからずっと好きで憧れてる二人。今も、昔も大好きな二人。

 

「かなちゃんは可愛くて、お芝居も上手で、大人相手でもハキハキと御喋りできるんだよ! アクアくんは幼稚園のいじわるな男の子たちと違って優しくてかっこよくて、頭も良くてお芝居も上手なんだ! すごいなぁ……すごいなぁ……」

 

「ならあかねも演劇やってみる? こないだ児童劇団のパンフレット貰ったの」

 

「えっ、えっ、私には無理だよ。人見知りだし、こわがりだし……なんにも出来ないし……」

 

 そうだ。このときの私は本当になにもできなくて……

 

「引っ込み思案が治るかも知れないし、演技をすればかなちゃんやアクアくんとも友達になれるかもよ」

 

 かなちゃんとアクアくんとおともだちになれたら幸せで死んじゃう。

 

 そんな事を思って演劇を始めたんだ。

 

 

 かなちゃんとアクアくんみたいになりたくて、たくさん頑張って、オーディションも何回も受けて、何度か脇役だけど出演して……

 

 やっとかなちゃんとアクアくん主演ドラマのオーディションでメインキャストの一人として合格したんだ。

 

 顔合わせの為の部屋の扉の前で深呼吸をする。

 

「うう、緊張する……」

 

 かなり早く来たのに部屋から人の気配がする。もしかしたら、かなちゃんやアクアくんがいるかもしれないと思うと緊張しかしない。

 

 でもいつまでも立ってるわけにはいかないので、そろりそろりと扉を開ける。

 

 すると、部屋には艶やかに輝いている金髪に、星のような輝きを宿した赤い瞳が特徴の可愛い女の子がいた。

 

 ルビーちゃんだ。本物だ。すごく可愛い。

 

 ぼーっと見とれてしまっていると、さっきまで難しい顔でスマートフォンを操作していたルビーちゃんが目を離してこっちを向いていた。

 

「初めまして、共演することになった黒川あかねと申します。本日はよろしくお願いします」

 

 なんとか噛まずに言えた。

 

「初めまして、共演することになったルビーです。本日はよろしくお願いします」

 

 笑顔で近づいて来て、挨拶を返してくれる。生で初めて見るけど、こんなに可愛い子って現実にいるんだ。とのんきに考えてしまった。

 

「こっちに来て、一緒に話さない? お兄ちゃん帰ってこなくって」

 

「う、うん、いいよ」

 

「やった! こっち、こっち」

 

 ルビーちゃんは動作が一つ一つ輝いていて、一緒にお話をしていてもコロコロと変わる表情が可愛くて、私と違って、すごく明るくて元気な女の子だった。

 

 話す内容も面白くて、私の知らなかったアイドルの世界とかドラマや映画の役者歴も2年以上あるから私の知らなかったことも知っていて、ルビーちゃんは年下なんだけど、経験豊富な年上の役者さんって感じがした。

 

 私の話なんてつまらないだろうな。と思いながら児童劇団のお話をしたけど、それも興味深そうに聞いてくれて、すごく話しやすい子だった。

 

 そうして話しているとルビーちゃんは私と同じ小学校を来年受験するらしくて、受験の話になっていった。

 

「えー!! あかねちゃん模試一位だったんだ! すごい! この間、やったら、偏差値68しかなくて、これだとギリギリだよって言われちゃったんだ」

 

「そ、そんなことないよ。いつもより出来が良かっただけで……ルビーちゃんもあんなにお仕事しながらそんなにとれるんだ。すごいなぁ。それくらいだったら、殆ど入れるって聞いたけど、ルビーちゃんって系列じゃないのかな?」

 

「うん、親の人、系列どころか大学も出てないんだよね。だから評定も下げられるって言われちゃって。あかねちゃんのおうちの人って系列の大学を出ている人なの?」

 

「うん、お父さんがいま、弁護士をしていて、系列の大学と法科大学院を出てるんだ。幼稚園もその系列だから、そこに入ろうってお父さんが言っていて」

 

「うう、というか小学校受験って面倒だなぁ。ペーパーテストだけじゃなくて面接とか色々あるらしくて、お兄ちゃんも対策しないと……って言ってて、系列の幼稚園に転園した方がいいのかな~って言ってる」

 

「アクアくんも同じ学校志望なんだ?」

 

「うん、というより、お兄ちゃんの志望校がそこなんだよね。私はそこに合わせてあげてるんだ。私達ってもう有名人だから、下手な公立に通っちゃうと迷惑をかけちゃうから、国立か私立にしようって話になって、だったら、近いところで警備とかがしっかりしている所に入らないとって」

 

「アクアくんってどれくらいの成績なの?」

 

「お兄ちゃん? お兄ちゃんはずっと満点で一位しか見たことない。まったく勉強してる様子がないのにずっと満点しか取らないから、ずるいよね」

 

 やっぱりアクアくんってすごいんだなぁ。私も出来る方なんだと思っていたけど、それは幼稚園の対策とかでいっぱい模試対策をやってるからで、ほとんど勉強もしないで出来るなんて本当に頭のいい人って居るんだ。と改めて思った。憧れの人が憧れのままのような存在で少しうれしかった。

 

「べつに私としてはかなちゃんのところでも良いと思うんだけど、お兄ちゃんに今更1+1からやらせるのも可哀想だからね。この優しい妹のルビーちゃんとしては付き合ってあげないと。あと私が受からないと思って勝手に受けるの止めようとか言い出したお兄ちゃんを見返さないと」

 

 そういうルビーちゃんは、アクアくんとすごく仲が良いのが伝わってくる。

 

「それでなんだけど、この問題、教えて貰って良い? 解説見たけどわからなくて」

 

「うん、いいよ」

 

 一緒に分からないところを見て解説をしていると、「あっ」とルビーちゃんが扉の方を見ながら声を出したので振り返ったら、アクアくんが居た。

 

「遅くなってごめん。監督に捕まってさ。そっちの人は? 共演者の人?」

 

「うん、黒川あかねちゃん。さっき友達になったんだ~」

 

「そうか。妹の面倒を見てくれてありがとう。じゃあ、改めて。初めまして、共演することになったアクアと申します。本日はよろしくお願いします」

 

「は、初めまして、黒川あかねと申します。本日はよろしくお願いします」

 

 うわ~、アクアくんだ。初めて会ったアクアくんは、男の子なのに綺麗でキラキラしていて、今まで会った芸能人の人と比べてもオーラ? というのかな? 同じ人間じゃないみたいな。物語の主人公みたいな雰囲気がしていた。

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃん! あかねちゃんも一緒の小学校受験するんだって! だから一緒の学校の先輩、後輩になるかもしれないよ」

 

「へー。そうなんだ。一緒の学校になったら、よろしく。まあ、俺たちは入れるか分からないけどね」

 

「むー、絶対、受かるからみててよ。私だって出来るってところ見せてあげるから」

 

 アクアくんとルビーちゃん、ふたりが並んで話しているだけで華があった。そんな事を考えているとアクアくんが話しかけてくる。

 

「黒川さんはもしかして、この間に撮影したこども刑事に出演していた?」

 

「う、うん、アクアくんとは出演するシーンが被らなかったけど一緒の現場だったかな」

 

「あの時の演技よかったって監督も言っていたよ。俺も上手いと感じた。子役の中でも実力のある人だと思って注目していたから共演できてうれしい。現場では絡む場面も多いから台本の確認もあとでしたいんだけど、いいかな」

 

「えっ、アクアくん、私のこと知ってくれてたんだ。うん、うん、もちろんよろこんで」

 

 本当にうれしい。アクアくんが私のことを知ってくれていたなんて。そういえばアクアくんってテレビで1度共演した人の名前や演技を忘れないって特集されていたけど、一緒に出ている人も見て覚えてるんだ。やっぱりすごいなぁと思ってしまう。

 

 その後も、私の来歴とかを含めて話して、今、入っている劇団あじさいのことを話すと、興味深そうに聞いていた。

 

「なるほど……今の児童劇団ってそういう教育をしてるんだ。きちんとした演技指導を受けたことがないから新鮮だ」

 

「えっ、アクアくんって演技の指導って受けた事ないの?」

 

「五反田監督に習ってはいるんだけど、そういったところに所属したことがないんだ。苺プロはアイドル事務所だから子役部門は実質俺だけだし、レッスンとかのノウハウは無いから、1度どこかへ所属は無理でも練習に参加させてもらおうかなって思ってる。あじさいは幼稚園までだよね? 幼稚園卒業後はどこかの劇団か事務所に入るの?」

 

「希望としては劇団かな? 事務所といっても、私はまだ実績とかないし……一応、声をかけてもらってる劇団があるからオーディションを受けてみるつもりなんだ」

 

「そうなんだ。どこに入るつもりか聞いて良い?」

 

「劇団ララライに入ろうと思ってる」

 

 そういうと、アクアくんが少し顔色が変わった。

 

「……ララライか、一流どころの人が集まった実力派の劇団だね」

 

「うん、だから入れるかもどうかわからなくて、でも、受験が終わったら受けさせてもらうつもり。アクアくんももしかして練習先の候補に入っていたりする?」

 

「ちょっと興味があって調べたんだ。前に俺の知り合いがそこで演技を学んだから、せっかくならって」

 

「じゃあ、一緒に練習できるかもしれないね」

 

「そうなったら黒川さんに先輩として教えてもらえるかもね」

 

「わ、私がアクアくんに教えられることなんて……」

 

 でもそうなったらうれしい。アクアくんと一緒の学校で、一緒の劇団で、一緒に子役を出来た未来を想像すると、毎日楽しそうだなって思ってしまう。

 

「もし良かったら、現場の案内もしようか? ルビーと仲良くしてもらったし、先輩、後輩としてこれから長いつきあいになるかもしれない。これでも現場歴は長いから力になれることもあると思うから」

 

「えっ、良いの?」

 

「もちろん、もし黒川さんがよければだけど」

 

「う、うん、もちろん、よろしくお願いします」

 

 かなちゃんは忙しくて顔合わせに来れなくて残念だったけど、その分、アクアくんとルビーちゃんといっしょに回って、一緒におしゃべりして、演技の練習にも付き合ってもらって……まるで夢みたいな時間だった。

 

 最後には黒川さんじゃなくて、あかねちゃんって呼んで貰えるようになって。電話番号も交換しちゃった。テレビでみるアクアくんよりずっとずっとかっこよくて、優しかった。

 

 

「ママ……アクアくん、ルビーちゃんとお友達になれたんだ。今日はずっといっしょに回って、演技のこととかもお話できて、電話番号も交換したんだ」

 

「あら、よかったじゃない!」

 

「えへへ、アクアくん、テレビで聞いてたお話よりすごく優しくて、はじめてメインキャストやるのは大変だろうって、色々教えてくれたんだ。それでね……」

 

 その後、私は今日の出来事が嬉しくて仕方なくてママとパパに寝るまでずっとずっと話してしまっていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 裏 あかね②

誤字脱字報告ありがとうございます。正直、誤字脱字多すぎますね。すみません。完結したら、きちんと修正入れていきます。


 

 

 うう、かなちゃんと仲良く出来なかった。

 

 アクアくんとルビーちゃんと仲良くなれたので、かなちゃんとも! と意気込んで臨んだ撮影時の顔合わせだったけど、形だけの挨拶をして、すぐにアクアくんと打ち合わせしに行ってしまった。

 

「かなちゃん、拗らせてるから実力のある人って認めないと一切絡もうとしないんだよ。でも、実力があるって分かるとライバル認定してくるから、認めさせて、それから仲良くなればいいよ。仲良くなってもずっとツンデレだし、口も悪いけどね」

 

 ルビーちゃんがいつもの事って言ってる。そうだよね。まずは共演者として認めて貰わないと! 

 

「うん、頑張る!」

 

「頑張れ、あかねちゃん!」

 

 そうやって意気込んでいると、舌打ちととともに「また顔だけのやつが来た」と小声で言う男の子がいた。あれは同じメインキャストの悠人くんだった。

 

「うわ、またあいつだ。お兄ちゃんの次に有名な男の子役で年齢も近いから共演するんだけど、ほんと、態度悪いんだよね。気にしなくていいよ」

 

「う、うん……」

 

 また、という言葉に違和感を覚えながらもクランクインした。

 

 

 舞台は卒園式が間近の幼稚園。病気で登園しなくなった友達を自分たちだけで病院にお見舞いに行こうとする5人の園児を中心に物語が進んでいく。

 

 放送予定時間は2時間。絵本をテーマにした物語。

 

 やっぱり目立ったのはかなちゃんで、自分達だけで友達の卒園式をしてあげよう! という始まりのシーン。これだけで、この子が主役なんだなって思わせる演技。たったワンシーンだけでも存在感が、言葉の重さが、演技力の違いがわかる。

 

 その次はルビーちゃん。元気いっぱいのムードメーカーとして、ルビーちゃんが出るだけで華が出るようになる。画面の雰囲気がルビーちゃんが出るだけで切り替わる。暗いシーンから一気に明るくなって、メリハリが出てくる。

 

 そしてアクアくんはかなちゃんを主役として立てつつ、病院への道筋をたてて、作戦を練っていくしっかりものの参謀役として重要な場面で存在感をみせていた。

 

 対して、私は……

 

「あかねちゃん、ここはかなの役とは違って、これからやらないといけない冒険に不安になっている雰囲気が欲しいんだ。みんなで一致団結しているようにみえて、熱意の違いを表現してほしい。やらないといけないと思っているし、やる気そのものはあるけど、困難な事に不安が隠せない様子がのちの伏線になるから」

 

 アクアくんに頼りっきりになってしまっていた。かなちゃんやアクアくんと比べると役作りの甘さを指摘される事が多くて、演技のシーンの前にキャラがどんな心情で、この場面ではどんな事をキャストに求めているのかの要求に対してのつめが甘いことを思い知らされる。

 

 序盤は5人で一緒のシーンを撮ることが多いから、その差がクオリティーに反映して、一人でも質が悪いと偽物っぽさが出てしまう。

 

「悠人くんは逆、直情的なキャラなんだから、ここはもっと調子に乗ってるくらいでいいよ。ルビーより元気なくらいでいい。のちの離脱シーンでやる気の空回りをするところに繋がってくるから」

 

 そして、もう一人の悠人くんも私と同じく指摘を受けることが多かった。

 

 監督からの指摘もあるけど、アクアくんの指摘はもっと細かくて、全体の構成の調整をしつつ、演技の指導をしてくれる事が多い。自分の演技もこなしながら座長の役割を担ってくれている。

 

 脚本の書き込みを見せて貰ったけど、私と悠人くんへどう指導するのかみたいな書き込みが多いし、別枠で印刷した資料なんかもある。

 

 劇団で習った役作りよりも遙かに深くて広いし、そのシーンで完結しないで、後々のシーンのつながりを意識した演技を求められて居る。その場面で必要な画の理解度に差がありすぎた。

 

 なので、どんなシーンでも事前にどんな演技が必要なのか、どんな心情でこの役は演じないといけないのかを聞いてなんとか形にして貰ってる。足を引っ張ってしまっていることが申し訳ない。

 

 今は幼稚園のシーンだから良いけど、次からは実際の駅での撮影になっていく。何度も何度も指摘を受けると撮影許可時間を過ぎてしまう。なんとか立て直さないと……と思っていると悠人くんから話しかけられる。

 

「黒川だっけ? お前の名前を聞いた事ないけどこれまでメインキャストで何作でたの?」

 

「えっ、これで初めて……だけど……」

 

「まあ、見りゃ分かるよ。アクアのやつがべっとりだし。使えないと思ったやつにあいつは付くからな」

 

 私が駄目なのは分かっているけど、そんな言い方……と思ってしまう。

 

「まあ、俺も人の事を言えたもんじゃないけどな。これでもあいつがアイドル優先していた時は代役として何本もメインで出させてもらったのに、あいつ等と比べると駄目な子あつかいだ」

 

 自嘲する様になにも言えなくなってしまった。

 

「演劇をずっとやってきて、それが評価されたわけじゃなくて、アクアの妹のルビーが目立ち過ぎないように周りに顔の良い奴を配置するから、それで選ばれただけなんだぜ。俺もお前も。不思議に思わなかったのか? なんの実績もなければ、大手の事務所に所属してるわけでもないお前が選ばれたのはそれが理由なんだ」

 

「…………」

 

「かなのやつみたいに偉ぶって見下してくるようなむかつくやつだったら、まだいい。むかつくけどそれが俺の実力だから受け入れられる。だけど、あいつは顔だけの妹を出すために自分を消して大人に媚び売ってる。それがほんとむかつく。アクアの言うとおりにやってろよ。顔だけ役者。お人形ごっこしてれば勝手に評価は上がるぞ」

 

 それだけ言うと悠人くんは去っていた。

 

 私は演技とかが評価されたわけではなく、ただ顔が良かっただけで選ばれただけ。

 

 

 それを聞いて私は…………特に何も思わなかった。

 

 

 

 

 

 ほら、アクアくんは周りの為に自分を消しているように見えるけど、違うよね。

 

 自分の理想の画を作る為、その為に個で考えて無い。周りの人が出来ないなら、ぱくりって食べて、全部自分でやってしまう。共演者がきちんと求められている演技をさせるように操ってしまう。周りを全部食べてしまう演技。

 

 あらゆる演技を使って、あらゆる手段を使ってより良い画を作り上げるために動く。

 

 アクアくんは全部出来る。台本を見せて貰った時、全ての役の書き込みがされていて、どうやって魅力的な画を作るかを考え込んで、なにからなにまで使って成し遂げる。どんなカメラワークなら魅力的に映るのか、どんな動きをさせれば上手くいくのか。全てが計算されている。

 

 自ら輝くこともできるし、周りを生かすことも出来る圧倒的な技術と頭脳がアクアくんの強み。

 

 だから証明し続けないといけない。私はこっちの方が魅力的な画を作れるって。かなちゃんもルビーちゃんもそれをし続けられるからアクアくんとあんなにすごい画を作れる。

 

 かなちゃんとルビーちゃんは自身が輝くような太陽のような演技をして、こっちの方がいいってずっと主張し続けて、アクアくんはそれを認めて、2人が最も魅力的に見えるように動いてる。でも、もし、これが魅力的じゃなかったら、周りの人全員を食べちゃうような演技で押しつぶしちゃってるよね。

 

 常にアクアくんの想定を上回るような演技をし続けないと、アクアくんは自分の思い描いた画の通りに周りを動かしてしまう。

 

 自己主張の連続、常に良い演技をした方が主導権を握る。かなちゃんとルビーちゃんで主導権の奪い合いをしてるし、そこをアクアくんがバランスをとってる。駄目なら自分が動いて、一気に2人を食べてしまう。これが子役でトップの3人の演技の世界。

 

「すごいなぁ……すごいなぁ……!」

 

 私はその世界に入れていない。悔しいけど、本当に悔しいけど、目の前の光景は光り輝いていた。これはアクアくんの想定を上回るような演技をしないと本当に操り人形みたいになって終わる。

 

 顔がいいだけの役者でいい。これは本当なんだろう。使えない役者でもそういう風に演技させてしまえる自信がある。だから、お人形で満足できないならアクアくんの出す正解よりもより魅力的な正解を出さないといけない。

 

 アクアくんと組みたくないって人の気持ちは分かった。

 

 常に自分が演じるものよりも上の演技を無理矢理させられる。役者として不正解をつきつけられるのがつらいんだよね。

 

 でも、目の前に答えがあるんだよ。自分よりも優れた答えが。そしてそれを超えれば、あの世界があるんだよ。

 

 なら、それを聞いて糧にしないでどうするの? 

 

 OKが出ると、私はアクアくんに声をかける。

 

「アクアくん、ここの演技についてなんだけど、聞いていい?」

 

「うん、いいよ」

 

 ほら、アクアくんは絶対にこういう時に出し惜しみをしたりしないし、拒絶もない。どうやっていい演技をするのかを教えてくれる。なら聞くべきだ。

 

 自分より優れた人が優れた答えを知っていて、途中の考え方まで教えてくれる。

 

 全ての役を毎回、毎回、深掘りしていくのだって、大変だけど、それをするのはより良い作品を作る為なんだ。だからより良い作品にする為に努力するアクアくんなら絶対に力を貸してくれる。

 

 頑張れ、頑張れ、私。

 

 私は顔が良いってだけで選ばれて来ただけかもしれない。でも、こんな世界に触れることが出来た。なら、理由なんてどうでもいい。こんなチャンスを貰ったんだから少しでもこの世界に近づかないと。ここで逃げたら、次にこんな世界に来られるのは何年後か何十年後か分からない。

 

「アクアくんは役作りの時、どうしているの?」

 

 役者の根幹。これは話して貰えないかな。と思ったけど、アクアくんはあっさりと教えてくれた。

 

「基本はプロファイリングがベースになっているかな。実在の人物なら過去の行動記録や個人情報を分析することで、これからの行動を推測することができるけど、今回は作り物だから、その場面、場面でその選択をするにあたってなにを考えていたかなどを推測していく必要がある。でもそれだけだと足りない部分も出てくるから、過去作なんかも読むかな」

 

「えっ、違う作品なのに?」

 

「ああ、もちろん違う箇所もあるんだけど、作家ってキャラクターを一部を変えてベースは変えていないキャラも多いんだよ。特に主人公周りはがっつり好みが入る。あと、作家がどんな哲学で、どんなシーンが好きでみたいな癖もあるんだ。だから作者がなにを考えてそのキャラにその役割を与えたのかなんて想像をすると、一気に作家への解像度が上がってどんなキャラが書きたいのかが分かる。まあ、基本はとにかく材料を集めて、何を考えてどういう人格なのかを数式パズルみたいに組み立てていく感じでいいと思う」

 

 そう言うと、アクアくんは役作りに使った本が監督の家にあるからと言って、監督に話を付けてくれて、本と一緒に、アクアくんの分析結果なんかも見せてくれた。

 

 すごいと思った。今まで出演した作品とその関連の登場人物。何百、何千人の人物や登場キャラクター造形を分析して、今のアクアくんの演技がある。血のにじむ努力の結果がそこにはあった。

 

「考えて、考えて、考え抜いて、するといつか考えなくても自然にできるようになる。それが血肉になってようやく自分のものになったって言えるようになる。なにかを成そうとするならそれを繰り返していくしかないよ」

 

 アクアくんの言葉は私の心に響いた。

 

 

 

 

 私は直ぐに役作りからやり直した。それだけに没頭して、今、演じている役柄がどんな事を考えて、どんな風に動くのかを深く考察することに専念した。

 

 すると、どんどん、指摘される事が減っていって、本当に最後だけ、最後のシーンだけだけど、アクアくんの想像を超えることが出来た。そんな風に思えるシーンが取れた。

 

「最後だけだけど、やった! やった!」

 

 演じきった後、疲れて座り込んでしまった。でも、心は達成感で満ちあふれてる。

 

 ああ、これは癖になるなぁ……

 

 かなちゃんやアクアくんみたいになりたい。はじめはそれだけだったけど、こうして一緒に演技をして演劇の世界を知ってこんなに面白いって分かっちゃった。

 

 そんな風に思っているとかなちゃんが近づいて来た。

 

「ふ~ん、あんた、結構やるじゃない」

 

「あっ、かなちゃん」

 

 かなちゃんに認めて貰えた。それだけで胸が熱くなる。

 

「あんたとは長いつきあいになりそうね。これからよろしく」

 

 かなちゃんが差し伸べた手を取って立ち上がる。

 

「うん! よろしく!」

 

 それからは私とかなちゃん、アクアくん、ルビーちゃんは一緒に働く機会が増えていくことになる。夢だったかなちゃんとアクアくんとお友達になれて、一緒に演技の練習をして、一緒におうちでお勉強会なんかもしちゃって……このとき、私たちはこれからこんな日々がずっとずっと続くと思っていた。

 




 今日あまでメルトくんにやった事を全員に全シーン強要してくるマンのアクア。演技が上手い人や現場スタッフからするとサポートキャラとして滅茶苦茶重宝するし、好感度が高いが、中途半端に演技ができるプライドの高い人からは共演を断られるレベルで嫌われる。周りを食いまくる外来生物2名も大暴れしてるので、目立つ事が出来ず、4歳の子供に操られて終わる最悪の現場の模様ですが、身勝手かつ圧倒的な役者が大好きなあかねにとってはご褒美だった模様。おとなしいようで向上心の塊なので、がんがん成長します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 裏 かな②

 

 強くてニューゲーム

 

 

 

 母は昔、芸能人になりたかったらしい。

 

 でも失敗して、挫折して……私にその夢を託した。

 

 私が物心つく前……哺乳瓶を握っていたころから、私は芸能アカデミーにいた。赤ちゃんモデルとして生後3ヶ月から所属して、レッスンを受けていた。芸能人になる為に、母の夢を叶える為に。

 

 だから、私にとって芸能人として生きていくことは当たり前の事で、それ以外に何になりたいというのがないし、その生き方以外許されなかった。

 

 だから、赤ちゃんの頃からモデルをしたり、歌ったり、ダンスをしたり、演技をしたりするお稽古を毎日続ける事になんにも疑問を持たずに生きてきた。それが当たり前でないことなんて知りもしなかった。

 

 そうして、生まれてからずっと芸能人になるためのお稽古ばかりしていた私はどうやら周りの子よりもかなり賢かったらしい。

 

 だから、私の年齢ではかなり早く文字の読み書きも出来て、コミュニケーションを取れたことで、役者として、周りとは差がついていた。私の年齢できちんと言われたことが出来る子は少なくて、出来る私に仕事は集まってきて、どんどん仕事でも結果を出していった。

 

 私が売れて、あこがれの芸能人とお話出来たり、ホームパーティーに呼ばれたり、一端の業界人を気取れた母はとても喜んでいたし、それを見て、私も嬉しかった。

 

 何も考えずに好き勝手演技をしていればみんなが天才と褒めてくれて、持ち上げてくれる日々が当たり前で、その時は人生で一番幸せな時期だったのかもしれない。なにも知らず、ただ与えられたものを喜ぶ日々に不安なんてなかった。

 

 私は天才で、これからもどんどん上手くいって成功していく! そんな自信を木っ端みじんに打ち砕いたのはアクアとの出会いだった。

 

 アクアは早熟なだけだった私とは違って本物の天才だった。

 

 容姿も知性もカリスマも全てを持ち合わせていて、周りの人間とも上手くやれる。どこかの漫画の主人公でもこんなに凄い人間にしないような……そんな人だった。

 

 悔しかったのでライバル宣言をしたは良かったけど、直ぐに力の差は出た。初めての映画で監督や脚本の人を説得し、自分を主演のようにしてしまい、そして結果を出したアクアを見て、私は多分、その時、あいつに恋をした。

 

 私よりも凄くて、賢くて、かっこよくて、優しい人。

 

 でも、あいつに見えてるのは、姉と妹だけなのは分かってる。あいつは家族を愛していて、その為だけに頑張ってる。妹のルビーは馬鹿だけど容姿も性格も誰よりも可愛くて、誰からも愛される存在なことは分かっていたし、姉のアイは一目見ただけで特別な人間だって分かった。綺麗で可愛くて明るくて……あいつが女性として認識しているのは多分、あの人だけなんだろうってなんとなく分かった。そして、あの人には一生勝てないんだろうなってことも。

 

 だから、私はせめて隣に居られるようにしようと思った。

 

 アクアの特別な人の枠は埋まっていたから、せめて一番近くに居たいと思った。

 

 そうして、アクアと私は一緒に組んで仕事をしていく事が増えて、アクかなコンビなんて呼ばれるようになった。アクアは誰よりも効率的に、誰よりも上手に、誰よりも早く演技を学んでいった。私はそんなアクアの真似をしてやっていくと、あいつほどでは無くても、周りよりかはかなり早い速度で成長する事が出来た。足りない分は仕事が終わった後、事務所で、家で、稽古をする事でカバーした。

 

 そうしている内に私はかなり実力を付けていたらしく、アクアとのコンビの知名度も上がって、どんどん仕事も、そしてギャラもどんどん増えていったらしい。私は興味が無かったから、ギャラ交渉とかはお母さんと事務所で決めた後に印鑑を押す事だけをしていた。

 

 その頃からだろうか? お母さんもお父さんも……なにもかもが変わってしまったのは。

 

 いつの間にかおうちがリフォームすることになっていた。

 

 私用に防音設備が整った部屋があると便利だね。と言ったのに、そうだね。と返したら、いつの間にかおうちが変わっていた。部屋の内装も変わって、いつの間にか有名なブランドの家具が揃うようになったし、車もテレビで見たことがある外車に変わっていた。

 

 そして、お母さんやお父さんの身なりも前とは変わっていって、綺麗な服やバッグ、お財布なんかもどんどん増えていった。

 

 そういう時、必ず、かなの隣に居る時にみすぼらしい格好をしていたら仕事を逃してしまうかもしれないから。とか色々言い訳をしてくるのが不思議だった。

 

 どこからお金が出ているのかは察しがついていたけど、特に何も言わなかった。

 

 だって、私はお金なんて興味もなければ、お母さんとお父さんに逆らうなんてしたことがないし、する気も無かった。それに仕事をすれば、そんなお金は直ぐ補填出来たから特に気にならなかった。

 

 私はネットで調べたら、1億くらいの儲けがあるらしい事は分かった。事務所の取り分比率というのは分からなかったけど、三年も働けば普通の人の一生分は稼いでいるらしいので、例えその半分だとしても、大丈夫だろうってなんとなくの知識で放置した。

 

 それがいけなかったのかもしれない。

 

 事務所もその時期辺りからおかしくなっていた。

 

 前はキャリアアップの為にどういう仕事をするのかとかそういう話があったけど、そういうのも無くなって、ギャラのいい仕事順に決めているようなスケジュールになっていった。

 

 仕事が大手のお金払いのいいと聞いてるところだけになってきた。

 

 よくわからないけど、私が所属しているという事でアカデミーに入る希望者が増えて、その為に拡大をしたらしいけど、それがうまくいっていないらしく、それでお金が必要というのを事務所の人が話しているのを聞いた。

 

 お金、お金、お金。

 

 私の周りではお金の話ばっかりになってきた。

 

 アクアの隣に居たい。一緒に演技をしたい。いまより上手くなって、もっといいドラマとかいい映画を作りたい。そんな気持ちとスケジュールがどんどんあわなくなっていった。

 

 そして、いつの間にか、私のスケジュールは寝る時間以外は全部埋まってしまっていた。朝から稽古をして、仕事をして、かえって稽古をして、寝てを繰り返す。ドラマの仕事は現場に行って終わりじゃなくて、脚本を読んで、覚えて、動作や発音を確認して、納得できるまで詰めるまでが仕事。だから10分の仕事に1時間、2時間かけて準備することだって珍しくない。

 

 私の時間は仕事とその仕事の準備に費やされるようになっていった。

 

 仕事をするだけの生活が苦しくなってしまって、仕事にも影響が出るようになってしまった。

 

 アクアとの仕事も準備不足でアクアにサポートして貰う事も増えてしまって、あいつは責めないけどそれがまたつらくて、お仕事を減らしたいってお母さんに相談したら……ぶたれてお説教されるようになってしまった。

 

 前までのお母さんは「売れている」有馬かなが好きだったけど、今は「お金を稼いでくる」有馬かなが好きになってしまった。そうではない有馬かなは嫌いなんだと思った。

 

 今度はおうちをもっと大きくて綺麗な所に引越したいみたいな話をされたけど、今のおうちは、あんなに綺麗にしたのに、物で溢れてしまって、ゴミもそのままで、よくわからない状態になっていた。私は防音室で寝泊まりしてロケ弁を食べて生活してるからよくわからないけど、空気が淀んでいてどんどんおうちが嫌になってきていた。だからどうでもよくて相づちだけうっていた。

 

 事務所の人にも相談したけど、私が仕事をこなさないとバーターでしごとを貰って居る子がたくさんいるのに……と言われてしまった。

 

 私がお金を稼いで、仕事をとってこないと困る人が居る。これまで育てて貰った恩を返さないといけない。そう言い聞かせて、なるべく目を瞑って疲れないように過ごす生活をするようになった。

 

 生まれてから、私にはあのアカデミーと家と職場を往復した記憶しかない。他に居場所なんてないから、そう言われてしまったらどうしようもないので諦めた。

 

 アクアがルビーのアイドル活動の為に休むと言った時は荒れてしまった。でも、あとから考えて当然の事だ。アクアは家族の為に頑張ってる。ルビーだってあんなに頑張っていた。友達の成功を応援しないといけない。今がルビーにとって一番大切な時期。アクアだって、ずっとこのときの為にお金にもならない仕事を沢山抱え込んで頑張ってきたんだから、アクアに助けて欲しいなんてことは言えなかった。

 

 一分、一秒でも短く仕事を終えないと。

 

 スケジュールが詰まってる生活は息苦しかった。アクアの居ない撮影だと人間関係とかそういったものが煩わしかった。同じ子役で組んでも、上手くまとまらなくてスケジュールを押してしまったりストレスも多かった。その分、睡眠を削って準備して、翌日、眠い中、仕事をするのでイライラしてしまう事も、それで周りに当たってしまうことも増えてしまった。

 

 そんな生活が続いていたけど、おもったよりもはやく、アクアとルビーが戻ってきた。なんでもアイのB小町の仕事に事務所の能力が間に合わなくなってきたとか、新しい企画をやる余裕がないからとか、ブームが去ってメディアの仕事が落ち着いたとか、そんなことを聞いたけど、久しぶりにアクアとルビーと一緒に出来る仕事は楽しかった。

 

 アクアの居る現場はアクアが統括してくれるのでスムーズに事が運ぶし、新人の子も居たけど、質を保ったまま終わらせる事ができた。アクアには迷惑をかけたくなかったけど、顔見せの時に体調を崩してしまって行けなかったことで心配してくれたみたいで、基本的には新人の子についていたけど、私の体調を気遣ってくれていたのが分かったので嬉しかった。そんな人はもう私の回りにはいなくなっていたから。

 

 やっぱり、アクアとルビーと居る時が有馬かなで居られる数少ない大切な時間だと改めて思った。

 

 そうしているとルビーと仲良くなった黒川あかねも一緒に過ごすことが増えた。あかねは私のファンだったらしく、良く見ると私の髪型と帽子も真似ていたのに気がついた。嫌われる事が多い私を慕ってくれるあかねは同い年だけど、妹みたいに可愛がってしまう。演技への熱も高くて、一緒に演技をしていて勉強になることも多くて話すことも自然と増えていった。

 

 4人で過ごす時間を心の支えに私はなんとか仕事を熟せているのを自覚しながらも、私はまだ今の状態をアクアたちに相談出来ていなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 裏 ルビー③

 私は今……

 

 

 ソファーで私が漫画を読んでいる横で家でパソコンをカタカタと打ち込んでいるお兄ちゃんに向けて、前から気になっている事を話しかける。

 

 

「お兄ちゃんはさ。ずいぶんと女の子を堕とす事に手慣れてるけど、今までどれだけの女の人を弄んできたの?」

 

 おっと、最近のあかねちゃんへのあつかいを見てつい嫌みになってしまった。

 

 それを聞くとお兄ちゃんは凄い顔をしてきた。

 

「ルビー、人聞きの悪いこと言うなよ。俺がいつ、女の人を弄んできたって言うんだ?」

 

「この間のあかねちゃんに対する態度とかだよ。ただでさえファンだったのに、それをあんなに献身的にサポートして……女の子だったら勘違いして夢中になっちゃうよ?」

 

「なに言ってるんだ。もしかしたら、先輩になるかもしれないし、長いつきあいになるかもしれないから、貸し借りを作ってるだけだろ?」

 

「それを素で言ってるんだとしたら、お兄ちゃんは天然のすけこましだよ」

 

 それを聞いて、お兄ちゃんはため息をついた。

 

「俺がすけこましなわけないだろ……前世で何人の女性に振られたり、寝取られたりしたと思ってるんだ。あまりにモテなさすぎてデート本やら買いあさって、風ぞ……いやなんでもない」

 

「ふうぞ? なにそれ?」

 

「いや、言い間違えた。まあ、俺はそれなりに経験こそあるが、全然モテずに、付き合っても数ヶ月しか保たずに終わったからこそ経験が豊富ってだけだぞ」

 

「ずいぶんと多そうだね……何人」

 

 様子を見ているとかなり多そうだった。3人とか4人とかでは絶対ない。お兄ちゃんはしまったという表情で、冷や汗を流しながら答えた。

 

「……5人くらい?」

 

「嘘つかないで」

 

「6人かな?」

 

「本当の事言って」

 

「本当だから」

 

 にらみ合いになる。前世のころから思っていたけど、せんせの女性関係は滅茶苦茶すぎる。今だからわかるけど、看護婦さんでせんせに興味があった人は4人は居た。どれだけの女の人を惚れさせる気なんだろう。インモラルだ! 

 

「本当の事を答えない気なら、今度のネット生放送でママと一緒にお風呂に入ってることを……」

 

「おい、やめろ馬鹿、そんな事したら俺が死ぬ」

 

「なら答えようね。すけこましじゃないなら答えられるよね」

 

 沈黙が流れていたが、観念したように話しはじめた。

 

「つ、付き合った人は15人……かな」

 

 これですけこましでないとか言うのはギャグなのかな? 付き合った人と言ってるけど、それって付き合う前段階の人を混ぜたら何人になるの? かなちゃんレベルの人を何人量産してきたの? 

 

「うわ、最悪、何人かと思えば……10人くらいかと思ったけど、宮崎の病院でも中村さんに近藤さん、中田さんに三輪さんとかもせんせに対する目線がおかしかったし、どれだけの女の人をもて遊んできたの!」

 

「いや、知らないし、心当たりもないぞ!」

 

「そういうところがすけこましなんだよ。せんせ。私は寛容だから良いけど、そんなことばっかりしているといつか刺されると思う」

 

 そういうとお兄ちゃんはため息をついた。

 

「いや、かなやあかねが俺に好意を向けてくれているのは分かってるよ。別に無自覚でやってるわけじゃない。しかし、まだ今年で6歳になる子だろ。恋心なんてもってもすぐ冷めるさ」

 

「お兄ちゃんは女の子を舐めすぎだよ。私もせんせを好きになったのは11歳だけど、もう六年以上、せんせの事を愛してるし、16歳になったら結婚してくれるって約束を心待ちにしてるんだから。10年以上の恋愛なんてふつー、ふつー」

 

「いや、俺たち、今世で兄妹だし、結婚は無理だろ」

 

「内縁の妻!」

 

「どこで覚えたの? そんな言葉!」

 

 そのあとも取り調べをするとゴロゴロと女心を弄ぶようなことをしていたせんせの行動が……あまりにすけこまし過ぎた。しかし、こんなに恋愛をしてるのに、なんでせんせはこう鈍いというか恋愛しらずなんだろ? 

 

「うーん、でも不思議だな。せんせ、なんで、そんなに付き合って、全員にフラれてるの? あっ、分かった。超美人な高嶺の花ばっかりと付き合ったんでしょ。医学部の女の人なら周りにいる医学部のお金持ちのイケメンに乗り換えとか余裕そう」

 

「いや、医学部でそんなことしたら社会的に死ぬ。一人と付き合って別れただけで6年間、女の間でその情報が共有されるんだぞ。 学生生活どころか今後も死ぬ!」

 

「じゃあ、分からないな~」

 

「いや、俺も分からないからそんなに付き合うことになったわけだからな。俺も好きでこんなに付き合う事になったわけじゃないし、最初の3人はともかく、その後は俺の事を好きになってくれた子だけにアタックして、俺なりに誠心誠意尽くしたのにフラれたんだから、どうしようもないだろ」

 

「…………」

 

「まあ、実体験として、まあ、恋ってやつは風邪をひくように引いて、冷めて、そしてまた引くものさ。12人もそんな感じで終わった。好きになってくれた子が、数週間、数ヶ月後にはその気持ちが無くなるなんてよくある事だ。ルビーの気持ちは嬉しい。だけど、もう俺たちは兄妹で結婚は無理なんだから、新しい恋を見つけて、良いと思った人を見つけて幸せになる事も考えてもいいと思うぞ。俺は恋人が出来ても結婚をしてもずっとルビーを応援するつもりだからな」

 

 ズキッと心が痛んだ。でも分かった。せんせは恋がどれだけつらいかとかどれだけ楽しいものなのかとか、どれだけ幸せなのかが分かっていない。せんせは恋をしたことがない。それだけは分かった。

 

「今世の俺はアイとルビーの為に生きるって決めてる。だから、だれかと付き合うとかも考えなんてないし、前世で散々、恋愛してきたけど、俺は向いてないことは分かったから、もういいと思ってる。まあ、俺の事が好きな子も、しばらく会う機会を無くせば飽きて、新しく恋愛すると思う」

 

 せんせは本当にママと私の幸せだけを願ってる。それは本当に嬉しい。

 

 愛する人に愛されて、応援されて、私はすごく幸せだ。

 

 でも、それならせんせの幸せはどうなんだろう? 

 

 最後に、聞いておきたかった事があった。

 

「ねえ、せんせ。前世でフラれる時って、貴方への気持ちが無くなったとか、新しく好きな人が出来たとか言われなかった?」

 

「ああ、なんで分かるんだ。大体、似たような事言われたな」

 

 ああ、せんせはすけこましだけじゃなくて朴念仁でもあったんだね。

 

 

 

 

 私はせんせを愛してる。

 

 お母さんから捨てられて、地元の大きな病院で死を待つだけだった私に優しくしてくれた。私だけじゃない。他の、長く誰からもお見舞いしてもらえない人の下にも、激務の中訪れて慰めてくれるヒーローみたいな貴方に心から恋い焦がれた。

 

 その分け隔て無く優しいヒーローの貴方の特別になりたい。そんな気持ちで結婚したいって言った。

 

 そして、今、私はママと一緒にその特別な人になれた。せんせはママと私の為なら、それこそ命をかけて守ろうとしてくれるし、今もその為に色々してくれているのが分かる。

 

 だから私は幸せで、先生に愛されている。ヒーローな貴方は見返りを求めずに尽くしてくれて、愛してくれる。母親の愛が無償の愛なんて言うけど、これだって無償の愛だ。

 

 それを毎日向けられる日々が幸せで……それが他の人に向けられると嫉妬してしまう。

 

 凄い矛盾してる。

 

 分け隔て無く優しくしてくれるヒーローみたいなせんせが私は大好きだったのに、その最愛の人になれたら、ヒーローではなく、私だけを見て欲しいって思ってしまうなんて本当に自分勝手。せんせを傷つけてきた人達と根本的には一緒な事に嫌悪感しかない。

 

 せんせが付き合った人達は本当にせんせが好きで、だからこそ、その愛が自分だけに向けられないことに耐えきれなかったんだろうな。って思ってる。

 

 言ってしまえば試したんだ。

 

 せんせはせんせだから、相手を幸せに出来るのは自分ではないと分かると身を引いてしまう。相手の幸せを願って、それでいいって思って。それで破局した様子が目に見えるように分かる。

 

 だから、いつか私は選択する時が来ると思ってる。

 

 ありのままのヒーローな貴方でいいと言えるか、私だけのヒーローで居て欲しいと言ってしまうか。

 

 私は背を押してあげられるのかどうか……その時は近くに来ているような気がした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 ギャラ

本日二話目です。


 

 あかねちゃんを成り上がらせるRTAはっじまるよー! 

 

 さて、前回は、あかねちゃんを育成していきましたが、巨星の演技が抜けたあとのかなちゃんでも十分なスペックを持っています。総合力という意味ではかなちゃんの圧勝です。消える前ならなおさら勝てません。ならどうやって、かなちゃんから仕事を奪うのか! というとギャラシステムを利用します。

 

 このゲームでは芸能人のギャラを1本という呼び方で統一しており、ドラマ1話とかテレビ出演1つあたりの単価をより簡単に統一しています。まあ、ドラマ単価とかテレビ出演の単価が違うとぐちゃぐちゃでわかりにくいからね。一応、CMだけは単価が違うので特別収益計算していますがほんとざっくりの計算式でやってます。

 

 かなちゃんの単価は今は100万で計算されています。新人の壁と言われるところが15万なので、新人アイドル時代のアイの7倍近い収益です。めちゃくちゃリッチです。ギャラ的なものを考えると女優トップ10くらいに居るレベルで格が違いますね。

 

 なので、かなちゃんより劣るけどリーズナブルなお値段で雇える役者になりましょう。

 

 これに関してはララライ所属後だと勝手に事務所と個人のギャラ配分が2対8とかいうゴミ事務所と契約させられる上に、事務所AIがカスなので、仕事を取ってきて貰えません。安売りしてでも、かなちゃん一強をぶっ壊すんだよ! って精神がないといけないのにね。

 

 ということで黒川あかねちゃんをララライ所属前に囲っちゃいます。

 

 はい、苺プロへようこそ! 

 

 えっ、劇団所属と平行で出来るの? と思った方、まあ、出来ないのでMEMでやったような業務委託方式ですね。子役のマネジメント業務だけを委託して貰って所属はララライに移してもらいます。

 

 苺プロ、アイドル事務所なので練習効率がうんちです。勝手に育ってくれるララライに練習は押しつけます。あとおまけのラスボス対策ですね。

 

 業務委託して貰ってるのに、ダンピングするのか? と、思いますが、アクアくんのパワーで取ってこないとそもそも全部オーディションに出ることを考えると安い、安い。多分能力的には相場30くらいはあるんですけど、オール10で売り抜きます。女性子役能力トップ3が100のかな、70のルビー、10のあかねという酷い価格差になってます。アクア? 今年から120です! 

 

 予想年収の50%を下回ると、契約解除になったりするんですけど、予想年収0なのでいくら安くしたって一個仕事を回せば超えるのでじゃんじゃん働かせましょうね~。そのために子役部門作ってもらったといっても過言ではありません。

 

 ということで、安くて、上手くて、早いの三拍子揃ったあかねちゃんを売り込んで行きます。えっ? 今年はあかねちゃん受験なの? なんのこったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 はい、ねじ込めましたね。主演級はともかく、脇役はがっつり取って、いくつかのメインキャストは取れました。これこそ、かな一強を破壊する第一歩である! 

 

 という事で、ダンピングとはいえかなちゃんの予定のお仕事を取れるだけの信頼は取れたので、あとは巨星の演技消滅待ちですね。ちょっとかなちゃんの好感度が上がってしまってイベントがズレてしまいましたが、まあ、間に合います。

 

 大切なのは所持視聴率なので、とにかくテレビに出ないと始まりません。アクあかコンビ結成して知名度上げましょう。アクかな? 忘れちゃったな。

 

 アクアとかなのコンビを組むと1本220万なので、上限の200万を超えるので低予算ドラマでは採用されないんですが、アクあかなら130万で同じくらいの数字を作れるよ! を売りにしていきましょう。正直、お金なんてもうあんまり関係ない次元で稼いでいるんですけど、こういう出演作品の調整をするために年収は上げてきましょうね~。

 

 視聴率のアクルビ、作品完成度のアクかな、低予算のアクあかで部類分けしときましょうね。

 

 アクアくんが過労死しないか? って。大丈夫、大丈夫、週40時間超えてなければへーきへーき。その為にコミュ力を上げて、周りを支配してNG率を下げて、無駄な時間を減らして、仕事の進捗度を滅茶苦茶上げてるので、仕事量はともかく時間は減ってるのでセーフです。

 

 そんなこんなしている内に、巨星の演技が消えましたね。

 

 これからかなちゃんの主演適性ががっつり減ります。巨星の演技の強い所は、成長率もあるんですが、圧倒的な主演適性。これがあると能力差が離れていても有利なスキルです。外連味のなくなったフリルみたいなものなので、容姿も演技能力も変わりませんが、カリスマ性というべきものが無くなります。

 

 そういった主演ものはこれからどんどんルビーに奪われていきますね。とはいえルビーの場合、ルビーっぽい役柄しかやらないので、あかねちゃんが台頭するまでは短期的にはそう変わりません。

 

 さて、あかねちゃんのお受験は……受かってますね。えっ? 首席なの……お、おう、さすがに原作で働きながら偏差値78ある怪物お嬢様ですね。

 

 ま、まあ、お受験はどうでもいいです。問題はララライです。

 

 これ普通なら落ちないんですけど、テレビ出演で業務委託してます! ってすると合格率落ちるんですよね。アクアくんも応援に来たので、オーディション頑張れ♡頑張れ♡

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 はい、合格です。あかねちゃんはララライで育って貰いましょうね~。さーてララライにアクアくんが来るとちょっとしたイベントが起こります。

 

 はい、金田一さんが「ヒカル?」とか言っちゃってますね。

 

 これで、ラスボスがアクアの父親で確定になります。

 

 アクアがララライに所属、もしくは顔見せイベントを挟んだのちにアイが殺されると、斉藤社長がラスボスを問答無用でぶっ殺しにいくイベントが挟まるので、これでラスボスがアイを殺した瞬間に死ぬのが確定しましたね。

 

 このイベントを超えるとラスボス不在で高校入学編に入っていくので、もし、ラスボス不在で学園編を楽しみたかったら、このイベントを挟むと、良い感じにラブコメできます。代わりに苺プロは無くなってしまいますが、ミヤコさんが名前を変えて普通に社長やってくれます。やっぱりこの人の敏腕っぷりはヤバいです。

 

 なお、斉藤社長なんですが、ラスボスさんが連続殺人犯なのが判明して、減刑とかされて、高校編のころには刑期は終えてるので、ラスボスが死んだことと、会社に斉藤社長が居る以外は原作と同じような感じですね。

 

 さて、脱線しましたが、ここからが本番です。

 

 かなの巨星の演技が消えて、かなの評価が少し落ちた後、あかねの仕事ガチャをやります。さて、良い感じの仕事出ろ! 出ろ!! 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 よし! ついにアクあかコンビ初めての主演作品ですね。これで成功していけば、子役四強として肩を並べる事になります! あとはかなちゃんの最後の花火ことピーマン体操イベが終わればアクあかコンビがトップになっていきます。

 

 アクあかコンビ最初の作品の最終回でのキスシーンで一気に好感度が上がったのを見届けてから今回は終了です! 

 

 

 

 

 ではまた次回、サラダバー!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 裏 あかね③

 

 

「そういえば、あかねちゃんはこれから事務所契約とかはどうするの?」

 

 ドラマ撮影の私の出番が終わってアクアくんからそんな事を聞かれた。

 

「えっ? 事務所?」

 

「うん、これから受験勉強に集中して、そのままララライに所属してから劇団に集中するっていうなら良いんだけど、せっかくテレビドラマのメインキャストになれたわけだし、オーディションなしでも出演依頼も来ると思っていいと思うんだけど、見る限り劇団あじさいってそういう所じゃないから……」

 

「あ~、そうだよね。劇団あじさいってあくまで応募の案内をお知らせしてくれるけど、仕事の斡旋とかしてくれる所じゃないから……先生たちも、今度、仕事が取れるならどこかのプロダクションに入った方がいいみたいな事言ってた。でもララライに入るならお得意とかもあるから、ちょっと契約条件とかそういうの分からないなぁ。半年の所属とかでも良いところとかはないよね……」

 

 さすがに少しだけ所属しますって言って許可してくれる所はないだろうなぁ。

 

「それでなんだけど、うちに業務委託って形ならすぐ抜けられると思うけどどうする?」

 

「えっ、アクアくんの所?」

 

「うん、ララライに入るまで仕事を取ってくる、紹介するような業務委託ってことでなら契約を用意してもいいって社長に言われてるんだ。もちろん、契約解除もそっちに合うようにする」

 

「あれっ、社長ってアクアくんのお父さんのこと?」

 

「……うん、あんまりなれ合うのもあれだから外では社長って呼んでるけど、そうだよ」

 

「アクアくんのお父さんなら信用できそうだけど、そういう事はよく分からないから、お父さんとお母さんに相談してみるね」

 

「分かった。じゃあ、契約条件とかは揃えておくからマネージャーの電話番号を渡しておくね。他のプロダクションとかの条件とかと比べてもらっても構わないから。身内のやってるところだから、子役部門は実質、所属は俺だけだし、演技指導員とかはないけど、俺も教えられるし、監督にも手伝わせるから。伝手とかもかなりあるつもり。まあ、あくまでララライ所属までのお試しとかでもいいよ」

 

 アクアくんと二人だけ……ルビーちゃんはアイドル部門なのかな。それより、アクアくんと一緒に演技の勉強ができる。すごい。少しだけなのがもったいないくらい。

 

「アクアくん、ありがとう」

 

「才能ある子をスカウトするのも事務所の仕事だからね」

 

 契約っていうのがどういう条件なのか分からないけど、悪い条件じゃなければお母さんとお父さんを説得して入れて貰おう。

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、私は苺プロに業務委託という形で加入することになった。

 

 苺プロは元々アイドル事務所で、演技を勉強できる環境ではないみたいだけど、それはアクアくんが監督の下で勉強させて貰っているらしいので、それについて行く形で学んでいくことになった。

 

 最初はお父さんが条件を渋っていたけど、ララライの懇意にしている事務所がかなり仕事の報酬比率を絞っていると聞いて、その最初の条件をまともなものにする為に、交渉のカードとして使えるというのが押しだって聞いた。私はお金はどうでも良いけど、私の将来の為にもそういったお金に纏わる契約はきちんとしなさい。と教えられた。

 

 今は5対5で、雇用契約を結ぶなら再度比率を変えるようになっていた。

 

 なんでもアクアくんのお父さんの社長さんも弁護士とかの伝手が弱かったらしくて、お互いに足りない分野の知識を補い合いましょうってことで、お話するようになったらしい。たまーにお酒を一緒に飲んでるので、仲も悪くないみたい。

 

 条件として、無理をしないこと、勉学に支障がないようにすることだったから、睡眠時間は8時間以上、成績は最低でも合格率50%圏内にいる事を約束した。

 

 アクアくんとバーターで一緒の仕事に行くので移動の車の中とかで教えて貰っているけど、やっぱりアクアくんは凄い。

 

 私が自分で役作りをして、それに対する深掘りをして、足りない部分を説明、解説してくれる。特に過去にその監督や脚本の人の下で演じた事があると、その人がどういう解釈をするのかとか、そういった修正箇所を事前に予測してくれているから、現場での修正が最低限で済む。

 

 その監督や脚本、共演者の特徴的な考え方、能力からどういった演技になるのかを想定して、最適な答えを出す。だからアクアくんはリテイクを殆ど出さないし、周りにも出させないように動く。だから現場がスムーズに動く。

 

 いわゆる演出家の人が求めるぴったりの演技をする役者の究極形がアクアくんなんだろう。

 

 演出家の人からの評価が高いのがすごい分かる。想定の時間内に高い質の作品を作るにはアクアくんが居るとすごくやりやすい。

 

 子役にはルールがあって、週40時間までしか働いたり、練習させてはいけないというものだ。これは学業との両立が出来るギリギリのラインらしい。あと18時までしか働けないから、多分、平日は休まないと3時間も出来なくなる。

 

 だからこそ、移動時間中すらも大事になる。一つ、一つの演技の精度を上げるんじゃ無くて、役に憑依して、その役がどんな反応をするのかを自分の中で指標を作る。そうすれば、役を作り上げる時間が大幅に短縮される。

 

 アクアくんのプロファイリングを元にしたやり方は私にすんなりと嵌まった。多分相性がいい。かなちゃんのアプローチの仕方とは違うけど、こっちの方が楽に感じる。

 

 私はつまらない人間だって、ルビーちゃんをみて改めて思った。だから私よりも魅力的な人物たちになればいい。魅力的な人達がどう感じて、どう考えて、どう動くのかをトレースする。

 

 するとまるでそんな人そのものになれたように感じられる。

 

 その人の事を深く理解出来るようになる。

 

 最近ではアクアくんのようになりたくて、アクアくんをプロファイリングしているけど、アクアくんは難しい。

 

 アクアくんはすごく家族思いな人だ。色んな人に手を貸してくれる優しいヒーローみたいな人だけど、第一に家族のアイさんとルビーちゃんを最優先にしている。その感情がどこから生まれているのかみたいなのがよく掴めない。アクアくんに聞くと生まれた時にはこの人の事を支えたいとか、守らないとって気持ちを持っていたらしいけど、その感覚がいまだに掴めていない。

 

 これが理解出来るようになると一気にアクアくんが何を考えているのかが分かるのに……と思ってしまう。

 

「んっ……あかねちゃんどうしたの?」

 

 つい、じろじろと見てしまった。

 

「あっ、うん、そうだ。アクアくんって現場に行くときに誰かの演技をしているよね。それって誰の演技をしているの?」

 

 最近、アクアくんは私の前でそういった演技をしなくなったので分かった。アクアくんの現場での立ち振る舞いはだれかのものだって。

 

「う~ん、まあ、いいか。俺はアイのアイドルとしての顔を模倣してるんだ」

 

「アイさんの?」

 

 アイさん。最近では世界的な知名度を誇るようになった日本のカリスマ的なアイドルだ。でもアイさんはそういう感じの人ではなくて、素顔のまま……そう、ルビーちゃんみたいな人だったはずだ。

 

「昔のアイはこうやって、みんなが理想とする姿を演じることでアイドルをしていた時期があったんだ。太陽みたいな笑顔、吸い寄せられるような瞳にまるで無敵みたいな自信をもった完璧なアイドル。俺の場合、すこし弄っているけど、それを真似た」

 

「どうしてアイさんのを真似したの?」

 

「俺にいわゆるカリスマってやつが無かったから」

 

「えっ、そんな事ないと思うけど……」

 

「それは俺がそういう風に振る舞ってるだけだよ。本来は俺なんてそんな凄い人間じゃないから。だから足りない物は外から補った。俺が最も理想とした人物はアイだったから、それをトレースした」

 

 足りないものは外から補う。そうやって良いんだ。なにかピースが嵌まった気がする。

 

「あかねちゃん。俺たちは多分、似てると思う。ルビーやかなとは違う、人よりも頭は良いから人よりも上手くやれるけど、それ以上は出来ない。あの2人のような天才ではなくて、秀才でしかない。だから足りない才能は足して、天才たちが自然とやっているそれを言語化して取り込んでいく。そうする事で天才達に追いすがっていくしかないんだ」

 

 分かる気がする。私はかなちゃんに憧れた。けどかなちゃんと同じアプローチでは絶対に勝てないし、追いつけないと思ったからアクアくんのやり方を真似することにした。

 

 

 自分と同じタイプで自分のはるか先に居る人の下で学べる。

 

 そして、学んだ事を生かすことが出来る本番のドラマ撮影。

 

 メインキャストはもちろん、脇役なんかもたくさんの役をやらせて貰って、その事は私を大きく成長させていった。

 

 

 

 

 

 この時間が終わってしまうのが嫌だったから、帰ってからは勉強をこなして、成績を下げないように頑張った成果も出て、なんとか首席で合格した。

 

 ララライのオーディションも、今まで築いてきた経験があれば簡単にこなすことができた。

 

 本当は合格のネックになるかもしれない業務委託については解除してもいいよ。とは言われていたけど、この時間が無くなるなら、ララライの方を蹴ってしまうことも視野に入れて、継続して契約することにした。

 

 合格を言い渡された後は応援に来てくれたアクアくんと一緒に合格祝いに家族と一緒にご飯を食べに行った。

 

 あまりに充実した日々。アクアくんと組んで一緒に仕事をこなして、演技について教えて貰って過ごすのは時間を忘れさせてしまうほどに熱中してしまう毎日だった。

 

 

 そして、ついに私もヒロインとしてアクアくんと組んでドラマに挑むことになった。

 

 映画のテーマは小学校受験だった。小学校受験全国模試の前年度と今年度の一位コンビが演じるリアルな受験戦争という売り込みだった。スポンサーが系列の人で、最近、詰め込み教育が批判にあっていて、小学校受験もそうなのではないかという誤解を解くため、あと幼年期における教育の重要性を世間にアピールする為に、本物の受験生を使いたいという要望もあっての抜擢だった。

 

 わかってる。わたしはかなちゃんにもルビーちゃんにも勝てない。

 

 けどチャンスだった。

 

 演技力で劣る私が子役で主演を演じられる可能性なんて殆ど無い。だから今を楽しもうと思った。

 

 初めての主演、しかも、アクアくんの演じる役は私の演じる役の子が好きで一緒の小学校に行くために受験を頑張るというもの。そして、最後にわたしはそんな健気なアクアくんの演じる役の子に恋をする。そんな甘酸っぱい物語。

 

 憧れの人が自分の事が好きなんて設定の役を演じてる。

 

 気恥ずかしかったけど、それでも役を演じきらなければならない。ヒロインの心情や行動をトレースして、その通りに動く、いつもやっている事をここでやりきる。そう思っていたのに……

 

 最後の見せ場のキスシーンで私は演技が抜けてしまい、素の自分でキスを受け入れてしまった。OKが出たけど、その時のシーンがどういうものだったのかが気になって見ると。

 

 

 その画面には、恋する女の子の顔が映っていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 裏 かな③

 書き溜め向いてない事が判明しました(白目)書き終わった所が気になって、加筆、加筆で文字数だけが無限に増えていって、いつまで経っても投稿出来ないので、ちょっとストレス描写をマイルド気味にする事にしました。まとめて投稿宣言したけど、すみません。
一応、次話は完成、あかね④とかな④も半分くらいは必要な所は書いたのでなるべく短い期間で投稿するようにしますので、苦手な方はしばらくお待ちください。

 アニメ後→アクかな! 最高! アクかな! 最高! 
 最新話後→「私を見て」とか「推しの子になってやる」のシーンがお痛わしくなるんですが、これ狙ってやってるんですか??? 
 き、軌道修正できるかな。というかしていいのかな(震え声)。アクアからかなへの感情の向き先がそこに着地すると思ってなかったんですけど!


 

 私を好きな人……

 

 

 

 有馬かなには魅力がない。

 

 そう言われ始めたのはアクアと組む機会が無かった半年の間の出演作品の視聴率の結果が出てからだった。

 

 役者には大きく分けて3種類の人が居る。看板役者、実力派、新人役者の3つだ。

 

 看板役者。お客を連れてくる広告塔。この役者が出演するのなら作品を見たいと思わせてくれる存在で、このキャスティングで、視聴率や観客動員数、興業成績が変わる。

 

 アクかなコンビなんて言われていた頃は私はこれだと思われていた。たしかに私とアクアが組んだ作品は視聴率も、観客動員数も伸びた。最初の作品が私とアクアの恋愛関係の有無とかで盛り上がっていて、注目度もあって、実際に視聴率も上がったのは事実で……これを目的に起用されていたといっても過言ではなかった。

 

 そして、私も私は自分が看板役者だと思っていた。

 

 だけど、周囲に豪華な役者が揃わないような……私が看板役者として出た作品の全てで視聴率が全然伸びなかった事で分かった。

 

 世間は私ではなく、アクアと私の組み合わせだから見ていただけで、私だけだと見ようとしてくれない事に周囲も気がついてしまった。

 

 そして、そのアクかなコンビも飽きられつつあったけど、半年間組まなかったことで終わってしまった。世間は、大人気アイドルユニットのアクアとルビーの方が知名度があって、新鮮で楽しんでいるようだった。

 

 私達はいわゆる微笑ましいカップルとして見られていたらしい。けど、もう出会って4年以上が経っている。なにも進捗がないペアに世間は飽きた。

 

 そんな事を事務所の人に言われた。

 

 アクアと私は恋愛関係なんてなっていないんだから、進むはずがないのに……

 

 そんな風に勝手に思っていたのに勝手に失望するな。と言いたいけど、そういう売り方をしていたから仕方ないのかもしれない。

 

 アクアとルビーと比べると私の容姿なんて良く居るレベルでしかない。一応、可愛いと言われる部類に入るし、モデルの子なんかにも負けてないとは思うけど、恋愛関係がないなら、同じくトップクラスに容姿のいいアクアとルビーで良いし、仲のいい双子の方が売り込みやすいし、事務所としても、別の事務所の子とのセットより、自分の事務所のペアを育てたいというのも分かる。

 

 なので私は実力派になるしかない。と思った。

 

 作品の質を担保する。レーベルとしてのブランドを保つ役割だ。

 

 私は演技には自信があった。ドラマでも映画でも新人賞を取ったし、実績も十分ある。作品のクオリティーを上げる役割を出来ている自信があった。私は演技では女の子役で一番の自信があった。

 

 でも事務所の人やママやパパはそれでは駄目らしい。

 

 俳優のトップ50に入れなかった人、女優はトップ100くらいまでと多いけど、それでもそこに入れないと平均的なサラリーマンの給与より少ない金額しか稼げない。平均を押し上げているのはトップの人で、役者のトップ150に入れる人達でも1000万以下の人も何人も居る。

 

 子役はその中に私とアクアしか居ない。純粋な演技力だけではその下の中堅と呼ばれるその層にも入れないから看板役者にならないといけないらしい。

 

 有馬かなは看板役者ではなかった。けど、年収を維持するためにも、バーターで仕事を取ってくる為にも看板役者でなければならない。

 

 事務所の人もママもパパもお金の事ばかりだった。でもお金を稼げれば、みんなにも、ママにもパパにも褒めて貰える。愛して貰える。

 

 私はお金を稼ぐ為に視聴率の取れる看板役者にならないといけなかった。私には魅力がない。そんな事を言うのに、みんなが私が出てれば見るくらい魅力的な人になれと言われてしまう。

 

 ルビーが羨ましかった。あの子は居るだけで華やかで存在感があって、それが原因で仕事が取れない時期はあったけど、ドラマ主題歌や歌番組、紅白などで知名度を広げて、ネット活動で一気に花開いて本来持っていた能力を十全に発揮できるポジションまで来た。張りぼてで、アクアのおまけではない本物のスターだった。

 

 あかねが羨ましかった。あの子はまだ新人子役として、色々な経験を積んでいる最中で、報酬も横並びだから、純粋に演技の実力が伸びればどんどん結果が出てくる時期だ。一番、演技が楽しくできる。私も一番演技を楽しめていたのはこのころだった。

 

 アクアは……本当に凄いと思った。毎日、毎日、パソコンを弄って、自分がどの層にウケているとか、支持されているのかとかを計算して、出演作品を決めたり、出演する番組を調整したりしていた。

 

 ルビーに対してもイメージ戦略を大切にしていた。

 

「世の中には、いじめ役をした子役を本当にいじめをするような人間だって思ってしまって誹謗中傷するような馬鹿なやつがやたらと居るし、誹謗中傷をしなくてもイメージで勝手に嫌悪感をもってしまうような感受性の強い人も思っているより多くいる。ルビーはアイドルだ。そんな役をマスメディアでやって、そういうイメージを付けるとひっくり返すのに時間がかかる。ルビーのキャラで売る以上、きれいなイメージを作らないと」

 

 そんな事を言って、絶対に性格の悪い役はやらせなかった。悪い行動をしてもどこか愛嬌のあるキャラばかりしていた。

 

 それが正しかったのは、今だから分かる。

 

 そんなことしなくても、演技さえ上手くなれば結果が出るといって、聞き流していた私は、その壁にぶつかってしまった。なんでも、どんな役でもやってきた私はマイナスのイメージの作品も多くなった。特に泣き演技はマイナスのイメージが強くて、私=暗い作品という認識の人も少なくないらしい。私の代名詞がそれである以上、どうしようもない。

 

 代表作が虐待児などの社会問題を取り扱ったテーマばかりの私はキャラ人気が無かった。

 

 アクアが居ない間で私に視聴率がないことは浮き彫りにされた。沢山の仕事をして、沢山の役をこなして、データを取られて、視聴率を稼いでくれるという評価は無くなってしまった。

 

 それでも、ルビーは扱いが難しいし、アクアがルビーの出演する役にはこだわりを持ってるし、アイドルの仕事を優先する。それでも明るい女の子の役は復帰してからは全部ルビーに行く。

 

 演技さえ上手くなれば…………だれよりも上手になれば良いと思っていた。

 

 でもそうじゃない。視聴者の殆どには一定以上の演技の上手い、下手の違いなんて気にされないと周りは言う。

 

 私はお金を稼がないといけないし、数字を取れるようにしないといけない。

 

 私はコスパが悪くなってしまった。だからアクアと一緒に組む仕事は来なくなってきた。私が提示する額は普通の子役の20倍以上なのにその価値がない。そんな風に言われてしまう今を変えないといけない。

 

 

 

 なんとか人気にならないといけないと思って、足掻いているとアクアとルビーから自分のY◯uTubeのチャンネルに出演依頼があった。二人とは仕事が被る機会は本当に減ったから電話以外で会うのは久しぶりだった。ルビーとはSNSでのメッセージなんかをやってるけどアクアはしてない。電話は少し勇気がいるので自ずと電話することは減っていった。

 

 あまり迷惑をかけたくなかったけど、相談をするとアクアも力になってくれた。けど、事務所やお母さん、お父さんの望む結果にはならなかった。

 

「かな、ブームの頃の数字を出すことは難しい。流行廃りがあるのは仕方ない事だと割り切って、きちんと安定して支持してくれる人を手に入れる事が長くやるには重要になってくると思う」

 

「安定して支持してくれる人?」

 

「ああ、俺達のチャンネルも100万以上、登録してくれる人が居るけど、これはアイがたまに出演してこぼれる、俺たちとの私生活トークなんかを目的に登録してくれる人も多い。一緒に出てくれるB小町目当ての人だっている。純粋なファン層は半分以下かもしれないって分析してる」

 

 アクアはアナリティクスとかコホート分析とか言っていたけど、ようするに、アクアとルビーを目的に積極的に見てくれる人の数についてのことみたいだ。

 

「俺たちを純粋に応援してくれて、予告した配信に来たり、あとから視てくれる人が30万前後。だけど、この人達って俺達をアイドルとしても子役としても応援してくれて、グッズ購入やリアルイベントに来てくれる人の比率が多いし、情報を拡散してくれる人も多いから、そこに沿ったサービスをしている。このコア層を取り逃がさないような企画とか時間帯とかに気をつけてる」

 

 私を誰が支持しているか…………そういえば考えた事が無かった。

 

「かなの今は正直、事務所のアンマッチなギャラのせいだと思ってる。近年までは重要視されてきたのが知名度。これが採用基準だったから、テレビに出れば出るほど優位だったけど、今は費用対効果の観点から考えて、個人で持つ潜在的な視聴率とギャラ、そして現場での好感度のかけ算で出演を決めてる所が多い。今のギャラだと視聴率2%。世帯視聴率的に80万人がこの役者が出るなら視るくらい必要だけど…………これはブームではなく安定して出せる人は芸歴が30年とか40年選手とかばっかりだし、ブームとかいう運に助けられないと厳しい数値なんだ。俺も今がブームだから付けられる数字であって、平時なら40とか50まで下げると思う」

 

「アクアだったら、私のギャラとかどうするの?」

 

「俺? 正直、今なら30あたりまで下げないとコスパが悪いと言われると思う」

 

 30…………ママも、パパも、事務所の人も受け入れられないとおもう。

 

「ギャラとかは正直、事務所の人が決めることだから口出し出来ないし、今は予算の都合とかで一緒に仕事はあまり出来無いけど、応援してる。いつでも相談に乗るから、なにかあったら電話してくれ」

 

 

 アクアはいつだって優しい。でもその優しさが恐かった。

 

 撮影する部屋の裏にあるアクアが作業をしている机には、アクアとルビーのYouTuberとしての企画書が日にちのふせんを張って積んであった。こういった努力のただ乗りをしているようで申し訳が無いし、これ以外にも仕事を抱えているのか、この間B小町が出していた曲を多分、英語とあとよく分からない言語にカタカナも一緒に書いてある歌詞の紙もあった。

 

 B小町が一気に世界的グループになって、事務所の拡張が間に合ってないとは聞いていたけど、マネージャーの人も掛け持ち状態でいっぱいいっぱいになっているらしく、ネットの方はアクアが企画からやっているらしくて、忙しいらしい。

 

 今の私どころかかつての私の仕事量を超える量をこなしている。今年には受験もあるのにスケジュールは常に埋まっていて…………あかね曰く、最近、仕事をこなした後は考え込む事が多いらしい。あいつは母親が九州の出身で、里帰り出産なのか九州で生まれたみたいだ。仕事で九州の生まれ故郷に寄って、そこでなにかあったらしい。最近は無理をすることが多いらしくてあかねもルビーの勉強を教えたりしてアクアの時間をとれるように協力しているらしい。

 

 あかねとアクアにも主演になる話が来ていて、それは模試の成績でトップだった2人というネームバリューで売り込むらしくて、成績を下げるようなことがあってはいけないみたいだった。これからどんどんいそがしくなるのに受験勉強もしないといけないアクアに迷惑をかけたくなくて、私はアクアと少し距離を置くことにした。

 

 

 

 

 

「かなちゃん、かなちゃん」

 

「なに、あかね」

 

 一緒の現場にいたあかねが後ろになにかを隠しながら話しかけてきた。

 

「えへへ、お誕生日おめでとう! これ、プレゼント」

 

 少し驚いてしまった。そうだ、今日は私のお誕生日だった。仕事の事で頭がいっぱいで忘れていた。

 

「…………ありがとう。開けていい?」

 

「うん、どうぞ」

 

 中身はかわいらしい食器セットで、メッセージカードなんかも入っていた。

 

 あかねはいい子だった。アクアと同じ事務所でそこで実力もつけて結果を出し続けて、今ではメインキャストとして共演することも増えて、私と違って素直で可愛くて真面目な性格で、現場の人間からも好かれていた。

 

 最近では劇団の練習にも参加しているらしくて、どんどん成長しているのがわかる。

 

 私との評価の差もなくなってきた。あとの差は経験と実績だけで、数年もしないうちに追いつかれてしまうのは目に見えていた。それでも、私の事が好きという態度が崩れなくて…………羨ましくて、時には妬ましいとまで思ってしまう自分が大嫌いだった。

 

「あと、アクアくんとルビーちゃんからも預かってるんだ! 今、持ってくるね!」

 

 そういってあかねは走る必要はないのに走って車に取りに行ってしまった。

 

「そうだ。今日は私の誕生日だった」

 

 最近では、お母さんは仕事についてくる事も減ったし、お父さんも帰ってくるのが夜中とか、帰ってこない日も増えて会うことも少なくなってしまった。

 

 でも、私の誕生日なら居てくれる。もしかしたら内緒でパーティーをしてくれてるのかもしれない。プレゼントはその時開けようと思って持ち帰って…………

 

 そんな期待をして帰って暗い家の中にあったのは、一枚の紙だった。

 

 食事に行ってます。帰りは遅くなるので、先に寝ていてください。

 

 そんな事が書かれていた。

 

「お母さん、お父さん……」

 

 この日、なにかが折れたような音がした。

 

 

 

 

 それからは、言動や行動も気をつけるようになった。私は主役ではない。数字も持っていない以上、周りをサポートして、数字を持っている主演級の人を目立たせて、作品全体の数字を作る。上手い人なら作品全体のクオリティーを上げる。

 

 有馬かなは人気がない。魅力がない。

 

 だからせめて、まわりを引き立てる演技をして今を維持しないといけない。数字を持ってもいない私が前面に出ても作品の数字を落としてしまう。アクアのようには出来ないけど、作品の質を上げるために、周りの演技を上手に受けるように演技の仕方を変えた。

 

 今まではいかに目立つのかを考えていた。でも、これ以上、結果も出ないのに表に出ると…………使いにくい上に数字を出せないのでは、今の実力派としての評価も無くなってしまう。

 

 そうして献身的な動きに変えたけどすこしずつ仕事も減って来て、なにをすれば良いのかより一層分からなくなってきた。

 

 悩んでいると、事務所でテレビドラマの最終回が流れていた。

 

 そして…………アクアとあかねのラストシーンで、あかねが恋をする女の子の…………アクアと2回目の共演をした時の私と一緒の顔をしていた。

 

 そこから、あかねがブレイクしていき、どんどん私よりも人気になっていくのをただ見ていることしかできなかった。

 

「迷惑ばっかりで可愛くも無い魅力もない私より、あかねの方が可愛いよね……」

 

 ああ、私はもうアクアの隣に立つことすら出来ないんだろうな。という気持ちが私の中で生まれていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 誤算

 

 

 かなちゃんにピーマン体操させるRTAはっじまるよー! 

 

 さて、前回はあかねを成り上がらせる為にずっと動いてきましたが、あかねの好感度だけ上げてもかなの好感度を上げられないじゃん。って思った方も多いと思うので初見の方用に説明しますね。

 

 かなは「巨星の演技」が消える前に好感度を100にしとかないと絶対に落ちぶれます。ここまでに100にしておくと大女優かなちゃんルートに入れるんですけど、これでは普通に好感度を上げるだけなので、時間がかかります。あと、あかねと一緒に好感度を上げるのが難しいので諦めました。

 

 なので、このあと落ちぶれていって、事務所と親に見限られるかなちゃんをお救いして好感度を稼ぐルートで好感度を回収していきます。

 

 ここで注意しとくのはギリギリになるほど、好感度の回収率も高くなるので、なるべくストレス値が高くなるまで、放置していくことが大切です。高すぎてもアレなんですが、ファンブルってなければ、そんなに酷いことにはならないので、基本、ギリギリでいいです。この時、SNSを入れているとわりと早くヘルプが来てしまうので、SNSを入れないようにしましょう。アクアは中身がおっさんなのでそういうのは後から入れないといけないんですね。

 

 かなの人気がヤバそうになったらSNSのアプリ入れときましょう。早すぎるとかなちゃんヘルプが早すぎて、反転で上がる好感度稼ぎの計画が死にます。

 

 さて、どんどん追い込むわけですが、「巨星の演技」を失っても総合スペックではかなの方が圧倒的に高いので、前回ギャラシステムを使いましたが、それだけでは勝てません。なので、事務所と親に足を引っ張ってもらいましょう。

 

 かな親と事務所は原作でも徐々にヤバいことが判明していったのですが、まあ、リアル芸能界は普通にエロ方面で売られたりするし、断ると干される世界なのでまだヌルイのかもしれませんが、ゲームではそういう世界は入り口しかないのでね。普通に無能かつ足を引っ張る存在が一番害悪です。その意味ではこの両者はヤバいです。

 

 かな親は父親は普通に不倫して去って行くだけの空気なんですが、母親は娘を哺乳瓶持ってるときから芸能界に突っ込んで自分の夢を叶えさせるタイプで上手くいかなくなると周りを巻き込んでめちゃくちゃにしていきます。

 

 そして子役事務所さんなんですが、一言で言ってしまえばゴミです(暴言)原作での描写だけでも忙しければ4歳とか5歳児をまともに睡眠もとれない環境に突っ込み、いろいろな分野にあっちこっち手を出して自爆させ、主演級を勤められる有名子役を1年で脇役の仕事すらない状態に追い込む事に加え、教育能力とかそういったものもないやべえ所です。芸能事務所自体が基本やばいと言えば、まあ、そうなんですが、その中でも特にやばいところですね。かなちゃんはどんなに頑張っても原作時点では落ちこぼれてしまう運命というか所属事務所が悪いね。

 

 なので、かなはどんなにスペックを高めても使い潰されるという……ゲームではかなの事務所はかなりゴミなAIを搭載してるので行動がヤバいんですよね。まあ、今回はそれを利用するんですけど。

 

 かなの事務所は基本的に前回お話したギャラの単価を上げる事を最優先事項として動きます。そして、それはピーマン体操は原作で登場するので必ず成功するイベントという話と悪魔合体していきます。

 

 ルビーはわざとピーキーに育てて、かなの代用にはならないようにしているので、唯一、かなの代用運用が可能なのはあかねになります。その競合のあかねを不当廉価の10万で売り出すことで、かなの役者としての単価を一気に下げると、ピーマン体操で成功した歌手路線に舵をきってくれます。

 

 私は役者ではなく歌手で客単価を増やすぞって流れです。なにやってんだよ。と思いますが、原作再現をする為のクソAIな事務所なのでとしか言いようがありません。まあ、リアルでも国民的な子役がドラマ主題歌でうまくいった事で3年で20曲以上出してる事例があるので、それリスペクト? なのでしょう。リアル先輩の方がリアリティーないのでゲームの方がマイルドになりますね。

 

 それを言ってしまうと原作アイなんてかなりヤバいですけどね。アクアとルビーが生まれてからB小町として20曲以上出して、ラジオアシスタント、バラエティー、モデル、役者なんかも平行でして、さらに子育てもするみたいなスケジュールでケロっとしていたわけで、原作ルビーがママはこれくらいなんでもない顔してこなしてたと言って自分を追い込んでいましたが、体力がないと売れっ子を続けることすら出来ない世界です。

 

 あかねの努力と主演ドラマで起きたアクあかブーム。そしてピーマン体操で歌手に路線変更したかなの空白を狙って一気に市場をぶっ壊していきます。

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 よし! どんどん、あかねの価値が上がっていきますね。かなは……うん、駄目そうですね。そもそも歌手はステが低い方が子供っぽくて売れるみたいな罠があるし、しかも、この世界、アクアとルビーが子供歌手枠取ってるしね。仕方ないね。

 

 いつ、かなの家でイベントが来るかはランダムなんですが、基本的にかなの価値が下がると父親の不倫が発覚して、かなの家出イベントが起きて、アクアの所へヘルプが入る流れです。状況が悪ければ悪いほど、ギャップで好感度が上がるので、いっぱい追い込んできたけど、助けてあげるから許してね。

 

 さて、かなイベントが起きるまであかねちゃんの好感度を上げるぞ~! ということでどんどんあかねとコミュっていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 あれっ、なんか思ったより遅いですね。そろそろストレスゲージも上がると思っていたのですが、まあ、いいか。SNSの方に連絡があるはずなので……

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 あれ、来ませんね。もしかして善良親引いてる? いや、あれ、くそ性格&能力は確定のはずなのに……まあ、7歳までが期間なので。能力値が高い分、価値が高いのかな。そういえば1本100万までいくのって初めてなので、落ち方の下限値の都合上、かかる日数増えてる? 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 あかねちゃんから連絡ありましたね。

 

 えっ? 緊急の連絡? 

 

 なんだろう。ってうん? ちょっとおかしいですね。これかなり緊迫した音楽流れ出してる。

 

 えっ、これ、ガチでやばいというか、バッドエンド間近のやつじゃん! はっ? SNSに連絡来てないぞ。重要なイベントは逃しがないように設定したよね。したはず。

 

 

 あれっ、画面にSNSがないぞ……

 

 

 はっ? えっ、入れた、入れたよね。入れたはず! えっ、なに、バグ? バグなの? まじで、なんで! えっ! もしかして、入れ忘れてた?? 

 

 うっそだろお前、いやでもそうでもないとあかねからこういう連絡来ないし、直感で動かないといけない気がするみたいな画面が来るときって、恋愛リアリティーショーのあかねみたいにガチでキャラロスト寸前の時しかないし……

 

 かなイベでそんなに酷いことになることってないのでは? えっ? 家出するくらいでしょ? どうなってるんだ? というかそんな事してる場合じゃないな。はやく行動しないと駄目だ。かなを確保して状況を確認しないと。

 

 いや、まだいけるはず、ここまで良い感じに行けてるし、ちょっとロスしても大丈夫、へーき、へーき。大丈夫だって。いける行ける。

 

 アクア──────!!!! 全力でかなを探し出せ! まじでターン数ないから急げ!! このままだとゲームオーバーになる。キャラロストする! 

 

 やばいので、少しでも遭遇確率をあげる為にかな家出イベの行き先、攻略サイトで統計をとった確率高い順に回っていきます。やばい、やばい。やばい。

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 うわ、ギリギリ見つけてかなちゃん確保なんですが……ステータスとか状態をみるとヤバいことになってますね。精神が特にキツい。何だ。このストレス値。闇落ちするのでは? って感じです。これかなの親の性格がランダム(クソみたいな性格しか入っていない性格ガチャ)なんですけど、ファンブルでもこうはならないぞって値になってます。

 

 こんなの見たことないんですけど。

 

 どうやってカウンセリングしていくんだ? ってくらい真っ黒。所属事務所も対応がやばいですね。どこのブラック企業? 事務所の方向性もファンブルになってるの? どんな確率だよ。

 

 これだと事務所の移動すら怪しいんだけど。

 

 事務所が絶対、使い潰すまで、逃がさないぞ☆ってくらいヤバい。なにこれ。これまで運が良かったのに、その運を全てこの一撃で破壊してきたんだけど……

 

 ちょっと攻略wiki見ますね。

 

 うっわ、幼少期に単価100を超えるとかなの親と事務所って内部でクソな属性ダイス振るんだ。ファンブルしてるとクソ×クソ要素ですごいクソになるらしいですね。へー。というか更新日昨日? 昨日か~、そもそも、わざわざアイ√でここまで、かなの能力値と好感度上げしないといえばそうなんだけど、そんなのある?? 

 

 作中最高レベルの天才キャラを没落させるにはこれくらいクソな事務所でないと……みたいな仕様? かながどんなに成長しても一度失敗させてやるぜ的な運営の意思を感じる。まあ、トップ女優になるとラスボスが殺しに来るので、それ対策なのかもしれない。

 

 

 でも、SNS登録してたらもっと早くにヘルプが入っていたはずなので異変に気がついたし、うわー、最悪のタイミングでやらかした感が酷い。

 

 この状態から脱するには壱護社長とか、そこらへんの脇役よりの人の好感度上げが必要なんだけど、ヒロイン優先でコミュって無いんですけど! 

 

 

 

 これはだめかも分からんね。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 裏 かな④

 

 

 お母さんとお父さんが離婚した。

 

 私はお母さんとお父さんの喧嘩している部屋の隣から聞いていただけだから断片的にしか聞こえなかった。ただ、お父さんはどこかのお店でお酒を飲んでいて、そこで沢山お金を使っていたとか、そのお店の人を好きになったとか、離婚してその人と新しくやり直したいとか、そういう事を言っていた。

 

 私達は捨てられたんだ。って事だけは分かった。

 

 私は人気がなくなって仕事もかなり減って来ていた。事務所も単価を下げざるを得ないといって下げたけど、それでもまだ高いと判断されているみたいだった。

 

 まだ私の実力を買ってくれる監督は居る。けど、まだ高いみたいな事は言われてしまっている。私が出られるのは大手の資金力のあるところのメイン以上の仕事だけになった。

 

 かつては寝る時間も惜しんで準備して働いていたのが嘘みたいに仕事がなくなった。お金も稼げなくなった。

 

 だから、お父さんは私と一緒にいることにメリットが無くなったんだろう。

 

 邪魔なお母さんと私と、持って行けない家とか家具なんかは置いて出て行った。

 

 最後の言葉は「せいせいする」だった。

 

 ああ、お父さんは私達と一緒に暮らすのが嫌でいつも帰ってこなくなって来ていたんだと最後に分かった。

 

 そして、お父さんが居なくなるとお金はまったく入ってこなくなったみたいで、稼げるのは私だけになった。養育費というものが本当はあるらしいと聞いたけど、音信不通になってしまって、貰えないらしい。そしてお母さんは働いた事がないらしく、最近は来ていなかったのにまたマネージャーみたいなことをするようになった。

 

 でも…………

 

「なんでこのシーンがカットなんです! かなの出番が減るじゃないですか?」

 

「いや、ですから、時間の尺の都合と出演者の撮影日の理由です」

 

「だったら、他の出番が増えるんでしょうね!」

 

「そういうことは脚本と監督が決めることでして」

 

「だったら、監督と直接お話をさせて!」

 

 そんな口論が聞こえる。何度も繰り返されるお母さんがADさんと揉める姿だった。お母さんは現場についてきてはこういった問題を起こす。

 

「お母さん、現場の人を困らせちゃ駄目だよ」

 

「かなは黙ってなさい。あなたのために言っているのよ」

 

 止めてもお母さんは止まらない。せっかくのお仕事もこうやって潰してしまう。「有馬かなを使うと面倒なのが付いてくる」そんな話をよく聞くようになった。

 

 私が付いてくるとADさんが一人拘束されるから、戦力的にマイナスらしく、呼びたくないと思う人が増えるのも仕方ないのかもしれない。

 

 お母さんは働けない。だから私が頑張らないといけない。私は子供だからこの世界でしか働けない。なのにお母さんが仕事を潰してしまう。

 

 どうすればいいのか分からなくなってしまった。なにを頑張れば良いのかが分からない。

 

 そんな時だった。歌手としての仕事をしないかと言われたのは。

 

 私は物心が付く前から発声訓練や歌の練習をしていた。けど、子役をしてからは、歌の練習なんてしていない。ルビーと比べればわかる。あの子はずっと練習していた。本当に毎日、毎日、ダンスも歌も練習していた。双子星もアクアは完全に合わせて、ルビーを常に引き立たせるためのものしかしていないし、出来ないと言っていた。

 

 ルビーと一緒に練習していたアクアも引き立て役にしかなれない。これは練習量の差で、どうしようもない。同じ子供枠でルビーに歌で勝てるほど思い上がれない。

 

 どうせ駄目なんだろうな。と思いながらも真剣にやる。アクアとルビーも音楽という新しい世界で活躍して、ドラマや映画を見ない人に対して、アプローチをして、その客層を手に入れたと言っていた。

 

 子役の世界で私は開拓されつくした。だから新しい分野に裾野を広げよう。というのも、分かると思った。

 

 本当は演技で食べていきたい。脇役でもいい。お金なんて要らないと言いたかった。

 

 でも、私はお母さんの為にお金を稼がないといけない。

 

 事務所の人は最近、こうやって色々な事を言うけど、諦めたような、やる気のないような、そんな言動が増えてきた。旬が過ぎた子役…………そんなこともよく聞くようになった。

 

 何十回、何百回と練習しても毎回、新曲を出す度にオリコンに乗るルビーなんかとは比較にならないくらい下手だった。そして曲もピーマンの歌というよく意味が分からないものだった。音程も外れていてどうしようもないくらい音痴だった。

 

 だけど、なぜか売れた。

 

 なぜかランキングで一番になっていた。

 

 意味が分からなかった。

 

 でも成功した以上、音楽番組に出演が決まったり、地方での営業の仕事も来たりするようになった。

 

 久しぶりに周りの人から視て貰えた気がするけど、うれしいという気持ちより安堵が勝った。だって、私はなんでこれが売れたのかが分からなかったから。

 

 私はピーマンは大嫌いだった。

 

 苦くて、これが混ざっていると全ての料理の味がピーマンになって食べることが苦痛になる。だけど、営業でかならず食べないといけないし、番組なんかで出ると、かならずと言って良いほど笑顔で食べる事になる。こんなところで演技が生きるなんて思ってもみなかったけど、我慢して食べた。

 

 その生活からストレスで蕁麻疹が出て、医者から止めるように言われたけど、薬を飲んでその生活を続けた。

 

 そしてピーマン体操だけがこれだけウケたのだから、次も売れるとなるのも当然の話で。

 

 なんで売れたのかが分からなかった私は必死になって練習をした。

 

 上手くもなくて、子供っぽいだけの曲が売れた理由は分からなかったから次も売れるのか不安しかなかった。ルビーにも練習方法を聞いたりして、空いている時間は歌手としての練習に費やして、ピーマン体操の時よりも遙かに上手になった自信はあった。

 

 でも、その次は全然売れなかった。そして、その次も、その次も…………

 

 ランキングどころか、200枚とか300枚とかそういう売上しかなくて。ピーマン体操が40万枚なんて言われてるのに、その半分どころか1000分の1すらない結果に終わった。

 

 理由は情報が拡散されず、売っているということすらも認知されなくて売れなかった。それだけだった。有馬かななら買うみたいなユーザーが思っているよりも少なくて、そこから情報が拡散されるなんてこともなくて、握手商法みたいなのも、そもそも認知されてなければ来なかった。元々役者畑の人間で、歌手としてのコアユーザーの少ない私の弱点が一気に出た結果だった。

 

 数万規模の売上を見込んでいた会社は大いに失望したらしい。

 

 

 歌手、有馬かなは一気に燃えて、そして一気に鎮火していった。

 

 

 

「ねえ、かなちゃん、最近調子悪そうだけど、大丈夫?」

 

 そう聞いてくるあかねは明らかに以前と変わっていた。カリスマ性。その瞳にはそれがあった。まるで引き寄せられるかのような瞳はアクアを思い出す。そして、あかねは明らかに可愛くなっていた。髪型も整えるだけではなくて、巻いていたり、纏めていたりと創意工夫をしているみたいだし、表情一つ一つが以前のような抑え気味なものではなくなっている。地味目だったけど、明るい表情豊かな女の子になっていた。

 

 理由は分かってる。恋と自信。私が無くしてしまったものをこの子は持っていた。

 

「大丈夫よ。この間も曲が売れなくてちょっと落ち込んでいただけ。また大ヒットとばしてやるわ」

 

 なんでこの口は心と真逆な事を言ってしまうんだろう。歌なんてもう歌いたくなんてないのに。

 

「そうじゃなくて、最近、かなちゃん、周りに合わせる演技ばっかりしてるよね」

 

「………………そうね」

 

「私の知ってるかなちゃんは、眩しく輝く太陽みたいな演技をしていたのに。周りのみんなを食べちゃうみたいな演技だったのに。なんで変えちゃったの?」

 

 出来なくなったなんて言えなかった。出来なくて、出来ないから妥協した結果なんて、この子に言いたくなかった。

 

「私も大人になったってことよ。周りは演技力より、使いやすさを重視する。だからそれに合わせたってだけ。以前のやり方だと出来る仕事も限られるから、上手に色々な役柄をこなすためにやり方を変えたの」

 

「そんなのじゃ駄目だよ。そんな演技だとかなちゃんは輝けないよ。かなちゃんはもっと身勝手で、圧倒的で、格好良くて、凄くて、みんなに合わさせるような演技だったよ」

 

「そう」

 

「私もちょっとだけ出来るようになったんだ。だから一緒にぶつかって来て。私じゃ物足りないかも知れないけど、頑張るから」

 

 そう真剣に答える瞳に答えられない自分が本当に嫌だった。

 

「かなちゃん」

 

「うるさい!」

 

 そして、つい怒鳴ってしまった。

 

「…………かなちゃん?」

 

「…………ごめん。でも私はやり方を変える気なんてない。そういう演技がしたいならすればいい。私は私のやり方でやるから」

 

 それからあかねとは喋ることはなくその撮影は終えた。

 

 そのドラマで私とあかねの立場と評価は完全に入れ替わったのは言うまでもないことだった。

 

 

 

 

 

 私はこの業界で生き残らなければならない。

 

 私は天才じゃない。演技力も落ちてしまって、生き残る為に他人に合わせる演技に切り替えた。やりたかった事を全部捨てて、やりたくない事を一生懸命やるようになったのも私と一緒に捨てられてしまったお母さんの為。

 

 お酒の匂いがする。

 

 お母さんはお父さんに騙されたと言ってお酒を飲む事が増えた。家が貰えると聞いて家を貰ったはずが、ローンが残っていたとか、連絡先に連絡が付かないとか、養育費が払われないとか、通帳の中身がおかしいとか色々だった。

 

「お母さん、お母さん、お酒はほどほどにしないと」

 

「かな…………なんでこんな所に居るの? 稽古は?」

 

「ずっとやってたよ。でもお母さんが心配で…………」

 

「そんなのはいいの! もっと有名な役者になって、もっとお金を稼げるようになって、一緒にあいつを見返すって約束したでしょ!」

 

「うん、わかってる。頑張る」

 

「じゃあ、なんでこんなに売れないの! 少し前まであんなにテレビに出て、仕事もあったのに、最近じゃ目立たないなんて言われて…………やる気がないの!?」

 

「そんな事ないよ。これから前みたいになれるように頑張るよ」

 

「私の人生、いつもこう。上手くいったと思ったら駄目で、捨てられて。本当はかなも私なんか捨てて出ていきたいって思ってるんでしょう!」

 

「そんなことない。そんなことないよ」

 

「あんなやつなんかと結婚するんじゃなかった! あなたなんて産まなければ良かった!」

 

 私は頑張ったのに、頑張って、頑張っていたのに返ってきたのはそれだった。

 

 なにかが吹き出しそうなくらい大きな感情が出てきたと思ったけど、なんでだろう。なにも感じなくなった。なにかに一気に冷めた。

 

「…………ごめんね。お母さん」

 

 そう言って、大雨が降っていたけど、かまわず外に飛び出した。

 

 

「疲れた……」

 

 疲れた。それ以外なにもなかった。

 

 あの家に居るのに疲れた。

 

 失望されるだけの仕事に疲れた。

 

 誰にも期待されない日々に疲れた。

 

 アクアに…………電話する元気は無かった。ルビーにSNSでメッセージを送ろうとしたけど、止めた。こんなことをアクアに話す事になりそうで嫌だった。あかねのSNSに親と喧嘩したから泊めて欲しいと入れて…………しばらくしたら消した。

 

「どの口が言っているのよ」

 

 あんなに理不尽な事をしてどんな口で泊まっていいかなんて聞くつもりになっているんだろう。

 

 雨の中を歩く。どこにも行き場所は無くて、どこに向かっているのかも分からない。体の芯から冷たくなってきた。

 

 でも、私には帰るところがないし、帰りたくない。

 

 どれくらい歩いたんだろう。どれくらい時間が経ったんだろう。服は濡れてべっとりと体にくっついていて、靴の中は水が入り込んで気持ち悪かった。

 

 少しずつ意識が朦朧としてきた。でもいいや。疲れたし、眠いし…………

 

 そして、歩くことが億劫になって倒れそうになった時、だれかの体が支えになっていた。

 

 見上げると………… 

 

「アクア……」

 

 そこには、ずっと会いたくて…………でも会いたくなかった男の子が居た。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 裏 あかね④

 

 好きな人

 

 

 私は鏡の前で本を読みながらママにそれの通りにしてほしいとお願いしていた。二つ結びとか三つ編みにしてみたり、ポニーテールにしてみたり、少し巻いてみたり、色々してみた。

 

「ママ! これどうかな?」

 

 髪型を変えると、アクアくんはいつも似合ってるね。って言ってくれる。でも、アクアくんは共演者の人がメイクや髪型を変えると誰にでもそう言うことをいうので、いつか心の底から言って欲しいなって思って、色々とおしゃれも勉強することにした。

 

「うん、かわいい。あかねに似合ってる」

 

「えへへ、そうかな。ねえ、お父さんはどう?」

 

「…………うん、かわいいよ」

 

 でも、パパは私がおしゃれをすると初めは嬉しそうな顔をするけどちょっと元気がなくなってしまう。

 

「う~ん、男の人から見ると駄目なのかなぁ…………」

 

「そうじゃないわよ。あかね」

 

「そうなの?」

 

「パパはそのおしゃれが誰の為にしているのか考えると元気がなくなるのよ」

 

「えっ? なんで?」

 

 パパを見ると観念したように話しはじめた。

 

「だって、あのドラマを見て職場でおめでとうございます。みたいな事言われちゃって。テレビでもなんかもう恋人みたいな扱いしちゃって、いくらなんでも早すぎないとか思ってしまうわけだよ。まだあかねは小学生なんだし、そういうのはまだ早いというか。なんというか…………」

 

「ってことで、アクアくんにあかねを取られちゃうんじゃないかって拗ねてるだけだから気にしなくていいわよ」

 

「そんな、私なんかがアクアくんとつきあえるわけないんだから、気にしすぎだよ」

 

 アクアくんにはかなちゃんが居るんだから。アクかなコンビになんて勝てるわけないんだから。それに多分、アクアくんはアイさんの事を…………どっちにしても、これはただの片思いで、報われない気持ちなんだから、気にしなくても良いのに。

 

「でもさあ、もしつきあえちゃったら…………と思うとね。あと10年は先だと思っていた事が今、来ると」

 

 いじけてしまうパパとそれをからかうママ、最近、忙しくて、一緒に時間を取ることが出来なくなっていたけど、やっぱり家族と一緒の時間って良いな。と改めて思った。

 

 

 

 世間からアクあかコンビなんて呼ばれ初めて、私はブームに乗って色々な仕事をするようになってきたけど、バラエティー番組ではアクアくんに頼りっぱなしだったし、ドラマ撮影の中でも特に大物俳優、女優さん主演の昼ドラの撮影の仕方に大苦戦していた。

 

「こういう風に大物女優とか俳優が混ざった現場だとスケジュールがその大物に合わせたものになりやすいからね。特に複数人居るとほんと、撮るシーンが飛び飛びになってパズルみたいな撮影スケジュールになるから、それでNGを連発する人も少なくないから気持ちの切り替えをしっかりね」

 

 昔のアクアくんとかなちゃんみたいに、ドラマの撮影時はアクアくんと一緒の時が多くなったから良かったけど、そうじゃなかったらNG連発しそうな予感しかしない撮影の仕方だった。

 

「その女優さんが限られた日しか来られないなら、その女優さんの居ない日に、それ以外のシーンを取るしかないから、シーンが時系列にならず、飛ばし飛ばしになる。だから、三話、四話とどんどん進めて撮ってるのに、女優さんの居るシーンだけ二話のからまた進めていくのが基本になってくると思う」

 

「うん」

 

「あと、いきなりだけど次のシーンのラストの後にモノローグ入るから本来10話放送予定だけど一緒に撮ることになると思う。そのあとは、11話のシーンになるけど、ここでまた補足説明は入れるけど、嫉んでる感情から罪悪感を感じ始めてるように心情が変化してるからさっきとは違って、自嘲ぎみに話して」

 

「うん、わかった」

 

 と、言いつつも、やっぱり時系列で変化していないから愛情から憎悪へ変わるシーンで、憎悪したシーンを撮ってから愛情を持っていたシーンを撮って、最後に中間の気持ちの変化をさせたりするシーンが来たりしていて、こういう流れは特に難しくて、直前にアクアくんに見て貰って修正に修正を重ねて、NGを回避しているけど、それが無かったら、何十回、NGを出していたのか分からない。

 

 これを午前と午後で違う撮影現場なんて環境でアクアくんやかなちゃんは出来ていると考えると尊敬しかない。少しずつ、私も成長していると思うけど、成長していく度に二人のすごさが分かる。

 

「同じ年代だとこういった気持ちの切り替えが出来る子役はかなくらいしか居ないし、中学生世代でも数人が良いところ。大人でも出来ない人は多い。それくらい難易度は高いから、今すぐ出来なくてもいい。でもテレビドラマや映画の世界で生きるならこれをいつか出来るようにならないとついて行けなくなる。厳しいかもしれないけど、付いて来て」

 

 それでも、いつか二人の世界に入っていきたいって気持ちは萎むことなく今もある。

 

 ブームの間だけかもしれないけど、アクアくんと一緒にこうした世界に居ることが出来る事が楽しくて、嬉しくて仕方なかった。

 

 そうして経験を積んでいくと、アクアくんと離れた環境でも昼ドラのやり方にも適応できるようになってきて、慣れたころになると、アクアくんの仕事の比率が変わってきた。

 

 テレビからネット活動の時間が増えて、苺事務所全体も私以外と契約書面の一新をしたらしくて、コンプライアンスに厳しい作品への出演交渉が難航しはじめたと聞いた。

 

 いわゆるゴシップ記事が週刊誌とかに載るとアイドルの人達は出演をキャンセルすることになるけど、そういったキャンセルに対しての損害補償契約に関して、実際の犯罪でなければ賠償金等の発生額の上限とか、そもそも払わないでいいみたいな契約に変えたみたいなことを言って居たけど、実際はどうなるのかは分からない。

 

「まあ、契約中のCMの放送枠とか今出演予定なんかが全部飛んだら、損害が何十億というか百億とかいくかもしれないからね。アイドルの不祥事一つで事務所が潰れる体制ってさすがに継続出来ないから、今のうちにやっておかないと」

 

 そういうアクアくんの瞳はいつもと違って鋭かったし、焦っているような感じがするようになった。

 

 

 

 

 

「アクアくん、考え込むこと多いよね。なにかあったの?」

 

 少しでも力になれる事があればと思って、話を聞こうとした。アクアくんは困った顔をして誤魔化そうとしたけど、押し切った。

 

 アクアくんはいつも力になってくれてる。だからなにか困ったことがあったら私が力になってあげたかった。

 

「いや…………そうだね。一緒の事務所なんだし、関係ある事を黙ってるのは不誠実だね」

 

 そういうと言いにくそうにアクアくんは答える。

 

「これはここだけの話になるけど、1、2年経ったらB小町は活動をかなり縮小することになると思うんだ」

 

「えっ、なんで?」

 

 つい、そう言ってしまった。だってB小町は世界でも知名度がある日本のトップアイドルグループなのに。これからどんどん人気になっていくだろうって話していたのに活動の縮小はよく分からなかった。

 

「ごめん、理由は言えないんだけど、テレビの仕事なんかは結構減らす予定で、代わりにネット活動が主になると思う」

 

 ここで思い出したのはコンプライアンスの話だ。多分、B小町はなにかスキャンダルを抱えて、それが見つかったみたいな話なのかもしれない。CMって確かギャラだけじゃなくて、確保した放送枠分を賠償することになるから何週間分もその確保した金額を払う事になる。だから損害賠償請求は億規模の金額になるみたいな話をこの間に出たCM出演の時に言われたけど、もしそれが実現した時のリスクを考えると、そういう仕事を減らしたいっていうのは当然なのかもしれない。

 

「そうだね。それは詳しく聞くの恐いしね…………」

 

「でも、あくまで予定で、そうならない可能性もあるから、あくまで準備でしかないんだ。だから、今はネットでのビジネスに力を入れる事になってる。もしそうなるようなら伝えるよ。それで色々悩んでいてね。ごめんね。心配させちゃったね」

 

 アクアくんのよく分からない行動の理由は分かった。契約とかそういうのを変えているって事は斉藤社長さんも知っているって事だし、スキャンダルで苺プロが潰れるって事は無くなっていて、その後の収益確保の為にネットビジネスに力を入れないと行けない背景は理解した。

 

 けど、本当の事は喋っていないというのは感じた。

 

 ネットビジネスはあくまでトラブルが起きたときの手段であって、そんなに焦る必要性はない。あくまでも保険なんだから、あんなに考え込む必要も、無理をする必要もないと思った。

 

 アクアくんがおかしくなったのは宮崎の撮影に行ってからだ。あそこに行ってから、アクアくんから焦りを感じるようになった。ずっと見てきたから分かる。

 

 でも私はそれをアクアくんに深く追求出来なかった。アクアくんは嘘が上手い。上手く躱されるのが目に見えていたからだ。

 

 アクアくんのお母さんのミヤコさんの所へいって事情を聞いたり、B小町の人にぼかして聞いたりして行く内に色々と整合性がとれないことに気がついていった。アクアくんとルビーちゃんが生まれた時にミヤコさんは九州へ里帰り出産をしていたというけど、その時期にミヤコさん、働いている記録がある。どう考えても無理だった。

 

 あれっ、アイさんって…………ちょうどこの時期に体調不良で休んでなかったっけ? 

 

 証拠はない。ないけど、B小町がなんで活動の縮小なんてことになっているのか、なんで犯罪ではないスキャンダルの発覚を前提にした契約を結ぶようになったのか。1本の線が繋がった気がした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 裏 あかね⑤

本日二話更新。こちらは一話目です。


 

 アイさんがアクアくんとルビーちゃんの本当のお母さんなのではないか? 

 

 そう仮定すると一見分からなかったアクアくんの行動に合理性が見られる気がした。

 

 アクアくんは初めての作品で五反田監督の下で、アイさんの仕事を貰うために役をこなして、その結果として、かなちゃんと共演した「美しい雨」へのオファーが来て、そこで結果を残してブレイクした。

 

 アイさんの知名度が一気に上がったのもその頃で、アクアくんがアイさんの為に手に入れた役で知名度を獲得してアイドルだけでなく役者としても評価されて、バラエティーとかにも出て、マルチタレントとして活躍するようになったらしい。

 

 こういった経験をしたアクアくんは自分の影響力が高くなれば、役者として価値があれば、アイさんやルビーちゃんをサポートできると確信したんだと思う。

 

 アクアくんは役者の世界で結果を出して、自分の主演作品で、ルビーちゃんやアイさんをメインキャストにできるくらいまで影響力、実力をつけた上で、主題歌に自分とルビーちゃんのユニットを当てる事で価値を一気に高めてアイドルとしても結果を残している。

 

 もちろん、アクアくんを高く評価する五反田監督だからこそっていうのもあるけど、そういうキャストを出資者の人達を納得させるくらいの力を持っていたし、アクアくんがそういう行動をする人っていう事を認識というか、許容した上でアクアくんを使いたいと思ってる人が出資していたって事なんだと思う。

 

 周りの人にアイさんとルビーちゃんにいい仕事をくれれば、自分は損得関係なく仕事をする。それに見合うだけの仕事をするってアピールして、結果を出してきたことで、アイさんとルビーちゃんのサポートをするっていう第一目標を達成してきたし、これからもそうしていくと行動で示してきた。

 

 ここまでなら母親でも義理の姉に対するものでも違和感はない。

 

 でも、アイドル活動から役者への復帰後の行動からはそういった方針を明らかに変えている。

 

 アイさんやルビーちゃんの為にならないようなおかしい行動が多い。合理的に動こうとするアクアくんらしくない。

 

 そして、明らかに違和感があるのは私への態度。

 

 アクアくんは自分の影響力や人脈をアイさんとルビーちゃんの為に使う人だ。もちろん、同じ事務所のB小町の人への仕事の斡旋というか脇役として出演番組の監督に勧めるとかはしていたり、そのサポートとかもしているけど、これもB小町の成功がアイさんの為になるという目的の為の行動で、部外者だった私に対して、その力を使うのはアクアくんらしくない。アイさんの為にもルビーちゃんの為にもならない事をアクアくんが積極的にするのはおかしい。

 

 アクアくんはアイさんとルビーちゃんを最優先にして行動をしているのは、ずっと一緒に居たからわかる。もちろん、私に好意があってというなら嬉しいけど、多分、そうじゃない。私が、アイさんやルビーちゃんにとって必要な存在でないと、こんな事にならないはず。

 

 私を苺プロに誘ったタイミングで、なにかアクアくんが興味を持ちそうなこと。同じ学校を志望していた事、そして、ララライに声をかけられて居た事のどちらか。学校は正直、アクアくんやルビーちゃんなら簡単に受かる。なら、答えはララライに声をかけられていた事なんだろう。

 

 金田一さんがアクアくんを見た時に零した「ヒカル……」という言葉。この人物が鍵を握っている気がした私は、練習で先輩たちに声をかけて話を聞く事にした。

 

 すると、16歳の頃に退団している人で、小さい子には聞かせられない話だからと言われたけど、相当に素行の悪い人だった事が分かった。15歳の頃に大きな問題を起こしているらしいけど、詳しくは聞けなくて、技巧派の役者だったけど、メディア受けとかせずに売れなかったのもあって辞めてしまったらしい。という事だけ聞けた。

 

 そして、写真や動画を見ると、アクアくんに似ていると思った。特に10歳の頃の姿なんて、アクアくんそっくりだった。顔が似ているだけならともかく、そしてアイさんの演技を真似たと言っていたアクアくんの演技の仕方にそっくりだった。もちろん、アクアくんの方が演技力や表現力では遙かに上なんだけど、基礎といえる部分は同じような演技だった。

 

 私の演技は元々はかなちゃんとアクアくんの真似をしたものだし、苺プロにお世話になるようになってからはアクアくんの影響をすごく受けていることもあって、比較する名前としてカミキさんの名前はよく出てくる。なので、アイさんとアクアくんの名前を出して、その影響を受けているというと、口ごもる。そして、カミキさんが起こしたという事件の反応と一緒だった。

 

 アイさんとカミキさんは大人の人が口ごもるような事件を15歳のときに起こしていているのではないか。と考えると、関係性は見えてきた。この二人は恋人同士だったんだ。そして、それが周囲にバレたんだと思う。

 

 アクアくんはララライで自分の父親を探していた。もしくはアイさんのスキャンダルになるような事がどのように扱われているのか、調べに来たなんてこともあるかもしれない。

 

 アイさんが義姉だった場合、昔、恋人が居たという話にすぎないけど、子供まで居たのなら一気に仕事が無くなるのもわかる。B小町だけでなく、アクアくんとルビーちゃんの契約を変えるのも理解できる。

 

 でも、私をそういった事を調べるのに利用するために近づいたのなら、私にそういった事を言ってこないのもおかしいと思った。来年になったら、入るかもしれないって話はしていたけど、カミキさんやアイさんの事を調べるくらいなら私にも出来るから、聞いてくると思う。

 

 もしかしたら、アイさんに対して、カミキさんが真実を話すみたいに脅迫している。なんて事態になっているなら、ララライの事を今更調べる事に意味が無い。もしくは優先順位が下がったのかもしれないけど、それなら、一年後か二年後の話なんて事にはならないはず。

 

「わからないなぁ。アクアくんも相談してくれればいいのに」

 

 例え、利用する為に近づいてきたのだとしても、力になってあげたい。

 

 アクアくんは本当に一生懸命にアイさんとルビーちゃんの為に動いている。自分の為になにかをするって事を忘れてしまったみたいに働くアクアくんの必死な姿、悩んでいる姿、それをアイさんやルビーちゃんには悟らせないようにする姿。ずっと見てきたから報われて欲しい。

 

 完璧で何でも出来る格好いい男の子だとかつては思っていたけど、それは嘘で、目の前に居たのは、家族の為に一生懸命になっている頑張り屋さんの男の子だった。

 

 私なんかが出来る事は少ないけど少しでも力になってあげたい。

 

 アクアくんのサポートが要らないくらい上手くなる。ルビーちゃんの受験をサポートする。ララライでカミキさんの話を集めて、日常会話として話したりくらいしか出来ない。

 

 ララライの話をする時は少し苦笑していたから、私が気がついている事も鋭いアクア君なら察してしまっていただろうけど、あえて言わずに伝え続けていた。

 

「俺は、過去、アイとルビーに対して、取り返しの付かない失敗をしたんだよ。今があるのは奇跡に奇跡が重なったからであって・・・・・・本来ならひどい事になっていた。だから、もうそんな事が起こらないようにしたい。俺の全てを使っても二人には幸せになってほしい」

 

 そんな弱音を吐くアクアくんの姿は、小さい体がより小さく見えた。

 

 なにか出来る事を探して、アクアくんのサポートが出来るように頑張って…………

 

 でも私は、それだけしか考えられなくて…………友達が苦境に立たされていたにも関わらず、相談も出来ないくらい思い詰めていたと理解したのは、SNSから来た「親と喧嘩したから泊めて欲しい」というメッセージが一分もしないうちに消えた時だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 天鈿女命

本日二話更新。二話目です。



 

 

 ガバったのでオリチャー発動してなんとかするRTAはっじまるよー! 

 

 さて、前回、盛大にガバった訳ですが、これによってどんな問題が起きたのか分からないと思うので、本来走るはずのエンディングと今後目指すエンディングの差異を踏まえて解説していきますね。

 

 本来走るはずだったルートは完全に使えなくなったので泣きそうですが、なんとか軌道修正します。

 

 予定では、ここでかなの家出イベントを経てから、苺プロに所属を変えさせて、好感度を一気に上げきる。その後にあかねの好感度上げも一気にして、アイルートのベターエンドの一つである通称「疫病神ちゃんエンド」でゴールする予定でした。

 

「疫病神ちゃんエンド」とは、天鈿女命の使いの女の子が提示する選択肢から入るエンディング全般の名称であり、この通りにするとアイルートではラスボスが排除され、エンディングにいく為のアイテムを手に入れられるわけですが、それ相応の代償があるのが特徴です。

 

 今回は疫病神ちゃんの好感度上げというかコミュ取ってないので、宮崎の高千穂へ行くと100%で会えるイベントがあるので、そちらで確保しておいたエンディングで終わる予定でした。

 

 まあ、好感度上げきってからいくつかコミュったりするともっといいエンディングになるというか、制限時間までにより良いエンディングを目指していくのがアイルートの本番まであるのですが、ゴールはゴールなので、ロスが一番少ないベターエンドでゴールします。

 

 宮崎の高千穂に行くと疫病神ちゃんが話しかけてきて、アクアを雨宮吾郎の死体の下まで案内してくれます。この時、アイやルビー、かな、あかねなど関わりのあるキャラの芸能界における知名度や人気に応じて初期好感度が決まり、高いとラスボスがこの事件に関わりがある証拠をくれます。アイの好感度を上げきる&死体と証拠を確保した上で警察に知らせると一気にエンディングに入れます。

 

 当たり前ですが、ラスボスが殺した訳ではないわけで、まず、殺人をしたリョースケくんが逮捕されます。その後にリョースケくんの自白でラスボスのアイに対しての殺人教唆が立証されて排除するわけですが、こんな事件が報道されないはずもなく、アイの出産とアイの恋人が起こした殺人事件によって無関係の医師の殺害が起きたと燃えに燃えます。

 

 ここで、アイの人気が低いとアイドルどころか芸能界復帰不可能になってしまうので、原作100万フォロワーを200万以上に上げておきます。これ以下だと、普通にバッドエンドになるような結末になる事が示唆されてしまい、エンディングに入る事が出来ません。

 

 条件がフォロワー200万以上と、基本的なプレイをしていれば人気になると使い切れずに貯まっていく、貸し借りの数を表す数値(バーター値)の合計100以上だけという簡単に入れるエンディングなので、アイルートのRTAではよく使われているので、RTA動画を良く見る方は親の顔より見たという方も居るくらいよくみるエンディングですね(もっと親の顔見ろ)

 

 疫病神ちゃんは、ラスボス排除と才能ある子達の栄達の為に動くキャラなのですが、現在進行形で才能ある子をぶっ殺していくラスボス排除の方が優先順位が高く、推しの子キャラの幸せのみを考えて動いてくれるわけではないので、提供してくれるエンディングがベターエンド気味になります。

 

 アイが死亡した原作軸だと疫病神ちゃんの言うとおりにすると復讐自体は簡単にできる反面、エンディングがアクアが逮捕されたり、ヒロインがやっちゃったりしてから再会する感じの微妙なエンドが多く、普通に無視して恋愛した方が綺麗に終われたりするので、復讐に囚われて終わったアクアエンド好きでも無ければ、好きなエンドでは無い人が多かったりします。

 

 なので、そういうプレイヤーからすると疫病神でしかないけど、容姿は可愛いので疫病神ちゃんと呼ばれるわけですね。

 

 ハッピーエンドにたどり着くと結構可愛いんですけど、今回は時間のかかるハッピーエンドは走らないので、可愛い姿は見れません。いや、見れない予定でした! 

 

 原作アクアくんは、アイのストーカーに殺されたはずなのに無警戒で過ごし、二度目の人生でだらだらしている内にアイが死んでしまったという転生させがいのない結果に終わった&使命も果たさないので態度悪いのですが、アイルートだと警戒してアイをきちんと守り切って、ルビーと二人三脚で芸能界で生きていくことになるので使命もきちんとこなしてくれてる優等生転生者の為、疫病神ちゃんも比較的やさしいです。

 

 煽ったりはするけど、基本的にやさしい疫病神ちゃんの笑顔を見たかったら、アイのハッピーエンドを走ろう! (ステマ)

 

 さて少し脱線しましたが、ここで問題になるのが、バーター値ですね。

 

 かなイベントでやらかしたので、かなの母親の説得も大変なんですけど、事務所移動にかかるコストが払えない問題が出てきました。

 

 この作品が一応、芸能人の事務所脱退後の圧力、まあ、業界に手回しして仕事を与えないようにすることを違法行為だとする判決が出た後の作品なので、出来るんですけど、タダで出来るわけでは無くてその際にコストを払う必要があるわけですね。そのコストがバーター値にあたります。

 

 主演としてドラマに出まくって大人気になった女優とか曲を出せばオリコン1位みたいな歌手でも、事務所や契約がゴミだと月収5万とか10万とかにされたりします。なので契約を延長せずに事務所を辞めたりするわけですが、契約を延長せずに辞めると事務所から、業界に対してこいつに仕事を渡すな! とコールを出したり、そいつに仕事を渡したら、自分の事務所の人間を出演させないぞ! と脅したりなんだりしてきます。

 

 かなの契約満了からの脱退後に仕事を与えないように圧力をかけてきますし、うちの事務所の人間を横取りした! と苺プロにも圧力をかけようとするわけですね。契約ってなんなんだってなるんですけど、芸能界って契約ではなく任侠の世界なので、仁義がより優先されるわけですね。育てて貰った親分の為に低賃金、低待遇で働く仁義があるんや! 

 

 ぶっちゃけ、芸能界の基本的に1年とか2年契約しかしないのに、ずっと忠誠心を求めてくるって、いまさらながら芸能界が闇すぎるんですよね。移籍金とか分配金もないので仕方ないんですが。

 

 なので、その圧力の中でも仕事をくれる相手に借りをつくることになるという事で、バーター値をがっつり使っていく事になります。あかねにも結構バーター値使って余裕は無いですし、スキャンダル後に必要なバーター値も結構ギリギリな数しかありません。アイやルビー、あかねが協力してくれたりもするんですけど、かなを助ける数には絶対足りないんですよね。

 

 炎上後に、かつて仕事で貸しあるよね! と言って、出番を用意してもらってしれっとアイが芸能界に復帰して、なんとなく受け入れられた感を出して終了予定なんですけど、かなにリソース使うと復帰できずにバッドエンドになります。

 

 つまり、「疫病神ちゃんエンド」は使えなくなってしまいました。このルートが一番早いのに!! 

 

 アイルートでは、ハッピーエンドは時間が掛かるからここから修正するとロスが大きいんですよね。斉藤社長にミヤコさん、B小町メンバーのアイに対しての好感度を上げる必要があります。これが厄介で、アイへの好感度を上げる為にアイの行動を誘導しないといけないので、めちゃくちゃ運ゲーになります。

 

 かなのこのルートだと、斉藤社長にミヤコさん、B小町メンバーのアクアへの好感度を上げないと行けないので二重に好感度稼ぎしないといけなくなりそう…………その上でかなとあかねの好感度上げはロスどころではないです。ここへ来てハッピーエンド縛り追加とか泣きそう。

 

「疫病神ちゃんエンド」は簡単に入れて、通報で一気に終わるので出来れば止めたくないんですけど、今回、かなの事務所がかなりヤバいので、バーター値が全然足りないと思われます。

 

 あと、こういった事務所間のトラブルにおいて、斉藤社長の好感度が足りないと、そもそも交渉してくれないんですよね。なんで、こんなのを引き入れるんだ! とか言われたらぐうの音も出ない正論ですし。

 

 モブキャラの好感度が足りないんだよ~となります。リスクが高いとB小町のメンバーも反対してくるし、ミヤコさんも苦言を呈してきたりするし。まあ、別の事務所の落ち目の役者なんて拾わず、圧力をかけるような価値が無くなってから拾った方がいいよってのが正論なんですけど、それ待ってると好感度上げ出来ないんですよね。

 

 さ~て、斉藤社長の好感度というか信頼度は…………95とかありますね。なんで? 

 

 今までコミュすら取ってないのに、なんか異常に高いですね。えっ? もしかしてホモ…………とまあ、高ければ高いほど良いのでよし! としておきます。まあ、ヒロインの好感度80が、男キャラの100みたいなものなので、好感度77、8くらい? それにしても高いですね。

 

 今回のRTAでは「疫病神ちゃんエンド」で終了する予定だったので、斉藤社長を使わないで、アクア単独での分岐エンドでクリアする予定だったので関係ないと思っていたのですが、斉藤社長を使わないと厳しいので、説明しますね。

 

 ラスボスの強さというか、ラスボスの影響力はラスボスの親ダイスで決まるんですけど、大体、マスコミ関連業界の大物一族の愛人の子供です。

 

 ラスボスくん自体は頭もあんまり良くないので、たいした事無いんですけど、負の幸運EXみたいなスキル持ってるので多少のガバを周りがなんとかしてくれる上に23歳とか24歳とかになるとコネでめちゃくちゃ強くなって好き勝手に暴れるようになりますし、あと、親キャラもここら辺で死ぬので、遺産とかも相まってどうしようもなくなります。アイルートでは、コネでパワーアップしたラスボスに抵抗しきれずに、アイは25歳までに基本殺されてしまうわけです。

 

 なので、その前に斉藤社長にラスボス関連の事件とかヤバさとかの証拠なんかを見つけて、前もって親キャラにラスボスのヤバさを知らせると、過去の殺人事件が連鎖爆発して勝手に退場させてくれますし、勝手に情報統制してくれます。

 

 マスコミ関係のお偉いさんの息子かつ、マスコミ関係者が大量殺人しまくったなんてニュースは流さないというか流せないみたいな別の闇が発生してますけど、一斉報道で大炎上エンドにならないのでよし!

 

 ただ、ラスボスくんが殺人しまくりの大暴れするのって23歳とか24歳の頃ですし、これからかなとあかねの好感度上げをして、やれるルートではないです。今後、アイが実際に殺されそうになって、その殺そうとしたキャラが1度逮捕されたリョースケくんで、アイの説得うんぬんで自白してって流れ以外だと運ゲーすぎて厳しいです。

 

 これ、走っても、だいじょーぶな博士が出てきて手術の成功をお祈りする並に確率が死んでる。失敗した瞬間にゲームオーバーですしね。

 

 なので、没ですね。今、あるのは雨宮吾郎の死体とラスボスくんが関わった証拠だけです。

 

 とはいえ、これ、あんまりたいしたものじゃないケースが多いんですよね。スキップしてたので何を貰ったのか知らないんですが、疫病神ちゃんの好感度によって、情報だけだったり、ただの私物だけだったりします。

 

 この証拠使わないと厳しいので、なんかラスボス個人を特定できる証拠みたいな感じのたいしたものであってくれ! 名前入りの私物でいいぞ。こんだけヒロイン達の知名度とか能力上げ上げにしたんだから、めっちゃいいものくれても良いはず、コミュってないけど、なんか良い物よこせ! 疫病神! 

 

 あっ、名前の刻印入りの高級腕時計じゃ~ん。シリアルナンバーを調べれば世界に一つだけなのでいけますね。これ送ったの親だから、説得に使えるやつです。アイとかルビーにかな、あかねを栄達させまくっていたかいがありました。

 

 疫病神ちゃんの使いのカラスめっちゃ頑張ってますね。どうやったら腕時計パクれるんだよ。と思ったけど、まあ、カラスは暗いところだと目が見えないみたいな感じで近づいて、高い腕時計でもプラプラ見せつけてたんでしょう。疫病神ちゃん、いや、神の遣いちゃんナイス~! 

 

 ということで、斉藤社長の好感度も高いので、これ渡せばラスボスくんの処理できるので、かな救出に全力全開だ! ってことで、かなを助けたい的なことを言いましょう。友情パワー! もあって、ルビーやあかねも協力してくれますし、アイも参戦しますし…・・・あれ、斉藤社長やミヤコさん、B小町の人、あかねの親なんかも助けてくれますね。まともにコミュってないのに、アクアへの好感度高いですね。

 

 あと……B小町のメンツのアイへの好感度もなんか高いです。こいつらまじで好感度上げるの難しいのに。スキップしてたので、好感度なんかの上がり具合の確認なんてしてないんですけど、アイが裏でシコシコとB小町の好感度も稼いでいたみたいです。これ、あと少し誘導すればいけそうです。

 

 あっ、なんかルビーの好感度が100になってましたね。イベントは見たければムービー集から確認してください。長いのでスキップします。

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 よし! これでかなとあかねの好感度上げに集中できます。かながおもったよりダメージが大きいので好感度上げに時間かかりそうなので、ここでルビーの好感度上げをしなくてもよくなるのは助かりますね。

 

 幼少期ってアクアからのヒロインへの好感度がアイ以外は一定以上に上がらないので、アクアからの信愛は感じても恋愛感情を感じないので一方的な片思いになるんですよね。キャラもそれを自覚する描写も多いですし。アクアがロリコンでないせいで好感度が上げにくい。アクア!ロリコンになれ!

 

 さて、朗報もあったし、ジャブでかなの事務所へちょっと交渉へいってきてね。斉藤社長。

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 あっ、駄目ですね。移籍交渉決裂しました。かなの事務所の契約が切れた直後に契約ですね。それまでにかな親を説得しないと…………かな親とコミュってないからどうなるんだろう。あれ、選択肢に1億くらいぶち込んでおくと確率上がる選択肢ありますね。はい、どーん。入れときます。アクアの年収何億あると思ってるんだ。というか使い道がパワプロのマイライフ並に無いのでバンバン使いましょう。

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 あっ、親の説得できたみたいですね。これで契約上はフリーになった後での契約なので、けじめをつけんかい! と、業界ルールで業界に圧力をかけさせようとする子役事務所と戦いですね。これで終わってもいい…………で全力でバーター値をぶち込みます。ラスボスを気にせずに使える。もうなにも恐くない。とばかりに仕事を入れましょう。そもそも、苺プロの格が大手並になっているのと、子役限定の大手でしかないかなの元所属事務所だと、自分の事務所の子を使わせないぞ取引が使えないので、優位です。

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 かなの元所属事務所がなんか潰れましたね。これで完全勝利です。あとは……ラスボス逮捕からの有罪判決とかうんぬんが終わるまでに、かなとあかねの好感度を上げればクリアですね。

 

 ラスボスくんは証拠品の存在を親に教えると内々に終わらせてくれると思うので、かなとあかねの好感度上げが終わったら処理してさよならして、アイのイベントを起こしてゲームクリアします。ラスボスは刑務所とかで刑期の重さを実感することで命の重さでも感じてくれるはずです。

 

 アイルートは周囲の人間との関係を改善していくと、アイとラスボスが対面して、推しの子のテーマとかをもりもりにしたラスボスくん改心ルートとかも入れるんですけど、まあ、このルートめんどくさすぎるし、時間もかかるのでポイします。

 

 一時はどうなるかと思いましたが、モブキャラの好感度あげがなにもしてないのに上がっていたのでなんとかなりました。尺的に次回が最終回になります。

 

 今からでも、推しの子IFヒロイン全員好感度100達成RTA(ハッピーエンド縛り)とかにタイトル変えちゃ駄目ですかね? ……あっ、駄目ですか。そうですか。

 

 

 という事で、ではまた次回、サラダバー!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑥

 

 

 俺は・・・・・・雨宮吾郎は人生で二つ、大きな失敗をしている。

 

 一つ目はさりなちゃんに何一つ出来なかった事。

 

 病室から出れない彼女に寄り添う事もできず、助けることも出来なかった。病によって物心つく頃には全てを奪われたにも関わらず、病室の中で苦しみにもがきながらもキラキラとした目をしながらまっすぐに夢を見ていた少女の夢を・・・・・・救いたいと思った初めての患者の夢を力不足でただの夢で終わらせてしまった。

 

 二つ目はアイの妊娠時に目を曇らせ、彼女の人生を滅茶苦茶にしかけた事。

 

 俺はアイの主治医として本来、貧困や若年の妊娠など様々な妊娠困難な要素を持っていた患者であるアイは特定妊婦として扱い、フォローをしなければいけなかった。彼女が発達障害だった事を見抜けず、金銭的な援助はもちろん、保健所や児童相談所などと連携したケアが必要な患者に対して、なんのフォローもなく退院させてしまった。

 

 その結果、負担の殆どを壱護さんとミヤコさんに押しつけ、一人でも大変な子育てなのに、双子の子供の面倒をみさせてミヤコさんを育児ノイローゼにまでしてしまった俺の罪は重い。

 

 アイは未成年だった。中絶には親の許可が必要で、居ない場合は家庭裁判所に手続きをしないといけない事になっている。だから20週の場合は、本来なら間に合わないケースだ。だから、俺はもしアイが中絶を決断するなら、経済的理由を根拠にしていたはずだ。なのに、アイドルとバレない為に経済的支援をさせないように手を回しているし、育児困難者になるリスクの高い患者のフォロー制度を案内していない。

 

 弱小事務所の社長の年収からそれを出すのはそれなりの覚悟もいただろうし、子なしの女性に双子の育児を行政サポートなしにさせるなんて事になってしまった。

 

 もし、俺が、アイの子供として第二の人生を歩まなかったら・・・・・・アイはあそこでミヤコさんに出産の事をばらされて、アイドルとしての人生は終わっていたし、今後の人生も二人の子供を抱えたシングルマザーとして生きるしかなくなっていただろう。俺のせいでアイの人生が滅茶苦茶な事になっていた。

 

 医者として俺は失格でしかない。さりなちゃんの姿を重ねて、目を曇らせた馬鹿野郎だ。

 

 俺の第二の人生は、力が足りずに見殺しにしてしまったさりなちゃん、俺が適切なサポートをしてあげられなかった結果として人生が滅茶苦茶になりそうだったアイ。そして、今も、バレたら終わりの俺たちを支えてくれている壱護さんやミヤコさんへの償いの旅というのは大げさかもしれないが、雨宮吾郎の力不足と判断ミスで人生を壊してしまいそうになった人達が幸せに生きるために使うべきだと思っている。

 

 あの時、殺されていて良かった。アイを今でも狙うあいつらは許せないが、俺を殺してくれたことだけは犯人とカミキヒカルに感謝しないといけない。もし俺が殺されて転生していなかったら、さりなちゃんの夢を俺が二度も破壊するような事になっていただろうし、アイも壱護さんもミヤコさんも、みんなの未来は俺のせいで滅茶苦茶になっていたんだから。

 

 

 カミキヒカルについて、情報はそれなりに集まってきていた。

 

 テレビ業界、特にキー局に入ってこられると一番厄介だと考えていた俺は、カミキヒカルの能力的に、実力でテレビ業界の大手に入る力はないと判断し、教授推薦、OB推薦の枠から入る可能性が高いと考え、内部情報を集めていた。

 

 テレビ業界はコネ社会だ。キー局にはいくつか同じゼミから毎年採用が出る確定枠を持っている所もあれば、OB訪問をして気に入られると◯次面接まで免除みたいな推薦して貰えたりする所、普通に何を聞かれたのかとか、どういう仕事なのかを話してくれるだけな所もある。入るには出身大学というよりも、人事権に影響がある人達とのつながりがあるところに所属出来ていたのかが重要だったりするらしい

 

 懸賞論文に応募して賞を取るような人間だって来る中で、実力で選ばれるのは厳しい。こういってはなんだが、真面目な学生をしているとは言いがたい人間が入れる所では無い。なので、その可能性は切った。コネ入社して、近い立場や関係の深いところで暗躍されることが一番嫌だった俺は、そういう確定枠を持っているゼミやOBからの推薦などで入る事が多いゼミやサークルなどにカミキヒカルが所属しているのかを調べたかった訳だが、そういった内部情報はなかなか出てこない。

 

 だからこそ、同じ大学に入る予定の人間という身内になって、将来、業界に入るときのアドバイスとして、どこに所属すれば入りやすいのかという話をテレビ関係者の人から聞き出したかった。だから系列の小学校に入る事にしたわけだが、あかねとのドラマ出演の際に、その系列の学校をモデルにしたドラマに出て、インタビューで、「この学校に入る事を目標に勉強しています」なんて言うことで身内あつかいされたのは良い誤算だった。

 

 一応、模試でずっと一位をとり続けていて、学校の顔としてタダで使える人間は落とさないだろうみたいな話を学校の関係者の人から聞いた。

 

 その結果、聞き出せたのは、案の定、カミキヒカルの所属していた所は大手キー局の確定枠を持っていて、それだけでなく、OBの力も強かった所だった為、コネ入社してくる可能性がある事だった。

 

 そして・・・・・・大手広告代理店の創業者一族に、カミキ姓が居る。ただの偶然かもしれない。だが、カミキの金はどこから出ているのかを考えると嫌な予感しかしない。

 

 ララライへ行くのは、カミキの人柄を知ることと、芸能界への復帰をララライからして、アイに近づくのではないかという予想からだったが、後者の可能性はかなり低くなった。なので、純粋に人柄を知るという一点のみになったので、入るリスクとリターンを考えると微妙になったことは否めない。

 

 ララライの中でどんなにカミキヒカルの人柄が良いと分かっても殺人犯と分かっている以上、その評価を信頼出来ないというのもある。結局、最悪のケースを想定するしかないのだから。

 

 壱護さんにも同じ業界に来る可能性は伝えた。悪い噂を流したりなんだりして落とせないか、とか、探偵でなにかしらの悪事を働いている所を見つけて、大学に知らせて退学させられないかなど話したが、上手くいくかどうかは分からなかった。

 

 聞き取り調査をする内に情報は集まるが、対抗手段が行き当たりばったりになるのは否めなかった。考えはあるが犯罪すれすれのものだったり、バレるとこちらの信頼もなくなるような手ばかりだった。

 

 なにより、カミキヒカルをどうにかすると、アイを道連れにしてくるリスクもある。普通に大学生活を楽しんで、新しい彼女と満足した関係でも作ってくれれば楽だが、楽観的に動いて後悔するわけにはいかない以上、動くしかない。

 

 そんな時に仕事で高千穂でのドラマ撮影があった。

 

 俺が行方不明になったのに、捜索依頼が出されていないようだったし、そういった事を調べる良い機会だと思った。社長にお願いして、マネージャーとして付いてきてくれるミヤコさんに、病院へ雨宮吾郎について聞いて貰うことになった。

 

 結果として、捜索願いは身内しか出せないので、身内の居ない俺は出して貰う事が出来なかったみたいだ。警察で必要と判断するなら行うと言われ、そのままになって年月が過ぎたという事らしい。まあ、よくあると言えばそれまでだった。

 

 たいした収穫もなく収録を終えた後、ミヤコさんに散歩に行ってくると言って俺が殺された場所付近を歩いていると声をかけられた。

 

 

「ねえ、ここでなにをしているの?」

 

 不思議な雰囲気がする少女だった。顔は整っているのに声に抑揚がなく、表情からは感情が読み取れない。年齢は同じくらいか、少し年上にも見える。周りにはカラスが飛び回り、ここにいるような、居ないような・・・・・・初めて出会う感覚だった。

 

「散歩をしているだけだよ。君は?」

 

「私はね。1度話したい人がここに来ていると聞いて、探しに来たんだ」

 

「へえ、でもここは結構、森の奥だし、迷子になるから一緒にきて。大人に相談してその人を探して貰えるように頼むから」

 

「いらない。だって見つけたから。私が話したかったのはキミ」

 

「・・・・・・俺?」

 

「ええっと、なんて呼べばいいかな。アクア?それとも星野アクアマリン、雨宮吾郎って言う方がいいかな」

 

 星野姓は壱護さんとミヤコさんとアイとルビーしか知らないし、雨宮吾郎なんて名前はルビー以外には出てこないはずだ。

 

「君は・・・・・・何者だ?」

 

 少女は少しだけ笑うと淡々と告げた。

 

「キミを転生させた神様の遣いかな?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑦

 

 

「俺を転生させた神の遣い?」

 

 この高千穂にはたしかに天鈿女命伝説がある。だが…………

 

「信じられない? なら貴方の今、探しているものの場所を教えてあげる。それが当たっていたら、信じて貰えるかな?」

 

「俺がなにかを探していたってなんで分かる? そしてそれがなにか分かっているのか?」

 

「分かるよ。ここでなにがあったのかを知っていれば」

 

「………………」

 

「付いてきて」

 

 そう言って、こちらに振り返ることもなく少女は歩いていく。二分か三分ほど少女を追いかけていくと、小さな祠があった。後ろには洞窟のような空間があり、少女の周りを飛び回っていたカラスが入っていく。

 

「ほら、中にキミの捜し物があるよ」

 

 少女に示された祠の先に入ると、俺の、いや、雨宮吾郎の死体があった。白衣と白骨だけでは分からなかったかもしれないが、生前にさりなちゃんに貰ったキーホルダーが見える。間違い無いこれは雨宮吾郎だ。

 

「あったでしょ。これで信じて貰えるよね」

 

「ああ、一先ずは信じよう。それで? 話ってなんだ?」

 

 少なくとも、普通の子供ではない事だけは確定した。超常の存在は転生なんて経験をした以上、否定出来ない。

 

「じゃあ、まず、認識のすり合わせをしようかな。キミはなぜ星野アイの息子として転生をしたと思っている?」

 

 転生した理由…………考えた事はあるが、考えても仕方ないと結論づけて考えるのをやめていた。

 

「…………たまたま生まれるタイミングで俺が死んだからとかか?」

 

「あんなタイミングで死んだから転生したのは事実だけど、それが理由じゃない。理由は天童寺さりながキミと一緒に生きたいと願ったから。せっかく、近くに居たのに再会をする事なく、キミは死んでしまった。だから再会させる為にキミは彼女の一番近いところである双子としてキミは転生したんだよ」

 

 この子はなにを言っているんだ? さりなちゃんが望んだから? 

 

「さりなちゃんは俺が転生した事を知らなかった。そんなはずはない」

 

「彼女は願っただけだからね。それを神様がどう叶えたのかどころか、そもそも願いを叶えて貰った認識すら彼女にはないよ。それでも神様は彼女の願いを全て叶えてあげたはずだよ」

 

 少女は淡々を語り始めた。

 

「彼女は芸能人の子供として生まれたいと願っていた」

 

 さりなちゃんがかつてそんなことを話していたことを思い出した。

 

「彼女はアイドルをしたいと願っていた」

 

 そうだ。俺と何度もそんな未来を話していた。

 

「彼女は健康な体になりたいと願っていた」

 

 願わないはずがない。ずっとベッドの上の生活をしていた彼女は健康に生きられる事がなによりも欲したもののはずだ。

 

「そして、最後の願いは…………彼女はキミと一緒に生きたいと願っていた」

 

 もし、16歳になったら、そんな約束をしていた。

 

「アイという憧れの芸能人の子供でアイドルになれるような容姿と健康な体を与えられた。そして最後の願いを叶える為にキミの下に導いた。もし、キミが生きていたら、彼女は入院している間にキミに話しかけて、キミはそれに答えたんじゃないかな?」

 

 ああ、そんな未来があったなら、彼女がアイドルになって成功する瞬間までずっと支えようとしたはずだ。

 

「まあ、キミはアイの出産日に死んだから、その魂を魂のない双子のもう片方に入れるような結果になったけど、彼女の…………キミの妹の夢は全て叶えたはずだよ」

 

「まて! 魂のないってどういうことだ?」

 

「元々は死産するはずだったんだよ。アイの子供は。それを優しい神様がキミたちを導いてあげたんだ」

 

 俺は本来なら無事に生ませることすら出来てないのか。

 

「そういう運命だった。それはどんな名医だったとしてもひっくり返すことが出来ない運命だ。まあ、それを神様が導いて変えたわけだけどね」

 

「…………転生した理由はわかった。でもそれが今後の話に関係あるのか?」

 

「そうだね。キミの転生した理由は天童寺さりなの願いだったけど、キミに期待しなかったわけじゃない。キミはアイのストーカーに殺されたわけだから、アイの近くに居ればストーカーを警戒してくれるかもしれないとは思っていた」

 

「俺は番犬代わりってわけか」

 

「まあ、それ以上の働きをしてくれた結果、アイは死の運命から一時的に逃れることが出来たのは事実だ。さらに本当なら天童寺さりな。いや、今は星野ルビーかな。その役目を果たそうとしているキミと話しておきたいと思っていたんだ」

 

 ひっかかる言葉がある。一時的? それはまるでアイが死ぬような運命にあるような言い方だった。

 

「いや、まて、一時的ってなんだ?」

 

「キミも分かってるだろう? 星野アイは死の運命にある。その原因はキミの調べているカミキヒカル。そして、キミの妹の星野ルビーの役目はカミキヒカルの排除だよ」

 

 少しの間、沈黙が流れる。

 

 カミキヒカルはあくまでもそういった可能性がある。というだけでしかなかった。それがアイを狙い続ける事になると、目の前の少女は断言した。そして、死の運命を乗り越えたアイがこれからもアイが死ぬ運命にあると言いつつも、ルビーがカミキヒカルを排除する役割があると言う。

 

 これは、アイが死んだ後にルビーをぶつける考えを持っていたという事だろう。

 

 ルビーはこいつとこいつの神様の手駒という事なのか? 願いを叶えてやったから、自分の言うとおりに動けとか言うつもりなのか? 分からないが…………信用できる味方ではない事だけはたしかだ。

 

「…………そんな事までして排除したいカミキヒカルは何者なんだ?」

 

「アレは、容姿やコネクション、才能、運、その他全てのものを生まれ持ちながら、人を愛さず、人に寄り添わず、人を見下して過ごし、有り余る才能がありながらも芸能の世界で失敗した。それだけなら良かったんだけど、それからは自分以外の自分と似た才能のある人間、愛される人間を壊すことでしか生を実感できない壊れた存在になった。そんな化け物は生まれ持ったその才能を壊す事に使い始め、才能のある人間をどんどん壊して殺していく。そんなやつだよ」

 

「………………」

 

「芸能の神様としては、これから力をつけていくとともに増えていく才能ある子が壊されていくのは忍びないから、排除したいというのは当然のことだと思うけど?」

 

「つまり、これから、カミキヒカルは才能がある人間に手当たり次第にアイにしたような事をしていくという事か?」

 

「いや、もうすでに何人も殺してるし、それがより加速していくことになるよ」

 

「なら、いつか捕まるんじゃないか?」

 

 日本の警察の殺人事件解決率は世界でも屈指のレベルだ。九割以上の確率で捕まる。複数犯の場合、捕まらずに寿命を全う出来る確率はかなり低い。特に今は科学調査が発達したから過去の未解決事件を解決していく事すら可能になっている。

 

「キミはアレに唆されたストーカーに殺されたわけだけど、それが見つかったのかな?」

 

「いや、でもそれは、俺に身内がいないから捜索依頼が出されなかったのと、相談した警察の判断する人間の不手際が重なったからだろ?」

 

「そうだね。アレはそんな偶々が続く人間だからこうして平然と人を殺せるわけなんだけどね。まあ、人の感情を操って、殺させる事をしたり、本人なりに手は尽くしているようだけど、本来ならとっくに捕まってるよ。キミの死体の扱いを見ても分かると思うけど、こういった雑なやり方を繰り返しても捕まらないんだ。本人は選ばれた人間なんて思っているだろうね」

 

 目の前の少女の言うことが事実なら、カミキヒカルは本当にそういった犯罪をしていて、オカルトじみた幸運で逮捕されないらしい。

 

 なら、どうするのかを考えていると、一羽のカラスが腕時計を咥えて、雨宮吾郎の死体の隣に置いた。

 

「さて、これはカミキヒカルがこの地に来たときにつけていた…………アレの名前が彫られた腕時計だ」

 

 目の前に置かれた時計は有名な高級腕時計だ。そういった時計には大抵、シリアルナンバーがあって、盗難品かが分かるようになっている。名前入りなら特注になる。遡ることは簡単だろう。

 

「どうやって確保したんだ?」

 

「キミの死体を処理する時に外していたから、その時に盗っただけだよ」

 

 なんてことがないように少女は告げる。

 

「これで全て解決するはずだ。カミキヒカルは、キミの死体の発見と同時に犯人の可能性が最も高い人物になる。キミと仲良くしていた看護婦さんがアレを目撃している事もあって、直ぐに調査は進むだろうね。アレの周りには不審死が多い。調査が進めば、それらの証拠も出てくる。死刑にならなくても残りの生涯を刑務所で過ごして終わることになるか、出られたとしても、影響力なんてなくなる。これがキミにとってもちょうど良いと思うけど」

 

 目の前の少女は、これを使ってカミキヒカルを排除しろと言っていた。なんだ。これで終わるのかと思うと、一瞬、気が抜けた気がした。

 

 だが、これを表沙汰にすると問題がある事に気がついた。

 

 犯人の第一候補にカミキヒカルの名前があがるがカミキは犯人ではないし、真犯人は今、刑務所に居る。もし、カミキが捕まったとして、そのまま殺人の罪を認めるのでは無く、真犯人の事を売って、罪を軽くするために証言するだろうし、真犯人の男だって黙っていないだろう。裁判で、カミキとアイの関係など、そういった諸々が公表されることになる。

 

 アイの恋人がアイのファンをたき付けて、アイを殺そうとした。そんな事件ならまだマシで、被害者になれる。アイドルなのに恋愛して出産までしていた事でも燃えるだろうが、致命傷ではない。だが、無関係の医師が死んだなんて事になれば、ネットで叩かれないはずがない。

 

 トップニュースで報道されるなんて事になればアイの芸能人生命なんて簡単に消えかねない。

 

 そうなれば、もちろん、俺もだがルビーにだって影響はある。必ず、放送自粛になるし、その自粛した分のCMやドラマ、バラエティーの損害賠償で苺プロが破綻する。そんな爆弾だ。

 

「これは使えない。少なくとも今はまだ。アイのスキャンダルが公表されれば、苺プロそのものが吹き飛ぶ。せめて、そういった非犯罪のスキャンダルの損害賠償請求が無い、もしくは少ない契約に切り替えないとアイだけじゃなく苺プロ全員が破綻する」

 

 少女を見ると強い視線を感じる。しばらくにらみ合うと少女は少し投げやりになって、言い放った。

 

「なら、仕方ない。頑張って、そこら辺の事はなんとかしなよ。だけど、時間は無限にあるわけじゃない。アレは化け物だ。そして、環境そのものがアレに味方をする。アレの父親も芸能界でも影響力がある存在で、それがもうすぐ死ぬ。一年、二年保つかな? それが死ねばアレは自由に動けるようになるよ。そうなれば絶対にアイは殺される。それは覚えておくと良いよ」

 

 歩いて消えていった少女を俺は追いかける事が出来なかった。

 

「俺は…………」

 

 目の前の俺の死体とカミキを追い詰める為の時計を見つめる。

 

 これを使えばアイの命を狙う奴は居なくなる。けど、それはアイとルビーの芸能生命を絶つ行為になりかねないし、必ず、苺プロが破綻するような事になる。

 

 まずは、壱護さんにそういった契約に変えて貰えるように相談して、破綻を回避する。その後は炎上した後に復帰出来るようにする準備をしないといけない。テレビなどに依存しない収益を作らないと、復帰までの時間を耐えられない。特にリアルイベントなんて出来なくなるだろうから、ネットの重要性は高くなる。ネット関連の仕事を作らないといけない。

 

 でも、俺はそれを仕方ない事だと割り切れなかった。アイとルビーをよく知りもしない人間に叩かれ、仕事を失い、未来すら奪われるなんて受け入れられない。壱護さん、ミヤコさんも、苺プロの人達も、B小町の人達もみんな不幸せになる。俺が身勝手な理由で関わったあかねも巻き込まれるだろう。

 

 あの少女の言うことが真実だとも限らない。あの少女は目的の為ならアイの死を許容し、ルビーを巻き込むことも厭わないような態度だった。心から信頼できる味方ではない。こちらを騙している事だってありえるから、話した事が真実だとまずは確定させないと、壱護さんの説得だってできないだろう。

 

 分かっている。これが俺のわがままだって事は。でも俺は受け入れられなかった。神だかなんだか知らないが、死ななかったんだからいいだろう。夢を叶えてやったんだからいいだろう。で、簡単に終わって良いはずがない。

 

 みんなには幸せになって欲しい。例え、俺がどうなろうとも。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑧

 

 俺はあの神の遣いを自称する少女の言うことが真実かどうかを調べる事にすると、俺と生前に仲の良かった看護師さんに絞って、カミキの目撃情報がないか確認した。

 

 六年も前に一度だけ訪ねてきた男の顔を覚えていられるものなのか不安だったが、目撃者を見つける事ができた。

 

 これであの少女の言っていた事に一定の信頼性がある事が分かった。

 

 ミヤコさんには無理を言ってスケジュールを変えてもらったりと便宜を図って貰った甲斐があって、雨宮吾郎が行方不明になった日にカミキと、俺たちのマンション付近で銃刀法違反で捕まった男が来ていた証言まで取れた。

 

 アイの出産日に社長以外だと唯一アイの居場所を知っていた男がわざわざ九州まで、俺たちのマンションに刃物を持って待ち伏せして捕まった男と共に来て、アイに会わずに帰っていた。その日にアイの主治医が行方不明になっているなんて、黒ではないが、かなり黒よりのグレーだろう。

 

 社長を説得するのに足る材料は揃ったので、死体を発見したこと以外は話す事にした。

 

「そうか、あの先生が…………」

 

 壱護さんはため息をつきながら、力なくそう呟いた。まあ、病院を選んだのは壱護さんだろうし、自分の判断で死んだかもしれない人が出るとなると思うところもあるだろう。

 

 アイと違って、そういう可能性もあるとは思っていたようだが、下手に関わるとやけどで済まないことになるだろうし、知らなかった事にしておけば、自分は悪者にならなくて済む。

 

 都合の悪いことは知らなかったこと、気が付かなかったことにする。大人はみんなやっている事だ。

 

「アイの出産日にアイに会いに来たカミキに付いてきてきた男と、引っ越したばかりのアイの住むマンション付近で銃刀法違反で捕まった男が同一犯だって証言が取れたことで、アイに対して殺意があるのは明白だと思うけど?」

 

「本当にその二人連れはカミキとその犯人だったのか?」

 

「まあ、六年以上前の話だからうろ覚えだったけど、俺の顔を見て思い出したみたいだった。自分で言うのも何だけど、俺の顔はかなり目立つから」

 

「まあ、一目みたら忘れないような顔だよな」

 

 壱護さんは俺の顔を見つめてそう言ってきた。

 

「一度目はその医者の人を殺して、その処理をする為にアイの殺害を諦めないといけなかった。二度目は場所は知っていたけど、ダブルオートロック式のマンションだったからアイのところにたどり着けずに見つかって失敗をしたからよかったけど、次はそうとは限らないとおもうけど」

 

「次、次か」

 

「初犯って事もあって、一年も刑務所に入って居なかったから、もう出所している。カミキに対してどう思っているかは分からないけど、もしまだカミキの言うことを聞くなら、危険だ。もしカミキがテレビ局に入り込むことがあれば、撮影とかの情報からそいつに渡してアイを狙う可能性がある。その時、守れたとしても、そこから今回の事がバレるような事があれば…………」

 

「アイの芸能人生どころか苺プロそのものが吹っ飛ぶ爆弾になるってことか」

 

「調べた結果、カミキヒカルが広告代理店の白英堂の創業者一族で、元代表取締役の愛人の息子っていうのは可能性が高そうだ。元々、カミキヒカルの所属するゼミにも昔は所属していたみたいだから、そっちのコネで所属していたりするのかもしれない。こっちの世界に来る可能性は低くないと思う」

 

「まあ、テレビ業界はコネの世界だからな。入るだけならわりとゼミとかサークルなんかの繋がりでも入れるが、そういう繋がりだと余計に面倒だ」

 

「社内に好き勝手に出入りできて、横つながりから得られる情報もたくさんある。殺人教唆をするようなやつにそういう暗躍をされると守り切れずにアイが殺されるようなことがある可能性はもちろん、失敗してこっちも巻き込んでやろうとアイの事をバラす可能もあるわけだし、手をうった方がいいと思う」

 

「まあ、そうだな。バレた時のために契約とかを見直すか。一本、自粛されるだけでも億単位の金が飛ぶのを十数本なんて抱えてたら、苺プロそのものが破綻する」

 

「うん、そうしないと、いつ潰れるか分からないし、無理心中されかねないし、良いと思う」

 

 そう答えると壱護さんがこっちを真剣な眼差しで見つめて、言葉を発した。

 

「アクア、お前はもう、手を引け」

 

「なんで?」

 

「なんでもなにも、まだ未就学児を殺人事件なんかに巻き込めるわけないだろ。カミキヒカルの事は俺がなんとかするからお前は普通の仕事だけしてればいい。受験だってあるだろ。勉強しろ。勉強」

 

 いや、まあ、正論なんだが、正直、受験で手に入れるはずだったものは手に入ったから別に入らなくてもいいし、仕事だって、アイの事をどうにかする為に始めたようなものだから、これより優先度が低い。未就学児どうこう言われても、そもそも俺は中身が前世含めると30半ば。とはいえ、そんなこと言えないからどうしたものか。

 

 なんて説得したものか。と思ったが、正論言われるとどうしようもないので、勢いでごり押す事にした。

 

「今回の件もだけどカミキが命を狙って来ていた事を突き止めたのも、アイとカミキの関係とか、どこで出会ったのかとか、ララライで公然の秘密みたいになっていた事とかそういうのも俺が突き止めたわけだけど、壱護さん、一人で大丈夫? 俺、心配なんだけど?」

 

「そうは言っても、さすがにそんな事にお前を巻き込めるか。これは俺やアイが解決すべき問題だ」

 

「巻き込むもなにも俺が当事者みたいなものだと思うし、壱護さんが止めろって言っても俺は俺で勝手に動くけど。なら壱護さんの監視下に居て、リスクヘッジした方が良くない? そうすべきなのは分かるけどさ。ただ、倫理的にそうすべきって考えで、アイの危険が増すより、アイの安全を第一に動いた方がいいと思うんだけど。俺は役に立つよ?」

 

「………………」

 

「………………」

 

 沈黙し、にらみ合うような感じになる。お互いに簡単に意見を曲げそうにない事を理解した。まあ、俺から折れる気はない。俺は今生をアイとルビーの為に使うって決めている。今回は理屈とか倫理的観点であっちが正しいのは分かるけど、引けない理由がある。

 

「なあ、アクア、お前っていつくらいから記憶あるんだ?」

 

 なんだろう? 話がいきなり変わった。

 

「うん、まあ、生後二ヶ月くらいかな? アイの復帰前。そこからはルビーと一緒にずっと喋っていた記憶があるし」

 

「あー、そうか、じゃあ、やっぱ、そういう事だよな」

 

「なに? 確かに早熟だけど、そんなのいまさらじゃないか?」

 

「いや、そうじゃなくて。お前達をこそこそとテレビに出すなんてリスクの高い事を強行しようとしたミヤコの態度が気になって問い詰めたら、お前達がアマテラスの化身だとかなんとか言ってくるからな。育児ノイローゼで頭がおかしくなったんだと思っていたんだが、一応知能検査とかして確認してみようって事にしたんだ」

 

「ああ、あの検査ってそういう意味だったのか」

 

「一歳半とかできちんとしゃべれるどころか、まあ、ストレスとかでおかしくなったとはいえ大人を騙せる判断力があるし、お前もルビーもどう見ても才能の塊だったからな。結局、そこら辺の事も考えた上で許可したわけだ。いや、あの頃から演技していたんだな。と思ってな」

 

 少し齟齬があるな。俺たちをミヤコさんがホスト代にしようとしたのは生後、半年したか、しないかくらいだったはず。いや、さすがに半年だとおかしいから、そこら辺盛ったのかもしれない。

 

「まあ、さすがに新婚して大して時間も経ってないのに、子育てをするハメになって、俺とルビーが迷惑をかけていたのは事実だしね。ミヤコさんも少し、やけくそというか、キレてしまったのは当然といえば当然だと思う。まあ、ホスト遊びとかもしたい年頃だったし、アイの秘密を売って逃げようなんて考えるのも無理はない。別に気にしてないよ」

 

「ホスト遊び?? 俺が聞いたのは若いイケメンに囲まれて仕事したいって言って、お金を持って逃げようとした話だったんだが」

 

「………………」

 

「………………」

 

 沈黙が流れた。ああ、うん、さすがに言わないよな。少し盛るというか過小に申告するよな。さっきもしていたし。ちゃんと壱護さんがどこまで把握しているのかとか話してから喋れば良かった。

 

「………………記憶違いかもしれない」

 

「いや、なんかすまん。ミヤコのやつには俺から言っておく」

 

「いいよ。ルビーも気にしてないし。それだけ俺たち親子が迷惑をかけたって事だろ。ミヤコさんは悪くないよ。さすがに、新婚早々、いきなり所属事務所の担当のアイドルなんて、ほぼ他人の子供、しかも双子の世話なんて大変な事をおしつけられたわけだし」

 

 仕方ない。本来なら、行政を挟まないでこんな育児をするの無理な案件だった。

 

「はぁ、馬鹿だと思うくらいお人好しなお前からしたら、今、やってる事もアイを守るだけじゃなくて、迷惑をかけた替わりの恩返しみたいな感覚なんだろうけど、もう、そんな事しなくていい。俺たちの夢が叶えられたのはアイやB小町の他のメンバーだけじゃない。お前の力も大きかったし、十分過ぎるほど恩なんて返してもらった。というかそんな事を恩なんて思わなくていい。これからの問題なんて俺とアイがやらかした問題の後処理だ。そんな事に関わる必要はない。そんな風に言いたかったんだけどな」

 

 壱護さんはため息をつきながらそう言った。

 

「別に、気にしなくていいよ。アイは俺の母親なわけだし、親の問題を子供が解決するなんてよくある話だろ」

 

「いや、それは成人後の話とかだろ。お前はまだ6歳なわけで、早すぎるだろ。いや、まあ、その原因って、ミヤコがお前達を売ろうとして、役に立つ存在でないといけないみたいな強迫観念を植え付けたせいだし、元を辿ると俺がミヤコにそんな事を押しつけた責任なわけだからな…………ほんと無理すんなよ」

 

「そもそも、きちんと行政支援とかの話すらしなかった医者もかなり悪いからそんなこと考えなくてもいいと思うけど。分かった。まあ、これからは契約とかもだけど、ネット関連とかの分野に手を出したりしてリスク分散しないといけないわけで、無理しないとか出来るか不安だけど、まあ、できるだけは負担が少ないように心がけるつもり」

 

「お前な。なんだその政治家みたいな曖昧な言い方」

 

 まあ、お互い、不本意な部分こそあれど、アイのことがバレた後のリスクを考えて、仕事の契約の話とかリアルだけではなく、ネット関連の話とかも受ける事で話しはついた。

 

 B小町は今が全盛期だろう。年齢的にもアイドルが最も綺麗でいられる時期だ。大体、人間は20歳が美貌のピークで、あとはそのピークをどこまで引き延ばすかみたいな話になる。25歳にもなると大体の人はそれなりに老化するというか差が出てくるわけで、引退の時期を見据えるのもここら辺だ。

 

 だから、ここで最大に売り込んでおくのが大事なんだが、その時期にリターンではなく、リスクを取るという事は、アイドルの生涯年収にも関わってくる。リスクの高いCM撮影だけど、B小町というセットなら数千万、良い所なら億の出演料が期待できる訳で、契約条件を変えて別の人に変えるなんて事になれば、一人当たり1000万近くギャラが減るわけで、壱護さんも説得とか大変だろうなと思う。

 

 それでも、カミキヒカルの行動次第で即、破綻する状態は危険すぎたのでやるしかない。

 

 それからは必死になって働くのは当然としてカミキについての情報とあの少女の言った複数人の殺人の証拠がないかどうかを調べる日々になった。

 

 もしそれが見つかれば、俺の死体なんて爆弾を使わなくて済むかもしれないから。

 

 でも、その証拠は見つからず、仕事の事だけは上手くいくがカミキについては全然と言って良いほど解決に向かえなかった。

 

 何日も、何週間も、何ヶ月もかけて調べても、こちらにとって都合の悪い情報しか入ってこなかった。

 

 そんな事をしていると、あかねが俺の調べている事というか目的について察しているのか、カミキのことについて調べて、こちらにさりげなく話してくるようになった。

 

 本来なら、そういう事に手を出すな。と言うべきなんだろう。しかし、少しでも情報が欲しいと焦っていた俺はそれを止める事ができなかった。

 

 カミキヒカル。こいつは馬鹿だ。いや、頭が悪いというより、考え方が幼稚というべきかもしれない。プロファイリングした結果、そうとしか思えない行動が多すぎた。享楽的な人間だから計画性というのがない。計画性がないから先を読みにくい。そういう人物だった。

 

 事務所の契約の切り替え、ビジネス方針の転換も順調に進んでいた。けど、肝心のカミキについての対策が進まなかった。

 

 死体を発見してしまえば、カミキについては終わらせることができる。けど、その後の事を考えると俺の死体を使うのは躊躇してしまっていた。もう少し、もう少し、ギリギリでも良いんじゃ無いか。そう思ってしまった。

 

 そんな時にあかねから電話が来て…………

 

 かなの表情を見た瞬間、また前世と同じ失敗をした事に気づかされた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑨

 

 

 CM撮影の仕事が終わって、苺プロへ帰ってきた時、持っている携帯が鳴った。

 

 画面を見るとあかねからだったので出ると、焦っている声で俺に助けを求めてきた。

 

「アクアくん。かなちゃんから、親と喧嘩したから泊めて欲しいってメッセージが来たんだけど、すぐに消されちゃって。それから何回か、電話をかけたんだけど、繋がらないんだ。どうしよう?」

 

「わかった。こっちからもかなに連絡してみて、駄目なら家の方にも確認してみる」

 

 そうして、壱護さんを呼んで車を出して貰って、かなが行きそうな所を片っ端から探しに行った。

 

 かなの家に連絡をしたが、連絡が付かず、はじめは警察へ捜索願いをしようとしたが、友人や知人では捜索願いは受理されない為、かなの事務所経由で電話をして貰おうとしても駄目だった事から、出来る事は車でかなの行きそうな場所を探すことしか出来なかった。

 

 かなの母親へ連絡が付かず、行きそうな場所などに連絡をしても見つからず、家に押し入ってでも捜索願いを出させようと考えている途中で、ちょうどかなを見つける事が出来た。

 

 それからは、かなをうちの事務所に保護をして、風呂に入れて、ルビー用に用意していた服に着替えさせた。

 

 その間に壱護さんたちはかなの母親に連絡をしたりしていたが、繋がらないようで、あかねのお父さんが誘拐扱いにならないように、警察などに連絡を入れたり、なんだりしてくれていた。

 

 法律の事は俺はそこまで詳しくないが、家出をした子供を預かると最悪、誘拐として訴えられるケースもあって危険らしい。日本の親権はとても強く、特に母親の場合は厄介な事になる可能性が高いらしいので任せることにした。

 

 俺は、かなの側にいるが…………かなは死んだような目をして、「ええ」とか「大丈夫」など最低限の言葉以外、口を開かないでいた。こんな小さい子が、あの有馬かながこんな事になってしまう状態になるまで気がつかなかった自分の無力さを思い知らされる。

 

 さりなちゃんの時と同じだった。

 

 俺はさりなちゃんが、実の母親に諦められて…………見捨てられていた事を知らなかった。それでさりなちゃんが苦しんでいた事を最後まで気がつかなかった。

 

 天真爛漫でアイの事が大好きで、思い通りに動かない体を引きずって病状の悪化で様々な苦痛も受けながらも、アイみたいなアイドルになりたいと夢見る女の子としか認識出来なかった。

 

 さりなちゃんの最後に一緒にいたのは家族でもなんでもない俺だけだった。両親はとっくにさりなちゃんを見捨てていて、最後に顔を見ることすらしないくらい興味が無くなっていた。

 

 さりなちゃんが地獄に居た事を認識出来たのは、彼女が死ぬ直前で…………結局、俺はなにも出来なかった。

 

 俺がもう少し寄り添えて居れば、さりなちゃんは俺に家族から捨てられてしまった事を相談してくれたのだろうか? 俺がもう少し彼女の環境に気を遣ってあげられれば、俺がもし、産婦人科ではなく、外科医だったのなら、治療チームとしてもう少し時間を取れて、彼女の置かれた状況を察してあげられたのではないか? そんな事を抱えて生きていた。

 

 その時と一緒で、俺は何も気づかず、何も出来ずに、地獄に居た女の子を眺めていただけだった。

 

 何度も、何度も話しかけても通じている気がしない。信頼されていないのだから仕方ない事だ。それでも、力になれる事もあったはずという思いが募っていく。だから…………

 

「なんでこんな事になってるのに、相談してくれなかったんだ?」

 

 だから、つい、そんな言葉を吐いてしまった。言うべきじゃない言葉なのは分かっている。責められるべきは周りであり、かなじゃないのに。

 

「だって…………アクア、大変そうだったじゃない」

 

「えっ…………」

 

 それは俺が想定していない答えだった。

 

「アクアはアイやルビーの為に…………家族の為にたくさん頑張っていて、ルビーだってアイドルになる為に毎日、毎日、役者もやりながら歌もダンスもあんなに頑張ってた!」

 

「今までずっと頑張ってきたルビーにとって一番大切な時期だった。アクアだって、ずっとこのときの為にお金にもならない仕事を沢山抱え込んで頑張ってきたのを知っていたわたしが邪魔をするなんて出来るわけないじゃない!」

 

「わたしが魅力が無いのは、仕事がないのはわたしのせいであって、アクアが悪いわけじゃない。それどころか、今までアクアに人気もなにもかも依存してたことも分かって! …………なのに都合の良いときだけ頼って、迷惑をかけられるはずがないわよ。YouTuberやる用の企画書みたけど、なにあれ、なにからなにまで一人でやって、わたし以上に仕事をして、B小町のフォローまでして、しかも、あかねが言ってたけど、ずっと悩んであんまり寝てないから心配だなんて言われて…………そんな中、わたしにまで気にかけて、ばかじゃないの! あんたは家族のアイとルビーの為にだけ頑張ってればいいのよ!」

 

 かなは顔を下に向けて、拳を強く握りしめ…………ぼろぼろと涙を流しながら、そんな言葉を発していた。

 

 ああ、俺はこんな小さな子供を心配させて、自分の辛い気持ちを我慢させてしまったんだな。そう思った。

 

「それに、相談ってなにをすればいいのよ。お父さんもお母さんもどうにもならなくて、離婚して騙されて、お金がなくなっちゃって、それでいっぱい稼がないといけないのにかせげなくなっちゃって、怒られて…………事務所の人も仕事はとってきてくれないのにお金の事ばっかりになって…………責められて。そんなこと、相談して困らせたくなかったのよ」

 

 小さくなる声。たしかに親子間の問題や事務所の問題は難しい。でも、それでもかつて出来なかったように何もしないで見捨てるなんて選択肢は俺にはない。

 

「たしかに、俺に出来る事は限られているかもしれない。何も出来ない可能性だって捨てきれない。けど…………少しでもかなの力になりたい。もし力になる事は出来なくても、力になる人を紹介出来たりもできるはずだ。話してくれないか? 出来るだけの事をしたいんだ」

 

 かなの手を握りしめる。小さい手だ。こんな小さな子供を一人になんてしておけない。それに…………

 

「俺達は友達だろ?」

 

 もう4年以上一緒に居た。友情のような、年齢こそ上だが、妹のような感情を抱いていた。そんな子を、見捨てるなんてありえない。今度こそ、力になってあげたい。

 

 しばらく、見つめ合いを続けるとかなは少し諦めたような、観念したような顔を一瞬した後、ぽつりぽつりと話し出した。

 

 そして、かなの話を聞いて…………

 

 やっている母親本人も、されているかなも自覚しない虐待だ。

 

 そう思わざるを得なかった。

 

 そして、そこに追い込んで、逃げた父親はかなり悪質といっていい人間である事も分かった。

 

 相手の住所、勤め先が分からないと強制執行されないのを見越して、離婚したあとに養育費を払わない。もしくは払わなくなる親はたくさんいる。というより、そっちの方が遥かに多い。払っているだけで額はかなり少ないなんてことは良くあるし、適当な額を払っている親は驚くほど少ない。日本の法律のゆるさによって子供の権利が守られない現状がある。

 

 しかし、話を聞く限り、かなの父親のケースは明らかにはじめから払わないことを前提に養育費などの離婚条件を設定している。住宅ローンも、この場合だと母親を連帯保証人にしているケースかもしれない。

 

 こういってしまうとなんだが、離婚してもダメージを受けないように立ち回っている。

 

 普通に単体での住宅ローンを組んでいて不倫で有責の離婚となると、不倫の慰謝料はもちろん、住宅ローンは自分持ちで、養育費の支払いもあり、あとはかなの給与を抜いて贅沢をしていた件もバレると自己破産すら出来ずに人生終わることになる可能性すらある。

 

 自己破産の原因って大抵ろくでもないから、反省文で終わる可能性の方が高いので、あくまで可能性でしかないのだが。言ってしまうとなんだが、かなの母親があまり賢くないのを良いことに、離婚時にうまく逃げようとしている。

 

 話を聞く限り、慰謝料を減額というか払わない事を条件に養育費を増額したみたいだが、養育費なんて簡単に逃げられる事を知らなかったのだろう。俺も産婦人科医として、子供が出来ると養育費を払わず逃げる父親を沢山見てきて、話を聞かなければ知らなかった。

 

 かなの母親が無知な事を差し引いても、本来ならうまくいくはずがない。だが、かなの母親がかなのお金を使って、ローンの支払いをするだろうみたいな確信めいた考えがある。実際、しようとしている辺り、人をみる目はあるのかもしれない。収入が減ってそんな事できなくなるなんて考えは無かったあたり、芸能界の不安定さはよく分かって居なかったのかもしれない。

 

 いや、2歳とか3歳の頃から数千万稼いでいる子がそんなに一気に年収が下がらないだろうって考えるのが普通なのかもしれない。実際、そんな予測をしていた芸能関係者は居なかったわけだから、特別に頭も悪かったとは言えない。

 

 金の卵を産むガチョウをおいていったんだから、家のローンくらい払えくらいの感覚だったのかもしれない。

 

 あきらかに、家族間の金銭トラブル、特に子供の財産を奪っても刑事事件化する事が出来ないのを知っている奴の動きだ。こうなると話し合いの解決なんて出来ないだろう。分かっていて逃げてるのだ。

 

 だが、大丈夫だ。このパターンの妊娠、出産をサポートした事は何度もある。住宅ローンは連帯保証人で無ければ支払い義務はないし、連帯保証人でも自己破産して、生活保護でいける。生活保護は弁護士もしくは、それに類する人が居ないと水際対策で拒否をされてしまうが、東京ならそういった人を保護するシェルターもしくは保護団体がいくつもある。あかねの父親に紹介をして貰うことも出来るだろう。

 

「それならいけるかもしれない」

 

「えっ…………」

 

「金銭的な問題なら、かなの母親が働いていなかったなら普通は家のローンの連帯者なんかになってないはずだし、返済義務そのものがない場合が多い。ある場合でも弁護士を挟んで借金返済を免除できる。もちろん、家に住み続ける事は出来ないけど、生活の支援は特別区なら厚い保障がある。あかねのお父さんが伝手をもってるはずだから確かめてみるよ」

 

「えっ、だって、借りたお金なのよ。返さなくていいの?」

 

「ああ、ローン契約ってそういうものだから。返せなくなる場合のリスクは貸した側も持つものだ。そもそも、そういう支払いはかなのお金って使っちゃ駄目なんだよ。むしろ、事務所も止めさせないといけない立場だ。かなが押しつけられる理由は何一つない。事務所の事も事情は詳しくは知らない。けど、事務所の失敗をかなに押しつけるなんて大人としてありえないことだ。間違っているのは大人だ」

 

 かなが悪い要素なんて何一つない。これはかなの才能に集って失敗した大人が責任を負うべき問題だ。

 

「あきらかに労働基準法を無視した事をやってるし、社長に組合に話を付けて貰えばいい。かな、最後に契約をしたのはいつか覚えてる?」

 

「多分、もう少しで一年だったはず…………今月、契約更新があるって言ってた」

 

「なら、かなの事務所の再契約も手札として使えるはず。最悪、契約を更新しないでこっちに来ればいい。社長にはこっちが話しておく。かなの母親を説得できれば、いいだけだ。かなの母親もいきなり裏切られた事で精神をおかしくしてるみたいだし、専門家にケアして貰えばいい。事務所の問題は契約しなければいいから、かなの母親がどうにでも出来るはずだ」

 

 契約の期間が短いのはありがたい。契約を盾に出来なくなるからだ。

 

「今までよく頑張ったな。あとは俺がなんとかする。だからあと少しだけ待っていてくれないか?」

 

「アクア…………ありがとう」

 

 その縋るような瞳を見て、俺はかなの事を助ける為に動く事に迷いは無くなった。

 

 こういった問題には黒川さんを通してもらった。無駄かもしれないが一度、相談実績を作った方がいいとして、児童相談所へも連絡を入れていた。

 

 黒川さんも専門ではないから今は違うかもしれないが、と言っていたが、児童相談所がこういった事例にあまり力を入れないことも分かっていた。だからNPOなんかも通してみてもいいかもしれないとは言っていた。

 

 NPOの場合は漏洩リスクが跳ね上がるので、知り合いに聞くとは言っていたがどうなるか。日本の法律の場合、親権が強すぎるので、結局の所、親を説得するという形になるので時間はかかるだろうとの事だった。

 

 それは俺も同感だった。警察沙汰にしても誰も救われないので、説得するしかない。全面対決なんて事はこの国では出来ない。この国で親から子供を引き離すのはよほどの事が無いと出来ないし、そんな事が出来る法律なんて機能していないのだから。

 

 児童相談所が動く時は親権剥奪並のなにか。子供の命を奪いそうな状態までされないと養護施設行きなんかにはならないらしい。小学校低学年が、祖父や祖母の介護の為に学校に行けないなんて事例があっても、親が支援を拒否してしまえば、そのままになってしまうなんて事も当たり前のようにある。

 

 数ヶ月前になるが、相談所に医者から虐待の通報があって、それから3ヶ月以上、放置して死亡していたなんて事もあってニュースになっていた。それからも一週間程度ご飯を食べさせなかったなんてケースでも保護されていない。暴力を受けていても、注意をしただけで返してしまって、より虐待を悪化させるような事を数え切れないくらいあるとか、地元の新聞で載っていたりして、改善の糸口すらない。東京でも特別区は各区に児童相談所を置くようにしようなんて話は出ているが、都との予算の配分で揉めているらしく、いつかは解決されるかもしれないが、いつになるのかは分からない。

 

 子供を親の虐待から救うのは子供本人もそうだが、近所の人間や教師、医者なんかでは無理だ。健康診断などで判明しても、児童相談所はスルーしてしまう所があまりに多すぎる。児童相談所は解決件数を毎年最高記録を更新して予算を確保する為にかなり雑に対応をする所と真面目にする所の差が大きすぎる。

 

 だからこそ、産婦人科医は児童虐待リスクの高い、貧困や発達障害などをもった妊婦に対してのフォロー体制を複数の役所と連携してはじめから作らないといけない方針に変わっていった。

 

 児童相談所が正直、求められる機能に対して、人が少なすぎる上に専門家が居ない、そもそも法的な権限がなさ過ぎるなど、問題が山のようにあってセーフティーネットのはずが穴だらけで機能してない。俺が死ぬ前と変わらず、根本的な問題が改善されていないようだった。

 

 例えば、かなの財産で散財をしていた事で裁判をして財産管理権の剥奪までいけても、一緒に住むのは変わらない分、より状態が悪化する可能性が高いだろう。

 

 破綻させた相手と一緒に住むとか無理だろうし、養護施設へ行くなんて手もあるが、かなの知名度とかを考えるとどうなるか分かったものではないし、芸能人として生きていくことは不可能になる。あと、東京の児童相談所の入所基準が命に関わる問題ですらはいれていない事を考えると、金銭トラブルだと話し合いで解決してください。で終わるだろう。日本でも一時保護なども数年内に法律で規定されるかもしれないとは言われているが、今はない。

 

 解決するなら、連帯保証人になっていたのならかなの母親に自己破産なりしてもらって、そうでないのであれば支払い義務はないので、弁護士に間に入って貰って完結させる。あとは生活保護を受給させるだけでいい。仕事も学業優先だと言って、調整できる。

 

 子持ちの母親を助ける為に動く団体は多いし、使える支援制度も多いから、大抵は弁護士を介せば通るし、それだけで全部解決してしまう問題だ。親の許可なしに子供を無理に働かせるなんて出来ないのだから、事務所の問題行動はかなの母親に止めさせればいい。

 

 さすがに専門家が今の異常な環境について、そして行動について指摘すれば改めるだろう。自己破産、生活保護までいけば、あとは上がるだけだ。そこからやり直せばいい。

 

 相手との関係が思わしくなくなったのにも関わらず、産まざるを得なくなってしまった女性は少なくない。周りに頼れる人が居ない人達のフォローとして、やることはやってきた。シングルマザーは苦難の道で、周りのサポートがないとやっていけない事が多いが、それでも支える為の仕組みはある。

 

 そこに繋げてあげれば、やっていけるようになった人は多い。かなの母親もお金の事を1度精算すれば、今のやり方を反省するはずだ。そう思っていた。

 

 だが、数日が経って、黒川さんから壱護さん宛てにどうなったのか連絡が来たので結果を聞くと

 

「自己破産と生活保護を拒否して逃げた」

 

 という意味が分からない回答が帰ってきた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑩

 黒川さんから壱護さんに話が入ったので、状況を聞くと、紹介した弁護士から今までの資産を手放さないといけない事を聞いて、拒否から入ったらしい。そして自己破産をすると、家が競売にかけられて自己破産をした事が周囲にバレる事をいやがり、生活保護を受けるには、近親者、この場合はかなの母親の親に区役所から連絡が行き、支援の拒否をされる事が条件になる事を話すと、ヒステリックになったようだった。

 

 自己破産をして、一からやり直す事に関してはどうにかなるかもしれないが、今までの周囲の人間や自分の親に今までの事を知られる事が嫌らしい。

 

 かなが事務所の取り分を引かない数字しかネットに出てないが億の収入があった事は有名だ。子供の財産から抜くことはまあ、良くあることだし、多少は許される風潮はある。だが、何千万も抜けばさすがにおかしいと思われる。そもそも何に使ったのか…………ブランド品や外車、家の改装なんかもあるとは思うが酒、あとは風俗関係なんだろうな。

 

 自分の娘の財産を散々切り売りして贅沢な生活をして、そうしていたら夫に逃げられた。そして、その夫に騙されて借金を負ったなんて知られたくない。その気持ちは分からなくもない。だが、そんな事を言っている場合ではないだろう。

 

 普通なら、理不尽に思いつつ、好転する余地がないから諦める。だが、かなの母親は諦めていない。有馬かなが再び、スターに駆け上がれば全部チャラになると思っている。父親はその余地がないから飛んだ。だが、母親は諦めきれない。

 

 子供の資産の切り売りなんて窃盗となにも変わらない。だが、家族間でのお金に関する問題は刑事事件にならず、民事だ。6歳の子供に親に裁判を起こせなんて出来ないし、部外者のやれる事は少ないし、やっている間に何年かかるか分からない。

 

 なら、所属のタレントの給与を勝手に使われる状態にしている事務所側の問題を提起して、使えないようにすれば諦めるだろうと思うのだが…………それも難しいらしい。

 

「ああ、そうだな。なにから説明するか…………子役の芸能事務所って大きく分けるとスクール型とプロフェッショナル型があるから、経営方針も結構違うんだよ」 

 

「スクール型とプロフェッショナル型?」

 

「プロフェッショナル型とスクール型の違いは、子役を育てるレッスン料なんかを負担するか、負担しないかの違いだな。まあ、基本料金だけは負担して、特別なレッスン費を特別徴収するとか、半額くらい負担してる所とかもあるから、正確には大別できないんだが、そういう傾向があるってだけだ。プロはウチみたいなやり方の所で、入れるメンバーを絞って、売れる採算が取れるやつだけ雇うタイプで、その代わりにレッスン費やマネジメント全般に関わる費用はこっちが持つ。スクール型は今は実力の足りない子供を芸能人にしたい親が入れる塾みたいなシステムで、比較的簡単に入れる代わりに結構な金額の入会金と授業料を払う事になってるんだよ」

 

「いくらくらいなんだ?」

 

「本当に格差はあるが、入会金は除いて大手だと年間20万~60万くらいで幅があるな。もちろん月に2回とか3回だけある授業だけでは足りないって思うなら、対面レッスンとかの追加サービスを利用する事になる。大抵、そんなんじゃ足りないから、追加のレッスンを入れたり、合同合宿とかでどんどん膨らむ事になる事もある。かなの所は典型的なスクール型だな」

 

「受験生の塾と一緒だな」

 

 年間30万とか書いて釣って、短期合宿とか受験前対策、追加補修、基礎強化月間とかなにかと名前をつけて、気がついたら年間50万、60万とかになるような手法だ。受ける受けないは自由だから違反ではないが、騙されたと感じる人も少なくないだろう。さらに芸能事務所は出演の権利の都合もあって最低でも1年は縛る。1度契約すると1年はその事務所でしか仕事ができなくなるなど、縛りが多く、途中で抜ける場合は、デメリットも大きい。

 

「プロフェッショナル型はかなり厳しいオーディションでもう子役のプロとして通用する子役やかなりポテンシャルのある子役だけを選んで、プロとして扱うからそこら辺はタダになる。スクール型も能力が高い奴は特待生扱いにして、タダにして集めるわけだから、実力と実績のあるやつはタダになる。だが…………」

 

「能力と実績が無い子ほど金がかかる」

 

「まあ、そういう事だな。あと、子役ってやつは儲からないし、下積みにエキストラをやるにしたって一人で現場に行けないから親同伴だ。ずっと芽が出ないのにエキストラばっかりしてる状態が一番駄目だ。母親は撮影がいつになるのかも分からないから働けなくなる上に子供につきっきり、頻繁に家事もできなくなるなんてなれば、相当、父親の理解がないと続かない世界だ。子供がよほど才能があるならともかく、子役なんて基本的に時間を持てあました金持ちの道楽の世界なんだよ」

 

「でも、拡大し始めて、1年から2年そこらは大分うまくいってたみたいだけど?」

 

「お前はよく分かってないかもしれないが、お前と有馬かなのブームの時は、子役にしたい親もかなり増えたんだよ」

 

「ああ、そういえば、そんな事があったような気がする。でも元々、アイドル事務所だから無理だって断ってるはず。育成なんて、監督の下でたまに見て貰ってるだけだから出来ないし、そもそも、子役自体にそんなに需要がないはず」

 

 大体、テレビドラマや映画で脇役になれる人間は限られる。チャンネル数に限りがあるし、ドラマの枠だって多いわけではない。大抵エキストラで終わる。そもそも数が少ないからバーターで出すにも限界がある。

 

「お前とルビーもそうだが、黒川あかねは例にならないぞ。普通は小さい児童劇団での稽古経験しかないのに役者歴が2年程度で劇団からスカウトなんて来ない。今みたいにメインを、しかも複数やれるなんて、大手事務所でも殆ど居ないような本物だからな」

 

 分かってる。俺の周りは参考にならなさすぎる。あかねも機会自体は与えたが、それですぐに結果を出して、俺から技術を吸収し、かなに次ぐレベルになった。演技というより、学習能力が異常に高い。

 

「B小町だって、読者モデルやれるような顔の良いやつばっかり集めたアイドルグループだった。歌もダンスも徹底的に仕込んで、アイドルの中じゃ上澄みだ。それでもお前が仕事を取ってくる前はアイ以外埋もれてた。お前も生の歌番組とか出たなら分かるだろ? 絶対に警備付きの所でやって関係者しかみせないのは何の為かなんて。加工しまくってるから生で本当に歌うなんて出来ない奴が本当に多いんだよ」

 

「ああ、大手の顔売りをしている所は、そういう技術で食ってる。それっぽく作る技術、それっぽくする能力が高いスタッフを抱えて、バーターでテレビや雑誌に出して、売れればどんどん売り込んで、売れなさそうなら次を用意して、そうすれば常に売れてるタレントを増やしていける」

 

 量産型アイドル、量産型歌手なんて言われるが、それをコンスタントに出せるのは、そういう技術、ノウハウがあるからだ。それは誇れることだし、強みでもある。常にそれなりの人を出せるというのは大きい。

 

 それが信頼になって、◯◯事務所の子ならとどんどん機会が訪れたりもする。逆に、圧倒的に勝てるなにかを持っていないと中小事務所のタレントはチャンスすら来ない。

 

「プロの世界は厳しい。中学生のガキを売り込む苦労は嫌というほどしたが、それでも成功したのは最近までアイだけだった。そんなちょっと流行ったからなりたいなんてガキが生き残れるほど甘くないんだよ。あと金も儲からないぞ。そもそも脇役までたどり着くやつの方が少ない世界。それでも1本数千円がいいところだ。そこそこ有名になって5万とかが精々なんだから、子役の出演料で儲かるなんてほんの一握りだ。お前からしたらスタート地点だった所かもしれないが、大体のやつがそこにたどり着くまでに力尽きて辞める」

 

「分かってる。子供のアイドルも歌手も需要がなさ過ぎて無理だった。だから比較的に需要のある子役で売り込もうとしたけど、上手くいったのは運に近い。大手事務所の所属か、最上位の実力を持つやつしかテレビに出られないような競争の世界だ。俺とかなのブームがきて、そのバーターで売り込まないとルビーでも埋もれそうになる所だった。俺が子役デビューできたのも監督に気に入られて、機会があっただけだし、そうじゃなかったら、今は無かったと思う」

 

「子役の需要なんてそんなにない。子役にしたい親が増えたって仕事が増える訳じゃない。だから自分の子供がテレビで脇役にもなれない。ただ月に数回やった程度でなれるほど甘くない。それに気がつくのに1年、2年かかって、それに気がついてどんどん抜けてったんだろうよ。有馬かなの事務所はスクールタイプだから、マネジメントで食ってる訳じゃ無くて、授業料で稼ぐタイプだから、有馬かなのバーターで取ってきた仕事を餌に、合格実績なノリで採用実績を載せて、ここに入ればテレビに出れるアピールして稼いで拡大してきたんだろうな」

 

「たしかに…………アーカイブで拾ったデータで確認すると、それっぽいな」

 

「有馬かなの所属事務所ってことで子役志望の奴は、有馬かながバーターで仕事を取って来れなくなって、おこぼれすら貰えなくなって子役が居なくなったって所だろうな。規模を拡大したのはいいものの、維持出来なくなったんだろ。よくある話だ。この場合、ヤバいのは箱代だな。普通契約なのか定期契約なのかは知らないが、短くて2年、長いと10年契約。短ければいいが、途中で契約を切るなら、相場だと1年分の賃料に共益費は違約金として取られる感じだな。家賃、保証金、礼金、管理費、不動産手数料に保険金…………あとは内外装工事費に設備備品なんかもかかってるはずだから、初期費用を回収するなら相応の利益率を確保しないと厳しい。それが1、2年で採算合わずに撤退なんてしたら、キャッシュが足りなくなるだろうな。この業種は信用がないから簡単には金を借りられない。有馬かながやたらと金目当ての仕事ばっかりしていたのを考えると自転車操業になってそうだな」

 

「だから、今、どんな状態でもかなを手放さないって事?」

 

「ああ、有馬かなを失えば、もう再起なんて出来ない。手放せば自分の事務所が無くなる可能性があるのに、ぬるいこと言ってられない」

 

 かなの抱えている問題は多い。法的にアウトな案件も多い。だが、それで事務所をどうこうできるわけではないらしい。

 

 特に問題の労働時間だが、正直、売れっ子で法律を守っている方が少ないまである。学生スポーツの世界でもレクレーションだとか言って、筋トレをしたり、トレーニングをしていたりするものだし、そうやって、周りとの差をつけるために努力した者が生き残っていく世界だ。未成年という事で注意が入るかも知れないが、それだけだ。

 

 芸能界を含めて勝った者が総取りな世界では、そういった実質罰則がないものや、取り締まりができないものに関しては無視されるものだ。むしろしない奴は努力しろと言われてしまう。

 

 それに、キー局のADやDは週1休みが当たり前になっているくらい休みが少なく、拘束時間も長い。

 

 これはまだマシな方で制作会社は大手でもさらに酷く、一ヶ月、長いと半年休みなしなんてひとも当たり前のようにいる。さらに下になると派遣、さらに二重派遣も起きるような状態になってる有様だ。そんな人達で構成されてる世界で何千万を稼いで、月に80時間を超えたからなんだという話になる。100でも200でも反応はあまり変わらないだろう。そういう世界だ。そもそもタレントが学校を疎かにして仕事をしている奴が山ほどいるので、かなだけが特別不遇というわけではない。みんなブラックになれすぎている。

 

 事務所が一人の看板役者に依存しているというのもよくある事だ。その看板役者の出演と引き替えにして、脇役に同じ事務所の人間をデビューさせて、認知度を上げる。そのデビューした子が育っていけば、また新たな取引カードになる。そんなバーター取引をしていって事務所を拡大していく。

 

 事務所ならみんなやっている事で、特に中小規模の事務所では一人のスターに依存している事が多い為、追い詰めすぎることだってよくある事にすぎない。脅迫されたり、暴力を振りかざされることがなければ、同情すらされない。

 

 昔のアイだって似たようなものだった。一人のスターが残りの事務所のメンバーの全てを握っている状況は珍しくない。アイが居なくなったらB小町はもちろん事務所自体が存続できるか怪しい状態だった。アイにおんぶにだっこ状態だった時にアイが妊娠したのは今思うとかなりヤバい。

 

 これらの件で事務所を移動しようなんてすれば、間違い無く事務所からの報復が待っている。芸能界は誰がいつどうウケるのかが分からないし、ウケたとしてもそれがいつ続くのかも分からない。事務所の力で実力と知名度を上げて、そのまま契約を更新せずに逃げられれば、投資が無駄になるので制裁を科して、後続が出ないように圧力を加えてくる。

 

 もちろん、そうすると事務所もそのスターへの投資が無駄になるので、ほどほどで妥協する事も多いのだが、折り合わない場合は全力で潰してくる。今回、かなが居なくなる。もしくは芸能活動を抑えるなんて言い出せば、逆転の目すら無くなるだろうから、妥協は…………しないだろうな。

 

 もちろん、小学生相手に暴力や脅迫みたいな過激な方法はとらないだろうが、事務所を離れようとするなら、今後は仕事を無くすように圧力をかけるだろう。もちろん、これは本来であれば法律違反であり、やると法的に裁かれる可能性はあるが、こういう内側の事を漏らせば、漏らした人が制裁される為、証拠が出てこないし、証明が難しいのでやりたい放題になってしまう。労働基準法違反をさせているのは事務所側だから、事務所が悪いという風にはならない。完全に法律を無視した行動を業界が許容してしまっているからだ。

 

 あと、かなは芸名が本名なのもまずいらしい。芸名を取り上げるという名目で、テレビで本名を使えなくされる。有馬という名字やかなという名前も今後、名乗れなくなる可能性が高い。築いたブランド全てを取り上げられる権利を事務所が持ってしまっている。これも普通に法律違反になる可能性はあるのだが、業界では制裁として認められている。法律を無視して好き放題してる世界だ。

 

 労働基準法なんて殆どの人間が守ってないし、守る気もない。医者の世界も年間の残業時間が2000時間を超えていたりする所……まあ、産婦人科の事なんだが。似たような所も普通にあるので大概だが、芸能界の場合、欲望の度合いが強すぎて、より悲惨な有様になっている。

 

 有名な事務所なんかは雑誌にどんな嫌がらせをしたのかを掲載してる所もあるが、それでも法的に訴えれていない。昔みたいに反社会的団体をタレントに突っ込ませるなんてことはしないだろうが、追い詰められた相手なんてなにをするか分からない以上、やるべきではないだろう。

 

 親の問題もそうだが、芸能界そのものも、訴訟なんてしたらそれ以上のリスクを押しつけることが出来る世界だ。だから本来なら闘わずに上手く躱さないといけない。

 

 だからどうにもならない。どうにかするデメリットが大きすぎる。

 

 壱護さんが出した結論は正しい。本来、ここに来るまでに引き返す機会はあった。それに気がつかなかった俺のミスだ。

 

「俺が気づいていれば…………」

 

 ぽつりと言葉が漏れる。

 

「いや、お前と有馬かなはしばらく共演もしてなかったんだろ? それなら分からなくて仕方ないだろ。それにこれは有馬かなの親と事務所の関係であって、お前は悪くないし、最近はカミキの件にかかりっきりだっただろ。そんな中、気がつけるはずがないだろ」

 

 そうだ。カミキ…………俺がカミキの件をもっと早く処理していれば良かったんだ。そうすれば、かなの件にもっと関われたはずだ。かなに心配をかけて、相談しづらくしたせいで…………

 

「そうだ。俺がカミキの殺人事件の証拠をさっさと警察に通報していれば」

 

 あの神の遣いを名乗る少女の言う通りにしておけば良かったのかもしれない。俺が少しでもアイやルビーの悪影響を無くそうと勝手なことばっかりしたせいで、こんなことになってしまった。

 

「おい、カミキの証拠ってなんだ?」

 

 壱護さんが居た事を忘れていた。漏らしてしまった以上、仕方ない。話すしか無い。

 

「宮崎に行った時に、アイの担当医らしき死体を見つけたんだ。そこにはカミキのものらしき腕時計が落ちていた。有名な海外メーカーのブランドのオーダーメイド、しかも、イニシャルも彫ってあったから、製造番号とかも含めて誰の物か直ぐに分かると思う」

 

「…………どうやって見つけたのかとか、聞きたい事は色々あるが、なんで黙ってた」

 

「こう言っちゃうとなんだけど、罪悪感から直ぐに通報されるかもしれないと思って、黙っていた。これをすぐ公表すれば、アイどころか事務所自体が潰れる可能性があった。だから、きちんと契約の見直しとかそういった事を最低限終わらせて、公表時期を見計らう段階まで来たら話そうと思っていた。その間にカミキの他の殺人の証拠が見つかるならそれで良かったしね」

 

「お前な…………」

 

「だけど、どうしても納得できなくてさ。ずるずると先延ばしにしてしまって、今、別の問題を起こしてしまった。こうなるなら、先に相談しておけば良かったかもしれない」

 

 かなの事は、これ以上、巻き込むわけにはいかない。だから俺がなんとかしないとな。

 

「スケジュールの事は任せるよ。都合がつけば担当医の先生の死体の所に案内するから」

 

「おい、有馬かなの件はどうするんだ?」

 

「法的にどうにもならないなら仕方ない。俺も出来るだけの事はするつもり。かなのサポートとか悩みを聞く事くらいならできるからさ…………」

 

「お前は本当にそれでいいのか?」

 

 壱護さんからかけられた声に俺はなにも答える事が出来なかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑪

 

 

 祖父母にとって…………特に祖母にとって、雨宮吾郎を引き取る事は人生の敗戦処理に近いものだった。

 

 俺の母親は父親に妊娠を機に捨てられた。だから親に相談できず、医者にもかかれず、自宅で出産して、結果的に危機的出血で亡くなったのではないかと噂されていたし、俺もそう思う。

 

 昔、祖母の時代は、専業主婦も多くて、母親の人生の評価が、子供がどう育ったのかが最重要視された時代だった。特に跡継ぎ息子を産んで、その子供がどれだけ、高い地位に居るとかそんなのが人生の評価基準にされていた時代に、母親の件。祖母がどれだけ周りから陰口を言われたのかなんて考えるまでもない。

 

 跡継ぎの息子を産めず、一人娘の教育すらまともに出来なかった。

 

 そんな今ではくだらないと言って、捨てられるような価値観で物事を考える人達がたくさん居た時代だ。祖母が責められているのを薄々ながら感じていた俺は、母親のかわりに生きている事に罪悪感をもって育っていった。だから、あの言葉を否定出来なかった。

 

「産医になるのね」

 

 その心の底から嬉しく感じているような祖母の言葉の裏が分かってしまったから。

 

 誰とも分からない男と付き合って、逃げられて死んだ馬鹿な娘を育てたなんて言われる人生。そこから母親のような妊婦を生まないような産医を目指す孫を育て上げた…………そんな風に言われる人生への一発逆転の話に飛びついたしわくちゃな顔の小さな祖母の顔を見た。

 

 だから俺は自分の夢を、外科医になるという夢を諦めた。俺が生まれた事によって、母親は死に、母親が死んだ事で周りからの評価を失った祖母の残りの人生を救うにはこれしかなかったから。

 

 狭い田舎で、そんな話はすぐ広まる。周りからの期待とかそういったものを背負って生きていかないといけない覚悟を求められるようになった。

 

 高校は普通の高校だった。偏差値も普通の高校だ。地元の人間はみんなここに通う。ここより偏差値の高い進学校と言われる高校は通学だけでも片道2時間半近くかかる。

 

 そんな地元から離れた進学校でも地元の国立大学は年に数名、九州のトップの国立医大なんて十数年に一人居るか居ないかなんて割合でしか居ない。俺の高校は正直、国立の大学にたまに行ければ御の字という状態だった。

 

 特に九州の老人世代では、東京にいけば地方の国立大学扱いでしかない九州トップの国立大学でも、そこに入れば将来安泰だという信仰のようなものがあった。だからそこより上の大学に行くというのは自慢だったらしく、俺の母親のような妊婦を生まないように医者を目指すなんて話を美談みたいに話されていた。

 

 高校には◯◯大学合格という大きな横断幕を名前入りで晒され、地元の人間がそれを見て、どんな人なのかを聞いて、それが噂話になる。小さな町で、俺が俺ではないような人物として語られているのを気持ち悪さを感じながら、卒業まで地元で過ごした。

 

 東京へ行くのは、これから医学部で六年の間、あの噂が広がって似たような事をずっと言われるのではないかと恐くなったからだ。だから最新の医学を学びたいと言って東京の国立医大を目指し、必死になって勉強をしたのを覚えている。今だから言えるが、まだ、あのときは地元の産婦人科医としてこれからの人生をずっと生きていく事が嫌で逃げ出したかったのだと思う。

 

 俺の高校生の時は医師臨床研修マッチング制度というのが無かった。だから、基本的に研修はその大学関連病院でやる。大学の六年に合わせて研修医の期間を東京で過ごせば、熱が冷めるのではという期待もあった。

 

 産婦人科、というより産科は人気がなかった。まず、労働時間が長い。田舎で二人、三人で回しているような所だと、時間外労働だけで年間2000時間は超えると言われている。正確じゃないのは、待機時間を業務時間と認めて居なかったり、自己研鑽という名前の無償残業もあった。さらに夜勤の際に処置をすると割り増し賃金が発生するのだが、そういったものを無かった事にしたりと、時間、給与ともに闇の部分が大きいので、ブラックボックスになっていて、誰がどれだけ残業をしたのか誰も分からないらしい。

 

 次に訴訟が多い。流産の確率は全体の10%~15%もあるし、高齢出産だと25%にもなる。まずこれが理解されないし、最も、問題なのは、妊婦の方が死ぬ確率も決して低くないことだった。

 

 日本の妊婦の死亡率なんかは世界水準でもかなり低いが母体が死ぬ可能性だって無いわけじゃない。年間100人未満とはいえ、死者は出ている。それを理解してくれる患者さんは多くない。だから医療ミスだと叫んで訴訟を起こす。

 

 だから母体の死のリスクをさげる為に今は帝王切開が多くなる。世界機関の調査によると、世界では帝王切開が必要なのに出来なかった妊婦の人よりも必要無かったのに帝王切開をした妊婦が多いらしい。先進国はリスク管理の為だけに切るケースが多い。それくらい訴訟リスクが無視できないくらい高い。

 

 長時間労働かつ、給与の未払い問題を抱えていて、訴訟されるリスクが高い仕事。避ける人が増えるのも当然の要因しかなかった。

 

 特に今は、婦人科の不妊治療が儲かることもあって、それ専用の病院もだいぶ増えた。そっちで定時に帰って3000万、4000万稼げる。という話を本気にした産婦人科医も少なくなかったし、少子化が続くとされていたので産科そのものの将来性も疑問視されていた。

 

 その厳しさを何度も聞いて、産婦人科学会の「産婦人科は外科と内科の技術を学べる科になります。外科と内科を悩んでいる人は1度、産婦人科で研修医として働きませんか?」という言葉に縋って、駄目なら、外科に転科する余地を残している事が心の支えだったことを覚えている。

 

 6年間、逃げて、でも必死に勉強して、できる限りの事をした。祖母の言う、母親のような妊婦を出さないために医師を志した雨宮吾郎で居るために。

 

 祖母が体調を崩し、研修医として働く場所も地元の病院になった。祖母はもう長くなかったし、最後に地元で働く俺の姿を見たいと言ってきたのを無下には出来なかった。本来なら出身大学やその関連病院で研修を行うべきだったが、それも出来なかった。大学とまったく関係のない病院に勤務するというデメリットの大きさは承知していたが、祖母の願いが最優先事項だった。

 

 地元ではあれから六年も経つのに、噂話が流れてきていた。俺の評価は母親のような妊婦を生まないように産医を目指す青年のままだった。

 

 周りからそんな視線を向けられながらも研修医として休む暇も無く働いた。労働時間とは労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものであって、そうでなければ労働時間ではない。手術や処置等の見学をする事はもちろん、実際に処置することも自己研鑽という名で働くことになる。医者の世界とはそういうものだと言われたことは今でも覚えている。

 

 祖母の介護をしながらも夜勤や休日のオンコールにも病院へ行く。同じ大学の同期と比べてしまい逃げ出したかった事もあったが、逃げられなかった。母親のような妊婦を生まないように産医を目指す雨宮吾郎はここで逃げるような人間ではないからだ。

 

 そんな時にさりなちゃんと出会った。

 

 物心がついた時から病気に苦しんでいて、でも夢に向かって目を輝かせていた少女だった。死んだ目をして夢を捨てて周りの言うことばかりを聞いて働く俺にとって、その目はあまりにも眩しかった。

 

 母親のような妊婦を出さないために医師を志した雨宮吾郎なんかではなく、そのままの俺を好きだと言ってくれるさりなちゃんとの時間は俺にとってかけがえのないものになっていった。

 

 研修医はローテーションで色々な科を回る。変わってもさりなちゃんとの時間は確保する為に、ただでさえ少ない休日に仕事に来たりなんだりしていたのは自分でもかなり入れ込んでいたと思う。

 

 でも、そんな時間も長くは続かなかった。さりなちゃんは出会って1年も経たないうちに亡くなり、俺はここで唯一、俺自身を見てくれた人を失った。

 

 それは奇しくも研修医としてのローテーション勤務が終わって、産婦人科医として働き始めるタイミングだった。

 

 母親のような妊婦を生まないような産医になると誓ったらしい俺は、生を祝福されなかった子供を抱える妊婦の対応に同行することが多くなった。

 

 祝福されて生まれてきた子が大多数を占めるが、強姦され妊娠した人、知的障害があって騙されて妊娠させられた人、妊娠と同時に恋人に逃げられた人なんかも少なくない数が居る。

 

 産科は世界でもっとも美しい光景と最も醜い光景が混じる世界なのだと改めて思わされる。

 

 妊娠は誰もが喜ぶ事じゃない。子供ができたと知って、逃げる恋人が少なくない。そうなった時に出産をするか、しないかの決断をする為に、現在の民事執行法では行方を眩ませた逃げた父親から養育費を取れない事などを説明し、出産した場合に起こる事や、頼るべき機関の紹介なんかもしないといけない。

 

 女性が結婚相手は大企業勤務か公務員にしなさい。という理由が、養育費を払うより、会社を辞めるリスクが高ければ、離婚しても養育費が貰えるという理由が大きかったなんて知りたくもない知識ばかり増えた。

 

 産科医は、命を守る事だけが仕事じゃない。患者の今後の人生に大きく関わる出産した後の人生への影響も考慮して、患者に寄り添っていかないといけない。特にこの時代は再就職なんてパート以外だと難しかったから、出産は本当に人生の岐路だったからだ。

 

 説明をすると大抵は堕ろす決断をするケースも多かったが、産むと決断してからやっぱり止めたいという人も居て、そうなった場合は悲惨な光景が広がった。罵詈雑言が飛ぶ光景は忘れられなかった。

 

 使命感から産婦人科医になった人は多く居た。でもそういった光景を見て擦り切れて辞めてしまう人は少なくない。同期だった産婦人科医も、婦人科だけのところにしたり、外科や内科に転科してしまう人もいた。両親から祝福されて生まれた子供が居る一方、両親から要らないと殺される子供が居るという現実と向き合わないといけないのは思ったよりも精神にくるものがあるので、辞めた人を責められなかった。

 

 産んだ方が不幸になる可能性が高い女性が多く居た。俺の母親のように。

 

 そして、産んだ責任を取らない親が居た。さりなちゃんの両親のように。

 

 

 地元の人にそういった人達のフォローをする事が期待されていた俺は、専門医になるための勉強と平行して何度も何度も立ち会ったり、メンタルケアの仕方の勉強会に参加したり、支援制度を学んだりする事になった。

 

 それが、周りの望む雨宮吾郎だったからだ。

 

 ずっと病院に居るような生活を続けて、色々な病院で帝王切開の執刀経験を積みつつ、勉強をして学会にも出ていくと30歳になる頃には専門医になっていた。一応だが、一人前の産婦人科医として認められたという事らしい。そして、やることが無くなった。

 

 もちろん、勉強することなんて山ほどある。よりよい医療を提供する為に自己研磨をすることも大事な仕事だ。でも、田舎の病院で出来る事は限られているし、より高度な医療を学ぶなら東京というか出身の大学に戻る方が良い。大学病院なら無料で論文を読めるが、町病院は経営の都合上、そんなことも出来ないので、勉強できる範囲も限られる。

 

 そして、俺自身の熱意がそこまで無くなっていた。なんのために働いているのか分からなくなった。

 

 そんな時だった。アイが俺の所へ来たのは。

 

 アイは典型的な妊娠の責任を取らない恋人に捨てられた妊婦だった。普通なら、中絶をするかしないかを選ばせて、産む決断をするなら生活保護の手続きや各種行政機関の支援を斡旋してもらう必要がある。

 

 アイの給与だとまともに子供を育てられる資金もないし、双子なことも考えると帝王切開になるリスクも高い。そうなると、復帰時期は大幅に伸びる。普通分娩なら軽く運動ができるようになるまでに3ヶ月から1年ほどだが、帝王切開の場合、数ヶ月延びるケースもある。休業が1年から1年半となると復帰できるのか微妙だし、その間のB小町のことをどうするのかという問題もあった。

 

 最悪なのは、そんな事務所やメンバーに気遣って、体が万全ではないのにB小町特有のダンスを、仕事をこなしていき、体調を崩してしまう事。

 

 だから、本来ならちゃんと言うべきだったんだ。

 

 でも、さりなちゃんの…………そしてアイの言葉と瞳を見て、言えなくなってしまった。

 

 本来なら、キャリアか子供かの決断を覚悟する事を言うべきだった。本来なら、生活保護の手続きを勧めるべきだった。本来なら、役所と連携しておくべきだった。

 

 俺は母親のような妊婦を生まないような産医になった雨宮吾郎なら絶対にしない決断をここでした。

 

 本来ならぎりぎりまで判断を延ばさず、帝王切開に決断してしまった方が訴訟リスクは下げられたが、アイドルとして、そして出産からの復帰時間を早める為に、判断を遅らせたりと、本来ならしない選択ばかりしていた。

 

 そうして、バレれば周りから罵倒され、なにもかも失うかもしれないリスクを背負ってまで子供が欲しい。幸せになりたいというアイに触発されてか、俺もかつての夢を思い出していった。

 

 祖父母は亡くなり、その同世代の人達もどんどん亡くなっていって、俺の話をばらまいていた祖母が居ないからか、知らない人も出てきた。というか俺がそんな熱意に溢れた人間に見えないというのもある。義務感でやっているというのは見ていれば分かるから、年寄り以外はそんなに気にしなくなっていた。

 

 もういいんじゃないか。そう思うようになった。祖母に医者になりたいと言って、15年だ。15年頑張った。そろそろ、自分の為に生きても良いんじゃないか。より良い医療を学びたいとか言って、転科を隠して東京へ行って、昔から声をかけてくれた教授や先生を頼って、また一からやり直してもいいんじゃないかと思うようになった。お金なんていい、夢を追いかけ直してもいいんじゃないか。と思えるようになった。

 

 だから、アイの事を任せられる病院や子育て支援のNPO団体なんかの紹介をして貰えないか、かつての恩師や友人に電話をかけて、アイの退院予定日の後に休みを貰って、会いに行く事にした。そして、その時に自身の事も相談しようとした。

 

 妊娠後の復帰の時期の調整をする医者は必要だったし、授乳中の使える市販薬は多くない。だから体調を崩したら病院にいかないといけない。病気になった時に口の堅い人を紹介して貰った方が都合が良かった。

 

 俺の通っていた大学は三指に入る学閥で系列病院も沢山あった。そこに勤める友人も沢山居たから都内であっても力になれる事はあった。

 

 俺が死んで居なければ。

 

 別にそれはアイの出産予定日の前でも良かった。なんなら電話だけでもよかったのかもしれない。

 

 でも、転科の事なんかを相談したかったから、それを怠った。

 

 だから、最低三ヶ月目から軽い運動を許可するはずが、二ヶ月もすると復帰をしてB小町特有の激しいダンスをしているし、子育て経験のない女性に子育てを丸投げにするとかいうとんでもない事が起きた。

 

 相談できる婦人科の医者が居ないし、子育ての経験がないから仕方ないし、壱護さんは別に悪い人ではないが、やり方は母体というか、母親に対しての不理解と無関心が滲み出ていた。結果としてミヤコさんの不満が爆発した。

 

 俺が転生者でなかったら、もう駄目だっただろう。俺の決断と俺の失敗が不幸な女性と子供を作る寸前までいった。なにより、俺がさりなちゃんの人生を壊してしまうかもしれなかった事が許せなかった。

 

 母親のような妊婦を生まないような産医になることを捨てて、自分勝手に生きた結果を見せつけられたようだった。

 

 だから、今度は、アイとルビーを幸せにする事だけに専念することに決めた。自分の幸せとか夢とかを考えず、二人の幸せだけを願い、生きる。前世の失敗を取り返す、前世で出来なかった事をする。その人生を選んだことに後悔はない。

 

 かなをどうにかする方法はある。あるが、これはただの俺のわがままだ。アイとルビーのために生きると決めたはず。そしてなにより、これは苺プロがこの業界で生き残る為のカードだ。俺が勝手に切るわけにはいかない。

 

 みんなに不自由をさせてまで確保したカードを俺がすり減らしていい理由がない。

 

 だから、仕方ない。あの事務所は長くない。何年保つかわからないが、その時までできる限りの事をしてフォローすればいい。これが正解のはずだ。割り切ることも大切だ。大人はみんなやっていることだ。俺も大人なら割り切れ。子供でもプロなんだと言い聞かせろ。

 

 アイとルビーを守る。その目的の為に見なかったふりをするだけでいい。前世での失敗を繰り返すような事があってはならない。だからアイとルビーの事だけを考えて、最善手を打てば良い。

 

 理屈では分かっている。だが、それだけの事が俺にはできないでいる。

 

「お兄ちゃん?」

 

 未だ、覚悟を決めきれない俺の目の前には幸せにしたいと願った少女がいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑫

 

 壱護さんとの会話の後、自分の部屋に俺は戻っていた。壁を背もたれにして、今後の事を考えていると電気を点けていない部屋の扉が開き、光と共に小さな人影が見えた。

 

「お兄ちゃん?」

 

 そこには心配そうな顔をするルビーが居た。かつての自分の過去を思い出し、心は沈んでいたが、心に仮面をつけ、表情を作る。ルビーにこれ以上心配をさせるわけにはいかない。

 

「ルビー? どうした? 少し一人で考えたいんだけど」

 

「どうしたもこうしたもないよ。帰ってきてから部屋で3時間以上も引きこもって…………考え事があるって聞いてはいたけど、ずっと戻ってこないから心配になって見に来たんだよ」

 

 目の前の時計を見ると、思っていた以上に時間が過ぎていた。時間を忘れて考え込んでいたようだ。

 

「ああ、本当だ。少し、考えすぎてしまったかもしれない。そろそろ寝るよ。アイも今日は遅くまで帰って来ないらしいから、ルビーも早く寝ないと」

 

 そう言うと、ルビーは何も言わずに俺の正面に座って話しかけてきた。誤魔化されてはくれないようだった。

 

「かなちゃん、どうなるんだろうね。お母さんがあんな人で…………事務所の人も本当に酷い人達みたいだし」

 

 ルビーは黒川さんからの連絡の話は聞いていないはずだ。今日の事を聞いていなければ答えていただろう会話を心がける。

 

「ああ、でも壱護さんも、黒川さんも動いてくれている。事務所の方も壱護さんが釘を刺しに行くみたいだし、今回みたいな件があった事を考えるとスケジュールの調整をすると思う。黒川さんも児童相談所へ動けないか確認したり、知り合いの弁護士の人へ相談へ行ったりしてくれてるみたいだし、きっといい方法が見つかる」

 

 心にもない事でも言わなければならない。かなの事を考えず、自分の事ばかり考える母親をどうにかしないといけないなんて現実は、前世で母親に捨てられたルビーには重すぎる。

 

「嘘だよね」

 

「えっ?」

 

「そんなに上手くいくならお兄ちゃんはそんな顔してないし、部屋に引きこもってなんかいない」

 

「…………ああ、事務所も、かなの親の問題も簡単に解決できるのかは五分五分かと思っている。だから上手くいかなかった時の事を考えていたんだよ。まあ、いい手は浮かばなかったけど」

 

「それも嘘。ただ、やり方が見つからないだけなら、昨日とか一昨日みたいにお兄ちゃんはかなちゃんの為に走り回っているはず。それをしていないのも、暗い顔をして動かないのも上手くいかなかったから? 違う?」

 

「…………」

 

「お兄ちゃん、わたしたちは生まれた時からずっと一緒に居たんだよ。お兄ちゃんが嘘をつく時の癖くらい分かってるし、せんせだった時からも含めてどんな性格だったかも分かってる。だから今、お兄ちゃんがおかしい事くらい分かるよ」

 

 ルビーはそう言って俺を真剣な眼差しで見つめてくる。

 

「私はお兄ちゃんがそういう人だっていうのは分かってる。お母さんから捨てられて、病院で死を待つだけだった私に優しくしてくれた。担当でもなんでもない私が死んじゃうその瞬間まで私に寄り添ってくれた人が簡単に諦めたり、他人任せになんてしない。そんな事をする事があるとするなら…………私かママ、それかその両方にとって不利益がある事だから。違う?」

 

 どきりと心臓が跳ねたような音がしたように感じた。

 

 ある元有名子役が言った言葉を思い出した。

 

『演技の世界で子供の頃から大成するやつは、大抵、虐待を受けている。子供の時期に周りの人間の顔色を窺うような生活をしていて、周りの顔色を観察し、再現する能力。それを生かす事がしやすいのが演技の世界だからだ』

 

 なんて偏った物言いなんだろうと思ったが、当たっている事もある。

 

 児童心理学の世界でも、子供は、親が感情的、暴力的だと、顔色を窺い言葉を発するようになることが認められている。周りの顔色を窺い「いい子」であろうとしたさりなちゃんがその能力に長けている事は疑うべきだったのかもしれない。

 

「大丈夫、さりなちゃんに迷惑をかけるようなことにはならないよ」

 

 優しく、心配要らないと言うが、さりなちゃんは頭をふって否定してきた。

 

「違うよ。私に影響がある事を心配してるんじゃないよ。せんせ、今のわたしは星野ルビーだよ。いつまでも病院のベットから動けずに、せんせから与えられる優しさに縋る事しかできない天童寺さりなじゃない。そしてお兄ちゃんも私と同い年の子供なんだよ。いつまでも守られるだけの関係でなんて居たくない!」

 

「ルビー…………」

 

「頼ってよ。相談してよ。わたしはお兄ちゃんみたいに頭は良くないかもしれないけどなにか力になれるかもしれない。お兄ちゃんがそんな顔をしてるのを黙ってみているなんてできるわけないよ。それに私もかなちゃんとは1歳の時からずっと友達なんだよ。心配して力になりたいと思うのは駄目な事なの?」

 

 そう問いかけるルビーの姿をみて、俺は誤魔化すのは無理だ。と諦めた。

 

 俺は彼女をずっと子供扱いしていた。彼女には何一つ苦労することなく、汚いことを見せず、ただ楽しく生きていけるならそれで良いと思っていた。でも、それはある意味、ペットのような扱いをしていたのも同然だった。自分で餌を取ることなく、安心安全な場所で元気で居てくれればいい。なにも苦労せず、ただ可愛がられていればいい。そんな傲慢な考えだ。

 

 子供はずっと成長しないわけじゃない。10年、20年もすれば彼女も異性とつきあい、結婚をしたりもするだろうし、今のように何百万、何千万も稼ぎ続けられるのならルビーを利用しようとする他人は多いだろう。そもそも芸能界という汚い世界で純粋無垢な子供で居られるわけがない。優しいだけの世界とはどこかで決別しないといけない。

 

 いつか、人の汚さに触れ、その中で生きていかないといけなくなる。

 

 でも、その時が来なければいい、ずっと守っていきたいという気持ちが抑えきれなかった。

 

「ルビーはもう、十分すぎるほど苦労したじゃないか。物心がついた頃から病気で動けなくて、歩く事も満足に出来なくなって、頭痛や吐き気と闘って、苦しみに耐えて…………そして、最後には親にも見捨てられて、俺しか居ない病室で死んでしまった。だから今世ではその分、幸せであって欲しい。なにも苦労なんてせず、幸せでいて欲しい。一生分の苦労をしたんだ。その権利があるはずだ」

 

 なにがカミキヒカルを排除する為だ。あんな神の遣いもどきの子供の言うことなんて聞く必要なんてない。俺が全部片を付けてしまって、ルビーには、そんな事なんて関わらず自分の夢を追って欲しい。それは間違っている事なのか? 

 

「お兄ちゃん…………」

 

「今、苺プロそのものが危険な事になってる。今ある仕事が全部なくなるかもしれないくらい大きい問題を抱えていて、その時の為に俺も壱護さんも準備を進めてきた。だから、かなを助けるだけの余裕がない。かなを助ける方法はある。けど、それをすれば、その問題に対応出来なくなるかもしれない。それは今のうちに貸しを作って、仕事が無くなった時に返して貰うためのものであって、みんなが幸せになるためのものだ。それなのに俺のわがままで使っていいものじゃないんだ」

 

「じゃあ、かなちゃんは見捨てるの?」

 

「…………そうだ。俺は、前世でさりなちゃんの力になってあげられなかった。そして、今ある幸せも俺のわがままで壊しかけた。だから、かなより、いや、誰よりもキミを優先する。今度こそ間違えない為に。今度こそ幸せに生きて貰うために」

 

 拳を握りしめると血が流れるのを感じる。本当は救いたい。それでも、俺には優先すべきことがある。

 

 おれはさりなちゃんに寄り添う事もできず、助けることも出来なかった。病によって物心つく頃には全てを奪われたにも拘わらず、病室の中で苦しみにもがきながらもキラキラとした目をしながらまっすぐに夢を見ていた少女の夢を…………救いたいと思った初めての患者の夢を力不足でただの夢で終わらせてしまった。

 

 今、奇跡が起きて、夢のつづきを見せてあげられている。

 

 何度思っただろう。何度考えただろう。もっとなにか出来たんじゃないか? と。

 

 そんな都合の良い妄想が実現した。ならその為に生きるしかないじゃないか。

 

「だから、この件だけは俺に任せてくれないか。かなの事も直ぐには無理かも知れないけど、3年、いや、2年以内に全部解決する。さっきは見捨てるなんて言ったが、かなの事務所は長くない。潰れた後なら、なにも失うことなく、解決することができる。それまでかなをできる限り支える。その為にルビーも協力して欲しい」

 

 俺はそう言って、ルビーに手を伸ばした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑬ ルビー好感度100イベ

 

 

 初めて、かなと共演した時、「ああ、この子はすぐに干されるな」と思った。

 

 まず、ADを荷物持ち扱いしていた時、それをいつもの事のように接する人の多さ、そしてそれに対する陰口の多さ。スタッフに嫌われて居ることがすぐ分かった。直接、注意する人が誰もいない。ここまで行くと利用価値があるうちはいい。だけど無くなったら、一気に干される未来が見えた。

 

 子役の干される理由で最も多いのはスタッフに嫌われる事。

 

 テレビ関係のスタッフは拘束時間が長い。だが、常に仕事があって忙しいという訳ではない。だから、隙間時間によく会話をする。拘束時間の長い仕事ばかりしていると、プライベートの話がなく、話の内容も仕事中心になり、横のつながりからそういった噂がどんどん広がっていく。

 

 ADを経験して数年でチーフADやAPになっていき、キャスティング権を持つようになる。パシリにされたAD、その話を聞いたADがキャスティング権を持った時に、その役者を推薦しようとするかどうかなんて考えるまでもない。それは10年、20年後の話ではなく、1年後、2年後に起こりうる話だ。

 

 だから、注意をして、改めさせて、庇って、干されないようにした。将来、ルビーとキャラかぶりをする事を、手強いライバルになる事を分かって居ながら。そういった事を教えられずに、ルールもなにも知らない子供が理由も知らされずにいきなり干されても改善もされず、ただ使い捨てられたという経験をするだけで本人の為にもならないと思ったからだ。

 

 でも、もしかしたら、その方がかなにとって幸せだったのかもしれない。

 

 ほどほどに売れて、ほどほどに成功して…………途中で干されたとしても、子供という事で将来的には許されるだろう。実力もあるから、そういった性格なんてどうでもいいなんて監督も少なくない数が居る。そうしている内に自分で気がついて、自分で改めるようになるかもしれない。過度に期待もされずに、その方が幸せだったのかもしれない。

 

 それでも、庇わずに居られなかったのは、かなの目がかつてのさりなちゃんの目にそっくりだったから。

 

 あの目を見ると、俺はかつて守れなかった、力になってあげられなかった事を思いだして、力を貸さずには居られなかった。目の前に、近くにかつて守れなかった少女が居るのにそんな事をしていた。その結果が、今だ。

 

 自分のかつてした後悔を思い出さないため…………そんな自分の為にした行動がさりなちゃんを不幸にするのはアイの出産の時にした失敗だけで十分すぎるはずだ。

 

 手を伸ばす。今ある奇跡を優先する。かつてなにも力になれず、死なせてしまった少女と再会し、やり直す機会に恵まれた。これ以上なにかを求めようとする事自体が傲慢だった。使える物は全部使って、目的を果たす。もうこれだけを考えれば良い。

 

 そうして伸ばした手をルビーは両手の掌で包み込んだ。

 

「ルビー? …………」

 

「本当にせんせはすけこましだなぁ…………」

 

 そういうと、俺の手をなでるように触るとこちらを見つめてくる。

 

「私の力になってあげられなかったって、ずっとそんな事思ってたの?」

 

「…………だって、そうじゃないか。俺が出来たのはさりなちゃんの話をたまに聞いてあげたくらいで、あとは何も力になれなかった」

 

 俺がさりなちゃんにできた事なんて本当に些細な事しかない。

 

「私がお母さんに見捨てられた事を認められなくて…………ずっとずっと一人で病室で待っていた私の側に居てくれて、いつも励ましてくれたでしょ。知ってるよ。せんせは研修医だからって休みもなく病院に来て、仕事も勉強も沢山して、疲れてるはずなのに、サボりに来たなんて言って、私に会いに来てくれていた事」

 

 そして、昔から悪ぶってたけど、バレバレだったよ。と付け加えた。

 

「せんせが来てくれるようになる前の私にはお母さんしか居なくて、そのお母さんに捨てられちゃった事を認めちゃうと、生きている意味が無くなっちゃうから、認めたくなくて、ずっとずっとただ待っていて。そうやって待ってるけど、毎日、毎日苦しくて、気持ち悪くて、どんどん出来る事も少なくなって…………そんな中、ずっとお母さんが私の事を本当に愛しているのかどうかとか、そんな事ばっかり考えてた」

 

 でもね…………とさりなちゃんが続ける。

 

「せんせが退院してアイドルになったら良いって言ってくれて。アイドルになったら推してくれるって言ってくれて。ママの事をただ憧れて見ているだけじゃなくて、ママみたいになりたいって…………ママみたいになるために頑張って生きようと思えるようになったんだ。このまま何も出来ずにただ苦しくて、痛みに耐えて、お母さんを待つだけの生活が、ママみたいなアイドルになって、せんせに応援してもらうって夢の為に生きる生活に変わったんだ」

 

 俺の知るさりなちゃんは明るくて、前向きで、苦しみの中でもアイドルを目指そうとする女の子だった。それは、俺が言ったから? そんなはずは…………

 

「せんせが居なかったら頑張って生きようなんて思わなかったし、アイドルになろうなんて思わなかった。せんせが私に生きる意味をくれたんだよ。力になってあげられなかったなんて嘘だよ」

 

「でも、さりなちゃんは俺の前でもいい子で居ようとしていただろう?」

 

 わがままを言わないで、素直で明るい子であろうとしていた。辛かった、苦しかったなんて、相談を受ける事はなかった。それは俺が信頼出来なかったからなはずじゃ…………

 

「せんせ、好きな人の前でかっこつけたくなるのは、男の人だけじゃないんだよ。それに大好きな人とのデートなんだもん。楽しい話をしたいじゃん。せんせは相変わらず女心が分かってないなぁ」

 

 さりなちゃんはそう言ってやれやれと言うような仕草をした。その姿を見て、がくっと脱力した。

 

 そうか…………俺はさりなちゃんの力になれていたのか。

 

 なにもしてあげられていないと思っていた。俺が話しかけにくる事は実は迷惑で、いい子を演じていただけだったのかも知れないと思うと、心が苦しくなった。

 

 俺は周りの言う通りに生きて、周りの望むことだけをしていた人生だった。自分がやりたい事やしたい事を我慢して、周りの言うことだけを聞いていればいい人生は楽だったが、なにも張り合いのない空虚さがずっとつきまとっていた。

 

 だから、苦境にあっても好きな事に夢中になれる…………夢を追う子に憧れた。もし、なにか辛いことがあって、夢を諦めてしまうような事があるなら応援したいと思った。

 

 ただの代償行為でしかない事は分かってる。自分が出来なかったから、出来なかった事を頑張っている子を見ると応援して、自分がそういうことを選択した未来をすこしでも感じようとしているだけだってことは。

 

 でも、そんな俺の身勝手な行為でも、さりなちゃんの力になれていたのであれば、良い。俺のただ流されて、惰性で生きていた人生にも意味があったんだと思う事が出来る。

 

「だからさ。前世で力になれなかったとか言わないでよ。死んじゃう前はたしかに夢が叶えられずに終わっちゃって悲しかったけど少し嬉しかったんだよ。私はいらない子じゃなくて、私のために泣いてくれて、怒ってくれて、大切に思ってくれる人がたった一人でも居たんだって思えたから」

 

 そう言うとさりなちゃんは笑顔で語り出した。

 

「たしかにアイドルは私の夢だよ。ママみたいに格好いい衣装を着て、可愛い歌を歌って、皆にコールを貰ったりして、大きなステージに立ってみんなに喜んでもらって…………その夢が叶った時、たしかに嬉しかった。でも、それよりもせんせが隣に居て、私の姿をみて喜んでくれる方がずっとずっと幸せに感じたんだよ。これからアイドルを続けて、どんなにたくさんのファンが居ても、どんなにお金を稼げても、せんせが暗い顔をしている方が嫌だよ。小さなライブハウスからやり直す事になったって、隣にせんせが居るなら何度だってやり直すことになったとしても楽しいと思うから。ママも前に言ってたんだ。もし今の事が全部夢だったとしても、またやり直せばいいって。全力で応援してくれるって。だからさ…………」

 

 さりなちゃんの手を握る力が強くなる。

 

「前世で力になれなかったと思って、私を優先しようとしているならやめて欲しいな。今のかなちゃんは、ひとりぼっちで、それでも諦めきれなくて、認められなくて、ずっとずっとお母さんを待ってるだけの昔の私だから…………助けてあげられるなら助けてあげて欲しい。あの時は本当に辛くて、悲しくて、毎日が苦しかったから。それを見捨てようなんてせんせに言って欲しくないから」

 

「さりなちゃん…………」

 

 さりなちゃんの顔を見ると涙を流していた。

 

「あれっ、覚悟をしてきたのにな。せんせが私を特別に思ってくれるのが…………もし、私がせんせの特別な理由が困っている子を助けたいって気持ちのものなら、次に困っている子を助ける時に邪魔をしちゃいけないって。今度は私がせんせの背中を押してあげるんだって思ってたのに。笑顔で送りだそうって思っていたのに…………」

 

 涙を流しながらそういうさりなちゃんを抱きしめた。

 

「せんせ…………」

 

「さりなちゃんの言う通り、はじめは、長くお見舞いにきてくれない患者さんのさみしさを少しでも紛らわせられればいいと思って始めた事だった。でも、いつからか、キミに会う時に、そういったものとは別の特別な気持ちを持っている事に気がついたんだ」

 

「特別?」

 

「さりなちゃんは知らないと思うけど、俺は地元だとそこそこ有名で…………優秀な産婦人科医になることを周りに望まれて育ったんだ。そんな周りの目線が気になって、逃げようとした事もあったけど、仕方ないと諦めて、言われるがまま、望まれる通りにするだけの空虚な人生だった。でも、キミと出会って、産婦人科医としての俺じゃなくて、ありのままの俺を見てくれるキミとの時間が大切になった。そして、いつかキミの夢が叶うように全力で応援しようって決めていた」

 

 アイドルという夢に向かって目を輝かせていたさりなちゃんを見て、死んだ目をして夢を捨てて周りの言うことばかりを聞いて働く俺にとって、その目はあまりにも眩しかった。だから、何人もの死を見てきたはずなのに、さりなちゃんの死だけは受け入れられなかった。

 

「さりなちゃん、キミがアイドルになって誰よりも輝く姿が見たくなったんだ」

 

 抱きしめるのを止めてさりなちゃんの顔をじっとみる。

 

「うれしいな。そんな風に思ってくれてたんだ。でも、一番はママだよね…………」

 

「今でも思ってる。さりなちゃんはアイよりも輝けるって」

 

「…………えっ?」

 

 さりなちゃんは信じられないものを見るような顔をしていた。

 

「病室の中で苦しみにもがきながらも目をキラキラさせながらまっすぐ夢をみていた…………あの頃から俺はキミを推すと決めていた。あの時からキミは俺にとってアイよりずっと眩しいアイドルだった。それは今でも変わらない」

 

「ママは…………アイは今は日本一のアイドルなんだよ」

 

「知ってる」

 

「アイは凄いんだよ。テレビでも引っ張りだこだし、CMも、雑誌も、ネットでもそうで」

 

「知ってる」

 

「みんなから認められてる。世界でも注目されてて、これからどんどん有名になっていく。本当のアイドル」

 

「知ってる」

 

「だから、私なんかがアイに敵うはずないよ…………」

 

「どんな肩書きがあっても、どんなに知名度があっても関係ない。おれはずっとそう思っていたし、そう思い続ける。オタクは自分の推しを一番可愛くて、一番凄くて、一番輝いてると思ってるものだからね」

 

 さりなちゃんの頭をなでる。

 

 うつむいて俺に頭をなでられているさりなちゃんを見て、この子を守らないといけないと覚悟をきめた。ここまで言われて、その気持ちに応えないわけにはいかない。

 

 どっちを選んでも推しが幸せになれないのなら、どちらかを選ぶ必要なんてないし、カミキなんかの為に犠牲になる必要もない。どうにかできないか足掻いてみないといけない。あの神の遣いを名乗る少女に言われた通りにするんじゃなく、あいつを利用するなりすれば、なにか手が見つかるかもしれない。

 

 今はなにも思い付かない。それでも、推しの子が幸せになれる道が他にないのなら戦うしかない。

 

 それから、さりなちゃんには全て話した。

 

 神の遣いという子供に会った事、転生した理由、カミキの事、俺の死体の事、アイの命を狙った男が居る事、俺がこれまでやってきたこと。これからの事。

 

 そうしていると、ガチャリと鍵が開く音がして、アイと、ミヤコさん、壱護さんの三人が部屋に入って来た。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑭

 

 アイについて、俺はできる限りの事はしてきたつもりだが、適切な治療を出来ていたかどうかは、途中まで自信がなかった。

 

 俺が本来、精神の領域について診れるのはかなり狭い範囲だ。妊活うつや産後うつ、PMDDなど女性特有の分野が主になり、扁桃体過活動やホルモンバランスが崩れた時の対処が殆どで、精神科の範囲も必要になる分野にいる為、勉強もしてきたが、全体の知識は浅い。

 

 特にアイの抱えている大人の愛着障害は、本来なら子供に対してつく病名の愛着障害を暫定的に「大人の」なんてつけて呼んでいる状態で、まだ、日本では正式な病名がついていない。だからエビデンスの確立された治療法がない状態だった。

 

 アイの場合、長期の虐待が原因によることで起こるとされるアメリカの複雑性PTSDが症状としてかなり近いため、医療技術評価機構が公開している治療ガイドラインも参考にアイを診ていたが、かなり苦労した。治療構造や介入技法の多くは認知行動療法に依拠したものが多かったが、これを子供の俺がアイに対してうまくやろうとするのは厳しかった。

 

 本来なら本職に任せたいが、精神科の範囲は基本が5分診療。診療点数も高いわけではない上に時間がかかる認知行動療法は、医者がやるとコストが釣り合わず、やっているところは少ないし、やろうとしてくれるのかすら怪しい。そもそも自覚すらないアイに精神科に行かせる言い訳が思い付かなかった。

 

 だから、アイをずっと観察して、話を聞いていくと侵入症状、回避、覚醒などの症状も見られ、分かりにくいが気分変動性、自己肯定感の低下、そして、親密な関係を築きにくい点など、診断基準は満たしている事を確認したあとは、信頼を得るために困った事に相談に乗って、支えてきた。

 

 大人の愛着障害の治し方は色々あるが、なにより、その人の世界観を、認知を変えないといけないので、信頼を得ることが大切になる。時間をかけて信頼を得ることが重要だったから家族という一番近い距離に居られるのは治療に対して有利に働いたと思っている。

 

 虐待を受けた子供は、最も信頼できるはずの親からの愛情を貰えなかった経験から世界が敵に見える傾向にある。

 

 虐待を受けなかった人は、基本的に周りの人間は信頼できるが、たまに例外的な人が居ると学習していくのに対して、虐待を受けた人は基本的に周りは信用できないけど、たまに例外的に味方をしてくれる人がいると学習していく。そんな風に世界の認知の差が出てくる。

 

 スタート地点が違うので、途中から同じ環境で育っても認知に差が出てくる。だから、いわゆる普通と違う認知を普通に、正確には生きやすい認知へと変えるには、どう認識しているのか目の前で見られると改善がしやすい。

 

 アイのトラウマは自分がどんなに献身的に尽くしても母親に愛されなかった事。そして、アイドルとして、年頃の女性としてしか愛されないこと、カミキに対して性的な関係を持ったにも関わらず、愛されなかった経験が、本当の自分を愛してくれる人が居ないという認知に繋がっている。

 

 そして、大きな問題として、アイは認知と気分の陰性変化が大きい。喜びや満足、愛情を感じることが出来ない。誰か居ても孤独感を感じてしまうなどの生きにくさを感じているなどの典型的なうつ症状。そして、そのストレスが限界に来ると覚醒の症状が強くでてきて、無謀なことや自己破壊的な行動を取ろうとする。

 

 妊娠、出産などは爆発した結果だし、俺達のことを暴露しかける行動も多かった。解離の症状も出ている為、自分を自分として認識できなくなるなど、かなり厳しい心理状態だった。

 

 だから、まず、その認知を変えないといけない。愛されない存在ではないと、本当の自分でも愛する人が居ることを知らせる必要があった。はじめはアイの内面について観察し、アイの外見などではなく、性格的な面に肯定的な言葉をかける事に時間を費やした。

 

 自分の子供という事で性的な目線があると感じることがないのは大きかったとは思う。でないと容姿が優れているから声をかけていると自己解釈される可能性が高かったから。

 

 認知行動療法は時間がかかるし、患者は今までの世界観を変えさせるわけなので反発もある。あと、俺は医者ではなく子供なので、やり方も変える必要もあった。寛解するまで、かなり時間がかかるかもしれないと考えていた。

 

 だが、アイは思っていたよりも俺を信用してくれたし、状況も良かったこともあり、2年もかけずにうつ症状は緩和されて、喜びや満足、愛情を感じることが出来ないなんてことはなくなっていった。

 

 アイが「愛してる」と心から思って言葉にしてくれた時、医者として、ファンとして良かったと心から思えた。

 

 それからは自分のトラウマの部分を話してくれるようになり、トラウマの治療にもきちんと着手できるようになった。自身の内面的な部分を歌った曲で大ヒットしたのも自信になったのだろう。自分の気持ちが受け入れられたアイは以前よりかなり明るくなり、自分を出せるようになった。

 

 アイの事をどうにかしようと動き出したのが4年前。トラウマの治療に乗り出してから2年。あとは愛されなかったと思っていた時代を否定するだけ周りの人に、自分の内面的なことを話してもファンに愛される経験を積み重ねていけばいいだけ。ようやくその段階まで来た。

 

 だが、俺の・・・・・・雨宮吾郎の死は、そしてかつて愛そうとした人間が自分を殺しに来るなんてことを経験すれば、今の、ようやく幸せを掴もうとしているアイを、自分は多くの人に愛されていていいと思えるようになったアイの認知を歪ませかねない。

 

 100人の賞賛が1人の批判に負けるなんて珍しくもなんともないのに、炎上すれば100の批判どころか、万の批判に晒されかねない。だからこの件はアイに知られたくなかった。できるならなにも知らず、俺が処理をしてしまいたかった。

 

 ずっと、トラウマに苦しみ、辛いはずのトラウマに向き合ってようやく幼少時のトラウマから解放されそうな少女が、苦しむような姿を見たくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉が開く音を聞いて、部屋にアイが壱護さんとミヤコさんと一緒に入って来る。

 

 仕事の予定を早めて来たことから、今回の一件はアイに伝わっている可能性が高い。おれのせいで顔を曇らせているであろうアイの顔を直視できず、下を向いて顔を合わせることが出来なかった。

 

 俺が死んだのは自業自得だ。不審者を追いかけるなんて警備員でもやらない。まずは通報して、応援を呼ぶ。アイの身辺警護をするように手配するのが優先だろ。あれは、暴力的な事はされないだろうという過信が産んだ結果だ。問い詰めてどうにか出来ると思いあがった俺のミスであって、アイはなにも悪くない。

 

「アイ・・・・・・ごめん。本当はアイの知らない所で解決したかったけど、駄目だった」

 

 申し訳なさ過ぎて、謝る事しかできない。ここまで努力してきたアイの頑張りが俺のせいで消えてしまうかも知れない。今のアイに自分のせいで死んだなんて思われる人間なんて出したくないし、愛そうとした人の殺意なんてものを直視させるなんてもっとしたくない。

 

 そう言葉を発すると、アイが俺を抱きしめてきた。

 

「アクア、ごめんね。気づいてあげられなくて。アクアはずっと頑張ってくれてたんだね」

 

 頑張っただけでは駄目なんだ。俺たちを産む前のキミはボロボロだった。それに気がつかずに、のんきに過ごして、キミをただ眺めていることしか出来なかった俺には、キミを救う義務がある。

 

 このアイの優しさを受け取る権利は俺にはない。

 

 アイの言葉に何も応えてあげる事が出来ない俺が嫌になる。そんな事を考えて居ると壱護さんが咳払いをする。

 

「はあ、あとは俺がなんとかしてやるから、お前は有馬かなの事だけ考えてればいい。こういうトラブルの解決の為に事務所があるんだからな」

 

 その方法がないから困っているのに、なにを言っているのだろうか?と思った。胡散臭そうに壱護さんを見つめると、自信ありげに言葉を発した。

 

「キー局間の報道協定を利用する。正確にはそれを使わせるぞ。と交渉材料にして、アイの事を報道させないようにする」

 

「報道協定?」

 

 そんなのは聞いた事がない。

 

「お前は生まれてないから知らないだろうけど、テレビ業界そのものがヤバくなった時があってだな。その時はまあ、上手く誤魔化したりしたから電波の停止なんかにはならなかったんだが、目を付けられるようになったり、政府から干渉されるようになった。だから、不味い不祥事が起きた場合、テレビ局同士でどう対処するのかの基本ルールを作ったんだよ。テレビ業界で結託して各社の不祥事を全部揉み消しあったら、自浄作用がないと思われて潰される。そのリスクを減らすために、不祥事がバレたら、公開するってルールができた」

 

 政府には電波使用料金など、テレビ業界を一気に潰すカード自体は保持している。それを使わせないようにテレビ業界自体も対策をいくつも取っている。その対策の一つなのだろう。

 

「ルールは簡単だ。各社は不祥事が起きたら、それを後からもみ消さずになんらかの形で公開すると言って、不祥事の放送を止めて貰う。そして、その不祥事がある程度落ち着けたり、解決した後にきちんと公開するというだけだ」

 

 壱護さんが続ける。

 

「この業界、たしかにコネが大事だが、コネを使った就職をすると、その局員を最終的に推薦した上の奴と推薦された人を紹介したやつ、そして、そいつの所属の大学、ゼミ、サークルの評価も下がるし、信用もなくなる。自分の子供をコネで入れて問題を起こせば、自分の周りの人間に迷惑をかける。だから話次第では、上手くやれるはずだ。特に現職員の不祥事ともなると公開されるとかなり不味い事態になりかねない。カミキの推薦で入るテレビ局は殺人に荷担した事が過去あるからな。風評はかなり悪くなる。避けたいと思うはず」

 

 他社にバレたら、忖度して扱いを小さくはして貰えたり、公表時期をズラして、全部処理した後に出来るが公表自体はしないといけない。局員になったカミキが殺人犯であれば、関係者として公開しないといけないが、局員になる前のカミキなら、放送を止める事が出来る。

 

 就職をする前にその証拠を取引カードとして使うことで、アイに関することもついでにもみ消しをさせるという事だろう。アイの問題がなければ、かなの問題はただの移籍問題でしかない。かなの母親だけを説得できれば、今のかなの事務所の影響力をはねのける事は出来るだろう。

 

 問題はアイの問題をかかえつつ、かなの事務所問題を抱える事が出来ない事なので、アイの問題を片付けてしまうだけで、今の状況はひっくり返せる。

 

 そういう事なんだろうが・・・・・・それには大きな問題を抱えている。

 

「でも、それには大きな問題があるよ。証拠を隠蔽されてしまえばそれで終わる。キャスティングボートを相手に握らせるようなもので、それをすれば、もうこっちに出来る事は無くなる。こっちを潰そうとする可能性もあるし、反社会的団体を使ってこちらを脅迫する可能性だって捨てきれない・・・・・・あまりにリスクが高すぎる」

 

 これは相手次第でいくらでももみ消せてしまうし、もしこっちが既存のメディアを使わずに公開するとある程度のダメージを与える事は出来るだろうが、そんな事できない以上、あっちの都合でなにもかも決まる事になる。

 

 それにカミキを入局させない。これだけで相手はどうにでもなるのだから取引に乗るメリットが無くなる。取引カードとして弱すぎるし、タイミングも今では無い。使うなら入った後。カミキの大学卒業と入局待ちをしないと対価を担保させられない。1年以上先の話になる。

 

「駄目なら仕方ねえ。さっさと有馬かなを回収して、こっちから公開しちまうしかない」

 

「・・・・・・何を言ってるんだ?」

 

 かなの件に関わると、今までの貸し借りの関係が微妙になる。破格の条件で出た過去があるから、その借りを返せ。そんな事を言える貸し借りをしてきたのは、復帰の時の為だ。スキャンダル後の復帰が難しくなってしまって事務所になにも得がない。

 

「アクア、お前、有馬かなを助けたいんだろ?」

 

「それはそうだけど・・・・・・俺は苺プロの人間だ。おれのわがままで事務所に迷惑をかけるわけにはいかないだろ」

 

 かなのことは救いたい。幼少期のトラウマはその期間が長ければ長いほど、そしてケアを怠るほど悪化していく。アイの事も4年以上かけてようやく寛解する目前まで来た。だが、これで終わりじゃない。これからも悪化したり、良くなったりを繰り返す事になるし、一生の問題として引きずっていく事になる。それに今回の件でより悪化して、10年、20年かけても治らない心の傷になってしまっている可能性すらある。心の傷とはそれくらい治りにくい。

 

 虐待を受けた人間は自分の子供にも虐待をする。これは正しいようで正しくない。むしろケアを受けた虐待児は普通の人よりも虐待はしない。だが、ケアを怠るとしてしまう確率が高くなる。一生の問題になりかねない。だから直ぐにでも、あんな母親や事務所から引き離してあげたい。

 

 だが、苺プロは俺の所有物ではない。壱護さんやミヤコさん、アイやB小町メンバーの為を思うのであれば、よその事務所の子の保護よりも、自分の所のタレントを優先すべきだ。

 

「さっき、全員に話して、了承を貰った。アイの元恋人が過去にアイの主治医を殺してるヤバいやつで、アイの命を今でも狙ってる。証拠とかは見つけてあって、あとは警察に言うだけだけど、それをするとアイとお前達との関係なんかがバレる。こっちでも手を尽くすが、報道を止める事はできないかもしれないってな。それにお前の事も話した。それでも良いって言ってんだ。良いだろ」

 

 意味が分からなかった。だって俺のわがままを通す意味がないだろう。B小町のメンバーだって、B小町の一人ではなく、ようやく個人として認知されて仕事を貰えるようになって、お金だって前の何十倍も稼げるようになったんだ。その立場とかを守りたいとかそういうのがあって当然だ。

 

 それにいきなり、アイと俺たちの秘密を話していきなり理解を示して、そんな決断をすぐに出来るものではないだろう。

 

 そんな事を考えて居ると、アイが抱きしめるのを止めてこちらの顔を見つめる体勢にかわった。

 

 見たくなかったアイの顔が目の前に現れる。その顔は・・・・・・いつもの幼い少女のような雰囲気はなく、前世で何度も見た記憶がある母親になった女性の雰囲気そっくりだった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑮

 

「アクアとルビーには謝らないといけないことがあるんだ」

 

 アイは俺の頭を撫でながら、言葉を続けた。

 

「B小町のみんなには結構前からアクアとルビーの事。貴方達の父親の事なんかを話してあったんだ」

 

「えっ?」

 

 アイの言葉に一瞬、頭が真っ白になった。アイとB小町メンバーとの仲はそれほど良くなかったように見えた。少しずつ改善していっていったとは思っていたけど、そういう事まで話せる関係になっているなんて思っていなかった。

 

「まあ、話したというよりはルビーが私とすっごい似てきて、誤魔化しきれなくなっちゃったんだけどね。B小町のみんなから詰め寄られちゃって、社長が私の相手なんじゃないかってみんな怒って怒鳴り込みしそうになっちゃって、話さないと酷い事になりそうだったんだ」

 

 アイの表情は明るかった。

 

「バレちゃった時はやっちゃったな~。アイドルも駄目になっちゃうかな。とか最初は思ったけど、みんな私のことを心配してくれてさ。むかしのこと、みんなが私の悪口を言っていて、それを聞いて居場所がなくなっちゃったと思って、恋人を作って、子供を作って、みんなに隠して育てたって話して…………今思うと、ほんとうに身勝手な事してたし、自分だけの事しか考えずに、みんなに迷惑をかけるような事をして謝るのは私の方なのに、みんな謝ってくれて、仲直りできて…………」

 

 当時を振り返っているのかアイは少し嬉しそうな顔をしていた。

 

「もし、ヒカルくんが私との関係を暴露したりとか、アクアとかルビーの事がバレたりしても気にしなくていい。こうなった責任は私達にもあるから、これはアイだけの問題じゃなくて、B小町の問題だからみんなで解決しようって言ってくれたんだ。あと、最近、契約とかそういうのを色々変えていたから、もしかしたら、そういう事なのかな? って思ってた」

 

 まさか私を殺そうなんて思っていたなんて思ってなかったけどね。と少し悲しそうな表情を一瞬したあと、言葉を続ける。

 

「だからこういう日が来ることはみんな覚悟はしてて、地下アイドルから成り上がった私達なら、スキャンダルを乗り越えてまたトップにだって立てる! って言ってさ。やれるところまで走り抜けようって一生懸命やってて。私もそれが嬉しくてさ。お仕事に夢中になっちゃって、そしてアクアが大変な事になっているのに…………私の、私達のためにすごく頑張っていた事にも気がつかなくてアクアが追い詰められてるのにも気がつかなかった。ごめんね。アクア」

 

「いや、謝らないでほしい。結局、なにも出来なかったんだから…………」

 

 そうだ。俺は結局の所、この問題を解決出来なかった。頑張るだけでは意味がないんだ。

 

「ううん、そんなことない。アクアが気がついてくれなかったら…………私はせんせの事をずっと知る事なく過ごすところだったんだよ」

 

 アイが目を伏せる。

 

「せんせは私がわがままばっかり言うから見限っていなくなっちゃったんだと思っていたんだ。だから、私の為に亡くなっていたなんて思わなかった…………だから、もしそうなら、今すぐにでもきちんと埋葬してあげないと。せめてそれくらいのことはしないと」

 

「アイ…………」

 

「みんなにもそれは話したよ。納得してくれたし、みんなもそれで良いって言ってくれてる。だからアクア、ありがとう」

 

 やめて欲しかった。おれなんかの為にそんな事をしないで欲しい。

 

「あいつに…………あんなやつにそんな価値ないよ」

 

「アクア?」

 

 特定妊婦の条件を幾つも満たしていたアイを放り出して家庭崩壊を起こす寸前までいった男にそんな価値はない。キミを信じられなくて診断でも嘘をついていた医者失格な男だ。どうせ、死ぬまで親の、周りの言う通りに動くだけのつまらないやつが死んだところで誰も気がつかない。結局、誰も俺のことなんて死後、探しもしなかったんだ。別に俺の死を悲しむやつもいないどうでもいい人間だ。

 

「だから…………」

 

 雨宮吾郎のためなんかに動かないで欲しい。そう言おうとしたところでアイの制止がかかった。

 

「駄目だよ。アクア。それは駄目」

 

 それはとても真剣で、怒っているようにも見えた。

 

「アクア…………アクアが私の為に色々しようとしているのは分かるよ。でも、私の為に頑張ってくれて、寄り添ってくれた人を悪く言っちゃ駄目」

 

 アイは諭すように続ける。

 

「私、本当はね。せんせの所に行く前にオンラインとか電話で相談はしてるんだよ。今って、本当に子供に手厚くてさ。そういう風にバレたくない妊婦さん用のサービスとか色々あってそれを使ったんだ」

 

 知らなかった。アイはそういうのに疎いイメージがあったから。

 

「そうすると、行政機関に登録して特定妊婦? っていうのにするから来てとか、保健師さんとか、社会福祉なんとかの人とかが家庭訪問したりするから住所を教えてくれとか、支援事業をしている施設を紹介しますね。とか色々言ってくれて…………でも、誰もお仕事を続ける事に賛成してくれるところは無かったんだ。多分、夜のお仕事だと思われたのかもしれないけど、生活保護になって子育てに集中した方がいいよって」

 

 でも、私はどっちも諦めたくなかったから、そういうのは全部断って、着信拒否しちゃった。そんな風にアイは続ける。

 

 この電話を受けた人達の対応は間違ってない。東京の福祉支援なら、家事支援サービスや定期的な訪問をして無理がないかのチェックもできるし、母子支援事業とも繋がれる。辞めるかどうかはともかく幼稚園入園くらいまでは働かず育児に専念した方が良いと判断したのだろう。どんな仕事かを詳しく話してはいないだろうが、働き方からそういう仕事だってことは分かる。普通はそういう対応をすることが正しい。

 

「せんせはね。みんなお仕事をやめるか、アイドルを続けるかの二択しかくれない中、私のわがままを聞いてくれた。ほんとうは駄目なのに書類を誤魔化して、他の病院の先生に怒られても、私を信じて、私のわがままを聞いてくれた。だからすごく嬉しかったんだよ。私のためにそうやってしてくれた人が居たことが…………だから、せんせの事は大好きだった」

 

 でも…………と続ける。

 

「出産の時、本当は恐くてさ。そんな時に、ヒカルくんが立ち会いをしたいって言ってくれて…………もしかしたら、私を愛してくれるのかもしれないとかそんなふうに思ってもいたと思う。それで病院の場所とかを教えちゃって…………そのせんせが私のせいで亡くなってしまったのなら、それを公表して何が起きるとしても、アイドルを続けられなくなってしまったとしても、直ぐにでもせんせをちゃんと埋葬してあげないといけない。私はそうしないといけないと思うんだ」

 

「…………アイ」

 

「心配しなくても大丈夫だよアクア。昔みたいに、ファンの人達に私の全部を話して、それを受け入れてくれる人が本当のファン! なんて考えて無いから」

 

 アイの自己破壊行動はそれだった。なにからなにまでぶちまけて自分の全てを受け入れてくれる人かどうかを見極める。ある意味、受け入れてくれない人を見限るような決断だ。アイドルとしてのキャリアとかその全てと引き替えに自分を本当に愛してくれるファンを見つける試し行動。アイはそうしたい願望とそれはいけない事だという理性で揺れていた。

 

「アイドルになった時はみんなが当たり前に誰かに愛されて、その道を応援して貰っている姿に、将来、私もそんな人達を手に入れるぞ! って、前向きな気持ちがあったんだ。でも、どんなにどんなに頑張ってもアイドルとしての私しか愛して貰えなかった。年頃の女の子としての私としてしか見てくれなかった。だから、同じような境遇の人なら私の事を理解してくれるんじゃないかって思って付き合って、求められたこともした。そこまでしても愛してくれないって、落ち込んだし、怒ってたし、ふてくされてた時もあったかな」

 

 そんな時に貴方達が産まれた事を知ったんだよ。と続ける。

 

「私の事を愛してくれる存在が欲しかった。私が愛していい存在が欲しかった。みんな持っているものが欲しくて欲しくて仕方なかった。だからずっとずっと、言えなかったけど、私は自分が愛して貰える存在が欲しくてあなたたちを産む事に決めたんだ。みんなが産まれた時から持っているものなら、私も母親になれば欲しかったものを…………愛を貰えるんじゃないかって」

 

 アイは俺とルビーを引き寄せて抱きしめる。

 

「その時は分からなかったけど、今は分かる。私は私のそんな考え方をする自分が嫌いだった。愛して貰いたいからアクアとルビーを都合よく扱っている。そんな行為が本当の愛なのかって。アクアとルビーの事を本当に愛しているのか分からなくなっちゃったんだ。アクアがずっと私を支えようとしてくれて、ルビーが私みたいになりたいって思って頑張っている姿が愛おしくてたまらないのに。どこかでその愛を受け入れるのは駄目なんじゃないかって思ってた。そんなものは偽物で本当の愛じゃないんだと思った。そして、そんな偽物の愛なんて要らないんじゃないかって、拒絶されちゃうんじゃないかってどこかで思ってた」

 

 アイの独白が続く。俺はそれをただ黙って聞いている事しか出来なかった。

 

「でも、そんな風に考えなくても、探さなくても、みんなは私を愛してくれていた。私が望んでいたのは、無償の愛とかそういう一変の曇りもない綺麗で素敵なものだけで、それ以外は愛じゃないと思っていたけど、違っていた。みんな、私の為に、色々な形で応援したりしてくれていた。それだって立派な愛だって気がつかなかっただけだった。そういう凄いものでなくても、誰かの為になにかしたいな。って思って、なにかをすることが出来ればそれが愛なんだって気がついたんだ」

 

「今、思うと、私はわがままだったんだよね。私はアイドルとしての私しか見せてこなかった。だからアイドルとしてしか愛されないのは当然だったし、B小町のみんなともあいさつとかはしてもプライベートのことなんかも話したことは殆どなくて、私達はただのチームメイトだったから、仲間にも友達にもなににもなれなかった」

 

「わたしは否定されるのが嫌だった。失望されるのが嫌だった。どこまで話して良いか、何を話して良いかよく分からなくて、これを話したら嫌われちゃうんじゃないかって思って。適当にはぐらかすばっかりになってた。だからファンの人達も、B小町のみんなにも私について知っていることなんて殆ど無かった。なのに私の事を分かってくれないって怒ってた」

 

「今はB小町のみんなとは、アクアとルビーと話すみたいにいっぱいいっぱい話して、何が好きとか、何が嫌いとか、今日はどんな一日を過ごして、どんな事をして、どう感じたとかそういう事を知っていくうちに、みんなの事が好きになっていった。私もそういう事を話していって、受け入れて貰って、好きになって貰っていった。ファンのみんなにも何が好きなのかとかそういうことを知って貰って、すこしずつ私を分かって貰って、私がなにを感じて、なにを思っているのかを伝えてきた。その中でも大丈夫かな? って思うものもたくさんあった。でもそれでも沢山の人が受け入れてくれる。もちろん離れてしまった人も居ると思う。けど、沢山の人が私を愛してくれてるんだって分かったんだ」

 

「だからさ。今回の事も今までやってきた事と一緒だよ。今回の事はさ、みんなの期待を裏切ってしまった。私の事情にせんせを巻き込んでしまった。それで嫌われてしまうのかもしれない。でも、それを知っても、好きで居続けてくれる人も居ると思うし、今は駄目でも将来的にはまた好きになってくれるかもしれない。そうなってくれるように頑張ればいいと思ってるんだ…………」

 

 そう言うと、アイは抱きしてるのをやめて俺の肩を掴んで、顔をまっすぐこちらに向けた。

 

「だからさ、アクアはアクアの好きな道を選んで。今のアクアはこうしなきゃいけないとか、そういうのばっかりになっちゃってて、自分の幸せとかそういうのを考えてないようにみえて心配なんだ」

 

「…………かなを助けてあげたいんだ」

 

「うん、いいよ。私もみんなも手伝うよ」

 

「でも、みんなにも迷惑をかけたくないんだ」

 

「いくらでも迷惑をかけていいよ。B小町のみんなだって、アクアの事を本当の弟みたいに思ってるんだから」

 

「俺にそんな資格はないよ」

 

「そんなことないよ。アクアがB小町のみんなの為に、アクアが出ている番組とかのスタッフさんにお話して出して欲しいってお願いしたり、忙しい中でも演技とか教えたり、どの監督さんがどんなことを好きとかそういうのを教えたりして、みんなが成功できるように、仕事を貰えるように頑張ってるでしょ?」

 

「それは…………あくまでアイやB小町の知名度の為とかそういう打算ありきのものなんだ」

 

「でも、みんなのために頑張ってくれたのは本当でしょ? 私の為だったとしてもアクアはみんなの為にそういうことをずっとずっと4年以上やり続けてくれてたって言ってたよ。みんなアクアのそういう優しいところが好きなんだ。それは打算があったとしても変わらないよ。今のB小町の成功だってアクアの力があってこそだってみんな言ってる。誰にでも手を貸したいってわけじゃないよ。みんな、ずっとずっと私達のために手を貸してくれたアクアだから、アクアが困った時には手を貸したいって思ってる。だから、なんでも言ってよ」

 

 アイはそう言って頭を撫でる。俺はその顔が直視できず、壱護さんに話を回した。アイやB小町のみんなが良いと言っても、やるのは壱護さんだ。一番危険が多い。

 

「壱護さんは…………本当はどう思ってるんだ? 数億の損害になりかねないだろ? それどころか、最悪、会社が潰れかねないことになるかもしれない」

 

「…………まあ、たしかに社長としてはその決断は馬鹿なんだろうな。でも、お前は俺のことをなんだと思っているのかは知らないが、お前は俺にとってくそ生意気な息子みたいなもんなんだよ。ただの戸籍上そうしてるってだけだが、アイとお前とルビーと一緒に家族みたいに過ごす今の生活は嫌いじゃ無いんだよ」

 

 そう言うとため息をついて俺の頭を叩いた。

 

「それに、なに俺が失敗する前提で話してんだ。今回の件、もちろん、親代わりをしていた金田一のやつにも責任を取らせるし、今回の交渉にもあいつは同伴だ。もしなんかされるなら道連れにしてやる。アイがあのくそガキに食われたのを知っていて黙っていた鏑木の野郎には大好きな金やコネを使って今回の件をなんとかさせる。黒川にもまあ、法的にどうこう出来るなら頼るつもりだ。こっちはくそみたいな業界で長くやってるやつらばっかりなんだ。なんとかするし、なんとかさせる。それに馬鹿な息子が女に助けるなんて言っておいて、やっぱりできませんでしたじゃ格好つかないからな」

 

 そして、残ったミヤコさんの方を向くと…………なぜか泣いていた。

 

「なんで、ミヤコさんが泣いてるの…………」

 

「だってぇ…………アクアがそんなに思い詰めてるのって、みんなに迷惑をかけないとか考えちゃうようになったって思うようになったのって私がアクアとルビーを捨てて週刊誌に売ろうとしたからでしょ」

 

「あの時は仕方ないよ。ミヤコさんもいっぱいっぱいだったのは知ってるから。俺も騙して散々こき使って、利用しちゃったし、謝るのはこっちのほうだよ」

 

「ううう、ごめんねアクア~! ルビー! アイ!」

 

 俺に抱きついてくるミヤコさんに向かって壱護さんが「まあ、一番高い週刊誌でも高くても5万で大した額にならないから出戻ってきてただろうけどな」と煽っていた。

 

 本来ならため息が出る光景なのになぜか涙が出てきた。

 

 雨宮吾郎の人生は祖父と祖母の敗戦処理が上手くいったのかいかなかったのかの結果を示すものでしかなかった。だからなにをするにも周りの顔色を窺っていたし、夢を追いかけることもせず、言われたことをただやっていた。そして、星野アクアの人生は雨宮吾郎の失敗の償いの為の人生だった。前世で失敗した事を取り返す。そんな人生だと思っていたし、それでいいと思っていた。

 

 でも、俺の周りの人達はそんなこと望んでなかった。俺が失敗だと思っていた事は俺が守らないといけないと思っていた少女達にとって糧になっていて、いつしか立派に成長し、俺よりもしっかりしていると感じるくらいだった。守っているつもりが、いつの間にか守られていた。ここには雨宮吾郎が失敗した結果、今なお苦しんでいる患者なんていない。普通とは違う形だが、かつて子供の頃の俺が欲しかったはずの家族が目の前に広がっていた。

 

 俺はこの日、初めて家族というものを手に入れた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑯

 

 自分の子供が上手くいく事で自分のコンプレックスを満たそうとする親というのは少なくないし、これ自体が悪いわけではない。だが、それを他者へのマウントや、称賛の言葉を得る道具に使ったり、上手く行かない子供を責め始めたり、強制しだすと問題になる。

 

 そして、この問題の厄介な所は子供が親のコンプレックスの部分を解消して成長したとしても、本人のコンプレックス自体は解消されないこと。そしてどんどん、子供への要望が大きくなっていく事。かなの母親はその典型だった。

 

「んっ、なんだそりゃ」

 

 パソコンの前で俺がどうするか迷っていると壱護さんが話しかけてきた。

 

「かなの母親のSNSアカウント」

 

「いや、こんなのどうやって探してくるんだよ」

 

「こういう承認欲求の強い女性はブランドバッグとかこだわりの家具とか、車とかそういうのは1度はSNSに載せてくるし、リフォームしたら、その日には写真とかを載せないと気が済まない。かなにリフォームした日を聞いて調べた。防音室なんて作る一般家庭は少ないから、すぐに特定できたよ」

 

 あれから半日経って、かなの証言も参考に調査したら案外すぐに見つかった。

 

 かなの母親のアカウントはお金持ちの家に嫁いだ勝ち組ママで、娘はお遊戯に夢中な小学生という設定だ。有名人との写真や、食事会の写真なんかもモザイクを入れているが時々載せていて、こういう人達とも交流があるイケメンなお金持ちの旦那から溺愛されている設定らしい。実態は娘が芸能人で、その娘のお給料を抜いているだけ。かなの仕事での芸能人との食事会の写真に、軽いモザイクかけている旦那扱いの男はホスト。こんなものに意味があるのかはわからないが、こういうのが楽しいのだろう。かなり高頻度で更新されている。…………正確にはされていた。

 

「あー、いるよな。そういう芸能人のアカウント。動画にすると企画扱いになって経費にできるってのもあるが、愛情をいくら金を払ってくれるのかで量る、それでどれだけ愛されているのかでマウントを取ってくる為にやるやつ。っで、そんなの調べてどうするんだ?」

 

「かなの母親の行動原理が知りたいんだよ。今、出来る最善手は自己破産してしまって、生活保護を受ける。あとは、生活保護費以外の金は前みたいにかなの給与から抜いて役所にバレないように使うとかなんだろうけど、その選択肢がとれないのは、したくない理由があるから。その本当の理由が知りたい」

 

 まあ、面談や審査もあるし、見つかれば次こそおわりだが、別に生活苦なんかにはならないだろう。でもそれでは満足が出来ないんだろう。その理由はこれを見ればだいたい分かる。

 

 他者からの評価に依存し、それを常に評価して貰わなければ自分に価値を見いだせない、感じる事が出来ない人間のやる行動だ。他者からの評価に依存している人は、認められる事により成功体験を積んでいき…………そこから降りられなくなる。評価を下げられる事を恐れて理想の自分になろうとする。

 

 これが自分の努力によるものなら自信が付いて、うまく妥協点を見いだせることもあるが、嘘の場合、承認欲求が一時的に満たされても、それが虚像だと知っているので、自信は付かず、満たされず、ただただ承認欲求だけが膨れあがっていく。どんどん、承認欲求を満たすために行動し、いつか破綻していく。無限に嘘をつき続けるのも、評価され続けるのも無理だからだ。

 

 そして、かなの母親はコンプレックス自体はかながトップ子役になった事で満たされたのだろう。だが、いつしかそれで満足出来なくなった。もう消されているが、一時、有馬かなの母親を名乗るアカウントがあったらしい。

 

 恐らく、ここで有馬かなを育てた母親としてコンプレックスを満たそうとして失敗した。正直、かなの才能は育て方どうこうではないし、正直に言ってしまえば、わがまま放題させていた為、親としての能力をかなり疑問視されている。演技力なら同世代でトップの代わりに、性格が悪いというのがかなの評価だった。そして、その悪い部分は母親の教育によるものとみられるので、有馬かなの母親という地位はあまり居心地のいいものでは無かったのだろう。

 

 だから架空の家庭を作って、理想の自分を当てはめて、キラキラした虚構の城を作り上げた。そこで何十人、何百人の人に注目されて、嵌まってしまったのだろう。こういう風になる人は少なくない。

 

 夢から覚めたら、夫に捨てられ、ローン破綻寸前の元専業主婦という事実だけが残る。それが嫌なんだろう。かなの母親はお金が欲しいのではなく、承認欲求を満たしたいだけ。簡単に言えばそれだけの人だ。

 

 こんな手は使いたくは無かったが、夢の城が消えた時、どうなるか分からない。周りにも迷惑をかけるが、ある程度、強引な手でやらないといけないかもしれない。

 

「…………それで、カミキの件とかなの件はどうなったの? それを教えてくれに来たんでしょ」

 

 あれからすぐ壱護さんはカミキの親と面会して、俺の死体の事やその証拠があること、そして、カミキと付き合ったり、関係がある女性が何人も亡くなっている事などを伝えにいってくれた。金田一さんの所の女優も殺されているらしく、かなり揉めていた。その後、今回のかなの件についての管理体制について、かなの事務所へ話し合いへ行ってくれた。即行動に移してくれて感謝しかない。

 

「カミキの件はこっちの探偵に調べさせた結果と例の時計の写真を渡してある。信じるためにもこっちで調査をしたいから時間が欲しいと言っていた。カミキには探偵をつけてある。現地に飛んでカミキと組んで証拠隠滅を図ろうとするならわかるようになってる。…………そうなったらもう駄目だな。こっちで公開して事件にするしかない」

 

 その場合はもうどうしようもならない。と壱護さんは言った。場所が場所だ。聞いただけではたどり着かないような場所にある。カミキは土地勘もないはず。6年近く前の山の中の死体の場所なんて説明できないだろう。

 

「有馬かなの件は…………駄目だな。労働時間についてはまあ、こっちも人の事言えた義理じゃない。学校にまともに行かせてないのを親が認めてしまっているからやりたい放題だ。その為の飴が、中抜きしてる事を黙っていることなんだろうな。認知してないとかすっとぼけてた」

 

 知らないはずがないが、そうやって来たのだろうし、唯一残った希望を学校に行かせると労働可能時間が大きく減るから、親の協力の下に仕事を入れているんだろう。限界までいれた上で、練習時間は別枠で自主的にやらせている。こっちは時間制限なしだ。テレビの仕事は減っても地方興行は知名度でいける。車で移動させて、そこで練習や休憩時間にすれば良いという考えらしい。小学一年生にやらせることじゃない。18歳未満のルールを芸能枠だからと6歳に当てはめて悪用している事が知られれば、業界全体のルール改変に繋がりかねないし、ネットで知られれば炎上するだろう。法改正すらあるかもしれない。

 

 そして、そんな事よりも、こんな生活を続けていたら、体もそうだが、精神がもたない。これを許可する親もおかしいだろう。夢の城の為に、現実の娘を省みない母親にいらだちが隠せそうにない。一刻も早く、救ってあげたい。

 

「カミキの件が上手く解決したならうちたい手があるんだけど…………いいかな?」

 

「なんだよ。上手くいかないとできないのか」

 

「うん、ちょっとお金がね」

 

「金で解決か…………アイの時も身元引受人を金で用意したな」

 

「いくら?」

 

「200万円」

 

「なら、今回はその50倍になるね」

 

 そう笑顔で言うと壱護さんが顔を引きつらせていた。まあ、俺の今までの稼ぎが吹き飛ぶ額だが、まあ、良いだろう。いいさ。その夢の城がかなよりも大事だっていうのなら、夢のつづきは見せてやる。だけど、数年後に夢から覚めた後は知らない。勝手にすれば良い。

 

 正直、馬鹿正直に渡してもすぐに使い切って、最悪、こっちを脅してくるような手を打ちかねない。だからうまくやって、相手をなるべく金を使わずに飼い殺しにするように手を打たないといけなかった。

 

 壱護さんとその為の準備をしていると、点けていたテレビから信じられないようなニュースが流れてきた。

 

 カミキヒカルの死を知らせるニュースだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑰

 

 カミキヒカルが死んだ。

 

 カミキの親に、俺、雨宮吾郎の殺害容疑がある事を伝えて殆ど時間が経っていないのにも関わらず、そしてニュースになってしまっているのがおかしい。連続殺人をもみ消すのが難しいと判断すれば、向こうでそういう処理をする事もあるだろうとは思っていたが、それが直ぐ判明して、ニュースになるというのは想定していなかった。なにかがあった。そう思って、壱護さんは金田一さんに連絡をして確認したが、繋がらず、真相が分かったのは、それから10日が過ぎた頃だった。

 

 死因は自殺だ。

 

 自首を勧める父親を殺して、自分も死んだ。説得に同行した金田一さんはそれを見ていることしか出来なかった。簡単に言えばそういう事らしい。金田一さんは、当初は二人の殺害容疑も出たらしく、ようやく解放されたらしい。壱護さん曰く、かなり疲れた顔をしていたとの事だ。

 

 カミキヒカルはララライでは、昔は天才と呼ばれていたらしい。顔も良ければ、頭も良い、演技のセンスもある。10歳の頃から入団し、中学生になる頃には一流どころの技術を身につけていたとか。だが、一つだけ欠点を持っていた。感情演技が出来ない。演技に感情を乗せることができない為、心に訴えかけるものがない。だからなのか大成することがなく時が過ぎ、希望の学部に内部進学するのに、上位の成績を維持しないといけないからと言って、ララライを辞めた。

 

 もったいない。これがカミキヒカルに対する周りの評価だった。それ以外の全てを持ち合わせているのに、感情を外に出せないことから、その才能が生きなかった。

 

 アイがカミキと自分が似ていると言っていたのを思い出す。俺たちが生まれる前のアイはまさに同じような問題を抱えていて、それに悩んでいた時期があったと言っていた。アイと同じように、それっぽく振る舞う事は出来ても、感情を表に出すことが出来なかったのだろう。あかねも、カミキの演技については、なにか物足りないと言っていたが、これが原因なのかもしれない。

 

 あの神の遣いを名乗る少女があらゆる才能を持っていたが、それを生かさなかった。というような事を言っていたが、生かさなかったというよりも生かせなかったのだろう。分からない、理解出来ないものを理解出来るように努力する事は苦痛が伴う。それから逃げてしまうのはよくある事だ。

 

 初めは才能を生かして表舞台に立つ女性を抱く事で、恵まれた才能を生かせなかった自分のコンプレックスを埋めていたのかもしれない。だが、自分よりも才能がない女性が、自分が理解できない理由で自分が成功出来なかった道を進んでいるのが気に食わずに殺していた…………そんな風に考えてしまうが今となっては分からない。コンプレックスは人によって違うし、その人にしか分からないようなこだわりがある事が多いので、直接聞かないと判断が出来ない。

 

 金田一さんはカミキの留守の時に、管理人に鍵を借りて、部屋を調査した所、わざわざ殺人の感想なんかを日記のようなものにつけていたそうだ。それを見て、複数の殺人をしているという確証を得て、自首を勧めてこんなことになったらしいので、後で聞けるかも知れないが…………知ったところでどうしようもない問題だ。

 

 金田一さんは俺たちのことは黙っていてくれて、カミキの身の回りの女性の失踪と自殺が重なっていて、調べていたという事にしてくれたらしい。結果的にだが、これで大体の問題はクリアされた。

 

 警察は押収した日記を見て、その調査に乗り出すだろう。問題は、貝原亮介。俺を殺して、アイを殺そうとした男だけ。裁判は原則は傍聴自由。そこで、アイを殺そうとしていた事を自白して、それが記事になったりする可能性がある。

 

 未成年時の犯罪が成人後に見つかり、裁かれる時は死刑を除いて刑法上の罪は成人と変わらないが、少年法で実名報道規制がかかるので、その犯人に殺されそうになった当時、未成年かつ被害者だったアイの名前だけを出してニュースにするなんて場合は相当に悪意があるケースになる。

 

 6年近く前の殺人事件だ。本来、報道をしないものをアイが関わっていたというだけで出すという事なのだから、アイのスキャンダル目当ての報道だろう。

 

 カミキの父親の腹違いの息子が居て、広告代理店の社長をしている。その人が色々と動くとは言ってくれた。さすがにサイコパスの腹違いの弟がやらかし、それに金をあげて犯罪を助長していた父親の事をべらべらとしゃべって欲しくないらしく、倫理的にもアウトな案件を潰すくらいならしてくれるらしい。

 

 これ以上出来る事はない。これで駄目なら仕方ないと割り切るしかない。

 

 こっちとしては、殺人犯二人がこっちに来ないと確定してくれるなら良い。最悪なのは、スキャンダルよりも、アイが殺されてしまう事。だから、最悪の結果は回避された。カミキが死ねば、もう一人はただの一般人だ。こっちは逮捕されるまでそういうやつが近づけるイベント自体を避ければそれでいい。カミキがなにを考えて、なにをしたかったのかなんてどうでもいい。死人を裁判にかける事なんて出来ないのだから。

 

 あとは目の前の問題を解決するだけだ。

 

「…………これは法律上は問題ないですかね?」

 

 目の前には俺と壱護さんで考えた、かなの親を説得するのに使うカードが使えるのかどうかを法律相談という形であかねのお父さんに見て貰っている。

 

「う~ん、まあぎりぎり…………グレーかな。やり方次第だと思う。でもこんな事しなくても児童相談所に相談を何度もして、財産管理権を取り上げてもらう方が正攻法だと思うけど」

 

 かなの母親の金使いの荒さは酷い。重すぎる住宅ローンを抱えているのにまだ生活を改められていないし、契約更新の事もあり正攻法はあまりにも遅すぎる。

 

「それ、どれくらいかかるかってわかります?」

 

 意地悪だが、聞くとため息が聞こえた。

 

「斉藤さんも本当にこれで良いんですか? お金を溝に捨てるようなものですよ。これは法的に問題ないようにすると、相手が不誠実な対応をするだけで一方的に負債を押しつけられますよ」

 

「とはいえ、契約更新をされるともっとやっかいな事になるんだよな。芸能界なんてスポーツの移籍なんかとは比べものにならないくらい移籍は嫌われるからな」

 

「移籍金ないですもんね」

 

 二人が同意したが、まあ、事務所移動は嫌われる。

 

 移籍金なしのフリー移籍なんてスポーツの世界でも歓迎されず、裏切り者扱いをされる事も少なくない。芸能界の事務所としても許したくないに決まっているわけで、はい、わかりました。なんてしてくれるのは、どうでもいい子だけだ。

 

 子役はそもそも儲からないので殆どの子はゆるい。圧力なんてないが、一部の稼げる子は違う。だが、法律上、むりやり働かせるなんて出来ないし、未成年は親が契約をひっくり返すことも可能だ。だから、今後の活動に支障をきたすような嫌がらせをたくさんできるようにして、移籍をさせないようにしている。

 

「日本はアメリカみたいにエージェント法すらないからな。エージェントとマネジメントどころか制作も兼任で出来るんだよ。他の事務所なんて社長に嫌われたやつは嫌がらせなんてやりたい放題だ。そんなことになった方がやっかいだからな」

 

 大体の仕事の相場価格は業界に居れば分かる。かなのここ最近の仕事を見ると違和感しかない。黒川さんに渡した紙には、そういった情報を渡してあるが、一目見ると、嫌なものを見たような顔になった。

 

「あくまで憶測でしかないですけど、かなちゃんの事務所は相当酷いですね。あれだけ仕事をしているのに、相場を考えるとかなちゃん側にあまりお金が入っていかないのはどう考えても、会社の利益の為にタレントの給与を抑えて、裏で抜いてるとしか思えない。事務所がどれくらい抜いているのかは分からないですけど、明らかに報酬の比率がおかしいですね。利益相反の関係の立場を兼任出来るのを利用して、利益誘導をしているとしか思えない。弁護士が双方代理するようなものだからこうなるのは必然なのかもしませんけど」

 

 黒川さんがため息をつく。

 

 日本の芸能事務所はアメリカでは認められないくらい大きな権力を持っている。利益相反の関係にある職業を兼任出来てしまうと、所属先に利益誘導するのは当たり前になる。タレントの最大利益を図るのが仕事の人が事務所に所属する人の場合、事務所の利益の為にタレントを安売りし始める。

 

 人気タレントが月収15万とかそういった事をされるのは、固定給なら何千万の仕事をしようがコストが15万で済むからとか、そんなとんでもない理由でそんな事をする。一応、法律違反ではない。そういう契約をしただろう。と言って使い倒す。

 

 移籍なんて法律すら守らない。基本、有期契約は労働基準法で1年以上経過すれば、いつでも契約を解除できるのだが、そんな事許さないとばかりに、莫大な契約解除金を要求して、寄越さなければ業界から干すと言ってくる所もある。そんな滅茶苦茶な世界だ。

 

「契約を結んじまえば、そこは事務所の力でごり押せる。あっちなんてあと数年もすれば潰れるし、今、有名なタレントも抱えていないから、有馬かなと共演NGなんてしたってなんのダメージにもならない」

 

 個人が法律で闘ってどうしようもない世界だから、向こうの嫌がらせから事務所の力で守った方が手っ取り早い。

 

「…………移籍させてしまえば、業界ルール内での対応でなんとか出来るから、かなちゃんのお母さんを説得して、移籍させたいという事ですね。ただ、あの人、かなりやっかいですよ。下手にお金を渡した所で使い切ってしまって、かなちゃんを交渉材料にしてゆすってきたりする可能性もあります」

 

 黒川さんの懸念はもっともだが、目的はあくまでもかなの環境を変えることだ。別に数千万損しようがどうでもいい。

 

「それならそれでいいです。一先ず、あの事務所から、かなを引き離したい。あの環境のままでいると状況が悪化していくだけです」

 

「…………それはそうなんだけどね。アクアくんからしてみれば、簡単に稼げた額なんだろうけど、本来は人が道を踏み外すようなお金だ。それを簡単に渡すと、そういう事をすればお金をくれると勘違いをしてしまう人も居る。かなちゃんのお母さんはそういう人だ」

 

「そうなる前に、児童相談所や区役所の相談員さんなどと話を進めてフォローして貰うつもりです」

 

「正式な手続きの時間稼ぎだけのためにアクアくんの今までの努力の結果が消える事になると思うけど」

 

「はい、それでかなの助けになるなら構いません」

 

「…………」

 

 視線が厳しい。まあ、子供の言うことだからな。お気に入りのおもちゃ感覚で大金を渡そうとしているように見えるのかも知れない。だが、まあ、これは本心だ。お金なんて使うものだ。こういう時の為に使わないでいつ使うんだって話だ。

 

「ふぅ、仕方ない。こっちでも動いてみるよ。こういう芸能界うんぬんの話も不動産系の事も僕は専門ではないし、もっと良い方法を知っているかもしれない。かなちゃんの友達の父親として、あちらに接触して、いまの話に興味を持つように誘導してみるよ」

 

「良いんですか?」

 

 正直、これらの事はかなり面倒くさい事になりやすい。相談してなんだが、かなの母親につきまとわれるリスクだってある。法律相談は本来、1時間1万円くらいはかかるが、あれが払いそうにないので、ただただ、時間を取られるだけ。休みの日とかにそんなものに付き合わされたくはないだろう。

 

「娘からも頼まれているからね。かなちゃんを助けてって。娘の頼み事に父親は弱いんだ。あと、いちおう、かなちゃんのお母さんとうちの嫁はママ友らしいからね。やるだけの事はやるよ」

 

 黒川さんはそう言って、苦笑した。

 

「ありがとうございます。でも、…………」

 

 本来は言わない方が良いのかも知れない。だが、ここまでして貰う以上、話さないのは相手を騙しているのと一緒だ。話そう。

 

「言っていなかったことがあります。俺はララライに所属していた俺の父親の情報を探ろうとして、娘さんに近づいて、最終的にはカミキヒカルを探らせていました。金田一さんが味方だったから良かったものの、もし、カミキヒカルの事を調べている過程で目をつけられる事があれば、もしもの事もあった可能性もありました。申し訳ありません」

 

「…………その事は娘に聞いているよ。近づいた事は確からしいけど、カミキヒカルについては娘が自分で勝手にしたことだと言っていた」

 

「それを自分の利益の為に止めませんでした。あかねの善意につけ込んだのと一緒です」

 

 あかねの身を危険にさらしたのは事実だ。黒川さんからしたらたまったものではないだろう。

 

「正直、その話を聞いた時は怒りたかったよ。でも娘が自主的にやった事だからと言っていたから、胸のうちに止めていた。相手のして欲しい事を率先してやってしまっただけで、キミは娘に頼んですらいない。それを責めるわけにはいかないからね。それで一つ聞きたいんだけど、キミはララライの事を調べる為に近づいたらしいけど、なんであかねに探らせなかったんだい。キミはまだララライに入れない。ララライに居る娘に頼んだ方が情報が手に入りやすかっただろうに」

 

「えっ、だって危ないじゃないですか」

 

 さすがに、そんな事までさせようとは思っていなかった。あくまで自分が入るまでの事前情報が欲しかっただけだ。アイに執着しているストーカーならともかく、複数の殺人をしているサイコパスをまだ幼い少女に調べさせるなんて出来るはずがない。危険な事をさせてしまったのは事実だが、使い捨てになる駒としてあかねに近づいたと思われていたのか。と少しショックだ

 

 そういうと、黒川さんが苦笑しながら俺の肩を叩くと事務所を去って行った。

 

 数日後、黒川さんはかなの母親に契約を更新せず、こちらの事務所への移籍をすることを了承させてくれた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑱ かな好感度100イベ

 

 かなの母親は、SNS依存症だ。

 

 そこに至るまでの過程を推測しても依存症に陥る典型的な流れをしているように思う。初めはよくあるレベルからどんどん普通の人が立ち止まる先に進んでしまった。いや、進めてしまった人だ。

 

 現実での孤独感や満たせない承認欲求を埋めるために自分の人生二周目として娘を芸能界に送り込んだ。自分の果たせなかった夢を子供に託す。今では駄目だが、少し前の時代なら普通に美談になるよくある光景だった。かなの母親も初めはその姿に自分を投影し、満足していたのだろう。だが、かなは才能がありすぎた。自分の二周目とするにはあまりにも出来すぎた。だから自分の二周目と認識出来なくなった。かなが女優賞を取ってからそれが余計に顕著になっている。

 

 だから、仮想の自分を作ってそれで承認欲求を満たしていた。そして、承認欲求はどんどん膨らんでいき、今の姿があるのだろう。酒、女、ギャンブルの嵌まり方に近い。こうなってしまうと正論を言っていても無駄になるし、無理矢理止めさせても、また同じ事を繰り返す。治療に向き合ったとしても長い時間がかかるものに、こちらも付き合ってあげられるほど時間がない。

 

 借金があり、それを返済出来ないので、自己破産をしないといけないし、働く能力もないので生活保護に頼らないと生きていけない。そして小学校低学年までならともかく、それ以降は役所から働いて生活保護から脱する努力を求められる。そんな未来にも向き合うなんて出来るかと言われると難しい。

 

 なので、向き合う事もせずに済む答えを渡してしまおうと考えた。かなの母親はそれに飛びつくとは思っていた。

 

 俺が壱護さんに許可を取ったのは住宅ローンの実質的な肩代わり。かなの今、住んでいる家をこちらで借りて、ローンより上の金額で借り続けるという提案だった。その上で、今の俺たちの住んでいるマンションの別の部屋を借りて、福利厚生として住まわせる。生活費として従来のローン額とレンタル費用の差額分を生活費として渡すやり方だ。

 

 黒川さんが難色を示したのは、かなの契約と紐付けできないため、すぐに逃げられてしまう可能性があること。そして、不動産の運用になるので、色々と間を通さないといけないし、税金もかかるので無駄にお金が吹き飛ぶなど金銭的な面だけでもデメリットがてんこ盛りだし、経費計上したりしても、10年で億近い額が飛ぶし、これをリークされて、問題になる可能性だってある。

 

 だが、彼女には、働いていなくてもいいだけの理由になる社会的立場と収入を与えないとかなに集る事を止めないし、ただ、お金を渡した所でまともに使えないので、月に家賃として渡さないといけない。家事もまともにやってないので、かなの逃げ場所を近くに作らないと、ネグレクトで健康状態まで悪化させていくのが目に見えている。なにも期待できない以上、なにもかも支えられる体制を作らないと安心できない。

 

 なので、そういった条件で壱護さんにも話して条件を了承してもらい、あかねの母親経由で、あかねがどんな扱いを受けていて、かながどんな不当な扱いを受けているのか、苺プロに来るとどんなメリットがあるのかを、あかねの例を踏まえて話してもらって、黒川さん経由で、こちらへの移籍打診をして貰った。あくまでも、善意でこちらを紹介してもらう。

 

 大切なのは、彼女に自分は被害者であると言い訳出来るようにする事。そんな可哀想な自分に救いの手をさしのべられたと勘違いさせる事。言い訳をしてずっと逃げていた人だ。自分が悪者にならない逃げ道さえ作ってしまえば、簡単に逃げると思っていた。

 

 動いてもらって一週間も経たないうちに移籍が決まって、もっと面倒な事になる事を想定していた壱護さんが、こっちを変な目で見ていたが、まあ、そういう人は良く見てきた。そういう人なんだと思えば、そういう対処をすればいい。ああいう人はお金が欲しいんじゃない。居心地のいい空間が欲しいだけ。本当にそれしかない。

 

 不動産価格とあまりに大きな差異があると、贈与に当たってしまい、税務署に脱税を疑われる可能性すらあった。現実的な金額に収まったと思うと肩の荷が下りた。

 

 スマホを見る。

 

 SNS上では、有馬の母親は、自分を愛してくれた夫を不幸な事故で失い、家族との思い出がある家をみると辛いから手放すことに決めた。そのあとは、夫が残した財産で娘と二人で質素に暮らしていくと言って、俺たちが用意したマンション…………というか俺たちが今でも住んでいるマンションの部屋の写真をあげていた。

 

 あきらかに質素ではない。というより、高級マンションの部類なので、あきらかにおかしいのだが、落ちぶれたわけではないアピールがしたいのだろう。

 

 その写真には、たくさんの応援メッセージがあり、そこに丁寧にお礼を返している。

 

 お金持ちの家に嫁いだ嫁から、不幸にも夫に旅立たれた丁寧な暮らしをするシングルマザーにジョブチェンジを図ったらしい。あかねの家を見て、丁寧な暮らしをする専業主婦に憧れたらしく、それで良いと、そっちの方が良いと思えるようになったらしい。前よりはお金は使わずにすむだろう。むしろ、ブランドものを買い漁ると、突っ込みが入ることになる。

 

 こんなことになんの意味があるのだろう。

 

 いや、依存症とはそういうものなのは分かってる。特にこういったドパミン系の刺激は中毒になりやすい。

 

 こういった依存症も年齢で落ち着きがでてくる。25歳が一つの区切り。そこからは脳がある程度完成して、そういった脳内物質の出も悪くなる。快楽そのものをどんどん増やさなければ、勝手に少しずつ減らしていっているのと同じような状態になる。30歳半ばを超え始めるとある程度落ち着いていく人が殆どだ。かなの母親が落ち着くのを待つしかないだろう。

 

 事務所にかなが入って来て、みんなで出迎える。

 

 ルビーが「これからは一緒の事務所だね」と笑顔で言い、あかねも「かなちゃんとこれから一緒に練習とかもできるね」と、かなを囲むように近づいていて、言葉をかけている。アイをはじめとしたB小町のメンバーも挨拶をして、かなもそれに礼儀正しく答えている。

 

 正直、少しやらかさないか心配していたが、問題なかった。

 

 そして、俺の前に来たかなに違和感を感じた。

 

「ありがとうアクア。私の為に色々動いてくれたって聞いたわ」

 

「俺は社長にかなの現状を伝えて、お願いをしただけだよ。今までのかなの実績と実力からしてみれば、スカウト出来るのならしたいって言っていたし、大した事じゃない」

 

 かなには、お金の話はぼかしてある。かなを傷つけたくなかったし、変な感情を向けて欲しくなかった。それにその方が、事務所がリスクを冒してでも取りたいとおもえるくらい価値があると思えるように、今回の件はかなの才能や実績を高く買ったからスカウトしたという説明をしている。

 

 初めは、事務所でそういったものを出してくれるといってくれたが、それだとその他のメンバーと比べて不公平な扱いになってしまい、後々に面倒が増えることが目に見えていたので断った。

 

 とはいえ、子供の貯金をそんな風に使えないので、報酬比率を下げてもらった。あくまでこの問題は俺がかなに入れ込んでやっている事と、業界の人間に言い訳する為にも必要だった。

 

「そう、期待してもらっているみたいだし、もっともっと頑張るわ」

 

 かながそんな事を言い出したので、止めなければならない。事務所の移動はかなに無理をさせない。今以上に頑張らせない為のものだ。

 

「いや、今は法律の許す以上にやっているだろう? きちんと学校に行って、法律で可能な労働時間から学校の時間を計算した上できちんとしよう。俺も最近は働きすぎだったけど、改めるつもりだ」

 

 正直、練習時間まで入れ始めると仕事が回らないし、そんな事を計算してやっている人なんて居ないので仕方ないが、実労働時間くらいは合わせないといけない。

 

「それじゃ駄目でしょ…………せっかく、期待して貰えたのに、その期待を裏切れない。今の私にはいっぱい働くことでしか期待に応えることが出来ないから」

 

 うつむくようにしてそう呟くかなの手を握る。今度は見逃したりはしない。

 

「これからについて少し話そう」

 

 かなにそう告げると、みんなに話したい事があるからと、時間を作って貰って、かなを空いている部屋へ誘導した。

 

「なにがあったんだ?」

 

「…………なにが?」

 

「そんな風に暗い表情をすればすぐわかる。なにか辛いことがあったんだろ?」

 

「ないわよ。そんな事。いつも通りの事が起きてただけ。ただ私はそれを知らなくて、最近知っただけでなにも特別な事なんて起きてない」

 

「そうか…………母親の事か」

 

 ああ、恐らくだが、母親についてある程度はバレたんだろう。と思った。娘の初日に同行すらしないんだ。なにかあると感づいてもおかしくない。どこまでバレたのかは不明だが、ここまでショックを受けているという事は、ある程度の事は知っていそうだ。

 

「…………アクアはなんでも知ってるのね。そう。お母さんの事。お母さんが何をしていたか最近分かったんだ」

 

 かながぽつりぽつりと語り出した。

 

「お母さん…………携帯を事務所から支給されたやつに変えたみたいなの」

 

 俺が壱護さんに頼んだものだ。固定費になるものは会社支援という事で渡すようにしていた。かなに連絡が行きやすいようにという名目だが、業務用を勝手に個人携帯として使う事を誘導すれば、もしもの時は中身を抜ける事を見越していた。

 

「その時に、多分、操作を間違えたんだと思うけどさ。連絡帳と同期しちゃって、私のSNSの友達かもしれないって出てきて、私の新しい部屋の写真とかそういうのが出てきたから遡って見たのよ」

 

 最悪だった。最も見てはいけないものを最も見てはいけない人が見てしまっていた。

 

「お母さん…………私のお誕生日の日にSNSではたまの贅沢だって写真をあげてたんだ。お父さんとは違う人と写真に写っていて、旦那だって言ってて、私はその日仕事をしていたのに、遊んでばっかりとか書いてた」

 

「少し前だってさ、私がピーマンを苦手で食べられないから困るって書いててさ。苦手な子の為の料理とかを募集してた。私はお医者さんにピーマンは食べちゃ駄目だって言われたのに…………それなのに、お母さんは私の為に用意したんだって言うの。顔も知らない人たちに良い格好をしたくて、そんな事ばっかりするの…………完食させて、その写真をあげてる」

 

「お母さんのSNSの中の私はお遊戯に夢中な娘なんだって。可愛くて仕方ないとかそんな事を書いてあった。私は沢山頑張ってお母さんの為に頑張ってきたのに、そんな事よりも、遊んでばっかりの娘の方が良かったみたいに書かれてた」

 

 優秀な娘に耐えきれなくなって…………自分の投影先として使えなくなった娘から逃げて無かった事にしている母親なんて俺も見ているだけで嫌になった。当事者ならもう駄目だろう。誰も信じられなくなる。

 

「お母さんの中には私なんて居なかった! あそこに居るのは私じゃない! もう、お母さんは私の事をなんにもしらないし、興味もないんだ!」

 

「かな…………」

 

「私が数字にならないと分かると、あんなにちやほやしてくれた人達も居なくなっちゃった。私は演技が出来ないと、数字を残せないと、お金を稼げないとみんなどこかに行っちゃって、私の事なんて見てくれなくなる…………事務所を移動するのがどんなに大変かなんて、この業界にずっと居ると分かる。それなのに迎え入れてくれた事務所の人の期待を裏切るのが恐い。あの時みたいにお母さんにサボってるとか言われたくない。一生懸命やっているのに、頑張ってるのに、結果が出ないとなにもしていないって言われるのが恐い。結果を出せない私はせめて数をこなさないといけないのよ!」

 

 かなは、息を荒げて、涙を流しながら訴えかけてくる。

 

 努力が人気に繋がる訳では無い。そんな世界で結果を親にも周りにも求められ続け、結果が出せないと簡単に見捨てる環境…………かなはその理不尽さに苦しんでいる。

 

「俺は、かながどんなに頑張っているか知っている。今は結果が出ないとしても、それまでかながずっと努力してきた過程をずっとずっと見てきた。そんな事を言う奴がいるなら俺が否定する。かなとずっと一緒に居た俺が言うんだ。なにもしていないなんて…………頑張っていないなんて言わせない」

 

 勉強なんかは一定のレベルまでは努力をしていけば実力をつければつけるだけ結果が出るものだ。だが、芸能の世界は違う。実力なんてなくても結果が出ることは多々あるし、逆に実力があっても埋もれる事が珍しくないどころか、そっちの方が多い。あとは長くやっていると飽きられてしまったりもする。そんな残酷な世界だ。

 

「でも! でも! ほとんどの人はそう思わないじゃない。頑張らないと! 結果を出さないと! 所詮は子供とか、手を抜いてるとか思われちゃう!」

 

「だとしても、それに付き合う必要はないよ。かなは十分努力してるし、頑張ってる。結果が出ないのだって、今だけだ。俺はキミの演技のすごさを知ってる。大丈夫、これからは俺がかなを隣で支えるし、監督やルビーやあかねちゃん、協力してくれる人も居る。だから、一人で思い詰めないで欲しい」

 

 手を差しのばすが、かなの顔は上げられない。

 

「…………信じられない。だって、お母さんもお父さんも、事務所の大人の人も同じ役者仲間だった子もみんなみんな離れていって、悪口ばっかり言ってくるようになった。ここの事務所の人もアクアもルビーもあかねも、みんな、私を嫌いになる」

 

「そんな事ないよ」

 

「そんな事あるわよ…………だって、家族だってそうだったのよ。ただの友達でしかないアクア達がそうならないってどうやったら思えるようになるのよ。演技の出来ない私なんてただの性格の悪い子供でしかない。生意気な子供だって言われて嫌われる。演技が出来たり、お金を稼げたりしない私なんて誰も好きにならない」

 

 ああ、目の前の子はかつての俺だ。医学部に進んで地元に帰って医者になる親孝行な息子でなければ居場所が無いと思っていた。ここで逃げたら人でなしだと蔑まれるのではないかと思って、内心恐かった。だから夢を捨てて、地元で働いていた。

 

 本来、人が無条件での愛情を初めて向けて貰えるのは母親だ。母親の代わりに成功する為に産まれて育ってきたかなにはその経験がない。だからそこに利益を結びつけてしまう。その経験がない以上、仕方の無い事だし、俺もさりなちゃんと出会っていなかったら、どこか他人事のように思っていたと思う。

 

 前世の俺は顔も悪くなかったとは思うし、医者という事でステータスもあった。だから、女性にモテた。だけど、内面的な所を好きになってくれた女の子はさりなちゃんだけだったし、内面的なところを好きになれたのもさりなちゃんが初めてだった。人の内面を好ましく思い合える関係は本当に難しいし、愛されるという自信は、愛される事でしか築けない。

 

 その初めての気持ちを抱いた女の子を失った時、俺は死にたくなった。

 

 ただ失ったわけじゃない。裏切られたかなはその時の俺以上に苦しいはずだ。

 

 これは…………医者としてふさわしくない行動だ。でも、それでかなを一時的にでも支えられるならする価値はあると信じたい。

 

「かな、聞いてくれ」

 

「なによ…………」

 

「本当はさ。かなの事務所移籍は俺が頼んだ事だけど、かなの役者としての実績とか、集客力とか、金銭面での期待からスカウトしたわけじゃないんだ」

 

 最初はかなは役者として評価されたいという気持ちが強いと思って隠してきた。だけど、母親がかなの愛情を、献身を、思いを踏みにじってしまった今、有馬かな個人に対しての思いを伝える方が、彼女が求めているものを上げられるのではないかと思う。

 

「じゃあ、なんで苺プロは私をスカウトしたのよ」

 

「俺がかなを救いたいと言ったからだ。俺がかなを救いたいことを知って、苺プロのみんなが良いと言ってくれて、かなが安心して働ける環境をあげるように手配してもらった。ただ、それだけ。今回、スカウトをしたのはお金でも実績でもなんでもないんだよ。ただ、かなが泣いていて、苦しそうだったから、そこから逃がしてあげたかった。それだけなんだ」

 

 カミキの件は言えないので、そこは暈した。

 

「えっ?」

 

「俺はかなのお母さんがどんな人なのか、結構前から分かってた。だから、一緒に居ると辛いなら、逃げられる場所になって上げたいと思って、このマンションを用意したんだ。苺プロは本当はさ。家賃支援とかそういうのも無いんだ。けど、かなの近くで支えたいと思って、社長にお願いして、その件も呑んで貰った。お金は俺の取り分からひいてくれって頼んでさ」

 

 かなの手を握る。小さくて冷たい手だ。どれだけ傷ついて、どれだけ不安を抱いていたのかは分からない。かつての俺なんかの何倍も苦しい日々を送っていたんだろう。

 

「本当の家族だなんて思わなくていい。だけど、俺はかなを家族のように支えたいと思ってる。その為なら、お金なんていくらでもだすよ。事務所移籍で色々と言われるだろうけど、それを黙らせるくらい、かなが不利益を被らないように仕事だってするつもりだ。だからさ、利益があるから、かなの事を助けようとしているわけじゃないって事だけは覚えておいて欲しい」

 

「なんで…………なんで私なんかの為にそんな事するのよ。アクアが大切にしてるのは、妹のルビー。そして好きな人はアイでしょ?」

 

 かなが妙な勘違いをしていた。いや、この二人の為なら死んでも良いくらいに思っていたから、表向きは家族ではないアイに対して恋愛感情を向けていると思っても不思議じゃないかもしれないが、まだ小学生でもないのに恋愛感情はさすがに飛躍しすぎだろう。

 

「いや、どうせ直ぐ知る事になるから言うけど、アイは俺の母親だから、恋愛感情はないぞ」

 

「はぁ?! いや、ルビーに似ているとか思ったけど、母親??」

 

「ああ、だから、その二人にしていたのは家族愛だよ。普通だろ」

 

「アクアのそれは異常すぎるのよ! えっ? じゃあなに? あんた、シスコンな上にマザコンでもあるの?」

 

「その言い方はやめろ!」

 

「だって、完全に目線が女の人を見る目だったし…………アクアって自分の母親をそういう風に見てるの? ちょっと引く」

 

「そんな風に見てないだろ」

 

「いや、見てたわ。絶対に見てた!」

 

 このナチュラルに煽ってくる感じがいつもかなと話していた感じがして懐かしかった。昔は…………4歳まで、かなと一緒にずっと共演していた時はいつもこんな風に喋っていたのを思いだした。最近はこういう会話をしてなかった。かなもさっきまでと違って少し明るくなっていた。

 

 有馬かなはこういう奴だ。根は悪くないが、口が悪く、考えなしに発言をして周りから誤解される。でも、そんなところも嫌いじゃ無い。

 

「アイやルビーに対して、利益うんぬんで接してないように、かなにもそんな気持ちでこうやって動いたりしているわけじゃない。かなといっしょに過ごして、一緒に話している時間とかが好きで、大切だと思ってる。だからその為に色々してるつもりだ。だからさ。本当の家族なんて思わなくてもいい。でも、俺はアイやルビーに対してやっているように、かなが困っていたり、辛いことがあれば助けてあげたいんだ」

 

 ずっと握っていたせいか温かくなってきたかなの手に少しだけ力を加えた。

 

「私は…………アイやルビーみたいに可愛くないわ」

 

「そんなことはない。有馬かなは可愛い」

 

「私は性格も口も悪いし、絶対に嫌いになる」

 

「一時的にそうなったりする事もあるかもしれないけど、また仲直りして好きになるよ」

 

「これからずっと売れなくて、迷惑をかけるかもしれない…………」

 

「側に居て、笑ってくれていればそれでいいよ。他のことなんかいらない」

 

 かなを見つめて問いかける。

 

「ずっととは言わない。けど、大人になるまで…………18歳になるまでかなのことを家族として守らせてくれないか?」

 

 18歳にもなれば、高卒の社会人1年目と同じ年齢。満18歳以上の雇用契約からは親の意思の介入度が殆ど無くなる。その時までは大人として、彼女を守ろうと思った。

 

「18歳…………それから先は?」

 

「そこから先はまた一緒に考えていけばいい。10年以上先の話を今決めることないさ」

 

 かなはゆっくり目を閉じて考えているのか、沈黙が流れる。少し時間が経って、開いた瞳は前と同じか、それ以上に輝きを放っていた。

 

「わかった。アクアを信じるわ。18歳になるその時まで私を守りなさいよね」

 

 かならしいと言えばかならしい態度に苦笑が漏れる。するとかなの顔が近づいてきて、唇と唇が重なった。

 

「アクア…………愛してる」

 

 その笑顔は太陽のように眩しかった。

 

 




アクア・・・(かなが)18歳になるまで、家族の代わりに支える。18歳で自立出来るようにフォローする。自立したら距離を取って、かなが幸せになるように見守る。

かな・・・(アクアが)18歳になるまで、家族の代わりとして支えてくれる。そして18歳になったら。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑲ あかね好感度100イベ

 

 

 かなの移籍が正式に決まって、壱護さんが動き出してから、俺がずっとしていた事。それは…………

 

「あ~、そんな事になっていたんだ」

 

「ええ、かなの事務所なんですが、休み無く働かされていて、労働基準法はおろか、医者からドクターストップがかかるような状態で…………それでも無理矢理働かせようとしていて、見ていられなかったんです」

 

 かなの移籍の話を正当化する為に現場関係者に話をつける事だった。

 

 芸能界は反社会的団体と距離を置いたのがここ数年の話で、それまで、平気で冠婚葬祭に参加していたりしていたし、そもそも、元々がそういう団体の下部組織だったりする関係上、関係を断てないケースも多々ある。そして、その文化も継承していて、法律なんて関係ないとばかりの所も少なくない。ただ、契約で関係が切れただけなのに、金で仲間を裏切る事のように見る老人たちが沢山居たりする。これは時代の価値観なのでしょうが無い。

 

 なのでせめて若い世代というか、30代、40代の今、働き盛りかつ、そういう価値観でやってない業界関係者、特に監督やPを中心に話を通しておいて、干されないようにする必要があった。

 

「僕はかなと1歳からずっと一緒にやってきています。実の姉弟のように育っていたので、そんな姿を見たくないと、父と母に相談をして、B小町の人達にもお願いをして移籍させて貰ったんです」

 

 対外的には壱護さんとミヤコさんは俺の親だ。溺愛している息子のわがままを聞いてもらった。そういう事にしてある。

 

「なるほどね。かなちゃんの元事務所の人は、お金と出番ほしさに裏切ったから、そんな奴を出さないで欲しいなんて言ってたけど…………」

 

「そんな事実はありません。それにかなの事務所の人は契約を守らずに不当に取っていて、本来、貰える金額の半分も貰えてなかったみたいです。そして、その貰えるはずのお金も親に搾取されていて、かなの手元の貯金は殆ど無くて、多分、税務署の調査も入るかもしれない…………と父と弁護士の人も言っていました」

 

「それは…………酷いね。契約はその期間中は守らないといけない。子役の給与から抜いて贅沢をする親なんて珍しくないけど、今だと、子役の子に絶対に渡すように取引をするし、かなちゃんの給与が残ってないって相当だ」

 

「ええ、親を抱き込んで、そんなことをしていて…………かなもまともに学校も行けていない上に食事もまともなものを用意して貰えず、ボロボロであまりにも可哀想だったんです。多分、収入に合っていない消費をしているので、数年以内には税務署が動いてしまうだろうと。そうなったら、父には自分が金銭負担を持つ。かなを助けてほしいと言って、頼み込んで認めて貰ったんです」

 

 これはあくまでも、お金の問題じゃなくて、仲の良い友達を助ける為に立ち上がっただけなんですよ。と念を押す。待遇が悪かったからではなく、不義理を行ったから逃げたなら老人の納得もさせやすい。

 

 かなの母親の悪行というか迷惑行為は有名だ。そんな親を抱え込んでいるのはメリットよりデメリットが大きい。現場の人間だからこそ、そのヤバさは伝わるし、そういう事もしかねない人物だという信頼にもなる。

 

「…………なるほどね。分かった。かなちゃんの元事務所の人の話はそういう事だって、周りのみんなにも話しておくつもりだ」

 

「ありがとうございます。この借りは必ずお返しします!」

 

「いやいや、そんな事考えなくていいよ。若い子がそんな事になっているのなら力になって上げるのが大人の役目だからね。かなちゃんを使いたいような作品があったら、出演依頼を出すよ」

 

 こんな会話をして、何十回目かも忘れたが、とりあえず、昔ながらの価値観をしていない業界の人には話をつけた。

 

 あんな事を言っているが、まあ、かなの出演依頼の前に1度、苺プロのだれかの出演依頼を出してくるだろう。そして、了承したら追加でかなの出演依頼を出す。条件はそれを見越して、配慮したものになる。

 

 事務所移籍はそれくらい大きな借りを作ってしまう。だが、今のうちに処理をしないと何年干されるか分かったものではないので仕方ない。

 

 かなの事務所も散々好き勝手な事を言っているが、時間の問題だ。B小町のメンバーには仕事仲間にそういう話をして貰っているが、アイドルや女優はもちろん女性スタッフの間で今の話がどんどん拡散されているらしいし、一部では、ぼかしてネットに拡散されているらしい。

 

 B小町も同世代は既に子育てをする世代になる。同世代の間のネットワークでどんどん噂は広まっていくだろう。子役事務所に預ける親世代に思いっきり広がる事になる。

 

 芸能界に入れたいと思う親は大概は、業界の知り合いとかから話を聞くか、ネットで情報を調べるものだ。そこに、色々と悪い噂があると入れたくはならないだろう。

 

 こういうのは、俺たちが流すと問題だが、噂を聞いて、それをだれかがポロッとしてしまったという形なら責任を問えない。あくまで、自分達は業界内で説明する為にそういうことをしましたけど、そういう事を大々的に流したりはしてませんと言える。

 

 こっちの方は順調と言える。だが、問題なのは別にある。どうにかしないと…………そんな事を考えているとあかねが近づいてきた。

 

「アクアくん、お話は済んだ?」

 

「うん、監督には時間を取って貰って、分かって貰えた」

 

「よかった。こっちもスタッフさんに事情を聞いて貰って納得してくれたみたい」

 

「ごめんね。こういう事も任せちゃって」

 

「ううん、いいの。かなちゃんを助けたいのは私も一緒だから」

 

 問題は、目の前の女の子にある。

 

 俺は、カミキの事を調べる為にあかねを利用した。そして、相手が複数の殺人を行っていると知ってからもあかねがカミキの事を調べるのを止めなかった。これは人としてやってはいけないことだ。直ぐに止めるべきだったのに、俺はなにか見つかるのではないかとわらにも縋る思いで放置をしてしまった。

 

 その件を謝罪すると自分が勝手にやったことだからと言われてしまい、いまも、かなの件に巻き込んでしまっている。

 

 あかねとかなは女の子の子役として2トップ。主演やメイン級を取り合う立場だ。同じ年齢で同じ性別、同じ役者となると、事務所のリソースを分け合う関係になってしまう。あのまま、かなが脱落すれば、圧倒的な1トップになってお金も立場も今とは全然違うものになっていたはずだ。かつてのかなの立場にあかねが居る事になったかもしれない。

 

 性格的にそんな事はしないし、考えないだろうが、あかねに不利益な行動をしている事は事実だ。それに協力させてしまっているのは、あかねの善意につけ込んでいるようで、心苦しいものがある。しかし、そういう立場のあかねが友情を優先して助けようとしているというのは、大人には効く。

 

 こんな事は芸能界でやる人は居ない。だからこそ、これはこんな事が起きるくらい酷い事をされていたんだと、利益を考えた移籍ではないと伝わるので、好意に甘えてしまっている自分が居る。

 

 本当にいい子だし、いい子過ぎて心配になるくらいだ。だれかに騙されないかとか、いいように使われてしまうんじゃないかと思ってしまう。かなとはまた別の意味で心配だ。

 

 かなを実際に受け入れた日から暗い表情をする事があるように見える。なにか思うことがあるのだろう。やっぱり、今みたいに自分の利益にもならないことをさせ続けているし、自分のせいなんだろうなぁと思う。原因に思い当たる事がありすぎて絞れないくらいだし。

 

「あかねちゃん、ありがとう。仕事も忙しいのにこんな事ばっかりさせてしまって。あかねちゃんには甘えてばかりだ」

 

 せめてもう少し、俺くらいにはわがままになってくれても良いのに。と思う。貸し借りの借りばかりが増えてしまっている。

 

「もう、何回目? そんなに何回も言わなくていいよ。私もかなちゃんと友達でライバルなんだから。かなちゃんがこんな事で脱落しちゃう事なんかあっちゃいけないって事は分かるよ」

 

「そうだとしてもだよ。今回の件で一番、損をしたのはあかねちゃんなのは事実だ。それなのに、俺はあかねちゃんになにも報いてあげることが出来ていない。なにか俺に出来る事があるなら言って欲しい」

 

 せめて、俺が出来る事なら何でもしてあげたいと思う。

 

「…………そうだね。じゃあ、一つ聞きたい事があるんだけど。聞いて良いかな?」

 

「良いけど。なに?」

 

「これからかなちゃんとどうするつもりなの?」

 

 そういえばあかねには具体的に言っていなかったかもしれない。なにせ、事情が事情だ。子供には刺激が強すぎるし、法律とかの絡みもあるし、依存症の回復待ちみたいな曖昧な答えしか出せていないというのもある。

 

「18歳になるまでは、かなの親の事で問題はたくさん起こると思う。それまでは庇ってあげないといけないって考えてる。だからかなの家族の代わりに守るつもり。今は同じマンションに住んで、母親がなにかをする、もしくはなにもしてくれないことで困ることがあるなら助けて、仕事も…………今回の件で困る事がないようにサポートをしていく事を続けていくことになるかな」

 

「18歳…………そうだね。それまでは家族の代わりの人が必要だよね」

 

「ああ、そこまでいけば、親との関係も殆ど清算出来ると思う。特に今は世界が18歳成人になる所が殆どだから、それに合わせて18歳成人に法律が変わるかもしれない。そうなれば完全に親の意見を無視できるようになる」

 

「…………えっ? 18歳で成人になるとなにか違うの?」

 

 なぜかあかねが驚いた表情をしていた。ああ、そうか、その歳で労働基準法なんて分からないよな。かながあっさり納得していたみたいだから忘れてた。もしかしたら知ったかぶりしていた可能性もあるな。あとで説明しとくか。

 

「ああ、そうだよね。労働基準法って法律があって、それで18歳になると親が勝手にうちとかの雇用契約を破棄出来なくなるんだけど、親の許可なしに契約は出来ないから、難癖をつけて18歳以降も揉めるかもしれないんだ。まあ、そうならないとは思うけどね。もし18歳で成人になるなら、親の許可なしで契約自体もできるようになるから、完全に親から自立できるようになる。そこから完全に自由意志でかなは生きていく事ができる。だからそこまで支えればいいって目標が明確になる。まあ、それくらいの違い」

 

 意味としてはそこまでない。18歳以降の契約で親が出来る事は、過度の不当雇用の場合だけで、そういう契約を結ぶ事はないんだから。

 

「18歳ってアクアくんじゃなくて、かなちゃんの?」

 

「?? いや、それ以外ないと思うけど…………」

 

 俺って一貫して、かなの話しかしてないように思う。してないよな? 

 

「…………うん、ちょっと勘違いしていたかもしれない。でも大丈夫」

 

「なら良かった」

 

 あかねは納得したような顔をしていたし、顔色も少し明るくなったように思う。なにか分からないけど、明るくなったなら良いだろう。そんな事を思っているとあかねの顔が少し近くに来た。

 

「もし…………」

 

「うん?」

 

「もし、私がかなちゃんみたいに大変な事になったら、アクアくんは私をかなちゃんみたいに助けてくれる?」

 

「もちろん助けるよ。当たり前だろ」

 

 即答した。こんなに世話になっている子の困った時に助けないなんて言えるほど、薄情ではない。

 

「そっか。それなら良いよ…………そうだ! なにか出来る事がないか? って言ってたけど、一つ、わがまま言って良いかな?」

 

「もちろん。俺が言い出した事だしね」

 

 そうやって念を押されると少し恐いが、ルビーみたいに結婚してとか無理なことは言わないだろう。長いとは言えないつきあいだけどそれくらいは分かる。

 

「私の事もあかねって呼んでほしいな。ルビーちゃんやかなちゃんみたいに」

 

「良いけど…………それだけでいいのか?」

 

 それだけでわがままって言うのはさすがに謙虚すぎだとおもう。

 

「良いの。今はそれだけで」

 

 それだけ言葉を交わすと、またいつも通り並んで歩く。いつもより少しだけ近い距離で。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア⑳ 

 

 昔の事を思いだした。かつて宮崎の病院でアイと一緒にこんな事を喋っていた事を。

 

「ねえ、せんせ。せんせは恋愛ってどういう事だと思う?」

 

 アイはいきなりそんなことを言ってきた。

 

「えっ? なに? いきなり、そんな話をしてたっけ?」

 

「してないけどさ。せんせって看護師さんにモテモテだって聞いてさ。もう30歳とかでしょ? 結婚とかしないのかなって?」

 

「ぐふっ、いや、ちょっと止めて! 30歳くらいの男ってそこら辺デリケートだから! あ~あ、周りはもう結婚して子供も居るのになんで俺は独り身なんだろう? とか考え出して鬱になってるもんだから。止めて!」

 

「そうなの?」

 

 アイが首を傾げる。あっ、可愛い。

 

「そうなの!」

 

「じゃあ、なおさら不思議だなぁ。看護師さんとかいっつも話してるよ。せんせはイケメンで優しくてお給料もいっぱい貰ってるし、女の人からもいっぱい言い寄られてるのになんで結婚したり、お付き合いしてる人も居ないんだろう? って。看護師の人とかとも仲良いよね?」

 

「いや、単純に看護師とは上司と部下だし、部下に手を出そうものなら普通に周りに軽蔑されるからね。あと付き合ったら、直ぐに噂が広まって、病棟中に広がるし、喧嘩しようものなら周りから責められるし、離婚した時、滅茶苦茶気まずいし。そんな環境で働きたくないんだけど」

 

 デメリットエグいんだよなぁ。同じ病棟内での恋愛。あと言ってないが、こんなことすると、医者としての出世は死ぬ。出世なんてしなくても十分すぎるお金が貰えるので手を出してしまう人も居るが。

 

「芸能界とかだとそんな事ないけどね~。事務所の先輩と後輩もそんなことばっかり起きてるけど?」

 

「いや、それは芸能界がおかしいよ…………」

 

「へ~、そうなんだ。働く所でそういう事とかまったく違うんだね。知らなかった。でも、せんせモテそうだけど、外では作らないの? 彼女?」

 

「えっ、続けるの? シングルマザーになる子にそういう事、話すのって大丈夫なのかって心配なんだけど」

 

「大丈夫。大丈夫。私、そういうこと気にしないから」

 

 キミが気にしなくても俺が気にするんですけど! と思ったが、まあ、相談したいことの前振りとして話して来ている可能性もある。話に付き合うことにした。

 

「う~ん、そうだな。まず、始めに聞かれた恋愛について話しとくかな。恋愛ってやつは、医学的に言うと、恋が性衝動。つまり性欲だな。顔の良さとか体つきが好きとかそういうので、愛が相手の人格面でのリスペクト。考え方や実際の行動で尊敬出来たり、好きなところ。そこに加えて、付き合う事によって得られる利益の足し算で構成されてるって説がある。数式で言えば、恋愛=恋+愛+利益だな」

 

「え~、恋が性欲とか言われてる。私、恋の歌とかいっぱい歌ってるのに…………」

 

「医者だからそういうのには幻想がなくて悪かったな。あと、ついでに言うと、性衝動は大体2~3年で落ち着くとか言われてる。顔が良くて体の関係が良ければ、別に他の要素が無くても付き合ったり、結婚する人も沢山居るけど、大体、性衝動の魔法が解けて、それくらいで別れる事になる。若いうちって、性欲が頭を支配するもんだし、大体がそういう理由で付き合いだしてるかな。ちなみにホストとか芸能界での顔売りってこれを使って回してるからね。2~3年は顔だけ良ければ性衝動で売れるから、なんにもスキルも無くても売れるし、仕込みも要らないからコスパが良いんだよ」

 

「え~、そんな仕組みだったんだ。知らなかった」

 

「で、大人になると、そもそも性欲が弱くなる。顔だけで夢中になれなくなる。愛情は目に見えないし、付き合って数ヶ月くらいしないとよく分からないから、利益…………男の場合、年収かな。それでモテが決まったりするからね。田舎で医者の嫁になると、まあ、勝ち組の中の勝ち組扱い。俺がモテる要因ってほとんどこれ目当てだから、ちょっと辟易してて、恋愛はまあ、疲れたんだよ」

 

 まあ、これに関しては自業自得な面もある。医者が恋愛できるのは学生時代だけ。そんな事はよく言われている。俺は東京の国立大学に行ってしまったから、普通に恋愛が出来なかった。

 

 東京の最難関層の国立大学なんて行くのは、東京の良い病院に就職したいから。別に難易度を落とせば入れる所がいくらでもあるのに、わざわざそこを選ぶのはそれ相応の理由がある。将来の事を考えるなら、付き合うにしても東京に住む予定の男と付き合いたいと思うのは当然だと思う。死ぬ気で努力をして最難関層の国立医大に行った努力が無駄になってしまう。

 

 当時は大体七割が大学病院で研修医として働いて、そこから医局で決まった病院に勤務するのが当たり前。最初はそんな事を知らなくて、女学生と付き合って、将来の事を話し合っているうちに宮崎に帰る事を伝える事になって…………知らないうちに別れる事になってを繰り返して居た。

 

 都心の人気病院だと年収400万なんて研修医は珍しくない。逆に田舎だと研修医でも住居と車支給、年収1000万からなんて事もある。だから、学力だけで医学部に来た人はそれに釣られるのはよくあるが、これも結局、戻ってくる事が前提で、そのまま地方に居るなんて女に引っかかった以外だとまあ、ない。旧帝含めて5指に入る大学にわざわざ選んだのにそれを溝に捨てる真似に等しい。特に俺の大学はそういう認識の所だった。

 

 愛は全てを超越するなんて言うけど、そんな事はない。結局のところバランスが大切なんだと気づいた頃には俺は実家に帰ることになっていた。その後の恋愛はまあ、いろいろな女性と付き合ってみるも、そういう利益目的なのが分かって冷めてを繰り返して居た。

 

 年齢を考えると、いつまでもそんなことをしているんだ? と思うが、さりなちゃんの…………見た目は子供で性衝動なんてまったく起きないし、付き合う事での利益なんか全くない子でも一緒に居たいと思えるだけの愛情を向けてくれた子を思いだしてしまう。あの子の半分、いや10分の1の愛情を向けてくれる人が居たのなら、また違うのかも知れないけど、そういう気持ちを向けられた事はあれから無かった。

 

 求められるのは医者の嫁という立場とお金。俺自身を見てくれる人は居なかった。俺はついでだった。仕方ない。恋愛ってそういうものなんだから。そう思うしか無かった。それでも、愛情を求めてしまうのは、あの時間を取り戻したいと思ってしまう気持ちが何年経っても冷めずにいるから。いい歳をして何言ってんだかと思ってしまうが、別に結婚を急ぐ理由もないので、ずっとそのままにしてる。

 

「でも、ちょっと分かるな。私は可愛いからね。つきあいたい、結婚したいって言う人は沢山居たけど、本当に愛してくれるのかって分からなくて、そういう関係になりたいな~っていう気持ちがあんまり湧かなかった。実際に恋愛みたいなことをしてみても失敗しちゃったから、今後もそういうのはいいかな~って思ってる」

 

「星野さん、若いうちの恋愛ってそんなものだと思うよ。みんな、そうやって経験を積んで、より良い相手を見つけるものなんだから。もちろん、人生で自分を愛してくれる人っていうのは本当に少ないけど、居るはずだ」

 

 アイドルに恋愛を勧めるなんて駄目なんだろうが、今から、幸せを諦めようとする女の子を止めないのは違う気がした。

 

「うん、分かってる。でも、子供が居るのにそういう事ばっかりしているのも違うからさ。子供が大きくなって、きちんとそういう事が分かるようになるまではしなくていいかなって」

 

 まあ、男漁りをしている母親なんて情操教育上よくないのは事実だ。

 

「せんせはさ。話を聞いている限り、愛された事があるんだよね。その子とは付き合わなかったの?」

 

 アイの真剣な表情にドキっとしてしまう。初めて見る彼女のそんな真剣な質問を誤魔化すのは違うと思った。

 

「その子はまだ12歳だったからね。当時の俺が25歳とかだから、まあ、付き合うとかそういうのは考えなかったよ」

 

「今なら私と同い年だから結婚もできるんじゃないの?」

 

「…………もう亡くなってるんだよ。12歳の時に」

 

 沈黙が流れる。

 

「…………ごめんなさい」

 

「いや、もう昔の話だし、気にしてないよ。その子は物心つく前からずっと病院で過ごしててさ。病気で歩く事すら難しい中、アイドルになりたいって一生懸命生きてた。そんな子を応援したくて声をかけ続けているうちにね。懐かれて、結婚してとかそういう事を言ってきてくれてた。前にキミのファンが居たって話をしただろ? その子の憧れのアイドルがキミなんだ」

 

「私?」

 

「ああ、ほら、これ」

 

 名札の裏にあるアイのキーホルダーを見せる。さりなちゃんの形見の品だ。常に持ち歩いている。

 

「あっ、私のキーホルダーだ。これを作ったのって本当に最初の頃だけなのに。本当に居たんだね。私のファンのほとんどって男の人なのに」

 

「まあ、彼女が本当に居た事の証明になったかな。あとは…………そうだなあとはキミと同じウサギのキーホルダーもずっと付けてたんだ」

 

 携帯の待ち受けにもしているさりなちゃんの写真を見せる。そして、そこまでしてから頭の中に「結果、ロリコンってことですね」という言葉が脳内によぎる。12歳の少女の写真を待ち受けにする30近いおっさんって、年頃の女の子からみるとどうなんだ? と考える。結構ヤバいかもしれない。

 

「ほんとだ。私のとおそろいだ。会ってみたかったな。その子に」

 

 セーフだった。危なかった。

 

「ああ、俺も1度でも会わせてあげたかった。宮崎でライブがあっただろ。そこの一番良い席の予約をとってさ。毎日、毎日、その日のことを楽しみにして、一緒にライブへ行って、キミに会わせたいって思ってたんだけどね。その前に病状が悪化してね。亡くなってしまったんだ」

 

 預けていた携帯をそっと閉じる。

 

「俺は彼女の好きなアイドルであるキミとさりなちゃんを重ねて見ているんだと思う。彼女が夢を見た道を歩くキミを応援したいから…………あの時、さりなちゃんが夢中になっていた星野アイで居て欲しくてキミのことをフォローしているのかもしれない」

 

 つい口が滑ってしまった。ここまでは言うつもりは無かった。

 

「ねえ、せんせ…………その子は亡くなってるんだよね。ならなんでその子の喜ぶ事をしたいと思うの?」

 

 まあ、亡くなった患者にそこまで思い入れるのはおかしいよな。でも、それは未だに言語化できない思いだから説明できない。

 

「ただ、そうしたいからだよ。そこに意味なんてなくても、もし彼女が生きていたなら、アイを助けてあげて! って怒るだろうなって。ただそれだけ。そこにあんまり深い意味なんてないよ」

 

「素敵な話だね」

 

「そうか? それ話したら俺、看護師の人にロリコン扱いされたんだけどな」

 

「素敵な話だよ! 絶対! さりなちゃんとせんせのお話もっと聞きたいな~! 聞かせて!」

 

 アイは明るい顔でそう言うと、彼女との思い出話を強請ってきた。

 

 俺が死ぬ前の話。それからアイと俺は少しだけ仲良くなったと思う。さりなちゃんの事も関係なく、純粋に彼女を助けたいと思うようになったのはこの頃からだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア㉑


注意:スピカの内容を含みます。


 

 

 星野アイは普通の女の子だった。

 

 彼女の息子として、医者として一緒に過ごしてきて、彼女とふれあい、語り合って、時には治療を行い、最終的にたどり着いた結論がそれだった。

 

 彼女が普通と認識されなかったのは発達障害によるものだ。

 

 発達障害とは知性にばらつきがある人を指し、特定の能力が低い事によって、日常生活に支障をきたしている人だ。先天的に感覚過敏を持ち、人とは感じ方が違う事、そして中枢性統合能力の欠如が大きく関係していると言われており、脳構造が違うため、普通の人と比べて得意不得意な事が違う。アイの場合、言語系に不安を抱えている。それが欠けていると女性社会で生きるのが厳しくなる傾向にある。

 

 女性のコミュニケーションは男性と比べると、ボディーランゲージや皮肉、マウンティングなど言葉そのもの以外の情報が沢山あるとされている。言葉がそのままの意味ではなく、別の意味が混ざっている事が多い。それを複数人で会話して読み取る言語系能力が低いと周りがなにを言っているのかが理解出来なくなり、相手の意図を理解出来ずに失言が多くなる。特に仲が良くない相手に対しての女性のこの手のコミュニケーションは攻撃する用途として多用される。

 

 アイはB小町のメンバーから見れば、いきなり自分達を差し置いて、経験も実績もない素人で歌もダンスも上手でなく、当時は飛び抜けて容姿に差があったわけでもないのに、壱護さんの独断でセンターに抜擢された人間であり、沢山の嫌みや皮肉が混じった会話をされてきたというのは当然とも言える。

 

 だが、アイはそれを嫌みや皮肉と気がついていなかった。そもそも、発達障害は中枢性統合能力が低い為、相手の気持ちを考えることが苦手という特徴があるのに、さらに言葉の裏を読めというのは難しい。裏の意味を読み取れず、言葉そのままの意味で受け取り、嫌みや皮肉で牽制している行動を無視して続けていく。それは、B小町としては煽りとして受け止められている。B小町としては喧嘩、アイとしては難癖。当人同士で受け取り方が違う為、円滑なコミュニケーションが出来ていない事が分かる。思春期のあたりで女の子から女性のコミュニケーションに一気に変わる。脳構造がそもそも違うアイはその変化についていけなかった。

 

 壱護さんもそういった女性のコミュニケーションが理解出来ていなかった。男性の場合、社会的立場をもって、そういった事が理解出来るようになったり、女性と付き合ううちに身につけるものなのだが、基本的に女性に距離を取られる人だし、風俗店を出禁にされる程度には、遠回しの拒絶が理解できない人なので、気がつかない。揉めてても嫉妬だろと切り捨ててしまい、間に入って問題を解決しようとしなかった。むしろ、人気とお金になるアイを贔屓にする行動はどんどん多くなっていった。

 

 例えば、アイはよく自分がより可愛く映る為にスタッフに指示をして照明などを弄ったり、より自分が目立つような立ち位置に居るようにする。監督やスタッフの打ち合わせの結果として決まった事を現場判断というか、アイの独断でお願いして変えて貰うやり方だ。

 

 時には、そういう風に自分が目立つために意見を出す事も大切だ。そうやって目立たなければ埋もれてしまうし、全体の利益だけを考えても仕方ない。自分が目立つようにアピールも要る。それは正しい。

 

 だが、いきなり抜擢されて不和を起こしている人が、仲間と相談せずに、自分の利益だけを考えた行動ばかりをして、納得されるかと言えばそうではない。それでアイが売れても、他のメンバーに利益なんてないから当然の話だ。むしろ、自分がどんどん追いやられていくのだから、関係はより悪化する。陰口攻撃に対して、権力者を使って攻撃しかえして来た。そんな風に受け取られる。B小町の当時のメンバーは言葉での嫌みが通じないアイに対して物を隠したり、壊したりをして攻撃するようになっていった。

 

 風俗店から出禁になるくらい女やルールにだらしなく、借金持ちの男性と認識されている絶対的な権力者である壱護さん。その人が贔屓しているアイにとって邪魔になるメンバーを切り捨てている姿を見て、男に媚びて、自分にとって都合の悪いメンバーを切り捨てているという評価になるというのは正直、仕方の無い事だ。普段の生活態度がその人の評価になる。人間としての信頼が全くない人がリーダーをしていた結果、内部分裂を起こしていた。それはそういう環境なんだと、あの社長はそういう人なんだと諦められるまで続いた。

 

 仲間から嫌われても意にも介さず、誰にも縋らず、奔放で、孤高で、自分が目立って人気になるためならなんでもするアイドルになるために生まれてきた少女…………そんな風に思われていた星野アイはそうやって作られていった。本当の姿は発達障害の特性に振り回され、コミュニケーションが理解できずに嫌われた普通の女の子でしかなかったし、B小町は、そんな特性を理解できない普通の女の子でしかなかった。

 

 普通なら、母親に、父親に、友達に、先生に…………だれかしらに注意されるだろう。だが、芸能界はそういう事が人気があれば許される世界だった。なにをしても、売れれば正義の世界で、星野アイのわがままは正義だったし、周りもそれを受け入れてしまった。わがままな子供の自覚がなく、わがままな子供を続けてしまった。

 

 そんなアイとB小町の関係はアイが妊娠するまで続くが、15歳前後で発達障害の女の子は躓くことが多い。アイも多分に漏れずそうなった。

 

 虐待児は人間不信になって距離を取るタイプと、小さい頃から殴られる位置から逃げられなかった経験からか殴られるような近い距離感のまま居るタイプが居る。アイは後者で、母親に対する距離…………より少し後ろの距離で接しているアイは男からすると、父親、もしくは恋人くらいの距離で接してくれる女性にしか見えない。

 

 発達障害を抱える人は対人関係の細かい使い分けが苦手だ。全員、同じように人に接するので、その距離感のままでいると男性から可愛さとか愛嬌として好かれる一方で同性には男に媚びてるとか言われてしまう。B小町のメンバーよりさらに一歩、二歩近い距離でファンサをすると男のファンは、アイが特別に見えるだろう。壱護さんがアイを娘のように感じるようになったのも、この距離感が原因だし、例の殺人犯もこの距離感の近さで勘違いをした。

 

 異性にモテない男は、女性にそういった距離感で接してもらう事がない。だから、それを好意として勘違いをしてしまうし、好きになってしまったり、実際の何倍も可愛く見えたりする。その効果は俺自身が身をもって知っている。

 

 アイドルという職業にとって、男性に好かれる事は人気という形になる為、上手くいっているように見えるが、それが性的な魅力が出てくる15歳頃になると一気に性欲という波に襲いかかられる。

 

 特に発達障害と虐待はとにかく相性が悪い。虐待によって自己肯定感を失っているタイプはここでよく失敗をする。

 

 発達障害女性は性的被害に遭いやすい。思春期を境に女性としてのコミュニケーションが出来ずに女性から孤立しているから危険な男性の情報とか恋愛のルールとかを学べない為騙されやすい。コミュニケーションが下手なので、外見的な魅力や肉体的な奉仕で関心を引こうとする。そして、間違った人間関係を理解してしまう。そして、なによりも、恋愛、特に性行為をする場合は直接的な物言いでは話さないので、言葉の裏を読めない発達障害女性は簡単に騙されてしまう。

 

「何もしないから」なんて嘘に決まってる。なんて言えるのはその障害を持っていない人の脳構造だから出来る事であって、発達障害の女性は分からず、レイプされるケースが多い。でも、そういった自身の特性の事を理解していないと、自己肯定感の低さから自分が悪かった事にして、我慢をしてしまう。

 

 美しさとか体つきの良さを自分の価値だと思い込んで、モデル体型を目指して倒れるまでダイエットをしてしまったり、過食嘔吐を繰り返してしまう子。高級な化粧品や可愛い服装を着たりする為に性を売る子。整形をしてどんどん顔や体を変えていって止められなくなってしまう子。健康を一生引きずるレベルで壊す子は山ほどいるが、それでも愛されることに飢えてしまった子は止められないし、止まらない。自分の内面的な部分に自信がないので、自分の価値と性的な価値が同じように感じてしまうし、自分の判断に自信がもてないので、我慢に我慢を重ねてしまう。

 

 可愛くなることで愛されようとしたアイのように、内面を愛されない子は容姿に、そして性的魅力で自分の価値をあげようとしてしまう。自分は性格が悪いからと、自分はつまらない人間だからと、それ以外の要素を伸ばそうとしてしまうし、それを利用されてしまう。性的な魅力を前面に押し出す事は、男女の自殺率の差を考えると、その選択自体は間違いではない。ある意味、それで許されている人も沢山居る。ただ、それでも上手くいかない時はより悲惨な状態になる。

 

 そんな風に体を使って関心を引こうとして壊れてしまった女の子を産婦人科医として嫌になるほど見てきた。SOSを出せず、ずっと苦しんで、同じ女の子と上手くいかず、助けを求めた先で性的に狙われ、妊娠して捨てられ、それに対して、馬鹿だとか、股がゆるいなどと誹謗中傷される。特に芸能界なんてその規模が何十、何百倍規模に膨れ上がり、誹謗中傷の嵐にさらされ、一生残るような傷を残す。

 

 よくある女性の間で生きられない女性の行き着く先の一つだ。

 

 アイの場合、アイドルというただでさえ、男を呼び寄せる職業に居るのに加えて、虐待児特有の距離感の近さと、発達障害による対人距離の取り方の下手さで自分に好意があると勘違いする男。あのアイを殺そうとした男みたいな奴を量産して、その勘違い男の中で知識のなさから、一番だめなカミキを彼氏として選んでしまった。

 

 発達障害の女性は、自分の苦しみを共感して欲しい気持ちから、脳構造の似ているタイプの発達障害の男性を選ぶ傾向があるが、お互いに足りない部分が同じなので、難しい部分も多い。カサンドラ症候群なんて言葉もあるくらいだ。いわゆる普通の人でさえ、支えるのが難しいのに、お互いの欠点が似ていると共感は出来ても、支え合えるまでに時間と労力がかかる。そして、発達障害の中で攻撃的な人と自己愛性パーソナリティーは似ている為、同族意識を持って近づいて、騙されて、使い捨てられるケースもある。アイはこのタイプだ。

 

 発達障害を抱える女性が恋愛に失敗をするパターンは大体似通っていて、アイもそのパターンで失敗している。ただ、勘違いをする男の数があまりに多くて、多すぎたからその中にサイコパスじみた男が混ざっていた。確率的にはなにもおかしくない。

 

 星野アイは普通の女の子だ。行動も考え方もなにもかもが普通で…………ただ、発達障害を抱えている事以外は普通の女の子でしかない。

 

 だからずっと守ってあげるのが良いと思っていた。

 

 発達障害は知的障害と混同されるが知能障害だ。だから、社会に適応できるように教育すれば社会で問題なく暮らす事が出来る。だからこそ、支援学級や支援学校は整備されているし、医療補助、手当も揃っている。グレーゾーンと呼ばれる軽度のものなら高校生で見つかることも珍しくない為仕方ないが、大人になってから診断を貰った人、大人になってから見つかったなんて事は、基本的に親や教育の問題だ。

 

 発達障害の子供はほとんどの子が虐められる。だから、大人は早く気づいてあげてないといけない。虐待、虐めなどの加害行為を受けると発達障害は加速度的に悪化して、行動治療すらまともに出来なくなる。だから、その前に助けないと、十年、二十年かけても社会で生きていく事が出来なくなってしまう。

 

 星野アイは、親にも教員にも…………さらに酷いのは養護施設の職員にも助けて貰えていない。まともな所なら発達障害の比率が高くなる養護施設は専門的な知識を持ってしかるべき教育をしているはずなのに養護施設職員としての職務を放棄されている。本来、あり得てはいけない事が起きている。大人になってから発達障害を治療する支援は少ない。元々、発達障害は児童だけの病気という認識の時代が長い為、法整備がされてないから、子供のうちになんとかしないといけないのに子供の最後のセーフティーネットが仕事をさぼるなんてありえない。そんな意識が頭の中にあったのかもしれない。

 

 社会のあらゆる教育、福祉の穴を何千、何万分の1なのかわからない確率でくぐり抜けて、子供を守る為の仕組みを全部通り抜けて大人になってしまったのが星野アイであり、そして、女性の最後のセーフティーネットの産婦人科医だった俺も見逃してしまった。治療者として、なによりも大人として、こんな事が当たり前に起こるような事はあってはいけないし、そういう子を全力で守らないといけない。大人としての職務を放棄してしまった。だから、彼女を守る事、治す事は雨宮吾郎の役目。そう思っていた。

 

 

 

 

 目の前にはアイが俺の…………雨宮吾郎の墓の前で長い時間手を合わせている。

 

 俺が死体を見つけたと警察に知らせて数日が経った。親戚が身内だけで処理をしたようで身内以外は知らされていなかったが、狭い町だ。どこからか殺人によって死んだという噂が広がってしまったようだ。色々騒ぎになったが、直ぐに警察の死体の調査などが終わって、直ぐに埋葬する流れになったらしい。

 

 アイは忙しい中、こうして墓参りまでしてくれていた。出来れば、アイには知って欲しくなかったという気持ちと、アイの中で雨宮吾郎が残っていた事に対して嬉しいという感情も交ざっている。

 

 墓の前には幾つも花があったようで、遠目から昔診た患者さんと思われる人も通りすがったのを見た。

 

「沢山の人がせんせの事を慕っていたんだね」

 

 墓にいくつもある花束を見てアイはそう呟いた。

 

「…………うん、そうだね」

 

 身内は俺の残った貯金なんかの相続なんかで揉めていたようだ。正直、あんまり地元の人も関わり合いになりたくないだろうし、あれから時間も経ったから誰も来ないだろうな。と思っていたが、少なくない人が来てくれたようだった。

 

「せんせはさ。私にも色々と相談にのってくれたり、寂しくしていると、なんでもない雑談とかをしに来てくれてたんだ。ずっと、ずっと病院にいて、いろいろな仕事をして、忙しそうにしているのに、なんでもない顔をして私の事を助けてくれた。嬉しかったな。あの時は本当は寂しくて不安だったから…………今、来た人達もせんせのそういう所に救われた人だったのかもね」

 

「…………うん」

 

 別に俺が名医だったというわけじゃない。医者は大抵の場合、診察に三分かけても十分かけても同じ報酬の為、いかに少ない時間で終わらせるのかが病院の収入に、そして医者の給与に関わってくる。一人当たりの時間を減らす事で…………人時生産性を上げる事で収入がよくなるのは普通の仕事と変わらない。

 

 俺は、腕が無かったので、サボっているなんて言って時間をとって相談にのっていた。それだけだった。そんな事でも、救われた人が居たのなら…………無駄じゃなかったと思える。

 

「今、思うとね。もしかしたら私はそんなせんせの事が好きになっていたかもしれないんだ」

 

「えっ?」

 

 驚いた様子の俺を見て、少しびっくりしたような顔をしてから、アイは少し笑顔を見せて言葉を続けた。

 

「アイドルをして、人の表情をみればどう思っているのかは大体わかるようになった。だから、せんせが私に好意をもってくれていた事はすぐ分かったんだ。最初は私がアイドルで可愛いからそうなのかな? って思ってた。でもね。違ったんだ」

 

 あの時、すぐに見抜いていたのか…………自分の大根役者っぷりにため息が出る。

 

「せんせはさ。さりなちゃんって、恋人が居たんだよ」

 

 正直、否定したい気持ちでいっぱいになったがやめておいた。なんで知ってるんだと言われたら、何も言えないし、アイの中ではそうなっている以上、何を言っても変えられないだろう。

 

「さりなちゃんって子はさ。私のすっごいファンだったみたいで、私みたいになりたいって思ってくれていたらしいんだ。でも、病気で死んじゃって、夢は叶わないで終わってしまった。せんせは、そんなさりなちゃんの為に私を助けたいって思ったらしいんだ。それを聞いてさ。私はこれが欲しいって思っちゃったんだ」

 

「…………そうだったんだ」

 

 そんな事を思っていたなんて気づかなかった。

 

「その時の私は、可愛いって思われる事でしか愛されない事が嫌だった。けど、可愛くある事でしか愛される方法が分からなくて、頭の中がぐるぐるしてた。でも目の前に、可愛いからとかそういうのを超えた愛情を向けられてる子が居て…………そんな風に愛情を向けてる人が居て、その愛情のうちの少しだけ向けてくれていただけでもこんなに居心地が良くて、幸せになれるならって思ったんだ。もし、その気持ちを全部受けられたならどんなに幸せなんだろうって」

 

 アイは過去を思いだしているのか、本当に羨ましそうな顔をしていた。

 

「でもそれは、さりなちゃんのもので、私のものじゃない。だから諦めたんだ。けど、それを見なかった事にして、気持ちに蓋をして、忘れようとした。でも、そういう気持ちを向けられたい。愛されたいって気持ちは溢れてきちゃった。そんな時に、ヒカルくんから電話がかかってきたんだ。ヒカルくんがもし、そんな気持ちを少しでも向けてくれたのかもしれないって期待しちゃったのかもしれない。でも、そのせいで、せんせは死んじゃった…………」

 

 アイの顔から涙が流れた。

 

「なんでこうなっちゃったんだろう。ヒカルくんはなんでこんな事をしようとしたんだろう。わからないよ」

 

 カミキヒカル、話を聞く限り、あいつは才能があったんだろう。そしてそれを生かす場所もあった。それがなんであんな人間になったのかと言えば、まあ、相応の努力が出来なかったのだろう。だから失敗した。それが認められず、ずっとそのストレスをぶつける場所を欲していた。それが、女と殺人だった。それだけだろう。

 

 芸能界でも俳優は特に難しい世界だ。テレビに限るなら男優上位五十人前後の枠を奪い合うし、それ以下はサラリーマンをやるより稼げない。舞台も需要に対して供給が多すぎて、兼業ばっかりになる。有名どころなら専業でも食えるが、ごくごく一部。上位0.1%に入れても安定なんてしない。旬が過ぎるとまた逆戻りなんて世界だ。

 

 芸能界は努力が報われにくい業界だし、コネだのまくらだのが飛び交う業界だが、それでも成功したいのならやり続けるしかない。どの世界もトップクラスは15時間、16時間と当たり前のように努力する。アイもそうだが、ルビーやかな、あかねのような幼い少女達だって、勉強に演技に努力して、報われない時も努力を続けてきたからこそ今がある。

 

 それなのに、才能にかまけて努力を怠っているにも拘らず、自分を過大評価して、その評価の根拠として、努力を重ねた女性を抱く事で、それより凄い存在なんだと、そんな存在を殺す自分は価値のある存在なんだと思い込もうとするなんて、ネットの有名人アンチをより悪化させたようななにかだ。声望のある人を扱き下ろすと自分がそんな人間よりも上のような気分になれるかもしれないが、自分の価値なんて1ミリも上がらないのにずっと勘違いをしている子供でしかない。

 

 犯罪心理学で、いじめで子供を殺した加害者の子供が何の刑罰も受けずにいるとどんな人間になるのかという事を聞いた事がある。人を殺したにも拘らず、捕まらなかった事を自信にして、自己肯定感が高い人、自己愛に溢れた人になるらしいが、それに近い。

 

 カミキヒカルは子供だった。ただ、自己愛に溢れすぎて、善悪なんてものよりも自己愛を拗らせて暴走して、それが、神かなにかの加護…………いや、呪いか。それで露見せずに暴れていただけの子供でしかない。

 

「もし、ヒカルくんと別れて居なかったら、私がヒカルくんを捨てなければ、ヒカルくんは私の事を愛してくれたのかな? そして、せんせも死ななくて済んだのかな? そしてヒカルくんも…………」

 

 アイはそんなありえないIFを語る。そうだったとしてもアイが殺されただけだろう。

 

「…………多分、そうはならないよ。カミキヒカルがアイに近づいたのは、初めから、人気アイドルの星野アイを自分のものにして、そんな自分は凄い人間だって思うための道具でしかない。そして、アイと違って、そうやってつきあい続けた人は殺されてるみたいだから、その中の一人にアイが居ただけでなにも変わらない」

 

 カミキに同情するところがあるとするなら、過去に11歳の頃には性行為をさせられていたであろう事だろう。幼い未完成の脳に快楽物質をぶち込めば、それ以外の達成感や感動、喜びが色あせて見えてしまう。演技で得られる達成感が吹き飛ぶくらいに。幼い頃から性依存になった子供のケアは難しい。薬物依存に近いケアが必要になる。それが放置されて、歪んだとするなら大人の責任。カミキが加害者側に立たなければ心から同情していたと思う。毎日、毎日、努力して結果を掴むより、手頃な娯楽の方が楽しかったら、そっちに流れてしまうのは仕方ない。

 

「初めから、カミキヒカルは自分のものじゃなくなった女性は殺していたし、つきあい続けた女性も、最盛期と思われる時期が過ぎると殺していた。アイにカミキを説得は出来ないよ。あれはもうそういう人間だった。そして、そうなったのは、ララライの中での出来事が原因だった。だから、アイは悪くないよ」

 

「でも、せんせはそれで死んじゃったんだよ? せんせは私に関わって後悔してるんじゃないかな」

 

 アイは悪くない。それは胸を張って言える事実だ。けど、アイにはそれが受け入れがたいのだろう。無関係な人を巻き込んだと思っているだから、そう思ってしまうのは仕方ない。

 

「…………検死の結果、死因が転落死だったみたいだ。雨宮吾郎の家と病院の間にはそんな場所はなくて、犯人を追って、崖のある所で突き落とされたんじゃないかって言われてる。雨宮吾郎は、自分の意思で犯人を追いかけた。殺されることは予想出来なくても、暴力沙汰になる事は分かって居た上で、犯人を追った。多分、それはアイの秘密を守る為なんだと思う。アイがこれからも笑って生きられるように。アイを守る為に」

 

 アイの涙を拭う。

 

「アイがもし、雨宮吾郎の意思を酌んでくれるなら、泣いて後悔するのではなく、笑って、幸せに過ごして欲しい。それが、雨宮吾郎への一番の供養になると思う」

 

「そうなのかな? でも……、アクアが言うなら信じる。信じられる」

 

 そう言うと、アイは雨宮吾郎の墓の前で別れた後に何があったのか、どう感じたのかの報告をとびきりの笑顔で、自分がどれくらい幸せなのかを語ってくれる。

 

 その姿を見て、雨宮吾郎が星野アイにとってどれだけ大きい存在だったのかを知る事で、どれくらい力になれたのかを聞ける事で、雨宮吾郎としての人生への後悔が消えていくのを感じていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 裏 アクア㉒ アイ好感度100イベ

 

  アイが雨宮吾郎へ語りかけ始めて何分経ったのだろうか。

 

 1時間か2時間を過ぎたような気もするし、10分くらいかもしれない。ずっと張り詰めていた気持ちが一気に緩んでふわふわとした気持ちで聞いていたせいで、どれくらい時間が経ったのかが分からなくなった。だが、少なくない時間が過ぎた事だけは確かだろう。

 

 一緒に居た期間は短い雨宮吾郎の事をこんなにも思ってくれる姿に、この子は本当に優しいなと感じてしまう。彼女は本当に優しい子だった。それでも、彼女がそう思われなかったのは、彼女が優しくされたことがなかったから。

 

 俺たちがもっと小さい頃、ルビーが風邪を引いてしまった時でもアイはいつも通りだった。だから、俺が率先して看病をして、一緒に居てあげて、ミヤコさんに頼んで食べ物とか飲み物にも気をつけていた。最初はアイはそれを不思議そうに見ているだけだった。

 

 その後、ルビーの風邪がアイにうつってしまって、ルビーと同じように看病をした後、俺にもうつってしまった。その時、アイは俺がアイやルビーにしていたような事をそのまましてくれた。「風邪を引いた時はこうして貰えると嬉しいんだね」と言って。

 

 星野アイは本来、心優しい女の子だ。けど、優しくされる事がほとんど無かった。だから他人に上手く優しくする事が出来ないのだと衝撃を受けたのを覚えている。看病で手を握ったり、一緒に居た所で風邪が早く治るわけじゃない。ただ、それをされることで心は癒やされる。

 

 それを知らなければ意味の無い行為にしか見えない。だからやらない。アイが看病を出来なかったのは、本当にそれだけの理由だった。

 

 虐待家庭から芸能界なんて人間不信になりそうな世界で、人に優しくあろうとする。愛したいと思える星野アイは今まで出会った人のだれよりも優しい。彼女に足りない事は優しくされる経験。俺やルビーがアイに対して優しくして、それを嬉しく感じると、アイは周りに対してそれをするようになっていった。B小町との和解はそれをずっと続けた成果なんだと思う。

 

 でも、それは生きにくい生き方でもある。優しさは優しさで返ってくるとは限らない。特にこの世界では他人の善意や優しさを利用して、自分だけ得をしようとする人間があまりに多すぎる。

 

 それに、カミキのような人間はこれからもどんどん現れる。このまま芸能界で生きていく事は彼女にとって幸せなのだろうか? ふとそんな事を考えてしまう。

 

「アクア、そろそろ帰ろう」

 

 雨宮吾郎への最後の言葉を告げたあと、アイはそう言って、俺に手を伸ばしてくる。その手を握ろうと…………手を伸ばせなかった。

 

「アクア?」

 

 不思議そうな顔をするアイの顔を見つめる。

 

「アイはさ…………今の生活は辛くない? 今回と似たような事は多分、これからも起きる。何も悪くなくても、暴力を振るわれそうになったりするし、悪口を言われたりしつづける。今回の事も一応はなんとかしたけど、何年も経てばバレてしまったりするかもしれない。そうなれば何万、何十万人の人にそういう事をされるかもしれないんだ。芸能界でずっと過ごしていく事がもし辛いなら…………引退も視野に入れてもいいんじゃないかな」

 

 今まで、ファンとして、息子として、彼女が成功する事を望んできた。

 

 発達障害の人が社会に適応する為に自分を殺して、社会で求められるような偶像を演じる以外で生きていく方法がある。自分を殺さなくても、演じなくても良い方法。それは簡単だ。偉くなってしまえば良い。成功して替えが効かない存在だと思わせてしまえばいい。

 

 嫌みが分からないなら、嫌みを言われないような地位に居ればいい。マウンティングを理解出来なくても、いい立場であれば問題ない。お金があれば、そういう人を避けて生きていける。

 

 2歳のかなが好き勝手できたように、芸能界は数字を持っている限りスタッフはもちろん、共演者や監督、プロデューサーでもご機嫌を伺ってくる。枕営業の強制を共演者にして、受けなければ所属事務所に圧力をかけて体を売らせる。生放送中、セクハラしても、共演者スタッフ全員が見て見ない振りを続ける。そんな異常な光景が当たり前のようにまかり通るのが芸能界だ。視聴率が稼げるなら、他人の尊厳も命も無視出来る弱肉強食の世界。人気で視聴率を取れる存在で居続けられたら、ちょっと空気が読めない程度は問題がなくなる。

 

 空気を読めなくても、嘘の自分を演じ続けなくても良くなる。周りが勝手に自分の長所や魅力を出そうとするし、フォローもしてくれる。

 

 でも数字が無くなれば違う。逆にそれを押しつけられる立場になってしまう。積み上げたものが一瞬で無くなるのが芸能の世界だ。そうならないように動いたけど、この優しい子が居るには辛すぎるのではないか? と今更ながら思った。

 

 そうなる前に上手く勝ち逃げしてしまうのもありなのではないか。

 

「ありがとう。アクア。でも大丈夫だよ。もし、今回の事で色々言われてしまうかもしれないし、そうでなくても、いろいろな事を言ってくる人も居るのは分かってる。けど、みんなで乗り越えられるって信じてる。それにね。ルビーとB小町として一緒に舞台に立つ事が今の私の夢なんだ。その時まではアイドルを続けたいんだ」

 

 さりなちゃんの夢を叶えたい。そんな気持ちから壱護さんへB小町の世代交代のプランを話した。ルビーもその時の為に頑張っているし、俺もその姿を見たい気持ちはある。

 

「でもさ。この業界は、そんな想いを簡単に壊してしまう。だから無理はしないで欲しいんだ」

 

 けど、そうなる未来にたどり着けなかった時、苦しい想いをするなら、諦める考えを持ってもいいんじゃないかと思ってしまう。

 

「アクアはさ…………もしかして、芸能界は嫌いだった? お仕事も辛いと思ってる?」

 

 アイの問いかけに否定の言葉を直ぐに返せなかった。

 

 アイが理想のアイドルを演じていたように、俺は理想の男の子を演じた。ただ、その時間はあまりにも苦痛だった。だから、そうしないで良い道を進んで欲しいという気持ちは年々増えていった。

 

 俺にはカリスマというものがない。ただの田舎のヤブ医者がそんなものあるわけない。変わった生まれをしているから周りと比べて特別な存在のように見えるが、それだけだ。年齢を重ねるごとにその特別感はどんどん無くなっていく。すぐに埋没していく事は目に見えている。

 

 だからアイのように演じた。理想の子役を、理想の男の子を。

 

 心理学をまた一から学び直して、普通の人の脳内構造からどんな感情がどんな時起こるのかを知った上で一人、一人、どんな性格なのか、どんな事が好きなのか、どんな反応をすればいいのか。様々な情報を集めて、分析。その人が何を求めているかを理解し、喜ぶような言葉を予め用意した。

 

 学生時代に医学部でASD持ちだったが、人当たりが良く、人気のあった教授がしていると言っていた事を応用して、人気取りに使った。発達障害を持つ人に対して、医者が勧める社会への適応方法を応用して作った星野アクアという虚像は多くの人に愛された。

 

 アイを治療する上で学んだ行動分析学や応用行動分析学を使って、いかに視聴率を取るのか、ファンを増やせるのかを考え、様々なツールからフィードバックを貰いつつPDCRを回した。その結果、俺の今の人気がある。

 

 だけど、それには代償があった。

 

 どんなに褒められても、どんなに売れても嘘の自分なので自信にも喜びにもならない。服を褒められた程度の感動しかない。だが、本当の自分ではこれだけ受けないし、人気になんてなれない事だけは嫌でも実感する。本当の自分より愛される存在を被ってしまうと失望される事が恐くて皮を脱げなくなる。嘘の自分の方が人より好かれているのに、本当の自分を出してしまう事に抵抗が出てくる。

 

 俺は本性を出してもいいと思える人が周りに居た。演技なんてしなくてもいい人達が居た。だから耐えられた。その人達と話す間だけ、理想の男の子でなくて良かったから。アイはこれを理解者も居ない中でしていた。それに比べると大した事ではないはずなのに、それでも苦しかった。

 

 俺は医者だった時、発達障害の人が普通の皮を被って社会生活を送る事が出来るなら、寛解したと判断した。けど、それをできるようになることと、それを継続する事の違いは分からなかった。嘘の自分を毎日続ける事の苦しさを本当の意味で理解してなかった。そういえば、このやり方をした教授は結婚をして居なかった。それは、私的な時間を作れなくなると本当の自分を出せなくなって、精神を病むからなのかもしれない。

 

 星野アイの苦しさを身をもって体感出来たとまでは思わない。けど、近い体験をした事で、自分とまるっきり違う人格を維持する事の苦しさはある程度は理解した。正直、アイとルビーの事が無ければ、この仕事を簡単に投げ出していたと思う。演技をする事に対しての楽しさはある。だが、それ以上に、息苦しさが付きまとう。

 

 自分で言うのはなんだが、俺は上手く立ち回っている方だとは思う。人気、視聴率、お金を稼ぐのはそんなに難易度が高いものだと思っていない。こうすればいいという答えは直ぐにでも出てくる。でも、それが好きかと言われると違う。得意な事と、好きな事が違うように、俺は周りの人間の力になれる事は嬉しいし、それで周りの人達が笑顔で居てくれる事に充実感を感じる。でも、芸能界で生きていく事自体は嫌いなんだな。と思ってしまう。

 

「そうだね…………確かにそういうところは少しあるかな。この世界で生きていく為に、嘘をついて、偶像を作って今までやってきた。それが辛くないかと言えば否定はできない。けど、それ以上にアイやルビーの事を支えたいんだ。アイとルビーが幸せに過ごせるようにしたい。かなやあかねみたいに俺を慕ってくれる子の事も助けたいんだ。そのためなら我慢できる」

 

 それでも、やりたくない事でも、やらないと手に入らないものがあるなら我慢をしないといけない。大人ならみんなそうやって過ごしている。辛くても苦しくても、それ以上に大切なものがあれば耐えられる。アイがしていた事に比べれば大した事じゃない。

 

「そうだったんだ…………ごめんね。気づいてあげられなくて。もし、アクアが辛いのなら、辞めてもいいんだよ? ルビーの事も、かなちゃんの事も、アクアみたいに上手に出来ないかも知れないけど、私も出来るだけの事をするつもりだから」

 

「いや、そういうわけにはいかないよ。アイにこれ以上迷惑をかけたくない」

 

 俺が勝手に抱え込んだ事をアイに押しつけたくなんてなかった。

 

「アクア、迷惑なんて思わないで良いよ」

 

 アイはそういうと、しゃがんで俺の肩に手を置いて、目線を合わせてきた。

 

「頼りないかもしれないけど、私もアクアの力になりたい。アクアが私の幸せを願ってくれるように、私もアクアが幸せになって欲しいってずっとずっと思ってる。アクアが人気で、その人気でお仕事を持ってきてくれたりするからとかでアクアの事が好きなんじゃないよ。アクアが楽しく過ごしてくれる方が私は嬉しい」 

 

 アイは笑顔で俺に問いかける。

 

「アクアは本当はなにがしたいの?」

 

 俺がなにをしたいのか…………それは決まってる。けど、あの時の影がちらつく。祖母のあの笑顔が忘れられない。

 

 自分の地位とか風評とかそういうのを得られると喜ぶ姿。俺を見ていない。俺という存在が負債処理だったと分からされた瞬間のあの笑顔が生まれ変わった今でも染みついている。家族という認識をもっていた祖母が俺を本当はどう思っていたのかと気づかされたあの日の事を。

 

 もし、あの時みたいな事になってしまうのならと思ってしまう。

 

「医者になりたいんだ。本を読んでいくうちに憧れて…………」

 

 そこまで言って、つづきの言葉が出てこなかった。もし、否定されたら。その前に撤回しておいた方がいい。そう思っていたが、アイが瞳を輝かせて俺に言った言葉によって遮られた。

 

「アクアなら、きっとせんせみたいな素敵なお医者さんになれるよ!」

 

 心から医者になる事を応援しようとするアイの姿が目の前に映っていた。

 

「アクア。アクアはアクアがしたいことをして良いんだよ。たしかにアイドルとしての幸せも大切だけど、私はわがままだから、母親としての幸せも欲しいんだ。母親の幸せは子供の幸せだから。私が幸せになる為にアクアは幸せにならないと駄目だよ。私の為に幸せになって欲しいな」

 

 アイの笑顔を見て、アイと初めて出会った日を思いだした。

 

 母親としての幸せも、アイドルとしての幸せもどっちも欲しいと言ったアイの姿に俺は見惚れた。あの時から関係もなにもかも変わったけれど、それでも変わらないものがあった。

 

「アクアがどんな道を選んでも、例え、アクアが私の事を愛してくれなくなっても、私はアクアを愛し続けるよ。アクアがあの日に、私の気持ちに応えてくれた時からそう決めてるんだ」

 

 あの日の夜。はじめて「愛してる」と言えたアイに返せた言葉は正直、格好良くもなんともなかった。それでも、それでもアイの中での大切な言葉になっているなら、もう一度伝えないといけないと思う。

 

「僕もアイを愛してる。これまでもこれからもずっと」

 

 




 アクア視点完結。

 周りにどんなに恵まれなくても、理不尽に傷つけられても周囲を不器用ながらも愛そうとしたのが星野アイで、子供であるルビーやアクアにはそういう部分を愛して欲しかった。発達障害の空白の20年で産婦人科医をやって、発達障害の女性が被害にあった際の最終到達地点で地獄の光景を見続けていたからこそ、吾郎はアイのツラさを分かって上げてその凄さを認めて上げて欲しかった。

 あと9歳予定だったんですけど追加で3年分、かなちゃんを虐めるのはアレかな~と思って6歳ゴールになってしまいました。その関係上、色々と違和感も大きかったと思います。あと、後半、かなり専門的な用語とか説明ばっかりになってしまった件についても申し訳ありません。アクア視点での最終回として、これでいいのかと迷いましたが、これ以上に出来なかったので、これでアクア視点は完結。あとはRTAパートして、各ヒロイン視点。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話 100イベ

 

 RTAの終わりが、はっじまるよー! 

 

 さて、推しの子IFヒロイン全員好感度100達成RTA(ハッピーエンド縛り)もついに最終回、笑いあり、涙ありの感動の展開だらけでしたね()

 

 えっ、タイトルが違う? 何の事? 最初からこのタイトルだったよ! 走者、嘘つかない。絶対。

 

 ごほん、ごほん、さて気を取りなおして、前回のおさらいをすると、かなを卑劣な親とか事務所とか、あれこれから救出して、好感度を100にした所まででしたね。

 

 これから何をするのかと言えば…………あとはあかねの好感度を上げて、100にしてから、アイの好感度をあげてゴールするだけ! 簡単だね。あかねのコミュを延々とボタン連打して、そのあと、アイのコミュを連打していけば勝手にクリアって段階です。

 

 ちなみにあかねは原作後に唯一、アクアと付き合って、ロマンティックな行為をしたキャラクターな事もあってあまあまなデートをするイベントが目白押しかつ、アクアの本質と向き合うシーンがあり、彼女というより嫁感のあるルートになっていますので、おすすめですが、あかね以外の好感度を上げる事が困難なルートでもあります。

 

 ロマンティックな行為をすると「アクアくん、ずいぶんと手慣れてるな。中学時代にどれだけ遊んできたんだろう」となって、いざという時は頼りになって格好いいけど、可愛い所もある年下系彼氏から、いざという時は頼りになって格好いいけど、可愛い所もあるヤリ◯ンへとランクダウンします。

 

 アクアのイメージが修正されると優れた頭脳と調査力を駆使して、浮気するとすぐにバレてしまい、一気に好感度が下がり、簡単に話し合い(バッドエンド)へ行ってしまうのでハーレムルートは難易度が高いです。どちらかと言えば硬派な彼氏からヤリ◯ンに認識が下がるので、好感度を上げまくってからロマンティックな行為をして、ゴールしましょう()

 

 まあ、アイルートではロマンティックは出来ないので、アクアが遊び人気質な事を察することが出来ないから、あかねルートの浮気をするアクアに対するあれこれはないので安心して好感度上げして大丈夫です。高校生でハーレムルートをする時はラスボスはあかね。そう言われるくらいにはやっかいですが、このルートでは関係ないので、コミュって一気に好感度を上げましょう。というより、このルートで、あかねに手を出したら、母親と妹との関係を疑われるので愉快なことにはなりそうです。

 

 さて、脱線してしまいましたが、かなに構う時間をあかねに費やしたので多分90台後半はあるので、いいイベントを引かなくても適当に連打してれば、好感度100になるはずです。

 

 走者のボタン連打速度はあの高◯名人を超えると小学生の頃から有名です。魂の16連打を見せて…………えっ? 高◯名人って誰? えっ、嘘、あの連打の有名な人…………あ、うん、はい、そうですね。知らないですよね。ははは、えーっと、まあ、走者は連打が得意ってことです。

 

 あ~、さーてどんどん、イベントが流れていきますね。

 

 イベントを連打してスキップ、スキップしていきます。スキップ。スキップ。

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 あれ…………何度もスキップしてるのに行動選択画面にいかないというか戻らないぞ。

 

 

 最後にバグとか勘弁してほしい。ほんと。

 

 

 ………………というかあれっ、もしかしてこれ、エンディングに入ってる? えっ? アイの好感度100になってる? えっ、まじで? 

 

 うっそ、イベントが自動消化されてってるっぽいですけど。

 

 この場合は………………それ以外でこうなることはないみたい。

 

 えっと、説明すると、アイルートでアイの好感度が100になると、そこまでに立てたフラグとか好感度に応じたイベントを全部消化したあと、勝手にエンディングにいきます。自操作が出来ないので、これから好感度あげられません。

 

 

 つまり、どういうことだってばよ。

 

 あかねの好感度が上がらないから全員の好感度100にまであげられない。つまり再走だ。

 

 

 いやだ! いやだ! ここまで最速ペースだったのに、またやり直しなんて聞いてない。というかこのルートだと再現性が皆無だからやり直しても、おんなじようなタイム出すの無理無理かたつむり。あとちょっとなのに、ここまで来て再走なんてあんまりだ! 

 

 

 あ、あ、やばい、やばい。終わる。終わっちゃう…………

 

 

 

 

 あれ? あかねの好感度100イベが起きたぞ。

 

 ………………えっ、あかねの好感度100になってた? えっ、まじで。かなの好感度100にした時、あかねとアイの好感度100になってたって事? っという事は

 

 

 つまり……

 

 

 コロンビア! 

 

 

 あのどや顔をしても許されるという事ですね(慢心)

 

 なんか知らないですが、あかねちゃんの好感度100イベが起きたので、このまま、スキップしてれば勝手にゴールしてくれそうです。

 

 

 さて、気を取り直してこんどこそ終わりです。

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 

 

 

 スキップ中……

 

 

 

 

 さて、最後のアイの好感度100イベが来ました。

 

 アイの100イベは、雨宮吾郎としてアイを支えてきたアクアが本当の意味で雨宮吾郎から解放されて、星野アクアとして生きていく為のイベントにもなっています。

 

 原作ルートだとここから、ヒロイン達からアクアの好感度100にするイベントを起こすと、そのルートのヒロインと結ばれるわけですが、子供ルートだと続きがないので、ここで終了です。

 

 最後の言葉はアクアからアイの好感度で決まるので、アクア→アイの好感度を上げないと、朴念仁アクアになるので、出来るだけあげておきましょうね。

 

 

 

 はい、ここでタイマーストップ。

 

 

 完走した感想ですが……途中からオリチャー発動しまくって、ガバってかなをバッドエンド送りにしかけたという細かい事を除けば考えられる限りはベストなタイムが出たと言っていいんじゃないでしょうか? 

 

 細かくない? 結果が出れば細かい事なんですよ!! 

 

 結果としては、自己ベスト更新かつ、現記録から5分23秒早くゴールして、ヒロイン全員好感度100達成RTA としての記録更新となりました。ハッピーエンド縛りではもはやたどり着けるやつは居ないだろうと思うくらい差が付きましたね(どや顔)

 

 まあ、色々と総括して話したい事もありますが、それは後日に放送枠を取るので、もし時間があれば来てくださいね。

 

 長かったRTAもここで終了となります。長い間、ご視聴いただきありがとうございました。

 




星野アクアを主人公としたRTAとしてはこれで完結です。毎回、誤字脱字の訂正や感想を書いていただいたり、読者の方の暖かな応援のお陰でなんとか走りきる事が出来ました。本当にありがとうございます。あと、100イベのヒロイン視点も書く予定なので、そこまでお付き合い頂けると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。