真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ (スペル)
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番外編
番外・悠介とホワイトデー


本日はホワイトデー!!
ということで、前に聞いてみたリクエストの中で要望のあったホワイトデーを題に番外を書きました!!
現状でのヒロイン?候補たち総出演です!!そのため少し淡泊な面もあるかもしれません
要望に応えられたかわかりませんが、それでも頑張って書きました!!
皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです!!


三月十四日。誰が決めたか知らないが、バレンタインデーでチョコを貰った男子が、貰った女子にお返しをする日らしい。しかも三倍返しで…

 

「めんどくせぇ」

 

元々そういった行事を知らなかった悠介だが、どこぞの武神少女に強請られ、いやいやだが返す事となった。そしたらどこで話を聞いたのか、燕が現れ、自分もとせがんだ。最初は断った悠介だが、燕により感謝の念をちゃんと形にして伝えるべきと言われ、しぶしぶ納得。そして今日、その日が来たのだが、悠介のテンションンは低い。

だって……

 

「一応聞くが、何が目的だ?」

 

目の前に血の気の走った男子の大軍を見れば、誰だってやる気が削がれる。しかし今回は全く訳が見えないので理由を問う。

 

「決まっているだろ!!女子の好感度アップ(ホワイトデー)というイベントで、これ以上貴様に美味しい目を見させないためだ!!」

 

「はぁ~~」

 

何というか、ある意味で期待を裏切らない言葉に悠介は深い溜息を吐く。

 

「うんないい日でもねぇぞ。三倍で返せってうるせぇし、返す人数が多いと金が消えるしな」

 

むしろ辛いと続けようとしたが…

 

「うるせぇぇぇぇえええ!!俺達はな、お前みたいあ贅沢な悩みを持つこと自体許せねぇぇぇんだよ!!」

 

「俺様だって貰った時の為に、バイト代を稼いでたんだぞ!!それを全く使わないみになりやがれぇぇぇえええ!!」

 

火に油を注いだだけのようだ。もはや、言葉は不要と襲い掛かってくる男子たちを前に悠介もこぶしを握る。

 

結果は……………語るまでもないだろう。

 

朝一の激闘を終わらせた悠介は、何事もなかったかのように校舎を歩いている。

 

「なんか最近、俺とあいつらと戦うのが川神学園(ここ)の風物詩になってねぇか?」

 

「あ~~確かに、そうなってる面もあるかもな。実際何人か、賭けやってたし」

 

「だよな」

 

ゲンの言葉に悠介は「だりぃ」とため息を吐く。その姿にゲンは、静かに肩に手を置く。

 

「おい、教室目の前なんだからシャンとしろ!!」

 

「あ、わりぃけど、先にSに寄ってから来るわ。渡したい物あるしな」

 

「………気を付けろよな」

 

「不吉なこと言うんじゃねぇよ」

 

ゲンの言葉に言い知れぬ悪寒を感じながら、悠介は目的地へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大して今日を気にしていた訳ではない。確かにお嬢様に今日がいったい何の日かを知り、僅かに期待した面もある。しかし、自分が惚れ傍にいたいと思った男はそう言ったイベントをそもそも知っているかさえ謎だ。だが、知ってしまえば期待してしまう。だからだろうか、どこか落ち着かず女王蜂に「どうしたんだ今日?なんか身が入ってねぇぞ」と言われた。しかし貰えなくとも、自分はいつだって真っすぐ自分が目指すその姿勢と不屈の姿に…………

 

言うならば宝くじを買って、少し高めの賞が当たればいいかなってレベルで期待していた。その考えを与一が知ったときには、「絶対嘘だろ、姉御!!」と言われ義経には「今日はどこかそわそわしてるな。何かいいことあるのか?」と言われた。そこまで露骨だったのだろうか?(もちろん、与一は〆たが)

確かに貰えたら、凄く嬉しい。けど、きっと彼は何もしない。だって、そんな時間があるなら彼は進むために努力する。その対極ともいえる姿に、たまに見せる不器用な優しさに自分は…………

 

『私は惹かれたのだから』

 

 

寒気を振り払い悠介は、Sクラスの教室の扉を開ける。瞬間に集まる視線を感じながら、悠介は目当ての人物たちを探す。

 

「あれ?どうしたんだ、悠介君」

 

「おお、義経か。ちょっと、弁慶とマルギッテに用があってな。今いるか?」

 

悠介の存在に気が付いた義経が理由を問う。問われた悠介は適度に辺りを見渡しながら義経に告げる。

 

「弁慶とマルギッテさんだな。待っててくれ、すぐに呼んでくる!!」

 

「サンキュー。礼だ、これやるよ」

 

呼んでくれる義経に感謝の気持ちを返す様に悠介は懐からココア味の棒付きキャンディを手渡す。渡された義経は、嬉しそうに感謝の言葉を述べ、二人を連れてくる。

連れられてきた二人は、少しソワソワしている。

 

「い一体何の用ですか?」

 

「どうかしたの……」

 

「ああ、前にお前らからチョコ貰っただろ?だから、一応返さないとと思ってな」

 

何気なく返された言葉に二人の心拍が一瞬大きく跳ね上がる。バクバクと心音がうるさく全く周りの音が拾えない。心を中心に体温が上がっていくのがわかる。その全てが恥ずかしくとてつもないほどに心地いい。

気が付けば二人の前に、小包が差し出されていた。

 

「サンキューな、美味かったぜ。だから、これはその……………返しだ。受け取ってくれると助かる」

 

手を伸ばそうとする。意の一番に何よりも早くそれを手にし胸に抱えたいと思う。

 

「それじゃあ、俺は帰るから」

 

手渡したことを確認して悠介はその場を後にする。暫くの間、弁慶とマルギッテの二人はその場で静止していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、二人に渡した悠介はその後何事もなく放課後まで普段通りの時間を過ごした。そして放課後、悠介は図書室に向けて歩いている。既に連絡は送っているはずだから、その場所に彼女はいるはずだ。

そう思いながら悠介は扉を開けた。

 

そのメールを貰った時、ドクンと二回胸が高ぶった。最初はまさか(・・・)と思った。でもすぐにそれじゃないとわかると、今度はどんな要件かと更にドキドキと高揚する。そしてその答えに行き着いたとき、そうあって欲しい願望半分とそれ以上を望む緊張が半分が胸を占める。

今だって緊張をほぐすために、好きな本を読んでるはずなのに全く内容が入ってこない。むしろチラチラと扉ばかり気にしちゃってる。そして何度目かわからな開かれる音と同時に高鳴る心音と共に見れば、君がそこにいた。

 

「悠介君!!」

 

普段の彼女から少し想像できない程度の高い声で呼ばれ、悠介は少し驚きながら清楚の方へ歩いていく。

 

「待たせましたか?」

 

「ううん。大丈夫、本読んでたから全然待ってないよ」

 

清楚の言葉に軽く返し、悠介は本題へと入る。

 

「これ、前にチョコをくれたお礼です。よかったら、受け取ってください」

 

そう言って手渡すのは二つの小包。差し出された瞬間、歓喜の高鳴りとほんの少しの落胆が胸に湧く。

それでも自分のいや自分たちの為にと手渡されたそれが嬉しくて

 

「ありがとう」

 

本当に嬉しくて自然と感謝の言葉が口に出る。その感謝の言葉に悠介は、照れくさそうに頬を掻く。

 

「それじゃあ俺、まだ用があるんで失礼します」

 

「………うん、またね」

 

「うっす」

 

その言葉に嫉妬心が湧き出るが、自分には止める権利はないと必死に押しとどめ、清楚は笑みを浮かべ悠介を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校を出た悠介は、親不孝通りに来ていた。薄暗い場所を悠介は、迷うことなくその場所に向かう。

 

「邪魔するぜ」

 

「あん?なんだ、どうした?」

 

悠介の声に答えて顔を出してきた釈迦堂。その姿に悠介は軽く舌打ちをする。

 

「おい、コラ。師匠に向かって舌打ちとはどういうつもりだ!!」

 

「こういうつもりだよ!!って、そうじゃねぇ。辰子はいるか?」

 

一触即発の空気になりかけるが、即座に目的を思い出し理性でブレーキを掛ける。そして釈迦堂も悠介の言葉を聞き、ニヤニヤと面白そうな顔をする。その顔を一発殴ろうかと考える悠介だったが、何とか押しとどめる。

 

「おい、辰子!!オメェに客だぞ~~!!」

 

「う~~ん、どうしたの師匠~~~…って悠介君だ~~~!!」

 

 

釈迦堂の言葉に呼ばれ、玄関に顔を出した辰子は眠そうな目をこすっていたが、悠介の姿を視認すると先ほどまでの動きが嘘のように活発になる。

 

「わぁ~~悠介君!!今日は一緒にご飯食べよ~~」

 

「お!いいな、悠介が絡むと飯が豪勢になるからな、食って行けよ」

 

悠介を置いて話が進んでいくために、悠介は慌てて話を流れを変えるために本題に入る。

 

「わりぃいが、飯はまた今度な。今日は用があんだわ」

 

「ええ~~~」

 

「それより、これ」

 

「えっ?これって…」

 

「前のチョコの返しだ。みんなで食ってくれ」

 

差し出されたのは四つの小包。一人一人別々に用意していることに釈迦堂は口笛を吹く。差し出された物をしばらく唖然と見ていた辰子だが、意識と理解が追いつくとうねり声を上げながら悠介に抱き着く。

 

「ありがと~~~悠介君!!」

 

「うおっ!?」

 

突然のタックルに驚くが、持ちこたえる悠介。接触して感じる温かさに辰子は頬を擦り付ける。引きはがそうとするが思いの外力が強く、体勢も悪く引きはがせない。また、その姿を面白そうに見ている釈迦堂の姿が、なんかむかつく。

 

「なあ、辰子。悪いけど、そろそろ離してくれ」

 

「え~あとー五分だけ~~」

 

全く信用のない言葉を発しつつ、悠介に頬摺りする辰子。悪意があるわけでもないので、悠介も対処に困っている。

 

「大変だな~~悠介。助けてやろうか?」

 

「なんか含みがあるな、おい!」

 

「いや~なに、ちょっと梅屋で飯が食いてぇなと思ってな」

 

高校生(ガキ)に集るな!!」

 

あれこれよと口喧嘩を始める二人。しかしどこか楽しそうだ。暫く口喧嘩していたが、結局悠介が折れるで終息する。

 

「それじゃあな。今度はまた飯食わせてもらいに来るわ」

 

「む~、絶対だからね!!」

 

「おう」

 

何とか釈迦戸の協力のもとどうにか辰子を引きはがし、次の場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの中、悠介は少し遠くに足を運んでいる。そこに彼女らがいると聞いたからだ。辺りを見渡しながら悠介はお目当ての人物を探している中で、遂に彼女らを見つけ、悠介は駆け足で寄っていく。

 

 

気にしていたわけではない。自分はただこの想いを抱けるだけでも幸運なのだから……でも理性と本能がぶつかる中で、どうしても自分の理性は敗北する。だから、会いたいと思ってしまうし、他の女性と話しているのを見ているとどうしてもざわつく。その時間を大切にしてしまう、もっと関わりたいと思う。だから……………気にしない気にしないと毎日心のうちで決めているのに、どこかで期待している、自分がいる。それが………つらい。

 

心が沸き立つ。基本的に自他認めるハイテンションな自分だが、今日という日を知り少し期待してしまっている。いつもなら下がってしまうテンション時でも、心の奥底ではどこかワクワクしてる自分がどこかにいる。そんな不思議な状態が、どこか愛おしいく思え、自分が本当に変わったんだなって思ってしまう。だから、夢が見たいと思ってしまう。ホント、ファック。

 

夕暮れに照らされている二人のメイドに悠介は声をかける。瞬間、声を掛けられた李とステイシーの二人の肩がビクリと跳ねる。

 

「うん?どうしたんだ」

 

「い、いえ何でもありません。そうですよね、ステイシー!!」

 

「お、おう。なんでもねぇよ!!」

 

元気よく会話する二人に、違和感を感じる悠介だが、本人たちが大丈夫だというのだから問題なしと判断する。

 

「今、仕事か?」

 

「ええ仕事ですが、時間的余裕はありますよ」

 

「お、おう。それでなんか用か?」

 

「前にチョコ貰っただろ?だから返さねぇと思ってな」

 

そう言って悠介は小包を差し出す。

 

「う、受け取れません!!別に返しを期待して渡したわけではないので!!」

 

思考が停止しているステイシーに代わって、李が猛然と否定する。予想外の否定に、少々困った反応をする悠介。

しかし、悠介は真っすぐと李を見つめ

 

「まあ、お前がそういうなら仕方ぇけどよ………頼む、受けっとてくれねぇか?単純に俺がお前らに渡したいと思ったからよ」

 

ただ真摯に思いを告げる。その真っすぐな瞳に、李は何も言えない。

 

「マジか!!貰っとこうぜ、李!!」

 

「ステイシー!!ですが…」

 

ここにきてステイシーの意識と理解が追いつき、悠介を援護する。

 

「それにここで受け取らねぇと、相楽が恥かくぜ?そういう意味でもらえばいいんじゃねぇか。なあ、相楽」

 

「まあ、持って帰ってもどうも出来ねぇからな。そっちの方が助かるな」

 

「ほらな!!」

 

悠介とステイシーの言葉受けて李は、しばし葛藤した後

 

「わかりました。……そういう形で受け取らせてもらいます。ありがとうございます」

 

「素直じゃねぇな~~。こっちも貰っとくぜ。ロックだぜ!!サンキュー」

 

李は受け取る。ステイシーも茶々を入れながら受け取る。

 

「俺が好きでやったことだし、礼はいらねぇよ」

 

受け取りを終わらせると悠介は「じゃあな」と告げてその場を去る。その姿を二人は、じっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見慣れた道を悠介は歩いている。今から行く場所は、通いなれたもう一つの自分の通い宿のような場所。だからこそ、何というかその場所で渡すのは恥ずかしい気がする。

そうこう考えているうちに川神院の入り口にたどり着く。

 

「……」

 

しばし思考し、携帯を取り出してメールを打ち込む悠介。送信を確認し、その場で待つ。

 

 

時間の経過がここまで遅いと思ったのは今日が初めてだろう。朝になり、日課の鍛錬を終わらせ、学校に行くまでの時間がここまでとは思わなかった。そして待ちに待ったその場所に着いたと思ったら、メールで放課後に渡しに行くと伝えられた。憤怒したが、燕に説得され、どうにか我慢できた。だから、この時間になるまでが今までにないくらい長かった。ただ、心のどこかでは、そのドキドキを楽しんでいる自分がいる。待つという行為自体、自分は苦手だったはずなのに、どうしてか何処かこれだけは嫌いになれない。理由は大体想像がつくだけに凄くもどかしさに似たものを感じる。

その連絡が来たとき、感じたのは嬉しさとそのワクワクがなくなる残念な。でも、それ以上の嬉しさが生まれ、即座に向かった。

 

 

待っていた時間はおそよ三十秒ほどだろう。視認するよりも早く、風と衝撃が悠介を襲う。

 

「うおっ!?モモテメェ、普通に登場出来ねぇのか!!」

 

「ふ~~~ん、聞こえない~~~」

 

衝撃に耐えながら、悠介は襲撃者たる百代に悪態をつくが、当の本人は全く意に関していない。本人はじゃれている気分だが、悠介自身は虎に甘えられている感じがして、疲労感がヤバい。

時間にして約二分、百代は悠介にしがみ付き続けた。

 

「はっはっ………なんで会うだけでこんなに疲れないといかねぇんだよ」

 

どうにか引きはがした悠介は息を切らせながら百代を睨む。その睨みに百代は、バツが悪そうに僅かに視線を逸らす。

 

「そ、そんな事より、早く渡せよ!!」

 

「露骨に話逸らしに来たな…まあ、いいけどよ。ほらよ」

 

慌ただしく話を逸らしにかかる百代に呆れながらも悠介は、小包を差し出す。それが差し出された瞬間、百代の頬が朱色に染まり、その表情が歓喜に染まる。しかしそれも一瞬の事で、即座にいつも通りに戻す。

 

「ふ、ふん!!こんな美少女をここまで待たせるなんて、なんてひどい奴だ」

 

「………」

 

「わっ!?う嘘だ嘘!!だから、直そうとするなよ!!」

 

無言で小包を直そうとする悠介の姿に百代は慌てて先ほどの言葉を撤回する。その姿が少しツボに入ったのか、悠介は苦笑をこぼす。

 

「ッ!?」

 

その笑みを見て百代の顔は、更に朱色に染まる。いつも獰猛で少し凛々しい顔ではなく、幼い年相応の笑顔。その普段とのギャップが百代の心を打った。

 

「~~~~~~~~ッ!!」

 

「あっ!おいッ!!どうしたんだよ急に…」

 

これ以上いるのは不味い。そう思った百代は、即座に悠介から小包を奪い、川神院へと消える。その早業に唖然となる悠介。

 

「………なんか最近、モモの奴おかしくねぇか?」

 

たまに見せる普段からは想像できない行動に疑問を持つが、まあ仕方ねぇかと割り切り、あとで連絡を取ればいいだろうと思い、悠介は帰路に着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰路に着き、悠介は居候させてもらっている松永家にたどり着く。

 

「さて、あとは二つだな」

 

残りの人数を確認するように呟き、悠介は玄関の扉を開ける。帰宅を伝えると悠介は一度部屋に戻り、机に置いていた二つの小包を手に取り、居間へと向かう。

 

 

好きな人へと思いを込めて手渡したチョコ。それが特別な日(ホワイトデー)とか関係なく、その渡した人から感謝の気持ちが形となって帰ってくる幸福感は、本当に恋する少女にしかわからない幸せだろう。例えそれが、美咲さんに言われ仕方なくからの行動でも。自分は知っているから、その為に彼が必死に悩んでいたのを知っているから。そしてそれをおくびにも出さない姿が、少しかっこよくて………

だから、今年も同じだと思っていた。………でも全く違った。特別な日(ホワイトデー)の日にお返しが来る。そう分かったとき、いつもよりも心がはねた。ただ、いつもの幸せが前倒しになっただけのに、その日の意味を理解していると、いつも以上の高鳴りが内側から自分を染め上げる……………そして悔しいかな嬉しいかな自分は、逃れるすべがない。

 

 

不幸な自分が彼に渡せれた。その事実だけで一生分の幸運を使い切ったような気になった。そしてそれでもいいと思っていた………だから、その日の事燕から聞いたとき、本当に?本当に?と何度も自問自答した。こんな自分が、そんな幸せを幸運を感じでいいのだろうか?その事を燕に問いかければ、物凄く怒られた。でも仕方ないじゃないか、自分はずっと不幸だったのだ……それに光をくれ前に進む勇気すらくれたのだ。それは自分にとって、身に余る幸運のはずであり、宝だ。なのに、それ以上を貰っていいのか?後で、彼らを巻き込んだとんでもない不幸が降りかかるのではないか?と思ってしまうほどだ。でも、そんな自分を前を向かせるのは、やっぱり彼の言葉で……本当に自分が彼に救われ、その想いを抱いていると自覚する。

 

 

悠介が居間に顔を出せば、燕と天衣の二人の視線が集まる。もともと時間をかける気がなかった悠介は、さっさと終わらせようと手に持っている二つの小包をそれぞれに投げ渡す。

 

「わっ!」

 

「っ!」

 

二人は不意のそれを驚きながらもとても優しくキャッチする。

 

「前のチョコの礼だ…言っとくが、文句は受け付けねぇからな、燕」

 

昔からもう少し女の子が好む物を買ってくるべきだと、小言を言われ続け更にそれを母親に告げられた。だからこそ、悠介は先に釘を刺す。先に言われた燕は、面白くなさそうに唇を尖らせる。しかし、久信が見ればその顔は必死に弧を描かんとする自分の表情を隠さんとしているように見えるだろう。

一方の天衣は、投げ渡された小包を満面の笑みで胸付近で抱え込んでいる。その瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいる。

 

「うんじゃあ、ちょっくら修業に行ってくるから、飯が出来そうになったら連絡くれや」

 

そう言って悠介は、再び出かけるために背を向ける。瞬間、「悠介君」と呼ぶ燕と天衣の声が聞こえる。天衣はともかく燕になんか言われるのかとめんどくさそうに振り向く悠介。

 

「んだよ…」

 

「ありがとう、凄く嬉しいよ」

 

「悠介、本当にありがとう。自分にはもったいない幸運(プレゼント)だ」

 

僅かに朱色に染まった頬で見せる、あまたのファンを更に魅了し、新規のファンすら増やせるであろう笑み。歓喜の涙ゆえに、うるっとなった瞳と朱色に染まった顔で、本当に幸せそうな笑顔。

二人はただ感謝を述べる。真っすぐな善意にどう対応していいかわからず、悠介はバツが悪そうに、視線を逸らし何も言わずに家を出た。

 

 

 

 

 

聖なる日から一か月後の今日。恋する数人の少女たちに届けられたプレゼント。

 

ある朱色の髪を持つ者は、その日以降、主の家に赴くときに、あるぬいぐるみを携える。

ある偉人の申し子は、その日以降、櫛をもちよく髪を整える姿を見る。

一つの体に二つの自我を持つ者は、その日以降、お気に入りのしおりを携え今まで以上に楽しそうに本を読み。もう一人の彼女は、その日以降、ある髪留めを毎日つけてきた。

家事を切り盛りする眠れる少女は、その日以降、携帯に己の好きなメロンのストラップを付ける。

アメリカンなメイドは、その日以降、お気に入りの音楽が一つ増えたと毎日フラッシュバック時など事あるごとにその音楽を聴いている。

寡黙なメイドは、その日以降、手首に薄緑のミサンガをつけ始めた。

幼いながらも武神と呼ばれる少女は、その日以降、自分のカバンに好物のモモをあしらったストラップ人形をつける。

幼馴染の少女は、その日以降、可愛いペンを持ち歩きメモなどに使っている。

自身を不幸と呪うも者は、その日以降、お守り型のストラップを常に持ち歩く。

 

彼女たちにとって、プレゼントは何でもよかったのかもしれない。ただ自分の想いに、彼がちゃんと向き合ってくれた。その事実こそが、彼女たちにとって本当に嬉しいことなのかもしれない。

 

 




如何でしたでしょうか?
プレゼントは、彼女たちに合っていましたかね?自信ないです・・・
また来年、書けそうなら今度は一人にスポットを当てようかな?

よかったら、感想をお願いします!!


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番外・悠介とバレンタインデー

お待たせしました!!
更新が早くなると言いながら、二週間ほど間を開けてしまってすみませんでした!!
連続で入るバイトのせいで、創作意欲を削がれてしまっていました。

これ以上待たせる訳にもいかないと、昨日からバイトで時間を取られながらも番外編を書きました。
題目は、バレンタインデー!!

ヒロイン?候補達が総出演します。その為一人一人の描写が短いです。

若干遅れてしまいましたが(本当は数十分前に投稿すべきなのですが・・・ギリギリ大丈夫ですよね?)まあ、取り合えず楽しんでくれたら嬉しいです!!




バレンタインデー。正式には、殉職した聖人ウァレンティヌスに祈りを捧げる日で在ったが、近年の日本では恋する乙女たちと野郎どもの聖戦となっている。

それは人外魔境と言われる川神でもさして変わらない。

 

いや、むしろ欲望に忠実なメンツが多い分、より賑やかで殺伐としているかもしれない。

 

 

そんなある種の野郎どもの戦闘日であるにも関わらず、相楽悠介は変わることなく、いつも通りに登校していた。

 

 

「ねみぃ」

 

 

そうこぼしながら学校の門をくぐり、静かに教室に向かう悠介。その中で、ふとした違和感が悠介に過る。

 

 

「??・・・・何でこんなに殺気だってんだ?」

 

 

しばし辺りを見渡した悠介は、違和感に気がつく。そう殺気立っているのだ、男子たちが。

疑問を感じながらも、Fの教室に辿り着いた悠介は、その疑問を解決する。

 

 

「なるほどね」

 

 

悠介の目に飛び込んできたのは、机の上に多くのチョコをのせているゲンと風間の姿とその二人を射殺さんばかりに睨み付けるガクト達の姿。

 

 

「あ~そう言えば、そんな日だったな」

 

 

その光景を見た悠介は、今日一日が平和に過ぎる事はないと言う、欲しくもない確信を得る。

 

 

「めんどくせえ」

 

 

小さくため息をこぼしながら呟かれたその一言は、誰にも聞かれる事無く空気に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

その後は、一応平穏な時間を保っていたが、それが崩れたのは放課後だった。そしてその原因となったのは、他でもない悠介本人だった。

 

 

「やっほ~」

 

 

ホームルームも終わり、誰もが教室から出ていこうとした、その時弁慶が、気の抜けた声と共に教室に入ってきた。

瞬間、一部の男子を除いた野郎どものテンションが跳ね上がる。

誰もが淡い期待を持つが、現実とはいつも非常である。

 

教室に入ってきた弁慶は、迷う事無く悠介の元に歩いてきて

 

 

「渡したいものがあるから、後でだらけ部に来てくれない?」

 

 

川神水を飲みながら要件を伝える。

 

 

「今は、ダメなのか?」

 

 

「今でもいいんだけどね・・・雰囲気作りって大切だと思うんだ」

 

 

「??。まあ用もないし、良いぜ」

 

 

「うん。それじゃあ、待ってるから」

 

 

悠介の了承を得た弁慶は、鼻歌を歌いながらご機嫌に教室から出ていく。

それを確認した悠介は、席を立ちゆったりと拳を握る。

そして

 

 

「「相楽を教室から出させるなーーーーッ!!」」

 

 

ヨンパチとガクトの言葉を合図に、開戦。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か最近、おめえらと戦う事が多い気がするんだが・・・気のせいか?」

 

 

多くの生徒を床に沈めた悠介は、ふとした疑問を口にする。時間にして三十分前後。はじめはFクラスの面々だけだったが、少ししてからは他のクラスメイトも参戦して来たのだ。

悠介の言葉に誰も答えない。誰もが無念の涙を流している。

 

 

「相楽悠介、少し・・どうしたのですか、これは!!?」

 

 

「マルギッテか。いや、何か急に襲い掛かってきたんだよ」

 

 

「急に?そう言えば、弁慶が先ほど・・・・なるほど、理解しました」

 

 

「そうか??」

 

 

当たりの状況に驚いたマルギッテだが、持ち前の頭の良さで即座に理解する。

 

 

「それで、俺に何か用があったんだろ?」

 

 

一人納得しているマルギッテに問いかける悠介。その言葉を聞いたマルギッテの表情が僅彼の揺らぐ。

 

 

「え・・・っと、その・・」

 

 

「??。どうしたんだ、おい」

 

 

「も問題ありません!!」

 

 

急に言いよどむマルギッテに疑問を持つ悠介。

悠介の言葉に答えながらも、マルギッテの心を占めていたのは胸の動悸の速さだった。

 

 

(な何を今更、焦ってるのです!!)

 

 

覚悟も決意も決めた筈だ。自分のこの感情に名前を付けた時から・・・それなのに

 

 

(なぜ、こうも簡単に崩れてしまうのだ)

 

 

彼の声を・・・決意に染まったその顔を見るだけで、自分は今まで下らないと嘲っていた、それに陥ってしまう。

女と見られるのは嫌いなはずなのに、彼のそう扱われると、嫌な気尚欠片も起きない。

むしろ、異常などの満足感とそれ以上を望んでしまう。

 

 

「おい!顔が真っ赤だが、マジで大丈夫か?」

 

 

「問題ありません。それよりも、これを・・・」

 

 

「これってチョコ・・か?」

 

 

言え、ずっとずっとシュミレーションして来たではないか!!今言わずに何時言うのだ

 

 

「ぶ部下からの私へのプレゼントです。余りにも量が多く、食べきれないので・・・」

 

 

「ああ、それでか。でも、良いのか?これ結構高い奴だろ?」

 

 

「だ大丈夫です。お嬢様には、後で渡しますし・・・」

 

 

バカ。何を言っている・・・そうじゃないだろう。これでは、他のメンツに敗けてしまうではないか。決めた筈だ、絶対に負けないと・・・それなのに・・

後悔の念が、マルギッテの胸を過る。

しかし、それは次の悠介の言葉によって、完全に消失する。

 

 

「あんがとな」

 

 

「あ」

 

 

感謝の言葉と共に手から無くなる重量感。ただ、感謝された事が何よりも嬉しくて・・

 

 

「そ、それでは私はここれで」

 

 

「おう、またな」

 

 

僅かに見せた悠介の笑み。それを見た瞬間に、胸の中から湧き上がるそれを押しとどめながら、マルギッテはその場を後にする。

その朱色の髪と同じ位に朱色に染まった、顔を見られたくなくて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、そろそろ弁慶の所に行くか・・って、うん?」

 

 

歩き出そうとした悠介だが、携帯の着信音がその足を止める。

 

 

「清楚先輩からか」

 

 

メールの内容はこうだった。『今から、図書室に来れないかな?』

 

 

「・・・・まあ、先輩の方を優先するか」

 

 

少し考えた悠介は、年上である清楚の方を優先すると決め、図書室に向かって歩きだす。

 

地に伏した男どもから溢れ出す怨念に気づかないフリをして

 

 

 

 

彼女が座っている場所だけは、空気そのものが違っている。悠介は、何度見てそう思わずにはいられなかった。

それはたぶん、彼女のようなタイプが自分の周りには少ないからだろう。

 

 

「待たせた・・っすか?」

 

 

「ううん。待ってる時間も楽しかったから、問題ないよ」

 

だって、君を待つドキドキが、ずっと私を・・・・

 

 

悠介の問いに清楚は笑みをこぼしながら大丈夫と答える。そう言って席を立つその立ち振る舞いは、万人が見ても清楚だと言うだろう。

 

 

「それで何の用だ・・っすか?」

 

 

「あ、うん。いつも私達(・・)の相談にのって貰っている。お礼と思って」

 

 

「うんなもん。気にしなくていいのに」

 

 

「そんなのはダメだよ!!」

 

君には本当に感謝してるんだよ。私の重荷を一緒に背負ってくれて、私の全てを認めてくれて・・・この想いを私に自覚させてくれてんだから

当たり障りな言葉じゃ、伝えきれないモノが君にはあるんだよ。

 

 

悠介の言葉を力強く否定した清楚は、カバンの中から綺麗にラッピングされた二つのチョコを差し出す。

 

 

私達(・・)のお礼。しっかり受け取ってね」

 

 

差し出されたチョコを見た悠介は、諦めた様に受け取る。

 

 

「これって、手作りっすか?」

 

 

「うん、そうだよ」

 

君には一から作った物じゃないと、いけないって決めてるんだから

 

 

「性格で出るっすね」

 

 

「うん。そうだね」

 

 

「ありがとうございました」

 

 

「うん、また相談にのってね」

 

 

「俺で良ければ、喜んで。あいつ(・・・)にも、伝え解いて下さい『さんきゅー』って」

 

 

「うふふ、わかりました」

 

 

そう伝えて図書室から退室した悠介。その姿を最後まで見ていた清楚は、その表情は何処か残念そうだ。

 

あ~あ。こんな時、同い年で甘えん坊のキャラなら、君は頭を撫でてくれるかな?渡せたら満足できるはずだったのに、君といるとどんどん溢れて来る願いを止められない・・違う止めたくないんだ。

独占したい。皆よりも、誰よりも・・・・でも、それじゃあダメ。

もっと、強くならないとね、君の隣に立てるぐらいに・・・・そうでしょ、()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図書室から出てきた悠介。今度こそと弁慶のいる場所に向かおうとした、その時

 

 

「漸く見つけだぜ!!」

 

 

「本当ですね」

 

 

「うん?」

 

 

よく出会うメイドコンビの声が足を止めさせる。

 

 

「おう、二人とも。どうしたんだよ、俺を探してた見てえだが?」

 

 

悠介の問い。その問いにステイシーと李の二人は、若干の不安を顔に見せながらチョコを悠介に手渡す。

 

 

「どうしたんだよ?」

 

 

「いえ、メイド仲間たちと作ったチョコです。仕事仲間全員に渡したのですが、余ってしまったので」

 

 

「おめえにやろうと思ってな。こんな美女から貰えるんだ、ロックだろ?」

 

 

二人ともいつもと変わらないが、心情は全くの逆だった。

上手く受け取ってくれるでしょうか?

いつも通りに振る舞えているか?

 

二人の胸の内に在るのは、受け取ってくれるかと言う不安だけだ。

しかし、それは即座に安堵に変わる。

 

 

「貰えるなら、貰っとくわ。さんきゅうーな、二人とも」

 

 

「いいえ。元々、あまりものですのでこちらこそです」

 

嘘です、それは私が作った中で一番の自信作です

 

 

「まあ、こんな美女からのプレゼントだ。受け取らないなんて言う、ファックな事は出来ねえだろ」

 

こんなにも嘘つくの上手かったんだな、私って。昨日の夜からドキドキで眠れなかったくせによ・・・こんな現金な性格だっけか?

 

 

「それじゃあ、俺いくわ。呼び出されてるんだわ」

 

 

「そうですか、お引き止めして申し訳ございません」

 

もっと、少しでもいい、私と話していてください

 

 

「まあ、あたしらも仕事あるしな」

 

何で、こんなにもタイミングが悪いだよ、クソ

 

 

背を向けて歩く悠介を見た二人もその場から消える、更なる決意を胸に。

(この二人は、未だに意識するシーンが登場してないので、結構ラフです。期待していた皆様には、申し訳ないです)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さして時間も駆けずに、五つのチョコを手に入れた悠介は、漸く弁慶の元に辿り着いた。

ゆっくりと、何時もだらける場所に使っている教室の扉を開ける。

 

 

「遅いじゃん。何してたの?」

 

 

「いいだろ別に?つか、川神水飲んでんだから、さして時間も気にしてねえだろ」

 

 

「まあ、ね」

 

嘘。来ないかもって言う不安を消すために飲んでたんだよ

 

 

「それで、何だよ渡したいもんって」

 

 

畳に座りながら悠介がか問いかける。

 

 

「それよりも、遅れた罰。私にお酌しな」

 

 

「・・・時間を指定してね奴が言うセリフかよ」

 

 

「ほら、はやくぅ」

 

 

「ちぃ、ほらよ」

 

 

「うん」

 

これ以上めんどくさくなる前に言う事を聞いていた方が利口だな。と判断した悠介は、ゆっくりと弁慶の酌に川神水を渡す。

悠介から川神水を受け取った弁慶は、ゆっくりと身体を横に倒し

 

 

「う~~~ん」

 

 

「おい、何の真似だ」

 

 

悠介の膝に頭をのせる。世間一般的に言う、ひざまくらの体勢だ。まあ、悠介が胡坐をかいているから、若干歪ではあるが・・・

 

 

「暫らくこうさせてくれたら、許す」

 

 

「・・・・わあったよ」

 

 

「よろしい」

 

温かい。決して寝心地が良いとは言えない筈なのに、この温かさがあるだけでそれが最高級のベッドに変身するんだから、私も染められてるね~

 

数分間、じっとその温かさを味わっていた弁慶。

そして、もうちょっと楽しみたいけど、これ以上するとねむっちゃうから、ダメだね。

 

「もういいのか?」

 

 

「まあね」

 

 

そう言って起き上がった弁慶は、のそのそと目的の物を悠介に手渡す。

 

 

「はい。これを渡したかったんだ」

 

 

「これってチョコか・・」

 

 

「うん、今日はバレンタインでしょ?その・・だらけ仲間に友チョコをって思ってね」

 

何であの二文字が言えないんだろう。口に出すのは簡単な筈なのに、答えを聞くのが怖すぎて、今の関係が壊れるのが恐ろしくて・・・とても口に出せない。

自分に勇気をくれた、大好きな彼に・・・その気持ちを伝える事が

でも、いづれは必ず伝える。誰よりも早く、一番に・・・

 

 

「さんきゅう。また、一緒にだらけようぜ」

 

 

「うん。その時は、またお酌してね」

 

 

「ぬかせ」

 

 

そう言って立ち上がって、部屋から出ていった悠介。

弁慶は、ゆっくりと悠介が座っていた場所まで移動し

 

 

「よっこらしょ」

 

 

あの温かさを感じながら、眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

要件を全て終わり、貰ったチョコをかばんに詰めた悠介は、グラウンドの前で仁王立ちしていた。

理由は簡単だ。先ほど、沈めた筈のガクト達が復活して、待ち伏せしていたのだ。

 

 

「はあ、今日は一段としつこくねえか?」

 

 

呆れながら紡がれた悠介の言葉。それに反応するように野郎どもの殺気が跳ね上がる。

 

 

「黙れッ!!この学園を代表する美少女ばっかから、チョコを貰いやがってッ!!一個ももらえねえ、俺様達の恨みを思い知りやがれッ!!!」

 

 

「しかも、九鬼のメイドの姉ちゃんからも貰ったって情報も上がってるんだぜッ!!これはもう、許しておけねえぜッ!!」

 

 

「うん、まあそんなこったろうとは思ったが・・・おめえまで参戦するとは思わなかったぞ、師岡」

 

 

「ち、違うよ!!これはガクト達が無理やり・・」

 

 

「はっ!今更、ビビってんじゃねえぞ、モロ。おめえだって、俺様達の意思に賛同したじゃねえか」

 

 

「それと実際に行動するか、別でしょうが!!!」

 

 

「覚悟はいいか、相楽よ。今の我らは死兵・・・故に強い」

 

 

「みてえだな、めんどくせえ」

 

 

ガクトとモロの会話が成される刹那にも、ヨンパチが悠介に宣戦を告げる。

悠介が拳を握る。男どもが力を込める。

 

瞬間、悠介の右隣に誰かが落下して来た。

 

 

「は?」

 

 

男の誰かから零れた言葉。今からと言う時の出来事、毒気を抜かれかけるが即座に気を持ちなおす。

そして肝心の悠介と言えば、落下して来た見知った相手に向かって言葉を発す。

 

 

「いきなり、跳んでくるんじゃねえよ、モモ」

 

 

「見つけたぞ、悠介」

 

 

落下して来た百代は、悠介を見つけると嬉しそうな声を上げる。

 

 

「ちょっと、話がある。少し付き合え」

 

 

「今は無理だ」

 

 

「なっ!こんな美少女のお誘いを断るとは、どう言う事だ!!」

 

 

「見て分かれ、今は立て込み中だ、バカ」

 

 

そう言うわれ、百代は漸く周りの状況を把握する。

 

 

「わあったら、どっかに行って・・」

 

 

ろと言おうとした悠介だが、同じく肩を並べた百代の姿に言葉が止まる。

 

 

「どう言うこった?」

 

 

「私は、今お前と話したいんだ!!だから、協力してさっさと倒すぞ」

 

 

百代の提案・・・僅かに呆けた悠介だが、直後に笑みに変わり

 

 

「こうやって、お前と肩を並べて同じ目線で戦うのは初めてじゃねえか?いつも、お前は先にいたからな」

 

 

「ふっ。ああ、相手が役者不足だが、お前と共に戦えるなら、私はそれでいいぞ」

 

 

「足を引っ張えうんじゃねぞ」

 

 

「誰に言っている?」

 

 

そう言いながら肩を並べる二人。周りの男どもは、余りの流れに驚愕して固まっている。

しかし、彼と彼女は止まらずに

 

 

「いくぜ」

 

「ああ」

 

 

共に地面を駆ける。

結末は、最早言うまでもないだろう。

 

 

 

「それで、話って何だよ?」

 

 

大量の男子たちをグラウンドに寝かしつけた悠介は、同じく大量の男子を沈めた百代に話しかける。

 

 

「えっ!ああ、これを渡したかったんだ」

 

 

そう言って百代は、一つの箱を投げ渡す。

 

 

「おっと。これって、もしかしてよ・・・」

 

 

「ふふん!!この私の手作りチョコだ。ありがたく受け取れ」

 

 

「まあいいけど、何で手作り?売ってる奴で良くねえか」

 

 

「そ、それは・・・」

 

お前には他の誰かが作った物じゃなくて、私が作ったのをを食べて欲しいんだ。

 

 

悠介の疑問に百代は言いよどむ。ただ、伝えるだけなのに・・・・・お前の前だとそれすら叶わない。理由は簡単、お前が真実を知った時に出る言葉が、知りたくて知りたくて・・知りたくないんだ。

そこに武神と言われた少女はいない。お前の前では、簡単に年頃の少女になっちゃうんだよな。

 

 

「・・・言いたくねえなら、言わなくていいけどよ。味は、大丈夫だよな?」

 

 

「なっ!!お前は、私を何だと思ってるんだよ」

 

 

怒鳴りながら悠介に近づく百代。しかし、その怒りは即座に発散する。

 

 

「わりぃわりぃ。心配すんなって、どんな味でも貰ったからにはしっかり食うからよ」

 

 

そう言いながら悠介は、百代の頭を優しくなでる。

文句を言おうとした百代だが、頭から伝わる温かさが、全ての行動を停止させる。

気になる事を言われた筈だが、耳には入って来ない。今はただ、この温かさを全身で味あわなければ、勿体なさすぎる。

 

燕はたまにこれをしてもらっているんだよな?・・・本当に羨ましいぞ

全身に奔る心地よさを感じながら、湧き上がるのは嫉妬に似た感情だが、頭から伝わる温かさが、その暗い感情を失くさせる。

 

何時もなら、その感情に染まってしまうはずなのに・・この感情に気がついてからは、そればかりに支配されてしまう。

ホント、この私をこんなにした罪は払ってもらうからな。例え、他にも誰かがいたとしても・・・絶対に私だけに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫らく百代にねだられて、頭を撫でていた悠介だが、漸く解放され家に帰っていた。

 

 

「漸く解放されたぜ。・・・それにしても、モモの奴最近急に甘えだしてきたよな?何の心変わりだ?」

 

 

今までと変わり出した悪友の姿に疑問を持つ悠介。思考する彼の耳に、再び声が届く。

 

 

 

「あっ!悠介君だあ~」

 

 

「お、辰子じゃねえか。今日も昼寝か?」

 

 

悠介は、掛けられた声の元に歩いて、そこに腰を下ろす。辰子は、悠介が隣に座ったと言う事実だけでご機嫌になっていく。

 

 

「違うよぉ。今日は、悠介君を待ってたんだ~」

 

 

「そうだよ~。はい、これ。アミねえと天ちゃん後は、竜ちゃんからのチョコだよ~」

 

 

そう言って辰子は、三つのチョコを手渡す。若干一名おかしいのが混じっているが、気にしてはいけない。

手渡された悠介は、ありがとなって伝えといてくれと言う。

悠介の言葉を受け取った辰子だが、うずうずと身体を震わせ

 

 

「もう我慢できない~」

 

 

「ってうおっ!」

 

 

悠介に向かって抱き付く。柔らかな温かさが悠介を包み込む。急な突撃の為、悠介も耐え切れずに地面に横になる。

 

 

「辰子、急になに・・・」

 

 

しやがると言葉を続ける事が出来なかった。理由は至極簡単、悠介の口を辰子が差し出したチョコが閉じたから。

口の中に広がる甘さを感じながら悠介は、驚きに顔を染める。

その表情を見た辰子は、嬉しそうに懐からもう一つのチョコを悠介に差し出す。

 

 

「えへへ~。はいこれ、私のチョコだよ~」

 

 

そう言う辰子の表情は、嬉しさと恥ずかしさで赤く染まっている。しばし至近距離で見つめ合う二人。

 

そんな中でも辰子は、ぎゅうっと悠介に抱き付く。

辰子は顔を悠介の胸に埋めながら、その温かさをその身に移す様に、優しく甘えるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫らく固まっていた悠介だが、漸く意識が戻った頃、辰子は満面の笑みを浮かべながら夢の世界に旅立っていた。

このまま寝かしつけておく訳にもいかず、家までおぶって送った悠介。まあ、その直後釈迦堂とひと悶着あったが、訳だが・・・

漸く家に辿りつき、ゆったりとした時間を過ごしていた。

 

 

「悠介君?入るよ」

 

 

「あ、どうしたんだよ?」

 

 

部屋で、ゆったりと空を眺めて居た悠介は、突然部屋に現れた燕に問いかける。

 

 

「これ。悠介君に郵便だよ」

 

 

「俺に?」

 

 

手渡された小包には確かに自分の名前が刻まれている。誰からかと、開けようとした悠介の視界に、一つのチョコが現れる。

今、これを持っているのは自分に渡すのは、一人しかいない。

 

 

「大分遅くなっちゃたけど、バレンタインチョコだよ」

 

 

「うん、さんきゅう」

 

 

悠介は、小包を机に置いてから燕からのチョコを受け取る。恐らく最多で貰ってあるであろうチョコだ。今更、気負う必要などない。

 

 

「そう言えばさ、今年悠介君ていくつチョコを貰ったのかな?」

 

 

そしてこの質問もある年から毎年のように問われている。だから、特に疑問に思う事無く答える。

 

 

「確か・・・九つか」

 

 

「そうなんだ。今年は多く貰ったね~」

 

やっぱりみんな渡してる。当然だよね、今日はそう言う日なんだから

だから、こんな事で一々目くじらを立ててもしょうがない

まあ、独占したいって気持ちがないわけでは無いが・・・

 

でも・・・

 

コテン

 

 

「燕?」

 

 

「いや~今日は疲れたからね~。少し肩貸して・・・」

 

今からは私の時間なんだよ。誰にも邪魔はさせない。

 

 

「・・・しゃーねえな」

 

 

右肩に若干の重さを感じながらも、悠介は燕に肩を貸す。理由を聞かれれば、説明しずらいが、何処か今の表情がそうさせた。

 

 

「星・・・きれいだね」

 

 

「そうだな」

 

 

言葉は少ない。二人は、静かに空を眺める。

 

今、私と悠介君は同じ景色を見ている。そう考えるだけで、誰よりも君を手に入れた気になる私を君は安い女だと思うかな?

わかってる。これは自己満足、君には何の特もない・・・だからこそ、お互いにそう思える位置に辿りつきたい。誰よりも君を知る位置に・・・・絶対に

 

 

一人の少女がそう思うと同時に、空を一つの流星が流れた。

 

 

「燕?」

 

 

「う~ん」

 

 

「寝たか・・・しゃあねえな」

 

 

燕が寝た事を確認した悠介は、ゆっくりと抱き上げる。俗言いうお姫様抱っこと言うやつだ。

そしてそのまま、燕の部屋の布団に寝かせる。

そしてゆっくりと、部屋を後にする。

 

 

「俺もそろそろ寝るか」

 

 

部屋に戻った悠介は、背伸びをする。その瞬間、悠介の視界に小包が映りこむ。

 

 

「そういや、これって誰からの・・・」

 

 

そう言いながら小包を確信した悠介の声がふと止まる。そしてその表情に薄い笑みがこぼれる。

 

 

「そっか、あいつ(・・・)からか」

 

 

中身は手作りチョコだった。そしてその差出人の名を見た悠介は、嬉しそうな表情を見せる。

 

 

「頑張ってるじゃねえか・・・前向きによ」

 

 

そう言って一口サイズのチョコを一つ口に放り込む。

そして、今日チョコをくれた全員に感謝を込めて

 

 

「ありがとう」

 

 

ただ、一言、有り触れた感謝の言葉を述べた。




どうでしたでしょうか?
違和感なく、彼女達を描けたでしょうか?
久しぶりなので、違和感とか此処は違うって言う部分がありましたら、教えて下さい

最後にちょろっと示唆されたのが、一応現在での最後の候補です
誰かは、登場をお楽しみに!!

現在、本編の方もゆっくりとですが執筆中です!!
ですので、もうちょっとだけお待ちください

良かったら、感想をお願いします


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番外編・燕と(初めての)バレンタインデー

今回は間に合いました!!
第二弾の番外編のバレンタインデーです
前回の様にすべて出演ではなく、一人のヒロイン?候補にスポットを当てて書いてみました

いまだに自分の感情に振り回される燕を楽しんでくれたらいいかなと思います
後半は、少し雑になってるかもしれません
違和感かとかあったら、また連絡をお願いします


その日は、少女燕にとって特別な日だった。普段の通学路が果てしなほどに遠くその足がい。さらにその場所に向かうにつれ、自分の心臓が信じられないほどに鼓動を早く刻み、顔が朱色に染まっている事を否応なしに自覚してしまう。

理由は分かり切っている。今、自分のカバンの中にある、両手で収まるほどの大きさの小包が原因だ。

 

―――――うぅ、ちょっと包装変じゃないかな?…味も大丈夫だよね?ちゃんと確認したから大丈夫だよね…

 

何度目かわからない自問自答。決めれば即決を信条としている自分にはあるまじき失態。昨日の夜から今朝にかけ、四苦八苦していたので時間もぎりぎりだ。その娘の姿に、出発の準備をしていた母親であるミサゴは苦笑をこぼしてた。

普段なら気が付くそれにすら気が付けないほどに、燕は緊張しているのだ。

 

そうやってうむうむと悩みながら歩いている燕。そんな彼女の耳に、それもかなり近くから

 

「なに変な声出してんだ?」

 

「きゃ!!」

 

今一番聞きたい声であり、一番聞きたくない声が届く。

 

「どうした?」

 

あまりにも変な声を出したためか、声の主である悠介は不思議そうな顔をして自分を見つめている。

 

「な、なんでもないよ、悠介君」

 

「そうか。それじゃあ、さっさと行こうぜ。お前待ってたら、ギリギリだ」

 

ふと告げられた言葉に、燕の心は満たされる。

 

――――待っててくれたんだ…黙っててくれてたら、もう少しよかったんだけど…悠介君らしいね

 

そんな不器用で全く意識せずに放たれた言葉。自分の為に。そう思うだけで、心の内から何とも言えない満足感があふれ出る。

少し先を歩く悠介の後を燕は、斜め右後ろの位置からついていった。

 

松永燕、中学一年生。相楽悠介、小学六年生。

燕が自分のその感情に気が付き、初めて迎えるバレンタインデーの日である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく同じ道を行き、二人は別れ燕は自身の中学の教室にたどり着く。ふと扉を開ければ、バッ!と突き刺さる目線が燕に集まる。特に男子生徒からは露骨だ。

 

――――あはは、みんな男の子だね~~

 

突き刺さる目線を母親仕込みのそれで回避しながら、燕は自分の席に座りカバンから荷物を取り出している中で、燕はあるものに気が付き、驚嘆の顔をする。

 

「おっはよ~~つば…ってどうした!!そんな世界の終りのような顔をして!!」

 

燕が席に座ったのを見計らって友人が挨拶に来たが、その余りにも重い空気を纏っている姿に驚愕の声を上げる。

 

「う、うん。大丈夫何でもないよ…」

 

「そそう?ならいいんだけど」

 

――――悠介君にチョコ渡すの忘れてた!!あ~~私のバカ~~~!!

 

行き道中は、何気ない悠介の言葉に幸せを感じてしまい。完全に渡すことを忘れていた。

 

「それにしても冬休みに期間に実力テストしかも5限とかだるいよね~~」

 

「確かにね」

 

「しかもよりにもよって、バレンタインデーの日にするなっつの!!」

 

乙女の純情返せ。と叫ぶ友人。その言葉にクラスの男子が反応する。その言葉につられ、何人かの友人が燕の周りに集まる。

 

「でも男子たちにとっては、ラッキーなんじゃない?学校に来れば、義理チョコ(おこぼれ)でももらえるかもって思ってるよ、絶対!!」

 

「確かにね~~」

 

きゃきゃと女子トークに花を咲かせる燕たち。そんな中、ふと最初に声をかけてきた友人が燕に問う。

 

「そういえば、燕は誰かに渡す予定とかあるの?」

 

瞬間、今までにないほどに教室の中が殺気立つ。その言葉に燕は、一度チラッとカバンに視線を向けた後、いつものように笑顔を作りながら

 

「ふふ。内緒だよ~~」

 

いつもの声音で告げた。しかし一瞬浮かんだ彼の顔のせいで、わずかに頬が朱色に染まった。

その言葉に男子たちのボルテージが上がり、女子たちは教えなよ~と燕に追及した。

 

 

 

 

その後、無事にテストも終わり、燕は帰宅の準備をしている。その顔色はわずかに疲労で染まっている。別段テストでの疲労ではない。ただ、ある1点がその理由だ。

 

――――ふぅ~今まで意識してなかったけど、こんなにも露骨だったんだね。

 

今までは大した意味も持たない日だから全く意識していなかったが、その日をその感情を自覚して迎えると、その意識していなかったものまで把握してしまう。

正確に言えば、男子たちのアピールだ。露骨なものはないが、燕に聞こえる声で、自分の凄い所や自分がいかに優しいかなどを告げているのだ。

この話を聞いて、もしも余り物のチョコでも貰えればと期待しているのだろう。そしてそこから仲を発展させれ得ればと考えていそうであり思惑がスケスケである。

 

――――そもそも、そんな回りくどい真似しないで真正面から何か手を打てばいいのに…

 

深いため息とともに燕はそんなことを考える。別段策を弄することは悪いとは言わないが、単調すぎる。大体言葉だけで行動を見ずに何も判断できないだろうと燕は思う。

そんなことを考えていると、クラスが少し騒がしくなる。なんだと思い視線を向ければ、自分の近くに一人の男子生徒がいる。顔立ちは整っている方だろう、その顔を見て燕は確か、学年で一番イケメンと称されるバスケ部所属の男の子だと辺りをつける。

 

「えっと、松永さん。今から少しだけ、いいかな?」

 

その言葉にクラスの女子たちは高い悲鳴を上げる。本音を言えば、早く帰りたいがこの状況では無理だろうと、燕は構わないよと告げる。

 

「よかった。じゃあ、ついてきてくれる?」

 

男子生徒についていく形で燕はカバンをもって教室を後にする。次に友達に会うのがめんどくさくなりそうと燕は小さく指で頬を掻いた。

 

 

 

 

 

連れられた場所は、体育館の裏側。そこで二人は向かい合う形になっている。

 

「えっと、それで私に何か用かな?」

 

こんな場所で男子から女子に告げる要件など限られているが、話を早く進めたい燕は定例文ともいえる一言を告げる。

問われた男の子は、緊張をほぐす様に一度息を吐き。まっすぐに燕を見据えながら告げる。

 

「松永さん。初めて見た時から、可愛いと思ってて………好きです!!僕と付き合ってください!!」

 

そう言って彼は燕に手を差し出す。差し出された手を見ながら、燕はやっぱりかと思いながら、決まっていた答えを口に出す。

 

「気持ちはうれしいけど、ごめんなさい。あなたとは付き合えない」

 

「えっ!!?」

 

燕の言葉に男子生徒はとても驚いた声を上げる。まるでそうならないと思い込んでいたようだ。きっと美男美女のカップルとしての体面があり、断られることはないと考えていたのだろう。その考えを燕自身は否定しない、彼氏や彼女を自分を上げるアクセサリーと考えるのはある意味で中学生らしいし、人気者になってみたいという男の子っぽいものもある。それにきっと彼の言葉に嘘はないだろう。たぶんだが、自分のことも大切にしてくれるような気もする。

でも…自分はもう知ってしまったから…

 

「り理由を聞いてもダメかな?」

 

「ごめんね。それは言えないの」

 

「どうして、僕だったらきっと松永さんを幸せにできる(・・・・・・・・・・・)のに!!」

 

その言葉に燕の雰囲気が変わる。自分を幸せに?あなたが自分の何を知っているのだ?どうして、互いに深くも知れないのに、もう知ったつもりでいるのか?体面だけでを見て、その内面を見ない言葉。わかっている。彼に悪気はない。それでも今の自分の家庭状況を考えれば、それは無視できな言葉だった。

 

「君じゃ、私を幸せにはできないよ。だから、ごめんね」

 

だから素早くその場を離れるため、燕は矢継ぎ早に告げ、その場を離れようと背を向ける。

 

「ま、待って!!」

 

去ろうとする燕の肩を男の子がつかもうとした刹那、男の子の視界は空に向いていた。何が起きたか彼には全く分からなかった。それでも自分を見下ろす燕は、まっすぐ澄んだ声で告げる。

 

「そうやって、飾り立てるより(・・・・・・・)自分を磨いた方(・・・・・・・)が、私は好きだよ?」

 

告げる言葉の中で燕の脳裏には一人の少年の姿がある。そしてその言葉は何よりも少年の心を打った。

きっと、少年はその時初めて恋に落ちるという意味を知ったのだろう。それほどまでに、燕の言葉と顔は少年にとって美しく可愛らしかった。

 

その後少年は、必死にバスケに打ち込み、本当の意味で燕に振り向かれるようになりたいと心に誓った。

そして燕は、改めてその想いに真摯に答えを返し、その恋は終わりを告げたが、その時の少年の顔は晴れやかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館の裏から出て帰路に着く中、燕は真っすぐに家に帰らず、ある場所に向かって歩いていた。

そこは学校の近くにある裏山。そこの一角に向かって燕は歩いている。

 

―――――いるかな?

 

そこへ向かう中で、そんな不安がよぎる。悠介はほとんど学校が終われば、そこへ向かい修業しているのを知っている。

だが…

 

――――何かの用事があっていなかったら、どうしよう

 

浮かび上がるIFを思い浮かべ、どうしようもない不安が募る。そんな感情にどこか、冷静な部分が自分はこんな感じだったかと、首をかしげている。

その感情を理解してから、自分の見る景色も感じる感度も全く変わった。

そして何より変わったのは…

 

――――真っすぐ進む難しさを凄さを学んだんだよね

 

歩いていくうちに、少し見晴らしの良い場所が現れる。夕日が照らす中で、少年はひたすらに拳をふるっていた。

その姿を見て、燕は少し離れた場所に座ってみる。

 

「………カッコイイな」

 

全身を泥まみれ汗まみれになりながら、それでも真っすぐ食らいつくように前を見続けるその瞳、全てが燕の心を射抜く。

こぼれた言葉は、ほぼ無意識にこぼれていた。

 

 

気が付けば、どれだけ時間がたったか燕自身気が付いていなかった。空は夕日と夜の空の間を彩っている。

切り上げるのだろうか、悠介は軽く汗を拭き、惡と刻まれた羽織だけを羽織って帰ろうとしている。その姿を見て、燕は慌てて追いかけるように後を追う。

 

「ま待ってよ、悠介君!!」

 

「あ?なんだ、燕来てたのかよ」

 

声をかけられ、漸く悠介は燕の存在を認識する。

 

「なんでここにきてんだよ?」

 

「へ?いや………えっと、」

 

「まあ何でもいいけどよ。俺は帰るけど、お前はどうすんだ?」

 

「わ私も帰るよ!!」

 

「うんじゃあ、一緒に帰るか」

 

「うん!!」

 

そんな簡単な言葉だけにすら、嬉しさがこみ上げるのだから、自分は相当だなとどこかでそう思う。そんな中ふと、燕は悠介の服装に視線が向く。

上半身裸に羽織を羽織っているだけの状態。自然、視線が悠介の肉体に向く。

 

「ッ!!?」

 

「?」

 

無意識に視線がそこへ向かっている事に気がつき、燕は顔を赤くする。その反応に悠介は、疑問に感じるが、無視する。

その後二人は、言葉もなく二人は帰路に着く。その中で燕は、必死にタイミングを計るが、どうしても勇気を出して踏み込めない。

 

――――いらないって言われたらどうしよう

 

どうしようもない程に、負のスパイラルに陥る。気が付けば、二人の距離が大きく開かれる。だからだろうか、それとも意識せずかは分からないが、悠介は自然と口に出した。

 

「なんか俺に用があんだろ?さっさと言え」

 

「へ?」

 

立ち止まり告げる言葉に燕は一瞬呆けるが、次には目線をそらそうとするが

 

「こっち見ろ」

 

「ひゃッ!!」

 

左右の頬を悠介の両手が固定し、目線をそらせない。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

しばし無言の空気。それを破ったのは意外にも悠介。

 

「やって悔しがれ。やらないで後悔するよりやって後悔しろ」

 

それは自分の経験(・・・・・)からくる言葉なのだろう。不思議な確信を感じさせ、燕の背を押すような言葉。その言葉により、燕の不安が消える。意を決して、燕はカバンからそれを取り出す。

 

「これ……」

 

「チョコか?」

 

言おうよ。たった四言葉。それが言えない。あとが続かない。何も言えない。今の自分が振り絞って言えるのは、ここが限界なのかと悲しくなる。だが…

 

「そっか、ありがとな」

 

「あっ」

 

自分の手の中からなくなる重さと頭にかかる心地の良いと思える暖かさとほんの少しの重さ。軽く二回髪を撫で、悠介は頭から手を放す。

 

「そういえば、ミサゴさんに伝えといてくれ。俺の卒業式の一か月後から、行くらしい。だから中学入る前から世話になる」

 

「……そっか」

 

悠介の言葉に燕は悲しそうな顔をする。その感情を感じた悠介は、頭を掻き、深くため息を吐く。

 

「前を向けよ。まだ、希望はあるんだろ?…………手は貸してやるからよ」

 

「…うん、そうだよね。前向かなきゃね」

 

――――だってその強さを教わったんだから

 

悠介の言葉に一瞬驚いた燕だが、次には前を向くように強い瞳をする。

 

――――強くなろう。また、みんなで笑うためにも。

 

そんな思いを燕は一人胸の内で、ほかでもない悠介と自分に誓う。

そこから燕は、一歩づつ確実に歩を進め、悠介の近くへと歩んでいく事となる。




如何でしたでしょうか?
ほかの作者様の様に、甘いものにはできませんでしたが・・・・・・大丈夫だったかな?

そして報告です!!
今後、バレンタインデーなどのイベントの日などに悠介とこのキャラとの話が読んでみたいというものがありましたら、活動報告の方に書き込んでください
どれを採用するかはわかりませんが、できるだけ書いていこうと思います

よかったら、感想をお願いします


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前譚~少年の歩み~
プロローグ


今まで読み専門でしたが、ログインできたので自分でも書いてみようと思いました

まだまだ拙いとは思いますがよろしくお願いします


物心ついた時から、いやもしかしたらその前からかもしれないが、何時も同じ()を見る。

 

それは、一人の男の生涯を何度も何度もあらゆる観点から見た劇の様な物。

始まりは、まだ幼い男が未来の為に闘う一人の男の背に憧れ、その背を追いかける場面。

 

そこで、少年は夢の為未来の為命がけで闘う男たちの背中を眺めていた。

その背が少年にとっては、憧れであり同時に誇りでもあった。

しかし、悪夢は訪れた。

今までの男たちの行動を認めていた者達が、突然男達を裏切った。

男は、幼い者達を逃がし彼らの元に駆けた。

逃がされた童子の中に、少年もいた。数日後、男達は殺されていた。

少年は涙を流した、涙が出なくなり血涙になるまで泣いた。

少年の脳裏には、自分達に背を向けて歩いて行く男たちの背が、何度も浮かび上がった。

次に観るのは、少年が青年に変わった場面。

 

新しくなった世の中で青年は、ただ暴れていた。

何処にぶつけていいかわからない憎悪を悲しみを悔しさを、意味もなく誰これ構わずにぶつけていた。

そうやって生きていく中で、青年が徐々に有名になっていった。

青年を求めて、色々な人達が会いに来た。青年は、笑顔でそれに答えた。

でも、その笑みは何処か悲しそうな物だった。

そんなある日、青年にある依頼が届いた。その依頼が青年の運命を再び変える。

 

次に観る場面は、青年が救われ歩んでいく場面。

東京で青年は、一人の剣客と戦う事になる。結果的に青年は、その剣士に斬られた。

身体ではなく、その内に秘めてたどす黒いナニカを剣士は切り裂いた。

青年は、その日久しく本当の意味で笑えた。それから青年は、その剣士と行動を共にした

そこで色々な者達と出会った。気に食わない女医師・小生意気な士族の少年・男勝りな女道場主・憧れすら抱いた剣士・昔の仲間・命を懸けて戦った男の頭領。

そんなおり、自分を救ってくれた剣士がピンチだと知った。

青年は、今度は俺が救う番だと青年は、剣士を追って京へと向かった。

 

次の場面は青年が、剣士の掛け替えのない戦友(とも)になる場面。

京へ向かう途中青年は、剣士のライバルと言うべき男と出会う。その剣士に青年は、完膚なきまでに負かされた。

剣士は青年に、京へ来るなと言った。青年は、受け入れなかった。

自分の無力を知った青年は、一人の破戒僧と出会う。

破戒僧より、自分が憧れた男の助けもあり、青年は強さを学んだ。それは、青年の一つの誇りになっていく事にまだ気が付かない。

剣士と自分を負かした男と合流した青年は、生きて帰るために戦場に足を踏み込んだ。そこで青年は、自分を強くしてくれた破戒僧と戦うことになる。

激闘の末青年は勝利した。進んでいく中で遂に、剣士の敵に辿り着く。

そこで青年は、戦友を救うため、右拳を犠牲にした。

勝利した剣士だったが、同時に危機にも瀕した。

その危機を救ったのは、いけ好かないあの男だった。

炎と崩れ去る建物のさなか、自分達に背を向けて歩いて行った男の背を青年は見続けた。不思議と、その時まで抱いていた口惜しさが、一種の尊敬に変わった。

 

最後に観る場面は、青年が男に変わり誇りを貫く場面。

平和を過ごしていた青年に、再び剣士の危機が知らされる。再び青年は、拳を握り剣士を助けるために戦場に向かった。

そんな戦場に、自分達を救って死んだと思っていたあの男が現れた。

しかし、剣士は敗れ大切な者を失ってしまう。

剣士の心は死んでしまった。剣士の心に、もう自分の声は届かない。青年は、怒りと悔しさから剣士の前から姿を消した。そして、青年は再び剣士に出会う前に戻る。

そんな中、青年は自分が捨てた家族と再会する。知らぬ間に増えたきょうだいたちと変わらない自分の父親。

彼らと暮らす内に、青年に再び剣士に会う覚悟が出来た。今までは、見ているだけだった青年は、今、伝える側の男に成長する。

その男の背を、父親と弟に示して、男は剣士の元に向かった。

剣士と合流した男は、剣士と戦友達と共に、最後の戦場に向かう。

そこで男は、一人の刺客から剣士を護るために戦った。

男を見る剣士の瞳には不安など無く、ただ、信頼だけが男の背を見ていた。最後の戦いを剣士は勝利した。

全てが終わったが、男は剣士たちと共に居られなくなった。

仲間であった士族の少年に自分の誇りを示し、男は外の世界に歩き出した。

 

これが、俺が生まれてからずっと見続けてきた夢。

だからだろうか、俺も自然と憧れた。

男の生きざまに。

だからこそ、自分も背負うと決めた。

その男が、何時も背負っていた。

 

「惡」と言う一文字を俺も背負うと決めた。

 

未だに、背中しか見えないその男に追いつきたい一心で、俺は、「悪一文字」を背負う。

 



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少年の始まり

鉄心の口調がいまいちわからない

これであっているのだろか?

そして、主人公のセリフが一言しかない・・・・ヤバくね?


神奈川県川神市。未だに多くの武士の血筋が残る一種の人外魔境。

拳で乗り物を破壊でいる人間がいたり、手から男達の夢であるビームを出す人間もいたり、呆れるほどに人間のワクから外れた者達が多く住んでいる土地である。

そんな土地で、少年は生まれた...

 

◆◇◆◇

 

「うん、完全に折れてますね」

 

「やっぱり、そうですか」

 

葵紋病院小児科で、一人の母親と医師が何度目かわからない話をしている。

 

「やはり、こう何度も続く様でしたら、あそこ(・・・)へ入れるべきではないでしょうか?」

 

「あそこと言うのは、あの場所ですか?」

 

「ええこれ以上、我流でやり続けて取り返しのつかない怪我をする前に、プロがいる場所できちんとやった方が、彼の為にもなると思いますよ」

 

全く同じ患者が、四度も同じ事で医師の元を訪れたのだ。医者である彼がその言葉を言っても何ら不思議ではない。

 

「それが、やっぱり一番いいですかね」

 

そう言って母親は、右拳に処置をしてもらっている息子に、視線を向ける。

彼女の息子は、何度も拳を岩に叩き付け、拳を折って来た。

理由を聞いても何も言わない息子に、母親は寂しさを感じている。

恐らく、あの場所に連れていけば、息子はさらに自分から離れていくだろう。

それが母親には、耐えられない物だ。だが同時に、息子の夢を叶えてやりたいと言う、母親らしい想いも持ち合わせている。

だから...

 

「悠介」

 

一度視線を落とした後、母親は自分の息子の名を呼ぶ。

その声に反応し、悠介と呼ばれた少年は母親に視線を向ける。

 

「あなた、川神院で修行してみない?」

 

母親である彼女が選んだのは、自分の気持ちではなく息子の想いであった。

 

◆◇◆◇

 

川神院。日本の武の総本山とされる場所であり、その場所には、日本の最終兵器(リーサルウェポン)と称される総代川神鉄心がいる。

他にも、強者が多く属している川神の土地が人外魔境と言われる由縁とされる場所だ。

武を生業にする者達にとって、川神院とは聖地にも近い場所である。

その場所の門に悠介と母親はいる。

 

「すいません。お電話をさせて貰っていた、相楽ですが」

 

「おお、お待ちしておりました」

 

母親が門に向かって問いかけた瞬間、彼女の目の前に鉄心は現れる。

突然の事に驚く二人。そんな二人の反応を見ながら鉄心は、気さくに話しかける。

 

「驚かせてしまったようじゃな。まあ話は、聞き及んでおります。取り敢えずこちらへ」

 

「あ、はい」

 

鉄心の案内に従い、二人は一つの和室に通される。

 

「さて要件は、其方のご子息を川神院に入門させたいとのことじゃったな」

 

「はい」

 

鉄心の言葉に母親は強くうなずく。

 

「うむ、理由をお聞きしても?」

 

 

無言で黙っている悠介を一度見た後、鉄心は母親に問う。

 

「この子の悠介の為としか言えません」

 

「...なるほど」

 

しばしの間視線を逸らさずに、悠介の瞳を見ていた鉄心は、納得いったと言うようにつぶやく。

 

「わかりました。ご子息の入門を認めます」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

鉄心の言葉に母親は、喜びの声を上げる。心なしか悠介も喜んでいる様に思える。

 

「さてと坊主、お主の名前は何という」

 

鉄心は母親にではなく、悠介本人に名を問う。それはある意味で、少年を試しかのかもしれない

 

「相楽.......相楽悠介」

 

鉄心の問いに悠介は、まっすぐと鉄心を見つめながら自分の名前を口にする。

これが相楽悠介の武人として始まりの一ページ。



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悠介の武

知らない間にお気に入りが二ケタ!!

凄くうれしいです

良ければ感想を書いてくれると嬉しいです


悠介が川神院に入門した日から約一週間後。

 

「おらぁ。そんな防御じゃ意味ねえって、言ってんだろ!!」

 

川神師範代の一人釈迦堂刑部の怒声が、釈迦堂の拳により、地に伏した悠介に投げかけられる。

その言葉を聞いて、悠介は必死に立ち上がろうとするが、受けたダメージが大きすぎて立ち上がれない。

 

「ぐう...」

 

結局立ち上がる事が出来ず、うめき声を上げながら悠介は、気を失った。

 

「たっく簡単に、気を失いやがって」

 

頭をゴシゴシと掻きながら、悠介を見下ろす釈迦堂。しかし、その言葉と裏腹に釈迦堂の表情は、子を見守る父親の様な物だ。

初め、鉄心から悠介の修行の相手をしてくれと、頼まれた時は、珍しくルーと意見が一致し止めさせようと躍起になった。それでも、鉄心の意思は変わらず、結局請け負う事になった。

始めは、何でこんな事を俺がと思いながらも、修行をさぼれるとポジティブに考えていた。

しかし、何度か修行をやっている内にその感情が大きく変化する。

ハッキリ言って悠介に才能はない。その事を釈迦堂は、初日に悠介に告げてやった。これで、ガキの子守は終わると、釈迦堂は考えていた。しかし、悠介はそれでも釈迦堂に挑んで来る。それには、流石の釈迦堂も驚いた。そして同時に何処か懐かしい気持ちになった。

その懐かしさに気が付いたのは、三日目だった。まだ自分が川神院に来て間もない頃と似ている。

勝てないとわかっていながらも、鉄心に挑み続けた自分に何処か似ていた。だからだろうか、自分が悠介に気を掛けるのは...

 

「はっ。俺もよ、随分と甘くなったもんだぜ」

 

そう言いながら釈迦堂は、悠介を背負い木陰に歩き出す。

 

◆◇◆◇

 

「いいかイ、悠介。こう言った状況では、こういう風に構えるンダ」

 

釈迦堂と同じ川神師範代であるルー・イーは、悠介に武の構えを指導している。

 

「そうだヨ。もう少し、腰を落としてネ」

 

釈迦堂に殴られたダメージに、顔をしかめながら悠介は、言われた通りの構えを取っていく。

その姿を見ながらルーは、表面には出さないが、自分の力の無力さを感じている。

始め悠介を、釈迦堂と共に面倒を見ろと言われた時、ルーは猛反対した。釈迦堂の厳しさは、大の大人でも根を、上げるレベルである。

そんな釈迦堂に、まだ未来のある子供を任せる事にルーは、珍しく鉄心の考えを否定した。

しかし、結局釈迦堂が、力加減を覚えるためと、言う理由に渋々納得した。

それが間違いだと直ぐに感じたのは、初日の修行で釈迦堂の修行を終えた悠介を見た時だ。ボロボロで、顔も大きく腫れている。その姿を見た瞬間ルーは、釈迦堂に掴みかかったが、それを止めたのは、意外にも悠介だった。

悠介は、ルーに向かって、修行を願い出る。その言葉にルーは驚く。同時に、なぜそこまでするのかを、悠介に聞いた。悠介はただ一言「強くなりたい」と、まっすぐにルーを見据えて答えた。

その答えを聞いたルーは、若き頃川神院の門を叩いた自分に、そっくりだと感じた。

だからこそ、何を言っても、無駄だと悟った。自分がそうであったのだ。同じ瞳をしている目の前の少年が、折れるとは思えない。

故にルーは、悠介にひたすら基礎を丁寧に教える事にする。それが、彼の助けになる事を願って...

 

「難しいものダ。何かを伝えるというのワ」

 

ルーは、悠介を強くしてやれない自分の無力さと教える事の難しさを実感しながら、悠介に修行をつける。

 

◆◇◆◇

 

そうやって悠介が、川神院で修行していくなか...

 

「良いか悠介よ。武と言うモノは」

 

その日は、鉄心から武についての話を聞かされていた。

悠介は、眠たくなることを抑えて鉄心の言葉に耳を傾けていく.

そんな時、襖がドンと音を立て開けられた。襖を開けたのは一人の少女の姿。

 

「おいジジイ。私は戦いたいぞ」

 

「これモモ!!今は、話の最中だぞ」

 

「そんな事よりも、私は戦いたいぞ」

 

「いい加減にせんか!!」

 

そう言って、鉄心とモモと呼ばれた少女は、口喧嘩から喧嘩をし始める。

正直に言って今の鉄心の行為は、さっきまで悠介に話していた武の話を、真っ向から否定している行為だ。

しかし、悠介は鉄心と戦う少女に、全てを奪われた。

武を知ってる自分だから分かる。彼女は強いと。

気が付けば悠介は、鉄心に向かって叫んでいた。

 

「爺さん。俺この子と戦ってみたい」

 

その言葉を聞いた瞬間、二人の動きが止まる。

一人は驚愕ゆえに止まり、もう一人は面白い者を見つけた喜びから止まる。

瞬間、釈迦堂によって鍛えられた本能が、警告を鳴らす。その警告に、従い畳に転がる悠介。

さっきまで自分がいた所に、少女の正拳突きが放たれていた。

 

「へえ」

 

それを見た少女川神百代は、面白いと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「これモモ!」

 

それを見た鉄心が当身を食らわし、百代を気絶させる。

 

「やれやれ」

 

ため息を吐きながら百代を背負った鉄心は、悠介に視線を向ける。

 

「モモの強さは感じたはずじゃ。それなのになぜ挑む?」

 

鉄心は、悠介の言った言葉の真意を確かめたかった。もしそれが、思い上がりから来るならば危険だ。

そんな危うさをどうにかしなければならないと鉄心は考えていた。

しかし鉄心の考えは、いい意味で裏切られる。

 

「試してみたい。この拳がどこまで通ずるのかを。憧れるだけなら永遠に超える事なんて出来ない。だから、確かめてみたい。今の自分の力を」

 

自分の右拳を見つめながら悠介は、ハッキリと口にしる。その言葉を聞いた鉄心は、一瞬呆けそして笑い出す。それは今自分が、気絶させた少女と似て非なるモノだったからだ。

百代の戦い理由はあくまで、自分を満たす為。

しかし、悠介が戦いたいと言った理由は、自分を試す為。

慢心と貪欲、180度全く異なる武の性質が同じ場所に揃った事が、鉄心を笑わせる。

そして思う。悠介を見てからと言うもの釈迦堂は、まるで巣立ちを見守る親鳥の様な表情をし始めた。

一度失態を犯し、その罰として悠介の修行から外そうとした時、らしくもなく釈迦堂は誠意を見せて謝罪をしてみせた。その理由を聞いた鉄心に、釈迦堂は「あいつを育ててみたい」と言った。

あの飽き性な釈迦堂の言った言葉と認識するのに鉄心はしばし時間を要した。

さらにルーもまた、悠介と関わる事で変化した。

今まで以上に武を知ろうとしたりするなど、武に対する成長が見て取れた。

ならば、この危うさを持つ孫娘を、変える事が出来るかもしれない。

それに、鉄心は見てみたくなった。

この二人が、出会う事で起こりうる武の未来を

だからこそ、鉄心は...

 

「モモと戦ってみるか」

 

悠介に問う。その問いに悠介は...

 

「うん!!」

 

力強く頷いた。

 

後に武神とうたわれる少女川神百代との出会い。それは、相楽悠介の武を形作る運命の出会い。



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悠介の目標と旅立ち

今回、いよいよあの技の名前が出てきます

そして若干ながら戦闘描写も入ります

さらに言うと、今回めちゃくちゃ急に時間軸が飛びます

それを考慮して読んでくれるとありがたいです


百代との戦闘が許可された次の日、悠介は釈迦堂と組み手をしていた。

 

「おらぁ!」

 

放たれた釈迦堂の拳。本来ならば回避が、頭をよぎる一撃を前にして、悠介は...

 

「はあ!」

 

その拳目掛け、自分の拳を放つ。鈍い音を立てながら、二つの拳がぶつかりあう。

しかし勝敗は勿論、釈迦堂に上げられる。

拳の勢いで吹き飛ばされる悠介。

 

「敵が前にいるのに目をつぶってんじゃねえ!」

 

そんな悠介に、追い打ちを掛ける釈迦堂。鋭い蹴りが、悠介の脇腹に直撃する。

大人でも気絶してしまう、その一撃を受けた悠介は、苦悶の声を漏らしながら、脇腹にある釈迦堂の足を掴む。

 

「あ?」

 

その事に疑問の声を上げる釈迦堂をしり目に、悠介は掴んだ足に拳を放とうとした瞬間、

 

「他から気を逸らしてんじゃねえよ」

 

強烈な一撃が悠介の頭に放たれ、数メートル吹き飛び、悠介は気を失った。

 

「こいつ。だんだんタフになってきてねえか?」

 

気を失った悠介を担ぎながら、釈迦堂は自分が感じた事を自然と口にする。

さっきの蹴りもそうだが、武を慣れ親しんだ者でも、気を失う程の攻撃を受けても悠介は気絶するどころか、自分に攻撃を仕掛けてきた。

そんな事、普通は不可能だ。そんな事を考えている内に、悠介が目を覚ます。

 

「お、起きたか」

 

「また負けた」

 

そう呟く悠介に釈迦堂は、

 

「まあ、でも悪くはなかったぜ。特に最後のはな」

 

皮肉気に呟く。その言葉に悠介は、悔しそうな表情をしながら釈迦堂に視線を向ける。

 

「さてと、どうすっかな~?。今から再開するには時間が微妙だし、終わらせるには時間が余ってるしな」

 

その視線を無視して、釈迦堂はこれからの事を考える。

ルーと交代するには、まだ時間がある。しかし、もう一度再開するには時間が足りない。

そうやって思考を巡らせていた釈迦堂は、ずっと疑問だった事を悠介に問う。

 

「おめえなんでまた、武なんてやろうと思ったんだ?」

 

それが釈迦堂にとって、ひいては川神院の疑問だった。

まだ、小学二年生の悠介にしてみれば、ゲームや漫画やアニメと言った娯楽を楽しむ年ごろだろう。

好き好んで、自分を痛めつける武をやりたがる小学生など、本当にまれだ。

武道ならわからなくもない。しかし悠介が、やっているのは武術だ。

だからこそ、釈迦堂は知りたかった。

その答えが、もしも自分と似たようなモノならば、これからも悠介(こいつ)と付き合っていこう。

そして自分好みの戦闘狂に、変えるのも悪くないと思っている。

逆に、そうでなければ、自分はそろそろ手を放すべきだと考えている。

別に、悠介の事が嫌いな訳では無い。むしろ川神院の中で、一番気に入っている。だからこそ、自分は悠介から手を引かねばならないと感じていた。

しかし悠介の答えは、釈迦堂の考えの斜め上を行く。

 

「覚えたい、必殺技があるから」

 

「...は?」

 

悠介の言った言葉に、釈迦堂は呆けた声を出す。そして次の瞬間、大きく笑い始める。

くだらない。何度も痛い目にあってまで、武を納めてきた目的がまさか必殺技の為とは。

しかし、だからこそ面白い。考えれば、悠介の年齢ならばそう言った事に、憧れていても何ら不思議ではない。

しかし、それを叶えるためここまでするバカは、滅多にいないだろう。

だからこそ、釈迦堂は悠介がそこまでして、覚えたいと言った必殺技に興味が出る。

未だに、不貞腐れている悠介に、釈迦堂は笑い涙をぬぐい問いかける。

 

「悪かったって。それでどんな技なんだ?

おめえが覚えたがってる技だ。ただの技じゃねえだろ?教えてくれたら俺が実践してやるぞ」

 

悠介の頭を撫でながら釈迦堂は悠介に問う。悠介も釈迦堂の言葉を聞いて、自分の憧れが見れるかもしれないと嬉しそうに答える。

 

「二重の極みって技」

 

「二重の極み?」

 

聞いた事のない技だと釈迦堂は頭をひねる。

 

「どんな技なんだ?」

 

「えっと75分の1秒の拍子に二撃の衝撃を与えて、万物を破壊する技」

 

悠介から伝えられた内容に釈迦堂は唖然とする。そして同時に思う。もしもその技が出来たならば、正真正銘の必殺技となるだろう。

才能を感じない悠介には、不可能かもしれない。しかし、釈迦堂は不思議と不可能だと無理だと言う言葉は、浮かび上がらない。

出来ないかもしれない。それでも、それに必要な土台を作ってやろう。

きっと、無駄にはならない筈だ。そう思いながら釈迦堂は、再び悠介の頭を撫でる。

そんな二人の会話を聞いていた、鉄心とルーに気が付くことなく。

この日を境に悠介の修行は、さらに厳しさを増す事になる。

 

◆◇◆◇

 

悠介の目標が明かされた日から二年の月日が過ぎていた。

川神院修練場に、二つの人影が立っている。

二人を中心として、張り詰められた緊張感が漂っていた。二人はどちらもギラついた瞳で相手を向き合っている。硬直した空気の中、お互いの動きを見る事が常識(セオリー)だ。

しかし二人にその常識は通用しない。

 

「だあ!」

 

西方向にいた人影が、咆哮を立てながら突っ込んでいく。自身の加速した速度も乗せた拳が、もう一人の人影に向かって放たれる。

畏怖するほどの威圧感を纏わせた拳が迫る中、もう一人は笑みを浮かべる。

 

「はん」

 

腰を落とし、高速で動く相手の胸に向かって拳を放つ。

突進していた相手は、その速度故に回避が出来ない。

 

「があ!」

 

直撃を受けた人影は大きく後退する。しかし吹き飛ばされてなお、人影は笑う。

その事に疑問を持つもう一人しかし、直後鋭い蹴りが顎を襲う。

 

「!!?」

 

一撃を受けた人影の身体が、宙に浮く。お互いに、地に立つと再び睨みあいが開始される。

そんな中、

 

「モモ。てめえ、手を抜きやがったろ」

 

西側にいた少年が、東側にいた少女川神百代に声を掛ける。その言葉を聞いた百代は、

 

「いやいや、結構全力で放ったぞ。それなのに大したダメージが見れないとか、悠介お前また、タフになったんじゃないか?

それにこんな美少女の顔に攻撃するとか鬼畜か!私は傷ついたぞ!」

 

自分の相手である相楽悠介の問いに返す。

 

「てめえのジジイ達のせいで、根性とタフはついたからな。後、お前の顔は傷ついたなんて言ってねえぞ」

 

そう言いながら自分を鍛えてくれた、三人の男の姿を思い起こす。

感謝しているでも、目の前の敵を倒さない事には自分は感謝する事が出来ないと、悠介は直感している。

 

「あ、やっぱりバレたか」

 

いたずらに失敗したような声で、百代は答える。しかし、その笑みは何処か肉食獣を思わせるほどに鋭い。

 

「それじゃあ、そろそろ本気で行くとするかな」

 

「上等だ。今度こそ倒してやるよ」

 

「それ、何回目のセリフだ?」

 

「はん、百を超えた辺りから数えんのは、止めちまったよ!!」

 

「そうか!!」

 

今度は二人が同時に駆け出す。修練場の中央で、二人の拳が激突した。

 

「モモォォォォォォ」

 

「悠介ぇぇぇぇぇ」

 

互いに相手の名を叫びながら二人の激闘は始まった。

 

◆◇◆◇

 

「はぁはぁ」

 

三十分が経過したのち、遂に勝敗が決する。

 

「くそ。また勝てなかった」

 

「ふふふん。また私の勝ちだぞ悠介」

 

地面の大の字で仰向けに寝転がる悠介に、百代は嬉しそうに告げる。

 

「わあってるよ。たっく」

 

百代の言葉に、頷きながら悠介は体を起こす。起きた悠介に、百代はさっきまでと違って、寂しそうな声で話しかける。

 

「本当に引っ越すのか?」

 

「ああ、前々から決まってたことだしな。親の都合じゃ、どうしようもねえよ」

 

百代の問いに悠介は、いつも通りの口調で答える。そうやって何時もと変わらない悠介の姿に、自分だけが寂しがってバカみたいじゃないかと、百代の内に怒りがこみ上げる。

しかし二人は、別に恋人と言う訳ではない。ただ、百代の相手が出来る同年代が、悠介しかいなかっただけである。

自分と戦える相手が消える。その事が百代にとっては、とても悲しい事だ。

今回の勝負も百代が、鉄心と悠介に無理を言って叶えた物であるから、尚更である。

 

「家に住めよぉ。住む場所ならたくさんあるからな。私はお前とずっと戦っていたいぞ!」

 

「少しドキッとした自分がバカだったわ。お前がそんな事言う訳ねえわな」

 

そう言いながら悠介は、家族の元に帰るために歩き出す。その背を百代は、黙って見てるしかなかった。

しかし、ふと悠介の足が止まり、少し後ろに顔を逸らして、

 

「またなモモ」

 

片手を上げながらそう言った。その言葉を聞いた百代もまた、

 

「ああ、またな」

 

笑みを浮かべて返した。

そうだ、これで最後と言う訳ではないのだ。いつか会える。その事が百代の心を軽くした。

 

◆◇◆◇

 

川神院に背を向けて帰る悠介の背を、百代とは別の場所で見ていた者達がいる。

 

「行ってしまいましたネ」

 

「そうじゃのう」

 

ルーと鉄心は、何処か悲しそうに悠介の背を見ながらつぶやき、

 

「はあ、漸く子守から解放されたぜ」

 

釈迦堂は嬉しそうに呟く。しかし、ルーと鉄心は釈迦堂の目から、涙がこぼれかけているのを確かに見た。

全く素直じゃないなと、二人は同時に思う。

 

「悠介の奴は、何処へ行くんじゃっけ?」

 

「確か、京都の方に行くと言っていましたヨ」

 

そうやって、話していくさなか、

 

   ~また、会いに来ます~

 

「「「!?」」」

 

 

三人の耳に、悠介の言葉が届いく。その言葉を聞いた瞬間、三人は笑い合う。自分達が育てた、一人の生意気な弟子が、久しく自分達に使った敬語。

余りに似合わない。そのセリフを聞いた為に起きた笑いであった。最早三人に寂しさはなかった。

相楽悠介は川神の地にて強さを学んだ。

一度彼は、自分の生まれ育った地を離れる。再び彼がこの川神の地に足を踏み入れた時物語は再び幕開く。

 



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武神の今

えっと、原作開始前から始めるか、原作から始めるか悩んだのですが
原作開始時から進めたいと思います

過去での話は、話の中で出てくると思いますので楽しみにしていた人がいたらすいません

楽しんでくれたら嬉しいです

言い忘れてましたが、悠介は大和たちと同い年です


悠介と別れた百代だが、そんな彼女に新たな出会いがあった。

風間ファミリーと呼ばれるグループに百代は所属している。そこで彼女は大切な仲間を手に入れている。

そんな大切な仲間と共に、百代は時間を過ごしていた。

 

◆◇◆◇

 

今日は風間ファミリーが一同に集う、金曜集会の日と呼ばれる日である。

百代は、秘密基地の自分の定位置に座りながら、八年近く続けている悠介とのメールをしている。そうやって携帯と睨めっこしている百代にいくつもの視線が集まる。

そんな視線を感じて、百代は深くため息をつく。この基地自体、百代は気に入っている。

漫画もあれば、ドリンクもあるし、気のおける後輩たちもいる、最高の場所である。しかし、ただ不満があるとすれば、自分がたまにこうやって、携帯と睨めっこしていると、視線を向けられる事だろうか。

一度携帯を閉じた百代は、自分を見ていた視線に目を向ける。その瞬間、百代に集まっていた視線は慌てて逸らされる。

 

「なあ私が、携帯と睨めっこしているのが、そんなに珍しいか?」

 

いい加減図々しく感じた百代の問いに、仲間たちは無言となる。そんな空気のなか、一人の少年が百代の問いに答える。

 

「まあ、姉さんが何をしているのか、気にならないと言ったらウソになるよ」

 

そう答えたのは、百代と舎弟関係を結んでいる直江大和。風間ファミリーの中では軍師の位置にいる少年。

 

「直ぐに終わる時もあれば、じっくり考える時があるよね」

 

大和に続いて話しかけたのは師岡卓也。ファミリーの電子担当でありあだ名は、モロ。百代は、モロロと呼んでいる。

 

「モモ先輩、たまに嬉しそうに電話もしてるしね」

 

さらに、百代に疑問を発したのは、椎名京。誰よりもファミリーを大切にしている少女で、弓使いの武士娘である。因みに、大和のストーカーでもある。

 

「そのメールの相手ってお姉さまが、前に話してくれた人のこと?」

 

次に百代に声をかけたのは、百代の義妹川神一子。ファミリーの一番槍を自負する、ファミリーの元気担当でもある。薙刀を武器とする武士娘でもある。

仲間たちの質問に百代は、頭を掻きながら、それもそうだなと頷く。そうやって百代は、仲間たちの問いに答えていく。

 

「そうだな。...あいつは強い。それこそ私と張り合う程にな。その強さは一子と似ているかもな」

 

「わたしと?」

 

「何だよそいつ。わん子みたいに薙刀でも使うのかよ?」

 

百代の言葉に反応したのは、ダンベルを片手に筋トレしていた島津岳人。ファミリーの筋肉担当&ボケ担当でもある。そのあまりの筋力から女子たちからは疎遠されている。

 

「いや、あいつの武器は拳だ」

 

「では、一体どこが犬と似ているのだ?」

 

百代が島津の言葉を否定する。その言葉にさらに、疑問を持って問いかけたのは クリスティアーネ・フリードリヒ。ドイツ出身の日本が大好きで、間違った認識を持った少女でファミリーの新入りの一人だ。そしてレイピアを武器にする武士娘である。

 

「あいつに、武の才能はない。言うなれば、努力だけで強くなった奴だよ」

 

百代の答えを聞いた一子は驚愕する。彼女は、最近成長できない自分に、焦りを抱いていたのだ。

そんな中での百代の言葉は、彼女に希望を抱かせる。自分も頑張れば、という想いが強くなっていく。

そんな妹の反応を見た百代は、彼女が元気になる事が嬉しく思う。

 

「マジか!!そんなすげえぇ奴がいたのか。くぅーーー会ってみたいぜ!!」

 

百代の言葉に一番大きく反応したのは、風間ファミリーのリーダーでもある風間翔一。

曲者だらけのファミリーをまとめ上げる。カリスマ性を持った少年であり、永遠の少年でもある。

 

「もう、マイスターは一度落ちつこうよ」

 

そう言って風間をいさめるのは、万能お手伝い型ロボットクッキー。本当は、一子に対してプレゼントされたものだったが、いらないと言った一子の代わりに、風間が引き取ったのだ。案外切れやすく、切れると戦闘モードに変形する。

 

「自分も興味があるな。モモ先輩がそこまで言う人物だ。一度会ってみたいものだ」

 

「わわわわわわ私はえっーーーーと」

 

「まゆっち落ち着けYO」

 

クリスの言葉に続くように、どもりながら答えたのは 黛由紀江。クリスと同じくファミリーの新入りてありながらも、伝説の黛十一段と言われる黛大成の娘だ。 

帯刀を許された刀を武器とする武士娘でもあり、友達を100人を作るのが夢である。

そして何より重要なのは、百代と戦える数少ない人物でもあるという点だ。

そんな由紀江を、落ち着かせようとしているのが、由紀江の持つストラップに取りついた付喪神の松風。

由紀江の初めての友達でもある。因みに、腹話術ではないと本人は否定している。ファミリー最年少でもある。

そうやって百代は、ファミリーに悠介の事を伝えていく。特に反応が良いのは、やはり武士娘達だ。同じ武の道を行く者として百代の話を興味深く聞いている。

そんな中大和は、何処かつまらないと言った感じで話を聞いている。

実は大和は、百代に好意を抱いており、その百代が嬉しそうに他の男の事を話すのだ。大和にとってみれば面白くない事、この上ない。

ふと大和は、名前を聞いていない事に気がつく。もしかしたならば、自分のライバルになるかもしれない男の名を知りたくなった大和は百代に問う。他のメンバーも、興味があるのか、百代の言葉に耳を傾けている

 

「ああ、そう言えば言ってなかったな。あいつの名前は相楽悠介(さがらゆうすけ)。私のライバルだ」

 

そう自慢げに話す百代の表情は、長い付き合いでもある風間ファミリーでも見たことがない表情だった。




どうだったでしょうか?

簡単に風間ファミリーを紹介したつもりですが、うまくできてましたかね?

わかりにくかったらすいません


次回悠介の今の話になります


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悠介の今

天神館の場所は、作者オリジナルです

書こうか迷っていたのですが、これからも書いて行こうと思います

応援して下さると嬉しいです


天神館(てんじんかん)。東にある川神学園に対をなす、京都府にある西の武術学校。川神学園と同じく、決闘と言うシステムを導入した学校であり、多くの武の血筋を持つ者達が通う学園である。

西の武の聖地といえる学園に、相楽悠介は通っていた。

 

◆◇◆◇

 

天神館へ向かう途中にある薄暗い路地裏。京都の独特の地形によって生まれたその死角に、多くの不良が地に伏している。

 

「これに懲りたら、もう下らねえ事すんじゃねえぞ」

 

そんな中、天神館の制服を着た一人の学生が、片腕で地に伏した一人を持ち上げ、ドスの効いた声で警告を発している。その言葉に持ち上げられた学生は、涙と鼻水を流しながらうなずく。

地に伏した彼らは、この辺りでは有名な不良学校の生徒たちだ。その中でも今、地面に伏しているのは、恐喝や集りを平然と行うメンツで、不良たちの中でも指折りの危険人物たちである。

今日も、気の弱そうな学生をターゲットに、小遣を稼ごうとしていた。

一人いいカモを見つけ、早速行動を開始しようとした時、この化け物は現れた。

 

「おい、てめえら。何下らねえ事やってやがる!!」

 

最初は生意気なガキだと思い、半殺しにしてやろうと、仲間たちとそいつを連れて路地裏に入った。

そいつを囲いリンチにしようとした瞬間、仲間たちの一人が宙を舞う。その後は弱い者いじめだと、とれるほど執拗にぼこられた。

天神館の生徒は、うなずいた事を確認すると持ち上げていた不良を放り投げ、路地裏から出ていく。その後姿を意識のある不良達は見つめていた。

その視線は真っ白い羽織に、黒く書かれた「惡」の一文字に注がれていた。

路地裏から出てきた青年相楽悠介は、毒づきながら自分の通う天神館へと歩を進めた。

 

◆◇◆◇

 

天神館の学長室で二人の男が、向かい合っている。

一人は、相楽悠介。

鋭い目つきと、悪人よりの面をしている悠介は、めんどくさそうにしながらも、自分の目の前にいる男から視線を外さない。

もう一人は、天神館の学長鍋島正(なべしまただし)

マフィアの様な姿をしているが、れっきとした教育者であり、川神院出身の武人でもある。

その実力は世界でも、数少ない壁越えの実力者でもある。

 

「また派手に、やったじゃねえか」

 

沈黙を破り、言葉を発したのは鍋島だった。その表情は、ほとんど呆れで染まっている。

 

「てめえが病院送りにした奴らだが、さっき向こうの学校から連絡があった。全員全治一か月の大怪我だとよ。おめえ、今回で何回目だ?」

 

「知らねえ。十回を超えてからは数えてねえ」

 

「別に、喧嘩するなとは言わねえよ。闘いを求めるのは、武人としては全うだ。でもよぉ、おめえは、少しやりすぎだぜ」

 

事実、鍋島が言った通り悠介は、一か月の内に暴力沙汰を何度も起こしている。

理由としては、不良に絡まれた学生を護ったり、老人相手につまらない事をした奴を殴ったり、ナンパされて困っていた女子学生を助けたりと、褒められる行為なのだが、いかせん、悠介は執拗以上に相手をボコボコにするため性質(たち)が悪い。

さらに、何度罰則を与えても悠介は、懲りずに何度も似たような事件を引き起こす。

 

「俺はやった事に後悔はしてねえよ。その結果が、退学だって言うなら受け入れるだけだ」

 

再び、無言になった空気の中で、悠介は力強く鍋島に告げる。その眼を見て、鍋島は深いため息を吐く。最初に、事件を起こした時も、悠介は学校を退学する気でいた。

悠介はそれをケジメと言い、鍋島に直々に告げてきたのだ。最も、その時は助けた女子学生のフォローもあり、停学で済んだのだが。

だからこそ、質が悪い。

自覚が無ければ鍋島自身が、拳骨をくれてやり、指導するのだが。悠介は、自覚したうえでやっているため、どうしようも出来ない。

この手のタイプは何があろうとも、自分の意思を曲げない事を鍋島は知っている。

だが、同時にそれでいいと思っている自分がいる事に、鍋島は気が付いている。

勿論、一教育者としては間違いである。こう言った生徒を更生させるのが、教育者の本分の一つだ。

だが、武人として悠介を見た時、その行為を咎めることが出来ない。むしろ鍋島はよくやったと褒めてもいいと思っている。自分達が、やっているのは武術だ。断じて武道ではない。そこに礼儀など無く。あるのは自分の意思のみ。武術とは言わば、己の我の押し付け合いである。悠介はまさに、それだと言っていい。

しかし、相手が問題だ。

武術家同士ならば、何も言う事はない。しかし、相手が素人ならば話は別になる。素人相手に、武術を使うのは要領が違う。だからこその鍋島の悩みだった。

 

「まあいい。今回の処罰を告げるぞ」

 

一通り思考した後、鍋島は悠介に罰則を与える。

 

「一か月の停学。それが、今回のお前の罰だ」

 

「それだけで、いいのかよ?」

 

「向こう側も、これ以上事件(こと)を、大きくしたくないらしくてな。くれぐれも、穏便に済ませてくれと、言われたのよ。後、てめえにぼこられた奴らが、全員お前の、減罰を申し出てな。たっく奇妙な、カリスマもあったもんだ。てめえを、倒した相手を助けるなんてよ」

 

「....わかった」

 

鍋島の言葉を聞いた悠介は、うなずき学長室から出ていこうとする。

 

「あ。言い忘れてたが、嬢ちゃん(・・・・)には、もう伝えてあるからな」

 

鍋島の言葉を聞いて、初めて悠介の表情が変わる。その表情は、ものすごくめんどくさそうである。

 

「何で教えやがった」

 

「なんでって言われてもよぉ。嬢ちゃんとは、一緒に(・・・)住んでんだろ?家族に、連絡いれるよりも早いし、何よりおめえには一番効くだろ?」

 

鍋島の言葉に言い返す事が出来ないのか、悠介は毒づきながら視線を逸らす。そんな姿を見た鍋島は、笑みを浮かべある事に気が付く。

 

「噂をすれば何とやらだな」

 

「どう言う...」

 

鍋島の言葉に反応した悠介の言葉が、最後まで言われる前に、学長室の扉が大きな音を立てて開かれる。扉を開けた人物を見た瞬間、悠介はめんどくさそうに、鍋島は意地の悪い笑みを浮かべた。

扉を開けたのは、一人の少女だ。肩まで伸ばした黒髪と、人の良い笑顔が出来そうな可愛らしい少女。少女の名前は、松永燕(まつながつばめ)。天神館に通う三年生である。

また、納豆小町としてアイドル活動をしているなど、関西では知らぬ人などいない有名人でもある。

加えて、その武術の実力も高く、天神館でも間違いなくトップレベルに位置づけられている猛者でもある。

燕は、悠介の姿を確認すると猛スピードで悠介の目の前に迫り、

 

「悠介君!!また問題起こしたの!!あれ程やっちゃダメだって言ったよね?どうして、そう簡単に手が出ちゃうの!!」

 

お説教を開始する。燕の言葉を聞いた悠介は、ずうずうしいと言った感じで、

 

「うるせえな。お前は俺の母親か!!」

 

「母親じゃなくて、保護者の代わりだよん。美咲さんに悠介君の事任されてるんだからね!!」

 

「母さん」

 

燕の言葉を聞いた悠介は、遠方にいる自分の母親である 相楽美咲(さがらみさき)に、愚痴を言いたい気持ちになる。燕とは、京都に引っ越した四年生の頃からの付き合いで、幼馴染と言うやつである。

現在、悠介は燕の家に居候している。理由としては、燕の父親である松永久信(まつながひさのぶ)が、株で失敗し大きな借金を背負った事に理由する。

燕の母親である 松永ミサゴは、その事に大激怒し家を出ていくまでに発展した。

そこに救いの手を伸ばしたのが、悠介の父親である 相楽誠(さがらまこと)と母親である相楽美咲の相楽家である。

誠は、会社の仕事の都合で、海外に行かなければならなくなり、妻である美咲を連れていく事に反対はないのだが、息子である悠介を連れていく事を渋っていた。

その為悠介を松永の家に預け、ミサゴを彼女の仕事でもあるボディーガードとして雇い、自分達と海外に来てほしいと頼んだのである。

最初は、渋ってたミサゴだったが、美咲の根気強い説得のかいありその事を了承。

画して、松永の家族が分裂する事を回避したのである。

 

「おい、痴話喧嘩なら余所で、やってくれねえか?甘すぎて、砂糖吐きそうだぜ」

 

悠介と燕のやり取りを見ていた鍋島が、クックッと笑みを殺しながら二人に告げる。その表情は、明らかに楽しんでいる。

鍋島の言葉を聞いた燕の顔が、ほんのりと朱色に染まり、口はせわしなく動き始める。

どうやら何か言いたいようだが、言葉が出ないようだ。

いつも冷静さが売りの燕にあるまじき反応だが、

 

「こんな五月蠅くて腹黒い奴は、いらねえよ!!」

 

そんな燕の変化など、気にしない悠介が燕に変わり、鍋島に突っかかる様に吠える。

しかし悠介が、その言葉を発した瞬間、鋭い回し蹴りが悠介の顔面を襲う。

 

「女の子に対してそんな事言っちゃだめだよ、悠介君。次言ったら蹴るよ?」

 

燕の言葉を聞いた鍋島は、震える体を抑える事が出来ない。それ程に、ドスの効いた声だ。

 

「もう蹴ってんじゃねえか」

 

常人ならば、失神してもおかしくない燕の一撃を受けても、悠介は何事もなかったように燕と話を続ける。

 

「もっと強く蹴るって意味だよ?」

 

「そうかよ。つか、何で機嫌悪くなってんだ?」

 

「別に~悪くなってないよだ」

 

そう呟いた燕は学長室から退室する。その姿を見た悠介は「何しにきたんだよ」と呟く。

 

「随分と仲が良いな」

 

「あれを見てそう思うのかよ」

 

未だに、笑みを消さない鍋島の言葉に、悠介は心外だと言わんばかりに噛みつく。

 

「はあ、おめえさんは武以外だと、とことん残念だぜ」

 

「あ?」

 

「いや、いい。それはてめえが気が付かないと、いけねえことだ。それよりもどうすんだ?」

 

「何をだよ」

 

鍋島の言葉に反応する悠介だが、思い当たる点が無いのか反応鈍い。

 

「川神学院と天神館(うち)との交流戦だよ。おめえはちょうど停学中で、行けねえぞ」

 

そんな悠介に鍋島は、近いうちに訪れる祭りの事を告げる。鍋島の言葉を聞いた瞬間、悠介の顔に初めて動揺が見て取れる。

 

「もしもおめえが、次からはやりすぎねえと誓えるなら、特別に出してやってもいいぞ」

 

鍋島が言った、言葉に嘘はない。

しかし、悠介は、

 

「...いや、いい。山に籠って修行するから」

 

少しの躊躇いを見せながらも、悠介は鍋島の提案をはねのける。

 

「そうか」

 

その言葉を聞いた鍋島は、嬉しそうに悠介を見据える。

今の鍋島の提案に、悠介がのったとしよう。それは戦いを求める武人としては、正しいのかもしれない。

だだし、代わりに悠介が背に背負った「惡」の一文字を悠介は、これから背負う事が出来ない。

それは鍋島の提案は、これから先では今までしてきた事を捨てろと、言っているのと同義になる。

本能とプライド。どちらも武人にとっては、欠かせない要素である。二択を迫られた時悠介は、本能を殺しプライドを取った。一年半近く、悠介を見てきた鍋島にとって、悠介の下した決断は何処か嬉しいものがある。

 

「俺はもう帰るぞ」

 

「おお、おめえと、次に会うのは祭りが終わった後だな」

 

「うるせえ!!」

 

ドン!と大きな音を立てて、扉が閉められ辺りに静寂が包む。そんな中鍋島は、悠介が出ていった扉をただ見つめている。その表情は、何処か父親を連想させる。

 

「立ち止まるじゃねぞ悠介。おめえが、俺の弟子(・・)なら、てめえの夢が叶う、その時まで歩みを止めんじゃねぞ」

 

悠介には絶対に聞こえない筈なのに、鍋島には悠介の返事が聞こえたような気がした。



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悠介の友と始まり

悠介は学長室を出た後、自分の荷物を取りに帰る為教室を訪れている。悠介が教室の扉を開けると、いくつもの視線が悠介に突き刺さる。その視線の大半は恐怖である。

悠介は天神館の札付きであり、誰だって好き好んで、関わろうとはしないのが現実だ。そんな視線を受けながらも悠介は、自分の荷物を取り再び教室から出ていこうとした時、

 

「今回も、派手にやった様だな悠介よ」

 

何処からか悠介に向かって、言葉が投げかけられる。その言葉に対して悠介は、何時もと変わらない口調で正体不明の声に向かって話しかける。

 

「何だよ鉢屋。てめえの大将に俺を暗殺して来いとでも、言われたのかよ」

 

「否、暗殺ではない。己の意思で、貴様に会いに来ている。我らの将を侮辱するは止めていただこうか」

 

悠介の言葉に反応するように、扉の目の前に一人の少年が現れる。顔を黒い布で覆った彼の名は、鉢屋壱助。

悠介と同学年であり、天神館を代表する集団西方十勇士の一人である。

仕事は主に諜報と暗殺と言った、裏の仕事を引き受けている。因みに、生涯童貞を貫く猛者でもある。

 

「そうだな。あいつがそんな卑怯なマネで俺を倒す様な器ではねえわな。失言だったすまん」

 

「わかればいい」

 

「それで何の様だ?」

 

悠介が急に鉢屋が己の元に来た理由を問うと同時に、教室の扉が開く。

 

「おお、此処に居ったか悠介よ!」

 

現れたのは、いい感じに日に焼けた大柄な少年長宗我部宗男。鉢屋と同じく西方十勇士の一人であり、地元四国をピーアールする事に情熱を持つ男である。

そしてオイルレスリングを戦型としている。また面倒見がよく、案外モテル。

そして長宗我部に、続くように...

 

「悠介よ、美しいこの私が自ら、貴様に会いに来てやったぞ」

 

ロングヘアーの少年毛利元親が現れる。彼もまた西方十勇士の一人であり、弓を使った遠距離攻撃を得意とする。因みに、重度のナルシストでもある。

 

「長曾我部に毛利も来るとはなあ。マジで何の用だ?」

 

続々と二年の幹部クラスが、自分の元に来ている事に覚えのない悠介は困惑する。

 

「三人だけやないでーー。うちも来とるでーー」

 

「その通り、この大友もいるぞ!!」

 

困惑する悠介に、追い打ちを掛けるように現れたのは、

関西弁の少女宇喜多秀美と大友焔の二人。

二人とも西方十勇士の一員であり、宇喜多はハンマーを使い、大友は大砲を使う。十勇士の数少ない女子生徒だ。

 

「で、十勇士様方の半数が俺に何の用だよ?」

 

「まあまあ、少し落ち着け悠介」

 

イラつき始めている悠介の肩を叩いたのは、龍造時隆正。彼もまた西方十勇士の一人であり広告担当。

そのルックスの良さから、女子にモテル。ニュース番組の司会を担当している。実力は不明だが、そこそこの物を悠介は感じている。

 

「この流れだと、全員集合しそうだな。おい!」

 

「ゴホゴホ、流石は悠介だ。ご明察通りだよ」

 

「うん、流石だな」

 

悠介の言葉を確信させるように、扉から新たに二人が入って来る。

一人目は、大村ヨシツグ。西方十勇士のサイバーを担当している。病弱そうであるが、実際は十勇士最強の実力者である。

二人目は、尼子晴。西方十勇士最速を誇る実力者であり、十勇士の中で唯一自分の兵を持っている。

 

「って事は、石田待ちか?」

 

「ガハハ!その通りだ。しばし待て、悠介よ」

 

悠介の疑問に、長宗我部が答える。その言葉を聞いた悠介は、ため息を一つ吐き自分の席に座る。

 

◆◇◆◇

 

それから数分した後、扉が大きく開かれる。そこから現れたのは、凛々しい顔つきをした少年とその少年に付き従う若干...いやかなり老けた少年だ。

 

「ふむ、待たせたなな貴様ら!!出世街道を歩むこのおれが来てやったぞ」

 

そう堂々と告げたのは、石田三郎。二年のトップに立ち、西方十勇士を従える天神館の二年大将である。

実力は高いが、いかせん相手を見下しすぎ隙を衝かれると言った、精神的欠点がある人物。

しかし悠介自身、石田からは大将の器を感じてる。

 

「俺は呼ばれてはねえがな」

 

石田の言葉に、若干のイラつきを込めた言葉が発せられる。

 

「悠介殿、此度は、急に押しかけ誠に申し訳ない」

 

そんな、悠介の怒りを鎮めたのは、石田と共に来た彼の右腕である、島右近の言葉。石田とは、古い付き合いであり、人の話を聞かない石田が、唯一話を聞く人物でもある。また、面倒見の良さと老けた顔から、十勇士のメンバーからは「おとん」と呼ばれている。

島の謝罪を聞いて、怒りを抑える悠介。

 

「それで、何の様だよ石田」

 

「ふん。このおれが、貴様に会いにくる理由など、一つしかないであろう!!」

 

一度、言葉を切った石田は、悠介をまっすぐ見据える。

その視線に悠介も瞳を鋭くさせる。

 

「今度行われる、東の川神学園との交流戦。それが終わった後おれは...いや、おれたちは、再びお前に勝負を申し込む」

 

「へえ」

 

石田の言葉を聞いた悠介の表情が、鋭い獣のそれに代わり、石田とその後ろに立つ十勇士を見る。

 

「それは、全員の宣言と取って構わねえな?」

 

「勿論でございます」

 

「当然だ」

 

「ああ、違いない」

 

「俺もね」

 

「今度こそ、悠介に西の気骨を見せつける時ぞ」

 

「うちも同じやでーーーー」

 

「フ、美しい私の姿に今度こそ、敗れるがよい」

 

「ガハハ!ああ、リベンジマッチだ」

 

「それがしも同じく」

 

悠介の挑発じみた言葉に十勇士達は、武を嗜む者達が出す威圧感で悠介に応える。

大村もこの時には、病弱なマネを止め、自分の本性をさらけ出す。

その威圧感を感じながら、悠介は再び石田に視線を移す。

 

「一年の頃は、不覚を取ったが、今は違う!!今度こそ、おれはお前に勝つ!!」

 

実は、石田を含む西方十勇士と悠介は、一年の頃に一度激突している。その時は、悠介が辛勝したのだ。

それ以来石田は、悠介の事をライバルと認識しており、十勇士達も悠介の実力を認め、学校で数少ない悠介の友となっている。

石田の言葉を受け取った悠介は、静かにしかし力強く...

 

「わかった。その勝負受けて立つ!!」

 

「ふん、それならばいい。行くぞお前ら」

 

悠介の言葉を聞いた石田が、十勇士達を連れて、教室から出ていこうとした時...

 

「負けんじゃねえぞ」

 

石田の後ろ姿を見ながら、悠介は石田に告げる。石田達は、悠介の言葉には答えない。しかし、その背が語っていた「当然だ」と。

悠介の言葉はある意味同じく、頂を目指す戦友(とも)に向けた言葉なのかもしれない。

石田達が去って暫らくして、雄介は笑みを浮かべ学校を出ていった。

 

◆◇◆◇

 

石田達が悠介に宣戦布告をした夜。燕の家で悠介らは食事をしている。

 

「ふ~ん。石田君達、また悠介君に挑むんだ」

 

「ああ、どうなるか楽しみだぜ」

 

燕が家に帰った時、家にいた悠介が、嬉しそうにしていた事に疑問を持った燕が、悠介に質問したのだ。

気分の良かった悠介は、晩飯を食べてる途中に、燕に石田達との出来事を話す。燕自身、悠介と石田達の戦いを知っているからこそ、一武人として興味を持つ。

 

「そう言えば、燕はちゃんは、交流戦出るの?」

 

悠介と燕の二人が会話をしていく中で、共にご飯を食べていた、久信が燕に問う。

燕は、悠介との会話を邪魔した、久信を軽く睨み付けながら答える。

 

「残念ながら、納豆小町としての仕事があるから、交流戦は出れないよ、おとん。館長には、もう許可は貰ってるから、心配ないよ」

 

「そうか。それを聞いて、安心したよ、燕ちゃん」

 

燕の目線に、若干怯えながらも、安心の声を出す。理由としてはミサゴが、久信の元に帰って来る条件として、家名を世間に広げると言うものがある。

現在は、久信が自家栽培した納豆を燕を売り子として売る事で、少しずつだが、家名は広がっている。

今回も、ただの交流戦ならば、久信はそこまで心配しなかっただろう。

生半可な実力者に、娘が負けない事を知っている久信だが、今回の相手には、武神の名を持つ川神百代がいる。

敗北は、家名の名を下げる事になる。それゆえの心配だった。

 

「そう言えば、悠介君はどうするの?停学中なんでしょ?」

 

「まあ、近くの山にでも籠って、二重の特訓ですかね。一か月のチャンスを生かさねえと」

 

「あはは、普通停学処分受けて、それをチャンスとは言わないよ、悠介君」

 

久信の疑問に悠介は、大好物である焼き魚を口にしながら答える。

悠介の答えを聞いた久信は、呆れ半分驚き半分と言った感じで、半端なリアクションを取る。

 

「ほんとだよ、悠介君。悠介君は、一度ちゃんと反省するべきだと思うよ」

 

「俺は、自分がしてきた事を悔いるつもりはねえぞ」

 

「ああ!また、そんな事言ってる!!」

 

そうやって、再び悠介と燕は言い争いを始める。その状況を見た久信は、ビールのふたを開けながら、嬉しそうに告げる。

 

「いやあ~燕ちゃんもいい感じで、悠介君のお嫁さんになっていてるね」

 

そう告げた久信だが、直ぐに異変に気が付く..

 

「あれ?どうしたの、燕ちゃん、悠介君?」

 

悠介と燕の二人は、久信のからかいの言葉にも反応せずに、ただ玄関がある場所を鋭い目つきで見つめている。

そんなおり、家のインターホンが三人に来客を告げる。

悠介は、警戒心を解かないままゆっくりと玄関の方へ向かっていく。

燕も、悠介の後に続いて行く。

 

「ちょ、ちょと~二人ともどうしたの?」

 

未だに現状を飲み込めない久信も二人の後に続く様に玄関に向かう。

悠介はゆっくりと玄関の扉を開ける。

そこにいたのは、金髪と黒髪のメイドと、眼鏡をかけたもの優しげな老人執事と、明らかに強者の雰囲気を纏わせた金髪の老人執事が、一人の少女を中心に並んでいた。

 

「は?」

 

目の前に現れた予想外の人物たちに、悠介たち三人の時間が止まる。そんな沈黙を破ったのは、額に×の傷を持った幼い少女だった。

 

「フハハ!我、顕現である!!」

 

その幼い顔つきからは想像できない程、ハッキリと聞く者を引き付ける声音で、少女は自分の存在を示した。

 

この少女との出会いが、悠介を再び川神の地へと誘う。

これは物語の始まりを告げる出会い。 

最早、悠介の物語は幕開けは止める事など出来ない。

 



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紋白の依頼

少女の名乗りと共に、悠介たち三人の止まっていた時間が動き出す。いち早く硬直から解けた悠介は、ゆったりとした動作で少女に近づいて行き、

 

「あう」

 

少女の頭に、拳骨を一発叩き落としす。その事に周りにいたメイドと執事は、驚愕に顔を染める。

最も理由は、主が殴られたと言うよりも、自分達が悠介の行動を事前に、察知できなかった事に対する驚愕である。しかし、燕と久信はやっぱりかと、呆れた表情をしている。それはある程度悠介という人物をを知っていれば予期できた事を示している。

 

「こんな夜中に、大声出してんじゃねえよ。近所迷惑だろう...」

 

悠介が拳骨を落とした少女に説教をしていた、その時悠介の本能が警告を鳴らす。その警告に従い防御しようとした矢先に、

 

「フン!」

 

「があ!」

 

金髪の執事の鋭い蹴りが悠介を襲い、悠介は吹き飛ばされる。

 

「悠介君!!」

 

吹き飛ばされた、悠介を案じる声を上げる燕。そして悠介を蹴り飛ばした執事は、悠介が吹き飛んだ方を見据えながら、独り言のように話始める。

 

「赤子よ。我らに気取られずに紋様を殴った事は、評価してやろう。だが、この方は貴様ごとき赤子が、殴っていいお方ではない......いや、もう聞こえてはいまいか」

 

そう言って、紋様と言った少女の後方に下がろうとする執事に...

 

「俺はな!ガキを嗜めるのに、殺気も敵意を出すようなチンピラじゃねえんだよ!!」

 

悠介の声が執事たちに届く。その事に今度こそ、燕と久信を除くメンバーが、純粋な驚愕に顔を染める。

 

「なに?」

 

「それとな、俺は赤子じゃねえ!!俺には、相楽悠介って言う立派な名があるんだよ!!」

 

悠介はそう言って吠えながら、自分を蹴り飛ばした執事の目の前に移動する。

 

「フン。この俺からすれば、並大抵の奴らは皆赤子よ」

 

「そうかい。じゃあ、その赤子の恐ろしさを、特と味わってもらおうじゃねえか、爺さん」

 

「赤子風情が、この俺に牙を剥くとはな。いいだろう。その身で知れ、己がまだまだ赤子である事を」

 

「上等じゃねえか!!」

 

売り買いの喧嘩言葉に、二人の闘志がみるみると燃え上っていく。二人が同時に、攻撃を仕掛けようとした瞬間

 

「待てい!!」

 

少女の覇気ある声が、二人の動きを停止させる。

 

「我らは、戦いに来たわけでは無い。下がれヒュームよ」

 

「は、申し訳ございません」

 

少女の言葉に、今までの態度からは想像も出来ない程、優雅にヒュームと呼ばれた執事は、後ろに下がる。

そのあまりの状況の変化に、再び悠介の時間が止まる。

そんな悠介に少女は、

 

「すまなかった。確かに周りに対する考慮が足りんかった」

 

頭を下げて謝罪する。その事に悠介は、若干戸惑いながらも返答を返す。

 

「お、おう。わかればいいんだよ」

 

「それでは、家に上げてはくれぬか?我は、貴様たちと話し合いに来たのだ」

 

少女のまっすぐな目を見た悠介は警戒を解き、燕と目を合わせる。燕もそれで悠介の意図が分かったのか、うなずき少女たちを案内する。

全員が家に入った事を確認した悠介は、静かに玄関の扉を閉めた。

 

◆◇◆◇

 

悠介たちと少女たちは居間に集合している。全員が沈黙する中、燕がお茶を出し終えると、悠介が口を開く。

 

「それで一体何の用だよ?」

 

悠介の疑問の言葉に、少女は一息ついたあと、話を始める。

 

「うむ。その前にまずは名乗ろう。我の名は、九鬼紋白。そして先ほど貴様とやり合ったのがヒュームで、我の護衛を担当している」

 

「よろしくお願いします」

 

「そして我の右隣に居るのが、クラウディオである」

 

「ご紹介に預かりました、クラウディオ・ネエロと申します」

 

「そのクラウディオの後ろに居る、金髪のメイドがステイシー、黒髪が李である」

 

紋白の紹介にステイシーと李の二人は、悠介たちに向かって頭を下げる。しかし、悠介たちはそれを気にするところではない。

 

「ヒュームって名に覚えがある。確か、ジジイのライバルって言ってなあ」

 

「九鬼って言ったら、巨大な財団じゃないか!!」

 

「そんな大物が、私達に何のようなの」

 

悠介は、未だに幼き頃鉄心より伝えられた強者の名に反応し、燕と久信は、九鬼と言う名に反応する。

 

「要件は何だ?」

 

そんな中で比較的に冷静だった悠介が、再び紋白に問う。

 

「ふむ、我は松永燕と言う者に依頼しに来たのだ」

 

「わ、私に!?」

 

突然の指名に、混乱していた燕はますます混乱していく

そんな燕に悠介は、大きく腕を掲げ、

 

「一回落ち着けや」

 

「痛った~」

 

燕の頭にチョップを振り落す。その激痛のおかげで、燕の混乱がなくなる。しかし、痛みが大きかったため悠介を睨み付ける。

 

「もう少し女の子には、優しくするべきだよ悠介君!!」

 

「うるせえ、混乱してたお前が悪い」

 

「む~」

 

「――――」

 

「――――」

 

「――――――」

 

「...はぁ、悪かったよ」

 

燕の睨みに堪えられなくなったのか、悠介は謝罪を口にしながら燕の頭を撫でる。

その動作に若干驚くも、払いのける様な事はせず、嬉しそうに受け入れる燕。その姿は、大きな猫のようだ。

 

「う~ゴッホン!」

 

「!!」

 

燕たちのやり取りを見た事で、冷静さを取り戻した久信が、わざとらしく咳き込む。その声で漸く我に返った燕は、猛スピードで悠介から離れる。

 

「え~と、すいません。置いてきぼりにしたみたいで」

 

「かまわん。仲良きことは良い事である。なあ、クラウディオよ」

 

「はい。その通りでございます」

 

久信の謝罪に紋白は気にしてないと断言する。むしろその表情は、楽しそうである。

 

「そ、それで私への依頼って何なんですか?」

 

このままではまずいと判断した燕が、話を元の場所に戻す。しかしその顔色は朱色に染まっている。

 

「おお、そうであったな」

 

燕の言葉で紋白は、当初の目的を思い出したのか、真剣な表情で燕を見据えながら告げていく。

 

「お前には、ある人物を倒して貰いたいのだ」

 

「ある人物とは一体誰ですか?」

 

真剣な紋白の表情に燕も自然と真剣な表情で返す。既に燕の中では、その人物はかなり厄介な相手だと当たりをつける。

 

「武神川神百代だ」

 

紋白の言葉に久信は驚愕する。燕も驚愕はしているが、紋白ではなく悠介を見ている。紋白の言葉を聞いた悠介だが、何の変化もなくただ紋白を見据えながら口を開く。

 

「理由は何だ?見た処、武を嗜んでいる様だがそれだけだ。お前が武神を倒したがる理由(わけ)が見えて来ねえ」

 

悠介は紋白を見据えながら理由を問う。その言葉に紋白は、初めて悔しそうな表情をしながら答える。

 

「仇を討つためだ」

 

「誰のだ」

 

「川神百代に敗れ去った、我が姉上九鬼揚羽の無念を晴らすためだ!!」

 

九鬼揚羽。武を生業と知る者でその名を知らぬ者はいない程の実力者だ。その名は、武神に匹敵するネームバリューを持っており、川神百代と同じく武道四天王の一人である。

実は松永の家には、もう一人居候がおり。今は訳あってこの場にはいないが、かつて四天王最速の名持った武人だ。彼女からある程度、四天王の事を聞いていた燕と悠介は、紋白の言葉の意味をすぐさま理解する。

 

「自分の手じゃなくていいのか?」

 

「我だって、出来れば自分の手で倒したい。だか、我が倒せると思うほどうぬぼれてはない」

 

そこで一度言葉を切った紋白は、再び燕を見据えながら話始める。

 

「しかし姉上が負けたのに、あの者は勝ち続ける。我にはそれが我慢ならん。ならば、武神に対抗できる者を見つけ出し、我の刺客として武神に差し向け敗北を教えてやるのだ!!そんなおり西の地にて、無敗を誇る武人がると聞き調べた結果が...」

 

「燕だったって事か」

 

「ああ、その通りだ。勿論報酬は弾む」

 

紋白が言い終わると同時にクラウディオが、一枚の紙を三人に配る。

 

「其方が、この依頼をお受け下さった場合の契約内容と報酬でございます」

 

そのプリントに目を通した久信が驚きの声を上げる。

 

「僕を九鬼の技術者として迎え上げて、家名を上げるのを全面バックアップ!!!」

 

「うむ、主らを調べた結果、家名を上げたがっていると言う報告得てな」

 

「しかも、前払いって」

 

「この依頼がどれだけ困難か理解しておる。九鬼が全面的に協力しても何ら不思議ではあるまい」

 

紋白の言葉に興奮する久信。悠介は一通り目を問うした後疑問を口にする。

 

「依頼が達成できなくてもペナルティなしってのは、随分気がよくねえか?結構な出費もんだろ」

 

「かわまん。これは我の我儘ゆえ全ての責任は我にある。それを他の者に背負わせる気は毛頭ない。それに我は人材発掘を趣味ともする。調べていくうちに松永の力を我は欲しくもなったのだ」

 

「なるほど」

 

紋白の言葉に一応納得した悠介は口を閉じる。質問がないと判断した紋白は更に言葉を続ける。

 

「無論、必要な物は全て我ら九鬼が受け持つ。さらに対武神対策をヒュームが授けると言っておる」

 

紋白の言葉にヒュームは静かに頷く。その言葉を聞いた久信はますます興奮する。

 

「ちょ、燕ちゃん!!この依頼受けようよ。こんなチャンス滅多にないよ!!」

 

久信の言葉は間違っていない。失敗しても燕たちに何らデメリットもなく、むしろ大きなメリットしかないのだ。断る理由が見つからない。

しかし、燕は悠介を見たまま返事をしない。そんな視線を感じた悠介は、紋白を見据えたまま静かに呟く。

 

「受けるべきだろ燕」

 

「え、でも良いの?それって悠介君の」

 

燕自身、悠介と百代の関係を悠介自身の口から聞いている。だからこその悩みなのだ。

その闘いをこの様な形で汚して良いのか、一人の武人でる燕にとって、悠介の百代に掛ける想いの大きさを知っているからこその躊躇い。

しかし悠介は、

 

「人の事を気にする暇があるなら、お前はお前の目的の為に闘えや。取り戻すんだろ、あの時間を」

 

何の躊躇いもなく自分の想いを踏みにじれと告げる。自分の目的の為に、他人の想いを下していけと悠介は告げ

る。

その答えがあまりにらしかった為燕は、小さく笑みをこぼす。ああ、そうだ。それでこそ、自分が武を始める切っ掛け(・・・・・・・)であり、自分の憧れた悠介だ。

 

「いいんだね」

 

「くどいのは嫌いだ」

 

「わかった」

 

短い二人のやり取りにどの様な意味があったのか、部外者にはわからない。悠介の言葉を聞いた燕は、一度瞳を閉じ再び紋白を見つめて告げる。

 

「微力ながら、この依頼引き受けさせて貰います」

 

「そうか!!」

 

燕の答えに、紋白は嬉しそうに答える。彼女自身不安はあったのだ。確かに勝率は大きくなるだろう。しかし、それを踏まえても武神の力は強大なのだ。

その力に怯えて受けてくれないかもしれないと、クラウディオから告げられていたのだから余計に嬉しさは大きい。

 

「だだし、一つ条件があります」

 

「何だこの報酬では不満があるのか?」

 

「ちょ、燕ちゃん」

 

燕の言葉に、ヒュームたちは視線を鋭く睨み付ける。もし、燕がこれ以上を求めるなら実力行使に出るためだ。

その事を察した久信が、燕を止めようとするが、

 

「いいえ、違います」

 

「?。では、何だと言うのだ?」

 

「今回のこの依頼、此処にいる相楽悠介も加えて欲しい。それが私の条件です」

 

今回の依頼は、あくまで燕個人に対するもの。それに悠介を加えて欲しいと燕は告げる。その言葉に、紋白は思考する。そんな紋白にクラウディオがアドバイスを与える。

 

―――あのヒュームの蹴りに耐えるほどです。見込みはあるかと。

 

「(...確かに、腕利きが多くいる事に越したことはないな)わかった。その条件を呑もう」

 

「ありがとうございます」

 

燕の返事を聞いた紋白は、今度は悠介に視線を向ける。

肝心の悠介は、何事も動じずにいる。

 

「ならば、お主にも報酬を払わねばなるまい。好きな事を言ってみろ、我らは出来るだけ答える所存である」

 

紋白の言葉に悠介は、燕に余計な事言いやがってと言わんばかりに一度睨み付けた後、紋白に向かって告げる。

 

「別に何もいらねえよ。あえて言うなら、協力はいらないってのが、俺への報酬だと思ってくれていい」

 

その言葉に、そこにいたメンバーが騒然とする。いや、燕とヒュームの二人は反応は違えど、驚愕はしていない。

 

「俺は俺だけの力で、モモに挑みてぇ。だから下手な協力はいらねえ」

 

未だに驚愕している面々に悠介は、さらに告げていく。

その言葉を聞いた紋白が依頼者として、そんな事は容認できないと告げようとする前に、

 

「それは、武人の言葉と取って構わんな。赤子よ」

 

ヒュームが悠介に問う。その顔は、何処か面白い拾いモノをしたと言わんばかりの表情をしている。

 

「ああ、構わねえ」

 

悠介は、ヒュームの問いに何の躊躇いもなく答える。

 

「ほう、貴様の様な赤子が言うではないか。可能性はゼロだぞ」

 

「んな事は、端から承知の上で挑んでんだよ」

 

悠介の瞳をじっと見据えるヒューム。数分の沈黙が二人の間を支配する。

先に沈黙を破ったのはヒュームの方だった。

 

「ふん、変わった赤子だ。紋様、この者への報酬はそれでいいでしょう」

 

「ええ、わたくしも同じ考えです」

 

ヒュームとクラウディオが紋白に、悠介の考えを受け入れるべきだと告げる。

その二人の言葉に、紋白は渋々納得する。

 

「わかった。お主の要件を呑もう」

 

「ありがとよ」

 

紋白の言葉を聞いて悠介は、笑みを浮かべながら礼を言う。

 

「詳しい話は、また後日になるが構わんか?」

 

「問題ありません」

 

紋白の言葉に燕が代表して答える。

 

「それでは、我らはこれで失礼するとしよう」

 

そう言って紋白たちは、玄関から出て行く。その姿を見送った後、紋白たちが去った居間で、久信は嬉しそうに飛び跳ねる。

燕は、即座に自分が知っている武神の情報を紙に書き、自分なりの対策を始める。

そんな中悠介は、一人外の景色を見ていた。

運命は再び悠介を川神へと引き寄せる。

その果てに彼が何を見るのか、それが分かるのはそう遠くない未来。

 

◆◇◆◇

 

日本の九鬼極東本部一室。そこには、本日、紋白と行動を共にしていたステイシーと李の二人が、休憩を取っている。 

 

「なあ、どう思う?」

 

「ステイシー、何度も言ってもすが主語を入れてください」

 

「ああ、悪い悪い」

 

休憩を取っている最中、ふとステイシーが李に問いかける。

 

「あの、ヒュームのおっさんと喧嘩しかけたロックなガキの事だよ」

 

ステイシーの言葉に、何時も無表情の李の表情が変化する。自身の相棒の変化に「おっ!食いついた」とステイシーは笑みを浮かべる。

 

「どうとは?」

 

「ったく、相変わらずめんどくせえ奴。お前にはどう映ったよ」

 

「そうですね.....歯牙にもかけないレベルだと思いました」

 

「だよな。私も同じだぜ。でもよ」

 

「ええ、そんな私達から見ても弱者で在る筈の彼が、ヒューム卿の攻撃に耐えた」

 

思い出すのは、ヒュームに吹き飛ばされながも、何の事はなかったように現れた少年の姿。

 

「ヒュームのおっさんが手をぬいったってのは...」

 

「それこそ、ありえません。ヒューム卿の仕事に対する真面目さは知っているでしょう」

 

ステイシーの提案を李は即座に否定する。最もステイシー自身、そう思っていたのか「だよな」と呟き李の意見に同意する。

 

「あ~~~~全然わかんねえ」

 

「確かに、謎がありますが答える事は出来ませんね」

 

そう言ってこの話題を終わらせる二人。しかし、再びステイシーが李に話しかける。

 

「じゃあよ、あの時の言葉はどう思うよ」

 

今度も主語はない。しかし、何を聞いているのか、李は直ぐに理解する事が出来た。あの少年が武神に挑むと言った事だと。

 

「普通に考えれば、無謀で愚か者ですが」

 

「だよな~」

 

二人は同時に思い出す。武神と戦うとヒュームに向かって告げた少年の瞳に、その武骨で真っ直ぐな目に、魅入り魅せられた。あの瞳を見た二人は、悠介の事を否定できない自分がいる事に気がついている。

 

「いずれにせよ、しばらくすれば自ずと答えは出て来るでしょう。彼もまた武神に挑むのですから」

 

李の言葉にステイシーは、笑みを浮かべながら「そうだな」と答える。

結局、二人は休憩時間が終わるまで、悠介の話で盛り上がった。

 

◆◇◆◇

 

時を同じくして、九鬼極東本部屋上。夜の町並みを見下ろすその場所にヒュームは一人で佇んでいる。

 

「やはり此処にいましたか」

 

「クラウディオか」

 

心地よい波風が吹き抜ける中、クラウディオが屋上に姿を見せる。九鬼を代表する二人が静かに、何も言わずに同じ方角を見ている。だが、二人は決して海を眺めてはいない。見ているのは、もと別のナニカ。

 

「お前はどう見る」

 

「可能性は高いでしょうな」

 

ヒュームの問いにクラウディオは、合間入れずに答える。その答えにヒュームは答えない。しかし、自分も同じだと無言に告げている。

 

「それよりも私は、あの少年の方が気になります」

 

クラウディオの言葉に初めてヒュームの気配がブレる。

しかし、それも一瞬のほんの僅かな時間。だが長年共に居るクラウディオには、それで十分である。

 

「やはり、気になりますか?」

 

「ふん、あんな赤子を気に掛ける訳があるまい」

 

「そうですか?私は十分興味がありますよ。何たってヒューム、あなたの蹴りに耐え抜いたのですから」

 

「俺が全力だったとでも言いたいか」

 

ヒュームがそう言った瞬間、クラウディオにだけ(・・)凄まじい威圧感が放たれる。しかし、クラウディオは気にした様子もなく、

 

「すいません。失言でした」

 

クラウディオの謝罪と共にヒュームの威圧感は消え失せる。そして、そのままヒュームはクラウディオの後ろに移動し、そのまま歩き始める。

 

「おや、どちらへ?」

 

「ふん、戻るだけだ」

 

そう言ってヒュームは屋上から姿を消す。その数分後、海の方向を眺めていたクラウディオも屋上を後にする。

 

◆◇◆◇

 

階段を下りていく中、ヒュームはつい数時間前に会った一人の少年の姿を思い起こす。

手を抜いたわけでは無い、むしろ的確に実力を見抜き確実に気絶させるつもりで蹴り抜いた。しかし、彼は何事もなかった様に再び自分の前に現れた。

そして、武神と戦うとほざいた時のあの眼。階段を降りる事を一度やめ、ヒュームは自分の脚に視線を向ける。

似ていた、誰にと言われれば、答えたくないし、認めたくない。

しかし、確かにヒュームは何処かで認めていた。

その核心をヒュームに与えた存在を静かに呟く。

 

「本能か」

 

自分に似ているのだ、あの赤子は。周りなど気にせず自分の我を通そうとする姿は、何処か自分と重なる。

ならばなぜ、あの才能を感じさせない赤子と自分が重なるのか。

それは、ヒュームの磨き上げられた武人としての本能が、悠介からナニカを感じ取り、その一つの未来をヒュームに直感させる。

何時か、あの石ころ程の価値しかないあの赤子が、自分の目の前に確固たる()として、現れるそんな不確かでありながら確かな確信を。

 

「ふん、下らん。誰が相手であろうが俺が最強だ」

 

ヒュームはそう呟き再び階段を降り始める。しかし、もしこの場所にヒュームを見た者がいたら驚愕するのは必至であろう。

その(かお)は、明らかに血に飢え誰にも飼いならす事など不可能なケモノの貌だった。



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悠介と東西交流戦 その1

感想に寄せられていた疑問に少し答えようと思います

まず、ステイシーと李が悠介を弱者と見たのには、ちゃんと理由があります
近いうちに明かすと思うので、それまで待ってくれるとありがたいです

次にヒュームに蹴り飛ばされた事についてですが、これは細かい描写を書かなかった自分が悪いと思います
理由としては、まず悠介がその場から離れる為にバックスッテップをとり、一瞬悠介の脚が地面から離れた瞬間を、ヒュームに蹴り上げられ、踏ん張る事が出来ず吹き飛ばされたと言う訳です

少しでも皆様の疑問が解消されると良いのですが


今回は弱い悠介をメインに書いてみました

楽しんでくれたら嬉しいです


京都にある某山の一角。巨大な岩が点在する川の岸辺に、悠介はいた。

悠介の目の前には一際は、大きな岩があり。その近くに悠介は立っている。悠介は瞳を閉じ呼吸を整えている。

静寂が辺りを包む中悠介は瞳を開け、小さく呟きながら拳を岩に向かって放つ。

 

「二重の極み」

 

悠介の拳が岩と接触した瞬間、岩の一部がパァン!と弾け飛び、辺りに塵を舞わせる。しかし、その光景を見た悠介の表情は晴れない。

むしろ悔しそうな表情をしている。

 

「ちぃ。やっぱ改良版の二重だと、スピードも威力も射程距離も、本家に劣るか」

 

そう言いながら、悠介は右手首に添えていた左手を離す。悠介が放った二重は、夢の中で見た男が編み出した、二重のもう一つの姿だ。

しかしそれは両手打ちになり、負担が軽減される代わりに、片手打ちの二重よりも、どうしてもスペックが劣ってしまう。

 

「いや、夢の中で見た通りなら、この岩全てを簡単に塵に変えていやがった。それこそ、本家と変わらない程の威力を出していた」

 

自分の中に湧き上がった感情を悠介は口に出して否定する。ならばなぜ、出来ないのか、理由は既に出ている。

 

「才能か」

 

自分が見た夢の男は、両手打ちの二重ですら、一撃必殺の威力を宿していた。

しかし、どれだけ自分が努力しても、夢に見た威力には届かない。それは単に、悠介と憧れの男との間にある、才能の差であると悠介は考えていた。

 

「それに、十回やって一回成功とか......あいも変わらず、才能の無さに呆れて来るぜ」

 

それでも、この改良版が100%の確率で使えるようになって初めて、本家の二重が打てると悠介は直感している。恐らく自分は、この両手打ちを極める(・・・)事出来ないであろう。

それはこの両手打ちが初めて打てた、中学三年の時に悟った。

その時の失望感を悠介は忘れないだろう。打てた喜びよりも先に、沸き立った絶望感。あの時も自分の無力さを何度も呪った。

 

「ふう。いい加減、無い物をねだっても仕方はねえな」

 

無いモノ(さいのう)をねだっている暇など、自分にはないのだ。一生、手に入れる事が出来ないモノに縋っている内に、天才たちは自分の遥か上に行く。

そんなバケモノ(天才)に挑むためには、一秒も無駄に出来ない。

自分が一歩踏み出せば、彼らは既に何歩も先に進んでいる。

そもそも自分と彼らでは、見ている景色が違いすぎる。

そんな彼らと戦うためには、自分の手にあるモノで、最強たちに食らいつく方法を編み出すしかないのだ。

凡人に許された唯一の手段である。

努力と言う権利を使って、何度も何度も敗北の泥をかぶり屈辱にまみれながら、見出していくしか方法はないのだ。

そして、その見つけ出した可能性が、片手打ちの二重の極みだ。だからこそ、悩む暇などない。

しかし、一度考えてしまうと、感情は欲してしまう。

それが間違いだと知っている。そんな事を欲せば、ますます身に付かない事など、何度も理解している筈なのに心は求め続ける。

鉄心の様な迅さを、ルーの様なキレを、釈迦堂の様な力を、鍋島の様な一撃を求めてしまう。

 

「やめろ!!自分が無力なのは知ってるだろ!!」

 

口に出して、自身に沸き立つ不要な感情を鎮めようとする。しかし、一度考えてしまうと、なかなか静まらない。

 

「ぐぅ!!」

 

悠介は、目の前の岩に自身の額をぶつけ頭を冷静にさせる。額を血が流れる事を気にせず悠介は、何度も深呼吸を繰り返している。

痛みなど関係ないと、悠介は表情を歪める事なく、その体勢のまま憧れる男を思い出す。

数ある強敵に、勝算もなくただバカみたいに突き進んだ男の背中。

武人にとって、財産とも言うべき才能を否定して見せた男の言葉。

男は言った。才能よりも大切なモノがあるのだと。悠介には未だに、その言葉の意味が理解できない。しかし、自分の憧れた男が言ったのだ。ならば、男を信じてそれを探そう。

自分の才能では、夢で見た男の武力には辿りつけない。

それならば、全く違う道を探せばいい。どんなに遠回りしてもいい、あの場所に辿り着く事こそが、悠介の目標だ。

あの男が自分にとっての、初めにして五人目の師だ。師の言葉を信じない弟子はいない。

あの背を追いかけるのならば才能と言う、都合のいい逃げ道に走る事は出来ない。

なぜならあの男は、才能を否定しながらも前へ進んでいった。ならば、その背を憧れる自分も進むしかない。

そうやって進んでいく男の背を思い起こした悠介は、すぐさま今までの弱気な自分を否定する。

 二重の威力の差が才能...いや違う。自分にはまだ足りないだけだ。

男は、一度も才能であの技を語らなかった。自分が勝手に決めて、諦めているだけだ。

 

「そんなんじゃねえだろ!!」

 

自然と悠介の口から、才能を逃げ道に諦めようとした自分への怒りの言葉がこぼれる。そんな事では、永遠にあの背が見えなくなる。

そうならない為に強くなるのだ。迷うなと、自分に強く言い聞かせる。

そうして自分の遥か先を行く男の背を思い浮かべた悠介に、最早さっきまでの弱気な自分はいなかった。

 

◆◇◆◇

 

心を落ち着かせた悠介は、再び両手の二重の構えを取り岩に向き合っている。

集中し、意識を身体全体に向ける。再び静寂が場を支配し始めた瞬間、

 

「おう、漸く見つけたぜ」

 

第三者のそれも見知った声が悠介の耳に届いて、研ぎ澄まされた集中力が消え失せる。その事に腹を立てながらも悠介は、声が聞こえた方に視線を向ける。

視線を向けた先には、鍋島が笑みを浮かべながら立っている。

 

「何しに来やがった?」

 

「おいおい、何しに来たって...そらあ、停学が明けたのに学校に来ねえ、不良生徒の顔を見に来たに決まってるだろ?」

 

悠介の問いに鍋島は、心外だと言わんばかりに肩を竦める。

 

「停学は、まだ明けてねえだろ?」

 

鍋島の言葉に疑問を持った悠介は、呆けた声で鍋島に問いかける。その言葉を聞いた鍋島は、やっぱりかと言わんばかりに大きくため息をこぼしす。

 

「てめえの停学は、もう二日前にとっくに終わってぞ」

 

「マジ?」

 

「大マジだ」

 

鍋島の言葉を聞いた悠介は、呆けた顔をしながら気の抜けた声で確かめる。

その問いに鍋島は、呆れ半分感心半分と言った声音で答える。

 

「わりぃ」

 

「たっく、おめえは何時も、修行に集中すると時を忘れやがる」

 

小さく謝罪の言葉を口にした悠介に、鍋島は呆れながらも悠介の欠点を上げていく。

それに反論でいない悠介は、黙って聞くしか出来ない。

 

「そ、そんな事よりもよお、交流戦はどうなったんだ?」

 

このままでは不味いと感じたのか、悠介は無理矢理に話を変える。鍋島は元々そこまで、責める気はないのか、悠介の思惑に直ぐに乗る。

 

「まあ、一年の奴らは、むこう()の大将がバカをやってくれたおかげで、簡単に勝てた。三年の方はまあ、見事に武神にやられたな」

 

「まあ、三年の方を責めるのは、筋が違うだろうな。あいつ(百代)は、格が違げえ」

 

「そこは俺も同意見だ。此処までうち(西)むこう()は、ちょうど一勝一敗って訳だ。つまり天王山になったのは」

 

「二年か」

 

鍋島の言葉を聞いた悠介は小さく呟く。その言葉に、鍋島も同意する。

 

「ああ、石田達の勝敗が、そのまま学校の勝敗になったって訳だ」

 

「二年の戦いを詳しく知りてぇ」

 

「長くなるぜ」

 

「構わねえ。話してくれ」

 

悠介の言葉を聞いた鍋島が、腰を地面に下ろす。その近くに悠介も腰を下ろし、鍋島と向き合う形をとる。

自分と戦うと言った、ライバル達の戦いを、悠介は一言も聞き漏らさぬ様に、鍋島の話に集中して、耳を傾けた。



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悠介と東西交流戦 その2

前回の話ですが、皆さまの感想を見て、少し書き加えました
皆様が、納得するかはわかりませんが、一度確認して下さると嬉しいです


それともう一つ、何となく察しているかもしれませんが、暫く悠介は登場しません


川神市工場地帯。今は捨てられた工場地帯を戦場として、天神館と川神学園の生徒たちが、己の牙をぶつけ合う東西交流戦の舞台となっている。

 

「此度の戦、身内同士で争っていては勝てん!!」

 

東側、川神学園本陣。そこでは、川神学園の大将九鬼英雄が、集まった者達に向けて演説を行っている。

実際、今回二年生の主戦力となる、F組とS組は犬猿の仲で何かと争っている。その為、普通に考えて、その両者が協力し合うなど、難しい話である。

 

「一年生の敗北を見たであろう!!敵は、バラバラに戦って勝てるほど、甘くはない」

 

しかしバラバラに動いた結果がどうなったかを、一年生の試合が物語っている。だからこそ、誰もが英雄の言葉に誰もが耳を傾けている

 

「我らは敵同士だ!!しかし、此度は同じ敵を持つ同士である。学び舎の名を高めるか!辱めるか!選べ!お前達」

 

英雄の言葉を聞いた、生徒たちは静かに周りを見渡す。そこには普段から争い合う犬猿の仲といえる学友の姿。

 

「F組と組むのは嫌じゃが、敗けるのだけは、もっと嫌じゃ!!」

 

一番初めに、協力する事に賛成したのは、意外にも最もF組を嫌っている、不死川心だった。

誰よりもF組を嫌っている彼女の言葉だからこそ、その言葉が真実であると告げている。

 

「私達は力と体を合わせて、戦うとしましょう。ねえ、大和君」

 

次に話始めたのは、S組の智将とも言うべき、葵冬馬。

頭脳明晰なイケメンだ。因みに、両刀でもあり、大和が好みだとか。

 

「ああ、わかってる!!共同戦線だ」

 

冬馬の怪しい視線から、逃れながら大和は力強く頷く。

ここに、二年生たちが奇跡の団結が果たされた。

 

◆◇◆◇

 

西側、天神館本陣。こちら側は川神学園と違い、とても静かだった。

その中で石田は、静かに腰を下ろし集中している。鼓舞する必要などない。石田は、この工場地帯に入る前、メンバーを全員集めただ一言告げた。

 

「俺は、この戦いに誇りを掛ける」

その言葉の意味を理解できない者は、天神館にはいない。

静かに闘気を練る石田に呼応するように、周りの者も戦意を高めていく。特に西方十勇士のメンバーは、石田の闘気に触発され、無意識に自分達の闘気を練り上げ、放出している。

石田達天神館は、静かに戦が始まる時を待っていた。

 

◆◇◆◇

 

両陣営を見渡せる場所から鉄心は、両陣営を観察している。

 

「なかなかに、面白い戦いになりそうじゃな」

 

両軍の様を上から観察していた鉄心は、面白ろそうに呟く。

 

「おうとも、二年はつぶが多くいるからな」

 

そんな鉄心の言葉に、鍋島は嬉しそうに告げる自分が育ててきた者を師に評価されるのが、嬉しくてたまらないと言った表情をしている。

 

「それにお前さん処の大将の覚悟が、並の物ではないわい」

 

「まあ、石田達にとってみれば、何が何でも勝ちたい戦なんだよ」

 

「ふむ。ならば、西が有利と言ったところかの」

 

鍋島の言葉を聞いた鉄心は、冷静に自分の生徒たちが不利である事を悟る。

 

「俺らがこんな所で、予想を立ててもしょうがねえぜ、師よ」

 

「わあっとるわい」

 

鍋島のからかいの言葉に、鉄心は静かに開戦の狼煙を上げる。

満月が夜を照らすなか戦は始まりを告げた。

 

◆◇◆◇

 

開戦の狼煙が上がってから、すでに幾分か時が過ぎ去っている。

腕に覚えがある者達の激突。両軍負傷者が続出している。

しかし、明らかに押されているのは、東の川神学園だ。

理由としては、戦いに掛ける覚悟の差がもろに出ている。天神館の生徒たちは、石田の言葉を受けて、この戦いに並々ならぬ覚悟と決意で臨んでいるのだ。その覚悟が川神の生徒たちを圧倒する。

しかし、それでも決して倒せないわけでは無い。川神にも同じく武士の血を引く者が数多くいるのだから。

しかしそれでも押されている大きな要因はやはり、西方十勇士の存在だ。

 

「大友家秘伝・国崩しぃぃぃぃぃぃ!!」

 

大友の言葉と同時に、改造大筒が辺りに爆炎をまき散らす。その攻撃範囲に、何人もの川神学園の生徒は負傷を余儀なくされる。

 

「聞けい、東の軟弱ども!!此処に大友がおる限り、一歩も進めぬと知れ!!」

 

硝煙たなびくなか、西方十勇士の一人大友焔は、ハッキリと川神の生徒に宣言する。

大友がいる場所は、工場地帯のほぼ中央。鉄パイプが入り乱れる工場地帯において開けた場所であり、隠れる場所がない。

自分の武器と地形をうまく生かし、大友は向かってくる川神の生徒たちを沈めていく。

しかし、如何に広範囲を攻撃できるとはいえ、決して全てを護れるわけでは無い。

当然、大友の目の届かぬ場所で、何人もの生徒が先に進んでいく。

大友自身その事に気が付いているが、自分の仕事はあくまでも、広範囲の殲滅。

抜けた敵は、別の十勇士が相手どる事になっている。故に、大友は自分の仕事を全うするため、再び大筒に手をかける。

そんな大友の後方に...

 

「ふん。コソコソと美しくない。流石は東の蛮勇だ。せめて、美しいこの私の一撃で沈め」

 

西方十勇士の一人毛利元親が、国崩しの攻撃を逃れた川神の生徒に向かって、弓による攻撃を仕掛ける。

決して逃れられない三本の魔弾は、的確に敵を打ち抜いて行く。

西方十勇士の活躍により、川神学園は開始早々ピンチに陥っていた。

 

◆◇◆◇

 

「まずいな」

 

大和は、見晴らしの良い高台から、戦況を見てそう呟く。

 

「ええ、明らかに旗色が悪すぎます。このままでは、その勢いのまま敗北も在りえます」

 

大和の呟きに同意する様に、冬馬が現状の危険性を告げる。

 

「こっちも要所要所に、手練れの男達を配置してるから、どうにか攻め入られはしないが」

 

そう言いながら大和は、自身のファミリーのメンバーである、風間と島津の姿を思い起こす。

 

「やはり西方十勇士を、どうにかしない事には、こちらの勝利は見えませんね」

 

「ああ、仕方がない。先にカードを切るのは、参謀として情けないが」

 

「ええ、主戦力である彼女たちに、十勇士を任せるしかありませんね」

 

大和と冬馬の二人は、自分達の無力さを感じながら、本陣に控えていた、頼もしい武士娘達に連絡を入れる。

二人の判断は決して間違いではない。

しかし、武に精通していない二人には気が付けなかった。敵が一体どれほどの覚悟を持って、この戦に望んでいるかを。

その見落としは、彼ら二人の考えを狂わせていく事に、気が付かない。

祭りはまだ、始まったばかりだ。

 

 



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悠介と東西交流戦 その3

「国崩しぃぃぃぃ!!」

 

大友の掛け声と共に辺りを爆炎が包み込む。既に、何人もの生徒が大友の手によって戦闘不能に陥っている。

 

「どうした東の!貴様らの実力はこんな物か!!」

 

大友の挑発と取れる言葉に辺りいた川神の生徒たちは耐えていた。今、挑発に乗って出ていく事は倒してくれと言ってるのと同義だからだ。

 

―――ふむ、なかなか出てこんな。東の武士は腑抜けか?

 

 

辺りを静寂が支配し始めた事に、大友は若干の失意の念を覚える。楽しみにしていなかったと言えば嘘になる。

今回の戦いの経験が、悠介と戦う時に役立つモノになると思っていた。

しかし、今の状態ではそれは求められない。

 

「どうした!!貴様らはそれでも、本当に武士か!!」

 

今度も無言が返答であると思っていた大友に、

 

「私が相手だと知りなさい」

 

凛とした声が届く。

 

「ほほう」

 

大友は笑みを浮かべながら、声がした方に視線を向ける。そこにいたのは、軍服を着た赤い髪の女性だ。

しかし、大友の本能は彼女は強いと告げていた。

彼女の名は、マルギッテ・エーベルバッハ。

クリスと同じドイツ出身であり、彼女のお世話役として日本に来日した現役の軍人である。

加えて、戦闘狂な面があり、強者との戦いを望む根っからの武人タイプである。

 

「おもしろい!この大友の国崩しに、貴様一人で挑むと言うか南蛮人」

 

「ええ、戦場で何度かあなたの様な、大火力の相手とは戦い慣れている」

 

「貴様が今まで戦って来た者達と、この大友を同じにしてくれるなよ」

 

「ほう、面白い」

 

「来い!!西方十勇士が一人、大友焔が相手になる」

 

大友焔とマルギッテ・エーベルバッハは、お互い静かに自分の得物に手をかけた。

 

◆◇◆◇

 

「ふむ、大友の奴は美しい相手に出会えた様だな」

 

 

大友の様子を後方より、眺めていた毛利は二人の戦いを美しいと評する。

 

「できれば、この美しい戦いを眺めて居たいが...」

 

そう呟いた毛利は、静かに自分の前方に矢を放つ。瞬間、二つの矢は空中で激突し破壊される。

 

「なかなかに美しい狙撃。この私と戦うに値する者だ」

 

そう言って毛利は、自分の遥か前方に視線を向ける。常人の眼では決して見ることが出来ない距離。しかし毛利の目は、確かに敵を捉えている。

 

「仕留めれなかった」

 

そう呟いたのは、毛利のいた場所から離れた場所にいる椎名京。彼女は再び矢をたがえ、遥か先にいる敵である毛利を睨み付ける。

 

「大和の為にも頑張る」

 

距離にして数百メートル離れた場所で、二人の弓兵は開戦を告げた。

 

◆◇◆◇

 

二人の十勇士が戦いに入ったのと時を同じくして、工場某所でも動きに変化が現れる。

 

「此処から先は通さねえ!!」

 

島津岳人は、周りを囲まれない狭い道で天神館の生徒を相手取っている。自分の長所と短所を理解した作戦は功を奏し、既に何人もの敵を倒していた。

今も一人の敵を見事撃破してみせた。

そんな岳人の側に...

 

「ガハハ!東にもなかなか骨がある奴がいるな」

 

「ああ!?」

 

一つの高笑いが届く。そこに視線を向けてみれば、

 

「面白い。西方十勇士一の力自慢、長宗我部宗男が相手取るにふさわしい敵よ」

 

上半身裸の男が悠然と佇んでいる。しかし何よりも驚くべきなのは、その周りには何人かの川神の生徒が倒れている。

 

―――こ、こいつ!!今の一瞬で倒したってのか

 

さっきまで、この男の姿はなかった。つまり、現れて直ぐに、自分に気づかれずに何人かを倒したのだ。

 

「(あいつを此処から先に行かせる訳にはいかねえな)やってやろうじゃんか!!」

 

「それでこそ、倒しがいがあると言うものよ」

 

「行くぜ!!」

 

「来い!!」

 

狭き一本道で二人の力自慢は激突する。

 

◆◇◆◇

 

またある所では...

 

「お!ゲンさんじゃん」

 

「何だ、風間か」

 

「何だってひどくね?」

 

「こんな事で拗ねるな。めんどくさい」

 

風間と喋っている少年の名は、源忠勝。大和たちと同じくF組の生徒である。あだ名は「ゲンさん」

不良に見られがちだが、面倒見がよく根が優しい少年だ。曰くツンデレ。

何度も風間ファミリーに誘われていて、それを断っている。因みに、川神一子とは同じ孤児院出身の為、何かと気に掛けている。

そんな二人も交流戦では、戦士として戦っており、何人もの敵を撃破している。

 

「いやー、それにしてもそっちはどうよ?」

 

「何とかやれてるって感じだな。だが、なかなかに手強い」

 

「だよな~。俺もそう感じたぜ」

 

現在二人は、お互いの情報を交換している。そんな二人の側に、

 

「へい。そこの色男二人。暇なら俺の相手をしてくれないか?」

 

一つの男の声が届く。

 

「ん?誰だお前」

 

「阿保。どう考えても敵だろ!確か、竜造寺だったか?」

 

風間は目の前に現れた男に気楽に話しかける。ゲンは風間の気軽さにツッコミをいれながら、大和から貰っていた情報から名を確認する。

 

「ふ、男にも知られるとは、俺も有名になってきな」

 

「あ~!!思い出した。ニュース番組によく出てる奴だ!!」

 

「その通り!!西方十勇士の一人竜造寺だ」

 

「ちぃ、幹部クラスか」

 

「おお、いいねえ~。燃える展開だね」

 

竜造寺の登場に二人は各々の反応を見せる。両者の反応に竜造寺は、薄く笑みを浮かべるが、

 

「さて、世間話はこれまでにして、そろそろ始めようか」

 

瞬間、アイドルとしての表情は消え失せ、一人の武人としての表情に変わる。

その変化は、二人は全ての意識を竜造寺に向けさせるには充分過ぎた。

 

「風間」

 

「わかってる。こいつは強え」

 

「行くぞ」

 

闘志が満ちると同時、三人は同時に地を蹴り戦いを始めた。

 

◆◇◆◇

 

「よし!流れが、変わってきてる」

 

「ええ。十勇士を足止めしただけでも、流れは変わってきて来ますね」

 

戦況を見据える二人の軍師は、自分達の思惑通りの流れの変化を喜んでいた。

 

「これで十勇士を撃破出来れば」

 

「間違いなく、流れがこちら側に傾きますね」

 

そう言って、その為の作戦を考え始める二人。そんな二人の影より、

 

「然れば、そうならない為に、敵の頭を潰すのは戦の初歩なり」

 

静かな声が届く。

 

「え?」

 

「葵、後ろだ!!」

 

その突然の声と共に、冬馬の後ろに忽然と鉢屋が現れる。

 

「さらば」

 

未だに反応しきれていない冬馬に向かって鉢屋は、クナイを振り下ろす。

その攻撃が当たろうとした瞬間...

 

「させないよーだ」

 

気楽な声が鉢屋の耳に届き、その声と同時に空を裂く鋭い蹴りの音が届く。

身の危険を感じた鉢屋は、すぐさまその場から離れる。直後。ブン!と鋭い蹴りが、鉢屋のいた場所に放たれる。

 

「助かりました。ユキ」

 

「ウェーイ。大丈夫トーマ?」

 

「ええ、ユキのおかげで助かりました」

 

冬馬の危機に現れた少女の名は、榊原小雪。S組所属の葵冬馬の幼馴染であり、蹴り技を得意とす武人でもある。

好物は、マシュマロ。

 

「お前は十勇士だな」

 

「然り、それがしの名は鉢屋壱助。西方十勇士の一人」

 

葵の側に駆け寄った大和の言葉に鉢屋は答える。

 

「しかし、なぜ私達を?大将を討ちに行くべきではないのでしょうか?」

 

「我らにも、我らの事情と言うモノがある」

 

「流石に話してはくれませんか」

 

情報を聞き出すことに失敗した冬馬は、静かに息を吐く。どうやら、目の前の敵は、情報の大切さを理解できている様だと。敵の危険度を判断する。

大和と葵がその判断をしている最中にも事態は動く。

 

「それがしの目的と目標の為、貴殿らには此処でリタイアして貰う」

 

「そんな事させないよー」

 

そう言って、二人に駆け出そうとした鉢屋に、小雪が立ちはだかる。

 

「やはり、倒さねば進めぬか」

 

「トーマ達は、僕が護るのだ」

 

「いいだろう。忍の戦い方を見せてやる」

 

そう言って鉢屋は夜に紛れた。

徐々に激化する東西交流戦。

その中で、十勇士達は静かにその牙を見せ始めた。




感想に返信で出来ていませんが、全部拝見させてもらっています

皆さんの意見は、未熟な自分にはとてもありがたいです


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悠介と東西交流戦 その4

お待たせしました?

短期のバイトのせいで、更新が止まってましたが漸く再開です

久しぶりなので、短く話はさほど進んでいませんが、楽しんでくれたら嬉しいです





戦場各地で、西方十勇士と川神学園の武士娘達らを筆頭に、戦闘を開始した事で、戦の流れが再び変わり始める。

その恩恵を特に受けているのが、川神学園だ。強敵である西方十勇士の動きを止めた。

それだけで、彼らに討たれる確率は減り、天神館本陣に近づく事が出来ている。

しかし彼らはまだ、十勇士が半数近く残っていると言う意味を理解してない。

 

「よし!マルさんと京のお蔭で、大部分が進軍出来たぞ!!」

 

ある程度、安全な距離まで進んだクリスは、自分達を進ませてくれた仲間である、マルギッテと椎名への感謝の言葉が自然とこぼれる。

 

「おいおい。まだ感謝すべきときじゃねえだろ?感謝するのは、敵大将を討ち取った時。違うか?」

 

そう言ってクリスを諌めたのは、井上準。S組の良心とも言われている人物であり、葵冬馬の幼馴染であり、右腕である。

しかも、なかなかの実力者であり、男子の中では間違いなく、五本の指には入るほどだ。

優しく気配りも出来る人物な訳だが、欠点が一つ 重度のロリコンなのだ。

しかし腕は確かなので、今回の進軍の副将としてクリスを支えている。

 

「む!確かにその通りだな。済まなかった。以後、気を付けよう」

 

「いやいや。わかってくれたなら、問題ない(こいつ...マジで将としての資質があるな。流石は中将の娘って所か)」

 

そう言いつつ準は、今までの進軍を思い出し、クリスの非凡な指揮能力の高さを認めていた。

事実、クリスは、大友の砲撃や毛利の狙撃に怯える、面々を落ち着かせ、無事に突破したのである。

 

「よし!此処までくれば、恐れる者はない!!一気に、敵本陣に進撃する」

 

「ああ、異論はないぜ。大将」

 

そう言って、クリス達は、再び進軍を開始する。

しかし、数メートル進んで直ぐに、その動きは停止する。その理由は、至極単純なモノだ。

 

「おい、クリス」

 

「ああ。この先に、誰かいるな」

 

クリスと準の二人が、自分達が進む先から発せられる、闘気に気が付いた事に他ならない。

 

「普通に考えると、十勇士の誰かだな。それで?どうするよ。迂回するか」

 

「いや。それだと、マルさんや京の負担が大きくなる。このまま進む」

 

「...わかった」

 

 

準は、クリスの意思を尊重した。それが、将としての言葉ではなく、私情の言葉である事を理解していながら、止める事はしなかった。

その決断が、果たして正しいのかどうか、誰にも分らない。それでも彼らは、進むしか出来ないのだ。

大将である、クリスの言葉をただ信じて。

そうやって、慎重に歩を進め、前進していくクリス達の前に、

 

「ゴホッ!川神には、俺よりも優れた技術者がいるのか!!」

 

咳き込みながら、手に持ったパソコンを落とし、愕然と呟く大村の姿が映った。

 

◆◇◆◇

 

クリスたちが、大村と相対した時と同じくして、川神本陣。

 

「!。英雄様」

 

「うん?どうした、あずみよ」

 

「しばし、この場から離れさせて貰います」

 

「何かあったのか」

 

「いえ。英雄様がお気になされる事では、ありません。私一人で、十分対処できますので」

 

「よかろう。ならば、何も言うまい。頼んだぞ、あずみ」

 

「きゅるるるるん。はい、英雄様!!」

 

そう言って英雄と話してたのは、九鬼のメイドであり、英雄専属である忍足あずみ。

英雄に心酔する元風魔の忍びである。

 

「と言う訳だ。てめえも来い」

 

「どう言う訳なのじゃ!!」

 

因みに、英雄の前では猫を被っている。

 

「うるせえな。黙って付いてきやがれ!!」

 

「ぬわぁぁ!は、離すのじゃ!そもそも、お主は一人で十分と言っておったでは無いか」

 

「うるせえ!!英雄様の前だから、かっこつけただけだ。一人で、十分だと思うが、英雄様の信頼を、裏切る訳にはいかねえ。だから、保険の意味でお前を連れて行く」

 

「全て、お主の勝手ではないか!!」

 

「それにな、あたいも誰でもいいって訳じゃない。お前の実力を買っているからこそ、連れて行くんだよ」

 

そのあずみの言葉を聞いた、不死川の期限がみるみると変わっていく。

 

「そうか、そうか。此方の実力を認めているか。よかろう!此方が、力になってやろうではないか」

 

不機嫌だったモノが、上機嫌なモノに変わっていく。その姿を確認したあずみは、笑みを浮かべながら、

 

 

「(やっぱ、こいつは、ちょろいな)ああ、よろしく頼む」

 

「勿論なのじゃ」

 

不死川を引き連れ、本陣の裏側に向かっていく。そうやって、ある程度進んだ場所で、彼女たちは激突する。

 

「なんや、敵が目の前に居るで」

 

「気づかれたか」

 

あずみと不死川の目の前に、部隊を率いた尼子と宇喜多が現れる。

 

「ちぃ。思ってたよりも多い」

 

「ふん。何人いても、此方らの敵ではないわ」

 

敵の多さに舌打ちするあずみと、余裕の姿を崩さない不死川の姿に、尼子と宇喜田も武器を構える。

 

「やんや、えらい、不思議な敵やな」

 

「ああ、メイドと着物とはな」

 

「それにしても、あの着物なかなかに高そうやな」

 

「お前もブレないな」

 

敵の姿を納めても、全く緊張を見せずに、話し合う二人。その姿を見ていたあずみは、静かに警戒心を露わにする。

 

「厄介だな」

 

静かに、クナイを構えるあずみの姿を確認した尼子が、面白いと言わんばかりにあずみに告げる。

 

「お前の相手は、西方十勇士の一人 尼子晴がしてやろう」

 

宣言と共に、自分の武器である鉤爪を構える。

 

「はん。一人で、あたいを相手どるってか?随分、舐められたもんだぜ」

 

「だれが、ひとりといった?」

 

尼子の言葉に反応する様に、後ろにいた兵達も武器を構える。

 

「自慢の尼子隊も当然参加だ」

 

「まあ、当然か」

 

二人が、武器を構え間合いを測り始めたころ。

 

「つう事はや、うちの相手は、そこの高そうな着物着たあんたか」

 

「にょほほほ、其方如きが、此方の敵を名乗るとは、愚かじゃの」

 

「ほぉ、言ってくれるやんけ」

 

不死川の挑発にとれる言葉に、宇喜多は怒りに顔を歪めながら、武器であるハンマーを構える。

そのまま、突っ込んでいこうとした宇喜多だが、

 

「!。あかんあかん。冷静に確実にや」

 

何かを思い出したのか、頭を振り足を止めて、自分の感情を鎮める。

 

「さて、仕切りなおしていこか」

 

そう言って、自分の武器を改めて構える。

 

「何じゃ、攻めて来ぬか」

 

「そらそうやろ。見たとこ自分、柔術を使う見たいやし。うちとの相性最悪やん。そんな相手に、バカ正直に攻めたりはせんで」

 

「無駄な事なのじゃ。何をしても、此方の勝ちは決まっておる」

 

「それは、戦ってみなわからんやろ?」

 

不死川の言葉に宇喜多は、不敵な笑みを浮かべながら返す。

その笑みは、不死川に恐怖心を与える程に、意味深なモノであった。

 

「ふん、口だけは、達者の様じゃな」

 

不死川は、自分が感じた恐怖心を隠すために、あえて言葉に出して話す。

しかし、宇喜多は答えず、静かに間合いを測り始める。

二人の戦いは、宇喜多が先手を取る形で、始まった。

 




感想お待ちしてます


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悠介と東西交流戦 その5

前回、主人公が出てないのに東西交流戦が長いと言う意見をいただいたので、結構まとめました
その為一万字オーバーしてますので、結構長いです
後半とかは、結構雑になってるかもしれません

今回は、いろいろとやりすぎた面があるかもしれませんが、一応これで行こうと思います

初めて戦闘描写を書いたので、まだまた至らない点があると思いますので、こうした方が良い等と言った指摘があったら、送って下さい


漸く悠介の存在を少し出せました




各地で行われている十勇士達との戦闘。彼らの戦闘は激戦を極めている。故に彼らは、何処かで終わって欲しくないとも思っていた。

しかし終わりは、確実に訪れる。

 

「国崩しぃぃぃぃぃ!!」

 

大友の怒号とと共に、辺りを爆炎と熱風が包み込む。本来ならば、これで終わりのはずだ。しかし大友は、絶え間なく辺りの様子をうかがい…

 

「!。そこだぁぁぁぁぁ」

 

再び国崩しを、自身右方向に放つ。爆炎が燃え盛る中で、爆炎を突き破り現れたのは、赤い猟犬マルギッテ。自身の武器であるトンファーを盾にして、爆炎を突破してみせる。

しかし大友自身も予想の範囲であったのか、慌てず次弾を放つ。

 

「それで突破したつもりならぬるいわ!!!」

 

迫りくる砲撃を前に再びマルギッテは、トンファーを使い突破する。そんな中でマルギッテが感じたのは…

 

――――片目で勝てないか

 

一種の敵に対する賞賛だった。

当初マルギッテは、発射口にトンファーを投げ入れ暴発させるつもりだった。しかし大友は、それを警戒してか、必ず発射口をマルギッテの死角に据えて発射している。眼帯をつけ片目であるマルギッテにとっては、致命的に厳しい条件だ。

 

――――面白い。この勝負必ず私が勝つ

 

しかしこんな状況であるほどに、マルギッテと言う武人は笑う。この状況を突破して見せてこその自分なのだから。

 

「いいでしょう。貴方は全力で狩るに値する敵だ」

 

獰猛な笑みを浮かべながらマルギッテは、眼帯を外す。瞬間、彼女自体が纏う雰囲気が、さらに獰猛になっていく。

その変化は劇的。しかし大友は揺るがない。

 

「ほざけ!!敵を前にして全力で戦わぬとは、武人にあるまじき失態でだぞ、南蛮人!!」

 

「ええ、だからこそ詫びましょう。そして、感謝しよう」

 

その言葉と同時に砲撃が飛び、そして赤が飛ぶ。

 

「バカめ。血迷ったか?空中でこの大友の砲撃は躱せまい」

 

マルギッテの行動を見た大友は、勝利の笑みを浮かべる。だが同時にマルギッテもまた、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「いえ、これで正しい。これであなたの砲弾は良く見える」

 

「ッ!!!」

 

大友はマルギッテの言葉に自身の失態に気が付く。今までは死角に据えていた発射口が、マルギッテの正面に据えられている。

空中から見下ろすマルギッテに、上空を見上げる大友では、上空にいるマルギッテの死角を付けない。

 

「しまっ」

 

「遅い!!」

 

失態に気が付き慌てて砲弾を下げようとする大友だが、その隙を逃すほどマルギッテは弱くない。

大友が動揺している隙に、トンファーを発射口に向けて投げつける。

投げつけられたトンファーは、一種の弾丸となり発射口に直撃する。トンファーが直撃した大筒は、大友を巻き込み大爆発を起こす。

これにて勝負は決着のはずだ。しかし、落下し終えたマルギッテは、止まらず大友の元に走る。

マルギッテが走り出すと同時に…

 

「く、国崩しぃぃぃぃ!!」

 

マルギッテがいた場所に、大友の砲撃が直撃する。背後から爆風と熱を感じながらマルギッテは、賞賛の笑みを浮かべる。

 

「やはり、あれだけでは倒れませんか」

 

「当然だ。西の武士の気骨を甘く見る出ないわ!!」

 

大友の言葉を聞いたマルギッテは、笑みを浮かべながら大友に肉薄する。その速度は、今までの比ではない。

傷ついた大友では、どうにもできず…

 

「捕らえた」

 

「ぐう!」

 

トンファーで首元を固定され、持ち上げられてしまう。これでは、どんなに頑張っても砲撃できない。

 

「これで終わりと知りなさい」

 

マルギッテの言葉に嘘はない。言い逃れできない真実だ。そんな中で大友は、自身が認めた敵悠介のセリフを思い出していた。

 

『ただで相手に勝利をくれてやる気はねえよ』

 

「ふっ。そうだな」

 

「?。何がおかしいのです」

 

笑みを浮かべた大友の反応に疑問を持つマルギッテ。しかし彼女は、その意味を直ぐ知る事になる。

最悪の形として、その身で知る。

 

「南蛮人よ、一つ聞きたい。東には、お前ほどの実力者はまだいるか?」

 

「私ほどの実力者は、そうはいないと知りなさい」

 

マルギッテの言葉を聞いた大友は…

 

「そうか、ならばこの大友の負けにも意味を持てるな」

 

深い笑みを浮かべた。

 

「!!!」

 

その笑みを見たマルギッテは、本能的に距離を取ろうとする。しかし、軍人としての理性が、それを押しとどめる。此処でこの砲撃手を逃せば、被害が広がる。だからこそ此処で倒さなくては。だが、何かが危険だ。

理性と本能が葛藤するマルギッテをしり目に大友は、動けない筈の腕を根性で動かし大筒を握る。

 

「喰らえ」

 

その言葉から大友がしようとした事を理解したマルギッテは、回避行動を起こす。

しかし、あまりにも遅すぎた。

 

無鹿咆哮(むじかほうこう)

 

大友の言葉と共に、大友を中心に大爆発が起こる。

爆炎が晴れたのち、そこには満身創痍のマルギッテと笑みを浮かべ気絶した大友の二名がいた。

 

◆◇◆◇

 

マルギッテと大友の戦いの終わりに、真っ先に気が付いたのは弓兵である二人だった。

 

「マルギッテ!!」

 

京は、マルギッテの姿に驚愕し。

 

「大友よ、実に美しい戦いでだった」

 

毛利は、仲間である大友の健闘を称える。

驚愕と賞賛。真逆の感情を二人の弓兵は戦闘中に抱いてしまう。そして皮肉な事に、その事が膠着(こうちゃく)していた二人の戦いを変化させる。

 

「ふん、乱れたな」

 

京の変化を感じ取った毛利は、続けざまに矢を撃つ。

 

「しまった!!」

 

驚愕していたが故に、毛利の攻撃に気が付くのが遅れた京もすかさず矢を撃つ。しかし、京が放った矢は、毛利の矢の前に撃ち落される。

弓とは、精神面が大きく影響する物である。緊張すればそれは矢にも現れ、飛距離と威力は落ちる。

逆に程よい緊張感は、飛距離や威力を上げる。動揺し焦って撃った京の矢は、万全に近い状態で放たれた毛利の矢の前では、あまりにも脆すぎた。

 

「きゃ!」

 

京の放った矢を容易く打ち破り、毛利の魔弾は京に直撃する。その威力に、京は耐えることが出来ずに倒れる。

その事を確認した毛利は…

 

「存外にあっけなかったか。貴様が負けた理由は、その仲間のピンチに動揺する美しくない精神力だな」

 

京に背を向けながら静かに呟く。しかし今の毛利は、正に大友を捕まえたマルギッテと同じである。

だからこそ、足元を掬われる。

 

「まだいける!大和の為にせめて、相討ちに持ってく」

 

ダメージを受けながらも京は、静かに弓を構える。体力的に撃てるのは、これが最後であろう。だからこそ決して外さないと決めている。

 

「椎名流弓術 爆矢(ばくや)

 

放たれた矢は、毛利がいる場所の下にぶつかり爆発を起こす。

 

「なに!?」

 

完全なる奇襲。毛利は、なすすべなく落下していく。

 

――――まさか、あの状態から反撃してくるとは、なんと美しい!!

 

落下していく中で毛利は、敵に賞賛を送っている。

 

――――この美しい攻撃の前に倒れるのも悪くない

 

毛利が静かに目を閉じ迫る衝撃に耐えようとした瞬間…

 

『潔く、敗けを認めるとこが美しいってなら、俺は醜くて構わねえ』

 

「!!!」

 

悠介のセリフが毛利の脳内に響く。当初自分は、悠介のその言葉を醜いものだと

嘲笑った。しかし、その直後に魅せられた。

醜いと思った中で、煌めいていた美しい魂を。その姿に自分は感動した。

ならば自分も醜く挑まねばなるまい。

悠介が見せた美しさを追い求めるが故に、自分は彼と戦うのだから。

このままリタイヤはありえない。

 

「ふっ!この私も醜く美しく足掻くとするか」

 

そう言って毛利は静かに矢を撃った。毛利が同時に討てる矢の数は、最大で三本まで。勿論、一本は決まっている。

 

「ま、待っててね、大和。直ぐに回復して、援護に周るから」

 

建物の崩落を確認した京は、荒く息を吐きながらその場に座り込む。

その姿はマルギッテと同じく、満身創痍と言える状態だ。だからこそ京は、襲いくる魔弾に気が付けなかった。

 

「えっ?」

 

毛利の矢を受けた京は、静かにその場に倒れこむ。最早、起き上がる力も残っていない。

 

「全く、美しいこの私らしくない……勝ち方だ」

 

京が倒れた事を確認した毛利は、残り二矢の方角を見据えた後、静かに目を閉じる。ドン!と音を立てながら毛利は、地面に落下して気絶する。しかし、その表情は何処か清々しさを含んでいた。

 

◆◇◆◇

 

毛利と京の戦闘が終了した頃。

 

「おう!」

 

「ぬう!」

 

狭い一本道で二人の大男である、長宗我部と島津がぶつかり合っている。しかし圧倒的に有利なのは、長宗我部である。

 

「そらあ!」

 

長宗我部の膝蹴りが島津に直撃する。腹に力を込めていても無視できない衝撃が島津に襲い来る。

 

「うご!」

 

その痛みに島津は力を抜いてしまう。長曾我部はその時を見逃さずに…

 

「おう!」

 

「やべぇ!」

 

島津を壁に叩き付ける。その勢いと長宗我部のパワーも合わさり、その威力は並の物ではない。

そのダメージに島津は、耐えきることが出来ずに静かに膝をついてしまう。

 

「ガハハ!それなりにやれる様だが、所詮は我流。武を学んだ俺の敵ではない」

 

二人を分けたのは、武を知っているどうかの差。腕力的に二人に差して、差はないだろう。だからこそ、差を分けた。

島津は、ただ我武者羅に力を使うに対し、長宗我部は要所要所に力を爆発させる。たったそれで事が、二人の差となって現れる。

 

「さて俺も、そろそろ本陣に攻めに行くか」

 

島津の姿を確認した長曾我部は、そう言って背を向けて歩き出そうとするが…

 

「ま、待てよ。俺様はまだやれるぜ」

 

「ほう」

 

足を震わせながらもしっかりと、地面に立つ島津の声が届く。その言葉に長宗我部は、面白いと言わんばかりに、島津の方に向き直る。

 

「今ので気を失わんとは、なかなかに丈夫な奴よ」

 

「へ、俺様…タフさには自信あるぜ」

 

島津の言葉を聞いた長宗我部の表情が変わる。確かにあいつを見る前ならば、素直に賞賛していただろう。

しかし長宗我部は、知ってしまった。

本物のタフさを。だからこそ、島津の言葉に納得がいかない。自分がライバルと認めた男と同じモノを自信とする者。

だが、明らかに自分が経験した本物に遠く及ばない。

 

―――――気に食わんな

 

長曾我部は、それがある種の嫉妬でイラつきだと理解している。しかし、我慢できそうにない。

あいつは言った。『倒れても立ち上がるだけの小さな誇りだ』と。

だが、敵である島津にそれだけのモノが感じ取れない。まるで、悠介の品を下げられているように思う。

 

「いいだろう。お前のタフさが本物か、俺が確かめてやる」

 

これはただの八つ当たりだ。武人としても人としても正しくはない。しかし、長宗我部は認める事が出来ない。

だからこそ、全力で息の根を止める。

長宗我部は、重心を低くしタックルの体勢を取る。

 

「行くぞ!!」

 

そう言って駆け出した長宗我部の速度は、その巨体からは想像も出来ない程に速い。完全に足にきている島津には、受け止めるしか方法はない。

 

「くそ!!」

 

島津は残り少ない力を込めて堪える体勢に入るが…

 

「無駄だ!」

 

「ごふぅ!」

 

長宗我部のタックルは、島津の防御など欠片も気にせず、吹き飛ばす。数メートル島津は吹き飛び気を失う。

その姿を確認した長宗我部は、静かに背を向けて敵本陣の方へ足を進めた。

 

◆◇◆◇

 

長宗我部と島津の戦いに決着がつく、数刻前。

 

「どうした色男?逃げてばかりじゃ、俺には勝てないぜ?」

 

工場地帯のある場所で竜造寺は、敵である二人を前に余裕の表情で挑発を口にする。

 

「うるせえな!」

 

「そうだ、そうだー!直ぐに蹴り飛ばしやっから待ってやがれ!!」

 

竜造寺の挑発とも取れる言葉に風間とゲンは、何時もと変わらない口調で言い返す。しかし、その身体はボロボロであり、息も荒い。

 

「それは勘弁願いたいな。俺はファンを、待たしたりはしないのさ。来ないならこっちから行くぞ!!」

 

瞬間、竜造寺の姿がブレる。

 

「風間!!」

 

「わあってるよ!!」

 

二人は即座に後方に離れようとするが、それよりも早く竜造寺が二人の制服に手をかける。瞬間、二人の表情は驚愕に染まる。

 

「おっと。アイドルが自ら来てやってるだぜ?サインぐらいはねだってもいいだろ」

 

避けようとした二人の制服を掴んでいた竜造寺が、後ろに二人を押す。後ろに重心が乗った状態で、勢いよく後ろに押されたら、どんな奴でも吹き飛んでしまう。

 

「があ!」

 

「いって!」

 

自分達の力も利用され二人は大きく吹き飛ばされ、壁に激突する。そのダメージは見た目に反して軽くはない。

 

「どうだい?館長直伝の柔術は?」

 

地に倒れる二人を見下ろしながら竜造寺は問う。しかし、二人は答えず咳き込みながらも立ち上がる。

その姿に竜造寺は、ふぅ~と口笛を吹く。

 

「まだまだこれからぁ!」

 

「ああ、風間の言う通りだ」

 

何度も投げ飛ばされたなお、二人の戦意は失わない。その事に竜造寺は、軽い驚きを感じながら、何処か悠介と似たモノを感じている。

 

「そうか。なら最初に、風間って奴を倒すか」

 

そう言って竜造寺は、口にくわえていたバラを手に取り、そのまま風間に向かって投げつける。

トン!とバラが、風間の靴下と靴を地面に縫い合わせる。

 

「なっ!と、とれねえ!!」

 

その事に驚き何とか外そうとする風間だが、バラがきつく地面と靴を貫いている為、外すことが出来ない。

 

「バカ!無闇に力を込めるな!!」

 

それを見ていたゲンが、風間に忠告の声を発するが、余りにも遅すぎる。

 

「そっちの色男の言う通りだぜ」

 

「やべえ!!」

 

竜造寺が風間の顎に手の平をのせて、そのまま上にかち上げる。その勢いによって、風間の全体重が、上に乗った事を確認した竜造寺が、指で風間の顔を覆い、そのまま地面に叩き付ける。

ドン!と音を立てながら、風間の身体から力が抜けていく。その姿はどうみても完全なる戦闘不能だ。

 

「まず、一人」

 

風間が戦闘不能になった事を確認した竜造寺は、地面に刺さったバラを手に持ちながら、ゲンの方に振り返る。

 

「ちぃ」

 

一連の動作の中で、自分が介入できる隙が無かった事が、余計に自分と竜造寺との差を明確にしている。

 

「後は、そっちの色男を倒して、さっさと敵本陣に攻め込むとするか」

 

ゲンが、自分の力に怯えている事を知った竜造寺はお気楽に告げる。もう、この戦いは終わったも同然。それが、竜造寺の考えだったが…

しかし、その言葉がゲンの意識を変化させる。

 

――――こいつを一子の前に立たせて、良い訳ないよな

 

思い出すは、始まる前に自分に元気よく決意を表明した幼馴染の姿。

 

――――一子の負担を軽くしてやる為にも、こいつは俺が倒す!!

 

自分は言った。出来るだけフォローしてやると。そう言った自分が、勝手に諦めるなんてダサすぎる。

 

「へぇ」

 

そんなゲンの変化を感じ取った竜造寺が、獰猛な笑みを浮かべる。今敵であるゲンが、

している目つきは、悠介にそっくりなのだ。

 

『全てが終わってないなら、結果は誰にも分らねえ。だからこそ、挑むぜ』

 

そう言って自分達に勝負を挑んで来た悠介の目によく似ている。故に、竜造寺はさっきよりも真剣になる。自分が目標とする男と同じ目。デモンストレーションには、相応しすぎる。

 

「何、敵を前にして、考え事してやがる!」

 

悠介の事を考えていた竜造寺に、ゲンの気迫の籠った声と拳が迫る。しかし竜造寺は、慌てずにかわし、そのまま制服を掴む。

 

「別に油断したわけじゃない。その攻撃は悪手だ。色男」

 

そう言って制服を引き寄せようとした竜造寺だが…

 

「その手は見飽きてんだよ!!!」

 

「なっ!」

 

いつの間にか制服を千切り、自由になったゲンの顔が正面に迫る。

 

――――バカな!千切れない様にしていたはずだぞ!!それに…

 

ほんの僅かな動揺と脳裏に浮かぶ過去が浮かび上がった故の硬直。その隙をゲンは見逃さずに…

 

「おらあ!!」

 

気迫一閃のヘッドバットが竜造寺の顔面に直撃する。その威力に竜造寺は、堪える間もなく吹き飛ばされる。

 

「ッ――――――」

 

無言で竜造寺を見つめるゲン。今の一撃で竜造寺は倒れるどころか、膝すらつかない。それ故に一切油断することなく竜造寺を睨みつける。

 

「おいおい。アイドルの顔面に、撃っていい一撃じゃないだろ」

 

顔を上げた竜造寺の額から血を流しているが、楽しそうに笑っている。その表情とセリフは、あまりにも一致していない。

 

「そんな事言ってる、面構えじゃあねぞ」

 

「それもそうだな。悪い悪い…随分と懐かしい事(・・・・・)が起きたんでな」

 

直後、二人は無言になり、お互いの様子をうかがう。

ある意味二人の本当の戦いが始まったのは、長宗我部と島津の戦いが終わった時と同時だった。

二人の戦いは、これより始まる。

 

◆◇◆◇

 

川神本陣の裏側。そこは苛烈な戦場と化している。

 

「いけ!!」

 

尼子の号令と共に、あずみを囲っていた者達が同時に襲い掛かる。

そんな中でもあずみは落ち着きながら、手に持った二刀の小太刀で、襲い掛かってる者を切り裂く。元々あずみは、九鬼に仕える前は傭兵として生きていた。傭兵において、一対多の戦闘は慣れている。

倒れ行く兵の合間を、凄まじいスピードで駆ける存在を確認したあずみは、その影に向かって加速する。

ガキィン!と金属と金属がぶつかり合う音が、戦場に響く。

 

「ちぃ、すばしこいいガキだぜ」

 

「褒め言葉と受け取っておく」

 

ぶつかり合いは、ほんの僅かな時間。直後二人は、再び大きく間合いを取る。

 

――――それにしても何だ?あいつの速さに感じる違和感は?

 

「せんとうちゅうにかんがえこととは、よゆうだな」

 

「しまった!!」

 

背後に現れた尼子の存在に驚きながらも、鉤爪を受け止めるあずみ。しかし、敵は一人ではない。故に敵の一人に注視することは出来ない。

 

「いまだ!!かかれ」

 

尼子の号令を受け、周りにいた兵達もあずみに向かって襲い掛かる。回避する間を奪う訓練された兵たちの動き。

しかし伊達に修羅場を経験していないあずみは悲観をしない。

 

――――回避しかねえな

 

即座にそう判断したあずみは、メイド服に隠していた煙玉を破裂させる。敵が煙に動じた僅かな隙を見つけその場から離脱する。

そしてその煙は、近くで行われていた戦闘にも影響を及ばす。

 

「け、煙じゃと!!」

 

「チャンス!!」

 

煙が視界を覆った瞬間、宇喜多は不死川に接近する為に走り出す。対して、不死川は不安げな表情をみせる。

 

「何処じゃ?何処から来るのじゃ」

 

視界が封じられた中で、焦った様に辺りを見渡す。不死川の柔術は、その性質上どうしても、相手を真正面に据えねばならない。

しかし、今の状況ではそれは難しい。

 

「馬鹿者!味方が不利になる様な手を使ってどうする!!」

 

不死川は、あずみに対する怒りの声を涙目になりながら発する。そして皮肉な事にその声が、同じく視界を封じられた宇喜多に自分の存在を告げてしまう。

 

「そこやな!!」

 

宇喜多の声と共に、煙を吹き飛ばしながらハンマーが、不死川に迫る。タイミング的に不死川に回避する事は出来ない。

 

「にゅわああああ!!」

 

バゴン!とハンマーの攻撃を受けた不死川が、悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。その姿に宇喜多は「やったか」と思ったが。

 

「にゅわあああああ。痛いのじゃ」

 

「ほへー。今ので立てるとは、案外丈夫なんやな」

 

悲鳴を立てながらも立ち上がる不死川の姿を見た宇喜多は、感心した様に呟く。何とも間抜け感が強いが自分の一撃でも倒れなかったのだ。油断は禁物だと判断する。

 

「生憎、此方は受け身も上手くての」

 

「そうかい。ほな、もう一発いっとこか」

 

「其方らに、情けはないのかああああ」

 

「情け?敵に掛けるべき情けってあるんかいな」

 

不死川の悲鳴に宇喜多は、首を傾げながら問う。

 

「宇喜多!!早く倒してこっちに来てくれ。このメイドなかなか手強い」

 

「まずい!!」

 

そんな二人の戦闘を視界に捉えた尼子とあずみは、真逆の反応を見せる。二人の高速戦闘は、第三者の介入で崩れるほどにギリギリなのだ。そんな中にスピードはないとは言え、腕利きである宇喜多の参戦はまずい。

 

「そうやな。尼子の頼みもあるし、ちゃっちゃと終わらせよか」

 

そう言って宇喜多は、ハンマーを構えながら不死川に接近する。そのままハンマーを放とうとした瞬間…

 

「かかったのじゃ」

 

「なに!?」

 

さっきまで弱弱しい印象からは想像もつかない程の速さで、不死川は宇喜多の懐に侵入する。

 

「にょほほ。高貴な此方の演技に、見事騙されたみたいじゃな」

 

高笑いしながら不死川は、宇喜多を投げる準備に入る。実際は、ギリギリだ。しかし不死川のプライドが弱音を吐く事を拒否した。演技と言う名の嘘にしてしまったのである。

本物である嘘。故に宇喜多も見破ることが出来なかった。

 

「宇喜多!!」

 

「おい、隙だらけだぜ」

 

その光景を見ていた尼子が驚愕の余り、一瞬意識をあずみから逸らしてしまう。その隙をあずみは見逃さず、責め立てる。

 

「しまった!!」

 

完全に後手に回ってしまった尼子に、防御以外の手はない。そして宇喜多もまた、絶体絶命の危機に瀕している。

 

「これで終いじゃ!」

 

「終わりだぜ」

 

不死川とあずみの二人が同時に勝利宣言する。宇喜多と尼子の二人は、敗北を覚悟するが…その瞬間だった。

毛利と京の戦闘の終了は、正にこのタイミングだった。そして毛利には、二人のピンチが見えていた。

だからこそ、毛利は…

 

「あで!」

 

「なっ!」

 

二人を助ける為に矢を放つ事を決断していた。完全なる奇襲攻撃。二人は、攻撃を中断せざるしかなくなる。

宇喜多は、空中で自由を取り戻す。そして同時に、不死川を射程に収めている。そんな状況で宇喜多が思い出すは。

 

『戦闘中のアクシデントは、対応できねえ奴がわりぃに決まってんだろ』

 

似た状況に陥った時悠介が、投げかけた一言。卑怯やないかとほざいた、自分を戒めた一言。そうだ、自分達に経緯など問題ではない。

必要なのは結果だけ。どれだけ接戦しようが、敗けは敗けでしかない。

 

――――なら迷う事はないわな

 

宇喜多は大きくハンマーを振りかぶり、そのまま…

 

「喰らいや!!」

 

「にょわあああああああ!!」

 

渾身の一撃が不死川を吹き飛ばす。吹き飛ばされた不死川は、その威力と壁にぶつかった衝撃で気絶する。

 

「ちぃ」

 

矢によるダメージを受けたあずみだが、不死川とは違い即座に体勢を整え、尼子に向かって攻撃を開始しようとする。

しかし尼子の方が速い。

 

「喰らえ!!」

 

あずみの後方に回り込み鉤爪による斬撃与える。

 

「攻撃が軽いぜ!」

 

尼子の攻撃力では、あずみを戦闘不能に持っていけない。悔しがる尼子の脳裏に…

 

『時が続く限りだ』

 

悠介の言葉が思い起こされる。それは、自分と戦闘中に発せられた言葉。気弱な自分を奮い立たせてくれた言葉であり、自分を奮い立たせる鼓舞である。

そうだ。まだ、時間とチャンスは、自分が持っている。

ならば此処で手を止めるわけにはいかない。

 

影縫い(かげぬい)

 

瞬間、あずみの身体の同じ場所に四つの斬撃が襲いかかる。

 

「!。そうか…お前()は最初から…」

 

その攻撃を受けたあずみは、自分の違和感の正体を知る。しかし、受けたダメージが大きすぎるため倒れるしかない。

 

――――クソッ!此処までかよ。英雄様に、あそこまで啖呵きっといて情けねえ。でも、こいつらを英雄様の前には行かせねえ!!

 

倒れる間際あずみは、最後の力を振り絞り歯に仕掛けたボタンを押す。それと同時に、辺りに仕掛けられた爆弾が爆発し、爆炎が辺りを包む。

爆炎が晴れた後には、大きくダメージを負った尼子隊と何とかダメージを最小限にした尼子と宇喜多の二人がいた。

不死川とあずみは、完全に気絶している。

 

「あいたた。あのメイドも無茶すんなあ。尼子、大丈夫か?」

 

「ああ、だいじょうぶだ。でも、じまんのあまごたいが」

 

「こらあ、一旦体制を立て直した方がいいな」

 

「ああ、あたしも同意見だ」

 

「ほな、行動おこそか」

 

そう言って二人は、傷ついた仲間の手当てを開始した。

 

◆◇◆◇

 

同刻 天神館本陣近く、その場所に多くの川神学園の生徒が倒れている。倒れている生徒の中には、クリスと準の姿も見える。

そんな状況を作り上げた大村ヨシツグは、未だに意識のあるクリスと準を見下ろしながら告げる。

 

「姿形だけで相手を見限ったお前たちの負けだ。もしもお前らに、もう少し俺を観察する目があれば、俺の体幹の矛盾に気が付けたモノを」

 

そう言いながらヨシツグは、準とクリスの携帯を破壊する。これにより自身の情報が相手に回ることはない。

 

「くぅ、まさか此処までの強さとは」

 

「ああ、全くだぜ。俺の委員長パワーでも勝てないとはな」

 

「そろそろ、俺も貴様らの本陣に向かう。貴様らは、そこで這いつくばっていろ」

 

そう言いながらヨシツグは、歩き出す。しかし、ガシィ!と足を握る二つの手によって、その動きは止められる。

 

「そう簡単に本陣にはいかせんぞ!!」

 

「まあ、そう言うこった。若にも任されたしな」

 

クリスと準は、ボロボロになりながらもヨシツグを止めようとする。しかし、そんなモノで止まる訳がない。

 

「ならば、眠れ」

 

鋭い拳が二人の意識を簡単に刈り取る。足から手が離れた事を確認したヨシツグは、意識を失った二人に向けて告げる。

 

「気絶した程度で離す手など所詮、貴様らの行動が形だけだったと言う事だ」

 

そう言いながらヨシツグが、思い出すのものは。

 

『意識がなくとも本能で動けばいいだけだろが』

 

無意識の中で自分と戦った悠介の姿。その言葉と行動に比べれば、この程度は軽すぎる。

そしてヨシツグは、静かに敵本陣に向けて歩いて行った。

 

◆◇◆◇

 

「とおっ!」

 

闇を切り裂くように鋭い蹴りが鉢屋を襲う。しかし、その攻撃は空をきる。

 

「無駄だ。それは、それがしの分身。本体ではない」

 

その言葉と同時に、辺りに鉢屋の分身が出現する。その数は十体以上おり、闇に紛れている者もいる。

 

「わー。手品みたいだね」

 

しかし、小雪も気にした様子もなく蹴りを連発する。だが、その全ては、空振りとなり意味をなさない。

 

「今度はこちらからだ」

 

その言葉と共に、クナイが一斉に放たれる。だが、どれも小雪を狙っていない。狙っているのは、冬馬と大和の二人だ。

大和はどうにか回避できるが葵は回避できない速度であるが…

 

「させないよーだ」

 

二人に襲い掛かる全ての攻撃は、小雪の蹴りによる風圧で防がれる。

 

「まだだ」

 

しかしその程度は織り込み済み。鉢屋の言葉と共に二人の上空に爆弾が落とされる。

 

「だから、させないよー」

 

それもまた小雪の蹴りにより海に飛ばされる。

 

「これも失敗か」

 

「ぶーぶー。さっきから僕と戦ってくれないじゃん」

 

鉢屋の行動に異論と不満を述べる小雪。だが事実、鉢屋は一度も小雪と戦闘らしい戦闘をしていない。

むしろ小雪の隙を突き、冬馬と大和ばかり狙っている。

 

「然り。それがしの仕事は、敵の頭脳の破壊。それがなされれば、手段や経緯は関係ない」

 

小雪の言葉に鉢屋は、静かに事実を述べる。その言葉は、冬馬と大和を恐怖させるだけのモノが含まれている。

しかし、小雪には関係が無い。

 

「それなら、無理やりにでも相手してもらうもーん」

 

そう言って地を蹴った小雪は、真っ直ぐに鉢屋に迫る。

 

「無駄だ」

 

しかし、小雪が迫るよりも早く鉢屋は、闇に紛れる事で身をかわす。

 

「そこでしょー」

 

そんな闇に消えた鉢屋を小雪は、迷う事無く見つけて蹴りを放つ。

 

「!!」

 

ピンポイントでの攻撃に鉢屋は、さっきまでいた場所まで戻る事でかわす。

 

「なぜ、それがしの居場所が」

 

「だってー君、皆の死角ばっかにいるんだもん。そらー気が付くよー」

 

鉢屋の疑問に小雪は、へらへらと笑いながら答える。簡単に言うが、気配すらごまかしていたのだ。それを見抜くなど、何という戦闘センスかと鉢屋は内心で驚愕する。小雪が見せる笑みは、どことなく自分を何処かバカにしている様に思えるが、鉢屋は気にしない。

 

「なるほど。それがしも、まだまだ未熟と言った事か」

 

「あれー?悔しくないの?」

 

小雪は、そんな鉢屋の反応に疑問を抱く。そんな小雪の問いに鉢屋は、今までと変わらない口調で答える。

 

「悔しがるもの何も、それがしよりも、其方が上手であったと言う事だ」

 

「変なのー」

 

「それに」

 

「うん?何々ー」

 

「其方がそれがし達、忍びを理解してないのでれば、何ら問題はない」

 

「?。どういう事?」

 

鉢屋の言葉の意味を理解できない小雪は疑問を口にする。しかし、その言葉の真意を直ぐに理解する事になる。

 

◆◇◆◇

 

「おや?どうかしましたか、大和君」

 

小雪と鉢屋が戦闘を続けている頃、冬馬の元に先ほど分断されていた大和が覚束ない足取りで近づいて来る。

その事に疑問を持つ冬馬だったが…

 

◆◇◆◇

 

「ついさっき、三人に薬を使い感覚を鈍くした」

 

「それがどうしたって言うの?」

 

「つまり今、貴様らは、ある程度の違和感を感じないと言う事だ」

 

「??」

 

◆◇◆◇

 

「大和君?」

 

冬馬は、ある程度の位置から動かなくなった大和を心配するが、その問いかけにも大和は一切反応しない。

しかし、そんな冬馬の元に…

 

「葵!!俺はこっちだ」

 

反対側から大和の声が届く。

 

「!!」

 

冬馬は、その声に反応して声がした方へと振り返る。そこには、確かに大和がいる。つまり目の前の大和は…

その事に驚愕する冬馬をしり目に、偽物の大和が膨れ上がりそのまま爆発する。ドォン!と冬馬を中心に小さな爆発を起こす。

 

◆◇◆

 

「つまり偽物が近くにいても気が付けない」

 

爆炎が立ち込める中鉢屋は、静かに告げる。しかし、小雪にとっては、最早そんな事関係ない。呆然としながらも、爆発があった方へと駆ける。

 

「トーマ!!」

 

鉢屋に背を向け冬馬の元に走っていく。その背を鉢屋はあえて見逃す。

 

「大丈夫!」

 

「おい!葵。大丈夫か?」

 

二人の声に葵は、ギリギリと言った感じで反応する。

 

「ええ、どうにか。しかし、見事にやられてしまいました」

 

そう言った後冬馬は、大和に視線を向ける。

 

「大和君。後は任せました」

 

そう言って冬馬は、静かに目を閉じ気絶する。その言葉を聞いた大和は、すぐさまこの場から離れようとする。

しかし鉢屋が、それを許す訳もない。

 

「行かせん」

 

大和に向かってクナイを投げつける。その攻撃を背に感じながらも大和は振り返らない。

なぜなら…

 

「絶対に許さない!!」

 

自分の大切な人を傷つけられた小雪が、全てを撃ち落し鉢屋に迫る。

 

「やあ!」

 

今までの中で、最高の威力を持った蹴りが放たれる。しかし鉢屋は一切動じない。

 

「回避に専念すれば、躱せぬモノではない」

 

鉢屋は、距離と影を用いて危なげなくかわす。しかし、同時に大和を倒すのが不可能だと理解すると…

 

「ただでは、逃がさん」

 

クナイを小雪の死角から投げつける。投げられたクナイはまるで吸い込まれるように…

 

「け、携帯が!!」

 

大和が持っていた携帯電話を破壊する。しかし大和には、走るしか手はない。大和の携帯を破壊した事を確認した鉢屋は、その場から離れようとする。

しかし、小雪がそれを許さなない。

 

「絶対に行かせなよ!!」

 

小雪の出す威圧感は、常人ならば気絶させれるレベルである。しかし、鉢屋は動じずに静かに闇に紛れる。

 

「それがしの仕事は、頭脳である軍師の撃破。それが成された今、此処に留まる理由はない」

 

そう言って鉢屋の気配は完全に消える。すでに小雪では気配を感じることが出来ない。

 

「逃げるなー!!この卑怯者!!!」

 

小雪の怒号が響く中、鉢屋の気配がなくなった事を理解した小雪は、気絶している冬馬の手当てをするために彼の元に急いだ。

 

◆◇◆

 

川神の本陣に移動している鉢屋に、小雪の声が届く。卑怯者…何ら間違いがない名だ。

自分自身好きで嫌われ役をやっているわけでは無い。しかし、それが鉢屋壱助と言う人間なのだ。

そんな鉢屋が思い越すは…

 

『どんな手でも、てめえが後悔してないならば、それはそいつの誇りだろ。認める事はあれど、貶す理由が見当たらねえよ』

 

自分のやり方を知ってもなお、受け止めそして認めた男の言葉。たった一人の理解者がいれば、人とは救われる。

だからこそ鉢屋は、自分のする行為に何の躊躇いはない。

 

「それがしは、十勇士の影。汚れるのは、それがしの使命なり」

 

そう呟き鉢屋は、敵の本陣に足を進めた。

 

◆◇◆◇

 

鉢屋の攻撃から逃げ出せた大和は、その足で敵本陣を目指している。特に理由があったわけでは無い。でも、本陣に仲間がいれば、自分の知略が生かせるかもしれない。

その想いだけで大和は進んでいる。

自分の姉である百代に鍛えられた回避力と危機管理能力は、大和を無事に敵本陣まで連れて行かせる。

建物の物陰から様子をうかがう。

 

――――敵は…大将を入れて二人。他は、出払ってると視て間違いない。これは、チャンスだ!!

 

敵の本陣の情報を得た大和は、今がチャンスだと確信する。しかし、自分だけではどうしようも出来ない。

仲間が来るのを静かに待つしかない。

 

――――誰でもいい。理想とするのは、クリスの部隊が来ることだが…

 

携帯を潰された大和には、自身の仲間たちの現状が理解できない。自分の武士娘らは、深いダメージを負ってそれどころではない事に。

 

――――おかしい。どうして、誰も来ない?

 

暫らく待っても仲間たちが来ない事に疑問を持つ。少ないならわからなくもない。だが、全く来ないのはおかしい。

 

――――まさか全員やられたのか?

 

彼女たちの実力を知っているからこそ、考えなかった疑問が沸き上がる。しかし、誰も来ない以上、その考えも否定できない。

 

――――このまま待っていても埒が明かない。仕掛けるか…

 

そう言って大和は、持っていた笛を吹く。

 

――――これで来てくれるはずだ。よし、行動を開始するか

 

大和は、笛を鳴らして数秒待ち、決意を固める。ゆっくりと物陰から姿を現す。

 

「!。何奴」

 

大和の気配に気が付いた島が、槍先を向けながら問う。

 

「此処で名乗る必要はないだろ。ってか、何で先生が此処にいるだ」

 

「確かに、此処にいると言う事は敵で間違いなし。それと、それがしは貴殿らと同級生である!!」

 

「うそ!!」

 

「真実だ!!」

 

島と大和がくだらないやり取りをしていると…

 

「島!何をしてる早く倒さぬか」

 

石田の威圧感ある声が届く。石田の言葉に乱れていた島の心は、落ち着きを取り戻す。

 

「御大将。誠に申し訳ございません」

 

その言葉を聞いた島は、さっきまでの雰囲気から想像もつかない程、静かに大和に向かって槍を構える。

 

「お覚悟を」

 

島の槍が大和に届こうとした瞬間…

 

「到ー着!!大和来たわよ!!」

 

川神一子の薙刀が、大和に迫った槍を防ぐ。

 

「助かったぞ、わんこ」

 

「エッヘン。こういう時には活躍するんだから」

 

大和はピンチを救ってくれた一子を褒める。褒められて嬉しそうにする一子。

和やかな空気が二人を包む中で…

 

「それがしの相手は、其方の少女で間違いはないか」

 

「上等よ!!て、何で先生が此処にいるの!?」

 

「それがしは、同級生でござる!!!」

 

島の発言に驚愕する一子。しかし島は、怒りながらも槍を構えた瞬間、今までの姿が嘘の様に、静かに唯敵を見据える。

その姿を見た一子もまた、目の前の敵が明らかに強者である事を感じ取り、武器である薙刀を構える。

二人は静かに己の武器を激突させた。

 

◆◇◆◇

 

「島の奴め、このおれをほって始めるとは。まあ良い、やはり奴もまた武人と言う訳か。それでおれの敵は、お前で違いないか」

 

「ああ、違いないね」

 

石田の言葉を聞いた大和は、スッと構えをとる。その構えを見た石田が驚愕する。その構えはどう見ても…

 

「お、お前は」

 

「ふっ」

 

「ド素人ではないか!!何だ、その隙だらけの構えは!!!」

 

「あ!やっぱり、ばれた?」

 

大和が素人だと知ると石田は、怒りの声を上げる。

 

―――――良いぞ。もっと冷静さを失え

 

その姿を見ながら大和は、作戦どうりだと笑みを浮かべる。怒りは、動きと思考を単純にする。

単純になった思考と攻撃ならば、武神に鍛えられた回避能力で、どうにかなると考えている。

しかし、そう簡単に物事は運ばない。

 

「まあいい。このおれの出世街道に立ちふさがるモノは、全て斬り捨てればいい。それだけの事だ」

 

そう呟きながら石田は、静かに刀を抜く。すると、今までの怒りと言った感情が消え失せ、研ぎ澄まされた闘気が場を支配する。

 

「!?」

 

その変化は、素人である大和でも肌で感じ取れるレベルである。想定していない事態に大和は驚愕をあらわにする。

 

「行くぞ」

 

――――まずい!!

 

石田の呟きが発せられると同時に、百代に鍛えられた本能が警告を鳴らす。大和は、その警告に従い身を反らす。

 

「ほう」

 

「ぐう!」

 

その瞬間、シュラン!と鋭い剣戟が、大和のいた場所に放たれる。石田は、攻撃を躱した大和の動きに驚きの声を上げる。

 

「どうやら、ただの素人と言う訳ではないようだ。考えてみれば、素人が此処に辿りつける訳がない」

 

――――まずい。予想以上に速い

 

石田は静かに、大和に対する評価を改める。大和は、予想以上の強さに驚愕している

 

「まあ今度は、その身のこなしも計算に入れて、攻撃すればいいだけの事」

 

そう言った石田は、深く踏み込みながら刀を大和に向かって振り下ろす。その速度は、さっきよりも数倍速い。

 

「こなくそ!!」

 

大和は、その攻撃を前にスライディングする事でかわす。しかしその避け方は、悪手である。

 

「甘いぞ!」

 

石田は軸足を中心に、大きく回転し回転斬りの要領で、地面に転がった大和に向けて刀を振るう。その攻撃を大和は、避ける事が出来ない。

大和に攻撃が当たろうとした瞬間、タッタッと、壁を走る音が聞こえてくる。その音は、

確実に石田達に近づいて来ている。

そして…

 

「源義経 推参」

 

その音の主が、建物の壁を蹴って、大和に攻撃を仕掛ける為に、背を向けている石田に向かって刀を振り切る。完全に死角からの奇襲。

声に反応してからでは、絶対に間に合わない必殺のタイミング。

これで勝負は決まるはずだった…

 

「なっ!」

 

驚愕の声を上げたのは、義経と名乗った少女だった。完全なタイミングでの攻撃を。決まったと思った攻撃を石田は…

 

「思ったよりも重いな」

 

刀を使い完璧に防御している。そして未だに驚愕する義経を…

 

「何時まで固まっているつもりだ!!」

 

「!!」

 

押し飛ばす。防がれた事に驚愕しながらも義経は、空中で体勢を立て直して、地面に着地する。

 

「どうやら漸く、このおれに相応しい敵が現れた様だな」

 

石田は、そう言いながら義経に向き合う。最早彼に、大和の存在は映っていない。

ただ、敵と戦う事だけに集中する一匹の武士(モノノフ)となった石田は、静かに闘気を研ぎ澄ませ、不敵な笑みを浮かべた。

いよいよ祭りは最後の局面を迎える。




次回で一応東西交流戦は、終わろうと考えてます

毛利の矢の飛距離については、矛盾してますが触れないでくれると助かります

良かったら、感想をお願いします


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悠介と東西交流戦 その6

石田を強くし過ぎた気もしますが、遂に決着!!
果たして、結末は?

楽しんでくれたら嬉しいです


突然現れた義経と名乗った少女を大和は、若干戸惑いながらもその姿を見定める。川神学園の制服に身を包んでいるが、大和自身見覚えのない子である。紺色の髪をポニーテールにまとめた誠実そうな美少女だ。

彼女が誰だか全くわからない。しかし、自分達と同じ制服を着て此処にいると言う事は、少なくとも敵ではない。軍師としては情けないが、彼女に任せる事が最善だと大和は考えていた。

大和がそんな事を考えている間も、二人の武士は静かにお互いをけん制しあっている。

 

「まさかあの攻撃を防ぐとは、義経は感激した」

 

「ふん、こんな素人を前に出してくるのだ。何処からか、奇襲を仕掛けて来ると考えるのが道理であろう」

 

義経の素直な感想に石田は、この程度は予測できて当然だと言わんばかりの口調で答える。だがどちらも、相手の挙動を見逃さまいとしている。

僅かな膠着の後、仕掛けたのは義経だった。

 

「はあ!」

 

鋭く地面を蹴り、石田に肉薄する。その速度は並の武芸者ならば、目で追う事すら叶わない。しかし石田は、冷静に義経の攻撃を刀で受け止めつつ、軌道を下に逸らして、上をがら空きにする。

 

「迂闊だ。馬鹿者!」

 

石田は完全に軌道を逸らしたあと、隙だらけの上から刀を振り下ろす。その攻撃に対して義経は、前に乗った重心を無理やり横に動かす事で、体を無理やりに方向転換させ攻撃を躱す。

 

「うっ!」

 

「ほう、躱すか。だが、それでは甘いわ!」

 

苦悶を漏らしながらも、紙一重に近い形で躱した義経の姿を見た石田からは、賞賛と驚きの声が出るが、それでも体は次の攻撃を仕掛ける。

足を大きく広げる事で、体を無理やりに次の攻撃に移行させる。横薙一閃攻撃を刀で受け止める義経。しかし、体勢も悪く踏ん張りも聞かない状態では持ちこたえる事が出来ず、大きく吹き飛ばされる。

 

「くぅ!」

 

「休んでいる暇など、与えんぞ」

 

吹き飛ばされた義経の体制が整う前に石田は、義経の元に駆け出し下から刀を振り上げる。しかし義経もその攻撃を予期していたのか、体を右に倒れす事で攻撃を躱し、その倒れる勢いを利用して、更に加速する。

 

「!!?」

 

その速度を近距離で発動された石田は、義経の攻撃の軌道から体をどかせようとするが、あまりに遅く完全に避けられず攻撃を受けてしまう。

苦痛の声を気合で押しとどめ、石田は自分の後ろにいるであろう義経の攻撃を防ぐため、体を捻り後ろを向く。

 

「はあ!」

 

「ちぃ!」

 

石田が振り向くと同時に、体勢を立て直した義経の太刀が迫るが、ギリギリで防御する。

鍔迫り合いをしながら、二人は相手の事を強者であると考えていた。

 

 

――――この人…強い!!

 

 

――――こいつ。速さだけならおれよりも上か……いや、全体的な能力も下手をしたら

 

そんな中で石田は、これまでのやり取りから、自分の相手が同格かそれ以上だと直感する。出し惜しみしていて勝てる相手ではないと。そしてこの戦は、決して負けれない。ならば、使うしかない、あの技(・・・)を。

 

――――だが、発動までに時間がかかる。そんな時間許す相手でもない。どうする。

 

瞬間的な迷い。それは、力関係に大きく影響する。まして、同格のかそれ以上の相手ならばなおさらだ。どんどんと石田の刀が、義経に押されていく。

 

――――くそ!どうすれば

 

悩む石田の耳にある声が届く。それは自分が誰よりも信頼する右腕の声。

 

「御大将!!」

 

「って、わあああああ!!」

 

島が敵である一子を義経の方に吹き飛ばしながら、石田の前に立つ。言葉はない。しかしその背が雄弁に石田に語る。言葉などいらない。それだけの絆が二人にはあった。

義経と一子は、激突しその場に倒れる。その光景を見た石田は、素早く後方に下がる。

 

「此処から先は、十勇士の一人島右近が、お二人の相手をいたす。お覚悟を」

 

そう名乗った島は、未だ倒れる二人に向かって槍を振るう。二人はその攻撃を躱し、左右から攻撃を仕掛ける。

島は、防御に専念する事で攻撃をやり過ごす。しかし完全には捌き切れず、小さくないダメージを受ける。だが、決して二人を後ろには行かせない。その気迫が、二人の攻撃を躊躇わせていた。

 

「凄い気迫」

 

「ああ、気迫だけで、押し込まれそうだ」

 

島の気迫を感じた二人は、一人では突破できないと悟ると、小さく目を合わせ同時に行動を起こす。

 

「やあ!」

 

「ぐぅ!」

 

義経の太刀を槍で受け止めた島。だが、それこそが義経たちの目的だ。

 

「いまだ!」

 

義経の声に反応して、後方から一子が駆けてる。対処しようにも義経の存在がそれを許さない。

 

「はああああ、川神流 水穿(みずうが)ち」

 

すれ違いざまに放たれた薙刀の一撃に島は、苦悶の声を上げながら前のめりに倒れる。見事な一撃。もはや自分は戦えない。

 

――――此処までか…後僅かな時間だであるのに、情けない

 

後悔と懺悔の思いが浮かんだ島の脳裏に、怒鳴り散らすように悠介の声が届く。

 

『まだ、意識はあるだろうが!!意識失うまで戦う事から逃げてんじゃねえぞ!!』

 

空耳かもしれない、だがその声は島の身体を動かすには十分すぎる。瞬間、もう入らないはずの腕に力がみなぎる。

 

――――それがしは…それがしは、まだ負けてはいない。御大将との誓いだけは、何人も汚させない!!

 

掠れゆく視界に、二人が石田の方に駆け出すのが見えた。あのタイミングでは、あの技は間に合わない。

ならば自分がすべきことは一つしかない。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

振り抜きざまに、自身の必殺の一撃を放つ。先のことはいい。必要なのはこの一瞬のみ。

 

――――真空雪風巻

 

二人の間に突如として現れた竜巻は、二人を左右に吹き飛ばす。それを確認した島は、静かに石田に想いを託し倒れる。

 

――――御大将……後は、任せます

 

島が倒れるとほぼ同時に、石田の技が発動する。

 

「奥義 光龍覚醒(こうりゅうかくせい)

 

その声と共に、雷光が戦場を包みこみ。その中心から黒髪が、金髪に逆立った石田が現れる。その威圧感は、今までの比ではなく、見かけ倒しでない事は明白だ。

石田は、静かに倒れた島に視線を向け、小さく呟く。

 

「ご苦労だった。後は、任せろ」

 

その言葉は、紛れもなく大将として言葉だった。そして石田は、二人の敵に視線を移す。

 

「さてまず初めに、島をやってくれた薙刀使い!貴様からだ!!」

 

その言葉に一子は、薙刀を構えるが…

 

「ぬるいわ」

 

石田のその呟きと共に放たれた斬撃により、壁まで吹き飛ぶ気絶する。堪える事すら許さない絶対的な豪の剣の前では、半端な防御など意味をなさない。

 

「ワン子!!」

 

その様を見ていた大和の声が辺りに響く。一子の強さを知っているからこそ、一撃で倒されたのが信じられない。

一子が沈んだとこを確認した石田は、義経に告げる。

 

「おれの名は、十勇士筆頭にして大将 石田三郎。貴様の敵だ」

 

名乗ると同時に石田は、地面を蹴り義経に迫る。その速度は、黄色い閃光が走るほどだ。

そのまま刀を振り切る。義経は、受けるのは危険と言う本能に従い、迫る攻撃を回避する。

 

「逃がさん!!」

 

逃げた義経を追うように石田は、刀を振るいながら迫る。紙一重に近い形で攻撃を避け続ける義経だが、ドン!と壁と激突してしまう。

 

「しまった!」

 

「これで逃げられまい!」

 

一瞬の動揺で石田から視線を外し、壁の方を見てしまった義経。自分に迫る刃を受け止めるしか手がない。

刀を横にして、石田が振り下ろした刀を防いだ瞬間

 

「ぐぅ!」

 

石田の刀を纏っていた電撃が、義経の刀を伝い襲いくる。その事を確認した石田は、一度刀を離して、再び義経に斬りかかる。

 

「喰らえ!!」

 

ほぼ同時の六斬撃。義経は横に飛び回避するが、電撃のせいで痺れた体では、上手く避けれず何発か掠ってしまう。

しかも、掠った場所から再び電撃が襲う。その電撃は確実に義経の動きを阻害していく。

 

「逃がすか!」

 

自身の斬撃で砕いた壁の欠片が舞う中石田、的確に義経を見つけ横凪に刀を振るう。その破壊力は、刀の前に在った欠片をも切り裂くほどだ。

 

「くぅ!」

 

その攻撃を躱す義経だが、体に走る電撃が彼女を苦しめる。

 

「このまま押し切らせてもらうぞ!!」

 

石田は、休むことなく連続で斬撃を放つ。どれも一撃で戦闘不能に持っていく一撃だ。

その攻撃を義経は、なんとか躱していく。その姿を見た石田は、驚愕の表情を浮かべる。

 

――――こいつ!徐々に動きのキレが戻ってやがる。早く仕留めないとヤバイ!

 

痺れて動かない筈の身体で、自分の斬撃を躱すと言う事は、体の感覚が戻ってきていると言う事だ。時間をかければ不利になっていくのは、明らかだ。

だからこそ、石田は焦ってしまった。

 

「わっ!」

 

後方に躱していた義経が、先ほど飛びっ散った破片に足をとられ体制を崩す。石田はそのチャンスを逃す訳もなく。

 

「喰らえ!イナズマブレイド!」

 

雷光が一段と刀に纏われ、凄まじい雷音が鳴り響く。見るからに必殺の意義が込められた雷刃(やいば)

その刃をそのまま義経に向かって、振り下ろそうとした時…

 

「させるか!」

 

大和の投石が石田に迫る。

 

「邪魔くさい!」

 

勿論、石田は体を捻る事で躱すが、一瞬だが義経から大和へ意識を移してしまった。

その一瞬が勝負を分ける。

 

「はああああ!」

 

「しまっ!」

 

義経の声を聞いて自分のミスを知った石田。これは決闘ではなく、(いくさ)である。一対一か一対多であるかの違い。

その違いが勝負の決めた。

義経は気を使い体の痺れを失くし、そのまま身体を強化して、居合の構えを取りながら迫る。彼女の本能が、此処で決めるべきと告げていた。

それに従い、残った気を全てを使い信じられない加速を始める。

石田も急ぎ攻撃を加えようとするが、ワンテンポの差で義経が速い。

 

「はっ!」

 

「がっ!」

 

速度と拍子共に最高のタイミングで放たれた気を纏った居合は、石田の急所を切り裂く。

攻撃にほとんどに気を使っていた石田には、防御に回す気もなく直撃してしまう。

静かに倒れる石田。その姿を確認した義経は、静かに呟いた。

 

「義経の勝ちだ」

 

その言葉が戦の終了を告げた。

 

◆◇◆◇

 

「こ、此処は?」

 

「御大将!!」

 

次に石田が目を覚ました時映りこんだのは、自分を心配する十勇士の姿。そしてゆっくりと、なぜ自分がこうなったかを思い出してゆく。

 

「そうか………敗けたのか」

 

ゆっくりと発せられた言葉に十勇士達は、顔を曇らせる。実際は紙一重であった。

大和が行動を起こす数分前、大友と毛利と竜造寺そして、ヨシツグを除く四人の十勇士が敵本陣に攻め込んでいたのだ。

あと少し、石田が焦らずに攻撃をしていれば、天神館の勝利であったであろう。

そう言えるほどに、僅かな差であった。しかし、そんな言葉は何の慰めにもならない。

 

「く―――――」

 

重い沈黙が場を支配する中で、石田が沈黙を破る様が小さく呟く。

やがてそれは、絶叫となり辺りにこだます。

 

「くそぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

石田の絶叫は何を意味するか、この戦での敗北か、それともまた別の意味か。しかし、十勇士達にはその意味がよく理解出来た。

だからこそ、何も言えなかった。

しばらくの間、石田の絶叫が鳴りやむ事はなかった。




何か書いていて、石田がこの小説の裏の主人公でいい気がしてきました

少し、呆気なった気もしますが、いかがでしたでしょうか?
良かったら、感想をお願いします。


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師の言葉と友の誓い

今回は少し、しつこいかもしれません
何で自分は、こんなにもセリフを考えるのが苦手なんでしょうか?
他の皆様なら、もっとうまく書けるだろうな。

たぶん、意味が分からないと思いますが、漢の会話として納得してくれたら嬉しいです


「そうか。負けちまったか」

 

鍋島から事の詳細を聞いた悠介は、小さく呟く。悠介の声音は聞いた鍋島は、悠介が何処か悔いてる様にも感じた。

まるで戦友(とも)と共に戦えなかった事を悔いてる様だと。

 

「でもよ、その義経ってのは結局誰だ?」

 

「まあ、ずっと山に籠ってらぁそうなるわな」

 

 

悠介のふとした疑問を聞いた鍋島は、本当に悠介がずっと山に籠って修行していた事を再確認する。

そうでもなければ、現在テレビを騒がしてる武士道プランを知らない訳がない。

 

「九鬼家が打ち上げた『武士道プラン』って奴だ。過去の英雄に学び切磋琢磨するってのが、目的だな」

 

「過去の?」

 

「クローン技術で現代に蘇らせたんだよ」

 

「なるほど」

 

鍋島の説明を聞いた悠介は、納得したように頷く。何の躊躇いもなく事実を受け入れた悠介の姿を見た鍋島は、悠介の強みを再確認する形となる。

普通の人ならば、クローン人間と聞けばある程度の反応があるだろう。拒絶だったり興味だったりと様々だが、悠介は一度何の躊躇いもなく受け止める。

どんな考え方でも、一概に否定せず長所などを考え理解していこうとするのだ。

何故悠介がそうするのかは、鍋島にはわからないが、それは間違いなく悠介の強さだと考えている。

 

「石田を倒すか…強いんだな」

 

「そらあ、過去に英雄と呼ばれた奴らだ。血を受け継ぐ奴ら並には強いだろ」

 

「会えるのが楽しみだ」

 

笑みを浮かべる悠介の顔を見た鍋島は、悠介と武士道プランの面々が出会う未来(さき)を想像し、笑みを浮かべる。果たしてそれが、悠介に何を齎すのか一人の武人としても、師としても気になるモノだ。

 

「さて、不良生徒の面も見れたし帰るとするか」

 

鍋島が腰を上げると同時に悠介も腰を上げる。そして自分がまだ伝えていない事に気が付く。

 

「なあ、実は…」

 

悠介が全てを言う前に鍋島の帽子が、悠介の頭にかぶせられる。

 

「ああ知ってるよ。お嬢ちゃんに全部聞いた。戻るんだろ?川神に」

 

「…ああ」

 

鍋島はあえて悠介の表情を見えなくしてから、悠介と話始める。鍋島の言葉に、間を置きながらも悠介は答える。

 

「全く、師想いじゃねえ弟子を持ったもんだぜ。まさか、師の元を去るってのを伝え忘れて、他人に告げられるなんてよ」

 

「うるせえよ」

 

鍋島が笑いながら発した言葉に悠介は、不貞腐れた声で答えた。

 

「それよか、頭から手をどかせよ」

 

「別に良いだろうが」

 

「ちぃ」

 

不貞腐れ手を払いのけようとした悠介に、不意を衝いた様に今までの声音とは全く違う声が届く。

 

「行って来い」

 

「っ――――!!」

 

その言葉は鍋島には似合わない程に、優しく躊躇う者を後押しする声音である。言葉を聞いた悠介の気配がブレた。しかし、帽子のせいか表情は、窺えない。

 

「お前は西(ここ)で強くなった。力もそうだが、何よりもお前の精神(たましい)が強くなった」

 

「強くなってねよ。俺は弱え」

 

鍋島の言葉を否定した悠介の声は、驚くほどに小さく弱弱しい声だ。思い出すは鍋島が来る前、才能と言う逃げ道に簡単に逃げてしまった自分の姿。

自分が諦めるのに、都合のいい逃げ道に逃げる自分の精神が強くなった訳がない。

そんな悠介の葛藤に気が付いているのか鍋島は、不器用に真っ直ぐ進む弟子を導こうとする。それが、師の仕事だと知っているから。

 

「師である俺が言ってんだぞ。師の言葉を信じねえ弟子はいねえんじゃなかったか?」

 

「……」

 

鍋島の言葉に悠介は答えない。いや、答えられない。鍋島自身これから悠介に待ち受ける重圧を知っていた。

しかし理解してやる事は出来ない。自分には才があったが、悠介にはない。

持つ者が持たない者の気持ちを理解する事は出来ないだろう。

それでも…

 

「お前は強い。俺は胸を張ってそう言える。だから、師の言葉を信じて進んでみろや」

 

武神に挑むと言う愚直を行う弟子の迷いに手を差し伸べずして、師とは名乗れない。

悠介は誰よりも知っている、才能の壁を。そして自分と武神の間の壁を、知っているからこその迷い。

どれだけ決意を固めようと圧し掛かって来る重圧。どれだけ大人ぶっても、未だ高校生の悠介一人に背負えるモノではないのは明白だ。

 

「何度倒れても立ち上がる。それがお前の誇りだろ」

 

「ああ」

 

未だに弱弱しい声で答える悠介に鍋島は、ある事を告げる。それを告げるのは今しかないと感じるから。

 

「お前が武神を倒したのち、お前と初めて交わした約束(・・)を俺は果たすつもりだ」

 

鍋島のセリフに下を向いていた悠介が上を向こうとするが、鍋島の手がそれを邪魔する。今はただ聞け。師から無言の合図。

 

「お前なら…いや、お前だからこそ武神を倒せると信じてるぜ、俺はな」

 

鍋島が発する言葉の全てが悠介の迷いを打ち砕いて行く。迷いを断ち切らせる言葉など発する必要はない。

その強さを悠介は既に持っている。自分はそれを引き出してやればいいだけなのだ。

 

「お前が武神を倒したら、俺はお前の前に()として、立ちはだかる。もう、お前にはそれだけの強さがあるんだぜ?だから、行って来い――――」

 

ふと見れば、悠介は強く拳を握り何かに耐えている様だ。そして鍋島の最後の言葉が発せられた。

 

バカ弟子(・・・・)

 

悠介は鍋島が言い終わると同時に、静かに鍋島の横を通り過ぎる。鍋島もそれが分かっていたのか、自分の横を通り過ぎる瞬間まで、帽子を悠介にかぶせ続ける。

悠介の足取りに迷いは感じられなかった。

 

◆◇◆◇

 

自分は大馬鹿野郎だ。歩む中で悠介は、行き場のない感情に支配されている。師匠にあそこまで言ってもらわないと、迷いを断てない自分は本当にバカだ。

 

「でも、もう迷わねえ」

 

迷わないだけのモノを師匠から貰ったのだ、これで再び迷うものなら、自分はもう二度と拳を握れる資格はないだろう。本当なら柄ではないが、礼の一つも述べるのが正しいのだろう。

だが、今ではない。本当に感謝し礼を尽くす気があるなら、武神に百代に勝ってからだ。

それまでは自分には、礼を述べる資格はない。

 

「ふぅ」

 

小さく息を吐きながら思い出すのは、さっきの言葉の全て。憧れた男が自分との約束を護ると言った。その言葉だけで、迷いのほとんどは知らない間に消えていく。

 

「やるぜ。そして、あんたら(・・・・)に絶対に追いついてやる!!」

 

拳を大きく天に掲げ告げた悠介の表情は、正しく武人の顔であり、何時もの悠介である。

そうやって山を下りていく悠介の視界に十人の人影が映る。それが誰なのかは、考えるまでもない。石田達だ。

彼らは悠介の通り道に、横に並んでいる。悠介はあえて何も言わず、石田の横を通り過ぎた。

 

「いいか!!これから話すのは独り言だ!!断じて、お前に向けた言葉ではない!!」

 

悠介が石田達を横切って直ぐに、石田が大きく声を張り上げる。石田の言葉が発せられたと同時に悠介の歩みが止まる。

 

「おれたちは敗けた!!故に、悠介には挑まん。だが、此処で誓え十勇士!!」

 

石田達は交流戦の後悠介と戦うと言った。そこに勝ったらとは何も言っていなかった。

違う、勝つつもりでいたのだ。だからこそ、その言葉を言わなかったし、悠介自身も理解していた。

別段悠介ならば、気にせずに戦いに応じるだろう。しかし敗北した者が、そのままライバルに挑む。

それは侮辱だ。自分自身への侮辱、何より自分達がライバルと認めた者への侮辱。そんな侮辱を犯してまで勝負するぐらいなら、彼らは全く別の手段を選んだ。

それが今の状況なのだ。

 

「おれたちは、もう二度と悠介に挑むその時まで、敗けんと誓え!!」

 

石田は言い終わると同時に刀を天に掲げた。それに続くように、島は槍を、大村は拳を、長宗我部はオイルの入った瓶を、毛利は弓を、大友は大筒を、宇喜多はハンマーを、竜造寺はバラを、鉢屋はクナイを、尼子は二つの鉤爪を、天に掲げた。

誓い。ライバルの前で、挑むその時まで不敗を誓う。その重さは武人である悠介も理解出来る。

しかし、次の言葉は予期できなかった。

 

「だから貴様もおれたちに敗けるまで、誰にも敗けるな!!たとえそれが、武神であってもだ!!」

 

石田の言葉は、誓いでも何でもない。ただの声援だ。石田だけではない、他のメンバーも言葉には出さないが、石田と同じ言葉を告げている。

石田達は鍋島から全て聞かされていた。

だからこそ、自分達が認めたライバルに送る、最大限の言葉。

石田達の言葉を聞いて一瞬呆けた悠介だが、すぐさま自分の拳を天に掲げる。それこそが彼らの声援に対する答えだと知っているから。

同時に悠介の中に沸き立った感情は、喜びだ。師だけではない。こんなにも近くにいたのだ。自分の不安や迷いを失くしてくれる戦友(とも)が。自分と同じく頂点に駆け上がろうとするバカが、こんなにも近くいたのだ。

本当にさっきまで、怯え迷っていた自分が恥ずかしい。そんなモノでよくぞライバルと名乗れたのだ。

自分が迷っている間に、石田達はこんなにも覚悟を決めたと言うのに。

だから自分も誓おう。

今後ろにいる戦友達にライバル達に誓おう。もう二度と自分が進む道を迷わぬと、そしてお前らのライバルで居続けると、誓おう。

誰でもない、自分が認めたお前たちに。

時間にして僅か数分。

しかし、彼らにしてみれば永久に近い時間が終わり、悠介は再び歩き出した。

その足取りは、今までよりもしっかりと迷いのないモノと化していた

 

◆◇◆◇

 

悠介と石田達のやり取りを見ていた鍋島は、嬉し様な笑みを浮かべていた。

 

――――ああ、それでいい。今は我武者羅に前に進んでいけ。若人よ

 

自分達の次の代の芽が確実に育っているのを、この目で見れるのは一人の教育者として、これほど嬉しい事はない。

 

――――わかったろ、悠介?お前は一人じゃねえ。そいつらと共に進んでいけ

 

静かに一人で進む悠介だが鍋島の目には、その後ろに続くように石田達の姿が見えた。

それは、決して幻想ではないだろう。石田達の想いも背負って、悠介は自分の夢を叶えに行くのだ。

彼の始まりの地に。

 

――――全く、可愛げのねえ弟子だったぜ

 

思い越すは、悠介との出会いから今日に至るまでの全て。その全てが大切なモノだと鍋島は、胸を張れる。

故に直感している。悠介の夢はあの地で、一歩前進すると確信している。

思い越した鍋島は空を見上げながら、これからあの地を中心に巻き起こるであろう出来事を予期し、笑みを浮かべる。武士道プランが施行されたのはもしかしたら、偶然ではないのかもしれない。

ある種の必然を帯びて、あの地で行われるのかもしれない。

運命などと言う言葉をあまり信じない鍋島だが、今回ばかりはそう思わずにはいられなかった。

まるで世界があの非才の少年を試しているの様だ。

人は神に勝てるか?あの二人がぶつかる時その答えが分かる。

その時の光景を想像した鍋島は

 

「楽しみだ」

 

一人の武人としてと師としても意味を持たせそう呟いた。

 

悠介は西の地にて新たな誓いと想いを馳せ旅立つ。

そして彼は再び武人たちの聖地『川神』に足を踏み入れる。




いよいよ次回から、舞台は川神に戻ります
楽しみにしてくれたら嬉しいです

さて、どうやって再開させようか

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日常編~動き出す物語~
悠介と再会 その1


まだ完全に見直せてませんが、書きたくなったので投稿しました

日常会話を考えるのが難しい。
何か違和感があったら教えてください。


多くの変人変態が通る事から、名づけられた変態橋。

しかしこの場所には、もう一つの顔がある。

武神と謳われる川神百代に挑める場所でもある。

この場所は川神学園に続く通学路であり、その道中に百代に挑もうとおする命知らずが、集まる場所でもある。

 

今日もまた武神に挑もうと多くの不良達が集まっていた。

しかし、今日は少し可笑しい。

未だに薄暗い中、微かに鈍い音が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝 変態橋の近所

直江大和達風間ファミリーは、学園に向かっていた。

 

 

「それにしてよー。何かまた落ち着いて来たよな。もっと面白い事とか、起きねえかね~」

 

 

風間はそう呟きながら、つまらなそうに口笛を吹く。

 

 

「いやいや、結構賑やかだと思うよ!!義経たちが来てから濃いメンツが集まって来てるわけだし」

 

 

「俺もそう思うぞ、キャップ」

 

 

風間の言葉に真っ先にツッコミを入れたモロ

モロの言葉に頷くように大和も同意する。

 

 

「これだけの事が起きて、つまらなくなったとは・・・・・一体どれほどの事を望んでんだよ」

 

 

島津の呟きは、その場にいる全員の気持ちを代弁しているセリフだった。

 

 

「でもよ~」

 

 

「本当につまらなそうですね」

 

 

「まあ、キャップだし」

 

 

「その言葉で納得できる自分がこえーーYO」

 

 

「私は今のままでも十分よ!義経たちと戦えるんだから」

 

 

「うん。自分も犬に賛成だ」

 

 

武士娘である彼女たちも少し引き気気味だ。

いつも通りの日常で学校に向かう風間ファミリー

そこへ

 

 

「あ!弟たちだー」

 

 

「姉さん」

 

 

大和たちの少し前方にいる百代が、自分の仲間を見つけ大きく手を振る。

 

 

「あれって、義経たちじゃない?」

 

 

「うん。間違いない」

 

 

一子の言葉に目の良い京が同意する。

どうやら、武士道プランの面々と喋っている様だ。

大和たちは、急いで百代のいる場所に行く。

 

 

「皆、おはよう」

 

 

「おはよう。義経」

 

 

「おはようございます」

 

義経と一子そして黛は、ある意味似た者同士で仲良く挨拶している。

 

「ちぃーす」

 

 

「おはよう。相変わらず眠そうだな」

 

 

「まあねえ」

 

 

「むっ。ダメだぞ弁慶。生活リズムを崩しては」

 

眠そうに挨拶をしたのは、色気を全身から発する武士道プランの一人武蔵坊弁慶

義経の部下である。最も普段のやり取りでは、完全に逆転しているが。

因みに、極度のアル中で川神水を定期的に摂取しないと、体が震えて動けなくなるほど。

 

 

「うふふ。皆おはよう」

 

 

「おはようございます!!葉桜先輩!!」

 

 

「ちょ、岳人。落ち着いて!!」

 

 

「清楚ちゃん!!マジで可愛いいー!!」

 

 

「モモ先輩も!!」

 

 

島津と百代を興奮させたのは、美しく清楚な少女 葉桜清楚

武士道プランの一人であり、義経たちとは違い三年でもある。

読書が趣味な、肉体派が多い川神に現れた、数少ない文科系美少女である。

因みに彼女自身、自分がどんな英雄か聞かされていない。

本人曰く紫式部か清少納言あたりだと嬉しいらしい。

 

 

「ちぃ。お前ら、俺には近づくなよ。何処から、奴らが攻撃してくるかわからんぞ」

 

 

「にしても、本当に似てるよな」

 

 

「クックっ。正に生き写し」

 

 

「やめろーーー!!」

 

 

「悶える大和も素敵。結婚して!!」

 

 

「うぅ。お友達で」

 

 

「プロポーズ失敗」

 

 

風間と京に警告したのは、那須与一

武士道プランの一人で、弓の名手である。

しかし、極度の中二病であり、会話をするのは一苦労である。

因みに、大和も昔中二病だったので、正に黒歴史の生き写しとも言える与一の存在は、地雷そのもである。

 

 

そんなやり取りをしながら彼らは変態橋に差しかかる。

 

 

「何だ?」

 

 

真っ先に疑問の声を上げたのは大和

何時もよりも騒がしい。

 

 

「また、モモ先輩への挑戦者じゃねえのか?」

 

 

「義経たちと言う場合もある」

 

 

島津と京の言葉はあながち間違いではない

とうの本人たちはと言うと

 

 

「えー!めんどくさいな。折角こんな美少女達と登校してるのに」

 

 

「私も先輩に同意」

 

 

「だっ、ダメだぞ弁慶!!折角来てくれたんだから、しっかりお相手しないと」

 

 

「ふん。誰が好き好んで罠に飛び込むか」

 

 

義経を除く面々は、全くもってやる気がない。

 

 

「何か面白そうな匂いがするぜ。行くぞ、野郎ども!!」

 

 

何よりも退屈を嫌い刺激を求める風間は、すぐさま人混みの中に突っ込んでいく。

その後を大和たちは、直ぐに追いかける。

そしてそこで見た光景に驚愕の声を上げた。

 

 

「なっ!」

 

 

変態橋の下にある河川敷に、多くの不良達が死屍累々と山になって積み重なっている。

しかも全員ひどく殴られたのか、顔は赤く腫れ涙や鼻水で汚れている。

 

 

「一体誰がこんな事を」

 

 

大和の言葉は、他のメンバーも思っている事だ。

余りにも執拗にやられている。

武神である百代でもここまではやらない・・・・たぶん。

 

その光景を見た武士娘達は、静かに辺りを警戒する。

此処まで暴力振るう様な相手だ。何処からか攻撃してきても不思議ではない。

ある者は怒りに燃え、またある者は歓喜に震えるなど、反応は様々だ。

 

辺りを見渡していた京と与一の二人が、不良達が山になっている近くであるモノを発見する。

 

 

「大和あそこ!」

 

 

「ちぃ。組織のエージェントか」

 

 

大和たちは京が指さした方向に視線を集める。

ちょうど大和たちの場所では、ギリギリ死角になるかならないかの場所に人影が見える。

その姿を確認した百代の表情が、驚きと歓喜に変わり

 

 

「何だよぉ・・・何だよぉ!!」

 

 

「姉さん?」

 

 

百代の変化を感じ取った大和が百代に声を掛けるが、その声に反応する間もなく百代は、人影の元に向かって跳んだ。

大和たちは、急いで人影がある場所に視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百代の中には、歓喜の感情が渦巻いていた。

ほんの僅かしか見えなったが、間違いないあいつだ。

自分があいつの存在を見間違う訳がない。

だからこそ百代は、その人影に向かって吠えながら落下した。

 

 

「悠介ぇぇぇぇえええええ!!」

 

 

 

ドン!と大きな音を立てながら百代が地面に落下すると同時に、人影は大衆の前に姿を現した。

 

 

 

「久しぶりだなあ。モモ」

 

 

百代が地面に降り立つと同時に悠介は、懐かしのライバルに向かって言葉を発する。

 

 

「ああ、本当に久しぶりだな」

 

 

百代も静かにライバルと言葉を交わす。

 

 

「・・・・」

 

 

「・・・・」

 

 

挨拶と同時に二人の言葉は途切れ沈黙が支配する。

別段、話の内容が無いわけではない。むしろ逆で、ありすぎてどれから話して良いのか分からないのだ。

そんな中百代はゆっくりと言葉を発した。

 

 

「どうして此処にいるんだ?」

 

 

「ああ、今日から川神学園の世話になるからだよ」

 

 

「! 此処に戻ってくるのか!!」

 

 

「ああ」

 

 

悠介の言葉を聞いた百代の顔が歓喜の笑みに染まる。

嬉しさからか百代は、今までの沈黙が嘘の様に話始める。

 

 

「何でメールで教えてくれなかったんだよーー」

 

 

「別に良いだろうが。結局、学校で会う事になるんだからな」

 

 

「そう言う問題じゃないだろう?」

 

 

もしも知っていれば、もっと早くにお前に会えたかもしれないんだぞ

それが百代の本意である。しかし、言うのが恥ずかしいためにそんな言葉になってしまう。

 

 

「こんな美少女な幼馴染に連絡を入れないなんて、なんて酷い奴なんだ」

 

 

勿論、百代は大した意識もなくその言葉を発した。

だからだろうか、次に悠介の放った言葉を理解出来なかったのは

 

 

「まあ、連絡云々の所は置いといて。美少女って部分を否定できねえのはうぜえな。昔なら、ギリギリ否定できたが、今は無理だな」

 

 

 

「えっ?・・・・・・・・ええ!」

 

 

「おっ!何だ急に」

 

 

「び・・美少女って・・・えっ!!」

 

 

「何驚いてんだ?自分が言った言葉だろ?」

 

 

慌てふためく百代の姿に疑問の声をぶつける悠介だが、今の百代には全く聞こえていない。

さっきから小さく「美少女って言った・・あいつが認めた」と呟いている。

百代の狼狽は橋にいる川神学園の生徒を驚愕させていた。

女好きと言われる百代が、男の言葉で顔を赤くしながら狼狽えているのだ。

驚かない訳がない。

そんな中でも最も驚愕しているのは風間ファミリーの面々だ。

長い付き合いの彼らでもあんな百代の姿は見たことが無い。

 

 

「姉さん」

 

 

そんな中大和は、何処か悔しそうに百代を見ていた。

 

 

 

「で、落ち着いたか?」

 

 

「ああ」

 

 

「漸くかよ」

 

 

暫らく狼狽えていた百代だが、時間が経つごとに落ち着きを取り戻した。

 

 

 

「それで、何が理由でそうなったんだ?」

 

 

「う、うるさい!!何でもいいだろ」

 

 

「いや、気になるじゃねえか。普通」

 

 

「うるさい!!」

 

 

「・・・はあ。わあったよ」

 

 

余りの百代の剣幕に悠介が先に折れた。

 

 

「まあ、いいや。うんな話をする為に、此処で待ってた訳じゃねえし」

 

 

「どう言う事だよ?」

 

 

悠介の言葉に疑問を持つ百代

しかし悠介は、構わずに宣言する。

 

 

 

「モモ。俺相楽悠介は、武神であるお前を倒すために此処へ戻って来た」

 

 

 

その言葉を聞いた川神の生徒たちからは笑いの声が起きる

 

 

「うわぁ。あいつ命知らずだな」

 

 

「まあ、いいんじゃない。コテンパンに負けて、自分がどれだけ弱いか知るいい機会になるし」

 

 

「私もそう思う」

 

 

島津とモロそして京は、悠介を嘲笑い。

 

 

「まさか、モモ先輩に挑むなんて」

 

 

「命知らずなBOYだぜーーー」

 

 

「大丈夫かしら?」

 

 

「義経もそれが心配だ」

 

 

「そうだね。モモちゃんがやりすぎなきゃいいけど」

 

 

黛と一子そして義経と清楚の四人は、悠介の身を案じる。

 

 

「バカだね~」

 

 

「ちぃ。威力偵察か?」

 

 

弁慶と与一は、中立的に周りを見ている。

 

 

「おおっ!何だ、何だ!?面白れぇ事になってきたじゃねえか」

 

 

「落ち着けよキャップ」

 

 

子供の様に飛び跳ねる風間を大和が抑えていた。

そんな中クリスは、一人鋭い目線で悠介を睨んでいた。

 

 

辺りに笑いが起きる中、悠介は笑い声を聞いて尚揺るがない。

揺るがいなモノを自分は、西の地で貰い誓ったのだから。

笑われるのには慣れている。笑われて行こう頂点まで、その決意も覚悟も出来ている。

悠介の宣言を聞いた百代は

 

 

「わかった。川神院次期師範川神百代の名において、謹んでその勝負を受けよう」

 

 

静かに悠介だけを見定めながら呟いた。

その声音から、百代が真剣であると見て取れる。

百代の声を聞いた面々は驚愕し目を見開く。

 

 

「そうか。感謝する」

 

 

「お前とやれるなら、これぐらい軽いさ」

 

 

悠介の言葉に百代は、気にするなと言う表情で悠介の言葉に答える。

 

 

「それじゃあよ」

 

 

「ああ」

 

 

瞬間、二人の闘気が辺りを包む。

百代に宣言すると言う目的を終えた悠介。

本来ならば、そのまま川神学園に向かうべきだ。

しかし、長年のライバルと顔を合わせ、最早抑える事が出来なくなっていた。

それは、百代も同じである。

 

 

一瞬の沈黙の後、二人は同時に地面を蹴った。

 

 

「モモぉぉぉぉおおおおおおお!!」

 

 

 

「悠介ぇぇぇぇええええええええ!!」

 

 

 

約八年ぶりに二人の拳は激突した。




と言う訳で、悠介の最初の相手は百代です。
う~んやっぱり恋愛描写は難しい。
上手く書けましたかね?

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悠介と再会 その2

書いている内に止まらなくなりました。
まだ、修正も終わってないのに大丈夫かな?

今回は、百代との戦闘回です。
皆様の期待に添えれるか疑問ではありますが、楽しんでくれたら嬉しいです。

果たしてどうなるか?


百代と悠介の拳が激突したその瞬間、川神学園の誰もが悠介の敗北を想像した。

今まで何度も見てきた光景だ。だからこそ、誰もがその光景を信じられなった。

ただ二人(・・・・)を除いては

 

二つの拳がドン!と鈍い音を立てると同時に、彼らにとっては驚愕の光景が映りこむ。

 

 

 

「うそだろ!!」

 

 

「ありえん」

 

 

「お姉様が力負けした」

 

 

一子の言葉を裏付ける様に、百代は僅かに後ろに後退した。

これが逆ならば、誰もが驚きの声を上げ相手を賞賛しただろう。

最強の存在が後退する。

それはある意味合ってはならない光景だ。

しかし、そのありえない光景が彼らの目の前に映っている。

 

だが他のメンバーの驚愕など、露知らず二人は戦いを続ける。

 

 

「!?」

 

 

「休ませねえぞ!!」

 

 

「はっ!誰が休むか!」

 

 

自身が力負けした事に驚愕した百代に、追い打ちを仕掛けるように悠介は左の拳を放った。

しかし、百代も直ぐに意識を切り替え、放たれた悠介の拳に自分の拳を放った。

 

ダン!と甲高い音が辺りに響く。

一瞬の硬直。二人は、すぐさま行動を起こした。

 

 

「おらぁ!」

 

 

「はあっ!」

 

 

悠介の右拳が百代の回し蹴りが、同時にお互いの身体に激突した。

 

 

「ちぃ!」

 

 

「ぐぅ!」

 

 

お互いに苦悶の声を漏らすが、決して動きは止まらない。否、止めてられない。

悠介は、回し蹴りされた百代の足を掴んでそのまま投げようとするが、百代も自分の身体が浮いた事を察した百代は、残りの足で悠介の顔面に蹴りを放った。

 

 

「てぇな」

 

 

「マジかっ!!」

 

 

しかし、悠介の行動は止まらずに、そのまま百代を投げ放った。

そして、即座に地面を蹴り、百代の元に駆ける。

駆けだした悠介は、百代が地面と激突したと同時に、自分の拳を振り抜いた。

 

 

「だぁ!」

 

 

だが、その攻撃が通る事は叶わなく。

ズン!と鈍い音を立てながら地面に激突した。

 

 

「なっ!何処だぁ!?」

 

 

百代の姿が消えた事を確認すると同時に辺りの気配を探るが、僅かに硬直した時間は百代にとっては、十分すぎた。

 

 

「川神流 無双正拳突き!!」

 

 

悠介の右後方に現れた百代は、自分が最も得意とする拳を打ち込む。

放たれた拳は、百代が多くの敵を倒してきた一撃。

だが、悠介はその一撃を

 

 

「ぐぅ!」

 

 

苦悶の声を上げながらもその身一つで受けとめた。

 

 

「モモ先輩の一撃に耐えた!!」

 

 

クリスの驚愕は、全員の驚愕を現していた。

それほどまでに、信じられない光景だ。

 

 

「止まってんじゃねんぞ」

 

 

ガシィ!と自分に打ち込まれた腕を掴んだ悠介は、腕を引き寄せて頭突きをかました。

頭突きを喰らった百代だが、ただでは倒れず。

よろめきながらも、右拳を悠介に向かって打ち込んだ。

体勢が崩れて放った一撃だが、並の武芸者なら問答無用で沈める威力を秘めている。

しかし悠介には、あまりに軽すぎるはずだった。しかし百代の拳を受けた悠介がよろめく。

百代の一撃は、悠介の腰に直撃した。頭突きをした事で重心が前に乗っていた悠介にとって、体幹の中心と言える腰への攻撃は、悠介をグラつかせるには十分だ。

そして、その一瞬を百代は見逃さない。

 

 

「致死蛍」

 

 

蛍の様に光る気弾が悠介に直撃した。

煙が上がる中百代は、静かに拳に気を送る。

その行為は、信頼ゆえの行為。

百代の決断が正しかった事を、証明するように煙が渦を巻き始める。

 

 

「まだだぁ!!」

 

 

煙を拡散させるほどの速度で、悠介の右拳が放たれた。

事前に対策を取っていた百代は、気を纏った左手で受け止めつつ、空いた右拳を放つ。

悠介も左手で受け止めた。

 

 

「へっ!」

 

 

「はっ!」

 

 

お互いに拮抗した状態で二人は笑みを浮かべた。

二人とも浮かべる笑みは同じでも、意味は全く違う。

一人は待ちわびたライバルと戦える事への歓喜から、もう一人は今も変わらず自分と戦ってくれるライバルへの感謝。

似ている様で全く違う笑みである。待ち受ける者、挑む者。

真逆の二人が、いま笑みを浮かべ相手を見据えた。

 

 

「何笑ってやがる」

 

 

「それはお互い様だろ」

 

 

二人が笑みを消した瞬間、二人はゴン!とお互いに額をぶつけた。

 

悠介と百代の二人は、決して自分からは後ろに下がらない。

同等の相手と戦うならば、間合いの取り合いは必須である。

ならばなぜか、常識(セオリー)でと言う問題ではないく、ただ二人のプライドの問題。

先に自分から逃げる訳には行かない。それをすれば、自分の敗北だ。

 

 

ふっと笑みを浮かべた二人は、同時(・・)に後ろに跳んだ。

引くは敗け。そんな二人が同時に下がった。

理由を問われたら二人は答えられない。

本能が告げた、今のタイミングで引けと。

 

本能とプライドどちらを選ぶべきかの中で、二人は迷わずに本能を選んだ。

それは二人の感性が似ている事があるだろう。

本能に従う事が勝利に近づく事を二人は知っているのだ。

 

本来ならば、プライドをかけた戦いでそんな真似はしないだろう。

しかし、目の前の相手は別だ。

プライドなど、どうでもいい。目の前の相手と戦ううえで必要なのは、勝つプライド(・・・・・・)だけだ。

そのプライド以外は絶対に必要ない。

 

 

 

間合いを取った二人は、静かに瞳を閉じ拳を握った。

二人の闘気が研ぎ澄まされて行く。

再び瞳を開けた二人は、同時に地面を蹴って吠えた。

 

 

「「はぁぁぁああああああああああああ!!」」

 

 

二人の拳がぶつかる直前

 

 

顕現(けんげん)(さん) 毘沙門天(びしゃもんてん)

 

 

巨大な足が二人を押しつぶした。




どうだったでしょうか?

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西の名乗り

前回の話が思ったよりも好評みたいで、とても嬉しいです。
修正が終わってませんが、またまた書いてしまいました。

楽しんでくれたら嬉しいです。


「やれやれ。随分派手にやったのう」

 

 

呆れた声と共に現れたのは、川神鉄心

鉄心は二人が戦っている事を察し、ギリギリまで手を出さずにいたが、これ以上は危険と判断し介入したのだ。

 

 

鉄心は倒れた二人を見ながら、後処理の事を考えていた。

周りは、小さいながらも二人の戦闘の余波で壊れている。

だからだろうか、鉄心は気が付かなかった。

自分の戦闘狂の孫娘が八年間も我慢し、漸くライバルと戦えていると言う事に、悠介が孫娘である百代に掛ける想いの大きさを失念してしまった。

 

今の二人は、飢餓状態になっているケモノが極上のエサに在りつけた状態と同じだ。

そんな二人が、たった一度の介入で諦めるか

 

答えは

 

 

 

 

ダッ!

 

 

 

NOである。

 

 

悠介と百代の二人は、起き上がると同時に地面を蹴って互いの頭を激突させた。

二人とも鉄心の介入に気が付いていない。そんな事を気にしていない。ただ、目の前の敵と戦いたい欲求だけが、二人を動かしている。

 

 

「おいっ!まさか、今のでへばったんじゃねえだろうな?勢いが弱ええぞっ!!!」

 

 

「それを言うなら、お前の方だ!さっきから息切れし始めてるぞ!」

 

 

「誰にモノ言ってやがる!!」

 

 

 

百代がそう言った瞬間、悠介は外から大きく回し蹴りを放った。

悠介の攻撃を察しった百代は、空中に跳び攻撃を回避。

しかし、その時にはすでに悠介が拳を構えているのが視界に入った。

 

 

「おらぁ!」

 

 

「なめるなっ!」

 

 

悠介の攻撃に百代も合わせるように拳を打ち込む。

二人の拳の激突と同時に

 

 

 

「やめんかーーーー!!」

 

 

 

再び巨大な足が二人を押しつぶした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ」

 

 

二度目の攻撃で地面に叩き付けられた百代が、ほんの僅かな時間だが飛んでいた意識を取り戻す。

 

 

「目が覚めたか?」

 

 

「ジジイ!!いきなり何するんだ!!」

 

 

「何って、止めたんじゃよ。あのままお主らを戦わせていたら大参事になっていた可能性があったからの」

 

 

「それは・・・そうだが」

 

 

鉄心の言葉を聞くうちに頭が冷えてきたのか言いよどむ百代

そんな百代の姿を見た鉄心は、視線を落としながら百代に告げる。

 

 

「それよりもいい加減、どいてやったらどうじゃ?今にも死にそうじゃぞ」

 

 

「え?」

 

 

鉄心の言葉と共に百代の視線が、自分の下に向けられる。

鉄心の攻撃を受けて地面に落下させられた百代。ならば、その下にいた悠介はどうなったのか?

答えは

 

 

「ぅうんん~!!」

 

 

「!!!」

 

 

百代の豊満な胸を顔面に押し付けられて、物凄く息苦しそうにしている。

心なしか顔も蒼くなってきている。

自分と悠介の状態を確認した百代が、顔を真っ赤に染めながらその場から飛び退く。

久しく空気を吸った悠介は、百代を睨み付けながら吠えた。

 

 

「てめえのせいで死にかけたじゃねえか!!その脂肪の塊、すげえ邪魔だから燃やせ!!」

 

 

「なっ!こんな美少女の胸に顔面を押し付けておきながら、その言葉はないだろうっ!!普通なら、泣いて感謝するところだぞ!!」

 

 

 

悠介の言葉にカチンときた百代が、反論するように悠介に食って掛かる。

百代の言葉聞いた悠介は、更に言葉を荒げながら吠えた。

 

 

「それのせいで死にかけた身からすれば、冗談じゃねえわ!俺を殺す気か!」

 

 

「死ぬ程の贅沢物だぞ!!」

 

 

「安すぎるだろっ!お前は男の人生を何だと思ってんだ!!」

 

 

 

悠介と百代の二人は、さっきまでのピリピリとした雰囲気から一転して、子供の口喧嘩を展開し始めた。

さっきまで死闘を演じていた二人とは、到底信じられない。

そんな二人に呆れながらも鉄心は悠介に話しかける。

 

 

「まあ、お主が死ぬ程羨ましい状況に陥った事は置いといて」

 

 

「おい。今教育者のセリフとは、思えねえ言葉が聞こえたんだが?」

 

 

「そこを気にするではない。ともかく、悠介は今から儂と一緒に来てもらうぞ」

 

 

「・・・・・わあったよ」

 

 

鉄心のセリフに若干呆れながらも悠介は立ち上がり、鉄心の後について行く。

そんな中で、ふと足を止め悠介は、未だに地面に座り込んでいる百代に向かって、言葉を発した。

 

 

「また、後でな」

 

 

その言葉を聞いた百代は、これからも悠介に会えることを再確認して嬉しそうに顔を歪めながら、悠介の言葉に応えた。

 

 

「ああ、また後でだ」

 

 

しばらくの間百代は、悠介の背を見続けた。

 

 

 

因みに、余りの出来事の変化に生徒たちは、暫く放心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        川神学園学長室

 

此処に鉄心に連れられた悠介がいた。

彼の目の前には、書類に目を通している鉄心がいた。

あらかた目を通した鉄心が、若干の驚きを含んだ声で悠介に話しかける。

 

 

「お主・・・意外に頭良かったんじゃな」

 

 

「意外は余計だ」

 

 

鉄心の手元には、悠介が解いた振り分けテストの答案があった。

その点数は、二年の中でも五本の指に入るだろう。

 

 

「母さんとの約束だからな。武をやる条件に、テストである程度の点数取るって約束したしな。後は、こうるせえ家庭教師のお蔭か」

 

 

そう言い言いながら悠介は、さっきまで隣にいた腹黒い納豆少女を思い出す。

毎日毎日自分に勉強しろと言っていたのだ。ある意味勉強する事が習慣になってきていた。

 

 

 

「なるほどのう」

 

 

悠介の言葉を受けながら鉄心は、悠介を何処のクラスに所属させるか考えていた。

この点数ならば、Sクラスでもやっていけるだろう。

しかし、もう一つの資料に目線を落とす。

そこには、今まで悠介がやってきた出来事が事細かく書かれていた。

停学処分 二十二回  反省文 百七枚 どちらも普通ではない数字だ。

恐らく悠介をSクラスに入れたとしても、直ぐに降格になるだろう。

ならば、いっその事Fクラスに入れるべきでないだろうか?

そんな鉄心の考えを読んだのか、悠介が鉄心に進言する。

 

 

「なあ、俺のクラスだが。出来れば、百代の妹がいるFクラスが良いんだが」

 

 

「一子の?なぜじゃ」

 

 

「まあ、一つに興味心だな。毎度メールで妹の自慢話をされたら、興味も出て来るしな。ある程度の性格も理解してるから気楽だ」

 

 

「一理あるの。いいじゃろ。お主はFクラスじゃ」

 

 

現在伸び悩んでいる一子の良い刺激になればよいと鉄心も悠介の提案に同意する。

そして、壁側に立っていた一人の女性に話しかける。

 

 

「そう言う訳じゃ、小島先生。任せて構わんかの?」

 

 

「勿論です」

 

 

鉄心の言葉に力強く頷いたのは、鞭を武器とする小島梅子

問題児だらけのFクラスをまとめる先生だ。

鞭により教育指導を行っている為、生徒の間からは「鬼小島」と恐れられている。

しかし、一部の生徒からは人気が高い。

 

 

「これから、お前の担任を務める小島だ。お前の噂は、聞いているからビシビシ指導してくぞ!!」

 

 

「まあ、お手柔らかにお願いしますわ」

 

 

そう言って悠介は、小島先生の後を追って学長室から退室した。

それに伴って、壁に控えていた二年の担任達も学長室から姿を消す。

 

一人なった鉄心は、小さく呟いた。

 

 

「強くなっとったの」

 

 

思い出すは、百代と殴り合っていた悠介の姿。

実は鉄心自身、あの戦いをはじめから見ていたのだ。

ギリギリまで介入する事を我慢していたのには、見ておきたかったと言う理由もある。

自分の元を離れた弟子の成長をこの目で見ておきたかったのだ。

 

結果は予想以上だった。悠介は、ある意味完成に至っていた。

だからこそ、自分の手で育てられなかった事が悔やまれる。

 

 

「まあ、何にせよ。これからが楽しみじゃわい」

 

 

そう言って思い出すは、自分と同じく二人の戦いを見ていた存在。

気配は感じたが、正体までは感知できなかった。

悠介の登場が、波瀾から開けていない川神に新たな渦を巻き起こすと鉄心は直感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2年F組前

 

 

「では、私が合図したら教室に入って来い」

 

 

「了解」

 

 

そう言って教室の中に入った先生の姿を見送りながら悠介は、百代との戦いを思いだしていた。

若干驚く(・・)事もあったが、自分は百代と戦えた。

その一つの事実が悠介の気持ちを高揚させる。

 

 

「それでは、相楽。入って来い」

 

 

考え事をしている間に自分の名を呼ばれた事を察した悠介は、教室の扉を開け中に入った。

 

 

 

同刻 三年F組

 

 

「ふふ~ん」

 

 

百代は自分の机に座りながら上機嫌に鼻歌を歌っていた。

最近自分の身の周りに現れた強者たちの登場にテンションが上がっていた中での悠介の登場は、百代のテンションをさらに高揚させるには十分すぎた。

思い越すは、つい数時間前の戦い。

自分の攻撃に真っ向から挑んで来た悠介の姿。

 

思い越すたびに百代の中に、再び戦いたいと言う感情が湧き上がって来る。

その感情を抑えながら、百代は時が過ぎるのを待っていた。

 

今不要に悠介と戦えば、悠介との戦闘を禁止させられる恐れがある。

そうさせない為にも今は我慢の時だ。

そんな百代の耳に

 

 

「それデーは、今日は転校生を紹介しまーす。松永さん入ってきてください」

 

 

 

「はぁーい」

 

 

可愛らしい少女の声が届く。

 

少女は教卓の前に立つと元気よく話し始めた。

 

 

 

ほぼ同時に、西からの刺客である二人は

 

 

 

「今日から川神で世話になる、天神館から来た相楽悠介だ。武器は男らしく拳。これから、よろしく!!」

 

 

 

「西の天神館から来ました。納豆小町こと松永燕です。これからよろしくね」

 

 

 

今東にて己の名を告げた。




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悠介と燕 その1

遅れてすいません!!
実は最近、夏風邪に罹ってしまっていて執筆できませんでした。
漸く、落ち着いて来たので更新します。

未だに微熱があるなか書いたので、何時もよりもグダグダで脱字や誤字が多いと思います


燕の登場にクラスのテンションが上がっていく。

突如としてクラス現れた美少女だ。男達のテンションが上がらない訳がない。

ならば、女好きで知られる百代はどうかと言うと

 

 

「美少女来たーーー!!」

 

 

クラスの男子よりも上がっていた。

最近自分が得をする事が起きているなと百代は思っていた。

義経たち武士道プラン然り、悠介然り。そして今目の前にいる燕だ。

百代がそう思っても不思議ではない。

 

燕は、笑顔で手を振り男子たちの声に応えていく。

燕の笑顔を見るたびに男達のテンションが上がっていく。

もしもこの場に悠介がいたならば、こう言うだろう『全部燕の計算どうりだな』と。

 

燕はある程度男子たちの声に応えたあと、軽やかな足取りで百代の前まで歩き衝撃の一言を告げた。

 

 

「ねえ、モモちゃん。私と手合せしてくれないかな?」

 

 

燕の言い放った言葉は、F組の時間を止めるには十分すぎた。

しかし、その中で百代が最も早く思考を取り戻し不敵に笑みを浮かべ

 

 

「ほう。言っておくが、今の私は余り手加減できないぞ。それでもいいのか?」

 

 

燕に意思を再確認する。

悠介と戦ったばかりで身体は、一向に落ち着かない。

故に下手な手加減は絶対にできない。そんな意味を持たせた言った言葉に燕も不敵な笑みを浮かべながら

 

 

「心配ありがとね。でも大丈夫だよ、私も結構強いから」

 

 

百代の言葉に返した。

 

 

「いいだろう。それじゃあ早速始めるか」

 

 

「うん。学園長には、もう話は通しているから何時でもいいよん」

 

 

そう言って百代は静かに席を立ち、二人はグランドの方に足を進めた。

遅れてクラスメイト達は、百代たちの後を追ってグランドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドには既にルーが準備を終えて待っていた。

辺りには、多くの武器が置かれている。

 

 

「準備して下さってありがとうございます」

 

 

「気にしなくていいヨ。それよりも大丈夫かイ?」

 

 

「はい。大丈夫です」

 

 

燕の力強い声を聞いたルーは、これ以上言っても無駄だと悟った。

だからこそルーは、一人の武人として結末を見届けようと決めた。

 

 

「それじゃあモモちゃん、朝礼が終わる時間までよろしくね」

 

 

「ああ、此方こそだ」

 

 

二人は静かに舞台の両端に進み。合図を待っている。

ルーは舞台の中心に立ち、腕を上げて宣言する。

 

 

「それでは始メ!!」

 

 

「行くぞぉ、燕」

 

 

ルーの合図と共に百代が猛スピードで燕に迫る。

百代の行動に対して燕は

 

 

「ほいさ」

 

 

「なっ!」

 

 

身近にあった武器である棒を拾い、下段に放つ事で百代の体制を崩し攻撃をいなす。

 

 

「今度は、こっちの番」

 

 

 

百代の攻撃をいなした燕は、そのまま棒を振り上げ百代に叩き付ける。

しかし

 

 

 

「あまいっ!」

 

 

 

「あれまっ!?」

 

 

燕の放った攻撃に対して百代は、ダメージを気にすることなく強烈な蹴りを放った。

全くダメージを受けていない百代と自身に放たれた蹴りに対して、驚きの声を上げながらも燕は空中へ一回転する事で逃れた。

 

 

「まだだぞっ!」

 

 

空中にいる燕を追いかけるように百代も空へ跳ぶ。

 

 

「くらえ!」

 

 

「こっちこそ!」

 

 

 

百代の拳と燕の蹴りが空中で交差する。

一瞬の接触。二人は、弾かれた様に地面に落下した。

 

 

「く~、強烈っ!!」

 

 

 

若干後方に下がりながら燕が、百代の攻撃に対する感想を自然と述べる。

燕の言葉を聞いた百代は、笑みを浮かべながら高らかに言葉を発した。

 

 

「いいいぞ、燕。もっとだ、もっと戦おう」

 

 

「ありゃま!何かエンジン掛かってきたみたいだね」

 

 

最初は、いくら強いとは言え直ぐに終わるモノだと思っていた。

口先だけの武道家を何人も見てきたから、今回もきっとそんな感じだと思っていた。

しかし、違った。僅かに手を交わらせてわかった。目の前の敵は強敵だと。

ああ、本当に嬉しい。こんなにも戦える相手が続々と現れるなんて。

ならば、後は楽しむだけ。

 

百代の纏う雰囲気が徐々に獰猛さを増していく。

百代の変化に気が付いた燕は一瞬、観察する(・・・・)様な目線で百代を見た。

しかし、その目線は直ぐになくなり、今度は自分から攻めていく。

 

 

「なら、お言葉に甘えて今度は、剣で勝負と行こうかな?」

 

 

「ああ、何でも来い!!」

 

 

剣を構えながら駆け出した燕を歓迎するように声を荒げた百代

 

 

「はあっ!」

 

 

自身のスピードも乗せた斬撃が百代に向かって放たれた。

百代は縦に放たれた燕の攻撃を横に躱す。

しかし、燕の動きは止まらず、そのまま連続で斬撃を放つ。

 

 

「やあぁ!」

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

「おっ!もしかしてチャンスかな?」

 

 

 

燕の連続斬撃を喰らい体勢を崩した百代の姿を見た、燕は自然とそんな声を漏らす。

すかさずもう一撃を叩き込もうとした燕だが、急激な悪寒が奔りその場から即座に離れる。

瞬間、鋭い拳打が放たれ燕の持ってい剣を破壊した。

 

 

「うそぉ!」

 

 

「外したか」

 

 

「(あの体勢から攻撃をしてくるなんて)」

 

 

百代の攻撃を躱した燕は、表情にこそ出てはいないが心の内で驚きを露わにする。

しかし、即座に切り替え攻撃に転じる。

 

 

「それなら、こっちでどうかな」

 

 

 

手に持った槍での連続の突き。

襲いくる突きを前に百代は、その全てに拳をぶつけ槍自体を破壊した。

しかし、燕も止まらず。近くにある武器を即座に拾い、あらゆる角度から連続で攻撃を放つ。

 

攻撃を避けながら舞うように攻撃する燕と攻撃を躱さずひたすら攻める百代。

二人の戦う姿は、教室から二人の戦いを見ている生徒たちのテンションも高まっていく。

 

 

 

「ギャラリーも乗ってきた。もっとだ燕っ!」

 

 

 

「そうでだね。期待に応えれるように頑張りますか」

 

 

百代の言葉に応えるように燕は武器を拾い百代に向かっていく。

二人の戦いは、更に速度を増していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ~本当に凄いわね」

 

 

「ああ、今度はハンマーを使いだしたぞ」

 

 

「正に変幻自在」

 

 

自分達のクラスの窓から戦いを見ていた一子達は、一日に二人も百代と戦える人物の登場に最初は驚いてたが、次第に二人の魅せる戦いに熱中していった。

それはきっと武人としての本能なのであろう。

しかし、彼女たちの様に二人の戦いを見守る者もいれば

 

 

「つっか、あの美女は誰だよ!!」

 

 

「俺様も全く知らねえぞ」

 

 

「あっ!速すぎてパンチラが写真に納められねえ!!」

 

 

「踏ん張れよ、ヨンパチ!!お前だけが、俺様達の希望だ!!」

 

 

「おうよ!!わかってるぜ!!」

 

 

己の欲望に忠実に従う者もいる

ガクトと話しているのは、福本育郎。通称 ヨンパチ(ガクト命名)

パンチラ写真などを納める為にカメラを常備する男で、女子の間からは嫌われているが男子の間では一部を除き人気がある。

学園の裏で、自分が撮った写真などを売っているらしい。またの名を、童帝。

 

 

「全くガクトは。それにしても凄いよね。大和は知ってた?」

 

 

「いや、俺も全く知らなかった。何者なんだ?」

 

 

モロの言葉に否定の言葉を述べる大和。

 

 

「彼女の名は、松永燕。そこにいる相楽と同じく、天神館からの転校生だ。それなりに使えるとは言っていたが、言葉以上だな。見てる此方も引き込まれる武器さばきだ」

 

 

大和たちの疑問に答える様に小島先生の言葉が届く。

彼女もまた、二人の戦いに魅せられている。

そんな中大和は悠介に視線を向け、先ほどの言葉の真意を問う。

その目線に気が付いた悠介が言葉を発する。

 

 

「ああ。間違いなく燕は天神館の生徒で、三年最強の実力者だ」

 

 

「? だったら何で、交流戦に出てなかったんだ?」

 

 

大和の疑問に悠介は頭を掻きながら、ぶっきらぼうに答える。

 

 

「納豆小町の仕事と被って無理だったんだよ。松永納豆って名前知らねえか?西だと結構有名だが」

 

 

「あ!それってこれの事?」

 

 

「それで間違いねえよ」

 

 

悠介の言葉に反応してモロが、スマホを操作して松永納豆の画像を見せる。

モロの言葉に悠介が反応すると同時にガクトがモロからスマホを奪い画像を見る。

 

 

「うぉおお!!マジで可愛いい!!こんな子が売り子やってたら、俺様は百パックは買うぜ」

 

 

「ほんとだよな。この可愛さは最早詐欺だと言っていい」

 

 

狂喜乱舞するガクト達を見た悠介は、燕の本質を知っているからこそ苦笑いが止まらない。

女子たちもガクト達に軽蔑の目線を向けている。

 

視線が二人の戦いとガクト達に向く中、悠介だけは即座に視線を外し時計に視線を向ける。

その表情は、何処か寂しそうだ。

そして静かに呟いた。

 

 

「そろそろ・・・ケリか」

 

 

その声を聞きとった者はおらず、ガクト達の騒ぎに消えていった。

ふと、悠介の目線と燕の目線が交差した。

 

 

 

 

 

 

高速で行きかう拳の連撃と武器の連撃。

ぶつかり合うそれは、いくえの火花を咲かせながらぶつかってゆく。

 

 

「はっ!お前は最高(・・)だな燕」

 

 

「それは、悠介君よりも(・・・・・・)?」

 

 

戦いのさなか。百代のふと呟いた言葉に反応した燕の言葉を聞いた百代は、一瞬言葉に詰まるが

 

 

「いや、あいつは特別だ(・・・)

 

 

即座に答えた。

 

 

「そっか」

 

 

百代の言葉に燕もまた、戦いの最中とは思えない声で呟く。

 

 

 

「そんな事よりも続きを始めるぞ」

 

 

「そうだね。期待に応えようかな」

 

 

 

再び百代は燕に向け拳を打ち込み。燕は武器を拾いあらゆる角度から変幻自在に打ち込む。

放たれ打ち込まれて、激突していく二つの攻撃。

百代と戦っているさなか、燕の目線との悠介の目線が重なった。

 

特別意識したわけでは無く、全くの偶然だった。

交わったのもほんの僅かな時間。しかし、悠介は告げていた『魅せてみろ』

ただ、燕の覚悟を信念を。いずれ(・・・)ぶつかるであろう俺を魅せてみろ。

 

 

「(全く、本当に無茶を言うな、悠介君は)」

 

 

瞬間 燕の闘気が雰囲気が一変した。

 

 

「!?」

 

 

燕の変化を感じ取った百代の動きが止まった。

停止した時間はほんの一瞬。

しかし、百代には致命的な時間だと悟ってしまった。

 

 

「いくよん」

 

 

 

小さく小刻みに燕が跳躍しながら進んでくる。

違和感のある歩行だが、百代が動くには十分な時間だ。

未だに払えぬ違和感を抱えながら、燕に突っ込もうとした瞬間。

 

 

「え?」

 

 

燕が百代の視界から消えた。

 

 

「えん・・」

 

 

燕の声が百代の死角から百代に届く。

行動に起こそうとするが遅すぎる。

ダメージを覚悟した瞬間

 

 

「うん?」

 

 

燕の気配が遠のくのを感じ、気の抜けた声がこぼれた。

 

 

 

「どう言うつもりだ?」

 

 

怒りの感情を含ませながら問う百代に燕は

 

 

 

「本当は、その心算だったんだけど時間かな?」

 

 

何時もと変わらない口調で百代に返した。

その言葉と同時に戦いの終わりを告げるベルが鳴った。

百代は、燕の言葉の意味を理解して力を抜いた。

 

 

「何だ、もうお終いか」

 

 

「そうみたいだね」

 

 

「その・・何だ。また戦ってくれるか?」

 

 

若干の不安を含ませた百代の言葉に、燕は元気よく答えた。

 

 

「勿論だよ。これからも手合せだけど、やってくれたら嬉しいかな」

 

 

「ああ!!当然だ」

 

 

百代と燕が握手を交わすと同時に辺りから絶え間ない拍手が飛び交う。

それは、燕を歓迎する拍手の様だ。

ある程度拍手が鳴り止んだ時を見計らい燕は、何処からか取り出したマイクを持って一歩前に出る。

 

誰もがその動作に疑問を持つ中、悠介だけは何処か呆れの表情を浮かべていた。

 

 

「皆さん。心の籠った声援ありがとうございます。西の京都にある天神館から来ました松永燕です。これからよろしくお願いしますっ!」

 

 

お辞儀をしながら自分の名を告げた燕

此処まではさして違和感を感じない。

しかし、次の動作は悠介以外は予測しえなかった。

 

 

「なぜ私が、武神相手に粘れたかと言いますと」

 

 

そう言いながら燕は、腰につけた箱からカップ型の松永納豆を取り出し

 

 

「秘訣はこの松永納豆で~~す!!これを食べても強くなれませんが、ここぞと言う時に粘りを与えてくれます」

 

 

一度言葉切った燕は、再び息を吸い込み大きく話す。

 

 

「試食したい人は、私が持っていますので、お気軽に声を掛けてください。それでは、一日一食、納豆、トウッ!!」

 

 

その言葉と共に声援が巻き起こり誰もが松永納豆に興味を見せた。

 

 

「ご静聴ありがとうございます。以上、松永燕がお送りしました」

 

 

燕はお辞儀をしながら元の場所まで戻る。

その姿を見た悠介は、燕を見据えながら

 

 

(本当に、ただでは終わらない奴だな)

 

 

一種の尊敬の言葉を述べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドに出ていた三年F組のメンバーも手合せが終わると同時に校舎に戻ってく。

そんな中燕は百代と見据えていた。

 

 

「どうした燕?」

 

 

「う~んとね。本当は言うつもりはなかったんだけど、やっぱり言っておくべきだと思ったんだ」

 

 

「? 何の事だ」

 

 

燕の言葉の意味が理解できない百代

しかし、燕は気にせず人差し指を百代に向けながら

 

 

「モモちゃん。私絶対負けないからね(・・・・・・・)

 

 

顔を若干朱色に染めながら宣言する。

 

 

「まあ?負けるつもりはないが」

 

 

「そう言う意味じゃないんだけど。まあ、今はいいかな」

 

 

自分の言葉を言い終えた燕は、身をひるがえし校舎に向かっていった。

燕の背を見ながら百代は、さっきの言葉の意味を考える。

 

 

 

「どう言う意味だったんだ?何か勝負事だと思うが」

 

 

百代が、この言葉と燕の宣言の意味を知るのは、後少し先の未来。

 

 

 

 

同刻 二年F組

 

 

「(さて、次は俺の番だな。存分に見せて貰うとするか)」

 

 

自分の机に座りながら悠介は、静かに一人の少女を見据えている。

 

 

「(川神一子。その実力(ちから)存分にぶつけ合おうや)」

 

 

相楽悠介は、休み事無く更なる敵を求めた。

 




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悠介と燕 その2

今回は、皆さまの予想どうり悠介VS一子です。

二人の戦いを楽しんでくれたら嬉しいです。


燕が百代に手合せを願い出たのと同じ時間 二年F組。

 

悠介の登場にクラスメイト達は、興味、驚愕、怒り、無関心と言った様々な感情を悠介に向けている。

しかし、悠介はそんな視線を気にせずにクラス全体を見渡す。

すると目的の人物を見つけたのか、その席の前まで歩んで話しかけた。

 

 

「お前が、川神一子で間違いねえか」

 

 

「えっ!そうだけど・・・どうして私の名前を?」

 

 

突然自分の名前を呼ばれた一子は、自然と疑問の言葉を口する。

一子の言葉を聞いた悠介は、合間入れずに一子の疑問に答えた。

 

 

 

「ああ、よく知ってるぜ。お前の姉貴に、耳にタコが出来るほど聞かされたからな。自分の自慢の妹の話をな」

 

 

 

思い出すは、百代とのメールや電話でのやり取り。妹が出来たと言う報告をメールで受けて以来、メールの内容には必ずと言っていいほどに、妹の内容が添えられていた。

電話でも、自分を見つめる目が可愛いとか、私を目標にしてくれているだとか、とにかく自慢話が多かった。

それのせいで悠介は、会ってもない川神一子の事を結構な確率で理解出来ていたのだ。

 

 

「早速でわりぃが、俺と戦ってはくれねえか?」

 

 

悠介は静かに一子の机に自分のワッペンを置いた。

初めて興味が湧いたのは、百代から彼女の夢を聞いた時だった。

その夢はある意味自分と似てる。だからこそ、この目でこの力で確かめたい。

 

 

「俺は、お前と戦いてぇ。戦ってくれるか?」

 

 

再度問う悠介の言葉に、さっきまで止まっていた一子の時間が動き出し、次第に悠介の言葉を理解し始める。

理解して最初に沸き立った感情は、歓喜だ。自身が憧れる存在である百代と戦えるだけの存在が、自分を敵として見ている。

これほど、武術家として嬉しい事はない。

一子は言葉を出すよりも早く、自分のワッペンを悠介のワッペンに重ねた。

 

 

「勿論よっ!!断る理由がないわ。むしろこっちから、お願いしたいくらいだもの!!」

 

 

 

真っ直ぐ悠介を見ながら断言した。

その目を見た悠介は、顔を上に上げながら手で顔を隠しながら笑い始めた。

 

 

「な、え!どうしたの相楽君!!」

 

 

急に笑い始めた悠介にクラス全体が戸惑う中、悠介は笑い涙を拭いながら言葉を述べた。

 

 

「わりぃ、わりぃ。けど、お前は本当に百代の妹だよ」

 

 

「え?」

 

 

悠介の言葉に誰もが驚く中、悠介はさっきまでの川神一子の瞳を思い出す。

似ていた。いや、瓜二つだと言っていいだろう。

あの目は、間違いなく百代の目だ。それも戦いを我慢できない時の目だ。

血の繋がりは全くない。しかし、その魂はその意思は、確実に姉から受け継いでいる。

 

 

(良い妹を持ったじゃねえか)

 

 

百代の話が決して嘘でないと確信した悠介は、一子の目の前に手を差し出す。

 

 

「よろしくな。手加減は出来ねえから、その心算でな」

 

 

「! 上等よっ!!」

 

 

一子は、すぐさま悠介の手を握り握手を交わした。

それを確認した悠介は、誰もいない空間に話しかけた。

 

 

「と言う訳だ。止めるなんて事は、言わねえよな?」

 

 

「勿論その心算じゃ」

 

 

「学園長」

 

 

悠介が話しかけた瞬間、誰もいなかった場所に鉄心が現れる。

 

 

「じゃが、朝はもう予定がある。それ故に二人の試合は、放課後とする。双方異論はないな」

 

 

 

「ねえな」

 

 

「ありません」

 

 

「あい、わかった。二人の決闘を認める」

 

 

 

二人の急なやり取りに止まっていたF組だが、そこは楽しい事が大好きな風間を筆頭に次第に熱気を帯びていった。

クラス全体が一子と悠介に注目し盛り上がる中、大和は冷静に悠介を観察していた。

更にクリスはただ一人、睨み付けるように微かに怒りをのせながら悠介を射ぬいていた。

いや正確には、鋭い目つきと逆立った黒髪から悪人面とされる悠介ではなく、彼が川神学園の制服の上に着ている、真っ白の羽織に刺繍された「惡」の文字を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は進み放課後 グラウンド

 

 

「これより、川神学園決闘の儀を行う。双方前に」

 

 

「おう」

 

 

「はい」

 

 

 

鉄心の言葉に続くように二人が前に出て来る。

その周りを多くのギャラリーが埋め尽くしている。

その中には、風間ファミリーに姿もクローン組もなど、多くの学園の有名人たちも見に来ていた。

 

 

 

「うおおぉーーー!!負けんじゃねえぞ、わんこ!!」

 

 

「その糞羨ましい男に目に物見せてやれーーー!!」

 

 

 

「義経も応援しているぞ!!」

 

 

「一子殿ーーーー!!。我は、貴方の勝利を信じています」

 

 

多くの声援が一子に向けられていた。

 

 

「随分人気あんな」

 

 

 

「そうかしら?」

 

 

悠介の言葉に一子は若干照れながらも嬉しそうに答えた。

 

 

「それでは、そろそろ始めるかの。双方名乗れい」

 

 

「二年F組 川神一子!!」

 

 

「今日から二年F組で世話になる 相楽悠介!!」

 

 

二人が名乗り終えたと同時に

 

 

「それでは始め!!」

 

 

鉄心が戦いの合図を告げた。

 

 

 

 

「先手必勝。はぁああ!」

 

 

 

鉄心の開始の合図と共にダッ!と地面を蹴り悠介の元に駆ける。

先制打を与える事で自分のペースに持ち込むつもりだ

しかし

 

 

「えっ!」

 

 

「へっ!」

 

 

 

悠介は一子が地面を蹴るよりも僅かに速く一子に向かって突っ込んでいた。

一子の武器である薙刀は長物の武器だ。その性能をフルに生かすには、どうしてもある程度の空間が必要になってくる。

しかしお互いに前に突っ込んだことで、間合いが完全に潰れてしまった。

現状の間合いは紛れもなく悠介の間合いだ。

 

 

「いくぜ?」

 

 

一度確認するような言葉を発すると同時に悠介は拳を振り抜いた。

先手を取るつもりが逆に先手を取られた一子は

 

 

「!! くぅううう!!」

 

 

 

「おっ!」

 

 

 

薙刀を地面につけて、棒高跳びの要領で上に回避した。

悠介は一子の取った回避行動に驚きながらも攻め手を緩めない。

軸足を中心に身体を回転させその勢いを利用して

 

 

「おらぁ!!」

 

 

上空にいる一子に向かって正拳突きを放った。

しかし、その拳が届くよりも早く一子も行動を起こしていた。

 

 

「はあっ!」

 

 

空中で体勢を整え薙刀を悠介にぶつける事で、その勢いを利用して距離を取った。

 

 

 

「やるじゃねか」

 

 

 

距離にして三メートルほど前に落下した一子を見据えながら悠介は、簡単な賞賛の声を上げた。

対する一子には、悠介言葉に反応する余裕すらない。

相手は、自分よりも格上の百代と戦える実力者だ。自分がこうして立っている事自体、悠介が手を緩めてくれているからなのだろうと考えていた。

 

しかし、その考えはある意味正解であり、不正解だ。

 

 

 

「来ねえなら、こっちから行くぜ」

 

 

ある程度様子を見ていた悠介は、一子が動かない事に焦れたように彼女の元に駆けだした。

ダン!と地面を強く蹴り、猛スピードで一子の元に迫る。

 

自分に迫る悠介の姿を確認した一子は、膝を曲げ腰を落とし薙刀を大きく振りかぶった。

完全に迎え撃つ構えだ。だが、悠介が攻撃を変更してもいい様に、ある程度は動けるようにしていた。

一子の構えを見ても悠介は止まらない。むしろ更に地面を強く蹴真っ向から挑んで来た。

 

 

 

「はっ!」

 

 

「らあぁ!」

 

 

 

同時に一子の鋭い一振りと悠介の暴拳が放たれた。

誰もが、二人の攻撃が激突すると思ったが、二人の攻撃がぶつかる直前

 

 

 

「!!!」

 

 

 

一子の身体に言いようの無い悪寒が奔った。

 

 

「え?」

 

 

考えた訳ではなかった。ただ身体が勝手に動いた。

重心の乗った足を基準に大きく身体を回転させ、悠介の拳との激突を回避していた。

ギャラリーの誰も誰もが、一子の行為に疑問の声を上げている。

一子自身も自分の取った行動が理解出来ていない。

 

 

「(俺の拳のカラクリ(・・・・)に気が付いた訳じゃねえな。だとしたら、単純に俺の拳の脅威を身体が本能的に感じ取ったのか)」

 

 

 

ただ、百代や燕と言った悠介の拳の秘密を知る者達からすれば、一子の動きは正しかったと言えた。

悠介の拳と真っ向から挑める武道家は、ある意味そうはいないだろう。それが彼女たちの見解だった。

 

 

「はっ」

 

 

小さく息を吐く様な笑い。

悠介から零れたそれは、場の雰囲気を一変させた。

その笑いは、何を意味したか判らない。確かな事は、悠介のナニカを一子が刺激したのだ。

笑いの声を聞いた一子は、慌てて疑問を振り払い敵である悠介に視線を向けた。

戦いの最中に敵から視線を外すとなどもってのほかだ。

 

しかし、一子の思考は再び止まった。

 

 

「あっ」

 

 

似ていた。さっきまでは全然似ていなかった筈なのに、今はハッキリと重なる。

纏う雰囲気が、自分の憧れであり尊敬する人物と重なり始めた。

 

 

 

「なに、気を抜いてやがる」

 

 

「! ぐぅっ!!」

 

 

 

二度目の思考の放棄。その隙に悠介に接近され、ドン!と腹部に重い一撃を受ける。

一子は両手両足を使いどうにか勢いを止めた。

ダメージに顔を歪めながら前方を向いた一子の俄然に

 

 

「いくぞ」

 

 

拳を構えた悠介の姿が映りこんだ。

その姿が被ってしまう。

誰よりも近くで見てきたあの姿に、構えも打ち方も全く違う筈なのに、その姿は正しく

 

 

「(お姉さま)」

 

 

 

一子が防御も回避も忘れただ悠介の姿を見たと同時に、ドゴッ!と鈍い音を立てながら悠介の拳が一子に直撃する。

鋭く深く体内(なか)に響くダメージに意識を持っていかれる直前一子は確かに聞いた。

 

 

 

「これが、俺の(誇り)だ」

 

 

 

自信満々に世界に宣言するように呟く悠介の声が確かに聞こえた。




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悠介と燕 その3

お待たせしました。
学校が始まって、忙しくて更新できませんでしたが、漸く更新できました。
やっぱり、学校があると上手く更新が出来ません。

久しぶりなので、下手になっているかもしれませんが楽しんでくれたら嬉しいです!

因みに今回のメインは、悠介と燕の会話です。



「これが、俺の(誇り)だ」

 

 

そう呟きながら拳を放つ悠介の姿を見た百代は、戦いたいと言う感情を抑えるのに必死だった。

第三者の目線になって、改めて自分のライバルを見てその気持ちが一層強くなった。

戦いたい。一分でも一秒でも良い、悠介(あいつ)と拳を交わらせてくれ。

無意識に闘気を発し始めた百代の耳に

 

 

「凄まじいで候」

 

 

「ほんとだね。でも・・・何だが凛としてるね」

 

 

自分のクラスメイトであり弓道部部長である矢場弓子と清楚の声が届いた。

どちらも悠介の戦いを見た感想を素直に述べていた。

二人の言葉が百代の荒ぶっていた感情を鎮める。

 

 

「ふむ、見事な完全勝利と言ったところか」

 

 

「京極君」

 

 

「見に来ていたで候(うわあ、京極君だ。何時の間にいたんだろ。ビックリしたぁ)」

 

 

百代達の後方から現れたのは、扇子を片手に物静かな和服の美少年 京極彦一。

物静かだが何処から引き込まれる様な京極の言葉に誰もが黙り込んだ。

 

 

「荒々しく乱暴な少年だ」

 

 

京極の視線が悠介に向けられていた。

誰もが京極の言葉を否定できない。

面構えもそうだが、何より悠介が戦っている姿が正にそうだったのだから。

 

 

「しかし・・」

 

 

パタン!と扇子を畳み静かに目を閉じた。

彼が思い越したのは、最後に悠介が発したセリフ。

誰よりも言葉を知っているからこそ、自然とその言葉がこぼれた。

 

 

「彼の言葉からは、並々ならぬ覚悟を感じさせた。『誇り』・・・簡単に口に出せぬ言葉だが、彼にはその覚悟があるのか川神?」

 

 

「あいつは・・・悠介は何時だって真剣(マシ)だ。だが、今のは全力(マジ)じゃない」

 

 

「? どう言う事で候」

 

 

誰もが百代の言葉の意味を理解できない中、京極は一人

 

 

 

「そうか。なれば、彼の行く末を観察させて貰おうか」

 

 

百代の言葉を理解したのか、満足げにその場から去る。

ピン!と張り詰めていた空気が消えた事と決闘が終わった事により、誰もが帰宅を開始した。

 

 

(何だろう?この感じ)

 

 

誰もが帰宅する中、清楚は胸の高鳴りを抑えきれずにいた。

彼の姿が言葉が、自分の感情を炊き上げる。

 

 

(前に小説で読んだみたいな恋って訳じゃないんだけど)

 

 

それは断言できた。今自分が感じているのは、もっと根本的に違うナニカ。

むしろ、本能に込みあがってきている。

 

 

(義経ちゃん達に相談してみよ)

 

 

清楚は湧き上がる感情を押さえつけなが帰路についた。

しかし、彼女の記憶と心には悠介の背が確かに刻みこまれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠介の奴・・何処に行ったんだ?折角、この私が一緒に帰ってやろうと思ったのに」

 

 

決闘が終わり一子を保健室に送り届けた悠介と一緒に帰ろうと思い、彼がいたであろう保健室に向かった百代だだが、そこには悠介の姿はなくベットに眠る妹だけだった。

その場いたジジイ話だと、一子を寝かしつけた事を確認したのち、自分に言伝を伝えて直ぐに帰ったと言う。

 

すぐさま悠介を探す百代だが、一向に見つからない。

 

 

「何だよ・・・折角また会えたんだぞ。まだ話足りない無いのに。!」

 

 

弱弱しく呟いた百代の視界に、見間違うはずの無い背が映りこんだ。

その姿を確認した百代が、駆け出そうとした瞬間、一つの影が悠介と歩いているのが映りこんだ。

 

 

「えっ!燕?」

 

 

見間違うはずがない。あの後ろ姿は、今日会ったばかりの新しい友の姿。

二人の後ろ姿を見た百代の足が止まった。いや、止めさせられた。

今思えば燕は、悠介の事を君付けで呼んでいた。

あの時は、興奮していて気が付かなかったが、それは二人が顔見知りである言う事だ。

何より、ふと見えた燕の嬉しそうな表情が、百代の心に言いようの無い恐怖を植え付けた。

 

暫らくの間、百代はその場から動けなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く好き勝手に行きよってからに」

 

 

先ほど嵐の様に現れ出ていった孫に頭を抱えながらも鉄心は、少し前に悠介と交わした会話を思い出していた。

 

 

『随分と過保護に育ててんな』

 

 

『なんじゃ?いきなり』

 

 

『いや、教育の仕方の変化に驚いただけだ』

 

 

『何もかわっとらんよ。川神院(うち)は』

 

 

『そうか?俺には結構変わって見えたが』

 

 

『お主がそう感じただけじゃよ』

 

 

『まあ、川神がルーさんの弟子だって言うなら、俺はそいつの兄弟子だ。道標くらいは立ててやるが、そこからどうするかはそいつ次第だぜ?』

 

 

『悠介・・お主。一子の・・』

 

 

『あ!そいつに言伝を頼んでいいか?』

 

 

『・・・・いいじゃろ』

 

 

『助かるぜ。勝者からの言葉なんて、屈辱以外の何もでもないからな。俺の口からは言えねえし』

 

 

『一子はそんな事気にせんと思うがの』

 

 

『俺の考え方だっつの。・・・・・・・・・・・・・・だ。頼んだぜ、ジジイ』

 

 

『あい、わかった』

 

 

そうやって出ていった可愛げのない自分の弟子。

 

 

「わしには、未だに答えが出せん。なれば悠介よ、お主が示してくれるか?新たな道を?」

 

 

自分は年を取り過ぎた。今から、固定概念を捨てて新しい可能性を見る事が出来ない。

それが出来るのは、若き次の世代だ。

 

 

「見守しかないの。あやつが、ワシらの前に現れるその時まで」

 

 

そう呟いた鉄心は、何処か期待した様に何処か自分の迷いを隠すように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はどうだった?」

 

 

「何がだよ?」

 

 

悠介と燕。共に家まで歩いているさなか、燕が悠介に話しかけた。

 

 

「何って、川神学園の事だよ。悠介君は、直ぐに敵を作るからね。上手くやっていけそう?」

 

 

「お前は本当に俺の母親かよ。心配しなくても、俺は一人でもやっていけるよ!」

 

 

「ああ!!どうしてそんな事を言うのかな」

 

 

悠介の言葉に燕が食って掛かる。

悠介は、うざそうに燕の小言を聞いていた。

 

 

「でもまあ・・」

 

 

「? 悠介君」

 

 

「退屈はしなさそうだな」

 

 

「! そっか。それなら大丈夫だね」

 

 

ふと、呟いた悠介の言葉と表情をみた燕は、自分の心配が無用だと知った。

彼があんな表情をするとき決まって敵を作る。しかしそれと同時に、少ないが確かな仲間を見つけるときにする表情だ。

 

 

「それにしても凄かったよね、モモちゃん」

 

 

「まあ、そらそうだろ。伊達や酔狂で名乗れる武神()じゃねえだろ」

 

 

安心した燕の次なる話題は、自分達のターゲットである百代の話になっていた。

 

 

「特に攻撃力が凄いよね。単純(・・)なパワーなら完全に悠介君よりも上だよ」

 

 

「だろうな。それは朝の時点でわかった事だ」

 

 

「え!悠介君。もうモモちゃんと戦ったの!!」

 

 

悠介の言葉に驚きの声を上げた燕だが

 

 

「その下手な芝居を止めろ。はじめっから、ジジイと一緒で見てたくせによ」

 

 

「あら?ばれてた」

 

 

「当然だ」

 

 

悠介の言葉に、ある意味本当の驚きの声を上げた。

 

 

「ばれてたなら仕方ないか。悠介君のお蔭で、予定よりも多くの情報が手に入ったよん」

 

 

「そらぁ、良かったな」

 

 

「あれ?あれあれ。もしかして拗ねてる?」

 

 

「別に拗ねてねえよ」

 

 

めざとく悠介の変化を感じ取った燕は、楽しそうに悠介で遊んでいる。

 

 

「でも助かったのは本当だよ。朝の手合せでも悠介君との戦いを見てたから、結構優位に戦えたしね」

 

 

「それでも強かったろ?」

 

 

 

「そうなんだよね~。もう後半は、ほとんど全力だよ」

 

 

「ぬかせ。燕舞(えんぶ)を使わなかった癖に言うセリフかよ」

 

 

「あはは、そこを衝かれたら言い訳できないよ」

 

 

立場が逆転し始めた事を察した燕は、即座に話題を切り替えた。

 

 

 

「それにしてもモモちゃんって反則だよね。あんなにも強くて可愛いなんて、自身失くすなぁ」

 

 

 

何も考えずただ話を変えるために発した言葉。

だからだろうか、百代と同じように燕も次のセリフを理解出来なかったのは。

 

 

「何言ってんだ?モモも確かに美少女だが、それはお前にも言える事だろ?」

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

「? おーい、燕」

 

 

悠介のセリフを聞いて固まってしまった燕。

悠介が不審に思い手を振ってみるが、全く反応がない。

 

 

「マジでどうしたんだよ」

 

 

動かなくなった燕の顔を覗き込む悠介。

燕よりも背の高い悠介が、若干腰を屈め燕と目線を合わせたると、今まで何の反応の無かった燕の表情が、猛スピードで朱色に染まっていった。

 

 

「え」

 

「え?」

 

 

「ええええぇぇぇぇぇぇええええええ!!」

 

 

突然、燕の悲鳴が辺りに響いた。

その音量を近くで聞いた悠介は、耳を抑えながらその場にしゃがみ込む。

 

 

「きゅ、急にどうしたんだよ。お前らしくねえな」

 

 

 

ある程度落ち着いた頃を見計らい悠介が問いかけた。

悠介が落ち着いた頃には燕自身も落ち着きを取り戻していた。まあ、まだ若干顔が赤いが。

 

 

「ごめんね。ちょっと驚いちゃって」

 

 

「驚くって何にだよ?」

 

 

「その・・・悠介君が、急に可愛いとか言うからだよ!!勿論冗談だよね」

 

 

先ほどのセリフを思い出したのか、再び顔を真っ赤に染めながらも悠介の鼻に人差し指をつける燕。

身長差のせいで、燕を見下げる悠介は、一度頭を掻いた後、燕の頭に手をのせた。

 

 

「あ」

 

 

「あのなぁ。俺がそう言った冗談が苦手な事知ってるだろ。さっきの言葉は、冗談でも何でもねえ俺の本心だ。そこに嘘はねえよ。お前は、モモに並ぶほど綺麗で可愛いと思うぞ」

 

 

「だからだよ」

 

 

「何か言ったか?」

 

 

「何も言ってないよん」

 

 

ああ、本当にダメだ。昔から、こう言った男の子たちの言葉を受け流すのは得意だった。

自分でもそれなりに可愛いと思っていたし、実際告白も何度もされた。

母親から、そう言った時の対処法を聞き実行して来た。

ある意味百戦百勝だった。

しかし、悠介だけは別だった。

 

可愛いや綺麗と言った言葉を聞くだけで、恋愛漫画のヒロインの様に脈打つ鼓動を抑えられないし、朱色に染まる顔を止められない。むしろ、思考を捨てて何度もそのセリフをリピートした。

そして、その鼓動が心地いいと感じてしまう。

例えそれが、お世辞だとわかっている筈なのに、鍛えてきた技術は彼の何気ない一言でいつも崩された。

 

 

「本当にいつもいつも不意打ち過ぎるよ」

 

 

小さく誰にも聞こえない声音で呟いた燕の声は夕闇に吸い込まれて消えていった。

 

 

 

「さてと、俺も今日は動きっぱなしだから腹が減ったな。早く帰ろうぜ」

 

 

頭の上に置いていた手を離し歩き出した悠介。

暖かさがなくなった事に残念な気持ちが湧き上がるが、燕はそれを押しとどめ悠介の後を追う。

 

 

「そうだね。因みに今日は、悠介君の好物の焼き魚だよ」

 

 

「マジか!!なら、納豆はかけるなよ?」

 

 

「ええー。納豆かけて食べた方が美味しいのに」

 

 

「うるせ。それは譲らねえからな。納豆はあくまでも添え物だ」

 

 

「違うよ。絶対にメインだよ!!ほら、食べて確かめてみてよ」

 

 

「うおっ!納豆をかき混ぜながら、こっちに来るな!!」

 

 

「あーー!逃げるなーーー!!」

 

 

夕日を背に駆ける二人からは、戦いによって結ばれた百代と悠介とはまた違う、誰にも犯せない絆を感じさせた。

 




いかがでしたでしょうか?
上手く燕を可愛く書けたかな?(心配です)

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惡と義 その1

題でわかる通り、今回はあの二人メインの話です

楽しんでくれたら嬉しいです

後半もしかしたら、シリアスになってるかもしれません


悠介と燕。二人の西の転校生が学校に現れた翌日、悠介は学校に登校するために変態橋を歩いていた。

 

 

「ねみぃ」

 

 

しかしその表情は、明らかに機嫌が悪そうだ。

何時もの悪人面に拍車がかかっており、近くを歩いていた川神学園の生徒が無意識にビビりながら悠介から距離を取っている。

 

 

「やっぱ、昨日はやりすぎな。でも、結構いい感じで掴めそうな気もしたんだよな」

 

 

実は昨日夕食を終えてから悠介は、川神山で修行をしていた。

余りに調子が良かった為に、結局帰りが遅いと心配して見に来た燕が来るまで、ひたすら拳を振り抜いていたのだ。

 

そして肝心の燕はと言うと

 

 

「それにしても久信さん大丈夫か?流石の燕も加減はしてくれるとは思うけど」

 

 

朝に見せた燕の凄くいい笑顔を思い出し、望み薄だなと思い自然とため息がこぼれた。

 

昨日久信は、九鬼の技術部と飲み会に行っていた。

彼が家に帰ってきた時は、すでにベロベロの状態で呂律もまわっていなかった。

それまでなら別に問題はない。しかし、問題はその時燕は風呂上がりで、洗面台で身体を拭いていたと言う事と久信が酔いから目を覚ますために洗面台に向かったと言う事だ。

 

悠介の言葉も聞かずに洗面台の扉を開けてしまった久信は、燕の正拳突きを顔面に喰らいそのまま失神。

勿論その後悠介も、これでもかと言うほど燕のお説教を受けた。

今回は、久信を止めれなかった自分が悪いと思い、悠介は謝罪し黙って説教を受けた。

最終的には、後日二人で買い物をすると言う事で終了した。

因みに、睡魔により思考が鈍っていた悠介には、買い物を了承させる事が燕の目的であると見抜けなかった。

 

本来ならばそれで終了の筈だった。

 

 

「タイミングが悪すぎんだよなぁ、あの人」

 

 

しかし、悠介は睡魔故に燕は嬉しさから、失神していた久信をそのままにしてしまった。

朝、悠介を起こしたのは携帯のアラームでなく、久信の悲鳴だった。

 

悲鳴の在った場所に向かってみると、洗面台扉から燕の拳が見えていた。

ドスの据わった声の燕に理由を聞いた所、朝シャワーを浴び終えたと思ったら倒れていた久信が目を覚まし洗面台に入ってた彼と鉢合わせしまったのだと。

 

それを聞いた時悠介は頭を抱えた。

何時もの燕ならその危険性に気が付けただろうが、しかし案外燕も朝に弱く若干思考が鈍ってしまう。

恐らく目を覚ました久信は、自分の顔の激痛を感じ洗面台の鏡で確認しようとしたのだろう。

その時彼も痛みと寝起きそして二日酔いのせいで、自分の愛娘の習慣を忘れてしまっていた。

それ故に起きてしまった悲劇。

 

ほぼ連続で行われた父としては最悪な行為。

年頃の娘の生まれたままの姿を見ると言う大罪を犯した久信は、燕によって強制的に起こされて説教と言う名の拷問を受ける羽目になったのだ。

 

その時の燕の表情は素晴らしいほどに笑顔だった。

しかし悠介は知っていた、笑顔とは本来攻撃の為の物であり、その瞳が氷点下を越えるほどに凍えていた事に。

 

 

「・・・骨ぐらいは、拾ってやらねえとな。後、ミサゴさんになんて報告するか・・・・こんな事報告した暁には、あの二人を繋いでるただでさえ細い糸が千切れるよな」

 

 

久信の生存を諦めた悠介は、遠方にいる彼の妻の事を考えていた。

今回の件をミサゴが知れば、燕を連れて今度こそ久信と完全に縁を切るだろう。

そうさせない為にも今回の事は、黙っていよう。そう心に決めた悠介に

 

 

「悠介君。おはようございます」

 

 

「うん?」

 

 

元気よい挨拶が耳に届き、声のした方に視線を向けると

 

 

「確か・・・F組(うち)の委員長だよな?」

 

 

「はい。皆のお姉さんである甘粕真与です」

 

 

悠介よりも一回り以上小さなクラスメイトがいた。

 

 

「凄く眠そうですけど、昨日はちゃんと眠れましたか?」

 

 

「あ~、あんまりねてぇな」

 

 

「ダメですよ!!しっかり睡眠はとらないと」

 

 

「ああ、これからは気を付けるよ」

 

 

「本当ですか!!なら、お姉さんと約束なのです」

 

 

「おうよ」

 

 

本来なら悠介は、こう言ったタイプが苦手なのだが、自分をお姉さんと呼ぶ少女の健気さがあまりに真っ直ぐだった為、自然と会話する事が出来た。

 

真っ直ぐ自分の意思を貫く事の難しさを知っているからこそ、自然と彼女に対する尊敬の念が湧き上がった。

そして、無意識のうちに彼女の頭手を置き、彼女を撫でてしまった。

 

 

「なっ!何をすんですか!!」

 

 

「! おっ、わりぃわりぃ。いやー、頑張ってからな。何か無性に褒めたくなっただわ」

 

 

そう言って再び頭を撫でる悠介。

その姿は、妹を褒める兄の様だ。

 

 

「!!?」

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

真与の頭を撫でていた悠介が、突然後方を振り向いた。

しかし、そこに怪しい人物はいない。

 

 

「何でもねえよ。それよりも早く学校に行こうぜ」

 

 

「そうですね。早く行きましょう」

 

 

そう言って自分の前を真与が歩いた事を確認した悠介は

 

 

(突然感じたあの殺気は何だったんだ?スゲェ鋭かったが)

 

 

自身に発せられた殺気の出所を探りながら学校の門をくぐった。

 

 

彼がその主と出会うのは、あまり遠くない話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業の終わりと昼休みを告げる鐘の音が校舎に鳴り響くのを聞いた悠介は、勉強道具を直し弁当箱を取り出した。

 

 

そして食事を開始しようとした悠介に

 

 

「ちょっといいだろうか?」

 

 

凛とした声が届いた。

声のする方に視線を向けると美しい金髪の少女が、自分を見下ろしていた。

 

 

「クリスティアーネだっけか?俺に何か用か」

 

 

「ああ、そうだ。それと自分はクリスで構わない」

 

 

「そうかい。じゃあクリス。改めて聞くぜ、俺に何か用か?」

 

 

悠介自身、自分に向けられている僅かな負の感情に気が付いていたが故に、自然と語尾が強くなる。

しかし、クリスは気にすることなく

 

 

「単調直入に聞く。なぜそんな文字を背負っている?」

 

 

「あ?」

 

 

自身の疑問とも呼べる事を問うた。

その言葉を聞いた瞬間、無意識に悠介から殺気が漏れ出した。

 

 

「文字って言うと、この『悪一文字』の事か?」

 

 

「ああ、その通りだ」

 

 

「背負いてぇから背負ってるじゃ、納得はしてくんねよな?」

 

 

「当然だ!!なぜ、よりにもよってその文字なのだ!!」

 

 

悠介の言葉を聞いたクリスが吠えながら、机を大きく叩いた。

バン!と大きな音がなり響き、クラスの全員が二人に注目した。

 

 

「半日相楽の事を見ていた。そしてわかった事がある。お前は、顔に見合わず真面目な生徒だ」

 

 

「それはどうも」

 

 

「だからこそ、自分はお前がそんな文字を背負っている事が理解できない」

 

 

初めて在った時は、その文字にどうりの人間だと思った。

しかし、モモ先輩と犬との戦いを見て、その認識が間違いだと思った。

その拳と瞳は、自分の知る限りでは一番と言えるほどに真っ直ぐだった。

授業でも睡魔と戦いながらも一度も眠ることなく、真面目に受けていた。

だからその答えに辿り着くのに時間はかからなかった。

あいつは、自分と同じく『義』を重んじる武人であると。

だからこそ、我慢ならない。

そんな(・・・)文字を背負っている事が、なれば自分が導くしかないだろう。

その間違いを気づかせてやるべきだ。

 

相手を執拗以上に殴るのは、すでに義ではなく悪であると。

自分が伝えてやろう。そして、自分が相楽を正しい姿に戻してやろう。

 

 

「別にお前に迷惑かけてるわけじゃねえからいいだろ?」

 

 

「そんな問題ではない。悪を肯定し背負っていると言う事が問題のだ。それは既に正義ではない!!」

 

 

「そう言われてもな。俺は悪一文字(これ)を誇りにしてんだぜ?」

 

 

「そんな(モノ)を誇りにするのは間違ってる(・・・・・)

 

 

「・・何だと」

 

 

「相楽が背負うべきなのは正義の二文字だと、自分は思っている。それなのになぜ惡と言う文字を背負うのだ」

 

 

クリスが言葉を述べるごとに、悠介から放たれる殺気が大きくなる。

だが、クリス自身は全く気が付いていない。

 

故にクリスは

 

 

「そんなくだらない(・・・・・)文字を背負うべきではない!!」

 

 

 

くだらねぇ(・・・・・)だと」

 

 

 

悠介の逆鱗に触れた。

 

 

「ああ、今からでも遅くはない。そんな文字捨ててしまえ(・・・・・・)

 

 

クリスがその言葉を発するまでが臨界点だった。

 

 

「え?」

 

 

瞬間、クリスの視界を怒りと破壊の(こぶし)が覆う。

その芸術品の様な美しい顔を(ころ)す狂気が、彼女に迫った。

突然の事で、クリスは反応も出来ない。

つまりそれは、この拳を受けるしか手が無い事を指す。

 

 

 

クリスが認識した直後、パアァン!と乾いた音が教室に鳴り響いた。




いかがでしたでしょうか?
上手くクリスの考えを描けていたでしょうか?

違和感があったりしたら教えて下さい。


果たしてクリスの運命は?

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惡と義 その2

お待たせしました

色々あって更新が遅れて申し訳ありません

上手くまとめられたか、若干不安もありますが楽しんでくれたら嬉しいです


果たして、クリスはどうなったのか?


「そんなくだらない(・・・・・)文字を背負うべきではない!!」

 

 

ナニヲイッテンダ、コイツ?

 

 

 

「ああ、今からでも遅くない。そんな文字捨ててしまえ(・・・・・・)

 

 

瞬間、全ての思考が黒く染まった。

 

 

本当にダメだ。自分の性格的に突っかかれる事が多かった。

その分そう言った事にたいする耐性も出来ていたつもりだった。

 

でもその侮辱だけは、未だに我慢する事が出来なかった。

 

 

何も知らないお前が、何でこの文字を侮辱する。

この文字を掲げたあの男の想いも覚悟も知らないくせに、何でお前はくだらないと斬り捨てる。

あの男が背負うと決めたこの文字の重さも何も知らないくせに

 

ああ、本当に無理だ。

 

 

お前がこの文字について語るな。

あの男の人生を知らないお前が、偉そうに語るな。

悪一文字が生まれた理由を知らないお前が、悪一文字を否定するな。

 

 

考えた訳じゃなかった。

ただ無意識に行動していた。

考えるのは、目の前の(クリス)を壊す事のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアァン!と乾いた音が悠介の耳に届くと同時に、拳から感じる違和感を察した。

違う!これは人を殴った時の感触では無い

これは・・・・

 

 

 

「ギリギリじゃの~」

 

 

 

黒く染まった思考が徐々に戻って来ると悠介の視界に、自分とクリスの間にいつの間にか現れていた人物が映りこんだ。

 

 

「ジジイ」

 

 

「はあ、今のは心臓に悪いわい」

 

 

 

鉄心の姿を確認した悠介は、突き出していた自分の拳を降ろした。

よく周りを見てみると、クリスは驚いたゆえなのか、それとも恐怖からかはわからないが腰を抜かし地面に座っていた。

その表情は、未だに何が起きたか理解出来てない様だ。

 

 

「・・・・・」

 

 

その姿を見た悠介は、静かに教室から出ていこうとするが

 

 

「待て」

 

 

鉄心の覇気ある声が、その足を止めさせた。

 

 

「悠介、お主・・」

 

 

今の行為が何を意味するか分かっているか、そう言おうとした鉄心の言葉を遮って

 

 

 

「ちょっと、頭を冷やしてくる」

 

 

 

「信じていいんじゃな?」

 

 

 

鉄心の問いに、悠介は間を開けて答えた。

 

 

 

「・・・・・わかってる。全部わかってるから、頭を冷やしに行く」

 

 

悠介の言葉を聞いた鉄心は、それ以上の追及を止めた。

言葉の中に、鉄心が求める答えが含まれていたのだから。

ならば、今は悠介の好きにさせよう。

それが、鉄心の下した決断だった。

それに自分には、他にもやらねばならない事がある。

 

そう思いながら鉄心は、地面に座り込むクリスと唖然とするクラスの面々に視線向けた。

今は、不出来な弟子の始末を取るとしよう。

 

 

「わりぃ」

 

 

 

去り際に聞こえた悠介のセリフ

何の謝罪だったかは、鉄心には何となくだが理解出来た。

後悔や悔いではない。もっと別の感情から出た言葉。

 

自分は、弟子の後始末をするとしよう。

悠介については、あやつに任せよう。

あいつの師は自分だけではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室室を後にした悠介は、屋上を目指して歩を進めていた。

屋上の扉を開けると同時に夏場特有蒸し暑さと心地よい風が悠介を覆った。

 

 

「・・・・」

 

 

悠介は屋上全体を見渡した後、貯水タンクがある場所に向かってゆっくりと歩いて行く。

そしてそのまま

 

ドゴッン!

 

悠介は貯水タンクに頭をぶつけた。

 

 

「ふぅー。ふぅー」

 

 

深く何度も息を吸う悠介の耳に

 

 

「随分と荒れている様だな赤子よ。物に当たるなどと言う事がどれだけ愚かな事か知っているか?」

 

 

何処までも上から目線の声が届いた。

悠介は、体勢を変えないままに

 

 

「何の用だよ」

 

 

突如、背後に現れた人物に問う。

いや、正体は判り切っている。自分を赤子と評すのは一人しかいない。

 

 

「なに、突然赤子の怒気を感じてな。危険はないと思ったが、もしもがある。その為、俺が自ら確認しに来たのだ」

 

 

まるで未熟者の姿を確認しに来たとでも言うようにヒュームは悠介に告げた。

 

 

「そうかい。存外に、仕事熱心なのな」

 

 

 

「では、仕事ついでに聞いてやる。赤子よ、何があった?」

 

 

 

「・・・」

 

 

ヒュームの問いに悠介は答えなかった。

しかし

 

 

「何があった?」

 

 

ヒュームの二度目の問いに

 

 

 

「俺の誇りが傷つけられた」

 

 

 

悠介は答えた。

 

 

 

「ふむ。それでどうした?」

 

 

 

「そいつを壊そうとした」

 

 

ヒュームの言葉に悠介は答えていく。

 

 

 

「何も語らずか?」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

「愚かだな」

 

 

ああ、あんたに言われなくてもわかっているさ。

自分がした行為がどんな物だったなんて

 

 

「それでは赤子、貴様は己の誇りを示す事を止めたのと同じだ。誇りを背負うならば、決して忘れてはいけない筈だ。それは、慢心が産んだ誇りを違わせる行為だ」

 

 

 

そうだ。俺は調子に乗っていたんだ。

鍋島の言葉と百代と打ち合えたと言う事実が、俺を天狗にさせた。

それが自分を見失わさせた。

 

あの怒りはある意味正しい物なんだろう。

しかしそれは、憧れているのみ有効だ。

憧れを汚されて怒るのは当然

 

しかし

 

 

 

「知ってるよ」

 

 

 

「なに?」

 

 

並び立つつもりならば、それでは不十分だ。

その怒りを抑えこみ、誇りを語る。

怒るのは、誇りに触れた時のみが正しい行動だ

 

 

「でも、わかんねえんだよ。どっちが正しかったなんてよ」

 

 

あの時クリスに感じた怒りは本物だ。

そして、その怒りを抑えこむと言う選択肢が自分にはなかった。

どちらもある意味正しいと言える行動。

だからこそ、悠介は迷う。

 

 

どちらが自分が進む中で正しいかを知るために

 

 

 

「そうか。それ故に迷うか」

 

 

 

悠介の表情から察したヒュームは、静かに悠介に近づいて行く。

 

 

 

「何の用だよ?」

 

 

 

「なに、今貴様の様な赤子に必要な事を俺自ら行ってやろうと思ってな」

 

 

そう言って足に力を込めた瞬間

 

 

「ちげぇ」

 

 

「何だと?」

 

 

「その役目(・・)はあんたじゃない」

 

 

 

悠介の断言。

さっきまでとは、全く違うその声音を聞いたヒュームは

 

 

「ふっ」

 

 

小さな笑みを浮かべながらその場を去る。

その去り際に

 

 

「いいだろう。なれば、赤子なりケジメを見せるがいい」

 

 

そう言ってヒュームが去っていったその場で悠介は

 

 

 

「言われるまでもねーよ」

 

 

 

ヒュームの言葉に応えるようにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュームが去って暫らくして悠介もまた屋上から姿を消した。

向かう場所はもう決まっている。

 

静かに決意の瞳をしながら歩く悠介に

 

 

 

「此処にいたかい悠介。久しぶりだネ」

 

 

 

懐かしの声が届く。

声がする方に悠介は振り返り

 

 

「お久しぶりです。ルーさん」

 

 

己の師に礼を述べた。

 

 

 

「ウン。元気そうで何よりダ」

 

 

悠介の言葉を聞いたルーは、久しく見た弟子の姿に喜びに似た感情を持っていた。

 

 

(随分と強くなったネ。立ってるだけで、君の努力が見て取れるまで二)

 

 

昔を懐かしむルーの耳に

 

 

「あの~何か用があったんじゃないんですか?」

 

 

悠介の言葉が届く。

 

 

「いや、別段何もないヨ。強いて言うなら、弟子の顔を見に来たかナ」

 

 

 

「そうすっか。それじゃあ俺、ちょっと急いでるで失礼します」

 

 

ルーの目的も達したと感じた悠介が、その場から去ろうとした瞬間

 

 

 

「後悔や悔いはないんだネ」

 

 

 

ルーから発せられた言葉が、悠介の足を止めた。

 

 

 

「大体の事情は知っていル。そのうえで問うヨ。後悔や悔いはないんだネ?」

 

 

 

優しく語られたその言葉に悠介は

 

 

「それだけは絶対にありません」

 

 

力強く答えた。

悠介の言葉を聞いたルーは小さく笑みを浮かべながら

 

 

 

「そうか。でも、悠介君の行為は間違いなく失敗(・・)だネ。」

 

 

 

悠介の行為が過ちだと告げた。

悠介は、何の反応もせずただルーの言葉に耳を傾けている。

 

 

「感情に呑まれた状態で武を使うのは危険ダ。それは、昔から何度も言ってる言葉だヨ」

 

 

 

これがジジイやおっさんの言葉なら、聞く耳持たずに去っただろう。

しかし、ルーと鍋島なら話は別だ。

 

 

「武人として、まだまだ精神が未熟な証拠ダ。これからも精進しなさイ」

 

 

 

いつも優しく自分を見てくれる師に悠介は無意識にその言葉を口にした。

 

 

 

「何度も失敗して、迷惑かけるかもしれないっすよ?」

 

 

 

悠介のその言葉にルーは

 

 

 

「構わないヨ。弟子(きみ)の失敗を背負うのは、師たち(ぼくら)の仕事サ。君はまだ若イ。失敗も多くするだろろうからネ。今は僕らが護る時期ダ」

 

 

 

当然の様に構わないと告げた。

その言葉を聞いた悠介は

 

 

「やっぱ敵わねえな」

 

 

 

今一度己の師の大きさを再確認した。

 

 

 

「それじゃあ、俺はそろそろ行きます(・・・・)

 

 

 

「!!。ああ、行ってきなさイ」

 

 

 

悠介の目を見たルーは笑顔で送り出した。

ルーの言葉と共に、止まっていた足を動き出した悠介は静かに目的の場所に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠介がF組の扉を開けるのと彼女が扉の前に立ったのは、ほぼ同時だった。

その為

 

 

「おっ!?」

 

 

「!!」

 

 

悠介とクリスが至近距離で顔を合わせた。

 

 

「ちょうどよかったわ」

 

 

驚きで身を引いたクリスに悠介は笑みを浮かべながら近づいた。

教室が再び緊張で包まれる中、悠介は静かにワッペンをクリスの目線に示した。

 

 

「何の真似だ?」

 

今のクリスにさっきまでの態度はない。恐らく鉄心のお蔭であろう。

クリスの問いに悠介は

 

 

「俺は口下手だからな。たぶん、どう言っても俺の誇りである『悪一文字」をお前に認めさせることは出来ないだろう。それにお前にも引けない誇り()があるわけだしな」

 

 

 

クリスに目線を合わせながら答えてく。

 

 

 

「だから、戦おう。それが一番手っ取り早いと俺は思う。互いに譲れない誇りがぶつかった時点で、話し合いは無駄なのかもしれねえ。引くと事出来ねえから誇り何だしよ」

 

 

 

「決闘で決着をつけると?」

 

 

 

「それが一番だろ?俺ら武人にとってはよ。まあ、決着とは違う気がするがな」

 

 

 

「では、何のために決闘を?」

 

 

 

「たぶん、わかり合う(・・・・・)為に戦うんだと思うぜ。俺はな」

 

 

かつて一人の武人はこう評した『武人の一撃は千の言葉に勝る』

 

普通ならば物事の解決に力を使うのは過ちかもしれない。

しかし、幸か不幸か二人は武人である。

武人が力を使う事は、何ら問題も間違いもない。

 

 

悠介の言葉を聞いたクリスの脳裏によみがえるは鉄心の言葉

 

『あやつ、悠介とは上からでも下から出もなく真正面からぶつかってはくれぬか。そうすればきっと悠介の全てが分かる筈じゃ」

 

 

未だにその言葉の意味は分からない。

しかし、今の悠介の目から感じるモノは決して自分が思う惡ではない。

むしろ自分の信じるモノに近い気がしていた。

 

ならば、自分は逃げる訳にはいかない。

 

 

「いいだろう。お前の考えが間違っていると証明してやる」

 

 

クリスの言葉に教室は驚きで包まれる。

その言葉で先ほど悠介はキレたのだ。

再びそんな光景が起こると誰もが思ったが

 

 

「そうかい。なら俺は示してやるよ!この文字の全てを俺が伝えれる限りなッ!!」

 

 

悠介は笑みを浮かべながらクリスの言葉に応じた。

 

先ほどとは全く違う反応にクリスを除いた一部以外は困惑の表情を示した。

きっとそれは、二人の男のお蔭であろう。

 

 

 

悠介とクリスの二人は、同時に教室の床にワッペンを重ねた。

 




と言う訳で、クリスを助けたのは鉄心でした。
感想では、百代や燕の意見が多かったのですが、今回の様な場合だと鉄心たちの様な大人の方が良いかなと思いました。

それとお報告なのですが、もうしばらくしたらテスト週間に入るので、次の更新も遅くなるかもしれません。
楽しみにしている皆様には申し訳ないのですがご了承下さい


良かったら、感想をお願います。


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惡と義 その3

現在、活動報告の場所で新作の設定を公開してます
読みたいものがあったら、気楽に書き込んでください。


久しぶりに書いたので、おかしな点があるかもしれません
その為、違和感などがあったらご報告をお願いします


放課後 川神学園グラウンド

 

 

多くの生徒たちが、その決闘が始まるのを今は今かと待ちわびていた。

その中には、ヒュームをはじめとした多くの大人たちの影も含まれていた。

 

 

「来た様じゃな」

 

 

生徒たちが囲いよ様になって生まれた空間に佇む鉄心は、生徒たちが道を開けた場所より歩き来る二人に武士に視線を向けて呟いた。

 

 

「待たせたか?」

 

 

 

二人を代表して悠介が鉄心に問うが

 

 

 

「問題はないわい。まあ、ギャラリーの方は待ちわびてはいるがの」

 

 

 

鉄心は、さして問題ないと告げた。

 

 

 

 

「すげえ熱気だな。天神館(あっち)でも此処までじゃなかったぜ?」

 

 

 

「今、最も話題の転校生の決闘じゃ。うちの学生なら、見たくなるも当然じゃな」

 

 

 

「俺が?」

 

 

 

「お主がじゃ。モモと戦い生き残り、そのあとすぐに一子との決闘。そして、話題が冷めぬうちにこの決闘じゃからな」

 

 

 

「なるほどな」

 

 

 

鉄心の言葉に納得した悠介は、今まで無言を貫くクリスに視線を向けた。

 

 

 

 

「始めるか」

 

 

 

 

「ああ」

 

 

 

悠介の言葉にクリスは頷き、静かに東側に立った。

目線は悠介に向いたまま、自身の武器であるレイピアを平行に構える。

 

クリスの構えを確認した悠介もまた西側に立ち、己の武器である拳を握った。

 

 

ゆったりとしかし確実に緊張が場を包み込んでいく。

それに連動するように、さっきまでガヤガヤとしていたギャラリーたちも無言になっていった。

 

完全に場が静まったその瞬間

 

 

 

「それでは、始めッ!!」

 

 

 

鉄心が開戦の合図を告げた。

 

 

 

「はあッ!!」

 

 

 

合図とほぼ同時、クリスは悠介に向かってレイピアを突き出した。

 

体力に気力共に充実した状態での攻撃

恐らくクリス自身は、この初撃で決めるつもりで放たれた一撃。

 

クリスの全力の攻撃を前に、悠介の取った行動は

 

 

 

「ぐぅ」

 

 

「!!」

 

 

受けだった。

速度を乗せた一突きを無防備に受けたのだ。

 

如何に悠介がタフとは言え、事前に備えるのと備えないのでは、受けるダメージは天と地ほどの差が生まれる

にも拘らず、悠介は無防備状態での受けを選んだ。

踏ん張る事もせず、悠介は吹っ飛び地面に大の字で横たわった。

 

 

 

「どう言うつもりだ!!お前は私を侮辱しているかッ!!」

 

 

 

一部のメンバーを除き驚愕するギャラリー達と怒り心頭の声を上げるクリス。

クリスの怒りも当然である。

この決闘は二人にとって、誇りを掛けたに等しいモノだ。

そんな中での今の行為は、侮辱と取られても仕方がない。

 

しかし

 

 

「ちげえよ。俺はお前を嘗めてねえよ。むしろ、認めてるからこそ受けたんだよ。対等(・・)の決闘をするためにな」

 

 

悠介は起き上がりながら否定の言葉を口にした。

その目はまっすぐとクリスに向けられいる。

 

 

「何だと?」

 

 

 

「別にハンデとか言うつもりもねえぞ。ただ俺なりのケジメだ」

 

 

 

「ケジメだと?」

 

 

 

「ああ、お前の一撃を貰わねえと俺はお前と同じ土俵で決闘が出来ねえと思ったからこそだ」

 

 

 

悠介の言葉はクリスに大きな衝撃を与えた。

悠介が言っている言葉は、恐らく昼休みの自身の行動から来ているのであろう。

鉄心によって防がれたあの行動は、悠介の中で確かなしこり(・・・)となっていた。

そんなしこりを残したままに、誇りを掛けた決闘が出来るか?

 

悠介は自信を持って出来ない!と答える。

ならば、どうすればいいかと考えた結果がそれなのだ。

 

 

 

「ああ、これで漸く対等だ」

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 

不気味なほど静かに悠介は立ち上がった。

今の一撃を苦に思っていない様に淡々と構えた。

まるで、不出来な自分にチャンスをくれてありがとう。そう言っている様に見える。

その事がクリスを驚かせた。

 

 

「さあ、俺の我儘は此処で終了だ。こっからだ」

 

 

 

バン!と拳を手の平に打ち付けた。

その音が本当の決闘の始まりの合図となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手の平に拳を打ち付けたと同時に悠介は地面を蹴った。

 

 

「いくぜ」

 

 

自らの意思を小さく口に出した悠介は、己の拳を振り切った。

その一撃はクリスと同じく一撃で決めに来ている。

しかし、クリスは慌てずに右に回避して、そのままに

 

 

「はあッ!」

 

 

打突を繰り出した。

拳を振り向いた為に体勢が崩れた悠介には受けるしか手が無いはずだった。

 

 

 

「なめんなぁ!!」

 

 

 

「なにッ!」

 

 

 

自身の加速した速度も拳に乗せた事で、若干前のめりになっていた悠介は、残った方の腕を裏拳としてレイピアに向かって放った。

結果、レイピアと裏拳がぶつかり合い

お互いの身体を上に反らさせた。

 

 

「くそ」

 

 

 

「へっ」

 

 

即座に体勢を立て直した二人が次に取った行動は正に対極だった。

 

 

「まだだぁ!!」

 

 

追撃を与えんと更に前へと踏み込む悠介

対して、クリスは

 

 

「くう」

 

 

間合いを取るために後ろへと下がった。

 

 

 

「逃がすかよ!!」

 

 

 

悠介は後ろに下がるクリスを追うように更に深く踏み込んだ。

しかしクリスは、最初の一歩で出来た僅かな時間を使い大きく前に跳躍した。

クリスが跳躍して、その場を離れた為に悠介の拳は空振りとなった。

 

 

 

「(逃げた訳じゃねえな。そんな顔じゃねえ)」

 

 

 

自分の後方に降り立ったクリスの表情を見た悠介は、クリスの取った行動が決して逃げの為でないと確信した。

クリスの表情は決して諦めてなどいない。むしろ、冷静にしかし貪欲に勝利を欲している表情だ。

悠介にとって、クリスの様な表情をする相手と戦ったのは、未だに数えるほどしかない。

百代を筆頭に燕・石田達十勇士など、本当に限られた相手だけだ。

故に、悠介の戦意も徐々に上がっていく。この決闘からナニカを得る為に。

 

 

 

「(やはり、生半可の攻撃では無意味だな)」

 

 

 

自身の考えが正しかったことを確認したクリスは一度小さく深呼吸をして、思考をより鮮明にしていく。

元々そうでないかとは思っていた。

 

 

 

「(モモ先輩の攻撃に耐えたのだ。自分の攻撃では、大きなダメージは望めない。しかし、勝つのは私だ!!)」

 

 

 

再びフゥ!と息を吐き終えたクリスは、グッ!と足に力を込めた。

クリスが力を込めたと同時に  

 

ダッ!

 

悠介はクリスに向かって駆けだした。

 

 

「シィッ!」

 

 

小さい吐息と共に放たれた右拳がクリスに向かって放たれた。

 

 

迫りくる暴拳を前にクリスは

 

 

「此処だッ!!」

 

 

迫りくる脅威に引くどころか、腰を落とし悠介の拳を下に躱し、そのまま一歩踏み込み

レイピアを悠介に突き刺した

 

 

「ッ!!」

 

 

カウンターに近い形での反撃。

しかし、その程度では悠介は止まらない。

 

 

「オラアッ!」

 

 

突き出した右腕のひじを下に向かって放つと同時に、クリスは一歩下がり攻撃を回避

悠介の攻撃を回避したクリスは、その状態のまま肩と上半身の動きから

 

 

 

「はッ!!」

 

 

 

刺突を放った。

 

 

 

「効くかよッ!!」

 

 

 

しかし、悠介はそれすらも意に介さず、クリスを蹴り飛ばす。

ドガッ!と悠介の蹴りを受けたクリスは「くっ」と苦悶の声をこぼしながら、踏ん張り切れずに吹き飛ばされた。

 

 

「(ちげえ。俺に蹴られる瞬間に後方に跳んだか!)」

 

 

しかし、自身の足から伝わる感触が、今の状況の違和感を教えてくれる。

クリスは、決して飛ばされたのではない。自らの意思で飛んだのだ。

 

 

 

「やるじゃねえか」

 

 

 

自身の数メートル先に降り立ったクリスを見据えながら、悠介は素直な感想を口に出した。

戦って見てクリスの実力は、おおよそ一子と同じぐらいだと悠介は感じていた。

だが、現状(・・)ではクリスの方が強いと悠介は断言できた。

それは、戦いに掛ける想いの差。誇りを掛け決して負ける事の出来ない戦い。

その中でクリスは、己が才を開き始めている。恐らくは、この戦いだけの一時的なモノであろうが、それだけでクリスの持っている才能の高さを感じさせられる。

 

 

「ふうー」

 

 

 

一通り思考した後、悠介は小さく息を吐いた。

一度自身の拳に目線を落としたのち、瞳を閉じた。

 

対するクリスもゆっくりと息を吐き呼吸を整えていた。

 

クリスも悠介の拳の圧力をほぼ正面から受けていたのだ。

その精神的疲労は並ではない。精神的疲労は肉体にも大きく影響を及ぼす。

 

 

「(これ以上長引くと不利だな)」

 

 

クリスは冷静に自分の身体のコンディションを確認する。

確認するまでもなく、限界に近い。

ならばどうするべきかは、考えるまでもない。

 

 

「(次で決める)」

 

 

 

その為に必要な事は一つ。

敗北を想像するな。イメージするは、己の勝利のみ。

ただ、勝利を信じて

 

 

「(放つッ!)」

 

 

これは出来るかできないかの問題ではないのだ。

誇りを掛けた時点で、勝利以外は在りえないのだから。

 

 

クリスは、悠介が自身のレイピアと重なる様に構えた。

空気がクリスを中心に変わりだす。

誰もが理解した、次で決着が着くと

 

 

しかし、悠介は未だに瞳を閉じていた。

悠介の行動に疑問を持つクリス。

だが、その疑問を差し置いて彼女の集中は高まっていく。

 

 

時間にして、およそ十五秒弱。

 

 

「はあぁぁぁあああああッ!!」

 

 

 

自身の咆哮と共にクリスが、全身精霊の刺突を繰り出した。

ドンッ!と土煙を舞い上がらせながら、悠介に向かっていく。

 

 

 

「(勝った!!)」

 

 

未だに行動しない悠介を見たクリスは確信した。

自身が持てる最高と言える一突き

 

 

「わりぃな」

 

 

クリスの突きが悠介に当たる直前、悠介が確かに呟いた。

自身に迫るレイピアの刃を左右から拳をぶつけ、白羽どりの様に受けた止めた。

 

ギィン!と甲高い音が鳴りながらも悠介の誇り(こぶし)はクリスの誇り(レイピア)を受け止めた。

 

 

 

「なッ!?」

 

 

驚愕に顔を染めたクリスに

 

 

 

「俺は、お前よりもスゲェ突き技(・・・)知っている(・・・・・)

 

 

悠介の宣言にも似た言葉が届いた。

 

 

瞬間、ドゴォ!とクリスの身体に途轍もない衝撃が伝わり、その威力にクリスは意識を持っていかれ静かに意識を手放した。

 




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惡と義 その4

男の夢を見ていく中で、その剣士は何時も現れた。
決して己の道を違わないその生き様は、気高い狼を連想させた。

クリスの突きとあの男の突き
不思議と決闘のさなか、あの男の姿が浮かび上がった。
自分が憧れた男が唯一負けを越した男の技。

瞳を閉じれば思い起こすその姿とクリスの姿が、俺の瞳の中で一致した。
二つの姿を重ねたからこそ、より分かった。
二人は全く違うと言う事が・・・・

なれば、俺は何であの男とクリスを重ねた?


戦っていくの中で、何度も相楽悠介の拳の圧を受けた。

その中で感じたモノは、驚くべき程純粋な想いだった。

 

何の混じり気もなく、自分を倒す事しか考えずにいるその姿。

一度も退(さが)る事無く、自分の攻撃にも想いを受け止めて見せたその姿。

 

だから、尚更判らない。

それ程の意思を持っているのになぜ『惡』を背負っている?

それに、自分が感じたモノは決して惡と言えるモノではなかった。

 

その矛盾の答えを自分では見つけられない。

しかし、このままでは自分がお前を理解できずに終わってしまう。

 

 

だから教えてくれ、相楽悠介ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・・此処は?」

 

ぼんやりと意識が覚醒していくクリスの声に

 

「保健室だよ」

 

悠介が答えた。

 

「目覚めたみてぇだな」

 

「ああ」

 

椅子に座りながら窓を見ている悠介の声に戸惑いながらもクリスは答えた。

 

「みんなは?」

 

クリスは何時も行動を共にする仲間の姿が見えない事に疑問を持つ。

本来なら、負けた仲間の傍にいるはずの面々がいない理由は

 

「俺が風間に頼んだんだよ。話がしてえから、二人にしてくれってな」

 

この発端に決着をつける為だ。

クリスの方に身体を向き直し、悠介はクリスを見据えた。

 

「そうか」

 

「思ったほど驚かねえんだな」

 

「自分もお前とは話をしたいと思っていた。自分からすれば、渡りに船だ」

 

「そうかい」

 

クリスの言葉に悠介は笑みを浮かべながら答えた。

その表情は、さっきの決闘で見せた表情とは比べ程にならない程穏やかだ。

 

「どうした?俺の顔に何か付いてっか?」

 

「いや、そうではない」

 

沈黙が場を支配する。

元来口下手を自覚する悠介にとっては、こんな状況でどう話を切り出す事が出来ないのである。

 

「悠介は・・」

 

気まずい沈黙を破ったのはクリスだった。

小さく呟く様な声から、徐々にハッキリとした意思を感じる声に変わった。

 

「なぜ、悪一文字と言うモノを背負うと決めたんだ?」

 

決闘をする前ならば、決して抱くことの無かった疑問。

悠介と戦う事で正面から向き合う事で生まれた疑問。

クリスの疑問に悠介は、頭上で作った拳を見据えながら

 

「憧れだ」

 

小さいながらも、短くハッキリと告げた。

その声音には、躊躇いや迷いなど欠片も感じられない。

 

「憧れ?では、その言葉の意味は何だ?自分が思う様な惡ではないのであろう」

 

「あ~そうだな。口ではうまく説明出来るか微妙だけどな」

 

クリスのある種確信にも似た言葉に悠介は戸惑いながらも説明を始めた。

 

「例えば、ある地域のある場所で盗みを犯した少年がお前の横を横切ったら、お前はどうする?」

 

「無論、捉えるに決まっている。人の物を盗むのは許しがたき悪だ」

 

それは変わることの無いクリスが信じる正義のカタチ。

人を困らせる行為や傷つける行為は、悪である。

しかし、その価値観が悠介のセリフで

 

「じゃあよう、その少年が『見逃してください。飢えて死にかけてる弟に食べ物を渡したいんです』って言って来たら、お前はどうする?」

 

「え?」

 

崩れ去った。

 

「だから、自分の為でなく。誰かの為にお前の言う惡を行った少年をどうするかって聞いてんだ」

 

「それは・・・」

 

悠介の言葉にクリスは、何も答える事が出来ない。

誰かの為に行う行動の美しさをクリスは知っているから。

 

「自分が・・・・自分が救って見せる!!」

 

絞り出されたクリスの答え。

しかし、それは間違いである。

 

「方法はどうすんだ?救うって言っても、選択次第ではお前の正義を砕く事になるぜ。後、同情から来る行動は論外な。そんなモン誇りでも正義でもねえ」

 

「!!。それは・・・・そうだッ!!。父様に頼んで・・」

 

「俺は、お前の正義に誇りに聞いてるんだぜ?お前の正義(ほこり)は、困った時にオヤジに頼る様なもんなのかよ?」

 

「それは・・・」

 

悠介の言葉に何も言えなくなるクリス。

クリス自身がどちらを選べばいいかわからないのだ。

社会が生んだ正義か少年が生んだ人間としての美徳の正義

 

どちらもクリスが信じる正義であり『義』なのだから。

 

「悠介は・・お前はどうするんだ?」

 

クリスの疑問に対して悠介は

 

「ガキの味方をする」

 

間髪入れずに断言した。

 

「方法はどうするのだ?」

 

「まあ、ガキが逃げるのを手伝うって所か?」

 

「なッ!それではお前は・・・」

 

「ああ、社会の正義よりもガキの生んだ正義を尊重する」

 

「たとえその行動のせいで、惡と言われてもか?」

 

犯罪者(そんなモノ)になろうとも、構いやしねえよ。そんなモノよりも大切なモノがあるんだよ、俺にはな」

 

悠介の言葉を聞いたクリスは黙ってしまう。

自分と悠介との差をハッキリと示された様だから。

何処か、自分が情けなく思えてならない。

 

「たぶん、世界にはこの例以外にもたくさんあるんだろうぜ。人としては間違ってるかもしれえが、きっと抱いた想いは間違いじゃねえってのはよ」

 

悠介自身自分でも上手く言えているとは思っていない。

だが、それでもクリスには伝わると確信していた。

 

「なら、お前が背負う『惡』の文字の意味は何だと言うのだ!!」

 

クリスの言葉に悠介は、羽織っていた羽織をクリスの方に投げながら

 

「何事にも染まらず、何事にも揺るがない、己の生き様(・・・)

 

高らかに宣言した。

その言葉の声音と悠介の表情は、とても誇らしいとクリスは感じた。

 

だからだろうか、今まで自分が掲げていた『義』と言う正義がひどくみすぼらしく思えたのは。

そん中悠介は、無意識に羽織を強く握るクリスの額に指を近づけ

 

「痛っ!」

 

ダン!とデコピンを放った。

いきなりの衝撃に悶えるクリスに

 

「お前、今自分の誇りがみすぼらしいとか思ったろ?」

 

お前の考えなど読めてんだよ!と言わんばかりの言葉が悠介の口から発せられた。

的を射た言葉にクリスが悠介から視線を逸らそうとしようとした瞬間

 

「いいか。お前の掲げる『義』の正義は、まだ借り物(・・・)だろうが。そうなって当然だ」

 

赤くなったクリスの額にタン!と指を押し付けながら、悠介は己が感じた事を伝えた。

 

「なッ!それはどう言う事だ!!」

 

「たぶんだけどよ、お前の掲げてるモンは誰かと一緒のモンだろ?」

 

クリスの疑問に悠介がゆっくりと答えていく。

 

「憧れから始まって、何時しか自分も同じモノを掲げたいと思い、掲げた。違うか?」

 

「違わない」

 

「だとしたら、尚更だ。本当の意味でお前が掲げたのならば、きっと迷いは起きねえ筈だ。迷いが起きや時点で、お前はまだその意味を理解できていねえ」

 

悠介の一言一言に何の反論できずにいたクリスが、小さく呟いた。

 

「ならばどうすればいいだ」

 

クリスの言葉に悠介は、クリスの瞳を真っ直ぐに見ながら断言した。

 

「掲げ続けて見つけるしかねえだろ。間違って間違ってそれでも掲げ続けた先に、きっとお前が信じれるモノになってるだろ。たとえ、憧れたそれとは違っていても根っこは同じはずだ。お前のオヤジみてえにな」

 

「父様と?」

 

「ああ、そうだ」

 

突然の名前に驚くクリスだが、悠介は構わすに話し続ける。

 

「モモのメールに乗ってんだがお前のオヤジは、お前の為に第三次世界大戦を引き起こす覚悟があるとか言ってたよな」

 

「そうだが、それはあくまでもたとえ話だ。それほどまでに自分を愛してくれると言うな」

 

「いや、たぶん。本気だったと思うぜ」

 

モモのメールを見た時は、何の冗談だと思った。

でも、メールを読んでいくうちに悟った。

ああ、こいつは本物だと。本当にたった一人の少女の為に引き起こす覚悟がある。

娘の為に、部下の人生を死地に投げ入れるだけの決意がある。

だからこそ、彼は大将であれるのだ。

 

「誇りを通すためには、背負う覚悟がいるんだよ。そしてお前のオヤジは、その覚悟がある」

 

「何の覚悟だ?」

 

「間違いも過ちも全てだよ」

 

「??。何を言っているか、よくわからない。もう少し分かりやすく説明してくれ」

 

悠介の言葉を理解できないと答えたクリスに

 

「お前にも分る時が来るさ。お前が『義』を掲げ続けるなら尚更な」

 

悠介は、優しい声音でそう答えた。

答えは自分で見つけてこそ、意味がある。

その声音には、確かにそう言う意味が込められていた。

 

「悠介はもう知っているのだな。やはり、その文字を背負っている(・・・・・・)だけはあるな」

 

クリスのその発言を聞いた悠介は、一瞬呆けたかと思ったら大きく笑い出した。

 

「なっ!どうして笑うんだ!!」

 

クリスは急に笑い出した悠介に、自分がバカにされている様に感じ顔を真っ赤にしながら問いかけた。

 

「いやいや、わりぃ。でもお前も勘違いしてんぞ」

 

「勘違い?」

 

「ああ。俺もまだ、『悪一文字』をちゃんと背負ってねえよ。俺みたいな未熟者に背負える様な生半可な文字じゃねえのさ」

 

「あれほどでもか?」

 

クリス自身悠介の言葉が信じられなった。

あれだけの事を理解していたのだ、背負えて当然と考えていた。

クリスの驚愕を知っていながらも、悠介は話続ける。

 

「俺の場合は、いろんな奴らの力とかを借りて漸く背負えてるってとこだ。決して自分だけでは背負ってはいねえよ。そう言う意味ではクリス、お前と同じかもな」

 

だけど と言葉を積むいだ悠介は

 

「何時かは、自分で背負う。それが俺の目標だ」

 

己の目標をクリスに告げた。

そうして、クリスを見据えた悠介は

 

「だから競争だ。クリス」

 

勝負を持ちかけた。

 

「競争だと?」

 

「おうよ!!。俺が背負うが先か、お前が自分の正義を見つけるが先かの勝負だ。どうだ、燃えて来ねえか?」

 

そう言いながら悠介は、拳をクリスの目の前に突き出した。

数秒止まってたクリスだが、フッ!と笑みを浮かべた後

 

「いいだろう。言っておくが、今度こそ自分が勝つからな」

 

コツン!と自らの拳を悠介の拳にぶつけた。

 

「いいね。そうこなくちゃあよ」

 

クリスの言葉に悠介は笑みを浮かべながら答えた。

 

 

互いに食い違いぶつかりながら、その中で紡がれていく友情

この現象に名をつけるのらば、人はこう言うだろう『青春』と




いかがでしたでしょうか?
上手くまとめれたでしょうか?
後、 『悪一文字』を現せたでしょうか?

とても奥が深い言葉な分、凄く自身が無いです

その為違和感とかあったらお伝えください。

感想もお待ちしてます


活動報告に予想以上にコメントが・・・・これって期待されてるんですかね?


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悠介と猟犬 その1

前回でクリスの話が終わったなら、これは流れ的に彼女の出番
タイトルでわかると思いますが、悠介と彼女の会合です

漸くリアルも落ち着いて本当は修正をしないといけないんですが・・・時間が出来るとどうしても書きたくなってしまうんです・・・修正した方が良いって感想を貰ってるのに、マジでどうしよう






悠介とクリスの決闘の次の日、さして変化が起こる訳もなく悠介は、いつも通りに過ごしていた。

悠介自身は、その事に対して若干拍子抜けの様に感じたが、即座に納得もした。

 

(それだけ、話題に欠かねえ場所って事だよな)

 

ある意味無理矢理に納得させ、今受けている授業の方に意識を向けなおすが

 

(それにしても・・・クリスがああも変わるとはな。真面目と言うか・・・一直線と言うかだな)

 

思い出すは朝の出来事、変態橋付近を歩いていた自分の元に、勢いよく突っ込んできてたと思ったら、『昨日の言葉を受けて、如何に自分が未熟か知った。それで、自分なりに考えてみたんだ!!』と、自分に思いの丈を述べたクリス。

クリスの勢いに気圧された悠介に気が付かず、クリスは悠介に話し続けた。

 

余りに真っ直ぐな瞳と言葉を受けて、無理やり終わらせる事が自分では無理だと悟った悠介は、クリスと共に登校していた百代達に助けを求めたが・・・

 

 

(あの野郎どもは~!!)

 

 

今思い出しても、怒りがこみあがってきた。

大和達男性陣は、困りきった悠介の姿を見ながら『諦めてくれ』と目で告げ、一子は『二人とも仲良くなったのね、良かったわ』と少し場違いな喜びに包まれていて、悠介の助けに気が付かず、椎名は『しょーもな』と一言告げ視線を逸らされ、黛は『え~っと、え~っと』と困惑の声を漏らしながら手に持った人形に話しかけようとしていた。

要約すると、誰も助けてくれなかったのである。

 

しかし、その中で悠介が疑問を持ったのは

 

 

(それにしてもどうしたんだモモの奴?俺が目線を向けたら逸らすしよお)

 

 

自分の目線を逸らすだけではなく、自分と一切目線を合わせようとしなかったライバルについてだった。

 

 

(うだうだ考えんのも性じゃねえし、今度見つけたら話しかけてみっか)

 

 

悠介がある程度考えをまとめ終えたと同時に、授業の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。

 

 

 

「初めまして、貴方が悠介君ですね」

 

 

「あ、誰だ?」

 

 

昼休み。モモの元に向かおうとした悠介を呼び止めるように発せられた声に悠介は、この発せられた方に視線を向けた。

 

 

「私は二年S組の葵冬馬と申します。こちらが・・」

 

 

「榊原小雪。略して、ゆっきーなのだ~」

 

 

「井上準だ。若やユキ共々よろしくな」

 

 

「ハゲでいいよ~」

 

 

「こらッ!!初対面の人に、そんな悪意のあるあだ名を教えてないッ!!」

 

 

「やあ~いハゲ~」

 

 

 

「随分と賑やかなメンツだな」

 

 

「ええ、大切な家族です」

 

 

「そうかい」

 

 

井上とユキのやり取りを見ていた悠介の素直な感想に、冬馬は笑みを浮かべながら何処か誇らしそうにそう言葉を発した。

その姿を見た悠介は、冬馬にとってこの光景はとても大切なモノだと理解出来た。

 

 

「それでおれに何か用があったんだろ?どう言った要件だ」

 

 

「いえ、今回はただの顔合わせが目的ですよ」

 

 

「今回ね」

 

 

「ええ、今回はです」

 

 

互いに意味深な笑みを浮かべ合う二人。

 

 

「それでは、悠介君」

 

 

「ああ、またな」

 

 

「ええ。行きますよ、準 ユキ」

 

 

「ほぉーい」

 

 

「・・・・」

 

 

「? どうしたんだ井上」

 

 

「・・いや、何でもねえよ。じゃあな」

 

 

「おう」

 

 

悠介は「遅いぞ~ハゲ」と言う声を聞きながら、悠介は先ほど出会った葵冬馬の事を思い出していた。

あれは、燕と同じクセが強いタイプだ。

だからこそ思う。

 

 

(あいつと戦うのは、骨が折れそうだな)

 

 

自分とは全く違う知略(ちから)を持った少年、そして自分が苦手とするタイプ。

戦わないかもしれないとは思わない。

この場所にいる限り、戦わないと言う方が珍しいのだから。

 

 

(あっ!モモの所行くの忘れてた)

 

 

冬馬達の事を考えていた悠介は、結局昼休みに百代の場所にいく事を忘れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みの葵達とあいさつから時間は過ぎて放課後、悠介は百代に会いに行くために三年生のいる階に向かおうとしていた。

そんな悠介の耳に

 

 

「待ちなさい」

 

 

規律正しい凛とした声が届いた。声を聞いた悠介が立ち止まり、後方を振り返ると

 

 

「何か用か?」

 

 

赤い髪と眼帯を付け、軍服に身を包んだマルギッテが佇んでいた。

 

 

「ええ、用があるから引き留めたと知りなさい」

 

 

「まあ、そうだわな。それで要件は何だ?」

 

 

ちょうどSとFクラスの廊下でのやり取りの為、多くの生徒が二人の事に注目していた。しかし、二人ともそんな視線など気にせずに、お互いの目だけをじっと見ていた。

 

 

「では、単刀直入に言います。相楽悠介、私と戦いなさい。これは命令です」

 

 

マルギッテの宣言。それを聞いた悠介の表情が変化する、それは紛れもなく戦士のそれだ。

その変化を目の当たりしたマルギッテは、自身が判断が決して間違っていなかった事を再確認した。

 

 

「別に構わねえがよ、理由は何だ?俺とアンタには、接点はねえと思うだがよ」

 

 

「接点ならば、クリスお嬢様があると知りなさい」

 

 

「クリス・・ああ、お前がモモの言っていた、なかなかに強いって言う軍人か」

 

 

「ええ、私は強いです」

 

 

悠介の言葉を肯定するように頷いたマルギッテを見た悠介は、本当に自信家だと察した。

 

 

「と言う訳だが、構わねえか?ジジイ」

 

 

悠介がそう呟いたと同時に

 

 

「無論じゃ。互いに戦う意思があるのなら、止める理由などないからの」

 

 

悠介とマルギッテが向かう会う中間点に鉄心が出現し、悠介の問いに答えた。

因みに、鉄心が何処からともかく現れた事に対して、誰一人ツッコミを入れない。

 

 

「それでどうするんじゃ?受けるのか受けないのか、ハッキリと示して貰おうか」

 

 

鉄心からの最後の意思確認、それを聞いた悠介の口が弧を描き

 

 

「武人が売られた喧嘩から逃げる訳がねえだろが!!」

 

 

制服のポケットからワッペンを取り出し、地面に叩き付けた。

マルギッテもそれに続いて、自身のワッペンを悠介のワッペンに重ねた。

二人の決闘が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

二人が決闘をすると言う話は、瞬く間に学校中に広がり、多くのギャラリーたちが今か今かと待ちわびていた。

 

 

「それにしても転校してから連続で決闘とはな」

 

 

「ある意味凄いよね」

 

 

ギャラリーとして決闘を見に来ていた大和達風間ファミリー。その中で、大和がある種の感嘆の声をこぼした。

転校初日には武神である川神百代そして川神一子との決闘。その翌日には、クリスとの決闘、そして今日はマルギッテとの決闘だ。

モロの言う通り、如何に血気盛んな川神学園の生徒とはいえ、此処まで連続して決闘している生徒など稀だろう。

 

 

「クリはどっちが勝ちと思う?」

 

 

「う~ん、モモ先輩と打ち合った悠介が有利と思うが、マルさんもそう簡単にはやられないだろうし、なかなか読めないぞ」

 

 

悠介と戦った事のある二人は、どちらが勝つかを予想している。その表情は、二人の決闘がとても楽しみと言った感じだ。

 

 

そんな中悠介は静かにマルギッテを待っていた。

 

 

「マルギッテさん、敵は強敵です。くれぐれも油断の無い様に頑張って下さい」

 

 

「頑張れ~」

 

 

「ええ、そんな事は言われるまでもなく理解していると知りなさい」

 

 

「ええ、わかってはいますが、一応クラスの軍師として忠告しないといけませんので」

 

 

「葵君は、心配性じゃの。F組の野蛮な猿にマルギッテが負けるとは思えんがの」

 

 

「我にその雄姿を見せよ、マルギッテ!!我がこの目に納めてやる」

 

 

「そう言う事なので頑張って下さい(英雄様が応援して下さってんだ、負けたら殺すぞ)」

 

 

「言われるまでもありません」

 

 

 

クラスメイトの応援を受けてマルギッテは、悠介と相対すようにフィールドに立った。

二人が準備が出来た事を確認した鉄心が二人の中間あたりに立ち

 

 

「今から川神決闘の儀を始めるそれでは・・・

 

 

 

    始めッ!!」

 

 

開戦の合図を告げた。

鉄心が腕を振り下ろしたと同時に、二人は地面を蹴って駆けた。

 

「いくぜ」

 

 

「狩る」

 

 

互いに己の意思を口のこぼしながら、拳がトンファーが交差した。

ズゥン!と手に持ったトンファーから伝わる鈍い衝撃に顔をしかめながらも、即座にもう一方のトンファーで、悠介の脇腹を正確に打ち抜いた。

ズン!と鈍い音が響いた。間違いなく内臓に入った一撃、武人ですら息が止まり行動が制限される。いかに武神の攻撃に耐えたとはいえ、動きが止まるのは必然。それがマルギッテの考えだった。

しかし、悠介の誇り(タフさ)はマルギッテの予想を上回る。

 

 

「何だぁ?こんなもんじゃ、止まらねえぞッ!!」

 

 

脇腹にトンファーを叩きつけられた瞬間、悠介の左拳がマルギッテに直撃した。

苦悶の声を漏らしながら、数メートル後退したマルギッテに向かって、悠介は地面を蹴った。

 

 

「止まんなよl!」

 

 

「なめるなッ!!」

 

 

自身へ肉薄する悠介に向かってトンファーを持ち替え、リーチを長くして横凪の一閃を放った。

前方に重心が乗っている悠介では躱せない一撃、勿論悠介は躱せずに、ドゴン!と頭に直撃した。

しかし

 

「おらぁあッ!!」

 

 

悠介は止まらない。否、止まってやらない。

繰り出された拳。しかし、今回は空を切った。

トンファーから伝わった感覚は、間違いなく直撃だった。

しかし、マルギッテは即座に感じた悪寒に従い、その場を離れたのだ。

 

互いに五メートルほどの間を開けて、二人は一度間を取った。

 

「まさか、あの一撃まで耐えるとは、予想外もいいところです」

 

僅かな沈黙のち、マルギッテの口から発せられたのは素直な賞賛。基本的に相手を見下す彼女にしては珍しい言葉だった。

それは、彼女が本心から悠介を認めた証拠だった。

 

 

「伊達にガキの頃に地獄は見てねえよ。あれぐらいで倒れててら、俺は今頃生きていねよ」

 

マルギッテの言葉に若干顔色を青くした悠介が答えた。気のせいかその視線は、マルギッテではなく、鉄心の方に向けられていた。そしてなぜか、鉄心は悠介の方を見ようとしていない。

しかし、それもほんの僅かな時間だけ、次に見せた悠介の表情はさっきまでと真逆だった。

 

 

「それで、てめえは何時まで手を抜いてるつもりだ?」

 

 

発せられた悠介の声には、明らかな苛立ちが含まれていた。

 

 

「どう言う事ですか?」

 

 

「ぬかせよ。てめえの動きからは、抜きが見えた。ワザとって感じはなかったが、何か自分に制限を掛けてんだろ?」

 

 

悠介の言葉にマルギッテは答えない。彼女のしている眼帯が正にそうなのだから。

 

 

「なめられるのは、敗けるよりも嫌なんだよ」

 

 

そう発せられた悠介の声音には、言いようの無い必死さが感じられた。

悠介の言葉を聞いたマルギッテは静かに己を恥じた。

何故だかはわからない、しかし認めていたはずだ。なのに自分は、手を抜いたと思われても仕方がない事をしている。それは、間違いなく侮辱ではないか。

彼の戦いぶりを見て、純粋に戦いたいと思ったこの気持ちを・・・自分は

 

 

「素直に謝罪の言葉を述べます相楽悠介。すみませんでした。そして、これが正真正銘の私の全力です」

 

 

謝罪の言葉を口にした後、マルギッテは自らに課していた制限(眼帯)を外した。

纏う闘気が、より強烈にそして獰猛に変化する。

その姿を見た悠介もまた、拳を握り直して、マルギッテを視界に納めた。

 

 

さあ、此処からが正真正銘の本番だッ!!

 

 




大学受験と言う大きな問題が終わってからの更新、何時もよりもグダグダ感が満載のような気が・・・・・違和感とかおかしいと思ったところがあったら教えて下さい

因みに、マルさんは悠介のヒロインの一人?に考えています
どうなるかは、まだわかりませんが

良かったら、感想をお願いします


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悠介と猟犬 その2

今回悠介がなぜ、ステイシーらに弱く見られたかの理由が判明します
まあ、独自解釈ですし矛盾だらけだと思いますが・・・そのため違和感なりがあったら教えて下さい


悠介VSマルギッテ
その結末は?


最初あの男の事を知ったのは噂だった。

あの武神と打ち合って意識を保っていた。その事実を知った時私は、あの男に興味を持った。

そして幸運な事にその噂の真偽は直ぐにわかった。

相手はお嬢様の学友・・決して弱くはない。

だからこそ、その鱗片が見れると確信した。

 

結果からすれば、噂負けはしていなかった。

しかし、同時に違和感も感じた。自分が感じた強さと実際に見た強さに感じた違和感。

だが同時にあの拳に魅せられもした。無骨で洗礼とは対極な拳をなぜか美しいと思ってしまった。

 

そしてクリスお嬢様より聞かされたあの男の戦う理由。

それを聞いた時、自然と納得した。故に、戦いたいと思った。

その拳とぶつかってみたいと思えた。

一人の武人として、ただ真正面から挑みたいと思った。

 

そうしたらきっと、あの拳に魅せらてた理由が分かる気がしたから。

 

ああ、だから先ほどまでの自分を恥じよう。

自分が全力を出さないでわかる筈もないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明らかにさっきまでのマルギッテでは無い。

纏う雰囲気そのものが、人から獣へ変わっている。

それが、眼帯を外したマルギッテを見た悠介の率直な感想。

 

 

「(さてどうするか?)」

 

 

一瞬の思考。しかし浮かび上がる回答は、何時もと変わらない。

自分に許された回答など基本的に一つしかないのだから。『攻め』と言う選択肢しか自分にはないのだ。

悠介が攻撃の為に足に力を入れようとした時

 

 

「一つだけ聞かせては下さい」

 

 

「は?」

 

 

マルギッテの言葉が悠介の行動を止めさせた。

 

 

「貴方から感じる強さと実際の強さがかみ合っていない様に感じる。私達が感じる雰囲気は紛れもなく弱者のそれです。ですが、戦って感じるそれは決して弱者とは呼べない。最後に戦う前にそれだけは答えて貰います」

 

 

恐らくこの地で悠介を見た者達が抱いたであろう疑問。

その答えが知りたくてマルギッテは悠介に問うた。

マルギッテの問いを聞いた悠介は構えを解いて話始めた。

 

 

「たぶんそれは、気が関係してる筈だ」

 

 

「? どう言ういみです」

 

 

「こっからは俺の考えなんだけどよ。気ってのは使える使えないに関わらず、強くなるたびにある程度増えていくもんだと思うんだよな。そしてそれが相手の強さを感じ取る大半を担っている筈なんだわ。そしてそれは、気を使えない奴でも感じる事が出来る。此処まではいいか」

 

 

「ええ。特に疑問に思うところはありません。続けなさい」

 

 

一度確認を取った後、再び悠介が話始めた。

 

 

「まあ、そこから踏まえたりジジイ達から話を聞いて、俺なりにまとめた結果 俺は生まれつき気の総量を増やす事が出来ないって事になったんだわ」

 

 

「!!。それはつまり貴方は・・・」

 

 

「ああ、武人が壁を越えるためにも一線を越えるためにも必要な気が扱えないって事だわ。まあ、かなりの実力があれば俺の強さをある程度感じ取れるみたいけどな。それでも完璧ではないけどな」

 

 

悠介の言葉を聞いたマルギッテが、決闘を見に来ていた武人たち誰もが息を呑んだ。

そして誰もが思った感情は、憐れみに近かった。

しかし

 

 

「憐れむんじゃねえぞッ」

 

 

「!!?」

 

 

静かにしかしその声音に秘められた感情が、周りにいた全てを沈黙させ黙らせた。

その中でも平常を保っていたのは、川神鉄心 ルー・イー そして松永燕と川神百代のみだ。

 

 

「こっちはそんなモン、端からわかった上で挑んでんだよ。だからいらねえ。憐れみなんて絶対にいらねえんだよッ!!」

 

 

憐れみを受けるのは慣れている。でも自分を認めてくれた相手に同情を受けるのだけは我慢ならない。

 

 

「さて話事はもうねえだろ。さっさと・・」

 

     始めんぞ!!

 

 

拳を構えなおした悠介を見たマルギッテもまた、さっきまで感じていた憐れみの感情を振り払った。

いや、振り払わざる得なかった。目の前のいる悠介の瞳がそんな事を考えさせてはくれない。

 

 

「言葉はいらねえ。こっからは、拳で示すぜ」

 

 

言い終わると同時に悠介は地面を蹴り、マルギッテに肉薄した。

悠介から発せられた言葉を聞いたマルギッテもまた、今までの感情を捨てて迎え撃った。

再び悠介の拳とマルギッテのトンファーは交差した。

轟音をたてながらぶつかる二人。一瞬の硬直の後、吹き飛ばされたのはマルギッテだった。

 

 

「くぅ」

 

 

吹き飛ばされたマルギッテは、その場で軸足を中心に回転して、吹き飛ばされた勢いを突撃の為のエネルギーに変化して、悠介の元に駆けた。

 

 

「トンファーキック」

 

 

「シィ!!」

 

 

自身の加速した速度を乗せた蹴りと悠介の拳が互いの身体を打ち抜くが

 

 

「(チィ・・トンファーの方に意識が一瞬奪ばわれてキレと狙いが・・)」

 

 

悠介の拳は、マルギッテの叫んだ技名からトンファーを使う技だと推測してしまい

トンファーを持った腕を攻撃しようとしたが、それよりも早くに襲い掛かった衝撃のせいで体勢を崩した悠介の拳の威力は落ち、攻撃もトンファーで防がれた。

それでも、悠介に停滞はない。突き出した右足を軸にそのまま左の拳を突き出した。

 

 

「オラァッ!」

 

 

「読めている」

 

 

放たれた拳を前にマルギッテもまた、蹴り出した足を軸にしてトンファーを打ち出した。ドゴッ!互いの一撃がぶつかり合い鈍い音を辺りに響かせた。

 

 

「チィ」

 

 

悠介は防がれた事に舌打ちをこぼしながらも、後方に跳びながらマルギッテの顎目掛けて下から鋭く蹴りを放った。

しかし、マルギッテは最小限の動きでそれを躱し、空中にいる悠介に目掛けて

 

 

「Hasen Jagd]

 

 

正拳を打ち込んだ。

ドス!と鋭く迷いの無い一撃が悠介に直撃した。

 

 

「ッ!!なめんな!!」

 

 

 

僅かに息をつめた悠介だが、即座に着地したと同時に右拳をマルギッテに向けて放った。

マルギッテから受けたダメージなど全く感じさせない。

 

 

「なっ!」

 

 

自信があったからこそマルギッテは驚き避ける事が叶わず、ドン!と身体に鋭く深い衝撃が襲い掛かった。

息をする事すら難しい中でマルギッテの本能は、攻撃を選んだ。

攻撃によって後方に流れた身体で、鋭い蹴りを放ったのだ。

 

 

「やるぅ!!」

 

 

しかしそれでも悠介は止まらない。

既に拳を構えなおし、追撃の体勢に入っていた。

 

 

()めえだッ!!」

 

 

確信と共に放たれた拳がマルギッテに直撃した。

笑みをこぼした悠介だが、即座に驚愕に変わった。

この手ごたえは、全く違う。

 

悠介が感じたのは、堅く堅牢な木の手ごたえ。

そこから導き出せるのは、一つの解答のみ。

 

 

「まだ・・・敗けてはいない」

 

 

クロスしたトンファーが悠介の拳を受け止めていた。

そして、悠介の腕を中心に再びトンファーをクロスさせ、両側から同時に悠介の腕を打ち抜いた。

それと同時にマルギッテは体勢を整えて、下に落ちていた視線を前に戻した。

 

 

「な!・・バカな!!」

 

 

マルギッテの視界に映りこんだ光景は、彼女から驚きでない別の感情から生まれた言葉を無意識に発せさせた。

 

もうすでに構え終えていたのだ。自身の攻撃を受けてなお、痛がりもせず声も漏らさずに、再び打つ準備を終わらせていたのだ。

 

それは悠介からすれば当たり前の行動。ずっとそれだけに時間を掛けてきたのだ。

ほぼ無意識だと言ってもいいだろう。相手に自分の拳が届きうるその時まで、ただひたすらに構えて打ち込む。

届かない訳がない、たとえそうだとして必ず届かせる。それだけが『自分の武』なのだから。

 

既にマルギッテには、防御も回避の選択肢も取れずにいた。

何も出来ず、ただ悠介の行動を見ているしかなかった。

 

自身の脇腹まで引かれた拳が

 

 

「オラァッ!!」

 

 

悠介の咆哮と共に砲弾として放たれた。

 

 

「ガァッ!!」

 

 

うめき声を上げながらマルギッテの身体に、経験したことのない程の衝撃が貫いた。

薄れゆく意識の中で、マルギッテは確かに感じた。

 

長く鍛え磨かれ続けた余りにも無骨な拳から伝わる、確かな誇りを。

 

 

 

ドサと地面に横たわったマルギッテの姿を見た鉄心は、静かに手を上げ

 

 

 

「そこまで!!勝者 相楽悠介」

 

 

決闘の終わりを告げた。




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悠介とロリ

ずっと戦闘ばかりだったので、ちょっとした日常回です

本当は短くして、もう一つ加えるつもりだったんですが・・・題名でわかる通り彼の暴走のせいで、丸々一話を使う羽目に
加えるはずだった話は、連休中にでも更新出来たらなと思っています




マルギッテとの決闘の決着は悠介の勝利で終わった。

気絶したマルギッテも川神院の治療により、数十分でどうにか日常生活に支障がないレベルまで回復した。

そしてマルギッテは、悠介を見つけて一言『今度戦う時はもっと・・いえ何でもありません』と何かを伝えようとしたが、思いとどまり『次は私が勝つと知りなさい』 そう言って悠介の元を去った。

その時のマルギッテの表情は、何処か清々しいモノがあり、マルギッテの言葉を聞いた悠介も『ああ、次もぜってぇ敗けねえよ』と笑みを浮かべてマルギッテの言葉に返した。

 

 

そんな悠介とマルギッテの決闘の翌日 川神学園 放課後

 

「すいません、相楽君。私の仕事を手伝ってもらって」

 

 

「気にすんなって。こういう力仕事はアンタよりも俺向きだ。適材適所って奴だな」

 

 

現在悠介は、甘粕と共に大量のプリントを運搬していた。

なぜそうなったかと言うと、放課後一人で作業していた甘粕を見つけた悠介が自分も手伝うと言って手伝っていると言う、ただそれだけの理由だ。

 

 

「何時もアンタがこう言った仕事をしてんのか?」

 

 

「はい。私は皆よりもお姉さんなので、こういうのは率先してやるのがお姉さんの仕事です」

 

 

「なるほどねぇ」

 

 

悠介の素朴な疑問に甘粕は、笑顔を見せながら悠介の問いに答えた。その笑みを見た悠介は、彼女自身の『強さ』を再確認し口出す事を止めた。

恐らく何を言っても無駄だろう。甘粕真与と言う少女はきっと譲らない、自分と同じように・・・だからこそ

 

 

「何かあったら頼れよな。年下には年上を手伝う義務ってのがあるんだからな」

 

 

助けよう。それぐらいならば、自分にも出来る筈だから。

悠介の言葉を聞いた甘粕は、一瞬呆けたような顔をしたのち、クスっと声を漏らし

 

 

「そうですね。たまには皆にも手伝ってもらわないといけませんね」

 

 

「ああ、その方が良いと思うぜ」

 

 

そう言って笑い合う二人は、本当に何処にいる兄妹の様だ。

     ゾクッ!!

 

 

「!!?」

 

 

「? どうしたんですか?」

 

 

突然、勢いよく後方を振り向いた悠介に疑問を持った甘粕が声を掛けたが、悠介は何も答えない。

 

 

「誰だ?」

 

 

後方に視線を移した悠介が発した言葉。その声音は、低く威圧感が含まれていた。

自身に向けられた負の感情。それを向けている存在に優しく出る必要などない。

悠介の言葉に反応して出てきたのは

 

 

「井上?」

 

 

つい最近出会った井上準だった。

その後ろには、冬馬と小雪もいる。しかし、その表情は何処か呆れ気味だ。

二人の表情に疑問を持った悠介だ。そんな悠介に準はゆっくりと近づいて

 

 

「同士よ!!」

 

 

バシッ!と勢いよく悠介の手を掴んだ。

 

 

「は?」

 

 

急に手を握られた悠介は、持っていたプリントを地面に落してしまった。

しかし、今の悠介にはそれを気にする余裕はない。

準は悠介が呆気にとられている事など一切気にせずに

 

 

「やはり俺の目に狂いはなかった!!お前も俺と同じ人種だと、何よりも今のその状況こそがその証!!なれば、俺とお前が望む桃源郷(りそう)も同じ!!先日の件と言い俺にはわかるぞお前の力の源が、俺と同じ物だと言う事が!!」

 

 

矢継ぎ早に己の想いを告げていった。

悠介は、余りの早口やら呆気やらでまともに思考が働いていないのか、呆気に取られ過ぎて身動き一つ出来ていない。

そして準は、早口そのままに

 

 

「間違いなく、お前はロリコン(同士)だ!!」

 

 

「はあッ!!」

 

 

己の本質(ほんしょう)を告げた。

思考を漸く取り戻してきた時に告げられた衝撃の言葉に、珍しく気の抜けた年相応の声を上げた。

それと同時に後ろに控えていた冬馬に助けを求めるが、笑顔で手を振るだけで助ける気は全くないらしい。むしろ『諦めてください』と目が言っている。

 

 

(なら榊原の奴は…っていねぇ!!)

 

 

ならばと思った悠介が小雪に助けを求めようとするが、その姿は何処にもなく、次いで甘粕の姿と落ちていたはずのプリントが消えている事から、小雪が甘粕を連れて職員室に向かったと悟った。イコール助けは期待できない。

そんな悠介の苦労など気にも留めずに準は話し続ける。

 

 

「おお!!そんなにも同士(おれ)がいたことが驚きか?安心しろ俺もだ!!だが、俺とお前ならば作れるはずだ!!いざ、理想のロリコニアの為に紋様に仕えようじゃないか!!あっ!でも、YES,NOタッチロリータは弁えろよな。お前が委員長を撫でている所を見た時は、俺の中の修羅が目を覚ましそうになったぜ!!って言うか、羨ましいので是非幼女の警戒心を解いて頭を撫でれる技術(わざ)を教えてくれ!ブラ・・ブオォ!!」

 

 

準が全てを言い終える間際、悠介の拳が準に打ち込まれ、準はドサと地面に倒れた。

本来ならば許されない行為の筈だが、悠介の本能がこうしなければならないと強く訴えた結果である。

地面に倒れた準を視界に納めた後、悠介は後ろでクスクスと笑っていた冬馬に視線を移し

 

 

「おい、葵。もしかしなくてもだけどよ、井上って」

 

 

一応の確認のセリフを述べようとするが、それよりも早く

 

 

「ええ、準は・・」

 

 

「ロリコンなのだ~」

 

 

冬馬といつの間にか戻ってきた小雪が事実を告げた。

 

 

「さいですか」

 

 

自身の予測が正解だったことを知り、ひどい疲労感に襲われた。

むしろ、あの状況で間違える方が珍しいが・・・

 

 

「ハゲ~起きろ~」

 

 

「ゴハァ!!」

 

 

小雪は未だ気絶している準を蹴飛ばした。苦悶の声と共に準の意識が無理やり覚醒させられる。

その小雪の蹴りを見た悠介は、即座に小雪の強さを察した。間違いなく強い。それが悠介が抱いた素直な感想だった。しかし、同時にそれだけだった。別段戦いたいとは思わなかった。きっと、井上のせいで疲れてんだなと悠介は勝手に納得させた。

 

意識を取り戻した準は

 

 

「若、つい先ほどまでの記憶が無いんだが、何でか知らないか?」

 

 

己の記憶の不振を問うた。

 

 

「恐らく興奮して理性が飛んだ状態で気絶した為、脳が何も記録していないんでしょう」

 

 

「興奮?」

 

 

「うん。凄く興奮してたよハゲ~。頭から、血が飛び出て赤い髪を作るぐらい」

 

 

冬馬と小雪の二人は、準をある種催眠していた。

先ほどのやり取りをなかったと事にするつもりだ。最も、悠介自身もその方が都合が良いので何も言わずに黙っていた。

 

 

「そうか。相楽、悪かったな。俺のせいで迷惑かけてみたいですまん」

 

 

「別に気にすんなって(性格は悪くねえのに・・・本性が勿体なさすぎるだろ、おい)」

 

 

先ほどまでとの落差に驚きながらも、どうにか平静を保って話せた悠介。

 

 

「それで準。悠介君に聞きたい事があるんじゃないんですか?」

 

 

 

「え!聞きたい事だと?」

 

 

冬馬の言葉を聞いた悠介に悪寒が奔った。思い起こすは、先ほどの会話。

井上は何と言っていた?

 

 

「ああ!!そうだったぜ」

 

 

冬馬の言葉で当初の目的を思い出した準は、悠介の目を真っ直ぐ見ながら

 

 

「頼む!!どうすれば、委員長の事を撫でれるのか・・・その秘訣を教えてくれ!!」

 

 

(さっきと、何も変わってねえじゃなねえか!!)

 

 

準の願いを聞いた悠介は叫びそうになるのをどうにか抑え込んだ。

そんな事よりも、どうにかしてこの場を納めなければならない。

下手な答えは、今後も尾を引きかねない。

ならば、最初に言わねばならない事は

 

 

「まず先に言っておくぞ、俺はロリコンじゃねえからな」

 

 

 

「なに!あれ程委員長を愛おしそうに撫でていたと言うのにかッ!!」

 

 

「あれは・・・何て言うか、頑張ってるから応援したくなるとかそう言う感じだ」

 

 

準の勘違いを正す事だった。

悠介の言葉を聞いた準は『そうか。未だに無自覚か』と納得していない様な様子だったので悠介は説得を諦め

 

 

(燕に頼むか・・・)

 

 

最終兵器を使う事を決断した。後日、井上準は燕に呼び出され、それはそれは素晴らしい笑みで説得され、悠介が違う事を語られ納得したと言う。

 

 

「それよりもだ。ならば、手段だけでも教えてくれ!!」

 

 

「・・・・」

 

 

準の問いに悠介は答えない。いや、答えられない。

だって、方法など無いのだ。ただ、気が付いたら撫でていたのだ。

しかし、そんな事を言って納得する訳もなく、しばし長考し

 

 

(今度こそ助けろ!!)

 

 

考える事を放棄し、後ろいる準の友達(かぞく)になげうった。

悠介の言葉を組んだ冬馬は、笑みを浮かべ『任せてください』と悠介に返した。

 

 

「準。よく考えてください」

 

 

「何をだよ、若?」

 

 

「悠介君が、委員長さんの頭を撫でれたかですよ。恐らくは信頼が関係しているんでしょう」

 

 

「信頼だと!!」

 

 

冬馬の言葉に雷を受けたかのような反応を示す準。

 

 

「ええ。悠介君は、何度も手伝いなどで委員長さんからの信頼を得ました。だからこそ、委員長さんは悠介君の手を払う事も嫌がる事もなかったのではないのでしょうか?」

 

 

「なるほど。流石は若だぜ!!ならば・・」

 

 

「ええ。委員長さんと仲を良くしていくべきですね」

 

 

「おお!!こうしちゃいられねえぜ!!待っててくれ、委員長ーーー!!」

 

 

雄叫びを上げながらその場を去っていった準を唖然と見送った悠介に

 

 

「今回はうちの準が迷惑をかけた様ですいません」

 

 

「ごめんなのだ~。はい、お詫びのマシュマロ」

 

 

「まあ、気にすんな。人の個性だしよ、あれこれ言う気はねえよ」

 

 

「そう言って貰えて助かります。では、またの機会で。ユキ行きますよ」

 

 

「ほぉーい。じゃーねー」

 

 

二人の姿が見えなくなった後、悠介は小雪から貰ったマシュマロを口に含んだ。

 

 

「何か、何時もの倍以上疲れたぜ」

 

 

口に広がる甘さが何故か心地よかった。

 

 

「はあ」

 

 

何故だかはわからない。しかし、ひどく疲れた。

 

 

「・・・どっかでだらけれる場所を探して寝るか」

 

 

そう言って悠介は、だらけるのに良さそうな場所を目指して歩き出した。

 




違和感あったら教えて下さい
何か、自分でも途中から何が何だか分からなくなってきていたので・・

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悠介とだらけ部

はい、タイトルでわかる通りです
上手くこの部活を描けるかわかりませんが、全力で書きました。

違和感とかあったら教えて下さい


井上準の驚愕の本性を知った悠介は、気怠そうにしながら廊下を歩いていた。

 

 

「さてっと、俺の経験から行くと・・・この辺りに在りそうなんだけどな」

 

 

一度止まって辺りを見渡しながらそう呟いた。

天神館時代にうるさい保護者(つばめ)から、身を隠せそうな場所を探しては見つかりを繰り返してきたのだ。

その為、そう言う場所を探す嗅覚を持っていると言う、なんとも言えない自負があった。

 

 

「ふう。いや、ちげえか。もっと昔に教わったんだよな(・・・・・・・・)、サボり方は」

 

 

思い起こすは、まだ自分が川神院で修行を付けて貰っていた頃の記憶。

自分を痛めつけてくれた男が自分に教えてくれた、およそ教え導く者とは思えないそう言った事から逃げるための方法。

 

 

(なんで思い出してんのかね)

 

 

痛めつけられたり、苦汁をなめた記憶が多いはずだ。だからだろうか、何気ない日常の風景が一番記憶に残っているのは・・・・

 

 

(って、なんでこんなしみったれた気持ちになってるんだよ!!)

 

 

湧き上がってきた感情を振り払った悠介は

 

 

「お!あそこは結構いいんじゃねえか?」

 

 

自分の嗅覚に従い一つの教室を目指して歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

悠介がいる階にある一室

 

 

「な~お前達。どうしたら、真剣に小島先生とお付き合いできるかね」

 

 

「まだ諦めてないんですか?」

 

 

「ある意味尊敬するよ。ホント」

 

 

将棋を打ちながら零れた切実な問いを聞いた大和と弁慶は、呆れ八割尊敬二割と言った声で、その問いに対する率直な感想を口に出した。

 

 

「いやいや。諦めない限り可能性はあると思うだよね、オジサンは。ほら、何処かの名家監督も『諦めたらそこで、試合終了ですよ』って言ってたじゃん?」

 

 

「それはあくまでもフィクションの世界ですよ。それと王手」

 

 

「な!いや、待て。諦めなければきっと、希望の光明が・・・・・見えないのね」

 

 

しばしの将棋盤を睨んでいた男は、深くため息を吐きながら投了した。

 

 

「それにしてもさ、小島先生の所に新しく入った相楽って奴は、どうなのよ?やっぱり噂に違わぬ不良か?だったら、オジサン頑張って更生せて小島先生の評価を上げようと考えてるんだけど」

 

 

「言ってる事はカッコいいんだけど、理由が不純すぎるね」

 

 

そろそろ加齢臭を感じさせそうで、まるで駄目なおっさん 宇佐美巨人の言葉に弁慶は、川神水を飲みながら答えた。

宇佐美の言葉に大和は一瞬考える様な素振りを見せた後

 

 

「いや、俺も噂を調べてみたけど、そのほとんどが尾ひれのつた物だよ。授業態度はFクラスの中では上位に入るし」

 

 

「マジですか」

 

 

噂を否定した。その事を知った宇佐美は、軽く落胆の声を上げたが、その表情は何処かホッとしている。やはり、彼も一人の教師の様だ。

 

 

「さっきから言ってる噂ってのは?」

 

 

「ああ。相楽の奴が前の学校(天神館)や京都で起こした事件とかだよ。気に入らない教師を半殺しにしたとか、無銭飲食の常習犯だとか、辺りにいる不良を全員病院送りにしたとか、凶悪な噂ばっかり」

 

 

「なるほどね~」

 

 

大和から話を聞いた弁慶は納得の声を上げた。

まあ、納得は出来る。顔は悪人面だし、口調は悪くないとも言えない。

今朝も武神に変わって、彼女に挑みに来た不良を全員倒していた。

その時も不良達と盛大に口喧嘩もしていた。

それだけ聞くならば、その噂も信じてしまうだろうが、弁慶自身はそうは思わなかった。

理由ならわかっている。川神一子とクリスティアーネ・フリードリッヒそしてマルギッテ・エーベルバッハとの決闘を見たからだろうと思っていた。

決して綺麗とは言えない拳だった、けれどもその拳を言葉を聞いて

 

 

(驚く事に、この私が素直に尊敬の念を抱いたんだもんね)

 

 

それと同時に、何か別の感情も抱いたが、それが何なのかは彼女自身理解できていなかった。

川神水を飲んでいた弁慶がある事に気がついた。

 

 

「どうしたのよ?」

 

 

「此処に誰かが近づいてきてるね」

 

 

「何だ、ならほっておけよ。こんな空き部屋に用がある様な奴はそうはいないだろ?」

 

 

「それもそうだね」

 

 

宇佐美の言葉に弁慶が同意した瞬間、ガララと扉が開き

 

 

「何だぁ?。先客がいたのかよ」

 

 

先ほどまで話題の人物だった 相楽悠介が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠介が扉を開けると同時に視界に映りこんだのは、三人の姿だった。

それを見た悠介が感じたのは、残念と言った感情だった。

悠介自身は、誰にも邪魔される事無く一人でのんびりと惰眠を貪ろうと考えていたのだ。しかし他のメンバーがいたのではそれは出来ない。

 

 

(仕方ねえか)

 

 

他の場所に向か気になれない悠介は

 

 

「わりぃんだけどよ、少しだけ場所を貸してくれねえか?」

 

 

許可を貰い場所を貸して貰い、そこで寝る事を選んだ。

多少は視線を向けられるだろうが、多少ならば我慢できない事もない。

 

 

「使いたいならさ。せめて何の為に使うかを言うのは、礼儀じゃない?」

 

 

「ああ!確かにそうだな。えーっと」

 

 

「弁慶。武蔵坊弁慶だよ。一応武士道プランの一人だよ。よろしく」

 

 

「そうかい。何、ただ少し昼寝をする場所を貸してほしいんだよ。今も眠気が襲ってきてしょうがねえ」

 

 

自身が明かした正体にもさして反応を見せなかった事に若干驚きを感じた弁慶だが、悠介の言葉を聞いて笑みを浮かべた。

 

 

「先生。どうやら、入部希望者の様だよ。私が推薦するよ」

 

 

「おいおいマジですか」

 

 

「まあ、試すぐらいいいじゃない」

 

 

弁慶の言葉を聞いた宇佐美は、やれやれと言いながら悠介に近づいた。

一方の悠介は、全く話について行けず、ハテナマークを頭の上に浮かべていた。

 

 

「なあ、直江。一体どう言う事だ?」

 

 

「まあ、直ぐにわかるよ」

 

 

大和は悠介の問いに簡単に答えた。

 

 

「それじゃあ、相楽。ちょっとした質問をするから答えてくれるか?」

 

 

「いいけどよ。あんたは確か、ジジイの部屋にいた」

 

 

「ああ、二年S組担任の宇佐美巨人だ。宇佐美代行屋と言う仕事もやってるから、困った事があったら、何でも言ってね。オジサンお金次第じゃ頑張っちゃうよ」

 

 

「金はとるんだな」

 

 

「勿論。現実の厳しさを教えるのも、オジサンの仕事さ」

 

 

「まあ、納得だわ。ある意味だけどよ。それで、何の為の質問だよ」

 

 

ある程度自己紹介を終えた悠介は、ずっと疑問に思っていた事を問うた。

 

 

「それは、お前さんがだらけ部に入部できる人材かどうかを計る質問さ」

 

 

「だらけ部?」

 

 

「そう。特に何をする訳もなく、ダラダラと時間を過ごそうと言う部活」

 

 

「あ、勿論非公式の部活な」

 

 

宇佐美と大和の説明を聞いた悠介は、漸く納得した表情を見せ「ジジイの学校らしいぜ」と呟いた。

そして

 

 

「おもしれえ。良いぜ、受けてやるよ」

 

 

承諾の意を伝えた。

 

 

「了解。それなら質問だ。お前は雪山にみんなで旅行に来た。自由時間、目の前にはウィンタースポーツに最適な雪山。さあ、どうする?」

 

 

宇佐美の質問に対して悠介は間髪入れずに答えた。

 

 

「そうだな。まあ、真っ先に思いつくのは雪山での鍛錬だよな。雪山で修行とかやった事ねえからな、どうなるか楽しみだぜ」

 

 

悠介の言葉を聞いた宇佐美と大和は、これは無理だと判断し、不合格を告げようとしたが

 

 

「でもまあ、鍛錬を抜きにして考えたなら、とりあえず温泉にでも浸かってのんびりしたあと、部屋で飯が来るまで昼寝だな。そんで終わったら、また温泉に入ってまた飯が来るまで寝ての繰り返しだな、たぶん」

 

 

次に語られたのは、紛れもなく合格と言えるだけのだらけぶりだ。

ある意味異例とも言える答えを聞いた二人は、どんな決断をするべきか暫らく考え始めた。

 

 

「まあ、異例な答えだが・・・確かにこの部に入部するだけの素質もある。合格だ」

 

 

しばしの間を開けた宇佐美が、悠介の入部を認めた。

 

 

「おし!!それじゃあ、早速その辺借りるぜ」

 

 

合格と知った悠介は、眠る為に横になろうとしたが

 

 

「ちょっと待ちなよ。新入部員は、先輩に酌をする義務があるよ」

 

 

「うおっ!」

 

 

弁慶が横になろうとした悠介の首を掴んで、自分の方に引き寄せた。

急に引き寄せられた悠介は驚きの声を上げた。

悠介は「何すんだ」と弁慶を睨み付けたが、当の本人は気にした様子もなく

 

 

「ほら、早く早くぅ」

 

 

悠介に酌を急がせた。

弁慶の頬は赤く染まっていた。その姿を見た悠介は、何を言っても無駄だと判断した。

こう言う状況は、久信のお蔭で慣れていた。

 

 

「ほらよ」

 

 

「うんうん」

 

 

弁慶から川神水を受け取り、弁慶の持つ癪に注いでいった。その姿を見た弁慶は、満足そうに頷きながら注がれた川神水を飲んでいた。

完全に出来上がっている弁慶。最早、会話を聞く耳など持たないのは明白だ。

しかも、どう言う訳か悠介を捕まえている腕の力が上がっており、さっきから脱出しようと試みているが、全く動かない。

何気に胸を押し付けられており、息苦しいのもつらい。

 

 

「おい、弁慶。そろそろ離せよ!!」

 

 

体勢も悪く自力では脱出は無理と察した悠介は、ダメもとで弁慶の訴えるが

 

 

「ほら、悠介。私がアンタに飲ませてあげるよ」

 

 

今度は悠介に川神水を飲ませようとしている。

悠介は、宇佐美と大和に助けを求めるが、二人は二人でだらけに入っており助けを期待できない。それは当然だ。此処にいるのは、めんどくさい事を嫌うメンツが揃っているのだ。そのメンバーが、弁慶から悠介を剥がさせるなど言う労力を使うモノを率先してやる訳がない。

この場所に来た時点で、悠介も休む気満々だったので、余り力が出ない。

ならばと、悠介は抗う事を止めて弁慶の思うがままにする事に決めた。

 

 

「ありがとよ」

 

 

川神水を飲み終えた悠介に満足したのか弁慶の笑みを浮かべた。

そしてそのまま

 

 

「よいしょお~」

 

 

「あだ!!」

 

 

横たわった。勢いがあった為に、悠介は勢いよく床に叩き付けられた。

 

 

(マジでヤバイ!!酔っぱらった久信さんとマジで同じノリだ!!)

 

 

ある種酔っぱらいの恐ろしさを知っている悠介は、ノンアルコール飲料でありながらも場の雰囲気で酔える飲み物で、此処まで再現できるのかと驚いた。

 

 

「おうおう。見せつけてくれるね~」

 

 

「ほんとですね、先生。もう付き合っちゃえば?結構、優良物件でしょ?」

 

 

悠介と弁慶のやり取りを見ていた大和と宇佐美の二人は、そんな茶々を入れる。

 

 

「出来れば、助けてくれよ」

 

 

「いやいや、男冥利に尽きる状態なのに何助けを求めてんのよ。むしろ自慢するところよ?」

 

 

悠介の助けに対して、宇佐美は更に茶々を入れる。

 

 

「いや、ただめんどくせえ酔っぱらいに絡まれている気分だよ」

 

 

宇佐美の茶々に悠介は、疲れた様に呟いた。

疲れをとる為に来た筈なのに、なぜむしろ疲れないといけないのだ。

 

 

「うん?お前さん、そう言った事に興味ないのか?」

 

 

「まあ、そうだな」

 

 

宇佐美の発言に悠介は、同意の言葉を発した。

 

 

「なんでだよ?」

 

 

悠介の発言に横やりを入れたのは大和だった。

心なしかその表情は、必死さを窺わせていた。

大和の問いに悠介は答えていく。

 

 

「自慢になるかもしれないけどよ、俺の周りって結構美少女?って奴が多いんだわ。モモに燕とかな」

 

 

「おお、それは確かに自慢だな」

 

 

「そんな奴らと小せえ時から、一緒にいるからな。ある意味馴れたって感じな。だから今一そう言った恋愛感情(モン)わかんねえし・・・何より」

 

 

そこで一度言葉を切って

 

 

「そんなモノよりも、優先させたいものがある。何をおいても優先させたいものが。それを成すまでは、きっと俺はそう言ったモノに興味が出ないと思うんだよな」

 

 

「なるほど。恋愛に浮つくよりも、大切なモノがお前さんにはあるのね。かっ~青春だね」

 

 

悠介の言葉に宇佐美は、かつてを思い出しかの様な声で感想を呟き、大和は何処か安心した様な表情を見せた。

 

 

「まあ、母さんからは、精神が早熟し過ぎって言われてるから、それも関係あるんじゃね?自分じゃ、どうにも言えねえけどよ」

 

 

そう言いながら悠介は、知らぬ間に眠ってしまった弁慶の拘束を脱し、自然と弁慶の頭を撫でていた。クセッ毛だが、優しくなでる姿は、本当に兄の様だ。

弁慶も気持ちよさそうな声を上げている。

 

 

「確かに、その表情は手のかかる妹を見る兄の目だわ」

 

 

「だろ。よく言われるぜ」

 

 

納得したように呟いた宇佐美の言葉を聞いた悠介は、弁慶から少し離れた場所に横になり、ゆっくりと目をつぶった。

それを見た二人も、ゆっくりと床に寝転がり目を閉じた。

 

数分後、四つの寝息が教室に奏でられた。

 

結局四人は、完全下校の時間まで惰眠を貪った。




え~っと、何となく想像がついてるかもしれませんが、弁慶もヒロイン?候補です
マルギッテと同じでどうなるかはわかりませんが

次回は、燕と悠介のデートの話を書こうと思っています

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悠介とお出かけ

現状での悠介の強さですが、壁が存在する位置にいます。
たぶんですが、眼帯を外したマルギッテや真剣でない弁慶たちと同じレベルです。
しかし、相性などで変化するので一概には言えません。
マルギッテとの戦闘も、もしも小技などを使われたら、悠介は苦戦必至です。

さて、前回も予告した通り燕とのデート界のつもりです
皆さんが満足できるとかどうかわかりませんが、自分なりに頑張って恋するを描いてみました。

楽しんでくれたら嬉しいです


悠介と燕が、川神学園に転校してから初めての土曜日。良く晴れていて、外で行動するには絶好の日だ。

川神院へと向かう途中にある「仲見世通り」数多くの川神市の特産品が売られている場所だ。

そんな華やかな場所でも一際目立つ少女がいた。道行く男達が、少女の姿を二度見する。誰もが、少女とお近づきになりたいと思い声を掛けようとするが、その後ろを歩く恐ろしく悪人面の少年を見て足を止めた。その少年の目が伝えていた『近づくな』と、その目に怯えた男達は、その少女を遠目に眺めるしかなかった。

しかし、男達の視線を集める少女松永燕は、そんな目線など歯牙にもかけずに、自分の少し後ろを歩く少年相楽悠介に向かって話しかけた。

 

 

「わあ~本当に色んなものがあるんだね」

 

 

「まあ、此処は昔から品揃いは豊富だったからな。川神院に続く道に在るからな、観光客が多く来る場所でもあるからじゃねえか?」

 

 

「なるほどなるほど。此処で、松永納豆を売ってくれそうな場所はないかな?」

 

 

「商売魂強すぎるだろ」

 

 

燕の呟きに、悠介は呆れ半分と言った声と共に燕の頭を叩いた。

ポコンと頭を叩かれた燕は、視線を逸らしながら「冗談だよ~」と呟いたが、決して自分と目線を合わせようとしない事から、冗談ではないと簡単に予想できた。

 

 

「で、この後はどうすんだよ。これで終わりなら、俺は山に行って修行してえ」

 

 

「絶対ダメ!!今日一日私と一緒に買い物するって約束でしょ!!」

 

 

「・・・了解」

 

 

疲れた様に呟いた悠介の提案を、問答無用に却下した燕の言葉に、悠介は諦めた様に頷いた。

事の始まりは、いつぞやの久信の覗きが原因である。その時、久信を止めれなかった悠介もまた、罰として燕と一日一緒に買い物すると言うモノだ。それのお蔭で悠介は、朝から謎に駅前から待ち合わせをしてから、燕の買い物と観光に付き合っているのである。

 

 

 

「小腹もすいた事だし、何処かで甘い物でも食べようか」

 

 

「まあ、確かにそんな時間だわな」

 

 

燕の提案に腹を撫でながら悠介が同意した。そして、辺りを見渡した悠介は、一つのお店が見つけ、その方へ向かって歩き始めた。その後を燕が文句を言いながら、追うように歩き出した。悠介の右一歩後ろから文句を言う燕だが、その表情はとても不満そうには見えず、むしろとても可愛らしい笑みで彩られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠介がお店に入ると

 

 

「いらっしゃいませってあれー?もしかして、ゆうっち?」

 

 

案内をしに来た店員が、意外そうな声を上げた。その声に反応して、視線を店員に写した悠介の目に

 

 

「確か・・同じクラスの小笠原だっけか?こんな所で何してんだ?バイトか?」

 

 

クラスメイトである小笠原千花の姿があった。学校では、今時と言える姿ばかりを見せていた彼女の少し違った姿に、悠介は少し驚いた様な表情を見せた。

 

 

「あー違う違う。此処って私の家なのよ。そんでそこのお手伝いって訳」

 

 

「へえ」

 

 

「やっぱり意外?」

 

 

「まあ、そうだが。別段、悪くは思わねえな。むしろ見直した」

 

 

「そっか。それで、何名様?」

 

 

「二名だ」

 

 

悠介がそう答えると同時に

 

 

「もお~悠介君は、もう少し女の子を待つべきだよ!!」

 

 

燕も店に入ってきた。燕の姿を見た千花は、若干驚いた表情を見せた後、ニヤニヤとした笑みを浮かべた後、悠介と燕を席に案内した。

その姿を見た悠介は、千花がとてつもない勘違いをしていると察して、頬を引きつらせた。

 

 

「今の子って、もしかして悠介君と同じクラス?」

 

 

「ああ、めんどくせえ勘違いをしたな」

 

 

「それってどう言う事?」

 

 

燕が悠介に尋ねるよりも早く

 

 

「ご注文をお持ちしました。それにしても、ゆうっちも隅に置けないな~。まさか、納豆小町をゲットしてるなんてさ」

 

 

千花が料理の一覧を持って来ると悠介に向かってそう言い放った。

それだけで、全てを理解した燕の頬が赤く染まった。

しかし、その変化を知ってか知らずか、悠介はさも当然のように言い返した。

 

 

「ただのダチだよ。お前が思って様な関係じゃねえ」

 

 

「む~」

 

 

「なるほどね~。ゆうっちも、そっち系のタイプなんだ」

 

 

悠介の発言を聞いた燕が、ジト目で悠介を睨み付けた。最も悠介は、その目線を受けても全く動じていない。その姿を見た千花は、全てを悟った様にそう呟いた。

 

 

「とりあえず俺は、久寿餅と抹茶わらび餅四人前頼むわ。燕はどうすんだ?」

 

 

「う~んそうだね。この和菓子パフェを頼もうかな」

 

 

「承りました。暫らくお待ちください」

 

 

注文を聞いた千花は、礼儀正しくその場から去った。

その間二人は、他愛もない話をして時間を潰し。最も燕が一方的に話しかけ、それを悠介がめんどくさそうに無視し、燕がそこに怒ると言った感じで、ある意味二人にとってはありふれた光景だ。

 

 

「はい、お待たせいたしました」

 

 

「おぉ!予想以上の完成度」

 

 

「えへへ。まあ、うちの自慢の品なんで、ゆっくり味わって下さいね」

 

 

「勿論だよ」

 

 

目の前に出されたパフェの完成度の高さに目を輝かせる燕。その姿を見た悠介は、やっぱりそう言ったところは、年頃の少女なんだと思いながら、自分の頼んだわらび餅を口に運んだ。

 

 

「うん~やっぱり甘い物はいいね~」

 

 

「そうだな。取り敢えず、その手に持った納豆は直せよな」

 

 

「む~」

 

 

「ダメなもんだダメだろ」

 

 

「・・・わかったよ」

 

 

悠介の目により交渉の末、渋々と言った感じで諦めた燕。その姿を確認した悠介はそっと胸をなでおろした。流石に納豆まみれの和菓子を食べる気にはなれない。

 

 

「ふふ」

 

 

「あん?どうしたんだよ燕?」

 

 

互いに注文した品を食べている途中で、ふと燕が笑った。急な笑みに悠介が、どうかしたかと問う。

 

 

「何か久しぶりだなって思ったんだよね。こうして悠介君と、二人でのんびりと会話するのも何かを食べるのもと思ってね。最近悠介君、修行ばっかで相手してくれなかったから・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

嬉しそうに少し悲しそうな表情を見せた燕に、悠介はバツの悪そうな表情をしながら視線を逸らした。何というか、今の燕の顔を直視できなかったのである。

しばしの気まずい沈黙。それを破ったのは、悠介だった。

 

 

「悪かった」

 

 

「え!ちょ、悠介君」

 

 

突然頭を机に叩き付けて謝罪の言葉を口にした。燕は、謝罪の意味が分からずに狼狽える。燕が戸惑うのも当然だ。燕がふと漏らした想いは、ある種の嫉妬だ。

自分自身でも理解しているつもりだ。悠介が、今回の件にどれだけの想いで臨んでいるのかを・・・。八年・・いや、下手をしたらもっと長い時間、相楽悠介が追い求めたモノが手に入るかもしれない。それは、同じ武人である自分にも感じ取れた。

 

本当ならば、自分は応援すべきだ。でも、その理解に感情が付いてくるかと言われれば、燕はNOとしか言えなった。

『もっと彼と一緒にいたい』『そんな夢よりも私を選んで』どれだけ押さえつけても、湧き上がって来るこの感情。むしろ押さえつけようとすれば、するほどに湧き上がって来る。

 

そして燕を焦らせる更なる要因があった。それは、ライバルの登場だった。

悠介自身は、武に打ち切んでいて自覚がないが、悪人面のせいで恐く見られがちな顔だが、よく見れば中の上ぐらいの顔つきだ。イケメンと呼べるかどうかは、その人次第だが、間違いなくカッコいいと思う人もいるだろう。

更に困った事に、悠介は強い女子に気にいられる節があった。

 

理由など決まっている。悠介の生き方にその繰り出す拳に魅せられてしまうのだ。

その飾らない生き方に、ただひた向きに進むその強さに魅せられるのだ。

そしてそれが尊敬へと変わり、次第にそばに居たいと願ってしまう。

自分がそうなのだから。

 

 

(ほんと、誰にも渡したくないんだよね。この場所だけは)

 

 

燕がそう思っている事など、構わずに悠介は話し続けた。

 

 

「母さんともミサゴさんとの約束だ。お前を悲しませないって約束した。でも、約束を破っちまった」

 

 

そう話す悠介の表情は、本当に申し訳なさそうだ。

その言葉を聞いた燕は、申し訳ないと言う気持ちと同時に嬉しい気持ちが立ち上った。

このままの空気はいけないと思った燕が、先ほどとは打って変わって元気よく話始めた。

 

 

「いやー、それにしても悠介君が、そんな事を気にしてただなんて驚きだよ!!」

 

 

燕の言葉を聞いた悠介は、バツが悪そうに顔を逸らしながら

 

 

「何つうか、お前には・・・その、笑顔でいて欲しいんだよ」

 

 

「え?」

 

 

何時もの彼とは思えない程小さな声で発せられた。悠介の言葉を聞いた燕また思考を一旦放棄した。そして悠介の言葉を何度も脳内でリピートしてしまった。

時間にして数秒、時が戻った様に燕の表情が急激に赤く染まった。

 

 

「え・・あっ!。え?」

 

 

「あ~~~」

 

 

燕は未だに言語能力が戻らず、悠介は深い深いため息をこぼした。どちらも恥ずかしがっているのは明白だ。

しばらくの間、二人は先ほどとは違う沈黙に支配された。

 

 

「漸く落ち着いたかよ」

 

 

「うん。まあ、どうにかね」

 

 

一足先に冷静になった悠介のお蔭もあり、どうにか冷静になった燕は、お茶を飲みながら答えた。

 

 

「お前って、本当に偶にそんな風にらしくなくなるよな」

 

 

「それもこれも全部悠介君のせいだよ」

 

 

「うん、何か言ったか?」

 

 

「別に何でもないよ」

 

 

燕が小さく呟いた言葉は、悠介に聞き取られる事はなかった。

悠介自身もさして気にしなかったのか、それ以上の追及はしなかった。そんな中悠介は、自分が持つ久寿餅と燕を見比べて

 

 

「おう、燕」

 

 

「うん?どうしたの悠介く・・」

 

 

悠介の声に反応して悠介の方を見た燕の思考が再び止まった。

理由など判り切っている。自分の目の前に差し出されたフォークだ。その先には久寿餅が刺さっている。

即座にそれが悠介が差し出したモノだと理解した故に止まってしまった。

しかし、悠介は気づかずに

 

 

「詫びだ。食べろ」

 

 

燕に久寿餅を差し出した。その瞬間、燕の脳内はありとあらゆる事を思考した。

周りの人数やその場にいる客の視線そして納豆小町としての体裁等々だが、そんなモノを全てをゴミ箱に捨てて燕が決断した答えは、たった一つ。

 

 

「あ、あ~ん」

 

 

「ほらよ」

 

 

差し出された久寿餅を幸せ様に口にした燕。その表情は、とても幸せそうだ。

 

 

「もう一つ食うか?」

 

 

「うん!食べさせてよね?」

 

 

「わあってるよ」

 

 

悠介の問いに元気よく答えた後、わざと小首をコクンと倒した燕。その表情と動作は、相まってとても可愛らしいが、悠介は何の反応も見せずに久寿餅を差し出した。

悠介の反応にイラッとした燕だが、そんな悠介だからこそ今の状況がありえるのだと納得して、滅多に来ないであろう幸運な状況を心から楽しみべきだ。

それが燕が下した決断だった。

 

 

「見せつけてくれるね~」

 

 

悠介が差し出した久寿餅を食べる燕の姿を見た千花は、とても羨ましそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん。今日は楽しかったね」

 

 

「まあまあだな」

 

 

「あ~またそんな事言って~」

 

 

日が沈み始め、夕日が二人を照らす中、今回のデートに満足した燕は、ご機嫌そうだ。

対して悠介は、心的に疲労困憊と言った感じだ。

 

 

「よし、それじゃあそろそろ帰ろうか」

 

 

そろそろ時間だしねと呟いた燕に対して悠介は

 

 

「わりぃ。ちょっとだけ河川敷で軽く汗を流してから帰るわ」

 

 

まだ帰らないことを告げた。

 

 

「もしかして、今日のお出かけ楽しくなかった?」

 

 

悠介の言葉を聞いた燕は、先ほどとは違ってとても心配そうに尋ねた。燕の言葉を聞いた悠介は、頭をガシガシとかいた後、ゆっくりと燕の頭に手を置き

 

 

「あ」

 

 

「さんきゅうな。良い気晴らしになった。晩飯期待してるからな」

 

 

撫でながら、優しい声音でそう答えた。悠介から撫でられた燕は嬉しそうに

 

 

「うん。期待しててよね悠介君!!」

 

 

「出来れば、納豆料理は少なめで頼むぜ」

 

 

「それは無理だね」

 

 

「即答かよ」

 

 

「ふふふ。納豆小町がいる以上、その家の食卓には必ず納豆料理を並ばせて見せる!!」

 

 

「何つう決意だよ」

 

 

いつも道理の会話を話した。

 

 

「それじゃあ、後でね」

 

 

「おう」

 

 

手を振りながら家に向かって帰る燕を視界に納めた後、悠介もまた河川敷に向けて歩き始めた。

 

 

「そんじゃまあ、行きますかね」

 

 

今日もまた一歩を進むため。




ヤバイ、燕のお姉さんキャラが崩れている・・・・これでいいのだろうか?

自分事ですが、明日からテスト一週間前になるので、暫く更新できません。
大学が決まったとはいえ、下手をして赤点などを取ると危ないので
楽しみにしている方がいましたら、本当にすみません。


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悠介と好敵手

テストも終わって更新が再開できます!!
でもまあ、凄く久しぶりなので、違和感満載かも知れませんがよろしくお願いします

因みに今回は、テスト終了したと言う事で頑張ってみました。
あと、一話を今日中に更新させて貰います
詳しく言うと、後一時間後です

さて、今回の話も前回同様に甘さをメイン?で書きました
楽しんでくれたら嬉しいです!!


夕日の明かりが、川神の土地を鮮やかな朱色に染めていた。

 

 

「綺麗だな・・」

 

 

何処までも朱色に染まった風景を見た悠介は、幻想的とも言えるそれに感嘆の声を漏らした。

 

 

川神(ここ)が、こんなにも綺麗だなんて知らなかったわ」

 

 

そう口にした悠介だが、自らが言った言葉を即座に否定した。知らなかったのではなく、知ろうとしなかったの間違いだ。

あの時の自分は、そんなモノを気にする余裕すらなかったのだ。ただ、ひたすら目標の身に向かって進む。それ以外など、視界に入れる気すらなく・・・でも今は、そんな事はない。少しずつだが、周りに意識を向ける事が出来るようになってきた。

 

 

「そう思うと、今日燕と出かけたのも、案外悪くなかったのかもな」

 

 

今日の出来事を思い出した悠介は、小さく笑みをこぼした。何時も自分を気遣う節介な幼馴染の姿。別段今日が特別な訳でない。燕の我儘に付き合わされて、一緒に買い物に言った事は、何度もある。

だからだろうか、武以外を見るようになったのは?

 

 

「・・・・・・ありがとな」

 

 

誰に告げた訳でもなく呟かれた悠介の呟きは、朱色の空に消えていった。

その表情が何処か赤く染まっているのは、きっと夕日のせいだろう。

 

そうしていくうちに、目的地である河川敷が見えてきた。

 

 

「? うん、あれは?」

 

 

そこで気が付いた。夕日と重なって気が付かなかったが、あそこに居るのは正しく

 

 

「丁度いいや」

 

 

その姿を確認した悠介は、手間が省けたわ と言葉をこぼしながら、その場所まで歩き始めた。

その表情は、何処か悪だくみを企てた燕の顔に似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日によって朱色に染まった川を見ながら、彼女は何度目か判らないため息をこぼした。

 

 

「はぁ、何やってんだろ私・・・」

 

 

ため息の主川神百代は、何時もの彼女からは想像も出来ない程、弱弱しい声で呟いた。

最近の自分は何処かおかしい。何をやっても身が入らない。何時もは退屈しのぎになると、喜ぶべき挑戦者ですら、どうでもよく感じてしまう。

そのせいで、鉄心の説教を受ける羽目になったが、その説教すらも上の空で聞いていた。

 

 

「はぁ、本当にどうしたんだ?」

 

 

どうしてこうなったんだろうと思い起こす度に思い浮かぶのは、悠介と楽しそうに帰る燕の姿。

そしてその姿を思い越すと、必ずチクッと胸を針で刺された様な痛みが百代を襲う。

 

 

「なんなんだよ、これ」

 

 

自分の胸を抑えながら、百代は困惑した様な声で呟いた。痛みには慣れてる。元々自分は、痛みとは切っても切れない関係だ。最近では、痛みを感じる事が少なくなったがそれは決して変わらない。

痛みには強い・・筈なのに、今自分を襲っている痛みには、決して馴れる事も立ち向かう気にすらなれなかった。

 

 

「ほんと、何なんだよッ!!」

 

 

イラついた様に呟かれた百代の言葉、その一言に今の彼女の想いが込められていた。

百代自身、自分の内から湧き上がるこの感情を理解できていない。その感情に何と名を付ければいいのかすら、わからないのだ・・・いや、違う。彼女は恐いのだ。その感情に名前を付けて認める事が、名を付けて受け入れる事が怖いのだ。

そこに世界最強の名を持つ『武神』の姿はなく、年相応の川神百代がそこにいた。

 

自らの想いと葛藤している百代の耳に

 

 

「なあに、一人でやってんだよ」

 

 

「わっ!って、ゆゆ悠介!!」

 

 

その原因たる少年相楽悠介の声が届いた。

 

悠介は、驚いた表情と上ずった声を聞かせた百代を見て、イタズラ成功と言わんばかりに笑みを浮かべた後

 

 

「一人で悩んでたとこわりぃけどよ、ちょっと俺と話そうぜ」

 

 

百代との話し合いを望んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隣に座るぞ」

 

 

そう一声かけた後、悠介は百代の隣に腰を下ろした。

悠介からすれば、ただそれだけの事だったのだが

 

 

「っておい。何でそんなに離なれるんだよ?」

 

 

「べべ、別に離れてなんかないだろ!!」

 

 

「いや、すっげぇ離れてんじゃねえか」

 

 

百代からすれば、一大事だ。それも当然、彼のせいで今自分がおかしくなってるのだ、その彼が近くにいるなど、とても我慢できない。

だから近くに座ろうとした悠介から、目にもとまらぬ速さで十メートルほどの距離を取った。

しかも、先ほどの言葉から察するに無自覚の様だ。

 

 

「まあ、どうでも良いけどよ。それだと流石に遠いからよ、もうちょっと近くにこいや」

 

 

「それも・・・・そうだな」

 

 

顔を下にしながら、百代は悠介との距離を少しずつ詰める。大体五メートル辺りで止まる。

 

 

「これでいいだろ!!」

 

 

「別に構わねえだがよ、何でお前そんなにやり切ったって顔してんだ?」

 

 

「なっ!」

 

 

悠介の指摘に百代は顔を赤めらせたが、幸か不幸か夕日のせいで、悠介には気が付かれていない。

 

 

「それでよ。聞きてえ事があんだけどよ、聞いていいか?」

 

 

「聞きたい事?私にか?」

 

 

「まあ、お前に直接聞くのが一番いいと思ったからな」

 

 

「私に聞くのが一番・・・良いだろう!!何だって答えてやるぞ」

 

 

「何で急に元気になったかは、置いておくとしてだ」

 

 

悠介の言葉を聞いた百代は、先ほどの表情を一変させ、嬉しそうな表情を示した。

急に嬉しそうな表情になった百代に疑問を持った悠介だが、さして興味もなかったのか彼はそのまま

 

 

「うんじゃあ、質問だけどよ。何でここ最近、様子がおかしかったのは何でだ?」

 

 

ずっと疑問に思っていた事を百代に問うた。

悠介の問いに対して百代は、口を閉ざした。無理もない。その質問は自分でも理解する事が出来ない、未知のナニカが関わっているのだから、百代自身も答えれない。と言うよりも、今の状況ではわかっていても言ってはいけない。そんな感覚が百代にはあった。

 

 

「え~っと、それは~」

 

 

「・・・・・」

 

 

じっと悠介に見つめられた百代は、恥ずかしさと間の悪さから視線を逸らす百代。

その姿を見た悠介は、さっさと答えろと言う目線を百代に送る。百代もその目線には気が付いているが、決して視線を合わせようとしない。

 

時間にして、およそ一分間の無言のやり取りがおこなわれた。

先に根を上げたのは、百代だった。

 

 

「ああ、もう!!言うよ!!言えばいいんだろ!!」

 

 

若干やけくそに叫ぶ百代と勝ったと言わんばかりに、短く息をこぼした悠介。何処までも対極の反応を示した二人。

そして呼吸を落ち着けた百代が、静かに言葉を発した。

 

 

「・・・わかんないんだよ」

 

 

「はあ?」

 

 

「だから、わかんないんだよ!!」

 

 

「わかんないって、何で様子がおかしかったのがか?」

 

 

「ああ、自分でもよくわからないんだ」

 

 

百代は最も大事な部分抜かして、現状の状態のみを悠介に伝えた。百代の答えを聞いた悠介は、静かに顎に手を当てながら何かを考える素振りをしている。

一方の百代と言えば、悠介と顔を会わせたくないのか、視線を彼とは逆の方に向けている。

 

 

「う~」

 

 

ついでに、よくわからない声を漏らしてる。どうやら、悠介に弱みと言うか、弱さを見せたのが、相当に恥ずかしかったみたいだ。

夕日の朱色に染まっていてよくわからないが、顔は確かに赤く染まっている。

 

 

「そうか」

 

 

ある程度の時間が過ぎた後、百代の耳に短い悠介の言葉が聞こえた。

そして続けて

 

 

「まあ、あれだ。俺の質問に答えてくれてあんがとな」

 

 

感謝の言葉が聞こえた。

その言葉を聞いた百代は、嬉しいような申し訳ないようなと、自分でもよくわからないフワフワとした感情に支配された。

 

 

(ほんと、何なんだよ)

 

 

未だ答えに辿り着けない百代には、その感情を御しきる事が出来ない。

そんな自分の想いと、ある意味戦っていた百代だが、彼女の武人として鍛え上げた第六感が警告を鳴らした。

 

 

「ッ!!」

 

 

自身の警告に従い、防御の姿勢を取った瞬間、ドゴォ!と鋭い一撃が百代を襲った。

 

 

「つうッ!!」

 

 

ズズズ!と地面を滑りながら衝撃を散らした百代は

 

 

「いきなり何をするんだ、悠介!!」

 

 

視界の先で、拳を振り抜いた悠介に真意を問うた。

しかし、悠介は百代に放った方の拳を握ったり、解いたりしていてる。

 

 

「おいっ!!」

 

 

自分の言葉に何の反応も示さない悠介に、怒りの声を上げる百代だが

 

 

「やっぱ強えな、モモ」

 

 

優しくそして何処か羨望するような声で放たれた悠介の声に、何も言えなくなった。

 

 

「だからこそ、俺はなりたい」

 

 

「なりたいって、何にだよ?」

 

 

最早悠介に対する怒りなど無く、ただその言葉の真意を知りたい願う百代の言葉。

百代の問いに対して悠介は、一度大きく息を吐いた後に告げた。

 

 

「俺は、お前の好敵手(ライバル)でありたい」

 

 

「え?」

 

 

告げられた言葉に百代は言葉を失った。

それに構わずに、悠介は話を続ける。

 

 

「お前とはそこそこに長い付き合いだが、幼馴染とは思えねえし、たぶん悪友ってのがピッタシ何だと思うんだわ」

 

 

でもな と言葉を続ける。

 

 

「俺はまだお前の好敵手(ライバル)には成れてねえ。良い所、数少なくいる対戦者の一人って所だろ?でもちげえんだよ、俺が成りたいのはその先だ」

 

 

「何でなりたいんだ?」

 

 

悠介の言葉にただ茫然と呟いた百代。彼女自身何故だかはわからななかったが、ひどく動揺した。

百代の言葉に悠介は

 

 

「そうする事がきっと俺の夢を叶える事に近づくと信じてるのが一つ。後は、単純に俺の願望だな」

 

 

きっぱりと迷いなく告げた。

未だに動揺から抜け出せていない百代に悠介はさらに続ける。

 

 

「待ってろ。俺は必ず真正面からお前に立ち向かう資格(・・)を手にれた上で、お前に挑む。だからよ、俺がお前の前に着くまでによ、その迷いを失くしとけ・・・・いや、ちげえか。そんなモノに迷う暇さえぜってえ与えねえからな」

 

 

そう言って拳を突き出した悠介。その姿は、迷いなどは全く感じさせていない。

しばしの沈黙。それを先に破ったのは、百代だった。

まるで水があふれ出した様に笑い出した。

 

 

「何笑ってんだよ」

 

 

「ハハハ。悪い悪い。そっか、私のライバルにか・・・・」

 

 

「文句あっか?」

 

 

そう聞いた悠介の言葉に

 

 

「いや、楽しみに待ってるぞ、悠介」

 

 

百代は満面の笑みで答えた。百代の心を占めていたのは歓喜だった。先ほどまで自分を苦しめていた感情など、どこかへ消えてしまった。

そうだ。今、そんなモノに悩む必要はない。それよりも遥かに優先すべきことが、自分の目の前にはあるのだから。

きっと、遅くはない。目の前に立つ自分が数少なく認める武人との戦いが終わった後からでもきっと遅くはない。

この感情に名前を付けるのも、この感情と向き合うのも、この誓いが終わってからだ。

それまでは、この感情にそっとふたをしておこう。

 

 

「当然だ。直ぐにその其処に行くからな。首あらって待ってやがれ」

 

 

百代の言葉に悠介は、笑みを浮かべながら嬉しそうに拳を再び突き出した。

突き出された拳に百代は、自らの拳を重ねた。

 

コツンとぶつかった二つの拳。

二人は、互いに笑みを浮かべて拳を引いた。

 

それもある意味『青春』の一ページと言えよう。あらゆることを度外視して、ただ一つの目的の為に全てを捧げる。彼らはまだ若い。故に、時間も無駄遣いと言うのもまた、彼ら若人の『青春』の特権である。

 

少年少女よ、今を全力で謳歌せよ。




悠介と百代のお話はいかがでしたでしょうか?
この小説の区切りの一つと考えている 悠介VS百代
その為の下準備に上手くなったでしょうか?

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悠介と河川敷

はい。とい訳で本日二度目の更新
先ほど同様、久しぶりに書いたので違和感満載かもしれません

そして今回、五人目のヒロイン?候補が登場します
例によって、どうなるかはわかりませんが・・・・
登場するヒロインは・・・題名を見たらわかるかな?

楽しんでくれたら嬉しいです


燕とのお出かけと百代との話し合いがあった、次の日。悠介は、川神山にて修行をしてた。

 

 

「997・・・・998・・・・999・・・・1000っと」

 

 

上半身裸で拳を振っていた悠介が、一区切りが付いた様に構えを解いた。全身からは、大量の汗が流れており、悠介がどれだけ真剣に打ち込んでいたかが見て取れた。

 

 

「ああ、あちぃ」

 

 

近くに置いていたタオルで汗を拭いた悠介は、岩に掛けていた羽織を羽織ると、近くを流れる川に向かっていった。

近くを流れる川は、流れの強い川が多い川神山においては、比較的に緩やかに流れている。しかも近くには丁度いい木があり、うまい具合に木陰が出来ていた。

 

 

「ぷっふぁー!!生き返るぜ~」

 

 

ズボン!と顔を川に沈めた悠介が、サッパリしたと言わんばかりに爽快に呟いた。

頭を数回振って水気を払った悠介は、木陰に腰を下ろした。

スゥゥゥっと、心地の良い風が悠介を凪いだ。

季節は夏であり、本日は雲がほとんどない快晴だ。木々に囲まれた山と言う事もあって、気温も少し涼しい。正に夏場の修行には打って付けだ。

 

 

「たまには、いいもんだよな。こう言った時間があってもよ」

 

 

悠介自身、こう言った時間が嫌いな訳ではない。むしろ好きだと言えるだろう。別段騒がしいのが嫌いと言う訳でもない、ただたまにこう言った時間が欲しくなるのだ。

木々が風に揺れる事で生まれる音や川のせせらぎを一人で聞いていると、心を鍛えるには打って付けだ。

そう言った意味でも悠介は、この時間が好きだった。

 

 

「ふぅ」

 

 

小さく息を吐き、ゆっくりと目を閉じる。視覚情報を断って、意識を深く沈ませる。

そのままの状態で静止した悠介。先ほどまでの真剣な雰囲気ではなく、静かに緩やかな自然と一体になる様な感じだ。

 

 

「・・・・」

 

 

その場に流れる音は、風と川の音と悠介のこぼす小さな呼吸音のみだ。

ただじっくりと、時間だけが過ぎていく。

 

 

「ピィ」

 

 

「・・・・」

 

 

一体どれだけの時間が経っただろう。完全に意識を鎮めた悠介の肩に一羽の小鳥が止まる。

小鳥は、悠介の肩の上で羽の掃除を始めた。本来ならば、人がいる場所では絶対に行わない行為、それが行なわれていると言う事は、悠介の意識が完全に自分に向けられている証拠だ。自身の内へ意識を向けている事で、外部への注意が全くもってない故に、自身に向けられる視線に敏感な小動物である小鳥が、無警戒に近い形で悠介の肩の上に居るのである。

 

 

「ピィイ」

 

 

ある程度羽を掃除した小鳥が、悠介の肩から飛び去った。

再び優しい沈黙が、その場を支配する。

 

その中で悠介は

 

『夢』を見ていた。

 

 

いつも通りの真っ暗な世界。どれだけ進んでも先が見えない世界に、微かな光が灯った。そして、その光は次第に大きなり、世界を包み込んだ。

 

光が世界を覆って映りこんだのは、何処かの山の風景。そこには一人の僧が、仏像を囲んで座っていた。

 

『ふぅー』

 

経を唱えながら息を吐き、手に持った剣を掲げ、そのまま

 

『はっ』

 

地面に突き刺した。

瞬間、二メートルほど離れた場所にあった仏像が、パアァぁン!と甲高い音を立てながら塵と化した。

そして、その光景をあの男(・・・)が偶然見ていた。いや、偶然と言うよりも必然の様に導かれたとすら思える。

 

『すげえな。今のが噂に聞く、坊さんの法力って奴かい?』

 

男は、何の躊躇いもなくその僧に話しかける。他でもない、自分を救ってくれた恩人の力になるために・・・そして、あの糞生意気な野郎に一泡吹かせる為に。

 

ああ、今日(・・)はこの光景か。あの男があの技を伝授いされ、会得する場面だ。

 

『迷い人か』

 

『ああ、迷い人だ。だから道を聞きてえんだが。後よ、何か飯くれ』

 

『人に物を頼む態度ではないな』

 

そう言って二人は、暖を取ってメシを食べている。

 

『それにしてもよ、さっきのあれすげえよな。あれが、仏の力を借りて使う法力の力って所か?』

 

『いや、今のは法力では無い』

 

『あん?』

 

『そもそも、破戒僧であるこの私には、法力などと言う力は使えんよ』

 

『なるほどな。だったら、何で修行なんかしてんだ?』

 

『仏の教えに背いても、世を思う気持ちは変わらん。その為の力を得る修行だ』

 

『へえ。さっきの技が法力の力を使わねえなら、信仰心の薄いこの俺にも使えるって事だよな?悪い様には使わねえ、だから教えちゃくれねえか?』

 

『何を持って、力を求める?』

 

『今よりも強くなるため』

 

一度は断れたが、彼はその意思の強さを先への可能性を示し、技を教わる事となった。

しかし、その対価として命を賭して。期間は、七日と会得するにはあまりにも短い。

だが、男は自らその誓いを立てた。

 

男と破戒僧の誓いから、六日目の夜。約束の期限まで、およそ三時間。

だが、男は未だに会得出来ていなかった。

刻一刻と時間が過ぎていく中で、男は『夢』を見た。自らが追い求めた男が彼の前に現れた。

 

『■■■』

 

『相楽・・隊長・・』

 

男の前に現れた彼は、男にもう諦めろと告げた。その言い分は正しいし、受け入れるべき言葉だった、それでも男は

 

『すみません隊長。その命令だけは聞けません』

 

その命令を拒否した。

ただ、己の友人の、恩人の為に。憧れを失った弱い頃の自分を越える為に

 

そして約束の七日目の朝が来た。

 

『力尽きて死んだが。少々惜しい男だったが・・』

 

『勝手に殺すな坊さん』

 

『!!』

 

『約束どおり、会得したぜ!』

 

男の一撃が岩を塵に変えた。その光景に破戒僧は驚きを露わにした。

 

『何と・・大した才能だ』

 

『おい、こっちとら死にかけたんだぜ?才能なんてちんけな一言(・・・・・・)でかたずけるなよ』

 

『そうだな。悪かった、言いなおそう。大した男だ・・名は』

 

『俺は、■■。■■■■■だ』

 

『そうか。私の名は、悠久山安慈(ゆうきゅうざんあんじ)だ。よくやった、■■■』

 

二人は手を握った。それは互いに認め合った証拠。

 

そして光が、また小さくなっていき・・・・

 

 

「ッ!!」

 

 

悠介の意識が戻ってきた。

 

 

「ふぅ。やっぱ、まだは解んねえか」

 

 

夢で何度も見た光景だ、そしてその全てに共通するのが、その主人公で在る筈の男の名だけが、悠介にはどうして聞こえなかった。

 

 

「やっぱり、モモを倒した時か・・」

 

 

別段確信があるわけでは無い。しかし、悠介には予感があった。百代を倒した時、その名を知ると事は出来ると言う予感が

 

 

「さてと、ここいらで帰るとするかね」

 

身支度を整えた悠介は、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は、何つうか風が気持ちな」

 

 

河川敷の辺りまで戻ってきた悠介は、心地よく吹き抜ける風の気持ち良さそうに受けた。

 

 

「ふわぁ、ねみぃ」

 

 

あくびをこぼした悠介は、ゆっくりと河川敷の草むらに腰を下ろし、寝そべった。

 

 

「このままちぃっと昼寝としゃれ込むかね」

 

 

心地よい風が、草をゆらゆらと揺らす中、悠介は静かに目を閉じた。

睡魔に導かれるままに悠介は、意識をシャットダウンさせた。

 

 

「・・・・」

 

 

心地よさそうな寝息が悠介の口からもれる。どうやら、完全に眠っている様だ。

悠介自身、特技は昼寝と喧嘩と言うだけあって、寝るの早い。本人曰く「ちいせえ時からの習慣」らしい。

幼いときから川神院にて修行をつけて貰って来た悠介だが、根性論や精神論の川神院の修行は、まだ幼かった自分には難易度が高かった。その為、川神院での修業が終わり家に帰ると直ぐに眠ってしまった。だから、その幼い日からの習慣ゆえに眠る事が特技になるほどになった。

眠ればあの夢が見れるからと悠介自身は、自身の体質をさほど憂いてはいない。

 

むしろ積極的に自分の意思で一日中眠ろうとした事があるほどだ。まあ、それをやろうとしたら、燕や母さんに全力で止められたが・・・・

 

 

「すぅ」

 

 

今までの鍛錬の疲れもあるのか悠介は、どれまでの疲れを洗い流すように熟睡している。

明日に備えるように、今はただ静かに眠る。

 

『糞っ!二重が使えれば、こんな扉簡単に壊せれるってのによ!!』

 

『どけ、バカ』

 

『誰がバカだとっ!!』

 

『貴様以外に居るか、バカ』

 

『んだと、コラァ!!。っておい、おめぇも足をやられてんだろ?大丈夫なのかよ』

 

『ふん。甘く見るな』

 

瞬間、鉄の扉が轟音と共に破壊される。

 

『この程度傷の内にも入らん』

 

『スゲェ』

 

『大したものだ』

 

破壊された扉をわたる男達。しかし、その途中で橋が崩れ去った。

 

『あぶねぇ。おい、全員無事・・・!!斎藤!!』

 

『ふん、うるさい奴だ。別に俺は、貴様らを庇ったつもりはない』

 

『おめぇ、どうするつもりだよ!!』

 

『あまり壬生狼(みぶろ)を舐めるなよ。お前らとは、潜ってきた修羅場の数が違うんだよ』

 

そう言って男は、火の中に進んでいった。

彼にその背を示して・・・・

 

 

 

「・・・うん?」

 

その場面で悠介の意識が覚醒する。空を見るに、太陽は若干傾いているが、それほど長い時間眠っていたわけでは無いようだ。

 

 

「うん?」

 

 

身体を動かそうとした悠介に、違和感が襲う。何というか、胴の辺りを無理やり固定された様な違和感。それになぜか、そのあたりに柔らかな感触と人肌の温かさを感じる。

 

 

「スピー」

 

 

「ああ?」

 

 

極め付けには、自分以外の誰かの寝息が聞こえる。寝息のする方に視線を向ければ

 

 

「う~ん」

 

 

「誰だぁ?」

 

 

青髪の少女が自分に抱き付きながら、気持ち良さそうに眠っていた。

突然の事に驚く悠介だが、即座に意識を持ち直し

 

 

「おい、あんた。気持ち良さそうに眠ってるところわりぃけどよ、ちょっと起きてはくれねえか」

 

 

「う~ん、ふわぁ~。おはよ~」

 

 

眠っている少女を起こした。起こされた少女は、気持ち良さそうにあくびをこぼしながら、悠介に向かって挨拶した。

 

 

「まあ、時間的にはこんにちわだが、まあおはようさん」

 

 

「ごめんね~。君が随分と気持ち良さそうに寝てたもんだからね~、私も誘われて寝ちゃったよう」

 

 

「いやそこに関しては、別段疑問も問題もねえんだが、何で俺に抱き付いてたんだ?」

 

 

「う~ん、その方が気持ち良さそうだからな~」

 

 

「そうかい。そう言えば、名乗ってなかったな。俺は、相楽悠介。お前は・・・」

 

 

「私の名前はね~、板垣辰子って言うんだよ~」

 

 

「板垣だな」

 

 

「む~」

 

 

名前を呼んだ悠介だが、なぜか辰子にジト目で見られている。

 

 

「何だよ?」

 

 

「板垣じゃなくて、辰子って呼んでほしいな~」

 

 

しばしの沈黙。先に折れたのは、悠介だった。辰子の目は、譲らない時の燕とよく似ている。引かないのは明白ならば、自分が折れるしかないだろう。

 

 

「わあったよ。辰子」

 

 

「うん~よろしくね、悠介君~」

 

 

「ああ」

 

 

そう言って二人は握手を交わす。

 

 

「此処って~昼寝には絶好の場所だよね。またここにきて寝ても大丈夫かな~?」

 

 

「別段、俺の場所って訳じゃねえからな、いいんじゃねえか?」

 

 

「じゃあね~その時は、悠介君も一緒に寝ようよ~」

 

 

「俺もか?」

 

 

「うん、そうだよ~。私悠介君の事が気に入っちゃった」

 

 

「まあ、俺が暇なときなら別段構わねえが」

 

 

「そっか~ありがとう」

 

 

「ってうおっ!!急に抱き付くな」

 

 

「ぎゅう~」

 

 

「さらに力こめてんじゃねえ!!」

 

 

その後四苦八苦しながら、辰子をどうにかして剥がそうとする悠介だが、なかなかにはがれない。

 

 

(こいつの力って・・・)

 

 

悠介が辰子の力に疑問を持ったのと同時に

 

 

「あっ!そろそろ帰らないと。私が今日の料理番だった」

 

 

「!!」

 

 

辰子が何かを思い出したように突然立ち上がった。

瞬間、大きく背を伸ばしながら、立ち上がった辰子の姿を見た悠介の表情が驚きに染まった。

 

 

「悠介君それじゃあ、またね」

 

 

見間違いな訳がない。なぜ辰子にそれを感じたのかは、この際置いておこう。

この質問をすれば、自ずとわかるのだから

 

 

「なあ、辰子?」

 

 

「うん?どうかしたの」

 

 

 

「お前さ、釈迦堂刑部って男を知ってるか?」

 

 

かつての師と同じ雰囲気を匂いを発した少女に、悠介のその問いを投げかけた。

 

 




どうでしたでしょうか?
夢の話は、今後も出て来ると思うので、何か違和感とかありませんでしたかね?

良かったら、感想をお願いします


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悠介と板垣一家

と言う訳で、今回は悠介と釈迦堂の再開です
その為、辰子とかはあんまり活躍しません
良い雰囲気を期待していたなら、すみません

今回は結構長めです
後半とかは、結構雑なような気がしますが、楽しんでくれたら嬉しいです!!
良かったら、感想をお願いします

今回、後書きに悠介のプロフィールを載せています


悠介の問いに対して、辰子は今までとさして変わらない眠たそうな声で答える。

 

 

「あれ~、どうして悠介君が師匠の名前を知ってるの?」

 

 

師匠(・・)か・・」

 

 

辰子の疑問の言葉よりも悠介は、ある一言が気になっている様だ。

『師匠』と言う言葉。それが指し示す意味は恐らく一つ。

 

 

「そうか。結局、行きつく果ては変わらずって事か」

 

 

「?。どう言う事??」

 

 

「いや、大したことじゃねえよ」

 

 

何処か嬉しそうに呟く悠介の言葉の意味を尋ねる辰子だが、悠介は彼女の問いには答えずに

 

 

「とりあえず、師匠って人に会わしてくれねえか?」

 

 

ただ、真摯に頼み込む。

 

 

「悠介君の頼みだからいいよ~」

 

 

悠介の頼みを受けた辰子は、驚きほどあっさりと受け入れた。

余りにもあっさりと、自分の提案が受け入れられたので、悠介は呆気にとられる。

 

 

「それじゃあ、(うち)に行こうか~」

 

 

「お、おう。それじゃあ、よろしく頼むわ」

 

 

「任せてよ~」と両腕を大きく上に上げた辰子の後ろを、悠介は付いて行く。

その表情は、隠そうにも隠し切れない笑みで染めれている。

 

 

(待ってやがれよ、釈迦堂!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『釈迦堂刑部』と言う名は、相楽悠介の武を語る上で最も関わりが深い名である。それは別段、悠介にとって最も感銘を受けたと言う話ではない。むしろ、相楽悠介が師と認める四人の男達の中では、最も尊敬していないと言える人物である。

ではなぜか?理由は簡単だ、悠介が最も長い時間武術を教わったのが、釈迦堂刑部である。川神鉄心は川神院の総代としての仕事が、ルー・イーは他の門下生の修行が、鍋島正にいたっては、まだ会ってもいない。消去法で残ったのが、釈迦堂だったのだ。

まあ、鉄心自身は力の加減やら性格を治すために悠介を担当させたのだが・・・・

 

その為悠介は、もろに釈迦堂の影響を受けてしまった。幼かった顔つきは、釈迦堂に殴られる度に何処か彼に似た様に鋭く恐くなっていき、彼の様に攻めを重視した戦型になったのだ。つまり釈迦堂刑部は、相楽悠介にとっての戦型の原点であった。

 

だからこそ、彼が川神院を破門されたと百代からのメールで知った時も、さして驚愕しなかった。何処かでわかっていたのだ。釈迦堂刑部は、川神院似合わないと・・・

だが、同時に確信もあった。

 

それは、悠介が川神学園に入学した日だった。

 

『そう言えばよ、釈迦堂のおっさんが破門されたってのは、マジか?』

 

『ああ本当じゃよ。あやつの思考は余りにも危険すぎた。ワシもどうにかして、治そうとしたのじゃかな・・遂に無視できん所まで来てしまったのじゃ』

 

そう言う鉄心の表情は後悔に彩られている。鉄心自身悔しいのだ、釈迦堂を救えなった事が。

しかし、悠介はその言葉を聞いても悲しむ素振りなど見せず

 

『まあ、心配しなくてもよ、あのおっさんなら川神(ここ)に戻ってくんだろ。そん時にでもあいさつしに行きますかね』

 

余計な手間をかけさせんなと言わんばかりの声音で呟いた。

 

『どう言う意味じゃ?』

 

『ああ?破門されて、川神の地を出ていったとか言ってるけどよ、結局また此処に戻って来るだろ、どうせよ』

 

『なぜ、そう言いきれる?』

 

鉄心の純粋な質問に対して、悠介は『そんなモン決まってるだろが』と言葉を吐き捨て

 

『あのおっさんは根っからの戦闘狂だ。なら、必ず此処に戻って来るだろ?いや、下手したらもう戻って来てるかもな』

 

『だから、なぜそう言い切れるんじゃ!!』

 

鉄心の言葉に、悠介は『まだわかんねえのかよ?』と呆れた表情を見せた後

 

『ここ以外に、あのおっさんが満足できる相手(てき)がいるのかよ?ここは武の聖地だぜ?どうせ、満足できなくなって戻って来るだろ』

 

違うか?と言わんばかりの表情で鉄心を見た悠介。その言葉と表情を見た鉄心は、一瞬呆けたが、笑い出し

 

『そうじゃのう』

 

悠介の言葉に同意した。

それが理由。釈迦堂刑部が川神に居ると言う確信だった。

 

 

 

「もう少しで着くよ~」

 

 

思考の海に潜っていた悠介の耳に辰子の声が届く。慌てて周りを見てみれば、「親不孝通り」と呼ばれる場所にまで来ている。どうやら、無意識に着いて行っていたみたいだ。

 

 

「うん?なあ、辰子。あそこって、何に使ってんだ?」

 

 

「うん?あ~あれはね、此処の最強をみたいなものを決めてた場所だよ~。青空なんとかだよ。私達きょうだいが、そこで一番だったんだよ」

 

 

「なるほどねぇ。今度俺も参加してえな」

 

 

辰子の言葉を聞いた悠介は好戦的な笑みを浮かべ始める。しかし、悠介の言葉を聞いた辰子は、笑みを浮かべながら

 

 

「最近は、九鬼のなんとかプランのせいで、開催できなくなっちゃたんだけどね」

 

 

ごめんね~と最後に言葉を添えて辰子は、申し訳なさそうに告げた。その言葉を聞いた悠介は、気にすんなと告げて笑みを返す。そう言う悠介だが、その表情は何処か残念そうだ。

その悠介の表情を見た辰子は、話題を変えるように自分の視界に映った人物に呼びかけた。

 

 

「あっ!天ちゃんだ~」

 

 

「うん?あ、辰ねえじゃん」

 

 

辰子の呼びかけたに答えたのは、赤い髪をツインテールしている勝気そうな目が特徴的な少女だ。

辰子の元まで駆けてきた少女は、近くいた悠介の存在に気がつく。

 

 

「うん、誰だおめえ?」

 

 

「悠介君だよ」

 

 

「いや、誰だよ?」

 

 

「何でも師匠に会いたいんだって」

 

 

「師匠に?」

 

 

辰子の言葉を受けた天と呼ばれた少女は、見定めする様な目線を悠介に送るが

 

 

「紹介に預かった相楽悠介だ。えっと、天でいいだな?」

 

 

彼はさして気にする事もなく手を差し出す。

 

 

「キャハハ。おめえ面白いな。ああ、うちは板垣天だ」

 

 

自分の目線にもひるまなかった悠介の反応が面白かったのか、一度笑った後悠介の差し出した手を握った。

 

 

「天ちゃんも、今帰り?」

 

 

「おう。今日はゲーセン行っても暇だったからな、さっさと帰る事にしたんだ」

 

 

「それじゃあ、一緒に帰ろうか。悠介君もいいよね?」

 

 

「別に問題ねえよ」

 

 

そう言って三人は、再び歩き始める。と言っても、天と辰子の三歩ほど後ろを歩いている。

暫らく薄暗い道を歩いていると、再び悠介たちに声がかけられた。

 

 

「何だい?タツに天じゃないか・・・それと誰だい?」

 

 

彼らに届いたのは、ひどく気の強いそれこそ女王の様な声だ。その声が聞こえたと同時に、辰子と天は嬉しそうな表情で、声のする方に笑顔を向ける。

 

 

「あ~アミねえだ」

 

 

「おっ!アミねえじゃん。アミねえも今帰りか?」

 

 

「まあ、仕事の前に家で一休みしようと思ってね。それと、誰なんだい?そこにいる目つきの悪い坊やは?」

 

 

辰子と天に向けた優しい目から一転して、凍てつかんほどの目で悠介を睨み付ける。

その目を見た悠介は

 

 

(似てるよな~)

 

 

今目の前に居る女性と天が先ほど見せた目線が似ていたなと、ある意味場違いな感想を持っていた。

彼女の質問に答えたのは、辰子だった。

 

 

「この子はね~悠介君って言うの。師匠の知り合いなんだって」

 

 

「師匠の?」

 

 

辰子の言葉を聞いた女性の目が、今度こそ悠介を見据える。その目は何かを探る様な目線だ。

しかし、その目線を真正面から受けてもなお、悠介は動じずに女性に手を差し出す。

天よりも強気な目とショートカットされた薄い紫色の髪で、片目を隠している

 

 

 

「俺は、相楽悠介だ。あんたらが言っている、師匠の・・・・・まあ、知り合い?に当たるのか?」

 

 

「私が聞いてんのに、何であんたが尋ねてんさのさ」

 

 

「・・・わりぃ。自分でも口にしずらいと言うか、何と言うかでよ」

 

 

歯切れの悪い言葉を発する悠介は、目線を逸らし頬をかいている。心なしか頬も若干赤い。

その悠介の姿を見た女性の目から、警戒の色が薄れる。

 

 

「まあ、いいさね。私の名前は、板垣亜巳だよ」

 

 

「おうよろしくな。因みによ、三人ってやっぱ」

 

 

「想像のとうりさ。私達は姉妹だよ」

 

 

「やっぱりか」

 

 

亜巳の鋭い目線を受けても悠介は全く動じない。彼女程度の殺気にビビるほど弱い奴らとは戦っていない。

 

 

「別に俺は、あんたらの生活を脅かす気はねえよ。ただ、あんたらが師匠と呼ぶおっさんの面を拝みてぇだけなんだわ」

 

 

未だに警戒を解かない亜巳に対して悠介は、苦笑いしながら手を差し出す。数秒悠介の顔と手を見つめていた亜巳は、大きくため息を吐き

 

 

「はあ。師匠なら今は家にいるはずだから、さっさと用を済まして帰んな」

 

 

「助かるわ」

 

 

警戒を解いた。

 

 

「えー一緒にご飯食べようよ!!」

 

 

「タツ・・あんたね」

 

 

辰子の言葉に亜巳は呆れた表情を見せる。ただでさせ、この辺りは九鬼家がマークしているのだ。そこへ現れた自分たちの師に会いたいと言う人物。警戒しない方がおかしい。

だから亜巳は、早々に帰って貰いたいのだ。

 

 

(まあもしもの時は、あたいらと師匠で倒せばいいだけの話さね。そしていい感じのブタに調教してやろうかねえ)

 

 

自分の前を歩く悠介を見ながら、最悪を想定する亜巳。しかし、その数十分後彼女の予想をはるかに超える出来事が巻き起こる。

 

 

 

「あ!あそこが私達の家だよ~」

 

 

辰子が指さす先には、一軒の家屋が見える。それと同時に、あの場所からは明らかに別のナニカが漂っている。そしてそれを生み出しているのは

 

 

「それじゃあ、どうぞ~」

 

 

辰子が扉を開け、悠介を中へと案内する。扉が開いた音を聞いたのか、家の奥から

 

 

「おう、おめえら。帰ってきたか~」

 

 

悠介にとっても馴染のある声が発せられる。その声を聞いた悠介の表情が獰猛な表情に変化する。悠介の変化を見ていた天と亜巳が、本能的に彼から一歩距離をとる。

 

 

(なんだ、こいつッ!!やべぇ時の師匠みたいな表情しやがって)

 

 

(チィ!!やっぱり、案内するんじゃなかったね。厄介な奴を連れてきちまった!!)

 

 

二人が臨戦態勢に入る直前、悠介の表情は先ほどと同じ物に戻り、ゆっくりと家の中に入っていく。

余りの変化に二人が呆気にとられている内に

 

 

「師匠~。今日は、師匠にお客さんだよ~」

 

 

「俺に客だ~?」

 

 

辰子の言葉を受けて、声の主が悠介に近づいてくる。

そして遂に

 

 

「ヘイヘイ。俺の客ってのは・・・・」

 

 

「よう。破門されたらしいな、おっさん」

 

 

相楽悠介と釈迦堂刑部の二人が再会を果たす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠介の言葉を最後に空気が止まった様に動かなくなった釈迦堂と悠介。他の三人も状況を理解する事が出来ずに困惑して止まっている。この固まった空気を壊したのは

 

 

「今帰ったぜ~。うん、誰だおめえ?」

 

 

「リュウ!!」

 

 

第三者として現れた、腕に竜のタトゥーを刻んでいる少年だ。少年は、自分の家にいる悠介に対して疑問の声を上げる。

 

 

「お前誰だ?」

 

 

リュウと呼ばれた少年の問いに悠介は答えず、ただ釈迦堂だけを見ている。

自分の問いに答えない悠介に苛立ったのか、少年は拳を握り放とうと力を込めるが

 

 

「やめときな、リュウ。おめえじゃ、逆立ちしても悠介(そいつ)には勝てねえよ」

 

 

「なに!!」

 

 

釈迦堂の言葉がそれを止める。釈迦堂の言葉を聞いた四人の視線が、悠介に注がれる。

しかし、悠介は未だに釈迦堂から視線を逸らさない。

 

 

「師匠。失礼ですが、そこ居る坊やとはどう言った関係で?」

 

 

そんな中亜巳は、悠介と釈迦堂の二人の関係を問う。彼女の言葉に釈迦堂は衝撃の事実を告げる。

 

 

「俺とそこにいるそいつは、お前らの兄弟子(・・・)に当たる野郎だ」

 

 

釈迦堂の言葉に亜巳たちが純粋に驚く。そしてとうの悠介はと言うと、釈迦堂の言葉を聞いて、面白そうに笑みを見せている。

 

 

「やっぱり、此処にいるのはアンタの弟子だったな」

 

 

「おうよ。おめえよりはましだが、可愛げのねえ弟子どもだよ」

 

 

「失礼なおっさんだぜ」

 

 

「事実だろうが」

 

 

短いやり取りだが、そこには確かに絆を感じさせている二人。

そして釈迦堂の表情が変わり

 

 

「おめえが戻ってきたって事はよ・・・」

 

 

「ああ、モモに全てに挑みに来た」

 

 

「まだ諦めてなかったのかよ、おめえ。まあ、その頑固さだけは認めてやるよ」

 

 

呆れた様に頭を掻く釈迦堂だがその声音は何処か嬉しそうだ。そしてその表情を見た亜巳たちは

 

 

(ふうん。師匠でもあんな表情をするんだね)

 

 

(師匠~何だが嬉しそうだね~)

 

 

(あんな表情初めて見たぜ)

 

 

(師匠のあんな顔初めて見た)

 

 

ただ自分達の知らない釈迦堂の表情に驚く。彼女たちが驚いている間も二人は話を続けている。

 

 

「つか、あんた今仕事何してんだ?やっぱ、ボディーガードとかか?」

 

 

「いやいや、今は無職だぜ」

 

 

「・・・やっぱりか」

 

 

「驚かねえんだな」

 

 

「何となくわかってたからな。そもそもあんたが真面目に仕事をしているとか信じられねえよ、このニート」

 

 

「ああ?そう言うおめえこそ、まだできもしねえホラ吹いてんだろ?」

 

 

「ああ?誰がホラを吹いてるってぇ?」

 

 

「おめえだよ、バカ。俺でも難しい百代に勝つとか、それがホラじゃなきゃ何なんだよ?」

 

 

「はっ。やっぱ、挑む前から諦めるとか、武人として失格なんじゃねえの?」

 

 

 

(あれ?これヤバくね)

 

 

 

懐かしむ様な雰囲気から一変して、険悪な雰囲気に変わる二人。それを見ていた天が、汗を流し始める。

ハハハと笑う二人。

そして

 

 

「ざっけんなッ、このニートがッ!!」

 

 

「誰がニートだあぁッ?クソガキィ!!」

 

 

ドゴォン!と互いの拳が、顔面をとらえる。

 

 

「!!?」

 

 

そんな中、釈迦堂の拳を喰らった悠介は何かに驚いた様な表情を見せる。

そしてそれが大きな隙となった。

 

 

「オラァぁ!!」

 

 

「ぐぅッ!!」

 

 

釈迦堂の膝蹴りが悠介の腹に直撃。そのまま悠介を外へと吹き飛ばす。

 

 

「くそ!!ニートの癖にやりやがるな、やっぱ」

 

 

「だからぁ、俺はニートじゃねえって言ってんだろ?あいつらの代わりに、家をしっかりと守ってやってんだよ」

 

 

「そう言う、自宅警備員の事を世間では、ニートって言うんだよ、このマダオが」

 

 

吹き飛ばされた悠介は地面から起き上がり、釈迦堂は静かに玄関から顔を出す。二人とも表情は笑みで色られている。その二人の姿を見た四人は即座に理解した。この二人は欲しかったのだ。目の前の相手に殴りかかれる理由が、ただ欲しかったのだ。

理由さえあれば、戦う大義名分は立つ。これでもう邪魔する奴はいない。

 

二人は同時に拳を握りながら、地面を駆けてぶつかろうとした瞬間

 

 

「そこまでだ、赤子ども」

 

 

「「!!?」」

 

 

突如として現れたヒューム。二人の動きは強制的に停止させられる。

 

 

「何のつもりだ?」

 

 

戦いの邪魔をされた悠介がヒュームを睨み付けるが、当の本人はどこ吹く風で全く気にしていない。

 

 

「ふ、なに。九鬼家では武士道プランの遂行に従い、町に居る危険人物などを排除または監視している。そして、そこにいる釈迦堂もその一人になったと言う訳だ」

 

 

「そのために邪魔をしたのかよ」

 

 

「ああ、そうだが。何か問題がるのか?」

 

 

「そんな理由で、邪魔してんじゃねえよ」

 

 

睨み合う事数秒。

 

 

「安心しろ赤子。俺の用が終わればすぐに立ち去る。その後に赤子どもが何をしようと俺には関係がない」

 

 

「ちぃ」

 

 

ヒュームの言葉に渋々身を引く悠介。その姿を確認したヒュームは、静かに釈迦堂に問いかける。

 

 

「さて、釈迦堂。お前程の男を野放しには出来ん。大人しく我らが用意した就職先に就職し、カタギに戻れ」

 

 

ヒュームの言い分は全くもっての正論だが、悠介は釈迦堂がどんな答えを返すのか、簡単に想像できた。

 

 

「はっ!やだね。何でそちっとらの都合で、俺の生き方を決められねえといけねえんだよ!!」

 

 

(やっぱりな)

 

 

「仕方がない、実力行使だ。俺が勝ったら、素直に言う事を聞いてもらうぞ」

 

 

「いいぜ。その代り、俺が勝ったら俺とこいつらには干渉するんじゃねえぞ」

 

 

(へえ、やっぱ不器用なりに師匠をやってんだな)

 

 

釈迦堂の言葉を合図に二人の闘気が膨れ上がる。悠介は二人の戦いを黙って生還する事を選ぶ。先ほど感じたモノの真偽を確かめる為に。

沈黙は一瞬、先に仕掛けたのは釈迦堂だ。

 

 

「オラァ!!」

 

 

獣のように荒々しい拳がヒュームに直撃する が

 

 

「鍛錬を怠った天才ほど、見ていて哀れな者はいないな」

 

 

ヒュームは何事もなかったように立ってる。その事実が釈迦堂を驚愕させる。

 

 

「終われ」

 

 

「ガァ!!」

 

 

 

ビュン!と鞭のように放たれた蹴りが釈迦堂に直撃する。たった一撃のもと、釈迦堂は地に沈んだ。

 

 

「もしも、お前が鍛錬を続けていれば結果は変わっただろうにな」

 

 

「う、うるせえ」

 

 

必死に起き上がろうとするが、受けたダメージが大きすぎて立ち上がる事も動く事も出来ない。

 

 

「さて、貴様ら赤子どもは弟子だったな。ならば、貴様らも危険な存在だ」

 

 

倒れた釈迦堂から視線を外し、傍観していた辰子たちに視線を向けたヒューム。

その目線を受けた四人が身構える。

 

 

「お前達もそこに倒れている師と同じ選択肢を与える。どちらか選べ」

 

 

ヒュームの言葉に四人は答えない。答えなど決まっているからだ。

 

 

「そうか」

 

 

一言発したヒュームが攻撃を放とうとしたが、ヒュームと辰子たちの間に悠介が立ちはだかる。

 

 

「何のつもりだ?」

 

 

「見てわかんねか?あんたが、それ以上あいつらに手を出すなら、俺も戦うって事だよ」

 

 

悠介の言葉に辰子たちは驚愕するが、ヒュームはさして驚かず

 

 

「理由はなんだ?」

 

 

訳を問う。その問いに対して悠介は、地面に倒れている釈迦堂に一度視線を向けた後

 

 

「あんたが俺の戦いを台無しにした。それが理由だ」

 

 

それにと悠介は言葉を続ける。

 

 

「おっさんがやられた時点で、あいつらには何もする気はねえだろ。それが理解出来ねえような奴らには見えねえしよ」

 

 

悠介が思い出すは、自分の家族を守るために最後まで警戒を解こうとしなかった亜巳の姿。今だって、四人の中で誰よりも前に出ている。

 

 

「あんたらの目的は、治安の安全だろ?それ以上は一つの家族の平穏を壊す行為になる。流石に見過ごせねえよ」

 

 

悠介の言葉に考え込むような姿勢を見せたヒューム。その姿を見た悠介に悪寒が奔った。

本能に従いその場にしゃがんだ瞬間、ブォン!と鋭い回し蹴りが通り過ぎる。

 

 

「てめぇ、何のつもりだぁ?」

 

 

「見切りは出来るらしいな」

 

 

悠介が怒りの言葉を発するが、ヒュームは自分の蹴りが避けられた事を確認すると

 

 

「いいだろう。貴様の言い分を通してやろう」

 

 

闘気をしまい、未だに大の字で倒れている釈迦堂に視線を向ける。

 

 

 

「そこにいる赤子四人の面倒もちゃんと見るのだな。就職先のリストは、追って送る」

 

 

 

「あ~ハイハイ。約束は守るよ」

 

 

ぶっきらぼうに答えた釈迦堂の返事を聞いたヒュームは、その場から立ち去る。

ヒュームが立ち去った事を確認した辰子たちは、肩から大きく息を吐く。その顔からは大量の汗が流れている。

その中、悠介は大の字で寝転がる釈迦堂に近づく。

 

 

「えらく、弱くなったな」

 

 

「・・うるせえ」

 

 

悠介の言葉に顔を逸らしながら答える釈迦堂。心なしか、その声は震えている。

釈迦堂の言葉を聞いた悠介は、小さく息をこぼす。

 

 

「アンタは目標の一つだ」

 

 

「!!」

 

 

悠介の呟きに釈迦堂は反応を示す。そして悠介は釈迦戸の反応にも気にも留めずに唯一言。

 

 

「だから、待ってやる(・・・・・)

 

 

と釈迦堂に告げた。悠介の言葉に彼は何も言わない。言いたい事を言い切った悠介は、辰子たちに視線を向き直して

 

 

「さて用は済んだし、俺はそろそろ帰らせて貰うわ」

 

 

「え~もう帰っちゃうの!!」

 

 

帰ると告げるが、その言葉に辰子が反対する。辰子の反応に困った様に頭をガシガシと掻きながら悠介は言葉を発する。

 

 

「わりぃな。今はそう言う気分じゃねえし。その代り、また今度お前の料理を食べに来るわ。それで許してくれねえか?」

 

 

悠介の言葉は、辰子ともう一人亜巳に向けられていた。

 

 

「絶対だよ!!絶対だからね!!」

 

 

「あんたには貸しある。好きな時に来るといいさ。時間があったら相手をしてあげるよ」

 

 

「あんがとよ」

 

 

二人の許可を得た悠介は笑みをこぼし来た道を帰ろうとし、ある事に気が付く。

 

 

「そういやぁ、名前を聞いてなかったな。なあ、お前の名前は何て言うんだ?」

 

 

唯一名前を聞いていなったリュウと呼ばれた少年に問いかける。問われた少年は一瞬驚くが直ぐに問いに対して答えた。

 

 

「!!。竜兵。板垣竜兵だ」

 

 

竜兵から名を聞いた悠介は、一度頷き

 

 

「そうか。辰子、天、亜巳、竜兵、うんじゃあまあ、またな」

 

 

手を振りながら静かに帰っていった。

悠介の姿が完全に見えなくなった頃、今まで地面に倒れていた釈迦堂が突然笑い出す。

 

 

「ど、どうしたんよ、師匠!!」

 

 

突然笑い出した釈迦堂に驚く四人。

ある程度笑い終えた釈迦堂は、笑い涙を拭いながら

 

 

「仕方ねえな。また一から鍛え治すか」

 

 

自分の拳を上に突き出す。全ては、あの可愛げのない弟子の為。今度戦う時は、あいつの壁として、超えるべき目標として立ちはだかろう。

その為のチャンスをくれたのだから。それに答えなければならない。

ガラではないが、あいつの前ではそうありたいと、思い出してしまった。

 

今この時、ナマクラと化した一本の牙が、一瞬本来の輝き放った。




「この文字を背負う。それが俺の目標だ!!」

名前:相楽悠介(さがらゆうすけ)

武のテーマ:『惡』 何者にも染まらず、何事にも揺るがない意思

身長:177cm

血液型:B

誕生日:四月三日 牡羊座

一人称:俺

あだ名:悠介 悠介君 相楽

武器:拳 ???

職業:川神学園二年F組 燕の家に居候中

家庭:父親と母親の三人家族

好きな食べ物:焼き魚・松永納豆・すき焼き

好きな飲み物:川神水

趣味:修行・昼寝

特技:喧嘩

大切なモノ:自分の意思・『悪一文字』

苦手なモノ:燕や親の説教

尊敬する人:夢に出てきた男・自分の師四人


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悠介と嫉妬

今回は、前回が結構真面目な話だったので、ちょっと阿保らしい話にしてみました
何つうか、こう言った話の方が簡単に肉付け出来るんだよね
真面目な戦闘とかは、結構悩む癖に・・・・

今回は、初めて集団戦にチャレンジしてみました
その為、違和感とかあったらお願いします


釈迦堂と板垣一家との出会いから翌日の月曜日。悠介はいつも通り登校し、いつも通りに授業を受けた。

休み時間には、クリスや一子などと武について話し合いをしたり、昼休みにはだらけ部で弁慶と一緒に川神水を飲みながら、時間一杯まで昼寝をしたりした。

悠介自身、そこそこに楽しい学園生活を送っている。

 

そして時間は放課後に至る。

 

 

「おい、相楽」

 

 

「あん?」

 

 

HRも終わり教室から出ていこうとした悠介の耳に、自分を呼ぶ声が届く。声のした方に振り向くと、悠介程でないにしろ面構えが悪そうな少年が立っている。

 

 

「確か、源だっけ?」

 

 

「おう。源忠勝だ。ゲンでいい」

 

 

「じゃあ、ゲン。何の用だよ?」

 

 

何かしたっけ?言わんばかりの声音にゲンは、手で頭を抑えながら

 

 

「何の用も何も、明日はお前が日直だろうが。だから、日誌の書き方が分かんねえんじゃねえかと思ってな」

 

 

ぶっきらぼうだが、何処か気遣う様な声で悠介に日誌を突きつける。その言葉を聞いた悠介は、メール話で聞いた通りだなと小さく笑みを作る。

 

 

「そらぁ助かるわ。最悪甘粕にでも聞こうと思ってたんだが、何つうか頼るのは嫌だったんだよな」

 

 

「確かにな」

 

 

悠介の言葉にクッと笑みをこぼすゲン。それを見た悠介も再び笑みをこぼす。小さい体で背伸びして一生懸命に頑張る甘粕にあまり負担をかけたくないのだ。

一度席についた二人は、日誌を開きながら仕事の内容などを話している。

 

 

「まあ、大体こんなもんだ。わかったか?」

 

 

「ああ。まあ、大抵は向こうと一緒だったしな」

 

 

一通り離し終えたのか、二人は席を立つ。

 

 

「今日は助かったぜ。さんきゅうな、ゲン」

 

 

「別に。俺はただ、もしもお前が仕事をミスして、小島先生の機嫌を損ねるとめんどくせえと思っただけだ」

 

 

「そうかい」

 

 

告げられた感謝の言葉に、ゲンは顔を逸らしながらぶっきらぼうに言葉を返す。

その姿は何と言うか、大したことをした訳じゃねえのに褒めてんじゃねえよと、感謝されるのに戸惑っている様にも見える。

だからこそ悠介は、それ以上何も言わなかった。

 

 

 

「まあ、これからも迷惑かけるかもしれねえが、そん時はまた助けてくれると助かるんだが?」

 

 

「・・・・俺に迷惑が掛からん程度になら、助けてやる」

 

 

「ありがとよ」

 

 

悠介の言葉に仕方ねえなと言うように頷くゲン。彼は恐らく助けてくれるだろう。その不器用な優しさを持って。

だからだろうか

 

 

(ある意味初めてかも)

 

 

源忠勝と友になりたいと思ったのは?対等な敵ではなく、友でありたいと願ったのは初めてだった。

何か上手く言葉に出来なのだが、なぜかとても気が合う様な気がするのだ。

 

そのまま二人は教室を後にする。しかし、気分が良かった悠介は気がつかなかった。

教室を出た自分を監視する影に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲンと共に教室を出た悠介は、グランドの中央辺りで立ち止まっていた。

 

 

「はあ」

 

 

頭を掻きながら悠介は視線を下に向けながら、大きくため息をついている。そう言えば、今日の晩飯って何だったけな~?と空を仰ぎながらそんな事を考える。

まあ、燕が居るし納豆料理は確定出だろ。しかも、昨日新しい料理を編み出したとか言ってたし、今日は納豆料理オンリーだな。

そう言えば、今日は久信さんの帰りが遅いとか言ってたし、燕と二人で晩飯だな~。

 

 

「はあ」

 

 

二度目の溜息。メシを食う前に川神山にでも寄って汗でも流すかなと、今後の予定を組み立てる悠介。

 

 

「あ~」

 

 

とても疲れたような何処かめんどくさそうに声を発した悠介。本音を言えば、ものすご~くめんどくさいし、関わりたくもないのだが、そうもいきそうにない。

 

よし!そろそろ現実を見よう。

 

 

 

「一応聞くけど、何の用だ?」

 

 

呆れたように周りを見渡しながら悠介は、そう言い放った。そう言った彼の視界には、修羅たちがいた。

否、断じて誤字ではない。グラウンドを埋め尽くさんばかりに、大量の血走った眼をした男子たちが悠介を睨んでいるのだ。

 

悠介の言葉に一人の男子が一歩前に出る。

 

 

(福本だよな)

 

 

現れたのは、悠介のクラスメイト。確かあだ名は、ヨンパチだったけ?

悠介がそんな事を思い出しているのと同時に、ヨンパチが話始める。

 

 

「諸君!!私はリア充どもが嫌いだ」

 

 

「はあっ?」

 

 

突然何の脈絡のない言葉に悠介は、素っ頓狂な声を上げる。しかし、悠介の反応など関係がないと言わんばかりに、ヨンパチは話し続ける。

 

 

「我々が、一人寂しくしている時を同じくイチャイチャしているカップルどもが憎い。ましてや、ラブコメの様に女子を取り換える野郎など、我らの宿敵と言ってもいい」

 

 

ヨンパチが言葉を発するたびに、悠介の周りを囲う男達の殺気が跳ね上がる。

 

 

「つまり、何が言いたいんだ?」

 

 

今一要領のえない言葉を聞いた悠介は、単刀直入に彼らの目的を問う。

 

 

「決まってんだろ!!初日のモモ先輩とのラブコメの主人公の様なラッキースケベに始まり、先週の土曜日に川神の地に舞い降りたアイドル燕先輩とデートしていたと言う情報が上がってんだよ!!しかもその後河川敷で、モモ先輩といい感じの雰囲気で居たって言う情報も上がってるんだよ!!!」

 

 

「・・・・・・」

 

 

悠介の言葉に答えたのは怒りに表情のガクトだった。ガクトの言葉を聞いた悠介は、余りの理由に唖然としている。

 

 

「つまりそう言う事だ。我らは、美女を独占する貴様と言う敵を打ちに来た。そうだろ?同志たちよ!!」

 

 

「「「「「「「然り!!然り!!然り!!」」」」」」」」」

 

 

「よろしい。行くぞ、同志たちよ」

 

 

ヨンパチの言葉と共に男達が駆け出そうとする直前

 

 

「あれ?どうしたの悠介君」

 

 

可愛らしい声がグラウンドに届いた。その場にいた全員が、声のした方向に視線を向けると

 

 

「これはこれは、もしや・・・」

 

 

 

「燕」

 

 

人差し指を顎に当てながら、首をコクンと傾げる燕の姿があった。その姿を見た悠介は、助かったぜと安堵の息を吐く。

 

 

「こいつらがよ。俺とお前が、デートしてたとか意味の解らん事を言ってんだよ」

 

 

「なるほどなるほど。ふ~ん、そうかそうかぁ~」

 

 

悠介の言葉を聞いた燕が、二ヤリといやらしい笑みを見せる。その笑みを見た悠介は、直感と経験からヤバイ!と思い、即座に動こうとするが、それよりも燕の言葉の方が早かった。

 

 

「何でもいいけど悠介君、早く帰って来てね?今日はおとんもいないから、二人で楽しく晩御飯食べたいんだから、ね?」

 

 

「おまっ!!」

 

 

何言ってんだ!!と吠えるよりも先に、燕はそのまま悠介たちの元から去っていく。その姿を見送った悠介は、再び現実逃避しようとするが、それよりも早く

 

 

「一緒にだとッ!!!!」

 

 

「まさかすでに嫁だとッ!!」

 

 

「親の公認だとぉッ!!」

 

 

男達が壊れた。慌てて悠介が誤解を解こうと話しかけるが、男達は聞く耳を持たずに

 

 

「諸君!!我らのアイドルを、あの糞野郎の手から解放するぞ!!」

 

 

「「「「「「「■■■■■■■■■■■■■■」」」」」」」」」

 

 

「せめて、わかる様に話してくれよ」

 

 

悠介に向かって駆けだす。

それを見た悠介は、対話を諦めて静かに拳を握る。

そして、男達が襲いくるよりも早く

 

 

「らあぁ!!」

 

 

駆け出す。

 

 

「「な、ごふぅッ!!!」」

 

 

 

悠介の前方から襲い掛かってきた二人を、加速した勢いのままに吹き飛ばす。吹き飛ばされた二人は後方を巻き込んで倒れ込む。それによって、前方の敵の動きが止まった事を確認した悠介は、大きく身体を左に回転させ

 

 

「オラァ!!」

 

 

「ごふぅ」

 

 

左から襲い掛かって来る面々に向かって拳を打ち込む。横に大きく吹き飛ばされた男は、そのまま隣の男も巻き込んで転倒。

左に回転させた力をそのまま利用し、後方から襲い掛かる面々を殴り飛ばす。

 

 

「「怯むな!!いくらモモ先輩と戦えるとは言え、数では圧倒してるんだ!!囲えーーーーーー!!!」」

 

 

 

ヨンパチとガクトの言葉を受けた男達は、即座に悠介の周りを囲みだす。その姿を見た悠介は

 

 

(やっぱ、あの二人が頭か)

 

 

敵の大将の姿を確認した。そしてそのまま、拳を二人に突き出し

 

 

「来いよ」

 

 

戦意を示す。と同時に駆け出す。

悠介が駆け出したことを確認した男達も駆ける。

 

 

「「「「「おりゃぁぁぁああああああああああ!!!」」」」」」

 

 

三百六十度全てを覆うように襲いくる男達が悠介をがっちりと捕まえる。

 

 

「よしッ!!つかまえたっ!?」

 

 

悠介の動きを止めたと確信した一人の男子が声を上げるが、その顔を悠介の手が掴む。

ギイギイィと油の切れた歯車の様な音がするかのように、悠介が固定されているにも拘らず

 

 

「おらあぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 

無理やり拘束を外し、そのまま投げ飛ばす。そしてそのままに前進を開始。

 

 

「死ねぇッ!!」

 

 

一人の男子が放った拳を身体を回転する事で躱し、そのままに裏拳を放つ。

ぐへぇと倒れる男子。しかし、悠介の脚は止まらない。

 

それは何故か?

理由は簡単。自分が不利にならない為だ。一対多を相手取る時の鉄則は、自分の死角に敵を入れない様に全てを視界に納め続ける必要がある。

では逆に、囲まれた場合はどうするか?それはとにかく脚を止めずに走る続ける事。

止まってしまえば、敵に袋叩きされるのは目に見えている。だからこそ、動き続ける事で、的を絞らせない様にする必要がある。

 

だからこそ、悠介は止まらない。

 

 

「オラァア!!」

 

 

走りながら、左右から来る敵を殴り沈め、前方から来る敵の足を思いっ切り蹴りつける事で、問答無用に転倒させる。

 

 

「此処は俺に任せろぉ!!」

 

 

「おお、行けぇッ!!相撲部主将」

 

 

悠介の前方を覆う巨漢。その姿を見ても悠介の脚は止まらない。二人が激突する直前、悠介の姿が消える。

 

 

「なっ!!何処に!!?」

 

 

突然の事に慌てる相撲部の主将。全員が辺りを見渡す中、彼の頭上に影が生まれる。

相撲部の主将が上を見上げると、そこには

 

 

「なっ!!」

 

 

「らあぁ!!」

 

 

頭上から悠介が拳を構えながら、落下してきていた。そのまま悠介は、落下する勢いも上乗せした拳が、ドッゴオォン!と激音をたてながら真下にいた相撲部の主将を沈める。

落下し終えた悠介は、その場に倒れている二人の男子を掴み、そのまま投げ飛ばす。

 

 

「おら、来いよ!!まだ終わらねえだろ?」

 

 

唖然とする男達を挑発する悠介。今の彼はすでに、このやっかみを集団戦の修行ととらえている。

だからこそ、悠介は此処で終わってもらう訳には行かなかった。

 

 

「俺達、モテない男の執念を舐めるなぁぁああ!!」

 

 

悠介の言葉にヨンパチがガクトが男達が吠える。

その姿を見た悠介は

 

 

「そうこなくちゃよぉ」

 

 

薄く笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから数十分が経過。

グラウンドには、多くの男達が沈んでいた。その中でも悠介は、若干息を切らしながらも悠然と立っている。

 

 

「漸く、半分って所かぁ」

 

 

辺りを見渡しす悠介が、自分の敵の数を確認する。

此処までくれば、ヨンパチ達の敗北は必至だろう。

 

 

「まだやれるよなあ?」

 

 

「ったりめえだろ!!おめえは、俺達の想いを甘く見るなよ!!」

 

 

悠介の言葉にヨンパチが返す。その言葉を聞いた悠介は、威張るものかぁ?と疑問を持つ。

その時

 

――――ぇぇ

 

 

「うん?」

 

 

悠介の耳が何かを捉えた。

気のせいかと思い、もう一度よく耳を凝らせば

 

―――――ぇぇぇえ

 

 

やっぱり聞こえる。しかも、気のせいか気かづいているような気がする。

悠介の動きが止まった事を見たヨンパチたちは、チャンスと言わんばかりに駆け出す。

 

 

「行くぞぉ!!野郎どもッ!!」

 

 

「「「「「「「おおッ!!!」」」」」」」」」

 

 

迫りくる中、それでも悠介は、自分の耳に届く音から意識を外せないでいる。

 

 

――――ぇぇええええッ!!

 

 

やっぱり近づいてきている。

 

 

―――――けぇぇええええッ!!

 

 

(うん?この声は・・)

 

 

近づいてくるにつれ、その声は自分の聞き覚えのある声だと気がつく。

そして

 

 

「悠介ぇぇえええええッ!!」

 

 

ドォン!と轟音をたてながら、一人の少女が落下して来た。

 

此処からさらに、この件は混沌を歩む。

 




どうだったでしょうか?
良かったら、感想をお願いします

ゲンさんとは、いい感じの友達にしたいなぁ~
皆さんは、どう思いますかね?


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悠介と再戦

新年明けましておめでとうございます。
今年初投稿!!

本当は、もう少し早く投稿できるはずだったんですが、親が年賀状の作成にパソコンを独占などがあって出来ませんでした。

まあ、そんな事は置いといて本編ですが、例のごとく後半が雑になってるかもしれませんので、違和感とかあったら教えて下さい
阿保らしい話を書いていたはずなのに、なぜ?って感じになっております



大量の土煙を巻き上げながら落下して来た少女姿を確認した悠介は、驚きの声を上げる。

 

 

「モモっ!?」

 

 

突然の乱入者に、悠介に襲い掛かろうとしていた男達も歩を止める。ほんの一瞬、沈黙が場を支配するが、僅かな時間でそれは拡散する。

そんな中、百代に視線を向けていた悠介がある事に気がつく。

 

 

「うん?」

 

 

彼の視線に映る悪友の姿がおかしい。何というか、自分の記憶にないほどに怒っている様だ。僅かに顔を下に向けていて表情を見る事は出来ないが、その身にまとっている雰囲気が物語っている。

気のせいか髪が逆立ち、彼女の近くの空間が歪んで見える。

 

 

「えっと、モモ先輩?」

 

 

誰もが話しかけ辛いなか、ガクトが恐る恐ると百代に話しかけるが

 

 

「・・・・・・」

 

 

百代は答えず、岳人に背を向けたまま微動だとしない。対して悠介はと言うと

 

 

 

「・・・・・おい、急にどうしたんだよ?」

 

 

 

ずっと沈黙している百代に問いかける。いや、沈黙していると言うよりは、何かを堪えていると言った方が正しいのかもしれない。

 

 

「・・・・・とは、・・・・こと・だ」

 

 

「あ?」

 

 

突然百代の口から放たれた言葉。だが、その音量は小さく悠介の耳ではとらえきれない。

しかし、その声音には明らかにイラつきや怒りが含まれているのは、その場いた誰もが感じる事だ出来た。

 

 

「なんつった?」

 

 

悠介の確認する様な問いかけ。瞬間、百代の放つ威圧感が跳ね上がり

 

 

「悠介ぇぇえ!!。燕と同棲(・・)とは、どう言う事だッ!!」

 

 

「はあ?」

 

 

怒号と共に悠介を問いただす。しかし、当の本人はと言うと、百代の言葉の意味が分からずに、首をかしげる。

 

 

「さっき、クラスの男子から聞いたぞ!!お前が燕と一緒に二人で(・・・)で暮らしているとッ!!」

 

 

時間は数十分前に戻り、悠介と話し合いをして以来、本来の調子に戻った百代は、同じクラスの弓子南條と話を終えて帰宅途中だった。

そんな中、クラスの男子たちが鬼気迫る表情で、話していたのを聞いてしまったのだ。

曰く「相楽悠介と松永燕は、親公認の中である」と。

その言葉を聞いた瞬間、百代の中に今までの人生で感じた事もない怒りが湧き上がった。

その時の百代の表情と雰囲気は、たまたま追いついた弓子と南條を問答無用で震え上がらせた。

 

そしてそのままに百代は、悠介たちの元に飛び降りた。

 

 

 

「・・・あのなあ、モモ」

 

 

百代の言葉を聞いた悠介が、一度構えを解いて誤解を解こうとする。

 

 

「俺は、燕の家に居候(・・)してるだけだし、久信さんもいるから、別段二人きっりって訳じゃねよ」

 

 

「でも、一緒には住んでるんだろ?」

 

 

「・・まあな」

 

 

しかし、一緒に住んでいるのは事実なのでそれを言われると、悠介は何も言い返せない。

ほんの僅かに言いよどんだ悠介。悠介の言葉を聞いた百代は、体を震わせ

 

 

「悠介ぇぇぇぇえええええ!!」

 

 

「っておうっ!!」

 

 

悠介に向かって拳を放つ。放たれた拳を悠介は、ギリギリに回避し

 

 

「あっぶねえなっ!!急に何すんだ!!」

 

 

文句を述べるが、当の百代は

 

 

「うるさいッ!!とにかく、一発殴らせろ!!」

 

 

「理不尽過ぎんだろ!!」

 

 

全くもって、聞く耳を持たない。

 

 

「一回落ち着けって、な?」

 

 

「私は、十分に落ち着いている」

 

 

「いや、落ち着いてねえって!!むしろ、俺の知る限りでは一番イラついてんぞ」

 

 

「いいから、一発殴らせろ」

 

 

「理由が理不尽だなあ、おい!!」

 

 

次々に放たれる拳を必死に躱す悠介は、どうにか落ち着かせようとするが、一向に百代は止まろうとしない。むしろ、悠介が躱すためにヒートアップしている。

 

 

 

「この・・・いい加減にしろ、コラァ!!」

 

 

理不尽な攻撃を躱し続けていた悠介も、我慢の限界が来たのか、パンと百代の拳を受け止め、逆に百代に一発叩き込む。

 

 

「わあったよ。一回ぶちのめして、頭を冷やしてもらうぞ」

 

 

数メートル後退した百代を視界に納めながら悠介はそう宣言する。

その言葉を受けた百代もまた、考えた訳でもなく自然に構えを取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に仕掛けたのは百代だった。短く息を吐いたと、同時に地面を蹴って悠介に肉薄する。

 

 

「悠介ぇえ!!」

 

 

ただ己の内に湧き上がる感情を吐き出す為に放たれた拳は

 

 

「チィ」

 

 

「ッ!?」

 

 

悠介の元には届かない。舌打ちをこぼしながら、百代の拳を簡単に受け止める。自分の拳が受け止められた事に驚愕する百代。そんな百代を見据えながら悠介は

 

 

「何だぁ?この腑抜けた拳(・・・・・)は」

 

 

ギリィ!と受け止めた百代の拳を握りしめながら呟く。その表情は、誰がどう見ても怒っている。

 

 

 

「違げえだろ?そうじゃねえだろうが!!」

 

 

「ぐぅ!!」

 

 

怒りの言葉と共に放たれた拳。その一撃を真面に受けた百代は、苦悶の声を漏らしながら後方に数下がる。

襲い掛かってきたダメージに顔を顰めながらも、悠介に向ける殺気は一向に衰えない。

そんな百代の姿を見た悠介は、自然と言葉を漏らした。

 

 

「そんなモンだったのかよ・・」

 

 

そう言った悠介の表情は、何処か悔しがるように悲しむような、何とも言えないモノだ。

 

 

「そんなモンに支配されて、お前じゃないお前と戦う・・・・俺らの戦いってのは、そんな簡単なモノだったのかよ」

 

 

ああ、何処かではこうなるんじゃないかとは思っていた。久しく拳を交えたあの時、上手くは言えないが百代の拳から感じたのは、歓喜に似た狂気だった。勿論他にも感じた事はあるが、そんな一面も感じたのだ。

その後も、何気なく百代を見て悟ってしまった。川神百代の精神は、極めて未熟だ。

 

だからこそ、今の状況がひどく悔しく悲しい。自分の無力さが悔しい、自分との戦いをその程度に認識していた百代の事が単純に悲しい。

 

だが、皮肉にも悠介のその表情が、百代を正気に戻す切っ掛けになった。

 

 

「あっ・・・」

 

 

百代が漏らした声は、イタズラをしてやってしまった事の重大さに気がついた子供の様な声。その表情は、唖然と己がしていた事を思い出している。

 

 

「なっ・・・」

 

 

何をしてたんだ、私は そんな言葉すら言えない程に動揺している百代。彼女の呼吸は、過呼吸気味になり始めている。

 

今まで私は何をしていた?燕には、悠介との戦いを特別と言っておきながら・・・私はさっきまで何をしていた?

 

湧き水の様に湧き上がる後悔と自責の感情。

そんな百代の耳に

 

 

「モモ」

 

 

悠介の先ほどとは違う声音が届く。その声を聞いた百代は、下げていた視線を悠介に向ける。百代の視線を感じた悠介は、静かに拳を構え。

 

 

「悪いと思ってるならよ・・・拳を握れ」

 

 

それでチャラにしてやる。そう告げた悠介の言葉。

彼の言葉に呆然とする百代だったが、一度大きく息を吐いた後

 

 

「ああ、頼む」

 

 

拳を構える。

先ほどとは、全く違う空気が場に張り詰める。二人の近くにいるガクトやヨンパチたちは、余りの状況の変化の速さに、呆然とその場に立ち尽くしている。

 

 

「いくぜ?」

 

 

「何時でも来い!!」

 

 

悠介の確認するような言葉に、百代は力強く頷く。それと同時に、悠介は地面を蹴った。

 

 

「うらぁあ!!」

 

 

咆哮と共に右ストレートを放つ。迫りくる圧を前に百代が取った行動は

 

 

「ふぅ」

 

 

「!?」

 

 

脱力し、そのまま左斜め前に倒れ込む。そして、体が地面に触れる直前

 

 

「しっ」

 

 

「なッ!!」

 

 

ダン!と左足で地面蹴った。そして加速したままに

 

 

「悠介ぇえッ!!」

 

 

「ッ!!」

 

 

悠介の腹に一撃を叩き込む。その威力に、悠介の身体がわずかにグラつき、一瞬呼吸が止まる。しかし、それでも悠介は引かない。

 

 

「はっ!」

 

 

倒れない悠介の姿を見た百代は笑みをこぼす。そうだ。それでこそ、お前(ゆうすけ)だ。だからこそ、僅かに動きが止まった今の時間を無駄にする気はない。

体勢を立て直し、殴りつけた拳を開き

 

 

「致死蛍」

 

 

気弾を放った。爆音が鳴り響く刹那、誰もが爆風から目を護る中、百代は静かに拳を構え

 

 

「川神流 無双正拳突き!!」

 

 

「オラァァ!!」

 

 

直撃を受けてなお、止まらない。悠介の拳と衝突した。

バァン!辺りに響く衝突音。その音に誰もが耳を塞ぐ。

その中で、渦中の二人は

 

 

「「ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!!」」

 

 

ギチギチと目の前の敵に拳を届かせるべく、より一層力を込める。ぶつかり合うは、互いの力。そこに技術(わざ)はない。

 

 

「!!ちぃ」

 

 

勝負に勝ったのは、百代だった。悠介は、拳を上に反らす事で後ろに下がる事を回避。しかし、その直後悠介の身体に、百代の拳が直撃する。

自分の拳が悠介に入った事を確認した百代は、二発目を叩き込もうと拳を構えるが

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

「なめんなあッ!!」

 

 

上に反らす事で後方に下がる事を回避した悠介は、その拳を百代の上から叩き込んだ。

ドガッ!と地面に倒れ込んだ百代。

拳を上から振り下ろした悠介は、再び拳を握りこみ

 

 

「シィ!!」

 

 

地面に倒れ込む、百代目掛けて振り下ろした。

 

 

「!!」

 

 

悠介の拳が当たる直前、百代は身をひるがえし拳を回避する。悠介は、後方に回避した百代を追撃するために、地面を駆ける。

 

 

「モモォォオ!!」

 

 

目の前に映りこむ敵に向かい足を動かし、百代に肉薄する。グッと握られた拳が、彼女の身体に直撃する。

 

 

「がぁッ!!!」

 

 

悠介の拳を直撃してしまった百代は、獣の様な声を漏らす。身体を襲う衝撃に意識を奪われる中、百代の視界が写し込んだのは、もう片方の拳を構える悠介の姿。それを見た百代の身体は、考えるよりも先に行動を起こす。

後方に飛ばされた状態から、空に浮いている足を小さく鞭の様に振るい、悠介の顔面に叩き付ける。

 

 

「ッ!!?」

 

 

突然の意識外からの強襲に、悠介の動きが止まる。その隙に百代は、体勢を立て直す。

 

 

「「・・・・・」」

 

 

距離にして約一メートル。構えは解かず、二人はただ無言で相手を見据える。

既に二人には、なぜ戦う事になったのか。そう言った理由など忘れている。

二人のうちに在るのは、目の前の敵を倒す。ただ、それだけだ。

 

フゥー と二人の口から息を吐く音だけが、その場を支配する。

互いに重心を落とし、拳を握る。

そして

 

 

「「オラァッ!!」」

 

 

再び互いの拳がぶつかろうとした瞬間

 

 

「顕現の参 毘沙門天」

 

 

「ジェノサイド・チェーンソー」

 

 

巨大な足と強烈な蹴りが、百代を叩き潰し、悠介を吹き飛ばした。

悲鳴すら上げる事が出来ずに、二人は地面に倒れる。

 

 

「やれやれじゃの~」

 

 

「ふん」

 

 

二人の戦いに介入した鉄心とヒュームは、何処か呆れる様な声を漏らす。

 

 

「おいッ、ジジイ!!何で邪魔をする!!」

 

 

鉄心の攻撃から立ち上がった百代が鉄心に食って掛かるが

 

 

「阿保たれッ!!周りをよくみんかい!。お前さんらの余波で、大変な事になっとるだろうが、学園長としてこれ以上は見逃せんわ!!」

 

 

「こちらも同じだ。川神百代」

 

 

「うっ」

 

 

二人の指摘に言いよどむ。確かに周りは、悠介が倒した男子と二人の戦いの余波で気絶した男子であふれかえっている。

全くもって、反論できない。

 

 

「じゃが、悠介にそれ(ジェノサイド・チェーンソー)とはの・・・どう言うつもりじゃ?」

 

 

先ほどのヒュームの行動に対して鉄心は、睨み付ける様に問う。その問いに対して、ヒュームは

 

 

「なに、俺の興味心と言ったところだ」

 

 

悪びれる事無く告げる。そんなヒュームの言葉に

 

 

「興味本位で、死にかける羽目になったのかよ」

 

 

悠介が反論する。息も乱れ、足もおぼつかないが、どうにか立って歩いている。

満身創痍と言う言葉がピッタシだが、確かに己の足で立っている。

ヒュームはその事実に、僅かに目つきを鋭くするが、それも一瞬の事だった。直ぐにその目線はなくなった。

 

 

「大丈夫かの?」

 

 

「どうにかな。当たる直前で、ギリギリ後方に跳べたのが幸いしたぜ」

 

 

声を出して技を放たれてなかったら、確実に気絶してたな と告げながら鉄心の言葉に答える悠介。

 

 

(それだけで、ヒュームの蹴りを耐えれるわけはないんじゃがな)

 

 

勿論、ヒュームも全力ではなかっただろう。それでも、悠介が満身創痍とは言え立てているのは

 

 

(どれだけ、自分を苛め抜いているのやら)

 

 

何度も何度も己を追い込んでいるのであろう。その鍛錬が、ギリギリに悠介を立たせているのだ。

 

 

「そうじゃ。伝え忘れとったわい」

 

 

「何だよ?」

 

 

鉄心の言葉に疑問の言葉を口にする百代。対して、悠介はマジかよと言わんばかりに顔を歪めている。

 

 

「今後、お主ら二人の勝手な戦闘を全面禁止とする」

 

 

「なっ!!」

 

 

「ちぇ」

 

 

鉄心の言葉に百代は驚き、悠介は悔しそうな声を漏らす。

 

 

「流石に見逃せんからの」

 

 

「わあってるよ」

 

 

鉄心の言葉に悠介は頷き、手荷物を持って帰宅を始める。その時、ヒュームと僅かに視線を合わせる。ヒュームは、悠介の視線を受けると、僅かに笑みをこぼしその場から文字通り消える。

 

漸く驚愕から抜けた百代が鉄心に再び鉄心に食って掛かるが、肝心の鉄心は全く相手にしない。

百代の声を後ろに聞いた悠介は

 

 

「モモ」

 

 

「何だよ、悠介。お前もそんなのはいやだろ!!」

 

 

「次こそはケリだ。次に俺らが、戦う時は絶対に誰にも邪魔はさせねえ。だから、それまで首あらって待ってろ」

 

 

拳を突き出しながら、再戦を誓う。

 

 

「!!」

 

 

「これ以上、無駄に戦って、楽しみを減らしたくねえ。お前はどうだ?」

 

 

「・・・良いだろう。だが、次戦う時は必ずケリを付けるぞ!!」

 

 

「たりめえだ!!」

 

 

此処に二人の間に誓いはなされた。もう次はない。今度こそ、二人がぶつかり合った時、どちらかが必ず、敗北と言う名の泥に身を汚す。

 

それは確信。二人の戦いに、これ以上引き分けはない。

 

 

 

 

 

 

「あっ!居候の件は、燕に聞いてくれや」

 

 

「・・居候?アッ!!」

 

 

悠介が校門間際でこぼした言葉に、百代はこの件の発端を思い出す。急いで問い詰めようとするが、それよりも早く鉄心が動きを止める。

 

 

「ジジイ、離せ!!」

 

 

「離さんわい。お前も、倒れておる生徒を運ぶのを手伝わんかい」

 

 

「なぜ、私だけ!!」

 

 

「ボロボロの悠介に頼めんじゃろ?治療はいいと、帰っちゃうしの」

 

 

鉄心の言葉を聞いた百代のは、さっさと帰ったライバルの名前を暫らく叫び続けた。




良かったら、感想をお願いします

最後になりましたが、完結目指して頑張りますので、今年も 真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~をよろしくお願いします


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悠介と心の強さ

今回は、六人目のヒロイン?候補が登場します
例のごとく、どうなるかは全くの不明ですが

今回の話を書いて思った事、自分には文章表現力が足らない気がする
結構メインの話し合いなのに、うまい具合に文章にまとめれなかった・・・


例のごとく、違和感があったりしたら教えてください


最後に、自分で書いといてあれだけど、悠介・・・夜道で背中から刺されればいいのに


その日の放課後悠介は、図書館にいた。ただ悠介自身は、川神学園の図書館に自分が読みたい本があるかなと、興味本位で来たのだが、周りの生徒たちはそうはいかない。

 

 

「・・・・・」

 

 

先ほどから感じる視線。その大半が、なぜ居るのだろう?と言った感じのモノだ。まあ、そう思われて無理はない。顔だちと言うか雰囲気と言うのだろうか、彼が黙って読書をするイメージが全く似合わない。と言うか、今図書館に居るとこすら、違和感がバリバリである。

 

しかし、そんな視線を受けるのに慣れている悠介は、構わずに本を探す。

 

 

(えっと~、幕末から明治時代の歴史書は・・見っけた)

 

 

歴史のブースの中からお目当ての場所を見つけた悠介は、ある程度の本を持つと静かに席に座って、読み始める。

 

悠介が読むのは、基本的には歴史の人物をまとめた伝記が大半だ。それも、幕末の時代から明治の初期に当たる時代を生きた偉人の伝記に絞られる。

それは、悠介の夢に出てきた男達がその時代を生きたと言うのもあるが、悠介本人も激流の様に流れゆく時代の狭間で、その時代を生きた人々の決断や想いにひどく共感していると言う理由もある。

 

朱色の日が窓から悠介が座っている場所を照らす中、黙って黙々と本を読み進める悠介。

集中している悠介、そんな彼に近づく一人の人物。しかし、肝心の悠介は読書に完全に意識を本に集中しているのか、すぐ傍に近づかれた事に気がついていない。

 

 

「見た目と相反して勤勉なのだな、君は」

 

 

「あ?」

 

 

突然投げかけられた言葉。悠介は、即座に声のした方を向く。声のした方にいたのは、不思議な空気を纏う和服を流麗に着こなした和の美青年と呼ぶべき人物だった。手に持った扇子がそれをより増長してる。

 

 

「あんた・・・誰だ?」

 

 

「言霊部主将をしている、京極彦一だ」

 

 

「主将って事は先輩か?」

 

 

「ああ、三年だ」

 

 

京極の言葉を聞いた悠介は、マジマジと彼の姿を見る。悠介の視線を感じながらも、京極もまた悠介を見る。

互いが互いを観察すると言う、摩訶不思議な状態。時間にして約数十秒。

 

 

(何か、初めて先輩って呼べる人を見たかも知れねえ)

 

 

(静かだが燃えたぎっている・・・全てに対して。だが先ほどは、プレゼントを貰った子供の様な雰囲気。まるで合わせ鏡だな・・・やはり面白い存在だ、相楽悠介)

 

 

互いに相手に関する大体の印象を感じた二人。

 

 

「名乗ってなかったんで、相楽悠介っす。よろしくお願いしますは、京極先輩」

 

 

「ああ此方こそ、よろしく頼む。私も、君の行く末に興味があってね」

 

 

「へえ。・・・・まあ、希望を越えれる結果を出すつもり何で、楽しんでくださいや」

 

 

「ふむ、期待している」

 

 

挨拶も済み次にどんな会話が成されるのかと、その場いた誰もが注目するが肝心の二人は

 

 

「それでは、私はこれで失礼するよ」

 

 

「うす。また、機会があれば会いましょうや」

 

 

京極は悠介に挨拶を済ませると、その場から早々に立ち去る。悠介も、京極が立ち去った事を確認すると、再び席に座り黙って本を読み始める。

余りにも淡白な挨拶に誰もが唖然とするが、もう何も起こらないとわかると、各々の自分の仕事や本に集中し始める。

 

そんな中暫くしたのち、新たな来訪者が悠介の元を訪れた。

 

 

「へえ~。本当に本を読んでるんだね」

 

 

「・・弁慶か。何か用か?」

 

 

悠介の前に現れたのは、手に錫杖を持ちもう片方に川神水を持った弁慶だった。顔はほんのり赤く染まっている所を見ると、川神水で酔っぱらっている様だ。

 

 

「別に。ただ、悠介が図書館に居るって聞いたから、本当かどうか確かめに来ただけ」

 

 

「そうかい」

 

 

イメージになかったらと言われながらも悠介は、何の反応も示さない。そんな事を言われるのは慣れている。

 

 

「そう言えばさ、何の本読んでるの?」

 

 

ふと、悠介が読んでいる本が気になったのか、弁慶が肩から顔を覗かせながら尋ねる。背から伝わる人肌ほどの温かさと柔らかさを、耳からは弁慶の吐息が聞こえる。そんな思春期真っ盛りの男子たちは、夢にまで見る様な状況の中、悠介はさして気にしたそぶりも見せずに

 

 

斎藤一(さいとうはじめ)についてまとめた本だ」

 

 

淡々と弁慶の質問に答える。悠介の言葉に、へー と意外そうな声を漏らしながす弁慶。

 

 

「んな事よりもよ、そろそろ背中から離れろや」

 

 

背中に引っ付く弁慶をウザく感じたのか、悠介は少し強めに弁慶に言うが、肝心の本人は、どこ吹く風で取り合おうとしない。完全に出来上がってんな と弁慶の状態を見た悠介は静かにめんどくさそうに息を吐いた。

 

 

「離れろ」

 

 

「やだ」

 

 

 

大した期待もせずに、もう一度言う悠介。しかし、案の定弁慶は拒否する。予想どうりの言葉に、どうするかと頭を働かせる悠介。

 

 

(力づくは・・・周りに迷惑がかかるし、無理だよなあ)

 

 

手詰まりで、どうするべきかと困った様に僅かに表情を顰める悠介。そんな悠介の表情を見れて嬉しいのか、弁慶の顔には笑みが浮かべる。

 

 

 

「ねえ、悠介」

 

 

「何だ?」

 

 

「退いてほしい?」

 

 

「当然だ」

 

 

弁慶の問いに、キッパリと断言する悠介。悠介の言葉を聞いた弁慶は、まるで言質を取ったと言わんばかりの表情を見せ。

 

 

「だったら今度のだらけ部で、私のお願いを聞いてくれるなら、退いてあげてもいいよ」

 

 

「・・・・・・わあったよ」

 

 

「~~~」

 

 

弁慶の言葉にしばし葛藤した悠介だが、結局渋々と言った感じながら弁慶の条件に頷いた。悠介の言葉を聞いた弁慶は、満足したように背から離れて図書館から出ていった。

 

弁慶が出ていった後、悠介は一度ため息をはいた後、再び目の前の本に集中し始める。

結局悠介は、図書館の閉館時間までずっと本を読んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図書館が閉館するまで、本を読み続けた悠介。時間も完全下校時間となったため、校門に向かって歩いていた。

 

 

「ふわぁ~」

 

 

あくびを零しながら歩く足取りは若干遅い。何時間も座っていたのだから、体が固まっていてもしょうがはないのかもしれない。

 

 

「あ~めんどくせえ」

 

 

悠介が思い出すは、先ほどの弁慶とのやり取り。あのめんどくさがり屋の事だ、自分の身の周りの世話から雑務まで、全て押し付けられるに決まっている。それを思うと悠介の気分は怠さに支配される。

しかし、そんな気分はその光景を見て吹き飛んだ。

 

 

「!!?」

 

 

その光景は一枚の絵と言われても納得が出来るぐらいに美しかった。元来、そう言った美術に疎い自分ですら、その光景が美しいモノだと理解出来た。

 

夕日の朱色の光を浴びて赤く染まった一本の木の下で座りながら、ゆったりと本を読む一人の少女。

 

 

(何つうか絵に成るってのは、ああ言う事を言うんだろうな)

 

 

一瞬、その光景に目を奪られた悠介だが、即座に意識を持ちなおす。よく周りを見れば、自分以外にもその光景に目を奪われている生徒が多数いる。まあ、大半が男子生徒たちだが

 

 

(帰るか)

 

 

ずっと見ているのも、あそこで本を読んでいる少女に悪いだろう。そう思った悠介は、再び校門に向かって歩き始めようとするが、それよ同時だった。本を読んでいた少女が、本から視線を悠介たちに向けたのは。

 

 

「うん?」

 

 

何か視線を感じた悠介は、感じた方に自身の視線を向ける。そこにいるのは、先ほど悠介が視線を向けていた少女ただ一人だ。

 

 

「・・・・何か用か?」

 

 

「えっ!」

 

 

じっと見られるような視線を感じた悠介は、ゆったりと少女の元に行く。初対面の筈だが、自分に向けられる視線は自分を知っている様なモノだった。だからこその問い。悠介の言葉を受けた少女は、まさか自分とは思わなかったのか驚いた様な声を上げる。

 

 

 

「わりぃ。驚かせる気はなかったんだが、さっきから俺に視線を向けてたからな」

 

 

まあ人の事は言えねえがと心の中で呟きながら、目の前の少女を見る。ヒナゲシの花の髪留めを付けた美しいがぴったりと合う、悠介自身あまり見たことがない文科系の美少女だ。

 

 

「え~っと、悠介君だよね?」

 

 

「あん?俺を知ってんのか」

 

 

「クス。君を知らない生徒何て、そうそういなよ。何て言ったって、あのモモちゃんと戦えるんだから」

 

 

「・・そうか。そう言えば、あんたの名前は・・」

 

 

ふと、まだ名前を聞いていない事を思い出した悠介。悠介の言葉に、少女は手に持った本をかばんに直した後、悠介の目を見ながら答えた。

 

 

「私は、三年S組の葉桜清楚だよ。よろしくね」

 

 

「うす。こちらこそ、相楽悠介っす。よろしくお願いします」

 

 

互いに自己紹介を終え、今度こそ悠介は清楚に訳を問う。悠介の言葉に清楚は答えていく。

 

 

「ちょっとだけ、悠介君と話してみたかったんだ」

 

 

「俺とか?」

 

 

「うん。モモちゃんと燕ちゃんが何時も悠介君の話を嬉しそうに話してくれるから」

 

 

「・・・あの女郎(やろう)どもは」

 

 

清楚の言葉を聞いた悠介は、顔を僅かに赤く染めながら頭を抱える。その姿を見た清楚は

 

 

(二人が言ってたみたいに、本当にこう言った表情もするんだ)

 

 

二人の話していた事が事実である事を知って、少し嬉しそうな表情を見せる。最初清楚は、悠介の事を不良存在だと思っていたが、それを知った百代と燕の二人に別々に違うと言われたのだ。

 

曰く「外見は確かに不良っぽいけど、性格は義理堅いし、何よりたまに見せる年相応の表情が、凄く微笑ましい」と

 

今まさに、悠介が見せている表情は年相応のそれだった。

 

 

「それに・・・私も君には興味があったんだ」

 

 

「興味っすか?」

 

 

「うん。マルギッテさんとの決闘で聞いた君の言葉が、凄くかっこよかったから」

 

 

満面の笑みでそう言われ、悠介はどう反応していいか分からず、ポリポリと赤くなった頬を指で掻いた。

 

 

「本当に凄いと思うよ」

 

 

何気なく口に出された清楚の言葉。しかし、その言葉を聞いた悠介の口からは、自然とそんな言葉がこぼれた。

 

 

「何か悩み事でもあんのか?」

 

 

「えっ?」

 

 

別段、顔色が曇ったとかそう言ったもので感じたのではなく、声音に感じた僅かな羨望とでも言える感情。自分もそう言った想いを抱いた事があるからこそ、気がつけた。

 

悠介の言葉に清楚は、どう答えて言いのか判らないのか沈黙している。

だからこそ、悠介は

 

 

「話してみろよ。役に立てるかどうかは解んねえが、それでも自分の中に貯めるよりはずっといいぜ。それに、関わりが浅い奴だがらこそ、話せることがあるかもしれねえぜ」

 

 

清楚の助けになろうと問いかける。

悠介の言葉を聞いた清楚は、実はねと前置きを置きながら話始める。

 

 

「私、ちょっと不安なんだ」

 

 

「不安って何に対してだ・・・すか?」

 

 

「私達って、武士道プランとして偉人の生まれ変わりとして生まれたんだよね。義経ちゃんなら、源義経みたいな感じで。でも、私は自分が誰の生まれ変わりなのか判らないんだよね。九鬼の人達は、私が二十五歳になったら教えてくれるって言うけど、私は私が誰なのか知らないのが、少し怖いの。京極君達は、そんなの気にしなくていいって言ってくれるんだけど、やっぱり不安なんだ」

 

 

作られた命。だから、自分が何であるのか知らないのが恐い。それが清楚の悩み。

しかし全てを聞き終えた悠介が出した言葉は、意外な言葉だった。

 

 

「それだけ?」

 

 

「ええッ!!それだって・・・」

 

 

悠介の言葉に清楚は、少し怒ったような困ったような表情を見せる。自分の真剣な悩みをそれだけっと一蹴されれば、誰だってそうなるが

 

 

「う~ん。簡単に言うと、あんたの悩みは誰だって持ってるもんだとおもうぞ・・ます」

 

 

「!?。それってどう言う事」

 

 

「誰だって自分が誰かなんて、わかる訳がないんすよ。むしろ、その正体を作る(・・)為に生きてるようなもんだ。たぶん、死にかけて漸く人ってのは、自分が誰なのか知るんじゃねえのかな?」

 

 

悠介の言葉は、清楚にとっては驚きべきものだった。だって、自分が誰なのか知るのではなく、自分で作っていくなんて、少なくとも自分では考える事が出来ない。

 

 

「それでももし先輩が、恐いって言うならば強くなるしかないと思う」

 

 

「強く?」

 

 

悠介の言葉を聞いた清楚は、静かに自分の手に目線を向ける。その姿を見た悠介は、笑みを浮かべながらそうじゃねえと告げる。

 

 

 

「それじゃあ、どう言う意味で・・」

 

 

言ったのと言うよりも早く、悠介の拳が清楚の胸の近くに差し出された。

 

 

 

(ここ)だよ」

 

 

 

「心?」

 

 

「ああ、心を強くすればいい。自分が誰であっても受け止めれるぐらいに強く、自分の正体が認めたくないモノだったとしても、それを受け止めて前を進めるぐらいに」

 

 

悠介の言葉を聞いて、自分の手を胸に当てる清楚。その顔は、悠介の言葉を深く考えている様だ。

 

 

「それによ、たぶんいろんな奴らに言われてるかもしれねえけどさ、アンタはアンタだろ?他の誰でもない葉桜清楚先輩だろ?自分の正体を教えられるまで、まだ時間があんだ、その間にたくさん作ればいい。仲間との楽しい思い出を、辛い思い出を。きっとそれがあったら、例え葉桜先輩の正体が何であっても、大丈夫だと思う・・す」

 

 

勇気づけるような悠介の言葉。不思議と悠介の言葉は、清楚の胸の中に入って来る。

 

 

「私にも出来るかな?心を強くすることが」

 

 

「出来るよ。川神(ここ)にいれば、否応なしにでも強くなれるさ。俺でもなれてんだからな」

 

 

「・・・・そっか。そうだよね」

 

 

悠介の言葉に納得する清楚。

 

 

「それにいろんな奴らが、きっと葉桜先輩を助けてくれますよ」

 

 

「悠介君も?」

 

 

確認するような清楚の言葉。

それを聞いた悠介の答えは

 

 

「微妙かも・・」

 

 

「ええッ!!」

 

 

否定に近いモノだった。その言葉に清楚は、二度目の驚きの声を上げる。

 

 

「単純に負けたくないんすよね」

 

 

「??」

 

 

「いや俺ってさ、マルギッテとの決闘でも言ったけど、凡人なんすよね。そんな俺がさ、想いで心で誰かに敗ける訳にはいかないんすわ」

 

 

そう言いながら自分の胸に拳を当てる悠介。

 

 

「凡人の俺が心で勝てなくて、何処で勝つって言うんすか」

 

 

断言するように告げる悠介。その姿を見た清楚は、単純にその悠介の姿が、とても愛おしく思えた。

しかし、それを表情に出さない様にクスと笑みを浮かべる。

 

 

「本当に負けず嫌いなんだね。武道家でもない私にも敗けたくないなんて」

 

 

それじゃあさ、笑みを浮かべながら清楚は、静かに悠介に手を差し出す。

 

 

「これからは、私達ライバルだね」

 

 

「・・そうっすね」

 

 

差し出された手を握りながら、悠介もそう返す。

 

 

「私ライバルって言うの初めてだけど、敗けないよ?」

 

 

「それは俺のセリフっすよ」

 

 

朱色に染まる木の下で互いに手を取り合う二人。それは、先ほどよりも完成された一枚の絵の様だ。

 

 

「あ、悠介君。携帯の番号教えてくれる?」

 

 

「良いっすけど、何ですっか?」

 

 

「これから、こう言った相談に乗って貰おうと思ったんだけど・・・ダメかな?」

 

 

上目使いで悠介を見る清楚。普通の男子なら顔を赤く染める場面だが、悠介は何の反応も示さず、ケータイを取り出す。

 

 

「俺でいいなら、別に構わないっすよ。あ、でも心を強くする方法は教えないっすよ」

 

 

「うん。それでいいよ」

 

 

そう言いながら、赤外線で互いの連絡先を交換する二人。

 

 

「それじゃあ、俺はそろそろ帰るんで」

 

 

「うん。今日はありがとね」

 

 

「そんじゃ」

 

 

プラプラと手を振りながら校門に向かって歩く悠介。

その姿を見ながら、先ほど連絡先を交換した携帯を握りしめながら

 

 

「本当にありがとう、悠介君」

 

 

清楚はそう小さく呟いた。

 




いかがでしたでしょうか?
清楚とのやり取り・・・・何か大事な言葉を省略した感が自分的にはありますが・・・・あれで限界です

ヒロイン候補ですが、察しの通り清楚です
読者の皆様から寄せられた、年上キラーがどんどんと年上を・・・


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悠介と九鬼 その1

お待たせしました!?

えーっと、最後の学年末テストがあって、更新が止まってしまっていました
報告も出来ずにすみませんでした!!
でも、これで学校にもほとんど行かなくて済むので、今後は執筆を頑張っていこうと思います(でもあんまり期待せずにしていてください)

まあ、そんな話は置いといて、今回、悠介の七・八人目のヒロイン?候補が二人が登場します
本格的な会話は次回に持ち越しですが(因みにすでに一回登場しています)

そして今回、燕のあるルートをぶっ壊します

例のごとく、違和感とかがあったら、教えて下さい


清楚と話した翌日。いつも通りに、学校に登校する。悠介が教室の扉を開けようと手をかける。しかし、悠介の手はそこで一旦止まる。

 

 

「・・・・」

 

 

扉越しから伝わる殺気。本来ならば、全く関係ないはずだが

 

 

「やっぱ、昨日ことだよな・・?」

 

 

前回の件を踏まえると、悠介には心当たりがあった。今思えば、あの場所には多くの生徒が居たのだ、直ぐに広まってもおかしくはない。

本音を言えば、めんどくさいし今すぐにでも帰りたいが、そんな事を思っても始まらないので

 

 

「仕方ねえか」

 

 

めんどくせえとため息をこぼしながら、悠介は教室の扉を開けた。

 

ガラと教室の扉を開け、一歩踏み込んだ瞬間

 

 

「俺様達モテない男達の恨みを思い知れぇぇぇええええええッ!!!」

 

 

悠介の耳にある意味悲しい想いが籠ったの言葉が届く。それと同時に、声の主であるガクトの拳が悠介の視界に飛び込む。

何とも予想通りの光景。迫りくる拳だが、悠介はあえて避けずに、その一撃を受ける。

 

確かな手ごたえを感じたガクトは笑みを浮かべる。だが、ガクトは失念していた。今自分が殴りかかった相手がどう言う人物だったのかを。

 

直撃を喰らった悠介だが、実際は大したダメージにはなっていなかった。悠介は、小さく拳を握る。向こうの想いを受け止めたのだ、ならば今度は自分が想いの丈をぶちまけても構わない筈だ。

 

 

「俺が・・・」

 

 

拳を引きながら、呟く悠介。

そして

 

 

「知るかぁぁぁぁあああああああああッ!!!」

 

 

「ぐへぇ!!」

 

 

自分の想いを拳に乗せて打ち抜く。その一撃にガクトは、潰れたカエルの様な声を出しながら、地面に倒れた。

その姿を確認した悠介は、かったりぃと呟きながら自分の席に向かう。誰一人としてガクトの心配をしていない。

むしろ

 

 

「あ~あ、だからそうなるって言ってるのに」

 

 

「全くもって学ばん奴だ」

 

 

「しょーもない」

 

 

「ガクト・・・お前の犠牲は無駄にしねえ!!必ず、相楽の奴を討つと誓うぜ」

 

 

「いやいや、まだ死んでないからねッ!!」

 

 

呆れの言葉が辺りに飛び交っていた。

 

 

 

「よお、朝から災難だったな」

 

 

席に着いた悠介をねぎらう言葉をかけたのは、席が近いゲンだった。

ゲンの言葉を聞いた悠介は、苦笑をこぼす。

 

 

「ああ、全くだぜ。あの手のバカは嫌いじゃねえが、あそこまで絡まれると、ただめんどくせえ」

 

 

「確かにな・・」

 

 

悠介の言葉にゲンは、考え深そうに頷いた。

 

 

「大丈夫?はいこれ、ストレスが溜まった時は甘い物が一番だよ」

 

 

「おお、助かるぜクマちゃん。ゲンも一緒に食おうぜ」

 

 

「ああ、構わねえ」

 

 

「それじゃあ、はい」

 

 

「サンキュウ」

 

 

恐らく川神学園一の食通 熊飼満(あだ名はクマちゃん)一押しのデザートを受け取る、悠介とゲン。

結局、授業が始まるまでの間、悠介とゲンそしてクマちゃんを交えて話し合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、またもや男子たちの襲撃を受けた悠介だが、問題なく撃墜したのち、燕と合流し、二人はある場所に来ていた。

 

 

「おっきいね」

 

 

「確かにデカいな」

 

 

二人が見上げる建物の名前は九鬼極東本部。悠介と燕の二人は、依頼主である紋白に呼ばれて、ここまで来たのだ。

 

 

「う~ん、此処に松永納豆を置いてもらえないかな?」

 

 

「下らねえ事言ってねえで、さっさと行くぞ」

 

 

「あっ!待ってよ、悠介君」

 

 

燕に一声かけた後、先を行く悠介。その後を慌てて追う燕。

そして、そのまま本部の玄関まで行くと、すでに其処に迎えがいた。

 

 

「お待ちしていました」

 

 

「えーと確かアンタは、あの時いた」

 

 

「確か(リー)さんでしたよね」

 

 

「はい。九鬼家従者部隊序列第十六位 李静初(リー・ジンチェー)です。紋様の命を受けて、お迎えに上がりました」

 

 

自己紹介をしたのは、かつて紋白が悠介たちに依頼をしたときに、付き添っていたメイドの一人だ。

彼女の挨拶が終わると、まるでそれを見計らった様に、もう一人のメイドが姿を現した。

 

 

「わりぃ、リー。遅れちまった」

 

 

「またですか、ステイシー。何度も言っているでしょう、集合は五分前が基本だと何度も言っているでしょう」

 

 

「ファック。おめえもうちっと、肩の力抜けよな」

 

 

現れたのは、物静かな李とは対照的な活発な碧眼金髪の美女だ。彼女の名前は、九鬼家従者部隊序列十五位 ステイシー・コナー。李とは、対照的だが年も序列も近く何かと気が合うので、よくコンビを組んで活動している。そして、あの時悠介たちの元にいたもう一人のメイドだ。

 

 

「はあ、もういいでしょう。とにかく、仕事が先です」

 

 

「おうよ。うんじゃまあ、ちゃちゃっとやりますか」

 

 

そう言って悠介と燕の案内をはじめる二人。そんな姿を見ながら、悠介と燕はその後を追う。

 

 

 

「おお。高さそうな物がそこらかしこに」

 

 

内部に入った燕は、その豪華さに圧倒される。悠介も口には出さないが燕の意見と同じだ。

 

 

「付かぬ事お聞きしますが、そこに在るツボのお値段は?」

 

 

「確か二億だったけ?」

 

 

「正確には二億四千万です」

 

 

「うわーじゃあ、あそこにある絵は?」

 

 

「四億六千万ですね」

 

 

「飛んでもねえな、おい」

 

 

次々に告げられる値段に悠介は、若干引き気味になりながらも驚愕の声を上げる。

 

 

「これだけあるんだから一個ぐらい、盗ったって気がつかないよね?」

 

 

「おいおい」

 

 

「やめろ、バカ」

 

 

危ない発言をし始めた燕をステイシーがジト目で睨み、悠介がその頭にチョップを叩き込む。

 

 

「あう。冗談だよ、悠介君。・・あ!じゃあ、最後の質問ね、此処で一番価値があるモノって何かな?」

 

 

「うんそらあ、大広間の巨大絵画か・・・いや、やっぱ九鬼家が集めた重要機密が詰まったパンドラメモリじゃんねえか?見た事ねえけど」

 

 

「ステイシー。それ以上は、機密事項です」

 

 

「わあってるって」

 

 

ステイシーの口から告げられた言葉。それを聞いた燕はフーンと興味がない様な素振りを見せる。いや、実際には既に興味を失っているのだ。

 

 

(やっぱり、噂は真実なんだ・・・まあ、関係ないけどね)

 

 

確かにもしも自分が悠介と出会っていなかったならば、その噂を信じただろう。今の状況ならば、尚更だ。

でも、知ってしまったし、憧れてしまった。彼の相楽悠介の生き方に。ならば、自分もそれを奪うなどと言った行為は出来ない。してしまえば、恐らく自分は彼の隣に居る事が出来なくなるだろう。

 

勿論、家族が再び揃うのが今の自分の目標だが、それ以上に彼の隣に居ると言うのが燕にとっては何よりも大切なことだった。

だから、その居場所を失う様な危険で愚かな行為などする気もなければ、考える気にすらなれない。

 

 

(あ~あこう言うのを、染められるって言うんだろうな)

 

 

横目に悠介を見ながら燕はそう自分の状態を評した。

 

 

「こちらです」

 

 

そうこうしている間に、紋白が居る場所に着いたのか、李が扉の前で止まっている。

そして、二人はゆっくりと部屋の中に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでな」

 

 

「ふむふむ」

 

 

「・・・」

 

 

どうしてこうなった?自分の目の前で展開される女子トークとでも言えばいいのか?それを見ながら悠介は、何度も自問自答を繰り返す。

最初は、間違いなく契約の内容やらを話していたはずだ。眠いながらも必死に意識を保っていたから断言できる。

しかし、ある程度話が纏まったあたりから家族の話に移り変わった。・・たぶん、そこだろう、話が大きくずれたのは。

話を聞く限り、どうやら紋白は隠し子だったらしく、他のきょうだいと半分血が繋がっていない。しかも、本妻とも言える九鬼局(つぼね)に良い感情を持たれていない事に気がついている。だからこそ、認めて貰いたいのだと。恐らく川神百代の討伐も姉を想っての事なんだろう。

 

そしてその話に、ある意味似た状況とも言える燕が食いついた。そうなったら後は早かった、あれよあれよと意気投合してしまったのだ。

 

 

これは長くなりそうだなと感じた悠介は、燕に一声かける。

 

 

「燕。エントランスで待ってるわ」

 

 

「りょーかい。もうちょっとしたら、私も行くね」

 

 

「いいから、ちゃんと付きやってやれよ」

 

 

そう言って悠介は紋白の部屋から退室した。

 

 

 

 

 

 

エントランスで燕を待っている悠介。椅子に座り、ただぼーっと時間が燕が来るのを待っていた。が、何もせずに待つと言うのはなかなか辛いのか、暫らくして悠介の意識は夢の中に沈んだ。

 

 

『助太刀ありがとうよ。だけどこいつは俺の相手だ』

 

そう言いながら男は、剣客の方を見据え

 

『わりぃけど、此処は仕切りなおさせて貰うぜ』

 

そう宣言した。その言葉に剣客は、静かにその場を任せる。

 

『補充完了。バカな男よ。ノコノコ火葬されに来るとは』

 

『バカはおめえだ。タネの割れた手品が何度も通用するかよ』

 

男のセリフに火男(ひょっとこ)と名乗る男は怒りを露わにし

 

『俺様自慢の技が手品などと言うやつは、全員火葬してやる!!』

 

口から大量の炎を吐き出した。迫るは、圧倒的な熱量。誰もが回避を優先しようと考える最中、男は

 

『しゃらくせえ!!』

 

あえて炎の中に飛び込み、そして男の口から油袋を取り出す。

 

『もうお前に勝機はねえ。大人しく降参しな』

 

『バカめ』

 

『あ?』

 

『勝機がないのは貴様だ。その火傷した拳では先ほどの拳打は打て・・ま”い”!!?』

 

勝利を確信した火男は、大きく拳を振り抜こうとするが、それよりも早く男の蹴りが顎を打ち抜いた。

倒れた火男を見据えた後、男は後ろに控える剣客の方を向き

 

『楽勝!!』

 

勝利宣言を告げた。

 

そこまで映像を見ていた悠介だが、突如意識が現実に持っていかれる。

その理由は・・

 

 

「フハハハ!!我の帰還である!!」

 

 

「ハイ、お帰りなさいませ英雄様ぁ!!」

 

 

この二人である。

 

 

「るせぇ」

 

 

「うん、貴様は一子殿のクラスに転入した庶民ではないか」

 

 

ふとこぼした悠介の呟きを聞き取った英雄が近づいてくる。

 

 

「なぜ、此処に居るのだ?」

 

 

英雄の問いかけ、しかし悠介は答えずにその姿を見て

 

 

(何だよ、よく似てんじゃねえか)

 

 

紋白の心配が悠介には憂鬱に思えた。

 

 

「はぁーい、そこのあなた。英雄様が問いかけてるんだから、しっかりきっちり答えて下さい。さもないと~はらわた抉りますよ~」

 

 

ずっと黙っていた悠介にあずみがキレた。英雄から見えない角度から短刀を悠介に突き付ける。

 

 

「あ~悪い。此処居る訳は、まあ連れを待ってんだよ」

 

 

(こいつッ、あたいの脅迫に欠片も動じてねえ。ヒュームの爺さんとやりかけたってのは、どうやら本当らしいな)

 

 

あずみの短刀を気にすることなく話す悠介。その姿にあずみは、小さく警戒の色を見せる。

 

 

「連れとな?一体誰だ?」

 

 

「燕」

 

 

「おお、紋が気に入ったと言っておった者だな。ふむ、紋の奴も頑張ってるでないか」

 

 

紋白関係の話になった瞬間、英雄のテンションがより上がる。それを見た悠介は

 

 

(ホント、愛されてるじゃねえか)

 

 

紋白に向けられる愛情の深さに笑みを浮かべる。

 

 

「英雄様、そろそろお時間が」

 

 

「おお、そうであった。ではまたな庶民」

 

 

高笑いをしながら、颯爽とその場を離れる二人。去っていく二人を見ながら悠介は、嵐みたいな奴らだったなと、ある意味場違いな感想を抱いていた。

 

 

 

英雄との嵐の様な会話から数分、再び悠介はエントランスで燕を待っていた。

 

 

「やっぱ、ただ待つのも暇だな・・・もう一回ねるか?」

 

 

悠介がそう考えていると

 

 

「おっ!そこにいるのは、ロックな坊主じゃん」

 

 

「どうしてこんなところに?」

 

 

ステイシーと李のメイドコンビが現れた。




いかがでしたでしょうか?
因みに、七人目のヒロイン?候補がステイシー・コナー
    八人目のヒロイン?候補が李・静初です
年上キラー悠介君の毒牙に、美女がまた・・・・・

三人の会話は、次回をお楽しみください
出来るだけ、期待に添えれるように頑張っていく心算です


良かったら、感想をお願いします


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悠介と九鬼 その2

お待たせしました!!
漸く本編の更新です

思った以上に会話を考えるの難しくて手間取ってしまいました
その為、違和感とあったら教えて下さい


燕が来るまでエントランスで待っていた悠介の前に現れたステイシーと李の二人。悠介は、ステイシーに連れられて、エントランスに置かれた机と椅子に座って話をしていた。

 

 

「つか、こんなとこでサボってていいのかよ?」

 

 

「問題ねーよ」

 

 

「先ほど、休息の時間を頂いています」

 

 

「そーゆーこと。お前も暇何だろ?だったら、この美女コンビとロックに会話といこーぜ」

 

 

「まあ、燕が来るまでの暇つぶしにはなるか。・・・あんたもいいのか?」

 

 

「ええ、私も貴方とは話をしてみたいと思っていたので、問題ありません」

 

 

「そうか。ならいいや」

 

 

李から確認を取った悠介は、二人が了承しているなら問題なしと判断。自分も燕が戻って来るまでの時間つぶしになると同意する。

 

そんな感じで会話が始まった訳だが、話題は当然、悠介の話となった。

 

 

「やっぱお前ロックな奴だぜ!!まさか真剣(マジ)で、あのヒュームのジジイに喧嘩を売るとはよ」

 

 

「あのヒューム卿に喧嘩を挑むとは・・・何て命知らず」

 

 

「そうか?・・つか、さっきから苦しんだが」

 

 

「うん?なんだよ、こんな美女にご奉仕されてるんだぜ?もっと喜べよな!!」

 

 

現在の悠介は、ステイシーの豊満な胸を押し付けらている。米国産の柔らかな感触が悠介の顔を包んでいる。普通ならば喜びだろうが、ある意味馴れてしまっている悠介からすれば

 

 

「いや、息苦しいんだけどよ」

 

 

ただ息苦しいだけのだ。

 

 

「何だよ、そんなノリがわりぃぞ!!もっと、ロックに行こうぜ!!」

 

 

「あんたの相方だろ?どうにかしてくんね」

 

 

悠介はステイシーに言っても無駄だと悟ると、傍で控えている李に助けを求める。

助けを求められた李は、ゆっくりとステイシーに話しかける。

 

 

「ステイシー。それでは話が出来ませんので、離してあげてください」

 

 

「お!それもそうだな。ほらよ、後でまた可愛がってやるぜ」

 

 

李の言葉を聞いたステイシーは、悠介を解放する。解放された悠介は、背筋を伸ばし縮こまっていた身体をほぐす。

 

 

「たっく、なんか最近似たような目に合いまくってる気がするぜ」

 

 

「・・・ステイシーも言っていましたが、そう言うのは男の子にとっては、大変喜ばしい事なのでは?」

 

 

悠介の呟きに李がふとした疑問を問いかける。

 

 

「あ?別に興味がねえ訳じゃねえぞ、俺だって男のだからな。ただ、今はそれに興味が湧かねえほどの夢があるだけだぁ」

 

 

そう別段悠介にそう言った感情がないわけでは無いのだ。可愛いと思うし綺麗とも思う。しかしそう言った事は、小さきときからつるんでいた百代や燕のお蔭で、馴れただけだ。

 

何処か誇らしく儚げに、ただ真っ直ぐに告げる悠介の姿。だからだろうか、自然と李は興味が湧いた。恐らく、彼の生き方を聞いた者が問うであろう問いを口にする。

 

 

「そこまでして貴方が叶えたい夢とは一体何ですか?」

 

 

李の素朴な疑問。ステイシーも興味があるのか、悠介の言葉を待っている。

二人の視線を受けながら悠介は、静かにその背に刻まれた文字を指し示めし

 

 

「ただ、この文字を背負う。それだけだ」

 

 

告げる、己の夢を。

 

 

「この文字だぁ?」

 

 

「・・・・」

 

 

悠介の宣言と共に、二人の視線が羽織に刻まれた『惡』と言う文字に集まる。

 

 

「その文字。何を示している(・・・・・)んですか?」

 

 

「・・・・わりぃ、それは俺もよくわかんねえ」

 

 

「は?」

 

 

「マジか?」

 

 

李の質問に対し、悠介は困った様に言葉を発する。悠介の言葉に、二人は単純に驚きの声を上げる。

 

 

「自分でも理解出来ないモノを目指しているんですか?」

 

 

李の疑問も当然だ。元来、何かを目指すのには、確固たる理由が必要だ。たとえ最初が憧れだったとしても、追う内に理由が形成されるモノ。

だと言うのに、目の前の少年はまだそれが分からないと言うのだ。

それは霧の中を道もわからずに進むと同義なのだから。

 

 

「う~ん、どう説明していいのか、自分でもよくわかんねえだけどよ。そう言う物じゃ、ねえんだよな。示すんじゃなくて・・・・」

 

 

クリスにはああ言ったが、本当は自分でもよくわかっていない。この『惡』意味を、本当の意味では。

だって、自分の様に何も失ってもいない(・・・・・・・・・)のに、彼が掲げた全てを理解できるなんて、虫のいい考えは持てない。

 

それでも僅かに理解できたのが、クリスに言った言葉ともう一つ。

それは

 

 

「むしろ、自分を追い込んでいくもんだな」

 

 

「??」

 

 

「はあ?」

 

 

自分の弱さの・・無力さと非力の肯定。己の弱さゆえの悲劇を心に魂に縫い付ける為の言葉。

 

二人にはその言葉の真意は理解できない。

それでも数秒ののちに理解する。

 

 

(本当に見た通りの性格なのですね)

 

 

(ロックな奴だぜ。ますます気に入った!!!)

 

 

ただ、悠介のその顔をその目を見れば、自分達には理解出来た。彼が言わんとする事が、そして悠介が歩まんとする道を進む覚悟を。

李は、その儚さゆえに何処か見守る様に ステイシーは、その覚悟故に楽しそうな笑みを浮かべる。

 

二人がそんな表情をしている中、悠介がふとした疑問を口にする。

 

 

「そう言えばよ、アンタらは何で九鬼で働いてんだ?」

 

 

悠介が見た感じ、二人からはマルギッテと同じ雰囲気を感じる。上手く説明できないが、何となく真っ当な形で九鬼で働いている様に思えない。

悠介の疑問を聞いた二人は、自分達だけが聞くのも悪いと思い話始める。

 

 

「私はよ、同じ傭兵で同僚だったあずみの奴がメイドとして働き出したって聞いてよ、ばか笑いしに会いに行ったのよ。そしたら、運悪くヒュームのジジイに見つかってよ、メイドを笑うとはいい度胸だ的な事を言われて無理やりな・・・あ~糞、今思い出してもファックな気分だぜだぜ」

 

 

「私は、元々は帝様を暗殺を依頼されたアサシンだったのですが、クラウディオ様に阻止されまして、自殺をしようとした所で逆にスカウトされたと言う訳です」

 

 

 

「いろんな意味ですげえな」

 

 

二人の話を聞いた悠介は、驚きと呆れを込めてそう言う。何と言うか、色々と規格外すぎる。

そんな悠介の反応に、李はまあその通りですと呟く。そしてステイシーはと言いうと

 

 

「だからよ、お前がヒュームのジジイのに喧嘩を売ったって聞いた時から、会ってみてえと思ってたのよ!!しかも今の話を聞く限り、お前もなかなかロックな奴だかな、気に入ったぜ!!」

 

 

再び悠介を抱き寄せていた。悠介は、最早抵抗するのも諦めて成されるがままにされている。そんな二人の姿を李は、若干微笑ましそうに見ている。

 

 

「・・・いい加減に離せよ」

 

 

米国産の豊満なそれを顔に押し付けられ続けた悠介は、我慢の限界と言った感じで反論を口にする。

 

 

「おいおい、何ってんだよ!この私が直々にこんなことする機会なんて、普通はねえぞ」

 

 

「何だ。誰から構わずにするんじゃねえのか?」

 

 

「ファック。私はそんなに軽い女じゃねえぞ。昔の仲間でもやった事はねえからな。・・・そう言えばジムの奴、次の戦場から生きて帰って来れたら、あたいの胸を触らせてくれって・・」

 

 

「あん?」

 

 

突如雰囲気の変わったステイシー。頭を押さえ、何かに耐える様な表情をしている。その様子に疑問を持つ悠介。

そんな悠介の反応を見た、事情を知っている李はゆっくりと口を開く。

 

 

「ステイシーは偶に傭兵時代の思い出をフラッシュバックして、憂鬱になる事があるんです」

 

 

「なるほど」

 

 

李の説明を聞いた悠介は納得したと言わんばかりに頷く。そして納得したが故に再びステイシーに視線を戻す。戻した視線の先には、未だに憂鬱そうに顔を下に向けるステイシーがいた。

 

 

「・・・・」

 

 

彼女は恐らく前を今を見ていない。過去に囚われている様に、少なくとも悠介には見えた。そして悠介はそう言う奴らを知っている。

それは、他でもない己が憧れる男。時代が変わり彼が剣士に会うその時まで、彼はずっと過去に囚われていた。

だからこそ、悠介は考えるよりも先に体が動いた。

悠介は優しくステイシーの髪を撫でる。突然の行為に驚くステイシーだが、それよりも早く悠介の言葉が紡がれた。

 

 

「前を見ろよ」

 

 

「ッ!!?」

 

 

「そんなしみったれた生き方(・・・・・・・・・)は、アンタ流に言うなら全然ロックじゃねえだろ?ゆっくりでいい、それでも前を見なくちゃよ」

 

 

そこで悠介はいったん言葉を切る。

 

 

「過去を糧に前へ。ロックに生きようじゃねえか。それが生き残ったアンタの務めじゃんねえのか?」

 

 

伝えたい事を告げる。悠介の言葉を聞いたステイシーは、ゆっくりと手を上げて頭を撫でる手を払いのける。

 

 

「うん?」

 

 

「何時までも撫でてんじゃねえよ。あたいは年上だぞ」

 

 

悠介の鼻先に指を押し付けながら怒るステイシー。そこには先ほどまでの憂鬱な姿など感じない。

 

 

「少しは前は向けたか?」

 

 

「ファック。そう簡単に変われたら苦労しねえぜ」

 

 

「そらそうだな」

 

 

ステイシーの言葉に悠介も同意する様に頷く。そんな悠介を見なながらステイシーは意を決したように

 

 

「でもまあ、ありがとな」

 

 

ガシガシと頭を掻きながら、照れくさそうにステイシーは礼を述べた。

礼の言葉を聞いた悠介は、気にすんなと一言で返した。

そんな相方の姿を李は面白そうに見ている

 

 

「そう言えばよ、アンタって何つうか笑わねえと言うか、感情が表に出てねえよな」

 

 

「ええ、暗殺者だったころの影響で感情を殺すの基本となっていますので。どうしても笑顔(・・)などが作れないんです」

 

 

「・・・」

 

 

ふとした疑問の答えを聞いた悠介は、どう反応して良いのか分からずに沈黙する。そんな悠介の反応を見た李は「お気になさらずに」と簡潔に告げる。

苦し紛れだった。何か言わなければならないと、思って出た言葉だった。

 

 

「過去をなかった事にすんなよ」

 

 

「え?」

 

 

「いや、上手く言えねえけどさ。過去を切り捨てて、新しい自分を作るんじゃなくてよ今を基礎に出来るんだからよ。無理に人をマネて笑おうなんて考えんなよな」

 

 

一度口に出してしまったセリフ。だが不思議と、後が続いた。

李も悠介の言葉に自然と耳を傾ける。

 

 

「きっと、アンタにはアンタの笑み(・・・・・・)があるんだからよ。それを他人のまねで消すなんて勿体ねえ事すんなよな」

 

 

言われた言葉。それがあまりにも優しく温かくて

 

 

「そうですね」

 

 

クスッと微笑みがこぼれた。

 

 

「おっ!今、笑えたじゃねえか」

 

 

「私も初めて見たぜ」

 

 

「え?」

 

 

「何だ無意識か。でもまあ、これなら笑える日は近けえかもな」

 

 

悠介にそう言われた李は、確認するように手を顔に当てる。意識していたわけでは無いそれでも確かに口角が僅かに上がっている。

 

 

「気長にとはいかねえけど、自分のペースで頑張れや」

 

 

悠介の背を押すような言葉。それを聞いた李は、再び意識する訳でもなく

 

 

「はい」

 

 

僅かだが、李・静初らしい笑みで答えた。

それを見た悠介も笑みを向けて返した。

 

 

その後二人は、僅かにスッキリした様な表情で、悠介に別れを告げて去っていった。

 

 

二人が去って暫らくしたのち、エントランスに燕が現れた。

それを確認した悠介は、立ち上がりその場を後にした。




いかがでしたでしょうか?
マジ恋の世界においてあの二人は、一番るろ剣の題に合ってると思って考えた結果ああなりましたが、どうでしたでしょうか?

良かったら、感想をお願います


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悠介と風間ファミリー

お待たせしました!!

題名でわかる通り彼らとの絡みです
全くと言っていいほど絡んでなかったので、そろそろ絡ませないとと思いまして

そして今回、悠介の武が語られます

違和感とかあったら、教えて下さい


昼休み。悠介は、ゲンと共に食堂で昼飯を食べていた。

 

 

「その弁当すげえよな。もしかして手作りか?」

 

 

「おう、まぁな」

 

 

ゲンの弁当を見た悠介の言葉に、本人は気にした風もなく答える。それを聞いた悠介は、すげえなと感動した様な声を漏らす。

 

 

「それにしてもやっぱ、食堂は賑やかだな」

 

 

「そらそうだろ。つか、弁当食うのに何で食堂で食べようなんて言ってんだよお前は」

 

 

ゲンの指摘に悠介は、わりぃ、見てみたかったんだからいいだろ? とに答える。その答えを聞いたゲンも、まあ仕方ねえか とそれ以上追及しない。

はた目にも仲が良さそうに食事をしている二人。

そんな雰囲気の中に

 

 

「プレミアムに見つけたッ!!」

 

 

「あわわ~、まっ待ってください~~」

 

 

二つの声が届いた。自然と二人の視線は、声のする方に向けられる。

 

 

「黛と…誰だ?」

 

 

悠介が振り向いた先にいたのは、自分の悪友と同じグループに所属する黛と体操服であるブルマに身を包んだ気の強そうな少女。

 

 

「一年S組のクラス代表の武蔵小杉だ」

 

 

(さんきゅうー)

 

 

名前が出ずに困っている悠介に、ゲンがこっそりと名を教える。

 

 

「相楽先輩。このプレミアムな私と勝負して下さい」

 

 

二人がそんなやり取りをしてると知らない小杉は、真っ先に目的を告げる。瞬間、悠介の瞳が鋭くなる。

 

 

「本気なんだな?」

 

 

「当然です」

 

 

確認するような悠介の問いに小杉は力強く頷く。

 

 

「わあったよ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

そう言って二人がワッペンを重ねた直後

 

 

「では、これより決闘の儀を始めるとするかの。恐らくそんなに時間もかからんじゃろ」

 

 

鉄心が現れる。鉄心の言葉を聞いた悠介は頷き、グラウンド向けて歩いて行く。

 

 

(よし!第一段階成功。今話題の彼をプレミアムに倒せば、私の名は一躍上がる。うふふ…プレミアムに踏み台になって貰いますよ)

 

 

そんな怪しい笑みを浮かべる小杉を黛は心配そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドに既に多くの生徒たちが集まっていた。

 

 

「相変わらず、祭りごとが好きだな」

 

 

辺りを見渡した悠介は、面白そうにそう言う。

 

 

「それでは双方準備はいいか」

 

 

「当然」

 

 

「問題ありません」

 

 

「それでは……始めッ!!」

 

 

鉄心の合図と共に小杉が駆け出す。

 

 

「先手必勝、喰らえプレミア~ムキック」

 

 

放たれた蹴りに対して悠介は動かずに、そのまま直撃を喰らう。

 

 

(勝った!!)

 

 

自分の攻撃に絶対の自信があるが故の確信。だが、単純に相手が悪すぎた。

 

 

「やっぱ、合わねえわ」

 

 

「え!!?」

 

 

横腹に蹴りが直撃したにもかかわらず、何事無く平然としている悠介。

 

 

「俺に喧嘩吹っかけて来るから、どんなもんかと思って受けて(・・・)みたが、やっぱ性に合わねえわ。やっぱ、こういうのは攻めてなんぼじゃん?」

 

 

「え‥え?」

 

 

未だに戸惑う小杉の軸足を悠介が踏みつけ、動きを止める。

 

 

「お前もそう言う口だろ?しっかり、堪えろよ」

 

 

「え”?」

 

 

そう言って振り込まれた拳。足を止められている小杉に躱せる訳もなく

 

 

「ぐえぇ~~」

 

 

潰されたような悲鳴を上げながら地面に沈んだ。

 

 

「まあ、筋は悪くねえよ。これから頑張れや」

 

 

「勝者 相楽悠介」

 

 

地面に沈んだ小杉を見ながら告げる悠介。それが終了の合図となった。

誰もが当然かと思うなか

 

 

「だだだだから、一撃入れたら離れて下さいと言ったのに~~」

 

 

「ムサッコスの奴、まゆっちのアドバイス全無視かYO」

 

 

黛と松風が呆れと心配?の声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小杉との決闘が終わり、放課後。帰り支度をしている悠介に風間達が近づいてくる。

 

 

「よう、相楽」

 

 

「うん?どうしたんだ」

 

 

悠介の問い。風間の後ろには、なぜか嬉しそうな百代と戸惑っている黛もいて、さらに若干の殺気も感じるからこその問い。

しかし、風間の言葉はよりいっそうに悠介を混乱させる。

 

 

「喜べ!!お前も今から風間ファミリーの新入り候補だ!!」

 

 

「はあ?」

 

 

何言ってんだ?と言わんばかりに顔をしかめる。

そんな悠介の反応を見た大和がゆっくりと事の詳細を話し始める。

 

事は昨日の秘密基地での出来事。

 

『よおし、全員揃ったな』

 

『急にみんなを集めて何をしようってんだよ、キャップ』

 

ガクトの問いに対して風間は高らかに告げる。

 

『前々から検討していた、相楽をメンバーとして向かい入れるかに決まってんだろ」

 

『いや、今初めて聞いたよ!!』

 

風間の言葉にモロがツッコミを入れる。

 

『またキャップの悪い癖が出たな』

 

『えーいいじゃねえか。あいつ面白そうだしよ、何よりかっけえし』

 

そう言って若干不貞腐れたような表情を見せる風間。

 

『私は反対。これ以上増えるべきじゃない』

 

風間の言葉に京が真っ先に否定の言葉を述べる。そしてそれに続く様に

 

『うんまあ、僕も反対かな。確かに良い人ポイけど、此処に連れて来るのは全くの別問題なわけだし』

 

『俺様も勿論反対だぜ。あいつは、俺様達の敵だ』

 

モロとガクトも否定を述べる。

 

『俺はもちろん賛成な。モモ先輩とかはどうよ?』

 

『私も賛成だぞキャップ。むしろ私も推薦する』

 

風間の言葉に百代は嬉しそうに賛成を述べる。

 

『私も賛成。悠介君ならここでもやっていけると思うわ』

 

『自分も賛成だな。相楽の奴とは、互いの正義についてもっと話してみたいと思っていたんだ』

 

百代に続き一子とクリスも悠介を仲間とするのに賛成の意を告げる。

 

『今んとこ、賛成が四で反対が三か。大和ーお前はどうだ?』

 

風間の問い。問われた大和に視線が集まる。大和の脳内であらゆる事が思考される。そんな中で、一瞬大和の脳裏に、嬉しそうな百代の姿が浮かび上がった。

 

『……俺は、反対だ』

 

『さすがわかってる大和ぉ。結婚して』

 

『お友達で』

 

『賛成が四で反対が四の五分か。まゆっちは中立だろ?』

 

『ははい。私はよくわからないので』

 

『まゆっち、どもらなく答えられてきてるぜ。この調子でクラスのみんなに話しかけるんだーーー』

 

全ての意見が出た。それを踏まえてリーダーである風間は決断を下す。

 

『よし。クリスと同じくお試し期間で見極めるか。無理そうだったら、速切り捨てるで。それでいいか京?』

 

『みんなが決めたら、それに従う』

 

そこで議題は終わりいつも通りの彼らの日常が流れる。しかし、そこでも悠介の話題が上がり始める。

 

『それにしてもよ~相楽の奴ってカッコイイよな。こう、真正面からの全力での正面突破とか‥くぅ~憧れるぜ』

 

『確かにな。それに悠介のタフさ、あれは異常だ。一体どんな訓練をしたらああなるんだ?』

 

『お姉さまは、何か知ってる?』

 

一子の問いに百代は昔を思い出すように語り始める。

 

『悠介のタフさは、天性の物じゃない。むしろ環境とあいつの根性が生み出したものだ』

 

『どう言う事だ?』

 

『昔川神院で悠介の修行を見ていたのは釈迦堂って言う師範代でな。私と同じ壁越えのマスタークラスだ。そんな人にずっと殴られたり技を受けたりしていたからな、後たまにルーさんやジジイも混じっていたからな。あいつ曰く「タフにならなきゃ死んでた」って言ってたぞ』

 

『それは、確かにあれだけ頑丈になるわね』

 

『納得だ』

 

百代の言葉を聞いたクリスと一子は若干引き気味に納得したと頷く。

 

『じゃあさ。モモ先輩は、相楽の強さの秘訣とか知っての?』

 

興味津々に問う風間。百代は僅かに視線を一子に向けて答え始める。

 

『前にも言ったが、悠介はハッキリ言って才能はない。それでもあそこまでの強さを持っているのは鍛錬によるものだ』

 

『!!』

 

『例えばだが、ワン子とクリスならわかると思うが、あいつの拳はとにかく重い』

 

『ああ確かに。あれは自分が知る限り一番だったな』

 

『私もそう思ったわ』

 

百代の問いに経験ある二人は頷く。

 

『だがそれは決して筋力だけじゃあない。あいつの筋力はたぶんガクトと同じかそれ以下だろ』

 

『だったら何で、俺様は吹き飛ばされたり、モモ先輩に押し勝てるんだよ?』

 

『簡単だ。あいつは力積や中国拳法の(けい)を使って内部に自分の力を伝えてるんだ。他にも合気道で相手の重心を崩したりしてな』

 

『『『??』』』

 

『まあ分かりやすく言うと、あいつの打った拳は内部の筋肉や臓器にモロに来るんだ。重いと感じたのは、その衝撃のせいだ』

 

『ではモモ先輩に競り勝ったのも、頸と言うモノなのか?』

 

『いいや。それだけなら私も負けない。だが、悠介はそこに合気道とかを色々な武術を組み合わせてるんだよ』

 

現に単純な力比べなら私は勝ってるしな。と自慢げに胸を張る百代。

 

『つまり悠介の奴は‥』

 

『ああ、あらゆる武から自分に合った技術を取り込んで、正真正銘の「相楽悠介の武」を完成させたんだ』

 

『つまり自分専用って事かよ。くぅ~~~~やっぱりカッコイイぜ!!』

 

『うん?でもよ、それでモモ先輩と戦えるなら、何でみんなやんねえんだ?』

 

ガクトの感じた疑問。それに答えたのは、百代ではなく黛だった。

 

『それは凄く危険な賭けでもあるからです』

 

『どう言う事だよ、まゆっち』

 

『合わせると口で言うのは簡単ですが、本来完成された二つの技を重ね合わせると言う事は、互いの良さを打ち消しかねないんです。本来の武術同士ならともかく、全く違う武術となると重心の運びや技の入りまで全く違います。下手をしたら互いの技がお互いに相殺しあって、本来以下の技となってしまいます』

 

『分かりやすい例は、マルギッテとの最後の戦闘で見せた拳だな。あれは大雑把にいうと、二つの技の合わせ技だ』

 

『いったい何なのだ?』

 

『一つは先ほどから言っている「頸」そして最後の一つは川神流「蠍打ち」だな。止まって勢いを伝える頸と筋力を動かし放つ蠍打ち。他の技術でカバーはしてるだろうが、これだけでもどれだけ難しいかわかるんじゃないか』

 

『確かにな。全くの正反対とまではいかないが、相反しているな』

 

『うん。私も蠍打ちを使うからよくわかるわ』

 

一子とクリスは、黛が言った事の難しさを完全に理解し、僅かに汗を流す。ガクト達も百代の説明と二人の反応から、それがどれだけ難しいモノかを理解する。

 

『悠介の武は、文字通り切磋琢磨して完成された…いや、あいつの努力の果てに勝ち取った強さと言う訳だ』

 

勿論、それをなす為の土台をキッチリと作ってくれた人達が居る訳だがな。と百代が締めくくる。

 

『やっぱ、相楽ってカッコイイぜ』

 

全てを聞き終えて発せられた風間の言葉は、ある意味全員の気持ちを代弁したものだったのかもしれない。

 

 

 

 

「と言う訳だ」

 

 

「なるほどな」

 

 

大和からの説明を聞いた悠介は合点がいったと、改めて風間達を見る。

 

 

「なあ、入ろうぜ。絶対に楽しいからよ」

 

 

風間にそう言われ悠介は、しばし思考する。

確かに面白いだろう。そう言ったメンツが揃っている。そしてそれは自分の拠り所になるだろう。

だからこそ

 

 

「わりぃな。ガラじゃねえし、止めとくわ。普通のダチ枠でよろしく」

 

 

そこに縋る訳にはいかない。そこに今縋ればきっと自分は……

 

 

「え~~何でだよ~~」

 

 

「そうだぞ悠介。こんな美少女達と仲良くなれるんだぞ!!」

 

 

「なぜそこで、その口説き文句が出たかは、めんどくせぇから聞かねえわ」

 

 

「でも本当に楽しいぞ」

 

 

「クリの言う通りよ。ね?一回だけでいいから入ってみましょ。きっと気に入りわよ」

 

 

風間や百代そして一子とクリスが誘い掛ける。ただでは引き下がらないと察した悠介はある言葉を投げかける。

 

 

「リーダーって確か風間だったよな?」

 

 

「おうよ」

 

 

「だったらよ、示してくれよ。俺がお前の下に入ってもいいと思えるモノを。お前らの中に入りたいと思えるモノをよ」

 

 

早い話が俺を惚れさせてみろってことだな。と告げる悠介。一瞬、呆けた風間だが次の瞬間には笑みを浮かべながら

 

 

「何だよ~めちゃくちゃ面白そうじゃねえかッ!!良いぜ、その勝負受けた!!絶対にうちに入れてやるからな覚悟してろ」

 

 

承諾の意を伝える。その瞳は燃えている。

 

 

「おう。そん時は、俺の方からお願いするぜ」

 

 

そう言って二人は拳をコツンとぶつけ合う。百代達も何も言わずに黙っている。それは信頼。キャップならば必ずと言う信頼からの沈黙。

 

それが終わると、風間達は教室から出ていく。そんな中で悠介は、京を呼び止める。

 

 

「なあ、椎名」

 

 

「なに‥」

 

 

「お節介になるかもしれねえが、一応言っておきたくてな」

 

 

「だからなに?」

 

 

僅かに間をあけ、悠介は京に告げる。

 

 

「変わらないのは、全員(・・)が変わり続ける(・・・)からだ。それだけは忘れるなよ」

 

 

そう言って悠介は、教室から退室する。悠介の発言を聞いた京は、訳が分からんと言った表情で

 

 

「意味が分かんない」

 

 

ただそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室を出た悠介は、そのままに下足で靴を履きかえていた。

 

 

「おう。さっきぶりじゃねえか、直江。どうした?」

 

 

そこへ現れた大和。

 

 

「相楽は…何でそんな非効率的な事をしてるんだ?」

 

 

「あ?」

 

 

突然の問い。意味が分からずに、呆けた声を出す悠介。

 

 

「何で勝てないってわかってる姉さんに挑むんだよ。何で敵を多くつくるんだよ。どれもこれも利益がないじゃないか」

 

 

そんな悠介の反応を見て大和は、自分が思っている事を詳しく告げる。

大和の言葉を聞いた悠介は、納得がいったと頷き、告げる。

 

 

「まあお前からしたらそう思っても不思議じゃねえわな。でもまあ、俺はたぶんガキ何だろうな。単純な話、お前みたいに器用に生きる事が出来ないってだけだ。もし、器用に生きれてたら、俺はこの文字を背負ってねえよ」

 

 

そんだけだ。と言って再び歩き出す悠介。大和はただ黙っている。

 

 

「うんじゃあ、また明日な」

 

 

手をブラブラと振りながら去る悠介の後ろ姿を見ながら大和は

 

 

「だったら何で、お前は姉さんにあんな顔をさせられるんだよ」

 

 

小さく胸の内をこぼした。

自分の知る限りでは、一番の笑み。対等な戦いが出来ないと危うげだった彼女は、悠介が来てから嬉しそうに笑うようになった。それは自分がどれだけ手を尽くしても得るとこが出来なかった笑み。それなのに、悠介がいると言うだけで彼女は、嬉しそうな笑みを常に浮かべている。

 

これじゃ俺がバカみたいじゃないか。強く拳を握りしめ、大和は小さく呟いた。




いかがでしたでしょうか?
実はパワータイプに見えた悠介は、テクニックタイプでした!!
足りない要素を他で補い、自分だけのモノに研磨していったゆえの完成系です
少しは、悠介が努力していたと言う事が伝わればいいのですが

そして京と大和との会話
大和の方はともかくとして、京に伝えた言葉…この伏線?みたいなのを自分は回収できるか?(オイ)

大和の方は、決着付けないとな…(こんな感じで行っていって大丈夫かな?)


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惡と礼 その1ー確率ゼロパーセントー

お待たせしました!!
題名でわかる通り、彼女と勝負となります
恐らく、あれが始まる前の最後の大一番、楽しんでいただけたら嬉しいです!!




夜。悠介は静かに空を眺めて居た。見つめる先に映りこむ、夏の夜空の星々たち、それを見つめる悠介は、不意に右手を上に掲げる。その姿は、決して届かない場所に手を伸ばし続けるように見える。

そんな悠介の部屋に、燕が入って来る。

 

 

「…ノックぐらいしろや」

 

 

「別に気にするまでもないと思うけどね…それともやっぱり悠介君も年頃の男の子って事かな?」

 

 

「ぬかせ」

 

 

ニヤニヤとした目でからかう様に告げる燕の言葉に、悠介は付き合ってられるかと言う風に相手にしない。

出ていけ。と悠介が告げようとしたが、それよりも早く燕が告げる。

 

 

「予定通り、夏休みに入ってすぐに始動するって、スポンサーの皆様が決定を下したみたいだよ」

 

 

「!!」

 

 

燕の言葉に悠介が反応する。燕はそれにあえて気がつかないフリをしながら、此処からさらに忙しくなるよ。と口にする。

 

 

「私の用はそれだけ。それじゃあ、おやすみ悠介君」

 

 

それだけを告げて燕は、悠介の部屋から退室した。悠介は燕の言葉を何度も反すうする。祭り(・・)の開催まで、約二週間。時間的に余裕は全くないと言える。そう思いながら悠介は再び夜空を見る。

空を彩る美しい星々…しかしそんな夜空の中にも、光っていながらも目に見る事が出来ない星が存在する。まるで自分の様だと悠介は笑う。どれだけ光を発しようが、誰にも感じ取られない、ある意味滑稽な星。そしてそれを嘲笑うように、夜空を彩る星々。それが悠介には、百代達に見える。相手の光すら覆い尽くし、輝く天才たち。自分の光では絶対に勝てない相手…ならばどうすればいい?

 

 

「待ってやがれ」

 

 

悠介はそう言いながら、夜空で一番輝く星を握りつぶすように拳を握った。答えは単純明快かつ難解熾烈、引き摺り下ろせばいい。光り輝くその場所から。そうすれば自分の牙は

 

 

「必ず届かせる」

 

 

天才たちにも届きえる。その決意の言葉と共に、悠介は夜空から視線を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、川神学園一年C組。いつもと変わらない風景が流れる、その中に悠介は現れた。

その場にいた誰もが視線を悠介に集める。しかし、悠介は気にせずに黛の所まで真っ直ぐ歩いてくる。

 

 

「ああの‥」

 

 

何か御用ですか?と黛が尋ねるよりも早く、悠介は彼女に対して頭を下げた。その行為がより黛の混乱を増長させる。そんな中で悠介は一言。

 

 

「訳は聞かないで、ただ俺と全力で戦ってくれ」

 

 

「!!?」

 

 

頼む。と、ただ真摯に告げる悠介。突然の事に驚く黛だが、悠介の言葉を聞いて思考する。何で?‥いや、考えるまでもない。彼の目的は、一つしかない。その為の踏み台にする気なんだろう。それを口に出さず、ひたすらに頭を下げるのは、自分を気遣っているのだろう。矛盾してると思う。

この手のタイプだと、気遣いを見せる方がありえない。なのに、彼は相手を気遣う。

僅かな沈黙。黛が下した答えは‥

 

 

「謹んでお受けいたします」

 

 

「わりぃ」

 

 

悠介の挑戦を受けるだ。黛の言葉に悠介は静かに謝罪で答える。

二人の決闘が此処に決まった。

 

その直後に鉄心が現れ、二人の決闘は放課後に決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来たる放課後。悠介は、グラウンドに向かっていた。既に多くの生徒はグランドで開始を今かとお待ち詫びており、人の気配は感じない。

 

 

「言った次の日に、仕掛けるなんて悠介君らしいね」

 

 

悠介の目の前に現れたのは、燕。柱に背を預けながらそこに立っている。悠介に語りかけるその口調は、何処か優しく憐れみに近いモノが宿っている。まるで生き急ぐかのように強者との戦いを望む悠介を止めれない自分に対する無力さに語りかける様だ。

 

決して悠介に対する憐れみでは無い、むしろ何も力になれない自分を憐れんでいる。その胸の内に在るのは、怒りか?それは燕にしかわからない。

 

悠介はあえてそれに気づかないフリをしながら声を発する。

 

 

「時間がねえのは、初めからわかっちゃいたからな。それが確定したなら、一度でも俺が挑む世界(・・)を肌で感じる必要があるだろ。戦った()の事も考えると、今のタイミングしかねえのは、お前もわかってるだろ?」

 

 

「…そうだね」

 

 

悠介の言葉に燕は頷く。そうだ、今しかないのだ。彼が悠介が百代を倒すために最も必要なそれを成すタイミングは‥だが、きっと悠介は

 

 

「なあ、燕。俺が勝てる可能性って、お前から見ていくらぐらいある?」

 

 

「客観的に見ても、0%だね」

 

 

ボロボロになって敗けるだろう。どれだけ足掻こうが絶対的に変える事が出来ない値‥只々突きつけるゼロと言う数値。そしてそれは悠介もわかっている。それでも挑むのだ、己の夢の為に大勢の前で敗北と言う泥を被る。一体どれほどの覚悟なんだろう‥燕の頭の中でそれが何度も反すうされる。

 

 

「そっか。お前のそう言う直球に伝えてくれるとこは、マジでありがてえわ」

 

 

そう言って再び歩き出す悠介。止めれない。傷つくとかなんか敗ける所なんか見たくない、あの表情をする君を見たくない。それでも、私には君を止めれない‥だから私は嫌い。何もできない、どれだけ智を練ろうが何もできない自分が、自分の我儘が‥大っ嫌いだ。

だからこそ

 

 

「私も今後の為にしっかり見させてもらうからね」

 

 

それを君に悟られる訳にはいかない。

 

 

 

「おう。いつも通り、利用できるモンは利用しろや」

 

 

そう告げて悠介は、燕の視界から消える。

 

 

「…頑張って」

 

 

小さく告げられた燕からの声援。現実的に見て悠介の勝ちはほぼありえない。それでも彼ならば‥悠介ならばと考えている自分がいる。そんな考えが自分がするとは、存外に自分も乙女すぎるなと笑う。

 

しばしじっとしていた燕は、ゆっくりと屋上に向かって歩き始めた。

この戦いを見届ける為、己の糧にする為に。

 

 

 

 

グラウンドに向かいながら悠介は、燕の言葉を思い返す。間違ってないだろう。燕の計算高さは自分がよく知っていし、客観的に問われれば自分もそう答えるだろう。

0とは、0.1%の成功率とか、そんな綺麗な夢物語すら一蹴する、完全な絶望と暗闇の数値だ。そこには一部の希望もない。挑むと言う方がおかしいと思う。

 

 

「はっ」

 

 

自分で言いながら何を言ってんだと笑う悠介。それでも挑まずにはいられない理由(わけ)があるから、自分は闘場(そこ)に立つのだ。

理由やら訳は、観客が勝手に決めればいい。笑われるのも気にはしない。だからこそ、問題は一つ。

 

 

(黛の奴がちゃんと真剣(マジ)で戦ってくれるかなんだよ‥)

 

 

そう思った瞬間、静かで研ぎ澄まされた闘気が悠介を包み込む。気がつけば、既にグラウンドに辿りついている。ならば、この闘気の主は一人しかいない。

 

 

「杞憂だったか…いや、俺のその考えそのものがバカだったって事か」

 

 

震える。目の前に立つ少女を視界に納めたその時から、身体の震えが止まらない。

今まで決して味わうことの無かった世界の全力の()が、悠介の本能を刺激する。

ニゲロ、ニゲロ‥アレハ、ジブントハ、ジゲンガチガウ‥正真正銘の化け物(天才)だ。

 

相楽悠介の戦歴において、壁を越えたマスタークラスの実力者との稽古(・・)は経験があれど、全力でも戦闘《・・》は今まで経験していない。

だからこそ震え怯える。

 

 

(上等じゃねえか)

 

 

深く息を吐く。体の震えを無理やりに押しとどめ、悠介はその場に立った。それを合図に黛もまた、静かに構えを取る。

 

 

(だからこそ、モモと戦う前に絶対に経験しなきゃいけねえんだよ)

 

 

再び深く息を吐く。覚悟を決めろ‥此処を越えなければ、あいつに挑むなど夢物語にすら出来はしない。

 

 

「双方、準備はいいか」

 

 

「構いません」

 

 

「ふぅー…こっちも問題ねえよ」

 

 

鉄心の問いに二人が答える。そして答えると同時に黛は刀を悠介は拳を構える。それを確認した鉄心が悠介の方に僅かに視線を寄越したのちに、大きく手を振り上げる。

張り詰めた空気がより一層、緊張を増していく。

 

1秒

2秒

3秒経過

そして

 

「それでは‥始めッ!!」

 

激戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄心が言葉を発した刹那、二人は地面を駆ける。と同時に、悠介が驚愕する。

 

 

「(…マジかよ)」

 

 

迅い。お互いに未だに一歩しか踏み出していない。それなのに黛は明らかに自分よりも進んでいる。それは筋力ではなく、純粋な迅さの違い。

 

 

「(向こうの方が間合いに入るのが早い‥なら)」

 

 

停止。そしてその場で拳を引く。狙うのは1点、刀を持つ腕のみ。

 

 

「シィッ!!」

 

 

やや前かがみに近い形で放たれた拳。しかし、その拳が届く事とはなかった。

 

 

「はあっ」

 

 

「なっ!?」

 

 

黛は、刀を構えた体勢のまま跳躍。悠介の拳は空を切る。瞬間、悠介は己の失態に気がつく。

 

 

「(視界が思考が狭まってやがる‥構えるタイミングも打つタイミングも速すぎた)」

 

 

だから簡単に対応され、相手の有利とかす。前かがみ気味のせいで、後ろが普段よりも一層隙だらけだ。一撃目は恐らく耐えきれるが、そこから繋がる連撃は俺が意識を失うまで止まらないだろう。…敗ける…

 

 

「(バカがッ!!思考を止めるな、止めたらそれこそ敗けだ)」

 

 

ハッキリと感じる圧。どうすればいい?どうすれば生き残れる?

 

 

「ハッ!!」

 

 

気迫と共に放たれる一閃。避ける事は出来ないし、そもそもする気はない。ならば、手段は一つ。

 

 

「ぐぅ」

 

 

零れるのは、悠介の苦悶の声。直撃した手ごたえありそう判断した黛が、再び刀を戻して攻撃を放とうとしたその時

 

 

「らあぁッ!!」

 

 

前方に突き出していた拳を引き戻し、後方にいる黛目掛けて放つ。見えはしないが、身体に当たった刀が大体の場所を伝えてくれる。自分の身体で隠した完全な不意打ちのつもりだった。

それなのに

 

 

「(避けやがった)」

 

 

感じたのは、蹴られた感触。直後に刀の重さが消えた。自分の背を足場にその場から離れたのだ。

 

 

「チィ。わかっちゃいたが、改めて痛感するな」

 

 

今まで悠介が戦って来た相手の中には、もちろん格上もいた。しかし総じてそう言った面々には、僅かだが油断があった。当然、戦っていく中でそれは失われていた。それが勝機になったとまではいかないが、確実に自分の勝ちにつながるモノだった。

 

故に痛感する。格下相手ですら油断も慢心もなく、構える敵の怖さ。

ほぼ一回のやり取りで、身体が本能が再確認させられる。

 

 

「参ります」

 

 

勝率ゼロパーセントと言う確率の現実を。




いかがでしたでしょうか?
悠介が挑む、初めてマスタークラスとの一戦
果たして勝てるか?

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惡と礼 その2ー拳に刻みし誓いが故に―

最近、書きたいと思る小説が多い・・・トリコ,fate,レイヴンズ,テラフォーマー,ストブラ,ワートリ
いっその事、四月に心機一転でやってみるか?
・・・・と言う冗談?は置いといて、勝率ゼロの戦い果たして悠介はどう挑む?

今回は若干説明が多いかもしれません
例のごとく、違和感とかあったら教えて下さい


強いと言うのは、判り切っていた。それでも理解しているのと実際に経験するでは、天と地ほどの差がある。だからこそ、知りたい。その世界の実力を。

 

 

「(だが、此処までとはな)」

 

 

単純に俺の想像の遥か上に在るって事か。と悠介は笑う。そして意識を再び黛の方に向ける。彼女は静かに佇み、此方を向いている。それは油断では無い。組み立てているのだろう。自分を倒すための算段を、相楽悠介が動きを見せない時間に。

 

これがマスタークラス

これが壁越えの世界

これが

 

「(天才たちの世界)」

 

自分では一生届かない場所の力。震える。それが何に対してなのかは解らない。恐怖かそれとも武者震いか‥もしくはその両方か。それでも悠介は震えた手で拳を作る。

恐怖がないと言えば嘘になる。だが、それ如きの理由で歩みを止める事は出来ない。

 

深く息を吐く。緊張で強張り狭まっている思考がゆっくりとだが、ほぐれていく。まだまだ通常通りとまではいが、戻りつつある。このままいけば、思考は正常に戻るだろう。

そう何も無ければ(・・・・・・)の話だが。

 

 

「‥行きます」

 

 

「チィ」

 

 

それはあくまでも悠介の事情だ。敵である黛には全くもって関係ない。鋭く地面を蹴り、突撃してくる。その姿を視界に納めた悠介は、あえて一歩前進する。

 

 

「(速さでは完全に負けてるなら、追いかけっこをする意味はねえ。その土台で戦う訳にはいかねえ)」

 

 

視ろ、しっかりと視ろ。それだけに集中すれば、見切れない事ない。

 

 

「はぁぁああああッ!!」

 

 

ほぼ自分の俄然で振るわれた刃。されど悠介は、何もできない。いや、出来る状態ではないと言うのが現状だ。悠介は視すぎた(・・・・)。それ以外を除外しして視すぎたのだ。それ故に身体が全く動かせない。動けと言う命令が脳から放たれるよりも早く刃は悠介に直撃するだろう。

 

だが、それこそが悠介の目的だった。

 

 

「(タイミングと来る場所が分かっているなら‥)」

 

 

直後、鋭き一閃が悠介に直撃する。攻撃の威力に悠介の膝が僅かに沈む。刀から伝わる感触は確かなモノだった。だが、彼女の培われてきた感は、それを否定する。

そしてその感が正しい事を示すように、悠介が行動を起こしていた。

 

 

「らあぁッ!!」

 

 

迫るのは、横腹目掛けて放たれた拳。絶対の自信を込められた一撃だが、その一撃は再び空を切る。

 

 

「(こいつ‥はじめっから、回避行動までを一連の動作に組み込んでやがるのか!!)」

 

 

「(危なかった。はじめから備えていなければ、完全に躱す事は不可能でした)」

 

 

二人は同時に敵に対する認識を新たにする。黛は単純に悠介の見せる技と度胸を。悠介は黛の持つ強さを。

実際、悠介は先ほどの攻撃を耐えきったのだ。膝を沈めたのは、拳を打ち込む為。その動作を受け切った後にすれば、必ず躱される事が分かっていたが故に、悠介はその動作を攻撃を受けたと同時に行ったのだ。

正に肉を切らせて骨を断つと言う戦法、自分のタフさに絶対の自信があるからこそ行える戦法‥だが、躱された。自分の攻撃は既に予期されていた。

 

 

「チィ」

 

 

悔しい。何処まで行っても抜けれない沼に嵌っている様で。しかし、即座に思考を戦闘に切り替える。

 

 

「(後悔も反省も全部終わってかだッ!!)」

 

 

その想いと共に悠介は再び拳を握る。

 

 

 

目の前の敵を前にして黛由紀江が感じたモノは、ただ単純な尊敬の念だった。先ほどの一撃にしてもそうだが、悠介の攻撃には鍛え磨き続けたが故の輝きがある。確かにそれは無骨としか言えないが、深く武を知る者達からすれば、その武骨さの中にどれだけの価値があるかを察する事が出来る。

 

その最たるものが、彼の拳の拳打だろう。外ではなく(うち)にダメージを与える拳、それは格上の相手を戦う事を前提としている。内への攻撃は、いくら内気功で防御力を固めても、ダメージを完全に殺すと事は出来ない。しかも内側のダメージとは残るのだ。そんな一撃を何度も喰らえば、どんな人間だって軸はブレ動きの質は落ちる。

そうなれば、彼の拳を躱すと事はさらに難しくなると言う悪循環だ。

 

全ては引き摺り下ろし、自分の土俵で戦うためのモノ。故に彼は迷わない。

 

 

(やはり、深追いは危険ですね。一撃の後の回避に重点を置かなければ、相楽先輩のタフさは私の想像よりもはるかに上です。一撃でも直撃すれば、流れを持っていかれる)

 

 

だからこそ、勝ちたいと願う。そうすれば、自分も更に上に上れると信じているから。

 

 

(凄い…だからこそ全力で戦うべき相手)

 

 

 

刀を握る手に力が籠る。その瞳は、何時ものおどおどした瞳では無い。意思を持つ戦士の瞳。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に動いたのは、意外にも悠介だった。拳を握りながら黛に迫る。

 

 

「(カウンターも完全に警戒されてる…ならあの戦法の意味はほとんどねえ。攻めるしかねえか)

 

 

迫る悠介の拳を前に黛は、足を大きく開き静かに刀を横に構える。それが指すのは、真っ向勝負。

 

 

「オラァッ!」

 

「はっ!!」

 

 

ぶつかり合う拳と刃。それどその結果は、観客の誰もが想像していた結果と異なっている。確かにぶつかり合ってはいる、しかし黛は刀をほぼ振り切っているのに対し、悠介の拳はほとんど前に出ていない。しかし、悠介自身もそれが分かっていたのか、即座に次の行動を起こす。対して黛も動き出す。

 

悠介は冷静にもう片方の拳を打ち出す。狙いは、手。悠介の動作が始まると同時に動いていた黛は、後ろ脚で地面を蹴りその体勢のままに後退する。

しかし、彼女の視界に映る悠介の姿を見た瞬間、それが悪手出ると悟る。

悠介は、既に追う体勢を整えている、彼が片方の拳を打ち出す素振りを見せたのは、僅かな時間。だが、彼女は反応出来てしまう。

 

 

「(警戒を意識しすぎた‥まずい!!)」

 

 

それが悠介の狙い。先ほどのやり取りで黛は、自分の動作に過敏に反応している事を察していた。今の様なシチュエーションならば、間合いも取れかつ自分の動きを監視できる後方に下がるだろうと予測していた。

此処までは悠介のシナリオ通り、しかし問題は此処からだ。黛の下がる速度に自分が追い付けるか?

 

 

「(深く落ちる)」

 

 

悠介はその場で素早く地面に向かって体を落下させる。その行為に黛は何故そのような行為をと言う表情を見せる。ただ、何か言いようの無いモノが黛を包み込む。

 

此処でネタをばらせば、悠介は自分の速度を二つに分けている。一つは「重心による速度」と「重力による速度」 前者は近距離で使い、今回の様な場合は後者が当てはまる。

重力による落下と言うのは、存外に速い。特に力を抜いた状態ならば尚更である。その速度のままで落下すれば、大怪我とまではいかないがかなりの痛みを伴う。その為、そうなった場合、人は無意識に重心を下げたりして身体を持ちなおすが、悠介はそれをしない。

迫っていく地面、そこで更なる力を上乗せする。全筋力を使い一歩前に進む。そうすると下に向いていたベクトルを無理やり前のベクトルに変換させる。

その速度は、ほんの二メートルほどの距離ならば人の目では追う事は出来ない程に速いのだ。

 

 

「シィッ!!」

 

 

前方に倒れる様に前に進んだ悠介は、下から打ち上げる様に拳を打ち出す。速度を乗せた拳。それは恐らく威力は絶大、内面には響かなないとは言え、大ダメージは必至の一撃。

予想以上の速度で迫る攻撃を前に黛は、己の刀を自分と悠介の拳の間に差し込む。そして刀から伝わる力をうまく使い、その場を離れる。

 

 

「チィ」

 

 

今のでも届かねえのか。存外にそう告げる様な舌打ちと共に体勢を立て直す。追撃は出来ない(・・・・)。しないのではなく出来ないのだ。重力を使った速さの弱点として単発でしか使えないのと言うのと隙が大きいと言うのがある。落下を前提とする為、もう一度行うには立ち上がる必要がるし、前方のみの加速の為、それ以外が無防備になると言う欠点があるのだ‥故に連続での使用は出来ない。

 

悠介が体勢を立て直すと同じく、黛も地面に着地する。と同時、僅かに重心を倒して地面を蹴る、ダッと猛スピードで迫る。対する悠介も再び拳を握る。

横凪一閃の斬撃を横腹に直撃した悠介は、その直後に拳を放つ。どれだけ考えても彼に取れる手段は、己のタフさに任せたカウンターが一番に理想的なのだが、直後悠介の身体に再び斬撃が襲った。

 

 

「(あ?)」

 

 

更に続ける様に三撃四撃五撃‥‥合計にして十二撃の斬撃が、ほぼ一呼吸の合間に繰り出された神速の連撃。全身に襲いくる痛みをこらえ、今度こと拳を放とうとするが、既に己の視界に敵の姿はない。

 

 

「(こいつ、俺に攻めに移させない気か)」

 

 

攻撃は最強の防御と言う言葉がある。自分が攻め続ける限り、相手は防御や回避に集中して攻めに移れないと言う意味だ。そして彼女はそれを実行した。

目を凝らし、相手も動きを予測して拳を放つが、その時には彼女はいない。と思えば、別の角度から斬撃が襲いくる。

 

一撃一撃は決して耐えきれないモノではないが、受けた数が多すぎる。着々とそれは悠介から意識を奪おうとする。

 

 

「な、めんじゃねえッ!!」

 

 

咆哮に近い叫びと共に、その場から一歩前に進む。全方位からの攻撃ならば、ある程度軌道を限定するしかない。一歩前に出た事によって僅かに的が前に大きく広がった。

直後、大きな的となった脇腹に斬撃が直撃、一瞬呼吸が止まる。しかしあえて刀の方に歩を進めた、いや倒れ込むと言う表現に近い。ギチィと刃が腹に食い込む音が聞こえる、それでも止まらない。悠介の体重が刀から黛に伝わり、堪える様に彼女の足が止まる。両手で柄を握りしめ刀を壊さない様に堪える。

それは僅かな静止、だが倒れ込むように彼女に近づいている悠介には十分な時間で隙だった。

 

 

「ぉぉぉぉおおおおおおおおおッ!!」

 

 

雄叫びと共に悠介の拳が初めて黛に直撃する。ザザザッと地面に線を作りながら黛が後退する。漸く攻撃が当たったと言うのに、悠介の顔は優れない。

 

 

「(後ろに下がって威力を躱しやがった)」

 

 

拳から伝わった感触がその事実を明確に伝えている。届かないと言う想いが悠介の内から湧き上がろうとするのを無理やりに抑え込んで、もう一度拳を構えなおす。

 

 

「(あと少し‥少しなんだがな)」

 

 

対する黛は、脇腹に襲う鈍痛に僅かに顔を顰めた。完全に躱しきれなかった、内側からの痛みを堪えながら、黛はゆっくりと息を吐く。

 

 

「(まさかあんな体勢からでも内側に響かせるなんて…)」

 

 

凄い。一体どれだけ鍛錬を積んできたのだろ。尊敬の念が湧き上がる。だからこそ、黛は気がつかない。それは既に見ている視点が違う事に。

 

 

そこから先は、悠介が一方的に攻められる。彼の拳は当たらず、彼女の斬撃がだけがダメージを与えている。既に気で強化された一撃を数えるのもめんどくさくなるほどに受けている悠介だが、それでも彼は決して膝もつかず引かずに、その足で立っていた。

しかし、それも限度がある。タフとは裏を返せば、ただの我慢だ。だからこそ、限界は必ず訪れる。

 

 

「やべっ!!」

 

 

後ろから伝わった斬撃に元に裏拳を放とうとしたが、今までのダメージが膝にきたのか、転ぶ。僅かな浮遊感、その中で悠介の視界には、大きく上段の構えに近い状態で刀を構える黛の姿。不味い、あれは今のままでは受け切れない…その事を瞬時に察した悠介だが、足が宙に浮いている状態では何もできない。

 

 

「はあっ!!」

 

 

気迫と共に放たれた斬撃。悠介に避ける術も受け止めようにも防御よりも早い。つまるところ、何もできない。

 

 

「があっ!!」

 

 

ズンと重い斬撃が直撃した悠介の意識がゆっくりと沈んでいく。ドサッと地面に叩き付けられる。

いくら不屈の悠介であろうが、肝心なその意識が奪われれば起き上がる事は出来ない。

僅かな静寂が場を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈みゆく意識の中で悠介は意味の無い足掻きを行っていた。動かせるはずもない手足を必死に動かそうとしているのもそれにあたる。

 

 

(まだ、まだ終われるか‥)

 

 

あと少し、あと少しなのだ。なのにどうして足は動かない拳は握れない、なぜ意識が眠る様に霞んでいく?自問自答…それすら不可能になっていくほどに悠介の意識は霞んでいく。

薄れゆく理性、故にその声がよく聞こえ始める。

 

 

――もう十分やっただろ?

 

(‥何がだ?)

 

――天才と言う化け物に俺はよくやったよ。だからもいいだろう?

 

(‥‥‥‥‥)

 

――もう楽なっても、誰も攻めないだろ?俺はもう敗けたんだ。

 

(敗け)

 

誰だって持ってる、楽な方に逃げようとする人間らしい本能。それが悠介の理性をより沈ませる。抗う力もない悠介はゆっくりとそれに呑まれて行く。

 

(仕方‥ねえのか?)

 

僅かに漏れたのは、悠介の最後の抵抗。しかしその問いに答える者がいなければ、意味の無い抵抗だった。

そう回答者がいなければ

 

『だから貴様もおれたちに敗けるまで、誰にも敗けるな(・・・・・・・)!!たとえそれが、武神であってもだ!!』

 

(ッ!!)

 

突如脳裏に過ったのは、この地に来る前に交わした戦友(とも)達との誓い。…そうだ自分は何妥協していたんだ。敗けて仕方がない?違う、俺は何を誓った!!あの時、自分の拳に何を誓った!!

ああホント、自分の事しか見ていない…大切な誓いを忘れて妥協するなど、恥ずかしすぎるし、あいつらに顔見世できない。

 

あの誓いは、決して軽んじていい物ではない。それは自分が奴らの好敵手で居続ける為に己に掛けた誓い。その背に背負うと決めた文字とは違った意味で、自分を立たせているのだから。

 

(どうする?)

 

決まっている勝つしかない‥あの天才に。新たな核が見つかった、それ故の理由も見つかった、そして目的と手段は目の前に在る。

薄れゆく意識が完全に目覚め始めると同時、再び身体を激痛が襲う。

痛いが身体はまだ

 

――動くッ!!

 

拳を握る。それが自分の唯一の手段、そしてその果てに在るが目的なのだ。

 

――行くぜ

 

相楽悠介の意識は完全に光に浮上した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場を包み込んだ静寂。今までの戦いを静観していた鉄心は、ゆったりと勝敗が決したことを告げるために手を上げる。それを視界に納めた黛は、刀を鞘に戻し、一度頭を小さく下げ、悠介に背を向ける。

しかし、同時に違和感を感じる。なぜ、鉄心さんは言葉を発さない?ふと視線を向ければ、何か驚いたような表情をしている。

 

(一体何が‥!!)

 

直後聞こえたのは、何かが起き上がる音。この場で起き上がる動作が必要なのは、一人しかいない。

だが、ありえない。それだけのダメージを与えてのだから。

ある意味狼狽えている黛の耳に、追撃とばかりに声が届く。

 

 

「おい、まだ終わってねえぞ」

 

 

聞こえたのは、さっきまで完全に意識を失っていたはずの敵の声。

 

 

「どうして?」

 

 

そう尋ねたのは、どうしてそこまで無理を通すのかと言う意味合いが強いだろう。その問いに悠介は迷う事無く答える。

 

 

「別に、敗けられない理由を思い出した…ただそれだけの話だ」

 

 

その拳に刻みし誓いが故に敗けられない。だからこそ、此処からは反撃の時間。

 




結構な王道パターンにしたつもりですが、いかがでしたでしょうか?
立ち上がった悠介、それど圧倒的な不利は変わらない・・それでも勝つと決めた彼の手とは?

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惡と礼 その3—その途の頂を目指す者—

更新お待たせしました!!春休み、面白いぐらいに昼間に入れられるバイト
そして、親からの伝えられた引越しの手伝いやら知り合いのお店のお手伝い
それらのせいで、全く創作意欲が湧いてきませんでしたが、漸く更新できます!!
そして昨日は大学の入学式

いよいよ、黛のと戦いが決着。その結末は?悠介は約束を守れたのか?

楽しんでくれたら、嬉しいです!!
大学に行ってきます


少女松永燕には忘れられない出会いの記憶がある。別段それが始まりと言う訳でもないし、この気持ちを持ったのももう少し先の話だが、そう言う意味での出会いでは無い。

 

ただ、少女が彼のいる世界に興味を持つきっかけとなった記憶。

 

「何してるの?」

 

「あ?」

 

燕がそう問いかけたのは、ある意味当然だったのかもしれない。何せ、汗まみれになりながら、ひたすら腕を手の甲を交差させる動作をしているのだから。

 

「修行だよ、修行」

 

それだけ告げると、悠介は再びその動作を続ける。何となくそんな素っ気ない態度を取られた事が気に入らなかった燕はムカついたと言わんばかりに食って掛かる。

 

「そんな変なエクササイズみたいなのが、修行な筈がないよね。バカじゃないのかな?」

 

からかう様な一言だが、悠介は何言わずにひたすらに動作を続ける。

 

「‥‥‥」

 

何となく面白くない。そう思った燕が何かを言おうとするよりも早く悠介が口を開いた。

 

「なあ、お前は笑われても(・・・・・)成し遂げたい(・・・・・・)事ってあるか?」

 

「‥?無いけど‥」

 

「そうか」

 

そう言って悠介はまた口を閉じる。

 

「意味が分かんない!!」

 

その反応に怒りの言葉を発する燕だが、次の悠介の言葉でそれ一瞬でなくなる。

汗を拭った悠介が告げる。

 

「その意味が分かれば、直ぐにわかんだよ、バカ」

 

優しく呟かれたその言葉に感じたわけでは無い、悠介がそう告げた瞬間、確かに燕は視たのだ、その姿を。

悠介とは違う和服の道場着に身を包んだ、生意気そうな少年を。

そして二人の少年の顔を見た燕は何も言えなくなった。ただ、それに何かを感じた。

だからこそ

 

「それってどう言う修行なの?」

 

そんな問いがこぼれた。先ほどとは打って変わった燕の言葉に悠介は気にせずに答える。

 

「俺、唯一の防の技の修行だよ」

 

 

それが出会い。今後の人生においても、重要になっていく武術との出会いの記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが終わったと思った。だからこそ、立ち上がった悠介の姿に驚きの声が上がる。だが、それだけだった。先ほどまでの攻防を見ても明らかだったから。誰もがその根性を認める中で、武術を知る者達だけは別だった。

 

 

(良いぞ、悠介っ!!、やっぱりお前は、最高だッ!!)

 

彼が一つの目標と定める少女は、本能的に感じ取る。

 

(…やっぱすごいよ、アンタ)

 

彼とのだらけ仲間で在る少女とその主君と下僕は、それを肌で感じ。

 

(あの野郎‥)

 

(やっぱロックだわ‥)

 

(これは…)

 

九鬼家のメイドたちは、それを感じ震え。

 

(これは一体‥)

 

一匹の猟犬は記憶の中からそれの正体を探ろうとし

 

(何かしら‥)

 

(何だこれは‥)

 

(初めて感じる)

 

(おおーーーすごーい)

 

彼と同期である少女たちも僅かな鱗片を感じ取る。

 

(やっぱり、君は立つんだね‥)

 

誰より少年の近くにいる少女は、それを感じ祈る様に一度目を閉じる。

少年の師である二人もまた

 

(悠介‥お主)

 

(何と言う‥)

 

己の弟子から発せられるそれを感じ取る。

そしてそれは、彼の前に立つ彼女も勿論感じていた。

 

 

―――これは何ですか?

 

 

目の前に居る敵は間違いなく虫の息の筈なのに、彼から間違いなく感じる。

 

 

―――気じゃない…だったらこれは?

 

 

そんな疑問を持ちながら、黛は悠介から視線を逸らさない。感じる、何かは解らないが確かに何かが、彼を中心に吹き荒れている。そんな幻想をは確かに彼ら彼女たちは見た。

 

 

 

 

 

そしてもう一人周りとは違う反応を見せる少年がいた。

 

(何で立つんだよ?)

 

理解できない。全然効率的じゃない。そんな思いが胸の中から湧き上がるが、大和はそれ以上にその姿から目を逸らす事が出来なかった。

 

(なんでお前は‥)

 

諦めないんだ。ただその言葉が出なかった。認める事を嫌う様に、無自覚なのかそれとも意識してなのかわからないが、彼はその手を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち上がった悠介の姿を姿に驚いた黛だが、勝つために意識を切り替え、その刃を放つつために地面を蹴る。

 

「はあッ!!」

 

口から零れた気迫と共に、斬撃を放とうとした刹那、黛の動きが止まる。

理由は簡単

 

(え?)

 

悠介の拳が俄然に迫っていた。

 

(なん、で‥)

 

先ほどまで反応出来なかった筈なのに…

 

 

驚き戸惑いながらも、後転する事で間合いから逃れる。

 

「まだ…遅せえか」

 

拳を振り切った状態で悠介は、黛の方を見ながら悔しそうに呟く。息を切らせ、足元が僅かにふらついているが、悠介は確かな瞳で黛を見ている。

 

「なんでって面してんな」

 

「え?」

 

突如、悠介からの言葉に黛は息詰まった表情を見せる。その表情を見た悠介は、苦笑いをこぼしながら告げる。

 

「単純な話だ。あれだけてめえの攻撃を受けてきたんだからな、慣れだよ慣れ」

 

――嘘。悠介の言葉に黛はすぐさまそれが嘘だと断定する。そんな単純な話のわけがない。そんなにも簡単に壁の存在を無視出来る訳がない。

 

事実、悠介は慣れによって黛の動きに対応できたわけでは無い。悠介は、自分に持ってる武器を使い適応し始めたのだ。

 

(漸く、頭の中のイメージ(・・・・)と身体の動きが重なってきたな)

 

唯一相楽悠介にあって、他の者達にないモノ。それは何度も夢で彼ら壁越えの戦いを見た事があると言う事実。それが悠介の武器。まず悠介は、黛の動きと彼らの動きを何度も重ね合わせ、頭の中でイメージを何度も反すうする。

しかし、知っているのと体験するのでは、全く話が違う。イメージでは、既に追いついて(・・・・・)も、そのイメージに身体が全く追いつかない。でも、それしか活路が無かった。だから悠介は、何度も攻撃を喰らう中で、イメージに追いつくための身体操作を実践した。

 

そして遂に重なった。

 

(まあ、それでも完全には無理だけどな。精々、攻撃をギリギリ(・・・・)で急所から逸らす程度が、俺の限界)

 

それでも僅かな活路が見えてきた。

 

(良いぜ、一回気絶しかけたおかげで、いい感じに思考も戻ってきた。こっからだ)

 

その意思と共に悠介は重心を落とし、構えを取る。仕掛けはしない、それが出来るほどの体力がない、ならば全力のカウンターに全てを

 

(掛けてやるよ‥来い)

 

力強く意思を感じさせる瞳で黛を見据える。悠介の意思を感じ取った黛は、一度肩から力を抜く様に息を吐く。

 

―――感じます。貴方の気迫が、此処まで。

 

再び緊張が場を包み込む。沈黙は一瞬、黛が悠介に迫るまでのわずかな時間。超高速で距離を詰める黛。先ほどまでなら悠介に反応すらさせなかったそれに

 

(見えてるし、ギリギリだが反応できんぞ!)

 

反応して見せる。が、それはあくまでも及第点ギリギリの反応だ、黛にとってみれば、問題なく対処できる。

 

(間を取って、攻撃を外して決める)

 

そう、その筈だった…。―――放たれるはずの拳が飛んでこない?

 

(しまっ‥フェイント)

 

そう反応できないならば、勝負以前の問題だが、ギリギリでも反応出来るならば、そこに僅かな駆け引きが生まれる。更に悠介の拳は、彼女達にすら警戒を与えるまでに昇華されているのだから。

 

今言えるのは、この一瞬の駆け引きを制したのは、紛れもなく悠介だと言う事。既にカウンターを放つために腕を動かし始めた黛では、防御は間に合わない。

 

(でも‥拳の射程外。一歩進んでから打つなら、躱せ‥え?)

 

「オラァッ!!」

 

悠介の雄叫びと共に、放たれたのは拳ではなく、貫く様に押し出された脚だった。完全に意識を拳に向けていた黛は、躱せずに腹に直撃を喰らう。

 

「わりぃな、喧嘩には脚も使うぜ、俺(チィ、直撃っつっても内気功で防御膜張ってやがる)」

 

地面にラインを作りながら後退する黛を見据えながら呟く。悠介の言葉を聞いた黛は、僅かに息詰まる中、違和感に気がつく。

 

―――どうして追撃がない?彼の今までの戦いから、一撃入った後は、必ず追撃を仕掛けていてた。なのに、どうして?

 

(限界?)

 

思考する最中、その答えに行きついたのも無理ない無い。実際の所、黛の予想通り悠介は既に限界に近い筈だが‥

 

――ゾクッ!!。僅かにその答えを得、確信をに変わろうとした瞬間、その寒気は襲い掛かった。慌てて視線を悠介に向ける。視線の先には、息を切らせ、全身が泥まみれになりながらも、その瞳の意思は常に前を向いている、敵の姿。

 

甘かった。自分の認識が、そう認めざる得ない。初めてだ、こんなにも誰かを尊敬するような想いにかられるのは。

 

(だからこそ、勝ちたい!!)

 

その想いと共に再び構える。悠介は絶対に仕掛けて来ない、ならば自分が攻めるのみ。

 

 

その場を高速で影が奔る。その中心に彼はただ静かに佇み、ただその時を待つ。

黛が攻撃の動作を見せれば、悠介が攻撃を躊躇わせるように、カウンターの動作を見せる。刹那の駆け引き

 

「ぅ‥」

 

「くっ‥」

 

互いの一撃が交差し、黛は紙一重で躱し、悠介はギリギリに深手を避ける。

 

(まだ倒れないなんて‥)

 

直撃はなくなったとはいえ、確実に当たっている。なのに、膝すらつかない。その事実が、ゆっくりとしかし確実に彼女の思考を乱し、焦らせる。

 

「はあっ!!」

 

「ッ!!」

 

気迫と共に放たれる斬撃。悠介の反応が僅かに遅れる。間に合わない、そう判断した悠介は

 

「‥ぐぅう」

 

左腕を盾に防御に徹する。瞬間、黛が好機とばかりに一歩踏み込むが

 

「なめんなッ!!」

 

弧を書く様に悠介の足払いが、一歩踏み込んだ黛の足を崩す。崩された黛が息を呑む。不味い、体勢が不安定で防御が間に合わない。

そう思うと同時

 

「ぉらぁッ!!」

 

ズドン!と、悠介の持てる限りの力で放たれた一撃が、本当の意味で直撃する。

 

「ッがぁ‥」

 

零れるのは、何時もの彼女からは想像も出来ない声。それだけ深く決まった。ズサッと

初めて黛が地面に足以外を付ける。ほぼ、渾身の一撃されど

 

「まだです!!」

 

彼女は沈まない。地面に身体を付けたのは僅かな時間、即座に体勢を立て直し、間を取る。

片手で攻撃を受けた部分を抑えながらも、刀の切っ先は悠介に向けられている。そして直後、その場から駆ける。

 

「!!」

 

悠介は驚きながらも冷静にその動きを重ね追う。ギリギリ、本当にギリギリでその姿を捉え身構える。放たれる斬撃の深手を避けつつ、己の拳を叩き付ける。悠介の攻撃を躱そうとする黛だが、その動作に僅かな淀みが見える。

 

(さっきの一撃で筋肉が‥)

 

黛は、瞬時に自分の状態を判断。改めて、悠介の拳の重みを再確認する。やはり、多様に受ける訳にはいかない。もっと速く‥速く

 

「参ります」

 

「なっ!?」

 

宣言の元、黛の速度が上がる。

 

(気で足を強化するのを上げたのか‥だったら、防御が薄くなるはず!!不味いがチャンスだ)

 

――重ねろ、あの男達の動きに。そして、見切れッ!!

 

交わるのは、瞬く間の時間。されど、二人にとっては、濃密な時間。襲いくる十二の斬撃、その攻撃を躱す事は悠介には不可能。だから、あえて深手になる事だけを避け、一撃を与える事だけに集中する。

黛の攻撃は当たり、悠介の一撃はギリギリに掠る程度。しかし、確実に当たり始めた。

 

(おぉしッ!!)

 

確かな手ごたえが悠介の意思を高揚させ、当たり始めたと言う事実が、黛の思考を焦らせる。

焦りは、動きを乱し攻撃のキレを落とす、つまり

 

「くぅ‥」

 

悠介の攻撃がより、当たりやすくなることを指す。漸く、悠介の拳が僅かに続けて黛の身体に掠り始める。当たりさえすれば、その部分から僅かに伝わる衝撃が、遅効性の毒の様に確実に黛の身体の動きを鈍らせる。

だが

 

「ッ!!」

 

黛の動き追う悠介が力が抜ける様に一瞬、膝を曲げた。そう悠介自身、既に体のダメージが無視できな程になっているのだ。いくら直撃を避けているとはいえ、確実に当たっているのだから。

そして、その一瞬を見逃さず、黛の斬撃が襲いくる。

 

「クソッ!‥」

 

迫る斬撃を全力で後方に跳ぶ事で、直撃を躱すが完全ではなく確実にダメージを身体が受ける。

トンと、一瞬静かに地面に静止した黛は、次の時には地面を駆け、悠介に肉薄する。

ドオン!と土煙を発生させながら、猛スピードで迫る黛に対して悠介は

 

「なめんなってッ!!」

 

二度目となる、前に弧を描く様に足払いで脚を狙うが

 

「はあッ!!」

 

あらかじめ予知していたように、足払いの間合いの一歩前で黛が跳ぶ。そして落下する重力の力を利用し、気を込めた刀を振り下ろす。

勝負を決めるであろう一撃、それを前に悠介は

 

――ニヤリ

 

と、獰猛な笑みを確かに浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待っていた!!この状況(シュチュエーション)を。最初の足払いは、この為の仕込み。此処が恐らく最後のチャンス!!

 

(黛は俺のタフさを知ってる…たぶん全力で最速で振りにくる)

 

そしてそれは恐らく今の自分では防御しても持っていかれる威力。速度も恐らく最速。どう考えても、どうにもできない筈。

だが、それは自分があれ(・・)を知っていないならの話。

 

――イメージは出来てる。そしてそれを重ねる事も出来ている。

 

刹那、悠介の脳裏に浮かび上がるのは、自分が憧れる男を救った剣客の姿。

 

――お前の剣は確かに速い。でもな‥

 

「はあッ!!」

 

――龍鎚閃(りゅうついせん)ッ!!

 

「あれに比べたら遅せえッ!!」

 

二つの斬撃、でも明らかにあの剣客の方が速い。合わせたのは、黛の一撃ではなく、彼の一撃。

故に止めれる。

 

ガチィ!!と交差された両手の甲が、黛の攻撃を完璧に止めて見せる。

 

「!!」

 

――奥義の(まも)り・刃止(はど)めッ!!

 

ズン!と刃から伝わる衝撃で悠介の足が深く沈む。

 

(攻めにのあれには移れねえが、十分!!)

 

悲鳴を上げる様に痛みを伝える身体を無理やりに押さえつける。

 

「ぅぉぉぉおおおおおおおおッ!!」

 

咆哮と共に大きく交差した腕を跳ね上げ、黛の腕を大きく弾くと同時に、攻撃の構えを整える。

 

――好機。その場にいた、武をせし者達が同時にそう察する。

体勢も崩れ、腕は大きく上に弾かれている状況、不味いと察した黛は、動かせる気を使い、無防備な腹に防御を回す。

そう、それが当然の方法。誰だって、このタイミングならそこを狙うだろう。しかし、思い出してほしい、この試合が始まった当初、悠介は何処を狙っていた?

 

「シィッ!!」

 

零れた息と共に放たれた一撃が‥鋭く黛の左手(・・)に突き刺さる。瞬間、気を全く纏っていなかったが故に、衝撃を直に受けた黛は、その手から刀を離してしまった。そして続ける様に放たれた、左の一撃が、残す右手に叩きこまれる。

そして遂に、その両手から、完全に刀が手放された。

 

「しまッ!!?」

 

今、夜空を彩る一つの星が、地へと堕ちた。

 

 

 

 

 

刀が手から離れる。その意識が、刀に痛みに支配される。やられた。と思うよりも早く、悠介が迫る。

 

(ここが最後のチャンス!!)

 

蓄積されたダメージのせいで限界に近い膝に鞭を打ち、悠介が全てを掛けて駆ける。

速度を乗せた一撃が黛に放たれる。

 

「ぐぅ‥ッ!!」

 

ギチィと鈍い音を立てるが、その一撃を両腕を交差させる事で防ぐが、その衝撃が重く中に響く。

 

――徒手で戦うのは、余りにも不利。刀を‥

 

悠介の一撃を受けた黛がそう評すのも無理はない。そう判断させるモノを悠介から感じたのだから。

しかし、その一瞬の思考に合間に悠介が動いた。

 

「おらッ!!」

 

ダンと右足で黛の足を踏みつける。そして、続けざまに拳を打ち付ける。

 

――乱打(らんだ)

 

だらぁぁあああッ!と、咆哮と共に威力が低いが、反撃の隙を与えぬ様に大量の拳が襲いくる。

だが、黛も僅かな間を見つけ、その場を離れる。しかし、我武者羅に後方に回避したためか、体勢を僅かに崩す。

 

「逃がすかッ!!」

 

後方に逃げた黛を追おうと、駆けようとするが‥ガクッン!と悠介の脚が限界を迎える。

 

(こ、の…ヘタレがッ!!)

 

動けない。悠介の姿を見た黛は、そう判断を下し僅かに気を緩める。その直後、動けないと察しった悠介が、その場から残った力を籠め、前に向かって倒れ込むように跳ぶ。

しかし、飛距離を考えても届くかは五分だが、黛はこの攻撃が届くと直感する。

急いで、その場から離れる為に一歩後退しようとするが、それよりも早く悠介の拳が迫る。

 

単純な話、黛は履き違えたのだ。彼女は、悠介の強さが崇高な目標があるからこそだと考えていた。それ自体は決して間違いではないが、それだけで戦えるのは進めるのは、それこそ才能がある者達だけだろう。既にそこで黛は間違えている。それは、明らかに上からの視点だ。

無論、悠介にだってそれはある。しかし、その強さの‥思念の根底を支えるモノは、全く違う。

彼女達が感じ幻想した、それは‥

 

――届けッ!!

 

武術の神に見捨てられても尚、その途の頂を目指さんと人生の全てを捧げる執念!!

 

後退する黛の顔にその拳が突き刺さる。ズドン!と悠介と黛がそのまま地面に倒れ込む。体重と落下の速度を合わせた一撃。

しかし、その手ごたえは軽い。

 

(後退してたせいで、威力が殺された)

 

動こうにも、手足に力が入らない。対して向こうはダメージはあれど、立てない程ではない。

直後、僅かな辛そうな声と共に黛が立ち上がる。肝心の悠介の脚に力が入らない。それ加え、意識がかすみ始める。

もがく様に足掻く悠介の姿を見た鉄心が、ゆっくりと終了の合図を下そうとする。

 

(敗けれるか…あいつらと胸張って戦うんだよ!)

 

だから‥もう一度思い出せ!!

 

『だから貴様もおれたちに敗けるまで、絶対に誰にも敗けるな!!たとえそれが、武神であってもだ!!』

 

「ああ、任せろ」

 

脚に力が入らないなら、腕を使え!!苦悶の声を上げながら、悠介の上半身が持ち上がる。それを見た鉄心の動作が再び止まる。

そして

 

「ま、だだ‥まだ、終わって、ねえ」

 

膝をつき、左拳を支えにしながらも悠介は、膝立ちの状態にまで持って来る。その姿を見た黛が呟く

 

「見事です」

 

「‥‥」

 

誰もが再び、始まるであろう戦いに意識を向けるが、それよりも早く衝撃の言葉が放たれる。

 

「それまでえッ!!此度の決闘は、引き分け(・・・・)とする!!」

 

「「「「「「「!!?」」」」」

 

その言葉に誰もが何でだと非難の声を上げるが、次の瞬間放たれる闘気に口を閉ざす。

 

「今から説明するわい。まず第一に、相楽の方は気絶しとる」

 

その言葉と同時に誰もが悠介に視線を向ける。

そこには

 

「‥‥‥」

 

確かに意識を失った悠介が、膝立ちのままにいた。それならば、黛の勝ちではないのか?と言う疑問も次の言葉で納得する。

 

「第二に、黛の方は既に最後の相楽の拳が顎付近に当たり、脳震盪を起こしかけとる。今、立つのもつらいはずじゃ」

 

その言葉の真意を指すように、黛がドサ!と地面に座り込む。実際、それが起きたのは偶然だった。後退したが為に、悠介の拳がちょうど顎をかすめる様な軌道となったのだ。それは偶然だ、しかし悠介の執念が呼び起こした偶然でもある。

 

「互いに戦える状況ではないと判断。よって、引き分けとする。黛も異論はないかの?」

 

「はい。異論ありません」

 

その言葉が決闘の終わりを告げる。瞬間、大きな歓声が沸き上がる。

そのさなか、何人かの人間が様々な想いで気絶している悠介を見据える。

 

道端の石ころが見せた覚悟と執念、だが…その壁は未だに高く立ちはだかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保健室。そこのベットに治療を終えた悠介が眠っていた。黛の方は、すでに治療を終えて帰っている。未だに意識が戻らない悠介だけが、寝かされている。

 

「‥‥」

 

夕日が窓から、保健室を朱色に染める中、パイプ椅子に座りながら眠ってる悠介を見ている燕。その表情は、悠介の健闘を称える様にそして悲しそうなな色で染まっている。

 

「全く‥毎回君は、ホント無茶をするね」

 

悠介の髪を優しく撫でながら、そう呟く燕。悠介からは何の反応も見せない。その事が嬉しくて、ついつい撫ですぎてしまう。でもそれもすぐに消え、悲痛な表情を見せる。

 

―――ねえ?知ってる。君が傷つく姿を見るたびに、私がどんな思いをしてるか。

 

――いつもいつもボロボロになって、それでも前に進んで…それを近くで見ながらも何もできない私の気持ち

 

言葉には出さない。それでもその表情が全てを物語る。燕が悠介の髪を撫でる音だけが響く。

 

―――ねえ、私の気持ちに気づいてよ

 

気がつけば、燕の顔が悠介の顔に近づいて行く。誰もいない保健室とライバルの存在、そして今回の決闘の全てが、燕のタガを外す。

ゆっくりと、燕に唇が悠介の唇に近づく。

 

三センチ

二センチ

一センチ

 

そして‥‥夕日に照らされた二人の影が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、重なったのは影だけだった。一ミリと言う場所で、燕の動きが止まった。別段、何も起きてはいない。誰かが当然現れてもしていない。でも止まった。

 

―――やめよう。これは、余りにも卑怯で、虚しい自己満足だ

 

だから

 

「今は、これで我慢だよ」

 

言い聞かせる様な言葉と共に、燕の目が重なった影に向けられる。そう。今はこれで我慢。心の底から、君に想いを告げるその時までは。

 

「待っててね、悠介君」

 

この想いだけは、誰にも敗けない。それが、私の自信で誇りなのだ。武術でもない、もう一つの争いの。

 

 

 

燕が顔を離すと同時、悠介の瞳がゆっくりと開かれた。それを見た燕は、何時もと変わらない声音で

 

「おはよう。悠介君」

 

そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識がゆっくりと浮上する。まず初めに意識が拾ったのは、聞きなれた幼馴染の声。そして天井だった。

徐々にハッキリとする意識、そのため口に出した言葉はそれだった。

 

「どうなった?」

 

何がとは言わなくてもわかってる。決闘の事だ。それが分かっているからこそ、燕は苦笑いしながら答える。

 

「引き分けだよ…大金星だよ、悠介君」

 

「はっ?‥」

 

ふざけんなと叫ぶよりも早く燕が口を開く。

 

「『今日の所は、師匠の言葉を受け入れろ』って鉄心さんが言ってたよ。私もそう思う。たとえ君が、納得できないモノだとしてもね」

 

「…何があった?」

 

悠介の問いに燕が事の詳細を話す。全てを聞き終えた悠介は、腕で顔を隠す。

 

「クソ…」

 

「護れたよ、きっと君は約束を」

 

だから、大丈夫。燕の言葉に悠介はゆっくりと

 

「‥‥わかった」

 

確かにそう答えた。悠介の答えを聞き、満足した燕が一旦席を外す。

一人となった悠介は、ひたすらに先ほどの決闘を思い出す。

 

―――敗けはしなかった…でも、それは刀と言う武器を手放させたから。もしもそうしてなかったら、自分には敗けしかなかっただろう。

 

そして悠介が求める勝利は、その完全な状態の相手からの勝利。

 

「とりあえず、まだお前らに俺は胸を張れるか…?」

 

師匠の鉄心の言葉を信じよう。右腕を上に伸ばしながらそう決める。

 

「‥…」

 

―――戦えた…間違ってなかった。俺は、あいつらに喰らいつける

 

残す欠片は、あの技一つ。時間が足りないなどと言う、弱音も言い訳ももう言わない。

あの男は、一週間で身に着けたのだ。自分には、その倍以上の時間がある。

 

「やってやるよ…ぜってえに間に合わせてやる」

 

悠介は決意の言葉と共に拳を握る。

 

――――祭りの開催まで、後十六日。




いかがでしょうか?結末や悠介が、一応は適応できるようにしましたが、大丈夫でしょうか?
違和感とかあったら、教えて下さい。

燕の方は、何でああなったんだろうか・・・良かったのか?

良かったら、感想をお願いします


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悠介と弁慶

少し前に、ある感想で寄せられた質問なのですが、皆さんは悠介の声を誰にあてはめてますか?
余り声優に詳しくない自分では、どれだけ考えても答えが出なかったので、少し疑問に思いまして
やっぱり、左之助の声ですか?


黛との決闘の後、悠介はひたすらにその時の感覚の反すうに努めた。一度きりでは意味がないのだ、これから先の為に何度もイメージトレーニングに努めた。

そして、それと並行してある程度身体を休める事にしたのだ。焦っても意味がないと言う、鉄心の言葉と強制的な燕の命令によってだ。

その為、悠介はあえて傷を全て治療してもらう事を拒否した。二・三日で治る程度にとどめて貰った。

本人曰く「完治してたら、否応なくに身体を動かす」らしい。その言葉に、燕や鉄心やルーまでも納得したからである。

その為、現在悠介の身体のあちこちには、シップや包帯が巻かれていた。

 

「さて、ゲン。飯食おうぜ」

 

「おう。ちょっと待ってろ」

 

悠介の言葉にゲンが、バックから弁当を取り出しつつ答える。ゲンと向かい合う形で椅子に座った悠介も、机に弁当を置き食べめる。

 

「お前の弁当、いつも納豆料理が入ってんな」

 

「まあ、そこは諦めてる‥」

 

ゲンの言葉に悠介は、少し遠くを見ながら力なく答える。何度も言ったのだ、頼むからたまには納豆料理を入れないでくれと…全くもって聞く耳を持ってはくれなかったが。

 

「でもよ、栄養バランスも考えられてるし、納豆料理も毎回品目が違う。わかっちゃいたがあの先輩、相当な腕前だな」

 

「そのセリフ聞くと思うが…主夫みてえだぞ、ゲン」

 

「うるせえ‥」

 

悠介の指摘に顔を若干赤くしながら、視線を逸らしながらゲンが答える。どうやら、自覚はあるようだ。

そんなくだらないやり取りをしながら二人は、昼休み過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校も終わり放課後、悠介はだらけ部に行くために廊下を歩いていた。しかし、肝心な表情は、めんどくさげだ。

理由は簡単

 

「弁慶の奴…」

 

いつぞやに、弁慶と約束した(と言うか、無理やりさせられた)、おねだりを聞くと言うお願いを試行されたからだ。これから命令されるであろう、厄介事を想像しているのか、その足取りは遅い。

 

「あ!悠介君」

 

「おう、義経。与一も一緒か」

 

ふと声を掛けられは悠介は、声のする方に顔を向ける。そこには、ブンブンと腕を大きく振る義経とめんどくさそうに顔に手を当てながら義経の後ろを歩く与一の姿。

悠介が本格的に義経とつながりを持ったのは、黛との決闘の後だった。

翌日に義経の方から会いに来て、何でもあの時の決闘と悠介の言葉に感銘を受けたらしい。

曰く「義経は感動した!!悠介君にも敗けない様に、義経も頑張らねば」らしい。

 

「悠介君は、今から何処に行くんだ?」

 

「ああ~~弁慶に呼ばれてな。今から向かう所だ」

 

「‥‥弁慶の奴。済まない。義経の方からも、余り悠介君に絡まない様に言ってみる!!」

 

「頼むわ…」

 

―――たぶん、無理なんだろうな。

上手い具合に躱されるのが落ちだろうと悠介は考えている。気のせいか、与一も何処か呆れ気味だ。

 

「そう言えば、義経はこれからどうするんだ?」

 

「義経はこれから、決闘を予約してくれた人達との決闘だな」

 

「…大変だな」

 

「そんな事はない!!義経は、義経の仕事を果たしているだけだし、自分も楽しい」

 

「…そっか」

 

義経の言葉に悠介は頷く。しかしその目は、義経ではなく後ろいた与一に向けられている。悠介は確かに見たのだ、義経が力強く頷くと同時に、心配そうな顔で彼女を見る与一の姿を。

 

―――素直じゃねえな

 

それが悠介の与一に対する評価だった。

 

「それならよ、こんな所で時間食っていいのか?」

 

「は!そうだった。それじゃあまた。ほら、行こう与一」

 

「おう」

 

手を振りながら駆けていく義経。その後ろを与一が頭を掻きながら追う。

 

「もうちょっと、素直になったらどうだ?」

 

自分を通り過ぎる瞬間に放たれた言葉。

その言葉に対して与一は

 

「はっ!誰が‥」

 

一言で否定する。しかし悠介には別の言葉の様に聞こえた。

そう「言われなくても、わかってるんだよ」と、何処か葛藤している様な言葉が聞こえた。

 

二人の姿が見えなくなるまで悠介はその場に留まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

義経たちと別れた悠介は、だらけ部の前に来ていた。一度ため息をこぼした悠介は、気怠そうに扉を開く。

 

「よう、有名人。最近どうよ」

 

「さらっと、意識をそっちに向けた隙に、駒を移動させようとしない」

 

「…はい」

 

悠介の登場に真っ先に反応したのは、宇佐美だった。見た所、大和と将棋をしている。そして先ほどの言葉から、劣勢なのだろう。まあもっとも、彼が優勢だった事など、少なくとも悠介の記憶には一度もないが。

 

「おう、ボチボチだ」

 

二人に軽く挨拶を済ました悠介は、ゆっくりと将棋を観戦している弁慶の近くに歩み折る。

 

「オッス」

 

「もう既に飲んでんのかよ」

 

ほんのりと顔を赤く染めた弁慶に悠介は、ツッコミを入れる。しかし弁慶はさして気にせずに、笑みを浮かべている。その事実が悠介を憂鬱にさせる。

 

「それじゃあ、お願い一つ目ね」

 

「おい待て…何だ一つ目って?複数あんのかよ」

 

「当然」

 

―――帰りたい。それが悠介の率直な感想だった。しかしそれが出来ない。この手のタイプは、ドタキャンなどをしようものならば、後日にもっと面倒な事になるのだから。

だからこそ、今日一日を犠牲にするしかない。

 

「わあったよ。…で?何をさせられるんだよ」

 

「ふふふ、最初はこれね」

 

そう言って差し出されたそれを見た瞬間、悠介の表情が驚きに染まる。

 

「まさか…ここでやれと?」

 

「当然…あっ、それと膝枕でよろしくね」

 

出された弁慶の要望に、悠介は再び深く息を吐く。

 

「ほら…さっさと、頭を置け」

 

ドサと座りこんだ悠介の膝に弁慶が嬉しそうに頭を置く。そして悠介は弁慶から差し出されたそれを手に持って

 

「動くなよ…」

 

「うん、了解」

 

ゆっくりと、耳かきを始める。

 

 

「うん…意外とうまいね」

 

「意外は余計だ」

 

気持ち良さそうな弁慶の声と表情。対する悠介は、弁慶の感想に文句を言いながらも黙々と作業を続ける。

 

「おら、終わったぞ」

 

「う~~~~~~~ん」

 

数分して両耳が終わり、弁慶が悠介の膝から頭をどける。その顔は確かな満足感で彩られている。

 

「で、次は何をしろってんだ?」

 

「…そうだね、とりあえず」

 

悠介の問いに、弁慶は笑みを浮かべんがら彼の方を向く。対する悠介は、そんな弁慶の反応に疑問を持つが‥突然、悠介の胸に弁慶が飛び込んでくる。

 

「うおぉ!!」

 

「えへへ~~、抱きしめなさい」

 

慌てる悠介に弁慶は、嬉しそうに告げる。

 

「いきなり、すぎるだろッ!!」

 

「聞こえなあ~~い」

 

(こいつッ!!)

 

悠介の胸に顔をうずめる弁慶。どうやら、川神水の酔いがかなり回っているらしく、キャラがぶれ始めている。ほんのりと赤く染まった頬に、上目遣いで見つめて来るトロンと潤んだ瞳に、接する部分から伝わる温かさに豊満で柔らかなその感触。

本来ならば、狂喜乱舞するであろう状態にありながら悠介は、めんどくさそうに一息ついた後、軽く弁慶の身体を抱きしめる。

 

「ぅん」

 

だきしめた直後に漏れる、弁慶の吐息。その全てが男を刺激する筈なのに

 

「…これ、何時までしとけばいいんだ?」

 

悠介は全く動じていない。そのあまりの反応の無さに

 

「お前さんって、本当に残念な奴だな」

 

宇佐美が言葉を発する。

 

「残念って何がだよ?」

 

「いや、いい。お前さんみたいなタイプには言っても無駄だろうしな。そう思うだろ大和」

 

「まあ、確かに。キャップと同じで無理でそうね」

 

悠介の疑問も放っておき、宇佐美と大和は二人でため息をつく。

 

「だから、何がだよ」

 

二人の溜息を見た悠介のセリフには、当然答える者などいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『別に‥ただ敗けられない理由を思い出した…ただそれだけの話だ』

 

思い出す、あの時の言葉。それまでは絶対に勝てないと思っていたし、それが当然だと思っていた。

それなのに、彼は一度も諦めなかった。更にあろうことか、自分の予想をはるかに覆した。そして何より、最後の最後で彼が見せたあの表情に何故だか魅せられた。

普段ならば、絶対に思わないであろうが、その表情を見た時に感じてしまった。

 

―――凄い

 

自分では生涯得れるかもわからないそれを感じたゆえの言葉。だからだろうか、彼を知りたいと思ったのは?

 

―――温かい

 

抱き付いているからこそ伝わる温かさに、頬が緩む。不思議だと思う、なぜか彼を見つけると自然と目線が彼を追うし、胸の内側から温かくなる。

本当に何でだろう?

もしもこの温かさの正体が分かったらわかるかな?

 

―――この気持ちに名づける名前を

 

そんな事を考えていると、ふと近くに合った温かさが消える。

 

―――ちょ、勝手に消えないで!!

 

そんな叫びと共に弁慶の意識が浮上した。

 

 

 

 

 

 

 

「漸く起きたか」

 

最初に目に映ったのは、悠介の姿。

 

「立てよ。ほら、そろそろ時間だし帰るぞ」

 

「うん…わかった」

 

身に残る温かさに意識を持っていかれそうになるが、どうにか持ち直して立ち上がる。

 

「相楽、起きたか?」

 

「おう、帰ろうぜ」

 

「あ、義経迎えに行かなきゃ」

 

「おいおい、忘れるなよ」

 

行くぞ。と背負向けた悠介だが、弁慶が羽織の端を握ったために動けない。

 

「何だよ‥」

 

「最後のお願い…肩貸して」

 

「はあ…」

 

おらよ。と肩を貸して弁慶を立ち上がらせる。そうして、三人はゆっくりと下駄箱に向けて歩き出した。

 

下駄箱に辿り着くと、各々が靴箱から靴を取り出す。

 

「あれ?靴箱から手紙が」

 

その中、靴を取り出そうとした弁慶だが、靴の上に見慣れない手紙が置いてあるのに気がつく。

 

「決闘の申し入れか?」

 

「いや、古典的に考えてラブレターと言う線もあるぞ」

 

弁慶の言葉に悠介と大和も興味アリと近づいてくる。

 

「大和が正解。ラブの方だ…しかも三年生。あたし年上には興味なんだけどな~」

 

「意外だな、お前の性格的に年上好きかと思った」

 

「いや、何か気を使うじゃん?それに…」

 

「それに?」

 

「何でもない。まあ、大和と悠介ならだらけな仲間だから、可能性あるかもよ?」

 

「そうかい」

 

「ふむ」

 

そんなやり取りをしている中で、大和がふと質問する。

 

「相楽は、年上の女性をどう思ってるんだ?」

 

「!!」

 

「うん?どうしたんだ、急に」

 

「いや、いつも燕先輩といるから、どうなのかと思って」

 

大和の問いに、悠介は少し考える素振りを見せた後答える。

 

「そうだな…一言で言うと、ちょっと苦手だな?」

 

「おお、これまた意外」

 

「確かに、でも何でだ?」

 

悠介の答えに、二人は食い気味に乗って来る。

 

「まあ、簡単に言うと、自分をガキ扱いしようとするのがちょっとな」

 

「って事は、燕先輩は‥」

 

「ああ、誤解がないように言うと、燕はガキの頃からの知り合いだし、同い年って感じが強いから、別に問題ねえよ。それに…」

 

「それに?」

 

「あ~、これは関係ねえから、気にすんな」

 

「…わかった」

 

悠介の言葉きに、その話題は終了した。二人の表情は、何処か嬉しそうだ。そんな二人の背を見ながら、悠介は先ほど口に出そうとした言葉を心の内で呟く。

 

―――それに、あの女性をかぶせちまうんだよな

 

思い出すは、夢に出てきた男の拳を観る女医の姿。彼と彼女の関係を思い出すと、どうしてもと言う感じがある。

そんな事を考えていた悠介の耳に、聞きなれたクラスメイトの声が届く。

 

「あ、ワン子だ。義経と決闘してるぞ」

 

「ホントだね」

 

大和と弁慶の声につられて、悠介も二人が戦っている場所に視線を向ける。そこには猛スピードで薙刀を振るう一子とその攻撃を冷静に躱す義経の姿。

速度を上げて攻める一子と冷静沈着に間合いを詰める義経、故に一子の焦りも理解できる。あえて、一撃を受け止めさせてからの大技、しかし義経は冷静に後方に下がる事で躱し、逆に一閃。

それで勝敗は決した。

 

「あちゃ~負けちゃったか」

 

「さすがは、義経」

 

二人が決着が着いたと同時に義経たちの方に歩き出す。対する悠介は、ゆっくりと校門に向かって歩き出す。

 

「され、どこ行くんだ?」

 

校門に向かっている悠介に大和が声を掛ける。その問いに悠介は、片手をブラブラ振りながら答える。

 

「修行」

 

それだけ告げると、誰かが何かを言うよりも早く悠介は校門に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅途中、悠介は先ほどの一子の戦う姿を思い出す。一子の事は、百代のメールでいやと言うほど知っている、その夢も…そして百代の葛藤も。

 

「急げよ」

 

ふと、こぼれた言葉は、一子を思っての言葉。時期的に考えてもそろそろリミットだ、今年にでも成果を見せねば…川神一子の夢は完全に潰える。

だからこそ、鉄心にメッセージを託したのだ。あの時の決闘で感じた、彼女に最も足らないそれを理解させるために、しかし未だに気がついていないようだ。

 

直接教えればいいと思うかもしれないが、こればかりは第三者が何を言っても無意味なのだ。自分で真にしなければ意味がない、

 

「気がつけ…じゃねえと、間に合わねえぞ」

 

川神学園の方を振り見きながら呟やかれた言葉。

 

『お前はお前だ、それを受け入れ認めろ』

 

それが相楽悠介から川神一子に送られた一言。

 

 

―――――祭りの開催まで、後十三日

 

 

 




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悠介と戦士たち

GWですら学校と言う地獄の合間を縫ってどうにか更新です
結構後半が雑になっているかもしれませんが、ご了承ください
例のごとく、違和感とかあったら教えて下さい


視界の敵の動きと頭の中に在る男達の動きが、自然と一致しだした。

 

―――まだだ…まだ動かない。

 

目の前の(クリス)の攻撃のタイミングは、少し溜めてからの……

 

「はあッ!!」

 

悠介に迫るのは、一撃必殺の意思を込めたレイピアでの一閃。本来の悠介の行動ならば、真正面から受け止めるだろうだが、彼が取った行動は、紙一重の回避(・・)行動。頬を掠めるギリギリに身体を動かす。

 

「ッ!!?」

 

今までの悠介を知るクリスだからこその驚き。

 

―――よし、イメージ通りに身体が動く…イメトレの効果が出てきてる

 

悠介が己の動きに納得し気を緩めた間に、クリスが距離を取る。距離を取りながらクリスは、先ほどの悠介に対する疑問を思考する。一瞬、自分を舐めているのか?と言う答えに行きつくが、即座に否定する。そんな訳がない、そんな奴では断じてない。

 

「一体、どうつもりだ?何時ものお前らしくないぞ」

 

「ああ、わりぃな。久しぶりに動かすからよ、ちょっと確認してただけだ。気に障ったていうなら、一発貰ってもいい」

 

「では、一つだけ代わりに聞かせてくれ。この勝負を舐めての行動ではないのだな」

 

クリスの口から出た言葉に、悠介は笑み浮かべながら答える。

 

「うんなもん、この文字に掛けてする訳ねえだろうが!!いつだって全力が、俺の信条だッ!!」

 

「そうか…ならばいいッ!!」

 

悠介の言葉に笑みを浮かべなながら吠えながら、地を蹴るクリス。クリスの一撃を迎え撃つかのように、拳を握る悠介。二人に一撃がぶつかり合うのは、必然だった。

ぶつかり合う両者…押し負けたのは、クリス。

 

「ぐぅ‥」

 

堪え切れずに、クリスの脚が宙に浮くが、直後に身体を回転させ上半身の力で、レイピアを打つ。

放たれた一撃を悠介は、あえて前に出る事で躱す。そしてそのままに、無防備なクリスの身体に己の拳を打ち込む。

 

「ガァッ!!」

 

「それまでッ!!勝者 相楽」

 

獣の様にこぼれた苦悶の声、それが決着の合図となった。小島先生の声に、クリスが痛みを堪えながら、悔しそうな顔を見せる。

 

「負けてしまったか…」

 

「いや、クリス。お前の動きもだいぶ良くなっているぞ」

 

「ああ、最初に戦った時とは大違いだぜ」

 

クリスの健闘を称える小島先生の言葉に悠介も同意する様に頷く。そう言われて嬉しいのか、クリスの表情が喜びに染まる。

 

「サンキューな。手合せに付き合ってくれてよ」

 

「構わない。自分も相楽と戦えるのは、己を見つめなおせるからな」

 

悠介の感謝の言葉にクリスは、構わないと答える。その言葉に悠介はそうかと簡単に返す。

 

「なあ、相楽」

 

「うん、何だ?」

 

「自分なりに義について考えてみたのだが、やはり間違いがあるならば正すべきと言う自分の意思は曲げられない」

 

「それで…」

 

「相楽のお蔭で全ての悪の行為が悪でないとわかったが、そのために自分が何をすればいいのかが、まだわからないんんだ」

 

クリスから語られたのは、自分の信念とも言える『義』の話。きっと、何度も考え抜いたのだろう、それでも答えが出なかったからこそ、あの時に勝負をした同士に近い悠介に聞いたのだろう。

クリスの問いに、悠介は彼女の額に指を突きつけながら答える。

 

「ちげえちげえ。どうすべき(・・・・・)かじゃなくて、自分がどうしたい(・・・・・)かだ。考えるんじゃなくて、とっさに近い感情が答えだ」

 

「とっさに…」

 

「そうだ。誇りだから譲れないんじゃねえ、譲れないからこその誇りだ。そうやって、考えてみたらいいんじゃねえか。少なくとも、俺はそうしたぞ」

 

「譲れないから。そうか‥そうか‥相楽、感謝する!!」

 

「おう」

 

悠介の言葉に感じたモノがあるのか、クリスの表情は明るくなる。そのまま、感謝の言葉を述べ、クラスに向けて走る姿見た悠介は、敗けてられなねえな。と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスとの手合せで、確実に黛との決闘を自分の糧に出来た事を確認した悠介は、いよいよ本格的にあれの修行に取り掛かろうと決意する。

 

(マジで時間も惜しいしな、今日からでも始めるか。幸いな事に、今日金曜日だし)

 

予定を組み立てながら、帰宅する悠介。だが、見知った声が悠介に届く。

 

「今の声は…」

 

悠介は声のする様に、視線を向けた。

 

「オッス」

 

「お久しぶりです」

 

そこにいたのは、ステイシーと李のメイドコンビ。

 

「何かおめえらって、何時も一緒に居るよな」

 

「まあ、コンビだしな」

 

「案外、気が合うので」

 

二人の言葉に何処か納得する悠介。正反対だからこそ、互いの欠点を補える。正に理想に近いコンビかもしれない。

 

「其方は、どちらへ?確か、家は逆方向だったと記憶していますが」

 

「ああ、今から修行しようと思ってな。川神山に行こうと思ってたとこだ」

 

「時間が無いからですか?」

 

「まあ、そんなとこだ」

 

事情を知る李だからこその言葉に、悠介は隠す必要はないと事実を述べる。

 

「おお、頑張るじゃねえの。ホント、ロックな奴だぜ、お前」

 

「まあ、凡人なんでな。時間はいくらあっても足んねえからな。一秒も無駄にしたくねえんだ」

―――あいつらに勝つためなら尚更だ

 

聞こえたわけでは無い。それでも二人には、そんな言葉が聞こえた様に思えた。だからこそ、思い出すのは、あの時の決闘。わかっていたつもりだった、だがあの姿を見た時から、自分達の考えが甘かったと思い知らされた。

 

最初に立ちあがった姿を見た時は、根性がある。ただそれだけだったが、次の言葉に込められた想いを感じ取り、全ての見方が変わった。二人は、戦士であり傭兵で暗殺者だ。そこには生き残ると言う事実のみが正義である。故に、自分達には得る事の出来ないモノだった。しかし、今の日常を生きているからこそ、それが理解できる。

 

憧れた、そして欲しってしまった。持っていないが故に得れないと思ってしまったが故に。

後は、弁慶と同じだ。不思議と目で追い探してしまう。話せば、何かが埋まる気がした。

 

「じゃあそう言う訳だから行くわ、俺」

 

「ええ、時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした」

 

「おう、頑張って来いよ!!」

 

二人の激励に悠介は、おうと手を振りながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川神山の中でも多くの岩が点在する場所。そこに悠介はいた。

 

「ふぅ…漸く七割ってとこだな」

 

目の前にある一部が砂塵と化した岩を見据えながら、悠介は深く息を吐く。周りには、一部が砕かれた岩と一部が砂塵となった岩があちこちにある。一体どれだけ打ち込んで来たかは、滝の様な大量な汗とそれを見れば一目瞭然である。

 

「両手打ちはだいぶ形になってきたな。問題は…」

 

片手打ちの方である。

 

「まあ、やらないと意味がないか‥」

 

手ごろな岩の前に悠介は立つ。沈黙中、悠介は片手を握る一歩手前で止めた拳を構える。

一秒

二秒

三秒

四秒

と時間が過ぎる中、頭の中でイメージを重ねた悠介が、遂に拳を解き放った。

 

「‥‥‥‥まだブレてるのか」

 

結果は失敗。岩には大きく罅が入り一部が砕けただけ。打ち込もうとした刹那に、イメージとブレるのを感じた‥‥そのブレは確実に小さくなっているが、タイミングが命のあの技では致命的だ。

 

「何かが足りねえ…」

 

自分の拳を見つめながら呟かれた言葉は、余りにも淡白に現状確認している。

 

「‥‥はあ~~~~」