その星に手をのばして (志文)
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俺のいない世界

推しの子をみてアイに脳を焼かれました。

幼馴染と幸せに過ごすifがあってもいいはず。

人生で初めて何か書くのでお手柔らかにお願いします。





 

 

 

 

「おーい、一緒にかえろー?」

 

ホームルームが終わり、帰る準備をしていると、隣のクラスの少女が扉の前から声をかけてくる。

 

「おっけー、ちょっと待って」

「早く早くー?」

彼女の名前は星野アイ。世界で一番かわいい女の子だ。天真爛漫でいつも笑顔をくれる、大輪の花のような存在。小さいころからずっと一緒に過ごしてきて、いろんなことを乗り越えてきた。今でも一緒に登下校する仲だ。彼女の家庭事情も完全には解決できなかったものの、元気そうに毎日過ごしている。

 

アイに返事をして帰る準備を進めながら同じクラスの悪友たちと話していると、彼女は俺の席に向かってきていた。

 

「まじかよ。かわいいし結構人気あるんだぜ?あの子」

「もったいないことしたんじゃね?」

「やっぱり幼馴染か?幼馴染なのか?」

「何の話何の話?私も聞きたーい!」

「お、星野さん、こいつまた告白されたらしいぜ」

「おい、言うなっていっただろ」

 

その言葉を聞いた瞬間、笑顔だったアイの表情、瞳が変わる。

 

「え、誰に?」

 

星のような輝きを宿していた彼女の目は黒く染まり、闇のようなものが見える。さっきまでしていたにこにこ笑って、見るものすべてを魅了するような表情は消え去り、こちらをじっとみつめていた。

 

「ふーん、へぇー。そうなんだ?へぇー?」

 

アイは俺が誰かに告白されるたびに不機嫌になる。これが長年一緒にいる幼馴染に対する嫉妬なのか、家族のような存在に対する嫉妬なのか、それとも男としての俺に対する嫉妬なのか。それが分からず、あと一歩を踏み出せないでいた。どうしても。どうしても、今の居心地のいい幼馴染という関係が、人生の半分以上をともに過ごしてきた彼女との関係が、変わってしまうことに怯えてしまい、告白に踏み出せていない。

 

「違うって、すぐ断ったから!もう帰るぞ、アイ!じゃあなお前ら、明日覚えとけよ!」

「はーい」

 

不服そうな顔の彼女の手を取り、扉に向かって歩き出す。

悪友たちに別れを告げ、アイと家路につく。

 

学校を出て、家へと足を進める。

 

「今度はだれ?ほんとに断ったの?その子のことどう思ってるの?」

「同じクラスの東さんだよ。ちゃんと断ったって。たまに話すくらいでただのクラスメイトとしか思ってなかったよ。」

「ふーん、ほんとかな?」

「呼び出されたところあいつらに見られて付けられて、遠くから全部見られてたらしくてさ。あんまり言いふらさないでくれよ」

「そういうアイこそどうなんだよ、告白とか」

「私も全部断ってるよ、琥珀以外興味ないもん」

「またそんなこと言って。本気にするぞ?かわいいんだからそんなこと俺以外に言うなよ」

「ありゃ、私の可愛さについに落ちちゃった?」

「はいはい落ちた落ちた。思わせぶりな小悪魔め。幼馴染でもその話題だけは冗談か本気かわからんわ」

「ふふっ、どうだろうね?でも琥珀が私以外の人と付き合ったりしたら、寂しくて死んじゃうかもしれないよ?」

「嘘でも死ぬなんて言うなよ、縁起でもない」

「えへへ、ごめんごめん」

 

そうして何気ない会話を続けて歩いていると、彼女が何かを思い出したような表情をする。

 

「どうしたんだ?」

「そういえば私、スカウトされたんだ!」

「おぉー、すごいじゃん、何にスカウトされたんだ?」

「アイドルだよ!苺プロダクションってところ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、突然激しい頭痛に襲われる。視界が歪みだし、立つこともままならなくなる。今まで経験したこともない不調に耐え切れず、思わず膝をつく。

 

「あ、これ無理な奴だ」

「大丈夫!?ねぇ!琥珀!琥珀って!」

 

意識が朦朧として、彼女の声が遠くなっていく。そうして俺、夢川琥珀は意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

『……愛…よ』

『…………………で…』

『……嘘…じ…………よ』

 

なんだ、これは…………?理解しがたい光景を見せられている。

 

俺のいない世界のアイ…………?

俺と出会わず、様々な問題を解決できず、嘘をつき続けていた。

この世界の彼女は、愛がわからず、理解するためにアイドルになった。そして俺でない誰かと…………

俺でない誰かに恋をして、子供を作った。自分の子供なら愛せるかもしれないと思っていたのだろう。芸能界を生きていこうとする彼女は、人間関係に悩まされ、笑顔でいようとしているが、辛いという気持ちが少なからずあるのがわかった。

だが、子供たちと接する彼女は幸せそうで、とてもいい顔をしていた。期待していた通り、子供を産んで、その子たちを愛することができたのだろう。その日常を見ている間、俺も幸せな気持ちになった。

そしてその記憶の最後にアイは、ストーカーに刺されて死んだ。彼女の父親がストーカーを唆し、彼女を殺害した。

 

 

 

…………。

一億歩譲って俺以外に恋をして子供を作るまでは良い。死ぬほどつらいし苦しいしメンタルが死にそうだが、彼女の幸せがそれで得られるのなら、俺はそれでいい。

しかし、道半ばで彼女が殺されることだけは絶対に受け入れられない。

 

この世界に俺はいなかった。だからこそ、この未来は変えられるだろうし、この世界とは違う道をたどっているはずだ。そしてこの記憶のようなことが実際に起きるとも限らない。しかし、ただの夢と片づけることはできない。自分の中の何かが、これはただの夢じゃないと叫んでいる。

 

星野アイに恋をして、楽しそうに過ごす彼女とずっと一緒にいて、そんな日常がずっと続いていく。そう思っていた。俺のよく知る彼女はどうなのだろうか。母親の虐待の問題がひと段落した時、彼女が言っていたことを思い出す。

 

『愛されるって、愛するって何?』

 

彼女を愛していると言った母親は、刑期が終わっても迎えに来なかった。その時こぼした言葉は、本心だろう。記憶の中の彼女は愛を知るためにアイドルになった。俺と一緒に過ごしてきた幼馴染はどうなんだろう。アイドルについてどう思っているんだろう。

 

彼女のことが好きだから、幸せになってほしい。たとえ彼女が誰に恋をしても、どんな選択をしても、俺がアイを守ろう。絶対に守り抜こう。魑魅魍魎が蔓延る芸能界に彼女が行きたいというのなら、俺も一緒に飛び込もう。彼女を守れるだけの影響力とコネを手に入れて。なんとしてでも守り抜いてみせる。でもやっぱり、俺と結婚してほしいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、見たことのない部屋にいた。突然の頭痛で膝をついてからの記憶がない。

違う世界の彼女のことは鮮明に覚えているのだが。

俺は病院のような場所のベッドに寝かされているようだ。

 

「琥珀!大丈夫!?」

 

アイが心配そうにこちらを見つめている。あぁ、かわいいなぁ。

 

「アイ」

 

意識がまだ不確かで、何も考えずに彼女を抱きしめる。寝起きだからか、大きな声を出すことができず、彼女の耳元で小さく声を出す。

「ふぇ!?何!?どうしたの?琥珀?」

「アイ、好きだ。ほかの誰かのものにもならないでくれ。俺とずっと一緒にいてくれ。俺が幸せにしたい。愛してる」

「え!?え!?うん!うん!?」

 

顔を真っ赤にしたアイが俺の言葉に慌てながらうなずいている。彼女への想いが溢れてより強く抱きしめてしまう。いつものいたずらっぽい笑顔はそこにはなく、顔がくっつきそうな距離で、潤んだ瞳がこちらを見つめている。

 

「かわいいなぁ」

 

そうして俺はまた夢の世界に旅立った。あれ、何言っちゃったんだろう。やばいかも。

まぁいいや!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星野アイは動揺していた。

いつも通り幼馴染と一緒に帰っていると、彼が突然倒れた。どうしていいかわからず、私は慌てて救急車を呼んだ。下校中で周りにたくさん生徒がいたこともあり、大騒ぎになってしまった。

救急車がすぐにきてくれて、そのまま一緒に病院へ向かった。

倒れてしまった彼が心配で心配で仕方なかった。そんな彼が目を覚ましたかと思えば、突然プロポーズみたいなことをして、満足げな顔でまた眠ってしまった。私の気持ちも知らずに。

 

 

彼と初めて出会ったのは小学校の入学式。初めて出会う人たちの中で、一際目を引く人物が彼だった。人の名前を覚えるのが苦手な私でも、すぐに覚えてしまうくらいに彼は輝く存在だった。顔がかっこいいのも理由の一つかもしれないが、それだけではなかった。なぜか目を惹かれてしまう、そんな何かを彼は持っていた。

 

 

実際に学校生活が始まると、誰とでも仲良くなる社交性や、どんな時でも場の雰囲気を明るくする人柄、細やかな気遣いなどもでき、小学生とは思えないほどの優しさもあって、周囲の大人にも信頼される、ただそこにいるだけでみんなを笑顔にしてしまう、太陽のような男の子だった。

 

どんな人とでも仲良くなる彼は、一人で過ごしている子を見るとすぐに声をかけ、誰にも寂しい思いをさせないようにしていた。違うクラスの子でもすぐに仲良くなり、みんなが彼のことが好きだった。そんな彼は、私にとっても憧れだった。

 

二年からは同じクラスになり、最初の席で隣になったことがきっかけでどんどん仲良くなっていった。ほかの子のことをあまり覚えられない私が浮きそうになった時も、お母さんに傷つけられた時も、私を助けてくれた。施設に預けられるようにはなっちゃったけど、幸運なことに今の学校からも転校せず、それまでと変わらず彼と一緒に行くことができた。彼と出会うまで嘘も本当もよくわからなかったけど、私は彼のことが大好きだ。

 

「かわいいなぁ」

 

そういって私を抱きしめる力が弱くなり、琥珀は安らかな顔で眠りに落ちた。

 

密かに期待していた言葉を、一番欲しかった言葉を言われて私は真っ赤になってしまった。心配していたのに突然あんなことを言われて反応できず、頷くことしかできなかった。

 

好きだ。愛してる。

彼の言ってくれた言葉が何度も私の心に響く。私も大好きだよ、琥珀。

だからこそ、愛してるって私も言いたいなぁ。

 

「え、ていうかこれってもう彼女だよね!?もう結婚する?いつ式あげる!?子供何人ほしい?」

 

興奮して声が出てしまい、慌てて冷静さを取り戻す。

幸せな気持ちが体中を満たしている。

 

私が一番距離の近い異性であることは理解していたし、容姿も自信があった。だから、彼の恋人に一番近いのは私だと思っていた。

でも、彼は人気者で、いろんな人が彼に惹かれる。今日も告白されていたし、いつか誰かの恋人になってしまうかもしれないという恐怖がずっと、心の中に存在していた。

他の誰よりも長く一緒にいた幼馴染だったけど、それ以上の関係になりたいってずっと思っていた。でも今の幸せが壊れてしまうのがずっと怖かった。

でも私のそんな不安も、彼にはお見通しだったのかな。

 

「それにしても、なんで急に言ってくれたんだろう?起きたら聞いてみないと!」

 

「それにしても、寝顔もかわいいなぁ」

 

明るい未来に思いを馳せながら、幸せそうに眠る彼を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一日おいて見直したら変な文章と流れがあったのでちょっといじりました。

大きな変更点
記憶で見たアイへの考え
アイの愛についての話の追加
愛してる⇨大好き
に変更

愛してるに関しては、クソデカミスです。私のアイへの愛が溢れて漏れてしまいました。


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進展

前回の話も割と修正しました。書き終わったら見直すのは大事ですね。

主な変更点
記憶で見たアイへの考え
愛についての話の追加
愛してる⇨大好き
に変更

超人幼馴染くんのスペックを書いておきます

金髪蒼目の圧倒的美形主人公。太陽のような存在で、イケメン実力派俳優の父親とその父親を一撃ノックアウトした超美形母親から生まれたイケメンくん。お日様系イケメンなだけの普通の男の子(?)。自分の体の操作が上手で、思い通りの動きができるため、アクションなどアクロバティックな動きも得意。大体の運動もうまい人を見ればその動きを覚えてめっちゃうまくなる。努力は必要だが。

母は元歌手。
父が俳優だった縁から一時期子役として色々やっていた。父親から受け継いだ圧倒的な演技の才能、母の歌の才能、両親の顔の良さ、いるだけで周りを照らすような存在感、無意識に目を惹きつけられるような魅力から、未来のスーパースターと期待されていたが、突然いなくなったことから、消えた天才と呼ばれる。やめた理由は幼馴染と遊びたいからかもしれない。両親は息子の自由に全て任せている。
きっと芸能界に戻ったら、大人気になるんだろうなぁ。
なんやこの少女漫画にいそうな男。



 

 

なんかすんごいことをやらかしたかもしれない。好きな女の子にこれから起こるかもしれない悲劇の記憶を見て、暴走してしまった。でも付き合えたからいいや。あーもう最高や。

病院でいろいろと見てもらって、重い病気などではなく、若干貧血気味な程度で、大慌てで病院にきた母親もアイも安心していた。健康なのに安心して、ずっと引っ付いてくるのはちょっとしんどいが。心配してくれたのがわかるから引き離しづらい。柔らかい。ふわふわ。ドキドキします。

今は親の車で家に運んでもらっているところだ。

 

 

「にしても二人とも、やっとくっついたのねー。良かった良かった、おめでとう。じれったかったのよ。アイちゃんのことは元々娘みたいに思ってたし、もう正式にお母さんになる日も近いわね!何時でもお義母さんって呼んでね!ママでも良いよ!」

 

運転中の母さんが俺たちの進展を祝ってくれる。小さいころから何度も家で遊んだり、アイの家で問題が起きたときも頼ったりしていたからか、母にはどちらの気持ちもお見通しだったようだ。

 

「ありがとうございます!おかあさん!」

 

「ああうん、ありがとう。」

 

「で、どっちから告白したの?アイちゃん?それとも琥珀?」

 

「それはですねー!」

母さんと仲良く話しているアイを横目に思考にふける。

 

さっき見た記憶は鮮明に覚えている。俺のいない世界のアイ。まずはあれにどれだけ信憑性があるのか確かめる必要がある。ただの夢ならそれでいい。

ただの夢である可能性のほうが高いはずなのに、理由はわからないが、あれはただの夢ではないと確信している自分がいる。

 

あの世界のアイが入った事務所やグループ、ワークショップに参加した劇団が実在するのかなどを確かめていこう。目を閉じれば、あの世界の彼女の死の瞬間がフラッシュバックする。あんなことは絶対に起こさせはしない。

 

彼女が幸せになれるなら、俺以外の人と結ばれても、涙をのんで祝福するつもりだった。

彼女が幸せになれるなら、どんなことでも全力で応援しようと思っていた。

 

しかし、あの記憶を見て、そのことについて考えているうちに、あの世界のアイのパートナーはろくでもないやつだと理解できた。家事も手伝わず、家にも現れなかった。しかも、おそらく殺害の黒幕。

もし他の誰かがアイの恋人になったとして、彼女は本当に幸せになれるのだろうか。こんなものを見た後ではそうは思えない。

そう思ってしまえばもう止まらなかった。止まれなかった。

 

以前までならアイが選んだ人なら応援しようと思っていた。しかし彼女は俺を選んでくれた。ただの幼馴染ではなく、恋人になることができた。隣で幸せそうに笑う彼女をみて、もう一度決意を固める。

 

 

「アイ」

「んー?どうしたの?」

「俺が絶対幸せにするから」

体が勝手に動いて、彼女の唇を奪う。柔らかくて、とても心地良い感触。ずっとこうしていたいと思った。

「ふぇ!?」

「急すぎるよ!嬉しいけど!めっちゃ嬉しかったけど!」

 

あざとい女の子の照れ顔は世界を平和にする。そう言ってくれた彼女はもう一度こちらに顔を近づけてくる。

しかし俺たちはとんでもないことを忘れていた。数秒前まで会話していた存在を。

 

「あらあらあらあら、大胆ねぇ。おばあちゃんになる日も近そう!孫が楽しみだわ。いつでもいいからね!」

 

あ、おかんおったんやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

人生初の彼女ができた次の日。

土曜日で学校がなかったので、朝からアイを家に呼んだ。昨日の晩、いろいろと調べた結果、あの記憶の信憑性が非常に高いことが分かった。今までの人生で一度も目にしたことがなく、聞いたこともない、あの記憶のなかでしか知りえないものが、すべて実際に存在していた。

 

「おじゃましまーす、あれ、今日お母さんいないの?」

 

「あぁ、今日は夫婦仲良く出かけてるよ、昼と夜は適当に食べててって言われてる」

 

「え、いきなり?そっか、もう行くとこまで行くんだね!幼馴染だもん!早く部屋いこう!」

 

「ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待って」

ちょっと待って。ちょっと待って。さすがに早すぎる。

 

「将来的にはそこまで行きたいけどまだ今日はそんなことまで考えてなかったですちょっと待ってください避妊具とか何もないですていうか確かに夜まで二人きりじゃんどうしよう」

 

「ふふっ、さすがに冗談だよー、いつも通りリビングで待ってるねー」

そんな声が聞こえて、安心して二人分の飲み物を用意しようと冷蔵庫を開ける。

 

「わたしはいつでも準備できてるからね」

 

突然いいにおいがすると思ったら、恋人になって暴走し始めた小悪魔が耳元に口を寄せてささやいてくる。その後急に唇を奪われた。

誘惑の言葉を言い残し、真っ赤になった俺をみて、鼻歌を歌いながらご機嫌なアイが離れていく。

 

「幼馴染が強すぎる……。」

 

 

 

 

 

 

 

二人分の飲み物を持ってきてくれた琥珀が、リビングでくつろいでいる私の隣に座る。もっと近くにいたくて、彼の肩に頭を乗せると、当たり前のように撫でてくれる。いつまでもこうされていたいと感じるほど心地良い。

 

「アイ、大事な話があるんだ」

「どうしたの?」

「昨日のことについてだよ。昨日も言ったけど、俺はアイのことが本気で好きだ。付き合ってほしい」

「そのことか!私も大好きだよ!これからよろしくね!えへへー」

 

何度言われても嬉しい。笑顔が止まらなくなる。

 

「ありがとう!よかったよ、 夢じゃなくて。で、なんだけどアイがアイドルにスカウトされたところって苺プロダクションで合ってる?」

「合ってるよ!スカウトを受けたら、その事務所の社長さんが身元引受人?みたいなのになって、私を引き取ってくれることになったんだー」

「でもアイドルって彼氏いて大丈夫なのか?」

「公表しなければいいんだよ」

 

「アイドルは偶像だよ?嘘という魔法で輝く生き物。嘘に嘘を重ねて、どんなに辛いことがあってもステージの上で幸せそうに歌う楽しいお仕事!社長にいろんなことを聞いて、私もやりたいって思ったんだ」

 

片親で両親に愛されずに育ち、窃盗で捕まった母は釈放されても自分を迎えに来なかった。捕まる前も暴力を振るわれ、食事すら安心してとることは出来なかった。家族に愛された記憶がなく、愛した記憶もなかった。

親の暴力から少しでも逃れるために、考えるより先にその場に沿ったことを言う嘘つきになった。そうした生活のうちに、何が本当で何が嘘か分からなくなった。

 

彼が私を見つけてくれなければ、私はもっと嘘つきになっていたのだろう。

本当だって自信を持っていえることがある、それは幸せなことなのだろう。

でも、愛を知らない私には、それが愛なのか分からない。彼に愛してると言われても、私は愛してると言えない。それが嫌だった。

 

『可愛く歌って踊っていれば、それだけでファンに対する愛情表現だ。アイドルになれば、愛してるなんて言葉は歌詞の中にいくらでも入ってる。それに、皆愛してるって言ってるうちに嘘が本当になるかもしれん』

 

嘘が本当になる。その言葉に惹かれる。

 

私は愛が分からない。琥珀に恋をして、彼女になることが出来ても、本当に彼を愛せているのか、愛されたことがない私には分からない。間違いなく私は彼のことが好きだ。ずっと一緒にいたいと思うし、離れることなんて考えられない。

彼は私を好きだと言ってくれた。愛してると言ってくれた。だから、愛してるって私も言いたい。愛を理解したい。アイドルになれば、いつか嘘が本当になって愛を理解出来るようになるかもしれない。

 

「私はアイドルになって、本当の愛を理解したい。だから行くよ、芸能界。私は欲張りだから、アイドルとしての幸せも、人間としての幸せもかなえてみせるよ。そのためにちょっと窮屈な思いもさせちゃうかもだけど、よろしくね?」

 

いつか彼に、本当の愛してるを伝えるために、私はアイドルになる。

ちょっと寄り道にはなっちゃうけど、嘘が本当になるその日まで、私はこの道を進もうと思う。

 

 

 

 

「そっか。それがアイのやりたいことなら、俺は応援するよ。

聞いてほしいことがあるんだ。それは、昨日俺が倒れた理由について」

「え?ただの貧血じゃなかったの?検査しても何もなかったのに、なんで分かったの?」

「あの時。アイがアイドルの話をした途端、頭の中に莫大な情報が入り込んできたんだ。多分それで脳が驚いて、意識を失ったんだと思う。その入り込んできた情報、いや、記憶について話したい」

「記憶?分かった、教えて?」

 

そして俺は、昨日見た全てを話した。明らかにただの夢と思えない夢を見たこと。その世界のアイの行動など、覚えていることを包み隠さず。

彼女は最後まで真剣な顔で俺の話を聞いていた。

 

「なるほどね。だから急に告白してくれたんだ」

「もちろんそれだけが理由じゃないぞ?ずっとアイのことが好きだったんだ。でももしアイが俺のことを好きじゃなくて、振られて、この関係が終わってしまったらって思ったら告白に踏み出せなかったんだ」

「そんなわけないじゃん!私もずっとおんなじこと考えてたんだよ?」

「そうだったのか、じゃあ夢に感謝しないとな」

「うん、そこはいいきっかけになってくれたね」

 

話はどんどん進んでいった。

 

 

「琥珀に出会ってなければ、私がそういうことをしていてもおかしくないかも」

子供の話についてはそう言っていた。

 

「殺されるのは怖い。でも私には琥珀がいる。だから何があっても大丈夫でしょ?二人一緒ならなんとかなるよ!」

彼女はなんでもないことのように話す。心の底から信頼してくれているのがわかって嬉しくなる。

 

「信頼は嬉しいけど、ちょっとは不安にならないのか?」

「殺されるのは怖いけど、琥珀と一緒なら大丈夫だって思えるもん。全然不安じゃないよ。だからやっぱり、私はアイドルになるよ。愛をちゃんと理解して、君に愛してるを言うために」

 

「わかった。じゃあ俺も芸能界に行くよ。社長に紹介してくれないか?」

 

俺の容姿と能力があれば、芸能界を駆け上がれる可能性は高い。母の影響で歌も歌えるし、演技に関しては父から時折教わったりもした。どちらも太鼓判を押してもらった。

小さい頃は父親の仕事の関係でドラマに出たりもしたし、その関係で最近も声をかけられることがあった。

大ブレイクまでは出来なくても、彼女を守るのに必要なだけの人脈を築き上げることは可能なはずだ。

 

「え?一緒に来てくれるの!?」

「守るって言っただろ。それに芸能界なんてやばいところに、一人で行かせられない。もし何かあったら俺は地球を巻き込んで大爆発する自信があるよ」

「だからさ、俺を社長に紹介してくれないか?」

「うん、社長にいってみるね!」

 

アイに昨日のことを全て話し、今後の方針も決めた。これからが大事だ。気合い入れていこう。

「ねぇねぇ」

「どうしたんだ?他にも気になることとかあったか?」

「うん、とりあえずお茶も無くなったし、琥珀の部屋いこうよ」

「おっけー、なんかあったっけ?」

アイに言われるがままに俺の部屋に移動した。そして部屋に入った瞬間、彼女が襲いかかってきた。

 

「ちょ、アイ!?」

「さっきの話を聞いて私、思ったんだ。確かに、子供がいれば愛がわかるかもしれないって。記憶の中の私もいいこと考えるよね?今の私は琥珀以外の子供なんて死んでも嫌だけど」

ベッドに押し倒され、身動きが取れなくなる。

「おかあさんも早く孫が欲しいって言ってたよ?だから、余計なことなんて気にしないでいいんだよ?」

そう言って妖艶な笑みを浮かべる彼女に見入ってしまう。

「だからさ、赤ちゃん作ろ?」

いつもの可愛らしい笑顔ではなく、女の顔をした彼女は、妖しい魅力を放っていた。好きな女の子の誘惑に思春期の男が耐えられるはずもなく、俺から彼女の唇を奪った。

 

その日、俺と彼女は結ばれた。

 




勢いで書きました。また修正するかも。


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一歩一歩

週に三話くらい投稿したいなぁって。
書き溜めとかないけど。

バー?が!!!赤くなってる!!!!!!!赤い!!!
色がつくだけでうれしいのに!赤くなっててめっちゃうれしいです!
色がついてるのを見て体が勝手に書き始めました。
モチベーションありがとうございます。
感想もめっちゃうれしいです!みなさん優しい!


アイと結ばれた次の日。俺たちは苺プロダクションの事務所にいた。

 

「夢川琥珀です。よろしくお願いします!」

 

「俺は斎藤壱護だ。ここの代表取締役をしている。いわゆる社長ってやつだ。こっちは俺の妻のミヤコ」

 

「ミヤコです。よろしくお願いします」

 

軽い自己紹介を終え、ミヤコさんの入れたお茶を飲みながら、四人で机を囲む。

 

「アイから色々話を聞いていて危惧してはいたが、まさかアイドルになってすぐに付き合い始めるとはな……。ま、いったんその話は置いておく。後でしっかり聞かせてもらうぞ、アイ」

「てへっ☆」

舌を出してあざとい顔で笑うアイ。アイドルみたいだ。可愛い。

 

「で、お前は何が得意なんだ?その顔の良さならモデルでもアイドルでもいけそうなもんだが、実際の能力を見ないことには何も言えないからな」

「琥珀はなんでもできるよ!社長!楽しみにしててね!」

「おい、ハードルあげるなよ、緊張するって」

「歌と演技は小さいころから両親に教えてもらっていたので、結構自信があります。運動神経も割といいので、アクションにも自信があります。モデルはやったことないですけど、チャンスがもらえるならやってみたいです!」

「よし、じゃあとりあえずスタジオいくぞ。オーディションの時間だ。できること全部見せてみろ」

 

 

 

 

 

 

「まさかここまでの才能とは……」

「ね?いったでしょ?私の彼氏は最強なんだから~」

「私も驚きました。こんな存在がアイさんの他にも眠っていたなんて」

 

一通りのオーディションを終え、琥珀が席を外しトイレに行っている間、三人がそれぞれの感想を言う。

 

「アイ、絶対に隠し通すぞ。お前らはこれから間違いなくスターになる。そんなときにトップアイドルとスーパースターが恋仲なんて露見してみろ、間違いなく大炎上だ」

「うん、わかってる」

 

俺も芸能事務所の社長だから、演技が上手いやつも、歌が上手いやつも山ほど見てきた。しかし、そんな俺をして断言できる。夢川琥珀は天才だ。アイからさんざん凄い凄いと聞かされていたが、想像以上だ。ただの惚気話と思って聞き流していたのは間違いだった。

 

一目見た瞬間、こいつは何かを持っていると確信した。圧倒的な顔の良さに加えて、そこに存在するだけで周囲の人間を惹きつける何かを持っていた。

この時点で採用するのは決まったが、こいつはそれだけではなかった。

両親から習ったという演技と歌は超一流。今すぐにでもデビューできるレベルだ。

特に、演技に関しては俺が人生で見てきた中で最も上手いかもしれない。端役でも悪役でも主役でも、こいつは輝いていた。役に入り込み、本人が憑依しているかのような演技をした。どんな役割でどうすべきかを理解しているのか、何をやっても才能が溢れだしている。

 

はっきりと断言できる。こいつは怪物だ。演技の上手さに加えて、身体能力の高さ、恵まれた歌唱力、それに加えて並外れた容姿の美しさまで兼ね備えている。しかも人間性にも欠点がない。

「こんな怪物をプロデュースできるのか。わくわくが止まらないぜ」

上がった口角はしばらく下がりそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーディションから1か月後、俺たちは順調に芸能界を歩いている。顔の良さを生かしたモデルの仕事でかなり有名になった俺は、少しずつ仕事を増やすことができた。その後動画配信サイトに投稿した歌ってみた動画が想像以上にバズり、知名度は一か月とは思えないほど上がっているらしい。

なぜか発言力のある業界関係者の先輩方に気に入られているので、大きな仕事がもらえる日も近いと社長が喜んでいるようだ。

アイの方も、俺が見た記憶より順調な様子で、B小町もある程度仲良くやれているらしい。施設から社長の家に引っ越し、以前より会いづらくなったため、たまに会う時の甘え度合いが半端なくなっている。今日は二人ともオフの日で、アイに会うために俺は社長宅を訪れていた。

 

「お邪魔しまーす」

「久しぶり!」

扉を開けると、アイがものすごい勢いで飛びついてきた。

「久しぶり、会いたかったよ」

「私も!今日は離れないんだからー」

「来たか琥珀。あー、お前ら、いちゃつくのは後にしろ、話がある。とりあえず来い」

「あ、すいません社長。すぐ行きます」

 

アイに抱きつかれたまま社長に返事をする。こちらの様子を軽く確認した後、社長はリビングへ戻っていった、俺も付いていこうとするが、アイがかなり強くくっついてきているため、靴を脱ぐことすら出来ない。

「アイ?そろそろ離れないか?俺も名残惜しいけど、今日はいっぱい時間あるからさ」

「もうちょっとだけ、寂しかったんだよ?一週間も会えなかったんだもん」

 

二人のスケジュールがなかなか合わず、最近は一緒にいることができなかった。

そのことに不満そうなアイが俺の胸に顔を押し付けてくる。女の子らしいいい香りがして、ずっとこのままでいたいと思ってしまうが、社長を待たせるわけにもいかない。

 

「俺も寂しかったよ、社長の話が終わったら、二人でゆっくりしような」

「うん!」

満開の笑顔とともに返事をする彼女に腕を取られ、遅れて俺たちもリビングに向かった。

 

「やっと来たか。早速本題を話すぞ。お前らに劇団のワークショップの誘いが来て

るんだ。将来的なことも考えて、色々学べるいい機会だと思うが、どうだ、受けてみるか?」

「社長。その劇団の名前は何ですか?」

「ああ、劇団ララライってところだ、なんだ、結構興味あるのか?」

 

来た。ここが俺の正念場だ。劇団ララライはあの記憶におけるアイの恋した相手であり、殺害に深く関係した人物がいる場所だ。このワークショップでそいつを完全に抑え込む。絶対にアイを殺させはしない。その気持ちが溢れ、思わず声が大きくなる。

 

「はい!行かせてください!」

「おお、アイはどうする?」

「私も行く!アイドル以外でも売れないと、このままじゃお金も全然入らなそうだもん、色々やってみたい!」

アイに記憶のことはすべて話している。だからこの流れになった時の打ち合わせもすでに済ませている。まさかこんなに早くに機会が訪れるとは思わなかったが。

「そうか、じゃあ先方にはその方向で伝えておく。俺はこれからミヤコと出かけてくる。ゆっくりしていけよ。ミヤコ、行くぞ」

「はーい、いってらっしゃい」

「いってらっしゃいませ」

 

他の仕事はもう片付けていたのか、話が終わるとすぐに社長はミヤコさんと二人で出ていく。心なしか足取りも軽やかで、なんだかんだ仲がよさそうで安心した。

 

 

社長たちが出ていくと、アイが真剣な顔で話しかけてくる。

「ねえ琥珀。ララライってやっぱり?」

「ああ、俺の恋敵であり、記憶の世界のアイの殺害に関わった奴がいるところだ。」

「もー、恋敵ってなに?今の私はこんなに琥珀にぞっこんなのに。疑ってるの?私拗ねるよ?」

「信じてはいるけどやっぱり心配なんだ」

アイをワークショップに連れて行かないことも考えたが、俺の知らないところで何かが起きてしまうことのほうが怖かった。アイとも話し合った結果、彼女も俺一人で生かせるのを嫌がった。だから一緒に行って、二人で奴について探ることになっている。

 

「もう、心配性なんだからー。私は琥珀以外の男になんてまったく興味がわかないよ?」

しょうがないな、という顔をした彼女との距離が縮まり、ゼロになる。

「ふふっ。何度してもなれないね。可愛い。もう一回しよ?」

返事をする前にアイが俺に襲い掛かり、口をふさがれる。先ほどはすぐ離れたが、俺からもやり返そうと、アイが自分から離れていくまで肩に手を回し距離を取らせず、キスをする。

 

「ぷはぁ、もう、やりすぎだよ。窒息死しちゃうじゃん」

責めるような口調でそう言うアイの顔は蕩けており、責めていないことは明白だった。

「しょうがないだろ、アイが可愛すぎるんだよ」

彼女と恋人になってから、スキンシップも増えているが、彼女の不意打ちにはいつもドキドキさせられる。やられっぱなしでいられないという建前と、自分から彼女にスキンシップを取りたい本心を上手く使えるこの方法は最高だった。彼女はそこまでお見通しなのか、いつもにやにやしているが。

 

「ねぇ、今日はずっと一緒にいられるんだよね?」

肩に首を乗せてきたアイが尋ねる。

「ああ、明日も予定は午後からだしな」

「アイはどうなんだ?」

「私は明日もオフだよ!今日は社長たちもデートで夜遅くまで帰ってこないから、さ?ね?シよ?」

彼女の誘いに素直に乗って、今日も仲を深めた。

 



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黒幕?

難産です。短いです。
アイがスカウトされたのは14とか15くらいって想定で書いてましたが、感想で12って教えていただいてびっくりしました。そんな情報あったんですね、完全に見落としてました。

ただこの世界線ではこのまま継続させてください、さりなちゃん問題もありますが、吾郎もさりなちゃんも3年くらい遅く生まれたってことで、、、、



ワークショップ最終日。俺は自分の行動を思い出していた。

 

夢の記憶でのアイ殺害の黒幕だろう人物、カミキヒカル。そいつに近づき、本性を探り、こいつの凶行を止めることが俺の目的だった。

 

どうしてこうなってしまったのだろうか。まあいいか。

 

「琥珀くん!この後ご飯でもいきませんか!」

 

満面の笑みを浮かべ、もし尻尾があればブンブン振っていそうな雰囲気で、同い年くらいの少年が近づいてくる。

 

「琥珀!?どうなってるの!」

 

周りの目を気にできないほど焦ったアイが、俺に詰め寄ってくる。

 

黒幕だと思ってたやつがわんこにしか見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワークショップが始まり数日。ある程度参加している人たちとの関わりを持ち、ターゲットとも二人で話す機会を得た。他人の目があることもあってアイと一緒とはいかなかったが、何とか人気のない場所に呼び出し、会話できるチャンスを作った。

 

「こんなところにいきなり呼んで、何の話ですか?僕も君に話したことがあったのでちょうど良かったですけど」

「大事な話がある。単刀直入に言わせてもらうが、お前、これまでに人を殺したことはあるか?」

人当たりのいい表情はその言葉を聞いて一変した。その顔は苦しそうで、辛そうでありながら、少しの期待が伺えるよくわからない複雑な表情だった。

 

「この世界の僕はまだ、殺したことはありません」

「この世界?どういうことだ?」

 

「僕は時々、断片的に、未来の自分というか、違う自分を夢で見るんです。その夢の世界では、僕は価値のあると認めた人間を殺すことに喜びを感じる破綻者、快楽殺人鬼になっていたんです。そんな夢ばかり見るうちに、その夢の自分に近づいている感覚があるんです。僕は自分が闇に呑まれてそんな存在になってしまうことが何よりも怖い」

 

そのカミキの言葉は、俺に大きな衝撃を与えた。こいつは継続的に狂気に呑まれた自分を見せられて、日に日に破綻者に近づけられているというのだ。正常な精神を持っているならばどれほど辛いのだろうか。

 

「お前もそうなのか......。俺の場合は俺のいない世界のアイの夢を見た。その世界ではお前がアイを殺すことに加担していたんだ。だから俺はお前に声をかけ、どんな人物か図ろうとしていたんだ。もし本当に危険人物なら何が何でも犯行を止めて、アイを守るために」

 

「僕はそんなことしたくない!そんな人間になりたくない!」

カミキは涙を流しながら悲痛な声で叫んでいる。

 

実際にこいつに会って話してみて分かった。今のこいつは邪悪なやつじゃない。別世界の記憶を持ったことで、決定的に人格が歪む前に歪みきった未来の自分を見たことで、ストッパーがかかったのだろう。

 

「夢の中には、いろんな人物がいました。その中で僕は、僕じゃない僕の人生を見ました。今のところ、ほとんどのことが夢の通りになっているんです。でも、その夢に、君はいなかった。だから、君なら僕を救ってくれるんじゃないかって、期待してしまっていたんです」

 

「それで俺に話してくれたのか。こんな言いにくいことを」

 

今俺の前にいるのは、いつ自分の中に眠る闇に飲まれるか分からない不安に怯えるただの少年。そして、奇妙な夢に悩まされる仲間。であるならば、やることは決まったも同然だ。

 

「じゃあ、俺が止めてやるよ、お前がやばいやつになる前に。お前が他にも楽しいって思えることを増やして増やして増やしまくってやる。お前が殺したいと思えないような、その先を見届けたいって思えるような価値のある人間になってやる。」

 

俺の意志を力強く宣言する。アイを守るためにできることはなんでもやろうと思っていたのだから、この程度で済むなら楽なものだ。

 

「だから誰も殺すなよ、悩んだらすぐ相談な?もう俺たち友達だから、なんでも言うんだぞ?ヒカル!」

 

「はい!」

返事をするヒカルは、泣いているとは思えないほど、綺麗な笑顔を浮かべていた。

大粒の涙を流し続けるその目に、眩い白の星の光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ていう感じで友達になりました、こちらカミキヒカル君です」

 

「よろしくお願いします!」

 

「やば、私の彼氏、黒幕光堕ちさせちゃってる......?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、貴方。結局どういうこと?琥珀のこと殺す気なら許さないけど」

琥珀にカミキくんを実際に紹介され、戸惑った私は琥珀のいないところで本人を問い詰めることにした。

琥珀の見た夢の中で私を殺した人。実際に会うまでは怖い気持ちしか無かったけど、今は違う意味で怖さがある。

 

「琥珀くんを殺すなんてとんでもない。僕は彼に人生を救われたんです。彼は僕の中で日に日に大きくなる闇を振り払い、狂いかけていた僕の世界に光をくれた。だから僕は人殺しなんかしないし、彼の友達として胸を張れる人間でありたいと思っています」

 

「ふーん。貴方も琥珀に焼かれちゃったんだ。絶対に渡さないけどね」

 

「貴方も彼もこの先必ず大スターになるでしょう。ララライのワークショップで僕はそれを実感しました。でも、将来的には僕が必ず彼の隣に立ちます。そのために僕はなんとしてでも芸能界を駆け上がって見せる」

 

「そんなの無理だよ。琥珀の隣は死ぬまでも死んでも私の指定席。ぽっと出の貴方なんかに渡さないんだから」

 

もう私の彼氏だし。何があろうと琥珀を離す気は無い。琥珀に目を焼かれたライバルが現れたが、琥珀と同性だったことに少し安堵する自分がいる。誰にも琥珀を譲る気はないが、関係を隠し必要がある以上、異性ならよりめんどくさいことになっていただろう。

 

 

黒幕と和解?することができ、琥珀の言っていた最悪の未来を回避することが出来たであろう私は、彼との明るい未来に胸を膨らませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ララライで黒幕と友達になって一ヶ月後。

アイを守るという最大の目標への障害を取り除くことができたため、俺たちは忙しい日々を送りながらも、幸せな日々を送っていた。

そんなある日。

 

「妊娠しました☆」

 

大事件が発覚した。

 




後で内容修正しまくるかもです

この世界のカミキヒカルはやばいやつになる前に大人になった自分が笑いながら人殺したりしてるのを見てドン引きして普通の子であろうとしていたんですが、本性はそっち寄りなのでそれに飲まれかけてた感じ。良い子と悪い子が戦っているところ、太陽に塗りつぶされて光属性になりました。

正直全然違う子になってます、お許しを


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妊娠⁉

お久しぶりです。

今回はちゃんと書けた気がします。

お手柔らかにお願いします。




 

『妊娠しちゃった☆』

その連絡を受けた俺は、真っ先にアイの家に行った。ここに来るまでの記憶はないが、そんなことを気にしている余裕はどこにもない。

久々に会ったアイは、俺を見て、嬉しげに顔を綻ばせる。それを見た俺は落ち着きを取り戻し、彼女を見つめる。相変わらず可愛いなあ。。

「久しぶり!」

「久しぶり、会いたかったよ」

「私も!」

お互い仕事で忙しく、学校もろくに行けていないため、彼女と会える時間はなかなか取れなかった。その寂しさを埋めるように、俺たちは抱きしめあった。貴重な時間をかみしめ、どちらともなく体を離し、俺は靴を脱いでそろえる。

「話、聞いてもいいかな?」

「うん、とりあえず中入ろっか」

「うん」

部屋に入り、二人で並んで座る。アイは幸せそうに、体を俺に寄せてくる。

「妊娠したってほんと?」

「うん!検査薬は陽性だったよ?」

「体は大丈夫か?しんどくない?なんか買ってこようか?」

「も〜、心配しすぎだよ。ちょっとしんどい時もあるけど、今は大丈夫だよ」

「そっか、良かった。何かあったらすぐ教えてくれよ?社長にはもう話した?」

「まだだよー、一番に琥珀に伝えたかったんだ!でもさ、——琥珀は、下ろして欲しい?」

小さく首を傾げながらこちらを見上げるアイの瞳には不安が浮かんでいた。

「こんなに早く父親になるとは思ってなかったけど、早いか遅いかの違いだよ。俺たち二人の間にできた愛の結晶だ。嬉しくないはずないだろ?アイの年齢だとかなり体に負担が大きくて大変かもしれないけど、俺は、産んでくれたら嬉しいよ。もちろん健康優先だけど、宿ってくれた子供をアイと二人でしっかり育てていきたい。まだ学生だけど俺たちはちゃんと収入もあるし、アイが動けない間も俺がしっかり稼いでくるから、何も心配しないでくれよな?」

俺は思っていることを打ち明けた。妊娠して一番大変なのはアイだろう。不安にさせたくなくて、しっかり断言する。

「嬉しい!下ろしたいか聞きはしたけど、私は絶対に産みたかったから、本当に嬉しいよ!まだお母さんになるって実感はないけど、きっとだんだんわかるようになっていくんだろうなあ……」

肩に乗せられた頭を撫でていると、感慨深そうな声が漏れた。

父親になる。まだ車の免許すらとれない年齢でそうなるとは、去年の俺は絶対に思っていなかっただろう。彼女との距離がこんなに縮まるとも思っていなかっただろう。

しかし、現実はここにある。夢で見た彼女の危険はひとまず去り、子供が出来た。これからまた大変になるだろうが、俺たち二人に不安はない。

「一緒に幸せになろうな」

「うん!」

 

 

 

 

 

「とりあえず、社長に連絡しようか……病院も探さないとだし、俺の親にも伝えるよ」

「そうだね!じゃあ社長には私から電話入れるね?」

「ああ、俺は廊下で母さんに連絡してくるよ。アイ」

「うん、分かった。あー……怒られるだろうなあ、怖い怖い」

お互いの声が電話に入ってしまわないように俺は廊下に出てアイから距離を取り、母親に連絡する。

緊張しながら、着信ボタンを押すと、すぐに母は出てくれた。

「もしもし、母さん?今大丈夫?」

「はいはい、急にどうしたの?今は家で父さんと琥珀の出た映画見てるのよー?」

「そっか、急にごめん。本当に突然なんだけど、俺、子供が出来た」

『ああ、そう。おめでと—— ってはあ!?子供⁉』

「うん。アイが検査薬使ったら陽性だったみたい」

「冗談めかして早く孫が欲しいとは言ったけど、こんなに早いとはね……産む気なのよね?」

確信を持った問いかけに驚く。

「うん。なんで分かったんだ?」

「そりゃああんたもアイちゃんも長いこと見てきたんだもの、わかるわよ。あの子が家族に飢えてたのもわかってたから、二人の間に子供ができるのも早いだろうと思ってたけどね。そっか……それにしても、この年でおばあちゃんかあ~」

受け入れてはいるものの衝撃を受けている様子のかあさん。これからたくさん迷惑をかけることに申し訳ない気持ちになる。

「そっか」

「とりあえず早いうちに二人で家に来なさい。今日ならお父さんも家にいるし、この後連れて来たら?」

「社長とも話さないといけないから、いけそうなら連れていくよ、じゃあまた」

そう言って電話を切ろうとすると、「お父さん、あ、もうおじいちゃんになるのね」「まじか⁉まじなのか⁉あいつがそんなことになるとはなあ………おい母さん、とりあえず名前考えよう!」という両親の声が聞こえてきた。

「ありがとう」

それだけ伝えて連絡を終え、アイのもとに戻ろうと足を動かした。

 

 

 

「戻ったよ、社長はどんな感じ?」

ソファにちょこんと座る彼女はすでに電話を終えているようだった。

「あ、おかえり……社長、すぐにこっち来るって言ってたよ?」

「そっか、めちゃくちゃ怒られるだろうな」

「かもね?電話でもすんごい声だったよ」

そんな風に話しているとすぐにインターホンが鳴る。のぞき穴を確認すると、社長だったため、鍵を開けて出迎える。

「やっぱりお前か!」

怒鳴る社長を落ち着かせながら部屋に座らせ、会話を続ける。随分急いできたのか息を切らした様子の社長は顔を真っ赤にしていた。

「で、本当に妊娠してるのか?」

「うん!ばっちり陽性でした!」

「ああああああああ!なにがばっちり陽性だ!こんなことバレたらうちの事務所もお前らもおしまいだ!一六歳で妊娠だぞ⁉体にも負担がかかるし、危険も大きいんだ、何より、アイドル活動もどうするんだ⁉」

真っ赤になったり真っ青になったり表情が忙しい社長。その様子から、会社のことだけでなくアイのことを真剣に考えていることが分かる。なんだかんだこの二人が親子になりつつあることに対して感慨深いなあと考えていると、社長の雷がこちらに飛んできた。

「お前も何考えてんだ!付き合ってるのは聞いてたが、妊娠するなんて聞いてないぞ!どうするつもりなんだ!」

「すいません。こうなってしまったのは予想外ですが、俺たちもちゃんと考えてるつもりです。バレたら社長や社員さんたちにも影響が出るかもしれないのも、申し訳なく思ってます。でも……」

そこまで俺が言うと、アイが被せて言った。

「私は産むよ。アイドルもやめずに、母親にもなる。リスクがあるのも分かってるけど、絶対産むつもり。休止することになるだろうし、みんなにも迷惑かけちゃうけど、これだけは絶対に譲らないよ」

瞳を強く輝かせるアイを見て、社長は諦めたようにため息をつく。

「はあ……分かったよ。俺の負けだ。協力してやる。でも言いたいことは山ほどあるんだからな!まず!親になるってのはな!人の命を……」

社長の雷はまだまだ止まりそうにない。

 

 

 

それから一時間ほど社長の怒りを浴びて、事の重大さを再認識したところで、話が進む。

「はあ……とりあえず宮崎の病院に行くぞ、そこには伝手がある。そっちなら田舎でアイのことを知ってる人も少ないだろうし、ここより確実にバレるリスクも小さくなるからな」

「はーい」

「分かりました、でもその前に二人で俺の両親のところに行ってきてもいいですか?父さんも今家にいるらしくて、できるならこの機会に連れてこいって言われてるんです」

話が落ち着き、ひと段落したところで先ほど母親としていた電話の内容について切り出す。

「ああ。流石に病院へも今日連れていくみたいなことはできないし、お前らが今やってる仕事の問題もある。今すぐに連れてはいけないからな、行ってこい」

「せっかく最近仲良くやれてるのに、グループのみんなには私のせいで迷惑かけちゃって申し訳ないなあ」

「だったらこんな大問題起こすな!まだまだ言いたいことがあるんだぞ!」

「ごめんなさーい」

悪びれる様子のないアイに、社長の雷がもう一度落ちそうなところで、、アイの手を取り連れ出して、俺の家に向かう。

「はは、じゃあ社長、また後で!」

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「お邪魔します!」

勝手知ったる我が家へ到着すると、両親二人が笑顔で出迎えてくれた。

「おかえり、アイちゃんもいらっしゃい」

「おかえり、久しぶりだね、アイちゃん」

「お久しぶりです!」

幼馴染で昔からよく家に来ていたため、アイは忙しい我が父とも面識はあり、娘が欲しかった母に娘のように溺愛されている。両親はすこし緊張した様子の俺たちを見て微笑んでいた。

挨拶を済ませ、四人でリビングに座る。自分で入れたお茶を口に含み、緊張をごまかし、口を開く。

「さっき電話でも言ったけど、父さん、母さん。俺たち、子供ができたんだ。俺たち二人とも産みたいと思ってる」

「二人とも、本気なんだな?」

「「はい」」

俺たちは同時に頷く。

「この年で妊娠が、とか今後どうする気だ、とか色々言いたいことはあるが……アイちゃん、体は大丈夫か?」

「はい、今のところ大丈夫です」

「そうか、知っているとは思うが出産は命がけだ。命の危険もある。それでも産むんだね?」

「はい、絶対に産みたいと思ってます」

父さんはそれを聞いて数秒黙り込んだ後、また口を開く。

「琥珀。アイちゃん。親になるってのは二人が思ってるより大変だ。子供の世話は本当に難しいし、その子の命の責任を持つことになる。中途半端な気持ちで親になることは絶対にダメだ。そのことは分かってるか?」

父さんは真剣な顔で尋ねてくる。

「……はい!何があってもこの子達を幸せにします!二人で一生懸命育てて、お父さんとお母さんみたいな家族になります!」

「俺も分かってるよ。まだ親になるって実感は薄いけど、アイと一緒に責任もってちゃんと育てていくつもりだ。何があっても放り出さない覚悟はできてる」

 

俺たちの意志を伝えると、両親は見つめあい、やがて安心したような表情で何かを理解しあい、こちらに向き直る。

「分かったよ。そこまでの覚悟があるなら応援しよう。俺たちもしっかりサポートする」

「アイちゃん、何でも相談してね?妊娠って本当に体に大きな負担がかかるのに、まだその年なんだもの。体には気を付けるのよ?」

両親は俺たちを認めてくれた。その事実にほっとしたアイは感極まった様子で俺の腕に抱きついてくる。

「良かった……もし追い出されたりしたらどうしようって思ってたよ」

「娘同然のアイちゃんに、そんなことするわけないでしょ?」

「お義母さん!」

アイが母さんに抱きつきにいった。母さんもそれを受け入れ、仲よく抱きしめあう姿は本物の母娘のようだ。

「にしても、この年でおじいちゃんになるとはなあ。嬉しい気持ちと複雑な気持ちで変な感じだ」

「そうねえ、私ももうすぐおばあちゃんって呼ばれるのかしら?」

本題を話し終えた後、俺たち四人は和やかな時間を過ごした。

 

 

 

 

  

「やっぱり紗枝の言ってた通りになったな」

「ええ、アイちゃんは家族を欲してたもの。琥珀と付き合うことになって、遠くないうちに子供ができるんだろうなあって思ってたけど、流石に私もこんなに早いとは思ってなかったわ。私たちもだいぶ早かったし、血筋なのかしら……?」

「俺たちも否定できる立場じゃないからなあ……するつもりもなかったけど。とりあえず、しっかりサポートしていこうか」

「もちろんよ、それにしてもあの子たちももう親になる年なのねえ……感慨深いわあ」

「まだ40にもなってないんだけどなあ……はは」

 

 

 

 




おかんとおとんも芸能界にいたので妊娠はけっこう騒ぎになりました。
世間にも普通にバレました。割とたたかれましたが、おとんは逆にそれを利用してさらに羽ばたき、おかんは子育てに集中するために芸能活動から撤退しました。
おかんはずっと二人を見てきたので、いろいろ察しておとんに相談してました。二人ともめちゃくちゃ金持ってるから、アイが無事に出産できるかということだけが唯一の不安。虐待の際もアイを引き取ろうと思ってたが、世話になりすぎてることからアイから遠慮されていたのでここで存分に甘やかすつもり。

つまりお前らは幸せにしかなれないんだよ!

次回、超絶あまあま展開予定。これを書くためにこの物語を書いたといったら過言。

水曜日中に書くつもりですがどうなるかはわかりません。お手柔らかにお願いします。


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愛してる

お久しぶりです。


両親や社長に話を済ませてから数日後のある日。俺とアイは一緒にいた。

時間がたてば気軽にどこかに出かけたり、動いたりすることは難しいだろうとのことで、今日は久々にアイとデートしている。

二人ともそれなりに有名になり知名度も出てきているので、もちろんバレないように変装はしている。

人目を避けるため、この業界に入る前に行けた場所に行けなくなったことで、新しい場所を探すという楽しみも増えた。人気のない場所や個室のレストランなどがほとんどではあるが、アイと一緒ならどこに行っても楽しいので大満足だ。

 

今日は奮発して夜景の綺麗なホテルを取り、インルームダイニングを頼んで二人だけの空間でディナーを頂いた。多少は雲がかかっているが、所々綺麗な夜空が見える。

今までよりかなり準備をしたので、喜んでもらえていることに安心している。が、本番はここからだ。

「こんないい部屋でこんな美味しい料理が食べられるなんて贅沢だね~、ほんとに幸せ……」

「だね。頻繁にはこれないけど、また来たいよ」

「そうだね~……人目を気にせずゆっくりイチャイチャできる場所なんて家くらいしかないし、美味しいものまで食べられる場所なんて、なかなかないもん。こんな場所見つけてくれてありがとうね?」

「どういたしまして。じゃあとりあえず、お皿とか返してくるよ。ちょっと時間かかるかもだけど、ゆっくり待ってて」

「うん、わかった、ありがとう!琥珀。あ、ちょっと待って」

二人で腰かけていたソファから立ち上がろうとすると、アイに肩をたたかれ、そちらを振り向くと、想像より近くにアイの顔があった。

「ちゅ」

何この子可愛い。

「えへへ、作戦成功!早く戻ってきてねー」

「うん、すぐ戻るよ」

したり顔で笑うアイを見てこちらからも反撃を仕掛けたい気持ちを我慢し、お皿を乗せたサービスワゴンと共に部屋の外へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ホテルのお兄さんからあらかじめ用意していたものを受け取り、アイの待つ部屋に戻る。

人生で最初で最後の経験なので、心臓のバクバク感がやばい。

「アイ、ただいま」

夜景を眺めていた彼女は、こちらを見て目を見開いた。

「え……どうしたの……?え……?え?」

 

緊張している心を落ち着けるように、彼女の側へゆっくりと歩み寄る。

アイの彼氏になって、芸能界に入って。

だんだんお互い忙しくなって、仕事も増えて、会える時間も減ってしまった。

でも、二人でいる時間がなによりも楽しくて、嬉しくて、ずっとその時間を続けたくて。

彼女が妊娠したと聞いた時は、慌てたし、どうするべきかと思った。

しかし、それよりも嬉しいという感情の方がが大きかった。

愛が分からないという彼女との間にできた愛の結晶。

彼女から産みたいという言葉を聞いた時、とにかく嬉しかった。

生まれてくる子供とアイを絶対に幸せにすることを誓った。

 

今からすることも、そのための一歩。

彼女の目の前に辿り着き、その大きくてきれいな両目を見つめる。

「アイ」

「うん……」

「愛してる。君に愛が分からなくても、いつか分かる日まで、ずっとずっと……俺は君に愛を伝え続ける。

誰よりも、何よりも、君を愛し続ける。大好きだ。ずっと一緒にいてほしい。だから……俺と……」

左膝を地に付け、百八本のバラを彼女に向かって突き出した。

「俺と、結婚してください」

「……」

アイは、嗚咽を漏らしていた。涙を流しながら笑っていた。

「はい……」

俺の持つ花束を受け取り、涙で彩った顔に大輪の花が咲いたような表情を浮かべる。

「はい……はい……!こちらこそ……よろしくお願いします……!」

「よかったぁ」

「ありがとう……琥珀、嬉しいよ……絶対に離さないんだからね……!嬉しいよぉ……」

花束を大事そうに抱きしめる様子を見て、こちらもとても嬉しくなる。

「アイ、一旦それ机に置いてもらってもいい?もう一つ、渡したいものがあるんだ」

「えっ……わかった……本当に?」

アイは花束を丁寧に置き、こちらに向き直る。

それを確認して、ポケットから指輪の入った箱を取り出す。

その箱をじっと見て、口元を抑えている彼女に、箱を開けて告げる。

「アイ。大好きだ。愛してる。だから俺と、家族になってください」

「私も大好き……愛してる!愛してるよ……こちらこそ、 よろしくお願いします!」

彼女の柔らかい手に触れ、左手の薬指に婚約指輪をはめた。

そのまま見つめ合った俺たちは抱きしめあい、唇を重ねた。

甘くていい香りに包まれながら、先ほどのアイの言葉を思い出し、驚く。

「ありがとう……え……今、愛してるって……?」

「うん……琥珀、愛してるよ……何回でも言える。愛してる、愛してる、愛してる!」

「アイ……!」

「私、分かったんだ。この気持ちが愛なんだって。琥珀と恋人になって、いろんなことをして、

好きだって思ってた気持ちがどんどん大きくなってきて、妊娠してからも色んな人に暖かく受け入れてもらって、分かったんだ。この気持ちは本物なんだ……愛してる。大好きだよ……琥珀」

「俺も愛してるよ……」

感極まって熱いものが溢れてきた。そんな俺に対して微笑みながら、再びアイが近づいてきた。

「―――ん」

何秒そうしていたかわからない。数秒か、数十秒か、数分か、それ以上なのか。

息が苦しくなっても何とか呼吸をし直し、離れたくない、もっと繋がっていたい、お互いそういう思いだったのだろう。

「ふふ」

「はは」

キスに疲れた俺たちは笑いあって、幸せを噛みしめていた。

 

 

 

「幸せだよ~」

プロポーズの後、俺たちは並んで豪華なソファに腰かけ、きれいな景色を見ながらゆっくり過ごしていた。

幸せそうな顔でこちらを見上げて体を寄せてくるアイ。

彼女の頭に手を置いて、優しくなでる。

「ふふふ……ずっとこんな日が続けばいいなあ」

「残念でした」

「えー?」

「これからは今よりさらに幸せになるよ?夫婦になって、家族が増えて、もっと色んな楽しいことが増えて。

未来のことはわからないけど、俺たちのことを公表して、堂々と二人でどこかに行ける日もくるかもしれない。

人目を気にせずどこかにデートしたり、家族みんなで一緒に過ごしたりできるかもね。

だからこんなに幸せな毎日よりも、もっと幸せになれるよ。

これまで大変だった分、アイはもうなにが起きても幸せにしかなれないから、覚悟しておけよ?」

「うん……もう、さっきやっと泣きやんだのに、泣かせないでよ。女泣かせの悪い旦那様なんだから」

涙を見せないように俺の胸に顔を埋め、冗談を言うアイ。表情は見えないが、嬉しそうな声が聞こえてくる。

「ごめんごめん、許してくれって」

「もう一回キスしてくれたら許してあげる♪」

そう言って目を閉じるアイに、愛おしい気持ちが溢れる。泣いた跡の残るその顔は、それでも綺麗だった。

「―――ん、よくできました♪」

「可愛いなあ、もう」

「そりゃそうだよ、アイドルですから」

「そうだった」

何気ない会話に幸せを感じる。

「まだ結婚はできないけど、式とか挙げるのが楽しみだなあ」

「私、ウエディングドレス着たい!」

「これからゆっくり考えていこうか、まだまだ時間はあるしな」

 

「そうだね……ふふ。ありがとう、琥珀。私と出会ってくれて。これからもよろしくね、愛してるよ」

「こちらこそ、ありがとう。俺も愛してるよ」

 

夜空にあった雲はもうどこにもなく、そこにはたくさんの綺麗な星が輝いていた。

 

 

 




お久しぶりです。
難産でしたが、イチャイチャできてかなり満足しています。満足した勢いで投稿したので、後々編集しまくってたらごめんなさい。
たくさんの評価、感想、ありがとうございます。温かい言葉ばかりでとても嬉しいです。



追記
サマポケとホワイトアルバム2にどハマりしてるのでしばらく書けません。感想は見てるのでモチベくれたら早く書けるかもです。


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