Fate/stars night (観測者さん)
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プロローグ0 日本に渡る。

冬木市。

穏やかな海が隣接し、

日本でも有数の霊脈を有する地方都市、

そして「聖堂教会」の

目が届きにくい、数少ない土地でもあった。

 

そんな数々の好条件が重なり、約200年前。

 

遠坂、マキリ、アインツベルン の、

後に御三家と呼ばれる家の魔術師が、大聖杯顕現の儀式を作り上げた。

 

それが「聖杯戦争」の成り立ち、その一端である。

 

 

アメリカ

シアトル 某所─。

 

「日本…冬木市へですか?」

 

「うん、上からそういうお達しでね、君なら馴染みも深いだろうということだそうだ。」

 

そう語るのは街の教会のサンド神父、

物腰柔らかだが確かに自分というものを持っている。

私がずっと前から世話になっている恩人だ。

 

「なんでも、綺礼くんのお手伝いをして欲しいそうだ。」

 

「言峰神父ですか?確か、前回の聖杯戦争でご負傷なさったとか…。」

 

「うん、前回は参加者だったが、今回は璃正神父の後継ぎで監督役に就任なさった、新人研修という意味も込めて綺礼くんの下で聖杯戦争の監督役を手伝って欲しい。」

 

君を信用してのことだろう。そう言って頂けたのだが、新人の私でも知っている。

 

魔術師同士の殺し合い。

 

しかも魔術師しか殺されない、なんてことは無く、実際に言峰神父の父、言峰璃正神父も第四次聖杯戦争で参加者の1人に手を掛けられたらしい。

 

そんな所に送り込まれるのが私で良いのだろうかと少し不安を覚えた。

 

「暫しの別れになるね。」

 

「君の旅路に安全が伴わんことを。」

 

そう言って彼はサンダーストーンのお守りをくれた。

 

雨の匂いは、篠突く度に増していった。

 

「向こうはここより晴れが多いらしいから」

 

「お土産話を期待してるよ」

 

──────────────────────

 

シアトル・タコマ国際空港

 

「監督役…か、」

 

聖堂教会よりもらった過去の記録をめくる。

 

「7騎の英霊を召喚し、戦わせ…最後の1人となった者の願いを叶える魔術儀式。」

 

「聖堂教会の役割はその聖遺物の監視と儀式の監督…。」

 

そんな願望機なるものは本当に存在するのだろうか。

 

存在したとして、果たしてそれを手に入れることは正義なのか。

 

ふと、思い耽る。

 

過去4回に渡って行われたこれに、多くの魔術師が悲願を託した。

 

「こんな叶うかも分からない願いのために…」

 

アナウンスが聞こえ始めてきた。

 

キャリーケースとアタッシュケースを持って搭乗口へ向かう。

 

その両手には祖国に帰るワクワクなんかより、

 

鬼が出るか蛇が出るか、そんな言葉が思い浮かぶ。

 

緊張でプラスチックの持ち手を深く握ってしまった。

 

 

 

 

正義。これはそれを信じる者たちによる、

 

信じる者たちへ送る聖杯戦争である。

 

 




初めまして、観測者さんです。
最近Fateが好きすぎて、遂に改変された聖杯戦争を書き始めました。
小説なんて書いたことないので、駄文と思われるかもしれませんが、どうか席を立たず、見守っていただけると嬉しいです。

作者が好きなサーヴァントはボイジャーですが、
ボイジャーが名誉フォーリナーとはいえ、例外すぎて召喚するのに躊躇してしまったため、お留守番になってしまいました。
あなたの好きなサーヴァント、英雄は誰ですか。
教えて下さると嬉しいです。

ちなみに最後の罫線はただの文字数稼ぎなのでお気になさらず。
(追記 5月16日)
文字稼ぎって規約違反なのですね…無知は罪とはこのこと。
すこし本編を書き加えましたので、オマケのオマケ程度にご拝読いただけたら嬉しいです。


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プロローグⅠセイバー

この話には、
オリジナルサーヴァントやオリジナル展開が含まれます。
苦手な方はご退室を。
よろしい方はそのままで、
私の考える聖杯戦争をご拝読ください。


衛宮邸

じいさんの口癖だった。

「誰かを救いたいということはね他の誰かを救わない、ということなんだよ」と、

正義の味方とは、詰まるとこ矛盾に苛まれるものだ。と、

納得の行かなかった小さい俺は、正義の味方の成り損ないに言った。

「俺がなってやるよ」

ハッとした顔をした、嬉しそうでもなく、悲しそうでも無い顔。

そこで記憶の再生を止めた。

 

投影…開始(トレースオン)

頭の内で呟く

イメージに浮かぶ回路を起動させ、いつか見た鉄剣を魔力で構成する。

切嗣に教わった"魔術"

強化と投影、曰くこれが1番俺に合ってるのだそう。

その鍛錬を、来る聖杯戦争に向け積み重ねている。

 

いつかの切嗣は、

「士郎、僕はもう長くない。でも…でも、もし士郎が僕の代わりに成るなら。僕の代わりに、来る(きたる)第五次聖杯戦争に出向いて欲しい。」

 

…呪い。

 

「戦争で、大小2個ある内の…小聖杯。それを壊して欲しいんだ。」

 

それは呪いに似ていた。

 

なんでも、大小ある内の大聖杯には過去、切嗣が破壊工作を入れたため、

いずれ壊れるそう、だが、小聖杯は訳が違うためその時その時で壊さねばならないらしい。

 

「士郎の身体に、戦争を終わらせるために最善の物を”入れてある”。士郎が普段修行している小屋で、その時が来たら使ってくれ。」

 

その"物"は教えてくれなかった、いずれ知るものだろうと思ってのことかも知れない。

 

"その時"になって、思った。

 

これが俺の知る「運命」だったのだと。

 

 

第五次聖杯戦争が、始まる。

 

────────────────────────────

 

 

衛宮邸 物置

コンクリートに靴音が響く。

物置の右側、10年前からおおよそ片付けていない右側に、普段から微かに魔力を感じていた。

 

引き寄せられるが如く、隠されていた召喚陣におもむく。

英霊召喚の詠唱は覚えてきた、完璧のはずだ。

 

背中に熱された鉄の棒を入れる感覚を思い出す。

すんなりと入る感覚。されど冷や汗が背中を走る。

撃鉄のように降ろされたのを確認したら、令呪の浮かんだ右手を陣に重ねる。

 

一節ごとに部屋の色が変わっていく。

――青、

―――青、

凄まじい強風に部屋が荒れる、

まるでここだけに嵐が来たくらいの。

 

ひとしきり荒らされ、去った嵐の後には人影があった。

 

 

 

「問おう、君が私のマスターか。」

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

「アー」

 

アーサー王、そう言いかけた所で邪魔が入った。

 

 

鎖がこの小屋を覆い尽くした。

しかし、輪郭が薄く実態が無いような鎖。

 

「遅かった……かな?」

 

「マスター」

 

「……分かった、うん。任せてほしい。」

 

こちらを拘束したまま、遠くの誰かと交信をする。ヒト。

 

「すまない、続きをしようか。」

 

下がって、

そう言われ1歩下がる。

 

「マスターだけでも…と思ったんだけど、」

 

「僕より()()()()()()()()()()()()()が居たとはね、」

 

考える隙もなく詰めてくるサーヴァントに、セイバーが剣を取った。

 

 

乾いた金属音がぶつかり、重みを持って戦いのシーンは瞬く間に移り変わる。

 

「ランサー……。」

 

対立の構図は暫くの間続いた。




観測者さんです。
ハーメルンの仕様になれなくて四苦八苦しています。


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プロローグⅡキャスター

冬木市北西部

アインツベルン城

 

反射が眩しい大理石の床には、1つの絵画がイーゼルに立てられていた。

 

[救世主]

 

男性版モナリザとも言われたその作品は、

ルネサンス期の芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたものである。

 

 

光が差し込む大広間に、

水銀で書かれた召喚陣。それと絵画一点。

イリヤを見守るホムンクルス数体を除けば、たったそれだけである。

 

それだけでも様になるのはこの城のせいか、それとも。

 

彼女が少女らしからぬ集中力を以って、長い詠唱を始めた。

 

水銀は揺れ、絵画を中心としたこちらを横に薙ぎ倒すような重い風が吹き続ける。

 

風が最後に光と共に止んだ後。

 

古典文化の復興(ルネサンス)がそこにはあった。

 

絵画は儀式中、揺れることはなく、誰かが持っていたかのように、ただそこに佇んでいたという。

 

 

───────────────────────

 

 

 

「キャスター」

 

「レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ」

 

「本当はライダーで出てきたかったのだけど、」

 

「先を越されたみたいでね、」

 

「気軽にダ・ヴィンチちゃん、なんて呼んでくれたまえ。」

 

イーゼルを支え、飄々とした口調で現れた彼女?に、一同は唖然とした。

 

「セラ、リーゼット、下がっていいわ。」

 

「彼、敵意は無いみたいだから。」

 

大広間に2人と1作品。

 

「…イリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。私はキャスターって呼ぶけど、あなたはイリヤでも構わないわ。」

 

つんけんとした表情に彼はすかさず会話を繋げる。

 

「それはありがたい!私は「マスター」と誰かを呼ぶのが苦手でね、是非そうさせてくれ、イリヤ。」

 

「それにしても…君は…その魔術回路の多さ、」

 

「ホムンクルスよ、ここに住んでいる全員。」

 

「座というものは少し寂しかったけど、こんな機会滅多にないだろう。私の寂しさなんて安いものだったのさ。」

 

今にもイリヤをモデルに1枚仕上げそうな彼に対し、すこしやりづらい感触を覚えた。

 

「触らせないわよ。」

 

ダ・ヴィンチの変態性に当てられ、呆れて吐き捨てる。

 

「大丈夫さ、見てるだけでも十分興味深い。特に君はね。」

 

さて、と一息。

「今回はキャスターだ、早速工房の制作に入りたい、」

 

「使用してもいい部屋はあるかな?」

 

こっちよ。そう言って小さく歩幅をきかせる。

後ろを行くダ・ヴィンチは、イリヤのホムンクルスとしての完成度に感動を覚えたと同時に、

白肌の節々から見受けられる、彼女が受けてきた「調整」にかなりの嫌悪感を覚えていた。

 

「話には聞いていたけど、酷い話だよ。」



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プロローグⅢランサー

遠坂邸

セイバー召喚より実に2日前。

 

この日は酷い雷雨だった。

遠坂凛。五大元素使いの稀代の魔術師。

そんな彼女は雨、ひいては湿気が大嫌いであった。

 

「う……ん。」

けたましくなる目覚まし時計をそこそこ使い物にならない程度にする朝。

どうせ治すから、なんて言い訳でここ10年は起きてきた。

 

寝起きが悪く、自慢の髪も湿気で凄まじい事になっていたが、この日はすこし”調子が良かった”

 

洗面台で、滴る水も拭ききらぬ内に、よし。と気合いを入れ、大きく背伸びをした。

右手に浮かんだ、3画の令呪。

それが彼女に自信を与えてくれた。

 

魔術師には個人によって「魔力のピーク」というものが存在し、彼女の場合午前1時がそれに当たる。

 

触媒無しでの召喚の場合、それを待った方が召喚の成功率は上がるのだが、今回はその限りではない。

 

「さて、やるわよ、私。」

 

遠坂邸 地下工房

石造りの乾いた空気が漂う工房。

 

羊皮紙やフラスコ、魔導書などが置かれたこの工房の中で、魔術師でなければただの箱、あるいは土だと一蹴されない物だが、先述した通り魔術師、特に聖杯戦争の参加者には手を尽くしても叶わぬ代物だ。

 

箱には、古い文字で「エンキドゥ」

 

そう書かれていた。

 

あとは──

 

「ぐぬぬぬ……!!」

 

ドサッ、ガタガタガタ…と机を退けるたびに次々と物が落ちる。

 

限界まで退けた後ろには、10年前、父 時臣が使用したものと全く同じものである。

 

片手に持っているエンキドゥと書かれた触媒も、前回時臣の使役したサーヴァントの触媒である。

 

「今回は勝つわ。必ず。」

 

陣の上には箱を。

片手には日頃魔力を込めていた宝石たちを。

 

時臣の死因はハッキリとはしていない。

使役していたサーヴァントの記録ももちろん残されてはいない。遺言はなく、残されたのはこの家と資産。

自身も該当していた、複数元素使いのレポート。

アゾット剣のレプリカ。そしてこの触媒である。

 

雷の音が聞こえる。

 

吸って吐く10秒。

 

持っていた宝石を純粋な魔力に変換しつつ詠唱を始めた。

 

 

魔力は水のように詠唱が進むと召喚陣をなぞるように滑る。

 

─満たせ。

──満たせ。

───満たせ。

────満たせ。

─────満たせ。

 

五度繰り返し、部屋の色は青から緑、緑から赤へ変化していく。

 

令呪が熱い。令呪を中心に魔力が塊ごと持っていかれる感覚を覚える。

強く踏み込むが倒れそうで、冷や汗が背中を伝う。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。」

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」

 

全身がひりつく、どんな修行より重く魔力が枯渇する心配を無意識にしてしまう。

 

「誓いを此処に。」

「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

 

「汝、三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!!!」

 

息を飲んだ。

全身に力が入らなくなり、突如として後ろに倒れそうになる。

ふと見えた白い手に、手を伸ばしてしまった。

 

 

────────────────────

 

 

「どうやら、僕がたくさん魔力を持っていってしまったようだね。」

 

男?女?ただ分からなかった。

 

「ランサー」

 

「エルキドゥ、君の呼び声で起動した。」

 

「君の采配に僕は必ず従うと約束するよ。」

 

「マスター」

 

地上を向いた彼の爽やかなその声は、確かな重みを持っていた。

 

「今回は、僕も全力を出さなければいけないかもしれない。」

 

 

 

 

 

聖堂教会 地下

 

召喚陣が燃えていた。

しばらくすると消え、いつの間にか、石像が佇んでいた。

 

召喚は成功した。回路と石像とを繋ぐパスがその証であるが、問題の英霊らしき物は、反応がない。

 

静電気が至る所に走っていた。

 

人の形をした石像を中心に、そのボルト数は3万

 

静電気は確かな電撃となって、マスターを避けて流れていた。

 

パスの繋がりを認識したあたりから、外では雲行きが怪しくなり、雷を伴った雨が降り始めた。



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幕間 2月15日、晴れ

監督補助への任命から20時間後

シアトルから成田までの航空機内

 

ロングコートに身を包んだ彼女は、夢の中で雷鳴を聞いた。

雨の街と呼ばれるシアトルでの生活が長すぎたか、ついき夢に出るようになったのか、とため息をついた。

 

CA(キャビンアテンダント)に注がれたコーヒーを飲もうと、紙コップに伸ばした右手を見て心臓が跳ねた。

 

令呪。

3つの正方形が刻印された右手を急いで隠した。

 

なん…で?

要因を捜した、自分が聖杯に選ばれる理由を。

そんなことは探しても意味が無いと分かっていても冷静でない自分では相反する行動を取ってしまう。

 

そういえば、第四次聖杯戦争での監督役は璃正神父。

言峰神父は令呪が浮かんだため1人の参加者と共闘という形で参加したと聞いたことがある。

 

我々(聖職者)でも選ばれることがある…のだと、前例があることにホットした。

 

 

冬木市 教会前

「聞いているよ、来栖 四潔(くるす しけつ)、ようこそ冬木市へ」

 

器用に車椅子を操るのは、ここの教会神父で元第八秘蹟会、代行者。言峰綺礼神父。

 

「ああ、これに関しては構わないでくれ、10年も付き合っていれば足も同然だとも。」

 

外での立ち話もなんだ、と教会に入る神父に付いていく。

彼の背中には何か、活力というものを感じない。

初対面なのであくまで印象でしかないのだが、なぜかそう感じた。

 

 

「…ふむ、令呪か。」

 

「第四次の頃は私も参加したよ。」

 

「結果は見事、エルキドゥという英霊に打ち負かされたがね。」

 

「しかし今回、私は監督役だ。なので1つ聞かなくてはならない。」

 

「来栖四潔。君は奇跡(聖杯)を求めるか。」

 

重みがあった、威圧感ではない。

参加者として経験と諦観した聖杯戦争というものへの警告を兼ねた一言だった。

 

「前回私は衛宮切嗣という男と対峙した。」

 

「その男の使う魔術は起源弾という、弾が撃ち込まれた相手の魔術回路を破壊するもの、君も聞いているだろう?魔術師殺しの異名は。」

 

「奴の起源弾が足を掠めた直後、私達は聖杯の泥に飲み込まれた。」

 

「端的に言うと、あの聖杯は中に厄災を抱えている。」

 

「悪性の塊、人類悪になりうる存在。」

 

「そんな物に飲み込まれ、足は遂に形だけの代物となり、衛宮切嗣も私も、この身体はあと五年と持たない程の呪いを抱えた。」

 

言峰神父の独白に固まった私に気づいた顔をした。

 

「自分語りが過ぎたようだ、つまり、あの聖杯で願いなど叶わない。」

 

「おまけに、君の相対してきた異端者などとは比べ物にならない化け物たちが相手だ。」

 

タイヤのゴムの音がこのやけに広い教会に響く。

 

「それでも君は、望みのないこの戦争に参加するかね?」

 

令呪が熱かった。

じんわりと脈を打つように。

 

「先程、言峰神父はおっしゃられました。」

 

「あの聖杯で願いは叶わない…と、」

 

「この場で争っている聖杯とは、純粋な願望機では無いのですか?」

 

初めて口角が上がる姿を見た。

目の皺が上にあがる。

 

「あれはとても気味が悪かった、1度地獄を見たものでないと狂気に飲まれてもおかしくはない。」

 

口角は上がったまま、重く語る。

 

「あれは、とても歪な聖杯だよ。」

 

緊張と令呪の鼓動で、手汗が止まらなかった。

だが、

 

「わ、私は…」

 

「そんな歪な聖杯、見逃せません。」

 

「私に参加する権利があるのだとしたら、」

 

「願いなど無いです、無いですが。」

 

「その歪んだ聖杯、破壊します。」

 

「君には何の義務も無く、ただ巻き込まれた一般人に過ぎぬとしてもか?」

 

その目には未熟ながら確かな意思が宿っていた。

 

一息。

 

「確かに、君の意思は伝わった。」

 

「とはいえ、君は自身に令呪が浮かぶなどと思いもしなかっただろう、」

 

「触媒の無い召喚の場合、自らと性質の近い英霊が呼び出される…とされている。」

 

彼はゆっくりと教会の奥へと進む。

 

「しかし、アサシンのクラスを召喚できれば、呼び出される英霊はハサン・サッバーハしか召喚されない。」

 

「全てが記録されていない過去の聖杯戦争でも、アサシンクラスの真名がハサン・サッバーハであるということだけは判明している。」

 

木製の重い扉を開ける。

そこには中庭と、地下室への階段があった。

 

「より霊脈に近い地下のほうが儀式は安定する。」

 

「参加表明の期限はあと6日程度だ。」

 

彼はまた祭壇の方へ進み出した。

 

「ゆっくりでいい、覚悟が決まったらそこの地下で英霊を召喚したまえ。」

 

「ああ、そう。」

 

「君は正面右の応接室を寝床にするといい、食事が出来たらこちらから声をかける。」

 

扉が閉まり、中庭には私1人となった。

 

 

 

「大聖杯の破壊…か、」

 

「私も丸くなったものだ。」

 

生気をまとわぬ背中は、振り返るように過去に耽けていた。




観測者さんです。
少し補足をさせてください。
この世界の第四次聖杯戦争(以下第四次B)ですが、参加陣営は以下の通りです。
セイバー:アルトリア 衛宮切嗣
ランサー:エルキドゥ 遠坂時臣
アーチャー:アタランテ ケイネス
ライダー:イスカンダル ウェイバー
キャスター:ジル・ド・レェ 雨竜龍之介
アサシン:ハサン・サッバーハ 言峰綺礼
バーサーカー:ダレイオス三世 間桐雁夜
監督役:言峰璃正 となっています。
Zeroと同じ結末を辿ったのはケイネスとウェイバーと切嗣のみです。
龍之介は切嗣に早く見つかってしまい始末。
雁夜はイスカンダルとの決着前に魔力切れや刻印蟲の侵食で退場しています。(決戦前にダレイオスが持ってきすぎて)
時臣なのですが、ここで語るには勿体なく。
そこそこ後明かそうと思っているので、お楽しみに。
第四次Bのあとの大聖杯も少し原作と違うかも…?なので、それもお楽しみにしていて貰えると嬉しいです。


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プロローグⅣ バーサーカー

冬木教会 地下

 

覚悟を決めた。

中学までしか日本に居なかったため、世界史だとか、日本史だとかは疎い。

だから自分に性質の近い英霊などと言われても正直ピンと来ない。

 

地下には前回言峰神父が使用した召喚陣が残されてあった。

詠唱は写しを初日に言峰神父から頂いたため、覚える時間はあった。

 

昨日もあの夢を見た。

雷鳴だけ、雷鳴だけが暗闇の中落ちるだけの夢。

 

それを思い出したあと、深い深呼吸をした。

 

儀式自体は代行者として異端を狩る時のほうが緊張したため、問題は無いものの、

 

呼び出される英霊が誰なのか、どんな英霊なのか。

 

それだけがただ不安だった。

 

暗雲が教会にたちこめる。

 

────────────────────

 

私は雨女だった。

自覚したのは中学2年生の時だった。

友達と遊ぶ時はまず間違いなく雨で、

体育祭、合唱コンクールとか、もうとにかく雨ばっかで。

 

中学の卒業式ももちろん雨だった。

私がアメリカに渡ることを伝えると、皆は泣いてくれたけど、その時は、雨のせいでよく分からなかった。

 

シアトルに来てからも雨は降り続けたけど、

地元の人が、この位日常茶飯事だから、あなたは雨女なんかじゃないわ、と言ってくれて少し嬉しかった。

 

「汝、三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!!!」

 

 

直後、爆発のような衝撃が教会を襲った。

 

私の視界を光が覆ったあと、召喚陣はしばらく燃えていた。

 

その奥に、人の形をした石像が佇んでいた。

 

 

「これが…サーヴァント…?」

 

令呪が鈍い光が、パスが繋がったことを示した。

 

 

バチバチと石像を中心に青い電撃が走っていた。

 

静電気ではない、確かな電撃。

 

外で雨が降り始めたことが分かった。

 

雨の匂いが地下に降りてきて、この空間が少し重くなる。

 

 

「応えよう。」

 

荘厳な声だった。

 

「我は」

 

「汝の使い魔である。」

 

「我は」

 

「汝の稲妻である。」

 

 

───────────────────────

 

遠坂邸前

 

エルキドゥは屋根の上から空を見た。

容赦なく打ち付ける雨が(彼女)を濡らす

 

「君は…」

 

「イシュクル…?」

 

怪訝な表情を浮かべる。

 

「いや、違う…誰なんだ……。」

 

 

この雨は勢いを落とすばかりか、強くなっているような気がした。

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────




観測者さんです。

バーサーカーの事実上の触媒はサンド神父からもらったサンダーストーンです。


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Ⅰ. 開戦

 

2日間続いた雷雨でぬかるんだ土に踏み込む。

 

しかし、セイバーとエルキドゥの対立はそう長く続かなかった。

 

街を静寂が包んでいた。

 

そこに一閃。

 

雷鳴が轟いた。

 

雨は降らず。ただ一直線の稲妻が対立の間を貫いた。

 

「…邪魔者が入ったようだね。」

 

セイバーはまだ構えを解いていない。

 

稲妻の数は徐々に増えていく。

 

明らかに意志を持ったその雷にそれぞれのマスターは困惑を示した。

 

セイバーとエルキドゥはその雷の言うことが理解できた様子であった。

 

彼の奇襲は未遂に終わったものの、士郎としては状況が掴めないままであった。

 

─────────────────────────

 

「自己紹介が遅れてすまない。」

 

「セイバー、アーサー・ペンドラゴン」

 

「私が聖杯かける願いはない。」

 

「だが、君の中にある願いを尊重する。」

 

「そのために私はこの戦争に全力で挑もう。」

 

しかし、と。

 

「私が何故、喚ばれたか。それだけは聖杯から情報を与えられていない。」

 

「ど、どういうことだ?セイバー、たた俺がアーサー王を召喚しただけじゃないのか?」

 

一瞬、彼の目は士郎の腹辺りを見た。

 

「私は、」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「君のお腹にある、「約束された勝利の剣の鞘(エクスカリバーの鞘)」。これが私の触媒であって、私がなぜ召喚されたのか、1番分からなくなる代物だ。」

 

「この世界のアーサー王(わたし)は女性だ。」

 

「君のお腹に入っている鞘は、まさにここの世界の私が使った鞘…そのものだ。」

 

「マスター、」

 

まっすぐ、碧眼をこちらに向ける。

 

「私がなぜ、この世界に喚ばれたのか、私は知る必要がある。」

 

「なぜ、この世界の私が喚ばれなかったのか。それも含めてね。」

 

「もちろん君のことも、だ。」

 

アーサー王(わたし)という存在と、君がこの戦争において何が出来るのか、互いに情報を擦り合わせていこう。」

 

「よろしくお願いしたい、マスター」

 

握手が固く結ばれた。

 

「俺こそ、自己紹介が遅くなってすまない。」

 

「俺は衛宮士郎、士郎…とでも呼んでくれ。」

 

「あぁ、是非とも。シロウ。」

 

──────────────────────────

 

遠坂邸

 

「マスター、」

 

「ええ、分かってるわランサー。」

 

「これは…厄介だね。」

 

「稲妻のバーサーカー」

 

「僕の気配感知で認識できたサーヴァントの中で1番と言っていいくらい魔力の消費が激しいサーヴァントが彼だった。」

 

「おそらくバーサーカーとみて間違いないだろう。」

 

「それに、彼は僕とセイバーが同じ星の光を操ることをすぐに看破した。」

 

「僕の眼で見る限り、あのサーヴァントは、()()()だ。」

 

「心してかかろう。マスター。」




観測者さんです。

バーサーカーのプロローグをもって、本編の開始とさせて頂きました。
それによって、私の都合上2〜3日更新にさせて下さい。
よろしくお願いします。


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Ⅱ. 屋上共同戦線

 

衛宮邸襲撃の翌日

 

私立穂群原学園、放課後。

 

「衛宮くん、ちょっといいかしら。」

 

「え?あぁ。」

 

ほとんど関わりのない2人の邂逅に周囲はざわつきこそしたが、そんな事を気に止めず、彼女は足早に進んでいく。

 

少し錆びたドアの先には屋上。

 

待ち受けた凛に困惑した表情の士郎だった。

 

「突然悪いわね、衛宮くん。」

 

「なんの関わりもなくって、ビックリさせちゃったかも。」

 

突然だけど。と彼女はおもむろに右手を掲げた。

 

これ(令呪)、分かるわよね?」

 

「昨日の…遠坂だったのか。」

 

「まさか衛宮くんがマスターだなんて思わなかったけど。」

 

「あなた、魔術師の家じゃないでしょ?」

 

「一般人が易々と参加して死んでもらっても困るのよ、早々に権利を返して、この戦いから退くこと…」

 

突如士郎から、短剣が投げ渡された。

 

「……。」

 

「そう、奇妙な魔術を使うのね。」

 

「参加する意思表示…ってことで良いのかしら?」

 

彼女の顔が冷たくなっていくのが雰囲気で感じれた。

 

魔術師の顔…だった。

 

「なんで俺をこんなとこに呼び出したんだ?」

 

「意思確認だけ…なんてことはないだろ?」

 

士郎は着々と剣の投影を始めた。

 

「戦うつもりは無いわ、寧ろその逆よ。」

 

「共同戦線、組むつもりはない?」

 

虚を突かれたように固まったが、すぐさま答えを返した。

 

「…でも、俺は小聖杯を壊さなくちゃいけない。願望機なんて望んでいないし…なにより、」

 

「育ての父親からの頼みなんだ、それだけは…」

 

「たとえその小聖杯が1人の人だとしても?」

 

「えっ」

 

沈黙と、困惑が空気を漂う。

 

「…その人は聖杯戦争に関して何も教えてくれなかったのね。」

 

「小聖杯っていうのは、アインツべルンの人造人間(ホムンクルス)で作られた魔力の集積器よ。」

 

「それは…」

 

「今の反応を見るに、衛宮くんに人造人間は殺せそうにないわね。」

 

「生憎、私も聖杯を求めてはいないの。」

 

「だから、衛宮くんが望むことも手伝える。」

 

「ただ私は生き延びて、父が死んだ原因を知りたい。そのために一緒に戦って欲しい。」

 

「どう?悪い話ではないと思うのだけど。」

 

なびく黒髪を抑えながら、士郎の答えを待った。

 

「あり…がとう、決意が出来た。」

 

「この戦争が遊び半分じゃないことも、今理解した。」

 

「だからその話、乗らせてほしい。」

 

「決定ね、今後の方針については追って連絡するわ。」

 

「ありがとう、早速だけど…、」

 

 

「この学校の中に、1人以上マスターがいることが分かったわ、」

 

「サーヴァントとの通信も、その右手(令呪)も、なるべく見られないように努めなさい。」

 

「これは協力の第一歩よ。」

 

「またね、衛宮くん。」

 

ドン、と扉が閉まった。

 

「…1人以上、マスターがいる…。」

 

屋上から1階までの壁を半径10m範囲で詮索した。

 

骨子構造、解明(トレース オン)

 

3階、2階にマーキング目的であろう刻印を発見した。

 

「何をするつもりなんだ、このマスターは。」

 

凛に刻印を発見した旨を伝え、彼は暗くなる内に家の門をくぐった。

 

聖杯を破壊せんとする共同戦線はここに締結した。

 




観測者さんです。

共同戦線の交渉の際、お互いのサーヴァントはお互いのマスターをバチ睨みしています。


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Ⅲ. 主従契約

 

夜、冬木市郊外。

 

雑木林の中に簡易的な人形が4体ばかり存在した。

 

カチャカチャと関節の駆動をさせ、彼を追い詰める。

 

冷や汗が頬を伝う。

 

「なんだよアレ…!なんでこんな事に…!」

 

右手には赤い妙な痣(令呪)が浮かんでいた。

 

set(セット)…!!」

 

身体強化を脚に纏わせる。

枯葉、枯れ草を思いっきり踏みしめて予備動作は全力疾走の形を取った。

 

追いかける人形に対し、逃げながら戦闘態勢を整える。

 

(ここら辺めっちゃ魔力の匂いが濃い…、)

 

(人の匂いがせんけん誰かが人払いも張っとる…!)

 

つばを飲み込んで覚悟を決める。

 

(俺の力じゃ精々足止めが限界やけど…!)

 

対獣魔術。

古く、人間が体格や膂力で敵わない獣に対して編み出した魔術。

現代の近代兵器は獣を軽く倒せるほどの火力を誇るため、この魔術は発展の可能性に目を瞑られ衰退の一途を辿っている。

 

彼は、それを使って狩りを生業としてきた魔術使いの一家、熊野家に生まれた。

 

腰から取り出した4本のナイフを地面に投げ刺し、魔術を展開する。

 

青く光ったナイフ同士が線を繋ぎ、高威力の電撃を放つ罠となる。

 

されど人形に対して効果的な素振りはなく、程なくして前進を再開した。

 

「くっ…そっ…!!」

 

(こんなことなら家にあったやつ(魔導書)読み漁っとけば良かった…!!)

 

魔力消費を抑えながら逃げ続けた先に、小さい女の子が1人立っていた。

 

「こんばんは、お兄さん。」

 

「私の領域に立ち入るなんて、まるで飛んで火にいる夏の虫ね、そんな魔術では私のキャスターは止められないわ。」

 

(キャスター?なんだよ…それ、そんでこの子は何者!?)

 

「君があれを作ったのか?俺はただの魔術使いで、君の言っているキャスターとやらも何か知らない!」

 

「演技が下手よ、ここでそんな嘘はあまりにも出来すぎているわ。」

 

「キャスター」

 

気づけば傍らに1人、大人の女性が立っていた。

 

「ふーん、サーヴァントなし…か、」

 

「やるのかい?イリヤ」

 

この女だ、この女があの人形を使役していたんだ。

 

直感的にそう思った。

 

「ええ、今倒した方が後が楽だわ。」

 

死にたくない───。

 

なんで、こんなところで───。

 

煌々と輝く魔弾を危機一髪のところで肩に受ける。

 

「っ…!」

 

「チェックメイトだ、魔術使いくん。」

 

死にたく、ない─────!!!

 

 

魔弾とは違う、彼らの間から光が膨張して、辺りを包み込んだ。

 

「うっ──そ!」

 

 

光が収束し、栗毛の馬に乗った男と、その傍らにある国旗が豪快な音を立てて存在をアピールした。

 

「サーヴァント、ライダー。呼び声に応じ参上した。」

 

「間一髪であったな、マスター。」

 

死角からイリヤに向かって銃弾が数発飛んだのをダ・ヴィンチは軽く跳ね除けた。

 

「そういう召喚もあるんだね、興味深い。」

 

「どうする?イリヤ、我々のアドバンテージは無いに等しい。」

 

「まぁ、いいわ、キャスター戻るわよ。」

 

興が冷めた、そう言いたげな眼差しでキャスターに霊体化を合図した。

 

「逃げるのか?キャスターのマスターよ。」

 

「戦略的撤退よ、軍人さん。」

 

そういって彼女たちは消え、その代わりにより高性能と見れる人形が十数体生成された。

 

「ふむ、腕鳴らしということか、」

 

「頭と別れたく無ければしゃがんでいるがいい、マスター。」

 

困惑する彼を尻目に、彼はマスターから少しだけ魔力を引っ張った。

 

両刃の剣を振るう。単発式の銃は軽々しく人形たちを撃ち抜いた。

 

豪快な音と共に霧散していく人形。

 

「乗れ、マスター。」

 

彼を後ろに乗せ、冬木を全貌出来る高台まで馬を走らせた。

 

景色を全貌し、国旗を突き刺して、彼に振り返る。

 

スター&ストライプ、自由の象徴は風を受け見事になびいている。

 

「我が名はジョージ・ワシントン。」

 

「我が国に誓ってこの戦争、勝ち上がってみせよう。」

 

「この旗が塵となって消える時、その時私の命運も尽きる。」

 

「よろしく頼もう、マスター。」

 

「う、うん…よろしく、えーっと…」

 

「ライダーでよい、そしてお前はまず、この戦いについて知らねばならぬようだ。」

 

「拠点へ案内しろ、情報の共有は戦において最重要事項の1つである。」



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IV. 前編 鉄の心

 

24日 朝

 

「おはようございます、先輩。」

私はいつも通り、先輩の家で朝ごはんを共にする。

 

兄さんの、私に対する扱いに見かねた先輩が、私に家の合鍵をくれたのが始まりだった。

 

私はその時から先輩の家に結界が張られていた事も、先輩が魔術の鍛錬をしていた事も知っていた。

 

けど、けど先輩の優しい笑顔の前に私は私を許してしまった。

 

「おはようございます、藤村先生。」

 

先輩の家の事、魔術の事、それらを話してくれれば私は近づかなかったのに…なんてのは結果論に過ぎず、私はそれを知った上でも通ってしまっていただろうと、今になっては思う。

 

 

「そういえば、桜。」

 

「最近、学校に行ったら体調が悪くなったり…なんてことはないか?」

 

私はとても話題を逸らしたかった。

 

きっとこの話題は魂喰いについてで、先輩はそれに対して兄さんが犯人だと目星を付けて、私に話しているのだと、そう感じたからだ。

 

心臓がキュッとなった。

 

「…いえ、私は特に、ですが最近はインフルエンザ等も流行っていますから、注意しないとですね。」

 

「そうだな、とはいえ桜に何も無いなら良かった。また何かあったら言ってくれ。」

 

「はい、分かりました。」

 

と、それ以上の答えが見つからず、少しの沈黙が流れた。

 

束の間、沈黙は彼女によって破られた。

 

「衛宮くーん、お邪魔するわ、」

 

遠坂先輩が先輩を迎えに来たのだ。

 

「藤村先生、おはようございます。桜もおはよ、」

 

「おはようございます、遠坂先輩。」

 

「悪いけど衛宮くん、今日早く出られるかしら、すこし手伝って欲しいことがあるの。」

 

ニンマリする大河を横目に、士郎は申し訳なさそうに桜を見る。

 

「悪い、桜、片付けお願いしてもいいか?」

 

「大丈夫ですよ先輩、まだ時間に余裕がありますから。」

 

 

支度して門をくぐる。少し歩いた所で凛は歩くスピードを緩めた。

 

「単刀直入にいうと、魂喰いの犯人が分かったわ。」

 

「衛宮くんの送ってくれた通り、慎二で間違いないようね。」

 

一昨日から2日間、士郎なりに目星を付けたやつを探偵紛いに観察をしていた。

気になる行動をするやつが居れば遠坂に報告し、そいつを調査してもらいながら地道に刻印を破壊していく。

 

そんな中で、誰もいない教室や放課後の図書館に出入りする間桐慎二を発見し、特定に至った。

 

「刻印の成長具合からして、あと2日も持たないと私は見てるわ。」

 

「今日明日で決着を付けたいのだけど、どうかしら?」

 

桜のことが浮かんだ。

 

慎二と決別したらきっと桜はうちに居られなくなる。

 

でもこれは桜の右手に令呪の跡があったときから決まっていたことで、それを見逃し許してしまった自分が向き合わねばならぬもの、聖杯戦争とはそういうものなのだと認識させられるものなのだと思う。

 

「分かった。タイミングが合い次第、今日にでも行こう。」

 

凛はあえて言わなかった。きっと士郎の方も分かっていて決断に至っているのだろうと察したからだ。

 

「じゃあ、そういうことでよろしく。」

 

2人は別れ、それぞれの教室へと足を運んだ。

 

2階、教室までの廊下で女子に挟まれた慎二とすれ違った。

 

目が合って、互いを過ぎる瞬間。

 

「早く止めた方がいいかもな、衛宮。」

 

ニヒルに笑う彼に、士郎は眉間に皺を寄せた。

 

 

4限目、授業中にそれは襲った。

 

ドッと重く、しかし質量を持たない重圧にほとんどの生徒は昏倒し、教室は呻き声に溢れた。

 

しばらくして、凛がこちらの様子を見に来た。

 

「衛宮くんっ!」

 

「俺は大丈夫、遠坂は?」

 

「大丈夫、私は平気よ、でも…これ!」

 

凛はひどく焦った様子でこの惨状を見渡した。

 

「ああ、みんな気絶してる…大体5時間は持つと思う。」

 

焦燥を露わにする凛に対し、恐ろしいほど冷静にこの状況を分析する士郎に、凛はある種の恐怖を覚えた。

 

「…そう、ありがとう、衛宮くんのおかげで冷静になれたわ。」

 

壁に手を当てて範囲探索を終えた士郎が凛の元に戻ってきた。

 

「図書室に魔力が集中してる、あそこに慎二が居る。」

 

士郎の瞳孔は開いており、眼力だけで圧倒されてしまいそうだった。

 

「衛宮くん。」

 

「魔術師の抗争っていうのはね、冷静じゃなくなった者から死んでくの、」

 

「お願いだから最優(セイバー)を召喚したくせに一抜けなんてこと、しないでよね。」

 

倒れた人々に極力目を当てず、士郎を宥める。

 

「ああ…すまん、今セイバーを呼んでるからその間に少しでも近づこう。」

 

セイバーと合流し、状況を伝えた間に、図書室は目と鼻の先となった。

追い風が吹くように背中を押される感覚がするほど魔力の流れが分かりやすく、濃い。

 

(結界ね、ここ自体を魔力の塊にでもしようって言うのかしら。)

 

「ランサーに今刻印を壊して回らせてる。セイバーなら大丈夫だろうって、」

 

「頼もしいね、ありがとうリン、ではシロウ。行こうか。」

 

 

勢いよく開けた扉の奥は夕暮れのような薄暗さに包まれていた。

本棚を始めに、床や照明までもがこの部屋以上の広さまで続いている。

 

「待っていたよ衛宮。」

 

「良いだろう?そこそこ大きな結界さ。」

 

「アーチャーじゃ受け止めきれない魔力を結界の中に流してるんだよ。」

 

アーチャーの、布に巻かれた左腕がやけに目に入る。

 

「素直に言ったらどう?”アーチャーに回せる満足な魔力がないから、あろうことか一般人に手を出しました”…って。」

 

「気配で分かる結界を張るなんて三流のすることよ、懲りたならはやくこれを解きなさい。」

 

「サーヴァントも寄越さないなんて随分舐めてるじゃないか遠坂。」

 

「いけアーチャー、分からせてやろうよ、コイツらにさぁ!!」

 

「衛宮くん!」

 

二振りの西洋剣をアーサーが受け止める。

何度か打ち合った後、刃がこぼれ割れる。

 

「はぁっ!」勝負が決した勢いで剣は振り下ろされた。

 

が、剣がないはずのアーチャーの両手には剣があった。

まるで手品のような戦い方、しかしアーチャーの太刀筋にはどこか慣れを感じる動きで、士郎はずっとそれを凝視していた。

 

「どんな宝具の英雄だってのよ…あいつ、この様子だとまだ隠してるのが何個かあるわよ。」

 

しかし、アーチャーから双剣以上の武具や宝具が出てくる気配がない。

 

一撃、二擊、三撃とアーチャーは早々に地面に倒された。

 

「なにもたついてる!」

 

「令呪を以って命ずる!宝具を出せ!アーチャー!」

 

直後、天の鎖が慎二ならびにアーチャーを縛った。

 

「させないよ、アーチャー。」

 

「遅くなったね、リン。」

 

刻印を全て壊し終わったエルキドゥがドアを開いて立っていた。

 

「ありがとう、ランサー。助かった……待って、」

 

縛り上げられたアーチャーの口が開く。

 

「…I was the bone( 体は剣で出来ていた。) of my sword. 」

 

Strike the iron of (血潮の熱で、心の鉄を打つ。) the heart with the heat of the blood.」

 

外見にそぐわぬ英語の詠唱を淡々と口にする。

 

I have created over(幾たびの戦場を越えて不敗。) a thousand blades. 」

 

エルキドゥの天の鎖は縛りの強さをあげた。

 

ギチギチと音を立てて体が悲鳴をあげる。

 

「おい!何やってんだよアーチャー!今すぐ詠唱を止めろ!」

 

but,(しかし、)

 

All I have done so far(ほんの一瞬の安寧もなかった。) has been in vain.」

 

Memories were gradually (彼は独り、剣の地平線で安寧を願う。) lost.」

 

「ランサー!」

 

エルキドゥの強化された手刀がアーチャーの首元に迫る。

 

I don't want to (故に、戦いに意味はなく。) carry any more weapons.」

 

が、すんでのところで手は止まった、受け止められた。

肩を始めとした体中から剣が生え、エルキドゥの手刀を受け止める。

 

最後の一節を告げる。

 

So as I pray, the finite(その体は、きっと剣で出来ていた。) BLADE WORKS.」

 

「来い、エミヤシロウ。」

 

間も無く士郎とアーチャーの2人のみ、白い殻のようなものに包みはじめた。

 

「ちょっ!衛宮くんっ!!」

 

2人はお互いを睨んだままその殻が閉じるのを待った。

 

 

───────────────────────────

 

 

「アーチャー…何がしたいんだ。」

 

「なるほど、気づかないのも無理はない。」

 

「魔術回路を回したまま俺を見ていろ。」

 

赤い布を解くと、妙に筋肉のついた左腕が露わになった。

 

「俺は召喚時、記憶にノイズがあった。」

 

「しかしお前を見た時、自分が何者か、なぜ自分がこうなったのか、全てを思い出した。」

 

「俺はお前だ。」

 

「しかしお前は俺では無い。」

 

「…は?」

 

アーチャーの言ってる意味が分からず、そのほとんどを理解できてなかった。

 

固有結界「剣製(ブレイドワークス)

 

ただ広がる白い地面は地平線が見えるまで続いている。

地面に白化した剣が連なるばかりのつまらない風景だった。

 

「この剣は俺の記憶だ。」

 

「この固有結界において俺しか触れられず、触れたそばからこの(記憶)は色を取り戻す。」

 

「だが、今だけは戦うために展開したんじゃない。」

 

「お前と俺は起源を共にしている。」

 

「故に、お前はこの魔術を扱える。」

 

次から次へと入り込む情報に士郎は呆然とするばかりだった。

 

「…まぁいい、理解は後からでも遅くない。」

 

「エミヤシロウ。」

 

「お前はこれ(大魔術)を御せるか。」

 

 

少しの沈黙があった。

 

様々な思いが錯綜する。

 

「…覚悟は出来た。」

 

「その腕を見た時、お前と似た人を見た。」

 

「お前や俺より年齢が上で…きっとそれも俺なんだろう。」

 

正義の味方になれるなら。

 

「お前がその力を俺に預けてくれるなら。」

 

弱き者を、助けられるのなら。

 

「俺は、やるよ。」

 

「ありがとう、エミヤシロウ。」

 

「……サクラを守ってくれ。」

 

アーチャーの右手を士郎の頭に当てる。

 

「投影、開始。」

 

 



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IV. 後編 きっと

 

きっと。と思ってしまった。

 

あれを使いこなせる俺ならきっと。と、

 

この聖骸布を剥ぐたびに叫び声のような金属の摩擦音が頭の中で鳴り響く。

 

投影、開始(トレース オン)

 

「なっ──!!」

 

───────────────────────

 

俺がアーチャーに見せられたのは、心を鉄にした男の話だった。

 

木々が赤く黒い泥に、飲み込まれていく。

その中、たった1人の男が迫り来る泥と男を取り込まんとする布のような影を弾いていた。

 

遠坂はその男を心配そうな顔で見つめる。

「アーチャー」と呼ばれたその男はついにその猛攻に耐えかねた。

 

I'am the bone of my sword.(体は剣で出来ている。)

 

紡がれたその詠唱を俺は知っている。

 

その身体が剣で出来ていたことを知っている。

 

ヤツの腕はその英霊の物だった。

 

俺がその腕を見た時に感じた1人の気配はきっとこのアーチャーだったのだろう。

 

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)

 

目と、心に刻み込んだ。

 

この視界いっぱいに咲いた盾を。

 

それでも黒く侵食されていく盾を見て俺は思わず唇を噛み締めた。

 

猛攻を続ける影にエミヤシロウは重症を負い、音のみを拾える中で、少し低い女性の声がした。

 

「そんなことをすればあなたは…」

 

「考えるまでもない、何もしなければ消えるのは2人だが、こうすれば確実に1人は助かる…」

 

何が起きているのか、想像するには情報はなかったものの、事実から推測することは容易だった。

 

生々しい音と共に重いものが落ちる。

 

 

 

 

そこからだいぶ時間が経った映像に切り替わる。

 

汚染され黒ずんだ英霊、その禍々しい巨体にに対して、その英霊を解析、理解しそのことごとくを投影した。

 

その時、エミヤシロウはアーチャーを追い越した。

 

「是・射殺す百頭」

 

その力、業、生き様を俺は見た。

 

 

 

 

程なくして、度重なる投影は身を滅ぼすものだと知る。

もはや聖骸布が最大限に引き出す制御力は失われた。

 

その次、見たのは決戦前夜。

 

エミヤシロウはライダーとの共闘を拒んだ。

 

閃光(スパークス)

 

大聖杯のある地下洞窟に入る時、エミヤシロウは心を鉄に変えた。

 

記憶の霞はただ「あの時」桜を殺せなかった己を憎むばかりだった。

 

「何故───あの時、サクラを殺せなかった…?」

 

「なんでこうなるのを分かって…」

 

エミヤシロウを主観として見る士郎はこの度し難い感情に目を瞑りたい気持ちばかりだった。

 

正義の味方と、桜の味方である自分が混ざった感情。

 

それがいつしか彼に桜を殺める選択肢を与えた。

 

記憶や五月蝿い感情は全て内に仕舞った。

 

ランナーズハイのような高揚感がエミヤシロウとセイバーを渡り合わせた。

名前も思い出せない彼女にトドメを差す方法を探る。

 

「あなたの方法では──を救えない」

 

ただそれだけを反芻するだけだった。

 

エミヤシロウは腕から奥義を探ろうと潜った。

 

しかし探すその手を誰かに取られた。

 

「間桐桜は私が手を下す。」

 

真っ白な地平線の見える空間。

 

そこに立つ腕の主(エミヤ)

 

意識や体のなにもかもをエミヤシロウから彼が乗っ取った。

 

席を譲るように、また受け渡されたバトンを、もう1回繋ぎ直すように。

 

また受け継がれたその身体はもはやエミヤシロウではなかった。

 

白髪に褐色の肌、ただ少し若い幼さを感じる外見だった。

 

記憶はここで大きなノイズを立てて消えた。

 

景色から俺が遠のく感覚を覚えた瞬間、また白い空間に戻された。

 

 

 

しかし、そこにあったはずの無数の(記憶)が、たった1本の剣と赤い宝石のネックレスが置かれているだけになっていた。

 

「…みたか、」

 

振り返るとアーチャーが佇んでいた。

 

「みっともない男の話だっただろう。」

 

「救いたいと願った女を救う前に精神が摩耗しきり、受け継いだ物を返すはめになってしまった。」

 

「そのせいで俺は半ば英霊エミヤと同化し、このように歪なサーヴァントとなった。」

 

彼は正面にある剣を指して言う。

 

「受け取るがいい、衛宮士郎。」

 

「それが今さっきお前の見た記憶の全てと、エミヤと俺の魔力だ。」

 

アーチャーは足から少しずつ透明になっていく。

 

「アーチャー、それだけのために…?」

 

「こんな中途半端なサーヴァントで申し訳がない。」

 

「しかし、これだけは頼みたい。」

 

士郎はグッと、その剣を持った。

 

「桜を幸せにしてくれ。」

 

その剣が抜かれると同時に、「剣製」は殻を破り、図書室に戻っていた。

 

手には赤い宝石が握られていた。



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Ⅴ. ここから。

 

剣製(ブレイドワークス)」の殻を破り、出てきたのは士郎1人だけだった。

 

パスが途切れたのを感じた慎二はその事実を理解できて居なかった。

 

「おい…おいどういうことだ衛宮、お前がアーチャーを倒したっていうのかよ!!」

 

「…そうだ。」

 

士郎は嘘をついた。この事実を知るのは凛たちだけで良いだろうと考えた末の結論だった。

 

「もう慎二の知る俺じゃない、死にたくなかったら教会に行け。」

 

すこし違った雰囲気を纏った士郎を凛は何か悟ったように見る。

 

「なにお前が指図してんだよ、マスターが前線に立つといい事がないぞ衛宮。お前の方こそ逃げろよ。なぁ!?」

 

士郎は長物を投影し、慎二の胸に軽く突き立てた。

 

ヒッ…

 

「なんなんだよお前!おお覚えてろよ!くそっ!!」

 

引きつった悲鳴と共に慎二は引けた腰を持ち上げて校舎から逃げた。

 

「…変わったわね、衛宮くん。アーチャーから何をされたか、後で教えて頂戴ね。」

 

魂喰いは収まり、程なくして救急車で重症の生徒たちは運ばれ、全国区で放送されるほどの騒ぎとなった。

聖堂教会はこれを近所のガス会社が保有するガスタンクによるガス漏れだと事件の真相を隠匿した。

 

士郎きっての願いで遠坂邸で話したいということだったので、士郎、凛一行は遠坂邸にて士郎の話を聞くこととした。

 

別世界のエミヤシロウと英霊エミヤについて、慎二の使役したアーチャーについて、そして固有結界「剣製(ブレイドワークス)」について。

 

記憶の全てとまでは行かずとも、伝えるべきことは全て伝えた。

 

「衛宮くん…いえ、これからは士郎って呼ばせてちょうだい。」

 

「その、これからどうするの?その記憶と心象風景を持ったあなたはサーヴァントと渡り合えるかもしれない力を手に入れたわ。」

 

「私たちとの共闘も、今となっては必要じゃなくなったんじゃない?」

 

少しの沈黙が士郎には必要だった。

 

 

「俺には、」

 

「多分…遠坂が必要だ。」

 

「固有結界の中でアーチャーに言われた、「サクラを幸せにしてくれ」って。」

 

手に握った宝石を見る。

 

「でも、それは俺だけじゃ成しえない物だと思ってる。」

 

「俺は桜だけの味方にはなれない。」

 

「でも、正義の味方というのもイマイチ理解し難い。」

 

「歪なのは分かってる。これが定まらない内は授けられた固有結界も扱えない…んだと思う。」

 

「だから、俺が答えを見つけるためにも、遠坂。俺と共闘してくれないか。」 

 

 

「…ありがとう、さっきの士郎、雰囲気が少し変わっててもう私たちが必要じゃなくなったんじゃないかって…。」

 

自らを必要とされたことがあまりない凛にとって士郎のキャッチボールのように渡されたありのままの言葉にすこし照れた。

 

 

突如、空気が痺れたような気がした。

2人を守るようにして霊体化を解いたアーサーとエルキドゥは臨戦態勢を取った。

 

「なに…今の…?」

 

「あなたなら何か分かる?エルキドゥ、」

 

目を閉じて、瞬間、霊脈を探った。

 

「おそらくはバーサーカー…いや、ほんとにバーサーカーなのか…?」

 

訝しげな表情をする。

 

「霊基が…すこし読み取りづらい、」

 

「例えるなら…そう、()()()()()()()()()()()()だ。」

 

 

───────────────────────────

 

 

2羽の野鳥が教会前に墜落した。

 

程なくして雨が降る、アスファルトは小川を形成し始める。

 

「バーサーカー…?」

 

召喚時以外喋ってくれないバーサーカーに対して、こちらの対話も通じてない印象があった。

 

バーサーカーの召喚時共に現れた石像の下に5日前と同じかそれ以上の電気が集まって、地下の中を通り抜けていた。

 

亀裂、石像に亀裂が走り、その割れた欠片たちは落ちるどころか霧散して消えていく。

次第に色が見えて、人の形が分かりやすくなる。

 

「我は神性を捨て、復讐に堕ちた者である。」

 

「我は太宰府の怨霊、復讐の天神(アマツカミ)菅原道真である。」

 

「然して菅原道(天神)真であり、菅原道(天神)真では無い者。」

 

「この日を境に我は契約者との対話を行える。面を見せてみよ。我が付くに相応しい者か見定めようぞ。」

 

瞬きもなかった。静電気を受けたような感覚のあと、彼は目と鼻の先に来ていた。

 

「動じぬか。」

 

動いた軌跡を残すように、動いた所から炎が続いている。

 

「良い、気に入った。我は貴様を導き、勝利させてやる。」

 

「大人しく我についてくるが良い。」

 

所々、彼の直衣(のうし)から黒い瘴気のようなものが流れ出るのを見た。

 

異例の荒れた天気に、天気予報は7日間以上の雨、線状降水帯が異常な停滞を見せていると伝えた。




観測者さんです。

現在真名が分かっているサーヴァントのみで、今回における性能の解釈をお伝えする回を設けられればと思います。次回はその予定です。

追記(5月31日)
誤字の修正をしました。


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サーヴァント紹介・1

 

セイバー : アーサー・ペンドラゴン

 

筋力A 耐久A+ 敏捷A

魔力B 幸運B 宝具EX (藤丸性能時より引用)

藤丸のスペックにカルデアのバックアップでこの数値のため、魔術師士郎はこのステに準じることとします。

 

クラススキル

対魔力A 騎乗B

 

所有スキル

カリスマB 直感A(眩き旅路)

魔力放出A(赤き竜の徴)

(今回の現界はビースト狩りのためではないので巨獣狩りは持たず、カリスマを持つことが出来ています。)

 

宝具

風王結界

真名隠し、刀身の透明化による命中率上昇、風を刃とすることで攻撃力の上昇ももたらす、宝具より魔術に近いです。

 

約束された勝利の剣 ランクEX

常備されたアヴァロンの拘束により、十三の拘束を円卓決議により解放していくことで威力を順次解放していきます。

星を救う輝きの聖剣。

星を滅ぼす外敵を打ち倒すために作り上げられた、

およそあらゆる悪を退ける黄金の刃。(FGOより引用)

以下、解放条件です。

・ 是は、勇者と共にする戦いである(共に戦う者は勇者でなくてはならない)

・ 是は、心の善い者との戦いではない(心の善いものに振るってはならない)

・ 是は、誉れ高き戦いである

・ 是は、生きるための戦いである:ケイ

・ 是は、己より強大な者との戦いである:ベディヴィエール

・是は、一対一の戦いである:パロミデス

・ 是は、人道に背かぬ戦いである:ガヘリス

・ 是は、真実のための戦いである:アグラヴェイン

・ 是は、精霊との戦いではない:ランスロット

・ 是は、邪悪との戦いである:モードレッド

・ 是は、私欲なき戦いである:ギャラハッド

・ 是は、世界を救う戦いである:アーサー

 

 

ランサー : エルキドゥ

エルキドゥ自身霊脈を借りての戦闘が出来るため、冬木市の場所によって戦闘の上振れが変わります。(とはいえ、上振れするのは龍洞寺くらいの霊脈が太い場所)

遠坂凛がマスターのためステータスに不備は生じません。

 

クラススキル

対魔力-(クラス変容によって上下する。最大A+ Strange Fakeより引用)

 

所有スキル

変容A

能力値を一定の総合値から状況に応じて振り分け直す特殊スキル。エルキドゥの最大の特徴。

ランクが高い程、総合値が高くなる。

時に筋力をAにし、時に耐久をAにする。

FGOの性能では全てのパラメーターをAにすることはできないという事だったが、凛がマスターのため、宝具以外の5つのパラメーターのうち3つ同時にAとして運用することが可能。

しかしめっちゃ魔力を食います。

 

気配感知-(最大A+)

最高クラスの気配感知能力。

大地を通じて遠距離の気配を察知する事が可能。

(変容によって上下する。)

 

宝具

人よ、神を繋ぎとめよう ランクEX

エルキドゥ自身を1つの神造兵装と化す。

膨大なエネルギーを変換した楔となって対象を貫き、繋ぎ止める。

(FGOより引用。)

 

第二宝具(Fakeのネタバレとなるので使う話が来た時、改めてネタバレ注意をしたいと思います。)




観測者さんです。
既存のサーヴァントは引用が多いため、おおよそ皆さんの知る彼の認識で大丈夫です。
創作サーヴァントの設定に関して、不備等があった場合、暖かく見守ってください。


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サーヴァント紹介・2

 

ライダー : ジョージ・ワシントン

この限界に際し、彼は独立戦争時の陸軍指揮官としての側面を持って英霊化した。

もちろんそれだけでは霊基を形成できないため、かつてインディアンに恐れられた侵略者、虐殺者、「町の破壊者(タウン・デストロイヤー)」としての性格も持つ。

なのでバーサーカーの適性も獲得してるが、それはまた別の話。

 

ステータス

筋力C 敏捷C+ 幸運B

耐久B 魔力C 宝具A

 

クラススキル

騎乗A 対魔力C

 

スキル

初代大統領EX

アメリカ合衆国初代大統領としての性質が表れたスキル

カリスマの変化スキルであり、カリスマB+の性能とは別に、民からの信頼、信用を獲得できるスキルである。(初対面限定で、人間関係のステータスにおいて信用が少しプラスされている程度)

B+の倍加条件は、後述する宝具「同盟を以った独立革命(アメリカン・インデペンデンス)」を使用した直後2日間となる。

 

虐殺者B+

先住アメリカ民族であるインディアンを嫌悪し、インディアンを絶滅させる方針を彼が軍指揮官であった期間中は一貫していたことを表すスキル。狂化の変化スキルであり、英霊化するに際し人の力を持つ者に対する特攻を得ている。一時的に倍加できる。

 

同盟A

軍略に似て非なるスキル

スキル名通り、軍略を共有する同盟全てに一定のカリスマBと軍略C相当のバフをかける。

 

宝具

(第一宝具)お披露目はお待ちください!

 

第二宝具「反乱する者たちよ」

コンチネンタル・アーミー

 

常時展開型宝具、彼の主戦力となる宝具である。

織田信長の「三千世界」同様、彼の指揮した大陸軍の強さが宝具として昇華したもの。

兵隊や砲連隊を用いて様々な戦略を展開できる。

真名を解放すると、より大規模に軍としての展開ができる。そして、全体にカリスマC相当のバフを与えることができる。

 

(第三宝具)お待ちください!

 

 

キャスター : レオナルド・ダ・ヴィンチ

 

ステータス

筋力C 敏捷C 耐久B

魔力A+ 幸運A 宝具A+

FGOの性能より少しプラスされているのはイリヤのマスターとしての適正の高さ、土地を利用魔術師としての完成度がステータス上昇を引き起こした。

 

クラススキル

陣地作成A 道具作成A

 

所有スキル

天職の叡智EX

並ぶ者無き、天性の叡智を示すスキル。肉体面での負荷(『神性』など)

や英雄が独自に所有するものを除く多くのスキルを、Aランクの習熟度で発揮可能。彼本人はサーヴァントとしてはこのスキルを多用しないが、陣地作成、道具作成のスキルについては、このスキルでAランクに引き上げている。(FGOより引用)

 

黄金律(体)B

女神の如き完璧な肉体を有し、美しさを保つ。レオナルドは自らの肉体を女性(モナ・リザ)として「再設計」する際にこのスキルを意図的に獲得した。(FGOより引用)

 

星の開拓者(EX)

人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。あらゆる難航、難行が『不可能なまま』『実現可能な出来事』になる。多くの分野で数々のきっかけを人類文明に与えたレオナルド・ダ・ヴィンチは、このスキルを高ランクで有している。(FGOより引用)

 

宝具

万能の人

彼の万能性が宝具化したもの。

FGOでの性能は、対象に自身の最大攻撃を対象に合わせ調節し放つ。という宝具。しかしそれは本来の性能ではなく、本来の万能の人は即座に相手の宝具を解析、仮構成し相手の宝具と相殺する反射系の宝具なのだが、そのリソースをカルデアの運営に回しているので使われてはいない。

しかし今回はそんなリソースを割いた事をしなくてもよいため、反射系宝具本来の性能を取り戻している。(FGOでの上記のような使用も応用であるため可能)

 

(第二宝具)お待ちください!



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サーヴァント紹介・3

 

バーサーカー/███ : 天神(菅原道真)

聖杯戦争3日目までは平安貴族の石像の姿で感情のないサーヴァント。

石像状態の彼の声を聞けるものは神道の神主レベルの霊能力者と限られている。

 

ステータス(天神)

筋力 - 敏捷 EX 耐久 C(石像の耐久度)

幸運 C 魔力 EX 宝具 EX

 

クラススキル

狂化(雷)EX

雷鳴と衝撃に狂気を覚えた人々の感情がクラススキルに当てはめられたスキル。

 

所有スキル

雷鳴 EX

雨を半意図的に降らせられるが、降水時間のみ操作可能で、降水量は操作不可能である。降水時雨雲に生じる雷は天神の支配下にある。

だがサーヴァント化に際し、雷撃に魔力を隠匿しない限り付着するためこれがサーヴァントの攻撃であると見破られやすい。

 

神性 -〜A

 

怨霊 B〜EX

菅原道真公の霊基での現界に際し、彼が受けてきたあらゆる屈辱、妬みなどが彼にどれだけの影響を与えたかが表れたスキル

狂化とは似ているが狂化とは違い、雷神側でその魔力を負担する。

聖杯戦争3日目からこのスキルが発動可能であり、B、A〜それ以上(EX)と消費魔力の段階に応じてランクのギアを上げれる。その代わり、B発動時に神性はAからC、Aで神性D、それ以上から神性は剥奪されます。これは怨霊とは人の持つスキルであり、本来神性と同時に持ち合わせられないものですが、天神が道真公の身体を借りたことでイレギュラーが起こり得ました。クラススキルとして持つ狂化では理性を失うことはありませんが、怨霊での実質狂化では理性のほとんどを失います。

 

宝具

(第一宝具)お披露目をお待ちください!

 

「雷を誘う鳥」

サンダーバードとしての側面を持つ鳥を顕現されることもでき、宝具範囲内に居る野鳥を2羽支配下に起き、視覚を共有することが出来る。

常時発動型宝具で、召喚時の石像状態時や、怨霊スキル発動時から普通のサーヴァントになった後で霊体化している時などは、マスターの周辺に2羽の野鳥として周囲の観察をしている。

 

 

アサシン : ██████の██

 

ステータス

筋力 D 敏捷 B 耐久 C+

幸運 A 魔力B 宝具C+

 

クラススキル

気配遮断 B

 

所有スキル

████EX

██を起こす人の██であることを示すスキル

███から授かった権能ということで今回の現界では周囲の耐久ステータスを一時的に一段階上げるものとなっている。

 

██A+

███から██を████としてのスキル

自分の周囲に大魔術を展開することが出来る。

手を伸ばした時にできる円の範囲内に発動できる。

 

██████B-

 

単独行動C

マスターを失った場合でも1日の限界が可能

 

宝具

(第一宝具)登場と発表お待ちください!

 

(第二宝具)お待ちください!




2023/10/29 設定の不備を修正しました。


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幕間、2月19日雨

諸事情によりここから1週間弱執筆および投稿ができません。
予めご了承ください。


 

2月19日、昨日から続く雨はぬかるんだ地面に川を作った。

 

「はあっ───はあっ」

 

霊体化したらそのまま座に帰ってしまいそうなほどの魔力量しか残っていない、願いより、なにより許せなかったのだ。

 

私を召喚したマスターが、私を召喚したのにも関わらず、あの様なことをしていたのが。

 

───────────────────

 

瓦解した工房、折れ枝垂れた管から電流が音を立てている。

 

「こんなことをしても無駄だぞアサシン。」

 

「お前が逃した子供は社会を知らない、この日本において生きる術を知らないヤツらだ、殺したも同然だよ。」

 

彼は指を鳴らして使いを向かわせた。

 

「俺はサーヴァントとやらの扱い方をよく分かっていなかった。」

 

輝く令呪の光が邪悪さを孕んで見える。

 

「令呪を持って命ずる、俺の命令以外で動くな。アサシン!」

 

光が霧散して風となってアサシンへと襲う。

 

チャリン。

 

数枚の銀貨が床に落ちて響く。

物憂げな表情をしたアサシンは、またか。と溜息を吐いた。

貫頭衣に隠れた手と持っていた麻袋を目前に掲げた。

 

三十枚の銀貨(ザ・ラスト・サパー)

 

彼は自身に目の前の相手を殺す命令を下した。

 

「なっ…重ねて命ずる!!止まれ!!アサ」

 

豪奢な装飾が施された両刃のナイフが胸を裂いた。

白い貫頭衣に直線の返り血が鮮やかになる。

 

「こんなことをしてもお前に得は無いぞ…」

 

「アサシン…いや、裏切り者!(イスカリオテのユダ)!!」

 

呪いのような断末魔でこの工房と共に脈を止めた。

 

「祝福する者でありたい。」

 

「それが私を英霊たらしめた願いです。」

 

マスターが居ない今、ユダには単独行動のスキルによって残された1日のみ。

最後まで自分に出来ることを探そうとする彼は工房を後にし、冬木市の郊外を練り歩き始めた。

 

────────────────

 

まもなく消滅するこの体、この身を打つ雨がこの場所に立っていることを思い出させる。

 

立っているのもバカらしくなり、近くの木を支えに膝を下ろした。

 

「主よ。」

 

「どうかこの私に誰かを救う力をお与え下さい。」

 

 

幸か不幸か、感覚の薄れていく彼に打ち付ける雨を1本のビニール傘が遮った。

 

あぁ。と理由もなく、納得したような息をついた。

 

「あの、大丈夫っすか?風邪ひきますよ?」

 

手を差し伸べた優しそうな好青年。

その手を取るか否か、決めあぐねる間があった。

 

(ダメだ。ここで、ここで手を取ることは彼を巻き込むことを意味する。)

 

「あぁ、大丈夫だよ少年。君こそこんな雑木林に居ないで早く、」

 

「大丈夫なわけ無いでしょ、あきらか血が付いてるじゃないですかその服、言えない理由があるのは何となく分かりますが、尚更放って置けません。」

 

「さ、俺の家近いんで、ほら。」

 

下ろそうとした手を厚い手が引き上げた。

救われた気はしなかった。

むしろ、この先彼が私の手を取ったことで巻き込まれる全てに対して私は歯を食いしばるしか無かった。

 

その時。手を取った彼の左手とは逆の右手に令呪が宿ったことを知る由はない。

 

その身に刻まれた裏切りは心一つで覆そうとするには重すぎること。

そして

その身に染みる優しさが彼の霊基に染み付いた後悔を思い出させた。




アサシン : イスカリオテのユダ
 
ステータス
筋力 D 敏捷 B 耐久 C+
幸運 A 魔力B 宝具C+
 
クラススキル
気配遮断 B
 
所有スキル
十二使徒 EX
奇跡を起こす人の使徒であることを示すスキル
あの人から授かった権能ということで今回の現界では周囲の耐久ステータスを一時的に一段階上げるものとなっている。
 
宣教A+
あの人から教えを受けた者としてのスキル
自分の周囲に大魔術を展開することが出来る。
手を伸ばした時にできる円の範囲内に発動できる。
 
単独行動C
マスターを失った場合でも1日の限界が可能
 
宝具
(第一宝具)
 
「三十枚の銀貨」
ザ・ラスト・サパー
擬似令呪のような宝具
彼が生前あの人を銀貨30枚で売ったことが宝具に昇華した。
性能的には「あの人を裏切った」以下のことが銀貨30枚を使用するとこで行使できる。
しかし、ユダ的に「あの人を裏切る」以上のことは決して存在しないため、擬似令呪のような宝具と形容した。
銀貨30枚は1回の契約に1度だけ使用可能でマスターにこの宝具の使用権と銀貨自体を渡すことが可能。
自身に使用することも可能。
自身で発動する際はカウンターのような使い方しかできない。
(本編中の使用は令呪へのカウンターです。)

追記
編集のバグでルビが反映されていなかったので再投稿させて頂きました。


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お久しぶりです、ここから少しずつ投稿を再開したいと思います。
よろしくお願いします。


 

「ふむ、5日目にしてやっと戦争に参加するという訳か。」

 

「なに、今まで出向かなかった理由というのは身内にも言わない方が良い、自分とサーヴァントのみ情報を共有するといい。」

 

「そう…ですか、では言峰神父、行ってまいります。」

 

彼女の前を行く瘴気を纏うサーヴァントは言峰に一瞥もくれず共に扉の奥に消えた。

 

「中々度し難いモノを従えたな、」

 

「さて、私は私の仕事をしよう。」

 

 

「…この戦争において、生きて帰りさえすれば儲けものというものだ。」

 

 

夜、暗雲の形が稲妻に照らされ、くっきりと見える。

非常に強い雨は一向に止む気配がない。

 

「下がっていろ。」

 

「えっ」

 

耳をつんざく様な敵意の激突に思わず目を瞑ってしまった。

アスファルトにはタイヤ痕に似た焼けた痕と焦げた匂いがした。

 

「僕に勝るとも劣らないね。」

 

「御前こそ」

 

グッと握り振り払われた刀から3歩ほどの間合いができる。

 

「もう一度言うぞ、下がっていろ。」

 

「我は貴様を巻き込まずして彼の者を退ける気がせん。」

 

「十数える。その間で良いとこまで退くがよい。」

 

十、火花が私を追い抜いた。

 

九、刀が雨を捌いた。

 

八、楔が泥人形を地面に留めた。

 

七、ニヒルな笑みと振り下ろされたあらゆるがぶつかる。

 

六、戦いの勢いに応えるように雨は勢いを増した。

 

五、踏み込んだ足はアスファルトを焦がす。

 

四、鳴った雷は一直線に彼らへと落ちた。

 

三、止まることをしらない激突はそれだけで熱を持った。

 

二、絡め取られた刀は止まることをしらない。

 

一、先程までの勢いを知らなかったようにそれらは動きを止めた。

 

「行けたか、契約者(マスター)。」

 

「はぁ…はあ…行けました、バーサーカー。」

 

「人払いの結界は誰かが張っていました、恐らくはそのサーヴァントのマスターでしょう。」

 

「戦闘の匙加減(さじかげん)は貴方に一任します。私はここで周囲の観察を行います。」

 

「撤退など連絡事項がある場合、即座に伝えます。貴方は戦闘に集中して下さい。バーサーカー。」

 

「承知した。」

 

「連絡は終わったかい?」

 

「それじゃあ、再開しようか。」

 

私が彼らの戦いを見る限り、私たちの起こす戦いとは、些か雰囲気が違って見えた。

殺気がない。いや、厳密には彼らの起こす一挙手一投足には殺気が溢れている。そうでないと出ない一太刀、一手だった。

しかし殺意というにはどうにも彼らは戦いを楽しみすぎている。

まるで腕相撲を、友達と自身の性能を比べ合っているような、そんな感じがした。

 

「これが、サーヴァント同士の戦い。」

 

稲妻が彼女のいたビルの屋上に刺さる。

これが道真なりの警告だということを即座に理解する必要があった。

 

「…っ!!」

 

握り込んだ灰錠を篭手に変化させ確かめるように開いては握った。

投げ込まれた宝石を即座に砕き、暗闇の中に侵入者を探す。

 

「甘い!」

八極拳と見えた素早い拳を素早く避ける必要があった。

 

ドッとねじ込まれた拳に鈍痛を覚えながら間合いを取った。

 

黒鍵に溜めた魔力を侵入者との間合いで放出する。

 

「向こうの戦闘に気を取られすぎよ、聖職者さん。」

 

その光から見えたのは高校生程と思われる少女だった。

 

 

「子どもだって舐めてると痛い目みるわよ!」

 

「セット!」

 

様々な光を放つ宝石は魔弾となって四潔を追った。

黒鍵と篭手で応戦するものの、四潔の持つ装備は聖別済みか聖銀製の武具ばかりで、おおよそ対魔術師戦において耐久性以外では不利となる。

 

防戦一方となり、急いでバーサーカーに連絡を取った。

 

(すみません!いつの間にか、貴方の戦っているサーヴァントのマスターらしき少女に奇襲を仕掛けられました!)

 

(消耗戦になると自衛が難しいです!ここは撤退をします!バーサーカー!)

 

「ふむ、」

 

屋上に再び雷が落ちた。

「…情けない契約者(マスター)だ。」

 

瞬く間に彼はこの屋上で抜き身を納めていた。

 

あのサーヴァントとの戦闘に水を差されたことに対し少し不機嫌になっているように感じた。

 

「そこな少女よ。」

 

「我はあの人形が気に入った。(ゆえ)、戦争半ばで脱落する事は許さん。」

 

「他の者共に殺められるのであれば我がお前たちを殺しに行く。」

 

努々(ゆめゆめ)忘れるでないぞ。」

 

凄まじい轟音と共に2人は姿を消した。

 

 

「リン」

 

「怪我はないかい?」

あれだけの戦闘をしたのにも関わらず、さっきのサーヴァントと言い、エルキドゥも全くの無傷であった。

 

「えぇ、あなた随分とあのサーヴァントに気に入られたようね。」

 

「ああ、そうだね、僕も彼の事が好きになったよ、」

 

「どうせ僕とまた戦うまで死ぬな、なんて言ったんだろう?」

 

「どうも、彼はギルと似ているところがあると感じるんだ。」

 

さっきまで土砂降りだった雨と止むことを知らなかった雷が幾分かマシになった。

 

「あのサーヴァント、やはりバーサーカーかしら?」

 

「うーん、」

 

「やはり分かりづらい…けど、ある程度分かってきた。」

 

稲妻がエルキドゥに逆光を差す。

 

「彼はアヴェンジャー、復讐者のクラスに変化を遂げている。」

 



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Ⅶ. 人と人

 

復讐者(アヴェンジャー)…?」

「そんな…クラスが変わってるって…」

 

「しかも、あの子は気づいて居ないみたいだ。」

 

先程よりマシになった雨雲とは反対に、凛の頭に不安がよぎる。

 

「恐らくこの聖杯戦争で彼を超えうる存在は居ないよ。」

「同時に彼より御しがたい存在もいないね。」

 

「…リン」

「また来客だよ、備えて。」

 

雷が大通りをライトアップするように照らし続けた。

馬蹄の音が夜に響き、遠く旗の音が雨音よりも鮮烈に鼓膜を揺らす。

 

「美しき青年よ、我はお前を打ち倒す者。」

「帝国陸軍指揮官!ワシントン・ジョージである!」

 

雨の中濡れた栗毛が輝いた。

 

ビルの屋上で鎖と両刃がぶつかりあう。

 

「ライダー、何故真名を明かしたのか僕には分からないな。」

 

鎖が馬を貫き、足を拘束した。

跳躍したワシントンが銃を抜き即座に撃ち込む。

 

右腕、左足、左腕、楔に貫かれ拘束を余儀なくされた。

「マスターも近いからね、試し合う余裕は無いんだ。」

 

磔にされた彼は不敵な笑みが妙に目立つ。

湿気が嫌な予感を匂わせた。

 

 

反乱する物達よ(コンチネンタル・アーミー)

 

 

銃、剣、大砲、あらゆる陸戦兵器がこの屋上を覆い尽くした。

すへで年季の入ったものたち、鈍く光る真鍮が威圧感を放つ。

 

撃方(うちかた)、」

 

「始め!」

 

飛び交う鉛玉を凛を巻き込まず、逆に守りながらこの状況を切り抜く。

この宝具解放は状況を一転させ、エルキドゥは思わず笑みを浮かべた。

 

「宝具はダメよ、ランサー。」

 

「まだここじゃない、ここ切り抜けたら撤退する、いくらあなたとは言え連戦は難しいわ。」

 

「了解したよリン、」

眩い光が大きく周囲の武装を薙ぎ払った。

 

「すまないライダー、君に構えないみたいだ、また会えるといいね。」

 

屋上全体に鎖を交わらせた。

追うように放たれる大砲や銃弾の数々を叩き落とし、凛を抱え跳躍した。

 

「ふむ、神代(かみよ)の英霊と見るべきか、一撃が違ったな。」

 

「マスター、そちらはどうだ?」

 

心配が虚空を掠める。

 

「そちらのマスターはこちらで拘束させて頂きました。」

 

布擦れの音が聞こえる。

時折聞こえる銀と銀が擦れる音が場の緊張を増す。

 

「私はアサシン、初対面にご無礼を承知で申し上げます。ここはどうか協力関係…同盟を結びませんか?ライダー、ジョージ・ワシントン。」

 

「…いつから見ていた?」

「いつからマスターを拘束した、」

 

「あなたがこの屋上に向かってくるところから、そして貴方が名乗りあげたところでマスターを拘束させて頂きました。」

 

「マスターと相談させろ、場所を変えるぞ。」

 

───────────────────────

 

翌朝、聖堂教会前

 

「…イリヤ、なんでお前がここにいるんだ、」

 

「シロウこそ、私は霊脈に異常を感じたから辿ってみたまでよ。」

 

士郎とイリヤ、二人の間に冷たくもほぐれた雰囲気を感じる。

 

「俺はあのバーサーカーを倒そうと思う、邪魔をするなら容赦はしないぞ。」

 

目の座った士郎にイリヤはすこし微笑んだ。

 

「セイバー、」

 

「乗り込むのかい?」

 

「いや、教会は脱落者の保護場所だから俺らが乗り込むのは少し気後れする。」

 

「というより、」

 

「向こうから来てくれたみたいだな…」

 

似つかわしくない洋式のドアから瘴気が先に顔を出した。

 

背筋が伸びる感覚を覚える。

 

「バーサーカー…いや、復讐者(アヴェンジャー)、貴方に残された時間は多くありません、短時間で済ませてください。」

 

「相分かっタ…。」

 

カタカタと震える刃を振って正す。

 

「キャスター、」

 

「援護かい?任せておくれ。」

 

コンっと杖を鳴らし、ここにいる4人に強化をかける。

 

「セイバー、頼めるか。」

「息を合わせる、セイバーは自由にしてくれていい。」

 

「良キか…」

 

「我ハ恩讐を往ク者…天津神道真(あまつかみみちざね)であル…。」

 

認識や語彙が曖昧ではあるものの、その佇まい、握る刀から感じる雰囲気は達人のそれであった。

 

「往くぞ…若輩共…。」

 

「来…るっ!!!」

 

彼の復讐者としての深度が増していく度に空は晴間を広げていった。

 



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Ⅷ. 戦

 

ドン、と踏み込んだ音と共に刃と刃が触れ合った。

 

「ッ…!!」

 

身体がその速度に間に合わない。

 

「シロウ、やはり人間が立つ幕ではない!君を侮る訳では無いことは承知の上で頼む!彼女を抱えてどこか安全な所へ行きなさい!」

 

ギリ…ギリ…と強大な力が刃越しにせめぎ合っていた。

 

「イリヤ!」

 

ヒュッ、とイリヤと士郎の間にあった木が揺れた。

 

「行かせるとでも思ってるんですか。」

「2対1でも構いません、そういうのは慣れてますから。」

 

灰錠、黒鍵、法衣。漂わせる雰囲気で警戒態勢に入るには十分だった。

 

「私は敵意ある者である以上あなた方に手を抜きません。」

 

「来るぞ、イリヤ」

 

ドッと踏み込みこちらへと素早く向かってくる。

灰錠は篭手に、黒鍵を3本全力で投げ込んだ。

 

投影、開始(トレース オン)…!!」

 

単身両手を駆使して剣たちを飛ばし始める。

 

「…私はバックアップってことね…シロウ。」

「いいわ、裏方もこなすのが私たちって分からせてあげるわ。」

 

「キャスター!私はシロウをバックアップするから…」

 

Dacodac(了解)!もうやってるよ〜!」

 

「どっちも人の話を最後まで聞かないのね…。」

 

───────────────────────

 

着々と距離を詰める士郎に動じず飛んでくる剣を受け流す四潔。

その四潔に対して士郎は訝しげに思っていた。

 

「変わった戦い方をするのですね。」

 

「あんたも、なんであいつの近くで戦うんだ、」

「あの戦い方、あんたを守るってのじゃないだろ。」

 

鉄と鉄同士、豪快にぶつかる音が響く。

 

「それに答える義理は無いです。」

「1つ、答えるとしたら」

 

()()()()()()()()()()()…ですかね。」

 

篭手に力を込めて士郎ごと剣を吹き飛ばす。

 

「令呪を以て命じます。」

 

「アヴェンジャー、ここの全てを薙ぎ払え!!」

 

 

 

瘴気が止んだ。

座標ごと一瞬で入れ替わったかのように雨がこの街を埋めつくした。

雨の匂い、音、急激に下がる体温。

全てがこれを現実たらしめる。

 

「嗚呼、懐かしいな。」

 

(口調が戻った…?これは宝具なのか…、)

 

アーサーと道真の間に双葉が芽吹く。

 

時間を無視したそれは幹となり葉を付け桃色の花を咲かせた。

 

東風(こち)吹かば」

 

梅の匂いが鼻を掠める

 

「匂ひおこせよ 梅の花」

 

完成されたその一本はやがてその身に苔を付けた。

 

「主なしとて」

 

枝は天水に頭を垂れて花は散る。

 

「春を忘るな」

 

その花は白色に光って、ただ佇む1本の光の筋となった。

 

道真は人の手を取るように引き抜く。

 

天満大自在天神(てんまんだいじざいてんじん)

 

アーサーは、ダ・ヴィンチは動けなかった。

その美しさ故に、その圧倒的な威圧感の前に、

 

万能の人(ウィモ・ウニヴェルサーレ)!!!」

 

振り下ろされようとした時、反射的にダ・ヴィンチは宝具を展開した。

梅の花の前に動けなかったダ・ヴィンチが無意識に計算したその美しさ(その威力)を宝具に入力し、天満大自在天神に向けて放った。

 

「ほう…美しいな。」

 

「しかし、」

 

「こやつの前には泡沫も同じよ、」

 

膨大な質量は道真を前に両断された。

 

刃の先にいたアーサーは間一髪の所で受け止めた。

星の光を聖剣が漏らす。

 

十三拘束解放…円卓議決開始(シールサーティーン・ディシジョンスタート)!!!」

 

「承認、ケイ、ベディヴィエール、ガヘリス、アグラヴェイン、ランスロット─」

 

「アーサー。」

 

約束された(エクス)…」

 

勝利の剣(カリバー)!!!」

 

アーサーの身長程に抑えた光で押し返した。

直後その溢れんばかりの光を解き放ち、多大なる熱量を持った光とした。

 

再びその真名を叫んだ。

約束された…勝利の剣(エクス カリバー)!!!」

 

降る雨、石畳、それに敷かれた土たちを蒸発させ、道真を再び飲み込んだ。

 

 

左腕を光に持っていかれたが、右手に握られた天満大自在天神はその光を煌々と保っていた。

 

片手で振り上げたその刀が再びアーサーに襲いかかろうとした、

その瞬間。

 

暗雲立ちこめたこの街を昼の青々とした空が覆い尽くした。

 

どこかから聞こえる歓声のような、叫声のような声、布の焼ける匂い、土埃の匂い、硝煙(しょうえん)の匂い。

なにより血肉の焼ける匂いがこの場に割り込んできた情報量の違和感を物語った。

 

 

同盟を以った独立革命(アメリカン・インデペンデンス)!!!】

 

溢れる声に乗せて昼空全てに広がった。




観測者さんです。
めちゃ不規則に更新させて頂いています…。
お待ちいただけると幸いです。

後書きですが、エクスカリバー二度撃ちした後の士郎は息絶え絶えですがイリヤのバックアップありきで何とかなっています。


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