モンスターだらけのARKを生き延びろ (あるこばれの)
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設定集(随時更新予定)

 本小説の設定集になります。本編の進行状況により、まだ明かせない情報は記述できませんので、ご了承ください。また、その都合上、内容は随時更新して参ります。


・登場人物について

 

主人公:桃園裕太(とうえん ゆうた)

 

 本作の主人公。21世紀の日本生まれの大学生。専攻は歴史学。容姿や学業成績、運動能力などは平均的。可もなく不可もなくな平凡な日常生活を送っていたある日、目覚めたら謎の無人島に漂流していた。しっかり者なようで、何処か抜けている箇所もあり、時として重大なミスをすることもしばしば。インドア派なため、サバイバルや生物の知識に乏しく島の生活には苦労する事が多い。エクスプローラーノートに強い関心を持っている。秀夫や隆翔とは小学校から大学までずっと同じ学校で、家族ぐるみの付き合いもあり、非常に仲が良い。恐竜に詳しい弟がいる。彼女はいない。

 

 

鬼塚秀夫(おにづか ひでお)

 裕太とは幼稚園時代から幼馴染で、親友。小柄で女性的な容姿をしているため、いじめの対象になる事もあったが、その度に裕太に助けられ、その事を今でも感謝している。何かを作る事が好きで、幼少のころから機械いじりや回路いじりに精を出していた。また、プログラミングのスキルも高い。それが高じて大学では工学を専攻している。島の生活ではクラフトを担当することが多い。女性の知り合いは三人の中で一番多いが、その容姿から女の子として見られることが多く、恋人はいない。

 

 

道尾隆翔(みちお りゅうと)

 裕太や秀夫とは小学生以来の付き合い。筋トレが趣味で、ボディービルダー並に鍛えられており、190 [cm]の恵体の持ち主。そんな見た目に反して実はインテリ系だったりする。幼少のころから生物や化学が好きで、大学でも専攻している。裕太が苦手な話題に関しては、彼が解説役になることがしばしば。島で出会ったモンスターや環境生物の存在にいたく感動しており、彼らについて調べたくてうずうずしている。三人の中では唯一恋人がいたことがあるが、怪しげ壺を売りつけられそうになり、そのまま音信不通になり、壺がトラウマとなっている。

 

 

 

オリバー

 島で一人生活をしているアイルー。性別はオス。以前は獣人族の集落で生活していたようだが、何故か現在は一人で行動している。それ故、島のモンスターや環境生物への知見は深く、また戦闘能力もリオレイアを単独で撃退出来る程に高い。海岸でリオレイアに襲われていた三人を偶然発見し、その後成り行きで行動を共にすることになる。望郷の念を捨てきれない三人に多少同情している節がある。また、人間と異なる種族ではあるが、左腕には検体インプラントが埋め込まれている。とある黒い鳥竜種のモンスターとは浅からぬ因縁がある。

 

 

待つ者

 インプラントを通して裕太のイメージの中に現れる謎の人物。裕太たちを島に送り込んだ張本人。彼女にはには何か逼迫した事情があるようだが、一体何が起こっているのだろうか?また、彼女は以前島で生きていたことがあり、その時の生活をどこか懐かしく思っている。また、島の生物の生態や性質を熟知している。その正体が判明する日は訪れるのだろうか?

 

 

 

・「島」について

 この物語の舞台となる島は、強大なモンスターや独自の能力を持った環境生物が生息する南国を思わせる無人島である。海岸や、森林等の多様な生態系が存在する生物たちの楽園。だが一方で、宙に浮く謎の建造物「オベリスク」や空から齎される謎のクレートなど人間の足跡も数多く確認されている。また、それらの多くからは、現代(21世紀)の技術水準から大きくかけ離れたオーバーテクノロジー的な要素が散見される。島全土および上空は物質の通過を許さない光の壁により、囲まれており通常の手段での脱出は不可能となっている。

 

 

 

 検体インプラントは彼らの左腕に埋め込まれた謎の端末機器である。その機能は非常に多様かつ、先進的で、端末機器の様な操作が可能なホログラムを利用したインベントリ画面や、入手したエクスプローラーノートの記録、言語翻訳、さらにはツールや建造物などの作り方をイメージとして脳内に送り使用者の手を適切に動かすエングラムと呼ばれる機能などがある。それら機能はサバイバルにおいて非常に有益であり、幾度となく彼らを救っている。また、インプラントには彼らが彼らたりえるための重要な機能が隠されている。死から蘇るという不可解な現象と何か関係があるのだろうか?

 

 

 

 ヘレナの記録に残ったティラノサウルスや、彼らが発見したギガノトサウルスの頭骨などの遺物から、かつて島には失われた太古の生物たちが息づいていた事が示唆されている。しかしながら、彼らの生息は現在の島では確認されていない。赤オベリスクに残されていたカビや細菌などの痕跡が何か関係しているのだろうか?

 

 

 島に生息するモンスターや環境生物には不可解な点がある。それは人間に飼い慣らされた際に、度が過ぎる程に従順になるという点である。動物を飼い慣らすのは、通常は非常に難しく、完全に人間の制御化に置くことなど不可能である。だが、島の生物たちはその限りではない。彼らは本当に太古から進化を続けて生まれた生物であるのだろうか?

 



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The Island編
Version1.0:未知の島


 本格的な小説は初めてなので、慣れない部分もありますが、コツコツ更新していくのでよろしくお願いします。更新は週一か隔週を目安に行う予定です。


 俺こと、桃園裕太(とうえん ゆうた)はどこにでもいるような平凡な大学生だ。最近のマイブームはソシャゲのガチャなんかの結果をSNSに投稿すること。21世紀日本生まれの現代っ子にはありがちな趣味だと信じたい。今日も今日とて、俺は退屈な講義を横目に教室の片隅でスマートフォンの画面とにらめっこをする。代り映えのない毎日に嫌気が指す。講義が終わると、俺は真っ先に教室を出る。それが毎日のルーティーンだ。そうして、いつものように教室の扉を開け外に出ようとしたその刹那、突如として俺の視界は真っ白に染まった。

 

 不思議な光景だった。目に映る人や風景が急に歪んだと思ったら、一瞬のうちにホワイトアウトして気が付けば、辺り一面すべてが真っ白な世界に俺はいた。でもどういう訳か驚きや戸惑いの感情はない。何故か初めからこうなるのが分かっていたような不可思議な感覚、夢から醒めて現実に戻ったような感覚、これが今の俺の正直な感想だ。寸刻の後、俺の目の前に人間の女性を思わせる形の光が現れた。彼女のシルエットは人間そのものだ。しかし、その全身は青白い透明な光で形作られ、内部には血管や臓器を髣髴とさせる光の筋が浮かんでおり一目でただの人間ではないと思わされる。まるでサイバーパンクの世界から飛び出してきたような現実離れした見た目だ。ただ、なぜか俺は彼女を見て安心感を覚えた。形容するなら、そう自分の母親と話している時のような感情だ。初対面の人?に対してこうした感情を抱くのは初めてだ。俺の本能が彼女を理解している、そんな気さえしてしまう。

 

「あなたを待っていました。気が遠くなるほどの長い間。」

 

 彼女は、挨拶も済ませぬまま忽然と語り始めた。

 

「時間という概念など忘れるくらい。私にはまだ"希望"が残っていたのね。」

 

 俺は彼女の話がまるで分からず、顔を顰める。しかし、彼女はそんな俺の様子を意に介さずに話を続ける。

 

「絶望に包まれたこの世界にあなたという光が差し込むなんて。何も信じられずにいた私はこの運命に抗えなかった。」

 

 初対面で何も話が分からないにも関わらず、ここまで褒めちぎられるとついつい照れ臭くなってしまう。俺も案外単純な性分なのかもしれない。そんな俺の心情を知ってか知らずか、彼女はさらに続ける。

 

「私のところまで来て。すべてはあなたにかかってるの。世界を冒険し、様々な生物と触れ合い、力と技を磨いて。かつて私がそうしたように。さあ、真実にたどり着いて、私を見つけて。それができるのはあなたしかいない。」

 

 彼女の話はいまいち要領を得なかった。真実?それは俺がここにいるのと何か関係があるのか?私を見つけて?あなたは俺の目の前にいるのではないのか?彼女は俺に何を求めているのだろうか。分からない。ただ、俺は何となくではあるが、彼女の言うとおりに、正体を突きとめる事が重要であると思った。そのため、俺はこれらの疑問について彼女に問いかけようとしたが、何故か声を出せなかった。俺は消えゆく彼女の前でただ茫然と立ち尽くしていた。

 

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 不思議な夢を見ていた気がする。内容は全く覚えていないけど、何か俺にとって重要なことだったように感じる。まあ、考えても仕方のない事か。そういえば、さっきまで大学で講義を受けていたんだった。きっとその途中で寝落ちでもしたんだろう。俺はそう思って、目を開け、講堂の時計を確認しようとする。しかし、そこには時計どころか、いつもの大学の景色も学生や教授達の姿も見当たらなかった。代わりに俺の目に飛び込んで来たのは、一面の青い空と広い海、そして南国情緒漂うヤシの木だった。

 

「な、なんじゃこりゃーー!!」

 

 俺は柄にもなく大声で叫んでしまった。



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Version1.1:たき火を起こせ!

 謎の無人島に迷いこんだ裕太君は無事に生き残れるのでしょうか?それでは、彼のサバイバー生活一日目の様子をご覧ください。


「な、なんじゃこりゃーー!」

 

 俺は柄にもなく大声を出してしまった。多分俺は今人生で一番焦っている。ドッキリか何かなのか?いや、俺の友人にそんな質の悪い事をする奴はいない。ともすれば、誘拐か?でも、俺は寝落ちするまで大学の講堂にいたはずだし、第一、人が多い学内でそんなことを白昼堂々行えるだろうか。そもそも、俺の家は金持ちでもないし、やんごとなき身分の親類や知り合いもいない。だから、俺を誘拐するメリットなんてどこにもないはずだ。だが、こんな事を考えても仕様がないな。心を落ち着けて冷静にならなければならない。一先ず、ここがどこなのかを知ろう。そうすれば、戻る手立ても見つかるかもしれない。そう、きっとまだ焦るような時間じゃない。そうに違いない。俺は、淡い期待を胸にスマホを探す。そして、俺は自分の体の違和感に気付いた。

 

 まずはじめに、俺は服を着ていない。にもかかわらず、パンツだけご丁寧に用意されている。俺はこれに対して大きな憤りを感じる。どうせなら全身用意して欲しかった。ここまでの事をされたのだからその位望んでも罰は当たらないと思う。それはさておき、当然スマホも財布もなかった。俺は絶望した。これでは、今すぐにこの場所がどこなのか知ることは出来ないうえに連絡も取れない。それに、仮にここに人がいても交通手段を利用させてもらえない可能性が高い。尤も、俺の目に映る範囲では、ここは見渡す限りすべてが自然だ。さらに海に面しているということも加味するとここは無人島である可能性は非常に高い。つまり、俺は助けが来ない限り、ここで一生暮らさないといけないかも知れないという事だ。

 

 次の違和感は、俺の左手首に付けられた謎のひし形のブジェクトだ。完全に俺の体に埋め込まれているらしく、強く引っ張っても押しても外れる事はなかった。さらに、ひし形の真ん中あたりが赤く発光していて、気味の悪さをより引き上げている。ただ、幸いなことに左手に痛みは感じず、動作にも違和感はない。力もいつも通りに入るし、特段腕力や握力が落ちた様子もない。不幸中の幸いと考えて良いのだろうか。しかしなぜ、俺をここに連れてきた奴はこんな物を俺に植え付けた?奴隷を識別するために昔は焼き印や刺青が用いられていたという話を聞いたことがある。俺は、奴隷にでもなったというのか?現代日本でそんなことはあり得るのか?それに、本当に奴隷になったのなら体の自由も制限されるはずだし、そもそも一人の状態で放置されたりはしないだろう。いくら俺が考えても答えは出ないな。とりあえず俺は思考を整理して、ここを無人島と仮定して船舶や航空機が通過するのを待つことを決めた。そのためには、目印になる物が必要だ。それが無理であれば、近辺を探索して食料や水を探そう。生憎、俺はゲームやネットが趣味のオタクだったからサバイバル関連の知識は一切ない。早く誰かがこの近くを通ってくれるのを願うばかりだ。

 

 それから、俺はその辺に落ちていた長めの木の枝を使って浜辺に「SOS」の文字を書いた。最初にこれをやったのは、現状の俺ができる一番簡単なことであったからだ。ちなみに文字の大きさは、一つ当たり10[m]程だ。実際にやった結果、流石にこれだけでは見つけてもらえないことに気付いてしまった。夜になったら当然見えないし、何よ航空機が飛ぶ高度からこんな文字が見えるのかすら怪しい。それから俺は無い知識と記憶を総動員して考えた。ふと思い出した。昔見たテレビ番組で無人島に漂流した人たちのことが取り上げられていたことを。確かその人たちは、火を起こしてその煙で近くを航行していた船舶に気付いてもらえたらしい。正直、そこまで都合良くいくのか、半信半疑ではあるが、現状俺に思いつく手段はこの程度だ。藁にも縋る思いでやってみる他ない。

 

 早速俺は、近くに落ちていた乾いた流木と、ヤシの木の葉を拾って、火起こしを始めた。やり方が分からない俺は、取り敢えず多くの人が直ぐに思いつくであろう方法を用いた。木を地面に置いて、別の木の枝を押しあて、手で回転させる原始的な方法だ。まさか、現代の日本に住んでいてこんな原始人まがいのことをするとは想像もしなかった。本当に何が起こるか分からない物である。

 

「疲れた」

 

 俺は情けなくそう言うと、近くにあった岩に倒れるように寄りかかった。あれから三時間ほど全力で粘ったが、煙の一つも出なかった。掌は長時間木と擦れていたせいか、所々に切り傷が出来ていて尋常でないほどに痛い。それに、長時間握力を酷使したせいで、手が小刻みに震えている。さらに追い打ちをかけるように、陽光の下作業していた俺の全身は汗だくになっていた。これは普段から運動不足の俺にとってこの作業はかなりの重労働だった。活動を止めた途端に俺は言い知れぬ不安を感じ始めた。族にまた会えるのだろうか。親友は心配しているのだろうか。大学にはいつ戻れるのだろうか。俺はこのまま死ぬのではないか。考える程に、ネガティブな感情が湧き上がってくる。

 

 しばらく途方に暮れてから、ふと空を見上げた。20[m]程先だろうか。ひし形で、人の背丈の倍はある白い光を放つ物体が落ちきている。人間追いつめられると自分に都合よく考えるもので、俺は「ついに救助が来た!」、「誰かがあの文字を見てくれたんだ!」と狂喜乱舞した。俺は全速力でその光る物体の所まで駆ける。きっとあれは、救助用の乗り物に違いない、疲弊した俺の頭はそう信じて疑わなかった。物体に到着した俺は、入口を探す。しかし、それらしきものは一向に見つからない。乗り物を満遍なくさわって、何かのスイッチやセンサーにあたるような部分がないか調べてみるが、やはり見つからない。俺は千載一遇のチャンスを目前にしてただ立ち尽くすことしか出来なかった。諦めかけたその時、俺の左腕のひし形が目の前の物体と同じ色の光を帯びた。ついに俺は助かるかもしれない!それが現実味を帯び、俺は天にも昇る気持ちになった。しかしそれ束の間、その光はすぐに消えた。それと同時に目の前の物体は電子音のような、ガラスが割れるような音を放って霧散した。次の瞬間、俺の手に二つの赤い石が乗っていた。俺は落胆した。失望した。怒り狂った。赤い石を砂浜に叩きつける。俺が一体何をした?ただ俺は帰って普通の生活をしたいだけなのに。無人島に飛ばされた対価が石一つなのか?人の命を何だと思っているんだ?やり場のない感情が次々に湧き出した。

 

 あれからの記憶はほとんど残ってない。俺は気が付いたらひし形の物体が降りてくるまで休憩していた岩にあの二つの石を持って倒れ掛かっていた。一面の青空はもう赤みを帯びていた。間もなく夜になる。夜の間は、様々な面で火が必要なのは、サバイバル知識が皆無の俺でも流石に知っている。食料も探さなければいけないだろう。頭では理解しているが、俺の身体はそれに追いつかない。俺は無気力にいじけるようにして、さっきの石どうしを擦り合わせて遊んでいた。まるで、先生に怒られた後の小学生のような哀愁を漂わせて。俺はきっとここで死ぬんだろう。もう何もかもがどうでも良くなった。今晩の火や飯のことも、帰る方法のことさえも。

 

 「熱っ!」

 自暴自棄になっていた俺は腹部に感じた熱さで我に返った。何か熱を帯びた小さな物体が自分の体に当たったように感じた。辺りを見渡してみるが、変わったものは特にない。ふと、自らの手に意識を向けると、さっきの石が熱くなっていることが分かる。俺は試しに、もう一度思い切り石どうしを擦り合わせてみる。俺は目を見張った。火の粉が、飛んだのだ。それからはもう、無我夢中だった。俺は一目散に走りだし、近辺で木の枝や枯れ葉、草などをかき集め、乱雑にまとめた。まとめられた草木に向かって、火の粉を飛ばした。何度かやっていると、火は燃え広がり拳ほどの大きさにまでなっていた。俺はここからどうすれば良いか分からず、とにかく拾ってきた木の枝などを放り込んでいた。

 

 辺りは夜の暗闇に染まっていた。俺は焚き火の前に座っていた。何とか日が落ちるまでに火を起こすことができた。その安堵感からか、俺の心は先程よりかは軽くなった。食料こそ確保できなかったが、火はこうしてある。俺は今途轍もなく空腹だが、一晩程度なら命にはかかわらないだろう。火さえあれば、この島の近くを通る船舶に気付いてもらえるかもしれない。こうして掴んだ生還の可能性によって、つい数時間前まで俺の心を蝕んでいた感情は嘘のように消え去った。きっと明日も何とかなる。そんな希望を胸に俺は瞼を閉じ、少しの眠りに就くのだった。




 何とかサバイバー生活一日目を終えた裕太君ですが、明日は無事に生き残れるのでしょうか?次回も楽しみにお待ちください。次回は遂にモンハンのモンスターも登場します。


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Version1.2:飛甲虫たちの饗宴

 今回は遂にモンハンのモンスターが登場します!裕太君は無事に生き残れるのでしょうか?!それでは本編どうぞ!


 俺は飛び起きた。虫の羽音のような音が聞こえたのだ。それもかなりの大音量で。無人島だから多少は覚悟していたが、人が寝ている時に近づいてくるのは勘弁して頂きたい。大方、ハエや蚊なんかが集って来ているんだろうと、この時の俺はまだ楽観的に考えていた。また羽音がした。今は恐らくまだ深夜で辺り真っ暗だが、幸いなことに焚き火の火は健在だ。周りの虫を叩き潰すくらいの視界は確保できているはずだ。そうして、俺は羽音のした方へと振り返る。もう既に取り返しのつかない事態が起こっているとは知らずに。叫び声すら出なかった。俺の身体頭から足先に至るまで須らく硬直してしまっている。音の主の姿は俺がこれまで目にしてきた存在の中で最も嫌悪感を催し、なおかつ恐ろしい物であった。これを見た後にはホラー映画の怪物でさえゆるキャラ同然に見えると言っても過言では無い。そう思えるほど奴の外見は常軌を逸している。

 

 

 そのシルエットは、蜂やアブなどを思い起こさせるものだった。それだけならまだ良い。問題はその大きさだ。奴の体高は目測で凡そ90[cm]はある。大体幼稚園児の身長と同じくらいだ。俺自身はあまり昆虫とかには詳しくないが、流石にこれほどのサイズの種類がいるなんて聞いたことがない。正しく化け物だ。そんな化け物が悠然と空を飛んでいる。それだけでも恐ろしいことこの上ないのに、奴の身体は細部まで人間の恐怖心を刺激する造形をしている。胸部は鮮やかな赤色で、さらには肥大化しており三日月形だ。頭部と一体化しているようにも見え、それはまるで、映画に出てくるエイリアンのような不気味な雰囲気を醸し出している。尻尾は特に大きく、全身の三分の一を占めている。しかも、尻尾には長さ10[cm]、太さは5[cm]はあろう大きな毒針を拵えている。それらに加え、背中に生えた二対のステンドグラスのような美しい模様をした羽が奴の見た目のアンバランスさをより強調している。

 

 

 俺はそんな化け物を目前にして地面に崩れ落ちていた。脚が言う事を聞かない。俺の脚は、「生まれたての小鹿」という表現が生温く思える程に震えている。腕も肩から指先まで脚と同じくらい震えていて地面に手を突くことも、石を拾う事すらも出来ない。顔からは、汗、涙、鼻水、涎、あらゆる汁が噴き出している。表情筋も動かせず、瞬きも、口を閉じる事も出来ない。史上最も無様な面を晒している。こちらが抵抗できないと見ると、様子を窺うようにしてサテライト飛行をしていた奴は、俺に向かってゆっくりと飛び始める。それは、まるで勝利を確信したかの様に悠々としていた。俺は、声にならない嗚咽をしながら、震える身体に鞭を打ちなんとか這いずってその場から動こうとする。だが、それでは当然奴を振り切れるはずもなく、羽音は俺のすぐ後ろまで迫っていた。そして次の瞬間、俺は背中にこれまで経験したことの無いほどの激痛を感じた。背中に何か太く鋭利な物が突き刺された痛み。俺は奴の毒針が刺さったのだと理解した。その刹那、俺は全身に電流を流されたかのような酷い痺れを感じた。意識は鮮明なのに、体を動かすことは一切できない。俺の生殺与奪は奴の掌の上なんだ。俺はこれから訪れるであろう自身の結末に恐怖し、絶望する。走馬灯って本当に流れるものなんだなと感心しながら、俺は自分の生涯を振り返る。俺はごく普通の一般家庭に生まれた。裕福でも貧乏でもなく、暮らしぶりは平均的なものだった。でも、両親や兄弟とは仲が良く、少ないながらも信頼できる親友がいて、趣味のソシャゲにも没頭できていた。何の捻りも無い、普通の人生だった。でも今ではそれが一番幸せだったって思える。最後に家族や親友の顔を一目でも見たかった。父さん、母さん先立つ不孝をどうか許してください。走馬灯が切れた瞬間に俺の眼前に広がっていたのは、俺の身体に群がる奴の群れだった。どうやらあいつは一匹で来た訳ではないらしい。気が付けば、腹部から腿部にかけてを奴らに貪られている。肉を切られる激痛が何度も全身を駆け巡るが、麻痺毒によって動きを封じられた俺はただ見ていることしか出来ない。少し他の奴よりも大きな個体が胸部めがけて毒針を注入してきた。激痛と同時に何か固形物が体内に侵入するような感覚がした。それから間髪入れずに、体内が焼ける様な痛みがした。俺はその痛みに耐えられずに意識を手放した。

 

 

 

 

You were killed by a Bnahabra.

 




 ブナハブラは、虫ではありますが、火に集まる習性があります。MH3~MH4Gにかけて登場したアイテムである「たいまつ」を使うとゲーム中でもその様子を確認できます。当時のROMを持っている方は是非試してみててください!さらに彼らは卵と酸性の液体を他の生物に注入することで、死体の腐敗を促進させつつ卵を孵化させるというリーパーもびっくりな生態を持っています。つまり、裕太君に侵入した固形物は…

 さて、裕太君は死んでしまいましたが、この物語はどうなるのでしょうか?!また次回をお楽しみにお待ちください!


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Version2.0:対面

 初めてのリスポーンを経験した裕太君。彼は何を考え、行動するのでしょうか?それでは、本編スタート!


---「ハッ!」

 

 俺は意識を取り戻す。恐ろしい夢を見た。巨大な化け物のような昆虫の群れに貪られ、殺される夢だった。俺は寝ている時の夢を覚えている体質ではない。にもかかわらず、あの夢のことは鮮明に覚えている。あの虫と遭遇したときの恐怖も、毒で痺れた時の無力感も、肉を食い千切られる痛みすらもだ。本当にあれは夢だったのだろうか?夢にしては記憶が鮮明だし、何より現実感があり過ぎる気がする。俺は自分の身体を隅々まで見渡し、触ってみる。傷一つない見事なパンツ一丁だ。おまけに、左腕のひし形も健在だ。この島に来た時の俺と何一つ変わりない。体を食い千切られた痕も無ければ、毒針が刺さった場所にもそれらしき痕跡は無い。やはり、俺の考え過ぎなのだろうか。だが、俺が目覚めた場所が昨日たき火をした場所ではなく、そこから数百メートルほど離れた、俺がこの島で最初に降り立った場所だったことにも疑問が残る。寝ている間に誰かが運んだのか?いや、だとしてもそんな事をするメリットなんてないはずだ。そもそもここに俺以外の人間がいるのかすら怪しい。ともあれ、非常に不気味ではあるが、これについてばかり考えている訳にもいかない。この島に来てから何も食べていないし、火の様子だって気になる。日が高い内に食料探しや周囲の探索なんかも済ませなければいけない。やるべきことは山ほどある。とりあえずは、歩いてたき火の所まで戻るとしよう。

 

 

 少し歩くと焚き火が見えてきた。間違いなく、昨日俺が作ったたき火で一安心だ。ただ、昨日とは少し異なるその場の雰囲気に違和感を感じる。たき火に近づくにつれ、何かが腐ったような強烈な臭いが鼻に突き刺さるのだ。それだけでなく、たき火のすぐそばで誰か人が横たわっている。俺は鼻を摘まんで、なるべく息を吸わないようにしつつ、恐る恐る近づいてみる。

 

 「うわっっあぁぁぁ!!」

 

 

 俺は眼下の惨状に思わず目を背けてしまう。あまりに凄惨な光景に眩暈がし、喉元から込み上げてくるのを感じる。その、人だったものは、酷く全身を食い荒らされていた。首元から脹脛に至るまで何箇所も肉が食い千切られたような痕があり、血が滲んで紫がかっている。さらに、背中には何か太く鋭利な物で刺されたような痕があり、傷口周辺は特に酷く腐敗が進んでいる。俺は耐えられずにその場を離れようとする。しかし、なぜか身体が動かないのだ。何か俺の中の直感のようなものが向き合えと語りかけてくるような気がしてならなかった。それからしばらくの間、俺はそれを視界に入れないため、天を仰ぎながらその場で佇んでいた。この時の俺は、左腕のオブジェクトが眩い光を放っていることに気が付けなった。

 

 

 俺は意を決して、その遺体にもう一度目をやる。その中でも、最も損傷が酷いであろう胸部が目に入ってきた。背中と同じように、刺されたような穴が開いている。腐敗によるものか、液状化している箇所もあり、グロテスクという表現では語りつくせない程に強烈な視覚的不快感を与えてくる。そして直後に、胸に空いた穴からシロアリの卵のような気色の悪い、粒状の物体があふれ出しているのを見つけた。その瞬間、先程から無理やりせき止めていた堤防がはち切れる。俺はその場にうずくまり、嘔吐した。

 

 

 それからしばらく吐き続けた。それが収まるころには、すっかり鼻もこの異臭に慣れて始めていた。そんな俺の目に、遺体の男性の顔が映った。彼の頭部は、食い荒らされておらず、原型をしっかりと留めていた。そして、俺は最悪の事実に気付いてしまっていた。その顔はとても俺にそっくりだった。いや、そっくりなんかじゃない。俺、そのものだったんだ。何度も、何度も、何度も、何度も見返した。その度に、残酷な事実が俺に突き付けられ続ける。昨晩の明晰夢と目の前に転がっている俺の死体、状況があまりにも合致し過ぎている。それは、あの夢が実際に起こった出来事であったことを俺に認識させるには十分であった。昨夜俺はあの化け物昆虫に襲われて死んだんだ!あれは夢なんかじゃなかった。それなら、今ここにいる俺は一体何なんだ?それが頭をよぎった瞬間、さっきまで硬直していた俺の身体は、まるでエンジンが点火したかのように脈動し、俺は一目散にその場から走り去った。恐らく、これまで人生の中で最も大きな速度を伴って。今の俺はあの化け物昆虫から逃げた訳ではない。ましてや、不快な異臭やグロテスクな死体からでもない。俺はもっと悍ましい、真実から逃げたかったのだ。

 

 

 あれから、俺は周囲のことなど一切目に入らない程に夢中で野を駆けた。この島に逃げ場はない。きっと死んでもまた目が覚めるんだ。それに、この島には化け物がいる。これは夢でも幻でもない。きっと俺はこれから何度も殺される。そして、その度に目覚めるんだ。そんな言いようのない絶望感が頭の中を支配する。それはもはや、檻だ。俺は、二度と出られない檻に囚われてしまったんだ。もう死にたくない。もうあんな痛みを味わいたくない。俺はその事実を認められないまま、野を駆け巡り続けた。それから、どれほどの時間が経過したのだろうか。気付けば知らない森の中にいた。俺は衝動に任せて行動したことを本当に後悔した。

 

「ギィギィーギャァーウ」

 

 息も絶え絶えな俺に追い打ちをかけるように、明らかに獣の類と判断できる鳴き声が飛び込んで来た。

 

 




 


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Version2.1:狡猾なる森のならず者

前回は不穏な雰囲気の中終わりましたが、裕太君は生き残ることができるのでしょうか?それでは本編スタート!!


 「はぁはぁはぁ、ここはどこなんだ」

 

 疲れからか我に返った俺は、辺りの景色がさっきまでの海岸から鬱蒼とした森の中に変わっていることに気付く。あんな状況だったので、仕方のないことではあるのだが、周囲への注意を怠った過去の自分を恨む。今俺が向いている方向と反対の向きに進めば、森から出られるのだろうか?早く出ないと不味い。何せ、この島には化け物がいるんだ。他にもああいった奴がいないとも限らない。とにかく、もうあんな目に遭うのは御免だ。悩むのはここを出てからでも遅くはない。そうして、俺は踵を返そうとした。その時だった。

 

 「ギィギィーギャァーウ」

 

 甲高く、野太い声が辺りに響き渡る。声の主が何なのかは俺にはわからないが、とにかく危険なケダモノのそれであることは直感的に理解できた。俺は咄嗟に近くにあった茂みの中で丸まり、身を隠す。幸いまだ音の発生源はここから距離があるのか、声の主らしき動物の姿は見えない。一先ず、俺は胸を撫で下ろす。このまま何事もなく事態が過ぎ去って欲しい。俺は淡い期待を胸に息を潜め続ける。しかし、そんな俺の心情を踏み躙るようにして、その獣達は現れた。俺は奴らの容貌に戦慄した。なぜなら、声の主、ケダモノは子供の頃に図鑑で見た肉食恐竜に酷似した見た目をしていたからだ。体の長さは5 [m]程だろうか。体の高さに関しては2 [m]程はありそうだ。フォルムこそ細身で全体的にシャープな印象を受けるが、その大きさからか、身を縮めて視点が低い現状ではかなりの威圧感がある。体色は青色を基調としつつ、背中から後脚の付け根、尻尾に至るまで黒いラインが通っている。その所為か、この森の中では身奴らの体の輪郭はややぼやけて見え、こちらとの正確な距離感を測り辛くしているようにも感じる。奴らが森の茂みに隠れていたりしたら、きっと俺は見つけられなかっただろう。それ位奴らの外見はこの森とマッチしている。体表は鱗に覆われ、如何にも爬虫類然とした印象を受け、より本能的な恐怖心を煽られる。そして、さらに恐ろしいのは、前後の脚から生えた鋭利な鉤爪だ。後ろの方は、スパンが20 [cm]程で半円状の曲率が付いており、先端はアイスピックのように尖っている。前肢の鉤爪は、六本生えていてそれらが熊手のような広がり方をしており、その形状は一目で獲物を切り裂くことに特化したものだと気づかされる。また、頭からはオレンジ色の小さな鶏冠が生え、口部は黄色の嘴のように見えるが、そこからは鋭利な歯が上下に覗いている。昨日の虫とはまた異なる畏怖の感情に支配される。昨日のあの虫が俺にとって「ホラー」な存在だとすれば、今のこいつらさしずめ「フィアー」といったところだろう。

 

 

 奴らは、三頭で群れを形成している。三頭は放射状に並び、身体の重心を低くし、頭を突き出して獲物を探すような姿勢を取っている。恐らく、臭いとかで俺の存在には気づいているのだろう。本当に見つかるのは時間の問題かも知れない。奴らの中の一匹が俺がいる方角を向いてキョロキョロと広範囲を見渡すような動きをしている。そいつはほんの一瞬だけ俺が隠れている茂みの方を見た。奴らが来てから、体中から変な汗が止めどなく流れ出ている。それに加え、奴の視線を感じた瞬間に、股下から温かいものが漏れ出した。奴らの一挙手一投足そのすべてが怖い。音を出したら終わる。少しでも体を動かしたら終わる。俺の本能が警鐘を鳴らしている。かつてない程の緊張感に俺はもう目を開けることすら出来なかった。カタカタと爪を鳴らす音が聞こえる。目を閉じていると周囲の音にいつも以上に敏感になってしまう。奴らの息遣いが先程までよりもさらに鮮明に聞こえる。思わず背筋が震えあがってしまう。比喩でもなんでもなく、本当に背中にゾワゾワと嫌な感覚が流れるのだ。「早くどっかに行ってくれ」と、俺は心の中で何回も何回も懇願する。

 

 

 どれくらいの時間が経ったのかなんて今の俺には分からない。今の俺にはこの微小な時間がどんな一時間よりも長く感じるだろう。この永遠にも思える静寂に終止符を打ったのは、意外にも奴らだった。群れの中の一頭が急に、「ゴォゴォゴォ」と大きな鳴き声を上げたのだ。その瞬間、俺は死を悟った。今度は一思いに一撃で終わらせてほしい。俺を喰らうのはせめてその後にしてくれ。俺は昨夜の出来事を思い浮かべながら、せめてもの願い事をした。だが、奴らの取った行動は俺が思ったものとは正反対だった。奴らの声は、そそくさと森の奥の方向、すなわち俺の進みたい方向とは真逆の方向へ向かっていったのだ。それを知って、俺はようやく重い瞼を上げることができた。それから、俺はすぐさま走り出した。まだ震える脚で蛇行するその様は、酔っ払いの千鳥足と比べても寸分の違いはないだろう。ともあれ、俺は生き延びたんだ!あの危機的な状況から!俺はその喜びに打ち震えていた。しかし、それは儚い幻であったこと知るのにはそう時間を要さなかった。

 

 

 やっとの思いで、200 [m]ほど進んだ所でだろうか、俺の行く手に先程の恐竜と同じ種類と思われる個体が二匹現れ、俺の退路を塞いできたのだ。俺はすぐに方向転換をし、反対方向に向きなおろうとする。そんな俺が目にしたのは、正に絶望ともいうべき光景であった。先程遭遇した三匹の恐竜がこちらに向かって走って来ていたのだ。ああ、俺は助かったんじゃない。ただ奴らの狡猾な策によって掌の上で踊っていただけだったのだ。それを察した時にはもう遅い。向かてきた個体の中の一匹が人間の身長を悠に超える高さまで飛び上がり、気付いた時には俺の上にのしかかり、俺を組み敷いたのだ。

 

 奴は後ろ脚の鉤爪を俺の腹部に向かって突き刺してきた。三本の鉤爪が俺の皮膚をまるで豆腐に箸を刺すように、いとも簡単に貫いた。俺は、「ガハッ!」と断末魔のような声を上げる。傷口からは赤い血が止めどなく溢れている。昨日化け物昆虫に襲われた時は、夜間だったので流れる血の様子は見えなかった。しかし今は、真昼間だ。否が応でも自分の命が体外に虚しく流れ出る様を見なければならないのだ。赤い池が地面に広がるのを見る程に、痛みが増していくような感覚がする。身体から徐々に力が抜けていくのが分かる。昨晩のように一瞬のうちに動けなくなるのも辛かったが、こうやって少しずつ身体の自由が奪われていくのも中々に苦しいものだ。そして、奴は獲物が衰弱したのを確認すると、俺の腹から爪を引き抜く。最後に、奴は黄みがかった瞳を大きく見開き、鋸のような鋭利で硬い牙で俺の喉笛を嚙み千切った。こうして、一瞬の激痛と供に俺の意識は途絶えたのだった。

 

 

You were killed by a Velociprey.

 

 




 今回裕太君を襲撃したモンスターはランポスでした!初代モンスターハンターから登場している由緒正しき序盤の敵です。後輩のジャギィやジャグラスと違って日本語名と英語名が異なっているので分かり辛かったかもしれませんね。この作品での立ち位置はARKで言うユタラプトルとディロフォサウルスの中間ぐらいの初心者キラーかなと思っています。ちなみに、3話目で登場したブナハブラはティタノミルマ・ソルジャーの位置かなと思っています(笑)

 さて、前途多難な裕太君のサバイバルはどうなっていくのか!?次回も見守っていただけると幸いです。次回も楽しみにお待ちください!


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Version3.0:初めての食事

 1話目からずっと暗い感じの回が続いていたので、お口直しに少し明るい回にしました。裕太君は何を食べるのかな?それでは本編スタート!


 案の定と言うべきか、俺はいつもの海岸で目を覚ました。どうやら俺の推測は間違っていなかったらしい。やはり、間違いなく俺は死んで、生き返ってを繰り返したのだろう。しかも死ぬ度に肉体は交換されていると来た。これから俺は本当に人として在れるのだろうか?俺は蘇生できた事を素直に喜べない。むしろ、あるのは俺という存在が揺らぐ事への恐れのみだった。

 

 

 あまりにも現実離れし過ぎた現象の数々に心が押し潰されそうになる。もし仮にここから戻れたとしても、ここであった出来事は誰も信じてはくれないだろう。俺は物語の世界に迷い込んだとでも言うのか?あまりにも荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい考えだが、あの生物たちを見た後には完全に否定する事は難しい。どうせ迷い込むなら、中世ファンタジー風な異世界とかが良かった。大体、こういうのは、迷い込んだ側はお客様待遇で、何処から湧いて出たのか分からない謎の魔法とかスキルとかが使える様になるのがお約束なはずだろう。だがそんな自分にだけ都合の良い事が一切無いあたり、やはり現実は、自然は常に厳しいものなのだろう。ああ、こんな無駄な事ばかりを考えている暇はないのに。そんな事ばかりが思い浮かぶのは俺の頭がパンクしきっている証左だろう。はっきり言って、もう疲れた。これが悪い夢じゃないのは流石にもう分かる。この島の怪物・怪獣達は紛れもなく「現実」に存在しているんだ。今自分が置かれている状況に俺は頭を抱えてしまう。これから俺はどう生きればいいんだ?

 

 「グウゥゥゥー」

 

 

 鳥たちのさえずりを掻き消す様にしてその音は鳴り響く。こんな時でも腹の虫だけは元気のようだ。思えば俺はこの島に来てから何も口にしていない。肉体は何度か入れ替わっているからそちらに関してはそれほど飢餓感は感じないが、心理的には何でも良いから口に入れたいという気持ちが強い。記憶は連続している様なので、もしかすると俺の脳は、飢えていると判断したのかも知れない。取り敢えずは、近くで何か食べられそうな物を探そう。俺は一先ずの目標を定め、気を引き締める。

 

 

 俺は食料を探しに行く前に、たき火の元へ戻った。擦ると火が出るあの赤い石を回収するためだ。幸いあの虫は近くにはいない。しかし、その場所にたどり着いた時、あるべきはずの物が無いことに気が付いた。「最初の俺」の死体が消えていたのだ。察しの悪い俺でも理解できる。何者かが「処理」したのだろう。肉を喰らう生物があの青い恐竜だけとは限らない。あいつかも知れないし、まだ見ぬ怪物の仕業かも知れない。俺は周辺を警戒しつつ、赤い石だけを拾い、すぐにその場から立ち去った。

 

 最初の海岸付近に戻った俺は、そこで何か食料になりそうな物を求めて辺りを見渡してみる。一見しただけでは、特にそれらしき物は見当たらない。ただ、それでも島の奥に潜るような真似は避けたい。また、あの青い恐竜に遭遇する可能性が高いからな。俺はどうしようもなくなり、しばし逡巡する。強いてこの辺りで何かありそうな場所と言えば、近くのヤシの木の周りにある茂みぐらいだ。あまり腹が膨れそうな物があるとは思えないが、調べる価値はいくらかあるだろう。見た所、複数の種類の植物があるようなので、レパートリーに富んでくれていると嬉しいのだが。俺は茂みの外側から順に調べていく。俺は中腰になり、身を乗り出して植物に顔を近づけ、何か無いかを入念に観察する。そして、俺は黒い果実が群生しているのを発見した。色こそ黒いが、ブルーベリーの様な形の果実だった。俺はそれを一粒だけ摘み取り、顔に近付ける。俺は待ちきれずついに口に放り込もうとした、その時だった。その果実から薬品を彷彿とさせる匂いが漂ってきたのだ。俺は文系なので、そういった物には疎いのだが、昔歯医者で嗅いだような匂いがして思わず手を止めてしまったのだ。これは本当に食べても大丈夫なのか?そんな迷いが俺の中で生じた。昔、飲食店のコマーシャルで耳にした、「迷ったら食ってみろ!」というキャッチコピーが俺の頭を過った。やはり空腹には勝てず、俺はままよと思い、再び口に運ぼうとする。しかし寸での所で思いとどまる。この島の動物は俺が見た中では危険物揃いだ。本当に植物もその限りでないと言えるのか?そんな思考が俺の中で芽生えたのだ。第一、俺が青の恐竜に殺されたのも不用意な行動によるものだったではないか。流石に、二回も死を経験したら俺も疑心暗鬼に、というか用心深くなる。やはり、疑わしきは何とやらで、ここは慎重な行動を選択すべきだ。そうして、俺は黒い果実を捨て、別の茂みを漁り始めたのだった。

 

 

 その後も、別の茂みを探し続けた俺は、今度は赤いサクランボの様な形をした果実の集合を見つけた。それは、よく見るサクランボより一回り程大粒で一つの柄から三個から四個の実が伸びている。形は少し潰れた様な楕円形で歪ではあるものの、その赤色は俺の食欲を刺激するのには十分過ぎる程鮮やかで、魅惑的だった。俺は実が三個付いている柄を一つ千切った。一応、匂いを嗅いでみる。先程の黒い果実の様な変な臭いはしない。代わりに、ほんのりと甘酸っぱい匂いが鼻孔を擽った。ゴクリ、と俺は息を飲む。そして、俺は震える手で一つ果実を口に突っ込んだ。

 

「ーーッッーー」

 

 次の瞬間、ほんのりとした酸味を伴った甘い果汁が俺の口一杯に広がった。雲一つない青空が、この絶妙な酸味を引き立たせ、夏の海水浴場のように透明度に満ちた清涼感を生み出す。それから、俺は二回、三回と果実を噛んでいた。その度に甘い汁が喉奥まで広がり、乾いた喉に束の間の安息をもたらす。気付けば、口の中の実は、種に変わり果てていた。俺は種を吐き出す。すかさず俺は二つ目の果実を放り込む。今度の果実は一つ目のよりも酸味が強かった。これはこれで良い。甘さで緩み切った俺の口内が強い酸味によって再び引き締まっていくのを感じる。俺は耳の下が痛むのを堪えながら、過剰に分泌された唾液を飲み込む。俺はしばし下顎に未だ残る余韻に浸った後、最後の一つの実を丁寧に柄から外した。そして、それをゆっくりと口の中に運ぶ。この実は、三つの中で最も甘かった。引き締まっていた口内はまた先程のようにだらしない状態へと戻る。思わず、笑みがこぼれた。三味一体とは正にこの事を指すと言っても過言では無いだろう。俺の疲れた心身に染み渡るこの果実はまるで佐吉が差し出した三杯の茶のようだった。少しだけ、いつも資料からしか垣間見えなかった雲の上の先人の感動を理解出来た気がした。それからは、もう夢中で俺は赤い実を何度も取っては、食べ続けた。俺はこの島に来てから初めて満ち足りた感情になれたんだ。この一瞬だけ、俺は色々な事を忘れられた。この島で見た化け物のことも、俺が死んだことも、「今の俺」という存在への不安すらも。ああ、この瞬間が永遠に続いてくれたら良いのにな。




 食レポシーンは結構長い時間考えた割に自信が無いのですが、いかがだったでしょうか?補足になりますが、今回裕太君が食べたのはARKの「ティントベリー」というアイテムです。「メディカルブリュー」という回復薬の原料になるかなり後々重要になりそうなアイテムです。ちなみに、捨てた黒い方は「ナルコベリー」といって、食べると昏睡するヤバイやつです。ARKの数ある初見殺し要素の中でもかなり質が悪いなと個人的には思います(笑)そんな初見殺しを躱した裕太君はきっと成長しているのでしょう。

 次回は今週の木曜日か金曜日あたりに投稿しようと思います。少々お待たせしますが、どうか次回もお楽しみに!


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Version3.1:導き★

今回はARKの「エングラム」に関する独自解釈を多く含んでいます。ご覧の際にはご注意ください。それでは本編スタート!


 食事を終え、少しの時間が経過した。俺はあの多幸感から一気に現実に引き戻される。俺はこれからどうするのかを思案する。今はまだ、陽が東から南に昇ろうとする時間帯だ。だが、夜は必ず訪れる。正直に言って、夜は怖い。あの巨大昆虫に襲われる光景がどうしてもフラッシュバックするのだ。いくら死んでも蘇るからと言って、自分の命を軽視して良い理由にはならない。俺はそこまで肝が据わっている訳でも、確固たる覚悟がある訳でも、倫理観を失っている訳でもない。何処にでもいる普通の人なんだ。物語の主人公なんかではないんだ。だから、痛い事も死ぬ事も辛いし、とても怖い。出来ることなら二度とあんな危険生物なんかとは出会いたくなどない。しかしながら、ここ島においてそれが不可能なのは残念ながらもう十分に理解してしまっている。青い恐竜に関しては俺が森に近付かないようにすれば極力出会わずに済むだろう。問題は、あの巨大昆虫だ。あいつらは一見平穏に思えるこの海岸にも出没する。あいつらの生態など知る由もないが、あの時の状況から考えて、火を焚くとまた寄って来る可能性が高い。かといって、夜間に火を使わず明かすという選択肢もあり得ない。火がサバイバルにおいて重要な役割を果たすのは俺でも知っていた。実際に俺は一晩この島で暮らしてみてそれを痛感した。南の島っぽいこの場所は昼間は相応に気温が高いが、夜間は意外と冷え込む。特に着衣がパンツ一丁のみの現状では火の助けなしに夜を明かすのは体温の確保という面で非常に厳しいと言える。加えて、夜間に視界が確保できないのも保安上、また精神衛生上よろしくない。理想的には火を起こさなくとも、身の安全や体温を担保できる手段があれば良い。だが、飽くまで現実的な手段でそれを実現できるものは存在しない。唯一俺の無い頭で考えつくのは家を作るという手段だ。家を作れば、雨風に晒されることはないし、日が無くてもある程度は体温を確保する事も出来る。それに、あの虫が来ても壁と屋根があれば、隠れてやり過ごす事だってできるかも知れない。正に現状取れる最善の手立てと言える。しかし、そこで俺に大きな障壁が立ちはだかる。何をすれば良いか、どこから手を出せばよいか分からないのだ。俺にDIYの趣味はない。俺に出来るのはソシャゲと、古文書を解読して史実をまとめる事ぐらいだ。俺は数年前の自分の選択を恨む。こんな極限環境下では歴史学など何の役にも立たないではないか。こんな事になるなら、親友と同じように、もっと実学的な専攻にするべきだった。それならある程度この状況への対処も出来たのだろうか。そんな事を考えても後の祭りだ。まずは、現状の課題を何とかしなければ。

 

 ずっとウジウジと考えていても仕方がない。取り敢えずは、海岸の近辺を回って家の材料に出来そうな物でも探そう。そう思って立ち上がった瞬間だった。俺の左手のひし形が突如点滅し始めたかと思うと、眩い青い光を放ったのだ。

 

 これは視覚情報ではない。そう、「イメージ」だ。俺の頭の中に「イメージ」が思い浮かんでいるんだ。頭に浮かんだのは、「石のピッケル」だった。それは恐らく打製石器と考えられる石錐を木製の柄にひもで括り付けた、いかにも原始的な道具だった。気が付いた時には俺は海岸のヤシの木の前に立っていた。俺はこれから何をすれば良いのか分かる。これもあの光によるものなのだろうか。俺は躊躇いなく眼前の木を拳で思い切り殴った。殴り続けた。一発殴ったところでは、木はビクともしない。それでも俺は殴り続ける。手の甲は擦り剥け、出血し始めている。それでも俺は拳を止めない。俺の本能が手を止めてはならないと告げている様な気がしたからだ。身体も理解しているのか、へこたれる事無く俺の意思に従ってくれている。ついに期の表面はひび割れ、表皮を剥がすことに成功した。俺は高揚した。この木は変わっていた。表皮と木部の間に普通はあるはずの無い部位が存在していたのだ。表皮の中から姿を現したのは、なんと藁の様な外見と触感をした繊維質の「ひも」だったのだ。俺は思わず胸が熱くなる。俺は求めていたものを見つけることが出来たのだ!俺は勢いそのままに、手の痛みなど忘れてあらかじめ拾っておいた太めの木の枝と先の尖った石を藁で括り付けた。そして、ついに「石のピッケル」が完成したのだ。俺でも道具を作れた事に目頭が熱を帯びた。心なしか、少しだけサバイバルに対して自信を持てるようになった気がする。

 

 更なる「イメージ」が俺の頭に現れた。今度は「石の斧」だった。俺はその声に従って、ピッケルで岩の一部を砕いた。砕けた欠片の中には初日に拾って世話になった赤い石と同じ物があった。俺はそれを先程と同じ要領で藁をひも代わりにして木の枝と結びつけた。俺は難なく「石の斧」を完成させることが出来た。俺はすぐさまそれを持って先程殴りつけた木へ向かった。あの程度の太さの木であれば、もしかするとこれで伐採出来るかも知れないと思ったからだ。俺は木の表皮が剥がれた部分に思い切り斧を突き立てる。2 [cm]ほど入っていった。俺は繰り返し、木にできた傷に向かって斧を振る。本当にこれが正しい方法なのか何て分からない。それでも俺はただひたすらに繰り返した。そして木は倒れた。その瞬間俺は、顔中を流れる大量の汗など気にも留めず、斧を天に掲げ雄たけびを上げたのだった。

 

 

 陽は傾き辺りが夕焼けに染まる頃、俺は自らの城で限界を迎え横になっていた。ただ、城と言っても、一マスの正方形の小屋にドアが付いただけの、サバイバルクラフトゲームの用語を借りるなら、「豆腐建築」そのものだ。それに、材質は藁製という文字通り吹けば飛ぶような粗末な代物だ。だが、それでも俺は一つやり遂げたんだと胸を張って言える。サバイバルやDIYの知識が皆無の俺でもたった一日で家を作れたんだ!これで、今日はあの虫に臆することなく眠れる。俺は今日一日の出来事を思い返す。二度目の蘇生をしたと思ったら、左手のひし形が青く光って、それで急に必要な道具のイメージが思い浮かんできて気付けば家まで作っていた。あれは一体何だったのだろうか?まだまだ謎は多いが、案外これは俺を助けてくれる物なのかも知れない。無意識の内に木を殴り始めた時は、我ながら気が触れてしまったと思ったが、藁を手に入れる事ができて結果オーライだった。あれのお陰でピッケルや斧を作れたし、その後に浮かんできた藁製の建材の材料にすることも出来た。それに、この島で自生する草は束ねると繊維状になってすぐに糸やひもとして利用できることを知れたのはかなりの収穫だ。それにしても、この建材の「イメージ」はとにかく凄かった。支えとして使う木材の量や長さ、果ては藁を木材に括り付ける位置、さらには加工手順までもが鮮明に思い浮かんできたのだ。これがあったおかげで、素人の俺はでも驚くほどに短時間で土台、壁、ドア、天井を作る事ができ、今こうしていられるのだ。本当にこの島に来てから不思議な事は尽きない。慣れない作業で疲れた俺はドアを閉め、チクチクと藁が皮膚に刺さる床の上で眠りに就いた。明日も無事に終えることが出来ますように。

 

 ついに「挑戦」を始めた彼は何処に導かれるのだろうか。それはまだ「神」のみぞ知る。




やはりARKの序盤と言えば、木を殴るに限る!きっとへレナさんは呆れているでしょうけど(笑)個人的にエングラムはExtinctionのヘレナさんみたく、自分が目的のために何をどうするべきかという情報がインプラントを通して脳に流れてくるのではないかと解釈しています。皆さんの解釈とずれていたら申し訳ありません...

前回、今回とモンハン要素が少なかったので、次回は主題でもあるモンハンのモンスターや環境生物を登場させようと思います。ちなみに環境生物も肩乗せサイズ生物の枠として出そうと考えています。来週は編集する時間があまり取れないので、投稿できても一本になるかなと思います。大変お待たせしますが、どうぞ次回もお楽しみにお待ちください!


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Version3.2:陽昇る水景の楽園

 2週間ぶりの投稿となってしまいました。お待たせしてしまい申し訳ありません。先週はリアルの都合で作業時間を確保できなかったのですが、来週は時間に余裕があるのでまたどんどん投稿していこうと思います。

 さて、前回でエングラムを習得した裕太君ですが、今回はどんな出会いが待っているのでしょうか?それでは本編スタート!


 朝日が海面を照らす頃、俺は目を覚ました。見た所家が襲われたような形跡はなく、俺は無事に夜を明かせたらしい。その事実に俺はほっと胸を撫で下ろした。

 

「痛い」

 

生き長らえた安堵感からか、急に手に痛みが込み上げてきた。俺は酷く荒れた両手に目をやった。昨日は達成感と疲労であまり意識はしなかったが、俺の手は木を殴り続けた影響で、手の甲全体が擦り剥け、見るからに痛々しく出血している。おまけに、斧やピッケルを全力で握りしめて作業をしていたせいで腱鞘炎にもなっている。今日は家を拡張してもう少し居住性を改善しようかと思ったが、これでは今日の作業は出来そうにない。こういう時は下手に動かず安静にしていよう。

 

 

 

 

 

 俺は外に出て朝の景色を一望した。ああ、なんて美しいのだろうか。まだ仄かな暗さを残した空には薄く切れた雲が浮かび、その合間から日が顔を出している。淡いオレンジ色の光が海面を照らし、水面はダイヤモンドの様に粒子が煌めいて見える。少しの空の暗さと輝く水面のコントラストがどこか温かく、そして厳かな雰囲気を醸し出している。この島に巨大昆虫や肉食恐竜がいるという事が嘘のように思える程穏やかなな光景だった。何だか心が洗われた気分だ。自然に触れるセラピーなんかが流行る理由が分かった気がする。この島に来てから理解が及ばない出来事ばかりで疲れていたが、これを見てほんの少しだけ生きる希望を抱けた。絶対にこの島から脱出してみせる。そして、また家族や友人たちと再会して平穏な日常を取り戻すんだ。俺はそう自分に言い聞かせ、決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 俺の心境の変化と呼応する様にして、これまで穏やかに佇んでいた水面は動き出したのだった。恐らく、数十メートルほど先だろうか、今のいままで静謐を保っていた海面は突如として、何か大きな物体が通ったように不自然な波面を描いた。俺がそれに身構えた束の間、そいつは顔を出した。それはどこか間の抜けた顔をした、ネス湖の「ネッシー」の様な二匹の生き物だった。首は俺が子供の頃に図鑑やアニメ映画で見た首長竜よりは短い気がするが、全身に占める割合を考えたら十分に長いと言える。背中はヒレ状になっており、そこから尻尾の上部にかけてオレンジ色に黒い筋が混じった模様が特徴的だ。日向ぼっこでもしたいのだろうか。あいつらはただ水にプカプカと浮かび、その長い首を上に向け牛の様な鳴き声を上げながら優雅なひと時を過ごしている。あいつらからは、この前の青い恐竜の様な獰猛な感じはしない。目を細めてのんびりとするその様は俺がこの島で見てきた生物とは違い、幾分か癒されると感じた。牧場の牛や羊に似た雰囲気を感じ取った俺は、あいつらはきっと草食動物なんだろうなとつい思ってしまった。俺はこの島は化け物共が集う魔窟の様な場所だと決めつけていた。だが、それはどうも違っていたらしい。ここは危険と神秘そして大きな不思議が渦巻く、生命の溢れる奇跡の島なのかも知れない。目の前のオカルティズムの象徴の様な存在を見た俺はそう信じざるを得なかった。俺はこの朝焼けとネッシーの組み合わせという神秘に満ちた光景に只々見入っていた。

 

 

 

 

 

 あのキャプテン・クックですらも体験できなかったであろう神秘を目の当たりにして浮かれていた俺は、ある種トラウマとも言える音を聞き一気に現実に引き戻された。背後から大きな虫の羽音が聞こえたのだ。あの最初に死んだ夜の記憶がフラッシュバックする。大量の冷や汗が額から全身に向かって駆け巡っているのが分かる。俺は振り返らずにすぐに全力でダッシュし、その場を離れようとした。しかし、その逃避行は一瞬で終わりを告げた。足元の石に躓き、転んでしまったのだ。俺は普段からゲームばかりして運動不足だった過去の自分を心の底から恨んだ。やはり自然においては人間など取るに足らない存在なのだと思い知らされる。俺はこれから訪れるであろう辛苦に覚悟を決め、思い切り目を閉じた。だが、待てど暮らせど身体がしびれる感覚も、肉を食い千切られる感覚も襲ってこない。俺は恐る恐る重たい目を開けた。俺の眼前にいたのは、腹部に大きな緑色の袋の様な器官をぶら下げた可愛気のあるミツバチみたいな虫だった。ミツバチと言ってもかなりの大きさがある。大体2、30 [cm]はありそうだ。そんな虫がフヨフヨと空中を漂いながら俺に向かって近づいて来る。「万事休すか」そう思った瞬間には、虫は俺の眼前にまで迫っていた。そして、そいつは腹部にある袋の様な器官を破裂させ、マスカットジュースを思わせる緑色の液体を俺にかけてきたのだ。俺は何かの毒かと思い焦ったが、それは杞憂に終わった。さっきまであった手の痛みがなくなっている。それに気が付いた俺は自身の両手を眺めてみた。するとそこには、傷だらけだったのが嘘のように、綺麗なまっさらな手が映っていた。それに、腱鞘炎も治っており、不自由なく動かせるようにもなっていた。

 

 

 「お前、俺を治してくれたのか?」

 

 

 俺は無意識にその虫に問いかけていた。当然返答などは返って来ることはなく、ミツバチはフヨフヨとどこかへ飛び去ってしまった。どうやらこの島には人間にとって脅威となる生物だけではなく、役に立つ生物も生息しているようだ。俺はあの虫が飛び去って行った方向に頭を下げ、感謝の気持ちを示したのだった。

 

 

 

 

 

 

 手の怪我が完治した俺は、早速当初考えていた家の増築作業を開始した。流石に現在の一マス小屋では手狭だし、多少は物が置けるスペースも確保したい。俺は昨日作ったつるはしと斧を握り、木こり作業に勤しんでいた。やはり木を倒すのには体力を使うが、昨日よりは手際が良くなっている気がする。ある程度ではあるが、木のどこに斧を入れれば力が伝わりやすいか、どれぐらい力を込めれば良いかといった事に対してコツを掴めてきた。俺はその調子で三本の木を伐採し、藁の建材を作成した。こちらはあの「イメージ」が浮かんでから、なぜか手が動き、信じられない程の速さで建材を作れてしまう。藁を敷き詰める作業も、木をカットして草で結んでフレームを製作する事も経験が無いのにもかかわらずだ。その時の俺はるで自分が自分でないような言葉で表すのが難しい妙な感覚に陥る。自己の境界線を失いそうで少なからず恐ろしい感じはするが、現状においてはとても役に立っているので、深く考えずに受け入れる様にしよう。ともあれ、俺は昨日よりも短時間の内に土台と壁、天井を完成させた。そして、俺は今ある家の建材どうしを括り付けていたひもを解き、壁を二枚取り外した。それから、俺は新しい土台や壁を既存の土台に植物からできた繊維を使って括り付けた。この繊維のひもがかなり頑丈で、四本ほど括り付ければ、建材どうしをしっかりと固定できる。正直こんな頑丈な植物は初めて見たが、無人島生活においてはありがたい事この上ない。それに、俺はアウトドアな趣味があったわけではないから、解けにくいひもの結び方なんて全く知らなかったが、あの「イメージ」のお陰なのか自然にそれが出来てしまう。拡張された家は土台が2×3マスに、壁が一段分、最後に天上で蓋をするといった形だ。はっきり言って「豆腐建築」から進歩はしていないが、俺一人の仮住まいならこれぐらいの規模で十分間に合うだろう。それから、俺は完成した家の中で少しの間休憩を取った。

 

 

 「ブオー」

 

 ニ十分ほど休憩を取り、リフレッシュ出来たなと感じ始めた頃、家の外から低い動物の鳴き声が聴こえた。俺は身構えた。今度はどんな猛獣だ?確認をしたいが、経験上無闇に接敵するのは余りよろしくないだろう。だが、気にならないと言えば嘘になる。それに、もし家が襲われたらと考えると、どうしても不安になってしまう。無益だと分かっていても、懸念材料がすぐそばにあれば確認をしたいと考えてしまうのは人間の性だろう。しばらく逡巡した後、俺は覚悟を決め家のドアを数センチだけ開けた。恐る恐る外の様子を見渡す。そこに広がっていたのは想像と違い、何とものどかな光景だった。

 

 

 

 

 

 一番最初に目についたその生物は、後頭部の鶏冠と鋭利な棘が特徴的な草食恐竜だった。昔生物好きの友達が話していたパラ…何とかとか言う恐竜にそっくりだ。体色は灰色を基調としていて、背中には黒い縦のラインが点在している。全身を覆う鱗がいかにも爬虫類然としている。体長は8 [m]ほどで、背丈も3 [m]ほどはあるだろう。ゾウと同じくらいのサイズの動物を間近で見ているので、かなり迫力がある。それに、尻尾から延びる三対の大きめの棘がかなり厳つい印象を与える。しかし、そんな見た目とは裏腹に五匹で群れているあいつらは和やかな雰囲気で草を啄んでおり、かなり平和的な生物に見える。群れの中には他の個体よりも二回りほど小さい子供と思われる個体もいる。群れの中の一匹の個体が草を食べながら時折、頭を上げて嘶いている。それに反応するように他の個体も鳴き声を上げている。一番小さな個体は他の大きな個体からワンテンポ遅れて反応した。やはり、あの個体は子供で間違いないな。群れの中で会話でもしているのだろうか?目の前で繰り広げられる微笑ましい光景に、俺の動悸は一気に収束していった。何はともあれ、一先ずは安心だ。あの感じならこちらから手を出さない限りは俺自身や家が襲われることはないだろう。もう一度あいつらの方を見ると、あの草食恐竜と一緒になって草を食べている動物がもう一種類いた。そいつは、ダチョウの様なフォルムではあるが、それより遥かにずんぐりとしている。全身を覆う茶色の羽毛に混じるように前肢と尻に生える青い羽毛が目を引く。体長は7 [m]ほどあり、あの草食恐竜程ではないがかなり大きい。だが、丸々とした全身と、後頭部から生えるニワトリの様な鶏冠、そしてアヒルのような嘴が何とも可愛らしく、大型の動物ながら愛玩動物の様な愛嬌を感じさせる。先程の草食恐竜の子供が後ろからあのダチョウの様な鳥を小突いた。とは言っても、本気で追い出そうとしている訳ではないようで、顔を擦り付け、じゃれつきたい様に思えた。何とも可愛らしいな。そう思っていると、突然鳥が、「グァー」と驚いたような声を上げ、なんとその場で卵を産んでしまったのだ。しかも、その卵は金色に輝いている。草食恐竜の子供もそれに釣られてアワアワとした態度になって、大人の元に駆け寄っていった。目の前のコントの様な光景と凄まじい情報量に対して、俺は思わず吹き出してしまった。それから俺はしばらくの間笑いを抑えられなかった。人生で一番笑ったかもしれない。本当に笑い過ぎるとお腹が痛くなるんだな。

 

 

 

 

 

 この島に来てから肉食の生物と多く遭遇してきたせいで、考えが及ばなかったが、当然こういった温厚な種も存在するのだろう。確かにこの島は俺たち人間にとっては過酷な場所なのは間違いないが、動物たちにとっては今はもう地球上にほとんど残っていない自然が織りなす楽園なのかも知れない。本当にこの島に来てから学んでばかりだな。

 

 

 

 

 この時の俺はまだ知らなかった。この島の本当の恐ろしさを。それが俺のすぐ傍にまで迫っている事を。




 今回登場したモンスターおよび環境生物は、エピオス、回復ミツムシ、アプトノス、ガーグァです。
 
 エピオスは見たことも聞いたこともないという方がいらっしゃるかもしれないので軽く解説。
エピオスはMH3及び3Gにのみ登場した草食種のモンスターです。見た目に関しては小説内で書いた通りなのですが、完全水棲という都合上、水中戦のある2作でしか登場しないため知名度が低いモンスターです。いつかまたゲーム本編に出てきて欲しいですね!

 さて、小説の方は何やら不安な気配がしていますが、裕太君の運命はどうなるのでしょうか?!次回もお楽しみにお待ちください!
 


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Version3.3:女王、降臨す

 本日二回目の投稿になります。前回の最後に不穏な空気が流れていましたが、裕太君の運命はどうなるのでしょうか?それでは本編スタート!


 あの後、俺は外に出て草食動物たちに混じって食料となる果実を採集した。あいつらは臆病な気質なようで、近づくと距離を取ろうとしたり、威嚇の様な行動を取ってきたりしたが、こちらが身を屈め無害な事をアピールすると何事もなかったかのようにまた草を啄み始めた。案外あっさりとした変わり身に、動物園の動物みたく人間に慣れている?ようにも感じたが、それはないだろうと断じる。多くの動物が人間に対して強い警戒心を持っているのは、門外漢の俺でも流石に知っている。きっと、あれ程の規模の生物であれば、パンツ一丁の人類など仮に襲ってきてもどうにでも出来ると判断したのだろう。俺は自然の中での人間の無力さを再度痛感した。そうして、俺は果実が生える草の茂みに向かった。あいつらが食べた後と思しき茂みが目に入ったが、この前俺が食べなかった黒い果実だけがきれいに残っていた。どうやらあいつらも黒い実は食べない様にしているらしい。そこから、やはりあれは相当に不味いか、何らかの毒性があると考えて良いだろう。あの時安易な気持ちで口に入れずに良かったと、俺は胸を撫で下ろした。それから俺はまだ漁られていない茂みを発見し、既に食用可能と分かっている赤と青と黄色の果実を千切り、その場で頂いた。

 

 

 

 

 食事を終え、一息着こうとした矢先、凶いの兆しは突然に訪れた。あの草食恐竜たちが突然に慌てふためき始めたのだ。苦し気な鳴き声を上げながら海岸の奥にある森林の方向に向かって走り始めたのだ。子供に至っては周囲の状況が呑み込めず、パニックを起こした様にキョロキョロと周辺を見渡しながら大人の周りを徘徊している。群れの中で最も大きな個体が、「グォーグォー」と頭を振り上げながら仲間に何かを訴えかける様に鬼気迫る鳴き声を上げている。それから、子供はあたふたとしながらも別の大人に先導されて森の方へ走り去って行った。あのダチョウ型の鳥も草食竜と一緒になって森の方へ駆けて行った。俺はこの状況を見て、これはただ事ではないと判断した。そのため、俺は急いで家に避難しようと駆け出した。その刹那のことであった。

 

 

 

 突如として大きな火の玉が飛んできたのだ。これは比喩でも何でもなく、本当に文字通りの火球だった。その火球は、子供を逃がすために最後まで残っていた一番大きな草食恐竜に着弾した。その瞬間動けなくなる程の轟音が鳴り響いた。俺は無意識に耳を塞ぎその場に蹲ってしまった。草食竜はあの火の玉が着弾した後も何とか立ち上がろうと藻掻いている。常識では考えられない凄まじい生命力だ。俺は火球の発生源を確認しようと、周囲を見渡す。だが、東西南北どこを向いてもそれらしき存在は見られない。なぜならば、その主は空の上から現れたからだ。バサバサと空を切る音が鳴り響いたと思うと、「ギィィー!」とけたたましい声を上げながらその主は頑強な脚で、息も絶え絶えな草食竜を押さえつけ、止めを刺したのだった。そいつは周囲の様子を窺っている。そして、俺を視界に捉えたそいつは、周囲が揺れる程に大音量の咆哮を上げたのだった。

 

 

 俺は目の前の存在するはずの無い存在に畏怖し、戦慄した。「それ」は紋章にのみ産み出された存在。絶対にこの世に現れることの無い存在、ワイバーンだった。そいつは、頭部から背中、脚、尻尾にかけてほぼ全身を柳色の甲殻で覆われており、背中から尻尾にかけては細く鋭利な棘が無数に生えている。翼の先端には太い円錐形の棘が七本ほど生えている。翼膜には、「目」を思わせる模様がたくさんあり、それがより逃げ場のない恐怖を掻き立てる。脚部は非常に筋肉質で太く頑丈な見た目をしており、足の爪はあの肉食恐竜のそれに類似した形状だ。さらに、顎からは鋭利な棘が一本伸びている。そして何より、恐ろしいのはその大きさだ。恐らく全長は20 [m]を悠に超えていて、高さも4 [m]はある。この前の巨大昆虫や青い肉食恐竜など目ではない。彼らも十分に化け物と呼べるほどの威圧感や恐怖感を持っていたが、この竜を前にしたらそんなものが児戯に思えるほどに奴は別格だ。そして、その体躯から放たれる咆哮は、俺に本当の恐怖という物を今味わわさせるには十分であった。全身の嫌な汗が止まらない。下半身からは糞尿が止めどなく溢れ出している。俺の顔は止まらない嘔吐と涙で見るも無残な有様と化している。俺は目の前の絶対的な存在に対して跪いて命乞いをする事しか出来なかった。

 

 

 だが、竜はそんな俺の状況など知った事かという態度で再び火球を放ってきた。その火球は野球選手の投球もかくやというスピードで俺に向かって一直線に飛んでくる。次の瞬間、俺は業火に飲まれていた。一瞬のうちに全身の皮膚は焼けただれ、黒く変色していった。俺はその事を意識する暇もなくこと切れたのだった。

 

 

You were killed by a Rathian.




 本編の補足ですが、裕太君はレイアの下顎の突起を棘だと思っていましたが、実際の設定ではあれは授乳器官の様なものです。あそこに肉を引っ掛けて子供に与えるようです。

 次回もお楽しみにお待ちください!


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Version4.0:検体インプラント

 前回はレイアの急襲によって無惨にも散った裕太君。モンハン勢の皆様にはお馴染みのトラウマ(クエスト)ですね。(一回しかないとは言っていない)今回は、何か重要な事に気付くみたいですね。

 今回で10話目になります。閲覧やお気に入り登録、感想などいつもありがとうございます。その一つ一つが励みになっております。

 それでは本編スタート!


 「また目覚めてしまった。」

 

 何もかも嘘であって欲しかった。黒く焼け落ち無惨な姿になった我が家を尻目にそう呟いてしまった。家は完全に崩壊しており、原形は失われている。わずかに残った黒ずんだ建材の破片と灰のみが、ここに俺の城が在った事を伝えている。またそれこそが、あの竜の暴威が如何に生物として常軌を逸しているのかを示している。この島には俺の想像を絶する程、この世の神秘や謎が満ち溢れているようだ。しかし、それは俺の様なひ弱な人間にとっては神秘と呼ぶには余りにも強大で、どうしようもない位に理不尽な存在だ。俺は太古の人々が抱き、現代では失われた自然や世界への畏敬の念を理解してしまった。否、理解させられたというべきなのだろうか。

 

 

 

 

 

 俺は「前の俺」が死んだであろう場所に目をやる。俺の死体は全身のほとんどが黒焦げになっており、凡そこれが人間であったとは到底信じられない有様だ。だが、俺は最初に自分の死体を見た時よりも幾分か平静を保っているように感じる。死んでから蘇るという一連の流れに慣れ始めてしまったのかも知れない。俺はそんな自分が恐ろしくて堪らない。俺は人間として、生命として大切な観念が失われつつある自分が怖いんだ。きっとこれを何の躊躇いも違和感もなく受け入れる様になってしまえば、俺は真の意味における人ではなくなってしまう。これ以上はいけない。俺の中にある理性が、本能さえもがそう警告してくる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は死体に近付いてから、左手に埋め込まれたひし形が緑色の光を放っている事に気が付いた。このままでは煩わしいので何とか消せないか試してみよう。とは言っても、どうしたら良いのかなど皆目見当も付かないので、適当にスイッチを扱う要領で中心付近を押してみる。すると、ひし形を光源として、俺の眼前にゲームのステータス画面を想起させるホログラムが現れた。俺は映画の中でしか見た事の無い様なオーバーテクノロジーに驚きが隠せなかった。理解が追いつかない。この島に最初に来た時にこのひし形を触っていたが、その時はこんな機能は確認できなかった。それ故、俺は何かの見間違えだと思い、ひし形の中心をもう一度押してみる。そうすると、ひし形の光は収まり、ホログラムも消えた。さらにもう一回押してみる。今度は、再びホログラムが現れた。こんな何が出るとも知れない危険地帯で悠長にしている暇など無いというのは重々承知しているが、これを見ればこの島のことや俺がここにいる理由なんかも分かるかも知れない。そして、俺はホログラムの画面に目を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ホログラムには「インベントリ」と見出しらしき文字が書かれている。画面の構成はパソコンのスタート画面を彷彿とさせるものだった。画面に映っている項目の中で、最初に目に映ったのは腕に埋め込まれたオブジェクトと同じ形をしたアイコンだ。どうやらこのホログラムの任意の場所をタップすると、それに応じて画面が切り替わるようだ。スマートフォンを操作するのと同じ要領で操作ができる。ユーザーインターフェースは無駄に凝っているようだ。実体のない光に触れて動作するなんて今まで見た事の無い程先進的な技術のように思える。取り敢えず「検体インプラント」と書かれた件のアイコンを押してみる。すると、ひし形のオブジェクトのモデルが画面に表示され、数行の文字列が表示された。そこには、

 

「検体インプラント

種族:ホモ・サピエンス・サピエンス

サンプル名:桃園裕太

性別:Male

生存率:不明」

 

と書かれていた。俺は絶句した。サンプル名。この書き方だとまるで俺は実験動物の様ではないか。俺は何処かの実験施設にでも放り込まれたとでも言うのか?今にして思えば、初日に謎の飛行物体が空から降って来た時点でその可能性を視野に入れるべきだった。あの時の俺はもっと冷静にならなければならなかった。だが、いずれにせよこんな非人道的な実験は現代では絶対に許されるはずがない。本人の同意も無いままに、命の危険がある場所に送るなどあってはならない。うちの大学ではそんな非合法な研究が行われていたのか?仮にも国家機関であるはずなのに。俺はこの島に来る前の記憶を必死に手繰り寄せる。しかし、思い出せるのは目覚める前に受けていた授業の事までで、ここに来るまでの経緯や道中の事などは何一つ覚えていない。まるでそこだけ、不自然に抜け落ちたかのように。これ以上答えの出ない思考を続けても仕方がない。一先ずは、まだ画面上に操作できそうな項目がいくつかあるので、そちらを確かめるのが先決だろう。取り敢えずは、左手のオブジェクトの名前が知られただけでも良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに操作を続けていくと画面右上に、「Tribe Log」という項目を見つけた。部族のログとは一体何なのだろうか?俺は分からないので、取り敢えずアクセスしてみる。するとそこには、俺の死亡した日付と俺を殺した生物の名が記録されていた。日付の数値に関しては、明らかに俺がこの島に来てからの日数と一致している。恐らく、最初から俺の行動は全て第三者から見られていたのかも知れない。その事実に俺は身の毛がよだつ感覚を覚えた。ログを順番に読んでいくと、俺を殺した生物たちの名前を知ることが出来た。最初に殺された巨大昆虫は「ブナハブラ」、青い肉食恐竜は「ランポス」、そしてあの火を吐く竜は「リオレイア」と言うらしい。いずれも見た事も聞いたことも無い。しかし、俺が思うにこの情報で重要なのは、「生物の名前」ではない。むしろ、「生物に名前があった」という事項だ。それはつまり、あいつらは新種の生物ではなく、ましてや誰も知らない御伽噺の中の存在でもない。誰かが既に発見しているのだ。したがって、この島には人間が上陸したことがあると言える。いや、それはかなり楽観的な推測だろう。俺の生死に関するログが残されているという点も考慮すると、俺だけではなく、この島自体が何者かの監視下、もしくは管理下にある可能性が非常に濃厚だ。さらにはその連中が今も出入りしている可能性だってあり得る。見え隠れする狂気に俺は心の底から震え上がった。世間に公表されていないテクノロジーを使って、これまた秘匿された巨大生物の住まう島に人間を送り、管理する。これが物語や陰謀論の中ではなく、現実で行われているという点がとち狂っている。何のために行っているのかなど俺には想像もつかないが、これだけは言える。これを考えた奴は頭がイカれている。碌でもないマッドサイエンティストが!どんな事情があれど、一人の人間をマウスの様に扱うなど到底許される行為ではないだろう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 情報過多で俺の脳みそはもうパンク寸前だが、インベントリを最後まで調べないわけにはいかない。この島から脱出するためには少しでも多くの情報が必要だからだ。停止し掛けている頭に無理やり喝を入れ、最後の項目を選択する。項目名は「エングラム」と書いてあった。これだけではよく分からないな。そして、それをタップすると上から「取得済みエングラム」と「取得可能エングラム」という二つの項目が出てきた。上の方から順に見てみよう。「取得済みエングラム」のページには、石斧やピッケル、藁の建材類といった俺が今まで作ってきた物品と思しき名前が羅列されていた。エングラムという言葉の意味が理解できたかも知れない。恐らく、エングラムとは俺が見たあの「イメージ」の事を指すのではないだろうか。そして、それはこのインプラントを通して俺に送られてきている。そう考えると、DIY素人の俺があんなに円滑に事を運べたのも頷ける。次に俺は「取得可能エングラム」のページを開いた。そこには石製の槍や布製の服などこれからの生活に必須な物品が名を連ねていた。俺は先程の仮説を検証するために何かエングラムを取得してみようと思う。現状で最も魅力的なのは、パンツ一丁を脱却出来る布の服だ。帽子から靴まで、一式取得するよう操作した。すると、俺の頭の中にあの時と同じ「イメージ」が浮かんできた。やはり、この「イメージ」こそがエングラムという認識で間違いは無いだろう。ただ、受動的にも能動的にも取得できているので、どういった仕組みや法則性で手に入れられるのかは分からないが、役に立ちそうな物なのでとことん利用させて貰おう。地獄に仏とは正にこの事だ。。ここまでの仕打ち受けたんだ、そのぐらい罰は当たらないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分かったことがある。それはこの島がただ、未知の生物たちが集うだけの神秘の島ではないという事だ。ここには何か得体の知れない大きな物が蠢いている。それに、ここには神秘なんて元より存在しない可能性だって十分に考えられる。だが、俺はそんな答え合わせなんて正直どうだって良い。興味が無いと言えば嘘になるかも知れない。でも、それ以上に俺は帰りたいんだ。家族のもとに、親友たちの元に、そしてただ前と変わらぬ平穏な生活を送りたいだけなんだ。そのためにはどんな手段だって講じてやるさ。不幸中の幸いと言うべきか、先程発見したエングラムはこの島を脱出するための物資を準備するのに大いに役立つだろう。もしかすると、それすらもここの連中が仕込んだ巧妙な罠なのかも知れない。しかし、そうだったとしても俺は抗わなければいけないんだ。この島に、生物に。ある物はすべて使ってやる!俺はこの空のずっと向こうにいるであろう父さんや母さん、弟、それに幼馴染の親友たちに「絶対に戻って見せる!」と誓いを立てたのだった。




 裕太君は、身体能力こそダメダメですが、意外にも勘が鋭い部分を持っています。時折、理不尽な初見殺しに引っ掛かったりもしますが、ヘレナさんが100日以上の滞在で気付いた事実に、科学的な検証を行ってはいないとはいえ数日で近付いたのは持ち前の鋭さ故でしょう。案外サバイバーとしての適性は高いのかもしれませんね。
 
 あと、サンティアゴさんは今回滅茶苦茶にディスられていますが、エクスプローラーノートを読むと、彼には彼なりの信念や苦悩があったことが分かります。裕太君がいつの日か真実に辿り着いたときどんな反応をするのでしょうか?その辺りも含めて今後のお楽しみにして下さると幸いです!

 それでは次回もお楽しみにお待ちください!


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Version4.1:新天地を目指して

 今回はついに裕太君は初期リス地点から移動するようです。まだ見ぬ島の生物たちに皆々刮目せよ(将軍並感)

 それでは本編スタート!


 この島から脱出するためには、船を始めとして多くの物資が必要になるだろう。ここが日本本土や大陸からどれだけ離れているのかは分からない。ここがセントヘレナ島の様な絶海の孤島だった場合、確実に数ヶ月間は漂流する事になる。というか、島を取り巻く状況から考えて間違いなくここは絶海の孤島だろう。俺は歴史学専攻のしがない文系大学生だ。船の詳しい仕組みなんて分からないし、そもそもモノづくりの素養などない。都合よくエングラムに近代的な船があるかも分からないし、そもそも丈夫な鉄を精錬するために必要な諸々の資源がここにあるのかすら疑わしい。最悪俺は木製のいかだで数か月間漂流する事になるだろう。そのため、水や食料を中心に物理的に許されるだけの物資は確保しなければならない。そのために、まず必要なのはここでの生活基盤と安全地帯の獲得だ。生活基盤に関しては、昨日までの要領で作業を続けていけば半月から一月あれば、衣食住は俺一人ならなんとか暮らせるだけの分は確保できるだろう。しかしながら、それはここの生物や自然環境の影響を受けず、物事が円滑に進んだと仮定した場合の話だ。ブナハブラやリオレイアの件から、ここはもう安全地帯とは言えない。本当の意味でこの島にそんな場所があるのかはさておき、この場所で再起を図るのは、賢い選択とは言えない事は明白だ。一先ずは、ここから離れて新天地を探そう。幸い今なら、辺りに巨大な生物の影は無い。行動をするなら今のうちだ。

 

 

 

 

 

 森林に入るという選択肢は取りたくない。また、ランポスに襲われる可能性もあるからな。それに、インドア派の俺には森での活動の勝手は全くと言っていい程分からない。出来ることならば、活動するうえで物理的な制約が少ない場所を選びたい。俺は海岸沿いに北へ歩を進めてゆく。この島の海岸線は縦に大きいようで、歩いても歩いても同じような景色が続く。砂浜にはヤシの木の様な南国を思わせる樹木や果実が取れる茂みが点在している。時折、小動物たちを見かける。例えば今もモグラの様な生物が顔を出したり、こちらに気付いてはすぐに地面の中に引っ込んだりしている。モコっと目の前の地面が拳大の大きさに盛り上がった。またさっきのモグラが顔を出したようだ。こちらを見つめて首を傾げる様な動作をしている。可愛い。もし、こいつらの存在が知れ渡ったら愛玩動物として滅茶苦茶人気が出そうだ。そのくらい愛らしい見た目をしている。大きさは一般的なモグラと大差は無さそうだ。顔は所謂癒し系な雰囲気を漂わせている。漫画のキャラとかでいそうな程、細い目をしている。本当に線みたいだ。何というか鈍そうで、眠そうだ。そんなほんわかとした顔にも関わらず、頭頂部から生えた毛は何故かモヒカンの様な形状にまとめられており、ミスマッチな感じを引き出している。それに、そこの毛だけ金色なのもそれに拍車を掛けているようにも思える。この顔ではどう足掻いても世紀末な雰囲気を醸し出すのは不可能だろう。だが、そんなキュートな顔とは裏腹に、こいつの爪はかなり頑丈な形状をしている。普通のモグラとは違い、五本指ではなく、馬の蹄のようにまとまった形状をしており、両方の側面からはそれぞれ小さな指が生えている。それに先端はかなり鋭利で、前肢だけ見るとかなり厳つい印象を受ける。顔とのギャップはかなり大きいが、これはこれで動物好きには受けが良さそうだ。そんな事を考えながら進んでいると、モグラは「キュウッ」と声を上げて物凄い速さで地面に潜っていった。鈍そうな見た目をしていたが、案外そんなことは無かったらしい。そういう所は何というか、この島の生き物らしいなと俺は少し感心してしまった。

 

 

 

 

 

 

 歩き続けていると、河が俺の行く手を阻んできた。河口部だからか、幅も大きく、最大のところでは100 [m]程はあるように見える。一見しただけで、人間の身長を悠に超える深さがありそうだ。ここを渡るべきか?それは否だ。目の前のこれはプールではない。素人が急に入っても、ただ身を危険に晒すだけだろう。それに、河の中にも危険生物が潜んでいる可能性も十分に有り得る。

 

 

 

 

 念のため、河の中を地上から覗いてみる。幸い水の透明度は高めなので川岸に立った状態でもある程度は中が見える。そんな俺の目に映った川の中の光景は、中々に壮絶な物だった。まず、4、50 [cm] はあるピラニアの様な魚が数十匹の群れを成して泳いでいた。腹は赤味が掛かっていて、目も真っ赤だ。頭には先端が尖った角のような物が生えており、その様子はリーゼントを髣髴とさせる。そして、最も危険に思えるのはあいつらの口から生えた人間の親指くらいのサイズはある鋭く、大きな牙だ。下顎からは突き上げる様に上向きに、上あごからも下に向かって牙が伸びている。熱帯の地方では良く人間がピラニアの被害に遭っていると聞いたことがあるが、なる程これは頷ける。見た目からして明らかに近寄るべきではないの明白だし、群らがられればサイズ差があれど、いつの間に食い荒らされていそうだ。それだけではない。この河には大物もいる。緑色のナマズのような外見をした魚だ。5 [m]は確実にある。背びれは後頭部から尾ひれまでにかけて、縦に長い三角形の形状で面積を逓減させながら十本ほど生えている。色は胸びれと同様で、オレンジっぽい感じだ。尾ひれは、全身の比率から考えて、申し訳程度の大きさしかない。口にはナマズ特有の側方に伸びる口髭と、触角のように伸びる四本の顎鬚を蓄えている。さらには、鋭い無数の牙が見え隠れしている。ナマズはこちらに気付いたのか猛スピードで、川の淵から川岸に向かって泳いで来た。俺は咄嗟に川岸から十メートル程距離を取った。奴は、地上に上ってこそ来ないが、岸から顔を出してこちらを威嚇するように、大きく口を開いている。自身の頭の大きさの倍以上の幅で開いた口と、そこから生える無数の牙はとても悍ましく、また迫力に満ちていた。ピラニアたちも騒ぎを聞きつけたのか、トビウオのように水面で大ジャンプを行い、獲物を捕らえようと躍起になっていた。俺はこの地獄絵図のような光景に辟易した。だが、それほどの驚きはもはや感じなかった。リオレイアの様な竜も存在する島だ。何の変哲もない河に巨大魚が住み着いていている異様な環境にも、俺は特段の違和感は感じなかった。これは、ここで引き返すのが無難だろう。俺は足早に踵を返した。

 

 

 

 

 

 それから、少し歩いた所で俺は周辺を見渡した。この近辺には高台になっている部分があって、その上には草原が広がっている。立地としては悪くなさそうだ。木や茂みも多少足を伸ばせば確保できる程には点在しており、生活に必要な物はあらかた確保できそうだ。高台下では、大きな生物もリオレイアに殺された時に遭遇した草食恐竜ぐらいしか見当たらない。ぱっと見の感想ではあるが、陸地に関してはこの辺りは平和そうだ。であれば、あの丘の上の草原に一旦の居を構えるのも悪くは無いだろう。決めた、あそこへ向かおう。

 

 

 

 

 急勾配を徒歩で登り、崖の上にたどり着く頃には息が上がる程クタクタになっていた。こんな所でも自身の体力の無さを突き付けられる。この辺りは奥の森にさえ不用意に立ち入らなければ安全と言えるだろう。周囲の様子は平和そのものだ。背中には灰色の毛が、腹から首筋にかけては白の毛が生えたシカが草を啄んでいる。数匹で群れているようで、頭頂部の耳の間から真上に向かって角が生えている個体と生えていない個体がいる。多分、オスとメスの違いなのだろうか。俺はこの島で初めて見た「普通」の生物にどこか安心感を覚えた。それくらいの事で安らぐ程には、この島の異様な生物たちは現代の常識とかけ離れていて、その脅威は俺の心身を確実に消耗させていたのだ。安全を確認した俺は早速住居と衣服を作成すべく、資材の調達に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は森と草原の境界にある木を何本か伐採し、藁の建材類を量産した。ちなみに、斧やピッケルは海岸を出立するときに作っておいたのだ。流石に、家の中に置いてあった前の分は、リオレイアの放った業火には耐えられず燃え尽きていた。慣れたもので、数時間も立たないうちにリオレイアに襲撃される前と同等の大きさの家を作る事ができ、さらにたき火もおまけで付いてきた。それから、俺はこの前取得したエングラムである「布装備」を一式作る事にした。いつまでもパンツ一丁なのは御免だ。というか、作り方を教えてくれるのなら最初から着せてくれるのと大差ないのではないか?俺はそんな不満を抱きながらも、茂みの草を刈り取り、数本に束ねて繊維状にしていく。エングラムが寄こしてきた「イメージ」によると、これを編み込んでいけば服が作れるらしい。俺に裁縫の知識は無い。だが、俺の手は一人手に名前も碌に知らない作業を延々とこなしていく。毎度思うが、自分の身体が自分の物でなくなっている感じがして不気味だ。しかし、俺が生きていくためには、この感覚に身を委ねる他ない。そうこうしている内に、一枚のシャツが出来上がっていた。俺はそれに袖を通した。なんと、サイズは丁度ピッタリだった。無意識にそうなるよう誘導したエングラムという技術は中々に恐ろしいものだ。これは人の営み、もっと言うと人間という存在の在り方すらも変えてしまう程の、いわば禁忌のテクノロジーかも知れない。これが世間に知れたらと思うと、その後の顛末が頭に浮かび、俺は恐ろしくなってしまった。だが、今は非常事態だ。それに、これは俺をここに連れてきたであろう連中の置き土産だ。決して溺れない様に自分を持たなければならないが、逆に利用してやらない手は無い。思考に耽る俺の意識を他所に、無意識の作業は続き、ついには帽子とズボンまでもが完成したのだった。

 

 

 

 

 

 ズボンとシャツを着た俺は幾分かマシな格好になった。尤も原始人感が満載なのは否定出来ないが。ここまでは順調に事が運んだが、ついに難題に衝突した。グローブと靴を作るのに動物の皮が必要だそうなのだ。困った。グローブはともかく、靴はこれからの事を考えるなら是非欲しい。これまで裸足で生活してきたから、足の裏が痛い。靴のエングラムを見つけたときは嬉しかったが、そう都合の良い事ばかりではないらしい。俺が狩れるような生物は辺りを見渡しても見つからない。それに、これまでに会った草食動物に仮に襲いかかったとしても返り討ちに遭うのが関の山だ。靴に関しては悔しいが、一旦諦めよう。そう思った瞬間だった。俺の目の前にウサギの様な小動物が飛び出してきたのは。




 今回登場したモンスター・環境生物は順に、モギー、キガニア、ガライーバ、ケルビ、そして???です。裕太君はケルビの事を普通の生物と思っていますが、こいつはどんな環境にでも適応する適応力お化けです。あれ?普通とは一体?



 さて、裕太君は無事に再起を果たすことは出来るのでしょうか?!そして、島から脱出は出来るのでしょうか?

 次回もお楽しみにお待ちください!


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Version4.2:狩人よ、前へ

 今回、初めての狩猟回を描きました!描写するのが本当に難しいですね。ここら辺は追々表現力を磨いていきたいものです(笑)

 それでは本編スタート!


 運命のいたずらとは残酷な物ものだ。今の俺が物に飢えた状態でなければ目の前のプードルの様な毛並みのウサギも愛らしく見守る事が出来たのかも知れない。俺は今、皮を求めている。そして、現在狩るのに手頃な相手が眼前にいる。さらに、お誂え向きな事に、俺に対して警戒心を持つこと無くすり寄って来ている。こいつを狩れば、今後の生活に大きな足掛かりとすることが出来る。俺の中に大きな葛藤が生まれた。

 

 

 

 だが、俺に目の前の生物を殺められるのだろうか?小さな魚や虫ならともかく、大きめの哺乳類や鳥類といった生物を攻撃するのは心のどこかでまだ抵抗があるんだ。そんなことを考えてもこの弱肉強食の島においては無意味なことくらい分かっている。俺だって何度も強者の餌食になってきた。本当に気持ちの問題、ただそれだけなのだ。いくら可愛らしい生物とはいえ、虫なんかと同じ命に変わりはない。俺たちは常に何らかの生命を奪って生きている。食物を得るため、住居を得るため、衣料を得るため、直接的にでも、間接的にでも多くの命を奪ったうえでこれらは成り立っているはずだ。現代ではそれらの完成品を直接入手できるから、俺たちは自覚していないだけで、命を糧にする、または生活圏のために命の芽を摘むという過程が確かに存在することは有史以来何も変わってはいないはずだ。つまり、俺は生きていく中でこれまでに多くの命を奪ってきたのだ。ただ、命のやり取りが目に見える状態にあるか、それが水面下で起こっているかの違いでしかないのではないか。それに、動物の命にだけ罪悪感を感じるというのもおかしな話だ。植物を摘むことだって立派に殺しだ。動物は臨終の際に悲痛な声を上げるから罪悪感が湧くが、植物にはそれが無い。だからこそ、俺たちは一つの生命を殺しているという事に気付かない、もしくは目を背ける言い訳にしているのではないだろうか。俺はもう果実を食した時点で、木を切り倒した時点で、さらにはもっと前から躊躇う資格など、とうに失っている。

 

 

 

 

 俺はそんな理屈を自分に言い聞かせ、無理にでも自分を奮い立たせようとする。このチャンスを見逃せばいつ同じ物が回ってくるのか分からない。いつまでも弱いままでは、永遠にこの島に囚われ続けるだけだ。俺は覚悟を決め、石斧を握った右手に力を込める。ウサギはそんなこちらの様子に気付くことなく、俺の近くで丸くなっている。今しかない。俺は息を殺し、草を踏む音にすら注意しながらゆっくりと、慎重に近付いた。そして、俺はウサギに向かって思いっきり、斧を振り上げた。

 

 

 その感覚はたった一瞬のものだった。斧がウサギの首に深く突き刺さった。手に伝わった嫌な感触はすぐに消え去った。ウサギの白とピンクが可愛らしかった体毛は鮮血の赤色に染まっていく。ウサギは横たわり、弱弱しく腹部が収縮運動をしている。俺はもう一度先程の傷口に斧を突き立てた。ウサギの身体が一瞬だけビクンと跳ね、ついには動かなくなった。その目からは光が失われており、亡骸となった事がはっきりと分かった。俺は目の前の骸に頭を下げ、手を合わせた。俺は、例え弱肉強食の世界にあろうとも感謝を忘れてはいけないと思っている。俺は本来この生態系に属する者ではない。だからこそ、俺は決して暴慢になってはならない。俺は使わせていただく身でしかなく、どれ程恐ろしい怪物であろうと、小動物であろうとその恵みを頂いていることに変わりはないからだ。俺は命のやり取りを通じて、「いただきます」という言葉の本当の意味を知れたのかも知れない。それから、俺は見よう見まねの慣れない手つきでウサギの解体を始めた。取り敢えず、お金持ちの家にありそうなアニマルカーペットの形を思い出して、それっぽくなる様にやってみよう。一先ず、俺は近くの石を拾って斧の刃先がなるべく鋭くなるように磨いた。それから、俺はウサギの腹部斧を突き立て、腹から首に掛けて切れ込みを入れていった。ピンクの毛皮から飛んでくる粉末はどこかカビの様な臭いがし、何度か蒸せそうになった。そうしてしばらく格闘した後、俺は何とか目当ての皮を手に入れる事ができた。

 

 

 

 

 また、夜が訪れようとしている。俺は家の前に置いた、たき火でさっきのウサギから取れた肉を焼いていた。インプラントのログを確認したところ、ウサギはどうやら「カモシワラシ」という名前らしい。この島には似合わない和の趣のある名前だと感じた。この島に来てから、肉類の様なしっかりとした物を食べるのは初めてだ。俺はたき火から漂って来る香ばしい匂いと、肉汁が滴り火に当たって弾ける音に心を躍らせた。つい先ほどまで、狩るか否かを迷っていたのに、現金な物だと我ながら思う。今日一日で、俺の生活はかなり前進したと思う。新天地を見つけ、家を作り、ついに服や靴も手に入れる事ができた。さらには、初めての狩りも成功させ、こうして食事にありつけている。このインプラントやエングラムは本当に敵なのか味方なのか分からないな。さて、肉が焼けた様なので、一旦難しい事は抜きにして早速食べてみよう。

 

 

 久々の肉は、何も味付けをしていないにも関わらず、これまで食べたどんな肉よりも美味かった。蛋白で脂肪分は少ないが、柔らかくあっさりとしていて幾らでも食べられそうだ。鮮度が高いからか、噛むたびに肉汁が溢れて、口の中いっぱいに旨味が染み込んだ脂が心地よく広がっていく。それに、カモシワラシの肉は旨味が強くて、肉自体の味わいが強い気がする。昔食べた熟成肉という物を思い出した。

 

 

 

 

 

 最後に、俺はブナハブラ対策のため消火し、家の中で眠りに就いた。明日も休んでいる暇はない、今日はゆっくり休んで英気を養うとしよう。

 

 




 初めての狩猟はなんと環境生物のカモシワラシでした。環境生物が好きな方には申し訳ないです…戦闘の描写は思ったように書けず、なかなか苦戦しました。戦闘描写をたくさん書かれている作者様方の表現力に脱帽致しました。


 さて、今週はあと1、2本程度だせたらなぁと思っています。それでは、次回もお楽しみにお待ちください!


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Version4.3:首鳴竜

 


 朝っぱらから肝が冷える思いをした。まだ明けの明星が煌めく時刻、耳を劈くほど大きな地響きと、家が揺れるほどの振動が就寝中の俺に突如振りかかってきた。俺は警戒心を最大まで高め、決して家の中の音を外に漏らさないよう、身を潜める。またリオレイアが来たのか?それとも他にもあれに比肩する生物がいるというのか?俺は言いようの無い不安に襲われた。だが、そんな俺の心情とは裏腹に音の主は段々とこちらに近づいているのが分かる。大地を踏みしめる音は先程よりも大きく、そして太く轟いている。家の構造は地震が来た時の様に振動し、建材からは木の軋む音が聞こえてくる。ワシャワシャと鳴り止まない藁が揺られる音は、今にもこの家が崩壊するのではないかと俺を不安にさせる。その時だった。丸太を思わせるレベルで太く、そして人の身長を僅かに超える程の長い脚が家を踏み抜いたのは。次の瞬間、俺の目には仄かに明るさを帯びた外界の景色が飛び込んできていた。家は文字通り半壊してしまった。俺は直方体の家の壁際に身を寄せていたのだが、幸いなことに踏まれたのは俺がいたのと正反対の方向だったので、俺自身は無事だ。しかし、残念なことに長方形の豆腐型は、無残にも崩れ去り、歪な桝形となっている。壊した張本人はのそのそとした足取りで崖下に向かって歩いている。崖下には同じ恐竜がもう一匹確認できるので、仲間の下にでも向かっているのだろうか。俺がリオレイアに殺された日に出会った草食恐竜、「アプトノス」とは違い、雷竜と酷似した現代の生物を遥かに超える大柄な体格をしている。体長は、20 [m]以上はあるな。そこに関してはあのリオレイア並だ。また、体高は、首を除いた胴体までの高さだけでも5、6 [m]はあり、建物の二階部分までなら余裕で届きそうだ。首はさらにそこから上に向かって伸びており、地上から頭の先端までの高さはざっと10 [m]は下らないだろう。その所為か、俺はあの恐竜はリオレイアよりも大きい様に感じた。 体色は緑色が混ざった茶色といった感じで、いかにも草原や森林にいそうな印象を受ける。首から背中、尻尾先端にまで、三角形の突起物が生えているのが確認出来る。尻尾はよくある雷竜の復元図にある徐々に先細になっていく形状ではなく、先端がハンマーの様に膨れた独特な形状をしている。あれで叩かれたら、一発で命を取られそうだ。変に近付いたり、ちょっかいを掛けたりはしない様にしよう。そして、頭頂部には瘤の様に膨らんだ器官が確認出来る。「グルオオーン」と周囲にやつの鳴き声と思われる音が鳴り響いた。急に轟音が聴こえたものだから、俺は反射的に身じろぎしてしまった。自然の、この島の雄大さを一点に凝縮していると言っても過言では無い程に、その声は勇ましかった。管楽器を思わせるその音は、かなり野太くて楽器特有の繊細さや緻密さこそ感じ取れないが、ここが本当に屋外である事が信じられない位に周囲に響き渡っており、空気の揺れを体感できるレベルだ。ぱっと見ではどんな原理でここまでの音を拡散させているのか分からないのが末恐ろしい。この音が鳴り響いてから、周辺の茂みからがさごそと小動物が立ち去るような音が耳に入ってきた。やはり、周りの動物たちもあの草食恐竜の迫力に恐れを成しているのだろう。そんな俺や周囲の様子を気に留める事無く、二匹の雷竜はお互いに首をすり付け合いながらじゃれ合っていた。ど俺はそんなやつらの様子と、一瞬にして破壊された我が家の残骸を見て改めてこの島の生物の脅威を思い知らされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 あれから、俺はしばしの間このまま、この場所で我が家を復旧させるべきか否かについて悩んでいた。恐らく、この辺りはあの草食竜、「リモセトス」の縄張りである可能性が高い。やつの名前はインプラントのインベントリから知ることが出来た。どうやら、俺が出会った生物は記録されているらしく、見た目と名前が図鑑方式でまとめられているページがあったのを昨夜発見したのだ。当初は生物の詳しい生態や、出会ったときの対処法などが書かれていないかと、期待したが、どこを確認してもそういった記述は無く、本当にそれ以上の情報は得られなかった。現実はそう甘くはないようだ。まあ、ここはポジティブに考えて、名前を知ることが出来ただけでも良しとしよう。ちなみに、俺がリオレイアにやられた日に出会った、首長竜は「エピオス」、手を治してくれた虫は「回復ミツムシ」、草食恐竜は「アプトノス」、ダチョウ型の鳥は「ガーグァ」、また昨日であった生物については、モグラは「モギー」、ピラニアは「キガニア」、巨大ナマズは「ガライーバ」、そしてシカは「ケルビ」と呼ぶらしい。閑話休題、ここがリモセトスの普段の行動範囲であれば、これからも今回と同じような事態が頻発することは明らかだ。流石に毎回壊されては復旧を繰り返していたら、脱出の準備など永遠に進まないだろう。そういった面では、早急に場所を変えるべきだ。だが、本当に場所を変えても上手く事が進む保証もないのは事実だ。これまでの経験からこの島に最早生物の脅威から逃れらる場所が無いのは既に分かっている。向こう側から何かされる度に移動をしていれば、それこそ脱出など夢のまた夢だろう。それに、まだここでは一日しか過ごしていないが、現時点では肉食生物は現れていない。もし仮に、襲われたとしてもリモセトスの様な強力な草食動物がいれば、言葉は悪いが弾除けとして利用できたり、そもそも脅威が近づかないよう抑止力になってくれたりするかも知れない。だからこそ、引き続きこの場所に基盤を設けるという選択肢も強ち悪いものではないと言える。藁よりも丈夫な材質の建材や動物除けの設備を作る手段があれば問題は解決に近付く。何か適当なエングラムが無いかインベントリを探してみる。

 

 

 

 

 

 俺は現状の改善に期待できそうなエングラムを早速見つけられた。木の建材類一式だ。リモセトスの踏みつけに耐えられるかは怪しいが、藁よりは幾分か耐久力はマシだろうし、居住性も改善できそうだ。寝る時に藁が顔とかにチクチク当たらなくなると考えると、それだけでも是非欲しいものだ。そして、もう一つ。期待度の高いエングラムがあった。それが「木の防護柵」だ。プレビューを見た感じではあるが、棒状の柵に大量のスパイクが紐で括り付けられており、動物除けにはもってこいの形状をしているように感じる。家を入口以外360 [°] これで囲ってしまえばあいつらも踏むのを嫌がって家を避けて行動するんじゃないだろうか?この島に来る前の俺であれば、こんな小学生の様な発想を馬鹿にしていたかも知れないが、今の俺は本気も本気だ。藁どころか目に見えないプランクトンにすらもすがる思いだ。少しでも生存率が上がるのなら試さない道理は無いだろう。そうして、俺は無事だった斧とピッケルを持って作業を開始したのだった。時刻は午前七時過ぎ、辺りはすっかり明るくなり、朝の爽やか空気が心地良かった。

 

 

 

 

 一通り資材を集め終えた俺はすぐに建材の制作に取り掛かった。とは言っても、毎度の如く俺は自分の作業を自分で見守るという摩訶不思議な状態であるのだが。まず、俺は木を斧でサイズを見つつ、三等分か四等分に叩ききっていくようだ。次に切られた木を垂直に地面に立て、縦に真ん中の位置に斧を突き立てた。そして、上下にその木を振って地面に何度も叩きつけ出した。すると、木はきれいに真っ二つに割れた。俺はさらにこの半分に割れた木材を十個ほど生産した。時折、作業している自分がミスをして怪我をしないか不安になったりもしたが、そんなことは無く手際良く作業が進んでいった。こんな事までこなしてしまうとは、エングラムというテクノロジー?は中々にイカれている。そんな事を考えている間にも、土台の支えとなる柱材や梁材が出来てゆく。それらの上に繊維の草を置き、さらにその上に先程の十個の木材を置いていく。それから、上の木材を斧の側面で叩いた。そうすると、繊維の草からでんぷん質の粘液が溢れ出てきた。その状態で上から全体重をかけて加圧すると、天板と支えがきれいにくっ付いた。これには驚きだ。糊はもっと作るのに手間ひまががかかるはずだ。俺はでんぷん質を加熱処理したり、長時間かき混ぜたりと骨の折れる作業が多いイメージを持っていたために、こうも簡単に接着剤を得られたことに驚きを隠せない。これは、今後の生活でかなり有用要素になると俺は確信した。強度も十二分に強い。思いっきり引っ張っても揺らしても外れることは無い。これは下手に釘やビスで止めるよりも締結力は強いのではないだろうか。俺はこの調子で作業を続けてくれた様で、合計四つの土台と八枚の壁、さらには三角形の壁四つに傾斜付の天井四枚作製した。資材の都合上、前の藁の小屋よりどうしても小さくなってしまうが、俺一人で使うなら十分なスペースを確保できるだろう。俺は早速出来た建材を草の性質を用い繋ぎ合わせて、家を作った。木製であるという点と、何より屋根だけではあるが三角形にしたことで以前の物にあった豆腐感は無くなり、一般的な家と変わりない形状になった点が合わさり原始人の家という感じは大分薄れた。これだけでも生活が一気に前進した感じがして、大きな達成感を得られる。だが、これだけで満足してはいけない。獣除けのスパイクウォールを一刻も早く作れねば。俺は家が完成した余韻も程々に自分に再び作業を始めさせた。作製には皮が必要とのことなので、昨日も狩ったカモシワラシを一匹手早く狩猟した。どうやらここら辺に群生しているようで、茂みなどを探したらそれなりの数を見つけた。やはり動物を殺す感覚にはまだ慣れない部分もあるが、生きるためには致し方ないと自分に言い聞かせる。その後、俺は石を使って無理やり木を削って丸材だった木にテーパをかけ、円錐形を形作っていった。金属製のちゃんとした道具ではないため、かなり手が疲れた。親指と人差し指の間がズキズキと痛む。だが、明日まで、いや夜になるまでに終わらせなければまた今日と同じことが起こる。そんな思いがあるからか、俺の手は悲鳴を上げながらも何とか作業についてきてくれている。辺りを夕日が照らす頃、俺は最後のスパイクをフェンスと紐で結びつけることに成功した。それから俺は休む間もなく、防護柵を家の周囲を囲むように設置し、辛うじて真っ暗になる前に作業を終えることが出来た。

 

 

 

 

 

 翌朝、またしても俺はリモセトスの足音で目を覚ました。ただ、昨日と一点異なるのは、やつらがこの家を迂回するようにして一帯を通過していったことだ。やはり、防護柵が功を奏したのだろうか。それに、結構揺れたが家が倒壊する様子は無いので、そこについても一安心だ。仮初とは言え、ようやく安住の地を確保できた俺は大きな安堵感とやり遂げた達成感で一杯になった。




 今回登場したモンスターはリモセトスです。メインシリーズではXシリーズのみでの登場なので、WorldやRiseのハンターの皆様には馴染みが薄いかもしれません。最近では一応ST2の方にも登場していたので、もしかしたらそっちで見た事あるよっていう方もいらっしゃるかもしれませんね。





 さて、本編の補足なのですが、木の建材を作る場面で繊維から接着剤の成分を抽出する描写がありましたが、これは完全に作者の独自解釈ですのでご注意ください。なぜこの様な解釈をしたのかといいますと、「ARK 木の土台」等でググってもらえれば分かるのですが、土台の構造的にゲーム内の材料であるわら、木材、繊維だけではどうしても作れないと思ったからです(多分現実的に考えて接合には釘かねじが必要と思われます)。そのため、インゴットが無い現状で木の建材を作るための苦肉の解釈として、繊維、すなわちARKの草から接着成分を取り出して部材同士を接合していると解釈致しました。作者はARKの細かい設定等についてはまだまだ知らない部分が多いので、こういった事でゲーム内で言及されている設定があるよといった場合にはドンドンご指摘を頂けると幸いです。




 長くなりましたが、次回もお楽しみにお待ちください!


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Version4.4:方尖

 今回は短めです。


 何てことだ!俺はこの期に及んでこんな重大な見逃しをしていたなんて!

 

 

 

 俺は住居が完成した安息感も忘れてしまうほどの大きな発見をしてしまったのだった。ふと空を見上げた時だった。ここから遥か遠く、緑色の光を放つ方尖塔を見つけたのだ。俺は自分の鈍さ加減にほとほと呆れてしまった。確かに、俺はこの島に来てからおちおちと遠景に目を向ける余裕も暇も無かったが、あれ程の大きな物体ならもう少し早くに見つけろよと自分に対して突っ込みを入れたくなる。目先の物事に集中し過ぎるのも考え物だ。今後、こういったことが俺に不利益を齎すかもしれない。そう考えると、これからは視野をもっと広く持たなければならないな。俺は自身の危うさに対し反省した。

 

 

 それにしても、本当にこの島は何度俺の常識を破壊すれば気が済むんだ。方尖塔とは、古代エジプト新王国時代において太陽神への信仰の象徴として建立されていた石柱状のモニュメントの事で、オベリスクとも呼ばれている。この島にあるオベリスクと歴史上の物との違いは一見しただけでもいくつか挙げられる。まず、あれは恐らく構造物全体が金属で作られているという事だ。古代エジプトの物は完全に石製であるし、近代以降に欧米で作られた物も内部構造に鉄筋等が用いられていたとしても、外壁に至るまで全てが金属製ではない。だが、これはさほど重要な事項ではない。真に恐るべきはそんな小さなことでは無い。なぜならば、あの塔の存在はあり得ないのだ。物理的に。そう、あの方尖塔、オベリスクは宙に浮いているのだ。見るからに全体が金属の塊の構造物、それも高層ビルに匹敵するような大きさの物が何の支えもなく本当に浮いており、さらには動く様子も無く一ヶ所に安定して留まれているのだ。俺は技術については疎い方だと自覚しているが、これだけは言える。明らかにあの構造物は現代の技術水準を超越した何かで作られている。マジモンのオーバーテクノロジーだ。建物を宙に浮かせる技術など開発されれば、それこそ大ニュースだ。しかし、それが世間に周知されていないという事はやはりあれに使われた技術や、この未知での生物で溢れ返るこの島も厳重に秘匿された物であると考えられる。本当に考えれば考える程この島の存在はきな臭くなる。あのオベリスク、よく見れば上部に腕のインプラントと同じ形状のひし形のオブジェがあしらわれている。両者の間に関連性が無いという事はまずあり得ないだろう。俺の行動を記録していたり、同じデザインが象徴的な建物に使われていたりする当たり、やはりこのインプラントは囚人服の様な物なのだろうか?だが、それにしては不可解な点も多くある。本当にそうなら、時計や生物の記録といった便利機能、果てはエングラムの様な超技術を実験用のモルモットの様な奴にそう易々と使わせるか?現状これらの機能は俺にとってプラスにしかなっていない。知れば知る程、俺をこの島に連れ込んだ連中の意図は分からなくなる。さらには、死んだはずの人間が、いやこれについては考えるのは止めておこう。深く考えると自分がどうにかなってしまいそうだ。それに、オベリスクの頂上から出ているあの天まで伸びる光の柱も不気味だ。見た目だけで判断するのは本来よろしくないだろうが、創作物などでありがちの展開を想像したら、あれに近付くと撃ち抜かれるみたいな事がありそうで怖い。加えて、建物があるという事は、その周辺にこの島を管理する人間がいるかも知れないという事だ。仮にそんな奴らがいたとしたなら、確実にそいつらはこちらに友好的ではないだろう。事実関係は俺自身で確認するまでは断定できないが、何も検証のためだけに自分からリスクに近付く必要は無い。取り敢えずは、あの建造物の方角に行くのは避ける形で活動しよう。オーバーテクノロジーによる産物を発見したとて、俺の目標は変わらないからな。

 

 

 

 まったく、事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。この島がどこかの国の秘密裏な実験施設なのか、将又本当に宇宙人にでも拉致されたのか、真実は闇の中だが、これ以上考え事をしても仕方がない。俺は日常を取り戻すために、今出来る事を全力でやるだけだ。

 

 




 今回裕太君はついにオベリスクを発見してしまいました。彼は自分は何者かに連れてこられてアイランドにいると現段階では推理していますが、真実は一体…?また、彼は現状オベリスクに赴くのには消極的ですが、いずれ訪れることがあるのでしょうか?そして、その先に待ち受ける者とは何なのか?!これからの展開にご注目ください!


 さて、今回は短かったですが、如何だったでしょうか?また次回もお楽しみにお待ちください!


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Version4.5:導蟲

 ようやく15話目に突入しました!まだ投稿を初めて一月ですが、中々ペースを維持するのは難しいですね。何年もかけて数百話も連載されている投稿者様の根気や情熱は本当に目を見張るものがあるなぁと常々感じる今日この頃です。本作は、まだまだ拙い出来ではありますが、閲覧してくださっている方々のためにもより良い内容にしなければと思う次第であります。


 とまぁ、前置きは長くなりましたが、本編スタートです!!


 あれから俺は生活に必要な物品を作った。寝心地は決して良いとは言えない簡易的なベッドに、石を火打石で削って無理やり作った調理鍋、そして木の板を貼り合わせて作った収納箱だ。これで一応生活をしていく上で最低限必要な物資は大方揃ったと言える。ここからは、プラスアルファで気になったエングラムの物を作っていこうと思う。まず一つ目は、槍だ。打製石器の穂先を木の棒に紐で括り付けただけの原始的かつシンプルな物だ。正直こんなオモチャでこの島の化け物の如き生物とタイマンを張れるなどとは毛頭思っていないが、何も無いよりかは幾分かは精神衛生上好ましいはずだ。それに、カモシワラシ等の小動物を狩る際にも、現在の手斧よりかは効率良く狩猟を進められる事が期待出来る。武装としては心許ないが、生活用品としては一定の成果が見込まれる。それがこの石槍に対する俺の評価だ。

 

 

 そして、もう一つ俺が気になったエングラムは「メモ用紙」だ。現状、インプラントにパソコンのメモ帳に該当する機能は無い。そのため、紙は電子媒体が実質使えない今の生活であれば、記録媒体としてかなり大きな役割を果たしてくれるのは明白だ。さらには、細かな汚れ取りなんかでも使えるから痒い所に手が届く事間違い無しだ。尤も、重要な前者の用途としては、ペンや筆が作れない現状すぐには用いられないが。ただ、エングラムから作られる紙がどんな感じになるのかという好奇心もあるし、材料も繊維と藁だから今すぐにでも作れる。取り敢えず作ってみよう。余ったらそれこそ、ちり紙にでもしてしまえば良い。いずれにせよ、あれば一定以上俺の生活の質を高めてくれと考えて差し支えないだろう。そうして、俺は製紙作業を始めたのだった。

 

 

 繊維、もっと言うとこの島の天然資源の多機能な事には毎度驚かされる。藁、正確には藁の様な質感をした木の屑や樹皮とでも言うべきか、それと繊維を、水を張った調理鍋に投入した。それから、これらを石でドロドロのペースト状になるまで叩いた。さらに、その中に圧力を掛けてでんぷん質を析出させた繊維を加えた。そして、それら材料が混ざった物を手ですくって外に出し、乾かした。本来は簀の子などで掬い上げるのが正しい製法なのだろうが、あいにく今そんな物は無いので、形は悪くなるがこれで妥協する。このエングラムの紙の製法は知っている。多少なりとも材料に差異はあるが、概ね「蔡侯紙」と呼ばれる現代の紙のルーツとなった物と同じ製法だ。ちなみに、その歴史は古く、紀元一世紀中国後漢朝の宦官、蔡倫が編み出したものとされている。しばらくの間天日干しにした後、目的の物は完成した。やはり、手で掬った所為か、形はかなり歪だが、手触りは完全に紙だ。麻紙に近い成分のためか、紙肌は粗く書きにくそうだ。この後、俺は残った材料でもう三枚ほど紙を作った。作業を繰り返す度に上達しているのか、最後の紙はきれいな真四角とまでは行かなくても、人によっては四角と思ってもらえる位にはまともな形になっていた。

 

 

 

 

 一仕事終えた俺は、昨日防護柵の紐の補強に用いる皮を手に入れるために狩った、カモシワラシの肉に噛り付いていた。疲れた時の肉はどんな食べ物よりも美味い。これは俺が普通にインドアな生活を続けていては、決して得られなかった感覚だろう。俺はしばしの間、この一時的な満腹感と幸福感に身を委ねていた。こういった瞬間だけは、種々の不安や孤独感を和らげることが出来る。やはり、食の力は偉大だ。

 

 

 しかし、そんな感傷に浸っていられるのも一瞬の事だった。食事を終えた俺の下へ、水を差す存在が集って来たのだ。それは、この昼下がりの時刻には似合わない、美々しく煌めくホタルの様な虫だった。ただ、それだけなら、景色を楽しめれど特に辟易するような要素は無いのだが、この異常な数の正しく大群を見れば誰だって引いてしまうだろう。もう少し数が少なければ、俺はこの光景を幻想的で美しいものだと言えたのかも知れない。だが、この異様な数の虫を目にすればそんな感想など軽く吹き飛んでしまう。軽く数百匹はいる。俺はブナハブラの件があってから、虫の群れという物に対して、どうにも抵抗がある。流石に大群と言えども、標準的なサイズの虫に食い殺される事は無いと信じたいが、どうしても体は命を守ろうと身構えてしまう。やはり、最初の死とあってか、その時の記憶は俺に深く爪痕を残しているようだ。俺は全身から悪寒感じながらも、額からは冷や汗が流れ顔のみが熱くなるという、とても不快な感覚に陥った。俺はその場にいられなくなり、ついに逃げ出してしまった。

 

 

 何てことだ。どれだけ逃げ回っても、この虫の大群は俺の後ろを綺麗に付いてくるではないか。しかも、一匹たりとも漏れなくだ。俺は息が上がってとうとう足を止めてしまった。虫たちは俺を取り囲む様にして未だ周囲をフヨフヨと静かに漂っている。その穏やかな様子を見るに、あいつらは俺に対して敵意を持ってないのかも知れない。それが頭を過ると、俺の中で緊張の糸が少しずつ切れてゆくのが分かる。さっきは数に圧倒されてマジマジと眺める余裕など無かった。しかしよく見てみると、光っているお陰か、こいつらから昆虫特有の気持ち悪さは感じ取れない。それどころか、黄緑色の光を放つ虫たちの飛翔は、まだ白昼にもかかわらず、夜のホタルを思わせる奥ゆかしさと、美麗さを併せ持っており、どこか幽玄を感じさせる様な幻想的な雰囲気を醸し出していた。それに、俺が動くとそこに必ずぴったり付いて来てくれるのが、可愛らしく感じる。思えばこの島に来てから俺はずっと一人きりだった。だからこそ、あの虫たちの様にスキンシップを取ってくれる存在を心の何処かで求めていたのかも知れない。少しの間ならこいつらと戯れるのも悪くない。虫に対する若干の恐怖は残るものの、考えを改めた俺は、息が整うと我が家に戻ったのだった。

 

 

 家に戻ってから、虫の群れがこれまでとは違った妙な動きをし始めた。先程俺が作った紙に纏わり付く様にしてその周りを飛んでいるのだ。もしかして、こいつらには紙を喰う生態でもあるのか?まさか紙魚と同類なのか?紙魚(シミ)とはフナムシに似た見た目をした昆虫で、古文書に食害を与えることで知られている。時に書物を修復不可能な状態に追いやる事もあるため、俺たち歴史の研究を行う者にとっては、正に天敵とも言える存在だ。それ故、古文書の保管場所の温度・湿度管理や清掃は徹底しなければならない。そんな天敵によるトラウマを思い出した俺は咄嗟に、虫の大群を掻き分けながら紙に駆け寄り、手に取っていた。それでも虫たちは俺の手に握られた紙に集っている。だが、幸いなことに紙に喰われた形跡は無いし、今でも喰おうとしている個体はいない。その様子に俺は安堵し、一気に鼓動が落ち着いていくのを感じる。過去のトラウマというのは誠に恐ろしいものだ。この島に来る前にも後にも、俺は虫に呪われているかもしれない。そんな事を考えていると、虫たちは紙から離れ、再び俺の周囲を漂い始めた。どういった目的があったのかよく分からない。紙に飽きでもしたのだろうか?こいつらは案外珍し物好きな虫なのか?人間が作った物に興味を示しているのか?というか虫にもそういう感覚とか感情ってあるのか?

 

 

 そんな取り留めのない疑問についてあれこれ考えていると、虫たちの一部は突如、成人男性の全力疾走と同じくらいのかなり速いスピードで森の中へ飛び去って行った。残った虫たちは、俺の周りを最初の頃よりも幾分か荒々しい様子で飛んでいる。さらに、その中の一部は牛が歩く様にゆっくりとしたペースではあるが、飛び去って行った集団と同じ方向に進もうとしている風に見えた。その様子はまるで、俺にこの先へ行って欲しいと訴えかけている様にも感じた。俺は迷っている。またランポスの様な危険生物と遭遇するかも知れない森の中へ入るのは、どう考えても真っ当な判断ではない。本来ならここで迷う要素など存在しない。合理的な判断を下したいのであれば、たかが虫の一挙一動など黙殺するに限るだろう。だが、俺のシックススセンスは虫たちを追うべきだと理性とは相反する通告をしている。この先には何か重要な物があると。しばらく逡巡したものの、結局俺は頭では危険だと分かっていながらも、強く湧き出る衝動に負けて虫たちの誘う方向へ歩を進めていくのだった。

 

 

 虫たちは一切の迷いもなく、薄暗い道なき道を進んでいく。体力の無い俺はそれに食らい付いて行くのが精一杯だった。俺たちはそれから数分程歩き続けた。そして、俺たちは最初に飛び立って行ったであろう虫たちの集団と再び合流する事が出来た。ここは森の中でもまだ比較的浅い場所だ。幸運なことに俺たちは大きな生物とは依然遭遇していない。目を向けると、合流した虫たちはある一ヶ所の周りを漂っていた。俺はその場所へ足を運ぶ。

 

 

 そして、その場所には古ぼけた金属製のツールボックスの様な形をした箱が鎮座していた。




 ARKのゲーム内では「メモ用紙」は何も設備を使わずに文字通り「手作り」出来るのですが、リアルに考えて、流石に無理があるだろうと考えたので本作では調理鍋を用いて製作しています。


 今回登場した虫の群れは、MHWorldに登場した「導蟲」と呼ばれる生物です。原作では、フィールドに登場するモンスターや環境生物、採取可能オブジェクトをマーキングしてその場所に案内してくれる画期的な新要素でした。新大陸のハンターの皆様は良くも悪くも様々な思い出があると思います(笑)さて、裕太君は数多のハンターに天国と地獄を見せたこの生物を使いこなすことが出来るのでしょうか?!またまた導かれた先にある物とは一体何なのか?!


 それでは次回もお楽しみにお待ちください!
(次回はリアルの都合上早くても来週の後半ぐらいにしか投稿できません。少しの間お待たせいたします…)


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Version4.6:探索者の記録

 前回の投稿から少し間が開いてしまいすいません…今月の後半はリアルが結構忙しいので投稿頻度が先月よりも落ちるかも知れません。どうかご容赦ください(汗)

 それでは本編スタートです!!


 俺は虫たちが指し示す箱を開けた。どうやら箱は施錠されてないようで、すぐに開けることが出来た。そこには、俺の作った紙とは正反対の端正なつくりをした小さなノートが一冊だけ入っていた。紙質は多少劣化してはいるものの、解読不可能になる程の致命的な損傷ではない。俺はそのノートを丁寧に箱から出し、大事に懐に仕舞った。

 

 

 俺は今高鳴る胸を抑えられないでいる。家に帰る道中も早く読みたいと気が急いたせいで生きた心地がしなかった。ソワソワし過ぎて自分が草木を踏んだ音にすら驚いてしまう程に、俺は気が昂っていたのだ。我ながらよくあんな状態で無事に戻ってこれたと思う。道すがら生物に遭遇していたら間違いなくやられていただろう。だが、それも仕方のない事だ。史学の道を志す者にとしての性か、こういう文献みたいに人の足跡を辿れる物品には無条件に気分が高揚してしまうのだ。これはどういった立場の人間が書いたのか、島を脱出するために何か有益な情報はないのか。否が応にもこの日記帳への期待値は高まっていく。それに加えて、この島で生活していた人間がいたという事実が、俺の孤独感を少しだけ和らげてくれる気がする。俺は早速このノートの最初のページを開いてみた。

 

 

 ノートを開いた瞬間、俺は一気にこれまでの興奮が立ち去っていくのを感じた。なんとこの手記は全編英語で書かれていたのだ。俺は英語が得意ではない。むしろ大の苦手だ。長文問題なんかを見た日には、頭がショートしてしまうんじゃないかという程、気分が重くなる。大学受験も英語を教えてくれる親友に何度も溜息を吐かれながら漸くクリアしたほどだ。だからと言って、ここでこの手記を見ないという選択肢はない。奇跡的に手に入れた貴重な情報源をみすみす逃す手など無い。俺は数時間以上に渡る格闘になる事を覚悟し、いざ日記に目を通し始める。その時だった。英語の文章の下に日本語のホログラムの様な文字列が浮かんできたのだ。この光景は、翻訳アプリのカメラ入力機能を利用した時の画面にとても似ていた。これも例によって左腕のインプラントの機能の一つなのだろうか?最近では翻訳ソフトの登場によって、外国語を学ぶ必要性はあるのかといった議論がしばしば起こっているが、なるほど、これはそんな議論を過去の物にしかねないトンデモ技術だ。正直こんなにあっさり苦手な英語を理解できるのならそれ程頼もしい物は無いだろう。改めて俺はこの島の技術力の異次元な事に驚かされる。この状況なら、俺は「君は異世界にでも転移してしまったのだ」何て突拍子も無い事を言われても本当に信じてしまいそうだ。

 

 

 それから、俺は手記の記述に目を通し始めた。まず、最初に目についたのは、一番上の行に記された記録者の名前と思しき名前だ。

 

 「Dr.ヘレナ・ウォーカー」

 

 そう書かれていた。どうやらこの手記を記したのは女性の研究者らしい。研究者ということは、まさかこの島のオベリスクを作ったり、俺をここに連れて来たりした連中なんかと関係がある人物なのか?それとも、俺の様にある日突然この島にいたというパターンか?もし仮に、前者だとしたら俺はとんでもない拾い物をした事になる。俺はきな臭い思考を抱きつつ、恐る恐る本文を読み始めた。

 

 「 ヘレナ、あなたは大馬鹿者だ!これまでの記録を見返していたら、この島全体における捕食者の数は被食者の数の約2倍近い事に気が付いた。これは生態系が機能するための法則とは正反対の事象じゃないか。雪山を駆け巡るティラノサウルスをこの目で見るまで気が付かなかったなんて、私は明らかに愚かだった。

 

 

   これはどういうことだ?人為的な要因を無しに、この島が自然のままの状態で存続し続けることは不可能だ。それが意味するところは、この島の野生動物は何らかの手段で監視・管理されているということなのか?

 

 

   私はこれからロックウェルと話した方が良いだろう。恐らく彼も同じような結論に至るだろう。」

 

 たった数段落の文章にもかかわらず情報量が多すぎる。少しずつ内容を整理しよう。まず、これを記したウォーカー博士は、生物学の研究者であることが伺える。冒頭で、この手記をしたためる以前からこの島の捕食者などの数を記録していたことが示唆されている点から考えても間違いないだろう。

 

 

 次に、ここからがこの手記の中で最も重要な情報だ。捕食者つまり、肉食動物が草食動物の二倍多く存在するという記述、これには俺も戦慄を禁じ得なかった。この記述を信じるならば、この島はランポスやリオレイアの様な連中で溢れ返っているということになる。俺がこの場所に移動してから数日間、リモセトスに踏み潰されそうになるというアクシデントは有ったものの、それ以外の危険生物には襲われずに生きていられたのは奇跡と言って他ならないだろう。多少なりとも生活基盤が整ったとは言え、俺はこの島においては弱者でしかないという事を嫌でも再認識させられた。俺はこの事実に途端に恐ろしくなり、足が竦む様な感覚に襲われた。そして、一番度肝を抜かれたのは、彼女が野生生物が監視されていると考えた記述だ。インプラントの件から人間が監視されている可能性には俺でも薄々気付けたが、まさか動物までもがその対象であったとは。やはり、常識外れの生物ばかりだからこそ、研究や何らかの利用法のために絶滅でもされると困るのだろうか?そうであるならば、個体数管理や行動記録などが行われていても何らおかしくはないだろう。また一つこの島に渦巻く狂気を垣間見てしまったのかも知れない。ともあれ、これによって、彼女が俺の危惧した様な存在ではなく、むしろ俺と似た境遇にある人物であったという事も推測できる。

 

 

 このウォーカー博士の胆力には驚かされるばかりだ。彼女がこの島に流れ着いた時の状況は分からないが、概ね俺と変わらない状況だったのは想像に難くない。そんな道具も諸々の物資も何も無い状況で、研究活動を行おうとする情熱は凄まじいものだ。生活基盤を確立するだけで四苦八苦している俺なんかとは大違いだ。捕食者の数が多い事が分かった時も、怖がるよりも、生態学上の矛盾点について真っ先に考える当たり優秀な研究者なのだろう。それに、彼女は雪山に赴いている。雪山がどこにあるのかは分からないが、この辺の気候や植生から考えると、かなり遠出をしたと考えられる。この島における移動のリスクはそれだけでも決して小さくない。にもかかわらず、遠隔地へ赴けるだけのフットワークの軽さと並々ならぬ研究への熱意は、まるで映画の主人公を見ているような錯覚を抱かせる。そして、彼女はその雪山にて「ティラノサウルス」を観察した。この島に遥か大昔に絶滅したはずの生物がいるというのもヤバイ情報だが、強ち嘘とは断じれないのがこの島の恐ろしい部分だ。彼女の言う「ティラノサウルス」が俺の良く知る物と同じなら、あのランポスはおろか、リオレイアに迫る体格と威圧感を持っていたのだろう。そんな相手を間近で観察するなど、遭遇しただけで腰を抜かして動けなくなる俺には到底できることではない。そんな恐怖を乗り越えてでも研究を行った彼女は間違いなく、真の学者だ。記録を読み終えた俺は、そんな素晴らしい先達に対し、自然と尊敬と感謝の念を示したのだった。




 今回はエクスプローラーノート回でした。エクスプローラーノートはARKにおいてストーリーをプレイヤーに知らせるフィールドに落ちている先人たちの記録です。モンハンで言うならば、Riseの手記帳近い物でしょうか。今回取り上げたのはヘレナの記録6です。ARKの公式wikiにいくと原文が載っているので気になる方はそちらもご確認ください!ヘレナさんはARKのストーリーの中でも重要な人物で、これから裕太君もいろんな場面で関わっていくことになります。

 最後になりますが、次回の投稿は日曜日を予定しています。次回もお楽しみにお待ちいただけると幸いです!

 


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Version4.7:ならず者再び

先週、今週とARK Survival Assendedの情報が更新されましたね。延期は少々残念ではありますが、今週のギガントラプトルのコンセプトアートは個人的にかなりツボに入りました(笑)細部まで本当に細かく作り込まれていて、Unreal Engine5のスゴさを思い知らされましたね!プレイ映像が公開されるのが待ち遠しいです。


 小説の方も無理のない範囲で頑張っていこうと思います!それでは本編スタート!


 俺は酷使した頭の冷却と、今晩の食料の確保を兼ねて、石槍を片手に近所の散策に出ていた。先程のウォーカー博士の記録には、残念ながら俺が期待したような島からの脱出手段に関係する情報は無かった。だが、この島の謎を解き明かそうとした彼女の姿勢には勇気を貰う事が出来た。俺には彼女の様な偉大な行いは出来ないが、それでも同じ様にこの極限環境下で生きた、生きている人がいるという事実だけでも、今の孤独な心を奮い立たせるには十分だ。

 

 

 唐突ではあるが、少し実験をしたいことがある。それは今も俺の傍らを漂っているホタルの様な虫の群れ、導蟲に関してだ。あのノートを手に入れられたのは、そもそも突如として飛び去って行った導蟲を追い掛けたのが事の始まりだった。その前後での導蟲たちの動きに気になる箇所があるのだ。こいつらの一部が飛び去る前には、群れ全体で紙に集っていた。そして、群れが向かった先には紙があった。そのことから考えると、あの不可解な行動は紙を覚えるための行動だったのではないだろうか。丁度、犬に匂いを覚えさせて探し物をする様な感じで。そう仮定すると、一連の流れに説明がつく。とにかく調べてみない事には始まらない。

 

 

 俺は試しに導蟲の群れの中に手のひらサイズの石を近づけてみた。最初の数秒間は特に何の反応も無かったが、それから導蟲たちが徐々に石の周りに集まってきた。紙に集まって来た時のように、石の周りを漂っている。そして、少しの間が経過した後、導虫たちは群れの一部を残してまたもや飛び去って行った。俺はそれを追い掛けてみる。たどり着いた先は今いた場所から約数十メートル程しか離れていない場所だった。そこには、俺が持っていた石と同じ種類の岩があった。次は俺が普段から常備している食料の一つである赤い果実、ティントベリーを使ってまた同じことをしてみる。案の定と言うべきか、今回もまた導虫たちはベリーの在りかへと向かっていった。ここまで来れば間違いないだろう。やはり導蟲にはこちらが与えた物の何らかの特徴、匂い?形状?なんかをを記憶して近くにある、同じ物を探す生態があるのだろう。これは今後の生活において大いに役立つ性質だろう。必要な資材や食料の場所をこちらが知る事が出来るのは非常に大きなアドバンテージだ。無駄に当ても無くそれらを探して歩き回る必要もなくなる。ただ、それが出来るのは自分が知っていてかつ持っていいる物に限定されたり、幾ら導蟲とてこちらの安全配慮してくれる保証は無いので、知らず知らずのうちに危険地帯に足を踏み入れたりするという欠点については重々理解しておかねばならないが。しかし、それを差し引いてもこの導蟲は今後重要な役割を果たしてくれるだろう。

 

 

 一通り導虫たちの生態について確認した俺は、本日の夕飯を求めて辺りを調べ始めた。残念なことに、昨日まで導蟲の生態は疎か存在すら知らなかった俺は、狩猟したカモシワラシの亡骸を残していなかった。導蟲が動物に関しても紙や石と同じ挙動をするのかまでは分からないが、今となっては検証の余地すら無いので後の祭りだ。これも調べられたら良い結果を得られたかも知れない。今度からは狩った生物の皮とか毛とか、一部だけでも良いから保存しておこう。もしかしたらこれらにも導蟲が使えるかも知れない。思わぬところで足を掬われてしまったな。反省。そんなこんなで、俺は周辺を探索していたが、青空が橙に染まる時間になっても尚、俺が狩れるような小動物は発見できなかった。ケルビやアプトノスなんかはチラホラと見かけはしたが、俺が石槍一本で戦いを挑むには余りにも荷が重い。今夜の飯がベリーだけになるのは癪だが、それですぐに死ぬ訳ではない。運が悪かったと思ってここは大人しく引き返そう。そう思い家の方向に踵を返そうとした。その時だった。

 

 

 「グォグォ、ギャーゥ!」

 

 忘れもしない、忌々しい声が辺りに鳴り響いたのだ。俺がここに来てから常に警戒していた存在の一つ、青き竜、ランポスの御登場だ。




 


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Version4.8:Triumph!

 前回は久しぶりに不穏な最後となりましたが、今回果たして裕太君は無事に生き残れるのでしょうか?!

 それでは本編スタート!!


 ああ、何度味わっても、この獣に睨まれる感覚には慣れないな。今、俺の目の前には、三匹の青い肉食竜が立ち塞がっている。奴らの黄色くて大きくて、そしてどこか据わっている無機質なその瞳は、忘れようも無いあの本能的な恐怖心を呼び起こさせる。だが、最初に殺されたあの時とは明確に違う事が一つだけある。それは、俺にまだ幾分かの理性が残されている事だ。あの時は、ただ恐怖に駆られて、腰を抜かして震える事しか出来なかったが、今は違う。確かに、今の俺も手足は震え、額からは嫌な汗がこれでもかという程に溢れ出ている。だが、それでもランポスを眼前にしても何とか踏みとどまる事が出来ている。やはり、リオレイアと出会ってしまったせいで、俺の感覚と言うか、基準は狂ってしまったのかも知れない。

 

 

 

 現状、三匹のランポスと俺が正面から相対している。両者ともに大きな動きを見せることの無い膠着状態だ。出来ることなら、一秒でも早くこの場から全力で逃走したいものだが、それは現段階では最悪手だ。仮に今俺が全力でダッシュしても奴らにすぐに追い付かれるのが関の山だ。人間の速力では絶対に奴らを引き剝がすことは出来ない。だからこそ、俺は奴らと目を合わせたまま、なけなしの槍を構えつつ、ゆっくりと一歩、また一歩と少しずつ後退している。対するランポス達は、そんなこちらの様子を警戒してか、いきなり飛び掛かって来るようなことは無く、徐々に獲物を追い込む構えを取っている。三匹の群れはアーチを描く様にして広がっている。俺の真正面には一匹のランポスがいる。現状、俺と睨み合っているのはこの個体だ。残りの二匹は、そいつを中心として左右に分かれ、俺から見て左右の方向から俺を囲み込み込むように俺へ向かって段々と前進してくる。奴らが歩を進める度に、俺も一歩ずつ後ろへ下がってゆく。数の優位は向こう側にある。このままズルズルと同じ状態を引きずり続ければ続ける程、こちらが不利になるのは火を見るよりも明らかだ。だが、それでもこちらからこの均衡を破壊しに行く事も出来ない。もしも、俺が槍一本で突っ込んだところで、群れの力には敵わない。さらに、運が悪い事に、今俺が進んでいる方向は家とは正反対だ。つまり、家まで引き付けて、最終的に立て籠もるという手段は使えない事になる。だからこそ、俺が一瞬でも長く生き残るためには、この出来レースに縋り続ける他無いのだ。何分、何時間経過したのかなどこの極限状況においては、分かるはずがない。ただ一つ言えるのは、この膠着が俺にとって無限にも思える程の時間続いているという事だ。お互いが歩みを進める毎に、勝利の天秤が少しずつ、だが確実に向こう側に傾いて行くのを実感する。

 

 

 

 

 永遠に続く時間など存在しない。変化という物は突然にやって来る。いつ終わるとも知れない程続いた歪な均衡は、あまりにもあっさりと破られてしまった。俺は靴底から土とは違う何か硬い、違和感のある感触を感じ取ったのだ。俺は思わず、足元を見てしまった。なんとそこには、体長15 [cm]以上はある黄色い甲殻を持つコガネムシを思わせる昆虫がいたのだ。しかも、人間に踏まれたにもかかわらず、全くの無傷で。しかし、こんな事に気を取られている暇などない。俺がほんの僅かな隙を晒したと見るや、先程まで睨み合いを演じていた真ん中のランポスが体を縮め、俺に飛び掛かる体勢に入っていたのだ。最早万事休す、絶体絶命とは正にこの事だ。そんな様子を見て、俺はまたこいつらに殺されるのかと、悔しさを滲ませた。家を作ろうとも、生活物資を整えようとも、、終いには武器を作ろうとも、結局のところ人間は無力だ。前から十分理解していたつもりではあるが、やはり、いざそれを目の前で突き付けられると、例え何回目だとしても、悔しくて、悲しくて、絶望してしまう。きっと、向こうにその気など無いのだろうが、人の営みを否定されている様で、堪らなくむず痒い。せめて、今度は腹に爪を指したりせず、一発で喉笛を噛み切って欲しいな。あの時も似たような事を考えてたっけ。結局、俺の運命は何があっても不変って訳か。そんな諦観が俺の心を覆い、一方では一頭のランポスがいざ飛び上がろうと縮めていた足を延ばした、その刹那だった。

 

 

 

 

 

 

 

-------------ピシューーーン---------------

 

 

 

 

 

 

 

 そんな何かが弾ける様な音と共に、眩いという言葉では表しきれない程の強烈な閃光が辺りを照らしたのだ。俺は咄嗟に目を閉じ、顔を両手で覆った。発光が収まると同時に俺は目を開けた。すると、俺の視界には信じられない光景が映っていた。なんと、三匹のランポスが先程の光で眩暈を起こして行動不能になっているのだ。俺に向かって飛び掛かろうとしていた一匹は、急な刺激で身体のバランスを保てなくなったのか、地面に転倒して、まるで釣り上げられた魚の様にのたうち回っている。残りの二匹も立ててはいるが、その足元はふら付いており、首から上はダラーンと下を向いて項垂れる様な姿勢になっている。

 

 

 

 そんなランポス達の様子を見た瞬間、俺の中で得体の知れない何かが込み上げてきた。今なら殺れる。殺れば俺は生き残れる。そう何かに囁かれた気がした。

 

 

 

 

side ???

 それは彼が、多くのサピエンスが久しく忘れた原初の本能であった。人が考える葦となるより遥か太古の、まだ獣であった時の生きる術だ。だが、これは「挑戦し続ける者」となってまだ間もない彼には理解の及ばない物に違いない。今、彼は理性ではなく、ただ生きたいという生命の本能によってのみ衝き動かされているのだ。私や先人の様にただ、小さな部屋の小窓からしか世界を見れぬ者には到底成し得ない偉業だ。私は彼が羨ましい。そして、また彼と云う存在にどこか懐かしさや郷愁を感じるのだ。それは、今では僅かに残るのみとなった私の旅路の記憶を刺激するのだ。

 

 

 おっと、彼が動き出したようだ。彼はどうやら最も被害の大きかったのたうち回っている個体に狙いを定めたようだ。仕留められる獲物から仕留めようとする。実に賢明な判断だ。まだまだ不慣れなものだと思っていたが、サバイバーの成長は存外早いものだ。彼はランポスの首筋に、手製の石槍を突き刺した。だが、奴らの皮膚は硬く、貫くことは疎か傷を付けることさえも出来ない。それでも彼は、二度、三度と槍を突き立てるが、青き竜の体躯を突き破る事は叶わない。それもそのはずだ。あれらはそれしきで息絶える程柔な「設計」ではないからだ。さあ、ここから君は一体どうやって対処する?

 

 

 

 

 彼はまだ諦める気は無いらしい。彼は天を仰ぎながら、喉が潰れんばかりの雄叫びを上げたかと思うと、今度は奴の眼孔に得物を突き刺した。そして、柄の先端に全体重を掛け、より深く潜らせてゆく。あの様な急造の品では、やはり荷重を支えることは出来ないようで、彼の槍は座屈して真っ二つに割れた。それと同時に刺されたランポスの身体一瞬だけビクりと震えた後、掠れた弱々しい断末魔と共に動かなくなった。残りの二匹は、閃光による眩暈が収まり、同胞の最期が見るや否や、一目散に深い森の中へと去って行った。どうやら彼は一つ急場を凌げたようね。

 

 

 

 

 私は彼の戦いを見て、懐かしい記憶を蘇らせていた。彼の戦いは率直に言って、まだまだ粗削りで、あの時よりも過酷な環境となったあの島を生き延びるには力不足だ。私の知る獣の女王には遠く及ばない。しかし、そんな彼の様子は在りし日のヘレナを想起させるのだ。彼女もまた今の彼と同様に、自らを守るため慣れない武器を取り、脅威に立ち向かう事を選択したのだ。さあ、サバイバー、あなたの試練は、冒険は、進化はまだ始ったばかりよ。願わくば貴方がこの地へと廻り来ぬことを。

 

 

 

 

 

side 桃園裕太

 「はぁはぁ、やった…のか…?」

 

 気が付けば俺の目の前には、槍が眼孔から頭部を貫通した一匹のランポスが横たわっていた。息はすでに無くなっているようだ。本当にこれは俺がやったのか?俺はあの窮地から生き延びる事が出来たのか?実感は未だに湧かない。だが、一つだけ言えることがある。人間だってやれば出来るんだ!幾重にも偶然が重なった上での勝利なのは承知の上だが、それでもヤツらに一矢報いられたのに変わりは無い。少し遅れて、俺の胸中に感情の波が押し寄せてきた。歓喜、安堵、優越感、それらが入り乱れ麻薬の如く俺の心を刺激する。そんな俺の心境を映し出す様に、夕日は燦然とこの島を照らしている。今この瞬間だけは、勝利の喜びに身を任せよう。




 本編の補足です。裕太君が踏んづけたムシは光蟲という、モンハンでは超お馴染みの昆虫です。閃光玉orスリンガー閃光弾という、現実で言うスタングレネードに近いアイテムを調合するための素材となっています。


 ここからはハンターの皆様向けなのですが、光蟲はMHWorldの本編では息絶える時に強い光を発するという記述がありますが、昔のハンター大全にはどうやら発光後に光蟲は逃げていくという記述もあったようです。今回の話では後者の設定を採用させていただきました。


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Version4.9:鮮青の狩人

 前回は見事ランポスの討伐に成功した裕太君ですが、今回はどんな相手が待ち構えているのでしょうか?それでは本編スタート!!


 昨日の勝利の余韻も冷めやらぬまま俺は新たな朝を迎えた。この島を照らす朝日は何度見ても美しい。常に生命の危機に晒され、さらには娯楽が一切無いこの島での、俺の数少ない楽しみの一つだ。そして、空気も美味しい。大自然特有のこの爽やかで、澄み切った心地良い空気は街の中にいては中々味わえないだろう。この空気感を堪能するように俺は採集に出かける。とは言っても、安全を期すため、半径百メートル圏内のごく近場に限られるが。今日の目的は、朝食にするベリーを取る事だ。それに、導蟲用の虫篭を作るために繊維を取るのも良いかも知れない。ちなみにだが、今探しているベリーや繊維が取れる草もこの島の生き物のご多分に漏れず、現実離れした性質を持っている。それは、異常なまでの再生力だ。あの草は、草の中では背丈や幅が大きな方で、生垣に植えられているツツジ位のサイズは平気であると思う。それにもかかわらず、完全に刈り取った場所を一日後に見てみると、きれいさっぱり、元通りのサイズの同じ草が生えていた。この島に来る前の俺がその光景を見たら、ひっくり返っていただろうが、正直今更この程度ではもう驚かない。動物たちがあんな珍獣、魔獣揃いであるならば、植物にもそのくらい異次元な能力があっても何ら不思議ではない。まあ、俺としては資源の残存量に気を配る必要が無いので、好ましく思っているのだが。それはさておき、俺はいつものように、慣れた手付きでベリーの採取を始める。今回は繊維も欲しいので、実だけ千切るのではなく、草ごと刈っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 採取を終えた俺は、草の束を両脇に抱えてそそくさと家路に就いた。慣れとは恐ろしいものだ。つい十数日前までこの様なフィールドワークとは全くの無縁だった俺が、小馴れた手際でこんな事をしているなんて、家族や友人が知ったら大層驚くだろうな。だが、このルーティーンが島を出るまでの束の間の日常になりつつあるのは事実だ。いつもの茂みに行って、いつもの道を通って帰る。今日も変わらずその行程を繰り返す。しかしながら、今日はいつもと周辺の雰囲気が些か異なる部分がある。道中に草食動物がいないのだ。いつもなら、ケルビやアプトノス、ガーグァにリモセトスなんかも見かけるのだが、今日は何故かいずれも姿が見えない。昨日ランポスが現れたから、逃げ出したのだろうか?だが、それが直接の原因ではない気がする。第一、昨日倒せなかった二匹の個体も森の中へ逃げ去って行ったから、ここの草食動物が避難する理由が見当たらない。ともすれば、新たな捕食者の出現が考えられる。俺が海岸でリオレイアに遭遇した時、周囲のアプトノスたちはその襲来を早めに察知したのか、大慌てで逃げ出そうとしていた。その時の状況と現在のそれを照らし合わせると、やはり近くに肉食生物が潜んでいる可能性が高い。不気味だ。俺は何か嫌な予感を感じ、家への足を速めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 道中は何事も無く、家の前まで戻って来る事が出来た。案外あの異様な雰囲気も見掛け倒しだったのかも知れない。俺は楽観的ににそんな事を考えていた。そんな時だった。

 

 

 

 

 「グォグォ、グォーー」

 

 

 

 

 以前に遭遇した時よりも野太く、威圧感に満ちたランポスの鳴き声が聴こえたのは。その瞬間、十匹以上のランポスの群れが一瞬にして俺を包囲した。俺は思わず両脇に抱えている物を落としてしまった。その動きは、これまで出会った個体とは違い、統率の取れた軍隊を思わせる程に機敏で、無駄なく洗練されていた。俺を取り囲む群れの中には、二匹、取り分け鋭い視線をこちらに向けてくる者がいた。その眼は、今にも俺を射殺さんとばかりの強烈な物だ。それを察知した俺は思わず、蛇に睨まれた蛙の如く縮こまってしまった。もしや、あの二匹は昨日取り逃がした奴らなのか?そうであれば、あの周囲の個体より殺気立った様子にも納得できる。まさか、昨日の今日でカチコミをされるとは。流石にこの数に囲まれたらどうしようもない。俺はまた死んでしまうのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな絶望感と諦観が押し寄せる中、さらに追い打ちを掛ける様に事態が動いた。俺を囲んでいた個体の内数体が持ち場を離れ、姿勢を低くした。俺はランポスの突然の行動に驚いたが、これは絶好のチャンスだと思い、包囲が緩くなった場所目掛けて走ろうとした。その時だった。通常のランポスよりも二回りほど大きな体躯を持つ巨大なランポスが現れたのだ。体長は10 [m]、体高は3 [m]はある。それに、その鶏冠は通常のランポスのそれに比べて遥かに大きく、赤く肥大化している。後頭部から体の後ろの方向へ伸びており、先端は槍の穂先の様に鋭利な形状をしている。俺を取り囲んでいるランポス達は、飽くまでも隙を作らぬよう一瞬だけではあったが、その巨大な個体の方を見た。間違いない。今、俺の目の前に現れたこの個体こそが、ランポス達のボスだ。俺はそう確信した。最初の声の主もこいつで間違いないあだろう。恐らく、仲間が俺に殺されたことを根に持って態々、自ら出向いて来たのだろう。そうだとしたら、この生物は何と執念深い事だろう。いや、だからこそこの過酷な島で生き残れるのかも知れない。きっと、俺は昨日からこいつらに後を付けられていたのだろう。だからこそ、奴らはこうして俺の居場所を知っていて、なおかつ迅速に行動出来たんだ。試合に勝って勝負に負けるとは正にこの事だ。昨日のあの一匹を倒した後、油断せずにもっと周囲の状況に敏感になるべきだった。俺は自らの詰めの甘さにほとほと嫌気が差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 群れのボスは、俺を一瞥すると頭を大きく持ち上げ、、野太い雄叫びを挙げた。すると、ランポス達が俺の方から遠ざかり、包囲網を緩めた。そして、ボス個体は身体を大きくひねり、目にも留まらぬ速さで細長くしなやかな尻尾を俺に対して打ち付けてきた。俺は後方に数メートル以上大きく弾き飛ばされ、宙を舞った。先程尻尾がクリーンヒットした脇腹の肉は大きく抉れ、服が真っ赤に染まっている。俺はその痛みを意識する暇も無く、背中から地面に叩きつけられた。その瞬間凄まじい激痛が身体全体に走った。今ので背骨がイカレたかも知れない。だが、そんな事を思えるのもほんの僅か一瞬だった。次の瞬間には、ボスが再び号令をかけ、全てのランポスが俺に向かってきたのだ。俺はそのまま十匹を超えるランポスに集られ、全身を噛まれ、爪を突き立てられ、名状し難い激痛の波を何度も味わった。そして、最後はもう碌に痛みすら感じられぬほど意識が朦朧とする中、ボスの個体に首を嚙み砕かれて、ついに意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

You were killed by a Velocidrome.

 




 今回登場したモンスターはドスランポスでした!初代モンスターハンターから存在するモンスターで、大型モンスター(いわゆるボスモンスター)としてはゲームを始めて一番最初に戦う相手でもあります。なのですが、4,4Gでは魔改造を施され私を含め、舐めてかかった多くのハンターが蹴散らされました。


 ランポス種は非常に執念深いのが特徴です。原作の設定でも、人里を襲撃した群れを辛くも撃退したと思ったら、後日リーダーを連れて来てもう一度来たといった物があります。残念ながら裕太君はそれを知らず、今回やられてしまった形になります。ちなみに、最後にドスランポスが行った尻尾攻撃はメインシリーズで行ってこない、F限定のモーションです。


 順調に進んでいた中で乙った(ARKではよくあること)裕太君ですが、これからどうなるのでしょうか?それでは次回もお楽しみにお待ちください!


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Version5.0:森を牛耳る蛮顎の竜

今回はタイトルの段階で軽くネタバレしかかってますが、ご了承ください。


 「知ってる天井だ。」

 

 俺は見覚えのある室内で目を覚ました。と言っても、慣れ親しんだ我が家などではなく、俺がこの島で作った木造の小屋のだが。今までの事がすべて夢で、目が覚めたらまたいつもと変わらない日常が、なんて都合の良い夢オチ展開だったならばどれ程幸せだっただろうか。だが、この現実が眼下に広がっている以上、タラレバ話をいつまでも考え続けている暇なんて無い。一先ず目の前の現実を整理しなくては。

 

 

 

 

 

 

 俺にとっては、先程の襲撃からどれ位の時間が経過したのかは分からない。もし、少し間しか経過していない場合、群れのボス、ドスランポスを含むランポスの群れがまだこの近くにいるかも知れない。現状で再び遭遇してしまったら、また先程と同じ展開になるだろう。取り敢えず、状況が分からないから外の様子だけでも確認しておこう。そうして、俺は家のドアをほんの数センチだけ開き外の様子を眺める。だが、そこに在ったのは目を疑う光景の数々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれだけの数がいたランポスが一体も残らず見るも無残な姿に変わり果てていた。ある個体は、乱暴に投げつけられでもしたのだろうか、家の外周を覆うスパイクウォールに全身が突き刺さって絶命している。しかもそのスパイクウォールは、何か衝撃が加わったのか真っ二つに割れている。ランポスの皮は槍でも貫けない程に硬く丈夫だった。にもかかわらず、この惨状が繰り広げられているという事は、相当な速度で投げ飛ばされでもしたという事だ。それに、よく見たら、家の外壁も所々傷がついていたり、血痕が付着していたりしている。他のスパイクウォールも踏み潰された痕が複数あり、囲いとしての機能はもはや半壊している。明らかに想像を超えた事態が起こっている。それから、俺は状況をより詳しく確認するためにもう少し、周囲を見渡してみる。他にもランポスの死骸は多く転がっている。その中でも多いのは、炎で焼かれた様に、体表に焦げた跡が付いた死体だった。炎で真っ先に思い出したのは、リオレイアだ。確かに、あいつならこれしきの暴挙を行うなど造作も無い事だろう。だとしたら、今はかなり不味い状況だ。まだ奴が近くにいる可能性が高い。であるならば、ここも最早安全とは言えない。それに少し気になる事もある。それは、この家やその周囲のそこかしこに付着した黄色い粘液だ。先程から漂って来る、血液のものとは違う何かが腐った様な鼻を刺す臭いの原因のように見える。そして、そこには導蟲たちが集まっており、ウォーカー博士の記録を見つけた時と同じ挙動をしている。あれは確実に何かある。そう思った矢先、この不穏な静寂は破られた。

 

 

 

 

 

 

 「グ…グォグォ…」

 

 

 

 

 家の扉の右方からドスランポスの物と思われる鳴き声が聴こえたのだ。その声は、俺を殺した時の威圧感が嘘だと思えるほどに、弱々しい呻き声だった。それと同時に導蟲たちがその方向に向かって一斉に飛び始めた。このまま篭っていてもどの道助からない。そう予感がした俺は、意を決して家の外に出たのだ。そして、導蟲指し示した場所には、信じられない衝撃の光景が広がっていた。あの10 [m]の巨躯を誇るドスランポスが、いとも簡単に咥えられ、まるで親猫に連れられる子猫の様に運ばれていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは圧巻のパノラマだった。もし、これが俺の目の前で起こっている現実でなければ、そんな吞気な感想を言えたのかも知れない。俺の目の前にいたのは、またしても肉食恐竜だった。だが、それは今まで巨大だと思っていたドスランポスがまるで子供の様に見える程、圧倒的な存在だった。その様は誰しもが知る、あのティラノサウルスを彷彿とさせる。体長は20 [m]は確実にある。身体の高さも4 [m]以上はあり、ドスランポスのそれを大きく上回っている。また、スレンダーな体格のドスランポスとは異なり、大柄でかなりガッチリとした体型をしている。脚は丸太の様に太く、大腿部から足先に至るまで、筋肉が浮かび上がっている。足のサイズも5、60 [cm]はあり、指や爪の大きさもそれに応じて太く長くなっている。首は平均的な成人男性と同じくらいの太さがあり、そこから生える頭も大人の人間と比較しても遜色ないほどの大きさだ。単純な体の大きさだけならあのリオレイアと同程度だろうが、この体格のせいか、ぱっと見の威圧感はこちらの方が強く感じる。皮膚は全身を通して薄いピンク色で、前脚や後脚の一部は黒ずんでいる。そこからは、爬虫類らしい独特な質感の鱗が覗く。さらに、首の付け根から尻尾の先端に至るまで、身体の上部を覆うように紺色の体毛が生えている。そして、大きく開いた口から覗く無数の牙は、ナイフのように鋭く、ティラノサウルスの骨格標本と比べてもほとんど違いが無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 咥えられたドスランポスは前後の脚をばたつかせ、抵抗している様に見えるが、その動作からは群れを率いていた時の力強さや威厳はまるで感じられない。その姿はもはや余命幾ばくも無いひっくり返った虫の様に、弱々しく、まさに自然界の弱肉強食の縮図を表しているように思えた。あのピンクのデカい恐竜はそんなドスランポスの様子など歯牙にもかけず、こちらに向かって悠然と歩いてきた。そして、俺を一瞥したかと思うと、その瞬間に大地を踏みしめる脚を大きく開き、力を籠めた。それから、軽く見積もっても体重が数百キロはあるであろう青の竜を咥えたまま、背中を上にそらせ、頭部を天に向かってほぼ垂直に持ち上げた。俺は、目の前の竜の迫力に気圧されながらも、震える足に鞭を打ってその場から駆け出した。俺は、奴によって破壊されたであろうスパイクウォールの隙間を縫いながら家を抜け出した。覚束ない足取りで数十メートルほど進んだ時に異変は起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴーンと、後方から何か硬い物体同士が衝突した時のような轟音が俺の耳を刺したのだ。俺はあまりの音圧に耐えきれず、その場で耳を塞ぎ、うずくまって動けなくなってしまった。そんな時俺の目に入って来たのは、目を背けたくなる余りにも残酷な光景だった。ドスランポスはあのデカい竜によって思い切り、俺の家の外壁に投げ飛ばされ、叩きつけられていたのだった。その衝撃で、ドスランポスは白目を剥いた状態で事切れ、さらに俺の家は全壊してしまったのだ。俺は目の前が真っ暗になる感覚に襲われた。リオレイアに殺され、全てを失いながらも辿り着いた新天地。そこに建て、多くのハプニングを共に乗り越えてきたあの家は、云わば俺の努力の、成長の証であり、孤独な俺にとって数少ない心安らぐオアシスの如き場所だった。そんな家がついさっき現れた名も知らぬ生物によって蹂躙されたのだ。理不尽だ。あまりにも理不尽過ぎる。あの竜は、この島は、何度俺から全てを奪えば気が済むんだ!日本での平和な日常を奪われ、何処とも知れぬ島に裸一貫で連れて来られた挙句、さらにはそこで得たほんのささやかな安寧すらも許されないだと!俺が一体何をしたって言うんだ?何で死ぬ痛みを、恐怖を何度も味わわなければならないんだ?そんなやり場のない怒りだけが虚しく込み上げてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、動けない俺の様子を見つけたあの竜はこちらを向くと、一瞬だけ身体を後退させ、上半身を捻ったと思うと、その巨体に見合わぬ豪快な大ジャンプをした。数メートルの高さまで飛び上がった竜は瞬時に俺との距離を詰めてきた。俺は何とか立ち上がり、逃げそうとするが、竜が着地した際に発生した振動で足を取られ、転んでしまった。そして、俺と竜は向かい合い、見つめ合う様な態勢となった。竜は姿勢を低くし、頭の位置を俺の高さに合わせた。その刹那、奴の鼻腔は大きく、上に向かって張り出し、膨れ上がった。それはもう鼻腔というよりも鶏冠と形容した方が適切だと思えるほどに。さらに、背中からは、扇形の一対の巨大な翼が展開された。あまりにも現実離れした、威圧的なその姿に、俺は完全に戦意を喪失してしまった。そして、次の瞬間、奴は喉元を熱した鉄の如く赤く輝かせ、なんと直線状の火炎放射を俺に向かって放ってきたのだ。俺はそれを頭からモロに受けてしまった。その瞬間、全身を灼熱感に支配され、気付けば目が見えなくなってしまった。自らの身体が爛れ、崩れ落ちていく苦痛に支配される中、俺はまたもや意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

You were killed by an Anjanath.

 




 今回登場したモンスターはアンジャナフです。MHWorldにて初登場し、最新作Riseにも登場しています。アンジャナフは如何にも頂点捕食者という見た目をしていますが、ゲーム内では序盤から中盤にかけて戦う、所謂初心者キラー的なモンスターです。それ故、彼らよりももっと強大なモンスターはわんさかいます。ARKで例えるなら、カルノタウルス位の立ち位置でしょうか。


 さて、裕太君はあっけなく全ロスの憂目に逢ってしまいましたが(ARKではよくあること)、今後どうやって島から脱出するのでしょうか?!


 それでは、また次回もお楽しみにお待ちください!


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Version6.0:大食いの暴れ熊

 今日で、拙作「モンスターだらけのARKを生き延びろ」の投稿を始めてから丁度2ヶ月が経過しました。本作をご覧になっている方々いつも、ありがとうございます。感想やお気に入り登録をなさってくれた読者の皆様にも、本当に感謝しております。執筆のモチベーションとなっております。今後も定期的に更新を続けて参りますので、引き続きよろしくお願いします。




 俺が目を覚ましたのは、初めてこの島で目覚めた時と同じ場所だった。あの時と同じパンツ一丁で、何も持っていない状態でだ。全てを破壊されてまた同じスタートラインに戻される、まるで賽の河原だ。こんなことがあと何回続くのだろうか。これから何度も訪れるであろう悲劇に俺の思考は、自然と鬱屈してしまう。本当にこの島からの脱出なんてできるのか?もう何もかもが無駄な足掻きの様に思えてきた。どうせ足掻いた所で、またとんでもないモンスターが現れて蹂躙されるに決まっている。そんな悲観的な感情に支配される。これから俺はどうすれば良いんだ?もう俺には前みたく物資を整えるだけの気力も体力も残っていなかった。今の俺にはただ、ゾンビの様に海岸を彷徨うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 空を舞う生物の一団が見えた。全体的に青い体色と黄色い鶏冠が特徴的なプテラノドンみたいな外見をした翼竜?の群れが空高く飛行している。鳥の何倍も大きな生物が優雅に飛翔するこの雄大な光景は、今の俺には何よりも、変わらずこの島を照らし続ける太陽よりも眩しく感じられた。俺は羨ましいんだ。あんな風に何者にも縛られずに大空を飛ぶことが出来たなら、俺はどれ程救われたのだろうか。もしかしたら、アンジャナフやリオレイアの様な存在と遭遇しても生き長らえる事が出来たかも知れないし、そもそも背中の翼を羽ばたかせてこの島と早々におさらば出来たかも知れない。そんな有り得もしない妄想だけが頭を過っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、しばらくの間海岸付近を当ても無く彷徨っていると、ふと甘い匂いが俺の鼻腔を突いてきた。俺はその方向へ歩を進める。その先には、高さ2 [m]程の背丈の低い細い木の先にぶら下がるグレーの球体状の物体があった。その下からは、琥珀色のドロドロとした液体が溢れ出ており、地面に溜まりを作っていた。間違いない。これはハチミツだ。俺はすぐにでもその場に駆け寄りたいという衝動に駆られた。本格的な甘い物を食べるのは、この島に来てから初めてだ。俺は甘い物が特別好きという訳ではないが、やはり何日も食べていないと無性に恋しくなるものだ。気分が落ちている時と言えど、俺は人間だ。当然腹は減る。しかし、そうは問屋が卸さない。先客がいたのだ。俺は反射的に近くの茂みに身を隠した。その際に草葉を揺らしてしまい、ガサゴソと誤魔化しきれない音量のざわめきが響き渡ったが、幸い、向こうはこちらの様子に気付く気配はない。未だに舌を垂らして目の前の甘味を味わっている。どうやら、あいつは食事で忙しいらしい。

 

 

 

 

 

 

 そんな食事にご執心の生物はクマだった。だが、やはりこの島の生物、誰しもが想像する平凡な個体ではない。まず、体格からして違う。体長は6[m] 程の巨体で、手足は太く、動物園で見た事があるツキノワグマと比較して体感で、三倍くらいの大きさはあると思う。下手をすれば、かの有名なグリズリーよりも巨体なのではないだろうか。そんな巨躯を維持するのに、栄養価が高いとはいえ、ハチミツだけで物足りるのか何だか心配になってしまう。そんな感情が芽生えるのは、まるで好物を目の前にした子供の様に一心不乱に、ハチの巣にむしゃぶり付く様がどこかコミカルな雰囲気を漂わせていたからかも知れない。全身は哺乳類では珍しい青みがかった体毛で覆われている。そして、奴の身体で最も目を引くのは、背中や前脚を覆う、我々哺乳類には縁遠い器官、甲殻だ。奴の背中を包み込む甲殻は黒ずんでおり、ゴツゴツとした突起物が連続して生えている。その様子は、如何にも鎧という感じだ。腕も見た目だけでもかなり厳つく、肩から手先まで人間と同じ程度の長さと太さを持ち、その殺傷力の高さを窺わせる。さらに、そこから生える鬼の金棒の様にも見える棘と、ドスランポスの物ほどではないが長く鋭利な爪が、その印象に拍車を掛ける。あちらは一向にこちらへ気付く気配が無い。このままここで隠れ続けられれば、やり過ごせる。あわよくば、お零れにも預かれるかも知れない。そう思っていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何者かに背後から押されたのだ。いや、正確には突き飛ばされたと言った方が正しいだろう。あろうことか、屈んで身を潜めていた俺の腰に全力でぶつかってきやがった。それは明らかに人間の出せる馬力ではなかった。一瞬で腰に鈍痛が広がる。それと同時に、俺は車に轢かれたかの如く軽快に吹き飛び、気付けば元の場所から100 [m]以上離れた、あのクマがいる所に転がっていた。痛みからか、もう下半身は動かせない。俺は辛うじて動く首から上を何とか捻り、俺を吹き飛ばした奴の姿を目に入れる。俺の目に飛び込んで来たのは蹄で力強く地面を掻いている、一際大きな牙が特徴的なイノシシだった。何て事をしでかしてくれたんだと心の中で悪態を吐く。その癖、あのクマがあいつの方向を少し見ただけで、一目散に踵を返して早々に退散して行きやがった。クソがっ!あの場で俺を突き飛ばす必要なんて無かっただろ!そんな不満をぶつけたとて、もう遅い。クマは俺の方を向くと、持っていたハチの巣を手放し、代わりに俺を掴んできた。首から下が動かない俺はもはや抵抗することなどできない。奴に為されるがままだ。奴は俺を顔の目の前まで運ぶと、どこか興味あり気な瞳でこちらをジロジロと見てくる。下手な肉食獣よりも鋭利な奴の牙が目に入ってくる。もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ。こうなっては、命など既に無い事なんてとっくに分かり切っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくしたら、クマは両腕を下から上に思いっきり振り上げ、俺をまるで手毬の如く投げ放った。俺はとんでもない速さで上空を舞っていた。だが、不思議な事に俺の目に映る景色は全てがスローモーションだ。そんな俺が最後に目にしたのは、何事も無かったかの様に、再びハチの巣を貪るあのクマの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 ああどうか、どうか、叶うことならば、どうか、どうか、どうか、この島で二度と目覚めませんように。

 

 

 

 

 

 

 「グシャリ」と落下の衝撃で首の骨が砕ける音が反響する中、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

You were killed by an Arzuros.

 

 




 冒頭で登場した翼竜はMHWorldの古代樹の森に出現するメルノスです。また、イノシシはみんな大好きブルファンゴ、クマはモンハン界のマスコットキャラことアオアシラです。ブルファンゴは何気に初代から登場する古株で、お邪魔虫性能の高さからモンスターハンターシリーズである意味一番恐れられているモンスターともいえます。アオアシラはMHP3rdで初登場した牙獣種で、その独特の愛嬌から根強い人気を誇る序盤のモンスターです。


 さて、災難続きの裕太君ですが、次回は何か希望を見つけ出すようです。


 それでは、次回もお楽しみにお待ちください!


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Version7.0:小さな光

 この所、暑さが酷いですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?私はなかなか執筆作業が捗らず…とまあ、散々な感じですが、無理のない範囲でこの夏を乗り切っていきましょう!

 それでは前置きはここまでにして、本編スタート!!


 鋼が軋む様な音が遠くに聞こえた。それと同時に俺はまたしてもあの海岸で目を覚ました。これでもう何度目だろう。俺の今際の願い事は無残な形で踏みにじられてしまった。もう疲れた。何もする気が起きない。そんな無力感に支配された俺に降り注ぐのは大粒の水滴。この島では、俺が流れ着いてから初めての雨が降りしきっている。動物たちも、どこに隠れる場所があるのか、周囲に一切その気配を感じられない。その様子に、俺は世界に独り取り残された様な錯覚に陥ってしまう。雨が明けたらまた死ぬのかな?雨が明けるまで生きていられるのかな?そんな悪いビジョンばかりが頭に浮かんでしまう。もういっそ、俺の存在なんて消えてしまえば良かったのに。そう思う程に、雨は強くなっていく気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨に当たっているので体温が下がる。その所為で、現在パンツ一丁の俺の歯はガタガタと音を立て、全身は小刻みに震えている。漂流してから昨日までの間ずっと、常夏の装いだったので、久々に味わうこの寒さは俺の身に嫌な意味で染み渡る。俺は木陰で身体を丸め、蹲っている。惨めだ。ついこの間まで、事は上々に運んでいたではないか。住まいを整え、物資を手に入れ、さらには、辛勝とは言え因縁の相手にも一度は勝利した。インドア派で、非力だったこの俺がそこまでの事を一人でやり遂げられた。それは確かに俺の自信になっていたのに。結局俺は、人間は弱者だった。どれだけ全力で走っても、竜の速力には敵わない。火を吐く竜を目の前にすれば、一瞬のうちに火だるまにされる。全てが無駄だったんだ。こんな魔境から脱出できる道理なんて初めから無かったんだ。はあ、何もかもが馬鹿馬鹿しくなってきた。別の何かに殺されるんじゃなくて、俺自身の手で死ねばもう二度と目覚めないのかな?そうすればもうモンスターを恐れなくていいのかな?こんな気持ちから解放されるのかな?俺は何も分からずにいた。

 

 

 

 

 

 「ゲコ、ゲコ?」

 

 丸まって震えていた俺の目の前にちょっとした来訪者が現れた。この雨模様に相応しい小さなお客様だ。それは、背びれと本来無いはずの小さな尻尾が特徴的な青いツノガエルだった。サイズは、ヒキガエルとウシガエルの中間ぐらいといった所だろうか。一般的にイメージされるカエルよりかはかなり大きいように思える。だが、この島の化け物共からすればその程度可愛いものだ。カエルは、頭との境目が分からない首を左右に振り、怪訝な様子でこちらを見ている。少し馬鹿っぽいその顔が小憎たらしさを演出している。カエルの鳴き声を聞きながら、雨を明かすのも風情があって悪くないか、そう思った矢先だった。突然、カエルの腹が膨れたと思うと、青色のガスを噴射してきたのだ。その量も尋常ではなく、平気で人間二人くらいをすっぽり覆える程の範囲で放たれている。急な事だったので、反応が間に合わず、鼻と口を塞ぐ前に幾らかその青いガスを吸引してしまった。そのガスは甘い匂いだったが、鼻を突く刺激臭でもあり、嗅いだ瞬間、これは不味いと本能的に察してしまった。しかし、時すでに遅し、段々と俺の意識が朦朧とし始めた。何とか意識を保とうと、踏ん張ってみるが、無駄な抵抗でしかない。次第に、眼前の景色は輪郭を失い、ぼやけていった。そして、ついには瞼を持ち上げる力すら入らなくなり、気が付けば俺は降りしきる雨の中、意識を手放していた。

 

 

 

 

 

 

 

 噎せ返る様な暑さの中、俺は意識を取り戻した。どれぐらいの間眠っていたのかは分からないが、先程の大雨が嘘に思える程、空は晴れ渡っている。周囲にもアプトノスやケルビといった草食動物たちの姿が戻っており、いつもと変わりない島の風景が展開されている。が、この眩いばかりの陽光も、牧歌的な眺望さえも俺の荒んだ内面を照らすには無力だった。俺はいつまでも途方に暮れることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の帳が下り始める時間帯、俺は左腕のインプラントが緑色の光を放ちながら煌々と点滅している事に気が付いた。俺は気怠さを感じながらも、重い腰を上げてインベントリにアクセスしてみる。どうやら新しいエングラムを入手できるという旨の通知だったようだ。この辺りの機能は、スマートフォンを彷彿とさせる。尤も、形は全くと言っていい程異なっているが。しかし、今更エングラムなどに何の魅力も希望も感じ取る事は出来なかった。どうせ何を作ったとしても、モンスターに遭遇すれば数秒も経たないうちに木端微塵に破壊される未来しか見えない。それにもかかわらず、俺の心情を知ってか知らずか、こんな間の悪いタイミングで通知を寄こしてきやがったインプラントに俺はそこはかとない苛立ちを感じた。だが、悲しいかな、現代人としての性なのか、例えどれほど嫌っている相手からの連絡でも一度は目を通さないと気が済まない様な心持に似た心情か、俺は嫌々ながらもエングラムリストを開いてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 周囲はすっかり暗闇に包まれた。今宵は新月なのか、俺を照らすものは何も無い。だが、俺の内面はそんな瑣末なことになど一切の関心を持たなかった。それほどまでに、今の俺の精神は、数刻前までの憂いを全面に抱えた状態とは打って変わって、烈火の如く燃え上がり、滾っていた。この高揚感は、初めてランポスを討伐したあの瞬間にも勝るとも劣らない。「いかだ」という三文字を見た時、俺は思い出すことが出来たのだ。俺はこれを何よりも求めていたのだと。そうだ、ドスランポスやアンジャナフに殺される前の俺はこれを最も切望していたはずだ。思えば、住居を整備していたのも、生活物資を整えていたのも、島からの脱出手段を作り出すための布石とするためだった。その事が頭を過った瞬間、このどうしようもない孤独感と絶望感で形作られた雲の狭間にたった一片の、だが確かな希望を見出すことが出来たのだ。どうやら天はまだ俺を見放してはいなかったらしい。どれだけ過酷な航路になろうとも、俺はこのチャンスだけは絶対にモノにしてみせる。これは俺に舞い降りた最後の希望なんだ!

 

 




 今回登場した環境生物は「ネムリガスガエル」です。その名の通り、催眠性のガスを広範囲に放出して、プレイヤーのみならず、果ては古龍までをも眠らせる激ヤバ生物の一角です。ARK的な言い方をすると、大量にテイムしておきたい有能生物です。こいつ一匹いるだけで、上手くやれれば普通にレイアやジャナフなんかと遭遇しても逃げられます。その事実に裕太君は気が付くことが出来るのでしょうか?!
それと、こいつには親戚みたいな種類が何種類かいて、それぞれ違った効果を発揮します。

 さて、絶望の中、一縷の希みが舞い降りてきましたが、これは吉兆なのか、はたまた更なる絶望を呼び寄せる凶兆なのか、今後の展開にご期待ください!


 それでは、次回もお楽しみにお待ちください!


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Version7.1:出航

 前回から大分間が開いてしまいすいません。これからしばらくは以前と同様のペースで投稿できると思うので、引き続きよろしくお願いします!


 ついにこの時が来た!俺は漸く完成したいかだを眺め、感慨に耽る。ここまで本当に長かった。この島に流れ着いてから今に至るまでの出来事に思いを馳せる。最初はたき火一つ起こすのにもやり方が分からず、何時間もかける始末だった。やっとの思いで火が点いて束の間の安眠を貪れると思ったら、ブナハブラに殺され、ランポスに殺されだ。それから、何とか食料を確保し、藁の小屋を建て、再起を図るも突如襲来したリオレイアに家ごと持って行かれたりもした。だが、落ち込んでいる暇など無かった。そこからは、急激に物事が進展していったからだ。エングラムの存在に気付き、新天地を見つけた俺は、そこで心機一転、文字通り身一つで生活を構築していった。家はみすぼらしい藁製から何とか見られるレベルの木製に変化した。服装もパンツ一丁から上下一式を揃えることが出来た。他にも様々な物資を作ることが出来た。そして、先人の手記に勇気を貰い、ついにはあの憎きランポスを一匹だけだが討つことが出来た。その時は、これから先も順調に進み続けて、あわよくば島から脱出するための船まで漕ぎ着けるのではないかと浮かれてたっけ。でも、結局それは長くは続かず、報復に来たドスランポス一行やそれに便乗したアンジャナフによって脆くも破壊されてしまった。その後、俺は失意の中アオアシラに殺されながらも、このいかだのエングラムを手に入れ、決死の思いで製作した。思えば、不運や理不尽の連続だったが、今となってはもうそんなの関係無い。俺は今日を以てこの悪夢とおさらば出来るのだから!

 

 

 

 

 

 

 

 物資の準備も万端だ。いかだの建造も含めて数週間ほど俺は、夜通し死に物狂いで準備を進めた。ブナハブラに襲撃されるリスクも考えたが、この踏ん張りで島からの脱出できると思えば、冒すことになど何の躊躇いも無かった。幸いにも襲撃は無かった。僅かな松明の明かりを頼りに作業をするのも、最初は辛かったが、段々と慣れていった。俺の帰りを待つ家族や親友たちの顔を思い浮かべれば、眠気や疲労感なんて簡単に吹き飛んでいったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 完成したいかだの上には6畳か7畳程度のスペースがあり、それなりに物資を積み込める。形状については、搭乗部分は概ね正方形で、その左右には丸太で作った浮きが取り付けられている。帆は船体の最前部分に設置されている。搭乗部の空間は大半が開くことになるので、俺は重心が偏らないよう船体中央付近に土台二マスを配置し、一枚分の高さの壁と天井で囲って二マス小屋を建てた。その中にはベッドを置いて就寝時に雨風に晒されないようにしている。他には、新たに獲得したエングラムで作成した「食料保存庫」なる設備も導入した。この食料保存庫というのは、簡単に言うと原始的な木製の燻製機だ。内部は、上段に繊維と小枝サイズの木材で組まれた食料置き場が、下段には燃料となる「発火粉」を投入して燻煙を発生させるスペースがある。これを使えば肉やベリーを長期間保存できるようになり、航海の間の食料を前もって多めに準備する事が出来る。俺は、赤、青、黄のベリーとこの前狩ったガーグァの肉を詰められるだけ詰めた。ケチケチと消費していけば悠に二週間は食料に困らなそうだ。ちなみに、発火粉は「すり鉢とすりこぎ」という道具を使って、石と火打石を砕くことで作れる。すり鉢と予備の火打石もこのいかだに配備済みだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガーグァの狩猟に踏み切るには勇気が必要だった。何せ、大人しいとは言え自分の体格を遥かに上回る相手に槍一本で立ち向かわなければならないのだ。以前に狩った事があるカモシワラシの様な小動物を大量に仕留めれば、必要な分の肉や皮は入手できるが、如何せんそれでは、探す手間もあって効率が悪い。だからこそ、大振りな獲物を狩猟するのが俺にとって都合が良かった。そんな時、群れからはぐれたであろう一匹の個体を発見したのだ。俺は、意を決して突っ込んだ。だが、ガーグァの外皮は想像していた以上に、頑丈だった。俺が全身全霊の力を槍に込めたとて、その皮膚を貫くどころか傷を付けることすらも叶わなかった。それでも俺は弱点の首を一点狙いで突き続けた。それでもまともなダメージは入らなかった。当のガーグァも最初は驚きのあまり、かは分からないが何故か産卵をし、逃げ惑っていた。だが、こちらが執拗に追い掛けた事と、まともなダメージを与えられていないという事が災いしてか、一転、奴は攻勢に転じてきた。長い首をこれでもかという程、連続で振って、嘴を何度も叩きつけてくる。俺は咄嗟に槍を両手に持って、持ち手部分でガードを試みた。しかし、奴の嘴は非常に硬いようで、三発打ち込まれる頃には、槍は完全に真っ二つになっていた。だが、それでも攻撃は止まない。今度は俺に目掛けて嘴を打ち込んでくるのだ。即座にガードする体勢に移れなかった俺は、その攻撃を腕で防御しようとした。この判断は大きな誤りだった。奴の嘴はそこら辺の石などよりずっと硬く、一撃で俺の腕を骨折させてきたのだ。当然、俺は痛みでその場に蹲る形になった。痛かった。とにかく痛かった。だが、ここまで来て獲物を諦める訳にはいかなかった。このままでは文字通り骨折り損だ。だからこそ、俺はズキズキと主張の激しい痛みを堪え、逃げようとするガーグァをまだ無事な脚を全力で駆動させて追い掛けた。俺は折れて短くなった槍を奴の首筋に突き刺した。結果は変わらない。それでも、骨折した方の腕を盾代わりにして、抵抗する奴の攻撃を受けながらも俺は何十回、何百回と刺し続けた。槍を持った方の手もついに使い物にならなくなる、そう感じた矢先、奴の首筋から赤い血が線を描く様に流れ始めた。それを見た瞬間、俺はこの好機を逃すまいと、最後の力を振り絞り、首の傷口に思いっっ切り槍を突き刺した。すると、度重なる刺突で鋸刃の様に歪な形になった石の穂先は、奴の傷口をさらに深く抉る事に成功した。そこからは、トントン拍子に事が進んだ。奴の首からは大量の血液が溢れ出し、足取りは段々と覚束なくなっていく。それでも、奴は逃れようと必死の形相で脚を動かしていた。ふらふらとした足取りで最期の瞬間まで大地を踏みしめていた。そして、ついに奴は地に倒れ伏せ、ビクンと全身が痙攣したかと思うと、息を引き取った。それを確認した瞬間、アドレナリンの分泌が収まったためか、先程まで盾代わりにしていた左腕に猛烈な激痛が走った。立っていられなくなった俺はその場に跪いた。左腕に目をやると、比喩でも何でもなく、本当にフニャフニャになっていた。最早複雑骨折どころの騒ぎではなく、何箇所もあらぬ方向に曲がっており、二度と使い物にならないと思えるレベルで変形していた。だが、そんな状態にあっても、俺にはまだやらなければならない事がある。俺は這う這うの体でガーグァの亡骸の傍に寄った。そして、俺は辛うじて動く右腕を広げた状態で顔の前に出し、首を垂れて、懸命に生きた生命に対して、敬意を払ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみにだが、あの後、偶然にも以前出会ったことのある回復ミツムシが現れ、緑の液体を頂戴した。流石に、あの時の手の擦り傷、切り傷の様に一瞬で治癒完了とはならなかったが、数時間経過すると三角波を思わせる形に歪曲していた左腕は、これが嘘だったかのように元の健常な腕に戻っていた。不思議な事に治癒する間の痛みは無く、むしろ心地よい温かみに似た感覚に包まれていた。現在でも、腕を使うのに違和感などは感じないのだから驚きだ。

 

 

 

 

 

 

 他には、サバイバル生活としては月並みではあるが、「釣り竿」も作ってみた。これは本当に原始的な構造で、細長い木の棒の先端にひもがくっついているだけのシンプルな物だ。この島の海は中々の好漁場なようで、試しに浜辺から糸を伸ばせば、浜辺釣りとは思えない程の大物が引っ掛かる。俺が釣り上げたのは体長60 [cm]ほどのサケの様な見た目をした魚だった。かなり腕にクる重さだったが、流石この島の産物と言うべきか、木はしなやかさを多分に含んだ強度を持っており、竿はびくともしていなかった。インプラントの情報によると、釣り上げた魚はどうやら「サシミウオ」という魚らしい。その名前の通り、刺身で食べると非常に絶品で、白身魚ながらも脂が乗っており、濃厚な味わいだった。願わくば、醤油とご飯が欲しかったが、ここは無人島、刺身を食べられただけでも有難いと思うべきだろう。それから、サシミウオの美味しさに感化された俺は、もう一匹釣り上げ、今度は船に積んである食料保存庫の中で燻製になっている。こちらも食べるのが楽しみだ。余談だが、釣り餌にはミミズを用いた。釣りを始める時にちょうど、砂浜の上でクネクネと動いているところを発見したのだ。それから、近くの地面を掘り返してみたら、数匹同じのがいたため、肉を少しでも節約しようと思い餌として利用した次第だ。このミミズ、名前を「釣りミミズ」というらしく正にお誂え向きの生物だった。一応このいかだにも小さな木箱に砂と一緒に入れた状態で十匹ほど積み込んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁ、準備は整った。本日晴天で波低し!絶好の航海日和だ!俺は今日この日を以てこの島を去る。もうあんな恐ろしい化け物共と二度と会う事は無いと思うと、清々した気持ちになる。漸く俺は危険の無い平和な生活に戻れるのだ。待っていろ俺の日常!

 

 




 ガーグァを狩猟するシーンは蛇足感が強いですが、戦闘シーンを描く練習がしたかったので無理やり入れました。中々、初心者には難しい物です。戦闘シーンを何話分も書かれている投稿者様方のすごさが少しわかりました。



 さて、このちょっと変わったARKの世界の海にはどんな生態系が息づいているのでしょうか?!次回もお楽しみにお待ちください!


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Version7.2:豊饒の海

 航海は現状、恐ろしいほど順調に進んでいる。天候は快晴。波も穏やかだ。だが、いかだが推進力を得るのに十分な風は吹いている。この上無い好条件だ。まるで、俺の旅路が祝福されている様な、何だかくすぐったい気分になる。後ろを振り返る度に、段々と島の遠景が小さくなっていく。その光景が目に飛び込んでくる度に、死地から逃れられたという安堵感と、故郷の土を再び踏めるという希望が心の中に溢れ出てくる。航海はまだ始まったばかりだ!

 

 

 

 

 

 

 

 この島の海は不思議で満ちている。なんと、海水が飲めてしまうのだ。海水と言えば、絶海でのサバイバル生活において、飲用が御法度とされているのは、その道の人間でなくとも有名な話だろう。だが、俺は咽の渇きに耐えかねて、飲んでしまった。丁度、その時はブナハブラやランポスに殺されて自暴自棄になっている時だったのも関係していたのかも知れない。俺のやった行為は、生存の観点からは決して褒められたものではないだろうが、結果として有益な収穫を得ることが出来た。それによって、海岸で生活をしていた期間は、大いに助けられた。なにせ、水の確保について一切憂慮する必要は無く、そのうえ飲み放題だったからだ。実際の飲み応えとしては、スポーツ飲料に近い。恐らく塩分濃度も、それに近いと思われる。強いて違いを上げるとすれば、糖分が含まれていないという点だろうか。その所為で、味に対して多少の違和感を感じたが、それでも炎天下の作業で大量の汗を流した後には塩分と水分を同時に補給出来るというポイントは非常に有難かった。これが無ければ、俺はもっと多くの死を経験しただろうし、これ程の急ピッチで物資を整えることも出来なかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この島の魚たちも例に漏れず、屈強な体質なようで、明らかに海水魚と思われる魚がこの海に平然と生息している。ここは本当は汽水域の湖なのではないかとも考えたが、波が押し寄せているし、潮の満ち引きもある。俺は湖の潮汐について無知だから断言こそ出来ないが、俺には眼下のこの水は何となく海の様に思えたのだ。それに、俺は生物の事など全く分からないが、海水魚と言えば、もっと塩分が濃い水でないと生きていけないようなイメージがある。ただ、あそこは火を吐く竜が幅を利かせる島だ。そんな事に比べれば、魚類の分布など些事なのかも知れないが。そういえば、以前に何かのニュースで海水魚と淡水魚を同時に飼育できる水が開発されたという事を聞いたことがある。生物の成育に必要なナトリウムやカリウムといった電解質の濃度が調整されていて、海水魚と淡水魚の体内の浸透圧調整エネルギーが等しくなることで、同時に飼育できるという仕組みらしい。正直、生粋の文系の俺には何がなにやら理解できないが、まあそう云う物として受け入れるしかない。もしかすると、自然の奇跡とも言える何かが起こって、この周辺の海域は偶然こんな都合の良い環境にでもなったのではないだろうか。真偽のほどはともあれ、この島の海水が持つ特異な性質によって、俺自身が助けられていたのは事実だ。この僅かな幸運に感謝する他ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく航行を続けていると、首長竜の様な姿をした生物、エピオスの群れが水面に浮上しているのが見えた。こちらに敵対する様子は無く、水面を漂いながら大欠伸をかいて和気藹々と日向ぼっこを楽しんでいるようだ。このいかだと衝突しないか心配だったが、エピオスは大人しい気質なようで、恐れていた事態は起こらなかった。それからは、航海も安定し、精神的な余裕が生まれてきた。そこで、俺は海の中を覗いてみる。

 

 

 

 

 

 

 大海原の深奥は正しく生命の楽園を体現したかのような出で立ちだった。数千、数万は下らないであろう無数の魚群が渦を巻いているのだ。資料映像でしか見た事が無い光景に、俺は思わず舌を巻いてしまった。幾多の個体が群れを成し、あたかも一頭の生物であるかのように振る舞うその様は陸上のモンスターとはまた異なる迫力があり、黒い嵐を思わせるこの情景は未知の世界への畏敬の念を起こさせる。群れで回遊するその魚は、アジに似ている。少し違うのは、鱗の一枚一枚が非常に大振りで、それが体表の模様にくっきりと浮かび上がっており全体的にやや角ばった印象を受ける点と、黄みがかった鋭い造形の大きな背びれが生えている点だろうか。あと、結構デカい。一匹の体長は大体50 [cm] 程あり、スーパーの鮮魚売り場などで見かけるアジより何倍も大きい。

 

 

 

 海に生きる生物は彼らだけではない。あのアジの様な魚の周囲にはマンボウが遊泳している。大きさは水族館で見られるものとそう大差ない様に思える。マンボウと言えば、肉体的にもメンタル的にも最高に貧弱な魚類として有名だが、この辺りの個体は、中々に肝の据わった連中らしい。あれ程の魚群を目の前にして優雅に泳ぐその姿は、巷で囁かれる逸話に伝わる姿など微塵も感じさせない。

 また、大量の魚群に混じってイカの群れも少ないながら確認できた。サイズ感は、普通のイカと相違ないが、その鋭い槍の穂先の様な形状の外套膜が特徴的だ。それに加えて、カラーリングも豊富で赤、オレンジ、緑と色とりどりだ。きっと水族館に展示されていたら、写真映えも良さそうだし若者の間で話題になりそうだ。

 さらに、魚群に紛れて淡水魚のアロワナに似た橙色のヒレを持つ魚もいる。やはり、沖合であるにもかかわらず海洋と河川の生態系が混在する奇妙な水域だ。ともあれ、最後の最後で日本でも見た事のある生物に出会えたことに違いない。これは島からの離脱が進んでいる良い兆しなのではないだろうか。そう考えると、胸が高鳴ってくるのを感じる。それと同時に心の重荷が下りてゆく。

 

 

 しばらく観察を続けていると、悠々と回遊していた魚群に異変が訪れた。異変の主は、ロブスターだ。ロブスターとは元々、一般的には水底を歩くタイプのエビを刺す名詞だったはずだ。それに今現れた個体は明らかにザリガニ・ライクな見た目だが、そんな見た目に反して扇形の尻尾を器用に上下に振りながら、高速でこの海を泳いでいる。白と少しの紫を基調とした分厚い甲殻を、頭部から背中にかけて携えたそいつは、体長は1 [m]近く、前肢の鋏はあのアジの一匹なら事も無さげに掴めそうな程巨大で厳めしい。ロブスターはその自慢の鋏を使って、回遊中のアジの群れに急襲を仕掛けた。つい先ほどまで、竜巻状のカールを描きながら一糸乱れぬ編隊飛行の様な泳ぎを見せていた魚群は、途端に散り散りになった。その様な状況下では、当然群れの大勢からはぐれたり、弾き出されたりする個体が現れる。そんな悲運を背負った者が喰われるのは必然の理だ。ロブスターの鋏に捕らわれた個体はビチビチと身体を左右に揺らし抵抗を試みているが、その甲斐も虚しく生きたまま身を引き千切られながら貪り喰われていった。その一部始終を見た俺はハッとさせられた。島から大分距離を稼げたために、半分くらいもう助かった気でいたが、海中も危険だという事を嫌という程認識させられた。自分も一度この下に落ちれば、あのロブスターを含む様々な生物に襲われないとも限らないからだ。俺は海の生物観察を切り上げ、気を引き締めつつ、このいかだに万ヶ一が無いよう周囲の様子に気を配るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからどれ程の距離を進んだのだろうか。振り返ればもう陸地は完全に見えなくなっていた。さて、これからどれ程の間この絶海が続くのかは分からない。数日かも知れないし、数週間、数ヶ月かも知れない。いずれにせよ、これまでで最も過酷な旅路になる事は間違いない。だが、そうであったとしても、再び生きて家族の元に顔を出すためには、それを乗り越えなければならない。頑張れ!勇気を出せ、俺!そう自分に喝を入れて、より一層気を引き締める。さあ、旅はここからが本番だ!そう思った矢先の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前に行く手を阻む「壁」が顕れたのは。




 今回初登場したモンスター・環境生物はキレアジ、マンボウ、シラヌイカ、ハレツアロワナ、キングロブスタです。マンボウは実はモンスター扱い(3Gの攻略本で確認可能)で、漁獲モリというアイテムを使って止めを刺すことで、剥ぎ取りが出来ます。(確か増強剤が取れた気がする)3および3Gの村長の息子による水中戦のチュートリアルの相手でもありました。

 
 キングロブスタは、ゲーム内には一切登場せず、設定にのみ存在します。ただ、ゲーム内には「エビの小殻」といった素材のみが登場します。そのため、本小説で登場するキングロブスタは、テキストの説明を基に想像した姿で描かれています。素材の入手方法はガノトトスやラギアクルス(Xシリーズのみ)のクエスト報酬や剥ぎ取りからです。キングロブスタシリーズという防具を作成できます。



 次回、”モンスターのキモ”


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Version7.3:安全なる脱出路を求めて

 


 有り得ない!俺は眼前に聳え立つ透明な「光の壁」にただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。辺り一面、水平線上の全体を覆うように鎮座するそれは、海底から雲の上まで天高く伸びている。その様は、かの万里の長城を彷彿とさせる。壁の表面には細く白い光の線の様な物が浮かんでおり、潰れたハニカムの様な歪な模様を描いている。壁の向こうにも大海原の景色は続いている。ということは、きっとここを越える手段が何かあるに違いない。そう結論付けた俺は、取り敢えず試しに壁を殴ってみる。しかしながら、全力で殴っても何も手応えを感じられない。痛みも無ければ、何かが手に触れている感触すらも無い。それにもかかわらず、手は壁より向こう側に進まない。見た事も聞いたことも無い現象を目の前にして俺は辟易してしまう。それと同時に動悸が激しくなるのを感じる。出られないかも知れない。そんな焦燥感が胸の内から喉元目掛けて込み上がって来るのを感じる。ここに至るまでにやってきたことすべてが無駄だったのか?俺は一生、こんな魔境に囚われ続けるのか?否定的な感情は一度脳裏から溢れ出せば、堰き止めることは難しい。段々と思考が低下していく。このままでは不味いと警告する理性は鳴りを潜め、俺は湧き出し続ける感情の渦に身を委ねることしか出来なかった。そして、俺は何を思ったのか、いかだを全速力で進めて壁に対して突撃を敢行した。だが、それでも先程殴った時と結果は変わらず、壁には何の変化も無ければ、いかだにも特に何もない。もう完全にお手上げだ。俺の脳みそは完全にショートして、ただぼっとその場に立ち続けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、どれ程の時間が経過したのかは分からない。幸いなことに時間は俺の短絡した思考回路を幾分か治療してくれた。そんな俺の頭の中に妙案が降り立ってきた。それは壁に切れ目があるのではないかという考えだ。思えば、俺は島の外から連れ込まれた存在だ。だからこそ、連れ込まれる際には必然的に何らかの手段であの壁を越えたはずなのだ。実際にあの壁の向こうには海が広がっているのが確認出来る。となれば、何処かに壁の切れ目があったり、壁自体を制御する装置があったりするかもしれない。それらを見つけることが出来れば、この先へ進むことが出来る。水を得た魚の様な心持ちになった俺は早速実行に移す。いかだを壁に密着させ、俺はその上から壁に手を触れながら、壁沿いにいかだをゆっくりと進行させる。

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの距離を進んだのだろうか。何も無い大海原。景色の変化など殆ど無い。それに加えて、壁も見た目や感触がずっと一様なため、特に目ぼしい要素を発見できた訳ではない。期待が大きかった分だけ、それに応じて何も成果が得られない時の落胆や、早く何か見つけなければという焦りが重くのしかかってくる。もう少し、きっともう少し進めば出口に辿り着けるはずだ。俺は自分に気休めを言い聞かせ、なんとか発破を掛けようとする。が、それも長く続くはずは無く、ついに限界が訪れてしまう。俺はいかだの上に力なくへたり込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 その時だった。少し離れた場所からだろうか、甲高く、そして反響したように周囲に響き渡る鳴き声?の様な音がこちらの進行方向から聴こえたのだ。その音は、まるで楽器を奏でたかのような美しく、秩序だったメロディーだ。鳴き声と言うよりは、歌声と表現する方が適切かも知れない。その旋律は、雄大で、どこか始まりを思わせる様な勇ましさを含んだ一つの楽曲だった。前に進むための活力を少しだけ貰えた気がする。だが、同時に一つの葛藤を生むことにも繋がった。この大海原に鳴り響く歌声は、精霊・ローレライを彷彿とさせるのだ。ローレライはドイツに伝わる伝承で、美しい歌声をした女性が船頭を誘惑し、それに魅せられた船は河の渦の中に連れ去られてしまうというものだ。この歌声がその伝承と同じ質の物であるのかは分からないが、それでもこの向こうに何かがいることは間違いない。もしそれが、万が一、モンスターによるものだった場合、取り返しの付かない事態を招くのは想像に難くない。しかし、ここで躊躇してしまうと脱出路をいつまで経っても見出せない。そのジレンマが俺の内面を大きく揺さぶる。駄目だ。功を焦り過ぎるのは良くない。一旦は、安全マージンを取るべきだ。ここは、中間を採って声が聴こえなくなるまでこの場で待機して、それから何も無いようなら再び進みだそう。そう、決心が付いたのも束の間、今度は周囲の状況が目まぐるしく動き出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴り響く美しい歌声は一瞬にして、断末魔とも考えられる禍々しい呻き声に様変わりしたのだ。そして、その声が途絶えた直後、今度は猛獣の様な野太く、荒々しい鳴き声が周囲に響き渡ったのだ。それと同時にこれまで穏やかだった水面が小刻みに、だが激しく揺れ始めた。水面下に目をやると、大量の魚たちが慌ただしく声と反対の方向へ向かって逃げまどっている。その集団の中には先程魚を捕食していたロブスター、キングロブスタと同じ種類と思われる生物も含まれていた。あれが逃げ出しているということは、雄叫びの主は捕食者すらも脅かす存在だということに他ならないだろう。俺はすぐさまいかだを発進させる。だが、海面の揺れが大きく、いかだの進行方向を上手く制御する事が出来ない。そのため、奇麗に直進する事は無く、左右に大きく揺れている。それではこちらが求める速力など、当然出すことは不可能だ。背後からは巨大な何かが水中を高速で蠢く影が迫っている。もう俺には一刻の猶予さえ無い。頼む!どうにかして撒いてくれ!もはや俺には祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、ここは大自然。残酷な事に、俺の祈りなど我関せずといった態度で着実にこちらに迫ってくる。何かが崩れ去る時というのは、往々にして一瞬の出来事である事が多い。どうやら俺の努力の結晶についても、その例外ではなかったらしい。バチバチバチッ!と雷が降り注いだ様な轟音が鳴り響く。それと同じタイミングでいかだに高速の物体が衝突し、俺のいかだは四散した。積荷は無残にも海の底へと沈んでいった。俺はその際の衝撃で、跳ね飛ばされ、海に落下した。水に落ちるのは案外大きな痛みを伴うもので、水面に打ち付けられた背中全体に金槌で殴られた様な鈍い痛みが走る。俺は水中特有のぼやけた視界の中、なんとかこの異変の張本人であろう存在を視界に捉えた。俺の目に映ったのは、巨大なシーサーペントを想起させる蒼い怪獣だった。その怪獣は蜷局を巻くようにして身体を丸めている。そして、そして、次の瞬間には大きな唸り声を上げ、奴の身体の周囲に無数の雷を発生させたのだ。その範囲は半径数十メートルはあるであろう、一つの生物が干渉するには余りにも広すぎるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 奴が電撃を放った瞬間、全身に焼ける様な途轍もない激痛が駆け巡った。俺は感電しているのだろう。身体が痙攣して何も言う事を聞かない。動け動けといくら思っても、俺の手足は一切従ってはくれない。もどかしさと無力感が最期に俺の心を支配する。周囲では、あの電撃をもろにくらったであろう数多の魚たちがひっくり返り、息絶えて水面へと浮上している。視界がクリアではないため、全体像は不明だが、その朧げな認識の中でも分かる事はある。あれには、あのアンジャナフやリオレイアですら鼻で笑えるレベルの威圧感と、それを裏付ける圧倒的な能力がある。ああ、間違いない、あの怪獣こそがこの海の王たる者なのだろう。結局俺には、あの怪獣からも、この島からも逃れることなど初めから不可能だったんだ。俺は未だ底知れぬ圧倒的な存在への無力感と、努力の総てを否定された喪失感に苛まれながら、仄暗い海の底へと沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

You were killed by a Lagiacrus.

 




 本編で出て来た「光の壁」はARKのワールドの端にあるアレです。平たく言えば他のゲームで言う「見えない壁」に相当します。ですが、この壁ARKにとっては滅茶苦茶重要な要素だったりしますが、その説明はまたの機会に。


 歌声の主はMHRiseで登場した海竜種「イソネミクニ」です。実際にゲーム中でもフィールドで歌う姿が確認できます。その時の歌声はそのフィールドの汎用BGMのフレーズが使われているようです。個人的には、この作品に登場するイソネミクニにはARKのメインテーマを唄って欲しいなと思っていたりします。(笑)


 そして、最後は大海の王こと、海竜「ラギアクルス」です。2009年発売のMH3のメインモンスターにして、最初の海竜種の一匹です。初登場作品では、最序盤の採取クエストで突然乱入してきて多くのハンターにトラウマを与えました。水中がメインとなる生態との兼ね合いで登場作品は少ないですが、今でも復活希望が多い人気モンスターです。


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Version8.0:ざわめく森

 今回で、この話は一つの区切りを迎えます。次回からは新しい展開に入ります。


 冷たくも温かい明月の光が島全体を包み込む夜。この天に浮かぶ箱舟のとある海岸では、そんな()()()()()()()が齎す静謐な雰囲気とは裏腹の喧騒が覆い被さっていた。

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 「ここは…」

 

 

 俺はまた全てを失ってしまった。今回もまた何も出来なかった。今度の試みは、アンジャナフによって破壊された前回のそれを大きく超える量の物資を作り、臨んだ、謂わば最後の希望だった。俺には海路からこの島を脱出する方法しか思い付かない。だが、それすらも今やあの憎き海竜、ラギアクルスの存在によって空虚な絵空事と化している。加えて、ラギアクルスの脅威をどうにかして搔い潜れたとしても、あの光の壁を突破する手段を持ち合わせてはいない。つまり、俺は実質的にこの島から脱出する事は永遠に不可能なのだ。俺がこの島で何度も命を奪われても、その度に立て直すことが出来たのは、偏に家族や親友たちと再会するためだった。俺はその僅かな可能性に縋って今日この瞬間まで生きてきたが、もう限界だ。これからこんなクソみたいな島で何を糧にして生きて行けばいい?こんな事になるなら、いっそもう二度と蘇られなくなって本当の意味で死んでしまう方がどれ程楽だろうか。今は只々憎い。この島の全てが、俺がこんな事になるよう差し向けた奴が、そして何より自分自身が。もっと両親に親孝行をしておけば良かった。なけなしのバイト代をソシャゲのガチャなんかに使わずに、プレゼントでも買ってあげればよかった。当時の俺は社会人になってからでも考えれば良いやという楽観的な思考だった。だが、今では嫌という程分かる。日常というのはふとしたタイミングで突然に崩れ去るのだと。弟にも、もっと兄貴らしいことをしてあげれば良かった。そんな後悔が止めどなく無く溢れ出してくる。みんなごめんなさい。俺は愚図でダメな人間だったよ。せめて、家族や二人の親友たちだけには、俺のことなど綺麗さっぱり忘れて平穏な人生を歩んで欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもと同じ海岸。夜の景色も、もう見慣れたものだと思っていた。だが、今日に限ってこの場所の空気はいつもと違っていた。夜なのにもかかわらず、明るいのだ。夜の街中と同程度の明るさ、凡そこの大自然に囲まれた場所には不釣り合いなものだ。この原因となっているのは、ホタルの様に光る虫だ。いや、見た目はホタルよりもコガネムシに近いか。この辺の空を完全に覆い尽くさんとする勢いで、その昆虫たちは青白い光を発しながら空を舞っている。昆虫の腹部の裏側に発光する器官と思しき物があり、そこから一匹当たりが放つ光量は明らかにホタルや前に出会った導蟲のそれよりも大きい。それに、中には尻から尻尾?の様な細長い管の様にも見える器官が生えている個体もちらほらと確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、この場所は月明りと、虫たちが放つ青い光によって、ファンタジーの世界に迷い込んだかの如き幻想的な趣に包まれている。俺はまるで黄泉の国にでも誘われたかのような、どうしようもない脱力感と、自身の未来への諦観、そして、ここを最後にもう終われるかもしれないという少しの喜びを感じていた。嗚呼、きっとこれまでの生死の繰り返しは神の気まぐれの様な何かだったのかも知れない。その神もついにお遊びに飽きたのだろう。俺の頭を過るのは、そんな荒唐無稽な妄想だけ。縋りつく希望を須らく失った人間の哀れな末路だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海岸の奥にある森から数多くの生物たちがこちらに押し寄せて来た。数十匹単位で群れを成したケルビやガーグァ、ブルファンゴが森を抜け出し、海岸の方へ走ってくる。その様子は何処か尋常ではない。何か生命の危機を感じた様な、鬼気迫るオーラを誰もが放っている。その一の団の中には、あのアオアシラや通常の個体より二回りほど体格と牙が大きなブルファンゴが紛れており、それがこの事態の異様さを引き立てている。モンスターたちは、こちらを襲って来るでもなく、海岸から四方八方に向けて韋駄天の如き速さで瞬く間に走り去って行った。俺が奴らを認識した数瞬の後には、完全にモンスターたちの姿は消えていた。俺はあの群れを見た時、真の最期を迎えられる最大のチャンスだと思い、心が躍ってしまった。アオアシラの元にでも駆けよれば、その場の流れで引き裂かれでもして簡単に死亡できるとも思った。なのに、俺の身体は全くと言って良いほど命令を聞かなかった。俺の精神は追い詰められ、果てたいと願っていても、奥底の本能だけはまだ生きようと躍起になっているようだ。度重なる理不尽を経験し、最後の希望すらもあの海竜に踏み躙られたというのに!俺はこの矛盾に絶望する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時、大量にいた虫たちが、ある一つの方向へと一斉に飛び始めた。それと同時に、大地を踏みしめる勇猛な足音が辺りに鳴り響く。俺は思わず、その方向に目を向けた。音の主、そして恐らくこの異常の元凶たる存在が姿を現した。その姿は狼を彷彿とさせるものだが、あらゆる点において様相を異にしている。体格はあのリオレイアに迫る大きさで、全身の筋肉はそれとは比較にならない程、強靭に発達している。全身を体毛で覆われた普通の狼とは異なり、あいつの全身は堅牢な甲殻と鱗で覆われている。胴体を覆う碧の鱗、前脚から背中、尻尾までを守る黄色の甲殻、そして背中から尻尾にかけて生える白い体毛、その全てがこの青白い光を伴った月の光に照らされている。まるで、この環境の全てが奴のために存在するのではないかと錯覚させる程、威厳に満ちた威風堂々とした佇まいだ。のしのしと大地を一歩ずつ踏みしめるその緩慢な歩行さえも奴の武者然とした風格を引き立てるだけの材料となっている。月光から覗く二本の角が生えたその顔立ちはとても凛々しく、端整だった。これが神獣か何かの類だと言われれば、信じざるを得ない程の威光を奴はその身に宿している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲にいた光る昆虫たちは一斉に奴の背中を目掛けて飛び始めた。それと同時に、奴は天を仰ぎ、甲高い遠吠えを上げ始めた。それからは、虫たちの飛翔はさらに勢いを増していった。奴の周りには、光の粒子がドーム状に広がっているかの様な神秘的な光景が繰り広げられている。そのドームを構成する虫たちは次々に奴の背中に向かって引き寄せられるかの如く舞っている。そして、奴は最後の雄叫びを上げる。その声は、先程までの甲高さを含みつつも、野太い野性的な力強さが前面に押し出されていた。その声が号令となったのか、次の瞬間には奴の胴体を中心として青く眩い光が弾けた。俺はその光量に耐えられず、思わず目を塞いでしまった。その直後、落雷が間近で発生した時の様な、鼓膜を破壊しかねない凄まじい轟音が鳴り響いた。目を開けると、そこには想像を絶する変貌を遂げたモンスターの姿だけがあった。信じられないことに、奴の背中は帯電しているのか、青く細い光の筋が無数にバチバチと弾け、その身体はあの昆虫たちが放つものと同じ色の光に包まれていた。さらに、背中の白毛は天を目掛けて逆立っており、全身を覆う甲殻も展開され、怒髪天を思わせる、力強くも荒々しい姿を披露している。そんな、人知を超えた生物が悠々と月明りの海岸を闊歩する様には、もはや一種の神々しさすらも覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の中で何かが壊れた音がした。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

 乾いた虚ろな笑いだけが残った。度重なる理不尽と喪失の応酬。サバイバーの人格はついに限界を迎えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 雷光を身に宿した無双の狩人は、その腕全体に雷を纏わせ、上体を大きく振り上げた。そして、その拳は彼の身体をいとも簡単に物言わぬ肉塊へと変えたのだった。

 

 

 

He was killed by a Zinogre.




 今回登場したモンスターは、言わずとも知れたあのジンオウガです。モンハンで一番人気と言っても過言では無いモンスターです。ジンオウガは、小説本編にも出て来た虫、雷光虫と共生することで、彼らから電気を分けてもらい、それを使って自身の身体能力を強化して戦うという生態があります。



 最期に、サバイバーの人格が崩壊する描写がありますが、ARK Genesis Part1での記録では、様々なサバイバーが過酷な環境を前に壊れていく様が読み取れます。この島では、これまでに一体どれだけのサバイバーが死んでいったのでしょうか?ARKのストーリーを知ると本作品をより楽しめますので、あんまり知らないよって言う方は、ARK日本語wiki様に載っていますので、そちらも読んでみてはいかがでしょうか?



ARK日本語wiki様
https://wikiwiki.jp/arkse/%E6%8E%A2%E7%B4%A2%E8%80%85%E3%81%AE%E8%A8%98%E9%8C%B2


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Version9.0:導き★★

[御礼] この度、本小説の総合ポイントが100ptを超え、読み上げ機能が解禁されました。投稿する上での一つの目標としていたので非常に嬉しいです。読んでくださった読者の方々には感謝の気持ちで一杯です。是非、ご活用ください。初心者の拙い創作ではありますが、今後ともモンスターハンターシリーズ、ARK survival evolved(ascended)並びに本小説をよろしくお願いします。


 あれ?また目覚めたのか?何がいけなかったんだろうか?そうだ!きっと前回の死に方が悪かったんだ。きっとそうに違いない。あっ!名案が下りて来たぞ!別の何かに殺されずに自分から生命を絶てば、もう目覚めないんじゃないんだ。そうだ!絶対にそうに決まっている!これが間違っている事なんてある筈がない!それで、次に目覚めたら自宅のベッドの上だろう。夢から醒めたらきっと総てが元通りにならなければいけないんだ!ああそうだ、思い出した。明日は西洋史学のレポートの提出日じゃないか。まだ一文字も書いてないんだった。こうしてはいられない!善は急がなければ意味は無いからな!

 

 

 

 

 はぁ、疲れたけど、高台に辿り着いたぞ!ここから跳べば全て無かったことになる。楽しみだ!

 

 

 

You killed yourself.

 

 

 

 

 

 また間違えたのかな?そうだ、今度は斧を使おう!

 

You killed yourself.

 

 

 

 そうか、答えは水の中だ!

 

You killed yourself.

 

 

 

 おかしいぞ。

 

 

You killed yourself.

 

 

 

 何が悪いんだ。

 

You killed yourself.

 

 

 

 オカシイ。

 

You killed yourself.

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side ???

 

 システムは島の内部を常に映し出している。汚染率は問題ないだろう。それに、生態系も正常に作用している。私は島の景色を見る度、懐古の念に駆られる。

 

 

 かつてヘレナがまだ島を旅していた頃、島の生態系は現在のそれとは全く異なる様相だった。かつての島は、失われた太古の生物達が時代を超えて集う楽園、もとい動物園とも言える場所だった。また、数多くの部族が鎬を削り、血で血を洗う抗争の場でもあった。だが、現在の島には往時の面影は殆ど無い。

 

 

 

 私はある時この島の管理者とそのシステムのコードに干渉する事が出来たのだ。その結果、古代の生物たちは皆、新たに設計した屈強なモンスターたちに取って代わられ、人々も物言わぬ、文字通り魂の抜けた肉塊となり朽ちていった。もう、アルゲンタビスがあの大好きだった美しい空を舞う事が無いのは非常に残念だが、仕方の無い事だと割り切る他ない。

 

 

 

 

 私は永遠に無力な存在だ。ただ待ち続けることしか出来なかった。「影の王」を打ち破る者の登場を。私は目的のため、いたずらに多くの人間を犠牲にした。数百、数千、数万?今となってはその数すらも思い出せない。死を乗り越えられる者、「挑戦し続ける者」を産み出し、何度も学びを継承させ、最後に奴にぶつけるという戦略、これ以上のものを私は思い付かなかった。だからこそ、私は多くの人間を実験体にし、死後、新たなクローンにインプラントを通して記憶と人格を移植しようとした。しかし、どれだけの試行を行おうと、まったく同じ物を作る事は叶わなかった。皆、自我を失い生きながらに死んだ人形へと変わり果てていった。私は数千年の間、時間という概念が曖昧なものに変わり果てるまでの間、ひたすら繰り返し続けた。そして、漸く彼の番で成功したのだ。

 

 

 

 

 

 いま、海岸で虚ろな目をして彷徨う彼は、ある種の狂気に飲まれかかっている。しかし、幸いなことに、彼には僅かな人間性が残っている。彼までも死んでいった者達やロックウェルの様に哀れな存在に変える訳にいかない。私は計算を開始し、彼を導くための準備を始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side 桃園裕太

 

 何かいるのか?朦朧としていた俺は、突如こちらへ漂ってきた黄色い粒子によって現実へと引き戻された。見覚えのある虫たちが俺の周りに集まっている。何だったかな。そうだ、導蟲だ。もしかして、俺を探し出したのか?真相は不明だが、俺は直感的にそうなのではないかと感じた。彼らは最初に出会ったときと同様に、俺の周りを漂っている。しばらくした後、彼らはあの時と同じように飛び去って行った。俺は無意識にただ、彼らの事を追い掛けていった。

 

 

 

 

 そうして、たどり着いた先は大海を望む丸みを帯びた崖の先端だった。虫たちはその崖の下に降りて行った。あいつらは俺をどこに連れて行くつもりなのだろうか?まさか俺をこの崖から突き落とすつもりなのか?我ながら酷い被害妄想だ。このまま、ここでじっとしていた所で、現状は何も変わらない。日本に帰れないのなら、もうこの魔境でモンスターたちに怯えながら生き続ける理由も無い。それならば、いっそ風に身を任せてみるのも一興かも知れない。そして、俺はこの断崖から一気に跳び降りた。

 

 

 

 

 

 そんな俺を待ち受けていたのは、精巧に加工された直方体のタイルが組み合わされてなる石の床だった。落下した高さはせいぜい人ひとり分程度だ。多少足腰にくる物はあったが、動けなくなる程致命的な痛みではない。導蟲たちはこの人工物の上に置かれた、ある物を指し示していた。どうやらこれを俺に見せたかったらしい。それはこの一面の大自然には似つかわしくない代物、コンピューター端末だった。端末と言っても、パソコンの様な既知の物ではない。SF情緒が漂うどこか近未来的な外見の見た事が無い物だ。古式ゆかしい石畳の上に時代を千年も間違えた様なハイテク機器が安置されているのは、かなり違和感が強いものだ。その水色の画面の中央には左腕のインプラントと同じ造形のオブジェクトが映し出されている。操作方法はよく分からないが、取り敢えず画面を触ってみよう、何か変化があるかも知れない。そう考えた俺は、画面にタッチした。その時だった。周囲の景色は暗転し、気付けば何も無い真っ暗な空間に俺は一人佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 ここに来るのは初めてではない気がする。そんな心当たりなど何処にもないにもかかわらず、俺は漠然とそう感じるのだ。それに、どうしてかこの空間は落ち着くし、居心地が良い。この久方振りに感じた安堵感と、これまでの生活の中ですっかり染み着いていた緊張感との間にあるギャップに俺は戸惑ってしまう。この空間は何なのだろうか?疲弊しきった精神が見せる都合の良い甘い幻覚なのか?そういった疑問が俺の中に沸々と湧いて出てくる。

 

 

 

 

 

 答えの出ない堂々巡りを繰り返す中、突如として彼女は現れた。青白い光の筋が形作る人型のシルエット、それが今俺の目の前に現れた彼女だ。彼女は俺に語り掛けてきた。その音声は俺の耳に鮮明に響く。

 

 

 

 「きちんと計算通り、来てくれたようだね。」

 

 

 

 彼女が何の話をしているのか、またどういった存在なのか俺には要領を得ない。なのに、何故だか彼女とは初対面ではない気がする。生命体とは異なる異質な存在、ある意味ではモンスターよりも非現実的な印象を受ける。もしかすると、俺が島に流された過程と何か関係があるのだろうか?島に漂流してからずっと気になっていたことであり、ずっと目を背け続てけて来たことでもある一つの疑問が俺の頭に浮かび上がってきた。だからこそ、俺は彼女に尋ねる。

 

 

 

 「あなたは一体、何者なんですか?それにこの島はどこにあるんですか?そして、何故俺がこんな所に連れて来られなければならなかったんですか?」

 

 

 

 

 俺は気が付けば、捲し立てるように、彼女に迫っていた。だが、彼女はそんな俺の様子を気に留めること無く、淡々と答えた。

 

 

 

 

 「私は何者かという質問ね。そうね、今の私は”待つ者”とでも言っておこうかしら。私は永い時間あなたを待ち続けていた。」

 

 

 

 

 どうやら彼女は簡単に素性を明かしてはくれないらしい。それに、俺を待ち続けていたという発言についても、何故そんな必要があるのかとか、どうして俺の事を知っているのかといった、核心に迫る重要な情報は読み取れない。俺は思わず顔を顰めてしまう。

 

 

 

 「何も理解できないという顔ね。でも、申し訳ないけれど今私の口からあなたの知りたがっている情報を言う事は出来ないわ。それはあなた自身が発見すべき事柄だから。島の所在についても、あなたがこの島にいる理由についても同様にね。」

 

 

 

 飽くまでも話せないという事か。だが、俺が発見すべきとはどういう事なんだ?彼女は俺に何を望んでいるんだ?それに、その口ぶりだと彼女はその答えを既に知っているという事になる。結局何も分からず仕舞いか。だが、最後にこれだけはどうしても知らなければならない。何としてでも聞き出さなければ。俺は振り絞るように喉元からその言葉を捻り出す。

 

 

 

 「他の事が答えられないのなら、それでも構いません。でも、これだけには答えて下さい。もし、俺がそちらの要求に従えば日本に、家族の元に帰れるんですか?」

 

 

 

 俺は藁にも縋る思いだった。この事について彼女が満足な回答をしてくれる保証は無いし、もしかすると彼女ですらその可否に関して知らないという可能性だってあり得る。彼女の次の発言を待つ間、俺の心臓が張り裂けんとばかりに、その鼓動を強める。内面が強い不安感と僅かな希望で満たされてゆく。この沈黙が何よりも恐ろしい。俺は今か今かと彼女の次の言葉を待つ。きっと大丈夫だ、と俺は何度も自分に気休め言い聞かせ、平静を保とうとしている。しかし、彼女の言葉は俺にとって最も残酷な物、まさに処刑宣告とも捉えられる凶器だった。

 

 

 

 「それは、…もう出来ないわ。あなたには本当に申し訳ないと思っている。あなたの望みも理解しているわ。でも、それはどうあっても不可能なことなの。」

 

 

 

 それは俺が最も聞きたない事実だった。俺は膝から崩れ落ちた。嘘だ。嘘に決まっている。これまでの経験から薄々と気付いていたが、それでもこうして面と向かって突き付けられた時のショックは計り知れない。俺はどうにかして都合の良い方向に思考を進めて自分自身を守ろうとする。だが、その度に彼女の言葉が脳内で反芻し、思考は掻き消される。涙が、全身の震えが、不快な汗が、動悸が、全部何もかもが止まらない。俺はこの場で蹲って、幼子の様に泣き喚くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 しばらくしたら、その感情は怒りへと変わっていった。それは、どうする事も出来ない理不尽へのやり場のない怒り。どうして俺だったんだ?どうして大切な存在を奪われなければならない?俺の人生は何だったんだ?そんな怨嗟の念が心を支配する。気付けば、俺は立ち上がり声を荒らげていた。

 

 

 

 「帰れないだと!人様を勝手によく分からん島に連れ込んでおいて、よくそんな口が叩けたな!お陰でなぁ、俺の人生はもう滅茶苦茶なんだよ!一生あんな化け物だらけの島で暮らし続けろだと!ふざけるのもいい加減にしろ!お前に死ぬ時の痛みが分かるか?何回も何回も全部奪われた時の辛さが分かるか?俺は家族にまた会いたい一心でここまで生きて来たのに!分かるわけねぇよなぁ!お前みたいな人間もどきには!」

 

 

 

 

 俺は内にある怒り、憎悪、溜め込んで来た全ての汚い感情を吐き出した。そんな事をしても現状が変わるでも、ましてや家族の元に帰れるゆえもないのに。ただただ虚しいだけだった。そして、目の前の彼女はどこか悲し気な声色で応えた。

 

 

 

 「人間もどき…そうね、私は今となってはあなたたち、サピエンスとは異なる存在ね。確かに、その感情の多くは、永い年月を経てもう理解できなくなってしまった。でもね、これは必要なことなの。あなたには申し訳ない事をしたし、私は他にも数えきれない人々を犠牲にしてきた。それでもね、私の、先達たちの、かつての英雄たちの悲願を達成するためにはこの方法しか無かった。」

 

 

 

 その真剣な語りからは、彼女にも並々ならぬ事情がある事が察せられた。彼女はきっと何か大きな使命を背負っていて、なおかつそれに誠実なように思える。だが、それはそれだ。どんな事情があろうとも、一人の人間を破滅させ、怪物の餌にするなど許されるはずがない。モヤモヤとした感情が決して晴れることは無いまま、彼女はさらに続けた。

 

 

 

 「かつての私もあなたと同じだった。島で目覚め、冒険し、やがて真実に辿り着いた。でも、私は多くを成し遂げることは出来なかった。今の私は何も出来ない無力な存在でしかない。だから、あなたに全てを託すしかなかったの。」

 

 

 

 

 彼女の悲壮な語り口に負け、俺は思わず尋ねてしまった。

 

 

 

 「その、先程は声を荒らげて罵る様な真似をして申し訳ありませんでした。きっとそちらにも止むに止まれぬ事情があるのだと思います。その、この島では一体何が起こっているんですか?あのモンスターたちの存在は明らかに生物として常軌を逸しています。そんな島に一介の大学生を送り込むだなんて、どれほど切迫した理由があったにせよ悪手でしかないでしょう?」

 

 

 

 俺の問いかけに、彼女はやや逡巡してから答える。

 

 

 

 「さっきも言ったように、私の口からそれら全てを話すことは出来ない。あなが自分自身の目で確かめなければならないの。あなた自身の成長のためにはね。ただね、ヒントなら与えられる。確かにあの島に巣喰うモンスターたちは人間など物の数に入らないくらい強大で残酷な存在よ。でもね、同時に彼らはどんな存在よりも人間に従順で忠実な生物でもある。きっと彼らはあなたが島で闘う時、探索する時、何かを作る時、あらゆる局面において、あなたの助けになる。これだけは確実に言えることよ。多くの仲間を作りなさい。あなたは彼らの力を嫌という程理解しているはずよ。だからこそ、彼らの力をその手中に収めなさい。」

 

 

 

 

 結局のところ、俺にはもう島で生きる以外の選択肢は無いという事か。納得出来るはずがない。割り切る事も到底出来ない。それ程までに失うものが大きすぎる。それでも、覚悟を決めなければならないのは薄々理解している。ここで何もせずに永遠に生と死を輪廻し続けるか、それとも、苦難に立ち向かい何処とも知れぬ地点を目指しひた走り続けるか。どちらにせよ、俺にとっては救い用の無い選択であることは明白だ。だが、それを踏まえても決定は下さねばならない。思えば、あの時の記録の中のウォーカー博士も俺と同じ選択を迫られたのかも知れない。あの断片的な記録からは、その葛藤は伺い知れない。しかし、一つだけ言えるのは、彼女はここで言う後者を選択したということ。前進するにせよ停滞するにせよ死地に身を置いている事に変わりは無い。ならば、選択は最初から決定付けられていた様なものだ。もはや覚悟を決める他ない。そんな俺の様子を察したのか彼女はさらに続ける。

 

 

 

 「あなたはヘレナの記録を見つけのね。素晴らしいわ。ヘレナだけではない、この島にはもっと多くの先人たちの記録が眠っているわ。それらは必ずあなたの道しるべとなる。先人たちの事績から多くを学びなさい。そして、その知恵をあなた自身の力に変えるの。そして、いつの日か私を見つけて欲しい。あなたならきっと出来る。あなたこそが"サバイバー"なのだから。」

 

 

 

 彼女が言い終えると、俺の視界はホワイトアウトし、気が付けば元の石畳の上にいた。まだ消化しきれない部分はあるが、幾ら俺が喚いた所で現状が好転することなどない。時として、行雲に身を任せなければならない場合もある。不幸中の幸いと呼ぶには余りにも代償が大きいが、彼女、「待つ者」との邂逅により、この島で生きる上で有益な情報を得ることが出来た。俺は天高く聳え立つ赤いオベリスクに目を向ける。これまで、俺は敢えて見ないようにしてきたが、いずれあれについても知らなければならないのかも知れない。もう俺に逃げ場は用意されていない。俺はグッと拳を握り締めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「やっぱり、そうだ!」

 崖の上から聞き覚えのある懐かしい声が聴こえた。




 今回の裕太君の視点では「待つ者」は悪役の様にも見えますが、彼女には彼女なりの葛藤や使命があります。そんな彼女の物語はARK本編のエクスプローラーノートやそれらをまとめてあるサイト等で確認できるので、気になる方は是非ご確認ください。
 



 さて、今回で長かったチュートリアルは終了し、次回から本格的にARKの世界の冒険が始まります。まだ見ぬモンスターや島に隠された謎など新たな展開をご用意しておりますので、次回以降もお楽しみにお待ち頂けると幸いです。


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Version15.0:再会

 今回からようやく新キャラが登場します。


 side ???

 

 「おい、呑気に寝ている場合ではないぞ。早く起きろ。」

 

 

 

 今日は休みなんだからもう少し寝かせてくれたって良いじゃないか。急かす様な声色の友人とは裏腹に僕は未だ眠気から醒めず、再び微睡みの中に誘われそうになる。昨夜は作業が捗ったからつい夜更かしをしてしまったんだ。だから、もう少し寝たい。というか、いつの間に彼は僕の部屋に入ったんだろう?そんな事を思っていると、不意に身体が宙に浮く感覚がした。僕は思わず目を開ける。

 

 

 

 「ようやく起きてくれたか。秀夫。」

 

 

 

 小柄で瘦せ型な僕とは対象的な、筋骨隆々とした恵体の友人は軽々と僕を掴み上げ呆れた表情で言った。そんな彼の名前は、道尾隆翔(みちお りゅうと)。僕とは小学校以来の付き合いで、今も同じ大学に通っている。所謂、幼馴染というやつだ。その鍛え抜かれた体格から勘違いされがちだが、彼は意外にもインテリ系でいざという時頼りになる。

 

 

 

 それにしても、太陽の光が眩しい。何だか空気も美味しい気がする。僕はキョロキョロと首を振り、周囲を見渡した。見慣れない景色に段々と血の気が引いていくのが分かる。青い空に、綺麗な海、そして溢れんばかりの大森林、なんと僕たちは未知の場所にいつの間にかいたらしい。

 

 

 

 「うわっ!なんで僕たちがこんなところにいるのさ!」

 

 

 

 僕は慌てて彼に問いかける。彼とは長年付き合いがあるけど、こんな意地の悪いドッキリをする様な性格じゃなかったはずだ。ていうか、そんなことされたら普通に絶交だよ!

 

 

 

 「俺にも分からない。目が覚めたらお前と二人でここにいたんだ。」

 

 

 

 僕は昨日は深夜まで一人、自室でレポート作成に勤しんでいたはずだ。彼を部屋に招き入れてはいないし、酒に酔って何処とも知れぬ場所に飛び出した訳でもない。本当に心当たりが無い。彼の困惑した様子からも、僕と同じ境遇である事が伺えた。しかも、よく見たら二人ともパンツ一丁で文字通りの身一つだ。それに、左腕には菱形の機器が埋め込まれている。ますます、謎が深まる。いやいや、今はそんな事を考えている場合ではない。どうにかして帰る方法を考えないと。そんな事を考えていると僕は優しく地面に降ろされ、彼は言葉を発した。

 

 

 

 「取り敢えず、この辺りを探索して人がいないか探そう。誰かいたら事情を話せば保護してもらえるかも知れない。それに、俺たち二人がここにいるという事は、裕太もここに来ている可能性もある。」

 

 

 

 

 そうか、確かにそれも強ち有り得ない訳ではなさそうだ。彼が言っていた裕太とは、僕のもう一人の親友だ。隆君よりも付き合いが長くて、かれこれ幼稚園からずっと同じだ。昔からこの三人で一緒にいることが多かった。僕にとっては二人とも掛け替えのない大事な友達だ。裕君はしっかりしている様で、少し抜けている部分があるから心配だ。何かの拍子に藪蛇をつついてないと良いんだけど。良くないことが起こる前に早く動くべきだ。そう思った矢先、僕たちの頭上を過ぎ去る大きな影があった。僕たちは思わず二人揃って空を見上げた。そこには絶対に現代のこの世界には存在し得ない生物が優雅に空を舞っていた。

 

 

 

 

 あれは間違いなく翼竜だ。恐竜と共に絶滅し、現代では途絶えたあの翼竜だ。僕は目を疑った。変な場所で目覚めた事と言い、あの翼竜と言い、僕は夢や幻覚でも見ているんじゃないだろうか?僕は思いっきり自分の頬を引っ張る。だが、目の前の世界が消え去る事は無く、青い翼竜の群れは鮮明なシルエットを保ち続けている。隆君も隣で目を皿にしたまま頭上を仰いで固まっている。それらの様子は今この景色が紛れもない現実に起こった現象である事を思い知らせている。

 

 

 

 

 

 

 よく見ると、あの翼竜は既に発見されている種との相違点が多い。身体の大まかなシルエットはプテラノドン科などが属する翼指竜亜目を思わせるが、決定的に違う点がある。それは長く伸びる尻尾と発達した後肢だ。通常、翼指竜亜目の尻尾は退化したものと考えられている。長い尻尾を持つのは彼らよりも原始的な系統である嘴口竜亜目にある特徴だ。こちらの有名な分類にはディモルフォドン科がいる。これだけを切り取って考えればあの翼竜は原始的な特徴を残したまま進化し、現代まで人知れず生き残った種であるとも考えられる。だが、あの発達した後肢はそれだけでは説明出来ない。どちらの系統の特徴にも該当しないのだ。樹上で暮らす種はある程度後脚が発達した種もいたようだが、あの青い翼竜の様に、地上の生物には劣るものの、肉食恐竜の脚をそのまま翼竜の下半身に取り付けたと思わせる程の発達具合ではない。そこから、僕の中で一つの仮説が生まれた。それは、あの翼竜は現代では知られていない未知の系譜を持つ種なのではないかという事だ。その考えが脳裏に浮かんだ瞬間、気が昂るのを感じた。僕たちは世紀の大発見の立会人になれたんだ。そんな実感がようやく押し寄せてくる。僕は生物分野の専攻ではないが、それでも科学の道を歩む者の端くれ。こんな一世一代の瞬間を目の前にして興奮しない訳が無い。

 

 

 

 

 

 

 隣では隆君が震えて、ただ無言で佇んでいる。きっと、彼にもこの発見が信じられない物なのだろう。それも無理はない。なにせ、隆君は昔から生き物が好きで、大学でも生物学を専攻している。だからこそ、生き物に賭ける情熱は人一倍強いのだ。そんな彼が世紀の大発見の生き証人になってしまったんだ。その感動もひとしおに違いない。だけど、いつまでも呆気に取れら続ける訳にもいかない。僕たちはフィールドワークをしに来たのではない。僕たちの体力に余裕があるうちに帰るための算段を建てないと、この発見を持ち帰ることは出来ない。こんな時だからこそ冷静にならないと!

 

 

 

 「隆君!起きて!戻ってきて!今はそれよりも先に裕君を探さなきゃ。それに、生きて帰れれば、また来れるかも知れないんだから。ねっ?」

 

 

 

 

 僕は未だ固まって動かない隆君の大きな体を頑張って揺さぶる。しばらく続けていると、流石に彼も現実に戻って来てくれた。

 

 

 「ああ、すまない。お前の言う通りだ。目的を忘れてしまう所だった。」

 

 

 

 なんとか我に返った僕たち二人は、もう一人の親友を探すために歩き始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 僕たちはあれから当ても無く彷徨っていた。僕たち以外の人の手掛かりは残念ながら未だ発見できていない。ここは海に囲まれているようだし、無人島かとも思ったが、そう単純な場所でもないらしい。遠目に宙に浮かぶ金属の巨塔が見えた時は、度肝を抜かれて、また自分の世界にトリップしてしまった。驚くことにあの塔は地面との接合点が無いのだ。まったくどういった原理で建造された物なのか想像が及ばない。そんな超未来の人工物と古代の雰囲気を持つ生物がある島。まるで、映画の世界にでも迷い込んだ感覚だ。そんな不思議な世界が夢でもなければ、何かのアトラクションでもない。調べたい。そんな気持ちが沸々と湧き上がってくる。この島には未知の科学がそこかしこに渦巻いている。裕君と合流できたら、すぐにでも三人で調査に出向きたいほどだ。頭を冷やさなければならない状況だというのは重々理解している。だが、好奇心は留まる事を知らない。それは僕だけじゃなくて、隆君も同じだろう。

 

 

 

 

 

 探せど探せど当てはない。普段から鍛えていて体力のある隆君はまだまだ平気らしいが、僕には炎天下の行脚は身体に堪える。という訳で、今は二人で木陰に腰掛けて休憩している。そんな僕たちの元に突然の来訪者が現れた。その正体は黄色い光を発するホタルに似た昆虫だった。それも数匹ではなく、数十匹、数百匹と数え切れない位の大群だ。昼行性のホタルは光らないイメージがあったが、この群れの個体たちはこの快晴の中でも視認できるほど煌々と輝いている。隆君いわく昼間にここまで光るタイプの種類は聞いたことが無いとのことだ。あの翼竜の件で霞んでいるが、これも大きな発見と言えるかも知れない。二人でそんな事を話していると、虫たちが、僕たちの周囲に集り始めた。とはいえ、こちらに何か危害を加えてくる様子はない。むしろ、ホタルを間近で観察するなど普段なら絶対に出来ないので、有難いまである。そう思ったのも束の間、今度は群れの個体全てが一つの方向に向かって一気に飛び始めた。虫たちの飛翔はきれいな一本の筋の様に見えて昼間ながらとても美しかった。僕たちは少しの間、顔を見合わせた。そして、どうせ何も手掛かりを得られないのなら少しの寄り道程度なら問題ないだろうと考え、僕たち二人は虫たちが描く軌跡を追い掛けた。

 

 

 

 

 

 虫たちが辿り着いた先は、大海原を望む崖の先だった。崖の先端まで飛んだ虫はたち、そこから垂直に急降下し始めた。崖の下に何かあるのだろうか。もしかすると、あの虫の巣がある可能性もある。だが、崖際で動き回るは危険だ。

 

 

 

 

 「取り敢えず、崖際から顔だけ出して下の様子を確認するのはどうだ。危ないし、確認だけしたらすぐに引き上げよう。」

 

 

 

 

 隆君が提案してきた。どうやら、彼も気になるらしい。僕とてこの下に何があるのか気になるのは変わらないので、肯定する。そうして、崖際で腹這いになり、少しだけ頭を突き出して、下に何か無いか探す。すると、すぐに目ぼしい物が見つかった。明らかに人工的な加工が施された石畳の床が崖を支点とした片持ち構造で固定されている。そして、その上には見た事の無い型式のコンピュータ端末とあの虫たちが集まる人影があった。虫の大群の隙間から見覚えのある顔が見えた。

 

 

 

 「やっぱり、そうだ!」

 

 

 

 間違える筈がない。探し求めた親友の姿がそこにあった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side 桃園裕太

 

 

 男性にしては高く、女性的、それでいてどこか茶目っ気のある声が崖の上から聞こえた。俺はとうとう幻聴が聴こえる様になってしまったのだろうか。親友の声が聴こえた気がする。こんなところにいる筈が無いのに。それでも声がした方向へ目を向けてしまうのは、どうしようもない人間の性だ。それから、俺の目に飛び込んで来たのは、大学生にしては幼くて女の子っぽい、忘れ様もない大切な親友の顔だった。これは本当に現実なのか?先程から不可思議な事ばかり起こっている。俺は目を擦り、もう一度同じ方角を眺める。今度は見事な筋肉を携えた巨漢が崖際から姿を見せていた。

 

 

 

 

 途端に俺の視界が歪んだ。忘れる訳がない。二度と会えないと思っていた二人の親友の姿が見えた瞬間、俺の頬に熱い筋が伝った。嬉しさが半分、そしてあの二人がこんな碌でもない場所に来てしまったというやるせなさがもう半分。この複雑な思いがより感情を掻き乱し、それに応じて視界の歪みは大きくなり続けていった。




 最近は暑くてモチベーションが…
 皆様はいかがお過ごしでしょうか?個人的にはモンハンnowが始まるまでには少しでも落ち着いて欲しい物です。


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Version15.1:再出発

 前回から間が空いてしまいました…連日の暑さでモチベーションが保てず…

 まだまだ残暑はキツいですが、負けずに投稿を続けていきたいものです。それでは、本編どうぞ!


 「落ち着いたか。」

 

 

 

 俺は気付けば崖の上に引き上げられていた。どうやら隆翔が引っ張り上げてくれたようだ。相変わらず凄い腕力だ。それに加えて、頭も良いんだからズルいもんだ。

 

 

 

 「裕君、なんだか疲れた顔してるけど大丈夫なの?」

 

 

 

 もう一人が問いかけてくる。そいつの名前は鬼塚秀夫(おにづか ひでお)。幼馴染で、俺とは違って昔から手先が器用で、色々と物を作るのが好きなやつだった。大学に入ってからは更に熱が入ったらしく、秀夫の部屋には何やら難しい設計図らしき物が何枚も転がっているのを見た事がある。二人とも優秀で頼りがいのある大親友だ。だからこそ、俺には心配な事がある。

 

 

 

 「そんなことより!二人とも、無事だったか?!モンスターに襲われたりしてないか?怪我とか、体調とか大丈夫か?変な物とか食べてないか?それと、それと!」

 

 

 

 俺は気付けば二人に迫る形になり、早口で捲し立てていた。

 

 

 

 「ゆ、裕君、なんだか怖いよ?どうしちゃったのさ?」

 

 

 

 秀夫は困惑したような表情になり、俺から一歩後ずさる。隆翔がそんな白熱した俺の前に立ちはだかり、諭すように言った。

 

 

 

 「裕太、一旦冷静になろう。まずは深呼吸をしよう。そうだ。よし、少しはクールダウン出来たみたいだな。その様子だと何かあったんだな?話せる範囲で良いから話してくれないか?」

 

 

 

 俺は隆翔の一言のお陰でなんとか落ち着きを取り戻すことが出来た。そうだ。ここで取り乱しても何にもならない。まずは、俺の身に起こった事をありのまま二人に話そう。きっとこの二人なら信じてくれるはずだ。

 

 

 

 「信じられるは分からないけど、聞いて欲しい事があるんだ。」

 

 

 

 それから俺は、二人にこの島であった全ての事を話した。一月以上の間この島で生活したこと、その中で何回も死を経験しその度に蘇ったこと、アンジャナフやリオレイア、ラギアクルスにジンオウガといった常軌を逸したモンスターのこと、そしてこの島の外周を覆っていた光の壁や「待つ者」のこと。その他一切合切すべてを話した。その間、二人は何も言わずに真剣な表情で俺の言葉を聞いてくれた。ここに来てからずっと一人だった俺にはそれが何よりも嬉しかった。相手がこの二人だったことも理由なのかもしれない。

 

 

 

 

 これからの話をするのは腰が重い。俺の口から島の探索を手伝って欲しいという事を言わなければならないのだ。それすなわち、俺と一緒に死地に赴けという自分本位の身勝手な要求をすることになる。だが、現状で俺に出来るのはそれしかない。さもなくば、以前の様に、作っては壊されの繰り返しで精神を擦り減らし続ける生活を一生送らなければならない。だからこそ、今日この島に来たばかりである二人の今後を思うならば、今この場で言わなければならないのだ。結局のところ、俺は二人に拒絶されるのが怖い臆病者なんだ。二人と再会した今、再び孤独なあの生活に戻ることなどもはや考えられない。しばらく考え込んでいると、秀夫がいつの間にかぴょこんと俺の前に現れていた。

 

 

 

 

 「裕君、辛そうな顔してるよ。話したくない事は無理に話さなくてもいいんだよ。」

 

 

 秀夫は心配そうな表情でこちらを見つめている。その優しさが今の俺の胸には突き刺さる。だが、いずれにせよ早かれ遅かれ言わなければならない。俺は意を決して口を開いた。

 

 

 

 「俺はこれからこの島を探索してその謎を解こうと思ってるんだ。さっきも話したけど、これまでの感じからいって普通の手段ではこの島を出るのは無理だと思う。だから俺は、島を調べてここがどういう場所なのか知りたいんだ。そのための戦力を確保するためにモンスターを飼い慣らす試みもしようと考えてる。それで、その、二人にも手伝って欲しいんだ。危険な場所に行く事もあるだろうし、死ぬことだって一度や二度では済まないはずだ。だから、無理強いはしない。」

 

 

 

 俺が言い終えると、二人は迷いなく返してくれた。

 

 

 「大丈夫だ。心配することはない。俺たちも元よりその心づもりだ。それに、お前にだけ辛い事を任せる訳にはいかない。」

 

 

 

 隆翔は俺の方をじっと見つめて力強くそう言ってくれた。その真っすぐな視線は隆翔の大柄な体格も相俟って誰よりも頼りがいがあるように感じた。秀夫も隆翔の発言に頷いている。二人には感謝してもし切れない。俺はこんなにも良き友に恵まれて本当に幸せ者だ。こんな場所でもこの三人でならどんな苦境も乗り越えられる気がした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから、俺たちはすぐに仮住まいの設営に取り掛かった。まだ日が高い内に外界と隔離された空間を作っておきたかったからだ。夜間に生身の人間が野晒しになるなど、この島では命がいくつあっても足りた物ではない。二人にインプラントの使い方を教えつつ作業をした。今回は一先ずの屋根を確保するのが目的なので、一旦は時間的にも、資材量的にも手頃に作れる藁製で作る事にした。二人はインプラントの機能とその多さに大層驚いていた。曰く、こんな高度な技術は見た事も聞いた事も無いようだ。特にエングラム関係に至っては原理すらもよく分からないらしい。二人は俺と違ってその道の人間だ。だからこそ、俺が感じた以上に未知のテクノロジーに対して異質さや先進性が身に染みて分かるのだろう。

 

 

 

 そんなこんなで、俺たちは三人で済むには少々手狭な、底面積3×2マス、高さ2マスの藁小屋を急造した。不思議な事に、同じエングラムを使用しても、作業時間や完成品の質などは使用者によって差異が発生することが明らかになった。元々器用な秀夫は速く製作できていたのに対して、一番不器用な俺はそれより三割増し位の時間が掛った。俺はこれまでの使用感からてっきり、どんな人でも画一的に同じ物が作れるようになると思い込んでいたが、どうもそうではないらしい。製作物の品質や加工時間は一定の水準には誰でも到達するようだが、使用者の技能が高ければ更なる向上を込めるようだ。このインプラントは、ただ単に人間の能力を横並びに調整するための代物ではないようだ。言語翻訳機能が存在するあたり、そういった思想の下開発された技術の様にも感じ取れたが、それが違うとなると、いよいよこれが作られた背景が分からなくなる。この島を探索する中でこのインプラントの謎も白日の下に晒されるのだろうか?

 

 

 

 

 日が完全に西へと傾き、空が黒ずみ始める頃、本日の夕飯を求めて釣りに出た俺と隆翔は、上々な戦果に満足しながら帰路に就いていた。

 

 

 

 「まさか岸辺でマグロみたいなのが釣れるなんてな」

 

 

 

 そう、幸運な事に1 [m]を超えるサイズの一尾のマグロらしき魚が釣れたのだ。たが、如何せん釣り竿の強度が足りず、引き揚げる際に見事に真っ二つに割れてしまった。だが、浅い場所だったので二人で水中に乗り込み、無理やり抑えつけてから槍でどうにか仕留められた。思えば、浅瀬とは言え何が潜んでいるとも知れない海に突貫するのは中々に無茶な行動だったが、それに見合う成果は得られた。食料保存庫を作れば数日の間は三人でも食糧に困る事は無いだろう。今からどうやって食べるか楽しみだ。

 

 

 

 

 仮住まいに戻ると、俺たちが出ている間に完成したであろう食料保存庫やベッドを凝視しながら難しい顔をしている秀夫の姿があった。そういえば、さっき作業をしている時の秀夫は、どこか複雑そうな面持ちだった様な気がする。秀夫は昔から物を造る事に関して並々ならぬこだわりと情熱を持っていた。それ故に、自身の矜持を揺るがしかねないエングラムの存在に対して何か思う所があるのかも知れない。秀夫がこんな顔をするのは昔から決まって、壁にぶち当たった時だ。しかし、生憎なことに俺は秀夫の悩みに適切に応えるだけの知見は持ち合わせてはいない。そういう時は、無難に飯や遊びに誘ってリフレッシュさせてやることしか俺には出来ない。だからこそ、俺は何食わぬ感じの軽い口調で声を掛ける。

 

 

 

 「大物も釣れたことだし、そろそろ飯にしようぜ、秀夫」

 

 

 

 秀夫は一瞬呆気に取られた表情をしたが、その直後に腹の虫が鳴った。それから、俺たちは夕餉の準備を始めたのだった。

 

 

 

 マグロらしき魚の解体は生物の構造に詳しい隆翔が行ってくれた。手際は良く、その動きには迷いが無い様に見えるが、切れ味が優れない石斧を利用しているためか、所々で力が必要な場面が発生したため俺たちも加勢した。特に、硬い装甲で覆われた頭部を落とすのには苦労した。こいつらもあの魔境の如き海で身を守るのも一苦労なのかも知れない。隆翔曰く、こうした特徴は太古に絶滅した板皮類という魚類の系統に見られた物らしい。なんと、あのシーラカンスよりも古い時代から存在していた種もいたそうだ。なので、目の前のこいつはマグロとは全く異なる生物である可能性が高いみたいだ。そんな理由からか隆翔は捕まえた当初は、言葉には出さないものの、食材にするのは惜しいという顔をしていたが、今度また釣れたら標本にしても良いと言うと、渋々了承してくれた。

 

 

 

 頭を落としたら今度は、腹の中から虫が出て来た。虫と言っても寄生虫の類ではない。それは大海原に住まう魚類の餌としては似つかわしくない立派な甲虫だった。何を隠そう、あのジンオウガが引き連れていた昆虫、雷光虫と同じ種類なのだ。あの時の凄惨な光景がフラッシュバックし、俺は思わずたじろいでしまった。食べられたであろう雷光虫は原型こそ保っていたものの、流石に息絶えていた。これで本当にまだ生きていたら俺はこの場で気絶していただろう。とりあえず、作業の邪魔になるし虫を退けようとした時だった。死骸を掴んだ手に文字通り電流が流れた。青白い一筋の光と共にバチりと鈍い痛みが掌全体に伝わっていった。それと同時に情け無い声が漏れた。二人からは心配そうな目付きで見られたから、なんとか大丈夫だと伝えた。

 

 

 

 秀夫はそんな雷光虫に興味がある様子だ。目を輝かせて地面に落ちたそれを眺めている。

 

 

 

 「祐君、この虫が生息している場所は分かる?僕思い付いたことがあるんだ!」

 

 

 

 まるで欲しいおもちゃを手に入れた子供の様にキラキラとした表情で問いかけてきた。秀夫の好奇心旺盛な所は昔から変わらないな。

 

 

 

 「すまんが、普段どういう場所にいるのかはよく分からないんだ。ある夜に急にこいつの群が現れたから。余裕が出来たら一緒に探そうな。」

 

 

 

 俺がそう言うと、秀夫は満面の笑みを湛えて、「うん!」と頷いてくれた。隆翔も柔らかい表情を浮かべて作業を続けてくれている。俺はそんな二人の様子を見て、この二人だけには危険目を味わわせない、あんな苦しい死に方をさせるものかと密かに決意を固めたのだった。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 このマグロらしき魚は「大食いマグロ」という名前らしい。分類としては、マグロとは大きくかけ離れている可能性が高いそうだが、肉の部位の構成は俺たちが知るマグロと酷似しているようで、赤身やトロなどが確認出来た。今晩は、贅沢に大、中のトロを頂く運びとなった。トロは腐りやすく保存が効かないため、新鮮なうちに食べてしまおうという算段だ。その他の部位は食料保存庫に入れて燻製として保存することにした。

 

 

 

 俺たち三人は豪勢な食卓を囲みながら明日からの事について話し合っていた。

 

 

 

 「一先ずの長期的な目標として、俺は島の奥地を目指したいんだ。島の謎に迫れる可能性があるのは現状ではそれしか無いと思うんだ。」

 

 

 

 俺たちは否が応にもこの選択肢を取る他無い。だからこそ、俺は改めて二人に提案する。

 

 

 

 「それには賛成だが、実際どうやって恐竜サイズのしかも信じられない能力を持った動物が犇めく場所を突っ切るつもりだなんだ?」

 

 

 

 隆翔が俺に尋ねる。

 

 

 

 「力のあるモンスターを飼いならせればと思っている。強大な肉食のモンスターなら護衛として道中で役に立ってくれると、思う。正直、俺たちだけの力ではあいつらとやり合うのは不可能た。だから、モンスターにはモンスターで対抗する以外ないんじゃないのかなって。」

 

 

 

 あの「待つ者」が言っていた事だ。我ながら雲を掴む様な突拍子も無い話をしていると思う。俺はモンスター達の圧倒的な力の前に何度も屈し続けて来た。あれらは最早人間だけの力でどうこう出来る存在では決してない。だからこそ、本当に雲を掴めなければ俺たちに生存は許されない。

 

 

 

 「お前のこれまでを否定するようで申し訳ないんだが、」

 

 

 

 隆翔はどこか言い淀む様子でゆっくりと話し始めた。

 

 

 

 「動物というのは俺たちが思ってる以上に本当に危険なんだ。その殆どは人間が都合良く従わせられるような甘い存在ではない。人間よりも小さな猿でさえその気になれば人に大怪我を負わせ、時に生命を奪う事だってある。それが、人より遥かに巨大で剰え火や電気を操れる様な人智を超えた生物なら尚更だ。それに、そんな強大な生物が小さな人間に大人しく付いて来る保証なんてない。」

 

 

 

 隆翔の意見はこれ以上ないまでに正論だ。だからこそ、俺は何も返せずにいた。そんな中、今度は秀夫が手を上げ意見を口にした。

 

 

 

 「それならさ、虫みたいに小さな生物を利用するっていうのはどうかな?さっきちょっと考えてたんだけど、あの雷光虫の放電を活かせば、モンスターに大きなダメージを与えられなくても短時間なら足止めしたり出来るんじゃないかなって。祐君のイメージとは違うかも知れないけど、ああいう小さくて有益な生き物をたくさん集めることなら出来るんじゃないかな。」

 

 

 

 確かにそれなら現実的に可能であるはずだ。勿論、大型の生物のテイムも試してみたいが、やはり手頃な小さな生き物から攻めていくのが吉だろう。

 

 

 

 「確かにそれなら今の俺たちでもこなせそうだ。裕太、有用な生物について何か心当たりはないのか?」

 

 

 

 隆翔も秀夫の提案に賛成なようだ。隆翔からの質問に対して俺はこれまで出会ってきた小型の生き物を振り返る。すると、いくつか候補が浮かんできた。

 

 

 

 「それならいくつかある。俺が一番有用だと思うのは、重傷を短時間で治癒してくれる回復ミツムシかな。あれがいれば複雑骨折級の怪我をしてもなんとかなる。モンスターに遭遇した時に役立ちそうなのは、目眩ましに使える光蟲とか人間が一瞬で昏睡するレベルの催眠性のガスを出すネムリガスガエルかな。直接モンスターにダメージを与えられなくても足止めしてやり過ごしながら進むことも出来るかもしれない。」

 

 

 

 それから、話は進み小動物の捕獲は生活が整ってから一気に行おうという結論に至った。そして、目先の目標については、最優先で家の周りにスパイクウォールを設置すること、次点で家を木製に改築し居住性を上げるという方針に落ち着いた。経験上、防護柵程度ではリオレイアクラスのモンスターの襲撃を防ぎ切るのは不可能だが、リモセトスの様な大型の草食動物に家ごと踏み抜かれるのは避けられる。それに、少数のランポス程度なら立て籠もれば対処は可能だ。

 

 

 

 取り敢えず、明日はスパイクウォールの設置を第一優先で行い、時間的な余裕があれば近くの赤いオベリスクを見に行くと云う流れになった。そうと決まると、俺たちは英気を養うため早めに床に就いたのだった。




 そういえば、そろそろMHnowが始まりますね。皆様はもう登録はお済みでしょうか?ARKの方も公式サーバのセーブが行われ本格的にASAへの移行が見えてきましたね。今月からは双方にとって重要な期間になりそうで、目が離せません!


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Version15.2:オベリスクへ

 昼下がり、俺たちは拠点近くの赤いオベリスクへ向かって歩みを進めていた。今日は早朝から急いで作業を開始した。その甲斐あってか、お天道様が天辺に登りきるまでには家の周りをスパイクウォールで堅める事が出来た。一先ず、最低限ながら拠点を維持する体制は整った。そのため、二人が兼ねてから調査したがっていたオベリスクへと赴くことになったのだ。俺は最初に見つけた時からどうも怖くて近付く気になれなかったが、想像していたように接近しただけで撃ち抜かれる事態は起こらなかった。一旦は安心だ。

 

 

 

 オベリスクに近付くごとにその威容は増してゆく。オベリスクは、周囲より盛り上がった浮島とも呼べる場所の真上にある。幸い、岩が形作る細い通路があり、歩いて登ることが出来そうだ。近くにいる生物は翼竜のメルノスやケルビなど、大人しい生物ばかりで、こちらに危害を加える者はいない。道中は地味に勾配がきつく、燦々と照らす陽光の存在も相まって、汗が止まらない。

 

 

 

 いつも遠目からしか見ていなかったオベリスクは、やはり間近で見ると本当にデカい。その一言に尽きる。東京の高層ビルなんかより余程大規模だ。その頂上は頭を目一杯振り上げても、オベリスクの麓からは視認する事はできない。そんな構造物が当然の様に宙に浮いているのだから、到底この世の物とは思えない異端な様相を呈している。

 

 

 

 

 オベリスクの底部には金属製と思われる円形の床と、天上から光線が降り注ぐ菱形の柱の様な構造物がその中心に位置している。それらが確認できる距離になったのと同時に、連れてきた導蟲の放つ光の色が本来の黄緑色から鮮やかな青色に変わっていた。人工物に近付いたから、という理由ではなさそうだ。過去に導蟲に無機物の石をマーキングした際には通常と変わらない色のままだった。こんな現象が起きたのは今回が正真正銘初めてだ。これまでの挙動からして、有機物や生物由来の物質をマーキングすると黄緑色に、無機物の場合には青色になる、といった様な単純なメカニズムという訳ではないと考えられる。俺はその旨を二人に話した。

 

 

 

 二人ともこの導蟲の変化についてはこの場では結論を出せないとのことだった。もっと詳細に条件を絞って実験を行わなければ確実な事は分からないそうだ。結局、この件については一度考えるのは保留しようという流れになった。その時だった。青く変化した導蟲たちがある一箇所に集まっていた。そこは、オベリスク下の床だった。ターミナルとでも表現しようか。導蟲が集っている場所だけではない、よく見るとターミナル全体にカビ、なのか何かの胞子なのかは分からないが、白い粉体がこびり付いており、覆っている。恐らく導蟲はこれに反応したのだろう。俺はこの光景を見て、全身がむず痒くなるのを感じた。俺自身は潔癖ではないが、流石にこれだけの量のカビらしき物を眼の前にすると、どうしても竦み上がってしまう。

 

 

 近付くのも憚られる惨状が眼下に広がっているにも関わらず、隆翔と秀夫は白い物体を間近で観察している。理系のフィールドワークにおける胆力は目を見張るものがある。俺一人なら即効で諦めて逃げ帰っていただろう。やはり、あの二人は頼もしい。だが、二人にばかり頼ってはいられない。俺は意を決して白カビと思しき物体の塊へと足を踏み入れた。

 

 

 「何か分かりそうか?手伝える事はあるか?」

 

 

 俺は隆翔に問いかけた。すると、隆翔は茶色がかった黄色い気持ち悪いイボ状の塊を指差して言った。

 

 

 「二人とも、これを見てくれ。これは恐らく微生物の塊だと考えられる。そして、奇妙なことにこの微生物と白カビはお互いに絡み合う様に自生しているんだ。もしかすると、共生関係にあるのかも知れない。」

 

 

 微生物ということは、カビだけに飽き足らず菌の塊すらもターミナルに貼り付いていたと言う事か。俺は思わず背筋がゾッとした。しかし、ここまで管理が行き届いていない様子ならば、本当にこの島に管理人的な存在が不在である可能性もあるのか。そんな事を考えていると、秀夫が隆翔の発言に対して疑問を挺した。

 

 

 「バクテリアはまだ分かるけど、この環境でカビって生存出来るものなのかな?見たところ、この辺は日当たりが悪い訳ではないし、風通しも良い。そんな場所で生き永らえられるとは思えないけど。」

 

 

 確かにそう言われると疑問に思うのも無理はない。一般的なイメージだと、カビはもっと暗くてジメジメとした場所に生えそうなものだ。

 

 

 「飽くまでも仮説で、現状では碌な検証も出来ないから断言は出来ないが…」

 

 

 隆翔はそう前置きをしてから、続けた。

 

 

 「この微生物と白カビは共生関係にある可能性が高い。もしかすると、微生物側から何らかの働きかけをすることで、カビにとって厳しい環境でも生きられる様になっているのかも知れない。あと、これはまた別の話だが、こういった生物が自ら厳しい環境に行くとは考えにくいんだ。邪推ではあるが、人間もしくは、微生物や胞子が付着した生物がバラ撒いたみたいなこともあるかもしれない。」

 

 

 隆翔の話を聞いて、カビを撒く事が出来そうな生物に心当たりが生まれた。

 

 

 「そういえば、カビと共生している生き物なら前に出会ってるんだ。カモシワラシっていう背中の毛にカビが付いてるウサギがいたんだけど、そいつのカビも白かったんだ。でも、このカビより色が薄かったからもしかすると別種っていう線もあるけど。」

 

 

 そんな話をしていると、導蟲が下の海岸に向かってまたもや飛び去って行った。そして、今度は一見何の変哲も無い砂浜の上に集まっていた。導蟲が行く先には何かがある。俺たちは一度オベリスクから離れ、急いで導蟲を追った。しかしなから、その場所の周囲には特段変わった物は何もない。地面の色や落ちている物も周辺と代わり映えしない。おかしいな。いつもの流れであれば、こいつらが集まる場所にはマーキングした物と同質の物があるはずなのだが、今回に限ってはそれが一切見て取れない。ふと、思った事がある。もしや、この下に何か有る可能性はある。俺はその旨を二人に伝えてから導蟲の真下の地面を掘り始めた。

 

 

 

 十数センチ程砂を掻き分けると、なにやら肉食恐竜の頭骨が埋まっているのを発見した。至る所に先程隆翔が見つけた微生物の塊と同じイボ状の物体が付着している。保存状態は明らかによろしくない。あのアンジャナフの頭部より一回り程大きい。俺だけの力では引き揚げられそうにないので、隆翔に手伝って貰いながら、壊さないよう砂を払いつつ下の方から丁寧に持ち上げた。なんとか頭骨を無事に地上に引っ張り上げる事が出来た。頭骨の形状は扁平で、よく見るティラノサウルスの標本と比較して、上下の幅が小さく細長い印象を受ける。それに、鼻の辺りがやたらゴツゴツとしているし、頬骨も出張っているように思える。骨には先程の微生物の塊だけでなく、あの白カビまでもがへばり付いている。あれらの発生源と何か関係があるのだろうか?隆翔に何か分かった事がないか確かめる。

 

 

 

 「これは化石にはなってないな。白骨化した恐竜の死体だろう。身体の他の部分が周囲に無いあたり、少なくとも死後数十年から百年程度は経過してそうだ。頭骨の形状はギガノトサウルス類に酷似している、というより復元された骨格モデルのほぼそのままだ。ただ、既存の種よりも1.5倍から2倍程度大きい。ざっと計算した感じ、全身の大きさは大型の竜脚類に匹敵しそうだ。これは肉食恐竜の常識を覆す大発見になりそうだ。」

 

 

 

 そう語る隆翔はどこか嬉しそうだった。それも無理はない。この事実を知っているのは俺たちだけと言っても過言ではないからな。そんな現場に立ち会えるなど普通に生活していた頃では考えられない。秀夫も目を輝かせてギガノトサウルスの頭骨に釘付けになっている。

 

 

 誰も貴重な資料を放棄する事は望んでいない。その後、俺たちはこの場で木を伐採して、通気孔を設けた大きめの収納ボックスを作って、その中に安置しておくことにした。帰りに回収しようという算段だ。一応気休め程度ではあるが、虫除けのために骨が入った箱にしばらくの間たき火の煙を当てておいた。そして、なるべく他の生物に気付かれないようにするために、岩の陰に隠しておいた。

 

 

 現段階ではカビの詳細は分からないが、あの黄色いバクテリアは、生物の分解を行うタイプの種で、ギガノトサウルスは死後それによって分解されたのではないかという結論になってこの話は一旦終わらせた。そして、本命のオベリスク調査を再開する運びとなった。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 それから、俺たちは再びオベリスクのターミナルへと戻った。先程は調べられなかった中心の柱を重点的に調査した。その最上部は、インプラントと同じ菱形になっており、意匠も似ている。真ん中の赤い小さな菱形の出っ張りを押してみるが、特に何も起こらない。次はターミナルの床を確認した。すると、柱の周りに変わった形の窪みが四つ配置されているのが確認出来た。シンプルな楕円形の物もあれば、トゲ付きのバランスボールの様な珍妙な形状の物もある。何かを嵌めるスロットの様な物なのだろうか?だとすれば、その何かを探せばこのオベリスクの機能を知る事が出来るのではないか。やはり、そういった面でも島の探索は必須事項であるらしい。

 

 

 「二人とも、見て!」

 

 

 秀夫が驚いた様子で呼びかけきた。急いで秀夫の方を向くと、柱の上にインプラントから開けるインベントリ画面の様なホログラムが浮かんでいた。秀夫曰く、柱の一番上にある赤い菱形に自分のインプラントをかざしたら突如出現したらしい。

 

 

 俺たちはそのホログラムを眺めていた。そこには、見慣れないアイコンが一つだけポツんとあった。赤い石像の様な造形のアイコンの上には「Engram/Create Dragon(Alpha) Portal」と書かれていた。エングラムということは、ここでだけ作れる特別な物なのだろうか?それにしてはドラゴンやポータルなどと凡そ製作する物の名前とは思えない文字列が並んでいるのが気になるが。結局のところ、真実は動かしてみないと分からないというわけか。さらにホログラムをよく見てみると、アイコンの右隣に「Crafting Requirements」と書かれた欄を発見した。意味合いとしては、例のドラゴンポータルとやらを生み出すのに必要な材料と考えて間違いないだろう。

 

 

 その見出しの下には材料と思われる物品の一覧が示されていた。下から四つの物に関してはご丁寧にアイコン付きで表示されていたので、一番に目に付いた。これらは共通して「アーティファクト」と呼ばれるようだ。アーティファクトには、それぞれに名前が付いている様で、「免疫」や「強者」などと云った名称が記されている。加えて、免疫は楕円形の窪みに強者はバランスボール型の窪みにそれぞれ嵌りそうな形のアイコンをしている。そこから察するに、アーティファクトはあの窪みに挿入して使う鍵の様な物なのだろう。これらは島を探索しているうちに見つかるのだろうか?これらの存在は頭の隅に置いておくのが良さそうだ。ふとした場所やタイミングいきなり発見するという事も有り得そうだし。

 

 

 

 アーティファクトの欄の上には追加で必要となるであろう材料が書かれていた。「リオレウスの尻尾」、「エスピナスの棘」、「ナルガクルガの刃翼」といずれもまだ見ぬモンスターと思しき存在の名前と身体の部位と思われる名前が列挙されていた。オベリスクの起動にはそれらも併せて取ってくる必要があるようだ。そして、その最後には目を疑う単語が佇んでいる。「ラギアクルスの背電殻」と。

 

 

 

 その瞬間、目の前の景色が揺らぎ始めた。余りにも果てしない道のりに思わず卒倒しかけてしまった。目の前の小さな文字列は残酷な事実を淡々とこちらに告げている。それは、すなわちあの化け物を倒さなければ前に進むのは許されないという事に他ならない。やつの姿を見たのは死に際の一瞬だけだったので、その全貌を把握している訳ではないが、その実力に関しては疑い様が無い。はっきり言って、ラギアクルスに勝利するビジョンが見えない。それを確立出来ない限り、俺たちがこの島の真相に辿り着く事は永遠に無い。

 

 

 他の名前についてもあいつと同等の実力を持ったモンスターである確率が高い。モンスターを避けながら進めば良いとばかり考えていたが、それだけで乗り越えられる程この島は俺たちに甘くはないらしい。待つ者の言っていた事の意味が理解出来た気がする。彼女のモンスターを手中に収めろというアドバイスは決して的外れな物ではなかった。むしろ、それしかあの化け物共を制する方法は無いとも言える。俺たちを取り巻く現実の厳しさに俺は頭を抱えてしまった。

 

 

 

 あの後、秀夫たちがホログラムをさらに事細かに調べてくれた。それによると、ドラゴンポータル以外にも二つのエングラムがここでのみ使えるらしい。その二つとは、「低温ポッド」と「低温冷蔵庫」という物品だ。どちらのアイコンも近未来的な機器を彷彿とさせるデザインであり、いずれも馴染みのある見た目ではない。加えて文章による説明も見当たらないため、結局この二種が何に使う品なのかは分からない。

 

 

 

 南中していた太陽は、いつの間にか西に傾き始めている。オベリスクについては現状で行える調査は粗方やり尽くした。青く変化した導蟲など不明な箇所は多かったものの、オベリスクからのみ生産出来る物がある事や、アーティファクトの存在、モンスター討伐の必要性など今後行うべきことがより鮮明になる等収穫も大きかった。日が暮れない内に、置いてきたギガノトサウルスの頭骨を回収して拠点に帰ろう。

 

 

 俺たち三人が踵を返した矢先の出来事だった。




 


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Version15.3:未知の島のお騒がせっ子

 ついにMHnowがリリースされましたね。以前より外に出る機会が増えたように感じます。これを機にヒッキー体質から脱却したいものです!あと、モンスターハンターシリーズの20周年記念イラストも公開されましたね。本当に素敵なイラストなので一見の価値ありです!


 それでは、本編始まります!


 オベリスクがある岬からギガノトサウルスの頭骨を隠しておいた岩陰まで戻って来た。骨を入れた箱は無事だった。特に荒らされた形跡はない。それが確認出来ると隆翔は物凄く安堵した様な表情を浮かべ、胸を撫で下ろしていた。俺たちは箱を丁寧に持ち上げ、拠点の方角へ歩みを進めた。

 

 

 

 

 重い箱を揺らさないよう気を遣って歩くのは中々にしんどい。歩いても、歩いても一向に進んだ気がしない。そのうえ、箱の重量が肩にモロにのし掛かっている。だが、落としてはならないので、とにかく意志を強く持って震える腕をなんとか同じ高さで保とうとする。

 

 

 

 

 涼しい顔をして箱を持ち続ける隆翔とは裏腹に、一人奮闘していると、周囲の警戒を行ってくれていた秀夫が急に大声を上げた。

 

 

 

 

 「二人とも!速くそれを捨てて逃げるんだ!」

 

 

 

 

 秀夫が声を張り上げるのは珍しい。何か重大な危機が起こったのか?呆気に取られていると、その元凶はすぐに現れた。背後からバサバサと凡そ普通の鳥の物とは思えない音量の羽ばたき音が聞こえた。モンスターか?!こんな状況で現れるなんて!

 

 

 

 初動が遅れた。箱を地面に置いて、身軽になった瞬間には、既にモンスターは地に舞い降りていた。

 

 

 

 

 

 俺たちの目の前に出現したのは、奇妙な鳥の様な姿をしたモンスターだった。翼や胴体など身体の大部分は鮮やかな黄緑色の皮膚に覆われており、翼の前縁部には紫色の鱗が生えている。尻尾は平たくて細長い団扇の様な形をしており、見方によってはビーバーの尻尾に似ているようにも思える。喉元から胸にかけては大部分が赤く、また胸部はややせり出している。両翼の先端、人間で言うと親指に当たる部分には、火打石を思わせる色をした肥大化した爪が生えている。俺が知っている鳥とは、大きくかけ離れた姿ではあるが、背中からは紫色の羽毛が覗き、辛うじて鳥らしさを保持している。嘴は全体が黄色く、アヒルのそれを縦に伸ばした様な形状をしているが、その狭間からは鋭い歯が見え隠れしており、その様はこいつが紛れもなくモンスターである事を俺に強く意識させる。全長は8 [m]程だろうか。リオレイアより一回り小さく、あちらと比較するとこぢんまりとした印象はあるが、直立した体勢になっているためか、体高は高くリオレイアと同程度はある。そのためか、間近にした時の威圧感は中々のものだ。

 

 

 

 

 

 「あ、あれがモンスター、なのか。」

 

 

 

 

 

 隆翔は初めて目にする巨大なモンスターに恐れ慄いている。なんとか立ててはいるが、脚は震え、額からは多量の冷や汗が滝の様に流れている。秀夫は腰を抜かしてその場で動けなくなっている。このままでは最悪の場合、二人ともお釈迦になりかねない。二人にあんな苦しい思いをさせて良いのか?否、それは絶対に駄目だ。ここは俺が二人の身代わりになる。死ぬのが怖くない筈はない。あの鳥の姿が目に映る毎に過去の数々の痛みがフラッシュバックする。同時に俺の中の悪魔は甘く囁く。今ならまだ逃げられると。だが、それと同時に僅かばかりの人間性も最後の問い掛けを行ってくる。二人と出会った時の事、みんなで馬鹿やった事、たまに喧嘩した事、幼稚園の頃から今日に至るまでの俺たちの思い出が頭を過っていった。二人を見捨てて自分一人助かるなんて非道な行いなど、俺に出来る由は無かった。俺は爪が食込む程拳を強く握り締めた。そして、俺は二人を、庇う様にして前へ躍り出た。

 

 

 

 

 「ふ、二人とも、は、早く逃げるんだ!まだ間に合う!」

 

 

 

 

 俺は呂律の回らない舌をどうにか動かして叫ぶ。

 

 

 

 

 「そ、そんなこと、出来るわけ!」

 

 

 

 隆翔は異議を唱える。しかし、事態は一刻を争う。だからこそ、俺は更に語気を強めた。

 

 

 

 

 「早くしろ!秀夫を抱えてとっとと行け!」

 

 

 

 

 不運とは続くものだ。長い首を前後に動かしながら海へ向かって歩んでいたあの鳥がこちらを視界に捉えてしまったのだ。やつがこちらに向くなり、元から赤かった喉元はより赤味を増し、風船の様に膨らませて吠え始めた。明らかに威嚇されている。ということは、やつは確実にもう直こちらへ向かって来るだろう。最早なりふりなど構っていられない。俺は目一杯息を吸い、渾身の叫びを張上げた。

 

 

 

 

 「おーい!こっちに来やがれっ!」

 

 

 

 

 同時になるべく二人から離れた場所目掛けて全力で走り出した。背後から「止せ」という声が聞こえたが、俺は振り返らずに進み続ける。目論見通りと言うべきか、あの鳥は俺に釘付けになった様だ。やつは翼を振り上げ、小さな歩幅でなおかつ脚を小刻みに動かすという独特な走行フォームでこちらへ迫る。これで良い。この状況ならば、二人がやつの視界の外側にまで逃走するだけの時間は稼げる筈だ。そう思っていると、予想外の出来事が起こった。

 

 

 

 

 「オラッ!もうどうにでもなれ!」

 

 

 

 

 野太くハリのある声が周囲に響き渡った。この声の主は隆翔だ。隆翔はいつの間に拾ったのやら、手中に複数の撒菱にも見える鋭利に尖った物体を包み込んで、それを掲げた後地面に向かって投げつけた。三叉状に広がった葉っぱのような淡い緑色をした鋭い針が三つ、四つと、この砂浜に現れた。その様はさながら時代劇のワンシーンの様であった。だが、あの撒菱をよく見てみると、僅かではあるがウネウネと動いているのが見て取れる。虫か何かなのか?とにかく、隆翔は俺の身を案じてくれていたのだ。自分から脅威が離れつつあった状況下にもかかわらず、己の身を挺してでも敵を引き付ける程に。お互い様という訳か。親友の胸の内すら考えずに独断で先行してしまった自分が心底情け無い。俺から隆翔までの距離は100 [m]はある。あの鳥との速力の差を考慮すれば、今から俺が全速力でダッシュしたとしても恐らく間に合わない。指を咥えて友人が蹂躙される事を見る他ない現実に俺は押し潰されそうになる。済まない、俺がもっとしっかりしていれば。これから繰り広げられるであろう惨状に俺は目を覆った。しかし、現実はそんな予測とはかけ離れた方向へと流れてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 同じ直線上にいた二人は、奴の突進の餌食に、なるかに思われた。俺は思わず瞼を閉じた。二人の断末魔が響、く事はなかった。代わりに奴の痛がる様な呻き声が辺りに木霊したのだった。その瞬間俺は目を開ける事が出来た。なんと、奴は、隆翔がバラ撒いた撒菱を踏んづけ、怯んだのだ。これで急場は凌げたのか?撒菱の形をした虫みたいな生物はあの巨体の下敷きになったにも関わらず、一切の傷を負っていないようで、何事も無かったかかの様に地面の中に潜り、消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 あの鳥は隆翔と秀夫の方を恨めしい様な目付きで睨んでいる。先程の一撃を痛がってはいたが、大したダメージにはなっていない。隆翔の機転のお陰で運良く一撃をお見舞いする事が出来たが、状況は好転しなかった。むしろ、相手を怒らせてしまい、より大きなピンチを招いたのだ。だが、あの怯みが無ければ二人が無事では済まなかったのもまた事実だ。だからこそ、あの場では僅かばかりの可能性に縋って投げられる物は投げる他、選択肢は存在しなかった。結局の所、今の俺たちではどんな手を打っても数瞬の延命にしか漕ぎ着けないのだ。俺たち三人はそんな非情としか言えない現実をむざむざと突き付けられる。やはり、強大なモンスターの前には人間が幾ら知恵を絞り出しても無意味なのか?俺たちの生殺与奪は目の前のモンスターに完全に掌握されている。せめて二人だけは守りたい、その決意は果たせないようだ。モンスターを目の前にして無力感に苛まれるのはもう何度目なのだろうか。いつまでも現状を変えられない自分の不甲斐なさがもどかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自然は時として人に許しを与える事もままあるらしい。眼前の鳥は喉元を赤く染め、風船の様に膨らませた。それと同時に扁平な細長い尻尾も赤みを帯び、正しく扇の様な要領で広がった。それから一瞬の間を置いた後、どこか掠れた、だが威圧的な咆哮が辺りに轟いた。忘れもしない。その声はあのリオレイアと酷似した物だったのだ。だが、それはリオレイアよりも野太くどこか男性的な印象を持つ点において異なっていた。慌てて周囲を見渡してみるが、それらしき影はない。間違いない。正真正銘、あの鳥が放った音なのだ。咆哮を上げた鳥は突如として飛翔し、いつの間にかこの場から姿を消していた。余りにも突然の出来事で面食らってしまったが、俺たちは助かったのだ。張り詰めた緊張の糸が切れ、体中の力が抜けてゆく感覚がする。取り敢えず、二人が無事で何よりだ。

 

 

 

 

 「祐君、ごめんね。僕、怖くて何も出来なかった。」

 

 

 

 

 

 秀夫が謝罪の言葉を口にした。だが、無理もない事だ。俺も最初にモンスターと遭遇した時は、腰が抜けて動けずに只々蹂躙されるだけだった。むしろ、あの場で声を上げて知らせられただけでも十分だ。

 

 

 

 

 

 「それを言うなら俺の方もだ。最初に動けないばかりか、裕太に危険な役割を押し付けてしまった。そもそも俺がギガノトサウルスの頭骨を持ち帰ろうと言わなければこんなことにはならなかったのに、すまない。」

 

 

 

 隆翔も同様に気にしているようだ。

 

 

 「とりあえず、さ。こうして三人とも無事なんだから言いっこはなしにしようぜ。俺だって、二人よりは島に慣れてるからホントは色々先導しなきゃいけなかったのに何も出来なかった訳だし。みんな反省ってことで今日の所は一旦終わりにしようぜ。」

 

 

 俺がそう言うと、二人の表情は緩み、沈んでいた空気も幾らか軽くなった。それによって、今回は本当に助かったのだという実感が湧き、胸が熱くなるのを感じた。ここで、一つ気になった事を隆翔に尋ねてみる。

 

 

 「そういえば、さっき隆翔が投げてたの何なんだ?」

 

 「ああ、あれは秀夫がオベリスクの操作をしている時に、手持ち無沙汰だったから近くの岩場を探してたら見つけたんだ。多分昆虫の類っぽい。手頃なサイズだったから持って帰って観察でもと思ったんだ。まぁ、あそこまで頑丈だったのには驚かされたが。」

 

 

 やっぱり虫だったのか。それにしてもモンスターを一瞬だけとは言え、足止め出来るその底力には驚嘆させられる。今回は偶然だったが、ああいった小型の生物を上手く利用すればモンスターに対抗出来る可能性は十分に有り得るんじゃないか?あの虫だけではない。これまでに遭遇した種類も含めて組み合わせて使えば時間を稼いで逃げるくらいの戦況になら持ち込めるかも知れない。ほんの一筋だが、確かな希望を見出す事が出来た。そういった意味でも今回の調査は有益だったと言える。

 

 

 

 

 

 それから、俺たちは頭骨の事を思い出し、急いでその在処に駆け寄った。残念なことに、箱ごと奴に踏み潰された様で中の骨は原型を留めない程にバラバラに砕け散っていた。仕方の無いことではあるが、隆翔も秀夫も落胆の色を隠せない様子だ。貴重な資料の価値が分かるだけに、失われた瞬間のショックは計り知れないのだろう。俺もその気持ちは痛い程に理解出来る。これ程質の良い標本はおいそれと入手可能な物ではない。こんな海岸を少し掘り返した位で発見出来たのは正に奇跡と言っても過言ではない。隆翔は骨の残骸をおもむろに漁り出した。何かをあるのだろうか?その意図が分からず疑問に思っていると、隆翔は数本の歯を取り出した。どうやら牙の何本かはまだ元の形を保っているようだ。

 

 

 

 「全体像が崩れたのは残念だが、最悪これだけあればまだ調べようはある。日が暮れるぞ。そろそろ帰ろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空は夕日を携え、この島は夜を迎えようとしている。何時までもここにいる訳にも行かない。俺たちは拠点へ向けて再び歩み出した。そう言えば、あの鳥が最後にリオレイアに似た声を出したのは一体何なのだろう?自分より強いやつの鳴き声を上げて俺たちを驚かせようとしたのだろうか。それとも、あの撒菱の形をした虫にビビって逃げ出す時の、負け惜しみの最後っ屁みたいな物なのだろうか。ともあれ、今はそう深く考える必要は無い。あって欲しくはないが、仮に奴ともう一度遭遇すればその辺りのつっかえは自ずと解消されるだろう。今はこの現実を喜ぼう。

 

 

 

 そう考えていた矢先、空の上から飛来する影が一つ。それはどこか血相を変えた落ち着きのない様子で乱暴に着地した。そのシルエットは薄暗い夕暮れの中でも異様なまでに圧倒的な存在感を放っている。あの鳥ですら可愛く見えるその姿は、将にワイバーンそのもの。

 

 

 「り、リオレイアだと!」

 

 

 

 どうやら俺たちが自然からの赦しを貰うにはちょっとばかり時期尚早だっだようだ。

 

 




 今回登場したモンスター・環境生物は、クルペッコ、マキムシです。クルペッコは現状MH3シリーズにのみ登場する鳥竜種のモンスターで、他のモンスターの鳴きまねをして呼び寄せるという厄介な性質を持っています。呼びよるモンスターはリノプロスやメラルーといった小型からドスジャギィやリオレイア、果てはイビルジョーまでと油断なりません。最後に登場してから10年以上が経過しているので、そろそろ復活しても良い頃合いなのかなとも思いますが(笑)


 また、マキムシはMHRiseに登場する環境生物の一種で、その名の通り、撒菱の要領で地面にばらまくことで使用できます。一応、確定で怯みを取れますが、他が余りにも強力すぎてイマイチ活躍の場が少ないなぁと個人的には思っております。


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Version15.4:女王再臨、ですニャ

 今日、ARKの公式サーバがついにサ終しましたね。もう8年も経過していると聞いて時の流れは速いなと思う今日この頃です。公式プレイヤーの皆様、本当にお疲れ様でした。さて、ASAも間近に迫り、着々と情報が公開されつつありますね。無事発売される事を願うばかりです!


 ”ギシャーー!!”

 

 

 リオレイアの咆哮が耳をつんざいた。先程の黄緑色の鳥とは比べ物にならない大音量に、落ち着きを取り戻していた心臓は再び激しい鼓動を打ち始め、首筋には緊張した時特有の何かが詰まった様な不快感が押し寄せた。音圧とでも表現すべきか、身体中に空気の流れが当たっているのを感じる。だが、それも束の間。轟音は過ぎ去り、今にもこちらを殺さんとするばかりの鋭い眼光をした飛竜の姿を漸く視界に捉えられた。

 

 

 

 どこか様子がおかしい。リオレイアは以前遭遇した際とは雰囲気を異にしている。口の中からは燃え盛る炎が覗いており、時折その一部が外に向かって漏れ出している。そのせいか、奴が吐き出す吐息は煤煙の如く黒ずみ、こちらにまでその熱気が伝わって来そうな勢いだ。口腔という非常にデリケートな部位にも関わらず、燃焼の熱すらも物ともしない奴の耐久力からは、生物としての格の違いにを嫌でも意識させられる。さらに、頬をひくつかせ、目線をこちらへ一点に集約する眼光からは奴の底知れぬ憤怒の情を感じる。総じて前回遭遇した時の個体よりもおどろおどろしい佇まいと言える。前回の時には垣間見える事は無かったが、これこそがリオレイアの本来の姿なのかも知れない。これは明らかにヤバい。そんな月並みな表現しか湧いて出ない程に本能が危険信号を発し続けている。手遅れになる前に動かなければ。その思考が辛うじて頭に浮かんだ瞬間、俺は即座に行動を起こした。俺は固まる二人の肩をそれぞれ左右の手で掴み、海岸の方へ投げ飛ばした。

 

 

 

 それとほぼ同時にリオレイアは右脚を一歩後ろに下げ、下半身に重心を置く姿勢を取った。かと思えば、ほんの寸刻の後には奴は宙を舞っていた。目にも留まらぬ速さで宙返りの様な動作を行い、あろう事か重機にも迫る巨大なその身を360 [°]回転させ一瞬の内に空中へ跳び上がったのだ。驚いている暇など俺には与えられなかった。奴は回転する際に、身の丈の半分程はある長大な尻尾にひと際勢いを込めて、こちらに叩き付けて来たのだ。不幸なことに、俺はその尻尾の先端、すなわち最も速度の大きい位置から攻撃を受けてしまったのだ。俺はサッカーボールもかくやと云う程の強烈な勢力で後方へと吹き飛ばされたのだった。

 

 

 

 だが、俺の目に映る景色の遷移は自分が感じた衝撃からすると、甚だゆっくりとしている。ああ、いつものが来たなと言う心境だ。幾度も死を経験して分かった事がある。大体いつもそういう時には、景色がスローモーションになって一周回ってと表現すべきか、周りがよく見えるようになる。よく怪談噺なんかでは死相が云々などと話題になる事があるが、これもその一種なのかも知れない。呑気にそんな場違いな考え事をしていると、ふと隆翔と秀夫の姿が目に映った。良かった。一先ず、先程のリオレイアが放ったサマーソルトみたいな攻撃の餌食にはなっていなかった様で安心した。だが、冷静に今後の状況を考えれば、奴は二人に追撃を行う可能性が高い。もしかすると俺の行為は余り意味の無い物だったのかも知れない。そんな考えが頭を過ぎ去って行った。もう少し巧いやり様はあったのだろうな。今更そんな思慮を巡らせても後の祭りだ。

 

 

 

 いつの間にか背中に衝撃が走った。俺の身体は地面に落ちていた。それと同時に先程の衝突とは違うジリジリと何度も体中を突き刺される、異様な激痛に襲われる。サマーソルトに直撃した胴体に目をやる。すると、すぐに違和感の正体が理解出来た。当然あれ程の衝撃を受けたので出血はしているが、それだけでは飽き足らず患部には、紫がかった深緑の棘が何本も刺さっていた。流れ出る血液は見慣れた鮮やかな赤色ではなく、禍々しく毒々しい濃い紫色に変色していたのだ。一目で察しが着いた。あいつは毒持ちだったのだ。それを自覚した瞬間、全身から生気が抜けてゆくのを感じた。激痛と脱力感に苛まれているにも関わらず、まだ当分は逝けそうにない。苦痛は永遠にも思える程の長時間俺を蝕み続けた。こんな事なら、あの時みたく一撃で止めを刺して欲しかった。どうか、早く楽にしてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 side 道尾隆翔

 

 話を聞いただけでは俄かに信じられなかった。大型の獣脚類にも迫る、いやそれすらも超えうる体躯の生物が悠々と空を翔け、剰え火を吐く能力があるなんて。だが、それはこうして現実の出来事となった。さっきの鳥もどきも威圧的で腰が抜けそうになる程恐ろしかったが、目の前にいる深緑の竜はさらにそれを超えている。口内が燃えているのに、何事も無いかのように平然と地を踏み締めるその姿は、もはや異様としか表現出来ず、どこまでも不気味だ。喉元が燃焼しているという事は、必然的に気道にもその影響が及ぶのは間違いない。気管が損傷して使い物にならなくなれば、その生物は呼吸が出来なくなりすぐに死に至る筈だ。そもそも、それ以前に口内が数百度の高温に曝されれば、脳も無事では済まないだろう。だが、あの竜はそんな事などお構い無しだと言わんばかりに、怒った様な鋭い目線をこちらへ送り、今にも動き出さんと荒々しい様相を呈している。これまで培って来た生物の常識がまるで通用しない。自分はそんな存在が不気味でたまらない。

 

 

 

 海水に足が入ったと思うと、竜がその巨軀に似つかない猛烈な速度でピッチ方向に見事な一回転を決めた。眼前の圧倒的な暴力を目の当たりにして自分はただ見る事しか出来なかった。それから十秒程経過した後、背後で何かが衝突した様な音がした。恐る恐るその方向へ目をやると、なんとそこには血を流し倒れ込む裕太の姿があった。その瞬間に窺い知れた。裕太が満足に動けない自分と秀夫を庇ってくれたのだと。それと同時になんとか我に返る事に成功した。

 

 

 

 

 一刻も早く裕太の元に駆け付けたいが、ここで相手に背を向けるのは最悪の一手だ。しかも、あの様子なら裕太の生存は絶望的だと考えられる。あの竜の脚部の発達具合から見て、あの竜は飛行しなくても一定以上の速力を出せるのは明白だ。ともすれば、確実に追い付かれる。ならば、クマと遭遇した時の様に目を合わさずにゆっくりと後退すればいずれ裕太の所まで辿り着けるか?否、あの殺気立った様子から見てそんな悠長な事をする暇は無さそうだ。ここでやられてしまえば、裕太の決死の覚悟を無駄にしてしまう。だが、このシチュエーションで二人とも生き残るのは難しいだろう。ならば。

 

 

 

 

 「秀夫、ここからゆっくり後ろに下がって海に潜るんだ。そして、海岸沿いに泳いでここを離れて拠点まで戻ってくれ。あのなりだ、流石に海の中までは追ってこれまい。」

 

 

 

 幸い海にはすぐに潜れる位置関係だ。正直、岸辺にマグロサイズの魚類がいる様な、何がいるとも知れない海に入るのは気が引けるが、竜から逃れるにはそれしか無いだろう。

 

 

 

 「で、でもそんなことしたら!」

 

 

 秀夫は異議を唱える。やはり、自分達を見捨てて一人逃げるのは気が引けるのだろう。しかし、残念だが恐らくこの状況で助かるのは一人だけだ。しからば、体格が大きく目立つ俺が竜の気を引き、小柄で小回りの効く秀夫が脱出を試みるのが合理的と言える。

 

 

 

 「なに、大丈夫だ。俺も適当なタイミングを見てずらかる。ここで俺たちが死ねば裕太の行動を無駄にすることになる。だから、早く行くんだ。時間は待ってはくれない。」

 

 

 

 秀夫は悔しそうな表情を浮かべ、逡巡したがついには納得してくれた。そして、実行に移そうとした瞬間の出来事だった。竜はこちらに狙いを定め走り出した。その速力は凄まじく、競走馬にも迫る勢いだ。ほんの僅かな間に距離を詰められ、ついには噛みつこうと左右に振られた竜の頭部がすぐ目の前にまで逼っていた。最後は呆気ないものだった。さっきの鳥もどきは偶然拾った虫が良い働きをしてくれたお陰で凌げたが、もうこちらが切れる駒は無い。未練が無いと言われれば嘘になる。もう一度故郷の土を踏みたかったし、この島での発見を後の世に少しでも残したかった。だが一方で、俺は案外幸せ者でもあるのかも知れない。誰も目撃したことのない未知の生物を、生態系を、その一端をこの目で確かめられたのだから。幼い頃から生物に興味を持ち、その道を志した者としては、この上ない程の幸運だと胸を張って言える。そうした思いが交錯する中、自分は最期の瞬間を覚悟し、拳を精一杯強く握り締めた。竜の大口が自分の顔に触れそうになった絶体絶命の瞬間にそれは起った。ボワーッと何かの炸裂音とも思える音が辺りに鳴り響くと同時に、視界を保てなくなる程の激烈な閃光が迸った。周囲の様子は何も見えない。ただ一つ分かるのは、あの竜が呻き声を上げ、地団駄を踏むかの様な音が現在進行形で聴こえるという事のみだ。

 

 

 

 それから、数十秒ほどが経ち視界が回復すると、首を大きく持ち上げつつ、頭を左右に振って何かを振り払うかの様な動作をする竜の姿が最初に見えた。どうやら、あいつも今のの影響を受けて、目が眩んでいたのだろう。そして、次の瞬間には竜はこちらを向き再び突っ込んで来る、という事は無かった。それが起こるよりも前に、今度は笛?の様な管楽器を思わせる、恐らく人工的に発せられたであろう音色が周辺一帯に響き渡ったのだ。それから数拍程度の間を置いた後、竜は音源の方向へと向き直り、遭遇時とは比にならない怒気を孕んだ咆哮を上げた。

 

 

 

 最初のよりも長い咆哮が周囲を支配する中、自分は耳を塞ぎながらもさっきの笛が鳴った場所へと目を向けた。そこにはまたしても信じられない光景が広がっていた。そこでは、なんと、直立二足歩行の白い毛並みの猫がドングリを思わせる形状の槍を持って悠然と竜へと対峙するという有り得ない現状が繰り広げられていた。背丈は人間の半分くらいだろうか。もはや理解が追い付かない。知的生命体だと言うのか?猫が?あの存在への疑問は尽きない。ただ、一つ言えるのは、こちらの危機を救ってくれたという事だ。友好的な相手である可能性は限り無く高いが、コミュニケーションは取れるのだろうか?まさか、ネコ語が必要になったりとかはしないよな?余りにも訳の分からない状態に、思考があらぬ方向へと舵を切り出す。

 

 

 

 

 自分がこうして惚けている間にも目の前の状況は時々刻々と変化していく。竜は咆哮を終えると、猫人へ突進を仕掛ける。しかし、そんな明らかに危険が迫る状況であるにも関わらず、件の猫人はその場から動こうとはしない。竜が走り出すと同時に猫人は背負っているドングリ型の背嚢と思われる物に手を回し、何やら木製の小さな手に収まるサイズの樽を二つ取り出した。そして、ずっとその場に留まり続けている。竜の身体がとうとう猫人を掠めんとする位置にまで迫った。これから起こる惨劇を予知し、自分は無意識に目を背けそうになってしまった。だが、その刹那、起ったのは全く予想だにしない出来事だった。

 

 

 

 猫人は竜の顎門がその身を捉えようとした一瞬のうちに、車輪の如く大回転を始め、竜の股下を通過して一気に前方へ駆け抜けた。その速度は自動車にも引けを取らない圧巻の物だった。それと同時に火薬の炸裂音と小規模な爆炎が挙がった。その爆風は見事に竜の頭部にクリーンヒットした模様で、竜は姿勢を低くし、身体を縮こませた。また、その際にこれまでの様子からは想像出来ない弱々しい声が竜の口から漏れ出したのだ。猫人はその隙を逃すものかという勢いで竜の側方に回り込んだ。そして、何か茶色い物体の塊を両翼の間の背甲に向けて投擲した。それからすぐに、この一帯は堆肥の様な不快で鼻を摘みたくなる臭いに包まれた。竜にも効果覿面らしく、「グォォ」と嫌がる様な、啼き出す様な、これまでの威圧的な印象からは遠くかけ離れた女々しい鳴き声を放った。竜は付着した汚物を落としたいのか、背中を震わせながら翼を上下に揺らしている。しかし、それでも中々落ちないためか、とうとう諦めてこの場から飛び去って行った。今この場所にあるのは鼻を突くこやしと僅かな硝煙の臭いだけだった。

 

 

 

 

 「そちらのお兄さん方、大丈夫ですかニャ」

 

 

 

 猫人は事も無も気なあっけらかんとした様子でこちらに話しかけて来た。秀夫も自分もあまりに突然の出来事に何も反応できず、案山子の如く固まっていた。物語の中の存在としか思われていなかった獣人が実在するばかりか、自分たちと同じ日本語を使って会話を行えている。それだけではない、先程の二度に渡るモンスターとの遭遇、話に聞くだけではない生々しいリアリティを伴った体験も合わさり、もう頭の処理が追い付かない。そんなこちらの様子を知ってか知らずか、目の前の獣人は言葉を紡ぎ続ける。

 

 

 「怪我は無さそうで何よりですニャ。それよりも。」

 

 

 そう言って猫人は横たわる裕太の方へ視線を向けた。ああ、そうだ。自分としたことが!目の前の事にかまけて一番大事な事柄を忘れてまうなんて!

 

 

 「なんて酷い怪我。あっ、まだ息がある!裕君、しっかりして!」

 

 

 秀夫が裕太に駆け寄っている。本当に酷い怪我だ。胸部と腹部にかけてアイスピックの様な鋭く太い棘が四、五本刺さっている。その患部からは紫色の液体が染み出しており、現状の悲惨さを物語っている。呼吸はあるが、もはや虫の息としか表現できない程弱々しく、いつ事切れてもおかしくはない。正直なところ、十分な医療設備が仮にあったとしてもこの状態からの生還は難しいだろう。庇って貰っておいて何も返せない自分が恨めしい。凄惨な現実を前にして、膝を着く事しか出来なかった。

 

 

 「小さい方のお兄さん、ちょっとどいてくださいニャ。今ならギリギリこのお兄さんを助けられますニャ。」

 

 そんな中、猫人は裕太に寄り添う秀夫を下がらせた。猫人は背中のポーチからネコの頭を模した石?の様な物体を取り出し、地面に設置した。あれはお香なのだろうか?アロマに近い植物由来と思われる香りが辺りを漂い始めた。すると、何処からともなく腹部に自身の体格の三倍はあろう巨大な緑色の袋状の器官を備えたミツバチを思わせる外見をした昆虫が地面のお香の下に飛来した。それを見た猫人は今度は革製の袋を取り出し、その中に入っていた青白い粉塵を裕太の身体と彼自身の手に振りまいた。そして、猫人は裕太に刺さった棘を一本、一本素早く抜いていった。そこから、さらにもう一度同じ粉塵を裕太の身体に振りかけた。見れば、紫色に変色した痛々しい傷口はいつの間にか赤い血が覗くだけになっていた。それに伴って、裕太の呼吸も少し深くなる。信じられない、まさかこの短時間で解毒したというのか、しかも注射を行わずに粉薬をかけるだけで?!一体、彼は何者なんだ?そう思っていると、彼は最後の仕上げと言わんばかりにミツバチの袋に手を伸ばした。袋は破裂し、内部から黄緑色の粘性の高いゲル状の液体が溢れ出た。それが裕太の全身を包み込むと、みるみるうちに傷が塞がって行った。見た目の上ではもはやケガ人ではない。呼吸も大分穏やかになり、脈も安定している。これなら、安心しても問題は無さそうだ。

 

 

 

 「危ない所を助けて貰うばかりか、友人の治療までして下さり、ありがとうございます。何とお礼をしたら良いか。」

 

 

 自分は獣人に対して、恭しく頭を下げた。秀夫もそんな自分に続き礼の言葉を述べる。

 

 

 「気にしなくていいニャ。困った時はお互い様ニャ。どうしてもって言うなら、報酬は魚でいいニャ。」

 

 

 一応、拠点に保存している魚があるという旨を伝えると、彼は同行する事となった。俺は未だに眠る裕太を背に負い、何とか青みを保っている薄暗い空の下、家路に就いたのだった。




 今回はお馴染みのアイルー(と大回復ミツムシ)の初登場回となりました。実は今回のこの子の挙動はMHシリーズでお馴染みのものをいくつか取り込んでおります。特にMHXX経験者ならお分かりになるのではないでしょうか?


 最後になりますが、登場人物が増えて来たので、ここら辺で設定集を作ってみようと思うのですが、需要はありますでしょうか?アンケートを行おうと思いますので、ぜひご協力お願いします。


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Version15.5: 獣人族

 一か月以上もの間投稿をサボってしまい申し訳ありません。ここ最近リアルが立て込んでいて、しばらくは以前の様な頻度では出せそうにないです。

 さて、以前に行った投票の結果、設定集は作ることに致しました。次話以降の執筆と並行して行っていくので、少々お待ちいただけると幸いです。

 なお、現時点での物語の進行度では明かせない部分もありますので、設定集は進行度に合わせて随時更新という方式でやっていこうと思います。ご了承ください。


 今日も俺はかったるい仕事を終え、家路を急ぐ。毎日が辛くないと言えば嘘になる。それでも、愛する妻と子を思えば、何のその!平凡だと言われようとも、人生の墓場が何だと嘲笑されようとも、俺はこの生活に満足している。平凡上等だ。

 

 

 「おかえりなさい、あなた。」

 

 

 ドアを開けると、妻の優しい声音が脳内に響き渡る。それに続いて俺は「ただいま」と応える。毎日の極ありふれたやり取りだが、それでもこの瞬間は何物にも代え難いほどに大切な宝物だ。働いていて良かった、生きていて良かったと心の底から感じられる。そんな何気無い日常の一幕に感謝しつつ、俺は玄関框を上がろうとする。しかしその折、この平穏を切り裂くかの様にして現れた、臓髄を突き刺された様な激しい頭痛が襲い掛かって来た。俺は駆り出した足を踏み外しその場に倒れる。三十も半ばを超え、俺もとうとう若くないという事か。そんな事を考えながら、俺は介抱してくれている妻の方を見上げた。

 

 

 その瞬間、俺はある違和感に気付いた。見慣れたはずの妻の顔が見えないのだ。いや、正確には、認識できない、もしくは思い出せないとでも言うべきなのだろうか。妻の顔に靄がかかって見える。聞きなれた彼女の声も今は、ノイズが走った電子音の様に不鮮明でどこか不気味な音声にしか聴こえない。それからというもの、俺の頭の中は、つい数瞬前であれば到底考えもしなかったであろう疑問で溢れ返っていた。「俺はどうしてここにいる?」、「そもそも俺は結婚なんてしているのか?」、「いつの記憶なんだろうか?」、分からない。一体、どうしてこんな馬鹿げた事を考えているのだろうか。仕事の疲れは思ったよりも深刻な物なのだろうか。ん、仕事?そういえば俺は何の仕事をしているんだっけ?思い出せない。最近の記憶だけがごっそりと抜け落ちたように朧気で、何か出来事があった事だけは分かるのに、まるで霞が掛ったかの様に具体的な事項が何一つ認識できない。妻子の顔や職場の名前でさえもだ。でも、何故だか大学生までの記憶は全てはっきりとしている。友達の名前、行った場所、全部淀みなく反芻する事が出来る。それがいっとう気味悪い。

 

 

 

 それらを知覚した途端、俺の目の前の景色は、歪みを帯びていった。自宅だと思っていた場所は、あらゆる要素が波打つサイケデリックな空間へと様変わりした。だが、それも束の間。感情がその変化に追い付く間も無く、俺の視界はテレビの砂嵐と同じ、雑音に覆い尽くされていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 夢、なのだろうか?だが、夢にしてはあまりにも鮮明すぎる。まるで、誰かの、自分じゃない自分の記憶を直接見ていたかのようだった。そういえば、ここは何処なんだろう?目に映るのは凡そ現代の住宅には相応しくない茅葺の天井、そしてこれまた藁製の床がチクチクと身体の裏側を突き刺している。お世辞にも良いとは言えない寝心地なので、俺はなんとか鉛の様に重たい身体を持ち上げ、起床した。頭がクラクラとして視界が覚束ない。この気怠さは貧血から来る物に似ている。今に至るまでに何が起こったのか、思案し記憶を辿るが、整理がつかない。すると、室内に聞き覚えのある声が響き渡った。

 

 

 「良かった。裕君、目が覚めたんだね!」

 

 

 そう言って秀夫は病み上がり間もない俺の胸に飛び込んで来た。幸い秀夫は小柄なため、身体へのダメージは無い。だが、俺を抱き締める秀夫の力はいつもより心なしか強く感じた。

 

 

 「ごめんなさい。僕、力になれなくて。あんな大怪我までさせちゃって。」

 

 

 そう告げる秀夫の目には涙が浮かんでいた。それを見て、俺は事のあらましを思い出していった。オベリスクを観察した帰りにリオレイアに襲撃されたんだった。そして、そこで俺は奴からの手痛い一撃を貰って。俺は死んだのか?だが、それにしては貧血の様な症状や未だに僅かながら残る痛みの残滓がそれを否定する。あんな状況から息を吹き返させる奇跡でも起こったのだろうか。ともあれ、今は。俺はすすり泣く秀夫の頭にそっと手を載せた。

 

 

 「あんな状況なら誰でもそうなるさ。俺なんて最初に遭遇した時は腰抜かして動けなくなってそのまま焼かれたぐらいだしな。それに、またお前たちの役に立てて嬉しいよ。」

 

 

 これは紛れもない俺自身の本心だ。秀夫は昔から体が小さくて声変わりもしてなかった。そのうえ、顔付もかなり女性的だったからか、小学生の時なんかはよくいじめっ子たちの標的になっていた。秀夫が絡まれる度に俺が助け舟を出して、返り討ちに遭って、そして力持ちの隆翔に泣きついて何とかしてもらう。これが当時のお決まりのパターンで、よく親や先生に呆れられていた。それでも当時は、秀夫は俺を頼ってくれていたし、俺もそれで気を良くして変な方向に突っ走っていた。でも、いつからかな、そんな頼り頼られの俺たちの関係が逆転していったのは。秀夫は俺よりも手先が器用で何でも作れて、俺が知らない事もたくさん知っていた。そして、気が付けば普段の勉強とか生活とか色々な面でお世話になるようになっていた。だからこそ、俺は昔の頼れる「裕君」を見せたかったのかも知れない。それは、きっと隆翔に対しても同じだと思う。とは言え、無茶し過ぎたことは反省しないといけない。また同じことをしても二人を悲しませるだけだ。そうして、しばらく秀夫の頭を撫でていると、段々と落ち着きを取り戻していった。

 

 

 

 「ありがとう、裕君。君はずっと昔から変わらず僕にとってのヒーローだよ!」

 

 

 そう言って、秀夫が見せた笑顔は、無邪気で人懐っこい昔のままの綺麗な笑顔だった。俺は変わっていったものと変わらないものに思いを馳せ、胸が熱くなった。これからも三人で笑い合って、ぶつかり合って、馬鹿やって、そんな日々を送りたい。。そう思わずにはいられなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「あの~、そろそろよろしいでしょうかニャ。」

 

 二人だけの世界から呼び戻すようにして、背後からばつの悪そうな声が俺の耳に入ってきた。隆翔の声、ではないな。まさか、俺たち以外にもこの島に流れ着いた人がいたのか。その声質は、ネコが人間の言葉を話しているかの様に思える程、独特で人間離れした物だった。それに、語尾に「ニャ」なんて付ける珍妙な話し方をする奇特な人物と遭遇するのは初めてだ。そんなことを思いながら、俺は背後を振り返った。

 

 

 

 「えっ?」

 

 

 眼前に捉えた声の主の姿に驚愕し、思わず元の方向へ向き直してしまった。そして、もう一度、主の方へと首を捻じる。絵に書いたかのような見事な二度見を決めた。その先にいたのは二足歩行の人語を操る愛くるしいネコだった。

 

 

 「そっちのお兄さんは、初めましてニャ。体の調子はいかがですかニャ?」

 

 

 固まる俺を他所にネコの人はこちらへ言葉を紡いだ。この島に来てから様々な超常的な物事に出会ってきたが、まさか本当に言葉を喋れるネコがいるなどとは露ほども思っていなかった。全身を覆う白い毛並みは、俺が良く知る愛玩用のネコと大差はなく、つぶらな青い瞳は只々可愛らしい。だが、そんなよく知るはずの存在が、こうして語り掛けてくるという非現実的な現実に俺は完全に思考を放棄しかけてしまう。

 

 

 「そう身構えるな。この人が大怪我したお前に治療を施して治してくれたんだぞ。」

 

 

 いつの間にか現れた隆翔がそう補足する。俄かには信じがたいが、毒に殴打に出血と命への別状のオンパレードだった俺が死なずに、今こうしてここにいる以上、本当に目の前の彼が命の恩人なのだろう。それに、二人が無事だという事は、あの状態から颯爽と現れて救助してくれたという事だろう。その点でも感謝しなけれならない。

 

 

 「危ない所を助けて下さり、ありがとうございます。お陰様で、三人とも無事に帰ってこられました。見ての通り、何もお返しできる物などありませんが、どうかご容赦ください。」

 

 俺は彼の方を向き、精一杯の感謝の意を示した。対して眼前の彼は、どこか毅然とした態度でこちらに視線を向ける。その一挙手一投足は素人目にも分かる程に無駄な動きが無く、洗練されており、その目線は歴戦の戦士を思わせる程の鋭さを孕んでいた。その様子は彼が俺たちの半分程度の大きさであることを忘れさせるには十分であった。しばしの間、沈黙は続く。その緊張感からか、俺の額や首筋には汗が滲み出している。

 

 

 「まあ、そんなに堅くならないでくださいニャ。ボクにとってはそんなに大したことじゃないから、そんなに畏まられるとかえって困りますニャ。それに、お返しならそちらにお二人に美味しい魚を恵んでもらったのでもう大丈夫ですニャ。あ、紹介が遅れましたニャ、ボクはアイルーのオリバーですニャ。」

 

 

 「俺は裕太、桃園裕太です。最近この島に流れ着いた日本人です。」

 

 俺たちは挨拶を交わし、互いに握手をした。その時、俺は気付いてしまった。オリバーの左腕にも俺たちと同じインプラントが埋め込まれている事に。

 

 それから、俺たち三人とオリバーは行動を共にすることになった。どうやら、オリバーは一人で活動しており、決まった拠点を持たずに生活しているらしい。「アイルー」と呼ばれる種族には地面の中に潜る能力があるそうで、それを活用して夜間などはやり過ごしているとのことだ。秀夫たちの話によるとオリバーは戦闘能力が高く、なんとあのリオレイアを単独で撃退したそうだ。正直なところ、恩人に対して打算ありきの提案をするのは三人とも気が引けていたが、現実問題としてそうは言っていられない部分もある。彼は俺たちに足りない物を多く持っている。だからこそ、俺たちは失礼を承知で打診した。だが、返答はあっさりとした物で、二つ返事で了承を貰えた。オリバー曰く、「人数が増えれば今より快適になるから大歓迎だニャ」とのことだ。こうして、俺たちに新たな仲間が加わったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「そういえば、皆さんはどうしてデッカイ塔の近くにいたのニャ?」

 

 四人で夕食を囲んでいると、オリバーが俺たちに尋ねた。

 

 「ああー、話せば長くなるんだけど。」

 

 そう前置きをして俺たちがこの島に流れ着いてからの事を話した。気が付いたらこの島にいたこと、この島の外洋を覆う光の壁の事、「待つ者」の事、彼女に島を探索し秘密を知るよう言われたこと、そのための一環としてオベリスクを調べようとしたこと、そして帰りにクルペッコやリオレイアと遭遇したこと、全て包み隠さず話した。聞き終えたオリバーはしばし眉をひそめた後、言った。

 

 「本気で島の奥地を目指すつもりニャ?」

 

 オリバーは神妙な面持ちでこちらを見つめ、問いかけてくる。俺たちはただ静かに頷いた。

 

 「正直、オススメはしないニャ。この島は奥に行けば行くほど、危険なモンスターが増えるニャ。中にはリオレイアはおろかジンオウガですら手も足も出せずに圧倒されるヤバイのだっているニャ。この海岸はそんな島の中でもかなり安全な部類に入るニャ。それを分かった上でも同じことを言えるニャ?」

 

 今のオリバーの眼は今日見た中でもっと鋭く、頭の中に突き刺さってくる。それは覚悟を問う者の真剣な瞳だった。だからこそ、俺は答えなければならない。

 

 「それでも、俺は、俺たちは故郷を諦められないんだ!日本には俺たちの家族がいて、平穏な生活があって、皆それぞれ夢があるんだ。だから、少しでもここを出られる可能性があるのなら、それがどんなに危険な道のりであろうとも、何度命が尽きようとも絶対に取り戻す。いや、取り戻さないといけないんだ!」

 

 これは俺の意思表示であると同時に、自らへの薫陶でもあった。「待つ者」は帰れないと言っていたが、俺はそうとは信じない。無論、彼女の誠実さを疑っている訳ではない。俺はまだ全てをこの目で見てなどいない。だからこそ、多くを知る彼女ですら認識していない方法がまだ存在している可能性だって少しはある。俺はまだ故郷の土を踏むことを諦めていない、否諦められないんだ。家族と再会してまた夢を追い掛けたい。それが出来るならそんな俺の言葉を聞いたオリバーは、「ハァッ」と呆れた様な息を吐きつつ再び口を開いた。

 

 

 「言っても引き下がる気はないんだニャ。分かったニャ、ボクも出来る限り協力するニャ。ただし、無茶だけは勘弁ニャ!」

 

 「故郷か、ちょっとだけ羨ましいニャ」

 

 最後に何かをボソりと呟いたオリバーの目はどこか寂し気で儚い物だった。



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Version15.6:環境生物

 以前お話しした設定集の方を投稿させていただきました。よろしければ、そちらも併せてご確認ください。また、設定集の内容は物語の進行状況に合わせて随時更新していく予定ですので、是非お見逃しなく!


 それから、俺たち四人はこれからの具体的な話を進めていた。

 

 

 「クルペッコには気を付けた方がいいニャ。一匹だとそこまで強くないけど、危険を感じる色んなモンスターの声真似をして呼び寄せるからあんまり刺激しちゃダメなんだニャ。今回はリオレイアで済んだから良かったものの、呼ばれる相手によってはこの一帯の生物全部が壊滅しててもおかしくはなかったニャ。」

 

 

 

 なるほど、奴が去り際にリオレイアに似た声を上げたのはそういった理由によるものなのか。ある意味では最も質の悪いモンスターだ。仮に拠点の近くに現れたとして、下手に追い払おうとすれば、より力を持ったモンスターを呼ばれて更なる被害を生む可能性があると。かと言って、放置するのもそれはそれでリスクがある。しかも、何が来たとしても自分は飛んで逃げられるというのも厄介さに拍車を掛けている様にも感じる。今回の件に関しても、クルペッコはリオレイアが飛来した時には既に姿を消していた。その所為で、後からやってきたリオレイアは俺たちが縄張りを荒らしたと見做して熾烈な攻撃を繰り出してきた訳だ。俺で例えるなら遠くから三人の悲鳴が聞こえてきて、血相を変えて駆けつけたというシチュエーションだろう。生物の防衛本能すら逆手にとって利用するとは、ある意味ではこの島の生物らしい末恐ろしい生態だ。

 

 

 

 しかし、リオレイアで良かったとすら言わしめるという事は、ジンオウガ辺りと同等のモンスターが来る場合もあるという事の裏返しでもある。今の俺たちがそれを喰らえばまた全てを失ってしまう。奴の動向には注意しなければならない。

 

 

 

 「話は変わるんだが、オリバーは"アーティファクト"と呼ばれる物に心当たりはないか?多分黒い金属か何かで出来た置物みたいな見た目をした物だ。どうやらあのオベリスクを起動するのに必要みたいなんだ。」

 

 

 

 今度は隆翔が口を開いた。オベリスクの端末に表示されていたアイコンから外見とターミナルの窪みに嵌めて使用する物という事だけは分かったが、それがどこにあるのか等の情報は無かった。この島での生活が長いオリバーなら何か知っている可能性はある。

 

 

 

 「申し訳ないけど、それらしい物は聞いたこと無いニャ。それと、あのデッカイ塔のことは何も分からないニャ。ボクが前にいた所でも色んな噂は流れてたけど、本当のことは何も分からなかったニャ。みんな神聖な物として敬っていたから、そもそも近付く人がいなかったニャ。」

 

 

 

 

 現地人ならではの事情があるという訳か。となれば、アーティファクトはこの地を知り尽くした現地人ですら近寄らない秘境か、相当に危険な場所にある可能性が高い。いずれにせよ、体勢を整えてからでないと発見は難しいだろう。そうだ、インプラントについては現地人はどう考えているのだろうか?聞いてみるか。

 

 

 

 「そういえば、左腕のインプラントは住人全員に植え付けられていたのか?それに、何か気付いた事とか知っていることがったら教えて欲しい。」

 

 

 

 「実は集落でこれがついてたのはボクだけだったんだニャ。他のみんなには無かったニャ。それに、ボクも皆さんと一緒で気付いたらこの島にいたから、いつから埋め込まれてるのかは分からないニャ。あと、押したらよく分からない光の模様が空に映るのは知っていたけど、皆さんに教えてもらうまで便利な機能があることも知らなかったニャ。」

 

 

 

 

 オリバーも俺たちと同じだったという事か。聞く所によると、この島の獣人たちは自然に根差した生活をしていたらしい。だから、俺たちには当たり前の携帯端末やタブレット端末の様な概念は当然存在しないと言える。そのためか、ホログラムの画面が出現しても操作をするという発想自体が生まれなかったらしい。それは仕方の無い事だろう。ただ、これから生活を共にしていくうえではこうしたギャップはある程度埋めていかなければ、いずれ立ち行かなくなるだろう。当然、俺たちもオリバーが知っている自然界での常識や身の振り方なんかを覚えていかないといけない。

 

 

 

 

 「オリバーには質問ばっかりで悪いんだけどさ、前から僕たちの間では動物を捕まえて戦力にしようっていう話が出てるんだけど、どの程度の大きさの生物までなら出来そうか教えて欲しいんだ。」

 

 

 

 

 今度は秀夫が投げかけた。それは俺も気になっていた事だ。モンスターに対抗できる手段は現状の設備や装備の質を考慮するとその位しか思い付かない。だからこそ、どの程度の水準の生き物までテイムできるのかによって俺たちの行く末が決まると言っても過言ではない。俺は秀夫の膝の上に乗るオリバーの方をじっと見つめた。

 

 

 

 

 「一番安直なのは"環境生物"、あ、小動物のことだニャ。を捕まえるのがいいニャ。大人しい子たちが多いし、大体がエサをあげたらすぐに懐いてくれるニャ。そのうえ大型モンスターにも有効な能力を持った子ばかりだニャ。そういう意味で適しているのは、ほとんどのモンスターを一発で眠らせたり痺れさせたりできるガスガエルや、これまたほとんどのモンスターの目を眩ませられる光蟲、電気で拘束できる雷光虫あたりニャ。これだけいればほとんどのモンスターから逃げられるニャ。」

 

 

 

 

 思い出した。確か、前に俺はネムリガスガエルに結構な時間眠らされたことがある。あの時は、これがモンスターにも効いたらな、などと考えていたが、どうやら現実の物になるらしい。それに、相手を痺れさせる種類もいるようだ。こちらも、こちらで眠りと同程度かそれ以上に有能な生物であるのは間違いない。光蟲には間一髪の危機を救ってもらったことがあるからその有用性は十分に理解できる。それによって、一度は九死に一生を得るばかりか、一匹ではあるがランポスすらも葬ることが出来た。まあ、その結果が原因で、後に酷い目に遭ってしまったが。だが、問題は雷光虫だ。雷光虫と言えば、俺の中ではジンオウガが大量に引き連れていた時のイメージしかない。あの時の放電の勢いは、凄まじいなんて言葉では収まり切れない程の規模観だった。それ故、俺たちの手で御しきれるのか不安があるのだ。前に秀夫と採りに行く約束をしておいて灘ではあるが。

 

 

 

 

 「雷光虫ってジンオウガが引き連れていた奴だよな?利用するうえで危なくはないのか?」

 

 

 

 

 俺の不安気な表情を汲み取ったのか、オリバーはどこかおどけた調子で話し始める。

 

 

 

 

 「ああ、それなら大丈夫ニャ。ジンオウガに引き連れらている子たちは共生の影響で活性化してて普通のよりも強い電気が扱えるのにゃ。確か集落のアイルー達は"超電雷光虫"なんて呼び方で呼んでたにゃ。その辺にいるタイプの個体はあんな雷みたいな大きい電気は扱えないニャ。だから、心配いらないニャ。といっても、電気を通す容器に入れてモンスターの足元に設置すれば、数十秒の間動きを止められるニャ。それに、この島に住むほぼ全てのモンスターに有効なのもポイント高いニャ。」

 

 

 

 

 同じ雷光虫の中にも違いがあるのか。俺の様な一朝一夕の了見では絶対に気付き得ない点だ。しかも、それが本当なら、量産できた時の安全性は飛躍的に向上する。だが、それだけでは不十分だ。俺は覚えている。オベリスクを起動するために必要な物品の中にはモンスターを倒さなければ入手しえない物が多く示されていたことを。そのためには、環境生物よりも大きく、力を持つ生物の存在が必須だ。

 

 

 

 

 「それから、もっと大きな生物、例えば人が乗れるサイズの奴に何か有用なのはいないか?大型モンスターないしは、それを相手にしても戦闘を行える生物がいるなら是非教えて欲しい。」

 

 

 

 

 オリバーは腕を組んで、眉を顰めながら思慮に耽っていた。沈黙はしばし続く。俺は思わず唾を飲み込んでしまう。その音すらもこの部屋に響き渡る。二人も緊張の色を隠せない様子だ。そして、オリバーは目を見開くと同時に語り始めた。

 

 

 

 

 「すいませんニャ。ボクは大型モンスターを捕まえることをこれまで考えたことも無かったからどうとも言えないニャ。普通に考えれば、不可能だと思うニャ。でも、物凄い奇跡が起きて出来るかも知れない、こればかりは実際にやってみないとなんとも言えないニャ。ただ、"人が乗れる"という条件を満たすだけなら案外難しくないニャ。アプトノスは踏破性が高くて荷物をたくさん持てるニャ。加えて、大型モンスターの気配に敏感で危険が迫ればすぐに教えてくれるニャ。メルノスはヒト一人を載せて軽く空を飛べるニャ。この島の空は決して安全とは言えないけど、それでも奥地を目指すなら間違いなく必須だニャ。あと、もう少し島の奥に行かないと生息してないけど、ガルクっていう人が乗っても大丈夫なイヌのモンスターがいるニャ。走るのがすごく速くて、壁も登れて、それでいて戦闘力もランポスの群れと渡り合える程に高いニャ。ボクも集落にいた時はお世話になっていたから間違い無いニャ。」

 

 

 

 

 アプトノスに、メルノスか、アプトノスについては想像の通りだが、メルノスというのは意外な選択肢だと感じた。前に恐竜の映画を見ていた時に弟から教えてもらったことがある。翼竜は人間を持ち上げられるほど力持ちではないと。その先入観があったためか、メルノスを見ても、乗って空を飛ぼうなどという発想にはならなかった。俺よりもそういった方面に詳しい秀夫や隆翔なら猶更だ。だが、この島のはそんな常識が通用しない程に、強力らしい。空から探索できるとなると、向かえる場所の自由度はこれまでとは段違いに上がる。さらに、上空からならこの島の全貌が見渡せるだろうし、運が良ければアーティファクトがある場所を見つけられる可能性もある。見た事は無いが、ガルクという生物の話も中々に魅力的だ。ランポスの集団と戦えるのなら十分に護衛として機能する。それでいて、移動の足としても優秀だと言うのだから文句のつけようが無い。彼らの力があれば、俺たちの生活や探索は確実に今よりも数歩以上進展させられる。ならば、当面の目標は彼らのテイムという事で良いだろう。そのためには、拠点を強化して、飼育のためのスペースや設備を整備するのが急務だ。

 

 

 

 

 「たくさんの知識を提供してくれてありがとう、オリバー。俺たちだけでは知り得ないことばかりで、どれだけ感謝してもし足りない。改めて、ありがとう。それで、明日からは一先ずアプトノスやメルノスのテイムを目標として活動していこうと思う。取り敢えず、明日は拠点の改築と外周に設置してあるスパイクウォールの拡張を行い。異論がある人はいないか?」

 

 

 

 

 俺の提案に、皆首を縦に振ってくれた。夜も更けて来たので、今日の所は切り上げよう。まだまだ話し合いたいことは山ほどあるが、今は明日の方針を決めるだけでも良しとしよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから、十日が経過した。俺たちの拠点、みすぼらしい豆腐型の藁小屋は木製の見事なログハウスへと変貌を遂げた。かつて俺が建築した木製の小屋よりも広く、そして耐久性も向上した。土台を5×4の面積で配置し、高さは壁2枚分だ。壁2枚分と言っても、以前俺が作っていた壁に換算して3枚分の高さがあり、前よりも室内の開放感が増した。これは秀夫がエングラム製の物を基に独自に作り変えたものだ。天井は新たに取得したエングラムである「三角壁」と「傾斜付きの天井」を用いて一般的な家屋と同じ形に作る事が出来た。耐久性についても建材間の接合方法を改善する事で、以前とは見違える程になった。以前は土台と壁、もしくは壁と天井などの接合は繊維から取り出したでんぷん質の接着剤を利用して行っていた。俺の感覚としては、質感が瞬間接着剤に似ているし、雨が降っても外れなかったから、十分な強度を確保できていると思っていたが、秀夫からや隆翔からは改善するよう言われた。二人が言うには、この止め方では回転やせん断、衝撃なんかに弱いから釘やボルトを使用して少しでもそれらへの対策を行うべきだとのことだった。釘で止める事も考えたが、鉄製の物は現状では作れないし、かといって木から作るにも、一本一本削りださなければならず、石を使ってチマチマと木材を使っていた現状では、数百本単位で用意するのは現実的ではなかった。

 

 

 

 

 

 そんな俺たちの元に救世主が現れた。それは、かつて俺が無謀にもいかだ一つで外洋に出た時に発見した魚、「キレアジ」だった。どうやら、あいつらはこの海岸付近の浅瀬にも生息している様で、よく釣り竿にも引っ掛かる。だが、彼らは食材としては絶望的なまでに適さない。ヒレや鱗は非常に硬く、身から外すのが難しい。そのうえ、身には小骨が多く、筋張っているので、食べ難いことこの上ない。だが、そんな彼らには俺たちに光を与える唯一無二の長所があった。それは、彼らの硬すぎるヒレと鱗だ。その硬さゆえに研磨性が異常に高い。この性質を発見したのは秀夫だ。俺がいつものようにキレアジをキャッチアンドリリースしようとした時に待ったを掛けてきた。試したいことがあったらしい。それから数十分後、秀夫は先端が異様に鋭い石槍を持ってきてみせた。それを見た俺は認識を改め、キレアジは逃がさないようにした。その後は、物事が順調に運んだ。既存の石の斧の切れ味が上がり、木の伐採にかかる時間を二、三割減らせ、材料集めの効率は見違えて高くなった。

 

 

 

 

 

 話は戻る。キレアジのヒレの鑢としての有用性に気付けた結果、木釘の量産が現実的なものとなった。石で木材を削っていた時は遅々として進まない作業に退屈していたが、キレアジのヒレを導入してからは、面白い様に作業が進んでいった。俺と、秀夫、オリバーの三人で半日掛かりの作業を敢行した結果、必要な本数の木釘を揃えることが出来た。それにより、各建材を接着と釘の二種類で接合し、接合部分の強度を高められた。さらに、建物の安定性を高める要因がある。それは、柱と梁の導入だ。これは秀夫が一人で考えたもので、「木の柱」というエングラムから作製した建材を用いて実現された。このエングラムは俺も以前に習得していたが、イマイチどう使って良いか分からず、使わず仕舞いでいた。これは秀夫の凄い所なのだが、柱を横方向に倒して使う事を思い付いたのだ。言われてみれば、簡単な事かも知れないが、俺の硬い頭では決して思い付くことは出来なかった。また、柱の配置も工夫されており、生活の邪魔にならない様になっている。これにより、建物内部に柱と梁が適宜設置され、機能の上でも見た目の上でも家がグレードアップした。加えて、採光に関しても考えられており、「木の壁」を基にしたエングラムである「木の窓枠」を各所に配置している。窓は、ガラスなんて高級な物は当然使えず、押し引きして開閉する木の小窓を嵌めて使っている。ちなみに、内部の家具は俺が準備した。全員分のベッドは勿論のこと、「収納ボックス(大)」という大型のタンスを人数分、すり鉢・すりこぎ、食料保存庫、机を用意した。

 

 

 

 

 

 秀夫が用意してくれたのは、家だけでは無かった。家が完成した後、秀夫は離れの一マス小屋を作って何やら一人、作業を始めた。当初は、俺も手伝おうとしたが、「これは秘密だから!」と、頬を膨らませながら言われたので、あえなく引き下がった。その翌日、得意げな顔をした秀夫が、「見てもらいたい物があります!」とホクホク顔で言ってきた。それから、案内されたのは件の一マス小屋、いや今は高さ1.5マス小屋とでも言うべきか、だった。外観は見慣れた豆腐型だが、土台の直上0.5マス分には新たなエングラムである「四分の一壁」を利用して通常の壁の半分の高さが確保されたうえで、さらにその上に一枚の壁が取り付けられている。俺はこの奇妙な構造に怪訝な表情を浮かべながらも、壁と壁の継ぎ目に挿入されるようにして繋ぎ止められたスロープを上り、その先のドアを開いた。中を見た俺は思わず、「おおっ!」と感嘆の声を上げてしまった。なんと、そこにあったのは、木製の和式便器であった。

 

 

 

 「見たとこ、ぼっとん式だけど、出した物はどうなるんだ?」

 

 

 

 秀夫に尋ねると、俺は再び、下に戻された。「それはね」、と言いながら秀夫は徐にこの建物の裏手へ案内した。そこには、一面だけ四分の一壁が貼られていない面が存在した。そこから、内部を覗いてみると、収納ボックス(小)より多少大きめの木箱があった。確か、「堆肥箱」というエングラムがこれと似た形状だった記憶がある。そう考えた瞬間、合点が行った。トイレの穴は堆肥箱に続いていて、自動的に糞尿を貯められる仕組みになっていたのだ。何にせよ、これまでそこら辺で汚物を垂れ流す生活をしていたため、ちゃんとしたトイレがあるというのは、文明が進んだ感じがして良い。俺一人では絶対に作れなかった代物だ。もしかすると俺が、「ちゃんとしたトイレが欲しいな」と独り言ちていたのを知っていたのかも知れない。やっぱり、秀夫にはいつも助けられている。感謝で一杯だ。この後、ぼっとんトイレ特有の臭気問題が発生したのだが、オリバーが対処してくれた。「消臭玉」という水色の粉が固められた物を散布すると、鼻を突く不快な臭いは一瞬にして消えた。この消臭玉、「にが虫」という青いカナブンの様な見た目をした昆虫の腹部から採れるエキスを、乾燥させて粉末化したものが原料らしい。ちなみに、にが虫はリオレイアの毒に侵された俺を治療する際に使用した薬品の材料でもあるらしい。この島に来てから何かと虫に振り回されてきた俺としては少し複雑な気分だ。ちなみに、にが虫はそのまま踊り食いをしてもある程度の解毒効果があるらしく、最悪の場合はそれも止む無しだそうだ。俺は二度と毒を用いた攻撃を喰らわないことを誓った。

 

 

 

 

 

 遡る事数日前、ベリーの採集へ向かった隆翔は、帰って来るなり、「これを見てくれ!」と嬉々とした顔で収穫物を持って来た。最初、何事かと思ったが、すぐにその喜びの理由が分かった。土を被った見慣れない丸い塊と何かの植物の物と思われる二種類の種子が原因だったのだ。種子の方に関しては前に見た事がある。ベリーの採集をしていた時に紛れて茂みから取れることがあったが、それ自体が食べられた物ではなかったために、発見してもスルーしていたのだ。隆翔によると、塊の方はなんとジャガイモの種芋で、他の二つはそれぞれニンジンとトウモロコシの種らしい。俺は自分自身の浅学さに嫌気が差した。だが、脳味噌とは時に現金なもので、先の成果を皮算用して思わず、笑みがこぼれてしまった。普段の食事に不満がある訳ではない。ベリーに魚に肉、文明の利器が存在しない無人島生活であることを鑑みれば、正に破格の質とも言える。食事はこの過酷な島での数少ない楽しみであり、癒しでもある。むしろ、だからこそ、その質がさらに向上するというのは無上の喜びであると言える。これについては、皆大なり小なり同じ考えだったようで、満場一致で栽培をする運びとなった。

 

 

 

 

 

 作物の栽培に関しては隆翔に一任する事となった。俺と秀夫は家の建築で手一杯で、オリバーは元々いた集落に農耕の文化が無かったため、今回は参加しなかった。隆翔は最初、ジャガイモのみを栽培する事にした。この辺りは海に囲まれている。塩分濃度は俺たちの良く知る所と比較すれば低い。淡水魚が普通に生息できていることから、約三分の一程度らしい。一応、塩の濃度的にはスポーツ飲料と同程度であるため、飲用とする分には問題はない。とは言え、塩害を受け作物が駄目になるという可能性は十分に考えられる。そのため、一度に全ての種を消費するのではなく、強い物から順番に試していこうという算段のようだ。そこで、白羽の矢が立ったのが、貧者のパンことジャガイモだ。栄養の乏しい土地でも育ち、さらには外的要因に対しても耐性がある。土壌も肥料も満足に用意できない今の俺たちにはお誂え向きだ。

 

 

 

 

 

 また、隆翔は一先ず海水と塩抜きしていない土を使って栽培を試みるらしい。この品種がどの程度の強さを持っているのかを確かめたいらしい。隆翔が言うには、海岸付近に種芋が自生していたという事は、すなわち塩分への耐性を有している可能性が高いとのことだ。それで育てば、御の字であるし、無理なら無理で、遠く離れた河からの灌漑設備を設けるなど大規模な準備が必要となる。であれば、駄目下でも手っ取り早い方法を真っ先に試すのが吉であると言える。そんなこんなで、小さな菜園が始まった。

 

 

 

 

 

 

 植えたジャガイモの生命力は驚く程高く、種芋を埋めてから2日で小さな二本の芽が出てきた。ちっぽけな一歩ではあったが、俺たちはみんなで大喜びした。煌めく陽の下に揺れる小葉は未だ暗雲が晴れきれない俺たちの元に確かな吉兆の光を齎してくれた。それから、隆翔は確実に育てるために肥料づくりを開始しようとした。いくら少ない栄養で済むと言っても、それが完全にゼロでは身も蓋もない。そこで、先程のトイレが活躍するのだ。ぼっとん式のトイレの下には堆肥箱が仕込まれており、排泄物はそこに落ちる。排泄物が貯まれば、堆肥箱を交換して、水や枯草に藁、魚の骨に小動物の臓物などを入れ、かき混ぜたり、踏んだりして押し固める。

 

 

 

 

 

 通常、堆肥の完成には数ヶ月を要するが、これまた意外な救世主の登場によってなんとそれが一晩で利用できる段階にまで至ってしまった。颯爽と現れたその救世主の名は、「カモシワラシ」、俺がこの島に来て間もない頃から今に至るまで、定期的に食糧として狩っているウサギだ。作業の合間にベリーを採集しに行った俺は、茂みでベリーを漁る奴を発見した。いつもなら護身用に持ち歩いている石槍で狩猟する所だが、その日は気分が違った。これから行うであろうテイムがどういう感覚なのか無性に試したくなったのだ。だが、具体的にどうすれば良いか分からなかったので、一番安直な路線から攻めてみる事にした。俺は適当に水色のアズールベリーを摘み取ってカモシワラシの口元へ運んだ。カモシワラシは首をヒョイヒョイと横に揺らし、つぶらな瞳でこちらを見上げてくる。そして、ベリーを食んだ。すると、喜んだような表情を浮かべながら、こちらへすり寄って来て、追加のベリーをねだるように口をパクパクとしている。今度は、紫色のメジョベリー摘んで、食べさせてあげた。カモシワラシは嬉しそうにピョンピョンとその場でとび跳ねている。どうやら、メジョベリーの方がお好みらしい。それから、俺はダメ押しと言わんばかりにもう一度メジョベリーをカモシワラシの口に運んだ。その瞬間、インプラントが点滅し、「テイム完了」という通知の様な何かが頭の中を駆け巡った。俺はそれに驚いて、身震いしたが、どうやらインプラントの言っている事は正しいようだ。カモシワラシは俺の脚に頬ずりをしているのだ。完全に懐かれている。その豹変具合に多少の違和感を持ちつつも、長居は危険だと判断したため、カモシワラシを抱きかかえ、帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 抱きかかえたカモシワラシは、瞬く間に俺の肩の上に移動し、いつの間にかそこが定位置となった。どうやらお気に入りらしい。食糧にしていた時は、あまりまじまじとは見なかったが、とても可愛らしい。プードルの様なモコモコとした質感のピンク色を基調とした毛並みに、ダラリと垂れた耳、もし日本にいたら間違いなく人気ナンバーワンのペットになっていただろう。鼻がむず痒くならなければなお完璧だ。日本にこいつを持ち帰って繁殖させれば、俺は大金持ちになれるのでは?そんなことを考えながら帰還した俺は、テイムに成功した旨をみんなに報告して、飼育の許可を得た。オリバー曰く、このカモシワラシの毛に生えているカビには薬品の効果を高める効果があるらしい。尤も、原理についてはよく分からないとのことだったが。だが、それを聞いた隆翔は何かピンときたらしく、熱心にカビを採取しては何故か堆肥箱にぶち込んでいた。そして、その翌日には見事な堆肥が完成していたのだ。どうやらあのカビには微生物による発酵を促進する効果があるらしく、それが予想以上の成果を生み出したようだ。ただ、あまりにも急速に反応が進み過ぎた弊害か、堆肥箱を形成する木材もかなりの部分が黒ずみ腐敗が進行したようだ。流石にやり過ぎたようで、今後は少しずつ量を調整しながら入れていくと隆翔は宣言した。まさか、ウサギが畑の王となる日が来ようとは一体誰が予想しただろうか。この子は室内で丁重に飼われる事になった。それに付随して喚起の頻度が上がって当番制が出来てしまったのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 堆肥を扱う様になった俺たちには新たな致命的な問題が発生した。それは衛生関連の問題だ。汚物を直接扱う以上、病原菌との接触は避けられない。下手をすれば感染症で俺たちが全滅してしまうという最悪の展開も考えられる。その事を相談したら、隆翔がすぐに動いてくれた。手伝って欲しいと言われたので、俺も同行する。隆翔が大量の藁や草をたき火にくべているのを見て、俺は何をしようとしているのか理解できた。隆翔は石鹸を作ろうとしていたのだ。石鹸と言ってもよくイメージされる固形物ではない。液体石鹼だ。草木灰に水を加えて煮汁を作り、漉し取ってからそこに動物由来の油分を混ぜれば、石鹸が出来るのだ。古くは古代エジプトから存在する由緒ある手法だ。脂に関しては、サシミウオを利用する。焼く時に結構な量の油が出るから丁度いい。ちなみに、液体石鹸の保存は運良くクレート、俺がこの島に来た初日に遭遇した未知の投下物から得られたガラス製の瓶を利用している。オリバーにクレートについて聞いてみた所、どうやらあれらは決まった場所に一定の周期で落ちて来るらしく、彼の集落では得られた物は神様からの贈り物として非常に大切に扱われていたそうだ。誘導されている様な気がしてどうにもきな臭い雰囲気を感じない事も無いが、現状俺たちの助けになっている物ではあるので、有難く利用させて頂くとしよう。幸い拠点から徒歩数分で赴ける場所にそのポイントがある様なので、定期的に巡回すれば良いだろう。移動手段が整った暁には、赴ける範囲内で場所を記録して、周回するのもありかも知れない。

 

 

 

 

 

 こうして、俺たちの生活水準は見違えるほどに向上した。まだまだ課題は山積みだし、ここからが正念場だ。これから始まる物語は、俺たちは思いを馳せながら、しばしの休息についた。




 補足ですが、本小説でのモンスターや環境生物の能力はある程度原作に則りますが、必要に応じて拡大解釈する場合がございます。今回に限って言えば、本編で出て来たカモシワラシの能力の用途(堆肥の発酵)は原作・モンスターハンターには無い物です。くれぐれもご注意ください。


 また、今回彼らが製作した「トイレ」と「石鹸」はARKにて同名のエングラムが存在しますが、彼らが独自に考案した別物となっております。ですので、無限に排泄することは出来ませんし、レベルも上がりませんので、悪しからず。


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Version15.7:Your Survival begins here!

明け方特有の冷たさと爽やかさを含んだ空気に絆されて俺は目を覚ました。みんなまだ寝ている。今日はオリバーの案内の下、アプトノスのテイムを行う予定だ。強力な環境生物の生息地はここから多少離れた所にあるらしい。そのための脚として、まずはこの周辺にも生息しているアプトノスから狙う。オリバーはかつてテイムしていたことがあるらしく、その手法を知っているとのことだ。大人しい気質の相手とは言え、下手を扱けば、踏み潰されてそのままお釈迦になる可能性だって十二分にありうる。それに、あんなに大きな生物を従えるというのは中々想像に難い。その所為もあってか、俺は完全に目が冴えてしまい、再び眠れそうにもない。無性に外の空気を吸いたい気分だ。俺はみんなを起こさない様に、そっと扉を開け、スパイクウォールで囲まれた庭へと繰り出した。

 

 

 今朝は珍しく濃い霧が立ち込めている。視界の一面すべてが真っ白に染まっており、数メートル先すらも見渡すことが出来ない。周囲が全く視認できないというのは、言葉にし辛い妙な不安感を煽るが、それと同時に、日本人としての性なのか深い霧の中に一人佇むというシチュエーションは神隠しを彷彿とさせ、どこか神秘的な印象を受ける。不思議と昂っていた心が落ち着く感じがして、悪くない心地だ。俺は入口の階段に腰掛け、しばしこの静かな時間に身を委ねた。

 

 

 この時彼は気付いていなかった。彼の座る僅か数メートル離れた場所にて、導蟲がほんの一瞬だけ青く明滅した光を放ったことに。真相の手蔓は霞の様に儚く消えた。これは偶然か、はたまた深い森が見せた幻影か。今日も箱舟に異常は無い。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「アプトノスは木の実を食べさせてあげると懐いてくれるニャ。ただし、怖がりだから大きな音を出したりちょっとでも攻撃的な姿勢を見せると、すぐに逃げちゃうのニャ。そうなったら、エサを食べてくれなくなるから失敗だニャ。」

 

 

 確かにアプトノスは、大型モンスターが接近した際にはいち早くそれを察知して逃避行動を取っていた。やはりと言うべきか、化け物の様な肉食生物が生活圏を彷徨いているとなると、現代の動物の基準からしてかなり大柄な体格を持っていてもなお、生き残るためにはナイーブな気質にならざるを得ないという訳か。とにかく、慎重を期して臨まないとな。二人は大丈夫だとして、俺は結構大一番でやらかしてしまう体質だから特に気を引き締めなければ!

 

 

 「あと、子持ちの群れにはあまり近づいちゃ駄目ニャ。子供を守ろうとした親に攻撃される事もあるから気を付けるニャ。狙い目は群れから少し離れたところにいる個体ニャ。」

 

 一通り注意事項を共有した俺たちは、アプトノスの好物であるメジョベリーの採集へ向かった。先日のカモシワラシの時もそうだったから、何となく察しは付いていたが、やはりこの島の草食動物は全般的な傾向としてメジョベリーが好物らしい。それは、小動物から大きめのサイズのものに至るまである程度は共通しているそうだ。人間の味覚からすれば、メジョベリーはえぐ味があってそこまで美味しいとは感じないが、動物からすれば違うようだ。ただ俺たちからすれば、人間用と動物用で別の種類のベリーを用いることになるので、特定の種類だけに必要な物が偏らないという点は地味ながら有難かったりする。ちなみに、先程話に出たカモシワラシについてだが、現在では「キナコ」と名付けられ皆に可愛がられている。俺は最初、モフ太郎という名前を提案したんだが、満場一致で三人から却下されてしまった。割とセンスがある方だとは思っていたのだが、三人の琴線に触れることは無かったようだ。やはり、センスが卓越し過ぎると理解されなくなってしまうのだろうか。結局は秀夫が考えた名前が一番可愛らしいという結論が推され、採用される運びとなった。今日のアプトノスの命名権は俺が勝ち取って見せる!

 

 

 アプトノスは群れでの行動を徹底している様で、離れた場所にある岩陰からずっと行動を監視しているが、一向には個体間の距離が開くことはない。群れの個体数は四匹、子供はいない。理想とまではいかないが、比較的好都合な条件の群れだ。だが、変に近寄ると逃げらたり、最悪揉みくちゃされて踏み殺されたりするかも知れない。それでも、何もしなければ事が進まないのもまた事実。俺は威圧感を与えて警戒させないために、こちらが小さく映るよう匍匐前進でゆっくりとアプトノスの群れへ近付く。今回の餌やりは俺がやる。拠点の整備ではあまり活躍できなかったので、ここでその分の帳尻を合わせたいからだ。照り付ける日差しによって熱せられた砂浜に音を上げてしまいそうだ。顔中に地面からの熱気が注ぎ、止めどなく汗が溢れ出してくる。身体の地面に触れた部分は服との間に熱が籠って蒸れて蒸れて仕方が無い。それに、失敗が許されない緊張感から心臓が早鐘を打ち続けている。ここで不快感に負けて立ち上がってしまえば、全てが水の泡になる。俺は心を殺して永い道のりを進み続けた。

 

 

 漸くだ。永遠に続くかと錯覚してしまう程の緊張感に時間と距離の感覚を狂わされながらも、俺は一匹の個体の下に辿り着いた。ここまでも長かったが、ここからが本番だ。この一匹をどうにかして釣りださなければいけない。俺は踏み潰されない様に、アプトノスとの間に数メートル以上の間隔を維持する事を心がけながら、頭の前方へと回り込む。地面から見上げるアプトノスの脚はちょっとした木なんかよりも太く、時たま顔や背中が目に映った際には、巨人に見下ろされる小人になったかの様などうしようもない不安感に襲われる。その度に、本能が発する危険信号に抗いなんとか今の姿勢を続けることに努めた。手を伸ばせば奴の鼻っ柱に届くギリギリの距離まで接近できた。俺はうつ伏せのまま右手を掲げ、握り締めたメジョベリーを上下や左右に揺らした。丁度、釣りでルアーを動かすときと同じ要領だ。アプトノスは興味を示しながらも、どこかこちらの様子を訝しんだような視線を向けてくる。それは当然か。俺だって、地面で自分の周りをもぞもぞと蠢く謎の物体に付き纏われたら、怪しいし怖い。ともなれば、その不信感を上回る刺激が必要だ。そうして、俺は右手に持っていたベリーを少しだけ潰し、匂いが漂う様に仕向けた。好物の匂いを嗅げば興味がそちらに向くというオリバーからの入れ知恵だ。アプトノス以外にもこの島には一定数そういった性質を持つ生物が存在するらしい。同時にそういった生物は穏やかな気質であれば今の様な方法で懐いてくれるらしい。こちらの狙い通りと言うべきか、アプトノスは若干そわそわしながらも、眼前を蠢くメジョベリーに釘付けになっている。口元を震わせながらも目の焦点は俺の右手から離れることはない。もうすぐだと、直感が告げてくる。俺は焦らすようにベリーを口元から離したり、近付けたりするスピードを速めていった。すると、我慢ならなくなったのかついにアプトノスは俺の手にあった果実を啄んだ。それからというもの、こちらへの警戒心をすっかり失い、まだ持っているのだろうと言いたげな雰囲気で俺の周りをうろつく様になった。生物としてそれは大丈夫なのかと、思う所が無いわけではないが、俺たちにとっては都合の良い事この上ないので難しい事は何も考えずに受け入れる事にしよう。

 

 

 

 一回目の餌やりの後、向こうの警戒心が薄れてからは、起き上がりその場でしゃがむ体勢となった。熱砂の上に身体の半面を全て接触させ続けるのは流石に身が持ちそうになかったからだ。それから、アプトノスはクンクンと鼻を震わせて、俺の身体に顔を擦り付ける様な動作をしてきた。テイムが完了したのかとも考えたが、キナコの時の様にインプラントは反応していない。ならば、まだテイムは継続中と考えるべきなのだろう。俺は目の前の出来事に意識を戻す。何となくではあるが、撫でて欲しそうな感じがする。そして、俺はアプトノスの鶏冠の部分を優しく撫でてあげた。アプトノスは目を細めて尻尾を振っている。最初に見た時は、大きな体格や物々しい形の尻尾とかの所為で怖かったけど、今こうして見ると大きさや姿形は違えど、犬みたいで可愛い。しばらくすると、顎を持ち上げ、「ウォー、ウォー」と鳴き始めた。その後には俺の手元付近で口をパクパクと動かし始める。どうやら、ベリーのおかわりが欲しいらしい。俺は迷わず追加のベリーを差し出した。すると、また先程みたく撫でを要求してきた。そこから一連の流れを三、四回繰り返した辺りでインプラントが点滅し、無事アプトノスのテイムが完了した。

 

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 こうして、彼らは初めて自らの手で乗騎となる生物を手中に収める事が出来た。同時に、遥か昔、気の遠くなるほど昔に、止められてしまった時計は再び動き出す。サバイバーは歩みを止めない。しかし、彼らはその旅の終着地をまだ知らない。




 35話目にしてようやく騎乗可能生物のテイムです。「長ぇよ!」と思われる方も多いでしょうが、彼らは完全初見でARKの世界を生き、モンハンの生物の知識も何も無い状態からなので、どうか大目に見てやってくださいm(__)m

 
 次回の投稿は12/9以降を予定しています。その日以降は私のリアルの予定がある程度落ち着くので、ハイペースで投稿できるかと思います。今年も残すところ一か月、張り切って参りましょう!


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Version15.8:森の大食漢

 お久しぶりでございます。とうとう、モンハンの新作が公開されましたね!従来の作品と雰囲気が違い過ぎてモンハンだっていう実感がまだまだ薄いです。これからの情報に期待ですね!2025年が本当に待ち遠しいです!PVを見た感じだと、個人的にはARKっぽい雰囲気も感じました。正直、ASAの新DLCだと言われれば信じてしまいそうです(笑)


 今回はちょっと長めなのでご注意を!それでは本編始まります! 


 昼下がり、島の海岸に笛の音が響いていた。

 

 「これが"追従"の笛ニャ。」

 

 オリバーが再び吹くと、先程テイムしたアプトノスは彼の後に続いて歩き出した。オリバーが直進すればアプトノスはその後ろをきれいに付いていき、その場でグルグルと回ると、流石に旋回が難しいのか、一緒に回る事はしなかったが、首を左右に振って常にオリバーを視界に入れていた。今度は諭す様な大らかなリズムの音色が発せられた。すると、今までの動きをすっと止め、今度はその場に立ち尽くして微動だにしなくなった。

 

 「これは"無抵抗"の笛にゃ。落ち着かせたいときやその場に留まって欲しいときなんかに使うといいニャ。ただし、一回命令すると何があっても律儀に従おうとするから注意が必要ニャ。皆さんも同じようにやればきっと言う事を聞いてくれるニャ。」

 

 

 それから、オリバーによる講義は続いていった。これらの命令以外にも、襲撃を受けた際に反撃行動を取らせる「中立」や、指差した場所へと移動させるものや、有事の際には一目散にその場から逃げるように仕向ける「逃走」などがあった。どの命令にもアプトノスは完璧なまでに従っていた。中々に愛いやつだ。それとも、あの骨製の笛に実は途轍もない効果が隠されていたりするのだろうか?

 

 

 「気になったんだけど、その命令を出すのってやっぱりその笛が必要だったりするのか?そうだったら今からでも作らないといけないし。」

 

 

 「ああ、それなら必要ないニャ。ボクは音を出すのに都合が良いから角笛を使ってるだけで、似た音色を出せるなら音源は特に気にする必要は無いニャ。」

 

 

 なるほど、道具は関係ないという事か。それなら俺たちは各々やり易いような手段を用いれば良いという訳だ。アプトノスが特段賢かったというのが真相らしい。何はともあれ、これから関わっていく上で道具に関係する縛りが緩いのは有難い事だ。少しずつでも慣れていこう。

 

 

 「そうだ、それなら口笛で代用するのはどうかな?それなら何も作る必要も、持ち歩く必要もないし、いざって時にもすぐ対応できると思うよ。」

 

 秀夫が提案する。確かに、それなら特別な準備は必要無い。それなりに練習すれば、屋外でもそれなりの音量は出せるから運用上差し当っての問題は無いように感じる。ともなれば、物は試しだ。先程教えてもらったメロディーを思い出しながら、口を尖らせる。すると、アプトノスは俺の方へと視線を向けてきた。その眼はまるで、餌を待つ子犬の様にこちら様子を窺うものだった。俺が動くのを待っているのか。何となく察しが付いたので、俺は適当に周辺を歩き回った。アプトノスはオリバーの時と変わらず俺の後ろをしっかりと追って来た。停止の口笛を吹くと本当にその通りに動いてくれた。最初に見た時は身体も大きくて何だか怖かったが、こうして触れ合ってみるととても、従順で愛らしい。ペットを家族と表現する人の気持ちが理解できた気がする。アプトノスは俺の胸に顔を埋めて頬ずりをしている。

 

 「ははっ、ご飯が食べたいのか?ほら、」

 

 俺は摘み取ったメジョベリーをアプトノスの口元へと運んだ。アプトノスは尻尾を振りながら、美味しそうに頬張っている。俺たちはしばしの間じゃれ合っていた。

 

 

 「ああ、楽しそうなところをすまん。ちょっとオリバーに聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 

 

 隆翔が申し訳なさそうに口を開いた。隆翔はいつになく難しそうな顔をしている。これは何か気になる事がある時、それもかなり重要な事項である時の雰囲気だ。こういう時は大抵、真面目に話した方が身の為になる。俺は名残惜しさを残しながらも、アプトノスから離れた。

 

 

 「二つあるんだが、一つはその命令の方法はアプトノスにのみ使えるものなのか、それとも別の種類の動物にも効くのかという事だ。それと、もう一つは関連してその方法を発見した経緯について詳しく聞きたいんだ。」

 

 確かに気になると言えば、気になるが、それ程重要な事なのだろうか?隆翔の意図が分からず、頭の中で疑問符が浮かぶ。

 

 「最初の質問だけど、アプトノス以外の子たちもこれで言う事を聞いてくれるニャ。ボクたちの集落では昔からこの音色を使って、家畜をまとめたり、大型モンスターと闘ったりしていたニャ。その経験から察するに拠点にいるキナコちゃんにも恐らく有効だニャ。」

 

 

 確かにこの島の生き物は皆、賢い。それ故に俺は何度も狩られ続けている節がある。そう考えると、全く違う生物のアプトノスとカモシワラシに同じサインが通じる事の説明になる、のか?駄目だ。こういう分野は全く持ってよく分からない。ここは詳しい隆翔に考えるのは任せよう。

 

 

 「なるほど、ありがとう。ちなみに、その有効な動物の範囲はどのくらいだった?例えば、鳥には効かないけど、翼竜には効いたとか、例外的な物があれば教えて欲しい。」

 

 

 「ボクたちもそんなにたくさんの種類の動物をテイムしてた訳じゃないから完全には分からないけど、テイムしてた子たちに限ればみんな例外も過不足もなく言う事を聞いてくれたニャ。それこそ、虫さんから翼竜、アプトノスやガルクみたいな大きな生き物までみんなだニャ。」

 

 「な、なんだと!」

 

 隆翔はいつになくオリバーの口から語られる情報に食いついていた。何やら神妙な面持ちで考え込んでいる。確かに、実際上重要な事項だとは思うが、そこまで考え込む必要があるのだろうか?俺はむしろ、様々な生物を同じ要領で従えられるという点では喜ばしい情報だと思うのだが。

 

 

 「なあ隆翔、どうしてそんなに考え込んでるんだ?気になることがあるなら教えて欲しい。」

 

 思わず、そう尋ねた。

 

 「ああ、ごめん。順を追って話すよ。まず、一度餌付けしただけの動物が直々人間に懐くのがそもそもおかしいんだ。考えてもみてくれ。アプトノスは人間よりも遥かにデカい。大人しい気質とは言え、その気になれば一蹴りで人間なんてお釈迦だ。人間に餌を恵んでもらわないと生きていけない程、食糧が乏しい環境でもない。むしろ真逆だ。そんな中で、彼らが人間に従うメリットなんてあるか?加えて、何の訓練もしていないのに餌をもらった瞬間に人間の言う事を委細違いなく聞くなんて本来は有り得ない。いくら賢い種と言えど、訓練や調教は大なり小なり必要なはずだ。」

 

 

 本質的に、アプトノスという種族は人間よりも強い。表面的な大人しさに惑わされてしまっていたが、隆翔の言う通り、彼らからすれば本気を出せば人間なんて一瞬だ。この島の植物の状態を鑑みれば、尚の事人間に媚びを売る必要などないし、共生したところで、悪鬼羅刹の如きモンスターが蔓延るこの島においては然したるメリットも無い。第一、共生するならリモセトスの様にもっと体格が大きくて力のある種とした方が、断然抑止力になる。今の今まで気づかなかったが、言われてみればその通りだ。

 

 

 それに、どうやらアプトノスが賢いからすぐに命令を聞いてくれていたというのも、説明としては不適切なようだ。ああ、そうだ。警察犬や盲導犬、あと猿回しのサルなどを例に取れば分かり易い。確かに彼らは動物としては賢い部類に入る。だがそれでも、人間が望む働きをしてくれているのは、子供の頃から何年もかけて行われた訓練の賜物に他ならない。決して、彼らはただの一回の餌付けを行うだけで都合良くこちらの指示を聞いてくれることなどまずないということだ。ここまで来て、俺は何となくではあるが隆翔の言いたいことを掴めた。

 

 

 「次に、虫から、爬虫類、恐らく哺乳類に至るまでの多様な生物が、同じ音を同じ意味で理解しているのもおかしい。そもそも、動物によって可聴周波数帯や捉えられる音階の範囲は違うんだ。だから、こんなにも広い範囲の生物が皆一様に同じ意味の符号として音を捉えているというのは100%有り得ないとまでは言わないが、それでも相当おかしな話なんだ。」

 

 

 それもそうだ。実際、同じ人間同士でも同じ一つの音の意味の捉え方は、文化や生活習慣などによって、てんでバラバラだ。そう考えると、生物種の垣根を超えて一つの意味を共有するというのは奇跡を通り越して、奇妙という他ない。

 

 

 「総括すると、テイムされた生物たちの特徴は人間にとって”だけ”あまりにも都合が良すぎるんだ。最早、収斂進化をしたというだけで説明するのは無理がある。これは、あまりにも突飛で何の根拠もない妄想でしかないが、この島の生物は本当は野生の生き物じゃないんじゃないのかと思うんだ。ここに放たれる前に人間から何らかの訓練や調教を受けている、そう仮定するとこの疑問の全てではないが、大半を説明できる。」

 

 

 隆翔の論を聞いた途端、俺の頭の中に電流が走った。多くの事柄が俺の中で繋がったのだ。あの日「待つ者」が俺にこの島の生物をテイムするよう言った理由。これまでは、そうまでしなければこの島を生き延びることが出来ないという意味でしか捉えていなかった。いや、それも半分正解か。だが、その言葉が真に意味する処。それは、彼女がこの島の生物の特性を知っていたから、一見無謀にも思える手段を強く薦めたのは、可能だという確信があったからに他ならない。思い返せば、彼女はこの島の生物のことを「人間に従順で忠実」と表現していた。そこから考えると、ここは「自然豊かな奇跡の島」ではなく、本当はある程度調教された動物が放し飼いにされている「サファリパーク」だったという仮説が生まれる訳だ。

 

 

 待てよ、そういえば前にも、この島の生態系に関する似た様な言説を目にした事がある。そうだ!ヘレナ・ウォーカー博士の日記だ。どんな内容だったか。俺は必死に記憶を手繰り寄せる。ああ、思い出したぞ。

 

 

 「隆翔、それに関してなんだが、前にこの島で活動していた生物学者と思われる人物の日記を拾ったことがあって、そこにお前が言ってるのと似た様な事が書いてあったんだ。内容を要約すると、この島の捕食者は食べられる側の数と比較して倍近くいて、それだと生態系が自然の状態ではそもそも成り立たないっていうこと。あと、本質的に重要かは分からないけど、雪山にティラノサウルスがいたって言う事だ。」

 

 

 「ありがとう、裕太。参考になった。この情報は今後の探索で重要になるかも知れないし、方針を考える際にも役立つ可能性がある。それと、オリバー、こっちが質問をしたのにも関わらず、そっちのけで話し込んでしまって済まない。今後は気を付けるよ。」

 

 

 隆翔はオリバーに向かって頭を下げた。

 

 「いえいえ、気にする必要は無いニャ。初めての話題で聞いてて新鮮でしたし。あ、そうそう、二つ目の質問の、どうやって笛の音色の存在を知ったかについてですが、これはボクのいた集落で代々伝わっていた物なので正確な由来とかは分からないニャ。ただ、集落の偉い人の話だと、今から遡る事数千年前、まだこの島に人間がいた頃の時代に、”森のビーストクイーン”と言われた人物が持っていたノウハウがどこからか漏れ出して口伝や書物を通して伝わったらしいニャ。ちなみに、その御仁はとんでもなく強くて一人で島のほとんどの獣を倒せて、しかもその獣たちを従えて軍団を作っていたらしいニャ。まあ、伝承だから本当の話ではないと思うけどニャ。」

 

 あっけらかんとした様子で話すオリバー。俺としては聞きたいことが山ほど出来たが、ここは自重しよう。腹も減って来たしな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 それから、俺たちは雑談も程々に、遅めの昼食を取った。とは言っても、弁当の様な大層な物ではなく、食料保存庫で作ったジャーキーを立ち食いしただけだ。遠出するのに少し物足りない気もするが、携帯性や保存性、食べやすさなどを考慮した結果のそれなので文句は言えない。

 

 

 「そうだ、帰りに少し寄り道をしてもいいですニャ?最近は拠点の整備とかもあって、採集に行けてなかったので手持ちの護身用の道具が底を付きかけているニャ。」

 

 「大変だよ!僕たちのことは気にしなくて大丈夫だから。むしろ、僕たちも役に立つ物のありかは知っておきたいから、ご一緒させて欲しい位だよ。」

 

 秀夫が同意を示した。俺たちも異論はない。全くもってその通りだ。むしろ俺たちが連れて行ってくれと頼む側だろう。

 

 みんな一息付けて、椅子代わりにしていた岩場から立ち上がろうとした矢先のことだった。朝から秀夫に面倒を任せていた導蟲が唐突に今いる海岸から森の方向へと飛んで行ったのだ。何かあるのだろうか?幸いにして、導蟲が止まったのは森の入口付近だったので、俺たちはアプトノス共々そこへ向かった。そこには大小さまざまなではあるが、どれも肉食恐竜と同じ形をした足跡の数々があった。

 

 「なあ、早く逃げないと不味いんじゃないか?」

 

 俺は不安のあまり、そう漏らした。

 

 「落ち着くニャ。多分ドスランポス一向ニャ。確かに、まだ足跡は乾燥しきれてないし、泥も水も詰まってないからそこまで時間が経ってないニャ。ただ、痕跡は森の奥に向かって伸びてるからその方向に行かないように注意するニャ。」

 

 オリバーは淡々とした口調で言い放った。俺たちはオリバーの指示に従い、開けた海岸を進んで拠点に戻る事にした。足跡から離れ元の海岸に戻った瞬間の出来事だった。

 

 「ブォーン!ォーン!」

 

 アプトノスが唸り声を上げながら俺たちの周りをグルグルと回り始めた。段々とそのスピードは上がってゆく。その声も何かに怯えたかのように弱々しく掠れてゆく。そのうち、アプトノスの脚は震え出し、ついにはその場に立つことさえ出来なくなってしまった。ただ、弱々しい声を上げ、その場でのた打ち回っている。明らかに異常だ。かつてリオレイアと遭遇した時に居合わせた個体はパニックになりながらも何とか逃げようとはしていた。まさか、リオレイアを超える様な脅威が迫っているとでもいうのだろうか?だが、せっかく手に入れたアプトノスを易々と手放すわけにはいかない。何とかする手立ては無いかと探っていると、オリバーからこういう時は無抵抗の笛を吹き続ければ落ち着く可能性があると言われ、俺たちは四人で吹き続けた。だが、その努力も虚しく、アプトノスには届かなかった。どうする事も出来ずに途方に暮れていると、導蟲が普段の黄緑色から、赤オベリスクの時と同じ青色に染まっていった。その瞬間、辺りは濃い霧に包まれた。クソっ!何が起こっているんだ?時刻は昼過ぎ。霧が出る様な時間帯ではないし、これまでの島の生活でも遭遇したことの無い現象だ。何だか頭がクラクラしてきた。眠いわけではないが、何故か視界が覚束ない。ピントが合わせられないのだ。耳も何故だか何かが詰まった様な感じがして周囲の音がくぐもって聴こえる。世界が一瞬にしてノイズまみれになるという、どうしようもない不快感に襲われる。頭がフワフワする。本格的にヤバい。気が付けば、俺は地面に膝を着き、意識が朦朧とする中、力なく蹲っていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「あれっ?ここは?」

 

 晴れ渡る空の下、俺は気が付けば立ち尽くしていた。何をやってたんだっけか?上手く思い出せない。うぅ、頭が痛い。

 

 「裕君、大丈夫?動ける?」

 

 隣から声が聴こえた。秀夫の声だ。

 

 「ああ、なんとかな。一体何があったんだ?」

 

 「急に霧が立ち込めたと思ったら、甘い変な臭いがして息を止めてたんだ。そしたら、何故か声が出せなくなって、霧が晴れたら戻ったんだけど、裕君はずっと上の空だったから心配で。」

 

 霧?ああ、そうだ。確かアプトノスの様子が急におかしくなって、それを鎮めようとしていたら出て来たんだっけか。その間の記憶が酷くあいまいだ。まるで、狐にでもつままれた様な、神隠しにでもあったかの様ななんとも不思議で不愉快な気分だ。先程はあれだけ暴れていたアプトノスも今では大人しくなっている。本当に何だったんだ?こう、変な事が続いていたら外に留まり続けるのに気は乗らない。早いとこ帰ってしまおう。そう思い、踵を返そうとした、その時であった。導蟲が遥か前方に向かって飛び去って行ったのだ。こんな状況だ。追うべきか悩むが。

 

 「モンスターの可能性が高いニャ。こっちに来るかも知れないから深追いは禁物ニャ。大丈夫、導蟲はしばらく飼い主がついてこなかったら勝手に戻って来てくれるニャ。」

 

 俺はすかさずアプトノスに逃走の笛を吹いた。今一番優先すべきはアプトノスだ。ここでおめおめと失う訳にはいかない。危険が

近付いているというのならすぐにでもこの場を離れるべきだ。

 

 「隆翔、アプトノスの傍についてやっていてくれ!」

 

 「分かった!」

 

 隆翔はアプトノスを追って一足早く走り始めた。それを見届けると、俺たちもすぐにこの場から離れようとした。この際、何が起こっているのかなど関係ない。とにかくみんなの身の安全が第一だ。俺たちは健脚なアプトノスに遅れを取るまいと必死で脚を駆動させる。あまりにもアプトノスが速くて追い付けそうも無かったので、隆翔は途中で追従に命令を変えてくれたようだ。ただ、それでもアプトノスのペースは速い。非常時のペースメーカーとしてはこの上ない働きだ。

 

 走り出してまだ間もない。まだまだ走れそうだ。そう思った矢先、不意に停止の口笛が鳴り響いた。前方ではアプトノスが既に止まっていた。何事かと思い、向こう側を見つめると、俺たちの行く手を阻むようにして三匹の見た事の無いモンスターがこちらを威嚇していた。その正体はトカゲの様な、イグアナ様な見た目をした如何にも肉食という雰囲気を纏った生物だった。体長は、4 [m]より少し大きいぐらいで、体高は1 [m]は軽く超えている。島の生物としては小柄な部類だが、それでもかの有名なコモドドラゴンよりも遥かに大きく、威圧感がある。頭から背中、尻尾にかけては鮮やかな黄色の鱗に覆われており、ドギツイ印象を受ける。それとは裏腹に、首の地面に向かって下側から腹部にかけての皮膚は黒く、身体の上半分とは真逆のバランスだ。恐らく、ランポスと同じ様に森の中ではこれが保護色として機能するのだろう。その目元には三本の黒い線が走っており、厳つさに拍車を掛けている。そんな奴らの中でも一際特徴的なのは、スラリと細く長く伸びた四肢だ。一般的なトカゲの脚は短く、胴体が地面に付くか否かの瀬戸際の体高をしていることが多いが、奴らはの脚は胴体との比率にして犬や猫と同じ程度あり、それに応じて体高も大きくなっている。その所為か、対峙した際の威圧感は大きなトカゲとは比較にならないレベルで強い。

 

 

 「ジャグラス?おかしいニャ。この辺は奴らの縄張りから外れているはずニャ。チッ、きっとさっきの霧のせいニャ。」

 

 

 どうやら、奴らは「ジャグラス」という名前らしい。アプトノスは、上体を大きく持ち上げ怒気を孕んだ様な声を上げて、ジャグラスたちに威嚇している。相手は三匹の群れと言えど、対格差があるのは明白だ。ジャグラスたちは後ずさりながらもアプトノスの身を虎視眈々と狙っている。俺たちは、アプトノスを守るために護身用に持ってきていた石の槍を構える。ランポスを殺った時の感触を思い出すに、この鈍らでは大したダメージは期待できないが、何もしないよりは圧倒的にマシだ。しかしながら現状は、お互いに決め手に欠ける状況である。場は膠着状態に陥った。

 

 

 その均衡を破ったのは、意外や意外、なんと無抵抗を告げる角笛の音色だった。

 

 「ここは、ボクに任せるニャ。」

 

 そう高らかに宣言するなり、オリバーは自身のポーチからコガネムシと石ころをくっ付けて草の蔓で巻いた物体を取り出した。あの虫は、間違いない。あのリオレイアでさえ怯ませる強烈な閃光を放つ昆虫、光蟲だ。

 

 「虎の子、最後の一発ニャ。」

 

 オリバーは光蟲をジャグラスに向けて投擲した。その刹那これから起こる出来事を理解した俺たちは瞬時に目を庇った。それと同時に閃光がさく裂した時特有の弾ける様な耳を付く音が鳴り響く。目を開けると、オリバーの両腕には手甲鉤が装備されていた。

 

 

 ジャグラスたちは、文字通り目が回っているのか、だらしなく頭を持ち上げ、口をあんぐりと開けてその場で立ち尽くしている。恰好の隙だ。オリバーは、横一列に並んだ三匹の群れの内、真ん中の個体に向かって目にも留まらぬ速さでベアバッグを決めた。爪は見事に件のジャグラスの顔面にクリーンヒットした。ジャグラスは情けない声を上げて怯み、大きく後ずさりした。オリバーはその一瞬の小さな隙すらも見逃さないという勢いで、一気に空中へと飛び上がった。それと同時に、身体を何回転もさせながら、これまた目で追いきれない程の凄まじい速度で両腕を何度も振り回し、ジャグラスに怒涛の連撃を浴びせていた。それらの攻撃はいずれもジャグラスの首元や頭部に集中しており、気付けば一体のジャグラスは絶命していた。

 

 

 オリバーは、着地したその瞬間には、身体のばねを作り、再び跳び上がってしまった。次に狙うは左側の個体。跳び上がったオリバーはすかさず攻撃態勢に移った。車輪の様に空中で何度も回転し、その度に爪はジャグラスの皮膚を抉る。三度オリバーが地面に着く頃には二匹目の個体も絶命していた。

 

 残るは一匹。だが、最後の個体は既に視界を取り戻したのか、身体を低くして戦う準備が完了している。いち早く動き出したのはジャグラスの方だった。だが、オリバーも負けじとステップでジャグラスの側面に回り込む。それと同時にオリバーは装着していた手甲鉤を地面に投げ捨てた。何をする気かと訝しんだのも束の間、今度はドングリ型のポーチから掌サイズよりは少し大きめの木樽を取り出した。傍から見れば、オリバーは明らかに隙を晒している様に見える。ジャグラスの目にもそう映ったのか、身体を横に大きくひねりながらも、口を大きく開けオリバーに噛み付こうと接近を試みている。対するオリバーはその場から動かない。俺はこのままでは不味いと感じ、反射的に駆け出そうとしていた。だが、オリバーの表情に焦りの色はなかった。むしろ、その顔にはこのシチュエーションには似つかわしくない不敵な笑みが張り付いていた。俺には、それが言外に「加勢は必要ない」と言っている様にも感じられたのだ。無意識の内に俺の身体は引いていた。

 

 

 この状況でオリバーが取った手は余りにも常識外れの物だった。彼はただ、樽を持つ手を前へと突き出した。リスクの高すぎる行動。だが、彼とて長くこの地獄めいた島を生き延びていた歴戦の生存者の一人、その勘は確かな物だった。その手先の位置は、見事にジャグラスの口が来るであろう場所と一致していたのだ。オリバーの手に握られていた樽はジャグラスの口にすっぽりと収まった。ほんの刹那、ジャグラスは驚きの顔色を見せ、僅かに動きを緩めたのだ。オリバーはそれを見逃さなかった。その一瞬で、樽から手を放し、バク転をしてその場から大きく後退、離脱した。その直後、海岸に爆発音が響き渡る。硝煙が晴れたその場所には、最後のジャグラスの亡骸だけが転がっていた。

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 「ありがとう、オリバー。また命の危機を救われたよ。」

 「オリバー君にはいつも助けて貰ってばっかりだね。ありがとう。とてもかっこ良かったよ。」

 「オリバー一人に任せっきりにしてしまって申し訳ない。俺は初めて見たがすごい戦いだったよ。感謝している。」

 

 俺たち三人は口々にオリバーへの感謝と賛辞の言葉を贈る。オリバーは得意げに胸を張る。

 

 「どういたしましてニャ。リュートさんこそ、咄嗟にアプトノスを停止させたのは良い判断だったニャ。あのまま進んでたらきっと大惨事になってたニャ。」

 

 先程までの殺伐とした空気は鳴りを潜め、一転して和やかな雰囲気がこの場を支配する。

 

 「さあ、こうしてはいられないし、早く戻、」

 

 秀夫が言いかけた時だった。

 

 「ヒデオさん、後ろニャ!」

 

 振り返ると、高速で地面を這いずる巨大な影が間近に迫っていた。オリバーの声が届く頃には秀夫の姿はもうこの場には無かった。代わりにいたのは、スラリと細い体躯のジャグラスとは対照的な重みのある体格と、先程の奴らよりも二回りは大きな体躯を持った巨大なジャグラスだった。ランポスとドスランポスの関係性に則っるならば、「ドスジャグラス」とでも呼称すべきか。ドスジャグラスの腹は空気が詰まった風船の様に大きく膨れ上がり、その表面積の大半が地面に接触している。その影響からか、背中から上の上体は持ち上がっており、頭は人間の背丈よりも高い位置にある。その形相は正しく捕食者そのもの。否応なく俺は理解させられた。秀夫はもういないのだと。それを悟った瞬間、全身から血の気がサッと引いていくのが分かった。ここ最近は物事が上手く進み過ぎていた。だからこそ、忘れてしまっていたのだ。この島は本来、獰猛な物だと、理不尽な物だと。

 

 

 時間にして僅か、十数秒。10、20、数えきれない程のジャグラスに俺たちは包囲されていた。前に進んでも、後ろに下がっても、等しく獣は存在している。今の俺たちに逃げ場は、無い。奴らの視線は一様にアプトノスの方を向いており、その須らくが獲物を舐めずり回す様な、残忍さと狡猾さを感じさせるものだった。アプトノスは全身をブルブルと震わせながらも、俺たちの一歩前に出て懸命に大地を踏みしめ、掠れる声を振り絞ってジャグラスの群れに威嚇をしている。主人を守ろうとしているのか?それも、自らの恐怖を押し殺してまでも。だが、多勢に無勢。ジャグラスたちが引く様子はない。ついには、ドスジャグラスはアプトノスへと突進する構えを取った。

 

 

 「くっ、うおぉぉっぉぉぉぉぉおーーー!」

 

 渾身の叫び声が木霊した。声の主は石槍を片手にドスジャグラスに向かって駆け出した。ジャグラスたちの注目は一斉にそちらへ集まった。

 

 「止せっ!隆翔!」

 

 俺の呼びかけは届かず、隆翔は突き進んで行った。隆翔の鍛え上げられた剛腕から放たれた全身全霊の一突きは、ドスジャグラスの柔軟な腹を目掛けて一気に進んだ。だが、その槍が奴の外皮を貫くことは無かった。槍が奴の皮膚に触れた途端、木製の柄はボキリと虚しい音を立て槍先は宙を舞った。ドスジャグラスは刺されるまでの僅かな時間の間に腹を萎ませ、堅牢な鱗に覆われた腹斜部を盾にして身を守ったのだ。ドスジャグラスに睨まれた隆翔は急いで踵を返そうとするが、時すでに遅し。止めに入ろうとしたオリバー共々、群れの全てのジャグラスの攻撃を一手に引き受けることになってしまった。アプトノスや俺を無視して、四方八方からジャグラスたちが二人に目掛けて飛び掛かる。空中に投げ出されたオリバーは地面に打ち付けられながらも何とか脱出に成功していた。しかし、隆翔は間に合わず、うじゃうじゃと動く黄色の絨毯の下敷きとなってしまった。僅かに空いた隙間から赤い液体が垣間見えた。現実を受け入れられず意識が遠のいていく。だが、現実とは残酷な物でそんな最後の逃避すら許してはくれない。漂う鼻を突く異臭は嫌でも俺を現実に連れ戻す。ドスジャグラスは地面に吐瀉物を撒き散らしている。ジャグラスたちはそれに喜んで群がり、貪っている。俺の目には映ってしまった。奴の吐瀉物の中に、人間の手や頭だった物が入っていたのを。

 

 

 俺はただ、崩れ落ちることしか出来なかった。脳裏に浮かぶのは、三人で過ごした思い出。幼い頃に出会ってから一杯遊んで、勉強して、色んな所に行って、そんな日常はこの島に漂流してからは、戻ってこないかも知れないと何度も考えた。それでも、奇跡が起きて、また三人で一緒にいられる様になって、新しい仲間も増えて、これからだったというのに。

 

 

 ドスジャグラスと、食事に満足した群れの一部の個体は次なる獲物となりうるアプトノスに対して再び狙いを定めた。俺はただそれを虚ろに見つめていた。逃げなきゃいけないのに、身体は言う事を聞かない。隆翔とオリバーが繋いでくれたこの命、無駄にして良い筈が無いのに。分かっているのに。目の前の惨劇はその気力を完全に奪い去った。奴の頭は刻一刻と俺とアプトノスの元に近づいて来る。俺は目を閉じた。

 

 「グルルルヤー!」

 

 ドスジャグラスの威嚇をする様な、何か嫌がる様な声が不意に聞こえた。俺は再び目を開いた。その瞬間、俺の脚元に二つの物体が投げ込まれた。一つは黄色の粘っこい液体が入った瓶と、もう一つは白?銀?色に輝く煙の入った瓶だった。俺はそれらが飛んで来た方向に目をやった。そこには、ドスジャグラスの背中にしがみ付くオリバーの姿があった。

 

 「ユータさん!これが正真正銘ボクの最後の物資ニャ。ボクはさっきので足をやられてしまってもう満足に走れないニャ。」

 

 そう言いながらオリバーはドスジャグラスの背中のたてがみをナイフでザクザクと刺し続けている。嫌がるドスジャグラスは振り落とそうと身体を強く揺するが、オリバーも負けじとその両腕に力を込めている。

 

 「いいですニャ!とにかくその黄色の薬を飲んで、煙を体に振りかけるニャ!それから、森の中まで走ってジャグラスの群れをおびき寄せるニャ!イチかバチかさっきのドスランポスの痕跡を追えニャ!」

 

 オリバーの意図は読めない。だが、何か考えがあるのは理解できた。そうだ、ここでアプトノスを死守できれば人数が減った現状でも立て直しはまだ出来るかも知れない。二人の無念を晴らすためにも俺はここでやり切らなければならないんだ!俺は黄色の薬が入った瓶を一気飲みし、白の煙を頭から被った。無性に活力が身体中に満ちた感覚がする。

 

 「走るニャ!」

 

 オリバーが叫ぶと同時に俺は全力で走り出した。体が軽い。これならどこまでも走り続けられる気がする。俺がこの独特な臭いのする煙を纏うと、ドスジャグラスの視線の矛先は完全に俺へと向いた。それに伴って群れのジャグラスたちも俺に注目する。それを確認したオリバーは背中から降り、アプトノスの元へ寄った。俺はそんな様子を横目に、森の中へ入った。先程の足跡があった場所まで向かう。そうすると、導蟲は足跡へと群がり、すぐに森の奥へと向かっていった。背後からは、ドスジャグラスの鳴き声が聴こえてくる。追い付かれるのは時間の問題だ。俺は時にゴツゴツとした地面に脚を取られながらも、時に倒木をジャンプして何とか避けながらも、時に、狭い場所へと迂回しながらも、持てる限りの力を振り絞って進み続けた。だが、その健闘も虚しく導蟲が止まると同時に、俺はジャグラスの群れに完全に包囲された。

 

 

 終わりの時間がすぐそこにまで来ている。ジャグラスたちが飛び掛かろうとする姿勢を取り、もう数瞬後には、俺はミンチになろうとしていた。そんな時、背後から聞き覚えのある獣声が響いたと思うと、俺は押し倒され、地面にうつ伏せに倒れ込んだ。俺は辛うじて動く首を後ろにねじり、その主を確認する。案の定、その元凶はランポスであった。ランポスの足の爪は俺の背中に食い込み、そこから出血しているのが分かる。ランポスは嬉々とした目でその牙を俺に突き立てようとする。だが、その直前、ランポスは不意に俺の正面に広がるジャグラスの群れを視界に入れた。その瞬間、ランポスは俺のことなど放り出して、後ずさりした。獲物に夢中で気付いていなかったのだろうか。ジャグラスたちは射殺さんとするばかりの、鋭い視線をランポスに送っている。俺は背中の痛みを堪え、地面を這いずる。幸いにして、ランポスもジャグラスも俺のことなど既に眼中に無かったらしく、追撃を喰らう事は無かった。俺は近くの茂みに身を隠すことに成功した。

 

 

 薬の効果が切れたのか、特に酷使した脚に対して途轍もない疲労感が押し寄せた。足が棒になるとはこういうことを指すんだろう。しばらくこの場から動けそうにない。ここは隠れてやり過ごすのが無難だろう。しかし、そんな状況でも茂みの向こうでは事は運び続けていた。ランポスは、ドスジャグラス一行を見るや否や、身を縮めて萎縮したような態度になったのも束の間、「グー、グー、グー」と唸り声を上げた。すると、何処からともなく数十匹のランポスの群れが現れた。形勢逆転とでも言うべきか、今度はジャグラスの群れがランポスの群れに囲まれる事になった。ランポスの包囲の陣形が完成すると、森の奥から群れのリーダーであろうドスランポスが悠々と現れた。ドスランポスはドスジャグラスを一瞥すると、「グォー」と雄叫びを上げた。その次の瞬間には、ランポス達が一斉にドスジャグラスに対して飛び掛かりを行った。対するドスジャグラス腹を膨らませ、大口を開けてランポスの群れ目掛けて突撃する。その効果は覿面でドスジャグラスの進路上にいた2、3匹のランポスは巻き込まれ、丸呑みにされた。それでもランポスは波状攻撃を繰り返し、ついには4匹のランポスがドスジャグラスの背中に着地し、爪を立てたり、噛み付いたりしている。どうやら同じ群れを成す生物同士でも戦い方は大きく異なるようだ。片やランポスはリーダーの絶対的な指示の下統率の取れた軍隊然とした動きで相手に迫っている。片やジャグラスはランポスほどの統率は無く、個々の暴力で対抗する言うなればアウトロー的なスタイルを取っている。この二つに明確な優劣は無いようで、お互いに同じくらいのペースで少しづつ数を減らしている。

 

 

 複数のランポスに貼り付かれたドスジャグラスは、横に大きく転がって、一回転する事で難なく叩き落した。ドスランポスはそれを見るなり、自ら群れの最前列に出た。それと同時に両者互いに威嚇し合う。先に仕掛けたのはドスランポスだ。ドスジャグラスが腹を膨らまる際の僅かな隙に乗じ、大きく跳躍してその腹に跳びつく。そして、速度に任せて一気にドスジャグラスを押し倒した。それからは、腹に爪を立て、口元の鋭い牙で喉元に噛み付いていた。部下のランポスもドスジャグラスの上に跨って、噛み付いている。だが、流石にやられっ放しとはいかない様で、ドスジャグラスは腹を少し凹ませて力任せに乗る者たちを振り払って起き上がった。その衝撃でドスランポスは大きく吹き飛ばされた。これが好機と言わんばかりにドスジャグラスはドスランポスへ向かって突撃する。ドスランポスが機動力を活かした奇襲攻撃を利用していたのに対して、ドスジャグラスはその大柄な体格を存分に生かした肉弾戦を展開した。一思いに接近し、のた打ち回るドスランポスに対しボディプレスをかました。そこからさらに、ゼロ距離で吐瀉物が発射された。心なしか、ドスランポスの顔が歪んだように見える。これまで静観を決め込んでいたジャグラスたちはドスランポスのピンチを嗅ぎつけるや否や、総攻撃を開始した。だが、ここは流石群れのボス、集団に揉まれながらも、体勢を立て直した。お互い、身体に傷が目立っている。これだけの激しい攻防を繰り広げた代償か、今はどちらも仕掛ける様なことはせず、戦況は睨み合いの膠着状態に陥った。しばらくの間お互いに威嚇し合っていた。だが、それが永遠に続くはずも無く、ランポスの群れは森の奥へと、ジャグラスの群れは森の外の方向へとそれぞれ、引き返していった。結果として見れば、痛み分けと言った所だろうか。

 

 

 俺は助かったんだ。

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 大きな波が去って、否が応でも現実を思い出させられる。得た物に対して払った代価は余りにも大きすぎた。拠点に戻るための道も分からない。俺は何もいなくなった森の中に独人取り残され、さながら亡霊のごとく呆然と歩むことしか出来なかった。

 

 また導蟲が青くなった。思えば、この現象が起こってから良くない事が続いている。正に凶兆だ。俺は心の中で毒づきながらも、行く当てが無いので仕方なく導蟲について行く。導蟲が止まったそこは、何の変哲もない森の中。あるのは、鬱蒼と茂る木と、足元を阻む邪魔な草だけだ。だが、導蟲の青さは今までにないほど鮮やかになった。そこには丈の高い草が生い茂っている。赤オベリスクのカビみたく特異性を感じる物では、決してない。俺は傷が痛むのを堪えながら、草の中に身を屈めその中を確認した。

 

 

 それはこの自然豊かな森には相応しくない物だった。それは金属製の直方体と言っても差し支えない形状の箱だった。しかも、えらく近未来的なデザインの。左腕のインプラントが光り出す。そして、インプラントをかざすと、箱の上面は両開きの方向にスライドし、その中身が露わになった。そこには青白い粉末が閉じ込められた一本の瓶と、六角形の格子画面と思われる部分に刻まれた珍妙なタブレット端末の様な薄い板だった。

 

 

 その粉末は温かかった。温度がいい塩梅と言う意味ではない。心理的な温かさだ。何かこう、団欒の時を過ごしているこの様な温かい気持ちにさせてくれる。ただの粉のはずなのに、底知れない魔力がある。これこそが、島を掌握する唯一の手段だ!身体に取り込め!お前も一つになろう!そんな思考が俺の頭に「入ってきた。」

 

 

 俺は何を考えているんだ!?いくら何でも、その辺で拾った得体の知れない物を口にするのはまずい。いや、そんなことはどうでもいい。有り得ないのは重々承知しているが、俺はこの瓶に話しかけられている様な気がする。恐ろしい。これを見ていると、心を支配されている様な、乗っ取られた様な妙な感じがする。無性に怖くなった俺はこの瓶をそっと箱に戻した。それから、俺はこれ以上この場に居たくなくなって、タブレットの様な板だけを持って足早にこの場を立ち去った。

 

 

 俺が拾ったこのよく分からない板には、よく見ると人命らしき文字が彫られている。「Yongki 」と書いてあった。




 久々に新モンスターの登場ですね。今回登場したのはジャグラスとドスジャグラスです。彼らはMHWが初出のモンスターで同作では最初に戦う大型モンスターとなっています。また、子分だけは現行最新作のRiseにも登場しています。最近だとMHnowにも登場しているので、そっちで一杯かったよっていう狩人の皆さんも多いと思います。

 
 最近はリアルが忙しくて投稿が滞りがちでしたが、大分落ち着いたので、これから年末にかけて投稿頻度を上げていきたいと思います!


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Version15.9:ヨンキの記録

ランポスに付けられた背中の傷が痛む。草の丈が高くて足元が見えないせいで、路傍の小岩にぶつかったり、石に躓いたりする。傷口には変な虫が集っている。滲みるような痛みが広がっていく。足の疲れも先程の逃避行から癒えていない。もう限界だ。俺はとうとう倒れ伏した。肉体的にも、精神的にも、もう限界だ。いっそここで眠ってしまいたい。ここが獣達の巣窟であることなんてもはや今の俺には関係無かった。今はただ、全部を忘れてしまいたい。そんな俺の心境に応える様にして微睡みはやって来た。段々と、視界の輪郭はぼやけていく。最後に目に移ったのは黄緑色の光の粒子が俺の周りを漂い、全身がほんのり温かなゲルに包まれる光景だった。

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 柔らかいのか硬いのかよくわからない感触が背中に伝わる。それと同時に俺は目を覚ました。背中に手を回す。不思議とあの指し傷は無くなっていた。視界に映るのは木製の天井に、それを支えるよう張り巡らされた梁、間違えようが無い、ここは俺たちの拠点だ。果たして俺はどうやって戻って来たのだろうか?火事場の馬鹿力だとでも言うのか?現状を呑み込めずに困惑しいると、部屋の扉が開けられた。

 

 「あ、裕君、目覚めたんだね。」

 

 有り得ないはずの声が聴こえた。

 

 「秀夫、なのか?どうして?」

 

 死んだはずの秀夫が目の前にいる。ともすれば、考えられるのは一つ。俺と同じで死んでも何故かよく分からないが、蘇ってしまうという事だろう。自然と涙が零れてきた。嬉しい、また生きて会う事が出来て嬉しいはずなのに、でもなんでか胸につっかえる物がある。

 

 「目が覚めたら隆君と二人揃ってここに戻って来てたんだ。その後すぐにオリバー君も戻ってきて、裕君が森の中にいるって言うから導蟲をとミツムシ寄せのお香を借りて二人で探しに行ったんだ。」

 

 

 さっきから色々な感情が渦巻いて言葉が出てこない。そんな俺の様子を察してか、秀夫は俺に近付いて見つめてくる。

 

 

 「もう、そんなに難しい顔しないで、僕はまたこうしてみんなと会えただけでも嬉しいから。死ぬのが怖くないって言ったら嘘になるけど、折角与えれらたチャンスだから、またみんなで過ごしたいって思ってるから。それと、お疲れさま。一人で頑張ってくれたって聞いたよ。ありがとう。ご飯の準備は出来てるからいつでも来てね。」

 

 

 秀夫はそう言うと部屋から出ていった。そうだ、まだ俺は、俺たちはやり直せるんだ。くよくよしてばかりではいられない。とりあえず今は、腹を満たして明日への活力を得よう。悩むのはそれからだって遅くはない。

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 夕食を終え、夜もすっかり更けていた。俺たち四人は集まって今日あった事を話していた。

 

 「なあ、オリバー気になったんだけど、導蟲が青くなる理由って何か聞いたこと無いか?」

 

 これに関しては、この前のカビの件と言い、今日の霧の件と言いあまり良い印象ではない。だからこそ理由があるのなら、知っておきたい。今日みたいに出先で突然立ち往生する事を防げる可能性もあるからな。

 

 「理由は知らないけど、一つだけわかってることがあるニャ。天気が変わる時にたまになるニャ。主には雨が降る時とか、今日みたいに霧が出る時とか、雷が鳴る時とかニャ。あと、そういう事が起こった時にはなぜかモンスターが変な動きをするニャ。今日テイムに使った場所は、大型モンスターがあんまり来ない比較的安全な場所だったニャ。それに加えて、あの辺はジャグラスの縄張りじゃないから普段ならまず遭遇する事は無いはずだニャ。」

 

 導蟲には天候の変化を知る能力でもあるのだろうか。ナマズは地震の発生を予知できるなんて話もあるくらいだから、強ち有り得ないとは言えない。ただ、霧の所為で目や耳の感覚がおかしくなるのは不可解だ。それに、モンスターを呼び寄せる、もしくはそれに近い何かしらの効果があるのなら、それは俺達にとって最悪の敵になりうる。

 

 

 「いずれにせよ、あの霧には注意が必要だろうな。声帯を麻痺させてきたり、神経に直接作用する成分が含まれていることだけ考えても、あまりに危険だ。発生する周期でも分かればいいのだが。」

 

 

 隆翔の意見も尤もだ。凡そいつ発生するのかが分かれば、行動の指針とすることが出来る。

 

 

 「ボクが知る限りでは、そういう話は聞いた事が無いニャ。起こらない時は何か月も、何年も起こらないし、酷い時では三日と空けずに起こる事もあったニャ。」

 

 

 結局は運次第という訳か。これまでそういった現象に遭遇しなかった俺はある意味幸運だったのだろう。そういえば、導蟲の件に関してはもう一つ気になる事がある。

 

 

 「そういえば、このタブレットみたいな物を拾ったときの話なんだが、これと一緒に青白い粉が入った小瓶も一緒に箱の中に入ってて、それに群がった導蟲が青くなってたんだ。」

 

 俺はあの恐ろしい瓶の話をした。

 

 「もしかすると、導蟲はその、裕太が見つけた物質の濃度なんかを検知する術を持っているのかもな。この島で発生する霧や雨、あとこの前のカビなんかにもそれが含まれていると考えれば、説明がつきそうだ。それにしても、どうしてそれも持って来なかったんだ?持ち運べない大きさだったら話は別だが。」

 

 隆翔なら物質とかの話には明るいし、持ってくればよかったかな。でも、正直あの精神を侵食されるような感覚をあれ以上味わうと、本当に取り返しがつかなくなりそうだったからやっぱり無しかな。

 

 「実は、その瓶を取った時に何て言うかな、幻聴が聴こえたって言うか、思考を乗っ取られたって言うか、とにかくヤバイ感じがして。これ以上あれを持ってたらおかしくなってしまいそうな感覚に囚われて、それで怖くなって捨てて来たんだ。」

 

 俺は、客観的に要領を得ない内容であるのは承知のうえで、事実をありのままに話した。

 

 「摂取も接触もしていない物が人体に作用するというのは不可思議な話ではあるが。見た目がただの粉末だったのなら、気持ちの問題でもなさそうだしな。」

 

 隆翔も知らないようだ。結局今回も導蟲の謎については明らかにはならなかった。だが、天候の件なんかは実用上かなり使えそうな情報ではあるし、進展はある。それに結果論ではあるが、こうして再び四人で集まれて、目標だったアプトノスも死守出来て今は拠点にいる訳なので、今回の探索は実りある物だっと言える。

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 それから話題は変わって。

 

 「僕たち二人は死んだ後にここのベッドで目覚めたけど、裕君の時はどうだったの?」

 

 秀夫が俺に尋ねてきた。俺はこれまでの死を思い返した。大体はいつも島の海岸の同じ場所に気が付けばいたはずだ。そう言えば、一回だけ例外があった。ドスランポスに家ごと囲まれて殺された時だ。あの時は確か、家のベッドで目覚めたはずだ。丁度、今日の二人と同じ状況だった。俺はその旨を秀夫に話した。

 

 「やっぱり、理由があるとすれば、これなのかな。」

 

 秀夫は左手のインプラントをおもむろに眺めた。

 

 「このインプラントもしかしたら記憶媒体としての側面もあるかも知れない。」

 

 「でも、そんな映画の中の機械みたいなこと本当にできるのかな?」

 

 呟く秀夫に対して、俺はそんな疑問を口にした。

 

 「一応原理的には可能なんじゃないかな?アナログかデジタルかの違いは有れど、人間の記憶は本質的には電気的な信号だから、波形さえ取り出すことが出来れば記録したり、さらには復元したり改変したりできる筈だよ。飽くまで机の上での話だけど。」

 

 急に物凄くSFライクな話になって来たな。他方、ファンタジー然としたワイバーンや獣人が生息しているあたり、本当にこの島が何なのか分からなくなる。

 

 「一応、機械ではないが生き物にはそれに近い事が出来るやつがいるにはいるぞ。」

 

 隆翔が補足した。

 

 「カマキリに寄生するハリガネムシなんかがいい例だ。尤も、あちらは宿主の神経に対して信号を出力して、その身体を自分の都合良いように動かすから、宿主の神経の情報を入力するインプラントとは逆だけど。まあ、本質的には同じだ。」

 

 ああ、確か、水に付けたら尻から出て来るとか言う気持ち悪い虫のことか。それなら一応俺でも知っている。「信号を出して、身体を動かす」か、一見突飛な話ではあるが、強ち嘘とも言い切れない。何となくではあるが、俺の中にも思い当たる節がある。それは、エングラムの機能だ。思い返せば、頭の中に見た事の無いイメージが勝手に思い浮かんでくるのも、勝手に手が動いて気付いたら物が出来上がっているのも、隆翔の考えに則れば、すべて合点が行く。やっぱり、あれは誰かに操られていたという事で間違いないのだろうか?意識すればするほど、顔から血の気が引いていくのが分かる。

 

 

 「インプラントを一つのコンピュータ端末だと考えると、出力端だけあって入力端が無いってのもおかしな話だよね。パソコンに例えるなら、ディスプレイだけあって、マウスやキーボードが無いようなものだし。」

 

 なるほど、だから秀夫はそういう発想に至ったのか。拠点で目覚めたのも、データから逆算してある地点に巻き戻るようにしているのかも知れない。例えば、最後に寝たベッドとか。見かけ上の変化が無いから、実感が湧きにくいが、本質的には改造人間にされている様な物だ。もちろん、そういったものの全てが悪ではない。何らかの事情で求める人が存在するのは事実だし、それで救われるならむしろ良い事だ。ただ、本人の同意が一切ない状態で勝手に埋め込むのは遠慮して頂きたいものだ。

 

 

 「記憶がある理由は想像がついたが、今のこの身体は何なんだろうな?自分の死体ははっきりとこの目で見た事があるから、死んだのが幻覚だとは思えない。なら、新しい俺たちはどうやってベッドまで運ばれたんだ?」

 

 

 島に流れ着いてから今の今まで、ずっと目を背け逃げ続けていた事だが、俺は意を決して口にした。誰も明確な答えを出せない。当たり前だ。死人が蘇るなんて現象を科学的に説明する術などない。沈黙がこの場を支配した。

 

 

 「空気を悪くして済まなかった。これ以上話すのは不毛だし、今日は最後にこれだけ確認して、お開きにしよう。」

 

 俺は安易な発言をみんなに謝罪して、拾い物を指さして言った。

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 経験上、この島のよく分からない物には法則性がある。それは、インプラントをかざせば大抵何か動作をするという事だ。クレートも、オベリスクも、待つ者がいた場所そうだった。そして、俺は例の板に左手をかざした。すると、インプラントは光を放ち、この空間にパソコン画面の様なホログラムを出現させた。そのホログラムには、アジア系と思われる女性の顔写真と共に大量の文章が映っていた。俺たちは四人で身を寄せ合いながら、時間も忘れて読み耽ったのだった。

 

 

『Name:Yongki

Epic:B.C.26

Nation:Terran Federation

 

Record1

 私は最初ここはシミュレーションの一部だと思っていた。だが、それにしてはおかしな部分も多々ある。ある物は現在のGenesisエンジンのどの要素よりも先進的だ。いくら"人間をやめた"ユマでさえもこれ程の急ピッチで事を行うことは出来ないだろう。オベリスクは私の知る物から幾分か設計の変更がなされている様に思える。少なくとも、現段階の設計では"トリビュートターミナル"なる機能は実装されていないはずだ。それに、あの忙しない恐竜どもは何だ?バイオームの包含については未だ議論の渦中のはずだ。誰かが無許可でいたずらでもしたというのか?

 

 

 Record2

 オベリスクのターミナルを操作する事によって、ハッキングを試みた。サンティアゴの猿真似ではあったが、何とかシステムの内部に侵入する事が出来た。その際に分かったのは、ここはシミュレーションではなく紛れもない現実だったという事だ。とにかく私は生存に必要な物資を調達する必要がある。島の物資投下システムをハッキングしてスーツといくらかのTEK製品、端末を入手した。

 

 

 Record3

 私は迂闊だった。ターミナルを操作している際に伏兵が潜んでいる事に気が付かなかった。彼らはクレートが降り立つと同時に私に牙を剝いてきた。前時代的な火薬銃と鉄の鎧に身を包んだ兵士が十人。彼らは投降すれば命は助けると宣う。スーツさえあればどうということは無いが、生憎と悠長にクレートを開けている暇などない。私は渋々彼らの軍門に下る事となった。

 

 

 Record4

 私を捕らえた彼らは意外にも友好的であった。多少ぼかしはしたものの、私の事情を話せば済む場所を提供してくれると言  った。どうやら彼らにとってオベリスクは禁足地的な位置づけらしく、そこに踏み入った私に警告を行ったようなのだ。私からすれば、理解出来たものではないが、過去の人間から見れば特別に映るのは致し方ない部分もあるだろう。私は一先ず、彼らに謝罪し、住処を提供させる見返りとしてTEK製品の供給を約束した。

 

 

Record5

 私がこの"ハウリングウルフ"という部族に身を置いてから二か月が経過した。部族の名前の由来は、かつてこの島の侵略者を 倒した者達の名からあやり付けられたらしい。最初、彼らは私のことを警戒していたが、TEK製品の有効性が伝わると、皆一気に掌を返した。今では村の若者たちがスーツの訓練を行っている。彼らにはこの島の恐竜を手懐ける文化があり、その軍団を築いている。我々の時代には無い発想で、感心させられる。ティラノサウルスの部隊はいつ見てもそのスケールに圧倒される。

 

 

 Record6

 私はここで機械のメンテナンスを請け負う傍ら、この島から脱出する方法を探っていた。方法自体は突きとめたが、そのためには協力者の存在が必須だ。ここは更に彼らからの信頼を獲得し、そのうえで事に及ぶのが良いだろう。

 

 

 Record7

  ある日私は村の者から「秘密の厩舎」へと案内された。どうしてもそれを私に見て欲しいらしい。その名の通りと言うべきか、村からそれなりの距離が離れた場所だったので、空を飛んで移動した。と言っても、今回はスーツではなく、アルゲンタビスによる優雅な空の旅だった。空の上から一望する島の景色は圧巻の物だった。チームの皆はよくここまでの物を開発できたと思わず感心してしまった。その場所待ち受けていたのは真の王と呼ぶべき者達だった。あのティラノサウルスが子供のように思える巨体の持ち主はギガノトサウルス、そしてカルカロドントサウルスの両雄だ。私は只々圧倒された。既に繁殖と育成も開始されているらしい。彼ら曰く、テイムに成功したのは私の齎した製品による力に他ならないと、感謝の意を示された。こうやって面と向かって礼を言われるのはいつ振りだろうか?悪い気はしないな。

 

 

 Record8 

   オベリスクが突然点滅を始めた。一過性の挙動かとも考えたが、数日間続きっ放しだ。村の者達も不安に駆られる者が増えているようにも感じる。独自の調査の結果、なにやら島のシステムに何者かが侵入した痕跡を発見した。ただ、非常に高い権限を持った者によるアクセスの様で、私ではその情報を掴むことが出来なかった。もしも、私がサンティアゴだったら、可能だったのだろうか? 状況を見るに、酷くきな臭い。何事も無ければいいのだが。

 

 

 Record9

  あれから、不可解な現象が続いた。島から野生の生き物が消えた。海岸にも沼地にも、果ては海中にも生物の影すら確認出来ない。メガネウラどころか、シーラカンスすら見かけないのは、不気味を通り越して最早異常とも言える。それから数日後には、海岸に無数のドードーの死骸が転がっていた。その調査の最中には多くのプテラノドンやイクチオルニスの死骸が空からぼとぼとと落ちてきた。あの太々しい鳥に絡まれないのは結構だが、それはそれで不気味だ。また、 ある時はトゥソテウティスが浜辺に打ち上げられていた。それも一匹ではなく五匹程度の集団でだ。それに、村の護衛部隊のティラノサウルスたちの様子も妙だ。時折何かに怯えるかのような動作を見せ、身を寄せ合う姿が確認されている。それらの現象と呼応するようにオベリスクの点滅周期は日を追うごとに速くなっている。ただならぬ事態であるのは明白だ。間違いなく、システム側が悪さをしている。だが、いくらハッキングを試みても弾き返されるだけだ。日に日にプロテクトは強固な物になっている。

 

 Record10

  事態は最悪の方向へと舵を切った。この島の空は謎の汚染物質によって完全に覆われてしまった。日照は消え去り、24時 間ずっと暗いままだ。体調不良を訴える者まで現れている。TEKヘルメットの防護機能を試してみたが、予想外の挙動を示し た。なんと、ヘルメットの空気浄化機能が動作しないのだ。いや、正確に言うと、濾過フィルタにその物質が侵入してからしばらく経つと、部材の腐食が進み、ヘルメットそのものが駄目になってしまうのだ。人々はこの未知の物質のことを口々に「瘴気」と表現してい る。如何にも非科学的な名称ではあるが、性質を鑑みればこれ以上ない程に的を得ている。植物は次第に枯れていき、海には水面を覆い尽くす程のメガロドンの死体が浮いている。島中で鼻を塞ぎたくなるほどの強烈な腐臭が漂っている。生命豊かなこの島は一日にして死の島へと変貌を遂げてしまった。この状況が続くのなら、未来永劫この島に生物が根付くことは無いだろう。

 

 Record11

  私は急いで「瘴気」のサンプルを確保し、解析を行った所衝撃の事実が多数判明した。皆が「瘴気」と呼称していたこの物質の正体は嫌気性の細菌だった。それも、ただの細菌ではない。非常に凶暴な肉食性の細菌だ。実験として、適当な生物の死骸と共に瘴気を密閉空間に閉じ込め、経過を観察した。その結果、わずか数時間の後にはきれいな骨となってしまっていた。開いた口が塞がらなかった。それだけではない、この瘴気はカビと共生しているのだ。瘴気の雰囲気の中にてその胞子が確認された。厄介なことに、メソピテクスによる動物実験を行ったところ、このカビも強い毒性を持つことが判明したのだ。カビに蝕まれた生物は短時間の間に衰弱し死に至る。瘴気とカビは互いにエネルギのやり取りを行い広範囲に拡散していくのだ。私は急いでレプリケータを起動してスーツの量産に走った。足りない材料は未だ唯一侵入可能だった供給品投下システムをハックしなんとか調達した。安全を保つためには定期的な付け替えが必要だ。村の中で幅広く、多くの量を行き渡らせるために、レプリケータを昼夜問わずフル稼働させた。その甲斐あってか、村の7割の人間は今も生存している。

 

 

 Record12

  泣きっ面に蜂とはまさにこの事を言うのだろう。未だ混乱が収まり切れぬ村にかつてない程の悲報が伝えられた。大量の生物が群れを成して村に向かって進行していると。その数は不明。伝令の証言によると、一面を覆い尽くし数えることが不可能だという。村の長老たちの会議で、ギガノトサウルスとカルカロドントサウルスの戦線投入が満場一致で決定された。村を守る外壁にはもはや壮観という言葉すら生ぬるいほどの生物の大軍団が集められた。ティラノサウルスにスピノサウルス、ユウテゥラヌス、ダエオドンさらにはテリジノサウルスやアロサウルス、ステゴサウルス、極めつけに大砲が備え付けられたブロントサウルスもいる。空中にはTEKサドルを装着したタぺヤラに、オートタレットを載せたケツァルコアトルス、そしてあのティラノサウルスすらも攫い己が糧とする傑物、リニオグナタも用意されている。生き残った島の生態系の上位に位置する生物が集められた、正に総力戦と言った様相だ。

 

 

 Record13 

  進行する大群は異様な雰囲気に包まれていた。生物たちには「瘴気」やカビで覆われており、その多くが黒く変色し、何かに取り憑かれた様に、呻き声を上げながらひた走っている。その数、軽く数百は下らない。古い時代の表現だが、「百鬼夜行」と言い表すのがしっくりくる。ユタラプトルやカルノタウルスなどよく見かける連中も多いが、中にはセイバートゥースやダイアウルフなどこの辺りでは見かけない種も散見された。加えて、身体を浸蝕されて我を失っているのだろうか、普段は大人しいプテラノドンや、パラケラテリウムの姿もあった。このまま進行を許せば、村はすぐにでも飲み込まれてしまう。部隊は直ぐに迎撃に当たった。

 

 Recoed14

  あの後アルファプレデターの襲撃を受け、部隊は決して小さくない損害を受けながらも生物の大群を撃退する事に成功した。航空部隊は大半が無事であったが、地上の部隊は大打撃を受けた。ティラノサウルスとスピノサウルスは大きく数を減らし今は片手で数えられるより少し多い程度しかいない。他の恐竜は殆どが命を散らせていった。あと残ったのは一匹のユウテゥラヌスとギガノトサウルス、カルカロドントサウルスぐらいだ。壮絶な戦いであったが、村を死守する事が出来た。

 

 Record15

  我々が村に凱旋したのも束の間、急報が入った。赤オベリスクに謎のドラゴンが現れたというのだ。しかし、その報告がまた奇妙なのだ。報告者たちは瘴気をその身に宿し、自在に操ると口々に言う。私が知る範囲では、設計段階のシステムにはその様な奇特な生物など搭載されていなかった。なにせ、何を積み込むのかすら議論が紛糾していたというのだからそんな酔狂な物にリソースを割くなど有り得なかったのだ。謎の人物のシステムへの侵入といい、今回の龍の出現といい、これらに全く因果関係が無いとは思えない。私は調査を行いたいと強く要望した。丁度、村の中でもその災厄の象徴を討つべきだという論が支配的になった。結果、私たちは群れと闘ったその足でオベリスクまで向かう事になった。

 

 

 Rcord16

  その龍は私が想像していた何倍も悍ましく、冒涜的な存在だった。全身に屍肉を纏っており、さらにその上には大量のカビが付着している。顔は屍肉で覆われ全てを確認できないが、僅かに覗く口元は醜悪な深海魚を思い起こさせる。まるでゾンビがそのままドラゴンに憑依したかのような風貌だ。村の兵士たちは皆怯えている。我々は持てる全戦力を持って奴を包囲した。だが、驚くべきことに、奴はほぼ全ての島の上位生物に囲まれたというのに平然とその辺りをのそのそ歩き回ったり、何なら座り込んで悠長に休憩までしたりしている。異常だ!生物としてこの状況に危機感を抱かないのか?醸し出される底知れぬ恐怖感に皆立ち尽くすことしか出来なかった。しばらくの沈黙の後、ギガノトサウルスに騎乗した兵士はついに業を煮やして突撃を敢行した。その大口から放たれる噛み付きは見事龍に命中した。しかし、龍は一切の反応を見せなかった。龍は身じろぎ一つでギガノトサウルスを吹き飛ばした。そして、龍はその悍ましい口から瘴気の塊を放出した。ギガノトサウルスは、発狂する暇も無く絶命した。我々の最高戦力の片割れが呆気なく散った。その衝撃は大きく、兵士たちは統率を失い散々りになった。だが、逆鱗に触れた我々に対する慈悲など無かった。あろうことか、龍は瘴気を爆発させ、高濃度の瘴気を広範囲に拡散させた。スーツの全機能は一瞬にしてダウンし、私はスーツの放棄を余儀なくされた。スーツで空中に浮かんでいた兵士はまるでセミか何かの様にぼとぼとと、落下した。恐竜たちは呻き声を上げながら次々に倒れてゆく。島の総力を挙げて結集した軍団は、いやそれだけでなくこの島に在る総ての生物は、この日たった一匹の龍によって全滅した。

 

 

 Record17

  私はたった一人あの最加から逃げ延びた。蝕まれる身体を引きずって、命からがら村に辿り着いた。村の様子は惨憺たる有様だった。瘴気の拡散にヘルメットの供給が追い付かず、死人や病人が溢れ、そこら中に転がっている。もはや私一人の手ではどう仕様もできない。”ハウリングウルフ”との出会いお世辞にも良い物とは言えなかった。だが、それでも彼らは私に居場所を提供してくれた。彼らは決してスマートな集団ではなかったし、その原始的な思考には呆れ返る事もしばしばあった。それでも、私はここに愛着がある。その崩壊をただ地に伏して眺めることしか出来ないのは、堪らなく悔しい。

 

 

 Record18

  瘴気は晴れた。一連の出来事全てが白昼夢だったかのような錯覚さえ受ける。だが、それらは紛れもない現実だ。もはや村に病人の介抱を行える人間などいない。ここにあるのは、人間だった物の成れの果てと、衰弱して僅かな動きだけを見せる地面に転がる肉塊だけだ。私もその一つだ。地面に力なく倒れ伏した私の目には、大空を力強く飛び去って行く赤い甲殻に包まれたワイバーンの姿が映った。

 

 最後に、この記録を見た誰かに、私が知り得た情報を手短にだが、共有したい。この島から出たいのなら、コントロールセンタへ向かうことをお勧めする。そこへの入り口は、、、

 

 記録はこれで全てだった。

 

 




 今回、記録の中に出て来たモンスターは「死を纏うヴァルハザク」です。今流行の、アイスボーンが初登場の古龍です。ストーリー中では実はアステラを崩壊寸前にまで追い込んだ恐るべき古龍です。なぜ、そんなモンスターが島にいたのでしょうか?ヒントとなるのはARK:スコーチドアースの調査書です。

 また、記録を残したヨンキという人物はGenesis2のサンティアゴの記録に登場する人物ですので、オリキャラではありません。


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Version15.10:水生獣

 情報の量が多すぎる。第一に感じたのはこれだ。そもそもの話ではあるが、著者が26世紀の人間だというのがまず信じられない。それに、「テラン連邦」なる国家も世界には存在しない。それを鑑みると、これは恐らく事実であるとし仮定しても筋が通るウォーカー氏の記録とは異なり、何らかの物語であるとも考えられる。だが、必ずしもそう断定できない部分も多々ある。微生物とカビを操る謎の龍、しかもそれが赤オベリスクに現れたという記述。確かに今の赤オベリスクにも記述の特徴と一致するカビや微生物が残っていた。加えて、ギガノトサウルスが倒されたという部分も俺たちが拾った頭骨と状況的に一致する。フィクションは時に事実が盛り込まれる場合もあるが、ここまで事実と詳細に一致するものだろうか?宙に浮くオベリスクや、インプラント、果ては空を飛べるようになるスーツなどの超技術の存在も考慮すると、あれらが26世紀のテクノロジーですと言われれば、納得できる部分もある。俺たちがなぜそんな後の時代にいるのかという点を除けば、筋は通る。そういった意味でも、この記述は単なる物語や妄想の類として切り捨てられる物ではない側面もある。

 

 

 島にいる生物がまったく見た事も聞いた事も無い種類ばかりなのも不可解だ。流石に記述に登場した物のいくつかは聞いた事があるが、島の生活の中で彼ららしき生き物を見た事は今までで一度も無い。島には一部古生物の特徴を持つ生物もいるが、隆翔曰く、ランポスやメルノスはおおよその外見こそ既知の恐竜や翼竜に似ているが、細かな身体的特徴は既存の分類の物には無い点もあり、完全な新種である可能性が極めて高いという。記録に登場していた生物は全て実際に古代の地球に存在したものの名前らしい。ただ、その一部、「リニオグナタ」や「ギガノトサウルス」などは、発見された化石や標本とは大きさや外見が大きく異なり、それらとは名前だけ同じの別物である可能性が極めて高いようでもあるそうだ。素直にこの記録を受け取れば一匹の龍によって全ての島の生物が絶滅させられた事になる。そして、生態系が丸々置換された。果たして、そんな事が有り得るのだろうか?明らかに一生物の行える範疇を超えている。

 

 

 だが、真に重要なのはこういった部分ではない。彼女が島の成り立ちに対してある程度の知見を有しているという事だ。その口振りからしてオベリスクやインプラント、その他諸システムの開発者である可能性が濃厚だ。その全ては語られていないが、記述の端々から島の生態系が人為的に作られたものだという事が示唆されている。ここで、俺が一つ考え付いたのは俺達や恐竜は本当にタイムトラベラーだったという可能性だ。目的の程は不明だが、そうであれば人間と恐竜が共存していたのにも説明がつく。26世紀が本当のことだとすると、その時代にはタイムマシン的な発明がなされていても何ら不思議ではない。ヨンキ氏が「過去の人間」という表現をしきりに使用していたことからも、彼女らの時代にはそういった手段が一般的であるとも考えられる。考えれば考える程に、この記述が事実である可能性は高まっていく。もしかすると、リオレイアの様な一見すると、ファンタジックな生物も、21世紀時点では人類が発見出来ていなかっただけで、本当は過去の地球に生きていた存在なのかも知れない。資料が残らず後の世の人間に知られることの無かった存在が、タイムマシンによって明らかになった。タイムマシンを仮定すると、これまで謎に包まれていたモンスターの正体に説明がつく。それだけではない、俺たちが死んだ後に、記憶を保持したまま蘇れているのも大まかにだが説明は付く。死ぬ前の肉体が過去から回収され、インプラントの機能によって、記憶や人格と言ったソフトの部分だけが再インストールされる。そう考えれば、細かな点は抜きにしても、大まかには成立する。俺たちは途轍もない陰謀に巻き込まれてしまったのかも知れない。

 

 

 そして、記録の最後、彼女は島を出る方法について言及している。コントロールセンター、名前から察するにこの島の維持管理を行う施設なのだろうか。書き方から察するに、この施設はオベリスクとは別に存在するのだろう。残念ながら、その場所までは書かれていないが、その存在を知られただけでも大きな収穫だ。俺たちの目的は島からの脱出だ。コントロールセンターの発見はオベリスクの起動よりも優先順位は高いだろう。なにせ、あの光の壁を何とか出来る可能性が僅かとはいえ浮上したのだ。あれの原理が分からない以上、これに賭けるしかない。ここは一旦、みんなで考えを共有して整理した方が良さそうだ。

 

 「タイムトラベル、か、俄かには信じがたいが。」

 

 隆翔は難色を示している。致し方ない事だ。急に自分がタイムトラベラーだったなどと言われてすぐに受け入れられる筈が無い。

 

 「でも、この著者も中々に変だよね。開発者なのに、担当外の細かい所ならともかく、オベリスクとかの大きな仕様変更を把握してなかったなんて。」

 

 確かに、秀夫の指摘は正にその通りだ。オベリスクをどんな形にするのか、島にどんな生物を配置するのか、冷静に考えればそんな設計の根幹を成す重要な情報が行き渡っていないなんておかしい。いくら未来のオーバーテクノロジーをフル活用したとしても、そんな事も行う余裕が無い程の極限状況下における開発で、ここまで大がかりなシステムを完成させられるものなのか?いや、いくら技術が発達しても、情報伝達の重要性みたいな基本的な所はそうそう変わらないはずだ。記録にある彼女のスキルから考えて、ヨンキ氏が職場内でハブられていた可能性も考えにくい。そこで、一つの可能性が思い浮かんだ。

 

 「なあ、もしかしてこのヨンキ氏も俺たちと同じタイムトラベラーだったんじゃないか。この人が元居た時代ではまだ島は開発中だったけど、なんかの理由で連れて来られた”今”の時代では完成してて知ってる情報に食い違いがあったって考えれば筋は通りそうじゃないか?」

 

 「確かに、そう仮定を置くと、全てが説明できる。それに、不自然に調教された生き物も、その俺たちを連れて来た存在によって何かしらされているのかも知れない。そういう技術が開発されていてもおかしくはない。だが、その目的が一切見えてこないのも不気味だな。古生物はともかく、過去の人間を連れて来て、謎の島に置いておくなんて。そんなに過去の何かが重要なら、向こうから接触するなり、軟禁するなりした方が好都合だろうに。」

 

 隆翔の意見も尤もだ。現状の情報では、この島が何を目的として作られた物なのか一切合切見えてこない。とにかく、今はコントロールセンターを目指し、脱出するのが最終的な目標になりそうだ。

 

 

 夜も更けて来たというのにまったく寝る気になれない。今ほど自分が置かれている状況が余りにも酷くて、理不尽で、救いようのないものだと感じたことはない。本当にここが26世紀以降の世界だったのならば、21世紀に戻れる確率は、また家族と生きて会える確率は著しく低いことになる。「待つ者」が日本に戻るのは無理だと言っていた理由を理解出来てしまった。この危険な島からは、さっさとおさらばするのが身のためだ。だが、その後はどうなる?俺たちは5世紀以上も後の世界で生きていけるのか?そんなはずはない。室町時代の人間が現代に来たところで、価値観も習慣も何もかも違う中でまともに生きていくなど至難の業だ。それに、こんな扱いを受けているんだ。俺たちに人権など無いだろう。進んでも、止まり続けても、退いても、どの選択肢を取っても碌な結末は待っていない。正直、死んで終わった方がどれほど楽だろうか。それすらも許されない。生き地獄と言うのはこういう世界を指すのかも知れない。

 

 「悪い、少し頭を冷やしてくるよ。」

 

 俺はみんなにそう言って、火打石を擦って、松明に火を付け、扉を開けた。

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 俺は波打ち際に立ち、空を眺める。星々はいつもと変わらず、煌々と煌めいている。きっとこの星たちは俺たちの時代から変わらず在り続けているんだろうな、なんて柄にも無い事が頭を過る。暗闇の中で僅かに光、蠢く水面は油断してるといつの間にか吸い込まれてしまいそうな、妖しさを放っている。駄目だ。冷静になろうとしているのに、余計におかしくなりそうだ。

 

 「おーい、ちょっと待ってくれよ。」

 

 センチメンタルな気分になっていると、不意に背後から隆翔の声が響いた。

 

 「まったく、酷い顔をしてたから心配して来てやったんだぞ。」

 

 「るせえ、俺とて心配されるほどまだ落ちぶれてないわい。」

 

 精一杯の虚勢を張る。思えば、こうして軽口を叩き合うのなんて何時振りだろうか。この島に来てからはいつも生きるのに必死で、ずっと真面目な話ばかりだった。なんか、日本にいた頃の、あの三人で馬鹿やって、楽しかった頃の記憶がフラッシュバックし、つい目元が緩みそうになる。星降る海岸に腰掛けるは男二人。ロマンチシズムの欠片もない。

 

 「はーあ、こんなことになるくらいなら、彼女の一人でも作っとくんだったな。」

 

 俺は空を見上げながらそう語ちる。

 

 「なら、裕太はまず女の子を前にして離せなくなる癖を何とかしないとな。」

 

 隆翔はからかう様な、ニマニマした顔でこっちを見てくる。

 

 「隆翔はいいよなー。魔法の壺を持ってきてくれる可愛い彼女がいて。」

 

 意趣返し問わんばかりに俺も負けじと言い返す。

 

 「ちょっ。その話を掘り返すのはナシだろう。トラウマなんだ。」

 

 俺たちは可笑しくなって吹き出してしまった。今だけは全部忘れて、昔みたいに何も難しい事なんて考えずに笑い合っていたかった。しばらくそんな状況が続いた後、隆翔が改まった様子で言った。

 

 「こんなこと言うと、お前に対して不謹慎かも知れないけどさ。俺はまた生き返ってチャンスが与えられてすごく嬉しかった。日本に居たら一生見れないかも分からなかった生物を見れて、触れられて、幸せだった。例え待ち受ける未来が悲惨な物だったとしても、俺はここに来れて良かったと胸を張って言えるよ。」

 

 隆翔は昔から逞しいというか、肝が据わっているというか、そんな所が頼もしくていつも助けられてきた。そうだ。本当に俺たちが未来の世界にいるとして、置かれた状況が良い物とはお世辞にも言えない。だが、隆翔の言う通り、ここでしか知れない事も多くあるのも事実だ。俺たちはどう頑張っても21世紀より先の世界を、歴史を知る事は許されなかった。でも、今の俺達にはそれが出来る。失った多くのものと比べれば微々たる物かも知れないけど、せっかくのチャンスでもあるんだ。いつまでも暗い気持ちのままでいても何も生まれない。それに、まだ21世紀の日本に帰れないと完全に決まった訳ではない。そう考えると、心の靄が晴れていく様な感じがした。俺は隆翔に笑い掛けた。

 

 「まったく、隆翔は昔から変わらず色々と逞しいな。」

 

 「"今の"裕太もな。」

 

 それどういう意味だよ!俺たちはそれからも満点の星空を背景に他愛のない会話を続けた。

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side 秀夫

 

 「あのー、ヒデオさんちょっといいですかニャ?」

 

 裕君たちが出て行った後、オリバー君がちょっと気不味そうな雰囲気で話しかけてきた。

 

 「どうしたの?」

 

 僕はオリバー君の隣に座って、自然な流れで自分の膝の上に乗せる。日本にいた頃によく飼い猫にしてあげていた事だ。適度に温かくて、フワフワしてて気持ちがいいから癖になる。最初の頃はオリバー君も嫌がっていたけど、今は口では色々と言いながらも、なんやかんや定位置と化している。こんなにカワイイ見た目なのに何メートルもあるモンスターと臆することなく戦える位に強いなんて反則だよ!昔から荒事が苦手な僕からしたら正直羨ましい。

 

 「さっき皆さんが話してた時、ボクは言ってることがよく分からなくて、何だか仲間外れみたいで寂しかったニャ。」

 

 「その、ごめんね。みんな悪気はなかったんだ。これからの事に関わって来る情報だったから、どうしても熱くなっちゃたんだよ。今後は僕も気を付けるし、みんなにも言っておくよ。」

 

 「できれば僕にも皆さんがいた場所の事とか、皆さんがやってる勉強のこととかも教えて欲しいニャ。」

 

 「お安い御用だよ。むしろ、僕たちもオリバー君からはたくさん教えて貰ってるし、何回も助けて貰てるんだからそれくらいしないと罰が当たっちゃうよ。それに、裕君も隆君も自分の分野に関してはすごく話したがりだから喜んで語ってくれると思うよ。」

 

 それから、僕とオリバー君は色々な話をした。日本での生活から、コンピュータを始めたとした文明の利器の話まで、オリバー君には新鮮に映ったようで、とても目を輝かせながら話をしていたのが印象深い。特に科学の話には関心を持っているようだった。僕と隆君がいれば大抵の分野は抑えられるし、これから沢山そういう話をしようと言ったら喜んでくれた。僕たちからも多少は何かオリバー君へお返しが出来そうで嬉しかった。

 

 こうしてまったり話している内に二人とも眠気が押し寄せて来た。再びこうして僕は生きている、そんな実感が込み上げてきて安堵感に包まれる。それが一層、微睡みを加速させる。僕たちが床に就こうとした矢先だった。外から何かを殴打するような激しい、物騒な物音が響いたのは。

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side 裕太

 

 松明の火種も枯れ始め、俺たちは家の中へと戻ろうとした。だが、その消えゆく火に呼応するように、先ほどまで穏やかだった海面が突如として、揺れ始めた。こちらが体勢を整える間も無く、奴らは水面から地上へと上がって来た。月明りに照らされるのは、全長7.5 [m]程の黄色い皮膚に包まれたワニの様な生物だ。おまけに、前後の脚には物々しいスパイク状の棘と鋭い爪まで付いている。どことなくその風貌はジャグラスを思わせるが、その手にある水掻きは、奴らが水辺を縄張りとする生物であることを認識させる。その巨大なワニが三匹、波打ち際から一般的な種類では考えられない程の勢いで跳び上がって来た。

 

 

 俺は突然の出来事に反応できず、呆気なく足を噛まれ地面に押し倒された。それから、気が付けば俺は地面を引きずられ、今にも海中へと引き込まれそうになっていた。だが、助けを呼ぶ事は叶わない。なぜなら、今俺の身体を咥えて引き摺っている個体とは別の個体が、俺の胴体に巻き付く形になり、胸部を圧迫されているせいでまともに呼吸が出来ないからだ。身体を内部から押し上げられるような不快で強烈な苦しみに襲われる。息が吸えず、頭の中にじりじりとした痛みが反響する。徐々に力が入らなくなっていく。もはやこの状態から脱出することは出来ない。さらには俺の胸部や腹部、足元には複数の噛み痕が付いており、大量に出血している。久方振りの死が目前に迫った。

 

 そんな中、この逼迫した状況に似つかわしくない爽快な打撃音がこの場に鳴り響いた。そこら辺に放置されていた木材でも拾ったのだろうか、隆翔は丸太を両手で持って、思い切り俺に巻き付いた個体の頭部を殴打した。だが、このワニは隆翔の剛腕から放たれた一撃をものともしなかった。五、六発ほど殴ったところで、ようやく奴は怯んだ。あのラギアクルスに比べれば大人と子供ほど小さく見える生物ではあるが、その頑強さは奴らが紛れもなくモンスターと呼べる存在である事を実感させる。だが、それも束の間、いつの間にか俺の脚に噛み付きながら引き摺っていた個体が俺から離れ、体を起こして、何やら青味が掛った液体を口から吐き出した。その液体の塊は隆翔の顔面にクリーンヒットした。

 

 「う、うわぁぁぁ、溺れる、溺れ、、。」

 

 その瞬間、奴から吐き出された粘液は隆翔の顔に纏わり付き、離れなくなっていた。隆翔の鼻や口は完全にその粘っこい塊に包まれ、呼吸困難に陥っている。俺は再び引き摺られ始めた。だが、その瞬間に、薄れゆく意識の中、俺に残った僅かな感覚は地面から熱気が伝わってくるのを感じ取った。俺たちが持っていた物とは別の松明が二つ投げ込まれていた。その様子を見るなり、群れのうち、俺を引き摺っていた個体を含む二匹は、火を怖がるような素振りを見せた後、直ちに海中へと引き返していった。残りの一匹は二つの松明に丁度挟まれる様な位置関係になったことで、身動きが取れなくなってしまったのだ。段々と火を前にした奴が衰弱していく様子が目に入ってきた。それと同時に俺も意識を落としたのだった。

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 窓から差し込む光に釣られて俺は目を覚ました。それと同時に身体の至る所が痛むのを感じる。見渡すと、大量の傷口に包帯代わりの布切れが宛がわれているのが見える。死んだかと思ったが、また寸での処で繋ぎ止められたらしい。大量に血が溢れたのは覚えている。多分そのせいだろうか、やたらと頭がふらつくし、立ち上がれそうにもない。振り返れば、秀夫たちと再会してから今日まで常に動きっ放しだった。心身ともに擦り減る様な出来事にも多く遭遇してきた。であるならば、今日一日ぐらいは暇を貰ってゆっくりするのもアリかも知れない。どのみちこの状態では、作業するにしても探索するにしても足手纏いになるだけだ。そんな事を考えていると、部屋のドアがノックされた。

 

 「ユータさん、失礼していいかニャ?」

 

 オリバーの声だ。俺は了承する。オリバーは部屋に入るなり、緑色の液体が入った瓶を手渡してきた。

 

 「ミツムシの液を取ってきたニャ。これを使って今日は安静にしてるニャ。」

 

 「いつも済まないな。ありがとう、大切に使わせてもらうよ。」

 

 俺はミツムシの体液を掌に垂らし、延ばしてから傷口に塗布していく。滲みる痛みが各所で広がるが、それも一瞬のこと。傷口が癒えているのが分かる。本当に回復ミツムシは有難い生物だ。こんな衛生状態の管理が難しい環境下では少しの傷でも破傷風やその他感染症へのリスクは嫌でも付き纏う。命が助かっても、それから更に苦しんだ挙句死ぬのは御免だ。正直それを回避できるだけでも安心感は段違いだ。

 

 「そういえば、昨日俺たちを襲ったあのモンスター何者なんだ?」

 

 落ち着きを取り戻した俺は、気になった事を口にした。

 

 「ああ、あいつらは”ルドロス”っていうニャ。普段は水の中に住んでるからあんまり出会う機会は少ないけど、時たま地上に出て来て手頃な獲物になりそうな生き物を襲うから注意が必要ニャ。あと、群れのオスがいる時は普段よりも長く地上に居座るから、そういう場合はしっかり周囲を警戒する必要があるニャ。オスはメスのルドロスよりも何倍も大きくて、強さもドスランポスやドスジャグラスを超えてるニャ。」

 

 そういえば、イリエワニ?だったかな、そんな名前の巨大なワニが人を喰ったなんて報道を昔テレビで見た事がある。その時の映像を見た限りではワニは一匹でいたようだったが、ことルドロスに関しては、そうではないようだ。人喰いの巨大ワニと同じくらいのサイズ感の生物が群れを成していると考えると、何とも末恐ろしい話だ。ただ、俺たちの常識から考えればルドロス程の生物であれば、一匹いれば一帯の頂点捕食者にでもなれそうな物だが、あのラギアクルスと比べると力不足感は否めないから、この島の常識に照らし合わせれば不思議な話でもないか。話を続けよう。

 

 「襲って来たあいつらはどうなったんだ?」

 

 「それなら三匹いたうちの二匹には逃げられたけど、一匹は松明の火で動けなくして仕留めたニャ。あいつらは乾燥に弱いからずっと陸にいると自然と弱るニャ。今はヒデオさんたちが死体の解体をしてるニャ。それと、リュートさんは酸欠になってただけで特に別状はなかったニャ。」

 

 隆翔も無事なようで本当に良かった。それにしても、あの水の塊は厄介そうだ。顔にへばりつけば最後、陸上にいるにもかかわらず溺れてしまい、終いには奴らのホームである水中に引っ張り込まれてしまう。そうなれば生還するのは困難だろう。ルドロスたちがこの近辺の海辺を縄張りとしているという事は、今後も襲撃される危険性は常にある。しかしながら、ルドロス対策のために火を焚いてしまうと、今度はブナハブラを呼び寄せる結果になりかねない。どちらにしてもあまり好ましい物ではない。もっと言うと、俺たちが留守にしている間はここを守る者はいないので、襲われ放題だ。現状の俺たちの戦力でその問題を解決できる手段を何か用意できないだろうか?拠点が壊滅したり、そうはならなくても修理が必要になったりすれば、俺たちの目標であるコントロールセンターは遠ざかるばかりだ。俺はその旨をオリバーに話した。

 

 「ユータさんの言う事は尤もニャ。一応、小型モンスター程度なら留守中でも勝手になんとかしてくれる手段はあるにはあるニャ。」

 

 その一報に俺は唾を飲んだ。こういうのは相談してみる物だ。

 

 「その名も”プラントX”だニャ。外敵が接近したら液状の胞子を敵目掛けて発射して迎撃してくれる植物ニャ。」

 

 そんな植物まであるのか、この島には。それなら、流石にリオレイアやアンジャナフ級のモンスターは荷が重いとしても、ルドロスやランポスへの対抗手段は獲得できることになる。この前みたいに群れの襲撃に遭っても、拠点に籠城するという選択肢が生まれるのは魅力的だ。プラントX、是非とも今後のためには入手しておきたい代物だ。

 

 「ただしニャ。」

 

 オリバーは念を押すような声色で重々しく語った。

 

 「プラントXの種が拾えるのは、ここから少し北に行った"沼地"に入らないといけないニャ。沼地はここや森の中とは比べ物にならないくらい危険なモンスターで溢れ返っているニャ。今のこの戦力で行っても、みんな揃ってモンスターの胃の中ニャ。だから、せめて最低限沼地に赴くためには、戦闘向きの環境生物や小型モンスターのテイムが必須ニャ。」

 

 どうやら、俺たちが真に生活を安定させるのは当分先の話になりそうだ。沼地、当面の俺たちの目標はそこに決定した。




 今回登場したモンスターはルドロスです。MH3が初登場の小型モンスターで最近ではRiseシリーズやストーリーズ2にも登場しています。初登場の3および3Gではちゃっかり登場ムービーまで用意されていたりします。私はよくありの最中に邪魔をされた経験があり、はっきり言っていい思い出はありません(笑)。


 さて、彼らの旅は新たな場所へと向かおうとしています!彼らはどう戦力を整えていくのでしょうか?意外な奴らが登場したりしなかったり。次回、テイムラッシュ!お楽しみに!


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Version15.11:空を舞う第二の獣

 一日の休息を取った後、俺たちは再び野に繰り出すことになった。今回は沼地へ赴くための前準備として、森の中に入って戦闘にも転用出来る能力のある環境生物を探す。オリバーによると、凡その目星は付いているらしい。尤も遭遇できるかは運次第ではあるが。今日は先日テイムしたアプトノスの「ラッキー」を伴っている。この前仕留めたルドロスの皮を加工して、秀夫がラッキーのための鞍を作成してくれた。これにより、騎乗しての移動が可能になった。鞍の両サイドには収納ボックス(小)を紐で固定して配置している。ちょうど、砂漠を行くラクダの様な出で立ちだ。初遠征では専ら荷物持ちとして専念してもらう事になる。そのお陰で、今回は前回と異なり多くの物資を持っての遠征と相成った。食料だけでなく、にが虫由来の解毒剤や石鹼等の医薬品や替えの槍、出先で使うかもしれないつるはしや斧などのツールも一通り持ち合わせている。また、まとまった量の皮が手に入ったおかげで、「革袋」を作成することが出来、水筒も完備されている。ただ、密閉が甘いので少しずつ漏れ出してくるのが難点ではあるが。鞍に括り付ける時は、男三人でもかなりの重労働となるぐらいには重い荷物だったが、ラッキーは余裕の表情だ。ジャグラスの群れの苛烈な襲撃から生還した幸運のアプトノスには是非とも期待したい。

 

 

 「キナコ、留守番は頼んだぞ!」

 

 

 家の中にいるカモシワラシの「キナコ」に声を掛ける。キナコは得意気な顔で前脚を上げ、敬礼する様なポーズを取った。分かってくれたのかは定かではないが、俺たちはその様子を見届け、まだ陽が完全には昇りきってない中で出発した。

 

 

 森に入る前に、導蟲を使って、周囲にモンスターの痕跡が無いかを探る。肉食生物らしき物があれば探索は即効で中止だ。今回は幸先が良く、この周囲で危険な生物の痕跡は確認されなかった。一先ずの関門は乗り越えられた。俺たちは、海岸を歩くガーグァやケルビの群れを横目に森の中へと入っていく。森に入るなり、オリバーが木々を見渡して何かを探している。何を探しているのか分からず、怪訝に思っていると、オリバーは蔓草が巻き付いた木の前で立ち止まった。

 

 「この草は”通称ツタの葉”って呼ばれてるニャ。束ねて紐として使う事も出来るけど、一番は火を点けると煙が沢山出るからそれを使った目くらましに使えるニャ。」

 

 言われてみれば見た事ある様な、無い様な、そんな何の変哲もない植物だ。知らなければそんな利用法があるなんて想像も付かない。やはり現地人の培われた知恵は偉大だ。自分ではそもそも、そういう発想に至らないから、知らないというだけで命の危機をいたずらに増やすことになるし、実際それで無駄にやられることにもなった。そういった意味では、こういう経験を積ませて貰えるというのは相当に貴重だ。何かの機会にオリバーにお返しをしたいとは思うが、現状俺たちが用意できそうな物は無い。それまでみんなにこれ以上何事も無く過ごせれば良いが。そうこうしていると、オリバーは今度は木の根元に生えている丸くて紅い花の咲いたシダの様な形をした植物を指さした。

 

 「これは火薬草っていうニャ。擂り潰して火打石や"ここにはないけどニトロダケ"っていうキノコと混ぜ合わせることで爆薬になるニャ。ボクが使ってた爆弾もこれから作ったニャ。あと、香辛料としても使えたはずニャ。」

 

 現状俺たちが作成できる武器では小さなモンスターにすら有効打を与えられない。俺たちも爆弾を利用できるようになれば多少ではあるが、モンスターの堅牢な外皮や甲殻にダメージを与えられることになる。ある意味では現在の俺たちに最も必要な自然の恵みと言える。しかもそれでいて、香辛料としての効果もあるのは狡い。冷蔵庫が無いから食材の保存は食料保存庫に頼りきりだが、それも完全ではない。そこに香辛料が加われば、より長く食料を保持できる。おまけに料理の質も向上する。もはやこれ以上ないと言える程、サバイバル向きの植物だ。

 

 「なあ、折角だ、この火薬草を土ごと持って帰らないか?栽培できるか試す価値は十二分にあると思う。」

 

 隆翔が提案してきた。俺も異論はない。ここは器用な秀夫にその回収を任せる。本来は水を汲むために作った木製の升をプランター代わりにして植え替える事に成功した。今日はとても上々な滑り出しで、否が応でも先への期待感は高まっていく。一先ずは荷物の一番上に置いて探索を続行する事にした。

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 それから、導蟲を使い、あるいは自分たちの目視で何か生物の痕跡が無いか確認する。すると、地面に明らかに土や砂とは異なる白い筋が走っているのを見つけた。俺はしゃがみ込んで、その白線を指でなぞった。それらは粉状になっており、どうやら既に乾燥しているようだ。俺は恐る恐る臭いを嗅いだ。この臭いには覚えがある。先日ジャグラスの群れをおびき寄せるために使用した白銀の色をしたガスと同じだったのだ。これは何か生物由来の物質だったりするのだろうか?

 

 「オリバー、この白いのこの前使った白いガスと同じ臭いがするけど、これも何か生物が出した物なのか?」

 

 「それは多分"エンエンク"っていう環境生物の痕跡だニャ。この様ならまだそんなには離れてないと思うから導蟲を使って追いかけるニャ。」

 

 導蟲にマーキングさせると、すぐに動き出した。すると、近くの茂みの周りに滞留し始めた。どうやらそこにエンエンクはいるらしい。俺たちは慎重に足音をなるべく立てない様に気を付けて近付いていく。茂みの隙間からリスのそれにフサフサの白く長い毛を生やした尻尾が垣間見えた。恐る恐る茂みの中を覗き込んでみると、そこには可愛らしい白い毛玉ともいえる生物がちょこんと佇んでいた。全体的なフォルムはイタチに似ているが、顔の雰囲気や髭の付き方なんかはどことなくネコらしさも感じさせる。イタチよりも全身の毛は長く量も多い。背中から体側に向かって伸びる体毛は地面に着く程だ。尻尾にも相当量付いており、その長さも相俟って、全身の大きな部分を占めて見える。エンエンクが出すガスの特性上、テイムしても完全に俺たちのメリットになる訳ではないが、この前みたいなこともあるかも知れないので、慎重を期したうえで運用すればモンスターに出くわしたときの選択肢は広がる。餌もイタチと同じで雑食ならば、そこまで苦労しないだろう。

 

 「なあ、今回は俺がテイムしていいか?」

 

 隆翔が名乗りを上げた。そういえば、キナコもラッキーも俺がテイムしたんだった。俺ばかりやり過ぎるのも良くないから、今回は譲ろう。

 

 「エンエンクはアプトノスと同じ様に餌を手渡ししてあげると懐いてくれるニャ。雑食性だからお肉でもベリーでもいけるけど、お肉の方が好みだニャ。」

 

 オリバーがそう言うなり、隆翔はラッキーの荷物の中から生の肉を取り出した。この島の動物の多くは焼いた肉でも食べてくれるようだが、やはり最も好きなのは新鮮な生の肉であるらしい。隆翔は斧で肉をエンエンクにとっての一口大に切ってから、姿勢を低くし目の前に差し出した。エンエンクは警戒しながらも、餌という刺激には抗えない様で隆翔の手先からぶら下がる生肉に興味津々な様子だ。顔を近付けては離してを繰り返している。しばらく続けた後、エンエンクはついに誘惑に負けたのか、前脚を器用に使って肉を掴み、いそいそと食べ始めた。隆翔は食べ終わるタイミングを見計らっておかわりの肉を差し出す。エンエンクも食欲には勝てないのか、最初の警戒心は何処吹く風、追加の餌を今か今かと待ちわびる様に目を輝かせている。それからは、なし崩し的に事は進んでいき、今では、先程のエンエンクは隆翔の肩に乗っている。

 

 「エンエンクは尻尾からモンスターをおびき寄せる効果のあるガスを出せるニャ。それを使えば別のモンスターの所に誘導して争わせたり、罠に嵌めたりできるニャ。ガスを出させたいときはこんな感じで手を叩いて合図してあげるニャ。」

 

 オリバーがパンパンと手拍子をするとエンエンクは隆翔の肩の上から降りて、オリバーの前に移動した。そして、尻尾を突き出して白く輝くガスを放出した。それと同時にオリバーはエンエンクの尻尾の先に瓶を差し出し、ガスを封入した。見た目的にはそう汚いとは感じないが、臭いの方は獣臭さが強くあまり嗅いでいて良い物ではなかった記憶がある。ただ、恐らくれによって効果が生まれているのだから文句も言えない。

 

 「ボクの集落では直接連れて行く以外にもこうやってガスを保存して使う事もあったニャ。ただ、瓶の原料はもっと島の奥に行かないと取れないから、今はこのやり方は難しいけどニャ。」

 

 なるほど、それならより柔軟に利用できそうだ。この前のドスジャグラスの時は俺自身がガスを被って、デコイの様な役割を果たした。逆にその瓶をモンスター相手に投げつければ周囲の別のモンスターに攻撃させてその間に逃げ出したり、あわよくば漁夫の利を得たりも出来るだろう。勿論、そう都合良く物事が運ぶことの方が少ないだろうが、それでも取れる選択肢が増えるというのは相当に魅力的だ。

 

 考えるに、エンエンクたちの他の生物をおびき寄せるという一見すると、リスクの塊にしか見えない奇異な生態もこの島では案外有効なのかもしれない。普通に考えれば、小動物であれば、外敵が現れた際には、大きな生物が侵入出来ない狭い空間や巣穴なんかに隠れてやり過ごすのが無難だろう。だが、この島のモンスターたちはそこまで優しくはない。アンジャナフやジンオウガの様なモンスターと生息域が被っている以上、何かの拍子に巣穴なんて吹き飛ばされてもおかしくはない。

 茂みに隠れるにしても、ランポスやジャグラスなんかは視覚以外の情報にも機敏だからやり過ごせる保障は何処にもない。現に俺も隠れきれずに殺された経験がある。ともすれば、逃げるという選択肢が生まれる訳だが、これも闇雲に走り回れば良いという事はない。この島の捕食者は全般的に足が速く、そのうえ起伏のある地形への踏破能力もすこぶる高い。愚直に逃げるだけではすぐに追い付かれて奴らの胃の中だ。

 ドスジャグラスの時はドスランポスのいる場所まで誘導したことで、双方の注意をお互いに向けることが出来、俺は難を逃れられた。ドスジャグラスからすれば、人間の様な小さな相手よりも目先脅威となりうるドスランポスの方が問題としては大きいのだから当たり前だろう。恐らく、エンエンクもそれと同じ理屈で今の生態になっているのだろう。そこから考察するに、大型モンスターが単体で現れるよりも、複数現れる方がむしろ俺たちの生存率は上がるのではないだろうか?一見すれば巨大生物に囲まれて余命幾ばくもない状況ではあるが、奴らも協力し合っている訳ではない。むしろ争う様に差し向ければ、一転こちらが一方的に有利となる。振り返れば、これまで必死に生き残ろうと取っていた行動は、この島の常識からすると酷く不合理なものだったのかもしれない。

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 エンエンクのテイムを終えた俺たちは、現在森の中で木々の幹を具に観察していた。昆虫を採集するためだ。採集した昆虫は秀夫お手製の虫かごに入れている。と言っても、日本の小学生が肩に下げている様な小ぢんまりとした物ではなく、動物用のケージぐらいの大きめの物だ。数十センチあるのが標準的なこの島の昆虫を収容するにはこれ程大がかりでないといけないのだ。これもラッキーがいるため、気軽に持ってこれたのである。現状の成果としては、にが虫が一匹に光蟲が三匹ほど。光蟲は虫かごに移すのに苦労した。なにせ、刺激を与えすぎてしまうと、しばらく目が明けられないほど強烈な閃光を喰らってしまうのだ。そのため、持ち上げる時から、かごの中に安置するまでの間、かなり神経を使わされた。ともあれ、上々な戦果ではある。欲を言えば、もう少し光蟲の数を揃えたいが、飼育するとなると一度に大量と言うのは難しいため、このくらいが妥当だろう。そろそろ切り上がるべきかな、と考えていると、ふと木に止まったある虫が目についた。

 

 30 [cm]は悠に超える巨大な甲虫というのか?カブトムシやカナブンに似た見た目の昆虫がいた。先程の二種類の虫よりも明らかに体格が大きく、強そうだ。とはいえ、昆虫は昆虫だ。流石に戦力として数えるのは無理がある。とはいえ、一応報告しておこう。何かとんでもない効果を持った分泌物なんかを隠し持っている可能性は大いにあるし。

 

 「おーい、こっちで三十センチぐらいあるデッカいカナブンみたいな虫を見つけたんだけど、こいつは何か役に立ちそうかな?」

 

  俺の呼びかけに応じてみんなこちらへと来た。

 

 「あー、それは”マルドローン”っていう”猟虫”ニャ。」

 

 「その、猟虫っていうのは?」

 

 聞きなれない単語に俺は思わず、聞き返す。

 

 「その名の通り、狩猟に使われる虫の事だニャ。言う事をちゃんと聞いてくれて、大型モンスターと闘う時でも、ダメージを稼いでくれたり、囮になってくれたり、八面六臂の活躍をしてくれるニャ。」

 

 あまりイメージが湧かないが、鷹狩りで使う鷹みたいな感覚なのだろうか?大型モンスターとの戦いでも活躍できるというなら、ここでテイムしてしまうのも大いにアリだ。仮に俺たちが上手く扱えるのであれば、危険な沼地に飛び込む際には護衛役としての役割の一端を任せられる可能性だってある。

 

 「それなら、今回は僕がテイムを担当してもいいかな?」

 

 秀夫が名乗りを上げた。そういえば、俺たち三人の中で秀夫だけがテイムを経験していない。ならば、ここは秀夫に任せよう。

 

 「それで、オリバー君、このマルドローンはどうやってテイムするの?」

 

 秀夫が問いかけると、オリバーは周囲の茂みを漁り始め、なにやら何かを探し始めた。

 

 「あったあった。ヒデオさんにはまず、この花の蜜を身体に塗ってもらうニャ。そうすると、匂いに釣られて猟虫が寄って来るニャ。その時に自分の身体の体液を吸わせると懐いてくれるニャ。」

 

 それを聞いた瞬間に秀夫の顔が青くなった。隆翔が「代わろうか」と提案するが、秀夫は「言い出しっぺは自分だからと」覚悟を決めた様子で言う。秀夫は一度深呼吸をしてから、腕をまくりオリバーから渡された花から蜜を絞り出した。それから、自分の腕にそれを塗り付けた。すると、今まで木に止まってじっとしていたマルドローンが翅を広げ、秀夫の腕に飛び移って来た。マルドローンは頭を左右に動かして、何かを探る様な動作をした後、口から何やら細い管の様な器官を出してそれを秀夫の腕に刺した。その瞬間、秀夫は「痛っ!」と声を上げ、苦悶の表情を浮かべている。マルドローンから放たれた管は、太めのストローと同じくらいの直径がある。それが先端だけとは言え、刺さっているのだから、その痛みはかなりのものだろう。しばらくすると、マルドローンの管に赤い流れが見えた。秀夫は立っているのもやっとという様相だ。これが終わったら、今日の所は引き返した方が良さそうだな。マルドローンは秀夫から管を引き抜くと、再び飛翔し、今度は秀夫の右腕に抱き着く様な形で止まった。どうやら、これでテイムは完了したようだ。

 

 「秀夫、大丈夫か?!何か変な所とかないか?」

 

 倒れ込む秀夫に俺と隆翔は肩を貸しながら尋ねる。

 

 「大丈夫だよ。ちょっと血が抜けただけだから少し休めば問題ないと思うよ。」

 

 取り敢えず、秀夫はラッキーの鞍の上に座らせた。収納ボックスがサドルの両サイドにあるせいで、脚の置き場に困っているようだが、この状態で歩かせるよりは幾分かマシだろう。

 

 「ヒデオさん、お疲れ様ニャ。これを飲めば少しは体力が戻るニャ。」

 

 そう言って、オリバーは二重の革袋に包まれた黄色い液体を秀夫に差し出した。秀夫がそれを口にすると、心なしか少しずつ顔色が良くなっていった気がする。この薬品は"活力剤"といい、その名の通り、服用者に活力を与え自然治癒力を活性化させる効果があるそうだ。にが虫から取れるエキスとハチミツ、そして”マンドラゴラ”という何とも恐ろしい名前のキノコが材料のようだ。さらに、その活力剤を粉末状にしたケルビの角と共に煎じることで、質の高い傷薬に調合する事が出来るようだ。現状では活力剤を大量には用意できないが、覚えておいて損は無いだろう。薬品の材料は案外、自分たちの周囲でその多くが取れることが分かった。プラントXを入手して拠点が安定した暁には、それらの栽培を試みるべきかも知れない。やることはまだまだ山積みだ。

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 森から出た俺たちは休憩を兼ねて昼食を取っている。前回の遠征では干し肉だけという何とも物悲しいお品書だったが、今回はラッキーに持ってもらえるお陰でベリーや焼き魚なんかも付いて、幾らか豪華になっている。一応ちょっとしたお弁当と言える程度ではあるはずだ。

 

 休憩を挟んだおかげか、先程まで消耗していた秀夫も大分元気を取り戻したように見える。もう少しだけ休んでから大事を取って、今日は夕飯の食材の確保だけして帰るのが吉かもしれない。成果も大きいから無理を押す必要も無い。和やかな雰囲気のみんなを横目に俺は、用を足すため、少し離れた茂みに移動した。

 

 

 一人で用を足す瞬間というのは、とても緊張感に溢れている。文明的な生活を送っていた頃は、安全な個室に囲まれていたので、そんな事は露ほども感じたことは無かったが、今こうして無防備な状態でいつ外敵が現れてもおかしくない状況に晒されると、心臓に悪い事この上ない。

 

 無事に事を終えた俺は、安堵感から大きくため息を吐いた。それから、俺はみんながいる場所に戻ろうと足を踏み出した。が、その足が次の一歩を踏みしめる事は無かった。唐突に足元に浮遊感が漂った。それと同時に視点が見る見るうちに上に昇って行くのが分かる。肩先には、鋭い爪の様な何かが食い込んでいる。俺の両肩から出血しているのが分かる。先程まで踏みしめていた地面が段々と小さくなっていく。俺は未知の脅威に戦々恐々としながら、視線を上へと持ち上げた。

 

 俺の頭上にはワイバーンがいた。猛禽を思わせる凛々しい顔立ちに、しなやかな肢体。全身は鳥の様な羽毛ではなく、爬虫類然とした鱗状の皮膚に覆われている。身体の大きさは翼竜のメルノスと同じくらいだろうか。俺はその翼竜に似たワイバーンに乱暴に掴まれた状態で、今空を飛んでいる。俺の上下に広がる景色はそれを自覚させるには十分だった。その瞬間、下半身に冷たい物が流れてくる。俺はかつてない程の物凄い声で絶叫した。俺の手はこの小さなワイバーンの両足を反射的に掴んだ。だが、それが俺を更に窮地に追い込むことになる。急に何の前触れも無く足を掴んでしまったせいで、ワイバーンは怯み、その拍子に俺の肩を放してしまった。それによって俺は、大空を往くワイバーンに両手でぶら下がる形と成り果てた。高度は10 [m]弱、落下すれば命は無い。俺は死に物狂いで両手に力を込める。しかしながら、両肩から出血しているせいで、満足に力を入れ続けることは出来ない。それでも俺の生存本能はしがみ付き続ける。時折力が抜け、手を放しそうになるが、寸での処で再び持ち直す。そんな流れを何度も繰り返した。それもいつまで保ち続けられることか。もう腕がもげそうだ。耐えられなくなり、ワイバーンの脚が俺の指からすり抜けた瞬間だった。

 

 左腕のインプラントが点滅を始めたのだ。俺はこの現象の正体に覚えがある。テイムが完了した時の動きだ。一緒に空を飛ぶことがテイムの手段なんて予想が付くわけがない。そんな突っ込みを心の中でしながら、俺は落下を始めた。どんなに足掻いて生き延びた所で、最後がこんなにも呆気ないのなら、やっていられない。次こそは天寿を全うしたい。俺は一時の眠りに備えてさっと目を閉じた。そして、腹部に衝撃が訪れるのをただ心待ちにする。だが、その時が来ることは無かった。

 

 

 「キィィィー!」

 

 

 隼を思わせる甲高い鳴き声が辺りに響く。それと同時に再び肩に力がかかるのを感じた。ただ、先程と異なるのは、荒々しく突き刺す様な掴みではなく、そっと指先を添わせる優しい掴みであった事だ。それでも傷口が痛むのには変わりないが。閑話休題、俺はまたしても命の危機を救われたのだった。




 最後にテイムが完了したモンスターは、MHFにて登場したオトモのホルクです。戦闘力も高く、PVなどでは人間をピックする描写もあったため、ARK的に言うとかなり優秀な生物だと思います。

 猟虫に関しては、この世界には操虫棍が存在しないため、ゲーム本編とは異なる扱い方になります。また、細かな設定に関しても独自の解釈を多く含んでおります。(操虫棍使いの方には申し訳ありません)

 エンエンクの能力の発動方法に関してもモンハンのゲーム本編ではなく、ARKの肩乗せ生物に合わせて設計されております。今後もテイムを行う関係上、こうした改変を行う可能性がございますので、ご理解の程をよろしくお願いします。


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Version15.12:決戦!強敵、ドスランポス現る!

 またまた投稿が遅くなってしまい申し訳ありません...今月は多忙だったのと、私生活で色々あったため、どうしても執筆に手が付かず、という次第でございます..来月の半ばくらいまではリアルの方が忙しいので投稿できないかもしれません。お待ちいただいている読者の皆様には重ね重ね申し訳ないのですが、どうかご容赦ください。


 あの後、俺の叫び声を聴いたみんなが駆けつけてくれた。両肩の怪我に加え、突然のフライトによって腰が抜けたため、秀夫共々、アプトノスの"ラッキー"のお世話になっている。成り行きでテイムに成功したあの小型のワイバーンは、"ホルク"と呼ばれる種であるらしい。ホルクは島の生物の中でも特に人間に懐きやすいものの一つであるらしく、口笛による命令で多様な戦法での戦いを展開できるそうだ。オリバーによると、猟虫とホルクがいれば、戦略を練りさえすれば並の大型モンスターであれば、相手取っても十分に戦力として数えられるという。肝の冷える事態ではあったが、結果として大きな戦力を獲得することが出来た。まだ少し早い時間ではあるが、今日の所は引き上げることにした。

 

 

 それは帰路の途中での出来事だった。導蟲が肉食竜と思しき足跡を検知した。俺たちの間に動揺が走る。足跡は海岸、すなわち俺たちの帰路に沿って進んでいる。この足跡の形には見覚えがある。ランポスの物に酷似している。強いて異なる点を上げるとするならば、その大きさだ。今ここにあるのは、平均的なランポスのそれよりも二回りほど大きい。そこから考えられるのは、ドスランポスの襲来、だ。

 

 拠点に戻るためにはこの道を通るのが最も早く、そして安全なはずだ。迂回をするならば、どうしても森の中に入らなければならないからだ。視界も足元も悪い森の中でランポスやジャグラスに囲まれるなり、アンジャナフに鉢合わせるなりしてしまえば、被害を受けるのは避けられない。出だしから折角テイムした生物たちを失うのは今の俺たちにとって余りにも痛い。かと言って、このまま進み続ければドスランポスと接敵する事になる。どちらを取るにしてもリスクはある。目先のドスランポスを回避するか、回避した先で更なる脅威に遭遇するのを覚悟で迂回するか、俺たちは選択を迫られている。

 

 

 順当に考えれば見えている脅威は避けたいところだ。仮に迂回したとしても、必ずその先でモンスターと出会うとは限らない。そういった意味では僅かにでも戦闘を避けられる可能性のある後者を取るのが合理的な様に思える。だが、それが長期的な視点で考えても最良であると言えるのだろうか?これから島を探索していく上で今と似た状況に多く対処しなければならないだろう。最悪、今回とは違って逃げ場がないシチュエーションだってあるかも知れない。俺たちはこの数日間で少しずつ、着実に戦力や知識を手に入れた。だが、その扱い方は知らない。そういったことは実践を通してではないと身に付かない。幸いドスランポスはこの島に棲む大型モンスターの中では最も非力な部類に入るという。ともすれば、ここよりも危険な沼地への遠征、その練習も兼ねてここで戦うという選択肢もアリかも知れない。

 

 「なあ、みんな、聞いてくれないか?」

 

 俺は今考えた事をみんなに話した。やはり、というべきか反応は芳しくない。

 

 「裕太の言う事も一理あるとは思うが、現状の手負いだったり、本調子じょない状態の人がいる戦力で果たして敵うのか?」

 

 「僕も時には戦うのは大事なことだとは思う。でも裕君が怪我をしてるし、僕はそんな状況で無理を押してほしくはないかな。」

 

 隆翔も秀夫もそれぞれ戦闘に関しては否定的だ。各々の懸念も至って妥当なものだ。これに関しては俺が突飛な意見を出しているに過ぎない。ホルクのテイム中に起こった体験が壮絶過ぎて、興奮冷めやらぬ状態にあったためか、怪我の事を失念していた。俺は二人に冷静ではなかったことに気付かされた。それから、少し間を置いてオリバーが話し始めた。

 

 「ボクは戦うのに賛成だニャ。」

 

 意外なその言葉に言い出しっぺの俺でさえ面食らってしまった。そんな俺たちの雰囲気を正すようにオリバーは重々しく続けた。

 

 「ここでドスランポスを倒せれば、大きな収穫になるニャ。アイツから取れる素材を使えばみんなの装備や持ち物を見違える程にパワーアップできるニャ。むしろ、その位しないと沼地やその先の探索は難しいニャ。だから、ドスランポスを見つけた今、戦うのは決して悪い選択じゃないと思うニャ。幸い、この前のドスジャグラスの時みたいに、本来の縄張りじゃない場所で出会うなんて、イレギュラーな状況じゃないからある程度は周りを気にせず戦えるニャ。」

 

 一呼吸置いて更にオリバーは続ける。

 

 「戦力なら今いる生き物たちや皆の状態でも、上手く戦えば倒せる可能性はあるニャ。」

 

 現状、俺たちが連れている生物はアプトノスのラッキーに、光蟲、エンエンクに猟虫のマルドローン、そしてホルクだ。光蟲以外はろくすっぽ生態を知らないので、戦闘においてどう運用して良いのかすら俺には分からない。

 

 「それに、何も正面切って戦う訳じゃないニャ。徒党を組む種類のモンスターは身体の小さいボクたちアイルーにとっては天敵ニャ。一匹のリオレイアよりも数十匹のランポスの方がボクたちにとっては脅威になるニャ。だから、そういう時のための作戦にも詳しいニャ。それとユータさんにはなるべく安全な役割に徹してもらうニャ。」

 

 オリバーの言葉を聞いて俺たち三人の空気は、少しばかり希望を含んだ物に変わった。二人も覚悟を決めたようだ。それから、俺たちは作戦会議を行い、みんなで意見を出し合って各々の分担や配置を決定した。痕跡を追わせた導蟲が戻ってきた。反応を見るに、どうやらドスランポスはこちらへ向かって引き返してきているようだ。俺たちは各々決められた配置につき、決戦の時に備える。

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 戦場に選んだのは海岸。そもそも奴らのテリトリーは森林だ。視界と足場が悪い中で、さらに保護色となる連中の群れと対峙するのは些か不利にも程がある。そのため、地形の面で過不足ない海岸が選ばれたのだ。といっても、俺だけは森の中だ。俺の役割は「秘策」を実行すること。俺はみんなの戦いを見守りつつ、タイミングが来れば奴に一手を与える。そのために、俺は今茂みに身を縮ませて隠れている。チャンスはたった一度だけ、そのプレッシャー俺の手は震えを抑えられないでいる。

 

 そんな中、向こう側ではドスランポスの誘導が始まった。誘導の主役となるのはエンエンクだ。彼らが出すガスの性質を利用するのだ。ガスの散布を行うのは隆翔だ。導蟲の先導の下、ドスランポスへと接近し、自らがガスを纏う事でデコイとしてみんなの下へおびき寄せるというシンプルながらも相当な危険が付きまとう作戦。だが、今回は頼もしい助っ人がいる。ホルクだ。ホルクの膂力は凄まじく、人一人を担いだ状態でも軽々と飛行を行える。空の上からであれば、隆翔に危険が及ぶ可能性は著しく低下する。隆翔が移動の口笛を吹くと、ホルクは肩を掴み、低空飛行を開始した。そして、隆翔は導蟲を指さしながら、追従の笛を聞かせると、ホルクは見事に俺たちが想定した動きをしてくれた。本当に今日初めて仲間になったとは思えない順応の速さだ。

 

 それから、どれくらい経過しただろうか。何も起こらない静けさがより緊張を増加させる。何度唾を飲んだかは分からない。手元の仕掛けを眺めてはみんなの方を向いての繰り返し。何度目かももう忘れた中、静まり返った海岸に風を切る音が鳴り響いた。隆翔は無事に戻ってきた。その背後には予定通り、ドスランポスが五匹の子分を引き連れて走ってきた。ホルクの着陸が開戦の合図だ。俺はそれに備えて目を閉じた。

 

 ホルクが着陸した瞬間、秀夫の肩に乗った光蟲は、秀夫の手拍子と同時に眩い光を放った。光蟲は普通、絶命するタイミングで大きな光を放つが、それよりも出力を下げれば放ち終えた後でも生存する事ができる。光量が減っても、ランポスの群れを一時的に行動不能にするのに容易い量は担保されている。ただ、その場合は光蟲の負担になるのか、所謂クールタイム的な待ち時間が発生するため、連発する事はできなくなる。

 

 何も映らない世界に、閃光がさく裂した時特有の弾ける様な音が響き渡った。それと同時に俺は目を開いた。向こう側の様子はというと、ドスランポス一行は全員閃光の餌食となり、立ちぼうけの状態になっている。ここまでは当初の目論見通りだ。重要なのはここからだ。ドスランポスの最も大きな脅威は子分による群れの数による暴力だ。それを奴らが眩暈から立ち直るまでの僅かな時間に少しでも多く削らなければならない。ここからはスピード勝負だ。しかし、幸いにしてランポスの数は五匹とこれまで遭遇してきた群れと比べると、少ない。勝機は十分にある。

 

 隆翔はホルクに攻撃命令を出すと同時に、ホルクが向かった個体とは別の個体へ駆け出した。立ちくらみによって項垂れている一匹の個体の腹部を隆翔は思い切り蹴り上げた。すると、そのランポスは「グギャ」と情けない声を上げ、転倒した。閃光による眩暈と、混乱の影響からか、普段は身体能力高いランポスだが、今回ばかりは直ぐには立ち上がれないようだ。その隙に隆翔は石の槍でランポスの喉元を突いた。ランポスの皮膚は硬く、俺たちの持つ石槍では貫けないが、一か所だけ例外の弱点がある。それは、首を動かすための関節周りの皮膚だ。そこは可動域を確保するために皮膚が他の場所よりも柔軟になっているためだ。隆翔は、その部分に槍を突き立て、その上に乗り掛かる様な態勢となり、全力で体重をかけた。木製の柄はその荷重に耐えられずに途中で折れ、真っ二つになってしまったが、穂先は見事にランポスを貫くことに成功した。

 

 一方、ホルクは隆翔に指示に従い、別のランポスの下へと向かって行った。高度を上げたホルクは、項垂れるランポスへ向かって滑空を行い、急接近した。それと同時にランポスからは三筋の血飛沫が舞い、何が起こったのか理解出来ぬままに倒れ伏していた。ホルクはランポスに近付いたほんの一瞬の間で、脚部の爪を活かした目にも留まらぬ速さの連撃を繰り出していたのだ。ホルクの圧倒的な戦闘力に俺は驚きを隠せなかった。空を飛べるというだけでも今の俺たちにとっては、反則級の能力なのに、この戦闘力があれば探索は今よりも安全でスピーディーな物になる。改めて俺はモンスターの持つ力の凄まじさを認識させられた。

 

 秀夫はマルドローンに攻撃の口笛を吹いて、ランポスに向かわせている。猟虫は俺たちの口笛に合わせて動いてくれるらしい。移動の笛を吹けば指差した地点に動き、攻撃の笛を吹けば対象を攻撃する。だが、猟虫にも持久力の限界があるらしく、定期的に腕に戻して休息させる必要があるそうだ。その場合には追従の笛を吹くことで戻って来てくれるらしい。戻って来た時には僅かばかりではあるが、使役者にも有益な作用もある。猟虫は獲物を攻撃した際にその体液を吸っており、吸い込まれた体液は彼らにとっての栄養となるらしい。ただ、その際に体内に吸収されなかった成分は特殊な処理が施されてエキスとして体外へと排出されるそうだ。使役者がそのエキスを摂取すると、一時的に腕力が上がったり、敏捷性が上昇したりと有益な効果が得られるらしい。ちなみに、その効果は対象とするモンスターの種類や吸った体液の種類によって変わるそうだ。それはさておき、秀夫のマルドローンはランポスの頭部を集中攻撃し、ついには倒してしまった。猟虫は昆虫としては非常に大きいが、モンスターと比べると小さい。それにもかかわらず、自身の体格の何倍もある相手を打ち破る程の力を持っている。種類によってはモンスターから得た体液を粉塵として排出し、それを大爆発させることで途轍もない破壊力を生み出す者もいるそうだ。これからは猟中を積極的に探して全員分揃えるのもアリかも知れない。

 

 オリバーは、ラッキーに攻撃命令を出し、自らもランポスに斬りかかる。オリバーの目にも留まらぬ連撃と、ラッキーの体格を生かしたストンプによって残りのランポスも討伐する事が出来た。残るはドスランポスのみだ。

 

 この島の生物は屈強だ。強力な閃光と言えども長時間無力化することは難しい。それが大型モンスターとなれば猶更だ。全てのランポスが倒されるまでの時間はわずか数十秒から一、二分にも満たない短い物だった。それにも関わらず、目の前のドスランポスはもう臨戦態勢に移っている。口元から白い吐息が漏れる。これは、怒りによって興奮状態に落ち居ている証拠であるらしい。この状態のモンスターは、攻撃はより苛烈になり、俊敏性も大きく向上する。戦いはこれからが本番という訳だ。

 

 ドスランポスは大きく身を屈め、飛び掛かりを行う体勢を取った。ランポス種の最も厄介な攻撃手段の一つだ。人間が喰らえば一発で胃袋行きが確定する。そんな一同の危機を救ったのはなんとマルドローンだった。ドスランポスが跳び上がろうとする瞬間に喉元へと潜り込み、アッパーカットの要領で下から上に突き上げる様に体当たりをかましたのだ。顎先に諸に衝撃が与えられたのが功を奏したのか、情けない声を上げながら唾液を落とし、全身を大きく仰け反らせた。マルドローンはスタミナが切れたのか、秀夫の右腕へと戻っていく。

 

 オリバーはドスランポスが怯んだ隙を見逃さず、手に持った短槍を正面に突き出して、前方へ大きく飛び出した。一度のジャンプで数十メートルあった距離を一瞬で詰めてしまった。本人曰く、今のは「ネコまっしぐらの技」と言う物であるらしい。その小さな身体からは想像だに付かない驚異的な身体能力だ。見た目以上に鋭利なドングリ型の穂先がドスランポスの顔面に直撃する、ように思われた。仰け反ったドスランポスだったが、一発の攻撃でKOされる程に柔な存在ではなかったようだ。後ろに傾いた身体の重心をすぐさま前方へ戻し、目で追うのがやっとのスピードで円弧上にステップを刻んだ。そして、勢いそのままにオリバーへ向けて尻尾を打ち付ける攻撃を放った。この技には見覚えがある。初めて俺がドスランポスと出会ったときに葬られた忌々しき技だ。あの時の情景がフラッシュバックし、俺は思わず目を背けてしまった。しかし、そこは流石オリバーと言うべきか、紙一重で横に身体をずらし、回避に成功した。ただ、咄嗟の反応だったためか、体勢を崩してしまった。

 

 ドスランポスはオリバーを強敵だと判断したのか、その黄色い眼の瞳孔を見開き、更なる攻撃に映ろうとする。そんな折に、ドスランポスの足元に一本の斧が見事な回転を描きながら飛来した。奴の身体を掠める事こそ無かったが、その音と少しの衝撃は奴の注意は確実に引き寄せる事が出来た。投げたの主は隆翔だ。実は隆翔は投擲と同時にエンエンクにガスを射出させていた。そのお陰もあり、ドスランポスの狙いをオリバーから完全に逸らす事が出来たのだ。奴は相変わらず白い息を吐きながら隆翔を睨みつける。だが、当の隆翔には動揺した様子も無ければ、慌てて逃げる様子も無い。ドスランポスはこの隙は逃さんと言わんばかりの勢いで、飛び掛かろうとする。

 

 その一幕だけに焦点を当てれば、あわや大惨事の前触れであるが、実際の処そうではない。なぜなら、奴は怒りに身を任せた影響で、空への注意を完全に怠っていたからだ。そう、俺たちの戦力にはホルクがいる。奴が身を屈めたその刹那、ホルクはその身を大きく翻し、スピンを掛けながらドスランポスに突撃した。嘴からは噛み付き、脚からは連続の蹴りがドスランポスの背中に向けて矢継ぎ早に放たれる。それと同時に、ドスランポスは後方に勢い良く吹っ飛んでいった。

 

 「オリバーッッッッ!」

 

 隆翔の叫び声が響く。ドスランポスは二、三回ほど全身をバタつかせた後、すぐに復帰した。奴の口からは涎がドバドバと滝の如く溢れている。あれは疲労している証拠だそうだ。隆翔の声を聴いたオリバーは動きが明らかに鈍ったドスランポスを横目に隆翔の元へ駆けた。それから、隆翔は身を屈めた。何をするつもりか読めなかったが、答えは直ぐに分かった。オリバーは隆翔の身体を踏みつけ、ドスランポスの背丈を超える程の大ジャンプをしたのだ。そして、そのまま一気に奴の背中へと飛び乗った。当然、ドスランポスは払い除けようと、疲労困憊の中精一杯身体を揺すって抵抗している。一方のオリバーも両足で奴の背中を挟み込み、片手でしがみ付きながら、短槍を背中に突き刺して応戦している。秀夫も、ドスランポスの気を少しでも引くために、再びマルドローンを飛ばし、移動の笛を繰り返して頭部付近をサテライト飛行させている。それから少ししたら、オリバーの短槍が幸運にも深い所に刺さったのか、奴は大きく怯んだ。

 

 そこから、状況は一気に動いた。オリバーは奴の背中から飛び降り、その際に車輪の様に回転しながら、目にも留まらぬ速さで斬撃を与えていた。それによって、ドスランポスは転倒し、大きな隙を晒している。その間にホルクとマルドローンによる攻撃がさく裂した。今までの攻防でかなりのダメージを与えられたように思える。こっちもそろそろ準備をしなければならない。俺は手元の火打石に目を遣った。最後の仕上げは責任重大だ。

 

 森と海岸の境界付近にある数本の木々の間に爆薬を仕掛けている。持って来たすり鉢とすりこぎで挽いた発火粉と、同じく科薬草を挽いた粉末を混合した即席の物だ。一応、オリバーが普段使いしている物と同じ配合で作っているから作動はするだろう。俺が隠れている茂みは爆薬を設置した木々から数十メートル後方の森の中にある。

 

 隆翔は口笛でホルクを引き寄せ、肩に乗せていたエンエンクを掴ませた。どうやら潮時のようだ。俺は火打石を擦り、素早く松明に火を点けた。火加減も良好だ。いつでも行ける。決行の合図はホルクが俺の元へたどり着き、なおかつドスランポスが爆薬の周辺にいる僅か一瞬だ。持ちこたえてくれ、俺の肩。肉が抉れた肩をみやる。

 

 ホルクの切った風が俺の頬に突き刺さった。ちょうど、ドスランポスも目標の地点にいる。今が最後のチャンス。奴の生態上ここで逃せば、あの時の様に大量の群れをけしかけられて報復されるだろう。心臓の鼓動は早まる。それの所為かは定かではないが、肩の痛みは薄れていくのを感じる。

 

 「イッッケッッーーーー!!!」

 

 俺は後先考えない渾身の勢いで、松明を爆薬に向かって投げた。その動作が終わった瞬間、俺は急いで耳を塞いだ。そして、一帯に轟音が鳴り響いた。それと同時に、海岸には砂埃が舞った。俺たちは緊張した面持ちで晴れるのを待つ。視界がクリアになった瞬間、先程の場所には倒れた木々とその下敷きとなったドスランポスの亡骸が確認できた。

 

 こうして、俺たちは初めて大型モンスター相手に勝利を果たした。この島に来たばかりの頃では絶対に考えられなかった事だ。

三人の頼もしい仲間がいて、強力なペットまで出来た。俺は無意識に涙を流していた。みんなのお陰で俺は立ち直れた。みんなのおかげで俺はこうして生き長らえている。謎と危険に満ちたこの島でもまだ希望はある。

 

 




 40話にしてようやくのドスランポス討伐です。自分で見返してて長!って思ったりもしたのですが、モンハンもARKも完全初見&攻略サイト(本)によるカンニング無しの状態なら絶対そのぐらい掛かってもおかしくないだろ!と自分の中で言い訳しております。

 今更ですが、本作品ゆるりと進んでまいりますので気長にお付き合い頂けると幸いです。


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Version15.13:沼地へ

 


 先ほどの戦いの興奮冷めやらなぬ中、俺たちは新たにテイムした仲間たちと共に無事に拠点へと帰還出来た。時刻は既に夕方を回り、辺りは赤く染まっている。討伐したドスランポスの死体を解体していたために、帰りが思いの外遅くなってしまった。本来であれば、丸ごと全部持ち帰りたかったが、流石に推定数トンはあろう巨大な物体をアプトノスで牽引可能な体勢へと動かすには些か人手不足だった。そのため、方針を変えてその場で必要な身体の部位を剥ぎ取って持ち帰ろうという運びになった。俺たちが採取したのは前脚に生えた爪と皮だ。この島に来てから小動物を解体するのにはある程度慣れていたつもりだったが、ここまで大きな獲物は初めてで、苦戦してしまった。石斧では文字通り刃が立たず、オリバーの短槍を借りて何とか作業を進められた。ドスランポスの皮は石製の刃物を通さない程に頑丈なのにも関わらず、非常にしなやかで弾性が強い。これならば、島での活動に耐えられる強度と動きやすさを実現した装備が作れそうだ。爪も鉄の刃物を思わせる程に鋭く、強い。こちらは槍やナイフとして十分に使えそうだ。今日ほど収穫を感じた日は初めてだ。今夜は保存してある魚や肉を多めに使ってささやかな祝宴会を開くのも良いかも知れない。

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 昨夜は雨が降ったようだ。拠点は雨漏りしている。カモシワラシのキナコはジメジメとした空気の中でも元気そうだ。カビと共生するカモシワラシにとっては、湿気が多い方が好みなのかも知れない。昨日は帰ってから日の入りまで僅かな時間で急ピッチでホルクのための柱と天井だけの簡素な東屋を秀夫に作ってもらった。そのお陰か、外に出していたホルクは濡れずに済んだ。ちなみにラッキーの方も普段休ませている場所に簡素な屋根を先日作っていたので無事だった。この島のペットたちは口笛一つでちゃんと定位置に留まってくれるので、日本の飼い慣らされた動物たちよりも遥かに扱いが簡単だ。どうしてなのかは分からないが、こちらとしては有難い事に変わりは無い。

 

 

 秀夫はオリバーを伴って屋根に上って急ピッチで雨漏りした箇所の応急処置をしている。隙間がある箇所に上から板を取り付けて塞ごうとしているのだ。家の中では、既に雨漏りした箇所になけなしの布を使った漏斗が作られており、水が床に広がらないよう処置がなされていた。幸い、水が垂れた箇所は収納ボックスからは離れた位置だったので、物資に目立った被害は無かった。しかし、その代わりというべきか、雨漏りが発生したのは秀夫のベッドの真上だったので、昨晩は碌に寝れてないようだ。そんな中、作業をしてもらうのは申し訳ないが、両肩を怪我してまともに使えない俺が加勢をした所で足手纏いにしかならない。手持無沙汰な俺は東屋の屋根の上で日光浴を楽しむホルクを只々眺めていた。

 

 

 怪我の事を考慮して俺は数日の間安静にするよう皆から言われている。回復ミツムシを使えば一瞬で完治するのだろうが、いつもそう都合良く現れる訳ではない。オリバーが持っている「ミツムシ寄せのお香」という彼らの好む匂いを出しておびき寄せるための道具もあいにく現在は在庫切れらしい。どうやら、ミツムシたちは「回復ツユクサ」と呼ばれる植物から蜜を吸って下腹部の袋に溜め込むという、ミツバチと近しい生態をしている様で、傷が治る成分もその植物に由来する物らしい。そのため、回復ツユクサを拠点で栽培できない現状では、ミツムシを拠点で飼っても意味は無く、野生の蜜を溜め込んだ個体を適宜引き寄せて利用するしかないのだ。昨日拾った火薬草やツタの葉もそうだが、食糧の他にも栽培すべき植物が増えるのも考え物だ。農地のために拠点を拡大しなければならないが、面積が大きくなればなる程にモンスターに襲われるリスクは上がる。そういった意味では、常に拠点を守ってくれるというプラントXは今後の生活や、曳いては島の探索を安心して行うためにも必須の物となるに違いない。

 

 

 一方、隆翔はと言うと、ラッキーを連れて毎朝のベリー採集に出ている。この島の植物は成長が速く、草ごと刈ったとしても数日のうちにまた生えてくるので、毎日採っても枯渇しない。よくよく考えれば不気味な現象ではあるが、そのお陰で俺たちは飢えることは無いので悪い事ではない。ラッキーをテイムしてから持ち帰れる量が増え、さらには騎乗する事で移動時間も短縮されたので良いことずくめだ。しかし、それにしても帰って来るのが遅い。いつもなら出発から1時間程度もすれば帰って来るのだが、今日に限っては2時間経過した今でも帰ってきていない。いつもは安全のため二人一組で行動するのだが、今日は俺がこんななので一人で出て貰っている。隆翔の身にもしもの事があったのではないかと、心配になる。丁度、屋根の修復も終わった様なので、探しに行こうとした矢先だった。

 

 

 隆翔がラッキーと共に戻ってきたのだ。今日はいつもより少しだけラッキーの積荷の量が多い。それに、隆翔も汗を大量にかいており、どこか息が上がった様子だ。その様子にますます心配になり、俺は何があったのか尋ねる。

 

 「鉄を見つけたんだ!それも、鉄鉱石じゃない金属の状態のやつだ!」

 

 なるほど、確かにそれなら隆翔の今の昂り様も理解できる。俺たちは今まで石器に頼って生活をしていたが、それにも大分限界を感じ始めていた。利用可能な鉄を入手できたのは正に渡りに船だ。金属製のツールを作成できれば俺たちの生活水準は間違いなくワンランク上の物になる。文明が一つ進歩する瞬間だ。隆翔はラッキーの両脇に括り付けられた収納ボックスから件の物を取り出した。

 

 それはとても美しい造形だった。龍の鱗を思わせる形状で、彫刻の様に整っている。手に掛かる重みと少し赤茶けた灰色の輝きはがこれが金属であることを示している。鋼の鱗を持つ生物など聞いた事がない。いくらこの島の生物と言えど、そこまで生物離れした突飛な性質は持ち合わせていないはずだ。およそ自然に形成された物には思えない。気品があり洗練されたこの鉄塊は、これまで見たどんな芸術作品よりも妖艶でどこか不気味な雰囲気を感じる。これを加工してしまうのが勿体ない程に、不思議なオーラがあるように思える。それを裏付ける様に鋼の周りに何処からともなく導蟲が集まって来た。

 

 導蟲は青く染まっていた。この現象に遭遇するのも、もう三度目だ。前の時はオベリスクに纏わり付いたカビや微生物の塊だったたり、突然発生した霧だったりした訳だが、どうにも三者の間に共通点は見えない。ヨンキ氏記録の中の謎の龍も然り、霧の後に現れたドスジャグラスも然り、この現象の後には何かと嫌な事が起こる傾向にある。だからこそ、理由を知りたいのだが、こうも法則性が理解できないとなると、やはり原始的な手法だと解き明かすのは難しいのかも知れない。

 

 そんなことを考えていると、導蟲は天高く昇って行った。それはまるで御伽噺の一節を彷彿とさせる幻想的な一幕だった。導蟲にはマーキングした物と同質な物に引き寄せられ、向かうという性質がある。その性質を利用することで、俺たちは探し物を行う事が出来ている。だが、今ここで起こった事に対してもその性質が適用されるとすれば、はきっり言って異常だ。それだと空から鉄の塊が降って来たことになる。まさか、本当に鉄の鱗を持つ生物がいるとでも言うのか?

 

 

 「ああ、それは雨の日の後になると時たま森の中とか海岸に落ちているやつニャ。」

 

 考え込んでいると、オリバーが横からそう言ってきた。雨の日の後?余計に正体が分からなくなる。

 

 「なんかこう、身体が鉄に覆われている様なモンスターとかがいるのか?」

 

 気になった俺は尋ねた。

 

 「ボクが知る限りだとそんなのはいないニャ。言い伝えでは、その鉄は空から降って来る天からの恵みだって言われてたニャ。でも、本当のところは誰も知らなかったニャ。」

 

 ということは、この鉄塊は生物由来の物ではなく、やはり環境由来の物である可能性が高い。だが、それでも疑問は残る。空から鉄が降ってくることなどあり得るのだろうか?そもそも自然界において金属は酸化物や窒化物などの形態で存在するはずだ。こんな感じで精錬された状態では存在しない。ならば、これは一体何なんだ?俺たち以外の人間が作った物なのだろうか。だが、この危険な島で芸術作品なんかを作るだけの余裕があるとは思えない。この島にはしばらく滞在しているが、それらしい人物や集団とも遭遇していない。

 

 「なあ、隆翔、空から鉄が降ってくることってあるのか?」

 

 「一応あるぞ。といっても、隕石だがな。」

 

 思っていたのとは違うな。仮にこれが隕石由来だとするならばこんなにも綺麗な形になる物なのだろうか?しかし、それだと雨の日の後に出現する理由を説明できない。

 

 「ただ、俺が周囲を調べた感じでだが、隕石が衝突したと思われる痕跡は無かった。クレーターも無ければ、植物が焼けた様な跡も無かった。それに、結晶構造が隕鉄で見られるものとは明らかに違うから、隕石の可能性は低いと思う。」

 

 結局この鉄塊の正体は分からず仕舞いだ。発生するメカニズムが分かれば、大量に入手する算段でも立てられるかとは考えたが、どうやらそう上手くはいかないらしい。とはいえ、数本のナイフや金槌を作るには十分な量はあるので、惜しい所もあるが、活用させてもらおう。

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 あれから、一週間ほどの時間が経過した。結局あの鉄は加工する事はできなかった。「製錬炉」と言うエングラムを活用して加熱する事で、鋳造や熱間での鍛造を試みたのだが、鉄塊は柔らかくなるどころか、加熱によってむしろ硬くなってしまった。キレアジのヒレを用いての研磨を試みてもみたのだが、俺たちが良く知る鉄よりも硬い材質だったためか、結局削られなかった。秀夫と隆翔はとても驚いていた。二人曰く、よく知られている鉄の性質とはかなり異なっているらしい。さらに、機械的性質に関しても通常の鉄よりも相当強くて硬いことが判明したそうだ。それを知った時の二人の興奮たるや凄いものだった。ちなみに、実験のためにラッキーに踏ませたり、木に固定した状態でまたもやラッキーに引っ張らせたりする様子を、嬉々として観察しながら砂浜によく分からない数式を長々と書く二人には少し引いてしまった。意外にも、オリバーは二人のやっている事に興味を持ったらしく、談議に花が咲いてしまって俺は肩身が狭かった。

 

 閑話休題、この鉄の加工法の研究に関しては秀夫と隆翔の下で進められることになった。今回の件から、もしかすると、この島に鉄の鉱脈が存在する可能性が高まった。すぐに利用できるかどうかは別として、文明の発展を行える可能性のある資源が安定供給される可能性があるのは、俺たちにとっては大きな収穫と言える。

 

 俺の怪我が治ってから、この島の上空を目指すことになった。理由としては、空の上を見ることで、あの鉄塊の言い伝えの真偽を確かめたいというのと、もしかすると海を覆っていた光の壁の切れ目を見つける事が出来、さらには島からの脱出が行えるのではないかという期待もあったからだ。ホルク一匹では流石に全員を掴んで運ぶのは難しいので、俺たちは海岸付近を飛ぶメルノスを三匹をテイムした。テイム方法はアプトノスと同じく、餌を手渡しする形でのものだ。休憩のため地上に降りた隙を突いて口元へ餌を運んだ。幸い、彼らは人懐っこい気質だったようで、一度餌を与えるとこちらへ興味を示し、飛び去ることは無かった。ただ、アプトノスとは違って雑食性だったためか、肉とベリー双方が必要となり、肉の方が足りなかったので給餌を行う秀夫と隆翔を横目に俺は小動物狩りに奔走する羽目になった。

 

 ともあれ、こうして全員分の飛行手段を確保したので、俺たちは晴れて空の調査に出向けるようになった。とは言っても、実際は移動の笛を吹き続けながら拠点の真上にひたすら昇っていくだけではあるが。飛行するときの体勢はホルクもメルノスも同じで、彼らの足で俺たちの肩を掴む形になる。この前はそれが原因で、ホルクの爪が肩に食い込んで怪我に繋がったため、今回は服の肩の部分に布を詰め込んで、なるべく痛みが無くなるよう工夫した。そのお陰で、特に出血等の怪我を伴うことなく上空へと徐々に上がっている。落下した時の対策も併せて行っている。「パラシュート」というお誂え向きのエングラムが存在したのだ。一応地上で、ではるが風が強い日に展開する練習はしてある。なので、よっぽど焦っていない限りは大丈夫だと考えられる、

 

 やはりと表現すべきか、現実はそう甘くはなかった。竦む足を堪えながら、なるべく下を見ないよう心掛けつつ、ようやく上空4、500 [m]程へと到達した時だった。笛吹いてもホルクたちが上昇しなくなった。その上には海で見た光の壁と同じ物が空一面、地平線の彼方にまで広がっていたのだ。どう足掻いても超える事はできない。とてもではないが、その様を見れば切れ目を見つけられるとは思えなかった。結局のところ、俺たちがこの島から逃れるためには、ヨンキ氏の記録で存在が仄めかされたコントロールセンターに向かうしかないのだろう。なんとも抜け目の無い事だ。加えて、不思議な事がある。それは、高度が増減しても空気の濃度に変化がないという事に関してだ。光の天井がある高度まで来ても特に息苦しさは感じないし、四人とも高山病の様な症状は無く、高さに足が竦んでいること以外は実に好調だった。この事から、この島の酸素濃度は一定になるよう保たれていると考えられる。ヨンキ氏の記録でもこの島の生態系やシステムが人工的に維持されていることが示唆されていたが、今回の件は彼女の記録の信憑性をより高める結果となった。

 

 しかし、あの鉄の鱗の発生源と思われる物は何も発見する事が出来なかった。そこに関しては残念である。本音を言うと、もう少し調査をしていきたかったが、天井に辿り着いてから数分が経過すると、メルノスたちのスタミナが限界を迎えそうだったので、急いで地上まで降りた。今回の調査で得られた物は多くは無いが、翼竜を使役しての飛行の経験を積むことができた。指示の出し方やホルクたちの個性なんかも少しずつではあるが、把握出来ている。今の状況ならば沼地への遠征も十分に可能だろう。

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 調査から数日、俺たちはついに沼地へと向けて出発する。今回の遠征はスピード勝負だ。沼地は危険なモンスターに溢れており、長時間の滞在は不可能だ。そのため、空路で沼地まで向かい、プラントXの種を回収したら即効で空を飛んで離脱する計画だ。一応、ホルクもメルノスも夜目が効くのだが、夜行性のモンスターもいるため、日帰りでの決行になるため、出発は早朝だ。俺はホルクに掴まれ、他の三人はメルノスに掴まれる。秀夫の腕には先日テイムしたマルドローンが、隆翔の肩にはエンエンクが連れられている。今までにない緊張感に包まれる中、俺たちは飛翔した。

 

 




 今回からテイムしたモンスターや環境生物が実際にARKのゲーム内に登場した時の能力予想、というか妄想をするコーナーを始めようかと思います!ただし!ゲームの方に準拠して考えるので、小説本編の描写と異なる場合があるのは悪しからず!という訳で、第1回となる今回は本編で最初にテイムした環境生物であるカモシワラシについてです!

カモシワラシ
区分:肩乗せ生物
テイム方法:手渡しテイム
テイム時の餌:ベリー、野菜、キブル(basic)

能力:①時間経過でインベントリ内に「カビの胞子」を生成する。「カビの胞子」  
    には2つの効果がある。一つ目は、堆肥箱やフンコロガシのインベントリ
    内に入れる事で、発酵が促され、肥料の生成時間が短縮される。二つ目は
    たき火、調理鍋工業用調理器具、工業用グリルのインベントリ内に入れて
    こんがり肉や料理の作製を行うと、それらの効果全般が向上する。また、
    胞子はカスタムレシピの材料にすることも可能である。そのため、上級者
    のサバイバーのインベントリには、しばしばカビとエレメントダストの混
    合物が見られる。

   ②リストロサウルスやヒエノドンと同様になでる事が出来る。なでると、周
    囲のサバイバーに一定時間バフを付与する。バフの効果は、バフを受けた 
    サバイバーがカスタムレシピの作製を行った際に、製作スキルとは別にレ
    シピに対して補正が掛かる。また、このバフはフェニックスやマグマサウ
    ルス、デスモダスに対しても有効で、こんがり肉やサングインエリクシル  
    の効果を高めると同時に製作時間を短縮できる。


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Version15.14:切り裂かれた誇り

 これからしばらく投稿頻度高めでいけそうです!


 アプトノスに大量の荷物を抱えさせての遠征となった前回とは打って変わり、今回は必要最低限の荷物で赴く。ホルクやメルノスはアプトノスとは違って、あまり重すぎては飛べなくなってしまうからだ。現在俺が所持しているのは先日討伐したドスランポスの爪を用いて作った槍と、プラントXを刈り取るための斧、そして沼地に多い毒を持つ生物への対策としてにが虫から取れたエキスを瓶に入れた物がメインだ。あともう一つ、これがまた厄介なのだが、堆肥に使う糞を練って作ったこやし玉を持ってきている。動物が増えたおかげで原料の供給には困らなくなったのだ。と言っても、流石にポケットに直接は入れてない。木製のケースに入れて腰にぶら下げている。若干ではあるが、臭いが漏れており息をするのが億劫になる。宵越しの物資を持っていない故に、今回は可能な限り迅速に行動するよう心掛ける。まだ明け方で眠いがこればかりは仕方が無い。気を引き締める他ない。俺の肩に乗った光蟲に目を遣る。こやし玉も含めモンスターと遭遇した際には今回も大いに頼る事になるだろう。

 

 

 

 今回の航路は海岸沿いに北へ進んでいく。マングローブの木が見えた所が沼地の入口の目印となるらしい。地上10メートル前後の低空を飛行中だ。落下する危険性を考慮してというのもあるが、あまり高度を上げ過ぎると、今度はその空域を縄張りとするモンスターに遭遇してしまう可能性があるからというのが大きな理由だ。そういったモンスターはメルノスやホルクよりも生態的に高い地位にいるため、今の俺たちでは立つ瀬がない。俺たちが住んでいる海岸はどうやらこの島でも一番安全な場所であるそうだ。基本的には草食の小型モンスターが平和に屯していられるという場所はこの島では珍しい。とは言っても、たまに森からランポスが現れたり、海からルドロスが襲ってきたり、果ては餌を求めたリオレイアなんかが飛来してくることもあるのだが。それでも沼地や内陸部の山岳地帯などに比べれば遥かにマシと言える環境であるらしい。

 

 

 

 空の上から島を見るというのは新鮮だ。地上を歩いている時はどうしても視野が狭くなって自分の周りしか見えないが、こうして俯瞰すると意外とこの島は広いことが分かる。遥か彼方には火山の様な形をした山岳が目に入る。俺たちが向かっている方向の遥か遠方には緑の、第二のオベリスクが覗く。それに、多様な生物が見られるのも面白い。拠点の近くではアプトノスやケルビ、ガーグァ等のモンスターがほとんどで、なんとも和やかな光景が広がっている。その辺りから少し北へ進むと、海岸から離れ、生息する動物にも変化がみられる。先述した草食生物もちらほらといるのだが、それらに加えてリモセトスやケストドンに、ブルファンゴといった物々しい面子が増え始める。彼らが現れる辺りからランポスや川を遡上したルドロス等の肉食生物も現れるようになるのだ。そんな場所を徒歩で突き抜ける事を考えると背筋が凍りそうになる。今も下ではケストドンとランポスの群れどうしが鎬を削っている最中だ。少し目を放せば先程まで群れを守ろうと最前列に立っていた体格の大きなオスのケストドンが無残な姿に変わり果てていた。こういった事柄に巻き込まれずに済むだけでも、空を飛べるというのは本当に革新的と言う他ない。ホルクたちをテイム出来て心から良かったと思える。

 

 

 

 飛行は順調に続いている。特に大きな危機も無く、翼竜たちのスタミナも安定している。出発当初はみんなガチガチに緊張していたが、今では雑談に花を咲かせる余裕すらある。沼地までの距離はもう半分を切った所だそうだ。ついに、沼地への初上陸が近づいてきた。その事実に心臓が高鳴るのを感じる。今まで海岸や森でばかり過ごしてきたので、新天地に赴くのは初めてだ。それに、まだ見ぬ地へ踏み込むというのは、自分たちの生活が一歩進んだことの証明にも思える。少し浮かれた心境になっていると、それを戒めるかの様にして俺たちの視界へ急に影が差した。それと同時に、俺の後ろを飛んでいた秀夫や隆翔のメルノスたちは狼狽え、それによって、二人は離される事こそ無いものの、大きく揺られてしまう。

 

 

 「秀夫、隆翔!大丈夫か?!」

 

 

 幸いにして、俺のホルクはこの突然の出来事を前にしても至って冷静だ。飛行の感覚に得に変化した点は見受けられない。やはり、元の気質が獰猛なだけのことはある。余裕のある俺は、慌てふためくメルノスたちを落ち着けるため、無抵抗の笛を吹き続ける。メルノスの様な大人しいモンスターは大型モンスターが接近するとパニックを起こすことがしばしばある。それは野生下でも、テイム下でも変わらない事だ。ただ、この島のテイムされた動物には一つの法則があって、それは我を忘れた際には無抵抗笛を吹き続ければ、たちまち落ち着きを取り戻すという物だ。ちゃんとした理由はよく分からない。無抵抗の笛は何かこう諭すような音色なので、もしかするとそれで落ち着いているのではないかと俺は勝手に思っているが。ともあれ、10秒程度吹き続けるとメルノスたちは沈静化してくれた。

 

 

 

 それから、俺は事の元凶を確認すべく上を見上げた。すると、そこにはメルノスやホルクを遥かに上回る体躯のワイバーンが俺たちよりも高い場所を並走する形で飛行していた。クルペッコと同じくらいかそれより少し小さい位の大きさだろうか。一見すると鳥に似ているように感じるが、全身は羽毛ではなくピンク色の甲殻に包まれている。ただ、ゴツい体格かと言われればそうではなく、むしろクルペッコやリオレイアなんかと比べると、むしろ華奢で小柄な印象を受ける。扇状に大きく開いた耳と思われる器官と、丸いシャベルの様な形をした大きな顎のバランスが妙に良く、その顔からは何か愛嬌を感じる。ワイバーンは一瞬こちらに視線を飛ばしてきたが、目線を反らすとそそくさと飛び去って行ってしまった。臆病な気質のモンスターなのかも知れない。いずれにせよ、最悪の事態になることは無かった。命拾いしたことを実感すると、頭に昇った血が一気に降りて来るのを感じる。俺それから、みんなの様子に目を向けた。

 

 

 「オリバー、大丈夫か?」

 

 

 今の一件があってから、どこか上の空というか、呆気にとられた様な、普段であれば絶対に見られない表情をしたオリバーに話しかける。反応が無かったので、今度は声のボリュームを上げて名前を呼んだ。すると、ハッと急激に我に返った様子でようやく口を開いた。

 

 

 「あ、ああ大丈夫、ニャ。ちょっと考え事してただけだから心配いらないニャ。」

 

 

 

 「それならいいけど、もし体調が悪かったりしたら言ってくれよ?今ならまだ拠点に引き返せるから。」

 

 

 

 「ありがとうニャ。でも、ホントに身体の不調とかそういう類じゃないから気にしなくて平気ニャ。」

 

 

 

 まだどこか心配な様子ではあるが、これ以上同じ話をしても不毛だ。ここはオリバーを信じる事にしょう。

 

 

 「そういえばさ、さっきのモンスターは何なの?見た事が無いタイプのやつだったけど。」

 

 

 なんとも言えない空気になったのを察してか、秀夫が話題を変えようと、先程のモンスターについて問いかけていた。。

 

 

 「ああ、あれはイャンクックっていうモンスターだニャ。大型モンスターにしては大人しめで臆病なやつで、こっちから手を出さない限りは攻撃してこないから大丈夫ニャ。ただ、間違って手を出すとリオレイア程の威力は無いけど、大やけど必至な火球を吐いて反撃してくるから注意ニャ。もしもの時は、どうにかして高くて大きな音を出せば、耳が良いからビックリしてしばらく動けなくなるニャ。」

 

 

 可愛らしい見た目をして、案外恐ろしい所があるモンスターだ。さっきのは大分運が良かったんだな。俺は、今もこうして無事であることに再度安堵した。

 

 

 

 それからは特に何事も無くフライトは続いた。オリバーの調子も回復し一安心だ。そして、ついに沼地の目印である一面に広がるマングローブの木々が見えた。テレビなんかでは見た事があるが、こうして実物を生で目に入れるのは初めてだ。燦燦と照り付ける太陽の存在も相俟って、熱帯の情緒をこれでもかと感じさせる。沼地の内部に入る前に一度、簡単なミーティングを兼ねた休憩を挟みたい。一旦、翼竜たちに停止の口笛を吹き、この下に危険が無いかを確かめる。

 

 

 

 どうやらここで降りる訳にはいかないらしい。地上を覗き込むと、川辺にルドロスの群れがおり、陸揚げされたエピオスと思われる生物の死骸を貪っている。更に問題なのは、ルドロスたちの横に彼、いや彼女らよりも二、三回り大きな体格の黄色いワニの様な生物が鎮座していた。俺は恐らく、ルドロスのオス個体にして、群れのリーダーでもある”ロアルドロス”だろう。首から背中にかけてを包んでいるスポンジの様な質感の、恐らく髭かたてがみと考えられる体毛をブルブルと震わせて、散水を行っている。ばら撒かれた水しぶきには、ルドロスたちが群がっており、どこか心地の良さそうな感じだ。

 

 

 

 「なるほど、そうやって乾燥の対策を行っているのか。だから、乾燥から身を守る皮膚の構造じゃないんだな。社会性ありきでの進化を遂げたのは、天敵が多いこの島特有の事情があってのものか。一見、全ての個体が乾燥への耐性を持たないというのは、不合理だが、互いに生死を預け合うことで群れ内での結びつきを絶対の物にするという意味では理に適っているのか。中々に面白いな。」

 

 

 隆翔が自分の世界に入ってしまわれた。

 

 

 

 「おい、隆翔、考え中に申し訳ないのだが、仕事はしっかりしてもらうぞ。お前はパチンコを持ってるんだから、ロアルドロスにこやし玉を当てて追い払ってくれよ。」

 

 

 

 俺がそう言うと、隆翔は我に返って、いそいそと自前のスリリングショットを構えた。このパチンコもエングラムにあった物で、試しに作ってみたのだ。一応石を弾として使えはするのだが、如何せん硬い皮膚やら甲殻やらを持つモンスター相手には豆鉄砲にすらならない。そのため、収納の肥やしになりかけたのだが、隆翔は気に入ったようで、お守り代わりに持ち歩きたいと言い出した。まさか、それがこんな所で役に立つとは。隆翔はこやし玉をセットして地上へ向けて狙いを澄ましている。臭いがこちらまで飛んでくる。メルノスに掴まれた状態だと上下や左右に揺れるので、狙いを澄ますのも一苦労なようだ。少しして、こやし玉は地面に向けて放たれた。見事、ロアルドロスの自慢のたてがみに命中した。

 

 

 

 こちらから当てておいて灘だが、こやし玉がヒットしたロアルドロスは見るも無残な様相だ。身体を震わせて臭いを取ろうとしているが、残念ながら効果が無いようだ。それから、奴はこちらを恨めしそうな顔で見つめてきた。奴はこちらへ吠え、威嚇を行っている。サッカーボール大の水ブレスを放ってきたが、重力に勝てなかったのか、俺たちがいる高度までは届かなかった。そして、ロアルドロスはこちらを二度見、三度見とした後、心底悔しそうな面持ちで川へと潜り、泳ぎ去って行った。ルドロスたちもそんなボスを追って次々に川へ飛び込んでいった。奴らは俺たちが進みたい方向とは正反対の向きに泳いで行ったので、しばらくは遭遇しなくて済むだろう。一先ずの危機は回避できた。俺たちは翼竜に移動笛を吹いてついに久方振りの地上へと舞い降りた。

 

 

 

 「結構木が生い茂っている感じだね。この様子じゃオリバー君の言う通り、飛びながら探すのは難しそうだね。」

 

 

 

 実際秀夫の言う通りだ。実際こうして目の当たりにしてみると、よく分かるが、マングローブの木が所狭しと生い茂っており、到底空の上にいる状態で地上にある小さな植物の種を見つけられるとは思えない。一目で明らかにぬかるんでいると分かる泥土の上を歩くのは気が進まないが、ここまで来た以上はそんなことも言っていられない。俺たちは事前に決めていた通り、翼竜たちを上空に移動させた後、高度を保ったままで追従を行わせる。この動きは事前に何度も訓練をした。動物に芸を仕込む感触だった。ただ、普通の動物と違っていたのは、覚える速度が尋常じゃなく速いという事だ。俺たちが新しい音色の口笛を考えて、それを高度維持の命令とした。移動笛で飛ばせた後に、その笛を吹く。それを聞いて降りてきたら、また昇らせ、しばらく降りて来ずにずっとその場に残り続けることができれば、着陸させて餌を与える。このフローを数回繰り返したら、彼らはすっかり命令を覚えてしまった。こうした積み重ねもあって、俺たちはこうして探索を行える体制を整えられたのだ。取り敢えず、探索中は高高度で追従させつつ、プラントXの種を発見する、もしくは何か危ない状況になったら木々の切れ目を見つけてすぐに沼地から退散する算段だ。

 

 

 

 マングローブの枝を掻き分け、沼地の内部に進入する。膝下ぐらいまで水位がある。水面には藻が大量に浮いており、水を吸ったズボンに纏わり付いてきて気持ちが悪い。水の中にはピラニアに似た魚類である”キガニアが”今か今かとこちらを狙っている。奴らは血肉の匂いを好み、それに群がってくる。その性質を利用して、予め生の肉を俺たちが通るルートから遠い場所に投げておき、奴らがそれに気を取られている間に、迅速に陸地へと上がった。ちなみに、このキガニアという生物は例え大型モンスターが相手でも手負いであれば、容赦なく群れで噛み付きに行くらしい。俺たちにとっては非常に恐ろしい生態ではあるが、逆手に取ればモンスターを削る手段としても利用可能なのだ。もし、今後ロアルドロスなど水辺のモンスターと接敵した場合に有用な戦略の一つになるだろう。

 

 

 

 陸地に上がれて一つ肩の荷が下りたのも束の間、次の瞬間には、俺たちは新たなる刺客に包囲されてしまった。俺がこの島で初めて出会ったモンスターにして、初めて殺されたモンスターでもあるブナハブラがざっと10匹程、俺たちの周りを不規則な軌道を描きながら飛行している。その中の幾つかは既に尻尾に付いた毒針を展開して臨戦態勢となっている。その様子に思わず腰が引けてしまう。あれを喰らえば動けなくなり、意識のある状態で全身を貪られ続ける。その時の痛みは今でもトラウマとして刻み込まれている。奴らが攻撃に移る前にこちらから動き出さなければならない。ゆっくりなんてしていられないんだ。

 

 

 

 「みんな、目を庇え!」

 

 

 

 俺は叫ぶと、すぐに左肩の前に両手をやり、手拍子をした。光蟲の閃光を放つための合図だ。閃光が収まった後には、もう空を舞うブナハブラはいなかった。奴らは須らく地上に逆さまになって落下している。あれだけ怖ろしく感じていたのが噓のように呆気ない。弱肉強食の怖い部分が見えた気がする。ともあれ、このチャンスを逃してはならない。俺たちはすぐさま、槍でブナハブラの頭を突き刺す。すると、面白い様に穂先が食い込み、一瞬で絶命させることが出来た。以前まで使用していた石槍であれば、ここまで簡単にはいかなかっただろう。全体重を押し付けて槍の柄を犠牲にしながらようやくと言った所だろう。穂先に使用したドスランポスの爪の鋭さを嫌という程に実感させられた。それから、俺たちは流れ作業を行う様に淡々と落下したブナハブラたちを一匹一匹と処理していった。

 

 

 

 「少しだけ待ってくれないか?」

 

 

 

 隆翔はそう言うと、手早くブナハブラの死体の尻尾に槍を喰い込ませた後、そうして出来た亀裂に斧をあてがい、尻尾を切断した。それから、隆翔はおずおずと石ころとネンチャク草を採集し、石ころにブナハブラの尻尾を直接触らないよう布切れで保持しながらくっ付けた。そして、それを自身の腰にぶら下げたパチンコにセットした。

 

 

 

 「隆翔、それは?」

 

 

 

 「ああ、ちょっと考えたんだが、ブナハブラの毒が痙攣を引き起こす物なら、モンスターに当てても効果がありそうかなと思って。」

 

 

 

 なるほど、言われてみればそうかも知れない。今回は収納の都合上一発しか持ち歩けないので、大型モンスター相手には心許ないが、ランポスやジャグラス程度の相手なら十分に通用しそうだ。思わぬアクシデントではあったが、全員無事に乗り越える事が出来た。この調子でプラントXを探そう。

 

 

 

 「あったニャ。」

 

 

 

 しばらく腰を屈めながら歩き回っていると、背後から声が聴こえた。オリバーの下へゆくと、茂みの中に赤い蕾だろうか?球根なのだろうか?とにかく、一目で特徴的だと分かる草が生育しているのが確認できた。どうやらこれこそが噂のプラントXらしい。この見た目からだと、モンスターを自動で迎撃するビジョンなど全くもって想像できない。俺たちが訝し気な表情を浮かべていると、オリバーが補足するように言った。

 

 

 

 「これは種だからまだ前に言ったような能力は無いニャ。地面に植えて育てればもっと大きくなるニャ。」

 

 

 

 その言葉を聞いて俺たちはほっと胸を撫で下ろした。見渡せば、周囲に5,6株ほど自生している。取り敢えず、今見える分は全て回収していく。目当ての物は手に入ったが、数が多くて困る事も無いので、もう少しばかり探したい。そう思い、脚を進めようとした時だった。

 

 

 

 「うっっ!」

 

 

 

 俺の後ろを歩いていた秀夫が突然呻き声を上げた。何事かと思い振り返ると、秀夫のふくらはぎ辺りに刃渡りの長い刃物で思い切り切り付けられた様な惨たらしい切り傷が出来ていた。さらに患部には紫がかった液体が付着しているのが見て取れる。これは間違いなく、出血性の毒を当てられている。俺自身がリオレイアにお見舞いされたから分かる。俺は急いで、蹲る秀夫の下へ駆け寄り、患部ににが虫のエキスを掛ける。どれくらいが適量なのかは分からないので、全部一気に消費する。エキスが注がれると、秀夫は大きく顔を歪め、苦悶の表情を浮かべる。

 

 

 

 「滲みるだろうが、我慢してくれ。取り敢えず毒だけならすぐ治ると思うから。」

 

 

 

 にが虫のエキスはミツムシのそれと違って、色んな種類の毒を瞬時に解毒するという魔法の様な効果を持つが、その反面、外傷に対しては効果が無い。秀夫の脚は相当深くまでやられており、出血がひどい。この状況だと、あまり強く圧迫するのは良くないかも知れない。俺は自分の服の袖を引き千切り、患部に優しく当てた。これで気持ち程度でもマシになってくれれば良いが。

 

 

 

 「二人とも大丈夫か?こっちは何とか片付いたぞ。」

 

 

 

 どうやら隆翔とオリバーの二人は元凶を倒せたようだ。俺は秀夫を介抱しつつ戦闘があった方を見つめる。そこには、全高が1.5 [m]はある青い甲殻に包まれた巨大なヤドカリの様な生物の死体が転がっていた。どうやら隆翔が先程作ったブナハブラの尻尾の弾であのモンスター、ガミザミを麻痺させて動きを止めた隙にオリバーが止めを刺してくれたそうだ。全く音も無く近づいて来られるから質が悪い。あんなのに奇襲されたら誰でも対応は出来ないだろう。俺はメルノスを呼び寄せ、秀夫を掴ませ、安全な空中へと避難させた。

 

 

 

 「さて、目的の物は手に入ったし、俺たちも、」

 

 

 言いかけた時だった。

 

 

 「ユータさん!!よけるニャ!!」

 

 

 オリバーの叫び声が響いた。その音を知覚する間もなく、俺は地面から数メートルの高さにまで一気に突き上げられた。そして、その次の瞬間には俺の視界を赤い飛沫が覆い尽くしていた。視点は上から下へと落ちてゆく。そんな俺の目に映ったのは彼方へと飛び去る俺の下半身だった。かつてない量の血液が体外へと出て行っているのを感じる。ああ、思い出した。みんなと出会ってから忘れていた感覚。この島では一瞬の油断が命取りだったという事実も。少しずつ身体から力が抜けていく。そんな俺の下に最期に入ってきた音は鋭い金属音を思わせる甲高い音とくぐもったノイズ混じりの鳴き声だった。

 

 

 

 

You were killed by a Shogun Ceanataur.

 




 今回初登場したモンスターはイャンクック、ロアルドロス、ガミザミ、ショウグンギザミです。いずれも古くからいる由緒ある中堅どころのモンスターです。特にショウグンギザミは過去作プレイヤーであれば、かなり装備関係でお世話になった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 そういえば、モンハンストーリーズのリメイクが発表されましたね。過去作が現行のハードでも遊べるようになるというのは非常に良い事だと思います。個人的には3DS時代のメインシリーズもどうかリメイクして欲しいであります!何分私の3DSはLRボタンが両方お亡くなりになってしまっているので…


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