ハイスクールD×D 眷属になれない部員の話 (アルタイル10)
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邂逅とプロローグ
魔術師との邂逅


どうもはじめまして。


 とある古びた大きなコンクリートの建物の中に今どきの若者が着ていそうな服を着た一人の男と人間と形だが人間の体躯とはかけ離れたものが存在していた。身体は人間のようだが、三メートルをゆう超える大きさに、身体は体毛がはえ毛むくじゃら。頭部は牛で大岩のような身体に隆起した筋肉。そして、大木のような腕の先の手に握られているのは分厚い鉄の板ですら一振りで紙のように切り裂けそうな大きな戦斧だ。まるでミノタウロスのような化け物だ。

 

「美味そうな御馳走が転がり込んできたかと思えば、気配からしてただの人間じゃないな。悪魔祓い(エクソシスト)か?俺を狩りに来たのか?」

「あんな奴らと一緒にするんじゃねえ、クソヤロウ」

 

 そういい終えると同時に後ろに飛んだ。その後、目の前を何かが一瞬で通り過ぎた。それは、化け物が振った戦斧だ。

 

「人が話してる途中に何攻撃してんの」

 

 そう呟くと同時に腰にあるケースのようなものからカードのようなものを取り出した。そこには文字のようなものが書かれている。そして、その文字に手を近づけるとカードが光りだして何か黒いものが出てくる。それを掴んで引き抜くと手には銃が握られていた。そして銃口を向けると容赦なく発砲した。それを見た化け物はその身体から想像も出来ないほどの俊敏な動きで銃弾を避けた。弾丸は後ろの壁にぶつかる。それと同時にぶつかった場所は一瞬で大きな風穴を開ける。

 

「そんな大きく動かなくったってあてねえよ。ただの威嚇射撃だ。降伏して出て行くならこれ以上なんもしねえよ」

 

 そう言うと同時にまた、戦斧が振られる。高速で動く一撃必殺の威力を持つ刃が男を襲う。だが、男はその高速で動く刃をたやすく避ける。そして、避けるとすぐに銃口を戦斧の付け根に向けて銃の引き金を引き弾丸を放つ。弾丸は普通だと、太い戦斧の棒の部分に当たっても弾かれるだけだが、その弾は当たると同時に削り取るように風穴を開ける。戦斧の刃が遠心力によって壁まで吹っ飛んだ。そして、壁を突き抜けて外に飛び出して行く。化け物はそれを見てありえないという風に刃を失った戦斧の持ち手を落としてゆっくりと後退する。

 

「お、お前は何者なんだ……?」

「いきなり攻撃してきて、いきなりお前は何者かって聞くか普通?」

 

 そう言うと同時に銃を化け物の足に向けて引き金を引いた。そして、弾が太ももに当たると同時に撃たれたところは大きな風穴が開き、足と体が分離した。片足がなくなった化け物はバランスを崩して地面に倒れた。

 

「ぐああああああ!!」

 

 片足がなくなったのと痛みで絶叫する。そして、倒れた化け物の近くに近づいていく男。それから逃れるように腕を使って離れる化け物。しかし、動きがショックのせいかとても鈍く、すぐに追いつかれていた。

 

「さっきのは初見のお返しだ。だけど、これ以上苦しまないように終わりにしてやるよ」

 

 そして近くに来ると化け物に向けて銃を構える。そしてすぐに頭部、心臓に向けて弾を撃ち込んだ。打ち込まれた直後、頭はなくなり、胸部には大きな風穴が開いていた。そして、その化け物は動かなくなっていた。

 

「これで、終わりかな」

 

 そう呟いたと同時に後ろに複数の気配を感じ、銃をその方向に向けながら振り向く。まだ姿は見えないが、すぐに姿が見えるだろう。そして予想通り、入り口の方から警戒しながら四人入ってきた。一人は男、三人は女。特徴は白髪と黒髪、深紅のような色の髪をした女たち。それと、男は金色に近い色の髪。四人は入ってくると同時に深紅のような髪の色をした女を守るように陣を構える。男はどこから取り出したのか剣を握り、白髪の女は何か格闘技のような構えを取り。その少し後ろで黒髪の女は魔力を集中させている。

 

「反応が遅いね。まあいいけど。あんたら、何者?」

 

 そして開口一番に男がそう言った。

 

 

 

 

 私たちは、大公からの依頼ではぐれ悪魔を討伐に来た。一年ほど前に潰れた施設の建物で人の出入りもないため、一時的に身を隠すには丁度いい場所である。

 

 ここに隠れているのがわかっているため、中に入る。だが、少ししてから、銃の発砲したような音が響いた。

 

「朱乃。今回のはぐれ悪魔は銃を使うのかしら?」

「いいえ。そんなことはいっさい聞いてませんわ」

「……血の臭いがします。それも、人間じゃなくて悪魔の」

 

 小猫が血の臭いがすると鼻を覆って呟くように言う。それを聞いた私たちは顔を見合わせた。

 

「もしかしたら悪魔祓いかもしれません。部長、ここは僕と小猫ちゃんが先に行きます」

 

「わかったわ」

 

 私は祐斗の言葉に頷いて、その後に歩いていく。そして小猫が言うにはこの部屋がもっとも血の臭いが強いと言われるところにつくと小猫と祐斗の後に部屋の中に入った。

 

 そこにはエクソシストとは思えない服装の男がこちらを向いていた。だが、その手には拳銃が握られている。その瞬間、祐斗と小猫が戦闘態勢に入った。朱乃は私と二人の間に立って魔力を集中させる。

 

「反応が遅いね。まあいいけど。あんたら、何者?」

 

 拳銃を持つ男はそう言った。

 

「……私はこの地を管理する悪魔よ。あなたこそ何者かしら?」

「へぇ、悪魔って本当にいるんだ。って、そんな感じの奴と何回かあったし、いても不思議じゃないか。俺は桐谷光輝。流浪の魔術師。あんたらはこの地を管理してるってことは用があったのってこいつ?」

 

 独り言を言ってから、桐谷光輝と男は名乗った。そして銃を持ってない手で後ろのほうに親指を指したため、その後ろを見るとそこには大公が討伐依頼を出していたと思われる悪魔がいた。なぜ思われると言ったかというと頭と足はなく、胸には大きな風穴が開いているため、もっと近づかなければ判断できないからだ。

 

「……もしかして殺したのが悪かった?一応、あっちが殺そうとしてきたから正当防衛って形で倒したんだけど、駄目だった?」

 

 黙って観察しているため、桐谷光輝と名乗る男は少し申し訳なさそうに言ってきた。

 

「いいえ。どちらにしても私たちも元々討伐のために来たから。でも、こっちはわざわざ依頼を受けてきたのに倒されてましたと、報告は出来ないの。だから、桐谷君にはついてきてもらいたいのだけど……」

「……」

 

 男はそう聞くと口を閉ざしたままこちらを見ている。そしてしばらくすると警戒を解いたのか、銃を下ろした。それを見た祐斗と小猫と朱乃は構えをといたが、まだ警戒は解いていない。

 

「いいよ。ついていっても。でも、条件がある」

 

 桐谷はそう言ってきた。まだ、この桐谷光輝がどんな人物かはわからないのだ。どんな条件が出てくるかは少々不安である。

 

「……出来る範囲なら大丈夫よ」

「そんなに警戒しなくたっていいよ。変な条件じゃないから」

 

 桐谷はそう言って人差し指と中指を立てた。

 

「一つ、食、あっ、食べるほうね。それを提供してもらう。二つ、寝床を提供してもらう。この二つの条件を飲んでくれればそっちに着いていくよ」

 

 桐谷君はそう言った。私は正直、予想をしていなかった答えが帰ってきたため一瞬、なんと言っていいかわからなかったが、朱乃が代わりに言った。

 

「それがあなたの条件ですか?」

「ああ、腹減ってるし、久々にましなものが食べたいのと、たまにはやわらかいベットの上でゆっくりと寝たいからが理由だよ」

 

 そう聞くと私は朱乃たちと顔を見合わせる。

 

「罠だと思う?」

「いいえ。僕は彼は本心で言ってると思いますけど……」

「……私も、見た感じは普通ですけどあまり血色がいいとは言えません」

「二人もこう言ってますし、私も彼には敵意があまり感じられないのでいいと思いますよ」

「……」

 

 私は三人の意見を聞いて、決めた。

 

「わかったわ。あなたの条件を呑みましょう」

「呑んでくれて助かるよ」

 

 そう言って彼は何も描かれていないカードのようなものを取り出すと拳銃をその上においた。その瞬間、僅かな発光をして拳銃は無くなっている。代わりにカードに文字のようなものが浮かんでいた。

 

 それを興味深そうに見ていた朱乃は桐谷に聞いた。

 

「あなたは魔術師でしたね?それは魔術の一種ですか?見たところルーン魔術のようですが?」

「そうだよ。このカードに魔力を流すと描いてある文字に関することが出来る。今もっているのはフェフ。所有のルーンって言うもので富、滋養、獲得を意味してるんだ。普通はルーン一つじゃ出来ないけど、さっき持ってた銃のパーツ一つ一つに複数のルーンを刻んでるから出来るんだ」

「それは興味深いですわね」

「そうね。聞いたことはあったけど見たのは初めてだから少し興味が出てくるわね」

「部長。ここで立ち話もなんですし、彼の言った寝床と食べ物を用意してから聞きましょう」

 

 祐斗が私にそう言った。確かに、彼の機嫌を損ねるのもいけないものね。

 

「じゃあ、この後始末を終えてから行きましょうか」

 

 私たちは後始末をするために、動くのであった。




主人公の名前はきりやこうき読みます。プロフィールや設定は章の終わりに出していきたいと思います。


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駒の拒絶

 目を開けると、いつもなら古くなってひび割れたコンクリートの天井や、コケの生えた木の板、挙句の果てどんよりとした曇り空が広がっていたのだが、今日は白い天井だ。昨晩、あのミノタウロスのような化け物を倒した後に出会った悪魔、リアス・グレモリーというらしい人?が条件を飲んでくれて、御馳走と寝床を提供してもらった。久々のベットで温もりを感じながら毛布の感触を堪能している。

 

 そして現在、俺はどこかのマンションの一室にいる。理由は提供されたのが大きなマンションの一室だったからだ。毛布の感触を堪能し終えたらすぐにベットから降りて、シャワー室に向かう。汗を流し、身体を洗う。シャワーを浴び終えて、これも頼んで提供された新しい服に着替える。そして、リビングのイスに座るとカードを取り出して枚数を数えるのと点検をしていく。カードの点検をする意味があるのかと聞かれると、これは結構重要と答える。意外にこのカードも繊細なため、インクが、僅かに剥がれているだけで魔術が発動しない時がある。他にも曲がっていたりしても同様に使えないことがある。

 

「……よし。全部異常なし。問題なく使えるな」

 

 全てのカードに魔力を通して反応があるのを確認するとカードをケースに収納する。そして常に近くに置いている、短剣を手に取る。刀身を抜き取だしてみると黒くくすんでいる。手入れをしていないため、硫化しているのだ。この短剣は教会の銀十字を溶かして作られた昔の悪魔祓いの持っていた武器らしい。だが、俺は悪魔祓いでも教会の人間ではない。それに俺はあることがあったためその手の類の存在はどちらかと言うと嫌いだ。でも何でこれを持っているかというと、こいつ腕にある鎖のブレスレットを身に着けると自分のあまり使いたくない力が抑えられることに気付いたからだ。ついでにこの短剣と鎖のブレスレットはある場所で手に入れた。

 

「よしと、点検も終わったし、何する」

 

 電子音が鳴る。その音の発生源の方を向くとマンションの入り口のところの呼び鈴が鳴っていた。こんな朝早くにだれだろうと思うが、知り合いはいないし勧誘などもかんな朝早くからは来ないだろう。それならグレモリーたちの中の誰かしかいないためその中の誰かだろうと思い、カメラでその人物を確認する。カメラに映し出されていたのは白い髪の少女。確か、搭城小猫という子だったな。自分の記憶から名前を引き出してマイクに向かって声を出す。

 

「どうしたの?」

「桐谷さん。部長がお呼びですので駒王学園までついてきてくれませんか?」

「はい?俺、その駒王学園?って所の生徒じゃないんだけど」

「大丈夫です。今は朝早くなのでほとんど生徒はいません」

「いや、教員がいるんじゃないの?それか警備員とか」

「そのあたりは問題ありません」

 

 塔城はそう言った。大丈夫なら別にいいだろう。特に今はやることもないから暇つぶしにもなるし、帰るときに飯でも食べに行けばいい。

 

「わかった。すぐに降りてくるよ」

 

 そう言って預かっている鍵を持ってそのまま外にでる。そしてマンションのエントランスに出ると塔城さんが待っていた。

 

「お待たせ。ゴメン。女の子を待たせちゃって」

「構いません。行きましょうか」

 

 そう言って先に塔城は先に歩き出した。そして、数分もしてから少し気まずい雰囲気になる。マンションのエントランスを出てからまだ一言も会話していないのだ。特に喋ることも無いのだが、なぜかこの沈黙した空気をなくさないと男が廃ると思った。思い切って話を振ってみた。

 

「今日はいい天気だね」

「そうですね」

「……」

「……」

 

 くそう、会話が続かない。というか今日はいい天気だねって普通は聞かないだろ、どう考えたって。会話をしようと考えていると搭城さんから話しかけてきた。

 

「桐谷さんは、どこから来たんですか?」

「ん?俺?」

 

 まさか、搭城さんから話しかけてきてくれるとは思わなかったが、この沈黙を無くせるだろうと思い、会話に乗った。

 

「北欧の片田舎からだよ。旅でとりあえず日本に来るって決めて、日本に着たんだ」

「?桐谷さんは日本人ですよね?帰ってきたとかじゃないんですか?」

「いいや。俺はノルウェー育ちだよ。日本に来たのはつい最近。一回も来たことは無いよ」

「にしては日本語がとても流暢ですね。悪魔は自分の解釈しやすい言語に変わるからいいのですが口の動きが完全に日本語の動きです」

「ああ、これもルーン魔術を応用しているおかげだよ。知恵のルーンを身体の一部に描いておいて僅かに身体から漏れる魔力に反応してくれるんだ。そのおかげである程度の言語は大抵理解して話すことが出来るんだ」

 

 そう言って袖をめくってシャツの下にある腕に書かれているルーンを見せる。それを見て納得する搭城さん。

 

「便利ですね。桐谷さんは魔術が得意なんですか?」

「いいや。得意なのはルーン魔術(これ)と少しの攻撃魔術だけと魔力制御くらい。あとは素人、良くて三流。師匠(ばあちゃん)はいろいろ教えてくれたけどこれだけしか俺は出来なかったよ。不器用なんだろうね」

「そうですね」

「意外にひどいね」

 

 苦笑して答える。こんな感じでしばらく会話しているとあまり高い建物が見えなくなってきた。そして、その低い建物の奥に大きな校舎が見えた。

 

「着きました」

「そうだね。じゃあ、グレモリーさんの所に行こうか」

 

 そう言うと搭城は目の前にある校舎とは別のほうに歩き出した。しばらくすると木造建築の少し古い建物のが見えてくる。古い建物だが手入れがちゃんと行き届いているようだ。それに結界も張られているみたいだ。中に入って搭城さんについていくと一つの教室の前に辿り着いた。そして教室の扉を開けた。

 

「部長、桐谷さんを連れてきました」

「ありがとう、小猫」

 

 中に入ると魔術(オカルト)系統の物がたくさんあった。中には興味深いのもある。だが、今は目的は目の前にいる、人物。リアス・グレモリーがなぜ、ここに呼び出したかを聞くためだ。

 

「で、俺に何の用でしょう。グレモリーさん」

「リアスで結構よ。私もこれからはコーキって呼ばせてもらうから」

「さん付けでもいいなら呼ばせていただきますよ。そちらもどうぞ好きなように呼んでください」

「そう。じゃあ、コーキ。あなた、私の眷属にならない?」

「眷属にですか?」

「ええ。昨日あなたの話を聞くかぎり、日本を目的に旅に出ていた感じだったのよね?」

「まあ、リアスさんの言うとおり俺はとりあえず、日本と言う目的地に行く予定で旅していて、着いてからはとりあえず占いで一日のご飯のお金を稼ぐ位しかしてませんからね」

「なら、目的を作る意味も兼ねて私の眷属にならない?」

「うーん、眷属か……自由とか無くならないんですか?」

「私の知っている眷族を持つ上級悪魔は眷属をこき使ったりしたのを見たことないわね」

「なら別にいいですよ」

「そう。その答えを期待していたわ」

 

 リアスさんは満足そうに頷くと、机の上にチェスの駒を置いた。形からして僧侶(ビショップ)だろう。眷属になるのに何の関係があるのだろう。

 

「これが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)と言う眷族に使うためのアイテムよ。コーキ、眷属になるってことは悪魔に転生するってことだけど本当に大丈夫かしら?」

「……普通の人間と変わった部分とかあるんですか?」

「いいえ、人間と見た目は変わりないわ。ただ、寿命がものすごく長くなるわ」

「それくらいなら転生してもいい気がするな。別に今の種族に未練なんてありませんし。自分って言う個の概念が消えるわけじゃないみたいですからね」

「少しは考えると思ってたんだけど割り切ってるのね」

 

 そう言って、リアスさんはその駒を俺の胸にあて、呪文のようなものを唱え始める。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、桐谷光輝よ。我の下僕となるために悪魔と成らん。汝、我が『僧侶』として、新たな生に歓喜せよ!」

 

 そして、その駒は俺の身体に溶けていくように身体の中に埋まっていく。と思っていたが、急に駒が自分の体から抜けていくような感覚がする。次の瞬間、自分の身体に電撃が走ったと思うと同時に後方に吹き飛んでいた。

 

「!?」

 

 反射的に俺の身体に魔力を流し身体に刻まれたルーンを発動させる。勢いよく壁に激突したが魔術で身体をで強化したおかげで傷一つ無いし、打ったところも痛みは無い。すぐに立ち上がり、何が起こったのかと周囲を確認する。リアスさんや、姫島さん、木場、搭城さんは驚いた表情を浮かべこちらを見ていた。どうやらこうなることが予想外だったらしい。

 

「悪魔の転生には失敗したみたいですね」

「ありえないわ……悪魔の駒が拒絶するなんて……」

 

 どうやらこのようなことが起きるのは初めてのようらしい。悪魔には転生できなかったてことは人間の状態で未練があるとでもいうのだろうか。だが、転生できなかった理由はもっと別のものだろう。自分のなかにあるアレらが邪魔をしているのだと思う。

 

「あなた……一体何者なの?」

 

 リアスさんが俺に向けて問いかける。どういわれても俺が返すことは一つしかない。

 

「昨日言った通り、流浪の魔術師ですよ」

「……なら別の駒で試してみましょう」

「いえ、もうあんな電撃を食らうのと吹き飛ばされるのは勘弁していただきたいんで」

 

 リアスさんは他の駒を出したが、またあんなのを食らうのはゴメンなので断る。すると、不満げにリアスさんは唸る。そんな子供みたいにしたって無理ですよ、と言おうとするが何か面倒になりそうなのでやめておく。

 

「なら、あなたを眷属は諦めましょう。でも、コーキ。私はあなたが欲しいの」

「その言い方はヘタしたら告白まがいに聞こえるんで相手を選んでから言ってください」

「そうかしら?」

 

 リアスさんはさっきより落ち着きを取り戻し、そういうが、自分はその言葉を誰にでも言いそうなので注意しておく。

 

「それなら彼をオカルト研究部に入部させればいいんじゃないんですか、部長?」

「ッ!ナイスアイデアよ!朱乃!」

 

 それだと言う風に姫島さんの発言を推した。

 

「でも、俺、この学園の生徒じゃないんですけど……というより、高校生ですらないんですけど……」

「なら、ここ編入すればいいじゃないかな」

 

 今まで喋っていなかった木場がそう言った。だが、学校に行くにしても編入なんて出来るのだろうか?この中の唯一の男の木場に聞いてみる。

 

「編入するって言ったって、俺の情報とかはどうするんだ?」

「そこら辺は大丈夫だよ。ですよね?部長」

「ええ、そのことなら私に任せておきなさい」

「はあ」

 

 なんか、自分のわからないようなことが室内で飛び交いながら飛んできた適当に相槌を打っていく。そして、話がついたのかようやく、リアスさんがこちらに本格的に話を振ってきた。

 

「コーキ、あなたを学園に編入するに当たってはこっちで何とかできるわ。あなたはどうしたい?さすがにここはあなたに決定権があるし、そこはちゃんと意思を尊重するわ。通わないとしてもあなたとはかかわりを持つけどね」

「……」

 

 まあ、結局はかかわりを持つんですねと、心の中で思った。しかし、学園か。俺はあることがあって高校どころか、小学校も通ったことがない。この年齢で初めて通うと言うのは少しばかりおかしな気もするが、一度きりの人生なんだし、歳相応の生活を満喫するのもいいかもしれない。

 

「行ってみたいです」

「よかったわ、その答えを待っていたの。これからよろしくね、コーキ。そして、改めて自己紹介するわ。私はリアス・グレモリー。この土地を管理している悪魔よ」

「ふふふ、なら私も。姫島朱乃、同じく悪魔ですわ」

「木場祐斗。同じく悪魔」

「搭城小猫。悪魔です」

 

 四人は昨日の夜同様に自己紹介を始めた。それに答えるように俺も言った。

 

「桐谷光輝。人間です。こちらこそよろしく」



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編入と言えない過去

 駒王学園に編入することになったことでリアスさんからいろいろと提供されて暮らしがとても充実したものになっている。まずは家の提供で最初に寝させてもらったあの部屋を貰った。そして、お金である。しかもかなりの金額が。これは本当に助かる。旅で師匠(ばあちゃん)から貰った金と占いで僅かに稼いだお金はもうそこをついていたからだ。、これである程度はゆとりが出来る。とは言っても殆どが食費にだけしかつかわないだろう。そして、俺は記念すべき初めての学園生活の最初の関門、自己紹介をするところだ。ここでこけると省かれたと最悪の学園生活のスタートダッシュをきることになる。そして当たりを一度見てから口を開いた。

 

「初めまして、諸事情で海外から来た桐谷光輝といいます。日本人ですがずっと外国に住んでいたのでわからないところが多々あります。その時は教えてもらえると助かります。これからよろしくお願いします」

 

 そう言ってクラスの人たちに向けて一礼する。最初はこんな感じでいいだろうと思い、クラスの反応を聞いてみることにする。

 

「なかなかの好青年なんじゃない?少しテンプレすぎる自己紹介だけど」

「そうね。顔はまあ、普通。けど物腰柔らかくて接しやすいかも」

「それに帰国子女ってとこもポイント高いわね」

 

 そんな感じの会話が聞こえる。まあ、印象はよかったらしい。その後は席を決められ、教師が自分がクラスに慣れるために一時間自習にしてくれた。言い方からしてサボりたいような感じがあったが気にしないで置こう。だが、これだけは言いたい。そんなんでいいのか?、と。そして、案の定自分の周りに人が集まって質問攻めに合う。しかし、この高校は女子が男子よりも本当に多いと思う。確か、つい最近まで女子高だったからだろう。

 

「ねえ、どこの国から来たの?」

「ノルウェーからです」

「外国にずっといたのに日本語が上手だね」

「ここに来るってことは結構前から決まってたので勉強をしてたんですよ」

「何かスポーツとかやってた?」

「特に何かやってたってわけじゃないけど、スポーツは全体的に得意です」

「背高いね。何センチくらいあるの?」

「百八十ちょっとあります」

「たかーい」

 

 女子からの質問が次々と飛んでくる。これが高校と言うところか。同年代とはあまり接点がなかったため少し驚くが、意外に適応力が高いのかすぐになれた。しかし、あまり男子が質問してこないと思っていたが周りを見ると男子は男子で固まって会話している。あまり俺に関心がないのかと思っていたがこの女子の中に入ってこれないのだろうと思う。男子は少しこちらを見ると苦笑いして他の男子と会話を初めた。そんな中、殺気のような視線があることに気付いて、そちらのほうを視界に僅かに入れると三人の男子がこちらをものすごい形相で睨んでいる。一人は髪をかなり短くカットした頭の男子、そして眼鏡をかけた男子、そして、もう一人は茶髪の男子。三人は友達なんだろうがあんなにらまれる理由がわからない。そして、しばらくすると三人は俺を睨むのをやめて会話を始めた。その時に俺の視線に気付いたのか、茶髪の男子がこちらを向いた。だが、また二人と会話に戻った。何か会話をしているがこそこそと話しているため内容が聞き取れない。

 

 クラスの男子のことについて聞くと、あの三人を指してクラスの女子から忠告があった。あの三人組には関わらないでねと。名前を聞くと、兵藤、元浜、松田と言うらしい。この三人は悪い意味でかなり有名で変態らしい。覗きなどの行動を取っているらしい。何でつかまらないのだろうと思う。そして、そのことが聞こえていたらしく、こちらに罵声を飛ばしてから再び会話に戻った。そして女子たちからあのグループ、兵藤たちの話を聞いた。

 

 聞いて思ったがすごいと思う。別にかっこいいとかそういう感じのすごいではなく呆れるほどの所業の数々、まるで性欲の権化だ。聞いてて呆れた。まあ、少しは交流は持っておいてもいいだろう。特に兵藤とは。あいつはなにかを持っている。それもとても強力な何かを。まあ、少し落ち着いてからかな。今の状態はさすがに友好な関係を作れると言った感じはないし、一方的な敵を感じる。だから、今は保留にしてまだ来る質問の対応をしていった。

 

 

 

 

 俺は兵藤一誠。駒王学園の二年生だ。今日はなんかクラスの女子たちが少しだけ慌しいけどなんかあったのか?松田に聞いてみるか。

 

「松田、今日なんか騒がしいけどなんかあったのか?」

「いや、ないぞ」

「俺らにはどうでもいいことだよ、二人とも」

「元浜」

 

 その言葉に振り向くと元浜が眼鏡をくいっと上げながら立っていた。

 

「お前は知ってんのか?」

 

 松田がそう聞くと元浜が話し始める。

 

「どうやら転校生が来たらしい。それも外国の帰国子女」

「おお!女の子か!?」

 

 俺と松田は反応するが元浜は残念そうに溜め息を吐いたため理解する。

 

「なんだ、男かよ。イケメンでそっこうでもて始めたらそいつ滅びねえかな」

「確かに同意だ。だが、もしかしたら我らが同士だった場合、温かく迎えてやろうじゃないか」

 

 松田が物騒なことを言ってその後に元浜が言った。そんなことを話している間にチャイムが鳴り始め担任とその転校生が入ってきた。俺が転校生を見て思ったことはなんか普通の雰囲気を持つ奴だなと思った。担任がそいつに自己紹介するように促してそいつは言った。

 

「初めまして、諸事情で海外から来た桐谷光輝といいます。日本人ですがずっと外国に住んでいたのでわからないところが多々あります。その時は教えてもらえると助かります。これからよろしくお願いします」

 

 自己紹介はまるでテンプレのような答えだった。だが、別段どうでもいいことだ。女子たちも品定めするように桐谷という転校生を見た。上々な評価を貰っていたようだ。実にうらやましい。

 

 そして、転校生の席を言って、座ったのを確認すると担任は交流タイムだと言って教室から出て行った。そして、そいつの周りに女子が群がった。その瞬間、に俺たち三人は理解した。この学園に来て女の子にモテたどころかあのように囲まれたこともない俺たちにとってそれだけで敵と認識するには十分だ。そしてあの柔らかい態度を見ていると同じの学年にいる木場のように思えて来てしまう。

 

「元浜、松田。俺はあいつを見て一瞬で理解してしまったよ」

「イッセー同感だ。俺が同士かも知れないと思ったが間違いだと理解した」

「ああ。俺もお前らと同じことを考えていたところだ」

 

 そう言って俺らは桐谷光輝を睨みつけて小さく言った。

 

「桐谷光輝は木場祐斗同様俺らの敵だ!」

 

 三人で桐谷が後になってどんな不運になるかと言う妄想話をしていると俺はふと視線を感じた。丁度、こちらに背を向けてる女子生徒と話していると思っていた。視線はたまたま俺が視界に入ったからだろうと考えて二人との会話に戻る。そして、その中、あの桐谷って奴のとこの会話で俺たちの名前が出てきたが、女子たちの忠告だった。俺らは女子たちに罵声を飛ばして話を再開した。

 

 

 

 

 編入してから数日。勉強は師匠(ばあちゃん)からある程度のことを習っていたため、少しは理解できたがそれでも理解できないところがある。それも、宿題でだ。どうしようか考えたが、放課後だし、部長や姫島さん、もしくは祐斗に聞けばいいじゃないかと考えた。俺はさっそく足を伸ばした。案の定、部室に行くと全員揃っていた。

 

「あら、コーキ。今から祐斗をに呼んできてもらおうかと思ったけどその手間が省けたわ」

「ん?なんか用事でもあったんですか?」

「いえ、別に。ただ、あなたのこと。まだ全然知らないからこの機に聞こうかとね」

「私も興味ありますわ」

「僕は、君が旅をしていたときの話が気になるな」

「私もです」

 

四人にそう言われて少し考える。旅の話しは個人的に今度話すとして確かにあちらは幾つかこちらにいろいろと提供してもらってるため、少しくらい構わないと思った。

 

「じゃあ、旅の話しはまた今度するにして部長たちは何が聞きたいですか?」

「そうね。ルーン魔術以外に得意なものはないかしら?」

「そうですね。攻撃魔法をちょっとと、魔力コントロール。格闘術や銃、剣、ナイフの扱いも一応慣れています。まあ、メインはルーン魔術ですけどね」

「魔術師ってことだから近距離は苦手かと思ってたけどそんなことはないみたいね」

「うらやましいですわ」

「それは間違いですよ。俺は元々ファイターですから。どちらかと言うと本命は近接です」

 

 部長は感心し、姫島さんは少し残念そうに呟いた。

 

「剣にも精通してるんだ。よかったら今度ちょっと訓練にでも付き合ってくれないかい、コーキ君。一人でやるよりも組み手形式でやったほうがいい経験になるからね」

「私もしてほしいです。コーキ先輩がどんな感じで戦うのかを見てみたいですから。それといい経験になると思うんで」

「あらあら、二人とも積極的ですわね」

 

 祐斗と小猫がそう言うと朱乃さんが苦笑しながら言った。俺も、少しは感覚を失わないために快く了承する。

 

「でも、それだけの技術をどこで身につけたの?」

 

 部長がそう聞いてきたが、俺は口を閉ざした。俺がこんな技術を持っているのはあることがあったからだ。だが、正直このことは話したくないし、話す気もないと思う。思い出しただけで胸糞悪くなる。終わったことなのにまだ俺はあのことを引きずっているのか。部長は数日間過ごしてとてもいい人だとはわかっている。だが、俺はこの話はだけはしたくない。過去の奴らのことを思い出すだけであのときの感覚が甦る。

 

 姫島さんはそんな俺の様子の変化に気付いたのか部長に言った。

 

「リアス、彼にも触れてほしくない過去があるみたいですからこの話しはこの辺にしておきましょう」

「……ええ、そうね。コーキ、気を悪くしたならごめんなさい」

「いいえ。大丈夫です。でも、あまり俺の過去は詮索はしないでください」

 

 そしてしばらく沈黙が続くが空気を変えるために姫島さんが手を叩いて言った。

 

「さ、暗くなるような話はここまでにしましょう。コーキ君、旅の話しなら構いませんよね?キツイようなら無理強いはしませんわ」

「すいません、今日は頭を冷やすために帰らせてもらいます」

「そう。ほんとにごめんなさいね、コーキ。気分を悪くさせて」

「いや、部長は別に悪気があったわけじゃないからいいですよ」

 

 そう言って、俺は部室を出た。そしてほぼ無心に近い状態で歩いていたと思う。気付いたら、いつの間にか家の前に着いていた。本当に情けない。あの日を境に俺は断ち切ったと思っていたが思い出すだけでこうも駄目になる。やっぱり、あいつらと向き合うしかないのかと腕についているブレスレットを見ながら呟いて、マンションに入って行った。

 

 そして、次の日の朝になってすっきりした時にようやく昨日の目的を思い出した。

 

「やばい、昨日宿題教えてもらいに行ったのに教えてもらってない……」

 

 



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旧校舎のディアボロス
違和感と死


 そして、数日が経った。俺も通常通りに戻ったのだが、最近気になることができた。何か変な乱れを感じるのだ。気のせいならいいんだが。

 

 学校に来てからも考えていたが、正体がまだわからないため、そのことを頭の片隅に追いやって参考書を取り出して、勉強を始める。自分は今は学生の身分なのだから勉強せねばなるまい。それに、やっておかなければ今の学力じゃ授業についていけない。最悪の場合留年となってしまう。通わせて貰ってる身分なのにさすがにアウトと思うので少しでも成績をあげて置こうと思っている。

 

 とは言っているものの勉強がそこまで出来るわけない俺が参考書を読んだって理解できないもののほうが多くある。祐斗にでも聞きに行くか。ペン先をノートに軽く打ちつけながら考えていると、妙にテンションが高い兵藤が教室に入ってきた。

 

 何だか様子がおかしい兵藤に、元浜と松田が話しかける。兵藤曰く、彼女が出来たんだ、と自慢していた。彼女が出来たのかと思った。どうやら、二人に自慢しているのが丸聞こえのためいろいろと、情報が入ってくる。彼女の名前は天野夕麻と言うらしい。どうやら昨日告白されたらしく、すぐにOKの返事をしたらしい。こちらからでは見れないが、写真を二人に見せびらかしていた。そしてデートの約束もしているらしい。

 

 しかし、少し気になる部分がある。どちらかと言うと悪いほうの噂のせいであまり女性関係がないはずのいきなり彼女が出来るなんて。しかし、兵藤の彼女になった人物が一目惚れという可能性もあるのだが、変な気配が出てきてからなので少し心配だ。それにそこまで友好な関係が気付けていないため、なんも言えない。兵藤のことは後で、とりあえず部長に今の街の様子について報告することにした。

 

 

 

 

 報告をしてから特に問題は発生することは無く休日となった。特に街でも異変はおきていないため、やることもない。で、今は部長たちに、休みなんだから生活必需品とかを揃えなさい、と言われ、午後から搭城さんに町を案内してもらっている。

 

「ここが、一番安いところです」

「ありがとう。搭城さん。それとゴメンね。せっかくの休みなのに、街の案内してもらって」

「いえ、私も特にやることもなかったので大丈夫です」

 

 なんともありがたいお言葉だ。部長に頼まれたからいやいや付き合ってるとか言われたら少々傷つく。しかし、搭城さんと並んで歩いて話すのは編入前のあれ以来だ。最初とは違い、ある程度仲良くなったので会話はあまり途切れることが無く、街を案内してもらってる。現在案内してもらっているのはなるべく安く、丈夫なものが置いている場所だ。旅の時の金銭感覚が抜けないせいでどうも節約気味な思考が働いている。まあ、それもそれでいい気がすると思っている。お金をもらっているが、あまり使いたくないのもあるからだ。そして、生活必需品を買い揃えて買い物も終わった。時計を見て、小腹が空くような時間帯だ。塔城さんがよければ何か奢ろう。

 

「今日はありがとう、塔城さん。よかったら、何か奢るけどどこか行きたいところある?」

「いいんですか?」

 

 塔城さんはそう言ってきたので頷いた。すると無表情だったが目がとても嬉しそうにしていた。

 

「ありがとうございます。私のオススメの店があるのでそこに行きましょう」

 

 そう言って連れて来られたのが落ち着いた雰囲気のある喫茶店であった。優しいオレンジ色のライトで照らされた店内はとてもくつろげそうな雰囲気を漂わせている。奥の席に案内されて、奥のソファー席に塔城さん、手前のイスに俺が座った。そして、メニューを開いて吟味する。コーヒーの横に種類があるのはとてもいい。こう見えて俺は食に関しては、それなりに食通と豪語しているつもりだ。どんなものかは店にある道具を見ればある程度なら分かる。分かるだけで使えはしないけど。塔城はすでに決まっているのか俺が選ぶのを待っているようだ。待たせるのは失礼だろうと思い、メニューを畳んで店員を呼んだ。

 

「エッソプレッソとイチゴのフレンチトーストを」

「カフェラッテと三種のベリータルトを」

 

 注文を聞いた店員はすぐにカウンターの方に行って、他の店員にコーヒーの準備を頼むと奥のほうに消えて行った。そして、カウンターの店員がミルで豆を挽いている音を聞きながら話していると注文していたものが運ばれてきた。

 

 コーヒーから立ち上る香りはとてもいい香りだ。塔城さんの頼んだカフェラッテにはクリームで可愛らしい猫の絵が描かれていた。なかなかの店員の趣向に少し気に入った。味も満足できるものだった。意外に隠れた名店なのかもしれない。今度、時間があいている時か息抜きにここに来るとしよう。そんなことを考えながら、塔城さんと今食べているものことについて話しながら楽しんだ。

 

「塔城さん本当にありがとう。今日は本当に助かったよ」

「いえ、こっちこそありがとうございます。ご馳走様でした」

「いやいや、いいよ。俺もあんな店を教えてもらったし。満足だよ」

「それでは、先輩。また」

「うん。また部室でね」

 

 そう言って俺と塔城さんは別れた。日が沈む時間帯だし、せめて塔城さんを送って帰ったほうがいいんじゃないかと思いながら歩いている。いや、悪魔なんだし今からは強くなるから必要ないんじゃないかと?とか少し塔城さんには失礼なことかもしれないことを考えていると、何か不穏な空気を察知した。

 

「……公園?」

 

 公園の中で何かが起こっている。僅かに感じる感じたことのようなないものの気配だ。気になって公園の中に入った。気配が散ったがそのほうに行くと、誰かが倒れているのが確認できた。そこに倒れていたのは同じクラスの兵藤であった。

 

「兵藤!!」

 

 急いで兵藤に近づく。兵藤は浅い呼吸をして腹を押さえていた。腹には何かが貫通して行ったように大きな穴が開いていた。カードを取り出して素早く兵藤に乗せると魔力を流して発動させる。

 

「だ……れだ?」

 

 兵藤はまだ意識があるみたいだ。まだ助かるかもしれない。もう一枚カードを取り出して再び兵藤の腹に乗せて魔力を流す。腹の傷は完全に塞がりが血も増やしたが、作る前に血が流れすぎている。ヘタしたらショック死するレベルだ。

 

「同じクラスの桐谷だよ!しっかりしろ、兵藤!」

 

 声をかけて意識を保たせようとする。が、すでに、意識はなくなっていて、息もしていない。

 

「くそっ!」

 

 地面を殴りつけた。遅かったと悔やむ。その時に見たことある魔方陣が現れて一人の女性が現れた。現れたのは部長で、俺を見てびっくりしていた。

 

「コーキ、あなたこんなとこで何してるの?」

「たまたま通りかかった公園で変な気配を感じたんで来たら、兵藤の腹に大きな穴が開いていて倒れていたから治療していました。部長は?」

「私はこの子に呼ばれたのよ。それでね」

 

 そう言って部長は兵藤のポケットから僅かに出ている紙を指した。それを確認すると、魔法人がかかれたチラシだった。見たところ簡易の転移魔方陣のようだ。そういえば、悪魔の契約するときのものだった気がする。

 

「で、助かったの?」

 

 部長が聞いてきたが、俺は首を横に振った。

 

「一応、傷は塞いで血も増やしたんですが、遅かったですね。大量出血の前にショック死しました。どうするんですか?」

「あら、もう、この子の持っている物に気付いてるんでしょ?」

「ええ、もちろん」

「なら、することも分かってるはずよね?」

 

 部長は悪戯っぽく微笑んで言った。そしてポケットから悪魔の駒の兵士(ポーン)取り出して兵藤の胸の辺りに置いた。そして俺のとき同様、呪文のようなものを唱え始め、それを唱え終えると駒が兵藤の中に吸い込まれていった。それと同時に兵藤の胸が僅かに上下して呼吸をしているのが見えた。

 

「これで、今日からあなたは私のものよ」

「といっても聞こえてませんけどね」

 

 兵藤が転生し終えたところを確認すると俺は立ち上がる。

 

「一応、兵藤が転生して生き返ったので、俺はこれで」

「そうね。あなたは悪魔じゃないから、もういいわ。帰ってゆっくりなさい」

「では、また部室で」

「ええ」

 

 そう言って俺と部長は別れ帰宅した。明日からは兵藤の監視でもしようかな、どんな感じかも気になるし。次の日の予定をある程度立てると、俺はベットに潜り込んで眠りについた。



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悪魔の観察と堕天使

 公園の出来事から数日が経っている。俺はいつもどおりの生活に加え、兵藤の様子を観察している。成り立ての悪魔は日光に弱いと部長から聞いているため、見ていたが転生してから兵藤の反応が悪くなっている。いつもどおり、松田と元浜が猥談で話しかけているが、一誠の反応は薄い。

 

(悪魔って言うのは少し難儀だねー。学生の身分ならなおさら、朝に授業とかあるんだし

寝る時間とかどうしてるんだろう。兵藤は生活からして人間と変わらないけど……)

 

 兵藤を見ていると、少し気になってくる。さすがに悪魔と言えど睡眠は必要だろう。深夜に悪魔の契約と言うものをしているのだから寝る時間はほとんどない気がする。そこら辺は今度部長たちにでも効けばいいか。

 

 そんなことを考えながら窓の外を見ていると、部長が登校してきた。ほとんど全員が部長に視線を奪われている。そして、部長がこちらの教室に目を向けた。たぶん兵藤を見ているんだろうすると今度はこちらを見ると僅かに唇を動かしていた。

 

(……兵藤の監視ね……了解しました)

 

 唇を動かして了承すると部長は口角を上げて機嫌よく登校して行った。といっても現在俺も自分の意思で兵藤を監視していたので丁度いいだろうと言うことで了承した。さてと、今日は少し大変かもしれないなと感じながら、一日を始めるのであった。

 

 

 

 

 兵藤の監視を始めたが、特に変わった様子などは全く見受けられない。ただ、朝から昼は少し気分が悪そうにしていただけだ。放課後になって、買える準備をして、兵藤たちが教室を出た後に、自然に教室を出る。そして、兵藤を尾行し始める。今日は朝の会話から松田の家に行ってDVD観賞と言っていたから、松田の家に向かっているのだろう。そして松田の家に着くとそのまま、家に入って行った。こっからはほとんど持久戦だろう。出てくるまでずっと待って置かなければならない。相当な根気が要る。特にやることもなく玄関を見ておく、単純な作業だが、道行く人からは奇怪な目で見られ、挙句の果てには警察を呼ばれそうになると別の位置に移動するを繰り返す。

 

 放課後から約五時間が経過してようやく松田の家から兵藤が出てきた。その後をゆっくりと尾行していく。そして兵藤と元浜が別れてから数分、何か空気が変わった。どこかで感じたことのあるような空気。どこにいるんだとあたりを見ると兵藤の奥にスーツを着た男がいた。そして、兵藤と二言三言会話、というよりあちらが一方的に兵藤に質問をぶつけている。しかし、その途中に、兵藤は走って別の道に入り込んで行った。

 

 スーツの男は背中から烏のような黒い羽を生やすと兵藤の後を追うように飛んで行った。これはまずいことになったなと思い、簡易魔方陣を持って、部長を思い浮かべる。そしてしばらくすると、紅の魔法陣が出てきて、部長が現れる。

 

「どうしたの、コーキ」

「烏のような羽が生えたスーツの男が兵藤を追いかけて行ったんで説明を。たぶん、部長がこの前説明したはぐれ悪魔って奴と勘違いしたんでしょう」

「大体わかったわ。とにかく、追いかけるわよ」

 

 部長の指示に従い、俺は兵藤ではなく、あの黒い羽を生やした男の気配を追って走る。その後に部長はついてくる。そして行き着いたところは、この前、兵藤が殺されていた公園だった。

 

「まさか、またここに訪れるなんてね」

「そうですね。それよりももう少し急ぎましょう」

 

 俺はそう言って公園内に入って行った。そして兵藤を見つけたときにはすでに表藤は腹をまた貫かれていた。少しデジャヴを感じる。そして、俺は銃をカードから取り出すと男と兵藤との間に向かって引き金を引いた。パンと乾いた音が静かな公園に響く。ほぼ一瞬で着弾点に到達して地面がえぐられた。男はすぐにその場から離れてこちらを向く。男は特に俺のほうに向けている。その男に向かって部長は言った。

 

「その子に触れないで頂戴」

 

 部長は歩いて兵藤の所まで行く。その後に俺が男を警戒しながらついて行く。

 

「紅い髪……グレモリー家のものか……。もう一人、お前は誰だ?」

「名乗るなら自分から名乗るのが礼儀ですよ」

「我が名はドーナシークだ、小僧」

「これはご丁寧に。俺はオカルト研究部の部員、桐谷光輝です」

 

 そう返した。しかし、ドーナシークと名乗った男は怒鳴るように言った。

 

「私はそんなことが聞きたかったのではない!貴様のような人間がなぜ悪魔と一緒にいると聞いているんだ」

「短気な人だな。こっちも急がないといけないんですけど。それと、これ以上長居をするならそれ相応の覚悟をしてもらいますよ」

 

 そう言って銃の引き金に力を込める。すると男は、舌打ちをしてから、翼をはためかせ飛び立つ。

 

「リアス・グレモリー。貴様とは見えないことを願う。が、小僧は別だ。いつか貴様を葬りに行くぞ」

「あら、この子は私の眷属ではないけど大切な部員なの、この子同様、次傷つけたらやらせてもらうわ」

 

 部長がそう言うと、ドーナシークは舌打ちして暗黒の空に姿を消した。そして気配も消えるのを確認すると銃を下ろして、カードの中にしまう。

 

「部長、兵藤は大丈夫ですか?」

「いいえ、結構ひどいわね。貴方のカードで傷口を塞いでくれる?」

「わかりました。でも、今作成中で他人に使えるのは一枚だけです。後は部長だけでも何とかできますよね?」

「ええ、すまないわね。コーキ」

 

 そう言って兵藤の傷にカードを置いて魔力を流す。カードが発光して傷を見る見るふさいでいく。そして完全に傷口が塞がったのを確認すると部長のほうを向いた。

 

「終わりました。でも、やったのは傷を塞ぐだけで、血は増やしてないんでそこは部長にお願いします」

「わかったわ。ありがとう、コーキ。今日はお疲れ様。帰って休んで頂戴」

「分かりました。では、俺はこれで」

 

 部長に一礼すると俺はそのまま家に帰りつくと、すぐに眠りについた。

 

 

 

 

 次の日、朝は兵藤と部長が一緒に登校してきたという噂が学校中に広がっていた。兵藤と部長の関係について考えるような感じの噂があって、兵藤はひどい言われようだった。そして放課後になると俺は先生に呼び出され、明日配る書類などの印刷手伝いしていた。何でしなきゃいけないんだと思いながらも印刷をし終えて先生に渡すと、部室に向かった。

中に入ると、いつものメンバーと兵藤がいた。俺が入ってくると兵藤は驚いていた。

 

「なんでお前がここにいるんだ!?」

「なぜって、俺も部員だからだよ」

 

 そう言って俺はあいているソファーに座ると部長が口を開いた。

 

「これで全員揃ったわね。それで兵藤一誠君。いえ、イッセー」

「は、はい」

 

 兵藤が緊張した様子で返事をする。

 

「私たち、オカルト研究部は貴方を歓迎するわ」

「え、ああ、はい」

「悪魔としてね」

 

 その言葉に兵藤は何か複雑な表情を浮かべた。



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正体と神器

「粗茶です」

 

 ソファーに座る兵藤に姫島さんがお茶を出していた。姫島さんの淹れてくれたお茶はとても美味しい。俺も飲みたいなと思っていたら俺の分も出してくれた。

 

「ありがとう姫島さん」

「いえいえ」

 

 こういう気配りが上手な人が部室にいるだけで相当変わるなと考えながらお茶を飲む。やっぱり美味しい。どの銘柄を使っているか今度聞いてみよう。全員分のお茶を出すと部長が姫島さんに言う。

 

「朱乃、あなたもこちらに座ってちょうだい」

「はい、部長」

 

 そう言って、部長の隣に姫島さんが座った。俺が座っている逆隣だ。何で俺がここに座ってるかと言うと、対面席はもう埋まっていたからだ。特に座る場所を気にしない俺はここに座っている。

 

 そして、全員の視線が兵藤に集まる。さすがにこれには兵藤は緊張しているようだ。そんな様子の部長が兵藤に向けて言った。

 

「単刀直入に言うわ。私たち悪魔なの」

 

 俺は悪魔じゃないんですが、と心の中で思ったが、話し中に口を挟むのは無粋だろうと何も言わない。信じられないと言う風な顔をしている兵藤を見ながら部長は話を続ける。

 

「信じられないって顔ね。まあ、仕方ないわ。でも、あなた昨夜、黒い翼の男を見たでしょう?」

 

 そう言うと昨日あったドーナシークのことを思い出した。

 

「あれは堕天使。元々は神に仕えていた天使だったんだけれど、邪な感情を持っていたため、地獄に堕ちてしまった存在。私たち悪魔の敵でもあるわ」

 

 あのドーナシークって言う男は堕天使らしい。つまり、堕天使は悪魔の敵でもあるから兵藤を殺そうとしたのだろう。そして、部長の話を聞いてある程度のことを理解する。

 

 部長曰く、悪魔、堕天使と冥界の覇権を争っていたところに問答無用にそれらを殺しに来た天使がかなり昔から大きな戦争をしていたらしい。それを聞いた兵藤は信じられないと言う感じと胡散臭いと思っているのだろう。

 

「いやいや、先輩。いくらなんでもそれはちょっと普通の男子高校生である俺には難易度高めのお話ですよ?え?オカルト研究部ってやっぱりこういう部活?」

 

 そう言う兵藤に向けて部長が言う。

 

「オカルト研究部は仮の姿よ。私の趣味。本当は私たち悪魔の集まりなの」

 

 また、俺は悪魔じゃないですよ。というか、部長の趣味なんですか、これ。部長はいきなり兵藤に向けて核心を迫った。

 

「――天野夕麻」

 

 その名前は俺は聞いたことがある。それは数日前に兵藤に告白してきたという女の名前だ。しかし、クラスの全員は忘れていて兵藤も聞きまわっていたがいなかったと言う謎の人物だ。俺や部長たちは覚えていたから何らかの魔術だろう。部長が兵藤に話している内容を聞くと、どうやら天野夕麻もドーナシークと同様、堕天使らしい。兵藤は最初は怒気の混じった声音で言っていたが部長は話を進めていく。

 

「この堕天使はとある目的があってあなたと接触した。そしてその目的を果たしたから、あなたの周囲から自分の記憶と記録を消させたの」

「目的?」

「そう、あなたを殺すため」

「ッ!な、なんで俺がそんな!」

 

 部長がそう言うと兵藤はかなり動揺して声を荒げる。当たり前の反応だろう。何もしていないのにいきなり殺すためとか言われれば。いや、兵藤の場合、かなりのエロいことをばかりしているからいつ刺されてもおかしくない気がする。

 

 部長が兵藤を落ち着くように言って説明を続ける。そして兵藤に神器(セイクリッド・ギア)というものが宿っていると説明する。どんなものか分からない兵藤に祐斗が説明した。

 

「神器とは、特定の人間の身に宿る、規格外の力。たとえば、歴史上に残る人物の多くが、その神器所有者だと言われているんだ。神器の力で歴史に名を残した」

「現在でも体に神器を宿す人々はいるのよ。世界的に活躍する方々がいらっしゃるでしょう?あの方々の多くも神器を有しているのです」

 

 姫島さんが祐斗の後に補足で説明してくれる。

 

「大半は人間社会の規模でしか機能しないものばかり。ところが、中には私たち悪魔や堕天使の存在を脅かすほどの力を持った神器があるの。イッセー、手を上にかざして頂戴」

 

 部長がそう言うと戸惑うが、部長が急かすと左腕を上げた。

 

「目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい」

「い、一番強い存在……。ド、ドラグ・ソボールの空孫悟かな……」

「では、それを想像して、その人物が一番強く見える姿を思い浮かべるのよ」

 

 ドラグ・ソボールって何?俺はそんなの聞いたこと無いぞ。今度祐斗か塔城さんあたりに聞いてみよう。そう決めて、兵藤を見る。部長は兵藤に指示をする。兵藤は部長の言う通り立ち上がった。そして何かの構えを取ると、そのまま手を上下に合わせて突き出すと同時に叫んだ。

 

「ドラゴン波!」

 

 なんかかっこいいと思ってしまった。しかし、あんなポーズをこんな人前でして恥ずかしくは無いのだろうか。

 

「さあ、目を開けて。この魔力漂う空間でなら神器も容易に発現するはず」

 

 そう言われて兵藤は目をゆっくりと開ける。すると兵藤の左腕が光りだした。たぶん神器が発現するんだろう。光がやんだ時には赤色の篭手らしきものが装着されていた。凝った装飾に手の甲には丸い宝玉がはめ込まれている。あれが兵藤の神器。

 

「な、なんじゃ、こりゃぁぁぁぁ!」

 

 兵藤は腕にある篭手を見て、驚き叫んだ。

 

「それが神器。あなたのものよ。一度ちゃんと発現できれば、あとはあなたの意思でどこにいても発動可能のなるわ」

 

 そう言ってその後は兵藤が殺された理由がその神器にあると話される。

 

「瀕死のなかで、あなたのが私を呼んだのよ。この紙から私を召喚してね。でも、あなたを最初に助けようとしたのはコーキよ」

 

 そう言うと兵藤は驚いていた。

 

「そうですけど結果的に助けたのは部長ですよ。俺は結局助けられませんでしたし」

 

 結局は兵藤が生きているのは部長のおかげだ。

 

「お前っていい奴だったんだな。最初会ったときは女子に囲まれて敵だと思ってたけど、今思えばお前あの後はそんなこともなくなってからは、正直どうでもいい奴だと思ってたけど」

「それって俺を褒めてるの、侮辱してるの?」

 

 さすがにこれには額に青筋を浮かぶぞ。その言葉を聞いてた、姫島さんはいつもどおり微笑を浮かべ、部長と祐斗もこれには苦笑、そして、塔城さんはいつもどおりだが僅かに口元が緩んでいる。本当に失礼だな。

 

「まあ、落ち着いてコーキ。それで、あなたがこのチラシに私たちが配ってるものよ。私たち悪魔を召喚するためのもの。最近は魔方陣を描くまでして悪魔を呼び寄せる人はいないから、こうしてチラシとして、悪魔を召喚しそうな人に配ってるのよ」

 

 普段なら姫島さんたちが呼ばれるはずだったらしいが部長を呼ぶほど願いが強かったらしい。そこで、兵藤が神器がが宿っていたことを知っていたらしい。だから兵藤を生き返らせた。悪魔として。

 

「悪魔としてね。イッセー、あなたは私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったわ。私の下僕の悪魔として」

 

 そしてそのことを話した部長たちの背中からコウモリのような翼、悪魔の翼が生えた。もちろん、兵藤からもだ。

 

「改めて紹介するわね。祐斗」

「僕は木場祐斗。兵藤一誠くんやコーキくんと同じ二年生ってことは分かってるよね。僕も悪魔ですよろしく」

「……一年生。……塔城小猫です。よろしくお願い済ます。……悪魔です」

「三年生、姫島朱乃ですわ。一応、研究部の副部長を兼任しております。今後ともよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ」

「祐斗の言う通り。って言うか俺は兵藤と顔見知りなんでしなくていいですかね?」

 

 部長に言うと首を横に振った。どうやらしなくてはならないらしい。

 

「二年生の桐谷光輝。改めてよろしく、兵藤。俺は人間です」

「えっ?人間?」

 

 兵藤はここにいる全員が悪魔と思っていたらしく、意外そうに確認のために聞き返していた。その言葉を聞いて首を縦に振る。そして、最後に我らがオカルト研究部の部長の自己紹介をする。

 

「そして、私が彼らの主であり、悪魔であるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセー」

 

 俺は眷属じゃないから下僕ではないんですけど、そう言いたかったがそれも野暮って言うものだろうから黙っとくことにした。



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討伐と説明

少し長めです。ほとんど後半は使っているルーンの説明となります。


 兵藤が悪魔の仕事をするようにこなすようになっているらしい。なぜ、らしいって?それは、俺は人間だからだ。基本的には、俺は悪魔としての仕事はもらわずに放課後の数時間、勉強か話をしに行くぐらいしかしなくていい。俺が部活にいるのはそれくらいだ。

 

 今日は帰って家でゆっくりするはずだったのだが、少し前から夜になるにつれて何か不穏な空気を感じたため、気になって、カードケースを腰につけて家を出た。また堕天使がまた何かやらかしていると思っているからだ。ついでに言う、俺の不穏な空気とは僅かな魔力の乱れである。地のことを把握するとその地に流れる魔力がだいたい分かる。ただ、教会や神社などのところは逆で魔力の流れが複雑で分かりにくい。これは神社や教会を建てる場所にわけがある。まあ、その辺の説明は省くとして俺は、魔力の乱れのある場所へと向かう。

 

 向かう場所はどこだか分からないが町の中ではなく、町外れであった。人があまり来そうに無い場所で奥には廃屋が見える。そして、乱れがあるのはその中だ。警戒を強めてその廃屋の中に入る。中には、つい最近人が入ってきたと思われる足跡がある。ここは廃屋だから肝試しに入ってきたものだろう。だが、それを見て気付く。入ってきたものはあるが、出ていった形跡が無いのだ。予想して、この中で何かが起きているということだ。カードを取り出して、銃ではなく剣を取り出す。取り出したのはただの剣だが、俺が防御のルーンを刻み込んだ特別製である。

 

 そして、あたりを警戒しながら奥に進んでいくと血の臭いが鼻を突くように臭ってきた。

 

「美味そうな臭いがするぞ。それも特上な獲物だ。どんな味がするのかな?甘いのかな?美味いのかな?」

 

 不気味な声が奥の暗闇から聞こえてくる。

 

「誰かは知らないけど。魔力の乱れを見つけて来たと思えば、またはぐれ悪魔って所かな?」

 

 そう呟いて、暗闇に視線を向ける。俺の目の前の暗闇から何かの姿がゆっくりと出てくるのが見える。出てきたのは上半身が裸の女性。だが、大きさがおかしい。体が俺の頭より上にあるのだ。しかし、理由はすぐに分かった。体の付け根を良く見ると獣の毛のようなものが見える。そしてその下には獣の体がついてるだろう。女性の上半身に獣の下半身。女性版ケンタウロスと予想した。そして相手の全貌が明らかになる。予想したとおり、ケンタウロスのような姿で五メートル以上の大きさがあり、両手には槍らしきものを一本ずつ所持している。

 

「とりあえず、あんたがこの魔力の乱れの原因みたいだね」

 

 そのはぐれ悪魔の姿を見ながら言う。するとはぐれ悪魔はけたけたけたと独特な笑い声を上げる。

 

「よく喋る餌だ。すぐに料理してやるから、短い人生を悔やんでおけ」

 

 そう言って、はぐれ悪魔は槍を俺に向けて振り下ろしてきた。だが俺はその場から動かない。体に魔力を流して、体中に刻まれたルーンを発動させる。発動させるルーンは体に刻まれた全ての力、活動、戦闘、防御、生命のルーン。すると俺の肌のあちこちにルーン文字が浮かび上がる。もちろん服の下にもびっしりと浮かび上がっている。そして、手に持っている剣にも魔力を流し込んで剣を強化すると、その剣で槍を受け止めた。

 

「正当防衛。先に攻撃してきたのはそっちだから、死んでも自己責任で」

「ほざけぇぇぇ!!雑魚がぁぁぁぁ!!」

「どっちが?」

 

 そう言って剣で槍を弾いてはぐれ悪魔に向けて走る。とその時、入り口のほうから誰かが来たようで叫んだ。

 

「はぐれ悪魔バイザー!あなたを討伐ってコーキ!?あなたなんでここにいるの!?」

 

 どうやら来たのは部長たちのようだ。

 

「俺はちょっと気になって来たんです!案の定なんかいましたけど」

 

 バイザーと言う名前のはぐれ悪魔の攻撃をかわしたり、弾きながら部長に返事を返した。バイザーは部長が来たことにより焦りを覚えたのか両手の槍を使い始める。だが、この程度の速度の攻撃が増えた程度では、まだまだだ。

 

「おい、危ないぞ!」

 

 兵藤が何か叫ぶと同時に素早く片手を腰に回してカードから銃を出すと振り向かずに引き金を引いた。すると、俺を食いちぎらんとばかりに迫っていた蛇のようなものが銃弾に当たると消し飛ばされた。

 

「二本の槍で攻撃している途中に背後からの奇襲。在り来たりなパターンすぎてあくびが出ながらでも対処が出来る」

「調子に乗るなぁぁぁ!小僧ぉぉぉぉ!」

 

 そう言うと、バイザーは突進をしてくる。確かにあの巨体に当たったらただじゃすまないだろう。それが普通だったらの場合。今の俺はルーン魔術で身体強化された体。それもかなりの数を体に刻み、流している魔力の量を上げれば更に強化できるものだ。だが、それでも当たるという考えはない。たとえ、装甲が強固な物でも傷を負わせる道理はないからだ。素早く銃口を向けると連続で引き金を引く。弾丸はライザーの足を狙い、足を体から分断させる。

 

「クソガぁァァ!!殺されるくらいならお前を道ずれにしてやるぅぅぅ!!」

 

 しかし、ライザーの執念はすごく、両手に持ってる槍を俺に向かって投げる。更に体を上手く動かして空中に跳んだ。どうやら押しつぶす気らしい。確かにあれほどの巨体は銃弾で貫通できないから、破壊のルーンを込めた弾丸を撃っても意味ないだろう。槍を剣で弾きながら考える。しかし、すでに俺の目の前にはライザーの巨体があり、そのまま押しつぶされた。

 

 

 

 

 部長にしかられた後にはぐれ悪魔バイザーの討伐に向かっている。部長が言うにははぐれ悪魔って言うのは、主を殺した、または主を裏切った悪魔のことを指すらしい。この前ドーナシークも俺をそのはぐれ悪魔と勘違いして殺そうとしたらしい。この存在はどの勢力にも危険視されているらしく、どの勢力も見つけ次第殺すらしい。なんとも恐ろしい世界だ。俺は絶対に部長を裏切ったりはしないから大丈夫だけど。

 

 バイザーがいると思われる廃墟に着くと殺意とか敵意がハンパじゃない。足が震えて仲間がいなけりゃ間違いなく逃げてる。堂々と立っている部長がとても頼もしい。そして廃墟の中に部長たちの後を追うように入っていく。

 

「イッセー、いい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」

 

 マジですか!?ついこの前まで普通の男子高校生だった俺が戦闘!?

 

「俺、戦力にならないと思いますけど」

「そうね。それはまだ無理ね。でも悪魔の戦闘を見ることは出来るわ。今日は私たちの戦闘を良く見ておきなさい。ついでに、下僕の特性を説明してあげるわ」

「下僕の特性?説明?」

 

 全くわけが分からない。そんな顔をしていた俺に部長が説明しようとした時、奥のほうから不気味な声音の声が響く。俺はその声を聞いてもう帰りたくなってきたが、部長たちの後を頑張って着いていく。そして、その中に入りざまに言った。

 

「はぐれ悪魔バイザー!あなたを討伐ってコーキ!?何であなたがここにいるの!?」

 

 部長が驚いた声を上げると同時に剣が弾かれる音が聞こえた。その音源を見るとそこには昼間にしか部に参加していないはずの部員、桐谷がいた。片手には剣が握られている。本当に何であいつがこんなところにいるんだ?そして、さらにその音源の更に奥を見ると異形の化け物がいた。あれが部長の言っていたバイザーなのだろう。初めて悪魔と言う生物に恐怖を抱いたと思う。

 

「俺はちょっと気になって来たんです!案の定なんかいましたけど!」

 

 しかし、その手前では桐谷がバイザーの攻撃を受け流したりかわしている。あれが人間の動きなのかと思う。どう見ても普通の人間ならあの攻撃を初撃か次でやられているはずだが、それをまるで慣れているかのように対処している。

 

「部長。そういえば桐谷って何者なんですか?悪魔じゃなくて人間って言うのは分かってるんですけど、それ以外はあまり知らないんで」

「彼はルーンの魔術師よ。それも、かなり強い」

 

 そう言われて驚く。あいつは魔術師、つまり魔法が使えるのか。少しうらやましい。だが桐谷を見ていると、死角からバイザーの尻尾から伸びる蛇が桐谷を襲おうとしていた。

 

「おい、危ないぞ!」

 

 俺が叫ぶのとほぼ同時だった。桐谷はどこからともなく取り出した銃のようなものを振り向かずに構えて撃った。弾丸は蛇に当たると同時に吹き飛んだかのように消し飛んだ。まるで慣れているかのような動きだ。部長たちはそれを見て、驚いている。もちろん俺もだ。悪魔を知っているただの部員でさっき知った魔術師だと思っていたのにあんな行動をしている。どちらかって言うと魔術師と言うよりは兵士って感じだ。

 

「二本の槍で攻撃している途中に背後からの奇襲。在り来たりなパターンすぎてあくびが出ながらでも対処が出来る」

「調子に乗るなぁぁぁ!小僧ぉぉぉぉ!」

 

 そんなの関係なく桐谷はバイザーに向けて言うとバイザーはキレたのか、桐谷に向けて突進していく。だが、桐谷は落ち着いている。あんな巨体が突進してきたら普通なら体がばらばらになるだろ!桐谷に向かって避けろと叫ぼうとするが、四発の銃声が遮る。もちろん撃ったのは桐谷だ。銃を持っているのはあいつしかいないし。銃から放たれた弾丸はバイザーの膝上に当たるとバイザーの足が体とおさらばした。おさらばはそのままの意味だ。銃弾が当たった場所はまるで高速で飛ぶ巨大な大砲の玉で打ち抜いたかのように丸くえぐったような感じになっていた。あの銃にそんな威力があるのかと思うがこれを見ると自分に向けられただけで身震いする。味方で本当に良かった。しかし、バイザーの執念はものすごく、ほぼ瀕死といっていいような状態なのに体を動かしていた。

 

「クソガぁァァ!!殺されるくらいならお前を道ずれにしてやるぅぅぅ!!」

 

 そう言うと両手に持っていた槍を桐谷に投げつけると体を器用に動かして桐谷の頭上に飛んだ。桐谷は槍の対処をしている間にバイザーに潰されてしまった。それを見た部長は叫ぶ。

 

「小猫!今すぐ、バイザーを殴り飛ばして頂戴!」

 

 部長が言う前にすでに小猫ちゃんは動き出しており、バイザーに向けて拳を振りかざしていた。だが、急にバイザーの口から悲痛の叫びが上がったため、中断して小猫ちゃんは後退した。

 

「ああアアアアァッァァッァッァァ!!」

 

 急な叫び声を上げたバイザーの体が浮いていく。足がないはずのバイザーが立てるはずもない。その正体を探るべくバイザーの下を見ると、そこには剣でバイザーの体を突き刺し、持ち上げている桐谷がいた。さすがに、これにはビックリだ。本当に桐谷は人間なのだろうか?あんな巨体を人間が持ち上げられるはずがないし。そんなことを考えていると桐谷はバイザーを投げ飛ばし、こちらに近寄ってきた。バイザーの血にぬれ、顔や手に浮かぶなにわからないタトゥーのようなもので桐谷に恐怖心を覚えるが、桐谷は近づくと、タトゥーが消える。

 

「すいません部長。勝手な判断をして」

 

 急に謝る桐谷。すると部長は桐谷に顔を上げるように言うと桐谷が顔を上げる。その瞬間に部長の平手打ちが桐谷の頬に向けて振りぬかれた。

 

「ええ、あなたの勝手な判断で、あなた自身の命を危険に晒したのよ。あなたは眷属ではないにしろ、オカルト研究部の部員なの。勝手な判断で自分の命を捨てるような真似をしないこと」

「……すいませんでした」

 

 素直に謝る桐谷。そんな桐谷を部長は抱きしめた。なんともうらやましいんだ!しかも抱きつかれているから部長のあのたわわに実ったやわらかいおっぱいが形を変えている!今すぐ俺とその場所を交代しろ!いや交代してください!

 

「でも、生きていてくれて本当に嬉しいわ。だけど、さっきのコーキについて聞きたい事があるから、この後話してもらうわよ」

「分かりました」

 

 そう言うと部長は桐谷から離れてバイザーのところに行く。バイザーはすでに息絶えているらしく、全く動いていない。部長が手から何か出して、それを放つとバイザーのしたいが跡形もなく消え去った。

 

「じゃあ、皆帰るわよ。私たちはジャンプで帰るから、コーキは罰としてこの後走って部室に来なさい」

 

 そう言って朱乃さんが出した魔法陣に乗って俺らは部室へと向かった。

 

 

 

 

 部長たちは俺を置いて魔方陣で転移(ジャンプ)して行った。俺は血生臭い服で行くのは気が引けるため、一度家に帰って血を洗い流して制服を着て学校へと赴く。待たせるのもあれなので、体を強化して急いで行く。

 

 旧校舎に着き、部室に入る。部室には全員が待機していた。

 

「すこし、着替えるのに手間取ってまして遅れました」

「そう。でも、あなた、魔術師なんだから着替えも水も自分で用意できたんじゃないの?」

「魔力の無駄はなるべくなくしたいんですよ。魔力は多いほうですけど非常事態のときにないって言ったら元もこうもないのでというのが建前で塔城さんにはすでに説明してますが、俺は魔力変換などの芸当ができないからです」

「そう。じゃあ、あそこで言ったとおり何であなたがあそこにいたか教えてもらいましょうか?」

「俺がいたのはあっちでも言った通り、気になったからです」

「で、その気になった場所にバイザーがいたわけね」

「まあ、そうなりますね」

 

 部長の質問に答えていく。

 

「では、あのときのコーキ君がバイザーと戦われてた時、顔の一部と手の甲に見えていたのはなんですの?」

「あれはルーン文字ですよ。自らの体に刻み込んで、魔力を流すことでその能力が発動して浮かび上がってくるんです。こんな風に」

 

 姫島さんが聞いてきたので体に魔力を流す。すると、肌の見える部分にルーンが浮かび上がってくる。それを見ると少し驚いていた。

 

「なんで自分の体にルーンなんて刻んだんだい?」

「自分の身を守るためだよ。一応、片田舎で魔術を習得した後、俺は旅に出て何度も死にかけたからね。死にたくなかったから自分の体にルーンを刻んで身体能力を強化したわけ」

 

 祐斗の質問に答える。旅の途中に何度も死に掛けた。そのために、何年もかけて体に刻んで行った結果がこれだ。

 

「……コーキ先輩、そのルーンはどんな効果があるんですか?」

「効果は複数、同じルーンも刻んでるから相乗効果もある。まあ、一番分かりやすいもは防御と力のルーン。名前の通り、防御力と力を上げる。それと戦闘のルーン、こっちは対魔力とかの体内への攻撃を防ぐものと、魔力の底上げ」

「ある意味悪魔の駒の僧侶(ビショップ)戦車(ルーク)がの合わさった特性ね」

 

 部長がそれを聞いて悪魔の駒の戦車に僧侶に似ているという。確かに戦車のようで僧侶のようだ。だけど、それってつまりクイーンじゃありませんか?というか、塔城さんが私のポジションとか呟いてる。仕方ないじゃないかルークの特性に似たのはいろいろなものと遭遇するからだよ。

 

「他にも活動のルーンと生命のルーンを刻んでます。活動のルーンは俺の細胞を活性化させて体の負荷を軽減させる役割を持っています。生命のルーンは俺の刻まれているルーンのいわば司令塔といっていいでしょう。コイツがあるおかげで魔力を流してルーンが起動します」

「なんで、生命のルーンが司令塔の役目を果たしているんだ?だって生命ってことは生きてるとかそういうことじゃないのか?」

「いい質問だ、兵藤。だけどそれだとルーンの意味を説明しなきゃならないから省くけど、生命のルーンには衝動、完全性、創造の意味があるんだ。刻んでいる生命のルーンに練りこんだ意味は完全性。刻みすぎて不完全なんだよ、俺のルーンは。この完全性があってこそ、俺の体に刻まれたルーンが安定しているんだ」

 

 兵藤は分からないといった風に、頭を抱えていた。これは魔術を勉強して理解しなければ意味がないが、使わないのならそこまで深く考える必要はないことを伝える。だけど、もし使うのだったら聞くなりしてくれれば答えるとも伝える。

 

「なら、剣は?ただの剣にしか見えなかったんだけど、あの剣はなんだい?」

「あの剣は普通の剣だよ」

 

 そう言って、剣をカードから出して祐斗に渡した。祐斗はそれを見るがただの剣と理解したみたいだ。だが、あることに気付いていた。

 

「柄のところに刻まれてる文字、それってルーンかい?」

 

 祐斗は返しながら聞いてくる。

 

「そう。所有と防御のルーンを刻んでる」

「なんで所有と防御のルーン?普通、力とか攻撃系のルーンじゃないのかよ?所有は?」

「所有はこのカードに入れるため。それとただの剣に属性なんてつけようとすると剣が壊れるか簡単に折れてしまうんだ。特殊な鉱石か、魔力を込めて作ったのなら別だけどね」

「じゃあ何で力のルーンを刻まないんだ?」

 

「それは、剣自体に力を付与したところで意味がないからだよ。剣の力=攻撃力じゃないんだ。剣の力は使用者によって決まるから力は実際は剣とは相性が良くないんだ。それと違って防御のルーン。これは剣とは相性がいい。このルーンを刻んで魔力を流すだけでかなりの硬度になるんだ。刃こぼれもしにくくなるからとても助かる」

「ルーン魔術って言うのは奥深いものなんだなー」

 

 兵藤は今の説明を理解したのかうんうんと頷いている。

 

「じゃあ、銃にもルーンが?」

「もちろん、銃にもあるよ」

 

 マガジンを出して弾を一つ取り出すと机の上に置いた。そこにはNのような文字が刻まれている。

 

「N?」

「いや、これはハガルといって、英語にするならHだよ。で、これは俺がもっとも得意にしている破壊のルーン。もっとも俺がよく使うルーンで扱いを間違えば危険なものだよ」

 

 そう言って弾をマガジンに籠めなおしてしまった。

 

「これで一通りは説明しました」

「ええ、だいぶわかったわ」

 

 部長はそう言う。この前のように、これ以上は深入りしないところはありがたい。

 

「それじゃあ、自分は帰りますね。少しは眠っておかないと学校に支障をきたすので」

「いいわよ。だけど、今度からは今日みたいに勝手なことはしないでね」

「了解しました。それじゃあ、また午後の部室で」

 

 俺は部長たちに別れを告げ家へと帰った。



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再開と認識

 あの後は特にはぐれ悪魔など、町には特に異常は発生はしていないし、特にすることもないから部室でのんびりと過ごしたりしている。変わったことと言えば、俺も来れる時は夜の部活の仕事に顔を出しにこいと言われたくらいだ。とは言っても俺は部長の眷属ではないため魔方陣を使えるわけではなく、ただ、部長と姫島さんの話し相手という形で出てきている。まあ、本当にたまにになるだろう。実際人間の俺にとって夜は眠くなる。夜行性の人間もいるがそれは少数の人間だけである。

 

 で、今日は部長たちと話していたのだが俺がそろそろ、瞼が重くなってきたので先に帰らせてもらうことにした。校舎から出て、まだ夜風が体に当たる感じが心地いい。こんな生活も悪くない。ただ、こうやって学校で友達と何気ない会話をしたり、部室でも同じようなことを行っても飽きはこない。こんな生活もいいんじゃないかと思っている。特に、目的があったわけじゃないが、来た意味はあった。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、急に魔力の乱れをすぐ近くで感じた。すぐにその場から離れる。そして、今まで自分のいたところには光る槍のものが刺さっていた。これは一度見たことのあるもの。

 

「奴の援軍に向かおうとしたときに会うなんてな、数奇な運命よ、小僧」

「その声とこの槍。ドーナシーク」

 

 そう言って槍の刺さる向きからドーナシークがいると思われる方向を見る。そこには数人の堕天使が翼をはばたかせて滞空していた。まさか、こんな夜中に会うなんて本当に運がない。戦うかと考えたが、今は銃の弾丸が少し不足していてる。なので、空中相手は少し厳しいだろう。それに、あまり面倒ごとを起こすなとこの前部長にお叱りをもらったばかりだ。少し面倒かもしれないが、ここは逃亡に徹するとしよう。

 

「お前たちはフリードのところに向かっていろ。私はこいつに用がある」

 

 ドーナシークがそう言うと、数人の堕天使はどこか飛んで行った。この空間に残ったのは俺とドーナシークのみ。そしてドーナシークは光の槍を出して地上に降り立ち俺を見据える。

 

「あの時以来だな。あれほどの屈辱にあわされて私はお前をどういたぶって殺そうか考えていたとこだ」

「それはそれは。堕天使さまにそんな思われるなんて吐き気しかしないね」

「はっ。黙れ、小僧が」

 

 ドーナシークは槍を俺の心臓目掛けて投げてくる。それを交わして、指に魔力を込める。それに気付いたドーナシークは更に光の槍を作って俺に投げてくる。それも避けて、魔力の宿った指で宙をなぞる。書くのは二文字。くのような字と、Lを逆にした文字を魔力で書いて浮かび上がらせる。一つは希望のルーン、ケンと読み、火を象徴している。そしてもう一つは流動のルーン、ラグと読み水を象徴している。

 

「問題です、ドーナシーク。水と高温の火を合わせるとどうなるでしょうか!」

 

 そう言うと同時に文字から、高温の火と、大量の水が現れる。そして、その二つがぶつかることによって一気に周りが水蒸気に満たされる。その瞬間、俺は少しの魔力で体を強化して学校に向かって走る。なぜ家でなく学校なのか?それは、後のことを考えると学校のほうが安全だからだ。

 

「おのれ小僧ぉぉ!逃がさんぞ!!」

 

 振り向くとそこにはさっきまで余裕を残していた表情が完全に崩れ、怒りを表していた。しかも煙幕代わりの水蒸気を飛ぶことによって避けていたようだ。まあ、翼があるからそういう行動に出たんだろう。すこし考えが浅はかだったようだ。ドーナシークが投げる槍を避けながら、学校に向かおうとするが少々相手もしつこい。また魔力を指に込めて二等辺三角形を無限のような形で書く。これは、ダガスと言う、認識のルーンで象徴するのは日光だ。

 

「こんな、暗い夜にかなり眩しい光を見るとどうですか!」

 

 そう言って目を覆うと同時に目の前のルーン文字がものすごい明るさの光を出した。ドーナシークそれを見てしまい、目をやられたようだ。

 

「小僧ぉぉぉぉぉぉ!もう許さんぞぉぉ!この私を散々こけにしてくれおってぇぇぇ!」

 

 ドーナシークの叫び声が夜に木霊するがそれを無視して退散していく。学校まで行けば大丈夫だろう。さすがにあの中までは追ってこないはずだし。ドーナシークを撒けたなと思い、息を整えるために立ち止まった。しかし、ここで止まるのが行けなかった。目の前を通り過ぎる複数の人影、その複数の人影の中には先ほどドーナシークといた連中がいた。そして、先ほどはいなかった白髪の男、の白髪の男の後ろを歩く金髪の少女。そんな奴らが目の前を通る。そして白髪の男が俺に気付いた。

 

「おんやまあ?こんなところに誰かいるじゃあーりませんか」

 

 白髪は独特な喋り方でこちらを見ている。その顔は昔見たことのある快楽殺人者と同じだ。しかし、俺は別の意味で言葉を失った。奴の着ている服装だ。それは教会にはほとんど必ずいる神父の服、それを見た瞬間、頭の中から逃げると言う考えが消えていた。

 

「さっき、クソ悪魔どもを殺せずじまいで不完全燃焼なんだよぉー。だからぁ、俺のために死んでくれなぁーい!」

 

 神父の言っていることは全くもって意味がわからない。だが、そんなことはどうでもいい。俺は目の前にいるそいつを片付ければいいだけなのだから。

 

 いつの間にか光る剣を持った白髪の神父は目の前にいて、光の剣を振り下ろしてきた。素早く腰からカードを取り出して、カードから剣を抜き取る。まだ完全に抜ききれていない状態で神父の剣を受け止める。

 

「おんやまぁ。こいつは驚いた。普通の人間じゃなくて、そのカードに書かれた文字からして魔術師だったのねぇん。しかも、中々見所があるじゃないですかー。ちょっとできるんならお前の名前俺の大事な脳のメモリーに記憶してもいいZE!」

 

 ふざけた口調で言う神父の間合いを一瞬で詰めて斬りつける。それを神父は受け止めようとしたがすぐに離れる。まるで何かから逃げるように。完全に避けたはずなのに胸から横腹にかけて切り裂かれていた。血が出ているが傷は浅いようだ。

 

「おいおい、こんな奴が町にいるなんて聞いてねえぜ……」

「フリード!そいつは私の獲物だ!貴様はさっさとレイナーレ様のところに魔女を連れて行け!」

「はいはい。言われたとおりにしますよぉ」

 

 ドーナシークが追いついたようでフリードという神父にそう言うと、逃げるように他の堕天使につかまり飛んで行った。その後を追う。しかし、光の槍がそれを邪魔をする。もちろん前を飛ぶ堕天使ではなく後ろから追いついたドーナシークだ。神父がいなくなり、頭が冷えてきた。()()神父を見ただけで頭に血が上ったみたいだ。少しはまともになっていると思っていたんだが、まだ、本物を見ると殺意が湧く。しかし、そんなことより今はドーナシークだ。目暗ましはもう使えないだろう。どうやって逃げるかを考える。

 

「小僧。一度だけでなく二度もこの私を愚弄しよって。貴様をなぶり殺しにする以外ないだろう!!」

 

 考えている途中に槍を投げてきた。まあ、戦いの最中に考える時間を与える敵なんて普通考えていないだろう。槍を剣で弾いてそのまま更に距離を取る。剣を構えてドーナシークと対峙する。ドーナシークも槍を構える。そして、ドーナシークは俺に向けて駆け出す。

 

「小僧ぉぉぉ!」

 

 一度槍を投げて更に槍を展開しながら、突っ込んで来る。こちらはクイックドロウの容量でカードから素早く銃を出すとドーナシークに向けて放った。弾丸が不足しているがもう、こいつは面倒だからここで倒すことにした。

 

 ドーナシークの肩に当たった銃弾は肩を破壊して腕を切り離した。

 

「ぐあああああああ!!」

 

 ドーナシークは自分のなくなった肩口を押さえながら苦痛の叫びをあげる。その隙に槍を避けて叫ぶドーナシークの正面に行く。

 

「キサマァァァ!!」

 

 それに気付いたドーナシークは肩から腕を放して槍を取り出そうとするがその前に斬首した。宙を舞う首。そして、バタッと音を立てて倒れる体。血を浴びないように避けて剣についた血を払ってカードにしまう。

 

「……やるすぎたかな。これは」

 

 ドーナシークだったものを見ながら呟いた。辺りにも血が飛んでいて、とても悲惨なことになっている。

 

「とりあえず処理しなきゃ」

 

 そう呟いて流動のルーンを書いて水を出すと、水を操作してここら一帯に飛び散った血を洗い流す。そして、その間に俺はドーナシークの死体、首と体を集める。

 

「これでよし」

 

 ドーナシークの羽を一枚毟ると魔力を指に集めて死体にルーンを刻む。刻むのハガル、破壊のルーンだ。象徴は雹。だが、ルーンそのままの意味を込めれば銃弾のが当たった時と同じ現象を起こすことが出来る。だが、弾丸とは違い、刻んだ物自体の破壊のため、ドーナシークが消えることになる。刻んで、しばらくするとドーナシークの死体は一瞬で消えた。

 

 しかし、今日の出来事で完全に俺の中であることが決まる。現在、町にいる堕天使は俺の敵だ。ドーナシーク同様に攻撃をしようとしてきた。あの時はドーナシークが命令していたため、どこかに行ったが、命令さえなければ攻撃してきたであろう。これはすでに相手がこちらを敵と認識してて俺を殺そうといったところだろう。

 

「敵を殺すって言うことはどういうことか理解してるんだろうか、堕天使たちは」

 

 そう呟くと、その場を後にした。もちろん、そこはすでに戦いの後といっても誰も信じないほど最初に来た時同様の道であった。



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突入と再戦

 帰って寝る前に弾丸をどうするか考える。弾丸はアメリカやヨーロッパにいた頃にはそこまで手に入れるのは苦労しなかったが、日本に来ると、弾丸の流通ルートがかなり絞られてあまり手に入らなくなった。堕天使に会った時の対処が少し厳しい。マガジンと弾の入った箱を取り出し、弾を数える。弾数はマガジン一つ分しかない。これは参った。さすがにこれだけじゃ足りない。ルートが確立するまでしばらくは剣のみとなりそうだ。

 

 箱の中にある弾に破壊のルーンを一つ一つ、丁寧に刻んでマガジンの中に込める。そして銃にマガジンを装填させると収納する。これで準備は整った。ということで学校のために寝ることにした。

 

 

 

 学校でいつもどおりにしているのだが、今日は兵藤が来ていない。何故かは放課後、祐斗たちにでも聞くとしよう。あまり、気にしないで俺は授業を受けた。

 

 何事も起きなかった学校もすでに放課後になった。だが、なぜかいつもどおり俺は教師の手伝いと言うことを頼まれていた。なぜ俺にばかりと思う。俺は教師のパシリではないはずだ。そんなことを呟きながらも仕事をする俺もそうだが。そして、教師から頼まれたものを渡して部室に向かった。

 

 旧校舎の前でちょうど姫島さんと部長が出てきた。

 

「あら、コーキ。ごめんなさい。今日は部活を中止することにしたわ」

 

 そう言って謝る部長。だが、俺はそのために部に来たわけではない。バックから昨日、ドーナシークから毟った羽を見せる。すると、部長と姫島さんは驚いていた。

 

「あなた、これをどうしたの!?」

「昨日、俺が部活の帰りに堕天使のドーナシークに遭遇しました。最初は部長たちがまだいると思う学校に行こうとしたんですけど、結局撒けなかったんで、戦って倒しちゃいました。死体は破壊のルーンを刻んで消滅させたんでもうありません」

 

 俺は昨日の出来事を話す。神父に会って少し頭に血が上ってと言うとところは言わなかった。別に言わないでいいと思ったからだ。そして部長はそれを聞くと、溜め息を吐く。

 

「あなたは、私の言ったことを守ろうとしているのかしてないのかはっきりしないわね」

 

 部長は苦笑いしながら言った。姫島さんはいつもどおり笑みを浮かべてあらあらといっている。そして部長は俺に向かって言う。

 

「今から、祐斗、小猫、イッセーが堕天使の本拠地に乗り込むわ。祐斗と小猫だけでも十分かもしれないけど、あなたも行って頂戴」

「了解しました」

 

 そう言うと部長と姫島さんは魔方陣を展開してその中に入りどこかに行ってしまった。そして、俺は部室に行くと塔城さんと祐斗、そして兵藤が戦闘に行く準備をしていた。

 

「そんな格好でどこに行くつもりですか?」

 

 その言葉に全員の視線がこちらを向く。

 

「まさか、お前、俺らを止めるつもりなのか?」

 

 少し怒気が含まれた兵藤が言う。しかし、俺はそれを首を横に振る。

 

「戦闘、に行くんですよね?それに、はぐれじゃないもの。堕天使と」

 

 そう言うと兵藤は少し驚いたが首を縦に振った。

 

「俺は、アーシアを堕天使の野郎どもから助けに行くんだよ」

「そうですか、アーシアって言う子がどんな子か知らないけど、それなら俺も同行させてもらうよ」

 

 そう言うと、兵藤は驚く。後ろの祐斗と塔城さんはいつもどおりの表情だ。この二人はある程度俺のことを理解しているのか特に反対はしない。

 

「お前みたいな奴がついてきてくれるのは嬉しいんだけど、何でついてこようと思うんだよ?」

「昨日、お前が依頼に行った後俺は帰ったんだけど、その帰り道に堕天使に襲われたんで。だから、その報復と組織の壊滅を。殺る覚悟があるならあちらは殺られてもいい覚悟があるはずだからね」

 

 そう言うと兵藤はしばらく考えて頷く。

 

「ありがとな。よし、じゃあ準備も整ったし、アーシア救出作戦を決行しますか!」

 

 そして、俺らはアーシアという子を救出するために移動を開始した。

 

 

 

 

 アーシアという少女が捕らわれていると思われる場所に着く。どうやら教会のようだ。これはさすがに苦笑を浮かべてしまう。俺らは教会が見える位置で様子を窺う。

 

 祐斗曰く、堕天使はこの中にいるらしい。俺も魔力もの乱れを探して、見つけることは出来るが教会や神社の中だと気付くことは出来ない。まあ、誰か一人でも分かるやつがいればいいかということで祐斗が出した、この教会の見取り図を見る。

 

「聖堂のほかに宿舎。怪しいのは聖堂だろうね」

「宿舎は無視して良いってことか?」

「おそらくね。この手の『はぐれ悪魔祓い』の組織は決まって聖堂に細工を施しているんだ。聖堂の地下で怪しげな儀式を行うものなんだよ」

「どうして?」

 

 兵藤の質問に祐斗は淡々と答えていく。そして、大体のことを理解して単純にこのまま教会に入りそのまま聖堂の地下に向けて突っ走るという作戦に決まった。作戦といっていいかは不明だがいいだろう。そうと決まったら俺たちは教会の前まで来て顔を見合わせて頷いた。兵藤を戦闘に教会の入り口から乗り込んだ。そしてしばらくすると、パチパチと聖堂に響く拍手が聞こえてくる。物陰から見たことある白髪の神父が出てきた。

 

「ご対面!再開だねぇ!感動的だねぇ!お三方ぁ!そして、この前はよくもやってくれたなぁ、クソ魔術師ぃ!」

 

 俺は頭に血が上らないように我慢しているが、正直、あまり落ち着けない。だが、ここで怒りのままに敵と戦うのは足元をすくわれる可能性がある。ある程度、頭に登りかけた血を下げるために神父に向けて言う。

 

「俺も感動的な再開には入らないのか、クソ神父よぉ」

 

 今まで丁寧な口調は砕けているが、それは仕方ない。初めて、丁寧な口調じゃない俺の話し方を聞いた三人は僅かに驚いていた。そんな俺に兵藤が聞いてきた。

 

「おい、お前。あいつのこと知ってるのか?」

「ああ、昨日堕天使を倒す前に会った」

 

 そう言うと神父がへらへら笑いながら言う。

 

「あー、ドーナシークのおっさん様はやられちゃったのねぇ。特に崇拝をしてるわけじゃないからどうでもいいんだけどね!というか、俺ぇ、悪魔さえ狩れればどうでもいいんですけどね!だけど、その前にぃー、そこのクソ魔術師にやられた傷が疼いてきちゃうからまずは、そっちから死んでもらいますか!」

 

 そう言うと神父は腰から銃と光の剣を取り出して、こちらに向けて走る。俺は懐から剣を取り出した。

 

「どうやらアイツの相手は俺がしたほうがいいようだ。行けよ、ここは俺がやっといてやるから、アーシアって子を助けて来い」

 

 そう言って、俺はもうすでに目の前にいる神父の振り下ろす剣を受け止める。

 

「頼んだぞ、()()!」

「頼みます、コーキ先輩」

「頼んだよ、コーキ君」

 

 その言葉を聞いて頭に登っていた血少し抑えられたように感じた。塔城さんと祐斗はいつもどおりだが、今まで認めていなかったのか、俺の名前を呼んだことなかった兵藤が俺の名前を呼んだのだ。少しは仲間と認めてくれたらしい。

 

「なに、気持ち悪いこといってるんですかぁ!キモイんだけど!吐き気がするんだけど!空気が汚れていくんだけどぉ!地球温暖化の原因ってお前たち見たいな悪魔が原因だよなぁ!そんな、キモイことぐらいするなら死んで地球の肥やしにでもなってればぁ!俺ってば地球に優しい男だなぁ!」

 

 正直何を言っているかは理解不能だ。だが、実力結構高いようだ。鍔迫り合いの状態から、銃を俺の額に当てて引き金を引いた。それを神父を剣を押し返して振りぬくことで避ける。その瞬間に指に魔力を込めてルーンを描く。流動のルーンを描き、水を出現させるとその水に魔力を込めて、威力を高める。そしてそれ飴玉くらいの大きさに分離させると神父に向かった射出する。

 

 それを見た神父は冷や汗を浮かべていた。

 

「いやいや、そんなのくらったら俺死んじゃうじゃん」

「さっさと死んどけ、クソ神父」

 

 神父はそれを必死に避けるが、銃は蜂の巣状になり、剣は避けるのに必死で落としていた。神父は弾丸を急所に当たるのは阻止できたが他の部分は血に濡れて赤黒く染まっている。

 

「殺すとか言っていた奴が無様だな」

「てめぇ、桐谷とか言ったなぁ。俺はお前にフォーリンラブだよ。絶対殺すからな」

「テメェが死ね」

 

 そう言って剣で斬首するために踏み込もうとすると、体からいくつも黒い物体を落とした。その瞬間、視界が真っ白になる。

 

「スタングレネード!?」

 

 油断した。完全に目が潰れた。ここじゃ魔力の探知が出来ない。すぐさま攻撃に耐えられるように魔力で体を強化した。そして視界が完全に戻った時には神父の姿はなかった。逃げられたようだ。

 

「クソっ!」

 

 逃がしたことに苛立ちを覚える。だが、今はあの神父を追うよりも仲間の救援だ。すぐに聖堂の奥にある階段に行って下る。そして、そこには見たことがない堕天使と、神父がたくさんいた。この数の神父を見た俺は今まで抑えていたものが一瞬で外れた気がした。

 

「桐谷!フリードを倒したのか!?」

「ああ」

 

 兵藤に返事を短く返した。兵藤の腕には一人の少女が抱えられていた。正直、あの状態じゃ邪魔になるだろう。

 

「兵藤。上に行ってろ。祐斗、塔城、道を作れ。後の神父は俺が全員殺す」

 

 そう静かに俺は宣言した。

 

 

 

 

 兵藤先輩の後に続いて私たちは教会に入った。そこにはあの言葉が変な神父がいました。

 

「ご対面!再開だねぇ!感動的だねぇ!お三方ぁ!そして、この前はよくもやってくれたなぁ、クソ魔術師ぃ!」

 

 この中で魔術師というと一人しかいない。私の前に立っているコーキ先輩だ。一人ではぐれ悪魔を倒していたり、悪魔の駒を有していないのに戦車のような特徴を持っているよく分からない先輩だ。だけど、信用はできる。特にこれといった確証がないが、この人は恩をあだで返すような人ではないということは理解している。しかし、コーキ先輩とこの神父の接点はなかったはずだ。兵藤先輩を助けた時にはいなかったはずだから知らないはず。

 

「俺も感動的な再開には入らないのか、クソ神父よぉ」

 

 初めて聞くコーキ先輩の砕けた口調。それはどこか、怒りを孕んでいるように聞こえる。そしていつあったのかそのことが気になったのか兵藤先輩がコーキ先輩に聞いていた。

 

「おい、お前。あいつのこと知ってるのか?」

「ああ、昨日堕天使を倒す前に会った」

 

 コーキ先輩は厄介ごとを自分から関わりたいのか巻き込まれてるのか分からない人だ。そんなことを考えていると、コーキ先輩はカードから剣を取り出す

 

「どうやらアイツの相手は俺がしたほうがいいようだ。行けよ、ここは俺がやっといてやるから、アーシアって子を助けて来い」

 

 神父の攻撃を防いで言う。その言葉に私やみんなが頷き、聖堂の地下へと向かう階段に走り出した。

 

「頼んだぞ、桐谷!」

「頼みます、コーキ先輩」

「頼んだよ、コーキ君」

 

 私たちはコーキ先輩を信じて階段を下った。そして階段を下り終え、下の階層に着き部屋へと入る。そこには、たくさんの神父と一人の堕天使がいた。

 

「アーシアぁぁぁぁぁ!!」

 

 兵藤先輩が叫ぶ。磔にされている子が先輩の救いたい子らしい。だが、儀式がちょうど終わったらしく彼女の神器を取り出した。兵藤先輩は彼女のところに向かう。だが、神父たちに、邪魔をされそうになるが、その一人の神父を私が殴り飛ばした。他にもいたがそこは祐斗先輩が切り伏せる。そして、邪魔する神父を払いながら私たちはようやく、彼女のところまで着いた。しかし、彼女の顔に生気はあまり感じられない。彼女を庇いながらの戦闘は厳しいと思う。

 

 そんな時、階段の方から一人の男が現れる。それはコーキ先輩だ。だが、ここに入ってきたときのコーキ先輩の雰囲気が今までとは違う。優しい雰囲気は見る影もない。それに気付いていない兵藤先輩はコーキ先輩に言った。

 

「桐谷!フリードは倒したのか!?」

「ああ」

 

 短く答え。あたりを見て言った。

 

「兵藤。上に行ってろ。祐斗、塔城、道を作れ。後の神父は俺が全員殺す」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私たちは彼に少し恐怖し、頷くことしか出来なかった。



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変化と終わり

 俺はその言葉を言うと指に魔力を込める。開戦の合図とも取れる俺の言葉により神父どもは俺を殺そうと剣や銃を構え、襲い掛かる。一番近い神父が剣を振り下ろしてくる。それを体を前に出して剣の刃に触れないようにすると魔力を込めた指で体にルーンを刻む。もちろん、刻むは破壊のルーン。刻まれた神父は、破壊のルーンが発動するとともに姿を消した。一人の神父が消えたのに驚く神父たちその間に一人の心臓に剣を突き立て、もう一人にはルーンを刻んで消滅させる。

 

 僅かな時間だが、そのおかげで兵藤はすでに入り口の前に着いていた。

 

「絶対帰って来いよ。桐谷、木場、小猫ちゃん!帰ったら俺のことをイッセーて呼べよ!絶対だぞ!俺たち仲間だからな!」

 

 そう言うと兵藤は部屋から消えて言った。その後を追いかけるように堕天使も追いかけていくが俺はそれを無視して目の前の神父たちを薙ぎ払った。何人かは光の剣でガードするがあとは、剣に体を斬られ、絶命する。ガードした神父どもたちも、腕が痺れて光の剣を手から離れていく。

 

「チクショウ!なんなんだよこいつ!」

「化け物が!」

 

 神父たちは俺を見ながらそう叫ぶ。だが、たとえこいつらに何を言われようが何も感じないし、どうとも思わない。そして、いつの間にか、自分の目の前には完全に神父たちの姿は消えていて、ただ無残に切り刻まれた死体しかなかった。

 

 それで俺はようやく頭が冷えて、自分の姿を見る。血に染まり、制服も所々切られている。それを見て溜め息を吐いた。

 

「大丈夫かい、コーキ君」

 

 そんな俺に向けて祐斗は声をかけてきた。

 

「いや、正直、そこまで大丈夫な気がしない。自分で言うのもなんだけど、あれじゃあ、ただの殺人鬼だ」

「そうだね。いくら何でもやりすぎだよ。だけど、()()教会の関係者とは何かあったみたいだけど、何も聞かないよ。それのほうがいいよね?」

「ああ。そうしてくれると助かるよ」

 

 先ほどの言葉に少し引っかかるが、過去も話さない奴が他人の過去を聞くのは無粋だろう。

 

「……先輩。大丈夫ですか?」

 

 塔城さんも心配してくれてたようだ。俺は大丈夫と言って死体に近寄る。そして、一体ずつルーンを刻むと魔力と時間の無駄なため、大きなルーンを地面に刻んで、そのルーンを囲むように円を書く。そして、その円から離れるように言うと再度魔力を流して、発動させる。魔力を帯びた破壊のルーンは僅かに光ったかと思うとクレーターのような穴を作って、その上にあった死体を消した。その時に、紅い魔法陣が現れる。

 

「ふぅ。どうやらついた見たいね」

「そうみたいですわね。教会内に敷くのは少しばかり緊張しましたわ」

 

 姫島さんと部長が現れた。そして地下のクレーンを見て絶句する。視線だけで訴えかけられる祐斗と塔城さん。祐斗は苦笑いをしながらこちらに指をさし、塔城さんも無表情で俺を指していた。

 

「このクレーターの説明をしてもらいましょうか?コーキ」

「説教されないなら」

 

 そう言って説教をしないと言われて説明をし始めた。しかし、説明をするときになぜ正座させられてるかには疑問だった。そして部長に説明を終えると結局説教された。部長に騙された。

 

 

 

 

 そんなことも会ったが、聖堂の地下を後にして上に上がる。上に上がると兵藤があの堕天使を殴り飛ばした瞬間だった。堕天使は兵藤の篭手に殴られてそのまま壁に激突すると、壁は壊れ、でかい穴を作った。その少し奥に堕天使が倒れている。兵藤は力尽きたのか倒れそうになるがそれを祐斗が支えた。

 

「よー、遅ぇよ、色男」

「ふふふ、部長に邪魔をするなと言われてたのと、コーキ君の説教があって遅くなっただけだよ」

「え、部長が?それに何で桐谷が説教?」

「ええ、その通りよ。あなたなら堕天使レイナーレを倒せると信じていたの。それとコーキは今回の件は少しやり過ぎていたからお説教してたのよ」

 

 そう言われて、俺も少しは反省している。確かに俺はやりすぎたこと自体は少し反省している。でも、神父や教会関係者を見るとすぐに沸点を振り切るため、仕方ないんです。頑張ってはいるんですがね。俺を見た部長は堕天使レイナーレを一度見ると兵藤に言った。

 

「勝ったのね?」

「ええ。なんとか勝ちました」

「フフフ、えらいわ。さすが私の下僕君」

 

 部長は兵藤に近づいて鼻先をつんとつついて微笑んでいる。

 

「あらあら、教会がボロボロですわね。部長、よろしいのですか?」

 

 困った様子で言う姫島さん。

 

「……なんかやばいんですか?」

「教会は神、もしくはそれに所属する宗教のものだし、今回みたいに堕天使が所有している場合があるでしょ?そのケースだと、私たち悪魔が教会をボロボロにすると、後で他の刺客たちから狙われることがあるのよ。恨みとか報復とかでね。そこら辺はちゃんと理解したかしら。コーキ?」

 

 部長は俺にそう言ってくる。先ほどの説教の中で散々言われて理解しているつもりだ。部長に頷いて返答すると兵藤のほうを向いて今回は大丈夫と説明を始めた。

 

「部長、持ってきました」

 

 その声がする方向を向くといつの間にやらいなくなっていた塔城さんがレイナーレを引きずっていた。

 

「ありがとう、小猫。さて、起きてもらいましょうか。朱乃」

「はい」

 

 姫島さんが手を上にかざすと宙に水が生まれる。魔力変換によって作られたものだろう。俺はルーンを使わないと出せないからうらやましい。それを気絶しているレイナーレに向けて被せた。その時の表情は実にいい笑顔だった。ドSと聞いていたが本当のようだ。

 

 水を被ったレイナーレは咳き込みながら目を覚まして体を起こす。それを部長は見下ろして言った。

 

「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」

「グレモリー一族の娘か……」

「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の時期当主よ、短い間でしょうけど、お見知りおきを」

 

 部長が優雅に挨拶をする。しかし、それを聞いたレイナーレは睨む。しかし、その後不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「してやったりと思っているでしょうけど、残念ね。今回の計画は上に内緒ではあるけど私に同調し、協力してくれている堕天使もいるわ」

「その堕天使が助けに来てくれると思っているんですか?」

 

 そう言って俺は一つの黒い羽を取り出した。もちろん、これはドーナシークから毟ったものだ。それに続き部長も懐から二枚の羽を出した。

 

「この一枚は、堕天使ドーナシークのものです。これは襲い掛かってきた彼を消滅する前に毟ったものです」

「そして、この羽は堕天使カラワーナ、堕天使ミッテルトの物よ。同属のあなたなら見ただけで分かるわね?」

 

 これを見たレイナーレの表情が恐怖の色に塗られる。そして、部長は堕天使が行動している理由を淡々と語った。そして祐斗が部長を褒め称えるように言った。

 

「その一撃を食らえばどんなものでも消し飛ばされる。滅亡の力を有した公爵家のご令嬢。部長は若い悪魔の中でも天才と呼ばれるほどの実力の持ち主ですからね」

「別名『紅髪の滅亡姫(ルイン・プリンセス)と呼ばれるほどのかたなのですよ?」

 

 姫島さんが笑いながら言う。滅亡姫。恐ろしい名前だ。部長がそんな別名を持っていたなんて。しかし、そんな部長は兵藤の篭手を興味深そうに見ていた。

 

「赤い竜に紋章……。そういうことね。堕天使レイナーレ。あなたの敗因はこのこの神器をただの神器と思いこんでいたせいよ。『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』、神器の中でもレア中のレア。この子の篭手に浮かんでいる赤い竜の紋章がその証拠よ。この名前くらい聞いたことあるでしょ?」

 

 その言葉にレイナーレは驚愕の表情を浮かべた。

 

「ブーステッド・ギア……『神滅具(ロンギヌス)の一つ。一時的とはいえ、魔王や神をも超える力を得られるという……」

 

 まさか、最初に会った時からなんとなく、強力なものを持っているとは感じていたが、そんな強力なものだったなんて思わなかった。部長の説明によると十秒ごとに力が倍増していくらしい。なんて恐ろしい神器なんだ。だが、それでもそんなに待ってくれる敵なんていないだろう。本当の戦闘を経験しって、自分でどうやって使うか考えないといけない。考えていると、部長に兵藤が謝っていた。どうやら、俺が部室に来る前に何かあったようだ。しかし、部長はそれを許してくれている。そして、兵藤からレイナーレに視線を移す。

 

「じゃあ、最後のお勤めをしようかしらね」

 

 目に先ほどの優しいまなざしが一変して冷酷さを帯びている。近づく部長を恐れ、後退いくレイナーレ。だが、すぐに止まってしまう。

 

「消えてもらいましょうか?堕天使さん。もちろん神器も回収させてもらうわ」

「じょ、冗談じゃないわ!この癒しの力はアザゼルさまとシェムハザさまに!」

「愛のために生きるのもいいわね。でもあなたは汚れすぎている。エレガントじゃないわ。私はそういうものが嫌いなの」

 

 部長はレイナーレに向けて手をかざす。

 

「俺、参上」

 

 ふざけたポーズを決めて神父、フリードが現れた。いつの間にか穴だらけの服が変わっていて新品になっている。

 

「わーお、上司が超ピンチっぽいじゃん!どうしよう!」

「助けなさい!私を助ければ褒美でのなんでもあげるわ!」

 

 レイナーレはフリードを見て聞きしていたがフリードから放たれる言葉は残酷なものだった。

 

「無理。人数的にも不利。というか、そこの魔術師にやられて僕ちゃんの体はボロボロなのです!そんな状況で助けることなんて不可能!諦めてください!」

 

 フリードはふざけた口調でそう告げた。レイナーレも何か言い返しているが全て無視する。フリードは俺のほうを見て、にやりと不適な笑みを浮かべる。

 

「桐谷くん。お前は絶対に殺してあげるよ。壊された銃とかの請求であなたの命を奪いにいくぜ!それまで楽しみに待ってろよな!」

「雑魚が喚くな。今ここでそのふざけた口に鉛の弾を飲ませてやるよ」

 

 そう言うと同時に足に魔力を込めてフリードのところに向かおうとするがその前にフリードは姿を消した。その瞬間、にまたやってしまったと思った。口調が砕けていた。自分でも知らないうちに頭に血が上っていたみたいだ。部長と姫島さん、そして兵藤は俺の砕けた口調を聞いて驚いていた。

 

「そこまで気にしないでくれると助かります」

 

 いつもどおりの口調でそう告げる。部長たちは察してくれて何も言わないでくれた。

 

「さて、下僕にも捨てられた哀れな堕天使レイナーレ、言い残したいことはある?」

 

 そう言うと、兵藤に向かって懇願し始める。

 

「イッセー君!私を助けて!」

「この悪魔、私を殺そうとしているの!私、あなたのこと大好きよ!愛してる!だから一緒にこの悪魔を倒しましょう」

 

 この言葉を来た俺はレイナーレに近づいた。その行動に助けてくれると思ったのかレイナーレは兵藤から俺に懇願するのを変えた。しかし、俺は別に助けようと思っていない。

 

「何か勘違いしてるようだけど、俺はあなたを助けないよ。ただ、一つ言いたかったんだ。人を殺す覚悟があるやつは殺されてもいい覚悟がある奴だけだよ。だから、あなたにもその覚悟があったはずだよね?懇願なんてみっともないことをしないでさっさと消えてください」

 

 そう言うと、レイナーレは懇願するのを諦め、希望を失ったかのように目から光が消えた。それを見て、兵藤も言った。

 

「部長、頼みます」

「私の可愛い下僕に言いよった罰ね。消し飛びなさい」

 

 部長の手から放たれる魔力により堕天使レイナーレは消し飛んだ。残るのは僅かに残るレイナーレの羽と自分から漂う血の匂いのみだった。



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エピローグ

 その次の日、俺はある少女を外で待っていた。名前はアーシア。兵藤が助けたシスターの少女だ。その子は昨日レイナーレに神器を抜かれ、死んだはずだったが、部長の持っていた僧侶(ビショップ)の駒により悪魔へと転生した。

 

なぜ俺が待っているかというと、一番家が近かった俺に今日だけ預けたからだ。イッセーは納得しなかったが転生したてで、あまり無茶をさせるべきではないと部長に言われてしぶしぶ了承した。俺はそれを拒否したが押し切られるかたちとなった。アーシアが寝床として提供した部屋から出てきた。

 

「すいません。お待たせしました」

「ああ」

 

 ぶっきらぼうに返事を返す。

 

 このような態度を取ってしまうかというと彼女が元シスターという部分にある。俺は教会関係者が嫌いだからだ。どの教会関係者も昨日あった神父たちと同じようなものと思っている。確かに、儀式で殺されたのはかわいそうだと思う。

 

 だが、それはそれ。結局は俺の教会関係者の嫌いという根本的な部分は変わりない。だが、少し気になることがあるため聞いた。

 

「アーシアさん」

「は、はい!なんでしょう?」

 

 少し怯え気味なアーシアさん。

 

「俺が教会嫌いって言うのは昨日のことでわかっているよね。俺は教会関係者は全て殺したい。そう思っていた」

「そうなんですか……へ、いた?」

「俺は君を見ていて、少し違和感を感じたんだ。俺は教会関係者、シスターや神父、悪魔祓いは全部昨日あった奴らみたいなのと思ってた。だが、君は違った。昨日、自分の心配よりも他人の心配をしていたし、力を自分の私利私欲のために使っていなかった。俺はそんな人を教会で会ったことがないんだ」

「……もしかして、桐谷さんは、もともと教会にいたんですか?」

 

 いきなり来る質問に少しばかり殺気がもれる。だが、それをなんとか抑えてアーシアさんに言った。

 

「そうだよ。己の私利私欲のために他人を平気で殺すような場所だろ?神を信じているとかいいながら、裏では平然と人を殺す、クソッたれな場所に」

「教会はそんな場所じゃありません!教会は毎日祈りを捧げ、困った人がいるなら誰にでも手を差し伸べてくれる、とても良い場所です!」

「でも俺は、そこで何度もひどい目に遭ったんだよ!自分に力があると言われてつれてかれると地獄のような日々!それを逃げようとしたりすると殺される!あそこには恐怖しかなかった!分かるか、その時の俺の気持ちが!」

 

 少し怒気が言葉に乗ってしまった。だが、仕方ないことだ。

 

「分かりません……。ですが、そんな人は教会にはいません!教会は主を崇め、人々を救う場所です!何かの間違いです!」

「間違いじゃない!俺は、教会関係者に何度も何度も……!」

 

 思い出すだけでいらいらしてくる。さっきもあたりに充満してアーシアは涙目になっている。握っている拳には血が滲んでおり、床にまで垂れている。それを見たアーシアは俺の拳に手をかざして神器、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を使って俺を治療した。そんな彼女を見てまた違和感に襲われる。あそこにいたとき、教会関係者は俺にこのような施しをしてくれただろうか?否、そんなことをしてくれたことなどない。アーシアは怯えながらも言った。

 

「あなたが過去にどんなひどいことをされたのかは分かりません。ですが、あなたの知る教会関係者は絶対にいません。そんなことをする人は聖職者として最低です。教会から追放されます」

「追放される?」

 

 アーシアの先ほどの言葉を聞いて頭が少し冷える。

 

「そうです。そんなひどいことをする人は教会から追放されるはずです。シスターや神父は困った人に手をさしのばてくれる優しい人たちですから。自らの私利私欲のためにそんな汚職をしません。それじゃあ、主に合わせる顔もありません」

「つまり、俺の今まで思っていた教会関係の人たちは?」

「たぶん、教会から追放されたはぐれたちの集まりでしょう。教会にいられなくなり、同じもの同士が集まったんだと思われます」

「……」

 

 そう聞くと俺は今までの神父たちとこの少女の行動を思い出してみた。あまりにも乖離しすぎていて言葉が出ないほどだ。

 

 それにあんな行動をするのは教会関係者ではなく、教会から追放されたものらしい。俺はどうやら根本的なところから教会関係者を間違っていたようだ。

 

「アーシアさん」

「は、はい」

「申し訳ない。馬鹿だから俺は教会関係者をはぐれとの違いに気付いていなかったみたいだ。だから、そんな奴らが教会にいるとずっと思いこんでいたみたい。アーシアさんに言われて少し変わったよ。君みたいな子があんなところの人間なはずがない。勘違いをして、怒鳴ったり見苦しいところを見せてしまって本当に申し訳ない」

「い、いえ、とんでもないです!私は教会関係者がひどく言われるのがとても腑に落ちなかったので、本当の聖職者を知ってもらうために話しただけですし」

「それでも、俺はアーシアさんのおかげで、少しは楽になったよ。教会関係者を見てまだなれないかもしれないけど、ちょっとずつでも、接し方を変えていくよ」

「はい!それだけでもうれしいです!主も喜んではうぅ」

 

 アーシアは天を見て祈るように手を合わせると顔をしかめていた。これは悪魔に転生したことによって、祈りなどの行動が自分へのダメージになるからだ。

 

「大丈夫?」

「はう~、大丈夫ですけど、ですが主への感謝をはうぅ」

 

 アーシアは悪魔に向いてないんじゃないかな?こんな信仰の強い子が悪魔になると大変そうだ。

 

「それじゃあ、早く学校に行きこうか。部長たちを待たせるのも申し訳ない」

「……そうですね。早くイッセーさんにこの格好を見せたいです!」

 

 俺とアーシアは少し急ぎ足で学校に向かった。

 

 

 

 

 学校に着くと部長とイッセーがいちゃいちゃしていた。それを見たアーシアが嫉妬していた。以上。

 

「朝からお熱いですね」

「何を言ってるのかしらコーキ?こんなの下僕とのスキンシップよ。あなたもしてほしい?」

「いや、遠慮しておきます」

 

 そう言うと部長はくすくす笑う。そしてアーシアを見ると言った。

 

「アーシア、あなたは悪魔になったことに後悔してる?」

 

 確かに、この子は自分の意思で悪魔になったわけじゃない。だから部長も少しばかり負い目を感じているのだろうか?イッセーは少しばかり緊張している。

 

「いいえ、そのことについてはリアス部長には感謝しています。どんな形であれ、こうして私は生きていて、イッセーさんと一緒にいられるわけですから。とても幸せです」

 

 朝から思ったけど本当に良い子だな。本当の教会関係者もこんな人ばかりなんだろうな。教会関係者には謝らないとな。イッセーはその言葉を聞いて顔を紅潮させながら涙を流していた。部長もその言葉を聞いて嬉しそうにしている。

 

「そう、それならいいわ。今日からあなたも下僕悪魔としてイッセーと一緒に走り回ってもらうから」

「はい!頑張ります!」

 

 元気よく返事を返すアーシア。イッセーはとても、嬉しそうにしている。するとようやくアーシアの服装に気付いたのか言った。

 

「アーシア、それって駒王学園の制服じゃ?」

「はい!似合いますか……?」

 

 アーシアはイッセーに恥ずかしそうに聞くと親指を立てて言った。

 

「最高だ!後で俺と写メをとろう!」

「え、は、はい」

 

 アーシアは少し戸惑っているがとても嬉しそうだ。

 

「アーシアにもこの学園へ通ってもらうことになったのよ。あなたたちと同い年みたいだから二年生ね。クラスも同じにしたわ。転校初日ということになってるから、イッセーとコーキ、アーシアに何かあったらフォローをお願いね」

「よろしくお願いします。イッセーさん。桐谷さん」

「こちらこそよろしく。桐谷じゃなくてコーキで良いよ、アーシアさん」

「分かりました、コーキさん」

 

 そう言うと、イッセーが睨んでくる。

 

「おい、そういえば昨日アーシアをお前の家に止めたけど変なことをしなかっただろうな?」

「何もしてないよ。イッセー」

 

 そう言うとほっと息をつき、今度は笑って言った。

 

「昨日言ってなかったけど、ありがとな。アーシアを助けるために一緒に来てくれて」

「別にいいよ、そんなこと。同じ部の仲間だろ?」

 

 そう言うとこちらも笑う。

 

「おう!これからもよろしくな、コーキ」

「こちらこそよろしく、イッセー」

 

 どうやら、イッセーも俺を認めてくれたらしい。扉が開くと姫島さんと塔城さん、祐斗がはいってきた。

 

「おはようございます、部長、イッセー君、コーキ君、アーシアさん」

「……おはようございます。部長、イッセー先輩、コーキ先輩、アーシア先輩」

「ごきげんよう、部長、イッセー君、コーキ君、アーシアちゃん」

 

 それぞれがもう兵藤ではなくイッセーとよび、アーシアを一員と認めている。それを感じたのかアーシアとイッセーは嬉しそうだ。そして、部長が立ち上がると言った

 

「さて、全員揃ったところでささやかなパーティを始めましょうか」

 

 部長が指を鳴らすとテーブルの上に大きなケーキが出現した。それを見て俺は部長に許可をもらって置かせてもらった冷蔵庫の中からジュースを何本か持って来て机の上におく。

 

「た、たまには皆集まって朝からこういうのも良いでしょ?あ、新しい部員も出来たことだしケーキを作ってみたからみんなで食べましょう」

 

 恥ずかしがりながら部長は言った。パーティーはとても楽しいものだった。イッセーが俺と祐斗の分を切り分けたかと思うと、細い一切れを渡してきが、イッセー自身が少し大きく切ったケーキを落としてしまうという因果応報な出来事もあった。一番驚いたのは、塔城さんが俺に言ってきたことだ。

 

「コーキ先輩、昨日のことで話しがあるんですが?」

 

 ん?昨日、もしかして、頭に血が上ってきたことのことか。なるべく過去を聞かないでって言ってるんだけど。と思ったが、昨日の呼び捨ての件らしい。

 

「ああ、あのときか。呼び捨てされたのが嫌だったら謝るよ。ごめん」

「いえ、そのことではないです」

「えっ?」

「私や朱乃先輩だけ苗字にさんづけしています。信用できないんですか?」

「いや、信用してるよ」

「なら、下の名前で呼んでくれても良いんじゃありませんか?」

 

 いつの間にか姫島さんもこちらに来ていた。

 

「みんなと同じように接してください。コーキ先輩」

「そうですわよ、コーキ君。もうお互い信用してるなら下の名前で呼んでください」

 

 二人がそういうので二人の名前を呼んだ。

 

「小猫さん。朱乃さん。これからはそう呼びます」

 

 そう言うと満足そうに二人は頷いた。こんなことも会ったが最後はイッセーのモノマネ、ドラゴン破でパーティは締められた。



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第一章での主人公プロフィール

名前 桐谷 光輝 (きりや こうき)

   自称 流浪の魔術師

   あだ名 コーキ

 

神器 ???

 

能力  神器は持っているか不明。リアス眷属たちは、コーキを魔術師と思っている。ルーン魔術を得意としていているが接近戦が弱いと言うわけではなく、剣やナイフ、格闘技等の多種多様の近接格闘が出来る。オールラウンダーな戦闘タイプ。かなりの戦闘技術を持っている。リアスたちはコーキの戦いを見て、その技術からコーキはかなりの実戦経験を積んでいると予想しているが、コーキが語らないため不明。

 

所持品 

 

ルーン文字の描かれたカード数十枚 武器を収納しているカードが二枚に、回復用の癒しのルーンの描かれたカードを五枚、後は防御のルーンと保護のルーンが描かれたカードを持っている。

    

銃 カードに収納している。銃には複数のルーン文字が刻印されている。銃の種類はベレッタM92。弾丸には破壊のルーンを刻印しており魔力を籠めて射出することにより着弾時にルーン文字に反応して魔術が発動している。籠めた魔力の総量でルーン魔術の威力が変わる。ただし、込めすぎると暴発して自分の手が吹き飛ぶ。

 

銀十字を溶かしたナイフ 武器としての使い用途としてではなくお守りのような扱いをしている。ある場所で手に入れてから風呂などの時意外は常に持ち歩いている。鎖のブレスレットと合わせることによりコーキのある力を封印している。別に持っていなくてもある程度近くにおいておけばその効力は有効である。神性があるが、手入れをしておらず硫化しているため、効力がかなり薄くなっている。

 

鎖のブレスレット 何の素材で作られているかわからない鎖のブレスレット。見た感じはただの鎖だが、銀十字を溶かして作られたナイフをあわせ持つことで何か一つの封印を施している。

 

身体に描かれたルーン 腕のところに魔力を籠めたインクで書かれた知恵のルーンがある。

 

身体に刻まれたルーン 戦闘のルーン、活動のルーン、生命のルーン、防御のルーン、力のルーンが刻まれている。が、これは魔力を流さない限り浮かんでこないようになっている。

 

剣 近接武器。防御のルーンを刻み込んでいる。魔力を流すことによって強度が増す。

 

魔力 魔術師と自称するだけあって魔力はかなり持っている。それに加えて魔力の制御、運用が上手い。

 

性格 物腰柔らかで優しい性格だが、教会、悪魔祓い(エクソシスト)等と自分に言うと怒気が籠もった声音になりやや口調も荒くなる。実際に嫌いなのははぐれなのだが違いを理解していないため教会関係者を憎んでいて、教会関係者を憎悪の感情で睨んでいる。だが、アーシアと二人だけで会話をして、自分の持っていた教会関係者とアーシアのいっている教会関係者の違いを知り、友達としてしっかりとした態度で接しいる。このことから、全ての教会関係者が悪ではないことをしり、憎悪の感情を向けることは無くなった。

   

 

備考 日本人の特有の名前をしているが、日本生まれではなく海外の生まれのため、帰国子女。小さい頃の話を全く話したがらず、過去のことは一切不明。だが、師匠(ばあちゃん)と言うルーン魔術の師匠がいるらしい。人間であるが、ルーン魔術によって強化された身体能力はバイザーを軽々持ち上げるなど人外のように感じられる。普通の身体能力も人間の中ではかなり高い。イッセーとクラスが同じだが、元浜と松田とよく猥談しているところに入れないのときたばかりのため、接点があまりないが、あちらはこちらを帰国子女の男の編入生ですぐに女子に囲まれたため一誠たちからは敵だと認識されているが、本人は知る由もない。イッセーはリアスから完全に死ぬまえに、自分に治癒魔術をかけて助けてくれようとしたことを聞かされ、ある程度は信頼を寄せている。知恵のルーンを身体に刻んでいない理由は、身を守るルーンを身体のあちこちに刻んでいるため、そのルーンの上に刻み込むことでルーンが発動しなくなる恐れがあるため。特殊なインクで書いるおかげで、もしもの時はこすってそれ自体を消すことが出来る。種族のことはあまり深く考えておらず、自分という個の概念が消えるわけではなく、異形な姿にならなければどんな存在になってもいいらしい。



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戦闘校舎のフェニックス
平穏と魔力量


 アーシアさんが学園に通うようになってから数日が過ぎ、滞在先の家庭もイッセーの家へと決まった。あの出来事からはとても平和な日が続いている。

 

「アーシアさん、イッセー、おはよう」

「おう、コーキ。はよーっす」

「コーキさん、おはようございます」

 

 ちょうど学校の行き道でアーシアさんとイッセーと合流したので挨拶をする。二人とも挨拶を返してくれて一緒に登校している。しかし、アーシアさんとイッセーが一緒に登校しているとどうも、変な小言が多い気がする。

 

「なんでエロ猿で有名な兵藤とアルジェントさんが一緒に登校を……」

「バカな……ありえない……」

「嘘よ、リアスお姉さまだけじゃなくて、アーシアさんまで毒牙に……」

「兵藤×木場じゃなくて、兵藤×まじめ君!新しい境地が見えるわ!」

 

 最後の人は何を言っているか全く分からない。というか、俺の名前ぐらいしっかりといってほしいと思う。まあ、それは置いといて、イッセーは辺りからの憎悪の視線を受けてふふふ、とにやけていた。憎悪の視線を受けて笑うとは、イッセーは何が嬉しいんだろうか?アーシアさんも心配そうだ。そんな中を俺らは歩いて学校に到着すると教室に向かう。

 

「アーシアちゃーん!おはよー!」

「おはよう、アーシアさん。今日もブロンドがキラキラと輝いているね」

 

 教室に着くなり、残りの変態組がアーシアさんに挨拶を返す。アーシアさんもにっこりと二人に挨拶を返す。二人は涙を流して喜んだ後、松田はイッセーにボディーブローを食らわせていた。俺はそそくさと離れていつもどおりの教室の風景を眺める。イッセーはいつものメンバーでまた馬鹿やっている。本当に朝からよくやるな、あの三人。

 

 今日も学校はとても平和だ。

 

 

 

 

 その日の夜、俺は部活に顔を出していた。眠気覚ましの缶コーヒーで喉を潤しながら、買ってきたお菓子を食べていた。食べているお菓子はシュークリーム。隣町でちょっと最近話題になっていたので部のみんなの分買ってきている。俺だってその辺の気配りぐらいは出来る。自分の分のシュークリームを頬張る。さくさくなシューに舌の上でとろけるような甘みのカスタードクリーム。やはり、シュークリームの生地はさくさくに限る。

 

 隣に座る小猫さんも無表情だがとても嬉しそうだ。夢中になってシュークリームを食べている。そして食べ終わると少し物足りなさそうにしていたので余分に買っていたのを渡す。

 

「まだ食べる?」

「……ありがとうございます」

 

 そう言って小猫さんはまたシュークリームを食べるのに夢中になる。俺は缶コーヒーを飲み干して机の上に空の缶を置く。

 

 その時、ちょうどイッセーとアーシアさんが戻ってきた。

 

「ただいま戻りました!」

「あらあら、お疲れ様。今お茶を淹れますわ。それと、コーキ君が美味しいシュークリームを買ってきてくれたのでそれとご一緒にどうぞ」

 

 朱乃さんがそう言うとアーシアさんがとても嬉しそうにしていた。やはり、女の子は甘いものがとても好きなのだろう。アーシアさんは礼を言ってきたので手を振り、答える。

 

「やあ、イッセー君、夜のデートはどうだった?」

 

 祐斗がイッセーにそう聞いていた。イッセーはそれに親指をグッと立てて答えた。

 

「最高に決まってんだろ!」

「……深夜の不順異性交遊」

 

 隣にいる小猫さんはイッセーに向けてそう言った。まあ確かにそういう感じだけどそこら辺は許してあげようよ。アーシアさんも嬉しそうなんだし。

 

 そして、イッセーは部長に、今日のことを報告するために俺の斜め前にいる部長のほうに足を向けて報告する。

 

「部長ただいま戻りました」

 

 しかし、部長の返事はない。部長はどこか上の空でイッセーの言葉が聞こえないくらい悩んでいるみたいだ。深い溜め息を吐いているし。というか、少しおかしい。いつもなら、一番最初にイッセーとアーシアさんが帰ってきたら労いの言葉をかけるはずだが、今回はかけていない。というか、最近部長は悩んでいることが多い。力にはなりたいが、部長から離してくれるのを待つしかない。

 

 反応のない部長に少し大きな声で部長に言う。

 

「部長、ただいま帰還しました!」

 

 その言葉にようやく部長ははっと我に帰った様子。

 

「ご、ごめんなさい。少しボーッとしていたわ。ご苦労様、イッセー、アーシア」

 

 部長はそう二人を労うとあたりを部員全員いることを確認して言った。

 

「さて、今夜からアーシアにもデビューしてもらいましょうか」

 

 デビュー、つまり悪魔としての契約を出来るようになったということだろう。アーシアさんは分からないようだったのでイッセーが説明していた。このあたりは俺はさっぱり分からないので説明も出来ない。

 

 部長はアーシアさんとイッセーを少し弄ると、アーシアさんを呼んで手になにやら書いていた。確かあれはグレモリーの魔方陣だった気がする。朱乃さんが出している魔法陣がそれと同じなのでたぶんそうだろう。

 

「よし、朱乃、アーシアが魔方陣を通れるだけの魔力があるか、調べてみて。ついでに、コーキの分も」

「はい、部長。さ、コーキ君もこちらにいらして下さい」

 

 そう言われたので、朱乃さんの所にアーシアさんと一緒に行く。まずはアーシアさんの額に手を当てて、指先から淡い光が出て何かを調べていた。

 

「イッセーの前例があるから、ちょっと調べないとね。さすがにイッセーみたいな魔力の少ないのはないと思うけれど」

 

 イッセーって魔力が少ないのか。通りで、力は感じるけど魔力の反応があまりないと思った。そして朱乃さんはアーシアさんの額から手を離して部長に報告した。

 

「部長。大丈夫ですわ。問題ありません。それどころか、眷属悪魔としては部長と私に次ぐ魔力の持ち主かもしれません。魔力のキャパシティが豊富ですわ」

「それは吉報だわ。『僧侶』としての器を存分に活かせるわね。それで次はコーキよ」

 

 そう言って俺は朱乃さんに向けて手を出す。別に魔力を測るのはどこでも良い。朱乃さんは俺の手に触れて魔力を調べている。するとしばらくして驚きの表情を浮かべていた。

 

「すごいですわ……。こんな魔力の多さ見たことありません……。部長や私をはるかに超えた量。もしかしたら、魔王様クラスかも、いえ、それ以上かもしれません」

 

 朱乃さんの言葉に全員驚いていた。魔王様、その単語は何回か聞いたことはあるがどんな人物かは分からないが魔界を統べるものということは把握している。その魔王様と同じ位の魔力を持っていたとは自分でも驚きだ。師匠(ばあちゃん)は、ただあんたは人より魔力が多いだけ、と言われていなかったからそこまで気にしていなかったがそんなにあったとは。

 

「すごいですコーキさん!」

「ええ、とても良い才能を持っています」

 

 俺の魔力量を聞いてアーシアさんは自分のことのように喜んでくれ、朱乃さんは少しうらやましそうに見ていたが褒めてくれた。部長は何も言わなかったが、満足そうに頷いていた。そして、アーシアさんに転移の説明をした後、急にイッセーが涙を流し始める。それを怪訝そうな表情でイッセーの顔を部長が覗き込んだ。

 

「イッセー、何でないているのかしら?」

「部長、駄目です、こんなの絶対駄目です!」

 

 首を横に激しく振りながらイッセーは言った。何が駄目なのだろうか?

 

「部長!アーシア、一人じゃ不安です!アーシアが!アーシアが変な奴らに変な要求されたら俺、我慢できません!」

 

 そういいながら部長に詰め寄るイッセー。これには部長もさすがに困惑していた。

 

「イッセー、呼び出した悪魔に対して過度のいやらしい依頼は私たちのところには来ないようになってるの。そういうのを望んでいる人間はその手の専門の悪魔が依頼を引き受けてくれるわ。私のところは安心なのよ?悪魔にだってちゃんと専門職があるんだから」

「部長、本当ですか?本当なんですね?」

「そんなにアーシアさんが心配なら、イッセーがついていけば良いんじゃないかな?別にイッセーに魔力がなくたってアーシアさんが少し多く消費すれば転移も問題なく出来るんじゃないでしょうか?」

 

 部長にそういう。イッセーは少し過保護な気がする。だが、もしもアーシアさんが一人で行くと言ったらアーシアがさん契約に行っている間イッセーが落ち着かないだろう。それを理解しているのか部長もすんなりOKしてくれた。

 

「あ、ありがとうございます部長!」

「礼ならコーキに言いなさい」

「ありがとよ、コーキ!アーシア、変態相手は俺に任せてくれ!アーシアは普通に何事もなく契約を取ってくれれば良いからな!」

「わ、わかりました!」

 

 少し緊張気味なアーシアさんの手を取り入った。そして朱乃さんがアーシアさんにちょうど良い依頼が来ていると紹介して、アーシアさんはそれを受けた。

 

「行くぞ、アーシア!」

「はい、イッセーさん!」

 

 そしてイッセーたちが魔方陣をから消えるのを確認すると俺は今日は帰らせていただくことにした。人間の俺にとっては今の時間帯はどちらかというと活動時間ではないのだ。部長たちにそのことを伝えると、俺は家路に着いた。



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不死鳥と悔やみ

 特に学校でも何も無い。平和が一番だ。しかし、なぜ俺の担任は俺にばかり仕事を押し付けるのだろうか?そろそろ、誰か別の人に頼んだって良いじゃないか。そう思いながらも結局は仕事をしてしまう俺も俺なのだが。頼まれたプリントの束の整理を終えて部室へと向かう。

 

 旧校舎について中に入る。結界が張られているため、あまり内部の魔力を知ることが出来ないはずなのだが今日の旧校舎の内部は普段感じない強力な魔力が混濁している。普段いない人がいる証拠だ。部長たちも迎撃というより、何のアクションを起こしていないと言うことは客人だと思う。

 

 そんなことを思いながら部室のあるところまで行き、扉を開けて中に入った。中には銀髪のメイドさんと金髪のスーツをして着崩している男性がいる。男性は部長の横に座って方に手を置いていた。誰なのだろうか?そんなことを思っていると男が手をこちらに向けたかと思うとその手から炎が放たれる。だが、一目見ただけでその炎がただの炎じゃないことぐらい分かった。指に魔力を込めて流動のルーンを宙に描くと、目の前にルーンが光ってそれを防いだ。

 

 今回流動のルーンに込めた意味は、浄化。炎を流れる魔力から分析して普通の水じゃ消せないことが分かったので浄化という形で消すことにした。しかし、出した量が多いため少し時間がかかる。自分の周りに炎がまとわりついて、燃えている。

 

「何をしているの、ライザー!」

「何って、人間がこの空間に入ってきたから燃やしただけだが?ここには悪魔以外立ち入り禁止だったはずだろ?」

「彼は私の仲間よ!」

「眷属でもないものを入れるのはよくないな、リアス」

「そんなの私のかってよ!」

 

 部長はたぶんライザーと呼ばれる金髪の男に怒鳴っているのだろう。というより、イッセーや祐斗、小猫さん、アーシアさんや朱乃さんは俺の名前を叫んでいた。それに応答するように言った。

 

「大丈夫ですよ」

 

 そう言ってようやく浄化を終えた、炎を払って姿を現した。

 

「貴様、フェニックスの業火に焼かれて燃え尽きるはずなのになぜ生きている?」

「決まってるじゃないですか。あなたの魔力を浄化してただの炎に変えたんですよ。というか、いきなりあんなものを人に向けてやるなんて少しばかり、度がすぎるんじゃないですか?」

「知ったことか。それより貴様、浄化などと忌々しい言葉を言いやがって。今度は本気で消し炭にするぞ」

 

 そう言って立ち上がり、手から炎をだす。しかし、それを見た銀髪のメイドさんが言った。

 

「ライザー様、落ち着いてください。彼はお嬢様が認めたものなのでここに来ているのでで一応お嬢様の客人となります。これ以上の危害を加えようとするなれば私もそれなりの対応をしなければなりません」

 

 まさかの銀髪のメイドさんが助けてくれた。それを聞いたライザーという奴は顔を青くして炎をしまうと席に腰を降ろした。そして再びえらそうに座った。

 

 今の現状を理解していない俺は、部長にではなく、祐斗に現状を聞いた。

 

 祐斗曰く、あのライザーという男は、フェニックスという上級悪魔で部長の婚約相手らしい。しかし、部長は自分の認めた男性としか結婚しないといい、ライザーの婚約の件を拒否しているとのことだ。

 

 まあ、いくらイケメンだろうと馴れ馴れしいのとは結婚するなんて嫌だろう。そこら辺は、部長の気持ちを察してほしい。とそんなことを聞いている間に部長とライザーの間には険悪な雰囲気が漂っている。そこに仲裁を入ろうとおもったが、俺が言ったところで逆効果だろう。と、先ほどと同じように銀髪のメイドさんが仲裁に入った。

 

「お嬢様、ライザー様。落ち着いてください。これ以上やるのでしたら私も黙ってみているわけにもいかなくなります。私はサーゼクス様の名誉のために遠慮などしないつもりです」

 

 迫力のある言葉で二人とも口を閉ざしてしまった。そして互いに臨戦状態を解いた。

 

「こうなることは、旦那様もサーゼクス様もフェニックス家の方々も重々承知でした。正直申し上げますと、これが最後の話し合いの場だったのです。これでも決着がつかない場合のことを皆様方は予測し、最終手段を取り入れることにしました」

「最終手段?どういうこと、グレイフィア」

「お嬢様、ご自分の意思を押し通すのでしたら、ライザーさまと『レーティングゲーム』にて決着をつけるのはいかがでしょうか?」

 

 レーティングゲーム。確か、チェスの真似事で駒(転生悪魔などの眷属)たちとともに相手の王を先に倒したほうが勝ちとか言う、あのボスがチームデスマッチだった気がする。そこら辺は知らない。というか、話されてない。聞かないでも良いと思ったからだ。

 

「お嬢様もご存知の通り、公式な『レーティングゲーム』は成熟した悪魔しか参加できません。しかし、非公式の純潔悪魔同士のゲームならば半人前の悪魔でも参加できます。この場合、多くが」

「身内同士、それか御家同士のいがみ合いよね」

 

 銀髪のメイド、グレイフィアさんの言葉を遮って部長は言った。そして挑発に乗るかのごとく、部長はライザーとレーティングゲームをすることとなった。

 

「ライザー、あなたを消し飛ばしてあげる」

「いいだろう。そちらが勝てば好きにすればいい。俺が勝てばリアスは俺と即結婚してもらう」

「承知いたしました。お二人のご意思は私グレイフィアが確認させていただきました。ご両家の立会人として、私がこのゲームの式を取らせてもらいます。よろしいですね」

「ええ」

「ああ」

「分かりました。ご両家の皆様には私からお伝えします」

 

 両者はにらみ合う。その間には火花でも飛んでいそうなほど、強い眼光をぶつけ合っていた。横ではイッセーが当惑していた。どうせ、レーティングゲームのことだろう。そして、ライザーは部長から一度視線を外して、あたり、というかこちらに向けると嘲笑を浮かべる。

 

「なあ、リアス。まさか、あの人間以外の面子が君の下僕なのか?」

「だとしたらどうなの?」

 

 言い方が悪かったのか、部長が少し癪に障ったようで若干イラついている。

 

「これじゃあ、話しにならないんじゃないか?君の『女王』である『雷の巫女』具体しか俺の可愛い下僕に対抗できそうにないな」

 

 そう言ってライザーは指をぱちんと鳴らすと、魔方陣が出現する。見たことない魔方陣だ。部長の家のものとは違うものだ。魔方陣からどんどん人が出てくる。出てきたのは十五人だ。そして全員揃うとライザーは宣言する。

 

「これが俺の可愛い下僕たちだ」

 

 魔術師らしき者に騎士らしき者、獣人らしき者もいる。しかも全員女の子。これを見てイッセーは涙を流している。それを見たライザーは部長に引いてる表情を浮かべながら聞いた。

「お、おい、リアス……。この下僕くん、俺を見て大号泣してるんだが」

「その子の夢がハーレムなの。きっと、ライザーの下僕悪魔を見て感動してるんだと思うわ」

 

 そう言うとイッセーはうんうんと頷いている。それを見たライザーの眷属の女の子は心底気持悪そうに言った。

 

「きもーい」

「ライザー様ー、この人、気持ち悪ーい」

 

 そこまで言ってやるな、イッセーはいつも言われてると言っても、さすがにそこまで言われると可哀想だろ。それを見たライザーはにやりとして、さっき、きもいとイッセーに言った女の子にディープなキスを始めた。さすがのこれには部長も呆れている。

 

 官能的な喘ぎ声が部室内に響き。イッセーは前かがみの姿勢になっている。アーシアさんはその光景を見て赤面して、頭から煙が出てるみたいだった。

 

 ライザーは唇を離すともう一人にもキスを始める。二回戦なんて始めやがった。そして、ライザーは二回戦を終了すると嘲笑を浮かべながらイッセーに言った。

 

「お前じゃこんなこと一生できまい。下級悪魔君」

「俺が思ってることを言うんじゃねぇー!ちくしょう!ブーステッド・ギア!」

 

 そう叫んで左腕に、赤龍帝の篭手を発現させる。そしてライザーに指を指して叫んだ・

 

「お前見たいな女ったらしと部長は不釣合いだ!」

「は?お前はその女ったらしに憧れてるんだろ?」

 

 全くもっての正論だ。だが、それでもイッセーは言い返す。

 

「うるせぇ!それと部長のことは別だ!そんな調子じゃ、部長と結婚した後も他の女の子といちゃいちゃしまくるんだろ!」

「英雄、色を好む。確か、人間界の諺だったな?良い言葉だ。まあ、これは俺と下僕のスキンシップ。お前だってリアスに可愛がってもらってるだろ?」

 

 そう言われてもイッセーは怯まずに言い返した。

 

「何が英雄だ!お前なんか、ただの種まき鳥野郎じゃねえか!火の鳥フェニックス?ははは!まさに焼き鳥だぜ!」

 

 その言葉にライザーの表情が変化する。

 

「調子こいてるんじゃねぇェェ!上級悪魔に対する態度がなってねぇぞ!リアス、下僕の教育はどうなってんだ!」

 

 部長は知るかと言った風にそっぽを向くだけ。そしてイッセーは

 

「焼き鳥野郎!テメェなんて俺のブーステッド・ギアでぶっ倒してやる!ゲームなんて必要ねぇ!ここで全員倒してやるよ!」

『Boost!!』

 

 イッセーの篭手から機械的な音声が発せられる。それと同時にライザーに向かって、突っ込んだ。

 

 ライザーは先ほどの怒りの表情は今度は呆れた表情になる。

 

「ミラ。やれ」

「はい、ライザー様」

 

 そういわれて出てきたのは小柄な女の子。その子はどこからか棍を取り出すとイッセーに突きを入れて吹っ飛ばした。

 

「イッセーさん!」

 

 イッセーは何をやられたか気付いていないようだ。アーシアさんはイッセーに近づいて、聖母の微笑で治療を受ける。アーシアさんに治療されているイッセーを見たライザーは言い放つ。

 

「弱いな、おまえ。さっき戦ったのは俺の『兵士』のミラだ。俺の下僕ではまだ弱いが、少なくともお前よりは実戦経験も悪魔としての質も上だ。ブーステッド・ギア?はっ。確かにそいつは凶悪でやり方次第で、神や魔王様すら屠れる最強の神器だ。過去にも使い手は数える程度存在したが、今までに神や魔王様を消滅させたことなんてない。この意味がわかるか?その神器は不完全であり、使い手も使いこなせない意味のない神器なんだよ!」

 

 そう言われてイッセーは悔しそうに奥歯をかんでいた。

 

「部長。この戦い俺も参加して言いですか?」

「コーキ?」

 

 その言葉に今まで黙っていた部長が反応する。

 

「部員、まだあって間もない人にここまで侮辱されるとさすが俺は耐え切れませんよ。俺はそこまで出来た人間じゃないんで、そろそろ、飛び掛ってもおかしくないです」

「……」

 

 部長は考えている。しかし、帰ってきた答えは俺にとっては最悪なものだった。

 

「いいえ、駄目よコーキ。これは私と眷属の問題。あなたは部員で、人間なの。私のために言ってくれてるのはとてもありがたいわ。でも、あなたにもしものことがあったらそれこそ元もこうもないわ。今回は本当にごめんなさい。気持ちだけで十分よ」

「ですが!」

「そうだ、人間。これは上級悪魔の問題だ。部外者は入ってくるな」

 

 ライザーもそう言ってくる。俺もイッセー同様奥歯を噛み締める。俺は何も出来ないのかよ、人間だからって、部外者だからって。俺だって仲間なんだ。そして、ライザーは十日後にレーティングゲームをすると決めて、魔方陣を出し、その中に十五人の眷属とともに消えて行った。



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修行と課題

 その次の日、俺は目を覚まし、シャワーを浴びて、身だしなみを整えていると、リビングから物音が聞こえてきた。そちらに行くとジャージ姿の祐斗がいた。こんな朝早くからどうしたんだろう?

 

「コーキ君、今からすぐに宿泊する準備をしてくれるかな?」

「何で?」

 

 全く意図が読めない。祐斗に聞き返すといつものスマイルで答えてくれた。

 

「今から山にこもって修行するよ。それと部長からの伝言で、あなたにはレーティングゲームには出せないけど、私たちをサポートしてくれってさ」

 

 その言葉を聞き、俺は少し気持ちが晴れた気がした。

 

 

 

「ぜーはー、ぜーはー」

「イッセー、大丈夫か?」

 

 荷物を持つイッセーは息を切らしてきつそうにしている。

 

「な、なんで、お前は無事なんだよ……。これが荷物の差なのか?」

「何言ってるんだ?こんなのチョモランマに比べたら軽いものだろ?」

「チョモランマって……まさか」

「標高八千メートル以上ある山。旅の時、中国に入るときそこを越えて行ったんだ」

 

 それを聞いて絶句していた。

 

「ほら、イッセー。コーキ。早くなさい」

 

 遥か前方を歩く部長からの檄が飛んでくる。部長の横にいるアーシアさんはイッセーを心配そうに見ていた。

 

「あの私も手伝いますから」

「いいのよ、イッセーはあれくらいしないと強くなれないわ」

 

 二人は会話が耳に届く。まあ、確かにこれぐらいしなければ、ライザーの眷族の足元にも及ばないだろう。とそんなことをしている間にイッセーと同じくらいの荷物を持った祐斗が通り過ぎていく。顔も俺と同様、涼しい顔で難なく歩いていた。その腕にはたくさんの山菜が摘まれている。

 

「……お先に」

 

 今度はイッセーや祐斗以上の荷物を担いだ小猫さんが通り過ぎた。その瞬間、負けてえられるかと言って、イッセーは山を駆け上って行った。それを見送ると俺も再び歩き始めた。

 

 

 

 

 別荘に着くと、倒れこんだイッセーがいた。女性陣は動きやすい格好に着替えるために二階に行ったそうだ。俺は自分の荷物を置くとジャージを一回脱いだ。鉛が大量に吊り下げられており、それを外すと体を動かす。特に問題もなく動く。それを見ていたイッセーが聞いてきた。

 

「まさか、それ体に吊るしてたのか?」

「そうだけど?」

「あんまり聞きたくないけど……何キロ?」

「七十」

 

 そう聞くと、イッセーは声を上げられないのか開いた口が塞がっていない。そして汗を拭くと、鉛にも付いていた汗を拭いた。それを終えると木場も自分のジャージを取り出していて、浴室に向かっていた。

 

「じゃあ、僕も着替えてくるから。覗かないでね」

「マジで殴るぞ!この野郎!」

 

 イッセーは殺意の籠もった視線で祐斗を睨んだ。俺は別に気にせずに新しいジャージに着替えた。そして、祐斗も浴室から出て来るのと同時に、上から女性陣も降りてきた。

 

「さて修行を始めるわよ」

 

その合図で各自の内容を伝えると分かれた。

 

 

 

 

 まず俺は小猫さんと組むことになった。

 

「よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 礼をして、ある程度はなれたところで構えを取る。ついでに俺は構えをとっておらずごく自然体の立ち姿だ。それを見た小猫さんは少し怪訝そうな表情を浮かべたがすぐに戦闘体勢であると理解して突っ込んで来る。

 

 初めに牽制のような蹴りではなく、一撃で倒すような蹴り。かわさずに前に出て、一番蹴りの威力のない太ももの部分に足を当てる。そしてそのまま蹴っている足を掴み、バランスを崩して倒す。しかし、それを小猫さんはバク転の要領で地面に手を着いて一回転する。すぐに手を離してある程度距離を取る。そしてバク転を終えていない小猫さんに接近する。そしてそのままエルボーを顔面に向けて殴りかかる。だが、それを交わされ逆に殴りかかる。それも、腕が伸びきる前に払い、蹴りを入れる。しかし、それを無視してそのまま俺の足を掴んで投げ飛ばした。

 

「おぉ!?」

 

 後ろに木があったので、当たる一メートル位手前で半回転して足をつける。そして小猫さんを見るとすでに目の前まで迫っており、拳を打ち込んできていた。しかし、それを分かっていたので地面に手をつけて、掴むとそのまま地面に自分の体を地面に無理やり引き付けて避ける。その上から小猫さんが足をそのまま踏みつけるように下ろしてきたのでそれを交わして足を払い倒す。それと同時に背中を蹴り上げる。それを上手い具合に避けられるが、それは予想済み。本命はもう片方の足で。避けた先でガードのために構えた腕を思い切り蹴る直前で動きを止めて、殴る。小猫さんはそれを当たる前によけて距離をとった。

 

「フェイントにかかった後の行動が少し遅いよ。相手もこのぐらいしてくるかわからないけど、これぐらいはがんばって見切ってくれ」

「はい」

 

 数分して、休憩時間になったため打ち合いをやめる。あの後は何度か良い一撃を何度も撃ってきたが当たってはない。

 

「どういう感じだった?」

「正直、コーキ先輩の動きは少し独特でした。攻撃のインパクトをずらされて私の一撃の威力を最大限に減らされていいものが入りませんでした」

「うん、そうだね。小猫さんは一撃一撃は本当に良いんだけど、フェイントって言うものが少ないんだ。そして、その撃ち込んでくるフェイントと本当に当てる一撃の攻撃が判断しやすいんだ。それさえ治せば今はいいと思う。無駄に多くのことを取り組もうとすると逆に悪くなったりする部分が多くなるからゆっくりと着実に行こうか」

「はい」

「じゃあ、もう何セットやろうか」

「お願いします」

 

 そして、俺は小猫さんのトレーニングで一つ一つ駄目なところを報告して動きをよくしていった。

 

 

 

 次は祐斗とともに剣の打ち合いだ。祐斗はスピードを主とした剣で、騎士であるため更にその剣撃が上がっている。しかし、剣は速度だけがものを言うわけではない。俺は祐斗の剣を弾いて応戦する。高速の一撃だが速度に慣れれば対応できる。そして次の上段斬りの一撃に合わせて木刀の根元に突きを放つ。その一撃で木刀は折れて、木刀を引いて祐斗の首に突き立てる。

 

「剣術に関しては問題ないんだけど、なんていうんだろ、祐斗の剣術はもう流派?っていうのかな?それがもう完全に固定されてるからもうあまり崩せないんだよね。逆に崩しちゃうと隙が生まれやすくなる。だけど、スピードがあっても重みが少しないから重みを加えたほうがいいと思うんだ」

「それは参考になる意見だね。君が思うにどうやればいいと思う?」

「俺的には、この木刀より重いものを使うと良いと思う。少しでも重い剣を使ったほうが剣撃のスピードも上がるし、剣に重みが乗ると俺は考えてる」

「なるほど」

「でも、重すぎた剣は駄目だね。重すぎると逆に今までの自分にあっている型が崩れる可能性があるから、せめて今までの木刀の1,5倍辺りからがちょうど良いかな」

「分かった。一回それで打ち合いをしてみよう」

 

 ということで、木刀の中に鉛を入れて再戦をすることにした。祐斗はまだ慣れていないため、少し安定しない。ほんの数分しただけで、腕に力があまり入ってなく、木刀を振るというよりも木刀に振られてるといっても良いくらいだ。そして、祐斗は木刀を地面に突き刺して息を整える。

 

「なんていうか、これはこれできついね。いつも似た重さの剣を扱ってたから少し重くしただけでこんなになるなんて思わなかったよ」

「そうだね。でも、このくらいでへばってちゃ間に合わないよ。少しでもライザーの眷属たちと対等にならなきゃ」

「はは、これは手厳しい」

「ということで、再開します」

 

 再び木刀を握った祐斗に木刀を押し付けた。

 

 トレーニングを終えたときは祐斗は汗だくで膝を付き立てるのが少し厳しい状態になっていた。

 

 

 

 

 次は朱乃さんとともに魔力の制御と魔力で物体を制御することになった。朱乃さんはアーシアさんに魔力の制御と操作を教えていた。

 

「すいません、コーキ君。そろそろ、夕餉の準備を始めたいのでアーシアさんの魔力制御を教えて差し上げてください」

「分かりました」

「コーキさん、お願いします」

 

 アーシアさんの魔力制御の腕を見るために朱乃さんに教えてもらったところまでしてもらう。ペットボトルの水に魔力を流し込むと水が僅かに動き始めて変化しだすが、ペットボトルから溢れるという程度だった。まあ、初めてにしては良いほうだとは思う。

 

「コーキさんはどんな風に操作してるんですか?」

「俺か?うーん、説明するのが少し難しいな。いつも、感覚的にやってるから」

「そうですか……」

「ゴメンね、力になれなくて」

 

 そう言ってアーシアさんはペットボトルに手をかざして模索していた。しかし、あまり上手く行かない。もしかしたらイメージがないのでは?そう思って聞いてみた。

 

「アーシアさんってそれをどうしたいと思っているの?」

「さっき、イッセーさんと一緒にいたとき、朱乃さんがペットボトルの中の水に魔力を加えて棘にしてから突き破ったんですよ。それを練習してるんですが、上手くいかないんです……」

「そう。ちょっと、朱乃さんの作った棘って言うのがあまりよくないのかもしれない。少し、イメージを変えてみようか」

「イメージですか?」

「そう。例えば、バラの棘。とてもちくちくするトゲだよ」

「うーん、なんかイメージがそっちのほうが出来やすいかもです」

「じゃあ、バラのトゲをイメージしてからやってみよう」

 

 そう言ってアーシアさんは目を閉じてペットボトルの水に向けて手をかざす。そして魔力を流しながら、バラの棘、バラの棘と唱えながら操作していく。魔力は、イメージをしやすいものにしたからか形を形成していく。ペットボトルの水が動き出し、ペットボトルに小さい穴を作るトゲが現れる。

 

「成功したよ」

「本当ですか!?」

 

 そう言って目を開けて確認したアーシアさんはペットボトルから飛び出る水を見て嬉しそうにしていた。

 

「じゃあ、今度はもう少しトゲを大きく、鋭くイメージしてみようか」

「はい!」

 

 予備のペットボトルを持ってきて、流動のルーンを描くとペットボトルに水を補給して再び、アーシアさんは特訓に励んだ。



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束の間の休息と結果

 全員トレーニングを今日のトレーニングを終え、夕食を食べている。イッセーは相当疲れてい 全員トレーニングを今日のトレーニングを終え、夕食を食べている。イッセーは相当疲れていたのか飯をかき込んで食べている。俺も食べているが、いかんせんまだ箸という物になれずに、フォークで食べている。魚の骨などは隣にいる朱乃さんと小猫さんが取ってくれたので助かっている。アーシアさんはすでに箸をマスターしているのに。

 

「先輩、こっちの魚。骨を抜いておきました」

「ん?ああ、ありがとう。小猫さん」

 

 そう言って、魚の塩焼きを口に含む。

 

 うん。美味い。だが、俺は塩ではなく醤油にしてすだちと大根おろし、と一緒にいただたかった。まあ、我儘言ってもしょうがないだろう。それに作ってくれた朱乃さんに失礼だ。

 

 そして夕食を食べ終えた俺らは今日の反省会を始める。

 

「さて、今日はどんな感じだった?」

 

 部長が話し始めると、祐斗が初めに話し始める。

 

「イッセー君の前に、コーキ君と戦いましたが、一撃も与えることが出来なかったです。それと、自分にかけている欠点も言われて改善しているんですがこの通りです」

 

 そう言って祐斗は掌を見せる。その手には肉刺(まめ)がたくさんあり、多くが潰れていた。それを見たアーシアさんがすぐに治療した。

 

「ここまで剣を振るなんて……。コーキ、祐斗の欠点はなんだったの?」

「いや、正直欠点じゃないんですけど、スピードでダメージを補ってるとは思うんですけど、やはり重さが足りないと思いました」

「なるほど。次は小猫」

「はい。私は一番最初にコーキ先輩に見てもらったんですが、祐斗先輩と同じ一撃も良いものを当てることが出来ませんでした」

 

 そう言うとさすがに部長は二人が一撃も入れられなかったことに驚いている。

 

「まさか、二人がここまで手が出ないとはね」

「はい。驚きましたわ」

「で、小猫にはどんなアドバイスを与えたの?」

「小猫さんにはフェイントにも殺気があまり乗ってなかったのでフェイントのほうにも殺気を乗せてやってみてもらいました。最初に比べてはとても上手くなってます」

 

 それを聞いた部長は頷き、小猫さんは嬉しそうにしていた。あの時はあまり褒めてなかったからだろう。まあ、始まったらあまり、褒めないんですけどね。

 

「アーシアは?」

「はい。私はコーキさんにイメージするものを自分の分かり易いものから派生していくということを教えていただいて朱乃さんに教えてもらったことができるようになりました!」

「へえー、すごいじゃない」

「すげーぞ、アーシア!」

 

 部長とイッセーはアーシアさんを褒める。嬉しそうに笑うアーシアさん。良かったですね。

 

「で、イッセー。あなた今日の修行をしてみてどう思った?」

「……一番俺が弱いと感じました。まだ、コーキとは合同でしてないけど、それでもたぶん木場や小猫ちゃん、アーシアより駄目だしをくらうと思っています」

「そうね。それは確実ね」

「まあ、そこら辺はちゃんとしてあげるから心配しないでいいよ、イッセー」

 

 イッセーにそう伝える。

 

「朱乃、祐斗、小猫はゲーム経験がなくてもはぐれ悪魔討伐なんかで実戦経験は豊富だから、感じをつかめば戦えるでしょう。あなたとアーシアに関しては実戦経験はないはね。それでもアーシアの回復、イッセーのブーステッド・ギアは無視できないものよ。だから、最低でも逃げれるぐらいの力はほしいわ」

「逃げるって……。そんなに難しいんですか?」

「イッセー。逃走って言うのは相手に背中を見せて走らなきゃいけないんだ。無防備になるといってよくなるから、地の利を活かしたり、罠をはって時間を稼いだりしないと案外難しいんだ。まあそれを使わずに逃げ切れる人がいたらそれはそれですごい才能なんだけどね」

「コーキの言うとおり。実力が拮抗してるならまだしも、差がありすぎる相手にしたら殺してくださいって言ってるようなもの。だから、そういう相手から逃げるのも実力の一つ。二人に逃げ時ってものを教えるわ。もちろんめんと向かって戦える術もね」

「はい」

「了解っス」

 

 二人は返事を返した。

 

「食事も終えたことだし、お風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

 温泉。たしか、アイスランドのブルーラグーンと違って天然ものの湯が湧き出ているものと聞いたことがある。それに日本らしい風物を取り入れて魅力を高めているものと聞いたことがある。

 

「温泉かー」

「温泉といえば!」

「僕は覗かないよ、イッセー君」

 

 何のことだろう?覗くって。

 

「バっカ!お、おまえな!」

 

 イッセーは何に慌てているんだろうか。全く分からない。

 

「あら、イッセー。私たちの入浴を覗きたいの?」

 

 ん?温泉って皆一緒に入るものじゃないのか?部長はクスっと笑って言った。

 

「なら、一緒に入る?私は構わないわ」

 

 そう言うとイッセーは何か衝撃を受けたみたいだ。というより、なんでそんな話しなのかみんなに聞いた。

 

「すいません。温泉ってみんなではいるものじゃないんですか?アイスランドにいたころは大きなところで男女混合で皆入ってたんですが?」

「ああ。あなたは日本の温泉を知らなかったわね。日本はブルーラグーンと違って裸で入浴するのよ。常識だから覚えておいたほうが良いわ」

「そうなんですか。危うく、水着を着てはいるところでした。ここは日本ですし、郷に入って郷に従えですね」

 

 日本にはそんな文化があったのかと感嘆する。

 

「なんなら皆で入る?もちろん女子全員が許可したらだけど」

「私は構いませんわ。殿方の背中を流してみたいかもしれません」

 

 朱乃さんは良いようだ。というか、未婚の女性が簡単に裸を晒して良いものなのだろうか?

 

「アーシアは?愛しのイッセーがいるなら大丈夫よね」

 

 そう部長が言うと顔を赤くしながら首を縦に振った。えっ、日本の女性って簡単に裸になるものなんですか?あっ、でも、部長さんやアーシアさんは日本の女性じゃないから日本の文化なのか?

 

「最後に小猫は?どう?」

 

 部長が言うと小猫さんは両手でバッテンを作った。

 

「……いやです」

 

 うん。そんなことはなかった。やっぱり、これが普通だと思う。イッセーはそれを聞いてものすごく落ち込んだ。しかし、顔を上げて何かをしようと決意を固めた瞬間

 

「……覗いたら、恨みます」

 

 崩れ落ちた。うん、まったくわけが分からない。

 

 そんな感じでほぼ生気を失ったイッセーを祐斗とともに引きずって温泉に向かい、入った。その時、イッセーがしきりに部長たちがいる敷居を見ていたがとても残念そうだった。

 

 だが、女性陣の楽しそうな会話を聞いていると次第にニヤニヤし始めて気持ち悪かった。まあそこら辺は気にしないでおこう。



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座学とイッセーの特訓

 朝は座学を勉強している。正直、座学よりも実技などのほうが得意だ。それに学校の勉強ならまだしもなぜ、俺もイッセーたちと同じ三竦みについて勉強しなければ駄目なのか?

 

 それを部長に対して問いただすた。

 

 だが部長は「あなたも部員なのだから、私たちの敵や悪魔について勉強してたほうが良いじゃない」だそうだ。

 

 俺はよく分からない悪魔の魔王。熾天使。堕天使の幹部と総督。なぜこのようなことを勉強せねばならんのだ。

 

 とまあ、こんな感じのことを思いながら現在、皆ともに教えてもらっている。祐斗が質問して、それを答えるイッセー。天使、悪魔は順調だったのだが、堕天使でつまずく。それは分かる、何であんなにいいにくい名前なんだと俺も思う。俺にとっては魔王様も同様だけど。ルーン魔術なら簡単に出来るんだけどな。

 

 こんな感じで、天使、悪魔、堕天使の説明を終えると次は俺の前まで恨んでいた教会関係のことをアーシアさんが教えてくれることになった。なぜ、前までといっているかは今まで恨んでいたのが実は教会関係者じゃなくて追放されたものたちだったということをアーシアさんが教えてくれたからだ。

 

「コホン。では、僭越ながら私、アーシア・アルジェントが悪魔祓いの基本について教えます」

 

 イッセーが拍手でエールを送ると途端に顔を赤くしてしまった。そして少し収まると話を始める。

 

「えっとですね。以前、私が属していたところでは、二種類の悪魔祓いがありました」

「二種類?」

「一つはテレビや映画に出てくる悪魔祓です。神父様が聖書の一説を読み、聖水を使って人々に憑いた悪魔をはらう『表』の悪魔祓い。そして、『裏』が悪魔の皆さんにとって脅威なるものです」

 

 イッセーの疑問にアーシアさんが答える。

 

「イッセーも出会っているけれど、私たちにとって最悪の敵は神、あるいは堕天使に祝福された悪魔祓いよ。そいつらとは歴史の裏舞台で長年に渡って争っているわ。天使のもつ光の力を借り、常人離れした身体能力を駆使して全力で私たちを滅ぼしに来る」

 

 部長も補足するように続けた。そしてなぜかイッセーは俺のほうを見ておずおずと部長に聞いた。

 

「もしかして、コーキ見たいな奴が大量に来るんですか?」

 

 心外だな。部長もなんとか言ってやってください。

 

「いいえ。コーキ見たいな規格外な悪魔祓いはまだ見たことないわ。安心しなさい」

 

 俺の味方はいなかった。少し落ち込みそうだ。そんな時、アーシアさんが俺に来るように手招きしていたので行くとバッグから取り出してほしいといわれてバックから十字架やら聖書やら悪魔にとっての脅威となるものがたくさん入っていた。

 

「コーキさんに手伝っていただきながら説明します。まずは聖水。悪魔にとっては危険なもので触れると大変なことになります」

「そうね。もしも扱うならコーキを使わないとね」

 

 まあ、この中で唯一悪魔じゃない俺にとっては脅威になるものなどない。というわけで次はアーシアさんの指示で聖書を持ち上げる。

 

「次は聖書です。小さい頃から毎日読んいました。いまは一説でも読むと頭痛がします。とても困ってます」

「悪魔だもの」

「悪魔ですもんね」

「……悪魔」

「うふふ、悪魔には大ダメージ」

「うぅぅ、私、もう聖書を読めません」

「なんなら読んであげようか?」

 

 俺の言葉にアーシアさんは顔をパーと輝かせる。それと反対に部長たちの顔が青ざめる。

 

「コーキ、読んでは駄目よ。そんなことしたら皆ひどい目に遭うんだから」

「そうですか。分かりました」

 

 そう言われてアーシアさんは目に涙を浮かべた。

 

「そんな。でもでも、私はこの一節は好きな部分なんですよ。ああ、主よ。聖書を読めなくなった罪深き私をお許しあう!」

 

 アーシアさんはダメージを食らったようだ。そんな感じで勉強を終えたのは昼時だが、俺は部長から悪魔たちのことについて勉強しておきなさいといわれた。覚えるまで教えるのも禁止ともいわれたので必死こいて勉強したが結局終わったのが間食時だった。

 

「あー、難しい。というか、七十二柱の悪魔もってイッセーたちはまだおぼえなくて良いって言うのに何で俺は覚えさせられたんだろう」

 

 そう呟きながら山の頂上を目指していた。イッセーとの合同が今日の夜なのとほとんどのメンバーはそれぞれの自主トレーニングをしていたため、俺も特にやることがなくなり、自分のトレーニングがてら山頂を目指すことにした。もちろん、行く道は舗装されてない森の中、魔力強化無しのトレーニングだ。俺は人間であり、かなり身体能力は高いほうとは思っているが、それでもイッセーのような成り立てとは違った鍛えた悪魔には遠く及ばないだろう。

 

 だが、それでもそこで諦める通りはないはずだ。肉体の状態を確認しながら険しい山道を駆け上る。足元を取られないように目で丈夫な足場を見つけ、それがなければ木を蹴って飛び、頂上を目指す。だが、そこまで高い山ではなかったのですぐに頂上に着いた。

 

「うん、少しばかり、標高が低いみたいだね。どうせなら下まで行って往復のタイムでも計ってみるかな」

 

 そう言って山頂から今度は下り始めた。

 

 

 

 

 山頂に戻ってきた時はすでに日が沈みかけており、お腹が減るくらいの時間帯になっていた。なので、部長たちのいる急いで戻る。戻る時間帯はどうやら、ちょうど良かったようでほぼ全員と同じであった。しかし、みんなしっかりとトレーニングが出来ているのだろうか?

 

 少し疲れ気味の小猫さんと祐斗、そしてボロボロになったイッセー。二人は少しは感じをつかめているのか、昨日よりも疲れがあまりない。まあ夜の方では疲れるとは思うが。イッセーは何があったんだとしか言いようがない。

 

 昨日と同様、アーシアさんと朱乃さんの料理を食べ、温泉に入ると夜の訓練に入る。今回はイッセーとだ。

 

「イッセーは……武器は必要ないね。ためしに俺に向かって攻撃を仕掛けてきてよ」

「わかった。おりゃあああああ!!」

 

 掛け声とともにイッセーが突っ込んで来る。そして近づいてくると同時に踏み込んで拳を振りぬく。

 

 拳は完全にあまり人を殴ったことのないような素人のようなパンチ。まあ、今まで普通の生活を送ってきたなら妥当だろう。それを避ける。すると今度はテンプルに向けてフックをかましてくる。感じとしては良いのだが打ち方がまるでなってない。それもかわす。

 

 その後もイッセーは攻撃をしながら蹴りや殴りかかってくるがすべてかわす。もちろん、こちらも反撃してる。といっても当てる寸前で止めているが。

 

 数十分でイッセーは息を切らせながら膝に手を着いた。

 

「はぁ、はぁ、くそぉ」

「まあ、なり立てにしてはこれくらいで普通と思う。でも、もう少しマシな蹴りや殴り方を覚えておいたほうが良いよ」

「つっても、小猫ちゃんから言われてもどうやれば良いかわかんなくてよお」

「じゃあ今から振りぬくから見といて」

 

 そう言って、息を整えてから拳を構える。そして拳を体全体を使って一気に振りぬく。片足を軸に真っ直ぐに、腕をきちんと伸ばして、腰を回転させて肩も前に出すように。そしてすぐに戻す。とはいっても、教えるために遅めにしている。

 

 それを見た、イッセーは驚いている。

 

「これをくらい打てるようになれ。なんて無茶なことは言わない。せめて、こんな感じにしっかりと拳に重みを乗せて、相手の急所を狙う。悪魔も同じかは知らないけど、喉、こめかみ、目、乳様突起、顎、心臓、鳩尾、金的などなど、人体の急所という急所に拳でも蹴りでも打ち込む」

「お、おう。でも、人体の急所なんて鳩尾と心臓と喉とこめかみと男の相棒ぐらいしか知らないぞ」

「そこら辺はしっかりと勉強しておいて」

 

 そう言うとイッセーの拳を構えて素振りを開始した。しかし、先ほどの真似をしようとしているのだが、余計な力が入りすぎて上手くいっていない。そこをしっかりと教えてていく。

 

 今日の修行終了になった時は最初に比べれば見栄えもよくなっているし、体の使い方を少しだが理解していた。



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改善と本当の実力

 修行も一週間を迎える。小猫さんも祐斗も俺の言ったことをしっかり出来るようになって正直、模擬戦をしているのだが魔力強化していない状態では本当に危険になってきた。イッセーもようやく教えた殴り方を少しは分かってきたのか少し良い感じになってきている。だが、修行中の表情を見ていてもどうも暗い感じだ。

 

 修行は順調なのだが時間がない。だいぶ皆、動きもよくなっているのだがライザー眷属の相手になるかは分からない。俺自体がライザーの眷属がどの位か分からないのもある。そして、その夜、みんなが寝静まっているころに一人、山の開けているところに来ていた。

 

「ここなら、ある程度大丈夫だろう」

 

 そう呟くように言うと、魔力を指に収束させる。そして流動のルーンを描く。そして発動させると魔力の分だけ水が出現する。それに更に魔力を加えて制御下におくと飴玉くらいに分離させて宙に留まらせる。

 

 これはフリードのときにも使ったものだ。なぜ、これを作ったかというと、フリードが完全とは言わないが避けていたからである。避けられるということはまだこれにも改善の余地があるということなので試しに今までの魔力を制御ではなく、速度を重視してみた。そして、それを一斉に射出する。目の前にある木を一瞬で穴だらけにする。威力も申し分ないしのだが、もう少し試してみることにした。

 

 次は分離せずにそのまま一点に連続で打ち続けるもの、ウォーターカッターと同じだ。やってみると木が切れるのだが横にスライド移動させる時の速度が速すぎると切れないし、自分にも危険性が伴う。これは論外だ。

 

 他にもいろいろ試したのだが、やはり最初の奴が一番マシであった。やっぱり速度を加える改善だけでよかった。魔力が思った以上に使ったので帰る事にした。

 

 帰るとリビングのほうで明かりがついていたんで誰か起きているのだろうと思い、覗くとそこにはイッセーと部長がいて、イッセーは嗚咽を堪えながら泣いていて、自分が弱いと弱気になっている。そんな、イッセーを部長が撫でていた。

 

 少しは気になったが、これ以上覗くのは野暮だろうと思い、自分の部屋に帰り、汗をある程度ふき取るとベットにもぐりこんだ。

 

 

 

 

 次の日の朝、今回は修行前に全員練習場に来ていた。昨日のこともあるが少しはイッセーも昨日泣いて吐き出したこともあって吹っ切れていた。

 

「イッセー、ブーステッド・ギアを使いなさい」

 

 練習前に部長がそういった。そういえば、イッセーはこの修行中に一回も神器を使用していなかった。

 

「祐斗、相手をしてくれる?」

「はい」

 

 部長に言われて、祐斗が前に出る。どうやら祐斗と、イッセーと模擬戦をさせるようだ。

 

「イッセー、模擬戦をする前にブーステッド・ギアを発動させて、二分間ブーストさせなさい。それから試合開始よ」

 

 部長にそういわれて、イッセーはブーステッド・ギアを発現させるとブーストし始めた。そして二分後、イッセーがブーステッド・ギアにこれ以上倍化さえないようにすると、イッセーと祐斗の模擬戦が開始した。

 

 祐斗は木刀。イッセーは素手で戦うらしい。まあ、自分の一番得意な奴のほうが良いし。イッセーには俺も、基本殴り方や蹴りのことしか教えていないから良い選択だと思う。

 

 始まってすぐに動いたのは祐斗。速い速度でイッセーの前に到達すると横薙ぎに木刀を振るう。それをイッセーは両腕をクロスすることでガードした。鈍い音が響くがイッセーは無事だった。それにさすがに祐斗も驚いていた。そして、俺が教えたとおりの拳を祐斗顎に向けて放った。

 

 しかし、祐斗も当たる前にスウェーで避けて飛び上がる。しかし、イッセーにはそれが見えていない。そして祐斗を見失ったイッセーは、キョロキョロとあたりを探すが祐斗を見つけられていない。そしてようやく上を見たときには祐斗はすでにイッセーの頭のすぐそこまで来ていた。

 

 そのまま、イッセーの頭に木刀が振り下ろされ、ゴッという鈍い音を立てる。それを我慢して降り立った直前の祐斗に向けて蹴りを放った。

 

 それも難なく交わされた。どうしようか迷っているのか動きが止まる。

 

「イッセー!魔力の一撃を撃ってみなさい!魔力の塊をだすとき、自分が一番イメージしやすい形で撃つの!」

 

 部長の指示に従い、イッセーは手に魔力を集めて形にする。それはとても小さな魔力の球。とてもじゃないが攻撃したところでダメージが入るとは思えない。しかし、それでも部長に言われたとおり、祐斗に向かって放り出した。

 

 しかし、現在、イッセーはブーステッド・ギアで体を力を何乗にも倍化しているのだ。あんな小さな米粒程度の魔力でもどうなるだろう。

 

 魔力は手から離れた瞬間、莫大なエネルギーを持った巨大な魔力球に変わった。三分も倍化するとここまでの威力に変わるのか。

 

 感心しながら、魔力の塊を見ていると結構な速度で祐斗に向かって行っている。だが、祐斗はそれを難なく避けて見せた。

 

 魔力の塊はそのまま直線的に進み続けて最終的に隣の山に着弾すると凄まじい爆音と爆風を撒き散らしながら、隣の山を跡形もなく吹き飛ばした。まあ、あれだけの莫大なエネルギーならばあれぐらいあって当然だろう。

 

 それを見ていたイッセーの篭手からはリセットと音声が発せられて、力が抜けていくのが分かる。

 

「そこまでよ」

 

 部長の言葉を合図に祐斗は木刀を下ろし、イッセーは腰を抜かしたかのように地面に座り込んだ。さすがにあれだけの威力を自分が出したなんて信じられないようだ。

 

「お疲れ様、二人とも。さて、模擬戦の感想でも聞こうかしら。祐斗、イッセーはどうだった?」

「はい、正直、かなり驚いています。最初の一撃で決めようと思ったんですがイッセー君のガードがかなり固くて崩すことが出来ませんでした。打ち破れると思ったんですけどね。次に上からの振り下ろしで完全にノックダウンしようとしたんですがこれも無理でした」

 

 ハハハと笑う祐斗は木刀をみんなの前に出した。木刀は根元の部分に亀裂が入り、次に何かを殴ったりしようとすれば折れてしまうレベルだ。

 

「魔力で木刀を覆って強化したんですけど、それでもイッセー君の体が硬すぎて大したダメージを与えられずッ手感じです。あのままやっていたら僕は得物を失って、逃げ回るしかなかったでしょう」

 

 まあ、これが実戦だったら分からないだろう。これが木刀ではなく真剣、本物の剣ならこの勝負は祐斗が勝つ可能性があったかもしれない。まあ、これは模擬のため、そこまで深く考えなくても良いだろう。

 

「ありがとう、祐斗。そういうことらしいわよ、イッセー。あなたは私に『自分は一番弱くて、才能もない』と言ったわね?」

「は、はい」

「それは、半分正解。ブーステッド・ギアを発動していないあなたはこの中の誰一人にも勝つことが出来ないほど弱いわ。けれど、籠手の力を使うとあなたの強さは次元が変わる」

 

 そう言って部長は吹き飛んだ山に視線を向ける。

 

「あの一撃は上級悪魔クラス。あれが当たれば大抵のものは消し飛ぶわ。それだけの威力をさっきの一撃は持っていた。基礎を鍛えたあなたの体は、莫大に増加していく神器の力を蓄えることのできる器になったわ。現時点でも力の受け皿としては相当なものよ。あなたは基礎能力を鍛えていけば最強になっていくのう。始まりがどれだけ小さい力だろうとあなたの力はその籠手さえあれば倍化されていってとてつもない力を持つことが出来る。あなたはそれだけ成長したのよ」

 

 イッセーがまるで信じられないという風に自分の籠手を見ている。それを見た部長が自信満々に言った。

 

「あなたはゲーム要。イッセーの攻撃力が状況を大きく左右するの。あなた一人で戦うのなら力の倍化中、隙だらけで怖いでしょうが、勝負はチーム戦。あなたをフォローしてくれる仲間がここにいるわ。私たちを信じなさい。そうすれば、イッセーも私たちも強くなれる。たとえ、どんなに苦しい局面になっていてもあなたがその力を使いこなせればひっくり返すことだって可能よ。そうしたら私たちは勝てるわ!」

 

 その言葉にイッセーは部長の顔を見る。そして部長も真っ直ぐイッセーを見て言う。

 

「あなたを馬鹿にしたものに見せ付けてやりなさい。相手があの不死身のフェニックスだろうと関係ないわ。リアス・グレモリーとその眷属悪魔がどれだけ強いのか、彼らに思い知らせてやるのよ!」

「はい!」

 

 俺たちは力強く返事を返す。

 

 その後、俺らは更に自分たちを強化するために修行に励んだ。

 

 そして修行も無事に終え、舞台はレーティングゲームへと進んだ。



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結果と招待状

 レーティングゲームに参加できない俺はその日は学校ではなく自分の家にいた。部長たちに相談したのだが、駄目といわれたためである。

 

 眠ろうとしても、今俺だけ、悠々と眠ることは出来なかったし、彼ら、イッセーを含めた部長の眷属たちが心配だった。

 

 俺は彼らに即席ではあるが、ある程度のことを教えた。それでも、ライザーの眷属に勝てるかどうかは分からない。しかし、彼らの勝利を信じ続けていた。

 

 眠れない状態のまま夜が過ぎていく。何時間経っただろうかも正直わからない。ただリビングのイスに座り、肘を突いて動いていない。

 

 と、その時、玄関の方から、魔力の乱れを感じた。どことなく感じたことのあるような魔力の乱れ。これは魔方陣を出すときのものだ。つまり、家の前に誰か着たことになる。部長たちかもしれない。そう思ったが、必ずそうとは限らない。魔方陣を使うやからなんてたくさんいるのだから。

 

 警戒をして、カードからいつでも銃と剣を取り出せる状態にしておく。そして、しばらく待つとチャイムが押される。それにゆっくりと近づいて、マイクで誰かを確認する、

 

「どちら様でしょう?」

「グリモリー家のメイド、グレイフィアです。先ほど終了したレーティングゲームの結果をお伝えにきました」

「そうですか。結果はどうですか?」

 

 武器を仕舞ってグレイフィアさんにマイク越しで話しかける。

 

「結果を伝える前にあなたにお会いしたいという方がいるので、このドアを開けていただけませんか?」

 

 そう言われ、俺は一度ドアからその人物を確認する一人はもちろん銀髪メイド服のグレイフィアさん。そして、もう一人、部長と同じ紅色の髪をした、青年。だが、その人からにじみ出る魔力は凄まじい力を秘めていることを感じさせる。少し警戒しながら扉を開けた。

 

「やあ、初めましてだね。桐谷光輝君。そんなに警戒しなくても何かするつもりはないよ」

 

 そう言って両手を上に上げてひらひらさせる。それを見て敵意がないことを示す青年。それで本当に敵意がないことを察知した俺は彼に頭を下げる。

 

「先ほどは警戒してすみません」

「いや、いいよ。僕こそいきなり来てすまないね」

「いえいえ。それより、俺に用があるんでしたね?こんなところで立ち話もなんですし中にどうぞ」

 

 そう言って二人を中に招き入れる。リビングに行き対面に座る。お茶を用意しようとしたら、グレイフィアさんが俺の家の機材の場所をどこで知ったかは知らないが紅茶を用意してくれた。

 

 紅茶を一口飲んで口を潤す。美味い。朱乃さんの入れてくれる紅茶も美味しいが、この人が入れるものはもっと美味しい。さすが貴族のメイドと言ったところだろう。

 

 と、そんなことはおいといて、俺はグレイフィアさんが連れてきたこの紅髪の人に話しかけた。

 

「自分に用があるそうですが、どのようなご用件でしょう?」

 

 洗礼された動きで紅茶を飲んでいた青年に問いかける。

 

「ん?ああ、すまない。自己紹介もまだだったね。私はサーゼクス・グレモリー。リアス・グレモリーの兄だ。よろしく。で、用件だったね?正直、リアスが気に入っている人間がどんな子なのか気になってね。それで、レーティングゲーム後にちょっとお邪魔させてもらったんだ」

 

 青年。部長の兄と名乗るサーゼクスさん。この名前は聞いたことがある。確か、ライザーが部室に来た時に言っていた。

 

「そうですか」

 

 サーゼクスさんの返答に返事を返して紅茶に口をつけた。

 

「しかし、君は不思議な人間だね。魔力量も戦闘力もそれこそ、人間にしてはおかしいくらいのものだよ」

「すこし経歴が変なだけですよ」

「そうかい。そのあたりを聞きたいのは山々だけど、また今度にさせてもらうよ。こっちもいろいろとしなければならないことがあるからね」

 

 サーゼクスさんはそう言って両肘を突いて手を組み合わせて言った。

 

「今回のレーティングゲーム、リアスとライザー君のものだけど、ライザー君の勝ちだよ。さすが、不死身の能力と言ったところかな。なかなか良い戦いだったんだけど、やっぱり、リアスには不死身はまだきつ過ぎたみたいだね。兵藤一誠っていう男の子だったかな?彼がライザー君に立ち向かったんだけど、倍化をしすぎて体が持たなくてね。戦う前にはもう限界だったみたいだ。それでも、彼は諦めずに立ち向かって行ったよ」

「それだけ、イッセーは部長をアイツに渡したくなかったんでしょう。みんなもそのはずです。その答えを聞いて俺もとても悔しい気持ちです」

「そうだね」

「なら、なぜあなたの親は部長とあんな奴の婚約を……すいません。部外者が口を出しすぎました」

 

 少し眷属でもないのに、御家騒動に口出しすぎだと思った。それで謝る俺を見てサーゼクスさんは笑みを浮かべる。

 

「いや、いいよ。この件に関しては、君の言いたいことには一理ある」

 

 そう言うサーゼクスさん。ならどうして。その言葉が口から出てこようとするが、堪える。サーゼクスさんはグレイフィアさんに何かを言うとグレイフィアさんが一枚の紙を渡してきた。紙にはグレモリーの魔方陣が書かれてある。

 

「君も、リアスとは関係があるからね。パーティーの招待状を渡しておくよ。これがあれば魔方陣でいける式場にいける」

「……自分を呼んだら場が混乱するではないでしょうか?基本的に悪魔ばかりのいる式場でしょう?」

 

 そう言うとサーゼクスさんは不敵な笑みを浮かべる。

 

「そうだろうね。でも、大丈夫さ。そこら辺は僕が君が来た時に対処するよ。君には僕の余興にでも乗ってもらおうかと思ってるからね。魔術師である君ならもう一つの場を盛り上げられそうだからね」

「……」

 

 あまり頭の回転が早くない俺にはまったくこの意図が読めない。この人は何をさせたいのか?

 

「ただし、余興ではライザー君への手出しがはしないように頼むよ。サプライズを頼むんだけど、悪いがその主役は君じゃない。だから、彼の眷属とで手を打ってくれ」

 

 そう言われて俺は、サーゼクスさんが俺に何をさせたいのかはっきりする。この人は、部長の婚約の件を別の形で破棄させたいようだ。そして、ライザーは別の誰かと戦わせる。たぶん、イッセーだろう。そうだと思い、口角を上げて紅茶に口をつけると言った。

 

「分かりました。ですが、自分も私用で遅れてしまいますがよろしいですか?」

「もちろん。君ともう一人のサプライズゲストと一緒に来てくれるとものすごく助かるよ」

 

 そう言って、席を立ち上がるサーゼクスさん。

 

「それじゃあ、式でまた会おう」

「はい。また」

 

 そう言ってサーゼクスさんがリビングを出て行く。その後に続いてグレイフィアさんが軽く礼をして出て行った。そして、玄関が開く音はしなかったが魔法陣が展開されたような感じがしたので、そのまま帰ったんだろう。

 

「さてと、じゃあ式の前にもう一人と相談するかな」

 

 俺はそのまま、イッセーのところに向かった。

 

 

 

 

 イッセーのところに来たのはいいが、イッセーはレーティングゲームでブーステッド・ギアを酷使しすぎて現在は意識がない状態らしい。アーシアの神器で外傷のほうはすべて治っているのだが、体力、気力、精神力まではアーシアの神器でもどうすることも出来ない。

 

「アーシアさん。イッセーは大丈夫だよ。絶対に目を覚ます」

 

 目を覚まさないイッセーを心配そうにするアーシアさんを励ますために声をかける。アーシアさんも信じているため、それに強く頷いて返しているが、まだイッセーが起きる気配はまったくない。

 

「分かってます。絶対にイッセーさんは目を覚まします」

 

 眠っているイッセーの横でずっと涙を堪えながら呟くように言った。

 

 本当に参った。パーティーは二日後だ。俺はアーシアさんにイッセーの世話をするのは良いが自分の体にも気をつけるように言うと、学校に向かった。

 

 すでに俺の休みの期間は切れており、学校に行かなければならないからだ。本当に今はこの学校すらも休みたい気分だ。

 

 そして、イッセーが目を覚ましたのはちょうどパーティーのあると当日であった。



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乗り込み

 俺はあれからどれくらい眠っていたんだろうか。目が覚めると、グレイフィアさんがいるだけで他には誰もいない。そして、俺はグレイフィアさんから、部長が投了(リザイン)して負けたことを聞いた。

 

「あの俺ってどの位眠ったんですか?」

「あれからだいたい二日間眠っていました」

「そうですか……」

 

 俺はライザーを倒せなかった。部長が勝つって宣言して、俺らはあんなに頑張って修行を積んだのに。あれだけ頑張ったのに。勝つことが出来なかった。

 

 コーキは俺に殴り方やけり方なんかの戦闘技術を教えてくれたのに。最初はなんとかやれていた。だが、ライザーと戦う時の俺はどうだ?体を酷使しすぎた結果、体が持たずにほとんどやられっ放しだった。これじゃあ、アイツに見せれる顔もない。あいつは、俺らのために頑張ってくれたのに。

 

 そう思うと自然に手に力が入り、目には熱いものがこみ上げてくる。

 

 クソっ!何で俺はあんなにも弱いんだ!部長たちと一緒に頑張って強くなったはずなのにライザーのあの不死身の再生能力に手も足も出ずに負けた。

 

 くやしい!今まで生きた中で一番悔しい!

 

 ついに耐え切れなくなったのか、目から涙がこぼれてきてしまう。

 

「ちくしょう!なんで!俺らは強くなったはずなのに!あんなに頑張ってきたのに!こんな結果あるかよ!俺たちがあそこで頑張ってきたのは意味ないことなのかよ!」

 

 そう叫ぶように言った。だが、ここで感情を爆発させても今だけの発散に過ぎない。俺は目から出る涙を拭い、今の状況をグレイフィアさんに聞く。

 

「……木場たちは無事なんですか?」

「はい。お嬢様の眷属は一誠様とアーシア様以外は全員式に出席している状況です。アーシア様は今、下の階にタオルを取りに行かれているのでいません」

「そうですか……」

「納得できませんか?」

 

 その言葉を聞いた俺は叫ぶように言った。

 

「納得できるはずがないじゃないですか!たとえ、他の全員が納得しようと俺は絶対にこんなこと納得できません!」

「お嬢様は御家の決定に従ったのですよ?」

「解ってます!解っているんです!でも俺は!」

 

 最後の朦朧とした意識の中で見た部長の涙。あんなものを見せられて俺は納得できるはずがない!あんないけ好かない野郎との結婚、親たちが認めても俺は絶対に認めない!

 

 そんな中、俺を見て小さく笑うグレイフィアさん。この人が笑うところを見たのは初めてな気がする。やはり、美人が笑うと絵になる。

 

「ふふふ。やはりあなたは面白い方ですね。いろいろな悪魔を見てきましたがあなたのように、思ったことを顔に出してそれを実行するような方はあなたが初めてです。私の主サーゼクス様もあなたの活躍を見ていて、『面白い』とおっしゃったのですよ?」

 

 それは光栄だ。魔王様じきじきにそんなこと言ってくれるなんて。でも、どうしたら良いかよく解らない。だって、魔王様だぜ?反応に困る。

 

 そしてグレイフィアさんは懐から一枚の紙を出して俺に差し出す。紙には魔方陣が書かれていた。

 

「この魔方陣はグレモリー家とフェニックス家の婚約パーティーの会場に転移できるものです」

「なんでそんなもの!」

「サーゼクス様からのお言葉をあなたにお伝えします」

 

 グレイフィアさんは一泊おいて真剣な面持ちで言った。

 

「『妹を助けたいなら会場に()()で殴りこんできなさい』だそうです。その紙の裏にも魔方陣があります。お嬢様を奪還した祭にお使いください。必ずお役に立つと思います」

 

 どう返していいか分からない。だが、会場には二人と聞こえた。つまり、俺のほかに誰かを連れて行けということだろう。パーティーに行ってないのは俺とアーシア。つまり、アーシアを連れて行けということだろうか?

 

「一誠様が寝られている間、あなたの中で強大な意思を感じました。ドラゴンは、どの勢力とも手を結ばなかった存在です。その力ならばあるいは……」

 

 そう言ってグレイフィアさんは部屋を後にした。

 

「あっ、待ってください!」

 

 しかし、グレイフィアさんが部屋に戻ってくる気配はなかった。もう考えていても仕方ない。俺は机の上においてある新品の制服を取った。誰が用意してくれたかはわからないがありがとう。俺はすぐに着替えを終わらせた。

 

「っ!イッセーさん!」

 

 ドアの方から聞きなれた少女の声が聞こえてくる。そちらを向くとアーシアがいて俺の胸に飛び込んできた。少し照れくさい。

 

「よかった。本当に良かったです。怪我の治療をしたのにずっと眠ったままで……。もう目を覚まさないんじゃないかって……。イッセーさん本当に良かったです……」

 

 アーシアが俺の胸で泣きはじめた。また泣かせてしまった。泣かせないようにしていたのにな。頭を撫でながらアーシアが泣き止むのを待つ。

 

 そして涙を拭って落ち着いたアーシアに向けて言った。

 

「アーシア、俺はこれから部長のところに行く。もちろん、お祝いなんかじゃない。部長を取り戻しに行ってくる」

「それなら私も行きます!」

 

 アーシアはそう言ってくる。ふと、先ほどの言葉を思い出すが、もしあっちでアーシアに何かあったら部長を取り返したとしても意味がない。だから、アーシアは連れて行けない。

 

「駄目だ。悪いけど、アーシアはここに残ってくれ」

「嫌です!私もイッセーさんと戦います!魔力だって使えるようになりましたし、もしものことがあれば回復の役に立ちます!もう、守られているだけの存在じゃ嫌なんです!」

「駄目だ。アーシアはここに残るんだ。部長は俺が無事に取り戻してくる。ほら、ブーステッド・ギアはそういうの専門だからさ。大丈夫だって。軽くライザーを殴って倒して」

「大丈夫なんかじゃありません!」

 

 俺が言い終える前にアーシアは声を張り上げる。アーシアを見るとまた目には涙が浮かんでいた。ぽろぽろと涙を流しながら、そしてとても哀しそうな表情だ。それを見て心がちくりと痛んだ。

 

「また……また、血だらけで、ボロボロになって、グシャグシャになって……。また、たくさん一人だけ痛い思いをするんですか……?私、もうそんなイッセーさんを見たくありません……」

 

 アーシアの気持ちは痛いほどわかる。堕天使の時だってそうだ。あのとき、アーシアの治療がなかったら俺は死んでいたかもしれない。その時の彼女はとても哀しそうだった。それを見て俺はこの子を悲しませたくないって思ったのに。俺はこの子を悲しませ続けてしまうのだろうか?

 

 そんな未来を想像するだけで気分はブルーになっていく。だから、俺はアーシアの手を握り、ぎこちない笑みを浮かべた。

 

「大丈夫。俺は死なない。これだけは絶対に言える。アーシアを助けた時だって生きてただろう?だから心配すんなって。俺は死なない。生きて、アーシアと一緒にこれからも過ごすよ」

 

 アーシアに向けて言った。もう、この子を悲しませたくない。

 

 それを聞いたアーシアは涙を拭って、小さく頷いた。

 

「それならもう一つ約束してください」

「約束?」

「必ず、部長さんといっしょに帰ってきてください。そしたら、またみんなであの場所で、オカルト研究部でパーティーをしましょう。みんなで食べ物を持ち寄って楽しくやりましょう」

「ああ、部長と一緒に帰ってきてまたみんなで騒ごう」

 

 俺はアーシアと約束する。

 

 そう答えるとアーシアは微笑んで頷いた。

 

「話は終わったみたいだね」

 

 またドアから、声が聞こえる。こちらも聞いたことがある声。

 

「早く準備して、殴りこみに行くよ、イッセー」

 

 そこには、今このときに俺は最も頼れると思える人間、桐谷光輝がそこにいた。

 

 

 

 

 魔方陣で俺とイッセーはどこか城のような場所に来ていた。もちろん部長を取り戻すためだ。どこか解らないがとりあえず人の騒いでいるほうに行く。

 

 進んでいく扉があり、その中からたくさんの人がいるかのように騒ぎ声が聞こえる。たぶんこの中にいるんだろう。扉の前には人がいないことをしっかりと確認しておく。

 

 イッセーが手を掛ける前に俺がそのドアを勢いよく蹴り開けた。

 

「うおっ!危ねえだろ!」

「こういうのは出だしが肝心なんだよ」

 

 そう言って扉の中に入っていく。そこにはたくさんの悪魔がいて、奥には部長とライザーがいた。静かな会場の中部長を見たイッセーは叫んだ。

 

「部長ォォォォォォォォ!」

 

 静かな会場にイッセーの声が響く。

 

「ここにいる上級悪魔の皆さん!それに部長のお兄さんの魔王様!俺は駒王学園オカルト研究部の兵藤一誠です!部長のリアス・グレモリー様を横にいる桐谷光輝とともに取り戻しにきました!」

 

 それを聞いた悪魔たちはがやがやと、騒ぎ始める。そしてイッセーはライザーと部長のいる奥まで歩き始める。俺はその後を着いていく。

 

「おい、貴様あぶふぉ!」

 

 魔力球を作り、防御のルーンを刻み込んでそいつに向けて高速で顔面へと叩きつけた。あまりの衝撃で兵士らしきそいつは壁まで吹っ飛んで行った。それを引き金にたくさんの兵士が現れる。しかし、そいつらが襲いかかろうとした瞬間、雷と剣撃、殴る蹴るによって吹き飛ばされていった。

 

「イッセー君、コーキ君!ここは僕たちに任せて!」

「先輩方、遅いです」

「あらあら、待ちくたびれましたわ」

 

 三人が前にいた兵士を吹き飛ばしたりして前の道を作ってくれた。そして、どんどんライザーと部長へとの距離はもうまじかになった。だがその前に十人以上の女の子たちが俺たちの目の前に立ち塞がる。もちろん、この十人以上の女の子は全員ライザーの眷属だ。だが、イッセーはそんなの関係無しに叫んだ。

 

「部長、リアス・グレモリーの処女は俺のもんだー!」

 

 あまりの衝撃的発現で俺は声もでない。前にいる眷属たちも絶句している、というか引いているぞ。ライザーも形容しがたい表情を浮かべ目を引きつらせている。

 

「どういうことだ、ライザー?」

「リアス殿、これは一体?」

 

 部長の身内らしき人物らも混乱している。

 

「みなさん、これは私が用意した余興ですよ」

 

 そう言って部長たちより、更に奥にいた赤髪の青年で部長の兄。そして魔王であるサーゼクスさんが歩み寄ってきた。イッセーは初めて会うらしく少し戸惑い気味だ。

 

「ドラゴンの力、それとリアスが肩入れしている魔術師の腕をどうしても見たくて、ドラゴンにはグレイフィアが、魔術師には私が頼んできました」

 

 それを聞いた悪魔たちは慌て始める。

 

「サーゼクス様!そのような勝手なことは!それに、魔術師のほうは人間ですよね!?」

「そうです。彼は人間です。しかし、魔力だけなら私と同格、またはそれ以上の素質を持っています」

 

 それを聞いて更に会場がどよめいた。まあ、魔王様がそういうなら驚く。というか、俺も驚いている。正直魔王様にそんなことを言われるとは思わなかったからだ。

 

「いいではないですか。この間のゲームはとても楽しかった。しかしながらゲーム経験もない妹がフェニックス家の才児であるライザー君と戦うのは少々分が悪かった」

「……サーゼクス様は、この間の戦いが解せないと?」

「いえいえ、そのようなことは。魔王の私があれこれ言ってしまったら、旧家の顔が立ちますまい。上級悪魔同士の交流は大切なものですからね」

「では、サーゼクス。お主はどうしたいのかな?」

 

 部長やサーゼクスさんと同じ紅の髪の中年男性がそう言った。たぶん、感じからしてお父さんあたりだろう。

 

「父上。私は可愛い妹の婚約パーティーは派手にやりたいのですよ。ドラゴン対フェニックス。そして、魔力だけなら同格の魔術師とその眷属。伝説の生き物同士とその下僕と魔術師。少しばかり納得できない部分もあろうと思いますが最高の催しだと思いませんか?私はこれ以上の演出は考え付きません」

 

 魔王様の一言で会場は一気に静かになる。それを見るや、俺たちのほうを向いた。

 

「さあ、ドラゴン使い君、魔術師君。お許しが出たよ。ライザー君、リアスと私にその力をもう一度見せてくれるかな?それに眷属の方々も?魔術師の君もその力を存分に使ってくれたまえ」

 

 サーゼクスさんがそう言うとライザーは不敵な笑みを浮かべた。

 

「いいでしょう。サーゼクス様の頼みなら断れるわけもない。このライザーと下僕悪魔たちが身を固める前に最後の炎とわが眷属の力をお見せしましょう!」

 

 どうやらライザーもヤル気のようだ。眷属たちは俺を睨みながら牽制してくる。

 

「ドラゴン使い君と魔術師君。君たちが勝った場合の対価は何がいい?」

 

 その言葉に各所から非難の声が上がる。

 

「悪魔なのですから、何かやる以上はこちらも相応のものを払わなければならないでしょう?さあ、君たち。何でも上げるよ?爵位かい?それとも絶世の美女かい?」

 

 それはそれはなんともすごい報酬だ。といっても俺が今ほしいものなんてあるわけでもない。部長はイッセーが願うとしても俺は特に無い。

 

 と思っていたが、今思えば武器の流通ルートが付近にないからそれを作ってもらおう。

 

「リアス・グレモリーを返してください」

「わかった。君が勝った場合、リアスを連れて行けば良い。魔術師はどうする?」

「俺は駒王学園付近に武器、銃や弾の流通ルートを作ってほしい」

「そんなので良いのかい?」

「ええ。特に今はこれ以上ほしいと思うものは浮かばなかったので。それに脇役がそれ以上の対価をいただくのもあれでしょう?」

「はは、そうかい。それじゃあ二人の願いは勝った場合しっかりと聞き届けよう」

「ありがとうございます!」

 

 俺とイッセーはサーゼクスさんに向けて頭を深く下げた。

 

 こっからが勝負だ。

 

「イッセー、絶対に勝って来い」

「ああ。おまえこそまけんじゃねぇぞ」

 

 そう言って俺らは用意された舞台へと足を運んだ。



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勝負と結果

 イッセーとライザー、そして俺と眷属は中央の即席の舞台で対峙する。相手は殺す気でかかってくるつもりらしい。

 

「おい、貴様。今なら見逃しても良い。ここから帰れ」

 

 なんかそう言われた。なので俺は返事をする。

 

「嫌ですよ。一応僕は招待されたんでね。人間だからといってそういうのは少しいただけないですね。それとも、あなた方は俺に負けるのが怖いんですか?」

 

 その言葉にライザーの眷属たちは額に青筋を立てた。

 

「ふふふ、人間ごときが調子に乗ってくれたわね。殺されても良い覚悟があるのかしら?」

 

 確かライザーの女王だった気がする。

 

「出来ないことをあまり口にしないほうが良いですよ」

 

 その言葉を開戦の合図として向こうは武器を構え、襲い掛かってくる。

 

 最初に到達したのは棍を構えた子だ。確か、最初に出会ったときは、イッセーを一撃で倒していたな。棍を俺に向けて振り下ろしてくる。それを回避行動ではなく迎撃するために拳を構え、そのまま放つ。

 

 拳は棍の遠心力が最大にかかる、先を捉える。普通ならば拳が砕けるどころか腕もいかれるはずなのだが、魔力を流した俺の体はそれを無傷で破壊した。

 

「な!?」

 

 さすがに拳で砕かれたことに驚いているようだ。しかし、今は時間がない。魔力を指先に集中させてルーンを描く。描くのは停滞のルーン、氷を意味している。描くのは彼女の足が着く場所だ。縦に一線戦を引くだけで済むからとても楽だ。

 

 彼女が着地した瞬間、足場が凍り、彼女の足を地面に貼り付けた。それをもがいて抜け出そうとするが氷はびくともしない。

 

「悪いけど、このままでいてくれると助かる」

 

 そう言って次に迫っている獣耳の二人とチェーンソーを振り回す似たような二人、たぶん双子だろう。そちらの方を向いた。武器をチェーンソーは危ないなと思い、体に更に魔力を込める。

 

 チェーンソーを持つ二人は同時に首元に高速で回転する刃を振り下ろしてくる。それを俺は腕で受け止めた。

 

「うそ!?」

「えっ!?」

 

 二人はチェーンソーを腕で受けたことに驚いている。無理もない。受け止めれば切り裂かれるはずの腕は切れないのだから。逆にチェーンソーの刃がどんどんなくなっていっている。そして、腕を押し返してチェーンソーを持った二人を押し返し、吹き飛ばした。その直後、背後に回っていた獣耳の二人が後ろから肺に向けて拳を叩き込もうとしていた。

 

 俺は足を思いっきり地面に叩きつけて地面を揺らす。いわゆる震脚ってやつだ。会場全体を揺らすほどの一撃を決める。そのせいで、二人の拳も踏み込みが甘くなり、バランスを崩して転ぶ。その瞬間に停滞のルーンを描き、二人を氷で拘束した。

 

「ニャニャ!?」

「残り十二!」

 

 素早く先ほど吹き飛ばしたチェーンソー姉妹に向けて駆け出す。震脚で転んでおり、立ち上がる瞬間であった。その前に指の魔力を調整して停滞のルーンを宙に刻む。すると離れていた二人を氷で作った枷につながれる。

 

「な!?」

「なにこれ!?」

「残り十!」

 

 そして残る眷属たちに向けて走り出す。すると二人の剣士らしき人が出てきた。

 

「カーマライン、こいつは危険だ。騎士道なんてものは今は捨てて全力でこいつを倒すぞ!」

「騎士道に反するが、このような相手では仕方あるまい!」

 

 二人は剣を構え、あちらも駆け出す。俺はカードから剣を取り出して、魔力を最大限に込める。

 

「はあああ!!」

「せやああ!!」

 

 二人は同時に左右から剣を振りぬいてくる。しかも高低差をつけて膝と肩の辺りといやらしい位置で振り込んできていた。避けるなら後ろに飛ぶしかない。否、そんな時間のかかることをしてられない。視界の端に映るイッセーはすでに戦い激化している。イッセーは龍を模した鎧を着こんでライザーと戦っている。それにアイツは十秒で済ませると言っていた気がする。それならこちらも早めに済ませるべきであろう。

 

 俺はその剣の間をすり抜けるように飛び、二つの根元をたたき、地面へと落下させた。それと同時に彼女らの足元に停滞のルーンを刻んで動けなくさせる。

 

「なっ!?」

「なに!?」

「残り八!」

 

 回転しながら着地して態勢を整えようとした瞬間、足元で大きな爆発が起きた。

 

「これでお終いよ。お馬鹿な魔術師さん。これ以上はパーティーをしらけさせてしまうわ」

 

 確か、リーダー格らしき女性の声だ。この攻撃は彼女によるものらしい。だが、これで倒せたと思っては困る。俺は爆煙から飛び出して彼女の目の前に一瞬で到達する。もちろん、自分ではこんなにスピードがだせないので移動のルーンを自分の足元に描いて爆発的な速度を出したおかげだ。

 

「え!?」

 

 到達する。彼女は下がろうと魔力を足に込めるのだが、遅い。すぐに体に停滞のルーンを刻んだ。もちろん、魔力操作で頭は凍りつかないようにした。そして、凍りつけとなった。女性から視線を外し、その奥にいる残りのメンバーに向けて、魔力球を作り、一斉に射出する。

 

 もちろん魔力球には停滞のルーンを刻んでいるものを複製したものなので当たった瞬間に凍りづけとなる。

 

「くそっ!」

「だせ!」

「冷たいよー!」

 

 各々が叫び声を上げる。しかし、一人は体から炎を噴出させ、その氷を一瞬で溶かした。

 

「どうやら、あなただけは彼女らとは違うようですね」

「はあ、はあ。まさか、人間ごときがここまでやるなんて……」

「あまり人間を舐めるなってことですよ」

「黙りなさい!」

 

 金髪の彼女は、ライザーと同じ感じの炎をこちらに向けて出してきた。それを防御のルーンを刻んだカードを出して防ぐ。もちろん、魔力はかなり多めに使って作られているため早々破られることはない。炎を防ぎきって、炎を出し切った彼女のの前に一瞬で到着すると、首に剣を当てる。

 

「……参りましたか?」

「そんなはずないでしょう!」

 

 そう言って彼女自身から炎が吹き出してくる。それを危険と判断して遠くに離れる。

 

「あなたふざけているの!?今の戦いで、なぜあなたは私たちに攻撃を加えてこないの!私たちを動けなくさせるだけで、攻撃してこない?ふざけるのも大概にしなさい!」

 

 そう言って彼女は俺に向けて先ほどよりも大きな炎を作り放つ。それを防御のルーンを使って防ぎきると再び彼女に接近する。そして、今度は確実に当てるという殺気を乗せて剣を振るう。

 

 彼女はそれに始めて恐怖して、目を閉じるが、俺は剣を彼女に当てずに止める。

 

「もともと、フェニックスだからといってライザーのような傲慢な態度で話しかけてこないあなたを俺は高く評価している。確かに、俺はあなたたちにまともな攻撃を当ててないのは失礼だった。だけど、俺はあなた方と正直争うつもりはあまりない」

 

 剣を下ろし、カードの中にしまいながら彼女に話しかけた。

 

「……じゃあ、何でこの余興に参加したんですか?」

「それは、憂さ晴らしです。最初、ライザーに炎をぶつけられましたからね。それに、レーティングゲームに参加できなかったことの。ライザーと戦うなら俺も本気で行こうとしましたが、相手があなたたちとなるとそうは行かない。話し合いのできる人とはあまり争わない。それが君みたいな可愛い子ならなおさらです」

「なっ!?」

 

 そう言われて、顔を赤くする。こういうのに耐性がないのか、それとも異性に言われるのが初めてなのか。まあ、気にしなくて良いだろう。俺はイッセーのほうを見るとあちらもちょうど終えたのか少しボロボロになりながら立っているイッセーがいた。ライザーはもちろん、倒れている。

 

「あちらも終わったみたいですね。あまり、長居は無用なので、早めに降参してくれると助かります」

 

 彼女を見てそう言うと、まだほんのり赤く頬を赤らめる女性は頷いた。

 

「わかりました。私たちの負けです。といっても、この人数で手も足も出なかったのにこれ以上やっても勝てる気がしません」

 

 それを聞くと俺はもう一枚の魔方陣を取り出す。招待状の中に入っていた脱出用の魔方陣だ。魔力を込めずにここから立ち去りたいと思うだけで足元に魔法陣が現れる。それと同時に指を鳴らして氷で拘束していた彼女らの氷を一瞬で昇華させて消した。

 

「ま、待ってください、桐谷さん!」

「なんでしょうか?」

「レイヴェル。それが私の名前です。またどこかで会うことになったらそう呼んでください」

「分かりました。それじゃあ、レイヴェルさん。俺もコーキと呼んでください。みんな俺をそう呼んでいるので」

「はい、コーキさん」

 

 俺は彼女、レイヴェルさんに頷き返すと魔方陣の光が更に強くなる。そして俺はそのまま家の玄関へと転移した。

 

 

 

 

「不思議な方でした……」

 

 会場に残ったたくさんの上級悪魔たちは婚約パーティーの主役がいなくなったことにより、どんどんいなくなって行った。そんな中、私はその会場の端にある席についてポーッとしていた。

 

 考えているのは先ほど私たちと戦っていた、桐谷光輝という人だ。彼は私たちを圧倒する力を持ちながら傷つけることなく私たちを負かした。あの強さにはとても驚いた。

 

「また会いたいです……」

 

 初めて会ったはず。いや、正確には二回目だ。一回目は駒王学園という場所。その時は彼は魔術すら使っておらず、弱い人間と思い、そこまで関心を抱かなかったが、二回目の今回は彼の強さを目の当たりした。あんなに強いのにお兄様と戦うのだったら本気を出す。彼は私たちと戦った時以上強いというのだ。

 

 そんな彼に興味がある。もっと話してみたい。そんなことが頭の中に浮かんでは消える。

 

「ここにいましたか、レイヴェル様。もうパーティーも出来ないようなので帰りますよ」

 

 私を心配で探していたらしいイザべラがこちらに向かってくる。

 

「分かったわ。すぐに行くから先に行っておいて頂戴」

 

 そう言うとイザベラは扉から出て行った。私も帰ろう、そう思い立ち上がると会場の真ん中に何か落ちていた。それが何か気になりそちらに向かうと一枚カードが落ちていた。不思議な感じの文字。確かルーン文字だった気がする。

 

「これって……コーキさんの?」

 

 確か、私の攻撃を防ぐ時に出していた物に似ている。もし、これが彼のものならば会う口実も出来るかもしれない。

 

 私はそれを懐に仕舞うと足取りが軽くなった気がした。

 

 また、会いましょう。コーキさん。

 

 そう呟くとそのままパーティー会場を後にした。



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