-Double Archive- (幸田市)
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プロローグ
第一話 Yの眼差し/先生はハードボイルド(自称


初投稿&ブルアカ初心者

推しはおじさん
水着ホシノがクッソほしいので書きました

まぁ、まだ出てこないんですけど。


・加筆修正
5/25 生徒の呼び名を漢字に固定しました!


「…」

 

 深夜、森林を走る男、言葉なんてものは、今の彼には存在しない。

 

考えていることは、自分をこんな目に合わせた誰かを恨む事だけだ。

 

 

 

 「…ハァ…ハァ…」

 

 息が詰まる。

 

 血の味がする。胃が潰れたみたいに気持ち悪い。

 

 

 

 「…ハァ…」

 

途中、都合よく隠れ蓑を見つけた。ちょうどよいので、隠れることにした。

 

 

 

 「…ふぅ」

 

周りには自分しかいない。あるのはべちゃぁ、とこべりつく生ぬるいアカと、自分を貫いてしまいそうなくらいざぁざぁと降る雨だった。

それがあまりにも心地よく、今までの生死の現場を忘れさせてくれそうだ。

 

 

 

 

 茂みの中で、今もぐしゃぐしゃであろう自分(バケモノ)の顔を消そうと、手で顔をごしごし拭く。

 

 ふと、考えた。俺はなぜ逃げてしまったのだろう。もう、取り返せない過ちだというのに。

 

もしかしたら、俺は頭が狂ってしまったのだろう。そんな俺を許してしまいそうな自分を、心底憎んだ。

 

 

 

 

 

 

 『何言ってんだよ、このクズが。』

 

 

 

誰かがそんな事を言った気がする。あぁそうだ。オレは罪人だ。

 

人の人生を奪っておいて、今も平然と生きてやがる。

 

 

 

 『とても生きてはいられない』

 

 

 

 『なんでお前は生きているんだ。』

 

 

 

 『あの人の代わりに』

 

 

 

 あぁ、そうだな。やっぱり、そうだよな。

 

 

 

 -(お前)が死ねばよかったんだ-

 

 

 

 刹那、眩い光と共に、緑と黒の閃光が映る。

自分でも何を思ったのか、ふと、後ろを振り向くと。

 

 

 

 -あぁ、とてもきれいだ-

 

 

 

 一言、そう呟いた気がする。今日は風がよく吹く日だ。銀のマフラーが激しく舞う。

罪人を射抜かんとばかりの赤い目は、今の自分にとてもよく効く。でもそれ以上に、優しい目をしていた。

黒と緑のアンバランスなカラートーンは、まるで半分別の人間が中にいると勘違いしたくらい、雰囲気が異なる。

とても歪ではある。ただ、それさえ一種の芸術に思えた。

 

 

 

 仮面ライダー、この町の切り札。風の噂で聞いたことがあった。

何故こんな事を今思い出したのか、わからない。

でも、本当に自然だったんだ。

 

 

 

 

 きっと、生涯忘れることはないだろう。

きっと、これが本当に美しいものなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-いつか…あんな風に…-

 

 

 

 

 

 

 

 

 プツン、と。

意識は切れた。

 

 

 

 

 

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 連邦捜査部「S.C.H.A.L.E」通称シャーレ。ここはキヴォトスの行政組織、連邦生徒会を率いる生徒会長。

彼女が失踪する前に、先生である僕の活動拠点として誕生した機関の事だ。

 

主な業務としては、先生である僕を顧問として、キヴォトスに住んでいる生徒たちの相談に乗っかり、それを解決していく。

まぁ、師匠風に言うならば「ハードボイルドな探偵事務所」なのだろう。正直、話の6割は結局何が言いたいのかわからなかった。

 

 僕はつい先日、そんなシャーレの先生となった。

その日は、サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すため。

早瀬(ハヤセ) ユウカ、羽川(ハネカワ)ハスミ、森月(モリヅキ) スズミ、火宮(ヒノミヤ) チナツと共に、サンクトゥムタワーを取り戻すため、狐の仮面を被った女との熾烈な戦いを制した。

 

 その影響か、生徒たちは、僕の事をそれなりには歓迎してくれている。連邦生徒会の人たちとも、一応話せてはいる。

時折僕が奇妙な目を向けられることもあるが、それに関しては目をつむっておこう。

 

 さて、そろそろ本題に入りたい。

僕は今、冬の真っ只中、キンキンの床に座っている。いや、正確に言うとするならば「正座させられている」のだ。

なぜ2日目でそんな状態になっているのだろうか。

私にはわからない。

特に何か悪い事をした覚えはない。というかこんな短時間でいきなり悪い事が出来るほど、僕のハードボイルドは尖っていない。

では、なぜ僕は、ついさっき手伝いをしに来てくれたであろう。彼女、早瀬(ハヤセ) ユウカに反省を促されているのか。

 

 「先生、あなたバカなんですか。」

 

 あぁ、笑っている姿はどんな怪物よりも恐ろしい。

美少女の笑顔はこんなにも画になるんですね。

 

 

 「資金全部使ってェ!シャーレを探偵事務所にするとか…」

 

 

 

 

 

 

 

 大バカなんですかぁぁぁぁぁぁぁ‼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バカじゃないもん、僕。

ハードボイルドだもん。

 

 

 

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 そう、僕こと先生。この度探偵事務所を設立することにいたしました。

その名は「シャーレ探偵事務所」と。

ユウカ達と別れた後、最初に思った。

 

 --ここはハードボイルドじゃない。今すぐ僕好みの空間にしなければ。--

 

 

 

 思い立ったが吉日、建築業者に最速プランを依頼する決心をした。

さすがのアロナも、僕の決断の速さに唖然としていた。

まぁ当然だろう。彼女はシッテムの箱の中にいるAI。

いくら知識として「ハードボイルド」を学習していても、僕という本物を見たことがない。

 

 そして、アロナは現実に戻ってきた途端に、僕に反論をかましてきた。

 

 「本気で言ってるんですか先生!いきなりシャーレを改装するなんて…」

 「うん、マジよ。」

 「一応、生徒会長さんが作ってくださったんですから。しばらくこのままで…」

 「なぜだいキャサリン?

        これは魂の叫びなんだ。」

 「こんなことに魂賭けないでください!」

 「あと私はキャサリンじゃないです!アロナです!あ・ろ・な!」

 

 そんなキャサリンの冗談を流しながら、業者に依頼する準備を整える。

 観念したのか、これから鉛でも飲むかのような顔をしているキャサリンは言った。

 

 「…わかりました、改装は許します。場所はどこですか。」

 「え?シャーレ全部」

 「バカなんですか!そんな事したらシャーレの資金吹っ飛びますよ!」

 

 そんなこと知るか、これからシャーレをかっこよくするんだ。

あと僕はバカじゃない。ハードボイルドだ。

 

 「考えなおしてください!せめて一つずつゆっくり改装してください!」

 「…ねぇアロナ、探偵に必要なのはなんだと思う?」

 「はい?なんで探偵なんですか。」

 「いいから、早く答えてよ。」

 「…ターゲットを追い続ける根気とか?」

 「違うね。」

 「…調査に必要な資料とか?」

 「それも違う。」

 「うーん…じゃあ何なんですか。」

 「それはな…」

 

 

 「ハードボイルドさ、だよ。」

 

 

   「何言ってるんですか、このバカは。」

 

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 そんなこんなで、無事にアロナを物理的に黙らせ(シャットアウト)

業者様に依頼も無事成功。結果として、現在絶賛工事中なのだ。

なので、今現在シャーレの事務所は使えない。

では、僕と早瀬はどこでお説教タイムを行っているのか。

答えは、ミレニアムサイエンススクール。ハヤセが今現在通っている学校だ。

部屋の中には、多数の実験器具とレポート。ともかく書類が多い。

なのに、びっちりと礼儀正しく積まれてあった。

 

「…」

「…」

 

 お互いに声を出さない。時計もデジタルなので、周囲の音さえない。

そんな静寂のみが支配している世界の中で、声を出すのは至難の業だ。

というか早瀬が怖すぎて声が出ない。

 

「…それで?」

「…?」

 

 意味が分からなかった。それで?と言われても。

別に自分は何か悪い事をしたつもりはない。

これは仕事に必要な事なのだ。僕がこの仕事に対して最もやる気を出せる空間を作っただけなのだ。

 

「…後悔はない…今までの行いに…これから起こる事柄に…僕は後悔はない…」

「先生が後悔してなくても私が後悔してますよ!ほんっと、なんでこんな人を生徒会長は選んだんですか…」

 

 おいおい、そりゃあないだろ。

 

「オイ!オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ、オイ!」

「生徒会長の目が節穴みたいな言い方はないんじゃないか、オイ。」

 

「この態度を見れば、節穴かどうか一目瞭然ですよ…」

 

 失敬な、生徒会長を馬鹿にしちゃあいけない。

僕の為にこんな資金を用意してくれた人間だ。さぞ素晴らしい人間性を持っているに違いない。

美人さんで、優しくて、僕のかっこよさを理解してくれる人間に違いない。

 

「なんですか…その目。」

「うん?その目とは?」

 

 早瀬は、本当に釣り針で吊らせているのではないかと勘違いしてしまうほどの釣り目がピクピクしていた。

…何か僕に対する侮辱を感じたが、あえて黙っておくことにする。

 すると、もう諦めたらしい。今まで、ガッチリと脇に閉まった腕を解き、ため息をつきながら言った。

 

 

 

「はぁ…もういいです。」 

 

あ、もういいんだ。

 

 

「それで、リフォームの間はどこに住むんですか。」

 

 

 

「いや、野宿だけど。」

 

「はい?」

 

早瀬はクリクリした目をぐわッ、と開き。

 

「…」

「…」

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

今日、一番の声を放った。

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 【あなたのお悩み解決します。 シャーレ探偵事務所】

 

 こんな看板をバイクに引っさげるのも、2日が経った。

確かにハードボイルドではない。僕としても死活問題なのだが仕方ない。

こうも言ってられない状況なのだ。あの魔王の「資金を作るため今から何が何でも依頼者を増やせ!」

という命令に乗っ取り、今現在は依頼者を増やすために宣伝中なのだ。

 

 最初は勿論、奇異の目を向けられていた。

それはそうだろう、だってハードボイルドじゃないもの。

こんなカッコいいバイクに引っ提げているのは、プラスチックで出来ている質素な作り。文字も正直やわらかくてかわいい感じになってやがる。

端的に言うなら、センスのない看板なのだ。でも、文句を言うと早瀬にどやされる。

その上、俺のハードボイルドなバイクを勝手に売り払うなどほざきやがった。嫌がオウにも逆らえん。

 

 ただ、それは最初の話。

「おう、先生。今日も寒いな。」

「あぁ、今日も寒いよ。」

 

最近では話かけてくれる奴らも増えて、軽い挨拶をする程度の仲に慣れた。

 

「おはよーせんせー。今日もカッコイイねー。」

 

 

おぉ、未だに名前は知らんが僕の愛しい生徒が挨拶をしてくれた。

 

 

「おはよう。そりゃそうだよ。だって僕はハードボイ」

 

 

「おはようございます。先生。」

 

 

「げ」

 

 

 あぁ、今日も早瀬(魔王)がやってきた。

 

「げ、とは何ですか先生。せっかく私が毎日様子を見に来ているっていうのに。」

 

 今日も空は青いなぁ…失礼。

そう、僕がこうしてホームレスもどきをしている間。なぜか早瀬、羽川、火宮、森月の4人は様子を見に来てくれたりした。

どうしてかと聞くと「何をしでかすかわからないから」とか「寒そうだから差し入れを用意した」など理由は様々である。中には「自分の学校に来ていただければ。」というお誘いを受けることはあった。だが、それは自分のポリシー的にしたくない。自分の責任は自分で負うものなのだ。少なくとも、どんなにクズに落ちたとしても、生徒を利用するつもりはない。「自分を頼ってくれた人間だけは裏切らない、利用しない。」師匠の教えである。生徒の頼れる先生として、一人の人間として、それをするつもりはない。後生徒のヒモみたいな感じだから嫌だ。

 

「先生、依頼は来ましたか?」

「いや、全然。」

 

 確かに、このままではジリ貧だ。資金は改修費に全て使ってしまったので、あるのはバイクと自前のスーツだけだ。

さすがにこのままじゃまずいとは思っている。でも、依頼者が来る様子は全くない。

このままじゃ完全に話せるオブジェ扱いになってしまう。なんとしてもそれは避けたいところだ。

うーん…何か打開策はあるのだろうか。とりあえず看板は変えるべきだ。

あの看板のおかげで僕の頼もしさが薄れてしまっているに違いない。早急に変更すべきだ、うん。

 

「はぁ…わかりました。」

「おぉ、ついに看板を取ってくれるんだね。君ならわかってくれると思ったよ。」

「違います」

 

 え、違うの。じゃあ何がわかったんだい。

 

「私から先生へ、依頼をします。」

 

 とても真剣な顔をしながら、早瀬はそう言った。

 

-----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「なぁ早瀬」

「なんですか先生」

「君、僕に真剣な依頼があったんじゃないの。」

「えぇ、とても真剣な依頼ですよ」

「へぇ…でもさ」

「…?」

 

 「なんでずっと町歩いてばっかなの?」

 

 そう、僕たちはミレニアムの街中を回っている。早瀬がいつもとは違う真剣な眼差しを向けてきたと思い、これは真面目に聞こうと思った。だがしかし、その実態は町の散策であった。せっかく依頼が来たと思ったら、とんだ表紙抜けの依頼だ。

 

「先生に私たちの都市をもっと知ってもらうためです。」

「うっそだぁ、ホントは違うんでしょ。」

「そんなことないです。」

 

 …本当かな?少なくともこの4日間、早瀬の行動を見る限り。彼女はいいやつではあるものの、こうして暇つぶしみたいな事を進んでするとは思えない。

何かしら他の目的があるはず。それに、あの目は何かある。そんな気がしてままならなかった。

 

「…そっか」

「はい…本当に散歩するだけです。」

 

「…じゃあさ」

 

 

    「()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「…それくらいいいじゃないですか。人間観察ですよ。」

 

 まぁ、それはそうなのかもしれない。でもな、気づいちまったんだよ。

 

「別にそれは悪い事じゃないよ。でもさ、目ってのはその人が何か隠しごとをしている時。」

 

「ほとんどの人は隠している本人と目を合わせることが出来ないんだよ。」

 

「へぇ…そうなんですか。」

 

「…」

 

そう、早瀬は依頼を告げた後。僕の顔をほとんど見ていない。隠し事っていうのも勿論だけど、それ以上に気になることもある。

 

「君が僕を見なかった。いや、見る余裕がない理由があった。」

「それは目を離した瞬間、すぐに見逃してしまうという可能性が非常に高い。」

「人の動作の中で、最も見逃しやすい部分は手だ。一瞬で証拠を隠せる上に、人の手を見る人間なんざそうそういないからね。」

 

「つまり、君は手に持てる何かを探しているんじゃないかな。違うかい、早瀬。」

 

 

「…」

 

 

 早瀬は目を見開き、口を開けていた。正に超びっくり!みたいな顔をしていた。

すると、観念したのか

 

「…素晴らしいですね、先生。私の目的が見破られるなんて…さすが生徒会長に選ばれた人です。」

 

 

「いやめっちゃわかりやすかったよ。早瀬はわかりやすいなぁ。」

 

 

「…」

 

 

早瀬は急に"は?"とも言わんばかりの顔をしながら

 

 

「先生のバイク売りますね」

 

 

「ちょ、いやちょっとまって。ちょ、おい。」

「やめろ、僕のバイク持ってかないでぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、高評価お待ちしてます!



次回
   第二話 「Yの眼差し/捜索開始」
                     


お楽しみに!


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第二話 Yの眼差し/捜索開始

第二話です!
すみません!次こそはライダー出すんで!
許してください!



・加筆修正
5/25 生徒の名前を漢字に固定しました。


 ハヤセの愚行を止めた後、僕たちは今日改装修理が終わったシャーレに向かう事になった。

正直、いくら大金出したとはいえ、余りに早すぎるとは思う。…まさか適当にやられたとかないよな。

そんな不安を胸に、シャーレに向かっていると。

 

「あの…先生。」

「なんだい早瀬君、端的に話したまえ」

「なんですかその話し方…どうしてシャーレじゃないと駄目なのか聞かないんですか?」

 

 あ、そういえばそうやな。完全に忘れてた。

 

「じー…」

「ちゃうんすよ、早瀬さん。別に忘れてたとかじゃないっすよ。

 ただなんちゅうか…そう!あえて聞かなかったんだよ、うん。」

 

「へぇ…そうなんですか。」

 

 早瀬の目線が痛い。まるで目から何かビーム出してんじゃないかってくらい痛い。

さすがにばれてるよな…あ、今笑顔になった。これは納得したんじゃないか。

 

「先生」

「…フッ、やはり僕はry」

 

「…ダっっっっさいですね!!!!!」

 

「今言っちゃいけない事言った!今この生徒僕の事小バカにしやがった!

許せねぇ…絶対に許さんぞ!陸八魔アル!!!!!」

 

 

「え…誰ですかその人

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「小型のUSBメモリを探している?」

「えぇ、そうです」

 

 リフォームが終わり、完全に僕好みとなったシャーレのオフィス。

かつて住んでいた鳴海探偵事務所をベースとして、ボウリングやビリヤード、カラオケやバーもそろっている。

正に、ハードボイルドな僕にふさわしい理想のマイ事務所なのだ。

 そして、今回の依頼としては「USBメモリ」の捜索だという。なんでも、そのメモリを人体に指すと怪物となり、突如登校中の生徒たちを襲ったという。防衛用のマシンなどが出撃したものの、その怪物には大したダメージも入らなかった。結果、急な出来事でもあったので生徒のほとんどが重症、一部は…とのことだ。

 

 これ以上被害を増やすわけにもいかず、かといってあの怪物に対する対抗できる戦力を用意するにも時間がかかる。そこで、変身前の人間を突き止め、変身させずとっちめようと考えた、らしい。

 

「ふーん、なるほどねぇ。確かに、町の人たちにこれ以上不安を煽らせる真似はできないからね。」

「はい、大まかな内容はこのような感じですね…質問はありますか?」

 

質問…かぁ。まぁ、一応聞いてはおくか。

 

「その怪物の写真とかはあるかい?ハヤセ。」

「はい、当時の防犯カメラからでよろしければ。」

 

 そういって、早瀬は僕に写真を渡してきた。

…そこには、エビのような目と触手を持った胴体、そしてその化け物は人の形をしていた。

 

「やっぱり…か。」

「先生…何か知っているんですか?」

 

 しまった、つい思ったことを言ってしまった。早瀬は驚いた様子で僕の顔にぐいっと近づいてきた。

…さすがにここで弁解の余地はなさそうだ。

 

「あぁ、僕…いや私はこの怪物を知っている。」

「教えてください!そうすればきっと…」

 

「君はこの件から手を引いた方がいい、早瀬。」

 

「えぇ、そうですね…ってえぇ!?」

 

早瀬は、ノリツッコミをしていると勘違いしそうになるほど、きれいなリアクションをかました。

 

「なんでですか!先生!」

「なんでって言われてもな…」

 

「私たちの町が!生徒も襲われたんですよ!このまま黙って引き下がるなんて…」

 

「落ち着け、早瀬。」

 

「ッ…」

 

 僕は彼女の肩に手を置き、諭すような口調でこう言った。

 

「今、この町で起こっているのは、ただの怪物騒ぎってわけじゃない。」

「この事件を解決するだけじゃ終わらない可能性だってある。」

「それに、そのUSBは、どんな人間であっても闇に堕とせる悪魔の箱だ。」

 

「野宿の僕を、どんな理由であれ心配してくれたいい奴に、そんなものを触らせたくないんだ。」

 

「…でも!」

 

 早瀬は僕に負けじと、何か言い返すことを考えようとしているのか、キッ!と僕を睨み言葉を探している。

ただ、これはチャンスだと思い、とどめの一言をさした。

 

「…こういう汚い事は、大人に任せな。」

 

「…認めませんから…私…」

 

そういって、思いっきりドアを閉めながら、ハヤセはシャーレを後にした。

 

「…さて、調査の前に…」

 

「…作業が雑になってる所探さなきゃな。」

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「全く!信じられないわ、あの先生!」

 

 あの先生(バカ)に子供みたいに諭された後、私はミレニアムに戻ることにした。

あんなにも熱心に頼んでいるのだから、少しは気持ちを汲んでほしいものだ。

 

「今までそんな素振りなかったくせに、急にあんな事言うなんて…」

 

 こうなったら、別の事をしてこの気持ちを忘れるしかない。

さっそく、近くにあった書類をバサッと取りながら、目を通す。

 

「…」

「…」

「…」

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛集中できない!」

 

 ダメだ。どうしても先生のあの言葉を思い出してしまう。

 

 

 

 

 

“…こういう汚い事は、大人に任せな。”

 

 

 

 

 

 

 

…どうして

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!

 

 弾丸一発で死んじゃうくせに!

 バカみたいなお金の使い方してるくせに!

 あんなふざけた先生なのに!

 

「…何やってるんだろ、私。」

 

 わからない、私は何をしたいんだろう。この事件を解決して、私は一体どうしたいんだろう。

わからない、わからない、わからない。

 

『ユウカ先輩!おはようございます!』

『えぇ、おはよう』

 

 たった、挨拶だけしかしない仲だったのに。

 

『…』

 

『速報です。ミレニアム地区にて、正体不明の怪物が出現。現在…』

 

 そこは、いつも挨拶をしてくれていた子と、よくあう道だった。

 

 「…」

 きっと、私にとって、あの子は日常そのものだった。

たまたま通学路で出会って、挨拶をする。そんな何気ない事が、こんなにも大切なことだった。

 

 …多分、私は、くやしいんだ。

私の日常を奪った怪物を。その怪物に、今何もできていない自分を。そして、そんな私の代わりに戦おうとしている先生に。

 

「…一人でなんて…許してやるもんですか…」

 

 先生一人にやらせたくない。私も、自分なりにこの問題に向き合う。

 

「そうと決まれば、さっそく行動ね。」

 

 一応、データベースにある資料をもう一度確認しよう。

もしかしたら、見落としている物もあるかもしれない。

 

 そうして、席を立ち。

行動を始めようとした、その瞬間。

 

『ユウカちゃん!怪物がまた出たの!』

『先生もいるの!早く来て!』

 

 私の同級生かつ友人、ノアがそんな連絡をしてきた。

 

「…あの先生は、全く。」

 

「バカなんですか、もう。」

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「さぁ、さっそく捜査開始だ。」

事務所をくまなく調査した結果、特に問題はなさそうだった。なので、ハヤセの依頼を達成すべく、調査を開始した。

 

「ねぇ、君はミレニアムの生徒かい? 僕はシャーレの先生だ。少し聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」

 

「は、はぁ…」

 

「実は…今テレビで騒がれてる怪物のこry」

 

「ひっ!

    そんなの知りません!」

 

「あ、ちょっとまってぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「…行っちゃった」

 

---------------------------------------------

 

「なぁ君…」

 

「失礼します!」

 

「えぇ…」

 

 

----------------------------------------------

 

「なぁ君、星座に興味は…」

 

「ないです、失礼します。」

 

「…」

 

---------------------------------------------

 

「ごめん先生!

     これ止めてぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

「え、おいちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

-----------------------------------------

 

「はぁ…全然だめだ。」

 

 全くうまくいかないなぁ…てかこの学園クセ強い奴ら多すぎるなおい…

なんかよくわからん機械作ってるやつらなんか「これは素晴らしい発想だ!このアイディアをもっと活かせば素晴らしい発明を作れるぞ!」とか意味わからん事言い出したし…

 後、なんか顧問になってほしいとか意味わからん事言われたけど、無視した。僕は頭おかしい人間とは極力関わることは避けたいのだ。

 

「…」

ふと、空を見た。今日は快晴、素晴らしい青空が広がっている。僕の心と比べたら、大きな違いだ。…こんなんじゃ、早瀬に笑われちまうな…

 

『へぇ、先生。』

『やっぱり上手くいかなかったんですね…』

 

『だッッッッッさいですね!』

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!

思い出す、奴に小バカにされた屈辱を…許せん!絶対に許してやるか!

 

「そうだ!僕はまだ負けんぞぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

「…先生、何やってるんですか。」

 

「あー…確か君は」

 

「ノアです。」

 

「あぁ、ミハイル・ノア・バルダムヨォンね。」

 

「なんですかそれ…細かすぎて伝わらないですよ。」

 

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「え?ユウカちゃんが先生に依頼?」

「あぁ、そうだよ。」

 

 隣に座っている彼女、生塩(ウシオ) ノアは、僕が先生として就任した日。ハヤセが僕に紹介してくれた友人だ。

その時の彼女は、今のような砕けた態度ではなく、少し硬い態度をとっていたはずだ。しかし、僕のハードボイルドさが伝わったのか、心を開いてもらっている…気がする。

 

「…ユウカちゃん」

「生塩…」

 

「…騙されちゃったのね、この人に。」

「おい、なんで僕騙す側の人間になってるの」

 

「え、違うんですか。」

「そうだよ!なんで僕のかわいい生徒を騙さなきゃならんのさ。」

「えぇ…先生ってもしかしてそういう」

 

 

「ちゃうよ!!!!」

 

「ふふ…嘘です★」

 

「…っ!!!!!///」

 

 クッソぉぉぉぉぉ!

なんちゅう生徒だ、この子!

ハードボイルドな僕を手玉に取りやがって!

 

「あまり大人をからかうもんじゃありませんよ。生塩君。」

 

「はーい、気を付けます。」

 

「そうそう、やはり先生はハードボイルドに…」

 

「…」

 

「…なんだい、文句でもあるのかい」

 

「…先生って、可愛いですね。」

 

 …は?

こんなカッコいい大人である先生が、可愛いだと?

少しお灸が必要だな。

 

「おいおい、そりゃないでしょ。僕一応先生よ?

一般成人先生よ?ハードボイルドな先生よ?」

 

「先生先生言いすぎです。先生を安売りしないでください。」

「…でも、だってかわいいじゃないですか。ハードボイルドってかっこつけたり、私が揶揄うと100点の反応してくれますし。」

 

 ちくしょう…これじゃ生塩のペースに持ってかれちまう…そうなれば、ここでも「あの言葉」を言われちまう…

 

「いや、そんなわけない。僕は生徒の為にあえてこんな反応したんだ。」

「さすが、やっぱり僕はハー…」

「じゃあ優しい先生だからハートフルボイルド。略してハーフボイルド、ですね★」

 

「…」

「…」

 

「ちくしょう…なんでここでも…」

 

 

 

「なんでここでもハートフルボイルドなんて言われちまうんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「…」

「せ…先生?」

「…」

「…他の生徒にも今調査を手伝ってもらってますから…」

「…」

「その…元気出してもらえませんか?」

「…」

「せ、せんせぇー!

      ごめんなさーい!私が悪かったですからー!」

 

 先生がいじけてから十分ぐらいでしょうか。私、生塩 ノアは先生をイジリすぎた代償として、現在メンタル復帰のためカウンセラーのような事をしています。

最初は私の冗談に乗ってくれてはいたのですが、最後の「ハーフボイルド」が相当効いたのでしょうか。叫んだあと、プツン、と糸の切れたように倒れこんでしまいました。

…どうしましょう。なかなか目覚めないですね。こうなったら、とびっきりの一撃をかますしかないですね。

 

「おい、そこのミレニアム」

 

「…はい?」

 

 どういう事でしょうか。普通、よっぽどの事情がなければ入れないミレニアムの校舎内。だというにも関わらず。ヘルメットをかぶった不良生徒、ガタガタヘルメット団と呼ばれる人たちだ。

 

「…ッ!お前、まさかセミナーの生塩ノアか!」

 

「だから何ですか。そっちこそ、私たちの校舎に用ですか。」

 

 ガタガタヘルメット団戦闘員は答えた。

 

「…アハハハハハハハハ!」

 

「…!」

 

「そんなの…さ」

 

 戦闘員はポケットからUSBメモリのような形状をした物を取り出した。

 

(Anomalocaris!)

 

「アタシの力を見せつけてやるためさ!」

 

 そういいながら、服の裾をまくった。

まくった腕には、タトゥーのようなモノが刻まれていた。

 

 そうして、戦闘員はタトゥーのようなモノにUSBメモリを当てた。

 

 

 すると

 

 

 

『あひゃひゃひゃ!』

 

 

 戦闘員は

 

 

『…殺してやるぜぇ!』

 

 

 バケモノへと

 

 

『アタシの目の前に立ってるお前も、その先生もよぉ!』

 

 

 

 変質した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・yoren さん
・スコタコ さん

高評価、感想ありがとうございました!

次回
第三話 「Yの眼差し/先生ライダー」



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第三話 Yの眼差し/先生ライダー

死にかけです
9000字以上で死にました









・加筆修正
5/25 生徒の名字を漢字に固定しました。


「…ッ!」

 

 バケモノへと変貌したヘルメット団の団員、彼女の姿は少女の身体から節足動物、アノマロカリスのような姿へと変質。目は丸くクリクリした巨大な漆黒、顔の部分には髪のようにくっついている触手。身体は青をメインとしていて、裏にはアノマロカリスそのものがくっついているかのようだ。

 

「止まりなさい!さもないと打ちますよ!」

 

 私はバケモノにそう忠告する。しかし、ソレは止まるどころか、むしろやってこい。と言わんばかりに両手を左右に伸ばした。

 

『やってみろよ。ま、今のアタシには効かないだろうけどな。』

 

 …やるしかない。

私は覚悟を決め、自分が常備している拳銃を取り出す。じりじり、と近づくバケモノ。近づきすぎれば、一瞬で死ぬだろう。それは、ヘイローを持っていた被害者たちの結果を見れば明らかだ。…間合いを詰められるのも時間の問題だ。しょうがない、こうなったら一か八でやるしかない。

 

 

“接近された瞬間、ゼロ距離で放つ。”

 

 普通の射撃では、倒すことなんて出来ない。爆発に巻き込む先生には申し訳ないとは思う。でも、そうじゃなきゃアイツを止められない。らしくないものの、今思いつく限りそれしかない。

 

「…」

 

『…ッハ!さすがのセミナー様も、この力には怖気づいちまったなぁ。』

 

『これじゃ、お前の仲間も簡単に殺せそうだなぁ?』

 

『ギャハハハハハハ!』

 

 …

 

 

 …

 

 

 

 …

 

 

 瞬間、私は引き金を引いた。

 

『…ッ!何すんだテメェ!』

 

 

「…す」

 

 

『あ?』

 

 

「殺すって言ったのよ、アナタを。」

 

 

『…やっとヤル気になったなぁ!待ってたぜぇ!』

 

 

 バケモノは意気揚々に、両肩を回した後。戦闘態勢へと入る。だが、そんなことは関係ない。

例え誰であっても、ユウカちゃんを傷つけるやつは許さない。私の友達は、何があっても私が守る。あんな奴に、私の友達を奪わせない。

 

「…」

 

『…ふん、来いよ。』

 

 その言葉を聞いた後、私は思考を放棄してしまった。ただ一点「コイツを黙らせる」という目標に向かう機械となった。

それが、敗因とも知らず。

 

「…ッ!」

 

『ハッ!かかったな阿保が!』

 

 バケモノは口からナニカを吐き出そうとしていた。それは見る限り、銃弾のような形をしていた。今わかることとしては、それを食らうと、ヘイロー持ちの私でも動けるかどうかというレベルの致命傷を受けるという事だけだ。

 

『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ごめん、ユウカちゃん”

 

 刹那、漆黒の闇に包まれた。

 

 

 

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「…私は…」

「…起きたか。」

 

「え…先生!?」

「あぁ、君の先生だ。」

 

ここはサイエンススクールのとある教室、とりあえずここまでくれば時間は稼げるだろう。

 

 

 僕が目覚めた時、ウシオはバケモノに向かい突撃をしていた。彼女はその時、激情に呑まれており、バケモノの策略に嵌ってしまっていた。…無理もないだろう、いきなり人が未知の怪物へと変質したのだ。その時点で、どんなに戦場慣れしている人間であっても動揺は隠せない。それに、僕が受けた傷はたった一つ、やつから彼女を守った時に受けたものだ。彼女は僕を守りながら戦ってくれたのだろう。

 

「ありがとうな、生塩。俺を守ってくれて。」

「とりあえず休んでくれ、ここはまだ安全だ。」

 

「いえ…私こそ…」

 

 生塩は落ち着いたのか、ガッチガチに固まっていた肩の重荷を下ろした。かなり精神を削ったのだろう、ぐったりと倒れこんでしまった。

 

「それと連続で悪いんだけどさ、一応早瀬に連絡だけしてほしい。」

 

「わかりました、ユウカちゃんにですね。」

 

 そういいながら、生塩はデバイスのような物を、ポケットから出した。「モモトーク」という連絡アプリを使い、極力音を出さない形でメッセージを送っている。

 

「先生…あのバケモノの事…知ってますか…」

 

 ふと、生塩がそんな事を言い出した。正直、教師の身である僕としては、これ以上アレに関わらせるわけにはいかない。

…しらでも切るしかないか。

 

「…知らないよ、あんな奴。」

 

「…」

 

 生塩は、僕の何かに気づいたのだろう。逃がすまいと言わんばかりに、僕に目を合わせてきた。

…仕方ない。

 

「…あぁ、僕はあのバケモノの事を知っている。」

 

 この状況なら、語るしかない。奴らの事を。

 

「奴はドーパント。」

 

「地球の記憶を内包した、怪物さ。」

 

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「ドーパント、ですか?」

 

 生塩は僕の言葉にオウム返しで答える。

 

「あぁ、地球には様々な記憶が眠っている。例えば、炎、水、土といった身近にあるものから、恐竜や宝石と言った鉱物生物や嵐などの現象も全て記憶されている。」

 

「そんな地球の記憶をUSBのような形で保存しているのが「ガイアメモリ」っていうものなんだ。」

 

「は…はぁ。」

 

 生塩は、話が壮大過ぎて頭が追い付かない。と言わんばかりの顔をしている。まぁ、いきなり地球だなんて単語が出てきちゃな。

 

「とりあえず、そこまでが「ガイアメモリ」の説明だ…大丈夫か?」

 

「は…はい、すみません。いきなり地球っていう単語が出てきたもので…」

 

「まぁ…そりゃそうだよな…」

 

 …とりあえず続けるか。

 

「で、ここからが問題だ。そのガイアメモリっていうのは、特殊な手術を施した人体に挿すと、さっきみたいなバケモノになる。」

 

「さっきのは「アノマロカリス・ドーパント」。古代生物「アノマロカリス」の記憶が入っているガイアメモリを身体に挿したバケモノさ。」

 

「…なるほど、あのUSBメモリにそんな効果が…」

 

 生塩は、興味深そうに僕の話を聞いていた。ここにペンとノートがあれば、今すぐにでも記録に残しそうなくらいに。だが、ふと止まった。そして、私の目を見てこう言った。

 

「なぜ、先生はそこまでガイアメモリに詳しいんですか?」

「もしかしたら、この事件と何か関わりでもあるのですか?」

 

 …やっぱこうなっちまうか。しょうがない、少し話すか。

 

「僕はね…探偵の元弟子なんだよ。」

 

「…?」

「それとガイアメモリのどこに関係が?」

 

「…その探偵の住んでいた町は、ガイアメモリが深く根付いた所でね。」

「よくメモリ関連の依頼が舞い込んでくる場所でもあったんだ。」

 

「なるほど…それでメモリ関連に詳しかったんですね。」

「でも、なんで弟子をやめてまで先生に?」

 

「僕はね…師匠に憧れていたんだ。何より、彼に救われた身でもあった。」

「昔の僕は兄貴が亡くなって、とても荒んでいたんだよ。」

 

「…ッ!」

「お兄さんは…」

 

「…メモリ犯罪の被害者さ、犯人は見つかってない。」

 

「…僕はメモリが嫌いだった。

でも、それ以上にそんな悪魔の箱を平然と使う大人が大嫌いだった。」

 

 

「だから、最初は師匠やその仲間の大人も大嫌いだった。でも、あの人たちは違った。」

 

「その町の為に、自分にできる事を全力でやっていた。依頼人を傷つけないために、絶対に諦めなかった。大人の悪意によって歪んだ僕を守ってくれた。」

 

「今度は、僕がそんな『子供たち』を助けたい。そう思っているうちに、いつの間にかシャーレの先生になってたってわけさ。」

 

 …懐かしいな、この気持ち。胸がほっこりと温まる、あの事務所での思い出。確かに、今の僕には力も信頼もないのかもしれない。それでも、きっとがむしゃらに私の生徒を守ることが、事務所を離れてでもやりたい、自分の中の真実なのだと思う。

 

「…そうだったんですね、先生。」

 

 ウシオは、僕に対し、まるで彼女の中の子供と女性が入り混じった、まさに本当の笑顔を見せてくれた。

…良かった。これで少しは僕の事を信頼してくれたかもしれない。

 

「…じゃあ、私も助けてくださいね。先生。」

 

 彼女は、今にも消え入りそうな笑顔で、そういった。

 

 

『見つけたぜぇ…アタシの獲物!』

 

 

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「…そりゃないぜ、そりゃあ。」

 

 ついに「アノマロカリス・ドーパント」に近づかれてしまった。奴は僕たちを見つけた瞬間、嬉々として僕たちへと向かってきた。接近してきた奴は、まず最初に生塩を狙った。右腕についている触手を彼女に思い切り振りかざした。しかし

 

「…ッ!」

 

 間一髪、彼女は左に避け拳銃から銃弾を放つ。だが、どんなに近距離であっても、奴に傷がつく事はなかった。それを好機と見たのか、アノマロカリス・ドーパントはウシオの首を掴む。

 

『ハッ!アタシの歯で殺してやるぜぇ!』

 

 ウシオは拳銃を手から離し、両手でもがきながら抵抗するが、ドーパントの腕力ではとても立ち向かえない。奴は口のような部分を開けた。おおよそ、あそこが発射部分なのだろう。

 

 …ならば、手段は一つ。

 

「ウォォォォォォォォ!」

 

 奴に向かって走る、全速力で。

 

『ヘッ!馬鹿かお前!先ずお前から殺してやる!』

 

 アノマロカリス・ドーパントは僕の方を向き、球を発射した。時速を計算している余裕はないが、少なくとも僕一人簡単に死ぬ程度のものだ。

 

    だが

 

『何ッ!』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 僕は今までの人生経験(探偵の弟子)を活かし、床を滑った。つまりスライディングをして、あのバケモノの弾丸を避けた。素人はこれだけで拍手ものだ。だが、僕はこれだけでは終わらない。

すぐさま、生塩の落ちた拳銃を拾い、奴を押し倒した後、拳銃を口に押し付けた。

 

『フグッ!』

 

 

 

 「さぁ、少し痛い目見てもらうぜ。Bad Girl」

 

 

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「…ふぅ、何とかなったね。」

 アノマロカリス・ドーパントは、拳銃を押し付けた後。僕のあまりのハードボイルドさにやられ、そのまま気絶。メモリブレイクはされていないものの、無力化までは成功した。無事、生徒も傷つけず。事件は解決した。

 

「…どうしたの、生塩。」

 

「…ひぇ!?

なんでも…ないです。」

 

「…本当にどうしたの。体調でも悪いの?」

 

「…なんでそう思ったんですか、先生は。」

 

「…え、だってウシオ。今君の顔…」

 

「リンゴみたいに真っ赤だよ。」

 

 

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「先生!ご無事ですか!?」

 

 しばらくして、早瀬が僕らの所へやってきた。多数の機械とメイドさんを連れて。

…なんでメイドさんがここにいるのかは知らないけど、スカジャン着たメイドもいるし、まぁなんかの戦闘部隊的な奴だろう。

 

「早瀬ってメイドさん連れまわすの趣味なんだね。」

 

「何言ってるんですか先生は…それよりもノアはどこですか?

あの子も一緒にいるって聞いたんですけど…」

 

「生塩?

あの子ならあっちだよ。」

 

そうして、僕は彼女の方を指さすと…

 

「…」

 

 体育座りをして顔を俯かせている、生塩 ノアの姿があった。

 

「だ、大丈夫!?ノア!」

 

「うん…大丈夫だから、このまま運んで…」

 

「そう言われても…何があったの?」

 

「…本当に大丈夫だから、早く連れてって…」

 

「…もしかして、先生が何かした?」

 

「…!」

 

 あ、生塩がピクってなった。すると…

 

 

「せ・ん・せ・い?」

 

 

 あ、終わった。なんかすごいオーラ出てる。

 

「な…なんだい早瀬君…今回僕特に何も…」

 

「…」

 

「…なんか…すみませんでした。」

 

 

「なんかじゃないですよ、このバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

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「…」

 

「チッ、完全に気絶しちまってんなコレ。」

 

 現在、アノマロカリス・ドーパントはC&C(Cleaning&Cleaning)によって捕獲。このバケモノの調査をミレニアム本部でするため、輸送車を手配している。

それまでの護衛を、先生がスカジャンを着たメイド服と言った少女、美甘 ネル(ミカモ ネル)。

通称OO(ダブルオー)に任されていた。

 

 話は先ほどまで遡る。彼女、ミカモはいつものごとく出席日数に余裕があるため、サボろうかと画策していた時。セミナーの早瀬 ユウカ(ハヤセ ユウカ)から唐突な依頼が舞い降りた。「キヴォトスを騒がせている怪人がミレニアムに出現しました。至急、C&Cに協力を要請したい。」と。だが、他のメンバーは別の依頼に出ており、今から間に合う距離でもない。なので、仕方なしに来たというわけだ。

 

「先生、ねぇ。」

このバケモノにヘイローなしで立ち向かった大バカ野郎、まさに「蛮勇」と呼ぶにふさわしい。生徒を守るのが先生とはいえ、少々オツムが弱いのだろう。

 

だが

 

「悪くねぇな、そういう大人も。」

 

 そういうやつがいたっていい。むしろ、現実ばっか見せつけてくる大人(金の亡者)よりも、多少バカでも、生徒を見捨てない大人の方がいいに決まってる。美甘はそう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、さっさと終わらせるか。」

 美甘はそうと決めればやり切る女。この護衛は、その先生への為、全力でやり切ることを決意した。

 

 

しかし

 

 

 

 

 

『…』

 

 

 

事件はまだ、終わらない。

 

 

 

 

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「…」

 

「…」

 

 早瀬に反省を促されて早や十分、教室は静寂を保っている。

一体いつになったら終わるのだろうか、早くシャーレと言う名の家に戻ってコーヒーを作りたい。

 

「…あの、ユウカちゃん?」

 

「何?ノア。」

 

「そろそろ…先生を開放してもいいんじゃないかな?」

 

 ナイス!生塩!これ君のせいとかそんなの放ってもいいくらいナイスなアシスト!

 

「ダメよ、ノア。」

 

「えぇ…もう私は許してるんだけどなぁ…」

 

 …しょうがない、僕の切り札を切るしかない。

 

「…ユウカ。」

 

「何よノア…って先生!?

先生今私の事名前で言ったんですか?」

 

「あぁ、そうだよ。これからはユウカって…」

 

「私もノアって呼んでください!先生!」

 

 そんな剛速球を、ウシオはぶち込んできやがった。

 

「…はい?」

 

「…ユウカちゃんだけ名前で呼ぶなんて、ずるいです。私も呼ばれたいです!」

 

「…どうしたのノア?急にそんな事言うなんて…と言うか、先生が私の事名前で呼んだって、今の状態は変わりませんよ!」

 

 …本当にそうかな?

 

「なぁ、ユウカ」

 

「…」

 

「ねぇ、ユウカ」

 

「…」

 

「ユウカってば、おーい!」

 

「…」

 

「無視されると、さすがに悲しいなぁ…」

 

「…わかりました!正座はもういいです!」

 

 よし!これで正座はもう…

 

「じゃあ先生は、私の事を名前呼びするまで正座です!」

 

「えぇ…わかったよ。

ノア

 

「…声が小さい!もう一度!」

 

「…ノア」

 

「…えへへ~」

 

「…そこ!イチャイチャしない!」

 

「痛ェ!何するんだよハヤセ!」

 

「超イチャイチャしてたからですよ!

後私の事を永遠に名前呼びするまで正座!」

 

「そんな事できるかぁぁぁぁ!」

 

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「…はぁ」

 

 三人で思う存分ふざけた後、思ったよりはっちゃけ過ぎてしまった。まずい、もうそろそろで日が落ちる。

 

「ほら、日が暮れるから。良い子はおうちに帰りな。」

 

「むぅ、私の事子供扱いですか。」

 

「そりゃそうでしょノア、君たちはまだまだ子供。おとなしくおうちに帰りなさい。」

 

「…仕方ないですね、ここは先生のわがままを聞いてあげましょう。ね?ユウカちゃん。」

 

「えぇ、どうしてもって先生が言うんですもの。子供な先生のわがままを聞くのも生徒の役目ね。」

 

 こいつら…

しかし、まだ僕たちは帰れなかった。この後、奴に邪魔されてな。

 

 

『キシャァァァァァァァァァァァァ!』

 

 アノマロカリス・ドーパントに。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「逃げろ!お前ら」

先ほどいたスカジャンメイドが走りながらそう叫ぶ。

 

 

「クソ!まじかよ」

 

「あの気絶状態から復活したの!?

とてもじゃないけど信じられないわ…」

 

 アノマロカリスは、先ほど戦った時のような悪意などはなく。まるで本能のまま動く獣のように、僕たちに襲い掛かった。

 

「…クソっ!やはりメモリブレイクをしなきゃ、奴を止められないか!」

 

「メモリブレイク?何ですかそれ。」

 

 ユウカはアノマロカリス・ドーパントの攻撃をよけながら僕にそう言った。

 

「奴の力の正体はUSBメモリにある。体内にあるメモリを破壊しなきゃ、アイツは一生バケモノのままだ!」

 

「じゃあ、逆にメモリを破壊すればいいんですね!」

 

「あぁ、でも方法は一つしかない。

仮面ライダーのキッククラスの攻撃でしか奴のメモリは壊せない!」

 

 僕はそう答えた。だがそれをこの場にいる全員が出来ない事を僕は知っている。

 

「仮面ライダー、ですって?」

 

「社会の裏で、世に潜む悪を打ち倒すと言われる?」

 

「何っ!ってことは…」

 

 ユウカとノアとスカジャンメイドが各々反応を示す。しかし、スカジャンメイドだけは僕の言葉の意味を理解したようだ。

 

「あのバケモノを止められる方法は、ないってことか?」

 

「…なぜライダーのキック威力がわかったんだい。教えてくれ、スカジャンメイド。」

 

「あぁ…前に戦ったことあってよ。てかスカジャンメイドじゃねぇ、ダブルオーだ覚え解け!」

 

 …は?戦った?

 

「え、君戦ったことあるの!?そいつの名前教えてくれ。」

 

「今そんな事関係ないだろ!」

 

 そんな事を話していると

 

『ギシャァァァァァァァァ!』

 

 アノマロカリス・ドーパントが上空から強襲してきた。

 

「…ッ!」

 

 それを右によけ、スカジャンメイドことダブルオーと分断。ちょうど横にはユウカとノアもいたので、挟み撃ちの形となった。

 

「行け!ガジェット共!」

 

 そういうと、師匠たちが僕にプレゼントしてくれたガジェットシリーズを全放出させる。青を基調としたスタッグフォン、赤と黒を基調とするスパイダーショック、真っ黒なバットショットだ。

 

『ギシャァァァァァァァァ!』

 

 ガジェットたちは、三人と連携。上手く口の部分に銃弾がヒット。アノマロカリス・ドーパントに初めてダメージを与えることが出来た。

 

 しかし

 

『ギャァァァァァァ!』

 

「…キャ!」

 

「ユウカ!」

 

 ユウカが狙われた。アノマロカリス・ドーパントはユウカを壁に投げた、壁は衝撃に耐えられず、崩壊した。

バーン、という音とともに壁とユウカがミレニアムタワーから落ちる。

 

 しかし

 

 

「ユウカ!」

 

 僕はスパイダーショックを手に、ユウカが落ちた高所から飛び降りる。

 

「先生!」

 

「おい、先生!」

 

 ノアとダブルオーの声が聞こえた。声色はとても不安そうだった。でも、行くしかない。

もう二度と、僕は大切なものを失わせない。

 

 生徒も、教えも、何もかも!

 

 ユウカを掴み、応答が出来るか確認する。

 

「ユウカ!大丈夫か!」

 

 ユウカは答えない、相当ダメージを負っているようだ。

 

「クソ…僕はまた…」

 

 僕は…

 

【諦めそうになったら、依頼人…お前の場合は生徒か。】

 

【そいつの涙は、見たくないだろ?だから、諦めるな。】

 

【生徒を守ることを、諦めんなよ。“先生”。】

 

 

 …

 

 …

 

 …

 

 

「僕は…僕は!」

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 先生が飛び降りた。まさか、ここまでバカだとは思わなかった。普通生徒の為にこんな頑張るやついるかよ…

 

 

 

『…キシャァァァァァァァァァァァァ!』

 

「…ッ、まずいな」

 

 

 だが、バケモノは相変わらずアタシらを殺そうと近づいてくる。

体力は余裕があるもの、このままじゃ一生終わる気配がない。

 

「…おい!お前!」

 

「…え、私?」

「お前以外だれがいるんだよ…いいか?

奴に一気に攻撃を繰り出す。一二の三でやるぞ!」

 

「…う、うん。」

 

「行くぞ…一、二…」

 

「三ッ!」

 

 そういいながら、一気に口部分へ放出した。

 

しかし

 

 

「…まじかよ」

 

「…」

 

 口部分を歯の球で攻撃を守っていた。

 

「…」

いくらC&C最強であっても、人間の範疇を超えてしまう敵が来た時。かつ、そいつが無尽蔵に動くバケモノだった時。アタシたちはこんなにも無力になってしまうのか。いくら体力があったとしても、どんなに最強であっても、「倒す方法がない」というだけで、こんなバケモノが生きる事を許されてしまうのか。

 

「…ちくしょう。」

 

 いつぶりだろうか、こんなに悔しさを覚えるのは。

 

 だが、それも直に終わりを迎えた。

 

 

「よっ、と。」

 

 そんな軽そうな声を放ちながら、少女をお姫様抱っこしている仮面の戦士は舞い降りた。

 

 

『…』

 

 バケモノは自分の本能に従うように、触手を構えた。「コイツは止めなければ、死ぬ。」

 

そんな事を思いながら。

 

 

「お、来るか。

でもよ、その前に名乗らせてくれよ。一回やってみたかったんだよ。」

 

 

 そんなこと知るか。と言わんばかりにバケモノは襲いかかる。

 

 しかし

 

 するり、と敵の攻撃をかわした後。

 

「ハァ!」

 

 ずしん、と重厚なパンチを決めた。

 

痛みにもがいているバケモノ。そんな事はどうでもいいのか、仮面の戦士は名乗った。

 

 

 「名前はメモリから取るパターンだよな、コレ。」

 

 「じゃあ…僕は仮面ライダーフール」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回
Yの眼差し/先生は1人で2人

お楽しみに!


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第四話 Yの眼差し/先生は一人で二人 

遂に「仮面ライダーフール」誕生!

戦闘描写は...今回だけは勘弁してください


 ミレニアムサイエンススクールの高層ビル「ミレニアムタワー」にて

先生である僕は先ほど、崩壊した壁と共に落ちたユウカを救出。

 

その後、超強化された脚を使い、この場所までユウカを抱えたままジャンプしたというわけだ。

 

「…!?

アンタまさか、先生か?」

 

 ダブルオーが僕にそう問いかける。彼女は大した傷こそないものの、床に拳を叩きつけたのだろう。ダブルオーが触っている床には血がぽとぽとと垂れていた。

 

「ご明察!この通り、僕は彼女を助ける寸前、大人のカードで変身したのさ。」

 

 そう、僕は今。ロストドライバーという、ガイアメモリを安全に使用できる装置を使って変身している。

 

だが、とある特殊な事情により、僕は通常のロストドライバーを使用できない。ではなぜ、僕はこのドライバーを使い変身出来ているのか。

 

先ほども告げた通り「大人のカード」という、代償を支払う事で、その状況を打破できるパワーを身に着けることが出来る。正に魔法のアイテムを持っているのだ。

 

 

そいつから生成された僕専用のドライバーを、今身に着けているのだ。そしてメモリは「フールメモリ」、ポーカーとかの愚者の記憶を宿したメモリだ。

 

コイツは、「大人のカード」によって生みだされた訳ではない。

 

正確に言えば「呼び出された」メモリだ。

 

最初は、僕の来るところに必ずいたストーカーみたいなやつだった。なので当時、メモリ嫌いだった僕は師匠の相棒であり、メカニック担当のフィリップさんに破壊を頼んでもらった。

 

 

だが、あいにくT2メモリという、破壊できないタイプのメモリだったため、事務所の中で封印してもらっていたのだ。

 

まさか、僕がコイツのお世話になるとは…自分の変わり様に驚くよ。

 

 

 

 

 

「はぁ…?

なんでカード一枚で仮面ライダーになれて、更に高層ビルの高さまでジャンプ出来るんだよ…」

 

 

 正直、ダブルオーの言い分は最もだが、そこは目をつむっていてほしい。

 

そういう細かい所は、僕にもわからないから。

 

何故僕がそんな万能カードを持っているのか、なぜフールメモリと惹かれ合ったのか…

 

まだまだ謎がたくさんだ。

 

 

でも

 

 

「まぁそんな事は一旦置いておいてさ。

今はあのバケモノを止めるのが先決だ。」

 

「ガァァァァァァァ!」

 

 僕が皆にそう告げた後、アノマロカリス・ドーパントは雄叫びをあげた。

そろそろお喋りは終わりにして、さっさとケリをつけちゃいますか。

 

 

「とりあえず、ノアはユウカを連れて逃げてくれ!

ダブルオーは他の生徒たちの避難の手伝いをしてくれ!」

 

「…でも!それじゃ先生が!」

 

ノアはさっき預けたユウカを抱っこしながら、僕にそう叫んだ。

 

彼女はこっちを不安な目で見ていた。

 

『これは、先生失格だな』

 

アノマロカリス・ドーパントと手と手を合わせ、取っ組み合いのような形になっている中。そんな事を考えてしまった。

 

 

生徒を不安にさせたのは、僕がまた無茶な行動をすると思っているからだろう。

それに、連携して立ち回ることで、勝てるチャンスが増えるのも事実。全員で立ち向かうのは妥当だ。

 

 

だが、こうしている間にも被害は増え続ける。余裕が出来た今なら、避難連絡などが出来るのだ。

 

 

現在、対峙しているバケモノであるドーパントのメモリを破壊する手段を持つのは、今僕ただ一人のみ。ここを離れることはできない。

 

 

 

僕がこいつを止めるしか、この事件を収束させる手段はない。

 

 

「…大丈夫、先生は必ず君たちの所へ戻るよ。」

 

 

 …少し無理があっただろうか。

 

 そう思いながら、僕は取っ組み合いの最中、ちょこっとだけ彼女の顔を見ようと、ちらっと横目で見た。

 

 

 

 

 

「…はい!わかりました!」

 

 彼女が納得したのかはわからない。でも、あれは決して、僕の事が不安という顔ではない。むしろ、僕を信頼している目…だと信じたい。その期待に応えるため、自分の全力を出して、このバケモノの目を覚まさせる!

 

 

「頑張ってくださいね!クォーターボイルドな先生!」

 

 

「ちょ、オイまて。誰がクォーターボイルドじゃあ!

僕はハードボイルドだって!ええい、邪魔だこの甲殻類お化け!」

 

 

 

「…グシャァ!」

 

 

 

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「…オラァ!」

 

 アノマロカリス・ドーパント(バケモノ)を蹴りで吹き飛ばし、新たな場所へ移るとした。奴は途中、タワーの障害物にあたりながら、下の芝生部分に落ちた。

 

何故野外であるこの場所を選んだか。理由は単純、奴の口から発射される歯の球を避けやすくするためだ。僕が変身した「仮面ライダーフール」には、遠距離に対応している武器はない。

 

 

それどころか、ナイフの一つだってない。()()()()で戦うのだ。

 

 

それならば、接近しなければ勝ち目はない。よって、僕が今すべき事は間合いを詰める事なのだ。室内戦の場合、遮蔽物が多く、あのバケモノの狙撃ポイントも増える。ただでさえリーチが短い僕にとっては、大きな痛手だ。

 

 

 それならば、もういっその事野外戦で挑めばいい、遮蔽物も少なく、一気に間合いも詰めやすくなる。

 

僕も奴に追随しようと、先ほど早瀬を助けるため落ちた所から飛び降りる。

 

「…ッ!」

 

 急速に落ちる身体のバランスを整え、タワーの窓部分に足を付けられるように構える。

 

「…」

 

ガラスと足がスレスレの位置になった。 

 

その瞬間

 

 

「…!」

 

 

奴は僕に向かい、口から歯の球を放出した。

 

 

「…んなっ!」

 

歯には当たらないものの、お陰でバランスが崩れてしまった。

 

しかし

 

 

『足のバランスはオレが保つ!

オマエはヤツだけに集中しろ!』

 

 

聞いたことのあるような、無いような。そんな声が、僕の頭の中によぎった。

 

 

「はぁ?急になんだ。

というか君誰?」

 

『ゴタゴタいうな!一緒に死にてぇのか!』

 

 

 謎の声はそういうと、どういうだろうか。声が言った通り、僕は再びバランスを取り戻した。その上、僕が意識しなくても勝手に調整してくれている。

 

…これなら何とかなりそうだ。

 

『パワーの調整はオマエに任せる!

さっさとヤツを倒せ!』

 

 

 …よし、いくぜ!

そうして、僕はメモリブレイクを行うために、ロストドライバーに挿されている「フールメモリ」を取り出す。メモリを抜くと同時に解除音が鳴り、取り出したという確認が取れた後。

 

 ベルト帯の右についている「マキシマムスロット」という、メモリを挿入することで発動するスロットにコイツを入れる!

 

 

フール! マキシマムドライブ!

 

 

男の声でそれが流れる。

 

すると

 

 

「…力が…右足に…」

 

 つい、そう呟いた。

 

言った通り、右足に力が収束していく。謎の声の主はこれ以上力を貸すつもりはないらしく、黙ったきりだ。

 

 

 

僕は、落ちながら前方向へ高速スピンをして、タワーに足を置く。

 

すぐに、それをジャンプ台扱いとして、左足のみで飛ぶ!

 

 

「…いくぜ」

 

「…」

 

バケモノは止まっていた。まるで、僕に見惚れたように。

 

 

これはチャンス!このまま狙いを定め…キックの姿勢を取る。

 

 

 

 

マキシマムスロットについているボタンを押し、エネルギーを一気に放出した!

 

 

「…ライダーキック!」

 

 

ジャンプの勢いと、フールメモリのエネルギーの全てを収束した右足のキックは、アノマロカリスメモリを破壊するには十分な威力だった。

 

 

「…ギシャァァァァァァァァ!!!」

 

 

アノマロカリス・ドーパントは爆発。

 

残ったのはガタガタヘルメット団の団員と、壊れたアノマロカリスメモリのみだった。

 

 

「ふぅ…きまったぜ」

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 改装されたシャーレのオフィス、僕はそこで、一連の事件を連邦生徒会に説明するため、ハードボイルドな報告書を作成している。シャーレのオフィスには、パソコンは一台のみ。それは報告書を書く為ではなく、あくまで調べものをする程度にとどめている。

 

 実際に使うのは、シャーレの資金で購入したタイプライターだ。何故わざわざそのような物を使うのかと言うと、僕が関わる事件のほとんどは、ドーパントやガイアメモリなど、情報が漏洩したらとんでもないことが起こるからである。あとカッコいい。

 

 ひと昔どころか、今では化石レベルのタイプライターのカチカチとなる音が、この事務所の雰囲気を更にクールにしている。

 

 

 

 

『あぁ、僕ってやっぱハードボイルドだなぁ』

 

 

 

 

 自分自身に酔いしれながら、先ほど入ったブラックコーヒーを…

 

「にがッ!」

 

 

 

 つい苦くて言ってしまった。わざわざ「あの人」に教えてもらったコーヒーの入れ方を無駄にしたくはない。そう思い、コーヒーをいれたものの、結局飲めそうにはない。

 

 

何とかコーヒーを飲むため、どう工夫しようかと考えていると

 

 

コンコンコン、と事務所のドアがノックされた。

 

 

「どうぞー」

 

 

僕がそういうと、カチャというドアが開く音ともに。

 

「失礼します。

…おはようございます、先生。」

 

「あぁおはよう、リンちゃん」

 

「…リンちゃんはやめてください、先生。」

 

 

 

 

 連邦生徒会の会長が不在となり、現在代理を務めている七神(ナナガミ) リンがやってきた。彼女は、キヴォトスにて最初に出会った上司的な人物であり、僕が現在所属しているシャーレの存続に大きく関わる人だ。彼女がシャーレの存在を認めているからこそ、僕は生徒間の事件に介入されることが許されている。

 

 

 そんな彼女が僕の元へ来た理由は一つ、今回の事件の詳細を知るためだろう。

 

僕は、アノマロカリス・ドーパントのメモリをブレイクした後。「ヴァルキューレ」という、キヴォトスの警察的な存在に連絡をした。「怪物騒ぎの犯人がいる。今すぐミレニアムタワー近くに来てくれ。」という内容でだ。すぐに彼女たちは到着、その後、主犯格であるガタガタヘルメット団団員を確保。団員の罪は、きちんと法の下で裁かれるだろう。

 

 

 ノア、そしてスカジャンメイドことダブルオーこと「美甘(ミカモ) ネル」の二人は、大した重症はなかった。ただ、ノアは相当心が張り詰めていたらしく、しばらく心の休暇をとるため休みを取るそうだ。

 

 

美甘は僕を多少信頼してくれたのだろう。名前を教えてくれたのは、とてもうれしかった。

 

 

 二人は特に問題がなかったものの、早瀬はかなり戦闘でのダメージがひどく、当分の間は安静だそうだ。とはいえ「私が見ていないとあの学校は崩壊する。」とか何とか言って、遠隔ロボットを操作していたので、多分大丈夫だろう。

 

 

 破壊された「アノマロカリスメモリ」に関しては、今現在僕が預かっている。これは後に連邦生徒会へと譲渡し、今後のガイアメモリ犯罪に対する抑止力を作ってほしいというからだ。

 

 

 ではなぜ、そんな抑止力を作ってほしいと考えたのか。理由は単純。

 

 

「大人のカード」の反動である。こいつは確かに、今まで変身できなかった僕を仮面ライダーにできる魔法のアイテムだ。ただその分、代償もある。どうやら僕の寿命を消費する力らしく、一回の変身で十数年分は刈り取られた。

 

僕だって死にたくはない。できればこの力は極力使いたくない、なのでキヴォトス自体の対策力を上げなければならないのだ。

 

それに、まだまだ問題はある。

 

 

『…』

 

『君もいたなぁ、うん。』

 

 

 「大人のカード」でロストドライバーと共に出現した…と予想する存在。こいつは、僕がドーパントの攻撃でバランスを崩した時に現れた。あの声と同じ存在だ。よくわからないが、なぜか僕のサポートをしてくれた。まるで兄貴分のような事をする、変なやつなのだ。

 

 なぜ僕のサポートをしてくれたのか、あの後質問しても

 

 

 

『…気分ってやつだ、気にするな。』

 

 

 

 なんていう意味の分からない理由で僕を助けてくれた。

 

…何か隠している気がするので、あまり信頼しないようにしておく。

 

ちなみに、こいつは俺の心の中に存在しており、念話という形で話している。決して「独り言がヤバいヤツ」のような扱いはされないだろう。

 

 

 

 まだまだ謎は多いし、問題は山積みだ。 

だが、一応僕の初依頼は「犯人を止めた」という形で達成したのだ。

 

 

 

 

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「なるほど…そういう事だったのですね。」

 

「うん、そういう事。」

 

 一連の事件をリンちゃんに説明し終わった後。

彼女と共にコーヒーを飲みながら、ゆっくりしていた。

 

 

「…わかりました。後日、報告書の提出もお願いできますか?」

 

「うん、今絶賛書いてるとこ」

 

「え…その…」

 

「…?」

 

 

「…本当に、アレで書くのですか?」

 

 

 彼女がタイプライターに指を向ける。どうやら、コレでは不満らしい。

 

「…リンちゃん、これで書くことでネット流出を防ぐんだよ。実に合理的ではないかね。」

 

 

「いや…別にそれはいいんですけど…

先生、英語で書けるんですか?」

 

 

 

いや、書けないけど

 

 

「…先生、今からでも遅くないです。パソコンで書きましょう。」

 

 

「いや、ちょっと待とうよリンちゃん。

英語ね…うん、英語で書くから…ね?」

 

 

「…改築工事の料金」

 

 

「…ッ!」

 

 

今からでも、請求出来るんですよ?

 

 

 

「Yes Ma'am!(了解しました!今すぐやらせていただきます!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回

第1章 アビドス対策委員会編

「Sに願いを/本格営業開始」


お楽しみに!!!


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アビドス対策委員会編
第五話 Sに願いを/本格営業開始


ブルアカイベント絶賛周回中であります。

総力戦は正月ムツキ楽しすぎであります。

水着ホシノ天井分まで石貯めであります。

現在、一万五千個であります。

メモロビのマリーとノノミに、脳が溶かされたであります。


 手がアツい、どうしてだろう。

 

「…!」

 

男の人が逃げている、追いかけっこでもしているのだろうか。

 

 

「…!」

 

逃げるのがとても上手だ、あっという間にワタシから逃げてしまった。

 

 

「…」

 

 

…むぅ、なんでだろう。早く捕まえたい。

 

よくわからないけど、きっとワタシの為に必要だから。

 

 

「…!」

 

あぁ、やっと見つけた。

 

 

「…いやだぁ!」

 

ふと、そんな事を言った。

 

 

…そうだ、何をやっているんだ私は。

 

やめろ

 

 

「…!」

 

だが、この悪夢は終わらなかった。

 

「…」

 

手がさらにアツくなった

 

 

…やめろ

 

 

 

「…」

 

 

ヤメロォォォォ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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巨大な学園都市、キヴォトス。ここでは、普通の人間がアッと驚くような事件が山ほど転がりこんでくる

 

 

そんな事件を解決するため、僕たちは「シャーレ探偵事務所」を設立した。

 

どのような事件を解決したのかと言うと、伝統的な喫茶店からの依頼をはじめ、ミレニアムの「ゲーム開発部」からの依頼、キヴォトス北端の学校での依頼など様々だ。

 

 

その全てを、僕は解決した。そのおかげで「シャーレ探偵事務所」の噂は瞬く間に広がり、「どんな問題も解決してくれる場所」という事で有名になったのだ。

 

 

『オイ、ソコは()()()という方が適切だろ。』

 

『分かってるよ、訂正する。』

 

 こいつはハイド、僕の中に住んでいるやつと思ってもらっていい。「大人のカード」を使用したと同時に現れた奴だ、なぜだかわからないけど師匠のところにいた頃の僕を知っている。「ずっと見てたからな」なんて意味の分からない事を言っているけど、正直気持ち悪い。あと、ハイドって名付けた理由は、単に悪そうな口調をしているからだ。こんなでも一応頭は回るので、重宝はしている。

 

 

 『気持ち悪いは無いだろ気持ち悪いって』

 

 

 『うっさいなぁ、あんな事言われたら誰だってああなるわ!』

 

 

 「…何やっているんですか、先生たちは。」

 

 シッテムの箱と言われるパッドの中にいるAI「アロナ」はそう僕たちに言った。彼女は、僕の中の「ハイド」を知っている側のAIだ。というより、僕たちが教えたという形が正解だろう。

 

 

 どうやら、僕たちが口論をしている時。はたから見ると一人で取っ組み合っているというギャグのような状態になるという。それを見た彼女は、僕の頭がおかしくなったと勘違いしたらしく、この都市の病院的な立ち位置である救護騎士団に電話しかけたのを止めた後、成り行きで事情を説明することになってしまったのだ。

 

 

 「すまない、アロナ。

なめ腐ったもう一人の僕にお灸を据えてた。」

 

 

『誰がだ!』

 

 

 そんな風に会話を続けていると、アロナがこんな事を言い出した。

 

 

 「はぁ…先生。メールで依頼が届きましたよ。」

 

 

「何」

『だと』

 

 

僕とコイツは、久しぶりに息があった。何を隠そうこの事務所、僕が勝手に改装したという事で借金を持っている。それはあんまりだと連邦生徒会に抗議をしたものの「申し訳ございません。これはもう決まった事ですので…」と生徒会の中でも比較的話す子である岩櫃(イワビツ) アユムに門前払いされるという悲惨な末路を辿ったのだ。

 

 

 だがしかし、生徒の模範である僕が借金で潰されるわけにはいかない。それを解決すべく馬車馬のごとく働いた。それはもう鬼神のように。

 

 

その結果、借金は何とか返済の目途はついた。とは言っても、まだまだ不安要素は多い。

 

その理由の一つなのだが…

 

 

『これなら【なんでもんど】も買える!』

 

『買わねぇよ』

 

そう、ハイドはアニメオタクになってしまった。やはりどんなに頭脳担当でも人の子だ、趣味の一つや二つはあるだろう。しかしこいつの場合は重症だ。欲しいものは即買い精神なせいか、最初は余計な借金がかさんでしまう事もあった。

 

 

 そんな問題児を抱えたまま、これから借金を返すことは難しい。

 

 

なので、一刻も早く依頼を解決させ連邦生徒会から報酬(クレジット)を巻き上げなければならんのだ。

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「なるほど…アビドス高等学校か…」

 

『こりゃ少しホネが折れそうだな』

 

依頼はアビドス地区の学校から、依頼人は奥空(オクソラ) アヤという少女だ。

 

彼女曰く、地域の暴力組織に自分たちの学校が狙われているそうだ。対抗しようにもかなり複雑な事情があるらしく、弾薬などの補給が出来ず対策のしようがない状態だという。

 

 

そこで、多くの事件を解決、そして連邦生徒会に認可されているウチを頼る事にしたという事らしい。

 

 

「…昔はとても大きな地区だったそうです。ですが、気候の変動によって生活がかなり厳しい街になっているそうです。」

 

アロナがそう言いながら、アビドスのマップデータを僕のスタッグフォンに送信した。

 

 

「え…デカッ!」

 

マップに記されていたのは、およそ八割が砂漠で覆われている街だった。そこは、僕が昔住んでいた「風都」という町の何倍も大きい。だが、まともに住めそうな所は、その中の2割ちょっとしかなさそうだった。

 

 

『…迷子になっちまうだろ…』

 

 

「そうだな…これは普通に迷う。」

 

 

「自身満々に言うセリフじゃないですよ…」

 

アロナは自身満々な僕を冷めた目で見ていた。その後、こんな事を言いだした。

 

「依頼を受けますか?

先生。」

 

 

僕はアロナがいるパッドを見ながら、彼女に告げた。

 

 

「そりゃもちろん。借金を背負っている以上、仕事を選ぶ余裕なんてないし。それに」

 

「…?」

 

 

 

 

 

先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?

 

 

 

 

 

 

「困っている生徒は放っておけないしね。」

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「とは言ったものの…」

 

ここはどこだぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

自身満々の状態でアビドス地区にバイクで来て数日たったものの、慣れない土地でどうしても良くわからない場所に着いてしまう。それもマップなどを使ったうえである。さらに言えば、飲食店に加え、自動販売機の一つも存在すらない。

 

 

 正直、迷子である。

 

ガソリンスタンドさえないので、バイクの燃料もそろそろキツい。

 

このままでは借金を持ったまま野たれ死んでしまう。

 

なんとしてもそれだけは防ぎたいところだ。

 

『…これはまずいな、死ぬぞ。』

 

ハイドが正に僕と同じ事を考えていたのか、そんな事を言い出した。

 

更に言うなら、先ほどから腹も喉も補給をねだっている。ガラガラでグーグーなのだ。

 

何とか倒れそうになる身体をバイクと足で支え、目的地に辿りつこうと歩く…

 

 

すると…

 

 

「あ」

 

まずい、これは倒れるなぁ…なんて思いながら、意識が離れていこうとする。

 

 

しかし

 

 

「…」

 

そっと、そしてがっしりと僕の身体を誰かがキャッチしてくれた。どうやら、誰かが僕を助けてくれたようだ。

 

お礼を言おうと、顔を前に向けると…

 

「…」

 

そこには、白を基調としたYシャツの上に、紺色のブレザー、この季節ではまだまだ寒いミニスカ、水色のネクタイとマフラーも着用している。

 

「…?」

 

水色のきれいな瞳をしている、ケモミミ少女がいた。

 

「…あの…大丈夫?」

 

彼女は言った。

 

とても清涼感あるクールな声であった、これが世間でいうところの「クール系女子」というやつだろう。

 

 

さすがにこのままではまずい、何か言葉を発さなければ。そう思いながら、僕はこんな事を言った。

 

 

「…大丈夫さ、この程度なんてこともない。」

 

今この場にユウカたちがいた場合、絶対にばれるであろう虚勢を張ったが…まぁ出会ったばっかのこの子なら誤魔化せるはず。

 

 

「…でも…すごくやつれてる、あなたの顔。」

 

彼女は僕の嘘をもろともせず、ドストレートに言ってきた。

 

…あれぇ、僕ってそんな演技下手ですかねぇ…

 

「…もしかして、事故に遭ったとか?」

 

彼女は僕のバイクを見た後、バイク事故に遭遇したと勘違いしたのか、そんな事を言ってきた。まぁ、確かにこの状態を見ていれば、何か事故でもあったのかと考えるのはおかしくない。

 

 

僕は彼女の勘違いを訂正すべく、ここに来ることになった事情を説明した。そして、道がわからなくなり、途方に暮れていたこともだ。

 

 

事情を説明した後、彼女は首をうんうんと傾け…

 

「なるほど…ただの遭難者だったんだね。」

 

「うぐっ」

 

痛い所を突かれ、ついつい気持ち悪い声をあげてしまう。ハードボイルドなこの僕にあるまじき失態という事を、改めてこの少女にわからされた。

 

「…まぁ、ここはそういう所だから。食べ物がある店とか、とっくに無くなってるよ。」

 

いやぁ、まじか。

 

事前に情報収集すべきだった。こういう爪の甘い所があるから、依頼人を危険な目に合わせてしまう。

 

師匠に口酸っぱく言われたことだ、気を付けなければ。

 

 

「…こっちのほうを越えて郊外まで行けば市街地があるけど…」

 

「…そっか、ありがとう。

でもこの土地にまだ慣れてなくてね…」

 

「なるほど…この辺は初めてなんだね…ちょっと待って。」

 

そういうと、彼女は自身のバッグをあさりだした。

彼女のバッグは肩掛け式で、黒を基調としていて、部分的に水色のラインがある。ピンクハートのアクセサリーや十字架のようなストラップ、緑の…あれなんだろう。言葉にするのは難しいが、猫耳がついているウィンクをした緑…としか言えない。

 

 バッグ中心部には三角のロゴマークが記されている。確か、今回依頼してきたアビドスの学校のロゴも三角だったような…

 

もしかしたら、彼女は生徒かもしれない。後で聞いてみることにしよう。

 

そうしていると、彼女は僕に対し、右手で水筒を突き出した。

 

「はい、これ。エナジードリンク。

ライディング用なんだけど…今はそれしか持ってなくて。でも、お腹の足しくらいにはなる。」

 

「おお…助かるよ!

じゃあさっそく。」

 

『おい、ちょっとま…』

 

「えっと、コップは…あ。」

 

先ほどまで黙っていたハイドとケモミミ少女の声が聞こえたが、多分どうでもいい事なので無視した。

 

それよりも、数日も飲まず食わずしていた僕は、彼女から渡された水筒のふたを開け思いっきり飲んだ。

 

『ちょ…オイ。』

 

『なんだよハイド』

 

『あのムスメが水筒に口付けてないか確認しなかったのか?』

 

…あ

 

いやな予感がしたので、おそるおそる彼女の方へ目を向ける。

 

すると

 

「…」

 

恥ずかしそうに頬を赤らめる少女がいた。

 

…僕に渡す予定だったろう、コップを手に持ちながら。

 

 

 

「…」

「…」

 

 

 

 

 

 

大ッ変!!!申し訳ございませんでした!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

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「本当ごめんね…知らない人と間接キスだなんて…」

 

「…ううん、大丈夫。…気にしないで」

 

 

あぁ、この子は女神なのだろうか。いくらハードボイルドな伊達男である僕だとしても、いきなり知らない人と間接キスとか絶対嫌がるはずなのに。この子は許してくれるのか…

 

 

「ありがとう、君の名前だけ教えていただいてもよろしいですか?」

 

「…なんで最後は敬語なの…?

…私はシロコ、砂狼(スナオオカミ) シロコ。」

 

名前まで教えていただけるなんて…慈悲深いお方だ。

 

「改めまして感謝を申し上げます、砂狼様。

どのくらい感謝しているかと言うと『人生で一番尊敬している人物は?』と質問された時、迷わず砂狼様というくらいにはです。」

 

「…嫌がらせ?

…そんな事よりも…もしかして、連邦生徒会から来た大人の人?」

 

「Exactly(その通りです)」

 

「…もっと普通に受け答えできない?」

 

砂狼様は酷な事を仰る。

 

こんなハードボイルドなセリフを淑女に囁くのが僕の仕事なのに。

 

『いや、別にハードボイルドじゃないだろ。』

 

オタクはダまらっしゃい!

 

「…それは難しい事です、僕の存在意義ですので。」

 

「へー…という事は、うちの学校「アビドス」に用があるの?」

 

「Exactly!!!(その通りです!!!)」

 

砂狼様は僕のハードボイルドさを理解してくれたようだ。

 

とても早く納得してくれて僕もうれしいよ。

 

「…そっか、久しぶりのお客様だ。

…それじゃあ、私が案内してあげる。すぐそこだから。」

 

「そうでございますか、ではさっそく出発しましょうか。わが主。」

 

「…そういうの恥ずかしいからやめて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回 第六話

「Sに願いを/アビドス対策委員会」

               お楽しみに!


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第六話 Sに願いを/アビドス対策委員会

カルバノグの兎編を読んでいたらこんな時間になっていやがった。

…陸八魔アルゆ゛る゛さ゛ん゛!!


ps.Wで一番好きなシーンは初回翔太郎のジョーカーをクルッて回すとこ
(細かすぎて伝わらない)


「…ん、着いたよ。」

 

「お、ここか。」

 

『まぁ…なんていうか…砂すごいな。』

 

砂狼と一緒にアビドス高等学校に到着した。だが、ところどころ砂に浸食されている。この街は、そこらかしこに砂がある。僕が倒れかけた住宅街、道路、ビルの周り。言いだしたらキリがない。

極めつけは、道中の高台で見たアビドスの景色である。

 

()()()()()()()()()()のだ。

 

…何を言っているかさっぱりだと思うが、よく聞いていただきたい。

 

街が砂に覆われていたのだ。

 

あまりにも衝撃的な光景だったので、思わずバッドショットで写真を撮ってしまった。

 

他にも珍妙な光景が多く、様々な場所を撮ってしまった。…途中、砂漠でロボットみたいなやつが写ってしまったものがあるが、一体何だったのだろうか。

 

そうして寄り道を繰り返した後、ようやく辿りついた目的地。

 

「アビドス高等学校」は、白を基調に窓ガラスがびっしり張り付く校舎、右手には体育館とプールといった、多くの人がイメージする「学校」である。

 

ただ、普通の学校と違う点が二つある。一つは、先ほど述べた砂の存在。二つ目は「人気がない」という事だ。僕が知っている学校というのは、どんな時間であっても、何かしらの生活音が聞こえる場所であった。しかし、ここはあまりにも生活音が聞こえない。これではまるで、廃校寸前の学校みたいなものだ。

 

生徒の手前、そんな事を言うつもりはないが。

 

「…じゃあ行こう。」

 

「ちょっと待ってくれ砂狼。」

 

「…?」

 

「…もう、歩けない。」

 

『オイ!大丈夫か!』

 

 先ほどの移動までで、エネルギーを使い果たしてしまった。電源が切れたかのように、前にドサっと倒れる。

 

『写真とってはしゃぎすぎたんだろ…』

 

…仕方ない、最終兵器を使うか。

 

「砂狼様、少しお願いがあるんですが。」

 

「…何かな」

 

「ここからは、僕をおぶっていただけませんか。」

 

「…」

 

砂狼は、僕をジト目で見ていた。

 

別に興奮もしないので、なるべく早めに回収してくれると嬉しいのだが…あれ、なんか砂狼さん。

 

どんどん離れてる気がするんですが…顔が熱を吸収した地面にあたって痛いんですよ。

 

「え、まさか砂狼様。僕を見捨てるなんて事するわけないですよね。」

 

「…」

 

「…嘘でしょ。」

 

「…」

 

「…」

 

「骨は拾っておくよ」

 

「ちょ、僕先生よ!死にかけだよ!?

え…まさか本当にするつもりじゃあないよね。」

 

「…嘘だよ、先生の反応面白かったから。」

 

砂狼はそういいながら、僕の事をおぶった。

 

「…あー良かった。

でも先生はおもちゃじゃないんだようん」

 

砂狼はぼーっと僕の方を見た。

 

…何か考えごとでもしているのだろうか。

 

 

「…わかった、先生をおもちゃにはしないよ。」

 

納得してくれたのか、彼女はそういった。

 

「…そっか、ありがとう。」

 

「…シロコでいいよ。」

 

「…わかったよ、シロコ。」

 

これ以上、僕らは話すこともなく。校舎の中へと入っていった。

 

 

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「…ただいま。」

 

「…おかえり、シロコせんぱ…い!?

えっ!?おぶってる人だれ!?」

 

「わー!シロコちゃんが大人を拉致しちゃいました!」

 

「え!?拉致!?

…シロコ先輩がついに犯罪に手を…」

 

「…ぐへっ」

 

「「「ひっ!」」」

 

なんかちょっと声出しただけで悲鳴が上がった。…なんでやねん。

シロコは、目的地に着いた途端に僕を急に下ろした。正直扱いひどいと思う。

 

 

「…大丈夫、生きてるし大人だから。私たちの学校に用があるんだって。」

 

「えっ?ゾンビとかじゃないですよね…」

 

赤い眼鏡をかけている子がそういった。泣きそうだ。

 

「拉致したんじゃなくて、お客さん?」

 

そうです、僕はお客さんです。

 

この扱いに抗議します。

 

「…そうみたい?」

 

「…なんでそこ自信ないのシロコ!」

 

ついつい立ち上がって喋ってしまった。

 

まずい、体力が死にかけている。だが、ここで終わらせるわけにはいかない。

元気よく挨拶していい印象を持たせなければ!

 

「…こほん。

シャーレ探偵事務所から来た先生です。依頼を解決するべくここに来ました!

これからよろしく!」

 

「「「…えぇ!?」」」

 

 

彼女たちの反応は三者三様。ぱぁ、と顔色を明るくしたふわふわしている子、驚きを隠せず目を見開いたまま止まっているメガネっ子、「…ホントにコイツ?」と言わんばかりの目を向けてくるネコミミ少女。あまりの目つきに背骨がまっすぐになってしまう、今すぐ墓に入るくらい体力はないがやるしかない。

 

「本当にあの「シャーレ」から!?」

 

「わあ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」

 

「はい!これで弾薬や補給品の援助が受けられます。

早速、ホシノ先輩にも知らせてあげないと…」

 

 

ふわふわしている子、メガネっ子、ネコミミ少女は驚き半分嬉しさ半分、と言った様子だ。まぁなんであれ、生徒たちにこうして喜ばれることは悪くない。まだホシノという子が来てないようなので、もうひと踏ん張り頑張ることにしよう。

 

「委員長は隣で寝てるから、私が起こしてくる!」

 

ネコミミ少女はそういいながら、先ほどシロコと共に通ったドアへ向かって走り出した。

 

…そういえば、まだ名前を聞いてなかった。アイスブレイクついでに聞いてみるとしよう。

 

「そういえば、君たちの名前を聞いてなかったね。

教えてもらってもいいかな。」

 

「…そういえばそうでしたね。ごめんなさい、少し浮かれちゃってて…

私はアビドス高等学校一年生の奥空(オクソラ) アヤネです。先生に依頼を申し出たのも私なので、自己紹介というのもあれですが…」

 

「私も同じく、二年の十六夜(イザヨイ) ノノミです☆

よろしくお願いしますね~先生。」

 

「よろしくね、奥空、十六夜。」

 

メガネっ子こと奥空、ふわふわしている十六夜。一人はハキハキと、もう片方はふわふわとしている挨拶だった。

 

ネコミミ少女を待っている間、椅子に座って待とうと考えたその時。

 

 

   "ドカァァァァァァァァン!"

 

   「「「「「…ッ!」」」」」

 

 

と、すさまじいほど大きい炸裂音が鳴り響いた。いきなりお出迎えとは…どうやら僕に安息できる場所は無いらしい。

 

何があったのか、室内についている窓に目を向ける。

 

すると

 

「ひゃーっははははは!」

 

「攻撃だ!奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている!襲撃せよ!」

 

門付近でヘルメットとサングラスをしている軍団がいた。

 

彼女たちは以前、ミレニアムの敷地内で騒ぎを起こしたドーパントの変身者と似た装備をしている。おそらく、あの子と同じ「カタカタヘルメット団」なのだろう。

 

 

「わわっ!?武装集団が学校に接近しています!カタカタヘルメット団のようです!」

 

「アイツら…性懲りもなく!」

 

奥空とシロコが苦渋をなめた表情で奴らを見ている。シロコの発言から察するに、手紙に記されていた「地域の暴力組織」というのは彼女たちで間違いない。

 

「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで起きて!」

 

「むにゃ…まだ起きる時間じゃないよ~。」

 

ネコミミ少女が戻ってきた。

 

彼女はピンク髪の小柄な少女、ホシノという子を必死に起こそうと右手で左肩を揺らしている。

 

もう片方の腕には白黒のスコープ付きアサルトライフルを持っているので、あとはホシノさえ起きれば準備完了というわけだ。

 

「ホシノ先輩!ヘルメット団が襲撃を!こちらにいるのはシャーレの先生です!」

 

「ありゃ~そりゃ大変だね…あ、先生?おじさんは小鳥遊(タカナシ) ホシノだよ。よろしくー、むにゃ。」

 

「あぁ、よろしくね。」

 

奥空から今現在の状況と僕の説明を受けた後、ホシノこと小鳥遊は僕に目を向け答えた。

 

「…」

 

「…ん、どうかしたの先生。」

 

「…あ、いやなんでもないよ。」

 

何故かはわからないが、僕は小鳥遊の目を無意識に追ってしまった。彼女と出会ったばかりなのに、その目に惹かれてしまった。鮮やかな黄色と青のオッドアイ、だがそこが重要ではない。あの鮮やかな瞳に移る、濁ったモノ。ソレにどこか安心すら覚える自分がいる、あの日々を思い出せる。新しいものだらけの世界で唯一存在する安心できるモノ、なぜ彼女が持っているのかはわからない。だが、彼女がどのような人生を歩んでいるのか、なんとなくわかった気がした。

 

 

 

 

「…ホシノ先輩?」

 

「…何でもないよ、セリカちゃん。パパーっとやっつけてお昼寝しよ~」

 

 

 

「…すぐに出るよ、先生のおかげで弾薬と補給品は十分。」

 

「はーい、みんなで出撃ですね☆」

 

シロコと十六夜の一声で、彼女たちは「カタカタヘルメット団」がいる外へ向かった。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「…カタカタヘルメット団残党、郊外エリアに撤退中。私たちの勝利です!」

 

「わあ☆私たち、勝ちました!」

 

僕たちは、校舎の外にいたヘルメット団と交戦。結果としては勝利、無事ヘルメット団を追い払う事が出来た。

 

「皆さん、お疲れ様です!学校へ帰還してください!」

 

「いやーまさか勝っちゃうなんてね。」

 

「勝っちゃうなんてね…じゃありませんよホシノ先輩…。

勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか…」

 

「これが大人の力…

すごい量の資源と装備、それに戦闘の指揮まで。大人ってすごい。」

 

「いやぁーシロコ、これでわかったでしょ。

僕がどれほどハードボイルドな男なのか。」

 

「…黙秘」

 

「…そこは嘘でも言ってくれよ。」

 

「…自分でそんなこと言うのね…」

 

「そりゃそうでしょネコミミ少女。」

 

「…ネコミミ少女って何よ、私には黒見(クロミ) セリカって名前があんのよ!

このナルシスト!」

 

ライン越えたなこの野郎、僕は黒見を睨みながら

 

「あ゛!?誰がナルシストじゃ!」

 

黒見は僕にひるまず睨み返す。

 

「まぁまぁ二人とも落ち着いて、ね☆」

 

黒見と僕、双方の喧嘩を止めたのはノノミであった。

 

「ま、まぁ…気を取り直して。

ようこそアビドス対策委員会へ!

 

道中や戦闘でご覧になった通り、わが校は現在危機にさらされています…

そのため「シャーレ」に支援を要請し、先生がいらしてくれたことで、その危機を乗り越えることが出来ました。」

 

奥空がそう言った後、今度はこの「アビドス対策委員会」についてを話し始めた。

 

「そもそも、対策委員会というのはこのアビドスをよみがえらせるために有志が集った部活です。」

 

「うんうん!全校生徒で構成される、校内唯一の部活なんです!

…とはいっても、全校生徒は私たち5人だけなんですけどね。」

 

「…他の生徒は転校したり、学校を退学したりして町を出ていった。

学校がこのありさまだから、学園都市の住民もほとんどいなくなってさっきみたいなやつらに学校を襲われている始末なの。」

 

「そうなんだよ~、補給品も底をついてたからさすがに覚悟したね。なかなかいいタイミングに現れてくれたよ、先生。」

 

奥空、十六夜、シロコ、小鳥遊の順でこの学校の現状を説明してくれたが…正直、積み一歩手前の状況で普通に笑えない。治安が悪いうえに人もいないんじゃ、誰もここに入学しようなんてするはずがないだろう。

 

『いや、それだけじゃない。

この学校、おそらく借金を抱えている可能性がある。』

 

…まじか。だがたしかに考えると、ハイドが言った仮説は一考の余地がある。今までの学園もそうだったが、この都市では学園が国家のようなシステムで成り立っている。学園がその区域内の政策を決める代わり、賠償金や復興資金もその学園が出す。

 

アビドスも学校であったからにはこの都市では「国家」となる。なのでその区域内で起こった災害の費用もアビドス高等学校が出すのだ。このような広い地形で大規模な災害が起こってしまえば、どんな国家だろうと資金が吹っ飛ぶのは自明の理だ。

 

『さらにいえば、こんな砂漠ばかりの土地なんざ誰もいらない。残るのは闇金みたいな常識外れの利子を出す所ぐらいだ。』

 

まぁ、思いつく限りそんな感じか。

 

「…こんな消耗戦、いつまで続ければいけないんでしょうか…

ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに…。」

 

奥空はそんな事を嘆いた。

 

…彼女たちに、何かできる事はないか。自分の脳をできる限り働かせようと、思考を再稼働させようとする。

 

だが

 

「…というわけで、ちょっと計画を練ってみたんだー。」

 

それよりも先に、小鳥遊がとても面白い提案をした。

 

 

 

 

 

 

「こっちから奴らに襲撃しちゃうってのは、どうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回



第七話「Sに願いを/突撃」


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第七話 Sに願いを/突撃

うへ~、公式の生配信の情報密度すごいね~。
というかメンテ後のバグ多すぎだね~

まぁその分補填楽しみだね~




「うへー、何とかなったねー。」

 

ここはカタカタヘルメット団のアジト、僕たちが来る前まではところどころホコリが目立つが、特に荒れてもいないよくある事務所だった。しかし、今はソファーから羽毛が飛び出し、家具は乱れ、割れたガラスの破片と銃弾がそこらかしこに落ちている。小鳥遊は舞ったホコリに耐え切れず、口を抑えながらガラスの破片を踏み僕のいるドア付近へ戻ってきた。激戦に次ぐ激戦で体力もキツイと思ったが、彼女は相も変わらず眠そうな表情だったので、キヴォトス人と僕の力の差を思い知る。

 

「…これでしばらくはおとなしくなるはず。」

 

シロコはそういいながら、愛銃「WHITE FANG 465」のスリングを斜めがけ肩かけバッグの要領で後ろに回す。彼女も肩や頭、ケモ耳にもホコリがかかっていたので、全身をブルブルとさせた後、猛スピードでこちらへ向かってきた。ハードボイルドらしくないが、彼女に小動物的な可愛さを覚えてしまった僕を許してほしい。

 

「奥空、奴らの状況は?」

 

「はい!敵の退却を確認!並びに、彼らの補給品の回収、アジト、弾薬庫の破壊を確認しました!」

 

奥空はそういいながら、今僕が手にしているアロナが入ったOS「シッテムの箱」に、戦闘データとジャックされたアジトのカメラを送ってくれた。

 

補給品が入っていた棚は空っぽ、弾薬庫は戦闘の際全て爆発させたので残ったのは瓦礫の山。アジトである事務所は現在、僕たちが占領しているので問題はない。これ以上ないまでの勝利であった。

 

「ふん!ざまぁ見なさい!」

 

黒見もこちらへ合流した。彼女は今までのただ一方的な防戦に思う事がありすぎたのだろう、ふんすと擬音が出てくるくらいのドヤ顔をしながら窓越しに逃げ遅れたヘルメット団を見つめている。その顔があまりにも出撃前のむすっと顔とギャップがあったせいか、思わず吹き出しってしまった。

 

「ブフッ…」

 

「…あんた…人が気持ちよく笑っているのによくそんな反応できるわねぇ!?」

 

黒見がすぐさま僕だと感知し、任務前のむすっと顔をしてこちらへ接近してきた。

 

「いやまぁ、そんなかわいい笑顔見たら誰だって笑うでしょそりゃ。」

 

「なぁに意味わかんない事言ってんのよ!」

 

黒見は顔を真っ赤にしながら、大声で僕に反論した。…なぜだろうか、女性に対するプラスな言葉はどんどんかけるべきだと学んだのだが、思いっきりマイナスだ。こういう時はどう声掛けすればいいのだろうか、今度あき姉とときめ姉さんに相談しよう。

 

「ほらほら~そこふたり。イチャイチャしてないでいくよ~」

 

「してないわよホシノ先輩!」

 

…なぜイチャイチャなのか、ただの喧嘩でしかないと思うのだが…まぁいいとしよう。黒見が小鳥遊の元に走る所を見ながら、僕は三人の後ろについていき学校へ向かった。

 

 

 

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「皆さん!お疲れさまでした!」

 

委員会の会議室へ着くと、奥空は笑顔で僕たちを迎えてくれた。机には多数の資料、どれも過去のヘルメット団との戦闘データだ。会議の際に使うホワイトボードの横にはドローン運搬される回復キットが積まれている。戦闘部隊が負傷した際、どんな状況であっても対応できるのは、彼女の「準備の良さ」があってのものだと理解できる。彼女がいなければ、アビドスは僕が来る前にカタカタヘルメット団に占領されていただろう。

 

そう考えると、アビドスはチームワークの高さはどの学園よりも上なのかもしれない。先ほどの戦闘であれば、小鳥遊が敵のヘイトを買ってる間、シロコとセリカの連携攻撃、トドメはノノミのミニガンでの掃討、そしてそれらを支える奥空の戦闘サポート能力。この連携能力はレッドウィンターの軍やヴァルキューレにも匹敵するほどだと評価できる。きっとそれは、彼女たち全員でこの学園の問題を乗り越えようとしているから生まれたものであり、彼女たちでなければなしえなかったものだ。

 

「アヤネちゃんも、オペレーターお疲れ。」

 

黒見は奥空へ労いの言葉を向ける。その言葉の音色は優しく、決してお世辞などではない彼女が奥空へ向けた「心から出た言葉」だ。

 

「火急の案件だった、ヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息付けそうです☆」

 

「うん、これで重要な問題に集中できる。」

 

十六夜、シロコはそういいながら、肩に背負っていた銃やカバンを下ろす。十六夜は肩がこるのか、両腕を回して疲れを取ろうとしている。一方、シロコは特に問題はないのか、そのまま水分補給を取ろうと冷蔵庫の方へ向かった。

 

「これも先生のおかげですね☆」

 

「うん、ありがと先生」

 

「そうだね~ありがとせんせ、お礼におじさんと一緒におひるねしよ~」

 

「何言ってるんですかホシノ先輩!…まぁ、一応感謝はしとくわ」

 

「あはは…ともかく、ありがとうございました。先生。お陰でようやく借金返済を再開することが出来ます!」

 

「ちょっとアヤネ!なんでそれ言っちゃうのよ!」

 

十六夜、シロコ、小鳥遊、黒見、奥空は僕の方を向きながら、感謝の念を述べてくれた。こちらもただ受け取るだけでは失礼だ、こちらも大人として恥ずかしくない挨拶をしようと「どういたしまして」と言おうと思ったのだが…

 

「あ…いや…その…うっす。」

 

『あー恥ずかし、そんなんだからクォーターボイルドなんだぞキミは』

 

ダメでした。

 

今まで探偵の弟子として、数々の事件に立ち向かった僕ではあるが、唯一といってもいい弱点として「褒められ下手」な所がある。ちょっとした事でキャパシティが限界を超えてしまうため、いつも依頼人に笑われてしまう、ハードボイルドな僕には大変よろしくない弱点なのだ。

 

「…?どうしたの先生」

 

「あれー、もしかして照れてるの?

うへー先生、そんなかわいい所あるんだー。」

 

「…っぷ!こんなことで照れちゃうなんて、先生もまだまだねー。」

 

「大丈夫ですか先生?私がいいこいいこしてあげますからねー。」

 

「あはは…先生もそういう顔するんですね。」

 

生徒の反応は五人五色。頭をなでようとするもの、にやにやと揶揄おうとするもの、あまりのおかしさに笑ってしまうもの、意外な反応に驚きを隠せないもの、そもそも気づいていないもの。僕は十六夜の手を左手で止め、黒見の反応についブチっと来てしまい…

 

「笑うなぁ!黒見!」

 

「いやまぁ『そんなかわいい顔見たら誰だって笑うでしょ』だっけ?だから笑ってるのよ。」

 

「…クソォ。」

 

このガキ一回シバいてやろうか。ハードボイルドな漢に一番言ってはいけないかわいいを言ったこの女をわからせなくてはならない。思考を巡らせろ、奴が最も動揺した単語を海馬から探し出せ…

 

『バカなんですかぁぁぁぁぁ!!!』

 

『待ってくれユウカ!僕はただこの帽子を買いたくて』

 

『知りませんそんな事!ただでさえあなたのせいでシャーレは自転車稼業やってるんですから…』

 

『仕方ない…

僕の愛しいユウカ、その手に持っているスタッグフォンを返してくれ。』

 

『…いとッ!?…すみません、もう一度お願いできますか…』

 

『えーやだ』

 

『…私がこの帽子を買ってあげますから。』

 

『生徒の施しを受けるのは半人前だと思ってる。』

 

『…許可します。』

 

『え?』

 

『言ってくださったら購入を許可します!これでいいですか!?』

 

『よっしゃぁ!愛してるよユウカぁ!』

 

『びゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!先生が!?わたしを!?だきしめ…』

 

『…どうしたユウカぁぁぁぁぁぁ!!!

セリナ!ちょっと来てセリナぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

まずい、なんかよくわからんが先週のユウカとの出来事を思い出してしまっていた。あの後、コンマ差で来た救護騎士団の鷲見(スミ) セリナは倒れたユウカをタンカに移した、一人だとタンカは運べないので手伝おうと思ったのだが、突如現れた狐の仮面こと狐坂(コサカ) ワカモが「あなた様がお手を患う必要はありませんわ。」と言いながらセリナと共にミレニアムの保健室へと連れて行ったという。

 

 ちなみに帰ってきたワカモから「あなた様から…その…ご褒美が欲しいのです」と言われ、その後延々と「愛してるよ、ワカモ」を囁き続けた。睡眠時間は死んだ。何故、ワカモが僕にこんな事をさせようとするのか、僕にもわからない。よくわかんないけどいつの間にか好かれていた。一体、僕が何をしたというのか。

 

相も変わらず謎が増え続けるばかりだ。

 

しまった、話を戻そう。海馬から記憶を探っていく内、黒見が妙に反応したワードが見つかった。

 

「借金って言葉、やけに反応したよね。黒見。」

 

「…あ…その話は忘れて!」

 

「いいじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし。」

 

「かといって、話すようなことじゃないでしょ!」

 

小鳥遊の言葉に極端に反応した黒見は、小鳥遊に詰め寄り彼女の意見を否定する。その姿を見たら、百人中百人が「この学校には借金がある」と確信できるほどの動揺だった。そして、彼女の否定にまた一人、意見を示すものがいた。

 

「ホシノ先輩の言う通りだよ。先生は信頼してもいいと思う。」

 

シロコであった。彼女は僕の方を一瞬向き、気取らないクールな物言いであった。どうやら彼女は思った以上に僕を高く買っているようだ。それは先生である自分としては、とても鼻が高い気分となった。数時間の間柄とはいえ、僕自身もシロコへの感謝の念を送りたくなった。だがそれ以上にどうやったらあんなクールな感じに語れるのだろうかが気になる、後で聞くことにしよう。

 

「確かに先生がパパっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。

でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃーん?」

 

小鳥遊はシロコが加勢した今が言い時と決めたのか、セリカに対しわが子を諭すような口調でそう言った。黒見は黙りこみ、顔を下へ俯ける。さすがにこれでは黒見に分がない。だが、彼女にも自分たちの学校は自分たちで守りたいという気持ちがあるのかもしれない。僕はできる限りそれを尊重はしたいが…ここまで関わってしまった以上、僕は後戻りという選択が消失した。ならば進める選択肢は一つ。

 

"…戦う、彼女たちと共に戦う。"

 

…うん、これで心スッキリだ。とある漫画でも言っていた通り「納得は全てに優先される」のだ。「先生」として、「探偵の弟子」として、「一人の人間」として、この選択は決して他者の為ではない。「自分の為」に後悔しない道。

 

よし、その選択をしたからには、まず真っ先にしなければならないことがある。僕は言い争いを今にも始めようとする黒見の前に立ち…

 

「…ッ!…何よ」

 

彼女は先ほどの怒りの表情が消え、困惑とほんのちょっとの恐怖がにじんだ顔を見せて僕を見ている。そんな状態の彼女の目の前で、僕は向かい正座をし、手のひらを地に付けた後、額を床スレスレに近づけた。いわゆる「土下座」というやつだ。

 

「…え?」

 

少し顔をあげると、黒見は虚を突かれ目を点にしていた。その目は「何かに化かされているのではないのか、大人がこんな事をするはずがない」なんて話し始めるのではないかと思った。それはシロコ含めアビドスメンバーも同じだ。

 

 

「…ごめん、黒見。今から僕は、借金の話を聞くっていう、君の想いを踏みにじる行為をする。これは決して許してほしいんじゃない。僕は君たちと共に戦いたいからしたんだ。必要ならバイクも売る、シャーレもやめる、帽子…はちょっと迷うけど、必要なら捨てる。少なくとも僕は大人のプライドなんかよりも、君たちと共に戦う事を優先したい。」

 

彼女たちと共に戦うためには、僕は黒見、奥空、十六夜、シロコ、そして小鳥遊の心のなかで対等にならなければならない。彼女たちからすると、先ほどまでの僕は「助けに来てくれたお客さん」状態だった。だからこそ、黒見は部外者である僕に全てを話すことが出来なかったのだろう。そんじょそこらの学園とは比べものにならないほどの絆を持った彼女たちと心の距離を近づけるには、「大人のプライド」を捨てる必要があったのだ。ちなみに、僕のプライドはユウカが既に破壊しているので実質ノーダメなのは、僕たちだけの秘密だ。

 

 

「…何言ってんのよ、あんた。」

 

黒見は、まるで僕を理解できない存在を目の当たりにした様子で、逃げるように去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回

第八話 「Sに願いを/忠告」


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第八話 「Sに願いを/忠告」

オリ展開だったからしゃーないですやん。許してくださいよ、補填は無いけど。

読者のみんなの寛大な心で許して☆


大決戦ビナーくん、砂かけるのホントやめて。


「…」

 

アビドスの夜は、孤独な漢を優しく包む静寂だ。街の電気は全て都心部へ集中している。なのでそこから離れれば酔っ払いのジジイさえいない、まさに「もぬけの殻」と言うのがふさわしい場所になる。砂漠の砂が風と共にワルツの如く、ひゅうひゅうと舞う。こんな道を通れるのは、孤独を楽しめる僕のような男か、気が狂った奴だけだろう。

 

ポケットに手を入れ、つい最近見た洋画の主人公をトレースする。自身の感情を押し殺し、ただただ依頼を果たす。正に「漢の中の漢」である。

 

やはり妄想は素晴らしい。頭の中の空想上の存在だというのに、まるで荒野に一人佇んでいる気分になる。その気分は身体にも伝染した。頭を俯き、男の冷たい目を隠し、コツコツと鳴る心地の良い革靴の音。そして、背筋に現れた自信。これこそ「背中で語る」男だろう。

 

だが、この自信も長くは続かなかった。

 

『ごめんね~先生。セリカちゃんは悪い子じゃないんだけど…少しだけ時間を作ってあげてくれないかな。』

 

今日起きた事を思い出し、舞い上がった心を落ち着かせた。あの後、小鳥遊が借金についての事を話してくれた。彼女たちの学校が持っている負債は、なんと9億6235万円。とても学生が背負うべき金額ではなく、最初は脳が拒絶反応を起こしたが、やはり僕たちの予想は的中した。そしてその借金のほとんどが、砂嵐による自然災害の復興に使われている。借金を返済しようにも、その事実を知った生徒のほとんどが退学。おまけにまともな融資会社から門前払いをくらってしまい、残った手段は闇金のみになってしまったという。最初は対処出来ていたのだが、砂嵐が何度も起きてしまい、そのたびにお金を借りてしまったのだという。そうこうしているうちに、9億円余りの借金を抱えてしまったと、彼女は言った。

 

『借金がある以上、弾薬などの補給品を購入することもできないからな。』

 

「ああ、それにあれだけ借りているのなら、利息も相当ひどいだろうね。」

 

ハイドがため息をつくかのように語ったので、それに呼応して僕も自分の予想を述べる。というか予想と言うより、事実と考えたほうが良いだろう。どうやら、あの学校が抱えてている問題は、僕らが予想していた事態の遥か上を行っていた。確かに、いくら土下座したとしても黒見の怒りと困惑は正しい反応だろう。彼女からすれば「今まで散々無視してきた癖に、なんで今更仲間になるなんて言い出したのよ。」と僕ら大人をそう思うはずだ。

 

「…」

 

右手の血管を千切る勢いで握りしめ、自分自身への怒りをぶつける。僕の土下座一つでは抱えきれないほどの想いを持った彼女の気持ち、それを汲めない自分がたまらなくダサかった。師匠に「四分の一人前」と言われるのは当然だ。人の心を傷つけることは、探偵や先生として以上に一人の人間としてやってはいけない。人の心を傷つける行為の重さは、すでに自分の心に刻んだはずなのに。

 

今でも脳裏に潜む幻影。自分の幼い心が生み出す()の姿を振り払うように、自分の頬をペシッと叩く。

 

『…過ぎ去ったことは、もう変えられない。』

 

「…」

 

『…だが、未来は変えられる。陳腐だが、中々悪くないセリフだろ?』

 

「…!」

 

『それに、お前があの子たちにしたことは、何も全てが悪いってわけじゃない。』

 

ハイドは僕の中に溢れる洪水を受け止めた上で、親父風を吹かせたセリフを僕に言い放った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

その言葉は僕の心を軽くしたと同時に、決して消えない十字架を押し付けられたような気がした。それは戦うべきものとしての責任を押し付ける「呪い」なのか、それとも守るために立ち上がる理由である「祝福」かは、未来の僕に委ねるとしよう。

 

…さて、反省会はここで終了。

 

次はアビドスの借金、約9億円という途方もない返済期間をどう対策するべきか。こういう時は独りよがりではいけない。相談相手としてアロナを呼び出すため「シッテムの箱」を取り出し、接続を試みようとしたその時

 

 

「…!」

 

「「「…」」」

 

突如、どこからともなく男たちが現れた。彼らは僕を瞬く間に囲い、完全に逃げ場を潰した。黒ずくめのスーツ、サングラスと「X」と書かれた銀のケース。「X」と書かれているケースから察するに、奴らと踏んで間違いない。

 

 財団X、今もなお師匠たちが追っている組織。奴らは、表向きは科学研究財団と装っているものの、実態は「有益な兵器」を生み出す会社や組織に莫大な援助をする代わり、その技術を財団に取り入れる。師匠風に言うなれば「死の商人」だ。実際、彼らはガイアメモリの生成の他にも様々な技術を取り込んでおり、師匠たちを大いに苦しめたという。だがそのたび、大勢のライダーと協力しこの世界を守っている…らしい。あきちゃんこと「鳴海探偵事務所の所長」に聞いたっきりで詳しく語ることはできないが。

 

閑話休題、とりあえず今わかることが一つある。それはこの町に財団Xが根付いている可能性が高く、さらに言えば「ガイアメモリ」の製造と流出もここでやっている、と。それならば辻褄が合う、例のヘルメット団が変身した「アノマロカリス・ドーパント」が使用したメモリも、おそらく彼らから受けとったのだろう。

 

そんな奴らが僕に何の用があるのか、こちらとしてはさっさとシバきたい所なのだが。

 

「こんな夜遅くに何のようだい、生憎僕はただの先生だよ。」

 

「ええ、それは勿論ご存じですよ」

 

囲まれた円が開く。幹部クラスがよく来ている白スーツをびっしり構え、男は僕の方へ向かってきた。コツコツと革靴の音を目立たせるような歩き方は、余裕を見せつけるという下心が見え透いている。ボンドでくっつけたのか、不自然なくらいの完成された笑顔。誠実そうに見えながらも、誰よりも人間らしい欲深く浅ましい姿に反吐を吐きたくなった。

 

「では先ず、自己紹介から。

私は木内 誠也(キウチ セイヤ)。財団Xの「ガイアメモリ研究担当」という立場を持たせていただいております。このような手荒い真似をしたこと、慙愧の至りでございます。」

 

男、木内は僕にそう告げた後。流れるように平信低頭のような雰囲気で頭を下げた。彼のガワだけ見れば「誠意を感じる謝罪」に思える、しかし一度疑った心は止まる事を知らない。いくら僕を囲ったからと言っても、言葉の表現があまりに誇大である。それはまるで「相手に許させる」という状態を作りだそうとしているような感じで、コイツを好きになれそうな気がしない。

 

「こちらこそ、私は「シャーレ探偵事務所」の所長をやらせてもらっている先生です。今後ともよろしくお願いします。」

 

だが、この手の輩に本音と言動を混同しては相手の思うまま。冷静に対処すべく、フィリップさんに教わった敬語をフルに活かす。すると、相手も僕をバカとは思わなくなったのか、ほんのちょっとの温さが消え本性である冷たい瞳を一瞬見せた。

 

「…今日は貴方に一つ、お願いがあり参ったのですよ。」

 

「…そのお願いと言うのは?」

 

「今すぐアビドス高等学校の件から手を引いていただきたいのですよ、あなたに。」

 

木内は笑みを保ったまま、拳銃を突き付けるかの如く僕に願った。余裕を崩すことなく僕に喧嘩を売る感じ、奴にとっては手慣れた会話なのだと思考が告げる。

 

きっと、この余裕と言う名の威圧によって多くの人間を屈服させてきたのだろう。奴の周りにいる男たちは、どこか敗北感を匂わせた表情になっているのが、サングラス越しに伝わった。だが、この場に例外がいる。

 

「断る。僕の仕事だ。」

 

思いっきりボディブローをするように、奴へ敵意を孕ませた言葉を食らわせる。飲まれてしまってはいけない、己の意思を保つために強気な姿勢を崩さず戦う。これも師匠に学んだことだ。やはりあの町での下積みが今に生きていることに、改めて彼らに感謝しようと思った。…今度高いお菓子持っていこ

 

「それは困りましたね…私としても、今あなたが死ぬのはかなり困るのですが…」

 

「は?」

 

何を言っているんだコイツは。

 

何故僕が死ぬことがまずいのだろうか。財団側からすれば、敵が一人消えても何も問題ないはずなのに。脳内にノイズが走る、なぜ奴はこんな事を言ったのだろうか。冷静な思考は剥がれ落ちたように消え、混乱が脳内で渦巻く。

 

「…わかりました、良いでしょう。

こちらはあなたの介入を見過ごすことにしましょう。」

 

僕が混乱している間、木内は思考をまとめたのか、そう返してきた。あまりにもあっさりした返答に、拍子抜けしてしまった。だが、これまでのやり取りの中で、たった一つの確信は持てた。奴は何かを企んでいる、その目的は理解できないがこのまま返すわけにもいかない。

 

「なぁ、木内さんよ。

…生徒に手を出そうって魂胆なら、こっちも容赦しない。」

 

僕は木内の目を睨み、奴の脳裏に言葉を焼き付けた。すると、奴は完璧な笑顔で告げた。

 

「私たちは手を出しませんよ、私たちはね。」

 

「…ッ!」

 

どうやっても中身の黒さを目立たせるように、奴は僕に堂々と言った。

 

「では、私たちはこれで失礼します。精々、飼い猫をさらわれないようお気をつけて。」

 

立つ鳥後を濁さず、その場から瞬時に消えた奴ら。先ほどまで脅しの現場だったとは思えないほど、静かな夜が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回 
     「Sに願いを/追跡!入店!いずれも日常!」


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第九話「Sに願いを/追跡!入店!いずれも日常!」

待たせたな(ヤンクミ感)

課題が終わらなくて地獄を見てます。どうも、作者です。

もしかしたらリアルが過酷で投稿できない週とかできちゃうと思いますが、そん時は気軽に待っててほしいな☆

ンアーッ!ヒエロニムスだるすぎですー!
始めたばっかの新任先生にはきつすぎますー!

ハード期間が今日から始まるってことはよォー、ホシノの神名めっちゃ取れるってことじゃあねぇか!?


冬の朝は、試練(起床)を乗り越えた勇者を更に追い込まんとする悪魔である。

 

どんなに装備を充実させたとして、必ず無防備になる顔を、奴は容赦なく攻撃する。それに加え、自分の矮小なプライドを守るためか、アビドスのみんなから「ここに泊まった方がいい」という誘いを振り切り、野宿をしたことによって全身の震えが止まらない。当初はシャーレ改装中に野宿をしていた経験を活かし、何とか乗り切ることが出来るだろうと思っていた。しかし、僕は冬を舐めていた。

 

まるで巨人が過呼吸しているかのように勢いある風、氷河期が来たかのような極寒。さらに言うなら人っ子ひとりいない公園は、心も凍えさせた。次は絶対に学校で泊まろう、僕はあの孤独な夜を経て決心した。

 

さて、そんな僕は現在、黒見の尾行をしなければならなくなったのは、非常に重大な理由があるからである。

 

 

前日の夜、木内の忠告にあった「飼い猫をさらわれないようお気をつけて」。まるで僕が生徒をペット扱いしているような発言に言いたいことはあるが、気になるのは「猫」という部分だ。彼らのしでかす事は予想できる。

 

おそらく奴らはアビドスの誰かを誘拐するのだろう。こんな直接的な言い回しなのだ、可能性として一番高いのは素人でも理解できる。だが、一つ懸念点が存在する。それは奴らの目的だ、どのような物事にも「何故したのか」という理由がある。それは犯罪であっても例外はない。

 一つの可能性として、奴は黒見にターゲットを向けさせている間「何か別の目的を成し遂げようとしている」と言うのは考えられる。それはアロナも可能性の一つだと考えている。それをハイドが深掘りしていく事で、一つの結論に辿り着いた。奴らは、誘拐することで「アビドスの何か」を手に入れようとしているという可能性だ。誘拐のテンプレとして多い「返してほしくば○○しろ」。ドラマやアニメぐらいでしか聞かないセリフだと思うかもしれないが、弟子時代は死ぬほど聞いたセリフである。

 

 ドーパントになった人間は、思考能力の大半が快楽物質に飲み込まれてしまいまともな判断が不可能となる。言うなれば本能のみで動く獣だ。だからこそ、普段やらない非道な行いさえも躊躇なくできるようになってしまう。僕はそんな人たちを何度もあの街(風都)で見た、実際に人質に囚われたことだって少なくない。

 

 誘拐というのは言葉ではわからない恐怖の感情を生みだしてしまう、それは何度味わってもついぞその恐怖から抜け出すことはない。これから自分は何をされるのか、自らの尊厳も捨てても生きたいと叫びだす本能。自分の人生を振り返り、何も成すことが出来なかった僕を嘲笑う誰か(自分)。あんな思いは二度とごめんだ、無論生徒にそんな思いをさせるわけにはいかない。それを成し遂げるのがどれだけ困難なのだとしても。

 

「…♪」

 

「…」

 

 今日の黒見はどうやら好調らしい、心なしか肩幅が広いような、そうではないような。少し耳を傾けると、彼女の鼻歌が微かに聞こえる。拍子はめちゃくちゃではあるものの、彼女独特のリズムにある意味音楽の才能を見出してしまいそうだが、今はやめにしよう。

 

 尾行の本質は「距離」にある、いかにターゲットとの適切な距離を取るかで技量の差が出る。攻める所は攻め、引くところは引く。その瞬時の判断によって結果は成立する。例えば、このような人の少ない場所は一見、かなり移動に時間を用してしまい目標を失う可能性がある。

 

しかし、それはあくまで己の身一つで尾行するのみに限る。世の中には通信機能という便利なシステムがある、そしてそれは僕のガジェットも搭載している。

 

「…いけ、バッドショット

 

『Bat!!』

 

赤のボディに黒のライン、市販品より少し大きめのカメラアイテム「バッドショット」。こいつには普通のカメラではない、シャッターの下にあるガイアメモリ挿入口には、僕が使う「フールメモリ」を入れられるのは勿論の事。「ギジメモリ」というガジェット専用のメモリを入れることで、虫や動物の形状となる「ライブモード」へと変形する。対象者の追跡やドーパント戦で非常に頼りになる存在なのだ。

 

 「バッドショット」はその名の通りコウモリになる、主に対象の追跡に特化した飛行型ガジェットだ。ちなみに、ライブモードでもカメラは使用できるので、証拠集めなどにも使えたりする。起動後、バッドショットのカメラを深い青と黒の「スタッグフォン」を繋げておいたので、これで最悪自分の尾行がバレたとしても、保険として黒見を追跡してくれるのだ。メインプランだけでなく、それが上手くいかなかったときのサブプランも用意してこそ、一人前の探偵なのだ。

 

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 しばらく彼女の尾行を続けていると、彼女は突如ショートした機械のように、ある一方を見て止まった。何が気になるのだろうか、彼女の視線に合わせると…

 

「…なんだあれ、張り紙?」

 

黒見の目に留まっているのは一つの張り紙。それを盗人のように鮮やかで刹那的な挙動で手に取った黒見は、今にもその紙を焼き尽くすような目つきで見ていた。

 

『そんなに興味深いものなのか、少し見てみようぜ。』

 

あまりの食いつきっぷりに関心を示したのか、ハイドが唐突にそんな事を言い出した。

 

…まぁなんか、もしもがあったら困るからね。一応、ほんのちょっとだけ確認しようか。

 

そんな軽い気持ちで見ようとした自分を、僕は英断だと考えるし、一人の少女の悲劇を止められたというのは素晴らしい事だと思う。

 

だが、ほんの少し、彼女のアレに対する執着に少し…いやかなりドン引きしてしまったという事についてだけ、墓まで持っていこうと思う。

 

 

 

 

 スタッグフォン内の映像を拡大し、黒見の持っている張り紙を拡大する。中身は…

 

 

「『マルチ商法の勧誘じゃねぇか!?』」

 

マルチ商法。それは猛獣が作り出した監獄だ。その猛獣は無知な弱者の夢を利用し、益を得る。さらにはその弱者さえも加害者側に引き込ませ被害を増やす、チェイン・オブ・トラジェディーズ(悲劇の連鎖)。正に人の知恵を極限まで悪用した、悪魔の行いそのものだ。ただまぁ、最近は多くの人がマルチ商法を認知しているので、こうしたコッテコテの張り紙を見ることは少なく…というかこんな露骨な張り紙は普通にない。さすがに騙されないくらいの知恵を彼女には持っていてほしいのだが…

 

『いや、アイツすげぇつぶらな瞳でアレ見てるぞ。』

 

 駄目でした。

選ばれたのは黒見さんではなく黒見ちゃんでした、完全に希望に満ち溢れた表情でアレを見ていますね。さすがに生徒が犯罪行為に引っ掛かりかけている状況は見過ごすことはできない、しょうがないので尾行は断念。彼女の元へ向かうため路地裏から出て、十六分音符程度のコツコツとなる靴音を響かせ、歩み始めた。

 

「え!?なんで先生!?」

 

 先ほどまで、彼女の世界には自分以外人っ子一人いない世界だったが故、気づくスピードは瞬発的だった。だが、先生()という事は想定していなかったようで、驚き8割と気まずさ2割、顔には驚きが表れていたが、その目にはどこか反骨的な感情が佇んでいた。そのあと、彼女の目は居場所を探すかのように航海をした後、自分の居場所(張り紙)を見つけ引きこもってしまった。まさか、ここまで僕の目を見ようとしないなんて…改めて、自分のしてしまった事を自省してしまった。だが、それとこれとは話が別だ。

 

 彼女の心意を確かめ、場合によってはその行いの意味を考えさせるべきだ。

 

 「黒見、それ…なんだい?」

 

 「…!これは…その…」

 

彼女が目を離さないソレを指差し、極力穏やかな口調で呼びかける。すると黒見は、どこかバツの悪そうな顔をしながら、ゴニョゴニョと何かを呟きながら両目を張り紙に伏せた。

 

 「間違いなら悪いんだけど…何かお金に関連する事だった?」

 

 「…!?なんでわかったの!?」

 

彼女は驚愕した顔をこちらへ向け、抜けない恐怖の感情を必死に押さえつけていた。まぁ図星か、知ってはいたけど。

 

 「…わかったわよ…話せばいいんでしょ。」

 

 「いや別に」

 

 「は?」

 

彼女はどうやら僕を鬼か何かだと思っているようだ。別に誰もかれもが自分の事を話したいわけじゃないし、それが信頼できない大人なら尚更だ。黒見は言動を考えるとそう思っているだろう。

だから聞かないし、踏みこみすぎない。というか黒見は結構表情に出るのでわかりやすいのは内緒だ。

 

まぁトドのつまり、僕が今できる事はただ一つ、たった一つのシンプルなことだ。

 

 「黒見、それマルチ商法の勧誘だと思うよ。」

 

 「…え!?嘘でしょ!?」

 

黒見は先ほどまで散々疑いの目を向けていたのに、それが180度回転し僕の言葉を鵜呑みにしている。

 

 「最ッ悪!こんな所で露骨にやるやつがいるかっての!」

  

おぉっとここで引きちぎったぁぁぁぁ!仮面ライダーアマゾンもびっくりの張り紙2分割が決まったぁぁぁぁぁぁ!

 

…落ち着け僕。いくら黒見が怒りに満ち溢れようとも、決して彼女はスーパーモードに変形したりしないし、目も赤くはならない。少年漫画の見過ぎで頭がおかしくなったのか、ハイドじゃあるまいし。

 

『おい、なんでそこでオレ出てくんの』

 

いやいや、貴方結構な確率で暴走しますからねうん。前だってミレニアム行ったときに褐色メイドさんの足舐めさせろとか言ってたよね?

 

『うるせぇ、アレは不可抗力。あんなもの出されて行かねぇ男はいない。』

 

…はぁ、全く。こんなんだから未だに彼女を作れた事ねぇんだよ。

 

『あ?それはオマエも同じだ。』

 

ライン越えたなオイ、おめぇの耳障りな声を消してやろうかボケ。

 

『あ?そっちこそてめぇの身体を奪う準備できてるんだよ。』

 

 …

 

『…』

 

そこから先は一瞬の出来事だった。奴をぶっ飛ばすという単一化した思考の前には、もはや有象無象など写っていない。ハードバイルドな僕の唯一と言ってもいい汚点。魔法使い一歩手前の屈辱は生後3か月の赤ちゃんには理解できないらしい、仕方ないよね、赤ちゃんだもの。

 

『あぁ!?誰が赤ちゃんだ!オマエこそいつまでも少年漫画見て泣くのやめろ!こっちが泣きたくなんだよ!』

 

お前な!?少年漫画には夢と希望が溢れてるんだぞ!感情が揺さぶられるような感動を味わったことないのかよ!そっちこそいい加減グッズ買うのやめろ!僕の部屋をどんだけグッズまみれにする気だ!

 

『うるせぇあれは生活必需品じゃ!あれなきゃオレ成仏しちまうんだよ!』

 

ハッ!じゃあ捨ててやるよ!てめぇみたいな浪費家がいなくなれば少しは事務所の借金が減るからよ!

 

『はぁ!?その言い草ねぇだろ!』

 

言う事欠いてそれか?てめぇのボキャブラリーはひよこ以下だな!

 

『カタカナ使ってりゃカッコいいと思ってるナルシストに言われたくないわ!』

 

そんな日の球ストレートでキャッチボールを続ける事、実に2分…

 

『なぁ…黒見どこ行った。』

 

「あ」

 

この後、結局アビドス高等学校へ向かう事にした。

 

 

 

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「いらっしゃいませー!」

 

 ここはアビドス地区において、数少ない飲食店「ラーメン紫関」。黒見セリカという少女は、自分の時間をあらゆるバイトにつぎ込むバイト戦士。それはたかがバイトと侮ってはいけない、彼女の実力はこの店の店主「柴大将」も認めており、現在は店の看板娘として人の出入りが不安定な状況を支える二柱のうちの一つだ。ちなみに、もうひと柱は大将の腕前だと常連は語る。

 

 後ろ髪には白い三角巾を巻いており、結び目は頭と首の付け根部分となっている。結び目を中心にできている円の空洞からは、彼女のアイデンティティの一つと言えるポニーテイルを開放させている。衣装は業務用の「紫関」のロゴが入っている和風エプロンを腰部分で結び、上は黒のTシャツと胸元の水色リボンが特徴的だ。Tシャツ右胸元のポケットには名札がついており「黒見」と書かれたラミネート済みの紙を入れている。

 

 接客時には、普段仲間たちに見せる事が少ない笑顔を振りまける。だが、彼女には今、普段無意識にやっているような行いも意識的になってしまうほど、彼女の要領の多くを占める悩み事が生まれてしまった。

 

『なんなのよ…アイツ(先生)。』

 

 そう、それは先生だ。つい先日、シャーレとかいう場所からやってきた大人。急に仲間になりたいとか言い出したり、土下座したりといろいろ忙しい大人。さっきまでは自分の右肩を左手で掴み取っ組み合いをしていたので、めんどくさくなり無視した大人。他の仲間たちは、彼を受け入れる中、彼女のみは唯一、打ち解けることが出来なかった。現在の彼女のキャパシティでは、彼の奇行を理解することに多くの時間が必要だ。一つ一つの行動の心意を知り、理解をするまで至らなければ、彼と彼女の意思が交わることはないだろう。だがそんなことに時間を割くぐらいなら、今すぐにでも働いて借金を返済するべきだ。彼女の理性はそう告げるものの、どこか納得しない感情をひた隠し、必死に目をそむこうとバイトに集中することを彼女は決意した。

 

 すると、ガラガラと戸を開ける音が聞こえる。次のお客さんを案内しようと、黒見は客の方へ向かっていくと…そこには。

 

「やっほーセリカちゃん、来ちゃった。」

 

間の抜ける声で黒見を呼び掛けたピンク髪の上級生、小鳥遊ホシノが発言を皮切りに、他の仲間たちも黒見へと会釈や返事など様々…そして、彼女にとって最悪な一日の始まりでもあった。

 

「こんにちは黒見、さっきぶりだね。」

 

「い…いらっしゃい…ませぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回

「Sに願いを/なぜ君は一人なのか」


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第十話「Sに願いを/なぜ君は一人なのか」

☆祝、評価5件達成!&UA4000突破!&誤字脱字報告!
まじでうれしい(号泣)

これも応援してくださった読者様のおかげです!これからも本作品を応援してね!
(課題終わらない)

うへぇ、おじさんの3Dモデルとか私尊死しちゃうよぉ。まじで!

シロコもつえぇし、ハフバ前に石刈り取らないで~

てかレイドワカモめっちゃ報酬うまいやん。

さぁ、本編の対策委員会編がはじまりまっせ…旦那。


「というかッ!どうして先生がいるのよ!」

 

「だってセリカちゃんがこの時間いる場所ってここぐらいでしょ~。それに、先生を連れてきたのは私、責めるのはやめたげてね。」

 

「ホシノ先輩…」

 

 

 

 

 

「なんで先生が後輩になってるんですか…」

 

ついつい小鳥遊のイケメンムーブについキュンとしてしまった。今も彼女の周りにきらきらフィルターは抜けないが、奥空の一言により現実を取り戻した。なので今に至った経緯を黒見に説明しようと口を開いた。

 

「あの後学校に行ったんだよ。そしたらみんながいたからご飯をおごろうと思ってね。」

 

「うん、そのあと事情を聞いた。だからせっかくならセリカのとこ行こうってホシノ先輩が言った。」

 

 僕の話に追従したシロコは、簡潔かつあっさりと黒見に現実を突きつけた。だが、やはりソレを受け入れたくない黒見は壊れたように「ソウナンダー」とbot返しを繰り返す残念な子になってしまった。正気に戻るのはしばらく先だろう。こうしてつっ立っているのも周りの目が痛いので、おとなしく自分で席を見つけようとキョロキョロあたりを見渡す。

 

「お、アビドスの生徒さん方と…そこの兄ちゃんは…たしかどっかで聞いた事あるような…」

 

調理の最中であるにも関わらず、動けない黒見に変わり僕たちの接客をしてくれる人情深い()()。ふさふさの身体からはとても想像のつかない渋い声を出す柴大将は、どうやら僕の事がわかるのかわからないのか、首を傾げ必死に海馬の情報を辿っている。

 

 認知されて嬉しいのか、その上忘れられて悲しいのか、とても微妙なラインである。

 

「どうも、シャーレ探偵事務所の先生です。うちの教え子がいつもお世話になっているので、ご挨拶をと。」

 

「なるほど!シャーレの「先生」か!寛ぎやすい場所じゃないが、ゆっくりしてってくれ。セリカちゃん、落ち込んでるとこ悪いが席を用意してあげな。」

 

「…うう…広いお席を用意しますので、少々お待ちください…」

 

黒見は柴大将の一声によって、そそくさと席を準備しに行った。

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「なんなのよ、もう!」

 

 「紫関」の営業も終了したという事で、いつもの学生服へと姿を変え夜の街へと潜り込む黒見 セリカ。行先は勿論自宅、彼女はバイト戦士である前に一人の人間。どんな人間であっても最後は床につくのが正しい判断である。さらに言えば、今日のバイトはアビドスと先生が来たことによる心身疲弊が凄まじい。

 

 一年先輩であるシロコとノノミ(十六夜)のどちらの隣に行くか迷う先生(なお本人はどちらに行っても女性免疫のなさが露呈するのでカウンターへ行きたかった)。そのままノノミとホシノ(小鳥遊)による褒め殺し口撃、怒涛のクリーンヒットにセリカは心が折れそうになった。正直本気でおじさんがおじさんだと思ってしまった、とセリカは意識的に考えてしまった。そんな中、アヤネ(奥空)は「早く頼め」と無言の圧を与え、その場の全員を震え上がらせた。あれは間違いなく「アビドスの魔王であった」と、のちに先生は語った。

 

 さて、そんな苦労人気質なセリカ氏にも、実は意外な趣味と言うのは存在する。

 

 それは貯金である。バイト戦士である彼女の原動力はたった一つ、貯金箱に自身が生み出した利益をつぎ込む事。最初は自身の出身校、アビドス高等学校を守るためにしていた貯金。それがいつの間にか日常となっていき、ついには「趣味」となってしまった。つくづく、人生とは未知とロマンに溢れているのだと錯覚してしまいそうになる心をひた隠しながらも、明日も、明後日も、セリカはバイトをし続ける決心を固め、相変わらずの鼻歌を響かせながら、今日もまた家に帰る…

 

 

「…」

「…あいつか?」

 

わけにもいかないようだ。黒と赤のヘルメットをかぶった少女が二人、黒見を指差し何かのやり取りを始めた。

 

「はい、そうです。アビドス対策委員会のメンバーです。」

 

黒ヘルメットは黒見を指差しそう答える。手には重火器、彼女の白く輝く輪っか「ヘイロー」は、無機質にも光り続ける。すると、赤ヘルメットは合図を送りライフルを構える。

 

「次のエリアで捕獲だ、いいな?」

 

「了解」

 

「了解だ。」

 

すると、彼女たちは黒見の後に近づく為、気配を殺し歩みを進める…?

 

「待て」

 

「どうしました、団長。」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ええもちろん。この任務は二人で誘拐を達成することです。

私たち以外にいるはずが…ちょっと待ってください。」

 

「さっき、もう一人声がしなかったか…」

 

『いつから、一体いつからだろうか。このような隠密能力があるヤツがこの場にいるとは』。赤ヘルメットは内心で毒を吐きたくなる気持ちを抑え、時期に来る刺客の為に戦闘態勢を取る。

ライフルを構え、後ろを黒ヘルメットに守らせる。余程の事がない限り、刺客に一撃で葬られることはないだろう。赤ヘルメットは確信さえ持てた。

 

そう信じて、いずれ来るであろう敵襲の前に、一度黒ヘルメットの様子を確認しようと後ろを見る。

 

 きっと、彼女は忘れることはないだろう。濃密なまでに圧縮された戦闘時間。そして、どうあがいても生き延びることが出来ないと心の底から切り刻まれた自信という名の紙屑のみが、彼女らを支配するだろう。

 

ソレは正に、生命の終わり(願いそのもの)であり、命を供物とするバケモノ()であった。

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「ッ!ドーパントか!?」

 

 黒見の靴に仕掛けておいた「敵性生物探知型GPS」。新型デンデンセンサーに搭載されているシステムの一つだ。彼女には悪い事をしたが万が一の為、貼らせてもらった。だが皮肉にも予想が当たり、あらかじめ近くにいたお陰で早めに合流することが出来そうだった。

 

しかし、それはコイツに阻まれることになる。

 

 バイクを操縦中、深い暗闇から突如襲ってきた存在。丸い点が無数に存在する、まるで夜空に彩る満点の星とそのほとんどが漆黒、どうりで夜だと見えずらいわけだ。顔はまっくろくろすけのように暗く、未知のダークマターと遭遇した気分になり、人間の探求心を湧きあがらせてしまいそうだ。まぁこんな異形はドーパントぐらいしかあるまい、おそらく財団X、木内の差し金であることは確かだ。今度会ったらただでは済まさねぇ。ただ、今はそれどころではない。

 

 バケモノは僕の進路を徹底的に邪魔したいようで、先ほどからどれだけ避けても追いついてくる。どうやら、ここから先は通すつもりはないらしい。上等だ、こっちが止めてやる。早速フールメモリと大人のカードを取り出し、変身をしようと構える。どうやらあちらもヤル気が満々のようで、隙のない構えを見せ、こちらを威圧してくる。おそらく威圧をかけることで、下手な動きを取らせないようにしているらしい。どうやら、コイツの変身者は相当腕のいいヤツだと感心しそうになる。だがおそらく、ここで気を抜いた瞬間殺されるのは確定なので、雑念を失くすため息を整える。

 

しかし

 

『やめろ!今ここで変身は得策じゃない!』

 

ハイドが突然呼びかけた。いつもは大した干渉をしないくせに、こういった時に出てくることに苛立ちを感じた僕は、思わず強い口調で当たってしまった。

 

「はぁ!?じゃあどうすりゃいいんだよ!?」

 

『ガジェットを使って様子見を取れ!変身は最後の手段だ!』

 

「…チッ!仕方ねぇ!」

 

悪態をつきながらも、スタッグフォンを取り出し様子見をしようとする…しかし、現実と言うのはどこまで行っても虚しいだけなのか、本当に守りたい者すら守れない欠陥品だらけの自分を責めればいいのか、バケモノはどうしようもないやるせなさを、僕にぶつけてきた。

 

「…」

 

あのバケモノが抱きかかえていたのは、よりにもよって。そう、よりにもよってだ。

 

「…テメェ、その子(黒見)に何しようとしてんだ。」

 

 

-----------------------------------------------------------------------------------------------

 

…景色が変わる。

それは雨の日だった、それは楽しい日になるはずだった。

 

けど、それはまやかしに過ぎないと知ることになった。

 

…異質な姿を持った男に、殺されかけたあの日。

 

自身の兄と共に逃げた、あの日。

 

先ほどまで兄と呼んでいた肉塊を、自分の温かい手で触ったあの日。

 

何も出来ない自分を呪った、あの日。

 

 

あの日も同じ、夜だった。あの日も似たような、怪物がいた。あの日も確か、何気ない日だった。

 

 

 

 

…違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う

 

 

…そうだ、あの日とは違う。今度こそは必ず守るんだ、今度こそは、必ず。

 

 

…まさか!過去に飲まれるな!気を確かに持て!

 

誰かの声がする、知らないが…まぁいい。

 

ぼんやりとすることばなんだから、きっとどうでもいいことだ。

 

 

「…変身!」

 

 

そう、助けるんだ。

 

 

この力で、今度こそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回

「Sに願いを/呪い」


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第十一話「Sに願いを/呪い」

えー、まじで申し訳ないです。ハイ。

 ホシノ推し侍としては、今回のシーンを色々考えこんでしまい気づけばこんなに日にちが経っていました。

どんな形であれ、この作品を開いていただいた読者の皆さんには感謝しています。

これからも定期的にやらかす可能性大ですが、そのたびに生暖かい目で「何やってんだオマエ!」と説教していただけると助かります。


※直近の作者は後書きの方で書いています




「…クソッ!こうなったら!」

 

ハイドは焦燥に駆られる先生を止めるため、普段ロクに使わない思考を全力稼働させた。全ては彼の「変身」を止めるため。

 

 先生が変身を可能としているのは、「寿命」という代償を得て生まれた奇跡の産物。そう易々と変身してしまえば、結果()など見えたも同然だ。そしてそれはハイド自身の消滅にも直結する。この身体を二人で共有している以上、逃げる手段などは一つたりともない。

 

 ハイドが取れる選択肢は二つに限られる。一つは「主導権を無理矢理奪い取る」ことで、もう一つは「諦める」ことだ。無理やり奪うとしても、今の彼の暴れっぷりを抑えるには誰かの助力が必要だ。だが現状、そんなものは存在しない、どうしようのなさに諦めも脳裏にちらつくハイド。

 

 

 今ここで力を使ってしまえば、敵の能力がわからず混乱。ただ二人の死を早めるだけで何の得にもならない。やけに冴えた彼の思考は、冷静にその事実を読み上げている。今現在のハイドは先生の右腕のみが使える。なので時間稼ぎとして、カードを持っている左手をガシっと掴んでいる。しかし、所詮は焼け石に水みたいなものなので、この状態を維持できるのも時間の問題だ。運が良ければ援軍、最悪の場合は変身。

 

命までも賭ける最悪の博打だ。

 

臓器の一つや二つならまだしも、命という「たった一つ」。それをこんな早い段階で天秤にかける行為は、さながら「愚者」そのものである。もし仮に彼の表情が見れるのだとすれば、さぞ皮肉だを帯びた笑みを浮かべているだろう。

 

「…離せ、ハイド。」

 

 (先生)は今までの態度が嘘かのように、静かな殺気を怪物に押し付ける。その態度に瞬間、無い脚が竦みそうになるハイド。今の彼には、どちらが怪物なのかの基準が曖昧になるほど、状況に飲み込まれていた。否、男を直視できなくなってしまった。しかし、ここで引くわけにはいかない。

 

ハイドには死ねない理由がある。それは他者から見れば矮小なもので、浅ましい欲望である。だが、それでも。

 

『オレは自分の為に生きたい。』

 

諦めることなど、出来るはずない。

 

こんな所でくたばるわけにはいかない。

 

こんな所で人生を消費する気など毛頭ない。

 

自分の為に生きて、自分の為に死ぬ。

 

究極なまでの自己愛主義。それこそが彼の本質であるからこそ、先生の意思を拒絶する。

 

己の幸せのみに生きる、愚かでありながら最も賢い行いをする存在。

 

 ならば、賭けるしかないだろう。それが例えどんなに薄い望みであろうと、生きる事をあきらめるわけにはいかない。

折角目覚めることが出来たのだ、信じて耐え抜く程度で先の楽しみが得られるなら後悔することもない。

 

 『どうせこの男(先生)もオレ並の頑固野郎だ、オレの本気も何とかなるさ。』

 

ハイドはたった数か月の同居人をそう評価し、全神経を右手に集中。

己の欲望をソレに込めることで、邪気のこもった筋肉の塊と化した右手。それは確実に左手首を絞めあげ、一瞬ではあるものの血の流れを止めた。

 

結果、カードを持てなくなった左手を抑え悶絶。偶発的であるものの、見事変身を防ぐ事は出来た。

 

 『何とか最悪は免れたが…コイツぁちょっとまずいな。』

 

 歓喜に打ちひしがれようとする内心を抑え、冷静に戦況を分析する。

 

正直、今の状況は全く良くないものである。最悪は免れたものの、未だドーパントは健在。黒見も意識がないままヤツに担がれているし、増援も期待できそうにない。

 

災難去ってまた災難、万事休す。何とかしてでも生きようとする根性も、そろそろ根を上げてしまいそうになる。

 

『ああ、奇跡でも起きないかなぁ…できればおぶってくれる…』

 

「はい♡あなた様の為にこのワカモ!粉骨砕身でおぶらせていただきますね。」

 

『…え、なんで君ここにいるの。』

 

 

ハイドの心からの叫びは、彼女に届くことはなかった。

 

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 突如現れた乱入者、狐坂 ワカモは先生の助けを直感的に察知したことで、今このアスファルトの上に降り立っている。常日頃から純度100%のLOVEを先生に抱いている身として、理想の恋人兼伴侶である彼の助けを見逃すこと。それは神が許してもワカモ自身が許すという選択肢はない。

 

 そもそも論。彼の絹のようにしなやかな手。それをまるでタコのように赤く膨れさせている時点で、目前のカスの処分は確定している。

 

だが、今回最優先すべきことは先生の安全を確保することである。非常に残念ではあるが、今回は「彼女」に役目を譲るとしよう。

 

「さ、貴方様。しっかり捕まっていてくださいね。」

 

 ワカモはまるで清渓川の鮮やかな水流ような手さばきで先生を回収、いわゆるお姫様抱っこ状態にした。その体感時間、約0.6秒。災厄の狐と恐れられるほどの身体能力と、過剰なまでの先生愛が奇跡の舞を起こした。翌日、途方もない練習の代償により、彼女の腕は筋肉痛を起こすことを知る由もない。

 

 あまりにも鮮やかな手さばきだったため、ついさっき意識を取り戻した先生は驚きを隠せなかった。だが、彼女の規格外さはいつもの事であるが故、すぐに適応してしまった。

 

「うへー、こりゃまたすごい事になってるねぇ。先生ってもしかして、結構トラブルメーカーだったりする?」

 

この場には似つかわしくない緩い空気をまとわせながら、小鳥遊 ホシノはワカモと先生の目前へと立つ。

 

一瞬、彼女らしい殺気が彼を見やる。

 

『本来の彼女に似つかわしくない』

 

そう思いつつも、これがあるべき姿のようにも思えた思考に、心は眉唾を吐く。彼女の居場所は戦場ではない、アビドスであると何度言えば本能が収まるのだろう。どうしようもない事実と自己嫌悪のスムージーを飲み干せるほどの度量が、今の彼にはない事が誰にとっても明白だった。

 

「ここは私がやるから、あなた達は逃げて。」

 

冷たい炎をその身で受けた感覚だった。その眼差しはどうしても冷たく、だが「殺意」が熱量をもって実体化している。それが今の小鳥遊 ホシノであった。

 

『これがただの犯罪者ならば、何も思わなかったであろう。』

 

 こんなイカレタ目つきをした人間など、先生がかつて住んでいたあの都市ではそう珍しい事ではない。彼ら犯罪者がするあのイカレタ目つきは嫌いではあったが、それが日常となっていた彼にはソレだけでは何も響かない。

 

 だが、この少女は簡単にそんな真似をした。あの目を平然と見せる事が出来るバケモノに本能が目覚めた。生物特有の生存本能が、彼に避難アラートをやかましく伝えている。

 

「…先生、行きましょう。」

 

甘美な選択だった。論理的に考えれば、ワカモの選択こそが生存における最適解。現在はエネルギー消耗によって、会話には参加しないハイドであってもそれに同意していた。

 

だが、事もあろうも先生だけは違った。

 

『兄ちゃんの夢って…何?」

 

『そうだな…』

 

『「俺は先生になりたい」』

 

 遠き冬の夢、朧気ながらも覚えている欠片。遠く誰かを見つめた瞳は、今も抜け落ちることはない。

 

どうしたって、自分を曲げることはできなかった。

 

「最後まで一緒に戦う、それが先生だからね。」

 

「「『…』」」

 

知性を持った全てが、この回答に多種多様な反応を示す。

 

あるものは諦観

 

あるものは困惑

 

そして最後は…

 

「…承知しました。このワカモ、必ず貴方様をお守りいたします。…どうか、無理はなさらず。」

 

 協力であった。彼女の本心としては、シャーレに戻ってほしい所ではある。だが、そうすれば彼の心は守れない事を、できる妻である彼女は理解していた。それに、先生の雄姿をこの手で見届けたいというのもあるのは内緒である。

 

「先生はもうとっくに頑張ったでしょ、なんでそこまでして。」

 

 冷徹な視線を更に研いで細める。小鳥遊の目はもはや、敵を見る目と遜色がない。

 

「先生だからさ」

 

「嘘だ、あなたはずっと誰かを見てる。」

 

「…まいったな、確かにそれ言われたらお手上げだ。」

 

 どうしようもなく、正論であった。彼女はもう、先生という人間の一部を見抜いている。それは最初から彼を疑い続けた彼女だからこそ出来たことであり、実際に先生が図星を突かれて頭を掻きながら、返答を考えている。

 

『ほら、どうせお前ら大人は私やみんなに嘘をつく。』

 

どうしようもなくねじ曲がった彼女の思考は、先生という存在の失望と共に戦闘に入るはずだった。

 

「…これ以上、失いたくないから、戦う理由はそれだけだよ。」

 

「…え?」

 

 予想の範疇を越えた回答に、思わず彼の方を見入ってしまう。

 

刹那、誰かの思考が脳内へと入ってきた。肉眼の筈なのに、敵性反応やレーダー、さらには弾薬の数も表示される始末。

 

『一体、誰がこんな事をしたんだ…まさか!』

 

 彼の顔から下に目を向ける。すると、パッドから出ている見えない同線が、私のヘイローとリンクしていた。あれはおそらく、ヘルメット団との戦いで使ったシステムと同義だ。生徒の身体能力を接続中のみ強化、情報を全体に共有することが出来るシャーレの先生のみ許されたシステムだ。

 

 だが、それは生徒が許可をしない限り接続は許されないはず。さっきまでは接続を許してなかった…さっきまで?

 

 小鳥遊の思考が一つの結論を導いた。

 

『これ以上、失いたくないから、戦う理由はそれだけだよ。』

 

 まさか

 

『ホシノちゃん!』

 

 まさか

 

『なにやってるんですか、ユメ先輩』

 

 私がたった一言で、あの男を信頼できる存在だと本気で…

 

『…今度はこの盾で、あの子(後輩)たちを守る。』

 

 そんな、バカなことが

 

『これ以上、失わないように』

 

 

 

「…バカだなぁ、ホント

 

「…?どうかした小鳥遊、もしかして体調とか悪い?」

 

「…せんせぇ~、それ今聞くの?

ほんと、なんでこんな人が大人なんだろ。」

 

「え、急に棘強い。」

 

 この大人は、先ほどまで殺す寸前であった私を、あろうことか体調まで気にし始めた事に思わず笑いがこみ上げてしまう。こんな所を見せられたら、彼がまともな嘘をつけるとは到底思えなかった。

 

『うん、これなら少しは信じてもいいかな。』 

 

 小鳥遊は再び目の前の敵を見つめ、我が後輩を連れ去らんとばかりする愚か者に向けて愛銃「Eye of Horse」を向ける。彼も後ろへ立ちながら、ヤツを射抜かんばかりの殺気をぶつける。

 

「ま、その感じなら大丈夫そうだね。さっさとケリつけて、黒見を持って帰ろう。」

 

「うへぇ、持って帰るだなんて。先生も大胆だねぇ。」

 

「…!?何言ってんだ小鳥遊!それは言葉の綾っていうか…」

 

「あれぇ、何を想像しちゃったのかな。おじさんにも教えてよぉ。」

 

「…あぁもうしゃらくさい!さっさとやろうぜホシノ!そういったのは後からだ!」

 

「…ふぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




水おじきちゃぁぁぁぁぁぁぁぁ

アニバキャラもそろいそろったぜぇおッしゃぁぁぁぁぁぁ!

コロナかかったぜちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!

ギリ自粛期間終わったからコミケ行ったぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!

ホシノ本は世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!

以上、私の夏休みでした。






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第十二話「Sに願いを/遠い星は砕けない」

待たせたな(n回目)

色々悩んだが…やっぱりこれしか思いつかんかった…

体操服ユウカとマリーはゲットしたものの、天井は痛すぎたYO…

次のイベントもアツそうっすなぁ…やっぱブルアカ最高すぎひん?




 疾走る、疾走る。無数にわたる拳の応酬を、イナズマのように回避する少女。小鳥遊 ホシノは、目前の怪物「ドーパント」に対する効果的な対策を発見できずにいた。

 

『…これは骨が折れそうだねぇ。』

 

いつもなら柔らかい笑みを浮かべ、作業のように敵を処理する彼女。だが、そんな余裕が消え去るくらいこの状況はあまりに危険であった。

 

 数分前、先生からのアシストを受けた彼女とドーパントのワルツは、濃密なまでの心理戦と共に回り始めた。生半可な死線を潜ってきたものなら潰される程度の威圧、現状の視界から確認できる武装と戦略の全てを彼女のデータベース(脳内)へアクセス。あぶりだした結論はただ一つ、それは「拳によるインファイト」であった。

 

 この結論が出たという事は、それ以外の武器を持っているという可能性が上昇。最低でも武器取り出すための数フレームの瞬間に隙が出来る。間合いを意識し、冷静な対応を取ることが出来れば後輩を助けることが出来る。彼女はそう判断した。

 

 しかし、それを遮ったのは「経験」であった。

 

『本当にそうか?』

 

 幾戦にも及ぶ戦闘経験は、彼女の視覚情報を踏まえた結論をたった一言で悉く否定して見せた。実際にそういった隙を敢えて作る敵と対峙した経験もこの疑問を後押しする形となった。少々疑りすぎる節はあるが、どんなことにも絶対はない。それは戦闘という行為も例外なく、もし相手にリーチ差を補える要素が存在すれば…もし相手が自分の後輩を盾にしたら…考えれば考える程、沼に嵌ってしまう思考回路。

 

 普段ならば冴えた思考が、後輩の命の手綱を握っているという事実に雲隠れしてしまう。失う怖さを知っているホシノにとって、それは何よりも致命的な事であった。

 

 このバケモノに立ち向かうというだけでも思考が狂いそうな上、後輩救出の手段も考えなければならない。先輩というのは、かつての自分が思っていたより辛く苦しいものだという事に、どうしようもなく嗤ってしまいそうになるホシノ。

 

 すると、距離を見誤ったのかはわからない。ドーパントの拳が髪の毛の先につきそうなまでに近づいていた。咄嗟に膝を曲げ、拳が当たると予想するラインを回避。さらに反撃の態勢を取るため骨盤左に愛銃「Eye of Horse」を構え、一気に銃口を心臓部分である左側胸部へ押し付ける。

 

「…!」

 

瞬間、顔をあげたホシノと目線が合う。その凍り付いた視線をその身に受け、思わずたじろぐドーパント。その一瞬を少女が見逃すはずもなかった。

 

装填済みの弾丸、二発を胸部に放ったが、一発目でヒビが入った、二発目は無傷。命中したはずの胸部の亀裂が、今もギチギチと何かを目覚めさせようとしている。コンマ二秒ほどでこの行動が危険と理解した彼女は、対象を胸部から頭部へと変更。ショットガンの衝撃で正気を取り戻したドーパントは咄嗟に腕をクロスし、防御の姿勢を取った。

 

 だが、その行動こそが彼女の狙いだという事。それに気づいた頃には、ドーパントの右肩には何も残っていなかった。

 

「悪い、この子は僕の生徒だからね。」

 

 スパイダーショックのヒモに巻き付かれた黒見 セリカを、お姫様だっこの状態で抱える先生。完全に虚を突かれたドーパントは思わず彼の方を向いてしまった。

 

「…」

 

瞬間、ドーパントの意識は顎部分への衝撃と同時に、プツンと切れた。

 

----------------------------------------------------------------------

 

「ここを離れよう、またいつドーパントの意識が戻るかもわからない。」

 

 先生はセリカちゃんを背負ったまま、自身のスタッグフォンテンキー「1・3・#」を押した。私としては、こんな危険な状況で携帯をいじる場合ではないと言ってやりたい気持ちがあった。しかし先生の冗談のない表情を見て、この状況で必要な事だと察する。何をするかは自分の範疇にあることなので理解はできないが、少なくとも全てを任せることはとても心苦しかった。せめて自分の後輩くらいおぶらせて欲しかったので、先生に一言告げてセリカちゃんを背負う。

 

『…随分大きくなっちゃったねぇ、セリカちゃんも』

 

 一年の時よりも一回り大きくなったセリカちゃんに引っ張られ、こけそうになる身体を支えるため腰部分に力を加える。すると先ほどまで不安定だった重心が安定。なんとか状態を維持できる程度には体力があった事にほっと息をつく。

 

 時刻は夜23時、いつもならばとうに寝ている時間。だが、まだここは危険地帯である以上、安易な思考が死をもたらす。倒れたドーパントの異変にすぐさま気づけるように、決して対象から目を離すことはない。そうこうしている内に、先生が私の隣へと来た。

 

「ありがとう、小鳥遊。今度は僕が。」

 

「大丈夫…と言いたいけど、アレ強いからねぇ。おじさんもセリカちゃん守りながらはキツイかも。

…セリカちゃんの事、任せたよ先生。」

 

「あちゃあ、これは大事なもの背負わされちゃったか。」

 

 先生は少し崩した笑顔を見せながら、割れ物のように優しく抱える。先ほどまでの凛々しい瞳とは違う優しい瞳だった。

あの子を優しく抱える彼は、まるで子を慈しむ親のような表情をしていて少し心の芯が温まる。

 

 

 

 

 

 

 

しばしの沈黙の後、私は先生に切り出す。内容は先ほどの発言との矛盾の件についてである。

「…先生、いろいろ聞きたい事があるんだけどさ。なんで今すぐ逃げないの、また目覚めたら今度こそ手に負えないよ。」

 

 彼はその疑問に対し、特に驚きも感じない表情だった。大方、私が疑問を持ちかける前からその答えを用意していたのだろう。

 

「最初はそれが最適解だとは思った。けど、それは徒歩かバイクによる手段しかない。バイクは論外、4人を乗せる事は不可能だしね。」

 

先生が視線をバイクへ向ける。これは私も理解できた。だけど、徒歩以外の策がない事も、この状況で理解できるはずだ。

 

 

「そしてここは一直線の道、ドーパントの多くは人間である以上、どんなに逃げた所で道の先に必ずいると考える可能性もある。森の中に入れば一時的な避難は可能だ。だけど逸れる可能性も、遭難する可能性だって十二分にある。生き残るために逃げるはずが、却ってそれが困難な状況になるんだ。」

 

 残酷なまでの客観的事実に、思わず俯きそうになる気持ちを抑える。

 

 

『そんな事を考えるのは、本当にどうしようもなくなった時!』

 

 一瞬でも絶望の沼に引き込まれかけた自分に喝を入れる。こんなザマではあの人に顔向けできないし、何より自分で自分が許せなくなる。だから最後まで諦めたくない、どんな手を使ってでも後輩だけは助ける。例えそれが、自身の破滅を招くことだとしても。

 

 私がそう決意し、改めて先生の話を聞こうと顔を向ける。

 

「…大丈夫?どこか痛むとか…」

 

 先生は急に、というか今更そんな事を言い始めた。なんでそんな事…まさか!?

 

「ごめん先生、もしかして…怖い顔しちゃってたかな私。」

 

「…!

ああいや、まぁ…その…」

 

「…」

 

 言葉を濁してはいたが、どうやら私の予想は当たっていた。

 

「…」

 

「もしかして…見られたくなかったかな。だとしたらごめん!」

 

 先生は私が気に障ったと勘違いしたのか、90度ぴったりの綺麗な謝罪をした。質、速度ともに良質すぎて、もはや狙ってやったのではないかと勘違いしてしまうほどだ。もしかしたら、こと謝罪において彼は天下を取れるのではないだろうか。

 

 閑話休題。

 

 先生は私が怒っていると勘違いしているが、実際はもっと別の事だ。『私はまだ彼と出会ったばかりだというのに、何故こんなにも本音を表に出したのか』という自身への疑問だった。いつもは部外者、ましてや大人ともなるとどこで私たちを騙そうとするかわからない。なのになんで今更、こんなに自分を出してしまいたくなるのか、彼に心を許してしまいたいたくなるのか…私を見ているようで、本当は誰も見てない瞳に狂わされそうになる。

 

『やっぱり、大人は嫌いだ。』

 

まるで子供の癇癪じゃないか、私。

 

--------------------------------------------------------------------------------------

 

「えーっと…話の続きをしていいかい?」

 

「うん、大丈夫だよ。」

 

「…そっか」

 

先生は気づいていた。彼女が仮面を付けなおした事を、だがそれを指摘する必要もないと思った。無理に距離を詰める事は黒見と同じ事になるだろうと判断したからだ。

 

「早速話の続きを…と思ったんだけど、噂をすれば…」

 

 彼はそう言い、一本道の方を見やる。小鳥遊もワカモも視線を合わせると…

 

「あの巨体…まさか!」

 

「…え?わかるのワカモ。」

 

「…最近シャーレに来た『アレ』かと思ったのですが…」

 

「なんでわかるの君…」

 

「あなた様の事なので♡」

 

 黒いボディに赤い瞳のようなバイザー、その上には二本のアンテナが出ている。中心には銀の線。まるで「仮面ライダーフール」の容姿をモチーフとしたデザイン、その後ろには円形の格納庫「リボルバーハンガー」がむき出しになっていて、赤の物体と黄色の物体が格納されている、巨体かつ個性的な四輪車が迫ってきた。

 

「えぇ…何アレ先生。」

 

 小鳥遊は困惑の感情を抑えきれず、つい口にしてしまった。

 

 

 無理もない、キヴォトスという都市であんなものを作れるのはミレニアムのクレイジー二アス共(エンジニア部)くらいなものだ。何をどうしたらこんなものを先生が持っているのだろうか、彼女はいろんな意味で先生が怖くなった。

 

「あれはリボルギャリー、僕の探偵道具の一つさ。乗り心地は最悪だけど安全に脱出ができる。」

 

 リボルギャリーは先生たち一行の前に着くと停止。中心部分の銀の線が開くと格納庫のような形態「オープンハッチ」となり、先ほど確認できた黄と赤の物体の他に緑の物体もそこに現れた。

 

「さぁ、乗ってくれ。」

 

 先生の声に従い、段差をもろともしないジャンプで飛び乗る。中を見ると、運転システムも搭乗席もない事に気づいたワカモ。

 

「あなた様…座れる場所などは無いのでしょうか…」

 

すると彼は一瞬、こちらを見ながら答える。

 

「ああ…うん。ないよ。」

 

「…」

「…」

 

 絶句した二人、さすがのワカモでも「マジかこの人」という目線を向けてしまった。座り心地のクソもない、そもそも座る場所がないとか…それは人を乗せる車としてどうなのだろうか。二人の意見が初めて合致した瞬間だった。

 

「…あー、はい。今度座席付けとくよ…」

 

 今思えばよくこんなの乗ってたなと思う先生だった。

 

 閑話休題。

先生はキヴォトス人ではないものの、長年乗ってきたものなので乗る時間も大してかかることはなかった。無論、黒見はあらかじめ小鳥遊が乗せている。これで準備は完了し、いつでもこの場を離れることが出来る。

 

「よし、出発!」

 

スタッグフォンのコールボタンを押すと、リボルギャリーは先ほどの四輪車モードへと変形する。バイザー部分がもとに戻ることで真っ暗となる車内、これからどうやって運転するのだろうかと不安8割緊張2割の心情である小鳥遊。すると、右輪と左輪が逆方向に回転。先ほどまで走行していた道路方面へリボルギャリーが右回転する。方向転換が終了、すぐさま目的地へ向かいだした。

 

 

「せんせぇ!これどうやって運転するのぉ!」

 

「AIだよ!一応目的地をシャーレにしたけど大丈夫!?」

 

「明日帰れば大丈夫!」

 

 装甲車の車輪で音がかき消されると考えたのか、彼女は普段より大きめの発声で告げる。先生もそれに返した。

 

『このままだと、酔っちゃいそうかも』

 

小鳥遊そう思いつつ、荒れ狂う車内で吊り橋効果を狙い先生へ抱き着く小坂 ワカモを呆れた目で見ていた。

 

--------------------------------------------------------------------------

 

 「おやおや、これは随分と。」

 この町を乱す物の怪、小鳥遊が討伐したかに思われるソレの前に、突如現れた男。名は木内、彼はあまりにも甘美なエンターテインメントに目がない。アニメも好きだし、マンガも好きだ。ドラマも好きかもしれない…なぜなら、他人の人生を誰にも咎められず楽しむ事ができるからだ。

 

 歪な価値観を理解するものはいない。その目的さえ違う世界の人間に、彼の思想は夢たりえなかった。歪なあり方を求める愚かもの、その同士たりえるものなぞ人間性のたかが外れてる。苦痛、快楽、勇気、臆病、欲望、義務。相反する存在を彼は愛する。言い換えれば、全ての人類を愛しているともいえる。

 

『人間は、苦悩にこそ生きる意味がある。』

 

 矛盾に悩み、傷つき、愚かにも喪失を選ぶ人間。それでもと歩み続ける人間。その全てを美しいと感じる彼には、どうしても受け入れられない男がいる。

 

『先生、どうやらあなたは迷いも苦悩も捨ててしまったようですね。』

 

 生徒の為に戦う、素晴らしい美徳だ。

実に気に入らない、苦悩すらしない人間なぞ人間たりえない。彼は正に機械となってしまった哀れな子羊だ。あなたに苦悩がもたらされるよう、せめてもの慈悲をあげなければならない。そんな歪を押し付ける事こそが、彼にとっての生きがいである。その場に先生がいれば「不愉快な男だ」と吐き捨てるだろう、まぁ木内本人も「かわいそうな男」としか考えないが。

 

 「どうやら、あなたに見本を見せなければならないようだ。」

彼はドーパントの胸部へ右手を当てる。すると、何かに目覚めるように亀裂が増える。

 

 『全ては迷える生徒(先生)の為、精々彼女には頑張ってもらうとしよう』

 

 瞬間、ドーパントの身体は迸る流星のように、光り輝く閃光と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ワカモ「あなた様…私酔ってしまいそうです~」

先生「…ちょ!?ワカモさん!?」

ワカモ「この酔い…あなた様の優しい抱擁で治していただけないでしょうか…」

先生「…ガハッ!」

ワカモ「…いやだ…死なないであなた様ぁ~!?」


小鳥遊「…何やってるんだろ二人とも」


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第十三話 Sに願いを/決意する戦士

ブルアカ生放送…レールガンとか言う激アツコラボな件。

でも石はイチカに消えたよ。僕だってみさきち欲しかったのに…(新約11巻見ろ)

いや、まだだ…俺には、大人のカードがあるッ!


ブルアカイベント予約はしたけど…これ当たんのかぁ?(白上フブキファンミ敗北)
生徒のお時間頂戴したいので、当選おねしゃす…




 リボルギャリーの中は特に空調調節をする機能がなく、肌寒さが抜けない。全員で近づき暖を取ることで、その問題を解決し、今はゆっくり休みを取ることにした三人。二人はゆっくり休んでと言った先生であるが、休む気がないらしく、お互いシャキっとした目つきで見張りをしている。

 

 ワカモは単純に、先ほど全く活躍できなかったという理由で、目をギラギラさせ獲物を待っている事を彼は知らない。だが、一方の小鳥遊は先ほどの戦闘を振り返っていた。

 

 『あの程度でやられるとは到底思えない…必ず戻ってくる』

 一度直接ドーパントと対峙した小鳥遊には、理解しているつもりだった。必ずお前を殺す、そんな狂気を孕んだ目線を一心に受けたら一溜まりもない。彼女の鋼鉄にも等しい精神力があったからこそ、先ほどの死線を乗り越えることが可能だった。これを乗り越えることが出来る存在は、ある種の化け物…決して銃弾一つで致命傷になる人間に耐えられるはずがない。そう判断せざるを得ないほど、濃厚な憎悪を身に受けた。

 

 『先生、一体何者なの?』

 先ほどまでは考える事さえなかった疑念が、彼女の脳に揺さぶりをかけてくる。そんな怪物を知っていて、冷静に対処をしている彼は何者なのだろう。本当に信用が出来るのか、そんな人間。ぐるぐると乱れる思考。

 

 

 「…あ。」

 一瞬、先生と目が合う。

 強烈な漆黒。それはあまりにも尖り切っているので、人は「歪」と捉えるか「芸術」と感じるか、その二極に分かれる。だが彼女は例外であった。暗い瞳の中に、ぽつりと輝く優しい光。まるで深海の中で優しく光るクラゲが、細々と見える。嗚呼、今すぐあの光を抱きしめたい…いつか消えないように、どこかへ行かないように。

 

 「…小鳥遊?」

 「…え?」

 なぜか、自身の手で先生の右頬を優しく撫でていた少女。驚きを隠せず、すぐさま手を放す。

急に訳のわからない行動を起こして挙動不審になってしまったので、誤解を解く為にも目の前の大人へ謝罪をしようと、彼の方へ目を向ける彼女。

 

 しかし、そこにはワカモがいた。

 

 「貴女…わたくしの運命の方の頬を…撫でるなんてッ…!」

 「…あはは…」

 

 『えぇ…そこ気にすんのか。』

乾ききった笑い声をこぼす事しか、今の彼女にはできなかった。ハイドは思わずツッコミをしてしまったが、触らぬ神に祟りなし、先生は無視を決め込む事にした。

 

 「先生を助けてくださったので多少目を瞑っていましたが、もう我慢できませんッ!貴女を始末しますッ!」

 

 「ちょ!?ワカモやめて!」

 

 「離してくださいあなた様!この女狐はたぶらかそうとしてるのです!」

 

 「ステイステイッ!ちゃんと君にも触らせるからッ!」

 

 「それは恥ずかしいですあなた様。わたくし、段階を踏んであなた様とのお付き合いをしたいのです。」

 

 「なんでそういう事だけ大和撫子っぽいの!?頼むから始末だけはしないで!」

 

 「…ごめんね先生。」

 

 「気持ちは嬉しいけどワカモ止めてくれ小鳥遊ッ!」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 「どうしてこうなった。」

 

 ワカモを説得するため、あらゆる手を使い交渉をした先生。結果『彼を一日独占する事と、今後一切、小鳥遊は先生を誑かそうとしない』という決まりで、彼女の罪は不問とされた。そしてこの一年、彼の有給はこれで全て生徒の為に使われることが決定した。(ユウカ、ノア、ゲーム開発部etc…)

 

 「あぁ…僕のハードボイルドな休日がぁ…」

 

 『まぁいいだろ、生徒の為なんだし。』

 

 「それもそっか」

 

 『立ち直りが早いッ…』とハイドが呟くが、それはしょうがない事である。「レディーファーストが出来てこそハードボイルド」という教えを守っている彼には、例えどんなに有給が消えようとも彼女たちには逆らえない立場なのである。なお、これを言った師匠である翔太郎は美人相手の依頼の際にのみ語っており、それを知った所長にシバかれるのはいつもの事である。

 

 『…アビドスへの被害を抑えるためか。』

 

 『まぁね、ここまでやらなきゃ奴は止まらない。』

 

 リボルギャリーは山降りの途中、先生のお手洗いという名目で車両を止めた。だが、それはただのフェイク。本当の目的は、ここであのドーパントを倒すためであった。何故そこまでして今止めなければならないのか、それはこのアビドスを守るためにあった。現在のアビドスは砂漠被害と借金に追われている状況であり、それに加えヘルメット団、その裏にいる連中。総じて地雷要素ばかりの町である。

 

 そこまでならば生徒と自分だけで対処できる問題だった。だが、そこにドーパントが蔓延っているなんて言ってみれば話は別。今でさえ人がいないアビドスは、今後増える事もなくなるのは火を見るよりも明らかだ。依頼を受けた以上、彼には彼女たちの安全とアビドス全体を守る責務がある。彼は現在茂みの中に隠れ、いつドーパントが現れても良いように準備をしている。

 

 『やるのかよ結局…オレが止めた意味ねぇじゃねぇか。』

 

 『いや、無駄じゃない。あの時戦ってたら、絶対に負けていたさ。』

 

 『そうかい…オレもいるんだから死ぬなよ。』

 

 『わかってるよハイド』

 

 ハイドはやはり理解が出来なかった。唯一分かる事なぞ、この男は根っからのバカだという事だけだった。

 

 「…ッ!来たか!」

 

 先ほどとは比べものにならない威圧感を感じた先生、本当に切り札を切らなければならない状態だと即座に判断し、すぐさま大人のカードを取り出す。彼の意思に呼応し、白く光るカードは腰に巻き付いた。そしてその光が形を帯び、銀のベルトに赤のデバイス「ロストドライバー」へと変化する。右ポケットの入っている相棒「フールメモリ」を取り出し、銀色のボタンを押し込む。

 

 『Fool!』

 

 そのままメモリを上空に投げ、右手でキャッチすると同時に、45度左に向ける。

 

 「変身!」

 

 そのまま右手で「ロストドライバー」のスロット部分へメモリを差し込み、待機音を鳴らさずにスロットを倒す。

 

 『Fool!!!!』

 

 直後、サークルと共に現れた紙吹雪のようなものが、一気に彼の身体へと張り付いていく。そしてすぐそこに迫るドーパントに襲い掛かり、お互い茂みの中へ入る。

 

 「…」

 目の前に現れた標的を前に、ただの人間なら一瞬にして精神を壊す殺気を向ける「ドーパント」。しかし、彼はそれに心が折れる程やわな人生は送ってなど無い。

 

 「よ、さっきぶりだね。イメチェンでもしたのかい?」

 ドーパントは明らかに変化していた。先ほどまでの黒い隕石のような形から、超新星が起こっているとも勘違いしてしまうほどの熱量。そして先ほどの重工感あふれる体系からスリムな体系へと変化しており、見た目から見ればスピードに特化した形態だと察することが可能だ。

 

 「…」

 

 「…だんまりか。まぁいいや、悪いけどここから先を通すつもりは無いんだ。」

 

 「…」

 

 「…いくぞッ!」

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 「遅いですわ」

 「先生にも色々あるからじゃないかな~」

 一方、リボルギャリー内で待機している二人。かれこれ5分以上経っている事実に不安を隠しきれないワカモは、今にも飛び出せるようリボルギャリーの開閉ボタンの周りをうろうろしている。

 

 「…一分」

 「はい?」

 

 「一分経ったら先生を探しに行こうよ、流石にこれ以上経ったら心配になるし。」

 

 「そんな事を言ってる暇などありません!今すぐ助けにいかなれば…」

 

 開閉ボタンをすぐさま押し、兎の跳躍の如く茂みの中へ入っていったワカモ。

 

 「うへぇ、もう行っちゃったよ…」

 

 さすがに小鳥遊も心配が勝ったのか、腰を上げ外に出る準備をする。ずっと座っていたので、バキバキの身体をストレッチでほぐす。肩を回して伸ばす、それを三回繰り返し脚首を回す。

 

 「…ふぅ、じゃ行こうか」

 

 「え!?なんで私こんな所に!?」

 

 何ともタイミング悪く、黒見が起きてしまう。彼女は状況が全く分かっておらず、気が動転し大声を出してしまった。その声で後輩と気づいたのか、小鳥遊はいつものテンションで話しかける。

 

 『あー…そっか、セリカちゃんいたんだった。』

 

 「あれぇ、セリカちゃん起きちゃったの?」

 

 「この状況なんなのよ!?この部屋寒いし地面も…これ鉄?」

 

 

 

 この短時間での疲れによって、完全に存在を忘れてしまっていた小鳥遊。さすがにそんなことを口が裂けても言える訳がなかったので、気持ちを抑え心の中で呟いた。

 

 黒見は理解できなかった。何故自分がこんな場所にいるのか、何故この先輩は自分がこんな状況でものほほんとしているのか。もしかしたら先輩は何か洗脳でも受けてしまったのか、恐ろしいIFが彼女の心に襲い掛かる。

 

 「…もしかして、何か洗脳とか…」

 

 「うわー違うよ!先生に助けてもらったんだよ、セリカちゃんが助かったのも先生の道具の力だし。」

 

 「こんな格好で助けたなんて嘘でしょ!?」

 

 怒りに満ちた表情で、憎き彼を呼ぶ黒見。それもその筈、彼女はスパイダーショックの放った糸により、まるでミノムシのようなみっともない姿をしていたからである。もはや彼女にとって、彼は悪でしかなかった。必ず報復をするために策を巡らせようとする思考を止める人は、彼女を除いていなかった。

 

 「…やっぱりアイツの事、信用できない。どうせ今回も私たちを利用して…」

 

 「それは違うよセリカちゃん」

 「…え?」

 

 いつもとは全く違う雰囲気、温かい春のようなイメージはとうに消え、つららのように鋭い瞳を向ける小鳥遊。自身が知る先輩と大きく乖離した姿に、思わず背中を張ってしまう。

 

 「先生は最近噂の怪物からさ、セリカちゃんを助けようって必死だったよ。私たちより弱くても、自分にできる事を一生懸命やろうとしてた。」

 

 「怪物って…あのミレニアムで出た!?」

 

 黒見は近頃の怪物騒ぎで、その恐ろしさは十分理解していた。ミレニアムで出たアレは、C&Cのエースの弾丸を受けても倒れず、暴走。最後は「仮面ライダー」と呼ばれる戦士により退治はされたと言うが、今もなお頻繁に怪物は出現すると言われている。銃弾、格闘…現存する手段では対処できない存在に、彼女は恐怖を覚えた事を今も忘れていない。

 

 あんな存在に、銃弾一つで死ぬ人間が立ち向かおうとすること。それがどれだけ恐ろしい事か、彼に対する恐怖は未だある。だがそれ以上に、彼の心の強さに敬意を持ってしまった自分がいる事に彼女は気づけなかった。

 

 「…確かに、あの人はよく分からない所も多いし、信頼できない気持ちもわかるよ。」

 

 「…」

 

 「でも、恩は返したいからさ、私は先生を守るよ。」

 

 その瞳は、とても18歳の少女とは思えない戦士の目であった。その後、彼女は自身の後輩を背に、恩人を探しに行こうと決心する。

 

 『先輩は、もしかして自分ごと…』

 

 なんとなくではあったが、黒見はそんな印象を抱いてしまう。私たちを残して、どこかに行ってしまうのだろうか。子供のように泣き叫ぶ心、悲劇は悲劇で終わらせる世界。結局、助けてくれた恩人も、私たちの為に戦う先輩にさえ、何もできずに泣き叫ぶのか。

 

 

 『そんなこと』

 

 黒見は一瞬、迷う

 

 『そんなこと』

 

 黒見は一瞬で、その迷いを振り切り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「待って先輩!」

 

 「…どうしたの、セリカちゃん。」

 

 もう既に、少女は甘さも、自分が守られるだけの人間であることを捨てた。彼女を引き留めたのは、一緒に帰るという結果の為に使うのではない。

 

 「私も一緒に行かせて、ホシノ先輩。」

 

 自分が後悔しない過程を目指し、戦う事を決意した戦士である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そっか、でも先生のトイレがただ長いっていう可能性もあるけどね。」

 

 「…ちょっと待ってホシノ先輩、今先生トイレ中なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




セリカ「なんで先生のトイレを覗くような真似する訳!?」

ホシノ「いや…まぁなんといいますか…」

セリカ「先生にもプライバシーはあるのよ?」

ホシノ「…」(後輩がまともな事を言い出したので恥ずかしい)






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第十四話 「Sに願いを/面妖な光」

とあるコラボは爆死(もういや

みさきちぃ…欲しかった。

というか今日ブルアカフェスの当選発表ってマジ?
当たってくださいお願いします…もうこれ以上、外したくないんです…




 閃光のように光り輝く怪物、ソレが狙うは男の心臓。かの者は天使を乱し、本来訪れるべき祝福()から目を逸らさせる悪魔。

 

 一刻も早く排除をしなければ、彼女を楽園へと導けない。それは最悪な事態だと判断し、自身のギアを上げるドーパント。すると、元より追いつけずにいた仮面ライダーを更に不利な状況へと推し進めていた。

 

 「…クソッ、今までが本気じゃなかったのか。」

 

 『いや、まだ別個体の可能性もある。周囲に気を付けろ。』

 

 驚きの表情を見せる先生。そう、ハイドの言う通り、これが先ほどのドーパントだと証明できるものは何一つない。先ほどとは全く違う姿である上、戦闘スタイルは変化している。もし仮に、先ほどと同個体なのだとしても、ほぼ初見の動きに加え、圧倒的加速と手数の多さによる戦闘スタイルは、人の急所を確実に狙ってくる。

 

 「…ッこの野郎!」

 

 刹那の瞬間に、ドーパントの攻撃と同時に反撃を仕掛ける。自分に触っているタイミングであれば、確実に狙いを決められるだろうと判断した。

 

 「…」

 「…」

 

 ドーパントも何かを察したのか、一度態勢を呼吸を整えるために間合いを取る。おおよそ人二人分離れることにより、先生が近づけない距離かつ、自身の攻撃を確実に当てる距離を作る。そのことに気づいた彼は、自身の歯にぎしりと力を加える。

 

 「…」

 

 「…」

 

 風の音のみが、この場で響く。たった一瞬の判断で、自身の身体が崩れ去る。自身の生の意味を成せず、死んでいく…それは人間が最も恐れることだ。だが、そんなIFを成し遂げられない事なぞ、今の先生に存在する筈がなかった。彼には、ただこの死戦を乗り越える事のみを念頭に置いた。

 

 「…!」

 「…ッ!」

 

 来る。それを察した時に、彼の思考には何も無かった。無意識の領域、潜在的な存在が自身の鳩尾に怪物が向かっていると鐘を鳴らした。

 

 咆哮する肉体。全ての意識を鳩尾へと集約させ、構えを取る。

 

 『…当たったッ!』

 

 確かに受けた感触を頼りに、拳を振るう。完璧なコースラインかつ、人体に確実なダメージを与えられるよう脇を絞め、かつ自身の胸部に向かい拳を捻り放つ…それによりより鋭い一撃を食らわせる魂胆である。

 

 勝ちの確信、これが当たれば戦況を一気にひっくり返すことが出来る。それを察したのか、ドーパントはまるで焦りを隠せない表情を見せるが…

 

 『…!?避けろッ!』

 

 ハイドは遅すぎた。怪物の攻撃は終了していなかった事、それに対しての自衛手段を彼らが持ち合わせていなかった事。そして、その驚異的なスピードを活かし、回避と同時に確実にダメージを与えられる顔面部分を確実に射抜いたことに気づいたのも。

 

 全て、怪物の前には遅すぎる前提だったのだ。

 

 ---------------------------------------------------------------

 

 「…あなた…さま?」

 

 ワカモは遅かった。彼が仮面ライダーであるという事を知っている彼女は、目の前で崩れ落ちた存在が自身の親愛なる御方というのを理解してしまった。否、理解させられたというべきか。彼が一人でアビドスが対処すべき問題を抱えた事実という事を。

 

 『先生は、いつだってそうだった。』

 

 自信の脱走事件の後、彼女の事をただ一人心配したのは先生だった。罪人かつ居場所もなかった彼女に「いつでも来ていい」と、自身の立場など関係なしに言ってくれた彼に、最初は兄のような温もりを感じていた。だが、彼とのシャーレでの日常を過ごす中で、ワカモの先生に対する気持ちは変わっていった。

 

 『貴方様は、本当にただ優しい人だった。』

 

 嬉しい時は笑い、悔しさと虚しさに充てられた日は泣く。ハードボイルドな小説が大好きで、生徒の事を大切に思っている人。人一倍、誰かのために頑張れるだけの人。この町の人間は、先生を殺すことの出来る力を持っているというのに、彼は恐怖することなく彼女たちに接する姿勢に、狐坂 ワカモは次第に惹かれていった。

 

 『だからこそ、生徒の想いを守るためなら、どんな痛い思いだって我慢してしまう。』

 

 彼の危うさは、数か月とはいえ理解していた。ドーパントとの戦いはほとんど生身で行っており、今回のように変身することの方が珍しい。怪物騒ぎが起こる度、死に瀕する大怪我を負う事でメモリブレイクを行う事で、怪物騒ぎを鎮めていた。

 

 ワカモは、あまりにも異常な自己犠牲の塊を理解が出来なかった。鎮圧から解決まで、ヴァルキューレにでも頼んでおけばいいのに決まって無理をする。彼が不用意に傷つけられることの方が、はるかに損害は大きい。それでも、それでも彼は決まってこんな事を口にする。

 

 『まぁ、つい身体が動いちゃって…』

 

 そんな単純な理由で、自分の身体を差し出す愚か者。そのくせちゃんと結果を出してるのも、余計にたちが悪い。レッドウィンターの時も、百鬼夜行のお祭りでの怪物騒ぎの際も、依頼人である生徒を決して裏切らず、ボロボロになって立ち向かうからこそ、仮面ライダーなのかもしれない。

 

 「なんなのですかッ…いつも一人で立ち向かって…またボロボロになって…」

 

 言葉と身体が乖離した瞬間だった。荒さが出ているものの、結果的に親に頼ってしまう思春期のような、消えそうな声で嘆く言葉。人間として欠けた精神を覆えるように、仮面を被った少年を抱きしめる身体。それが今の彼女の心だった。

 

 「…」

 

 だが、そんな三文芝居を見て黙る程、怪物の精神は強くもなかった。先ほどまでの休憩で、呼吸を整え再び仕掛ける。確実に狙いを定め、先生の心臓目掛け振るう拳。

 

 「…アナタ、何をしようと?」

 

 そこに、厄災はいた。

 

 ドーパントの速度は、現在およそマッハ2。戦闘機クラスのスピードという規格外と断言せざるを得ないそのスペック、科学的根拠に基づいて検証するとしたら、例えキヴォトス人であっても目で追えないのは勿論、その手を止める事はもっての外とされた結論。

 

 だが、今ここに実証された以上、それを改めざる得ない。愛する人の為ならば、例え戦闘機であっても止める事はできる。

 

 「まだ…狩る側だとお思いで?」

 

 この狐坂 ワカモならば。

 

-------------------------------------------------------------

 

 「ああ!もう!なんでこうなるのよぉ!」

 

 「まぁまぁ、セリカちゃん落ち着いて。」

 

 黒見 セリカは先ほどの発言を訂正したい程度に、この状況に抵抗を感じている。

 

 「先生トイレ行くって言ったんでしょ!?なら大人しく帰ってくるでしょ…」

 

 「確かにねぇ…私も一瞬そう思ったけどさ」

 

 彼女らはわざわざ、リボルギャリーから降りて山中で用を足しているであろう教師を見つける事にした。だが、その途中で坂から滑り落ちた黒見を追いかけた。結果、彼女らは迷子の人となってしまった。

 

 ミイラ取りがミイラになると形容すべきか…それとも別の言葉で表せばよいのか…そんな野暮な事を考えてしまいそうになる小鳥遊は、そっと思考の窓を閉じた。

 

 刹那

 

 「…!?こんな近くで爆発?」

 

 「今度は何ぃ!?」

 

 けたたましい爆発音に惹かれ、音のする方角へ向かう二人。目的地は北西にあると判断した小鳥遊は、スイッチを切り替え告げる。

 

 「取り合えず行こう、セリカちゃん」

 

 方角を指差し彼女にそう告げると、無言のまま頷いた。それを了解と捉えた以降、二人の間に私語は消えた。完全なる戦闘モード、もはや二人の意思疎通は心が勝手に行うので、ただ流れに乗ればよいだけだ。

 

 疾走する理性(身体)、内なる本能を抑え来るべき脅威を察知する。おそらく現れるのはヤツしかいないだろう、それは理解できる。だが先ほどまでの鋼鉄に対し、今度は必ず対策を立ててくるのは戦いの基礎だ。先ほどまでの戦法は一切効かないのは周知の事実と表しても当然だろう。

 

 小鳥遊は模索する、ヤツに不完全な敗北を与える前に勝てる…最強の手札を。

 

―ショットガンによる一撃は、絶対に対応策を持っている。

 

―拳によるインファイト…論外だ、硬い外皮でかえってダメージを受ける。

 

―セリカとの連携による攻撃…それは彼女に相応の負担がかかってしまう。だが、現実的な案だ。

 

―シールドによる叩きつけ…あり得るかもしれない。効かないのならすぐさま防衛に転じれるというのも魅力的だ。

 

 チャンスはまだ、残っている。

それだけで彼女の心に、一滴の安心が生まれた。まだこれからだという自信を胸に、爆心地に到着すると…

 

 

 「…え?」

 

 「…何よ…アレ。」

 

 そこには、面妖に光り輝く一等星がいた。

 

-----------------------------------------------------------------------

 

 「…中々にやりますねぇ、あの怪物は。」

 

 序盤は、圧倒的な性能差でワカモが押した。やはりドーパントといえど、スペックに限界があると言うべきか…激昂状態にあった彼女の気圧に無意識の恐怖が喚き、前へ攻めることが困難となった。それにより、これが人同士ならば確実に勝てる勝負ではあった。

 

 だが、それくらいでへばっているなら、この怪物はキヴォトスで脅威にすらならない。やはりメモリブレイクをしない限り、メモリからのエネルギーは途切れない利点が功を奏し、次第にワカモは押され始めてしまった。ワカモクラスになると、このキヴォトスでも相手取れる者など数える程度しかいない。なので、彼女の戦闘はほぼ短期決戦になってしまう。

 

 だが、逆を言えば「長期戦をほとんどしていない」という意味でもある。だからこそ、体力バランスも乱れやすく…結果的に防戦となってしまっていた。

 

 しかし、弱音を吐くつもりも…負けるビジョンも彼女には存在しなかった。当たり前だ、愛する人が後ろにいる以上後退などしない。そもそもそんな事を考えることがない。むしろ、コレをどうやったら潰せるかどうかとしか考えていない。

 

 だが、手札がないのも事実。何とか打開策を見出そうとしている中で、ピンク髪と黒猫を見た。彼女らはあの光にただ戦慄しており、正直焼石に水程度なのかもしれない。だが、先生の安否がかかっている以上、猫の手も借りたいのだ。意識を呼び覚ませるため、自身の愛銃「真紅の厄災」を上に空打ちする。

 

 狙い通り、二人は意識を戻しワカモの方へ目線を向ける。

 

 「本当は私一人であの御方に褒めてほしかったのですが…仕方ありません。」

 

 「…そ、素直じゃないヤツ。」

 

 「…ッ!今からでも消し炭に出来ますが?」

 

 「まぁまぁ二人とも落ち着いて。今私たちが倒さなきゃいけないヤツは、アレでしょアレ。」

 

 全員の目線が、ドーパントへと集結する。彼女らは散々煮え湯を飲まされた挙句、反撃も出来ない事にフラストレーションが溜まっている頃だ。そろそろ反撃しても誰も怒る人間なぞ誰もいない。そう、反撃しても誰も文句を言う人間はいない。

 

 勝利条件がある。それには、生徒の力だけではなく、他の要因も存在する。それは

 

 『…駄目です先生ッ!もう体力だって…』

 

 アロナの声は、既に届かない。

 

 立ち上がる、魂。

 

 

 『目前の生徒たちにばっかり、良い格好させてたまるか。』

 彼は愚かであった。このまま寝ていれば、これ以上傷つくこともないというのに。自身のリスクヘッジすら管理出来ない愚か者に、教師を務める資格はあるのだろうか。

 

 

 「…あるね。とっておきの…」

 

 

 

 

 何度だって立ち上がる。そのたびに魂が砕けようとも、いつか見たあの日を繰り返さないため。自分自身の誓約として、彼は

 

 

 「とっておきの…作戦ってやつがさ。」

 

 地獄を進むと、そう決めたのだから。

 

 

 

 

 




ハイド『とかっこつけた癖して、またボコボコだったら笑っちゃうぞ。』

先生「やめろそういうヤツ、ちょっと不安なんだから」

アロナ『はぁ…うちの先生はどうしてこう…肝心な時残念なんでしょうか』

先生「何が残念だ!何が!」


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第十五話「Sに願いを/また、逢いましょう」

やっと書き終わったよ…

いつの間にブルアカさんサードアニバ行っちゃったよ…

まだ全然石ないぞこの野郎どうしてくれるんだ。



てか百花繚乱良すぎてヤバかった。えりーととナグサパイセンの為に石貯めますうん。
(およそ数日後になくなる予定)


 「…その声…もしかして先生!?」

 

 「先生さ、ホントに解決策なんてあるの?」

 

 黒見と小鳥遊。互いに反応こそ違うも、その声に不安の色が見え隠れしていた。無理もない、あの七囚人の一人を追い詰める程の相手ならば、確実に逃げる方が得策である。そんな相手に対応策なぞ、今の彼女たちでは信じることが出来なかった。

 

 「あぁ、だが確実とは言えない。やってみないと分からないが、価値はある。」

 

 一か八か…勝てる保障もなければ、むしろ戦況を不利にする可能性もある。この事実は、二人の心に重くのしかかる。

 

 「…駄目よ、それだったら逃げた方がマシじゃない。」

 

 「それは厳しい。こっちが追われる以上、奴のスピードじゃあっという間だ。」

 

 黒見の考えを、ぴしゃりと告げた一言で否定を示す。戦ってみて分かった事だが、どうやらこの怪物はこの場で逃がす、なんて考えを持ち合わせていることはない。まるで憎しみしか存在しない人形と戦っている感覚が、今も自身の身体にのっぺりと刻まれている。

 

 「隙を作って逃げるのも難しいかな。」

 ふと、小鳥遊はそんなことを言い出した。

 

 「…背中を見せたら、今度こそ終わりでしてよ。」

 ワカモはその一言で、彼女の案に否定を示した。だが、意外にも彼は乗り気であった。

 

 「…時間程度は作るさ。」

 

 目線を生徒からドーパントへ向けながら、マスクの下でドヤ顔を決めた。生徒を巻き込まんと、未だ立ち上がる諦めの悪い男。彼が考えるに隙を作る自体は、自身の作戦で容易に可能だと判断しており、苦戦を強いられるものの、自身一人で戦いを終わらせることも出来る。そう信じることが、生徒の為だと。

 

 『決まった…これは僕というハードボイルドそのものに感動し、なんてすばらしい人なのだろうと…』

 

 だが、途端にいつもの調子を取り戻した先生に鼓舞されたのか、皆やつれ気味の顔が消え、色を取り戻した。彼女たちからすれば、こんな状況にも関わらず意外と余裕そうな彼の存在は、一握りの希望に近い物であった。

 

 「…っぷ、何それ先生。」

 

 「まぁ、先生がかっこつけたがりなのは、この数時間でよくわかったし…ブフッ!」

 

 「わ、わたくしはどんなあなたさまでも愛せる自信があります!」

 

 二人は笑い、一人は宣言。どうやら、カッコいいと考える人間はだれ一人いないらしい。

 

 「…帰っていいかな。」

 どうしてここぞという時に決まらないのか、所詮クォーターボイルドには知る由もない事であった。ハイドは既にお手上げなので、沈黙を続けるのが良いと判断した。

 

 「けど、先生は無理しなくても大丈夫。」

 「…?」

 ワカモは首を傾げた。先生が守ってくれると言ってくれたのに、その恩を無駄にしてしまうのではないか。ならばこの女狐(小鳥遊 ホシノ)に、先生の偉大さを小一時間分からせなければならない。だが、それが杞憂と感じたのは後だった。なぜなら

 

 「先生を守るのは、私たち(アビドス)の役目だからね。」

 

 目の前で宣戦布告をされたのだ、絶対に負けてやるものか。先生を守るのは未来永劫ワカモの役目、絶対のルールを犯す者に慈悲など無い。再び彼女のエンジンに火が付く、これを止められるのは先生くらいなものである。彼女は小鳥遊を見ながら語る。

 

 「では、どちらがアレを仕留めるか…勝負と行きましょう。」

 

 「いや、話聞いてたッ!?ちゃちゃっとやるだけやって逃げるって決まったじゃない!?」

 

 黒見は至極まっとうな事をワカモに吐き出す。どうやら、それは少し思っていたのか、目が少し泳いだ事は誰も知らない。だが、こういってしまった以上、先生の前でブレッブレの姿を見せたくないので、更に燃料を燃やす事にした。

 

 「うへぇ…ワカモちゃんは血気盛んだねぇ。おじさんついてけないよぉ。」

 

 「あら、暁のホルスともあろう人が逃げ腰だなんて…仲間との仲良しごっこで鈍ったのではなくて?」

 

 「…へぇ」

 

 空気が凍る。あの小鳥遊からは想像も付かない雰囲気を纏わせる。仮面越しに伝わる冷気が、背筋から伝わる。先ほどまでの空気から逆転、今にも争いが始まりそうなほどの険悪さだった。

 

 「ま…まぁとりあえず、ちゃっちゃとアイツを片付けようぜ。」

 

 先生の一言で場は一旦収まったものの、何がきっかけでブレーキが利かなくなるか、これ以上心労が増えないよう、これが終わった後、出来るだけ小鳥遊をワカモに合わせないようにしようと決心した先生だった。

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------

 

 「…」

 

 沈黙、奴はこの間にも一切動かなかった。これだけ隙がある会話の中であるにもだ。まるで、わざわざ待っていたのか、それとも他の目的を成し遂げようとしたのか。いずれにせよ、気味の悪さは拭えない。

 

 「…」

 

 もしかすれば、アレに「使用者」がいないのか。だとすれば、辻褄が合う要素は多い…だがしかし、あの戦闘時に感じた「生きた動き」は何なのか。

 

 『本当に謎だ…まるで人形相手に戦っている気分だった。』

 

 ふと、ハイドがそんなつぶやきを残す。…人形?

 

 『なぁ、もしかしてアイツ、操られてたりしないか?」

 

 …なるほど、その仮説が正しければあの動きの奇妙さも理解できる。無駄のない動きなのも、アレが操られているっていう理由があれば説明がつく。だが、それが事実だと仮定した場合、考察しなければいけない事象がある。

 

 誰が、何のためにこんな事をしているかだ。

 

 『…まだ未確定情報も多い以上、ここで考えるのも不毛だぞ。』

 

 「…」

 

 ドーパントも、流石に我慢しきれなかったのだろう。奴はぬるっと首をあげたかと思えば、焼け付くような視線をこちらに向けている。そろそろ茶番も終わらせるとしよう。

 

 「みんな!円陣だ!隣のヤツの背中を守るようにッ!」

 

 実在するタキオンかの様に、一気に間合いを詰めてきたアレ。背中を見せた瞬間、恐らくこの作戦は失敗するという判断を下し、確実に背中を取られないようにする。右隣にワカモ、左に小鳥遊、後ろには黒見という陣形を取る。だが、まだ足りない。

 

 「…」

 

 迫る怪物、まだ

 

 『3』

 

 焦りを隠せないのか、小鳥遊の息が詰まる。

 

 『2』

 

 澱んだ殺気に当てられたのか、黒見の震えた息が聞こえる。

 

 『1』

 

 ワカモの前に、閃光がギラギラ輝く…その時だ。

 

 「今ッ!」

 

 すると、僕以外の3人は自身の銃を銃身が焼き付けるまで打ち続ける。恐らく隠れたドーパント、逃げた先は…

 

 「…ッ!」

 

 ()()()()()()

 

 避けきれない一閃、勝負は決まったも同然、後は後始末をすればいいだけの事であった。ゆっくりと見えるその拳、ただ運命を待ち続ける廃人かのように、静かな時を待った。

 

 「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「()()()()()()()

 

 そう、全ては計算通り。

 

 『かんぺき~ってやつだな』

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 さて、先ほどまで僕を追い詰めていたこのドーパント。多くの手数に狙いを付けない速度、しまいには多少脳が回るようなので、一歩上を行った対応を取られてしまう。だが、ここに来てワンチャンに持ち込める可能性が出てきた。それは「生徒」達にあった。それも複数人だ。

 

 僕がさっきまでの戦闘の中で、唯一試していない物があった。それは「銃弾」だ、とは言っても効かなければ意味がないと思ってはいたが、ハイドの仮説で全てが変わった。

 

 『もしかして、アイツ銃弾効くんじゃね?』と。

 

 根拠はある、先ほどの拳の一撃をわざわざ「避けて」攻撃してきたという点だ。あの程度の攻撃であれば、わざわざ避ける必要がない。どれだけガイアメモリでの身体強化をしたとして、強化前のドーパントであれば余裕で受けられたはずだった。これらを考え、防御面の低下と考えられるのは自明の理だった。そしてそれは銃弾が効く可能性も十分にある踏み、この勝負に賭けたのだ。

 

 致命傷を受けやすい背中を守りながら、銃弾で「生徒に触れられない」状況を作りだした上で、僕にしか行けない状況を作り出す。そこを一気に叩く算段だ。多分ワカモに色々と言われる事も察していたので、敢えて言わないようにしていた。だが、この場で最もあの状態のヤツと戦ったのは自分しかいない上、銃の扱いは決して上手い人間ではないので、この役目を担う事になった。

 

 自分の身体に、一撃が入ると察知。構えを取り、迎撃態勢に入る。

 

 

 「…」

 

 やはり、予想通り僕へ向かってくるのを確信したのは、既に奴の身体を両腕で捕まえた瞬間であった。

 

 『やっぱり早い!』

 

 だが、それでも捕まえた自信の能力に驚きを隠せない。そして、反撃へと転向したのは、自我を取り戻したその後だった。

 

 『Fool! MAXIMUM DRIVE!!!』

 

 直ぐに打てるよう、あらかじめマキシマムスロットに装填されていたメモリから、記憶のエネルギーが両足と両腕に集まる。

 

 「どらッッッしャァい!

 

 「ライダー…クラッシュ!」

 

 

 まぁまぁ重い身体を持ち上げながらジャンプ、そのままブリッジをしながら脳天をぶつける大技。要は「ジャーマンスープレックス」を奴に放ったことで、ドーパントは衝撃に耐え切れず爆発!

 

 

 「ふぃー、決まったぜ。」

 

 

 

 

 「…えぇ」

 

 そこでプロレス技かよ…と言いたそうな黒見は無視するものとする。

 

 

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 「なんとか終わったねー、先生。」

 

 小鳥遊は、この一件を無事に終わらせることが出来た事にそっと胸を下ろす。どうやら、彼女的には無事、大団円を迎えられたようだ。

 

 「あ…あぁ、痛ぇ…」

 

 一方、先生である僕は、できもしないプロレス技を無茶してやった事がたたり頭が痛い。どうしてこんな無茶をしてしまったのか…バカも休み休みしたいものだ。

 

 『自分で言うのかソレ』

 

 「…大丈夫?」

 

 自分のあまりの反応に、急に頭を撫でてきた小鳥遊。あれ、この子お母さん?

 

 『なわけ無いでしょ』

 

 言うなハイド、それを聞いてしまったら情けなさで死んでしまう。さて、茶番も終わりにして、さっさとヴァルキューレを呼ぶとするか。

 

 「えーと、スタッグフォンは…あれどこだっけ」

 

 激戦に次ぐ激戦だ、衝撃で落ちてしまう可能性もあると踏み、色んな場所をさがしているものの、どこにもなかった。

 

 「あり?無いなぁ」

 

 しばらく探していると、何か言いたいことがある顔で、黒見が近づいてきた。

 

 「先生!そういえば、なんで私の場所が分かったのよ。」

 

 「…あ、そっか。」

 

 スタッグフォン、黒見の元に送ったままだった。

 

 無事、彼女からスタッグフォンを受け取り、ヴァルキューレに連絡を取ることになった。

 

 『もしもし』

 

 『先生、またトラブルですか。』

 

 『またって何よまたって』

 

 こういった電話の際、いつも対応してくれる子が今回も担当することになっていた。何故か知らんが、僕の事をトラブルメーカー的な扱いを受けている気がする。

 

 『まぁ、ドーパント騒ぎの犯人いるから連行してくれって事よ。』

 

 『…はぁ、またですか。先生は好かれていますね、何にとは言いませんが』

 

 『切ってもいいかな』

 

 この子は僕の事を煽って楽しいのか、こっちは絶賛萎えているというのに。

 

 『とりあえず、今位置情報送るね。』

 

 『…うわっ、今からアビドス地区行くんですか?』

 

 『君失礼過ぎない?』

 

 

 言いたいことは分からなくないけどさ、流石に私情入りすぎでしょ。そうして、彼女たちも自身の仕事にため息をつきながらも、無事拘束の為に動きだしてくれるようだ。やっと肩の荷が下りたのでそっと吐息を吐く。

 

 「もう、こんな時間か。」

 

 スパイダーショックのデジタル時計を見ながらそう呟いた。時刻は午前二時、普段ならば書類仕事に追われている時だ。久しぶりに運動も出来たからか、少し気分が良いのは内緒だ。

 

 「よし…さっさとお顔を拝見させてもらうとしますか。」

 

 そうして倒れている使用者の顔を覗き込んだ。

 

 「…見ない顔だ、もしかして忘れちゃってる訳ないよね。」

 

 一応あった事ないか確認の為、一応手帳で確認するとしよう。確か右ぽっけに閉まっておいたんだけど…よし、あった。

 

 「いや、まだ会ってない子だ。」

 

 『これは初対面からアレですね、先生。』

 

 いやそりゃ確かにさ、うん。言わないでくれアロナ。彼女は一体どこ所属の子なのだろうか、淡い青髪の子…聞き覚えがなさすぎるぞ。まるで彼女に関する情報がない、まるで最初からどこにも所属がないと思わせるくらい、彼女に対して思い当たる節がなかった。ただ単に僕の情報不足だけだった可能性もなくはないけど…

 

 

 

 「せんせ~、何してるの?」

 

 「あ、小鳥遊。この子知ってるかい?まだ僕が会った事のない生徒だったもんでさ。」

 

 ちょうどいい所に彼女がやってきたので、一応彼女の知り合いかどうかを聞いてみる事にした。この近辺に住んでいたのなら、もっとも先輩である小鳥遊に聞くのがよいと思った。そんな、ふとした理由だった。

 

 

 「

 

 彼女の驚愕に満ちた顔を見るのは、今が初めてだった。あの戦場にいた時より、より鋭利に尖る目線。獲物を狩る大鷲なんぞ陳腐な表現では出来ない。今の彼女を形容するならば、まさしく「怪物」。その場にいる存在全てを焼き払う業火。冷徹な激情を滾らせる存在へとなり果てていた。

 

 「…」

 

 目を離す事すらできなかった。きっと、(自分)はついぞ忘れる事の出来ない「瞳」が、何度も脳に焼き付く。一度忘れたなら、二度。三度忘れたのなら、その四倍。自分が魅入るのも無理はなかった。その目を認めないというのは、どこかの誰かを忘れてしまうような…そんな気がした。だからきっと、()は執着しているのかもしれない。その目に。

 

 だれかを忘れたくない、そんな誰もが持っている「当たり前」を。きっと自分は捨てられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -誰か、来る-

 

 

 「…ッ!小鳥遊ッ!」

 

 何を感じたのか分からない。だがおそらく本能と呼ぶべきナニカによって、彼女を自身の方に寄せ守れた。衝撃波によって生まれた砂埃が止んだ先に、最早誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ユメ…先輩?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アビドス第三章やった~もう死ぬは


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