煌々と輝く数多のライトが狭いリングを取り囲み眩い程に照らす。
広い会場ながら満々と詰め寄せた五万人の観客達は今か今かと扉を見つめ騒ぎ立てる。
『それでは!両選手リングに入場です!』
会場の雑踏に負けじと響くリングコールの大音響と共に、観客達が待ちに待った男が扉をくぐり入場する。
『はじめに!青コーナーより──!!
リーゼント那須選手の入場です!!』
興奮を隠し切れぬとマイクを持つ手に力が入るのを自覚しながら声を張り上げる。
大歓声を受けながらゆっくりとリングに歩を進めるはボクサーらしい引き締まった身体の小柄な男。
しかし、その髪はボクサー…どころかスポーツ選手、格闘家として決して見ないモノだった。
男は鋭い眼光と内に秘めた燃えるような闘志を漲らせ、リングに上がる。
男の名は
ボクシングを初めてたった3年でこの場に、フライ級世界タイトルマッチにまで登り詰めた稀代の天才。
『続きまして赤コーナーより!ヨーゼフ・ディアロ選手の入場です!!』
那須の目が見開かれ、獲物を狙う肉食動物のように殺気を漂わせながら相手を射貫くように見据える。
金髪に褐色の肌、その肉体は人種的な…生まれ持っての資質として那須とは異なる生物が如くかけ離れる。
何発打たれようと響かない太い首、ボディブローが内にまで届かない程に分厚い腹筋、太い蛇が這っているように隆起する腕。
そのどれもが日本人では逆立ちしようと手に入らないモノ。
だが…それを見た那須は、笑った。
『これより!フライ級世界タイトルマッチを行います!!』
騒音と言っていいほどの音量で響くリングコールと歓声の中、那須の意識は無音に近いまでに研ぎ澄まされていた。
『赤コーナー!
ヤミ鍋ジム所属──ヨーゼフ・ディアローーーー!!』
アウェイにも関わらず余裕綽々に腕を突き上げるディアロ。
その顔は自身の勝利を疑わない、確かな実力に裏打ちされた余裕の笑みが浮かぶ。
『青コーナー!
エクササイズ加賀美所属──リーゼント那須ーーーー!!』
周囲が鈍化するほどに研ぎ澄まされた意識は那須に少し前の記憶を呼び起こさせる。
3年前の──ボクシングに、そして何よりも…加賀美ハヤトに出逢った時の記憶を。
ゆっくりと噛み締めるように自身のコーナーへ向かう。
青い目出し帽を被ったトレーナーとその隣に立つ茶髪の男。
その二人は、那須にとっての──命の恩人。
否、それどころか…死んでいた自分を生き返らせてくれた大恩人。
那須はコーナーに駆け寄った二人に聞こえるように声を張る。
「トレーナー、会長!観ててくれ…俺の、一世一代の恩返しを!」
『ラウンド1!!』
軽快に響くゴングと共に狭いリングを二人の男が駆ける。
この物語は彼、リーゼント那須の物語。
彼が、生き返る物語だ。
続きは誰かお願いします
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