FAIRY TAIL転生記~炎の魔王の冒険譚~ (えんとつそうじ)
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オリジナル魔法・呪法一覧※随時更新あり

そろそろオリジナルの魔法とか結構溜まって来たので、わかりやすく一覧に纏めてみました。


飛ばしても話にはあまり関係ありませんし、ネタばれもありますので、それが嫌な方は飛ばしてくださってもかまいません。


 

 

■消滅

 

主人公が使う呪法。元々ゼレフの悪魔の一柱であるサーゼクス・ルシファーが使用していた呪法。現在はサーゼクスからユーリにその力は受け継がれている。

 

触れたもの全てを滅ぼす紅のオーラを使うことができ、その熟練度によっては並みの人間には目にもとまらぬ速さで発射される弾丸とすることも、小型のブラックホールのようなものを創り上げることもできる。(原作でリアスが編み出した必殺技である「消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)」のようなもの)

 

 

 

 

■炎の滅悪魔法

 

主人公が使用する魔法。ゼレフの悪魔の一柱であるサーゼクス・ルシファーが生み出した。

 

強力な破壊魔法であり、同じスレイヤー系魔法である滅竜魔法と滅神魔法と同じく、対象の(主人公の場合は炎)属性を吸収、自らの力に加えることができるために基本的にこの魔法の使用者はその属性の魔法が効かなくなる。

 

悪魔を相手にする場合大きな力を発揮する魔法で、他の2つのスレイヤー系魔法のように様々な属性が生み出されている可能性があるが、サーゼクスはこの魔法を生み出して少ししてから肉体的に死亡したために、少なくともこの小説の中では主人公が使う炎の滅悪魔法しか確認されていない。

 

 

・炎魔の轟拳

 

拳に煉獄の炎を纏い攻撃する。滅竜魔法でいう○○の鉄拳にあたる技。

 

・炎魔の激昂

 

口から煉獄の炎を吐いて攻撃する。滅竜魔法でいう息吹(ブレス)系にあたる技。

 

・炎魔剣

 

炎で造った太刀で相手を切り裂く。原作でグレイが使っていた氷の滅悪魔法の技の一つである氷魔零ノ太刀 (ひょうまゼロノタチ)の炎版といったところ。

 

・炎魔剣―斬鬼斬(きりきざん)

 

魔法というより技。炎魔剣を使い、対象を瞬時に文字通り切り刻む。ちなみに名前の由来は某悪と鋼の複合タイプのポ○ケモンから。

 

・炎魔の大斧

 

煉獄の炎を脚に纏わせて、生前彼が最も得意な空手の技である後ろ回し蹴りを放つ。

 

・炎魔の大鎌

 

カポエイラのように、逆立ちになりながら煉獄の炎を纏った脚で回転して周囲にいる敵全てを吹き飛ばす。

 

・炎魔の断刀

 

煉獄の炎を纏った脚で踵落とし。

 

・炎魔の轟拳・裏式

 

煉獄の炎を纏った拳を使って裏拳で攻撃する。使い方としては轟拳が避けられた時に拳を捻って避けた方向に追尾するように攻撃する。ちなみに名前は即興。

 

・悪滅奥義

煉獄の王(メギド)

 

極限まで高めた煉獄の炎を、魔界を統治する魔王の1人だという獄炎を操る巨大な獣の王の形を模した炎を相手に放つ。単純な攻撃だが、それだけにとても強力。

 

ちなみに「メギド」とはフェアリーテイルの作者である真島ヒロの前作であるRAVEの中ボス?的ポジションである四天魔王の一人のことで、この小説の中では四天魔王のことは神話として語られているということにする。

 

 

 

 

■光の造形魔法。

 

海賊”貴賊”のシャルバが使用した魔法の一つ。特定の物を自由に造形することができる魔法であり、使用者は造形魔導士と呼ばれる。

 

術者の性格が最も現れる魔法の1つであり、その造形創造力が強さに繋がるとされる。

 

大体は武器などの”静”の造形魔法を得意とするものと動物などの”動”の造形魔法を得意とするものがいるが、シャルバはどちらも使いこなすことができる。

 

ちなみにシャルバの使用する光の造形魔法は最速の造形魔法といわれており、数ある造形魔法の中でも最も早く攻撃できるが、その代わりとして攻撃力が他の造形魔法より低い。

 

・シャインメイク”(ランス)

 

手から光の槍を造形魔法で出して相手を貫く。ちなみに似たような技としてグレイが使う氷の造形魔法に槍騎兵(ランス)があるが、あれとは違い単発の槍で範囲が狭い代わりに造形速度が速く、魔力の消耗も少ない。

 

・シャインメイク”大鷹(イーグル)

 

大量の光の鷹を造形して相手を攻撃する。

 

・シャインメイク”(ウルフ)

 

光の狼を造形して相手を攻撃する。

 

・シャインメイク”(タイガー)

 

光の虎を造形して相手を攻撃する。

 

 

 

偏光魔法(トリックアート)

 

海賊”貴賊”のシャルバが使用した魔法の一つ。

 

魔力で光の屈折を変更し、自身の位置情報を誤魔化し、自分の位置を錯覚させる魔法。しかし位置を誤魔化すことはできても匂いや音。それに体温などを誤魔化すことはできず、それらを察知することができる魔導師相手では殆ど無意味とかす。

 

元ネタはとある科学の電磁砲に出てくるあるスキルアウトの能力。感じが少し変わっただけでそれ以外は全く同じ。



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プロローグ

どうも、えんとつそうじです。


最近いろいろ忙しかったのですが、なんとか楽園の塔編終了まで書きあげることができたので、初日にプロローグと一話。そしてそれ以降は朝十時に一話ずつ投稿しようと思います。


ローズマリー村編はともかく、楽園の塔編は前作と話の展開がそれほど変わらないので、前作を見ていただいていた方々には退屈かもしれませんが、見放されないようにがんばりますので、どうかよろしくお願いします。


 ―――これは、後にアースランド大陸で『妖精魔王(オベイロン)』と呼ばれその名を轟かせることとなる、一人の転生者の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは東京郊外にある古いアパート。

 

 

 とある会社が社員のために格安の値段で貸し与えている、いわゆる社宅と呼ばれる場所なのだが、そんな社宅の一室で今、一人の男の人生が唐突に終わろうとしていた。

 

 

「(……もう、駄目かなこりゃあ)」

 

 

 俗に祝い事のために使われる黒い礼服を着こみながらも、アパートの自分の部屋の玄関に倒れこんでいるこの男の名は『(くれない)勇里(ゆうり)』。

 

 

 彼は今年三十を超える、世間では所謂「おっさん」と呼ばれ始める年齢でありながら、そうは見えないほど整った顔立ちをしていたが、今の彼はそれを台無しにするほどに、その顔を真っ青を通り越して真っ白に染まりきっていた。

 

 

 なぜこのような状況に陥ったのか?その理由は実に単純で、彼は「過労」のせいで現在進行形で死にかかっているのである。

 

 

 彼はとある理由でどうしてもお金が大量に必要だった。

 

 

 だからこそこのような状態になるまで働き詰めの毎日を送っていたのだが、ではなぜ彼はそこまでのお金が必要だったのか?それは実は全て彼の妹のためだったりする。

 

 

 彼、紅勇里はごく普通の中流階級の家庭に産まれ、温厚な両親と産まれたばかりの妹と共に平凡な、それでいて幸せな毎日を送っていたのだが、そんな彼の生活はある日唐突に終わりを告げた。

 

 

 彼が高校生になったばかりの頃、両親が交通事故で死亡してしまったのだ。

 

 

 それは母が仕事を終えた父を駅まで車で迎えにいった帰り道に、対向車の暴走により起こり、そのまま両親は加害者である対向車の運転手とともに帰らぬ人となってしまったのだ。

 

 

 警察からそのことを聞いた彼は両親の死に深く嘆き悲しんだが、しかしそのままその気持ちに浸る暇もなく、彼ら兄弟に一つの問題が浮上してしまう。それは彼らの今後の生活についてだ。

 

 

 本来ならこのような場合、血縁である親戚などを頼るべきなのだろうが、実は彼の両親はお互いの家族に反対される中かけおち同然で結婚したらしく、そのせいか頼れる親族という存在が全くいなかった。

 

 

 不幸中の幸いか両親の遺産と、両親が念のためにと自分たちに掛けていた生命保険のおかげで、しばらくの間生活に困ることはなかったが、それでも高校に通うための学費、当時五歳になったばかりの妹にこれからかかるであろう教育費。そして両親が残した家のローンなど、それだけでは明らかに足りなかったために、彼は生活のため、そして妹のために必然的に若くして、働き詰めの毎日を送ることになってしまったのだ。

 

 

 そんな状況ではあるが、最低でも高校くらい卒業しなきゃろくに就職できないご時世だと以前から感じていた彼は、バイトを掛け持ちしながらもとりあえず高校だけはちゃんと卒業し、自身が入社条件を満たしている会社の中で一番条件がいいとある食品会社に入社し、妹の面倒をみながらがむしゃらに働いたが、実は彼が入社した会社は業界でも有名なブラック企業で、そのためか新入社員の身でありながらも、彼も馬車馬の如く働かされる毎日を送ることとなる。

 

 

 そのためか、どうしても妹の世話もおざなりになってしまうのだが、彼の妹は実に聡明で、幼心に彼が自分のために身を粉にして働いていることがわかったのだろう。文句もいわず、せめて彼が家ではゆっくり休めるよう、積極的に家事の手伝いをしだす。

 

 

 そのことに彼は心の中で感謝しつつ、さらに気合を入れて労働の日々を送り、そして彼はなんとか妹を大学を卒業するまでに無事に育て上げることに成功し、そして先日、彼の妹は卒業後働くことになった職場で出会った男性と結婚し、この(アパート)を出ていくこととなった。

 

 

 彼が現在滅多に着ない礼服を身に纏っているのは、その妹の結婚式に先ほどまで出席していたからだ。

 

 

 男手一つで育て上げた妹が、自身が認めた男に嫁ぐ光景をみた勇里はこれで自分の役目は終わりと、長年背負っていた肩の荷がやっと下りたような感覚に陥ったが、そのために気が緩んでしまったためか、長年の無理な労働で体に蓄積していた疲労が一気に押し寄せ、こうして帰宅するなり体の自由がきかなくなってしまったのである。

 

 

 実は、彼はだいぶ前から体を壊しており、医者から度々仕事を休んで養生するようにいわれていたのだが、前述したよう彼の入社した会社は業界でも有数のブラック企業であったため殆ど休暇などとれず、ましてや長期の休暇など、仕事を辞めなければ得られるものではない。

 

 

 なので彼は、妹の幸せのためにも辞めようとはせず、医者から薬を貰いながら、今までだましだまし仕事を続けていたのだが、その反動がここで来てしまったのだ。

 

 

「(……ああ、だめだ。意識がどんどん遠くなる)」

 

 

 勇里は自身の意識が遠くなるのを感じながらも、今までの自身の送ってきた人生を思い返す。

 

 

「(思えば、我ながらつまらない人生だったなあ……。父さんと母さんがいた時は働かなくてすんだけど、平凡でこれといってなにもない退屈な毎日。父さんたちが死んでからは寝る間も惜しんで働いて……)」

 

 

 一応いっておくが、彼は妹のために自分の人生を費やしたことを後悔しているわけではない。

 

 

 しかし、あまりにもなにもなかった自分の人生の薄っぺらさを嘆いてもいた。

 

 

「(特にこれといった夢とかはなかったけれど……。それでも少しだけでも自分のために何かしておけばよかったかなあ?中学や高校の時になにか夢中になれるものでも探しておけばよかった……)」

 

 

 思わずといった感じで自嘲の笑みを浮かべる勇里であったが、そこで彼は中学時代のある友人について思い出す。

 

 

「(そういえば、一時期あいつに勧められてネット小説にハマっていたこともあったけ……)」

 

 

 ネット小説とはインターネットやパソコン通信にて全文公開されている小説のことで、特にこれといったことがなければ基本的に無料で閲覧することができる。

 

 

 その友人は少しオタク気味の男性で、彼が特にこれといった趣味がないことを知り、お金もかからず、空いた時間に暇つぶし感覚で読めるとあって、これを趣味として進めてくれたのだ。

 

 

 最初、所詮素人が書いた小説と彼は軽く考えていたのだが、素人ゆえのその自由な発想と、拙いながらもその熱い気持ちが入った文章に彼は瞬く間に魅了され、一時期勉強そっちのけでさまざまな作品を読みふけっていたほどだ。

 

 

 高校に上がり、両親が死んでしまってからはバイトに忙しく、また、毎日生活のことで頭がいっぱいの生活を送っていたため、自然と読み機会がなくなっていったのだが、そんな状況になるまで彼が特に好んで読んでいたのが、俗に「転生物」と呼ばれるジャンルの、様々な理由で剣と魔法のファンタジーな世界に転生した主人公が活躍するという小説だった。

 

 

 当時の彼がそういうことが大好きな「ご年齢」だったということもあるが、まさに「その他大勢」に相応しい、平凡で退屈な日常を送っていた彼にとって、剣と魔法のファンタジーな世界の主人公である彼らが送る心躍る冒険の日々は、まさに彼にとって憧れの日々だったといえよう。

 

 

 薄れゆく意識の中、唐突にそんなことを思い出した彼は思う。

 

 

 もしも本当に転生、生まれ変わりというものがあるというのなら、今度産まれてくる時は、剣と魔法のファンタジーな世界で、大冒険な日々を送ってみたいなあと。

 

 

「(なあんちゃって。そんなこと実にあるわけないよなあ……)」

 

 

 自分の考えのあまりのバカらしさに、うっすらと笑みを浮かべる。

 

 

 そして彼は、とうとう意識がろくに保てない状況に陥り、そのまま誰にも知られぬまま、ひっそりとその命を落とすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この時の彼はまだ知らなかった。

 

 

「……あれ?どこだ、ここ?」

 

 

 

 

 ―――まさか冗談半分で願ったことが、本当に現実のことになってしまうとは。




どうでしたでしょうか?まあ、プロローグはこんな感じに変えてみました。


感想や誤字脱字の報告。そしてアドバイスなどあったら、是非よろしくお願いします。


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ローズマリー村編
第一話 ローズマリー村


どうも、えんとつそうじです。連投します。


今回からとりあえず、主人公の現在の状況の説明となります。


緋色の髪を持つあの原作キャラも登場しますので、暇つぶしにでもお読みください。


 ―――フィオーレ王国。

 

 

 人口1700万の永世中立国。

 

 

 そこは魔法の世界。魔法は普通に売り買いされ、人々の生活に根付いていた。

 

 

 そしてその魔法を駆使して生業とする者たちがいる。人々は彼らを『魔導師』と呼んだ。

 

 

 魔導師たちは、様々なギルドに属し、依頼に応じて仕事をする。

 

 

 そのギルド、国内に多数。そしてとある街にもとある魔導師ギルドがある。

 

 

 かつて、いや後々に至るまで数々の伝説を残したギルド。

 

 

 

 

 ―――その名は『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』。

 

 

 

 

アニメ『フェアリーテイル』一話冒頭ナレーションより抜粋。

(CV:柴田○勝)

 

 

 

 

 

 

 

 フィオーレ王国の辺境にローズマリー村という村がある。

 

 

 村の名前どおり春になると村中にローズマリーの花が咲き誇ることで有名な田舎町なのだが、そんな村の入り口に一人の少年の姿が見える。

 

 

 さらさらと流れるような黒髪に、宝石のように赤く輝く瞳と、今から将来が楽しみな品のある美少年なのだが、彼が「背負っている荷物」がそんな彼の雰囲気を全て台無しにしていた。

 

 

 その荷物とは前兆二メートルはあろうかという大きな猪。まだ十歳程度にしか見えないこの少年は、そんな巨大な荷物を軽々と背負いながらも悠々と村の中を歩いていた。

 

 

 普通に考えればかなり異様なはずの光景なのだが、この村ではよく見る光景なのか、偶然彼を見かけたとある村人は、そんな彼の様子に特に動じた様子を見せずに、笑みを浮かべながら少年に話しかける。

 

 

「おお、ユーリ!今、帰ってきたのか?ていうか今日の獲物はまた大物だな?」

「まあね。今回は我ながら運がよかったよ。後で村の皆にも配るからな」

「おっ!それはありがたいな」

 

 

 村人の言葉に、これまた少年も笑みを浮かべて返す。

 

 

 どうやら信じ難いことだが、村人の言葉から察するに、この猪はこの少年が狩ってきたということらしい。それどころか、どうやらこの少年は、まだ子供の身でありながら日常的に狩りを行ってもいるらしい。

 

 

 この少年は三ヶ月前にこの村の村長が森で拾ってきたのだが、それから身寄りがないということで、この村に住むようになったのだ。

 

 

 初めはどこから来たかもわからない子供を村に入れるのに村人たちは難色を示したのだが、彼の明るい性格と、子供らしからぬ気配りの高さ。そして時々こうして狩りで大物を仕留めたら、気前よく獲物を分けてくれるので、瞬く間に彼は村の皆に受け入れられていった。

 

 

 そんな彼の名は『ユーリ・クレナイ』。

 

 

 しかしこの名前はあくまで「この世界」風に直した名前であって、彼の本当の名前は別にあった。

 

 

 彼の本当の名は紅勇里。

 

 

 別の世界にある日本という国で死に、いつの間にかこの世界に生まれ変わった男。

 

 

 もし彼が住んでいた世界の、俗に「オタク」と呼ばれる人種の人間が彼のことをしれば、驚愕と羨望とともに、彼のことをこう評するだろう。

 

 

 

 

 ―――『転生者』と。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。今日も無事に獲物が狩れて本当によかった……」

 

 

 俺の名前は紅勇里。今ではとある理由でユーリ・クレナイと名乗っている。

 

 

 なぜこういう形で自分の名乗りを変えているのかというと、単純に「この世界」ではアメリカなどの外国と同じように、姓が後で名前が先にくるのが普通なため、このように俺も名前を先に、そして姓を後に名乗っているのだ。

 

 

 ……そう、もう「この世界」といっていることからわかるだろうが、実は俺は転生というものを経験したらしいのだ。

 

 

「(まさか本当に転生するなんてなあ)」

 

 

 転生とは、本来は仏教用語で「生まれ変わり」を意味するのだが、俺が一時期ハマっていたネット小説ではこの転生というものをした主人公が活躍するというものが、実は結構多かった。

 

 

 その中でも特に俺が好きだったのは、所謂剣と魔法のファンタジーな世界が舞台の小説だったのだが、実は過労で死んでしまう直前、冗談半分でもし本当に転生というものがあるというのなら、「今度は剣と魔法のファンタジーな世界に産まれて、冒険の日々を送りたい!」というようなことを願ったのだが、まさか本当にそれが実現してしまうとは。

 

 

「(『事実は小説より奇なり』ってよくいうが、本当だなー)」

 

 

 俺は生前高校に入学したころ、両親を亡くし、当時五歳の妹を育てるために自分のことは放ったらかしにして、ずっと働き詰めの日々を送っていた。

 

 

 そのせいか、我ながらろくな青春を送ってこなかったのだが、もしかしたらどこかにいる神様が同情して、俺をこの世界に生まれ変わらせてくれたのかもしれない。

 

 

「(……いや、どちらかというと神隠しとか、トリップとかいった方が正しいのかな?)」

 

 

 なにせ、俺がこの村にいるのは、小説のようにこの村の誰かが俺を産んだとかではなく、森で倒れていた俺をこの村の村長が拾ってくれたからだというのだから。

 

 

 なぜか、この世界に来た影響なのか、俺の肉体は10歳程度にまで戻っていたが、それ以外は記憶も何もそのままだったために、最初は何が起こったのかわからず軽いパニックに陥ったものだ。

 

 

 まあ、これは我ながら仕方ないと思う。なにせ、死んだと思ったら、いつの間にか自宅でも病院でもない、まったく知らない部屋にいたのだから。様子を身に来てくれた村長のことも、最初は誘拐犯かなにかだと思って大分失礼な態度をとってしまったし。

 

 

 まあ、それで村長に俺の身元を聞かれたのだが、最初なんと説明していいかわからなかったが正直に話すことにした。

 

 

 転生やトリップ物でのお決まりのように、記憶喪失でも装おうと思ったが、そんなことしても既に今さらだったし、それで村長に不信感でも持たれたら困る。なにせ、その時は村長がこの世界での唯一の情報源だったのだから。

 

 

 そして全てを話したのだが、村長はいうほど驚いておらず、しかし別に俺のいうことを全く信じていないというわけでもなさそうだった。

 

 

 それを不思議に思い、村長に聞いてみたのだが、実はこの世界、「アースランド」では俺のように突如この世界に現れるということは珍しいことではあるが、ないこともないらしく、その者たちは一様に「エドラス」という別の世界から来たといっているらしく、村長は以前その話を耳にしたことがあるのだという。

 

 

 そのことを聞いた俺はかなり驚いた。俺のような転生者が以前にもこの世界にやってきていたのかと思ったからだ。

 

 

 しかし話を聞いて行くうちにそれは違うと判断した。実は俺が死ぬ間際に「剣と魔法のファンタジーな世界」と願ったからかどうかわからないが、この世界には本当に魔法があり、そのエドラスとかいうところから来た者の中にも魔法の存在を知っていた者がいたという。

 

 

 同じくこの世界に突然現れた俺が、初めは魔法の存在を知らなかったというのに(ちなみに俺は村長に聞いて初めて魔法の存在を知った)彼らは最初から知っていたということは、彼らの世界もこの世界のように魔法が存在するということ。つまり俺がいた世界とは、完全に別の存在だということになる。

 

 

 だがまあ、そんなことは知らない村長は、俺のことを彼らと同じような存在だと思い込み、あまり不審に思っていなかったようなので、ここは結果オーライということにしておこう。

 

 

 まあそんなわけで、村長への説明はそのまま無事に終わったのだが、そこで俺はある問題があることに気づく。……そう、住む場所がないのだ。

 

 

 文字通り、着の身着のままこの世界に放り出された俺には家などあるわけがなく、お金は多少持ってきてはいるが、この世界と元の世界では通貨が違うので役に立つわけがない。

 

 

 その事実に直面した俺は、そのままこれからどうするかと、うんうんと唸っていたのだが、そんな俺を哀れに思ったのか、村長は俺に助け舟を出してくれた。

 

 

 なんでも、この村には一軒だけ居酒屋があるらしいのだが、その食事処を経営していた夫婦が、先日子供もつれて、親子連れで大きな街に出かけた帰り道、事故に遭い娘一人残してそのまま死んでしまったんだそうな。

 

 

 それで、今はその娘が一人でその居酒屋に住み着いているらしいのだが、流石に居酒屋を子供一人で経営できるわけがなく、店はずっと閉まったままなのだとか。

 

 

 幸い、この村の人たちは人がよく、また村長自身もこの居酒屋の夫婦のことを気に入ってたみたいで、村の有力者が集う集会などの会場をこの居酒屋にし、その賃貸料などを払ったり、他にもいろいろ理由をつけて援助したりと皆でその子を助けているため、今のところは特に生活に困っているとかそういうのはないようなのだが、俺が生前それなりに長い期間食品会社に勤め、また妹にちゃんと栄養をとらせないとと、その経験を生かして自己流で料理をしていたことを聞き、必要なら手伝いを出すからその居酒屋を再建してくれないかと頼まれたのだ。

 

 

 俺はこの提案に少し悩んだが、この世界での俺は(まあ前の世界でも同じようなもんだったが)生活を助けてくれるような後ろ盾が全くないということと、俺と同じような境遇、いや俺以上の境遇であるというその娘に、僅かばかり同情してくれたということもある。

 

 

 俺の時には、助けてくれる身内はいなかったが、血の繋がっている妹がいたし。毎日の生活はきつかったが、あいつの存在は俺の励むになった。あいつがいなければ、俺は途中で挫けていただろう。

 

 

 まあ、そんな理由もあり、俺は村長のその話を、ありがたく受けることにした。

 

 

 そして俺はその後、一応実力を見るというのと、他の有力者の面々を納得させるために自分の料理を披露し、そして彼らに合格を貰ってから、その残された居酒屋の娘という子と話し合い、これまた料理を作って実力を証明しながら説得し、俺はそうしておそらく10歳ほどまでに下がった肉体で、居酒屋を経営しておくことになったのだが、俺は正直店を経営してすぐにこのことを後悔することとなる。居酒屋の経営が想像していた以上にハードだったのだ。

 

 

 料理ができるのは俺一人で、給仕も会計も少女一人。村長の好意で、村で暇をしていた未亡人という中年の女性を二人ほど手伝いとして回してもらったが、それでも彼女たちもプロというわけではないため、しばらくは要領がわからず、大分苦戦していた。

 

 

 それにどうやら俺の料理が気に入った人がかなりいたようで、初日以降仕事帰りのおっさん連中どころか、食事をここで済まそうとする奥様連中なんかも押しかけ、もう生前でもこれ以上は忙しくなかっただろうというくらいの客入りだった。

 

 

 だが人間とは慣れるもので、今ではさすがに鼻歌を歌いながらというわけにはいかないが、皆それぞれ立派に仕事をこなせるようになり、今では立派に店を経営できるようになるまで成長した。……まあ、流石にお客さんの数が落ち着いてきたっていうのもあるんだけどな。

 

 

 しかし、お金のためにしょうがなくやっていた仕事だけど、真面目にやっておくもんだな。まさか、妹に栄養ある食事を作るくらいしか使い道がないと思っていた料理の知識が、こんなところで役に立つとは。

 

 

 まあ、でも正直、なぜかこの世界にも普通にあった醤油や味噌なんかの定番調味料がなければ、ここまで成功しなかったと思う。いくらなんでも醤油や味噌なんかの正確な作り方なんて覚えてないし、それを作ることができる資金も無い。

 

 

 それになぜかこの世界に来てからの俺は、尋常ならない……は流石にいいすぎだが、子供の肉体ではありえないほどの力を手に入れたみたいで、成人男性でも苦労するほどの重量の荷物でも、軽々と持ちあがるようになってしまった。

 

 

 そのおかげで、本来なら子供の筋力では不可能であろう力のいる調理(中華鍋を振ったり、猪なんかを解体したり)も普通にこなすことができて大助かりだ。

 

 

 まあそんなわけで、僅か10歳(見た目)で居酒屋の料理人兼店主(オーナー居酒屋の娘)に就職することになった俺なのだが、実は今では結構余裕ができてきたために、最近では居酒屋の仕事の他に時々森に狩りにいってたりする。

 

 

 村の皆には、表向きの理由としては食材費を抑えるためだとか、新鮮な食材を提供するためだとか説明しているが、本当の理由はいたって単純。体を鍛え上げるためだ。

 

 

 なにせ、どんな理由で俺がこの世界に来たのかは結局わからなかったが、それでも夢にまで見たファンタジー世界。

 あいにく魔法はこの村では手に入れることはできないらしいし、そんなお金もないが、それでも村長に聞いたところ、この世界には魔法を使わないで、魔獣なんかの化け物や、強力な魔法を持つ魔導師たちを圧倒する者たちもいるらしいので、今から体を鍛えれば、例え俺が魔法を使えない体質とかだったとしても、決して無駄になることはないだろう。

 それほど、俺にとってファンタジー世界での大冒険というのは、憧れの生活だったりする。

 

 

 ちなみになんで体を鍛えるのに狩りを行っているのかというと、どこかで子供の頃に無理な筋力トレーニングをすると、将来身長が伸びなくなるとどこかで聞いたので、筋力トレーニングは最低限にし、体力をつけるためのランニングやダッシュを中心にトレーニングを行い、体の動かし方を学び、森でのサバイバル知識を身につけるために、村の狩人の一人であるとあるおっさんに習い、こうして訓練がてら森に狩りに出かけているというわけである。

 

 

「(……でも正直、最近ではこのままの生活でもいいやとか感じ始めてるんだけどね)」

 

 

 忙しいのは生前とあまり変わらないが、それでもこの仕事は誰に強要されたわけでもなく、無理やり朝から深夜まで働かされているわけでもない。

 

 

 自分の料理を美味い美味いと笑顔で食べてくれる人たちがいて、近所の人たちも俺の境遇を村長から聞いたのか、かなり優しくしてくれる。

 

 

 やっていることは居酒屋の店主と、生前の日本でもありふれた職業だが、それでも前世とは違いかなり充実した日々を送れていた。

 

 

「(それに「あの娘」のことも気なるしな)」

 

 

 そう、俺が将来冒険するためにこの村を出て行ったら、彼女はこの村でまた一人になってしまう。

 

 

 村の人たちはそんな彼女を助けてくれるだろうが、それでももはや二人目の妹として彼女を見始めた俺には、もう彼女のことを知らんぷりして放っておくことはできない。

 

 

「(……本当に、どうすっかなあ)」

 

 

 と、俺がそんなことを考えていると、俺の視界に一軒の大きめの木造家屋の姿が入る。

 

 

 なぜか鳥の形をした看板を出しているこの家こそが、現在の俺の居候先であり、勤務先でもある居酒屋、「はと屋」。そしてその家の前では、一人の少女がこちらに向かって大きく手を振っているのが見える。

 

 

「……あいつ」

 

 

 この少女こそが、実はこの居酒屋の元店主たちが残した一人娘だったりするのだが、俺はその少女がこちらを信頼しきった笑みで、こちらに駆け寄ってくるのを見て、なんだか先ほどまであれほど悩んでいたのが、なんだかバカらしくなってきた。

 

 

「(まあ、いいか。どうせ、出ていくとしても体が十分に出来上がってからにしようと思ってたし。それにいざとなったらあいつも一緒に連れて行けばいいしな)」

 

 

 そんなことを考えている間に、少女は無事に俺の元に辿りつき、息を少し切らしながらも、上気した顔でこちらを見上げてきた。

 

 

「おかえり、ユーリ!」

「ああ、ただいま。なんだ?待っていてくれたのか?」

 

 

 俺がそういうと、その少女は少し恥ずかしそうに顔を伏せる。

 

 

「う、うん。今日は何時もより少し遅かったから、なんだか少し心配になっちゃって。そ、その迷惑だったかな?」

「そんなことないさ」

 

 

 なぜか不安そうにする少女を安心させるように、俺は少女の頭を何回かぽんぽんと軽く撫でつけると、今日の成果を少女に見せつけるために、先ほどまで背負っていた猪を地面へと落とす。

 

 

「今日は久しぶりに大物が捕れたからな。それで若干手こずったんだ」

「わあ!?本当だ、大きい!!」

「(……今まで気づかなかったのか?)」

 

 

 思いっきりこいつの視界に入っていたと思うんだが。

 

 

 まあ一緒に住みはずめて、こいつが若干天然が入っているのはわかっているので、ここは俺を心配しすぎて俺しか視界に入ってなかったと考えておくことにしよう。

 

 

「ま、まあいいや。それで今日はこいつを村の皆と一緒に食べようと思うんだが、悪いんだけど仕込みを手伝ってくれるか?さすがにこの大きさを一人で捌くのは骨だからな」

「うん、わかった。それじゃあ早く朝ごはんを食べて仕込みにしよう?今日は自身作なんだ!」

「あ、おい!?」

 

 

 俺は少女に手を引かれて、引きずられるように家の中へと入っていく。

 

 

「(やれやれ。こちらに遠慮しなくなったのはいいが、少しおてんばになりすぎたかな?)」

 

 

 実は初めはこいつは、引っ込み思案なのか、それとも男が苦手なのか。それとも近所の大人に面倒を見られ続けたために、他人から好意を素直に受け取れなくなってしまったのかはわからないが、なにかにつけて人に遠慮する様が見られたため、その姿に俺が不甲斐ないせいで、幼いころにいろいろ寂しい思いをさせた妹の姿を思い出した俺は、せめて俺だけには遠慮しないようにいろいろ工作したのだが、少々やりすぎたかもしれん。

 

 

「(……まあいいか。子供は何よりも元気が一番だっていうし)」

 

 

 少しくらいおてんばでも、あいつは基本的にいい子だから問題ないだろう。

 

 

 そう考えた俺は、今も俺の腕を引っぱっている少女に向かって口を開く。

 

 

「おいおい、少し待ってくれ。そんなに急がなくても大丈夫だって」

 

 

 あ、そうそう。そういえばこの娘の紹介をするのを忘れていたな。

 

 

 

 

 

 

 彼女の名前は『エルザ』。

 

 

 この村唯一の居酒屋の店主だった男の一人娘であり、今の俺の雇い主でもある。

 

 

 

 

 ………あれ?いったい誰にいってるんだ、俺は?




今作は、前作と違い、ローズマリー村編から始めます。ちなみにもちろんメインヒロインはエルザ押しで(笑)


それでは、感想や誤字脱字の報告、そしてアドバイスなどがありましたら、どうかよろしくお願いします。


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第二話 居酒屋の娘・エルザ

今回はエルザ視点の話になります。


この話のエルザは、居酒屋の娘というオリジナル設定が入りますが、話の展開的にはあまり関係ないので気にしないでください。



 私の名前はエルザ。

 

 

 このローズマリー村にある唯一の居酒屋、「はと屋」の一人娘として産まれ、今年で8歳になった。

 

 

 一年前、両親と一緒に大きな街に遊びに行ったんだけれど、その帰り道乗っていた馬車が事故で転落してしまって、そのせいで私一人残して、二人とも死んじゃったんだ。

 

 

病院のベットで初めてそのことを知った私は、急いで駆けつけてくれた村長さんたちを困らせるほど泣き叫んだのを、今でも覚えている。

 

 

 不幸中の幸いか、私の怪我はお父さんたちが護ってくれたのか、事故の割に大した怪我ではなく、すぐに病院を退院することができたのだが、村に帰った私を待っていたのは、温和だけれど明るい性格だった両親が忙しそうに働いている、いつもの騒がしい光景ではなく、誰もいない、シンと静まった、薄暗い我が家の姿だった。

 

 

 私は、この光景を見て改めて大好きだった私の両親はもういないんだと、実感することになった。

 

 

 その後、近所の人たちの助けで私はなんとか立ち直ることができたのだが、さすがに子供一人で居酒屋なんか経営できるわけもなく、店は廃業。

 

 

 ただ村長さんの御好意で、月に一度の村の集会ではここを会場として使ってもらい、その貸し出し料をいくらか払ってもらえることとなったので、薪拾いや木の実をとったりして、なんとか生活はできるようになった。

 

 

 中には面倒を見てくれるという人もいたが、両親が唯一残してくれたこの家を放ったらかしにするのは、私にはどうしてもできず、結局この家に一人で住むこととなった。

 

 

 だけど、自分でいったこととはいえ、一人っきりの家は予想以上に寂しく、また家の各所に残っている両親との思い出が、「両親がもう死んだ」こと、そして「もう私の家族はいない」んだということを、嫌でも私に突きつけてくるようで、村の人たちが様子を身に来てくれた時は、無理に明るくふるまったが、それでも誰も見ていない時だと、どうしても気持ちが暗くなるのを抑えきれなかった。

 

 

 そんな時だった。村長さんが一人の男の子を家に連れてきたのは。

 

 

 その男の子こそが、今私が作った朝ごはんを黙々と食べている黒髪紅眼の男の子、ユーリ・クレナイだった。

 

 

「………」

「ど、どうかな?」

 

 

 私は何も反応を示さないまま朝食を食べている彼の様子が気になり、そう尋ねると、ユーリは持っていたナイフとフォークを地面に置くと、先ほどの無表情とは打って変わって、その口元に満面の笑みを浮かべる。

 

 

「うん、大分上達してるな。これなら店に出しても大丈夫な出来だよ」

「ほんと!?よかった~」

 

 

 ユーリのその言葉に、私は思わず安堵の息を漏らす。

 

 

 実は私は今、このユーリに料理を教わっており、その練習も兼ねて、最近の朝ごはんは私が作らせてもらっているのだ。

 

 

 ちなみに店というのは、父さんたちが残した居酒屋「はと屋」のこと。実は彼が来たことにより、私は再びはと屋を再開させることができることになったのだ。

 

 

 なんでも、彼は森で倒れていたところを村長さんに保護されて、この村まで連れてこられたらしいのだが、村長さんの話によると、なんと彼は異世界の「チキュウ」の「ニホン」という場所から来たらしく、村長さんは彼を料理人に、はと屋を再開しないかと私に持ちかけてきたのだ。

 

 

 私は突然やってきていきなり異世界がどうとかいってきた村長さんに、失礼ながら、一瞬もう「お年」なのかな?と思ってしまったが、実は村長さんがいうには、極稀にこの世界には、異世界から来たという人間がおり、おそらく彼もその一人なのだという。

 

 

 なんでも、その「自称」異世界人の人たちは、「エドラス」という場所から来たといっているらしく、ユーリが来たという「チキュウ」とは違うらしいんだけど、村長さんは大した違いはないといっていた。

 

 

 でもそこはもっと気にしたほうがいいんじゃないかと思うのは、私だけなのかな?まあ、今となっては別にいいけれど。

 

 

 まあその時の私は、当然のことだけれど、彼が本当の異世界人だとかどうかわからなかったために(まあ、今でもわかるわけがないんだけどね)、そこは一旦流して、なんで彼を料理人にして、再び店をやれという村長さんに聞いてみたんだけれど、なんでも彼は、とある理由で(その理由というのは教えてもらえなかった)食材についての知識が豊富で、また、彼も私と同じく両親を亡くしており、残された妹を育てるためにいろいろ研究したため、かなりの料理の腕も持っているんだとか。

 

 

 だけど、そんなことをいわれても素直に信じられるわけがない。

 

 

 異世界人云々のことももちろんそうだし、なにより私より少し上くらいの男の子が凄腕の料理人だといわれても、そんなこと簡単にいわれてなにもいわず信じられる方がどうかしている。

 

 

 恩人である村長さんの前でいうのは嫌だったか、ここで嘘をいってもしょうがないので素直にそういうと、ならばと、村長さん以外の村の偉い人たちと一緒に、彼の料理の腕を試すための宴会が開かれ、私もそこに出席することになった。

 

 

 そして、そこで彼の料理を食べたのだが、彼の料理は予想以上に美味しく、宴会が終わること彼がうちの料理人をすることに初めは反対だった人たちも、私も含めて自然と全員賛成に回っていたのはいうまでもない。……ちなみに、料理自体はとてもおいしかったけれど、そのせいでかなり落ち込んだのを覚えている。これでも結構自身があったんだけどなあ。

 

 

 ……ま、まあ、そんなわけで。私は彼、ユーリと一緒に、一年ぶりにお店を再開することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして、村長さんから紹介された、二人のお手伝いさんを加え、私たちは実際にお店を再開させてみたのだが、予想以上の忙しさに、思わず目を回しそうになったのは記憶に新しい。

 

 

 一応、私はこれでも居酒屋の娘でもあるし、お父さんたちが生きていたころは、その手伝いとして給仕の真似事もしていたので、大丈夫だと思ったんだけど、所詮手伝いは手伝いだったようで、本格的に働くとなったら、子供の身である私では、かなりきつかった。しばらくは、仕事が終わると、すぐにそのままベッドに倒れこんで、死んだように眠る日々を送っていたほどだ。

 

 

 だけどそんな中、ユーリは私と同じくらいの年齢なのに、寝る間も惜しんで働き、また新製品の開発や作業の効率化など、お店をもっと盛り上げる努力も率先してやってくれた。

 

 

 そのおかげか、お客様は途絶えることもなく、しかし私たちは彼の行った効率化のおかげで、しばらくしたら、問題なくそれらに対処できるようになった。

 

 

 それからさらにしばらく経つと、客足も落ち着いて、さすがにもう翻弄されるということもなくなったが、それでも常連さんが多くできたということもあり、お店はかつて私が大好きだった、賑やかな姿を取り戻していた。

 

 

 また、この姿を取り戻すことに協力してくれたユーリに、私は当然のように深く感謝し、そしていたらぬ所をいつも助けてくれる彼の存在は、私にとって、いつの間にか家族と同じくらい大切なものとなっていった。

 

 

 これは仕方ないと思う。

 

 

 確かに最初はどこともしれない男の子と一緒にお店の経営なんて、できるのかとても不安だったのだけれど、彼はいかに自分の生活もかかっているとはいえ、本来関係ないであろうこの店の再建に全力を尽くしてくれ、私がなにかミスしても率先してフォローしてくれる優しさを持つ。

 

 

 村の人たちがいろいろ助けてくれていたとはいえ、ずっと一人ぼっちで生活していた私にとって、誰かが常に私のことを気にかけてくれているというのは、私にとってとても嬉しいことだったからだ。

 

 

 だけれど、私はそれと同時に、彼にどこか引け目を感じていた。それは彼に面倒をかけっぱなしだったということもあるが、なにより私は彼より恵まれすぎているという自覚があったからだ。

 

 

 彼は私と同じで両親を亡くし、妹を育てるためにいろいろ料理を研究していたということは前述していたと思うが、後で話を詳しく聞いてみたら、彼はあの年齢で仕事もしていたらしく、(ユーリの本当の年齢を知らない)食材の知識はその仕事から得たらしい。子供にはきつい居酒屋の仕事をあれほどこなせたのも、その時の仕事の経験があったからなのだとか。

 

 

 それは今の仕事より大分きつい仕事だったらしく、本人曰く過労で死にそうになるほど(死にそうというか実際一度死んでいるのだが)らしいのだが、彼の場合は私のように周り頼れる人もほとんどいなかったために、その仕事をやるしかなかったんだそうだ。

 

 

 それを聞いた私は自分が恥ずかしくなった。同じ両親を亡くした同類でも、一人鬱屈とし、他人の好意に甘えながら生きてきた私とは違い、彼は自分の力のみを頼りに、妹のため、明日を生きるために前向きに行動していたのだから。

 

 

 だからこそ、彼に対し、私はもう一歩踏み込めない日々を送っていたのだけれど、それを解決してくれたのもなにを隠そう、彼、ユーリ・クレナイだった。

 

 

 彼は、私にこういった。

 

 

「エルザは嫌かもしれないが、同じ家に住むことになったからには、俺はエルザのことは家族同然だと思ってる。だからなにかあるならなんでも俺にいってくれないか?エルザに遠慮されると俺が寂しいからさ」

 

 

 

 ……おそらくこの時の私の嬉しさは私にしかわからないだろう。もう、私には本当の意味で家族と呼べる存在はできないと思っていたからだ。

 

 

 私はその時のことを思い出し、思わず自分の口元に笑みが浮かぶのを感じるが、それを見られたのか、ユーリは不思議そうに首を傾げる。

 

 

「?どした?」

「へ?あ、ううん。なんでもないよ」

「そうか?それならいいんだが……っと、そういえばもうそろそろ仕込みの時間だな」

「え?あ、本当だ」

 

 

 彼に釣られて、時計を見れば、時間はもう午前8時。基本うちの店は午前10時から開店するため、もうそろそろ仕込みを始めなければならない。

 

 

 それを確認した私たちは、急いで食器を片付けて、準備を始めようと各々の部屋へと戻ろうとしたのだが、私はその途中、あることを思いついて、ユーリに話しかける。

 

 

「ねえ、ユーリ」

「ん?なんだ?」

「今までありがとう。これからもよろしくね?」

「……へ?」

 

 

 急にそんなことをいわれたせいか、ユーリはどこか呆けたような表情を浮かべるが、私はそれに構わず、「じゃあ、またお店でね」と言い残し、自分の部屋へと歩みを進める。

 

 

「さーって!今日もがんばるぞー!!」

 

 

 天国のお父さん、お母さん。エルザは新しい家族と元気にやっています。




感想や誤字脱字の報告。そしてアドバイスなどよろしくお願いします。


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第三話 妹思いの少年・シモンと兄思いの少女・カグラ

どうも、えんとつそうじです。


今回は原作キャラの二人が登場します。


 俺、ユーリがこのローズマリー村に来て、既に一年が経ったのだが、それまでの間、いろいろなことがあった。

 

 

 店を繁盛させるために新メニューを考案したら、繁盛しすぎて店が忙しすぎて、あやうく忙しくなりすぎて店が回らなくなりそうになったり、ある日ゴロツキがこの村にやってきて、店で暴れだしたので、村の皆で袋叩きにしたり、大きな熊が村まで降りてきたので、なんとかしようと他の人がくるまで時間を稼ごうとしたら、思いのほか簡単に倒せて、一番俺がびっくりしたり。

 

 

 あ、そうそう。そういえば、エルザのことなんだが、彼女は新しくスカーレットという苗字を名乗ることになった。

 

 

 実はこの世界では、豊かなものと、貧しいもので、苗字、つまり家名があるものとないものがいるのだが、村長に詳しく聞いてみれば、これは別に身分で名乗っていい、名乗っちゃだめと決まっているわけではなく、血筋を残さなくてはいけない、身分の高い家柄の人間などが、構成にきちんとその名を残さないといけないために、家名を名乗る場合が多いのだとか。

 

 

 それを聞いた俺は、せっかく家族になったのだから、エルザも苗字があった方がいいかなーと思い、彼女に俺と同じ、「クレナイ」という苗字を名乗らせようと思ったのだが、よくよく考えてみれば「エルザ・クレナイ」ってなんか語呂悪いなーと思い、だったら、彼女にもっとぴったりな苗字をつけようと思い、いろいろ考えた結果、彼女に「スカーレット」という苗字を贈ったのだ。

 

 

 これは、彼女の綺麗な緋色の髪からつけた苗字で、最初は「流石に安直だったかなー」と思ったが、当のエルザは顔を赤くしながら「あ、ありがとう……」といってくれたので、まあ別にいいかなと思っている。

 

 

 そしてそんな日々を送っていた俺は、現在村付近にある森の中にある、とある開けた場所にやってきていた。

 

 

「それじゃあ、行くぞ」

「よし、来い」

 

 

 普段は、材料費節約、そして将来の冒険のために力をつけるため、この森で狩りを行っているのだが、最近では、俺と同じく強くなりたいという仲間を見つけたので、そいつと一緒に、ここで独学ではあるが、格闘術の訓練を行っているのだ。

 

 

 その仲間の名前は『シモン・ミカヅチ』。俺と同じく(俺の場合はあくまで肉体年齢だが)11歳ほどとなる少年だ。

 

 

「らあっ!!」

「シっ!」

 

 

 シモンがその年齢にしては恵まれた体格の良さを生かし、体重を乗せた突きを俺に向かって放ってくるが、俺はその突きを右手で押え、それを避けると、軽く左手でシモンの顔面に向けてジャブを放つ。

 

 

「ちっ!?」

 

 

 それにシモンは一つ舌打ちしながら、一旦俺から距離をとると、俺に向かって前蹴りを放つが、俺はそんな彼の行動に一つ笑みを浮かべると、俺に向かってくる彼の足を踏みつけ土台にすると、そのままシモンの顔面に向かって、飛び蹴りを仕掛ける。

 

 

「なっ!?ぐうう!!」

 

 

 さすがにこれは予測できなかったのか、シモンは驚きで瞠目し、咄嗟に両腕をクロスしながらその蹴りを防ぐ。

 

 

 しかし、流石に衝撃は防ぎきれなかったのか、シモンは呻き声を上げながら吹き飛ばされ尻もちをつく。

 

 

 シモンは、痛みに顔を歪めながらも、咄嗟に立ち上がろうとするが、俺が最後に彼の目の前に自身の拳を勢いよく突きつけると、彼は少しの間呆然としていたが、やがて何が起こったのか理解すると、小さくため息をついた。

 

 

「はあ……。降参だ」

 

 

 そのシモンの言葉と同時に、先ほどまで、俺たちの試合を心配そうに見ていた二人の少女の家の一人、エルザがどこかホッとしたかのような顔を浮かべながらも、片手を上げる。

 実は今回、この試合の審判を彼女に頼んでいたのだ。

 

 

「そこまで!勝者、ユーリ!!」

「兄さん!」

 

 

 俺の勝利を告げるエルザの声とともに、シモンへと急いで駆け寄るエルザよりさらに小柄な一人の少女の影。

 

 

 彼女の名前は『カグラ・ミカヅチ』。シモンの妹で、詳しくは聞いていないが、実は彼らもつい最近両親をなくし、現在は兄弟二人で、この村に住んでいるらしいのだ。……どうでもいいけど、この村の孤児率多いな。

 

 

 カグラは、自身の兄であるシモンの傍へと駆け寄ると、心配そうに声をかける。

 

 

「大丈夫、兄さん?怪我してない?」

「あ、ああ。大丈夫だ。大分手加減されたからな」

 

 

 シモンはカグラの言葉にそう答えると、その言葉通り、ダメージ自体はあまりないのか、すぐに「よいしょ」という掛け声と共に立ち上がる。

 

 

「ててて。しかし、あいかわらず強いな、ユーリは。俺も自分なりに時間のある時に練習してるはずなんだけど」

「そりゃあ、その格闘技教えたの俺だからな」

「ああ、確か「カラテ」っていったか」

「見よう見まねだけどな」

 

 

 そう、今練習しているのは「空手」。

 

 

 おそらく日本人が格闘技を習う場合、一番最初に思い浮かべる格闘技の名前がこれなのではないだろうか。

 

 

 実は、高校時代、友人の一人に「俺、空手始めようと思うんだけど、お前も一緒にやんない?」といわれ、その時から無趣味だった俺は、特にやることもなかったために、付き合いでそいつが入るという空手道場に入り、三週間ほどそこの門下生だった時があったのだ。(尤もその後すぐに両親が死んでしまったために、俺はすぐにここを辞めてしまったのだが)

 

 

 それで、そこで空手の基本は教わっていたため、せっかくだからとこうして度々練習しているのだ。もし、将来冒険に出る際、剣士になるか、もしくは魔導師になるかわからないが、最低限の体術は、必要だと感じていたからだ。

 

 

「でも、お前もかなり上達したよ。……初めて会った時に殴りかかってきた時とは、動きが雲泥の差だぜ?」

「ちょっ!?あ、あの時のことはいうんじゃねえよ!!」

「はははは」

 

 

 慌てるシモンの様を見て、笑い声を上げるエルザ。気づけば、先ほどまで心配そうに兄の様子を見ていたカグラも、俺たちのやり取りに、口元に笑みを浮かべている。

 

 

 そんな彼らと俺たちが初めて出会ったのは、俺が何時ものように森に狩りに出かけていた早朝。カグラがボロボロになりながらも、狼の群れに襲われているのを目撃したからだ。

 

 

 なんでも、彼ら兄弟は、俺が来るまでのエルザのように、森に山菜や木の実。それに薬草などを採りに行き、それを売って生計を立てているらしく、この時も、彼らはいつものように、山の幸を採りに森に入ったらしいのだが、この日は思ったより獲物が見つからなかったらしく、二手に別れて広範囲を探索していたらしいのだが、その時カグラが間違えて狼たちの住処に足を踏み入れてしまったらしく、そのせいで群れで襲われているところに、俺が遭遇したというわけである。

 

 

 それを見た俺は、以前話した通り、この世界に来てから自分の身体能力が格段に上がっていることを自覚しており、また、既に狩りをいくらか経験してため、獣の命をとることに躊躇することがなくなっていたために、手持ちのナイフで狼たちを追い払うことに成功し、無事に彼女を助け出すこともできたのだが、ちょうどその時に、彼女の悲鳴を聞きつけたのか、シモンがその場にやってきたのだが、その時の俺たちの光景を見て、彼にとある誤解をされてしまったのだ。

 

 

 服がボロボロ。後先考えず逃げてきたために肌も擦り傷だらけだらけの妹と、血だらけのナイフを持った見知らぬ同世代の男。

 

 

 ……そう、彼は俺が自分の妹を襲っていると勘違いしてしまったのだ。

 

 

 そんな誤解をしてしまった彼は、激昂し、そのまま顔を真っ赤にし、声を上げて俺に襲いかかってきた。

 

 

 最初は、突然の事態に俺も呆然としてしまっていたのだが、彼の叫び声に我に返り、急いで彼を取り押さえ、彼女の妹のカグヤにシモンの説得をしてもらい、なんとか無事に誤解を解くことができたのだ。

 

 

 その後、彼らといろいろ話をし、彼らも既に両親を亡くしているということで、不謹慎だが親近感なものがわき、エルザにも彼らを紹介し、(エルザを初めて見たシモンはなぜか顔を赤くし、カグラがそれを呆れたように見ていたけれど、どうしたんだ、あいつら?)それから俺とエルザは、こうして彼らとつるみようになったのだが、ある日、シモンが俺に向かって、自分に修業をつけてくれないかといってきたのだ。

 

 

 なんでも、彼は年齢の割にがっちりとした、恵まれた肉体をしており、俺と出会うまでは同年代では喧嘩で負けたことなかったらしく、誤解とはいえ、俺に全力で襲いかかり、それなのにあっさりと返り討ちにあったことが、予想以上にショックだったようで、俺たちとつるみはじめてからも、俺はこのまま妹を護っていけるのかとずっと悩んでいたらしい。

 

 

 特に俺との出会いの時は、彼の誤解だったからよかったとして、もし誤解ではなかったら、カグラが酷い目にあっていたことは確実なので、彼女が狼の群れに襲われている場面に間に合わなかったことに、かなり落ち込んでいた。

 

 

 まあ、そういうこともあり、彼は彼なりにいろいろ考えた結果、じゃあ護れるように強くなればいいと判断し、ならば自分をあっさりと取り押さえた彼にいろいろ教えてもらえれば、問題なく強くなれると考えたようだ。

 

 

 俺は、そんな彼の前向きな、また言い方は悪いが単純な彼の考え方に若干呆れながらも、妹を護りたいという彼の思いを、かつて、同じく妹がいた身としては彼の思いを無碍にはできず、また、俺自身も特訓の相手がそろそろ欲しいなあと考えていたので、それからはシモンとこうして、度々空手の特訓をしているというわけである。

 

 

「(しかし、まさかここまで上達するとはなー。早すぎだろう)」

 

 

 実は、シモンが空手を始めてまだ一週間ほどしか経っておらず、この程度の期間では、普通は精々正拳突きなどの基本技の形だけの習得が限界のはずなのだが、彼の場合は、そんな段階を飛び越えて、既にそれらの技を実戦で使いこなす程度のレベルにまで上達していた。

 

 

 俺の場合は、まだ基本技の修練に時間を費やしていたことを考えると、おそらく彼は空手に関して、俺などよりよっぽど才能があるのかもしれない。

 

 

「(こりゃあ、うかうかしてたら、あっという間に抜かれるかもなあ)」

 

 

 そう思うと、少し悔しくなってしまう。

 

 

 前世では、時期が悪かったこともあり、それほど熱心ではなかった空手だったが、この世界にやって来て、将来冒険の日々に身を置こうと決意してからは、毎日、かなり真面目に修練を積んでいたからだ。

 

 

 流石に、今はまだ空手にかけた時間が違うので、まだまだシモンが俺に勝つのは、大分先だと思うが、おそらくこの調子では、すぐに追い付かれてしまうだろう。

 

 

「(……とりあえず、明日から、空手の特訓メニューを倍にすっかなあ)」

 

 

 エルザに声をかけられ、なにやらわたわたしているシモンを横目に、俺は自らの数少ないプライドを守るため、明日からの特訓内容をどうするか、真剣に悩み込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は、シモン・ミカヅチ。このローズマリー村に、妹であるカグラ・ミカヅチ。そして母親と三人で住んでいたのだが、つい最近その母を亡くしてしまったために、今では兄弟二人で細々と暮らしている。

 

 

 俺の父親は、以前は王都でそれなりの規模の商会を経営する商人をしており、そのため自分でいうのもなんだが、俺たち家族はかなり裕福な生活をしていた。

 

 

 しかし、父親がある商売に失敗し多額の借金を負い、一気に破産に追い込まれてしまった。

 

 

 それは、無理な働き方をしてなんとか返すことができたのだが、そのせいで、父親が過労で死んでしまい、一気に生活が苦しくなってしまい、今まで住んでいた街を離れて母親の遠縁の親戚が住んでいるという、このローズマリー村に親子三人で引っ越してきたのだ。

 

 

 生活は苦しかったが、幸い親戚の人が親切な人で、何かと俺たちの面倒を見てくれたが、借金時代の心労が祟ってしまったのか、母親が重い病にかかってしまい、つい最近そのまま死んでしまった。とうとう俺たちの家族は、お互いに兄弟二人きりになってしまったのだ。

 

 

 母さんは、その死に際に俺にこう言葉を残した。「お前はお兄ちゃんなんだから、ちゃんと妹を守らなきゃだめよ?」と。

 

 

 だから俺は誓ったのだ。俺がどうなろうと、カグラだけは、俺がこの手で守ると。

 

 

 

 ―――そんな時だった。あいつに初めて出会ったのは。

 

 

『きゃああああ!?』

「カグラ!?」

 

 

 それは、俺たち兄弟が、いつものように木の実や薬草などを採りに、森の中に入っていた時のこと。

 

 

 親戚の援助により、貧しいながらも、なんとか細々と暮らしていた俺たちであったが、さすがに親戚に頼りすぎるのも悪いし、また、その親戚に何かあった場合援助が無くなり、生活が立ち行かなくなってしまう可能性があるため、そんな時に備えてある程度の大きな金が必要と、俺たちは毎日こうして森に入り、食料や売れそうな薬草などを採集し、日々の生活費を節約しながら、将来に備えて少しずつ貯金するという日々を送っていたのだが、この日は、なぜかいつもより成果が悪く、探索場所が悪いのかと、二手に分かれて広範囲を探索していたのだが、それが悪かった。カグラが狼の巣に間違えて足を踏み入れ、そこに住んでいた狼たちに追い立てられるはめになってしまったのだ。

 

 

「カグラ!どこだカグラー!!」

 

 

 俺は必死にカグラの姿を探したが、広い森の中、一度はぐれれば簡単に合流できるはずがない。

 

 

 しかし、俺の場合は運がよかったのか、俺は途中でカグラや狼たちの足跡のようなものを見つけ、それを辿っていくと、その現場へと到着した。

 

 

 そう、「全身ボロボロの妹」が、俺と同年代くらいの「血塗れのナイフを持った」男に襲われかけているその現場に。

 

 

 ……いや、すまん。実はこれ、俺の完全な勘違いだったんだけどな。

 

 

 本当は、この時こいつはナイフで狼たちを追い払って、妹を助けてくれてたんだ。

 

 

 ナイフに付着した血はその狼のもので、この時冷静に周りを見れば、何匹か狼の死体を確認できたはずなんだけど、でもこの時、てっきり妹が襲われているのだと思い込んでいた俺は、そのようなことに気づくことはなく、妹を助け出すために、呆然とこちらを見ていたその男に向かって、全力で殴りかかったのだ。

 

 

 ナイフを持っていた相手に無謀だと思われるかもしれないが、俺は自分でいうのもなんだが同年代に比べて体格がよく、街にいた時は同い年との喧嘩では負けたことはなかった。酔っ払いではあるが、大人のチンピラも伸したことがあるほどだ。

 

 

 だから、ナイフを持っていたとしても、このぐらいの年齢の相手なら、問題なく制圧できると、俺は激昂した頭で、どこか冷静にそう考えていたのだが、それはすぐに完全な間違いだと気づかされる。

 

 

 初めは、突然の俺の襲撃に、そいつは呆然としていたが、俺の拳がそいつに届く直前、目を細めると、俺の片手を冷静に絡めとり、俺をあっという間に組み伏せたのだ。

 

 

 俺もこれには驚いた。まさか、同年代の人間にここまで一方的にやられるとは思っていなかったからだ。

 

 

 

 

 ―――そして、これが、俺とこいつ、ユーリ・クレナイの初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 ユーリっていう男は不思議なやつだった。

 

 

 見た目は俺と同じくらいの年齢なのは間違いないはずなのだが、どこか大人びた雰囲気をその身に纏っており、また、やっていることもまるで子供とは思えないことばかり。

 

 

 それは居酒屋の料理人だったり、大物を狩る狩人だったり。―――そして、「カラテ」という謎の武術を使う格闘家であったり。

 

 

 実は以前、初対面の時にあまりにあっさり押さえ込まれたことに納得できず、なにか武術でもやっているのか?と試しに聴いてみたら、このカラテという武術の訓練をしているという話を聞きだすことに成功したのだ。

 

 

 カラテというのは、ユーリの故郷に伝わる、最もポピュラーな伝統武術のひとつらしく、極めれば手刀で相手の体を貫いたり、建物ひとつを崩壊させることができるという(※全て漫画の話。ユーリがふざけて吹き込んだ)恐ろしい武術なのだそうだ。

 

 

 俺はこの話を聞いた時に、思わず納得した。本人はまだまだ自分は未熟だといっていたが、それほど恐ろしい格闘技を習っているなら、この年齢で、あれだけの強さを持っているのも不思議ではないからだ。

 

 

 そして俺は気づいた時にはユーリに頭を下げていた。その格闘技を俺にも教えてくれと。

 

 

 実はユーリと初めて出会った時以来、ずっと悩んでいた。

 

 

 あの時は、俺の誤解だからよかったが、もしもユーリに悪意があれば、簡単にカグラに害をなすことができた。それどころか、俺ももう生きてはいないだろう。

 

 

 それではだめなのだ。母さんが死んでから、俺はカグラを守っていくことを心に決めていたのだから。

 

 

 だからこそ、俺は力が欲しかった。大切な妹を守ることができる力を。

 

 

 幸い、ユーリもかつて妹がいたらしく、俺の気持ちをわかってくれたのか、快く俺の頼みを聞いてくれ、度々こうして稽古をつけてくれるようになったのだ。

 

 

 稽古は俺の想像以上に厳しいものだったが、それでも俺は徐々に強くなっていく自分を感じ、俺は夢中になって訓練に励んだ。

 

 

 それに兄弟二人で過ごしていた日々は、幸せでもあったが、それでも正直、他の人と殆ど関わらない日々に、どこか寂しいものを感じていた。

 

 

 だからこそ、ユーリとエルザ。この新しい二人の友人と過ごす毎日は、それまでとも違う、騒がしくも、充実した、かけがいのない日々へと変わっていったのだ。

 

 

 頼りになる大人びたユーリと、優しい女の子のエルザ。これからもこの二人と共に過ごして生きたいと思うのだが、しかし最近、そんな彼らに、俺は一つだけ文句をいいたいと思うようになった。

 

 

「おい、エルザ。口元にご飯粒ついてるぞ」

「え、どこ?」

「ちょっと、待ってろ。……よし、とれた」

「あ、ありが……!?ちょ、ちょっとユーリ!」

「ん?(とったご飯粒を口に含みながら)どうかしたか?」

「……な、なんでもない」

 

 

 

 ……俺の前であまりナチュラにイチャつかないで欲しいんですがねえ(怒)!!

 

 

 実はこいつらとつるむようになってから、度々こいつらと飯を一緒に食ったりするんだが、故意か天然なのか、こいつら俺の目の前で今みたいにまるで恋人みたいな行動をしたりするんだ。

 

 

 まあ、二人とも鈍感なのか、(特にユーリ)イチャついているという自覚がないようなのだが、見ているこっちは、疎外感が半端ではないので、本当にやめて欲しい。

 

 

 いつもの、その鬱憤が溜まる光景を見て、俺はひっそりとため息をつく。

 

 

 実は、俺はエルザのことを、初めて会ったときから、少しいいなと思っていたからだ。

 

 

「(……でも、あの調子じゃあ、俺に望みはなさそうだなしなあ)」

 

 

 俺はそして、もう一つため息を吐く。

 

 

「(まあでも、いいか。―――こいつらと一緒にいるのはなんだかんだで楽しいしな」

 

 

 そして、俺は口元に小さく笑みを浮かべるのだった。




感想や、誤字脱字の報告、アドバイスなどよろしくお願いします。


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第四話 悪魔の墓

どうも、えんとつそうじです。


今回はオリキャラと前作には無かった設定が登場します。どうか暇つぶしにでもお読みください。


 あのシモンとの組み手から、既に二年が経ち、今や俺、ユーリ・クレナイも、完全にこの村の一員として馴染んでいた。

 

 

 居酒屋の営業も完全に軌道に乗り、空手の技術も順調に上がっていく。そんな順風満帆な日々を送っていたある日、俺は、とある人物に連れられて、普段狩りに使う森のさらに奥。立ち入り禁止とされている場所までやって来ていた。

 

 

「いったい、どこに行くんだ村長?こんな朝早く……」

「まあ、待て。もう少しで目的の場所に着くのでな」

 

 

 俺の言葉にそう、返すこの老人の名は、『スタン・ローズマリー』。

 

 

 強面で、少し頑固な所はあるが、心根は優しい老人で、自身には何の徳もないのに、村に問題が起こったならば、率先してそれを解決しようとする、この村の頼れる村長だ。

 

 

 ちなみに、彼の家は、この辺り一帯で一番の名士でもあるらしく、代々この村の村長を務めているのだという。

 

 

 そして、なぜ俺がこの人と共に、こんなところを歩いているのかというと、今日の朝、久しぶりに狩りにでも出かけようと家を出ようとしたところ、村長がなにやら真剣な顔でうちまでやってきて、俺について来てほしいところがあるといわれたので、こうしてどこへ行くかもわからぬまま、彼に同行しているというわけである。

 

 

「(しかし、本当にどこ行くんだ?それにここは禁止区域だろ。こんなとこ、俺が入ってもいいのか?)」

 

 

 禁止区域とは、前述した通り、俺が普段狩りに使っている森の、さらに奥の、立ち入りが禁止されている森のことで、ここに入ることができるのは、代々この村の村長のみ。つまり彼の家の人間のみ許されているという。それ以外は、村の有力者すら入ることは許されないらしい。

 

 

 本来なら、村にだいぶ馴染んだとはいえ、余所者である俺が、この場所に入ることなどできないはずなのだが……。

 

 

 と、そんなことを考えていると、いつの間にか、森を抜け、大きく開けた広場のような場所に到着した。

 そのど真ん中には、何かの記念碑か何かなのか、掠れているが、なにやら文字が彫られた大きな石が設置してある。

 

 

「着いたぞ、ここじゃ」

「これは……?」

「ここは、初代よりこの村の村長が守ってきた墓。この墓には、この村を救った英雄が眠っておるのじゃ」

「英雄?」

「うむ」

 

 

 なんでも、遥か昔、理由は定かではないが、大量の魔獣が発生し、この村を襲撃し、あわや壊滅しそうになるという事件が起こったらしいのだが、そこに突如として現れ、それを防いだのが、この墓に眠る「英雄」だというのだ。

 

 

「紅の髪をたなびかせ、体に紅色の炎を纏わせたその男は、瞬く間に魔獣の群れを殲滅し、村を救ったらしいのだが、なぜかその男は魔獣と戦う前から重症を負っていたらしく、戦いが終わった後は、もうその命は風前の灯だったらしい」

 

 

 もちろん、村を救ってくれた恩人だということで、当時の村人たちはその男を必死で治療したのだが、しかし村人たちの懸命な看護もむなしく、その男はまもなく命を落としたのだという。

 

 

 そして、流石に命を賭けて村を守ってくれた恩人の亡骸をそのままというのは、させられないということで、その男の亡骸をここに弔い、それから、代々この村の村長が、英雄の墓として、この墓を密かに守っているのだという。

 

 

 と、そこまで聞いたところで、俺は村長の説明に、少し納得できないものがあることに気づいたので、その疑問を解くために、俺は村長に向かって口を開く。

 

 

「?ちょっと、待ってくれ、村長。英雄の墓っていうなら、なんでこんな所に隠れるようにあるんだ?というか、そこまですごいやつなら、こんなところで、密かに弔うんじゃなくて、村の公共墓地で弔ってやったほうがいいんじゃ……」

 

 

 だが、俺のこの質問は元から予想していたのか、村長は俺の言葉に全く動揺することなく、静かに首を横に振る。

 

 

「それでは駄目なのじゃ。なぜなら、自らの亡骸を誰の目につかず葬るのは、その男自身の願いなのじゃからの」

「ん?どゆこと?」

 

 

 わざわざそんなことをいうなんて、その男、ひょっとして、なんか訳ありかなんかなのか?

 

 

 そんなことを考えていた俺をよそに、村長は、なぜか辺りを警戒するように一度見回すと、声を潜めて言葉を続ける。

 

 

 

「実は、この墓に入っているのは人間ではない。―――悪魔なのじゃよ」

「………は?」

 

 

 

 村長のその言葉に、俺は思わず呆然とした声を出す。

 

 

 え?悪魔って、あの聖書とかに出てくるあれのことか?っていうか、この世界に魔法があるっていうのは知ってるけど、悪魔もいんのこの世界!?

 

 

 そんな俺の混乱を見て取ったのか、村長は僅かに笑みを浮かべながらも、言葉を続けてくれた。

 

 

「うむ。わしも伝承でしか知らぬので、もはや本当かどうかはわからぬが、ご先祖様の残した手記によると、その男は、今わの際にこう言葉を残したそうじゃ。『自分はとある存在に追われている。なので、このままここにいたら君たちの迷惑になる。だから、私の亡骸はどこか、誰とも知らない場所に葬ってほしい」とな。その男はそれだけ残して事切れたらしい。―――ご先祖様も男がそんな言葉を残したその理由まではわからなかったらしいが、なにぶん、村の恩人が残した言葉。それを聞かないわけにはいかず、こうして、元々ワシの家の所有地であったこの辺りの区域を立ち入り禁止とし、彼の亡骸をここに密かに弔ったというわけじゃ」

「へえ、そんなことが。……ん?ちょっと、待ってくれ。結局、俺はなんで、ここに連れてこられたんだ?」

 

 

 今の話は、結局俺には関係ない話だと思うんだが……?

 

 

 そんな俺の言葉に、しかし村長は、慌てた様子を見せず、「まあ、待て」と片手で制す。

 

 

「今回、お主にこのことを話したのは他でもない。お主にワシの後を継いでもらいたいと思ったからなのじゃ」

「へ?」

「つまり、ワシの息子にならないかといっておるのじゃが」

 

 

 

 

 

 

「……え、えええええええええ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 思わぬ村長の言葉に、俺は思わず叫び声を上げてしまったが、やがてなんとか心を落ち着け、村長の話をあらためて聞いてみると、村長は、別に思いつきでこのようなことをいったというわけではなく、実は俺を拾ってきた時から、そのことを考えていたのだとか。

 

 

 彼には昔、一人の妻がいたらしいのだが、若いころに病死してしまい、妻を心から愛していた彼は、それからずっと独り身でいたらしいのだが、最近歳をとったせいか、自分が死んだ後のことが気になりだしたという。

 

 

「ワシは今は亡き妻に操を立てて、後妻を迎えることはなかったが、そのせいで、今のワシの家にはワシの後を継ぐ者がいない。このままでは、どこかの家から養子でもとるしかないと思っていたのだ。……そんな時だった。お主をこの場所で見つけたのは」

 

 

 それは、三年前、村長が何時ものように、この墓の手入れにやってきた時のこと、この墓の前で一人倒れている少年を見つけた。それこそが俺だったんだとか。

 

 

「跡継ぎを探している時に、村の英雄の墓の前に現れた異世界の少年。ワシはそれになにか運命のようなものを感じ、お主を保護した。そして、お主の能力を見極めようと、一つの課題を与えた」

「!?エルザのうちの居酒屋の経営のことか!!」

「うむ。村を治めるのに、経営の知識はそれなりに役に立つからの。それに居酒屋は基本的に客商売じゃ。お主の人柄を見定めるという意味もあった」

 

 

 そして、三年の間、俺の様子を見てきた結果、村長は俺を村長の跡取りとして問題ないと判断したらしく、こうして話を持ちかけてきたというわけらしい。

 

 

「でも、俺には居酒屋の仕事があるし……」

「なに、ワシの後を継げとはいっても、すぐにというわけではない。ワシもお前さんが成人になるくらいまでは、現役でいられるだろうしな。居酒屋の仕事は、その間にエルザにでも教え込めばよい。なんなら、村長の仕事といくつか兼任してもいいしな―――まあ、急にいわれても、どうすればいいかわかるまい。ゆっくり、考えるがよい」

 

 

 そういうと、村長は「帰るぞ」といって、踵を返す。

 

 

 俺は、先ほどの村長の突然の申し出に困惑しながらも、その後を素直についていく。

 

 

 しかし、その内心は、未だに混乱していた。

 

 

「(俺が村長の息子に……?まさか、そんなことを考えてたなんて知らなかった)」

 

 

 でも、村長の考えもわからなくもない。自らの跡取りがいなく、養子を取らざるを得なかった場合、おそらく村の有力者の間から、養子をとることになる。

 

 

 その場合、村長の座を巡り、いらぬ争いが起こるかもしれない。ならば、村の有力者とは関係のない、俺のような人間を跡取りにしたほうが、安全だと感じたのだろう。

 

 

「(でも、俺にできるのか?それに村長になるのなら、俺の夢である冒険も諦めなくちゃいけない……。)」

 

 

 俺は、村長に気づかれないように、こっそりとため息をつく。

 

 

「はあ。俺はいったいどうしたら、いいんだ……」

 

 

 だが、この時の俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――このすぐ後に、そんな悩みは全くの無意味なものになってしまうということに。




感想や誤字脱字の報告。そしてアドバイスなどよろしくお願いします。


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第五話 子供狩り

どうも、最近あまりの暑さでだらけまくっているえんとつそうじです。もう本当に暑すぎて死にそうですはい。


今回はいよいよローズマリー村編のクライマックスとなります。結構やっつけで書いたので、いろいろ至らぬ点があるかと思いますが、どうかよろしくお願いします。


「ん?なんだ、あれは……?」

 

 

 ユーリがそれに気づいたのは、ちょっとした偶然だった。

 

 

 村の英雄だという、悪魔の墓からの帰り道、ふと顔を上げると、村の方角から、黒い煙が何条にも立ち昇っているのを確認できたからだ。

 

 

 ユーリは、最初それを、ただの焚き火の煙か何かだと考えたが、それにしては規模が大きいことに、なにかがおかしいと首を傾げる。

 

 

 そして、それはどうやら村長も同じだったようで、ユーリに釣られるように黒い煙の姿を確認すると、訝しげに眉を潜める。

 

 

「ひょっとして、火事か?いや、しかし、それにしても範囲が広い気が……」

 

 

 そう、村長のいうとおり、村の方角から立ち昇るその煙は、ただの焚き火や火事にしては範囲が広く、あの煙の量では村全体が火で覆われていることになる。

 

 

 しかし、この村の皆は、村長の方針により、田舎にしては安全意識が高く、火の扱いなんかも、かなり気をつけて行われている。

 

 

 そのため、俺も、そしてどうやら村長も不審に思ったらしい。

 

 

 と、そこで、俺は村から煙が立ち昇っている理由について、一つの考えを思いつく。

 

 

「(ひょっとして、盗賊にでも襲われているのか?)」

 

 

 実は、この世界、魔法があるとはいっても、治安的にはやは前の世界より大分危ないらしく、盗賊など、現代日本ではまずありえない存在も出てくるのだとか。

 

 

 幸いこの村の規模は田舎にしては大きく、また田舎であるために襲う旨みがないため、今まで盗賊の襲撃にあったことはないらしいのだが、それでもこれからも襲われないとは限らない。

 

 

 そう考えた俺は、村長に向かって口を開く。

 

 

「村長、悪いんだけど、俺が村の様子を見てくるから、あんたさっきの墓のところで隠れててくれるか?火事かなんかだとは思うが、もし盗賊とかが村を襲っているのなら、村長がいたら正直足手まといになる」

 

 

 俺はそういって、村長が手に持っている杖へと視線を向ける。

 

 

 村長は先ほど、墓の前で俺が成長するまでは現役でいられるといっていたが、流石に歳が歳なために足腰が弱っているらしく、そのためか、俺がこの村に来る前から今持っている杖を愛用していた。

 

 

 もし、今回の件が盗賊によるものだとしたら、足が不自由な村長よりも、俺が行ったほうが、戦うにしろ、皆を助けるにしろ役に立つに違いない。

 

 

「(それに、なぜかこの世界では、俺の身体能力は元の世界より格段に上がっている。そこいらの大人程度なら俺でも一蹴できるはずだ)」

 

 

 村長にも、自身が足手まといだという自覚があったのだろう。彼は悔しそうにしばし俯いていたが、やがて自身の心の整理がついたのか、顔を上げ、真剣な顔で俺に視線を向ける。

 

 

「……わかった。ワシは墓にてお前の帰りを待とう。じゃが、決して無理は禁物じゃぞ」

「ああ。それじゃあ、行ってくる」

 

 

 そして、俺は村長と一度視線を交わすと、村へと向かう。

 

 

 先ほどから、どんどんと大きくなる嫌な予感をその胸に秘めて。

 

 

「(俺の思い過ごしであってくれよ……ッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 『子供狩り』というものがある。

 

 

 それはこの当時、伝説の黒魔術師ゼレフを信奉する教団が労働力を求めて、全国各地で行った奴隷狩りのこと。

 

 

 単純な労働力を求めるなら、大人を攫ったほうが効率がいいが、この教団が求めているのはただの労働力ではなく、反乱の心配が少なく、管理が容易。そして、いざという時は自分たちの思想に簡単に染められるのが望ましい。

 

 

 教団は、そのために標的を完全に子供のみに絞り、大陸中の魔導師たちを管理、統制する組織『魔法評議会』の目の届きにくい辺境にて、この子供狩りを行っていたのだ。

 

 

 

 

 ―――そして、とうとうその魔の手は、このローズマリー村にもやってきたのである。

 

 

「いやああ!!離して、離してよ!!」

「ええい!大人しくしろ、このガキ!!」

 

 

 少女、エルザ・スカーレットは、黒のローブを身に纏った男に、その腕を捕まれながらも、いったいどうしてこうなってしまったんだろうと、思わず考えずにはいられなかった。

 

 

 早朝、ユーリが村長に連れられてどこかに行った後に、この男たちは、突如空から竜のような形をした謎の怪物に乗り現れ、村を襲撃しだしたのだ。

 

 

 この男たちこそが、通称『教団』と呼ばれる、ゼレフの信奉者たち。

 

 

 男たちは村へと降り立つと、抵抗する大人たちを次々とその手にかけ、子供たちを捉えていった。

 

 

 エルザは男たちの手から逃れようと、村の中を逃げ回ったが、その途中シモンの妹であるカグラを見つけ、彼女を男たちの目から隠していたせいで時間をとられてしまい、こうして神官の一人に捕まってしまったというわけである。

 

 

「離して!離してよ!!」

「ええい、うるさい!!」

 

 

 必死に抵抗するエルザに、その神官の男はとうとう痺れを切らしたのか、エルザの頬を張り飛ばす。

 

 

「あう!?」

 

 

 男の張り手をくらい、地面に倒れ付すエルザ。

 

 

 幸い、怪我はないようだが、その一撃で彼女の心は折れてしまったようで、頬を片手で押さえながら、その場で俯いてしまう。

 

 

「(どうして、どうしてこんなことに……)」

 

 

 エルザは今日もいつものような日常が続くと思っていた。

 

 

 ご飯を作り、ユーリと一緒に食べ、シモンとユーリの特訓を応援し、カグラに家事を教え、四人で一緒に遊ぶ。

 

 

 そんな、平凡で、しかしそれでいて幸せな日々がこれから先ずっと続くと信じていた。

 

 

 だからこそ、彼女は今の状況になぜ自分が陥ってしまったのか、何度も何度も反芻する。

 

 

 村の人間の多くが男たちに殺された。よく様子を見に来てくれた隣のおばさん、おじさんに、今や家族の一員といってもいい、

 

 

 だが、神官の男にとっては、そんな彼女の事情など知る由もなく、震える彼女の姿に、満足げな笑みを浮かべると、エルザへとゆっくりと歩み寄る。

 

 

「やれやれ、ようやく観念したか。 手間かけさせやがって……」

 

 

 そして男がエルザを再び捕らえようとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

「―――エルザ!!」

 

 

 その声が聞こえてきたのは。

 

 

「へ?な、なn、ぶべらべ!?」

 

 

 神官の男は、突如聞こえてきたその声に、思わずといった感じで一瞬呆けたような顔をするが、そのすぐ後、その声と共に突撃してきた影に吹き飛ばされる。

 

 

「……え?」

 

 

 おもいがけず起こった、その出来事に、エルザは驚愕と共にその顔を上げる。神官の男が突然吹き飛ばされたこともそうだが、その声が、彼女にとって最も聞き覚えのある声だったからだ。

 

 

 そして、エルザが恐る恐る顔を上げると、そこには彼女が想像していた通りの人物、彼女の家族である少年、ユーリ・クレナイがそこにいた。

 

 

「大丈夫か、エルザ?」

 

 

 ユーリは心配そうな顔で、エルザの顔を覗き込むが、当の本人であるエルザは、ユーリの顔をしばらく信じられないようなものを見るような目で見ていたが、やがて目の前にいるのが本物のユーリだとわかると、緊張の糸が途切れたのか、じわじわと、その瞳に涙を浮かべ始めると、ユーリに勢いよく抱きついた。

 

 

「ユーリ……。皆が、村の皆が……ッ!!」

「わかってる。……ここに来る途中で血塗れの皆の姿を見てきたからな」

 

 

 ユーリはエルザの元にたどり着くまでに、村のあちこちで無残な姿を晒していた見知った人たちの姿を思い出しながらも、悲痛な顔でエルザの言葉に答える。

 

 

 エルザにとってもそうだが、彼にとっても、身寄りのないどころか、出自すら不明な自分に良くしてくれた村の人たちの死は、彼にとっても、心にくる出来事だったからだ。

 

 

 だが、彼はその悲しみを無理やり心に押し止め、今はエルザを、この世界での自分のたった一人の家族を助けるために自らの気持ちを奮い立たせる。

 

 

「とにかく、今はここを離れよう。やつらに見つからないうちにどこかに隠れ「ユーリ、後ろ!?」ッ!?」

 

 

 ユーリは、そのままエルザに避難を促そうとしたのだが、その途中、驚愕混じりのエルザの声に咄嗟に後ろを向くと、そこには一人の神官が、歪んだ笑みを浮かべながら、こちらに杖のようなものを向けている姿が見える。

 

 

 そんな男の姿に、ユーリは一瞬何をする気なんだといぶかしんだが、やがて、その杖の先についている水晶のようなものから、電流のようなものが帯電し始めるのを見ると、急激に嫌な予感を感じ、咄嗟にエルザをその場から突き飛ばす。

 

 

「危ない!!」

「きゃあ!?」

 

 

 エルザが咄嗟の出来事に悲鳴を上げたと同時、男の杖から大量の電流が迸り、ユーリに向かって直撃した。

 

 

「がああああああああああ!!?!!?」

「ユーリ!?」

 

 

 今まで体験したことのない激しい痛みに、悲鳴を上げるユーリ。そんな彼の姿を見て、エルザは悲痛な声を上げるが、その間にも、ユーリへの電撃は続く。

 

 

「(……な…なんだこれは!……ま、まさか……これが魔法か!?)」

 

 

 そして、しばしそのままユーリは電流を受け続けていたが、やがて魔法が切れたのか、それとも男が満足したのか、電流が止まると同時に、ユーリは地面へと倒れ伏した。

 

 

「……う…があ……」

「ユーリ……。ユーリッ!?」

 

 

 呻き声を上げながら、痙攣するユーリの姿に、エルザは急いでユーリへと駆け寄り、必死に声をかけるが、当のユーリは、あまりの激しい痛みに、彼女の言葉に返す余裕がない。

 

 

 確かに、この世界の彼は、前世の彼と違い、格段に丈夫になったが、それでも中身はともかく肉体は所詮まだ子供。それにこのような痛みは、流石に前世の記憶を持つ彼にも経験は全くなく、そのため耐性が全くない。

 

 

 それ故に、彼の精神は電流の痛みに絶えかね、彼の意識を混濁させ、その意識を今、無理やり闇へと鎮めようとしていた。

 

 

「(あ……やべ……意識が…)」

 

 

 どんどんと遠くなる意識に、このままではまずいと感じたユーリは、最後の力を振り絞り、先ほどから涙を浮かべながら、必死で自分に呼びかけてくるエルザの方へと視線を向ける。

 

 

「…エ……ルザ…」

「!?ユーリ!!」

「お前だけでも……逃げ……」

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、ユーリの意識は、そこで完全に途絶えた。




感想や誤字脱字の報告。アドバイスなどよろしくお願いします。


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登場人物紹介一覧~ローズマリー村編~

今回はローズマリー村編に出てきた登場人物紹介。


登場人物紹介は章ごとに、同じ人物の紹介でも話が進みにつれ、更新という形でやりますので、どうかよろしくお願いします



※追伸

登場人物紹介は、別に読まなくても話の展開には関係ありませんので飛ばしてもかまいません。後、ネタバレもあるのでご注意を。


◆ユーリ・クレナイ

 

 

 

性別:男

 

年齢:13歳(外見年齢)

 

特技:料理

 

好きなもの:家族(妹、エルザ)、村の人々

 

嫌いなもの:家族を害する者、ブラック企業

 

使用魔法:無し

 

容姿設定:???(まだ秘密)

 

 

 

・この小説の主人公。

 

 

 高校生になったばかりの頃、両親を交通事故で亡くし、それから妹が社会人になり、嫁に行くまで、働き詰めの日々を送っていた。

 

 

 高校を卒業してすぐに、とある食品会社に就職したが、その会社は実はその業界では有名なブラック企業で、新入社員の頃から馬車馬のごとく働かされていたが、それでも彼は妹のためにと必死に耐えていた。

 

 

 しかし、妹が無事に職場の同僚と結婚したことにより、肩の荷が下りたと感じた彼の緊張の糸が切れ、そのせいで今まで彼の体に溜まっていた疲労が、一気に彼を襲い、そのまま過労によって彼は死亡。気がついたら、フェアリーテイルの世界で、ローズマリー村の村長である「スタン・ローズマリー」に保護されていた。

 

 

 村長に事情を聞かれた際、彼に下手な不況を買いたくないために、全てのことを包み隠さず話したら、自身が食品会社に勤めていたこと、その食品会社で得た知識を使い、妹の食事を作っていたことを理由に、エルザの両親が残した居酒屋の再建に協力しないか持ちかけられ、この世界での後ろ盾がない彼は、それを承諾。エルザと共に、居酒屋を経営しながら、村で生活することに。

 

 

 前世では、かつてフェアリーテイルの世界のようなファンタジー世界で冒険の日々を送ることを夢見ていた彼は、将来冒険の旅に出るために、とりあえず体を鍛えようと、狩りや、前世で少しの間習っていた空手の修練をし続けた結果、前世と比べて格段に上がった身体能力も合わせて、そこいらの大人なら一蹴できるほどの実力がある。

 

 

 ある日、村長に村付近にある森の禁止区域にある、村の英雄の墓だという場所に連れて行かれ、村長に自分の跡を継がないかといわれた帰り、ローズマリー村から煙が立ち昇っているのを見つけ、村長をおいて村へ急行したところ、村が黒魔導師ゼレフを信奉する教団に襲われている現場に遭遇。神官の一人に捕まっていたエルザだけでも助けようとしたが、その隙をつかれ、教団の魔法兵の一人の放った電流の攻撃を受け、エルザに村から逃げるようにいったのを最後に、そのまま気を失った。

 

 

 前世では、中年を過ぎたおっさんだったが、この世界に来たときは、10歳ほどの年齢の頃に若返っていた。

 

 

 

 

◆エルザ・スカーレット

 

 

 

 性別:女

 

 年齢:10歳

 

 好きなもの:家族(ユーリ)、仲間(シモン、カグラ)、ユーリの手料理

 

 嫌いなもの:悪い人

 

 使用魔法:無し

 

 容姿設定:原作と同じ

 

 

 

 ・この作品のメインヒロイン。

 

 

 ある日、両親と共に街へと遊びに行った帰り道の馬車が事故にあい、その際に両親を亡くし一人に、それ以後は村長たち村の人間の手助けを受けながらも、一人で過ごしていた。

 

 

 そんなある日、村長の提案で主人公を料理人として雇い、両親を亡くしていたのを理由に閉店していた居酒屋を再開、二人で居酒屋を経営することに。

 

 

 孤独の日々を送っていた彼女は、主人公と生活していくうちに、包容力のある彼に少しずつ彼女は惹かれていき、今では大切な家族だと認識している。

 

 

 

 

◆シモン・ミカヅチ

 

 

 

性別:男

 

年齢:13歳

 

好きなもの:妹、エルザ

 

嫌いなもの:無力な自分

 

使用魔法:無し

 

容姿設定:原作と同じ

 

 

 

・主人公の友人の一人。

 

 

 元々はそれなりに大きな街の商人の息子として、裕福な生活を送っていたが、ある日一家の大黒柱である父がとある商談に失敗し、借金苦に。

 

 

 それを返すために父親は必死で働き借金を返すが、その際に無理がたたり、父親が死亡。その後、母親の遠縁の親戚を頼り、母親と妹あわせて家族三人でローズマリー村に引っ越したが、借金時代の心労がたたり、そのせいで重い病気にかかり、その後すぐに母親も死亡する。

 

 

 妹と二人で過ごすことになった彼は、親戚を含めた村人の助けをかりながらも、母親の遺言を守り、妹を大切に守りながら生活していたが、ある日、妹を主人公に助けられたのをきっかけに、妹を助けられなかった自分を情けなく思い、主人公に空手を習いながらも、彼やエルザとつるむようになる。

 

 

 主人公曰く空手の才能は主人公よりあるらしい。

 

 

 エルザに気があるが、主人公とエルザの仲の良さを見て、半ば諦めかけている。

 

 

 原作では、シモンの姓は不明だが、彼の妹であるカグラの姓がミカヅチであることから、ミカヅチにした。

 

 

 

 

◆カグラ・ミカヅチ

 

 

 

性別:女

 

年齢:7歳

 

好きなもの:兄、仲間(ユーリ、エルザ)、主人公の料理

 

嫌いなもの:孤独、狼

 

使用魔法:無し

 

容姿設定:原作と同じ

 

 

 

・シモンの妹。

 

 

 ある日、シモンと手分けして森で木の実や薬草などを探していたところ、間違えて狼の巣に足を踏み入れ、そのせいで狼の群れに襲われていたところを主人公に助けられる。

 

 

 

 

◆スタン・ローズマリー

 

 

 

性別:男

 

年齢:60歳

 

好きなもの:村の皆、羊羹

 

嫌いなもの:村人を害する者、生意気な若者

 

使用魔法:無し

 

容姿設定:杖をついた年齢相応の老人

 

 

 

・ローズマリー村の村長。

 

 

 代々、ローズマリー村の村長を務める名士の家柄で、何の準備もなく、フェアリーテイルの世界にやってきた主人公を保護した人物。

 

 

 物知りで、本来普通の人が知りえないエドラスの存在を、不確かな噂話程度ではあるが知っており、異世界から来たという主人公の存在も、それと同じようなことだと考えている。

 

 

 村の英雄の墓の前に倒れていた主人公の存在に運命的なものを感じ、彼を自身の跡取りとして、自身の養子にしようとしていた。

 

 

 村長職の他に、ローズマリー村の英雄である悪魔の墓の墓守もやっている。

 

 



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奴隷時代編
第六話 楽園の塔


どうも、えんとつそうじです。


今回から楽園の塔編。いろいろ前作とは違うところもありますが、話の展開的にはそう変わりませんので、どうか暇つぶしにでもお読みください。


 その塔はアースランド、カ=エルム近海のとある孤島に、人目を忍ぶかのようにひっそりと建っていた。

 

 

 名は『楽園の塔』。正式名称はRリバイブシステムと呼ばれる、死者を蘇らせる禁忌の魔法であるこの塔は、歴史上最強最悪と名高い魔導師『ゼレフ』を信奉する魔法教団によって支配されており、またこの塔は政府も魔法評議会も非公認の建設だったために、ここでは彼らが各地からさらってきた人々が奴隷として働かされていた。

 

 

 教団の神官たちは、自分たちが崇拝する神の復活を少しでも早く行うため、奴隷たちに向かって、日々罵声を浴びせる。

 

 

「おらおら、チンタラしてんじゃねえぞ!」

「偉大なるゼレフ卿復活のために、働けることを、光栄に思うんだなあ!!」

 

 

 鞭を地面に打ち付け、脅しをかけながら、飽きもせず延々とそんなことを叫び続ける神官たちに怯えながら、奴隷たちは大人しく働いていたが、そんな彼らの中の一人。赤い瞳を持つ少年は、神官たちのそのような横暴な姿を見て、侮蔑の念を込めて、舌打ちをする。

 

 

「……あいかわらず、ピーピー、ピーピーうるせえなあ、あの豚どもは」

 

 

 そんな彼の言葉に、一緒にいた緋色の髪を持つ少女は、辺りを慌てて見渡しながらも、そんな彼の言葉を小声で窘める。

 

 

「シっ!そんなこといって、聞こえたらどうするの!?」

「そんなへまはしねえよ」

 

 

 少女の言葉に、少年はどこか拗ねたようにそう答えるが、少女が自分のことを心配してくれてそういったのを、理解したのだろう。それ以降、過激な発言をはせず、黙々と働き、少女はそんな少年の姿を見て、密かに安堵のため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 ―――この少年たちの名は「ユーリ・クレナイ」と「エルザ・スカーレット」。ローズマリー村より、この楽園の塔へと連れてこられた子供たちである。

 

 

 

 

 

 

 

 俺、ユーリ・クレナイは、今日の午後の部の労働を終え、奴隷のために用意された質の悪い食事の乗ったトレーを片手に、どかりとその場に胡坐をかきながら、深々とため息を吐く。

 

 

「はあー。やれやれ、今日も疲れたぜ」

 

 

 肩を揉みながら、思わずそう呟いた俺だったが、そんな俺に呆れたような視線を向けた者がいた。シモンだ。

 

 

「……気持ちはわかるが、オヤジ臭いぞお前」

「うるせえよ!?」

 

 

 シモンの言葉に、思わず咄嗟に大声でそう返す。

 

 

 前世ではもうすぐ40歳を迎える年齢だったので、オヤジには違いないのだが、実は気にしているので本当にやめてほしい。

 

 

 そんな俺たちのやりとりがおもしろかったのか、一緒にその場にいたエルザが、くすくすと含み笑いを浮かべながらも、俺たちを窘めるために、口を開く。

 

 

「ほらほら、二人ともそこまでにしておきなよ。早く食べないとご飯の時間が無くなるよ?」

「む」

「それもそうか」

 

 

 エルザのその尤もな言葉に納得した俺たちは、一時お互いに矛を収め、(まあ、この場合つっかかったのは、おもに俺の方なんだが)ここは、彼女の言に従い、食事に集中することにした。

 

 

「(楽園の塔(ここ)の食事は不味いが、食える時に食っておかねえと、ここの労働はきつすぎる。あの、神官(クソやろー)ども。こっちが逆らえないのをいいことに、徹底的にこき使ってくれるからな。―――あ、やべ。また、ムカついてきた)」

 

 

 沸々と湧き出てくる、黒いG以下の存在である神官(カス)どもへの怒りを抑えるために、ここは一つ、俺が気絶してしまってからのことを整理しようと思う。

 

 

 突如村を襲撃してきた、黒のローブを身に纏った男たちの魔法により気絶してしまった俺は、気がついた時には、今まで着ていた服とは違う、如何にもな汚れたズボンを穿かされ、手足をおそらくこの世界特有なのだろう、光の紐のようなもので繋がった錠で拘束されて、同じように汚れた服を着させられ、手足を拘束された人たちと共に、馬車のようなものに乗せられていた。

 

 

 おそらく、俺が気絶してからずっと様子を見てくれていたのだろう、同じく錠を課せられながらも傍にいたエルザから事情を聞いたところによると、なんでも俺が気絶してから、エルザはどうにか俺を助けながらも逃げようとしていてくれたらしいのだが、あの後他にも複数の男たちがやってきて、あっという間に拘束されてしまったんだそうだ。

 

 

 そして、そこで同時に村を襲撃したやつらの正体も聞いた。

 

 

 あの黒ローブの男たちは、黒魔導師ゼレフという、遥か昔、その絶大な魔力で世界を恐怖のどん底に突き落としたという、史上最凶最悪と称された魔導師を神と信奉する魔法教団で、この俺たちが現在いる楽園の塔(神官どもの何人かは、「R=システム」とも呼んでいたが)を完成させるために大陸各地で奴隷狩りを行っていたらしく、今回はその標的に、俺たちが住んでいたローズマリー村が選ばれたのだという。

 

 

 この楽園の塔は、なんでもゼレフの復活に必要らしく、やつらの当面の最優先事項らしいのだが、正直はた迷惑とかいうレベルではない。

 

 

「(まったく、そこまでゼレフとやらを復活させたいのなら、自分たちで勝手にやれってんだ。人を巻き込まないでもらいたいぜ)」

 

 

 幸い、シモンの妹のカグラだけは、エルザが咄嗟に隠したことで、神官どもの手からなんとか免れたらしいが。

 

 

 薄味のスープを一口含みながらそんなことを考えていると、

 

 

「―――もう、こんなところやだー!!」

「ん?」

 

 

 突然聞こえてきたその女の子らしき声に、そちらを振り向くと、兄弟だろうか?えぐえぐと泣いているカグラと同年代くらいの少女の姿と、それを必死で宥めようとおどおどしている一人の少年の姿があった。

 

 

 どうやら、日々続く奴隷生活に嫌気がさした少女の鬱憤が爆発したらしい。

 

 

 自然とそこにいた人々の視線は、彼女たちに集中したが、それが子供の癇癪だとわかると、あっという間に興味を亡くしたのか、すぐにその視線を戻した。子供が泣き叫ぶその光景は、この楽園の塔では珍しくもない光景だったからだ。

 

 

 だが、俺はそんな少女の姿が前世の妹と重なって見えてなんだか放っておけず、食べ始めたばかりの食事w持って、未だに泣きやまないその少女へと歩み寄る。

 

 

「お、おい……?」

 

 

 シモンの戸惑うような声を背に、俺はしゃくりあげるその少女へと近寄った。

 

 

「大丈夫か?」

「ふ、ふえ……?」

「え?」

 

 

 突然知らない人物の声を聞いたからだろう。二人は戸惑うような声を上げながら俺を見上げるが、俺はそれにかまわず、彼らの傍へと座り込むと、俺の分の食事が乗っているトレーを少女へ向かって差し出す。

 

 

「ほら、食え」

「え?」

「食べかけで悪いけど、少しでも腹が膨れればマシになるだろ」

 

 

 そして、少女が混乱から立ち直らないうちに、俺は少女と同じく、先ほどから状況が掴めず、困った顔をしている少年へと視線を向ける。

 

 

「俺の名前はユーリってんだ?お前らの名前は?」

「え?あ、俺はウォーリー。ウォーリー・ブギャナンっていうんだ」

「……ミリア―ナ」

「そっか、よろしくな。お前らはどこから来たんだ?仲がいいみたいだけど、ひょっとして兄弟かなんかなのか?」

「あ、え、違うよ。俺たちは……」

 

 

 そして俺は、少年『ウォーリー』と、少女『ミリアーナ』に、次々と質問を繰り返したり、俺のことについて話したりと、とにかく考える暇を与えぬよう、喋り続ける。

 

 

 やがて、そんないつもと違う俺の姿をいぶかしく思ったのか、シモンとエルザの二人が俺たちの方に近寄ってくる。

 

 

「どうしたの、ユーリ突然?」

「いったい、なんなんだ……」

「お、ちょうどいい所に来たな!」

 

 

 そういうと、俺はエルザとシモンへと近づくと、いきなり二人の肩を抱き寄せる。

 

 

「お、おい!?」

「え、な、なに!?」

 

 

 突然の俺の行動に戸惑う二人の様子をあえて無視して、俺は呆然とこちらを見ているウォーリーたちに笑いかける。

 

 

「こいつらは、シモンとエルザ。ここに来る前から一緒にいる俺の仲間だ。よろしくしてやってくれ」

 

 

 そういうと、俺はウォーリーたちに気づかれように、シモンたちに小声で話しかける。

 

 

「(適当に話に付き合ってくれ。考える暇を与えなきゃ、あの女の子も泣くことはねえだろ)」

「(は?)」

「(……ああ、なるほど)」

 

 

 俺の言葉にシモンは不思議そうな顔をするが、エルザはさすがに付き合いが長いだけあって(シモンとも長いっちゃ長いが、エルザほどではない)俺の考えがわかったみたいで、納得したような声を上げる。

 

 

 そう、俺は別に考えなしで、先ほどからべらべらと喋っているわけではなく、ミリアーナを泣き止ませるためにこうして、何も考えさせないように話し続けているのだ。

 

 

 おそらく、彼女が癇癪を起こしてしまうのは、これからのことを考え、嫌な考えが、つぎつぎと浮かび、それに囚われてしまっているからだろう。ならばそれを考えさせなければいいということだ。

 

 

 本当は、慰めるなりして泣き止ませた方がいいのだろうが、それだと時間がかかるし、彼女のことを何も知らない俺では、下手に慰めれば、何か地雷を踏んで、状況を悪化させるかもしれないからな。

 

 

 そして、シモンたちも会話に参加してくれたこともあり、俺の努力は実り、見事ミリアーナを泣き止ませることに成功した。

 

 

「(やれやれ、これで一安心か)」

 

 

 先ほどまでの泣き顔から一転、今は笑顔でエルザと談笑しているミリアーナの姿に、俺がホッと安堵の息をついていると、

 

 

 

 

 

「―――やさしいんだな、君は」

 

 

 

 

 

「あん?」

 

 

 突然聞こえてきたその全く知らない声に、俺は不思議に思いながらも後ろを振り向くと、そこにはエルザと同じくらいの年齢であろう少年が、穏やかな笑みを浮かべながらそこに立っていた。

 

 

 空のように蒼い髪に、おそらくこの世界特有の風習なのだろう、右目付近に書かれた刺青のようなもの。そして下手なアイドル顔負けの整ったその顔立ちは、おそらく大人の女性が見れば、この少年の将来にかなりの期待を持つだろう。

 

 

 だがなにより俺の印象に残ったのは、その黒曜石のような、黒く輝くその瞳。

 

 

 澄んだその力強く光るその瞳からは、この少年に宿る強靭な意志が感じ取れる。

 

 

 普段なら、同年代の少年とはいえ、俺は初対面の相手は多少なりとも警戒するのだが、不思議とその少年からは、こちらを警戒させるものを一切感じることはできなかった。

 

 

 いや、それどころか、いつの間にか自然とその少年に惹かれ始めている自分がいることに気づいた。

 

 

「……誰だ、お前?」

 

 

 そんな自分の心境に、自分で驚きながらも、俺がなんとか声を絞り出し、その少年にそう尋ねると、少年はさらに笑みを深める。

 

 

「ああ、そういえば自己紹介をしていなかったな」

 

 

 そういうと、少年は片手を俺に向けて差し出しながら、俺の質問に答えるために口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「―――俺の名前は、ジェラール。ジェラール・フェルナンデスだ。よろしくな」

 

 

 そういって、その蒼髪の少年、『ジェラール・フェルナンデス』は微笑んだ。

 

 

 

 これが俺、ユーリ・クレナイと、そんな俺の敵、そして生涯の親友(とも)となるジェラール・フェルナンデスの初めての出会いだった。

 




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第七話 脱走

どうも、えんとつそうじです。


今回は、主人公が楽園の塔で主に一緒にいるメンバーの紹介です。


前作の話とあまり変わっていませんが、どうかそこのところを踏まえて、暇つぶしにでもお読みください。


 ジェラール・フェルナンデスという少年との出会いから一年後、俺たちは今でもこの楽園の塔で、奴隷として働かされているが、とりあえず、今までのことをここで軽く振り返っておこうと思う。

 

 

 ジェラール・フェルナンデス。彼は俺たちが澄んでいたローズマリー村とはまた違う田舎町で生まれ、ここに連れてこられたらしく、俺たちより大分前からこの塔にいるらしいのだが、あの時、この塔での光景としては珍しく、他人を思いやる(なんか、自分でいうのは照れてしまうが)行動をとった俺に興味を持ち話しかけてきたんだそうだ。

 

 

「(まあ、確かに。ここで奴隷として働いているやつで他人を助ける余裕のあるやつなんて、普通いないわなあ)」

 

 

 まあその後、このジェラールとはいろいろ話してみたのだが、彼はこの年齢にしてはかなりの博識で、またとても大人びた少年だった。

 

 

 そしてこの世界に来て、大分精神が肉体に引っ張られていることを自覚しはじめたとはいえ、中身が中年の俺は、彼とは自然とうまが合い、そのまま彼は、ウォーリーとミリアーナと一緒に俺たちとつるむようになった。

 

 

 ジェラールは、その生まれつきのカリスマ性っていうのかな?人を惹き付ける力であっという間に俺たちのグループに溶け込み、俺たちは力を合わせてこの楽園の塔での生活を生き抜くこととなった。

 

 

 あ、そうそう。そういえば、ジェラールたちの他にも最近俺たちのグループに新しく入ることとなったやつがいるので、ここで紹介しておこうと思う。

 

 

 そいつの名前は『ショウ』。ミリアーナと同じくらいの、栗のような頭が特徴的な少年だ。へまをして、神官の一人に叱責されていることを、エルザが助け、そのまま俺たちのグループに入ることとなった。そのため、エルザのことを、「姉さん」と呼び、よく慕っている。

 

 

 そして、俺たち七人は、身を寄せ合って、楽園の塔での生活を送っていた、そんなある日のことだった。ショウがとんでもないことをいいだしたのは。

 

 

「脱走だとッ!?」

「うん、皆も協力してほしい」

 

 

 俺の驚愕の言葉に、しかしショウは動揺を一切せず、普段の気弱な彼の姿からは想像できないほど真剣な顔で、力強くそう頷いた。

 

 

 俺がショウの言葉になぜここまで驚いているのかというと、突然脱走しようなんていいだしたこともあるが、何よりも普段の彼は、年齢相応に臆病な性格で、こんな大きな提案をしてくるとは思えなかったからだ。

 

 

 なぜなら、この楽園の塔で奴隷の脱走は何度も行われているが、その度に神官に捕まり成功したことはない。そして脱走に失敗した者たちは、脱走者がでる度に、神官たちに拷問紛いの懲罰を行ってきたために、今や『脱走』という言葉が奴隷たちの口から出てくることはない。

 

 

「(なのに、まさかそんな言葉がよりにもよってショウの口から出てくるとはなぁ……)」

 

 

 ショウは、その瞳から大粒の涙をボロボロと流しながら口を開く。

 

 

 それは、年端もいかない少年の情念が詰まった、心の底からの慟哭だった。

 

 

「ぼくはもういやなんだ。少し失敗したらすぐにどなられて、神官のやつらの気分しだいで殺されちゃうこんな生活なんか……っ!!」

「ショウ……」

 

 

 ショウの気持ちは痛いほどわかる。

 

 

 俺はこの世界にやって来てから、不思議と体力や力が上がって、そのおかげでここでの生活もさほど苦ではないが、それでも理不尽は感じるし、神官たちがその気になれば、あっさりと死んでしまうだろう。

 

 

 そんな生活、穏便に送っていても結局は先はないだろうし、ましてや年相応の力しか持たないこいつには耐えられなかったのだろう。

 

 

「(だがそれでも危険すぎる。少なくとも今はそんなリスクを負うのはまずい……)」

 

 

 そう考えた俺は、なんとかショウを止めようと、口を開きかけたが、そんな俺の言葉を遮るように発言するものがいた。ジェラールだ。

 

 

「……よし、その提案に乗ろう」

「ジェラールッ!?」

 

 

 俺はジェラールのその発言に、先ほどのショウの発言以上驚きを隠せなかった。年齢にそぐわないほど思慮深く慎重な彼が、まさかこんな危険度の高い誘いに乗るとは思ってなかったのだ。

 

 

 ジェラールはそんな俺の疑問に答えるためか、俺の発言をその視線で制しながら、話を続ける。

 

 

「よく考えてみろ。確かにこの話は危険が大きいが、それはここでも同じことだ。お前も見ただろう?神官の機嫌を損ねて嬲り殺しにされたやつを」

「……っ!?それは確かにそうだが!!」

「………それに俺はこの間聞いてしまったんだ。後一年もすればこの塔が完成してしまうと。―――そうなった時、あいつらが俺たちのことを生かしておくと思うか?」

「っ!?」

 

 

 確かにそうだ。今は貴重な労働力としてあいつらが俺たちに手を下すのは、裏切りか年や怪我によって働けなくなった奴等に対してくらいだが、奴等の目的であるこの塔が完成すれば俺たちは用済み。

 むしろ外の敵対勢力に情報が漏れる恐れがあるし、そのまま奴隷として扱うにしても内部に潜在的な敵対勢力を持つわけだ。ならばいっそのことすっぱりと俺たちを処分したほうが手っ取り早いだろう。

 

 

 もしかしたら黒魔術の生贄とかにされてしまうかもしれない。

 

 

「(確かにジェラールのいうとおりだ。ここはジェラールのいうとおりこの話に乗ったほうがいいか?いや、しかし……)」

 

 

 ジェラールの言葉に苦悩する俺。そんな俺をよそに、瞳に決意の光を携えながら口を開く一人の少年がいた。

 

 

「俺も乗るぜ」

「シモン!?」

「俺はこんな塔で一生を終える気はねえ。―――妹が無事かどうかも知りたいしな」

「……そういえば妹がいたんだったかお前。確かカグラっていったか?」

「ああ」

 

 

 ジェラールの言葉に、そう頷いて答えるシモン。エルザはそんなシモンの様子に悲痛な顔を見せる。

 

 

「(そうか、そういえばカグラは今一人なんだっけ)」

 

 

 確か村が襲撃された時に、大人の大半は殺されているはずだから、シモンたちの遠縁の親戚だという人物も一緒に殺されてしまっているだろう。

 

 

 そして、シモンたちにとって、その親戚は今存在する唯一の血縁。そして兄であるシモンがいるということは、今は頼れる人は誰もいないということになる。それは心配だろう。

 

 

「(村長が生きていれば、なんとかしてくれるだろうが……)」

 

 

 村長に隠れるようにいっておいた英雄の墓があるのは、森の奥。よほど村付近の地理に精通していなければ、気づくことはできないはずだが……。

 

 

「(できれば、無事でいてほしいが)」

 

 

 そして、シモンの言葉に背中を押されたのか、さらに別の仲間たちが口を開く。ウォーリーとミリアーナだ。

 

 

「にゃー。私もいくー」

「ミリアーナが行くなら俺も行くぜ!」

「お前たちもか」

 

 

 まあ、この二人の言葉は半ば予想できた。ミリアーナがここでの生活から抜け出したいと考えていることは(まあここの奴隷たちは大体そう思っているだろうが)知っていたし、ウォーリーはミリアーナに激甘だから、例え彼自体が反対だとしても、彼女に追従するのは目に見えていた。

 

 

 なんでも、彼は兄と二人で生活していたらしいが、前々から妹が欲しかったらしく、そのことから自分より小さいミリアーナを可愛がっているらしい。だからこそ、自分がここから出たいというのもあるだろうが、彼女の将来のため、ここから助け出そうと考えても不思議ではない。

 

 

 そして、そんな彼らを見ていたからなのか、先ほどから俺の隣で黙り込んでいたエルザが、ゆっくり手を挙げる。

 

 

「私も行く」

「エルザ、お前まで!?」

「一人だけのけ者はいやだから……」

 

 

 俺はエルザのその言葉に思わずため息をつく。

 

 

「(おいおい、こいつら本気かよ。確かにジェラールのいうこともわかるがそれを差し引いても脱走それがどれだけ危険なことかわかってるのか?)」

 

 

 俺はもう一度脱走の危険性を指摘して、やめるように説得しようと口を開こうとしたのだが、その時俺は気づいた。皆の瞳に宿るその真剣な光の輝きに。

 

 

 その瞳に宿る意思の強さはちょっとやそっとでは崩れそうにない。

 

 

「(……これはもう俺がなにを言っても無駄かもしれないな)」

 

 

 そう思わざるを得ないほど、彼らの意思が硬いのが、俺には感じ取れた。

 そんな彼らに俺ができることはたった一つしかない。

 

 

 俺はため息を一つつき、口を開いた。

 

 

「わかった、俺も協力するよ」

「本当!?」

「ああ、お前らだけじゃ少し不安だしな」

 

 

 

 

 ―――こうして俺たちの脱走計画が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてこの三ヶ月間、俺たちは用心に用心を重ねて慎重に計画を進めていき、本日実行に移すことになったのだ。

 

 

 だがいざ計画を実行に移す際、ちょっとした問題が発生した。

 

 

「姉さん、こっちだよ!!早く!!」

 

 

 そう、エルザだ。

 

 

 彼女は現在俺たちがやっとこさ堀進めた抜け穴の前で、体を小刻みに震わせながら立ちすくんでいた。

 

 

「エルザ、急がねえと奴等に見つかっちまう」

「う…うん……」

 

 

 心配げなシモンの言葉に、エルザは震えながら頷き、なんとか体を動かそうとしたが、やはり彼女は足を一歩も動かすことができない。

 

 

 彼女はなにか恐ろしいことでも思い出したようで、ただでさえ真っ青だったその顔をさらに青くさせながら口を開く。

 

 

「も…もし……もしも見つかったら。私見つかった子がどうなったか知ってる……」

「(なるほど、そういうことか……)」

 

 

 エルザは決して勇敢ではないが臆病な少女でもない。だがそれにしては先ほどからエルザの怯えようが尋常じゃないように思えたのだが、なるほど。実際に失敗してしまったやつのことを知っているのであればこの怯えようも頷ける。

 

 

 「(おそらく今までは俺たち仲間も一緒に脱走を行うということで、心を強く持っていたのだろうな)」

 

 

 だがこのままもたもたしていたら神官どもがやってきて脱走が気づかれてしまうかもしれない。

 

 

 それはまずいと結論付けた俺は、エルザを慰めるために彼女にゆっくりと近づくとその頭を乱暴に撫で回す。

 

 

「わぷっ!?」

「心配すんな、エルザ。なにも怖いことなんかありゃしねえからよ」

「ユ、ユーリ……」

 

 

 おどけるようにそういうと、頭を突然撫で回されたのが恥ずかしかったのか、彼女は頬を赤く染めながら上目遣いでこちらを見上げてくる。

 

 

「(ふむ、年頃の女の子の頭に勝手に触るのはさすがにデリカシーが足りなかったかな?)」

 

 

 前世ではそれで妹によく叱られたっけなぁと思いながら、話を続ける。

 

 

「三ヶ月もかけて慎重に進めてきたんだ。きっと、大丈夫だって」

「そ、そうかな……」

 

 

 俺の言葉に納得しつつも、エルザはまだ不安なのか顔を俯ける。

 

 

 俺はそんな彼女の様子にもう一息かなと思い、最後の一押しをやってもらおうと、ジェラールに話をふることにする。

 

 

「お前もそう思うよな、ジェラール」

「ああ、お前のいうとおりだよユーリ。恐ろしいことは何もない」

 

 

 俺のいいたいことが伝わったのか、ジェラールはクールにそう返すと、俺たちをゆっくりと見渡しながら話を続ける。

 

 

「確かに脱走には危険がつきものだ。だが危険を起こさなければなにも手に入れることはできない―――俺たちは”自由”を手に入れるんだ。未来みらいと理想ゆめを……」

 

 

 

 

 ―――まるで当然のようにいう彼の言葉は俺たちに染み渡り、その不安を消していくのがわかる。彼の言葉に気分が高揚し、今ならできないことがないようにさえ思えてくる。

 

 

 特にエルザなんかはいつの間にか体の震えが消え、その表情には笑顔さえ見える。

 

 

 俺はそんな彼らの様子に思わず感心の口笛を吹く。

 

 

 思えば、こいつは出会った時から不思議と他人と違う感じがした。なぜかこいつがいうと、どんな不可能な事でも自然とできちまう、自然とこいつについていこうって感じがしてくるんだ。

 

 

「(さすがジェラールってところか。さっきまでどこか浮き足立っていた皆がいつの間にか落ち着いている。―――これがカリスマってやつかね?)」

 

 

 ジェラールは自らの言葉で俺たちに最早不安がないことを確認すると一つ満足げに頷くと口を開いた。

 

 

「よし、それじゃあ行こう。俺たちの自由を手に入れに!」

『おう!!』

 

 

 そして俺たちは歩き出す。自分たちの明日を掴み取るために。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――しかし、

 

「―――そういうわけにはいかねえよなぁ?」

『っ!?』

 

 

 突然聞こえてきたその声に俺たちは驚愕し、一瞬でその場で凍りついた。

 なぜならその声は、本来ならばこの場にいるはずのない、いてはいけない男の声だったからだ。

 

 

 俺たちは恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはいつの間にそこにいたのか、十人以上の神官たちが、恐ろしい形相でそこに立っていた。

 

 

 その先頭にいる、おそらくリーダー格であろう神官は、他の神官たちと違い満面の笑みを浮かべていたが目は全く笑っておらず、その瞳からは悪意しか感じることができなかった。

 

 

 その神官は醜悪な笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

 

「―――みいつけた♪」

 

 

 

 

 ―――こうして俺たちの脱走計画は失敗に終わった。

 

 




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第八話 少年の終焉

どうも、えんとつそうじです。


今回は、エルザ救出編。今回も前作とあまり変わっていませんが、そこのところよろしくお願いします。


 ここは、楽園の塔第四セクターにある懲罰房。普段は神官たちが厳重に警備しているこのフロアに、現在二人の少年が侵入していた。

 

 

「てりゃあ!!」

「ぐべらっ!?」

「あらよっと!」

「ふるべば!?」

 

 

 その少年たちの名は「ユーリ・クレナイ」と「ジェラール・フェルナンデス」の二人。彼らはとある目的のため、武器を持ち、このフロアに侵入していた。

 

 

 見張りについていた神官たちはの侵入に驚き、迎撃しようとするが、いくら大人とはいえ所詮は彼ら奴隷たちとは違い、ぬるま湯につかった生活をしている神官ども。奴隷生活で鍛えた彼らの身体能力にかなうはずもなく、神官たちがなにかしてくる前に次々と制圧していく。

 

 

 なぜ彼らがこのようなことをしているか。それはここに連れてこられたはずのエルザを救出するためだ。

 

 

 前回神官たちにより、彼らの脱走計画は阻止され、彼らはそのまま処罰されるはずだったのだが、どうやらジェラールがいっていたように楽園の塔の建立が迫っていたらしく、下手に人手を減らすことができなかったためか、神官たちは、彼らに今回のことを見逃す代わりに一つの条件を持ちかけてきたのだ。

 

 

 それは『脱走計画の立案者一人を差し出せ』というものだった。そいつ一人を懲罰房に行かせて、見せしめにしようという考えらしい。

 

 

 本来ならこの計画の立案者はショウだったが、その時のショウは恐怖で震えていて名乗り出る様子が全くなかった。

 だがそれも仕方ないだろう。ショウはまだ子供。それもおそらくこの楽園の塔で最も幼い。そんな彼が恐怖に心がとらわれても誰が責められようか。

 

 

 そう考えたユーリとジェラールが、ショウの代わりに脱走計画の立案者として名乗り出たが、神官たちはそんな彼らの言葉を真に受けず、俺たちの代わりに脱走計画の立案者として懲罰房へと連れて行った。

 おそらく自ら名乗り出た彼らより、彼らの横で震えていたエルザのほうが見せしめとして効果的だと考えたのだろう。

 

 

 エルザの犠牲により一時的に助かった彼らであったが、脱走計画の首謀者として捕まったエルザが無事ですまないことは目に見えている。

 そんなことをさせるわけにはいかないと考えた彼らは、こうして神官たちの武器を奪い、エルザを奪還しにやって来たのだ。

 

 

 そして彼ら二人は、場を制圧しながら、辺りを捜索していると、懲罰房の牢屋の中の一つに、彼らと同い年くらいの見慣れた色の髪を持つ少女が倒れ伏しているのを見つけた。

 

 

「―――っエルザ!?」

「なにっ!?」

 

 

 彼女を発見したユーリは、急いでエルザが入れられている牢屋の扉を開くと、倒れている彼女に近づいて必死でその体を揺り動かす。

 

 

「オ、オイ!!!しっかりしろエルザ!エル……っ!?」

 

 

 そこでユーリは始めて気づく。いつも見慣れた彼女の横顔。それがいつも見ている彼女の顔とは違っていることに。

 

 

「どうした、ユーリ!エルザは無事なの……か?」

 

 

 ジェラールはそういいながらユーリが抱きかかえているエルザの顔を覗き込むが、やがて言葉が尻すぼみになり、息を飲む。

 

 

 彼女の容態が、自分が想像していたものとは遥かに違っていたからだ。

 

 

「なんてことだ」

 

 

 ユーリはそのあまりの惨状に、思わず彼女から視線を反らしたくなる感覚に陥った。

 

 

 

 

 

 

 ―――エルザの片目が潰されていたのだ。

 

 

「…う…うわぁっ!?」

 

 

 エルザのあまりに無残な様子に、ジェラールは思わずその場で尻もちをついてしまう。

 その瞳には恐怖からか、それとも悔しさからか。 ジェラールはいつの間にかその瞳に涙を浮かべていた。

 

 

「なんで、なんでこんなひどいことを……オレたちがいったいなにをしたっていうんだぁッッッ!!!」

 

 

 ジェラールは憤怒の形相で拳を振り上げると、その怒りを発散させるが如く、地面に拳を叩きつける。

 

 

 拳から流れる赤い血から、彼がどれほど怒りを覚えているかが伺える。

 

 

 ―――そして、それは一見冷静に見えるユーリも同じことだった。

 

 

「(なぜやつらはこんなことができるっ!!こんなことができるのはもう人ではない!!)」

 

 

 あまりの怒りに歯噛みした彼の口元から、一筋の赤い雫が垂れる。

 

 

 だがこのままここにいても、いずれ神官どもがやってくることを思い出したユーリは、なんとか怒りを押さえ込むと、エルザをここから運び出そうと彼女の体に手をかけた、その時だった。

 

 

「…ジェ……ラー…ル……なの…?」

「エルザ!?」

 

 

 ジェラールの叫び声が聞こえたのか、エルザがか細い声で反応したのが聞こえてきた。

 

 ユーリは、エルザの意識を途切れさせないために、必死で彼女に呼びかける。

 

 

「エルザ、エルザ大丈夫か!!」

「ユー……リ…?」

「そうだ、ユーリだ!よかった、もう大丈夫だぞ!ジェラールと一緒に助けに来たんだ!!」

 

 

 エルザが反応してくれたことに安堵しながらも、ユーリがそう語りかけると、エルザは息も絶え絶えになりながらも、自らの疑問を口にする。

 

 

「…ど……どうやって……?」

 

 

 それも当然だろう。ここに来るには教団の警備網を突破する必要があるのだから。

 

 

 ユーリとジェラールは、しかしエルザのその疑問には答えず、ユーリとジェラールは頷きあいながら自分たちの意思を確認すると、視線をエルザへと向ける。

 

 

 

 

 ―――自分たちの意思を彼女に伝えるために。

 

 

「安心しろ、来るべき時が来ただけだ」

「そう、もう後戻りはできない」

 

 

 そこでユーリたちは思い出す。ここに来るまでにその手にかけた神官どもの顔を。そして彼らを虐げてきた神官どもの顔を。

 

 

「「―――もう戦うしかない!!」」

 

 

 それはやつらへの宣戦布告。今度こそ自分たちの自由を掴むため、明日を手に入れるための戦いの狼煙だった。

 

 

「たたか…?」

 

 

 エルザがユーリの言葉に、さらなる疑問を口にしようとした―――

 

 

 

 

 

 ―――その時だった。

 

 

「いぎいっ!?」

「―――ジェラールっ!?」

 

 

 いつの間にか背後に忍び寄っていた神官たちの一人がジェラールの頭を後ろから思いっきり殴りつけた。

 

 

「てめえっ!!」

 

 

 ユーリはジェラールを助けようと、その男に殴りかかるが、それは他の神官たちに防がれてしまう。しかし転生してから並はずれた力を手に入れた彼は、その程度で止まることはなく、そのままその神官を殴り飛ばした。

 

 

「ぐあっ!?」

「なにっ!?」

 

 

 他の神官たちはその光景に驚愕の声を上げる。それも仕方ないだろう、ただの子供が大の大人を吹き飛ばしたのだから。

 彼はその隙にジェラールを助け出そうとするが、いつの間にか背後に回っていた神官にそのまま殴り飛ばされる。

 

 

「がっ!?」

「今だ!!」

「かこんじまえ!」

「フクロにしろ!!」

 

 

 思わずその場に倒れ込むユーリにチャンスと思ったのか、神官たちは痛みに呻き声をあげる彼を急いで取り囲み、各々手に持っている武器でユーリを一斉に殴りつける。

 

 

「このクソガキどもが!!」

「六人もやりやがって」

「殺しちまえ!!」

「みせしめにしろ!!」

 

 ユーリとジェラールにふりそそぐ悪意に満ちた暴力の雨。いくら前世と比べて頑強になっているとはいえ、大の大人のそれを子供の体で耐えられるものではなく、彼は、徐々に自分の意識が遠くなっていくのを感じる。

 

 

「(―――ちくしょう、しくじった!!)」

 

 

 遠くなる意識の中、ユーリは遠くなる意識の中、自らの不注意に内心舌を打つ。ジェラールと彼の打ち合わせどおりなら、神官たちが騒ぎを嗅ぎつける前に、エルザを連れてここを脱出する手はずだったのだが、彼女のあまりの惨状に、呆気にとられ、時間を取られ過ぎていたのだ。

 

 

「オラッ!!」

「ぐはッ!?」

 

 

 彼がそんなことを考えている最中でも、神官たちは容赦なくユーリたちをその手に持つ凶器で痛めつけてくる。特に仲間に手を出したユーリに対しては、執拗に攻撃を加えていた。

 

 

 身じ通り、絶体絶命の状況の中、ユーリはなぜか冷静にこの後のことを考えていた。

 

 

「(これが俺の最後か……)」

 

 

 神官たちはユーリたちのことを決して生かしてはおかないだろう。

 見せしめにするといっていたのが聞こえたからすぐには殺さないだろうが、脱走に懲罰房への無断侵入。そして、六人の神官の殺害。

 おそらく奴等に気の済むまま嬲られ続けて、最終的に始末されるだろう。なによりここまでされて無駄に自尊心の高い神官(奴等)が許すはずがない。彼はそう考えたのだ。

 

 

 そこまで考えたところで、彼の視界に一人の少女の姿が目に入る。―――エルザだ。

 

 

「あ……う……」

 

 

 エルザは神官どもに暴行を受け続けているユーリたちを見て、涙を流しながら何かをいおうとしているが、恐怖からか、それとも痛みからか。

 おそらくやめさせようとしているのだろうが、口を閉口させるだけでその口からなにも言葉が出ることがなかった。

 

 

 ユーリは、そんな彼女の様子を見て、思わず口角がつり上がるのを感じる。

 

 

「(あいかわらず、優しいやつだなぁ……)」

 

 

 ユーリは思う。ローズマリー村で初めて会ったときから、彼女はなにも変わっていなかったと。

 

 

 率先して何かをするわけでもない、特別な何かがあるわけでもない。

 だが誰よりも優しい心を持ち、類いまれなるリーダーシップで皆を引っ張るジェラールとはまた違った形で皆に慕われている、綺麗な笑顔の少女。

 

 

 そして、ユーリも、そんな彼女の笑顔に支えられていた一人だった。

 

 

 だがこのままではその笑顔は永遠に失われてしまうだろう。そう考えた俺は祈った。今まで会ったこともなく、そして信じたこともなかった神という存在に。

 

 

「(―――神よ!もし本当にあなたがいるのなら俺の願いを叶えて欲しい。皆を守る力をくれ!!世界中の理不尽から皆を守れる絶対的な力を!!頼む神よッッ!!)」

 

 

 

 

 ―――だが物語の世界ならともかくこれは現実の世界。もちろん神などいるはずもなく、急に力など手に入るわけもない。

 

 

 最後に止めとばかりに神官の一人が持つ大きな杖で、ユーリの頭が地面に叩きつけられる。

 

 

「―――がッ!?」

 

 

 そしてそこで限界が来てしまったのだろう。その最後の一撃でユーリの視界はあっという間に真っ暗になっていき、意識がだんだんと薄れていく。

 

 

「(あ…あ……ここまで…か……)」

 

 

 そしてそこで彼の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 こうして少年の第二の人生は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 ―――はずだった。

 

 

『―――やれやれ。どうやら、間に合ったようだな』




どうでしたでしょうか。主人公いきなり死んでしまいましたね(笑)すみません。


それでは、いつものように、感想や誤字脱字の報告。そしてアドバイスなどよろしくお願いします。


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第九話 紅との邂逅

どうも、えんとつそうじです。


今回は前回でも出たあの御方の登場です。それでは暇つぶしにでもどうぞ。


 エルザ・スカーレット。

 

 

 ユーリとジェラールにより懲罰房より助け出された彼女は、ふらふらになりながらも普段寝床にしている房に戻ってきた。

 

 

 戻ってきた彼女のあまりの惨状に、房内の奴隷たちの間でざわめきが広がる。

 

 

「エルザ!?」

「姉さん!!」

 

 

 エルザのその姿にショウたちは彼女に次々と声をかけるが、その中の一人であるシモンはあることに気づく。

 

 

「エ、エルザ、ジェラールとユーリはどうしたんだ?あいつら……奴等の目を盗んでエルザを助けに行くって……」

「………」

 

 

 だがシモンの言葉にエルザは体を震わせながらも答えることはない。

 そんな彼女の様子に不思議に思いながらもシモンはもう一度彼女に問いかけようとするが、そんな彼を止める者がいた。

 

 

 彼の名は『ロブ』。

 この楽園の塔でおそらく最も高齢の奴隷で、元魔導師だがとある依頼を受けた際大怪我をおい、そのせいで魔力がなくなってしまったために故郷で隠居生活を送っていたのだが、その故郷を教団に襲われてしまい、なす術なく捕まってしまいこの楽園の塔につれてこられた老人だ。

 エルザたち年少の奴隷たちにとって親代わりのような存在でもある。

 

 

「そっとしておいておやりよ。かわいそうに懲罰房でよほどヒドイ目にあったんだろうねえ」

 

 

 それは彼女の状態を慮っての言葉だった。

 脱走者に対しての神官たちの懲罰は普段のそれより苛烈を極めることで奴隷たちの間では有名だ。

 そんな懲罰を受けて、まだ二桁の年齢になったばかりの彼女が無事ですむはずがないと確信していたのだ。

 

 

 だがシモンは納得できないような顔で顔をしかめる。

 確かに彼女の状態がひどい事は彼にもわかるが、彼にも聞かなければいけないことがあったからだ。

 

 

「けどユーリたちが……」

 

 

 そう、彼女を助けに行ったはずのジェラールたちの姿が見えないのだ。彼はそれに嫌な予感を感じながらも彼女に彼らの所在を聞こうとしていたのだが、その彼の言葉にロブは静かに首を横に振る。

 

 

「残念だがきっと身代わりに捕まってしまったんだろうねえ」

「そんな……」

 

 

 ロブの言葉に思わず悲嘆の声を上げるシモン。

 

 

 自らの友人たちの危機に絶望の表情を浮かべていると、どこからか子供がすすり泣くような声が聞こえてきたのでそちらを向くと、そこには彼の仲間の一人であるショウが、その瞳からぼろぼろと大粒の涙を流し始めていた。

 

 

「ぐす…もうやだ……もうこんなトコやだぁああっ!!!」

 

 

 ジェラールとユーリ。そしてエルザ。彼ら三人の存在は、彼にとって心のよりどころといっていい存在だった。

 

 もちろん他の仲間たちも彼は大切だと思っているが、楽園の塔の過酷な環境にも負けず、自分にとっては絶対に適わない恐怖の象徴である教団の神官たち相手にも決して屈しない彼らは彼にとっては憧れでありヒーローだったのだ。

 

 

 しかしそんな彼らの内の二人は教団に捕まってしまい、最後の一人であるエルザは神官たちの過酷な仕打ちにより満身創痍の状態。

 捕まった二人もやったことがやったことであるために、無事で済むはずがない。

 

 

 そんな三人の状況に今まで支えていた心の支えを失い、この環境への苦痛とこれから自分たちと仲間たちに起こる未来に恐怖が溢れ出てしまったゆえの慟哭だった。

 

 

 そんな彼の叫び声を聞きつけてか、房の外で見張りをしていた二人の神官たちが房の中へとやってきた。

 

 

「これはいったいなんの騒ぎだーー!!!」

 

 

 房の中に入ってきた神官たちはすぐに泣き叫んでいるショウの姿を見つけると、怒りの形相を浮かべながら彼に詰め寄った。

 

 

「おとなしくしねーかクソガキ!」

「黙らねえとその舌ひっこぬくぞ!!」

 

 

 神官たちの恫喝に、しかしショウは泣き止むことはない。

 

 

 その様子を見てさすがにまずいと思ったのか、ロブやシモンにウォーリーたちは必死でショウを泣き止まそうとするが、それでも彼の涙が枯れることはない。神官たちの罵倒の声の数々もまったく効果がなかった。

 

 

 そんな騒ぎの中、エルザは目を瞑りながら必死で自分の耳をふさぐ。彼女はもう疲れてしまっていたのだ。

 

 

 彼女の変わりに捕まったジェラールは、ショウと同じく、彼女にとって憧れの存在だった。

 

 

 ジェラールは、その聡明な頭脳と、正義感溢れるリーダーシップで自分たちを引っ張ってくれるまるで太陽のような存在。

 

 

 しかし、なにより彼女の心に深い闇を落としているのは、彼女の唯一の家族、ユーリ・クレナイの『死亡』。彼女は神官たちの拷問により朦朧とした意識の中、神官たちの暴虐により、瞳の中の光を失くしていくユーリの姿を目撃していた。

 

 

 そして、そんな彼の姿を見た彼女は、そこで初めて気づいた。

 

 

 

 

 ―――自分が彼を家族としてだけではなく、一人の男性として愛していたことに。

 

 

 だからこそ、彼女は自分の耳を塞いだ。自分のせいで彼が死んでしまったこと。その事実から逃げ出すかの如く。

 

 

 次々と襲いかかる、あまりにも少女に優しくない現実に、彼女は、もう何もかも嫌になってしまったのだ。

 

 

 延々と続く慟哭と罵声。そんな中で彼女は思う。

 

 

「(―――どうして!?どうして私たちがこんな目にあわなくちゃいけないの!!)」

 

 

 もういっそ死んでしまいたい。そうすれば楽になれるかもしれないと、彼女はとうとうその場で蹲ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 ―――その時だった。彼らの言葉を思い出したのは。

 

 

 

 

『『―――もう戦うしかない!!』』

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

 

 そうだ、彼らは決死の覚悟で自分のことを助け出してくれた。

 

 

 いつも彼らに頼りっぱなしだった、自分を、文字通り命がけで助けてくれたのだ!!

 

 

 そのことを思い出した彼女の体には、再び力が宿り始める。

 

 

「(そうだ!今度は、私が彼らのために戦うべきだ!!)」

 

 

 それが、自分がユーリのためにできる唯一のこと。

 

 

 そう決意したエルザは、油断している神官の一人の武器を奪うと、そのまま二人まとめて吹き飛ばした。

 

 

「うぁあぁああぁあぁあああぁっ!!!!」

「「ッ!?」」

 

 

 圧倒的弱者であるはずの奴隷、しかもまだ幼い少女の突然の凶行になす術なくやられる神官たち。

 

 

 奴隷たちはそんな彼女の行動に思わず驚愕の声を上げる。

 自分たちより圧倒的強者であるはずの神官たちに自分たちより幼い少女が手を上げたことに。

 

 

「反乱だーーー!!!!」

 

 

 エルザの行動を見た神官が叫んで仲間たちに呼びかける姿を見てエルザは思う。

 

 

「(『もう後戻りはできない』…か。ジェラールのいうとおりになっちゃったな)」

 

 

 彼女は一瞬苦笑するがすぐに表情を引き締めると、未だ呆然としている自分の奴隷なかまたちをゆっくりと見渡しながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 反撃の狼煙を上げるために。

 

 

 

 

「従っても逃げても自由は手に入らない」

 

 ―――緋色の戦乙女は語る。自由とはなんなのか。

 

 

 

 

「戦うしかない!!!」

 

 ―――隻眼の少女は叫ぶ。自由を勝ち取るためにはどうすればいいのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――自由の為に立ち上がれぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 ―――そして彼らの反撃は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺、ユーリ・クレナイは、気がついたら見たこともないあたり一面真っ白な空間に、一人ぽつんと立っていた。 

 

 

「あれ?ここはいったい……」

 

 

 俺はジェラールと一緒にエルザを助けにいったが、それが見つかって神官たちに袋叩きにあってそのまま気を失ってしまったはず。

 

 

 そこでふと自分の体を見ると、俺はそこでちょっとした違和感を感じた。

 

 

 「あれ?なんで傷が治ってんだ?」

 

 

 そう、服装こそいつもの奴隷服と同じものだが、なぜか神官たちにあれほどの暴力を振るわれたのに、傷が一つもなく、それどころか今までの折檻や現場での事故によりついた古傷なんかもそれと一緒に治っていたのだ。

 

 

 確かに、この世界に来てから彼の体は傷の治りが早くなっていたが、ここまでの早さではなかったはずだ。

 

 

「これはいったい?俺になにが起こったんだ?」

 

 

 あまりに不可思議な出来事に、思わず首を傾げる俺。

 

 

 だがしばらく考えた後、俺は意識を失う前の光景について思い出す。

 神官たちの暴虐の嵐。それを受けて気を失う前に感じたその感覚が、前世で俺が最後に感じた「死の感覚」と同じであることに。

 

 

「(―――そうか、俺はもう死んでしまったのか……)」

 

 

 自分が死んだことには意外とすんなり納得できた。というかいくら頑丈な体に転生したからって子供の身であれだけの暴力を受けたら死なない方がおかしい。

 俺の場合神官の一人をつい殴り飛ばしちゃったし、容赦する理由もなかっただろうしな。

 

 

 だがそうなると一つ疑問が沸く。

 

 

「結局ここはどこなんだ?見たことも、来たこともないぞこんなとこ」

 

 

 そう、結局ここがどこなのかわからないということだ。

 

 

 楽園の塔の中にはもちろん俺の知る限りではあるがこんな場所はないはずだし、前世でもここまで白い部屋など見たことがない。

 病院の診察室もここまで病的な白さではなかったはずだ。

 

 

 もしかしたらこれがあの世というやつなのかなと考え込んでいると、

 

 

 

 

『―――それは私が教えてあげよう』

 

 

 

 

「ッ!?誰だ!!」

 

 

 突如背後から聞こえてきたその声に俺は咄嗟に背後を振り向くと、そこにはいつのまにか一人の青年が立っていて、穏やかに微笑みながらこちらを見ている。

 

 

「なッ!?」

 

 

 俺はその人物の顔を見て思わず驚きの声を上げてしまう。

 その男の顔が俺の知っている人物と全く同じ顔だからだ。

 

 

「な、なんだお前―――

 

 

 

 

 

 

 ―――なんで俺と全く同じ顔をしてるんだ!?」

 

 

 そう、その青年は、髪こそ紅色と、違いはあるが、それ以外は今の俺の姿をそのまま成長させたような、つまり前世の俺と殆ど瓜二つの顔をしていたのだ!!

 

 

『まあ気持ちはわかるけどね、少し落ち着いたらどうだい?』

「いやいやいや!?落ち着けるわけないからね!逆になんであんたはそんなに落ち着いてんの?」

 

 

 思わず興奮した俺のその言葉に、しかし青年は慌てず穏やかな笑みを浮かべながら答えた。

 

 

『そりゃあ、私は君のことを前からずっと見ていたからね?』

「……は?どういうこと?」

 

 

 ずっと見ていたって、俺この人に会ったのは初めてのはずなんだけど?

 

 

 そんな俺の疑問が顔に出ていたのか、青年は苦笑する。

 俺とそっくりな姿形をしているが、どうにも彼がやるといちいち優雅に見える。

 

 

『まあ、いろいろ疑問もあるだろうけどまずは自己紹介といこうか?』

 

 

 そういうと青年は、まるで劇のように優雅に一礼すると口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――私の名前は『サーゼクス・ルシファー』。どこにでもいる、ただの悪魔さ』 





感想や誤字脱字の報告。そしてアドバイスなどお待ちしております。


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第十話 少年の復活

どうも、えんとつそうじです。


今回はあの御方との会話。


いろいろ設定はいじくってありますが、話の展開的には前作とあまり変わっていませんが、それでもよろしければ、暇つぶしにでもお読みください。


「―――悪魔だと?」

 

 

 俺は、その青年、サーゼクスの言葉に思わず身構える。

 

 

 『悪魔』。

 

 

 村長の言葉によって、この世界に本当に悪魔が存在することは知っていた。村の英雄である悪魔は、人間を助けてくれたが、悪魔とは本来、その殆どが人間を害するものだということも。

 

 

 だからこそ、サーゼクスの突然の言葉に、戸惑い、その真実を疑いながらも、俺は思わず警戒したのだが、そんな俺の様子を見て、サーゼクスは、特に不快な感情を見せることはせず、苦笑する。

 

 

『ふふ、まあ悪魔といわれて警戒するなという方が無理か。―――でも、まあ安心していい。私は君に危害を加えることはない。いや、したくてもできないというほうが正しいか』

「?どういうことだ?」

『今の私は実体を持っていないのだよ。今は君の肉体の中に寄生させてもらっているようなものだからね」

「………は?」

 

 

 青年のその言葉に、俺は思わず間抜けな声を出してしまう。

 

 

 そりゃあ、そうだろう。まさか、突然現れた悪魔を名乗る青年に、自分の肉体に寄生しているといわれれば、こんな反応になっても、仕方がないと思う。

 

 

 そんな俺の反応がおもしろかったのか、紅の青年、サーゼクス・ルシファーは、くすりと一つ笑ってから語りだす。

 

 

『まあ、混乱するのも無理はない。この状況は私も予測していなかったからね』

 

 

 そういって、サーゼクスは自分の事を話してくれた。

 

 

『まず、初めに謝っておこう。先ほど私は自分のことを「ただの悪魔」といったが、性格にはただの(・・・)悪魔ではない。人々は私のことを『ゼレフ書の悪魔』と呼ぶ』

「ゼレフ書の悪魔?ゼレフって確か、あの神官どもが崇拝してた……」

 

 

 俺のその言葉に、サーゼクスは神妙な顔で頷く。

 

 

『ああ。最凶最悪の黒魔導師ゼレフ。その男が創り上げた、怪物。いわば「生きた魔法」と呼ぶに相応しい存在。それこそが、通称ゼレフ書の悪魔。私はその一体なのだよ』

「……マジか」

 

 

 なんだ、そのRPGの中ボスみたいなポジションの存在は。

 ていうか、なんでそんな存在が、俺みたいにごく普通(笑)の子供の中に宿ってんだよ、おかしいだろ。

 

 

 そんな、俺の考えが透けて見えていたのか、サーゼクスはその口元に笑みを浮かべながら、話を続ける。

 

 

『さて、ではなぜ私が君の肉体に寄生させてもらっているのかというと、その原因は君がこの世界に始めて来た時に現れたあの場所にある』

「あの場所?」

 

 

 サーゼクスのその言葉に、俺は村長の言葉を思い出す。彼が俺を見つけた場所。かつて、ローズマリー村を救ったといわれた英雄と呼ばれた悪魔の墓のことを。

 

 

 ……まさか、

 

 

「かつてローズマリー村を魔獣の群れから救った悪魔っていうのは、あんたのことか?」

『まあね』

 

 

 照れくさそうに、頬を掻きながらも、サーゼクスは話を続ける。

 

 

『君も知っているとおり、悪魔というのは本来人と敵対する存在。そして、闇から生まれた存在である我らゼレフ書の悪魔は、さらにその特徴が顕著になる。―――だが、私はどうやら欠陥品だったようでね。他の悪魔と同じように行動しながらも、前々から自分たち悪魔の行動に疑問を持っていた。ここまで、人間を敵視する必要が本当にあるのかとね』

 

 

 サーゼクスがいうには、そんなことを思うのは自分一人だったらしいので、何かおかしいと思いながらも、悪魔の本分と、多くの人間たちをその手で葬ってきたらしいのだが、そんなある日、彼は一人の少女に出会ったのだという。

 

 

『―――大丈夫ですか?』

 

 

 とある強力な魔導師との戦闘により、重症を負っていたサーゼクスは、その時とある森で体を休ませていたのだが、その時ある少女に助けられたんだそうだ。

 

 

 光り輝く銀色の髪を持つその少女の名は、『グレイフィア・ローズマリー』。当時のローズマリー村の村長、その一人娘。

 彼女は村近くの森で、薬草を摘みに来たらしいのだが、そこでサーゼクスの姿を見つけた彼女は、彼を村に連れ帰り、治療を施したらしいのだが、サーゼクスは村で彼女と過ごす内に、彼女にある感情を抱くようになった。

 

 

 

 

 ―――そう、サーゼクスはグレイフィアに「恋」をしたのだ。

 

 

 初めは気づかなかったが、気づいた時には彼女の姿を目で追っており、彼女の姿、行動に一喜一憂する自分の状態をおかしく感じたサーゼクスが、彼女の親である村長に相談してみたところ、彼はその感情が恋だと知ったのだ。

 

 

 それからの彼の日々は、彼曰く、生涯で最も幸福な日々だったらしい。

 

 

 どうやら、彼女の方も、サーゼクスの気持ちに満更でもなかったらしく、村の人たちは、いつサーゼクスが彼女に告白するのか、賭けていたほどだそうだ。

 

 

 だが、そんな時に、村に不幸が襲う。彼が少し出かけている間に、彼を探しに来た、彼の同胞、ゼレフ書の悪魔たちが村を壊滅に追い込んだらしいのだ。

 

 

 サーゼクスはいう。その表情を、憎しみの感情で僅かに歪めて。

 

 

『私が村に戻ってきた時には、既に村は壊滅し、彼女は帰らぬ人になっていた。―――初めてだったよ、あそこまで涙を流したのは』

 

 

 彼は、村を襲撃していた悪魔を始末し、村人を弔った後、自分が所属していた悪魔の勢力から離脱し、二度とこのような悲劇を繰り返さないためにも、悪魔から人間を守るために旅に出たのだとか。それは自らが護れなかった今は亡き恋人への、せめてもの償いでもあったらしい。

 

 

 だが、そんな彼の旅は想像以上に難儀なものだった。

 

 

 強力な悪魔から命がけで人間を護っても、所詮彼も悪魔。感謝の言葉どころか、罵倒を投げかけられ、時には意思を投げつけられることもあったのだとか。

 

 

 それでも彼は、亡き恋人のためと、とある魔導師の仲間になり、自らの信念の元、行動を続けていたらしいのだが、そんなある日、事件が起こった。

 

 

 彼が元々所属していた悪魔の集団が、彼が一人になった時に襲い掛かってきたのだ。

 

 

 だが、彼もその事態を予測していなかったわけではなく、その悪魔たちに対抗する魔法を編み出し、死力を尽くしその半数を減らすことに成功したのだが、しかしやはり多勢に無勢、最終的に彼は、その集団の頂点である悪魔に敗北し、致命傷を負うことになってしまったんだそうだ。

 

 

『私も命を賭けた甲斐があり、その悪魔に深手を負わせることはできたが、その悪魔は私より書く上の存在として創られた悪魔であり、また、私がその悪魔に対抗するために編み出した魔法もその時は未だ不完全。そのまま私は無様に敗北してしまったのだ』

 

 

 サーゼクスは、一瞬の隙をつき、その悪魔たちの攻勢から逃げ出すことに成功したのだが、その悪魔の攻撃により致命傷を負った彼の肉体は滅びを迎えかけており、それを自覚していた彼は、最後の力を振り絞り、せめて最後に、かつて愛した恋人の故郷であるローズマリー村。その姿を一目見ようと、その村へと行き、そこで魔獣の群れに遭遇した彼は、残りの力の全てを振り絞り、それを撃退したというのが、あの村の村長が代々伝えてきた、ローズマリー村の英雄の真実だという。

 

 

「そんなことがあったのか……」

『私は肉体が崩壊する前に、奴らがこの村を襲撃しないよう、私の死骸は人目につかないところに葬ってくれと最後に頼んだのだが、そこで私にも予想できなかったことが起きた。―――私の魂はこの世に残り続けたのだ』

 

 

 それは、強大な悪魔として生まれたサーゼクス故に起こった現象だった。

 

 

 彼の宿っていた強力な魔力が、彼の強靭な精神と相まって亡霊として、この世界に彼を留まらせたのだ。……尤も、やはり亡霊らしく、普通の人間には見えないらしいので、誰も気がつかなかったらしいのだが。

 

 

 そのことに気づいた彼は、初めはそのことに驚いたが、やがて落ち着くと、愛する恋人の元へ逝けないことを残念に思いながらも、せっかくだからと、自分の墓として作られたあの場所から、ローズマリー村に住む人々を見守っていたのだとか。

 

 

 

 

 ―――そんな、ある日。彼の住む墓の前に一人の少年が突如出現した。

 

 

『それが君だよ、ユーリ君』

「俺?」

『ああ、あの時は驚いたよ。突然、空間に亀裂が入ったかと思えば、その中から、だぼだぼの服を着た少年が出てきたのだから』

 

 

 それは、長い時を生きてきたサーゼクスでも経験したことがない現象。そのために、サーゼクスはその少年に興味を持ち、観察していたのだが、その時にあることに気がついたのだとか。

 

 

『その少年は酷く衰弱していたのだよ。まるで、何年も無理に肉体を酷使したみたいに』

「……あー、なるほど」

 

 

 サーゼクスの言葉に心当たりがある俺は、思わず納得の声を上げる。この世界で目覚める直前の俺が、過労でぶっ倒れ、ちょうどそのような状態だったはずだからだ。

 

 

『その少年はこのまま放っておくと、死んでしまうほどに弱っていた。私が住んでいた墓には定期的に村長が様子を見に来てくれるが、あの時はそんな時間はなく、決して助かることはない。―――本来なら、あのまま何もしなくても、よかったのだが、どうせ、私はいつ消えるかわからぬ亡霊の身。このまま未練がましく現世にしがみついているよりはと、とある手段を使い、その少年を助けることにした』

「ある手段?」

『魂の融合だ』

「!?魂の融合だと?」

『ああ』

 

 

 元々ゼレフ書の悪魔には、死んだ人間を自らの依り代にする力があるらしいのだが、彼はそれを利用し、自らの魂を俺の魂と融合させ、俺の魂を融合させ、生命力の補強を図ったらしい。

 

 

「……あれ?っていうことは俺の命の恩人?」

 

 

 思わずといった感じで出てきた俺の言葉に、サーゼクスは苦笑する。

 

 

『別に気にしなくていい。ただの気紛れだし、どうせ、もうすぐ消える魂だったのだし』

「?どうゆうことだ?」

『流石に、魂だけで百年以上いては、魂の力も無くなっていくようでね。おそらく後百年ほどしたら、私の魂は完全に消滅していただろう』

 

 

 だから、そうなるくらいなら自らの恋人と同じ、人間の子供を救うために使おうと、自らの力を俺に分け与えてくれたのだという。

 

 

「……話しはわかった。あんたが俺を助けてくれたのはありがとうといっておこう。―――だが、なぜ今俺の前に現れた。俺はもう死んでいる。あの世に行く前に先輩として、挨拶にでも来てくれたのか?」

 

 

 俺のその言葉に、しかしサーゼクスは首を横に振って答える。

 

 

『いいや。私が君の前に現れたのは、君にこれを渡すためだ』

 

 

 そういうと、サーゼクスが片手を差し出してきたので、その手元に視線を向けると、そこにはどこから取り出したのか、一度村長の村で見たことがある、魔水晶(ラクリマ)のような、球体が握られていた。

 

 

「それは?」

『これは私の悪魔としての力の全てを込めた物。身体能力、魔力、魔法、そして私の悪魔としての固有の特殊能力。文字通り全てを込めた。これを君に与えれば、君の肉体を復活させることができるだろう』

「なんだとッ!?」

 

 

 サーゼクスの言葉に、俺は思わず驚愕の声を漏らす。

 

 

 よくよく話を聞いてみると、実はこの世界に来てから俺の身体能力が格段に上がっているのは、実は彼の悪魔としての力が漏れ出し、俺に影響していたためであるらしく、このサーゼクスの力の塊である球体を俺の肉体に取り込めば、俺の肉体への影響が強くなり、俺の肉体を復活させることができるのだとか。

 

 

「それはありがたいが、あんたはどうなるんだ?これはあんたの力の全てなんだろう?」

『先ほどもいったが、それは気にしなくていい。どうせ、君の肉体が死ねば私の魂もこのまま一緒に消滅するのだからね。それに、力を渡しても私は死ぬわけじゃない。君の魂の奥底で眠らせてもらうだけだしね。―――ただ、一つだけ、君が気をつけなければならないことがある」

 

 

 そういうと、サーゼクスは先ほどまでの穏やかな顔から一転、別人かとおもうほどの真剣な顔になりながら、話を続ける。

 

 

『私は自分でいうのもなんだが、この世界でも最上級クラスの悪魔。その私の力の影響は、君の肉体を悪魔のものと同じように作り変える。―――そう、これを体に取り込んだら、君は悪魔にならなくてはいけないのさ』

「俺が…悪魔に……?」

『ああ。尤も初めのうちは、急激な肉体の悪魔化も、私の特殊能力も使いこなせないだろうが、歳が経つにつれ、そして私の能力を使い続けるうちに、君の肉体は完全な悪魔となるだろう』

「……なるほど」

 

 

 つまり、サーゼクスはこういいたいのだ。『生き返りたいのなら、人間を辞めろ』と。

 

 

 

『………』

「………」

 

 

 俺とサーゼクスは、そのまましばらく睨みあっていたが、やがて俺は一つ笑みを浮かべると、サーゼクスの手の中にある、サーゼクスの力の塊を手に取った。

 

 

 そんな俺の様子を見て、サーゼクスもいつものように穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

『いいんだね?』

「ああ。確かに悪魔になるのに、思うところがないわけじゃないが、このまま死んだままじゃ、なにもできないし、俺はもっと人生を楽しみたい。なにより……」

 

 

 俺はそのまま、サーゼクスの力の塊を胸元から取り込み、彼に宣言する。―――俺の心の底からの決意を。

 

 

 

 

「―――仲間を放っておくわけにはいかない。俺はあいつらを助けにいかなくちゃならないんだ!!」

 

 

 ―――その時だった。

 

 

「!?これは!!」

『安心していい。それはただ単に、君の意識がこの深層世界から戻ろうとしているだけだから』

 

 

 急に俺の周囲に紅の光が出現し、俺の体を包み込んだ。

 そのことに驚いた俺は、一瞬パニックになりかけたが、サーゼクスの次の言葉で平静を取り戻す。

 

 

「(なるほど、これが生き返るという感覚なのか……)」

 

 

 俺は、自らを包み込む、浮遊するような、何かに引っ張られるような感覚に、俺は心の中でそんな感想を漏らす。

 

 

 そんな俺の様子を確認しながらも、サーゼクスは口を開く。

 

 

『それでは、気をつけていくといい。どうやらあの塔には、何か邪悪な意思が迫っているようだからな』

「邪悪な意思?」

 

 

 なんだろ、それ。神官たちのことではないようだが……。

 

 

 だが、どうやらそれを聞く時間はないようで、俺の意識はどんどん擦れてゆく。

 

 

 『それじゃあ渡すものも渡したしそろそろ私も休ませてもらおうかな』

 

 

 そういうと、サーゼクスは踵を返し、どこかに行こうとするが、途中で何かを思い出したのか、一旦その足を止めてこちらを振り返る。

 

 

『―――ああそうそう、最後に一つだけ』

 

 

 そしてサーゼクスは顔だけこちらに振り返る。その瞳は今までで一番真剣な光を宿していた。

 

 

『君に与えた能力は強力だ。それこそ使いこなせばそこいらの魔法使い程度ならば一蹴できるほどに。だからこそ仲間を大切にしたまえ。すぎた能力ちからはその持ち主を孤独にする。そう―――

 

                                       ―――私のようにね』

 

 

 そう話すサーゼクスの顔は、どこか悲しんでいるような、それでいて何かを堪えているかのように思えた。

 

 

 

 

 ―――そして俺の意識はそこで闇に飲まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――行ったか』

 

 

 やれやれ。まさか、こんなにも早く、彼が私の力を必要とすることになるとは思わなかったな。

 

 

『それだけ彼が背負う運命は重いということか』

 

 

 彼がこれからどういう道を歩むかはわからないが、願わくば自らの仲間と末永く仲良くやって欲しいものだ。私と違って、仲間を裏切る理由など彼にはないだろうし。

 

 

『……ただ心配なのは奴等が彼に会った時の反応だな』

 

 

 ただ私に似ているだけだと思ってくれればいいが、私と同じ能力を持っていることを奴等に知られれば問答無用で捕らえられるかもしれない。

 

 

 奴らに対抗するための魔法も、知識として一応は伝えてあるので、身の安全は大丈夫だとは思うが、それでも、自らの蒔いた種で、彼に迷惑をかけてしまうかもしれないことについ憂鬱になってしまい、思わずため息を吐いてしまう。

 

 

 そして私は思い出す。かつて復讐の念を持て余しながらも、恋人と同じ人間たちに拒絶され続け精神をすり減らしていたところを、私を仲間として受け入れてくれ、共に戦ってくれた一人の妖精(・・・)の姿を。

 

 

『どうか、私に力を貸してくれた彼女のように、彼の仲間も彼と共に戦ってほしいものだ。なあ―――』

 

 

 

 

 

 

                                           ―――メイビス?




どうでしたでしょうか。


ちなみに、私の文章力が不足しているせいでわからなかったかもしれませんので、一応ここに記しておきますが、主人公がサーゼクスから貰ったのは、サーゼクスの固有能力と、彼が編み出した魔法、そしてそれを扱うための知識です。サーゼクスが戦っていた悪魔の集団やら、彼が共に戦っていた魔導師の情報なんかは貰っていません。一般常識や魔法の知識なんかは貰っていますが。


……本当は後書きに補足みたいに書かずに、話の中で説明させないとだめなんですけどねえ。すみません。


それではいつものように、感想や誤字脱字の報告などありましたら、よろしくお願いします。


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第十一話 緋色の悲劇

どうも、えんとつそうじです。


今回は、主にエルザ視点の話になります。といっても、ほぼ前作と同じなので、前作を読んでくださっている方には退屈かもしれませんが、どうか、暇つぶしにでもいいので、お読みいただけると幸いです。


 ここは、楽園の塔第三セクター地下。通称『ゴミ処理場』。

 

 

 この楽園の塔で発生するあらゆるゴミは、ここに集められ、定期的に島の外の海へと捨てられている。

 

 

 逃走の恐れがあるため、本来ならここに立ち入ることができるのは、教団の神官たちくらいしかいないのだが、そんなこの場所で、本来いるはずのないその少年は目を覚ます。

 

 

「……んあ。ここは?」

 

 

 そう、この少年の名はユーリ・クレナイ。この物語の主人公である。

 

 

 なぜ彼がこのような場所にいるのか?それは彼が一度死んでしまったことに理由があった。

 

 

 本来、このゴミ処理場には、この楽園の塔の神官たちや奴隷たちの生活から出るゴミや、楽園の塔建設の際に出る土砂や岩の破片などが捨てられているのだが、中には教団に反抗的な態度をとったために、神官たちの責めを受け、そのあまりの激しさに死んでしまった奴隷たちや、塔建設の際に時々起きる落盤事故などに巻き込まれてしまった奴隷たちの死体も、ここにゴミとして廃棄されている。

 

 

 つまり、彼は神官たちの折檻を受け、肉体的に死んでしまったために、他の奴隷たちと同じく、ここに捨てられてしまったというわけである。

 

 

 ユーリも辺りを見渡し、状況を理解したのか、一つため息をついてその場から立ち上がると、体の調子を確認する。

 

 

「(すげえ……。神官どもにやられた傷どころか、古傷まで全て治っている。それに体中から力が溢れてくるようだ。―――これが悪魔の力か)」

 

 

 感嘆の溜息をつきながらも、心の中でそんなことを呟いていたユーリであったが、ふと、自分の頭の中に、全く聞いたことも見たことない情報が流れ込んでくることに気づいた。

 

 

「(これは!?……そうか、これがサーゼクスが俺に与えるといっていた彼の力。その使い方か!!)」

 

 

 他にも続々とユーリの中に流れ込んでくる様々な情報。それは、サーゼクスが悪魔として持っていた、彼特有の能力。『呪法』についての知識だった。

 

 

 呪法。サーゼクスから能力と共に貰った情報によれば、それはゼレフ書の悪魔たちが魔法の代わりに使用する力のことで、なんでも、魔法を超える戦法なのだとか。

 

 

 それを受けてユーリは納得する。なるほど、これが彼が俺に与えてくれた力かと。

 

 

「(これは助かる。これなら問題なく、サーゼクスの力を扱うことができる)」

 

 

 まあ、この知識通りなら、今の俺じゃあそれほどの力を発揮することはできないだろうが、それでもこの教団の主戦力である魔法兵程度だったら、問題なく対処できるだろう。

 

 

 その結論に達したユーリは、「よし!」と一つ自分に気合を入れると走り出す。

 

 

 思いがけず手に入れたその力で、今も窮地に陥っているであろう大切な仲間たちを助けるために。

 

 

「待っていてくれよ、エルザ。皆!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ここは第八セクター深部。ここはこの楽園の塔において支配階級である教団の神官たちに反抗的な態度をとる者や、この楽園の塔からの脱走を企てた者など、教団に対しての反逆者が収容されている場所であり、奴隷たちの中心人物の一人である少年、ジェラール・フェルナンデスも現在ここに収監されていた。

 

 

 そんな彼を助けるために単身ここへて乗り込んだ少女がいる。―――そう、緋色の少女、エルザ・スカーレットだ。

 

 

 この楽園の塔で自分たちの面倒を見てくれていたロブ老人の犠牲によって魔法に目覚めたこの少女は、自分たちの反逆に対しての最大の壁である魔法兵たちの殆どを討ち取ると、自らのために神官たちの虜囚となったジェラールを助けるために他の仲間たちと別れてここまでやってきたのだ。

 

 

 しかしそんな彼女は現在、絶体絶命の危機に陥っていた。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

 突如自分に襲い掛かってきた魔法の衝撃にエルザは叫び声をあげながら吹き飛ばされる。

 

 

「ぐッ!」

 

 

 そのまま地面に倒れこんだエルザは、よろめきながら自分を吹き飛ばしたであろう相手へと視線を向けた。

 

 

「う…ぐ…。なんで、なんでこんなことするの―――

 

 

 ―――ジェラール!!」

 

 

 そう、エルザを吹き飛ばしたのは彼女が助けに来たはずの少年、ジェラールだった。

 

 

 無事に第八セクター深部の神官たちを全滅させエルザはジェラールを救出することはできたのだが、突然ジェラールの様子が豹変し、この楽園の塔を完成させゼレフを復活させるといいだしたのだ。

 

 

 ジェラールはエルザにも協力を要請したが、自由を手にしてこの塔から脱出するために今まで戦ってきた彼女がそのようなことを承諾するはずもなくそれを断ると、ジェラールはならば用済みだといわんばかりに魔法の力を使い襲い掛かってきたのだ。

 

 

 大地に横たわるエルザを冷たく見下しながらジェラールは口を開く。

 

 

「―――そんなにこの塔から出て行きたければ勝手に出て行けばいい。ただし一人でな」

「一人?」

「他の奴等は俺が貰う。楽園の塔の建設には人手が必要だからな」

 

 

 薄く笑みを浮かべるジェラールのその瞳にはいつもの輝きはなく、夜空よりも暗い、禍々しいものが宿っていた。

 

 

 困惑するエルザをよそにジェラールは言葉を続ける。

 

 

「心配しなくていい、オレは奴等とは違う。皆に服を与え食事を与え休みを与える。恐怖と力での支配は作業効率が悪すぎるからな」

 

 

 淡々とジェラールの口から紡がれる彼の言葉に驚愕しながらも、エルザは必死で答える。

 

 

「何をいってるの?みんなは今頃船の上!私たちを待っているはずよ。今更こんな場所に戻って働こうなんてするハズない!!」

 

 

 彼女の心からの叫びに、しかしジェラールは嘲笑う。

 

 

「それは働く意味を与えなかった教団やつらのミスだ。オレは意味を与える。―――”ゼレフ”という偉大な魔道師の為に働けとな」

 

 

 歪んだ笑みを浮かべてそういうジェラールの様子にエルザは自分の瞳から自然と涙が溢れ出てくるのを感じた。憧れの一人であったジェラールのあまりの変貌に絶望したからだ。

 

 

「(なんで?あなたになにがあったのジェラール!?)」

 

 

 しかしエルザは口を開く。自分の言葉で彼が元の彼に戻ってくれることを信じて。

 

 

「ジェラール、お願い目を覚まして……」

 

 

 だが彼女の言葉も空しく、ジェラールは酷薄な笑みを浮かべながら片手を中に掲げる。

 

 

 すると空中から突如霧状の紫色の魔力の塊が出現し、エルザの首を締め上げた。

 

 

「あう!?く、苦しい……ッ」

 

 

 魔力で構成された腕により思わず苦悶の声を上げるエルザ。仲間であるはずの少女が苦しんでいるその光景に、しかしジェラールが表情を崩すことはない。それどころか彼の顔はどこか楽しげに見えた。

 

 

「おまえはもういらない。だけど殺しはしないよ。……邪魔な奴等を殺してくれたことには感謝してるんだ。―――島から出してやろう。かりそめの自由を堪能してくるがいい」

「ジェ…ラール……」

「わかってると思うけどこの事は誰にもいうな。楽園の塔の存在が政府に知られるのは困るからな。バレた暁には、証拠隠滅で、この塔及びここにいる奴等を消さなければならない。お前達が近づくのも禁止だ。目撃情報があった時点でまず一人殺す。そうだな、まずはショウあたりを消してやろうか?」

「ジェラ……ル」

 

 

 ジェラールのその言葉にエルザの大きな瞳から、ボロボロと大量の涙が零れ落ちる。―――悟ってしまったのだ。もう自分の言葉では彼は元に戻らないということを。

 

 

  絶望と哀しみに顔を歪めるそんな彼女の様子に、しかしジェラールはただただ笑みを浮かべる。それはまさに”狂喜”と呼ぶにふさわしい笑みだった。

 

 

 

「それがお前の自由だ!仲間の命を背負って生きろエルザァァァァ!!!!

 

 

 

 

 ―――アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 そして部屋いっぱいに響き渡るジェラールの声を聞きながらとうとうエルザは自分の意識が擦れていくのを感じる。

 

 

 そんな彼女が最後に思うのは、今はもう死んでしまった、自身の家族であり、想い人であるユーリのことだった。

 

 

「(……あーあ。せめて最後に一目、ユーリに会いたかったなあ)」

 

 

 そして彼女の意識は闇に飲まれる。

 

 

 

 

 

 

「―――エルザ!!?」

 

 ―――もう死んでしまったはずの、想い人の声を最後に聞きながら。




感想や誤字脱字の報告などお待ちしております。


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第十二話 VSジェラール。悪魔の力!!

どうも、えんとつそうじです。


今回は楽園の塔のクライマックス。VSジェラール編です。


あ、後この小説のタイトルでは「炎の魔王」といっていますが、この段階では主人公は炎の魔法は使えず、使用しているのは前作と同じ呪法の方なので、期待してくださっていた方は申し訳ない。


それでは、暇つぶしにでもどうぞ。


 自身の中に宿る悪魔、サーゼクス・ルシファーの力を受け継ぎ、蘇ったユーリは、気づいた時にいた、ゴミ処理場から脱出し、エルザたち仲間の姿を見つけるために走り出したのだが、現在は、第八セクター深部にある、懲罰房がある場所までやって来ていた。

 

 

 仲間の姿を探していたはずの彼が、なぜこんなところまで来ているのかというと、実は現在楽園の塔では、奴隷たちによる、大規模な反乱が起こっており、そのせいで、場が混雑し、仲間たちを見つけられなかったのだ。

 

 

 幸い、偶然顔見知りの奴隷に会うことができたので、その彼に仲間の居場所を聞いてみると、なんでも、エルザを俺と共に助けに行ったジェラールは、あの後神官たちに捕まってしまったらしく、そのジェラールを助けるために、エルザが剣を両手に携えて、第八セクターの懲罰房に行ったというので、その彼女を追って、彼もここまでやってきたのだ。

 

 

 そういう経緯から、この第八セクター深部まで単独でやって来たユーリだったのだが、そんな彼の目の前には今、信じられない光景が広がっていた。

 

 

「「……なんだこれは?」

 

 

 彼の眼前に広がるのはあたり一面に倒れ付す神官たちの死体。

 

 

 尤も死体があるのは決して不思議ではない。現在進行形で、反乱が起こっている今となっては、彼らの死体はこの楽園の塔のそこら中に転がっているからだ。

 

 

 ならかれは何に驚いているのか。それは神官たちの死体の『状態』についてだ。

 

 

「(なんだこれは。なんでこいつらここまで「ぐちゃぐちゃ」になっているんだ?)」

 

 

 そう、いたる所にある神官たちの死体が、まるで獣かなにかに襲われたみたいに、目も当てられない状態になっていたのだ。

 

 

 それは例えば頭が潰されていたり、腹部に大きな穴が開いていたり。仮にこれが人間の仕業だとしたら正気の沙汰ではない。

 

 

 はじめはエルザがやったのかと思ったのだが、彼女の性格を考えてそれはありえないと考え直す。

 

 

「(いくら大きな恨みがあるといってもあいつにこんなことができるわけがない。―――だがそれじゃあいったい誰が?)」

 

 

 疑問に思いながらもユーリは歩みを進める。不安に駆られながらも仲間が無事であることを信じて。

 

 

 

 

 

 

 ―――だが彼の思いは思わぬ形で裏切られる。

 

 

「エルザ!!?」

 

 

 ジェラールが捕らわれているはずの懲罰房。

 

 

 その奥で彼が見たのは謎の黒い靄のようなもので、首を絞められているエルザと、それを歪んだ笑みで見下ろすジェラールの姿だった。

 

 

「(あれは魔力の塊……。ひょっとして、ジェラールの魔法か!?)」

 

 

 仲間の一人が仲間を害すという光景にユーリは困惑したが、今はエルザを助けるのが先決と、右手にサーゼクスより受け継いだ呪法により、紅色のオーラを纏わせて、エルザの首元を締め上げている手を手刀で断ち切った。

 

 

 ユーリは空中に放り出されたエルザをそのまま抱きかかえたそのまま着地する。

 

 

「ほお……」

 

 

 そんなユーリの様子にジェラールが感心の声を上げるが、ユーリはそれには構わず、エルザの容態を確認しようと彼女の体を必死で揺さぶった。

 

 

「エルザ、エルザ!」

 

 

 しかし何回揺すっても起きない彼女に、不安を感じたユーリがとっさに彼女の口元を確認すると、そこから静かな寝息が発せられていることに気づいた。

 どうやらただ気絶していただけのようだ。

 

 

 ユーリはそんな彼女の様子に安堵のため息をつくが、すぐに表情を引き締めるとおもしろそうにこちらを見下ろしていたジェラールへと視線を向ける

 その表情は憤怒の感情に彩られていた。

 

 

「どういうことだジェラール!お前、今エルザに魔法を使ったろう!!」

 

 

 彼のその怒りの声に、しかしジェラールは悪びれようとせず、ふてぶてしく答える。

 

 

「ああ、オレの計画に邪魔になりそうだったんで名。少し眠ってもらった」

「―――計画だと?」

 

 

 ユーリのその言葉にジェラールは自らの計画の内容を語りだす。ゼレフを復活させ世界を手に入れるための計画を。

 

 

 自身の計画を嬉々として語る彼の瞳には、まるで悪魔に魅入られたような、なにかに陶酔するような感情が目に見えた。

 

 

「どうだい、ユーリ?お前も一緒に来ないか?俺たちと一緒に楽園を創ろうじゃないか」

「ジェラール……」

 

 

 壮絶な笑みでそう語りかけてくる親友の様子に、ユーリは思わず息を飲む。あまりにも普段の彼からかけ離れた姿だったからだ。

 

 

 だがすぐにユーリはそれを振り払うかのように、首を何度も横に振りながら気を持ち直すと、ジェラールを睨みつける。

 

 

「ばかなことをいうんじゃねえ、くだらない!」

「くだらない……だと?」

「ああ、死んだ人間を生き返らせて楽園を作る?はっ!くだらないに決まってんだろうが!!」

 

 

 そしてユーリはつかつかとジェラールに詰め寄ると、その胸倉を掴みあげる。

 

 

「俺たちは自由を手に入れる!それを邪魔するならお前だって容赦はしねえぞ!!」

 

 

 それは未来を願い、そして仲間のことを思うからこそのユーリの叫び。

 だがジェラールはそんなユーリの言葉を鼻で笑うと、ユーリの腕を振り払う。

 

 

「そうか、残念だよユーリ。親友のお前にならわかってもらえると思ったんだがね。―――だが、こうなったら仕方がない。お前にもこの塔から出て行ってもらうことにしよう」

「なに?」

 

 

 ジェラールの言葉に訝しげに首を傾げるユーリ。そんなユーリの様子にジェラールは不適に笑い指をぱちんと鳴らす。

 

 

 すると、ユーリの体が突然吹き飛んだ。

 

 

「がはっ!?」

 

 

 吹き飛ばされたユーリはそのまま壁に叩きつけられ、苦悶の声を吐き出す。

 そんな彼の様子にジェラールはニヤリと笑う彼の両脇には、先ほどエルザの首を締め上げていた靄のような魔力で構成された、巨大な腕が出現していた。

 どうやら先ほどはこれでユーリのことをを殴り飛ばしたらしい。

 

 

 ふらふらになりながらも立ち上がるユーリの姿に、ジェラールは感心したような声を上げる。

 

 

「ほう、さすがに頑丈だな。今ので気絶しないとは」

 

 

 だがユーリはそんなジェラールの言葉は聞いていないようで、その視線はジェラールの両脇にある魔法の手に注がれていた。

 

 

「……ジェラール。お前いつ魔法を習得したんだ?」

「ん?ああ、神官どもに懲罰房に押し込まれていた時にゼレフと出会ったときにな」

 

 

 ジェラールはユーリの疑問になんとなしにそう答えたが、ユーリはそんな彼の言葉に出てきたある人物の名にぴくりと反応する。

 

 

 それは、おそらくこの世界で、尤も悪い意味で有名な魔導師の名前だったからだ。

 

 

「ゼレフだと?」

「―――ああ、そういえばいってなかったな。俺はあったんだよ、ゼレフその人に」

「なんだと!?」

 

 

 ジェラールの言葉に驚愕の表情を示すユーリ。そんな彼の反応に気をよくしたのか、ジェラールは得意げな顔でその時のことを語った。

 

 

 エルザの救出に失敗したジェラールは連れて行かれた懲罰房で神官たちに拷問のかぎりを尽くされ、この世界の全てに絶望し、そして憎んだんだそうだ。

 

 

 そしてそんな彼の憎しみに答えたのが、最凶最悪の黒魔導師ゼレフ。その亡霊だったのだ。

 

 

「そして俺はゼレフからこの力を貰ったのだ。―――彼を復活させ、ゼレフの世界を作るために!!」

 

 

 高らかにそう宣言するジェラール。その頬は自分がゼレフとやらに選ばれたという興奮からかほのかに赤く染まっていたが、そんな彼をよそにユーリは別のことを考えていた。

 ジェラールが接触したというゼレフと名乗る亡霊のことについてだ。

 

 

「(なるほど、つまりジェラールがおかしくなったのはそのゼレフとかいうやつのせいかッ!!)」

 

 

 本当にジェラールのいうようにそいつがゼレフの亡霊なのかどうかはユーリには関係がない。

 ようは、その人物がジェラールをこのようにしたのかが問題なのだ。

 

 

 内心怒りに燃えるユーリだったが、ジェラールが新たな攻撃態勢に入っているのに気づき、そこで思考をやめ、ジェラールに慌てて向き直る。

 

 

「(今は考えている暇はねえ。ジェラールをこんなにしちまったやつは後で後悔させるとして、今はこいつをどうにかするほうが先だ。一発ぶん殴って目を覚まさせてやらねえと)」

 

 

 そういうとユーリはジェラールに向かって駆け出す。

 

 

「―――ジェラールうううううう!!」

 

 

 ユーリの突貫。しかしジェラールはそれをただやけになっただけなのだとでも思ったのか、軽くあざ笑うと、魔法でできた弾をいくつかユーリに向かって打ち出す。

 

 

 しかし、

 

 

「無駄だ!」

「なに!?」

 

 

 その魔力弾はユーリの拳に宿った紅のオーラに消し飛ばされる。

 

 

 そう、これこそが呪法、「消滅」。

 

 

 紅の悪魔から譲り受けた悪魔の能力。彼はその能力を発動したのだ!!

 

 

 予想外の事態に一瞬硬直したジェラール。そしてユーリはその彼の隙を見逃さなかった。

 

 

「歯あああ食いしばれええええええええええ!!」

「がはッ!?」

 

 

 ユーリの拳を受けたジェラールは、そのまま吹き飛ぶと、二転三転しながら地面を転がっていく。

 

 

 ユーリはそのまま追撃をかけようとするが、ジェラールもさるもの。咄嗟に立ち上がり牽制の魔力弾を放つが、それは先ほどと同じようにユーリの紅の手により消滅する。

 

 

 先ほどはその光景に驚愕の表情を浮かべていたジェラールだったが、さすがに二回目となると予想できていたのか、咄嗟に体勢を立て直そうとするが、先ほどの一撃が聞いていたのがジェラールの膝ががくりと落ちる。

 

 

「ぐッ!?」

 

 

 ジェラールはなんとか体に力をいれようとするが、その前にユーリの蹴りがジェラールの顎へと突き刺さる。

 

 

「ぐはッ!!」

 

 

 人体の急所の一つである顎を打ち抜かれたジェラールの意識が遠のく。

 

 

「(まずい!?意識を保たないと……)」

 

 

 焦るジェラール。そんな彼の意識を完全に断とうとユーリは右こぶしを全力で振り上げる。

 

 

「(これで目を覚ましやがれ!!)」

 

 

 そしてユーリは願いを込めて拳を振りおろす。この世界で初めてできた親友が、元に戻ることを信じて。

 

 

 

 

 ―――だがその拳がジェラールに届くことはなかった。

 

 

「なッ!?」

 

 

 突如彼の足元が砂に変わり、それに躓いてしまったのだ。

 

 

 まるで、その地面の時を急速に加速させ(・・・)、砂にしたかのような、そのようなありえるはずのない事態に、混乱するユーリ。

 

 

 だが、サーゼクスの能力を受け継ぎ、魔力を感知する術も会得していたユーリは、そこで気づく。辺りに漂う、俺ともジェラールのものとも違う、第三者の魔力(・・・)の存在に。

 

 

「(なんだ、この魔力……?俺やジェラールとは違い、かなり洗練された魔力だ。―――まさか、これがジェラールがいっていた、ゼレフの亡霊というやつか!?)」

 

 

 だが、そこで、彼はその考えを、頭の中から振り払う。

 

 

「(いや、亡霊なんているわけがない!となると、この魔力の正体は………ジェラール以外の魔導師がこの場にいるということか!?)」

 

 

  ユーリはここに来て新たな敵が出現したことに戦慄し、咄嗟にその気配を探ろうと辺り一面へ意識を避ける。

 

 

 

 

 

 

 ―――それがユーリの最大のミスだった。

 

 

「がッ!?」

「よそ見とは余裕だな、ユーリ」

 

 

 いつの間にか復活したジェラールが不敵な笑みを浮かべながら、エルザにやったように魔力の靄で、俺の首元を締め上げてきたのだ。

 

 

「(しま…ッ!?魔力に気をとられすぎた!!)」

 

 

 自らの迂闊さにユーリは舌打ちをすると、消滅のオーラでその拘束を外そうとするが、突然の事態に対する混乱と、神経を圧迫される痛み。そして酸素不足による苦しみから上手く集中できず、オーラを練ることができない。

 

 

 本来の消滅の力の持ち主であるサーゼクスならば、全身からオーラを出して纏わりついている魔力を消滅させるという手もあるのだが、未だ力の使い方が未熟であるユーリでは、そのような真似はできない。

 

 

 なんとか力づくで拘束を外そうともがくが、もがけばもがくほど拘束はきつくなっていく。

 

 

 ジェラールはそんなユーリの努力を嘲笑うかのように一笑しながらも口を開く。

 

 

「―――残念だよ、ユーリ。親友のお前には是非ともこの偉業を手伝ってほしかったんだが」

「あ…あいつ……らを……どうする…気だ……」

「安心しろ、エルザにはいったが悪いようにはしないさ。ちゃんと食事も与えるし、休息も与える。それに俺に逆らわなければある程度の自由も与えるつもりだよ。―――尤も気持ちよく働いてもらうために、多少思考のは誘導させてもらうがなあ!!」

「!?き…さ……ま……ッ!!」

 

 

 そして口元を三日月形に歪めながらさらに拘束を強めていく。

 

 

「ぐうッ!?」

 

 

 どんどん意識が薄れていくユーリ。だがそれに気付いているのかいないのか、ジェラールは顔を醜い笑みで歪めながらも言葉を続ける。

 

 

「利口なお前ならわかっていると思うが、外の人間にはこのことを伝えるなよ。あいつらがどうなってもいいなら別だがなあ?」

 

 

 

 

 ―――そういうジェラールの顔は、もはやユーリが知っている親友とはまったく別人といってもいいほどの狂気に彩られていた。

 

 

「それじゃあ俺も忙しいんで、そろそろお別れだ。あばよ親友。

 

 

 

 

 

 

 ―――ハハハハハハハハハハハ!!」

「(……ちく……しょう……)」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そしてユーリ・クレナイの意識はそこで途絶えた。




どうでしたでしょうか?少しいじりましたが、話の展開自体は変えていないので少し不安ですが、楽しんでいただければ幸いです。


楽園の塔編は後は閑話を残してこれで終了になります。次の更新はまたある程度書き溜めてからになりますので時間がかかりますが、どうぞ、お見捨てなきようお願いします。


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閑話 ウルティア・ミルコビッチの驚愕

今回は閑話。ウルティア視点の話になります。


中身は殆ど変えていませんので、前作を読んでくださった方には退屈かもしれませんが、それでもよろしければ、暇つぶしにでもお読みください。


 ジェラールがユーリを気絶させて決着がついた彼らの決闘。そんな彼らの結末を見て安堵の表情を浮かべる少女がいた。

 

 

「ふー、これでなんとか予定通りね……」

 

 

 彼女の名前はウルティア・ミルコビッチ。闇ギルド「悪魔の心臓(グリモアハート)」の一員である若き魔導師だ。

 

 

 幼いころ母と別れて違法な魔法研究所に入れられた彼女は、母を恨み続けていたが、それと同時に母を憎んでいなかったころの自分に戻りたいとも願っており、その願いを聞き届けたグリモアハートのギルドマスター、マスターハデスに勧誘されたためにグリモアハートに入り、自らの望みを叶えるために日々ギルドの一員としてこうして活動しているというわけだ。

 

 

 そしてそんな彼女がこの楽園の塔にいるのも、いつもの様にギルドの一員としての仕事のためだった。

 

 

 その仕事の内容とは、「評議会の目を誤魔化すための生贄を用意せよ」というもの。

 

 

 彼らグリモアハートはゼレフを手に入れ大魔法世界を復活させるために日々活動しているのだが、グリモアハートは魔法評議会に最も危険なギルドの一つとしてその行動をマークされている。

 

 

 なので近年ゼレフが死んでいるのではなくただ眠っているだけで、その眠りを解くには”カギ”が必要だというころを知ることに成功した彼らは、これから計画が佳境に入るにあたって邪魔が入らないように評議会の注意を自分たちからそらすための身代わり(スケープゴート)を必要としたのだ。

 

 

 そして選ばれたのが彼、ジェラール・フェルナンデスだった。

 

 

 その不遇な環境からなる世界を憎む心、そして子供ながらに発露しつつあった強靭な魔力は評議委員会の目線をグリモアハート(じぶんたち)から逸らすのにもってこいの逸材だとウルティアは感じたからだ。

 

 

 そしてウルティアは神官たちの拷問により精神が弱っているところにゼレフのふりをして、ジェラールを洗脳したのだ。

 

 

 ジェラールはウルティアの目論見どおり、元々の正義感あふれる性格が嘘のように残酷な性格となりその場にいた神官たちを皆殺しに。それを止めようとした仲間であるはずのエルザにも容赦ない攻撃を加えていたことからウルティアは事が完全に成ったことを確信したのだが、そこで予想外の自体に遭遇した。ユーリ・クレナイの介入だ。

 

 

 ジェラールからエルザを救出したユーリはそのままジェラールと戦闘に入ったが、そこまではよかった。魔法に目覚めたジェラールに、彼が勝てるとは思っていなかったからだ。

 

 

 しかし予想に反してユーリはジェラールを圧倒。あわや勝利するところに慌ててウルティアが介入。彼女の得意とする「時のアーク」により、なんとかジェラールに勝たせることができたのである。

 

 

 ウルティアが先ほどまでユーリとジェラールが戦っていた場所に視線を向けると、そこにはジェラールが気絶したユーリとエルザの二人をどこかに運んでいる姿が見えた。おそらく、そのまま海にでも放り出す気だろう。

 

 

「(彼らを直接仲間に誘ったところからみるに彼らはジェラールにとって特別な存在だったみたいだしね)」

 

 

 洗脳で性格が変わってもそれだけは変わっていなかったのだろう。残虐なことも平気でできるようになったはずなのに、彼らを殺して口封じをしないことからもそれがわかる。

 

 

 本来なら念には念を入れて彼らの命をここで奪い取るのが闇ギルド、グリモアハートの一員として彼女がするべき行動なのだが、彼女はそうしなかった。

 

 

 それはただの気紛れだったのかもしれない。幼いころの自分に重ねたがゆえの同情だったのかもしれない。

 

 

 まあジェラールを洗脳したのはあくまで評議委員の目を逸らすための時間稼ぎであるために、仮に彼らがジェラールの計画を邪魔しようとしても、彼らでは自分たちの計画を阻めることではないという絶対の自信と確信があったからだ。

 

 

 だがそんな彼女にはある一つの懸念があった。ユーリがジェラールの魔力弾をかき消すために使ったあの紅のオーラについてだ。

 

 

「(―――波動の魔法?いやでもあれは才能あるものがそれなりの鍛錬を積んで初めて使える魔法のはず。魔法に覚醒したばかりの初心者が使えるはずがない……)」

 

 

 だがそこでウルティアは思考をやめる。いくら魔力を扱えるからといってもただの子供にここまで警戒するのが馬鹿らしく思ったからだ。

 

 

「(仮に彼らがジェラール並の才能を持っていたとしても、マスターハデスには勝てるとは思えないしね)」

 

 

 そしてウルティアは踵を返すと再び闇の道を歩き出す。

 

 

「―――全ては大魔法世界のために」

 

 

 

 

 

 

 ―――後に、グリモアハートの最高幹部にまで上り詰めた彼女は、後悔することになる。ここで彼らの息の根をとめておけばよかったと。




これで、楽園の塔編は終了となります。次回はある程度書き溜めてからにしたいと思いますので、しばらくの間、またお待たせすることになると思いますが、どうかよろしくお願いします。他の更新もありますしね。


それでは、今回も感想や誤字脱字の報告。アドバイスなどがありましたら、是非よろしくお願いします。


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登場人物紹介一覧~奴隷時代編~

登場人物紹介一覧、奴隷時代編です。


飛ばしても話にはあまり関係ありませんし、ネタばれもありますので、それが嫌な方は飛ばしてくださってもかまいません。


◆ユーリ・クレナイ

 

 

 

性別:男

 

年齢:14歳(外見年齢)

 

特技:料理

 

好きなもの:家族(妹、エルザ)、村の人々

 

嫌いなもの:家族を害する者、ブラック企業

 

使用魔法:無し

 

使用呪法:消滅

 

 

・元々はサーゼクス・ルシファーが使用する呪法。紅のオーラに触れたものの全てを滅ぼす。

 

 

容姿設定:ハイスクールD×Dのサーゼクス・ルシファーの髪が黒い姿

 

 

 

・この小説の主人公。

 

 

 楽園の塔を使い、黒魔導師ゼレフの復活を企む魔法教団が各地で行っている「子供狩り」の標的に、自らが住んでいたローズマリー村がされてしまったために、せめてエルザだけでも逃がそうとするが、その際、教団の魔法兵の奇襲にあい、エルザ、シモンたちと共に、楽園の塔で奴隷として捕らわれることに。

 

 

 ある日脱走失敗の責を負わされて捕えられてしまったエルザを助けるために、楽園の塔で親友となったジェラールと共に、彼女の救出に向かったが、それに失敗。その際に受けた神官たちによる懲罰により、一時肉体的に死亡するが、その後、この世界に来た際に、ユーリの命を助けるために彼の魂と融合したサーゼクスに出会い、サーゼクスの力を受け継いだ。

 

 

 その後、仲間の姿を探していた最中、ジェラールに襲われているエルザを発見し、彼女を助けるためにジェラールと対決するが、それを見ていたウルティアの介入により敗北した。

 

 

 その後、楽園の塔を追放される。

 

 

 

 

 

◆エルザ・スカーレット

 

 

 

 性別:女

 

 年齢:11歳

 

 好きなもの:ユーリ、仲間(シモン、カグラ)、ユーリの手料理

 

 嫌いなもの:悪い人

 

 使用魔法:???

 

 容姿設定:原作と同じ

 

 

 

 この小説のメインヒロイン。

 

 

 主人公の家族で、主人公と同じく、ローズマリー村を襲撃した教団に、この楽園の塔に奴隷として連れてこられた。

 

 

 脱走の罪への罰として、懲罰房へと収容されていたが、彼女を救出しにきたユーリが一度肉体的に死に、ジェラールが代わりに捕まったことにより、懲罰房から出される。

 

 

 その後、反乱を起こし、その最中に魔法に覚醒したおかげでそれを成功させるが、ジェラールを助けに行った際、ウルティアの洗脳を受けたジェラールに気絶させられる。

 

 

 その後、楽園の塔を追放される。

 

 

 

 

◆ジェラール・フェルナンデス

 

 

 

性別:男

 

年齢:12歳

 

好きなもの:自由

 

嫌いなもの:教団

 

使用魔法:???

 

容姿設定:原作と同じ

 

 

 

 楽園の塔の年少の奴隷たちのリーダー的存在。主人公の親友でもある。

 

 

 主人公たちとは別の場所から楽園の塔に連れてこられたので、初めは面識がなかったが、主人公が泣き叫ぶミリアーナを泣きやませるために、積極的に行動していたところを見て、彼に興味を持ち、その後、その大人びた思考から主人公とウマが合い、親友となる。

 

 

 その後、脱走の罪を償うために、神官たちに捕えられたエルザを救うために主人公と共にエルザが捕えられている懲罰房へと忍び込んだが、神官たちに捕えられ、拷問を受け、そして心身ともに弱っていたところに、ウルティアに洗脳を受け、主人公たち仲間たちを裏切り、黒魔導師ゼレフを復活させるために、奴隷たちを騙し、楽園の塔をそのまま建設させることを決意する。

 

 

 自分の意思に逆らう姿勢を見せたエルザを魔法で襲っていたところを、主人公に目撃され、主人公と対決。ウルティアの介入もあり、それに勝利する。

 

 

 

 

 

◆シモン・ミカヅチ

 

 

 

性別:男

 

年齢:14歳

 

好きなもの:妹、エルザ

 

嫌いなもの:無力な自分

 

使用魔法:無し

 

容姿設定:原作と同じ

 

 

 

・主人公の仲間の一人。ローズマリー村時代からの友人。

 

 

 主人公たちと同じく、ローズマリー村を襲撃した教団により、楽園の塔に奴隷として連れてこられた。

 

 

 

 

 

◆ウォーリー・ブギャナン

 

 

 

性別:男

 

年齢:12歳

 

好きなもの:ミリアーナ、映画魔水晶(ラクリマ)、兄

 

嫌いなもの:教団

 

使用魔法:無し

 

容姿設定:原作と同じ

 

 

 

 主人公が楽園の塔で出会った仲間の一人。

 

 

 昔から妹が欲しいと思っており、楽園の塔で出会ったミリアーナを猫可愛がりしていたが、ある日、楽園の塔の過酷な状況に耐えきれず、突如泣き叫び始めたミリアーナを慰めにどうしていいかわからずにいたが、そこに彼女を慰めに主人公がやってきたのをきっかけに、主人公の仲間となる。

 

 

 

 

 

◆ミリアーナ

 

 

 

性別:女

 

年齢:8歳

 

好きなもの:猫

 

嫌いなもの:海老

 

使用魔法:無し

 

容姿設定:原作と同じ

 

 

 

 主人公が楽園の塔で出会った仲間の一人。

 

 

 楽園の塔での過酷な労働にストレスが溜まり、ある日癇癪を爆発させ、泣き叫んでいたところに、彼女を慰めに主人公がやってきたのがきっかけで、主人公と出会い、彼の仲間となる。

 

 

 

 

 

◆ショウ

 

 

 

性別:男

 

年齢:8歳

 

好きなもの:エルザ、仲間

 

嫌いなもの:教団、理不尽

 

使用魔法:無し

 

容姿設定:無し

 

 

 

 楽園の塔で楽園の塔で出会った仲間の一人。

 

 

 神官に叱責されているところを、エルザに助けられたことをきっかけで、彼女に懐き、仲間の一人となる。

 

 

 

 

 

◆ウルティア・ミルコビッチ

 

 

 

性別:女

 

年齢:不明

 

好きなもの:時、思い出

 

嫌いなもの:母、過去

 

使用魔法:時のアーク

 

失われた魔法(ロスト・マジック)の一つ。物体の「時」を操る魔法だが、人間の時は操れない。

 

所属:悪魔の心臓(グリモアハート)

 

 

 

 闇ギルドバラム同盟の一角、「グリモアハート」の一員。

 

 

 いずれ、聖十大魔導の一人になるともいわれた、凄腕の氷の造形魔導師である「ウル」の娘。母に捨てられたと勘違いし、幸せだった過去を取り戻すために時のアークを会得し、グリモアハートの一人として活動する。

 

 

 楽園の塔では、グリモアハートから評議委員会の目を逸らすためにジェラールを囮にしようと、ジェラールを洗脳し、彼を取り戻そうとするユーリとジェラールの決闘に、時のアークを使い介入した。

 

 

 

 

 

◆サーゼクス・ルシファー

 

 

 

性別:男

 

年齢:不明

 

好きなもの:人間、グレイフィア、仲間

 

嫌いなもの:無意味な殺戮

 

使用魔法:消滅(呪法)

 

容姿設定:ハイスクールD×Dのサーゼクス・ルシファー

 

 

 

 ゼレフ書の悪魔の一体。

 

 

 悪魔としての自らの生に疑問を持ちながらも過ごしていたが、ある日当時のローズマリー村の村長の一人娘であるグレイフィアに出会い、彼女と恋人となる。

 

 

 その後、幸せな生活を送っていたが、少しの間村を離れていた間に、彼の元の仲間であった悪魔たちに村を襲撃され、グレイフィアを殺されたことがきっかけとし、悪魔を復讐の対象として狩る日々を送ることに。

 

 

 その後、とある魔導師の仲間となり、悪魔との戦いの日々を送るが、ある日彼が元々所属していた悪魔の集団が襲来し、彼に致命傷を負わせ、その後、ローズマリー村を襲撃していた魔獣の群れを撃退し、そのまま村を救った英雄として、代々村長を勤める家柄であるローズマリー家の手により密かに弔われる。

 

 

 その、悪魔としての強大な力により、死んだ後も亡霊として村の様子を見守りながら過ごしていたが、ある日時空の裂け目より出現した主人公が衰弱し、死にそうになっていることを確認すると、彼を助けるために魂を融合させ、彼の精神世界の中で過ごすことに。

 

 

 その後、主人公が肉体的に死んだ際に主人公の前に現れ、自身の力を与える。

 

 

 

 

 

◆グレイフィア・ローズマリー

 

 

 

性別:女

 

年齢:不明

 

好きなもの:サーゼクス

 

嫌いなもの:暴力

 

使用魔法:無し

 

容姿設定:ハイスクールD×Dのグレイフィア

 

 

 

 サーゼクスがローズマリー村の付近に潜んでいた当時の、ローズマリー村村長の一人娘。

 

 

 凄腕の魔導師の手により、深手を負って村の付近の森に潜んでいたサーゼクスを助け、そのまま彼と恋人となる。

 

 

 しかし、その後サーゼクスの元の仲間であった悪魔たちに村を襲撃され、その時に一緒に殺されてしまう。



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港町リオ編
第十三話 港町リオ


どうも、最近遊戯王のレイジングマスターズ(別名:地獄門くじ)をやり続けて、やっとDDデッキを完成させることができた、えんとつそうじです。おかげで、今の私の財布ポイントはレッドゾーンに入りかけてます(泣)。


実は、今日ふと、ランキングを見たら、この作品が皆さんのおかげで七位にランクインしていたので、本当はこの章全てを書き終えてから投稿しようと思ったのですが、うれしさのあまり思わず投稿してしまいました。(笑)


ただ、最近小説を書き続けて疑問というか、皆さんに聞きたいことが出てきたので、いい機会なので、ここで質問させてもらおうと思います。


質問の内容は、小説の投稿の仕方?についてで、現在私は、今私がこのサイトで掲載させてもらっているどの作品でも、一章丸ごと書き溜めてから、一日一話のペースで予約投稿する形をとらせてもらっているのですが、他の作品では、一話一話。書き終えてから少しずつ投稿する人の方が多いようなので、読者の方々からみて、どちらの進め方がいいのか、お聞きしたいです。


活動報告に、同じ質問を書いておくので、質問の返事はそこにお願いします。


それでは、今回は新章に突入。楽園の塔を追放された主人公の現状説明と、主人公が会得しようとしている魔法の名前だけ登場します。


さて、主人公が会得しようという魔法は、いったいナンナノカー(棒読み)


それでは、暇つぶしにでもお読みください。


 マグノリア大陸の北東にある港町『リオ』。

 

 

 高級リゾート地として知られるアカバビーチ。そのアカバビーチと並び称されるほどの美しさを誇るといわれるコカバビーチが有名な、背後に険しく入り組んだ山々が聳え立つ、港湾都市。

 

 

 アカバビーチとは違い、カジノや遊園地などのアミューズメント施設等はないが、夏場でも涼しく、またそれほど遠くない場所に、長い歴史を誇る巨大都市である『オーク』があることから、コカバビーチの存在もあり、裕福な家柄の人々には、避暑地として人気を博している。

 

 

 そんな街の一角にある、とある小さな宿屋に、その少年の姿はあった。

 

 

 その宿屋の名は『かもめ亭』。愛想のいい夫婦が経営しているこの宿屋は、規模こそ小さいが、新鮮な魚を使った美味い料理が格安で食べられるということで、地元の人間たちには、一種の穴場的存在として知られている。

 

 

 そして、現在昼時。その少年は、忙しそうに店の給仕に勤めていた。

 

 

「焼き鮭定食お待ちー!!」

「ああ、ありがとう」

「少年、こっちに酒くれー」

「あ、はーい。ただいまー」

 

 

 黒く艶やかな髪を後ろに束ね、トレイを持ちながら、忙しなく移動するこの紅眼の少年の名は、「ユーリ・クレナイ」。

 

 

 

 

 

 

 ―――そう、この物語の主人公である。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、今日も忙しかったなあ……」

 

 

 俺の名前はユーリ・クレナイ。かつて、黒魔導師の集団『教団』に囚われて、楽園の塔で奴隷として働かされていた。

 

 

 楽園の塔とは、教団が神と崇める、歴史上最凶最悪の黒魔導師と呼ばれたぜレフを復活させるために建設を進めた特殊な魔法媒介。俺たちはそれを建設するために、その教団に酷使されていたのだ。

 

 

 俺は、そんな教団の神官たちを心の中で罵倒しながらも、様様な経緯から、お互いを支えあう仲間たちもでき、つらい仕事に耐えながらも、日々を送っていたのだが、そんなある日、俺は神官たちに浚われてしまった仲間たちを助けようとしたのだが、それに失敗してしまい、俺は一度肉体的に死んでしまう。

 

 

 だが、実は俺の中には、サーゼクス・ルシファーというぜレフ書の悪魔がおり、その彼が思いがけず死んでしまった俺を見かねて、自身の力を俺に与え、蘇らせてくれたのだが、その後、なぜか俺の仲間の一人であるジェラールが、さらに仲間の一人であるエルザを襲っている場面に直面し、それを助けるために、彼から受け継いだ力を使い、ジェラールと戦ったのだが、俺はそれに敗北してしまい、どうやら楽園の塔を追放されてしまったらしい。

 

 

 「らしい」というのは、俺がジェラールとの勝負に負けた後、気絶してしまい、気がついた時には見知らぬ民家で、横に寝かされていた。

 

 

 なぜ、そのような状況になったのか、後で聞いたことによると、どうやら、俺はジェラールとの決闘の後、海に捨てられてしまったようで、その民家の主人が、ある日趣味の釣りに出かけたところに、流されてきたところを見つけてくれたようで、そのまま保護してくれたというのだ。

 

 

 ちなみに、その俺を保護してくれたという人物たちが、この二人。

 

 

「おい、ユーリ。お前、もう一旦休んでいいぞ」

「え、いいんですか?でも……」

「かまわないわよ。昼が過ぎたら夜までお客さんも少なくなるし、時間までに帰って来てくれれば」

「……わかりました。それならお言葉に甘えますね」

 

 

 この人のよさそうな中年くらいの年齢の夫婦の名前は、それぞれ『シドウ・サカツキ』と、『メグ・サカツキ』。

 

 

 彼らは、この港町リオにある、「かもめ屋」という宿屋兼定食屋を経営しており、この街の外れにある海岸に漂流した俺を保護してくれた恩人でもある。

 

 

 この二人は、昔からこの街で、このかもめ屋を経営しているらしく、給仕をしているメグさんの明るい性格と、新鮮な魚を使ったシドウさんの絶品料理のおかげで、小さい規模ながら、この街で穴場的な人気を誇る名店となっている。

 

 

 ちなみに、俺を拾ってくれたのは夫であるシドウさん。彼は、俺がローズマリー村ではと屋を経営していた時のように、趣味と実益を兼ねて、毎朝釣りに出ているらしいのだが、その時に俺を見つけて拾ってくれたらしいのだ。

 

 

 それで、なぜ俺が彼らの店で働いているのかというと、実は俺が目覚めてから、彼らになんで海に漂っていたのか事情を聞かれたのだが、ジェラールにいわれたこともあり、本当のことをいうわけにはいかず、かといって、全くの嘘をいえば、嘘がばれるかもしれないので、親に口減らしとして売られ、船で奴隷として働かされていたが、海に身を投げ、そこから逃げ出して来たと説明したのだ。警察や評議委員会の支部かなにかに連絡されないために、だからこそ行くところがないんだとも。

 

 

 それを説明したら、なぜか二人が号泣し、気が済むまでここにいていいといってくれた。 どうやら、俺の話がこの二人の何かの琴線に触れてしまったらしい。

 

 

 さすがに罪悪感に苛まれたが、行くところがないのは本当なので、お言葉に甘えて、しばらくの間お世話になることにしたのだが、さすがにお世話になってなにもしないというほど、俺は薄情ではないので、こうして仕事を手伝っているというわけである。

 

 

「(でも、本当に俺は運がいいよなあ。こんないい人たちに拾われるなんて。まさか給料まで貰えるんだもん)」

 

 

 本当なら、お礼のつもりだったので、お金なんて貰うつもりはなかったのだが、二人は俺の働きぶりをかなり評価していてくれたらしく、子供の小遣いより少し多いくらいだが、毎月給料を貰っているのだ。

 

 

 俺は、本来なら身も知らぬ他人である俺に、ここまでよくしてくれる二人に、深い感謝の念を覚える。

 

 

「(本当にいい人たちだ。できればこのままずっとここにいたいけれど……)」

 

 

 だが、それはできない。何故ならば、俺にはやらなければならないことがあるからだ。

 

 

 それは、この世界の俺のたった一人の家族。エルザの捜索だ。

 

 

  あの時、俺だけではなく、エルザもジェラールにやられていた。もし、ジェラールが本気で皆を使い、楽園の塔の建設を企んでいるというのなら、ほぼ確実に不穏分子となるエルザの存在は、ジェラールにとっては邪魔になる。ということは、エルザは俺と同じく、楽園の塔から追放された可能性が高い。

 

 

「(ならば、俺がエルザの行方を探さなくては。……たった一人の家族なんだから)」

 

 

 だから、俺はここをいずれ出ていかなくてはならないのだが、それが少し、俺には寂しくてならなかった。

 

 

「……今、それを考えても仕方ないか」

 

 

 エルザを探しに行くにも、ある程度旅費を貯めなくてはならないし。

 

 

 そう考えた俺は、今までの考えを頭から振り払い、水筒やメモを取るためのいくらかの羊皮紙。護身用のナイフ等が入っている小さなリュックを背負い、二人へと視線を向ける。

 

 

「それじゃあ、ちょっといつもの森まで行ってきます」

「ああ、いってらっしゃい」

「今日も魔法の練習かい?大変だねえ」

「ええ。でもこういうのは毎日の積み重ねですからね」

 

 

 シドウさんの言葉に、俺は僅かに笑みを浮かべながら、そう返す。

 

 

 そう、実は最近俺は、朝と昼過ぎ。魔法の練習のために、近所の森まで出かけている。

 

 

 その理由としては、サーゼクスから力を受け継いだあの時。彼から聞いた話がきっかけだ。

 

 

 彼は復讐が理由とはいえ、人間たちを悪魔から助けて回っていたが、それにも関わらず、その人間たちは、彼を悪魔だからという理由で迫害したという。

 

 

 もちろん、中にはきちんと感謝し、慕うものもいただろうが、それでも人間は人と違うものを嫌う。

 もし、俺の中に悪魔としての力が入っていることがばれれば、俺もサーゼクスの二の舞。人間に迫害される日々を送ることになるだろう。

 

 

 今の俺なら、悪魔化が進んでいないので、俺がいわなければばれないだろうが、もし悪魔の力、消滅の呪法を使う場面を、凄腕の魔導師にそれを見られてしまえば、それが悪魔の力だとばれてしまう。そして俺の正体を知られてしまい、下手したら討伐の対象にでもなってしまうかもしれない。

 

 

 だからこそ、俺はサーゼクスから貰った魔法の知識から、ある魔法の習得方法を学び、それを会得しようと、こうして鍛錬に励んでいるのだ。

 

 

 それは、サーゼクスが、自らのかつての同胞たちを屠るために編み出した、必殺の破壊魔法。

 

 

 

 

 

 

 ―――その名も【炎の滅悪魔法】という。




と、いうことで、主人公が会得しようとしている魔法は、炎の悪滅魔法でした。……まあ、皆さんわかってましたよね、あんだけあからさまな伏線はってれば(笑)


実は、この作品をリメイクしたのは、この悪滅魔法が原作に出てきたのがきっかけだったりします。


本来はサーゼクスの消滅魔力だけを使って戦うスタイルにしようと思ったのですが、それだと問答無用で魔法どころか、敵も消滅させてしまいそうなので、何か他の魔法を会得させなければと考えていたところ、この魔法が原作に出てきて、サーゼクス自体が悪魔と敵対する悪魔という設定だったので、「じゃあこれでいいじゃん」と、主人公が会得する魔法を、悪滅魔法にし、またそれを機に作品を見直してみたら、設定で納得できないところが多々あったので、リメイクに踏み切ったしだいであります。


それでは、最近リアルが忙しくて、続きがなかなか書けない状況なのですが、次を気長にお待ちいただけると嬉しいです。




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第十四話 炎の滅悪魔法

どうも、最近就職活動や資格習得に忙しいえんとつそうじです。


すいません、本当は一章丸々書き溜めてから書こうと思ったのですが、リアルが思いのほか忙しく、なかなか書く暇がないので、少しずつ投稿することにしました。すいません。


それで、今回の話なんですが、今回の話はタイトルどおり炎の滅悪魔法についての説明会。後はとある原作キャラが名前だけ登場します。


それでは、暇つぶしにでもお楽しみください。


【炎の滅悪魔法】。

 

 

 それは、かつてサーゼクス・ルシファーが、人間と敵対するかつての同胞たち。ゼレフ書の悪魔(エーテリアスともいうらしいが)たちを屠るために、対(ドラゴン)用魔法である「滅竜魔法」。対神用魔法である「滅神魔法」の二つの討伐(スレイヤー)系魔法を参考に編み出した、対悪魔用魔法。

 

 

 この魔法こそ、サーゼクスが俺に知識として与えてくれた魔法。

 

 

 俺は消滅の呪法の代わりに、この魔法の力を求めたのだ。

 

 

 もちろん、消滅の呪法の練習も欠かしていない。悪魔化が進むというリスクもあるが、いざという時に使えなければ、この盗族も魔法も、魔獣なんかも存在する、治安もクソもないファンタジー世界。いざという時に使えなければ、思わぬ命の危機を招いてしまうかもしれないしな。

 

 

 ちなみに、俺がこうして魔法の練習をしているのは、自分の悪魔の力を隠すためというのもあるが、他にも二つほど理由が存在する。

 

 

 一つは消滅の呪法が強力すぎるということ。

 

 

 呪法を扱うために、力を受け継ぐ際に貰った知識によれば、呪法というのは、それを使用する際に込めた力より、さらに多くの魔力を使えば、魔法でも対抗はできるらしいのだが、それは逆に、それ相応の力がなければ、問答無用で相手を消滅させるほどの威力を誇っていることが理解できる。

 

 

 つまり、魔獣や猛獣等が相手ならともかく、人間相手でも、全く手加減できないということになる。

 

 

 だからこそ、むやみに人を傷つけないために、俺は呪法とは、全く別の攻撃手段を持つ必要があった。

 

 

 そして、もう一つの理由は、力を受け継ぐ際に、サーゼクスがいっていた、かつて彼が所属していたという、人間と敵対していた悪魔の集団。もし、奴らと出会った際に対抗できる手段を持つためだ。

 

 

 サーゼクスがいうには、やつ等が活動していたのは、もう百年以上前のことなので、とっくにどこぞの魔導師に討伐でもされてもういないのかもしれないが、悪魔の寿命は人間と比べて桁違いに長い。

 

 

 もし、そいつらが生きていたら、サーゼクスと瓜二つな容姿のうえ、彼の力を使う俺を見て、なにか良からぬことを考えるかもしれない。

 

 

 だからこそ、それに対抗するためにも、この対悪魔用の魔法の習得は、現在の俺にとっての最優先事項だった。

 

 

「(本当なら、サーゼクスから、そいつらの情報も受け取れればよかったんだが、今さらだし。なら、それに備えて準備しておくしか、俺には手がないしなあ)」

 

 

 ちなみに、魔法の習得は今のところ順調だ。

 

 

 破壊魔法だけあり、力の制御が少しやっかいだが、それでも、サーゼクスの力を受け継いだおかげで適正ができたのか、思ったよりその習得自体は簡単だった。

 

 

「(まあ、さすがにまだ出力も制御も未熟だし、習得できてない技も多いけどな。それでも、この分なら、完全に習得する日も遠くないだろう)」

 

 

 そして、俺はそんなことを考えながらも、今日の分の修業を終え、店の夜の部が始まる前に、店に帰ろうとしたのだが、その途中、道の真ん中でなにやら大声で叫びながら、辺りを忙しなく見渡す、いわゆるメイド服を着た、中年の女性がいることに気づいた。

 

 

「(なんか、困っているみたいだけど、いったいどうしたんだろうか?)」

 

 

 どうやら、誰か人を探しているようだが……。

 

 

「(もしかしたら、どこぞのお嬢様でも迷子になったのか?)」

 

 

 この街は、この大陸有数の美しい浜辺として有名なコカバビーチがあり、夏場でも涼しく過ごしやすいことから、金持ちが避暑地として使用するために、いくつかの別荘がこの近くに存在する。

 

 

 そして、その持ち主である金持ちの家族が、観光のために、この街や大陸有数の歴史を持つ街、オークにやってくることがあるのだ。

 

 

 大抵は、お目付役や護衛として、メイドや執事といった使用人が一緒にいるのだが、時にお転婆な子供が、お目付役である使用人を撒いて、迷子になってしまうことがあるのだ。

 

 

 だからこそ、俺はこの女性も、そんな使用人の一人なのではと考えたのだ。

 

 

「(声をかけた方がいいかな。このまま放っておくわけにもいかないだろうし)」

 

 

 まあ、俺の手に負えないならば、警備隊の人にでも仲介すればいいだろう。

 

 

 そう、考えた俺は、その女性に近づき声をかける。

 

 

「あの、どうかしましたか?」

「え?」

「先ほどから、何か困っているようでしたから」

 

 

 女性は、はじめ俺が突然声をかけたからか、驚き、呆然とこちらを見ていたが、やがて、俺が彼女を助けるために声をかけたことに気づいたのか、先ほどの表情から一転、必死な形相を浮かべ、俺に縋りつく。

 

 

「お嬢様が!お嬢様が見つからないんです!!」

「ちょ、ちょっと、落ち着いてください!?」

 

 

 俺は、更新しながら、そう捲し立てる、その女性のあまりに必死なその表情に驚き、俺は一旦その女性を落ち着かせ、話を聞くことにする。

 

 

「それで?いったい、なにがあったんです?」

「それが……」

 

 

 そして、その女性に詳しく話を聞いてみると、その女性は、あのハートフィリア財閥でメイドとして働いているらしく、今日はそこの当主の一人娘のお嬢様を連れて、この街を散策に来たのだが、少し目を離した隙にそのお嬢様がどこかに行ってしまったようなのだ。

 

 

 俺は彼女の話を聞いて驚いた。それは、女性が連れていたという女の子が、迷子になったからではない。ハートフィリア財閥のお嬢様が迷子になったという話を聞いたからだ。

 

 

「(ハートフィリア財閥。俺も聞いたことがあるほどの有名な財閥だ。まさか、そんな大物財閥の一人娘が、この街にやってきていたとは……)」

 

 

 これは、早く見つけないと、かなりの大事になりそうだと、俺はこの女性を手伝うことにする。

 

 

「わかりました、俺も探してみましょう。この辺りの地理は、あなたよりは詳しいですしね」

 

 

 そういうと、その女性は満面の笑みを浮かべて、感謝の言葉を口にする。

 

 

「ああ、ありがとうございます!助かります!!」

「それで、その女の子の特徴は?名前も教えてもらっても?」

 

 

 俺の言葉に、「ああ、そうですね!」と、ハッとしたような表情を浮かべると、口を開く。

 

 

「お嬢様の髪は金髪。左側をリボンで結んであります。服は赤いワンピース。そして、御嬢様の名前は―――」

 

 

 

 そして、女性は告げる。

 

 

 これから出会うこととなる、後に、家族同然の仲間となる、一人の少女の名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――『ルーシイ・ハートフィリア』といいます」




どうでしたでしょうか。とりあえずまずはルーシイを登場させることにしました。(まあヒロインにするかは考え中ですが)


それでは、また時間がかかってしまうかもしれませんが、次回もよろしくおねがいします。


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第十五話 ルーシイ・ハートフィリア

どうも、最近資格習得に就職活動にと忙しい、えんとつそうじです。


すいません、いまだにリアルが忙しいのですが、このままでは忘れられると思って、時間の合間に一話書いてみました。


久しぶりなのと話の区切り上、短くなってしまいましたが、それでもよろしければ暇つぶしにでもお読みください。


※後書きに原作FTのネタばれがありますので、ご注意ください。


 港町リオの郊外にある倉庫街。ここには、一時的に自分たちの所有する物資や商品を預けるために、様々な人物、集団が保有する倉庫が建ち並んでいる。

 

 

 そんな倉庫街の一角に、一つの古びた倉庫が存在する。

 

 

 倉庫街の隅に、ひっそりと存在するその倉庫は、かつて大手の運輸会社が使用していたのだが、その会社が突如倒産してしまい、壊すのも建て直すのも手間であると、今はそのまま放置されている。

 

 

 本来ならば、誰もいないはずのその倉庫に、その男たちの姿はあった。

 

 

「いやー、しかし今回の仕事は楽勝だったぜ」

「全くだぜ」

 

 

 男たちはげらげらと下品な笑い声を上げながら、今回の仕事の感想を述べる。

 

 

 そんな、彼らの様子に、怯えの表情を浮かべる一人の少女の姿があった。

 

 

 布のようなもので、口を塞がれ、両手両足を縛られたその少女の名は、『ルーシイ・ハートフィリア』。かの大財閥、ハートフィリア財閥総帥の一人娘である。

 

 

 彼女は自分を浚ってきた彼らの姿を見ながらも、思わずにはいられなかった。いったい、どうしてこうなってしまったんだろうと。

 

 

 少女がこの街に来たのは、この街に彼女のうちの別荘があり、母親である『レイラ・ハートフィリア』と共に、遊びに来たのだ。

 

 

 本来なら、父親である『ジュード・ハートフィリア』も共に来るはずだったのだが、仕事が忙しく、なので彼女は少しの使用人を連れて、母親と二人でこの街にやってきたのだ。

 

 

 彼女は、それを残念に思っていたが、しかし、大好きな母親と共に遊べるとあって、大はしゃぎだったのだが、今日は母親の体調が悪いということで、仕方なくお小遣いでお見舞いの品でも買おうと、使用人と二人でこの街に散策にやってきたのだ。

 

 

 しかし、少し使用人と離れた瞬間に、この男たちに浚われてしまい、こうしてここに囚われているというわけである。

 

 

「(本当にどうしてこんなことになっちゃったのかしら……)」

 

 

 その瞳に大粒の涙を溜めながら、ルーシイは心の中でそう嘆くが、そこで彼女は、男たちの中の一人が、自分をジッと見つめていることに気づいた。

 

 

 その男の視線にルーシイは嫌な予感を感じ、背筋を凍らせる。

 

 

「(な、なにあの人の視線、気持ち悪い……。まるで、父さんにいわれて参加したパーティで会った、あのおじさんたちみたいな)」

 

 

 そして、そんなルーシイの悪い予感は的中することになる。

 

 

「な、なあなあ。ボスがこの街に到着するまで、このお嬢ちゃんの味見してもいいかな?」

「なんだ、お前。そんな趣味だったのか?」

「がははは、まあいいんじゃねえか?だけど、あんま激しくすんじゃねえぞ?」

「(なに?なにいっているの?この人たち……?)」

 

 

 未だ、幼いルーシイは、男たちがなんの話をしているのかわからなかったが、何か、自分に対して良からぬことを考えているのは理解できる。

 

 

 そして、その男は、他の男たちの同意を得られたのを感じると、懐からナイフを取り出し、ルーシイに近づくと、何が起こったかわからず、呆然と男を見ていた彼女の服を、そのナイフで切り裂いた。

 

 

「む!?むううう!むううううううう!!?」

「おいおい、大人しくしといた方がいいぜ?下手に暴れて死にたくないだろ?」

 

 

 男の突然の蛮行に、ルーシイは訳がわからず、暴れ出すが、いやらしい笑みを口元に浮かべた男がそういうと、その恐怖から、体を硬直させてしまう。

 

 

「へへへへへ。そうそう、そんな感じで大人しくしときゃあいいんだよ」

 

 

 そんなルーシイの様子に、男は自分のベルトに手をかけると、ズボンをずり下ろし、下半身を露出する。

 

 

「むぐうッ!?」

「うへへへへ。それじゃあ、味見味見っと」

 

 

 そして男の魔の手がルーシイへと迫る。

 

 

 ルーシイは、体を恐怖で小刻みに震わせながら、自分に向かって、刻一刻と迫る男の手を見ながら、心の中で助けを求める。

 

 

「(―――誰か、誰か助けて!!)」

 

 

 だが、男はそんなルーシイの様子を気にすることなく、歪んだ笑みを浮かべながら、ルーシイにその手をかける―――その時だった。

 

 

 

 

 

 

「―――”炎魔の轟拳”!!」

 

 

 

 

 

「ぐべええ!?!」

 

 

 その男が、突如炎を纏った拳に吹き飛ばされたのは。

 

 

「………む(へ)?」

 

 

 ルーシイは突然の事態に、思わず呆けた声を出す。

 

 

 だが、それも仕方がないだろう。危機が去ったのはいいが、このような形で助かるとは、普通誰も思わないからだ。

 

 

 そして、その突然の事態に驚いたのは、ルーシイだけではない、この倉庫にいた他の男たちもだった。

 

 

「な、なんだ!?」

「何が起こった!!」

 

 

 男たちは各々の武器を持ちながら、咄嗟に警戒の態勢を取る。

 

 

 そして、その場にいた全ての人間は、男が吹き飛ばされた衝撃のせいで発生した土煙に視線を向ける。男を吹き飛ばした人間の正体を確認するために。

 

 

 ……だが、

 

 

「え?」

「な!?」

「これは!!」

 

 

 煙の中から出てきた人物の姿に、ルーシイたちは驚きの声を上げる。

 

 

 それは、その人物の姿が、この場にいる全ての人間が予想していた姿と、あまりにかけ離れた姿だったからだ。

 

 

「げほッ、げほッ!!やべえな、少しやりすぎたか?」

 

 

 その人物(・・・)は咳き込みながら、白目を剥いて壁に張り付いていた男を見ながら、そんなことを呟いていたが、やがて、その場の人間の全ての視線が自分に集まっているのに気付いたのか、「ん?」と後ろを振り向く。

 

 

 その人物は、その場の人物全ての視線を受け、一瞬瞠目したが、やがてこうなった原因に思い当たったのか、「あ~……」とめんどくさそうに頭の後ろを掻きながら辺りを見渡すが、やがてその視界に、ルーシイの姿を入れると、僅かな笑みを浮かべて、近くに会った大きな布を手に取ると、彼女の元へゆっくりと歩み寄る。

 

 

 先ほど、男に襲われかかった影響か、ルーシイは体を一瞬硬直させる。

 

 

 その人物はそれに気づいたのか、一瞬その場で止まったが、その場で跪き、手に持っていた布で、ルーシイの体を覆い隠すと、彼女の両手両足の拘束を外し、彼女の口を覆っていた布を取り外す。

 

 

「お前さんが、ルーシイ・ハートフィリアであってるか?」

「え、ええ。そうだけど……」

 

 

 場にそぐわぬほどに穏やかな笑みでそういわれたルーシイは、思わず先ほどまでの警戒心を解き、その人物の言葉にそう答えると、その人物は、ルーシイの言葉に安心したのか、さらに笑みを深める。

 

 

「よかった。間に合ったようだな。俺は君を連れていたメイドの人にいわれて君を探しに来たんだ」

「スペットさんから!?」

「ああ」

 

 

 スペットとは、ルーシイがこの街に来るさい、お目付役として一緒に来ていた中年のメイドのことで、その名前を聞いたルーシイは、その人物の口から、知り合いの名前が出てきたことに、安堵の表情を浮かべる。

 

 

 それとは逆に、男たちはその人物の言葉を聞いて激昂する。その言葉が正しければその人物は、男たちにとって正しく敵だからだ。

 

 

「なんだと!?」

「てめえ、どこの回し者だ!」

「名乗りやがれ!!」

 

 

 各々武器を構えて警戒しながら、男たちはその人物に向かって、口ぐちに言葉を叩きつけるが、その人物がルーシイから視線を外し、男たちに視線を向けると、途端に黙り込む。

 その視線が、男たちを黙らせるほどの、物理的圧力を持っていたからだ。

 

 

 そんな、男たちの様子が滑稽だったのか、それとも別の要因があるのか、その人物は男たちの言葉に、不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「名乗りやがれだと?―――いいだろう。本来なら、お前らみたいな屑どもに名乗る必要はないんだが、今回だけは特別だ」

 

 

 そういうと、その人物、宝石のように輝く紅眼を持つその少年は、片手に炎を纏わせながら、静かな怒りを持って告げる。

 

 

 男たちに無慈悲な判決を下す裁判官である、自らの名を。

 

 

 

 

 

 

「―――俺の名前は、ユーリ・クレナイ。通りすがりの炎の魔導師だ」




そういえば、冥府の門の女王様、もとい九鬼門のリーダー格である「キョウカ」の能力がついに明らかになりましたね。



――――――


呪法「強化」


・一秒ごとに自身の力を上げる。痛覚などの単純な力以外の物も強化可能?


――――――



これを知ったとき、少しホッとしました。主人公の能力を一誠のものにしなくてよかったと。


実は、この作品は、主人公を悪魔の力を持つということで、ハイスクールD×Dの登場人物の能力を持たせることは決めていたのですが、実は主人公の能力の候補として、サーゼクスの能力のほかにも、主人公一誠の赤龍帝の力と、そのライバルであるヴァーリの白龍皇の能力のどれにしようと思ってたんですけど、今週号のマガジンで、キョウカの能力を見て、これだと赤龍帝の能力と被ってしまうから、赤龍帝の能力にしなくてよかったなあと思ったわけです。


ただ、キョウカと対になるように、白龍皇の半減を主人公の能力にしてもよかったですかね?半減なら今の主人公の消滅の能力とは違って、応用が効きそうだし。


その場合は主人公はまんま悪魔で、フェアリーテイルをずっと見守る感じのパターンにしようかな。


元冥府の門所属にして、ヒロインは初代とヤンデレ化したキョウカ。その他もろもろみたいな。


でもまあ、いろいろ妄想垂れ流しましたが、その前に資格とって就職決めないと。









………はあ。


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第十六話 VS誘拐犯。唸れ、怒りの炎!!

どうも、えんとつそうじです。


今日は、久しぶりに一日休みとなったので、せっかくだからと急いで話を作り上げて投稿しました。


急ピッチでやったので、いろいろ問題があると思いますが、そこらへんはどうかご容赦を。


それでは、暇つぶしにでもお楽しみください。


 ユーリは激怒していた。

 

 

 街中で出会った、ハートフィリア家のメイド、スペットから、ルーシイの特徴を聞いたユーリは、町中を探し回っている途中、通りすがりの人物から、最近倉庫街の使われなくなったはずの倉庫に、怪しい人が出入りしているという話を聞いて、ここまでやってきた。

 

 

 そして、目撃証言通りに人相の悪い男たちが、倉庫を占拠しているのを確認した俺は、狩りで培った隠密術を駆使し、こっそり忍び込み、そこで、聞いた特徴どおりの少女が捕まったいることを確認し、この男たちが誘拐犯だと判断したのだ。

 

 

 それを確認したユーリは、誘拐したということは、しばらくの間、ルーシイに危害を加えないだろうと、一旦脱出し、街の警備兵を呼んでこようと考えたのだが、その時ちょうど先ほどの男がルーシイを襲おうとしたことに気づき、急いで彼女を助けるために、こうして飛び出したのだ。

 

 

 そして、思いがけず、誘拐犯たちと単独で対峙することとなったユーリであったが、しかし、今彼を支配しているのは、突然の事態に対する困惑や焦りではなく、ただ一つ。怒りの感情、それだけだった。

 

 

「(こいつら、まだこんな年端もいかない子供を襲って……ッ!それだけじゃねえ、他の奴らもそれを見て、おもしろそうに笑ってやがった。こいつらは、妹を襲ったあいつら(・・・)と同類の連中。ならば、絶対に許すわけにはいかねえ!!)」

 

 

 そう、それこそが、彼が怒りの感情に支配されている理由。彼は男に襲われていたルーシイの姿を、前世の妹に重ねていたのだ。

 

 

 それは、前世で妹が中学生の時に起こった事件。

 

 

 妹は、その類稀なる容姿から、地元の不良集団に浚われ、暴行を受けかけたことがあったのだ。

 

 

 幸い、その時は、その現場を偶然見かけた人が警察に連絡してくれたので、なんとか間に合うことができたのだが、それ以来、彼は妹の危機に駆けつけられなかったことを悔い、それ以来、女性。しかも子供に乱暴を働く人間を見ると、彼は怒りを抱き、真っ先にその被害者たちを助けに行くようになっていた。

 

 

 そんな彼の怒りの眼差しを、正面から受けた誘拐犯たちは、初めは硬直していたが、相手がまだ年端もいかない若造だと知ると、未だ体を引き攣らせながらも笑いだす。

 こんなのただの子供じゃないか。先ほどの威圧感(プレッシャー)は気のせいだった。……いや、気のせいだと、無理やり自らに思いこませようとするかのように。

 

 

「は、ははははは。何が、炎の魔導師だ。ただのガキのくせに」

「そうだぜ!」

「正義の味方気取りか?いきがりやがって!!」

 

 

 口ぐちに罵声を上げる誘拐犯たちだったが、それを浴びせられている当の本人であるユーリは、そんな彼らの言葉などどこ吹く風と、ソッポを向いて、明らかに聞いていないとでもいうように、耳の穴をほじっていたが、やがて、男たちの言葉が尻すぼみに少なくなっていき、とうとう何も聞こえなくなると、今やっと気づいたとでもいうように、男たちの方に、つまらなそうに視線を戻す。

 

 

「……で?それで終わりか?」

「なんだと!?」

「ぎゃーぎゃー。ぎゃーぎゃー、一々うるせえんだよ、これといって特徴もないコンパチづらが。どーせ、何いっても変わらないんだろ?―――なら、さっさとかかってこいよ」

 

 

 そして、ユーリは挑発なのだろう、片手を誘拐犯たちの方へと向けて、くいくいと手元に引き寄せる仕草を見せた。

 

 

 そして、それで誘拐犯たちは我慢の限界に来たのだろう。各々凄まじい形相で、ユーリに襲いかかった。

 

 

「上等だ!!」

「何が炎の魔導師だ」

「魔法を使えるのはお前だけじゃねえんだぜ、このクソガキいいいいいい!!」

 

 

 その言葉と共に、誘拐犯たちの幾人かが、片手をユーリに向けて掲げると、そこから炎の玉が出てきて、ユーリへと直撃する。

 

 

「くきゃきゃきゃきゃきゃ!!」

「いいざまだなあ、ガキ」

「大人を舐めるから、そう……な……?」

 

 

 ユーリがやられたと思い、誘拐犯たちは喜びの声を上げようとするが、炎で発生した煙が晴れた先に見た光景に、その声を驚きで止める。

 

 

 それはなぜか。魔法の炎で焼き尽くしたはずのユーリが全くの無傷。いや、それどころか、彼を傷つけるつもりで放った炎を、ユーリが食べていた(・・・)からだ。

 

 

 そう、これこそが、スレイヤー系魔法の特性。適正属性の魔法を無効化し、その魔法を吸収し、自分の力とするのだ。

 

 

 ユーリは、誘拐犯たちの炎の魔法を全て吸収すると、その場で口を拭う。

 

 

「ふん、やっぱり下種の炎だな。不味くて不味くて仕方ねえ」

 

 

 誘拐犯たちを、汚物を見るような目で見ながら、そう、吐き捨てるユーリであったが、誘拐犯たちは、そんな彼の挑発的行動にも、今度は何も反応を返すことができない。

 それほど、彼らにとって、今の彼の行為は衝撃的だったのだ。

 

 

「それじゃあ、今度は俺からいくぞ」

 

 

 そういうと、ユーリは頬を膨らませながら、その首を一旦振りかぶると、誘拐犯たちに向かって、大量の紅炎を吹き出した。

 

 

「”炎魔の激昂”!!」

 

 

 ユーリの口から放たれた、獄炎の息吹(ブレス)。そのあまりに凄まじい威力により、誘拐犯たちは纏めて吹き飛ばされる。

 

 

「なあッ!?」

「ぎゃあああ!!」

 

 

 だが、ユーリも、未だ悪滅魔法を会得して、日が浅い。

 制御が甘いためか、誘拐犯たちの内の何人かが、炎から逃れ、武器を持って、ユーリへと襲いかかる。

 

 

「魔導師なら!!」

「懐に潜り込まれたら、どうしようもねえだろ!」

「くらいなあ!!」

 

 

 ユーリへと襲いかかる、誘拐犯たちの魔の手。

 

 

 だが、ユーリも、それを予想していたのか、片手に炎の剣を出現させると、誘拐犯たちが持っていた全ての武器を切り払う。

 

 

「なッ!?」

「これはッ!」

 

 

 驚愕の声を上げる誘拐犯たちの滑稽な姿に、ユーリは僅かに口の端を歪ませる。

 

 

「”炎魔剣”。獄炎の刃は、てめえら程度の安物の武器程度じゃ、耐えられないだろ?」

 

 

 そして、ユーリはその言葉と共に、誘拐犯たちに向かって、炎を纏った脚で、後ろ蹴りを放った。

 

 

「これで、最後だ。―――”炎魔の大斧”!!」

 

 

 炎魔の大斧。それは、彼が生前、そして現在も最も得意な空手の技である、後ろ回し蹴り。それに獄炎を纏わせて放つ技で、彼の脚から放たれた炎の衝撃波は、残りの誘拐犯たちを纏めて吹き飛ばす。

 

 

「うあああああああ!?」

「ぎゃあああああ!!」

「ぐあああああ!!!」

 

 

 そして、黒い煙をぷすぷすと立てながら、誘拐犯たちは、その場で倒れ伏す。

 

 

 それを確認した、ユーリは、最後に残った、誘拐犯の男を睨みつける。

 

 

「………で?まだやるか?」

「ひ、ひいいいいいいい!?!」

 

 

 ユーリの人睨みにより、男は悲鳴を上げながら、ユーリの魔法で半壊した倉庫から、逃げ出して行った。

 

 

 それを確認してから、ユーリはホッと息を吐き出す。

 

 

「(やれやれ。どうやら、無事に助け出せたようだな)」

 

 

 ―――そして、ユーリの炎の悪滅魔導師としてのデビュー戦は、こうして終わりを告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「(すごい……)」

 

 

 ルーシイ・ハートフィリアは、目の前の光景に感動していた。

 

 

 自分のピンチに、颯爽と現れて、助けてくれた黒髪の少年。その少年が放つ魔法は、自分ならば絶対に太刀打ちできない悪者たちを、あっという間に倒していく。

 

 

 ルーシイは、まるでヒーローのような、そんな彼の姿に、憧れを覚えた。

 

 

 魔法を使い、勇敢に悪者と戦う、彼の姿に。

 

 

「(……いつか、きっと私も彼みたいに)」

 

 

 これが、ルーシイ・ハートフィリアが、魔導師を志すきっかけとなったのだった。




どうでしたでしょうか。あいかわらず短くて申し訳ありませんが、お楽しみいただけたなら幸いです。



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閑話 悪意の胎動

どうも、えんとつそうじです。連投します。


先ほど投稿した話の続きで、その途中のせいか今までよりすごく短いですが、きりがいいので、閑話として投稿します。

暇つぶしにでもお読みください。


 マグノリア大陸北東、港町リオ近くにあるとある海域に、一隻の船が停泊していた。

 

 

 骸骨旗(ジョリーロジャー)が掲げられている、その巨大なガレオン船の姿を見たものは、その表情を嫌悪と恐怖の表情に浮かべながら、こう称すだろう。

 

 

 

 

 

 

 ―――まるで、”海賊船”のようだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――い、以上があの時起こった出来事についての報告になります」

「……そうか」

 

 

 リオ近海に停泊していた海賊船。その一室に二人の男の姿があった。

 

 

 一人は、ユーリがルーシイを救出した際に、逃げ出した誘拐犯たちの最後の一人。その男は、しきりにあたりに視線を彷徨わせながら、目の前にいる、もう一人の男に、あることを報告していた。

 

 

 そして、その報告を受けている男は、目を瞑りながら、黙って男の報告を聞いていたが、男の報告が終わると、男は初めて目を開いて、誘拐犯の男に視線を向ける。

 

 

「それで、お前はその炎の魔導師とかいうガキにまんまとやられて、ルーシイ・ハートフィリアの誘拐に失敗し、まんまと逃げかえってきたというわけか?」

 

 

 冷たく、誘拐犯の男に対してそういい捨てる男。

 

 

 そう、誘拐犯の男がした報告とは、ルーシイの誘拐失敗に対する報告。その失敗と、それまでの経緯を、この男に報告していたのだ。

 

 

 なぜなら、この男こそが、ルーシイを誘拐しようと誘拐犯たちに命じた張本人だったからだ。

 

 

 誘拐犯の男は、自らのボスである男の様子を見て、誘拐を失敗してしまったことで苛立っていると感じ、言い訳をするために、慌てて言葉を続ける。

 

 

「で、ですがボス!あのガキ悪魔みたいに強くて……」

「言い訳はいい。―――お前は、もう用済みだ」

 

 

 そういうと、その男は、誘拐犯の男に向かって片手を向ける。

 

 

 誘拐犯の男は、その男が何をしようとしているのか悟ったのか、顔に恐怖の表情を浮かべると、急いで部屋から逃げ出そうとする。

 

 

「ひ、ひいい!?」

「無駄だ」

 

 

 自身に背を向け、逃げ出す誘拐犯の男に、その男はそれにかまわず片手を差し出しながら何事か呟くと、男の手から光の槍(・・・)が出現し、誘拐犯の男を貫いた。

 

 

「が……は……?」

 

 

 口から血を吹き出しながら、呻き声をあげながら、その場で倒れ伏す誘拐犯の男。

 

 

 そんな、誘拐犯の男の死体を、しかしその男は、冷たく見据えると、先ほどから自分が座っていた椅子に、さらに深く座り込み、机の上にある鈴を一つ鳴らす。

 

 

 すると、その少し後、男の部屋にバンダナを頭に巻いた一人の男が訪れた。

 

 

「よびましたか、船長」

「ああ。そこのゴミをかたずけておけ」

「はい、わかりました」

 

 

 男の命令に従い、バンダナの男は今や物言わぬ死体となった誘拐犯の男のを背負いあげると、部屋を後にする。

 

 

 それを確認した男は、頬づえをつきながら、一つ深々とため息をつく。

 

 

「(ちッ!まさか、この程度の任務も失敗するとはな。せっかく、ハートフィリア財閥総帥の妻と娘が、あの街に訪れるという情報を手に入れたのに、あの役立たずが。―――これでは、娘の身柄と引き換えにハートフィリア財閥の金を手に入れ、それをあの国を手中に収める計画が……)」

 

 

 そう、実はこの男は、元々とある国の名門貴族の息子だったのだが、その生来の強い欲望により王の座を狙い、それが失敗してこうして一海賊船の船長にまでその身を墜としてしまったのだ。

 

 

 だが海賊になった今でも王の座を諦めきれず、だからこそこの男は自身を国から追い出した連中に復習をしあの国を手中におさめることを計画し、そのためにこの男には大量の金が必要なのだったのだ。

 

 

「(……こうなったら、直接私が出向くしかないか。その子供は奇妙な炎の魔法を使うらしいが、俺に勝てるわけがないしな)」

 

 

 一見、傲慢な男の言葉だったが、しかしこの男は、貴族時代にはその天才的な魔法のセンスで、将来を嘱望された男。あながち、いいすぎとも言い切れない。

 

 

 そして男は、おそらくこれからの仕事で自分の前に立ちはだかるであろう、先ほど自分が始末した男がいっていた、炎の魔法を使うという子供の話を思い返す。

 

 

「(炎を食らう炎の魔導師。まさかとは思うが、昔聞いた古の魔法(エンシェント・マジック)の使い手か?だとしたら……)」

 

 

 そして、そこで男はにやりと嗤う。

 

 

 それは、闇に墜ちた者だけにしかできない、禍々しい悪魔の笑みだった。

 

 

「―――そいつしだいでは、私の手駒にするのもいいかもしれないなあ」




どうでしたでしょうか。


感想や誤字脱字の報告、アドバイスなどお待ちしております。


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第十七話 看板娘は財閥娘?

どうも、最近の悩みは新規レッドアイズを手に入れたらデッキをどんな型にしようかというえんとつそうじです。デュアル軸にエクシーズ軸に融合軸。そして儀式軸。レッドアイズファンなら迷っても仕方ないですよね。正直全部入れたいww

さと、今回は久しぶりのフェアリーテイルの二次の更新。ルーシィを主人公が救出してからのその後の話。久しぶりな感じなのでだいぶ違和感があるかもしれませんがどうかお許しを。

それでは短いですが暇つぶしにでもどうぞ。


 俺の名前はユーリ・クレナイ。現在このかもめ屋で手伝いとして働いている、少し変わった魔法が使えるだけのごく普通?の少年だ。

 

 元々俺はとある事情から、エルザという少女と2人でローズマリー村という場所に住んでいた。しかしある日、ゼレフという黒魔術師を信奉する集団に楽園の塔という場所に攫われてしまい、そこでついこの間まで奴隷として働かされていたのだ。

 

 やがて、仲間たちと力を合わせて反乱を起こし、黒魔術師の集団からの支配自体からはなんとか逃れることができたのだが、しかし仲間の1人であるジェラールに裏切られてしまった俺は海へと放り出されてしまった。

 

 その後、海を漂流しこの港町リオの近くの海岸へと打ち上げられた俺は、当時釣りをしに海岸までやって来ていたこのかもめ屋の店主に拾われ、同じくジェラールに裏切られ行方がしれないエルザの行方を探すため、そしてジェラールの目的、その真意を探るために少しでも情報を得るために旅に出る。その資金を貯めるために、店主の好意もあり、この店で働いているというわけである。

 

 早くエルザを探しに行きたいと逸る気持ちもあるが、しかし忙しく平穏なこの毎日がもう少し続けばいいなと思う。そんな日々を送っていた俺だったのだが、実は最近ある人物に悩まされていたりする。

 

 その人物は現在俺の職場であるこのかもめ屋で、その小さい体をせかせかと一生懸命に動かしながら、接客に勤しんでいた。

 

「いらっしゃいませー♪」

 

 かもめのシルエットが印刷されたエプロンを身につけながら、その天使のような満面の笑顔で来る客来る客の癒しに貢献しているこの少女の名は”ルーシィ・ハートフィリア”。

 そう、先日俺が誘拐から助け出した、あのハートフィリア財閥の御令嬢である。

 

 

 

 

 

 

 ………どうしてこうなった?

 

 

 

 それは、俺が彼女ルーシィを助け出した翌日のこと。俺がこの街の警備隊からの事情聴取を受けた帰り道のことだった。

 

「あーあ。もうこんな時間になっちまったか」

 

 街の広場に設置されている時計で時間が既に昼を過ぎていたことを確認した俺は思わずその場で溜息を吐いてしまう。

 それはお店が一番忙しい昼の時間を手伝えなかったことによる罪悪感だった。

 

「全く、メンツがかかってるのはわかるが、ああもしつこく聞かなくてもいいだろうに」

 

 そう、俺が事情聴取から帰るのにここまで時間がかかったのは、昨日起こったルーシィ誘拐事件のことについて少しでも情報を得ようと、しつこく俺から聞き出そうとしていたからだ。

 

 まあそれも仕方ない。なんせ世界的に有名なハートフィリア財閥の御令嬢が誘拐騒ぎにあったのだ。この街の治安維持を担当する彼らからすれば、幸いルーシィの安全が確保されたとはいえ、この事件の裏にいる存在を確かめることすらしなかったならなにやってたんだ今までって話になる。

 

「(だからって、まだ子供の(少なくとも見た目は)の俺相手にあそこまできつい取り調べをしなくてもよかろうに……)」

 

 俺が年齢詐称美少年(笑)じゃなかったら泣きわめいてたぞと声に出さず文句をいいながら、「すみません、送れました!」といいながら店の中に急いで入ったのだが、そんな俺を一番に出迎えたのは店主のシドウさんでもなく奥さんのメグさんでもなく、ましてや昼間から店の隅で呑んだくれてるダメおやじでもない。

 

「――――あ、おかえり!」

「」

 

 なぜかワンピースの上にエプロンをつけたこの少女、ルーシィ・ハートフィリアだったのだった。

 

 

 

 あの時は驚いたものだ。思わず「お前、なんでいんの?」って問いかけてしまって彼女に涙目でビンタの一撃をもらったのはいい思い出……でもないか。あれはとても痛かった。おまけにルーシィを泣かせてしまったから周りに冷たい目で見られて、散々だったよ。

 

 まあ、その後懸命に慰めてなぜここにいるのかと理由を聞いてみたところ、なんでも彼女は先日俺が彼女を誘拐犯から助けた件についてお礼に来たらしいのだが、俺が事情聴取でいないことを知るとなぜか彼女が俺の代わりに店の手伝いをしたいと申し出て、こういう状況になったのだという。

 

 子供に店の仕事を任せても大丈夫なのかと思いシドウさんに聞いてみたのだが、一緒についてきたハートフィリア家のメイドさんであるスペックさんの手伝いもあり子供ながらよくやっており、またその可愛らしい容姿でいい客引きにもなっているので、シドウさん的には文句がないのだとか。……それにすっかり忘れてたが、俺も見た目だけは子供だしな。

 

 まあ、そんなわけで俺が事情聴取から帰ってくるまで彼女たちが店の手伝いをしてくれたわけなのだが、それで結局彼女たちがなぜ俺の元を訪ねに来たのかというと、まあここまでいえば誰でもわかると思うが、先日の誘拐犯からの救出。そのお礼に来たのだという。

 

 俺は、正直あの程度のチンピラ程度のしたところでお礼されるほどじゃないと思っていたのだが、ルーシィの母親であるハートフィリア夫人が是非お礼がしたいといっているといわれ、まあそこまで拒絶することもないかなと思い、その後店が閉まった後に俺はハートフィリア夫人の元に向かうためにハートフィリア家の別荘へとお邪魔することとなった。

 

 そして俺はハートフィリア夫人。本名レイラ・ハートフィリアと対面することとなったのだが……いやー、あの時は驚いた。正直あそこまでの美人は前世で芸能人とし活躍していた人にもいないんじゃないかなと思うほどの美人だったなー。思わず柄にもなくどきどきしてしまったよ。なんていうか顔はルーシィにそっくりなんだけど、雰囲気がまるで違うんだよなあ。

 

 まあそんなわけでレイラさん(初対面の時にそう読んでくれといわれた)といろいろ話をした俺は、その結果ルーシィ救出の礼としていくらばかりかのお金を貰うこととなった。俺が幼馴染を探すために旅費を稼いでいることを聞いたレイラさんが、ならばその足しにしてくれとくれたのだ。

 

 その額がこれまた結構多く、貰うのが申し訳なかったが、しかしあまり拒絶するのも失礼にあたると思い、結局俺はその謝礼金をレイラさんからのある頼みを引き受けることで貰い受けることとなった。

 

 その頼みとは、彼女の娘であるルーシィの遊び相手。なんでもハートフィリア財閥というのは、レイラさんの夫である現当主が一代でここまで大きくしたらしく、ルーシィもその時に作った子供らしいのだが、だからこそ彼女は物心ついたときから友達といえるものがいなかったらしい。

 世界的な財閥の令嬢となってしまったルーシィは身の安全を考えて学校には通えず、自由に街にも出れず、使用人も高齢かはたまた独身の者しかおらず子供などいなかったため友達などできようはずもない。なので、年齢(しつこいようだが見た目だけはだが)が近い俺に彼女の遊び相手になってほしいというのだ。

 

 俺はまあその時はそれぐらいならと、なんの考えもせずその頼みを引き受けたのだが、その時はかもめ屋の手伝いがあったことを忘れており、彼女と遊ぶ時間がなかなか捻出できなくて困っていたのだが、ルーシィからすれば同じくらいの子供である俺と一緒に何かするという行動自体が楽しかったらしく、なら私も仕事を手伝ってあげると、こうして遊び半分の気持ちで手伝ってくれているというわけだ。

 

 まあ、遊び半分とはいっても仕事自体は真面目にやっているし、その可愛らしいからいい客引きにもなっているので、シドウさんたちは文句もいわずむしろ愛娘でも見るように生暖かい視線を向けながらそんな彼女の様子を見守っていた。

 

 まあそんなわけで最近の俺は、ルーシィと一緒にかもめ屋でお店の手伝いをしながら彼女の遊び相手をするという毎日を送っている。

 

 あ、一応魔法の練習は続けているよ?これからの俺の生きる重要な手段となるはずだからな。

 

 まあいつもは朝早くに起きて近くの森に出かけて練習しているのだが、どうやらルーシィは魔法に興味があるようで、なので最近はルーシィの見学の元で魔法の練習をやってたりする。

 まあ俺の使っている魔法はサーゼクスの力を受け継いだ俺だからこそ使える専用魔法みたいなところがあるからルーシィには教えられないための苦肉の策だったんだが、ルーシィがそれで満足してくれたのはよかった。教えてといわれたとしても今の俺はこれ以外の魔法は知らないしな。

 

 そういえば、レイラさんは今は引退してるけど実は星霊魔導師だったっていってたから、もしかしたらルーシィの将来は星霊魔導師かもしれないな。

 

 そんなことを考えていると、俺の服の袖を誰かが引く感覚があったのでそちらを振り向くと、そこには不思議そうな顔でこちらを覗き込むルーシィの姿が。

 

 ルーシィは俺の顔を見ながら訝しげに首を傾げる。

 

「どうしたの、ユーリ?せっかくのお休みなんだから早く探検行こ?」

「あ、そうだな。悪い悪い」

 

 ルーシィの言葉で我に返った俺は思わず彼女に頭を下げる。そういえば、今日は店長が一日休みをくれたんで、ルーシィを連れて街の探検に来たのだった。考えごとに熱中し過ぎてぼうっとしてしまったよ。

 

「(これはいけないな。せっかくルーシィが楽しみにしていてくれていたのに)」

 

 実は今回街の探検に出たのは俺の提案だったりする。前々からルーシィがこの街をゆっくり見て回りたいといっているのを俺にぼやいていたのを知っており、レイラさんはそんな彼女の願いを聞き叶えてあげたいと思ってはいたのだが、立場が立場なので下手に外に出したら前回のように誘拐される可能性があるのでその願いを叶えてあげることができなかったのだとか。

 護衛を雇うことも考えたらしいが、それだとルーシィが遠慮してしまう可能性もあるし。

 

 だからこそ、俺がレイラさんに名乗り出たのだ。

 俺なら大分前からこの街に住んでいるからそれなりに街の地理に詳しいし、魔法という護衛手段もある。それにルーシィと年齢が近い俺なら彼女も遠慮することもないだろうしな。

 

 というわけで、お店が一日休みである本日。俺はこうして彼女を連れて街のあちこちを案内しているというわけだ。

 

「大丈夫ですか、ユーリ君。疲れているなら別の日にしてもいいのですよ?」

 

 俺の様子を見て何か勘違いしたのか、労しげにこちらに語りかけるメイドのスペットさん。

 

 あ、なぜ彼女がいるのかというと、ぶっちゃけ彼女は今回の保護者役兼ルーシィの財布役だ。言い方は悪いが。

 

 なんでも今回の探検で使うお金を俺に支払わせるわけにはいかないし、さすがに子供だけにするわけにはいかないということで、俺と顔見知りである彼女が今日の外出についてきたというわけだ。

 

 俺は心配そうに俺にそう話しかける彼女の様子を見て、慌てて声を上げる。

 

「だ、大丈夫ですよ!ちょっとこれからどこ案内しようか考えていただけなんで」

「そうですか?それならいいのですが……」

 

 俺の言葉に訝しげな顔をしながらも、スペットさんは一応の納得を見せながらも引きさがる。

 

 まあそこまで言及することじゃないと思ったんだろうが、これ以上変な心配をかけることもないと考えた俺は、とりあえず昨日から二人を案内しようと決めていた、最近評判のいい甘味屋に二人を連れて行こうとした………その時だった。

 

 

ドオオォォォン!!

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 突如聞こえてきたその轟音に咄嗟に振り向く俺たち。

 

 すると、音が聞こえてきた方角。大体港がある場所から黒い煙が上がっていたのが見える。

 

 何が起こったのか理解できていない俺たちは、揃ってしばし呆然とその煙を見上げていたのだが、やがてとある叫び声と共にこちらに逃げ込んできた人々の声で、現在起こっている状況について理解する。

 

「た、大変だああああ!!」

「か、海賊が攻めてきたぞ!」

「皆逃げろおおおお!?」

 

 その彼らの言葉を聞き、周りで俺たちと同じように固まっていた人たちが状況を理解したのかとたんにパニック状態となり、騒ぎ出す。

 

「う、うわーッ!?」

「キャー!!」

「に、逃げろー!!」

 

 蜂の子を散らすように取るものもとらず逃げ出す人々。そんな彼らの様子を見たルーシィは俺に向かって涙目で不安げな声をあげる。

 

「ど、どうしよユーリ!私たちも逃げたほうがいいのかな?」

 

 実は俺もあまりに突然の出来事に思考が停止してしまっていたのだが、ルーシィの声で我に返ると同時にある事実に気づいた。

 

 それはおそらく海賊が攻め込んできたであろう港の近く。現在の俺の働き場所であり、住まわせてもらっているかもめ屋はその場所にあるということに。

 

「(まずい!?店長、メグさん!!)」

 

 二人の安否が気になった俺は、今すぐ店に駆けつけたい衝動を抑えながらも、このまま二人をこの場所に置いておくのはまずいと思い、ルーシィの気持ちを落ち着かせるために頭を撫でながらも、スペットさんの方に向き直る。

 

「スペットさん。申し訳ありませんが、ルーシィを連れて別荘に帰ってくれますか。あそこなら警備が厳重ですし、いざとなったらレイラさんとルーシィの二人と一緒にこの街を脱出してください」

 

 ハートフィリア財閥の別荘なら、そういういざという時の脱出経路を確保しているはずだろうしな。

 

 スペットさんは先ほどまで周りの大人たちと同じく顔を真っ青にしておろおろと動揺していたようだが、俺の言葉に自分の職務を思い出したのか、未だ顔を蒼白に染めながらも、俺の顔を見て真剣な顔でしっかりと頷いた。

 

「わ、わかりました。ところでユーリ君はこれからどうするんですか?」

「俺はこれからかもめ屋の様子を見に行ってきます。店長たちの安否が心配ですので。――――それじゃあ失礼!!」

「え、あ、ちょ、ちょっとユーリ君!?」

 

 慌てたようにスペットさんは俺の背に言葉を投げかけるが、しかし俺はそのようなことを気にせず走り出す。恩人の無事を確認するために。

 

「(二人とも無事でいてくれればいいんだが……)」




どうでしたでしょうか。だいぶ説明回っぽくなってしまいましたがお楽しみいただければ幸いです。

正直これを書いていてレイラさんとの会話シーンも書いといたほうがいいかなと思ったんですが、暇がなかったのでこれでいいかなーと思い投稿してしまいました。だらだらとそういうの書くくらいならばっさり切ってもいいかなーと。

それでは感想や誤字脱字の報告。アドバイスなどありましたらよろしくお願いします。


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第十八話 VS海賊。炎魔の蹂躙と海賊の首領。

どうも、最近発売されたばかりのクラッシュオブリべリオンを箱買いしたえんとつそうじです。

一応私は一箱と十パックほど買ったのですが、案外狙ったカードが結構当たったのでよかったです。まあいらないカードもありましたが、明日売り飛ばします(笑)。

特に嬉しかったのは相生の魔術師のシークレットが当たったことですかね。魔術師を使用したブラマジペンデュラムを作ろうと画策しているので大事にします。

いくつかシングルカードを買い足すことにもなりましたが、レッドアイズデッキも一応完成したので、嬉しかったです。

さて、遊戯王の話はこれぐらいにして今回のお話ですが、今回は海賊に街が襲撃され、主人公がかもめ屋の方へと様子を見に行ってからのお話。ここからは一日づつ連続投稿させていただき一気にこの章を終わらすことになると思いますが、結構やっつけ仕事なので誤字脱字、おかしな文章も多いかもしれませんがもし見つけたら教えてくださったら幸いです。

それではどうぞ。


突如リオの街に海賊たちが襲撃をかけてきたということで、ルーシィたちをとりあえず避難させた俺は、居候先であるかもめ屋が海賊たちが上陸してくるはずの港近くにあるため、その安否が心配になり急いで店へと戻った。……戻ったのだが。

 

「………は?」

 

 かもめ屋に着いた俺は、目の前に繰り広げられるその光景に、思わず呆然とした声を上げてしまう。

 

 なぜなら目の前に繰り広げられているのは、俺が心配したようなシドウさんとメグさんの2人が海賊たちに蹂躙される姿ではなく、

 

「――――オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

「ちょ、ま、ぷげら!?」

 

 ――――逆にシドウさんが海賊たちを拳で蹂躙する姿だった。

 

 まさか普通の定食屋の店主であるシドウさんがここまで強いとは思っていなかったので思わず呆けた声を出してしまったが、そういえば昔、この店を経営する前は凄腕の傭兵として有名だったと自慢げに語られたことがあったことを思い出した。

 

「(あ、あれって本当のことだったのか……)」

 

 正直その時はシドウさんが酔っぱらっていたこともあり話半分に聞いていたのだが、まさか本当のことだったとは。

 

「(もう、この人は怒らせないようにしよう)」

 

 そのようなことを心に決め、俺はシドウさんが最後の海賊をその手で伸したのを確認すると、彼に声をかけようと近づこうとしたのだが、そこでさらに通りの向こうから増援だろうか?十数人ほどの大勢の海賊たちがこちらに向かってくるのを見つける。

 

「まずい!?」

 

 さすがにあの数はシドウさんだけではまずいだろうと考えた俺は、魔力で脚力を増幅(ブースト)し、海賊の集団に向かって飛び込んだ。

 

「ユーリ!?」

 

 自分の間を凄まじいスピードで通り抜けた俺の姿に、シドウさんは驚きの声をあげるが、しかし俺はそんな彼の様子に構わず、彼らと同じで驚愕の表情をこちらに向けている海賊たちに先制の一撃を加える。

 

「炎魔の轟拳!!」

 

 凄まじい密度の炎を纏った正拳の一撃に、海賊の集団の中の数人が吹き飛び、その衝撃的な姿に海賊の集団はその場で硬直する。

 

 俺はそんな彼らの様子を見逃さず、さらなる魔法を発動させる。

 

「”炎魔の大鎌”!!」

 

 前世のテレビで見たカポエイラのように、足に炎を纏わせ逆立ちしながらも、回転しながら周りにいる海賊たちを纏めて吹き飛ばした。

 

「ぐうう!?」

「なあッ!!」

「ぐはッ!!」

 

 それぞれ苦痛の声を上げながら、吹きとんでいく海賊たち。しかし中にはそれなりの腕の相手が混ざっていたのか数人がその場に残っており、その内の1人が憤怒の表情に顔を変えながら片手をこちらに向ける。

 

 その掌から魔力の集中を感じた俺は、咄嗟にブリッジの要領で体を反らす。

 

「このクソガキ、食らいやがれ!!」

「おっと」

 

 どうやらやはりその男は魔法使いだったようで、魔力の弾丸を俺に向かって放ってきたが、それをあらかじめ察知していた俺は体を反らしていたおかげでそれに当たらずにすみ、俺はそのままバック転の要領でその男から距離をとったのだが、どうやら敵の中の1人に読まれていたようで、着地したと同時に魔法で強化したのだろう。海賊の中の1人が巨大化させた拳を俺に向かって振り下ろしてきた。

 

 辺りに響き渡る衝撃音。その場に残っていた数人の海賊たちは「やったか!」とその口元に笑みを浮かべたが、土煙が晴れて何が起こったのか知ると、その口元を思わず引き攣らせる。

 

「なん……だ…と?」

 

 そして拳を振り下ろした当人である海賊の男は思わず驚愕の声を上げる。

 

 それは今まで多くのものを砕いてきた自身の拳をその拳を、まだ年端もいかないその子供が真正面から魔法も使わずに(・・・)受け流したのをその目で目撃していたからだ。

 

 そんな男の様子に、俺は思わずにやりと口元に笑みを浮かべるが、その内心は正直かなり冷や汗ものだった。

 

「(あっぶねー!?よかった、魔法の練習だけじゃなくて空手の練習もしっかりしといてよかった。特に『回し受け』はしっかり練習しといたからな)」

 

 ”回し受け”。それが先ほど俺が使った技の名。これは空手の受け技の一種で、円の動きという空手などの打撃格闘技では防御の基礎中の基礎である技術を極限まで高めたものであり、なのであらゆる受け技の要素が入っているのではなくあらゆる受け技の基礎と言った方が誤解なく伝わるだろう。

 

 なので空手を始めたものならば形だけならば誰にでもできるはずだが、しかしあらゆる受け技の基礎であるがゆえに、極めれば某虎殺しの空手家いわく「矢でも鉄砲でも火炎放射器でも持ってこいやァ・・・」な鉄壁の防御を行うことができる。

 

 俺にはさすがにそこまでの技術はないのだが、この世界に来てから身体能力がかなり上がっており、さらにサーゼクスの力を得てからさらに力が上がっていたからか、本来ならば普通に潰されかねなかった目の前の男の拳でも、ある程度力ずくで受け流すことが可能になった。……まあ言葉に表すとなんか変な感じだが。

 

 そして前述したようにまさか俺のような子供に自身の拳が受け流されるとは思わなかったのだろう。驚愕で思わず体を硬直させているその男の拳に飛び乗り、それを踏み台にして男の真上に飛び上がり、その脳天に炎を纏った足で踵落としを喰らわせる。

 

「”炎魔の断刀”!!」

 

 その一撃を受けた海賊の男は、そのあまりの威力に呻き声をあげる間もなく、自身の立っていたその地面を粉砕しながらもその場に強制的に崩れ落ち気を失う。

 

「(……たぶん体中の骨が折れてるけど、死んでないんだし別にいいよな)」

 

 そんなことを考えながらも、俺は服についた埃を払いながらその場で立ち上がると、未だ残っている海賊の面々へと視線を向ける。

 

 先ほどの俺の戦いを見てさすがに腰が引けたのか、その瞳には普通俺のような子供に見せるようなものじゃない。恐怖の感情が見て取れる。

 

 俺はそんな彼らの感情に気づいて、それをさらに助長させようとあえて悪どい笑みを浮かべながらも、わざと脅すように拳をゴキリと鳴らした。

 

「――――で?まだやるか?」

 

 ――――その後、その海賊たちは悲鳴を上げながらも逃げ出したのはいうまでもない。

 

 

 

 

 海賊たちを無事撃退することに成功した俺とシドウさんは、自分たちが倒した海賊たちを拘束するために全員を縄で縛りあげる。

 

「――――これでよしっと。全員縛り終えたな」

「ええ。これでとりあえずは大丈夫でしょう。――――しかしさっきは驚きましたよ。あんなに強かったんですねシドウさん」

 

 先ほどの彼の戦いぶりを思い出し、素直にそういうとシドウさんは照れ臭そうに頬を掻いて苦笑する。

 

「ま、まあな。昔取った杵柄ってやつよ。大分錆びついちまってたがな。そういうお前さんだってあそこまで強いなんて思わなかったぜ?魔法を使えるのは知っていたが」

「まあ、俺の場合は自分でいうのもなんですが、使う魔法がそれなりに強力な魔法ですからね。あの程度のチンピラ相手なら問題ないですよ」

 

 それに俺の場合は転生して身体能力が上がっており、サーゼクスの力を受け継ぐことでさらにその力を上げている。なのでいくら魔法を使うからといってあの程度の相手に今さら負けるはずもなかった。

 

「そういえば、メグさんはどこに?姿が見えないようですが」

「ああ、あいつならもうとっくに避難してるよ。俺は大切な商売道具を忘れちまってな」

 

 そういってシドウさんが俺に見せてきたのは、彼が料理にいつも使っているよく磨かれた包丁。

 

 なんでも、彼がこの店を始めた時にゲン担ぎにとちょっと無理をして新調したかなりいい包丁のようで、一度軽い気持ちで勝手に借りた時はえらく怒られたことを思い出す。

 

 だからこそ俺は納得した。いつも自分の魂だとこの包丁を大事にしていた彼が、海賊に荒らされるかもしれない場所に置きっぱなしのままにできるとは思わなかったからだ。

 

「まあ、ああいうやつらはわかりやすい金目の物に寄って行くからこのままでも大丈夫だったと思うけどな。――――さて、俺らもそろそろ非難するぞ。あの程度ならこの街の警備隊に任せていても大丈夫だろ」

「そうですね。それでもいいでしょう」

 

 無責任に感じるかもしれないが、この街は一応それなりに有名な観光地でもあるので、それを護るこの街の警備隊の面々は実はそれなりに精鋭だったりするのだ。

 

「(ルーシィの誘拐事件の時は後手に回っていたが、それはルーシィが誘拐された直後のことで捜査する暇がなかったからであり、もし俺が助けに行かなくても、犯人の行方を見つけ彼女の身柄だけは確保できただろう。……尤もあの場合は彼女の貞操が危なかったので、俺が助けに行ったことは結局正解だったのだろうが)」

 

 だから、シドウさんのいうとおりあの程度のチンピラだったなら警備隊に普通に任せても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 ――――そう、あの程度のチンピラだけ(・・・)だったならの話だが。

 

 俺は、シドウさんが避難所に向かおうと踵を返そうとしたちょうどその時、彼の背中に向かってちょうど今思い出したかのように言葉を投げかける。

 

「あ、そうだシドウさん。俺もちょっと忘れ物をしたのを思い出したんで先に避難所に向かってもらってもいいですか?」

「……?わかった、なるべく早く来いよ?」

 

 一瞬俺の言葉にシドウさんは訝しげに首を傾げたが、しかし魔法が使える俺ならもし海賊が来ても大丈夫だと考えたのだろう。シドウさんはこれといって疑問に思った様子は見せずに避難所がある方向へと走っていった。

 

 俺はそんな彼の後姿が見えなくなるまで見送ると、俺のちょうど斜め後ろ辺りの物陰に、正しくは先ほどからそこにいた(・・・)人物へと言葉をかける。

 

「――――さっさと出てこい。そこにいるのはわかってる」

 

 するとその数秒後、俺の視線の先にある物陰から1人の男が現れる。

 

「ふふふ、よくわかったな?俺がここにいることが」

 

 まるで貴族が着るような質のいい服を身に纏ったその男は、それなりに整った顔立ちをしているが顔色が若干青白く、細身でもあることから一見貧弱にも見えるが、俺にはわかる。その男が先ほどのチンピラとは段違いの魔力をその身に秘めていることを。

 

「(強い……ッ)」

 

 余裕そうに笑みを浮かべながらも、隙のないその男の立ち姿に内心警戒しながらも、なるべく平静を保ちながら口を開く。

 

「よくいうぜ、さっきから俺にばっかり殺気を送ってたくせに」

 

 そう、それが俺がこの男の存在に気づいた一番の理由。尤も殺気を送るだけでこちらになにもする様子を見せなかったので先ほどまで放っておいたのだが。

 

「で?誰だあんた?街の住民じゃねえだろ?」

 

 その俺の言葉に、男はわざとらしく驚いたような表情を見せると、先ほどより笑みを深めながらも口を開く。

 

「そういえば名を名乗っていなかったな。本当はお前のような子供に私が直々に名乗るなどやらないのだが、今日は機嫌がいい。特別に教えてやろう」

 

 そういってその男は高らかに自身の名を告げる。この世全てに自身の存在を刻みつけんとするがごとく邪悪な誇りを持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――私の名は『シャルバ・ベルゼブル』。最近では”貴賊(きぞく)”のシャルバなどと呼ばれている」




どうでしたでしょうか?サーゼクスの敵っぽいのでなにかないかなーと思って調べてみたらよさそうなのがシャルバくらいしかなかったので、HSDDからシャルバを登場させてみました。

それでは誤字脱字の感想やアドバイスがありましたらよろしくお願いします。


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第十九話 ”貴賊”のシャルバ

どうも、最近ドラゴンボールとコナンの映画を見てきたえんとつそうじです。

いやーやっぱりコナンの映画は安定したおもしろさがありますね。まあ正直不満な点も少しありますがやはり夏はコナンの映画はかかせません。(今は夏かどうか置いておいて)

ネタばれになるのであまりくわしくはいえませんが、やはり蘭姉ちゃんの拳はすごかったといっておこう。

ただ、その映画を見ていた時一つだけ思いついたことがあって、実は最近無料の動画サイトでクトゥルフのTRGP動画を見るのにハマっているのですが、蘭姉ちゃんこのTRGPの世界で探索者になっても充分生きていけんじゃね?と考えました。

……いつかコナンとクトゥルフのクロス物を書くのもおもしろいかもしれないですね。だれか書いてくれないかな(黒笑)

まあ冗談はさておき、今回の話は前回最後に登場したシャルバについての説明会となります。説明会なので短いですが、それでもよろしければ暇つぶしにでもお読みください。


 ”貴賊”のシャルバ。男が名乗ったその名を聞き、俺は思わず眉をひそめる。俺はその名に聞き覚えがあったからだ。

 

 確かここより少し離れた場所にある孤島を本拠地としている海賊たちの首領の名で、確か一度評議委員会の軍隊がその殲滅に送り込まれたはずだが、それを単独で返り討ちにした凄腕の魔導師だと聞いた覚えがある。

 

 なんでも元々はどこかの国の貴族だったらしく、天才的な若き魔導師として将来を嘱望されていたらしいが、裏で悪どいことをやっていたことが国にばれて国を追われ、海賊にその身を堕としたのだという。

 

 海賊に堕ちたとはいえかつては天才と謳われた魔導師。この男が率いる海賊団は、自然とその名が知れていくこととなる。

 

 だが、この辺りは近くに有名な魔法使いのギルドである幽鬼の支配者(ファントムロード)の本拠地が置いてあるオークの街が近くにあるために、今までやつらどころか他の海賊からも殆ど受けたことがないはずだが……。

 

「(まあ、今はそんなことどうでもいいか。とりあえず今はこいつをなんとかしないと)」

 

 そう思いながらも、俺は先ほどから笑みを浮かべながらも微動だにしていないシャルバへと視線を戻す。

 

「なるほど、このチンピラどもはあんたの手下か」

「いかにも。――――最も、所詮私以外は多少魔法が使えるだけのただのチンピラ。ただの数合わせだが」

 

 そういって、シャルバは俺とシドウさんが縛って放置していた、未だ気絶している自分の手下たちに蔑んだ視線を向ける。

 

「しかし、相手が失われた魔法(ロスト・マジック)の使い手とはいえ、このような子供にここまでこっぴどくやられるとは。少しもっと質を求めたほうがいいかもしれんな」

 

 ちなみに「ロスト・マジック」とはその威力や術者への副作用から使用者が限られていき、利用が禁じられ、次第に失われていった魔法のことで、一応俺の使う悪滅魔法(デビルスレイヤー)もこのロスト・マジックの1つに入る。……尤もこれはサーゼクスが創り上げた彼オリジナルの魔法なので、あくまで『一応』入るだけなのだが。

 

「しかしまさかハートフィリア財閥の令嬢の身柄を確保するために使っていたやつらまで敵わないとはな。あっちにはそれなりに腕っ節の強いやつを送っていたのだが」

「ッ!?じゃあ、ルーシィを攫ったのは」

「ああ、私の手の者だ。何せ世界有数の財閥の1人娘なんだ。たんまり身代金も手に入るだろうからな」

「(こいつ……ッ)」

 

 なんでもないように答えるシャルバのその様子に内心憤るが、ここで不用意に激昂して隙を見せるわけにはいかなかったのが、それを押し殺す。

 

「で、あんたが俺の前に出てきた理由はなんだ?まさかあのチンピラどもの責任をとってとっ捕まりにきたわけじゃあるまい?」

「それこそまさかだ。私がこの街に来た理由は二つ。一つは先ほどもいったようにハートフィリア財閥夫人、そしてその娘の身柄の確保。元々はこれが本来の目的だったのだが、実はもう一つ目的ができてな。――――それが貴様のスカウトだよ」

「スカウトだと?」

 

 訝しげに首を傾げる俺に、しかしシャルバはこれといって様子を変えずに話を続ける。

 

「ああ、私の目的のためには大勢の駒が必要であるが、あのような無能だけではなくそれなりに有能な駒もいる。だからこそ私には貴様が必要なのだ」

「目的?それはいったい……」

 

 俺のその言葉に、シャルバはその口元に楽しげに笑みを浮かべる。

 

「簡単だ――――復讐だよ」

 

 そしてシャルバは語る。かつての自分の生活を。

 

「俺はこの大陸の西方に位置するナツメグ皇国のベルゼブル公爵家の次男として生まれ将来を嘱望されていた。次男では家を継ぐことはできないが、公爵家の身分なら他の貴族家に養子に入るか婿養子に入るかで継ぐことはできるだろうし、俺には魔法の才能があったから宮廷魔導師を目指すという手もあった」

 

 ちなみに宮廷魔導師とは、前世のファンタジー物の小説や漫画などでよく登場する国に使える魔導師たちのことで、このリオの街が所属するフィオーレ王国にも名前は違うがそのような役職が存在する。

 

 将来の栄達を約束されていたシャルバであったが、しかしこの男は結局それだけでは我慢ができず、仲間を集めクーデターにより王の座を狙い、しかしそれが失敗してしまい命からがら国から逃げ出したのだ。

 

 そのことがよほど不本意だったのか、シャルバは先ほどまでの自信に満ちた笑みから一転、憤怒の表情で言葉を続ける。

 

「だからこそ私には駒が必要なのだよ!やつらをこの手で潰し、あの国を私の手中にするために」

 

 どこか恍惚としたようにそう語るシャルバの様子に、しかし俺は心の中で沸きあがる侮蔑の念を抑えることができなかった。

 

「ハッ。くだらないな」

「……なんだと?」

「ようはただの自業自得じゃねえか。そんな相手についていくなんてまっぴらごめんだよ」

 

 そう、こいつのいっていることは全てただの自業自得。その国の決まりがどうなっているかは知らないが、こいつが国を追われる原因を作ったのは自分自身だ。でなければ仮にも公爵家の地位にいる者が、宮廷魔導師にもなれるであろうほどの才能を持つ魔導師を簡単に手放すはずがない。

 

 そんな俺の言葉に、シャルバは目に見えて激昂する。

 

「貴様……ッ!?……いいだろう、少々惜しいが仕方ない。その命狩らせてもらう!!」

「上等だ、さっさとかかってきやがれ!」

 

 

 

 

 

 

 ――――そして、俺とシャルバの戦いは始まった。




どうでしたでしょうか?モデルが旧魔王派の一員だったから元貴族っていう設定にしてみたのですが。

それでは誤字脱字の報告や感想。アドバイスなどありましたらよろしくお願いします。


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第二十話 VSシャルバ。光の造形魔法。

どうも、最近友達とのデュエルはもっぱらレッドアイズで相手しているえんとつそうじです。

やっぱり小さいころから好きだったカードが強化されるのは嬉しくと結構はしゃぎながらやっているので、友達からは大分うざがられていますが(笑)

さて、今回の話はVSシャルバ戦となっております。かなり突貫工事な内容ですが、それでもよろしければ暇つぶしにでもお読みください。


 海賊シャルバと戦うことになったユーリは、まずは先手をとるために炎を纏った拳でシャルバへと攻撃を加える。

 

「炎魔の轟拳!!」

 

 まるで小型の隕石のような凄まじい威力の拳がシャルバへと襲いかかる。

 

 そこらへんの少し腕の立つ程度の魔導師なら一撃で粉砕できるその拳は、しかしシャルバには容易く交されてしまう。

 

 いや、正確には違う。シャルバはユーリの拳を交したのではない。ユーリの拳がシャルバの体を通り抜け(・・・)たのだ。

 

「……ッ!?」

 

 思わず驚愕で息を呑むユーリだったが、ユーリがシャルバだと思っていた(・・・)存在が消え、視界の端。少し離れた場所にシャルバが出現し、自分に何か仕掛けてこようとしていることに気づいたので、咄嗟にその場から飛びのいた。

 

「――――シャイン・メイク”(ランス)”!!」

「ぬお!?」

 

 シャルバの手から光の槍が出現し、ユーリの体を貫かんと迫ってくるが、なんとか回避が間にあい、光の槍の攻撃を体に掠らせるだけで回避に成功する。

 

 そんなユーリの様子に、シャルバは一瞬驚いたような様子を見せるが、やがてその顔を面白そうな笑みに変えると、さらなる攻撃をユーリに加えてくる。

 

「ほう?今の攻撃をかわすか、おもしろい。ならばこれはどうだ?」

 

 そういうと、シャルバは一度両手を合わせて魔力を両の手に集中させ、ユーリに向かって解き放った。

 

「シャイン・メイク”大鷹(イーグル)!!」

 

 するとシャルバの両手から光で構成された大量の鷹がユーリに向かって襲いかかってきた。

 

「ぐ、がああああ!!」

 

 あまりの速さで襲いかかってくるその攻撃に、ユーリは避けきれずに体のあちこちが引き裂かれるが、咄嗟に炎魔の激昂(ブレス攻撃)を放って、光の鷹を吹き飛ばす。

 

 そんな彼の様子に、シャルバは余裕の笑みを浮かべながらも賞賛の言葉を送る。

 

「ほう、これも凌いだか。大抵は最初の一撃で終わるのだが。――――私の『光の造形魔法』の前には」

 

 造形魔法。それは特定の物を自由に造形することができる魔法。使用者は「造形魔導師」と呼ばれ、その威力はその仕様者の造形創造力に左右されるが、極めればとても強力で、かつて北の大陸で活躍していた「ウル」という魔導師は、フリーの魔導師でありながら、この氷の造形魔法により大陸で最も優れた魔導師に与えられる称号「聖十大魔道」の候補に挙げられるほどの実力者として知られていた。(最もその話は彼女がデリオラという悪魔と戦って相打ったためにお流れとなったが)

 

 そしてシャルバもこの造形魔法の一つである光の造形魔法の使い手であるのだが、彼の造形魔法には他の造形魔法には存在しないある特徴があった。

 

 実は造形魔法には物質の造形を得意とする「静」の造形魔法と動物などの生き物を造形する「動」の造形魔法の2パターンの造形魔法が存在し、大体それぞれ得意な造形魔法はそのどちらかに偏るのだが、シャルバの場合はこれに当てはまらず、このどちらも自在に造形することができる。

 

 2つの造形魔法を巧みに操るこの技巧こそ、かつてナツメグ皇国でこの男が天才と謳われた一番の理由であった。

 

 だが、ユーリは一つ不思議なことがあったのか、内心首を傾げる。

 

「(おかしい……)」

 

 そういって、彼は先ほどシャルバに殴りかかった自身の拳に視線を落とす。

 

 確かにシャルバの造形魔法は優秀だ。それは先ほどユーリが自身でその攻撃を受けたことにより、よく理解した。

 

 しかし先ほど自身の先手の拳をかわしたあの現象。あれは造形魔法では全く説明がつかない。

 

 まるで不可思議な現象。だがユーリにはその現象に対して1つだけ「心当たり」があった。

 

「(……試してみるか)」

 

 そう決意したユーリは、その心当たりが正解か確かめるために、先ほどのようにシャルバに一気に近づき、先ほどとは違い、小刻みに拳を連続で繰り出す。

 

「ららららららららららららあああああ!!」

 

 その拳の弾幕はシャルバに襲いかかるが、しかしやはりその拳はシャルバを捕えることができず、シャルバの体を通り抜ける。

 

 シャルバはそれににやりと笑みを浮かべると、ユーリに向かって魔法を放つ。

 

「シャイン・メイク。”(ウルフ)!!」

 

 ユーリに襲いかかる光でできた狼。それを視界の隅で確認したユーリは、片手に炎の太刀を出現させ、それで光の狼を瞬時に切り刻む。

 

「”炎魔剣―切鬼斬(きりきざん)―”」

 

 切り刻まれた光の獣はそのまま光の粒子となって消え去り、それを見届けたユーリは自身が最も得意とする空手の後ろ回し蹴りを模した技を放つ。

 

「炎魔の大斧!!」

 

 しかしその轟音の一撃は、やはりシャルバに当たることはなくそのまま通り抜ける。

 

 そしてそのすぐ横に出現したシャルバの本体(・・・)が、魔力の込められた蹴りをユーリに向かって叩きこんだ。

 

「がはあッ!?」

 

 ユーリはそのまま壁に叩きつけられ、そのまま口から空気の漏れる音と共に呻き声を上げる。

 

 ユーリはふらふらとその場で立ち上がると、シャルバのことを睨みつける。

 

「……なるほど、おかしいと思っていたが、貴様。やはり『光の屈折』を利用しているのか」

 

 そんなユーリの言葉にシャルバはそのおもしろげな笑みをさらに深めた。

 

「くくく、よくわかったな。やはり貴様は優秀だよ」

 

 人が正確に眼に映る情報を手に入れるには「光」はとても重要な要素を持っていることは周知の事実だが、シャルバをその光を自身の魔法で屈折させ、自身がいる位置をそのまま誤魔化したのだ。

 

 シャルバは嗤う。

 

「くはははははは。いかに威力の高い魔法を使おうと、この魔法。『偏光魔法(トリックアート)』と光の造形魔法。2つの魔法を持つ私の前では無力。どんな魔法も当たらなければどうということはないのだからなあ?くふあーははははははははは!!」

 

 高笑いを上げるシャルバ。それほど自身の魔法に自信があるということなのだろう。

 

 確かにシャルバの自信の高さもわかる。造形魔法の中で最速の速さを誇る光の造形魔法に、相手の視界を騙し攻撃を無効化するトリックアート。普通の魔導師ならばこの2つの魔法を使われれば、その強力な組み合わせに戦意を喪失し、顔を絶望の表情に染めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 ――――そう、普通(・・・)の魔導師ならば。

 

「――――何がおかしい?」

 

 高笑いを続けていたシャルバだが、ふと目の前のユーリが笑みをなぜか笑みを浮かべていることに気づき、顔を顰めてそう口にする。なぜ、こいつは他のやつらと同じ絶望の表情を浮かべていないのかと。なぜ、こいつはこのような笑みを浮かべているのかと、そんな疑問も込めて。

 

 そしてシャルバのその問いに、ユーリは僅かに笑い声を上げながらも答える。

 

「くくくく、別に?ただ自信満々に御高説たれてるわりには、割と簡単に弱点が見つかったと思ってな」

「――――なに?」

 

 ユーリのその言葉に、シャルバは一瞬その眉間の皺をさらに濃くするが、しかし次の瞬間そんなユーリの言葉を鼻で嗤う。

 

「ふん!強がりを。この2つの魔法に弱点などありはしない」

 

 だが、そんなシャルバの言葉にもユーリはその余裕な態度を崩さず、むしろその笑みをさらに深くする。

 

「ははは!――――なら、試してみやがれ!!」

 

 そういうと、ユーリは再度炎を纏った拳でシャルバへと殴りかかる。

 

 そしてそんな彼の攻撃を、しかしシャルバは嘲笑う。

 

「ふん。バカの一つ覚えだな」

 

 そういうと、シャルバは再びトリック・アートを使いその拳を避けようと試みる。

 

「(ここだ……ッ!!)」

 

 そしてその結果、ちょうどユーリの拳を右に避けると、お返しとばかりに造形魔法で光の杭を片手に出現させ、カウンターの要領でユーリに向けて叩きこもうとする。

 

「(これで終わりだ!!)」

 

 そしてそのまま杭がユーリの体を貫かんとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――がはあ!?」

 

 ――――突如シャルバの横顔に衝撃が走り、彼がその場から吹き飛ばされたのは。

 

 二転三転してようやく止まるシャルバ。何があったのかわからず、痛みで呻き声を上げながらもふらふらと顔を上げる。

 

「あ……が……?い…ったい……?」

 

 そしてシャルバは自分に何かして攻撃を当てたであろうユーリに視線を向けると、彼は先ほどのシャルバに殴りかかった時とは違い、そこから拳を返した(・・・)体勢でそこに立っていた。

 

 その体勢から、シャルバはユーリに所謂「裏拳」で殴られたということは察することができたが、結局どうやって自身の体を捉えることができたのか?結局それは理解することができなかった。

 

「(なんだ?いったいこいつはなにをしたんだ!?)」

 

 混乱の極みにいるシャルバ。そんな彼の内心を知ってか知らずか。ユーリはどこか冗談めいた口調でつぶやく。

 

「“炎魔の轟拳・裏式”。……なんつって」

 

 そして困惑するシャルバの視線に気づいたユーリは、彼とその視線を合わせると獰猛な笑みをその口元に浮かべた。

 

「――――さて、反撃開始と行かせてもらおうか」




どうでしたでしょうか?ちなみにわかる人にはわかると思いますが、今回シャルバが使った偏光魔法(トリックアート)という魔法は、とある科学の電磁砲という漫画で出てきたあるスキルアウトが使っていた能力を丸パクリしたものとなっております。光の造形魔法だけじゃなくて、もうひとひねり欲しくて(笑)

それでは、感想や誤字脱字の報告。そしてアドバイスなどがありましたらぜひよろしくおねがいします。


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第二十一話 光の弱点。そして決着。

どうも、最近新しくイグナイトのデッキを作ろうと画策しているえんとつそうじです。

動画見ている限りでは結構強そうですし、ヒーローデッキからブレイズマンがあぶれてしまったのでちょうどいいかなーと思いまして。

さて、今回のお話はシャルバが使う魔法の弱点。そして決着編です。暇つぶしにでもどうぞ。


 港街リオ。海賊シャルバとユーリの戦いはいまだ続いていた。

 

「炎魔の轟拳!!」

「がはッ!?」

 

 炎を纏った拳でシャルバはそのまま殴り飛ばされる。

 

 戦いが始まった当初はシャルバの魔法により、その戦闘経験の差もあり一方的にユーリが追い詰められていたのだが、ユーリが弱点を発見したという発言からそれは一転。逆に戦いはユーリが圧倒的有利に進めている。

 

「(なぜだ!なぜこんなことに!!)」

 

 吹き飛ばされた先でなんとか体勢を立て直したシャルバであったが、しかし彼は内心混乱していた。なぜ目の前にいるこの子供は、自分に攻撃を当てることができているのかと。

 彼は今まで最速の造形魔法である光の造形魔法と光の屈折を操り自身の位置情報を誤魔化す偏光魔法(トリックアート)。この2つの魔法を兼ね備えていた彼は海賊になってから誰にも負けることなく不敗を誇っており、そのためか自身の実力に絶対の自信を持っていた。

 今まで誰一人彼に傷一つつけることができなかったという事実が、彼に自らは無敵の魔導師であるという自負をその身に与えていたのだ。

 

 一見自信過剰にも見えるが、しかし彼がそのような自信を持つのも頷ける。光の造形魔法はともかくとして、トリックアートにより、彼に攻撃を当てることは誰にもできないはずなのだから。

 

 だからこそ、ユーリがシャルバの魔法には弱点があるといったとき、彼はそんなユーリの言葉を嘲笑った。彼には自分のその傲慢なまでの自信の根拠となっている魔法に、弱点など絶対にあるはずがないと考えていたからだ。――――だが、現実は違った。

 

 シャルバはユーリの拳の一撃を確実に避けたはずなのに、ユーリはそんなシャルバに自分の攻撃を当てて見せたのだから。

 

 初めはただの偶然だと思った。いや、シャルバは偶然だと思い込もうとしていたのだが、しかしそれからもユーリはシャルバに向かってその攻撃をどんどんと当てていき、自慢の魔法が破られた混乱が収まりきっていないということもあり、彼はこうしてユーリに追い詰められているというわけなのである。

 

「(くそ、くそお!!私が、私がこんな子供にここまで追い詰められるなどあってなるものか!!)シャインメイク”(タイガー)”!!」

 

 やぶれかぶれに光の虎を造形したシャルバは、そのままその虎にユーリを襲わせるが、ユーリは慌てず口からブレスの攻撃を放ち、その虎を吹き飛ばす。

 

「炎魔の激昂!!」

 

 ユーリの口から放たれた獄炎の炎は、シャルバが生み出した光の虎を吹き飛ばすと同時に、そのままシャルバへと襲いかかる。

 

「ぐ、ぐあああああああ!?!」

 

 体のあちこちから黒い煙を上げながらも吹き飛ばされるシャルバであったが、空中でなんとか体勢を立て直す。

 

「はあ…はあ…はあ…はあ……」

 

 息も絶え絶えになりながらもユーリを睨みつけるシャルバ。憤怒の表情になりながら怒りのままに叫び出す。

 

「なぜだ、なぜ貴様にはトリックアートが効かない!?貴様はいったい何をしたのだ!!」

 

 絶対の自信の源となっていた自身の魔法を破られ、凄まじいまでの激昂を見せるシャルバ。しかしそんなシャルバの怒りにもユーリは全く動揺を見せることなく、むしろ笑みすら浮かべて答える。

 

「別にそう難しいことじゃない。確かにあんたの実力は大したものだ。傲慢で油断もあるが、高い戦闘経験に、バランスのいい2つの強力な魔法。そこいらの魔導師なら、手も足も出ずにやられてしまうだろう」

 

 ただでさえ最速の造形魔法と名高い光の造形魔法は強力な魔法だ。それに加えてトリックアートという相手の視覚に直接訴えて自身の位置情報を誤魔化す能力。

 この二つの魔法を攻守バランスよく使いこなすことにより、シャルバは評議員会の軍隊すら殲滅してのけたのだ。これでシャルバの実力が低いなどというものなど、普通の魔導師ならばまずいないだろう。

 

「だが、そのトリックアート。確かに便利な魔法だろうがあんたは気づかなかった。――――相手の位置を探るには、別に視界のみを頼る必要はないということに」

 

 例えば匂い。例えば音。確かに普通に視界に頼るよりかは厳しい、または特殊な手段になる場合もあるが、しかし相手の位置情報を確認するには視覚以外にも手段は多数ある。

 

 そして、ユーリがシャルバの位置情報を探るのに使った手段は”熱”であった。

 

「火の魔導師は火を扱う関係上、熱を察知する感覚が自然と高くなる。特に俺の場合はそれがかなり強くてな?それであんたの体温を探って位置を捕えていたんだよ」

「ばかな、そんな手段で私の魔法が……?」

 

 ユーリの言葉に愕然とするシャルバ。

 

 しかしそれも仕方ない。確かに火の魔導師は熱の探知に対する感覚が鋭くなるが、しかしそれもそれほど高い物であることが殆ど。ましてや位置がお互い激しく移動する戦闘の最中で相手の体温を感知し瞬時に行動を起こすなど、並みの人間のできることではない。このことからユーリの高い戦闘センスが理解できる。

 

 そして、ユーリの言葉によって自身の魔法が完全に通じないことを理解したシャルバは、内心ひどく焦り始める。

 

「(まずいまずいまずい!こ、このままでは私の野望が!!)」

 

 確かに光の造形魔法は最速の造形魔法。しかし最速であると共に、質量が足りないために威力も他の造形魔法より低め。殆どの魔法が決め手に欠ける。

 

 だからこそ、シャルバは光の造形魔法と共に防御手段としてトリックアートを習得し、その2つを合わせることによって、評議委員会の軍隊すら全滅させることができるほどの実力を得ることができたのだ。

 

 しかし、その片方であるトリックアートを破られたことによりシャルバはその戦力を半減させてしまい、またユーリの実力は軽く見積もってもシャルバと同等以上の魔力量を察することができ、経験は少なそうではあるが戦闘センスは天才クラス。

 確かにシャルバの方が高い戦闘経験を誇りはするが、それで覆せないほどの差をシャルバはユーリに感じたからこそ、シャルバはここまで焦っているのだ。

 

「(なにか、なにか手段……ッ!!)」

 

 その時だった。シャルバとユーリ、2人の戦場にその声が聞こえてきたのは。

 

 

 

「ママー、ママどこー?」

「「ッ!?」」

 

 

 

 突如聞こえてきたその子供の声に、シャルバとユーリの2人は思わずそちらに振り向くと、そこにはおそらく非難し損ねたのだろう。瞳から大粒の涙を流しながらも母を探す幼子の姿があった。

 

 そしてその姿を視界に収めたシャルバは、ある逆転の一手を思いつき、にたりと歪んだ笑みを浮かべると、その子供に瞬時に走り寄る。

 

「ま……ッ!?」

 

 初めは突如戦場に登場した子供の姿に、驚きのあまり硬直してしまったユーリであったが、シャルバの目的がなんであるかを理解すると、子供に近づこうとするシャルバを妨害しようと動き出すが、しかしそれも間に合わず、シャルバは子供を捕まえると、その子供の喉元に光の剣を突き付ける。

 

「ひッ!?」

「動くな!!」

 

 そう、シャルバはその子供を人質にしてこの場を乗り越えようとしたのだ。

 

 確かにこのまま行けばシャルバは敗北する可能性が高い。ユーリはシャルバ自身にそう思わせるほどのポテンシャルをこの戦いで見せていた。

 

 しかし、シャルバにとって戦いの結果など正直どうでもいいのだ。確かに敗北は屈辱ではあるが、彼にとって重要なのは自分の復讐なのであって、例え敗北したとしても生きてさえいればいい。今度はさらに力をつけて勝利すればいいのだから。

 

 例え自身の身柄を確保するためにシャルバが追って来たとしても、子供が人質にした状態ならば相手も手を出しづらいであろうし、なによりその隙に逆襲も可能になるかもしれない。

 

「貴様……ッ!!」

「おっと、動くなよ。動けばこの子供の命はない!!」

「くッ!!」

 

 ユーリはもちろんそのシャルバの卑劣な真似に怒りを見せるが、しかしシャルバが子供を盾にしてしまっているがために、ユーリは動くことができずに、その悔しさで思わず歯噛みする。

 

 そんな彼の姿を見て、シャルバは思わず勝利の笑みを浮かべた。

 

「(よし、これでいい。後はこいつを人質にして船まで戻り、出港してからこのガキは海に捨てて魚の餌にでもすればいい。このガキへの報復はまた今度、力を貯めて確実に行えば問題ない!!)」

 

 だが、シャルバは気づかなかった。

 

 

 

 ――――自身の行動が、ユーリの持つ『逆鱗』に、完全に触れてしまったことに。

 

 ユーリはシャルバの言葉に、しばしそのまま俯いて沈黙を保っていたのだが、やがて感情を無理やり抑え込んだかのような抑揚のない声で言葉を紡ぐ。

 

「……なるほど。なら、仕方ないな」

 

 そういうと、ユーリはゆっくりとシャルバに向けて片手を向ける。手の形は所謂指鉄砲になっており、もしそれが本当の銃ならば、シャルバに銃口を向けている感じになるだろう。

 

 そんな彼の行動に、シャルバは訝しげに眉を潜める。もしかしたら魔法で何かするつもりなのかと考えたが、魔力の高まりは(・・・)全く感じられず、それ故に彼が何をしようとしているのかを理解できなかったからだ。

 

 だからこそ、シャルバは警戒しながらも何をしようとしているのかユーリに問い詰めようとした――――その時だった。

 

「がッ!?」

 

 突如肩口に衝撃と共に激しい痛みと熱を感じたシャルバは、思わずその痛みにより人質にとっていた子供を離してしまう。

 

「う、うわあああああ!!」

 

 解放された子供は、よほど怖かったのか解放された途端に泣き叫びながらもどこかへ去ってしまうが、突如感じた痛みにそれどころではなかったシャルバは、いったい何が起こったのかと痛みを感じた場所である自身の肩口へと視線を向ける。

 

「なッ!?これは!!」

 

 肩口の状態を見た彼は、思わず驚愕の声を上げる。なぜならそこには肉が大きく抉れ、血を吹き出している姿があったのだから。

 

「(なんだこれは!!いったいあいつは何をしたんだ!?)」

 

 シャルバが見ていた限り、ユーリが不審な行動をしていた様子はなかった。いや、不審な行動自体はあったが、魔力の高まりは一切感じられず、だからこそその行動で自身に何かを行ったとはシャルバは考えることはできず、もう何度ともしれない混乱に陥る。

 

 

 

 ――――そして、ユーリがそんなシャルバの隙を見逃すことはなかった。

 

「考え事とは余裕だな」

「なッ!?」

 

 シャルバが気づいた時には既に時遅し。ユーリはいつの間にかシャルバの懐に潜り込むと、シャルバをその場から打ち上げるように上空に蹴りあげる。

 

「ぐううッ!?」

 

 シャルバは咄嗟にガードすることによりなんとか致命傷を防ぐことはできるが、しかしユーリの蹴りがあまりに凄まじかったためにそのまま空高く打ち上げられ、蹴りの衝撃もあり全く身動きできない状況に陥ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして、この状況こそがユーリが狙った展開でもあった。

 

 ユーリは上空でどこか唖然とした表情をしているシャルバを冷たく睨みつけながらも、それとは真逆に魔力を極限までに高め、体に白く輝くまでに高められた煉獄の炎を身に纏う。

 

「まさか、呪法まで使うことになるとは思わなかったが、これで終わりだ」

 

 そしてユーリは自身の魔力の凄まじいほどの高まりに顔を蒼く染めているシャルバに向かって放つ。自身が今持ちうる最大の一撃を。

 

「くらいな、滅悪奥義――――“煉獄の王(メギド)”!!」

 

 メギド。

 

 それはこの世界のある神話に登場する、煉獄を司る、巨大な獣の姿をした魔界の王の一柱。

 

 奇しくもユーリと同じく獄炎を扱うことを得意とするその王の名を冠する奥義が、ユーリの言葉と共にシャルバに向かって放たれる。

 

「…ば……ばかな。こんなはずでは。……こんなはずではあああああああああああああああああああ!!?」

 

 リオの街の空に、巨大な炎の爆発が広がり、それに直撃してしまったシャルバは断末魔の叫びを上げる。

 

 

 

 ――――そして、海賊シャルバとユーリの戦いはユーリの勝利で決着が着くのであった。

 




ということでどうでしたでしょうか。ちなみにわかる人はわかると思いますが、このトリックアートという魔法はとある科学の電磁砲に出てくるとある人物の超能力を丸パクリしてものです。なぜか光といったらこれが思いついたものでww

それでは、感想や誤字脱字。それにアドバイスなどがありましたらどうかよろしくお願いします。


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第二十二話 港町との別れ。そして旅は新たな舞台へ。

どうも、最近お気に入りのTRPG動画を見つけたえんとつそうじです。

その名も「ゆっくり妖夢の本当に怖いクトゥルフ動画」という動画。なんとコミック化もしたほどの有名な動画で、ニコニコからは消されていましたが、youtubeではまだやっていましたのでぜひ見てみてください。(ステマ?)

さて、今回のお話ですが、まあぶっちゃけつまらないので飛ばしてくださってもかまいません。(おい)

それでも構わない方は暇つぶしにでもお読みください。

※少し最後のほう修正しました。


 有名な観光地でもある港町リオが、”貴賊”のシャルバ率いる海賊たちの襲撃にあってから既に一ヶ月が過ぎようとしていた。

 

 例の海賊たちはこの辺りでは有名で、凄腕の魔導師であるシャルバが率いているだけあり構成員の多くが魔導師で構成されており、その戦力は一ギルドに匹敵するといわれていた。

 

 なのでここいらの海賊の中ではかなりやっかいな存在として知られていたのだが、このリオに所属している警備隊が、有名な観光地を護るだけあり精鋭で揃えられていたためいくら魔導師が相手とはいえ襲撃してきた海賊の集団にも負けることはなく、また一番厄介な存在であるシャルバがある子供の魔導師(・・・)にまさかの敗北を喫したことにより、それを知った海賊の多くが逃走を開始し、そのおかげか警備隊の面々は無事に犠牲も出さずに撃退することに成功する。

 

 そして一ヶ月たち、海賊たちとの先頭によりところどころ破壊された街の復旧も順調に進み、殆ど元通りに近い状態になっているのだが、そんな街の入り口にその少年はいた。

 

 旅支度なのか年齢に対してかなり大きい荷物を手元に持つその少年の名はユーリ・クレナイ。そう、シャルバをその手で倒した子供の魔導師とは彼のことである。

 

 彼はシャルバとの戦いの後、残っていた海賊たちの残党退治を手伝い、その結果シャルバにかけられていた賞金、そしてこの町の町長から街を守護に多大な貢献を果たしたということで謝礼金を貰ったために旅の資金が貯まり、そのためシャルバたち海賊たちとの戦いで受けた傷をゆっくり癒し、そして今日楽園の塔を出てからずっと生活していたこの街から旅立とうとしているというわけなのである。

 

 街の大ピンチを防いだことにより、街の英雄として大人気となった彼の旅立ちということもありたくさんの見送りが来ており、その先頭には今までユーリが世話になった定職屋の主人であるシドウにメグ。そして楽園の塔を追い出されてから初めての同年代の友人であるルーシィとそのメイドのスペットがいた。

 

 本当はルーシィの母親であるレイラ・ハートフィリアも見送りにこようとはしていたのだが、彼女は現在重い病を患っており、そのためか今日は体調が悪く外に出れないために、見送りにはルーシィとその付き添いのスペットだけ来ているというわけなのである。

 

 見送りの面々を代表して、店を休みにしてまで見送りにきたシドウがどこか感慨深げに口を開く。

 

「――――そうか、もう行くのか」

「ええ。お世話になりました」

 

 ユーリが今までの感謝の念を込めながら頭を下げる。そんな彼の姿を見てしかしシドウは苦笑を返す。

 

「かかかか。世話になったのはむしろ俺らの方さ。海賊の親玉を追っ払ってくれたのはもちろんうちの場合は新しいメニューやら、店のマニュアル作りとかいろいろしてくれてたし」

「そうだよ?だからそんなこと気にすんのはやめな」

 

 シドウのその言葉に、彼の妻であるメグもそう答えて彼に同調する。

 

 実際、ユーリが店に来てから店の売り上げが伸び、回転効率もかなり上がったために、この2人は海賊撃退の件もありユーリに大きな恩義を感じていた。

 

 それに短い期間であったが一緒に住んでいたことにより、いつの間にか彼ら2人はユーリのことをどこか息子のように考えていた。

 

 だからこそ、彼らは慈愛の視線をユーリに向ける。

 

「仲間を探すのもいいが、気が向いたらまた顔でも出しに来い。ここはもうお前の家も同然なんだから」

「そうそう。いつでも帰ってきてもいいんだから」

「はは。ありがとうございます」

 

 2人の言葉に笑いながらユーリはそう答えると、次は先ほどから無言で俯いているルーシィへと視線を向ける。せっかくできた友達との別れに、その大きな瞳から大粒の涙を流していた。

 

「……ルーシィ」

「ユーリ。本当に行っちゃうの?」

 

 本当に悲しそうに上目遣いで見上げてくるルーシィの姿はさすがにユーリにもつらいものがあったが、しかし彼にも譲れない目的があり、そのためにユーリは心を鬼にしてぐっと堪える。

 

「ああ、俺も名残惜しいが、一刻も早く仲間たちを助けなければいけないからな」

 

 そしてユーリが思い返すのは、彼と同じく楽園の塔を追放されてしまったエルザと彼とエルザを楽園の塔から追放したジェラールの姿。エルザの行方はもちろんジェラールの豹変の理由も突き止めなけらばならないと考え、ユーリは決意を新たにする。

 

 ルーシィにもそんな彼の決意の固さはなんとなくわかっていたのだが、しかしそれでも初めての友達との別れはつらいのか、その場で少しぐずりだす。

 

「でも、でも……ッ!!」

「わかってくれ、ルーシィ。――――それにこれでお別れということじゃないだろ?」

「え?」

 

 ユーリの言葉に涙目になりながらも不思議そうに首をかしげるルーシィ。ユーリはそんな彼女の首からペンダントのようにぶらさがっている金色の鍵(・・・)へと視線を落とす。

 

 実は今回の件でユーリがシャルバと命がけの戦いをしていたことを知り、もう友達が戦っている時に何もできない自分は嫌だと、前々からレイラに頼み込んでいたらしいのだが今回の件がきっかけで、星霊魔法を習うことにしたらしいのだ。

 

 そして彼女の首からぶらさがっているのは「黄道十二門」という星霊魔法を使うために必要な鍵の中でも最も希少な12つの鍵の内の一つで、元々はレイラの持ち物だったらしいのだが、今回ルーシィが星霊魔法を習うということで、その記念として彼女から譲られたのだとか。

 

 現在のルーシィの魔力では残念ながら使用することはできないが、しかしせっかく母がくれた物だということで満足に使用できるまで、お守り代わりとして首から下げているということらしい。

 

「それに将来立派な魔導師になっていろんなところを旅したいっていっていただろう?それならいつかまた会えるだろ。な?」

「……うん、わかった!そうだよね、また会えるよね?」

「ああ!」

 

 ようやく涙を拭き満面の笑顔になったルーシィの姿を見て、ユーリも満足げな笑みを浮かべながらもその場で立ち上がった。

 

「それじゃあ、そろそろ」

「ああそうか。……わかった、元気でな?」

「ええ」

 

 そうしてユーリはそのまま歩き出そうとしたのだが、一旦その場で立ち止まり再び見送りに着ていた面々に再び向き直ると勢いよく頭を下げた。

 

「――――今までありがとうございました!!」

 

 こうして紅の少年ユーリの冒険は次の舞台へと移り変わる。

 

 だが、彼は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――実は今回の事件には裏で暗躍していたある存在がいたことに。




どうでしたでしょうか?短くて本当にすみません。本当はこの後に続く話があったのですが、内容的に分けて考えた方がいいかな?と思ったのでこの後の閑話にさせていただきました。

それでは感想や誤字脱字の報告。アドバイスなどがありましたら、ぜひよろしくお願いします。


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閑話 幽鬼の企み

どうも、最近とうとう話のネタが尽きかけているえんとつそうじです。いや、別に話す必要がないといわれればそうなんですけどね(笑)

さて、今回は実は裏でこんな企みしている人がいるんですよーという話です。それでは暇つぶしにでもどうぞ。


 『オーク』。

 

 有名な港町であるリオの近くにある歴史観溢れるこの街には、ある有名な魔導師ギルドの本拠地が存在していた。

 

 そのギルドの名は「幽鬼の支配者(ファントムロード)」。マグノリアに本拠地がある有名ギルド「妖精の尻尾(フェアリーテイル)」と対をなすほどの知名度を誇り、構成員の数だけに限っては、フェアリーテイルを大きく上回る。

 

 そのファントムロードのギルドマスターである”ジョゼ・ポーラ”。どこかなよなよとした印象を受ける彼は、しかし若くして聖十大魔導に選ばれた天才魔導師であり、単純な才能に関してはフェアリーテイルのマスターであるマカロフ・ドレアーを上回るとすらいわれている。

 

 そんな彼は、今ギルド本部にある自室でとある案件(・・・)の偵察に出していた部下から、その案件についての報告を受けていた。

 

 初めはお気に入りの銘柄のワインの入ったグラスを傾けながら、どこかご機嫌の様子でその報告を聞いていたが、報告を聞いている内にその機嫌はどんどんと悪くなっていき、そんな彼の様子に恐れをなした部下が報告を終え急いで部屋から出ると、とうとう耐えかねたのか、持っていたグラスを部屋の壁に思いっきり叩きつけた。

 

「――――くそ!!シャルバの野郎、せっかく御膳立てしてやってのに失敗しやがって、使えねえ!!」

 

 いつもの紳士然とした口調はどこへやら、まるでそこいらのチンピラと同じような言葉遣いでそう吐き捨てる。

 

 そう、実はルーシィの誘拐の件について、この男はシャルバに密かに裏で手を回して協力していたのだ。

 

 確かにシャルバは強力な魔導師であったが、しかしそれはいいかえればただ強力な魔導師であり、本来世界的な財閥の一人娘であるためにその動向についての情報ができるかぎり外部には秘匿されているルーシィの行動を、いくら評議委員会の軍隊を全滅させた経験があるとはいえ、ただの一海賊であるシャルバが知ることができるわけがない。

 

 だからこそ、ジョゼはその数ある魔導師ギルドの中でも最大規模の情報網をフルに使い、ルーシィがハートフィリア婦人である母親と共にリオの街にある別荘にやってくるという情報を手に入れると、手の者を使いこっそりとその情報をシャルバが知ることができるように工作したのだ。

 

 そしてルーシィを誘拐したシャルバたちを、ジョゼが自ら出向き捕らえることによりハートフィリア財閥に恩を売り、その資金援助を得て自らのギルドの影響力をさらにこの大陸に浸透させようというのが彼の計画だった。

 

 評議委員の軍隊をも全滅させた悪名だかい海賊を倒すことにより名声を得て、さらにハートフィリア家からの資金援助をえるきっかけを得ることができるというまさに一石二鳥の計画。証拠を残すようなへまもしておらずジョゼも成功に絶対の自信を持っていただけあり、ただの子供の魔導師に倒されたという情けないシャルバに彼は怒りを隠せなかったというわけだ。

 

 そしてひとしきりここにいないシャルバを詰り、罵倒することにより何とか落ち着きを取り戻すと、未だ顔を顰めながらもどっかりと再び椅子に腰をかけると、机の上に置いてある報告書に再び視線を向ける。

 

「しかし、あのシャルバを倒すとは。例え油断していたとしてもこの報告にあった子供。なかなか才能溢れる魔導師のようですねえ」

 

 実はシャルバ討伐の任務はファントムロードの魔導師たちも何度か行ったことがあるのだが、しかしシャルバの実力が予想以上に高かったためその悉くが返り討ちにされていた。そのことから、おそらくシャルバを倒すにはギルドマスターである自分自身か、ファントムロードきっての精鋭たち。所謂S級魔導師である「エレメントフォー」ぐらいだろうと考えており、今回の計画で自分自ら出ようと考えていたのは演出ということもあるが、単純に他の魔導師では確実に対処できるという確信がなかったからだ。

 

 先ほどは計画が失敗に終わってしまった怒りでシャルバのことをひとしきり罵倒していたジェゼであったが、実はこのようにその魔導師としての実力自体は認めていた。だからこそ、シャルバを倒したという子供の魔導師に彼は強い興味を抱いた。

 

 そしてあることを思いついたジェゼは、その口元に先ほどとは違い、どこか愉快げに笑みを浮かべる。

 

「ふむ、報告では強力な炎の魔導師ということでしたね。もうリオの街を旅立ってしまったということですが、もし支部の方で見つけたら勧誘させてみるのもいいかもしれません。強力な魔導師の勧誘はギルドマスターの義務でもありますし、なにより――――あの忌々しい妖精の尻尾(ハエども)に勝つには強力な駒は多いほうがいいですしねえ」

 

 そしてファントムロードギルドマスターであるジョゼ・ポーラは、そのどこか狂気の宿った瞳を細めるのだった。




はい、というわけで今回の事件はファントムロードさんちのジョゼさんがこういうことを企んでましたというお話した。まあぶっちゃけリオの街をファントムロードの本拠地が置いてあるオークのすぐ近くに置いたのは、この最後に持っていきたかったからです。……まあ正直もっと上手く書きたかったんですが、私の現在の能力ではこれが限界です。すみません(泣き)

さて、ファントムロードのオカマもどきマスターに目をつけられ始めてしまった主人公。これからどうなるのかお楽しみに。……まあどうにもならないんですけどね(笑)


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閑話 悪魔からの誘い

どうも、えんとつそうじです。今回は港町リオ編の付け足し?みたいなものです。

本当はこれからのネタばれになるかもしれないから書く気はなかったんですが、こういうのもいいかなーと思いまして。

それでは暇つぶしにでもどうぞ。


 港町リオの警備隊詰所に隣接している場所には、拘束した犯罪者たちを止め置くための留置場が存在するのだが、現在その留置場の部屋全てが満員になっており、急遽仮の留置場を別の場所に増設する事態へと陥っていた。

 

 その理由は、突如町を襲撃してきたある海賊団の襲撃。とある少年魔導師の活躍もあり、この町の警備隊はなんとかその海賊たちを撃退し、逮捕拘束したのだが、その海賊たちの数があまりにも多すぎてこのような事態になってしまったというわけなのだ。

 

 そしてそんな留置場の中で、最も厳重な監視体制をとられている一室がある。そこには、今回の事件の首謀者である高額の賞金首が拘束されていたからだ。

 

その名もシャルバ・ベルゼブル。そう、このリオの町を襲撃した海賊たちの首領にして、少年魔導師ユーリ・クレナイとの戦いにより敗北した魔導師でもある。

 

 彼はユーリとの戦いの最中、自身の魔法のカラクリをユーリに暴かれ、それが原因で自らの劣勢に追い込まれてしまったために、逃げ遅れたのか戦場に現れた子供を人質にとったのだが、それがユーリの逆鱗に触れてしまい、彼の滅悪奥義により敗北。なんとか生き延びはしたが、あまりのダメージに身動きがとれず、そのままこの町の警備隊により逮捕、拘留されてしまったのだ。

 

 ボロボロになりながらも彼はなんとか逃げ出そうとしたが、特殊な錠で頼みの魔法を封じられてしまっては肉体的な強さでは常人並みでしかないシャルバではもはやどうにもすることができず、こうして拘束されているというわけなのである。

 

 彼はいつもの彼とは違い、囚人専用の粗末な服に身を包みながらも、その表情を屈辱の色に染めながら悪態をついていた。

 

「くそくそくそくそくそ!!なぜ私がこのような目に……」

 

 自らを”選ばれた者”と自称する彼は、ナツメグ王国の公爵家に生まれたこともあり、傲慢なまでのプライドの持ち主として知られており、それは海賊にその身を墜とした今も変わってはいなかった。

 

 だからこそ、彼は今の自分の現状を許せなかった。なぜ高貴なる身分である自分が下賎なやつらに捕らえられ、このような目にあわなければならないのかと。

 

 本来彼が今までやってきたこと思えば当然のことなのだが、恐ろしいまでの自己中心的な性格の彼には、今まで自分がやってきたことを悔いるという選択肢などあり得ず、ただただこのような状況に自身を貶めた他者に恨みの言葉を向け続ける。

 

 そんな彼の脳裏にもっとも色濃くその姿が焼け付いているのが、彼がこのような状況に陥る原因となった紅の色の髪を持つ、1人の少年の姿。自身を破ったユーリ・クレナイの姿だった。

 

「あのガキさえ、あのガキさえいなければ全てがうまくいったものを……ッ!!」

 

 ユーリの姿を思い浮かべ、思わずといった感じで歯噛みしながらも呪詛を吐くシャルバ。その形相は凄まじく、魔力を封じられているはずなのに、気のせいかその体から禍々しいオーラのようなものが見えるほどだ。

 

 必ず復讐をと誓うシャルバであったが、それと同時彼は理解していた。今のままでは復讐どころか、以前の生活に戻ることもままならないことに。

 

 これから自分は評議委員会に連行され、評議委員会が管理する監獄に収監されることになるだろうが、そこは今自分がいるこの留置場よりもさらに警備が厳重であり、逃げ出すことなどまず不可能。

 

 ならば警備がまだましなこの留置場にいる内に脱走を試みても見てが、いくら警備がましとはいえ、魔法の技能以外特に特殊な技能を持っているわけではないシャルバではそのようなことできるわけがなく、屈辱に身を焼かれそうになりながらも、彼は今の状況を甘受するしかなかった。

 

「(それにやつが使ったあの魔法。単純な魔法の腕だけならばまだ私のほうが僅かに勝るだろうが、破壊力は私の魔法より断然上。さらにあの戦闘センスならば、次戦えばよほどの準備をしていなければ再び私が敗北してしまうのは確実だろう)」

 

 だからこそ、彼は負の感情で体を満たされていることを感じながらも、渇望した。忌々しいあの子供を上回る力を。この状況すべてをひっくり返せるほどの強大な力を!!

 

「ああ、私にもっと力があれば……ッ!!」

 

 怨念のままに自身の願望を吐露するシャルバ。

 

 そんな彼の言葉に応える者は誰もいない。魔水晶(ラクリマ)で遠隔監視を行っている兵はいることにはいるが、彼らはなるべく罪人たちとの接触を禁じられているし、遠隔だからこそすぐに言葉を返すこともできない。

 

 それにそのようなことがなくても、彼はこの場に拘束されてからずっとこのような呪詛ばかり口にしており、そのために、ユーリに敗北した影響で気狂いとなったと思われていたために、彼を気味悪く思う者は多く、彼に近づく者など殆どいなかっただろうが。

 

 だからこそ、彼の言葉に返す者はなく、彼がいる牢獄には沈黙が広がる……はずだった。本来ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――力が欲しいのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 突如聞こえてきたその声に、シャルバは咄嗟にその顔を上げる。

 

 すると、そこにはいつの間にか1人の少年がそこに立っており、シャルバはその少年の姿を見て、思わず驚愕で目を瞠る。それは気配もなくその少年が現れたこともあるが、その少年の顔にシャルバが見覚えがあったからだ。

 

「貴様はあの時の子供!?いったいどこから入ってきた!!」

 

 そう、彼の目の前に現れたこの少年は、シャルバがユーリとの戦いの最中、人質にとった子供だった。そんな子供が、この監獄でもっとも厳重に監視されている自分の元にやってきたからこそ、彼はここまで驚愕していたのだ。

 

 そんなシャルバの言葉に、しかしその少年は戦いの場で見せた怯えた表情はどこへやら。子供では絶対浮かべないような歪んだ笑みをにやりと浮かべながら、口を開く。

 

『くくくくく。なに、久しぶりに軽い気持ちで外に出てみたら、闇に染まりかけた魔力を感じたのでな。勧誘に来たのだよ』

「勧誘……だと?」

『うむ、お主力が欲しいのだろう?その歪んだ思想に歪んだ魔力。お主ならば魔法の深淵を探れるなかなかの素質を持っていると見た。ならばワシが与えてやろうではないか。――――あの子供に復讐を果たしたくはないかね?』

 

 そこでシャルバは確信に至る。目の前の子供の形をしたナニカ(・・・)。このナニカはそのような純真なものではなく、もっと強大で邪悪で禍々しい。闇に属する何者かであるということに。

 

「貴様はいったい……?」

『……おや?そういえばまだ名乗っていなかったか?』

 

 シャルバの言葉に、その子供は初めて少し驚いたような表情を見せるが、やがて再び歪んだ笑みを浮かべると指を一つ鳴らす。

 

 すると、その子供はどんどんと成長していき、やがてその姿を右目に眼帯をつけ、大きな二本の角が付いた兜を被った老人の姿へと超える。

 

「…な……ぁ!?」

 

 あまりの事態に再び驚愕の表情を浮かべるシャルバ。そんな彼の姿を見て、その老人は満足そうに不敵な笑みを浮かべながらも、再び口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ワシの名は”ハデス”。とある魔法ギルドのマスターをしておるよ」




さて、というわけでハデス君登場の回。そしてシャルバ君再登場決定回でした。

本当はここで書かずに登場回直前で書こうと思っていたのですが、まあテンプレだから別にいいかなと思い書いてみました。

実は、ハデスの代わりに他のハイスクールD×Dのキャラを(ファンキー爺さんとか)悪魔の心臓のマスターみたいな漢字で書こうと思ったのですが、さすがにそこまでの原作改変はちょっとと考えてハデスにしてみました。

それでは今回はここまで。感想や誤字脱字の報告。そしてアドバイスなどお待ちしております。

……あ、後活動報告でちょっとした質問がありますので、ぜひそちらもよろしくお願いします。


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登場人物紹介一覧~港街リオ編~

登場人物紹介一覧、港町リオ編です。


飛ばしても話にはあまり関係ありませんし、ネタばれもありますので、それが嫌な方は飛ばしてくださってもかまいません。


◆ユーリ・クレナイ

 

 

 

性別:男

 

年齢:15歳(外見年齢)

 

特技:料理

 

好きなもの:身内

 

嫌いなもの:家族を害する者、ブラック企業

 

使用魔法:炎の滅悪魔法

 

・サーゼクス・ルシファーが生み出した対悪魔用の破壊魔法。サーゼクスから受け継いだ知識から自力で習得した。

 

使用呪法:消滅

 

 

・元々はサーゼクス・ルシファーが使用する呪法。紅のオーラに触れたものの全てを滅ぼす。

 

 

容姿設定:ハイスクールD×Dのサーゼクス・ルシファーの髪が黒い姿

 

 

 

・この小説の主人公。

 

 ジェラールに楽園の塔を追放、海に放り出されてから港町リオの海岸に打ち上げられ、そこでリオでかもめ屋の店主であるシドウに拾われ、彼の店でエルザの行方やジェラールの豹変の理由を知るために旅に出るための資金を稼ぐために住み込みで働くことに。

 

 リオの街で働きながら、サーゼクスから受け継いだ知識から彼が対悪魔用に生みだした魔法。「炎の滅悪魔法」の習得。さらに同じく彼から受け継いだサーゼクスの固有能力である消滅の呪力を使いこなすための特訓も並行して行っていた。

 

 ハートフィリア財閥の一人娘であるルーシィ・ハートフィリアを誘拐から助け出したことにより、彼女の初めての友人となる。

 

 その後、海賊シャルバの襲撃からリオの街を護ったことにより、リオの町長から謝礼金。そしてシャルバの首にかかっていた大量の懸賞金を貰い旅の資金が溜まったことによりリオの街から旅立った。

 

 

 

 

 

 

◆シドウ・サカツキ

 

性別:男

 

年齢:45歳

 

特技:料理、喧嘩

 

好きな物:料理、妻(メグ)、ユーリ

 

嫌いな物:無銭飲食、昔の雇い主

 

使用魔法:無し

 

 

 

・リオの街の穴場的存在である定食屋「かもめ屋」の店主。

 

 昔は凄腕の傭兵と知られており、その実力は引退してしばらく経った今でもそこいらの魔導師相手なら素手でなんとかできてしまうほど。

 

 喧嘩が大の得意ではあるが、別に殺し合いが好きというわけではなく、昔から得意であった料理で店を開こうとしていたためにその資金を貯めるために傭兵をやっていた。そしてその資金が溜まったために十年ほど前から自身の故郷であるリオでかもめ屋の名で定食屋を開いた。

 

 ちなみに妻のメグとはお見合い結婚ではあるが今でもらぶらぶ。

 

 

 

 

 

 

◆メグ・サカツキ

 

性別:女

 

年齢:42歳

 

好きな物:夫(シドウ)、ユーリ

 

嫌いな物:ゴキブリ、セールス

 

使用魔法:無し

 

 

 

・かもめ屋の店主であるシドウの妻。

 

 恰幅のいい陽気な女性で、家事の達人。

 

 シドウとは実はお見合い結婚であり、十年経っても子供はできないが今でもらぶらぶ。

 

 

 

 

 

 

◆ルーシィ・ハートフィリア

 

性別:女

 

年齢:10歳

 

好きな物:絵本、精霊、母親

 

嫌いな物:昆虫

 

使用魔法:無し

 

 

 

・原作キャラの一人

 

 世界的に有名な財閥であるハートフィリア財閥の一人娘。リオの街に母親であるレイラと共に別荘にやって来て、街をメイドのスペットと探索しているところをシャルバ一味の海賊に誘拐され、貞操を奪われかけるところをユーリに助けられたことから彼に憧れを抱いている。(これが恋愛に発展するかどうかは今のところ不明)

 

 ユーリがシャルバと命賭けの戦いをしたということを聞き、自分は何もできなかったことを嘆いた彼女は今度は自分も力になりたいと思い、かつて凄腕の精霊魔導師だったというレイラから精霊魔法を習うことに決めたらしく、彼女が持っていた黄道十二門の一つである鍵を譲り受けている。

 

 

 

 

 

 

◆シャルバ・ベルゼブル

 

性別:男

 

年齢:24歳

 

通り名:”貴賊”のシャルバ

 

好きな物:支配、魔法の開発

 

嫌いな物:下賤な者、自分のいうことを聞かないもの。

 

使用魔法1:光の造形魔法。

 

魔力を形あるものに造形する魔法。シャルバが使う造形魔法は威力が他の造形魔法より低めの代わりに最速を誇る光の造形魔法。

 

使用魔法2:偏光魔法(トリックアート)

 

光の屈折を変化させ、自分のいる位置を誤魔化すことができる魔法。しかし音や匂いなど視覚以外の魔法は誤魔化すことはできない。

 

容姿設定:ハイスクールD×Dのシャルバ・ベルゼブブが若くなった感じ

 

 

 

元ナツメグ皇国の公爵家次男。自ら王となるためにクーデターを起こそうとしたが失敗。国から命からがら逃げ出し海賊となる。

 

凄腕の魔導師で、評議委員会の軍隊を殲滅した経験もあるが、ハートフィリア財閥の一人娘であるルーシィを攫おうとして失敗。ユーリと戦闘となりトリックアートの弱点を突かれたことにより敗北する。

 

モデルは前述したようにハイスクールD×Dの旧魔王派シャルバ。光関係の魔法を使うのはHSDD原作でア―シアを消そうとして光の攻撃をつかったことぐらいしか攻撃手段の印象が作者になかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 



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