ダンジョンで〈英雄〉を追い求めるのは間違っているだろうか? (ネマ)
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第1話 水剣



この小説を読んだ後君はきっとこう言うだろう……!

何故ベルをTSさせてヒロインにしなかった??と。


 

 

 

古い、昔の夢を見た。

まだ誰も彼もが生きていて世界には自分と両親と幼馴染とその両親しか知らなかった時。父様は母様の“英雄”で母様は父様の“運命”だった時。

 

「英雄かぁ……」

 

いつもの様に自分と幼馴染は川の畔で2人並んで座った。ただ無邪気に肩を並べながらいずれ来る将来に向けて笑いながら話した。……だって幼馴染の両親もそうだったから。自分も幼馴染もきっとそうなるだろうと薄々考えていた。

 

自分だけの“英雄”を。自分だけの“運命”を見つけるという事。

 

「ね。◼️◼️◼️?」

 

けどそうはならなかった。そうなるはずだった未来はある日突然消え失せる。

自分の両親も幼馴染の両親も帰ってこなかった。帰ってこないまま数日。未曾有の事態に泣きじゃくる幼馴染に何となく自分は気がついていた。

 

父様たちは“役目”を全うし、母様も“宿命”に殉じたのだと。

 

悲しかったかと言われるとそうなのだろう。でもそれを越えるほどの感情が自分には湧き上がっていた。……その感情の名前は“羨望”。役割を全うして宿命に殉じてそうなる筈だった結末に一切嘆く事なく愛し合っていたあの2人が。

 

どれほど素晴らしい“理想”だったのだろうかと。

 

「…………なに?」

 

「◼️◼️◼️は……何処にも行かないよね?」

 

金色の目を涙に濡らしながら幼馴染の少女は抱きついて離れない。

幼馴染の何処にも行かないでという遠回しな懇願は、死んだ両親へ向けた感情が追悼ではなく羨望だった自分にとって、どうして幼馴染を思う様な返事が出来るだろうか。

 

「………ううん。自分は“英雄”を探しに行く」

 

あの日。“何よりも怖い化け物”に臆する事なく向かっていった父様と母様。

命を運び、与える水の精霊の子孫として自分は母様みたいになりたかった。いずれ現れる“英雄”の背を支える“相棒”に。………憧れに目を輝かせる自分とは裏腹に“まるで絶望したかの様に瞳から光を消した幼馴染”を気にもかけず。

 

「……………じゃ、じゃあね?」

 

あの遠い空の果て。まだ見ぬ世界には“人間”が“エルフ”が“獣人族”が“小人族”が“ドワーフ”が多種多様な“英雄”になるかもしれない器を持つ人たちがいる。と母様から聞いていた。まだ幼いこの身であろうと憧れは止められなかった。

 

幼馴染の少女のか細い声が聞こえる。まるで慌てる様に耳元で呟く幼馴染の少女の声にはもう涙で震える声とは程遠く、“まるでありし日の英雄”の様な力強い言葉が紡がれた。

 

私が英雄になったら…ずっと一緒にいてくれる?

 

この時。自分はなんて返しただろうか。今となっては確かめようの無い原点。

 

 

 

 

 

 

貴方は世界の中心。“オラリオ”という都市を知っているだろうか。

元々は“迷宮”というダンジョンから出てくる凶悪なモンスターの巣窟を封印する様に作られた都市。“神々”の居住区である“バベル”を取り囲む様に出来たその都市は神から受け賜る『神の恩恵』という力を持って迷宮に挑む。

 

───そんな老若男女を人は〈冒険者〉と呼んだ。

 

 

 

「あー!もう帰る途中だったのにぃぃぃぃぃ!!!」

 

ドップラー効果を発生させながら男女数名がいかにもダンジョンらしい洞窟を駆け上がる。そうここはダンジョンの中。その物音に引き寄せられたモンスターも新しく出てきたモンスターもその男女数名はまるで轢き殺すかの様に瞬殺し、とある存在を追いかける。

 

「もう後二体程度…!」「アイズ。こっち」

 

とある存在というのは“ダンジョン内に存在するモンスター”。個体名で言うなら【ミノタウロス】である。迷宮の深いところに潜る〈冒険者〉なら難なく倒してしまえるだろうが男女数名が駆け上がる浅瀬は初心者が多い。…そのため追いかけている【ミノタウロス】は他の冒険者を殺してしまう危険性がある。

しかし、何故逃してしまったのだろうか。

 

「なんでモンスターが逃げるんだよぉ!!」

 

「ふざけんな!俺が知りたいわ!!」

 

そう。この男女数名が所属している冒険者の集まり…通称ファミリアのメンバーであるロキ・ファミリアはついさっきまで迷宮の深層と呼ばれる深いところまで潜っていた。まだ見ぬ深さに挑もうとした時。異常事態が発生し、団長である【勇者】フィンの命令で一旦帰宅する事になった。

その途中であったのが【ミノタウロス】である。何故か知らないがこのミノタウロスはロキ・ファミリアを見た瞬間、戦うわけではなく全力疾走で逃げ出したのだ。

 

勿論、追いかけて討伐しないわけにはいかない。動けて…尚且つステータス上にある“俊敏”の値が高い男女数名の精鋭がモンスターの後を追う。

 

()()()ァ!水貸せ!!」

 

「ざっけんな!もう魔力尽きかけだぁ!!」

 

白い髪と白い狼耳をたなびかせた【凶狼】ベート・ローガは前を走る金髪2人の内の1人に声を掛ける。風を纏う少女とまるで空を蹴るかのように縦横無尽に進む少年の内…アミラと呼ばれた後者が一瞬振り返りベートに大声を張り上げる。

 

「ちっ!ラスト一体追って!アイズ、アミラ!!」

 

「「………………!!」」

 

その後ろから追従してきたアマゾネス…【怒蛇】ティオネが前を走る【剣姫】アイズとアミラに声を掛ける。その瞬間、自分が先だと言わんばかりにまるでかけっこを始める様にさらに加速を始める二人。

 

「見えた……!」「………………!!」

 

暴風が吹き荒れる音と空を切る無機質な駆動音が空間に満ち始めた時、そこには2人が追っていた筈の巨体…ミノタウロスが人間の数倍以上に膨らんだ腕を振り下ろさんと構えていた。

ミノタウロスの後ろには一つの人影がある。つまりもう冒険者が襲われている最中だったのだ。なりふり構っていられないと言葉にするわけでもなく2人とも示し合わせた様に一つの言葉を口にする。

 

「【目覚めよテンペスト】」

 

「【滴り満ちよアクエリスタ】」

 

それは魔法。超短文詠唱で起動されたその二つの魔法は一つは風となり、一つは水となりミノタウロスの背後を強襲する。同時に起動された二つの魔法が“意外と相性が良すぎるのか”一つの暴風雨となり風はミノタウロスの身体を引き裂き、水はミノタウロスの身を穿つ凶弾になる。………まあつまりはオーバーキルという事だ。

 

「………やぁ少年。無事か?」「…………無事?」

 

金髪青目の少年と金髪金眼の少女。

本来ならここでミノタウロスの臓物に濡れた少女を怖がったかの様に逃げ出す筈だった白く赤目の少年はまるで見惚れる様に2人を見上げる。それもそうだ。ミノタウロスの臓物に濡れた筈の血の色はまるで溶け落ちるかの様に2人から消えたのだから。

 

「…………え、あ…はい。」

 

未だ呆然とするウサギの様な少年を尻目にアミラは考える。アミラはとある“スキル”の影響で周囲の人間の身体の動きなど“内部”の細部まで分かる事が出来る。この少年は身体付きからしてまだまだ駆け出しも駆け出し。それでも……

 

(ミノタウロスから逃げる選択が出来るのか……!)

 

今となっては秒殺のミノタウロスだが昔の…それこそアミラが駆け出しだった頃にミノタウロスと戦うのは遠慮したい。更にはきっと多くの人間は足を竦めて立ち止まってしまうところをこの少年は逃げ出し“生存”を掴んだ。

 

「少年。名前は?」

 

「……っと。ベル、ベル・クラネルで、す」

 

ベル・クラネル。ベル・クラネルと。アミラは口の中で何度も復唱する。

この“見応えのありそうな”ルーキーの名前を覚えておこうと。

 

「ベル・クラネル。覚えておく……所属ファミリアは?」

 

「…………!?」

 

「ヘスティア・ファミリアです!」

 

覚えておく。とアミラが言った途端、その横で所在なく周囲を見渡していたアイズが綺麗な二度見をしてアミラを見る。それほどアミラが“ベル・クラネル”という名前を覚えておくと言ったのが珍しかったのだろうか。

 

「一旦帰ると良い。……また後日連絡させてもらう」

 

「は、はい!」

 

ベル・クラネルを見送り、アミラは後ろから迫りつつある本陣の方に向かっていく。どうやらもう既に他の場所に逃げたミノタウロスを倒していたメンバーも本陣に帰っていた様だ。

 

「……………ねえ。アミラ」

 

「アイズ……?」

 

向かっていく最中。アミラの背に一つ声が掛かる。

アイズの声だ。だがそのアイズの声は何処か震えており、まるで何か強い感情を抑えている様にも聞こえる。アミラが振り向くとそこには髪が表情を覆い隠してよく見えないがそれでも全身を震わせたアイズがいた。

 

「…………………ううん。なんでもない」

 

「そう?」

 

直後、一度息を吐いたアイズはいつもの様に表情が見えにくい仏頂面で本陣に歩いていく。これは少し機嫌悪いな…と悟ったアミラはアイズに合わせて歩きそのまま本陣に向かったのだった。

 

 

 

 

 

ダンジョンに異常事態が発生したとはいえ、無事に帰る事が出来た。

レベルアップという偉業を成し遂げたのは今回は残念ながら居なかったがそれでもステータスに上昇は見られる。とりあえずお疲れ様という慰安も込めてロキ・ファミリアは〈豊饒の女主人〉という酒場にお邪魔する事になった。酒だけでなく料理の質も高く、そしてロキ・ファミリアのような最大派閥から小さな木っ端冒険者まで平等に受け入れる人気店である。ちなみに店員も可愛い。

 

「それじゃ!かんぱーい!!」

 

ロキ・ファミリア主神。ロキの掛け声で乾杯となった。主神ロキが酒豪…という事もあってかここロキ・ファミリアには飲兵衛が多い。エルフのやんごとなき身分のリヴェリアや向こうでとあるアマゾネスから無限にモーションを掛けられているフィンや酒乱の気しかないアイズは酒を呑まずお茶やノンアルコールジュースなどを片手に料理を楽しんでいた。

 

 

宴もたけなわ。別のテーブルでは酔いつぶれていたり、酒豪の中でも種族的にも個人的にも酒が強いガレスが笑いながらまた度数のバカ高そうな酒を浴びる様に飲み、それに感化された様にベートが千鳥足になりながらも酒を飲み、アミラもいつも以上に酒を飲んでいた所だった。

 

「なあ!アミラ!聞かせてやれよ!!」

 

突然、ベートがアミラに絡み出すまでは。

酔ったベートの声は広く響き〈豊饒の女主人〉内部全てに響き渡る。アミラはそんな兄貴分の痴態に少し眉を顰めるがそれでも聞きの姿勢に徹する事にした。

 

「お前が助けたあのウサギ野郎だよ!」

 

「兎………?ああ。ベル・クラネルの事か」

 

あのウサギ、ミノタウロスにビビって腰抜かしてやる所をアミラに助けられたんだってよ。と嘲笑うかの様なベートの口調にアミラはベルのことだと名前を出す。

サラリとアミラの口から他人の名前が出てくる事に驚くかと言わんばかりにロキの細目がまんまると開かれ、リヴェリアがフィンが驚く様にアミラを見る。

 

「一体どこに笑える要素がある?……むしろ称賛される所だらけだろうに」

 

酒で多少口が軽くなっているのかアミラのその口調にはベルへの盛大な称賛の言葉が響く。珍しい…というよりか初めて聞くレベルでアミラは楽しげにベルを褒めるかの様に肩を揺らす。

 

だが、アミラの周囲ではあり得ないほどの驚愕が渦巻いていた。

ロキ・ファミリア内においてアミラは基本的に幹部級との付き合いしかない謂わば“高嶺の花”の1つと化していたし、幹部級でもそれこそフィンやガレス、リヴェリアというトップ。そして幼馴染のアイズとしか関わっていない所を見る事も多い。……それこそ話しかければ意外と気さくに話してくれるとは言うが、大体【剣姫】が牽制していると言えばその難易度は高いと言えるだろう。

 

「けっ……良い子ちゃんぶりやがって。」

 

「そうでもない。俺はあのルーキーに“期待”しているんだ」

 

震えるだけのゴミに救いようはねぇ。最初から冒険者名乗んな。とあの白兎をこき下ろすベートに流石のアミラの思うところがあったのか“期待”の二文字をついに声にする。……アミラにとってそれは、ただの期待だったのかもしれない。だが周囲は少なくともそれをただの“激励”以上の言葉と受け取ってしまったのだろう。

 

「はっ!なるほど…てめぇはあのウサギに“英雄”でも見出したってか?!」

 

これは傑作だと言わんばかりにベートは先程よりヒートアップする。まるで万の恨みがこもっているかと言わんばかりの怒号に、ついにアミラは顔を顰めながらベートの挑発に乗る。

 

「まだまだ原石だがあり得ん話ではない」

 

「はっ嘘だな。そんな筈がねえ。お前より弱く、アイズより軟弱で何よりも救えない。気持ちだけ“救われて”、ただ漠然とした“憧れ”でお前の“相棒”足り得る資格はない」

 

「………………………………」

 

酒に酔っているというのにベートの口調は芝居がかり、そして分かりやすくアミラの幼馴染のアイズも織り交ぜてベルをこき下ろす。そうアミラの“英雄”であるアイズを織り交ぜて。アミラの言っていることは間違えていると言わんばかりに。

 

 

「“弱者”じゃあアミラ・フォンディアスには釣り合わねぇ」

 

 

その瞬間大きな物音を立てて〈豊饒の女主人〉から何か人型の何かが疾走して出ていったことをアミラは知覚する。そしてアミラは先程出て行った人影がベル・クラネルである事に気がついた。

 

 

「………………………」

 

「んー……どうしたんや?アミラたん」

 

魔力が尽きる…つまりは精神疲労になりかけのアミラがどうにか絞り出した水弾をベートの頭上に落としてアミラは〈豊饒の女主人〉の戸を開けて周囲を見渡す。どうやらアミラが知覚出来る範囲にはベルはいない様だ。まずい事してしまったなとアミラが周囲を見渡している所に後ろでは水浸しになったベートが周囲数名から縄で縛られ吊らされるという珍事が起きていた。

 

「………ロキ。」

 

「あいはいロキたんやで……言っててダサいなこれ」

 

そんなアミラの背に声を掛けるのは主神ロキ。アミラとアイズを幼少期から見てもらっている育ての親の1人。飲兵衛でどうしようもないカプ厨であるロキだがアミラの信頼している人である。

 

「あの時、何か言えただろうか」

 

「いんや。無理やでアミラたん」

 

あの時をどの時と言うのだろうか。少なくとも天界でトリックスターと言われたロキは多少酔っていていても気がついている。先程逃げ出したのがアミラのいう“新しい英雄候補”だという事に。

 

「アミラたんにはおるやろ?……アイズたんっていう英雄が」

 

浮気になってまう〜と嘯くロキにアミラはただ無言でロキの姿を見続ける。

そう、かもしれない。昔の本当に昔の“約束”。今となってはアイズでさえも覚えていなさそうな契約未満の“約束”にアミラは先ほどまでのベルに対する期待を封じ込める。

 

「ささ。戻ってお酌してや。」

 

アミラたんにお酌してもらうの久々だしーとロキはさっさと〈豊饒の女主人〉に戻って行った。数秒、数十秒経った後にアミラはノロノロとロキの後を追ったのだった。

 

 

(せや。どれほどアミラが“運命”を感じたとしてもそれはあかん)

 

後を追ったからかアミラは最後までロキの鋭い視線に気が付かなかった。

 

(アミラたんにはアイズたんがおる。アイズたんにはアミラたんがおる)

 

アミ×アイ派最大宗主であるロキは純愛厨である。天界でやってた所業?うーん知らん。とばかりにアミラとアイズの仲が続く様にと一番思っているのはロキだ。それにアミラがまさか目にかけるのが男だとは。もしこのまま行くとアイズたんが男に男を寝取られるという大惨事が発生してしまうと危惧していた。

 

(まあ。それはそうとアイズたんははようアミラたんと“本契約”交わすべきやとは思うけどなー)

 

トリックスターであるロキは世界を嗤う。だけどそれでも自分が『恩恵』を与えた“子供たち”が幸せになって欲しいとは心の底から思っている。

 

 

 

 

 

ベル・クラネルは1人夜のオラリオを疾走する。

瞳から涙を流さんとそれでもベルはオラリオを…ひいてはダンジョンに向かってただ走る。

 

「畜生……畜生……畜生っ!!」

 

オラリオに来た理由なんて育てのお爺ちゃんが死んでそんなお爺ちゃんがオラリオに行けって言われたからだ。ただそれだけの理由。けど運命はそこでヘスティア様という神様と会えて夢の〈冒険者〉になれたと思った。

 

『………やぁ少年。無事か?』

 

初めて潜ったダンジョンで気分が高揚していたと思ったら、そこで突然【ミノタウロス】に襲われた。恩恵を貰って間もないレベル1がどれだけ逆立ちしても勝てない相手。自分はすぐさま逃げる事が出来たけどそれでも追い込まれた時はもうヤバいと思った。そしたらその時会えたのだ。

 

人形の様な金髪と海の様な青い目の男性に。

 

目では追えない速さで切られたミノタウロスにまるで“魔法”の様に落とされるミノタウロスの血だとか汚いものが。そして腰を抜かしていた自分の腕を掴んで立たせてくれるという優しさが。

 

それはまるで自分が夢見た英雄の姿の様で──────

 

『ベル・クラネル。覚えておく』

 

そしてそんなまだ駆け出しの自分をわざわざ覚えておくとまで言ってくれたあの人。自分の憧れと羨望のまま、送り返された道を意気揚々と走る事になった。

 

『エイナさーん!!』

 

ダンジョンを出てギルドに戻った時、自分のアドバイザーであるエイナさんの所に真っ先に突っ込んだ。自分の名前は“あの人”に教えてもらったけど“あの人”の名前は聞いていなかったとベルは痛恨のミスを今、実感した。

 

『金髪青目で水を纏っていた剣士さんね………』

 

アドバイザーであるエイナはベルの言っている“金髪青目の水を纏う剣士”の正体が誰か薄々勘付いていた。というか金髪青目という時点で限られる上に水を纏っていたとなると今日までダンジョンに潜っていた冒険者だと1人しかいない。

 

『それは…【水剣けんき】アミラ・フォンディアスさんね』

 

『けんき……ですか?』

 

けんき…アミラさん。アミラ・フォンディアスさん。と何度も何度も自分の理想の人を心の中で復唱して心に焼き付ける。それでも剣の鬼とは随分勇ましい二つ名だなぁとベルはふと考える。

 

『ベルくん。アミラさんの二つ名は水の剣と書いてけんき。よ』

 

『水の剣と書いて……』

 

そう思えば凄く似合っている二つ名だなと憧れる。

あんな風に一撃で消し飛ばして更にはこんな自分まで覚えておいてくれるだなんて。

 

『それで…ベルくん。君はどうしてそのアミラさんが気になったの?』

 

『実は………』

 

ダンジョンの深いところまで潜ってしまった所、何故か下から逃げてきていたミノタウロスと鉢合わせてしまった事。どうにかして命からがら逃げ出せたのは良いものの行き止まりに行ってしまい後少しというところで後ろからアミラさんに助けて貰った事。

 

その後、深く潜った事で〈冒険者は冒険しては行けない〉という鉄則だとかお叱りを受けてしまったけど僕にはもう憧れしか目になかった。魔法はまだ遠いけどあんな風に人をサラリと助けてあげられるような英雄になりたい。

 

 

 

そうしてファミリア…小さな廃教会の地下が自分たちヘスティア・ファミリアの居城だ。そこではヘスティア様が今か今かと僕を待っていたのだった。

 

『ステータス150アップ?!!』

 

ステータスというのは力、耐久、器用、敏捷、魔力という項目に分けられ、僕は魔法を持っていないから魔力はゼロだがそれ以外のステータスが総合的に150も上がっていたのだ。これはすごい事らしい。

 

『君が頑張った結果だ。』

 

そう言って褒めてくれたヘスティア様と共に、昼間ダンジョンに入る前に来ないかと言われた〈豊饒の女主人〉にお邪魔する事になった。

美味しい料理に舌鼓を打って楽しんでいると〈豊饒の女主人〉の扉から多くの人たちが入ってきた。

 

『ロキ・ファミリアだぜ…』

 

そう、それこそ今日助けてくれたアミラさんが所属するロキ・ファミリアの人たち。首を上げて盗み見ているとそこにはアミラさんもしっかり居た。

どうやらアミラさんは深層という今の僕では到底行けない様な所からの帰りだった様で今日はその祝賀会のために来ているらしい。お酒も入り始めた所を見るに下手に近づかない方が良さそうだとこっちはこっちで楽しんでいる所だった。

 

『なあ!アミラ!聞かせてやれよ!!』

 

そんな時、白い狼のような人がこう大声で言ったのだった。

 

『はっ嘘だな。そんな筈がねえ。お前より弱く、アイズより軟弱で何よりも救えない。気持ちだけ“救われて”、ただ漠然とした“憧れ”でお前の“相棒”足り得る資格はない』

 

自分の事を言われていた。ミノタウロスに追いかけられてそしてアミラさんに助けられた自分の事を、言われていた。どうしようもなく無様だと笑いものだと嘲笑うかの様に。けどそれに自分は何も言い返せなかった。アミラさんに“期待”されていると言われてるのに何も出来ない自分が。何も言い返せない自分が。あまりにも無様過ぎて。アミラさんみたいにと憧れる英雄像とは全く違うものみたいで自分が情けなくて。

 

 

『“弱者”じゃあアミラ・フォンディアスには釣り合わねぇ』

 

 

気がついた時には、もうダンジョンに向かって走っていた。

あの人みたいになりたいだけじゃダメなんだ。あの人みたいになるために何をすれば良いか分からないじゃない。『何もかも』しなければ僕はまたあの人に助けてもらう事になってしまう───────!!!

 

あの人の“期待”を前に純粋に喜んでいた自分が悔しい。虚しい。

このままだとあの人の期待を裏切る。あの人にとって自分は“路肩の石”に過ぎないと思われるのが嫌だ!!

 

悔しい!悔しい!!悔しい!!!

 

………いつか。思い出すだろう。きっとこの時抱いた感情が僕の【英雄憧憬リアリス・フレーゼ】なんだろうと。

 

 

 

 

 

 

『“弱者”じゃあアミラ・フォンディアスには釣り合わねぇ』

 

この、言葉が胸に刺さる。ベートさんが言ったアミラが助けた誰かに向かって言ったはずの言葉。だというのに私の胸はこの言葉が離れない。

 

私、アイズ・ヴァレンシュタインはアミラ・フォンディアスの幼馴染だ。それも生まれながらの。昔からよく一緒に遊んだ事を覚えている。アミラのお母さんやお父さんも仲良くしてくれて、私のお父さんとアミラのお父さんとかよく肩を組んでお酒を楽しんでいた事も知っている。私のお母さんとアミラのお母さんもよく一緒にお茶を飲んだりしていた事も覚えている。

 

けどそれら全部、モンスターに奪われた。

 

2人だけになってしまった家は怖くて、寒くて。

けどアミラと一緒にいるから。人肌の暖かさは私に少しだけモンスターへの怒りをかき消してくれた。アミラと一緒にいる時間だけ、私は昔のアイズでいれた。

 

けどアミラは違った。

 

『アミラは……何処にも行かないよね?』

 

行かないで欲しい。何処にも行かないで欲しい。

私のそんな期待は、私のそんな想いはすぐさま打ち壊される事になった。

 

『………ううん。自分は“英雄”を探しに行く』

 

『………………ぁ』

 

やめて。やめて。ずっと一緒に居てよ。私にはもうアミラしか居ないんだよ。という声は出てこない。それもそのはず、アミラはもう遠くを見ていた。空の向こう。お父さんやお母さんが語ってくれた遠い所を見るかの様なアミラの目は私を見てなかった。

 

アミラがお母さんの語るお父さんみたいな“英雄”を求めているのは知っている。

でも、お父さんたちは言ってた。アミラは“英雄”になれるかも知れない。と。

私はその通りだと思った。……だっていつも私の手を引いてくれる“英雄”はアミラ以外の誰でも無かったから。

 

けどそんなアミラが私を置いて遠くに行くというのなら。

アミラが私を捨ててしまうというのなら。

 

アイズ・ヴァレンシュタイン。覚悟を決めろ。アミラの後ろで泣くだけの幼い自分とは訣別するしかない。これからはアミラの前に立つ……いうなら“アミラだけの英雄”になる。

 

私が英雄になったら…ずっと一緒にいてくれる?

 

これは私たちの最初の約束。私たちの盟約。

そして私の【英雄姫アミラ・カヴィナント】というスキルの根底にあるもの。

 

 

 

いつもの様にダンジョンの深層に潜って初めて見るモンスターにアミラとのコンビで簡単に倒せた。何故なら私の魔法とアミラの魔法は相性が良すぎるから。どちらも同じ付与魔法で合わせる事で威力も私1人じゃ出せない様な威力が出る。

それに私とアミラだけのタッグにはステータスに強化が掛かる。……それはアミラのスキル【風支剣背アイズ・カヴィナント】のお陰で。でも逆にこのスキルの有無でアミラが私を“英雄”と認めているかどうか分かってしまうのは皮肉な話だ。

 

『………やぁ少年。無事か?』

 

嫌な予感はしていた。突然、ミノタウロスが逃げて行った事から。

結構上の方まで逃げて行ったミノタウロスだけど私たちの前なら無力だ。アミラの水の力で索敵は出来るし、後は私の風の補助があればなんの問題もない。

 

そしてそこでは白い兎みたいな少年が襲われかけている所だった。

急いでいたからかアミラも魔法を詠唱して私と同じ様にミノタウロスを倒した。少しやり過ぎたせいかミノタウロスの血やらが飛んできてしまったけどアミラの水がすぐに洗い流してくれる。この時間が好きだった。

 

『ベル・クラネル。覚えておく…』

 

その横では何故かアミラはその少年の名前を聞いて覚えるかの様に何度も口にしていたのが見えた。嫌だ。やだ。やだ。ヤダ。暴れ回る心の中の小さな私が居る。だってアミラが私以外の名前を言うのが嫌だと言わんばかりに。

やめて。そんなの“英雄”らしくない。そういうと涙目で小さな私は止まるけど。ずっとずっと言っているのだ。アミラは私のモノなのにって。アミラは私だけの“◼️◼️”なのにって。

 

『それじゃ!かんぱーい!』

 

ステータスはあまり伸びなくて。それでもアミラから【風支剣背アイズ・カヴィナント】が消えてない事にまた少しだけ安堵して。

私たちは祝賀会ということで〈豊饒の女主人〉に入った。私はお酒が飲めないけどアミラがお酒を楽しんでいるのを見るのは楽しい。これが2人だけならアミラは甘えてくれるのにって膨れっ面してる小さい私もご満悦だ。

 

けどそんな空気を無に返す様にベートさんが余計な事を言った。

あの時、アミラがわざわざ名前を覚えるとまで言った相手の事。

 

『そうでもない。俺はあのルーキーに“期待”しているんだ』

 

やめて。やめて。ここが〈豊饒の女主人〉でなければ泣きながら耳を塞いでしまいたい。アミラがそんな風に他の人を褒めるなんて認めたくないから。そんな微笑みで、私だけの微笑みでその人の期待を込めないで。やめて。やめて。

 

『まだまだ原石だがあり得ん話ではない』

 

私たちの盟約を、契約を。約束を裏切るの?と小さい私は怒っている。

アミラは私を捨てて…その少年を選ぶのだろうか。やめて。やだ。やだ。やだ。……やだ、よぉ………

 

『はっ嘘だな。そんな筈がねえ。お前より弱く、アイズより軟弱で何よりも救えない。気持ちだけ“救われて”、ただ漠然とした“憧れ”でお前の“相棒”足り得る資格はない』

 

ベートさんの言葉が響く。それは私にも当たってしまうからこそ。

アミラに“救われて”、アミラの夢に漠然と“憧れる”自分がまるでアミラの隣に立つ資格は無いと言わんばかりに責め立てる。

 

『“弱者”じゃあアミラ・フォンディアスには釣り合わねぇ』

 

そうだ。弱かったら、弱いままだとアミラの英雄足り得ない。

だから……もっと、もっと力を。アミラの目を、心を魂までも。私の風で埋め尽くせ。

 

 

 

 

 

 






キャラクター設定

水剣けんき】アミラ・フォンディアスレベル.5

ステイタス  不明

魔法   【滴り満ちよアクエリスタ
       ・付加魔法
       ・水属性

スキル  【風支剣背アイズ・カヴィナント
       ・“英雄”と共に戦う時、全ステイタス強化
       ・以下詳細不明



剣姫けんき】アイズ・ヴァレンシュタインレベル.5

ステイタス  不明

魔法    【目覚めよエアリアル
        ・付加魔法
        ・風属性

スキル   【英雄姫アミラ・カヴィナント
        ・詳細不明



ベル・クラネルレベル.1

ステイタス  不明

魔法     なし

スキル    【英雄憧憬リアリス・フレーゼ
         ・詳細不明


反応があれば続きを。


ベルくんちゃんをヒロインにすると真面目にアイズたんに勝ち目が消えるからですね。
もうアミラの目を焼き始めたベルくんがベルちゃんだとアイズたんの出る幕がない……



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第2話 師匠、弟子



反響大きくてビビった……
嬉しさのあまり一日で書き上がっちまったぜ。

今回は【怪物祭】までの繋ぎ。それではどうぞ


 

 

遠征が終わったからと言ってはいそうですか。とは終われないのが現状だ。

倒したモンスターからドロップされる“魔石”の換金、そして使った物資の補充。遠征の時に頼まれた“クエストおつかい”の精算、そして今回特に損害が大きかったのは武器類である。

 

アミラの主武装である片手剣も結構傷ついてしまったと言う事で製作者であるゴブニュ・ファミリアに渡してきた所なのだ。というわけで今のアミラは手ぶらである。今回、任されていた物資の補充を早々に終えたアミラは街の中の小さなカフェで1人、優雅に寛いでいた。

 

そう。優雅に寛げていたのだ。ついさっきまでは

 

「ここのお茶も中々美味しいわね」

 

「………………………」

 

「あら。バタークッキーサンドですって。頼まないかしら?」

 

「…………………あのですねぇ……」

 

優雅に紅茶を楽しめていたのは束の間。アミラの前にはいつの間に座っていたのか白にも緑にも見える不思議な髪色にアメジストのような瞳をした1人の美女がいた。

“神秘的”なまでに美しいその美貌。その姿にアミラは1人だけ知っていたのだった。

 

「何用ですか?神フレイヤ」

 

それは【フレイヤ・ファミリア】の主神フレイヤその人である。

アミラが所属する【ロキ・ファミリア】とは犬猿の仲でありながらもここ“オラリオ”での最大手探索系ファミリアの双璧である。本来なら相容れる事のない2人だがこうして同じ席に着き話すのには一つの理由があった。

 

「あら?私はただ世間話をしに来ただけよ?」

 

「………ならそれ相応の“ガワ”で来てくださいよ。神フレイヤ」

 

考えとくわ〜と一言、メニューからバターサンドクッキーを頼むあたり全く懲りないなこの女神と思いアミラは紅茶を呷る。一応周囲には気遣ってローブを羽織ってきてはいるがそれでも美の女神であるフレイヤは否が応でも人目を引く。

 

「いやよー。……それに今日は休みだもの」

 

「はぁ…………面倒事にだけはならないでくださいね」

 

まあまず無理だろうな。とアミラは思う。

神というのは基本的に享楽家で自由気ままな存在だ。ウチの主神ロキでさえも飲兵衛の助平親父。ならフレイヤはどうかと言われると……一言でいうなら“魂の輝きフェチ”である。

 

「ファミリアの鞍替えはしませんよ」

 

「あら……先に言われちゃった」

 

昔からアミラの前に現れては“フレイヤ・ファミリアに入らないか”と勧誘する神フレイヤ。それだけなら迷惑行為で済むのだが、まだまだ駆け出しの頃に何回か“フレイヤ・ファミリアの団員”に手助けだったり師事してくれた事もあり、あまり大きくその元締めである神フレイヤに出れないというのが現状である。

 

「貴方は間違いなく英雄の器。……だというのに添え物扱いは悲しいじゃない?」

 

「……………心。読まないでくださいよ。」

 

昔から神フレイヤはアミラに言い続ける。貴方は英雄の器だと。その魂の輝きは類い稀なるモノであり“私の英雄”にも勝らずとも劣らないと。神フレイヤは仲の悪いロキの目を掻い潜ってアミラを支援しているのである。

 

「ねえアミラ。本気で私のモノにならない?」

 

私の元なら、貴方を英雄に。貴方の望む英雄の背に立つ英雄にさせてあげる事が出来る。…神フレイヤはアミラに熱烈な視線を向ける。けど数年前からアミラの心意気は変わらない。何故なら……

 

「お生憎様。俺には俺の“英雄”がいます。」

 

「【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン…ね」

 

そうだと言わんばかりにアミラは一度頷く。アミラにはあの日の“約束”を忘れたことはない。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインは間違いなくアミラが決めた“英雄”なのだから。と。

 

だけどそんなの神には関係ない。どれほどその関係は尊いモノだとしてもだ。

 

「私のモノになるなら。貴方は英雄を選び放題よ?それこそ【剣姫】を超える様な英雄候h……」

 

「なあ。神フレイヤ」

 

自分は、どれほど何言われようと構わない。だけどその矛先が“アミラの英雄”に向かうというのならアミラは黙っていられるほど誇りを捨てたわけではない。とアミラは右腕に水の渦を纏い神フレイヤに向ける。

 

「俺の英雄を貶すなら。それ相応の代償は払ってもらおう」

 

「あら。ごめんなさい。でも事実よ?」

 

貴方があの少女に“従い”続ける限り、“貴方は決してあの少女より強くなることは出来ない”。そう神フレイヤは微笑みのまま害そうとするアミラを見る。神フレイヤには見えているのだろう緑色の鎖がアミラの蒼く光輝く魂を縛っていることが。

 

そんな神フレイヤを見てアミラは表情をキツく縛ったまま右腕を下す。

確かに神フレイヤの言っている事に間違いはない。“とあるスキル”の影響で自分はレベル5から上がる事は出来ないのは事実だしそれでアミラも『納得』しているのだから。

 

「下ろすのね。その腕」

 

「……俺がもし神フレイヤを害したとなるとそれで神フレイヤは主神ロキに喧嘩を売って俺を合法的に手中に収めるでしょう。」

 

「あら。そんな事はしないわ」

 

ただ少しばかり“お話”して借りるだけよ?と神フレイヤは満面の笑みで微笑む。

それに…とアミラは言葉を繋げる。アミラにはどうやら感じ取れているのだろう。

 

「貴方ほどの神が1人でに歩く事はない。……居るんでしょう【女神の戦車】が」

 

今も尚、2人を監視し続ける一つの影が。アミラが神フレイヤに手をあげそうになった時一瞬だけその気配に殺意が混じった事をアミラは解っていた。そしてその殺意の持ち主が誰であるという事を。

 

それは【女神の戦車】アレン・フローメルであるとアミラは断定した。

アレンはフレイヤ・ファミリアに所属するレベル6でオラリオ最速の猫人。

 

「アレン?……あの子、着いてきちゃったのね」

 

「自由に出歩く貴方を心配してるんでしょうね」

 

檻にいれてでも縛り付けるべき。とはアレンの言葉だ。

それを思い出したのかアミラは少し思い出し笑いを含めながらアレンのいる方向にアミラは視線を寄越す。“傷付けるつもりはない”という意味を込めて。

 

「ああ。そうそう。今日来た理由はね?」

 

思い出したかの様に声を弾ませる神フレイヤにアミラはまた面倒事になるのでは無いかと渋面を隠さずに神フレイヤを見る。何かと言いながら死にかけるレベルの面倒事を持ってくる事は少なくないから。

 

「あの子の事。頼んだわよ」

 

「あの子というと……ベル・クラネル?」

 

アミラの関わる人の中で神フレイヤが気に入りそうとなるとベル・クラネルしかいない。アイズ?……こうあまり神フレイヤは好ましく無いらしい。と今までを考えるとそうだろう。

 

「そう。まだ未熟だけど光輝き始めた魂……とても素晴らしいわ」

 

「………やりすぎない様に気をつけてくださいね」

 

注意だけしておくけどまあ間違いなくベルの行く末は苦難に満ちるモノだろうな。とアミラはベルに同情した。古来から…神に目をつけられた人間の末路など総じて“生優しい”ものでは無いと知っているからこそ。

 

 

 

 

 

時間は移り、とある日の朝。人気も少ない中オラリオ郊外の平原では鈍い打撃音が響いていた。勇ましい掛け声と共に打撃音だけではなく剣と剣がぶつかり合う甲高い物音も響かせていた。

 

「──────────ぁぁぁああああ!!」

 

「掛け声は勇ましいがまだまだ振りが甘い」

 

朝のひばりでさえも驚いて逃げる様な血と汗が滲む中で2人の少年がナイフを交えていた。白い髪の少年が金髪の少年に飛び掛かる様に襲い、それを金髪の少年はナイフを使うことなく徒手空拳でいなし続ける。

 

「はぁ…はぁ……はぁっ!もう一回お願いしますアミラさん!!」

 

「ああ。何処までも付き合ってやろうベルッ!」

 

次第に体力が尽きたのか白い髪の少年…ベルが地に手を付けるが一度息を吐いたと思えば滂沱の汗を流しながらも金髪の少年…アミラに突貫する。そんなベルの様子にアミラは内心酷く高揚しながらナイフを受け止める。

 

こうして別のファミリアの2人が訓練しているのかと言うとそれは数日前に遡る。

【ロキ・ファミリア】が深層から帰ってきた後、アミラは手持ち無沙汰になったとは言え護身用のナイフ(それでも第二級品である)を片手にダンジョンの上層に潜っていた。

レベル5であるアミラはこの辺りのモンスターなど眠っていても倒せるぐらいだが、それでも身体を鈍らさないぐらいなら適当にモンスターを十匹単位で呼び寄せてバラバラにするぐらいでいい。

 

そうして適当に数えるのも惜しくなるほど倒した後、ダンジョンから出ようとするとそこには見知った白い影がモンスターと戦っている姿を見た。

 

『ベルか?』

 

『あっ……ア、アミラ…さん……』

 

露骨に目を輝かせた後、ベルはまるで罪悪感がある様に目を逸らした。

そしてアミラがその意味を理解できないほど無知では無い。ベルに近づきなんとアミラから頭を下げた。

 

『すまなかったな。ベル。あれは俺らの落ち度だ』

 

『!?……いえ、いえいえいえいえ!!本当に!言い返せない自分も自分ですから!!』

 

そんなアミラにベルは赤面しながら両手を振る。この前のベートの言い方はどうであれ【こちら側】の落ち度であり、何よりミノタウロスは自分達がけしかけたモノだと一通りの意味を込めてアミラはベルに頭を下げる。

 

『そうか……ありがとう……』

 

『いっ…いえ……』

 

『そういえば…君の主武装はそれか?』

 

許してもらえたと見てアミラは次にベルの様子を見る。アミラはその瞬間、驚愕に目を見張る事になる。アミラはスキルの影響で物理的な人の内面まで見れる。そう肉つきだとか体の可動域だとか。それでベルを見ると数日前に見た時より“明らかに成長”しており、その速度はまさに“進化”と言っても過言では無い。

 

『はっ、はい!』

 

『確かに…体格を考えるとそうか……うん……』

 

驚きながらもベルの手にあるナイフを見る。それこそアミラの主武装とは品質には天と地の差があるのが当たり前だがそれでも駆け出しが持つには中々良質なナイフだと分かる。それにベルの小さめな体格を考えればナイフによるヒットアンドアウェイ戦法はハマるだろうと戦術的にもベルの武器選びは理にかなっていた。

 

…………ナイフなら教えられるな。とアミラが一瞬判断した時にはもうこうして口にしていた。

 

『もしよければ君に戦い方を教えてあげたい』

 

『……………ぇ?』

 

これはある意味【ロキ・ファミリア】からの賠償である。モンスターで冒険者を危険に晒した賠償。腐っても一級冒険者であるアミラがその冒険者に戦い方を教えるだけでも十分賠償になるだろうとアミラは脳内で算盤を弾く。………そこにもしベルが戦い方を学べば何処まで行けるのだろうかと言うアミラの“好奇心”が混ざっていないかと言われると嘘になるが。

 

『い、い、い、いいんですか!!??』

 

『ああ。もし君が良いなら…教えてあげようと思う、けど……』

 

嬉しそうに目を輝かせるベルを見てアミラも喜ばしい。今まで色んな人から戦い方を学んできたが(その殆どが物理的に身体に叩き込まれたが)こうして自分が教える立場になると“受け継がれる”事というのは胸の奥から温かいものが溢れてくる。

 

『……じゃ、じゃあ!よろしくお願いします!アミラ師匠!!』

 

『師匠………いいね。うん。行こうベル』

 

そしてアミラとベルの師弟関係が出来上がった。アミラも物理的に叩き込まれたというだけあって実践形式が殆どだがそれでもベルが“今のままではギリギリ見切れない”程度で刃を潰したナイフで身体に直接叩き込む。

 

『ナイフというのは基本的に連戦に向かない』

 

『だからこうしてっ!!こっちがっ!動いてっ!相手を撹乱していくんですねっ!』

 

『理想的にはな。そして……隙ができたら』

 

『その隙に相手を倒すっ…ですねっ!!』

 

普通に振るうナイフだけでなく、逆手からの切り落とし。そして更には狙うべき場所までアミラは余す事なくベルに叩き込んでいく。……日によっては傷を癒せるポーション(アミラ持ち)を使いながらも身体に叩き込まれる戦い方は次第にナイフだけでなく徒手空拳にまで及んだ。

 

『ステイタスだけに振り回されるな』

 

『は、はいっ!!』

 

ベートほどとまでは言わないが手足に水を纏いながら打撃をする事もあるアミラはその辺りも強い。ベルとアミラの体格の差というのは大きいがベルはアミラから習った基本とアミラがダンジョンで見せてくれた戦い方を元に1つの戦い方を編み出していく。……そうその戦い方は見る人が見ればアミラを踏襲している事がわかる様な戦い方を。

 

幸か不幸か。アミラとベルの鍛錬は早朝に行う事が多かったからかそこまで大きな話題になる事は無い。……ただまあバベルの最上階からたまに貞操の危機の様な嫌な予感がするのにアミラは冷や汗を流した事はあるが。

 

「はー……はー…はーっ!」

 

「ベルお疲れ様。明日は休むといい」

 

「え゛……師匠もう……」

 

疲労困憊の満身創痍なベルにアミラは持ってきていたポーションを満遍なく振りかける。ベルの事だ。どうせこの後ダンジョンに潜って復習するのは目に見えているからか生傷や打撲の痛みは消してやろうとポーションを奮発する。

ほぼほぼ毎日してきたこの鍛錬を明日は休みにしようと言うと、ベルはまるで見捨てられた子犬の様にアミラを涙目で見上げる。どうやらベルは勘違いしている様だとアミラは苦笑し告げる。

 

「明日は…怪物祭モンスターフィリア。お祭りだ」

 

そう。明日は怪物祭モンスターフィリアというオラリオで年に一度のお祭り。アミラにとっては毎年のモノだがまだオラリオに来て一月も経っていないベルは初めてのお祭りだ。その日ぐらいは楽しんでこいとアミラはベルに発破を掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイフの細い剣線が白銀色になって自分を襲う。ギリギリ僕が見える程度に調整されているその剣線は一切のブレがなく僕の四肢を狙う様に調整されている。

 

「(まず左足っ!そして右手っ!!)」

 

どうにかそのナイフをいなし自分の逆手持ちのナイフで相殺し、“作られた隙”に僕は同じ様に体を、肩を、手首を活かし師匠を襲う。けど師匠はこちらの剣先を見ることもなく最も容易くいなし、無効化してくる。

 

「(っ!!?)」

 

瞬間、師匠のナイフは逆手持ちから順手持ちに変わり、この戦いが始まってから1番の悪寒が背筋を走る。ナイフの突きだ。幾ら刃を潰しているとは言え当たればタダでは済まない。確実に汚いモノを吐きながら悶絶する。……だっていつぞやかでそんな感じになったから。

 

「避けるか。キチンと身体に覚えてきてるな」

 

「手、加減されて言われても、ですねっ!!」

 

本気でやってほしいか?という師匠の言葉に全力で首を横に振りながらナイフ片手に師匠の周りを駆け回る。確実に後ろを取れたと思った攻撃も簡単に相殺されてしまう内に自分の体力が尽きた。

 

「…………はー……はー……はーっ!!」

 

「……では、先ほどの反省会をしようか。ベル」

 

師匠に水筒を片手に渡されながら僕は地面に倒れながら水を飲む。冷えた水がとても美味しい。そうして息を整えていると隣に座った師匠に起き上がり顔を向ける。

 

「はい。無駄な動きが多かった…ですかね?」

 

「そうだな。格下…同格相手にはあれでもまだ通用するだろう」

 

最後の周りを駆け回ったあれ。今思えば自分でも無駄が多いしずっと師匠の背中を狙っていた。あれではフェイントを作りやすいだろうし僕もフェイントに引っかかりやすい。

 

「次は上手くフェイントを織り交ぜる様にしないとな」

 

「はーい……」

 

師匠の言う通りだ。師匠は第一級冒険者であるレベル5。それに引き換え僕はまだ冒険者になりたてのレベル1だ。本来なら師匠の攻撃なんて見えないはずのレベル差も師匠が最大限ギリギリ分かる程度に手加減されているのだ。

 

「ここからもよろしくお願いします!アミラ師匠!!」

 

「ああ。行くぞベル」

 

 

拝啓。空に旅立ったお爺ちゃんへ。オラリオでハーレムというのはよく分かりませんでしたがお爺ちゃんの言ってた“英雄”みたいな人と出会い、何の運命かその人のたった1人の弟子にしてくれました。

 

どうしてそんな事になってしまったのか。話は数日前に遡る。

 

あの日強くなりたいと〈豊饒の女主人〉から飛び出した後、殆ど毎日ダンジョンに篭りっぱなしだった。強く、強くなれる様に。あの憧れた“英雄”の背に少しでも近づける様に僕はがむしゃらにダンジョンを駆け巡った。

 

『ベルか?』

 

ある日の事。いつものようにダンジョンで戦い終えた後、後ろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。僕の名前を知っている人なんてこのオラリオでは一握りしかいない。そう考えて振り向くとそこには“とても見覚えのある金髪の人”が立っていた。

 

そう。彼こそが僕の“憧れ”【水剣けんき】アミラ・フォンディアスさんだ。どうやらアミラさんもダンジョンに潜っていてあの日見た片手剣では無く、ナイフ1つでダンジョンに挑むアミラさんをカッコいいと思ってしまった。

 

『もしよければ君に戦い方を教えてあげたい』

 

何故、アミラさんが僕に頭を下げるのか。

その理由がベルにはいまいち理解できていない。いやまあミノタウロスに襲われた原因がアミラさん…【ロキ・ファミリア】であろうともアミラさん個人が頭を下げる必要は無いはずだとベルは少し腹を立てた。……まあその実、全部アミラの独断である事にベルは気が付かなかったが。

 

それでもその怒り以上にベルの内側では歓喜の感情が湧き上がってきた。

夢でも見ないような展開。まさか、まさか“憧れ”の人に稽古をつけてくれるなんて。とベルは今日の出会いをヘスティア様に感謝した。

 

『……じゃ、じゃあ!よろしくお願いします!アミラ師匠!!』

 

『師匠………いいね。うん。行こうベル』

 

まあそう言う理由でベルはアミラの弟子になったのだ。

しかもアミラ師匠が言うには僕が一番弟子だという。

でも、日に日に稽古つけてもらえる中で僕の心にほんの少しだけ、罪悪感が溢れ出てきたんだ。

 

 

「師匠。……1つ僕の話を聞いてくれませんか?」

 

鍛錬後。体を休めるのも十分鍛錬の一つという師匠の言葉通りに平原の原っぱに身体を投げ出す。吹き付ける風は鍛錬して熱った身体を覚ますのにとても気持ちがいい。師匠も瞳を閉じて…瞑想?って言うんだっけ。それの隣で僕はふと師匠に問いかけた。“僕がオラリオに来た理由を”……女の子との出会いを求めてやってきたという事を。

 

「………そうか………」

 

「………………………はい」

 

今考えればとても不埒な考えだ。迷宮に潜る〈冒険者〉は自分の命の危険があるのにそれでも迷宮に潜る。その意味が、その誇りが。アミラ師匠と共に迷宮について学べば学ぶほど。師匠の戦い方を知れば知るほど。自分の甘い心算が嫌になってくる。

 

師匠はなんて言うだろうか。破門だろうか。

怖いけどそれでも師匠に相談したかった。

 

「ベル」

 

「はい」

 

重く苦しい言葉と共にアミラ師匠が口を開く。

なんて言われるだろうか。恐怖するまでもなくアミラ師匠が口に出す。

 

強くなれば女の知り合いも増えるぞ

 

「………!?…師匠!?」

 

いつもの表情でサムズアップする師匠に何でか僕の肩と今まで感じていた罪悪感が落ちていくのを感じた。なんかそうやって師匠と女の子の話をする事なんて無いと考えていたから。こうしてアミラさんとそんな話を出来るとは考えてもいなかったから。

 

「じゃあまあベルの“出会い”のために強くならないとな!」

 

「はいっ!胸をお借りしますアミラ師匠!!」

 

今日もまた、僕はダンジョンに潜る。

いつか、いつか…あの背と隣り合わせで戦えたら良いな。なんて考えながら。

 

 

『明日は…怪物祭モンスターフィリア。お祭りだ。』

 

そういえばそんな祭りがあるんだっけ?

師匠も楽しむらしいし僕も明日だけはお祭りに行ってみようと思います!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異常事態ということで新種のモンスターが出現したのはいいものの、そのモンスターの特性は溶解液だった事もあり多くの武器が劣化、破損そして融解。“一級品”とも言われる最上位(値段的にも品質的にも)武器がそんな感じといえばどれほどの激戦だったのか分かるだろう。

【大切断】ティオナ特徴的な武器であるクソデカ両刃剣…【ウルガ】は見るも無惨に溶け落ち、アイズの【デスペレード】も溶け落ちるとまで言わないが今回の異常事態で劣化が激しいという事で製造元である“ゴブニュ・ファミリア”に持っていく事になった。まあそこでつい前日作ったばかりだった【ウルガ】が溶け落ちていた事に職人たちが倒れたりしたがそれはまた別の話。

 

 

「………何しに来た。」

 

「剣の整備を頼みに来ました」

 

そんなティオナたちを横目にアイズは奥の扉に吸い込まれる様に入っていく。

そこには白髭を生やしているというのにとても筋肉質な1人の老人が嗄れたそれでも覇気のある声でアイズに問う。そんな老人に臆する事なくアイズは目的を一言簡潔に言い、剣を渡したのだった。

 

「………ふん。【ティアペレード】も歪んでいる所を見るに中々激戦だったのか」

 

「……………!!」

 

【ティアペレード】。それはアミラの主武装であり、アイズの【デスペレード】の双子剣である。

形状は両方とも同じサーベルであり【不壊属性】付きという一級品武装。それでも壊れないだけであって切れ味などは落ちやすいし、特に武器にそのまま魔法を付与するアイズの魔法は更に武器の寿命を短くする。

 

では逆に属性は違えど同じ魔法であるアミラの魔法はどうかと言うとこれもこれで鍛冶屋泣かせである。というかそもそも水を纏う魔法な時点で剣とは相性最悪。剣は錆びるだろうし錆びてしまえば切れ味どころの話ではない。それでもアミラは度重なる剣の屍(比喩にあらず)を重ね、そして剣の作製者である神ゴブニュの何度も配分を変えた合金でようやくアミラの魔法でも錆びず、そして威力を殺さないアミラの愛剣である【ティアペレード】が誕生した……という話だ。

 

「はい。………お願い、します」

 

「……また後で取りに来い」

 

そんな鍛冶屋の涙の記憶とアミラの苦い過去なんて関係ないとアイズは並べてある【ティアペレード】の隣に自分の【デスペレード】を置く。こう見ると2本とも本当に差異が無いほどに同じ剣に見える。

 

「……………………」

 

ふと、アイズは【ティアペレード】を撫でる。常に水が渦巻いている様なこの剣からは、まだ持ち主の魔力を感じられる。この剣はある意味でアミラの半身だ。そして私の【デスペレード】も私のある意味で半身だ。その半身が同じ双子剣であるそれだけで小さい頃の私は今でも尚喜び剣を頬擦りする。

 

 

 

(………何処に行ったんだろうアミラ……)

 

ふと1人になった街中でアイズはアミラを探すように歩き出す。

ダンジョン明けのロキ・ファミリアは忙しいがやるべき事を終えたら自由だ。アイズは所在なく周囲を見渡しながらアミラの人影を探す。

これはアイズとアミラだけだが、この2人においてアイズはアミラの居場所を“なんとなく”の精度で探す事が出来る。“本契約”を交わしたのならそれこそ居場所だけでなく考えている事も分かりあうが今はまだ“それ”をしたくなかった。

 

そうして歩いているとカフェの椅子に腰掛けていたアミラの姿を見た。

いつものように紅茶を嗜むアミラの姿に1つだけ強い違和感をアイズは覚えた。

………どうして、アミラの席の前の椅子が人1人分空いているのだろう?と。ただの偶然かも知れない。アミラの前に座った人がそのままにしたのかも知れない。それでもアイズの内心では強い警笛を鳴らしていた。

 

 

そしてその“悪い予感”は覆される事なくアイズの目の前に現れる

 

 

「お久しぶりね。【剣姫】」

 

底冷えするほど恐ろしいほど冷め切った声とは裏腹に言葉一つ一つに意識全てが持っていかれそうなほど強い“魅了”。アイズはこれを十分よく知っていた。

 

「神、フレイヤ」

 

一言呟く視線の先には灰色のローブを被った人影がある。

あれだ。そうアイズは断定する。あれが、あれこそが【ロキ・ファミリア】と争う【フレイヤ・ファミリア】の主神。フレイヤ。そしてアミラを個人的に狙い続けるアイズの明確な“敵”。

 

「そこまで気を苛立てないで。今日は何もしないわ」

 

「………………………………」

 

どうやら知らず知らずの内にアイズは臨戦態勢で構えていたらしい。

そりゃそうだ。アミラを狙い続けて、ある時は私と共に居たのにアミラを抱きしめて奪おうとしたそれも何度も。アミラは親切な神様かと思ってるかもしれないがアイズにとって神フレイヤという存在は怨敵というのに相応しいのかも知れない。

 

「貴方には、ね?」

 

その瞬間、アイズの周辺に緑色の暴風が舞った

 

「アミラに何をしたっ!」

 

今持っている剣が【デスペレード】ではなく“ゴブニュ・ファミリア”から貸し出されたモノであろうとも、もうアイズは風を抑えられるほど穏やかではいられない。

私には何もしない…けどアミラには何かしない訳じゃない。そう考えると最初の違和感や嫌な予感はこれだったのだ。アミラに神フレイヤが近付くという事が。

 

アイズの暴風は吹き荒れ、周囲の軽い物を飛ばす。

神フレイヤのローブも風に煽られたなびくがそれでも顔まで下ろされたフードを開けることは敵わない。仕舞いには神フレイヤに飛び掛かるのではないかというほど目を細め剣を引き抜こうとしたその瞬間。アイズの首筋に無機質な穂先が構えられた。

 

「そこまでにてしてもらおう。【剣姫】」

 

「………ぁ………【女神の戦車】……!!」

 

いつの間にアイズの背を取ったのか、アイズの背からは1人の猫人の男性がアイズの首筋を捉えていた。【女神の戦車】…それは【フレイヤ・ファミリア】のレベル6。レベル5であるアイズではそもそも素のステイタスで差が出る。そのたった1つのレベルの差は大きいのだ。

 

「ありがとう。アレン」

 

「はっ。この身に代えましても」

 

もうアイズに戦う気がないと分かったのかアレンは大人しく槍を下ろしフレイヤの前に跪く。一度アレンを褒めた神フレイヤは直後アイズを見下したように見る。

 

「それは……そうと」

 

「…………………っ!」

 

「やっぱりダメね。」

 

アミラなら対処できただろうにという視線にアイズは苦虫を噛み潰したようにフレイヤを睨む。図星だったから。きっとアミラなら出来ただろう。とアイズ自身も小さい私も満場一致で認めている。

 

「強くなりなさい。【剣姫】」

 

「貴方が強くならないと…あの子がいつまでも強くならないわ」

 

そう一言だけ視線を介さずに残すフレイヤの言葉にアイズの内心は穏やかではいられない。神フレイヤのいう事は間違いではないからこそ。アイズは何も言い返せない。

 

「……そんなのっ!私が誰よりも分かって……っ!!」

 

小さな嘆きは皮肉にも風に絡め取られて消えていったのであった。

 

 

 

 

(………今日もやってる)

 

アイズは眠気眼を擦りながらオラリオ郊外の物陰に隠れて二つの影を見る。

アイズの視線の先では…いつぞやかの白兎とアミラがナイフを交えている姿。どうやらアミラはあの白兎に指導をしているらしい。それも数日前から毎日。

 

ロキ・ファミリアの寝床は基本的に指定制である。不思議とアミラとアイズは隣の部屋同士という事もあってか(何故かそこの部屋の壁だけ薄いというのは内緒)物音がすれば意外と分かりやすいものだ。そんなこんなで数日前からまだ朝早いのに武器を持って家を出るアミラの姿を何度かアイズはドアの隙間から見ている。ここまで早朝に出歩いている人もファミリア内には居らず、アミラは誰に咎められる事なく出ていっているようだ。

 

それが数日続いたある日。アイズの中で好奇心が疼いた。

“アミラはこんな朝早くから何処にいってるんだろう?”と。

そうしてアイズは後ろから尾行する事にしたのだった。尾行する事数分。アミラが向かった先はオラリオ郊外の平原。ここに一体どんな用事があるんだろうと首を伸ばした瞬間だった。

 

『おはようございます!アミラ師匠!!』

 

『今日も精が出るな。ベル』

 

そこには、少し前アミラに助けられた白兎…アミラの言う“期待”している子とアミラが会っていたのだ…………は?……は?………えっ??どうして?なんでアミラがあの子とあってるの?どうして?ねえなんで?

アイズの脳内で盛大に“何か”が破壊されるような音がして、直後に小さい私が泣き叫びながら地団駄を踏むのが分かる。……なんで?どうして?どうしてアミラはそんな楽しそうにあの白兎に稽古をつけてあげてるの?

口の内側で鳴るガリッという嫌な音と共に私はもう自分を抑えきれないんじゃないかとアイズは黒く澱んだ瞳で2人の鍛錬を見る。

 

鳴り響くナイフとナイフが交差する音は違和感しか感じない。

アミラが持つべき武器は【ティアペレード】だ。断じてあんなチャチなナイフなんかじゃない。認めない、決して認めないと小さい私も滂沱の涙を流しながらアミラを見る。

 

………ああ。そうだ。アミラは手加減してるんだ。あのレベル1が分かりやすいように。しばらく見ていると違和感の正体に気がつく…アミラの攻撃がやけに見切りやすいのだ。それはつまりわざわざあのレベル1のために手加減している事以上の何物でもない。

 

「………やっぱり」

 

そうして眺めていると2人の鍛錬は終わりらしい。

あのレベル1が疲労困憊だというのにアミラは涼しい顔して立っている。そんなアミラもカッコいいと小さい私も両手を振って喜んでる。

 

「アミラには……私しかいないんだね……」

 

アミラの“期待”してるレベル1は到底アミラには追いつくはずがない。

アミラに追いつくまでに私が強くなってアミラもレベルアップしたらいい。どれほどアミラがあのレベル1を気に入ってるか知らないが。

 

アミラは私だけの………なんだから。

 

 

 

 






ヒント:本契約というのは『屈服』という事です。



感想、評価などお待ちしてます!


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第3話 怪物祭、強襲



ランキング上位に載ってるってま?……マジやん(執筆意欲がグーンと上がる音)
ここまで早くお気に入り数が1000人行ったのは感無量の他ありません。
このままの波に乗っていける様に作者も頑張って行きますね……!

今回は、怪物祭。
またの名をアイズたんの脳回復祭


 

 

 

【怪物祭】通称モンスターフィリアというお祭りはオラリオで年に一度開催される大規模なお祭りだ。この日のために遠方から客が来る事も少なくない。【ガネーシャ・ファミリア】という街の治安も守っているファミリアが開催しているという事もあってかこの日ばかりは〈冒険者〉たちも祭りの空気に酔いしれる。

 

「アミラ。怪物祭行こ?」

 

「ん。行こう。」

 

例年通りアイズの誘いに乗りアミラは怪物祭を楽しむつもりだった。

この日ばかりは鎧を脱ぎ捨てアイズもアミラもたまにしか着ない普段着でおめかしして楽しむつもりだった。ロキ・ファミリアを出る直前までは。

 

「ちょいちょいちょいー!アイズたんとアミラたんは待ってー!!」

 

後ろから騒がしく聞こえるアイズとアミラを呼ぶ声。2人ともほぼほぼ同じタイミングで振り向くとそこには親代わりの主神ロキが駆け寄ってきた。今から怪物祭を楽しもうと思っていたところの横入れだ。流石のアイズでさえも顰めっ面を隠さない。

 

「ちょいといつもの装備で付きおうてくれん?」

 

下が私服でも構わないがいつもの戦装と武器を持ってきてとロキは2人に頼み込む。そんな時間が掛かるような案件ではないがそれでも用事が用事なだけあって2人とも来て欲しいと。

 

「………どうする?アイズ」

 

「ロキ……それ終わったら……」

 

「ええで!2人で楽しんできてくれたらええ」

 

アイズが主神ロキに言質が取れたのを見て渋々ながらも従う。

そんなアイズを見てアミラも反対はないと部屋に戻り戦装と剣…は今はメンテ中だから最近使うことの多いナイフを手に取り懐に収めた。

 

「………予定変わっちゃったね」

 

「うん。でも……」

 

ロキの後ろを周囲に注意を払いながら歩く2人は小さく声を交わす。

たまに着る普段着の上からの戦装という事もあって慣れない感じはあるがそれでもアミラはアイズをチラリと見ながらも護衛に集中する。

 

「アイズのその服。とても似合ってる」

 

「!?」

 

普段の戦装姿もアイズらしくて好きだが、こうして普段着ないオシャレをするアイズの姿もアミラは嫌いじゃないと変則的に好意を伝える。その意味を理解したのか一瞬アイズは沸騰したのかと言わんばかりに赤面した直後に小さくこう呟く。

 

「アミラも……それ似合っててカッコいいと、思うよ……!!」

 

(うーん。空気が甘酸っぱいでなぁ!!)

 

尚、2人だけの空気になってはいるがその前には親代わりである主神ロキがいる事を忘れてはいけない。一連の流れを聞いていたロキは2人の恋模様を微笑ましく思いながら口の中が甘くなってきた感覚がしたのであった。

 

 

「着いたで。2人とも」

 

「………ここは」「……………??」

 

それから少し歩いて着いたのはなんの変哲もない店。

アミラは見覚えがあるのか意味深に一言呟くがアイズは何も分かっていないように首を捻っているようだ。

 

「まあ2人を連れてきた理由はなー?」

 

人気の少ない店の中を悠々自適に主神ロキは歩き、奥の扉を大きく開く。

その奥で座っていたのは……少なくとも数日以内に2人とも見た女神の姿とその隣に立つまるで小さな山みたいな巨体の大男。

 

「遅かったわね。ロキ」

 

「けど時間通りやろ?……ほら2人とも」

 

ロキに促され2人はロキの左右に立つ。ロキが会いにきた相手とはそう。【ロキ・ファミリア】とダンジョン探索系ファミリアの天下を二分に争う相手である【フレイヤ・ファミリア】の主神フレイヤと、神フレイヤが誇るオラリオ“最強”であり文字通りの“頂点”である【猛者】オッタル。

 

()()()()()()()アミラ・フォンディアスです。」

 

「………アイズ・ヴァレンシュタイン……で、す」

 

アミラはこうして何度か神フレイヤと顔を合わせているがアイズは“公式上”初めての出会いとなる。アイズの対応が硬いのも恐ろしいほどの“美”としての覇圧を持つ神フレイヤに恐れているのか少しばかり警戒を崩さないのかとロキは考えたのだろう。

 

「……ま。ええわ。これがうちの特にお気に入りの子やなー」

 

「あら。いい趣味してるわねロキ。」

 

そちらのアミラ。貸してくださる?と指差す神フレイヤにロキは非常に顔を顰めて中指でも立てそうな勢いでこう言ったのだった。

 

「………色ボケが」

 

「あら。愛多き女神と言ってくれるかしら?」

 

主神ロキの皮肉に神フレイヤは微笑み悪態を受け流す。

二柱にとってこれぐらいの会話はデフォルトのような物だ。……まあこうして公式的に顔を相見えるだけで延々に“貸して”という神フレイヤにロキは非常に飽き飽きしているのだろう。

 

「恐れ多くも……俺はロキに恩があります」

 

だから改宗する事は万が一にもあり得ない。と真正面からフレイヤを見る。

確かに神フレイヤは恐ろしいほど美しい…けどそんな事は今は関係ないとねじ伏せる。

 

「………生意気な子」

 

「ほらな?うちのアミラがそう易々と持ってかれるわけないねん!」

 

そうしていると神フレイヤは一度小さく微笑んだ後いつものお決まりのように呟く。これでフレイヤの勧誘は一旦終わり。“魅了”に持っていかれなかったアミラにロキはこれ傑作だと笑う。

 

「…………ま。とりあえず本題行こか」

 

「ええ。ロキが私を呼ぶほど重要な事があったのでしょう?」

 

一通り腹を抱えて笑ったロキは笑いすぎて出た涙を拭き取り、いつもの狡知神らしい笑みでフレイヤと向かい合う。……こうして知謀と策略の入り混じる神と神のぶつかり合いを見る事になってしまった。

 

 

「纏めると…新種の魔物にその強化種もどき。ね」

 

「そうや。」

 

今回、【ロキ・ファミリア】の遠征時に発生した異常事態。その内容が神フレイヤとの間で共有される事になった。あの新種は“溶解液”が非常に厄介だが耐久性はそこそこ。強化種はそもそも格が違うとの事でアミラ・フォンディアスとアイズ・ヴァレンシュタインが共同で討伐した。とだけ。そもそも身を守れる付加魔法のトップが2人がかりという事にその強さが分かるだろう。

 

「情報提供ありがとうロキ。また何かあれば知らせるわ」

 

そう言い、席を立とうとする神フレイヤにロキはその細目から鋭い視線を向ける。

 

「待てや。フレイヤ」

 

「………何かしらロキ?」

 

「トボけんな」

 

そうロキは吐き捨てフレイヤにこう質問する。

 

「また暗躍してるの上がってんねん。……単刀直入にいうけどまた色ボケてるな?」

 

もはや質問ではなく確認の域にまで入ったロキの質問に神フレイヤは認めるかのように忍び笑いの声を上げる。ロキのその質問はもはや愚問と言わんばかりに。

 

「ええ。ええ。認めるわ」

 

「今度はなんや。男か女か」

 

険しい表情で神フレイヤを睨むロキと対称的に神フレイヤは微笑みを崩そうとしない。そしてそのまま法悦としたまま…“ベル・クラネル”を暈してこう言ったのだ。

 

「あの魂の輝きは素晴らしいものよ…そうそれは青く光って透明色で輝くような魂。」

 

「青く光って……?まさか……!」

 

青く光って…と神フレイヤが言った時点でロキはアミラを見る。内心ヤッベと思いどう弁解するかな〜と心の中で考え始めた所だった。突然、神フレイヤが立ち上がり虚空を眺めたのは。

 

「…………急用が出来たわ」

 

「へ?フレイヤ?……おーい?」

 

こちらを見る事もせず忙しなく出ていく神フレイヤにロキはその半目を半分見開きながら驚き、神フレイヤに呼びかけるがそのまま扉からオッタルと共に出ていくのだった。……残されたロキとアミラとアイズは本当に文字通り沈黙するしか無かった。

 

「ま、まあ……ええか」

 

伝えたい事は伝えられたし…とロキはとりあえず納得した様だ。

ここからどうするの?というアイズの視線に気がついたのか。ロキは2人を見渡しここからの休暇を告げる。流石にいつもならもう怪物祭を楽しんでいた2人だ。ここかで付き合わせた以上、親として約束を破るわけにはいかないと。

 

「2人とも、楽しんでおいで」

 

「………!いってきます」「ありがとう。ロキ」

 

瞳を輝かせいってきますと手を振るアイズにアミラは引きづられる感じでロキに感謝を告げながら盛り上がるオラリオの街並みに飛び出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〈オラリオ特設舞台・バックヤード〉

 

本日の【怪物祭】には1つとても大きな催し物がある。それはオラリオに置かれた特設舞台で行われるダンジョン内のモンスターの公開テイムという一大イベントである。これも【ガネーシャ・ファミリア】が行うということで安全性も抜群な筈だった。………この時までは。

 

「ねぇ…教えて?鍵はどこにあるのかしら?」

 

バックヤード。つまりは公開されるまでのモンスターを保管しておく場所には本来、【ガネーシャ・ファミリア】の精鋭だけがいる筈なのに。一応の見回りに来た冒険者の背には1人の女性が立っており、蠱惑的に魅惑的にその冒険者を魅了する。

 

「ぁ…ぅぁ………ぁ…」

 

ローブを羽織っているというのにその隙間から漏れ出る魅了に冒険者は逆らえず崩れ落ちる。

ここまで強い魅了を出せるのは神、それもたった1人の神だけだろう。

 

「フレイヤ様。こちらに」

 

「ふふ。ありがとうオッタル」

 

モンスターもその魅了の塊とその下で傅く圧倒的な強者の波動にまるで野生を捨てたかのように沈黙するほかない。

そう。彼女たちこそ、先ほどの神ロキとの対談を強制的に切り上げた神フレイヤとオッタルである。

 

「シルバーバック。貴方に決まりね」

 

神フレイヤは一つの檻に近づくと共にその鍵を開く。後ろではオッタルが別の檻を順番に開けていく。神フレイヤは自らの“魅了”の効果を高めてモンスターを自分の支配下へと置く。そしてその中で神フレイヤが近づいたモンスターとは【シルバーバック】という11階層の迷宮に存在する猿の様なモンスター。特徴といえば足ほどまで伸びる長い銀色の髪。

 

「出てきなさい。……貴方はベル・クラネルを追いかけるの」

 

手枷足枷目枷までつけていたとしてもレベル1が敵うはずのない相手。だというのに神フレイヤはベル・クラネルの情報を。そして一緒にいるであろう神ヘスティアの存在を教え込んでいく。

 

「さて。後は………」

 

地上に連れて来られたモンスターは【シルバーバック】に【ソードスタッグ】そして【トロール】。どれもこれも決してこのモンスターたちが千匹襲いかかったとしてもレベル5を苦しめる事は出来ないだろう。

 

ならば。と神フレイヤは1つの鬼札を切る。

そう、それこそ……

 

「オッタル。()()()()()()()()()()

 

「…………はっ。この命に代えましても」

 

神フレイヤが持つ【フレイヤ・ファミリア】並びに迷宮都市オラリオ“最強”である【猛者】オッタルを使うという事…オッタルのレベルは驚異の7。少なくともレベル5が逆立ちしても勝てる様な相手ではない。

 

「稽古をつけてあげる感じで良いわ」

 

「……………はっ。ですがフレイヤ様」

 

「ええ。」

 

それでもアミラ・フォンディアスは一矢報いる事ができる器だと神フレイヤは信じている。……ああ。だからこそだろうか。もし、もしも“オラリオ最強”の前で腑抜ける事があるというのなら。

 

「半殺しまでは、構わないわ」

 

「……拝命いたしました」

 

冷酷なまでの神の命令に逆らう事なくオッタルはその瞬間まで闘気を固め続ける。

そしてその瞬間は───────

 

 

 

 

 

 

「アミラ。はい。あーん?」

 

「じゃあアイズも。あーん?」

 

怪物祭は盛況のまま続く。多くの出店が出ていて食べ物だけでなく小物や掘り出し物なども売り出され、四方八方に楽しむ人々の声が響く。勿論、アイズとアミラも戦装を着ているとはいえ、楽しめないはずが無い。小物を2人で買い、それをシェアし合い、アイズの大好物である【じゃが丸くん】の別味同士を食べさせあったりして時間は過ぎ去っていく。

 

そしてそのまま夕方になり、大人たちが騒ぐ夜の祭りになる筈だった。

 

「モンスターが逃げ出したわー!?」

 

遠くで叫び声と怯え声。さらには街中で聞くはずのないモンスターの雄叫び。

即ち、戦いの気配を十分に感じ取った2人は顔を見合わせそして一度頷いたと思ったら2人とも魔法を使いその元凶の場所へと直行する。

 

「…………っ!あれは……」

 

「新種の、モンスター」

 

地面から飛び出す花の様な巨大なモンスター。

だけどそれだけではない事をアミラとアイズは察していた。地下にはまだ似たような反応があるとアミラはナイフでアイズは心許無い替えの剣で連戦する覚悟をした。

 

その瞬間だった。

 

「!?向こうで白髪赤目の小さい少年が“シルバーバック”と戦ってる!?」

 

周囲によく響く声でギルドの受付嬢が声を張り上げる。どうやら襲ってきたモンスターはこの新種だけでなく【怪物祭】のために連れてきたモンスター達も脱走しているようなのだ。

そしてそれだけではなく、逃げ出したモンスターの向かっていった先では白髪赤目の小さい少年が立ち向かっているというのだ。

 

「!?………もしやベルか?」

 

「!?知り合いですか!?アミラさんっ!」

 

運命はここで微笑む。モンスターが逃げ出したと声を張り上げた受付嬢がベルのアドバイザーであるエイナで会ったこと。そしてアミラがベルの師匠であること。そして……2人ともベルなら立ち向かうだろうという今までの経験則上そんな予感がしたのだ。

 

「っ!だが………今はっ!」

 

だがここでアミラの冷静な〈冒険者〉としての精神が二つを天秤に計る。1つは“ベルを助けにいくこと”そしてもう1つは“力量が分からない新種のモンスター複数体の討伐”を。

アミラの天秤は揺れる。どちらを取ったとしても分の悪い賭けだということを。ベルを助けに行ってアイズを危険に晒したくはない。だがアイズと共闘する事でベルが命を落とす。あまりにも理不尽すぎる2つの決断にアミラは重い口を開こうとしたその時だった。

 

「アミラ。私は大丈夫。」

 

「……………アイズ!?」

 

既に剣を構え、風さえも巻き起こしていたアイズが一言。アミラに言った。

向こうに…ベルの助けに行けと。自分は大丈夫だからとアイズは言ったのだった。そしてそのアイズの選択にアミラも渋面と苦悶の表情を一瞬だけするがまるで“何か”を思い出したかの様にアイズに一言こう告げた。

 

「アイズ………“あれ”を使おう。」

 

「!?………いい、の?」

 

そうアミラが声をかけるとアイズはさっきまでの臨戦体勢とは打って変わって赤面しながらアミラを見る。……アミラとしてはそんな顔で見られると自分も気恥ずかしいものがあると言わんばかりに表情に朱色が帯びる様になる。

 

そう。その“あれ”とは簡単な事だ。アミラは強引にアイズの唇を奪ったのだった。

謂わゆるライトキスのような口付けだがそれでもキスはキスだ。まるで感情の昂りに反応したのか2人の身体から翠色の光と蒼色の綺麗な光が混ざり合い、そして1つになる。

 

「開け───盟約カヴィナント

「開け───盟約カヴィナント

 

示し合わせたかの様に呟かれた1つの同じ言葉。それは1つのスキルの効果を発揮するために必要な言葉。もう気がついていると思うが【風支剣背アイズ・カヴィナント】と【英雄姫アミラ・カヴィナント】は互いに交わした“約束”がスキルとなった物だ。スキルとなるほど強い思いのこれは1つ、神でさえ見抜けなかった効果を発現した。

 

そうそれこそ今のアミラとアイズ。片目同士が入れ替わったかの様にアミラの右目は“金色”になり、アイズの左目は“青色”になっている。……勿論、ただそれだけではない。このスキルの真の効果は2つ。“英雄/運命”の魔法行使並びにステータスの向上である。今のアミラはアイズの【目覚めよエアリアル】を使用出来るし、アイズはアミラの【滴り満ちよアクエリスタ】を使用する事が出来る。更には互いのステータスの向上という効果を持って今の2人のステイタスは

 

()()()6()()()()ほどの強さになっている。

 

「………いってきますアイズ。」

 

「ん。いってらっしゃい。アミラ」

 

まるでお使いに行くかの様な気軽さで2人は互いに背を向けながら自分の目標に進むのだった。

 

 

 

今や風を纏った水の大嵐となったアミラは普段なら絶対に出せない速さで街並みを抜ける。問題のベルが戦っているであろう所の通りに入った瞬間だった。強化されたアミラのステイタスでさえもギリギリまで分からなかった斬撃がアミラを襲ったのだ。

 

「………………っ!!?」

 

真正面。もしアミラが盟約カヴィナントを使っていなければ顔から身体にかけて縦でぶった斬られていたであろうその斬撃は鋭く、そして本来なら頑強に作られているはずの街並みの道にくっきりと斬撃の痕を残している。………そしてこの時点でアミラは気がついていた。こんな斬撃が…レベル6がギリギリまで分からないほどの攻撃を打てる様な〈冒険者〉に。

 

「どういうつもりだ……っ!!」

 

いつの間にか立っていたその姿に問いかける。

自分の身長ほどある大剣を地面に突き立て、それでいて尚その猪人は仁王立ちでアミラを感情の見えない眼差しで射抜く。その巌のような巨体はつい先程、アミラは目にしていたはずである。

 

「【猛者】オッタル…ッ!!」

 

「………拾え。【水剣】」

 

その男こそ、そう。【フレイヤ・ファミリア】所属のレベル7。オラリオ最強を欲しいままにする【猛者】オッタルがアミラを強襲したのだった。先に通す気がないと分かったのかアミラは歯噛みしながら心許ないナイフを構える。するとオッタルはその背から一本の剣をアミラに向けて放り投げた。

 

それはアミラの主武装である【ティアペレード】に似ているがそれでも別物だと分かる。それでもアミラの武器に似たレプリカを投げて来たということはつまりオッタルはアミラとの戦いを所望しているということだ。そしてこれに勝たなくてはアミラを先に行かせないつもりなんだろう。

 

「…上等だ。その首貰うぞ!頂点ッ!」

 

瞬間。ノーモーションでアミラは剣を引き抜く。その瞬間アミラが纏っていた筈の大嵐は剣にも纏わりつき、見る人が見ればまるでその姿は“魔剣”だと言える。

 

「何処からでも、来い」

 

そんな大嵐を前に目を細めるだけでオッタルは剣を引き抜くのではなくただ仁王立ちしたままアミラを挑発するかのように手招きする。それが2人のぶつかり合いの合図だった。

 

「(思っていたが………っ!)」

 

この盟約カヴィナントとなったアミラは手数で押し切る戦法を主体に戦っていた。風で撹乱しながら水でトドメを刺すこの戦い方はアミラにとって不足ない戦い方の筈だった。……この時までは。

 

「(硬すぎる……!これがレベル7っ!)」

 

だがその戦い方は逆に威力に欠けると言うことになる。そしてその足りなくなった威力では【猛者】に碌な傷を付けることは敵わない。それにオッタルの所持する特殊アビリティである【魔防】は魔法攻撃に対する耐性をつける物だが…いかんせんオッタルの【魔防】は高すぎた。それだけでも威力が殺されるというのに種族特性などで今のアミラでは押し切るどころか撹乱するのに精一杯だ。

 

「…………未だ。その【過去スキル】に縋るか」

 

愚かな。と吐き捨てるオッタルはついにアミラに向かって明確に敵意を込めた一撃を見舞う。オッタルの右腕から繰り出されるストレートにアミラはどうにか剣の腹で抑えようとするが一瞬均衡した後に、アミラは地面と平行に吹っ飛ぶ事になる。

 

「(……………っ!!意識…が……)」

 

何処かの壁に背中がぶつかり、その衝撃でアミラは口から無様にも息を吐き漏らし身体に満ちる痛みと衝撃にアミラの意識は閉ざそうと視界は暗く落ちていく─────

 

 

 

 

 

 

 

 

師匠が言っていた【怪物祭】というのは本当に大きなお祭りらしいとベルはヘスティア様を連れて出店を見て回る。それでもまだ小さなファミリアと言う事だけあってかあまりお金が無いのも現状だ。今回の【怪物祭】の出店で出ている食べ物とかは半分こしながら楽しんでいた。そしてヘスティア様がこの【怪物祭】1番の目玉を見せてあげるとヘスティア様の案内で歩いていた。その時だった。

 

“モンスターが逃げ出した”という叫びとモンスターの声が近くでしたのは。

 

「っ!逃げようベルくん!!」

 

「………はっ!……っ!?」

 

騒がしくなる周囲に逃げる人並み。怒号が響き、そしてそれに負けず劣らずモンスターの雄叫びが聞こえる。あまりに近くにいるとベルはその時気がつく。…まあただ逃げるには少しばかり遅かったという事だが。

 

「あれ、は……」

 

無人になった周囲に逃げ遅れた神様と僕。そして目の前にいるモンスターはあの日会った“ミノタウロス”と同じぐらい悪寒がする……つまりそれぐらいのモンスターという事。尾のように長い白い髪にまるで大きな猿のような姿。

 

「シルバーバック……!」

 

ベルはその姿を人伝で知っている。まだベルが潜れないような所から現れるモンスターのうちの一体。どう足掻いても今のベルでは決して敵うことの出ない相手。〈冒険者〉は時に逃げることも大事だと、ヘスティア様の手を取り逃げ出した筈だった。

 

だけど話はそう上手くいかない物だ。

 

「……ベルくんっ!」

 

「神様ぁ!」

 

遠くでは他のモンスターが街中を荒らしているというのにこもシルバーバックだけはこちらに狙いを定めたまま、まるで恐怖心を煽るかの様にゆっくりと嗤いながら近づいて来るのだ。

逃げられない。もしこのまま後ろに後退し続けると〈冒険者〉でもなんでも無い人たちがとても無惨な事になる。

 

「神様……どうか逃げてっ!」

 

怖い、恐ろしい、逃げたい、どうして。頭の中でグルグルと渦巻く感情にそれでもとベルはナイフを構える。

 

決して勝てない/分かってる!

大人しく逃げ回れ/それで逃げ切れるとは思えない!

 

手足はみっともなく震えている。

震えた手で持つナイフは何度も刃先がブレてそれでも僕の身体は師匠と戦う時のように構えていた。

 

「GY……GYAAAAAAAAAAA‼︎」

 

「う…あぁぁぁあああああああ!!!」

 

モンスターの雄叫びに僕も負けじと声を張り上げる。

恐れは敵だ。怯えは命運を妨げる!

 

『ベル、よく見て』

 

その瞬間、アミラ師匠の声が聞こえる。空耳だとしても幻聴だとしてもその声に僕の“憧れ”の声に身体が心が奮い上がる。恐怖で震えていた手はいつの間にかいつも戦う様に構えて、我ながら様になっている。

 

『モンスターの攻撃は基本的に大振りが多い』

 

その通りだ。このシルバーバックも強靭な両腕を振り回すだけでその隙は大きい。

ちょっと前の僕だったら見えない様なその攻撃も、アミラ師匠との鍛錬でどうにか対処出来る──────!!

 

『人間より大きな身体を持つモンスターは特にそう。そしてそういうモンスターを倒すためには……』

 

指先、足先から少しずつ削っていく。大振りの攻撃は今の僕には“受け流しきれない”攻撃が殆ど。だから避けて、避けて避け続けて。モンスターの癇癪とばかりに繰り出される“非常に隙の大きい攻撃”の時に末端から削っていく。

 

『少しずつ。少しずつでも良い。けど考えることを止めない事』

 

師匠の教えが今の力になる。その通りに相手には小さな切り傷が増えてきているのに僕にはまだ大きな一撃を食らった覚えがない。このまま押し切ってやるとナイフを構え直した所だった。

 

 

後ろで何かと何かがぶつかる様な大きい物音がしたのは

 

 

「────────────!!?」

 

その瞬間。ベルは有り得ないものを目にする。

 

「─────アミラ師匠!!??」

 

そう。地面に叩きつけられたアミラの姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日という日はアイズにとって待ち遠しいモノだった。今日は【怪物祭】。私もアミラも昔のように〈冒険者〉であることを忘れて楽しむ日だった。今日という日はアミラに見てほしいいつもは着ないような服を着て、2人で何気ない話をして店に出ててる食べ物をあーんってしたり、この前は互いが互いに似合いそうな装飾品を選んだり(アミラは私に青色のネックレスを。私はアミラに緑色のチョーカーを渡した)する日だったというのに。

 

『ちょいといつもの装備で付きおうてくれん?』

 

ロキのバカ…と小さい私も膨れっ面でロキの後ろをアミラと歩く。周囲はもう楽しげな声を上げているというのに、いつもならその中でアミラともう楽しんでいただろうにと私は小さく肩を下ろす。

 

けどそんな中、1つ収穫があった。それはアミラが私の服を褒めてくれた事だ。

 

『アイズのその服。とても似合ってる』

 

アミラのその言葉だけで私は今日これを選んだ甲斐があったという物だ。どうにか時間を作って、お忍びでオラリオ中の服屋で選んできた(殆ど店員任せだったが)中で一番私が気に入った物だ。そしてそんなアミラも……

 

『アミラも……それ似合っててカッコいいと、思うよ……!!』

 

まるで王子様みたいで。アミラの魅力をそのまま際立たせるかのようなその服装はアイズにドンピシャだった。……アミラだったらなんでもいいんじゃないかなという小さい私の言葉に頷きながらも隣を歩いていく。こうしていると本当に夫婦みたいだね。と笑う小さい私も、私も幸せだった。……この時までは。

 

 

『遅かったわね。ロキ』

 

ロキが会いに行きたい人は…アイズも印象深い神フレイヤだった。

アミラを狙い続ける圧倒的なアイズの敵。この前もアミラに何かしたであろうその女神は、まるで久々に会うとばかりにアミラと話す。悍ましい…気持ちが悪いほどあの女神はアミラを奪おうと何度も何度もアミラに声を掛ける。

いやだ。いや。アミラは私のだというのに。私はアミラしかいないのに。

だというのにあの女神は他の“誰か”も粉にかけているのだ。

 

『あの魂の輝きは素晴らしいものよ…そうそれは青く光って透明色で輝くような魂。』

 

まるで浮気を誇るかのようにいう神フレイヤに小さい私は心底冷たい目をしている。けど前のように風を纏えるような感じではない。アミラの前でそんな醜態は晒したくないと言うのが一番だけど。

 

『2人とも、楽しんでおいで』

 

話はその直後、神フレイヤが何処かに行ったので終わった。

もう用事は無いよね?よね?と荒ぶる内心をどうにか抑えながらロキの許可を待つ。そんな私の内心を見破ったのかロキは笑いながらようやく怪物祭に出かける許可をくれる。小さい私はもう待ちきれないと言わんばかりに急かすのに逆らうことなく私はアミラの腕を奪うかの様に街中に出かけるのだった。

 

 

町の中に出た私たちは昔みたいに笑い合い、自由に使えるお金で互いに贈り物をしたり、親しい仲なら誰もがしてる(とロキが言ってた)食べさせ合い時間は過ぎていく。【ガネーシャ・ファミリア】主催のモンスターテイムの舞台に足を踏み出そうとしたその瞬間だった。

 

「モンスターが逃げ出したわー!?」

 

その直後。言葉の意味を理解する前に地面から現れる大きな花の様な新種のモンスター。驚き、恐慌状態になる周囲に私とアミラは“これだけじゃない”と警戒心を強める。それは間違いじゃなかったみたいでアミラは視線でまだ地面に同じ反応の奴が数体居ると伝えてくる。

 

アミラは小さなナイフ。そして私は“ゴブニュ・ファミリア”から貸し出された剣しか持っていない。その状態でこの新種のモンスターを相手するのは厳しい。だというのに事態は悪い方向に転がっていく。

 

「!?………もしやベルか?」

 

モンスターが逃げ出したというのはどうやら“この新種のモンスター”の事ではなく、今日の怪物祭で使われるモンスターが逃げ出したという事。どれもこれもが今の私とアミラにとっては雑魚だがそれでも新種に対応しなくてはならないと考えていた時、とある話が聞こえた。“赤目白髪の小さい少年”がその逃げ出したモンスターと戦っていると。

 

……つくづく事態は悪い方向に転がっていく。

レベル1が11階層のモンスターに敵うはずが無い。逃げれば今こうしてアミラが悩まなくて済むのにとあのレベル1の蛮勇さを恨んだ……ああ。でもその背にアミラという存在がいるのならきっと私も同じ立場なら立ち向かっていただろうと考えてしまえる事、事態恨めかしい。

 

「アミラ。私は大丈夫。」

 

だからこうする他ない。魔法を使ったとしても足が速いのはアミラだ。

アミラがそっちまで行って逃げ出したモンスターを討伐した後援護してくれたら良い。……それなら、私はアミラが戻ってくるまで耐え凌ぐこと位は出来る。

風を纏い、いつでもモンスターに攻撃できる様にと構えたその時だった。

 

「アイズ………“あれ”使おう。」

 

!?!?!?!?!?……アミラの言う“あれ”がもし想像通りならとアイズは赤面する。小さい私も顔を赤くしながらニヤけて今までに見た事ない様な速度で首を縦に振る。……けどもし間違いがあってはならないと臆病なアイズは聞く。その瞬間。

 

「!?………いい、の?」

 

アミラが一歩私に近づき、その瞬間。私の唇にキ、キ、キスしてくる。

今までにないほど強引でそれでいて尚優しく啄んでくれるアミラの唇と間近になった顔と顔の距離で私たちは額を重ね合わせながら1つの魔法の言葉を口にする。

 

 

「開け───盟約カヴィナント

「開け───盟約カヴィナント

 

 

絶対なる約束。あの日の誓いは1つの確かな形となる。

風支剣背アイズ・カヴィナント】と【英雄姫アミラ・カヴィナント】というステイタス上の文字ではなく、私とアミラが一緒に唱える事で起動するこの形。私の中にアミラの魔力が流れ込んでくる感覚がする。暖かく、けど何処か人肌よく冷たいアミラの水の魔力は私の身体全てに巡って1つの大きな熱になる。昂りと快感を一瞬感じるこの熱の感覚は何事にも変え難い事である。

 

「………いってきますアイズ。」

 

「ん。いってらっしゃい。アミラ」

 

まるで◼️◼️だと思いながらも私はやるべき事を熟す。翠色の風は蒼色の光を帯びて剣にも宿る。この剣が【デスペレード】で無いことが非常に残念だけど。アミラの“水”と一緒になった今の私は……無敵だ。

 

空へと飛んだ私はアミラの水の力を得て空をもう一度蹴りさらに高く飛び上がる。

あの大きな花は私を捉えようと2本の蔓を伸ばす。けど……

 

「遅い」

 

風と水で出来た私を渦巻く壁の様な魔法の具現化。スキルで解放された私たちの誓いが全ての敵を近づけさせない。私に触れようとした瞬間、その蔓は風で切り込まれ水で追撃するかの様に蔓を破壊していく。

 

「消えて」

 

蔓という攻撃手段を失った巨体なんてただの的だ。醜悪に見える牙と歯の攻撃なんて私の速さの前では止まって見える。空に滞空したまま私は足の軸をずらして急に方向を切り替える。モンスターが私を見失ったその一瞬に斬り伏せる。

私が地に足をつける頃、後ろでは魔石だけを残して消える一体のモンスターの姿があった。…魔石の色が変だとか、まだモンスターはいると言うのに私の心は“それ”に向けて呆然と呟いた。

 

「………………アミラ?」

 

 

 

 

 






キャラクター設定

水剣けんき】アミラ・フォンディアスレベル.5

ステイタス  不明

魔法   【滴り満ちよアクエリスタ
       ・付加魔法
       ・水属性

スキル  【風支剣背アイズ・カヴィナント
       ・“英雄”と共に戦う時、全ステイタス強化
       ・“英雄”の魔法行使並びにステータスの向上。詠唱式は「開け。盟約カヴィナント
      ・レベルアップの封印(“英雄”のレベルアップ時封印解除)
       



剣姫けんき】アイズ・ヴァレンシュタインレベル.5

ステイタス  不明

魔法    【目覚めよエアリアル
        ・付加魔法
        ・風属性

スキル   【英雄姫アミラ・カヴィナント
        ・“運命”の魔法行使並びにステータスの向上。詠唱式は「開け。盟約カヴィナント
        ・以下詳細不明



ヒント:『本契約』は盟約カヴィナント時がさらに強化されて永続効果です


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第四話 スキル、吼えろ、悪寒


久々の更新。……バレてないバレてない……
あっ。久々の更新なんで初投稿です。


 

 

楽しい【怪物祭】だったはずの時間はモンスターの脱走と新種のモンスターの出現。並びに弟子の勇気…?蛮行?勇気。?何せ格上のモンスターに単身で挑むという暴挙をかまし、アミラとアイズは奥の手とも言える手段を切りアイズは新種のモンスターにアミラは弟子を助けに向かったがその時、何故かアミラに【猛者】オッタルの強襲。勝てるわけもなく、アミラは無様にも吹き飛ばされてしまう

 

 

「………しょう……師匠………アミラ師匠!!」

 

遠くから、落ちていく意識とは裏腹に声が掛かる。

自分がこんなところで倒れている時間なんて、ない筈。

アイズとの誓いさえも謳ってこの様とは何とも無様だ。

 

「……………────何秒落ちてた!?」

 

「師匠……っ!!大丈夫です。数秒ほどです!!」

 

アミラは耳元にかかる声、そして揺らされる身体に現状を理解して飛び起きる。

すぐさま身体の中を水で一通り調べ、全く異常がないことに一瞬恐怖する。恐怖した理由は何故か。簡単なことだ。あれほど強い力でぶん殴られたというのに内臓1つにもダメージが無く、気絶した理由もおそらく頭だけ揺らされたのだろう。その上で、自分をベルの方向へと吹っ飛ばす精度。

 

技術、精度、そして威力。その全てが揃ったレベル7。“今の”オラリオ最強というのは伊達ではないということなんだろう。

 

「アミラ師匠が……どうして……??」

 

「ベル。驚くことじゃない。俺以上の強者など……」

 

レベル5を吹っ飛ばし気絶させる。言葉だけ出すならどんな化け物が相手なんだとベルは驚愕しているみたいだが相手が悪すぎる。とアミラは周囲を観察しながら冷静に答える。

 

多くの傷が付き疲弊状態だというのに逃げることもせずベルに敵意を向け続けるシルバーバック(レベル5という存在を前に躊躇ってはいるが)にほぼほぼ無傷でナイフも新調したベル。レベル1が11階層のモンスターを圧倒する事にアミラは理解した瞬間、これが見たかったのかと微笑む。

 

もしここでシルバーバックを俺が殺そうとすればオッタルは俺を先に叩きのめすだろう。そういう筋書きのために襲ってきたと考えれば強襲された理由として十分すぎる。

 

「…………ベル。」

 

「はっ!はい!」

 

ならば今アミラがするべき事はなんだ。そう。それはとっても簡単で難しい事。

 

「信じて……いいか?」

 

信じるという“背中を任せる”という行動。

ニュービー。それも冒険者になって1ヶ月も経たないレベル1に歴戦のレベル5が背中を任せる。

それがオラリオの中でどれほどありえない事か。

 

「っ!!はいっ!!」

 

それを知ってか知らずかベルの瞳には戦意が更に燃え上がり構えるナイフに力が入る。冷静に息を吐き、そして互いに戦いの場所に身を投じていく。

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

進んだ先、誰も居なくなった路地にて1人仁王立ちになり待っている男がいる。

アミラの数倍大きく、そして威圧感のあるその姿にアミラは臆する事なくその男から投げ渡された片手剣を一度振り、向かっていく。

 

その剣は初めて手にしたというのに何故か非常に手に馴染む。

アミラの“水”が詠唱を唱えるまでもなく周囲に満ちてそれでいて尚、その水全てがアミラの支配下にある様な不思議な静寂の中に確かな威圧感で満ちていた。

 

「そのスキルを使ったな」

 

ならば迎え撃つのみ。とオッタルも地面に突き刺したそれは剣というにはあまりにも巨大で分厚く、それでいてまるで美術品の様な荘厳さに溢れた代物を引き抜き構える。

 

「……………………」

 

オッタルから放たれる覇圧でさえもアミラは気にかけることもせず、一度小さく瞳を閉じ次に開いた瞬間、アミラの周囲の水は誰が見ても分かる渦となりアミラを守る盾でありながら近づいたモノを蹂躙する刃になっていた。

 

「【水剣けんき】その由来を」

 

神々から送られる二つ名。それはレベルが上がるにつれて二つ名はその冒険者が描いた冒険の軌跡が、覚悟が刻まれる。“剣鬼”その呼び名は文字通り、剣の鬼であるアミラに送られた名前。まるでダンジョンに魅入られる様なその圧倒的な早さで“第一級冒険者”の1人になったアミラに相応しい。

 

……ならば“水剣”は?

 

水の魔法を使うから?────そうではない。

まるでその剣が水の様に変幻自在だから?────そうではない。

 

「【水隷雫属アクリス・ルーラー】お目覚めか。アミラ・フォンディアス」

 

「………なあオッタル」

 

水隷雫属アクリス・ルーラー】それはアミラの魔法を最大限活かすのに最も合致しているスキル。ただでさえ、超短文詠唱に魔力の消費が少ない魔法だというのにこのスキルのせいで魔法が、かの九魔姫リヴェリア・リヨス・アールヴを以てして“恐ろしい魔法”と言われる。

 

「その似合わない解説はどこまで続く?」

 

アミラの周囲を渦巻いていた筈の水の魔法はまるで統制が取れているかのようにアミラの周囲に従う。

 

これこそアミラの真骨頂。アミラの“水剣”の所以。【水隷雫属アクリス・ルーラー】は水の支配・制御……つまりはシンプルであるからこそ、最も強い。

 

「…………ふん。」

 

これ以上は言葉は不要と言わんばかりにオッタルの筋肉が躍動する。

これ以上の言葉は無粋であるとばかりにアミラは剣を構える。

 

「───────」「────────」

 

瞬間、始まりかき消える2人の姿。そして四方八方で聞こえる剣が空を切る音、剣と剣がぶつかり合い奏でられる不快な金属音。レベル5とレベル7の攻撃は只人には見えない不可視な超高速戦闘となっていた。

 

地面に陥没穴だけが残り、周囲にはまるで豪雨が降った後のように水飛沫の風が舞う。しかもその水飛沫は重力に逆らうかの様に空中に停止して、水を総べる主であるアミラの命令を待つかの様に漂う。

 

「堅いけど、削れないほどじゃない」

 

「ふん。吠えるものだ」

 

アミラの魔法より生み出された【滴り満ちよアクエリスタ】より、本来消えるはずだった水の付加魔法はアミラのスキルである【水隷雫属アクリス・ルーラー】の支配下に置かれ何度も何度でもアミラの意思に従い、水は姿を変える。

 

ある時は、霧の様な目潰しに。

ある時は、滝の様な壁に。

ある時は、流水の様な斬撃に。

ある時は、水鉄砲の様な弾幕に。

 

アミラが【滴り満ちよアクエリスタ】を使えば使うほど、【水隷雫属アクリス・ルーラー】は威力を、範囲を広げながらアミラの支配下に置く。

 

「やはり、貴様のそれは」

 

「これで終わりだ!!」

 

今やアミラの支配下に置かれた水の総量は、大湖ひとつ分にも匹敵する。そしてその水はアミラの意思に従う様に圧縮され、圧縮され、極限まで圧縮され剣に纏う。

 

呟き、動きを止めるオッタルの背後に空を滑るかの様に回り込んだアミラは人間であろうなら重傷は避けられない首を狙って振り下ろす。

 

「リル」

 

極限まで剣に圧縮されたアミラの必殺技。半生可な剣。それも下手な第一級武装でさえもこの一撃を放った後には自壊し、何も残らない程の一撃。かつて理論上、アミラが圧縮できる限界まで圧縮した後に放った一撃はダンジョンの階層さえもぶち抜いた。(その後、その剣は崩壊。およそ数千万ヴァリスが買った数時間でお釈迦になった。)

 

必殺技は大声で叫んだら威力が上がるとかいう何処かの飲兵衛親父主神の話から始まった叫んで放つ必殺技。

 

 

「アファァァァァガァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

避ける。避ける。避け続ける。

障害物を使って撹乱しながら、壊れた瓦礫の破片を投げナイフの要領で使う。アミラ師匠だって使えるものは何だって使えって言ってた。

 

大振り。大振り。叩きつけ。振り回し。

相手であるシルバーバックはベルより数倍大きい。だから単純な叩きつけでさえその衝撃で身体が揺れて乱される。

 

(それでも)

 

間違いなく、アミラ師匠との鍛錬は効果に出ているとベルは確信する。アミラ師匠からの攻撃はもっと鋭かったし、危険だった!!

 

「わわわ!!!」

 

「神様!?」

 

そうだった、見誤った。

シルバーバックの攻撃は大振りであろうとも範囲攻撃。そしてこの場には神様だっている。ヘスティア神が体勢を崩して転けたのを見て、ベルは脇目も振らず神様を助けに行った。

 

「あ」

 

その隙をシルバーバックは逃さない。

ベルの背中を襲うシルバーバックの剛腕はヘスティア神と共に遠くへ吹っ飛ばした。

 

『GURURURU………』

 

その姿をシルバーバックはただ見つめる。

女神に課せられたオーダーは未だにこなせて無いと判断した大猿は、その場に立ち尽くす。他の人間を襲いに行くことも追撃も出来ただろうに、近くでどう足掻いても一撃で殺されそうな覇圧を振り撒く2人の間を掻い潜ろうとは魅了された本能でも全力で動きを止めたのだった。

 

 

「ベル君!!大丈夫かい!?」

 

吹っ飛ばされた衝撃を生かしてベルはヘスティア神と共に路地裏に隠れた。どうやらシルバーバックは追いかけてこない事を考えると体勢を立て直す時間はあるらしいと痛む体の忠告を強引に振り切って、予備のナイフを取り出して振るう。よし、行けそうだ。

 

「ちょまま!!ベル君!!」

 

「………神さまはここに隠れていてください」

 

「まさか勝つつもりかい!?」

 

どう考えても無茶だ。とヘスティア神は思う。あの怪物はどう考えても今のベル君には勝ち目がない。スティタスの数値からしても無謀だ。

 

(だというのに)

 

(まだベル君の瞳から光が消えていない)

 

ヘスティア神が嫌う死に向かう目ではない、間違いなくベルは相手を斃す算段があって勝つ目をしている。ヘスティア神が言うまでも無くベルは信じている。勝利を、ヘスティア神を、そして自分自身を。

 

「……神さま信じてくれますか?」

 

「分かった。……ならせめてスティタス更新ぐらいはさせてくれ。」

 

神血を使ってベルのスティタスを更新する。上昇値350オーバー。一部、俊敏や耐久がD近くまで上がっているのを見てヘスティア神は1人戦慄する。一体どんな無茶をすればここまで上がるのか。リアリス・フレーゼそういうスキルがあったとしてもヘスティア神は想像できない。

 

「それとベル君。君にこれを」

 

ヘスティア神の懐から取り出した一本のナイフ。それは神友である鍛治神へファイストスに土下座して作ってもらったベル君専用のナイフ。黒く輝くそのナイフは普通の武器ではない。

 

「それは……生きている。君が成長すればするほど強くなる。」

 

「!!」

 

「さぁ!冒険を、するんだろう!?」

 

「はいっ!!」

 

目の前の敵は強大だ。敬愛する師匠は助けには来ない。

だけど……ベルのその背には守るべき神さまがいる。

ベルのその両手には神さまから、師匠から貰った2本のナイフがある

ならするべき事はもうすでに決まった。行ってこいと叩いたベルの背中はもう立派に冒険者としての姿が垣間見える。

 

………さぁ、冒険を始めよう。

 

「……待ってくれたんですね」

 

『GURURURUR………』

 

順手に持った2本のナイフを構え、眼前の敵を睨む。祭りで使役される筈だったシルバーバックの拘束具は外れ、同じようにベルを睨む。一瞬の眼光のぶつけ合い。その瞬間、二つの影はほぼ同時に動き出した。

 

(………信じる)

 

シルバーバックのぶん殴り。それをベルは滑り込み、回り込む。ガラ空きになったシルバーバックの背中に向かって、ナイフを刺し穿つ。だけど今のベルの力ではそれだけで倒すことはできない。鮮血を流し猿叫を上げながらも、シルバーバックは大振りの腕を振り回してベルをはたき落とす。

 

今のベルに魔法はない。今のベルのレベルは1の駆け出しだ。

だがその身に刻んだ格上との戦闘記憶も、その身に潜む勇気も今のベルを支えて力となる。

 

(………信じるんだ!!)

 

小柄な身のこなしを使い、少しずつ少しずつシルバーバックを削る。

そしてシルバーバックはまるで我慢の限界だとばかりに腕を大きく振り上げ、ベルを空中に浮かせる。……その瞬間を、ベルは待っていた。

 

「あ…ああああああああああ!!!」

 

家と家の間に繋がった紐を指で引っ掛け、空中で無理矢理方向を動かす。

全体重と空から落ちる重力の引力を利用して、ベルのナイフはシルバーバックを両断する。

 

間違いない、ベルの勝利だ。

 

 

 

 

「……アミラ?」

 

アイズはただ立ち尽くす。周りにまだ敵がいると言うのに。まるで茫然自失かの様にアイズは立ち尽くす。あり得ない、あり得ない、あり得ないが胸の中から消えたこの喪失感だけが残酷な真実を告げていた。

 

それもその筈、今のアイズの纏う風にアミラの水の力を感じない。そして何よりも暖かく、冷たいアミラの昂りを今は感じない。たった1人だけの小さな小さなアイズだけになってしまった。

 

「どう……して?」

 

繋がりが途切れた。相手に何かあったとかでは無い。

この感覚を、アイズはよく覚えていた。 【英雄姫アミラ・カヴィナント】も 【風支剣背アイズ・カヴィナント】も両者共に詠唱式の後に互いに互いの許可も取らないと行けないスキル。……そして今回はアミラの方が【風支剣背アイズ・カヴィナント】をアミラ自身の意思で切り落としたという事である。

 

(まさか……【水隷雫属アクリス・ルーラー】?)

 

感じるアミラの魔力。感じる風から流れてアミラが今いる場所に集う水の息吹。

間違いない。アミラの持つスキルにしてアミラが【水剣けんき】たる所以のスキル。確かにあれを使うのなら私の風は邪魔だと認めたく無いが認めざるを得ない。

 

アミラの力が無くては、今以上の力を出せない私と違って

アミラは私の力なんて無くても、今より強く戦える力がある。

 

「………ううん。でもそれを使わないといけない敵……?」

 

アミラが【風支剣背アイズ・カヴィナント】の使用時、事実上のステイタスはLv.6の中堅ほど。けどこの新種のモンスターはそれほどの力を必要としない。だと言うのに、アミラはレベルの利を捨てて戦わなくてはならないほどの事。先ほどのレベル1がたとえ敵わない相手だとしても私たちなら素手でも圧倒できるはず。

 

「…………………いやなよかんが、する」

 

苛立ち、苛立ち、嫌悪、嫌悪、悪寒、悪寒、苛立ち、苛立ち。

小さなわたしも同じ様に顔を歪める。けど、アミラにこの場を任された。それならこのモヤモヤをコイツらで全部、片付けてしまおう。

 

「……………消えて、全部。私の前から……【目覚めよエアリアル】」

 

暴れ狂う緑色の暴風。織り混ざるその緑色の暴風は、濃い緑を超えて黒色に近くなった風を全身に纏い、アイズは飛び上がる。もはや今のアイズは重戦車にも等しい。攻防一体の風の剣と鎧は、触れるモノ全てを破壊し尽くす。むしろ嬉々として敵に突っ込んでいくのだから並の相手ではまるでミキサーに掛けられたかの様に無残な細切れを晒す他無い。

 

アイズは、強い。確かにたった1人で新種のモンスターを蹂躙できるぐらいには。

だけどアイズが求める強さとは、こんな色の風だったのだろうか?……その答えは、アイズのみが知っていた。

 

 






キャラクター設定

水剣けんき】アミラ・フォンディアスレベル.5

ステイタス  不明

魔法   【滴り満ちよアクエリスタ
       ・付加魔法
       ・水属性

スキル  【風支剣背アイズ・カヴィナント
       ・“英雄”と共に戦う時、全ステイタス強化
       ・“英雄”の魔法行使並びにステータスの向上。詠唱式は「開け。盟約カヴィナント
      ・レベルアップの封印(“英雄”のレベルアップ時封印解除)
       ・以下詳細不明

     【水隷雫属アクリス・ルーラー
       ・空間における水の掌握・支配
       ・レベル依存



剣姫けんき】アイズ・ヴァレンシュタインレベル.5

ステイタス  不明

魔法    【目覚めよエアリアル
        ・付加魔法
        ・風属性

スキル   【英雄姫アミラ・カヴィナント
        ・“運命”の魔法行使並びにステータスの向上。詠唱式は「開け。盟約カヴィナント
        ・以下詳細不明



ベル・クラネルレベル.1

ステイタス  不明

魔法     なし

スキル    【英雄憧憬リアリス・フレーゼ
         ・早熟する
         ・以下詳細不明



技説明

リル・アファーガ  
アミラ・フォンディアスが使う必殺技。ロキ命名。束ねた【滴り満ちよアクエリスタ】をスキルである【水隷雫属アクリス・ルーラー】で圧縮圧縮水を圧縮ぅ!!する事で放つ剣一本が自壊するほどの威力を秘める。わかりやすく言うなら壊れた幻想ブロークンファンタズム。かつてこれだけで階層をぶち壊したとあるが、貯めるには時間がかかるし、アミラの集中もいるから専らそこまで行くとロマン技。……そういえば同じ様に階層ぶち抜くほどの魔法を持っていた人が居ましたね?

※『本契約』を熟すと魔力が同調し、互いの許可なくスキル使用時の状態が維持されます

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