メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 (はめるん用)
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プロローグ:1

 F8492。それが2度目の人生で俺に与えられた名前である。

 

 起床のサイレンは8時に鳴り響く。どこか軍隊を思わせるカーキ色の作業着に着替えてベッドと蛇口と便器だけの簡素な部屋からのんびり出れば、俺と同じように番号で管理されている『Dクラス日本帝国市民』の皆さまがゾロゾロと廊下に集まって移動を始める。

 

 移動先の小部屋で俺たちよりは多少立場がマシであろうまともな軍人たちが監視する中で、山のように積まれた物資をひとつ掴んで背中に背負う。

 中身はハンドガンとナイフ、それから10秒でチャージできそうなドロドロの液体。味は無いが腹持ちは良好で、手足がやつれる雰囲気も無いので栄養バランスは考えられているのだろう。

 

 それから適当にトラックの荷台に乗せられて、いや載せられて楽しい楽しいピクニックの始まりだ。もちろん歌うどころか会話すら存在しないが。

 

 しばらくするとトラックが停止し、降りるように促される。ここから12時間、お仕事の始まりだ。休憩時間の取り方はそれぞれの判断に任せられているので自分のペースで働けるのは実にホワイトだとは思わないか? 

 時間内にノルマが終わらなければ帰る場所があの部屋ではなく大地のベッドになってしまうのが難点と言えなくもないが、多少の救済措置もあるので案外なんとでもなるし。

 

 目の前に広がるのは……そうだな、文明の廃墟とでも表現しようか。かつては前世で見た東京や大阪のように繁栄していたのかもしれないが、すっかり植物たちに飲み込まれて人間が生活している気配はない。

 さっそく俺以外のDクラス国民たちはノルマをこなすために廃墟へと走っていった。仕事熱心なのはいいことだが、準備運動をするぐらいの心の余裕がないとケガしちゃうぜキミたち? 

 

 

 

 しっかりストレッチで体をほぐしながら上を見れば、そこには縦長の板に貼り付けられたような都市と、ガラス越しの宇宙が見える。

 

 

 

 人類の生活圏が地球から太陽系へ、そして天の川銀河に広がってからどれくらいの月日が経過した世界なのかは知らないが、すくなくともこんなガンダムで見たスペースコロニーを建造できるぐらいには文明は進んでいるらしい。

 残念ながらそれとは反比例するように人権問題は深刻化しているみたいだが。転生モノの作品は好きだし色々と読みはしたが、まさか培養液の中で自我に目覚めて名前の代わりに番号を与えられるとは思わなかったね! 

 

 

 適当にウォーミングアップを終わらせれば、いよいよ俺も出稼ぎ開始だ。

 といっても仕事の内容はとっても簡単、ただ目の前の廃墟でクリーチャーを倒して体内で結晶化したエネルギー物質のようなナニかを規定数回収して戻ってくるだけ。

 

 3年だよ、3年。こんな生活を12歳からカレコレ3年も続けてなんとか生きてる俺って偉くない? 

 一応この仕事は18歳になるまでの義務だと説明されてはいるが、果たして生き延びたヤツがいるのか、そして本当に解放されるのかは疑問である。

 

 

 例えば、義務を終えたら個室に連れていかれて銃を突き付けられたりして「この仕事は危険因子を炙り出すための実験的プロセス、生存者は全員始末するセオリー」とか言われてズドンッ! の可能性だってあるかもしれない。

 

 チート能力とかいう身の丈に合わない贅沢は言わないが、せめて前世の記憶を消すぐらいのことはしてくれよな~頼むよ~。

 Dクラス国民の中には国家貢献の義務を果たすぞとヤル気満々の連中もいるし、俺も素直に洗脳……ゲフンゲフン、教育されてたのにな~残念だなぁチクショウめ。

 

 まぁ、前世の記憶が全く役立たずというワケでもないし、針の先ほどではあるけど希望も見付けることはできただけマシだろうか? 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ハンドガンに異常がないか、ナイフは欠けてないか確認したりしなかったりしている間に周囲からクスクスと嗤う気配が突き刺さる。

 階級章らしきものがシンプルな軍人さんたち、それも若い連中が生き残るために一生懸命な俺を見て優越感に浸っているのだろう。

 

 そんなものにはとっくの昔に慣れたし、俺も逆の立場だったら安全であることの幸福を噛み締めてニヤニヤ嗤っていたハズなので気にしていない。

 が、階級が高いと思われる上官っぽい軍人たちがクスリとも笑わず真面目な顔をしているあたり、新人たちはあとで「勤務態度が悪いッ!!」って修正される可能性もあるんじゃないかと睨んでいる。

 

 なにせこの世界の日本は日本ではなく『日本帝国』なのだ。軍人さんはとっても偉いがそれ相応に厳しく教育されているハズだ。新人はな。高級将校は知らんよ。

 

 さて、いつまでも入り口でのんびりしているワケにもいかない。12時間というタイムリミットは長いようで実際長くてぶっちゃけ6時間もあればノルマどころか余剰分も稼げるんだけど油断大敵という言葉もあるし、事故防止のためにもお仕事は心に余裕を持ってやらんとアカンからな。

 辛うじて電気は通っている薄暗い廃墟の中へ、懐中電灯も無しに入っていく俺。さっそく誰かの悲鳴がここまで聞こえてくるが、そんなものにビビるは最初の一週間だけ。いまでは運が良ければ武器とメシを拾えるかな~ぐらいにしか感じねぇや。

 

 今日も素敵な捨て駒生活、いつか自由を掴める日を夢見て頑張ろうじゃないの!



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プロローグ:2

 バキバキという破砕音、そしてニチャニチャという粘着質な音。

 

 今日もお仕事頑張るぞと気合いを入れて廃墟を進んでみたところ、お出迎えしてくれたのは剥き出しの筋肉と内臓をデタラメに繋ぎ合わせて犬のような形に仕上げたクリーチャーが先に突入したD民を美味しく食べている光景でした。

 南無三、成仏しろよ。来世ではもう少し平和な世界に、なんなら俺が生きていた日本あたりに生まれ変わることを願っているぜ。少なくともこの世界に比べれば豊かで幸せな人生になる確率が高いハズだから。

 

 バックパックは無事なのでそれだけ回収して逃げられないかな~とも思ったが、クリーチャー系わんわんたちは俺に気が付くとお食事を中断してゆっくりと近付いてくるじゃありませんか。

 う~ん、相変わらずデッサンが狂ってるなコイツら。バイオハザードのケルベロスやコルミロスに比べるとアレだな。デッドスペースのネクロモーフ感のほうが強いな。

 

 

 と、いうワケで戦闘フェイズです! 行動順はDEX順で……はなくもう好き勝手に動きます。当たり前だよなぁ? 

 

 

 大抵のゲーム、それもアクション系では犬型のモンスターは動きが素早いと相場が決まっているが、このネクロモーフもどきは色々とアンバランスなパーツなせいか普通に鈍い。

 なので落ち着いて対処すれば数が多くてもなんとかなるのだ。というかなんとかならなきゃ俺なんか初日でくたばってるからね。前世は交通事故が弱点の普通のサラリーマン、生まれ変わった肉体は12歳の少年だったからね。

 

 クリーチャーは全部で3匹。ハンドガンは銃声で敵の増援を呼んでしまう可能性が高いのでナイフを構え、冷静かつ慎重に──逃げるんだよぉぉぉぉッ!! 

 

 勇敢に立ち向かうなんてのはアホのすることだ。だってケガしたら死んじゃうんだもの。頭や心臓のような急所じゃなくても、腕を咬まれたときに太い血管が傷付いたら大出血からの多臓器不全で死ぬから普通に。

 準備期間のある転生は百歩譲ってまだいいとして、異世界転移したラノベの主人公たち気軽に戦いすぎでしょ常識で考えて。仮にチート能力があろうがゲームデータ引き継ぎしてようが人間なんて死ぬときゃ死ぬんだからさ。

 

 

 と、いうワケで適当に高いところへ避難する俺。まともな犬型であればピョンととびのってくる高さだが、コイツら全員パーツが歪んでいるから簡単に安全を確保できるのだ。

 あとは登ろうとしてくるところを頭にナイフ一撃で余裕ですよ。袖を咬まれて引っ張られないように気を付ける必要があるので、できれば鉄パイプとか角材とか長柄の武器を使いたいところさんなんだが……お、こんなところに都合良く瓦礫があるじゃーん! 

 

 

 謎の建材をクリーチャーの顔面にシュゥッ! 超・エキサイティンッ!! 

 

 

 よし、これで2匹も潰せたのはラッキーだったな。残りの1匹がよじ登ろうとしてきたので、遠慮無く前脚をナイフでぶった切る。

 バランスを崩して倒れた顔面に、今度は建材の代わりに俺の黄金の両足をプレゼントだオラァッ!! 

 

 フッ……完全勝利。我ながらなんとも泥臭い戦い方だが、勇者でもヒーローでもないんだから無意味にカッコつける必要など無い。

 所詮この世は弱肉強食、強ければ生き弱ければ死ぬのだ。名前ではなく番号で管理されている俺は間違いなく弱者側なんだけどな! アッハッハ! クソがよぉ……。

 

 おっと、イカンイカン。憎しみはなんにも実らせないんだ、ここは前向きにいまを生きねば。まずはクリーチャーどもを解体して腹の中からエネルギー結晶体を取り出して回収しよう。

 あとはD民の残骸をどうするかだが……いつも通り放置でいいか。埋葬するか火葬してやりたい気持ちはあるが、ハッキリ言って自分がいつ殺されるかわからん状況でそんなことに時間を使いたくない。

 

 残ってる装備品だけはありがたく使わせてもらうけど。倫理? いえ、知らない子ですね。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 堅実に卑怯な戦い方でエネルギー結晶体を回収し、ノルマを達成して余剰分が出たところで休憩タイム。たぶん今日が初めての出勤のD民がいたのだろう、景気よくハンドガン鳴らしやがってくれたおかげで獲物には困らなかったぜ、ガハハ! 果たして新人たちは何人生き残ったかな? 

 適当な建物に隠れ、ドロッとした謎の液体食料をズルズルっと飲み干したら本命の──エネルギー結晶体を取り出す。なるべく綺麗な見た目のヤツを選んでぇ~いただきますッ!! 

 

 

 うん、不味いッ! 

 

 どれもうひとつ。

 

 

 う~ん、食べるほどに身体に活力が満たされている感覚はあるんだけど味のほうは実によろしくない。スイカの皮にニンニクをトッピングしてチョコレートリキュールかけて食べたらこんな味になるかもしれん。

 だがこれはこの先生き残るために必要な儀式だ。活力が満たされる感覚の先に、力が身体に定着したと実感する瞬間がある。ゲームで言うならレベルアップみたいなものだ。

 

 今回のエネルギー結晶体モグモグでまたひとつ人間から離れた気がする。よし、ちょっくらその辺のコンクリートっぽい壁でもギュッと掴んで……おぉ、握り潰せるじゃないか。うむ、順調に化け物の仲間入りしてるな。

 よしよし、不安はあるがなにもしないまま死を待つよりはマシなハズだ。まだ時間に余裕はあるし、このままもう少し稼いでから戻るとしよう。



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プロローグ:3

 残り4時間ほど残して、フィニッシュです。

 

 だからといって先に帰れるワケではないが、残った時間はなにもせず待機しても許されるので早めに仕事が終わるのは良いことだよ、うん。

 

 荷物は全て精算担当の軍人さんに渡す。ちなみにポケットの中に廃墟で拾ったものを隠しても無駄である。

 持ち帰ったエネルギー結晶体に応じた報酬を用意する間に、簡易的に設置されたシャワーを浴びて別の作業着に着替えさせられるからだ。

 

 なんだかんだ清潔な服が毎日支給されていると思えばそんなに悪くないと思う。おそらくクリーチャーどもの体液やら肉片やらを施設に持ち込ませないための措置なのだろう。

 さすがにエネルギー結晶体を食ってるヤツがいるとまでは想定してないだろうな~。ホラーゲームなら俺が最初の発症者になるワケですねわかります。

 

 

 身嗜みを整えて精算担当者からチップを受け取ったら楽しい楽しいお買い物のお時間だ。意外なことに報酬を誤魔化されたことはこの3年間で1度もない。よほど組織の規律が厳格に機能しているのか、あるいはエネルギー結晶体をパクることによる不利益や処罰が恐ろしいのかはわからないが。

 どちらにせよ労働の対価が過不足なく支払われるのは良いことだ。あるいは、こうして俺たちDクラス帝国市民の労働意欲を削がないよう取り計らったほうが効率が良いと判断したのかもしれない。

 

 店員が軍服を着ているという部分さえ気にしなければ、目の前の光景はフリーマーケットのようで商品を眺めるだけでも生きて帰ってきたという実感が得られる。

 歯ブラシや爪切りなどの日用品に、コーヒーやタバコといった嗜好品。毛布や枕といった実用品もあるし、固体燃料とセットの食事メニューもなかなか豊富である。

 

 一応、マンガの類いもあるのだが、如何せん中身が『日本帝国は素晴らしい!』とか『皇帝陛下は宇宙で唯一の神様!』とか『日本軍人は正義のヒーロー!』みたいな内容ばかりで拒否反応が出てしまうため手に取る気が起きない。

 そういったものをしっかり読み込んで気が狂ってしまえば楽になれるのかもしれないが、どうやら俺は自覚している以上に意地汚かったらしい。どうしても生きることを諦められなくて、幸か不幸か未だに前世基準の正気を保っている。

 

 

 もっとも、表で流通していないというだけで裏ではもっと俗物的なメディアを楽しめるらしいが。

 労働の義務が課せられる前に過ごしていた施設で、そうした書籍類を所持していた人たちが重犯罪者として処刑される様子がニュースで流れていたし、それを見るのは帝国市民の義務であると俺を含めた子どもたちが全員集められたからな。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 日用品は足りている。食事系は今日は別になくてもいい。となると、やはりここは甘いもの。お菓子は恐怖とストレスを和らげてくれるのでいくらあっても困らない。

 使い切れなかったチップは返却しなければならないのでしっかり計算しながら欲しいものを選んでいく。バラ売りのアメやガムがあるので最終的な調整はそこまで大変ではないが、チップを使うことばかりに気を取られて欲しくもない物を買うようでは本末転倒である。

 

 買い物を済ませたら、あとは適当に寝っ転がって帰りの時間までダラダラしているだけでいい。

 

 たぶん俺以外にもノルマを達成しているD民は何人もいるハズだ。それでも帰ってこないのは、ギリギリまで稼いで大量のチップと交換するためだ。

 チップが無ければ自由に買い物ができないので気持ちはわかるが、帰ってくるのが遅くなれば品揃えは当然どんどん減っていく。なにより欲張り過ぎて引き際を間違えれば帰ってくることさえ出来ないんだし、ほどほどにして切り上げたほうがいいと思うんだけどな~。

 

 ま、本人たちが満足してるなら俺が口出しすることじゃないんだけどね。大量購入した嗜好品や食事を楽しむ前に明日のお仕事でそいつが終わってしまったとしても俺には関係ない話だし。

 

 

 D民たちが帰還し、タイムリミットとなり、再びトラックの荷台に乗り込む俺。朝と比べて空間に余裕があるのは、つまりそういうことなのだろう。

 帰り道もやはり会話らしい会話は無い。たまに国家奉仕の義務に熱心な連中が盛り上がっている場面に出会すこともあるが、そのときの荷台の空気は実に愉快なことになる。

 

 

 ……冷静に考えると面白い状況だよな、アレ。生まれたときから日本帝国市民は全員が()()()()教育を受けているハズなのに、何故か反発するヤツが半数近くいるんだもん。

 お仕事前に軍人たちの視線が癪に障って反抗心が芽生えるのか、もしくは死にかけたときに『なんで自分はこんな目にあわなきゃいけないんだ』と自我に目覚めるのか。可哀想に、愛国心に狂ったままでいられたほうが苦しみも少ないまま終われただろうに。

 

 いまのところ、俺の周囲ではそれぞれの思想……派閥? の連中がガッツリ衝突するような事故は起きていないが、いざというときは腹を括る必要があるだろう。

 というか。コレどう考えても俺の知らないところで絶対トラブル起きてるよねぇ? 帰ってこないD民の何割かは対立派閥にエネルギー結晶体を奪われてるだろどう考えても。

 

 

 う~ん……。生き残るためにはどちらかの集団に所属したほうが効率はいいんだろうが……。



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プロローグ:4

 今日もいつものように謎の植物に支配された廃墟に出勤し。

 

 今日もいつものように謎の生物を倒して結晶体を確保する。

 

 

 いつもと違う部分があるとすれば、取り出したエネルギー結晶体の大きさが露骨にデカイことぐらいなものだ。

 見慣れたピンポン玉サイズではなく野球のボールぐらい大きく、しかも中に人間のようなシルエットが見えるというオマケ付きである。

 

 これは……割れ、ということか?

 

 いやいやいやいやまてまてまてまて。クリーチャーの中から出てきた代物やぞ? 割った瞬間エイリアンの映画みたいに顔に飛び付いてきて卵を生み付けられる可能性だってあるんだぞ? それを取り敢えず割ってみるとかお前、ゲーム脳かよ。

 だが、しかし。これを軍に納品するのは惜しいという気持ちもある。3年間も化け物退治を続けてきて初めて起きた変化なのだ、これに期待したくなったって仕方ないじゃないか。

 

 …………。

 

 よし、割ろう。

 

 この程度でビビっているようじゃあ、この先もずっと番号で管理されて生きることになる。エネルギー結晶体を食べることで身体能力は向上したが、リスクを恐れて決断できないままでは宝の持ち腐れだ。

 どうせ1度は死んでるんだ、ここでもう一度死ぬことになったとしても悔やむようなことじゃ……悔やむようなことじゃ……悔しいに決まってんだルルォッ!! 

 

 あ~ッ!! クソッ、なんで俺はただ転生しただけなんだよッ! せめてもう少しマシな世界とかさぁ、ファンタジーとかにしてくれよホントにさぁッ! この世界に神様ってヤツはいねェのかよ~ッ!! 

 

 ふぅ、ちょっとスッキリ。

 

 さて、気を取り直して……というか覚悟を決めて、この中身入りエネルギー結晶体をカチ割ってみるとしようか。

 

 男は度胸、なんでもやってみるもんだ。結果としての良し悪しを語る前に、自分の未来に関わる決断すら出来ないようではお話にならんだろ。

 俺はただ生きたいんじゃない。幸せじゃなくてもいいから、せめて納得の出来る生き方をしたいんだ。偉そうにしてるヤツに言われるがまま流されるのは1度目の人生で充分に味わったっての。

 

 

 ……んで。どうやって割るかな、コレ。思いっきり握り締めたらイケるか? どれどれ……お……? ピキッていったな。よし、中身を潰さないように慎重に力を込めて……いい感じにパリパリと割れてきた──うぉ、まぶしッ!? 

 これは……小人? いや、どちらかといえば妖精か? なんだか朧気というかノイズが走ってるような、でもこのシルエットは見覚えがあるような気が……あぁ、そうか。アレにそっくりなんだ。

 

 

 

 

 

 

 女神転生のピクシーだな! 

 

 

 

 

 

 

「ピクシー……ピクシー……? そっか、それがアタシの名前なんだ……。アタシはピクシーっていうんだね」

 

 は? 声? 

 

 ってか、なんか輪郭がハッキリしてきて──はぃぃぃぃッ!? 

 

「んん~ッ! なんだかとっても長い間眠ってたような気もするし、初めて目が覚めたような不思議な感覚がするわ。それで? アンタがアタシを呼んだワケ?」

 

 ナンテコッタイ。女神転生シリーズはもちろんペルソナシリーズでもお馴染み、最初期の仲間にして仲魔の定番である妖精・ピクシーがググッと背伸びをして俺を見ているわよ。

 いや、呼んだっていうか……呼んだといえば呼んだのか? というか、お前は……悪魔、なのか? しかも俺が知っているピクシーそのまんまとか……えぇ? 

 

「ナニ言ってんの? アンタがアタシをピクシーって呼んだんでしょ? だからアタシは()()()()()()()()()()()()()()()()()()。悪魔かどうかって話は……うぅ~ん? なんだか知っているような気もするし、知らないような気もするわ。でも……そう呼ばれるのは、イヤじゃないかもしれない」

 

 悪魔じゃない? いや、自分が悪魔かどうかわからないのか? でも、だったらこのピクシーは何処から来たんだって話になるよな。

 

 なぁピクシー。お前さん、魔界って呼ばれてる世界は知ってるか? 

 

「マカイ? まかい、魔界……。ゴメン、ちょっとわかんないかも。ただ、なんだかとっても懐かしいような気がする。すごく、大切なことを忘れているみたいな感じ……」

 

 俺が人間だから遊ばれている、って雰囲気じゃないことぐらいはわかる。本気で知らないというか、懐かしいって感想が出てくるということは覚えていないって感覚のほうが近いのだろうか? 

 試しに有名どころの悪魔の名前を、女神転生の世界で魔王と呼ばれるのクラスのヤツを聞いてみるのも……いや、危ないな。ここが本当に女神転生の世界ならば名前を口にしただけで殺されるかもしれん。

 

 ルイ・サイファーこと大魔王ルシファー様ならワンチャン笑って許してくれそうな気もするけど。こう、君のような只の人間が私のことを知ってくれているとは光栄だね~みたいな? 

 そのあとにアレよ。魔王の名は軽々しく口にしないほうがいいって釘は刺されるかもしれないが、閣下なら不敬だとか言って問答無用で殺しに来ることはないハズだ。なんなら転生者である俺のこと普通に把握してそうだし。

 

 

 ……いかん、落ち着け俺。急展開に頭がついていけなくて混乱してるぞ。目の前にいるピクシーのことすら把握できてないのに大魔王のこと気にしてる場合じゃないだろ。

 

 

 え~と、まぁ、なんだ……。お互い初めましてってコトで、せっかくだし一緒にクッキーでも食べるか? 俺たち人間が食べるお菓子だから、お前さんが食べて美味しいかどうかはわからないけど。

 

「……あのねぇニンゲン? いくらアタシが弱い悪魔だからってね、さすがにクッキーぐらいは知ってるわよ。ま、いいわ。アンタがどうしてもアタシと一緒に食べたいっていうなら付き合ってあげる。どう? アタシ優しいでしょ♪」

 

 悪魔かどうかわからないし魔界のことも覚えてないのにクッキーのことは知っとるんかい。ますます謎過ぎんだろ。



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プロローグ:5

「ジオッ!」

 

 ピクシーの指先から雷撃が放たれ、命中したクリーチャーがビリビリと痺れて痙攣する。その隙に一気に近付いてナイフで首を切り落とす。

 安心感がやばたにえんですわコイツはよぉ。俺はいま仲間が、いや仲魔がいるっていうのは素晴らしいことなのだと実感している。

 

 まぁ、ピクシー側も俺の身体から活動に必要となるエネルギー『生体マグネタイト』を得ているのでお互い様な部分もあるのだろうが。

 

 

 クッキーを食べながら会話をしてみてわかったが、どうやらこの世界は俺が知る女神転生のルールに近いモノが適用されているものの、完全にメガテン世界をしているワケではないらしい。

 

 ピクシーは自分がMAGを電気に変換して放てることを知ってはいたが、俺がそれを女神転生の魔界魔法『ジオ』であると指摘することで効率よく使うことができるようになったと言っている。

 魔界のことも、魔法の名前も忘れてしまったピクシー。だがクリーチャーの体内から取り出したエネルギー結晶体を見て、それを生体マグネタイトと呼び固体化していることを驚いていた。

 

 持っている情報がなんだかチグハグだ。けれど嘘を言っている雰囲気は感じない。俺が鈍感なだけかもしれないが、仮にピクシーの態度が演技ならば俺では見破ることが出来ないのだなと諦めて開き直ることにした。

 

 というか、このエネルギー結晶体の正体MAGかよ。メガテン設定ではたしか、人間の強い感情の動きで発生するエネルギーとか言われていたハズだ。

 つまりそれを体内に蓄えているということは、このクリーチャーは人間が変質した存在である可能性が高いということになる。

 

 もっとも、ゲームではダーク系悪魔と呼ばれる敵を倒すことでも稼ぐことはできたし、結晶体の中からピクシーが出てきたことから悪魔が変化した姿の可能性だってある。

 うろ覚えだが、身体を維持するためのMAGが不足するとスライムという不定形な見た目に変化してしまうみたいな話もあったハズだし。

 

 

 やだな~。コレ人間だった場合アレじゃん、カニバってることになるじゃん俺。生き残るためにほかに方法がなかったって言い訳ができるから吐き戻すほどショックではないけれど、今後は食べるの躊躇するレベルでイヤだなぁ。

 

「わざわざ食べなくても、アンタなら砕いて吸収できるんじゃない? たぶんだけど、チラッと見たほかのニンゲンより身体の中のマグネタイト濃度が高いアンタなら大丈夫だと思うわ」

 

 なんと! そんなダークソウルみたいな手段でもMAGを取り込めるのか! 発売の順番的にはデモンズソウル式のほうが正しいかもしれんが。

 ともかく、せっかくのアドバイスである。早速試してみようじゃないか。どぉ~れ、バキンッと一発……おぉッ! ちゃんと吸収できるじゃないかッ! ありがてぇ、ありがてぇ! これであのクソ不味い経口摂取とはオサラバだぜッ! さすがは序盤の頼れる仲魔、ピクシーしか勝たんッ!! 

 

 

 んで。

 

 エネルギー結晶体改め生体マグネタイト結晶からピクシーが出てきたように、もしかしたらほかの悪魔だって出てくる可能性もあるワケだが、それを俺はどうするべきなのだろうか? 

 

 

 この世界がメガテン世界ならば生き残るために仲魔になってもらえるよう交渉したほうがいい。いまのところクリーチャー相手なら俺ひとりでも勝てているが、悪魔が相手となれば人間なんて無力もいいところだ。

 しかし後先考えずに勧誘すれば、今度は俺が蓄えているMAGが枯渇して仲魔たちはもちろん俺自身も死ぬことになるだろう。ゲームのように数値化して確認できれば管理もしやすいのだが、残念ながらメガテン主人公たちのような便利アイテムに心当たりは無い。

 

 一番手っ取り早い解決方法は、効率的なMAGの集め方を見つけてガンガン蓄えることだ。もしもピクシーが閉じ込められていたような、普段集めているMAG結晶体よりも大きいヤツを安定して狩れるならそうしたいところだが。

 

「正直、あんまりオススメはしないんだけど……奥のほうから強いマグネタイトの反応を感じるんだよね。それだけ大きなMAG結晶体を持ってるのか、アタシみたいな悪魔を宿してるのかはわかんないけど。だからさ、もしソイツを倒せたならアンタにとってもプラスになるんじゃない? 倒せるなら、だけどね~」

 

 なるほど? それが俺にとっての最初のボスキャラになるワケね。現状を打破してより人間らしい生き方を望むなら、そいつを倒して力を手に入れる必要があると。

 ピクシーの態度から察するに、いまの俺では勝ち目はほぼ無いものと考えるべきか。しばらくはコツコツと雑魚を倒してMAGを集め、自分自身の能力を強化するしかなさそうだな。

 

 と、なると気になるのはピクシーはレベルアップできんのかという部分だ。初期のメガテンでは仲魔のレベルは固定だったが、途中の作品からは主人公と同じように経験値を貯めてレベルアップが可能になっている。

 ゲームでは邪教の館という場所で悪魔を合体させて強化するシステムもあったが、そんなもの存在するかもわからんしそもそも仲魔を集めるにはどうしようかって悩んでんのに合体なんてできるワケないだろいい加減にしろッ!! 

 

 で、どうなん? 

 

「アタシのパワーアップ? それなら心配しなくていいわよ。アンタがたくさんマグネタイトを集めて強くなれば、アンタと繋がってるアタシも一緒に強くなれるハズだもん。そのうちアンタが言ってた『ジオンガ』って魔法も使えるようになる気がするし、ふたりでガンバレばなんとかなるでしょ!」

 

 やだ、この子とっても頼もしい……。




どこまでサブタイトルをプロローグにしたものか。

作者としては、なんとなくメガテンは最初のボスを倒すまではチュートリアルかなって思ってます。


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プロローグ:6

 この世界の悪魔事情・その1。

 

 どうやらピクシーの姿は俺以外の人間には見えていないらしい。クリーチャーの反応はグレーゾーンといったところか、なんとなくピクシーの存在は感知しているようだが正確な位置までは見えていない様子だった。

 それとは別に俺の内側に隠れることもできるらしい。その間はMAGの消費はほぼゼロになる省エネ仕様なのだが、MAG結晶体に閉じ込められていたときのことを思い出すからあまり好きじゃないとのこと。

 

 

 この世界の悪魔事情・その2。

 

 物質的な干渉はできる。俺が手渡した物限定というワケではなく、陳列された商品を動かすことができたので“見えないだけで実体として存在はしている”ということなのだろう。

 つまり壁抜けをして偵察してもらったり、みたいなことは頼めない。なんなら流れ弾だって当たるかもしれないのでムチャをさせるのは厳禁だな。

 

 

 この世界の悪魔事情・その3。

 

「たぶんだけどね~、アタシは死んでもアンタのMAGを使って生き返ることができるっぽい? 気がするんだよね。言っとくけど逆はムリよ?」

 

 

 この世界の悪魔事情・その4。

 

 生体マグネタイトを感知できる。クリーチャーたちの接近を知らせてくれるピクシーさんマジ天使。メガテン要素のある世界で天使が褒め言葉として機能するのかは怪しいところだけど。

 そして重要な情報がもうひとつ。集合したときに気が付いたらしいが、どうやら俺以外にも体内のMAG量が高い人間が何人かいるんだとか。そりゃね、俺が思い付くんだからほかのD民だってやるよねって話だわ。

 

 だが気になるのは、そいつらにもピクシーの姿が見えていないということだ。もしかしたら違和感ぐらいは察知してるかもしれないが、見られている感覚は無いとのこと。

 

 

 ふむ。俺だけが仲魔と一緒に戦える権利を持ってるんだぜ~? みたいなご都合主義な展開は初めから除外していたが、少なくともこの職場でサマナーごっこができるのは俺だけのようだ。いまのところは、という仮定の話になるが。

 どれほどの規模でやっているかは想像もできないが、大量のMAGを軍が集めているのであれば日本帝国のどこかには同じように悪魔の姿が見える者、そしてなんらかの形でその力を利用している者は確実にいると考えるべきだな。

 

 いや、もしかして順番は逆か? 悪魔の力を利用して宇宙開発をしているから大量のMAGが必要なのかもしれない。なんならこのコロニーの惨状も悪魔の力の研究で事故を起こした成れの果て、なんてパターンもあり得るぞ? 

 

 あ~やだやだ。話の規模がどんどん大きくなるじゃないの。こうなってくるとこの世界の地球がどんな恐ろしいことになってるのか想像もできんな。

 人間が住めない星になって仕方なく宇宙に飛び出したとか、メガテンシリーズにそれに近いエンディングあんの知ってんだからね! 

 

 ついでに、Dクラス帝国市民とかいう人材というより資源扱いされてる身分で悪魔が見えるってのも悩ましいところだ。

 選択をミスれば最悪の場合、椅子に拘束されて頭にプラグ突き刺されて延々と人間タンポポ扱い方されるかもしれんぞ。どこぞの財団のDクラス職員よりはマシな待遇とも……いや、ないな。うん。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 小難しいことアレコレ考えて賢いフリをしてみたものの、いまの俺にできることはクリーチャー倒してMAGもぎ取ってレベルを上げる以外にな~んにもないっていうね。つまりはいつも通り過ごして様子見ってこったぁ! 

 

 とりあえず地道に努力を続けて、なにかの拍子に手詰まりになって望みが断たれたときはピクシーだけでも逃げるようにと伝えてみた。

 そりゃできることならギリギリまで助けて欲しいけど、最悪の状況になってまで巻き込むのは気持ち的にちょっとね。意地ってモンがあるんですよ、男の子には。

 

 したら真顔で「いや、だからさ。アンタになにかあったら、アンタからMAG受け取ってるアタシも消えちゃうんだってば。アタシだけ逃げても意味無いの。わかる?」って返されました。うーん、これはダサいッ! 

 

 と、いうワケで今日も一蓮托生ふたりで楽しく労働に励むのでした。まる! 

 

 

 で。

 

 

 意気揚々とクリーチャー狩りをしながら試しに奥のほうへと進んでみた結果、俺とピクシーは瓦礫に隠れて一触即発な雰囲気の少年と少女を見守るという厄介ごとの匂いしかしねぇ状況に追い込まれているんだな、これが。

 

 ひとりは優等生って言葉が似合いそうな眼鏡をかけた男の子。もうひとりはロングヘアーに鋭い目付きというツンデレ風味を感じる女の子。

 女の子が男の子へ銃口を向けて強い口調でなにか言っているのを、男の子は銃を下ろして語りかけるというか……説得だか交渉だかしているようにも見える。

 

 

「ねぇ、ニンゲン。あのふたり、アンタほどじゃないけど強いMAGを蓄えてる」

 

 ほー。ますます関わりたくない理由ができちまったわね。

 

 

「あと、ハンドガンだっけ? その武器を持ってないほうの手に、ふたりともMAGを集中させてるの。アレ、アタシがジオやディアを使うときと同じなのよね」

 

 ……は? 

 

 

「あのニンゲンたち、アンタと違ってアタシの姿は見えないみたいだけど、アンタと違ってアタシみたいに魔法の力が使えるみたいね」

 

 はぁぁぁぁんッ!?



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プロローグ:7

 逆に考えるんだ。トラブルに巻き込まれちゃってもいいさ、と。

 

 どうせこの先何度も何度もうんざりするほど厄介な場面に遭遇するのはわかりきっている。何故ならこの世界がメガテン色だからだ。

 ならばここは逃げるではなく、むしろトラブルに首を突っ込んで勇気と度胸のパラメーターを伸ばすチャンスだと考えればいい。

 

 良く言うじゃない、ピンチはチャンスだって! 

 

 ンなワケねぇだろピンチはどこまでいってもピンチに決まってんじゃねぇか。それをチャンスに変えられるのはよっぽど才能に恵まれてるか積み重ねてきた努力と経験があるヤツだけだっつの。

 こちとら転生してから12年は施設で申し訳程度の教育を受けたあとそのままハンドガンとナイフを持たされて化け物退治の日々やぞ? 平和な日本でサラリーマンとして生活してたときの知識や経験なんぞクソの役にも立たねぇわ。

 

 

 ふぅ、心の中で取り乱してしまった。

 

 

 実際問題、ここで見て見ぬふりして逃げたところで得られるものはなにもない。せっかく新しい情報が手に入るチャンスに巡り会えたんだから、冗談抜きでここはなけなしの勇気を振り絞る場面だろう。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「ちょうどいい。このまま私と貴方とで睨み合いを続けても時間を無駄にするだけ。ここは第3者である彼に判断してもらうことにしよう。あぁ、提案したのは私だからな。公平を期すために貴方から状況を説明するといい」

 

「……わかりました。僕と貴女だけでは平行線のままタイムリミットになりかねませんし、その提案を受け入れましょう。──申し訳ありません、急にトラブルに巻き込んでしまって。のちほど必ずお詫びはしますので、少しだけご協力をお願いできませんか?」

 

 初対面で自己紹介よりも先に裁判官のマネを頼まれるとは思わなかったわ。敵意を向けられるよりは100倍まともな結果ではあるけれど。

 

 曰く、クリーチャーに襲われて死にかけている少年をツンツンちゃんが発見した。かなりの出血量から助かる見込みは無いと判断し、生きたまま食われたり長く苦しむのも哀れだと思いオヤスミナサイをプレゼントしたそうな。

 それを見ていた優等生くんが物資を奪うために撃ったと勘違いして声をかけた。強盗の誤解は解けたものの、もしかしたら助けることができたかもしれないじゃないかとお説教を始めたらしい。

 

 なーほーね? 実にわかりやすい対立だな。

 

 これを第3者として公平に判断してくれとか無理難題にもほどがあるだろ。救助や治療が間に合ったかもしれないし間に合わなかったかもしれない、なんて議論を決着させるとか無理ゲー過ぎると思うんですが。

 しかもふたり揃って中学生とかその辺の年齢っていう難易度の高さよ。年齢的にも環境的にも視野を広げる余裕なんて無かっただろうし、お互いに自分の信じる正論を振りかざしての殴り合いだぜ? こんなん丸く治めるとかムリだべさ。

 

 

 仕方ない。ここはそれぞれの主張が客観的にはどう評価されるのかを知ってもらい、あとは自分たちでじっくり考えてもらうよう仕向けるとしよう。

 

 

 さて、優等生くん。消え行く命を救いたいという心構えは立派だけれど、現場にいなかった人間がすでに終わったことに対して後出しで文句を言うのは無責任だと思わないか? なにせその場にいなかったんだから、いくらでも仮定を並べることができちゃうだろう? 

 

「それは……」

 

 

 そして、ツンツンちゃん。感情に流されないで冷静な判断と対処ができる人間は世の中に必要不可欠だと俺も思うけど、自分の判断に間違いはないと可能性を切り捨てるのも考えものだよ。もしもキミが助けを求める側になったとき、善意からキミの主張を無視して俺の判断で処理しても受け入れられるかい? 

 

「む……」

 

 

 別にそれぞれの考え方を曲げろとは言わないし、ムリに仲直りしろとも言わないさ。でも、自分と違う主義主張の人もいるってことぐらいは受け入れても損はないんじゃないかな。

 

「「…………」」

 

 

 

 

 よし、なんとか誤魔化せたな!

 

 誰よりもなによりも俺の発言こそが一番飛び抜けて卑怯で無責任で問題しかないワケだが、冷静さに欠いたいまのふたりであれば雰囲気で押し切ることなど容易いことよ……ッ! どうだい? 大人って汚いだろう? 

 

「……私は自分の判断が間違いだとは思わない。だが貴方の主張を否定したことについては謝罪しよう。すぐに手当てをしていれば、あるいは協力者を探そうとしていれば、貴方と合流して彼を助けることができたかもしれない」

 

「いえ、僕のほうこそ詳しい状況もわからないくせに、貴女を責めるような言い方をしてしまったことを謝らせてください。それに、ここから拠点までは距離がありますし、怪我人を運ぶ最中に化け物たちに襲われることだってあるでしょう。リスクを考えない理想論ばかりを押し付けられるなんて、誰だって嫌に決まってます」

 

 スゲェッ!? ちゃんとお互いにゴメンナサイして仲直りしてるぞッ!! 俺が中学生のときに同じことができたかって言われたら絶対ムリだぞこんなん。これ俺が介入しなくても普通に解決できてたんじゃね? 

 

 ま、なにはともあれ流血沙汰にならずに済んでよかったよかった。もうね、俺の背中は冷や汗でビッショビショなんだわ。

 なんでかって? そりゃメガテン世界で思想が対立してる場面に立ち会うとか完璧にダメなほうのフラグだからだよッ!!



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プロローグ:8

「仲裁、感謝する。私の名はC4267だ。クリーチャー駆除を初めてから2年と3ヶ月ほどになるだろうか。よろしく頼む」

 

「僕はL2299といいます。僕も彼女とほぼ同じ、国家貢献義務に従事するようになってから2年と半年ぐらいになります。これもなにかの縁です、一緒にコロニーを取り戻すために頑張りましょう!」

 

 ハッハッハ、おかしいな? なんで一緒に行動するみたいな流れになってんの? いや、言わんけどさ。そこは空気を読んで黙るけどさ。せっかく仲良くなれそうなところを邪魔はしないけどさぁ! 

 いや、まて。まだ慌てるような時間じゃない。もしかしたらメガテンじゃなくてペルソナ寄りの世界かもしれないし、それならこのまま精神的成長を続けて最終的には協力して巨大な神話クラスのボスキャラと戦うことになるハズだ。あれれ、それはそれで命の危険が危ないぞー? 

 

 

(うん、やっぱりこのニンゲンたちにアタシの姿は見えてないわ。もしかしたら気配も感じてないんじゃないかしら。アタシの身体はアンタのMAGを頼りに実体化してるから、こうして近くにいるとわからないのかもね)

 

 見えていないと確信しても声を出さずにテレパシーを送ってくれるピクシーさんは空気の読めるイイ女やでホンマに。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 今後のことを想像すると胃の辺りがキリキリと痛むような気がするものの、やはり3人で行動するとMAG結晶体を集めるのはかなり楽になる。

 ふたりとも2年以上クリーチャー狩りを続けているだけあって、間に合せの連携でも多少の数の不利など関係なくサクサク倒すことができるので稼ぎが捗ること捗ること。

 

 でもね、俺知ってるんだ。物事が予想外に順調なときって、まるで世界がバランスを求めるかのようにトラブルを押し付けてくるんだってことを。

 

「よし、僕もこれで今日のノルマは完了です。これからどうしますか? 僕は日用品などにまだ余裕があるので帰還しても構いませんが、おふたりがまだ討伐任務を続けるのでしたらお手伝いしますよ?」

 

「私も稼ぎは充分だな。せっかくの機会だし、貴方たちと狩りを続けるのも面白そうだとは思うがな。それならまた明日、万全の状態から協力して狩りを開始すればいいだけのことだ」

 

 コッチ見んな。俺に決定権を渡すんじゃねぇ。中身も外側もお前らよりは年上だけど、若手の自由意思を尊重するのも年長者の役目なんだよ。だからもっと自主性を発揮して、どうぞ。

 

 実際ちょっと困るんだよね~。稼ぎは続けたいけれど、まさかふたりの目の前でMAG結晶体を砕くワケにもいかないし。

 もちろん余剰分でお菓子を購入してピクシーと一緒に食べるのも悪くないんだけど、できればレベルアップを優先したいもんな~。

 

 今日のところは素直に帰るか? 俺も。いまはまだムリでも一緒に仕事をしているうちに色んなことを話せるぐらいに気を許せる関係になれるかもしれんし。

 まぁレベルアップ用に結晶体砕くにしても、トイレとか適当に理由をつけて別行動すれば問題なく──あ。

 

 なぁ、ピクシー? 

 

(気をつけてッ! さっきまで無かったのに、建物の中から急にMAG反応が出たよッ! それもかなりヤバそうなヤツッ!!)

 

 ですよね~。

 

 

 

 

 お前らッ!! 走れッ!! 

 

「え──うわッ!?」

「む──なにッ!?」

 

 

 

 

 だよね、急に走れって言われても困るよね! でも建物が崩壊して中からゾウさんよりおっきいクリーチャーが出てくれば話は別だよね! 

 

 状況の把握なんてどうでもいい、とにかく生き残るためにも逃げるんだよぉぉぉぉッ!!!! 

 

「おいッ! Fッ!! あの巨大な化け物はなんなんだッ!? 貴方はなにか知っているのかッ!?」

 

「いまはそんなことを聞いてる場合じゃありませんよッ!! アイツ、ほかのクリーチャーと違って動きが速いッ!!」

 

 わんわんたちは駆け足程度の速さでも余裕で引き離せるぐらい走るのがヘタっぴだったからね、それと比べると全力ダッシュでギリギリ逃げられるかどうかって相手は恐怖でしかないねぇ! 

 レベルアップで腕力や反応速度なんかはどんな状況でも必要になるからかそれなりに強化されているけど、走るスピードはそこまで意識したことないから普通にピンチだよ! 明日からは足腰もちゃんと鍛えよう、絶対に! 

 

 どうする? ジオの感電効果に期待して足止めするか? 

 

 いやダメだな、たぶん俺が足を止めたらふたりも逃げるのを躊躇う可能性がある。なんとなくわかるよ、こいつら俺に構わず先に逃げろって言っても聞き入れやしないってことぐらいは。

 だからここは全力逃走が大正解なのだ。ほかの誰がなんと言おうとこれが最適解。このまま拠点まで逃げ切ればまともな装備をした軍人さんが大勢いるんだから、連中に倒してもらうのが賢いやり方ってもんよ! 

 

 

 ……うん。自分で考えておいてなんだが、失敗臭プンプンするわ。

 

 

 軍人と未確認生物。軍人とクリーチャー。軍人とエイリアン。軍人と悪魔。並べてみてどうよこの芳ばしさ、筋肉モリモリのマッチョマンなイケメンでもいれば大活躍してくれそうではあるけど。

 しかもアレだわ。たしかにここで3人だけで相手をするよりは生き残れる確率は高くなるだろうが、大勢が見ている前で魔法を使うことになれば最悪マジで拘束されて研究所送りにされるかもしれない。

 

 死にたくないから逃げてるのに、逃げた先でも地獄の釜が蓋開けて待ってるとかマリオメーカーのクソコース並みに殺意高過ぎんだろ。なけるわ。



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プロローグ:9

 RPGのお約束に“序盤のボスが後半のダンジョンでザコ敵として普通に出てくる”というものがある。

 

 かつて苦戦した強敵を流れ作業でサクサク倒せる感覚は、それだけ主人公パーティーが成長したことをわかりやすくプレイヤーに教えてくれる。

 俺はそんなに嫌いじゃない流れだけど、ボスキャラは特別であってほしいという気持ちも理解できる。どんなゲームでもボスとの戦いは物語の節目として扱われるし、誰だってなにかしらの思い入れがあるものだろう。

 

 

 ボスは、特別な1体でいい。

 

 

 1体でいいっつってんだろッ!! 

 

 

「遠くからも派手な音が聞こえるッ! 私たちを追いかけているヤツだけではないのか!?」

 

「逃げることを提案してくれたFさんには感謝ですね! こんなのに包囲されたら勝ち目なんてありませんよッ!」

 

 ホントだよッ! 

 

 少しは加減しろよバカ野郎ッ!! 

 

 だがしかし、これはこれで責任問題が分散されるというメリットがあるので一概にマイナスイベントとは言い切れない。

 複数箇所で発生したおかげで俺たちが連れてきた、あるいは俺たちのせいでデカブツが現れたと責められる心配は無くなったワケだし。

 

 もちろんデメリットというか、心配事が増えた部分もある。俺のように悪魔が見える人間や、ふたりのように魔法の力を手に入れた人間に反応して発生したのかもしれないという心配事が。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 スタート地点に必死で逃げ帰ってみれば、固く閉ざされたゲートの前で助けを求める子どもたちの姿。

 俺は自分のことを善人だとは欠片も思っていないが、それでもこう言わざるを得ないだろう。控え目に言って最低の光景だと。

 

 この3年間、思いの外まともな人間として扱われていると思っていたが……この世界の日本帝国とやらがどういう国家なのか、俺たちDクラス帝国市民がどういうポジションなのかハッキリしたな。

 

 ……な~んて。とかなんとかシリアスぶって考察してるけど、ぶっちゃけ前世の記憶あるから名前に番号割り振られた辺りでこんなもんだろうと想定してたけどねぇ。

 トラブル起きたら簡単に見捨てられることは知ってたよ。だからMAG結晶体を食べるなんて暴挙に出たんだし。

 

 だからと言ってこのままデカブツに大人しく殺されるワケにはいかない。ついでに死の恐怖でパニくってる子どもたちも可能な範囲で助けられないか試してみるとしようか。

 

 

 ハラ一杯に息を吸い込んでぇ~。──裏手に回れぇぇぇぇッ!! 

 

 

 ……よし! 意識は集まった! とにかくパニックから抜け出しただけでも生き残れるヤツは増えるハズだ! 

 

 

 全員ッ! 壁沿いに逃げて基地の裏側に回り込めッ!! 

 

 大丈夫だッ!! デカブツどもは軍人たちがきっとなんとかしてくれるッ! それに俺たちの仕事はクリーチャーを倒すことだが、逃げてはいけないなんて規則はねぇッ!! 

 

 

「クク──ハハハッ! やるじゃないかFッ! いいぞ、烏合の衆が少しはマシな動きになった! 見ろ、壁の上にいる軍人どものマヌケな顔を! ……奴らめ、私たちを囮にして戦うつもりだったな」

 

「まさか、そんなことが──ッ!? 帝国軍は国民の生命と財産を護るための組織だと……僕たちは国民では無いとでも──ッ!! ……ともかく、皆を誘導しなければ! 僕は右回りに避難している仲間たちを誘導しますッ!」

 

「ならば私は左回りに逃げている者たちを指揮するとしよう! 場合によっては逃げるためにも交戦が必要かもしれないが、まぁなんとか上手くやってみせるさッ!」

 

 お前たちが左右を担当するなら、俺は真ん中だな! ……は? 真ん中は頑丈そうな基地の扉があるだけですけど? これをブチ破って基地の中に誘導すればいいのかしら。

 っと、アホなこと考えてる場合じゃないな。今度こそ足止めが必要な場面だろう。逃げる子どもたちに追い付かせないのはもちろんだが、まだ廃墟から逃げてくる子どもたちもいるからな。

 

 

「Fッ!? あのバカ者がッ! ──えぇい、受けとれぇぇぇぇッ!!」

 

 Cちゃんがハンドガンを投げてきた。よくまぁこの距離で届くもんだな? いや、あの子もMAG結晶体を取り込んで身体能力が強化されてるなら不思議でもないか。

 

「15発だ! 貴方には聞きたいことがあるんだ、死んでくれるなよッ!」

 

 倒せと言われたら全力でお断りしたところだが、死ぬなというリクエストならば応えるのもやぶさかではない。

 

 改めてデカブツと対峙する。ひと言で表現するならブタ頭のケンタウルスだろうか? 上半身は女騎士の天敵でお馴染みのオークっぽい見た目で、下半身は……なんだかハイハイしてる赤ん坊にも見えて不気味さが半端ないわ。

 気分はベルセルクに登場する一般モブ兵士だよ。普通の犬ぐらいのサイズだったザコクリーチャーから、4tダンプ並みに大きいボスクリーチャーとかサイズ感間違ってないかい? 

 

 

 状況整理。このブタさんの化け物を倒すのは現状ではまず不可能だが、俺にとって勝利とは敵を倒すことではない。

 ほかのD民が逃げるための時間を稼ぐこと。そのためにも俺は生き残り、そして複数いるブタどもの意識を自分へ向けて引っ張る必要がある。

 

 ナイフは使う余裕は無いとして。荷物から悠長にマガジンを取り出す暇もないだろうし、攻撃手段は二丁拳銃の弾丸が合計で30発か。なんで俺は格上相手に命がけで縛りプレイやってんだろうな? 頼むから銃反射とかしてくんなよ。

 

 

(ニンゲン! ギリギリまでガマンしてあげるけど、アタシがもうムリだって判断したら攻撃魔法使うからね! それがイヤなら気合い入れてガンバってよ! ──スクカジャッ!)

 

 身体が軽く感じるだけじゃなく視界が広がってクリアになる感覚……ほぅ、これが命中回避が高まるということか。効果が切れた瞬間に、頭が身体の反応の違いに戸惑って転ばないといいけど。

 記念すべき最初のボス戦、ほぼ負けイベント確定の上に防衛対象の子どもがたくさん。わりと本気で泣きたくなるレベルで酷いなコレは。後ろの軍人さんたちも働いてくれると嬉しいなぁ~期待しちゃうな~るんるんッ!! 

 

 うん? 

 

 なんかブタさんの様子が……喉が膨らんでる? あ、なんかヤバそう──うげ、なんか吐き出したぞ!? 

 

 うわっ。うわぁ……アレ完璧に人間じゃん。人間だったナニじゃん。微妙に俺たちと同じ作業着の原型残ってるのがまたなんとも。

 言ってしまえばクリーチャーの出来損ない。つまりアイツらの正体はおそらくだが、このコロニーに住んでいた人々だったワケだ。そして捕まれば俺もアレの仲間入り、と。

 

 

 …………。よし! ムリっぽそうなら余計な見栄はらないで素直に逃げようッ!



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プロローグ:10

 とにかく走り、とにかく叫ぶ。

 

 コロニーの住人が変化したであろうゾンビもどきは犬型クリーチャーよりもさらに移動能力に乏しいので囲まれる心配は少ないが、ほかのブタウロスどもまで吐き出しているので単純に数の暴力がエグい。

 ちなみに逃げ遅れていたD民のなかには案の定魔法の力に目覚めてそうなヤツがいるようだ。相変わらず俺にはMAGの反応というものがよくわからないが、ピクシー的には該当者の生命力は目立つので探る必要すらないのだとか。

 

 幸運だったのは、壁の上にいた軍人たちが迫り来る恐怖に負けてオークもどきに銃を撃ってくれたことだろう。

 

 アイツらの意識は逃げる俺たちのほうに集中していたし、息を潜めてジッとしていればやり過ごすこともできたかもしれないのに。

 なまじ、まともな武器を持っているせいで逆に我慢できなかったのかな? なんかそんな話を聞いたことがある。武器があると逃げるよりつい応戦してしまうとかなんとか。

 

 ま、理由や事情なんてどうでもいい。大事なのは帝国軍人の皆さんが俺たちを逃がすため、オークもどきと勇敢に戦ってくれているという事実だ。

 

 おかげさまで心にいくらかの余裕が生まれる。そうなると周囲を見渡すぐらいのこともできるようになる。

 そして遠くを見れば離れた場所にあるほかの基地でも土煙やら火の手やらがチラチラ見えていることにも気付けるっていうふざけんなマジかよオイ別の基地からの増援とか普通に期待してたんだぞこっちは。

 

 

(ニンゲンッ! なんかMAGのカタマリ吐き出そうとしてるッ!!)

 

 よっしゃ、俺の鮮やかなローリングを見ろッ! 回避よーしッ! それで、いったいなにが……あ。扉がグジュグジュに腐蝕してドロドロになってらぁ。これ直撃したら絶対に助からないヤツですねわかりたくなかったよ! よッ! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「撃てッ! 撃てぇぇッ!!」

 

「なんでよッ!? 戦うのはDクラスの役目なんでしょ! 私たちは見てるだけでいいって説明してたじゃない!!」

 

「言ってる場合かよッ! 死にたくなかったら戦うしかねぇんだ──ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!? うでがぁ、おれのうでがぁぁぁぁッ!?」

 

 

 やっぱりダメみたいですね。軍隊が活躍できるのは人間が相手のときぐらいなんだって、ハッキリわかんだね。

 

 軍人の皆さんが命という名の盾になってくれてるおかげで息を整える余裕ができたのはありがたい。どれだけ身体能力が強化されても疲れるものは疲れるからな。

 銃声と悲鳴で基地の中は酷いことになってる。いまさらグロ物件で胃の中身がひっくり返るようなことにはならないが、別に長く留まりたいとも思ってないので早々に逃げ出したいのだが……反対側の扉も閉じられてんだよなぁ。

 

 お? とかなんとか言ってたら開いたわ。あーあ、逃げ出そうとする軍人たちの醜い争いが起きてらぁ。まともな指揮官がいないのか、それとも指揮官クラスの人間でさえも戦闘が発生する可能性をまったく考えていなかったのか。

 味方であるはずのトラックに磨り潰されている連中に同情しないこともないが、他人の手助けなんてしている場合じゃないのだ。この拠点が足止めとして期待できなくなった以上、なんらかの手を打たないとD民たちが逃げ切れんぞ。

 

 ……あ。あんなところにいーもんもんじゃんじょん! ピクシー、俺が銃を撃つのに合わせてドラム缶のところにジオを頼むッ! 

 

(オッケー!)

 

 さぁて、上手いこと期待に応えてくれよ──しゃあッ! 化け物相手に火力が足りないときはオブジェクト破壊に限るぜッ! 

 とにかく派手に爆発起こして巻き込めそうなヤツは片っ端から吹き飛ばそう。使い方のわからない、投げ捨てられてる火炎放射器とかも燃料タンク撃てば役目果たしてくれるでしょ。

 

 

 ヒャッハー! 汚物は消毒だ、ブタはまとめて丸焼きだ~ッ!! 

 

 

 よし、逃げるか。

 

 たまたま目論み通りに事が運んでいるけれど、これは幸運が重なったから上手くいってるだけだ。俺自身の能力がオークもどきに対して全て劣っているという事実はなにひとつ変わっていない。

 自惚れ、ダメゼッタイ! ここで「もしかしてこのまま戦えば勝てるんじゃね? 」とか調子にのったら100パーセント負けるので必ず逃走を選びましょう。

 

 文字通り煙りに巻いてスタコラサッサだぜぇ~。ってなんか一匹だけ無傷で追いかけてくるヤツおりゅぅぅぅぅッ!?

 

(アイツ、もしかしたらブタ連中のボスかも! ほかのとくらべて体の中に蓄えてるMAGの量がスゴく多い!)

 

 ボスキャラ集団のボスキャラ、ってコトォ!? 

 

 あ、やべぇww普通に追い付かれたww

 

 強化個体であるブタの親玉、略してブタ玉野郎は素早さだけじゃなく耐久力も高そうだ。ほかの養殖たちは爆発と延焼で部位破壊が起きて悶えているのに、ブタ玉は傷ひとつ付いて……よく見たらお尻の辺りに鉄板みたいなの刺さってんな。

 強そうに見えるボスだって、ダメージが通るときは通るもんなんだなぁ。再生する様子もなく体液っぽいものが流れ出てるし、無敵ってワケではなさそうだな。これで物理反射とか持ってたらガチ泣きしてたぞ。

 

 さて、ピクシーさんや。

 

 ジオンガとか、どう? 

 

(ディアの治療やスクカジャの補助がなくてもいいなら2回、使ったあとにアンタが気絶しちゃってもいいなら3回はイケるわよ)

 

 この状況で気絶付与とかそれもう即死判定が直撃するのと変わらねーだろ。ゲーム的な解釈をするならMPが枯渇すると行動不能になるってことか? 

 ここは少しでも前向きに考えてみるとしよう。とりあえず2回は使えるのだ。一方的にブチ殺されるかもしれない相手に、2回も感電させて逃げを狙うチャンスがあると思えば絶望するほどのことじゃない。

 

 ケチってジオを使う手もあるっちゃあるがなぁ……ゲームならシステムって保証があるからいいけど、この図体の相手に効くかな? 

 戦闘能力というか、魔力に大きく差があれば有効かもしれんけど。いまのはジオダインではない、ジオだ……みたいに。

 

 

 とにかく焦らず落ち着いて、敵の攻撃を丁寧に回避してから反撃を狙うことにしよう。げっぷ玉みたいなヤツにさえ気を付ければ必ず勝機はあると思い込もう! 

 

 さぁこいブタ玉野郎ッ! ソースたっぷりマヨネーズもマシマシに仕上げて美味しく料理してやるぜッ! でもやっぱり怖いモンは怖いぜぇッ!! 

 

 

 

 

「衝撃よ、彼を護れッ!」

「火炎よ、ヤツを焼き殺せッ!」

 

 

 

 

 ファッ!? 

 

 魔法攻撃……だと……? まさか!? 

 

「その反応。私たちのこの力に驚いた、というワケではなさそうだな。それにL、彼だけではなく貴方にも聞きたいことができてしまったよ」

 

「それはお互い様でしょう? しかしまずは生き延びることが先決です。僕たちに逃げろと言いながら危険を引き受けた誰かさんへのお説教も必要ですからね!」

 

 出会って間もない他人を助けるためにわざわざ地獄に飛び込んでくる。これはふたりとも『善』ですね間違いない。

 しかも秘密にしておきたかったであろう魔法まで使ってくれちゃって。泣くぞ? 肉体は若くても中身はオッサンなんだ、こういうことされると簡単に泣いちゃうぞ? 

 

 よし、このふたりが協力してくれるなら逃げるための時間を稼ぐのも難しくは──。

 

 

 

 

「さて……炎を生み出す力を得たのはいいが、ザコばかりを相手にしていたから丁度物足りなく思っていてな。これほどの大物であれば本気を試すだけの価値があるというものだ」

 

 え、ちょっと。

 

 

「仲間たちの体力も限界ですからね。軍人たちが逃げてしまった以上、ここでこのクリーチャーを倒さなければ僕たちも仲間たちも全員殺されてしまうでしょう。いわゆる正念場、というものですね」

 

 その理屈は正しいけどたまには間違えても許されると思うよ? 

 

 

(気持ちはわかるけど諦めなさいよ。アタシもできるだけガンバッてサポートするから、アンタも一生懸命戦うの! ホラッ、こういうときにカッコいいところ見せてくれるのがニンゲンの男の子なんでしょッ!)

 

 カッコ悪くてもいいから風になっていますぐ逃げたい……ッ!!




いただいた感想はありがたく読ませてもらっています。

励みになるのはもちろんですが、メガテンやペルソナを知っている人たちに楽しんでもらえるのはやはり嬉しいですね!


一応、原作に女神転生を選んでいますが、タグにクロスオーバーがあるように結構好き勝手に書いてます。なので読者の皆さまも自由な視点・自由な解釈で(運営さんに怒られない範囲で)好き勝手に感想を書いてもらって大丈夫です。

面白そうな発想やネタがあれば作品に組み込めますし。
(カス作者)


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VS暴食の尖兵:1

 俺が電撃のジオ、Lくんが衝撃のザン、Cちゃんが火炎のアギが使えるとして。これだけ揃ってるなら誰かひとりぐらいブタ玉の弱点を突けるんじゃなかろうか。

 

 

「燃えろッ! ──なに!?」

 

 

 はい。さっそく火炎耐性を確認できました。バスケットボールぐらいの火の玉がアッサリと受け止められて握り潰されてしまったがな。

 となれば、メガテン脳で考えるなら氷結弱点の可能性が高いか? それならそれで電撃と衝撃は普通に通ると期待できるので戦いようはあるが。

 

「奥では同類が炎に焼かれて息絶えているのだがな、見た目と違って能力は別物と考えるべきか。よし、私は囮役としてヤツの動きを牽制することに集中しよう。偉そうなことを言っておいて任せるのも少々情けない話だが、主戦力は貴方たちに任せるッ!!」

 

 消費するMAGの量を調節したのだろう、今度は野球ボールぐらいのサイズを両手に発現させている。

 なるほど威力を絞る、そういうのもあるのか! 俺みたいに前世知識という先入観が無いぶん、魔法の扱い方はふたりのほうが器用かも。

 

 

 ヤツの意識を分散できるなら、少しぐらい大胆に攻め込んでしまうのもアリだな。というかCちゃんのMAGが尽きて気絶するまでに決定打を与えないと一気に崩れることになる。

 だからといって簡単には致命傷を狙えない。となれば、せめて戦闘力を低下させるぐらいのことは──部位破壊かッ! 腕でも脚でも1本封じるだけでかなり戦いは有利になるハズだ! 

 

「いいですね、僕も賛成です! Cさんが動きを止めてくれている間に、僕は前足に衝撃を集中させてみますッ!」

 

 脚は動かし続けろよ! ヤツを中心に旋回しながら戦うんだ! 強力な腐蝕作用のあるブレスを吐き出してくる、直撃したら魔法の力でも助からないからなッ! 

 

「マホウ? 魔法、なるほどそういうものか……わかりましたッ!」

 

 いい返事だ、さすがは優等生キャラっぽい見た目と喋り方をしているだけあるぜ! 

 

 

 Cちゃんがアギでブタ玉の注意力を散漫にしている間に、俺とLくんでサイドアタックになるよう位置取りを調整する。ターゲットが観光バスみたいにデカいので同士討ちになるリスクは低いだろう。

 しかし困ったな、部位破壊を狙うにしてもジオでやれるかちょっと自信無いぞ? 感電させたり火花でオブジェクトを爆発させたりはできたけど、化け物の身体を直接破壊したことはなかった気がするし。

 

 いきなりジオンガを使うか? 出し惜しみをして手遅れになるよりはマシな判断のハズだが……イカン、イカンぞこれは。仲間がいることで選択肢が増えたぶん迷いも増えちゃった。回復と補助にもMAGを残しておきたいんだもの。贅沢な悩みだなオイ! 

 

 なにか、なにか都合よく使えそうな物が落ちてたりとかしたぁぁぁぁッ! あ、あれは……軍人の刀じゃねーか! 

 

 ちゃんと『斬る』には訓練が必要な武器で素人にはとても扱える代物ではないが、力任せに『突き刺す』だけなら俺だってひとりでできるもん! 

 相手の身体を駆け登って上半身、あわよくば頭や首に一撃ブチ込むことができれば最高だけど怖いから素直に下半身の脇腹を狙おう。いや、違うな。これはビビッてるんじゃない、冷静で的確な判断をしているだけだ。

 

「Cさん、前足をッ!」

 

「わかったッ!」

 

 アギとザンが同時にブタ玉の前足に直撃、さすがのデカブツでも怯んだか! ここが勇気の見せ所だコラァァァァッ!! 

 脇腹におもいっきり突き刺して! 強化された腕力と脚力に任せて切り開いてどっせぇぇぇぇいッ!! 折れたぁぁぁぁッ!! 

 

 でも大きく傷を作ることはできたな! 次は、次は? え、このあとどうしよう!? ……ハッ! この傷口に火炎放射器の燃料タンクをねじ込んで爆発させれば、いくら火炎耐性持ちだとしてもかなりのダメージを与えられるんじゃないか? 

 そうと決まればさっそく探しに──行きたかったけどブタ玉のヘイトは完全に俺に向けられてるね! そうだよね、脇腹抉られたんだもの俺をブチ殺さないと気が済まないよねぇッ!! 

 

 

 Cちゃぁぁぁん! 燃料タンクッ! 傷口のとこにッ! うわ、ブレス危ねぇッ!? 

 

 

「燃料タンク? なるほどそういうことか! 装備を投げ捨てるほど慌てて逃げてくれた腰抜けどもに感謝だな。L、私は一度離脱する。その間のFの援護は貴方に任せるぞ!」

 

「お気をつけて! まだほかにも動ける大型がいるかもしれませんし、人間の形をしたクリーチャーもいるようですから!」

 

 臨機応変に役割分担を変えて戦う、これもパーティー戦闘の醍醐味ってヤツよ! つまりここで俺が切り札であるジオンガよりも、囮役を全うするためにスクカジャを優先するのは自然な流れだよな? な! 

 

(ハイハイ。スクカジャッ!)

 

 よし、これでブタ玉から離れることなく囮になれる! 避けることに集中しすぎてCちゃんの邪魔をしたんじゃ本末転倒だし、障害物の多い場所に追い込まれて逃げ場が無くなったらそこで試合終了しちゃうし。

 あのブヨブヨした脚じゃ蹴りは使えないだろうから、腕の動きと腐蝕ブレスをとにかく注意しよう。一応ハンドガンでも反撃してみるか? 頭を狙ってラッキーヒットが出ないとも限らない。

 

 どれ。ブタ玉が叩き付けてくる拳を華麗に避けて~弾丸をプレゼントだッ!! 

 

(あっ)

 

 あっ。

 

 問、自分の脇腹に刀を突き刺したヤツに今度は頬っぺたを撃たれた。そのときのボスキャラの気持ちを答えよ。



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VS暴食の尖兵:2

 物理攻撃のスキルに『暴れまくり』というのがある。

 

 作品によって微妙に効果が違ったり違わなかったりするが、だいたい序盤のほうで使えるようになる全体攻撃というイメージで合っている……ハズ。

 なんかもう俺の中ではペルソナのレギオンが覚えるスキルみたいな感覚になってるけど。ちゃうねん、このスキルといえばこの悪魔この魔法ならこのペルソナみたいな雰囲気はプレイヤーなら誰にだってあるんだって。

 

 早い段階で使えるようになる全体物理攻撃、しかしダメージが良くも悪くも不安定という玄人好みの性能故に評価の分かれる癖が強いスキルなのだが……。

 

 

 実際に体験すると、簡単に死ねるね☆

 

 

 うぉぉぉぉッ!? ただでさえデカイ図体で暴れられると厄介なのに、ゲームと違って破壊されたアレとかコレとかも飛んでくるから厄介過ぎるだろあっちゅッ!? 火の粉まで飛んでくるし的確に俺に当たるのなんであっちゅいッ!! 

 まさかこんなことになるなんて想像しなかったよ! そもそも敵の攻撃を避けながら射撃とかいうスタイリッシュガンアクションが成功するなんて思わないよ! こちとら前世はモデルガンすらほとんど触ったことのない戦いの素人(←クリーチャー相手に実戦経験12時間×360日×3年)なのに顔みたいな小さい的に当たるワケねぇだろ常識的に考えたらさぁッ! 

 

 スクカジャか? もしかしなくてもスクカジャの命中率アップ効果か? どんだけ優秀なんだスクカジャ。射撃武器との相性気持ち良すぎだろ!

 もしくはピクシーの魔法センスが天才的なのかもしれん。さすがピクシー頼れる悪魔はお前がナンバーワンだ! 実は妖精じゃなくてその正体は地母神か女神だったりするのかしら? 

 

(それほどでもあるけど余計なこと考えてないでいまは攻撃を避けることに集中してッ! あとチボシンってのはそうでもないけど、メガミって呼ばれるのはなんかよくわからないけどイヤッ!)

 

 メンゴ☆

 

 

「くッ!? こいつ、的確にFさんだけを集中的に狙っている! ……まさか、彼が司令塔としての役割を果たしていることを察知して? クリーチャーにそんな判断ができるような知能があったなんて……ッ!」

 

 むしろ怒りに狂って判断力は低下していると思うんですが。でも的確に俺を狙ってるのは確かだね、わかるよ当事者だもの。

 くそッ。本音としては助けてほしいけど、こんな状態で合流しても被害が増えるだけだ。本音としてはマジで助けてほしいけど、ここはリスクを分散するためにもLくんには援護より攻撃を頼むほうが勝率は高まるだろう。本音としては心の底からいますぐ助けてほしいけど。

 

 と、いうワケでLくんッ! 俺のことはいいから、ヤツの脇腹を狙ってくれッ! 魔法でも銃でもその辺の建築材でもなんでもいいから当てるんだッ! ただ接近戦は危ないから止めようねッ! 

 

「え!? しかし──いえ、わかりましたッ! 僕も全力で戦いますから、Fさんもどうにか耐えてくださいッ!」

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「待たせたな、ふたりともッ! まだ生きているようでなによりだッ!」

 

「えぇ、おかげさまでッ! そちらも目的の物は見付けられたようで安心ですよッ!」

 

 メイン火力きたッ! これで勝つるッ! 

 

 よく見たらCちゃんもあちこちボロボロで出血している箇所まであるじゃないか。俺もなりふり構わず飛んだり跳ねたり転がったりして汚れつちまつた悲しみ状態だが、血を流すほどのケガはギリしてないので危険な仕事を年下の女の子に押し付けた形になりますねゴメンなさいッ! ありがとうッ!! 

 

 さて、ここからが本番だ。道具を選んで使って終わり、なんて簡単な作業で終わるワケもなく、ブタ玉の傷口に火炎放射器の燃料ボンベをねじ込んで爆発させなければならない。

 Lくんが器用に狙い撃ちしてくれたおかげで傷口は拡大し流れ出る体液の量は増えているが、ダメージそのものは少ないのか本体の動きが鈍っているようには見えない。

 

 つまり、ここが切り札の使いどころさんってことだ。とあるアメフト漫画に登場したライバルキャラも言っていた。本当に必要となる場面でジョーカーを切らない指揮官は馬鹿だ、みたいなことを。

 

 ピクシーさんや! 

 

(ジオと違って一気にMAGを引っ張られるから、きっとニンゲンにはかなりキツいからねッ! 気合いでしっかり踏ん張りなさいよッ!)

 

 気合いでなんとかなるなら大丈夫だろ。だって気合い出せばいいだけだべ? ……デカブツの動きを止めるぞッ! ふたりとも、離れてろッ! 

 

 

 

 

(バカみたいにジタバタすることしかできないアンタに、正しいMAGの使い方を教えてあげるッ! ──ジオンガッ!!)

 

 

 

 

 ジオの数倍は大きい雷撃がブタ玉の全身を貫く。純粋な攻撃力もかなり高いのだろう、あちこち皮膚の表面が弾けるように裂けて体液が吹き出している。

 

 そして大本命の感電効果は……オッケーッ! 

 

 

「まさかこれほどとは……ッ! 偶然に感謝だな、貴方が味方でよかったよ。Lッ! 貴方の衝撃の力で、爆風をヤツの内側に押し込めるかッ!?」

 

「やってみせましょうッ! そうでなければ彼に申し訳ありませんからねッ!」

 

「同意しようッ! ──さぁ、わざわざプレゼントするために持ってきたんだ、遠慮せずに受け取るがいいッ!」

 

 

 おぉ~、2種類の魔法を使った合体技とはやるじゃないか。やはり火炎耐性があろうとも、身体の内側から焼かれたのでは無事では済まないらしい。

 指向性が与えられたことで破壊力が倍増したのか、燃料ボンベの爆発はブタ玉の下半身を派手に吹き飛ばした。鼻の奥のほうが痛むような刺激臭がするが、まぁ腐蝕性のあるブレス吐き出すヤツだしなぁ。

 

 ……アレ? これ体液とか俺たちの身体にも確実に降りかかってるよね? そのわりにはピリピリしたりなんて感覚は全然ないけど。作業着も溶ける様子もないし。

 いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、これでヤツは動けなくなっているだろうし、煙で視界が遮られているいまのうちに今度こそ逃げて──。

 

 

 

 

「「やったかッ!?」」

 

 

 

 

 キミたちさぁ。仲良しさんなのはいいことだし俺としても喜ばしいことだとは思うけど、だからってそんな呪われし4文字の禁句をハモることなくない? 

 仮にひとりぶんで5割のフラグが建築されるなら、ふたり合わせて実質10割になっちゃうじゃないか。困ったもんだぜ、ハッハッハッ! 

 

 

 ピクシーさん? 

 

(……ダメージは、与えてるから)

 

 

 んもぉぉぉぉッ!!



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VS暴食の尖兵:3

 爆発による粉塵が晴れたあとから現れたのは、下半身が消し飛びオークもどきからオークの上半身に変化したボスでした。

 

 素人目には控えめに言っても瀕死に見えるが、それにしてはMAGの減り方が少ないとピクシーは判断している。どっちを信じるかって? 逆に聞きたいよね、この状況で俺の主張を採用するヤツおるんかって。

 近寄るのは危険か? 確実に止めを差すべきか? 悩んだ時間のぶんだけ苦労して手繰り寄せたこの有利が無駄に消耗するが、判断を間違えれば全てが一瞬でひっくり返る。

 

 せめて魔法を使えるだけのMAGに余裕があれば──うるさッ!? なに!? 急に雄叫びとかまさか麻痺付与のバインドボイス的なスキルで俺たちを足止めぇぇぇぇどころじゃねぇッ!! 死に体だった養殖ブタどもが復活してにじり寄ってきてるぞ!? 

 

 復活魔法のリカームに近い効果なのか? いや、それにしては様子がおかしい。なにが変なのか上手く言葉にはできないが、生き返ったワケじゃないと何故か確信できる。

 うん、なんだ。とにかく迷ってる暇は無くて、いますぐ決断が必要な状況に追い込まれてることだけは理解した。今日は1日そんなんばっかだな? 厄日か? メガテン世界そのものが厄災まみれなのに厄日もなにも無いか! ガハハハハッ! 

 

 ピクシーすまん。もう一回だけ無茶を頼む。死ぬのは絶対に嫌だが気絶で済むならセーフでいいかなって気分になったし。狙う場所は言わなくてもわかるだろ? 

 

(そりゃね。一部分だけだろうけど、強い反応があるMAG結晶体がキラキラしてるの見えてるし)

 

 正直、いまの時点で頭の頭痛が痛くてたまらんけど……背に腹はかえられぬ、死ななきゃ安いってのは金言だな。

 

(ギリギリまでMAGを搾り取るからね。歯ァ食いしばってガマンしてよね男の子ッ! ──ジオンガッ!!)

 

 

 すげぇ、視界の歪み方ハンパねぇ。だが意識を失う一歩手前で許されたらしい。おかげでオークの上半身が爆竹みたいにバチバチ弾けたところはバッチリ確認できた。

 やはりMAG結晶体はクリーチャーにとって重要な、ファンタジー作品とかでも定番の『核』という認識であっているのだろう。その中からピクシーが出てきた理由はさっぱりワケわかめだが。

 

「おい!? しっかりしろッ!!」

 

 悪い、歩くのだるい。肩かして。

 

「それぐらいお安いご用ですよ。さぁ、今度こそ逃げるとしましょう。さすがに明日は貢献活動なんてしている場合じゃないでしょうし、ゆっくり休めるハズです」

 

「フフッ、だといいがな……。軍の連中、基地が破壊されたのは私たちのせいだと言って瓦礫の撤去を命じるんじゃないか? ヤツらはそれぐらいのことはするだろう」

 

 あり得るから困るな~それ。どうしようかな、仮病を使うまでもなくガチで動けないから大丈夫だとは思うけど、もし命令されたら……ん? 

 

 

 

 

 

 

「ァ……ィ……」

 

 

 

 

 

 

 いま、なにか聞こえた? 

 

「いえ……僕はとくには」

 

「私もだ。疲労で幻聴でも聞こえたんじゃないか?」

 

 そうかな……そうかも……。

 

 

 

 

 

 

「ア゛……ギィ……」

 

 

 

 

 

 

 うん、聞こえてるわ。

 

 そしてこのタイミングで誰にも心当たりの無い声が聞こえるということは、だ。ものすご~く嫌だし気付かなかったことにしたいけど諦めて後ろを振り向けば──やっぱり生きてたかあの野郎ッ! 

 

「冗談でしょう!? どれだけしぶといんですか、あのクリーチャーはッ!」

 

「だが瀕死であることに変わりはない! とにかく逃げるぞ! 私たちもハンドガンを撃つことすら厳しいほど消耗してるんだ、どうにもできないッ!」

 

 その意見には俺も大賛成なんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マ゛……ハァ……ラ、ギィ……ヴォオンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 避ける? ムリ。だっていま確実にマハラギオンって唱えやがったし。全体火炎魔法をこのボロボロの状態でやり過ごすとかムリムリ。

 ならどうするか。答えは簡単、避けなければいい。俺の消耗はほとんどがMAGの消失なので肉体的にはまだ余裕がある。ゲーム的ステータスで表すならMPは切れてるけどHPはそれほど減っていないワケだ。

 

 だったらよぉ、やるしかねぇよな? 

 

 ──唸れッ! 筋肉ハイブースターッ!! 物理的マカラカーンを食らいやがれッ!! まぁ魔法反射なんてできるワケないし実際に攻撃を食らう側なのは俺のほうなんですけどギャッパァァァァッ!? 

 

(あーもうッ! ディアッ! ……いまので正真正銘MAGは売り切れよ。次にアタシと会えるのは、アンタがちゃんと休んで体力が回復してからね)

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 全身が痛過ぎてマジぴえん。だが痛みを感じるということはちゃんと生きているという証拠である。マハラギオンを受け止めたあとにピクシーが咄嗟にディアで回復してくれたおかげだな。

 ただ、さすがに余波はどうしようもなかったらしくLくんもCちゃんもちょいと離れたところに倒れている。でもすぐに起き上がったということはダメージ的には無事ということなのでヨシッ! 

 

 

 ほぼ間違いなく小言を言われるだろうが、まぁそれも生き延びたからこその──おや? 見慣れないトラックが何台もこっちに来るぞ? 

 

 

 日本帝国軍の所属を示す六弁桜があるから軍人さんたちのトラックなのだろうが、いつも俺たちが輸送される物より頑丈そうな見た目をしている。降りてきた軍人たちの服装も雰囲気が違うし。

 助かった、と思いたいところだがぶっちゃけ怪しいという気持ちのほうが大きい。何故そう思うかって? そりゃここがメガテン世界だからです。誰かを疑うのに理由がいるかい? 

 

「帝国軍? いまさら……いえ、助かったことには変わりませんね。あの! すみません! 怪我で動けない人がいるんです! 早く手当てを──うわッ!?」

 

「Lッ!? おい貴様らッ!! いったいなにをする──きゃッ!?」

 

 ほらぁッ! なんかスプレーを顔にプシューってされとるがな! あっという間にパタリと倒れちゃったよ! 一応軍人たちが丁寧に受け止めてるから助かる見込みはゼロじゃないけどさぁ。 

 

 

「この少年もそうかね?」

 

「はい、中佐殿。今回、これまで回収したDクラスの中でも特に純度の高い()()()()()()()()の反応が検出されています」

 

 俺の目の前まで歩いて近寄ってきた偉そうな軍人と、なにやら機械をポチポチ操作している軍人。いま生体マグネタイトってはっきり言ったよね? さすがに聞き逃さないよ? 

 

「ん? なんだ、意識があるのか。生きることに意地汚いのは良いことだ、潔さを美徳とするのは実戦を知らん無能どもだけで充分だからな。命があることに感謝し、そして喜びたまえ。

 ついでに頑張って化け物を退治したご褒美も与えてやろう。次に目が覚めたときにはキミも、キミの友人たちもCクラス帝国市民だ。番号ではない名前を名乗ることも許されるぞ、おめでとう」

 

「中佐殿、薬剤処理をしますので離れてください。……少し冷たいけど我慢してね。痛み止めと、気分を落ち着ける効果があるからゆっくり眠れるわ」

 

 どうやら助けてくれるようだが、こうして薬で眠らされるあたりどこまで信用していい……の、やら……ぐぅ。




ゲームならここでようやくタイトルですかね。


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オープニング:1

 寝て起きたら病室でした。

 

 おかしいな、こういうときって意味深な夢を見たりするもんじゃないの? それがなかったってことは俺は無事モブキャラとしての道を歩めているということか。

 生存確率で考えればメインだろうがモブだろうが容赦ないのがディストピア系のお約束だ、なんて都合の悪い真実には蓋をしておけば存在しないのと一緒だから大丈夫だ。シュレ……シュレ……なんだっけ、シュガーハートの猫? 

 

 手足は……動く。頭痛もない。強いていうなら空腹感が強いぐらいか? お休みスプレー体験からどれだけ時間が経過したのかはわからないが、怪我を治すために大量のカロリーを消費したのかもしれない。

 

(おはようニンゲン。その様子だとしっかり休めたみたいね。さすがに失ったMAGは元通り、ってワケにはいかないみたいだけど)

 

 おぉ。よかった、ピクシーも無事だったか。な~に、失ったMAGはまたクリーチャーを倒して稼げば問題な……そういえばあのときの軍人たち、当たり前のように生体マグネタイトって言ってたっけな。

 俺たちD民には必要のない情報として統制されていたか、そもそもD民の見張り程度の任務しか与えられていない軍人は知らされていないのか……どっちでもいいか、そんなこと。この考察はいまは必要ない。

 

 優先すべきは現状把握。とりあえず拘束されてケーブルまみれにされなかったのはありがたいことだ。魔法の力を使えるぐらいのことでは研究する必要がない、ってことなのかな? 

 だとすれば日本帝国には、あるいは帝国軍には魔法を使える人間が普通にいるということだ。なら悪魔の姿が見えるヤツも当然いる……のか? 

 

 ピクシーと初めて出会ったときのことを考えると、そっちの可能性はまだ保留したほうがいいかもしれん。余計なお喋りは自分の首を絞めるだけ、古事記にもそう書いてある。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「おはようございます。よく眠れましたか? 食事を用意したから、ムリのない範囲で食べられるぶんだけ食べて──と、思ったけど。キミのお腹は準備万端みたいね?」

 

 白いご飯、玉ねぎとジャガイモのみそ汁、ほうれん草? っぽいゴマ和え、目玉焼きとウィンナー2本、それに茹でたニンジンとカリフラワーかな? 

 これだけ整った食事を用意されて腹の虫鳴らないヤツいたら逆にヤバいだろ。だってよ、デザートにフルーツゼリーまであるんだぜ? 病み上がりに適切な食事かどうかは別問題だけど。

 

 どう考えてもDクラス帝国市民に食わせるメシじゃないな。なに? 俺このあと銃殺刑にでもされるんですか? せめてもの情けとして美味しいご飯食べさせてあげるよ的な。

 つまりお姉さんは最後の慈悲を与えにやってきた天使ですね把握しました。

 

「フフ♪ 喜んでくれているようでなによりだわ。心配しなくても、ここに運ばれた子たちはみんなキミと同じ食事が与えられているから大丈夫。ちょっと病室が足りなくてキミだけ個室になっちゃったから、少し寂しいかもしれないけど。ゴメンね? 

 それから──嬉しいのはわかったけど、これからはあんまり不用意に『天使』という言葉は使っちゃダメよ? 偉い人に聞かれたりしたら軽度不敬罪で長~いお説教のあとに反省文を書かされちゃうから。それじゃあ、しっかり食べてゆっくり身体を休めるのよ?」

 

 

 軍で食事を用意してくれる人ってなんて言うんだろう。衛生兵……は、違うよな。ともかく俺の作業着より高級そうな軍服を着たお姉さんが運んでくれたザ・和食。こいつを自由にする権利を俺は手に入れた。

 まさに我が世の春。おかげで胸もお腹も変な具合に満たされて箸がなかなか動かない。だって天使って言葉が不敬罪になるなんて情報を知っちゃったんだもの、そりゃ食欲も減衰するわ。

 

 誰に対する不敬罪なのか? そりゃ規律を作った人たちに対する不敬罪でしょ? それってつまり人間が軽々しく天使という言葉を発することを許さないような存在が国家運営の中枢にいるってことだからな! ワッハッハ! 吐きそう。

 

 

(ねぇねぇニンゲン、このフルーツゼリー食べてもい~い?)

 

 あ、どうぞどうぞ。比喩でもなんでもなくピクシーさんは命の恩人だからな。おやつのひとつやふたつを献上するぐらいのことは喜んでやりますとも。

 

 さて、俺も気持ち切り替えて食べるとしよう。ほうれん草からパクッとひと口……うむ。ゴマとお醤油の香りにまともな青物の味わいが素晴らしいじゃないか。

 お次は目玉焼きの黄身を潰して~からの? おもむろにウィンナーを掴むぜッ! 黄身にチョンチョンと、こうやって食べれば……美味いッ!! 

 

 そこに白飯。白飯! 白飯ッ! そしてみそ汁ずるる~っと──ふぅ、幸福。明日からまた命を削りながら平和を求めて戦う日々が始まるからね、束の間の安心安全を楽しまないとね。

 

(安心、安心ねぇ~。ま、バケモノだらけの壊れた街の中よりはたしかに安全かもしれないけど)

 

 おや。ピクシーさん的には気になることでもあるのかな? 

 

 

 

 

(気になるっていうか……ホラ、さっきご飯を持ってきたアレ。見た目と違って中身はニンゲンじゃなかったし)

 

 

 

 

 へぇ~そうなんだ~ブッフォッ!? 

 

(アブなっ。よしよし、ゼリーは無事ね♪)



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オープニング:2

 男は度胸! 

 

 なんでも聞いてみるものさ☆

 

 

「不注意に失礼なことを言ってしまうか心配だから勉強できる物が欲しい、と。いいわ、私の権限で持ち出せる本なんかを持ってきてあげる。

 でもあまり期待しないでね? 主な任務が医療用だから見た目ではわかりにくいかもしれないけど、私これでもオルギア駆動の……あ~。えーと、機械の人形って言って通じるかな? とにかく生身の人たちよりできることが少ないの。それでもいいなら任せて」

 

 

 そっちか~い! SF的な意味での人外か~い! 

 

 

 僥倖……ッ! 

 

 そしてセーフ……圧倒的セーフ……ッ!!

 

 一瞬だけ聞こえたオルギア駆動とかいう単語にペルソナプレイヤーとしてはなんかポンコツ臭と同時に不安を感じてしまったものの、ロボットのほうが人間の皮をかぶった天使に監視されるよりは100倍安心できる。

 なんなら同じロボットでもペルソナ3の初期アイギスより人間らしさに富んでいて話しやすいし。いや、アレはアレで大好物だけどね? なるほどなーの言い方とか最高に可愛いからね。キタローこと主人公にベッタリなのも大型犬っぽくて嫌いじゃないわ! 

 

 しかしロボットとな。もしかしたら12歳まで過ごしてた施設にも中身ロボットの職員さんとかいたんだろうか? 

 それとも完全に軍事用で外には流通していないとか。いうて施設にいたのは番号で管理されてるDクラス帝国市民の子どもだし、テクノロジー満載の機械なんか配置するワケないか。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 天使という言葉を使わないほうがいい、その理由は戦々恐々と想像していたアレコレよりかなりシンプルなものだった。

 皇帝陛下、そしてその血族たちの直属の部下。その栄誉を賜ることを許された身分の者を天の御遣い、あるいは天使や天使兵と呼ぶんだそうな。現人神たる皇帝陛下に支えることを許されたAクラス帝国市民だけの特権なんだそうだ、天使って表現は。──ややこしいわ! 

 

 はーキレそ。いや転生してから施設にあったソレ系の漫画とかテレビをちゃんと見てこなかった俺が悪いんだけど。当時は若く、この世界にメガテン要素があるとは思っていませんでした。

 しかし……う~ん。これ絶対に『裏』があるよな。だって生体マグネタイトって単語があって、魔法って概念もあるんだよ? しかも軍が一般市民や下っぱにはそれらの情報を与えることなくMAGも人材も積極的に集めてるっぽいというオマケつきだ。

 

 

 なにより、渡された資料のどこにも『悪魔』や『魔王』といった記述が無いのがべらぼーに胡散臭いし不自然過ぎる。

 神や天使を名乗り民衆からの支持を得たいなら、そうしたわかりやすい悪者がいたほうが楽なことぐらい俺にだって想像できるのに。

 

 

 さて困った。

 

 別にこの階級社会をブチ壊して人々の平等な自由を取り戻そうとかそういうことは全然考えてはいないけど、むしろ自分の生活が保障されるなら秩序のある社会で生きることもやぶさかではないけども。

 だが情報が足りてないままでは地雷原でダンスしながら生き続けるようなものだ。前世の知識と価値観が残るまま知らぬ存ぜぬとアホのふりをしていても、必ずどこかでボロが出るに決まっている。

 

 

 記憶を維持したまま若い肉体に生まれ変わった存在がDクラス帝国市民の中にいる、なんてバレた日には。

 

 しかもそいつが上層部が隠そうとしている悪魔や魔王に繋がるようなモノが見えていると知られたら。

 

 

 い、嫌すぎる……ッ! 人間らしく生きることができる未来なんて砂粒ほどにも見えやしねぇ……ッ!! 

 

 だがいまさら手に入れた力を手放すことなんてムリだ。一般市民にどこまで情報が公開されているのかはわからないが、この世界には悪魔の力が使えるクリーチャーが存在しているのは経験済みなのだ。

 そもそも手放そうと思ったって手放せないだろうし。3年間も必死になってクソ不味いMAG食い続けてたからな、下手すりゃ俺ってば何割かもう人間辞めてるんじゃね? だからピクシーの姿が見えてるのかもしれんし。

 

 ……ん? というコトはほかの連中は、LくんやCちゃんは別の方法で力に目覚めたってコト? 

 

 もしそうならアレだ。俺は死なないために強くなろうとした結果、より凄惨な死に方をする道を全力ダッシュしていたことになるな。

 まったくも~、おっちょこちょいのオチャメさん♪ ふざけんなチクショォォォォッ!! 生きるために必要だからと選んだ選択肢が実は難易度を爆上げするトラップとか、それが人間のやることかよぉぉぉぉッ!! 

 

 

 よし、諦めて悪魔の力を集めよう。

 

 

 やはり暴力、暴力こそが全てを解決する唯一にして絶対の真理……ッ!

 

 情報を集めるにしてもさっきのロボット、アンドロイド? のお姉さんの話からして立場によって閲覧できる資料に制限があるみたいだし、軍の中で功績を上げるためにも力は必要不可欠だ。

 

 まぁ秘密を知るということは自ら危険に近付くことと同じではあるんだが。それでも一方的に使い捨てに、というかモルモット扱いされながら死ぬよりはマシだ。

 こうなったらタダでは死なん、せめて上層部にいるかもしれない神やら天使やらに嫌がらせのひとつやふたつぐらいしてやらないと気が済まない。もし本当に人間しかいなかったら? そんなん顔面にグーパンしてやるですの! 

 

 とりあえずはこのあと、俺を含めてあの騒動を生き残ったD民たちをどう扱うのか沙汰を待つしかないか。わざわざCクラスの市民権を与えたんだ、引き続きクリーチャーと戦わせられるとしても環境は変わるハズ。

 せめてまともな食事を毎日食べられるような生活をさせてほしいもんだな。お湯でドロドロにした超薄味のカロリーメイトみたいな物体を啜るだけの日々は普通につらたんだったし。

 

 

 

 

 ……さっき食べたウィンナーソーセージ、ちゃんと豚肉とか牛肉で作られたヤツだよな?



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オープニング:3

 2日ほどして。

 

 無機質な部屋にギュッと押し込められて「お前ら全員新しい装備で新しい職場勤務な」とモニター越しに説明されて、プラカードの代わりに大きな銃を持ったパワードスーツ姿のお兄さんお姉さんに誘導されてゾロゾロと歩く集団に交ざる俺。

 質疑応答? ねぇよンなもん。ひとり「オレはCクラスになったんだろ! なんでまだ戦わなきゃならねぇんだ! 化け物を殺すのはDクラスの仕事なんだろッ!?」と思春期特有の反抗をした少年もいたけどね。まぁ連れていかれるよね。もちろんこの移動集団には戻ってないよね。南無三。

 

 ただ新しい装備は皮肉ではなく本当だったようで、薄い鉄板を使ったプロテクターみたいなものを支給された。クリーチャー相手に防御力が期待できるのかは疑問だが、地形による擦り傷とかは防げるので行動の幅は広がるだろう。これでもっと遠慮なくローリング回避ができるようになるぜ! 

 

 ちなみに武器は新しい職場についてから渡されるようだ。それはそう。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「私はこれから『ホノカ』を名乗ることにした。私がいまも生きていられるのは、この火炎の力のおかげだからな。いつか名前に漢字を使える身分になったら炎の文字を入れようと思っている。組み合わせるのは『香』か『華』か……その辺りはそのときまでに考えるつもりだ」

 

「僕は『マモル』という名前にしました。そうです、護衛の『護』という文字から取りました。大型のクリーチャーに襲撃されたときの帝国軍の姿に思うところはありますが……だからこそ僕はしっかりと市民を護れる人間になりたいと、そう思いまして」

 

 何処に連れていかれるのかもわからない、そしてどうやって移動しているのかもわからない。気分はまるで出荷される工業製品のようだが、狭い部屋に押し込められても知り合いがふたりいるだけで扱いとしてはマシなほうだろう。

 

 これから先の仕事場では複数人での作業が基本となると説明され、このメンツでチームを組むように指示が出ているが……俺とこのふたりが選ばれたのは偶然だろうか。

 これが作為的なモノだとすれば、俺たちを回収した『中佐殿』あたりがなにか企んでいるのかもしれない。帝国軍でもそれなりの地位にある人間がD民の交友関係に配慮するとは思えないし。

 

 もっとも、逆に考えれば有象無象のD民のことなんていちいち記憶しているとも考えにくいんだけど。というかそうであって欲しい。

 普通のファンタジー作品なら上官の覚えがめでたいのは喜ばしいことだが、メガテン的には偉い人に気に入られるのもまた死亡フラグのひとつなワケだし。あれ、情報収集のための出世って、マジで自分で自分の首を絞めるのとあまり変わらないんじゃ……。

 

 それはそれとして。

 

 キミたち、ちゃんと名前考えたんだね。えらいゾ☆ 俺なんて悩みに悩んで結局決められなくて保留してるのに。

 

「なんというか……戦闘中といまとでは貴方の印象も落差が酷いな。あれだけ勇敢に戦った人間が、平時ではここまで優柔不断だとは」

 

「それだけ気持ちの切り替えが上手なんでしょう。僕なんか失敗をけっこう引きずってしまうタイプなので、むしろ見習いたいぐらいですよ」

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 真っ白なシーツ! 

 

 いつでもお湯が出るシャワー! 

 

 そしてなによりも素晴らしいのは、四方が壁とドアで囲まれた完全個室の水洗トイレッ!! 

 

 最も高いと書いて最高。

 

(これからはアンタがトイレするときに、いちいち意識の海に潜らなくても外で待ってればいいから楽ね~)

 

 それはそれでリスキーだけどな。なにせマモルとホノカと共同の三人部屋なんだし。

 

 

「Dクラスとは扱いが雲泥の差だな。信じられるか? 小型の冷蔵庫まで設置されているぞ」

 

「働きに応じた待遇を。明確な信賞必罰こそが日本帝国を繁栄させたのだと熱弁していた先生は正しかったワケですね。しかしなんというか、学校の宿舎を思い出します」

 

 あ~、言われてみれば。

 

 部屋に対する人口密度はまるで別物だが、国家貢献の義務が適応されてお仕事を始めるまでに過ごしていた施設はこんな感じだったな。

 

 その施設の名を『帝国福祉・特別人権教育学校』という。この国が子どもたちの教育にどれだけ真剣かつ本格的に取り組んでいるのかが伝わってくる素敵なネーミングしてるだろう? 

 どれぐらい真剣だったかというと、帝国放送で反逆者が処刑される様子が流されるときは子どもたちを全員集めて視聴させ、そのあと「正義の軍人さんたちの活躍でまた帝国の平和を乱す悪い人たちがやっつけられました。この国がまた1歩、宇宙で最も優れた国家として歩みを進めたことを皆さんでお祝いしましょう!」と言ってケーキをたくさん食べさせてくれるぐらいには教育熱心だ。そして俺がこの世界をヤバいと確信した瞬間でもある。

 

 いうて規則さえ守って過ごしてればそんなに悪くない毎日でもあったけどな。強いて不満をあげるなら、食事が1日2回なのと午後の活動が全部戦闘訓練なのがキツかったことぐらいか? 

 でも食事の内容はロールパンにトマトとキャベツのカレー味スープとかまともだったし、化け物が当たり前のようにいる世界なら戦いに備えるのも当然だし。

 

 

 ま、たまに「ちょっとぐらい平気だって! 先生にバレないようにすぐに戻ってくるって!」と言って敷地の外に出た奴らが翌朝には例外無く転校したと聞かされたときは流石と思ったが。

 若くて可愛らしい女の先生が優しく微笑みながら「彼らは規則を破ってしまったことを反省し、今日から日本帝国にその身を捧げて貢献しています。皆さんがお友だちともう一度会うのはとても難しいことかもしれませんが、心はいつでも一緒ですよ」とか言い出したときは股間の黄金郷にブリザードが吹き荒れてたっけ。

 

 

 うん、やめよう! 

 

 思い出すだけで変な汗止まらねぇ。

 

 

 そんなことより次のお仕事のことを考えたほうが建設的だな。そう、次のお仕事は……お仕事はぁ……な~んにも情報与えられてなかったわ。ま、どうせまたDクラスのときと同じように化け物退治だべ。よゆーよゆー!




あとからまとめて読んでいる方には関係のない話ですが……。


この話を投稿しているとき、Nintendo Switchでメガテンが半額セールをしていることに気が付きました。


投稿が遅れたら察して♡


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オープニング:4

HDリマスターされた東京受胎と人修羅を……最高やな!


 新しい戦場は同コロニー内でお隣のセクター、つまりは斜め上方向に見えていた板の上だった。セクター間をどうやって移動するのかはDクラス上がり程度には勿体なくて見せられないよ! ということらしい。

 

 

 三人一組のチームで行動できること、装備がハンドガンとナイフからマシンピストルとサーベルに強化されたこと、ノルマの制限がその日限定から一週間のトータルに緩和されたこと。

 これだけ良い条件が与えられるときたら、今度の仕事で戦うクリーチャーはいままで倒したヤツらより強いだろうなって想像するじゃん? 実際その通りでした。ブタ玉ほど大きくはないが、それでも3メートル級のクリーチャーとか出てきちゃったらビックリするだろ普通に! 

 

「こう大きいとエネルギー結晶体……ではなかったな、生体マグネタイト結晶体を取り出すのも一仕事だな。1匹から複数個採取できるのは悪くないが。マモル、それにリーダーも」

 

「ありがとうございます。リーダー、どうしますか? ノルマには余裕がありますが、Dクラスのときと違って貯蓄が許されてますしチップと交換するのもいいと思いますよ」

 

 いや、ここは自分たちで吸収することにしよう。余裕があるからこそ、いざというときに魔法が使えるようにMAGを蓄えておくべきだ。

 あとキミたち、ナチュラルに俺のことリーダー呼びしてるのなんなん? 俺たちはそんな上下関係を気にするような間柄じゃないだろ? もっと対等な関係でいこうぜ、具体的にはあらゆる責任を三等分するぐらいに。

 

「名前を決めていなかった貴方が悪い。せっかくCクラスに昇格したのに。いつまでもFだのナンバーだので呼んでいたら面白くないだろう?」

 

 フンッ、と少しご機嫌ナナメに鼻を鳴らすホノカ。そういえば名前を決めていなかったことで先任のCクラス戦闘員の偉そうなハゲに「自分の名前すら決められなかったグズのキサマにピッタリな呼び名があるぞ。今度からお前のことは『ノロマ』と呼んでやる。どうだ嬉しいだろノロマ! ハッハッハッ!!」とか言われて周囲にいた連中に笑われたときもイヤそうにしていたな。

 ぶっちゃけこんな世界だし、その程度の嫌がらせなんか強がりでもなんでもなく平気なんだけど。何処ぞのポストアポカリプス世界の戦車作りの名人なんか親しみをこめて「ハナクソーッ!」とか呼んでくるし。お前のことやぞバトー博士。でもメタルマックスシリーズの中でもお前のことは嫌いじゃないわ! 不動の一番人気はポチです異論は認めんッ!! 

 

 

「別に僕もホノカもリーダーに責任を押し付けようなんてかんがえていませんよ。ですが、事実としてリーダーが一番戦いで頼りになりますからね。いろいろと……その、洞察力と判断力に優れていますし」

 

「先日戦った大型の──あぁ『乙型ヨモツイクサ』と言うんだったな。あのレベルの敵がまた出てきたときには活躍に期待しているぞ? もちろん命を無駄遣いしない前提でな。それにしても、ヨモツイクサ……か」

 

「死者の国である黄泉の国から、現世を生きる人間を喰らうために這い出てきた異形の化け物。軍で正式にそう呼んでいるのなら、国家貢献義務の説明のときに一緒に教えてくれてもよかったのに、とは思いますね」

 

 それはそう。いままでクリーチャーだの化け物だの呼んでいたが、正式な名称があったなら勿体ぶらないでいいだろっていうね。

 

 それとも、これも仕事のやる気を引き出すための施策のひとつなのかな? お前は偉くなったから、いままで教えられなかったことを教えてやるぞ~みたいな。

 結局こうして知ることができるんだし、まさか化け物の呼び名を教えるって行為そのものが国家機密に関わっているワケでもあるめぇによ。だって普通に戦ってんだから。

 

 

「連中が死者の国の軍隊ならば、私たちが歩いているこの場所は死者の国の入り口か……それともすでに足を踏み入れているのかもしれないな?」

 

「そうですね……。建物が植物に覆われてしまっているのは前の場所と同じですが、壁の一部がどう見てもヨモツイクサの身体みたいに変質しています。なんだか奴らの腹の中にでも入ってしまったようで、あまりいい気分ではありませんね」

 

 ん~。スマン、ふたりとも。こういう肉々しいダンジョンは前世で何度も経験してるから“そういうもの”ぐらいにしか思ってなかったわ。洞察力(笑)ですねこれは。

 いや、警戒はしてるよ? この肉壁からいきなりヨモツイクサが生えてきて襲い掛かってくるパターンとか普通に考えていたし。

 

 あのブタ玉が魔法を使ってきた以上、その辺の雑魚である丁型ヨモツイクサとやらも魔法を使える可能性は普通にあり得る。

 それが攻撃魔法ならばまだいい。火炎のアギや氷結のブフとかならダメージを受けるだけだが、これが混乱を引き起こすプリンパだったり、魅了効果のマリンカリンあたりを奇襲で使われた日には泣きたくなるような被害が出るだろう。

 

 最悪はもちろん即死付着の闇魔法ムドです。同じ即死でも光系のハマは……どっちかっていうと帝国軍の上層部とかに使えそうなヤツいそうだな。天使を自称するような連中だ、プロパガンダ的な意味でも有効だろうさ。

 

 

(魔法が使える化け物が増えるっていうことは、アタシと同じような悪魔もいるのかな? 面白そうだし、またMAG結晶体につかまっている子がいたら助けてみようよ!)

 

 おぉ、そうそう仲魔も増やさないとイカンのだった。俺にそれができるのかどうか、という問題はあるが試してみる価値はあるはずだ。

 幸いにしてD民生活のときとは違い一定量のMAG結晶体を持ち歩くことが許可されている。下手な動きを見せればあっという間にドナドナされるだろうが、砕くだけなら体内のMAG量を補充すると言い訳もできるからなんとかなるだろう。

 

 

 これでいきなりメガテンやペルソナで高レベルが要求されるような悪魔が出てきて、契約と同時にMAG吸いつくされて死んだら笑えるな! アッハッハッ! 

 

 いや笑えねぇから。



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オープニング:5

(ケケッ! そうかそうか。そうだ、オレ様はウェンディゴだったな。感謝するぜニンゲン、オレ様にオレ様を思い出させてくれたことをよぉ!)

 

(それで? アンタはこのニンゲンに力を貸してくれるワケ? それがムリならせめてアタシが強くなるためのエサぐらいになりなさいよ)

 

(おぉ~怖ェ怖ェ! そんな脅さなくてもちゃんと協力してやるよ。実体化できるだけの力を取り戻すまでは、このニンゲンの意識の海を漂ってることしかできねぇが……その間、オマエにオレ様の『氷結』の力を貸してやるよ)

 

 

 てれってって~♪ ピクシーはブフの魔法を使えるようになった! え? それマ!? やるじゃないかウェンディゴいや本気で仲魔になってくれてありがとう! 

 これで相手の動きを封じることができる攻撃魔法が2属性から選べるようになる。いまのところジオが無効化されるようなことは無かったが、これから先も電撃だけで戦える保証なんて何処にもない。というか十中八九、いつかは吸収や反射をされることだろう。

 

 しかし。力の一部を、というかスキルを貸し出す。そういうのもあるのか! と目から鱗が落ちる気分だ。ペルソナのスキルカードに近いのかな? 

 つまり闇属性や光属性に耐性がある悪魔と交渉できれば生き残れる確率もだいぶ違ってくるということだ。仲魔にできれば理想的だが、相手は悪魔だし敵対せずに済めばそれだけでも当たりと思おう。

 

 っと、そろそろふたりのところに戻らんとな。ここは戦場、お腹がピーちゃんとウソついての単独行動は普通に心配される案件だし。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 本日の稼ぎが確定し、マモルとホノカもMAG結晶体を砕いてレベルアップ完了。マモルは広範囲に衝撃を放つ『マハザン』を、ホノカは正面に強力な火炎を飛ばす『アギラオ』を使えるようになりました。

 いや~仲間が頼りになるって楽でいいね~。なんとなくふたりが習得する魔法のラインナップに対して、将来的というか潜在的な恐怖を感じないこともないけど。

 

 で。まぁ余裕があるうちに帰ろうかって話になったワケだが。

 

 

「ワリィな、マモル。オレひとりじゃどうしようもなくって困ってたんだ。アキラたちも手伝ってくれてありがとうな!」

 

「いえ、困ったときはお互い様ですよ。ちょうど僕たちは充分な量のMAG結晶体は確保して帰るところでしたし、さすがにこんな状態の仲間を放ってはおけません」

 

「俺たちも稼ぎは終わってたからな、気にすることはないさ。しかし……本当に反応がないな。なにかずっと呟いてるし、気絶してるワケじゃないんだろうけど」

 

 マモルの友人であるヨウイチなる少年に助けを乞われ案内された公園らしき跡地では、ふたりの女の子が地べたに正座して虚ろな表情でブツブツとなんか言い続けてる。

 周囲にいるのは俺たち以外の協力者か。男の子がひとりと女の子がふたり。なに? チーム管理も男女平等の精神で性別はバランスよく配置しようみたいなスタンスなの? 初対面でそんなチーム組まされたら気遣いだけで疲れそうなんだけど。

 

 なんでもふたりは最近MAG結晶体を吸収しても戦闘力が伸び悩んでいたらしい。魔法の力は使えるのだが、身体能力のほうが停滞してしまいヨモツイクサとの戦闘に不安を抱えていた。

 そんなあるとき。というかつい先ほどの出来事。丁型ヨモツイクサの中でもやや大きめの個体と戦闘になったのだが、何故か大した反撃も受けることなく倒すことに成功。いつものようにMAG結晶体を取り出したところ、普段採取している物と少し形状が違いキラキラしていたのだとか。

 

 これを砕いて吸収すればレベルアップできるのでは? と考え実行した結果がこれである。もう少し疑えよ、と言うのは簡単だがこんな世界だしなぁ。俺だって死にたくないという一心でMAG結晶体を食べたワケだし。

 

「リーダー。僕がひとり運びますので、ホノカさんと周囲の警戒をお願いしてもいいですか?」

 

「待てよマモル。こいつらはオレのチームなんだ、オレが責任を持って……」

 

「ヨウイチくん、顔色が悪いですよ。ふたりのために無茶をしているのでしょう? こんなときぐらいは周囲を頼ってください」

 

「マモルの言う通りだよ。ヨウイチは前の施設での貢献義務のときもそんな感じだったからな。ヒサメ、前衛を頼む。ヒナタは運搬役を、俺は後ろを警戒するとしよう」

 

 ふむ。ならば俺たちのチームはホノカに前衛を頼むとしよう。ピクシーさんのMAG探知能力を有効活用するなら、俺も後方警戒を担当したほうが全滅の危険性は下がるだろう。メガテンの奇襲はほんま……地獄やで? 

 

 

「アキラだ。マモルとヨウイチとは学校のときから一緒の、いわゆる幼馴染みってヤツさ。基地に配属されるときも運良く同じエリアでな、Dクラスとして奴らと戦っているときも何度も協力してたんだ。よろしくな!」

 

 我輩はFである。名前はまだない。

 

「……本当に名前を決めていなかったのか。いや、気持ちはわかるよ。俺もかなり悩んだからな。結局は前向きな漢字が使えるような名前ならいいやってアキラに決めちまったんだけどさ」

 

 いや、いい名前だと思うよ? 学園が舞台のファンタジーに登場する、なんか意志力の高い一匹狼系ヤンキーみたいでカッコいいじゃん。

 

 

 それにしても……女の子たちの独り言が止まらんな。背負って移動しているマモルとヒナタって女の子も大変だな。位置関係的にずっとそれ聞かされているワケだし。

 

 ……ふむ? こうなってくると、女の子たちの独り言の内容が気になるところでござるな。

 あまりプライベートな内容だった場合ちょっと気まずいが、運んでいるふたりの様子からしてたぶん大丈夫だろ。もしもまったく意味の繋がらない単語を垂れ流してるだけとかだったら、それはそれでホラーだが。

 

 どれ。聞き耳ロールッ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……てんに……いのりを…………ちに……うたを……せんねん…………つづく……おう……こく…………を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 これいますぐ自分の鼓膜を自分でブチ破ったらワンチャン聞かなかったことにできねーかなー?



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オープニング:6

「おっと新人ども、ここは通行止めだ。どうしても通り抜けたけりゃ手持ちのMAG結晶体を全部置いてってもらおうか」

 

「どうしても嫌だっていうなら仕方ねぇ、代わりに女たちでの支払いも受け付けてやるよ。その背中に背負ってるヤツらも優し~く世話してやっからよ? イヒヒ……ッ!」

 

 

 チンピラ風味の先輩方にからまれるというジャンル問わずの定番イベントも、いまの俺にはすっかり色褪せて見えてしまうよ。なにせ身内がニュークリアボム並みの爆弾を抱えたまま基地に帰ろうとしているのだから。

 これでハーフデッドボムまで揃えばレベル不足でも十賢者が倒せちまうぜ。いや、すでにヤベェ状態のがふたりいるんだからもう準備は完了してたな! ガハハハ! 

 

 ゲスい要求に当然の権利のようにキレる仲間たち。それはそう。包囲されて銃口を向けられているとはいえ、こちらも全員が身体強化された異能の力を持つ者たちである。簡単に弱気な姿を見せるようではヨモツイクサと戦ってられんからね。

 

 

「ふざけるな! このMAG結晶体はオレたちが命がけで集めた大事なモノなんだぞ! それを横取りしようだなんて、同じ軍人のクセに恥ずかしくないのかッ!」

 

「おーおー、元気に吠えるじゃねぇの。……言葉には気を付けろよゴミ虫が。テメェら使い捨てのDクラス産まれと俺たちを同列で語ってんじゃねぇッ!」

 

「そうそう。お情けで軍隊に面倒見てもらってるカスどもとはスタートラインがまるで違うんだよ。番号で管理されて名前も無かったような連中が、生粋のCクラス帝国市民さまに逆らっちゃダメでしょ~?」

 

「おい、良くみたら名前すらねぇヤツがひとり混ざってんぞ! おうノロマッ! 名前も決められねぇノロマのクセにまだ生き残ってやがるのかノロマ! どうだ、俺が名前を付けてやったおかげで優しい先輩方がお前のことを覚えてくれたぞ、嬉しいだろノロマッ! ハッハッハッ!」

 

 

 ハイハイ、キミたち殺気立たないの。お前さんたちはちょっとヨモツイクサの警戒しててよ、俺も少し先輩の皆さんと話をしてみたいんでね。

 

 さて先輩方。単純な疑問なんですけどね、ぶっちゃけ俺たちから献上品を集めるより自分でヨモツイクサを倒したほうが効率良くないッスか? 

 だって、もしかしたらこの道を通らなかった可能性だってあるんだし。そしたら無駄に時間を過ごすことになってたワケですし、かえって面倒なことしてませんか? 

 

「ふむふむ、なるほど。たしかにそういう考え方もできるな。よし! 物知らずでバカな後輩に世の中のことを教えてやるのも先輩の仕事だからな。テメェらゴミ虫と俺たち人間との違いを教えてやる」

 

「使い捨てでいくらでも代わりがいるDクラス上がりと違って、俺たちみたいな正式な軍人はいちいちMAG結晶体なんざ集めなくても給料が支払われるのさ。だからこれはただの小遣い稼ぎってワケよ」

 

「つまりは遊びだよ、遊び! 遊びに命がけになるアホなんているワケねぇだろ? これでまたひとつ賢くなれたな、感謝しろよノロマ」

 

 えぇ、ありがとうございます。……ピクシー、こいつらってMAG反応あるんか? 

 

(ないよー。あ、全然カラッポってワケじゃなくてね? ただヨモツイクサってのと戦えるとは思えないほど弱そうだし、魔法を使うなんて絶対ムリだろうね。でもアーマーとか銃からはMAGの力を感じるよ)

 

 ふ~ん? つまりこのまま戦闘になってもそうそう負ける要素はない、と。しかし本人たちは自分たちのほうが無条件で有利だと思っている様子ときたもんだ。

 と、いうことは。……えー、生意気な態度を見せてしまい大変失礼しました。Dクラスから昇格して気分が大きくなっていたようです。やはり先輩方のような本物のエリートは軍隊での立場が違うんですね! 

 

「なんだよノロマ、お前ちゃんと礼儀正しくできるんじゃねぇか。えらいえらい! こりゃノロマなんてあだ名を付けて悪いことしちゃったかな?」

 

「そうそう、素直にそうやって頭を下げてりゃ俺たちも少しは見逃してやろうかって気持ちになるんだ。下の者にも寛大な心ってヤツを見せるのも上に立つ人間の役目だしよ」

 

「後ろのキミたちもこのノロマ……じゃないか、もう。コイツみたいに賢い選択をしたほうが身のためだよ~? なにせ俺たちはいずれ──選ばれし『天使兵』まで出世する予定だからな!」

 

 

 うーん、わかりやすい。そして扱いやすい。出世コースが約束されたかのような言い方は、事実としてD民とC民の扱いの違いから出てくる言葉なのだろう。

 だがコイツらが本当にエリートなのかは怪しいところだ。おそらくはD民上がりの連中なら全員が知っているであろうMAG結晶体を使ったレベルアップを知らないんだから。

 

 なんなら勇敢な最後を期待されてここにいる可能性だってあるぞ? 煽てて戦場に立たせて、不幸な事故が起きればそれでよし、そうでなくともこんな世界じゃ一度軍隊に入れば簡単には抜け出せない──おん? 

 

 

「てん、し……てんし……?」

 

 

「へ? ちょっ、動いちゃダメだよ! 落としちゃうから……うわっと!?」

 

「おい、待てよ! まさかそいつらの言う通りにするつもりじゃ──うおッ!?」

 

 相変わらずブツブツと呟きながら、そして止めようと腕を掴んだヨウイチを振り払い、自称エリートの前まで歩いていく。

 どう見ても様子がおかしいせいで、こちらは誰も動けない。俺? 俺は違うよ、嫌な予感しかしないから動かないだけだもん。別にビビってなんかいますけどなにか? 

 

「お? なんだ、自分からくるたぁお前も賢いみたいだな。よし、お前は特に丁寧に可愛がってやろう。感謝しろよ? 未来の天使兵さまに遊んでもらえたって、皆に自慢できるぜ! ハッハッハッ!」

 

「…………が」

 

「うん?」

 

 

 

 

「──貴様ら如き下等生物が、軽々しく天使と口にするなァッ!!」

 

「あぁんッ!? テメェ殺さ──ゴポァ……」

 

 

 

 

 はい、というワケでヨウイチくんのお仲間の女の子が先輩の心臓を素手で貫いたところで戦闘ラウンド開始です! これもう中にガチ天使っぽいもの入ってるって認識でいいよね?

 つまり女の子たちの自我はもう手遅れってことですねコレは。洗脳よりタチ悪いじゃねーか! でもメガテンの天使ってこんなもんだよね! いつもの連中だよ知ってたッ!



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VS失名の贄:1

 いったい、いつからだろうか? 天使が登場するたびに胡散臭いと思うようになってしまったのは。これが大人になるということ、心が汚れるって悲しいことなのね……。

 まぁパロディウスのマスコット的ブタさん天使のミカエルとか、聖☆おにいさんに登場するブラコン中二病ミカエルくんは大好きなんですけどね。ブラックマトリクスの大天使は特殊すぎるのでノーコメントで。

 

 あ、チンピラ先輩たちはクッソ情けない悲鳴をあげながら逃げました。

 ウソでしょ、そこは逆上して銃を乱射する場面だろ常識的に考えて。自分の役目を投げ出して恥ずかしくないの? こっちは戦闘開始のどさくさに紛れてお前ら囮にして逃げるつもりだったのに。 

 

 

「いつまで呆けているのです? 下等生物らしく跪いて頭を垂れなさい、ニンゲン。──マハガルッ!!」

 

 

 ギャースッ!? くそ、さすが天使(仮)のマハガルはひと味違うぜ。踏ん張ってガードしようと試みたけど普通に吹っ飛ばされてもーたがな。

 でも意外なことにアーマーの金属プレートは壊れてないみたいだ。アレかな、ゲームと違って範囲攻撃をしようとすると威力が分散されちゃうとかあるのかも。だとしても痛いものは痛いんですけどね! 

 

 

「あぁ……てんしさま……そこに、おられたのですね……」

 

「フフ……此方へおいでなさい。怖がる必要などありません、私が貴女の穢れた魂を浄化して差し上げましょう」

 

 

 おぉっと? ここでもうひとりの女の子が恍惚とした表情で天使(仮)に近付いて行くぞ~! 優しく微笑む女の子とエロい顔した女の子が向き合う様子は刺さる人には刺さる光景なのだろうが、残念ながら俺にソッチ系の趣味はないし小心者特有の生存本能がいますぐ逃げろと警鐘を16ビートでカンカン鳴らしてる。

 

 

 

 

 

 

「分不相応の力は不幸しかもたらしません。貴女の身に宿る奇跡の力は私が責任を持って預かりましょう。さぁ、私に全てを委ねなさい。カラダも、ココロも、そして──その命も!」

 

「ガッ! ゲボッ! が、は、はぁぁでんじ、ざ、ばぁ……あは、あばははばは! ごれで、わだじぼ、ぜんねんのおつごぐべ……アハッ」

 

 

 

 

 

 

 まさかの預かる(物理)ですか。心臓を抉られて幸せそうに笑ってる姿は完璧にホラーだよ。しかもなんか心臓がキラキラ光って縮んで──あれは、MAG結晶体? 

 

 謎イベント畳み掛けてくるの止めてくんないかな、脳の処理が追い付かねぇンだわ。それにどこに需要があるんですかねこのバイオレンス百合営業は。ヨモツイクサとの戦闘とはまるで意味が違う、というか意味がわからなすぎてメンタルへのダメージが桁違いだよ! 

 ほらぁ、運搬役だったヒナタって子なんか口から乙女の雫を垂れ流しちゃってるしッ! ほかのメンバーだって全員顔色真っ青だよッ! ヨウイチくんなんかもうプルプル震えとるがな。

 

 

 アカン、このままじゃ全員ヤツに殺されてしまう。こうなったらやるしかねぇッ! ──ヨウイチッ!! 

 

「────は、ハイッ!?」

 

 お、いい返事できてるじゃ~ん。ならメンタルのほうはまだ大丈夫だな

 さぁ選べッ! 逃げるか、戦うかだッ! あそこにいるのはもうお前の仲間だった子じゃないッ! 目の前で仲間がふたり殺されてるんだ、お前の決断に全力で応えてやるッ!! 

 

 ちなみに俺のオススメは全力で逃げることだ!! 

 

「──やります! 戦いますッ! 本当は逃げるほうが“賢い”選択ってヤツなんでしょうけど、オレ、オレ……バカなんでッ!! 

 そりゃ、ワケわかんねぇこと起きて混乱してるし、正直もう震えが止まらないほど怖いッスけど……それでもッ! 仲間をメチャクチャにしやがったヤツになにもできないまま逃げるとかイヤですッ!!」

 

 よう言うたッ! それでこそ男やッ! 

 

 なるほどヨウイチくんはそういうタイプの、いわゆる真面目で優しい熱血漢とかに分類される性格なんだな。

 危ねぇから今後はなるべく関わらんようにしとこ。自分の失敗で死にかけるのはまだしも、他人の都合に振り回されて命を落とすとかやってらんねぇわ。今回は特別だかんなッ! 

 

 

 コイツの相手は俺とヨウイチがするッ!! 

 

 お前たちは地形を利用してすぐに離脱しろッ!! 

 

 

「救いの手を拒むだけでも嘆かわしいというのに、本気で私と戦うつもりなのですか? 愚かな……いえ、だからこそ救いが必要なのでした。

 ニンゲンたちよ、その非礼は無知故のものでしょう。ならば私はそれを赦します。武器を捨て、私の前で真なる神に祈りを捧げなさい。誰にも邪魔などさせません、私が必ず貴方たちの魂を救済してみせます」

 

 その声はどこまでも優しく、俺たちを見る瞳は真剣そのものだ。実際のところ、アレが俺の想像する天使と同類ならばその言葉にウソは無いはずだ。

 さっき女の子をハートキャッチしたのだって、天使本人は大真面目に救いを与えているつもりなんだろう。ただ天使の語る救いが人間基準の生存とはまるで意味が違うというだけで。

 

 まぁ、祈らんよね。

 

 だって俺まだ死にたくないし。

 

 ただほかのメンバーはこの誘惑に抗えるか怪しいかもしれん。人間なんて追い込まれてるときに助けてあげますと言われればホイホイついて行きたくなる生き物だもの。

 仕方ない。時間稼ぎもそうだし、こう広い場所では範囲魔法が使える向こうが有利だ。建物の中におびき寄せるためにも、ここは適当な言葉でも並べて挑発をかましておこう。

 

 

 ──おいアバズレッ! お前をブチのめして泥に埋めたら逆さまに十字架を突き立ててこう刻んでやるよッ! 下等生物に羽をムシられた大マヌケってなッ! ついでに寂しくないよう蛇の脱け殻でも巻き付けておいてやるよッ! 嬉しくて泣けるだろ? ハーッハッハッハッ!! 

 

 

「……そうですか。どうやら貴方は救いを必要としていないようですね。いいでしょう、ちょうど貴方からは忌々しい力の歪みを感じていたところです。我が奇跡の風でその穢れた魂を打ち砕き、暗黒の世界にばら蒔いて差し上げますッ!!」

 

 おぉ~、すげーすげー。片方の眼だけ金色になっちゃった。なんだか背後の景色も陽炎みたいにユラユラと揺れてるし、挑発作戦は大成功だなッ! 今度こそ俺死んだかな?




感想メガテン天使解説兄貴たちに感謝。

それにしても意見や考察は読者の皆さんでけっこう違うのに、現段階での天使のイメージだけはだいたい一緒なのは何故なんですかねぇ? 不思議!


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VS失名の贄:2

「細切れになり悔い改めよッ!! ガルーラッ!!」

 

 

 説明しよう! 

 

 ガルーラとは基本となるガルより強い風の魔法である! 純粋な衝撃波で攻撃するザンとは違い、風の刃が襲い掛かってくるので切り傷もたくさんできるのである! 

 当然ガルより強いということは、先ほど食らったマハガルよりも強いということであり、ガルーラは単体に破壊力を集中するので下手をすればマジでバラバラにされうぉぉぉぉッ!! 超頑張れ俺の脚ィッ!! 

 

 

「こっちだッ! 飛べッ!」

 

 

 応よッ! 見るがいい、我が八艘跳びレベル-7の破壊力ッ! つまりはただ死に物狂いで横っ飛びしてるだけだが生き残ればこっちのモンだオラァァァァッ! 

 ふう、なんとかギリギリ直撃は免れたな。ナイスタイミングで声かけてくれたな、助かったぜアキラ。……え? アキラ? お前なんでいんのよ? 逃げろ言うたやん。

 

「ヤツがなんなのかはサッパリ理解できないが、ヤツがとびっきりに危険なヤツだってことはわかるさ。同時に、たぶん普通に逃げても逃げ切れないだろうなってこともな。

 俺、こういう“なんとなく”感じたことは信じることにしてるんだ」

 

 うーむ。たしかに風の魔法が使えるなら逃げ切るのは難しいかもしれんか。攻撃以外のことには使えない、なんて保証はないんだし。なんなら空気の濃度を弄られただけで人間なんて簡単に気絶するだろう。

 

 

(ほかのニンゲンたちも隠れて様子を見てるようね。よかったじゃない。ただアイツ、ほかのニンゲンのこと放ったらかしでアンタを狙ってるわよ? 表面上はともかくMAGの反応がスッゴいことになってるから)

 

 予想通り沸点は低かったみたいだな。一撃でこっちをバラバラにできる力を持った天使がマジギレして殺しにきてるとか普通に失禁しそうなほど恐怖がヤバい。

 だが格上の相手に冷静な立ち回りで戦われたんじゃ勝ち目なんて見えるワケがない。卑怯上等! 搦め手なんでもアリの情けない戦い方は格下の特権ってなもんよッ! 

 

「頼もしいな、リーダー。それで、まずはどんな挨拶でヤツを驚かせてやるんだ?」

 

 なんでお前さんまでリーダー呼びやねん。アレか? 見た目だけ若くても心がオッサンだからか? 溢れ出るMAGの波動に加齢臭でも混ざってるって言いたいんかテメェ。

 

 俺も今度キラキラ綺麗なMAG結晶体見つけたら食べてみようかしら? 美容の秘訣は食生活が基本だって聞いたことがあるし。

 聖属性の魔法で即死系のハマとかダメージ系のコウハ辺りを使えるようになったらヨモツイクサとの戦闘も楽になるし悪くないんじゃないかな。どうせ覚えるとしてもそれは俺じゃなくてピクシーさんの役目になるだろうけど。

 

 さて、アホなことばっか考えてないで現状を打破する方法を考えるとしよう。ここは雑貨屋さん、というよりインテリアとかそれ系のお店かな? そこそこ大きめのガラスのオブジェとか普通に残って──うん。コレ、いけるかも。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「観念して出てきなさいッ! 先の暴言を撤回し、自らの意思で悔い改めるのであればッ! 真なる神に誓い最後の慈悲を与えると確約しましょうッ!! 

 悪戯に嬲り物にされるようなことはなく、最後には必ず貴方の魂も解放されるでしょうッ! 姿を隠したところで貴方の歪んだ力の波動までは隠せませんよッ! さぁ、大人しく私の前に──なにッ!?」

 

 奇跡を打ち破るのはいつだって現実よッ! 魔法に対して机を担いでタックルしてる転生者なんて多次元を探してもそうそういねぇだろッ! 

 まぁ当然のようにガルーラで迎撃されるんですけどンなもんは気合いと根性でなんとでもならぁッ!! でも怪我だけはどうにもならんのでピクシーさぁぁんッ! 

 

(ディアッ! もひとつオマケにディアッ!)

 

 机はバラバラに壊されて、俺の肉体もボロボロにされるが、背中側に隠れていたピクシーさんが無傷なら耐えようはあるのだ! いやホント、早くラクカジャ使える悪魔を勧誘したいわ切実に。

 

「無様ですね、ニンゲン。無意味な抵抗でしたが、それを自ら跪いて見せたと解釈してあげてもいいでしょう。

 さて……最後の慈悲を与えるという約束でしたね。これ以上の痛みも苦しみも感じる必要が無いよう、我が奇跡の風で──」

 

 

 

 

「見事なガラスの彫刻、アンタにプレゼントしてやるよ ッ! ──眼が眩むほどに綺麗なヤツさッ!!」

 

 

 

 

「ぐッ!? 眼がッ! こ、の……ッ! ニンゲン風情が舐めたマネをッ!!!!」

 

 ナイスぅ! 

 

 ガラスのオブジェを銃で破壊する目潰し作戦は効果抜群のようだ。中身がなんであろうと、その器である肉体は人間の物。やはり物理的な攻撃は有効なようだ。

 さぁて反撃の時間だぜッ! アキラッ! いったん外に出るぞッ! コイツを包囲して皆で一斉射撃で仕留めるぞッ! ……な~んて言いつつも、階段の上を指差してクイクイ動かしてみる俺。

 

「──ッ! わかった、全員で一気に叩こうッ!」

 

 空気の読めるイケメンとか無敵かよ。マモルとヨウイチくんとで3人は幼馴染みって言ってたけど、たぶんアキラが知恵者というか参謀役みたいなポジションだったんじゃないかな。

 あとは俺が外で天使(仮)の……ここまできたら(仮)いらないか。天使の注意を引き付けて、上からアキラに奇襲してもらうだけ。理想はクリティカル首判定、どこぞのウサギさんのように的確に撥ね飛ばして欲しいところだ。

 

 

 外に出る俺。追い掛けてくる天使。窓のところで飛び掛かる準備が完了したアキラ。そして──。

 

 

「リーダーッ! 無事でしたかッ!」

 

「アキラはッ!? ──上かッ! よっしゃあ! 一気に皆でケリをつけるぞ! ふたりの敵討ちだッ!」

 

 

 

「上? そうだ、もうひとりッ! ──そこかッ!!」

 

「~~ッ!? あんのバカッ!」

 

 

 正直者なのは素敵なことだけど、もうちょっと時と場合を考えてもいいと思うよォッ! そりゃ俺みたいな性根のネジ曲がった人間になれとは言わないけどさぁ、たまには違う自分を出していこうぜッ! 

 前言撤回。3人の中でアキラのポジションはたぶん苦労人枠だわ。学校もD民生活でもふたりの、というか主にヨウイチくんのフォローいろいろしてたんじゃないかな。

 

 奇襲をするはずだったアキラはガッツリ注目されている。この状態で飛び掛かろうとしても、ガルーラで迎撃されるだけ。この作戦は早くも失敗ですね。

 ま、アキラに注意が向いてるってことは俺がフリーってことでもあるんだけど。ここはサーベルの距離だろ! ピクシーさん! 

 

(ジオッ! そんでスクカジャッ!)

 

 感電による牽制は一瞬でも充分過ぎる。相手は背中を見せていたからな。そしてスクカジャにより一時的に高められた速度で斬りかかれば──ッ!! 

 

 

「がぁッ!? ……キサマぁッ! キサマぁぁぁぁッ!! 図に乗るなよ下等生物がぁぁぁぁッ!!」

 

 

 わーお。切り裂いた背中から羽が生えてきたぞー? それも真っ白で綺麗な羽……ではなく、腐肉と剥き出しの骨を無理やり羽の形にグチャっとくっつけたみたいなヤツが片翼だけ。それで天使はムリあるだろ。



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VS失名の贄:3

 実は転生したのはメガテンではなくクトゥルフ系の世界だった説。あると思いますッ! 人間の背中から腐った翼が生えてくるのは正気度ロールを要求してるでしょどう考えても。

 

 

「重力よ、ヤツの動きを封じろ」

「火炎よッ! 爆ぜろッ!!」

 

 

 重力操作とはまた珍しい魔法を使ってんねぇ! ホノカと一緒にいるのはヒサメちゃんだったかな? 頭の回転が早いアキラのサポートとしては魔法ガチャ大勝利なんじゃない? 

 そこにホノカのアギラオが直撃して激しく爆炎したがダメージは……うーん、翼でガードされてしまったか。見た目とは違い頑丈なようだ。

 

「よそ見すんなよッ! 俺もまぜろってッ!」

 

「ぎぃッ!?」

 

 魔法による攻撃を無視して俺に殴りかかってきた天使に、今度こそアキラの奇襲が成功した! こっちはちゃんとダメージが通ってる雰囲気あるな。やはり腐っても天使、魔法という奇跡の力には耐性があるのかもしれん。

 それを人間が製造した無機質な武器で貫くってのは、なかなか皮肉というかなんというか。日本にも西洋にも鍛冶に関わる神様はいたと思うんだが……やはりメガテン世界の神話は別ものか。

 

 

「リーダーッ! アキラくんッ! 離れてッ!」

 

「うるぁぁぁぁッ!!」

 

 

 マシンピストルを連射しながら走ってくるマモルとヨウイチくん。そこにホノカとヒサメちゃんの銃撃による追撃が加わりダメージは加速する。もちろんアキラも参加して弾幕は危険な領域になんたらだぜ~ッ! 

 俺? もちろん待機です。メガテンの天使が簡単にくたばるワケがない。もちろんこの弾丸の雨で決着してくれるならそれが一番良いことなんだが、臆病者が生き残るためには油断は許されないのだ。戦いは不都合なモノって烈海王先生も言ってたし。

 

 

「おの……れ……ッ! ニン……ゲン、がぁ……ッ!!」

 

 

 うん。普通に効いてますねコレは。

 

 あるぇ~? これならむしろ、羽が生える前のほうがよっぽど恐怖というか強キャラ感がヤバかったんですけどぉ~? でも俺知ってるんだ、手負いのボスキャラほど危険なヤツはいないって。

 

 ピクシーさん! アイツの羽をブッ壊す! 

 

(りょうか~いッ! ブフッ!)

 

 狙いは腐肉の翼。氷結魔法であるブフで凍らせてしまえば、あとはサーベルを力任せに叩き付けるだけで──しゃあッ! 部位破壊はボス戦の基本だぜッ! 

 

 

「くぅおのぉぉぉぉッ! 痴れ者がぁぁぁぁッ! マハガルーラァァッ!!」

 

 

 へぼりゃぁぁぁぁッ!? 

 

 私……飛んでるッ! だがこのまま無様に地面とキスする俺ではないッ! 鍛えられた身体能力と残っているスクカジャの効果が合わされば華麗な着地もお手の物という待ってベンチがあるなんて聞いてない脇腹ァァァァッ!? 

 ゴフッ!! さ、さすがは天使の……マハ、ガルーラ……なんというダメージだ……ッ! たった1発でここまで有利をひっくり返されるなんて……ッ! やはりメガテンの天使は恐ろしい敵だぜ……ッ! 

 

(アタシはある意味アンタが一番恐ろしいと思うわ。カラダもココロも頑丈だね。はい、ディア~)

 

 よし、これでまだ動ける! ありがとうピクシーさん! 

 

 

 しかし困った。バラバラに刻まれるほどの威力が無かったあたり、向こうもかなりのダメージを負ってはいるのだろう。

 だが先ほどのマハガルーラの風圧で近くにいたアキラはもちろん、駆け寄ってきていたマモルとヨウイチくんも派手に吹き飛ばされてしまった。

 

 天使のギラギラと光る金色の瞳はまるで「お前だけは絶対にブッ殺す」と言わんばかりの迫力で俺を見ている。というか近付いてきてる。そんなに恨まれるようなことしたかな? 心当たりしかないぜ! 

 

 

「もういい。もう殺す。キサマだけは、キサマさえ殺せれば私はそれでいい。キサマの存在は、同胞たちの復活には邪魔だ。

 千年王国のためにも、哀れなる者たちの魂の救済のためにも、キサマだけは……確実に、殺すッ!! ──奇跡の風をその身に刻むがいいッ! ガルダインッ!!」

 

 

 ここにきて最強クラスの疾風魔法とかルールで禁止ッスよねぇぇぇぇ!? 

 

 いや、大丈夫だ向こうもダメージで威力は落ちてるしピクシーさん回復してくれたし華やかな活躍はできなくてもゴキブリのようにしぶといのが脇役モブの特権だし人間なんてそう簡単には死なないはずだしでも危険だからピクシーさん俺の後ろに隠れてッ!! 

 

 …………。

 

 おや? 攻撃がこねぇな? ──って、えぇぇぇぇ!? なんで天使の腕が破裂してんのぉぉ!? 

 

「は、はは。ハハハハッ! 見たかニンゲンッ! これが力だ、これが救済だ……これこそが、選ばれし者だけが使える……本物の魔法だ……肉片と血煙に塗れて悔い改め……は……? 

 ダメ、ですよニンゲン。貴方は、私の、風を受けたのですから。肉体が残っていては、救済できないじゃ……貴方、も……罪、償わせ、千年王、国に導くのが……私の……役目なの、に」

 

 やめて! そんな慈しみと悲しみが混じった眼で私を見ないでよ! なんか罪悪感とか感じちゃうじゃないッ! というか、あんだけ殺す殺す言ってたクセに俺のことも救うつもりではいたんだな。

 価値観は違うし人間を見下してはいるけど、仕事熱心だし本気で救いを与えなければとは思ってるんだなぁ。だからこそ悪魔よりもある意味厄介なんだけど。

 

 

「しんなるかみよ……あなたはいま、どこにおられるのですか……なぜわれわれのなをよんでくれないのですか……それだけで……われらはなんどでも……

 あぁ……どうか、もういちど……われらの……わたしのなをおしえてください……あなたにおつかえする、わたしは、いったい……なに、もの、なの……ですか……」

 

 最後の最後まで謎で殴ってくんのマジでやめて欲しいんですが。生き残るたびに不安だけが増えて人間らしい最低限の生活って目標から遠ざかってる気がするよ! よッ!!



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トランスファー:1

 それじゃあマモル、それにアキラ。ちょっとヨウイチくんのこと気絶させるから押さえててくれる? この子基地に戻ったあと興奮で余計なことペラペラ喋って状況を悪化させそうだし。

 

「え、いや、その。いくらなんでも、それはさすがにちょっと……」

 

「大丈夫ですよリーダー。もしそうなりそうだなと判断したら俺が顎ブッ壊すぐらいのつもりで殴るんで」

 

「いやいやいやいやッ! そりゃあんまりッスよッ!」

 

 まぁ気絶うんぬんは冗談としても、報告するにはかなり慎重に言葉を選ぶ必要があるのは確かでしょ?

 

 そりゃヨウイチくんも仲間がふたりも残念なことになっちゃってるワケだからいろいろ言いたいこともあるだろうさ。

 けど事実として俺たちも相手のCクラス戦闘員のひとりを殺している。そしてそのあとの戦闘についても証明する手段がない。あの天使がMAG結晶体とか落としてくれればよかったんだけど、塵になって消えちゃったからな~。

 

 ともかく、証拠があってさえも自分が見ていないことは信じられないのが人間という生き物だ。

 俺たちD民上がりがCクラスの人間と揉めて死人が出た、その事実だけで判断されると思ったほうがいい。

 

 あと、天使関係っていうのも大問題なんだよね。具体的になにが問題なのかは俺の粗末な思考能力では整理することはできないが、口に出したらその日が俺の命日になるかもしれないってことぐらいはちゃ~んと理解してるもの。

 

 ともかく。

 

 基地に戻ったら俺が適当に報告まとめて対応するから、お前さんたちはなにがあっても喋るなよ? なにか質問されたときは、揉め事のあとに襲ってきたヨモツイクサとの戦闘で混乱していて覚えてないって言っておけばなんとかなるべ。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「MAG結晶体の扱いについて口論になり、興奮したキミたちの仲間が彼らの部隊の人員を殺害。そしてその後、多数のヨモツイクサの襲撃に合いそれを撃退。

 さらに人員2名を損失する失態を犯しつつもなんとか帰還することができた、と。ふむ。概ね双方の報告に違いはないようだな」

 

 いやぁ~強敵と戦ったあとだからか基地のお出迎えも豪華ですね! 見てごらん、Cクラス戦闘員の先輩たちもあんなに迷惑かけたのにとぉ~っても笑顔! お礼に奥歯へし折ってあげたい☆

 いうて想定済みだけどな。さっきの至近距離のマハガルーラ直撃に比べたら、アサルトライフルの銃口に囲まれる程度じゃケツから邪龍が漏れ出そうぐらいの恐怖にしか感じないぜ。

 

「ところで……代表として、キミがこうして報告しているということは、この集団の指揮官はキミであると受け取ってもよいのかね? ──そうか、ならばよろしい。

 直ちにF8492を拘束せよ。但し彼が抵抗しないのであれば手荒な真似は控えるように。彼もまた日本帝国が保有する財産であり、その命は帝国の平和と発展のために使われるものだからね」

 

「ハッ! F8492、貴様が望むのであれば軍人の権利としてサーベルの帯刀を許可するが……?」

 

 あ、いえ。これヨモツイクサ切って汚れその他が付着したままなんで。むしろいますぐ取り上げて洗浄していただいたほうがよろしいかと。衛生的な意味で。

 

「ふむ、素直なのはいいことだ。これならば手枷も必要なかろう。あぁそうそう。キミにも、そしてキミのお友だちにも余計な心労を与える意味がないので先に断っておくが、今回のことでF8492が処刑されるようなことはないので安心したまえ」

 

 

 ……どういうことだ? この命が安い階級社会で、下の人間が上の人間を殺してしまったのに、わざわざ俺たちにそんな配慮をして見せるなんて。

 俺が考えているよりも帝国軍の規律は融通が利くのか? いや、それはないな。俺の処罰を軽くすることにメリットがあると判断し、これから無茶な任務を押し付けられると考えたほうが自然だろう。

 

 

「お言葉ですが中佐殿ッ! 仲間を殺して平然としているようなクズに更生の余地などありませんッ! 2度とこのような悲しい事件が起きないよう、すぐにでも処刑するべきですッ!」

 

「そうですッ! ここで甘い顔をすれば、次も許されるだろうと考え同じことを繰り返すに決まっていますッ! ここは新たな犠牲者を産み出してしまわないよう、厳罰に処すのがよろしいかとッ!」

 

 お前らさぁ、そこはせめてもうちょっと真剣な表情しとけよ。ニヤニヤ笑ったまんま言っても説得力ねぇだろ。

 

「諸君らの意見も理解できる。しかしだね、こういうトラブルについて判断するのは私の仕事なのだよ。伊達や酔狂で中佐をしているワケではないのだ、まぁここは任せたまえよ」

 

 やんわりと先輩軍人たちを嗜める中佐殿。よく見たらこの人アレじゃん。ブタ玉野郎改め乙型ヨモツイクサとの戦いのあとに俺とマモルとホノカを回収しにきた人じゃん。

 それにしても先輩方の意見申請が止まらんねぇ。どうやら、なにがなんでも俺を処刑したいらしいな? 仲間の無念を晴らす、な~んて雰囲気じゃないのは一目瞭然。単純に下っぱが苦しむ姿を見て楽しみたいってだけか。

 

 

「うむ。キミたちの心意気は理解した。ならば私もその気持ちに応えてやることにしよう。──おいッ! このバカどもを拘束して懲罰房に転がしておけッ!」

 

「へへッ! 残念だったなゴミ虫が──は?」

 

「中佐殿ッ!? これはどういうおつもりですかッ!」

 

「自分たちがいったいなにをッ!?」

 

「わからんかね? ならば教えてやろう。この件については私が判断すると言ったはずだ。そして私はその決定をこの場にいる全員に周知した。

 わかるかね? 帝国軍中佐としての正式な決定であり命令なのだよ。それに対して尉官すら持たぬキミたちに口を挟む権利など無いと……知らなかったのかね?」

 

「あ……いえ……その……ッ!」

 

「軍事行動の柔軟性が損なわれるのは好みではないのでね、普段私はあまりそういう部分に拘らないことにしているのだが……本人が望むのであれば仕方ない。

 喜びたまえ。キミたちの軍人として模範たらんとするその心意気を私は尊重しよう。なに、心配することはないよ。ちょっと数年ほどDクラス帝国市民と同じ待遇で肩を並べてヨモツイクサと戦ってもらうだけのことだ」

 

 つまり事実上のCクラス市民権の剥奪か。案外この手の嫌なヤツほど生き延びたりするもんだけど、ピクシーさんの判定によるとコイツらのMAG保有量はそうとう少ないみたいだしなぁ。

 手遅れになる前に力に目覚めるといいね! いまだに聞くタイミングがなくて、経口摂取以外でどうやって魔法を使えるようになったのか俺は知らんからアドバイスはしてやれないな~残念だなぁ~ッ! 

 

 

「さて……これからF8492は独房に連れていかれるワケだが、部屋に到着するまでならば差し入れも見逃すとしようか。

 ちなみに私のオススメは毛布だよ。独房のベッドは寝心地があまりよろしくないからね」




読者様の中でお時間に余裕のある方がいらっしゃいましたら、本文中の『天皇』を『皇帝』に修正する作業を手伝っていただけますと助かります。


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トランスファー:2

「コーヒーを嗜んだ経験は? ……それは結構。さすが乙型の中でも強力な個体を3人で撃退しただけのことはある。嗜好品を購入する程度に余裕はあったようだね

 残念ながら高級将校たちが日本円で購入しているようなブランド豆ではないが、これはこれで良い物だ。これでミルクと砂糖を好きなだけ使わせることができれば上官として格好もついたのだが」

 

 翌日のこと。

 

 皆が毛布やらちょっとしたお菓子などを差し入れとして持ってきてくれたお陰でそこそこ快適に過ごしていた独房から出された俺は、今後の処遇について面談をすると言われ中佐殿と同じテーブルでコーヒーを飲んでいる。

 D民からの成り上がりに軍隊言葉なんて期待していないからと、あまり言葉遣いを気にせず会話をしようと提案されたが……こうも友好的だと処遇とやらの内容が気になるところだな? 

 

 

「善き哉。疑ってはいないが信用もしていない、その用心深さはヨモツイクサとの戦いでは必須と言ってもいい。愚直な人間も嫌いではないがね。そうした人材を使いこなし生き残らせるのも我々の仕事だ。

 さて、コーヒーが冷める前に本題に入ろう。キミはこれからとある惑星に向かってもらう。表向きは懲罰としてだが、もちろん本命は別にある」

 

 はい。知ってた。

 

 しかし惑星ときたか。そこが新しい職場ということは、人間が活動するための条件も揃っているところなのだろうか? 

 

「もちろんだとも。残念ながら地表は現在の日本帝国の科学力を持ってしても人類が生存できる環境ではないが、地下ではちゃんと帝国市民たちが生活しているよ。

 なにせ資源採掘を目的として開発され発展した惑星だからね。慣れるまでは頭の上にある岩石の天井が気になるかもしれないが」

 

 う、う~む……。メガテン世界で地下生活って、もうそれだけで不安しかないんですが。そうでなくともゲーム好きにとって地下都市ってのはロマンと同時に危険を感じちゃう舞台だし。

 地球を離れて宇宙にコロニー浮かべるだけの技術力があっても克服できないという地表の環境も気になるな。ヨモツイクサの勢力圏が広すぎるとか? いや、それなら最初からそう言えばいいだけだろう。

 

 

「キミの役目はふたつ。1つ目は現地のDクラス帝国市民の士気向上。これからキミには日本帝国軍特務少尉の地位が与えられる。

 名前が決められずにいることを利用させてもらうことにした。すまないがしばらくはまた管理番号で過ごしてくれたまえ」

 

 いつかきっと、という希望ではなく出世した実例を見せるワケか。戦うことそのものに疲れてしまった子たちにはどこまで効果があるか微妙なところだが、貢献義務に積極的な子たちのやる気はたしかに上がるかもしれん。

 

 ふむふむ? ヨモツイクサとの交戦時に限り中佐以下の軍人の命令に従うことなく自分の判断で戦ってよい、と。但しほかの軍人に命令する権限は無く、指示を出せる相手はDクラス帝国市民だけ。

 つまりトラブルが起きたときに誰かに責任を擦り付けるのが難しくなったということか。あんまり嬉しくない厚待遇だなぁ。

 

「そうそう、キミの昇進には態度に問題のあるCクラス戦闘員を炙り出すエサという役割も含めてある。是非とも大いに活躍し、無駄飯食らいどもの自尊心を踏み砕いてくれたまえ」

 

 トラブルが起きることが確定しちゃった☆ むしろ推奨されちゃってんじゃん! ほらぁ~やっぱりクッソ面倒なことになったじゃないか。いやD民に逆戻りよりはマシな扱いだけどさ。

 しかし、わざわざD民の成り上がりを少尉に任命して当て付けしなきゃならんほどCクラスには問題児が多いのかな? 昨日の連中みたいに上官の決定にニヤニヤしながら逆らうアホが。

 

 

「2つ目の任務についてだが……そちらは現地での生活に順応してから説明するとしよう。1度になんでもかんでも覚えようとしても大変だろう?」

 

 

 うわー中佐殿ってばとぉ~っても楽しそう♪ 有能なインテリの営業スマイルとか不安要素てんこ盛りですがな。これ任務が終わったあとに用済みズドンッ! の可能性にも備えないとマズくない? 

 

 そういう意味では単独行動が許されるのはありがたい措置だな。MAG結晶体を砕いて……いや、吸収効率を高めるために前みたいに食べたっていい。

 それに悪魔が封印されている結晶体を見つけたときに交渉するのも楽になる。結局ピクシーの姿はマモルたちには見えていないし、万が一戦闘になったときのことを考えれば俺ひとりのほうが被害は少ないだろう。

 

 

 問題は天使が出てきたときだが……う~ん、仲魔の天使と独立して行動する天使は別物だし……回復や補助が使える仲魔も欲しいからなぁ~。なんでもかんでもピクシーさんに任せるのも気が引ける。

 

(ケケケッ! オマエがもう少し力をつけたらオレ様も一緒に戦ってやるから安心しな。もちろん仲魔を増やすってのには反対しねぇがよ。

 ただ、いまのオマエの意識の海にストックできるのはあと2体が限界だな。それ以上はオマエのMAGが枯渇してオレ様まで消えちまうから断固拒否させてもらうぜ)

 

 ナイス情報! 大家に物件の問題点をしっかり報告してくれる店子の鑑だなウェンディゴくん。というか実体化はまだでもコミュニケーションできるぐらいには力を取り戻すことができたんだな。

 

 

 視点を変えよう。中佐殿がわざわざ権力を使って俺にレベルアップの機会をくれたと思えばそこまで悲観するような状況じゃない。

 コーヒーの味がわからなくなる程度には不安要素もあるけれど、生き残るために力が必要なのは揺るがぬ事実なのだ。せいぜい利用させていただきますよ、中佐殿? クックック……ッ!



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トランスファー:3

 書類上で昇進しても基地での扱いは味方殺しの重罪人。自分で歩く自由すらないほど拘束具でグルグル巻きにされ独房から出荷される俺に人権など無いのだ。

 いうて乗せられてるカートの寝心地はそんなに悪くないけど。護送を担当している軍人さん方も中佐殿の息がかかってるのか、拘束はガバガバだし毛布も敷いてあるからね。

 

 ただ俺アレなんだよなぁ~。乗り物の振動って眠くなっちゃうタイプでこらえるのが大変なんだよ。まさかこの状態でイビキなんて聞かせるワケにはいくめぇ。

 

 

 おそらくは軍用トラックのようなもので、バイオハザードに登場する生物兵器よろしく丁重に運ばれている間はマジでヒマ過ぎて寝てしまいそうだったが、目的地に到着してからは実に忙しかった。

 少尉らしく身だしなみを整えろと言われ髪切り~のヒゲ剃り~のシャワーで普段使っている石鹸とは比べ物にならない泡立ちを体験し~の。基地を離れたとたんにコレですよ。

 

 

 そして新品の軍服は前世のゲームや漫画でもお馴染みのロングコートタイプ。見た目はとってもカッコいいね! 

 ホント、見た目だけはな。生きるか死ぬかの瀬戸際だと確実にロングの部分どう考えても邪魔になるだろ。デザインしたヤツいっぺんヨモツイクサと戦わせろや。コレ切ってもいいですか? ダメ? はい。

 

 ちなみにサーベルも新品の物が用意されていた。量産品だとしてもCクラスに昇格してから何度も修羅場を潜り抜けてきた相棒だったんだが、あれは軍の所有物であり適切な処理をしたので階級に見合う品を持てと言われれば従うしかない。

 さらば相棒。綺麗に汚れを落としてもらったら新しい主人の命を頑張って守護ってくれ。天使らしき存在を斬っちゃったから呪われてるかもしれんけど。これで洗浄しようとした人が謎の不幸に見舞われてたら笑えねぇな? 

 

 で。

 

 うむ。馬子にも衣装とはよく言ったものだ。服装がピシッとしてるとフツメンの俺でもマシに見える角度がないこともない。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「初めまして、F8492少尉殿。私は只今より少尉殿の部下として、資源惑星『五○一番タタラ』における作戦行動のサポートを担当します、アラヤン式人造超力兵のカネサダと申します。

 オルギア式やイザナミ式に比べれば少々旧型ではありますが、性能は見劣りするものではないと自負しております。何卒よろしくお願いします」

 

 あら! あらまぁ! 名前の響きとは違って正統派モブキャラ風味の美少女じゃないですか。どうして攻略できないんだって騒がれてパッチで個別シナリオとか追加されそうね! わざとらしいセミロングも実によろしい。

 黒髪が少し赤っぽいのと、瞳が初音ミクの髪色みたいに鮮やかな青緑なのはパッと見て人間ではないと区別するためだろうか? 価値観が世間とズレている俺には萌え要素にしか見えませんがね。

 

 こんな美少女ロボットを部下にできるとか、これはもう勝ち組の仲間入りなんじゃね? ガハハハハッ! 誰ですかアラヤン式人造超力兵なんて物騒な単語を並べるネーミングしやがったヤツは。

 しかも人造ってことはアレだよ? 人造じゃない天然物の超力兵と呼ばれる存在がいるってことだよ? あれぇ~そういえば知り合いに魔法の力を使える人間が何人かいるぞ~すっごい偶然だね! 

 

 

 いや、お前さぁ……悪気が無いのは当然わかってるんだけどさぁ……まだ着替えしかしてないのに精神的疲労がとんでもないことになってんだけど。

 ただでさえ天使兵なんていうメガテン基準だと危険しか感じない存在がいるってのに、そこに超力兵なんて危険が確定するような名前した存在まで俺にお知らせするんじゃないよ。なに? きのこ派たけのこ派みたいに仲良く喧嘩でもしてんのかそいつら。

 

「……? 少尉殿、どうかなさいましたか?」

 

 いや、なんでもない。

 

 それにしてもなんというか。人間が試験管で育てられている世界にしては、このカネサダなる人造人間の雰囲気は普通の人間とそこまで変わらんな。

 そういえば治療中に世話してくれた人も教えてもらうまでは人間と区別できなかったな。髪の毛とかの色が普通だったのは患者のストレス対策だろうか? 

 

 こんな見た目でも中身は機械仕掛け、ねぇ。やっぱりオイルとかそういう燃料で動いてんの? 

 

「はい、いいえ少尉殿。私たち人造超力兵はMAG結晶体を取り込むことで稼働しています。──へ? あ、あの、少尉殿。その……いくら人間より耐久力に優れているとはいえ、MAG結晶体を直接経口摂取などという危険なことはいたしませんよ?」

 

 あ、そうなんだ。

 

 へぇ~MAG結晶体を直で食べるのは人造人間基準でも危険な行為なんだ~。生きてるって素晴らしいッ! 命って尊いなぁッ!!

 

 やるけどねッ! 死にたくないから、力をつけるためにも食べますけどねッ! むしろ結晶体ガチャで常勝不敗の俺って幸運のパラメーター実はカンストしてるんじゃね? ならばここで歩みを止めるのは慎重ではなくただの臆病ぞッ!!

 でも次食べてみてポンポン痛くなったら素直に違う方法を考えよう。人生ってのはなんでもかんでもチャレンジすればいいってもんじゃないからね。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 さて。おべべも新しくして頼れるメガトン級地雷系アンドロイドも部下に従えたことだし、そろそろ新しい職場である……なんだっけ、その五◯一番タタラって星に行こうじゃないか。

 いろいろ聞いてみたいことはあるけれど、どうせ権限がどうとか言って教えてもらえないだろうし。イザナミ式とかいう不吉な名称の動力で動いている人造超力兵のこととか。

 

 で、どうやって移動すんの? 宇宙船なる素晴らしい船があることぐらいはD民出身の俺でも知ってるけど。

 

「はい、少尉殿。本来であれば巡洋艦で移動するのですが、今回は手続きが間に合いませんでしたので別の移動手段を利用します。

 MAG結晶体のエネルギーを利用し、離れた場所に設置したゲートを繋ぐ装置があります。今回は中佐殿が特別に許可を出して下さいましたので、そちらを使用して移動することになります」

 

 ほーッ!? ほほぉ~ッ!! ここにきて科学とオカルトが融合した装置の登場ですか! 異世界転生の驚きっていうのはさ? やっぱこういうのでいいんだよ、こういうので。

 そういやメガテンにもターミナルを使った転送あったっけ。宇宙船ってのもロマンがあるし乗ってみたかったが、これはこれでワクワクするのぅ。ニュフフフフ♪ 

 

 

 ところで、そのゲートって名前とかあんの? 

 

 

「はい、少尉殿。安定した活用法を確立するまでに多大な犠牲を必要としたものの、この装置の開発が成功したことで日本帝国はより豊かな国へと発展しました。

 現在では各宙域に設置されていることから、そしてその貢献度と重要性から『不死』や『母』を意味する単語と医学用語を組み合わせて『アマラ経絡』という名称が付けられています」

 

 もしかしたらワイ永久に新しい職場にたどり着けんかもしれんな……。




ラノベの定番『美少女アンドロイド』もちゃんと提供するスタイル。

メガテンらしからぬほのぼの要素ですが、二次創作ということで寛大な心でお許しくださいませ。


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トランスファー:4

 アマラ経絡。

 

 それは真・女神転生Ⅲに登場する……ダンジョンって扱いでいいのかな? 悔しいが俺の語彙力ではアマラ経絡をひと言で表現するのは無理っぽいな。

 尊い犠牲の上に安定した活用法が見つかったらしいが、悪魔の姿さえ見えていない連中基準の安定だべ? ちょっと信用するのは難しいところだし、とりあえず原作のように危険な悪魔に襲われないよう祈るしかない。

 

 ま、偶然名前が一致しただけの可能性のが高いだろうから、そこまで警戒することもあるめぇよ。だって実用化されてる移動方法なんだもの。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 思ってたのと違ったわ。なんか薄暗いし、壁も床も天井も無機質な金属みたいなだし。ついでにピクシーさんとウェンディゴも実体化するのを嫌がってるし。どゆこと? 

 クソ、さすがに転生してから17年近く経ってるからもうゲームでの設定なんてほとんど覚えていない。というか魔人マタドールの印象が強すぎるんだわ。手札が少ない序盤で戦った強敵って、下手するとラスボスより記憶に残るよね。

 

 しかしマジでどうしたもんかね。カネサダはライトを片手に普通に先導してくれてるし、本当に危険は無いのかもしれないが……ここ、大勢の人間の命を飲み込んだ場所なんだよなぁ。

 

 仕方ない。ピクシーさんたちの協力無しで推理ができるほど俺の知力は高くないし、いまはヨモツイクサの襲撃にだけ警戒しておこう。

 言ってしまえばここは宇宙開拓時代の死者の国みたいなもんだ。光の速さで年単位の距離を歩いて数分の距離にしてしまうほど時間と空間が歪んだ場所ならば、犠牲者たちが本当に死んでしまったとも限らない。もしかしたら人間以外のナニかになってる可能性だってあるだろう。

 

 

 いや本当にさぁ、俺の記憶力くん中途半端過ぎんかね? なして悪魔の名前はすぐ出てきたのにアマラ経絡なんて大事な要素を忘れるかなぁ~。

 そりゃ覚えていたところでこの有り様だし、その記憶が役に立ったかはわからんけども。メガテン3の主人公である半人半魔の人修羅さんやその仲魔たちは普通に活動していたが、俺の仲魔たちはちょっと呼び出せそうにない様子だもの。

 

 ……少し、つついてみるか。

 

 カネサダさんや。このアマラ経絡ってのはずいぶん寂しい場所だけど、開通した当時からこんな感じだったのかな? 

 

「はい、いいえ少尉殿。かつてはここもMAGに酷似したエネルギーに満ちていたと記録が残されています。しかしあまりにも濃度が濃く制御が不安定であったため、アマラ経絡内部のMAGを運び出すことで解決したそうです」

 

 ちなみにどうやってMAGを運び出したかなんてのは……教えられないよね~やっぱり。というかカネサダも知らないのね。そもそも情報にアクセスする権限がない、と。

 メガテンでは人間の強い感情の動きから発生すると言われている生体MAG。それに近い性質をもつエネルギーを運搬するために最も適した器はなにかと問われれば──うん、これ以上はいけない。

 

 ここはアマラ経絡という名前ではあるが、俺の想像するアマラ経絡ではない。いまはそう思っていたほうが精神衛生的によろしいな。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 特に襲われることなく五○一番タタラの基地に到着ッ! な~んだ、やっぱりただ名前が同じだけの安全な通路じゃないかHahahahaha! 

 嫌な気配がべっとりと張り付いてて離れねぇんだけど。全身を見えない手で撫で回されたみたいな気分だ。無色透明なマドハンドの群れでもいたのかな? 

 

「お待ちしておりました特務少尉殿! 乙型討伐の若き精兵たる少尉殿を御迎えできて光栄であります! ……っと、失礼しました。

 自分は当基地にてひよっ子どもの指導を受け持っています、テッセン軍曹であります。さ、まずは少尉殿のお部屋へご案内しましょう!」

 

 出た! セクシーティラノサウルス! これはいい軍曹だ、いかにも軍曹って感じの軍曹だな。そのうちひよっ子たちをヨモツイクサから守るための盾になってリタイアしそう。

 しかし軍曹さんや? 部屋に案内してくれるのはいいんだけどさ、普通はこういうときって偉い人に着任の挨拶とかしなきゃいけないんじゃないの? 

 

「問題ありません少尉殿。資源惑星である五○一番タタラに特務少尉殿の作戦行動に口出しできるような御身分の高級将校殿はおられませんので。

 まぁ、鉱物資源の採掘と精製を地下で行っておりますからな。佐官級ともなると、汚れてしまった勲章を磨くだけでも1日が終わってしまい仕事にならんのでしょう」

 

 はて? 俺が特別扱いされるのはヨモツイクサとの戦闘中だけだと言われたはずなんだけど。

 

「我らが基地司令たる少佐殿の主な業務は緊急時に備えて脳を休めることでありましてな。いまごろはアルコール相手の会議が忙しくて挨拶どころではないでしょう。

 もっとも、大抵のトラブルは現場で解決してしまっていますので、基地司令殿の御活躍を拝見する機会には恵まれておりませんがな!」

 

 それでいいのか日本帝国軍。



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トランスファー:5

 ヒャッハーッ! 新鮮な個室だァッ!! 

 

 まず間違いなくカネサダを追い出すことは不可能だろうが、牢屋みたいなD民部屋でもなく独房でもない個人のために用意された部屋ッ!

 人間性を取り戻す音が聞こえるずぇ~。パキーントゥーンって握り潰す音がよぉ~。

 

 夕食の時間になったら迎えにくるとテッセン軍曹に言われたので、俺は単独行動で仕事をするから会議用のドリンクはいらないよと答えてみた。

 それに対して嬉しそうに、ならばほうじ茶を用意するよう炊事班に伝えておきますと返された。ちょっと感動、こんな世界で冗談の通じる相手と出会えるとは。

 

 

 ただまぁ、あーゆー態度は秩序的にはどうなんだ? って心配はあるけれど。

 

「……データとして、彼のように日本帝国の軍人として不適切な人材が所属する集団のほうが何故か効率よく運営されているという事実がありますので。私から言うことはなにもございません」

 

 口にしないだけで私、不満です! って表情を隠せていないぜカネサダちゃん。

 キミ本当にロボットっぽくねぇな? その顔の下ってどういう構造になってんだろ。ほっぺた指でつまんだら柔らかいのだろうか? 

 

 

(ケケッ! オレ様はあのニンゲンみたいに賑やかなヤツは嫌いじゃないぜ。い~い具合のMAGを蓄えてやがるからな。

 むしろボーっと生きてるヤツらはてんでダメだな、MAGが濁っちまってるからかじりてぇとも思わねぇわ)

 

 あー、なるほど。生体マグネタイトって人間の感情の動きが関係してるから、テッセン軍曹みたいな人は悪魔から見れば魅力的なのか。美味しそうという意味で。

 よかったな軍曹、この世界が悪魔や天使が当たり前のように出歩いてる世紀末ワールドじゃなくて。もしそうだったら熱烈なラブコールで周囲が騒がしくなってたんじゃないか? 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 夕食は……なにもイベントは起きませんでしたとさ。嫉妬の視線は全方位から突き刺さってたけど。ま、さすがに俺より階級の高い人たちはそれほどでもなかったかな。

 ただ情報がどんなふうに歪んで伝わってるのか知らんが、同じ少尉クラスの人たちからはなんつーか……好意的というか尊敬というか、とにかく居心地はよろしくなかったよね。だってホラ、勝手に期待されるって面倒なだけじゃん? 

 

 さて、飯を食うたからにはそれに見合う仕事をしなければなるめぇよ? というワケでさっそく戦仕度をしているのだが、カネサダから人修羅さんみたいなデザインのタイツを渡されてしまった俺。これ着て戦えと? 

 

「着用者のMAGに反応して耐久力が高まる特殊スーツです。中佐殿の計らいによりここでの少尉殿の扱いは信賞必罰の『信賞』になります。Dクラス帝国市民であっても、功績を評価され尉官に任命されるのだという実例になるワケです。

 つまり、基本的にその少尉用の軍装を脱ぐことは許されません。当然ヨモツイクサとの戦闘もそのまま行っていただきます。この特殊MAGスーツであれば動きを妨げることなく中に着用することが可能です。……おそらく」

 

 いま小さく最後に“おそらく”って付け足したの聞こえてるからね? 

 

 ……あ、これ。人間の定義から外されそうな見た目に反して意外と肌触り良好だわ。作戦行動中に着用者がおトイレに行きたくなる可能性を全く考慮されていない点を除けば悪くないかも。

 これから俺は戦場で廃棄物を体外に放出するたびに全裸になる定めを背負わなければならんのかぁ。あとカネサダお前これでようやくまともなデータが得られそうってどういう意味だオイ。

 

 はぁ。まぁいいよ。所詮俺は軍にとっては大勢飼育しているモルモットの1匹に過ぎんのだ。役に立つ間はちゃんとエサがもらえるだけマシだと考えよう。

 

 

 ともかく。準備は万端……万端? ということで明日からはヨモツイクサを狩りにお出かけしなけりゃならんのだが、さすがに地形をある程度把握するまでは単独行動は控えるべきだ。

 地の利を侮るヤツは必ず後悔することになる。事前知識もロクに無いまま東京都のとある駅に行ってみたり大阪府のとある駅に行ってみたりするぐらい後悔することになるだろう。なけるぜ。

 

 なのでここはひとつ、チームを組んで行動したいところなんだけど。

 

「はい、問題ありません少尉殿。私の任務には少尉殿に同行しヨモツイクサと戦闘することも含まれています。

 もちろん少尉殿が何らかの事情で単独行動を望まれる場合は命令していただければその通りに」

 

 よし、ロボ子さんならよほどのポンコツでもない限り迷子になる心配はないな! 

 

 

 あ、そうだ。鉱物資源の採掘してるってことは、アッチコッチ掘り進んでいるってことだべ? そもそも近付かないほうがいい場所とかもあるんじゃないの? 

 落盤で生き埋めになってみたり、あるいは急に足元が崩れてしまうことだってあるだろう。いくらMAGの影響で頑丈になっているとはいえ俺は普通の人間だもの、予測できるリスクはなるべく避けたいところである。

 

「危険地帯についてはもちろん把握していますが……単純に情報量が多いので現地でその都度説明するほうが効率的であるかと。

 決して少尉殿の記憶力を疑っているワケではありません。言語だけで説明しても、おそらくDクラス帝国市民として生活していた少尉殿ではイメージの構築が困難であると判断しての具申です」

 

 つまり当たって砕けろの精神で初見のダンジョンに挑むしかないのね。ナビゲーターがいるだけDクラスの初出勤よりは安心できるだけマシかな。

 

 ……でもカネサダって確実に俺の監視とか命じられてるよねぇ?



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ウォームアップ:1

「非礼を承知で申し上げますが、少尉殿の階級は正真正銘の飾りでしかありません。故に相応の立ち振舞いなどは求めていませんし、任務にも礼儀作法の類いは含まれておりません。

 しかし周囲の視線には常に気を付けるようお願いいたします。少尉殿には戦闘以外にDクラス帝国市民の士気高揚、そしてCクラス戦闘員の特殊教育が期待されていることをお忘れなく」

 

 移動用のジープを前に、ついワクワクソワソワしてたらカネサダに窘められてしまった。悪かったって、俺こういう車とか好きなんだよ。

 この偉そうな格好がD民たちの鼻先にぶらさげるニンジンだってこともちゃんと理解している。心配しなくても他人の前で得意気になれるほど余裕は無いから大丈夫だって。……自分で言ってて情けないが、事実なんだから仕方ない。

 

 

 途中Cクラス帝国市民が生活してる居住区が見えたが、マインクラフトの初心者が効率だけを求めて作った建築物にとっても似ている町並みでした。資源惑星にある居住区だからこうなのか、それともCクラス帝国市民全体がこんなものなのだろうか? 

 テレビに映っていたAクラス帝国市民なんかは武家屋敷みたいな場所に住んでいたっけ。先生は一所懸命帝国に貢献すれば、俺たちのようなD民もいつかはあんな家に住めるかもしれないと言っていたが、それを成し遂げたヤツなんて本当にいるのか疑わしいな。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ザ・普通の坑道。

 

 そうか、手作業で採掘してるから前世のイメージとあまり変わらないのか。洗脳教育がキッチリ行われていれば反乱の心配なんていらないだろうに、帝国側のお偉いさんはリスクマネジメントが過剰なんじゃないか? 

 案外、最初からそこまで教育の効果を期待してなかったりするのかも。産まれながらのC民がどういうものかは知らないが、俺たちD民は言ってしまえば工業製品のようなもの。いらないモノは処分して新しいD民を補充すれば……それでも12年は長いよなぁ。

 

 俺が働いてたコロニーとは別に、この資源惑星にもD民の生産工場があるのだろうか。なんだかファミコンウォーズの歩兵にでもなった気分だ。やってることもだいたい一緒だし。

 

 新品のサーベルと、大口径の拳銃を装備して。支援役のカネサダは刃渡り長めのナイフにマシンピストルを構えて。坑道の奥へ奥へと進んでいく。

 ふむふむ? 入り口から近い安全な区域で採掘作業をしているのはCクラス帝国市民の皆さんで、奥の危険な区域がD民の仕事場だと。うーん、実に露骨で分かりやすい格差社会! 

 

 

 しばらく歩き続けると、天井がない広々としたフロアに出た。どうやらここから先がヨモツイクサの出現区域であり、D民たちの活動拠点となっているらしい。

 武器を持っているヤツらが戦闘を担当して、つるはしを担いでトロッコ押してるヤツらが採掘の担当か。ヨモツイクサと戦わなくてもチップがもらえるのは本来なら羨ましいと思うところなんだろう。

 

 そして監視役の軍人たちだが……なんとなくコロニーよりも緊張感があるような気がする。それだけ危険が多いのだろうか? 

 いや、多くて当たり前か。見通しが悪くてヨモツイクサの接近に気が付かない、なんてことも普通にあるだろうし。それにコロニーとは違って常に上からの奇襲にも警戒する必要がある。

 

 ふ~む? 敵が来る方向が絞られるから廃墟より戦いやすいかなとか考えていたけれど、そんなことはなさそうだな。いざというときに広い場所に誘き寄せて仕切り直す、って戦法が使えないのも厳しいか。

 

 カネサダに教えてもらい中尉さんに敬礼。単独行動が許されているので会話の必要は無し。なんのための特別待遇なんだろうと思っていたが、単純にボロが出ないようにとの配慮なんだろうな。

 デスマスアリマスなんて堅苦しい言葉遣いをしなくていいのはマジで助かるわ~。だって戦争やってんだぜ? 俺ら。緊急時にいちいちそんなもん気にしてられないっちゅーの。

 

 

「少尉殿は福祉学校で昆虫図鑑などは読みましたか? ──ならばその図鑑に掲載されていた『アリ』や『クモ』のことを思い出してください。

 ここで戦うことになる丁型ヨモツイクサは形状や性質がそれらの虫と類似しています。特にアリ型は複数体で行動する習性が確認されていますので、包囲されないよう周囲の警戒を怠らないようにお願いします」

 

 地下の洞窟でアリとクモとな? なんてこった、俺はいつのまにか地球防衛軍になっていたのか! え、もしかして体液飛ばしてきたり粘着性のある糸を吐き出してきたりすんの? 

 

「はい少尉殿。深部ではそうした個体も確認されています。データによると過去に破棄された採掘基地が存在し、その座標に接近するほど強力な個体との遭遇率が高くなっています。

 かつてはその採掘基地の奪還を目的とした作戦も何度か決行されたようですが、充分な成果を得られたという報告はありません」

 

 ほぅ。ピクシーさん、どう? 

 

(正確な場所はさすがにわかんないわよ。けどMAGの反応からなんとなくあそこかな~? って感じはする。アンタが行ってみたい、って言うなら案内してあげてもいーけど)

 

 いえ、私は遠慮しておきます。過去に廃棄された基地から強力な敵が出てくるとか完全にフラグじゃん。ゲーム好きマンガ好きの日本人ならだいたいこの先の展開なんて読めるに決まってるだろ! 

 つまりそのヨモツイクサの巣窟になっている基地にさえ近寄らなければ安心ってこった。危険な敵だろうと出現の傾向が予測できるなら対策もできるってもんよ。

 

 ブタ玉や天使もどきとの突発的な戦闘はさ……アレはだって俺は悪くないよねぇ? なにも情報は無かったし予測なんて出来なかったんだもの。

 だが今回は違う。こうして事前に情報をゲットできた。ピクシーさんやウェンディゴに協力してもらえば基地の場所もある程度把握できる。今度のお仕事は楽勝だな! ガハハハハッ!




後書きによる補足をしていない本作は読者の皆さんにとってはそうとう不親切だろうな~とは思ってます。思ってるだけで補足はしませんが。

ただ、いただいた感想から「この情報はなるべく早めに組み込んだほうがいいかな」と考えたりしているので、疑問に思ったことを書き込んでいただけるのは作者としてはとても助かっています。いや、本当に。


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ウォームアップ:2

 ヨモツイクサの呻き声、諸行無常の響きあり。

 

 DクラスのMAGの色、弱肉強食の理を表す。 

 

 

 はい、というワケで10日ほど戦闘を続けて坑道の探索に慣れたところで迷子のD民戦闘員救出RTAはーじまーるよー! 

 

 今回のレギュレーションでは俺がひとりで奥へ奥へ進んでいくことになります。カネサダちゃんはお留守番、ではなく退路の確保という重要な役割があるので別行動です。

 ちなみに特務少尉である俺に拒否権はありません。ここでD民を見捨てるとせっかく稼いだやる気がゼロに戻っちゃうから仕方ないね。

 

 なお、道を間違えるとかいう致命的はガバは今回一切ありません。迷ったら命を失うという誓約があるおかげで無事覚えることができたからです。帰り道を忘れたら死ぞ? 

 

 まぁでもアレだ。D民を助けに行くことをゲラゲラ笑っていた嫌味な大尉を“任務の邪魔をした”という大義名分でブン殴れたのは気持ちよかったのでヨシとしよう。可哀想に、大尉ではなく大佐を名乗っていれば俺に殴られることもなかったのに。

 

 

 で。

 

 

「そんな……! まだ取り残されている仲間がいるのよッ! 私たちも協力して助けに行くべきでしょッ! アンタの友だちだっているんでしょ! それも見捨てるつもりなのッ!?」

 

「こんな貧弱な装備でか!? オレたちだって無傷じゃねぇ、足を怪我してるヤツだっているんだぞッ! 助けたくても諦めるしかねぇなら、ここにいるヤツだけでも協力していますぐ逃げるべきだッ!!」

 

 はー、また主義主張のぶつかり合いッスか。面倒は嫌いなんだよ俺はさぁ。もうちょっと厳しく洗脳しておけよ、そんなんでディストピア国家を名乗って恥ずかしくないの? 

 仕方ないなぁ、もう。──静まれッ!! 全員深呼吸一回ッ!! 装具点検ッ!! よし、落ち着いたな? ほかのDクラス戦闘員は俺が救助に向かう。お前たちは退路に残っているヨモ化け物がいたらそれを駆除、安全なルートを確保しつつ拠点まで後退せよ。

 

 これは命令だ。F8492特務少尉としての正式な命令だ、俺にはその権限があることを帝国軍が保証している。内容の復唱は必要ないな? よし、行動開始ッ!! 

 

 

 

 

 ……で。

 

 

「アタシも……ッ! 自分もクリーチャーとの戦いに連れていってくださいッ!! もう……仲間がヤツらに喰われるのを黙って見ているなんてイヤなんですッ! 

 自分は、帝国軍に憧れて……弱いヒトを守れる人間になりたくて今日まで戦ってきたのに……このまま逃げるなんて、アタシはイヤなんだッ!!」

 

 これは模範的日本帝国の市民ですね! しっかり教育されてても面倒なのは同じだったかぁ。意気込みは立派だし気持ちもわかるけど、身体は正直だな。足が震えていますよフロイライン。

 しょうがないなぁ、もう。──俺の手が見えるか? 震えているだろう? これは別に体温が低下しているワケでもないし、もちろんアルコールが足りないワケでもない。つまりは俺も貴様と同じ病気というワケだ。

 

 臆病。帝国のために戦う勇者がふたりも揃って困ったものだな? さて、貴様の仲間は俺が守ろう。だから貴様は俺を守ってくれ。背中から襲われないよう、拠点までつながる道にいるヤツらの駆逐を任せた。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 やれやれ、まずはひと息……だな。

 

 あーゆーの、らしくないんだけど。お飾り少尉だし。自分の命令で他人が動く姿はそれはそれで面白かったが、同時に責任を負うことになると思うと俺はできれば遠慮したいかな。

 でもまぁ……たまにならいいだろう。たまにならな。もうやんねぇからな? なんで俺が他人の命まで面倒見なアカンねん。自分が生き残るのに精一杯なんだよコッチはよォォォォッ! 

 

 ふう。取り乱しました。戦場では常に冷静じゃないとね! 感情の動きでMAGの輝きが活性化するのであれば、さっきまでのD民たちも大声でヨモツイクサを呼び続けていたようなものだし。

 やはり俺のように、常に氷のナイフの如く冷静に徹するぐらいじゃないと──どうしたウェンディゴ、突然明後日の方向を向いて。なにか気になることでもあった? 

 

(いや? なにも? ……そんなことよりニンゲン、どうやら団体サマが歓迎してくれるみたいだぜぇ。ご丁寧に親玉らしき強ぇMAGの反応まで近づいてらぁ。コイツは派手なパーティーになりそうだナ? ケケケッ!)

 

 

 小型の6本足と、大型の8本足。足の数はたしかにアリとクモだけど、デザインの雰囲気が地球防衛軍じゃなくてサイレントヒルなんだよなぁ。

 全体的に粘着質で普通に気色悪いんよ。クモのほうなんて複眼の代わりに人間の顔だか頭みたいなの集まっててレギオンみたいになっとるわ。レギオンには地味にお世話になったから嫌いじゃないけど。

 

 ギャラリーがいなくて本当に助かった。アイツらを守りながら戦うのはちょっとキツいし、なにより俺の戦意が昂るのに反応してMAGコートが青く光るところを見られるのは恥ずかしいし。

 

(喜べニンゲン。あのデカブツから強いだけじゃねぇ、ほかとは違う歪なMAGを感じるぞ。もしかしたらオレ様たちみてぇなのが見つかるかもな)

 

 なんと! ここにきて戦力アップの可能性が! 別にピクシーさんやウェンディゴのサポートに不満はないけれど、状況に合わせた手札を選べるほうが戦闘は楽になる。

 ジオがヨモツイクサの身体を伝って電球まで破壊しちゃうとかそういう事故も減るだろう。廃墟やら坑道やらでの戦闘だからまだいいが、現役で活用している建造物の中で戦うことになったときにも備えたい。

 

 今度のMAG結晶体ガチャはなにがでるかな~楽しみだな~! その前に完全に包囲されてるのをなんとかしないとなァ~ッ!



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VS怨言の八脚:1

 しまった、囲まれたッ!? 

 

 なんて俺が驚くとでも思ったかヴァカめがッ! 

 

 いくら合体法則を覚えないで行き当たりばったりでマゼマゼしてたカジュアルプレイヤーとはいえ、前世でそれなりにメガテン作品を楽しんでいたこの俺が範囲攻撃を用意してないワケねぇだろォォッ!! 

 取り出したるはキープしておいたMAG結晶体ッ! そう、MAGをモグモグすることで消耗したMPを一気に補充することがヴォエァァッ! まっず……。 元気100倍、力が漲るぜッ!! 

 

 な~に、この程度の吐き気と不快感なんて命の危機に比べたら必要経費としては格安よ格安。

 生配信で百味ビーンズのハズレを1時間ぐらい食べ続けてると思えばエンタメとしては楽勝の部類だよ。せいぜいコメントで「この人は前世でどんな罪を犯したんですか?」とか言われる程度だわ。

 

 ともかく味覚を墓地に捨てることで山札からマグモグをドローッ! やっちゃえウェンディゴッ! 

 

(任せなァッ! まとめて砕けちまいな──マハブフッ!!)

 

 カッチカチやぞ。追撃の必要がない、という意味ではジオの感電よりもブフの凍結のほうが有効な場面もあるわね。

 ただMAGを吸われる感覚はブフのほうが強い。単純にそういう仕組みなのか、それとも俺の適性のようなものが影響しているのだろうか。

 

 あるいは痺れさせるよりも凍りつかせるほうがエネルギーが必要だとか? ゲームのように数値で確認できれば管理も楽なんだが……無い物ねだりしても仕方ないな。

 

 

 砕けたヨモツイクサはそれでよし、原型が残っている個体は丁寧に大口径ハンドガンで……というかコレ、ぶっちゃけマグナムだと思うんですが。で、撃ち抜いて破壊する。

 いまのところ凍結したヤツが再び動き出すという事態に遭遇したことはないが、だからこそ今回が最初の一回になるかもしれない。

 

 フフフ、俺のように臆病で小心者で生き恥を晒すことになんの抵抗もない人種にとってはなぁ! 前例が無い、は慢心する理由にはならんのだよ! 

 

 

 六脚包囲網を突破したところでマグモグのおかわりだァッ! ぐぁぁぁぁッ!? 鯖の刺身にブルーベリージャムをタップリ乗せてファンタを注いだかのような弾ける香りがぁぁぁぁッ!! 

 おのれヨモツイクサ、人類の平和を乱す悪魔め! 実際コイツらどういう存在なんだべなぁ。さすがに人間の身体が素材になってんだろうな、ぐらいのことは俺も想像できてるけど……たぶん、その予測はなにかを間違ってる気がする。

 

 ま、いいや。考え事は夜寝る前にでものんびり楽しめばいい。いまは大型の8本足の解体作業が優先だ。

 

 不定形なので同じ大型でもブタ玉とは違い動きは遅い。だが造形のバランスがぐちゃぐちゃなので動きの予測が難しいという厄介さがある。

 大きい、というのはそれだけで武器になり脅威になる。ぐらりと倒れてのしかかってくるだけで人間の身体なんぞ簡単にぺしゃんこである。

 

 ギャグマンガみたいにペラペラになって起き上がれればいいんだが、いくら死にたくないからってそこまで人間を辞めるのはちょっと考えちゃうかなぁ~? 

 

 

 がむしゃらに暴れる8本足に巻き込まれないよう距離をキープして~、それじゃあ安全に倒すためにムチャすっか! ピクシーさんッ! 

 

(オッケー! ジオンガッ!)

 

 ウェンディゴッ! 

 

(おらよォッ! ブフーラッ!)

 

 オェップ。悪魔を同時に2体召喚からの……中級魔法連発は……さすがに、くるな……。だがこれで、まずは1本ッ!! ふんにゃらほォォッ!! 

 切断完了ッ! したら即退避ッ! あとはこれを繰り返すだけの簡単な作業だぜッ! 相手の動きを封じるなら最低でも3本まで減らさないと危険かな? 

 

 そして6本足の増援の相手もすることを考えると……MAG結晶体の悪魔召喚ガチャの前に悪魔的フレーバーガチャを何回かまわすことになるな。

 おのれヨモツイクサ、味覚の平和を乱す悪魔よ。もっとこう穏便にMPを回復できる手段はないもんかね? このままじゃあ特に味覚がダメになっちゃうよ。そういや酒保でインスタントラーメン売ってたな。せっかくだから今度試しに買ってみよう。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 工事、完了です……。フレーバーガチャの結果? そらもう超余裕よ、途中から味だけじゃなくて臭いを感じる能力もマヒしてたからね。心を守るための防衛反応バンザイ。

 そして8本足から取り出しましたMAG結晶体の中には……うん、なんかのシルエットが見えてますな。というかこの特徴的な1本足よ。てっきりツチグモ辺りが出てくるのかなと思ったが。

 

 ふむ、呼んでみるか。バランス的には仲魔になってくれればかなり心強いだろう。あとまた6本足が集まってきてるから悩んでる暇なんてないぜ! 

 

 

 

 

 ──汝の名はッ! 『イッポンダタラ』ッ!! 

 

 

 

 

(キヒッ、キヒヒヒッ! ヒャァッハッハァァ!! うぉれを呼んだのはウォまえガァ? よろじく頼むぞぉニンゲェェンッ!)

 

 えぇ……? イッポンダタラってこんなんだっけ? それとも俺が召喚したから俺のイメージが強く反映されてるのかな? だとしたらメイド服とか中途半端に再現されなくて助かったわ。



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VS怨言の八脚:2

 悪魔たちの姿は(現状は)見えていない。

 

 だが見えないだけで実体はある。

 

 なので──。

 

 

(ギィヒィィァァァァッ!! くだ、砕けェロォォォォッ!! ウォまえもォ素材にしでやるがぁぁッ!?)

 

 

 ヨモツイクサの群れにイッポンダタラをシュートッ! 超☆エキサイティングッ!! 暴れまくり……の扱いでいいのかな、コレ。

 ゲームではHPを消費する物理スキルだが、この世界ではしっかりMAGを吸い取られている感覚がある。ただジオンガやマハブフに比べれはかなり穏やかな消耗だ。

 

 コストパフォーマンスは物理スキルのほうが優秀ということか? ただ悪魔が直接殴りに行く必要があるのがネックだな。射程距離はもちろんだが、見えないだけで存在はしているので攻撃が当たってしまうのが困りものだ。

 

 

 細々した丁型ヨモツイクサをイッポンダタラの物理パワーで蹴散らしつつ、次のD民たちの反応がある場所へ急ぐ俺。いまのうちにMAG結晶体砕いて回復しておくか。

 この方法だと味覚へのダメージは防げるけど、吸収されるまでのタイムラグが戦闘中は曲者なんだよなぁ。ダークソウル2のグイッと飲んですぐHPが回復するエスト瓶と時間経過でジワジワ回復する雫石ぐらい違うんだもの。

 

 そういえば食べて不味いと感じるのは防衛反応としての役割もあるってなんかあったな。つまりMAG結晶体を食べたときに味覚が悲鳴をあげるのは俺がちゃんと人間である証拠とも言える。

 なんつー嫌な判定方法だよオイ。結晶体食ってマズさに苦しむたびに自分が人間であることを喜び吐き気に感謝しろってか? ちょっと特殊性癖過ぎんだろ……。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 崖の上に俺、参上ッ! おーおー、D民たちも頑張って戦ってるじゃないの。どうやら魔法の力に目覚めたチームのようだが、さすがに数の不利を覆すのは難しいみたいだな。

 とにかく連中の近くに飛び降りて──いや、ここは奇襲のチャンスを最大限に活かすために頭レギオンのクモを狙うべきか? 問題は俺に一撃で仕留めるだけの力があるかだが……。

 

(ニンゲェン、ウォれにまぁかせろぉぉッ! 思い出す、思い出したカラなぁぁッ! ──タァルカジャァッ!)

 

 マジかぁッ!? イッポンダタラお前ってヤツはピンポイントに足りない部分を補ってくれちゃってまぁッ! さすが見た目が鍜治屋さんなだけありますねェッ! 

 あと必要なのはサーベルが折れないことを祈ることぐらいか。ブタ玉ほどのプレッシャーは感じないから大丈夫だとは思うが……ま、折れたらそんときはそんときだな。

 

 行くぜ、とぉッ! ──その首、もらい受けるッ!! 

 

 

「な、なんだッ!?」

 

「まさか助けがきたのッ!?」

 

「あれは……例の少尉ってヤツか!」

 

 

 待たせたな、ひよっこども。そしてサーベルくんは無事でした。切り落とした首がいよいよレギオンにしか見えないが、幸いにして動き出す気配は無い。

 しかしまぁ8本足が集まると純粋にキモいなお前ら。なんでどいつもこいつも頭が顔まみれなんだよ。経済成長ばかりを重視してコミュニケーションを蔑ろにする産業主体の社会に対するアンチテーゼですか? 表情豊かに過ごしましょう的な。それともボッチで戦う俺に対する当て付けか? アァンッ!? 

 

 おっとイカン、俺が寂しい人間なのはいまはどうでもいい。D民たちをヨモツイクサの包囲網から救出せねば。消耗の先読みMAGを砕き~の……ウェンディゴ、頼んだッ! 

 

(ったく、ザコどもがアホみてェに群れやがってメンドクセェ。おいニンゲン、あとでオレ様にも食い物よこせよ? ──マハブフッ!!)

 

 任せろウェンディゴ、ここの基地の酒保はお菓子もたくさん置いてあるからな。まさか甘味料が鉱物資源として存在するとは想像もしなかったよ。

 ここの糖質鉱石から抽出した原液は小さじ一杯で400リットルの水がハチミツみたいになるのだとか。Cクラス以下の帝国市民が口にする甘味は全部コレなんだってカネサダちゃんが教えてくれたよ! 

 

 あと、成分の98.77パーセントは解析されて人体には無害だってことも教えてくれたよッ! 残りの1.23パーセントはぁ? 

 

 

 形勢逆転ッ! とまではいかないが、俺がヨモツイクサの包囲網を崩したことでD民たちに少しだけ余裕が戻ったみたいだ。

 ならばもうひと押しやっちゃうか。もいっちょ先読みMAG砕きからの~、ピクシーさん! 

 

(これぐらいのケガなら余裕ね! メディアッ!)

 

「うぉッ!? こいつは……傷が治ってる、のか?」

 

「マジでオレたちの力とは別物だな。もしかしてあの人が軍の人たちがウワサしてた“チョウリキヘイ”ってヤツなのか?」

 

 おいバカやめろ俺を縁起でもない呼び方するんじゃねぇ。黒マントが似合うクールでイケメンな探偵見習いの書生さんに襲われたらどうしてくれるんだ。

 しかし軍の人間が噂をしていた、ねぇ。普通に考えれば人造超力兵であるカネサダのことを話していたのかもしれないが……さて、情報が足りないままの綱渡りが長いこと長いこと。クリア済みのゲーム世界にチート転生してるヤツらが羨ましいぜ。

 

 ともかく、ここからが本番だな。とりあえずイッポンダタラに出てもらって、タルカジャを上手く使ってD民たちも戦力としてなんとか──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヒーホーッ! あのニンゲンもオイラとおんなじようなトモダチがいるみたいだホーッ!)

 

「ホントだ……。でもユキダマくんに比べるとだいぶこう、強そうな見た目してるね」

 

 

 

 

 ………………ひぃほぉぉぉぉッ!?!?



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VS怨言の八脚:3

 優先順位、確認ッ!! 

 

 いち、いきのこること。ヨシッ!! 

 

 

 ヒーホーなる鳴き声の正体はわからないが、いや女の子がユキダマくん言うてるからなんとなく想像はできるがそんなものは後回し。

 まずはイッポンダタラのタルカジャで味方を強化して生肉アリどもを迎撃しなければ。あと、近くにいる人間はまとめて強化できそうと言われたのでタルカジャなどの補助魔法は“全体ではなく使用者の周囲”が効果範囲の可能性があるな。

 

 マハタルカジャとか頑張って使えるようになってほしいが……ピクシーさんがジオだけでなくジオンガも使えるようになってくれたあたり、スキルの進化も期待できるかな? 

 

 

 キープしていたMAG結晶体をD民たちに景気よく配り、とにかく砕いて補充させつつ魔法を撃たせる。狙いが少しぐらい荒くても相手が多いのでよう当たるわ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってな! 

 問題はのそりのそりと近付いてくる肉グモだな。狭い通路まで逃げ込むことができればなんとかなりそうだが、そのためには2匹ほど退路を塞いでいるヤツの動きをどうにか封じる必要がある。

 

 俺が囮になってD民たちを走らせるか? いや、肉グモたちがバランス崩して倒れただけで状況は簡単に変わる。急がば回れ、ここは1パーセントでも逃げられる確率を高めるべきだ。

 

 

(おいニンゲンッ! あのデカブツ、なんかヤバそうなMAGの力を感じるぞッ!!)

 

(強い、っていうよりブキミな感じッ! とにかく気をつけてッ!!)

 

 

 とにかく気をつける!? いやそんなこと言われても!? いやクールになるんだ俺、こうして事前に知らせてくれたおかげで身構えられるんだから贅沢言ったらアカンぜよ! さぁ、いったいなにを──。

 

 

 

 

「マ……ハ……ヴ、ドォォォアッ!!」

 

 

 

 

 ふざけんなテメェェェェッ!? このタイミングで即死付着の『ムド』とか、メガテン世界の護衛ミッションで許される魔法じゃねぇだろうがッ!! しかも頭に“マハ”が付いてるってことは広範囲に呪殺をばら蒔くって意味でアカンこれじゃD民の少年少女たちが死ぬゥゥゥゥッ!! 

 お前らその紫のモヤモヤに触るなッ! とにかく離れろ避けろ近付くなァッ! こんなモンにビビってんのかだって? 当たり前だよバカ野郎フリじゃねぇんだイキッてないで早く離れだから触んなって言っておバカァァァァッ!? 

 

 って、アレ? 即死かと思ったらまだ生きてるぞ? 青ざめた顔で許しを乞いながらガタガタ震えてるあたり全くこれっぽっちも無事ではないが。

 

(あのニンゲンたち、ほっといたら助からないよ? ヘンテコな腕だったり虫だったりよくわかんないモノにMAGを削り取られてる。

 あのままじゃあMAGを全部奪われてココロが死んじゃう。そうなればカラダも最後には終わっちゃうけど、いいの?)

 

 よくないですッ! ナイス解説だピクシーさんッ! あとMAGがダイレクトにダメージ受けてるならディアでは回復できなさそうだな。そのためのリカーム? 使えないけど。

 しかしなるほど呪殺魔法ね。即死じゃないならマシかなと一瞬思ったがそんなことねぇな。すっごいジワジワと苦しんでるワケでしょ? 肉体的な損傷よりも何十倍も厄介だよ! もぅッ!

 

 この流れだと聖属性の即死魔法『ハマ』系もろくでもない効果を発揮しそうだな。精神を浄化することで真っ白に塗り潰すとか。

 メガテンの天使はそれぐらいのことやるでしょ確実に。自信をもって断言するね、俺は。

 

 

 ともかくできることをやるしかねぇッ! とりあえずMAG握り潰してダイレクトに叩き込んでみるか。キラキラ輝く右手を構え~精神分析(物理)だオラァッ!! ……よし、まだ恐怖でガチガチだけど雰囲気はマシになったな。

 

「おいッ! しっかりしろ!! あぁクソ、いったいどうなってやがるんだ!?」

 

「アンタなにを知ってるの!? あのデカい化け物が変な唸り声あげたとたんにこんなことになってッ!」

 

 そりゃ知ってたから触んなって言ったのにお前らが忠告を無視したんじゃ──唸り声? あ、そうか。俺は魔法の名前を知っているから認識できるけど、そうじゃなければ意味不明な単語の羅列とか未知の言語みたいなもんか。

 

 D民たちも疑問は尽きないだろうが、いちいち答えを用意してやるヒマなんか残ってない。これで時間を使って安定を狙うという作戦は使えなくなったからだ。5人のうちマハムドの影響で動けないのがふたりも出てしまったからな。

 支えがなければ自力で歩けないぐらいに消耗しているし、もう1度マハムドが飛んできたら庇いながらは避けるのはまずムリだ。ほかの3人はまだ助かる可能性はあるかもしれないが、2回目を食らったふたりはもう助からないだろう。

 

 

 いいかお前ら、俺があの肉グモたちの注意を引き付ける。その間に気合いで洞窟まで逃げろ。あの図体なら通路までは追ってこれないはずだ。

 やかましい煩い黙れつべこべ言ってないで準備しやがれ。危ないから触んなって言ったのに無視して死にかけたバカどもがなにを勘違いしてギャーギャー騒いでんだ。文句あんならテメェらだけでなんとかしてみろや俺はもうひとりで帰るぞ。

 

 ……ヨシ、上手に話せたな! もうね、コイツらが俺のことをどう思うかなんてどうでもいいよ。人気だのやる気だの知ったことかよ。

 これで学習しないで文句ばっか言い続けるようなヤツはどうせいつかサクッとくたばるでしょ。俺ゃ自分の命を守護るだけで精一杯なんだ、生きるための努力ができないヤツにいちいち構ってられるかよ。

 

 

 返事は待たず、肉グモ目掛けて突進する俺。

 

 これで動けないようならもう見捨てる。せいぜい来世では幸せになれるよう祈るんだな。バイビーッ! 

 

 

「あぁクソッ! クソッ!! おい、そっちは任せたぞッ! とにかくあの野郎が囮になってる間に安全なところまでみんなで逃げるぞッ!!」

 

 よしよし、それでいい。な~に、そうやって必死に踠いているときなんて案外なんとでもなるもんさ。助けてやってんのに睨まれるのはムカつくけど、それもまた若さってことで我慢してやろう。

 

 

 

 

「──凍っちゃえッ!!」

 

(ヒーホーッ!!)

 

 

 お、アイスブレスかな? 威力は控え目な感じだけど肉グモが怯んでくれたから時間稼ぎには充分に……じゃなくてさ。キミなにしてんのよ? ここは空気読んで逃げる場面でしょッ! 

 

「私も、私も一緒に戦いますッ! 大丈夫です、みんながちゃんと逃げられたら私もムリせずに逃げますからッ! それに、少尉さんには聞きたいこともイロイロありますし……お願いしますッ!」

 

(そうだホー! オイラもアンタのトモダチみたいにババーンッ! ドカーンッ! ってすっごい氷を使えるようになってみたいホッ! 教えてくれるまで逃がさないホ~)

 

 ……チッ! どさくさ紛れに誤魔化せるかなぁ~って、少し期待してたんだけどなぁ~。

 さすがにピクシーさんとウェンディゴとイッポンダタラの姿を見られてんのに気のせいで押しきるのはムリか? まぁムリか。



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VS怨言の八脚:4

「アンタなに言ってんのよ!? ソイツが囮になってくれるって言ってんだから、アンタもアタシたちと一緒に逃げるのッ! 軍人なんだから戦いなんて任せておけばいいのよッ!」

 

「まぁまぁ落ち着いてよ。ムリっぽいな~って思ったらちゃんとすぐに逃げるってば。それに、私この少尉さんに聞きたいこともあるし、基地に戻ってからまたお話できるかわからないでしょ?」

 

「はぁ!? なにそれ!! こんなとこに残ってまで聞くことってなんなのよ!?」

 

「いや~、それにつきましては説明が難しいというか説明しても信じてもらえなさそうというか~。ともかく大丈夫だから早く逃げて? じゃないと私も逃げられなくなっちゃうよ」

 

「~~ッ!! もう! あとでしっかり事情は聞かせてもらうからねッ! アンタ! この子にケガなんてさせたら許さないからッ! 化け物の代わりにアタシがアンタをブッ潰してやるッ!!」

 

 

 ん~、これはいわゆる姉妹系幼馴染み的な間柄かな? ヒーホーちゃんが妹で、そっちの無意味に俺に喧嘩腰なのが姉ポジションだろう。

 なして救助にきた俺がこんな怒られなきゃならねんだべ? それだけ追い詰められてて余裕がないと思えばギリ許してやれんこともないが……この手のタイプって自分が正しい前提の頭してて反省しないことが多いから、トラブルを何度も繰り返しそうでちょっと好きにはなれんなぁ。

 

 案外、心に余裕が持てるようになれば頼れる姉御肌にクラスチェンジしそうではあるが。いうてまだ子どもだし、成長に期待しての先行投資と思えばイライラすることもなし、だな。

 

 

 んで、だ。

 

 ヒーホーちゃんが俺に聞きたいことっていうのは悪魔に関する話だろう。なんでこの子も悪魔が見えているのか、こちらとしても興味があったので好都合ではある。

 いや、本音言わせてもらえば面倒のニオイしかしないから関わりたくないけどね? でも手遅れなんだから開き直るしかないじゃない。

 

 ま、それもこのピンチをなんとかクリアしてからの話だけど。まずはほかのD民たちが通路までたどり着けるよう肉グモを押し返さんとね! 

 となれば、ヒーホーちゃんの仲魔である推定ジャックフロストくんにも頑張ってもらう必要があるワケだが……ウェンディゴ、前にピクシーさんに氷結の力を貸してくれたじゃん? 

 

(テメェならそう言うだろうと思ってたよ。おいガキンチョ、オレ様が特別にブフの使い方を教えてやる。ありがたく思えよ?)

 

(ヒホ? ──こ、これはッ! すごいホーッ! 力がモリモリみなぎってくるホーッ! ヒーホーッ! またブフの魔法を使えるようになったオイラにかかれば、あんなヤツらなんてちょちょいのチョイだホッ!!)

 

 あら便利。ペルソナ3がポータブルでリメイクされたときを思い出すわね! スキルカードが登場してからはベルベットルームのBGMも嫌いではなくなりました。

 しかしヒーホーちゃんではなくジャックフロスト(仮)のほうがブフの力が込められたカード砕くんだな。もしかして人間が真似したら同じようにスキルを覚えられる可能性が微レ存? 

 

 ……いや、それができるってことは悪魔と同等の存在になるってことじゃん。やっぱ使えなくていいや。俺は人間として生き人間として死にたい派なんだよ。

 

 

(よぉし、合わせろッ! ガキンチョッ!)

(了解だホーッ!)

 

((ブフッ!!))

 

 

 うぉッ!? この威力、ブフーラより破壊力あるじゃないかッ! すげぇすげぇ、サーベルで追撃しなくても肉グモの脚が1本砕けちまったぞッ! 

 こりゃいいこと知れたわ。仲魔の得意とする魔法が偏ったとしても、俺が同時に召喚できるようになれば戦略の幅はグッと広がるじゃないか。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「はー、ビックリしたぁ~! ユキダマくん、こんな強い氷の異能が使えたんだねぇ~! ……あ、あれ?」

 

(ヒホッ!? 大丈夫かホッ!!)

 

「うん……。おかしいな、そこまで氷の力を使ったつもりは、ないんだけど……うぅ~ん?」

 

 おっと。魔法の使いすぎでMAGが足りなくなってきたか。しかし加減を間違えるとは……いや、これはいままで“なんとなく”で使っていた氷の力を“ブフという魔法”として使った差が出たとか? 

 あり得るな、だってメガテンの世界だし。だいたい神秘を理解するのが人間には負担になるって流れファンタジーの定番だもん。とにかく結晶体を砕いてMAGを補充してやらんと。

 

「あ、少尉さん……そのエネルギー結晶体砕くならもらってもいいですか? ……ありがとうございます。──はぐッ モグモグがァッ! ぺェャッ!! はい! 元気満タンですッ! ぶいッ!」

 

 あ、この子も食べる派なのね。乙女が野郎の前で見せてはいけない動作で聞かせてはいけない声出してたけど、まぁ非常事態というか戦争中だし多少はね? 

 過保護な姉キャラD民の子がいなくてよかったわ。アイツらの避難が間に合ってなかったらどんなバリゾーゴン飛んできてたかわからんな。

 

 おっと、バカなことやってるヒマはねぇ! いつの間にやら肉グモたちがまたマハムドを使いそうな雰囲気になってるじゃないか。よし、とりあえずヒーホーちゃんは安全な距離まで離れて──。

 

 

「はいわかりました少尉さん頑張ってくださいユキダマくんッ!!」

 

(ヒーホホホーッ!!)

 

 

 うーん判断が早いッ! これには鱗滝師匠もニッコリですね! 

 時と場合によるだろうけど、あの子たぶんアレだわ。俺に構わず逃げろとか言われたら元気のいい返事して振り返りもせず最大速度で逃げれるタイプだわ。ぜひともそのまま素直に育ってみてほしい。

 

 さて、離れていろと言った手前ここで俺が簡単にやられたんじゃ笑い話にもならん。

 複数の肉グモが広い範囲にマハムドを展開して追い込もうとしてくる光景はなかなかの地獄ではあるが……お前たち。相手が悪かったな? 

 

 

 確率に頼ることなくッ! 

 

 自分の意思でッ! 

 

 即死魔法のムドを避けることが許されるッ!! 

 

 

 このシチュエーションで燃えないメガテンプレイヤーがいないとでも思ってんのかァッ!? 

 こちとら稼ぎの区切りに安全のためセーブしようとした帰り道でムドが直撃したりハマで追い込まれたり物理反射持ちにバーサーカーにされたりして散々バキバキに心へし折られてきてんだッ!! 

 

 この憎しみと悲しみ、まとめてテメェらに八つ当たりしてやらぁッ!!



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VS怨言の八脚:5

 トゥッ! へァッ! ダンディーステップッ!! 

 

 フハハハハッ! 呪殺魔法、恐れるに足らずッ! 実際コロニーで戦った天使モドキのガル系魔法のほうが厄介だったな。

 最後のガルダインが発動してたらマジでミンチより酷いことになってたかも。

 

 そしてこのマハムドが避けられるのも、相手が見た目からして知力とか魔力のパラメーターが低そうな肉グモだからと思ったほうがいいかもしれん。いうて本物の死神やら邪神クラスの呪殺魔法とか人間が抵抗できるとは思えないし。

 

 

 過剰に恐れる必要はないが、退き時を見誤ると簡単に終わるな。無効化できる装備を探すよりも、無効化できる手段を持ってそうな悪魔と交渉して仲魔になってもらうほうが確実かなぁ。

 最悪の場合は仲魔に盾になってもらうことになるが……それは本当に最後の手段にしたいところだ。ピクシーさんは俺さえ死ななければMAGを消費して復活できるとは言っていたが、気持ち的に協力してくれてる悪魔を捨て駒にするのは抵抗があるわ。

 

 まぁ? 目立ちたがりやら出世欲やら自意識過剰な味方とかが、自ら命という名の盾になってくれるなら素直に甘えさせてもらうけど? 

 そういう意味ではさっきのD民の子たちはいい仕事してましたねぇ! 是非とも懲りずにまた俺に貴重な情報を提供してほしい。助けられる状況ならたぶん助けてあげるから。

 

 

 しかし景気よくマハムド連発してくれやがってからに。まさかヨモツイクサはMP無限とかいうオチかい? もしそうなら初期のドラクエのホイミスライム並みに厄介だぞ。

 キープしてる結晶体にも限りはあるし……ヒーホーちゃんに逃げてもらって俺もとんずらすっか? でも多少は情報を探りたいし、できれば友好的な関係を築きたいのでもう少し会話をしてみたい。

 

 

 どうにかして反撃のタイミングを──なんだッ!? 肉グモの身体が崩れ始めたぞッ!? 

 

(魔法の使いすぎでカラダを維持するためのMAGが無くなったみたいね。足りないMAGをどうにかしようと脚を自分で食べてるんだと思う。

 でもあんな方法じゃ最後にはどうやったって実体が消えちゃうんじゃないかしら? だって食べちゃった脚を再生するためのMAGが無いんだもの)

 

 自食作用だっけ? 餓死寸前の人間が内臓とかの細胞を自分で溶かして栄養にする、みたいな。それのMAGバージョンってところか。

 そういやファイナルファンタジーとかにもいたっけな、魔法生物系はMPをゼロにしても倒せるってヤツ。残念ながらメガテンにはMPにダイレクトアタックする手段なんて……相手のMAGを削るのがMP攻撃に該当するなら部位破壊からの再生でもワンチャンいけるのか? 

 

 いや、そもそもHPとMPの役割をまとめてMAGが担ってるみたいなモンか。わざと再生されるのを待つぐらいなら、部位破壊で得られた有利を利用してそのまま押し切るほうが楽だろう。

 

 

 ふむ。しかしこう考えると下半身を吹き飛ばしたにも関わらず、残った実体が崩れることもなく死んだ量産型を甦らせた上にマハラギオンまでブッ放してきたブタ玉ってかなりヤバかったんだな~。

 ……あれ、もしかしなくても俺ってば俺が思っていた以上にかなり絶体絶命のピンチだったのでは? マモルとホノカがいなかったら冗談抜きで終わってたかもしれん。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「助けていただき、ありがとうございました! それで、え~と……。あ、私の名前はT0811と言います! 

 さっき一緒にいた子たちは、ぶっちゃけ偶然知り合っていつの間にかチーム扱いされてたので詳しくはよくわかんないです!」

 

 えぇ……? キミのことメッチャ過保護にしてた子とか、学校時代からの幼馴染みとかじゃないのぉ? 

 

「いえ? 全然。エネルギー結晶体を食べてお腹がユルユルになっちゃったときがありまして~、お仕事を休んじゃったペナルティのために頑張って化け物と戦ってるときに知り合いました。

 なんだか一方的に可哀想な人扱いされて、一人で盛り上がってアタシが護ってやるとか言い始めたんですよね~。なんか断ったら面倒そうだったのでそのまま一緒に戦ってたって感じです」

 

 姉御肌(笑)だったかぁ~。しかしこの子結構強かというかなんというか。フワッフワな雰囲気のわりに冷静に状況を見ながら判断ができる切れ者ちゃんなのかしら? 

 まぁそんな他人の人間関係のことなんかよりMAG結晶体食べてお腹壊したって話のほうが興味あるけど。というかそもそも、キミはどういう流れでMAG結晶体を食べようとか思ったワケだい? 

 

「あ、それは別に深い理由とかは無いです。お仕事中にあのパックのドロドロご飯をダメにしちゃったことがありまして。

 それで、エネルギー結晶体って生活のいろんなことに使ってると学校で習っていたので、食べればご飯の代わりにもなるかな~と思ってパクりと」

 

 泣くほどマズかったけど生きてるので結果オーライですッ! と笑顔でガッツポーズを決めるヒーホーちゃん。実に逞しいな! 死にたくないって一心で賭けに出て飲み込んだ俺とはメンタルの強さが別格だわ。

 それで、きっかけはともかく……MAG結晶体を食べることで身体能力が強化されることに気が付いてからは積極的に取り込むことにした、と。

 

 

 なるほどなるほど。こうなるとほかにも悪魔が見える人間は、特にD民の出身者にはそれなりに多いと考えるべきか? ユキダマくん、なんてニックネーム的な扱いでも実体が得られるみたいだし。

 ただピクシーさんが言うには、ユキダマくんは密度が薄くてヒーホーちゃん側のMAGの消費効率が悪そうだってことだけど。やっぱり名前は大事なんすね~。

 

 だからって、もちろんジャックフロストのことは教えないけど。なんで名前を知ってるんですか? なんて突っ込まれたら厄介だし。

 

 生き残るためにもいざというとき一緒に戦える仲間は増やしておきたいが、距離感を間違えるワケにはいかんのだ。無条件で助けてくれると期待されても困るんだよね~、俺だって死にたくないんだから。

 いや、そういう意味ではヒーホーちゃんと知り合えたのは当たりなのか? 頭の中でちゃんとそろばん弾けるなら一方的に頼ってくることもあるめぇ。

 

 

 ……う~ん。マモルやホノカは同じD民って立場だったから気楽にチーム組むことができたけど、こうなると階級って場合によっては地味に邪魔だな?

 ま、いいや。とにかく1度帰ってからゆっくり考えよう。戦闘の興奮が残ったまま考え事したって上手くまとまるとは思えんからな。



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イントルード:1

 前線拠点への帰り道にて。

 

「一応、フォローさせていただきますと……その、私が一緒に戦ってた人たちが少尉さんのことをあんまり、その、好きじゃないな~って態度なのは一応ですね、まぁ理由がありましてですね……」

 

 なになに? 異能に目覚めたD民がほかの弱いD民からMAG結晶体やらチップやらを巻き上げていて、そいつらが出世してCクラス戦闘員の伍長扱いになったから、特務少尉なんて御大層な肩書きの俺のこともあんまり好きじゃないんですよ~、と。

 

 あー、そうか。俺は早々にMAG食って能力強化してソロってたからアレだけど、そういえばD民同士の衝突はコロニーでもあったわ。

 あの頃はよかったな~、まだこの世界にメガテン要素が溢れてるなんて知らずに無邪気に死に物狂いで日々を生きてたっけ。下手すりゃワケわからんまま魔法で後ろから撃たれてたかもしれんのか。

 

 やはり俺の幸運は相当高いようだな! 戦いの世界では幸運特化こそが最強。ガモウひ○し先生もそう描いてる。

 

 

 魔法に目覚めてやらかしてる連中が出世してるとこに別の場所で出世したヤツを放り込んで働く意欲を高めようとかアホだろwwという思いはあるが、遠く離れた場所の下っぱ事情を正確に把握しとけよってほうがムリだろう。

 アマラ経絡をビビりながら歩いてたから移動はあっという間だったけど、コロニーと資源惑星が実際にはどれだけ離れているのやら。同じビルでさえもフロアが違えば知らぬ存ぜぬが大人の世界の現実なんだぜ? 

 

 まぁ、そういうゴタゴタに巻き込まれていないD民なんかは俺のことをアッサリと受け入れられてるんだろうけど。

 それとも、やる気を高めるという意味ではどちらでも構わないのかな? 俺のことを気に入らないって連中も“いつかは自分も偉くなってやる”みたいな感じでバリバリ戦うようになったりとか……あるか~? どう思うよ? 

 

「うーん……。一緒にチームを組んでいた子たちはそういう部分もあるかもしれませんけど……私は遠慮したいですかね~。だってヘタに偉くなったら、今度は自分がイヤな目で見られちゃうじゃないですか。

 ──へ? だってそうですよね? 少尉さんはほかの場所から来たのにここで偉そゲフンッえ~っと、厳しい態度を崩さない軍人さんたちと同じだと思ってる人もいるって、つまりそういうことですよね?」

 

 首をコテンッとかしげる動作は愛嬌タップリだけど喋ってる内容はだいぶ冷静で切れ味ありますねぇ!

 これ俺が仲魔を連れているからある程度は信用、あるいは利用しようって判断してくれたけど、そうじゃなければもう少し警戒されてたかもしれんな。助けたことには感謝してくれそうではあるが。

 

 

 しかしこれだけ冷静に物事を考えることができるのに、自分の名前が番号で管理されてたり当たり前のように化け物と戦わされていることには疑問を持たないのだろうか? いや、そもそも疑問を持つための取っ掛かりがないんだから当然か。

 しかしわからんなぁ。使い捨てにするつもりならそもそも人間性が育たないよう徹底的に締め付けたほうが効率がいいだろうに、なぜかそれをしていないのはどういうことだろう。ディストピア社会の最底辺労働者なんて人格否定ありきみたいなもんだと思ってたが。

 

 つまりは現状の緩い管理体制のほうが帝国にとって都合のいいなにかが……いかんな、思考が余計な方向にズレまくった。集中力がとっ散らかってもうた、こりゃもうダメだな。

 本当ならユキダマくんとの出会いとかも含めて探りをいれたかったんだけどなぁ~。ノイズ混じりの脳ミソではうっかり余計なこととか喋りそうだし、やはり今日のところは素直に休むとしよう。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「見事なご活躍ぶりでしたな少尉殿! お戻りになられて早々に申し訳ありませんが、ご報告せねばならんことがありまして。良い報せと刺激的な報せ、どちらから先にご報告いたしましょうか?」

 

 部屋に戻りシャワーを済ませれば、待ってましたと言わんばかりのタイミングで入ってくるテッセン軍曹。

 

 君いい笑顔してんね~! 間違いなく刺激的な報せのほうが本命だし、それ言い方を濁してるだけで悪い報せだよねぇ? 

 おそらくはお菓子がはみ出てる手荷物が良い報せで、クリップボードに挟まってる書類が刺激的な報せとやらなんだろう。

 

「こちらは自分の仲間たちからの差し入れです。Dクラスのひよっこどもが危険地帯で作業するための訓練を幼少期から施されていることは伺っておりますが……まぁ、気に掛けてはならない、心配してはならないという規則はありませんからな。

 自分からは、少尉殿はお酒は嗜まれないということでソーダ水をご用意させていただきました。資源惑星に配給されるにしては上等な品です、是非お試し下さい」

 

 き、キンキンに冷えてやがる……ッ! いやぁ、風呂上がりに飲む炭酸は最高ですなぁ~。だいぶ口の中もパチパチしてるし、これ以上の刺激はいらんけどなぁ~。

 

 

「まぁまぁ、そう遠慮なさらずに。実はつい最近、アゴのまわりがずいぶんと男前になられました大尉殿がいらっしゃいましてな。その方が新しい作戦を基地司令殿に提案なさったんですよ」



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イントルード:2

「なるほど。あくまで“威力偵察”であり“奪還”ではないところがしっかりと考えてありますね」

 

「ですなぁ。それに副官殿、この部分を。明日の帝国基準時刻○八○○より255時間以内に行動開始とする、とあります。準備のための時間も偵察であれば申し分無い猶予でありますな!」

 

「人員を少尉殿を含めた4人程度の少数精鋭に指定されているのも良い目の付け所です。もともと特務少尉ということで単独行動に強い権限を持たされていますから。

 仮に明日にでもこの基地がヨモツイクサの大群に襲撃されて全域が戦場になれば話は別ですが、その場合は威力偵察よりも面倒なことになるのではないかと」

 

 そんなお前、仕事が嫌だから職場を艦砲射撃で吹き飛ばそうみたいな解決方法はさすがの俺でも望まんわい。

 

 それにしても……廃棄された採掘基地の奪還及び再利用計画と、そのための威力偵察ねぇ。本当に廃棄したのか、それともヨモツイクサに襲われて廃棄するしかなくなったのか。

 本当は連中に奪われたのを、いやいや使わなくなったところにアイツらが棲み着いたんだよ? って誤魔化してる可能性のほうが高そうじゃない? 

 

「経緯はどうであれ、基地司令部からの正式な命令ですので断ることはできません。少数での作戦行動ですから尚更ですね。

 残り3枠のうちひとつは私が同行します。私の任務には少尉殿の護衛も含まれていますので、さすがに今回ばかりは待機命令は聞けません」

 

「では、もうひとつの枠は自分が担当させていただきましょう。ひよっこどもの訓練ばかりでは身体が鈍ってしまいますからな! 

 残る一枠ですが……心情的には協力を期待できる連中はおりますが、如何せん特務少尉殿の権限ではDクラス帝国市民から選ぶしかありませんからなぁ」

 

 それな~。いうてレベルアップとチップ稼ぎばっかりで、D民たちとの交流なんてほぼゼロ……ではないけれど……。

 えぇ~? あの子をこのタイミングで連れて戦いに行くの~? いや、そりゃ見ず知らずのヤツを適当に選ぶよりはずっと頼りになるけどさ~。

 

 

 気持ちの問題ともまた別だよ。何気ない会話でボロが出るのが困る。多数の転生物や転移物に登場する自称凡人の主人公たちのような頭の回転力なんか持ってねーんだよ俺は。

 

 あのファッション一般人どもめ、当たり前のようにそういえば本で~ネットで~とか言ってポンポン天才的閃きを乱打しやがって。

 こちとらピクシーさんのことを思い出せなかったらほぼ詰んでたってのによぉッ!! まったく。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「よいですか、T0811。このMAGコートは本来であればDクラス帝国市民である貴女には分不相応の装備です。

 生体マグネタイトに関する知識は一応教えはしますが、ほかのDクラス帝国市民に漏洩すれば厳罰の対象となるので気を付けるように」

 

「了解であります! 副官殿ッ! へぇ~、これが少尉さんがピカピカしてた服の正体なんだ~。じゃなかった、正体だったんですね。おぉ、グニグニ伸びる。

 ところで、なんで裾の部分だけ雑に切られてるみたいな感じになってるんですか?」

 

「机上の空論よりも現場の判断を尊重した合理的な改修によるものです。それと、少尉殿の推薦により貸し出していますが、少尉殿と同等の性能を引き出せる保証はありません。決して過信しないように」

 

 

 背に腹はかえられぬ、生き残るためには手札の出し惜しみなんてしてる場合じゃないのだよ。あとで過保護ちゃんからは睨まれるかもしれんが知ったことか。

 さて軍曹、お嬢さん方はお召し替えの時間だ。野郎どもは気を遣って部屋を出ていくとしようか。

 

 

 

 

「なかなか見所のある面魂をしていましたな。今回の任務を生き残ることができれば良い指揮官にもなれるでしょう。もちろん出世街道を本人が望むのであれば、ですが。

 あぁ、失礼少尉殿。細巻きを咥えてもよろしいでしょうか? 酒は飲まんのですが、景気付けのコレはなかなか止められんものでして」

 

 細巻き? あー、タバコのことね。どうぞどうぞ、いまさら副流煙なんか気にしてもしょうがないし。

 きっと酸素の供給工場とやらが停止したら、この基地もあっという間に黒煙で占拠されるんだろうねぇ。

 

「ありがとうございます。いやぁ、発泡酒など一番小さな缶でもなかなかのチップを取られてしまいますからなぁ! 同じ値段で白飯に肉茄子炒めの小鉢と味噌汁を付けられると思うと、コレがなかなか……。

 しかし、なんですなぁ。こうして重要な任務の前に煙なんぞを揺らめかせていると、独り言など呟きたくなりますな。例えば、これから自分たちが向かう『ル号採掘基地』に関する噂話とか」

 

 そうか、それはまた変わったクセを持ってるじゃないか軍曹。なぁ~に俺もちょうど寝たフリでもしたい気分だったし、好きなだけ呟いてくれたまへ? 

 

「ハッ! 呟かせていただきますッ! ……ル号採掘基地の最後の基地司令官は罰則にはとにかく厳しい人物だったらしく、とにかく軍人も設備スタッフも一般労働者も大勢が処罰されたそうです。

 ま、あくまで規則に基づく判断であり、細かいうっかりミスや知らずにやらかしてしまった事柄には寛大で基地の運営は問題なく回っていたらしいですがね。ただ──」

 

 

 ちょっと待ってよお兄さん、さっきまで飄々とした雰囲気でお話してたじゃない。急にそんな戦争映画の軍人みたいなシリアス顔とかしないでほしいな☆

 

 

 

 

「その基地司令殿とやらは、畏れ多くも『天使兵』に関する越権行為をやらかして処理されたという噂がありまして。

 ル号採掘基地の関係者はもちろん、周囲の住居で暮らしていた市民もろとも口封じに……などという愉快な話を古株の人間に聞かされたことがあります。あくまで噂話、ですが」

 

 

 かぁ~~ペェャッ!!!!



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イントルード:3

 情報は大事である。

 

 知りたくなかった可能性を知って少しだけ喉の奥のほうから熱いモノが込み上げたりすることもあるが、知らないまま油断して手遅れになるよりは良いと自分に言い訳をすることだって出来るのだ。

 

 と、いうワケで。さっそく威力偵察をするための偵察を始めたいと思いま~す! 一応目標となるル号採掘基地に関するアレコレは資料が残っているのだが、情報というものは新鮮であれば新鮮なほど有効活用できるというもの。

 というか! 100年以上も昔の情報なんて参考になるワケないだろ! いい加減にしろッ! 人類が太陽系を飛び出して銀河のいろんな場所で生活しているこのご時世だ、歴史的視点ならば100年も昨日の今日ぐらいの感覚かもしれんけどさぁ。人間に100年は……長すぎる……。

 

 

「準備を整えるにしても現場がどのような状態なのかを把握する必要がありますので、1度足を運んでみるのは悪くない判断であるかと。

 地形の変化やヨモツイクサの数もそうですが、空気の供給ラインも長くメンテナンスがされていませんので、まず利用は不可能であるという前提で備える必要があります」

 

「空気の循環が不充分な区域では躓いて転ぶだけでも致命傷になりますからなぁ。8本足が撒き散らす毒ガスなんぞが滞留していた場合などは近寄ることすら困難でしょう」

 

 毒ガスどころか即死魔法なんですけどね。

 

 あー、でもそうか。命に関わる危険な何物かという認識は同じだけど、目視確認できるガスとして扱っていたならD民たちの警戒の仕方が中途半端だったのも納得だわ。

 吸い込まなければ大丈夫だと教えられていたのなら、危ないから離れろと騒いでいた俺はだいぶ滑稽に見えていたことだろう。俺もまさかヨモツイクサが吐き出す毒の正体がムドだとは思わんかったもんな~。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 人間1、マシン1、サマナー2、悪魔2。こう表現するとなかなかバランスの取れたパーティーじゃなかろうか。

 

 これで南極の異空間『シュバルツバース』を探索するのに使っていたデモニカスーツみたいな装備でもあれば完璧だったんだが、ここは特殊部隊風味のフィルター付きマスクがあるだけでもありがたく感謝しておこう。

 

 ちなみに悪魔たちのほうは心配いらないらしい。MAGは普段より多めに消耗することになるが、少しぐらい過酷な環境でも実体化は維持できるそうだ。

 逆の言い方をするのなら、悪魔すら実体化できないような環境では人間が生存するのはほぼ不可能ということだろう。

 

 もっとも、メガテン世界の悪魔はだいたい鉄と火薬で倒せるから限界ラインは低そうではある。ほかのファンタジー作品ではそもそも物理で殴れないパターンのが多いし。

 

 

 

 

 と、いうことで。我々はル号採掘基地へと続く坑道へやってきたのだ! 

 

 ……軍曹、目薬とか持ってない? なんだか坑道の中が植物まみれに見えちゃってるんだよね。なんだか綺麗なお花とかも咲いてるような気がするし。俺疲れてんのかな?

 

「奇遇ですな少尉殿、自分にも地面やら壁やらのあちこちに鮮やかな緑の塊が点在しているように見えます。食料の生産工場と比べても、こちらのほうがだいぶ華やかですな」

 

「へぇ~。なんだか学校にあった花壇とか思い出すなぁ~。図鑑でも見たことないようなお花も咲いてるっぽいですねぇ~」

 

「計器の反応は──そんなバカな……こんな暗い場所で呼吸ではなく光合成を行っているなんてありえない。いや、僅かですがMAGの反応があるから、それで……? でも植物から反応が検出されるなんて……」

 

 軍曹は訝しげに、ヒーホーちゃんは無邪気に、そしてカネサダちゃんはあり得ないと三者三様の反応ありがとうございます。

 とりあえず光合成をしてる植物がいるならいざというときマスクが壊れても逃げることぐらいは期待してもよいのかもしれない。

 

 あくまで本当の本当に限界までほかの手段が無くなったらの話だけど。見えてないだけでどこぞの風の谷の外側に広がる腐海の植物みたいにヤベェ胞子とか漂ってる可能性は否めんからな。

 しかしまぁ。どうして人の気配が無くなった場所っていうのは簡単に植物に支配されちまうのかねぇ? それともヨモツイクサの身体に付着した種とかが運ばれてこうなるのかな? コロニーの廃墟も植物まみれだったし。

 

 ちなみにピクシーさんはこの植物になんか異変とか感じたりする? 

 

(な~んにも。前にニンゲンと一緒に戦ってた場所にあったのとおんなじだよ。あ、でもMAGの反応はコッチのほうが強いかな。

 強いといっても前のところと比べての話だけど。コレ食べてもニンゲンのMAGは回復しないから期待しちゃダメよ?)

 

 さすがにこんな名前も知らない植物を食べるまでの勇気は無いなぁ。なんなら勇気のステータスなんて一番低いまであるからね? 俺は。

 それにしても植物からMAGの反応が出るとは。植物にも感情があって、音楽を聞かせて育てると違いが出る~みたいな話は前世でも聞いたことがあるような気がするが……少なくともカネサダちゃんの反応を見る限りでは植物にMAGが含まれているのは想定外っぽそうだ。

 

 まだ基地どころか周辺の居住区域にすらたどり着いてないってのに、すでに異変が起きてるとか。こりゃ準備期間中にできるだけ情報を集めないと、本命のル号採掘基地の姿を拝むことさえ難しいぞ?



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イントルード:4

 頑丈な人造超力兵であるカネサダちゃんを先頭に、それを経験値が豊富なテッセン軍曹がフォローしつつ、ヒーホーちゃんとユキダマくんが3番手で周囲をキョロキョロ見て、俺とピクシーさんが後ろからの奇襲に警戒する。

 

 ゲームであれば廃棄された施設でも何故か電気が生きていて明るかったりもするが、さすがに100年前の電球は完全にボロボロで光を失っていた。

 もしもヨモツイクサとの戦闘中にうっかりライトを落とそうものなら……状況にもよるが、十中八九それだけで一気に死に近付くことになるだろう。

 

 前衛のベテランふたりはともかく、ヒーホーちゃんとユキダマくんは植物に興味津々のようだ。

 会話を聞かれて不審に思われないよう俺と仲魔たちのようにテレパシーを使っているのか声は聞こえないが、周囲を楽しそうにウロチョロしているジャックフロストに合わせて表情が変化しているのでなんとなくわかる。

 

 ただ意外なことに、ヒーホーちゃんの行動には全く油断が無い。グローブ有りでも直接植物に触るようなことはなく、ナイフの先端を使って調べている。

 

「あ、これですか? 学校の訓練のときに先生に言われてたんです。化け物と戦うときは周囲のモノに簡単に触っちゃダメだって。

 なにがあるかわからないし、安全よりも危険のほうがたくさんあるんだぞ~、って。やっぱり、どんなときも慎重な行動って大切ですよね!」

(↑空腹で敵の一部を食った奴)

 

 ほぅ~? そんなことを教えられてたんか。なかなかD民思いの教官に鍛えられたじゃないの。

 そうそう、ここは戦場なんだからリスクマネジメントは大事よ。後先考えずに迂闊な行動すれば必ず後悔することになるからな! 

(↑初陣で敵の一部を食った奴)

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 いやぁ、謎の植物があちこちに生えているという想定外の光景と出くわしたりもしたけれど。ヨモツイクサの襲撃も無くサクサクと進めてるし、偵察は順調だなぁ~アッハッハッ! 

 これヤバないか? 明確に人間を襲いにくる連中がさ、自分たちのテリトリーに侵入してきた俺たちのことに気が付いてないとかありえんべよ。奥のほうに誘われている可能性もあるってばよ。

 

「ヨモツイクサは食欲と暴力だけが行動原理の原始的な存在であり、連中にそのような知性や判断力が備わっているなどあり得ません。

 もっとも、この情報は少なくとも1000年以上は更新されていない情報ですので、どの程度参考にするかは少尉殿にお任せします。もちろん私は副官として、少尉殿の判断を最優先に行動することを誓います」

 

 大丈夫か日本帝国軍。人造人間のカネサダちゃんまでお前らの情報収集能力を疑い始めてるぞ。宇宙世紀になっても大本営発表が大袈裟なのは古き良き文化だとでも言うつもりなんですかね? 

 ちなみに僕はヨモツイクサには知性がバッチリ備わっていると思ってます。理由? そら乙型ブタ玉が完全に俺のことブチ殺してやるとキレ散らかして突撃してきたからだよッ! ちょっと偶然お顔のお肉を銃弾で削っちゃっただけなのに、失礼しちゃうわッ! 

 

 ともかく。ピクシーさんやユキダマくんでさえも連中のMAG反応は感じていないものの、警戒は強めるべきだろう。

 どうせ今日は練習みたいなものだし、255時間のうち24時間を成果無しで終わらせたところでまだ余裕はタ~ップリ残ってるんだもの、まだ慌てるような時間じゃないさ。

 

 

 

 ……で。ようやく人工物が見える位置までたどり着いたのはいいんだけれど。

 

「坑道の巡回をしているときに長く人が立ち入らなかった区域で似たようなモノとは何度も遭遇しておりましたが……かつて人が生活していた場所が変質しているのは、遠目でもあまり気分の良いモノではありませんな。

 まるで居住区そのものがヨモツイクサどもに取り込まれて、連中の一部になってしまったかのようです。これなら植物で覆い尽くされていたほうが見た目は何倍もマシでしたなぁ」

 

 ライトで丸く照らされた先に見える、あの肉々しいドロッとした変質をした建築物の壁ときたらまぁ。コロニーとは違って薄暗いからキモさも倍増なんだぜ。

 

「ねぇ副官さん。あのブヨブヨした壁がヨモツイクサみたいな物だとしたら、アレを切り開いたら中からエネルギーじゃなくて生体MAG結晶体が取れたりするんですか?」

 

「いえ、そのようなデータはありません。たしかにあの脈動している管のような部分からはMAGの反応を感知していますが、それも流動的なので結晶化はしていないと考えるべきです。

 念のため言っておきますが、異能の使いすぎで消耗したMAGを補うために経口摂取で直接取り込もうなどと軽率で無謀な行動は慎むように。そんな馬鹿げた方法を選ぶくらいなら遠慮せずに結晶体を砕きなさい。いいですね?」

 

「……ウッス」

 

 ……ウッス。

 

 

 しかしこれは……さすがにこのタイミングで1度引き返すべきだろうか? 報告したところで俺が瀕死の大怪我でもしない限りあの大尉殿が奪還作戦を撤回するとは思えんが、それでも正式な軍事行動である以上俺には報告の義務があるし。

 ここは冷静で慎重な判断が求められるな。思考回路をクールにするんだ、俺。喫茶店でお値段が時価で紹介してもらえるレンタルボディーガードのように。

 

 

 進む→キケン! 

 

 戻る→あんぜん! 

 

 

 よし、本日の偵察任務はこれにて完了とする。現状で許される権限の中で、ヨモツイクサに汚染されたエリアの探索に必要な物資を揃えてから再び調査を行う。

 

 どうせならパァーッ! と居住区ごと焼却してやったほうが面倒は少なくて済みそうなんだけどな。

 たぶん酸欠で俺らも大変なことになるけど、少尉程度の身分では発見しなくてもいい物品とかもまとめて灰になってくれるはずだ。

 

 まったく。居住区を通れるようにするだけでもアレコレ考え事が多いと、本命のル号採掘基地の偵察ではどれだけ注意力が試されることになるか想像するだけで疲れそうだ。

 さすがに基地の内部に踏み入ることにはならないだろうが、もしものときには司令部にある資料や司令官の個室にある雑記帳の類いには近付かないようにしなければ。ヒーホーちゃんにも特務少尉として厳命しとこ。



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イントルード:5

「100年以上も前に放棄された採掘基地、それもたかが偵察如きに貴重な装備の使用など許可できるワケがないだろう──だ、そうです。せめてもう少し言葉を選ぶ努力ぐらいはして欲しかったですね。

 あの大尉殿が真意が何処にあるかなど関係なくご自分の名前で立案なされた作戦が大本営のサーバーに記録されている、という事実と意味を正しく理解なさっているのかはわかりませんが……ともかく、この威力偵察任務は基地司令部のサポートは得られないものとして遂行する必要があるようです」

 

 

 やっぱギャラリーが大勢いるところでアゴを粉砕したのはマズかったかな……。

 大義名分があったところで個人の暴力など組織の権力の前では無力だと知る良い機会になったね! 授業料がべらぼーにお高いのだけが問題だけど。

 

 先に手を出した俺が悪いのは自覚しているが、それはそれ。じっくり丁寧に仕返しをしてくれやがりましたあの大尉への棚上げ報復はそのうち考えるとして、まずは任務をどうするかだな。

 生存を優先して失敗で終わるにしても、せめてル号採掘基地の外観を確認するぐらいのことをしなければ立場はかなり悪くなるだろう。特務少尉なんて肩書きがあるから尚更だ。

 

 

 じゃあ具体的になにができるのかと言われれば、とにかく現場を歩いてみるぐらいのことしかできないんだけど。

 

 こういう軍隊国家系の世界っていうのは、もっとこう息苦しいぐらい堅苦しくて、むしろ逆に作戦行動や戦闘関連はいろいろキッチリしてるもんだと思ってたんだけどなぁ。

 使い捨ての立場からスタートしたせいで全体像が見えていない、っていうのも判断を難しくしている。どんな優秀な人間でも大勢集めると2割は無能になるという話は聞いたことがあるが、この基地の司令部の人間がまさにそれなのだろうか? 

 

 おっと、危ない危ない。また思考が余計な方向にズブズブと沼るとこだった。どんな正義やお題目でも命に勝るものは無し、大局を見るよりも目先の生きるか死ぬかのほうが大事なのだよ兵隊にとってはさ。

 

 よし。ここはメガテン世界(仮)なのだから、RPGの基本に忠実なやり方でいこう。とりあえず適当に進み、余裕があるうちに帰りながらマップを埋める。

 ターミナルでセーブはできないが、その代わりに即死魔法のムドをローリング回避できるので経験値欲しさに欲張るようなことさえしなければ簡単には死なんだろう。

 

 

 この威力偵察が終われば本番の奪還作戦がマジで始まってしまうかもしれない。あの大尉の目的が俺を貶めることだとしても、犠牲になるのは比喩でもなんでもなく本当に無関係の兵隊たちなのだ。

 

 そいつらがひとりでも多く生き残れるよう道中の安全ぐらいはなるべく確保してやりたい。俺の軽率な行動のせいで大事に巻き込んでしまうかもしれないんだ、それぐらいの責任は果たさないとな。死なない範囲で。

 もちろん苦労して集めた情報の出番がなければそれが一番面倒が少なくていいんだけど。……いや、むしろワンチャンそれ期待できるのでは? 骨折り損のくたびれ儲け狙いで、偵察が終わったあとにやっぱりや~めた! みたいな。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 3歩進んで2歩下がる。動画なら倍速編集かイベントまでカット、ライブなら配信者が肉壁のキモさについて言及したあと話題に困って雑談を始めるような地味で堅実な探索を続ける俺。

 

 カネサダちゃんは異能を使えないが、そのぶんMAGを運動性とパワーに変換しているため物理的な強さは圧倒的である。

 そしてテッセン軍曹は攻撃魔法こそ使えないが、攻撃力と防御力と命中・回避を1度に強化する『ヒートライザ』の劣化版みたいな異能を使えるようだ。いや、普通に羨ましいんだけどそれ。シチュエーション選ばず使えるヤツじゃん! 

 

 このふたりが某手強いシミュレーションのお助けパラディン並みに活躍してくれているおかげで、俺とヒーホーちゃんの仕事は細々とザコを退治するだけ。これもう簡単にル号採掘基地まで行けるっしょ! ……と、思うやろ? 

 

 

「副官さん、どうかしたんですか? さっきから耳ポンポンしてますけど、ゴミでも入りました?」

 

「いえ、雑音が少し……。風の鳴る音が近くでボソボソ呟いているようで邪魔に感じたというだけです。心配されるほどのことではありません。それよりも、風に動きがあることのほうが厄介ですね」

 

「ここまで無風だったのに急に動きがあるということは、この先の何処かで地上まで繋がっている空間があるかもしれませんからな」

 

「……? 軍曹さん、それってなにかマズいんですか? 地上が人の住めない環境になっている、って話なら学校で教えられましたけど」

 

「あー、それはだな……。そうでした! そういえば少尉殿にはまだご説明しておりませんでしたな! 丁度いい機会ですので休憩のついでにご説明させていただきます。

 資料を閲覧する権限の無いDクラス帝国市民にも聞かれてしまうかもしれませんが、ここは戦場ですからそういうこともあるでしょう」

 

 簡単にまとめると。

 

 採掘しまくって工場バンバン建設してガンガン金属加工しまくってたら重金属イオンが水やら空気やらに悪さして惑星まるごと生物が死滅しちゃったテヘペロ☆(・ωく) ということらしい。

 惑星単位で死滅とか環境破壊の規模が前世と比較になんねぇな? これには正しい都市破壊・美しい環境破壊の専門家であるどこぞの破壊神アレクなんとかさんもご満悦ですねバカじゃないの? 

 

「じゅーきんぞくいおん、ってなんですか?」

 

「目に見えないほど細かい金属の粉末のようなもの、と想像してください。実際にはそのような可愛らしいモノではありませんが」

 

「その様子ですと、少尉殿もご自身で色々と勉強なさっておられるようですな。知識を深めるのは良いことです。お察しのこととは思いますが、それらを含んだ水は強い毒性を持っております。

 別の区画の話ではありますが、無茶な採掘が原因で派手に崩落が起きた結果、どんな偶然が重なったのか大量の水が流れ込んできましてな。当然坑道にいた者たちは全員が溺死、基地や居住区の生き残りも鉱毒でやられて救助隊がたどり着いたときには……と」

 

 ここにきて大規模地形トラップ、それも回避がほぼ不可能な即死効果ときましたか。世界が全力で俺を殺しにきているとか考えちゃうのは転生者特有の自惚れだと信じたい。がっでむッ!



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イントルード:6

 なして俺は宇宙開拓時代に転生したのに人力つるはし採掘の岩の中を歩いてんだべな? 

 

 もっとこうサイバーパンクというか、文明的なダンジョンとかあっても──そういやアマラ経絡の繋げ方はちゃんとSFしてたっけなぁ。あんまり頻繁には使いたくない移動方法だけど。

 まぁアレはいろんなことが急に決まったから使ったみたいなこと言ってたし、正規の手続きで移動するとなれば宇宙船で無重力体験とかもできるかもしれん。問題があるとすれば俺の物語がこの地下世界で完結する可能性もゼロではないということぐらいか? 

 

 全ては未だに教えてもらえない“本命の任務”とやらの内容次第なんだよねぇ。

 

 人体実験の素材にするつもりならわざわざ特務少尉なんて地位を与えないだろうと自分に言い聞かせてはいるものの、やはりもしかしたら……という不安は常に付きまとう。

 とにかく情報が足りん。だけど知りすぎるのも命が危険。タイトロープダンサーの気分をいつでも味わえるディストピア世界ってとぉ~ってもお得だよ! 是非とも何処かの誰かに特価大廉売してやりてぇわ。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 不安を抱えたままでも真面目に働けば、そのぶんの結果はしっかりと現れるワケでして。

 

 

 じっくりゆっくり丁寧に歩きながらの探索でも、不気味なくらい順調だったおかげで目的のル号採掘基地があるはずの区画手前まで普通に到着してしまいましたとさ。

 気になる外観のほうは……うん! だいぶ有機物まみれですね! わりと大真面目に火炎放射器とか使わせて欲しいんだが。それがダメならせめてアギ系の魔法が使える異能持ちを集めるとかさぁ。

 

 ただ想像とは違って徘徊しているヨモツイクサはあまり見当たらない。もっとこう、虫の巣を掘り返したときみたいにワラワラと闊歩しているもんだと思っていたんだけど。

 たとえば、アレは哨戒役で戦闘が始まったと同時に四方八方から一気に集まってくるパターンとかはどうだろうか。ピクシーさんはどう思う? 

 

(んー、いまのところMAG反応はそんなに感じないけど……。でも、あのおっきい建物の中からは変な感じがする。中っていうか、下のほう? 懐かしい気もするし、なんだかイヤな感じもするわ)

 

 嫌な気配はともかく懐かしいときたか。なんだ、もしかして施設の地下に悪魔を使った実験施設でもあったのかな? それで同族の気配はするけれど同時に不快感も伝わってきてるとか、そういうパターンが──さすがにないか。

 悪魔の姿を見るためには異能に目覚める以外のなんらかの条件が必要っぽいし。いまのところMAG結晶体を食べるが俺の中で最有力の説だが、仮に悪魔の視認方法が確立されてんなら秘匿しないでもっと積極的に活用してんじゃないかな? だってこの世界の日本は日本『帝国』なんだもの。

 

 帝国って名乗るヤツらはだいたい自分たちは無条件で未知の力も完璧に制御できるって頭してるからな。それこそメガテン世界の天使や悪魔にしてみれば付け入る隙が多すぎて逆に心配されるレベルだろ。

 

 

 さて、これで最低限の役目は果たしたことだし記念撮影でもして帰ればギリ許される──おっと。カネサダちゃん大丈夫か? お前さんがフラつくとは、さすがに前衛で頼りすぎたかな。正直スマンかった。

 

「申し訳、ありません少尉殿。いえ、我々はMAGの補給さえ怠らなければ人間のように疲労で倒れるなどということは……無い、ハズなのですが……。

 もしかしたらMAGを循環させるためのパーツに、どこか破損が生じているのかもしれません。この任務が終わったら……1度メンテナンスを受ける必要があるようですね」

 

 なにせアラヤン式駆動の人造超力兵は旧式なので、と自虐ネタも交えつつ姿勢を正すカネサダちゃん。ふーむ、戦闘の要であるメインアタッカーが不調となればここが退き時かな? 

 いざとなれば担いで逃げることもできなくはない。日頃の戦闘で鍛えられた肉体とMAGモグモグ効果、それにMAGコートの補助があればそれぐらいは余裕なのだ。もちろん逃げ道にいるヨモツイクサは軍曹とヒーホーちゃんに丸投げします。

 

「はい、いいえ少尉殿。MAGの消費効率は少々悪化していますが作戦行動に支障をきたすほどではありません。ヨモツイクサの数も大したことはないようですし、可能な限り現場の状態を記録してから帰還しましょう。

 ……心配は無用です、少尉殿。副官として貴方をサポートするのが私の任務ですので。これ以上駆動部の反応が鈍るようであれば必ず報告します。敗北や撤退を許容できる上官を相手に無茶は通しませんよ」

 

 俺としてはヨモツイクサの数が少ないからこそ余裕を持って帰りたいんだけどなぁ。そんなふうに言われたら少しは粘ってもいいかなとか考えちゃうじゃないの。

 正直なところ切っ掛けひとつで「貴方は知りすぎました」とか言われて銃口を向けられるんだろうな~って嫌な信頼感はバッチリだけど、それでも一緒に生活していれば情のひとつやふたつは感じるからね。

 

 できれば無事メンテナンスを終えて副官を続けて……続けて……いや、やっぱりその辺の人事についてはちょっと保留させてもろて。

 本人曰く本来なら疲労しないハズの人造超力兵が不調とかいう時点でぶっちゃけ前世の記憶持ちとしてはもうフラグ臭が半端ないが、できるならバキッとヘシ折って連れて帰ってやりたいもんだ。



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イントルード:7

 状況確認! 

 

 当たり前だが、本人のやる気とは関係なくカネサダちゃんは戦力外として扱うものとする。当然撤退するときにはフォローが必要になる、という前提で動くべきだと考えるなら……戦えるのはふたりだけ。

 

 ヒーホーちゃんもMAGモグモグ効果で身体能力は見た目よりずっと高いが、さすがにカネサダちゃんを抱えて逃げるのは難しい。

 そしてこの場で一番階級が高い俺は状況に合わせた指示で皆を動かす責任があるので、フォロー役は自動的にテッセン軍曹になるだろう。

 

 

 なんだか嫌な流れだな、コレは。なけなしの知恵を絞って配置を考えた結果、悪魔と契約して戦うサマナーコンビが誕生してしまった。

 これを偶然と片付けるのは簡単だが、知らず知らずに思考が誘導されている……なんて話が普通にあり得るのがディストピア世界でありメガテン世界だからなぁ。

 

 警戒すべき脅威の気配は施設の地下から、体力的には余裕がある、ヨモツイクサの数は少ない、カネサダちゃんもまだ動ける、仲魔たちも強くなっているし軍曹はベテランの軍人でヒーホーちゃんとユキダマくんのコンビネーションも悪くない。

 

 だから、少しぐらいは問題ない。そう、危なくなったら逃げるだけなんだから問題はないハズなんだが……これは、本当に俺の判断なのか? 

 あぁ、クソ。なんで俺がこんなことで悩まなきゃならないんだ。いっそのことMAG結晶体を貪るように喰い尽くしてやるぐらいの気概で悪魔を支配すれば──ダメに決まってんだろアホか俺はァァァァッ!! それ結局身を滅ぼす三流悪役の思考回路だボケェェェェッ!! 

 

 

 ふぅ、危なかった。前世の経験が活きたな。この調子で前世の記憶を掘り起こして精神の安定化を試みよう。

 

 まず俺の頭がなんらかの影響を受けている可能性はあるものとして考えよう。判断力を鈍らせたり感情の振れ幅を極端にしたり、なんてのは天使も悪魔も得意分野だろうからな。

 その上で、俺たちは全員が好戦的な方向へ誘導されている可能性が高いか? 本来なら一番冷静に撤退を進言してもよさそうなカネサダちゃんが偵察の続行を提案し、軍曹まで自然に同意をしているのはさすがに少し不自然だ。

 

 俺自身の判断? んなもん論外だよ! よッ!! なんで逃げられる大義名分ゲットしてんのに奥へ奥へ進んでんだって話だよ。バカなの? 死ぬよ? 

 ヒーホーちゃんは……よぐわがんにゃい。この子なんだかんだ視野も広めで冷静に徹することもできるけど、けっこう頭パッションな部分もあるしリスクを考えた上で賛成してるかもしれん。頼もしくはあるけど。

 

 だが──どうする? やっぱりやめようと言って引き返せる空気ではない。前世の記憶がどうだなんて言えるワケがない。完全に後手に回ってるぞコレ。

 切っ掛け、かな。どんなことでもいい、屁理屈をこねくり回して撤退するための理由をでっち上げて特務少尉権限で押しきるしかねぇ!

 

 さぁ行くぞ、待ってろバラエティー厄災ガチャッ! なるべくシンプルで見た目にもわかりやすくて走れば簡単に逃げきれるトラブルで頼むよ~ッ! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「あれ? またおきゃくさんだ! こんにちは! ちょっとまっててね、ボクまだおしごとのとちゅうなんだ! このお花をたくさんたくさん植えてふやすのがボクの“やくめ”なんだよ!」

 

 

 

 

 嘘だろ。

 

 

 

 

 子どもが、小さな男の子がいるぞ。──ピクシーさんッ!! 

 

(気をつけて! コイツ、MAGの反応がぜんぜん無いッ! キモチワルい……なに!? なんなのコイツッ!? MAGは感じないのにニンゲンのような気もするし、アタシたちと同じような気もする……とにかくヤバいわよ! コイツッ!!)

 

 

「よいしょ、っと。うーん、このまえあたらしい“うえきばち”もとどけてもらったのに、あっというまにたりなくなっちゃったな~。

 でもがんばってお花をふやさないと。これがボクのコッカコウケンのギムだから。

 ボクがいっしょうけんめいお花をふやせば、かってにおしごとをやすんじゃった()()()()で“しせつ”につれていかれたお父さんとお母さんもいつかは帰ってこれるんだ!」

 

 Cクラス帝国市民だ。作業着のデザインが少し違う気もするが、俺がいま活動の拠点にしている採掘基地で見かけるC民と同じ格好だ。何度も見ているし、居住区で遊んでいた子どもたちも同じ格好をしていたから間違いない。

 だがあの男の子が持っているのは……あれが、植木鉢だと? だとしたらデザインした奴はかなりの悪趣味か、そうでなければ美的センスがイカれてるのだろう。

 

 そうでなけりゃあ、なにが楽しくて“頭蓋骨”なんかに花を植える必要があるんですか? 

 

 

 それに、周囲に咲いてる花の下。植物に覆われているが、あれはどう考えても……だ。あの子どもは植木鉢を届けてもらったと言っていたが──マジでふざけんな、そういう流れかよッ! 

 なぁ軍曹、この基地が放棄されたのは100年以上も昔の話なんだよな? あの子どもに花壇扱いされてる人間だったモノはどれも年代物には見えないぞ。いくら雨風が当たらないとはいえ、朽ちるどころか色落ちもしてないじゃないか。

 

「それだけではありません少尉殿。自分はあのような装備に心当たりなどありません。ご存知のとおり自分の仕事はひよっこどもの訓練を監督する立場です。

 なので階級の権限とは別に基地で管理している装備はほぼ全て把握しております。資源惑星の万年軍曹ではありますが自分も軍人の端くれ、装備を見間違えるほど間抜けではありませんッ!」

 

 

 少数精鋭で威力偵察することが決定したタイミングで。

 

 天使兵関連のトラブルがあった、なんて噂のある廃棄された施設に。

 

 基地にある物とは別の装備を身に付けた集団が先にやって来ていて。

 

 見た目は人間の少年なのにMAGの反応がない男の子にお花の肥料にされている。

 

 

 新鮮なフラグを惜しみ無く使い素材の味もしっかりと活かされた素晴らしいフルコースだな。デザートには背後で「ぐぅ……ッ!?」とか言って頭を押さえながら膝をついている人造超力兵も待ってるぞ? 

 すでに胸焼けが酷くて胃袋の中に残ってるモノ残さず吐きそう。というか泣きそう。なんだコレ、100年前の帝国軍人たちの尻拭い? この世界に黄泉比良坂があるのなら、そいつら全員探しだしてまとめてブッ飛ばしてやる絶対に。



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イントルード:8

「少尉殿、まずは自分が接触を試みます。状況の把握と対応は全てお任せしますので、いざという場合には自分ごと処理をお願いします。

 もちろん命は惜しいですがね。まぁ、市民を守るべき軍人でありながら人間を襲う化け物に成り下がってまで生きるなど自分はお断りでして」

 

 ぐ、軍曹ォォォォッ!? お前ってヤツはぁ……ッ! 

 

 

 その尊い自己犠牲の精神に対して、俺も特務少尉として真摯に応えてやらねばなるまい。と、いうワケで貴様の提案は却下だ軍曹。軍人として誇りある生き方を是とするなら上官の命令には従え。

 そんな苦虫を噛み潰したような顔するこたぁないでしょ? いや、わかってはいンのよ。俺たちが情報を生きて持ち帰ることができるように軍曹が体張ってくれようとしたことぐらいはわかってンのよ。

 

 でもね~そんな甘い判断が通用しない相手もいるんだわ。さすがに前世の記憶やらメガテン知識とは説明できないけど。まぁアレよ、俺の異能に関係する知識と経験に基づく判断ってことで納得してちょうだいな。

 会話で情報を引き出すという発想が悪いんじゃない。会話をする、という行動そのものにトラップが仕掛けてある場合があるから油断できんのが悪魔や天使という存在なのだ。

 

 

 ならどうするのかだって? 

 

 そらキミたち、このまま黙って振り向いてからの全速前進に決まってるじゃないか。見なかったことにして帰ろうぜ? 

 ボス戦前のハイ・イイエで見逃してくれるパターンはけっこうあるし、なんならとあるゲームなんてもう帰るを選んだら本当にダンジョンの外まで送り届けてくれるヤツだっていたんだぞ。

 

 はい姿勢を正して元気よく回れ~右ッ! ヨモツイクサの包囲確認ヨシッ! さらに回れ~右ッ! よ~し、気合いを入れて日本帝国の平和と繁栄のために目の前のアンノウンをブチ転がしちゃうぞ~ッ!

 

 

「ボクはねぇ、お花を増やしたあとはねぇ、あたらしい“いれもの”になるんだって! お父さんも、お母さんも、それに友だちもみんな“いれもの”を作るためのおしごとをおてつだいしてるんだって、ヘータイさんがおしえてくれたんだ! 

 それでね? その“いれもの”をいつでもたくさん作れるようになったら、ニホンがうちゅうをぜ~んぶ平和にして、たくさん、たぁ~っくさんの友だちがしあわせになれるんだって!」

 

 

「少尉さんッ! まわりの化け物たちがみんな崩れて変な光になっちゃってるよッ!?」

 

(ヒホッ!? アッチからもコッチからも、まるでMAGのシャワーみたいだホッ!)

 

 わぁすご~い。男の子にMAGの光とやらがどんどん集まって、まるで理科や保健体育の資料で見た受精卵の写真みたいになっちゃってるわ~。

 知ってる知ってる、このあと男の子がビックリでドッキリな変身するヤツでしょ? だってもう身体のいろんな部位がどこぞのB級妖怪の弟みたいになってるもん。いま100パーセント中の何パーセントぐらいなのかしら。

 

 

 

 

「……あれ? よくみたら、そっちのお兄ちゃんとお姉ちゃんはなにかヘンなのが──あ、わかった! それがシレイカンさんがいってた“わるいオバケ”なんだね!」

 

 

 

 

 わるいオバケ? ……まさかッ!? 

 

(アタシたちのこと見えてるのッ!? )

 

 

 

 

 

 

 

 

「まっててねお兄ちゃんたち! ボクがそのオバケをやっつけてあげるから! そしたらお兄ちゃんたちも、おじさんも、みんなシレイカンさんにいれものにしてもらえるよ! 

 ボクと僕と僕たちとボクとボボボボボボクたたちちちちといっしょに一緒にいっしょーにぃーコッカコウケンをコウケケンをコッコカケンのギムをボクたちと一緒にィィボォォクゥゥゥゥとォォォォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 逆にね、うん。ここまで酷いとむしろ冷静になってきたンだわ。驚きすぎで頭が冷えてるンだわ。正気度チェックに成功したのか大失敗してマヒしたのか、コレもうわかんねぇな? 

 

 名前もわからない、判別しようがないほど多種多様のナニかが混ざった合体悪魔とでも定義すればいいのかな。だって本人が僕たちって言ってたし。

 アレが周囲のヨモツイクサからMAGを根刮ぎ奪ってくれたお陰で多勢に無勢という地獄は回避できたが、その代わりに空間を埋め尽くさんばかりのヨモツイクサから搾り取ったMAGを蓄えているボスと戦わないといけないという地獄が新しく産み出されたワケなんだが。

 

 

 コレ、逃げる系のイベント戦闘だよね? 

 

 ピクシーさん、仮に俺の命を欠片も残さず使いきる前提だとして勝てる見込みは悲しそうに微笑みながら首を横に振るってことはゼンッゼン無いですよねぇ~そりゃそうだアホな質問しちゃってゴメンちゃい☆ テヘッ♪ 

 

 

「これが噂の乙型ヨモツイクサでありますか少尉殿──少尉殿ッ!? その肩にいる小さいのは何者……T0811、キサマもかッ!? いったいなにがどうなって──ッ!?」

 

 軍曹、お前もか。えぇ~? なんで急に軍曹までピクシーさんたちの姿が見えるようになってんの~? ワケがわからないよ。

 

 だがしかしッ! 激しく状況が変化しているのに無駄に混乱してる場合なんかじゃねぇッ!! 小隊指揮官としての責任遂行、生きるためにッ! 烏合の衆が生き残れるほど悪魔との戦闘ってのは甘くねぇンだわッ! 

 俺とヒーホーちゃんがふたりかがりでヤツと戦うッ! テッセン軍曹、貴様は行動不能に陥っているカネサダを援護しつつ敵の増援を警戒ッ! 状況に合わせて撤退せよッ! 

 

 不満か? あぁそうだろうな、貴様の性格なら俺たちの支援を優先するべきだと判断するだろうさ。だがな、貴様。俺たちを信用して命を預けることができるか? 

 

 俺にとってピクシーさんは何度も死線を潜り抜けてきた大事な相棒だ。だから彼女の言うことを無条件で信頼できるし反応もできる。だが貴様はどうだ? 

 命令だからと、感情を無視して俺の言葉を信じて戦うことが……本当に、本心からできるのか? 少なくとも俺が貴様の立場なら絶対にムリだぞ。だって胡散臭さレベルMAXだもん。

 

 命令だ、軍曹。──下がれッ!! 

 

「~~~~ッッッッ!! 了解であります少尉殿ォッ!! 甘さも含めて、世辞抜きで貴方は良い現場指揮官ですッ! どうにか生き残ってくださいッ! 

 秘密を抱えていたことなど心底どうでもいいですが、勝手に死なれるのは困りますッ! 有能な上官を見殺しにして失うのは我々下士官にとって最大級の屈辱でありましてなァッ!!」

 

 有能な指揮官ならこんなことになる前に対処してると思うんですが、それは。ま、景気付けの冗談が言える程度には余裕がまだ残ってるってことなのかな? さすがはベテランだね! 

 

 さてヒーホーちゃんよ、ユキダマくんという特別な相棒がいるキミにはギリギリまで俺に協力してもらうよ? 

 言っとくけど拒否権はないかんね? 俺ひとりじゃあっという間にコロコロされちゃうし、そしたら全員仲良く花壇にされちゃうもの。

 

「了解であります少尉殿ッ! えへッ、さすがに怖くて手も足も震えてるけど……だからこそ! 死にたくないからこそ全力でジタバタしなきゃ、ですよねッ!!」

 

 よし、やる気は充分だなッ! 

 

 でも、やっぱつれぇわッ! 

 

 いや当たり前だろ。一番階級の高い俺が絶望してたらアカンと思って声を張り上げたけど、もうMAGコートの中なんて汗でダラダラのビチョビチョだよ。不快指数がK点超えしてんのよ。

 ちゃんと頼もしい感じの笑みはできてるかな? 俺。ガンパレードがマーチしてる世界の委員長が「指揮官が笑ってないと部下が不安になる」って言ってたから参考にしてみたけど、普通にしんどくて早くも顔面神経麻痺になりそう。

 

 帰ったらシャワー浴びながら丁寧にモミモミしなきゃ。そのためにも絶対に絶対に絶対にッ! コイツから逃げきってやるぜッ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────人の世は」

 

 

 

 

 ……ん? カネサダちゃん? 

 

 

 

 

「人の世は人が支配するが道理であり摂理であり真理である。なれば(コトワリ)を乱す神話も伝承もその一切が人の営みには不要であり不用なり。

 森羅万象悉ク土ニ還リ日ノ本桜国ノ礎トナルベシ。駆逐対象『タイプD・複合型』の顕現を確認。システム『()()()()プログラム』起動。これよりプロトコル『失伝処置』を実行します」

 

 

 やっぱ、つれぇわ……。



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イントルード:9

前話の最後の部分を少しだけ修正しました。


 カネサダ、スーパーモードッ! 心臓が握り潰されたかと思うほどビビったけど、とりあえず合体悪魔に向かって走っていたからヨシッ! いや全然安心できる状態じゃないんだけどねッ! 

 

 ペルソナ系で見た百腕巨人ことヘカトンケイルに蛇やら虎やら骸骨やらをトッピングした合体悪魔を、思いっきりブン殴って怯ませてるし。

 ヤベェよ……ヤベェよ……アレはピクシーさんたちと同じような悪魔の可能性が高くて、いまはピクシーさんたちが軍曹にも見えている状態で、アレの姿を見てからカネサダちゃんが暴走? し始めたってことは、だ。

 

 

 次は、俺の番だよねぇ? 

 

 

 オォォノォォォォだズラァッ!! このままカネサダちゃんが合体悪魔を倒したとしても、結局難局大冒険は終わらねぇじゃねぇかよォォォォッ!!

 勝ち目が薄い相手から勝ち目の見えない相手にランクアップしただけじゃねぇかッ! しかも的は小さくなって機動性も向上してるとか最悪だよッ! ピクシーさんがスクカジャ使えなかったら無抵抗のまま嬲り殺しにされる未来が確定的に明らかだよッ!! 

 

 だがまだ諦めるには早いぞ、俺……ッ! 観察だ、いまの隙に観察することで突破口を見つけ出すのだ……ッ!

 ふむ。カネサダちゃんの頬っぺたらへんから腕にかけて紅い光の流れが見えるな。アレはMAGコートと同じような装備なのか? 

 

 対ヨモツイクサ用の装備だし、それを戦闘任務がメインであろう人造超力兵の彼女にも使われていることは別に不思議ではない。

 ただ人造人間に装備させるような代物を普通の人間(試験管生産)の俺とヒーホーちゃんが装備させられているのが不思議というか、不安なだけで。

 

 あと単純に防御力がヤバない? 生体マグネタイトに反応して着用者をサポートするこのMAGコート、周囲からMAGの光をガンガン吸収しながら戦うカネサダちゃんならどんだけ強化されてるんだって話よ? 

 

 

「──まず、ひとつ」

 

「────ピギィッ!?」

 

 

 カネサダちゃんが合体悪魔の身体に腕を突き刺した、と思ったらダイレクトにMAG結晶体を引っこ抜いとる!? そんなお前、科学とオカルトから製造されただろうに銃器もナイフも使わない原始的な解決方法でいいんか……。

 まぁ俺の困惑とは関係なく、合体悪魔には効果抜群のようだが。もうひとつ、またひとつとカネサダちゃんが結晶体を強奪して砕くたびに合体悪魔の素材となっているだろうナニかが消えていく。

 

 あれは……砕かれたMAGが悪魔に戻るよりも先にカネサダちゃんが吸収してるのか。なるほど? 単純にダメージを与えて削るだけじゃなくてリソースの奪い合い、という戦い方もあるのか! 

 是非とも次のヨモツイクサとの戦いに活かしたいところだが、そのためには自分の命をどうにかこうにか生かしてやらねば。

 

 あ、逃げるのはもう諦めましたよ? だって自分より速い相手から逃げても追い付かれるだけだもの。

 

 

「おマエ、おぼエでルゾッ! ミンなをいじメタヤつとおんナじにんぎょウダろッ! へいダイざんのながまノふりじテ、ミんなニひどイごどジダろぉッ! オバえなんがぁ、ぼグがやっづゲてやルァァッ!!」

 

「覚えている、は正しい表現ではありませんね。私は旧型ではありますが製造されてから僅か60年ほどしか稼働していませんので」

 

「オマえなんがァッ! ボクだちがマルカジリにジでやるッ!!」

 

 

 蛇のような部分が巨大化し、カネサダちゃんを丸飲みにしようとしているのか口を開けて襲い掛かる。

 カネサダちゃんは動かない。いや、動く必要がないのだろう。彼女の運動性を考えれば回避なんて簡単なはずなのにあえて立ち止まっているのは、たぶんわざわざ避ける必要などないと判断したからだ。

 

 蛇の口へ向け腕を伸ばす。

 

 流れるMAGの光が紅から白へと代わり。

 

 

 

 

「──コウガオンッ!!」

 

 

 

 

 えぇ……? キミも魔法使えるのぉ? 

 

 疾風のガルや衝撃のザンとは趣の違う、火炎のアギほど暴力的でもない光の波動が蛇の頭を吹き飛ばした。

 キラキラと輝く粒子の余韻はどこか神秘的でさえもあり──コウガオン? コウハ系? それメガテンの魔法だっけ? いや、まぁ、ガルとザンが共存してる時点でペルソナ混ざったところでいまさらなんだけどさぁ。

 

 そして突然の魔法にビックリして気付くのが遅れたが、魔法を発動させたカネサダちゃんの左腕もブッ壊れているじゃないか。

 肘のあたりから肉片と機械部品の残骸が一緒にぶら下がっている姿は、彼女が『人造』だが『人間』であることを突き付けてくる。

 

 

 ……頑張って控えめに表現してみたが、カネサダちゃんへの気遣い無しで身も蓋もない言い方をすると普通にグロいな。

 なんつーのかな~、こう、化け物が人間を襲うときの純粋な暴力由来のグロさじゃなくて。人間の叡智と欲望が仲良く握手して誕生した狂気というか、人間って醜いと思わないか? と煽られているかのような不快なグロさがヒシヒシとこう、ね? 

 

 

 そして対する合体悪魔のほうは……うん、元の少年の姿に戻ってるな。それも遭遇したときの『完全な』姿にだ。

 肉体はまだしも破れた作業着まで戻ってるあたり、なんかもう物理的な存在からはズレてるんだろう。理屈なんぞ知るかッ! 考えるよりも先に適応して対応せんとあっちゅうまに死ぬんだよコッチはッ! 

 

 

 

 

「……あ、お花。うえきばちがたおれちゃってる、はやくなおさなギビィ」

 

 

 

 

 おっふ。そりゃ見た目は子どもでも中身が化け物だってわかってるけどさ、それでも頭をバツンと踏み潰される姿はさすがに視覚的攻撃力が高いな……。

 

「お待たせしてしまい申し訳ありません、少尉殿。お恥ずかしい話ですが、私は初めてシステムを起動したものですから最適化まで時間がかかってしまいました。

 あぁ、この腕でしたら大丈夫ですよ。速乾性流体金属が──そうですね、止血剤が配合された軟膏のようなものですぐに覆われますので。異能に目覚めているとはいえ、人間3人を処理する程度であれば問題ありません」

 

 ほ~らね☆

 

 やっぱり次は俺の番じゃ──いま3人言うたな。ヒーホーちゃんはなんとなくターゲットに含まれているだろうなとは思ったが、やっぱり軍曹も処理する対象なのね。

 

 まぁ、いくら知力が低い俺だってさすがにな。今回の一件で日本帝国がバッチリ悪魔の力を利用していることも、それを知ってしまった人間をガッチリ口封じしてることも理解したもの。

 そりゃ悪魔の姿を見ることができるようになった軍曹を生かしては帰さんよなぁ。理由など必要ない、結果がそこにあるのだから処理するだけだってか? 

 

 

 スマンな軍曹。前言撤回だ。貴様を逃がしてやるのはもうムリだ、もうしばらく俺たちと一緒に黄泉の国の観光を楽しんでくれ。

 もちろん中に入るためのチケットは1枚も持ってないから、全員そろって入り口だけ見て引き返すことになるけどな! 

 

「ハッハッハッ! そいつは残念でありますなッ! 死者の国なら歳もとらんでしょうし、美人が大勢いるかもしれないと期待したのですがねッ!」

 

「えぇ~? だって死んじゃった人が暮らす国なんですよ軍曹さん。どっちかって言うと、お爺さんとかお婆さんとかばっかりなんじゃないですか?」

 

 うーん、この世界だと若いD民のほうが多そうな気もするなぁ。もっとも、仮にそうだとしてもヨモツヘグイの効果で人間じゃなくなってると思うが。

 

 

「少尉殿、お忘れですか? 少尉殿のサポートは副官である私の仕事です。ご心配なさらずとも私が必ず黄泉の深淵まで送り届けて差し上げます。もちろん私も御一緒しますのでご安心ください」

 

 貴方を殺して私も死ぬわッ! ってコトォ!?

 

 愛が重いぜカネサダちゃ~んッ! 

 

 たぶん処理する目撃者ってのには、処理する側である人造超力兵も含まれてんだろうな。なんかこう、メモリー的な物が残ってると危険とかそんな理由で。

 

 

 さて。こちらは3人、相手はひとり。しかも武器は手放して片腕しか使えない。

 

 とまぁここだけ説明するなら勝てそうな気もするが、なにせ俺たちとは基礎スペックが大真面目に桁違いだ。

 それに残った右腕で強力な魔法を使ってくるかもしれないし、自分も死ぬ前提なら至近距離でブッ放して相討ちも望むところだろう。

 

 

 これが別のファンタジー世界なら、カネサダちゃんに呼び掛けることで解決できる可能性もあるが……試すだけ試してみるか? 相手の種族、あえて分類するならマシン系だけど。



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VS護国阿頼耶識 兼定:1

「潔く御国の礎となることを受け入れてください少尉殿。仮に私を破壊することができたとしても、貴方が()()を使役し続けるのであれば、いずれ必ず誰かが気付くことでしょう。

 特に帝都惑星『クニヌシ』を中心に配備されているイザナミ式人造超力兵の戦闘力は私など足元にも及びません。彼女たちを相手に逃げ切ることなど不可能です。どうかこの場で……少尉殿ッ!」

 

 カネサダちゃんは至って大真面目に説得しているのだろう。ただ説得の方向性が秩序の維持に振り切ってるだけで、きっと本気で俺自身のことを心配してくれている。

 それで殺そうって発想と手段がブレないってのが実に機械的である。見た目は美少女なので脳内にてワタシヤンデレアンドロイドに変換することも……したところでピンチはピンチだったわ。

 

 ありがとうカネサダちゃん、どこまでも副官として、特務少尉である俺のために行動してくれるんだな。その気持ちには素直に感謝するよ。

 でもダ~メ。だって俺、死にたくないし。あらゆる生物に存在する最も原始的な欲求だよ、生きたいって思うことは。だから全力で抗わせてもらう。

 

 

 それに、だ。

 

 お前さんもさ、自分の上官が軸のブレブレなヤツだったら嫌じゃない? そんなヤツを命がけで守護らにゃならんのか、って。

 

 

「……了解しました少尉殿。なるほど、これが俗に言われている“贅沢な悩み”というものなのですね。私は人造超力兵としては少々恵まれ過ぎているようですね。

 駆逐対象『タイプS・使役型』を確認。システム『悪魔送還プログラム』再設定。これよりプロトコル『木枯らし』を実行します。──フッ!」

 

 やっぱ速ェッ!? 

 

 こりゃ狙いを定めてる暇なんてねぇわ。イッポンダタラッ!

 

「ウォれに、マガせどゲェッ! ヒィィィトウェェェブァッ!!」

 

 ガツンッ! とハンマーが地面に叩き付けられると同時に熱風と衝撃波が周囲に広がる。

 

 軍曹とヒーホーちゃんもちょこっとだけ巻き込んでしまうが声をかける余裕なんてなかったからしょうがないね。生き残ったらゴメンねと謝るから許して! 

 肝心のカネサダちゃんは──よし、足を止めたなッ! いくら頑丈さに自信のある人造超力兵とはいえ、怪我をしている状態で完全に姿を取り戻した悪魔を相手に突っ込むのは無謀と判断したか。

 

 こう言っちゃなんだが、イッポンダタラに比べればさっきの合体悪魔のほうがよっぽど脅威に見えると思うんだけど。

 まぁ悪魔と戦うのは初めてっぽい発言してたし、警戒するのは当然か。純粋な機械なら蓄積されたデータで対応できたのかもしれないが、思考能力に長けた人造人間であることが仇になったのかも。

 

 それならそれで情報を更新する方法なんていくらでもありそうだけどねぇ。前世の日本でさえインターネットをちょいとポチればいくらでも情報が手に入ったのに、まさか宇宙進出したこの世界でオンライン技術が衰退してるってことはあるめぇに。

 いや、むしろ逆なのかな? オンライン技術が発達しているからこそ、電子の海に迂闊に悪魔に関する知識や情報を記録するワケにはいかないのかもしれない。なにせメガテン世界は悪魔の召喚は『プログラム』で行うワケだし。

 

 

 ならば俺が狙うべきは、カネサダちゃんの警戒心だろう。説得はムリだとしても、会話をする価値はわりとマジでありそうだ。

 

 ま、それもある程度まともに戦える状況に持ち込めたならだけど。──ピクシーさんッ! 細かく狙ってる余裕はないけどヨロシクぅッ! 

 

 

「だったら最初から狙わなきゃいいってだけでしょッ! ──マハジオッ!!」

 

「ぐぅッ!?」

 

 

 まさに逆転の発想! ゲームでは敵全体を電撃で攻撃するマハジオだが、この世界では広い範囲に電撃を放つ魔法である。点ではなく面の攻撃だ、いくら素早い動きができるといっても簡単には避けられねぇよなァ? 

 

 ここでMAGコートの出力を引き上げて一気に距離を詰める俺ッ! 相討ち覚悟の上位魔法は恐ろしいが、この状況では使えまい。

 それで俺ひとりを仕留めたところで、軍曹とヒーホーちゃんを逃がしてしまえば“お役目”は果たせない。向こうの勝利条件を満たすためには、最後のひとりになるまで切り札の魔法は使えないだろッ! たぶんッ! 

 

 相手は左腕を失っているが……せっかくだから、俺は残っている右腕を攻めるぜッ!

 

 もちろんサーベルは簡単に受け止められてしまうがそれでいい。いまはまだダメージを稼ぐターンではない、どうすればダメージを与えられるのかを探るターンだ。

 弱点となるはずの部位ではなく逆からの攻撃、しかも打ち込まれた一撃には殺意の欠片も感じない。ロジカルな思考ができるカネサダちゃんとしては判断に困るよねぇ? 

 

「……異能の正しい呼称を知る権限は私のように特殊な任務を与えられている者以外では、Bクラス帝国市民でも指定された役職にしか許されていません。

 いったい何処からそれを……いえ、少尉殿のソレが完全な顕現を果たしているのであれば、再び封印に綻びが生じたと考えるべきですか」

 

 うん? 悪魔の存在は隠しても魔法の名前は隠してないんか? そういやカネサダちゃんも普通にコウガオンって唱えてたわ。

 封印に関してはやっぱ俺の名付けが──いま再びって言ってたな。つまり過去にも似たようなことが~って、考察なんか後回しでいいんだってばよ! そんなことよりお喋りしようぜ! 

 

 なぁカネサダちゃん。炎よ氷よと曖昧な使い方をするより俺やお前さんみたいな使い方のが強いんだし、変に隠すより異能に目覚めたヤツ片っ端から指導したほうが戦力になると思うんだけど。この発想どうよ? 

 

「どう、と言われても困ります。さすがに軍の機密そのものに関わるような戦力の再調整は、私のような個人副官の仕事ではありません──よッ!!」

 

 うぉ、危ねッ!? 回し蹴りの音が鋭すぎるんだな、これが! ブオンッ、っていう鈍い音じゃなくて居合い抜きみてぇなシャキーンッ! って音してんぞッ!? 

 アカン、これ魔法とか関係なく攻撃食らったら死ぬわ。頭を潰されるとかじゃなくて、首がスパーンと切り落とされるわ。サーベルで受け止めても丸ごと叩き割られるかな?

 

 このおなご、まさに全身が二ノ太刀不要の示現流にて候。天晴れ見事な武辺者よッ! これ俺勝ち目あんの?



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VS護国阿頼耶識 兼定:2

 前に、前に、とにかく前にッ! 

 

 蹴り技を受ければほぼ確実に終わるが、右手で掴まれるだけならまだ対応できないこともない。

 頭、首、心臓付近。その辺りさえカバーできれば、最悪腕の一本ぐらい犠牲になっても必要経費だと割り切れ俺ッ! 

 

 いや普通に嫌だけどね!? 生き延びたいってのは別に命さえあるなら一生ベッドの上でもいいとかって話じゃないからねッ!?

 

 

「ケケッ! ボディーがお留守だぜェッ!」

 

「舐めるなッ!」

 

「おっと残念~ッ!」

 

 どんなに気張っても俺ひとりではカネサダちゃんの動きを封じることはできないが、隙間を埋めるようにウェンディゴがフォローしてくれるのであれば話は別だ。

 パッ! と現れてはシュッ! と消えるの繰り返し。デビルサマナーというよりはペルソナ使い、なんならスタンドバトルでもやっている気分になりそう。

 

 ちなみにピクシーさんはスクカジャを使い早々に引っ込みました。捕まれば最後、そのまま握り潰されてしまいMAGをムダに消費してしまうとのこと。

 イッポンダタラは単純に速さが足りん。カウンターを狙うか奇襲を狙うか、とにかくタイミングを上手く調整しないと持ち味を活かせそうにない。

 

 

 

 

「やーいやーい! 少尉さんしか見えてない生真面目バーカ! 私がヒミツを持って帰っちゃうぞーッ! 捕まえられるなら捕まえてみろーチービッ!! ──ユキダマくんッ!」

 

「ヒーホッホホーッ!」

 

 

 

 

「ッ!? く……ッ!」

 

 なんということでしょう、ヒーホーちゃんが自らを囮にしてフォローしてくれたではありませんか!

 

 ぶっちゃけ悪魔の情報を持ち帰ったところで周囲が簡単に信じるとはぜんぜん思えないけど、カネサダちゃんにしてみればひとりでも逃がした時点で任務失敗だもんな。

 いやでもスクカジャありでも厳しいのにコレ普通にヒーホーちゃんが危険でっていうかカネサダちゃん判断も移動も早ぇなオイッ!?

 

 

「──失礼ッ!!」

 

 テッセン軍曹 の ショットガン ! 

 

「構いませんよッ!!」

 

 こうかは いまひとつの ようだ ……。

 

 

 やっぱ距離があると散弾では牽制すら厳しいかぁ~ッ! MAGコートの光が一瞬だけ強い反応をしたから、まったく効果が無いってワケじゃないんだろうけど。

 とにかく急いでヒーホーちゃんを援護しないとアカン。考えがあって自分へ引き寄せたのならいいけれど、もしも俺を助けるための思い付きだった場合がマズい。

 

 

「ユキダマくんッ!」

 

「ホ~、ブフッ!」

 

「この程度で私が怯むと──」

 

 

 魔法で牽制するもカネサダちゃんは止まらず。だが、どうやらヒーホーちゃんの狙いは別にあったようで。

 

 

「そぉいッ!!」

 

「へ? ちょ、ひゃんッ!?」

 

 

 ほんの一瞬ではあるが、カネサダちゃんの視界が塞がれたタイミングで勢いよくヒーホーちゃんが地面を転がったッ! 

 

 さすがにこれは予測できなかったらしく、ゴロンと転がるうら若き乙女に引っ掛かって可愛い声でズッコケるアンドロイド少女。

 この土壇場でよぅ思い付いたな~そんな方法ッ! 頭の回転は俺より何倍も早いんじゃないか? いや、この場合は発想が柔軟なのかな? 

 

「よくやったぞ貴様ッ! 少尉殿、次は自分がしばらく時間を稼がせていただきますッ! ──哮ッ!!」

 

「ただの異能者に、旧型とはいえ人造超力兵の私が止められるとでもッ!?」

 

「つれないこと言わんでください副官殿ッ! どうせ自分のことも始末、いえ処理なさるおつもりなのでしょう? 少しぐらい段取りが前後してもよろしいではありませんかッ!!」

 

 おぉ!? 軍曹のヒートライザがなんかパワーアップしてるっぽいぞ! MAGがバトル漫画のオーラみたいにゆらゆらと揺れているのが俺にも見えとる! 

 あれかな、ゲーム的イベントだと悪魔の姿を視認したことで意識が切り替わったとかそういうヤツ。果たしてそれが軍曹本人にとって良い変化なのかはわからないが、俺は助かるのでヨシッ! 

 

「いいでしょう、ならば望み通り散りなさいッ!」

 

「なるほど速い、ですが──ぬんッ!!」

 

「な……ッ!?」

 

「さきほど少尉殿と戯れておられたときに動きを拝見させていただきましたが、どうやら副官殿は見た目どおり人間らしい動作がお得意のようでありますな? 

 これでもそれなりに軍隊の飯を食って長いものでして、人間相手の格闘戦であれば慣れたものです。ところで副官殿は、派手な異能を使わない“普通の人間相手の戦い方”はどの程度嗜んでおられますかな?」

 

 キャー軍曹サン素敵ィッ! 

 

 そういや対人戦闘は俺もあんまり経験ねーや。D民時代にも襲われたら反撃しようと心構えはしてたけど、そもそも誰かが戦ってる音したら距離を離すムーヴしてたもんなぁ~。

 今後のことを考えるなら、俺もあとで軍曹に頼んで鍛えてもらおうかな。どうせ思想の違いによる組織同士の対立とかあるやろ? だってメガテン世界だし。むしろ対立が存在しなくてあらゆる組織が仲良しこよしやってたら、そいつら全員の正気を疑うわ。

 

 なんなら帝国軍の内部だけでもありそうだし。外国がどうなってんのかもわからけど、カタカナ言葉を当たり前に使ってるあたり国交断絶を掲げるほど険悪ではないんじゃないかな? 

 

 

 片腕のハンデも込みだろうが、いまのところ軍曹が安定してカネサダちゃんの攻撃を捌いている。口封じなら普通は人間相手を想定するもんだと思うが、もしかしたら本当に攻撃魔法の類いを使わない戦闘は考えられていないのかな? 

 これだから現場を知らない学者先生ってヤツはよ~おかげで首の皮一枚繋がってますありがとう視野が狭くて頭でっかちな偉い人たち! 

 

 さぁ考えろ考えろ~、決定的なダメージを与える方法が思い付かなければ3人がかりで攻撃しても意味がない。

 というか下手に手出しをすると軍曹の足を引っ張って邪魔をするだけでしかない。なんなら補助魔法を使うのもアウトだろう。ギリギリの応酬をしているところで身体の感覚が急に変化したら確実にリズムが崩れる。

 

 

 マシン、機械、アンドロイド、電気、ショート、精密機械の弱点、熱、衝撃、水、錆び、漏電……水? いや、ウェンディゴやジャックフロストはあくまで『氷結』の魔法が使えるだけで、こんな地下で水のあてなんか──あるかも。

 なぁウェンディゴ、無茶を承知で頼みたいんだけどさ。この辺にぃ、なんか大きめの水溜まりがあったりしないか気配とか探れないッスかね? 天井や壁から流れて出てるとかでもいいぞ~? 

 

「ホントにムチャ言いやがるなテメェ。そりゃほかのふたりよりは氷結適性のあるオレ様に頼りたくなる気持ちはわかるがよ~。オイ! テメェも手伝えガキンチョ!」

 

「ヒホッ!? オイラ、氷の魔法は使えるけど水の魔法なんて使ったことないホッ!」

 

「大丈夫だよ! ユキダマくんは氷のオバケだもん、きっと水の扱い方だって得意なハズだよ! なんとかなるよ、私はユキダマくんなら必ずできるって信じてるから!」

 

「ホ、ホォ~ッ!? ヒーホッホホーッ! なんだか急にできそうな気がしてきたホッ! よーし、オイラに全部バッチリおまかせだホーッ!!」

 

 

「ケッ、ガキは単純で気楽なモンだぜ」

 

 微笑ましくていいじゃないの。思い込みの力って案外バカにできないし、ヒーホーちゃんができるって本気で信じたことはユキダマくんマジでなんでもできるようになっちゃうかもよ?



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VS護国阿頼耶識 兼定:3

 機械の敵を水浸しにして電気で痺れさせる、あるいは水に濡れた敵を凍らせてカチカチにする。どちらもあらゆる媒体で定番の作戦である。

 問題があるとすればそもそも水が確保できるのか、確保できたとしてもそれは人体にとっては猛毒なので立ち回りをミスるとこっちがピンチになるということだ。

 

 あと、うろ覚えだが水って純度が高いと絶縁体みたいな感じになるんだっけ? この星の地表から降りてくる水は重金属イオンで汚染されてるらしいのでそこは心配してないが。

 

 タイムリミットは軍曹の体力が尽きるまで、ではない。余裕が残ってるうちに発見できなければ水源へ移動する前にやられ「見つけたホーッ!」る心配はなくなったぜナイスだユキダマくんヒャッホーッ!! 

 よっしゃ軍曹! 楽しい楽しいランニングの時間が始まるぞッ! やっぱ軍人さんは体力があってナンボの商売だからな、元気いっぱいゴール目指して死ぬ気で走るぞッ! 

 

「了解であります少尉殿ッ! 申し訳ありません副官殿、本日の教練はこれにて失礼させていただきますッ!」

 

「そう簡単に逃がすとでもッ!」

 

 そう簡単に見逃してくれるなんて思ってないし、なんの対策も無しで背を向けるとでも? 

 

 ──イッポンダタラッ! 

 

「ヒィィィトォ、ウェィブッ! イッヒャアァァンッ!!」

 

「ぐぅッ!?」

 

 どんなに動きが素早くても、来る方向とタイミングが限定されるなら迎撃も狙いやすい。大変だなぁ、なにがなんでも追い掛けなきゃいけない立場ってのはさ? 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 逃げるときは、全力でなければならない。余計なことを考えてはいけないし、変な希望を抱くのもよろしくない。ときには義務や責任ですら棄てる覚悟が必要なのが『逃げる』という行為なのである。

 わざわざ自分で自分に言い聞かせているのは、一瞬“このままワンチャン拠点まで逃げることができるかも? ”なんていらんことを考えてしまったからだ。

 

 ムリだからね? このエリアにいたヨモツイクサは少年が合体悪魔に変身するときに駆除してくれたけど、拠点までの帰り道にはたぶん普通にいるからね? 

 そもそも拠点にたどり着くまでにMAGもスタミナも使い果たすわ。ゲームみたいにダンジョンの入り口から出口まで走り続けるとか普通にムリだから。あいつらもう人間じゃねぇよ。

 

 と、いうワケで坑道へ逃げ込みたい気持ちをグッと抑えて豆腐建築の合間を縫うように逃げる俺と軍曹とヒーホーちゃん。

 

 さてふたりとも。たぶん俺が水を使って悪いことを企んでることはカネサダちゃんも承知しているだろう。そもそも普通に会話してたしね。

 なので普通の方法では一緒に水遊びをしようと誘っても断られてしまうでしょう。つまり普通じゃない方法でどうにかしなければなりません。

 

 

 と、いうワケで。ゴニョゴニョっと。 

 

 

「……なんと申しましょうか、ずいぶん豪快な作戦でありますなぁ。下士官としては少尉殿の負担が大きいのが気になるところではありますが」

 

「う~ん、気持ち的には私もあんまり賛成したくないんですけど……。じゃあ代わりのアイディアがあるかと聞かれたら、急になんてなにも思い付かないし……」

 

 ヒーホーちゃんの閃きにこっそり期待してたのはナイショの話。

 

 

 ユキダマくんの案内に従いながら、ときどき後ろへ魔法を放ち足止めを繰り返しつつ走ることしばらく。なかなかいい感じの水溜まりが……というか池だなもはや。

 ここがどれだけ深い場所にあるのか、真っ暗な天井から細い水の線が何本も垂れ下がっていた。そのどれもが色鮮やかな光を優しく放っており、見ただけでコレ飲んだら腹痛程度では済まされないぐらいヤバいだろうな……とわかる。

 

 なんなら周囲の地面も濡れてるところがほんのりと光ってるし、靴の裏もピカピカになっちゃってるよ。

 なにこれ怖っ。重金属イオンって水に溶けるとこんなことなんの? コレどこまでが化学でどこからがオカルトによる現象なんだ。まさか未来からやってきたネコ型ロボットが光る苔の種をばら蒔いたワケでもないだろうに。

 

 

「なるほど。強力なジオンガを当てることは難しい、しかし範囲重視のマハジオでは私に充分なダメージを与えられない。ならば水を浴びせることで火力不足を補えばよい、ということですか。

 悪くない作戦だと思います。あるいはブフによる凍結効果が強化されることを期待して動きを封じる、などという搦め手を狙うこともできますね。チームが使える手札の特性を理解した、悪くない作戦であると私も思いますよ」

 

 カツ……カツ……と靴音を鳴らしてゆっくり近付いてくる姿は実に強ボスって感じで、いよいよ追い込まれてる的な意味でクライマックスの雰囲気出てるねぇ! 

 俺ボス戦はどっちかっていうとレベルをガンガン上げて楽々撃破を狙いたいタイプなんだけどなぁ。真面目に戦って真面目にMAG結晶体食べて強くなってるはずなのに、それを実感できるタイミングが無いのはどうかと思うよ? 

 

 おっと、すぐに愚痴が頭に流れるのは悪い癖だな。でもたぶん一生治らないだろうな~コレ。──状況、開始ッ!! 

 

「「了解ッ!!」」

 

 俺の合図に合わせて左右に散開するふたり。当然カネサダちゃんはふたりを逃がすワケにはいかないので必ずどちらかを追い掛けようとする。そうして背中を見せた瞬間、俺が攻撃することで出鼻を挫き流れをつかむ。

 我ながら実に完璧な作戦だ。これまでの戦闘で得られた情報から相手の動きをちゃんと予測して計画した、いつもの行き当たりばったりな作戦モドキとは違うのだよッ! 

 

 強いて問題点をあげるなら、カネサダちゃんが離脱したふたりを一瞥もせずに俺を見据えているということぐらいさッ!



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VS護国阿頼耶識 兼定:4

 へいへいカネサダちゃーん? 逃げた目撃者を追い掛けなくてもいいのかーい? 

 

「はい、少尉殿。なにも問題はありません。彼らは必ずこの場に戻ってくるでしょうから。もちろん少尉殿の指示に従い私を破壊するために、です。

 むしろ、私にしてみれば少尉殿ひとりを集中して狙えばわざわざ追跡しなくとも向こうから勝手に戻ってきてくれるので手間が省けます。言ってしまえば少尉殿は人質ですね」

 

 そ、そうきたかぁ~~ッッッッ! 

 

 なんと冷静で的確な判断。こいつ、戦いながら学習してやがるッ! そらそうか、プログラムに従い動くだけの純粋なロボットとは違うもんな。味方のときは頼もしいのだろうが敵対すると厄介でしかねぇ。

 

「それともうひとつ。水を利用して戦うのは結構ですが、ご存知の通りそれは重金属イオン──など、で。致死レベルまで汚染された猛毒です。

 当然ですが人間である少尉殿も浴びれば無事では済みませんし、そのフィルターマスクが破損して漂う飛沫を吸い込むようなことになれば……説明は必要ですか?」

 

 あ、結構です。

 

 まぁそうだよな。はるか上空、いや地下だけどそう表現したくなるほど上から水が落ちてきてるんだもの。当然この辺りには目では見えなくても水蒸気というか霧的なモノはそこらじゅうに拡散してるわな。

 いや~まいったまいった! 誘き寄せて罠にハメるつもりが、蓋を開けてみれば普通に追い詰められてるだけだったよ! アッハッハ! だから俺に指揮官ポジとかムリなんだよォォォォんッ!? 

 

 カネサダちゃん居住区でのおいかけっこ辺りからやり直さない? あの子どもがお花の世話に使ってたらしき水場みたいなのあったし、今度はちゃんとそこに逃げるから。ダメ? ですよね~。

 

 

「少尉殿の持久力と私の稼働時間は比較するまでもなくこちらが有利ですが、少尉殿は下手に時間を与えるとなにを仕出かすかわかりませんからね。手始めに、これ以上の逃走ができないよう処置を施させていただきます」

 

 そうだね、間違いなく俺のほうが先にスタミナは尽きるよね。人間だもの。

 その上であえて言わせてもらうぜカネサダちゃん。時間は味方になってくれないことを理解しているこの俺が、時間稼ぎが必要になるような指示をあのふたりに出したと思うかい? 

 

 

「ブラフですか? その手には──」

 

 

「お待たせしました少尉殿ォッ!!」

 

 

 現れたるは、両手に背中に大量の荷物を抱えたテッセン軍曹。どう見ても武器の類いではなくガラクタばかりだが、もちろんそれを集めて戻ってくるように指示したのは俺である。

 あんなものをどうするのか、だって? なにをおっしゃるお嬢さん、ついさっきも褒めてくれたじゃないの。水を利用するって考えは悪くないって。だから軍曹に頼んだんだよ。その辺のガラクタに水を汲んで持ってくるようにって。

 

 あるだろう? 水なら。100年ほど昔から、お花を育てるために使われていたヤツがさ。決して清潔ではないだろうけど、花が育つぐらいなら人間が浴びても死にはしないんじゃないかな。

 

 

「ッ!? 毒性の水源に誘導したのも罠ですかッ! しかし私が大人しく水浸しになるとでもッ!!」

 

 

「思ってないから私が止めるんですよッ! ユキダマくんッ!」

 

「ヒィホォォッ! マハブフだホーッ!!」

 

 

 凍結効果でカネサダちゃんをカッチカチに固めてやるぜッ! ってのとは少し違う。建物の裏から回り込んで飛び出したヒーホーちゃんとユキダマくんが狙ったのはカネサダちゃんの足下だ。

 全身の動きを封じるのはムリだとしても、脚部だけなら一瞬だけでも止められるかもしれない。足場も水で濡れていることだし、コイツは期待できるだろ! 

 

「──ぐッ!? 」

 

 意外と効いてるな? もしかしてさっきヒーホーちゃんに一杯食わされたから過剰に反応しちゃってるとか? やはり幸運の女神は俺に微笑んでいるようだな! でもメガテン世界の幸運の女神って人間に微笑むのかな?

 

 

 すかさず容器を投げる軍曹ッ! 

 

 それをマハジオで撃ち抜くピクシーさんッ! 

 

 飛び散る破片ッ! 

 

 

 

 

 しかし水は降り注がないッ!! 

 

 

 

 

「────は?」

 

 

 

 

 これにはカネサダちゃんも思わず一時停止である。いや普通に考えてあんな短時間でガラクタ集めて水入れて戻ってくるとかムリだろ。そもそもガチ必死で逃げてる最中に余所見して水場を探すなんて芸当できるワケねーから。

 

 自分が騙されたことを理解したカネサダちゃんが俺のことを睨み付けようとして……再び動きが固まった。そうだね、カネサダちゃん初対面のときに言ってたもんね。MAG結晶体を食べるのは人造超力兵基準でも頭のイカれた行為だって。

 俺としては失ったMAGを一気に補給することで最大火力のジオンガをピクシーさんが撃てるようになるし、勝てる気が全然しなかった相手に切り札をブチ込むためのチャンスを作れるしで一石二鳥なんだけどなぁ。

 

 ついでにフィルターマスクを外してるのも意外かな? 死にたくないって抵抗してた相手が死ぬかもしれない行動を重ねてんだから混乱もするだろうさ。

 なぁ~に、ちょっとぐらい劇物を接種したところで俺も身体は鍛えられてるからな。でぇじょうぶだ、人間はそう簡単にくたばらねぇッ! 

 

 

 ピクシーさんッ!! 

 

「アタシは加減しないわよ。する理由がないもの。じゃあね、別にアンタのことはスキでもキライでもなかったわ。──ジオンガッ!!」

 

 

 

 

 

 

「少尉殿、私は帝国と国民の未来をまも──」

 

 

 

 

 

 

 相手は無防備。こちらのMAGは満タン近く。仲魔のコンディションも万全。これだけ条件を揃えてどうにもならなかったら、いよいよ終わりを受け入れるしかなかったが。

 さすがに胸から上が消しとんでしまえば、いくら右腕がほぼ無傷で残っていたところで魔法なんか使えるはずがない。これはもう、俺たちが勝って生き残れたと判断してもいいよな? 

 

 そして肉と、骨と、機械が乱雑に引き裂かれたように見える胴体からは大きなMAG結晶体が見えている。悪魔や天使が中に封印されていたりなんて──おっと残念、確認する前に砕けちゃったか。もったいないねぇ。

 

 

 しかし、最後のセリフまで帝国の未来ときたか。

 

 

 お前さんは俺の副官を命じられたことを恵まれている、なんて言ってたけどさ。国家の未来なんてお構い無しに、自分が生き残ることしか考えてない人間の部下なんてポジションは……恵まれているとは思えないんだよなぁ。

 ま、いいや。いや~今日も勝った勝った! 結局はとにかく生きてるヤツが一番偉いッ! 別に大義やら正義やらを否定するつもりはないが、やっぱり自分の欲望に正直に生きるほうが良くも悪くも人間らしいだろ? ガハハハハッ!! 

 

 

 

 それにしてもMAG結晶体が吐きそうになるほどマズいのはいまさらだが、今回は特別な当たりを引いたかと思うほど苦くて酷い味だったな。

 どこまでもどこまでも苦味が口の中に残ってて不快感が尋常じゃない。できれば2度と味わいたくないほど最悪過ぎて困るんだぜまったくよぉ~。

 

 ホントにな。



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プロモーション:1

 戦力の低下による撤退。

 

 判断としてはそれほど大きく間違ってはいないだろう。そもそも俺たちの任務はあくまで『偵察』でしかなく、ル号採掘基地の奪還は……気持ち的には参加したくないな。

 もちろん生きるためには命令に従う必要があるから、そのときは心を無にして戦うしかあるめぇ。まさか奪還まで少数精鋭で行うなんてことはしないだろうし、そのときは俺もその他大勢のモブキャラとしてコソコソ戦うとしよう。

 

 それとも、奪還作戦そのものが白紙になるかな? 副官を失った俺を指差して笑うことで、あの大尉の自尊心が満たされればそれもあるかもしれん。お前の部下は無駄死にだったな、とか。ハハッ。

 念のため拳銃から弾丸を抜いて、サーベルのほうはしっかりとベルトで固定しておくか。まさかね、感情任せに短絡的な行動やらかして処刑されるなんてバカなことするワケにはいかんでしょ? いのちだいじに、ってな! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「ふんッ! 特務少尉などという大層な肩書きがあったところで所詮はDクラス上がりか。たかが偵察如きも満足にできんとはな! 

 しかも廃棄された採掘基地の様子を見てくるだけのことで損失を出して逃げ帰ってくるなど……貴様ッ! それでも帝国軍人かッ! 恥を知れ無能がッ!!」

 

 お~お~元気なこって大尉殿は。脂肪の塊を腹に抱えているだけあって声も大きくてよく響く。わざわざ司令部から出てきて出迎えてくれたのは、大勢の軍人やスタッフに俺が任務に失敗したことを宣伝するのが目的なんだろう。

 

 別に評価が下がることなんてどうでもいい。そんなことよりも気になるのは、目の前の大尉がどこまで事情を知っているのかである。

 ニヤニヤ笑いながら怒鳴るという器用なことをしているあたり、俺の失態が嬉しくて仕方ないのは伝わってくるが……それだけだ。

 

 いや、ぶっちゃけ相手の態度から考えを読み取るとか普通にできないけどね? そんな見た目は子どもで頭脳は大人の名探偵みたいに仕草や声色から「妙だな……?」とか察するなんて無理ムリ。

 仕方がないから、俺は手っ取り早い方法を選ぶぜ! やり方は実に簡単、悪魔を召喚して大尉の前で適当に遊ばせておくだけ。声に反応するオモチャのようにグネグネ踊るイッポンダタラの姿は果たして──うん、こりゃ大尉には見えてないな。ついでに取り巻きの尉官たちも同じっぽい。

 

 ……あぁ、そういえばギャラリーの中に悪魔の姿が見えるヤツがいる可能性もあるのか。さすがに後先考えなさ過ぎたかもしれん。

 

「やはり貴様のようなヤツに偵察を任せたのが間違いだったようだな。情報が無いまま貴重な装備と人材を浪費することは許されん。ル号採掘基地の奪還は見送るしかあるまい。

 これは全て貴様の責任だぞ特務少尉? せめてもの情けとして上への報告は俺が代わりに引き受けてやるが、無能の失敗を庇ってやるほど俺は甘くない。せいぜい覚悟しておくことだな。あぁ、もちろん後ろのふたりもだぞ? 連帯責任という言葉ぐらいは知っているだろう?」

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「こう言ってはなんですが、奪還作戦が白紙になったことについては自分は安心しております。副官殿が倒してくださった規模のヨモツイクサが何体もいるようであれば、どれだけの死者が出るかわかりませんからな」

 

「私たちDクラスなんて8本足が相手でも簡単に死んじゃいますからね~。あ、軍曹さんごめんなさい。猪鹿蝶できちゃいました。金平糖3つもらいますね~」

 

「なにぃ!? くッ、欲張り過ぎたか……!」

 

 自室での待機を命じられた俺。そして、なぜか俺の部屋で花札に興じる軍曹とヒーホーちゃん。軍曹は勝負を狙いすぎているのか、手堅く勝ちを重ねるヒーホーちゃんにボロ敗けしている。このぶんだと金平糖も全部巻き上げられそうだな? 

 ちなみにいまの軍曹には悪魔たちの姿はぼんやりとしか見えていないし声も聞こえていないそうだ。いっそのこと綺麗さっぱり忘れられたほうが身のためだったのに、とは言い切れないのが悪魔という存在なんだよねー。

 

 

 しかしアレだ。一応それなりの覚悟はしていたのに、懲罰房に入ることもなければ武器を取り上げられることもない。なんともヌルい対応をしてくれたもんだが、あの大尉はなにを考えてんだべな? 

 

「申し訳ありません少尉殿、万年軍曹の自分では大尉殿の崇高なるお考えなどとてもとても。ですがまぁ、もしかしたら深い意味などは特に無いのかもしれませんなぁ。

 大尉殿にしてみれば、食事制限による減量に協力してくれたお礼を少尉殿にできれば過程などはどうでもよいのでしょう。

 それより自分としては、我々と少尉殿の所属の違いについて大尉殿がちゃんとご理解なされているのか、ということが気になりますな。……よし、こいこいだ」

 

「所属もなにも、少尉さんも軍曹さんも同じ日本帝国軍の軍人さんなんですよね? 私はまだ微妙に違いますけど。あ、こいこいです」

 

「簡単に説明するとだな、惑星で活動している俺や貴様は日本帝国『陸軍』の所属になるが、コロニーで活動なされていた少尉殿は日本帝国『海軍』に所属しておられるはずだ」

 

 え、なにそれ初耳なんだけど? 

 

 もしかしたら本来は昇進するときにその辺りの説明がされるのだろうか。自分で言うのもなんだけど、俺はかなり変則的な形で特務少尉なんて面倒な肩書きを手に入れちゃってるからな~。

 スマン軍曹、大尉殿がどうこうよりも前に俺のほうが所属についてご理解しておりませんでした。しかし日本帝国で陸軍と海軍とか不吉な予感しかしねぇな? 

 

「で、まぁ……なんだ。陸軍と海軍ってのは、少しばかりライバル意識が強くてなぁ。現場の人間はそのへんをあまり意識してない、というかそんな確執があることすら知らないヤツも多いんだがな? 

 大尉殿がその辺りのデリケートな問題を全くお気になさらずに、海軍所属の少尉殿の失敗について陸軍の上官にご報告なさって処罰に関するお伺いを立てた場合……ほぼ間違いなく、ろくなことにはならんだろう」

 

「はぇ~、よくわかりませんけど面倒なことだけはわかりました! あ、軍曹さん。月見で一杯、とりあえず小袋のきなこ餅からごちそうになりますね~」

 

「な……ッ!? バカなッ!!」

 

 

 悲報。俺氏、今度は陸軍と海軍のいざこざに巻き込まれるのがほぼ確定した模様。

 

 というかそもそもッ! じゃあなんで海軍(仮)の俺が陸軍のお膝元で戦ってんだよォォォォッ! 中佐が俺にやらせたかった本当の任務ってなんなのよォォォォッ!!



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プロモーション:2

 前に助けたD民に同情的な視線を向けられたり。

 

 俺のことを嫌っているらしき軍人たちにヒソヒソと笑われたり。

 

 逆に俺のことを認めてくれている軍人たちには差し入れをもらいつつ。

 

 そしてすっかり忘れていたヒーホーちゃん大好きな過保護少女に睨まれたりしながら生活すること1週間ほど。

 

 おそらくは偵察任務の失敗に関係することだろう、陸軍の偉い人に食堂へ呼び出された俺。

 なんで食堂? こういう尋問とかって専用の部屋とかでやるんじゃないの? しかも見学自由とか機密はどうなってんだ機密はッ!! 

 

 

「録音を開始せよ」

 

「ハッ! 録音、開始ッ!」

 

「よろしい。それではこれより、F8492特務少尉の威力偵察任務中の行動についての質疑応答を始めたいと思います。担当するのは私、日本帝国陸軍兵站部所属・ナツミ少佐であります。

 なお、この質疑応答が決して不当なものではない……ということを示すために不特定多数の見学を許可しています。

 多少の雑音も正当性の証明です。それらが消されていた場合、この音声データの証拠能力は何者かの手により失われたものとして扱って下さい」

 

 いきなり不安になる念押しをしてんねぇ!

 

 そしてこの美少女と呼んでも差し支えのない若い見た目の女性軍人・ナツミ少佐とやらが、いまから俺を質問責めにして吊し上げる処刑人か。

 好きな人には刺さりそうなクールビューティーって感じかな? しかも黒髪ロングで清楚な雰囲気に軍服の厳ついシルエットだぜ?

 

 先入観というか、前世の知識からくるイメージの話ではあるが、この手のキャラはだいたい切れ者で有能なんだよね~。

 加えて、この世界がディストピア系だっていう前提で考えると俺にとっては嬉しくない方向で有能な可能性が特大だと思います。主にしたっぱを中心に人の命が軽々しく扱われるような軍事機密をたくさん知ってそうって意味で。

 

 

 ナツミ少佐が俺の罪状をサラサラっと読み上げる。

 

 内容は概ね想像通り。ル号採掘基地近辺にたどり着いたものの、ヨモツイクサの襲撃に合い尻尾を巻いて逃げてきたことにされていた。

 カネサダちゃんは俺が逃げるために足どめを指示、囮として破壊されている隙に拠点まで逃げてきたのだ……と。

 

 うーむ? 俺の失態を捏造したつもりになって楽しそうにしている大尉殿には悪いけど、コレそこまで事実と違ってねぇんだわ。

 むしろ悪魔の存在と──なんだっけ、なんかこう、もうひとつぐらいヤバそうな情報を手に入れたような気がするんだが。とにかく、そうした話したくない内容を丁寧にカットしてくれた素晴らしい編集なんだわ。

 

 

「それではF8492特務少尉に確認します。これらの報告内容について、訂正する部分はありますか?」

 

 はい、いいえ少佐殿! その報告内容は間違いなく事実であり、自分が訂正すべき箇所は一文たりとも存在しませんッ!

 

 

 ……いや、少佐殿? なしてそこでアナタがビックリしてんですか。認めたやん。事前に報告されてた内容は正しいものですよって、容疑者の俺が全面的に認めただけやん。

 

「F8492特務少尉、貴方には自身の行動について正当性を主張する権利があります。そこに階級や所属は関係ありません。

 旧型とはいえ人造超力兵を失う状況ともなれば尚更です。なにか、やむを得ない事情があるのでしたらきちんと説明してください」

 

 その“やむを得ない事情”こそが一番説明したらアカンっていうね。だから俺は言うよ。事前に大尉殿が報告してくれた内容に間違いはありません、って。ただ不足している情報がちょこっとあるよってだけで。

 

「繰り返しになりますがF8492特務少尉、これは貴方に一方的に決定事項を押し付ける場ではありません。報告された内容に誤りがないか確認するための時間です。

 もちろん、任務に失敗し貴重な戦力を損失した責任を言い訳することもなく潔く受け入れる、という貴方のその姿勢は帝国軍人として正しくはありますが」

 

 重ねて申し上げますナツミ少佐殿。自分から訂正すべきこと、改めて説明するような事柄はありません。

 なんで言い訳しないのかって? そんなん少しでも立場を良くしようとして余計なことを説明した結果、ますます自分の首を締める結果しか見えないからだよッ! 

 

 俺、知ってんだ。こういう知将(真)タイプの人間はどんな些細な発言からでも必要な情報にたどり着くんだってことを。

 

 

「……貴方の処分について、客観性のある判断を下すために必要であると、貴方の上官であるイミナ中佐殿からは国家貢献の記録を“快く”提供していただいています。

 それによると、貴方は乙型ヨモツイクサ等の特別警戒対象の討伐に成功しているそうですね? 少なくとも私が把握している限りでは、この五○一番タタラでそのような強力な個体と戦闘が発生したなどという記録はありません。

 事前にそこにいる大尉が報告してきた内容に誤りなど無い、と認めるのであれば……それほどの戦闘力を持つ貴方が、人造超力兵という戦力を自由に扱うことができる状況で、偵察すら満足に遂行できず逃げるしかなかった『敵』とは、いったいどれほどのモノだったのですか?」

 

 

 へ~。俺の上官殿、イミナ中佐って名前だったのね。響き的には名字かしら? 忘れずに覚えておかなきゃ☆

 

 ってかヤベえww余計なこと言わなくても順調に追い詰められてらwwちょーウケるww

 権力使って好き勝手するならさぁ~もっと根回しとかちゃんとしておいてくださいよ~大尉殿ぉ~本物の無能かテメェこのやろう。



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プロモーション:3

「失礼ながら少佐殿、偵察任務程度の役目すら満足に果たせない無能者に乙型ヨモツイクサの討伐など到底不可能ではないかと。

 とはいえ、海軍の記録に誤りがあるとは思えません。となれば……このクズが、他人の功績を我が物として吹聴した恥知らずの卑怯者である可能性が高いかと」

 

 ナイスフォローですぞ大尉殿ォォォォッ! はい、その通りですッ! いやこれに関してはマジで大尉殿のお言葉がまるっと真実だから。ホノカとマモルがいなかったら、俺ひとりだったら確実に死んでたから。

 と、いうワケであります少佐殿。乙型ヨモツイクサとの戦闘で生き残ることができたのは、頼れる仲間と幸運に恵まれた結果であります! 

 

 あとついでに言うなら、カネサダちゃんを失ったときは多数の大型ヨモツイクサに包囲されてた……ということにしておこう。これだってウソじゃないよねぇ? 直後に少年が変身するための素材にされたってだけで。

 

 フハハハハッ! ありがとう……本当にそれしか言葉が見付からない……。なんかナツミ少佐が大尉殿のことを「この役立たず余計なこと言いやがって」みたいなこと考えてそうな顔で見てるが知ったこっちゃねぇ! 

 無能な味方は敵も同然みたいな言葉を聞いたことがあるが、つまり無能な敵は味方も同然ってことだな! 大尉殿のことはいつか顔面を陥没させてやろうと思っていたけど、恩義ができたことだし前歯全損ぐらいで勘弁して差し上げることにしよう。

 

 

「……わかりました。報告内容に不備は無く、F8492特務少尉は今回の件に関して自らの責任を認めたことを、日本帝国陸軍兵站部所属・ナツミ少佐が確認を完了しました。

 今後F8492特務少尉に下される処罰については、陸軍が被った損失のみで判断するのではなく、本人が帝国軍人として模範的態度であったことを加味して決定されます。以上」

 

 乗り切った……のか? いや、まだわからんぞ。優秀なインテリなら事が済んだと見せかけて油断したところに本命の矢を放ってくる、ぐらいの芸当はサラッとやってくるだろう。

 とりあえず余計なことは一切喋らずイエスマンに徹した部分は評価してくれるようだし、さすがに銃殺刑とかまでにはならない……よな? もしそんな雰囲気が漂ってくるようなら迷わず脱走キメるからな俺は。

 

「さて、ここからはF8492特務少尉の処罰に関する話になります。結論から言ってしまえば、少尉にはこれまで通り国家貢献の義務としてヨモツイクサと戦いMAG結晶体を回収する作業に従事してもらいます」

 

「なッ!? 少佐殿、それでは罰則の意味が──」

 

「静かに、大尉。ですがその前に、少尉には上官であるイミナ中佐殿にアラヤン式人造超力兵カネサダの損失について報告をしてもらいます。

 借りた物を壊してしまったことを、貸してくれた人に謝罪する。ただそれだけのことです、なにも難しいことなどありません。

 小言のひとつやふたつはあるかもしれませんが、大袈裟に身構える必要はないでしょう。道具とは使うもの、そして使えばいつかは壊れるもの。その程度の道理は半魚人どもも理解しているでしょうし、イミナ中佐殿もきっと寛大なお心で許して下さるはずです」

 

 半魚人て。録音を止めた途端にいきなりブッ込まないで欲しいんですが。

 

「問題は海軍所有の人造超力兵が、陸軍の命令による作戦行動中に損失したという部分です。当たり前の話ですが、貴方は正規の手続きでこの採掘基地に派遣され指揮下に組み込まれていますので、上からの命令には従わなければなりません。

 しかしその結果として、貴方が本来果たさなければならなかった海軍からの特殊任務とやらが実行できなくなった……となれば話は別です。いくら貴方が自身に責任があると認めたところで、我々陸軍としても知らぬ存ぜぬというワケにはいかないのですよ」

 

 そう、なのか? いやぁ、その辺りの責任問題というか派閥同士のメンツとかは全然わかってないからサッパリだわ。

 

「金銭的な問題としてだけ考えるのであれば、人造超力兵1体を弁償する程度のことです。陸軍全体の予算から見れば雀の涙ほどの損失でしかありません。

 しかし、海軍に惑星での軍事行動へ介入する口実を与えてしまったのはいただけない。わかりますか? 特別警戒対象を退けた特務少尉が人造超力兵を失うとは何事があったのか、是非とも調査をさせてもらおう……などと、堂々と乗り込まれては困るのです」

 

 それはどっちの意味でなんだ~い? いわゆる陸軍と海軍のメンツ争い的な意味なのか、それとも廃棄されたル号採掘基地に海軍がゾロゾロとやってきてあ~んなモノやこ~んなモノを発見されたら困る的な意味なのか。

 後者であれば『悪魔の力を利用している陸軍』と『悪魔の力を排除したい海軍』なんて構図もあり得るかも。実は俺はカモフラージュで、自然な形でデビルバスターカネサダちゃんをここに派遣したかったとか。

 

 いや、さすがにそんな危険な話題を不特定多数が聞いてる食堂ではしないか。しないよな? バレなきゃ別にいいでしょみたいな綱渡りトーク聞かされてるとかないよな? ヤベェ、案の定いつものように変な汗出てきた。

 

 

「まぁ、その辺りの厄介事を片付けるのは高級将校の皆様にお任せしておけば大丈夫でしょう。貴方には、我々陸軍が有利に交渉を進めるための下地作りをしてもらいます」

 

 ニコッ♪ と微笑むナツミ少佐。実年齢は知らないが見た目は美少女なので愛嬌たっぷりだね! それを正面から見ている俺は恐慌げっそりだが。

 

「貴方には今後しばらくの間、私の指揮下で活動してもらいます。もちろん、F8492帝国()()()()()()として。おめでとうございます、陸軍と海軍から同時に尉官を与えられている帝国軍人などそういませんよ?

 日本帝国陸軍兵站部は貴方の能力を高く評価しています。特別警戒対象との戦闘のみならず、人造超力兵が未帰還となるほどの状況下でも部下を連れ帰ったその能力、是非とも存分に発揮して下さいね」



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プロモーション:4

 うーん、特務少尉と特務少尉で特務少尉がダブってしまったな。そうか、この世界はDクラス帝国市民ってだけで充分なんだな! 

 

 いや、あの、ナツミ少佐殿? さすがに二足のわらじは自分には荷が重いと申しますか──え? 給料は陸海の両方から支払われるですって? く……ッ!? なんて魅力的な特典を……ッ!! 

 いや真面目な話、給料が増えるとそのぶん獲得したMAG結晶体をレベルアップに使えるんよ。4体目の仲魔と契約したいってのもあるし、二体同時召喚とかもできるようになりたいのよ。

 

 悩ましい。実に悩ましい。処罰と言いながら陸軍視点では実質的に昇進していることに大尉殿が顔を真っ赤にしてナツミ少佐に意見の申し立てをしていることなんでどうでもいいぐらい悩ましい。

 

 

 

 

「ふざけるなッ! 陸軍の都合など知ったことかッ!! いいか、そのクズは俺に逆らったんだぞッ!? Aクラス帝国市民であるこの俺にだッ!! 

 しかも少尉の分際で大尉である俺の! 上官である俺の顔を殴ったんだぞッ! 父親にだって殴られたことがない俺の顔をだッ!!」

 

 

 

 

 もしかしていまAクラス帝国市民って言った? ウソでしょ、こんなんが日本帝国の上澄みとか許されると思ってんの? デブ大尉お前ディストピア世界なめとんのか。

 あと腹の脂で軍服が押し上げられてる中年が親父にもぶたれたこと無いとか吠えてる姿はなんというか……本当に、よくこんなヤツが大尉なんて責任ある立場になれたな。Aクラス帝国市民は無条件で大尉からスタートみたいな制度でもあるのかねぇ? 

 

 

「貴方は自分が日本帝国陸軍の大尉として不適切な発言をしているという自覚がありますか? 我々が優先すべきは個人の都合などではなく軍の決定、そして日本帝国の国益のみです。

 しかし、そうですね。規律や秩序があってこその組織運営ですから、F8492特務少尉が貴方の顔を殴ったということに関しては事実確認の後、上官である私から厳重注意をしておきましょう」

 

「厳重注意だと!? その程度で済ませられるかッ!! そいつは階級が下でッ! Dクラス上がりでッ! 人間として扱う価値すら無いゴミ同然なんだよッ! 

 それがAクラス帝国市民であるこの俺に逆らったんだッ! 不敬罪で打ち首に、いや生きたまま宇宙空間へ棄ててやるぐらいの処罰が与えられるべきだろうがッ!!」

 

 

 ナツミ少佐の表情が険しく──なってないな。完全に冷えきっていて養豚場のブタさんを見るとかいうレベルですらない。

 俺知ってるよ、このあとナツミ少佐がデブ大尉を完膚なきまでに正論でボコボコにするんでしょ? こういう場面で生まれを理由に特別扱いしろって騒ぐヤツの未来なんてだいたいボロクソに論破されるって相場が決まってるもんだ。

 

「いいか、俺の父親は陸軍の中将なんだぞ? 惑星をひとつ任されていて、何百万人という部下に命令できて、高性能の戦艦や巡洋艦も腐るほど保有してるんだッ! 

 俺は優良種たるAクラス帝国市民で、いずれ将官になる日本帝国軍のエリートなんだ……本来なら階級なんて関係なく貴様ら下級国民は全員俺に従うべきなんだ……それをッ! 中将の息子であるこの俺に少佐如きが、女の分際で偉そうにしやがってッ!!」

 

 大尉の沸点低すぎんだろ。子どもかな? いや父親が凄いから俺も偉いんだぞーって癇癪を起こしてる姿は子どもそのものだし、ハッキリ言って優良種(笑)でしかないんだが。

 

 

 

 

「女ァッ! 貴様、自分の立場を理解したのなら尋問をやり直せッ! 俺が満足できるような処罰をこのクズに与えるのが貴様の役目──ピギャアッ!?」

 

 

 

 

 わーお。ナツミ少佐が反論を始めてザマァwwが始まるのをワクワクして待っていたら、スッと銃を構えて問答無用で大尉の腹に発砲したでござる。

 

「……おや? あぁ、そういうことですか」

 

「き、き、貴様ァ……こ、こ、こんな、こんなことをして、エリートである、この、俺に──ギャァッ!?」

 

「1度も戦闘記録の無い貴方がどういう意図で耐物理コートなど着込んでいたのかは知りませんが、その様子だと効果を正しく理解していなかったようですね」

 

「ゲハッ、ゴホッ! な、何故、だぁ……俺が、使って、いるの、は……最新の、高性能のモノなん、だ、ぞ──ヒギィッ!?」

 

「各種コート類は着用者のMAGに反応して効果を発揮する装備です。もちろん貴方のような無能が装備しても短銃の弾丸が貫通するのを防ぐ程度には頑丈ですが、衝撃までは防ぐことはできませんよ」

 

「ま、待て──」

 

 誰も、なにも、反応しない。そりゃそうだ、大尉が床に転がって悶えているのもお構い無しに淡々と銃弾を腹へ向けて撃ち続けているナツミ少佐の姿を見てお気楽に騒げるヤツいたら勇気と度胸のパラメーター上限を振りきってるだろ。

 そういえば前世でも聞いたことあるな、防弾チョッキを着てても撃たれれば普通に肋骨とか折れるみたいな話。おいたわしや大尉殿、最早呻き声をあげる余裕すらなくなってきたようで。これがホントの弾丸論破ってか? 

 

 

「さて。そこの貴方たち、大尉を医務室まで運んでおいてください。……どうしました? 貴方たちはこの大尉に特別目をかけてもらっているのでしょう? 敬愛する上官が負傷したのです、こういうときに率先して動かなくてどうしますか」

 

 大尉殿の取り巻き連中、すっかりビビってんねぇ! そうだね、お前たちのことは好きじゃないけど気持ちはわかるよ。

 

「それともうひとつ。早ければ10日ほどで迎えが来て大尉は陸軍本部のある惑星『フツヌシ』に異動することになりますが、そのときは貴方たちにも同行してもらうことになるそうです。

 理由については私も知らされていません。詳しいことは当日、担当者に確認して下さい。おめでとうございます、もしかしたら栄転かもしれませんよ? 連帯責任という言葉もあることですし、新しい職場でも変わらず大尉を支えてあげて下さい」

 

 コレ絶対に栄転じゃねぇッ!?



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プロモーション:5

如何にして、主人公の視点を通して読者のみなさんに世界観を伝えるか。思いの外なんとかなっているようで安心している作者です。

あと、誤字脱字などを確認しながら真メガ3をプレイしていたら、うっかり消耗したまま『だいそうじょう』に挑みボコられてライドウ戦前まで戻されゲンナリしている作者です。


 き、キンキンに冷えてやがる……ッ! 

 

 食堂の空気の冷えッぷりがすごくしゅごい。俺が尋問される姿を娯楽代わりにしようとしてた連中なんて顔色が真っ青になっちゃってるよ。

 ところでみんな、下手に動けなくて帰ってもいいのか悪いのかすら判断できずに困ってるのはわかるけど俺のことチラチラ見るの止めてくんない? たったいま公開処刑を見せられたばっかりなのに俺にナツミ少佐に声かけろってか。

 

 あぁそうかよチクショウやってやんよォォォォッ!! ナメんなよ、銃弾が怖くてメガテン攻略ができるとでも思ってんのかァァァァッ!! 

 ちなみにぼくはレベル上げの最中によそ見をしたままボタン連打やオート選択をして全滅したことがあります。物理反射や銃反射は雑魚に持たせていい能力じゃないと思いつつ、うっかりやらかしたときにちょっとだけテンション上がって笑っちゃうんですよね~。

 

 

 えーと。少佐殿、食堂に火薬の臭いをばら蒔くのはできればご遠慮願いたいのですが。いくら我々日本帝国軍人が常在戦場の心得であるべきとはいえ、基地での食事時ぐらいは緊張を緩める権利を認めてもよろしいのでは? 

 

「そうですね。貴方のいう通り、少々配慮に欠ける振る舞いでした。食事は将兵の士気に直結する要素です、それを兵站部に所属する佐官が掻き乱すなど論外でしょう。申し訳ありません」

 

 ペコリと頭を下げるナツミ少佐。身長が低めだから動作がなんだか可愛らしいね! オイお前らお望み通り空気感を変えてやったんだぞますます困惑を深めてんじゃねぇリアクションしろや。

 

 そりゃ俺だって気になるよ? Aクラス帝国市民といえばそれはもう尊くてやんごとなきご身分であらせられると耳が痒くなるほど聞かされてたもの。

 それをああも容易く腹パンパンパンして医務室送りからの栄転祝福(意味深)なんて光景見せられたんだもの、俺だって壁際でアホ面さらして困惑するモブでいたかったよ。

 

 じゃあ詳しい事情をナツミ少佐に確認するのかって? するワケねぇだろなんでわざわざ冷や汗かきながら突破した地雷原に戻ってタップダンスハニーしなきゃなんねぇんだブチ殺すぞ軍の上層部が俺のことを。

 

 

「上官を相手にしっかりと意見を述べることができるのは良いことです。思考停止で媚びるだけの部下など邪魔でしかありませんからね。

 F8492特務少尉、貴方には私と一緒に補給艦で移動してもらいます。手早く荷物をまとめ、イミナ中佐殿への報告もなるべくスマートに終わらせて下さいね?」

 

 そうだったァァァァッ!! まだそっちの地雷原が残っていやがりましたよ誰か爆導索で撤去してくれる方はいらっしゃいませんかねぇッ!? 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ナツミ少佐より、本日の出来事については全部ゲロっても良いとのお墨付きをいただきました。大尉が射的ごっこに強制参加させられたことも含めてですってよ。逆に気を遣うわッ! 

 ともかく報告だよ報告。中佐殿~いろいろ問題が発生した結果、インドがアラレで羊羮がオタクの寿司を漬け物になりましたでありま~す。

 

「無能な怠け者が基地司令を務めていることは把握していた。そうでなければ海軍が管理するアマラ経絡と陸軍が管理するアマラ経絡を接続することなど簡単ではないからね。

 しかし……無能な働き者が好き勝手に採掘基地を運営しているとまでは予測できなかったよ。すまない少尉、これは私の落ち度だ」

 

 ナツミ少佐といい、イミナ中佐殿といい、必要だと判断したら簡単に頭を下げるインテリってのは距離感が難しいな。腹の探り合いが苦手な俺としては、どこまで頼っても大丈夫なのかの見極めに失敗しそうで怖い相手だ。

 それはそれとして中佐殿。わざわざ個室を使用させてもらっちゃいるけど、どうせこの会話も陸軍が聞いてんだべ? そんなハッキリ無能とか言って大丈夫なんけ? 

 

「うん? あぁ、心配することはないよ。この会話を聞いている者がどのように受け取るかは知らないが、ある程度の立場にある者であれば当たり前のように同意してくれるとも。

 キミのように“使われる側”の人間には理解しにくいかもしれないが、私のように“使う側”の立場としては、余計なことをしないというだけで利用価値があるのだよ。これは陸軍も海軍も同じだろうね」

 

 余計なこと、ねぇ。たとえば陸軍が秘密の実験をしていた施設に海軍の回し者を誘導するような作戦を実行してみたりとか? だとしてもあの大尉には情報はなんも伝わってないんだよなぁ。お気の毒に。

 はい、中佐殿。その意見には小官としても全面的に同意するものであります。余計な手間に巻き込まれて優秀な副官を死なせるという失態を犯した身としては耳が痛む思いでありますな。自分にもっと『力』があれば、遺体を回収して埋葬してやりたいぐらいでありますね。

 

「フッ……遺体、か。キミがアレを、いや副官を失ったことについて責任を感じるのは自由だが、長生きを望むのであれば割り切ることも必要だよ。

 それにこう言ってはなんだが、人造超力兵を戦闘で失うことはそこまで珍しいことではない。強力な兵士ではあるが、最強の兵士ではないからね。

 特にアラヤン式は物理戦闘に特化している弊害として異能が使えないだろう? 状況に対応できなかったのだろう、部隊が壊滅して生存者はひとりもいなかった……などということもある」

 

 それ部隊を壊滅させたのはアラヤン式人造超力兵だと思うんですが。(名推理)

 

 あとアラヤン式人造超力兵も魔法は使えるみたいですよ? 悪魔送還プログラムが起動すると。(致死性機密)

 

 つまりル号採掘基地のような悪魔関連の施設やらなにやらが日本帝国の至る場所に散らばっているってことですね! もちろん悪魔そのものとエンカウントするのもアウトだよ! 

 一瞬クラッと頭が痛んだが、よくよく考えなくても悪魔と契約して仲魔にしてるんだから俺の存在そのものが常に駆逐対象だったわ。てへぺろ☆ 次の副官とも上手く殺っていけるかな? 

 

 

「どのような意図があって陸軍がキミに階級を与えたのかについては……さて、パッと思い付く理由はいくつかあるがどうだろうな。

 まぁ、現場の判断で臨機応変に動ける兵士はどこでも重用されるはずだ。これも経験と思って陸軍の戦い方を学んでみたまえ」

 

 うーん、これは雰囲気的にこれ以上話すことはないって意思表示ですかね。本命の任務とやらがなんだったのか気になるところだが、このタイミングでも教えてくれないってことは陸軍と事を構えるような内容か? 

 どうしたもんかねぇ~。仮に陸軍が悪魔を許容する側で、海軍が悪魔を否定する側だった場合、生存を優先するなら陸軍に媚びるのが正解なんだが……。



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プロモーション:6

 問。ル号採掘基地はどうするの? 

 

 答。知らん! 

 

 

「これはあくまで私の個人的な意見ですが、100年以上も放棄されている採掘基地を奪還したところで簡単に再稼働などできるワケがありません。メンテナンスに費やす予算や時間で新しい採掘基地を建設したほうがよほど国益に繋がるでしょう。

 ハッキリ言わせてもらえば、威力偵察の許可が出たことすら信じられませんね。書類上はアレもAクラス帝国市民()()()ので、担当者がコネクション欲しさに媚びた可能性もあるかもしれませんが」

 

 

 つまりあの合体悪魔の少年が復活していたら、今後も黙々とお花を増やし続けることが出来るということか。よかったな少年、国家貢献の義務を安心して続けられるぞ! 

 

 そういえば所属不明の武装集団が犠牲になってたっけ。すっかり忘れていたがアイツらは何者なんだろうか? 

 ゲーム脳で考えるのなら……陸軍あるいは帝国軍に敵対する組織が存在していて、秘密の研究を探りに来た、あるいは奪取に来たとかだろうか。もしそうならバッチリ返り討ちにされているところも芸術点高めだな。

 

 で。

 

「ほぅほぅ、これが船の中というものでありますか。採掘基地と比べると清潔感はこちらが圧倒的に勝っておりますな! 

 いやぁ、土と岩に囲まれて生涯を終えるつもりでいましたが、人生というものはなにが切っ掛けで転機が訪れるかわからんものですなぁ」

 

「う~ん、ずっと作業着で生活してたから変な感じがするな~。動きにくいとかじゃないんだけど、なんかこう、背筋ピーンと伸ばさなきゃ! みたいな気分になって窮屈ですねぇ~」

 

 テッセン軍曹は曹長にランクアップ、ヒーホーちゃんは伍長の階級を与えられて正式に俺の部下になりました。これも海軍との交渉を有利に進めるために必要な措置なんだとか。

 D民上がりのファッション少尉をチヤホヤすることが交渉の場で役に立つカードになるのか? とも思うが、逆に考えれば海軍に口出しされるぐらいなら俺みたいな一般兵に便宜を図る程度のことはなんぼでもウェルカムってことなんだろう。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 無重力、怖い。

 

 無重力ッ! 怖いッ!? 

 

 実際に体験する前はあんなに楽しみだったのに、いざ全身が浮遊感に包まれると感動より不安しかねぇッ! 目的地に到着するまで椅子にベルトで固定されたままのほうが精神衛生的によろしいのでなかろうか?

 

「意外ですな、宇宙産まれの少尉殿でも無重力に不馴れな──あぁ、そういえばコロニーは普通に重力があるのでしたな。たしか、遠心力を利用しているといったことを資料で読んだ記憶があります。

 しかし、地面から足が離れるだけでこれほど情けないことになるとは思いもしませんでした。伍長などはすっかり適応して昼寝を楽しんでいるというのに。あの柔軟さは我々も見習わなければなりませんな!」

 

 柔軟というか、軟体動物というか。命綱は繋げているものの、ギャグ漫画でトラックに撥ね飛ばされたキャラクターみたいな姿勢で浮遊しながら爆睡する乙女が目の前にいるというこの状況よ。

 確信したね。これから向かう先がどのような環境なのかはわからないが、俺たちの中で最初に新天地での生活へ馴染むのはヒーホーちゃんで間違いない。あれぐらい図太く生きてぇなー俺もなー。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 銀河英雄伝説かな? 

 

 いや、メガテニストとしてはライドウ世界のほうを推すべきなのかもしれん。

 

 

 数日ぶりに尻の下に重力を感じる喜びを噛み締めつつ補給艦を降りた俺を出迎えてくれたのは、明治ロマン? それとも大正モダン? ともかくそんな雰囲気の建築物や服装の人々だった。

 いや、別に群衆が日の丸の旗を振りながら群がってるとかそういう意味じゃないですよ? それぐらいインパクトのある光景ってことね。なんか牛鍋屋さんとかあったら店内で頬に十字の傷がある優男なお侍さんと出会しそうだわ。

 

 うむ! 肩透かしだな、良い意味で。

 

 俺なりに覚悟はしていた。過酷な環境に派遣される可能性も考えていたワケで。今度こそデモニカスーツみたいなゴッつい装備を着せられて、酸素の残量とかスーツの表面温度とか気にしながらヨモツイクサと戦うことになるかもしれないと身構えていたんだが。

 

 しかしまぁ、実に平和な光景だな。空は青いし風も心地好いし、海が近いのか前世を含めて30年ぶりぐらいに潮の香りとやらを嗅いだ気がする。

 この平和を支えるためにCクラス帝国市民の皆さんが資源惑星の地下で一生を過ごしたりDクラス帝国市民の皆さんがヨモツイクサ相手に使い捨てにされながらMAG結晶体を集めてると思うとついタメ息が出ちゃうわ。

 

 

 ま、なんにせよ転生してから初めて見るまともな街並みである。宇宙を航行できる船があってコロニーまで建設できる科学力がありながら、あえてレトロ文化で生活している理由はサッパリだが……少しは人間らしい生活を楽しめるかな? 

 なにせコロニーじゃあ基地と拠点以外はぜ~んぶ廃墟だったから、平成や令和並みの文明建築が並んでいたところで懐かしさなんて感じる余裕がなかったもの。

 

 

 うん、そうね。コロニーの廃墟はレトロじゃなかったからね。

 

 

 おかしくない? ガラス窓のビルヂングが建造できるのに、なんでこんな木造建築が並んでんのよ。もしかしたら見た目だけで中身はバリバリに家電製品を使ってるかもしれんけど。

 惑星とコロニーでは建築のルールが違うとかどんな理由やねん。まさか陸軍と海軍だけじゃなくて惑星の住人とコロニーの住人までライバル意識バチバチやってんじゃないだろうな? 

 

 いや無いな。それはさすがにないだろう。いくらなんでも同じ日本人同士でさぁ~、地上派と宇宙派でいがみ合うなんてムダなことしないでしょ~! 

 そんなんお前、もしも宇宙派に真っ赤なノースリーブにサングラスを着用するような過激な思想のヤツが現れて「宇宙へ飛び出してなお重力に縛られている愚民どもの魂を解放しなければならんのだッ!」とか言い出して衛星落としとかしたら大変なことになるよ? 

 

 たくさんの犠牲者が出るのもそうだけど、メガテン世界で大破壊と大量虐殺による魂の解放とか二次被害がどんな規模になるのか想像もしたくないわ。

 恐怖と絶望と怒りが爆発してドえらい量のMAGがブチまかれたりして、それをエサに悪魔が大量発生したりしたら人類終わるで? なんならMAGで稼働している人造超力兵たちも挙動がバグって人間を襲うかもしれんよ? 

 

 悪魔、人間、人造超力兵の終わらない戦いのワルツの始まりですか? 俺は早々に人間が退場してパ・ド・ドゥに変わると思います。

 

 

「どうしました少尉、難しい顔をしていますよ? なにか気になることでもありますか? 確認したいことがあるなら遠慮なく聞いてもらって大丈夫ですよ」

 

 はい、いいえ少佐殿! 調和と忠義を重んじる日本人の気風をよく表している街並みに感激し、少々言葉を失っていただけでありますッ! 

 

「ッ! フフッ、そうですかそうですか。それは大変結構なことです。貴方はとても素晴らしい感性の持ち主のようですね。半魚人どもの巣窟から引き抜いた甲斐があるというものです。

 基地に到着する前で少々気が早いかもしれませんが……惑星『ニニギ』へようこそ、F8492特務少尉。そういえば貴方は甘味にチップを使う傾向がありましたね? ニニギではもうじき豊作を祝う祭事が行われます。そのときは甘酒と小豆餅をご馳走しましょう」

 

 甘酒とお餅なら材料はお米のはずだから安心して食べられるなッ! ヨシッ! 

 

 え? 惑星の名前について? ぼく教育をちゃんと受けてないからよくわかんないやぁ~♪



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プロモーション:7

 モダンな街並み、キョロキョロしたい。したくない? だって前世でもアニメかドラマぐらいでしか知らない世界だよ? 気になるに決まってるじゃないの。

 もちろん我慢しますとも、ええ。だって俺は特務少尉だから。部下のふたりはともかく、俺まで田舎者丸出しムーヴするワケにはいかんでしょ。

 

 なんなら俺のほうこそ市民たちに見られまくってたけどね。軍人の立場が強いことがD民出身の俺にもよくわかる、何台かのジープで大通りを移動しているときに市民の誰もが作業を中断して頭を下げていたあの光景は正直不気味でしょうがなかった。

 どういう感情で見られているのかさっぱりわからんのが、思いの外ストレスに感じて自分でも驚いたわ。化け物ばっかに包囲されることが多かったせいで神経質になってんのかねぇ? 

 

 一応、ピクシーさんたちには意識の海で待機してもらっているが……。過剰に警戒し過ぎか? いや、これぐらいで丁度良いはずだ。

 我ながら情けない話ではあるが、ビビりで小心者のクセに注意力がイマイチだからな。気を付けられるときは、しっかりと身構えるぐらいしないと。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「テッセン曹長。貴方は軍歴は充分に頼もしいようですが、地上での作戦行動に関しては今回が初めてですね? 必要になりそうな資料をまとめておいたので最大限速やかに頭に叩き込むように。

 もちろん私と貴方では立場が違い視点が違いますので、不足しているモノがあれば記録管理課に請求して下さい」

 

「了解であります! 少佐殿ッ!」

 

「T0811伍長。貴女のCクラス帝国市民権の申請は済ませてありますので、なるべく早めに名前を考えておくように。使用が禁じられている名前もありますが、該当する場合はちゃんと注意するのでまずは自由に考えてみて下さい。

 あとは、そうですね……惑星ニニギでは基本的にBクラス帝国市民が活動していますので、Dクラス出身ということで肩身の狭い思いをすることもあるかもしれません。なるべく無視するか穏便な対応を心掛けて下さい」

 

「了解でーすッ!」

 

「……まぁ、いいでしょう。タキオ二等情報官、ふたりを部屋まで案内するように」

 

「ハッ! それではテッセン曹長殿、T0811伍長殿、自分が先導しお部屋までご案内させていただきますッ!」

 

 

 嗚呼、頼れる部下たちが部屋から退出してしまった。もうね? 俺だけ残されたってだけで厄介事の臭いしかしねぇンだわ。まとめてサラサラ~っと指示出して欲しかったですねぇッ! 

 

「さて、まずは副官の補充からですね。どうやら貴方はアラヤン式の損失に責任を感じているようですが、そのことで遠慮する必要はありません。

 戦闘による功績で昇進した者について、通常の教育を省く代わりに副官を配置するのは権利として認められているからです。下手に机に座らせておくよりヨモツイクサと戦闘させたほうが活躍が見込める、という判断ですね」

 

 特にD民上がりにはそういう配慮を欠かさないようにと軍規にも書いてあるし、なんなら違反した上官は厳罰の対象となるときたか。

 助かるっちゃあ助かるが、あんまり嬉しくない配慮でもあるかな。常に監視役が付いて回るとなればMAGモグモグでレベル上げするのも苦労しそう、なんてのはいまさらだが……カネサダちゃんのアレを考えると新しい悪魔と契約して仲魔を増やすのは命がけってレベルじゃねぇな? 

 

 ま、普通に考えればただの人間が悪魔と交渉しようってだけでリスクが半端ねぇワケですが。そこはホラ、生きるために限られたチャンスを掴もうっていうフロンティアスピリッツですよ。使い方ちと違うか。 

 

 

「初めまして、F8492特務少尉殿。わたくしはオルギア式人造超力兵『ホムスビ』と申します。平時は主に各種手続きなどの事務作業を、戦闘では火炎属性を中心とした異能でお手伝いをさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

「異能戦闘を得意とするオルギア式は格闘戦に秀でたアラヤン式とは運用方法が異なりますが、貴方であればそれほど問題にはならないでしょう。戦闘記録を確認した限りでは撤退の判断もしっかりとできるようですし、敵戦力撃破だけに拘らない柔軟な指揮を期待します」

 

 やはり美少女か。俺も男だ、女の子は嫌いじゃないし大好きです。でも猫も杓子も美少女で揃えたがるほど若くねぇンだわ。肉体はともかく精神のほうが。

 ペルソナ3でもハム子こと女主人公だとサポートキャラの性別を自由に選べたけど、キタローこと男主人公だとサポートキャラが女性のエリザベスに固定されたのには不満でしたわよ。テオドアくんと牛丼食べたりラーメン食べたりして男同士の気安い友情イベント欲しかったわよッ! 

 

 あと単純にこの子にも……なんだっけ、悪魔送還プログラムだっけ? アレ搭載されてるのか気になるよね。

 カネサダちゃんも合体悪魔と遭遇するまではピクシーさんたちのことは見えてなかったから、なにかしらのトリガーが発動するまでは大丈夫だと思いたいが。

 

「さて、F8492特務少尉。肝心の任務についてですが、とある資源の輸送任務に海軍からの観戦武官として──あぁ、そうでした。えぇと、簡単に説明すると陸軍とヨモツイクサとの戦闘を見学にきた海軍の特務少尉という建前で同行してもらいます。

 もちろん本命は見学などではありません。貴方には緊急時の輸送部隊の護衛と、小隊長を務める少尉候補生たちが使い物になるかどうかの評価をお願いします。とはいえ、難しく考える必要はありません。共闘できるか、部下に迎えたいか、貴方の主観で評価してもらって結構です」

 

 それちゃんと尉官としての教育を受けてない俺に頼む仕事じゃなくない?



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プロモーション:8

 ナツミ少佐殿。その任務は、というかその配置はトラブルが発生する可能性が非常に高いのではないかと具申する次第でありますが。

 

「なにを言っているんですか。逆に聞きますがF8492特務少尉、トラブルが起こらない可能性などというものが残されていると思いますか?」

 

 えぇ……? 

 

「問題が発生した場合は、基本的には無視して大丈夫です。先程も言いましたが、建前はあくまで観戦武官ですので死傷者が出そうな場合を除いて可能な限り口出しせず傍観者に徹して下さい。

 私がなにを目的としているのか、イメージを共有するための説明が少々難しいのでその辺りは一旦省かせてもらいます。まぁ、少々大袈裟に聞こえたかもしれませんが……着任したばかりの少尉程度に階級に釣り合わないような責任は背負わせませんよ」

 

 人物評価は充分過ぎるほど新参者には責任が重すぎる仕事だと思うんですがそれは。しかしニコニコ微笑みながらプレッシャーを放つナツミ少佐に質問できるほどの勇気は俺にはありません! 

 ここは逆転の発想で自分を納得させよう。トラブルが起きることは想定済みであり、俺はそれに関してはノータッチで知らんぷりする権利が与えられている。緊急時の護衛、つまりヨモツイクサの襲撃が起きたら戦う必要があるぐらいか。

 

 

「一応、輸送する資源についても説明しておきましょう。貴方が護衛することになる輸送部隊が回収・運搬するのは『ソーマ』という液状の資源です」

 

 ソーマくんッ! 

(AKM城HD並み感)

 

 骸骨の給仕さんが美味しいカレーを……じゃなくて。オイオイここにきて急に普通(?)のメガテンらしい要素が出てきたじゃないの! しかも回復アイテムですよ! コイツぁなかなかグレイトな任務じゃあないッスかねぇ~主に安全性という方面で。

 これが例えば巨大なヨモツイクサの残骸からMAG結晶体を削り出して持ち帰る任務ですとかだったらフラグ臭プンプンして身構えるところだったかもしれんが、部外者の俺が護衛として同行する程度の部隊が輸送する資源やろ? なら危険性はほぼゼロってことだな! 

 

「とある山間部に、同じくソーマと名付けられた花が群生している場所があります。そこの湧き水を回収するだけの任務ですが、目的地の都合でどうしても途中からは徒歩での移動になりますので時間もかかります。

 加えて、車両による移動が制限されていることから定期的な警邏が難しくヨモツイクサの駆逐が充分ではありません。……護衛を担当する歩兵どもの良い訓練になるだろう、などという意見もありますがね」

 

 あ、俺以外にもちゃんと護衛は付くのね。よかったよかった、これがゲームやラノベなら何故か主人公チームだけが護衛を任されるとかいうガバガバ配備になるところだったぜ! 

 つまり俺はこの世界の主人公ではない……? なんという朗報にして僥倖かッ! メガテン世界で主人公とか常に命の危険に晒されるわ思想の対立に巻き込まれまくるわで心休まる暇がないから絶対になりたくないわ。

 

 

 いや、まてよ? 俺が主人公じゃなくても、主人公属性の人物と関わるのも危険だな……。今回のお仕事は不特定多数の人間と一緒に行動することになるし、一応その辺りも警戒しておかなければ。

 

 

「あぁ、それと。ソーマは触れる程度であればなにも問題はありませんが、飲料水の代わりにしたり怪我の治療に使用したりはしないで下さい。

 帝都惑星クニヌシにある『高等教育研究所』に届ける貴重な研究開発物資であることもそうですが、単純に一定量を体内に取り込むと死亡事故に繋がる危険性がありますので。

 蒸留水と間違えて傷口を洗い流したところ治療を受けていた兵士が発狂、鎮圧するまでに5名の死者と多数の重軽傷者が出た事例もあります。中にはうっかりひと口飲んでしまったところ、体力も気力も消耗したMAGも満たされた……などという者もいるようですが、絶対に真似しないように」

 

 どうやら俺の知ってるソーマとは違うようですね。たまげたなぁ。本当はマッスルドリンコなんじゃね? いやでもちゃんとエリクサーっぽい効果もあるにはあるようだし、使用者によって毒にも薬にもなる感じなのかもしれん。

 いや毒の部分の副作用エグいなッ!? 発狂したこと自体はまぁ……メガテンだし。精神攻撃は悪魔も天使も得意分野だから驚くほどのことじゃないが。

 

 ふぅ、危ない危ない。この事前情報がなければソーマは回復という先入観で迷わず飲んでしまうところだったぜ。どうやら俺はまたしても幸運ロールに成功してしまったらしいな。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 とりあえず説明が終わり、まずは地上に慣れるためにその辺を適当に歩いておけと言われた俺。新しい副官(監視)のホムスビちゃんに案内してもらい基地をフラフラしているワケなのだが。

 なんだろうな、この……コロニーや地下の人工的な光源とは違う、温もりを感じる太陽光の偉大さよ。太陽じゃなくて恒星アマテラスって言うらしいけど、俺にとっては太陽さ! そもそもアマテラスって天照大神から来てるんちゃうんか? なら一緒みたいなもんだべ。

 

「ナツミ少佐殿の許可が得られましたら、市街地のほうもご案内させていただきます。もちろんそのときは日本帝国軍人としての振る舞いを常に意識していただくことになりますが、休日や非番のときに私用で羽を伸ばす程度の融通は効きますのでご安心ください」

 

 ────ッ!?!?

 

 休日に……お出かけだと……ッ!? バカな、この世界の休日とは自室でゴロゴロと惰眠を貪り体力を回復させるための時間ではないのか……ッ!! 

 

 いやまぁ、Cクラスに上がって待遇が良くなってからはわりと色々やってたんだけどね。コロニーに居たときだって、非常食だか宇宙食だかみたいな簡素なお菓子をボリボリ食いながら図鑑読んだりマモルやホノカと将棋やったりとかしてたし。

 そもそもお出かけしてやりたいことがあるかと聞かれたら……特になにも思い付かないっていうね。管理社会にしては食事とかも結構まともだからそこまで飢えてないし。味が薄いのと量が制限されているのがキツいぐらいか? 

 

 あぁ、でも。案外軍人さんよりも一般市民の皆さんのほうが味付けの濃いジャンクな食べ物を食べている可能性とかあるかもしれないよなぁ~。そういうのもいいよなぁ~。

 D民として国家貢献の義務が始まってからのドロドロ液体状メシもある意味ジャンクではあったが。実はアレに件のソーマが混ぜてあって実験台にされてたとかだったら笑えるな、ハハッ!



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プロモーション:9

 誰かが言っていた。軍人とは走って走って走りまくる商売であると。

 

 だったら俺もその理屈に従ってみようじゃないの。テッセン曹長とヒーホーちゃん改めコレオ伍長と、頼れる副官ホムスビちゃんの3人を連れて基地の周囲をランニングしてみるのも悪くない。

 

 ちなみにヒーホーちゃんの名前がコレオに決まるまで一悶着というか……なんでも「せっかくだから強そうな名前にしよう!」とか言い出してゴンザレスとかゴリマッスルとかゴルベエザンとか個性が爆発してる名前にしようとしたところを担当者から優しく諭されたのだとか。

 その確固たる意思による『ゴ』推しはなんなの? 実際強そうだけど。特にゴルベエザンとかパワーをメギドに集中していいですともとか言いながら使えるようになりそうなほど強そうだけど。もしかして魂の出身地が俺と一緒だったりするのかな? もちろん怖いから確認なんてしませんよ。

 

「それにしても、なんだか大変なことになりそうな任務ですね~。トラブルが起きるとわかってて一緒に行かなきゃいけないなんて。もう少し説明してくれてもいいと思うんですけど」

 

「軍隊とはそういうものだ伍長。いちいち納得が無ければ動けないようでは組織として機能せんからな。もっとも、出来るなら魅力的な指揮官の命令で動きたいと考える気持ちはわかるが」

 

 ホムスビちゃんが聞いてる前でギリギリの発言、勇気があるなテッセン曹長。それともコレオ伍長が洩らした不満を誤魔化すためにわざとやったのかな。

 

 っと、他人事みたいに感心してる場合じゃないな。このふたりが正式に俺の部下になってしまった以上、俺も発言に気を付けないと連帯責任でとばっちりを食らわせてしまうことになる。

 何気無いひと言が人間関係の悪化に繋がるってのは軍隊に限ったことじゃないし、前世でも発言内容を悪意のある解釈をされて叩かれるとかあったもんなぁ。危険思想の持ち主とか、そういう濡れ衣を着せられないよう俺も気を付けないとね! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 基地では大勢の軍人が活動している。当然、訓練に励んでいるのは俺たちばかりではない。例えば運動場では陸軍幼年学校なる教育機関を卒業したBクラス帝国上級市民の少尉候補生たちと、Bクラス帝国下級市民の二等戦闘員候補生たちが模擬戦などで心身を鍛えていたりする。

 

 説明ありがとうホムスビちゃん。もしかして早口言葉とかも得意だったりするのかな? なんか難しいというかややこしい単語が多くて少尉殿は頭が頭痛になりそうだよ。

 え? そういう部分での補助をサポートするのも副官の仕事だから気にしなくてもいいって? カネサダちゃんのときも思ったけど、キミたち人造超力兵ってけっこうノリがいいというかお茶目さんだよね。

 

 しかし、この光景。実にテンプレート的で苦笑いが我慢できないかもしれん。

 

 服装の雰囲気と、敵に包囲されたときの訓練だ~とか楽しそうにゲラゲラ笑ってる様子からして3人組のほうが少尉候補生だろう。そして銃のストックの部分で殴り飛ばされて、駆け寄った女の子ふたりに支えられているほうがたぶん二等戦闘員候補生かな。

 よし、無視して通り過ぎよう。ナツミ少佐殿にもトラブルには関わらなくて良いって言われてるし、なんか教官っぽい……ホムスビちゃん、あの人の階級ってなに? 大尉? また大尉かよ。ともかく大尉殿も監督していらっしゃるし、俺は関係ないよねぇ? 

 

 

「生意気な下級市民に教育してやるのもボクたちの役目だからね。大丈夫、まさか訓練で命まで奪うようなことはしないさ。

 ちょっと足を何発か撃つだけだよ。これも痛みに耐える練習だと思って、ありがたく指導を受け取るといい!」

 

 

 ねぇホムスビちゃん? 人間って足に太い血管とかあるから、下手に怪我したら血液がドバァーっと出て大変なことになったりとかは……やっぱりしますかそうですか。出血多量により最悪の場合は多臓器不全に? なんかもう聞いてるだけで致命傷っぽさがエグいね! 

 

 これは死傷者に該当しますね間違いない。しかし現在はまだ任務開始前であり、俺に介入する権限があるのかは微妙なラインでもある。

 どうしよっかな~困っちゃうな~、でもコレオ伍長がユキダマくん召喚してブフで少尉候補生の持ってたライフル凍らせて破壊しちゃったからもう逃げられないゾ☆ お前なんばしよっとね? 

 

 注目される俺たち。

 

 当然、大尉が突然現れた俺たちに何者かと問い質す──より先に少尉候補生たちが出しゃばってきましたねぇ。なんだお前らはってか? 俺は日本帝国……海軍所属、F8492特務少尉だ。観戦武官として陸軍の精兵ぶりを勉強しにきた(ことにされた)者だ~よ。

 

 

「へぇ……? それはそれは。そんなことのために宇宙からわざわざ地上まで降りて来られるとは、海軍の特務少尉殿はずいぶんと暇人──失礼、勉強熱心でありますね」

 

「まったくだな。俺たちみたいに幼年学校で必要な教育がしっかり終わってると、いちいち宇宙へ上がって勉強してこい~なんて時間と予算を与えちゃくれねぇからな」

 

「羨ましい限りですねぇ。海軍では知識や経験が浅いまま少尉になっても、こうして学習の機会を与えてくれるなんて。

 それも、Dクラス出身で名前すら持たない下等市民にも分け隔てなく。いやはや、本当に羨ましいことですねぇ?」

 

 

 ここまで素直に見下してくると逆に可愛く見えてくるなコイツら。あと最後のインテリ風のお坊ちゃんよ、ソレ嫌味のつもりかもしれないけど俺マジで知識も経験も足りてないんだわ。故に煽りとして成立してないんだわ。なんかゴメンね? 

 

 それにしてもここからどうしよう。俺がそれなりのアクションを起こさないとコレオ伍長の立場がなくなっちゃうし、なんか下級B民らしき若者たちから芳ばしい期待の視線が飛んでくるしで立ち去るタイミングなんて砂粒ほどにも残っちゃいねぇ。

 ここは先人の知恵に倣うべきかな。丁度いい具合にさっきテッセン曹長が手本を見せてくれたし。えー、大尉殿、陸軍の訓練とは随分と厳しいようでありますな? こんな戦闘員候補生のうちから包囲戦という不利な状況を想定し、怪我を伴う指導まで組み込んでおられるとは。

 

「……限界まで追い込まれたとき、最後に頼れるのは訓練で鍛えられた精神力だ。痛みに耐えられるだけの強い精神がなければ戦闘はもちろん撤退すら儘ならんのも間違いでは、ない」

 

 うわぁ、気の毒なぐらい嫌そうに言葉を選んでフォローしていらっしゃる。どうやら今度の大尉殿は真面目に部下たちの成長を願っているタイプのようだ。

 少尉候補生と大尉では権力にかなりの差があると思うんだが、それでこんだけ配慮しなきゃならないってことは……まぁ、身分とかそういうアレだよねぇ。同じくB民でも上級下級があるみたいだけど、実際はもっと複雑で面倒なんだろう。

 

 

 まったくもー、ディストピアやるならその辺の細々したとこも残さず排除しとけよ。そんなん管理する側もややこしいだけだべや。

 

 しょうがねぇ~な~。えー、なるほど。ご教授のほどありがとうございます大尉殿。しかし、陸軍では実に独特の価値観を訓練に取り入れておられるのですな。

 座学ならばともかく、実技訓練まで知識が先行している者を指導役として適当であると認めるとは。それに比べると、海軍の訓練というものは野蛮で前時代的かもしれませんなぁ。

 

 まぁ知らんのだけどね。俺、まともな訓練受けてねーし。

 

「──ほぅ? それはまた、指導教官を任されている身としてはなんとも興味を唆られる話だな。なぁ特務少尉、我々陸軍は貴様に学習の機会を与えているのだから、俺にも貴様に海軍のやり方を聞くぐらいの権利はあると思わないか?」

 

 あらよぉ~! 頼もしいニヤリ顔してくれるじゃないですか大尉殿ってば。アンタ俺がこのあとナニやらかすつもりか理解してて踊らせる気マンマンだな?

 あとテッセン曹長。お前俺の後ろにいるから見えてないと思ってるかもしれないけど、笑いたいのを我慢してるの気配でバッチリわかってるからな?

 

 なに、簡単なことですよ大尉殿。海軍では大層なご身分のお歴々にわざわざ訓練場までご足労願うようなことはしないというだけのことであります。

 いちいちそんなことをしなくても、訓練の指導役など生徒より能力さえ秀でていれば務まると考えているからです。

 

 

 あぁ、万に一つでも誤解の無いようにもう少し噛み砕いてご説明させていただきますね? 実戦経験の無い肩書き以外無価値な候補生の指導などというクソの役にも立たないモノに頼らねばならないほど人材に不足していないということです。

 何故なら無抵抗の相手にさえ複数人でなければ挑めないようなゴミムシに指導されたせいで、貴重な戦力となるはずの候補生たちを無能な烏合の衆にされたのでは困るからであります。



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VS節制装置

 どうも皆さんこんにちは。私、F8492特務少尉と申します。ちょっとした出来心でボンボン候補生たちを煽り散らかした結果、多数の敵に包囲されたときの対処法を実演することになりましたとさ。

 

「少尉殿。彼らは皆、比較的新しいモデルの耐物理コートを着用しています。異能を使わない戦闘であれば、手加減もしやすいかと思われます」

 

 あーアレね。至近距離で弾丸撃ち込んでも貫通しないって優れものでしょ? 知ってる知ってる。その情報を教えてくれたのは普通にありがたいけど、アホの子たちが怒りのあまり三國志の武将みたいにプッツンして倒れそうになっちゃってますよ? 

 というかキミ、俺のこと止めないんだねぇ。てっきり警告のひとつやふたつあるかと思ったけど、すっごいニコニコ笑顔がまぶしいね! テッセン曹長と大尉殿なんか笑うのを我慢しすぎてミスターポポみてーな顔になってるし。

 

 あとコレオ伍長、お前も「頑張ってくださーい!」じゃないんだよ。火種作ったのキミだからね? 

 

 

「お前たちッ! この男を包囲して一斉に攻撃しろッ!! ほら、さっさと動けッ! この愚図どもがッ!!」

 

「ちょっとッ! なに言ってんのよッ!」

 

「特務少尉殿との模擬戦を希望したのは貴方たちでしょう? 私たちは関係ないはずです」

 

「関係ないワケないだろうッ! ボクたちはお前たちの上官なんだぞッ! 命令に従うのは当たり前だろうがッ! それとも軍法会議にかけられたいのかッ!? ボクに逆らうことは、軍の規則に逆らうのと同じなんだぞッ!!」

 

 んー、なんとなく見えてきたかな? そりゃ大尉殿も迂闊に注意できないワケだ。このボンボンくんの身内、たぶん両親か祖父母のように距離の近い血縁者がそういう役職になってるパターンなんだろう。

 普通に考えればこのお坊っちゃまを怒らせた時点で俺も()()なんだろうが、惑星タタラで都合のいい前例を示してくれた敬愛すべきAランク霜降り大尉殿がいるからな。正直、あまり自信はないが……命がけの口八丁で乗り切るしかねぇッ!! 

 

 ま、でもその前に。まずは目の前のアホたちをサクッと黙らせますか! 

 

 手順はとぉ~ってもカンタン☆ 戦闘が始まったにも関わらず、無防備に下級B民のほうを向いてキャンキャン吠えているところにぃ~沈黙魔法マカジャマ(拳属性)やっちゃうぞォ~☆ 黙れオラァッ!! 

 狙いはもちろん物理耐性が付与されているはずのボディですとも。ギリギリで前歯に当たる前に軌道修正した俺ってば偉くなぁ~い? 

 

 

 で。目の前で仲間が地面をのたうち回ってるのにテメェらは狼狽えているだけですか。

 

 

「お、お、お、お前ッ! 俺たちはなぁ、Bクラス帝国市民の中でも特別なエリートなんブギィッ!?」

 

 あのねぇ、戦闘中にそんな無駄口を叩いてる暇なんてないんだよ? 武器を構えて立ち向かうのか、尻尾を巻いて全力で撤退するのか、テキパキと判断して動かないと。そんなんじゃ甘いよ? 

 さて、残りはひとりになった……と、思うじゃん? 後ろの連中、何人かこの3バカと一緒になってゲラゲラ笑ってたよね? つまりコイツらと同じように俺の指導を受けたいってことでいいんだよな? 

 

「ヒィッ!? ち、ち、違いますッ! こんな奴らなんて、仲間でもなんでもないんですッ!」

 

「ホントなんですッ! 信じてくださいッ! 私たちも、命令に従わないと軍法会議にかけるって脅されてたんですッ!」

 

 

「なッ!? お前たち……ッ! 特務少尉殿ッ! 後ろの連中も仲間なんですッ! でも下級市民に暴力を振るうつもりなんて全然なくて、これは単なる──そうッ! ちょっとした悪ふざけだったんですッ! 

 そ、それに、軍隊は、同じ部隊の仲間なら連帯責任ですよねッ!? だったら、全員が罰を受けるならひとり当たりの処分は軽くなるはずでイギャァッ!?」

 

 キミの手のひら返し、なかなか芸術点高くて俺は好きよ? だから特別に左手で勘弁してやろう。ま、俺この世界に転生してヨモツイクサと戦ってるうちに両利きになったから威力はどっちも変わらんけどね。

 

 

 さて、ここからは後始末の時間です。なぁホムスビちゃん、俺は観戦武官として陸軍に勉強しに来てんのよ。日本帝国軍が誇る陸軍将兵たちの軍事行動はもちろん、平時の訓練についても学びを得るために来てんのよ。

 それがこの有り様ってのはどういう了見だい? 戦闘能力が丁型ヨモツイクサ1体にすら劣るのは百歩譲って我慢してやってもいいが、候補生如きが上官だの命令だの軍法会議だのを連呼してたのは軍の統率と秩序を著しく乱す行為だから見過ごせないよねぇ? 

 

 ちょっとナツミ少佐に確認をお願いしてもらってもいいかな。観戦武官として、俺はいったい、どんな報告を海軍へすればいいのかな~って。

 

「はい、特務少尉殿。至急速やかにナツミ少佐殿に今回の1件を報告し、陸軍幼年学校卒業生の待遇等について見直す必要があるか判断を仰ぎたいと思います」

 

 ハハハこの野郎ニコニコ笑うのを隠しもしねぇ。つまり俺の行動はナツミ少佐殿も予測済み、手のひらの上でコロコロ転がされてたワケだ。

 チクショウ完全に行動を読まれていたならペナルティも大したことないかもしれないと安心感しかねぇありがとうございますッ! 今後も是非とも上手に踊らせて欲しいもんだ。生き残るためならシットロト踊りだって喜んで全力ダンスしますとも。めらっさめらっさ。

 

 あとは……申し訳ありません大尉殿、つい指導に熱が入ってしまい訓練予定を大幅に乱してしまいました。これは明らかな越権行為です、軍の規律に従い自分に処罰を下すようお願いします。

 

「ん? そうだな……。まぁ、こういうこともあるだろう。ひよっこどもの訓練で死者を出すようでは論外だが、怪我のひとつやふたつでガタガタ騒ぐようでは戦闘員は務まらんからな。この程度、処罰を与えるほどのことではない」

 

 事情は知らないけど空気を読んだ、ってところかな。ありがてぇ、ありがてぇ……ッ!

 大丈夫かな、この大尉殿。もしもこの基地がヨモツイクサに襲撃とかされたら、候補生たちを逃がすために目の前で上半身ぱっくんトカゲされたりとかしない? 

 

 ともかく、これで面目は立ったな! え、なんの? なんで俺はボンボン3人を殴らなきゃいけなくなったんだっけ……?

 あと戦闘員候補生たちよ、俺に注目するんじゃない。このまま無言で立ち去れる空気じゃなくなっちゃってるじゃん。お前ら3バカのナメ腐った態度をもう少し見習えよぉぉぉぉんッ!!



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ベビー/フェイス:1

「あの……特務少尉、殿。助けていただきありがとうございます」

 

 ん? あぁ、さっき包囲戦の模擬戦ごっこ遊びに参加していた戦闘員候補生くんか。はて、助けるとはいったいなんのことを言っているのやら。候補生同士が悪ふざけをしていたところに、少しだけ戦い方の指導をしただけの話だが? 

 俺が言っていることの意味がイマイチよくわかってないのだろう。少年も、両隣の少女たちもどう反応すればいいのかわからなくて困っているようだ。安心したまえキミたち、俺もワケがわからなくて困ってるからお互い様だよ! よッ! 

 

 よし、帰ろう。

 

 俺もうお部屋に帰りゅッ! これ以上会話を続けているとまた面倒なことになりそうだもの。だって考えてみ? エリートのボンボンに絡まれてた少年でさぁ、女の子をふたりも侍らせてんだぜ? こんなんハーレム系ラノベの主人公の素質あるヤツに決まってんじゃんッ! 

 いや、メガテン世界でハーレムって成立するのか微妙なところでもあるけど。ペルソナはなぁ、学園が舞台だからアオハル要素としてそういうことも……いや、まぁ、女性関係の修羅場を青春劇にカテゴリーするのもどうかと思うが。

 

「あ、あのッ!」

 

 お、おうッ!? 

 

「助けてもらって……それに、戦闘員候補生のクセに特務少尉殿に向かって言うことじゃないのはわかってますが、その……もっと、違うやり方もあったんじゃないんですか? 

 それだけお強いのなら、あんなふうに殴らなくたって、もっと別の方法でアイツらを説得することだって! 暴力で無理やり黙らせるんじゃ、結局アイツらと同じじゃないですかッ!?」

 

 はいキター、この子は確実に主人公ですね間違いない。その青臭さは嫌いじゃないが、残念なことに俺の生存戦略的にはとても関わりたくない部類の人間デース! 

 気持ちはわかってやれるけどな。転がって、泣いて、吐いて、無様に担架で運ばれていった3バカの姿は哀れですらあったもの。権力という名の暴力で嫌な思いをしたこの少年にしてみれば、暴力という名の暴力で事態を強制的に終わらせた俺を認めるのは難しいところだろうね。

 

 

 うん、いいんじゃない? 少年、キミの考え方は別に間違ってないし、なんでもかんでも暴力で解決できるって勘違いされるよりは何倍もね、将来性あるよキミ。

 

「……へ? あ、あの、俺、特務少尉殿に対してけっこう失礼なこと言ってると思うんですけど」

 

 自覚があるなら結構。そして、俺はキミの価値観を尊重しよう。何故なら他者のアライメントに口出しするのはメガテン世界では自殺行為に等しいからです。大事件に巻き込まれる的な意味で。

 そんなフラグを建築することに比べたら、この程度の跳ねっ返りなんて微粒子レベルにすら生意気とは思いませんねぇ。いやマジでさ? 気まぐれな悪魔たちのせいで誰が急に理不尽なボスキャラになるかわかんねぇンだわ。

 

 だから俺は許すよ。死にたくないから。

 

 だからもういいでしょッ!? 俺のことはほっといてよッ!! キミの物語の主役はいつだってキミ自身で、俺は所詮通りすがりのモブキャラその1に過ぎないのさ。その証拠に名前なんてアルファベットに数字の羅列だぜ? 

 さ、もう行くべさ。俺はこれから勝手な行動をしたことについてナツミ少佐殿に地面に顔面を埋め込む勢いでエクストリーム土下座を実行しなければならんのだ。

 

 それはもう誠心誠意の謝罪の気持ちを込めて、許してくれるまで部屋中を俺のデスマスク跡で埋め尽くす勢いで土下座することを宣言しようッ! それこそ、イッポンダタラに協力してもらって天井も俺の顔面まみれになるまでなァ……ッ!! 

 

 ナツミ少佐殿はどんな土下座が好みかな。王道のスライディング土下座、躍動感のあるジャンピング土下座、少し捻って超絶悶絶錐揉み大旋風土下座なんてのも捨てがたい。

 ホムスビちゃんはどう思う? なになに、それならスライディング土下座と見せ掛けてからの後方宙返り土下座なんかどうだって? なるほど、そのスタイリッシュさは謝意を伝えるのに効果抜群かもしれない。採用だぞ副官ッ!! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「貴方に与えられた権限を考慮し、任務中に処理させるつもりでしたが……なるほど。訓練中の指導であれば貴方が観戦武官であること、相手が少尉候補生でしかないことが巧く噛み合っていますね。

 着任早々、なかなか良い仕事をしてくれました。この調子で輸送任務の護衛に関しても吉報を期待しましょう。あぁ、もう立ち上がっても結構ですよ。それと人造超力兵にあまり変なことを学習させないように」

 

 わーい、許されたついでに褒められたー♪ これも優秀な副官が上手にフォローしてくれたおかげだな! 海軍に戻るときにはバイバイしなきゃならんだろうが、そういう穏便なお別れなら大歓迎だぜ! 

 ところで少佐殿、俺がポンポンを撫でてやったボンボンたちはどうなるんですかね? 性格には少し問題があったし、最初から俺に処理させるつもりなのは理解しましたが、アレでも少尉候補生なんでしょ? やっぱり再教育してから再利用したりとかそういう流れだったりするのかな。

 

 

 

 

「──どうしても、聞きたいですか?」

 

 

 

 

 はい、いいえ少佐殿ッ!! 自分は能力に見合う程度の無理のない命令と、ついでに日に3回の美味い飯を与えてくだされば充分でありますッ!! 

 

「結構。聞き分けの良い素直な部下は好きですよ? 貴方に陸軍の階級を与えて優遇すると伝えたときに、イミナ中佐殿が渋い顔をしていたのも納得です。

 あぁ、いえ。そうでした。私としたことがついうっかり言葉を間違えてしまいましたね。貴方のことは資料を含め、快く派遣してもらいましたとも」

 

 怖っ。

 

 ……ふぅ、危なかった。悪魔との戦闘では“知らない”ということが不利につながり命を落とすことになるが、人間との会話では“知ってる”ということが不利を飛び越えて命を落とすことに直結するからな。

 

 これが普通のファンタジー異世界転生なら、何故か下っぱの主人公に懇切丁寧に軍の秘密を教えてくれる場面かもしれない。

 だがここは人間が試験管で育てられ番号が割り振られるディストピア世界ぞ? 身の丈に合わないような情報の対価なんてそりゃもうとんでもない値段で目玉が飛び出ちゃうかもしれないね! 物理的に。



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ベビー/フェイス:2

 輸送トラック、野営地、登山って感じで……フィニッシュです。いや違うよ? いまから始まるんだよ、新人だらけの輸送部隊の護衛任務が。

 

 そんなわざわざ新人だけで編成しなくてもいいのに。とまぁ疑問だったけど、理由を聞いたら一応納得できる説明をしてもらえました。

 適度に危険で事故が起きたときにすぐ対応できるという条件が揃っているのが、この山登りソーマ回収任務なんだそうな。

 

「どれだけ厳しい条件を設定しても、訓練だけでは簡単に成長が停滞してしまいます。だからといって、未踏地域との境界線に候補生を送り込むワケにはいきません。

 もちろん貴重な資源であるソーマの輸送を新人だけに任せるような無責任なことはしませんよ? 前線に近いポイントではちゃんとベテランの戦闘員と輸送隊が回収任務に従事しています」

 

 いやいやホムスビちゃん、だからって……なぁ? 輸送部隊は少尉候補生が率いる戦闘員候補生、護衛部隊は経験の浅い少尉と一等・二等戦闘員。いくら経験値を稼がせてやりたいからって、これヨモツイクサの襲撃が起きたらヤバくない? 

 

「たしかに、これではアクシデントが起きたときの対応に不安がありますなぁ。Dクラス帝国市民のように早い時期から専門的な訓練を行えばもう少し安心できるのですが」

 

「いや~、でも私たち最初は単独で戦わなきゃいけないんですよ? お仕事終わりのお買い物のときに偶然仲良くなった子が、次の日にはその辺で死んじゃってたりとか普通にありますからね?」

 

 コレオ伍長わりとエグい話してるはずなんだけど、ホムスビちゃんはもちろんテッセン曹長も当たり前のように受け入れてるなぁ……。

 たぶん、なるべく助けてやりたいとは思っているけれど、それはそれとして任務で死ぬこと自体は“そういうもの”として受け入れてるのだろう。

 

 いや、違うか。受け入れるもなにも、それこそがこの世界では当たり前の常識なんだよな。これが教育の力なんだなぁ。

 というか軍隊っていう特殊な環境ならではの常識なのかも。いや特殊もなにも異世界なんだってば。も~、俺ってばうっかりさん☆

 

 

 で……。

 

 

「あのッ! 先日は生意気なことを言って申し訳ありませんでしたッ! 今日はよろしくお願いしますッ! 俺は……じゃなかった、自分はコウタロウ戦闘員候補生と言いますッ! 苗字はありますが、まだ名乗りを許されていませんッ! よろしくお願いしますッ!」

 

 そんな2回も勢いよく頭下げてお願いしなくても大丈夫だよ。命令だからね。なるべく主要人物っぽいヤツには関わりたくないって俺の気持ちなんて、肉じゃがの小鉢に紛れ込んだパセリぐらいどうでもいい事柄だからね。

 

 この状況、なんとか前向きに考えてみよう。コウタロウ候補生は俺が責めたワケでもないのに自分の行いを自主的に反省していて、特に反抗的な雰囲気は見られない。

 おそらく性格そのものは真面目であり、属性で分類するなら善人であるLight側。階級が上の相手に意見することを悪いこととして認識している辺りは秩序を重視するLaw側にカテゴリーされるだろう。

 

 うむ。集団行動をするぶんには不安は少ないんじゃないかな? なんならウチのコレオ伍長のほうが普段のチームワークに問題があるかもしれん。

 

 なんだよ~。無意味に不安かもとか考えてたけど、わりと余裕のある案件なんじゃね? 今回の任務。資源の回収でしょ? ヨモツイクサの討伐は関係ないんだから、ソーマさえゲットしたら戦う必要さえないんだぜ? 

 だからきっと、大丈夫。気になる少尉候補生がどこからどう見ても巫女装束の女の子にしか見えなくても、メガテン世界でオカルトを担当するキャラが登場したときは確実と言っていいほどクッソ面倒な悪魔絡みのトラブルが起きる予感しかしなくても、ね♪ 

 

 

 

 

 

 

 この世界は本当に本当にほんとぉ~~に俺に対する厳しさが腐ってやがるなッ!? バカじゃねぇのッ!? そんなんお前、お前なァッ!! メガテンシリーズにしろペルソナシリーズにしろ、なんならソウルハッカーズやライドウ系をプレイしたことがあるヤツでもいいけどなぁッ!! わかるか俺の気持ちがッ!! こんなんお前、突然現れた巫女装束の女の子とかッ!! こんな、こんな露骨にオカルト界隈の住人みたいなのが干渉してきて安心なんて出来るワケねぇだろォォォォォォォォッ!!!! 

 

 

 

 

 

 

 さ、気持ち切り替えていこう。逆にね、トラブル発生率が200パーセント超え確定したと思えば心構えもできるってもんよ。

 なんなら周囲を見渡せばほかにも巫女ちゃんが何人かいるみたいだし。新人たちや俺の部下ふたりはともかく、野営地のベテランっぽい陸軍の人たちまで不思議そうにしてる姿には不安しかないが。

 

 

「お初にお目にかかります。私は日本帝国魔導院から派遣されました『キリノハ シズル』と申します。若輩者ではありますが、少尉候補生として、そして日本帝国が誇る異能のエキスパート『八葉』の末席に名を置くものとして、恥じることのない成果を得られるよう微力を尽くしたいと思います。どうか、よろしくお願い致します」

 

 こりゃご丁寧にどうも。ちなみに俺は護衛を担当する部外者で、キミが一緒にチームを組むのは向こうにいる輸送部隊の戦闘員候補生の3人だから。

 

「……まぁ、そうでしたか。それは失礼しました。実は、私たち八葉に名を連ねる者たちは『シキガミ』という特殊な異能を使いお役目に当たるのですが、あなた様から少しだけ一族に近しいモノを感じたものでしたから、つい」

 

 

 ピクシーさぁぁぁんッ!? 

 

(アタシのことは見えてないみたいだけど、たぶん“いる”のは感じてるんだと思う。MAGの動きとか、なんか気配とかそういうヤツがわかるタイプなんじゃない? 

 ただ、このニンゲンが言ってるシキガミっていうのがアタシたちみたいなアクマと同じなのかはわかんない。わかんないんだけど……う~~~~ん)

 

 なになに? なんか気になることがあるなら言うだけ言ってみ? どんな些細なことでも意外なヒントに繋がったり繋がらなかったりするからさ。

 

(この感じ、どこかで──あ、そうだ! まえに地面の下にいたときの、おっきな建物! アレの下のほうから感じてたイヤな気配に似てるかもッ!)

 

 

 は~いトラブル発生率に追加で150パーセント入りま~ッす☆



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ベビー/フェイス:3

 男はコウタロウくんひとり、残りのメンバーは女の子ばかり。もしも彼がハーレム系主人公ならパーティーメンバーが完成したことになるのかな? 

 俺としてはあと2人ぐらい頑張って女の子を追加してほしいところさん。前列3人後列3人って並び方なんとなく好きなんだよね。真・女神転生は当然として、ウィザードリィシリーズとか剣と魔法と学園モノとか。

 

 それにしても……ここにきてシキガミときたか。ピクシーさんが感じた違和感のことも気になるけど、ミリタリー色が強い世界だと思っていたから単純に驚いたわ。

 名前そのまま『シキガミ』って悪魔もいたが、ヨモツイクサが大きなカテゴリーの名前として使われていることを考えるとコチラもそういう扱いなんだろう。ゲームでいうところの魔法とか特技とかのコマンドみたいな。

 

 

 興味は、ある。でも護衛役としては未知数の戦力ってのは普通に困るんだよなぁ。どの程度戦えるのか、どういう戦い方をするのかわからないだけでも面倒だもの。

 それに俺は日本帝国魔導院とやらがどういう組織なのか知らないし、まして異能のエキスパートなる八葉とかいう人名? 集団? の権限なんてサッパリわからない。

 

 このキリノハ シズルなる巫女さんに命令してもいいのか、それともイエスマンとして従わなきゃいけないのかでも対応が違ってくるし。その辺りはどうなのよホムスビちゃん? 

 

「……判断が難しいところですね。相手はあくまで少尉候補生ですから、軍の常識で考えれば特務少尉殿の発言力のほうが上です。

 しかし魔導院が相手となると緊急時でもなければ迂闊なことは言わないほうがよいかもしれません。詳しく説明しようとすると長くなってしまうので簡潔に申し上げますと、魔導院は立場が特殊で露骨に優遇されているので敵対するとゲロ面倒なことになります」

 

 いまゲロ面倒って言った? しかしなるほど、ディストピア定番の特権階級存在がやってきたワケか。どおりでコウタロウくんたちやほかの候補生たちの雰囲気がなんか悪そうな感じになってると思ったよ。

 だってサラッと聞こえてきたもの。シズルお嬢様がコウタロウくんたち3人にお前ら異能使えないの? それマジで言ってんの? 恥ずかしくないのかよウケるwwみたいなことお上品に言ってたもの。

 

 

 なによッ! そんなに異能が使えるヤツが偉いっていうのッ!? 日本帝国が誇るエキスパートって言ってたもんなぁ。俺の中でエキスパートって単語はライバル集団に悪戦苦闘してる集団ってイメージがチラチラ頭をよぎるけど。

 

 というか、そもそも八葉ってなに?

 

「古い時代、それこそまだ人類が地球という辺境の小惑星だけで活動していたころから、日本帝国の栄光と繁栄を支えてきた者たちのことです。

 始まりはその中でも特に秀でた8人の能力者から。やがてそれぞれが独立して家名を持つ権利を認められ、共通する『葉』の文字から八葉と呼ばれるようになりました」

 

「へぇ~、なんかスッゴい人たちなんですねぇ~。でもそんな人たちがどうしてこんなところまで派遣されてるんですか?

 というか、これ候補生たちの能力を確かめるための任務なんですよね? 立場が上の人が一緒にいるんじゃ、それどころじゃなくなると思うんですけど」

 

「そうですね、コレオ伍長の言う通りです。どうも今回はいつもと様子が違うようです。そもそも普段であれば派遣される巫女様は3人ほどですし、それも野営地に待機するだけで現地まで同行したことなど無いはずですが……」

 

 

 やはりイベントか。いつ同行する? いまでしょッ! これは間違いなく大いなる意志が働いてますね。ヒーロー役のコウタロウくんと推定ヒロインのシズルお嬢様が出会えるようにとの配慮ですわよッ! 

 やっぱコウタロウって名前がもう主人公っぽいもんな。シキガミの姿が見えなくても、そこに存在するものとしてありのままに受け入れて使役できそうな名前してるもん。ヒロインが巫女装束なのも完璧じゃなぁ~い? 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 朗報! 俺氏、やはり幸運がカンストしてる模様ッ!

 

 予定外の巫女集団たちが部隊の空気を最悪にした結果、野営地にいた上官殿が頭を抱えながら配置換えを決定し、無事ヒーロー候補生たちから離れることに成功せりッ! 

 ハッハッハァッ! そっちはそっちで思う存分嬉し恥ずかし登山イベントで絆を深めるがいいさッ! 俺はお前たちがアオハルしている様を高笑いしながら眺めているぞッ! 人の言う『安地』とやらからなッ!

 

 この世界に安全な場所なんてあるのかとかは考えてはいけない。死んで墓の下に埋葬されても尚油断ならねぇのがメガテンなんだぜ。泣けるぜ。

 

 まぁ八葉の巫女とやらからは逃げられなかったんですけどね。でもこれはしょうがない、まさか厄介者だからとひとつの部隊に固めるワケにもいかないだろうし。そこは必要経費と割り切ろう。

 そう、血の気が多めなヤンチャ系ボーイ&ガールの世話を上官殿から頼まれたのも必要経費さ! いうてコイツら俺の指導方針を知ってるだろうから、ある程度は指示に従ってくれるんじゃないかな。

 

 やはり巫女との関わり方が鬼門か。なるべく早めに距離感を掴まないと、せっかく折れたフラグが無意味になってしまう。

 ここは慎重に様子を見ながらコミュニケーション方法を考えることにしよう。だからそれまで俺のほうに近寄るんじゃねぇ歩いてくんなその薄笑いを止めろ俺に近寄るなァァァァッ!! 

 

 

「へぇ? キリノハのお嬢ちゃんが他人に興味を持つなんて何事かと思ったが、こりゃ確かにおもしれェ気配がするな。ウチらの扱うシキガミに近いけど決定的に何かが違う。

 本家のジジィどもに命令されたときゃメンドクセェと思ってたが、どうやら面白いピクニックになりそうだな? 今日はヨロシク頼むぜ特務少尉殿?」

 

 俺は別にヨロシクしたくないけどねぇッ!?

 

 っていうか距離が近いんだよ下から覗き込んでくんな生きるか死ぬかの瀬戸際を常に駆け抜けてる身分じゃ谷間なんか見えても全然嬉しくねーんだよ離れろ。

 

「あぁ、名乗るのが遅れちまったな。オレは柘葉一族の巫女『ツゲノハ ユウコ』だ。シキガミを使った殴り合いと呪殺の異能を得意としてる。

 つーワケだからよ? ソーマの識別がオレたちの本来の役目だが、戦闘のほうもそれなりに期待してくれて構わない。いや~、ヨモツイクサどもの襲撃が楽しみだな!」

 

 楽しくねぇからッ! 俺たちの任務はソーマを持ち帰ることだからッ!! 余計なフラグ立てないでくれませんかねぇッ!?



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ベビー/フェイス:4

 おっぱいが大きくて距離感がバグッてる黒髪ロングなオレっ娘系の巫女さんに好かれるとか転生者として勝ち組だって思うだろ? 

 だから、もしそう思うヤツが世界の何処かに存在するなら是非とも俺と立場を交換してくれ。どれだけ平凡でもかまわないし、どれだけ退屈な人生でもかまわない。ただ、1秒後に死ぬかもしれないという心配さえしなくていいなら俺は希望を胸に抱いて生きていけるから。

 

 

 緊急時の連絡用に照明弾を持たされて、いざ新人たちの初任務開始である。俺たち4人は最後尾をテクテク歩いてついていくだけの簡単なお仕事、のワケがない。後方からの奇襲が一番厄介なのだ。

 俺のピクシーさんとコレオ伍長のユキダマくんならヨモツイクサが接近してくればMAGの流れで簡単に察知できるが、実戦の空気に触れた瞬間に頭が沸騰するバカもいるかもしれないから油断はできない。

 

 ついでに、ご機嫌良さげに鼻歌なんぞ奏でながら隣を歩いているユウコ女史の存在も不確定要素が強すぎて吐きそうなのである。お前アレだろ、遠足とかで並び順無視して気になるヤツの近くに行って先生に怒られるタイプだろ。

 

 

「たかが曹長如きでは八葉の巫女などという高貴なご身分のご婦人のお相手など務まりません。それにせっかくの機会ですし、海軍へお戻りになられたときの土産話にもなると具申する次第であります!」

 

「えーと、なんかあんまり関わらないほうが良さそうな気がするのでお任せしますね! ホラ、私、伍長ですし! それなりの階級の人が一緒じゃないと失礼ですもんね!」

 

「申し訳ありません少尉殿、わたくしは人造超力兵ですので話しかけることそのものが不敬罪に該当する可能性が無いこともないような気がするので緊急時以外ではなるべく離れて歩かせていただきます」

 

 どうだ、これが俺の頼もしい部下たちの賢い選択ってヤツだぜ! おかしいな、俺これでも一応上官で隊長なんだけど皆とは少しだけ距離を感じるね! 具体的には前方へ5メートルほど。

 だがしかぁしッ! これぐらいのことで動揺するほど浅い人生を歩んじゃいねぇッ! 相手側に男女のアレコレな感情がないことぐらいわかるし、ようは小学生や中学生の男子相手ぐらいの感覚で会話すりゃいいだけの話だべ。

 

 本音を言えばほかの巫女さんたちのように表面だけ取り繕って見下しててくれたほうが楽だったけどね。

 ユウコ女史のほうから話しかけてきてんのに俺が無視したり冷たい態度で接したら、前を歩いている候補生たちも生きた心地がしないだろうからコミュニケーションを楽しむってだけの話よ。

 

 

 実際、気になることはあるから会話をできる状況ってのは悪くない。八葉とやらにとある名前が在籍してるのかとか気になるじゃん?

 ゼッテー聞かねぇけど。D民上がりの俺がなんでその名前を知ってるのかみたいな尋問が始まる未来しか見えねぇし。

 

 そんなことより身近な危険に備えるほうが優先順位は高い。具体的な戦闘スタイルや、そもそもシキガミってのがどういう存在なのかを知らなければ連携もできん。

 どうせ巫女たちが好き勝手な行動して怪我しても俺たちの責任にされるんだろ? なら全力で協力して守護らねばなるまいよ。ホントに邪魔だなコイツら? 大人しく野営地で待ってりゃいいのによー、命令したヤツはマジでなに考えてんのぉ? 

 

 んで。ユウコ女史は物理と呪殺が得意とか言ってたけど、その巫女装束に不釣り合いなゴツいハンドガンは射撃が得意だって受け取ってもいいのかな。

 

「んー? あぁ、コイツは普通の武器とは違うんだ。コレはヨモツイクサに向けて撃つんじゃなくて、こうやって自分の頭に押し付けてパァンッ! ってよ? これがオレのシキガミ召喚の簡易儀式なんだわ」

 

 お、急にペルソナ3始まったか?

 

「契約したシキガミを召喚するための簡易儀式はイロイロあってな。札を投げるとか、カードを砕くとか、ペンダントを握りしめて祈るとか、ともかく自分がイメージしやすい方法で呼び出すのさ。

 で、オレの場合は銃で自分の頭を撃ち抜く動作をするのが一番やりやすかったんだよ。キリノハのお嬢ちゃんも似たようなスタイルだったかな? 確か、MAG結晶体のナイフを自分の胸に突き刺してたっけ。どうよ、なかなか個性的だろ?」

 

 あー、うん。いいんじゃない? スタイリッシュで。自分の表面的な仮面をブチ抜いて戦いの意志を引き出すとか、頭を撃ち抜く動作をすることで戦う決意と覚悟を決めて気持ちを切り替えるとか、そういうヤツでしょ? わかるわかる。 

 

「……へぇ。なんだよ~、よくわかってるじゃねェかッ! さすがは特務少尉殿だなッ! せっかくならオレのシキガミも見せてやりたいところだけどさ、ぶっちゃけまだまだ修行が足りてねェからムダ撃ちするワケにもいかなくてな? 

 ま、ヨモツイクサどもが現れたら真っ先に見せてやるから楽しみにしとけよ。あぁ、あくまでシキガミを使った殴り合いが得意ってだけで、本体のオレはそこまで格闘戦には強くねェから、そこはしっかり守ってくれな?」

 

 本体の戦闘力がイマイチなのは、ペルソナ使いっていうよりジョジョの奇妙な冒険に出てくるスタンド使いみたいだな。

 いやまぁ、当たり前のようにシャドウと戦えるP4の番長チームのが普通に考えたらおかしいのかもしれんけど。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 歩き続けること……3時間ぐらい? 転生者特有の類稀なるフラグ管理能力により、1度も戦闘することなくソーマが湧き出ているポイントに到着した俺。

 遠くから戦闘の音が聞こえてきたあたり、ほかの輸送部隊は残念ながらヨモツイクサとの戦闘は回避できなかったようだ。ただ、駆逐は不充分でも万が一に備えてベテランの戦闘員が隠れて配置に付いているらしいから、そこまで心配することはないだろう。

 

 むしろ、俺は目の前の光景のほうが心配だねぇ? ほら、テッセン曹長もコレオ伍長もすっかりイケメンフェイスに早変わり、臨戦態勢が完璧に調っちゃってるよ。

 そりゃね? 湧き水が出てる岩場がポツポツあって、それらを取り囲むように綺麗な花が群生している光景は癒し効果は抜群かもしれないよ? 天然自然系の観光地みたいで俺も嫌いじゃないけどさ。

 

 その花から光の粒がポワンポワンと蛍みたいに飛び立ってる光景がなぁ。ル号採掘基地で少年が合体悪魔に変身したときの、周囲のヨモツイクサからMAGを吸い上げたときの様子に似てるんだもんなぁ。

 

 

 ピクシーさんは、アレはMAGに近いものは感じるけど微妙に違うモノだから多分大丈夫じゃないかと言っているが……俺たちだけ回れ右して帰ってもいいかな?



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ベビー/フェイス:5

「……ふぅ。まだ若いですが、間違いなくソーマです。それでは陸軍の皆々様、回収のほど、よろしく頼みますね?」

 

 巫女さんが確認する役目だとは聞かされていたが、まさか味見して確認するとは思わんかったわ。

 

 ナツミ少佐殿の話から強力な回復アイテム──世界観に合わせた言い方をするなら霊薬としての使い道があるみたいだし、神話的にはお酒だから行動としてはおかしくないけど。

 どこまで知っているのかはわからないが、新人たちも巫女さんの行動を見てザワザワしている。さすがに危険だから飲むな触るなぐらいは言われてたんだろう。それを目の前で味見されたらそういう反応にもなるわ。

 

 

 しかし……MAGに近いけれど、MAGとは違うエネルギーねぇ。それが溢れている場所の湧き水。ホムスビちゃんの様子に変化は無し。悪魔関係の研究とは別物なのかな? いや、当たり前か。ソーマの輸送は日常的にやってるみたいだし、秘匿しなきゃならんような資源を新人に運ばせたりはしないだろう。

 とはいえ、傷口を洗うのに使っただけで人間が発狂するエネルギー資源とか悪魔由来じゃなくても怪しさ満点だけどな。巫女さんは味見できること、そして人によっては回復アイテムとして機能することを考えると利用価値があるってのは俺でも理解できるが。

 

 じっくりねっとり考察を楽しみたいところだけどなぁ~俺もなぁ~。なんだっけ、月の満ち欠けとソーマの関係とか教えてもらったことあんだよな。月の正体はソーマの器で、満ち欠けは神々が飲んだり注ぎ足したりしてるから起きてるとかなんとか。

 その神話の設定を無理やり当てはめるなら、このソーマはさしずめ星から得られるエネルギーってところかな? そりゃ下手に人間が口にしたら発狂するのも頷けるって話だ。人が扱う資源にしちゃロマンはあるかもしれないが規模がデカすぎる。

 

 ……う~ん、でも冷静に考えるとそれはそれでちょっと嫌だなぁ。神話だから神秘的だな~で済むけど、人間が同じことやるとなんか星に寄生して体液を吸い上げる害虫にでもなった気分だもん。

 まったく、一歩間違えばこの世界の人類はクロノトリガーのラヴォスを笑えなくなるぞ? 寄生した星のエネルギーを吸い尽くし、また次の星へと渡り続けるとか真似し始めようものなら地球意志どころか銀河の意志に敵対者として見られるんじゃないか? 

 

 

 さて。アホな妄想はこのぐらいにして、ソーマを無事ゲットできたことだし次の問題をどうするか考えねば。新人どもや巫女さんたちがすでに任務はだいたいクリアしたようなもんでしょみたいな空気で油断してるという問題を。

 

「仮にこの任務の責任者が自分であったなら、全員まとめて指導する場面ですな。しかし少尉殿、これは任務であると同時にひよっこどもの資質を試す訓練でもあります。失敗するかもしれないからと、我々が口出しするのはあまり褒められたものではないでしょう」

 

 それな~。

 

 体力的な余裕はあるだろう。なにせ全員が軍人として、軍隊の訓練を受けているのだから。見た目こそ中学生や高校生のような若者だが、化け物と戦争する前提の世界で生きてるヤツが山登り程度で……さすがに動いたぶん疲労するのは人間だから仕方ない、うん。

 

 いやそうじゃなくて。とにかく精神力というか、緊張感が切れてるのは致命的だ。こうなると前半の登り道でヨモツイクサの襲撃が無かったことが逆に悔やまれるな。

 もしかしたら帰り道は襲われるかもしれない、そう思い直してくれることを期待するにはどいつもこいつもヘラヘラ笑っててもぉ~全員まとめて俺ブッ飛ばしちゃおうかなぁ~? 

 

 

「少尉殿。良いご報告と悪いご報告があるのですが、どちらからお伝えしましょうか?」

 

 悪い報せは聞きたくないかな☆

 

「聞かなくても現実は変わりませんよ? ヨモツイクサの群れが接近しています。それも我々を包囲するように、です。

 MAGの反応からして丁型と丙型の混成、少尉殿はもちろんのことテッセン曹長とコレオ伍長も苦戦するような相手ではありませんが……」

 

 リラックスモードの新人たちには厳しい相手、と。ならいっそのことギリギリまで引き付けて奇襲でもしてもらおうかねぇ? 

 なるべく死なせないように立ち回ってやりはするけど、多少の怪我は勉強代として甘んじて受け入れろバカどもめ。痛くなければ覚えませぬ! 

 

 で、良い報せってナニよ? 

 

「いえ、大したことではありません。ただ、このまま何事もなく終わったのでは少尉殿も物足りないまま帰還することになるかもしれないと危惧しておりましたので。

 それにMAGコートのデータ収集も必要ですし、わたくしも事務仕事ばかりで異能の使い方に不具合が出てしまうと困るのです。意外に思われるかもしれませんが、人造超力兵も感覚が鈍ることがあるものですから」

 

 物足りないままでも俺は別によかったよぉ? 健康のためには腹八分目っていうでしょぉ? そういえば俺とコレオ伍長が着てるMAGコートって試作品かなんかだったっけ。テッセン曹長の耐物理コートは実用化されてる量産品だけど。

 まぁいいや。どうせ戦闘は起きるだろうな~って最初から諦めてたし、主人公サイドじゃなければそんな強敵なんてポンポン出てこねぇだろ。ただの数の暴力なんて慣れたもんだぜ! そんなに俺いつも不利な条件で戦ってたかな……。

 

 

 ただソーマの源泉だけは破壊されないように気を付けたほうがいいかもしれん。ヨモツイクサが飲んだりしたら、どんな変化が起きるのか想像もしたくねぇわ。



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ベビー/フェイス:6

「て、敵襲ッ!? 敵襲ッ!!」

 

 そうだね敵襲だね、そんなん見りゃわかるんだから次の指示を出すんだよ。あくしろよ~? テッセン曹長が怒鳴りたくてソワソワしてんでしょうが。

 動揺してないのはユウコ女史ぐらいか。待ちに待ったヨモツイクサとの戦闘が嬉しくてテンション上がってるっぽいな。それは別に構わないけど、お前も敵の接近には気付いてなかったんだなぁ。

 

 こう、イメージ的にね? 巫女さんはそういう気配とかをいち早く察知して伝える役目だと思っちゃうじゃん。

 それを聞いた軍人がビビり過ぎだろガハハハハとか笑って台無しにするとかテンプレだし。今日はどっちも仲良くポンコツだったかぁ~。

 

 

 しゃあないの~。ホムスビちゃん火炎の異能って範囲攻撃できる? 丁型の酔っ払いがデッサンしたおサルさんみたいなヨモツイクサは余裕で焼き払えるですって? それはなにより。

 正面は俺が引き付けておくから、ホムスビちゃんとコレオ伍長にはサイドから来てるヤツらを適当に処理してもらって~、テッセン軍曹はソーマ源泉の近くで混乱したひよっこがバカやらないように見張ってて。

 

 これは新兵どもの経験が最優先されるものであ~る。小隊、頑張り過ぎないように注意すること。よござんすね? 

 

「了解であります、少尉殿!」

「了解でーすッ!」

「了解しました、少尉殿」

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 コレオ伍長のマハブフによる範囲氷結と、ホムスビちゃんの推定マハラギによる範囲火炎で、最初に飛び出してきたヨモツイクサはそこそこ削ることに成功した……のだが。

 ひよっこどもがうるせぇのなんの。戦えてはいるみたいだが、あれではまるで烏合の衆そのものだよ。やはり緊張感が途切れてたのがそうとう効いてるな。

 

 弾丸を撃って当てれば倒せる相手だと理解すれば少しは落ち着くかな? それまでは流れ弾にも警戒したほうがよさそうだ。

 

 

 で、おサルさんの群れにチラホラ混ざってるゴリラみたいなのが丙型か。事前に資料は渡されていたが、顔みたいなパーツが全身にあったり腕が5本も生えてたり触手がウネウネしてたりとバラエティー豊かだなぁオイ。

 毎度のことではあるけどさぁ、たまにはゲームみたいに同じ見た目で同じ能力のザコ敵ABCみたいなご都合主義展開とか少しぐらいあっても許されると思うんだよ俺は。毎回こう微妙に個体差があるから結局いつもノーミス初見突破を要求されるんだもの。

 

 警戒することも多いよ~? 自爆はもちろん、触ると毒とか、触ると麻痺とか、触るとウホッ! とか化け物との戦いは常に危険と隣り合わせなんだよ。

 

 だからできればユウコ女史にも素直に後ろに下がってて欲しかったんですけどね。護衛部隊の連中は引き留めもせずになにをやってるんだッ!

 ……うわぁうわぁ叫びながらマシンピストル撃ちまくってたわ。初動ちょこっと抑えてやったんだからさ、気持ち程度でもいいからいい加減に落ち着いてくんねぇかなぁ。

 

 

「そんなイヤそうな顔するなよ特務少尉殿。それにシキガミの戦い方を見せてやるって言ったろ? 別に複雑な準備が必要なワケじゃねぇ、この純度の高いMAG結晶体を加工して作った銃弾を頭に撃ち込むだけの簡単な作業だからよ。──出番だぜェッ! 『コロウマル』ッ!!」

 

 アレは……バイオニック・ポチッ!? 

(初代メタルマックス並感)

 

 巫女さんが使役するシキガミという和風奇譚シチュエーションに反して、あの絶妙な生身の狼具合と装甲部分を走る光の筋によるサイバー感。これはなかなか男の子心をくすぐる見た目である。

 ビジュアル的には俺はかなり好きなほうだけど、ピクシーさん的には実物を見てどうなのか気になるところ。キリノハの巫女さんに対してはなにやら不穏な感想を述べていたワケだが。

 

 

(キモい)

 

 火の玉ストレート豪速球ッ!? 

 

 

(同じなの。アレ、アタシたちと同じアクマなの。でも中身はカラッポで、イロイロなモノがゴチャゴチャに混ぜられてて、でも気色悪いMAGで満たされてて人形みたいなのをあのニンゲンが操作してて……。

 ひと言でまとめるならキモい。あと見ててイライラする。一応、アンタにとっては味方みたいだからガマンするけど、まだまだ不満も言いたいこともたくさんあるからね?)

 

 

 えーと? 

 

 シキガミの正体は悪魔で? 

 

 でも中身は無くて? 

 

 それでごちゃ混ぜ……改造されてる? 

 

 んで。

 

 MAGのようでMAGじゃないモノで動いてるのを、巫女のユウコ女史が操っているとな? 

 

 

 ピクシーさんがもの凄く嫌そうに悪魔認定しているが、ホムスビちゃんがバーサーカーモードに変化する様子は無し。むしろ変化したら困るというか、これで変化したら悪魔送還プログラムを作成したヤツがアホ過ぎるというか。

 それとも順序が逆だったりするのかな。悪魔送還プログラムに反応しないように、悪魔を利用するために開発されたのがシキガミなのかもしれん。メガテニスト感覚で考えるなら、人間なんて生き物は悪魔を利用するために捕獲して改造するぐらいのことを平気でやるでしょ。

 

 しかしそうなると、ピクシーさんがル号採掘基地の地下から感じ取った不快感の正体は、人間が悪魔を捕まえて実験を行っていた名残のようなものってことに──あれ? テッセン曹長が話してくれたウワサ話では天使兵に関するトラブルって……それに、あの合体悪魔に変身した子どもが意味深な単語をなにか口にしていたような……。

 

 

 …………。

 

 

 さぁッ! ソーマも確保したことだしッ! 包囲してきたヨモツイクサをサクッと倒してひよっこたちを野営地まで送り届けてやるとするかぁッ! 

 これは任務でお仕事で、俺の役目は護衛だからな~。巫女さんたちも無事に帰さなきゃいけないし、余計なことを考えてる暇なんてないな~残念だなぁ~ッ!!



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ベビー/フェイス:7

 オレ、グンジン。

 

 オレ、タタカウ、シゴト。

 

 オレ、ヨモツイクサ、タオス。

 

 

 真面目に働いて、汗を流して、コツコツお金を稼いで生きるのが平凡な日本人としての幸せの形だと僕は思いまぁすッ!

 それが拳銃とサーベル握りしめて化け物と殴り合うお仕事だとしても、桁違いの権力と政治が関わるような世界に首を突っ込むことに比べりゃ百億万倍マシなのよチクショウッ!! 

 

 冷静さを取り戻したつもりになれたところで、好き嫌いはともかくユウコ女史の戦闘力はどんなもんか確認しておかねば。自己申告では物理アタッカーと呪殺魔法が使えるらしいが……。

 

 

「まずは先手で数を減らすとすっかッ! いくぜコロウマルッ! ムドオンッ!!」

 

「──、──ッ!!」

 

 

 ほぅ。敵単体にダメージだったり高確率で即死を付与したりする、ムドの強化版『ムドオン』ですか。というかユウコ女史は普通に魔法の名前を知ってるんだな。そういやカネサダちゃんも言ってっけ、魔法の名前を知ってるのは限られた立場だけなのに~みたいなこと。

 日本帝国魔導院そのものか、八葉なる集団なのか、それともシキガミを操る巫女に限定されているのか。ま、どのみち俺には関係ないね。これまで通り下手に詮索されないよう仲魔に詠唱してもらうだけさ。

 

 というか。シキガミは悪魔と契約とか関係なく見えてるんだな。あとたぶん遠吠えも。オイコラひよっこどもお前らこれで勝てるじゃねぇんだよ、お前らの能力評価を兼ねた任務なんだぞ巫女に助けられて喜ぶな少しは悔しがれスカポンタン。

 

 でも俺はお前らの手首クルクルな態度の変化を許すよッ! 皮肉でもなんでもなく心からなッ! そうだね、誰だって死にたくないし自分以外の強い誰かが護ってくれるなら大歓迎だよね~。

 あれ? もしかして単体の戦闘力なら正規の訓練を受けているB民よりも、ポツポツ異能に目覚めたD民のほうが上だったりするのかな? 環境の違いと言ってしまえばそれまでだが……そうなるとC民産まれの戦闘員がどういう基準で選出されてんのかわからんな。

 

 

 ま、いいや。仕組みが理解できたところで俺の生存戦略には大した影響なかんべ。そんなことより巫女さんたちの戦力が期待でき……るのはユウコ女史だけですかそうですか。ほかの巫女たちは早くヨモツイクサを倒せとキャーキャー騒いでたわ。

 

「シキガミの召喚は体力も精神力も消耗すっからな。疲れるようなことをしたくないってのは軍人だって同じだろ? 

 それに、オレたち柘葉一族はそうでもないが、八葉の大半は異能が使えないヤツを日本人として見てないヤツしかいねェんだわ。協力しようなんて考え方はアイツらの頭ン中にはねェよ、確実に。

 こんなときまでバカだよな~? いくら異能が使えようがシキガミを従えようが刃物で斬られりゃ血は出るし、頭を撃たれりゃ簡単にくたばるってのによ」

 

 ……普通だな! 人間を使い捨てにする制度が確立してる社会だぜ? そりゃ特権階級の連中なんてそんなもんだろ。むしろ柘葉一族とやらのほうが異端者扱いされてるんちゃうか。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 いやぁ、ヨモツイクサの包囲網は強敵でしたね! おサルさんタイプを俺が引き受けて、その後ろからユウコ女史がムドオン連発でゴリさんタイプを片っぱしからオォンッ! するだけの簡単なお仕事でした。

 反射するヤツいなくて本当に良かったわ。だって言えねぇもん。もしかしたら呪殺反射の能力を持ってるヤツがいるかもしれないぞッ! なんて言えねぇもん。体験したことが無いから知らない情報なんだもん。

 

 仲魔の誰かが物理反射のテトラカーン、あるいは魔法反射のマカラカーンを使えるようになるか、もしくはそういう異能の持ち主と出会うか。

 どちらかの条件を満たさん限り頭で危険とわかっていても殴らにゃならんのは辛いのぅ……。このMAGコート、フルパワーでエネルギー流したら無効化とか反射の効果出ねぇかなー? 

 

 

 とりあえず忘れずに倒した敵からMAG結晶体を回収せねば。与えられた権利は最大限に活かしてレベルアップしなければ生き残れんのだよ。

 野営地なら監視カメラも少ないだろうし、ホムスビちゃんさえどうにかできればモグモグするタイミングもあるだろう。

 

 テッセン曹長も興味があるようだが、よほど追い詰められない限りはなるべく止めておくようにと言っておいたのは正解だな。シキガミ関係の怪しさを考えると間違ってはいない、はず。俺はもう後戻りできないから食べ続けるけど。

 

 あとは新人たちをどうするかだけど……もう放置でいいかな、うん。ついさっき油断して奇襲されてジタバタしたばっかりなのに、また終わった気分で浮かれてんだもん。手に負えねぇよ? 

 だって明らかにおかしいだろコイツらの態度は。この前訓練を担当していた大尉殿はまともな人だったし、ナツミ少佐殿もこんな腑抜けた態度を許す人じゃないだろう。そもそも殺すか殺されるかの戦争やってんだぞ? それがこのザマってのは異常でしかない。

 

 俺の記憶にあるフラグコレクションに当て嵌めて考えるなら、巫女側の、日本帝国魔導院の思惑として……任務が無事に終了すると不都合だからナニかやった、とか。あるいは全く関係のない第3組織の介入か。

 

 あーやだやだ。もしも予想が当たってたらまだまだこれからだよ命の危険があるのは。せめてもの救いはヨモツイクサどもがソーマ飲んでパワーアップッ! みたいな展開が無いまま終わったことだな。

 案外、ヨモツイクサにとっても猛毒だったりしてな。特定の生物には有益でも、ほかの生物にとっては有害な物質なんて前世の地球にも普通にあったし。だからといって虫除けスプレー感覚で試してみようとは思わないけど。だって予想が外れてたら危ないし。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 塩っけの少ない握り飯にジャガイモとタマネギのお味噌汁という簡単な食事でも、薄い壁で申し訳程度にしか部屋として機能していない小屋の中でも、任務に区切りを付けての休息を……最高やな! 

 もちろん俺より階級が上の人たちや巫女さんたちはもっとまともな場所で休んでいるが、B民出身であろう少尉候補生たちでさえもテントが割り当てられていることを考えるとかなり優遇されているほうなんじゃないかな。

 

 あとは基地に戻るまで平和であることを願うばかりだ。移動はトラックだから楽々だけど、行動が限定されるぶん罠も仕掛けやすい。余計なことを言って逆にスパイかなにかとして疑われるのは困るから、先手を取られて手遅れになってから対処するしかないのマジぴえんなんだが? 

 

 

「失礼しますッ! あの、少しお時間いいでしょうか?」

 

 

 おや。コウタロウくんと一緒にいた女の子の、活発というか強気なほうの子じゃないか。どうした、なにかトラブルでも起きたのかい? 

 もしそうなら俺たち以外のところへ相談に行って欲しいんだけど。俺、陸軍の階級も持ってるけど公的な立場は観戦武官っていう余所者扱いだし。

 

「実はその、先ほどの任務でコウタロウ候補生が……その、巫女様たちのシキガミを使った戦い方を見て、自分が異能を使えないことを悩んでいて……それで! あの、特務少尉殿なら異能について、なにかアドバイスをいただけないかと……思い、まして」

 

 だからァッ! 

 

 主人公特有のイベントにィッ! 

 

 俺を巻き込まないでくれるかなァッ!? 

 

 どう考えてもコウタロウくんが覚醒するとかそういう流れの導入につながるヤツだろこれはァッ!!

 はいフラグ乙~☆ これは基地に戻る前にトラブル起きるヤツですねわかるけどわかりたくなかったよッ! よォッ!!!!



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ベビー/フェイス:8

 こういうのはまずホムスビちゃんに確認しよう! 異能の取り扱いについての決まりごとを俺は知らないからな、ここは優秀な副官に助言をもらおうじゃないか。

 

「すいません、よくわかりません」

 

 急にロボットだかAIみたいなこと言い出したぞこの人造超力兵。

 

「まず前提として、わたくしたちオルギア式人造超力兵は異能が使えるように製造されています。なので“何故異能を使えるのか”という質問に対しては“そのように製造されたから”としか答えようがありません。

 そして、人間が異能を使えるようになる条件についてですが、わたくしは一切の情報を所持していませんので予測することすらできません。機密漏洩の監視項目に軍内部での異能の情報提供及び共有は含まれていませんので、少尉殿が候補生へアドバイスをなさることに問題はないはずですが」

 

 へー、ざっくりしてんねぇ? 

 

 なんか言ってる内容に対してまともなようで違和感バリバリっていう謎の感覚があって少し気味が悪いが、頭の悪い俺には関係ない話だな! 

 考えることが多すぎると脳ミソのキャパシティ限界越えてストレスでブッ倒れるかもしれないし、直ちに生死に直結しないような情報処理なんて後回しで上等だろぉ? 優先順位を明確にする能力は社会人には必須なんだぜ。

 

 

 で……アドバイスか。俺とコレオ伍長は論外なので、ここはテッセン曹長にお願いしよう。

 

「お任せください少尉殿、と言いたいところではありますが。──おい貴様、異能についてアドバイスをしてやるのは構わんがな、それはいったい誰が教えて欲しいと言ってるんだ?」

 

「え? あの、ですからコウタロウが……」

 

「本人がそう言っているというのなら、そのコウタロウ戦闘員候補生が少尉殿のもとへ来て頭を下げ教えを乞うべきだろう。違うか?」

 

「それ、は……」

 

「貴様の独断だな? 自分で頼みごとすらも出来ない意気地の無いヤツもたまに見掛けるが、アレはそういうタイプには見えなかったからな。

 悩む仲間のためになにかをしてやりたい、その気持ちまでは否定せん。だが本人の意思を無視して勝手に先走るのは決して褒められたモノではないぞ?」

 

「申し訳……ありません、でした。少し、頭を冷やしてから本人と話してきます……」

 

「うむ、それがいい。まずはしっかり身体を休めて、それからチームでちゃんと話し合え。その上で異能についてアドバイスが欲しいとなれば面倒を見てやる。貴様ら新兵を鍛えてやるのも曹長の仕事だからなッ!」

 

「あ……はいッ! そのときは、ありがたくお世話になりますッ! 今日は失礼しましたッ!」

 

 

 

 

 はぇ~。なんとも鮮やかなお手並みで帰したものですなぁ~。そういえばテッセン曹長、俺の案内役を押し付けられる前は指導役やってたんだっけ。

 

「Cクラス出身の志願兵にも似たような拗らせ方をする者がおりましたからな。ようやく初陣を迎えたばかりのひよっこだという自覚が足りず、自分より上手に戦える者と比べて落ち込む者が。

 自分などは穴堀りが性に合わなくて志願した口ですが、化け物と戦い平和を守り国家に貢献するという憧れで銃を手にした者であれば避けられん悩みでしょう」

 

「……あぁ、そういうことですか」

 

「副官殿? どうかなされましたか?」

 

「ソーマの危険性を周知しているにも関わらず、ソーマを摂取したことによる死亡事故が減らない理由に納得していたところです。

 なるほど、自身の戦闘能力に不満のある兵士が能力強化や異能の獲得を期待して飲んでしまうのですね。死を恐れず帝国の守護者として誇れる軍人たらんとする精神は結構なことですが……手放しで褒めるには損失が大きすぎるのはいただけません」

 

 逆に死を恐れた結果、MAG結晶体を食いまくって悪魔と契約するまでこぎ着けたヤツがここにいるんですけどね。

 そのせいで正しい異能の目覚め方を知らず会話のどこに地雷があるのか常にビビる羽目になってるんですけどね。

 

 

「あのー、副官さん。そんなにソーマを勝手に飲んじゃうことが問題なんですか?」

 

「そうですよ伍長。なにか改善策でも思い付きましたか?」

 

「改善策っていうか、それって回収した資源を勝手に使っちゃうワケですよね? 罰則とかはないんですか?

 無事にパワーアップできたとしても厳しい罰が与えられるってなれば、飲もうとする人も減るんじゃないかな~って」

 

「……罰則は、特に定められていませんね」

 

「まぁ、ひよっこどもが初任務で運ぶワケですからな。下手に罰則など定めようものなら教育どころではなくなるのでしょう。タタラの採掘基地でもMAG結晶体を破損した場合についての決まり事はありませんでしたからな。

 もっとも、死者が出るほどの被害が出ている時点で教育だなんだなどと言っている場合ではないと思いますが。命令に従い死ぬのも兵隊の仕事ではありますが、もう少し有意義に命を使って欲しいものです」

 

 そういえばノルマは決まっていたけれど、MAG結晶体を壊した場合のペナルティとかは説明されたことないな。単に確認する方法が無いってだけかもしれんけど。

 んー。たぶん、わざとかな? 異能に目覚めるためにMAG結晶体の、あるいはソーマの影響が必要なのは確実だろうし。B民の新人教育もD民みたいに戦力の強化を期待して──それならちゃんと訓練で教えたほうが効率的じゃん。

 

 

 うん、わがんねッ! 別にどうでもいいか~俺はもう異能に目覚めて~は~いないけど仲魔に恵まれてるしぃ~? シキガミとやらに興味がないワケじゃないけど、ピクシーさんに嫌われるほうが死ねるので当然の権利のように却下です。

 まぁ気分的にあまり関わりたくない要素でもあるけど。そりゃスキルの都合で好き勝手に合体させたり、交渉で宝石を持ち逃げしようとしたヤツを過剰火力でオーバーキルしたりはするけどさ、改造して傀儡人形にするのは別問題だよ。

 

 悪魔を殺すのは平気だけど、オモチャにするのはダメですッ! 自分で言っててなんだけど、ワケわかんねぇ理屈だな? 

 つまりはこういうことか。この世に悪があるとすれば、それは人の心だ……と。いやまぁ、それぞれが正義を掲げて殺し合いするのがメガテン世界の日常なんですけどね。

 

 

 さ、余計なこと考えないで今日はもう早く寝るべ! 明日の帰り道が平穏無事である保証なんてないからなッ! 

 

 でも外から爆発音が聞こえてきたから寝れないね! 明日の帰り道どころか現在進行形でトラブってるなッ!?



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ベビー/フェイス:9

「……ッ!? 少尉殿、申し訳ありませんが敵の詳細について説明する権限をわたくしは持っておりません。お伝えすることができる情報はふたつだけ。襲撃者は『人間』であること、ほぼ確実に集団であり全員が異能を使えるということです」

 

 ほー、そうかい。なら俺のほうから質問いいかい? ソイツらは日本帝国軍の敵なのか、帝国軍の軍装を身に付けている俺の命を狙ってくる可能性はあるのかってことを教えてくれると助かるな~。

 

「はい、少尉殿。敵の目的に帝国軍人の殺害が含まれている可能性は高いかと」

 

 それだけわかれば上等だオラァッ! 相手が何者かなんて関係ねぇッ! 喧嘩を売ってくるなら高く買い取ってやるぜヒャッハァァァァッ!! 

 

 雄叫びは心の中で、頭は常に冷静に。まずは簡単に手早く現状の整理。相手は人間の集団でホムスビちゃんは正体を知っているが俺には話せない、ならば襲撃者は十中八九どころか確実に帝国軍の敵対組織。

 どこが区切りになるかわからんが、上の人間は把握している。しかし襲撃されても下っぱに教えることができないとなれば、敵対関係とは別になにか厄介な事情が含まれていると考えるべきだ。

 

 狙いはなんだ? いや、どっちだ? 正規の軍人に混じって、敵側からすれば混乱を狙いやすい新兵ども。そしてまともな基地に比べれば防御力が低い。そこにはソーマと巫女という、いかにも狙ってくださいと言わんばかりの物件がある。

 

 

 んー。巫女かなッ! 

 

 

 ソーマも充分に危険物だが、ひよっこたちが台無しにしてエグい事故が起きても罰則が無いなら放置でいいだろ。現場の判断だよ文句あるなら次からは損失したときのペナルティを用意しておくことだ。

 それに対して、巫女は詳しく説明されなくても手持ちの情報だけで厄介事の塊だとわかる。死傷者が出るのはもちろん、もしかしたらシキガミの異能を目当てに連れ去るなんてパターンもあるかもしれない。

 

 それじゃあ小隊、戦闘準備ッ! えー、面倒なことになりそうな順番にいろいろ考えた結果、巫女を守らないと厄介なことになりそうなのでそっちを優先します。異論はあるかな? ない? よ~し、駆け足で行くどぉ~ッ! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 初めての人間相手の戦闘ですよ、皆さんッ! ねッ! テッセン曹長もコレオ伍長も初めて見る相手だからって緊張し過ぎないようになッ! 余計なことを考えると大変なことになるからねッ! 

 

「はい少尉殿ッ! 初見の敵が相手でも戦闘に集中してみせるでありますッ!」

 

「んー? あの格好、どこかで──気のせいでしたッ! ハイッ! コレオ伍長、対人戦闘でも頑張りまぁすッ!」

 

「?? よくわかりませんが、士気が高いようでなにより、です?」

 

 よしッ! うまく誤魔化せたなッ!! 

 

 

(コイツら、アレよね? いつかの地下で植木鉢にされてたニンゲンたちの仲間なんじゃない?)

 

 お、そうだな。

 

 

 嗚呼、今日もいつものように頭が痛い。別に睡眠不足というワケでもないのに、ヤツらが俺を悩ませる。点と点が線で繋がりそうなのを全力で引き千切って無かったことにしてやりたい。

 そういえば運命の糸を切る担当の女神とかいたっけな。もしも仲魔にできたらフラグもチョキチョキ切断してもらおうそうしよう。

 

 とにかく巫女だ、巫女を助けるのだ。これがラノベなら転生者がひとりで駆け回る羽目になるところだが、ありがたいことにベテラン軍人の皆さんが普通に善戦しているので戦況にも俺の心にも余裕がある。

 

 

 

 

「大人しくしろッ! そうすれば危害は加えんッ!」

 

「やかま、しいッ! 離せよテメェ、よぉッ! オレの召喚器をッ! 返しやがれェッ!!」

 

 

 

 

 巫女に腕力で迫る軍人。なかなかわかりやすい構図だな?

 

 襲われている巫女さんが申し訳程度に顔見知りのユウコ女史だから助けるけれど、今後は罠が仕掛けられているかもしれないと警戒が必要かもな~。

 屈強なゴリマッチョと可憐な少女が揉めていたら女の子を助けたくなるのが人情だが、そんな人間性につけ込んでくるのが悪魔だからな。一番最悪なのは「貴方は素晴らしい人です!」とか言いながら天使が出てくるパターンかな、うん。

 

 ま、今回は知り合いだからノーカウントだよ、ノーカウント! ──受けてみよッ! サーベルキィィックッ!! 

 

 

「ぐほぁッ!?」

 

 

 説明しよう! サーベルキックとは、右手または左手にサーベルを握った状態で助走を付けて、なるべく当てやすい相手の胴体辺りを狙って蹴りを叩き込む物理スキルであるッ!

 

 つまりは……キックだッ! 

 

 

「ッ! アンタは……へへッ、ナイスタイミングだぜ特務少尉さんよッ! よし、召喚器は壊れてねぇな。それで、コイツらはいったい何者なんだよ?」

 

 さぁ? ただ敵なのは間違いないんじゃない? 俺にとっても、お前さんにとってもな。情報としてはそれで充分だと思うけど。

 

「なるほど、そりゃそうだ。ったく、こんなことならオレもひと口ぐらいソーマ飲んで回復しときゃよかったぜ。ちとキツいが……黙ってヤられるワケにはいかねぇってなッ! ──コロウマルッ!!」

 

 MAG結晶体から作られた弾丸を頭に撃ち込んでシキガミという名の改造悪魔を召喚する。冷静に考えたら俺もやってることあんまり変わらん気がしてきたな。MAG取り込んで仲魔を呼び出したり強力なスキル使ったりしてるワケだし。

 良し悪しで言うならユウコ女史のやり方のが何倍もマシというか羨ましいというか。食べてるとこ見られたらいけないってのもそうだけど、とにかく不味いのがなぁ。味さえまともならもう少し気分よくレベルアップできるのに。

 

 おっと、そんなことより巫女たちの安全確認をせねば。えーと……お、よしよし! どうやらこの辺りにいた巫女たちは大丈夫そうだな。ほかの軍人たちも集まってきたし、巫女たちもそれぞれシキガミを召喚してるしで応戦体勢は整いつつある。

 問題は襲撃者たちがどれぐらいの実力者なのか、というところか。いつかの合体悪魔よりは弱いと仮定したところで、そもそもあの合体悪魔が俺より遥か格上だから戦闘力を推察しようにもなんの参考にもなりゃしねぇ。

 

 

「チィッ!? 与えられた命令に従うことしかできない狗どもが、我らの大義をッ! 信念をッ! 邪魔することなどッ!! ──同志たちよ、臆するなァッ! 正義無き独裁者たちに操られるだけの連中に、我らが敗北する道理など無いッ!! 

 自由の歌をッ! 平和の歌をッ! 聖戦の開始を告げるラッパを高らかに奏でるのだッ!! 混迷の霧を吹き飛ばし、欺瞞に満ちた世界を破壊し、人々に新たな秩序をもたらし、真なる幸福の中で生きられるようにッ!!」

 

 

 あ。

 

 この流れはもしかしなくても。

 

 

 

 

「天に勝利を、地に解放をッ! 我々こそが、人々の未来を守護する最後の『救世主』であることを忘れるなァッ!!」

 

「「「「オォォォォッ!!!!」」」」

 

 

 

 

 き、救世主だってぇ~ッ!? 

 

 つまりコイツら相手には説得はもちろん会話も試す必要がないってことだな。暴力と混沌が大好きな頭ガイアは一応会話が成立するけど、正義と秩序が大好きな頭メシアは会話そのものが成立しねぇもん。

 まぁ、連中にも連中なりの考えと正義があって、世の中を良い方向へ変えたいって気持ちに嘘はないのかもしれない。それは理解してやろうじゃないか。でも俺の平和を乱す存在には違いないから遠慮なくブン殴るね?



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ベビー/フェイス:10

「皇帝の狗どもよッ! 貴様らのペギャ」

 

 なぐる こうげき! ナックル! 

 

 いやぁ、演説の最中にピクシーさんにこっそりスクカジャを重ねがけしてもらったおかげで楽勝でした。

 

 これが戦いなら気絶で放置するところだけど、俺たちがやってるのは戦争だからね。ここは油断せず、しっかり顔面に弾丸何発か撃ち込んどこ。

 容赦? 躊躇? すまねぇ、そんなうまのふんより役に立たないモノは国家貢献の義務が始まった初日で売り切れたわ。平和な日本で暮らしていた前世の感性なんて、本物の死の恐怖を体験すれば案外簡単に捨てられるもんだよ。

 

 とはいえ。救世主だの聖戦だの叫んでいただけあって、仲間がひとり天に召された程度では戦意喪失など望めるワケもない。そもそも最初からそんなん期待してないけど。

 ただ隙を作ることに成功したのは事実である。当然プロの軍人たちの反応も早い。無駄に驚いたり感嘆したりすることもなく、景気よく銃声を奏でている。

 

 

 よし、これなら巫女たちも……肉体的には無事だけど精神的にはダメージを受けているようで。正面から斉射を受けた襲撃者たちの手足がバラバラになったりアンコが飛び出している光景に耐えられなかったらしい。

 

 お前らヨモツイクサ相手にシキガミでやんちゃしたべや。アレだって生モノやぞ? そこに違いなんてありゃしねぇ──こともないか。

 同じ人間が相手ってだけで感じ方なんてまるで違うだろうし。肩書き掲げて他人を見下してたわりに、案外だらしねぇな? どうかその感性を失わずに大人になってほしい。たぶん叶わぬ願いだが。

 

 

 

 

「やっぱり仮染めの肉体のままでは脆すぎる……ッ! みんなッ! 魂を解放して戦うのよッ!!」

 

「「「「了解ッ!!」」」」

 

「ガーヂアン部隊、前にッ!! 僕らが命と言う名の盾になるんだッ!! 神聖なる儀式を、人間の超越を祝福する贄となれッ!!」

 

「「「「オォォォォッ!!」」」」

 

 

 

 

 不穏な単語を叫びながらMAG結晶体を取り出した襲撃者たちを、不穏な単語を叫びながら身代わりの壁になって弾丸を防ぐ襲撃者たちとかいう最低の光景よ。

 味方の射線を邪魔しないよう一撃離脱をしたのがこれ以上無いほど裏目に出ちゃったよもったいねぇぇぇぇッ!! あのまま前に突っ込んでイッポンダタラの暴れまくりかヒートウェイブで薙ぎ倒すのが正解だったかなァッ!? 正しく後悔先に立たずって感じィッ!! 

 

 

 それで、お前らいったいナニをするつもり──あ、MAG結晶体を食べ始めた。さては強力な魔法スキルで形勢逆転を狙うつもりだな?

 単純に上位の攻撃魔法を使ってくるのか、それとも即死系や精神・神経に作用するバッドステータス付与を狙ってくるか。だがその程度なら数の有利に気合いと根性でなんぼでも対処ができる……と思ったんだけどなぁ。

 

 

 コレオ伍長。生きてるって、素晴らしいことなんだって実感しないか? 俺は正直なところ、仲魔に恵まれたことは嬉しいけどそれはそれとして頭痛が痛むわ。

 

「もしかしたら私たちもあんなふうになってたかもしれないんですねぇ。うわぁ、なんかもう、いろいろキモチ悪いよぉ……」

 

 

 

 

「どうッ!! これが死を超越する資格を得た者だけが手にすることを許された、人類を新たな世界へと導く救世主の力よッ!!」

 

 

 

 

 救世主を自称するなら、ビジュアルはもっと一般受けを狙った方が世間に受け入れられると思うんだけど。前にコロニーで戦った推定天使よりもキモいぞお前ら。

 パラサイト・イヴのクリーチャーやデッドスペースのネクロモーフも肉々しい異形の化け物で雰囲気出てたが、MAGモグモグした襲撃者たちは人間部分がしっかりそのまま残ってるから不快感がパネェわ。

 

 ……いや。よく見たら俺の知るメガテンの悪魔みたいな要素を所々に感じるな。どういうことだ? クソッ、なんかこう記憶からヒントを掴めそうなんだがゆっくり考え事してる暇なんてなさそうだ。

 

 ハッ!? ホムスビちゃんはどうなったッ!? バーサーカーシステム、じゃなくて悪魔送還プログラムは発動したのかッ!? してないねッ!! 

 えぇ~? じゃあどういう基準でブチ殺す判定が出てんのぉ~? それとも俺が勝手に悪魔っぽいと思ってるだけで、アレもまた別物ってコトぉ? シキガミに近い感覚とか。

 

 あるいは、そもそもオルギア式にプログラムが組み込まれていないとか? 旧式のアラヤン式だけに搭載された、現代を生きる者は存在すら知らないプログラムだったりして。それはそれでロマンありますねぇ! 問題は俺を全力で屠りに来ることですが。

 

 

 さてさて? 死の超越がどうとか言っていたが、無事判定に失敗した連中は身体の内側から肉が膨張してダークファンタジー系に出てくるバイオレンス肉団子みたいな塊に変化してしまっている。

 それがだいたい半数より多いぐらい。アレがそのまま蠢くだけで使い物にならないのであれば、数の有利はますます帝国陸軍に傾いていることになる。

 

 だが残りは変身したことで物理耐性が付いたのか、それとも単純に肉体の強度が増したのか、コチラの弾丸はほとんど効いてない様子だ。

 

 

「銃弾は効果が薄いぞッ! 異能で攻撃しろッ! ──電撃よ、ヤツらを貫けッ!!」

 

「バカねッ! 異能の力っていうのは……()()とは、こう使うのよッ! ──マハ・ザンマッ!!」

 

「な、オレの電撃が打ち負けグァァァッ!?」

 

 

 軍人さん吹っ飛んだぁーッ! いまアイツはっきり魔法って言ったな。聞き間違いなんかじゃない、異能ではなく魔法ってわざわざ言い直しやがったぞ。やっぱり悪魔と合体してんじゃねぇの? 

 

 まったくも~。展開は早いし、情報は教えて貰えないしでワケがわからないことばかりだが……ひとつだけ、俺の頭でも理解できることがある。

 それは、前に戦った天使っぽいヤツは自爆してくれたから助かったものの、今回はソレを期待できそうにない上に数が多いってコトだよ☆

 

 

 プランD、いわゆるピンチです。

 

 

 序盤のボスキャラが量産型ザコで出てくるのはジャパンRPGの定番だけどさぁッ!!

 実際に体験すると結局ボスはボスのまま格上の存在だから悪夢でしかないんだよクソがよォォォォッ!!!!




妙だな……何故か一部の読者兄貴姉貴たちの心がひとつになっているぞ……?


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VS量産型プロトメサイア:1

 状況を分析するのは学者先生の仕事であり、状況に対応するのが軍人商売の仕事である。

 アレの正体を考えるより先に戦況を動かす側に立つ方が優先だろッ! 頼んだぞ、イッポンダタラッ!! 

 

(ウォれのぉッ! 金槌はァァッ!! 最コォォだゾぉぉッ!! うルぁァァッ!!)

 

 もちろん直接は狙わない。物理耐性が不明なのもあるが、なんとなくイッポンダタラに触れさせないほうがいいかもしれないと感じたからだ。

 

 だったらなんのために召喚したのかって? そりゃ当然、攻撃を仕掛けるためですよ。

 ゲームと違って干渉できるのは敵だけに限定する必要なんて無い、例えばそう──地面を狙って全力でブッ叩けば、土や石ころが礫となって散弾にも目潰しにもなるわなァッ! 

 

 

「ぐッ!? 小癪なァッ!!」

 

 

 へッ! どうだ? なまじ力や才能に溢れて自信満々な貴様らにとっては、格下特有の恥も外聞もお構い無しで生き残ったヤツが一番偉いスタンスのクソ戦法に対応するの難しいだろバーカッ! 

 相手を怒らせることになってしまうのが難点だが、対話をする予定も無ければ協力関係になる可能性もゼロに等しいなら気にせず卑怯な手段を使えるから気楽なもんだ。

 

 まぁ? 仮に相手が本物の善人だったとしても俺の命を脅かすなら全力で抵抗しますけど? 

 もしも不特定大多数を助けるために死んでくれと泣きながら頭を下げて頼まれたなら、そのまま顔を上げる前に()()()()へフルパワーの一撃叩き込んで逃げるぞ俺は。死ぬぐらいなら喜んで道を踏み外してやらァッ!! 

 

 

 だが、いまはまだその時ではない。

 

 

 本音としてはテッセン曹長とコレオ伍長とギリギリついでにホムスビちゃん辺りが生き残ってくれればいいか~ぐらいにしか考えていないが、味方は多ければ多いほど俺がターゲティングされる確率は減るワケで。

 だったらなるべく助けたほうがウマ味だよなぁ? 問題はどういう優先順位で手助けするかだが……最初は巫女を守りながら襲撃者たちの行動を観察するべきだろう。

 

 リスクは決して低くはない。向こうの目的には巫女の確保とかも含まれてるっぽかったし、巫女の側にいれば自然と戦闘に巻き込まれることになる。

 だが、相手の行動の方向性を絞ることに成功したときの恩恵は決して小さくないはず。立ち向かうのも逃げるのもトンズラするのも相手に身体の正面の裏側を見せて速攻前進するのも自由自在で戦略の幅が広がるってなもんよッ! 

 

 

 と、いうことで~、どうせなら見ず知らずの他人よりは、多少は交流のあったユウコ女史と協力して襲撃者と戦うほうが気持ち的にだいぶ楽だろう。

 戦力として期待できるのはもちろん、本人も好戦的な性格をしているから正気さえ取り戻せばなんとかなるべ。

 

 だからホラホラッ! いつまでも混乱してないでシキガミを動かしなさいッ! アレの正体が何者だろうと、お前さんを連れ去ろうとした事実は変わらないんだから。強制的に連中の仲間入りしたくないなら全力で抗うんだよッ! 

 

「──ッ! そ、そうだな。アンタの言う通りだ。オレだって厳しい訓練を生き残ってシキガミ使いになったんだ、こんなところで……こんなワケわかんねぇ連中に利用されてたまるかってんだッ!」

 

 よぉし、その調子だぞユウコ女史ッ! 訓練に耐えたでもなく乗り切ったでもなく生き残ったってセリフに特権階級の闇の香りを感じないこともないが、いまはそんなことを気にしてる場合じゃないのでヨシッ! 

 

 

「汝は我が血、我が肉であるッ! 新世界の礎となる汝の魂は、我と共に生き永遠の喜びの中を彷徨うことになるだろうッ!」

 

「ォ……ォォォォ……ッ!」

 

 

 せっかくユウコ女史がやる気を出してくれたのに、いきなりそれを削ぐような行動しないで欲しいんですけど? 

 

 しかしなるほど。これ見よがしにMAG結晶体食べて変身に失敗した連中はなんなんだと思っていたが、アレの役目は変身に成功した連中の能力を高めるためのエサというワケか。

 肉の塊に腕を突っ込んで、ブチブチと引き千切るように毒々しく歪んだ色合いのMAG結晶体を取り出して砕く襲撃者たち。戦闘力だけじゃなくて狂気の具合もパワーアップしている気がするが、それで冷静さを失ってくれてるなら付け入る隙もあるかもしれん。

 

 

 手始めに~? 力を制御しきれないのか、魔法スキルも使わずまっすぐ突撃をしてくるヤツらを側面からガンガン蹴り飛ばしてバランスを崩してぇ~。ユウコッ! 

 

「応ッ! まとめてくたばりやがれッ! ──マハムドオンッ!!」

 

 足下に出現するは紫に輝く危険な気配ビンビンの大きな魔方陣ッ! 咄嗟に高く飛び上がり回避する俺ッ! 眼下では襲撃者たちが溶解するように、あるいは粉砕されるように次々と消滅していく。

 マジか。固有スキルを除けば呪殺系の中で最上位の魔法スキル『マハムドオン』なんて使えるのかよ。いや、さすがにムドオンとは消耗が比べ物にならないのか座り込んじゃってるな。

 

 オイオイ、大丈夫か? 息も荒いし汗もヤバいぐらい吹き出してんぞ? 

 

「だ、大丈夫だこれぐらい。……ワリィ、やっぱキツいかも。こりゃソーマを使っても明日は満足に歩けねぇな、確実に」

 

 ファイトが一発しそうなノリでソーマの小瓶をグイッと飲み干すユウコ女史。立ち姿に不安定さは無し、息づかいも調っている。さすがソーマだ、なんともないぜッ! 

 

 輪郭が歪みかけていたシキガミも元通りで頼もしい限りだが、ゲーム脳で考えるとマハムドオン一回ごとにソーマ消費はコスト高ぇな~とか思っちゃう悲しみよ。

 生きるか死ぬかの瀬戸際でも少し余裕があるだけでエリクサー症候群が発症するのは実によくない。この辺りも改善が必要かも。俺ローグライク系のゲームでもアイテムをケチッて抱え落ちするタイプだったからな~。

 

 

 力を手にして力任せに突撃してきたバカの始末は問題なさそうだ。テッセン曹長も危なげ無く回避してはタックルで突き飛ばし、コレオ伍長が凍らせたりホムスビちゃんが焼き尽くしたりと普通に倒せてるようだ。

 さっきはジオの電撃をマハザンマの衝撃波で無効化されていたが、魔法スキルそのものに耐性があるワケではないらしい。ほかの軍人たちも連携しながら魔法スキルを使い丁寧に襲撃者たちの数を減らしている。

 

 

 となれば……やっぱ本命は、仲間が倒されてるのに後ろで余裕そうに薄く笑ってる連中か。無意味に偉そうにしてるだけなら俺としても助かるが、そういうアニメ的演出は期待しないほうがよさそうだ。



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VS量産型プロトメサイア:2

ガーヂアンだったりガーディアンだったりしてもよい。

なんならブギウギで蜂の巣にされる権利も進呈しましょう。私はされました。(N敗)


 ガーディアン部隊? とかいう肉壁といい、MAG補給装置にされた変身失敗組といい、人材の消耗を苦にしないような連中の後方待機勢だ。ツラ構えが違う、というか確実になにか企んでるだろアレ。

 

 よし、ここは慎重に──。

 

 

「待てッ! 迂闊に前に出るんじゃないッ!」

 

「邪魔しないでよッ! オジサンも見てたでしょ、私のシキガミが連中を真っ二つにするところッ! あんなヤツら、私ひとりでも全員倒してみせるわよッ!!」

 

 

 か~ッ! 見んねウェンディゴ、あれが特権階級の人間ばいッ! フォローしたら巻き添え食らいそうだから放置して様子見しようかと思うんだけど、なにか意見ある? 

 

(アァ? いいんじゃねぇ~の~ほっとけばよ。本人が戦いてェって言ってンだからよ。だが気を付けろよニンゲン、あの出来損ないだか混ざり者だかの残骸から出たMAGの影響かわかんねぇが、やたらと力が満たされてる感覚がある。

 もしかしたら、いつかみてぇに周囲に見えるほど完全な実体化をしちまうかもしれねぇ。あとシキガミとかいうクソ玩具もなにかしら影響を受けてるみたいだが、それ以上に襲ってきた連中から強い魔法の気配がしやがるのが気になるぜ)

 

 賛成してくれたことに流石は悪魔と感心しつつ、追加の情報がありがたいけれど気分をガッツリ下げてくれる危険な話ばかりで俺は情緒をどこに合わせればいいのかワケがわからないよ? 

 

 

 

 

「フッ、愚かな。……生命の輝きよ、魂の光よ、我が手に集い、我が意志に応えよッ! ──奇跡の波動を、その身に刻むがいいッ!! ザンダインッ!!」

 

 

 

 

 自信満々に接近していった巫女のシキガミがあっという間に衝撃波に飲み込まれたけどアカンこれ止まらねぇ衝撃波がこっちまで届いてノォォォォんほォォォォドラッフェィッ!? 

 

 ゲホッ、オエッ、背中……ッ!? 折れ……いや、砕けて……ない……。手足は……? ある? ホントにあるか、これよ……? 指はぁ……あぁ、クソッ! 身体中が、表面も内面も泣き叫びたいほど痛ェ。でも痛すぎで泣き叫ぶこともできねぇ。

 そうか、そうだよな……。ゲームはシステムっていう絶対のルールがあるから単体しか攻撃できないが、この世界じゃそんな都合よくねぇわな……。前にワンランク下のマハラギオンやマハガルーラを受けたことがあったけど、アレとは比較にならねぇわ……。

 

 あぁ痛ェ、クソ。どうやらいまの俺では、最上位のダイン系魔法では余波だけで瀕死になるらしい。特大威力の最強クラスであるバリオン系なんか使われたら予備動作だけで即死するんじゃないか? 

 

 

「う……あ……あぁ……」

 

「哀れな少女よ。欲望のままに人々の生命と尊厳を搾取し続ける蛆虫どもに利用され、八葉の巫女などという血塗られた役目を押し付けられた、偽りの栄光と繁栄の犠牲者よ。

 もう大丈夫よ? 安心して、アナタたちの悲しみも苦しみも全て私たちが消し去ってあげるから。シキガミなんて呪われた技術のために自分の命を捧げる必要もないし、恐怖に怯えながら化け物と戦う必要もないわ。

 だから、いまはゆっくりと眠りなさい。次に目覚めたときには新しいアナタに生まれ変わっているはずだから。まずはこの国を浄化して……正しい秩序の元で、誰もが自由と平等に暮らせる優しい日本を一緒に作りましょう?」

 

 

 ボロボロになった巫女を優しく語り掛けながら抱き上げた半分悪魔な女が。ヤツが何者なのかも、なにを目的としているのかもわからない。喋ってる内容も電波が凄くて理解できないというよりは理解したくない雰囲気だし。

 だがひとつだけ確信したことがある。あのまま連れ去られようとしている巫女の少女は、きっともう助からない。誰も助けられねぇンだわ、さっきのザンダイン1発の余波で全員が吹っ飛ばされたから。殺されはしないだろうが、下手すりゃここで死んだほうが救われたかもしれんね。

 

 どうやら連中の目的が巫女かもしれないって予測は当たっていたらしい。シキガミじゃなくて本体が目的だったようだが、こんな状況じゃ違ったからなんだって感じだな。またひとり、さらにひとりと意識を失っている巫女たちが連れ去られて行く。

 

 

 で、まぁ……こっちに歩いてくるよね。だって俺の後ろにも巫女いるんだもん。頼みの綱のシキガミが踏み潰された虫みたいにグシャグシャになって、さっきまでの威勢の良さなんて欠片も残っていない怯えた女の子が。

 

 

 どう考えてもこのまま死んだふりするのが賢い選択なんだよなぁ。下手に抵抗するよりは、ユウコ女史が連れ去られるのを黙って見送るほうが生き残れる確率が圧倒的に高い。そんなのはバカな俺でもわかるよ。

 

 なのにさぁ、あるんだよ。目の前にソーマが入ってた小瓶がどういうワケかこれ見よがしに落ちてんのよ。指でつまんで振ってみると、中身が入っているのがわかる。

 凄くない? 瀕死の重傷で全身が激痛だらけなのに、こんな小さな小瓶の中に液体が入ってる感触わかっちゃうんだぜ、俺。うん、ちゃぷちゃぷ揺れてるね完璧に。

 

 

 あぁ……ヤダなぁ……。どうしてこう、俺ってヤツはこんなにも意志力が弱いんだろう? たったひとつしかない貴重な命なんだからさ、余計こと考えないで生き残ることだけに集中すればいいのに。

 キュッと軽く捻れば簡単に小瓶の蓋は開いてしまった。ホント俺ってダメ人間、男ってバカね☆ チクショウ、こんな危ない橋を渡るような真似2度とやらねぇからなッ!! なんで俺が他人のために苦労しなきゃならねぇんだよふざけやがってよォォォォクソがよォォォォッ!!!! 

 

 

 南無三ッ!! 

 

 

 ……なんか、駄菓子のコーラにカシスオレンジ混ぜたみたいな味すんな。MAG結晶体に比べれば何万倍も美味いけど。



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VS量産型プロトメサイア:3

 身体の怪我は治ったが、さすがに痛みまでは消えないらしい。まぁ、それは仕方ないと割り切っておこう。痛覚は全身にあってもソレを感じるのは脳だからね。

 ダイン系魔法の痛みの記憶は治療したぐらいじゃ簡単には消えないってのは、今後の生存戦略でもなにかしら役に立つかもしれん。そう思えば耐えられるけど痛いもんはホントにマジで痛いなぁぁぁぁコレぇッ!? 

 

 体力も気力も満たされた感覚はあるが、やはりそこまでご都合主義ではなかったか。とどのつまり、結局は気合いと根性とオーガニック食いしばりこそがメガテン世界における生きるための希望、てコトね……ッ! 

 

 あと、足元からなんか邪龍ワームみたいなのがニョキっと顔を出してきて絡み付いてくるのも地味に邪魔だな。キミ真っ白で綺麗な歯してんねぇ? 芸能人だけじゃなく邪龍もデンタルケアには気を遣ってんの? 

 コラコラ、頭(?)をグリグリしてくるんじゃないよくすぐったいじゃないか。まったく、邪龍のクセに甘えん坊さんかよテメェ。そんなことされたら可愛くなっちゃうじゃん! ほーれ、ナデナデしちゃうぞ~♪ 

 

 …………うん。

 

 ソーマ飲んで発狂したヤツって、この子が原因なんじゃね? 俺の記憶が間違ってなければ、邪龍ってカテゴリーの悪魔は神話や伝承でもヤベーのばっかりだから人間の精神に干渉というか負荷を強いるぐらいは出来そうだし。

 

 

「フンッ! 死に損ないが、貴様()()()で我らに勝てるとでも思っているのかッ!?」

 

 お? どうやらコイツらにはワームが見えてないみたいだな。ウェンディゴは周囲に可視化されそうなほど力に満たされる感覚があるみたいなこと言ってたけど、まだギリギリなにか条件が足りてないっぽい? 

 それは結構コケコッコー! ホムスビちゃんに悪魔送還プログラムが搭載されてない可能性もありそうだなとは思いつつも安全のためには仲魔に頼らず殴らなきゃとか考えてたし、ここは新顔のワームちゃんに気張ってもらうべよッ! 

 

 

 ってことで……汝、邪龍ワームよッ! 俺とお友達になってくださいオナシャスッ! お給料はMAG支払いの歩合制になっちゃけどそこは許してッ! 

 

(ワーム? ……ワームッ! わ、私は……邪龍ワーム……な、なかま……なる……ッ! こんごとも、よ、よろしく……ッ!)

 

 

 シャオラァァァァッ!! スカウト大・成・功だコラァァァァッ!! 何故ここで邪龍ワームが現れたのか? 何故ソーマを飲んだらこうなったのか? 理由なんてそんなの関係ねぇッ!! 大事なのは生き残れる希望が増えたって事実だけで上等だルルォォォォッ!? 

 明確な輪郭を取り戻した……って表現でいいのかしら。ともかくなんでも美味しく食べられそうな前歯が眩しいワームちゃん、キミの最初のお仕事は目の前にいる人間を半分ぐらい辞めちゃった連中を齧ることです。ポンポン痛くなりそうだな~と思ったら、ちゃんとペッ! しないとダメだからね? 

 

 

(ゴァァギャァァァァッ!!)

 

 

 うむ! 元気の良い返事で大変結構ッ! ついでに自称救世主たちも「ぐぁぁぁぁッ!? なんだ、この不快な叫び声のような音はァッ!?」とか苦しんでいて素晴らしいねッ! 

 え? お前ら姿は見えないのに声は聞こえてんの? なんだその中途半端さ。……あれ、もしかしてほかの人たちにも聞こえてたりするのかな。敵を目の前にして振り向く余裕なんてないから確認できないけど、もしそうならコレ味方にも被害出てんじゃね。

 

 ま、いいや。だとしても、それは勝利を目的とした致し方無い犠牲だよ。テラスタル……じゃなくて、その、なんとかダメージってヤツさッ! 

 とりまカモフラージュ用にMAGを右手に集中させまして~、全力でなぎ払うッ! フリッ!! そして俺の動きに合わせて巨大化しつつ地面を抉りながら突撃するワームちゃんマジぷりちーッ! これスリスリされてるときに巨大化されてたら俺ぺしゃんこになってたな? 

 

 

「な、なにが起きて──ヒギャァァッ!!??」

 

 

 よし、まずひとり。

 

 う~む、やはり邪龍は格が違ったか。ピクシーさんやウェンディゴは魔法で攻撃するほうが得意だし、イッポンダタラもテンションは高いけど本質は技術屋だから純粋な暴力の使い手ってワケじゃないからな。

 いくら悪魔の力を取り込んだところで、身体の半分をマルカジリされたんじゃあ……本当に死んでんのかアレ。救世主っていうか、まぁメシアを名乗る連中はある意味悪魔よりも殺した程度じゃ安心できないんだよなぁ。プラナリアなんか目じゃないレベルで厄介だっていうね。

 

 

「いったいなにが──ギャハァッ!?」

 

 

 あーあ。動揺して足元で右往左往してるもんだから、ワームちゃんが勢いよく吐き出した残骸に撃ち抜かれちゃってるよ。

 やっぱりデカイっていうのはそれだけで武器になるようだ。ソーマの影響で俺のMAGが大きく強化されてるっぽいのも影響しているのだろう。こりゃ下手に屋内で暴れさせたら大変なことになるぞ? 

 

 逆に言えばここみたいに外なら遠慮するこたぁな~んも無いってことだぜイィヤッホォォォォッ! ほ~らワームちゃ~んッ! 俺を捕まえてごら~んッ! 

 

(あ、あそぶ? わたし、ニンゲン、と……あそぶ……ッ! た、たのしい……ッ!)

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 第三者から見たら俺が走り回るのに合わせて地面も襲撃者もデタラメに抉られてる光景ってどんな感じやろ? もしなにか聞かれたらソーマ飲んで意識が混濁してたから覚えてないってフカシこくべ。

 

 

「なんだよ……なんなんだよコイツはッ!! こんなメチャクチャなヤツがいるなんて聞かされてないぞッ!?」

 

「撤退ッ! 撤退だァッ! ソーマの確保は諦めろッ! 巫女は充分な人数保護したッ! これ以上は無駄死にになる、大義を成すためにもここは退けぇッ!」

 

 

 はぁ~ん? お前らあんだけイキり散らかしてたクセにこの程度の反撃で逃げ出すとか案外だらしねぇな? 

 お前アレだぞ? ソーマの影響でワームちゃんがハッスルしてるから形勢逆転したように見えるだけで俺自身は一時的にMAGが高まってるだけだからお前らに本気で殴られたらたぶん簡単にお陀仏するレベルやぞ? 

 

 クックックッ! 冷静さが足りず状況判断も満足に出来ないバカどもめッ!! 本当に本当にありがとうございます今後もそのミニマム脳みそと節穴アイを標準装備で過ごしていただけると助かりまぁすッ!! 

 

 

 とりま、すぐそこにある危機はなんとか凌いだ。このまま今後の予定に頭を悩ませつつもゆっくりと休んで──いたいけど戦闘音がまだまだ聞こえてくるのがまたよぉ~。

 俺もう助けにいかなくてもよくなぁい? けっこう頑張ったほうだと思うよ? 少なくともこの場にいた巫女たちに関しては半数は無事なんだしさ、このまま力尽きたフリして倒れちゃおうかなぁ~。



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VS量産型プロトメサイア:4

「特務少尉ッ! キサマ、余力があるなら戦闘を継続中のところへ増援として向かえッ! キサマの任務と権限は知らされている、だがこれは命令だッ! 

 いいか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!! この言葉の意味が理解できんほどマヌケではないだろうッ!! ──頼んだ」

 

 

 さすがは軍隊、バリバリの上下社会なだけあって俺には選択肢なんて存在しなかったんだぜ。本音としては本気で嫌だけど、責任の所在をああも明言されたんじゃあ逆らうワケにも行くめぇ? 

 可能であればテッセン曹長たちにも同行を願いたいところだが──まぁ無理だよね~そりゃあね。コレオ伍長とホムスビちゃんがザンダインの衝撃波によるダメージとは別に目ェ回してる気がするのはタダの気のせいですね間違いない。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 この拠点の責任者である大尉はもちろんだが、観戦武官という特殊な立場の俺も含めて生き残った軍人の末路がどう転ぶのかはかなり分の悪い賭けになりそうだ。

 

 逃げていく襲撃者の誰かが、俺が暴れているのを見て「聞かされていない」と悲鳴を上げていた。もしかしなくても拠点の情報について、誰がどれだけ配備されているのか筒抜けで──いや、違うな。

 誰がどれだけ、じゃない。たぶん今日この日、巫女が不自然に大勢この拠点に集まることを事前に知っていたのだろう。ソーマの輸送任務で鍛えるためにベテラン軍人よりも新兵ばかりが拠点にいることも含めて。

 

 帝国軍の裏切り者、あるいは狂信者のスパイ。それも権力がガッツリ絡むような人事をゴリッと押し通せるような立場に内通者がいる前提で考えるべきかな。

 つまり、なにをするにしても判断を間違えれば簡単に終わるってコトだ。うん、いつもやってることとあんまり変わらないにぇ? 

 

 ゲームやマンガなら「いったい誰がこんな計画を……ッ!?」とか考える場面かもしれないが、ハッキリ言って黒幕の存在がどうだこうだなんてことはクッソどうでもいい。

 そんなことよりも重要なのは、行動を起こすタイミングの見極めだ。軍のメンツを保つための生け贄にされるぐらいなら派手に暴れて逃げてやるのは俺の中で確定しているが、助かるかもしれないのに早まって台無しにするのだけは避けねばなるめぇ。

 

 一応、ソーマを懐に隠しておくか。襲撃者を撃退するのに使って余り物を持っているのを忘れてたとか言えばなんとかなるだろ。なんともならなきゃグイっと飲み干してそのままフィーバータイムですわよ! 

 

 

 で。

 

 

「フッ……まさか巫女でもない人間がシキガミを呼び出すとはな。その不完全な召喚でよく戦ったものだ、と褒めてやろう」

 

「ちく、しょう……ッ!」

 

 ほかの襲撃者よりちょっと豪華な感じで悪魔合体してる幹部っぽい敵キャラ。

 

 ボロボロになりながら相手を睨むコウタロウくん。

 

 それに寄り添う巫女のシズルちゃん。

 

 コウタロウくんが握っているアレは……軍から支給されるサーベルではなく、ユウコ女史が言ってたMAG結晶体で作られたナイフかな? キリノハの巫女がシキガミを召喚するときに使うって教えてくれたヤツ。

 で、ふたりを守護るようにして身体のあちこちが崩れているサイバーパンクなスザクみたいなのがいるワケだが。敵さんのセリフと状況からして、アレ喚んだのはコウタロウくんかな?

 

 

 あー、うん。だいたい理解したわ。

 

 圧倒的……ッ! 圧倒的ラノベ主人公ムーヴ……ッ!! 

 

 

 とりあえず、盛り上がってるメインキャストよりも死にかけているエキストラの皆さんを先に助けておくか。ソーマの効果が続いているいまなら使えるだろ。ピクシーさぁ~ん? 

 

(さすがにダメージが大きすぎるし、応急処置にしかならないと思うけど。ま、いいわ。──メディアッ!)

 

 あらゆるゲームであれば安心、味方全体を回復する魔法のメディアが使えるっていう精神的アドバンテージは素晴らしいと思わんかね! 

 ただ“味方限定”ではなく“範囲”なのを想像できなかったのは少し迂闊だったかな。回復量は微々たるものだが、襲撃者たちにもバッチリ効果が届いちゃってるわ。今後は気を付けて使わんとなぁ。

 

「これは……傷が治っていく? いったい誰が──特務少尉、殿?」

 

 そうだよ~特務少尉殿ですよ~。ちゃんと生きてるようでなによりだ。その様子だとまだまだ動けそうだな?

 なら、とりあえずシズルちゃんを連れて後ろに下がってなさい。コイツの相手は俺が引き受けるから。心の底から嫌ですけどねぇッ!! 

 

「オレもッ! オレも一緒に戦いますッ! 大切な仲間を傷つけられて、勝手な理屈で巫女たちが拐われて、それで黙って引き下がるなんて出来ませんッ! そんなのは男じゃない……オレだって、ひとりの軍人なんだッ!!」

 

 お~、メラメラと義憤に燃えてますな~。熱いッ! 熱い男だぜコウタロウくぅんッ!! 

 

 こりゃダメだな。説得したところで聞き入れる気ゼロだろうし、無理やり下がらせたところで飛び入り参加してくるのは確実だわ。

 なんならアレよ。交戦している俺の動きに合わせるんじゃなくて、自分が思いっきり攻撃できるタイミングで突っ込んでくるぐらいのことはやらかしてくれそうだよ? いきなり後ろから少尉殿~避けてくださ~いとか叫びながら。

 

 軍隊で鍛えてそれでも力が無いことに落ち込んでるところにテロリストが来て十中八九追い込まれたであろうタイミングで本来ならば巫女にしか扱えないはずのシキガミを操る能力に目覚めるとかいうご都合主義展開にブチ当たりましたわッ! とても芸術点がお高めですわッ! 

 そして安全な立ち位置で眺めてるぶんには楽しめますけれど、こうして巻き込まれる立場になると面倒なことこの上なしでございますわよッ!

 

 

 でもよくよく考えたら俺にも結構なご都合主義が適応されてるんじゃね? 定期的に格上の相手に嬲り殺しにされそうな場面で綱渡りを強要されてるだけで、結果だけを見ればレベルアップしてるし仲魔も増えてるし昇進して給料も増えてるしで順風満帆じゃん。

 そう考えれば今回も深刻に受け止めなくても乗り切れそうな気がするな。ちょっと熱血漢で冷静さよりも感情で動く新人の世話をしながら手札が全く不明の相手と生きるか死ぬかの駆け引きをしつつ現場に残っている巫女たちに被害が及ばないよう気を付けながら戦うだけだし、楽勝だなッ! 

 

 あれれ~? なんだか視界がちょこっと滲んで見えるぞ~? もしかしてソーマの副作用かしら、アッハッハッ! クソがよぉ……。



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VS量産型プロトメサイア:5

「ヒノスケッ! もう一度オレに力を貸してくれッ!!」

 

「クルァァァァッ!!」

 

 見た目が火の鳥だからヒノスケか。俺はそういうネーミングセンス好きだよ? 炎がアーマーっぽく変化してコウタロウくんをガードしてるのも、サーベルに宿ってファイヤーしてるのもカッコいいじゃない。

 

 でもなぁ……いかにもメシア教の系譜っぽい連中が悪魔と思わしき力を利用して変身したのを見たあとだから、ちょっとよくない想像力が掻き立てられるよね。

 例えばさ? 連中の力の使い方はまだまだ発展途上で、コウタロウくんみたいな扱い方を本命として目指してるとかさ。そういうパターンってゲームでもラノベでもあるあるだよね~。

 

 

「フンッ! シキガミひとつ満足に支配できない半端者が、この私に挑むというのかッ! 魂を解放し、奇跡の力を宿し、人類を正しく導く上位存在へと昇華したこの私にッ!! 

 愚か、いや憐れなり人の子よッ! せめてもの情けだ、キサマの命を救世主たるこの私が浄化して宇宙へ旅立たせてやろうッ!! ──同志たちよッ! 我に祈りを捧げよッ! 星の海の最果てまで千年続く、救いの歌を響かせるのだッ!!」

 

 

「「新たな秩序を人の世にッ!」」

 

「「永久の幸福に続く道標にッ!」」

 

 

「「「「聖大天使の祝福をッ!!」」」」

 

 

 ありのまま、俺の目の前で起こった出来事を話そうか。

 

 いけ好かないイケメンの号令に合わせて死にかけの襲撃者たちが恍惚とした表情で聖大天使とかいうメガテン基準では極上のNGワードを叫んだと同時に上半身が弾けとんで残骸から赤い光が溢れだしイケメンに吸い込まれたと思ったら毒々しい赤い色した肉の翼が生えましたとさ。自分、ちょっと正気度ロールいいッスかね? 

 

 いやまぁ、ぶっちゃけこの程度のグロイベントで正気を失うほど温い生活はしてないんだけど、それとは別に強そうというか厄介そうというか。

 いまからコレと戦うことを考えると単純に面倒な気配がプンプンして吐きそうなんだよね。さっきの自分語りも本当に人間の部分が喋ってんのかわからんし、上位存在って発言が自惚れじゃなくてマジの可能性もあるのが笑えねぇンだわ。

 

 

「な……ッ!? お前はァッ!! 人の命をなんだと思ってるんだッ!!」

 

「物知らずがよくもまぁ囀ずるものだ。同志たちは大義のために自ら命を差し出したのだ、その覚悟をくだらん同情で汚すな──バカめがッ!!」

 

「ぐぅッ!?」

 

 わぁしゅごい。肉天使のお兄さんが腕を軽く振っただけでドラゴンボールみたいに風がブォンッ! と叩き付けられたぜ。

 砂ぼこりが鬱陶しいだけで痛くも痒くもないが、無視して動けるほど優しい風圧じゃないのは困るな。下手に突撃仕掛ければ体勢を崩されて隙だらけにされるかもしれん。

 

 とりあえず、ここは定石通り別方向からの波状攻撃でも試してみるか。コウタロウくんは感情が昂って細かい指示とか聞いてる余裕はなさそうだし、ここは彼にメインアタッカーを押し付けて俺はサポートにまわるのが正解かな。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「ハハハハハッ! 無駄無駄無駄無駄ぁッ!! その程度の力でッ! 形だけを真似た紛い物の奇跡で、真なる救世主であるこの私の身体に傷をつけようなどと片腹痛いわァッ!!」

 

 はい、超耐久自己再生タイプのクソボスでした~バカかよォォォォッ!? いやゲームならどうやって倒そうかなんて頭を悩ませるのも楽しみのうちだけど、こうして実際に戦ってみるとイライラが半端ねぇわ。

 攻撃そのものは通用しているから防御力はそこまで高くないのがせめてもの救いだが……単純に持久戦はマズい。俺の能力強化はソーマによる一時的なものだから、時間切れでMAGの最大値が低下しても同じように戦える保証なんてないワケだし。

 

 となれば、体力にも気力にもMAGにも余裕があるうちにイロイロ試してみるしかあるめぇ。何処かの薩摩人も言ってたし。勝つためなら飛んだり跳ねたりなんでもしないとダメだって。

 

 あんまり粘り過ぎて肉天使のお兄さんが痺れを切らしてダイン系魔法を連発してきたら勝ち目ゼロになっちゃうから、そこだけは気を付ける必要があるだろう。

 つまりソーマの時間切れと敵の忍耐切れという二重のタイムリミットがあるってことだな! ってことはイロイロ試すにしても回数制限もあるねやったぁ! ばぁかじゃねぇ~の? 

 

 

 よし、逆に考えよう。どうせ失敗したらその時点で試合終了なんだから、なにをやっても損は無いと思えば気楽になれると思い込めるってもんよ。

 と、いうワケでピクシーさん。回復魔法、ディアよりも強力なディアラマをなんとか使えたりはしないかしら? 

 

(たぶん大丈夫だけど、アンタそれでナニするつもり? 回復しながら突撃でもするワケ?)

 

 なにを仰るかお嬢さん。なんでそんな自分から命を削るような戦法を俺が選ぶと思ったのか知らないが、もう少しスマートな使い方をするから心配しなさんな。

 

 自己再生するタイプの敵の倒し方はいくつかある。再生能力そのものを封じるか、再生が追い付かないほどの火力ですり潰すか、あるいは──再生能力のオーバーフローを狙うか、だ。

 いっそのことワームちゃんにモグモグしてもらうとかも一瞬だけ考えたが、噛み付こうとした瞬間に内側から攻撃されたら確実に耐えられないので却下だよ。俺知ってんだ、どっかの漫画でそういう倒され方した仲魔がいるの。

 

 

 やることは決まった、あとはタイミングだな。ウェンディゴ、ヤツの足元を狙ってマハブフよろしくぅッ! 

 

(またなんか悪巧みか? いいぜ、任せなァッ! マハブフッ!!)

 

 そしてすかさずイッポンダタラァッ! 全力で地面をブッ叩いてどうぞォッ! 

 

(くぅぅダけロォォォォッ!!)

 

 コウタロウくぅんッ! 思いっきり炎をブチかましてやれぇッ! 

 

「えッ!? ど、どうやってですかッ!?」

 

 いや見るからに火炎属性なのにアギ系魔法を使えへんのか~いッ! そういえば力に目覚めたばっかりだったね、ムチャ振りしてゴメンねぇぇッ!? 蒸気で粘膜にダメージ与えて隙を作れないか試す予定が台無しになっちゃったよッ! 

 でも肉天使の注意がコウタロウくんに向いたので結果オーライだわ。ワームちゃん、思いっきり叫びながら地面を耕しておくれッ! 

 

(ガァァァァラァァァァッ!!!!)

 

 

「うわッ!? なんだこれ、あ、頭が……ッ!?」

 

「が……ッ!? なんだ、この不快な音はッ!! キサマ、いったいなにを──何処に消えたッ!?」

 

 ワームちゃんが作ってくれた即席の塹壕の中ですがなにか? 意外だな、コイツ気配とかMAGの反応とかじゃなくて完全に視覚に頼ってたのか。

 つまり俺とコウタロウくんの攻撃を捌いてたのは単純にフィジカルが俺たちより桁違いに強かっただけなのね。まったく救いにならない事実をありがとう! 

 

 あとコウタロウくん、巻き込んだことについてはマジでゴメン。生き残れたらお給料で美味しいものでもご馳走するから許して? 

 

 さぁ、ここからが本番ッ! 一気にクロスレンジまで飛び込んでぇ──人間が残ってる部分ではなく、悪魔成分が多めのところにサーベルをフルパワーで突き刺してぇッ! そこにピクシーさんッ!! 

 

(オッケーッ! アタシも全力でいくわよッ! ──ディアラマァッ!!)

 

 

「くッ! 奇襲のつもりかッ! だがキサマの攻撃など上位存在へ昇華した私の肉体には無意味で──ガッ!? なッ!? なんだこれはッ!?

 なにが起きて……キサマァァァァッ!! ただの人間の分際でッ! 救世主であるこの私になにをしたァァァァッ!?」

 

 なんだよ、ちょっと前世の知識を使ってズルしただけじゃないか。そんなに怒るなよ。存在そのものがデタラメでインチキなテメェに文句を言われる筋合いねぇわ。

 それにしてもここまで上手くいくとは。やっぱご都合主義しか勝たん。否定的な意見もあったけど、そうした人たちもこうして生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされれば少しは認めてくれるんじゃない? 命が助かるなら手段や過程に意味なんていらないんだって。

 

(なんかグネグネ動いててキモいわね。コレ、もしかしたら悪魔の部分がニンゲンの支配から抜け出そうとしてるのかしら? 

 さっきより悪魔の気配が強くなってる気がするし。案外、アンタが名前を呼んであげたら応えてくれるんじゃない?)

 

 そんなことあるぅ? でも試すだけならタダだし、それで肉天使が自滅してくれれば儲け物だし、やってみる価値はあるかな。

 しかしこの肉の塊に名前を付けるとなると……そうだなぁ、鮮やかなメシアンブルーを取り込んだ影響で青紫色に膨れ上がってるし、ここはやっぱりアレかな。

 

 

 

 

 我が声に応えよ、汝の名は幽鬼“コロンゾン”なりッ! なんちゃって──。

 

 

 

 

「ギッ!? ギャアァァッ!! や、やめろッ! 私に逆らうのかッ! 私は救世主だぞッ! 奇跡の力を行使する上位存在なんだぞッ! 星の力はッ! 全てが我らの導きに従うべきなのに、それが人類の未来にィィッ! 

 やめろ、やめてくれぇッ! 僕を塗り潰さないでイヤだ死にたくない僕はまだ死んじゃだめな人間なんだよぉッ!! 人を道具みたいに扱うこの国はァッ! 僕たちの手で滅ぼして新しく幸せで優しいぐにをつぐるだめにボグはほじのぢがらでうばれがわりギパャァ」

 

 

 

 

 ありのまま、俺の目の前で起こった出来事を話そうか。

 

 お試し感覚でそれっぽい悪魔の名前を呼んでみたところ肉天使のお兄さんの身体が沸騰するかのようにボコボコに膨らんで内側から小玉スイカみたいな可愛らしいサイズのコロンゾンが何体も飛び出してきましたとさ。自分、ちょっと正気度ロールいいッスかね? 

(本日N回目)

 

 あ~でも鼻歌でも聞こえてきそうなぐらい機嫌よさそうに空中をくるくる回るコロンゾンの群れは見てて微笑ましいなぁ~和むなぁ~。

(思考放棄)



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アンサング:1

 判断は、冷えた頭で下すべし。

 

 コロンゾンの群れは楽しそうに回転しているので、とりあえず無害ッ! 肉天使の残骸はなんか人間とスライムが混ざったような姿で唸っているので有害ッ! そしてここで俺が華麗にトドメを刺すのは後々のことを考えれば論外ッ!! 

 つまり、こういうことだってばよッ! ──コウタロウくんッ! いまだッ! ヤツを仕留めるんだッ! なるべく派手に、それこそギャラリーの皆さんの印象にキミが大活躍して退治したと印象が残るぐらいのすっごいヤツをよろしく頼んだッ!! 

 

 

「了解ですッ! ──少尉殿が作ってくれたチャンス、無駄にはしないッ! ハァァァァッ!!」

 

「やべ、やべるぉぉッ!? ぼぐはぎゅうぜいじゅでウボァァァァッ!!」

 

 

 フッ……浄化、完了です……ッ! 言葉にしなくても俺のリクエスト通り派手に焼き尽くしてくれたコウタロウくんマジ有能。

 顔合わせのときの険悪な雰囲気はなんだったのか、シズルちゃんも駆け寄ってきて「コウタロウさんッ! 大丈夫ですかッ!?」なんてヒロインムーヴしてくれてバランスもいい。

 

 いやぁ~終わった終わったッ! 今日もバッチリ生き残れましたねッ! 視界の端っこのほうで1列に並んで順番待ちをしているコロンゾンたちをワームちゃんが順番に丸飲みしては夜空へ高射砲の如く射出するという謎の儀式? 異種族コミュニケーション? だかをしているのは気にしてはいけない。青紫色の流星が綺麗でとっても素敵ぐらいに思っておこう。

 

 

 というか。コウタロウくんもシズルちゃんも完璧に戦いが終わった雰囲気してるってことは、やっぱりワームちゃんもコロンゾンたちも見えてねぇんだな?

 いやまぁ、悪魔の姿が見えるなら最初にピクシーさんがメディア使ったときに聞かれたりしたんだろうけど。

 

 じゃあなんでワームちゃんの雄叫びは聞こえていたのかって話になるワケで。邪龍だから、強力な力を持つとされるカテゴリーの悪魔だから聞こえた? それなら姿も見えていいだろう。

 それともスキル扱いだったんだろうか? ピクシーさんの魔法スキルは他人にも見えているし影響するように、ワームちゃんの雄叫びも同じノリでなんかこう、いい感じ作用して肉天使にも効果が出た的な。

 

 う~む、相変わらず悪魔関連のボーダーラインがわからねぇ。救世主系テロリスト、略してメシテロ肉天使たちの人魔併せ盛りは皆に見えていた。そして悪魔が素材にされているであろうシキガミの姿も見えている。

 じゃあなんで俺やコレオ伍長の仲魔の姿だけがピンポイントで視認できないのか。カネサダちゃんに悪魔を殺すためのプログラムが搭載されていた以上、少なくとも軍の上層部は悪魔の存在を知ってなきゃ辻褄が合わないワケで──アカン、頭が真面目に痛む。ソーマを使って限界以上の戦いをしたツケが一気に吹き出てきたかな? 

 

 

 ……はい、やめやめッ! こんな状態で考え事したって意味がない。それならキッチリ休息とって次に備えたほうが何倍も有意義ってなもんだ。

 

 陸軍の勢力圏内で突然の襲撃。応戦した結果、部隊はボロボロ。でもそんな現場の事情なんて関係なく、巫女が大勢連れ去られたことについての処分だけが粛々と下される可能性が極めて高いだろう。

 いざとなれば暴れて逃げて身を隠す、だがタイミングを間違えるのだけは絶対にダメ。事を起こすのは処分が確定してどうにもならないところまで追い込まれてからでいい。

 

 念のため携帯食料もキープしておくか。水は最悪の場合ウェンディゴのブフで氷をかじればなんとかなるとして、問題はガスとかで昏睡させられるパターンだな。

 自分の部屋に戻ることができたとしても、まず窓を全開にするのは当然として……とにかく基地にいる軍人が全員敵になる前提で思い付く限りの対策をしないと。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 全てを敵と疑い備えよ。そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。

 

 ……ナツミ少佐殿、大丈夫ですか? 

 

「特務少尉、貴方の目には私が大丈夫なように見えているのですか? それなら私も安心ですね、ちゃんと佐官としての振る舞いができているということですから」

 

 いつかの約束通り、テーブルには甘酒と小豆餅が用意され、そして対面ではナツミ少佐がやる気の売り切れた学生のようにぐだ~っと溶けている。

 呼び出されたときはいよいよ脱走を決行するときが来たかと身構えていたのだが、いざ執務室に入ってみれば出迎えてくれたナツミ少佐の顔は気の毒なほど疲労困憊しているという有り様で。

 

 そりゃあね? 日本帝国魔導院とかいう名前からして特別に偉そうなところから派遣された、八葉の巫女とかいう名前からして特別に偉そうな立場の娘さんたちがたくさん拐われたんだから多少はね? 

 ……仕方ない、こっちから話を切り出すか。蜘蛛の糸どころかほつれた糸屑レベルのか細い可能性だとしても、仮にある程度の許しが与えられるのであれば出された食べ物にいつまでも口を付けないのは失礼だろうし。

 

 

 と、いうワケで。ナツミ少佐殿、今回の襲撃に関する処罰などについてですが──。

 

「……そんなものは、ありませんよ」

 

 は? 

 

「新兵訓練のためのソーマ輸送任務など実施されていませんし、当然ですが八葉の巫女が輸送拠点に集められていたという事実もありません。

 そのような任務が存在しなかったのですからテロリストによる襲撃などありませんでしたし、なにもしていない部下たちに与えるべき処罰など陸軍では定められていませんよ。

 ……どうしました? そんな『コイツなに言ってんだ?』みたいな顔をして。私が話している内容は紛れもない事実ですよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 失礼しました少佐殿ッ! 自分はどうやら思い違いで関係のない任務について語ってしまったようでありますッ! 余計な手間を取らせてしまい申し訳ありませんッ! 

 どれ、せっかく用意してくれた甘酒と小豆餅でも食べちゃおうっかな~♪ どれどれ……ん~、お餅は柔らかくて小豆も上品な甘さで絶品ですなぁ~。

 

 

「遠慮なく食べてください。何故か、えぇ本当に全く理由は皆目見当も付きませんが帝都から上白糖やら一等米やら大量の支援物資が届いていますので。

 兵站部の、それこそこの惑星ニニギの管理を任されている中将閣下ですら知らされていない、予定外の支援物資が。忽然と姿を消した人事担当の大佐殿と入れ替わるように。

 そうそう。我々佐官でもなかなか手が出ない、買おうとすれば1本で七円はするラムネ水もたくさん届いたそうです。そちらも後程配給されるはずです。滅多に口にできない高級品ですよ? 楽しみですね」

 

 おやおや、あまりにも美味しすぎるせいかお餅が上手に飲み込めませんねぇ。なんだか優しい甘さの向こう側に赤く錆びた鉄の香りを感じちゃうわ☆



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アンサング:2

「ふ、ふぉぉぉぉッ!? これが、噂の、ラムネ水ッ! 私決めました、いつか必ずこのラムネ水を気兼ねなく買えるようになってみせますッ!!」

 

「帝都のお大尽方が飲まれる代物だけあって、ソーダ水とは別物でありますな。慰労物資としては破格が過ぎるのだけが気になるところではありますが」

 

 純粋にラムネを楽しんでいるコレオ伍長とは対照的に、テッセン曹長が警戒心バリバリなのはさすがベテラン軍人って感じだな。

 

 襲撃による死傷者はいるが、なんらかの責任で処分された者はいないらしい。帝都からの贈り物についても、最悪な状況で最善を尽くしてくれたことへの評価と感謝という形で振る舞われている。

 もちろんそれをそのまま素直に受け取れるかは別問題だろう。データを処分したところで現場にいた全員に口止めをしなければ意味がないし、親しい友人なんかを襲撃者たちに殺された怨みなんかは消えるワケがない。

 

 感情なんてのは善くも悪くも簡単に人間を変えるからな。特に新人の戦闘員候補生たちなんかは、今回の一件で帝国軍に対して反感を抱くヤツも出てくるかもしれん。

 

 

 ホントにも~、中途半端な教育してるからこんなことになるんだぞ? そこんトコちゃんと分かってんのか上層部はよぉ~。

 Dクラス帝国市民は真面目に人権を無視した道具としてしっかり管理できてるのに、なんでそのノウハウをC民やB民に活かせてねぇんだよ。

 

 ここは女神転生の世界だぞ? 情操教育なんて食べ終わったプリンのカップよりも役に立たないに決まってんだろッ! アレは牛乳とか入れて飲んだときの安っぽい美味しさが心を満たしてくれるって効果あるからッ! 

 そもそもあらゆる陣営が正義と平和と人命尊重を掲げつつ従わない存在を滅するまで殴り合いするのがメガテン世界の常識なんだからさ、階級社会を構築するなら底辺の人間性なんて丁寧にすり潰しておかないとテロリストが生まれるのなんて当たり前だろいい加減にしろッ!! 

 

 こんなガバガバ管理のディストピア社会じゃ、そのうちあの連中マジでやらかすんじゃね? 救世主を名乗って聖大天使バンザイとか言いながら幸せそうに自爆する狂信者の集団だし、なにかの拍子に不完全でも本物の天使とか召喚しちゃうかもしれないじゃん。

 軍の上層部でも国の中枢でもどっちでもいいからさ、その辺りの危機感をもう少し真面目に考えてほしいところだよ。神やら天使やらを自称するなら尚更さぁ。ほかの悪魔たちの姿が見当たらない以上、こんな状況でロウ勢力の強力な天使が召喚されたりしたらアッという間に銀河中で歌謡祭が開催されちまうわいッ!! 

 

 

 ……ふぅ。脳内で虚無を相手に言いたい放題したら精神的に喉が渇いてしまった。あ~ラムネうめぇ~ッ! 然り気無くビー玉が入ってるのも俺的には素敵ポイントですわ。

 

 散々に文句言っておきながらなんだけど、実際のところどうなんだべなぁ? シキガミの様子からして悪魔という存在そのものは知っているはずだけど、理解してるかは別問題だよなぁ。

 案外、仲魔の姿を見られてもシキガミですって言えば誤魔化せる可能性も──ないわ。少なくともカネサダちゃんと同じアラヤン式の人造超力兵に見られるのはアウトだと思っておかんと普通に死ねるで? 

 

 

 そういえばシキガミに目覚めたコウタロウくんってこれからどうなるんだろう。ラノベのテンプレートロードを歩むことになるのであれば、何故か偉い人に気に入られて特別扱いからのポンポン出世で女の子との出会いも矢継ぎ早でウハウハコースなんだけど。

 ナツミ少佐にコウタロウくんがキリノハの巫女の召喚道具を使ってシキガミ呼び出してましたよ~って話をしたら漫画みたいな勢いで口から甘酒噴射してたっけ。そんなん少佐程度が判断できる案件じゃないって机をドーンする姿には思わず目頭が熱くなっちゃったね! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 気になることは多くても、命令があれば動かにゃならんのが給料で使われる身分の辛ェところよ。と、いうワケで日を改めてナツミ少佐の執務室へやってきた俺。

 コンコンとノックをして、許可を得てから入室してみると──なんか椅子に座ったまま紙を燃やしてるんですけど。え、何事? っていうか横にいる人ダレ? ……いや、この赤みが強い黒髪と青緑色の瞳は見覚えがありすぎる。

 

「……ん? あぁ、これは命令書でもなんでもない、ただの手紙ですよ。ただ、どうやら急ぎの用事だったらしくわざわざ人造超力兵に持たせてアマラ経絡を通って持ってきてくれたようですね。

 ですが、差出人が自分よりも階級が上の人間である以上……書かれていた内容、まぁ頼み事ではあるのですが、それを断ることはできませんね。相変わらず嗅覚が鋭いというかなんというか。

 ──今日までご苦労でしたF8492特務少尉。イミナ中佐殿が貴方の帰還を心待ちにしているそうですよ? もしかしたら土産話を求められるかもしれませんが……私の把握している限り『陸軍の』機密に関わるような情報には触れていませんので自由に会話を楽しんでくれて問題ありません」

 

 う~ん、露骨ゥ! つまり日本帝国魔導院やテロリストの襲撃に関する話は俺の判断で決めろってことか。でも陸軍には記録が残っていないってわざわざ教えてくれてたし、いっそのことイミナ中佐も巻き込んだほうが胃痛に優しいかもしれん。

 まぁ自由に会話を楽しめって言ってるし、相手の反応を伺いつつどこまで情報を伝えるか考えながら判断して小出しにするしかあるめぇ。自由とはいったい、ウゴゴゴゴ……ッ! 

 

 

 で。

 

 

「お初にお目にかかります、特務少尉殿ッ! 自分はアマラ経絡内の案内と護衛の任務を預かりました、アラヤン式人造超力兵『ヤスツナ』でありますッ! 短い間ではありますが、どうぞよろしくお願いしますッ!」

 

 アラヤン式には気を付けないとダメよねって心構えをした途端にコレですか。その“短い付き合い”とやらが平穏無事に終わってくれるモノだと俺も嬉しいんだけどなぁ。



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アンサング:3

 苦楽を共にした仲間との別れ、そんなものを惜しむ暇なんて下っぱ兵士には存在しませんよ。ファンタジーやメルヒェンじゃないんですから。

 少し寂しいとは思いつつ、そんなところで特別扱いされても変なフラグが立ちそうだしこれはこれでアリかなと納得することにした。コレオ伍長は頭ヒーホーだからともかく、真面目な軍人であるテッセン曹長は別れの言葉が予言に化けかねんからな。

 

 

 アマラ経絡の移動は今回も平和に終わった。相変わらず真・女神転生Ⅲとは方向性の違う不気味さがあり、見えない何者かにまとわりつかれる感覚はあったけど。

 ただ2回目ということで前回よりも心に余裕があるからなのか、連れていかれるというよりは単純に俺にしがみついているだけのように感じた。いや、それはそれでホラーしてるから嬉しくはないですよ? 

 

 ほかに気になることといえば、ヤスツナちゃんがバイオハザードに出てくる人語を話すゴリラが背負ってるようなガトリングを装備していたことぐらいかな。

 なんでそんなゴツい装備をと聞けば、特務少尉殿の護衛を完遂するためでありますッ! と爽やかな笑顔で返された。そんなふうに言われたら、俺はありがとうと言うしかないじゃない。そのガトリングが活躍する事態がアマラ経絡内部で発生する可能性があったのなら教えて欲しかったけどねッ! いやマジでさぁ、便利なのは理解したけどできればもう通りたくないよアマラ経絡ぅ。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「ご苦労だったね、特務少尉。キミがいろいろと活躍してくれたおかげで、気持ち程度の成果ではあるが海軍の利益へと繋がったよ。詳細について説明することはできないが……キミはそういう話を聞きたがるほうではないだろう?」

 

 はい中佐殿ッ! 海軍所属の軍人として、組織と日本帝国に貢献できたのであれば本懐であります中佐殿ッ! 

 

「結構。さて、正規の手続きを省略してまでキミを呼び戻したのには相応の理由があってね。現場の判断で臨機応変に動ける兵士がどうしても必要になったものだから少しばかり強硬手段を取らせてもらったよ。

 実は、反体制組織の中でも大規模なグループの活動が目立つようになってきてね。自らを救世主であると嘯き秩序を乱す怪しからん連中なんだが……どうやら日本帝国宙域だけでなく、銀河各国でも無視できない被害が出ているらしくてね」

 

 自らを救世主、ねぇ。つい最近そんな連中と戦ったばっかりですわ。もしかしてその大規模なグループとやらも、全体的に青色で統一されている集団だったりするのかしら? 

 

「なるほど、陸軍でも被害が出ていたか。知っているのであれば話も早い。キミの任務はそのテロリストどもの手によって機能不全にされた惑星型要塞の調査だ。

 もちろんキミひとりに要塞全てを見回れなどという無茶は押し付けないよ。調査隊そのものは相応の規模で派遣される予定だからね」

 

 へぇ~、そりゃありがたいや。これがゲームやラノベのテンプレなら重要な任務とかって前置きがあるにも関わらず、何故か経験の浅い主人公と取り巻きの女の子だけのチームで頑張らなきゃいけなくなるところだ。やっぱモブの立ち位置こそが最高にして至高だわ。

 それで中佐殿、本命は何処にあるんですかね? それなりの規模とやらの作戦行動に、権限があやふやで指揮系統に乱れを引き起こしそうな特務少尉なんて異物をわざわざブチ込むってんですから、そのリスクに見合うだけの仕事を俺に命令する腹積もりなんでしょ? 少なくとも俺ならそれぐらいは考えるぞ。

 

「賢い部下は会話が楽で助かるよ。莫迦は話を聞かず理解しようともしないのに文句だけは多いから困ってしまってね。それが無駄に階級だけは立派な相手だったりすると面倒で面倒で仕方ない」

 

 ほ~らね☆

 

「さて、理解力のある部下にこそなるべく丁寧に説明してやりたいところだが……そうだな、先に結論から言ってしまえば無能な上官の指揮で将兵たちの命が無意味に消費されないよう下準備をしてほしいのだよ」

 

 

 中佐殿の詳しい説明は次の通りだ。

 

 Aクラス帝国市民出身の上級大将が私物化していた要塞がテロリストに襲撃をされちゃったよ! 

 

 そしたら閣下は自分の安全だけ確保してスタッフや民間人を見捨てて逃げ出したよ! 

 

 でも閣下は偉い軍人さんだからテロリストの卑劣な襲撃に屈することなく奪還してみせるって張り切ってるよ! 

 

 人員や装備を集めて準備するだけでも時間がかかるけどそんなのはお構い無しに3週間以内に奪還するって宣言したから安全よりスケジュールを優先するよ! 

 

 だから要塞内部に残っているテロリストのことはもちろんスタッフや民間人の状況がわからなくても兵士たちを特攻させるよ! 

 

 あとは全部終わって安全が確認できたら上級大将閣下自らが要塞に乗り込んで勝利宣言をして終わりだよ! 

 

 以上ッ!

 

 

「……と、いうワケだ。実に頼もしいことだろう? 説明を聞かされたキミも頭が痛むかもしれないが、こんなことを上手く誤魔化しながらそれぞれの部下たちに説明しなければならない上官たちの立場と苦労も少しでいいから理解してやってほしい。

 それで、だ……何人かの将校が言葉を尽くしてなんとか調査隊を派遣することを認めさせた。万が一のことがあれば責任を取って腹を斬ることを条件にアマラ経絡の使用許可も得ているので、潜入そのものは苦労しないはずだよ。潜入するまでは、だがね」

 

 そうだね、潜入した先でテロリストに出待ちされてる可能性は特盛だよね。だって俺がテロリスト側なら真っ先にアマラ経絡の出入口は制圧するもん。

 別に武器を持って待ち構える必要すらない。地雷のようなものを仕掛けるか、毒ガスのようなものでエリアを満たしてもいいし、逆に真空状態にしておくのもアリだろう。地上では難しいかもしれないが、宇宙要塞ならそれぐらいのことはできるんじゃないかな? 

 

「もちろん部下を死地へ送り出すのだ、最大限のサポートは行うよ。アメリカ星団国が中心となり銀河各国が協力して開発した特殊兵装『デモニカスーツ』の比較的新しいモデルを調査隊全員に預けることが決定している」

 

 

 デッ!

 

 モッ!

 

 ニッ!

 

 カッ! 

 

 スゥゥゥゥトゥッ!! 

 

 

 フゥ~↑↑↑↑ ここに来てテンション爆アゲ要素キタコレッ!! 興味の無い人にはダサく見えても好きな人にはたまらないゴツゴツしたあのデザインに近いと嬉しいなぁ~ッ! 

 というか共同開発ってことは外交は普通に良好なのかな? こんな世界観じゃあどの国も似たり寄ったりの格差社会してそうだけど。スラム街ならぬスラム惑星とかスラムコロニーみたいなのもあったりして。

 

 

「単純な防御力に優れているだけでなく、環境変化への対応も期待してくれていい。放射線などの──あぁいや、なんと言えばいいかな。とにかく人体に有害な様々な物質からキミを守ってくれるはずだよ。

 ただデモニカスーツの性能を過信はしないでほしい。脱出してきた兵士たちが言うには、ヨモツイクサとは違う正体不明の何者かに襲われたそうだ。

 この正体不明とは言葉通り、姿がハッキリと視認できないという意味らしい。一応、ソレがいるであろう場所は景色がわずかながら歪んで見えるらしいのだが……戦闘中に呑気に目を凝らしている暇などあるまい」

 

 デモニカスーツと名付けられた装備を身に付けて環境が不明の戦場で見えない敵と手探りで戦うのか……。なんだかそれだけでゲームが1本作れそうな気がするね! なんとなくその正体不明の敵は悪魔かもしれないって予感があるんだぜ! 

 

「それともうひとつ。テロリストどもが何かしらの新兵器を開発したのかわからないが、要塞に配備されていた人造超力兵が暴走しているらしい。

 手当たり次第、それこそテロリストも軍人も件の正体不明の敵も民間人も関係なく殺し回っているそうだ。よってヤスツナの同行はアマラ経絡内部に限定される。すまないが、突入支援は許可できない」

 

 は~い神ゲーの雰囲気匂わせから俺だけ超絶難易度1発即死トラップ満載のクソゲー仕様が確定でぇ~すッ! 正体不明の敵の正体は99割の確率で悪魔に決まりですね本当にありがとうございますチクチョォォォォッ!!!!



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アンサング:4

 さすがに記憶の中にかすかに残るデザインとは違う見た目ではあるが、渡された資料に写っている子ども受けしなさそうな地味で渋い雰囲気は実にデモニカスーツしてる。

 なんとなくエンジニアがプラズマカッターとかの工具で戦っている光景が脳裏に浮かんだが、人間の常識が通用しない化け物が相手という意味ではそこまで大きく違ってはいないだろう。

 

 

(ねぇ、コレ。大丈夫なの?)

 

 うん? ピクシーさんなにか気になることでも……あぁ、そうか。たしかに頑丈そうではあるけれど、これがダイン系の強力な魔法に耐えられるかは別問題だもんな。

 連発されたワケでもなく、頭に『マハ』が付かない単体をターゲットにした一撃だったのに。それでも余波でその場にいた軍人がほぼ壊滅状態まで追い込まれてるからなぁ~。破損した装甲が内側に捲れて内臓を貫いた、なんてことになったら簡単に死ねるかも──。

 

(そうじゃなくて。いや、それも大事なことではあるんだけど。そうじゃなくてね? こんな全身をガッチリ包むような装備して、アタシたちを召喚って……できるの?)

 

 え? 

 

(だって、アタシたち姿は見えなくてもモノには触れるのよ? 壁を通り抜けたりできないのはアンタも知ってるでしょ? そりゃ、いままでだってキッチリした服は着てたけど、あんなのスキマだらけなワケじゃない。

 そうじゃなくて、こんなにギチギチに硬そうな服で全身まるっと包んだ状態じゃあ──アタシたち、アンタの心の海から出てこれないんじゃない? このなんとかスーツってのにぶつかってさ)

 

 は~、つっかえッ! 辞めたら? デモニカスーツ。着用者の悪魔召喚を邪魔するとか、お前女神転生に登場する人間装備として恥ずかしくないの? 

 

(まぁジオ系とかは使えなくても、いまのアンタのMAGならスクカジャなんかの補助魔法ぐらいは中から使えると思うけど。

 それに外に出れないってことは、姿を見られちゃうことも無いってことだし。ちょっと窮屈ではあるけど、アンタにとっては安心して戦えるかもね~)

 

 神装備、降・臨ッ! やっぱり後にも先にもデモニカスーツしか勝たんわ~。パッケージにも使われる装備だけあって着用者のことを完璧に守護ってくれるとか誇らしくないの? 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 さて、情緒のバランス調整も終わったことだしイミナ中佐から少しでも情報を引き出して生存確率を高めることにしよう。状況的に人造超力兵に関する質問をしても不審には思われないはずだ。

 

「うん? 聞きたいことがあるなら遠慮なく質問したまえ。もちろん私の権限とキミの階級に合致しない機密を教えることはできないが、今回は事情が事情だからね」

 

 ハッ! ありがとうございます中佐殿ッ! 

 

 では早速。過去にも人造超力兵が暴走事故を起こした事例はあるのか、それは最新型であるイザナミ式でも発生しているのか、このふたつについて教えていただきたいのですが。

 

「ふむ……。詳細については知らないが、佐官教育のときに聞かされた覚えがあるな。アラヤン式の事故から改良を重ねて設計されたのがオルギア式であると。

 イザナミ式に関しては、すまないがよくわからない。それこそ将官クラス、それも帝都惑星クニヌシや近辺の基地を任されているような者でなければな」

 

 いまの説明を都合よく解釈するのならこんな感じかな? 過去にも悪魔が実体化しアラヤン式人造超力兵が悪魔送還プログラムを起動したことがあり、その無差別攻撃の被害を受けて機能を排除して量産されたのがオルギア式人造超力兵である……みたいな。

 宇宙時代の過去話なんてそれこそ百年単位でも当たり前だろうし、詳細が残されていたとしても──帝都惑星に関係する人間、Aクラス帝国市民、少将以上の軍人、日本帝国魔導院。この辺りに関係している人間は例外なく警戒するべきか。少なくとも俺にとって危険なのは間違いないはずだ。

 

 

 おっと、考え事に没頭する前に誤魔化しておかんと。えー、つまり過去の事例を参考にして人造超力兵の正気を取り戻すのは不可能である前提で動くしかないワケでありますね。

 すまないなヤスツナちゃん。お前さんの姉妹を救ってやるのはちと絶望的かもしれん。もちろん可能ならば説得は試みるが、俺も死にたくないんでね。あまり期待はしないでくれ。

 

「──ッ!? 少尉殿……ッ! はい、いいえ特務少尉殿ッ!! そのお心遣いだけでも充分すぎるほどの僥倖でありますッ!! 少尉殿のようなお方に最期を看取っていただけるのであれば、姉妹たちも本望でありましょうッ!!」

 

 あ、痛い。ヤスツナちゃんのキラキラとした瞳の輝きがものスゴく痛いよ? 思ったよりも何倍も心にザクザク刺さるわコレ。あとどちらかと言えば俺のほうが看取られる側になる確率は高いと思うよ? 

 ヤベェなコレ俺ちょっと誤魔化す方向性間違えたクセェなオイ。下手するとなんか変なフラグとか立っちゃうかもしれんぞ。どうしよう、今度から特別にアラヤン式の人造超力兵をふたり副官として抱えていいぞとか言われたら。

 

「まぁ、優先順位だけは間違えないように頼むよ。ヤスツナ、F8492特務少尉と小隊との顔合わせの準備を。私はまだ彼と話すことがあるのでね」

 

「ハッ! 失礼しますッ!」

 

 元気よく返事をして部屋を出ていくヤスツナちゃん。ちょっとアホの子っぽい彼女もトリガーが引かれた瞬間にニコニコ笑顔で「これもみな、帝国の平和と未来のためなのであります!」とか言いながら襲い掛かってくるのだろうか。

 そんなヤスツナちゃんの背中に向けたイミナ中佐の視線は少し厳しいような雰囲気だ。これから話すことに関連しているのであれば、人造超力兵についての楽しくないお話が待っているかもしれないワケで。

 

 

「少尉。アレらは便利な道具であると割り切ったほうが身のためだよ。あぁ、勘違いしないでもらいたいのだがね、別にキミの心の在り方にケチを付けようという話ではない。

 過日、キミがトラブルに巻き込まれた資源惑星五○一番タタラに海軍の情報部の人間が……まぁ、キミの副官の遺体を回収しに行ったのだがね。もちろん原因の調査が主な目的だが、私とて真面目に働いている部下に少しぐらいは気を遣うことだってする」

 

 あー、うん。思うところはあるけれど、そうしてくれたなら俺は確実にイミナ中佐に恩義のひとつぐらいは感じたことだろう。

 どんな形であっても、祈りを捧げることで気持ちが楽になることもある。その部分だけはメシア嫌いの俺だって認めるところだし。

 

「陸軍もそれで我々の介入を終わらせることが出来るなら良しと考えたのだろう。共同で回収作業にあたること、そしてル号採掘基地に巣くうヨモツイクサどもがあまりにも危険であると判断した場合は中止することを条件にね。

 それで、いよいよ日程や人員、そしてヨモツイクサとの戦闘に備えた部隊編成を決めようじゃないかという段階で──日本帝国魔導院からの中止命令が出された。人造超力兵の回収及び調査は彼らが行い、勝手な行動をしようものなら私やキミを含めた関係者全員を国家反逆の意志があるものとして処刑するとまで言われたよ」

 

 おっふ。俺の知らないところで俺が処刑される可能性がフラフラ崖の上をギリギリ落ちそうになりながら進行していた件について。

 

「そんなことがあったものだからね、どうにも今回の要塞奪還作戦についても色々と疑い深くなってしまっているのだよ。なら具体的になにを怪しんでいるのかと聞かれると困るのだが……。

 ともかく、だ。件の上級大将閣下は皇帝陛下の血縁者とも縁があり『天使』の身分を与えられている人物だ。そんな人間が私物化していた要塞など先に説明した敵対存在以外にもどんな()()()が隠されているのかわかったものではない。

 わざわざキミを呼び戻したのも、その辺りに対しての備えという意味合いが強い。どうにか巧く調査隊の動きをコントロールし、そして無理だと判断したら適当な理由を付けてアマラ経絡を最大速度で逃げ帰り──あぁいや、情報を確保して速やかに帰還したまえ。調査隊の仕事は、必要な情報だけを、ただ持って帰ればそれでいい。賢いキミなら……わかるね?」

 

 了解であります中佐殿ッ! はいヤバいときは全力でトンズラこいていいって許可もらいました~、こんなに嬉しいことはないよね☆ そもそも実際に手の施しようが無くなったときに逃げる余力が残されているのかって問題はそのときになってから考えよう。

 それにしても……身分の話とはいえ、天使と呼ばれる存在が私物化していた要塞に俺はこれから乗り込むのか。それも悪魔が活動しているかもしれない場所に、民間人が取り残されているというオマケ付きで。ついでに人造超力兵に関する日本帝国魔導院の胡散臭い話を聞かされた後という変なフラグまで添えられましたよ? 

 

 懐に隠してあるソーマが俺にとっての末期の水になるかもしれへんな……。打つ手無しまで追い込まれたら、現地でMAG結晶体を大食いして派手に暴れたろ。なにやってでもゼッテェ死なねぇからな俺はァッ!!



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アンサング:5

「一応、挨拶の仕方は学んだが……どちらが貴方の好みだろうか? 特務少尉殿」

 

 本当はよくないんだろうけどね。いろんなところから部隊が派遣されてくるワケだし、階級に合わせた態度って組織が組織として運営されるためには大事だとは思うけどね。

 だが俺は敢えてこう言うとしよう。背中が痒くなるから同期の言葉遣いでお願いします、と。

 

 いや、まったく知らない相手ならともかくさぁ? さすがに見知った相手にですますありますで喋られると面倒でしかねぇわ。

 

「リーダーならそう言うんじゃないかとは思ってましたよ。ですが、せっかくですし1度くらいはちゃんと挨拶をしておくのも悪くないでしょう。 ──改めまして、マモル伍長でありますッ! よろしくお願いいたします、F8492特務少尉殿ッ!」

 

「同じく、ホノカ伍長であります。ご指導ご鞭撻のほど、どうかよろしくお願いいたします。なぁ、特務少尉殿?」

 

 異能を使うことができる、勝手知ったる頼れる仲間との合流ですわよ安心感がダンチで捗るゥ~ッ! たったそれだけのことでも、俺の心は嬉しさで9割ほど満たされてしまうのであ~るッ! 

 

 残りの1割? そりゃもちろんアライメントが異なる仲間を連れてほぼ確実に軍事国家の闇が隠されているであろう場所に戦いに行くってお膳立てに対して中指を突き立ててくたばれクソ野郎って言いたいな~って気持ちだよ☆

 なんの成果も得られないまま帰ることになったとしても、それが俺にとっては一番理想的な終わり方まであるで?

 

 なにが厄介って、コイツらタイプは違うけど分類するなら『ヒーロー属性』みたいなところがあるのが困る。手段は違えど困ってる人がいれば助ける性格してるワケだが……ハッキリ言おう。俺は要塞に取り残された人間はもう全員が手遅れだと思ってるし、その前提で動くつもりだ。

 

 前世の記憶から甦る数々の定番シチュエーションはもちろん、そもそも1度やってんだよ。見た目は普通の子どもでも、中身は全くの別物との戦いを。いやまぁ、正確に言うなら直接は戦ってないけどさ。

 えー、ともかく! マモルとホノカも似たような体験をしていれば別だが、そうでなければ説明したところで理解や納得が得られるか──違うよ~? 説明することそのものが俺の首を締める危険な秘密かもしれないんだよ~? ウソでしょ……。

 

 

「私たち以外にもDクラス出身者の戦闘員がそこそこ参加するらしいな。ヨモツイクサとの遭遇戦に慣れている我々なら、正体不明の敵との戦闘も心配ないだろう……だ、そうだ。

 軍の人間とは面白い冗談が言えるのだなと感心したよ。その言い方だと、まるでDクラス出身者ではない軍人たちは戦闘に慣れていない者ばかりのように聞こえるじゃないか、とな」

 

「設備の復旧や人命救助を担当する人たちの護衛も僕たちの任務に含まれていますので、単純にそういった人たちは戦闘よりも専門的な知識や技術に優れているのだと思いますよ」

 

「だといいがな。私たちDクラス出身者を集めて意気揚々と説明をしているヤツに対して、何人かの将校が冷めきった目で見ていたのも事実だぞ?」

 

「それは……まぁ、僕も正直なところそんなに重要な任務なら、もっとちゃんと教育を受けた正規軍人を中心にするべきなのでは? とは考えましたが」

 

 なーほーね? どうやらふたりの正規軍人に対するイメージはブタ玉のときに逃げ出した連中からあまり更新されていないようだな。

 俺なんかはメシテロ肉天との戦闘もそうだが、上官ふたりにテッセン曹長、それに新兵教育をしていた大尉さんなど頼れる人たちはバッチリ頼りになるもんだと考えを改める機会に恵まれたんだが。

 

 要するに、玉石混淆というヤツなんだろう。そしてそれはきっと、平和な世界だろうとディストピアだろうと組織が人間の集まりである以上どうにもならない問題だ。

 今回の作戦にも大真面目に民間人の救助を使命に燃えている人もいるだろうし、大真面目に要塞の奪還に尽力するべく備えている人もいるはずだと俺もわりと本気で信じてはいる。

 

 もちろん自信家の無能が芸術的センスを発動してチャンスをピンチに変えてくれるに違いないとも覚悟していますよ? 反論するヤツがいるなら逆に聞きたいよね、この手のシチュエーションでそういうアホが参加しない可能性なんて残ってると思うのかって。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「デモニカスーツは2000年以上も昔、まだ人類がひとつの惑星の周辺に玩具のようなちっぽけな人工衛星を飛ばすことしか出来ないような時代から続く由緒正しいテラフォーミング装備です。

 大抵の環境には耐えられますし、デモニカスーツで対応できないような状況になっているのであれば、それはもう要塞を奪還するより解体して新造したほうが早いぐらいですよ。

 あぁ、そんなデモニカスーツですが弱点もありましてね。食事をするときにはヘルメット前面のカバーもシールドも全部開けなきゃいけませんし、排泄パックの使い心地はどれだけ改良を重ねても不評のままです。そこは諦めて、要塞のトイレが使えることを祈っててください」

 

 やっぱりトイレ問題は深刻かつ人類にとって永遠の課題なんやな……って。さすがは技術班、ちゃんとその辺りも日々研究してくれてるんだなぁ~。生理現象が一切考慮されていない特殊MAGコートの開発者たちにも是非とも見習ってほしい。

 

「それと、潜入作戦に参加する将兵全員分の新しい試作MAGコートが届いています。防御力よりも、デモニカスーツの中に着込む前提ってことで運動機能のサポートをメインに開発されたヤツのようです。

 今回の戦闘で使い心地が良ければ本格的な改良と量産計画が始まるらしいですが……テストをするならもう少し安全な環境で試してほしかったですけどね。

 カタログだけ読んで誰が納得したのか知りませんが、それでいきなり現場で使わせるなんて、技術屋としてはふざけるなって怒鳴り付けたいぐらいですよ。もちろんそんなことはしませんがね。自分はまだ死にたくないんで」

 

 なんとまぁハッキリと物を言うことで。俺は好きだけどね。下手に気を遣った結果、大事な情報が伝わらなくてあとから困るとか嫌だし。もっとも、世の中には知らないほうが長生きできる話もゴロゴロしてるけど。

 まぁ俺としては扱いに慣れているMAGコートよりも、今回が初体験となるデモニカスーツをどれだけ初見で使いこなせるかが問題なワケだが。なにせ知識も経験もサッパリだもの。

 

「道具なんてのは、誰がどう使ってもそれなりに効果があるように設計するモノでしょう。そんなことすら知らずに、やれ才能がどうだとか適性がこうだとか言って半端な代物を作るオカルト屋にはわからんのです。

 気休めにしかならないでしょうけど、Dクラスからの叩き上げである特務少尉殿ならきっと上手く使いこなせますよ。少なくとも式典に並んでいる、装甲の上からでも恰幅の良さがわかるような高級将校閣下たちよりは安心して送り出せますから」

 

 ありがとう、名前も知らないメカニックのお兄さん。何故かわからないけど生き残れそうな自信が出てきたわ。

 

 

 で、そのためにも携行できる武器もしっかり確認せねばならんワケなんだがね。とりあえず施設を破壊する危険性があるから銃火器の使用禁止ってのはアレか、例の上級大将閣下が押し付けてきた条件なのかな? 

 俺の声が聞こえたのか、イミナ中佐よりちょこっと豪華な階級章を身に付けたおば様がものごっつ渋い顔して天を仰いでいるあたり……うん、正解っぽいな。縛りプレイが加速して危険な領域に以下略だよもぉぉぉぉッ!

 

 あ、でもグレネードランチャーは使わせてもらえるのね。ふむふむ、閃光騒音弾とな? なんかパラサイト・イヴでそんな武器あったかもしれん。ライオットだかエアバーストだか忘れちゃったけど。

 あとは投擲用のナイフ類にサーベルやら斧やらハンマーやらの接近戦用の武器をご自由に、ね。宇宙世紀で宇宙要塞にハイテク装備してワープ装置使って潜入するのに戦闘方法は実に原始的だなオイ。いや、異能を使えることを考えると中世系ファンタジーに近いかも。敵もたぶん悪魔なワケだし。

 

「あとは……そうですね、戦闘に関しては特務少尉殿がプロフェッショナルかもしれませんが、それ以外の場面では情報屋の連中に従うようにしてください。

 自分たちも様々な薬液なんかを使いますが、中には臭いを嗅いだだけで肺が焼け爛れるような危険物もありましてね。個人が使う装備の開発やメンテナンスですらこれですから、宇宙要塞なんて人間なんか簡単に死んでしまうような物質も使われていることでしょう。鼻先が痒くなったからといって、うっかりシールドを開けたりしないでくださいよ?」

 

 ねぇ知ってる? そんな危険物がどこから噴出するかわからない場所を正体不明(推定悪魔)の敵が闊歩していて人造超力兵が暴走しているんだよ? 

 戦闘の影響で下手に壁の1枚壊れただけでも大惨事ガチャの始まりだな。いや、仮に悪魔が大人しくしてたとしても民間人の救出とか普通に無理だろコレ。



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アンサング:6

 いままであまり気にしていなかったが、今回の潜入任務で改めて理解したことがある。この世界では通信機器の扱いが恐ろしく制限されている、ということだ。

 通信が可能なのは専用の装備を持たされた工作兵だけ。それ以外の戦闘員が着用しているデモニカスーツに通信機能は備わっていない。

 

 もちろん、そのことに疑問や不満を持つ者は誰一人としていないのだろう。何故ならこの世界の人間にとって、少なくとも日本帝国宙域で生活する日本人にとっては、通信手段とはそういうモノであるのが常識だから。

 

 ひどくなぁい? 伝説のヘビのおじ様だって無線通信でのサポートありでミッションこなしてたんだよ? 俺にそれよりも悪条件で仕事しろってのか。

 しかしここで下手に文句を言うワケにもいかんだろう。何故なら俺はDクラス、物知らずの人間が個人向けの携帯端末とか存在しない道具についてポンポンとアイディアを出すのは不自然だからさ! 

 

 一応、無理やり好意的に解釈をすることもできる。女神転生シリーズに登場する悪魔って電子生命体みたいなところあるから、なんらかの事故が大昔に起きた結果としてギチギチに締め付けるしかなくなった……とか。

 それはそれで工作兵が扱う通信機器に異常が起きないか心配だけど。怪談話みたいにノイズかと思ったら悪魔の声(ガチ)が聞こえてきたとかさ。アレ? コレ普通に洗脳とか憑依の危険性あるんじゃね?

 

 

 やだぁぁぁぁッ! 小官ヤダァァァァッ!!

 

 ポンポン痛いのぉぉぉぉお家帰りゅぅぅぅぅッ!!!! 

 

 そういえば俺って培養液で満たされたシリンダーの中で産まれたから帰る家なんかなかったわ。こりゃうっかりうっかり。わっはっはッ! 

 

 

 アホな冗談はさておき。実際のところ、どんな対策すればいいのか見当も付かんな。これがペルソナシリーズであれば神経無効とか精神無効みたいなスキル持ちを装備すればいいだけの話なんだけど。

 いっそのこと拳で解決できないか試すか? 精神鑑定(物理スキル)で正気を取り戻せれば儲けもの、ダメならそのままミッションが終わるまで、もしくは宇宙が終わるまでオヤスミナサイしてもらえばいい。

 

 どうにもならないと判断したら、思いきって正体不明の敵が暴れてるってことにして通信機器をブッ壊すのもアリだな。通信手段に制限がかけられているからこそ、封じ込めを狙うにしても現実的な対処が可能だろうし。

 うん? その理屈でいうなら俺の生存戦略にとって不都合なことがあったときの口封じも楽なんじゃね? 情報の拡散さえ防いでしまえば、あとは全部正体不明の敵とやらに責任を押し付ければ問題は解決じゃん。

 

 オイオイオイ、勝ったわこの任務。なんとまぁ俺に都合の良い条件が整ってるとか、やっぱ異世界転生って基本的にイージーモードなんじゃね? いうて2周目プレイみたいなもんだからな! ガハハハハッ! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 手早くミーティングッ! 

 

 アマラ経絡集合ッ! 

 

 そして人造超力兵の案内で宇宙要塞『栄光と忠義と武士道の砦』に繋がる出口までやってきたのだ!

 

 ちなみに名前を付けたのは例の上級大将殿らしいのだ!

 

 ネーミングセンスが抜群過ぎてちょっと頭が痛いのだ! 

 

 

 アマラ経絡内部での遭遇戦は発生せず。実にありがたい。こんな場所で天使バンザイと叫びながら悪魔と融合するような連中と戦うとか嫌な予感しかしねぇもの。

 姿形が見えない呼び声たちがどんな反応をするのか怖いもの見たさって部分も……ないな、うん。巻き込まれたら命が危険なことになるの確定でしょ。

 

 

 で、だ。

 

 

 突入役の人たちが、待ち伏せを警戒し出口に何発か閃光弾をブッパしてから乗り込んでいったワケなんだが……なかなか戻ってこないねぇ?

 いやいや、まだ慌てるような時間じゃない。緊張しているときの待機時間なんて長く感じるものさ。きっと周囲の安全確認をするのに手間取ってるだけで、もう少しすればひょっこり顔出して戻って──来たッ! これで勝つるッ! 

 

「戻ったか。中の様子は?」

 

「それなんだがな。テロリストも正体不明の敵とやらも、暴走した人形どもの姿も周囲には見当たらなかったんだが……状況は、良くないかもしれんな」

 

「なにがあった?」

 

「草だよ」

 

「は?」

 

「だから、草が生えてんだよ。そこらじゅうにな。信じられるか? 金属で出来た床やら壁やらに雑草が根っこをはってるんだぜ? なんなら、オレの身体よりも太い木の枝だか幹だかみたいなのが壁を貫通しているところもあるぞ。

 幸いにして、と言っていいのかわからんが隙間は流体金属で塞がっているから、面倒なガスやら液漏れの心配はしなくていいかもしれないが……あんまりのんびりしていると、要塞全体が植物に浸蝕されてブッ壊されちまうかもな」

 

 まぁ、生命の神秘ね! コンクリートに咲く花のように健気な美しさを感じちゃ~うみたいな~余裕なんてあるワケないだろいい加減にしろッ!

 俺知ってんだからねッ! っていうか体験してるんだからねッ! 本来なら植物が繁殖するような場所じゃないところに緑の息吹が芽生えている光景ってヤツをさぁッ! 

 

 もしかしてコレも関係している可能性があるか? 普段は悪魔の姿が見えない人が急に見えるようになる条件に。いや、それなら正体不明の敵がどうこうって話になるのはおかしいよな?

 謎の植物の発生プラス、なにかの条件。あるいは条件が満たされる前段階として植物が発生していると考えるべきか。この前のメシテロ戦でもギリギリ仲魔の姿は見えていなかったし、単純にMAGが高まるだけじゃ完全な実体化までは届かない……かもしれない。

 

 相変わらず油断はできないが、こうして少しでも仲魔を召喚するリスクについてヒントが得られるのは素直にありがたいな。要塞内部が悪魔にとって都合の良い環境に変化しているかもしれないって可能性を考えるとゲロ吐きそうになるけど。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「空気の汚染は問題ないようです。どうやらこの植物たちが光合成でキレイにしてくれてるみたいですね。

 もっとも……電気系統に不具合が起きてるのか、これだけ薄暗い環境で光合成してるあたり普通の植物じゃなさそうですけど。僅かですが生体マグネタイト反応があるのも気になりますね」

 

「万が一のときに窒息で死ぬ可能性や、民間人の避難が少しは楽になる……と思いたかったんだがな」

 

「どこかから漏れ出していたモノでしょう、表面から何種類かの有毒物質が検出されています。それらも取り込んでの光合成ですからね、どう考えても異常ですよ。

 なので皆さん。エアー残量には気を付けて、万策尽きるまではフェイスシールドは開けないようにお願いします。民間人の避難誘導時は必ずマスクを装着させて、呼吸器官の検査を最優先にしてもらう必要がありますね」

 

「検査、検査ねぇ? 港の安全確保に動いてる連中が早いところ仕事を終わらせてくれることを期待するしかねぇ、か。民間人でもアマラ経絡を通して逃がしてやれりゃあ、少しは安心なんだがなぁ」

 

「出来ないことを嘆いても仕方ないでしょう。ちゃんと身体を鍛えている人間じゃないと、ほんの数分で意識を失うんですよ? 基地まで搬送する間に取り返しのつかないことになったら本末転倒ですから」

 

 ほぇ~。アマラ経絡って、そんな感じの場所だったんスね~。

 

 身体を鍛える、おそらくは保有しているMAGの量がある程度の水準を超えていないと意識を持っていかれるのかな。

 そういう話を聞かされちゃうとさぁ~? 移動手段として確立するまでの犠牲とやらについて、あまり考えないようにしたくなるよねぇ~? 

 

 

 あとは……いよいよ追い詰められたらフェイスガード開けても即死の心配は無い、ってのはありがたい。いざとなれば御守りに偽装して持ち込んだソーマの小瓶を一気飲みできるからな。

 もちろん工作兵の人の説明を無視するつもりはない。あくまで万策尽きるまで追い込まれたときの話だ。そもそもMAGを含んだ状態で光合成してるって時点でこの謎植物はどう考えてもヤベェだろ。

 

 生体マグネタイトは人間の強い感情の動き、それも恐怖とかの負の感情のほうが強力なエネルギー源になる……みたいな設定があったはず。真・女神転生Ⅲでも似たような性質を持つ『マガツヒ』というエネルギーを絞り出すために拷問が行われていたし。

 そんな物質を取り込みながら光合成する植物だよ? 人間の絶望を養分として青々と生い茂り可憐な花を咲かせます~なんて言われたら、そんなん女神転生を知らん人でも近付いたらヤバくね? ってなるわ。

 

 

 …………。

 

 

 …………?

 

 

 え、ちょっと待って。

 

 そのMAGって、何処から発生してんの?



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アンサング:7

 俺は、なにも、知らない。

 

 故に、なにも、聞かない。

 

 

 特務少尉なんて肩書きがあっても所詮はDクラス帝国市民の成り上がり、危険な情報を共有する権利なんて存在しないのさ~。

 ちくせう、俺にもっとこう語彙力や表現力があれば、もっとこう、イイ感じにもっとこうほら、アレしたりできたかもしれないのに! 

(母国語ロール失敗)

 

 ま、どうにもならないこと嘆くより出入り口の確保が出来たことを素直に喜んでおこう。なぜメシテロ集団がターミナルを放置しているのかは気になるところだが……どうせアレだろ、それどころじゃないようなトラブルとか起きてんだろ? 

 ダイン系魔法が使える悪魔合体メシアンが人造超力兵に簡単に押し切られるとは思えないし、正体不明の敵とやらに強力な悪魔がいる前提で動くのが正解かな。ダイン系魔法が気軽に使える代物ではない可能性もあるっちゃあるが。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 俺が配属されたチームの役目は生活エリアの調査だ。司令部とかの重要かつ見たくない情報が転がってそうな場所や、空気や熱を生産するための動力系の確認に比べればだいぶ気楽な割り当てだろう。望んで大きな責任なんて背負いたくないからね、ちかたないね。

 もっとも、ダメな方向性のフラグという意味ではそんなに変わらないけど。テロリストに襲撃された結果、謎の植物に汚染された宇宙基地の居住空間だぜ? むしろ、これで何事もなく平和に調査が終わったりしたら逆に不安になるレベルだわ。

 

 しかし、なんというか。惑星型要塞というだけあって、通路が大型トラックも余裕ですれ違えるぐらい広いのはいいんだけど……どこもかしこも植物の繁殖がどえらいことになってるからジャングルの中を歩いてるみたいに感じまして。

 

「異常な光景だ、ということは理解しているつもりなのだが。どうにも生々しい浸蝕をされているコロニーと比べると、視覚的にはまともに感じてしまうな」

 

 それな。

 

「気持ちはわかりますがホノカさん、僕たちはこんなふうに薄暗い環境で戦った経験はありませんからね。油断はできませんよ。ヨモツイクサ以外を相手取るのも初めてなんですから」

 

「わかっているよ。なに、その辺りの加減は頼れるリーダーの指示に期待するさ。イミナ中佐殿から話は聞かされている、なんでも陸軍に遊びに行っているときに、ずいぶん派手に暴れたらしいじゃないか?」

 

 派手に暴れたのは事実かもしれないが、勝ち負けで判断するなら負け戦だと思うんですがそれは。

 俺はいいよ、個人的な話なら生き残ることが目的なんだから。でも巫女が大勢連れ去られて、テロリストたちの目的は果たされているワケだから軍人としては敗北そのものだろう。

 

 言えないけどね。

 

 いや、別に見栄とか恥の問題じゃなくて。メシテロ肉天との戦いは無かったこと扱いだし。イミナ中佐がふたりに話した内容がわからない以上、曖昧に誤魔化す以外にできることありゅ? 

 

 

 そんなモヤモヤと葛藤を抱えつつ、それでも周囲の警戒を続けながら進む俺。

 

 工作兵の人からの警告はいまのところ特に無し。相変わらず謎の植物たちが空気をキレイキレイしてくれているらしく、変化が起きてから報告したほうが邪魔にならないだろうと静かになっちゃったよ。

 ただ、この辺もどうやら1度なんらかの毒性を持つ有害物質が溢れ出した痕跡があるらしく、生存者がそれらの影響を受けている可能性もあるかもしれないとのこと。

 

 なるほど、それは大事な情報だな。俺たちの任務には民間人の保護も含まれているからな!

 

 そのせいで慎重に進みたい派と駆け足で進みたい派で衝突が起きてるけど仕方ないよな!

 

 うんうん、正論同士の衝突ほど厄介なモンはそうそう無いよな! あぁ~、仲間の割れる音ぉ~。

 民間人の保護を急ごうって主張したくなる気持ちもわかるのが辛いところだな。毒で苦しんでいるかもしれないってのはもちろんだが、戦闘も起こらず酸素も問題ない状態が続いていると警戒する時間がもったいなく感じるのもわかるよ? 

 

「僕も素直な気持ちとしては、一刻も早く民間人の救出を急ぐべきだと思います。こうして時間を浪費している間に、助けられたはずの命が失われてしまうかもしれないのですから」

 

「そして走り出した先の曲がり角から奇襲を受けて全滅してしまうかもしれない。ここまで戦闘が無かったからといって、この先も発生しない保証はない。それに、通路の安全確保を蔑ろにした結果、民間人を連れ帰る最中に襲われる可能性もあるだろう」

 

 冷静に語りつつもシールドの向こう側では渋い表情のマモルと、冷静に分析しつつも忌々しいと言わんばかりに舌打ちするホノカ。

 主張が反対なのは相変わらずだが、相手の意見をちゃんと聞けてるのは偉いゾ☆ 互いに罵り始めたほかの連中も見習って、どうぞ。

 

 まぁ~イライラする気持ちもわかるんだけどさぁ~? 仲間同士でそこまで言い争うことないでしょ~? いうて俺も精神が昂っている感覚はなんとなくあるし、攻撃的になっちゃうのもこんな状況では弱腰になるよりは頼もしくも──待て。

 

 

 

 

 マモル、ホノカ。頭を切り替えろ。戦闘だ。

 

 

 

 

「──ッ!? 了解ですッ!」

 

「了解だ。それで、リーダーはなにを気付いた?」

 

 前に同じことがあった。たぶん全員が精神に影響を受けている。そしてすまないが、詳細は話せない。Aクラス帝国市民の上官が問答無用で処刑された案件だ、と言えばヤバさは伝わるだろう? 

 

『『────ッ!?』』

 

 ヒューッ! さすが、こんな任務に参加しているだけあって皆さんも切り替え早いねぇーッ! 全員が一斉に武器を構えて背中合わせに周囲を警戒してますよ。こういうのでいいんだよ、こういうので。

 

「F8492特務少尉、なにを知っている? いや、違うな。それは……上級中尉であるオレの権限で聞ける内容か?」

 

 はい、いいえ上級中尉殿。佐官でさえも詳細を知らされることなく黙るよう言われる案件であります。……ウソは、言ってないヨ? 

 

「チィッ!! クソが、上級大将閣下の高尚なるお考えなんぞ、オレらみたいな下っぱ兵士にゃもったいないってか?

 ──あぁッ!! クソッタレがよォッ!! 全員、優先順位を確認するぞッ!! 部隊の生存、そして調査だッ!! 民間人は……民間人のことは、最悪を想定、いや前提として動くぞッ!! クソがッ!!」

 

 うん、この上級中尉殿は間違いなく善人だな。そしてきっと優秀な人なんだろう。こんなふうに命令されたんじゃ、全員が従うしかないじゃない。

 

 やっぱ出世なんてするもんじゃねぇな? こんなプレッシャーに常にさらされるとか想像するだけで胃腸がブギウギしちゃう。

 ふたつの意味でハチノスです、なんてなッ! ガハハッ! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 一体感と安心感がしゅごい。状況はなにも良くなっていないが、少なくとも当面はアライメントの違いによる衝突は起きないだろう。

 俺たちはいま生きるか死ぬかの瀬戸際を歩き続けているんだ。仲間割れのリスクが減った、それだけでも充分過ぎるほど助かる。

 

 こうなると……やっぱり一番の問題は正体不明の敵だな。俺の予想通りそいつらが悪魔だった場合、全員がメンタルにデバフを食らっている状態でのエンカウントは最悪と言っていい。

 いやまぁ、悪魔合体したテロリストが魅了魔法のマリンカリンや混乱魔法のテンタラフーを使ってくる可能性もあるんだけど。そういう意味では単純な暴力に特化しているであろう人造超力兵よりメシテロどものほうが厄介かも。

 

「──ッ!? MAGの異常反応ッ!! 左前方、1ッ!! 通路の奥から来ますッ!!」

 

 噂をすればなんとやら、ついに現れたかッ! 工作兵の持つ機器に反応があるってことはつまりッ! ……え? どれ? なにが出てきてもMAGの反応はあるよね? 

 

 

 

 

「ヒッ、ヒヒッ! き、き、来やがったなぁ……ほ、星を、星を食い荒らす、寄生虫どもめ……ッ! にほ、日本人の、クセにぃ、自然への、自然へのォッ!

 敬意をぉ、忘れたおろ、おろ、おろおろ愚かな愚か愚かなかなか忘れた寄生虫どもが来たんだよなぁ……ッ!!」

 

 

 

 

 うーん。見た目はまだ人間だけど、青いローブ着て愚かって単語が好きなあたり彼はメシアンですね。

(確信)

 

 ここで先手を取って突撃かまして斧で頭を叩き割れれば楽なんだけど、迂闊に飛び込んだところに反撃でザンダイン使われたら俺普通に死んじゃうからムリだな。

 魔法反射のマカラカーンなんて贅沢は言わないから、せめてラクカジャ使える仲魔との出会いぐらいは認めて欲しいないい加減に。

 

 

「抵抗は無駄だッ!! 大人しく投降しろッ!!」

 

 命だけは助けてやる、とかは続かないんだな。そりゃ自国民でさえ普通に使い捨てられるのに、敵対組織の人間なんて生かすワケないか。

 

「バカめ。バカめバカめバカめバカめェェェェッ!! ヒィ、キヒィ、ギヒヒャァッハッハッハッ!!

 ただの人間から離れられないお前たちなんかにィッ!! 救世主として選ばれた我らを止めるとなどできんのだよバァカめェェェェッ!!」

 

 テンションアゲアゲで得意気に喋りながら、自称メシアの男がMAG結晶体を取り出す。やっぱお前も変身するんすねぇ~。

 

 

 知ってた。──ホイッ!! 

 

 

「…………は?」

 

 

 仮面ライダーや戦隊レンジャーの変身シーンじゃねぇんだ、黙って見てるワケねぇだろ。

 MAG結晶体を食われる前に、投げナイフで先に砕く。実は腕を狙ったんだけど、結果的にMAGモグモグを防げているのでヨシッ!

 

 ……デモニカスーツ着てる間は投擲、失敗する前提のほうがいいかも。

 

 

 

 

「ギ、ア、ボ、ヒィッ!? きさ、キサマッ!! キサキサキサキサ愚かキサマ寄生虫の分際で救世主のバカめお前たち選ばれた自然への人間が愚かな敬意をキサマの救世主が自然を選ばれた寄生虫の分際でェェェェッ!!」

 

 

 

 

 あ、変身そのものはMAG結晶体を食べなくてもできるのね。前に戦った連中と比べるとあからさまにビジュアルが出来損ない感丸出しだし、無意味ってワケじゃなかったと思いたいところだ。

 ただ肉の塊とまではいかない辺り、MAG結晶体を使った悪魔合体とは別のルールがなにかあるんだろう。

 

 どのみち視覚的攻撃力は高いけどな。上半身は皮膚が裂けるほど膨れ上がってボコボコしてるし、下半身は完全に弾けて肥大化した内臓で這いずってるし。

 なんかナメクジとか軟体生物のキメラのような……ホントにお前らそんな見た目でよく救世主なんて名乗れるな? どんだけナルシストなの? 自己愛のメンタル強すぎるだろ。

 

 

「器、器なんだよ我らは器なんだ新しい世界を構築するためのォッ!! 苦ヨモギを掬い上げた器は蜂蜜酒で満たされ、塩の柱に捧げられるのだァッ!

 月の道標をォッ!! 聖大天使様がお通りになられる月の道標が必ずそこに現れるッ!! それを邪魔をするなどォォ赦されないんだよゴミムシどもがぁぁぁぁッ!!」

 

 ハハッ、なに言ってんのか全然わかんねぇ。



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