ペルソナの主人公に転生したらしい (明人)
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幕間の物語 if...
幕間の物語 File.if...:クリスマス編①


クリスマスぼっちが確定した筆者からのクリスマスプレゼントと早めのお年玉でしゅ

想定している物語の展開的にほんへでクリスマスと正月の話を出来るか微妙なので、あり得るかもしれない未来のお話ということで。
ゴングを鳴らせ ライドウ争奪戦開始だっ!


 ヤタガラス本部の大会議室。

 本来ならば強大な悪魔や厄介な異界案件が発生したときに使用される場所なのだが、12月になった初日の今日この日は、例外的にとある議題について話し合う為に貸切にされるのが通例である。

 

 現在、この大会議室に収まっている人数は四十人を超えており、その大半が女性であるのだが会議室の最奥、所謂議長席に座っているのはこの会議室内で唯一の男性である峰津院ヤマトだ。

 

 ヤマト以外の顔ぶれは、メサイアとして名の知られている汐見琴音(ハム子)を筆頭としたSEES(ペルソナ3)の女性陣に、久慈川りせと白鐘直斗の二名。そしてここ最近巷を騒がせていた怪盗団の女性メンバーと十五代目葛葉ライドウとコミュニティを築いた、ペルソナ5というゲームでロマンス対象となっていた女性陣。

 そして、ヤタガラス所属の異能者や異能者の大家に生まれた令嬢、ライドウに命を救われた者もこの場にいる。

 

「では、()()()()()()()()()()を始める」

 

 別の世界ではいろんな意味で有名なゲンドウポーズをしたヤマトが真剣な表情でそう呟くと、他のメンバーも表情を引き締める。

 それも当然だ。この会議の結果が今後の彼女たちの人生を左右する事になるかもしれないのだから。

 

「例年であればイベント事に関しては刃傷沙汰にならない程度に各々の裁量に任せていたが、今回からは大幅に人数が増えたことと『例の事件』の影響もあって、ある程度の制限を掛けさせて貰う」

 

 一般的にイベント事というのは人間が異性にアプローチする絶好の機会である。

 となれば、色んな経験をして積極性の増した女性達が色めき立ち、意中の相手、この場合は葛葉ライドウに対してアプローチを仕掛けない訳がないということだ。

 

 しかし、いざアプローチを仕掛けようと各々が計画を立てていた所に、この無慈悲なヤマトの宣言を食らった女性陣が不満を漏らすが、彼女達の文句を黙殺したヤマトが更に言葉を続ける。

 

「一つ、期間は12月20日から1月9日までの21日間」

 

 認知異界騒動が落ち着いたとはいえ、それ以外の異界は普通に活動しているため、本来なら年末年始だろうと関係なくライドウは多忙であるのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こともあり、今回はヤタガラスの人員を総動員してライドウの仕事を肩代わりすることで、ライドウに21日間という長期休暇を与えることが決定しているのだ。

 

「一つ、異能を使用したライバルの牽制はご法度とする」

 

 ライドウを巡って刃傷沙汰にならないように、という配慮もあるが、どちらかというと異能を持たない人間にも平等にチャンスを与える為の制限だ。

 血筋は大事だが、それ以外の要素も同じくらい大事であるし、単純にライドウの血筋が増えるのであれば誰も困らないから、異能を持たない人間の参加も許容しているのだ。

 

「一つ、この会議で決めたライドウへの接触日時、時間は遵守すること」

 

 これは単純に今回の会議の参加者数が多い為、日程が被って問題が発生しないようにする為の措置だ。

 前提条件として内ゲバをしないようにと言い含めてはいるものの、不要な衝突を防ぐための制限だ。

 

「以上、この三点を遵守することを条件に年末年始のライドウへの接触を認める。不満がある者は退席してくれても構わないが、その場合は当分の間ライドウとの接触は不可能になることは肝に銘じておいてくれ」

 

 ヤマトがそう言い放ち、今回の争奪戦から離脱する人の退出を促すが、誰一人自身に与えられた席から動く気配はない。

 むしろ、この時間すら無駄であるため、さっさと争奪会を始めろとも言わんばかりの雰囲気だ。

 

「退席者なし、か。あいつも大変だな」

 

 悪魔と天使の野望を阻止し、セプテントリオンを退け、魔人を打ち倒し、人間の意志を消し去る認知異界を消滅せしめた世界を救った英雄ともなればこのくらいは当然とでも言うように、満足気な表情を浮かべたヤマトが席を立つ。

 

「それでは、ライドウへの接触順を決める」

 

 そう言ったヤマトは自身が座っている席に鎮座していた真っ白な箱に手を置く。

 

「クジ引きというシンプルな手順ではあるが、このやり方でライドウに接触するタイミングを決める」

 

 ヤマトの手元にある白い箱には異能の干渉を妨げる効果がある為、どんな異能を使ったとしても今回の抽選で不正を行うことは出来ない。

 

「さあ、己の運命を試す時間だ」

 




このあり得るかも知れないif話はヤタガラス→P3→P4→P5の順でライドウの時間を占有する女性陣の話になります。

ヤタガラス陣営は迫真琴(マコト)、菅野史(フミ)、柳谷乙女(オトメ)、峰津院都(ヤマトの妹)
P3は汐見琴音、桐条美鶴、岳羽ゆかり、望月トキメ(TS望月綾時)
P4は久慈川りせ、白鐘直斗、真下かなみ(かなみん)
P5は高巻杏、新島真、奥村春、佐倉双葉、御船千早、武見妙、川上貞代、大宅一子、東郷一二三、新島冴、芳澤すみれ&芳澤かすみ、鈴井志帆
可能ならベルベットルームメンバです。

メッチャ多いな。
20超えるとか嘘だろ

あ、活動報告でこんなシチュエーション欲しいです。みたいなコメント受け付けてます。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=306580&uid=83241


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幕間の物語 File.if...:クリスマス編②

トップバッターはヤタガラス(ジプス)の面々。
真琴は言わずもがなだが、他の人もかなりの重力場を発生させています



「一体、どうなってるんだ?」

 

 今年も残すところ後数日と言った年の瀬の12日23日の夕方。

 例年に負けず劣らず今年も色々と大変な出来事が起きはしたものの、どうにかこうにか終末世界到来の危機を防ぎきって今年こそは穏やかな年の瀬を迎えられるんじゃなかろうかと思っていた。

 

 例年通りであれば年末年始も異界や悪魔案件を片付けていたのだが、今年は色々あったせいで表立っての行動がし辛くなってしまったので、ほとぼりが冷めるまでとはいえ現状は実質的な戦力外通行を受けてしまい、こうしてルブランでコーヒーを飲みながらカウンターに突っ伏して暇を潰していたのだが、ここ最近途轍もなく困ったことが起きている。

 

「何か良くないことの前兆か?」

 

 困ったこと、それは俺がヤタガラスから長期休暇を言い渡されてルブランで暇を潰すようになってからずっと、ヤタガラスの活動の中で助けた人達から一切の隙間なく『お誘い』を受けている事だ。

 

 この三日間は昔から交流のある異能の大家の令嬢や、悪魔やダークサマナーに襲われていた所を助けた事のある女性、ヤタガラス所属の異能者といったそれなりに交流があった女性達から食事やらショッピングやら修行やらと様々な理由でお誘いを受けてそれらの対応をしていたのだ。

 

 彼女達の行動は何らかの裏や悪意があってのものでは無いようだったし、例の事件の時に色々と助けてもらった恩もあったので、普段なら色々と理由を付けて断っていた類のお誘いも今回は断らなかったのだが、見目麗しい様々なタイプの女性が入れ替わり立ち替わり俺と交流を持とうとギラギラした眼つきでやって来るので、精神的には割と疲れている状態なのだ。

 

「おごご。一体俺が何をしたというのだ」

 

「釣り上げた()に餌を与えなかったのが原因かと」

 

 後ろから聞こえてきた聞き覚えのある声に驚きながら振り返ると、そこにいたのは見慣れたヤタガラスの制服ではなく、私服姿のマコトさんが立っていた。

 

「マコトさん!? もしかして迎えに?」

 

「いえ。偶々近くに寄ったのでついでに、です」

 

 ルブランで世話になる様になってからは殆ど機会がなかったのだが、今日は久しぶりにマコトさんに夕飯をご馳走になるという約束をしていたのだ。

 

 前世の記憶を思い出して、葛葉家の養子になってデビルサマナーとして一人で活動するようになってからは、殆どの時間を訓練と任務と移動に充てる生活をしていた。色々と忙しい時には、まともな食事をとる暇すらなく戦いに向かうようなこともよくあった。

 

 子供の頃から付き合いのあるマコトさんは、そんな俺の様子を見かねて、時々俺を自宅に招いて食事を振舞ってくれていたのだが、今日は久しぶりにその食事会のお誘いを受けたのだった。

 

「ごめん、直ぐ準備するから」

 

「いえ、そのままで大丈夫です。すぐに向かいましょう。時間が惜しいですから

 

 最後の方は聞き取れなかったが、まあ、いつも通りの食事会だからそんなに色々と準備する必要はないか。

 

「あー。じゃあ行くか」

 

「ええ。()()()腕によりをかけて準備しましたから。楽しみにしていて下さい」

 

 この世界の女性にはごく稀に即死魔法のような効果を発揮する料理(ムドオンカレーや虚無ライス)を作る人がいるが、マコトさんの料理は一級品とまではいかなくとも毎日食べたいと思えるくらいには美味しいから、普通に楽しみだ。

 

「あ、お土産用意したから、ちょっと待っててくれ」

 

 久しぶりに食事をご馳走になるということもあり、お礼の意味も込めてマコトさんの好物の宇治抹茶パフェが入った和菓子セットをルブランの冷蔵庫に入れていたのを思い出した。

 折角用意したのに渡せなかったら意味ないからな。

 

 カウンター席から立ち上がっていそいそとお土産の準備をしていたこの時の俺は気付いていなかった。

 俺を見るマコトさんの目が、ここ最近何度も見たギラギラした怪しい光を宿していたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お。来たわね。ライドウ君。待ってたわよ」

 

「遅いぞ~、ライドウ。で、お土産は?」

 

「開口一番でそれか。少しはオトメさんを見習ったらどうなんだ?」

 

 マコトさんが運転する車に揺られて到着した都内のタワーマンション。

 ヤタガラスと懇意にしている不動産会社が所有しているこのマンションには、それなりの人数のヤタガラスの人員が住んでおり、マコトさんも昔からここに住んでる。

 

 久しぶりに踏み入ったマコトさんの部屋で待っていたのは、部屋に設置されたコタツに入って準備万端のIHコンロを囲む柳谷オトメさんと菅野フミさんだった。

 

 この三人は所属こそ全員ジプスというわけではないがよく一緒にいるところを見掛けるし、かなり仲が良いいのは知っていたが、年の瀬に集まって鍋パーティーをするほど仲が良かったとは知らなかった。

 

「残念ながら、お土産は和菓子詰め合わせだ。マコトさんの好みに合わせたからヨークシャープティングも寿司もないぞ」

 

「む。残念」

 

 身体をコタツに入れたまま動く気配のないフミさんをよそに、いそいそと立ち上がったオトメさんは俺の手からお土産を受け取って勝手知ったる我が家のようにキッチンの冷蔵庫にお土産を収納する。

 若干嬉しそうだったのは、お土産の内容がオトメさんが好きな甘い物だったからというのもあるだろう。

 

「それで、今日はどうしてここにいるんだ? マコトさんだけだと聞いていたが」

 

「ん? ああ。そっか。哀れな子羊は知らないのか」

 

「??」

 

 俺の質問に対して答えになっていない回答をするフミさんに、どういう意味か問いただそうとするが、それよりも先に部屋に戻ってきたオトメさんに後ろから抱きすくめられ、背中を押される。

 

「まあまあ、気にしない気にしない。ほら、主賓は座って待ってて」

 

「は、はぁ」

 

 コートを脱いで部屋着になったことで、もろに背中に押し当てられている柔らかい感触に若干ドキマギしながら、フミさんの正面に座ってコタツに入る。

 今年の冬はかなり寒かったのだが、ルブランの屋根裏は土足で歩き回る場所なので昔ながらの石油ストーブしか置けず、コタツを設置できなかったので、コタツに入るのはかなり久しぶりだ。

 

「はぁああ。暖か……!?」

 

 コタツに入って冷えた身体を温めていると、誰かの足が俺のズボンの裾をめくりあげてそのままその滑らかな肌を俺の足に絡みつかせて来る。

 

「……」

 

 現状コタツに入っているのは俺とフミさんのみ。

 俺の足に絡み付いている滑らかで柔らかい感触がホラー映画よろしくな幽霊の物でなければ、この現状を生み出しているのはただ一人だ。

 

「んー。どうしたー?」

 

 嗜虐的な表情でニヤニヤと笑うフミさんをジロリと睨むが、ここで問い詰めると更にエスカレートしだすというのは良く知っているので放置しておくのが一番だ。

 どこか嬉しそうな表情で足を絡めてくるフミさんと睨み合っていると、湯気を立たせている土鍋といくつかの料理を持ってマコトさんとオトメさんが戻ってくる。

 

「あまり彼に迷惑を掛けるなよ。フミ」

 

「うーん。こんな美人からのアプローチはむしろご褒美なのでは?」

 

「はいはい。みんな入るんだから足どけて」

 

 笑顔のはずなのに何処となく圧のある二人に逆らうつもりはないのか、二人の言葉に従ってフミさんが足を引っ込ませると、マコトさんとオトメさんもコタツに入る。

 

「色々と用意したが、メインは牡蠣鍋だ。存分に味わってくれ」

 

「おお。牡蠣か」

 

 真冬の牡蠣は美味しいというのは知っていたが、まさかこのタイミングで食べられるとは。

 各々が取り皿を取って、全員で手を合わせて鍋をつつき始める。

 

「ん! 上手い」

 

 これはただの鍋ではないな。出汁からして違う。

 結構な時間と手間がかけられているであろう鍋を味わいつつ、他に用意されている一品料理を味わっていると、俺以外の成人している皆は酒瓶を開け始める。

 

「珍しいな」

 

「まあ、折角の機会ですから」

 

「勢いと踏ん切りをつけるのに必要だからね」

 

 もしもの事態に備えて、基本的に飲酒をしないマコトさんとオトメさんが珍しくアルコールを口にしているのを眺めながら、談笑を挟みつつ食事を続ける。

 暫くして鍋の中身も他の料理も尽き、お土産の和菓子に舌鼓を打っていると、思っていたよりも長い時間お邪魔していたようで、そろそろ終電が近い事に気付く。

 

(そろそろお暇するか。今夜は特に予定もないし、今日こそゆっくり眠れそうだ)

 

 酔いが回っている女性陣にそろそろお暇するというのを伝えようとすると、初っ端から度数の高い酒を浴びるように飲んでいたからか既に出来上がっているフミさんが俺に近寄ってくる。

 

「ねぇ、ライドウ」

 

 アルコールと女性の甘い匂いを漂わせながら、酔っ払い特有のふらついた動きで近付いてきたフミさんが俺に寄りかかり、俺の頭を抱きしめるような体勢を取る。

 後頭部に感じるボリュームのある柔らかさに困惑していると、耳元でフミさんが囁く。

 

「ここまですれば、哀れな子羊が誰なのか分かるでしょ?」

 

 いつの間にか俺の左側に陣取っていたオトメさんが、輝くような笑顔で俺の左腕を絡めとりながら上着を少し捲って、自分の服の中に誘導しようとしているのが見える。

 

「今日の夜は私達の時間だから、たっぷり楽しもうね」

 

 服をはだけさせたオトメさんから目を背けるように右を見れば、いつの間にか上着を脱いた状態で頬を赤らめて遠慮がちに右手を握っているマコトさんの姿を認識して、ようやく俺は今の状況を理解する。

 

「七年待ちました。もう、逃がしません」

 

 彼女たちが俺に好意を寄せていたのは知っていたし、色々と柵もあるのでこれから行われるだろう行為を拒否する理由はない。

 

 彼女達とそういう関係になることが嫌とかいう訳ではないが、これだけは言わせて欲しい。

 

 

 これは、罠だ! 

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

 

 

『四人で特別な時間を過ごした……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日を跨いだ12月24日の早朝。

命懸けの死闘程ではないが、それなりに激しい運動をしたことで多少の倦怠感を感じながら、マコトさんの部屋から出てマンションの外に出る。

 

マコトさん達はまだ寝ていたので、そのままにしておいた。

ほぼ一晩中運動していたからかそれなりに眠気があるはずなのだが、特に問題なく活動出来ているのは、身体を鍛えていて体力があるからだろうか。

 

「しかし、こんなことになるとはな。どう考えても誰かが裏で手を引いてそうだが」

 

彼女達が昨日の行為を突発的に決行するとは考え辛い。

あの事件が起きてからそんなに時間が経っていないとはいえ、いろんな女性の猛アプローチがほぼ同時期に重なるというのもおかしな話なのだ。

 

「彼女達を焚き付けて得をする奴…?」

 

まあ、第一候補はヤタガラスや葛葉家の老人達か。

この世界の異能力が軒並み衰退してしまっているせいで、血の貴重さとか血脈の拡散云々よりも、将来的に異能者が増加する見込みがあるというのなら諸手を上げてこういう事に手を貸すだろう。

 

「十分にあり得るか」

 

この状況を招いたのが誰なのかを考えながら、ルブランに帰る為にノロノロと駅に向かって歩いていると、歩道を歩いていた俺の真横に黒塗りの高級車が横付けされる。

横付けされた車のスモークガラスになっているドアウィンドウがゆっくりと降り、搭乗者が顔を出す。

 

色素の薄い、藤色の髪と瞳。

長い付き合いである峰津院ヤマトと同じ特徴だが、ヤマトのようにしかめっ面はしておらず、その美貌は街を歩けばどんな人間の目も惹くだろう。

 

「お疲れのご様子ですね。ライドウ」

 

俺にそう言ってきたのは、『峰津院ミヤコ』。

この世界では正真正銘のヤマトの一つ年下の妹であり、秀尽学園に通う俺の後輩でもあり、許嫁の一人でもある。

 

「ミヤコ。君は知っていたのか?」

 

「釣り上げた()を食べることも、愛でることもしない貴方が悪いかと。普段から忙しくしている貴方に長期の休暇が出来たのですから、彼女達が本気を出すのも当然では?」

 

したり顔でそう言うミヤコに、溜め息をつく。

この世界に転生して、裏の世界に生きるデビルサマナーとして活動しているからか、前世で培った倫理観は大分ボロボロではあるが、最低限誰かを不幸にするようなことは避けて生きてきたのだ。

 

特に、女性関係で色々やらかすとロクな事にならないというのは理解しているから、恋愛関係に発展するようなお付き合いは原則お断りしていたのだが。

 

「年貢の納め時、という奴です。さあ、今度は私の番です」

 

車のドアを開けて手招きするミヤコに苦笑いしながら後退りするが、ミヤコが手に持っていた鞭が素早く伸びて俺の右手首に絡みつく。

 

腕力では勝っているはずなのだが、魔法(タルカジャ)で身体強化をしているらしいミヤコの鞭を振りほどくことが出来ない。

というか、朝っぱらから人を捕まえるのに魔法を使うなよ。

 

「見逃しては、くれないか?」

 

「昨晩はマコト達と楽しんでいたというのに、許嫁の私からは逃げようとするとは感心しませんね」

 

現状、互いの膂力は拮抗しているが、俺が魔法を使えばこの拮抗の天秤は簡単に俺の側に傾く。

とりあえず落ち着いて話をする為に、一旦この拘束を解こうと魔法を使おうとした次の瞬間、不意に誰かに背中を押されて、バランスを崩してしまう。

 

バランスを崩して踏ん張りが効かなくなったせいで、魔法の力で伸び縮みする鞭に引っ張られる形で高級車に飛び込んでしまった俺は、下手人が誰なのかを確認しようと窓の外を見ると、そこに立っていたのは滅多に見ないような笑顔を浮かべたヤマトだった。

 

「おま」

 

「避妊はしなくてもいいが、時間は守れよ。ミヤコ」

 

「ええ勿論。協力感謝します。お兄様」

 

笑顔のヤマトが見送る中、無慈悲に窓が閉まり、ドアがロックされ、車が発進する。

更には運転席との間に結界が張られた事で完全な密室に閉じ込められてしまう。

これは、逃げられない、か。

 

「では、みっちり六時間、お互いに楽しみましょう?」

 

幼い頃から知っている、幼馴染が顔を近付けてくる。

まあ、ここまで来てしまえばもうどうにもならんか。

 

目も眩むような美少女と唇を重ね、互いの服に手を掛ける。

ミヤコの絹のような白い肌に唇をおとしながら、今回のこの一連の出来事の主犯と目されるヤマトを心の中で罵倒する。

 

(そうかそうか、そういえば、君はそんなやつだったな)

 

俺は受けた()は忘れない性質だ。

ヤマトにもしっかりと恩返し(復讐)するとしよう。

 

 

 

『ミヤコと二人きりで特別な時間を過ごした……』




ヤタガラスのメンツは絆レベルが上限に到達しているのでデートイベントは発生しません。
問答無用で画面が暗転して特別な時間を過ごすことになります。

ライドウが食べられてしまったのか、頑張って逆転したのかは各々の想像に任せます。


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幕間の物語 File.if...:クリスマス編③

二十一日という時間を四十人弱で均等に振り分けているので、本来なら睡眠時間にあたる時間帯に割り振られてしまった人が、自分の時間の前後に割り合たっている人と交渉して時間割を共有することで、一緒にいる時間と夜の運動会(意味深)をする時間と睡眠時間を捻出してたりしています。

交渉で割り当てを変えることも可能というルールが追加されたのでかなり長い事交渉してた人もいます。

ちなみに、主人公の睡眠時間として割り振られている時間は一日二時間です。




《岳羽ゆかりの場合》

 

「太陽が黄色く見える……」

 

 中天に達した太陽が輝きを放っている真っ昼間にも関わらず、フラフラした足取りで都内でもトップクラスのホテルから出て、今度こそルブランに帰る為に駅に向かって歩いていく。

 

 あの後、ミヤコに高級ホテルに連れ込まれ散々絞られてしまったが、後半は単純に体力差の影響で俺側が優勢に事を進めることが出来たのでどうにか一時間程度は睡眠時間を確保できた。

 

 ホテルに用意されていた食べ物や飲み物の数々も滋養強壮に良いモノばかりだったので、肉体的な疲労はほぼ解消されているが、単純な眠気や精神的な疲労はどうにもならんな。

 まあ、お高い異界産の精力剤を飲まされたので眠気は大分誤魔化せてはいるが、良い値段のするあの精力剤を用意したミヤコの本気具合に戦慄しはしたが。

 

「……そういえば、マコトさんの料理も滋養強壮に良いモノばかりだったな」

 

 牡蠣を筆頭にウナギの蒲焼きや長芋等々、あの瞬間に効力を発揮するようなモノではなく今後の精力を持続させることを見据えたようなラインナップだったのを思い出してしまう。

 というか、今後もそういう目に会うことが確定しているから精を付けておけ、みたいな意図が透けて見えるのが恐ろしい。

 

「まあ、そんな頻繁にああいう目に合う訳が」

 

「はぁい。捕まえた」

 

 正面から歩いてきたニット帽を目深に被ってサングラスを付けている女性が、問答無用で俺の両手を握る。

 いきなりの事態に驚いたが、よくよく彼女の姿を見てみるとニット帽の隙間から出ている明るめの茶色の髪と見覚えのある背格好から、彼女が誰なのかは察しがつく。

 

「まさか、ゆかりさん?」

 

 俺を逃がさないように片手で俺の手を握ったまま、もう片方の手で器用にサングラスを取った事で露わになったのは、今やドラマや映画で引っ張りだこな新進気鋭の実力派女優『岳羽ゆかり』さんの笑顔だった。

 

「正解。そんなに緊張しなくても大丈夫よ。だいぶ疲れてるみたいだから搾り取るのはまた今度にしてあげる」

 

 今は近場の駅に向かう途中だったのでそこそこ人通りがある通りに居るため、有名人であるゆかりさんをこのままの状態にすると面倒な事になるのは間違いない。

 ゆかりさんもそれは分かっているようで、すぐにサングラスを元に戻して変装すると、駅とは反対方向に俺を引き摺っていく。

 

「さ、ちょっと買い物に付き合ってよ」

 

 元気一杯といった状態で俺を先導するゆかりさんについて行ってからはほぼほぼ、ゆかりさんに振り回されていた。

 互いに似合いそうなトータルコーディネートを選んでプレゼントしたり、SNSで話題のスイーツを食べてみたり、ゆかりさんがここ最近行っていなかったというゲーセンやカラオケなんかに行ってみたりと、至って健全な時間を過ごしているとあっという間に時間は過ぎていく。

 

 ついさっきまで昼間だったはずなのだが、真冬の日暮れが早いということも相まって、いつの間にか日が暮れて薄暗い夜が訪れつつある事に気付く。

 

「あー、久々に遊んだー」

 

 満足げな表情を浮かべたゆかりさんと井の頭公園の湖のそばを歩く。

 真冬ということもあってか公園内に人影はまるでなく、虫や動物の声も全くしないので静かなものだ。

 最後に落ち着いた所に行きたいとゆかりさんが言い出したので提案したのだが、今日の井の頭公園は想定以上にリラックス出来る場所になっていてよかった。

 

「まあ、有名人になるとああいう普通の遊び方はし辛いですからね」

 

「そうそう。昔は男の子と二人きりで遊んだりしなかったし、有名になってからは尚の事ね」

 

 実際、遊んでいる最中にゆかりさんの正体がバレそうになったタイミングが何度かあったのだが、力技で誤魔化したり悪魔の力を借りてピンチを乗り切ったりと、想像していた以上にドタバタしたデートだったのは間違いない。

 

「でも、楽しかった。君とこうして二人きりで遊ぶのは、実は初めてだったから」

 

「そういえば、そうですね」

 

 タルタロスで初めて顔を合わせてから五年以上経つが、異界絡みの騒ぎが頻発するせいで基本的に休みなく全国各地を飛び回って事態収拾に駆り出されていたから、何だかんだで何の憂いも抱かずに誰かと遊ぶことが出来ているというのは俺からしてみてもかなり貴重な経験だ。

 

「もう終わり、かぁ」

 

 沈む太陽を眺めながら、ゆかりさんがそう呟く。

 段々と太陽が地平線の向こう側に沈んで公園に設置されている街灯の明かりがひとりでに灯り、物憂げな表情のゆかりさんを照らし出す。

 ……今日の為に買ったわけではないが、『これ』は今日渡すべきだな。

 

「ゆかりさん、これ」

 

 今日のウィンドウショッピングの最中に買った包装された箱をゆかりさんに渡す。

 困惑した表情のゆかりさんが包装を解いて箱から取り出したものは、俺が宝石店【ツルカメダイヤモンド】で購入した、ハート型のピンクダイヤモンドをトップに据えたネックレスだった。

 

「え、これ」

 

 ピンクでハート型の宝石がペンダントトップというこのネックレスをウィンドウショッピングの最中に見掛けた時に、ゆかりさんに似合いそうだと思って来年のバースデープレゼント用に購入したのだが、来年のプレゼントはまた別の物を用意すればいいだろう。

 

「……蓮。暗くて良く見えないから、これ、着けてくれる?」

 

「? いいですけど」

 

 少し俯いていることで表情が見えないゆかりさんの様子を気にしながら、受け取ったネックレスをゆかりさんと向き合うようにして正面から腕をまわしてネックレスを取り付ける。

 暗がりに居るということもあって手元が見えず少し手間取ってしまったが、贈ったばかりのピンクの輝きが、ゆかりさんの胸元に灯る。

 

「やっぱり、良く似合ってる」

 

「……ねえ、蓮。男性が女性にアクセサリーを贈る意味って知ってる?」

 

「いや……」

 

「『あなたを独占したい』だよ」

 

 ゆかりさんがそう言うのと同時に距離を詰めて正面から俺に抱き付く。

 香水と混じりあったゆかりさんの甘い匂いと柔らかな感触に包まれたと思った次の瞬間、ゆかりさんの唇が俺の唇と重ねられる。

 

 唇に感じる柔らかな感触と燃える様に熱いゆかりさんの頬に触れながら、口付けを交す。

 

 一分以上はそうしていただろうか。

 途中から互いに舌を入れたりしてだいぶ淫靡な雰囲気になってしまったが、そろそろお別れの時間だ。

 

()()キッチリ搾り取るから。覚悟しといてね」

 

「お手柔らかにお願いします」

 

 真剣な表情でそう言うゆかりさんに対して苦笑いしながら答えて、最寄りの吉祥寺駅までゆかりさんを送る。

 少し雑談をした後に電車に乗って遠ざかってくゆかりさんを見送った後、一人になった俺は後ろを振り返ることなく呟く。

 

「ほんとに、入れ替わり立ち替わりだな。『トキメ』」

 

「時間割が決まってるからね。一分、一秒も惜しむのは当然じゃないかな」

 

「時間割って……俺の自由時間は?」

 

「さあ、時間が惜しい。今年のクリスマスイブは『私達』と過ごしてもらうよ」

 

 俺の発言は当然のように無視され、音もなくトキメの足元から広がった『夜』が俺と彼女を包み込む。

 さて、今度は何が起きるやら。

 

 

『ゆかりと二人きりで過ごした……』

 

 

 

 

 

《汐見琴音と望月トキメの場合》

 

「はい、いらっしゃい。蓮君」

 

 トキメが作り出した『夜』の闇から抜け出して次に目を開けた時に視界に入った光景は、何度も通って最早見慣れてしまった吉祥寺駅のホームではなく、見たことのない巨大な館が聳え立つ『異界』だった。

 

「琴音さん……とうとう、異界を自力で作れるようになったんです、か」

 

 宇宙空間の様に全方位に散りばめられた星の光とその光に照らされるギリシャ風の館から、ハーフアップにされた赤い髪とルビーのような瞳と、白のイブニングドレスが驚くほどにマッチした着こなしをした琴音さんが出てきて俺に近づいてくる。

 普段は余りしていない化粧をしっかりしていることで琴音さんの魅力が更に引き出されているようで、彼女の姿から目を離せなくなってしまう。

 

「綺麗だ……」

 

 望月トキメ(ニュクス)と融合した影響なのか、そもそもの彼女の素質なのかは分からないが、普段から女神のような美貌を持つ琴音さんがこの状態で町を歩いたら、あっという間に老若男女問わず魅了されて大混乱が起きるだろう。

 ……なるほど。普段の琴音さんが化粧をするのを嫌がるわけだ。

 

「えへへ。作戦大成功だね。君がそんな顔を見せてくれるなら頑張った甲斐があったよ。あ、因みにこの異界は」

 

(ニュクス)の権能だよ。ライドウ」

 

 己の理性を総動員して自分の欲望を押さえつけていると、何処からともなく現れたトキメが俺の背中に抱き付く。

 さっきまで着ていた私服ではなく、琴音さんと対になる様なデザインをした黒のイブニングドレスを着て、琴音さんと同じ様に化粧をしている。

 

「トキメも綺麗だ」

 

「おお。君からの直接的な賛辞は珍しいね。嬉しいよ、ライドウ」

 

 そう言って俺から離れたトキメが琴音さんの横に並ぶと、やはり二人がよく似ていることが分かる。

 顔立ちは同じだが性格が反映されているのか、パッチリとした目と朗らかな笑顔の影響で暖かさと輝きを感じさせる琴音さん。

 そして切れ長の目とクールな表情のお陰で涼やかさと夜の安寧を感じさせるトキメ。例えるなら琴音さんが太陽で、トキメが月といったところだろうか。

 

「さあ、今日は腕によりをかけて色々と準備したから、しっかり楽しんでいってね」

 

 琴音さんとトキメに手を引かれて館の中に入ると、『あの事件』の後、ニュクスの眷属として配下に加わっていた筈のリリムやサキュバスを筆頭とした夜魔族が忙しなく料理を運んだり、楽器を奏でたりしていて、どうやら琴音さんとトキメは本気のおもてなしを用意してくれていたらしい。

 

 二人に案内されて館の広間に設置された大きなテーブルに座らされた俺の両側に琴音さんとトキメが座る。

 そして、運ばれて来る料理に舌鼓を打ちながら二人と談笑を続ける。

 

 昼間はしっかりとした食事を取っていなかったので、ガッツリとした肉料理がメインなのは有難い。

 運ばれて来る料理を次々と口に運んで味わっていると、不意に懐かしい味を感じる。

 

「ん? この味」

 

「ど、どうかな?」

 

「美味しいです。そして懐かしいです。あの時に食べさせてもらったのと似てますね」

 

 もう、五年も前の話だが、ニュクスを封印したせいで俺とアイギス以外がタルタロスに関連する出来事を忘れてしまった事があった。この出来事はニュクスが封印された事で、タルタロスと影時間が一時的に『無かった事』になってしまったのが原因だ。

 その出来事の例外だったのは『黄昏の羽根』を原料にした『パピヨンハート』を心臓に持つアイギスと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけがその事態に巻き込まれなかった。

 

 その時に、この料理を食べたのだ。

 自分の事を覚えておいて欲しいという一心で、琴音さんが作ってくれたこのクリスマス用の料理の数々を。

 

「やっぱり、覚えててくれたんだ」

 

 忘れるわけがない。

 ほんの少しでも自分の生きた証を残そうと、一人でも誰かに覚えておいて欲しいと言わんばかりに、色々な人々と様々な思い出を残そうとする琴音さんの姿を。

 

 だから俺は戦ったんだ。

 世界を救ったのに、その報酬を得ることもなく、幸せな人生を得ることもなく、生きることを諦めてこの世から消える選択をした琴音さんを取り戻すために。

 

「忘れませんよ。大事な記憶ですから」

 

 皿に盛られたターキーやローストビーフ、マッシュポテトを咀嚼しながらそう答えると、眦に涙を溜めた琴音さんが俺の肩に寄りかかる。

 

「やっぱり、君しかいないよ。蓮君」

 

 涙で潤んだ瞳を俺にむけ、琴音さんが段々と顔を近付けてくる。

 間近で見ると琴音さんの美しさがダイレクトに伝わってしまい、身体が硬直してしまう。あっという間に互いの吐息がかかるほどに俺と琴音さんの距離が縮まった次の瞬間。

 

「はい、そこまで」

 

 白魚のような手が俺と琴音さんの間に差し込まれ、強制的に距離が離される。

 その手の持ち主であるトキメがそのままスルリと俺と琴音さんの間に身体をねじ込ませ、琴音さんが座っている椅子をひっつかんで琴音さんごと部屋の奥に連れて行く。

 

「打ち合わせと違うんじゃないかい?」

 

「なんのことでしょうかね。始まってしまえば後は流れでって言ったと思うけど」

 

「抜け駆けは許さないから」

 

 ギリギリ俺に聞こえないようなボリュームで暫く言い合いをしていた二人だが、どうやら決着がついたのか、夜魔族が奏でる極上の演奏を聞きながら黙々と料理を貪っていた俺の所に戻ってくる。

 

「ライドウ、食事はもう十分かな?」

 

「そうだな。もう十分かな」

 

 朝と昼が軽食だったからガッツリと腹ごしらえは出来た。

 このまま帰って暖かい布団に包まって眠れれば言う事なしなのだが、そうは問屋が卸さなさそうだ。

 

「じゃあ、ここからは」

 

 琴音さんが俺の右腕をガッシリと抱き寄せて、自分の胸の谷間に埋めてしまう。

 大きくて柔らかい感触は俺の心を幸せにしてくれるが、それ以上に捕食される小動物のような気持ちが心の大半を占めているのは何故だろう。

 

「私達が食べる番だね」

 

 ここへ来た時と同じ様にトキメの足元から広がった『夜』が俺達を呑み込む。

 若干の浮遊感と、水の中の泳ぐような不思議な感覚を暫く体験していると、不意に身体が重力に引っ張られて弾力のある床、というか肌触りだけでも高級感を感じるベッドに放り出される。

 

「やっぱりこういう感じか」

 

 不意に俺が寝転んでいるベッドの右側が沈み、視線がそちらに吸い寄せられる。

 そこに居たのは、胸元と背中が大きく開いた白いナイトドレスを着た琴音さんがいて、その反対側であるベッドの左側には黒いベビードールを着たトキメが居た。

 

 薄々気付いていたとは言え、やっぱりこういう展開になるのか。

 

 着ていた服を脱がされて、裸になった俺の上半身を二人の細い手がなぞる。

 このまま好き勝手されると昨夜の二の舞になりかねん。最低限の睡眠時間は確保させて貰う! 

 

 上気した頬、潤んだ瞳。魔性といっても過言ではない二人の魅力にあえて抗わずに、俺にのしかかっている二人を力づくで逆に押し倒して、深く口づけをする。

 

『三人で特別な夜を過ごした……』

 

 

 

 

《桐条美鶴の場合》

 

「まあ、結局一睡も出来なかったんですけどね」

 

 時間は飛んで夜が明けた次の日、12月25日。

 あの後は結局、三人で熱い夜を過ごして、三人でシャワーを浴びて、三人で運動(意味深)をして、またシャワーを浴びて、というサイクルを何度か繰り返していたら時間が来たとやらで、ようやくあの異界から出ることが出来た。

 夢のような幸せな時間だった事は否定しないが、流石に疲れた。

 

「琴音さんも凄かったが、トキメがもっとヤバかった。流石は夜の女神の化身……」

 

 片や世界最高峰の異能者で、片や夜の女神の化身。

 いや、夜の女神って言っても、シモの意味での女神という逸話はなかった筈だが、単純に生き物としての格というかそういうものが高次元にあるので、昨日の夜はどうにか優勢を保っていたものの、あの二人を同時に相手してしまったので、結局は徹夜する羽目になってしまった。

 

「あ、ヤバい。そろそろ時間か」

 

 ゆかりさんとのデートで買った服や小物を一旦ルブランに戻って収納し、銭湯で汗を流してから暖かそうな布団で惰眠を貪る誘惑を振り切ってから目的地に向かう。

 

 暫く電車に揺られて渋谷駅のロータリーに着くと同時に黒塗りの外車が俺の目の前に停まる。

 運転席から降りてきた運転手さんがドアを開いて中に入るように促してきたので、言われた通りに車に乗ると、普段はあまり見ない私服姿の美鶴さんが居た。

 後部座席が広くとられているこの車は、数人が向かい合わせで座る事が出来るようになっており、俺と美鶴さんが向かい合わせで座ると同時に、車が音も振動も無く動き出す。

 

「時間通りだな。蓮」

 

「おはようございます。美鶴さん」

 

 今日は桐条家主催のクリスマスパーティーが開催されるということで、その前準備の手伝いを美鶴さんに依頼されていたのだ。

 このクリスマスパーティーはパレスとメメントスの案件が一旦ケリがついたので、関係者を集めて祝勝会を兼ねた物でもある。

 

「今日はよろしく頼む。如何せん、こういう事に疎くてな」

 

「俺も詳しい訳ではないですが、何とか頑張ります」

 

 この世界においての某一神教の最大宗派がメシア教であるせいで、奴らの所業を知っているヤタガラスに所属している古い家の人間や悪魔の事を知っている人間からしてみればそういうイベントは祝うどころか、呪ってやりたいくらいに毛嫌いされている傾向にあるから、今までそういう類のイベントを開催した事が無いというのも理解できる。

 桐条家も例外では無かったという事だろう。

 

「とりあえず注文してたケーキの受け取りと、諸々の料理とプレゼントの準備と……」

 

「いや、そのあたりの手配は済んでいる。今頃、明彦と真次郎が家のメイドやヤタガラスの女性陣に振り回されながら準備していることだろう」

 

「? となると、特にやる事が」

 

 クリスマスパーティーの準備を手伝って欲しいと聞いていたから、てっきり諸々の買い物の荷物持ちとして呼ばれたのかと思っていたのだが。

 

「どうやら互いの認識に齟齬があるらしいな。今日は()()()疲れているだろう君を労わろうと思ってな」

 

「労わる……?」

 

「……うん、これは重症だな」

 

 労わるってなんでだ。そりゃあ最近はメメントスの最深部を攻略したり、一連の事件の黒幕を打倒したり、ここ数日は色々と睡眠不足が続いていたりしているが、割と良くある事だしな。

 労わられるような事では無かった筈だが。

 

「これからの行為は私の我儘でしかない。だから、嫌ならば振り払ってくれて構わない」

 

 対面に座っていた美鶴さんがそう言って俺の右側に座り、俺の頭を抱き寄せて自分の太腿の上に寝かせてくる。

 美鶴さんの細い指が俺のくせ毛を櫛のように通り、指先が俺の頬に触れる。男の頬なんて触っても面白くないだろうに。

 

「目的地までは少し時間がある。ゆっくり休むといい」

 

 今世もそうだが、前世でも頭を撫でられた記憶が殆どないので驚いてしまったが、美鶴さんのような美人に膝枕をして貰って頭まで撫でて貰えるというのは、想像以上に嬉しく思えてしまう物で、美鶴さんから発せられているバラのような匂いと一定のリズムで撫でられている感覚のお陰か、抗いがたい眠気に逆らうことが出来ず、あっさりと瞼が閉じてしまう。

 

「ゆっくり休んでくれ。蓮」

 

 

 

 

 

 

 肌を撫でる柔らかい感触。太陽の匂いがするモフモフとした感触は、何らかの動物の冬毛だろう。

 間隔の短い呼吸音と共に暖かい体温が右腕にのしかかってくる感覚で目が覚める。

 

「ワン!」

 

「……おはよう。コロマル」

 

 何故か自分の腕に引っ付いていたコロマルの頭を撫でてから寝起きでボーっとする頭を振って意識をハッキリとさせると、今いる場所が車内ではなく、鉄筋やコンクリートの少な目な木造の建物であることに気付く。

 パッと見の印象は映画なんかでよく見るログハウスとか、山奥の別荘という感じだろうか。

 

「意外と早く起きたな。まだ二時間も経っていないんだがな」

 

 声のした方に振り向くと、そこに居たのは私服の上からエプロンを着けた美鶴さんだった。

 少し離れた所から聞こえてくる何かを焼く音と、僅かに聞こえてくる水音から察するに、どうやら料理中だったらしい。

 

「理想の新妻スタイル……?」

 

「ふむ。君にはそういう趣味があるのか。これはいいことを聞いた」

 

「はっ!? 誘導尋問!?」

 

「いや、君が自白しただけだと思うが。……もう昼食も出来ている。ゆっくり過ごそうじゃないか」

 

 寝ぐせのついた俺の髪を撫でてセットした事で満足気な表情をした美鶴さんは、そのまま踵を返してキッチンがあるであろう場所に戻っていく。

 タイトな黒いパンツとそれに反比例するゆったりとしたデザインの白いセーターが美鶴さんのスタイルの良さを引き立たせ、その後ろ姿をついつい目で追ってしまう。

 

(いやいや、いかんいかん。自分からドツボに嵌ってどうする)

 

 邪念を振り払って、眠たげなコロマルの頭を一撫でしてから美鶴さんの後を追い、料理の配膳を手伝って二人と一匹で昼食を取った後、ここ最近は東京郊外に立っている桐条家の別荘であるこの場所で過ごしているというコロマルと遊んだり、美鶴さんと最近話題の映画をみたり、二人でソファーに寝そべっていると、自分でも気づかない内に眠ってしまったようで、部屋に備え付けられていた時計は最後に見た時から一時間程経っていた。

 

「お、起きたのか? ま、まだ、パーティーまで時間はある。ゆっくり寝ててもいいんだぞ」

 

 意識が覚醒して目を開けた時に、美鶴さんの顔がすぐ傍にあったので驚いたし、至近距離で目が合ったことで何故か動揺している美鶴さんの様子は気になったが、尿意を感じたので美鶴さんに断ってお手洗いに行く。

 

 出すものを出して、トイレがタンクレスだったので洗面台に行って手を洗っていると、洗面所に置いてある鏡に写った自分の顔に違和感を感じる。

 鏡に写る自分の顔をマジマジと見てみると、どうやらいつもより唇が赤いのが違和感の原因のようだ。

 

(これは、口紅か?)

 

 自分の唇を親指で拭ってみると、少しの湿り気と赤いルージュが親指に付着している。

 ここに来る前にルブランの近くの銭湯で汗を流してきているから、身体の色々な所に付いていた琴音さんとトキメのルージュが洗い流せていなかったということも無いだろう。

 

(となると)

 

 手早く手を洗って部屋に戻ると、耳まで赤くした美鶴さんと目が合う。

 さっきの動揺した様子から察するに、俺が寝ている間にキスをしたは良いものの、その後すぐに俺が目を覚ましたせいで俺の唇に付いた口紅を拭いきれなかったというところだろう。

 ……可愛いすぎか? 

 

「美鶴さん」

 

「な、なんだ。私は何も」

 

「パーティーまでまだ時間ありますよね」

 

 俺の発言に驚いたような表情をした美鶴さんの返事を待たずに彼女を横抱きにして寝室に連れて行く。

 大きめのベッドに美鶴さんを横たえて、その白い首筋にキスをする。これから自分の身にどんなことが起きるのか理解した美鶴さんが顔を赤くして弱々しく抵抗するが、その抵抗がただのポーズでしかないことは分かっている。

 

「お、おい。落ち着け。私はそういうつもりで君をここに連れて来たわけでは……あっ」

 

 

 

『美鶴と特別な時間を過ごした……』

 

 

 




学生のようなデート(アオハル)をして年下の少年の心を掴むつもりが、逆に心を奪われてしまったゆかり。
主人公の思いを知って、肌を重ねたことで更なる重力場を生み出すようになった琴音と愛(肉欲)を知ったトキメ。
癒しを与える筈が、主人公の琴線に触れる可愛さを見せてしまったことで、美味しく食べられた美鶴。


 かーっ! 見んね! 卑しか女ばい! 


ちなみに、原作ゲームではクリスマスイブにメメントス最深部に挑んでますが、このif世界軸だとちょっと前倒しになってます。


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プロローグ
プロローグ①


ペルソナ3のリメイクPVが良さげな出来だったので初投稿です


上下左右全てが石材で構成された薄暗いとある教会の地下室で、両手で握った日本刀『赤口葛葉』の刀身を光の線にしか見えなくなる程の速度を出しながら、目の前の『天使』に向かって袈裟懸けに振り抜く。

対峙している天使の左肩からするりと侵入した刃が、きめの細かい白い肌と身体に食い込むように巻かれた黒革のベルトを引き裂き、赤黒い血液と『マガツヒ』を撒き散らす。

 

文字通りの意味で、その身を引き裂かれた天使が絶叫と共に絶命する。

それを見た別の天使達が、俺に向かって罵声を浴びせながら一斉に「コウハ」と名付けられている光の矢を放つ。

 

「遅い」

 

並みの人間であれば触れただけで殺傷せしめる事が可能な光の矢を刀を逆袈裟に切り上げて破壊する。

下級とはいえ、魔法を物理で破壊されるとは思っていなかったのか、呆けた表情と共に致命的な隙を晒しているので、すかさずベルトの左腰に提げられたホルスターからFN-FiveSevenと呼ばれる拳銃を引き抜き、十体はいるであろう天使の額に1発ずつ打ち込む。

 

自分の額に打ち込まれたのがただの拳銃弾だと認識したのか、天使がニヤリと笑って追撃の為に魔法を放とうとした次の瞬間、黄金を溶かして作ったような美しい金色の髪と、黒い目隠しが顔の大半を覆っていても絶世の美女であることが容易に想像できる整った顔が、瞬く間に黒と赤のマーブル模様に染まり弾け飛ぶ。

 

「天使を名乗るなら、せめて呪怨耐性くらいは習得しとくんだったな」

「こ、の、異教徒風情が!」

 

散々に呪詛を練り込んで強化した銃弾を食らったせいで、唯一生き残っているこの白い法衣を纏った高位天使『ドミニオン』も最早虫の息といった所だが、それでも最後の力をふり絞って背中の翼をはためかせ、高位破魔魔法『ハマオン』を放ってくる。

 

「悪いな。祝福属性無効なんだわ」

 

ドミニオン渾身のハマオンも、過去の戦いで高い祝福耐性を獲得している上に装備で更に耐性を上げている俺にはただ単にピカピカ光っているだけに等しい。

実際、俺がさっき天使どもの魔法を斬ったように見えたのは、ただの物理的に斬ったのではなく、俺自身の祝福耐性で無効化されただけだったりする。

 

自身の魔法が俺に通用しないことを漸く理解したのか、背を向けて逃げようとしているドミニオンに、人間の限界を超えた身体能力を駆使して素早く近づき、問答無用で刃を振り抜く。

 

マガツヒと()()()()()()()()()()で構成された天使の肉体を斬り裂いた手ごたえを感じつつ、胴と首が泣き別れになったドミニオンと20体近くのエンジェルとアークエンジェルの混成部隊の死骸を視界に収め、自動蘇生や死後に発動する生贄召喚が起きないことと、奴らの死骸がマガツヒに還元されて大気中に溶けていくのを確認してから、長い溜め息を吐く。

 

「一件落着、だな」

 

抜き身の『赤口葛葉』を血振りして刀身に付着した血液とマガツヒを払ってから鞘に納め、唯一血塗れになっていない簡素な椅子に座って身体をほぐしていく。

ここ最近、相当数の異界攻略や悪魔討伐を重なってこなしていたので流石に疲労が溜まっているようだ。

今回の件の後始末が終わったら温泉とかでのんびりと疲れを癒した方がよさそうだ。

 

「八十稲羽の天城旅館とかがいいかもな」

 

『あの事件』の時は休暇で疲れを癒しに行ったのに、結局温泉や田舎でのリフレッシュを満喫する時間がなかったからな。

 

リベンジがてら今度こそ温泉を堪能するのもいいかもしれない。

 

それに、色々あって『彼ら』にはここ最近全く連絡出来てなかったし、連絡を取るいい機会にもなるか。

 

()()()()

 

今後の休暇予定を頭の中で組み立てつつ、後処理部隊を待っていた俺の目の前に、いつの間にか紙で出来た折り鶴が重力を無視して浮かんでいた。

俺の名前を呼ぶ声はどうやらこの折り鶴から発せられているようで、この回りくどいやり方は、『ヤタガラス』―――俺が所属している組織―――の頭領の物だろう。

普段は文明の利器である電話で連絡をとってくるのだが、どうやら今回は違うらしい。

 

「此度の働き、見事だった。これで我が国にちょっかいを掛けてきていた国内のメシアンはほぼ排除出来たといってよかろう」

 

そう。

今俺がとある都市に存在するメシア教の教会の地下室で戦闘をしていたのは、そもそもこの教会の査察と、この国に敵対的な悪魔が存在した場合はそれを排除する事が、今回俺に与えられた任務だったからだ。

 

表向きは査察ということにしているが、この教会に所属している連中が人間の改造や教化という名の洗脳といった悪事に手を染めている過激派メシアンであることは事前の調査で判明していた。

なので、実際には武力を持って国民を害する外敵を排除する事がそもそもの目的だったと言っても過言ではないのだが、建前として査察ということにしていたのだ。

 

「此度の件で外敵には喫緊の対処は必要なくなった。だが、新たに一つ問題が浮上してきた」

「問題、ですか」

 

ここ数年、メシア教やファントムソサエティーという名のダークサマナー組織が国内で活発に活動していたのだが、それに業を煮やしたヤタガラスが主導で各地の霊能組織と連携を取り、奴らの拠点を物理的に破壊し、構成員を抹殺し、表にも裏にも最早奴らの居場所がこの国には存在しなくなるレベルで根絶やしにしてやった事もあり、今日のこの作戦が終われば、実質的にこの国の外敵というものは概ね排除できるはずだ。

 

となれば、外敵以外、国内で発生した問題ということだろうか。

 

「『認知異界』の出現が確認された」

「 う わ ぁ 」

 

認知異界。

重大で厄介で最悪の部類の問題だ。

 

基本的に異界というと、今回の天使や他の悪魔、この国由来の神も使うことが出来る、この世界とは別次元の空間に自分の領域を作成し、この世界に出入り口を作って運用する特殊な小さな一つの世界のことを指す。

これらの異界には確かな実体があり、異界を支配している悪魔の望む形で世界の内側の有り様を形作ることが出来る。

余談ではあるが、異界の主である存在を始末してしまえば、異界を崩壊させることも逆に乗っ取ることも容易に可能であり、ヤタガラスでも霊的資源の採取用だったり、友好的な悪魔の生活拠点としてだったりと、様々な形で異界は運用されている。

 

では、認知異界とはなんなのか。

端的に言うと、強大な力を持つ神性存在が人間の欲望を現実に反映するための異界だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、『ペルソナ3』のタルタロスを用いた無気力症/影人間による緩やかな死の世界や、『ペルソナ4』のマヨナカテレビに端を発する霧で覆い隠された虚飾の世界がそれに当たるだろう。

 

つまり、認知異界というのは存在するだけで人類を壊滅させられるある意味で特別な異界と言う訳だ。

 

「5年前は月光館学園、3年前は八十稲羽市という地方都市、今回はどこが異界の中心になったんですか?」

「・・・東京だ」

「はい?」

「東京都全体が認知の影響を強く受ける認知異界と化しておる」

 

嘘でしょう、という俺の呟きは頭領も聞こえていたのだろうが、彼は特に反応することなく矢継ぎ早に言葉を重ねる。

 

「タルタロス、マヨナカテレビ、嘗てこの二つの認知異界による問題解決に貢献した手腕を鑑み、『十五代目葛葉ライドウ』に新たな任務を言い渡す」

 

その言葉と共に老人の声で喋っていた折り鶴が逆再生するように一枚の紙に戻る。

目の前で皺一つない紙になった元折り鶴には、一際目立つ文字でこう書かれていた。

 

『秀尽学園 編入届 氏名:雨宮蓮』

 

「急ぎ東京に戻り、捨てた身分を活用し、認知異界の実態の把握とそれに付随する問題を解決せよ」

 

この世界に転生して早17年。

今世は悪魔召喚師、そしてペルソナ使いとして生きる道を選んだ以上、いつかは訪れる出来事だったのだろうが、前々から懸念していた前世の俺の知識にない大事件が始まってしまったことを理解して、思わずため息が漏れてしまうのだった。




はい。
というわけでペルソナに悪魔とソウルハッカーズを混ぜてみました。
女神異聞録ペルソナやペルソナ2には悪魔出てきてるからね、多少はね。


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プロローグ②

二次創作の為にP5Rを最初からやっててやっぱり面白いゲームだと実感したので、初投稿です。




ごく普通の人生を歩み、社会の荒波に揉まれながら自分の仕事に遣り甲斐を見出し始めた頃、病でこの世を去った。

それが俺の前世。

 

特別な苦難や失敗も世界中から称賛を受ける様な成功もなく、早死にしたことを除けば、ごく普通の人生だった筈だ。

俺個人には特別なことなど何もない筈なのに、病院のベッドの上で瞼を閉じたと思った次の瞬間には、頭が割れるように痛み、地べたでのたうち回っていた。

これが今世の俺の一番古い記憶。

 

余りの痛みに意識を失い、次に目覚めた時にはまたしてもベッドの上。

しかもどこぞの名探偵のように身体が縮んでいたのだからさあ大変。

 

肉体に引っ張られるように、感情が容易く俺の制御を離れて涙腺が緩み、前世の親戚の集まりで見た子供たちのようにギャン泣きするまでそう時間はかからなかった。

 

俺のギャン泣きの声を聴いてすっ飛んできた若い男女と白衣の医者がなにやら真剣な表情で話しているのを盗み聞く限りでは、どうやら俺は公園で一人で遊んでいたら突然10メートル近く身体を宙に浮かせ、そのまま地面に墜落し、頭を打って意識を失ったとのことだった。

 

俺の両親を名乗る20代後半の男女の話はどう考えても与太話の類で、普通に考えれば医者も信じない筈なのに、ベテランといった風格のある老年の医者も両親を名乗る男女も段々と険しい表情になり、終いには未だに続く痛みに頭を抱えている俺を抱きかかえて、病院の屋上にあるヘリポートに留められていたヘリに有無を言わさず乗り込んでどこぞに向かって飛び始める始末だ。

 

そして、暫くローター音が喧しい空の旅を強制されて辿り着いた大きな武家屋敷で、俺は漸く自分が置かれた状況を把握したのだ。

 

 

『お菓子ちょーだい』『ヒホー!』『ねね、しんでくれる?』『おお、この童、我等の事が見えておるぞ』

 

妖精:ピクシー

妖精:ジャックフロスト

魔人:アリス

妖鬼:シキオウジ

 

当時の俺の顔は笑い話に出来る位に盛大に引き攣り、蒼褪めていたことだろう。

それも当然だ。

なにしろ、社会人になる前に散々遊んだゲームのキャラクターがそのまま現実に存在していて動き回っていたのだから。

 

縮んだ身体、前世のゲームのキャラクター、自分の死、夢ではない、輪廻転生

 

頭の中に次々と浮かんだ単語が一つの事実に収束していく。

つまり、転生したのだ。

考えうる限りでは凡そ最悪と言える部類の『女神転生』の世界に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、実際はデビルサマナーとペルソナが悪魔合体した世界だったわけだが」

 

久しぶりに体感する平日の山手線の混雑具合に辟易しながら、愛刀の『赤口葛葉』を隠したバットケースを抱えながら当時のことを思い出す。

 

あの衝撃的な悪魔の集いで発覚した悪魔の姿を見ることが出来る俺の素質と、今世の生家『雨宮家』がデビルサマナーシリーズをプレイしていれば一度は名前を聞く筈の『十四代目葛葉ライドウ』の血筋だったというのが原因で、俺は葛葉家で住み込みの修行を行うことになった。

 

正直、意識的には赤の他人である俺が、前世を思い出す前の雨宮少年(7歳)をその両親の前で再現するのは不可能だと思っていたので、渡りに船と言わんばかりに住み込みでの修行の話に飛び付いてしまったが、今にして思えば間違いなく大失敗の選択だった。

 

何故なら、葛葉家で修行をするようになり、暫くの間は霊能者としての基礎的な修行をしていたのだが、俺の知らない内に何故か次期ライドウ筆頭候補として名前を挙げられてしまい、あれよあれよという間に地獄と表現しても生温い人間の限界を超えるための訓練を義務付けられ、何度か三途の川を渡り掛ける羽目になったからだ。

 

(どの道、力に目覚めてしまった以上、どうあがいても悪魔と関わりあいになるのは確定しているから、力を付ける必要があるとはいえ、限度ってものがあるだろうに)

 

デビルサマナー、悪魔召喚師。

呼び方は様々あるが、どうやら今世の俺は悪魔と関わる為の素質がとても高く、サマナーとしての適性も高いらしい。

具体的には、俺にとって有利な条件で悪魔と契約できるという転生特典とかチートとかと呼ぶにはささやかではあるが、悪魔側からするとそうしてもいいと思える雰囲気みたいなものがあるというのが、一番最初に契約した悪魔の言だ。

 

そうして、京都の葛葉家宗家に所属し、ヤタガラスのデビルサマナーになってからの人生は、文字通りの意味で生き急ぐような人生だった。

なまじ社会人をしていた前世の記憶があるせいで一桁年齢の子供とは思えないような立ち回りと受け答えをしてしまったことも、色々な事件に放り込まれることになってしまった原因だろう。

 

頻繁に発生する悪魔やダークサマナーの起こす事件を解決したり、

影時間に気付いてしまったせいで当時12歳でペルソナ3の事件に巻き込まれることになったり、

14歳の頃にはペルソナ4の事件に自分から首を突っ込むことになり、

メシア教の人類総天使化計画とかガイア教の破天闘争だとか

メガテン3の魔人がどこからともなく湧いて出てきて終末のラッパを吹こうとしていた魔人をぶちのめしたりと、

 

この10年間は前世の知識をフル活用する事で、人間社会が崩壊するような様々な事件を大きな被害を被ることもなく、概ねハッピーエンドに持っていくことが出来た。

 

そんな忙しい生活をしていたせいので余り考察できていないのだが、僅かな余暇の時間で葛葉宗家の資料を漁って調べてみたところ、この世界のベースは『デビルサマナー』で間違いないらしい。

大昔から悪魔や神と呼ばれる超常のモノが存在し、それらと闘う霊能者、サマナーが大正時代まで割と活発に活動していたのは資料から判明してる事実だ。

 

しかし、大正時代以降、正確にはデビルサマナーシリーズの二作品で主人公であった十四代目葛葉ライドウがとある事件(資料を読んだ限りでは、ゲームの『ライドウVSアバドン王』事件みたいだ)を解決して以降は、緩やかにではあるが悪魔の出現率は低下していき、平成になる頃には悪魔は殆ど出現しなくなり、それに合わせるように特殊な力に目覚める者も数を減らしていっていたようだ。

 

だが、20世紀最後の前の年にとある事件が起きた。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()悪魔の大量発生。

そして、ムーンライトブリッジでの大事故とそれに付随する地球全土で発生する『影時間』、そして悪魔とは異なる敵性存在『シャドウ』の顕現だ。

 

 

 

この世界のベースがデビルサマナーである以上、悪魔が発生するのは迷惑ではあるがそう珍しい話ではないし、納得は出来る。

しかし、ペルソナ3の厄介事の直接的な原因でもあるムーンライトブリッジでの事故が発生して、影時間が出来上がってしまっていたのはおかしな話なのだ。

 

まあ、俺が知らないだけで実際は色んな世界観がごちゃ混ぜになっていて、実はそう遠くないうちに南極大陸にシュバルツバースが発生したり、悪魔召喚にGUMPやCOMPを使うようになったり、頭メシアンな連中が東京にICBMを打ち込んだりする世界なのかもしれないが。

有難いことに、今のところはそんな兆候はないので、取り敢えず置いておくとして。

 

ペルソナ3の事件が突発的に発生して、それでペルソナ関連の事件が収まるのであれば、まだ問題ではなかった。

しかしその後すぐに八十稲羽での事件(ペルソナ4)が発生し、その後もペルソナ関連と思われる認知世界とシャドウによる事件は小規模ではあるが頻発している。

 

これらの点を踏まえると、この世界はペルソナ関連の事件も発生するデビルサマナー世界だと考えるのが妥当だろう。

 

そうなってくると問題になってくるのはペルソナはシリーズもののゲームだったってことだ。

ペルソナ3にはペルソナ2の登場人物らしき人の情報やペルソナ4の主要人物の過去の姿が出てくるし、それはペルソナ4でも同様だ。

つまり、ペルソナシリーズの事件は同じ世界で起きた出来事であり、俺が経験している中でも、既に人類の存亡の危機がペルソナ関連で2回は発生しているということだ。

 

そうなってくると問題になってくるのが、『ペルソナ5』の存在だ。

 

病気で倒れる寸前に開発スタートが発表されていたペルソナ5ではあるが、俺自身はストーリーを全く知らない。

前世では病気で寝たきりになってしまったせいで実際にプレイ出来ていないし、治療やリハビリに多くの時間を割いていた事もあり、ゲームとしての情報を殆ど知らないのだ。

 

ペルソナ3はタルタロス、ペルソナ4はマヨナカテレビという形で大型の認知異界が発生していたことを考えれば、今回の東京都全体を中心とした認知異界は『ペルソナ5』の主要舞台であり、攻略するべき異界であると考えて間違いないだろう。

 

これまではなんだかんだいいながらも、ゲームとしての知識があり、物語の主役となる主要人物も把握できていたから、度肝を抜くようなイレギュラーやゲームでは有り得なかった異常事態(主に悪魔関連)が発生しても犠牲者無しで闘い抜くことが出来ていた。

 

しかし、今回はそれらの事前知識が全く存在していない。

それでも放置するという選択肢を取ることだけは絶対に出来ない以上、今まで培ってきた知識と技術、人脈を駆使してどうにかするしかないだろう。

 

(せめて、ワイルドに目覚める主人公が誰なのか分かればいいんだがな)

 

月光館学園の騒動では『汐見 琴音』、八十稲羽では『鳴上 悠』が複数のペルソナを行使できるワイルド能力に目覚めていた。

前世の記憶の中でも曖昧な部類ではあるが、確か汐見 琴音はペルソナ3の舞台劇の女主人公の名前だったはずで、この世界の彼女はベルベットルームに出入りしていたようだし、テオドアに巌戸台の案内をしていたのも目撃している。

鳴上 悠も同様にベルベットルームに出入りしていたし、マーガレットとマリーが彼の旅路を補佐していたというのも本人達から聞き及んでいる。

 

つまり、ペルソナ5の主人公もワイルドに目覚め、ベルベットルームに出入りできるペルソナ能力者と考えるのが自然だ。

 

(決めつけはよくないが、な)

 

とはいえ、もしも俺の考えが当たっていたとして、その能力者をこの広い東京でどうやって見つけるのか、というのが目下最大の問題なのだが。

 

『次は渋谷~、渋谷です』

 

電車が停まると共に、人の流れに身を任せて電車を降りて改札を通り抜ける。

今までは車での送り迎えや徒歩、大型悪魔での移動が基本だったから、今世では山手線に乗ったのも渋谷駅に降り立つのも初めてなのだが、どうやら前世の時と構造は殆ど違いは無いようで、不意にサラリーマンだったころを思い出してしまう。

 

忙しなく動く人影と喧騒に懐かしさを感じながら、目的地までのルート検索の為に立ち止まってスマホを触っていると、ふと、自分の周囲が静寂に包まれていることに気付く。

 

「なん、だ」

 

あれだけ騒がしかった人々の話し声も街道のスピーカーから流れるテレビ番組の声も一切が消えてしまっている。

それに加えて、建物の壁面に貼り付けられた大型モニターの動画も、忙しなく動いていた人々もまるで時間が止まってしまったかのように完全に停止している。

 

明らかに異常事態だ。

 

「これが、今回の認知異界で起きる現象か?」

 

有り得ざる1時間、運命の人が映るテレビ、そして今度は時間停止、ということなのだろうか?

警戒心を最大に引き上げ、懐に忍ばせている対悪魔用の小刀と腰に提げた大き目のポーチに入れている拳銃に手を伸ばす。

 

すると、渋谷駅の目の前にあるスクランブル交差点のど真ん中に、突如として赤と黒が混ざった炎の塊が出現する。

どこからどう見ても怪現象だが、あれがこの時間停止の元凶なのだろうか。

 

その炎は瞬く間に3mほどの大きさに膨張し、何となくではあるが、シルクハットの様な物を被った人の形を取っているようにも見える。

その人型に蒼い炎で釣り上がった目と皮肉気に口角を上げた口が作られたかと思うと、その炎の塊は景色に溶けるように、まるで最初から存在しなかったかのように消えてしまう。

 

それと同時に街に喧騒が戻り、何事もなかったかのように人々は思い思いの行動を続け、大型モニターの中の芸能人も明るい声で商品の宣伝をしている。

 

暫くの間警戒していたが、どうやらもうこれ以上の異常事態は起きないようなので、懐の小刀に触れていた右手を戻し、グリップを握っていた拳銃もポーチの中に戻す。

 

さっきの現象がこの認知異界の主からの敵対的な警告なのか、それとも別の存在からの何らかのアプローチなのかは分からない。だが、

 

「今回も、一筋縄では行かなさそうだな」

 

溜め息と共にスマホに視線を落とす。

なにはともあれ、手早く用事を済ませる為に、開きっぱなしの地図アプリに目的地を入力して経路を確認する。

 

「四軒茶屋まで行って、そこからは歩きか」

 

今回の任務は長期間に渡る可能性が高いので、下宿先をヤタガラスが見繕ってくれている。

任務中の身分に関しては、昼間に自由に活動できなくなるというデメリットはあるが、去年起きた面倒ごとのせいで捨てる羽目になった『高校生・雨宮蓮』という身分を活用することになっている。

 

実を言うと、数年前にライドウの名前を継いだことで、俺は雨宮家から葛葉家に養子に出ていることになっており、戸籍上の名も雨宮蓮から葛葉ライドウとして改名されている。

とはいえ、葛葉ライドウの名前はデビルサマナーとしては色んな意味でビッグネームであり、普段の生活で何も考えずに名乗っていると色々と問題が発生してしまう。

と言う訳で普段は表向きの名前として雨宮蓮を名乗っていたのだ。

 

しかし、去年の春頃、夜道で女性に絡んでいた()()()()()()()()()()()()()()の顔面を、その時召喚していた俺の仲魔が殴ってしまい、鼻と前歯をへし折って全治三カ月の重傷を負わせてしまったのだ。

当然、悪魔の姿は常人には見えないこともあり、状況的に俺が暴行事件の犯人になったことで、結果的に雨宮蓮という少年は前科者になってしまったのだ。

 

まあ、葛葉家とヤタガラスの権力があれば事件自体を揉み消すのも容易ではあったのだが、丁度その時はメシア教の過激派との戦いが激化していた時で、昼間にサマナーとして活動できない時間があるのが煩わしかったので、入学したばかりの高校を自主退学して、表の身分を抹消して、空いた時間をそのままメシアンやガイア教との戦いに充てていたのだ。

 

そういう訳で、今回の任務にあたり、前科者の『雨宮蓮』を受け入れてくれる高校が都内には一つしかなかったので、その高校に編入して普段の隠れ蓑にしろ、ということだそうだ。

正直、前世の分を合わせれば精神的には40過ぎのおっさんなので、今更高校生をするというのには抵抗があるが、高校生という確かな表向きの身分は何かと便利ではあるしな。

 

下宿先に関しても、今世の実の両親の知り合いが経営する喫茶店らしく、俺が女性を助けるために、その女性に迫っていた男に怪我を負わせて前科者になったと聞いた途端に、保護司として名乗りを上げたそうだ。

事前調査で悪魔やダークサマナーとの関係が無いことが分かっていて、人格面でも問題なしとのことらしいが、保護司を引き受けたのは、単なる同情からか、はたまた何らかの思惑があってかは分からないが、他に当てがない以上この喫茶店で世話になるしかないだろう。

 

「なにはともあれ、下宿先の喫茶・ルブランに向かいますか」

 

 

 

 




シャアの声が鳴る坊主頭は顔面に拳を食らって、10mぐらい水平にぶっ飛んでます。
シャアの声が鳴る坊主頭が殴られた理由は女性に無理矢理迫っていた以外の理由があります。


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プロローグ③

P5Tのニューヒロインが可愛かったので、初投稿です。


下宿先の喫茶・ルブランは前世では存在しなかった四軒茶屋という町に店を構えている。

俺が下宿するにあたり、ヤタガラスが急いでルブランとその経営者の調査をしたらしいが、悪魔やペルソナなどの異能が関係しない部分の調査までは手が回らなかったらしく、店の評判なんかの情報は資料には殆ど載っていなかった。

 

なので、ルブランに向かう道すがら道行く地元の人に評判を聞いてみたところ、コーヒーとカレーの味は素晴らしいが、肝心の店主が無愛想、というのが全体的な評判なようで、街の住人からは愛されているが繁盛はしていない店のようだ。

 

「ここか」

 

四軒茶屋駅から暫く歩いて、大通りから入った小道にあるルブランの店内を覗くと、書き入れ時の真昼間にもかかわらず、お客の姿は一つもない。

扉に掛けられている開店/閉店を示す札はOPENになっているので、一応店自体は開いているはずだが。

 

事前の連絡では今日のこの時間にルブランに来い、とのことだったので、保護司であり、この店の店長でもある人がちゃんと居るはずなのだ。

 

「取り敢えず、入ってみるか」

 

店の前で待ちぼうけしててもしようがない。

店長がいれば御の字ぐらいの考えで、入店を知らせるドアベルの音を鳴らしながらルブランの中に入る。

 

ルブランの中は適度に空調が効いていて、12月になったばかりの低気温をじんわりと温めてくれるくらいまでの体感温度に設定されている。

店内カウンターの壁面には所狭しと様々な産地のコーヒー豆が入った瓶が並べられていて、淹れたてのコーヒーの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

店内にはやはり人影は無く、どうしたものかと考えていると、店の奥から男性の声が聞こえてくる。

 

「なんだ、今日の営業はもう終わったぞ」

 

カウンターの奥、恐らくはこの店のキッチンから悪態を吐きながら出てきたのは、黒縁の眼鏡を掛け、ピンクのワイシャツと白黒のストライプ柄のエプロンが特徴的な壮年の男性だった。

ヤタガラスから回ってきた資料通りの人相だから、恐らくはこの人が俺の保護司である『佐倉惣次郎』さんだろう。

 

「初めまして。これからお世話になります、雨宮蓮です」

「・・・へぇ」

 

俺の挨拶を聞いた佐倉さんが片眉を上げて、妙なモノを見たかのような表情をする。

前世で処世術として身に付けた無難な挨拶をしただけなのだが、何か気に障ったのだろうか。

 

「あの・・・」

「いや、悪い。妙な奴が来たもんだと思ってな」

 

カウンター席に座った佐倉さんが未だに湯気の立っているマグカップを傾け、コーヒーを啜る。

コーヒーの出来に満足がいったのか、僅かにほほ笑んだ後、マグカップをソーサーに置いて俺を真っすぐに見つめてくる。

 

「俺は保護司として今まで何人かの面倒を見てきたが、お前は今までの奴らとは違うな」

 

俺にカウンター席に座るように促した佐倉さんが立ち上がって、コーヒーを淹れる装置である、サイフォン、だったか。

その装置の下に貯められていたコーヒーをカップに注いて俺の前に置く。

 

「俺が今まで見てきた連中は前科者になった自分の将来に絶望した面をしていたり、この世の在り方を憎んだような面をしていたんだが」

 

佐倉さんの話を聞きつつ、いただきますと口にした後、出されたコーヒーを一口飲む。

途端に広がるコーヒーの味と香りに舌鼓を打っていると、怪訝そうな顔をした佐倉さんがさらに続ける。

 

「お前は、そういう空気感がない。そう、まるで、自分の行動を少しも後悔してないように見える」

 

なるほど。

顔面を変形させるくらいの力で他人を殴って前科者になっておいて、俺が何の反省も後悔も抱いてなさそうなのを不思議に思っているという所だろうか。

 

直接殴ったのが俺ではないというのもあるが、あの時召喚していた悪魔は人類史に名を遺す英傑でもあり、人間の英霊としての側面も兼ね備えた状態で召喚した悪魔だった。

そんな彼が問答無用で殴り飛ばしたということは、あの男が過激派のメシアンや人間を食料にするタイプの悪魔と同じ類の人間だったということの証左でもあるのだ。

 

なので、日夜悪魔やダークサマナーと斬った張ったをしているの俺の認識としては、邪悪な性根の男の顔面を凹ませる程度の事は日常茶飯事レベルで良くある些細な出来事であり、今回は運悪く法治機関にバレてしまったので、罰を食らった程度の感覚でしかなく、罪の意識や後悔を抱くほどの事ではないというだけなのだが。

 

「今更どうこう言う気はありませんよ。俺にとってはもう終わったことですから」

 

まあ、吐き気を催すような邪悪な性根の人間だったとはいえ、俺が召喚した悪魔が俺の許可なく一般人に怪我を負わせてしまった以上、その責任は召喚者の俺が取るべきではあるので、そういう意味では俺が前科者になったのは自業自得だったとも言えるのだが。

 

「・・・お前の両親も変わり者だが、お前はそれ以上だな」

 

今世の両親とは葛葉家に修行に行ってからはあまり交流をしていないので、俺個人としては彼らの人となりは全く知らない。

なので、とても反応し辛い話題でしかないので、曖昧に笑って誤魔化すとしよう。

 

「あはは・・・」

「ふん、まあいい。社会には抗えない秩序や権力ってもんがある。今回の件は高い授業料を支払ったと思って、これからは真面目に生きるこったな」

「ええ。以後、気を付けます」

 

今回は俺にメリットがあったし、召喚者としての責任もあったから、甘んじて罰を受け入れた。

だが、もしも次があったらあの手の輩には面倒事を引き起こすことができなくなるように、物理と魔術の両方を使って徹底的に潰しておくことにしよう。

ただでさえ世界が崩壊しかねない事件が頻発するせいでとんでもなく大変なのに、これ以上問題を起こされるのは御免だしな。

 

内心とは正反対の殊勝な言葉が俺の口から出てきたことに、一瞬だけ驚いた表情をした佐倉さんだったが、気を取り直すように咳払いした後、強張っていた表情を崩して俺の隣の椅子に腰かける。

 

「大の大人を一撃で10m近くブッ飛ばしたと聞いてたんでな。こちとら、どんな筋肉ムキムキのマッチョマンの暴れん坊がやってくるのか戦々恐々としてたんだぜ?」

 

そう笑いながら、顔写真しか資料にはなかったからな、優男の顔の下にどんなムキムキの身体がくっついてるのか想像しちまってたぜ、と言いながら俺の肩を叩く佐倉さん。

 

まあ、実際にあの男をぶん殴った悪魔は、筋肉ムキムキで金髪碧眼の鉞担いだ大男だったので佐倉さんの考えは概ね正解なのだが。

それに加えて、俺が悪魔召喚を行えばこの場に実行犯のマッチョマンを出現させるのも容易いし、相応の術を使えば彼の姿を佐倉さんに見せることも可能だ。

色々と面倒ことになるので絶対にやらないけれど、佐倉さんの反応を見てみたくはある。

絶対にやらないが。

 

「そんな話を聞いてたんでな。俺の心の平穏の為にも本来の予定から四カ月ほど早めに来てもらった訳だが」

 

ああ、なるほど。

ルブランで世話になる予定がヤタガラスから聞いていた日程から四カ月ほど早まったのはそういう理由か。

普通は大人を殴って10m近くブッ飛ばせるような奴は警戒されて当然だし、そんなヤバい奴の世話をするともなれば、事前にそいつがどんな奴か把握するためにも交流の期間を設けようとはするか。

 

「すみません、ありがとうございます」

「なに、どんな奴が来ても面倒はちゃんと見るつもりだったからな。お前なら今日から此処の二階に住まわせても問題なさそうだ」

 

俺の覚悟の問題さ、と笑いながら席を立った佐倉さんに促されて、喫茶店の二階についていく。

二階は完全に物置になっていたようで、多少埃っぽく、色々なものが置きっぱなしだが今から片付ければ今日の寝床としては十分に使えはするだろう。

 

どうやら今日店を早仕舞いにしていたのは二階の整理の為だったらしく、二人で3時間かけて二階の物置の整理整頓、不用品の廃棄まで終わらせるのだった。

 




花山薫みたいなのを想像して戦々恐々としていたら、やってきたのが真面目なふりをした範馬刃牙だったのでちょっと優しくしてしまうそーじろーの図
なお、危険度的には大差ないものとする。



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プロローグ④

そういえばライドウと言えば黒猫だな、と頭に浮かんだので、初投稿です。
もうちょいプロローグは続くんじゃ


屋根裏の大掃除を手早く片付け、夕飯として佐倉さん謹製のカレーとコーヒーをご馳走になった後、近場の銭湯で汗を流す。

ルブランの真向かいにある銭湯は、どうやら様々な趣向を凝らした湯を提供する所だったらしく、丁度今日は薬湯の日(ゆず湯)だったようだ。

ゆずの匂いがする湯船に、のんびりと浸かってから風呂上がりのコーヒー牛乳を堪能してルブランに戻ると、エプロンを外して帰宅準備万端の佐倉さんが待っていた。

 

「戻ったか」

 

どうやら銭湯から俺が戻って来るのを待っていたらしく、薬湯を堪能したせいで長風呂になっていた俺に文句を言いつつ、椅子から立ち上がってカウンターに置いていた帽子を手に店の出入口に歩いていく。

 

「鍵はかけて行く。夜中に抜け出したりするんじゃねぇぞ」

 

そう言って、あっさりとルブランから出て行った佐倉さんを見送った後、軽くガスの元栓や戸締りを確認して簡易的な悪魔祓い用の結界を店に施しておく。

この結界は下級悪魔、具体的にはレベル10ぐらいの悪魔は出入り出来ない程度でしかないが、何かあった時には役に立つだろう。

 

その後、自室として与えられた屋根裏部屋の床に、今まで住んでいた場所から持ってきた手荷物を広げる。

部屋とは言っているが、基本的にはこの屋根裏部屋は土足で移動する場所になる。なので床に直接荷物を置かないために、持参したブルーシートを敷いて、その上に荷物を置く形にした。

 

床に広げた荷物は日用品や着替えが大半だが、中には拳銃型のペルソナ召喚器や悪魔召喚に使う銀色の筒があったり、愛刀『赤口葛葉』や愛銃の手入れ道具なんかもある。

刀や銃は商売道具であり命綱でもある以上、手入れ道具は欠かせないのだが、流石にこれらの危険物を常日頃からこの部屋に置いておくわけにはいかないので、ヤタガラスに倉庫か空き部屋でいいから裏稼業用の拠点を確保するようにお願いしておく必要がありそうだ。

 

愛刀や手入れ道具、拳銃なんかはひとまとめにして段ボールに詰め込んで部屋の隅に置いておく。

隠し場所はおいおい考えるとして、まずは今日の用事を片付けるとしよう。

 

「来い。ドッペルゲンガー」

 

俺のその言葉と共に床に置かれていた魔封菅(銀の筒)から、黒い塊のようなものが現れ、すぐさま鏡写しのように今の俺と全く同じ姿に変化する。

このドッペルゲンガーは、戦闘力は大したことないが影武者やアリバイ作りといった面では必須級の能力を持った悪魔で、今世の小学校、中学校は俺の代わりに殆どこいつが通っていたくらいだ。

 

『久しぶりだなぁ、主ぃ』

「封魔菅の中でこれまでの状況は見てただろうが、まだ佐倉さんからの信用を得られてない内は、夜中に俺が居るか確認に来る可能性もある。その時の影武者、頼んだ」

『了解。模範的な学生を演じといてやるよぉ』

 

ドッペルゲンガーと会話をしながら、他人の印象に残らない為の変装用伊達メガネを外し、ジーンズと防寒用のコートを着て、マフラーを鼻から下を覆うように巻き、護身用の小刀とペルソナ召喚器を懐に忍ばせ、屋根裏部屋唯一の窓を開ける。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

『夜明けまでには帰って来いよぉ』

 

椅子に座って推理小説を読み始めた、自分と同じ顔をしたドッペルゲンガーに見送られながら、周囲に人影がないことを確認してから窓から飛び降りる。

音もなく地面に着地して、誰かに見られる前にすぐさま歩き出す。

十二月は日が暮れるのが早い。19時を過ぎれば日はとっくに暮れていて、辺りはすでに真っ暗だ。

 

今日は引っ越しやら佐倉さんとの顔合わせやら昼間の怪現象やらと、色々あって疲れているのでゆっくりと眠りたいところだが、昼間の渋谷駅で起きたあの怪現象の調査はしておかなければならない。

東京都全体が認知異界の中心になってしまった原因と関係があるのかは分からないが、あれほど明確な異常事態を調査せずに放置するのはありえない。

 

取り敢えず早歩きで四軒茶屋駅に向かい、渋谷行きの電車に飛び乗る。

電車に乗る寸前にドッペルゲンガーに渡していた俺の私用のスマホから連絡があったが、ルブランの公衆電話に佐倉さんから電話があったらしく、ガスの元栓しまってるか確認しといてくれ、という連絡だったらしい。

まあ、俺が夜遊びしていないかの確認も含めた連絡だったのだろう。ドッペルゲンガーに影武者をさせといて正解だったな。

 

 

 

 

 

 

四軒茶屋から暫く電車に揺られ、朝方にも見た渋谷駅と未だに多くの人が歩いているスクランブル交差点に漸くたどり着いた。

 

昼間の怪現象が起きた交差点の中心に立ってみて簡易的に霊視してみるが、悪魔や天使、またはサマナーが魔術を行使したような痕跡は全くない。

あの怪現象を目にしてからすぐに、ヤタガラス経由で東京に常駐している霊視が得意なサマナーに調査を依頼したが、その調査報告も異変無しとして報告が上がってきている。

 

人通りが多い交差点なので、サマナーが来る前にあの怪現象の痕跡が掻き消されてしまった可能性もあるが、そもそもあれは()()()()()()()()()()()()()()

これまで対処してきた異常事態に対しての経験則に当て嵌めれば、あれはどちらかというとペルソナ関連の、認知や認識が絡んだ出来事な気がしているのだ。

 

(だからこそ、この東京で発生している認知異界に関しての手掛かりが見つかるかと思って、勇んで調査に来てはみたが、どうにも無駄骨だったみたいだな)

 

見た感じ、道行く人の様子は普通だし、悪魔や天使の気配もない。

何らかの儀式や魔術が行使された気配も無い。

 

強いて言えば、街を歩いている人間からマガツヒや生体マグネタイト、ペルソナ的にはSPとも呼ばれる精神エネルギーが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「は?」

 

 

 

その事実を認識した瞬間、俺の体をとんでもない倦怠感が襲う。

 

「お、ぁ」

 

思わず足元がふらついて道端に座り込んでしまうが、そんなことを気にしている場合ではない。

今の今まで全く気付かなかったが、いつの間にか俺の心臓付近、両方の手足に合計して20本近くの赤黒い管の様なものが突き刺さっている。

 

どうやらこの管が際限なく俺の精神エネルギーを吸いだしているらしい。

地下に流れている精神エネルギーも漏れ出ていたものではなく、俺と同じように管を刺された他の人達から、抜き取られている精神エネルギーがそういう風に見えていたのか。

 

「こん、の!『ザン』!」

 

これ以上の精神エネルギーの流出を防ぐために、下位の衝撃魔法で管を斬り飛ばし、身体に残った管の先端を無理矢理抜き取って地面に捨てる。

 

(くそ。ルブランに居たときはほぼ満タンだった精神エネルギーが、もう1割も残ってないぞ)

 

タイミングの悪いことに、ただの調査のつもりだったので精神エネルギーを回復するアイテムは持ってきていない。

ペルソナ召喚器や護身用の小刀は持ってきているが、このまま戦闘になったら悪魔やペルソナを召喚するどころか威力の高い魔法を使うのすらままならないだろう。

 

「どうする」

 

この攻撃は悪魔によるものではないのは確定だ。

あの管は認識するまで見えていなかったし、あれだけ精神エネルギーを吸われていたのに、全く気付かなかった。

つまり、認識できること、()()()()()()でようやく対処出来る類のものと見て間違いないだろう。

 

「おい、お前」

 

だがどうする。

今のところさっき以上の攻撃はされていないが、他の人間には未だ管が刺さったままだし、彼らの精神エネルギーも吸われ続けたままだ。

このまま放置しても彼らは死にはしないだろうが、魂に大きな傷を負うことになり、情緒が不安定になって最悪の場合は精神暴走事件に発展する可能性がある。

 

かといって、目に見えるだけでも数千本はある管が、蜘蛛の巣のように張り巡らされて、渋谷駅周辺の人間に突き刺さっている。

どう頑張ってもあれ全部を切り捨てるのは、今の状態の俺では不可能だ。

最低でもあの管の発生源を見つけないことにはどうしようもない。

 

「お前、吾輩の声が聴こえるか」

「悪いが後にしてくれ、今忙しいんだ」

 

飲み屋のキャッチか、チンピラに絡まれたのかと思い、追い払うために声がした方を向くと、そこには一匹の猫が佇んでいた。

 

「ようやく気付いたか。もっと早く気付けよな」

 

鼻と口周り、そして手足の部分だけが白く、それ以外の部分は真っ黒な猫。

そいつがにゃーにゃー、ではなく確かに日本語を喋って俺に意思疎通を図ってきている。

珍しくはある。だが、デビルサマナー的には前例を知らないわけではない。

 

「まさか、業斗童子、か?」

 

歴代ライドウの相棒と言っても過言ではない、しゃべる黒猫。

先代のライドウも業斗童子を連れていたらしいし、まさかこのタイミングでヤタガラスからの援軍ということだろうか。

 

「ゴウト…?いや、違うが」

 

しゃべる黒猫から最初に連想されたのが業斗童子だったから言ってみただけではあるが、あっさり否定されてしまった。

 

たしかに、目の前の猫をよく見てみると業斗童子のように罪を犯した人間が、呪術で猫の姿にされているという感じではない。

在り方的には、何度か会ったことのあるベルベットルームの住人や八十稲羽のクマに近い、のか?

 

「吾輩はモルガナ。この状況を打破する為に、吾輩と取引をしないか?」

 




モルガナ(CV.中田譲治)
嘘です。この世界のモルガナも大谷さん声です。


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プロローグ⑤

日刊ランキング二位まで行ってました。
ハメ開いて過去一驚きました。いつも読んでくださってる方、誤字報告してくれている方、本当にありがとうございます。これからも頑張ります。

で、ペルソナ6はまだですかねぇ!!(クソデカボイス




「取引?」

 

モルガナと名乗った黒猫は背負った小さなバックパックのふたを器用に開け、青く光る液体の入った小瓶を俺に見せてくる。

 

「こいつをお前にくれてやる。これで回復すればあの管を魔法で斬り落とせるだろう?」

「これは、ソーマか」

 

ソーマは、異界で偶に手に入る万能の秘薬だ。

本物を裏社会のオークションに流せば、数百万はくだらない値が付く程の価値がある代物だ。

人間が摂取すれば10年単位で肉体の若さを保ち続けられるし、異能者には副次効果で肉体の傷を癒し、精神エネルギーの総量を一時的に増やしてくれるというゲームでは存在しなかった効能まで備わっているという代物だ。

 

「正直、ソーマを貰えればかなり助かるが、取引の内容次第では断るぞ」

 

甘い話には裏がある。

ほんの少しでも悪魔に関わった事がある人間なら誰でも骨身に染みるくらいに熟知していることだ。

 

「にゃーに、とある異界の探索に付き合ってほしいだけさ。さっき見たが、下位魔法であれだけの威力が出せるんだ。お前、相当腕のある異能者だろう?」

 

どうやら『ザン』で管を斬り飛ばした姿を見られていたらしいが、魔法や異能者の事も理解しているとは驚きだ。

このモルガナと名乗った猫が、どこぞのダークサマナーや悪魔の回し者である可能性も否定しきれないが、背に腹は代えられない。

 

この異常事態を放置して逃げるのは、ヤタガラスのサマナーとしては有り得ない選択だし、モルガナの取引内容である異界探索も、タルタロスクラスの異界でなければそう問題にはならないだろう。

それに、モルガナからは悪意を感じないのだ。

利用してやろう、とかそういう雰囲気はあるが、騙して罠に嵌めようだとか殺してやろうだとか、そういう意思は感じ取れない。

 

「わかった。取引成立だ」

「にゃふふ。コンゴトモヨロシク、だぜ」

 

取引成立の証としてモルガナから渡された小瓶を受け取り、中身の青く輝くソーマを一気に飲み干す。

 

「ん?これ、認知異界産か」

 

飲んだソーマの効果で、枯渇していた精神エネルギーは完全に回復したが、効果はそれだけだ。

本物の、インド神話系の異界で手に入れたソーマならさっき言ったような凄まじい効果が得られるが、モルガナがくれたのは認知による産物の物だったため、精神エネルギー回復の効果しかなかったようだ。

まあ、他の効果を望んでいたわけではないし問題ないか。

 

さて、この異常事態は認知異界が絡む案件なのが目に見えている。

 

だから、今回は悪魔ではなくペルソナを召喚しておくべきだろう。

 

座り込んでいた道端から立ち上がり、人目につかないような裏路地にモルガナを引き連れて移動した後、懐から取り出したペルソナ召喚器の銃口をこめかみに当てる。

いきなり拳銃自殺をし始めたようにも見える俺の姿に、驚いた様な顔をするモルガナを放置して、引き金を引く。

 

「来い、『ブギーマン』」

 

ガシャン、と何千回も聞いた音と召喚の余波で漏れ出た精神エネルギーが青い粒子を撒き散らす。

そうして召喚されたのは、真っ黒な仮面を顔に着け、空中に浮遊するマネキンの様な両腕で刀と拳銃を保持し、不定形な黒い靄で身体を構成された俺のペルソナだ。

 

12歳でペルソナに覚醒してから早5年。

共に色々な荒事を乗り越えて、当初に比べれば強くなった俺のブギーマンだが、その戦闘力は正直そんなに高くはない。

 

ゲームではハム子とあだ名がついていた琴音さんや、鋼のシスコン番長の反応を見る限り、俺自身ともコミュニティが発生していたようだが、彼等との交流による心の成長によって、新しいスキルに目覚めることはあっても、俺のペルソナが別形態に進化することはなかった。

他の面子がコミュニティを進め、絆を深める度にペルソナが新しい形態に目覚めていくのには思うところもあったが、悪魔召喚や退魔術が使えるのは俺だけで、総合的な戦闘力としては彼らに劣ってはいなかったので、戦いの足手纏いにはならなかったから良しとした当時の事まで思い出してしまう。

 

そんなブギーマンだが、他にはない明確な利点として、能力は半減するが()()()()()()()()()()()()()()()()()ペルソナであるという点がある。

基本的に他のペルソナ使いには現実世界でのペルソナ召喚は不可能といってもいいくらいに著しく制限が掛かる。

 

特異な能力者であるワイルドの二人もそれは例外ではなく、現実世界でペルソナを呼ぼうとするとあっという間に精神エネルギーを使い切り、昏倒する。

実際に試してもらって琴音さんと悠さんを昏倒させてしまい、他の仲間から凄まじく怒られたのでよく覚えている。

 

では、何故俺だけその制限に引っ掛からないのか。

俺が転生者だからなのか、デビルサマナーも兼任しているからなのか、そういう能力のペルソナだからなのか、それとも別の要因なのか。

ヤタガラスや桐条財閥の研究所でも散々検査や実験に付き合ったが、ついぞその理由は分からないままだ。

 

ともあれ、この能力のお陰で俺の魔法も現実世界に現れた認知上の存在を破壊することが出来るのだから文句を言うのは筋違いというものだろう。

 

「現実でペルソナを召喚できてるし、召喚のやり方は絵面ヤバいし、妙な奴だなお前」

「しゃべる猫には言われたくないんだよなぁ」

「猫じゃねーよ! 今は猫だけど」

 

騒ぎ立てるモルガナをなだめながら、ブギーマンに赤黒い管の発生源を探してくるように指示を出す。

ブギーマンに発生源を探させている間に、ウィキで確認してみたが、渋谷駅の1日平均乗降人員は約230万人もいるらしい。これだけの人間の精神エネルギーを枯渇寸前まで吸い上げているのだ。

いままでどれだけの期間、精神エネルギーを吸っていたのかは分からないが、相当な力を蓄えているとみて間違いないだろう。

 

「引っ越して早々に大当たりを引いたか?」

 

これだけの力を持つ認知側の存在。

十中八九今回の大規模認知異界絡みだと考えて間違いなさそうだ。

 

「おい、戻ってきたぞ」

 

アレコレ考えている内に、探索から戻ってきたブギーマンを、自身の精神の中に戻してブギーマンが見聞きしたものを自分の知識として読み込む。

どうやらこの赤い管は地下鉄、それも東京メトロの地下ホームから伸びてきているようだ。

 

「厄介だな」

「どうだ?発生源は見つかったのか?」

「ああ。どうやら地下鉄に元凶がいるらしい」

 

この現象の元凶は地下鉄にいるようだが、現実の地底空間にいるわけではないだろう。

大多数の悪魔は自分の領域である異界に引き籠って有利な場を作り上げるし、認知異界の主は特にその傾向が顕著だ。

であれば、現実側の異常を潰し、エネルギー供給を断った上で異界に乗り込むのが一番確実な手だろう。

 

「ブギーマン、『マハザンマ』」

 

ブギーマンの右手から放たれた中級の全体衝撃魔法が渋谷駅全体に張り巡らされた赤い管をまとめて叩き斬り、その姿を消し去っていく。

マハザン、マハザン、マハザンマ、マハザンダイン、マハザン。

魔法が放たれる度に、駅に張り巡らされた管が断ち切られ、その数を減らしていく。

それに呼応するように地下に流れていく精神エネルギーの総量がみるみる減っていき、駅周辺を歩いている人たちの顔色も心なしか回復していく。

 

ソーマのお陰で精神エネルギーに余裕があるので、駅前の公園に備えられたベンチに座りながらバシバシ全体魔法を放ち続けていると、その光景を見ていたモルガナが俺の肩に乗る。

 

「本当にこれで地下にいる奴の力を削げるのか?」

「分からない。もう十分に力を付けていて、これがただの食事に等しい行為の可能性もある」

 

実際、これだけの事が出来るからには相当な力を身に付けているのは確定している。

大事なのは、これ以上の力を付けられてしまうのを阻止するのと、一般人からの継続的なエネルギー徴収を辞めさせることだ。

 

「少なくとも、無駄ではないさ」

「まあ、何でもいいが、状況の打開策としてソーマを渡したんだ。吾輩との取引だけは忘れるなよ」

「ああ、異界探索だろ?具体的には何処の異界を探索するんだ?」

 

俺の問いかけにニヤリと笑ったモルガナは、地面を指すように前足で叩く。

 

()()()()()さ。あの赤い管が大量に出ている地下鉄のホームにお目当ての異界があるのさ」

 

吾輩もあの地下異界に用事があるのさ、とモルガナがそう言った瞬間、地下鉄に続く階段から赤錆の浮いた鎖が空中を泳ぐように飛んできて、俺の左腕とモルガナの胴体に纏わりついて雁字搦めにしてしまう。

 

「なん、」

「まずっ、」

 

俺達が事態を認識し、対処する前に鎖が尋常ではない力で引っ張られる。

どうやらこの鎖は俺達を地下鉄に引き摺り込みたいらしい。

 

「くそ、逃げられねぇ!」

「く、固いな」

 

どうにか鎖を壊そうとペルソナを召喚して何度も魔法や物理技を放つが、鎖は破壊されるどころか、傷一つつかず、その力をますます増大させる。

いくら力が半減しているとは言え、ブギーマンの攻撃はあのニュクス(ペルソナ3のラスボス)にすらダメージを入れられる力があるんだぞ。

そして、とうとう俺とモルガナの踏ん張りが効かなくなってしまい、俺達の体が宙に浮いてしまう。

 

「クソッ」

「にゅああああぁぁぁ」

 

身体がバラバラになるんじゃないかと思える程の速度で引っ張られた俺とモルガナはそのままの速度で地下鉄の入り口に突撃し、()()()()()()()()()()()現実と異界の境界を超える感覚を感じた後、先の見えない無間の闇に飲み込まれてしまうのだった。

 




他に書くタイミングないと思うので、ここに置いていきます

ハム子や番長が主人公と発生させたコミュは『混沌』です。
このアルカナはP5Rで追加された『顧問官』を内包する、エテイヤタロットにおける混沌(カオス)に相当し、正位置では理想や大いなる意思、逆位置では『顧問官』の意味である
知恵や啓蒙を表します。

『この世界の外』からやって来て、知恵(前世の知識)を使って理想(ハッピーエンド)を叶え、不安定なペルソナ使いの良き相談役になる。
本来ならバッドエンド一直線だったこの世界線に希望をもたらし、決められた路線を破壊し、全滅しか無かった世界の未来を不確定にしたからこそのこのコミュです。

コミュが混沌だとしても主人公は別に這いよる混沌ではありません。




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プロローグ⑥

モルガナがメメントスの存在を主人公に話してしまったので強制イベントです。


あの鎖によって認知異界に引きずり込まれた俺たちは、趣味の悪い赤と黒のマーブル模様に彩られた地下鉄のホームのような場所で、次から次へとこの閉ざされた異界に送り込まれてくる、見覚えのある悪魔の姿をしたシャドウを相手に連戦を強いられていた。

 

「来るぞ!」

 

俺とモルガナに向かって放たれた、10個の黄金に輝く巨大な拳(ゴッドハンド)を紙一重で回避し、大技を放ったせいで隙だらけになっている5体のメルキセデク(LV.58)のうち一体に肉薄する。

右手に持った小刀で金属質の翼を切り落とし、体を捻って隙だらけの頭部に蹴りを入れる。

 

俺の蹴りを受けたメルキセデクの頭部が、鈍い音を立てて曲がってはいけない方向に曲がり、その強靭な肉体から力が抜けて地面に倒れ伏したのを確認する。

仲間がやられたことで警戒したのか、残りの連中が突風を伴うほどの速度で地下鉄のホームを模した異界内部を凄まじい速度で飛び回りながら祝福即死魔法(ハマオン)を放ってくる。

 

本来なら対象を光の粒子に変換して殺傷する高レベルの即死魔法であるが、ブギーマンの耐性で祝福無効が備わっている俺には意味がない。

モルガナの方に飛んで行っている魔法も『挑発』で強制的にターゲットを俺に変更させ、俺に当たるように誘導する。

 

「モルガナ、遠距離!!」

「こい、『ゾロ』!」

 

カイゼル髭とゴツイ上半身が特徴のペルソナを召喚したモルガナが、風魔法『マハガル』を放ち、俺をハマオンで攻撃していたメルキセデク達の弱点を突いて、戦闘機張りの速度で飛び回っていた奴らの行動を阻害する。

 

根本的に魔法の威力が足りていないのでダメージ自体は入っていないが、高速移動中に予想外の方向から横殴りの風を受けてしまったメルキセデクが墜落し、ダウン状態になる。

 

「終わりだ」

 

ダウンしている四体に素早く接近し、小刀で手早く首を刈る。

致命的なダメージを受けたメルキセデクが断末魔の声を上げる事すらなく、マガツヒ(精神エネルギー)になって空気に溶けていく姿を確認した後、僅かに息を吐く。

 

「戦闘終了だ。お疲れ様、モルガナ」

「も、わがはい、むりぃ」

 

異界内部に入った途端に、二足歩行のマスコットキャラクター?みたいな姿になっている推定:モルガナの頭を労わるように撫でながら、始末したシャドウが何かアイテムをドロップしていないか、確認する。

 

「ドロップはなし、か」

 

既に百を超える多種多様なシャドウを始末しているが、これまで一度もアイテムをドロップした個体は存在しない。

タルタロスやマヨナカテレビに出現していたシャドウはほぼ確定と言っていいくらいに消費アイテムや何らかの素材を落としていたので、この異界のシャドウもそうだと思っていたのだが、目論見が外れてしまった。

 

(まずいな。モルガナも俺もそろそろペルソナ召喚や魔法の行使が難しくなり始めている)

 

なるべく消耗を抑えるために、物理攻撃主体でこれまで戦ってきたが、物理反射や耐性を持ったシャドウも多く出現してきたため、そいつらを片付けるのにペルソナや魔法を使わざるをえず、じり貧になってしまっている。

 

一旦撤退して補給と装備の調達をしたいところなのだが。

 

「疲れてるとこ悪いが、続きだ」

「わかってるよ。吾輩もこんなヤバ気なところからは、さっさと逃げたいしな」

 

そう言ったモルガナは、異界の出入口を塞いでいる大きな扉の前で猫のような手足を器用に動かしながら、その扉に大量に取り付けられた南京錠やシリンダー錠、果てはパスワード入力式の電子錠を開け始める。

モルガナがピッキングツールや小さなタブレットを駆使して正攻法で鍵を開けているのを眺めていると、背後にマガツヒが集まっていくのを感じ取る。

 

扉とモルガナから視線を外して振り返ると、さっきまでメルキセデクと戦っていた場所には既に別のシャドウが出現していた。

 

チェルノボグ、ヤマタノオロチ、アバドンetc。

こちらに殺意を向けてくる、20を超えるシャドウの詰め合わせセットにため息をついて、一歩前に出る。

 

「結構な数の鍵をお前が物理的に破壊してるから、もうちょっとで全部解錠できると思うぜ」

「攻撃は絶対に通さないから手早く頼む。なんか嫌な予感がしてるからな」

 

あの高レベルシャドウの集団が相手では、精神エネルギーが枯渇寸前の今のモルガナは戦力にはなり辛い。

ここは扉の解錠に専念してもらった方がいいだろう。

 

連戦の影響で刀身にガタがき始めている小刀を片手に、ブギーマンを召喚しつつシャドウの集団に肉薄する。

首の後ろに感じる、チリチリとした焦燥感を、あえて無視しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、最後」

 

物理攻撃吸収とかいうバカみたいな特性持ちだったアバドンをブギーマンの『ザンダイン』でどうにか始末したことで、追加されたシャドウ集団の殲滅は完了した。

 

どいつもこいつも、タルタロス最上階や黄泉比良坂に出てくるシャドウレベルで強かった。

流石にソロ討伐は辛い物があったか、と心の中で思っていると、遠くにいたモルガナが、大声を出す。

 

「おおーい!開いたぞ!」

 

モルガナの声に振り返ると、無数にあった鍵は全て解錠され、大きな扉もうっすらと開いている。

 

「さっさとこんな場所、おさらばしようぜ」

 

そう言って笑うモルガナに向かって、俺は全力で走り出す。

突然走り出した俺を見て驚いた表情をするモルガナを抱きかかえて、全力疾走で《攻撃を》回避する。

 

次の瞬間、ついさっきまで俺達が居た場所が爆発音と共に地下鉄ホームの一部ごと消し飛ばされる。

通常攻撃であの威力か。最低でも上級の英霊、もしくは下級神クラスの力はありそうだ。

 

「無事か、モルガナ」

「す、すまねぇ。何がおきたんだ」

 

もうもうと立ち昇る土埃が晴れると、その場所にいたのは、俺も悪夢を見るくらいにトラウマを植え付けられた、ある存在が佇んでいた。

 

「なん、だ、あれ」

 

そう呟いたモルガナの視線の先に居たのは、ズタ袋を頭に被っていて、ちょうど左目だけ見えるように空いた穴からは、赤く発光する眼が覗いている。

その身長は3メートルを超えていて、黒い鎖とボロボロな黒い衣服を身に着けている。

そして一番の特徴は、その両手に握られた1メートルを超える銃身の大型拳銃と、そいつが身じろぎする度に鎖を引き摺る様な独特な金属音がすることだろう。

 

「刈り取るもの、か」

 

この世界に転生してから、こいつとは何度か闘ったことがある。

だが、そのどの場合でも頼りになる仲間/仲魔が傍にいて、尚且つ万全の装備とコンディションの状態で挑んでも、ギリギリで倒せたくらいに強いシャドウだ。

そんな化け物がなんでここにいるのかは、恐らく、『この一つのエリアに長時間居座ったから』だろう。

 

俺たちをこの場所に引きずり込んだ奴の狙いは恐らく、最初からこいつと俺たちをぶつけることだったんだろう。

ご丁寧に時間のかかる鍵開けギミックや戦力を小出しにして時間稼ぎしていたのも、この為だろう。

 

「モルガナ、あの扉から地上まではどのくらいだ」

「じゅ、10階層、もない、みたいだ」

 

刈り取るもののプレッシャーに圧され、息も絶え絶えなモルガナがそう答える。

・・・覚悟を決めるしかないか。

 

「モルガナ、これを持って地上に逃げろ」

 

刈り取るものからは視線を外さずに、モルガナのウェストポーチにヤタガラスの紋章が入ったキーホルダーを突っ込む。

 

「地上に出たら、東京の築地にある根願寺にこいつを持っていけ」

「お前、なにを」

 

ペルソナ召喚もままならない、今の状態の俺たちでこいつを倒すのは不可能。

逃げるのが最善だが、こいつは獲物をみすみす見逃したりはしないだろう。

 

なら、どちらかがこの場に残って囮になり、片方の脱出を促すべきだ。

そして残るのは当然、実力的に上である、俺だろう。

 

「それを持って根願寺に行けば援軍を要請できる」

 

たしか、今の根願寺にはあの人がいるはず。

あの人が来れば、勝率は格段に跳ね上がる。俺は援軍到着までここで耐え忍べばいい。

 

「取引だ。俺はお前をここから生かして帰す。お前は俺の為に援軍を呼んでくる」

 

どうだ、と笑った俺に、モルガナは覚悟を決めた表情で頷く。

良かった。ここでごねる様なら、問答無用で扉の外にブン投げてでも逃がしてたところだ。

 

「名前」

「ん?」

「吾輩、まだお前の名前を聞いていない。長い付き合いになりそうな取引相手の名前は知っておきたいからな」

 

そういえばまだ名乗ってなかったか。

 

「雨宮蓮。もしくは、十五代目葛葉ライドウ。好きな方で呼んでくれ」

 

そう言ってペルソナ召喚器と小刀を構える。

ペルソナは出せて後五回、業物の小刀も、ここまでの戦闘で酷使したせいでボロボロになってしまっている。

これでは、刈り取るものの攻撃を耐え凌ぐのは難しいだろう。

 

「一撃でも食らったら終わりだ。攻撃を全部避けるしかない」

「分かってるさ。もう無様は晒さねぇ」

 

そして、俺とモルガナはどちらが言うでもなく同じタイミングで走り出す。

刈り取るものの視線がモルガナを捉えるが、ちまちまと回収していた破壊された地面の欠片を刈り取るものの頭部に直撃させ、俺に注意を向けさせる。

 

そして、奴の姿がブレたと思った次の瞬間、反射的に召喚したブギーマンの刀と奴の銃がぶつかり合い、轟音と衝撃波を撒き散らす。

 

召喚したブギーマンが刈り取るものの攻撃に耐えきれず、僅かな拮抗もなく破壊されてしまい、そのフィードバックが俺にやってくる。

ペルソナが破壊された影響で俺に襲い掛かってきた激しい吐き気と頭痛で意識がブラックアウト仕掛けるが、唇を噛み切るくらいに強く噛んで無理やり意識を保つ。

 

「行け!モルガナ!」

 

俺の言葉を受けて出口に向かって疾走するモルガナを、刈り取るものが追いかけるが、更にもう一度ブギーマンを召喚して刈り取るものに組み付かせて押し留める。

 

ブギーマンの膂力はペルソナの中でも割と低めだ。

当然、刈り取るものを止め続けるような馬鹿力はないが、ほんの一瞬動きを止めるくらいならできなくはない。

 

一瞬動きの止まった刈り取るものに、俺自身が出せる単体魔法の中でも最大威力にして相性を無視して攻撃を叩き込める『殺風激』をなけなしのSP(精神エネルギー)をかき集めて発動する。

 

殺風激が刈り取るものに当たる寸前にブギーマンを自分の精神に戻し、SP(精神エネルギー)を継続消費しながら、殺風激の発動を維持し、刈り取るものを押し留める。

 

「吾輩が戻ってくるまで、死ぬなよ!」

 

そう言って、開きっぱなしの扉から出て行ったモルガナを見送り、刈り取るものに視線を向ける。

あのニュクスやイザナミにも特大ダメージを与えた実績のある全力の『殺風激』だ。これで状況はイーブン。俺の消耗も激しいが、奴は確実に大ダメージを負っている。

俺の想定通りであることを示すように、吹き飛ばされて壁に突っ込んでいた刈り取るものの腹部には大きな風穴があき、大きなダメージを負っているのが明確に分かる。

 

だが、あの程度では倒せないのは重々承知している。

後は耐久するか、最悪回避に専念して援軍が来るまで耐え忍べばいいだろう。

 

「・・・なに?」

 

そんなことを考えながら警戒を怠ることなく周囲を見ていた俺の目の前で、辺り一帯からマガツヒが集められ、刈り取るものの体が瞬く間に修復される。

 

「馬鹿な」

 

高位の存在に成る程、その身に負った傷を癒すには大きなリソースが必要になる。能力が高まるほどに、高位の回復魔法でないと体力が全回復しないのがいい例だろう。

神に片足を突っ込んでいるあの刈り取るものの大怪我を修復するなら、それ相応の代償が必要になるはずだ。

あんな高速回復なんて、それこそ異界の主クラスでないと不可能。

 

(そうか、この異界の主が手を回してるのか)

 

その答えに辿り着き、身構えた次の瞬間、自分の身体が軋む音と背中に硬い壁の感覚を感じ、そして、凄まじい激痛が全身を襲う。

 

「、、が、ふ」

 

咄嗟に全身にマガツヒを巡らせて物理的/霊的防御能力を向上させてもこのダメージ。並みのサマナーなら全身が弾け飛んで、血煙にされてるぞ。

 

そして、この刈り取るものの瞬間移動と言っても差し支えない移動速度にこの膂力。まさか、修復と共に能力の強化までされているのか。

 

「くそ」

 

迫りくる禍々しいオーラを纏い始めた刈り取るものを視界に収めながら、後二回しか呼べないペルソナとボロボロの小刀を手に、立ち上がる。

 

援軍は、まだ来ない。




黒幕さんがメメントスに特別アリーナを作って耐久戦を仕掛けました。
一定時間同じ場所にいると刈り取るものが出現するという、認知異界の絶対法則を利用したデストラップです。
しかも主人公を事前に消耗させて、刈り取るものには回復と死ぬたびに強化して復活という手厚いバックアップまで付ける手の込みよう。

勝ったな。ガハハ。風呂入ってくる(黒幕


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プロローグ⑦『覚醒』

本日二回目の更新です。

特殊タグってすんごい。


(くそ、クソクソオォォォオ)

 

一匹の黒猫が夜の闇に閉ざされた街中を疾走する。

背負ったバックパックから洩れる赤い燐光がテールランプのように赤い尾を引き、町行く人たちの目を惹いていることにすら気付かないくらいに、必死に歩道や裏路地、はたまた車道を全速力で走り抜ける。

 

(偉そうなことを言いながら、なんの役にも立ってねえ!)

 

その黒猫は、現実世界に帰還したモルガナの現実での姿だった。

 

モルガナは理解していた。

自身が不用意に放った『メメントス』という単語を、あの場所で『雨宮蓮』に伝えてしまったが故に、自分だけでなく、彼すらもあの異界の主の抹殺対象になってしまったことを。理屈ではない。だが理解出来てしまうのだ。

 

しかも、そんな巻き込んだ自分が巻き込まれた彼に守られ、助けられ、あまつさえ彼をあの死神との戦いに置き去りにしてしまったのだ。

 

(ようやく見つけた取引相手を死なせてたまるかよ!)

 

モルガナには過去の記憶がない。

彼の一番古い記憶はほんの数ヶ月前、路地裏で泥水に塗れながら泣いていた記憶だ。

 

それ以前の記憶は全く思い出せないが、知識、いやもっと単純な欲求ともいうべき想いが彼の身体を動かした。

その想いとは、『相応しい者』を見つけ出し、メメントスに導いてあの場所を()()()()()()()だ。

 

そのためにも先ずは自分が強くなければと考えたモルガナは、この世界にいくつも存在する異界に潜り込み、その中で自分の力を付け、戦い方を学び、何故か強烈に必要だと感じた()()()()()()()()()()()()も習得する事が出来た。

 

そうして力と自信を付けてメメントスに一人で潜入しては見たものの、独りきりでは頻繁に現れる雑魚シャドウや、あの赤い管にすら四苦八苦する始末。

このままでは到底自分の目標を達成できないと感じたモルガナは最初の想いの通り『相応しい者』を探すようになる。

 

色んな人間を見てきた。

欲望を貪る者、悪意に塗れた者、意地汚い者、自分のない者、自分の痛みを他者に押し付ける者。

勿論、人間の中には善人や良き隣人足りうる者もいたが、それでも全体的に見れば悪意に偏っているように、モルガナには思えた。

 

悪人の協力者は相応しくないし、ただ優しく善を説くだけの奴も同様だ。

相応しい者を見つけられず悶々としていた日々が続いた。

 

だがその悶々とする日々は、唐突に終わりを告げた。

今日、この日、道端に座り込んでいたあの雨宮蓮という人間の真紅に輝く紅蓮の魂に、確かな希望を見たのだ。

 

「死なせねぇ。死なせてたまるか。借りを作ったままなのは吾輩のポリシーに反するんだよ!!」

 

東京周辺の地理は今までの生活で、地図をタダ読みしたりして頭に入れている。

その記憶のお陰で自分が今どこにいるかは把握している。確かここは新橋駅のすぐそばだったはず。

 

築地の根願寺まではもう、そう遠くはない。

 

最後のひと踏ん張りと、足に力を入れた次の瞬間、モルガナの首根っこが何者かに摘ままれ、小さな体がふわりと浮き上がり、逃げられないように捕らえられてしまう。

 

「何しやがる!放せ!」

 

ジタバタと手足を振って逃げようとするが、全く逃れられる気配がしない。

それに、何だか妙な威圧感を感じてしまい、抵抗しようという気が段々削がれて行ってしまう。

 

「猫が喋ってるのも気になるけど、それよりもどうして君は『これ』を持ってるのかな?」

 

その人影は若い女の声を発しながら、モルガナのバックパックから雨宮蓮がモルガナに託した赤い燐光を放つヤタガラスの文様が入った根付のキーホルダーを取り出す。

託された物を取り返そうと藻掻くモルガナを地面に下した女性の姿が、雲の切れ目から覗く満月の光によって照らし出される。

 

その女性は、息を吞むほどの美貌を持った女性だった。

ルビーのように輝く赤い瞳。赤みががったブラウンカラーの髪をポニーテールにし、黄金比のような人を惹き付けてやまない抜群のプロポーションと、ローマ数字のXXII(二十二)を象った特徴的なヘアピンをした女性だった。

 

「事情、聴かせてくれるよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モルガナを見送ってからどれだけ時間が経ったのだろう。

もう何時間も戦っている気もするし、まだ数分しか経っていない気もする。

 

この戦いが始まってから手を変え品を変え、刈り取るものに二回ほど致命傷を与えはしたが、まさか死から復活して更に強くなるという、どこぞのサイヤ人もびっくりな手段を使って来るとは思いもしていなかった。

余程この異界の主は俺に死んで欲しいらしい。

 

「ぐぅっ!」

 

心の中でそんな軽口を叩きはしたものの、状況は最悪だ。

早々にSPが枯渇してしまったのでペルソナ召喚や魔法は実質使用不可能になり、召喚器も破壊され、小刀も二回目の致命傷を与えた際に刀身が折れてしまっている。

 

そんな俺の状態とは真逆に、つい先ほど斬り飛ばした首も元通りにくっつき、小刀で散々に空けてやった身体中の風穴も全回復してしまった、禍々しいオーラを身に纏う刈り取るものが、巨大な銃身を横薙ぎに振るう。

 

万全の状態でも回避が難しい速度で振るわれた銃身を、俺は回避しきれず、咄嗟に防御に使ってしまった左腕が鈍い音を立ててへし折れてしまう。

その衝撃で踏ん張りが効かなくなってしまい、異界の壁に身体が叩きつけられ、続けざまに至近距離で放たれた弾丸をギリギリで躱すが、紙一重で回避したせいで弾が額を掠める。

馬鹿げた威力とそれに付随する衝撃波で脳味噌がシェイクされ、さらに弾丸の通過で発生した強風に煽られ身体が転がるようにして更に吹き飛ぶ。

 

「こ、れは、拙い」

 

これまで闘った刈り取るものとは比べ物にならない程の強さだ。

この状態のこいつはもしかすると、ベルベットルームの住人であるテオドアやマーガレットに匹敵、いやそれすらも超えているかもしれない。

 

何度打ち倒しても奴の傷は修復され、膨大なマガツヒが注ぎ込まれて強化される。

こいつも異常だが、こんな真似のできる異界の主は、どれだけ強大な存在なのだろうか。

 

追撃を警戒して立ち上がろうとするが、自分の意思に反して体は背中を壁に寄りかかるようにして最早ピクリとも動かなくなってしまう。

刈り取るものが持つ銃の撃鉄が持ち上がるのが見える。此処で終わるのか。

 

時間感覚が引き延ばされ、何もかもがゆっくりと動く中で、脳裏に何かの光景がフラッシュバックする。

これは、走馬灯か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の前世は、色んなモノを諦めた人生だった。

 

プロのサッカー選手になる夢は、自分に才能が無く、諦めた。

医者になる夢は、孤児院出身の俺では学費の高さが壁となり諦めた。

少しでもいい学校に行くために、勉強とアルバイトを両立させるため、青春を諦めた。

漸く見つけたやり甲斐のある仕事も、病気で辞めることになってしまった。

恋人との結婚も、死が確定している自分では幸せにできないと、愛していると言葉にすることもなく身を引いた。

 

そんな前世の記憶でも、今世はそれのお陰で上手くやれていたが、こんなにあっさり死ぬ時が来るとは思いもしていなかった。

身構えているときには死神は来ないものだ、と好きだった作品のキャラクターも言っていたが、正にその通りだ。

どれだけ強くとも、どれだけ上手くやれても、死はいつだって突然訪れるモノなんだから。

 

刃の砕かれた小刀の柄が力の抜けた手から滑り落ち、人間の頭なんて容易く粉々に出来る銃弾を打ち出せる大きな銃口に眼を向ける。

 

ああ、今度は

 

 

 

 

 

『今度は、自分の命を諦めるのか?』

 

 

 

 

 

何処からともなく聴こえてきたその言葉に、心臓が強く脈打つ。

 

『前世に比べ危険に満ちたこの世界で、今度こそ悔いを残さないように全力で生き抜くと誓ったのではなかったか?』

 

修行で三途の川を渡りかけた時、悪魔として降臨したニュクスやイザナミと死闘を繰り広げた時、魔人を地獄に送り返した時、死にかけたことはこれまでの人生で何度もあった。

 

それでもその時諦めなかったのは、こんな俺と共に居てくれた仲間を残して、死ねないと思ったからだ。

前世の自分のように理不尽に嘆く誰かを守りたいと思ったから、前世の自分のように理不尽に死にたくないと思ったから、困難を前にして心が折れそうになったとしても、今度こそは理不尽に打ち勝つのだと自分に誓ったじゃないか。

 

『ヤタガラス、葛葉家、悪魔や天使に苦しめられた者たち、数多の死線を共に潜った戦友たち』

 

『貴様は多くの人間を救い、守り切った』

 

『彼らに、理不尽へ反逆する姿を、確かな希望を魅せた責任が、お前にはある』

 

『立て。私はまだ、諦めてはいないぞ』

 

いつの間にか刈り取るものの後ろに立っていた赤と黒の炎で構成された人影が消え、それと同時に引き延ばされていた時間感覚が正常に戻る。

 

刈り取るものの指が引き金を引ききる前に、下位の風魔法である『ガル』を暴走の危険性のある血を媒介にした方式で発動させ、わざと自分に当てて、刈り取るものの射程範囲から脱出する。

自分から流れ出た血で赤い線を引きながら、震える両足に力を入れてボロボロの身体を無理矢理起こし、刈り取るものを睨み付ける。

 

(まさか、そういう事だったとはな)

 

昼間に見た異常現象、ついさっき俺を煽るだけ煽って消えた人影。

こいつらは同一の存在で()()()()()()()()()()()()()()()()()から他のサマナーや、なんなら俺自身にも痕跡を感知出来なかったのだ。

そりゃそうだ。なんせこいつらは、特異な力でも現象でもなく、俺の認知にしか存在しないもう一人の『俺』なんだから。

 

「やって、やるさ!」

 

召喚器は破壊されてしまったため、使えない。

魔封菅も部屋に置いてきてしまった以上、悪魔召喚も出来ない。

肉弾戦も、今までの戦いで負った傷のせいで、このままではまともに出来はしないだろう。

 

だったら、八十稲羽の自称特別捜索隊のメンバーがやっていたように自力で俺の本当のペルソナを引き出して、どうにかこの状況を覆すしか、ない。

 

心を燃やせ。

魂を燃やせ。

理不尽に抗うのなんて、この十年間何回もやってきたことだろうが!

 

 

『よかろう。その覚悟、確かに聞き届けたり』

『我は汝、汝は我。汝、己が反逆の翼を広げ、今こそ飛び立たん!!』

 

 

頭が割れてしまったんじゃないかと思える位の激痛。

視界が真っ赤に染まり、枯渇していたはずの精神エネルギーが俺の身体から漏れ出し、青い炎に変換され、隙を見逃さずに俺に攻撃してきた刈り取るものの無数の銃弾ごと、辺り一帯を燃やし尽くす。

 

いつの間にか顔に貼り付けられていた白と黒の仮面を、心の底から湧き出てくる衝動に従い、何度も口にした言葉と共に右手で無理矢理剥ぎ取る。

 

 

 

 

 

『ペルソナ!!』

 

 

 

 

 

黒と金に彩られた鋼鉄の翼、漆黒と深紅の衣装を身に纏ったペルソナの姿は理不尽への反逆の証。

このペルソナこそが、俺の本来のペルソナだということが、感覚で理解できる。

 

「行くぞ!『ラウール』!」

 

ラウールの性能は朧気ではあるが把握出来ている。

全身ズタボロでも、今にも意識が飛びそうでも関係ない。今ここで勝つしか生き延びる道がないなら、全力で押し通るだけだ。

 

「さあ、SHOW TIMEだ!」




今までレベル70ぐらいの実力で事件を解決に導いていたので、レベル99オーバーの刈り取るものにはそのままでは勝てないです。普通にイゴります。

なので、前世の幼少期から心の底にいる諦めることへの恐怖の象徴であり、前世の自分のシャドウである《ブギーマン》を正しく受け入れて、どんな苦境でも諦めない今世の自身の心を体現するペルソナ《ラウール》をレベル99状態で『一時的』に覚醒させる必要があったわけですね。

イレギュラー刈り取るもの戦、工事完了です・・・
お疲れ様でした。


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プロローグ⑧

ここから先の戦闘はお好きなBGMを流しながらどうぞ

個人的には『Life Will Change』を推奨します。


覚醒を果たした、俺のペルソナ(ラウール)は溢れんばかりの力の波動を放ちながら聴こえざる雄たけびを上げる。

物理的な干渉はしていないはずなのに、大気を震わせるくらいに気合が入っているところ悪いんだが、先にやることがある。

 

「ラウール、『オラトリオ』」

 

こんなに気合入れてるのに初手回復かよ、とでも言いたげな視線を感じるが、兎にも角にも俺が動き回れるようにならないとただの的になってしまうので、ラウールの持っている回復魔法の中でも一等強力な魔法を発動する。

ラウールが発動させた魔法の効果で、ぐちゃぐちゃになって千切れかけていた左腕が元の姿を取り戻し、身体中に出来ていた傷も癒される。

流石はインチキ呼ばわりされている魔法だ。

あれだけの怪我も瞬く間に回復したので、すぐさま立ち上がり、俺に向かってきていた小型のシャドウを蹴り飛ばす。

 

この異界の主は、どうやら刈り取るものの形勢が不利になったと見たのか、開きっぱなしの扉から能面のような仮面をしたシャドウ、もしくは俺のよく知る悪魔の姿を模したシャドウが扉から無数にこの異界に突入してきている。

チラリと俺から一番遠い壁際にいる刈り取るものの姿を確認すると、ラウールの覚醒の際に発生した蒼い炎で負った傷が中々癒えないらしく、今すぐ戦闘に加わってくる素振りはない。

であれば、手早く雑魚を蹴散らすとしよう。

 

「悪いが、今の俺相手に数を頼みにしても無駄だ。『マハザンバリオン』」

 

津波のように押し寄せてきていたシャドウの群れが、ラウールの鋼鉄の翼から放たれた無数の真空刃によって切り裂かれ、問答無用で塵に還っていく。

この魔法は俺の知らない魔法だが、感覚的にマハザンダインの上位互換といったところだろうか。

普段ならそれなりに時間を掛けなければ倒せない筈の悪魔やシャドウを瞬く間に塵にした後、ラウールを意識して操作し、刈り取るものに向かって渾身のスキルを発動する。

 

「『殺風激』!」

 

円錐状の衝撃波が形となって刈り取るものに牙を剥く。並みの存在なら問答無用で粉々に出来る魔法だが、相手はあの刈り取るものだ。

自身への攻撃に気付いた刈り取るものは己の武器である大型拳銃の片割れを俺の魔法に向かって投げ捨て、即席の盾にして時間を稼ぐ。

拮抗はほんの一瞬。奴の武器は瞬く間に粉々になって霧散するが、その創り出された僅かな時間で刈り取るものは「殺風激」の範囲から逃げ切ったようだ。

 

「なるほど」

 

油断なく刈り取るものを視界に収めつつ、自分の状態を再確認する。

通常であれば『マハザンバリオン』も『殺風激』も切り札として使う魔法であり、こんな牽制紛いの攻撃や大量のシャドウを処理するためとはいえ、SPの消費量の問題で気軽に使っていい魔法ではない。しかし、今の俺は強力な魔法を連発出来ている。

 

推測の範疇を出ないが、その理由は恐らく、これまでの10年間で倒してきた無数のシャドウや悪魔が所持していたマガツヒ(精神エネルギー)をブギーマンが吸収し、貯め込んでいたからだろう。

その証拠に魔法を放つごとに、時間が経つごとに、ブギーマンの代わりに召喚したラウールの存在が薄れていくのが分かるのだ。

ブギーマンが貯め込んだエネルギーが尽きれば終わりだ。

つまり、この局面では耐久戦なんかやってられないということだ。

 

「短期決戦だ」

 

ラウールは俺が思った通りに動いてくれるが、ブギーマンのように自律行動はしてくれない。

正式なペルソナと半分シャドウなペルソナとの違いなのだろうが、以前は出来ていたペルソナとの連携攻撃はこれまでの様には出来ないらしい。

ないものねだりをしてもしょうがない。今はラウールの操作と周囲の警戒に全力を注ぐとしよう。

 

俺の指示通り、鋼鉄の翼を広げ刈り取るものに突進したラウールがその翼で残った大型拳銃と鍔迫り合いをする。

派手に飛び散る火花と轟音を気にもせず、ラウールを操作して次々と攻撃を浴びせていく。

上下左右、縦横無尽に飛び回りながら激しく打ち合うラウールと刈り取るものを見ながら、アギダインやブフダイン、ベノンザッパーといった魔法やスキルを絶え間なく叩き付けることも忘れない。

 

そうして継続的にダメージを与え続けていると、常時全回復発動状態だった刈り取るものに、傷が刻まれ始める。

恐らくだが、ラウールが与えるダメージが異界の主の援護を上回り始めたため、ダメージの回復が追い付いていないのだろう。増援のシャドウ召喚も出来ていないようだしな。

 

(ここで決める)

 

刈り取るものも瀕死になり始めているが、ラウールの限界も近い。

高位の魔法とスキルを連発している関係上、ブギーマンが蓄えていたマガツヒも凄まじい速度で消費されている。もう数分も持たないだろう。

全力でラウールを操作し、高速戦闘を行いながら思考を巡らせる。

 

俺が習得している魔法の中で最大の威力を誇る『殺風激』でもあの刈り取るものは殺し切れなかったし、ラウールが覚醒するまでの戦いで俺の手札は奴に全て知られてしまっている。

であれば、今まで見せていない手札且つ、今のラウールが発動できる攻撃の中で最高威力の『■■の魔弾』というスキルに賭けるしかない。

スキルの詳細は俺も完全には把握出来ていないが、どうやら相当な威力の銃撃属性の攻撃スキルである事は分かっている。

 

(後は、撃つタイミング)

 

ラウールから伝わってくる高速戦闘の状況を把握しながら、タイミングを測る。

理想は、奴の全身をスキルの攻撃範囲に押し留め、纏めて消し飛ばすこと。

そしてその瞬間は直ぐに訪れた。

奴の大型拳銃がその手から弾き飛ばされ、完全に胴体ががら空きになり、死に体を晒す。

 

「今だ!」

『至■の魔弾』

 

スキルとして打ち出された無数の光輝く弾丸は、俺の狙いから一ミリもズレることなく刈り取るものに直撃し、その数と凄まじい攻撃密度にモノを言わせて刈り取るものの存在を削り取っていく。

ほんの一瞬にも、無限にも感じられた時間が過ぎた後、あれだけ強烈な存在感を発していた刈り取るものは塵となって消え、薄暗いメメントスに静寂が戻る。

 

「…ようやくか」

 

完全に消え去った刈り取るものが唯一残した『完全神柱』という名のアイテムを拾って懐に入れた所で、とうとう召喚限界がきたラウールが幻の様に消え去る。

 

そしてその代わりに身体中に皹の入ったブギーマンが俺の目の前に現れる。

無残にもボロボロになったブギーマンを労わりつつ心の中に戻そうとするが、どういう訳かブギーマンの召喚を解除出来ないことに気付く。

 

『まったく、何処かで諦めると思ってたんだがな』

 

俺の目の前にいるブギーマンがいきなりしゃべり出し、見慣れたその姿から、中肉中背、可もなく不可もない普通の顔。

日本中探すまでもなく、どこにでもいるスーツ姿のサラリーマンといった見た目に変化する。

随分と久しぶりに見る()()()()()姿()になったブギーマン、いや俺のシャドウは黄金の瞳を輝かせながらそう言う。

 

『だってそうだろう?転生しようがなにしようが、俺は俺だ。きっとどこかで挫ける。負ける。()()()。そう、思ってたんだがな』

 

皮肉気な表情をしたシャドウは更に表情を歪め、俺の心を揺さぶろうと言葉を続ける。

何度か他人のこういう場面を見たことはあるが、なんというか、自分が体験すると中々に心にくるものがあるな。

 

『もう、いいじゃないか。痛くて苦しくて辛くて泣きそうなのに、見ず知らずの他人の為に頑張るなんて馬鹿のすることじゃないか!』

 

止め処なく流れ出るその言葉は、俺が、前世の俺が心の底に抱え込んでいた本当の自分の言葉だ。

そう思っていたから、前世は自分の幸せの為に生きたんだ。

でも結局、俺が欲しかったものは前世では一つも手に入れられなかった。

 

「そうだな。馬鹿のすることだ。出来る事なら逃げ出したいさ」

 

ハッキリとそう言った俺に驚いた様な顔をするシャドウ(ブギーマン)

何年一緒にいたと思ってるんだ。今更だ、その言葉は本当に今更だよ。

 

「泣き言を言ってどうにかなるなら、とうの昔にそうしている。だがこの世界に居る限り、どこに逃げたとしても酷い目にあうのは分かり切ってるだろう?」

 

逃げたいと、諦めようと思う心が自分の中にあるのは、その通りだ。

でも、逃げたり諦めたりして、それで得られる物は一つもない。

逃げた時に得られたモノがあるとしても結局のところそれは、自分の持ち物を()()()()()()というだけに過ぎない。

 

「だから、()()()()()()()()()。最後の最後まで、足掻くとするよ」

 

ついさっき出した俺の答えを聞いたシャドウは顔を綻ばせ、仲のいい友人に話しかけるように言葉を紡ぐ。

 

『お前、馬鹿だよ』

「俺が馬鹿なら、俺のシャドウのお前も馬鹿ってことになるな」

 

俺はお前で、お前は俺なんだからな。

俺のその言葉を聞いたシャドウは大きな声で笑い、それまでの皮肉気な表情を消して、何処か納得したかのような表情を浮かべる。

 

『ハ、まあいいさ。この十年間で答えは出てんだからな』

 

実質的にはただの最終確認みたいなもんだ、と言った俺のシャドウが光に包まれ、慣れ親しんだブギーマンの姿になる。

 

『もう、いいんだな』

「ああ。今までありがとう」

 

諦めることをいつも心の片隅に選択肢として置いていた自分が居たのは確かだ。

この世界が平和な世界だったら、きっと何処かで、その諦める選択肢を選んでしまっただろう。

前世と同じように。

 

だが、あの刈り取るものと一人で闘った時に、あの絶望的な状況でも、心が挫けそうでも、もう一人の自分に発破を掛けられる形でも、この俺は諦めて死を選ぶことだけはしなかった。

きっと前世の俺のシャドウ(ブギーマン)は、俺がどんな状況でも諦めないことを確認したかったんだろう。

 

『我は汝、汝は我。ここからが本当の始まりだ。精々気張れよ』

 

そう言ったブギーマンが光に包まれ、真っ黒なカラスの様な翼、赤いスーツの様な衣装と大きなシルクハットが特徴的な、ブギーマンと比べて二回りほど大きな人型に変わる。

 

『我が名はアルセーヌ。その反逆の翼を決して折らぬようにな、我が契約者よ』

 

そう言ったアルセーヌが俺の心の中に溶けていたのを確認したあと、ようやく一息つく。

 

「疲れた、流石に」

 

無惨な姿になっていた左腕と身体の傷は『オラトリオ』で完全に回復している。

ペルソナの回復魔法は、対象の精神やペルソナを修復し、その効果の余波で肉体を癒すことが出来るという仕組みがヤタガラスと桐条財閥の研究で判明したのだが、本来の回復魔法ではここまで完璧に治りはしない。

しかし、特別な魔法である『オラトリオ』は肉体と精神両方を万全の姿に癒すことの出来る魔法で、その圧倒的な効果を頼るものが海外にも大勢いるくらいだ。

 

「問題なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、何故かラウールが発動出来たことだなぁ」

 

大暴れといっても過言ではない活躍をしたラウールの存在は、もう俺の中には感じ取れない。

だが、消える前に確認出来たラウールのスキル構成の中には現状では発動できないが、幾万の真言(イザナギの最強スキル)ドラゴンハッスル(千枝先輩の奥義)なんかがあって、パッと見ただけでも今まで関わってきた人たちの奥義とか一緒に開発した技なんかが見て取れたのが気になるところだ。

 

「まあ、当分ラウールを呼べはしないだろうから今は良いか」

 

あれだけの力を持つペルソナだ。気軽にそうホイホイと呼び出せるようにはなりはしないだろう。

そんなことを思いながら、さっさとこの異界から脱出しようと扉の方を見ると、扉の外側から凄まじい数のシャドウが大挙して押し寄せてきているのが見える。

一目で高位のシャドウと分かるのが相当数いる辺り、やはりこの異界の主は俺を逃がす気はないらしい。

 

「ペルソナがメインの戦闘スタイルだったら、ピンチだったかもしれないが」

 

今俺の中に居るペルソナは、『アルセーヌ』のみだ。

ラウールを呼び出すのに、ブギーマンに蓄えられた戦闘経験値や能力値を代償にしたため、最後に俺の前に現れたブギーマンは今まで培ってきた全ての力を失っていた。

そして、そのブギーマンが変化したペルソナであるアルセーヌも、ペルソナ使いが能力を発現した初期段階、つまりはレベル1の状態になっているということだ。

 

普通ならピンチの状況だ。

だが生憎と、どちらかと言えば俺は自分の体で斬った張ったをする方が得意で、デビルサマナーとして鍛えた身体能力、徒手空拳でも闘えるようになる為の流派も修めている。

傷も癒えてほぼ万全の状態である今ならば、あのシャドウの大軍を押し通って地上に戻ることも不可能ではないだろう。

 

「最後のひと踏ん張りだな」

 

武器は無いし、悪魔召喚もペルソナも実質使えない。

それでも本当の自分を受け入れた事による、漲る力を胸にシャドウの群れに飛び込もうとした瞬間、更にその外側から『メギドラオン』が飛んできてシャドウの群れの中心にポッカリと道が出来る。

 

段々と近づいてくる猫の絶叫と俺の名前を連呼する聞き覚えのある女性の声。

どうやら、モルガナが文字通りの救世主を連れてきてくれたらしい。

 

「邪魔だよ!」

「にゃあああああぁぁぁぁあぁぁぁぁ」

 

シャドウの群れの中から現れたのは、マスコットキャラクターみたいな姿のモルガナと、紅い瞳と赤みがかった茶髪のポニーテールが特徴的な絶世の美女。

その女性は強大な力の波動を発する薙刀を振り回してシャドウを切り裂きながら、呼び出したペルソナ(メサイア)で広範囲を一遍に焼き払う。

相変わらず認知異界の中では、無双と言ってもいいくらいの力を発揮する彼女の姿に苦笑いが漏れてしまう。

 

()()()()、こっちです!」

 

無数のシャドウを相手に大暴れする琴音さんと、その背中に張り付いて大泣きするモルガナに声を掛けると、俺に気付いた琴音さんが猛ダッシュで近づいてくる。

 

「大怪我じゃない!!『メディアラハン』『メディアラハン』『オラトリオ』!!」

 

ボロボロの服と自分の血で血塗れになった俺の姿を見た琴音さんが、問答無用と言わんばかりに最高ランクの回復魔法を連続で行使してくる。

怪我は既に癒しているものの、服はどうにもならなかったので放置していたのだが、はたから見ると死に掛けと表現しても差し障りない姿なのは否定できない。

 

「いや、怪我はもう治って」

「他に痛いところは!?意識はハッキリしてる!?私の事好き!?」

「落ち着いて下さい」

 

盛大に暴走する琴音さんの頭を手刀で軽く叩く。

俺のチョップで冷静さを取り戻せたようで、俺に叩かれたところを若干嬉しそうな表情で撫でる琴音さんを見ながら、助けに来てくれたことへの感謝の気持ちを伝える。

 

「正直助かりました。この装備であの数を相手にしてたら地上に出るまでにボロボロになってたでしょうし」

「ん。何度も助けて貰ってるから、このくらいはね。…本当に、無事でよかった」

 

俺の無事を確かめるように手を握ってくる琴音さんを見つつ、彼女の背中からどうにか地面に降りて涙を拭いて一息ついてるモルガナにも声を掛ける。

 

「モルガナも、助けを呼んできてくれて本当に助かったよ。ありがとう」

「取引だからな。約束は守るさ」

 

ニヒルに笑うモルガナの頭を撫でながら、彼女たちがやってきたこの部屋の出入り口に目を向ける。

すると、ついさっきまで俺達に強烈な殺意を向けてきていたシャドウ達が段々と姿を消し、遂には一体も居なくなってしまう。

 

あれだけ殺意に溢れていたのに、中途半端な攻勢で終わったことに怪訝な表情をしていると、パチ、パチ、パチと軽い拍手の音が俺達の背後、つまり異界の奥側から聞こえてくる。

突然現れた拍手をしているその男は、上質な紳士服を身に纏い、若干血走った大きな目と特徴的な長い鼻が目立つ人物だった。

 

「素晴らしい見世物だった。人間よ」

「…イゴール?」

 

そこにいたのは、これまでの厳しく辛い戦い(転生して10年間)の中で、何度も俺達を助けてくれた男だった。

彼が、この騒動の黒幕?

いや、違う。纏う力の質、その総量、そしてワザとらしいほどの()()()()。こいつは今まで俺達を助けてくれていたイゴールじゃない。

 

「お前、なんだ?」

「フハハ、やはり、騙されぬか」

 

俺の言葉にニヤリと笑った偽イゴールの姿の輪郭がノイズが奔るようにして曖昧になり、その姿が変化し始める。

 

「これは、宣戦布告だ」

 

偽イゴールの姿が完全に掻き消え、奴本来の姿であろう純白の翼を広げた光の塊が更に言葉を続ける。

こいつは、まさか、()使()()()()か!?

 

「私はこのメメントスで怠惰なる大衆の願いを叶え、人の悪性を統制し、素晴らしき()()()()を作り上げる」

 

「既にあの部屋とその主は我が手中にあり、貴様らの手助けは出来ん。あの部屋の他の住人もどこぞに逃げ去った」

 

「人間風情がどこまでやれるか見ものだな。精々足掻くがいい」

 

そう言って空気に溶けるようにして消えていった光の塊を見送った俺達は、これから厳しい戦いが始まる予感を確かに感じ取るのだった。




素晴らしい見世物だった(震え声

イゴールが選んだ人間がマジでヤベー奴で『ユニバース』と仲間っぽかったので慌ててオリチャー発動してイゴールのふりをするのを辞めて、宣戦布告してメメントスに関わるように仕向けた後、最下層に引き籠ることにした黒幕さん。
とある存在との繋がりで大量に手に入れているマガツヒを使って自分の駒達を大幅にテコ入れすることに。

なお、主人公の相手をさせる刈り取るものの修復と強化、増援のシャドウの用意に力を使い過ぎて、自らの手で二つに裂いて捕らえていた()()()()()()()()()()()の逃走を許してしまう特大のガバをやらかしてしまう。

お前のチャート、ガバガバじゃねーか。


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プロローグ(終)

ガバチャートの神がすんごい人気で嫉妬しそう(笑)

8周年を前にドゥルガーガチャいっぱい回して石が溶けてしまったので、投稿します。


意味深なことを言った偽イゴールがあの場所から消えた後も、俺達は異界内の探索を続けたのだが、異界の奥地にあったとある場所から進むことが出来なくなってしまった。

これ以上の探索は悪手と結論付けた俺達は、モルガナの案内に従って地上を目指していた。

実際のところ、探す場所がなくなってしまったので帰ることにしたというのが正しい表現なのかもしれないが。

 

探索中や地上へ帰るまでの道のりは、これまでの攻勢が嘘のように穏やかだった。

チラホラと見かける野良シャドウは、臨戦態勢の琴音さんに恐れをなして泣きながら逃走する始末なので、実質無害といってもいいくらいだ。

5年前のタルタロス下層でもよく見た光景だが、本能的に人間のマガツヒや精神エネルギー(心の力)を食らおうと襲い掛かってくるはずのシャドウが、ビビッて逃げ出すというのは、中々に凄まじい光景である。

 

凶悪そうな馬に乗った正統派な重騎士といった見た目の『ベリス』や、悪臭漂う肉塊という恐ろしい見た目の『スライム』が全力で逃走する姿には涙を禁じ得ない。

 

「むむむ。久々に暴れられそうだったのに全然襲い掛かってこない」

「そりゃそうだろ。いくら欲求に正直なシャドウでも、挽肉生成器に自分から飛び込むバカはいないっての」

「お、こんな幼気(いたいけ)な女性に向かってそんなこというのはこの口かなー。モルガナー?」

「いふぁい、いふぁい、いふぁーい」

 

この短時間で随分と仲良くなった二人のやり取りを聞きつつ、メメントスを進んで地上を目指す。

ひたすら歩くだけではビックリするくらい暇だったので、メメントスの道に目を凝らしてよく見てみると、色々なモノが地面に落ちていることに気付く。

何かの部品だったり、見たこと無い包装の食品といった一般的にはガラクタやゴミと呼ばれるものが大半だが、その中には貴重な魔石や貴金属、錆びてはいるが、真剣なんかも落ちているようだ。

認知異界産の品は効果がイマイチだったり、一つの効果しかなかったりと通常の異界の物に比べれば価値は下がるが、貴重な資材には違いないので、目についた品を片っ端から拾いつつ歩き続ける。

 

「妙な異界だな。主の意向が完全に反映されている訳ではないのか?」

 

タルタロスはニュクスが降臨するための神殿、マヨナカテレビはイザナミが住まう神域という側面があったため、希少価値の高いアイテムや強力な武具が納められている場所があることに納得できる雰囲気とでもいうか、そういう土地としての『格』があった。

しかし、このメメントスはそういう雰囲気を感じない。なんというか、もっと俗っぽいとでも言うべきだろうか。

 

実際、野良シャドウの配置や人を迷わせる悪辣な迷路のようになっている異界の構造自体は、あの異界の主(偽イゴール)の手によるものだろうが、それ以外の部分、つまりこちらに有利になる様なアイテムが放置されているのは奴の思惑ではないのは確かだ。

この異界が認知で成り立っている以上、誰かの認知によって形状や在り方が変化するはずなので、そうなるとこの認知異界に異界の主以外で影響を与えている存在が別にいるのだろうか。

 

「分からないな」

 

単純にこの異界を真に支配している存在、例えば『天使』とかが存在するのか、それとも別の存在と共同で管理をしているのか。

どちらも有り得そうで、有り得なさそうなのが何とも言い難い。

 

「蓮くん」

 

そんなことを考えていると、モルガナの頬を伸ばして遊んでいた琴音さんが俺に近寄って来て、片手に抱えていたモルガナを俺の肩に乗せる。

琴音さんに散々こねくり回されてグッタリしながらも、律儀に道案内は欠かさないモルガナに、内心で称賛を送りつつ琴音さんの言葉に耳を傾ける。

 

「イゴールの事、早く助けないとね」

「ええ。何かの手掛かりだけでもいいから、早く見つけたいですね」

 

真剣な表情の琴音さんの言葉に頷きつつ、そう返す。

実のところ、色々と大恩あるイゴールを助ける為につい先ほどまでメメントスを探索していた時に、更なる地下に続いていそうな場所を見つけはしたのだ。

見た目は現実にもある、地下に向かうエスカレーターがあったのだが、そこには強固な封印が施されていて、琴音さんのメギドラオンですら破壊できなかった事には驚いたものだ。

 

どうやら、あの封印を解くための何らかの鍵は、このメメントスには無いようで、その鍵を見つけない限りは更に地下に降りてイゴールの捜索や救出をするのは不可能と思っていいだろう。

 

「タルタロスみたいに、満月の度にやってくる強力なシャドウを倒す、とかなのかな」

「強力なシャドウが封印の要になっている可能性はゼロではないですね。出来れば探知に特化したペルソナ使いに、この異界の探知を依頼したいとこではあります」

 

強力な探知能力を持つペルソナ使いには心当たりがあるのだが、どうにも二の足を踏んでしまう。

 

「風花とか、りせちゃんは、蓮くんが言えば直ぐ来てくれると思うよ?」

「・・・あー」

「その反応。まさか、まだあの時のこと引き摺ってるの?」

 

そう。実はこの半年ほど、俺は琴音さん以外のペルソナ使い達とあまり連絡を取っていなかったりする。

 

その理由は、俺に前科を付けてくれやがった酔っぱらい男が関係している。

あの男はどうやら、なんとかという政党の有力議員だったらしく、問答無用で俺を有罪にしようと相当な強権を使って事を進めたらしい。

事件現場の監視カメラの映像でも俺と男の間は数メートルは離れていて殴るなんて物理的に不可能だし、殴られたと主張する凹んだ男の顔には()()()()D()N()A()()()()()()()()()()()にもかかわらずに、だ。

DNAや指紋なんかの証拠はあくまで人間相手だから有効なのだ。当然、悪魔の犯行でそんなモノが残るはずがない。

つまり、物的証拠が何もないのに俺を有罪にしようと躍起になって、あの男は証拠の捏造や偽の目撃者を用意したらしい。

 

悪魔の行いは別として、手慣れた様子で証拠の捏造や偽の目撃者を用意するという行いに、怒りを噴出させた『直斗さん』や『美鶴さん』といったメンバーを筆頭に、ペルソナ使いの仲間達が当時は相当に大荒れして色々と大変だった。

俺にもメリットがあるから、召喚した悪魔のやらかしは自分の責任だから、と言ってどうにかその場は治めたのだが、俺を心配して行動を起こしてくれた彼らにNOを突き付けてしまったことが後ろめたくて、ここ最近あまり連絡を取っていないのだ。

 

「ちゃんと連絡取らないとだめだよ?美鶴とか一時期スマホの前で待機してた時もあったし」

 

蓮くんからの連絡を待ってたんだと思うよぉと、ニヤニヤと笑いながら言う琴音さんに対して、苦笑いが出てしまう。

あの異界関連で、これから色々と大変な事が起きそうだし、今後の事も含めて仲間たちのブレーンにあたるメンバーと今日の事も含めて早いうちに話しておくべきだろう。

 

「今度ちゃんと連絡取ります」

「ん。よろしい」

 

そんなことを話しながらメメントスを進んでいると、段々と異界特有の重苦しい雰囲気が薄れ始めていることに気付く。

どうやらメメントスの出口が近いらしい。

 

「あそこだぜ」

 

俺の肩に乗っかったままそう言ったモルガナの指が示す先には、駅の改札口のような場所があるように見える。

実際に近づいて確認してみると改札の方は機能していないようで、切符を入れることなく素通り出来た。

まあ、切符を要求されても困ってしまうが。

 

改札口がある、そこそこの広さの空間には、駅や空港によく置いてあるコインロッカーが幾つか置いてあるだけで、他には特に物は無いようだ。

その代わり、異界の壁の一部が切り取られたようになっている場所があり、その切り取られた場所から向こう側の、人通りが少なくなった渋谷駅の様子が見える。

この景色を見る限り、どうやら地下鉄に向かう階段が異界の入り口として機能しているらしい。

 

「吾輩、先行ってるぜ」

 

そう言ってさっさと異界から脱出したモルガナに続き、琴音さんも異界から出て行く。

二人に置いて行かれないように俺も渋谷駅の様子が見える場所に手を触れ、身体を通過させる。

 

プールや海にゆっくり入っていくときの様な冷たい水面を通る感覚の後に、赤と黒で覆われていた視界が、薄暗い夜明け前の光景に切り替わる。

どうやらちゃんと戻ってこれたらしい。

 

ようやく一息つく事が出来そうなことに安堵して、大きく息を吐くと、俺の目の前を『光る何かが』通り過ぎる。

 

「青い、蝶?」

 

青色の淡い光を放つ蝶が、俺のそばをしばらく飛んでいたかと思うと、急に耳元で誰かに囁かれるような声が聴こえてくる。

 

『奴から解放された今こそ、主との契約により貴方に芽生えた『力』の鍵を解きます』

『きっと成し遂げてくれると信じています。ご武運を。マイ、トリックスター』

 

その声は一瞬しか聞こえなかったが、幼い少女のような声だった気がする。

 

「…まさか、な」

 

青い蝶、解放、主、契約、力。

何処かで聞いた様な単語が並べられたその言葉に、嫌な予感を感じて周囲を見渡し蝶の姿を探すが、その姿はどこにもなくその存在の痕跡もない。

 

「…要調査だな」

 

山積みになっていく解決すべきタスクに溜め息を吐きつつ、地上に出ると、一台の大型トレーラーと何台かの車両が俺達が出てきた場所を囲んで、俺達を人目から隠すように停められていることに気付く。

黒塗りの車両に囲まれるという物々しい様子に、猫の姿に戻ったモルガナは眼を白黒とさせているが、俺と琴音さんは特に慌てることなくその車列の中で一際目立つ大型トレーラーに近づく。

俺達の姿を確認したのか、その車列の先頭車両から一人の女性が降りてきて俺達に向かってくる。

彼女はヤタガラス所属のサマナーであり、俺が『ライドウ』の名を襲名してからずっと側仕えとして様々な面で支えてくれている、『迫真琴』さんだ。

 

「ご無事なようで何よりです。ライドウ様」

「真琴さんも夜遅くに、ありがとうございます」

「いえ、緊急事態だったので当然です。もう数分戻ってくるのが遅ければ、精鋭部隊を派遣する予定でした」

 

その精鋭部隊は現在認知異界の調査中なようで、俺に気付いた面々が時々手を振ってきている。

彼らの顔には見覚えがあるな。確か討伐任務で一緒になったり、戦闘訓練を共にこなしたサマナー達だ。

俺が任務漬けの日々で忙しかったこともあり、彼らと仲良くなるほど交流を重ねている訳ではないが、見知らぬ相手と言う訳ではないので会釈をしておく。

 

「ライドウ様。替えのお召し物はトレーラーに積んであります」

 

手早く着替えて下さい。とそう言う真琴さんにお礼を言いつつ、大型トレーラーで牽引されているコンテナの中に入る。

コンテナの中には、ヤタガラスの霊能装備局と桐条財閥のシャドウ研究部が合同で作成した、ライドウ専用装備として与えられている高性能な対シャドウ、対悪魔用の戦闘装備の数々が積まれていた。

そして、これ見よがしに置かれている大正浪漫風な学生帽と学ランにも見える改造服と黒のマントという『葛葉ライドウ』の正式装備から身を逸らしつつ、備え付けの簡易シャワーで血を洗い流してから、絶妙に分かりづらいところに置かれている黒のジーンズと藍色のセーター、白のダウンジャケットを着込んでコンテナから出る。

 

「あら、あの服はお気に召しませんでしたか?」

「これから帰るだけなのに、戦闘服を着るわけないだろう」

 

やはり、あの服を用意したのは彼女だったらしい。

彼女は事あるごとにあの服を俺に着せようとするのだが、大正時代ならいざ知らず、現代であの格好は悪目立ちしてしまう。

 

あの服は、第二次世界大戦時に失われてしまった特別な技術で作られた物らしく、平安時代から続く霊能集団の葛葉家が所持している対霊装備の中でも、屈指の性能を誇る装備ではあるのだが、普段着にする訳にも持ち歩く訳にもいかないので、今回みたいな突発的に発生する戦闘時には使用できないのがネックだ。

 

「それはそうと、琴音様から軽くではありますが今回の件の事情は伺っています。色々と忙しくなりそうですね。ライドウ様」

「不本意ではあるがな」

 

好き好んで厄介事に首を突っ込んでいる訳ではないのだが、いつも厄介事の中心で戦うことになってしまっている以上、十中八九今回もそうなるだろう。

今回の件も含めて、この認知異界自体にも色々と気になることはあるが、流石に疲労がピークに達しつつあるので今日はもう帰るとしよう。

 

異界の調査自体は、これから派遣されてくる調査隊や真琴さん率いるヤタガラスのサマナーと、消耗の少ない琴音さんが引き受けてくれたので、俺はヤタガラスが用意してくれた車に乗り込み、話があるというモルガナを連れてルブランへの帰路につく。

今の時間はもうすぐ午前4時になるところなので、早く戻らないと仕込みをするために佐倉さんが店にやって来てしまうかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ようやくお戻りかい。主ぃ』

 

最高級の居心地を提供してくれた車に揺られること20分。

開きっぱなしの二階の窓からルブランの屋根裏部屋に戻ると、驚くべきことにまだドッペルゲンガーが顕現していた。

 

「色々と面倒ごとに巻き込まれてな。助かったよ、ドッペルゲンガー」

『いいさ。長い付き合いだ。超過分は美味い物食わせてくれればチャラにしてやるよぉ』

 

そう皮肉気に言って、黒い塊に戻ったドッペルゲンガーは、封魔管の中に戻っていった。

召喚した時に与えたマガツヒでは、ここまでの時間、実体を保つことは出来ないはずだ。

どうやら自分のマガツヒを消費してまで律儀に俺の影武者をしてくれていたようだし、近いうちに葛葉御用達の高級料亭にでも連れて行ってやろう。

 

「お前、デビルサマナーでもあるのか」

「封魔管をここに置いていってしまってたから、あの闘いでは呼べなかったけどな」

 

ドッペルゲンガーを含めた俺の仲魔を封じた6個の封魔管を興味深そうに眺めるモルガナの頭を撫でていると、モルガナが聞きたいことがある、と口にする。

恐らくはモルガナと交わした『取引』の件についてだろう。

 

「メメントスを探索するっていう取引は、継続でいいのか?」

「ああ。俺としてもメメントスを完全攻略する必要が出てきたからな」

「にゃふふ。そいつは朗報だが、メメントスの探索は相当大変だ。ソーマの提供程度じゃ釣り合わねぇ。だから、吾輩が持ってる鍵開けや異界探索に役立つ道具作りの技術を伝授してやるよ」

「へぇ。よし、取引成立だ」

 

認知異界を放って置く選択肢が端から存在しない以上、モルガナとの取引は俺にとってメリットしかない。

そんなことを思いながらモルガナが差し出してきた前足を右手で握り返した瞬間、僅かな耳鳴りの後、ついさっき聞いた正体不明の少女の声で、聞き覚えのあるフレーズが脳裏にこだまする。

 

 

『我は汝、汝は我。汝、ここに新たなる契りを得たり』

『契りは即ち、真なる目覚めの輝きなり』

『我、「魔術師」のペルソナの生誕に祝福の風を得たり』

『大いなる反逆の一翼とならん』

 

 

突然脳裏に響いた声に驚いて、握手をしたまま固まってしまった俺に対して心配そうに声を掛けてくれるモルガナに、大丈夫だと言い、プラスチック製のビールケースを並べてマットレスを敷いただけの簡易的なベッドの上に腰を下ろす。

 

間違えるはずもない。

さっきのは前世では何度も聞いた、()()()()()()()()()()()()()()()()に流れていたフレーズと似たような文面だった。

あのセリフ実際に本人に聞こえていたのか、とか場違いなことを考えてしまうが、それよりも問題なのは。

 

「俺が、ワイルド能力を?」

 

自分の中に確かに感じる、さっきまでは無かったはずのアルセーヌ(愚者)以外の力。

感覚でしかないが理解できる。今の俺は、()()()()()()()()()()()()()宿()()()使()()()()()、と。

 

「嘘だろ」

 

巨大な認知異界の出現。他者とのコミュニティを力に変えるワイルド能力の発現。

そして事件の黒幕に目を付けられてしまった俺自身。

勘違いであれば嬉しいのだが、これだけ条件が揃ってしまった以上、そうである可能性は認めなければいけないだろう。

 

可能性の話ではあるが、どうやら俺は『ペルソナの主人公に転生したらしい』。




何処かにいるだろう主人公のサポートをして事件を解決するつもりでいたのに、自分が主人公だと気付いてしまった雨宮蓮クンのこの時の気持ちを20字以内で表現しなさい。

主人公本人のアルカナは混沌のままですが、ワイルド発現と共に愚者~審判の素養も生えてきてしまった感じです。コミュ構築開始です。
ワイルドを持つものは自身のアルカナを持たないのか、それとも相手のアルカナに合わせた『ペルソナ』を被るのか。
ゲーム的には設定すると面倒だから無いんでしょうけどね。


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幕間の物語 File.1

アンケが圧倒的『はい』だったので別キャラ視点です。

ちょっとだけよ(登場人物少ないので)
あんたも好きねぇ(書いてて楽しかった)


【『佐倉双葉の激動』】

 

惣次郎がまた保護司としての仕事を引き受けたらしい。

 

私が惣次郎のとこで暮らすようになる前は何人か世話をしていたらしいが、今回の奴は前歴がヤバいらしい。

どうやら罪状は暴行罪らしく、事件を軽く調べてみたけど、成人男性を拳で10m近くブッ飛ばして、現場に急行した警官が目を逸らすくらいに被害者の顔を変形させていたとかなんとか。

 

そんな奴の世話をすると聞いたときは惣次郎の正気を疑ったけど、コッソリとルブランに仕掛けた監視カメラでそいつ…雨宮蓮を見た時は、野暮ったい眼鏡が印象的な至って普通な優男って感じだった。

 

ルブランで惣次郎と話していた時も、屋根裏を掃除していた時も普通というか、なんならその辺の連中よりも大人しそうな感じで、もしかしたらあいつは案外普通の奴なんじゃないかと思っていたのだ。

 

だけど

 

「え、は?」

 

惣次郎が店を閉めて出て行った後、ルブランに残った雨宮蓮が屋根裏部屋で荷解きを始めた。

そこはまあいい。普通のことだし。だけど、その荷物の中に刀や銃が混じっていて、更にはそういう物の整備道具なんかも広げだしたのだ。

 

始めは模造刀やエアガンだと思ったのだが、エアガンに使用する為のBB弾は見つからない上に映画なんかでしか見ない金属質な実弾っぽいのがあるし、手榴弾みたいなのもあるし。

情報の処理が追い付かず呆然としていたら、今度は雨宮蓮が二人になったのだ。

 

「いや、いやいやいや」

 

人間がいきなり分身したりする訳がない。

そんな固定概念を嘲笑うように、同じ顔の二人がモニターの向こう側で笑い合うという異常現象を飲み込もうとしていると、最初にいた方の雨宮蓮がルブランの二階の窓から飛び出して行ったのだ。

 

「い、意味が分からない」

 

あり得ない、あんな訳の分からないことがあっていいのか?

 

「いや、でも」

 

 あいつは、分身する前に『ドッペルゲンガー』と口にしていた。

 ()()()()()()()()()()には悪魔や都市伝説の怪物が現実に存在していて、人間社会の影に潜んでいるという疑問符付きの記述があった。

 あの時はただの与太話だと思っていたけど、もしかしたら、本当のことだった?

 あいつが、資料にあった悪魔を使役する、悪魔召喚師だったとしたら?

 

「だとしたら」

 

 もしもそうだったら、あの日、私の目の前で『神隠しにあった』おかあさんの事を調べてもらえる、かも?

 

 ようやく掴んだ手掛かりなのだとしたら、絶対に逃がすわけにはいかない。

 一刻でも早くおかあさんを見つけたいけど、まずはあいつが信用できる奴か、しっかり確認しよう。

 もしも大丈夫そうなら、どんな手を使ってでも協力させる。絶対に。絶対にだ。

 

「お前の全部を見ているぞ、雨宮蓮」

 

 

 

 

 

 

 

【『汐見琴音の熱情』】

 

メメントスという新たな大規模認知異界から脱出した後、夜明け前にも拘わらず忙しく動き回っているヤタガラスの調査隊と意見を交わしつつ、ついさっき下宿先に帰っていった蓮くんのことを思い出す。

 

彼が、『ワイルド』に覚醒した。

 

私がそれを感じ取ったのは、蓮くんがメメントスから抜け出した直後だった。

恐らくは、ニュクスが私の中に封印された時のように、悠君がイザナミに力を与えられた時のように、彼も何かの切っ掛けで力に目覚めたのだろう。

 

実は、蓮くんにワイルドの力が宿っている事を、私と悠君は知っている。

二年前の八十稲羽でのマヨナカテレビ事件を解決して暫く経った頃に、悠君と共にベルベットルームに呼び出されてイゴールから直接その話を聞かされたからだ。

 

蓮くんに大きな危機が迫っている、という不吉な警告と共に。

 

実際に、今日彼は今までにないほどの危機に陥ったと聞いている。

持っている力もそれを運用する能力も並外れている彼が、あんなに怪我をするなんて、私が知る中では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

今でも思い出す。

 

全ての存在に死をもたらすニュクスの降臨。

それが成されれば、この星の生命体は文字通りの意味で全て消滅してしまう。

そんな事態を防ぐ為にニュクス・・・彼女との最後の決戦に挑んだ私たち特別課外活動部のメンバー。

大切な仲間たちと彼の力を借り、辛くもニュクスを退け、この星に住む全ての命を守る事は出来た。

その代償として命がけで守り絆を紡いだ人が影時間に関わる記憶を失った中で、たった二人だけ当時の記憶を保持したままだったアイギスと蓮くん。

 

そんな二人と過ごした二ヶ月間の思い出は、()()()()()()()()()()()()()()

そして、私は美鶴や荒垣さん、真田さんたちの卒業式のあの日、蓮くんに抱きかかえられながら、死を退けた代償として自分の死を迎えた。

 

次に目が覚めた時、私はニュクスと共に小さな認知異界にいた。

そしてすぐに、この認知異界を破壊して、ニュクスに触れようとしている脅威に気付いた。

 

それは、他者の死に触れようとする人間の好奇心の化身『エレボス』

 

もしも、人間の意識の一側面であるエレボスが死の具現たるニュクスに触れてしまえば、人間の意識に死が伝播して、そのまま人類は『死』という概念に侵食されて死滅してしまう。

だから私は、エレボスが彼女に触れられなくなるように、その認知異界にニュクスを封印し、ユニバースに至った自分の魂を代償に、迫りくるエレボスを退ける為の防壁となることにした。

そうなれば勿論、私の魂は人類が死への好奇心を克服するか、人類が絶滅するその時までこの異界に永遠に縛られることになり、私という個人は死ぬはずだった。

それでもいいと思った。みんなを、『彼』を守れるならば。

 

 

『諦めるな!あんたが笑ってない世界なんて、俺は認めないぞ!』

 

 

エレボスから、ニュクスと私を守るために、何度も立ち上がる彼の姿が今でも脳裏に焼き付いている。

文字通り死の痛みを味わっているはずなのに、仲魔が倒れ、ペルソナを出せなくなっても、何度も何度でも。

それが、生き返る前の私が見た最後の光景だ。

 

結局、その後どういう経緯で私が生き返ることが出来たのかは、私自身も分かっていない。

何度か蓮くんに聞いてはみたものの、『死んだこともない奴に、負ける訳がない』としか言わないので具体的な事は、教えるつもりはないのだろう。

そんな原因不明な状態で生き返った私だが、ヤタガラスでの健康診断や検査でも健康体だと言われたし、今もちゃんと成長しているし、子供を産めることも分かっている。

彼は、私の人生を取り戻してくれたのだ。

 

そんな超人的な彼も、不死身ではないし怪我だってする。

今日あの場所でボロボロになった彼を見て、イゴールの警告が現実になる日が来たんじゃないかと私は思っている。

 

であれば、私のやることはたった一つだ。

 

「今度は、私が君を守るよ」

 

私の中にある『メサイア』と『ニュクス・アバター』はきっと、その為にいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

【『迫真琴の歓喜』】

 

黒塗りの専用車に乗って帰宅する彼を見送る。

ズタボロになった服と付着していた血液の量から察するに、一度彼は死にかけている。

 

「全く、だから私は反対だったんだ」

 

やはり異能の事を知らない人間が経営する喫茶店などではなく、ヤタガラスの本部に彼を住まわせるべきなのだ。

万全の準備、もしもの時の増援、最悪の場合の殿(しんがり)要員、朝から晩まで完璧な警護。

そのどれもを彼の為になら用意する準備があるというのに。

 

「ままならないな」

 

不測の事態、理不尽な出来事は誰にでも訪れる。強大な力を持つ彼であっても。

 

「しかし、あれ程疲弊していたのだから、今日くらいはお世話したかったのだがな」

 

ふと、彼と出会った時のことを思い出す。

 

地方都市の霊能者一族に生まれた私は、一族の中でもサマナーとしての資質が高かった。

家族からは愛されていたが、その態度のどこかに『有能な霊能者を産む為の女』としての扱いを感じ取らなかったと言えば、嘘になるだろう。

 

異能の素養が高い一族唯一の若い女ということもあり、次代の子供を生むための存在として大切にされていた私は、ロクに異能に触れずに生きてきた。

普通の人のように学校に通い、中高大一貫してシンクロナイズドスイミングに打ち込み、競技選手として国の代表候補に選ばれるようにまでになった。

結婚相手を家に決められるのは不満だったが、それ以外は概ね順風満帆で、このまま人生が続くものだと思っていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

事の始まりは、私の婚約者が決まったと実家から連絡を受けた時だ。

相手の男は陰陽術を得意とする名家の長男で、それなりの実力をもつ陰陽師という事で評判だった。表向きは。

 

そして、運命のあの夜。

件の婚約者が前当主から契約悪魔を譲り受ける為の儀式が執り行われることとなり、私もその席に同席することになったのだが、その名家の長男は悪魔を従えることが出来なかった。

 

当然だろう。奴の実績は、金で買った他人の物だったのだから。

力の無い者に悪魔は制御できない。

あの場であの悪魔・・・『土蜘蛛』を調伏出来るだけの力を持っていたのは、契約者だった前当主のみ。

最悪だったのは、儀式のせいで一時的に弱った前当主が一番最初に土蜘蛛に排除されたことだ。

 

当然、土蜘蛛は大暴れした。

 

あの場にいたサマナーの選択は様々だった。

立ち向かった者、命乞いした者、逃げ出した者。色々いたが、私の婚約者は逃げ出した者だった。

当時はサマナーとしての資質があるだけのただの一般人同然だった、私を見捨てて。

数分もしない内に儀式場は全壊し、あの場で唯一の女で、悪魔に対抗する力を持っていなかった私が捕食しやすい対象として真っ先に狙われ、あの醜悪な悪魔に食べられそうになった時に、彼は現れた。

 

 

闇夜にたなびく黒いマント、学ランのような改造服と学生帽を身に纏って。

 

 

こうして、陰陽師の名家を襲った災いはたった10歳の少年の奮闘により、解決された。

私も生死を彷徨いはしたが、怪我は完全に治癒した。

しかし、肩から背中にかけて大きく傷跡が残ってしまった私は、競技選手としての道を諦めることになってしまった。

いや、もしも傷跡が残っていなかったとしても私は競技選手の道を歩まなかっただろう。

この世界で生きていくならば、力が必要だと理解したから。

そして、力なき人々を守る彼の姿に運命を感じたから。

 

傷を癒した私は、家の反対を押し切りヤタガラスに入局し、順調に力を付けて熾烈な競争を勝ち抜き『彼』の側仕えの座に就いた。

『彼』…雨宮蓮、または葛葉ライドウと呼ばれる、現代最強の異能者と目されている彼の、だ。

 

「・・・長、・・・隊長、真琴隊長!」

「ん?ああ、すまない。調査を続けよう」

 

どうやら過去の思い出に耽り過ぎたようだ。

彼のことも大事だが、まずは与えられた任務をこなすとしよう。

彼の片腕と呼ばれている私が無様を晒せば、彼の格にも傷をつけることになってしまうのだから。

 

 

 

 

 

 

 

【『とあるサマナーの憧憬』】

 

超國家機関『ヤタガラス』

 

今やデビルサマナーならば、いや、何らかの異能者であれば世界のどこに住んでいようが、一度は名前を聞く日本の護国組織だ。

 

ほんの十年前までは『嘗ては隆盛を誇ったが今は斜陽にある組織』という評判だったヤタガラス。

一般家庭出身ではあるもののサマナーとしての力を買われて、十年以上前からヤタガラスに所属していた俺だが、当時は本当に、施設や装備は十分だが実力者の少ない組織だと入りたての小僧ですら理解できるほどに、弱体化した組織だった。

 

そんな中で稀に出てくる強力な悪魔に苦戦しながらも順調に訓練と任務をこなしてヤタガラスに馴染み切ったある日のこと。

ヤタガラスに名を連ねる名家の中でも五指に入る程の名家である葛葉家が、麒麟児、いやそんな言葉では生温い程の才覚と力を持った少年を保護したとヤタガラス内部で話題になった。

噂好きな奴はしきりにその話題を擦っていたが、どうせどこぞのボンボンを持ち上げる為の方便と思っていた俺は、特に追求したりはしなかった。

 

そんな噂も21世紀(2001年以降)になってから、それ以前と比べて10倍以上に増加した異能関連の事件に対応する忙しさで忘れられ、増え続ける一般人の行方不明者や不審な事故死の調査、頻繁に発生する事件を解決する為に、無理な出撃を重ねる毎日が続いた。

 

今はもう死んでいるが、当時のヤタガラス頭領だった男は、日和見主義の風見鶏野郎で、ガイア教やあまつさえメシア教にすら、おもねる様な輩だった。

奴の無謀な作戦や「外部組織への配慮」のせいで一人、また一人と見知った顔や共に肩を並べて戦った戦友が無残な最期を遂げ、彼らの遺族に「どうして守ってくれなかったのか」と罵倒されたりもした。

 

そんな鬱屈とした日々で心が削られ、いっそこの身もダークサマナーに堕ちてやろうかと考えていたある日、俺は本物の()()()()()を見たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「わあ、見ろよあれ、真琴隊長の隣にいるの、ライドウさんじゃね? ちょっと挨拶しに行こうぜ」

「バカ、やめなさいよ。っていうかあんたが行くと恥さらしそうだし、ライドウ様に挨拶するなら私一人で十分よ」

「えぇー。俺が先に気付いたんだぜ?」

 

夜明け間近の渋谷駅で、目立たない為に黒一色に統一された戦闘服を身に纏いながらも、バカ騒ぎしている新人隊員の姿を見る。

思えば、遠いところまで来たもので、五年前はただの戦闘員だった俺も、努力に努力を重ね死に物狂いで力を付けた結果、今やヤタガラスでも屈指の戦闘要員として精鋭部隊の隊長に収まっている。

 

年齢を理由に部隊を抜けた老年の隊員の穴埋めとして俺の部隊に追加された二人の隊員は、どうにも個性が強すぎる。

慎重で準備を怠らないが、名門出身でプライドが高すぎる気性難な少女と、以前からこの部隊にいる3人のベテラン隊員に冷ややかな目で見られているのも気にせずに、ライドウに向かって全力で手を振る、天才的な戦闘力を誇るが、迂闊で考えが足りない男の新人隊員の頭を叩く。

 

「いっだい!」

「痛っ!…なんで私まで」

「遊んでないで準備しろ。ライドウが生きて帰ってこれたのだとしても、我々も同じ事が出来るとは限らんのだからな」

 

二人とも俺の攻撃を察知して瞬時にマガツヒを頭部に集めて防御力を向上させていたようだが、まだまだ対応が温い。

地べたを転げ回る馬鹿と、抗議の視線を向けてくる阿呆を無視しつつ、ふとライドウがいる方向を見ると、魅了と石化対策が施されたサングラス越しに、彼と目が合っていることに気付く。

ほんの一瞬の事だったが、こちらに会釈してくれた所から察するに、どうやら彼は、ただのサマナーでしかない俺を覚えてくれていたらしい。

 

彼を見ると、あの日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()に介入した時の彼を、思い出す。

あの日、天使共に捕まって足手纏いになってしまった俺達を救うために、一般人を守りながら、ただ一人で大天使(四大天使)大悪魔(サタン)に立ち向かって啖呵を切った、12歳の彼の姿を。

ヤタガラスに入局した時に俺が理想としていた、護国組織として、国と力なき民衆を守る彼の姿を。

 

ほんの五年前の出来事を思い出していると、ライドウの姿は既に消えていて、その代わりにやってきた調査隊の連中が、地下鉄の出入り口を隔離し、事故調査というカバーストーリーを用いて、大規模認知異界『メメントス』の調査準備をしている姿があった。

 

新たな異界メメントスは、タルタロスやマヨナカテレビと同じくらいの規模の認知異界である可能性が高い。

何一つ不備の無いように自分自身の装備を整え、部下達の準備が完了したのを確認した後、白い隔離幕で遮断された地下鉄の入り口から、認知異界に侵入する。

 

「いくぞ。作戦開始」

 

今日もまた、闇の中を進む。

心に焼き付いた(葛葉ライドウの姿)を胸に抱いて。

 




関わった人間からは大体こんな感じの事を思われている主人公です。

次回からは原作開始までの4カ月の話になります。
イベントだけ描写して4~5話で締めてほんへ(ペルソナ5)に行きます。


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インタールード①

過去話は要望があれば物語として展開しますが、とりあえずこのインタールード期間はペルソナ3~4の間で何があったかだけ、あとがきに置いていきます。


俺がルブランで生活を始めて一週間が経った。

あのメメントスに初めて入り込んだ夜以降、異能絡みの事件の発生はめっきりと減った。

特に、ここ最近巷を騒がせていた精神暴走事件や無気力症といった調査途中だった事件も発生件数が減り、表面上は平和な時間が続いている。

 

メメントスの調査もまるで進展が無く、入り口から入ったほんの二階層分のみしか調査出来ていない状態だ。更に地下に降りるには、エスカレーターを閉め切っているあの封印を解く手段を見つけるしかないというのが、ヤタガラスとしての最終的な結論となっている。

 

一応、メメントス内部の悪魔やシャドウを殲滅したり、長時間同じ場所に居座ったり、壁を破壊してみたりもして反応を窺ってみたが、あの偽イゴールも刈り取るものも出てくることはなかった。やはり、封印を解く手段を見つけるしかないということだろう。

 

そんなことを考えながら、コンクリート張りの薄暗い通路を歩き続ける。

普段であれば、秀尽学園に入るまでの昼間はルブランの手伝いをすることになっているのだが、今日は喫緊の用事が出来てしまったのでドッペルゲンガーを影武者にして、俺は東京都、築地にある根願寺に来ていた。

今日は土地の上側に作られている寺院やその他施設に用事がある訳ではなく、用事があるのはその地下だ。

 

地上の根願寺のとある場所で、以前モルガナに手渡したヤタガラスの文様が刻まれた根付を翳す。すると、その場に掛けられていた幻術が解け、異界に入るための扉が姿を現す。

そう。ヤタガラスの本部は根願寺の地下異界に存在するのだ。

 

先代の十四代目ライドウが活動していた時代に作られ、今なおその規模を大きくしているヤタガラスという組織が本部を置くその場所は、現在四つの部署と区分で分けられている。

 

『装備局』武器、防具、消耗品、その他諸々の霊能者用の物品を管理し取り扱う部署だ。俺のライドウ衣装や愛刀の『赤口葛葉』もこの部署で造られたものだ。

『情報局』悪魔の情報を収集したり、特定の組織へのスパイ活動や情報の隠蔽、カバーストーリーの流布などが彼らの仕事だ。

『医療局』怪我人を治療するだけでなく、霊薬の開発や呪いの解呪も行う人命を救うエキスパートが揃った部署だ。琴音さんも戦闘力はずば抜けているが、一応ここの所属だ。

『戦闘局』ここが、俺や真琴さんが所属する悪魔やダークサマナー相手に斬った張ったをする人間が揃った、ダークサマナーや過激派メシアンから蛇蝎の如く嫌われている戦闘集団だ。戦闘局所属の人間は一律で黒い衣装を身に纏っているのでここに所属している人間は一発で分かる。

 

霊能を持たない者も含めて、述べ一万人弱の人員が揃った巨大組織。それがこの世界の『ヤタガラス』だ。

21世紀当初は二千人いるかどうかという程度の組織だったそうだが、ある時点から急増した悪魔絡みの事件に対応する為に、地方の零細組織や個人のサマナーを全力でかき集めて十年以上の時間をかけてこの大人数を確保したらしい。当然、これだけの大人数を抱える組織の本部が小さなはずもなく、根願寺の地下異界と本部の建物は、年々文字通りの意味で物理的にも大きくなっている。

 

さて、そんな巨大組織が所有する装備局の建物の中をのんびりと目的地に向かって歩いていると、遠目に見える結界で覆われた実験場から絶叫が聞こえてくる。

 

「やべ、爆発するぅ!」

「退避、退避ー!」

「あ、ちょま」

 

ヤタガラスの中でも一、二を争うくらいに頭のネジが飛んでるのが揃っている第一開発部の連中が、マガツヒの赤黒い光と盛大な爆発に巻き込まれながら吹き飛ばされているのを無視しつつ、歩を進める。

あんな連中ではあるが、彼らの手で作られた霊能装備の性能は、すべて一級品なのだから不思議なものだ。

 

実験場を横切り、時たますれ違うヤタガラスの職員から近況を聞いたり、雑談をしながらコンクリート張りの廊下を進み続ける。

そうして暫く歩いていくと、一際大きな扉の前に辿り着く。

 

「入るぞ」

 

ノックをして部屋の中からの了承の返事を貰った後、重量のある扉を開けて中に入る。

落ち着いた雰囲気の物の少ない部屋は、部屋の主の性格を表すように質実剛健という言葉がそのまま形になったような部屋だ。

どうやら部屋の主はマホガニーの机でなにやらペンを奔らせているところを見るに、事務仕事の途中だったようだ。

 

「久しいな、ライドウ」

「や、久しぶり。『ヤマト』」

 

サインを書ききった書類を紙束の上に重ねて俺の方に目を向けたのは、薄い紫色のような髪色が特徴的なJP's(ジプス)局長の「峰津院大和」・・・真琴さんと同じく、『デビルサバイバー2』に登場する人物だ。

 

「君がここに来るのは珍しい。大体電話か、式神で済ませてしまうというのに」

 

デビサバ2だと外敵から国を守っていた組織はジプスだが、この世界の土台がデビルサマナーになっているからなのか、ジプスを含めた幾つかの聞き覚えのある組織がヤタガラスの傘下、もしくは一部署として存在している。

ジプスに関しても同様で、基本的には霊能力を持った技術者の集団といった組織で、葛葉家伝統の悪魔召喚術や陰陽術に魔法などを科学的に再現することを試みている装備局の一組織に収まっている。

 

どうやらこの世界にはSTEVENのような存在がいないので、悪魔召喚プログラムは開発も発見もされていない。

まあ、悪魔の使役にはそれ相応の能力や才能が必要なため、プログラムで容易に悪魔を呼び出すことが出来るようになると、今度は呼び出した悪魔の制御が出来ずに被害が広がってしまう。

そういう点を踏まえて、先にヤタガラスで技術を抑えて、よそに広がるのを防いでおきたいという思惑がヤタガラスにはあるのだろう。

 

「小型カメラと盗聴器が俺の部屋に仕掛けられてるとグレムリンが言っていてな。どうやら俺を監視している奴がいるらしい」

「…ほぅ」

 

ヤマトの額に青筋が浮かんだような気がしたが、冷静沈着で思慮深い彼がそんな事をする訳ないしな。気のせいだろう。

 

それよりも、カメラとかの方だ。ルブランで生活を初めて一週間が経ったが、どうにも誰かに見られているような違和感があったので、契約しているグレムリンを呼び出して調べさせてみたら、なんとルブランとその屋根裏部屋に幾つかの監視カメラと盗聴器が仕掛けられている事が分かったのだ。

俺が住み始めてからは結界や悪魔の監視があったから、この一週間の間に仕掛けられていないことはハッキリしている。

 

「俺が住む前にモノが仕掛けられていて、情報局の『洗浄』を逃れられたとは考えにくい。であれば、『洗浄』が終わって俺が引っ越すまでのほんの二、三日の間にモノを仕掛けたということになる」

 

行動力もあるようだが、それに加えて電子機器に関わらず、あらゆる機械を弄ることに長けた俺のグレムリンが電子情報の行き先を特定することが出来なかったとなると、相手は凄まじいファイアウォールを作れる凄腕のプログラマーなんだろうし、それに付随してハッキング能力などもずば抜けて高いと見て間違いないだろう。

 

「今のところ実害はないし、見つけた機器にマガツヒの残滓がないから悪魔やサマナーの仕業とは考え辛い」

「まさか、君のグレムリンの攻勢を退けたのが一般人だとでも?」

「俺はそう考えている。俺が来る前は仕掛けられて無かったのに、急な予定変更で早く住むことが決まった時には仕掛けられていた。前科持ちの私生活を暴こうとでもしたのかもしれないが、表の組織にタレコミがあった様子もない」

 

それに、引っ越してきた当日に刀やら銃やらを並べたり、ドッペルゲンガーの召喚やらをやっていた所も見られているはずだ。

表の警察組織に通報はされていないようだし、よしんば通報されたとしてもヤタガラスの権力で通報自体が無かったことには出来るし、当然通報者を特定することも可能だ。

ネットにも情報が流れていないのは俺のグレムリンが結構な頻度で確認してくれている。どうやら電子戦で負けたのが腹に据えかねたらしく、今回の件に関してはとても協力的だ。

 

なので、ちょいちょい一般人にも見えるように悪魔を召喚してみたり、モルガナから教わったピッキングツールや煙玉、投げると特定の属性魔法が発動する『ストーン』系のアイテムを絶妙に監視カメラにチラ見えするように作ったり、日課の筋トレを上半身裸でやってみたりしたのだが、盗撮者からの反応はない。

 

「仕掛けた奴が誰か特定頼めるか?」

「ああ。任せてくれ。どこの馬の骨かは知らないが、キッチリ暴いてやるとも」

 

ジプス局長であるヤマトにこういう雑事を頼むのは気が引けるが、真琴さんや一度『洗浄』をやっている情報局にお願いすると、色々と暴走してやり過ぎてしまいそうなのだ。

彼等ではなくヤマトに頼んだのは、個人的に交友があり、その辺上手くやってくれそうだったからに他ならない。

 

「あまり事を荒立てないように頼む。推定一般人が、どういう理由で俺を監視しているのか知りたかっただけしな」

 

もう一つ気になることがあるとすれば、俺がルブランに下宿していることを知っている人間は本当にごく一部の人間だけということだ。

ヤタガラスや葛葉の幹部、『雨宮蓮』の両親、手続きをしたヤタガラスの息がかかった行政の人間に、保護司の佐倉さんぐらいのはず。

…ああ、佐倉さんには義理の娘がいるんだったか。

 

パッと思いついただけでも、この中に犯人がいるとは思えないので、恐らくは外部の人間だろうと当たりを付けてはいるが、一応ヤマトに念押ししてから近況の報告や雑談をした後、地上に戻って駅に向かう。

 

「んん。天気もいいし、散歩がてら買い物もしていくか」

 

折角遠出しているので、ついでにモルガナの食事やツール類の材料を買い足すとしよう。たしか、渋谷駅の近くにロシナンテって店があったか。

前世のドンキ張りに品揃えが豊富だったし、あそこで買い物をするとしよう。

 

 

 

 

 

渋谷駅に到着したあと、目的の店の場所を近くの地図で確認する。

スマホは盗聴やGPSで追跡をされている可能性を考慮して私用も仕事用もルブランに置いてきた。なので仕方なく、買いたい物のリストを頭に思い浮かべながら歩いていると、赤信号を無視して渋谷のスクランブル交差点に飛び出した女の子が見えたので、『アルセーヌ』を召喚して少女を抱えさせて安全な場所に避難させる。

 

そして、事故に遭いそうになった少女にプリンパを掛けていた悪魔:モコイが、性懲りもなく彼女に襲い掛かったのが見えたので、呼び出したままのアルセーヌに『ザン』を撃たせる。

ブギーマンだったころと比べて弱体化したとはいえ、あのくらいの格のモコイなら一撃で消し飛ばせるのは他の異界攻略で確認済みだ。そして想定通り真っ二つになったモコイを視界に収めつつ、人混みに紛れながら召喚者であるダークサマナーの顎に相当な威力の拳を叩き込んで気絶させ、近くのベンチに寝かせる。

勿論逃げられないようにそのサマナーから目を離さないようにしつつ式神を飛ばしてヤタガラスに連絡を入れる。

 

やっぱり、アルセーヌは現実で召喚出来るんだよな。

 

あの日、モルガナとコミュニティを築いてからメメントスの調査に赴いた時に、ピクシーの姿をしたシャドウをペルソナとして獲得したのだが、ピクシーは現実で呼ぶことが出来なかった。ブギーマンが変化したアルセーヌは現実で召喚できるのに、だ。

モルガナにも協力してもらいながら色々と検証を重ねてはいるが、何故アルセーヌだけが特別なのか、理由はすぐには分かりそうにない。

 

ふと、歩道の方を見ると、自分の身に起きたことに驚いているのか、頻りに周囲を見渡している、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、その子に抱き付いて大泣きしている()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の姿を遠目に見つつ、出したままだったアルセーヌを自分の精神の海に戻す。

他にシャドウや悪魔の気配は感じないので、あのまま放置しても問題ないだろう。

 

さて、想定よりも時間が掛かってしまったが、引継ぎ要員がやってき次第さっさと買い物して帰るとしよう。




ペルソナ3の時にTOKYOミレニアムを作ろうとしたメシアと、それに反発したガイアと、ドンパチ始めた2勢力を黙らせたい(始末したい)ヤタガラスとで、全面戦争が東京で勃発。
ライト版真・女神転生Ⅱです。

主人公は『ホーク』という名前のサマナーと協力して血みどろの争いをしながら、有り得ざる1時間(影時間)でも戦ってます。
なんだこの地獄


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インタールード②

投稿間隔空いてしまって申し訳ないです。
休日出勤は悪い文明。


「グヌヌヌヌ」

 

 薄暗い部屋の中で一人の少女が複数のモニターと睨めっこをしながら懸命にキーボードを叩く。

 その少女は、墨を塗ったような濃いクマを目元に拵えて眉間にしわを寄せながら、一心不乱にとある組織のサーバーにハッキングを仕掛けつづけている。

 2週間近くの時間を掛け、ほぼ不眠不休でハッキングを仕掛けているのだが、優秀なハッカーである少女にしては珍しく相当苦戦しているようで、中々目当ての情報に辿り着けない。

 

「んん?」

 

 あまりにも作業が進まないので一息入れようと、普段はあまり飲まないブラックのコーヒーで眠気を追い払っていると、モニターに表示されていた書きかけのソースコードが並んでいた画面に一瞬ノイズが走る。

 それを皮切りに、ソースコードが書かれているエディタや開いていたブラウザが一斉に閉じられてしまう。

 突然の事態に驚いている少女をよそに、モニターに十代後半の青年が映り込む。

 

『初めまして、佐倉双葉』

 

 その青年は黒い外套と薄紫色の髪が特徴的で、双葉が見てきた人間の中でも屈指の整った容姿と、その身に纏う雰囲気によって常人離れした存在のようにも見えた。

 

『私は、峰津院ヤマト。君が血眼になって探しているヤタガラスの人間だ』

 

 ヤマトのその言葉に双葉の目が見開かれる。

 ヤタガラスという名前は、双葉がここ最近調べ続けていた組織の名前であり、彼女にとって何よりも優先すべき大切な母親の行方を見つけることが出来るかもしれない組織の名前だ。

 

『早速だが、君の情報はすべてこちらの手元にある』

 

 ヤマトの手元にある書類には双葉の住所・氏名・年齢・家族構成・素行調査などが載っており、これらは全てヤタガラスの情報局が集めた情報だ。

 この2週間の間に双葉がハッキングを仕掛けてきた時を見計らって逆にハッキングし返して、正体不明だったハッカーの正体を突き止めたのだ。

 

『失踪した母親について調べたいのであれば、雨宮蓮、いや「葛葉ライドウ」と交渉するといい。彼が穏便に済ませてほしいと口にしたから、特例でこんな回りくどい真似をしているのだからな』

 

『ああ、それから』

 

『今後は犯罪行為を控えた方がいい。今回だけは特例として見逃すが、もしもまた同じ様なことをしているようであれば、こちらも相応の対応をする』

 

 そのセリフを最後に映像は途切れ、乗っ取られていたモニターに見慣れた背景が表示される。

 まさか、これほど明確に自分たちの存在を認めて、自分に警告をしてくるとは思っていなかった双葉は、今更ながらにヤバいことに首を突っ込んでしまったことを実感する。

 

「おかあさんのことを調べられる可能性があるなら、や、やってやるさ」

 

 人見知りで人と接するのが苦手でも、ここで逃げる訳にはいかないと覚悟を決めた双葉は、PCの電源を切り、手の震えを抑えながら歩き出す。

 

 行き先は、養父が経営する喫茶店【ルブラン】だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッペルゲンガーと入れ替わることなく、店の手伝いをしていた12月下旬の昼下がりのルブラン。

 ここ最近のルブランは俺の見知った顔、というかヤタガラスの構成員が頻繁に訪れるようになったことで中々に繁盛している。

 とはいえ、店主の佐倉さんが売上向上に積極的な訳ではないので、客足が一旦引いたタイミングで少しばかり早い昼の休憩を取っていた。

 

 垂れ流しにされているテレビの音声をBGMに、ヤタガラスから上がってくるメメントスの構造や遭遇したシャドウや悪魔の情報をスマホで確認しながら賄い飯のカレーを食べていると、店のドアベルの音が鳴り、誰かが店の中に入ってくる。

 佐倉さんが休憩の為に席を外しているので表の看板はCloseにしていたはずだが、それを気にせず入ってきたらしい。

 カウンターから入口に視線を向けると、そこに居たのは15、16歳程度の一見オレンジ色にも見える明るい茶髪と黒縁メガネが特徴的な少女だった。

 

「すみません。午前中の営業は終了してまして」

「雨宮蓮、いや、葛葉ライドウだな」

 

 少女の口からライドウの名前が出てきたことで、俺の思考回路が瞬時にデビルサマナーとしてのそれに切り替わり、封魔管を収めている腰のベルトに手を当て、いつでも悪魔を召喚できるように備える。

 俺の様子が一変したことに驚いたのか、若干腰が引けている少女のことをよく観察してみると、何処かで見たことがある気がしてくる。

 

「佐倉、双葉?」

 

 そうだ。確か、佐倉さんの義理の娘として事前の調査書に写真付きで載っていた少女だ。

 異能者だ、とか裏側を知っている人間とは報告になかったが、俺がライドウであると知ってるのであれば警戒は必要か。

 

「ご」

「ご?」

「ごめんなさい!」

 

 腰を直角に曲げて渾身の謝罪をしてくる佐倉さんに呆気に取られてしまう。

 何に対しての謝罪だろうか。今日が初対面のはずなのが。

 

「わ、わたしが、その、監視カメラとかを仕掛けた犯人、だ。…です」

 

 若干上ずった声で謝罪しながら、深々と頭を下げている佐倉さんに、頭を上げるように言ってからカウンターに座らせて、ここ最近のルブランの手伝いで身に付けた本格的な淹れ方をしたコーヒーを出す。

 

 暖かいコーヒーで一息ついた佐倉さんが改めての謝罪と、どうして俺に自白をしたのかという経緯を説明し始める。

 

「なるほどね」

 

 多少つっかえながらも事情を話してくれた佐倉さんの言葉をまとめると、事の始まりは自分の養父の店にヤバい前歴持ちが寝泊りすると聞き、警戒したことだという。

 もしも何かあった時の為にルブランに監視カメラと盗聴器を仕掛けたら、やってきた人間が分身したり銃刀法をぶっちぎったシロモノを多数所持している奴だと分かり、監視を続けていた、と。

 

 暫く俺を監視したことで、俺がヤタガラスという組織に所属していることと、常人には見えない怪物、悪魔と呼ばれる存在が実在することを知ったのだという。

 

 そして、自分の母親が過去に神隠しにあって失踪したことに、悪魔が関係している可能性が高いという答えに辿り着いた彼女は、情報を得るために藁にも縋る気持ちでヤタガラスにハッキングを仕掛けたのだという。

 

「…無謀だな」

 

 この世界のヤタガラスは霊的な要素を高めるために旧態依然としたやり方を重視する面もある。

 しかし、凄まじい速度で進化していく社会から裏側の情報を隠すために、情報系に限らず様々な技術を貪欲に取り込んでもいる組織だ。

 当然、昨今の情報化社会に対応するために一流のプログラマーにスパコンを作れるレベルのハード屋といった技術者も抱え込んでいるし、何ならグレムリンを筆頭にした機械に強い悪魔を擬似的なファイアウォールとして使役しているほどだ。

 

 俺のスマホを踏み台にしてヤタガラスにハッキングを仕掛けることが出来た彼女の技術は素晴らしいものなのだろうが、彼女と同等の天才ハッカーや悪魔が所属しているヤタガラス相手では、多勢に無勢といった状態になるのも無理はない。

 そして、ものの見事にカウンターハックを受けて自身の身元が割り出されてしまい、ヤマトから警告を受けて俺に自白をしにきたという事らしい。

 

 …どうやらヤマトは俺の言っていた通りに穏便に済ませてくれたらしい。

 昔のあいつだったら背後関係を洗い出すために佐倉さんを誘拐して悪魔に記憶を暴かせるくらいはやっていただろうからな。

 

「盗撮とか盗聴は普通の法律でもアウトだろうから、今後はやらないように」

 

 ここで彼女の罪を白日の下に晒して警察に突き出す気はサラサラない。SNSなんかで俺の私生活や悪魔の情報を無意味に拡散してないのだから、今回は厳重注意くらいで済ませばいいだろう。

 

「あ、あっさり許すんだな」

「今回は特例だよ。君が一般人なのと、俺の注意が甘かったせいで起きた事だからね」

 

 今回は人間が大勢死んだりしていないというのが大きい。死人が出ていれば対応は確実に変わっていただろう。

 

「それで、その。おかあさん…『一色若葉』のことはヤタガラスに何か情報があったりしないか?」

「調べてはみるけど、正直に言えば()()()()()()()()()()()()()()、佐倉さんの母親の消息を掴むには、そこそこ時間が掛かるだろう」

 

 ここ最近は減ってきているが、悪魔やダークサマナーによる人間の誘拐や殺害事件には枚挙にいとまがない。

 この世界の日本で年間発生する行方不明者数はおよそ十万人。

 家出した人間や認知症の影響で徘徊している老人なんかを除いて、大体五万人くらいが悪魔関連の事件に巻き込まれている計算になると、情報局の統計として出てきている。

 当然、異能が関わる行方不明者に関してはヤタガラスも総力を挙げて捜索するが、大体半数近くは発見時には死亡しているし、運よく生きていたとしても社会復帰までできた人間は五千人にも満たないはずだ

 

「最下級の弱い悪魔でも姿を隠して人間を一人攫う程度なら容易く出来るからな」

 

 最下級の悪魔というとスライムや餓鬼なんかが当てはまる。

 だが、弱い悪魔という評価は異能者が基準になっているので、一般人基準に換算すると『異能が絡まない攻撃が完全に無効な透明の大型の熊』くらいの評価になるか。

 当然、そんな存在を普通の人間が討伐するのは不可能だ。

 

 そんな力のある悪魔を利用して違法行為に手を染めるダークサマナーが後を絶たない理由は簡単。

 この世界ではちょっとした代償、食べ物や宝石、マガツヒなんかがあれば()()()()()()()()()()()()()()()()悪魔と取引することが可能だからだ。

 

 特別な才能が無くても悪魔の力を借りられるので、半グレや反社会的組織、大企業の人間なんかが悪魔を使ったり、逆に一定以上の知能のある悪魔がワザと自分の姿をそういった連中に見せて邪な考えを煽ったりして取引を持ち掛けたりするのだ。

 

 そして悪魔の誘惑に負けた人間が悪魔を使って犯罪を犯したり、足のつかない殺し屋になったりするので、何度潰してもダークサマナーが雨後の筍のように湧いて出てくるのだ。

 先日の()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を起こそうとしていたダークサマナーもその手の輩だったと情報局から報告を受けている。

 

「そんなに、悪い奴が一杯いるのか?」

「この手の輩にはキリが無いからな。犯罪が無くならないのと同じように、この世から消し去るのは不可能だろう」

 

 散々ファントムソサエティやガイアにメシアといった集団を潰してきたが、それでも奴らが絶滅していないのがいい証拠だ。

 

「もしかしたら、おかあさんも、そういう奴らに?」

「…可能性は、ゼロではない」

 

 佐倉さんの話を聞く限りでは『認知訶学』という、認知世界を研究する学問の研究者という職業上、その知識を狙ったダークサマナーや権力者が手を回していたとしても不思議はない。

 もしもそうだったら、十中八九ロクな事にはなっていないだろう。

 

「そう、か」

 

 思い詰めたような顔をした佐倉さんが顔を伏せ、俺たちの間に重苦しい沈黙が流れる。

 裏の世界には危険が満載だ。未来のある彼女自身の為に、ここで諦めてまっとうな人生を歩む道を選んでくれればいいが、そうはならないだろう。

 

「よし。決めた」

 

 そういって顔を上げた彼女の瞳には、俺が予想していた通りに強い覚悟の光が宿っていた。

 

「何でもする。私に出来ることなら何でもする。だから、おかあさんを探すのを、手伝って、ください」

 

 こういう眼をした人間を俺はこの世界で何度も見てきた。彼女は、もう誰が何を言っても母親を探すのをやめないだろう。

 下手にここで断れば、他の霊能組織にハッキングを仕掛けるかもしれないし、その意志の強さに悪魔が目を付けて近寄ってくるかもしれない。

 …仕方ない、か。

 

「裏の世界は死と隣りあわせだ。ひょっとしたら目的を達成できずに死ぬかもしれない。それでも」

「それでも、私はおかあさんを見つけたい。たとえそれが、どんな結果をもたらすとしても」

「…じゃあ、俺と取引をしよう。君はハッキングとプログラミング能力でヤタガラスに協力する。俺達ヤタガラスは佐倉さんの母親を探す。どうだ?」

 

 彼女ほどのプログラマーが加われば、製作が滞っている悪魔を可視化するデバイスや異界でも稼働する電子機器の開発なんかに大きく弾みがつく可能性もある。

 もしそれがダメでも、ヤタガラスと敵対しているダークサマナーの組織にハッキングを仕掛けて情報を収集して貰えばいいだけだしな。有能な技術者は沢山抱えておきたい。

 

「双葉」

「ん?」

「双葉でいい。おまえと私は今日から取引相手…。共犯者だからな」

「ああ。これからよろしく。双葉」

 

 決意の宿った瞳で俺を見ながらそう言った佐倉さん、いや、『双葉』は俺が差し出した右手を取り、握手を交わす。

 そして握手をした瞬間、脳内に聞き覚えのある音が俺の脳裏に響き渡る。

 

『我は汝、汝は我。汝、ここに新たなる契りを得たり』

『契りは即ち、真なる目覚めの輝きなり』

『我、「隠者」のペルソナの生誕に祝福の風を得たり』

『大いなる反逆の一翼とならん』

 

 手を握ったまま固まった俺に不思議そうな視線を向ける双葉に、何でもない、と言いつつ苦笑いする。

 世間は狭いな。どうやら、この子が二人目のコミュ相手らしい。




ペルソナ3からペルソナ4の間では真夏に雪が降る怪現象が起きて、主人公の住む世界と別世界の魔界が繋がってしまい、ボンボン版の漫画デビチル魔界世界を放浪してます。
児童誌界のベルセルクと言っても過言ではないくらい過酷な漫画の主人公「甲斐刹那」の腕が千切れたり、身体に風穴が空いたりする世界でどうにかエンディングまで走り切ってその世界との繋がりを断ち切って、怪現象を解決してます。

転生してから異世界転移ってもうわかんねぇな、これ


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インタールード③

 P3Pで不満だったのは、女性主人公を選んだ時に、綾時が女性にならなかった事です。
 キタローの様になりたいと考えたからファルロスも綾時もあの見た目だったという設定なのに、女性主人公でもあの姿なのは設定に矛盾があると思ってます。
 まあ、予算とか綾時を恋人にしたいプレイヤーに配慮したが故の結果なんでしょうけども。

 なので、この二次創作では好き勝手にやらせて貰います



 一月中旬のある日のこと。

 今年の冬は寒さが厳しく、久方ぶりに都心での降雪を観測したその日、あまりの寒さで布団の中から出てこなくなったモルガナをルブランに置いて、俺は単身、港区の辰巳ポートアイランドに向かうモノレールに揺られていた。

 

 前世ではお台場が有名スポットだった人工島は、この世界では辰巳ポートアイランドと呼ばれており、そこに繋がるレインボーブリッジと呼ばれていた大きな橋は、ムーンライトブリッジと呼ばれていて、ペルソナ3の一連の事件のある意味での始まりの地でもある。

 ペルソナ3の事件を解決した今となってはあまり寄り付かない場所なのだが、今日はどうしても外せない用事があったので電車とモノレールを乗り継いで辰巳ポートアイランドに向かっている。

 

『次は巌戸台。巌戸台です』

 

 五年前は何度も聞いていたアナウンスに懐かしさを覚えながら、背負ったカバンがずり落ちないように位置を直し、モノレールが停車した後、すぐに降車してそのまま巌戸台駅を出る。

 チラリとスマホの時計を確認したところ、今は十五時半を少し回ったところか。待ち合わせの時間である十六時にはもう少し時間がある。

 

「久方ぶりにポロニアンモールにでも行ってみたかったが、これは無理そうだな」

 

 タルタロスとエレボスの襲撃を片付けてからは、訪れる用事がほとんどなかったこともあって、ポートアイランドには全く訪れていなかったが、この数年で人工島はその面積を大きく広げ、桐条財閥の系列会社が大幅に数を増やし、相当な人間がこの島で生活するようになったらしい。

 その事もあってか、俺が活動していた五年前に比べて巌戸台駅の周辺は人混みが凄いことになっている。

 

 事前の情報では俺の知り合いが迎えに来てくれる事になっているとのことだったのだが、大都市の駅並みに人間で溢れ返っている状態なので、迎えに来てくれているという車も見つからないかもしれない。

 

「ん?」

 

 どうしたものかと考えていると、車でごった返しているロータリーの一角に紅いスポーツカーが止められており、そのすぐ傍に立っていた男がこちらに近づいて来ているのが見える。

 

「まったく、驚いた。この時間の駅周辺がこんなに込むなんて知らなかった」

 

 そう言って俺に話しかけてきたのは、白に近い髪色とそこらの俳優よりも整った顔立ち、そして実戦で鍛え上げられた筋肉質だが引き締まった体が特徴的な男性だった。

 そしてこの人は、俺にとって大切な戦友でもある人だ。

 

「迎えに来てくれる人って、貴方だったんですね。『明彦さん』」

「ああ。久しぶりだな。蓮」

 

 ちょっと前まで上半身裸でマントを羽織っただけというアバンギャルドな姿で戦場を駆けていた姿からガラリと変わって、高級そうなタキシードに身を包んでいる彼は、『真田明彦』。

 この世界でもペルソナ能力に覚醒し、他のメンバーと共にタルタロスを駆け抜け、今ではヤタガラスの戦闘部隊の一員として、海外でも凄腕デビルハンターとして名を馳せている。

 

 本来なら外部協力員として裏の世界や組織という枠組みからはある程度距離を置く筈だった彼だが、この世界にはシャドウ以外の脅威である悪魔が存在していて、異能者が奴らの標的になりやすい事と、力なき人を守るという彼の目的もあって、今ではヤタガラス内部の戦闘部隊『シャドウワーカー』の立派な一隊員だ。

 

「半年ぶりぐらいですね」

「そうだな。去年のあれが起きて以来か?」

「・・・あー」

 

 確かにこうして直接会うのは、前科が付く事になったあの事件以来か。あの事件の後始末とメシア教の大規模計画を阻止するために日本中を飛び回っていたせいで、ペルソナ使い達と交流するタイミングを中々確保できなかったのだ。

 まあ、あの事件の件で彼らの思いを無下にしてしまったので、どの面を提げて会いに行けばいいか分からなかったからというのもあるのだが。

 

「積もる話はあるが、先に移動しよう。この後の予定も詰まっているからな」

 

 そう言って歩き出した明彦さんの後を着いていき、彼が運転する高級そうなスポーツカーに乗って今回の目的地に移動する。

 

 これから向かうのは桐条財閥主催のパーティー会場だ。

 このパーティー、桐条財閥の人間以外にもグループや傘下、協力会社などが一堂に集う経済界の一大イベントとして行われており、ヤタガラスもフロント企業として幾つもの会社を抱えているのでこのパーティーにはほぼ毎回参加している。

 去年は確か、ヤマトが代表として参加していて、ヤマトが峰津院という京都の名家の当主と知っていたり、ジプスの局長だと知っていた人間から凄まじい量の縁談を取り付けられそうになり、見目麗しい美女達からアプローチ(ハニートラップ)を仕掛けられたりしたせいで、暫くの間ヤマトの不機嫌度がMAXだったりしたものだ。

 なので今年はヤマトがパーティーに行くのを嫌がり、双葉の件で借りを作った俺に代理人として白羽の矢が立ったのだ。

 

(その点、俺の場合は気が楽だな。『葛葉ライドウ』の名前は知られていても俺の人相は広まっていないだろうし、葛葉家の養子になったとはいえ産まれは一般家庭。色んな人間に絡まれる要素はほぼ無い。のんびりと高級な食事を堪能させて貰うとしよう)

 

 そんなことを考えながら明彦さんと他愛ない雑談をしていると、今日のパーティー会場がある辰巳ポートアイランドの新たなランドマークとして有名な『ミレニアム・ビル』が見えてくる。

 あのビルが建っている場所は、五年前まではメシア教によって『カテドラル』が作られ、ゆくゆくは『TOKYOミレニアム』としてメシア教の聖地になる筈だった場所だ。

 

 だった、というのは、既にその施設が破壊されているからだ。

 他所の国ならいざ知らず、この日本に、ましてや当時はタルタロスが近くに存在していたこの場所に、そんな建物を建てさせるのは、ヤタガラスとしては絶対に許容できなかったのだ。

 その結果として、カテドラルとTOKYOミレニアムを作って人工救世主を誕生させたいメシア教過激派と、メシア教の邪魔をしたいガイア教とファントムソサエティ、そしてこの機会に全員ブチのめしたいヤタガラスでの三竦み状態で戦争が始まり、建物の基礎部分すら残らなかったカテドラルは完全に消滅。メシア教の過激派とその企みは文字通り露と消え、ガイア教やファントムソサエティのダークサマナーも相当数が死亡することになった。

 

 そんなこんなで所有者すらいなくなった空いた土地に、桐条財閥が新たな複合施設として『ミレニアム・ビル』を建てた、というのが事の経緯だ。

 

「いつ見ても高いビルですね」

「そうだな。だが、タルタロスほどではあるまい」

 

 暫く車に揺られて到着したミレニアムビルのその偉容に、ありきたりな感想を洩らした俺に反応した明彦さんが答える。

 確かに、塔の高さが雲の上を通り越していたタルタロスに比べれば建物の高さとしては低いだろうが、それでも日本屈指の高さのビルなのは間違いない。

 

「というか、ここの何階でパーティーやるんですか?」

 

 送られてきた案内で、ここがパーティー会場だとは知っているのだが、具体的にどの階でやるかまでは書かれていなかったので、明彦さんにそう尋ねると、ニヤリと笑った明彦さんは人差し指をピンと立てて分かりやすく上を示す。

 

「もちろん、最上階だ」

 

 そう言ってさっさと歩き出した明彦さんに付いて行き、エントランスホールを通過しエレベーターに乗り込む。

 エレベーターの中にあった案内板を見る限りでは、六十階から上は桐条財閥の占有フロアになっているようで具体的な構造は分からないのだが、最上階である七十階だけは専用のエレベーターじゃないといけないらしく、一旦六十階まで普通のエレベーターで上がり、そこから専用エレベーターに乗り換えて最上階に向かうことになるらしい。

 

「これ、高所恐怖症の人は登れなさそうですね。なんでエレベーターの壁面がガラス張りで、外が見える構造なんでしょう」

「さてな。高尚な人間の趣味は俺には理解できん」

 

 こういうデザインだと外から狙撃されそう、だとかどの階で降りたのか丸わかりになってしまうな、とか攻撃する時のパターンも、護衛する場合のパターンもシミュレートしてしまうのは、命を懸けて戦う人間のサガという物なのだろう。

 …前世だったらただの中二病だな。

 

 そんな話をしながらエレベーターで昇ること暫し。

 ようやく今日のパーティー会場であるミレニアムビルの最上階に到着したのだが、エレベーターを降りた先のエントランスには人が一人も居らず、パーティー会場だと予想出来る扉の先も、人があまりいないのか話し声も騒めきも全く聞こえない。

 

「明彦さん、ホントに此処なんですか?」

「ああ。目的地はここだ。もっとも、今日のパーティー会場は五階下で、開始時間は十九時からだがな」

「え?」

 

 明彦さんの言葉を理解する前に、背後の物陰から飛び出してきた何かが、俺が反応するよりも早く腕を抱き込むように巻きつく。

 咄嗟にマガツヒを全身に巡らせで肉体強化を行い、鋼鉄製のワイヤーの様な物を強引に引き千切り、封魔管に手を伸ばして悪魔を召喚しようとするが、その前に背後から伸びてきた腕に捕まってしまい、完全に拘束されてしまう。

 

「チェックシックス、であります」

 

 聞き覚えのある声と懐かしい口調に驚いて振り向くと、そこには、どことなく人間離れした雰囲気を感じさせる金髪碧眼の美少女がいた。

 

「アイギス!?」

「蓮様が咄嗟に対応できないようであれば、新作のステルス迷彩、およびスピード強化外骨格の組み合わせの効果は上々のようです」

 

 ただパーティーに出席するだけの腹積もりでここまで来たのに、まさかガチ装備のアイギスに両腕を後ろ手にされて拘束されるとは思ってもみなかった。

 

 ここまでの流れから、どうにも嫌な予感がしてきたので拘束から抜け出そうと躍起になるが、ガッチリと拘束されているせいで、アイギスに怪我をさせないように振りほどくのは不可能のようだ。

 

「よくやった。アイギス」

 

 そんな風に俺達が暴れていると、目の前の扉が開き、一人の女性が部屋から出てくる。

 その女性は日本人にしては珍しい、紅いローズレッドの髪に、ブラウンの瞳。凹凸のハッキリとした抜群のスタイルをした美女だった。

 そして、俺は、彼女の事も良く知っている。

 

「お、お久しぶりです。美鶴さん」

「ああ。久しぶりだな。蓮。実に半年ぶりか?」

 

 こめかみに青筋を浮かばせている様にも見える美鶴さんから視線を逸らすために部屋の中を見ると、その奥にはとても見覚えのある茶髪の美女二人(琴音さんとゆかりさん)と、パッとみでは水色にも見える長髪を三つ編みにした美女(風花さん)が俺に手招きしているのが見える。

 その奥には桐条家のメイドさんに服をとっかえひっかえされながらパーティー用の衣装をコーディネートされている順平さんに真次郎さん、そして既に着せ替え人形状態が終わったのか、タキシード姿で疲れた表情をしながら椅子に座っている乾に、のんびりと欠伸をしているコロマルの姿があった。

 

「パーティーまで時間はある。さあ、話をしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく。これに懲りたら、シッカリと反省するように」

 

 美鶴さんのその言葉を最後に、女性陣は支度の為に別室に移動していく。

 彼女達が移動したことで、ようやく美鶴さん、ゆかりさん、琴音さん、風花さん、アイギスという美女五人からの説教から解放された俺は、ヘロヘロになりながら部屋に設置されたソファーに座り込む。

 

 どうやらあの場にいた琴音さんの証言とヤタガラスに上げた報告書から、一番最初にメメントスに潜った時の経緯と琴音さんが合流する前の出来事も含めて皆に知られてしまい、迂闊なことをした事、誰にも連絡しなかった事、単身でしんがりをやって死にかけた事、この半年の間まったく連絡をしなかった事も含めて散々説教されてしまった。

 

 男性陣は俺を庇ってくれたのだが、迂闊に俺を擁護するような発言をしてしまったせいで真次郎さん以外はあっさりと言い負かされて物のついでとばかりに説教されてたし、唯一の頼みだった真次郎さんはどちらかと言えば女性陣側だし。散々な目に遭った。

 

 ぐったりしてる俺を心配してくれたのか、近くに寄ってきて心配してくれているコロマルをわしわしと強めに撫でる。

 もう十年以上生きているので、高齢犬に該当するコロマルはシャドウ相手に大立ち回りしていた時ほどの元気はない。確か、もうシャドウや悪魔に関わらずに済むように、桐条家で面倒を見ているんだったか。

 そんな事も思いながらコロマルの毛並みに癒されていると、今度はグロッキー状態から真っ先に復帰した順平さんが一人の女性を連れて近寄ってくる。

 

「よ。久しぶりだな」

「…久しぶり」

 

 そう言いながら俺のもとにやって来たのは、この世界でもペルソナ使いとして覚醒し、タルタロス案件の解決に貢献した『伊織順平』。

 そして、白いパーティードレスを着た元ストレガの『吉野千鳥』。この世界では琴音さんのメンタルケアにより一念発起した順平さんが全力で説得し、悪魔や他のストレガのメンツから守り続けたことでその熱意に絆されて味方に引き入れることが出来ており、ペルソナ能力を引き出す為に施された怪しげな投薬の影響も異界由来の万能薬(エリクサー)とヤタガラス驚異の医療技術で、ほぼ常人と変わらない状態にまで治療出来ている。

 

「お久しぶりです。その後、特に問題はないですか?」

 

 実は、この世界のチドリさんは、本来はただのエネルギーでしかないマガツヒを物質として生成する事が出来る特異体質で、ペルソナ能力に目覚める前は悪魔やダークサマナーに狙われるのが日常茶飯事だったという、世界観が融合したことによる弊害が発生しているのだ。

 そして、ここ半年くらいでまたメシア教とファントムソサエティが復権の為に蠢動し始めていて、それに呼応するように海外のダークサマナーの活動が活発になっているので、彼女の周囲に変化がないか確認しておきたかったのだ。

 

「ヤタガラスが提供してくれた魔除けのお陰で、ここ最近は悪魔は殆ど来てないわ。ダークサマナーの方も順平が何とかしてくれてるし」

 

 そう言って順平さんと腕を組んで幸せそうにするチドリさんを傍らに置いた順平さんが、真剣な表情で口を開く。

 年齢を重ね人生経験を積み、悪辣な悪魔やダークサマナーと戦っていることもあってか、タルタロスを探索していた頃とは比べ物にならないくらいに大人びた雰囲気になっている順平さんを見るたびに、ついつい別人なのではないかと思ってしまう。

 

「お前が強いのは知ってるが、あんまり無茶はするなよ。お前一人に世界を背負わせない為に、俺達がいるんだからな」

「順平さんがまともなこと言ってる。…何か悪い物でも食べましたか?」

「なんだと、こいつぅ!」

 

 俺が冗談交じりにそう言うと、一瞬ポカンとした表情をした順平さんが笑いながらヘッドロックを仕掛けてきたので、俺も冗談めかして笑いながら謝る。

 そして、俺達のそんな姿を見てチドリさんも笑っていると、その後ろから更に二人の人影がやってくる。

 

「折角身嗜みを整えたんだ。あんまり暴れるなよ、伊織」

「お久しぶりです。蓮さん」

 

 そう言って俺に話しかけてきたのは、トレードマークだったニット帽がなくなった代わりにワックスで髪をオールバック風に整えた『荒垣真次郎』と同じく髪型を今風の男性アイドルの様にセットした『天田乾』だった。

 二人ともついさっきまで桐条家のメイドさん達にスタイリングされていたので完全にパーティー用のキッチリした姿になっており、この姿で街を歩けばそれだけで多くの女性の目を引くだろうな、と思ってしまう。

 

「半年ぶりですね」

「そうだな。ったく、お前がいない間、美鶴達を抑えるの大変だったんだぞ」

「ええ、本当に、本っ当に大変でした。蓮さんにはいなかった間の埋め合わせをキッチリとして貰わないと割に合わないです」

 

 冗談めかしてそう言う二人と久しぶりに雑談を交わす。

 普段は新宿に出店した『はがくれ』二号店の店長業をこなしている真次郎さんは、時々シャドウワーカーの協力員として活動している。

 戦闘能力はこのメンバーの中でも屈指ではあるが、ペルソナ能力が不安定なこともあり、基本的にはシャドウが絡まない類の事件を担当して貰っている。まあ、この世界には悪魔がうようよしているので、ペルソナなしでもかなり強い真次郎さんはヤタガラスでも一目置かれている存在だ。

 

「そういえば、乾。()()()は元気か?」

「ええ、お陰様で。この間ヤタガラスの任務をこなすついでに、一緒に温泉旅行に行ってきましたよ」

「ああ。あの箱根での悪魔騒ぎか。地元の異能者が苦戦していたらしいけど」

「異界の中での戦闘だったので、ボクのペルソナ(カーラ・ネミ)を存分に使えましたから問題ありませんでしたよ」

 

 一方の乾の方は来年には月光館学園の高等部に進学するとのことで、中学の生徒会長として、その甘いマスクと人当たりの良さで生徒だけでなく、変人の多い月光館学園の教師陣からも受けがいいらしい。

 そして、()()()ヤタガラスのフロント企業で働いてる事も相まってか、シャドウワーカーの一員としての活動にも積極的に参加している。

 

 乾の母親が生きているのは、殆ど偶然のようなものだ。

 前世の記憶を取り戻した時に異能に目覚めてしまった俺は、その時に既にペルソナ能力にも目覚めていたらしく、影時間の最中でも『象徴化』せずにいたのだ。

 その辺の事情もあって、葛葉での修行を終えて任務をこなすようになった時に、いずれ首を突っ込まざるを得なくなりそうなタルタロスを偵察しに行ったのだが、ちょうど真次郎さんのペルソナが暴走して被害を撒き散らしそうになる寸前の現場に居合わせてしまい、放って置く訳にもいかず当時はまだ目覚めたばかりだった『ブギーマン』で鎮圧して人的被害をゼロに持っていくことに成功したのだ。

 

 乾の母親のように、この世界がペルソナ世界ではなく色々なアトラス作品が混ざっているのが原因なのか、本来は亡くなる筈だった人の助けがギリギリで間に合ったり、逆に異能絡みで苦労する人間がいたりもする。

 良いか悪いかは別として、助けられそうな時は全力で助ければいいだけだ。

 そんなことを思いながらみんなと雑談していると、チドリさん以外の女性陣がパーティーの支度の為に移動していった部屋の扉が開く。

 

「おお。馬子にも衣裳ってやつか?」

「…みんな、キレイ」

「へぇ」

「わあ。皆さん、綺麗ですね」

 

 開かれた扉から入ってきたのは、色とりどりの個性のあるパーティードレスを身に纏った女性陣だった。

 

 全体的に淡いピンク色で統一されながらも、紅いワンポイントのバラのアクセサリーが印象的なゆかりさん。

 露出が少なく、エバーグリーンのドレスと白のストールで清楚な雰囲気が出ている風花さん。

 初めて会った時に着ていた水色のワンピースに雰囲気が似ているドレスを着たアイギス。

 肩と背中が大胆に露出していて、その抜群のスタイルを惜しげもなく主張したデザインの紅いドレスの美鶴さん。

 そして、普段の活発な印象とは真逆の大人びた印象の黒一色で統一された肩の出たドレスを着た琴音さん。

 

「みんなよく似合ってます。本当に綺麗です」

 

 正直な感想を述べると、それを聞いた女性陣の中でも特に嬉しそうな顔をしたゆかりさんが、いたずらっ気のある表情をしながら近づいてくる。

 

「どうよ。見蕩れちゃった?」

 

 今やドラマに映画にと色んな所で引っ張りだこな、新進気鋭の演技派女優としても活動している『岳羽ゆかり』。

 女優として活躍しているからか、自分の魅せ方が半年前よりもずっと上手くなっていて、色気と美しさが増して魅力的になったゆかりさんに対してアレコレ言葉を飾り立てるスキルはないので、率直な感想を伝えるべきだな。

 

「ええ。正直にいうと見惚れてました。凄く綺麗です」

「そ、そう。なら、よかった」

 

 率直な感想に弱いのか、滅多に見せないゆかりさんの照れた表情を堪能していると、今度は風花さんとアイギスが近寄ってくる。

 

「この日の為に色々と頑張ってたものね。ゆかりちゃん」

「毎朝のロードワークに食事制限。女優業の合間にメイクの修行。美に妥協しないゆかりさんの本気を感じたであります」

 

 大学からそのまま大学院に進学する予定で、日頃は機械工学の勉強をしつつ、ヤタガラスで悪魔を可視化するデバイスの開発にも携わっている『山岸風花』。

 その優し気な雰囲気と人当たりの良さから、ヤタガラスの中で密かにファンクラブが結成されているとか、いないとか。

 自分から目立ちたがるタイプではないものの、十二分に整った容姿と落ち着いた雰囲気があり、半年前まではよくやっていた風花さん主催のお茶会は俺の中では屈指の癒しの時間だった。

 

 そして『アイギス』はというと、この世界にはシャドウ以外の敵対存在がいることもあってか、明彦さんと一緒に世界中の悪魔討伐任務に従事しており、時々帰国してはこうして俺達や姉であるラビリスと会ったりしている。

 そんなアイギスだが、発現しているペルソナが影響しているのか、俺と一緒にギリシャで悪魔退治をしていたときにアテナを名乗る神に取引を持ち掛けられたり、アフロディーテからガラテア(彫刻から人間になった存在)の様に、人になるつもりはないかと持ちかけられたりと、何かとギリシャ系の神に縁があるのがここ最近の心配事か。

 

「風花さんもよく似合ってますよ。アイギスは……なんだか動き辛そうだな?」

「ありがとう。ようやく蓮君も戻って来てくれたことだし、またお茶会を再開させてもいいかもね」

「はい。私としてはこういう物よりも普段の動きやすい姿の方が良いのですが」

 

 嬉しそうにはにかむ風花さんとは対照的に、服装に利便性と機動性を求めるアイギスをなだめていると、普段は一つに纏めている緩くウェーブした長い茶髪を下ろし、いつもとは真逆の大人びた雰囲気の琴音さんと、彼女とは逆に真紅の髪を後頭部で一纏めにしたせいで、背中と肩が露出していて、白い肌が眩しい美鶴さんが近づいてくる。

 

 琴音さんは世界を股に掛けるペルソナ使いとして活動していて、ここ最近は確かハワイあたりでダークサマナーの拠点を、薙刀を振り回しながら粉砕したそうだが、この大人びた雰囲気からは想像もつかないな。

 

 そして美鶴さんは、桐条の次期当主としてヤタガラス傘下の実行部隊、『シャドウワーカー』を創設し、家の研究部門をヤタガラスと合併したり、この世界では生存している現当主の『桐条武治』さんと共に財閥の力とペルソナやシャドウの研究の両面で著しく貢献しており、ヤタガラスの新たな屋台骨になり始めている。

 

「サプライズは驚いてくれた?」

「心臓が飛び出るかと思いましたよ」

 

 恐らくだが、さっきのアイギスによる奇襲は、悪戯好きな琴音さんが仕掛人なのだろう。

 メメントスで早めに美鶴さん達に連絡をするといっていたのに、双葉の件に掛かりきりになってしまっていた俺を強引にでも彼女達と話をさせるためにやったのだろうが、相変わらず無茶する人だ。

 

 だけど、そのおかげで今日顔を合わせた時は何処かギクシャクした雰囲気があったが、アイギスの奇襲とその後の説教で良くも悪くもそう言う感じがなくなったのは間違いない。

 

「そう言わないでやってくれ。この件は私も一枚噛んでいるしな」

 

 抜群のスタイルを惜しげもなく晒した美鶴さんの姿に、視線が色んな所を行ったり来たりしてしまう。

 赤の他人からのハニートラップは鼻で笑ってスルー出来るのだが、どうにもよく知った仲の人のそういう姿には気恥ずかしさが先立ってしまう。

 

「ふふ。なんだ、この格好が気になるのか? 心配するな。会場では上着を羽織るさ」

 

 そう言って美鶴さんと琴音さんが俺の隣に座ると、他のメンバーも各々椅子やソファーに座る。

 パーティーまではまだ時間があるようだし、これは完全に色々と聞かれるパターンだな。

 

「さあ、この半年間何があったか聞かせてくれ」

 

 美鶴さんのその言葉を皮切りに、話しても問題ない範囲で、ヤタガラスの任務でメシア教の教会の査察をしていたこと、色々あって喫茶店で寝泊まりしていること、しゃべる猫や覚醒した俺自身のペルソナの話、そしてメメントスの話をする。

 

 勿論、この手の裏側の話題だけでなく、ルブランでのバイトの話だったり、他のメンバーがこの半年間何をしていたのかということを話しているうちに、互いの微妙な距離感もキレイさっぱり消え、以前のような関係性に戻れただろう。

 

 そして、楽しい時間は過ぎるのも早いもので、運ばれてきた茶菓子や紅茶を飲みながらの会話はパーティーの時間が迫ってきたことでお開きとなる。

 

 俺以外のメンバーは既に正装に着替えているので問題ないが、俺はまだ私服のままなので、ヤタガラスの備品から借りてきた服に着替えようとすると、ついさっきまで給仕をしてくれていた美鶴さんと同い年のお傍御用、つまり専属のメイドであり、P4U2やペルソナ3のドラマCDとかにも登場している、『斉川菊乃』さんが何人ものメイドさんを引き連れてくる。

 

「お嬢様の良人(りょうじん)になりうる方を財閥のお歴々に宣伝する良い機会だという当主様のご意向もあります。桐条の名に懸けて、会場に半端な姿で送り出したりは致しません」

 

 そう言って群がってくる菊乃さん達から逃れようと助けを求めるが、男性陣は誰一人として目を合わせてくれないし、女性陣も助けてくれる気配はない。

 声を上げることも出来ないまま、俺はパーティー開始の時間までメイドさん達の着せ替え人形になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノロノロと階段を上って、最上階にある重たい鉄の扉を開くと、ヘリポートが備え付けられた屋上の冷たい夜風が非常階段に吹き込み、火照った身体を冷ましてくれる。

 桐条家のメイドさんの手によってタキシードに着替えさせられた俺は、当初の予定通りにパーティーに出席したのだが、何故か俺が葛葉ライドウであることがバレていたせいで、想定していたよりも大勢の人間の相手をする羽目になってしまい、目立たず高級料理をたらふく食べるという目標は達成できなかった。

 

 みんながそれとなく傍にいてくれたお陰で、露骨な見合い話とか縁談の話とかはされなかったが、それでも色んな人間から獲物をみるようなギラついた視線を浴びまくったせいで妙に気疲れしてしまい、こうして一人でミレニアムビルの屋上に出てきて休憩する事にしたのだ。

 

「今日は満月か」

 

 ついさっきまで厚い雲が空に掛かって雪が降っていたはずなのだが、都合のいいことに俺が外に出ると同時に雲が晴れ、堕ちてきそうな程に大きな満月が視界に映りこむ。

 吸い込まれそうなほどに綺麗な満月を眺めていると、背後から声が掛けられる。

 

「やあ。良い夜だね」

 

 何年経とうと忘れる筈もない。

 夜の闇の様に優しく、毒の様に甘い声を聴いた瞬間、勢いよく振り向く。

 そして、振り向いた先には、時には仲間として、時には敵として、そして最後は、ユニバースに至った琴音さんの心の宇宙に還り、ペルソナになった筈の存在がそこに立っていた。

 

「望月、トキメ」

 

 俺の目の前にいたのは、銀色の長い髪に青い瞳、琴音さんそっくりの顔立ちと泣きボクロが印象的な女性だった。

 どうにも成長した琴音さんの姿を反映しているのか、嘗て交流があった時以上の魔性の魅力に溢れた姿を見た俺の頬が引き攣る。

 並みの人間ならその姿を見ただけで魅了状態になりかねない。

 

「まるで幽霊でも見たかのような反応だね、蓮。君も知っているだろう? 僕は人間が存在する限り『不滅の存在』だって」

 

 そう言って楽し気に笑う女を見つつ、このタイミングで現れた彼女に思考を巡らせる。

 

 この世界に『望月綾時』は存在しない。

 望月綾時という存在は、ニュクスの到来を告げる終末のラッパを吹く為の存在である、『デス』のもう一つの姿でしかない。

 そんな人間ではない存在がペルソナ3の主人公である少年と酷似した姿をしていたのは、彼の中に封印され十年間も彼と共にあったことで人間に、いや、ペルソナ3の主人公の様になりたいと考えたが故に、あの姿だというのが前世での通説だった。

 

 移植版のP3Pで女性主人公を選んでもその姿が変わらなかったのは、単純にゲーム的な制約や予算の問題、そしてファン向けのサービスだったのだろう。

 だが、そういった要素が存在しない、現実であるこの世界では、『デス』つまりファルロスであり、いずれ望月綾時になる筈だった存在は、望月綾時と同じ様に自分を宿した人間である汐見琴音の様になりたいと考え、この世界に彼女を模した女性として顕現したのだ。

 

「あなたの本体(デス)は融合したニュクスと共に()()()()()()()()()()()()()形と実体を捨てて、琴音さんの心に還ったはずだ。なぜ、実体を持って此処にいる」

 

 俺のその言葉にクスリと笑ったトキメが、ゆっくりと近づいてきて手を伸ばし、その白魚の様な細い指で俺の頬をなぞる。

 

「光が強くなれば、闇もまた濃くなるってことさ。というか、そんなに警戒しないで欲しいな。今回はただ単に君の事を想って警告をしに来ただけなんだから」

 

 そんな事を言いながら正面から抱き付いてきたトキメを抵抗することなく受け入れる。昔の『デス』だった頃の彼女が相手だったら問答無用で仲魔たちが引き離そうとしていただろうが、封魔管から出てくる様子すらないところを見ると、どうやら今回は本当に俺を害する気はないらしい。

 

 なんだかんだと、五年前はここまで近くに彼女を近づけたことが無かったので妙に意識してしまう。

 服越しに感じる柔らかい感触と、琴音さんとは異なる何処となく夜を連想させる甘い香り。そして、深い海の様な、もしくは青い宇宙のような彼女の瞳に釘付けになってしまい、視線が捉えられて離せなくなる。

 

「気を付けて。大いなる光がやってくる。大いなる闇である(ニュクス)よりも強大で恐ろしい存在が」

 

 お互いの頬がくっつくほどの距離で囁かれたその言葉に、驚いて目を見張ると、確かに感じていたトキメの体温と感触が急に消える。

 

「何をやっとりますか!?」

 

 いつの間にか屋上に来ていた琴音さんが顔を真っ赤にしながらトキメに怒鳴っている。どうやら琴音さんがトキメを引き離してくれたらしい。

 基本的に今のトキメは、琴音さんのペルソナ、もしくはシャドウといった状態の筈だ。だから、自分の心の宇宙にトキメがいないことを察知してここまでやって来たのだろう。

 そんなことを考えていると、髪や瞳の色は正反対だが、双子の様にそっくりな二人がやいのやいのと言い争い始める。

 

「今や僕はもう一人の君のようなものなんだし、(ニュクス)の男の趣味が君そっくりになるのも仕方ないことだと思うのだけれど」

「それはそれ、これはこれ! もう一人の自分に恋愛でリードを取られるとか意味が分からないんですが!?」

「恋のダービーはハリケーンってやつだね」

「絶対違う! というか、そんなの何処で覚えてくるの?」

 

 仲のいい姉妹の様に二人が言い争っていたせいか、屋上に次々と特別課外活動部のメンバーが集まって来てしまい、いなくなった筈のトキメとの予期せぬ再会に驚き、喜んでいるメンバーを見つつも、どうにも俺は嫌な予感が拭えずにいる。

 

 トキメが実体化出来るようになったのは、彼女の力が大きく増したからだと彼女自身が言っていた。

 当然の事だが、琴音さんの心の宇宙に居るはずの彼女が何の前触れもなくそんな力を付ける筈もない。万が一彼女が毎日コツコツと何らかの手段で力を付けていたのだとしても、必ず琴音さんが気付く筈だが、今日のこの日までそんな話を琴音さんはしていなかった。

 

 だとすれば本当に今この瞬間に、実体を得る程にトキメの力が増したと考えるべきだ。

 まるで、一方に傾いた天秤を元に戻す為に、もう片方に重りを乗せるように。光と闇のバランスを崩さない為に。

 

(『大いなる光』ねぇ)

 

 メメントスに巣食う偽イゴールは天使側、つまり光の存在だった。決めつけるのは性急に過ぎるが、心のどこかでそうなんじゃないかという考えが拭い切れずにいる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()T()O()K()Y()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ヤタガラスに毎日のように上げられているメメントス関連の報告書には大体目を通しているが、その中でも特に多い報告が、メメントス自体はおどろおどろしい場所なのに、何処か光の気配を感じるというのと、たったの数階層しかない異界なのに、異常に天使の類が出現するという報告だ。

 

 ただの状況証拠でしかないが、今回の事件にはメシア教、もしくは奴らを傀儡にしている大天使、または、ニュクスよりも強大な光として候補になりうる『唯一神そのもの』が背後にいるのかもしれない。

 

 脳裏を過ぎった最悪の予想に溜息がでるが、ここで慌てた所でどうしようもない。

 今後は最優先でメメントスの下層に降りる方法を探すことにして、今はこの日常の光景を噛み締めるとしよう。




ペルソナ4の時には東京受胎モドキが発生。
幕間の物語の最後に出てきた精鋭部隊サマナー達の尽力で儀式完遂の前に「氷川」と「高尾祐子」を確保できたのでモドキ程度で済んだ状態です。
東京は死なずに、『彼』も産まれませんでしたが、儀式が中途半端に進行したせいでアマラ経絡と不完全な形で繋がってしまい、そこから別世界の人修羅と魔人と悪魔が東京でドッタン★バッタン★大戦争。

ミニ真・女神転生Ⅲが勃発。

東京受胎によって人間がほぼ死滅することはありませんでしたが、民間人にもそこそこ犠牲が出ており、いろんなカバーストーリーが駆使されて当時の国のトップや政財界の重鎮以外には隠蔽されてます。
まあ、被害が被害なので国が大事件を隠蔽しているという陰謀論は滅茶苦茶出回っていて、政府や警察とかへの不信に繋がってます。


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インタールード④

1999  0歳 主人公誕生&ペルソナ2罰発生
2000  1歳 ムーンライトブリッジ爆破
2006  7歳 前世の記憶を思い出す
2011 12歳 ペルソナ3
2013 14歳 ペルソナ4
2016 17歳 ペルソナ5

年表はだいたい上の通り、主人公が秀尽学園に編入する時はハム子は満22歳で主人公と5歳差、番長は満20歳で3歳差ってことになります。
それに伴って前回の登場人物の年齢設定にガバが判明したので前話少し修正しました。

ペルソナ2・罰のあれこれは達也が死ぬ気で頑張って何とかしました。
主人公が居る世界にニャルとその化身は存在しません。


 中世の王城を連想させる灰色の石畳の廊下に敷き詰められた、高級感のあるレッドカーペットを土足で踏み付けながら、俺に向かって飛び掛かってきた全身鎧姿のシャドウを刀で斬り捨てる。

 大正ロマン風な学生服(ライドウ装備)に返り血のように飛び散ったマガツヒが塵になって消えるのを見届けつつ、戦場になっている廊下の両端から無双ゲーの雑魚敵のように押し寄せてくる全く同じ見た目の鎧型のシャドウの姿にため息をつく。

 

 この異界に初めて突入した時からそうなのだが、何故か異界に入ると同時に敵に感知されてしまい、毎度のようにこのような大規模戦闘に発展してしまうのだ。

 今回はパーティーメンバーを減らして俺とモルガナチームと単独のメンバーに分かれて潜入しているのだが、初めて探索した時から変わらずに今日も今日とてシャドウに取り囲まれながらの()()()探索となってしまっている。

 

「『金剛発破』」

「『マハガル』!!」

 

 俺のペルソナがアルセーヌになったことで、特大ダメージを与える魔法やスキルがほとんど使えなくなってしまった今、あれから地道に経験を積むことでようやく再取得出来た物理の範囲攻撃とモルガナが放った範囲風魔法によって、襲い掛かって来ていたシャドウ達が塵となって消え、シャドウの悲鳴と魔法による爆発音で騒がしかった廊下が静かになる。

 

『クリティカルヒット! そいつらで最後だよ。お疲れ様』

 

 耳元から聞こえてくる戦闘終了の合図を聞きながら刀を腰の鞘に納め、肩で息をしているモルガナに声を掛ける。

 遭遇するシャドウは能力的には弱い部類なのだが、何度全滅させてもどこからともなく湧いて出てくるので、疲労と消耗が激しいのだ。

 

「大丈夫か、モルガナ」

「ぜ、ぜっぜん、へいき、だぜぇ」

 

 この一ヶ月間、メメントスやこのパレスで戦闘経験を積んで見違えるほど強くなったモルガナだが、連戦に次ぐ連戦となると流石にガス欠気味なようで、今日の探索を始めてから一時間も経っていないのに息も絶え絶えな状態になってしまっている。

 

「今回もまともな探索にはならなさそうだな」

 

 このパレスに侵入して行動を起こそうとする前に毎回発見されてしまっているのを考えると、どうにもパレス内では敵側に俺たちの居場所がバレているとみて間違いないようだ。

 

『うそ、もう集まってきた!』

 

 耳元から聞こえてきた声に反応して周囲を見渡すと、廊下の両側から無数のシャドウが大挙して押し寄せてきているのが見える。

 どうやら今度はさっきの雑魚とは違って、それなりに力のありそうなシャドウと悪魔の混成部隊が派遣されてきたらしい。

 

『そいつらだけじゃない。その奥からも相当な数が押し寄せてきてるよ!』

 

 広範囲魔法を連発し続けたことでマガツヒを急速に消費してしまって、息も絶え絶えな状態のモルガナを抱えたままではあの数の対処は難しいだろう。

 

(となれば、ここは一旦撤退だな)

 

 ゲームだったら帰還用の魔法やアイテムがあったりするのだが、この世界ではそれらのアイテムは効力を発揮しないので、異界から帰還する時は徒歩か、ペルソナに運ばせるか、悪魔の背に乗るかの三択しかない。

 今回は探索に来た時からあまり移動できていないので徒歩で帰るとしよう。

 

「置き土産だ。楽しんでくれ」

 

 押し寄せてくるシャドウを警戒しつつ、ぐったりしているモルガナを小脇に抱えて全力で飛び上がって城の窓ガラスを破って外に飛び出す。

 俺とモルガナの体が完全に外に出たタイミングを見計らって、蠱毒と呪詛を練り込んだ手榴弾のピンを抜いて今しがた飛び出してきた窓に投げ込む。

 

 事前に設定した通り、キッカリ三秒後に起爆した全体攻撃版のノロイボム(敵全体に呪怨属性でダメージ)が増援のシャドウ達に大ダメージを与えて足止めしているのを確認してから出口を目指す。

 異界の出口までの一本道を抜けて城壁を超えると、一瞬だけ視界が歪み、それが元に戻った時には既に見慣れた薄暗い路地裏に景色が切り替わっていた。

 

 小脇に抱えていたモルガナが黒猫の姿に戻っているので、パレスを抜けるのには成功したらしい。

 シャドウは認知異界内にしか出てこないというのは分かっているが、悪魔共の性質的に一度敵対した場合は、相手が死ぬまで追いかけ回すはずなのだが、どうにもこのパレスにいる悪魔はパレスから出てくる様子はない。

 

 やはり普通の異界とは違いがあるのか、それとも奴らがこのパレスの中で何か企んでいるのか。

 どちらにせよ厄介事の臭いしかしないな。

 

「お疲れ様。レン」

 

 そんなことを思いながらダウンしてるモルガナを介抱していると後ろから声がかけられる。

 振り返った先に居たのは、トレードマークだったツインテールを変装の為に長い亜麻色の髪に緩くウェーブを掛けた(P4G・夏休み私服の)髪型にした女性だった。

 

「モルガナ、ダウンしてるの?」

「そんな事ないぜ『りせ』殿! ワガハイ、まだまだ元気、いっぱいぃぃ」

 

 俺たちに話しかけてきた女性、今や日本一有名なアイドルと言っても過言ではないくらいの知名度と人気を誇る『久慈川りせ』の言葉に反応して、最後の気力を振り絞って立ち上がったモルガナだったが、最後までセリフを言う事なく地べたにペシャリと倒れてしまう。

 

 りせさんがナビ役を務めてくれると知って今日は異様に気合が入ってたからな。

 良いところを見せたかったんだろうが、一時間ぶっ続けで戦闘しながら何回も魔法を放てばへばるのは当然と言えば当然だ。

 

「あまり無理はしないで下さいねモルガナ」

 

 そう言って俺達と同じようにパレスから出て来たのは、動きやすそうな私服姿のりせさんとは違い、ヤタガラスの戦闘服に身を包み、腰に届くまでの青みがかったストレートの長髪と氷を連想させるような怜悧な美貌が印象的な女性だった。

 そしてその女性の左手には穢れ一つない純白の羽、右手にはレイピアが握られ、抜き身の刀身からは黒色とも赤色とも言えない汚濁の様な液体が滴っていた。

 

「直斗さん、それ」

「ええ。君の予想通りでしたよ。蓮」

 

 刀身に付着した禍々しい色合いの液体と真っ白な羽が形を保てなくなり、空気に溶けるようにして痕跡一つ残さずに消えていく。

 汚れ一つなくなった綺麗なレイピアを無言で鞘に収めた『白鐘直斗』はハッキリと言い放つ。

 

「ようやく尻尾を掴みました。この『パレス』という認知異界、天使(悪魔)が関わっています」

 

 直斗さんのその言葉に、俺とりせさんが、同時に長いため息を吐く。俺とりせさん、そして直斗さんの気持ちは一つ。『また、あいつらか』だ。

 

「やっぱりか」

 

 メメントスやパレスで戦っていた時も感じていたが、どうにも今回の認知異界に出現する悪魔には天使の類が多いのだ。

 異界が発生した時に備え持つ属性によって、その異界で出現する悪魔の種族は偏るものだが、善と悪、秩序と混沌が均等に混ざり合って目に見える程の属性の偏りが存在しないメメントスやパレスにおいて、天使が大量に出現していたのは、今回の事件の裏側に奴らが関わっているから、と考えるのが妥当だろう。

 

「天使にいい思い出ないんだけど、またあいつら?」

()()()()()()()()()()()()()()、彼らはこの異界発生の原因ではないようです。ですが、何らかの目的を持ってこのパレスに居座っているのは間違いないでしょう」

 

 目的については、口を割りませんでしたが。と言う直斗さんと、天使が関与していることを知ったことで嫌そうな表情をするりせさんに声を掛ける。

 

「潜入が失敗した以上、今日はもうここに居てもしょうがないですし、みんなのところに戻りましょう」

 

 そうして薄暗い裏路地から出てタクシーに乗って蒼山一丁目のとある居酒屋に向かう。

 これから向かう店は昼は食事処、夜は居酒屋としてヤタガラス所属の人間が経営している店の一つで、悪魔絡みの話をするのにもってこいなのだ。

 

 タクシーに揺られながら今回の天使への尋問によって得られた情報を簡潔に分かりやすく伝えてくれる直斗さんの言葉を自分なりに嚙み砕いて記憶しつつ、頭の中の情報と照らし合わせる。

 天使が自前の異界を作るのはいつものことだが、今回は認知異界という奴らにとってもイレギュラーに値する異界に居を構えて何らかの活動をしているというのが気になるな。

 どうせ碌でもない事を企んでいるのだろうが、認知異界を使う理由はなんだ?

 

 そんなことを思いながら到着した居酒屋に入って顔馴染みの店員に案内されて店の中でも一番奥にある個室に移動すると、そこには既に見慣れたメンツが揃っていた。

 

「おー。蓮くん。おつかれー」

「あ、みんな、お疲れ様」

 

 事前に戻るという連絡を入れていたので既にこの店に集まっていた『天城雪子』と『里中千枝』がやってきた俺たちに向かって手を振る。

 パレスから帰還して連絡した時に先に始めてていいといったのだが、テーブルの上に料理が何もないことから、俺達を待っていてくれたらしい。

 

「お早い到着だな」

「そうっすね。もうちょいかかるかと思ってたっすけど」

「シショー達、来たクマー」

 

 そう言いながら俺たちに声を掛けてきたのは『花村陽介』『巽完二』『クマ』の三人だ。

 クマと完二さん以外の年上勢はそれぞれ自分の目標の為に東京の大学に通っており、今日は異界探索の際に何かあった場合に救助や援護をしてもらうために近場に待機してもらっていたのだ。

 基本的に東京に居ないメンバーのクマはジュネスでバイトしていた所を捕獲し、完二さんは来年には実家の染物屋を継ぐ為にヤタガラスの伝手で紹介した東京友禅で有名な染物屋で修行することになっているので住居の下見として来ていた所を捕まえたのだ。

 まあ、この一週間のパレス探索では敵に発見されるのがあまりにも早すぎたせいでまともな探索が出来ず、戦闘に次ぐ戦闘に加えてメメントスの探索まで付き合わせてしまったのだが。

 

「やはり、今回もダメだったか」

 

 そして最後の一人。我らが自称特別捜査隊のリーダーにして伊邪那岐大神(国生みの大神)をその身に宿す男、『鳴上悠』。

 特徴的なグレーの髪と瞳。もうすぐ二十歳を迎えるとはいえ、まだまだ若造と言ってもいい年齢にもかかわらず強烈な光を連想させる圧倒的な存在感は、魔性のオーラを放っている琴音さんとはまた別種のカリスマ性を持っている証拠だろう。

 

「ええ。やっぱり何らかの対策が必要ですね」

「そうか。じゃあ、とりあえず食事でもしながら話し合うとしよう」

 

 パレスが発見されたのは完全に偶然だ。

 発端は四月から俺が編入する予定になっている秀尽学園の下見をモルガナと一緒にしたことだ。

 下見で学園付近に近づいたときにモルガナが騒ぎ始め、騒ぐモルガナに言われるがままに移動すると、そこには巨大な西洋風の城になった学園が存在したのだ。

 

 モルガナが発見し、パレスと呼んだ認知異界の調査は急ピッチで進められた。

 理由としてはメメントスと何らかの関わりがあることが想定されたのと、人間が多く集う学園という場所が異界として成立しているので、認知異界に学生や教師が取り込まれて大規模な被害が出る可能性をヤタガラスの上層部が重く見たからだ。

 

 そしてパレスが発見された当初は万全を期してヤタガラスの人員と認知異界に詳しいSEESと特捜隊という大所帯で探索していたのだが、異界に入った瞬間に無数のシャドウに取り囲まれて連戦に次ぐ連戦になってしまい、探索がまるで出来なかったのだ。

 

 それからというもの、手を変え品を変え人を変え、様々なアプローチでパレスの探索に臨んでいるのだが、どうやっても今日のようにあっさりとシャドウに見つかって延々と戦闘をする羽目になってしまうのだ。

 

「やっぱり、影時間への適性や、マヨナカテレビ内での『メガネ』のように、何かしらの対抗手段がないとどうにもならなさそうですね」

「対抗手段、か」

 

 今日の調査内容を報告していた時に運ばれてきたかつ丼定食を食べながらそう言った俺の言葉に悠さんが反応して何かを考えこむような仕草をする。

 

「マヨナカテレビの時みたいな便利アイテム(メガネ)は作れないのか、クマ?」

「むむ、無理クマ。メガネを作れたのはクマがあの世界で発生したシャドウだからできたことで、パレスは別の力で動いてるみたいだからどーにもならないのよ」

「まあ、そうだろうな。もしもそれが出来てたら、いの一番にドヤ顔で自慢するもんな、お前」

 

 陽介さんとクマのやり取りを聞いていた他のメンバーももしかしたらの可能性が潰えたことで溜め息をつく。

 ヤタガラスの方でもパレスでシャドウに見つからずに活動できるように、装備や魔法に使い捨てのアイテムやらと日夜開発に励んでくれてはいるが、そういうものが一朝一夕では仕上がるはずもなく、僅かな手掛かりでも掴むことが出来れば、とこうして定期的にパレスに侵入しているのだ。

 

「でも急いで調査しないと。私のコウゼオンでスキャンしてみた感じだと日に日にあのパレスの力が増していってるから、早めに手を打たないともっと強力なパレスに成長しそう」

「そうですね。今日の単独戦闘でも感じましたが、発見当初に比べて出現するシャドウや悪魔の力が明らかに増しています。このまま放置していては必ず良くないことが起きます」

 

 りせさんや直斗さんの言う通り、当初はゲームでのレベル換算でLv.5程度のシャドウばっかりだったのだが、今日の探索ではLv.10に相当する力を持ったシャドウがちらほらと存在していたのだ。

 あのパレスがいつ頃発生したのかは分からないが、今の成長速度で成長が続くとすれば面倒事になるのは確実だ。

 

 実は、城の外郭から高威力の魔法をブッパしてパレスを消滅させるという手も考えたのだが、モルガナが言うにはパレスは強く歪んだ心を持つ者の歪んだ認知が具現化した異界であり、その中にはパレスの主のシャドウが居るのだが、個人のシャドウを殺すと最悪の場合は廃人化して生きる気力を失って自殺する恐れがあるので、おすすめ出来ない、と言われてしまったのだ。

 

 現状は未だ現実世界への悪影響や人的被害が出ていないのでヤタガラスからは見逃されているが、もしもあのパレスが人的被害を出すようになったら、ヤマトあたりは問答無用でパレスをメギドラオンで消し去るだろう。

 

 勿論、そうならないように色々調査して解決出来るように努力はするが、最終手段としては『アリ』な手ではあるのだ。

 

「パレスの主が誰なのか、ってのが分かってないつーのが結構キツイっすね。持ち主が誰かわかればそいつをふん縛っちまえば粗方解決するんでしょう?」

「どーだろ。モルガナの情報だと、パレスの持ち主は自分のパレスの存在を認識出来てないのに、パレスを作っちゃってるんでしょ?」

「そうね。持ち主を捕まえて隔離してもパレスは残ったままってことになる可能性の方が高いかも」

 

 完二さんのいうことも尤もだが、千枝さんと雪子さんの意見も正しい。

 自身が理解した上でパレスを作っているというなら、持ち主を捕まえて持ち主自身にパレスを崩壊させればいいのだが、本人が認識出来ていないものを破壊させるというのは実質的に不可能だろう。

 

「だから、『オタカラ』なのさ」

 

 テーブルの上で丁寧に焼かれたホッケを貪っていたモルガナがそう口にする。

 以前の話し合いでモルガナが出してくれた情報によると、パレスの存在を保っている核である『オタカラ』を奪い取ればパレスは崩壊するのだという。

 その方法でも、歪んでいるとはいえ欲望の核を奪い取ってしまうのでパレスの持ち主が廃人化する可能性はゼロではないが、パレスを魔法で吹き飛ばすよりもずっと廃人化のリスクを低減して穏便に事態を解決することが出来る手段だと言うのだ。

 

「確かに、何か大きな力の塊が存在してるのは分かるんだけどね。もっとしっかり探索してパレスの構造を把握できればいいんだけど」

「『オタカラ』が何処にあるかはパレス内を探索する必要がある。だが、あの包囲網の中でそれをするのは至難の業だな」

「結局、パレスの中で見つからずに探索する手段が必要ってことっすね」

 

 こうして振り出しに戻ってしまったパレスへの対策方法を考えるため、夜の営業が始まるまで居酒屋に居座って話し合ったり、各々の大学生活についての愚痴をはいたり、りせさんが芸能界の闇を愚痴ったり、直斗さんから若葉さんの捜索状況の報告を聞いたりした後、日も暮れていい時間になったので特捜隊が解散して各々帰っていくのを見送った後、俺もルブランへの帰路に就く。

 

 今日集まった面々を見て思ったが、やはり特捜隊のメンバーは認知異界をどうにかするということに対してのモチベーションは相当高いようだ。

 

 それもそうだろう。認知異界、そして悪魔の存在が人間の生活をどれだけ脅かしかねないかを彼らは身をもって知っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 この世界でのマヨナカテレビ事件(ペルソナ4)はゲーム通りの顛末になってはいない。

 

 ゲームではマヨナカテレビという異界の直接的な犠牲者は、山野真由美、小西早紀の二人のみだ。

 諸岡金四郎、『モロキン』と呼ばれていた八十稲羽高校の教師も犠牲者の一人ではあるが、彼の死自体には異界や異能は関与していない。

 そして、その後はテレビ(異界)に入れられる人間はいても取り返しのつかない事態になる事は基本的になかった。

 

 

 

 だが、この世界ではそうはならなかった。

 

 

 

 原因はいくつかある。

 一つ目に、元々悪魔が存在していたこの世界では、事件の黒幕であるイザナミが外部からの干渉を嫌って八十稲羽とその周辺を異界で囲い込んでしまい、外側からの干渉を完全に遮断してしまったこと。

 二つ目に、全く同じ時期に東京受胎もどきが発生し、強力な悪魔に魔人、そして人修羅がこの世界にやってきてしまったこと。

 三つ目に、俺を含めたヤタガラスの人員のほぼ全員が東京受胎もどきの問題に対応していたため、八十稲羽の状況を把握するのが遅れてしまったこと。

 四つ目に、社会からの抑圧と自意識の乖離によってペルソナ使いとしての力を発現しかけていた久慈川りせと白鐘直斗が悪魔に狙われてしまい、八十稲羽に行く前にペルソナに覚醒して裏の世界を知ってしまったこと。

 

 そして致命的な五つ目。

 東京での人間、悪魔、人修羅が入り混じった最終決戦の時に、天使が横槍を入れてきたせいで仕留めそこなった魔人、『トランぺッター』と『黙示録の四騎士』が強大な異界が展開されていた八十稲羽を襲撃し、久保美津雄と生田目議員を含めた霊的素養の高い複数人の民間人をマガツヒ回収の為に殺害してしまったことだ。

 

 これらのゲームとの違いと、この世界では八十稲羽土着の霊能一族だった『堂島家』の女性当主(堂島千里)その娘(堂島菜々子)がマヨナカテレビ事件と魔人案件に巻き込まれ、それに付随して『鳴上悠』『花村陽介』『里中千枝』『天城雪子』『巽完二』『クマ』の計六人で構成されていた『自称捜査隊』のメンバーが事件に首を突っ込んできたことで、原作の流れというのは完全に崩壊してしまったのだ。

 

 そして案の定だが魔人の襲来に引っ張られるように八十稲羽に無数の悪魔が現れ、それに対抗するようにイザナミやアメノサギリが自分の計画が成される前に人間に死なれては困るので、()()()()()()()()()()にテレビの中にシャドウに襲われない異界を作って引きずり込むようになる。

 

 多発する失踪事件、道路や建物に残る謎の破壊跡、原因不明の不審死の件数が目に見えて増加し、見知らぬ人間(ヤタガラスの異能者)が八十稲羽に大勢やってきて活動していたりと、あの時期の八十稲羽は変化の少ない片田舎とは思えないほどの激動の一年だった。

 そういった負の連鎖が積み重なったことで、結果的に原作よりも多くの人間が犠牲になってしまい、最終的な死者数はゲームだった頃とは比べ物にならない人数になってしまった。

 

 魔人の襲来という世界崩壊の危機が起きてその程度で済んで良かったと考えるのか、それとももっと被害を抑えられたはずと考えるのかは、人によるだろう。

 

 そうして色んな人間の心に大なり小なり傷を残すことになったマヨナカテレビ事件だが、特捜隊、ヤタガラス、SEESのフルメンバーを動員してこの世界に居座ろうとした魔人や悪魔を殲滅して、人修羅が元の世界に帰るのを見届け、どうにか表面的に平和を取り戻したのが、三年前の事件の顛末だ。

 

 ゲームだったら、大変な経験をしたけど何だかんだ上手くいって大団円となるのだろうが生憎とこの世界はそんなに優しく設計されていないようで、マヨナカテレビ事件以降も様々な事件が発生している。

 

 シャドウや悪魔といった人外が事件を引き起こすなら、彼らはそういう存在なのだと納得は出来なくとも理解は出来る。

 しかし、人間の悪意や欲望によって事件が引き起こされてしまうとそうもいかなくなるもので、実際に人間の醜悪さに耐え切れずにダークサマナーになってしまうサマナーも多い。

 特にこの業界に居ると人間の悪い面ばかりが目立って見えてしまい、心を病んでしまう傾向にあるのは否定できない。

 

(『幽遊白書』の仙水忍のように人間なんてクソくらえってなってしまうこともあるからな)

 

 今の所SEESや特捜隊のメンバーにそういう傾向はないが、今回の異界事件が人間の歪んだ欲望が原因だとすると、そういう人間の醜悪な部分に直面する可能性はゼロではないだろう。

 

(今後はその辺も気を付けていかないと、だな)

 

 やらないといけないことは多いし、先行きも不安ではあるが、ここで諦めるという選択肢は俺には存在しない。自分の出来ることをやり通すとしよう。

 




ペルソナ4からこの小説のプロローグの間では某唯一神の降臨計画がメシア教の中で立ち上がり、世界各地で騒動を巻き起こし始めたので、主人公とペルソナメンバーは土着の霊能組織と協力してメシア教を止める為に世界を飛び回っています。
ライドウとメサイアとイザナギの名前が世界中の裏側を知る組織の中で有名になった直接的な原因はこの時のメシアンとの闘いが原因です。

一番最初に主人公が襲撃していたメシア教会もその計画に加担しています。
人体を概念兵器に変える為の実験とか、人間の脳髄が原材料のマガツヒ回収機とか作ってたので粛清対象になりました。

残当な結果です。


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インタールード⑤

これにてインタールードは完了。
次回はアンケートの結果を反映してメンバーたちが主人公に向ける激重感情を羅列していきます。




 厳しかった冬が過ぎ、春の陽気を感じ始めた3月下旬。

 今日はルブランの定休日だったので、東京周辺の異界を探索する為に渋谷にまで足を伸ばしている。

 ここ最近はこれといった事件もなく、ルブランの手伝いをしながら時間を見つけてはパレスとメメントスを探索しつつ、双葉やヤタガラスの人員と共に一色若葉さんの消息を追う毎日だ。

 

 当初は相当の時間が掛かると思われていたパレス探索には大きな進展があった。

 何度もパレスを探索していた結果判明したことなのだが、パレスに入る際に非武装状態、つまり丸腰であればいきなり発見されるようなこともなく、ある程度活動が出来るようなのだ。

 この非武装状態というのは『武器』になり得る物を所持していなければいいのだが、そうなるとパレス内にうようよしているシャドウと悪魔にはペルソナ能力や自前の異能で対応するしかなくなる。

 だが、パレス内でペルソナや悪魔を召喚したり、魔法を使用すると今までと同じようにシャドウ達に包囲されてしまうのだ。

 

 こうなってくると探索のやり方と各々の役割というのは明確になる。

 単純な肉弾戦(ステゴロ)でもシャドウを叩きのめすことができる俺と明彦さんと真次郎さんが城内の探索をしつつ、もしも敵に見つかったら速やかに目撃者を物理的に黙らせてパレス内の探索を続ける。

 そして他のメンバーは危険の少ないパレスの外側でパレス自体の構造の把握と、もしもの時のバックアップ要員として待機という役割分担で探索を行うようになった。

 このパレスの仕組みに気付いてから今日で大体二週間程度経ったが、パレス外周の構造と城内の一部はマッピングが完了しているし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 後は、武装した状態でもパレスに潜入出来る方法を確立させてしまえば完璧なのだがな。

 

 それにしても、嘗ての五輪金メダリストも人には言えない欲望を抱えていたということだろう。

 まあ、個人の妄想の中で完結している欲望ならどうこう言うつもりはないが、パレス内で生徒の姿をしたシャドウに対して行っていたような、可愛がりと称した暴行や女生徒へのセクハラ行為を現実の学生に日常的に対して行っているのだとしたら、いよいよもって救いようがなくなってしまうな。

 実際、『鴨志田卓』のシャドウの蛮行を目の当たりにした明彦さんや真次郎さんは、『これじゃ、俺…こいつを守りたくなくなっちまうよ…』と言いたげな表情をしていたのだから、鴨志田へ向けられるヘイトは相当な物になってしまっただろう。

 

 ヤタガラスに調査結果を報告した時に開かれた局長クラスが集っていた幹部会議では、『最悪の場合はパレスを消し去ることも止む無し』と結論が出た辺り、上層部は鴨志田を必要な犠牲にすることに躊躇いはないだろう。

 扱いは完全に執行猶予付きの要監視対象といったところだろう。

 

 パレスの探索がおおむね順調なのに対して一色若葉さんの捜索は現状手詰まりの状態だ。

 霊視や千里眼、過去視といった能力を持つ異能者の手を借りて色んなアプローチで若葉さんを捜索したが、分かったことはごく僅かだった。

 

 現状で若葉さんについて分かっていることは、『生きていること』『日本国内にいること』ということのみだ。

 ヤタガラスの精鋭がプライバシーガン無視で異能を悪用して捜索しているのにこれ以上の情報が出てこないということは、十中八九若葉さんは外界から隔離された異界に居ると考えるのが妥当だろう。

 強力な主が治める異界は、大体異界の外側からの干渉を弾く性質を備えているので霊視や千里眼が効果を発揮しなかった理由にも説明がつく。

 そうなると今度は何処の異界に囚われているのかが問題になるが、この国には大小様々な異界が存在してて、それを全部虱潰しで捜索するとなると相当に骨が折れるのだ。

 今もヤタガラスのデータベースに登録されている異界の情報から人間が生存可能で国内にある物に限定して捜索しているが、成果は出ていない状態だ。

 

「ままならないものだな」

 

 焦っても仕方ないが、早く見つけるには越したことはないので、若葉さん捜索を兼ねた今日探索する予定だった異界に向かう為に歩き出そうとすると、俺の目の前をいつか見た青い蝶が横切る。

 目を擦ろうが、瞬きをしようが俺の目の前から消えずに何処かへ誘導しようと羽ばたいている蝶の行動から察するに、どうやら俺についてきて欲しいらしい。

 

(他の人間には見えていなさそうだな)

 

 青く輝く燐光を纏いながら飛ぶ蝶なんて凄まじく目立つはずだが、俺以外の人はまったく騒いでいないので、どうやら俺以外にはあの蝶は見えていないようだ。

 何かしら理由があって俺の前に現れたのは明白なので、裏路地に向かってゆっくりと飛び始めた蝶を取り敢えず追いかける。

 

(青い蝶って時点で誰の使いなのかは明白だがな)

 

 俺が追いかけ始めたのを確認したのか、青い蝶は次第にスピードを上げて渋谷の細い裏路地に迷いなく飛び込み、結構な速度を出して飛んでいく。

 ごちゃごちゃした裏路地を飛んでいるので、蝶の姿を見失わないようにしながら暫く進むと、周りに何もない広場に建てられた怪しげな雰囲気の建物に辿り着く。

 

Velvet Room

 

 建物に辿り着いたと同時に蝶は役目を終えたかのように消えてしまい、英語表記でベルベットルームと書かれた青いネオンの看板が掲げられた建物の扉が内側から開かれる。

 

「ようこそいらっしゃいました。お久しぶりです、ライドウ様」

「無事だったんだな、『テオドア』」

 

 店の中から出てきたのは、銀髪に黄金の瞳というベルベットルームの住人に共通する特徴を持った懐かしい人物だった。

 ペルソナ3の事件以降、現実では殆ど会うことがなかった彼がどうして渋谷にいるのだろうか。

 いや、あの偽イゴールの元から逃げきって、その後本当のベルベットルームを取り戻す為に此処に店を構えているのだろうか。

 

「どうぞ中へ。姉上達も首を長くして待っています」

 

 テオドアに促されるまま店の中に入って椅子に座ると、まず視界に入ったのは青を基調とした落ち着いた雰囲気の内装だ。

 広い空間を活かして一段上にあるグランドピアノと歌姫が良く見えるような位置にテーブル席が配置されている。

 そして今も歌っているあの歌姫は、まさか『ベラドンナ』か? ゲームではベルベットルームのBGMは彼女が歌っているという設定だったが、まさか姿を見ることが出来るとはな。

 

 店の壁沿いには青いガラスで作られたカウンターが置かれ、その背後にはこの世界では見たことない銘柄のボトルが無数に並べられシェイカーや様々な形をしたグラスの手入れも十分に行き届いているようだ。

 このバーは前世でも数回しか行ったことがないような高級感のあるバーと言っても過言ではないだろう。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ。貴方の来訪を我等一同、心よりお待ちしておりました」

 

 どこかで聞いたことのある声がして振り返ると、一際大きな椅子に座ってこちらを見ている銀髪金眼の美女、今世では初めて会うエリザベスがそこにいた。

 よく見ると俺の出迎えをしてくれたテオドアはいつの間にかバーのカウンターに立ってグラスを磨いているし、何やら大きな本を膝の上においてこっちを見ているマーガレットの姿もある。

 そして、俺の知らない鏡写しの様な双子の少女が物騒な処刑器具を手入れしている姿もそこにはあった。

 

「お初にお目にかかります。私の名は『エリザベス』。以後お見知りおきを」

 

 そう言って恭しく礼をするエリザベスの姿を見るに、本当に彼らはここで俺を待っていたらしい。

 

「どうして、現実に?」

「我らが主が囚われてしまい、本当のベルベットルームへの出入りが禁じられてしまったからよ。貴方にも心当たりはあるはず」

 

 そう言ったのは、およそ二年ぶりぐらいの再会になるマーガレットだ。彼女のその言葉に合致する記憶が確かにある。というか、つい最近遭遇した奴だ。

 

「あの偽イゴールか」

 

 俺のその言葉にベルベットルームの全員が頷いているところを見るに、どうやら正解だったらしい。

 偽イゴールも言っていたが、ベルベットルームの住人はメメントスから逃げ出すことが出来たようだが本来の住処であるベルベットルームに帰ることが出来なくなってしまったということだろう。

 

「我らがここに居座らざるを得なくなったのは、我らの主を騙るあの存在が原因です」

 

 エリザベスのその言葉から続く話をまとめると、おおよそ以下のようなことがあの精神と物質の狭間にある本物ベルベットルームで起きたらしい。

 

 ある日、イゴールがとある存在(正体は教えてくれなかった)から拒否不可能な賭け事(ゲーム)を持ち掛けられ、そのゲームの駒として俺ともう一人の人間がトリックスターとやらとして選ばれたらしい。

 

 イゴールはゲームを持ち掛けられた段階で、ゲームの駒として選ばれた人間は大きな困難に立ち向かわざるを得なくなることを把握しており、ゲームに勝ちうる人間を駒として選んだのだという。

 だが、ゲームを持ち掛けた側は端からまともなゲームをするつもりはなく、油断したイゴールを捕まえて彼の力を奪い取り、ベルベットルームの住人達をも捕らえたのだという。

 

 そして、そいつ(異界の主とでもしておくか)がいざゲームを始めようとした時に、タイミングが良いのか悪いのか、俺が渋谷にやってきてメメントスの存在に気付いてしまった。

 当然、異界の主としては完成していないメメントスに気付いた者を放置するわけにはいかず、いくらでも替えの効くゲームの駒である俺と、ついでに一緒にいたモルガナを排除しようとしたのだという。

 

「貴方の力を甘く見ていたのでしょう」

 

 俺が何の力も持たない普通の人間だったら容易く排除されていたのだろうが、生憎と俺は普通ではなかった。

 結局差し向けた膨大な数のシャドウと悪魔は俺とモルガナと琴音さんに駆逐され、虎の子の刈り取るものも排除されてしまった事で異界の主は一時的に力が弱まってしまったのだという。

 当然だが異界の主の力が弱まれば囚われていたベルベットルームの住人達への拘束も緩むこととなる。

 

「稀代の大脱出劇の始まり、でございます。貴方に見せられなかったのが残念です」

 

 異界の主に直接捕らえられていたイゴールを連れ出すことは出来なかったそうだが、他の住人は隙を見て逃げ出し、異界の主の影響から逃れるために現実のこの場所に拠点を作ったのだという。

 

「いずれ出迎える予定だった貴方という契約者には、完璧なベルベットルームを提供したかったのですが、主のいない我々では現実と虚像、物質と精神の狭間にある空間にこの場所を構築するので精一杯でした」

 

 グラスを磨き終わったテオドアがそう言いながら、どこか悔しさを滲ませるエリザベスの姿に苦笑いしながら近づいてくる。

 テオドアから手渡されたショットグラスには蒼く透き通った液体が入っていた。ウェルカムドリンクという奴だろうと判断して手渡されたカクテルっぽいものを一気に飲み干す。

 

「あ、アルコールは抜きか」

「アルコールの提供は貴方がこの国基準での大人になってから、ですね」

 

 口の中に広がる香草系の味を楽しみながらグラスをテオドアに返すと、椅子に座っていたエリザベスが立ち上がって俺の方にやってくる。それに合わせるように他の住人も俺の傍にやってくる。

 エリザベスが行動の発端になっている所から察するに、どうやらイゴール不在のベルベットルームはエリザベスが取り仕切っているらしい。

 

「貴方様をお呼びしたのは他でもありません。契約者に協力するのが我らの存在意義。歴代の契約者様と同様に貴方様にも万全のサポートをお約束します」

 

 エリザベスのその言葉を合図に『力を司る者たち』が、椅子に座っている俺の前に整列する。

 全員の顔面偏差値が凄まじく高いので妙な迫力があって、自然と俺の背筋も伸びてしまう。

 

「私エリザベスが、悪魔の合体と強化を担当いたします。そして、妹のラヴェ……失礼。カロリーヌとジュスティーヌはペルソナの合体と強化を」

 

 悪魔合体!

 マジか。この世界には業魔殿も邪教の館も存在しなかったので、契約した悪魔を強化するにはマガツヒの大量供給や特別なアイテムを与えるしかなかったのだが、ここで悪魔合体が出来るようになるのならヤタガラス全体の戦力アップも夢じゃないぞ。

 

 それにペルソナの合体と強化が出来るようになったのもデカい。

 俺のペルソナがブギーマンだったころは成長と共に様々なスキルや魔法を覚えていたのだが、アルセーヌには覚えるスキルや能力の成長に制限がある様で、ある時から新しいスキルや魔法を一切覚えなくなってしまったので、タルタロスやマヨナカテレビで拾ったスキルカードでスキルを無理矢理構成していたのだが、ワイルド能力に覚醒してペルソナ合体も出来るようになるというならこれを使わない手はない。

 

「あたしは、カロリーヌ。我らが主が見込んだその力、しかと見極めさせてもらうぞ」

「わたしは、ジュスティーヌ。貴方が真のトリックスターとなりうるように尽力いたします」

 

 右目に眼帯をしていて勝気な方がカロリーヌ、左目に眼帯をしていて冷静な方がジュスティーヌね。

 ちゃんと覚えておこう。

 

「マーガレットお姉さまは悪魔全書とペルソナ全書の管理を担当いたします」

 

 マヨナカテレビ事件の時に何度も顔を合わせているマーガレットが俺に向かって会釈する。

 ベルベットルームが敵に襲撃されたことはペルソナ使いの中では共有しているので、住人達が無事だったことは後で連絡しておこう。

 琴音さんも悠さんも安心するだろう。

 

「そして、テオドアは特別な力を付与するカクテルの提供とアイテムの販売を担当いたします。因みに今しがた貴方様が飲んだ物は戦闘で取得する経験値を増やす効果があります」

 

 ゲームだったら新要素追加って感じか。この感じだと獲得金アップとかエンカウント率アップとかありそうだし、色々とお世話になりそうだ。

 

「今後私たちが提供するサービスは以上となります。そして最後に、我等の主が残した贈り物を貴方に」

 

 エリザベスがそう言うと、サイレントマナーモードにしていた筈のスマホが震えて、アプリをインストールした時の完了音が鳴る。

 ズボンのポケットからスマホを取り出して確認すると、青を基調としたアイコンに『閉じた目』が描かれたアプリがインストールされていることに気付く。

 

「それは、『イセカイナビ』。それを起動してキーワードを唱えればパレスに正当な形で侵入する事が可能です」

「正当な形で、か」

 

 なるほどな。パレスに入った瞬間にシャドウに取り囲まれていたのは異界への入り方が間違っていたからか。

 非武装状態であればパレスに迷い込んだただの一般人扱いになって、パレスの主に認識されていなかったのだとすれば一応の筋は通るか。

 

「今までは完全武装した状態で強盗のように押し入っていたけど、イセカイナビを使ってパレスに入れば、偽装したIDを使うみたいに騒ぎを起こすことなく不法侵入できるってことか?」

「その認識で間違いありません。イセカイナビを使っての侵入であればどれだけ武装していても問題ありません。人数制限もございません。主の渾身の一作ですので」

 

 基本的に異界に侵入する行為は、押し入り強盗のそれに近い。

 異界の主の領域に無断で侵入し異界の住人(シャドウや悪魔)を倒しながら色んな場所を隅々まで探索して貴重品を根こそぎ奪い取って自身の目標を達成する。

 

 事実を羅列すると中々にひどいが、これらの行為を今回は異界の主に気取られることなくこなす必要があり、その為のツールとしてイゴールがイセカイナビを用意してくれたのだろう。

 初めて会った時からそうだが、色々と手助けしてくれているイゴールには頭が上がらないな。

 

「イゴールには助けられてばかりだな」

 

「だから」

 

「今度は俺が彼を助ける番だな」

 

 ベルベットルームを乗っ取り、イゴールを捕らえた異界の主にはシッカリと覚悟を決めておいて欲しいものだ。

 なにせ、当代のライドウとニュクスを宿した琴音さんと国生みの大神を宿した悠さんがいずれお前をブッ飛ばしに行くのだから。

 

 余談だが、再会したベルベットルームの住人から色んな話を聞いたりテオドアが取り扱ってる商品の確認をしたりして、時間を忘れるくらいにベルベットルームに入り浸っていたせいで見事に今日やるはずだった異界探索をすっぽかし、同行予定だった琴音さんにこっぴどく説教されてしまったのだった。




ふと思ったんですが、原作がある世界に転生して、物語上の重要な事件が起きた正確な日時と場所を覚えていることってあるんでしょうかね。
正直、ただゲームとしてプレイしている最中にその辺の情報を完全に記憶して、ずっと保持してる人ってどのくらいいるもんなんでしょう。
どんな事件があったかは言えても、いつ、何処で、何時何分何秒のタイミングで起きるのかを把握してずっと覚えておくのは無理な気がしてます。


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閑話 それぞれの思い

次回から本編始まります。
長かった。。。


汐見琴音

・命の恩人。世界で一番好きな人。向ける感情は惑星級。

・自分は断じてショタコンではない。彼を好きになったタイミングが早かっただけというのがいつもの言い訳。

・もう少し時間が経てば年齢差なんて誤差ですよ、誤差!

 

桐条美鶴

・桐条家の業を清算してくれた恩人。彼が望むならどんな願いも叶える所存。

・恋愛下手なので、琴音とゆかりの猛アタックにはついて行けないため、桐条家のメイドや母親からアドバイスを受けつつアタック中。

 

岳羽ゆかり

・父の真実を教えてくれ、仇を討つことに協力してくれた人。現在は琴音と共に猛アタック中。

・出会った当初はただの可愛い後輩だったが、少年から青年になり、男になっていく姿を見続ける内に好きになってしまっていることに気付く。

 

山岸風花

・可愛い弟分。現状恋愛感情はないが、将来的にどうなるかは不明。

・高校で親友になった友達からは優良物件は早く手に入れるべきと言われてる。

 

アイギス

・世界で二番目に大切な人。一番は琴音。

・自身の稼働時間が続く限り、琴音の血族を守っていくつもりなので、琴音とライドウがくっつけば結果的にライドウの血筋も守れると思っている。一度で二度おいしい。

 

真田明彦

・大事な弟分。妹が存命だったら義弟にするべく奔走しただろう。

・世界を巡って悪しき強者を挫き、正しき弱者を救うという日々を提供してくれている事に感謝している。

 

荒垣真次郎

・ペルソナの暴走を止めてくれたことで、誰かにとっての大切な人間の命を奪わず済んだことは感謝してる。

・ただ、人の恋愛を心配するよりも自分に向けられている無数の矢印は早く処理して欲しいと思っている。

 

伊織順平

・天使や悪魔との戦いで蓮の強さを目の当たりにして嫉妬していたが、戦いの中で人となりを知り、交流を深めるにつれて自分よりも年下の小学生に負担を掛け、自分が大して役に立っていない事実に心を折りかけたが、ハム子の言葉を受けて一念発起。

・ひたすらに努力を重ねて、チドリを守り、自分の在り方を見つめ直し、今では頼れる兄貴分を張れるようになったと自負している。

 

天田乾

・恩人。母の命を救ってくれて色々と助けて貰っているので頼りにしているし、尊敬しているが、女性関係でいずれ刺されそうだなとは思っている。

・とりあえず、爆発すればいいと思います。

 

コロマル

・美味しいご飯をくれる人。

・琴音と蓮が群れのトップだと思っている

 

桐条家の人々

・娘/お嬢様の旦那候補。

・護國組織ヤタガラス所属で葛葉の次期当主という優良物件を囲い込む為色々と画策中。

 

望月トキメ/ニュクス・アバター

・わたしを殺してエレボスをも殺したおもしれー男。

・昔は凄まじく警戒されていたが、ここ最近は態度が柔らかくなったので得した気分。夜這い未遂の記録更新中

 

鳴上悠

・魔人襲来時に久保と生田目を目の前で殺害され、心が折れかけた時に現れたヒーロー。遥か先を行くあいつに並び立つのが今の目標。

・恋人であるマリー一筋なので、色んな女性に優しくする悪癖は直した方がいいと思っている(おまいう

 

花村陽介

・魔人の馬鹿みたいな強さと悪魔の存在を知って誰かに縋るのではなく、自分も誰かを守れるように努力を重ねている。

・それはそうと、東京の大学に通っているのに全然モテないのはなぜ…?

 

天城雪子

・大事な後輩。旅館を継ぎつつ異能者として活動する道を示してくれた。

・マリー一筋な番長に激重な矢印を向けている。

 

里中千枝

・頼りになる後輩。将来的にはヤタガラス所属の異能者兼警察官の両立を目指している。

・マリー一筋な番長に巨大な矢印を向けている。

 

巽完二

・東京の有名な染物屋への修行の場を整えてくれた事に感謝している。

・ヤタガラスの仕事も染物屋を継ぐ夢も両立する為に努力中。

 

久慈川りせ

・大好き。ガチ恋勢。

・魔人:マザーハーロットに狙われて命の危機に瀕したところを助けられ、それ以降行動を共にする。アイドルを卒業したらいの一番に籍を入れる予定。

 

白鐘直斗

・ガチ恋勢。昔は恋愛に興味がなかったが、悪魔やダークサマナーが関係する事件を一緒に解決する内に恋愛感情が芽生える。

・ヤタガラスの存在は祖父を通して知っていたが、魔人や悪魔、ダークサマナーの暴虐を目の当たりにして、人的被害を抑える為なら実力行使も厭わない覚悟ガンギマリ勢。

 

クマ

・師匠。戦闘面でも恋愛面でも師匠と仰ぐお方。

・自身の正体がシャドウであることを悩んでいたが、蓮がその辺まるで気にしないしもっとヤベー奴(人修羅とか)とも仲良くなってるので割と救われている。

 

マリー/イザナミノミコト

・おもしれー奴。護国組織の主戦力が頼りになるのはいい事だと思っている。

・ウワキハヨクナイヨ。ユウ。

 

堂島家

・魔人襲来の時に妻と娘を救われた堂島遼太郎はヤタガラスに割と好意的。妻が異能者で娘もその兆候があるのでなおの事

・末端の異能者家系なのに、何故かヤタガラスが肝入りでアレコレ助けてくれることに戦々恐々としている。

 

足立透

・世の中クソだな!聞いてねーぞ、あんなチートバグ連中と戦うことになるなんて!

・それはそれとして、堂島一家を守ってくれたことにはガチで感謝している。ライドウの事は嫌いだけど。

 

ラビリス

・末っ子のアイギスが琴音とライドウのガチ勢になってて草も生えんわ

・シャドウワーカーに所属してて現在世界各地を転戦中。ウチにも人生の潤いが欲しいんやけど!?

 

皆月翔

・幾月修司の人体実験を何とか生き延び、ペルソナ3事件の時にヤタガラスに加わった。

・自分と同じような存在を生み出さない為に異能を悪用する奴を抹殺するダークサマナースレイヤーとして恐れられている。

 

真下かなみ(かなみん)

・東京への魔人襲来の時に蓮に助けられて守られたのと、P4D事件の解決に尽力してくれた辺りから自分の気持ちを自覚する。

・異能を持ってないので恋のダービーは出遅れ気味。そのうち弾ける。

 

峰津院ヤマト

・ライドウガチ勢。世界を守護する事に心血を注いでいる同世代の仲間がいるだけで無敵になれる男。

・都という妹がいるが、ライドウの正妻にする為に何故か女性陣の恋愛戦争に参加している。

 

迫マコト

・ライドウガチ勢。ヤタガラス時代は朝昼晩いつでも共にいて身の回りの世話に戦闘の補助にとライドウの右腕として大活躍。

・ライドウの恋愛事情は粗方把握している。

 

人修羅

・異なる世界で見つけた人の臨界点。カオスにもロウにも偏らず、人間の自由と社会の秩序を守護するその姿勢に影響を受けて、己の心の内から自分の『コトワリ』を見つける。

・もう誰かの思想に流される事はなく、己の心に抱いた『コトワリ』の為に、ボルテクス界もアマラ経絡も飛び出してアマラ宇宙を爆走中。

 

ホーク

・メシア教に作られた人工救世主。ヤタガラス所属になり、世界を守る事に心血を注いでいる。

・ライドウは仲間であり戦友であり親友。

 

佐倉惣次郎

・最初はどんな奴が来るのかと身構えていたが、思ったよりも普通の奴で安心している。

・真面目でいい奴なのだが、なんとなく違和感を感じている。

 

佐倉双葉

・ヤベー奴→おかあさんの捜索に手を貸してくれるいい奴→バチクソヤベー奴という感じで評価がコロコロ変わっている。

・自分が普段過ごしている世界は薄氷の上に作られた砂の城だった事を知り、自分の能力をフル活用して蓮の手助けをしている。

 

マーガレット

・大事な客人。

・トンでもない苦難の旅路を歩むことになってしまった自身の客人(鳴上悠)を助けてくれたお礼をする腹積もり。

 

エリザベス

・ようやく迎え入れることが出来た私の客人。

・いつまでも分裂したままだと、掻っ攫ってしまいますよ?

 

テオドア

自身の客人(汐見琴音)を死の運命から助けてくれた恩人。

・カクテルの提供はテオドアから提案していて、蓮に少しでも恩返しをしようとしている

 

カロリーヌ&ジュスティーヌ

・異界の主によって二つに裂かれたときに一部の能力と記憶の大部分を奪われてしまっている。

・エリザベス姉様とトリックスターの距離感が近いことにもやもやしてる。私のトリックスターなのに。

 

イゴール

・絶体絶命のこの状況をひっくり返すことが出来る、とっておきの切り札(ジョーカー)

・貴方の旅路に幸多からんことを。

 



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本編
第一話


初っ端から飛ばしていきます。
ゲームとは色々と展開が変わています。十分にご注意した上で観賞お願いします。


 俺がルブランに居候するようになってから既に四ヶ月が経ち、季節と年度も変わり世間は入学や進級シーズンとなった四月。

 いつもと同じ時間に起床し、今世では着ることはないだろうと思っていた高校の制服に袖を通して学園に通う準備を整える。

 

 白いハイネックセーターがアクセントになっている黒のジャケットにチェック柄のスラックスというデザイン性に富んだ制服には驚いたが、私立の高校だとこういうのが流行りなのだろう。

 着慣れない制服に違和感を感じながらも、制服の下に最新式のボディアーマーを着込み、懐に拳銃と小刀を隠してから、学校について行くと言って訊かないモルガナを鞄に詰め込む。

 

「うごご。おい、ワガハイこのままだとぺちゃんこになっちまうぞ!」

 

 教科書やノート、筆記用具等で既にパンパンな状態になっている鞄の窮屈さにモルガナが文句を言っているが、自分がついて行くと言い出したんだからこのくらいは我慢して貰わないと。

 往生際悪く文句を言ってくるモルガナを鞄に押し込んで階下に降りると、起きた時から漂っていたカレーのいい匂いが鼻腔を擽る。

 

「起きたか。蓮」

「おはようございます。惣治郎さん」

 

 この四カ月、時間があるときはルブランの手伝いをしてた事もあって、惣治郎さんを名前で呼ぶようになったし、惣治郎さんも俺を名前で呼ぶくらいには関係を構築できた。

 まあ惣治郎さんの態度が変わったのは、若葉さん捜索の打ち合わせの為に双葉が頻繁にルブランに出向くようになったあたりだったから、俺と双葉が仲良くなったことが大きな理由なのだろうが。

 

「学業をこなすにゃエネルギーが必要だろう? 特製カレーとコーヒーだ。食っていきな」

「ありがとうございます」

 

 惣治郎さんに促されるままにカウンター席に座って、用意されていたカレーを味わう。

 スパイスの配合、ルーに加えられた食材の種類と分量、米の炊き加減。それらすべてが調和して一緒に出されているコーヒーの味を引き立たせる。

 カレーを食べている内に数口。そしてカレーを食べきってからゆっくりと残りのコーヒーを味わう。

 たったこれだけの事なのに凄まじい満足感と幸福感が全身を駆け巡り、いつもよりも頑張れそうな気になってくるのだ。

 

「それにしても、あれで教師とはな」

 

 カレーを食べてる俺を眺めていた惣治郎さんが、眉間に皺を寄せながら苛立ちを隠せない口調で言い放つ。

 教師…? ああ。昨日挨拶に行った時に会った秀尽学園の校長と俺の担任になる女性のことか。

 

「まあ、聖職だなんだと言っても結局は人間ですから。本音を言えば『前』のある人間の面倒なんて見たくはないでしょうし」

「ふん。聖職が聞いて呆れる」

 

 教職というと世間では子供達の未来を導く尊い職業とされているが、実情はそんなにいいものではないのは明らかだ。

 無茶苦茶サービス残業させられたり、救いようのない生徒の面倒を見なきゃいけなくなって重責を背負わされたり、生徒に手を出して逮捕されたりもしているのだから、他の職業と同じように特別でもなんでもない、ただの職業だと考えるのが妥当だろう。

 むしろこの多様性を受け入れようとし始めている社会では、生徒一人一人を大切に思って真面目に指導している教師の方が絶滅危惧種だろう。

 

「目を付けられないように、当たり障りなく過ごしますよ」

「そうしておけ。学校なんて社会に出るまでの小さな箱庭でしかねぇんだ。必要を感じないなら、上手くやり過ごしちまえばいいのさ。ただし、成績は上位をキープしとけよ。保護観察の経過を報告する時に心証がよくなるからな」

 

 そんな現代の教育論に中指を立てる様な惣治郎さんの言葉に頷きつつ、食べ終えたカレー皿とカップをカウンター奥の流し台に置いてからモルガナ入りの鞄を背負ってルブランの外に出る。

 

「行ってきます」

「おう。気を付けてな」

 

 ルブランの前の細い道を通って大通りに向かい、四軒茶屋駅を目指す。

 四軒茶屋駅近くの段階で既に満員寸前の電車だが、渋谷駅を経由した時に乗車してきた人々が駅員に押し込まれるようにして電車に詰め込まれていく都会特有の混雑具合に耐えていると、学園に一番近い蒼山一丁目駅に到着する。

 

 人の波に流されながら到着した蒼山一丁目駅は、今の俺と同じ格好をした学生でごった返しており、新年度が始まったばかりということもあってか何処か浮ついた雰囲気がある。

 

「うわ、マジか」

 

 駅から地上に出ると同時に、曇り空からポツポツと雨粒が降ってきている事に気付く。

 朝一の天気予報では今日一日は曇り空でも雨は降らないという予報だったのだが、どうやら東京の天気予報は八十稲羽の天気予報ほど正確ではないらしい。

 いや、まあ、八十稲羽の方はマリーが能力で気象操作しているので本当は予報とは言えないのだが。

 

 周囲を見渡すと、俺と同じように傘を持っていない生徒が雨宿りしていたので、それに倣って俺も手近な場所で雨を凌ぐとしよう。

 雨が止むことを願う俺の想いとは裏腹に、次第にスコールの様な勢いになり始めた雨から逃れるために、雨が入り込んでこないくらいに入り組んでいて、車からの水はねを避けることもできるような位置にある軒下に移動して雨宿りをしていると、俺が居る場所に誰かが駆け込んでくる。

 

「もう、最悪」

 

 俺と同じ軒下に逃げ込んできたのは秀尽学園の生徒だった。

 雨を避けるために被っていたであろう白いパーカーのフードでは雨を完全に遮ることは出来なかったようで、フードの下から顔を覗かせているボリュームのある金髪は雨に濡れてしまっている。

 

 ジロジロ見るのもマナー違反なので女生徒から視線を逸らして未だに大雨が降っている大通りの方に視線を向けると、大通りの方にもソコソコの人数の生徒が俺達と同じように雨宿りしているのが見える。

 道路に近い場所で雨宿りしている生徒たちは稀に通る車の水はねで、ずぶ濡れになっているようなので道路から遠い場所に移動しておいて正解だった。

 

「うひー。マジでびしょ濡れだぜ」

 

 未だに雨が降り止む様子の無い雨空を眺めていると、派手な明るい金髪と制服を着崩した日本のヤンキーのテンプレを踏襲している男子生徒が、上着を傘のようにして雨を凌ぎながら俺たちが居る軒下に飛び込んでくる。

 

 割と長い間雨に打たれていたのか、上着を雑巾のように絞って水分をおとしながら女子生徒と俺を追い越しながら、更に路地裏の奥の方に進んでいく。

 

「そっちに何かあるのか?」

「あ?」

 

 男子生徒がどこに行こうとしているのか気になったから呼び止めただけなのだが、何か気に入らないことがあったのか男子生徒からガンを付けられてしまう。

 俺が純粋な疑問から質問していたことを察したのか、男子生徒はバツが悪そうに頭を掻きながら路地裏の奥に行こうとしていた理由を話してくれる。

 

「あー。こっち近道なんだよ。室外機とかがちょうどいい雨よけになってるから大して濡れずに学校まで行けるぜ?」

「ついて行ってもいいか? 転校初日で遅刻はマズいんだ」

「…なるほど、転校生か。どおりで俺に普通に話しかけるわけだ」

 

 なんだか普段は他の生徒から話しかけられるわけがないとでも言いたげな言い回しだが、何か事情があるのだろうか。

 俺が訝し気な表情をしたことが分かったのか、男子生徒が気を取り直したように俺に笑いかけてくる。

 

「まあいいや。俺、坂本竜司。お前は?」

「雨宮蓮」

「よろしく。んで、高巻はどうすんだ。このままだと遅刻だぞ」

 

 これまで俺たちの会話には一切参加することなくスマホを見ていた女生徒に向かってそういう坂本。

 名前を呼ばれた高巻という生徒は、不機嫌そうな表情をしながらもスマホを仕舞ったので、俺たちについてくるつもりらしい。

 

「んじゃ、行くか」

 

 厚い雲のせいで薄暗さに拍車がかかっている路地裏を坂本の言う通りにしばらく進むと、ここ最近何度も見た秀尽学園の校舎が近くに見える位置まで来ることができた。どうやら坂本のお陰で遅刻せずに済んだらしい。

 

「そういや高巻、お前まだ()()()()()気取りの()()()()センセーとは仲良いのか?」

「はぁ?」

「いやぁ、さっき路地裏に入る前に鴨志田が赤毛と茶髪の双子っぽい一年生に絡んでたからさ。気になってよ」

 

 俺達が雨宿りをしていた場所からは道路は見えなかったから気付かなかったが、表通りではそんなことが起きていたのか。

 女子に執拗に車で送ろうかとか聞いてた姿はマジでキモかったぜ? という続けざまに放たれた坂本の台詞に高巻の表情が曇る。

 

「あんたには関係ないでしょ。ってか、変な事言ってるとまた目を付けられるわよ」

「ま、そうだな。今の()()()()で野郎に逆らう奴なんかいないもんな。チクりたければ好きにしていいぜ?」

 

 そんな風に言い合いをしていた二人を諌めようと彼らに近づこうとすると、一瞬視界が歪んで眩暈のような感覚が襲い掛かってくる。

 特段体調が悪いわけでもないのに眩暈がするなんて。

 まあ、そこまで酷いモノではなかったから良かっ……いや、違う。()()()()()()()()

 

認知が歪む

 

 一瞬の眩暈を振り払って意識をハッキリさせると、ついさっきまではスコールのような大雨が降っていた筈なのに、今では雨粒一つ落ちてきていない天気に切り替わっている。

 そして、目の前にあった何処にでもある私立校の校舎も()()()()()()()()西()()()()()に変化してしまっていた。

 

(馬鹿な、イセカイナビは起動していないはず)

 

 慌てて自分のスマホを確認するが、スマホにインストールされている俺のイセカイナビは起動していない。

 であれば何故俺やモルガナだけでなく坂本や高巻がパレスに侵入出来て、いや、今はそんなことよりも一般人を避難させるのが先だ。

 

「坂本、高巻、一旦戻ろう」

「はあ? 何言ってんだよ。雨も止んでるし今のうちに入ろうぜ」

 

 多少困惑しているようだが、普段通っている学校が巨大な城に変化するという明らかな異常事態にも拘わらず、城になってしまった学校の中に入ろうとする坂本と高巻。

 

(クソ、そうか。パレスの特性!)

 

 事前のヤタガラスの調査で判明していたことなのだが、このパレスという認知異界には微弱な魅了効果があり、この手の魔法に耐性の無い人間の危機感をかなり希薄にしてしまっているようなのだ。

 魅了効果自体は大したことがないから、強引にパレスから連れ出してしまえば魅了は解けるし、後遺症などもないが、咄嗟に正常な判断が出来なくなるというのが厄介だ。

 

「いいから、早く!」

 

 俺のタダならない様子に、二人は驚いた様な表情をするがそれに構っている暇はない。

 隠し持っているとはいえ、武装した状態でイゴール製のイセカイナビを用いずにパレスに侵入してしまった以上、もうすぐ城の中からシャドウが溢れ出てくるのは確定している。今ならまだ逃げ出すことが出来る。早く撤退を

 

 

「『アイスエイジ』」

 

 

 それは、ほんの一瞬の出来事だった。

 

 撃ち出された銃弾のような猛スピードで上空から飛んでくる氷柱の津波(アイスエイジ)に気付いた俺は、躊躇うことなくアルセーヌを召喚し、坂本と高巻をその両手で掴んで安全圏に避難させ、モルガナ入りの鞄をアルセーヌに向かって放り投げる。

 パレスに侵入したことを認識した瞬間から十分に警戒していたから辛うじて反応できたが、あと少し気付くのが遅れていたら無数の氷柱に串刺しにされて俺達は全員死んでいただろう。

 

(坂本と高巻は避難させた。モルガナも大丈夫。なら後は自分の身の心配!)

 

 奇襲されて自身の意識が戦闘用のそれになった瞬間に、足元から立ち昇ってきた蒼い炎に包まれた俺の服装が切り替わる。

 

 真っ黒な外套に濃い灰色のインナー、黒のズボンと黒の革靴。

 顔に張り付いた目元を覆い隠す白い仮面と真っ赤な手袋という怪盗モノの映画に出てきそうな恰好になった俺は、押し寄せる氷柱をすべて躱し、懐から小刀と拳銃を取り出して油断なく構える。

 

「なんだ、服が変わった!?」

「ってか、この赤い巨人は何!?」

 

 いきなり俺の服装がガラリと変わったことと、突然現れたアルセーヌに後ろの二人が驚いている声が聞こえてくるが相手をしている暇はない。

 

 ベルベットルームでイセカイナビを受け取ってから、パレスやメメントスに潜ったことで判明したことなのだが、このイセカイナビを持った人間が異界に侵入して戦う意思を示すと特別な装束、モルガナが言うところの『怪盗服』とやらに服装が切り替わるのだ。

 

 モルガナやベルベットルームの住人曰く、この怪盗服は認知異界に対しての防衛反応であり、『反逆の意思』の表れらしいが今のところ俺とモルガナにしか発現していない現象なので、どういう原理なのかはまるで把握出来ていないのだが。

 

「モルガナ、二人の護衛を頼む!」

「ああ、任された!」

 

 放り投げられた鞄から抜け出したモルガナは、現実世界での黒猫の姿から二足歩行のマスコットキャラクターの様な姿になり、自身のペルソナを呼び出して坂本と高巻を守るように立ちふさがる。

 

 これで取り敢えず一般人二人の安全は確保できた。

 後は、目の前のこいつをどうにかしてパレスから脱出するだけなのだが、大きな翼を広げた悪魔(天使)の立ち姿には全く隙が無く、下手に逃げ出せば痛い目に合うのは確実だ。

 

「見たことある(ツラ)だな。何処かで戦ったか?」

 

 相対している天使の全身から放たれているピリピリと肌を叩くマガツヒの奔流から察するに、凄まじい力を持った天使なのは間違いないだろう。

 

「私は純潔を守護する大天使『ガブリエル』。我らの崇高な目的を破綻させた貴様を、この手で始末する日を待ちわびていました」

「ガブリエルだと?」

 

 ガブリエルと言えば、五年前のタルタロス案件と並行して対処していた、辰巳ポートアイランドにTOKYOミレニアムを作ろうとしていた四大天使の一体だ。

 だが、奴の言葉が本当だとすると妙な話だ。あの時現れた四大天使は全員確かに討ち滅ぼした筈だ。

 

「成程。あの時の連中は分霊だったのか」

「そうです。高々人間を支配する為に本体で出向くわけがないでしょう?」

「その慢心の結果、大事な大事なカテドラルとTOKYOミレニアムは爆発四散したんだったっけか? あれは傑作だったな」

 

 鼻で笑いながら五年前の事件で一番スカッとした出来事を俺が口にした瞬間、ガブリエルの青白い顔色が激怒によって赤く染まる。

 そしてその激情を隠そうともせず、全身に光のオーラを纏わせて、俺に向かって強力な氷結魔法(ブフダイン)を放ってくる。

 

「死ね、異端者!!!!」

 

 繰り出された魔法の威力は大したもので、回避した氷の塊が地面に当たった瞬間に石畳を爆散させて土埃を巻き上げる程だ。

 この攻撃魔法の威力的にガブリエルの本体か、それに近しい高位の分霊なのは間違いなさそうだ。

 

 無茶苦茶に放たれる氷魔法を小刀で弾き、躱し、時々自作の攻撃アイテム(業火の勾玉)拳銃(FN-FiveSeven)でカウンターを入れる。

 お互いに様子見程度の攻防だったが、俺とガブリエルの間に力の差がどのくらいあるかはハッキリ理解できた。

 

 今のこいつは()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()

 

 だが、その強大な力の使い方は下手くそと言ってもいい。力で上回っているのに不意を突いた人間一人殺せない所を見るに、付け焼き刃の力に振り回されているという感じか。

 

(今のこいつならつけ入る隙はあるが、本格的な戦闘をすると二人を巻き込む可能性が高いか)

 

 今はモルガナが守ってくれているが、本格的な戦闘になったら奴は凶悪な全体攻撃魔法や即死攻撃を連発してくるのは目に見えている。

 モルガナもこの四ヶ月で十分に強くはなったが、流石にこのレベルの大天使を相手に一般人を庇いながら戦うのは不可能だろう。

 パレスに大天使の本体が居ることもヤタガラスに共有しておきたいし、ここは切り札を一つ使ってでも撤退を優先するべきだな。

 

 次に奴が隙を見せたら悪魔を召喚する為に、相対しているガブリエルに気付かれないよう懐に忍ばせている緑色の液体が入った金属製の筒(封魔管)にマガツヒを送り込む。

 

 互いに次の攻撃への準備を完了させ、膠着状態から事態が動こうとした次の瞬間、野太い男の声が戦場に響く。

 

『手古摺っているようだな?』




今度は準備を怠らずに武装した状態だったのがアダになってます。
まあ、異能に目覚める素質がある時点で竜司も杏も裏側の事情に巻き込まれるのは確定してましたが。

主人公の怪盗服の色は結構迷いました。
スマブラSPのカラーバリエーションで存在する『怪盗・赤』やコトブキヤさんから海外限定で出てるフィギュアのレッドカラーが5のイメージカラーによく合ってるんですが、今回は断念しました。


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第二話

ルビコンを三周してたので遅れました。
今はスターなフィールドを駆け回ってます。

皆さんは今年の水着鯖は全員ゲットできましたか?
水着メリュ子が今、一番癖に突き刺さってます。


「手古摺っているようだな」

 

 突然聞こえてきた低く野太い声。

 その声の主は、キッチリと閉じられていた筈の城壁の門を開いて俺達のいる場所に悠然と歩いてきている。

 

「…何の用ですか、『アスモデウス』」

 

 いたる所から棘の生えた真紅の骸骨といった見た目の悪魔・アスモデウスは、両脇にほぼ全裸の女性に見えるシャドウを引き連れていて、それを見たガブリエルが眉を顰める。

 

「なに、偉そうな事を言って出て行った割には、たかが人間一人仕留められん間抜けを笑いに来ただけよ」

 

 アスモデウスと呼ばれた悪魔に煽られたガブリエルの額に青筋が浮かぶ。

 天使と悪魔が凄まじく仲が悪いのはいつも通りだが、純潔を司るガブリエルと色欲の大罪の象徴ともされるアスモデウスが同じ空間に居て、問答無用の殺し合いに発展していないとは。

 お互いの感情を無視してでも共存する理由が、このパレスにあるってことか。

 

(…カモシダ(鴨志田のシャドウ)は居ないか。どうやら奴らもこのパレスを維持するのに必要なモノが何なのかは理解しているようだな)

 

 パレスの仕組みをモルガナから聞いて、パレスの仕組みをヤタガラス側で解析した時からパレスの要であるカモシダの暗殺やパレスの破壊は、ヤタガラスの中では()()()()()()()()()として上がっていた。

 現実世界の鴨志田本人は、一般人に危害を加える可能性のある異界の発生源になってしまっているので、既にヤタガラス内での鴨志田の扱いはダークサマナー予備軍といった状態だ。

 

 俺個人としては、このパレスを意図的に悪用している訳でなければ、出来る限り穏便な形で事態を収束させて、然るべき手順で現実世界での罪を償わせるのが妥当だと思ってはいる。

 とはいえ、ヤタガラスの考えはもしもの時に打つべき手立てとしては妥当なモノなので、手段の一つとしては理解もしていたし、その案を実行する時は俺も駆り出されるだろうから、ある程度はその場合の行動についてもシミュレートしていたが、もしもカモシダの暗殺やパレスの破壊を実行するとなれば、目の前の悪魔達の妨害があるのは確実だ。

 

(あのクラスの悪魔の目を盗んでパレスの主であるカモシダを害するのはほぼ不可能。となると、実行可能な解決策は、いつも通り正面から戦力をぶつけてゴリ押すか、モルガナの提案通り『オタカラ』を盗むか、だな)

 

 ここ最近の探索でカモシダをパレス内で見なかったのは、俺達がパレス内で暴れ回ったせいでカモシダを暗殺されるのを恐れたあいつらが、城の奥や隠し部屋とかで保護しているからだろう。

 そして自分たちはパレスを警備して侵入者狩りに専念するようにしたってわけか。

 

「ふん。あれが貴様が言っていた『ライドウ』か。成程、奴と遊ぶのは面白そうだ」

「あれは私の獲物です」

「獲物とは言うが、貴様、軽くあしらわれてたではないか」

 

 骨だけの顔をニヤニヤと歪めてガブリエルを煽るアスモデウス。

 不俱戴天の天敵である悪魔に煽られて、今にもアスモデウスを殺そうと襲い掛かりそうなガブリエルとそのまま殺し合いに発展してくれれば楽なのだが、そう上手くは行かないだろう。

 

 俺にはアナライズの能力がないので経験と勘に基づいた感覚でしか測ることが出来ないが、奴らの力はLv.80越え、単純な戦闘力だけなら一神話の主神クラスと見て間違いないだろう。

 俺一人なら奴らを同時に相手しながらでも辛うじてで撤退できるだろうが、一般人を守りながらとなると些か厳しいものがある。

 

 だから、こっちは仲魔に協力してもらうとしよう。

 

(いつでも行けるぜ、大将)

 

 仲魔からの念話を受けて、怪盗服の裏に隠していた封魔管を取り出す。

 その行動を察知したアスモデウスとガブリエルが、煽り合いを止めて俺に向かって高速で接近してくるが、一手遅い。

 もう準備は整っている。

 

 瞬く間に近づいて来たアスモデウスが繰り出した、並みの人間なら掠っただけで粉々になるであろう殺人的な威力の拳撃を躱し、左手に持った拳銃を連射してガブリエルの『ブフダイン』の発動を食い止める。

 そうして確保したほんの僅かなチャンスを逃すことなく、右手に握った封魔管を魔法発動の為に離れた位置にいたガブリエルに向ける。

 

 封魔管には既に十分なマガツヒが充填されている。あとは呼び出すだけ。

 

「来い!『金時』!」

 

 一瞬の閃光の後に、一人の男が突如としてガブリエルの目の前に出現する。

 バンダナの様な物で逆立たせた黄金の髪に翡翠の瞳、平安時代の武家の衣装というにはだいぶ派手な装束を纏ったその偉丈夫は、動揺するガブリエルに構うことなく、担いだ(まさかり)に自身のマガツヒを注いで雷を纏わせる。

 

「必殺!『黄金衝撃(ゴールデンスパーク)』!!」

 

 俺が契約している悪魔の中でも随一の戦闘力を持つ、平安時代の怪異狩りの英傑、『坂田金時』の全力攻撃。

 

 金時との契約の触媒にもなった(黄金喰い)による物理的な斬撃と、ヤタガラスの魔改造で鉞に備え付けられたカートリッジに蓄えた電撃を同時に放つという、金時が所持するスキルの中でも最強の単体攻撃スキル。

 並みの悪魔なら塵も残さず蒸発させられる威力があるのだが。

 

「不意打ちとは、卑怯な!」

 

 ついさっき自分が不意打ちした事を棚に上げて、金時を非難するガブリエルにはそう大きなダメージを与えられなかったようだ。

 どうやら奴は近くに突っ立っていた、アスモデウスが引き連れていた女性型のシャドウを盾にして自身へのダメージを軽減したらしい。

 意思の薄い木っ端シャドウとはいえ、仮にも天使を名乗っておいて肉盾で攻撃を凌ぐとは、奴ららしいやり口だ。

 

「その霊格、キサマ、英霊か!」

「手前らのような外道の問いに、答えてやる義理はねぇな!」

 

 問答無用と言わんばかりに金時がガブリエルに突進し、鉞を振り抜く。

 ガブリエルも負けじと氷結魔法と祝福魔法をバラ撒きながら派手な戦闘を始める。

 やはり、何らかの力を与えられているガブリエルの方が地力は勝っているようだが、愛用の獲物(黄金喰い)と積み重ねた戦闘経験、そして何よりガブリエルの弱点でもある電撃属性の攻撃を上手く使って、危なげなくガブリエルを抑えてくれている。

 

 あっちは問題なさそうだな。であれば後は、こっちだな。

 

「カモシダの要望だ。死ね、ライドウ。『ベノンザッパー』」

「お断りだ! アルセーヌ、『ザン』『マハザン』『ザンマ』」

 

 ガブリエルと金時を無視して俺に襲い掛かって来たアスモデウスを、坂本と高巻の護衛に充てていたアルセーヌを再召喚して迎撃する。

 アルセーヌのレベルが足りてないからか、魔法での攻撃は今一つダメージが無いようだが、衝撃魔法を食らうたびにアスモデウスの動きやスキルの発動がキャンセルされているところを見るに、どうやら奴は衝撃か疾風属性が弱点なのだろう。

 

(ガブリエルは電撃、アスモデウスは衝撃か疾風、弱点がハッキリしたなら行動キャンセルを連発させるのも可能だろうが、決め手に欠ける現状では耐久戦になるな)

 

 属性相性で有利を取れば問答無用で行動を妨害できるので、その間に大技を叩き込んで倒しきるのも手だが、奴ら程の力を持つ悪魔を殺しきるまで戦っていたら、いつものようにシャドウの大軍に取り囲まれて袋叩きにされるのは目に見えている。

 やはり、今は撤退するのが賢明だな。

 

「金時、モナ、撤退だ!」

 

 俺の合図を聞いた金時が『黄金喰い』の出力を最大にしてガブリエルに電撃を放ち、弱点を突いて一時的に麻痺状態にさせると同時に、その顔面を全力で蹴り飛ばして城壁まで吹き飛ばしてから俺の近くに後退する。

 それと同時に俺も全力の『マハザンマ』を発動させてアスモデウスをガブリエルの近くにまで吹き飛ばす。

 

「そんな微風では、我を傷付ける事は出来んぞ!」

 

 城壁近くまで吹き飛ばされたアスモデウスが怒りを露わにしているが、一々構っている暇はない。

 怒り狂うアスモデウスを無視して、モルガナに向かって合図を出す。

 

 事前の打合せで決めていた合図を見たモルガナは、腰に取り付けたポーチから黒い塊を取り出し、愛用品のパチンコにセットしてガブリエルとアスモデウスに向かって発射する。

 二体に向かって飛んで行った黒い塊、一般的に『閃光手榴弾』と呼ばれている対悪魔用の処理が施されたそれは、狙い通り奴らの目の前で炸裂し、凄まじい閃光と爆音が奴らの視界と聴覚を潰す。

 これで奴らに『目眩』状態を付与できた。あとは逃げるだけ。

 

「金時、あっちの金髪頼む!」

「了解だぜ、大将!」

 

 この異常事態に、一般人である坂本と高巻は完全に固まってしまっている。出来れば自力で走って脱出して欲しかったが、流石に無理そうだったので、体格的に余裕のある金時に坂本の運搬をお願いする。

 二メートル近い身長の大男に米俵の様にして担がれていく坂本を視界の隅におさめながら、俺は高巻の膝裏に腕を通して横抱きの状態、俗に言うお姫様抱っこの状態で高巻を抱えて走り出す。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「全力で走るから、舌を噛まないように気を付けて」

 

 高巻が落っこちないようにしっかりと抱きかかえて、モルガナが掛けてくれた『マハスクカジャ』によってスピードが劇的に向上している俺と金時が走り出す。

 城の内部に入り込んだ状態だったら逃げきれなかっただろうが、ここは城の外で、パレスと現実世界を繋ぐ出入り口も近い。このまま問題なく逃げ切れるだろう。

 

「貴様、逃げるな!!」

 

 ガブリエルの憎々しげな叫びを無視して全力疾走する。

 今日はパレスを攻略やレベリングとかの目標があったんじゃなくて、訳も分からずにパレスに引きずり込まれた状態なんだ。誰がまともに戦うかよ。

 

 それに、強大な力を持った四大天使の本体や魔王の登場とかいうイレギュラー中のイレギュラーが起きている以上、さっさと逃げてヤタガラス全体に情報を共有して対策立てるのが先決だ。

 

 後ろの方でガブリエルが俺達に向けて魔法を乱射しているのが見えるが、既にパレスの出口をくぐり抜ける寸前の俺達に届く筈もない。

 そのままの勢いでパレスの出口を通過し、パレスを脱出する。

 

「…どうにか逃げ切ったか」

 

 現実世界に戻ると、パレスに侵入した時と同じ場所に戻れたようで、顔を出した太陽が薄暗い裏路地を照らしている。

 坂本を地面に降ろして、役目を終えたと判断した金時が空気に溶けるように封魔管に戻ったのを確認した後、俺も抱きかかえていた高巻を降ろす。

 

 暫く待っても、ガブリエルとアスモデウスがパレスから出てきて俺達を追撃してくる様子はない。

 どうやら他の悪魔と同じように、奴らもパレスから出てくる気はないらしい。やっぱり奴らはパレスに自体に用があるのだろうか。

 

「あ、あのさ」

「聞きたいことも言いたいことも沢山あるだろうけど、まず確認させて欲しい」

 

 さっきまでの出来事が何なのか俺に確認しようとした坂本の言葉を遮り、俺のスマホを取り出してイセカイナビを指さした状態で画面を二人に見せる。

 

「このアプリに似たやつが、スマホにインストールされていないか?」

 

 俺の有無を言わせない口調に気圧されたのか、戸惑いながらも自身のスマホを確認した坂本と高巻の表情が驚愕に染まる。

 恐る恐るといった様子で二人が見せてくれたスマホの画面には、俺が持っているイセカイナビとよく似たインターフェースをしたイセカイナビが起動していた。

 どうやら、このパチモノのイセカイナビが俺達がパレスに迷いこんだ原因とみて間違いなさそうだな。

 

「今日の放課後、時間を作ってくれ。色々と説明するよ」

「いいのかよ、蓮。勝手に決めて」

「しらを切っても、ナビを持ってる時点で巻き込まれる可能性が高い。それに放っておいて死なれると寝覚めが悪いからな」

 

 ヤタガラスの上層部に相談せず二人にアレコレ説明するのは良くはないだろうが、イゴール製の物とは違う、『赤いアイコンのイセカイナビ』なんて明らかな厄ネタを持たせたまま解放するわけにはいかない。

 最低限アプリの機能や削除が可能かぐらいは調べておくべきだ。

 

「ね」

「ね?」

「「猫がしゃべった!?」」

「ワガハイは猫じゃねぇ! モルガナだ!」

 

 パレスから出たと同時に黒猫の姿に戻ったモルガナを指さしながら、大声で叫んだ二人のリアクションに笑ってしまう。

 今の今まで、猫が喋ることよりも驚きと理不尽と恐怖に満ち溢れた光景を見ていた筈なんだがな。

 

 怒り狂うモルガナを宥めながら、逃走中に拾っていた自分の鞄を背負い直して学校を目指す。

 やっぱり、今回の認知異界事件も一筋縄ではいかなそうだ。




この世界には人の願いを叶える『聖杯』がありますね。
そう言えば、どこぞの世界では聖杯を求めて英霊が戦争してるとか。

ビーストとか呼ばれてるマザーハーロットが居るとかなんとか。

まあ、ちょっとした与太話ですがね。


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第三話

誤字報告をくれる方々、いつもありがとうございます。
大変助かっております。

感想欄でちょいちょい言及がありましたが、別に型月世界と世界線が合体している訳ではないです。
正確には、世界の法則すら異なる全くの別世界の要素を断片的に拾ってしまう位に、この世界を隔てる壁がボドボドになっている、というだけです。

デビチル世界と繋がったり、悪魔も泣き出すデビルハンター(ダンテ)や人修羅がホイホイこの世界にやってこれていたのもその辺が理由です。

この世界の住人は泣いていい(断言


「遅刻ギリギリで登校とはいいご身分だな、坂本。そして、転校生も」

 

 あの薄暗い裏路地から秀尽学園までの道のりは、ほんの数分程度だった。

 遅刻しないギリギリのタイミングではあるが、どうにか学園に辿り着いた俺達を待っていたのは、校門の前で仁王立ちをした鴨志田だった。

 

「うっせーな。遅刻してなきゃ問題ねぇだろ」

 

 小さくだが、ハッキリとした口調で坂本がそう言ったのが癪に障ったのか、鴨志田の気の良い教師としての仮面が一瞬剥がれ落ちて坂本を睨みつける。

 ここで騒ぎになると面倒だ。適当にやり過ごそう。

 

「すみません、鴨志田先生。以後気を付けます。坂本、高巻、早く行こう。本当に遅刻するぞ」

「お、おう」

 

 鴨志田の行動に付き合ってたら、折角遅刻せずに済んだのが無駄になってしまう。

 さっさと話を切り上げて坂本と高巻と共に校舎に向かおうとしたのだが、鴨志田が俺達の行く手を阻むように立ち塞がってくる。

 遅刻がどうとか言ってた人間の行動か、これ?

 

「おい待て、話はまだ終わって」

「まだ、なにか?」

 

 きちんと謝罪したにも関わらず、尚も邪魔をしてくる鴨志田が余りにも鬱陶しかったので、つい、これから始末するダークサマナーを相手にする時のような視線を向けてしまう。

 

 次の瞬間、俺と目が合った鴨志田の表情が凍り付き、奴の額から大量の冷や汗が流れ落ちる。

 正に、蛇に睨まれた蛙、という表現がピッタリな状態になった鴨志田を放置してさっさと校舎に向かう。

 あんなのが教師とは世も末だな。

 

 

 

 鴨志田を放置して校舎に到着した後、坂本と高巻に別れを告げて職員室を目指す。

 

 それなりの敷地面積を持つ秀尽学園だが、間取りは既に頭に入っているので特段誰かに案内してもらう必要はない。最短距離で職員室に向かい、入り口のドアをノックした後、職員室に入って担任である川上先生に挨拶をする。

 

「おはようございます」

「ん。流石に初日から遅刻はしなかったわね」

 

 どこかホッとしたような様子の川上先生は、思い出したように深刻な表情で、他の教師に聞こえないようにする為か、声のボリュームを限界まで落とす。

 

「何でか知らないけど、君の『前』の事が学校中に広まってるみたい」

「へえ」

 

 人の口には戸が立てられないし、俺の前歴がバレるのは想定していたことだ。

 認知異界を片付ければ、直ぐにでも退学して『雨宮蓮』から『葛葉ライドウ』に戻るのは既に確定事項なのだから、俺のサマナーとしての事情に誰かを巻き込んだりしない為にも、この学園に在籍している間は友人を作ったり、誰かと親しくしたりするつもりは全くない。

 なので、この状況は都合がいいとも言えるのだ。

 

「私が言いふらした訳じゃないわよ。ただ、そういう事をする誰かが居るとなると、その、君も辛いかもしれないな、って」

「何の問題もないので大丈夫です。そんな事よりも、もうすぐ始業時間ですよね。早く教室に行きましょう」

 

 最初に会った時は事なかれ主義の何処にでもいる普通の教師だと思っていたが、俺の境遇に同情して配慮しようとしている所から、どうやら川上先生は生徒のメンタルを心配できる良い教師らしい。

 

「…そう。じゃあ、行きましょうか」

 

 俺の発言に複雑そうな表情をして、職員室を出て行く川上先生について校内を歩く。

 教室までの道中で何人もの生徒とすれ違うが、どことなくどの生徒からも距離を置かれているし、俺が通り過ぎた後にコソコソと噂話をしているのが聴こえてくる。

 やれ、通行人にいきなり殴りかかっただの、顔面をボコボコにしただの、ナイフを持ち歩いてるだの、妙な薬を持っているだのといった噂話が聞こえてくるあたり、そういう話は学校中に広まっているらしい。

 

(うーん。全部正解なのが笑えるな)

 

 あの夜道で、どこぞの国会議員の顔面がボコボコになったのは事実だし、退魔刀という危険物やエリクサーとかマガツヒ補給用の怪しいクスリを持ち歩いているのも事実だ。

 噂話をしてる連中も、面白そうな話題で騒ぎ立ててるだけだろうが、まさか大体の話が本当の事だとは思いもしまい。

 正に事実は小説よりも奇なり、というやつだろう。

 

「じゃあ、一旦ここで待つように」

 

 とりとめもなくそんな事を考えていたら、いつの間にか教室に着いていたようで、川上先生は俺を置いて教室に入っていく。

 簡単な挨拶と連絡事項を話し終わった後、川上先生が転校生の話題を出した瞬間にざわついていた教室の中が静かになる。

 どうやらこのクラスの連中も俺の噂話を知っているらしい。

 

「そ、それじゃ入ってきて」

 

 生徒たちの変わりように川上先生の声が引き攣っているが、そんなのを気にすることなく教室に足を踏み入れる。

 俺を見た生徒の何人かが掲示板で言ってた奴じゃん、とか、ガチの前科持ちなんでしょ、とか言っているのが聞こえてくるが、まあ、こんなので傷付くようなメンタルはしていない。さっさと自己紹介してしまおう。

 

「雨宮蓮です。コンゴトモヨロシク」

 

 オレサマ オマエ マルカジリ の方がインパクトはあっただろうが、色々と面倒くさい事になりそうだったので、自重しておくとしよう。

 こうして、無難な自己紹介と最悪な第一印象から俺の二度目の高校生活はスタートしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時間は飛んでその日の放課後。

 初日から針の筵に寝転がる様な学校生活になる事が確定した俺は、その日一日の授業時間全てを戦闘用の呪符とモルガナ直伝の怪盗道具作成、そして今日のパレスでの出来事をまとめた報告書作成に全振りしていた。

 

 学生の本分は勉学に励むこと、という意見もあるだろうが、前世ではそこそこ勉強出来ていた方だったので、前世と全く同じ内容だった理数系の教科と語学は高校生活を送る分には何の支障もない事は、事前に教科書を読んだ時に分かっていたので問題はない。

 ただ、歴史系で知らない偉人がいたり、いるはずの偉人が存在しなかったりと微妙に差異があるので、歴史教科はある程度履修し直す必要がありそうなのが誤算だったが。

 

 

 そう言う理由もあって内職ばかりしていた授業時間が終わって放課後になると同時に、偶々同じクラスで席が目の前だった高巻杏と別クラスだった坂本竜司を連れ、ヤタガラスの車に乗って本部である根願寺に向かい、今は地下にあるヤタガラス本部の応接室で休憩をしているところだ。

 

 本部の第一応接室に備えられた本革仕立てのソファーに腰掛け、用意されていた飲み物と軽食で腹ごしらえをしながら、ヤタガラスの部隊が定期的に調査してくれている秀尽学園の霊視結果を読み進める。

 うちの調査で判明したのだが、ここ数日という短期間であの学園は一種の霊的スポットに成り果てているらしく、段々と学園の敷地内に澱んだマガツヒが溜まってきているのだ。

 

 そして、溜まったマガツヒはパレスに流れ込み、内部の悪魔やシャドウの強化に使用されているというのがヤタガラスの見解だ。

 学園の全校生徒と教師、その他学校に通う人間からマガツヒを常時徴収することで能力を強化させていたのだとしたら、木っ端悪魔や雑魚同然のシャドウがそれなりに身構えて戦う必要がある位に強化されていた理由には納得がいく。

 

 だが、それだとあれだけの力を持っている大天使:ガブリエルと魔王:アスモデウスがパレスに拘る理由にはならない。奴らにしてみれば、たかが千人にも満たない一般人から徴収する程度のマガツヒでは顕現維持の足しにすらならない筈だ。

 そうなれば、自前のマガツヒで顕現を維持する必要があるわけで、そこまでしてパレスに拘る理由ってのは何なんだ?

 

「おい、雨宮」

「ん?」

 

 報告書を読みながら色々と考察を重ねていた俺の耳に坂本の声が聞こえてくる。

 報告書から顔を上げると、異界での悪影響が人体に及んで無いか確認する為の健康診断を終えた高巻と、マガツヒを活用してマスコット姿になったモルガナが、ヤタガラス専属料理人渾身の食事を堪能している傍らで、坂本が居心地悪そうにしているのが見える。

 

「健康診断の結果はもう少しで出るとさっき連絡があったから、それが終わり次第、帰れるぞ」

 

 健康診断の結果を待っている間に、坂本と高巻には『悪魔』と『シャドウ』そして『認知異界』についての基礎的な知識はインプットした。

 最初は信じられないとでも言いたげだった彼らも、俺がペルソナや悪魔を召喚したり、簡単な低位の魔法を見せたことで理解はしてくれたようだったが、何か、思うところでもあるのだろうか。

 

「いやそれも気になってたけど、そーじゃなくて。さっきの話、鴨志田が、あの趣味の悪い城の発生源ってのは本当なんだな?」

「ああ、事実だ。今日は出てこなかったが、現実の奴と瓜二つのシャドウがあの異界に存在している」

「…そうか」

 

 どこか物憂げな表情をしている坂本は、自分の手を握ったり閉じたりしている。大方、鴨志田の事を考えているのだろう。

 

 パレスの主が鴨志田卓だと分かった時に、奴の素性と悪行の数々はほぼ完全に、ヤタガラス側の調査で明らかになっている。

 当然、少し前に強豪だった秀尽学園の陸上部が廃部となったこと。それの発端になったのが目の前の坂本竜司であることも、そもそもの原因が鴨志田のシゴキという名の無意味な虐待紛いの行為にあったことも把握している。

 

 胸糞悪い話だが異能が絡まなければ俺達が手を下すことはない。だが、今回はパレスとかいう厄ネタの発生を引き起こしてくれた以上、鴨志田にはパレスの問題が解決した時に、それなりに覚悟して貰う事になるだろう。

 

 具体的には何処からともなく、陸上部に対しての体罰やバレーボール部への練習という名の虐待行為と女子部員へのセクハラの証拠がバラ撒かれたり、な。

 

「…あのさ」

 

 何れ鴨志田に下る罰の事を考えていると、坂本が意を決したように何か言葉を口にするが、応接室の扉が凄まじい勢いで開かれた音で掻き消されてしまう。

 

「蓮! これ、ヤバいって!」

 

 応接室の扉を蹴破って入って来たのは、ヤタガラスの制服を着て目の下に隈を作った双葉と、白いチャイナ服にヤタガラスの制服をマントの様に羽織ったスタイル抜群の女性、『菅野フミ』さん。

 その後ろから付き添うようにやって来たのは、ピンク色のナース服と白衣、明るい金髪が特徴的な『柳谷オトメ』さん、そしてしかめっ面をしたヤマトだった。

 

「やばいって、なにが」

 

 俺の言葉を聞いた双葉とフミさんは、濃い隈を作って充血した目を爛々と輝かせながら矢継ぎ早に、坂本と高巻のスマホにインストールされていた赤いイセカイナビについての説明を捲し立ててくる。

 

 二人とも凄まじく早口だし、寝不足のせいか若干呂律が回っておらず、二人が喋っている話の内容は殆ど理解出来なかった。

 そんな二人は喋るだけ喋ってから、電池が切れたようにソファーで爆睡し始めるし、オトメさんは二人を看病してたので、ヤマトがこの赤いイセカイナビの仕様を簡潔にまとめて説明してくれる。

 どうやら、普段は無表情なヤマトが凄まじい顰め面になるくらいには厄介な機能が盛り込まれているらしい。

 

 そもそも論として、イセカイナビがプログラミング言語を使用して組んだアプリケーションではないというのは、俺が持っている青いイセカイナビを解析した時点で分かっていた。

 電子的なアプリケーションに見せかけた、この異能アプリの機能は主に二つ。

 

 三つのキーワードを言う事でパレスに侵入出来るようになる機能。

 そして異界に侵入した際に、心の防壁が形になった怪盗服に対して、異界の主から発見される可能性を下げる一種のジャミングのような異能を付与する機能。

 

 それに対して、今朝方の俺の簡易的な報告で存在が判明した赤いイセカイナビは、パレスに侵入できるようになる機能は同じだが、もう一つの機能が問題だった。

 

 つまり、赤いイセカイナビを持っているだけで『悪魔から狙われ易くなる』機能が搭載されているのだという。

 

 しかも、この赤いイセカイナビは多少の霊的資質を持っていて未覚醒状態の人間に限定して問答無用でインストールされているのだという。

 実際、何らかの異能の素養があることが分かっていた未覚醒者である双葉や、異能に目覚めないくらいの僅かな霊的資質を持つヤタガラスの人員のスマホにもイセカイナビがインストールされていたのだという。

 

「覚醒者ではなく、未だ力に目覚めていない人間、そしてそもそも対抗手段を得る事ができない人間を狙い撃ちして、良質なマガツヒを得ようという算段なのだろう」

 

 未覚醒者を率先して襲うことで、将来的に敵対する可能性のある異能者を減らし、集めた良質なマガツヒは自分たちの力に変換するという、一石二鳥の作戦だ。

 しかも、イセカイナビは本人の霊的資質に紐づいているのでスマホを変えたりイセカイナビをアンインストールしてもいつの間にか再インストールされているという手の込みようだ。

 それだけでも悪辣なのに、この赤いイセカイナビは、その存在を認知しなければアプリの存在を認識出来ないので、一般人は異変に気付かない可能性が高いのだという。

 

「知らない内にイセカイナビが起動していたのは未覚醒の異能者である坂本竜司と高巻杏をパレスに取り込むためだろう。お前が居たのも理由の一つだろうがな」

「俺達がパレスに引きずり込まれたのはそう言う理由か。随分と大雑把だが、効果的なやり口ではあるか」

 

 更に厄介なのは、このイセカイナビを無力化するには、異能に覚醒して対抗手段を手に入れるか、そもそもの元凶であるイセカイナビを拡散している存在を始末するしかないという点だ。

 

 ヤタガラスとしても()()()()()()()()()()()この現象への対処を急ぎたいが、この赤いイセカイナビが今日の早朝方、俺が存在を報告する前後ぐらいで一斉に発生したことが確認されたため、ヤタガラスもまだ混乱が続いているらしい。

 一般人を守るために対悪魔用の護符を急ピッチで大量生産したり、国の重要施設の霊的防御性能を向上させたり、国や大企業の重鎮達に事情を説明して対抗手段を作って国民全員に配布する必要があったりと本当に大忙しな状態なのだ。

 

「現状、東京だけでなく日本全域で同様の現象が確認されている。正直に言って手が足りん」

「そんな状態だったのか。だったら俺も」

「ライドウ、お前はパレスに集中しろ。今はパレスで大人しくしているから問題ないが、もしも大天使と大罪の魔王が現実世界に出てきて暴れ始めれば、もっと大きな被害が発生しかねん」

 

 優先順位を見誤るな、というヤマトの言葉に二の句が継げなくなってしまう。

 実際、あのレベルの悪魔を相手に出来る人間はこの国では十人にも満たない。ましてやそれが認知異界の中での出来事ならペルソナを使いこなせる人間が適任だ。

 だから、その辺を踏まえて一番近くで即座に対処可能な俺を、秀尽学園に置いておきたいという事なのだろう。

 

「イセカイナビの問題はヤタガラスでも対処が可能だ。実際、急ピッチで対抗パッチの製作に取り掛かっている」

 

 ヤマト曰く、曲がりなりにもアプリケーションとしてスマホにインストールされているのだから、電子的なアプローチで干渉できる余地があるらしい。

 その為、情報分析や霊具の電子化実験で色々と忙しい筈のフミさんと、若葉さん捜索に力を注いでいた双葉を主軸に、桐条財閥を筆頭とした政財界や各地の名家から支援を引き出して、イセカイナビの機能を無効化ないしは制限するパッチの製作を、朝一から相当数の人員を動員して製作しているということだった。

 

「…分かった。俺はパレスの方に専念するよ」

「ああ。そうしてくれ。頼んだぞ、ライドウ」

 

 俺の返答を聞いたヤマトは、時間が惜しいと言わんばかりに、ぐっすり眠っているフミさんと双葉を召喚した悪魔に運ばせながら応接室を出て行く。

 恐らく、これから二人は問答無用で叩き起こされてパッチ製作の修羅場に放り込まれるのだろう。

 

 フミさんは大人なので問題ないだろうが、双葉は未成年な上に、ヤタガラスに協力している事を惣治郎さんに隠しているから、ちゃんと家には帰してあげて欲しいのだが、この分だとドッペルゲンガーで影武者を立てて数日徹夜コースになりかねないな。

 

「はい、それじゃあ皆の健康診断の結果ね。全員問題なしだけど、各自検査結果はしっかりと確認しておくように。少しでも異変があったらライドウ君を通して連絡して頂戴」

 

 バチコンッ☆みたいな効果音が付きそうなウィンクをして、俺達に健診結果を手渡してくれたオトメさんも急いで部屋から出て行ったところから察するに、やはりヤタガラス全体が忙しく動き回っている状態なのだろう。

 

 俺にはプログラミングの知見はほぼ無いが、呪いや陰陽術に神道系の異能には一家言あるので今回のパチモノのイセカイナビ騒動を治める手助けくらいは出来るはずだが、ヤマト直々にパレスに集中しろと言われてしまった以上、未練たらしく考え込まずに目下の問題である、鴨志田のパレスの攻略法を考える方に意識を切り替えるとしよう。

 

「それじゃあ、目的は果たしたし、帰るか」

 

 坂本と高巻は一般人なので、この話に関わることはないし、モルガナは俺のサポートがメインの仕事だからイセカイナビ対策に混ざらなくとも問題ない。

 調査の為に回収されていたスマホは二人に返却されているし、万一の時の護身用の霊具も幾つか渡した。

 

 こちら側の事情を知った二人には、パレスの件が片付くまで極力一人にならないこと、近しい人間にはそれとなくスマホを見せて貰って、赤いイセカイナビがインストールされてないか確認しておくこと、もしもイセカイナビがインストールされているようであれば、真っ先に俺に連絡することを言い含めておいた。

 

 これでこの二人が異界がらみの面倒事に関わる確率はグッと低くなっただろう。

 ようやく一安心、と言ったところだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 耳元で鳴るスマホのコール音で目が覚める。

 こんな夜中に一体誰だ?

 

「高巻…?」

 

 寝ぼけた目を擦って確認したスマホに映っていたのは、今日出会ったばかりの少女の名前。いや日付が変わっているから昨日か。

 特殊な体験をしたとは言え、殆ど初対面と言っていい俺に電話を掛けてくるとは、何の用だろうか。

 

「もしもし?」

『あ、雨宮くん、志帆、志帆が!』

 

 最後に会った時は明るく元気だった少女の涙ぐんだ声に、嫌な予感が沸々と沸き上がってくる。

 

「おい、どうした、高巻!」

 

『お願い、助けて…』

 




どれだけ忙しくても近くに来たらライドウの顔を見に来るヤマト。

青いイセカイナビは所持者をパレスの主から隠すために目を閉じたデザインになってます。
逆に赤いイセカイナビは獲物を見つける為に、目を開いたデザインになってます。
原作のイセカイナビにも獲物である怪盗団を監視する意味合いがあったのかもしれませんね。

実は黒幕がバラ撒いた赤いイセカイナビには、もう一つ隠された機能があります。
黒幕的にはこの隠された機能によって引き起こされる事態の方が、イセカイナビを全国にバラ撒いたメインの狙いですね。


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第四話

P5Tまで後2ヶ月。
ネタバレ配慮しつつ、この小説に組み込めそうなら入れてみたいですね。


 電話を掛けてきた高巻の様子から緊急事態と判断した俺は、戦闘用の装備を身に付けて手持ちの悪魔である『コウリュウ』を召喚し、寝ぼけているモルガナと共にその背に乗って、動揺していた高巻から教えられた場所、秀尽学園に向かう。

 

 そこらの車よりも断然早いコウリュウの飛行速度のお陰で、ルブランからそれなりに距離のある秀尽学園にあっという間に到着した俺達は、コウリュウに周囲を警戒しておくように指示してから上空から飛び降り、校門前に座り込んでいた金髪の少女の目の前に降り立つ。

 

「高巻!」

「あ、雨宮くん……」

 

 俺の声に反応して顔を上げた高巻の顔は涙に濡れていて、春先の涼しい夜にも関わらず玉のような汗を浮かべている所から、相当な時間走り回っていたことがわかる。

 とりあえず、持って来ていた新品のハンドタオルを高巻に差し出してから事情を聞きだす。

 

「志帆、志帆が」

「志帆、というのは秀尽学園バレーボール部の『鈴井志帆』のことか?」

「う、うん。どうして」

「鴨志田の事は前から調査していたからな。奴に近しい人間のことはある程度把握している」

 

 鈴井志帆、バレーボール部のレギュラーで、全国大会にも出場した経験のある生徒だ。

 そして、あのバレーボール部で、美しく実力もある少女が鴨志田に狙われない筈もなく、セクハラや虐待紛いの行為の対象になっていたという報告もあったはずだ。

 

「今日、あの後、志帆に会って、志帆のスマホを確認したの」

「……赤いイセカイナビがあったんだな?」

「だから、雨宮くんから貰ったお守りを志帆に渡して、それで」

 

 異能を持つ人間から渡された、確かに効果がある品を鈴井に渡せたので、ひとまずは鈴井の安全を確保できたと、高巻はそう思ったらしい。

 

 その判断も間違ってはいないだろうが、イセカイナビがインストールされているのが分かったのであれば、すぐに情報だけでも俺に共有して欲しかった。

 日本全国で起きている異常事態だから鈴井個人に護衛を付けるのは、ヤタガラスの人員の都合上無理でも、監視対象としての優先順位を上げることは出来たのだから。

 

 そして、異界に侵入した影響で凄まじく疲れていた高巻は、そのまま鈴井と別れて自宅に帰って熟睡していたのだという。

 

「夜に目が覚めた時、志帆のお母さんから電話があったの。志帆がまだ帰ってきてないけど、何か知らないか、って」

「夜遊びや家出の可能性は?」

「そんなこと! そんなこと、する子じゃない。だから、心配になっていろんな場所探して、最後に学校の前に来たら志帆の部活用の鞄が落ちてて、もしかしたら、って」

「そうか……」

 

 単純な誘拐とかの悪魔が絡まない事件に巻き込まれた可能性もあるが、イセカイナビを所持していてパレスが存在するこの学園のすぐ傍に遺留品があったことを考えると、渡した霊具の防御をものともしない悪魔に攫われた可能性の方が高いか。

 イセカイナビの影響で、全国の異界や霊地に存在している悪魔の活動が活発になっているから、いずれはこういう事も起こると思っていたが、まさか昨日の今日でとはな。

 

「パレス内を捜索する必要があるな」

 

 だが、俺とモルガナ、そして手持ちの悪魔だけでは、ガブリエルやアスモデウスに対処しつつあの広大なパレスから人間一人を見つけて救出するというのは至難の業だ。

 モルガナのペルソナにも探知能力があるので探すこと自体は出来るだろうが、風花さんやりせさんのように探知に特化したペルソナではないから、戦いながら広範囲の情報を正確に拾うのは難しいとも言っていたしな。

 赤いイセカイナビや活性化している異界への対応で二人も手一杯だろうし、他に人探しに特化した能力をもつ人員なんて、心当たりが……あるな。

 

 可能性に賭けるためにスマホを取り出して電話を掛けようとすると、後ろから声を掛けられる。

 

「あ、あれ、雨宮に高巻か?」

 

 振り返ると、散々走り回ったのか息も絶え絶えになっている坂本がそこに立っていた。

 

「坂本? どうしてここに?」

「あー、その、元陸上部の、中岡っていうんだけど、そいつが家に帰ってねぇって連絡があってよ。今日の話があったからもしかしたらと思って」

 

 なるほど。もしかしたら、その陸上部員がパレスに引きずり込まれたんじゃないかと心配になって、ここまで確認に来たという事か。

 

「それならまずは連絡をしてくれ。もしもパレスに引きずり込まれていたのだとしても、何らかの異能がないとどうしようも」

 

 そこまで口にして、坂本の恰好を見た俺の脳裏にとある考えが浮かぶ。

 金属バット、膝や肘を守るプロテクター、背負ったリュックにぶら下げたバイク用のフルフェイスヘルメット。

 特殊な伝手のない人間が入手できる、『武器と防具』を揃えたその姿は、何かと戦うことを想定した完全武装と言っても過言ではないだろう。

 

「まさか、一人でパレスに侵入するつもりだったのか?」

「中岡を助けたらさっさと逃げるつもりだったって! これは、その、もしもの時の備えってヤツだ」

 

 ……誰でも分かる嘘だ。

 陸上部員を見つけたいという気持ちは本当だろうし、助けたいという言葉にも嘘はないように見える。

 だが、『もしもの時の備え』というのは嘘で、何かと戦うことを想定しているのは間違いない。

 それも、目的の対象を見つけたら確実に喧嘩を売るつもりで。

 

「……目的は、鴨志田か?」

「っつ!?」

 

 俺の言葉に目を見開いて驚いた様な表情をする坂本。

 なるほど。あわよくば鴨志田に復讐出来るかもしれない、という気持ちが、ここまでの行動を起こさせたのか。

 確かに、もう一人の鴨志田であるシャドウが心を入れ替えて反省すれば、それは本体にも影響を与えるとはヤタガラスの本部で口にしたが、異能のない人間がシャドウを屈服させて反省を促すなんて、そう容易く事を運ぶことが出来れば誰も苦労はしない。

 無謀なマネをしようとしている坂本をここで追い返しても良いが、それでは後々に遺恨が残るだろう。

 

「こういう奴にアレコレ言っても無駄だと思うぜ」

 

 どうしたものかと考えていると、高巻を心配してそばに寄り添っていたモルガナが、坂本を見ながらそう言ってくる。

 

「バカは自分の身で体験しなきゃ理解出来ねぇよ。それに放置したら一人でパレスに突っ込んじまうかもしれねぇぞ」

「んだとぉ!」

「へん。事実だろうが。あの化け物染みた力を持った悪魔を見てんのに、あんなのの目を掻い潜ってどうにか出来ると思ってんのかよ」

 

 相性が良いのか悪いのか、言い合いを始めた二人を仲裁しながら、スマホを取り出して馴染みの番号に電話を掛ける。

 坂本の事は一旦置いておくとしても、悪魔に誘拐された可能性の高い鈴井と陸上部員の捜索は直ぐにでも取り掛からないといけない。

 

 高巻の話から察するに、鈴井が攫われたのは高巻と別れた二十時以降。

 高巻と会っていた渋谷から何らかの理由で秀尽学園に戻ったのだとしても、渋谷駅から学園まではたいして時間が掛からないから、今の時間から逆算すると四時間近くパレスに閉じ込められている事になる。

 

(四時間か。渡した霊具の魔除けと攻勢防壁が機能していれば生きている可能性は高いが)

 

 何の耐性もない人間が異界に引きずり込まれた場合、最大の脅威となるのはシャドウや悪魔だ。

 ましてや悪魔に目を付けられやすくなるイセカイナビを所持しているとなれば、より執拗に悪魔に狙われている筈だ。

()()()()()()。そんな状態になってしまう前に、急いで救出するしかないな。

 

 知り合いの異能者の殆どが活性化している異界とイセカイナビの対処に出払っているので、全然電話が繋がらないが、それでも繋がらなかった番号を切り替えて手当たり次第に電話を掛け続ける。

 一縷の望みを賭けて電話をし続けると、とある人物から返事が返ってくる。

 

『はい』

「アイギス! 今どこにいる?」

『現在はヤタガラス本部にて補給中であります。これから近場の異界調査に向かうところでありますが』

「悪いが、その予定は誰かにパスしてくれ。大至急でコロマルと大天使クラスの悪魔と戦える人員を連れて秀尽学園まで来て欲しい。秀尽学園のパレスに一般人が攫われた可能性がある」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、電話の向こう側がドタバタと騒がしくなり、十分で向かいます。というアイギスのセリフと共に通話が切れる。

 これで、鈴井の捜索の目途はついた。あとはアイギス達が到着するまで待機だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイギスたちを待っている間に異界突入に備えて装備の点検や、今回の戦闘に参加して貰う予定の仲魔、『金時』と『ピクシー』を召喚しておく。既に召喚している『コウリュウ』を含めて完全に戦闘用の悪魔であるこの三体を同時に使役するのは、マガツヒの消費が激しいが出し惜しみは無しだ。

 召喚した三体の悪魔の内、金時とコウリュウはやる気十分という様子なので問題ないだろうが、もう一体のピクシーはどうにもやる気なさげだ。

 

「やる気出してくれ。ピクシー」

「えぇー。うーん。甘い物いっぱいくれたら、やる気でるかもー」

「これが終わったら、好きなだけ食べさせてやるから」

「ん! 言質取ったからね!」

 

 ここ最近色々と忙しかったので、ピクシーに十分に構えてなかったのが不満なのだろう。

 まあ、大量のスイーツでやる気を出してくれるなら安いものだ。これが終わったら、とびっきりのヤツを用意しておくとしよう。

 

「お待たせしました。蓮さん」

「ワン!」

 

 仲魔達のご機嫌をとっていると、ヤタガラスのトレーラーが秀尽学園の校門前に停車し、荷台から完全武装状態のアイギスとコロマルが降りてくる。

 装備を限界まで積んで、ヤタガラスの真っ黒な戦闘服を着ているのでパッと見は重武装の美少女にしか見えない。

 時間が惜しいから、坂本や高巻にアイギスの正体について説明しないで済むからちょうどいいか。

 

「申し訳ありません。大天使クラスの悪魔を相手に戦える人員は、全員出払っていました」

「まあ、そうだろうな。流石にいきなりだったしな」

 

 アイギス曰く、琴音さんや悠さん、そしてヤマトといったメンツは、恐山や比叡山に代表される重要な霊地にある異界の沈静化に出向いていて手が離せず、他のメンバーも各々全国各地の異界鎮静化に手一杯らしい。

 

「二人が来てくれただけでも、十分に有難いよ」

 

 二人戦えるメンバーが増えるだけでも、相当な増援だ。

 それに、ヤタガラスの武器庫から装備一式を持って来てくれたのもデカい。普段は倉庫に死蔵されているライドウ装備も、今日の探索では日の目を見れそうだ。

 

 さて、後は懸念点を解決しておこう。

 

「坂本、高巻。パレスについてくるのも、ここに残るのも好きにしていい」

 

 一度異能に関われば、もう逃げることは出来ない。

 悪魔や異能の存在を知ってしまえば、知らなかった時には戻れなくなってしまうからだ。

 

 異能はその人の生にずっとつき纏ってくる呪いのような物だ。

 助けたいと思える人間を守っているうちは良い。それがやる気や自己肯定に繋がるから。

 

 だが、ダークサマナーに代表される異能を悪用する存在、異能がなくとも悪意に塗れた人間。

 そんな奴らを否が応でも見続けなければならなくなってしまった時に物を言うのは、自分の意志の強さだ。

 

「ただ、自分の望む結末を手にしたいなら、他人任せにはしないことだ」

 

 ()()()()()()()()()

 他者に押し付けられた地獄と、自分で選んだ地獄なら後者の方がまだましだろう。

 

 まあ、異能を扱う才がある時点で、覚悟のあるなしに関わらず、二人が悪魔に狙われるのは確定している。

 ここで居残りを言い渡しても素直に言う事を聞くとは限らないし、イセカイナビ持ちの二人をパレスのすぐ近くに放置しておけば悪魔に狙われる可能性がある。

 

 結局、彼等を裏側の世界に巻き込もうとしている俺の言葉に、お互いの顔を見合わせた二人は、覚悟を決めた表情で頷き合う。

 

「「ついて行く!」」

「……そうか。だが、無茶はしないようにな」

 

 俺達に同行することを選んだ坂本と高巻に、トレーラーに積まれていたヤタガラスの正式防具を装備させて、各種アイテムを渡しておく。

 直接的な戦闘は無理でも行動阻害が出来れば逃げるのも容易になるだろう。

 

「良し。じゃあ手始めに高巻、鈴井のユニフォームでコロマルに匂いを覚えさせてくれ。コロマルの鼻なら異界の中でも人の匂いを追えるから、それを頼りに鈴井を探す」

「うん。分かった」

 

 地面に置かれていた鈴井の鞄からユニフォームを取り出した高巻が、コロマルにその匂いを覚えさせているのを確認したあと、残りのメンバーにも指示を出す。

 

「モルガナは異界内の探知を頼む。鈴井以外にも学園の生徒がいる可能性があるから、パレスに入ったら人間が何人捕まっているか、居場所が何処か把握しておきたい」

「おう。任された」

「コロマルも鈴井以外の人間の匂いを感じ取ったら、金時かアイギスに伝えてくれ。情報は多角的に複数人で収集した方が確度が上がるからな」

「ワフ!」

 

 動物会話が可能な二人がついていればコロマルの意図を詳細に知ることが出来る。モルガナの感知能力とコロマルの鼻があれば、この規模の異界でも、人間の居場所を特定することは出来る筈だ。

 

「コウリュウとアイギスは高巻と坂本の護衛をしつつパレスの入り口で待機。モルガナとコロマルが要救助者を見つけたら全員で協力してパレスの外に避難させてくれ」

「任務、了解しました」

 

 コウリュウの巨体ならパレスに囚われている人間が十人単位でいても問題なく救出出来るが、その巨体から隠密性はないに等しい。

 だから、他のメンバーが要救助者を見つけてから、コウリュウに現場に飛んでもらって回収する流れが理想的だろう。

 

「俺と金時とピクシーは陽動としてド派手に戦闘するぞ。ガブリエルとアスモデウスも含めたパレス中の悪魔とシャドウに、他のメンバーの動向を悟らせないくらいにな」

「おうよ。この間は脱出優先だったからな。今回はしっかり奴らの息の根を止めてやるぜ」

「久しぶりにマジだね、ライドウ。楽しくなってきたかも」

 

 それぞれが準備を整え終わったのを確認した後で、俺のイセカイナビを起動する。

 イゴール製のこのナビには履歴検索機能があるので、既に把握している『キーワード』を入力するだけで鴨志田のパレスに侵入出来る。

 

「鴨志田、学校、城」

『カモシダ ガッコウ シロ。一件ヒットしました。ナビゲーションを開始します』

「さあ、行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 引き裂かれた秀尽学園の制服を強引に引っ張って、露わになっている白い肌を隠しながら、豪奢なカーペットが敷かれた城の中を一人の少女が駆け抜ける。

 親友から貰った淡く輝くお守りのお陰で、悪魔の魔の手から逃げ出すことに成功した鈴井志保は、安全な場所を求めて歪な造りをしたパレス内部を彷徨っていた。

 

「さっきの、鴨志田先生、だよね。どうなってるの……」

 

 志帆にとって、バレー部というのは地獄に等しい場所だ。

 コーチである鴨志田が、練習中に執拗に女子部員の胸部や臀部を事故を装って触ってきたり、それを拒否したり避けたりすると平手打ちや恐ろしい威力のスパイクを無防備の状態で受けねばならないのだから、地獄以外の何物でもないのだ。

 

 それに、今日は特に鴨志田がご機嫌斜めだったせいで、八つ当たり気味にいつもの倍以上の練習量を課せられてボロボロの状態だった。

 正直、どうにか練習を終えて、親友の高巻杏と会って気持ちを切り替えることが出来なければ泣いていたかもしれない。

 

 そして、杏と別れて帰宅しようとしたところに、鴨志田からメッセージを受け取ったのだ。

『レギュラーを外されたくなければ体育教官室に来い』と。

 

 志帆は、親友が教師と関係を持っているという根も葉もない噂を被ってでも維持に協力してくれた、この居場所を捨てるわけにはいかなかった。

 どんなに辛くて苦しくても、居場所を失いたくなかったからだ。

 

 そして、恐怖を押し殺して学園に戻ってみると棘の生えた真っ赤な手に首を掴まれたと思った次の瞬間には、この異常な空間に放り込まれていたのだ。

 

『鈴井! 逃げても無駄だぞ!!』

「ひっ……」

 

 何処に逃げても聞こえてくる、小さな王冠を頭にのせてブーメランパンツとマントというトチ狂った恰好をした鴨志田の声。

 最初は何の冗談かと思ったが、この世界に引き摺り込んだ、あの棘のついた赤い手に押さえつけられ、鴨志田に制服を引き裂かれた瞬間に志帆は理解したのだ。

 これは夢ではなく現実なのだと。

 

 訳の分からないまま鴨志田に身体をまさぐられて悲鳴を上げた時に、杏から貰ったお守りが光のバリアの様なものを張ってくれなければどうなっていたかは、想像に難くはない。

 

 どうにか逃げ出した先でも粘性のある身体を持った化け物(スライム)でっぷりと下腹部が突き出た紫色の怪人(ガキ)大きな二本の角を持った馬(バイコーン)等が襲い掛かってきたが、その度にお守りが守ってくれたのでどうにかなっていたが、お守りの輝きが少しずつ弱くなってるから、この力もそう長くはもたない事も分かっている。

 

「とにかく、逃げないと」

 

 居場所を失うのは怖い。いや、怖かった。

 

 だが、命の危機に遭遇し、自分の尊厳を穢されかけてようやく理解したのだ。

 自分の居場所はあんな地獄のような場所ではなく、親友と笑い合える所なのだと。

 命の危機に瀕したせいで、思考が飛躍しているのかもしれないが、ここから逃げ出せたら、とにかく警察に行こう。

 

 そう固く誓った志帆が歩き出そうとすると、金縛りにあったように身体が硬直してしまう。

 

「尻を振って逃げる半裸の女を追い掛けるのは面白かったが、カモシダがお怒りでな。遊びはここまでだ」

「あ、ぐ」

 

 さっきまで何もなかったはずの場所に、いつの間にか現れていた棘だらけの赤い怪物(アスモデウス)の硬い手が志帆の細い首を掴んでその矮躯を宙に浮かせる。

 光り輝くお守りがアスモデウスの腕を焼くが、その痛みを意にも介さず、アスモデウスは志帆の首を締め上げて気絶させる。

 

「さて、これで『ネガイ』は確保出来た。後は……」

 

 

 囚われの少女を助ける存在は、まだ来ない。

 




原作と違い、杏が主人公や竜司と一緒に登校したこと、その日に主人公達が一緒に下校している所を目撃したこと、杏がスマホをヤタガラスに預けてたタイミングで電話かけたので繋がらなかったこと、たかが不良生徒ごときにビビってしまったことなどが重なって鴨志田のメンタルはかなり不安定になり、その影響はシャドウにも現れてます。
なので、バタフライエフェクトの結果として、志帆ちゃんが割を食ってます


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第五話

遅れて申し訳ナス。
鼻の伸びないピノキオソウルライクやってました。


「どうだ、モルガナ、コロマル」

 

 鴨志田のパレスに首尾よく侵入した俺達は、事前に立てた作戦通り、城の入り口でモルガナの探知とコロマルの鼻を頼りに救助者の捜索を行っている。

 今回はイゴール製のイセカイナビでパレスに侵入しているので、無数のシャドウに襲われてはいないし、稀に見つかったとしても何もさせることなく倒せているので、ガブリエルやアスモデウスが感づいた様子もない。

 やはりパレスの外側に坂本と高巻のスマホを赤いイセカイナビを起動した状態で、囮として置いて行ったのは正解だったみたいだな。

 

「この感じ、最低でも十人は捕まってるみたいだぜ」

「ワフ」

「『一人は離れた所、残りは一塊になっている』とコロマルさんは言っています」

 

 パレスに囚われている人間がいることは想定していたが、たった一日でこの人数が捕まっているとはな。

 この分だと、いくら助けても次から次へとイセカイナビを持っている人間が異界に攫われ続けることになるかもしれない。

 

「ワン!」

「『孤立しているのが、探している匂いの人間だ!』って言ってるぜ。大将」

 

 どうやら高巻が渡したお守りは正常に機能したらしい。

 防衛手段を持っていた鈴井は逃げることが出来て、一塊でいるのがそれ以外の人間という風に分かれているのだろう。

 どちらも急いで救出する必要はあるが、どちらかを優先して助けるか、それとも部隊を分けて両方同時に救助するべきか。

 

「おい、この一人でいる奴のところに馬鹿でかい反応があるぞ。これは……アスモデウスか!?」

「うそ、志帆は大丈夫なの!?」

「す、すまないアン殿。ワガハイの探知力じゃあ、その人間が生きていることぐらいしか分からねぇ」

 

 パレスに入ったことでマスコット形態になっているモルガナに詰め寄る高巻を諫めながら、モルガナからの情報を考慮して作戦を立て直す。

 流石に、アスモデウスクラスの悪魔を相手にした場合、あの御守りでは身を守るのは不可能だ。

 戦力を分けるのは愚策ではあるが、ここは並行して救助するべきか。

 

「作戦変更だ。鈴井の救出には俺とコロマルで行く。残りのメンバーで他の人間の救助を」

 

 アスモデウスという強力な悪魔がすぐ近くにいる以上、鈴井の救出は最速で行なわなければならない。

 だから、どちらかの救助活動中に勘づかれてもう片方を危険に晒してしまう可能性を減らすために純粋にスピードを出せる俺とコロマルで鈴井を救出し、他のメンバーは大勢を救助出来るコウリュウを連れて一塊になっている奴らの救助に向かってもらう方が効率がいい。

 

「っ、志帆の事、お願いね」

「……ああ。必ず助ける」

 

 高巻の心情的には鈴井の救出メンバーに加わりたいはずだが、それを押し殺して俺の指示に従ってくれる。

 ここで救出出来ませんでした、ではヤタガラスとライドウの名の沽券に係わる。必ず助けてみせるとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パレスの地下空間を、複数の人影を乗せた黄金に輝く巨体が、調度品やシャドウを粉砕しながら泳ぐ。

 城の通路を削り取るように進むコウリュウは、蓮の手持ち悪魔の中で最も防御力に長けた悪魔であり、その黄金に輝く鱗は悪魔が繰り出す魔法や物理攻撃を弾き、逆にその巨体に見合った質量に物を言わせた体当たりで悪魔たちの命を吹き飛ばしていく。

 

「ス、スゲー。暴走列車に乗ってるみたいだ」

 

 モルガナの案内に従ってパレス内を猛スピードで進むコウリュウに、時々現れるシャドウが攻撃を仕掛けるが、電車並みの巨体と通路の壁に挟まれてミンチよりもひどい状態になりながら消えていく。

 そんなスプラッターな光景を見せられた竜司の言葉に、金時が笑いながら答える。

 

「コウリュウは大将の切り札の一つだからな。顕現時のマガツヒ消費が激しいから基本的に短期決戦か長距離を急いで移動する時しか呼ばれないが、こういう力も速さも必要な作戦なら最適解なのさ」

 

 実際、広大な砂漠や大海原を再現した異界を探索する時に、蓮はコウリュウを移動手段にしており、その巨体に見合わぬ飛翔速度と無数の耐性、そして高位悪魔としての攻撃力と防御力を持つコウリュウは、露払いとしても移動手段としても優秀だった。

 

「あそこだ、あの牢屋に全員いるぞ!」

 

 シャドウを蹴散らしてパレスを進んだその先、モルガナが指差す無数の牢屋が並ぶその場所には救助対象以外にも、百人を超える人影が囚われていた。

 

「うそ、こんなにいっぱい人が」

「違うぜ、杏殿。ここにいる連中は殆どシャドウだ」

 

 牢屋の中にすし詰め状態で囚われている、秀尽学園の学生や教師の姿をしたシャドウ達は、その体に突き刺さった管からマガツヒが吸い出されているにも関わらず、身じろぎ一つ取らずに虚ろな目でボウっと何もない天井を眺めている。

 その中には体を構成するマガツヒを殆ど吸い取られてしまったのか、半透明になっている者すらいるのだが、自身が消滅する寸前ですら呆然と天井を眺めている姿は一種のホラー映像のようにも見える。

 

「ひっどい有様ね」

 

 無数の牢屋が並ぶその通路に巨体を横たえたコウリュウから飛び降りたピクシーが、とある牢屋の中を見てその可愛らしい顔をしかめる。

 すし詰め状態で閉じ込められているシャドウ用の牢屋とは異なり、それなりにスペースの空きがあるその牢屋に倒れていたのは、全員秀尽学園の指定体操服を着た男子生徒だった。

 

「中岡と陸上部の連中、それに、バレー部の三島じゃねぇか!?」

 

 竜司のその言葉に、残った全員がコウリュウの背中から飛び降りる。

 先んじて行動していたピクシーがその小さな身体を活かして牢屋の鉄格子の隙間をスルリと通り抜け、男子生徒たちの口元に近寄って息をしているか確認する。

 

「うーん、生きてはいるみたいね。ただ、急いで治療しないと死んじゃうかも」

 

 ピクシーのその言葉に血相を変えた金時とアイギスが、その怪力で鉄格子を抉じ開けて瀕死の男子生徒達に近寄る。

 薄暗い地下牢では遠目からは判別がつかなかったが、そばに近寄ってみればマガツヒを吸収する例の管が彼らにも突き刺さっており、それに加えて男子生徒達は打撲や裂傷といった傷を無数に負っており、中には手足があらぬ方向に捻じ曲がっている者までいる事がハッキリと分かる。

 

「バイタルチェック……完了。生命活動危険領域です。最低限の治療を施し医療機関に搬送します。坂本さん、高巻さん、手伝ってください」

「あ、ああ。勿論!」

「う、うん。先ずは、何からすればいいの?」

 

 男子生徒達の身体に突き刺さっていたマガツヒを吸収する管を金時が素早く斬り捨てた事を確認したアイギスは、背負ってきていた大きなバックパックから簡易な医療キットや一般人用に効果を薄めた霊薬を取り出して二人に指示を出しながらテキパキと治療を進めていく。

 

 本来であれば、これほど酷い傷でも高位回復魔法を使用すれば癒すことが出来るのだが、相当量の血液とマガツヒを失ってしまっている一般人に負担の強い高位回復魔法を掛けてしまうと、魔法の負担に耐え切れず、ショック死してしまう可能性があるため、今回は回復魔法の行使が出来ないのだ。

 

 もしも、この場所に琴音が居て、メサイアが持つデメリットなしの完全回復魔法『オラトリオ』を使用出来れば話は違ったのだろうが。

 

「ひでぇな。シャドウにやられたのか?」

「いや、普通のシャドウはこんな風に遊ばずにさっさと殺すだろうさ。痛めつけて感情を揺さぶってマガツヒを吐き出させる。このくそったれなやり口は、悪魔の仕業だ」

 

 重傷を負っている男子生徒達と応急手当てを行う三人を庇う様に、牢屋の入り口に立って会話しながらも警戒をしていたモルガナと金時、そしてコウリュウが何かの気配に反応して不意に顔を上げる。

 

 彼らが見上げた先、薄暗い地下室の天井にいつの間そこにいたのか白く輝く大きな翼を持った美しい女性が浮かんでいることに気付く。

 

「『マハブフダイン』」

 

 その女性、『ガブリエル』がその手を翳すと同時に放たれた人の背丈を優に超える無数の巨大な氷柱は、牢屋の外に居た金時やモルガナだけでなく、重傷を負った男子生徒達や彼らを治療しているアイギス達も巻き込むような規模と範囲で展開される。

 このまま放って置けば治療に専念しているアイギスや竜司たちは押し寄せる氷柱の群れに押しつぶされてしまうだろうが、此処には彼ら以外の歴戦の勇士が居る。

 

「『マハジオダイン』!」

「『マカラカーン』」

「『暴れまくり』」

 

 金時が右腕から強力な雷撃を放って氷柱の半数を撃ち落とし、ピクシーがコウリュウに魔法を反射する魔法を発動する。

 そしてコウリュウは、飛んできた氷柱をその巨体を活かして全身で受け止め、マカラカーンの効果で一つ残らず弾き飛ばす。阿吽の呼吸と言っても差し支えない抜群の連携によって、彼らの後ろには水滴一つ届いていない。

 

「やはり、この程度では仕留められませんか」

 

 実体化させた黄金喰い(ゴールデンイーター)を油断なく構えた金時がガブリエルに目を向ける。

 ほんの半日ほど前に戦ったその悪魔は、以前よりも明らかに力が増しているようにも見えた。

 恐らくは一般人のシャドウと秀尽学園の男子生徒達から吸い上げたマガツヒで自身の力を強化したのだろう。

 

「チッ。パレスへの被害もマガツヒを奪っているシャドウにもお構いなしかよ」

「たかがシャドウ程度、何匹塵になろうと問題ないでしょう? まあ、人の姿をしたシャドウはどこぞの人間の精神そのものですから、死んでしまうとそのシャドウの持ち主が()()()()()()()()を発症してしまうかもしれませんが」

「テメェ」

 

 ガブリエルのその言葉を聞いた金時は己の得物の柄が軋むほどその手に力を込める。

 ガブリエルは暗にこう言っているのだ。ここで一般人のシャドウを見殺しにすれば、シャドウという名の自身の精神を失った人間が無気力症、もしくは精神暴走を発症するぞ、と。

 

「大したマガツヒを生み出さないシャドウなどどうなってもよいですが、今あなた方が治療している質の良いマガツヒを生み出す者たちは返していただきます」

 

 金時達に一方的にそう宣言したガブリエルは、自身の配下である下級天使を大量に召喚して応急処置を続けるアイギス達に差し向け、自身も戦線に加わる。

 ガブリエルと天使達が真っ先に狙ったのは、この場において明らかに力が劣っている二人、つまりは竜司と杏だ。

 

「やらせるかよ!」

 

 瞬く間に男子生徒達が囚われていた牢屋に飛び込んで来たガブリエルが、その両手に氷の礫(マハブフ)を発動して二人を殺そうとするが、その動きにいち早く反応した金時が間に割り込んで二人を庇う。

 

 間髪入れずにガブリエルの掌から放たれた氷の礫を、電撃を纏った黄金喰い(ゴールデンイーター)で粉砕し、その勢いで、常人では追い切れない速度で連撃を放つ。

 

 金時の攻撃は確実にガブリエルに届いているが、斬撃や電撃で負った傷は、魔法を使用していないにも関わらず瞬く間に治癒していく。

 この異様な回復力もシャドウや人間から吸い上げたマガツヒを湯水のように使用して実現してるのだろう。

 

 このままここで戦い続ければ学生達だけでなく、人の精神の具現であるシャドウを戦闘に巻き込んでしまうと判断した金時が、ガブリエルを殴り飛ばして強引に距離を取る。

 

「ピクシー。俺が奴を押し留める。その間に雑魚の殲滅と救助の援護を頼めるか」

「もう。しょうがないわね。人間なんて何人死んだところでどうでもいいけれど、ライドウが困るのは良くないものね」

「頼むぜ」

 

 気分屋で基本的に蓮の言うことしか聞かないピクシーが自身の提案を了承してくれたことに内心で安堵しつつ、ガブリエルの反則じみた回復力を上回る攻撃を繰り出す為に、金時自身の切り札を切ることを決意する。

 

「見せてやるよ。俺の全力を」

 

 能や浄瑠璃などの伝統芸能の題材として、現代にまで残っている怪童丸という少年を主軸にした「山姥物」という物語のジャンル。

 その大本になった伝承に曰く、類まれな怪力で足柄山の猛獣たちの頂点に立った怪童丸。

 後の世で頼光四天王が一人、坂田金時と呼ばれるようになる怪童丸は、諸説あるが雷神とも目される赤い龍と山姥の間に生まれた子であり、幼少期の彼は全身を血に塗れたような真紅に染めた、途轍もない暴れん坊だったという。

 

 悪魔が蔓延るこの世界において、その伝承が真実であるかは定かではないが、幼少期の蓮に悪魔として召喚された英傑・坂田金時の両腕は血よりも紅く染まっている。

 そして、普段はその力を鎧や包帯で徹底して封印し、主である蓮の許可なしには決して解放しようとはしない。

 

 

 その身体に宿った力の強大さゆえに。

 

 

 主である蓮によって、金時に施されている封印を解いた次の瞬間、金時の左腕の手甲が弾け飛び、続けざまに右腕の包帯が解けて、その身体から漏れ出たマガツヒで金時の全身が赤く染まる。

 

「いくぜ」

「ッ!!」

 

 普段の黄金に輝く雷光ではなく、赤黒い色に染まった雷撃がガブリエルを襲う。

 金時の鉞から放たれた雷撃の余りの速さにガブリエルは対応できず、その美しい翼の片翼を焼き払われてしまう。

 しかも、蓄えたマガツヒによる回復が自動で発動しないことに驚いたガブリエルが、金時を睨みつける。

 

「このッ、人間霊風情が!!」

「生憎と、今は人間霊じゃなくて悪魔なんでな!! ブッ飛びな! 『黄金衝撃(ゴールデンスパーク)』!!」

 

 自身が所持するスキルの中でも最大の威力を誇る技を発動させ続けながらガブリエルに突貫し、仲間たちに危害が加わらないようにする為に、地下牢の分厚い壁をぶち抜いて戦場を別の場所に移す。

 恐らくは、この地下牢に辿り着くまでの道中で発見した、シャドウ達を拷問していた広い空間にまで強制的に移動させる腹積もりなのだろう。

 

「さて、と」

 

 金時の献身によってガブリエルという脅威は瓦礫の向こう側に消えたが、ガブリエルが召喚した無数の天使達は未だに健在だ。

 

 これから負傷者の搬送と一般人のシャドウ(精神の具現体)を逃がす作業が完了するまで、誰かがあの大量に湧いて出て来た天使を相手にしなければならないが、民間人二人と実力が足りていないモルガナにはこの役割は不可能。

 十分な実力を持つコウリュウは、百人を超える人数を一度に搬送できる為、戦闘に参加せずに救助と避難に専念することになるだろう。

 

 そうなれば必然的に、この場で百を超える数の天使を相手するのはアイギスとピクシーの役割になる。

 

「ピクシーさん。私も援護を」

「いらないわ。さっさと治療してそいつらと脱出しなさい」

 

 腕があらぬ方向に捻じ曲がっている男子生徒、三島と呼ばれた少年に応急処置を施していたアイギスがピクシーにそう申し出るが、ピクシーは不機嫌そうに鼻を鳴らして天使達を見据える。

 

「「「「『マハコウハ』」」」」

 

 ピクシーがよそ見をしたのを隙が出来たと判断したのか、天使達が一斉に祝福属性の魔法を放って彼女を殺そうとするが、ピクシーは余所見をしたままその右手を天使達に向ける。

 

「『メギドラオン』」

 

 視界が真っ白になる程の閃光と共に悪魔の半数近くが光の粒子になって消滅する。

 

「しょうがないから付き合ってあげるわ。暇つぶしぐらいにはなるといいけれど」

 

 炎、氷、風、雷、そして万能。

 無数の力の塊を宙に浮かべて薄く笑う、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のその姿は文字通り悪魔的な美しさだった。




十四代目から引き継いだピクシーはとても強力な悪魔ですが、蓮の言うことしか聞きません。
因みに、人修羅も頑張って育てたピクシーを相棒にしてます。


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第六話

д゜)チラッ

地獄から生還したので、更新です。


 コロマルの鼻を頼りに、鈴井が囚われている場所を目指して城内を走り続ける。

 重要な場所に近づいているのか、城内を進むにつれてそれなりの強さの悪魔や天使――恐らくはアスモデウスとガブリエルの配下――が姿を現すようになったが、イゴール製のイセカイナビの効果のお陰か、全身真っ黒で目立ちそうなこの怪盗服を着ていても、すぐに見つかって戦闘になる様な事態には陥っていない。

 

 どうしても回避できなさそうな敵がいた場合は仕方なく戦ってはいるものの、どの戦闘でも背後から不意打ちして弱点属性を突いて常に完封勝利を収めているので、俺達がこれ程までに城の上層に侵入している事は、まだカモシダやアスモデウスには勘付かれてはいない筈だ。

 

「グルルルル」

 

「どうした、コロマル」

 

 城内を進むにつれて鈴井の匂いをより正確に追えるようになってきたのか、コロマルが頻繁に道を変えながら進んでいくのを追っていくと、趣味の悪い装飾を施した扉の前でコロマルが立ち止まる。

 全身の毛を逆立てて警戒を露わにするコロマルが扉の前から動こうとしないので、音を立てないように扉に聞き耳を立ててみると、部屋の中から薄っすらと声が聞こえてきて、中で誰かが笑っていることが分かる。

 

 ……この声は、カモシダとアスモデウスか。

 

「鈴井もこの部屋にいるのか?」

 

「ワフ」

 

 可能性の一つとして想定はしていたが、鈴井とカモシダそしてアスモデウスが同じ部屋にいるとなると鈴井を救出する時には確実に戦闘になるだろうな。

 しかし正面切って奴らと戦った場合、鈴井に危険が及んでしまう可能性が高い。なので、鈴井を安全に救出出来る為にも、先ずは部屋の中の様子を把握する必要がある。

 

「忍者スタイルで行くか」

「ワフ?」

 

 これまでのパレス探索でパレスの建造物を破壊する事が可能なことは分かっている。であれば、手っ取り早く身を隠しながら移動できる天井裏を伝って移動することも不可能ではない筈だ。

 

 人気のない廊下の壁をよじ登って天井に穴を開けて天井裏に登る。時折聞こえてくるカモシダ達の話し声を頼りに、音を立てないように注意を払いながら天井の梁の上を歩いて扉の向こう側の部屋の天井に辿り着いた俺とコロマルは、小刀で天井に小さく穴を開けて下の部屋の様子を覗き見る。

 

『こうも容易く鈴井を捕まえて来るとは。やっぱり、お前は仕事の出来る悪魔だ』

 

「フン。比較対象があのポンコツ天使では、誰でも出来る悪魔になるだろうがな」

 

 やはり、部屋の前で聞き取った声はカモシダとアスモデウスで間違いなかったようだ。

 薄っすらと光が漏れ出る小さな隙間から部屋を覗き込むと、あの派手なマントを何処かに脱ぎ捨てて、ブーメランパンツ一丁になったカモシダと、椅子に座ってワインを嗜みながら左手でハート型をしたピンク色の宝石を弄んでいるアスモデウスが軽口を交わしている様子が見える。

 

「人工救世主計画も再誕計画もライドウに潰されているというのに、未だ居なくなった主に縋り付いて奴らに目を付けられる大事件ばかり引き起こす。この『ネガイ』のような手段を考えて実行する悪辣さだけは磨かれているようだが、天使共は何一つ成長していない。それではヤタガラスもライドウも出し抜けはせん。その点、我々はこの『ネガイ』で奴らを出し抜く策を得た」

 

 そう言いながら喜色を隠そうともしないで手元の宝石を弄んでいるアスモデウスの様子に、安堵したような溜息を零したカモシダが、部屋に備え付けられていたベッドに近づいていく。

 部屋の真ん中に置かれているベッドは趣味の悪い装飾が施されていて、見ようによっては生贄を捧げる祭壇にも見える。

 

(あれは、鈴井、か?)

 

 その趣味の悪いベッドの上に座っていたのは、制服の上着を引き裂かれて白い肌が露出しているのに加えて、本来なら着用しているはずのスカートを殆ど剥ぎ取られてしまったのか、ショーツ一枚という状態で熱に浮かされたようにカモシダを見つめる鈴井志帆だった。

 格好もそうだが、瞳孔が開いてトリップしているようにも見えるが、魅了(マリンカリン)混乱(プリンパ)の魔法でも掛けられているのだろうか。

 

『しかし、『ネガイ』ね』

 

 熱に浮かされたような表情をしている鈴井を下卑た視線で舐めまわすように見ていたカモシダが、アスモデウスが握っている宝石に目を向ける。

 

『俺様が鈴井からそれを奪ったから、こいつは完全に俺様のモノになっている、ってことでいいんだよな?』

 

「そうだ。ネガイはその人間の夢や希望を形にした、心そのもの具現だ。それを奪われた人間は心を奪った対象を盲信する心無き肉人形になる。文字通りの意味で()()()()()()のだからな」

 

 アスモデウスのその回答に気を良くしたのか、カモシダが動く気配のない鈴井に近寄って鈴井の顎を持ち上げて乱暴に視線を上に向けさせて自分と視線を合わせる。

 

『今日、この場でお前は俺に自分から望んで抱かれる。そして、お前は高巻を裏切ってあの女を俺のモノにする手伝いをする。そうだな?』

 

「カモシダ、さまの、命令であれば、私の身体も杏も、貴方に、捧げ、ます」

 

 服を引き裂かれカモシダに下卑た視線を向けられた状態で、満面の笑みを浮かべながらカモシダからの行為を受け入れようとしている鈴井の眦から、一筋の涙が流れたのをこの目で見た瞬間には、腰に差していた愛刀を鞘から引き抜いていた。

 

 頭の片隅では、冷静に状況を判断し最もこちらが有利になるタイミングで攻撃するべきだと理性が叫んでいるが、知ったことか。

 俺は、あの手の輩が一番嫌いなんだ。

 

「『十文字斬り』」

 

 瞬間湯沸かし器のように沸騰した怒りの感情を僅かばかりの理性で制御しながら、葛葉家に伝わる剣技を用いて天井を切り裂いた俺は、突然の事態に反応が遅れたアスモデウスの左腕をその勢いのまま斬り飛ばし、その手に握られていた鈴井の『ネガイ』とやらを奪い取り、間髪入れずにカモシダの顔面に渾身の上段蹴りを叩き込む。

 

『ガッあ!?』

 

 服装が怪盗服に変化したことで更なる耐久性を獲得した、最早金属のように固いブーツ越しにカモシダの鼻の軟骨と前歯をへし折った感触をハッキリと感じながら、蹴りの衝撃で吹き飛んで壁に激突したカモシダには目もくれずに、呆然としている鈴井を抱き上げて部屋の扉を蹴り開ける。

 

「コロマル、ぶっ放せ!」

 

「ワォォオオオン!!」

 

 逃げる時間を稼ぐために、俺と同じタイミングで天井から降りてきたコロマルに範囲攻撃をするように指示を出しながら、俺自身もアルセーヌを召喚して『マハザンマ』を連発して部屋の天井を崩して、瓦礫が奴らの頭に降ってくるように攻撃する。

 アルセーヌが放った無数の衝撃波とコロマルのペルソナ(ケルベロス)が撃ったスキルの影響で、ついさっきまで下品な欲望の色で彩られていた部屋は見るも無残な状態になっているが、中に居るはずのアスモデウスは疎か、カモシダにもダメージを入れられた感覚はない。

 

 恐らくは無差別な全体攻撃と降り注ぐ天井の建材からアスモデウスがカモシダを守っているのだろうが、奴らの足が止まっているのならこっちとしては好都合だ。

 鈴井の身の安全の為にも今のうちに逃げるとしよう。

 

『ぐ、ぐおお。ひゃな、はなが』

 

「また貴様か、ライドウ!!」

 

 後方からくぐもった声の怒号が聞こえてくるが、構ってやる理由はない。鈴井を救出した時点で俺とコロマルの目的は達成されている。今はとにかくパレスから脱出するのが最優先だ。

 

「ちっ、邪魔だ!」

 

 パレスの主に見つかったからか、何処からともなく現れては問答無用で襲い掛かって来る鎧姿の量産型シャドウを文字通りの意味で蹴散らしつつ、通り道に撒菱(まきびし)やヤタガラス謹製の地雷をバラ撒きながら走り続ける。高位悪魔のアスモデウスには効果がないだろうが、雑魚シャドウやカモシダにとっては十分に脅威となる筈だ。

 そして、カモシダを守るように立ち回っているアスモデウスも、カモシダが罠を恐れて足を止めれば自然と奴の足も止まる。そうして奴らがもたついている間にパレスの外まで逃げ切れればこっちの勝ちだ。

 

「上手くいくかは賭けだが、な!」

 

 こちらの想定通りに事が上手くいくかは分からないが、状況を動かしてしまった以上はこのまま突き進むしかない。

 

 一抹の不安を抱えつつも、気を失ってしまった鈴井を落とさないように手近な窓のカーテンを引き千切って際どい格好になっている身体を隠してから横抱きの状態に抱え直し、一番近くにあった窓ガラスを蹴破ってそのまま外に飛び出す。

 

 巨大な城のほぼ最上階から飛び降りるのは並みの人間なら自殺行為だが、マガツヒや魔法で身体能力を強化できる異能者ならばこのくらいの高さから飛び降りたとしても死にはしない。それにこうすれば城内の煩わしいトラップや襲い掛かってくるシャドウを全部無視して逃げることが出来るので、この状況下では最善手だろう。

 

 高所からの落下による凄まじい向かい風で怪盗服をはためかせながら、城の外壁の出っ張りや尖塔の屋根を蹴飛ばして落下速度を落としつつ、パレスの出入り口が近くにある城門を目指す。

 

「ワン!」

 

「ああ。向こうも派手にやってるみたいだな」

 

 俺が鈴井を救出する前から契約している悪魔達に供給するマガツヒの量が跳ね上がっていたのは感じていた。

 城の外に出たことで聞こえるようになった爆発音や夜空を切り裂くような雷光の輝きから察するに、他に捕まっていた人間を助けに行った金時たちも戦闘になっていると考えるべきだろう。

 十中八九、カモシダ達の所にはいなかったガブリエルが現れたのだろうが、金時たちが居ればそう易々とやられたりはしない筈だ。

 

 そんな事を考えながらパレスの出口に向かって走り続けていると、抱えていた鈴井がもぞもぞと動き出す。どうやら目が覚めたらしい。

 

「こ、こは……?」

 

「目が覚めたか?」

 

「あなたは、確か転校生の……?」

 

 アスモデウスがこれ見よがしに持っていた鈴井のネガイとやらは、奴の腕を斬り落としてそれを奪った時ひとりでに鈴井の身体に吸い込まれて消えてしまったので、鈴井が目覚めた後が心配だったのだが、どうやらあの洗脳じみた異常状態は解除されているようだ。

 

「わたし、確か、鴨志田先生に……」

 

「混乱しているだろうが、今は何も言わずにしっかり掴まっててくれ。奴らが追い付いてきたみたいだからな」

 

 意識を失う前の出来事を思い出したのか、顔を青くする鈴井の返事を待つことなく俺とコロマルは進行方向を強引に曲げて、背後から飛んできていた巨大な火球(アギダイン)を回避する。

 直撃していたら俺達だけでなく鈴井にも致命傷を与えていたであろう威力の攻撃を繰り出してきたってことは、俺を始末することを優先し始めたか。まあ、これだけ奴らの計画を邪魔してればそれも当然か。

 

 標的を仕留めそこなったアギダインが地面に着弾すると同時に吹き飛んだ石畳の破片で鈴井が怪我をしないように庇いながらも、走る速度を緩めることなくパレスの出口に向かうが、どうやらすんなりと脱出させてはくれないらしい。

 

「そう易々と逃がすと思ったか?」

 

 それなりに距離を稼いで足止めもしっかりとしていたのだが、俺の想定を上回る速度で追い付いてきたアスモデウスが、俺達がアギダインを回避した隙に城門の前に回り込んで仁王立ちをしながら嗜虐的に嗤う。

 

 逃げ道を塞がれた以上、戦闘は避けられそうもないか。

 

 戦闘に備えるために、両手で抱えていた鈴井を下ろしてコロマルに護衛させながら、愛刀を鞘から引き抜いていつでもペルソナを召喚できるように身構えていると、アスモデウスが二の腕から先が無い左腕にマガツヒを集中させる。

 

 次の瞬間、アスモデウスの失った腕の先から異常な速度で肉が盛り上がり、まるで元々そこにあったかのようにアスモデウスの左腕が傷一つない状態で修復される。ついでの様に此処までの道中に仕掛けていた地雷などで付いたのであろう傷も瞬く間に完治してしまう。

 通常では有り得ない異常な回復速度に普段なら驚くのだろうが、つい最近似たような光景を別の異界で見たことがある身としてはそこまで驚くような事ではない。

 

「は、大層な名を持つ悪魔の癖にメメントスの主から支援を受けてるのか。大悪魔の名が泣くんじゃないか?」

 

「ちがうな。これは奴がどうしてもというから協力させているのだ。そうでなければあのような秩序を騙る輩の力など受け取るものか」

 

「……へぇ」

 

 メメントスであの刈り取るものと戦った時に感じたマガツヒの質や出現する悪魔の傾向から何となく察してはいたが、やはりメメントスの主は『Law』の陣営にいるやつなのだろう。

 今回の認知異界案件の原因が『Law』の陣営の手によるものだとしたら、人間の原罪という名の欲望が形になっている『Chaos』寄りのこのパレスにガブリエルがいるのにも、メメントスの主に派遣されたとかで説明がつく。

 

 色々と気になる事もあるし情報を引き出したいところだが、今はそれよりもパレスを脱出するのが優先するべきか。

 普通の人間が異界に長居すると最悪の場合死に至る可能性がある。既にそれなりに異界に長居している鈴井の顔色は余り良くない。彼女の事を考えれば早急に脱出するべきだ。

 

 状況的には、戦えない人間を抱えているこちらが若干不利。俺達の明確な弱点になっている鈴井を見逃すアスモデウスではないだろうが、呑気に何らかの作戦を考えている暇はない。あれだけ城内で大暴れして金時たちも派手に戦っている以上、直ぐにでも背後の城からシャドウが俺達を始末しようと大挙して押し寄せてくるのは目に見えている。

 

「多少、強引にでも!」

 

 覚悟を決めてアスモデウスに攻撃を仕掛けようと刀の柄を強く握った次の瞬間、真っ暗なパレスの夜空切り裂くような一際目立つ黄金の光が、凄まじい速度を出しながら俺達のすぐ傍を通過してパレスから飛び出していく。

 

「コウリュウ!?」

 

 全身に傷を負い、許容量を超えたダメージを受けたことで肉体が消えかけているにもかかわらず、その背に乗っていた百を超える人影を取り零さないように、後ろから飛んでくる氷塊を回避しながらパレスから脱出したコウリュウ。

 

 ほんの一瞬しか見ることが出来なかったが、コウリュウが運んでいた人影の大半はシャドウだった。それも、適当な野良シャドウに人間の姿を被せただけの認知上のシャドウではなく、誰かにとってのもう一人の自分だった。

 

 つまりは、あれだけの数の本物の精神体がこのパレスに囚われていたという事なのだろう。

 

 シャドウは原則として異界でしか存在を保てない。

 コウリュウの背に乗って強引に現実世界に連れ出してしまえば、シャドウは死亡することなく持ち主のもとに戻る。

 勿論、強引に現実世界にシャドウを連れ出して霧散させてしまうので持ち主に多少の影響が発生するが、そうする必要があるとあちらのメンバーの誰か――メンバー的にアイギスあたりか――が判断したのだろう。

 

「フン。あっさりと貴様の主から下賜されたものを奪われてしまったな。ガブリエル」

 

 そして、コウリュウを追い掛けていたのだろう、純白の羽を広げて高速で飛んできたガブリエルが忌々し気な表情を隠そうともせず、その手に持っていた血塗られた黄金喰い(ゴールデンイーター)を投げ捨てながら、俺達の背後というアスモデウスと挟み撃ちが出来るような立ち位置に降り立つ。

 

「ここでこの男を殺せば失点は取り返せます。さて、貴方の仲魔は死にましたよ、ライドウ」

 

 そう言ってガブリエルが地面に投げ捨てたのは、オーバーヒートして銃身が曲がってしまっているアイギスが装備していた筈の対霊重火器と刀身が砕けたモルガナが愛用していた曲刀の柄だった。

 

「……お前」

 

「随分と仲間思いな者たちですね。私を倒せないと悟った時点で私の足止めに力を注ぎ、あの悪魔(コウリュウ)の脱出を最優先にしたのですから」

 

 投げ捨てた黄金喰い(ゴールデンイーター)やアイギス達の武器の残骸を踏みつけながら俺達に勝ち誇った表情を向けるガブリエル。

 

「もっとも、マガツヒが尽き、まともに防御出来ない状態で私の『アイスエイジ』が直撃したので、勇敢な彼らが存在した証はこの程度の残骸しか残っていませんが」

 

「……勝ち誇るのはお前の勝手だが、慢心しない方が良いぞ」

 

「? 何を、があ"!?」

 

 俺の言葉に苛立ったのか、ガブリエルが何か言おうと口を開いたが、そこから出たのは俺を罵倒する言葉でも勝利を謳う言葉でもなく、苦悶に満ちた驚愕の声だった。

 

「へへーん。どんなもんだい!」

 

 ヘッドライトを消して闇夜に紛れた状態で、暗がりから爆走してきたシトロエンバスをモチーフにした黒塗りの車(モルガナカー)が、ガブリエルを背後から強襲してその矮躯をアスモデウスがいる近くにまで弾き飛ばす。

 ついでと言わんばかりに、九十度車体をドリフトさせて全開になった扉の奥から顔を覗かせた、一纏めにされた六つの砲身から無数の弾丸が吐き出され、アスモデウスとガブリエルの動きを封殺する。

 

 圧倒的な連射力と制圧力を発揮するアイギス用ガトリングガンの引き金を引いているのはどうやら高巻のようで、坂本と二人で銃身が暴れないように二人がかりであの暴れん坊のリコイル制御をなんとかこなしているようだ。

 

「たかが致命傷を食らった程度で死ねるんなら、英傑になんぞなってねえんだよ!『マハジオダイン』!」

 

「いい加減、沈んでよね! 『メギドラオン』!」

 

「標的を制圧します。来て、アテナ。『アカシャアーツ』」

 

 坂本達の制圧射撃に合わせるように、モルガナカーから飛び出したピクシーとアイギス、そして誰が見ても死にかけと言える程にズタボロになった金時が、自身が持つ最大威力の魔法やスキルを放つ。

 並みの悪魔どころか高位の悪魔でも確実に重傷を負うはずの攻撃に晒されるのが分かり切っているはずなのに、アスモデウスとガブリエルは避ける様な素振りすら見せずに全ての攻撃をその身で受け止める。

 

 悪魔の肉体にすら風穴を開ける筈の高威力の銃弾を食らい、全ての属性を内包する極大威力の魔法と強力無比な雷撃、そして高威力の物理攻撃を食らった筈なのに、奴らは膝を突くことすらなく、ボロボロになった肉体が瞬く間に修復されマガツヒが補填される。

 

「まさか生きていたとは。予想外ではありますが無駄なことです。あの方の恩寵がある限り死ぬことのない我等が負ける筈がないのですから」

 

「余計な事をペラペラと喋るな。ガブリエル」

 

 奴らは無敵ではない。こちらの攻撃は確実に通っているし、ダメージも与えることが出来ている。

 だが、それらを圧倒的に上回る不条理な回復力のせいで殺しきることが出来ない。

 

 マガツヒを湯水のように消費したとしても、回復魔法という工程を挟まなければ肉体を修復するのは不可能だ。

 あれが自前の回復力だと言われれば、勝ち目は限りなく無くなってしまうが、ガブリエルの言い方から察するに、その可能性はないと思っていいだろう。

 

(恩寵、ね。認知異界の主からのか? ……認知を利用したインチキをしているってことか)

 

 原理は分からないが、奴らの不死性には認知絡みのタネにあるとみるのが妥当だろう。

 今この場でそれを暴いて奴らを殺しきるのが理想だが、流石にマガツヒや武器にアイテムの消耗が著しいこの状況でそこまで対応しきるのは難しい。

 

 やはり、撤退を最優先にするべきか?

 

 不死身と言っても過言ではない奴らを出し抜いて撤退する方法を考えていた俺の背後から、不意に男の声がかけられる。

 

『どうやらアスモデウス達には歯が立たないらしいな。所詮は賊か』

 




ガブリエルがポンコツ気味なのは、鴨志田のパレスがカオス寄りで常にデバフが掛かっているのと、色欲を司るアスモデウスと相性が悪くて全体的にスペックダウンしているからです。

根本的に相性が悪い相手と同じ職場で同じ仕事を強制させられるとパフォーマンスが落ちるという典型例ですね。

つまり、黒幕がせっせと書き直した新チャートのガバポイントです。


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第七話

(更新速度の)速さが足りない! 
光の速さで執筆するパワーをオラに分けてくれー



『どうやらアスモデウス達には歯が立たないらしいな。所詮は賊か』

 

 男性にしては少し高めな特徴のある声で、嘲りを含んだそんなセリフを吐きながら城から出てきたのは、ついさっき俺が文字通りの意味で鼻をへし折ってやったカモシダだった。

 自分一人で俺達の前に出てくるつもりははなからないのか、大量のシャドウが何処からともなく現れて城の前の広場を埋め尽くし、あっという間に俺達を包囲する。

 

『この俺様に怪我を負わせたんだ。それ相応の報いを覚悟するんだな!』

 

 ここに来るまでに怪我の治療をしたのか、見るも無惨な状態になっていたカモシダの顔は概ね元通りになっている。

 だが治療を受けてもなお微妙に鼻が曲がっていたり、鼻血が止まっていない所から察するに、カモシダはアスモデウス達ほどの馬鹿げた回復力は持っていないようだ。

 

 これでカモシダまで不死身と錯覚してしまう回復力を発揮されていたらいよいよ困った事になっていたが、ダメージを蓄積させられるのであれば、最悪の場合はシャドウを暗殺してパレスを消滅させるという選択肢もまだ選択可能なのは僥倖というべきか。

 

「か、鴨志田か、あれ? なんだ、あの格好」

 

「どうでもいいわよ、あんなヤツ。そんな事よりどこか怪我してたりしてない? 志帆」

 

「う、うん。なんとか。自分でも何が起きたのか全然理解できてないけど、杏が言ってた転校生クンが助けてくれたから」

 

 カモシダやシャドウ達の標的にならないように庇っていた坂本と高巻、そして鈴井のそんな会話が俺の後ろから聞こえてくる。

 すぐに逃げられるように準備しておいて欲しいが、そこまで要求するのは流石に酷か。

 

「どうするライドウ。正直、結構厳しいぞ」

 

 油断なく刀を構えながら隣から聞こえてきた声に顔を向けると、車の姿から見慣れたマスコット形態に戻ったモルガナが予備のカトラスを構えながらじりじりと包囲を狭めているシャドウの群れを牽制しつつ俺に問いかけてくる。

 

「目標は救助した。コウリュウのお陰で鈴井以外に捕まっていた連中も解放されたようだから、あとは撤退するだけだ」

 

「そうは言っても、ここまで消耗している状態で、あの包囲網を突破するのは激しいぞ」

 

 アスモデウスと同じ様に不死身に近い状態になっているらしいガブリエルと全力で戦っていたのが尾を引いているのだろう。

 俺と一緒にいたコロマル以外は怪我が目立つし、マガツヒもだいぶ消耗している。確かにこのまま戦っては俺達が確実に不利だ。

 

「心配するな。奴らがインチキ回復するなら、こっちもそうすればいい」

 

 初めてメメントス(初見の異界)に潜った時に準備を怠ったせいで痛い目に会ったばかりなので、あれ以降外出する時には出来る限りの準備をしている。

 ガブリエルと戦っていた仲間は事前に用意したアイテムを激闘の最中で使い切ってしまったのだろうが、俺はカモシダ達の足止めに使用した攻撃系以外のアイテムを消費していないため、まだ手持ちが残っている。

 その中でもエリクサー症候群とでも言うべき貧乏性のせいで、出番がなかったとっておきを今回は持って来ている。

 

「大盤振る舞いだ!」

 

 仕込み武器なんかを収納している懐から取り出したのは、栄養ドリンク程度のサイズの小瓶。

 勿論ただの小瓶ではない。この小瓶に入っているのはインドの異界を攻略して奪い取って来た本物の『ソーマ』だ。

 本物のソーマは一定量を服用すると、一般人でも霊能力や疑似的な不老不死を得ることがある神話級の霊薬なのだが、今必要なのはそんな効果ではない。

 

 大事なのはソーマが高濃度のマガツヒと神通力で構成されていて、空気中に散布すれば効果範囲内に居る存在の肉体の損傷も疲弊した精神も消耗したマガツヒすら全回復してくれるという点だ。

 これは劣化品のソーマにはない効能で、高難易度の異界を探索する際には必須の品と言っていいだろう。

 

 まあ、そうそうお目に掛かれない希少品なので、おいそれとは使えないのが玉に瑕ではあるが。

 

 ソーマが入った小瓶を上空に放り投げ、拳銃で小瓶を打ち抜くと同時に少量の乳白色の液体が空中に溶けて、柔らかく、暖かな黄金の光となって俺達に降り注ぐ。

 

 俺達に降り注いだ光が身体に吸い込まれると同時に、仲魔の召喚と維持コストを払っていたことで目減りしていた俺のマガツヒが補填され、肉体の疲労が瞬く間に解消される。

 そしてソーマの効果範囲内に居たアイギスや金時たちにも降り注いだ光は、彼らの傷を癒し、底をついていたマガツヒを万全な状態にまで回復させる。

 

「さあ、これでイーブンだ」

 

『小癪な! シャドウ共、こいつらを殺せ!』

 

「非戦闘員を守りつつ脱出を優先! 押し切るぞ!」

 

 カモシダの指示を受けたシャドウの大軍と、アスモデウスとガブリエルが殺意をむき出しにしながら俺達に向かってくる。

 それに対して俺たちも焦ることなく各々の得物を構えて迎撃態勢をとる。

 

 まず最初に激突したのはガブリエルに近接戦を挑んだ金時とアイギスだ。

 スキル構成の傾向的に魔法よりも物理攻撃の方が戦える二人が遠距離主体のガブリエルに肉薄することで、敵が得意とする距離での戦闘や戦法を封じて、自分たちの得意を押し付けている。

 

 そしてコロマルとピクシーのコンビはそれとは対照的に、徹底的に距離を詰めさせない様な立ち回りでアスモデウスを翻弄している。

 火炎を吸収してしまうアスモデウスとペルソナの相性が悪いコロマルは原則攻撃せずに、持ち前の機動力を活かしてアスモデウスの攻撃を全て回避して距離を保ち続けている。

 そしてそんな一切被弾しないコロマルの背に、各種魔法に長けたピクシーが乗ることで、超高機動型超火力魔法使いとなった彼等は、不死身状態のアスモデウス相手でも優勢を維持している。

 

 取り敢えず後ろは彼等に任せても大丈夫そうだ。

 後方が抑えられているのであれば、俺とモルガナは黒い津波のように大挙して押し寄せてくるシャドウ達を掃討するとしよう。

 

『大人しく殺されていればいいものを!』

 

 思い通りに俺達を始末できない事に苛立ったカモシダが、眉間にシワを寄せて凄まじい形相で俺達を睨み付けてくるが、ふと何かに気付いたような表情をする。

 奴の視線はシャドウと戦っている俺達を通り越してその後ろにいる高巻達に向けられている。

 

 彼女たちの存在(高巻と鈴井)に気付いたカモシダは今までの怒りは何処に行ったのか、お気に入りのオモチャを見つけたような喜色を浮かばせて口を開く。

 

『おいおい、鈴井だけじゃなく杏までここに来ていたのか。お前ら、死ぬ気でそいつらを抑えろ』

 

 カモシダがそう口にした瞬間、シャドウ達が文字通りの意味で津波のように俺とモルガナに襲い掛かってくる。

 十分に警戒していたのでシャドウの山に埋もれる事はなかったが、自身の消滅も厭わず捨て身で特攻を仕掛けてくるシャドウを押し返すことが出来ない。

 

「ううお!? 急に物量が、このぉ! 『ゾロ』!」

 

「くっ、『アルセーヌ』!!」

 

 カモシダの命令で押し寄せてきたのは、刀の一振り、一発の銃弾、一撃の魔法。たったそれだけで倒せるシャドウだ。

 普段であれば歯牙にもかけない雑魚なのだが、無限に湧き出ているのではないかと錯覚するほどの物量を頼りに、自死を省みない特攻を仕掛けて来るせいで、高巻達の居場所から更にじわじわと距離を離されてしまう。

 

 他のメンバーもアスモデウスとガブリエルを抑えるので手一杯な現状では、誰も高巻達を庇えない。

 

「邪魔、だ!」

 

 ソーマの効果で回復したマガツヒを湯水のように消費して、アルセーヌに何度も『マハザンマ』を撃たせたのが功を奏したのか、ほんの一瞬だけシャドウの肉壁に人一人が通れる隙間が出来る。

 その瞬間を見逃すことなく高巻達のもとに行こうと走り出すが、カモシダの命令を忠実に守るシャドウ達によって瞬く間に隙間が塞がれてしまい、創り出した道が閉ざされる。

 

「クソ!」

 

『貴様はそこで指を咥えて見ていろ』

 

 俺が奴のもとに辿り着けないことを悟ったのか、カモシダがニヤニヤと笑いながら豪勢な鎧を纏ったシャドウを数体引き連れて鈴井達に近づいていく。

 

『相変わらず良い体をしているな、杏。今日からお前らは俺のモノだ』

 

 色欲塗れの表情で、鈴井と高巻にそう言い放つカモシダ。

 トチ狂った格好をしているとはいえ、現職の教師のシャドウがそんな言葉を言い放つとは思っていなかったのか、高巻達は困惑の表情を浮かべる。

 

「なに、言ってんの」

 

『いずれは鈴井も合わせてどちらの身体も味わうつもりだったが、手間が省けた』

 

 カモシダの言葉が理解できないといった様子の高巻が訊き返すが、カモシダは構うことなく自分の欲望を垂れ流し始める。

 

 現実の鴨志田本人であったならば、恐らくはこんな妄言を堂々と言い放ちはしなかっただろう。

 だが、パレスの中にいるカモシダは隠した本音(もう一人の自分)が姿を取った存在であり、このタイミングであんな事を言えるのは、常日頃からそんなことを考えながら高巻たちに接していたということなのだろう。

 それに加えて、自分のパレスに色欲を司るアスモデウスが居ついている影響で、本人でも自身の色欲に歯止めを掛けられなくなっている可能性すらある。

 

 

『そもそも鈴井の実力なら確実にレギュラーで居続けられた。だというのに、鈴井をレギュラーから外す話を仄めかしただけで、杏が釣れた時は思わず小躍りしてしまったぞ』

 

『杏は鈴井の身を案じて、そして鈴井は杏の身を案じて、俺のいいなりになった』

 

『世間を知らないバカなガキは扱いやすくていい』

 

 

 高巻の献身でレギュラーの座を得たと思っていたのだろう。自分の実力を信じ切れず親友に意味のない負担を強いていた鈴井の表情が凍り付く。

 そしてカモシダの口ぶりから高巻も親友の実力を信じ切れず、好意を抱いていない鴨志田を相手に我慢を強いられるような関係を保ち続けていた、というところか。

 

「ざっけんなよ、テメェ!!!」

 

 カモシダの独白を聞き、凍り付いた表情をする高巻達を見た事で自分の中の怒りがそれまでの恐怖を上回ったのか、いきなり立ち上がった坂本がカモシダに殴り掛かる。

 

「駄目だ、逃げろ!」

 

 普通の人間や本性を現していないシャドウが相手ならいざ知らず、武装したシャドウに一般人が敵う筈がない。

 俺の静止の声も聞かずカモシダに殴り掛かった坂本は、カモシダを護衛しているシャドウに瞬く間に制圧され、地面に叩きつけられる。

 

『間抜けが。いい気味だ』

 

「クソ、野郎が!」

 

 地面に叩き付けられてもなおカモシダに殴り掛かろうとする坂本に苛立ったのか、シャドウが腰に佩いた剣を奪ったカモシダが、その刀身を坂本の脇腹に突き刺す。

 認知とマガツヒによって本物の刀剣以上の鋭さを持った剣が、シャドウ特有の並みはずれた腕力で振るわれた事により、ヤタガラスが用意した防御アーマーと坂本の肉体を容易く切り裂き、鮮血を周囲に撒き散らす。

 

「ぐ、がああああぁああ!?」

 

『坂本、お前は本当に学習しないな』

 

 シャドウに組み敷かれ痛みに藻掻く坂本の姿を見たカモシダが嗜虐的に笑い、身動きの取れない坂本の頭を何度も何度も踏みつけながら喋り続ける。

 

 

『俺様が秀尽で実績を上げて目立つのに、お前達陸上部が目障りだったんだ』

 

『暴力事件を引き起こさせ、陸上部を廃部に追い込む為に無意味な事を練習と称してやらせたというのに、無駄に根性だけはあるせいで中々根を上げないから始末に負えん』

 

『中々上手くいかんから喧嘩っ早い坂本に目を付けたのは、我ながら冴えた考えだった。案の定我慢出来ずに暴力事件を起こして陸上部は廃部だ。ざまあみろ』

 

 

 一頻り坂本を蹴り続けたことで満足したのか、坂本をシャドウに押さえつけさせたまま、カモシダは今度はその両手を高く掲げて宣言する。

 

『杏も鈴井もついでに坂本も、お前たちに未来は訪れない。お前らの未来(ネガイ)はこの俺の物だ!』

 

 カモシダが口にしたその言葉を普通の人間が言ったのであればただの言葉でしかない。

 だが、曲がりなりにもそれなりの力を持つシャドウである奴が放った『不吉な言葉』は、絶望状態を付与するスキルとして成立しているようで、そのスキルをもろに食らった高巻が顔を青褪めさせて身動きしなくなる。

 

『ネガイ』がどうたらとか言っていたが、鈴井の様子がおかしくなっていた原因と同じ事をするのだとすれば、このまま黙って見ている訳にはいかない。

 

「諦めるのか!?」

 

 シャドウという強力な力を意のままに操って自身の強大さを示したカモシダの威容と、絶望状態を付与するスキルが乗った言葉に押され、俯いてしまう高巻達。

 だが、お前たちはそうじゃない筈だ。

 

「そんな、クソ野郎に良いようにされて、黙ったままでいるのか!!」

 

 廃部の直接的な原因になったせいで恐らくは仲が良くないであろう陸上部員を探していた坂本も、親友を助けるためにたった一人で夜の街を探し続けた高巻も、こんな奴に良いようにされている現状を簡単に受け入れて、抗う事を諦める様な奴らじゃない筈だ。

 

「諦めるのか!!」

 

『喧しいぞ。貴様は後で処理してやるから、黙ってそこで見ていろ!』

 

「ぐ、お!?」

 

 カモシダの呼び声に答えたシャドウ達が、今までよりも苛烈に、自身どころか仲魔に危害が加わることにすら厭わずに攻撃を仕掛けてくる。

 これでは流石に、坂本達を鼓舞することも出来ず、自身に押し寄せてくるシャドウを捌くので精一杯になってしまう。

 

『さあ、邪魔者はもうすぐ消える。これでお前らは俺の……』

 

 

「黙れよ」

 

「許さない」

 

 

 痛みに藻掻いていた筈の坂本が、俯いていた筈の高巻が、カモシダに向かってそう言い放つ。

 二人の身体に収まっていたマガツヒが漏れ出し、青い燐光と共に燃え上がり始める。

 

『なに?』

 

「黙ってろっつったんだよ、淫行教師! テメェだけは、テメェだけは許さねえ!!」

 

「私たちをくだらない欲望の捌け口にしようとした事も、私たちの友情を踏み躙った事も、絶対に許さない!!」

 

 二人の燃え上がる様な怒りの感情と、理不尽に抗う反逆の意志。

 普通の人間ならば、ただの感情の発露で終わっていただろう。だが、彼らは()()()()()()()()()()()()

 

 

 

『随分と待たせたものよ』

 

『まったく、出番が遅すぎるのよ』

 

 

 

 二人から漏れ出たマガツヒが巨大な影を作り、青い炎を纏いながら次第に明確な形を取り始める。

 

 次の瞬間、海賊帽を被った大男が坂本を押さえつけていたシャドウを殴り飛ばし、ついでと言わんばかりに狼狽えているカモシダも蹴り飛ばす。

 大男の手を借りて脇腹に刺さっていた剣を強引に抜いた坂本が立ち上がり、いつの間にかその顔に張り付いていた()()に手を掛ける。

 

『どうせ消しえぬ汚名なら、旗に掲げてひと暴れ。我は汝、汝は我…… 己の意志で走り始めなければ、見つからない物もあるだろう?』

 

「そのニヤけたツラぁ! 泣き顔に変えてやるよ!!」

 

 真っ赤なドレスを着込み、大きな鞭を持った女性が鈴井と高巻に襲い掛かろうとしていたシャドウを焼き払う。

 突然の事態に動揺する鈴井を庇う様に立ち上がった高巻が、坂本と同様にその顔に張り付いた()()に手を掛ける。

 

『あんなことを言われて、許す気になんかならないもの。我は汝、汝は我…… 我慢し続けるなんて、私のガラじゃないでしょ?』

 

「泣いて謝っても、遅いんだから!」

 

 何度も見たことがある光景だ。

 これは、SEESや特捜隊の、()()()()使()()()()()()

 

『『ペルソナ!』』

 

 二人の体に長年貯め込まれたマガツヒがペルソナの顕現と共に弾ける。

 ペルソナの顕現時に漏れ出たマガツヒが蒼い炎となって攻撃に転換され、俺とモルガナに群がっていた無数のシャドウを焼き払い、それと同時に彼らの反逆の意志を具現化した存在がよりハッキリとした実体を手に入れてその姿を表す。

 

「ぶっ放せよ! キャプテン・キッド!」

 

「いくよ! カルメン!」

 

 今までの自分と決別し、理不尽に抗う為にもう一人の自分と共に立ち上がったペルソナ使い達が、反逆の狼煙を上げる。

 




ちなみに、本物のソーマを服用した場合の効果は以下の通りです。
『服用者は疑似的な不老不死を得ることがあります』
ですが、それは肉体が霊的存在、具体的にはマガツヒの塊になってしまうからです。

『服用者は霊能、異能に目覚める事があります』
自身がマガツヒの塊になって霊的存在に近づくので、霊能に目覚めた様に見えるというのが実態です。

なので基本的に普通の人間がソーマを服用すると肉体がマガツヒに変換されてしまい、本能的にマガツヒを求める悪魔に美味しくマルカジリされてます。
神話でたびたび出てくる不老不死になった人間がこの世界の現代社会に存在しないのはそういう理由です。


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第八話

感想数が減って見てくれている人がいるのか不安になりつつも投稿です。
まあ、元々は自給自足の為に書き始めたので別に辛くは……

ごめん、やっぱつれぇわ


「お、おおおおお!!」

「はああああああ!!」

 

 覚醒した二人のペルソナが各々の得意な魔法属性、キャプテン・キッドは雷を、カルメンは炎を纏って、雑多な雑魚シャドウを焼き払いながらカモシダに突撃する。

 

『お、お前ら! 俺様を助けろ!』

 

 自身の内から溢れる衝動に任せただけの力圧しにもかかわらず、二人のペルソナが発する力に恐れをなしたカモシダが、アイギス達と鎬を削っていたアスモデウス達を自身の傍に呼び戻す。

 

 何らかの異能を使用したのだろう。瞬間移動のようにカモシダの傍に呼び戻されたアスモデウスはキャプテン・キッドの突撃を、ガブリエルはカルメンの炎の鞭をその身で受け止める。

 

「チッ、窮地に陥ればネズミとて猫を噛むというが!」

 

 本来、異能に目覚めたばかりでロクに鍛えられていないペルソナでは異能力の格、ありていに言えば『レベル』が足りないのでアスモデウスやガブリエル程に強力な悪魔に傷を付けるなど不可能だ。

 だが、目の前の光景はそんな常識を嘲笑うかのように、平常時であれば奴らに傷一つ付けられない筈の二人の攻撃によってアスモデウスは業火に焼かれ、ガブリエルは雷撃に貫かれ、確かに怪我を負い、痛みに身を捩っている。

 

「この私が異能に目覚めたばかりの者に、力負けするなど!」

 

 ある程度異能を使うことに慣れていれば自身のマガツヒを節約することや自分が有利になる戦法を考えたりしながら戦うものだが、今の彼らは覚醒時特有の全能感に従ってただただ打ち倒すべき敵に向かって突撃している状態だ。

 誰がどう見ても二人のペルソナも彼ら自身も暴走状態に陥っていると分かるが、今この瞬間においてはむしろそれがプラスに働いている。

 

「あいつら、どうしたってんだ?」

 

「ある程度年齢を重ねてから異能に覚醒するとああなり易いんだ。今まで生きてきた中で積み重ねて来たものを一気に放出する感覚に酔ってしまうからな」

 

 この世界の人間は多かれ少なかれ皆マガツヒを発生させ、自身の体内に保有している。

 これはマガツヒが意識存在の精神から発生するエネルギーである以上、異能を覚醒するほどの才覚がない一般人でも同様だ。

 

 日々の幸福や不幸といった精神を揺さぶられる経験をした時に微量のマガツヒを生み出し、それを自身の精神活動に用いて消費し、また生み出して、というのが人間を含めた意識存在のマガツヒ循環サイクルだ。

 だから、自身の精神そのものであるシャドウを害されるとマガツヒを生み出せなくなって無気力症候群を発症したり、逆に生み出したマガツヒを消費することが出来ず精神を制御できなくり、精神暴走事件が起きるのだ。

 

 だが、異能の才覚を持つ人間は事情が違ってくる。簡単に言えば、異能を持つ人間はマガツヒを溜め込む事が出来るのだ。

 逆に言えばマガツヒを貯め込む事が出来るから、魔法や悪魔召喚、ペルソナ能力といった能力を使用できるということでもある。

 

「自身の精神を確立させ、異能に覚醒するまでの長い期間溜め込んだマガツヒを一気に燃やすんだ。ほんのひと時、数分程度ではあるが圧倒的な力を発揮するのは当然だ」

 

 俺がラウールを覚醒させてあの『刈り取るもの』に打ち勝ったように、彼らに自覚はないだろうが今この瞬間に十年以上体内に溜めたマガツヒをいっきに燃やしてあの強力な力を実現させているのだ。

 

「だが、長くは持たない」

 

 長年溜め込んだとは言っても、異能を覚醒していないとマガツヒの生成効率も一般人と同程度であり、溜めたマガツヒの量もそれ相応だ。

 あれだけの力を発揮しながら暴れていることを考えれば、持ってほんのひと時、時間にしておよそ数分程度でガス欠になるだろう。

 

「全員、狙いをアスモデウスに集中!」

 

 俺のその号令と共に、アイギス、コロマル、金時、ピクシー、モルガナという普通の異界ならピクニック感覚で攻略できる戦力がアスモデウスに集中する。

 超回復能力で擬似的に不死身になっているとはいえ、これだけの数と質の暴力に晒されては然しものアスモデウスも反撃に移れないようで、自身の耐性と謎の超回復能力で耐え切る方法に切り替えたようだ。

 

 こちら側のマガツヒが尽きるまでではあるがアスモデウスは抑えられた。カモシダも坂本と高巻から本気の敵意を浴びせられたことに恐れを抱いたのか、追加で召喚したシャドウを肉壁にしてガブリエルの背後から動く気配はない。

 であれば、後は

 

お前(ガブリエル)を斬るだけだ」

 

 状況は依然劣勢だが、ここで厄介なガブリエルを始末できれば今後の活動に大きなプラスとなる。

 無茶のしどころってヤツだ。

 

あの方の恩寵(異常な回復力)を突破できないくせに、何を」

 

「キャプテン・キッド!」

 

「づうぅ、こ、の、小僧ぉぉぉおお!」

 

 戦闘中によそ見するからそうなるんだよ。

 

 坂本と高巻のヘイトはカモシダに向いているが、別にアスモデウスとガブリエルを無視しているわけではない。それに偶然でもなんでもカモシダを守るような位置に立ってしまっている以上、カモシダを標的にしている二人の攻撃に晒されるのは当たり前だ。

 キャプテン・キッドが放った雷撃が弱点属性だったこともあってか、右半身を炭にされて怒り心頭なガブリエルがキャプテン・キッドを無視して本体である坂本に襲い掛かるが、それを見過ごすほど耄碌はしていない。

 

「アルセーヌ!」

 

 ガブリエルの進行ルートに突如として現れたアルセーヌが、ガブリエルの腹部を蹴り飛ばして強引に距離を離させたのと同時に俺も手にしている刀で斬りかかる。

 

 かつてこの世界に実在していた、俺のご先祖様の葛葉ライドウ(十四代目)は、刀、槍、斧という三種類の武器を駆使して戦うことができる武芸の達人でもあったのだが、生憎と俺自身には複数の武器種を操る才能はない。

 だが、基本となる『刀術』に限定してみればそれなりに才能はあったらしく、葛葉家に伝わる秘伝の刀術は免許皆伝を師範から戴いている。

 

「煉獄撃·()

 

 アルセーヌに蹴り飛ばされて死に体を晒しているガブリエルの胴体を輪切りにするように右から左への水平斬り。

 

「煉獄撃·(かい)、煉獄撃·(しん)

 

 返す刀で左から右に向かう逆袈裟斬り、そして上段の構えから真下に振り下ろす唐竹割を繰り出す。

 一撃、二撃はモロに入ったが、三撃目はガブリエルが背中の翼を羽ばたかせたことで僅かに彼我の距離が開いてしまったので躱されてしまう。

 そのまま地面スレスレを滑る様に飛ぶことで俺の攻撃範囲から逃げようという魂胆なのだろう。

 

 だが、甘い。

 

「修羅虎突き」

 

 石畳を踏み割る程の踏み込みから繰り出される心臓を狙った一突き。

 マガツヒによって強化された身体能力による瞬間移動染みた加速から繰り出された突きが、ガブリエルの心臓を抉らんとするが、それを見たガブリエルが何故か血相を変えて隙を晒すことすら厭わずに、身を捩って必殺の突きを回避する。

 

 妙だな。何者かに与えられている尋常ではない回復力に加えて、高位の悪魔であるガブリエルは心臓を貫かれた程度で死ぬほど軟ではない。

 あんなに血相を変えて必死に回避する必要なんてなかった筈だが。

 

「く、う、天使共!」

 

 一連のコンボをどうにか躱しきったガブリエルが、背中に生えている翼から羽を振り落とす。

 空中にバラまかれたその羽を起点にマガツヒが増大し、下級の天使達が召喚される。

 

 だが、この状況でそれは悪手だ。

 

「『マハラギダイン』」

 

 召喚された『エンジェル』と『アークエンジェル』の混合部隊はカルメンが放った広範囲火炎魔法でロクに行動する事すら許されずにガブリエル諸共焼き払われる。

 

「羅刹龍転斬・修羅回転蹴」

 

 カルメンが放ったマハラギダインに巻き込まれてもなお原型を保っていたガブリエルに対して、爆炎を目暗ましにして接近した俺は、円を描くように振り抜いた回転斬りで殆ど炭になっていた翼を斬り落とし、その勢いを保ったまま回し蹴りをガブリエルに叩き込んでその体を奴の意志とは反した状態で上空にかち上げる。

 すかさず俺自身も身体能力に物を言わせて重力の軛に抗うように空高く飛び上がって、空中で自身の傷を癒すガブリエルの上を取る。

 

「ずっと考えていた。アスモデウスが『ネガイ』を欲していた理由を」

 

 押しも押されぬ大悪魔であり、その力量に関しては間違いなくトップクラスであるはずのアスモデウスが、わざわざ人間のシャドウに付き従い、従者のように振舞っていた事。

 四大天使の一角であり、唯一神以外には従わぬと豪語し、姦淫を嫌うガブリエルが色欲を司るアスモデウスと肩を並べ、好色なカモシダの言うことに従っていた事。

 

 つまり、奴らの狙いは認知存在であるカモシダに味方しなければ手に入れられない、()()()()()()()()

 

「今回で言えば『ネガイ』が超回復のカラクリだな?」

 

 

『羅刹飛討撃』

 

 

 空中で炸裂させたマガツヒの爆風を自分の背中で受けとめ、空を飛べない人間には本来不可能であるはずの空中での加速を行い、超常的な回復力で傷を癒す為に隙を晒したガブリエルの心臓に刃を突きたてる。

 どれだけ攻撃を浴びようと気にも留めていなかったガブリエルが唯一戦闘中に庇っていた場所、心臓に当たる部分を貫いた愛刀が固いモノと衝突した手応えを感じる。

 

 ガブリエルの体を貫いた愛刀に押し出されるようにしてガブリエルの身体から飛び出て来たのは、小指サイズの『真っ白に染め上げられた宝石』だ。

 

 やっぱり、心臓に何か仕込みをしていたか。

 誰かの『ネガイ』だと思われるその宝石を器用に切っ先で弾いて高巻の方に飛ばした後、一切の遠慮なく再度マガツヒを背中で炸裂させてガブリエルの肉体ごと地面に激突する。

 

「『十文字斬り』」

 

 ガブリエルの肉体を貫いて地面に突き刺さった刀を、マガツヒで強化した身体能力で強引に動かして剣技を放つ。

 

 ガブリエルの心臓を起点に地面ごと四等分に割断された肉体は、ついさっきまで見せていた超回復の兆候がない。

 やはり、さっきの『ネガイ』があの馬鹿げた超回復のカラクリだったのだろう。

 

「な、ぜ」

 

「お前たち悪魔が人間を利用しようとしていたら、その利用方法を予想して妨害するのが俺達の仕事だからな」

 

『認知異界』で『認知存在(悪魔)』が『人間のネガイ()』を利用して成す事柄。

 大して考えなくてもロクでもない考えがいくらでも思い浮かぶが、今回は割と予想をつけ易かった。

 

 恐らくは適当な人間を洗脳してそいつの思考を『不死身になりたい』とか『どんな怪我も治る体が欲しい』とかに固定して『ネガイ』を取り出し、自身の体内に埋めることでそのネガイを認知上の能力として成立させて利用する、といった感じか。

 

 肉体の大部分がマガツヒで構成されていて、認知上の力であり方すら変えられる存在だからこそ使える手段だ。

 だが、この方法は現実では使えない。こいつらがこのパレスから出てこなかったのもその辺が理由だろう。

 

 本当に、ロクな事をしないな。こいつら。

 

「回復手段は奪ったし、致命傷も与えた。何か言い残すことはあるか?」

 

 実際に斬り殺して分かったが、四等分になったこいつもガブリエルの本体ではない。

 相当力を分け与えられているみたいだし、その力は本体にも勝るとも劣らないレベルなのだろうが、アスモデウスに比べて力の、マガツヒの密度が低い。

 カモシダやアスモデウスには上手く隠していたようだし、俺も傍から見ているだけでは気付かなかっただろう。

 実際、数年前に戦った時のTOKYOミレニアムでは気付かなかったが、あれから俺も色々経験を積んだからこそ今回のこいつが本体でないことが分かったようなもんだしな。

 

「この、バケモノ、が」

 

「ハッ。本体に伝えておいてくれ。そのバケモノがそう遠くない内にお前(本体)を必ず殺しに行く、とな」




ライドウの素の戦闘力はこんな感じです。タイマンではほぼ負け無しです。
バケモノ呼ばわりも当然っすね。先代もこんなんだったようなので問題ないな、よし!

ゲームのライドウのコンボ技にちゃんと名前が設定されてるのを二次創作する段階で知りました。
今作では『葛葉流刀術』という設定で使っていきます。

竜司と杏がこの戦闘でだけ強いのは、覚醒した時のムービー演出だと思って貰えれば


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第九話

読んでくれている人がいっぱいいてうれしかったので投稿します。


 肉体を四分割にされ、凄まじい形相をした状態で死を迎えたガブリエルの遺体が完全に消滅するのを油断することなく見届ける。

 この手の分身体は今わの際に自分の死体を生贄にして本体を召喚してくる可能性があるから、死亡と死体の消滅確認はキッチリしておかないといけない。

 

「まずは一体、か」

 

 近接戦が得意そうだったアスモデウスと遠距離主体のガブリエルのコンビは、お互いの属性と性格の相性が良くないにも拘わらず戦闘時のコンビとしてそれなりに噛みあっていた。

 実際、パレスを探索する時にあのレベルの悪魔が連携を取りながら毎度襲撃してくるようなことがあれば、パレス攻略に大幅な遅延が発生していただろう。そういう意味で言えば、片割れのガブリエルをこのタイミングで始末できたのは僥倖だった。

 

 さて、これで残る障害はアスモデウスのみなのだが。

 

「ハッ、ハッ、クッソ、身体が重い」

 

「後、少し、なのに」

 

「ふ、二人共、大丈夫!?」

 

 ……どうやらここまでのようだ。

 

 カモシダを守るシャドウ達を削っていたキャプテン・キッドとカルメンの姿がブレはじめ、本体である坂本と高巻の足取りが重くなり、彼らは思う様に動けなくなりつつある。完全にマガツヒが尽きかけている時の症状だ。

 

 息も絶え絶えな二人の状態を反映するように、実体化を保てなくなったペルソナが二人の心の海に還り、髑髏の仮面と黒いライダースーツ姿の坂本とネコ科の動物を模した仮面に赤いボディスーツ姿の高巻が地面に膝をつく。

 程なくして俺やモルガナの物と似た意匠のある彼らの『怪盗服』が青い炎と共に消滅し、二人の姿が事前に貸し与えたヤタガラス製の防具で武装した秀尽学園の制服姿に戻る。

 

 初めての異界探索と本当の命の危機、そしてペルソナの覚醒にマガツヒを急激に消費する戦闘を一度に経験したのだ。当然、体力や精神力の消耗も激しくなるし、何なら今も意識を保てているのが不思議なほどだ。

 最早立ち上がれ無くなるほどに体力を消耗した二人と、その二人を介抱する鈴井がシャドウに狙われないように庇うが、それでもなお二人はカモシダを殴ろうと無理矢理立ち上がろうとする。

 

「二人とも、ここまでだ」

 

「なに、言ってんだ。まだ、やれる!」

 

「そう、よ。せめて、一撃、入れてやらないと」

 

 これだけ暴れても戦意が衰えないのは、それほどまでにカモシダが憎いからなのだろうが、これ以上戦闘を継続するのは不可能だ。

 ガブリエルを倒しはしたがアスモデウスは未だ健在な上に、さっきからシャドウが城の中から湧き出し始めている。このままいけばそう遠くない内に敵の数の暴力がこっちの継戦能力を超えてしまうのは目に見えている。

 

 シャドウの肉壁に隠れているカモシダを確保できなかったのは痛いが、異様な超回復能力のカラクリの解明とガブリエルの高位分身体を始末するという戦果を挙げられたのだから良しとすべきだろう。

 

「みんな、撤退だ!」

 

 俺のその言葉を聞いたアスモデウスと戦っていたメンバーが、それぞれ大技を放ってアスモデウスを大きく吹き飛ばす。

 

 歴戦の戦士や悪魔が放つ攻撃によって肉体の大部分を焼き払われ、削られたりしているにもかかわらず、あっという間に肉体を修復して怒りの形相を浮かべるアスモデウス。

 ガブリエルと戦っている時もアイギス達の戦況は見ていたが、苛立ったピクシーがメギドラオンで全身を消し飛ばした時も瞬く間に復活していたあたり、アスモデウスは超回復能力のカラクリである『ネガイ』をガブリエルのように体内に埋めてはいないとみて間違いないだろう。

 

「待てよ、俺はまだ」

 

「私も、まだ」

 

「ピクシー」

 

「はいは~い」

 

 なおもカモシダに突撃しようとする坂本と高巻の目の前に現れたピクシーが、その小さな両手を二人に翳す。

 

「そんな状態で行っても返り討ちになるだけよ。一旦頭冷やしなさい。『ドルミナー』」

 

 ピクシーの掌から放たれた紫紺の煙が二人の顔を覆い、興奮状態だった二人があっという間に深い眠りにつく。

 寝落ちした二人を金時とアイギスが素早く背負い、目の前で起きている事態を飲み込めていないせいで動けていない鈴井を、俺が抱き上げてパレスの出入り口に向かって走り出す。

 

「逃がすと思うか!?」

 

「捕まると思うか?」

 

 漸く体勢を立て直したアスモデウスが無数のシャドウを召喚して嗾けてくるが、一手遅い。

 そもそも俺達がパレスから脱出できなかったのは、パレスの出入り口にアスモデウスとガブリエルが陣取っていて、城側から出てくる戦力と挟み撃ちにされる状態になったからだ。

 

 しかし、ペルソナを覚醒させた坂本と高巻がその力をカモシダに向けたことで、自分の危機に恐れをなしたカモシダが何も考えずにアスモデウス達を自分の近くに移動させてしまった。

 つまり今この瞬間、パレスの出入りを邪魔する者は存在しないということだ。

 

 それに加えて、城の近くにいるカモシダを庇ったアスモデウスと、パレスの出入り口の近くにいる俺達。

 どちらが先に出入り口に到達するのかは、火を見るよりも明らかだ。

 

「おのれ、ライドウ!!」

 

 恨むなら戦術眼が欠片もないカモシダを恨むんだな。

 

 

 

 

 後ろから聞こえてくるアスモデウスの怒りの声を無視しながら、全員五体満足でパレスの出入り口から異界の外に出る。

 異界から現実に戻ってきた時特有の一瞬の立ちくらみと共に、パレスに入った時に見た秀尽学園の近くにある裏路地に景色が切り替わる。

 

「……やはり、追手は無しか」

 

 前回もそうだったがアスモデウスも死んだガブリエルもパレスから出てきて俺達に追撃をして来なかった。

 シャドウとは違って、悪魔であるアスモデウスはこの現実世界でも活動は可能だというのに、だ。

 

 前々から疑問ではあったが、今回の件でハッキリした。

 アスモデウス達のあの異常な回復力は人間の『ネガイ』によって実現しているから、認知異界特有の産物である『ネガイ』を保持したままパレスから出ることを嫌がったのだろう。

 

 認知異界の産物も物によっては現実世界に持ち帰ることが出来るが、それは原則現実に存在しうる物のみだ。

 武器に防具、魔法を発動させる札や回復薬なんかも材料と作り方さえ知っていれば現実に存在するもので作ることは可能だから、現実に存在するものと認識されて、認知異界の外に出しても消えたりはしないのだろう。

 まあ、現実の材料で作る場合、無茶苦茶金がかかる場合が殆どなので異界から持って帰ってくる事の方が多いのだが。

 

 では、逆に現実に持ってくることが出来ないモノとは? 

 

 現実には存在しえないモノ。本来は物理的な側面を持たないモノ。

 つまり、自身の精神を具現化させた『ペルソナ』だったり、人間の心を実体化させた『ネガイ』のようなものはよほどのことがない限り現実に持ってくることが出来ないわけだ。

 もしも現実に持ってくることが出来ても、力をかなり制限されたり、効果が弱まったり、別物に形を変えるといった変化が起きてしまって望んだ効果は得られなくなる。

 

 そういった事情があるから、アスモデウス達は頑なにパレスから出てこないのだろう。

 

「とはいえ、一長一短だな」

 

 アスモデウスを現実に引きずり出してしまえば、高確率でネガイが変質してしまうのであの異常な回復力は使えなくなるだろうが、パレスのある場所的に無辜の一般人を戦闘に巻き込む確率が跳ね上がる。

 かと言ってパレスの中で戦えば、ネガイを見つけ出して奪わない限り常に全回復する大悪魔と戦闘になる。

 

 まあパレスが崩壊してしまえばネガイも自動的に消える筈だから、どうしようもなくなった時の事を考えて、最終手段(鴨志田抹殺)も視野に入れておかないとだな。

 

「大将。なんか騒がしくないか?」

 

「ん? サイレンの音か?」

 

 今後のパレスとアスモデウス対策について考えていると、金時の言うとおりまだ深夜のはずなのにパトカーや救急車のサイレン音と、大勢の人間の声が聞こえてくる。

 サイレンの音と人の声が聞こえてきている路地裏の先を見ると、無数の人垣の先には道路と秀尽学園の校舎へと続く階段、そして学園の正門が破壊されているのが見える。

 

「あ」

 

 凄惨な事故現場のようにも見えるあの場所から、それなりに離れているここからでも感じられるあのマガツヒの力の波動はコウリュウのモノだ。

 恐らくだがシャドウ達と元陸上部員とバレー部員を連れてパレスを飛び出した時に勢いあまって秀尽学園の正門に突っ込んだんだろう。

 

「ヤバいんじゃないか、ライドウ?」

 

「……学園の正門は犠牲になったんだ」

 

 パレスから脱出した時の姿を見た限りでは相当な速度が出ていたようだから、パレスから出た瞬間に実体化を解いていたらそのままの勢いで負傷者達を放り出してしまうことになったはずだ。

 コウリュウがそれを防ぐ為に、実体化を解かなかったのだろう。

 

 幸いなことに、今回はパレスの出口が秀尽学園の方を向いていたので路地の建物に被害は無いようだが、その代わりに学園の前にある道路はアスファルトが捲れ上がって車両が通るのも困難な状態で、正門の鉄柵は無残にひしゃげて吹き飛び、校舎への入り口に続く階段は爆破されたのかというレベルで大穴が開いている。

 

 警察や消防が集まってサイレンをけたたましく響かせている中で、闇夜に紛れてヤタガラスの車もあるのが見える。

 パレスに侵入する前に連絡を入れていたから、回収要員や医療班が待機していた筈だ。

 コウリュウがパレスから連れ出してくれた大怪我を負っていた元陸上部の生徒や、バレー部の三島? だったか。

 恐らくは彼らもヤタガラスが回収して治療してくれているはずだ。

 

「これは、久しぶりに始末書を書かなきゃならなさそうだな」

 

 これだけ派手に痕跡を残して表側の人間に知られてしまった以上、ヤタガラスが異能を持った大きな組織だとしてもここから隠蔽するのは不可能だ。

 ヤタガラスは異能の存在を原則隠しているし、積極的に喧伝するような組織ではない。だが、隠していれば何をやってもいいと言う訳ではないし、派手にやらかしてしまった場合にはそれなりのペナルティがある。

 

 今回は緊急事態且つ不慮の事故だったから俺に課せられるペナルティも、そう重い物にはならないはず。

 

 凡その事情を察した仲()たちからの生暖かい視線に冷や汗を掻きつつ、夜中にもかかわらず集まって来ていた野次馬に混じって現場の調査と処理をしている警官と消防隊員の会話に耳を澄ませる。

 

「しかし、酷い有り様だな。ガス爆発でも起きたんだろうが、こりゃ当分の間は閉校だろうな」

 

「確か新学期が始まったばっかりだろ?」

 

「学生達も災難だな」

 

 ああ、そう言えば今日始業式だったか。

 休校になった場合、カリキュラムの遅れが出たり、学校行事とかがずれ込むか中止になるのかぁ。

 

「すぅ……」

 

 ……ペナルティ、重くならないといいなぁ。




主人公が現実でペルソナを呼んだ時に弱体化している理由付けです。
原作のP5Rでもメメントス出回収した『花』がメメントスから出ると消えていたり、パレスの主の『オタカラ』が別の物に変化したり、『イシ』がアクセサリーになったりしてたので、こういう話にしてみました。
ちなみに、現金も持ち帰れます。


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第十話

年始に色々と大変なことが起きて投稿できず、申し訳ない
自然の力ってやっぱこえーわ


「それでは、今回の件の沙汰を言い渡す」

 

 東京都、築地にある根願寺。

 前世の世界では仏教系のとある宗派の寺院が存在していたのだが、この世界では超國家機関ヤタガラスが所有する建物が存在している。

 地上にある建物は普通の寺院としての活動も行っていてかなり有名な寺院なのだが、裏側、特に異能の存在を知っている人間にとっては、その地下空間にある巨大な異界に建てられたヤタガラスの総本部の方が有名だろう。

 

 異界を管理する悪魔(八咫烏を遣わせた神)の権能で日に日に巨大になっていく異界に対応するように、異界で採れる材料で増築に次ぐ増築を繰り返している総本部は、敷地的な問題や神秘の漏洩的な問題で地上には決して出現させられない類の建物となっている。

 

 そんなヤタガラスの本部において、この本部が建てられた作られた当時から存在するヤタガラス内独自の取り決め事(法律)を破った人間を裁く場所に、俺は立っている。

 

 この裁判は俺の悪魔が引き起こしてしまった諸々の問題に対しての物だ。

 軽度の器物破損等の罪であれば罰金か一時的な異能力の封印という処置がされ、一般人の虐殺や禁術の行使などの重い罪の場合は動物への強制変身や死刑といった沙汰が下されるのだが、今回の場合は。

 

「一般人への異能の露呈という禁破り、物的、人的被害状況とそれに伴う諸々の影響を加味し……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤタガラス本部に設置されている鍛錬場に、金属同士が激しくぶつかり合う音が鳴り響く。

 某天下一武道会や某暗黒武術会の会場を彷彿とさせるドーム状の建物内に設置された円形型の石造りの舞台の上で鎬を削り合っているのは、霊木をベースにした釘バットを武器とし、髑髏の意匠が目立つ怪盗服を着た坂本と、神秘の力を秘めた大盾を鈍器のように振り回すサングラスをかけた大男、巽完二だ。

 

「どうした! そんなんじゃ仲間どころか、自分の命すら守れねぇぞ! 気合い入れろ!」

 

「ッツ、押忍!!」

 

 坂本の返事を聞いた完二さんがニヤリと笑い、鍛えた筋力にモノを言わせた圧倒的な移動速度で坂本の懐に飛び込み、手に持った大盾を振り抜く。

 本来は防御に使うはずの大盾を打撃武器として使用している完二さんの並外れた腕力から繰り出される攻撃の威力は凄まじく、咄嗟に防御態勢を取っていた坂本が大きく吹き飛ばされ、その背中を鍛錬場の床に強く打ちつける。

 

「近接だけじゃねぇぞ! タケジザイテン!」

 

「っく、キャプテン・キッド!」

 

 持ち前の負けん気で痛みに耐えながら、完二さんが呼び出したペルソナに対抗するべく坂本もペルソナを呼ぶが、今回は流石に相手が悪すぎる。

 

 同時に放たれた完二さんの手加減した雷撃と坂本の全力の雷撃がぶつかり合うが、キャプテン・キッドが放った雷撃は瞬く間にタケジザイテンの雷撃に飲み込まれる。

 そして一切勢いを落とさなかったタケジザイテンの雷撃がキャプテン・キッドに直撃したことで、ダメージの許容量を超えたキャプテン・キッドの姿がブレて空気に溶けて消える。

 

「ペルソナが!?」

 

「隙だらけだぞ!」

 

「ガッ!?」

 

 ペルソナが強制的に解除されたことに動揺した坂本にタケジザイテンの拳が叩き込まれる。

 ヤタガラス謹製の防具の認知を歪めて、その上に怪盗服を着込むことで物理的にも魔法的にも防御力が大幅に上がっているので大きな怪我は無いだろうが、石畳を叩き割る程の威力を持つ攻撃をモロに食らった坂本はダウンしてしまう。

 

「今回は十五分か。結構持った方だな」

 

 坂本がペルソナ使いとしての先輩であり戦い方やペルソナの特性が似通っている完二さんに、戦い方を物理的に叩き込まれるようになってはや三日。

 元々近接戦闘に関しては才覚があったのか、初日は一分と持たずに叩きのめされていたのだが、三日目にしてそれなりに太刀打ち出来ているのは正直驚いている。

 長ずればヤタガラスの中でも上位の戦闘力を持つ者になるだろうが、まだまだこれからだな。

 

 ダウンした坂本を完二さんが助け起こしている横で、空気を切り裂く鞭の音が鳴り響く。

 こっちもそろそろ決着だな。

 

「くぅ! 来なさい、カルメン!」

 

「来て。スメオオミカミ」

 

 坂本達の決着が着いた横で盛大に戦っている怪盗服姿の高巻がヤタガラスの戦闘服を着た天城雪子とぶつかりあう。

 カルメンとスメオオミカミが放った火炎弾(アギ)が空中で衝突し、鮮やかな火花をまき散らしているのを気にもせず、雪子さんが軽やかな動きで高巻に接近して鋼鉄製の扇子による打撃を叩き込む。

 坂本と同じ様に性能のいい防具を身に付け、その上から認知の変化による『怪盗服』という防具を纏っているとはいえ、雑魚シャドウなら一撃で爆散する威力の打撃を腕に直撃させられた高巻の表情が苦悶に歪む。

 

「こん、の!!」

 

 苦手な接近戦を仕掛けられて動揺した高巻が、咄嗟に後退して所持していたサブマシンガン(マイクロUZI)の銃口を雪子さんに向けて苦し紛れに弾をバラ撒くが、二人の間に割って入ったスメオオミカミが銃弾をすべて防ぎ切り、お返しと言わんばかりに火の玉を無数に(マハラギオン)放つ。

 

 猛烈なスピードで自分に向かって飛んでくる火の玉を恐れた高巻は、射撃を中断して回避行動を取ろうとしたのだが、高巻が回避をしようとした方向に待ち構えていたスメオオミカミにその身体を拘束されてしまう。

 基本的に人間よりも膂力に優れているペルソナに拘束されてしまっては、身体能力がずば抜けている訳ではない高巻ではもはやどうすることも出来ない。

 ここから逆転する術は今の高巻にはない以上今回はここまでか。

 

「うう。結構がんばったのに」

 

「そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。高校生だった頃の私よりずっと戦えてるもの。きっとすぐに強くなるわ」

 

 今回の高巻の敗因は、異能を磨き上げてペルソナの能力を向上させれば、ペルソナによっては特定の属性ダメージを無効化するようになる事を知らなかったことだ。

 まさか、雪子さんが自身のペルソナを自分の魔法で作り上げた炎の壁に突撃させて、高巻の回避先に先回りさせて来るとは思ってもみなかったのだろう。

 

「杏、大丈夫?」

 

「ううー。また負けたー」

 

 雪子さんにぼろ負けした高巻を慰めているのは四人の戦いを鍛錬場の外で見ていた()()()()だ。

 

 どうして一般人である鈴井がヤタガラスの本部にいるのか。

 それは、彼女がカモシダの執着対象になっているからであり、アスモデウスからはその精神、つまり『ネガイ』を未だに狙われていることが想定されているからだ。

 

 鈴井以外のパレスに囚われていた元陸上部員と男子バレー部の三島は、パレス内部で受けた拷問やそもそもパレスに囚われの身になっていた事への負担が大きかったのか、パレスから連れ出しても中々目を覚まさなかった。

 

 当然彼らをそのままの状態で放置していく訳にもいかず、ヤタガラスの人員が元陸上部員とバレー部員の怪我を癒した後に簡単な悪夢を見せて、ちょっとした夜遊びをした後に悪夢を見たという風に認識させて日常生活に復帰させた。

 自身の子の無事を案じていた親御さん達にも混乱魔法(プリンパ)忘却魔法(マカジャマ)で記憶処理を施して、そもそもそんな出来事は起きていなかったと認識させることで、違和感なく生活を送れるように配慮もしている。

 

 だが、ペルソナに覚醒した坂本と高巻、そしてアスモデウスとカモシダに直接的に狙われている鈴井は何の対策もせずに日常生活に戻すわけにはいかない。

 身の守り方、ないしは戦い方を身に付けないまま彼らを外に放り出せば瞬く間に悪魔の格好の餌食にされてしまう。

 

 そういう事態を防ぐために、この三人には異界内だけではなく現実世界での自身の身の守り方を習得してもらう為に、()()()()()()()()()()ヤタガラス本部にまでここ数日来てもらっているのだ。

 

「訓練お疲れ。これ、差し入れ」

 

 肩で息をする疲労困憊といった様子の高巻と坂本に、疲労回復効果のある霊薬を混ぜたスポーツドリンクを手渡す。

 

「あ。雨宮君」

 

「お、雨宮」

 

 そう。現在、秀尽学園は一週間の学校閉鎖になっている。

 理由は勿論、俺の手持ち悪魔であるコウリュウが校舎に突っ込んだことで色々な物が破壊されてしまったことで、学園の運営がままならなくなってしまったからだ。

 

 まあ、表向きには配管の老朽化によるガス爆発ということになっているのだが。

 

「判決はでたのか?」

 

「理不尽なこと、言われてないよね?」

 

 俺が裁判に赴くというのが嫌な思い出を連想させたのか、若干圧のある完二さんと雪子さんを宥めてから今回の判決結果を報告する。

 

「今回はお咎めなし。完全に無罪放免です」

 

 俺の言葉を聞いて年上二人が安堵した表情をして、同級生三人が不思議そうな表情をする。

 ……ああ。そういえば、その辺の事情は話してなかったか。ま、わざわざ話すような事でもないし、あの件(シャア声の議員)に関しての話はおいおいでいいか。

 

「コウリュウが校舎を破壊したことで秀尽が休校になったのは話したと思うが、そのおかげで人命を救えたことが判明したから今回は無罪放免だったって事だ」

 

 パレスから鈴井達を救出してから今日この日まで、ヤタガラスの人員が何度かカモシダのパレスに侵入しようとしたのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どうやら学校が閉鎖された事でパレスの主である鴨志田の認知上で、カモシダのパレスは誰も出入りできない断絶した世界になった、と認識されてしまった様で、どんな存在も出入り出来ない空間になってしまったのだ。

 

 その結果、完全にパレスの攻略は停止してしまったが、こちらからパレスに干渉できない代わりに、向こうもパレスから現実にちょっかいを出せなくなったようで、赤いイセカイナビで目を付けられた人間がパレスに攫われる事件は鈴井達以降は発生していない。

 それ以外にもシャドウからマガツヒを吸い尽くされて廃人化している人間も出ていないようなので、パレスとその内部に巣食っている悪魔の活動は完全に停止していると見ていいだろう。

 

 つまり、学園が休校になったことで結果的に人命を守ることに繋がったから今回はお咎め無しということになったのだ。

 

「だが、学園が再開してからが本番だ。今のうちに十分に力を付けておかないとな」

 

 閉ざされたパレスでカモシダとアスモデウスがどれだけ力を蓄えられるかは定かではないが、そう大したことは出来ないだろう。外部からのマガツヒ供給が断たれた上に、自力でマガツヒを生成できるのはシャドウであるカモシダだけなのだから。

 どちらかというと、学園が再開された時にマガツヒを確保しようとしたアスモデウスを筆頭とした悪魔たちが何を仕掛けてくるか分からないのが懸念点ではあるか。

 

 まあ、その対策もしっかりと用意することになっているし、今は坂本と高巻に力を付けさせるのが先決だ。

 

「そら、休憩は終わりだ今日はまだまだいくぞ」

 

「こっちも頑張りましょうか。マガツヒもまだまだ余裕あるでしょ?」

 

「「そ、そんな~」」

 

 首根っこを引っ掴まれって引き摺られていく行く坂本と高巻に合掌しつつ、俺は用意してきた護身用の霊具を鈴井に手渡す。

 

 鈴井には異能を発現する程の才覚はないが、それは別に戦えないという訳ではない。

 呪符や霊具の補助があれば自分の身を守るくらいは出来るようになるだろうし、最悪誰かが助けに来るまで持ち堪えられればいいわけだしな。

 

「じゃあ、こっちも始めるか」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 




無限城みたいな増設に増設を繰り返す違法建築ヤタガラス本部


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