この素晴らしいエビマルに祝福を! (杵柄もち)
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英雄転生

昔エタって非公開にした作品のリメイク。まあ覚えてる人はいないと思いませんか?



 ところでみなさんは死後の世界を信じますか?

 俺は信じません。何故ならば..

 

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!!あなたはベリーの棘が体中に刺さって死んだって言ってるじゃないの!!」

 

「そんなことある訳ないでしょう!?100歩譲ってトラックに轢かれたとかなら分かりますよ!?いやまあ死なないんですけどね?!英雄ですから!でもベリーの棘が死因とか頭おかしいんじゃないですか!?」

 

 突然のことでわけが分からないと思うでしょうが俺も分かりません。ただ、ベリーの棘で死んだと言われて、納得する英雄はいないと思いませんか?

 

「はぁぁぁぁ?!?じゃあなによ!このアクア様が嘘ついてるって言いたいわけ!?上等よ!天罰下してやるわ!!」

 

「やれるもんならやってみて下さいよ!でも本当にできるなら軽めにやってください!」

 

「お、お二人共1度落ち着いてください!!」

 

 この自称女神のアクアとやらと言い争いをしていると1人の銀髪の儚げな美女が、スペシウム光線の構えをとる自称女神を抑えに入った。

 

 ...少し冷静になって考えてみると、この場所は少しおかしい。見渡す限り壁が見えないほど広く、そんな場所に気がついたら立っていた。それに自称女神に胸元に手を突っ込まれ何かを取られそうになっている銀髪の彼女は何も無い空間から急に現れた。

 

 仮にも英雄が近づいてくる生き物に気づかないわけはない。

 それに2人からはにじさんじの運命を操る女神モイラ様と似た気配を感じる。つまりここから導き出される答えは...

 

「あんたは黙ってなさいエリス!これは女神の沽券に関わる問題なの!」

 

「だからといって死んでまもない人にそんな言い方はないと思います!」

 

「みなさん1度落ち着きませんか?争っていても何も始まらないと思うんです。」

 

「あなたがそれを言うんですか!?」

 

 

 

 

 *****

 

 

 どうやら俺が死んだというのは本当らしい。

 というのも死んだ時の記憶が徐々に蘇ってきたのだ。

 そう、あれは師匠に呼び出された時のこと、何やらいいものをくれると連絡をくれ、指定された場所へ向かっている時に景色が一転してそこから記憶が無い。おそらく師匠が何かしたのだろう。

 

「ねえ謝って!このアクア様を嘘つき呼ばわりしたことを謝って!」

 

「どうもすみませんでした。」

 

 

 流れるように完璧な土下座を見せ、若干引き気味の女神2人から異世界のことや転生のことについて説明を受ける。

 

「つまり魔王を倒せば日本に戻れると」

 

 また?まあまあまあ、選ばれしものなので別にいいですけど。でも頼めばなんでもやってくれると思わないで下さいね?意外と大変なんだぞ世界救うの。

 

「ええ。そしてエクスさんにはなんでも一つ異世界に持って行くことができる権利が与えられます」

 

 そう言ってエリス様は様々な特典の書かれた紙束をこちらへと渡した

 

「なんでもかー、金銀財宝とかでもいいけどなー...あっ!じゃあ...」

 

 

 ******

 

 

「で、僕が呼ばれたと。」

 

 彼女の名はアルス・アルマル。俺の師匠で、エクスアルビオ殺人事件の容疑者第1位。

 彼女に対しても俺にした説明と同じものをしてもらった。

 

「師匠なら着いてきてくれますよね?」

 

「嫌だよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「師匠俺のこと殺しておいてよくそんな薄情なこと言えますね。人の心はないんですか?」

 

「あれはしょうがないだろぉ!?まさかベリーの棘で死ぬと思わないじゃないか!?」

 

「やっぱ師匠なんですね?洗いざらい吐いてもらいますよ。」

 

「あっ、しまった..」

 

 無事に言質を取ることに成功したため、これから尋問へと移る。

 

 時間がかかりそうなので転生の順番を変え、取り調べ室のような場所へ移してもらった。アクアはこっちに着いてきたため、恐らくエリス様に転生の仕事をさせているのだろう。

 

「で、どうしてそんなことをしたんですか?」

 

「ええと..ほんとに出来心で...」

 

 話を聞く限り落とし穴を作り、底にベリーを詰めていたらしい。

 

「それだけじゃないだろ!!」

 

「ええ!?」

 

「英雄が1人死んでいるんだぞ!ベリーだけのはずがないだろう!」

 

「ほんとにそれだけだって!逆にどうやってえび先輩は死んだのさ!」

 

 ここまで来て嘘を言うとは、なんて往生際の悪い饅頭なのだろう。

 

「えっとちょっといいかしら?」

 

 暇だったのか取り調べ室の紙でやたら再現度の高いエクスアルビオの人形を作り終えたアクアが話に割り込んできた。...えっ俺じゃん。あの甲冑の部分とかどうなってんだろ。

 

「そろそろ女神である私としては転生の話もして欲しいのだけれど...」

 

 最もな話である

 

「じゃあ師匠行きますよね?」

 

「え?嫌だよ?」

 

「Ha?」

 

「エビ先輩が死んじゃったのは申し訳ないけど僕が異世界に行く理由はできてないし...」

 

「いやいやいや弟子を葬っといてそれは無いでしょ師匠!?」

 

「えび先輩なら魔王くらいひとりでやれるって」

 

 こ、こいつ、罪悪感とかないのか!?

 

「でもアルスさんこのままじゃちょっとまずいわよ?」

 

「え?」

 

「安全な世界で生きているうちに人を殺すと、生まれ変わりの権利を剥奪されちゃうの」

 

「...てことは」

 

「強制的に天国行きね。」

 

 ちなみに天国とは、娯楽がなく、生まれ変わりもなく、永遠に日向ぼっこと雑談をするしかない実質地獄みたいな場所らしい

 

「嫌だああああああああぁぁぁ」

 

「でも安心してちょうだい!異世界で魔王を倒すかそれなりの貢献をしたら私が上に掛け合ってあげるわ!」

 

「詰んでるじゃねえかよおぉぉぉぉ!」

 

 思わぬところからの援護射撃により、無事異世界にツルツル饅頭を出荷することに成功した。

 

 

 

 *****

 

 

 

「では、勇者達よ!願わくば数多の勇者候補達の中から、あなた達が魔王を打ち倒す事を願っています。....さあ!旅立ちなさい!」

 

 アクアが祝詞を唱えると魔法陣はいっそう輝きを増し..

 

「勇者じゃなくて英雄ですけどね」

 

 エクス達の姿は消えたのだった。

 

 

 *****

 

「ああ、なんだかどっと疲れたわ。今日はもう終わりにしてもいいかしらね。」

 

 にしても不思議な人達だったわね、日本から来たはずなのにあの見た目と名前。それに資料の経歴もここ数年しかなかったし....甲冑着てるし....ベリーの棘で死ぬし....

 

「まあいっか。」

 

 

 



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デカめのカエルとの死闘

 騒々しいギルドの中、俺と師匠はテーブル席に向かいあって作戦会議をしていた。

 

 

 

「だから、師匠の魔導書はそこそこの値段で売れるはずなんですよ!」

 

「嫌に決まってるだろぉ!?第一、僕これがなかったらただの「顔が大きい」女の子...いまなんつったぁ!?」

 理不尽にも目の前の師匠がキレながらつかみかかってくる

 

「ていうか、そもそもあの女神達がお金の説明もないままここ世界に送って来たのがおかしいと思うんですよ!ねえ!師匠!?1回落ち着いて!魔法の詠唱やめて!」

 

 

 冒険者登録に手数料が必要なことが判明したのが数分前、冒険者登録しないと仕事を受けることが出来ないのに、どうやってお金を手に入れれば良いのか、長い間話し合っていた

 

「じゃあこうしましょう!じゃんけんで俺が負けたら師匠が近くの人にお金を借りてください!で、俺が勝ったら師匠が行きましょう!」

 

「やっぱ借りるしかないかなぁ〜...え?今なんて言った?」

 

「じゃあ行きますよ〜じゃーんけーん...」

 

「騙されねぇからな!?」

 

 勘のいい魔法使いは嫌いだよ。

 そんなアホなやり取りをしていると、1人の銀髪の少女が近寄ってきた

 

「初めまして!私はクリス!なにかお困りかな?」

 

 初手からグイグイ来る感じ、これはあれだ。陽キャと言うやつだ。

 

「...」

 

「...」

 

「えーと....」

 

 僕も師匠も喋れないで黙っていると、すごく居心地の悪そうにしたクリスが話を切り出した。

 

「登録料が払えなくて困ってるんだよね!?ここは冒険者の先輩として、クリスさんが払ってあげるよ!」

 

「えぇ!?いいんですか?ありがとうございます!」

 

「....」

 

 大きな頭を下げながらお金を受け取る師匠。だがそれよりも気になることがあった。

 

「ほら、えび先輩もお礼いいなって!」

 

「...クリスさん前に1度会ってません?なんかどこかで見かけた気がするんですが...」

 

「えっ!?いや!?会ってるわけないよね!?ここで初めて会ったんだもん!?そ、それじゃ私は行くから!!良い冒険者ライフを!!」

 

 急ぎ足でこちらをチラチラ見ながら早足で去っていったクリスは勢いよく柱にぶつかった後、姿を消した。

 

「行っちゃったね。えび先輩が変なこと言うから怖がって混乱しちゃってたじゃん!この世界に来たばっかなんだから会ったことある訳ないじゃん!」

 

 大きな顔をさらにふくらませながら、師匠は冒険者登録に向かってしまった。

 

 確信は持てないが、クリスからは微かに神格のようなものを感じた。それにあの銀髪....やはりどこぞの先輩女神よりもずっと女神をしてると思うのだが?

 

 いつか恩を返さなくては

 

 

 *****

 

「では、この水晶に手を置いてください、」

 

「こう?」

 

 師匠が手を置くと、水晶は淡く光だし...

 

「はい!もう大丈夫ですよ!アルスさんは魔力が高いようですね、ウィザード向きのステータスですよ!」

 

「まあ、そんなもんでしょ。」

 

 師匠の実力は初級冒険者以上中級冒険者未満といったところだろう。まだこの世界の冒険者のレベルを確認したわけでは無いが、この街にいる多くの冒険者が初級冒険者ならば、だいたいの見立ては合っていると思う。

 

 元々師匠、アルス・アルマルは別の異世界の見習い魔法使いであり、魔法は師匠が持っている魔導書のページを消費することにより発動する。対してこの世界の魔法は一人一人の持つ魔力を消費することで発動できる。

 

 つまりこの世界の魔法を覚えれば、師匠の一日に放てる魔法の量は倍近くまで増える。なかなかに頭のおかしい強化では無いだろうか。

 

「あれー?師匠しょぼくないっすか??」

 

「うるさいなあー別にいいだろぉー。」

 

 まあ褒めないんですけど。

 

「では、エクスさんお願いします。」

 

 エクスが水晶に手を置くと、水晶は眩い光を放ち..

 

「.....おや?冒険者カードのステータスの欄が...文字化けしてますね」

 

 魔道具から出てきたカードを見ると、ほとんどの文字が文字化けしていた。唯一読み取れるのは名前くらいだろうか

 

 その後何度か試して見たが結果は全て同じであった。仕方が無いので文字化けしたカードをそのままもらうことになった

 

「カードにつきましては、最新版の魔道具になった際に無料で交換させていただきます....大変申し訳ありませんでした..」

 

 ギルド職員が申し訳なさそうに頭を下げるが、俺自身はあまり気にしていないためすごく気まずい。適当に相槌を済ませて退散した。

 

「それじゃあ師匠!早速クエストに行きましょう!」

 

「なんだかんだ楽しそうだねエビ先輩」

 

 俺と師匠は、クエストボードの横で腕を組み意味深に笑いかける、モヒカンの先輩冒険者にならい、ジャイアントトードの討伐へ向かった

 

 

 

 ******

 

 

 

 

「師匠おおおぉぉぉぉ!?笑ってないで助けてええぇぇぇ!?」

 

「頼み方ってのがあるよなぁ〜?英雄さぁ〜ん?」

 

 数多の敵をねじ伏せてきた英雄パンチを物ともせずに反撃を仕掛けてきたカエルから全力で逃げる。少し離れた丘の上にいる師匠に助けを求めが、全然助けてくれない。絶対に性格が悪い。

 

「いや、打撃効かないとか聞いてないって!ちょっ!?手がぬるぬるして剣が抜けない!?師匠ぉ!?アルス様ああぁぁ!!」

 

「しょうがないなあえび先輩は、『ボルト』!!」

 

 師匠は魔法を唱えた。

 使った魔法は雷の低級魔法ボルト、狙った範囲に発動する範囲攻撃である

 

 そう、範囲攻撃である。

 

「いや、師匠その魔法って..ぎゃああああぁぁぁ!!??」

 

 結果少し焦げた

 

「お前ほんと覚えとけよ!?」

 

「助けてもらってお礼も言えないのか、これだから英雄は、」

 

 エクスは激怒した。かの邪智暴虐な魔法使いを必ず懲らしめねばと決意した。だが彼女の後ろに大きな影が見えた。

 

「え、あれって...師匠危ない!カエル来てます!!」

 

「そんな簡単に騙されるわけねぇだろうがよぉ!助けたお礼として今回の報酬の取り分は..ヒャブッ!!」

 

「あっ、」

 

 頭からぱっくりいかれ、カエルの口から足が生えた謎の生物が生まれた。その足は激しく暴れていたがしばらくするとカエルの肉体に電撃が走り、カエルも足も動かなくなった。

 

「...」

 

 自らの魔法で感電し、意識を失ったままカエルに刺さった師匠をを放置し残りのカエルを片付けることにした。

 

「これで最後っと..」

 

 8体ものカエルを倒した後、普段よりも頭が大きくなったジャイアント師匠を普段の師匠に戻すことにした。

 

「師匠ー、引っ張りますよー」

 

 粘液まみれで白目を向いている師匠が出てきた。非常に生臭い。背負って帰るのは論外だし、起こすのも面倒なのでカエルの回収に来たギルド職員に頼んで、荷車に一緒に乗せてってもらった。

 

 

 *****

 

 

 ギルドにて、報酬を受け取り軽く食事をつまんでるところに大衆浴場帰りのほかほかの師匠が帰ってきた。

 

「ふざけんなよお前ぇ!目が覚めたらカエルと一緒に運ばれてたんだけどぉ!?」

 

「まあまあ、落ち着いてくださいよ師匠、これ師匠の分の報酬です。師匠の分の料理も頼んどいたのでそろそろ来るはずですよ」

 

「お、おう?なんかやけに素直だなあ。でも報酬もちゃんと最初に計算した通り入ってるし....もしかして僕の魔法で性格が変わっちゃた?」

 

 ブツブツとアホなことを言っている師匠には、俺の倒したカエルの状態が良かったため、少し多めに渡された報酬のことは黙っていよう。

 

「そんなことより、この後どうしますか?さすがにクエストをもうひとつ受けるのは時間が足りないと思いますし..」

 

「じゃあこの街を探検しようよ。これから過ごすわけだし、どんな場所があるのか知っておきたいんだよね。」

 

「あぁーいいっすね、じゃあそれで行きましょう。」

 

 なお余談ではあるが、今の話の間にエクスはアルスの唐揚げを2つ盗み食いすることに成功している。

 

 

 ****

 

 

「今日はこの辺でいいんじゃないですか?もうだいぶ周りましたよ?」

 

「そうだねー、じゃあこの辺で...あ!待って最後にあそこだけ!」

 

 そう言って駆けていく師匠の方向に目を向けると、『ウィズ魔道具店』の看板があった。

 

 中に入ると綺麗な内装に様々なポーションや魔道具があり、魔道具の知識がない僕でも楽しめそうな店だ

 

「あれ?店員さんがいないねぇ。」

 

「ほんとだ。奥にいるのかな、こんばんエーーーーーーーックス!!」

 

「うるさ!!」

 

 師匠に肩を殴られたが、甲冑を思いっきり殴ってしまった為、師匠は手を抑えながら縮こまる

 少しして、奥からパタパタと1人の女性が出てきた

 

「はぁ〜い、すみません、在庫の管理をしてて..何か御用ですか?」

 

「いえ、特にないです。」

 

「??」

 

 あからさまに頭にクエスチョンマークを浮かべる女性。そりゃ大声で呼び出されてなんでもないですと言われたら誰だってハテナを浮かべるだろう。

 俺だって浮かべる。

 

「ええっと、ウィズさん?でいいんですか?」

 

 目の端に涙を浮かべたままの師匠が尋ねる

 

「はい!ウィズ魔道具店店主のウィズです!」

 

「このポーションの効果を教えて欲しいんですけど..」

 

「そのポーションは、たとえ魔力を使い切っていても、魔力を全回復できる優れものなんです!!」

 

「えぇ!凄すぎませんか!?」

 

「変わりに飲んでから24時間は魔法は使えなくなりますけどね」

 

「....」

 

 師匠はそっとそのポーションを置いた。この店がどんな店なのかを察したのだろう。

 

 その後は軽く談笑をした後帰ることにしたのだが、

 

「師匠先に出ててください」

 

「え?なんで?」

 

「いえ気になる商品があったので」

 

「えぇ?じゃあ外で待ってるね?」

 

 そう言って師匠が出てったのを確認した後、

 ウィズの方へ向き直り、

 

「一応確認なんですけど、ウィズさんは人間ですか?」

 

「!?....気づいてたんですか?」

 

「はい、外にある看板はかなり年季が入っているのにウィズさんの見た目が若すぎるので何となく..まあ、あとは魔道具店の店主にしては強すぎるので」

 

 店に入った時から感じていた違和感。始まりの街の魔道具店なのに、最難関ダンジョンのボス部屋にいるような感覚、目の前の女性がこの世界の魔王だと言われてもおかしいとは思わない。それでいてここは安全だと自分の勘は告げているもんだから頭がパニックになりそうだった。

 

「でもウィズさんは人を襲いませんよね?」

 

「..えぇ。私はこれまでも人を襲ったことはありませんし、これからもするつもりはありません。」

 

「じゃあ大丈夫です。あとさっきのポーション貰ってもいいですか?」

 

「あっはい!10000エリスになります!」

 

 詳しい理由は分からないが、敵でないと言ってくれたので帰ることにしよう。

 

 ****

 

 

 外に待たせていた師匠と合流し、宿屋を探し始めたが...

 

「なぁんでどこも満員なんだよぉ..」

 

 ウィズの店を出た時点で既に日は暮れていたため、宿屋はどこも空いていなかった。仕方なく先輩冒険者にならって馬小屋に泊まることにした。

 



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究極の魔法の使い手

 寝泊まりするために借りた馬小屋の窓から朝日が射し込む。

 馬房は少しづつ明るくなり、それに合わせて意識が徐々に覚醒していく。藁の中に埋まった体を引き上げ、大きく背伸びをすると全身からバキバキと景気のいい音が鳴った。

 

「...体痛ぁ...藁ってこんな寝心地悪いのか」

 

「...いや、甲冑着たまま寝たからじゃない?」

 

 隣を見ると師匠は既に目を覚ましており、寝癖なども直したあとのようだ。

 

「エビ先輩も早く準備してね。クエスト受けて、今日こそ宿に泊まるよ!」

 

 

 師匠が急かしてくるので、急いで準備をすることにした。

 

 

「まずはポーチからタオルと桶とドライヤー...あとはね〇ねるねるねかな」

 

「ちょっとまって!?今どっから取り出したの?!」

 

「腰のポーチが見えないんですか?」

 

「見えるからだよ!!そのサイズのポーチから桶とドライヤー出てくるのおかしいだろ!?あとなんでねるねる〇るね持ち歩いてんだよ!」

 

「あれ師匠、アイテムボックスって知らないんですか?装備とか食料はこの中に入れてるんですけど」

 

 あとねる〇るねるねは常備食だろ。

 

「そんなことできるの!?」

 

「英雄ですよ?できるに決まってるじゃないですか。魔王討伐するのにでかい袋持ってくわけにもいかないでしょう」

 

 

 納得のいかない顔でこちらを見続ける師匠を後目に準備を続ける。てかドライヤーはコンセントがないから使えないじゃん..

 

「師匠ー、この桶に水ください」

 

「ああはい。『クリエイトウォーター』」

 

 師匠の手からチョロチョロと水が注がれる。先日のカエル討伐で得たスキルポイントを使って初級魔法を覚えたのだ。師匠の世界の魔法は基本的に攻撃用の魔法なので、このようにちょうどいい量の水を出すことができない。最低値でハイドロポンプぐらいの威力だ。

 

 

 

 一通り準備を終えたので冒険者ギルドへと向かう。

 まだ朝が早いが通りには既に多くの人がおり、みなそれぞれの店の準備や仕事場への移動を始めていた。

 

 たまに路地に目を向けて見るとレンガの地面に気持ちよさそうに眠る冒険者を見つけることが出来る。遅くまで酒盛りをしていたのだろう。俺は酒が弱いので飲まないが、ああいう手合いはどこの世界にもいるようだ。

 

 酔いつぶれたかつての仲間が、翌日身ぐるみを剥がされ、髪型をモヒカンに整えられ、トゲトゲのカタパッドを装備させられた状態で発見されたのを思い出す。

 ちなみにカタパッドは呪われており1週間外れなかった。

 

 そう考えるとこの世界の治安はそこまで悪くないかもしれない。まだ始まりの街しか見てないのでなんとも言えないが。

 

 

 そんなこんなで冒険者ギルドに着いた。この時間からギルドにいる冒険者は少なく、いるのはこれから遠くへ遠征するのか多くの荷物を抱えた人達ぐらいだった。

 俺と師匠は空いている席に座り、俺はカエル定食を、師匠は朝摘みサンマ定食を注文した。

 

 

「朝摘みってどういうことだと思う?」

 

「新鮮ってことじゃないんですか?」

 

「この世界では魚を捕ることを摘むって言うのかね」

 

「おや知らないのですか。サンマは畑で採れるんですよ」

 

 

 ふいに横から声をかけられ、顔を向けてみるとそこには、 全体的に赤と黒を主調とし、目には眼帯、ショートカットでとんがり帽を被った赤い目の少女が、杖にしがみつきながら立っていた。

 

 サンマが畑で採れるとかいうとんでも発言も気になるが....

 

「ええっと..あなたは...?」

 

「フッフッフ、よくぞ聞いてくれましたね!我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして!爆裂魔法を極めし者!そしてここ2日程食べるものがなくそろそろ限界な者!」

 

 マントをバサリと翻し、かっこいいポーズを取りながら高らかに自己紹介を終え、そのまま倒れてしまった。

 ちょうど注文したメニューが到着したので仕方なくカエル定食を提供することにした

 

「ありふぁふぉうございふぁふ!!!」

 

 目にも止まらぬ速さでなくなっていくカエル定食。

 めぐみんは食べ終えて尚まだ食べ足りぬ顔をしていた。

 改めて俺のカエル定食とポテトの盛り合わせを注文する。

 

「それでめぐみんさんはなんで2日も絶食状態に?」

 

「偉大な魔法使いになるためこの街へ来たのはいいものの、なかなかパーティーを組むことができなくてですね..」

 

「ぼくの見立てではかなりの魔力を持ってるように見えるんだけど、それでもダメなの?」

 

「方向性の違いですね。今まで組んだ方とことごとく考えが合わなくてですね。そのまま悪い噂だけが広まったと言いますか..」

 

 酷い話があったもの。才能あるものが活躍出来る場のないまま歴史に埋まっていくのはよく聞く話だが、聞いていて気持ちのいいものでは無い。できることなら力になりたいが...

 

「あいにくこちらのちんちくりんな師匠も魔法使いでして...」

 

「おい、今なんつった?」

 

「それなら心配には及びません。恐らく私とししょーさんのできることは違うでしょうし」

 

 それを聞いて師匠が少しムッとした。めぐみんに悪気はないのだろうが言外にお前にできないことが私にはできるぞと言われたのだ。

 

「兎にも角にも1度でいいのでクエストに連れてってくれませんか?ここで断られてしまうとまた乞食生活に戻りそうで...」

 

「まあいいんじゃないですか?ねえ師匠」

 

「ぼくは構わないよ。ぼくとえび先輩がいれば大抵のクエストはどうにかなると思うし。めぐみんさん1人くらい連れて行ってもなんの問題もないよ」

 

 自信たっぷりに言い切る師匠。余程さっきのめぐみんの言葉を気にしているのだろうか。

 

「ほほう、それは我が究極魔法への挑戦と受け取っていいだろうか!ならばよろしい!見せてあげましょう!我が爆裂魔法を!!」

 

 椅子に上り、目を紅く輝かせながら杖を振り回しポーズをとるめぐみん。この世界の魔法使いはみんなこんな感じなのだろうか

 

「めぐみんさん!暴れるなら外でやってください!次ギルドの備品を壊したら弁償ですよ!」

 

「あっ!すみません気をつけます!」

 

 椅子に上がったままペコペコしだすめぐみん。この世界の魔法使いがみんなこんな感じなら、それはきっと愉快で楽しいことになりそうだ。

 

 

 ******

 

 

 馬車に揺られながら目的地まで向かう。

 今回受けたクエストは、マンティコアとグリフォンの同時討伐。報奨金は50万エリス。カエルの討伐報酬が一匹約1万エリスだと考えると破格の報酬設定になっていると感じるが、周りの冒険者に言わせればいくら何でも安すぎるらしい。

 

 というのもこのクエストは、アクセルの冒険者が受けるには危険度が高すぎるため、ギルド側があえて報奨金を低く設定しているらしい。

 

 故にこのクエストを受ける時にギルド側から書類にサインを求められた。このクエストは冒険者側の意思で受諾したものであり、ギルド側は一切の責任を持たないというものだ。

 

 マウントを取り合いながらこのクエストを持ってきた魔法使い2人は今顔を青くして震えている。

 威勢が良かったのはサインをした時までだった。

 

「か、帰るなら今のうちだよめぐみん...」

 

「な、それはこっちのセリフですよアルス...帰りたいなら言ってくださいね...」

 

「ほら2人とも、もう着きますよ」

 

 目的地周辺は木々がなぎ倒され、地面がえぐれている。依頼主によると、長い間この場で2匹が縄張り争いを続けているらしい。

 

 目的地手前で馬車を止めてもらい、遠くへと離れてもらう。討伐が完了した際は魔道具で合図を送ることになっており、日が暮れるまでに戻らなければ討伐失敗と判断し、帰ってもらうことになっている。

 

 周囲を警戒しながら山道を進むにつれ、倒れた木が目立つようになってきた。

 

「止まって」

 

 師匠の指示で足を止め、指をさす方へ目を向けると、巣らしきものの中で眠るグリフォンがいた。幸いこちらは風下であり、距離も離れているため気づかれていない。

 

「ここは私に任せてもらおう」

 

 目を輝かせながらめぐみんが1歩前へ踏み出し、杖を掲げる。

 まさかこの距離から魔法を放つのだろうか

 

『黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう』

 

 めぐみんが詠唱を始めると、あたり一帯がひりついたような空気に包まれ、全身に重圧のようなものを感じる

 

『覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!穿て!エクスプロージョン!!』

 

 寝ているグリフォンの真上に無数の魔法陣が浮かび上がった。周囲に溢れる魔力がより一層膨れ上がった瞬間、耳をつんざく轟音が辺りになり響き、遅れて熱風とそれに乗った土や石が飛んでくる。

 

 爆炎が収まった場所にグリフォンはいない。それどころか巣ごと消し飛ばされており、二十メートル以上のクレーターのみが残されていた。

 

 究極魔法とは大言壮語ではなかったようである。

 師匠も目を見開いてめぐみんの魔法を見ていた。

 

「あのー、そろそろ起こしてくれませんかー...魔力を使い果たして立てないのです。」

 

 放たれた魔法の方に目を取られていて気づかなかったが、めぐみんは地に伏していた。とりあえず起こして近くの倒木に座らせておく。

 

「フッフッフ、どうですかアルス!!これが我が爆裂魔法!ですよ!!」

 

 既に勝ち誇った表情をするめぐみんだが、自身の周りを覆うように現れた影に気づかない。見上げると、人の頭が付いた獅子の体にサソリの尾とコウモリの羽が付いた生物、マンティコアが滞空していた。

 

 空を飛ぶモンスターは、自身の羽を使って飛ぶものと、自身に魔法をかけて飛ぶものの2種類がいると言うが、マンティコアは後者である。そのため周囲に羽ばたく際に起こる風は起きない。

 

「どうしてもと言うのなら、教えてあげてもいいですよ!!まあ、我が爆裂道は簡単に極められるものではありません...が...?」

 

 めぐみん、ここで影に気づき上を見上げる。再びこちらへ目を向けると、その目の端には涙が浮かんでおり、顔を青くしながら口パクで「タスケテクダサイ」と繰り返している。

 

「オイオイ、オレっちのらいバるノグリふぉんをヤッたのはオマエらか?別に構ワねエがヨォ!!アイツが居ねえト人間が攻めてキチマウよなァ!!」

 

 カタコトの言葉でこちらを威嚇するマンティコア。めぐみんの顔色は青を通り越して白くなっていた。

 

「エビ先輩はめぐみんを助けてあげて。あいつはぼくがやるよ。」

 

「オイオイオイ、舐められてンなァ!!」

 

 激昂するマンティコアをよそ目に、存在感を消しながらめぐみんの元へ向かう。そのまま叫びそうになっているめぐみんの口を抑え、その場を離れる。

 

『ライトニングボルト!!』

 

「危ねエ!?」

 

 師匠の放った雷撃は一直線にマンティコアへ向かうが、紙一重で躱されてしまう。

 

『ライトオブアロー!!』

 

 雷撃が当たらないとわかった師匠は、速度重視の魔法へと切り替えた。光に近い速度で放たれた魔力の矢は、マンティコアの目へと一直線で向かった。

 

「イッデェェェ!?」

 

 視界を潰されたマンティコアは地に落ち、暴れ回るが、既に近くに師匠はおらず、俺とめぐみんさんの近くへと来ていた。

 

「こっちを舐めてたから楽に済んだね。そしてめぐみん、あの素晴らしい魔法のお礼に、ぼくの今出せる最大火力の魔法を見せてあげるよ」

 

 師匠が手を前に突き出すと、魔導書が宙に浮かび、ひとりでにページが開き出す

 

『大地を穿つ炎の星よ、我が力の元に降誕せよ。メテオ!!』

 

 師匠の詠唱が終わると同時に、暴れ回るマンティコアの頭上に美しく、巨大な炎の塊が出現し、マンティコアへと降り注いだ。

 

 炎に飲み込まれたマンティコアは、1秒とその姿を保つことは出来ず、灰と化した。

 

 本来森の中で炎魔法を放つのはタブーだが 、師匠の放った魔法が周りへと飛び火することはなく、落ちた場所で燃え続け、そのまま消滅した。

 

 師匠はめぐみんの紅く輝く視線を背に受けながら満足そうにその場に倒れた。

 

 

 

 お前もか。

 

 

 

 その後は、先程のマンティコアの番と思われるメスのマンティコアが乱入してきたので、殴り倒したのち、泥だらけで眠る二人を抱えて馬車まで戻り、アクセルでクエスト完了の報告をした。

 

 

 地形破壊の補償として30万エリス程取られた。




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幸運の女神with強欲な英雄

 今日も今日とてチクチクする藁の中から目が覚める。そろそろ宿暮らしにシフトチェンジするべきだろうか。師匠は既に宿暮らしをしているし。毎日クエストに行く以外することがないのでそこそこお金は溜まっている。毎日ギルドで待ち合わせるのも面倒だし、家を買うのもいいかもしれない。その時は師匠にも半分出してもらおう。

 

 そんなことを考えながら、なんとなくギルドに向かった。1人で。師匠は今日他のパーティーから助っ人を頼まれているらしい。俺は呼ばれませんでしたけど。特にすることがないのでギルドにきた。いつものようにクエストにでも行こうか...おや?

 

「クリスさんじゃないですか!お久しぶりです!」

 

「あぁ!エクス君!ちょうどいいところにいたね!」

 

 クエストボードの前にクリスがいた。

 ちょうどいいところ..なにか困っていたのだろうか。

 どうせ暇だしとりあえず承諾しておこう。

 

「俺に任せてください。」

 

「まだ何も言ってないよ..」

 

 頼まれはするらしい

 

「実はね、友達とダンジョンに行こうと思ってたんだけど急用ができたって断られちゃってさ、一緒に来てくれない?」

 

 ダンジョン...そんなものもあるのか。ダンジョンということはお宝がいっぱいあるに違いない。いや、なくてはならない。

 

「ぜひ行かせてください!」

 

「おぉ..なんだかすごい邪な気を感じたよ..じゃあ早速行っちゃおうか!」

 

 

 ****

 

 クリスに連れられダンジョンへと向かう。必要最低限の装備はクリスが用意してくれているようだ。

 

「そういえばクリスさんってこっちにいる時は何してるんですか?」

 

 前から気になっていたことをなんとなく聞いてみた。

 

「こっち?うーん..普通にクエストしてたり、教会とか孤児院に顔出したりしてるよ!」

 

「エリス教の教会..今度師匠と行ってみようかな..」

 

「あれ?私がエリス教徒って話したっけ?」

 

「え?そこ以外ありえなくないすか?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 なぜだかいまいち会話が噛み合わない。原因に心当たりはないし、話す内容を変えてみようか。

 

「エリス様は普段天界でなんの仕事をしてるんですか?」

 

「ええっと、エリス様は普段この世界でモンスターによって命を落とした魂の導きとかをやってるね」

 

「へぇ〜、この世界で死んだらエリス様に導かれるのか、やっぱ忙しいんですか?」

 

「そうですねー..冬以外は命を落としてしまう方が一定数いらっしゃいますね...」

 

 心から悲しそうに...若干女神モードになりながらつぶやくクリス。

 

「ん!?....い、いや、なんでもない...」

 

「大丈夫ですか?少し休みますか?」

 

「いや、大丈夫こっちの話だから...」

 

 あからさまに焦点が合わなくなっているが大丈夫だろうか。

 

「ていうか、女神様ってこの世界に降りてきて大丈夫なんですか?上から怒られたりしないんですか?」

 

「ちょっと待って!?」

 

 クリスさんは顔を真っ青にし立ち止まる。見れば手足は震えてるし、汗をかいている。やはり疲れているのだろうか。

 

「さ、さっきからなんか勘違いしてない?私はクリスだよ!?」

 

「はい、この世界ではそうなんですよね?」

 

 おかしい、話せば話すほど顔色が悪くなる。もしや病気なのではないだろうか。

 

「えぇっと...気づいてる感じなのかな?」

 

 蚊の鳴くような声で聞いてくるが、なんのことだろうか。

 

「え?エリス様が病気かもしれないことですか?」

 

「えぇ!?私今病気なの!?」

 

 全く意味が分からない...2人して頭を抱えてしまい、全てが合致するまでかなりの時間を要した

 

 

 

 

「き、気づいてたなら早めに言ってほしかったかな..アルスさんも知ってる感じ?」

 

 恐る恐るといった様子で聞いてくるが、師匠は気づいているのだろうか...おそらく気づいてないはずだ。師匠アホだし。

 

「大丈夫じゃないすか?少なくともそんな話にはなりませんでしたよ?」

 

「よかったぁ〜、ぜえっっっったい秘密にしてね!」

 

 エリス様直々に頼まれては断ることは出来ない。天罰くらいそうだし。

 そんなこんなでダンジョンについた。ここは最近見つかったダンジョンだが、既にほかのパーティーが入ったあとらしい。

 

「だから、取りこぼしとか隠し部屋を見つけるのが今回の目的だね!」

 

 ダンジョンに入り、階段を下る。中は暗く明かりはない。ただ元の世界での経験から夜目はきくため、あまり問題はない

 

「暗視スキル取ってないのに見えるってズルくない?」

 

 少し膨れた様子のクリスがこちらを見てくるが、完全に見えるわけでは無いためスキルがあった方が確実なのは確かだろう。

 

「広い部屋に出ましたね。周囲にモンスターの気配はありませんね」

 

「なんで敵感知もどきまでできるのさ!これじゃあ私がいる意味ないじゃん!」

 

「えぇ...できるのは今までの経験ですね。色んなところで闇討ちされるので勝手に身につきました。」

 

「...」

 

 俺の元いた異世界での話を聞いてクリスは黙ってしまった。別にそんなことばかりではなかったが、元の異世界では割と日常的に命を狙われたりしていた。まあ全部返り討ちにしましたけどね

 

 さらに奥に進んでいくと、アンデッド系のモンスターがちょこちょこ出てくるようになった。出てくるようになったのだが、恐ろしい速さでアンデッドを駆除していくクリスがいるため戦いに参加することは出来なかった。

 

「っと、ここが最奥だね。色々探しながら来たけど特に何も無かったね。」

 

 壁をペタペタ触りながらくまなく調べるクリス

 着いたのは学校の教室くらいのそこそこ大きな部屋。既に宝箱は開けられていて、ボスモンスターもいない。

 

「うーん、道中も隠し部屋とかなかったし、ここも何も無いっぽいし帰ろうか。せっかくここまで来たのになぁー」

 

 がっくりと肩を下ろしながら帰り支度を始めるクリス。確かに道中もくまなく調べていて何も見つからなかった。一見この部屋も何も無いように見える。ただ一箇所だけ気になるのは..

 

「こっちに何かある気するんですよね。」

 

 壁の一箇所に違和感を感じていたのだ。色も模様もほかの壁と一緒だが、ほんの少しだけ模様の高さがズレている

 

「....うわほんとだ。1ミリくらいズレてるね。なんでそんなに離れてて気がつくのさ」

 

「経験ですかね、あとは勘です。」

 

 俺はおもむろに剣を抜き...壁を思いっきり蹴りつけた。

 

 壁は音を立てて崩れ、隠し部屋が現れた。

 

「...」

 

 クリスが何か言いたげにこちらを見てくるが、無視して中へ進む。

 部屋は小さく、壁面は全て本で埋まっており、部屋の中心には椅子に座ったまま白骨化した魔法使いらしき死体があった。

 

「...うん。成仏してるね。」

 

「ここは...本棚ですかね。」

 

「特に罠感知に反応もないね。なんの本なんだろ..読めない..」

 

「特別変なことは書いていないですね。小説だったり、魔法の本とかがあります」

 

「え?この文字読めるの?」

 

 その表紙にはこの世界の言葉でない...俺がいた異世界の文字が書かれていた。別におかしな話では無いだろう。俺だってあの世界から日本へ、そしてこの世界へ来た。過去にあの世界から渡ってきた者もいたのだろう。

 

 本には《保存》のエンチャントが施されているため、新品同様のまま残っていた。

 

「とりあえず何冊か持って帰っていいですかね。あと多分床がどこか開くので探して貰ってもいいですか」

 

 クリスが床を調べると、隅の方の床がガコンと音を立てて凹み、反対側の床が開く。本来はこの部屋もあんな感じで開いたはずだ

 

「....うわ、ほんとに開いた。お宝がそこそこあるね。...なんでわかったの?」

 

「流行ってたんですよ。自分の宝を床に隠すの。向こうで」

 

 元の世界では、不意に家ごと吹き飛ばされたりするため、大切な物は床にしまっておくのが一般的だった。

 

 

 お宝を回収し、ダンジョンを後にする。

 俺の世界に興味が湧いたのか、色々質問してくるクリスに昔の思い出を語りながら無事アクセルに帰ってきた。お宝は山分けし、今度からもたまにでいいので手伝って欲しいこと、クリスの正体は内緒にすることを改めて頼まれ、そのまま別れた。

 

 

 その夜俺の世界の魔法に興味を持った師匠に魔法の本を1冊音読させられるのだった。




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変態クルセイダーとの出会い

誤字報告感謝です!!
‹‹\( ˙▿˙ )/››‹‹\( ˙▿˙ )/››♡


 

 チュンチュンと小鳥がなく声で目を覚ます。

 いい加減藁に埋もれて眠るのも嫌になってきた。細かい藁が鎧の中に入り込みチクチク気になってしょうがない。

 

 馬小屋を出ると師匠がいた。師匠が頑なに泊まっている宿を教えてくれないので、別行動をする日以外はこうして馬小屋まで来てくれるのだ。

 

「えび先輩もそろそろ宿借りたらぁ?」

 

「えー、なんか汚したら怒られそうじゃないですか。だったら2人で家買いません?」

 

「はぁ!?家っておま、二人で!?」

 

 急に挙動不審になった。何かおかしいこと言ったかな?

 

「はい。こうやって待ち合わせるのめんどくさくないですか?」

 

「待ち合わせではないけどねこれ。でもぼくは困ってないしなあ」

 

「いやいや、ちなみに師匠の宿にお風呂は?」

 

「ないけど...」

 

「部屋で魔法の研究とかできます?」

 

「できないね...」

 

「両隣の人がたまにうるさいって愚痴ってませんでしたっけ?」

 

「そうだけど....」

 

「だったら家買った方良くないですか?」

 

「たしかに...一理ある...のか?」

 

 顎に手を当て、俯きながら考える師匠。これは近々家を買うことになりそうだ。藁の寝床からの卒業に胸をはずませていると、隣からドスッと音がした。見れば師匠と金髪の男がぶつかっていた。

 

「痛ってええええええええ!!骨が折れちまったぜ!!見てくれよキース!」

 

「本当だ!こりゃ大変だなダスト!!今すぐプリーストに見せに行かないと取り返しがつかないことになっちまうぜ!!」

 

 師匠とぶつかってから、間髪入れずにダストと呼ばれていた金髪赤目の男が叫び、キースがリアクションをとる。

 あまりにも1連の流れがスムーズなため普段から練習しているのか、よく人にぶつかって怪我をしているのだろう。

 

「だがダスト、お前はギャンブルに負け続け、今までのカスみたいな行ないのせいでお前は金を持っていないし、お前に金を貸す奴は居ないっ...!!」

 

「おい本当のこと言うな。悲しくなるだろ。そこは妹が病気とかでいんだよ。てことでよおあんたら、慰謝料5万エリスを払ってもらおうか」

 

「ええっと...こういう時ってどうすればいいと思うえび先輩」

 

「俺に任せてください師匠」

 

 師匠を庇うように前に出て二人を見下ろす。

 

「お?なんだぁ?やんのか?こっちはけが人だぞ?けが人をいたぶってお前の自尊心は傷つかないのか?」

 

「そうだぞ?見るからに高レベル冒険者のお前が俺らみたいな低レベル冒険者を甚振っても虚しいだけだぞ?」

 

 急に逃げ腰になって反論しだす二人。というかキースと呼ばれていた方はともかく、ダストからは明らかに強いやつの気配がするのだが....?

 ただまあそんなことよりも、許せないことがある。

 

「あなたたち、わざと師匠にぶつかりましたね?」

 

「なんだって?言いがかりだ!!」

 

「そうだそうだ!証拠はあんのか!?」

 

 容疑を認めない二人だが、こちらには動かぬ証拠がある。

 

「そんなわけはないんですよ...普通に歩いてて師匠の頭が目に入ってこないわけないじゃないですか!!」

 

「「ハッ!?」」

「は?」

 

 そう。普通に道を歩いていたのならば、師匠の頭が目に入らないはずがないのだ。

 

「たしかに...あのデカイ頭を見逃すのは不自然だったか!」

 

「俺達もまだまだ素人ってことか...」

 

 悔しそうにこちらへ謝罪する2人に、俺は爽やかな笑みを浮かべ

 

「謝っていただければ何も言いませんよ。ねえししょ」

『ボルト』

 

「「「ギャアアアアアアア!!」」」

 

 

 

 ******

 

 

 香ばしい焦げの匂いを漂わせながらギルドに着いてすぐ、先に中に入った師匠に物陰に引っ張られた

 

「あれ見て」

 

 師匠が指を指す方向を見ると、自称女神のアクアらしき人が受付に並んでいる。なんでこんなところに?それに何やら揉めているようだが...

 

「あ、こっち来ますね」

 

 慌てて死角へ回り込みながら、聞き耳を立てる

 

「...まあ見てなさい!....そこのプリーストのあなた!宗派を教えなさい!私はアクア!そう、アクシズ教徒の御神体、女神アクアよ!汝アクシズ教なら..お金を貸してくれると助かります...」

 

 何やら上からなのか下からなのか分からない態度で、プリーストと思わしき初老の男性からお金を借りていた。

 

「お金を借りてるってことは、冒険者登録ですかね」

 

「でも、なんで女神様がわざわざ?」

 

「左遷されたとか?」

 

「一概に否定出来ない...」

 

 お金を借りることに成功したものの、やけに落ち込んだ様子のアクアは、1人の少年の元へ歩いていった。

 茶髪の中肉中背のごくごく普通の少年。しかし彼からはただならぬ物を感じる。強大な力とは違う、なにかこれから彼を中心に世界が変わっていくような....

 

「あ、少年が適正測ってますよ。女神様が連れてきたってことは結構すごい人だったりするんですかね。」

 

 この英雄にそんなものを感じさせる少年なのだ。何か特別な力を持っていることでしょう。

 

「いや、受付のお姉さんの反応が微妙...男の子もすごく苦笑いしてるね。やっぱり神の名を語った偽物なのかな?」

 

「いや、アクアが測ったらお祭り騒ぎになってますね。あの少年は納得いかない顔してますが..」

 

 

 

「それじゃあ登録も終わったことだし、クエストに行きましょ!さっさとレベルをあげて、魔王を軽く捻って帰るのよ!」

 

「まあ待て駄女神、俺の今の格好を見ろ?ジャージだよ?ジャージ、こんなんでモンスターと戦えるわけがないだろ?まずはバイトでもして資金調達からだ。」

 

 そう言うと彼らはおすすめのバイトを聞いて去っていってしまった。

 

「結局なんでここにいるのかは分からなかったね、やっぱり左遷なのかな?」

 

「魔王を倒して帰る..って言ってましたし可能性はありますね。他に考えられるのは....少年の特典として着いてきたとかじゃないですか。」

 

「そんなこと可能なの?」

 

 信じられない、といった目つきで聞き返してくる師匠に俺の考えを説明する。

 

「あの少年多分僕らと同じ転生者だと思うんですよ。なのにそれっぽい装備もなければ、ステータスが高いわけでもなかったのでそれしか考えられないんですよね。」

 

「お前たまに推理力発揮するよな。そうとしか思えなくなってきたわ。」

 

「それでどうします?なにかクエストでも受けますかね」

 

 そうしてクエストボードの前で悩むこと数分1枚の依頼書を手に取った

 

「山から畑に下りてきて作物を荒らす一撃熊の討伐の依頼。報酬が50万エリス。これにしましょうか」

 

「一撃熊だと!?」

 

 突然後ろから女性の声がした。振り向くとそこには長身で全身を鎧に包んだ、金髪の美人がいた。

 

「今一撃熊の討伐に行くと聞こえたのだがっ!?」

 

 明らかにテンションのおかしい女騎士の登場に、師匠が俺の後ろに隠れてしまう。

 

「ええっと、はい。そうですけど」

 

「それはなんともうらやまs....じゃなくて、見たところあなた達パーティーに見えるのだが、まさか2人だけでそのクエストへ行くつもりか?」

 

「そうなりますね」

 

「無謀がすぎるぞ!一撃熊と言えば、一撃が重く気持ちい....じゃなくて、威力が凄まじく並大抵の装備ではその爪で容易く引き裂かれてしまい、素肌が露出し恥辱の限りを...でもない!とにかく危険だ」

 

 ところどころ危ないことを口走っていた気がする...師匠の教育に宜しくないのでやめてほしいが....

 

「どうしてもと言うなら私を連れて行ってくれ!」

 

「お断りします」

 

「くぅっ....初対面の相手にそこまで冷たい目で断られるとはっ...だが私は諦めないぞ!」

 

「ダアアアアクネエエエエエエエス!!!!!!」

 

 ものすごい速さでこちらに走り、女騎士の頭を掴み無理やり頭を下げさせる白い影。

 

「うちのダクネスがご迷惑をおかけしてすみません!!」

 

「おいクリス!無理やり頭を下げさせられるプレイは嫌いじゃないが時と場をわきまえてやってくれ」

 

「うるさいよバカネス!一体何度言ったら人に迷惑をかけなくなるのさ!....ってエクスくん!?」

 

 目線、腰の角度、間が完璧な礼を披露した白い影の正体は、冒険者登録の際にお金を貸してくれ、先日一緒にダンジョンを探索したクリスだった。

 

「それにそっちはアルスさん?だよね」

 

「クリスさん!あの時はどうもありがとうございました!」

 

「なんだクリス、2人と知り合いだったのか!ならちょうどいい、クリスからも2人に...」

 

「バカ言ってないでほかのクエスト行くよダクネス。だいたいダクネスがそんなに行きたがるって2人はどんなクエスト受けたのさ」

 

 興味ありげにこちらを見るクリスに依頼書を渡すと、クリスの表情がみるみる変わっていく

 

「い、一撃熊?.....2人で?」

 

 信じられない馬鹿なんじゃないのといった表情を向けられる。

 そんなに難易度の高いクエストだったのだろうか

 

「うーん....たしかにエクス君は強そうだけど....ちゃんと戦ってるとこを見たわけじゃないし...やっぱり連れて行ってくれない?一応こっちのダクネスも上級職ではあるからさ...」

 

「まあクリスさんが着いてくるなら構いませんよ。ねえ師匠」

 

「うん...まあ得体の知れないヤバいやつから知り合いの知り合いのヤバいやつレベルにはなったから...」

 

「んんっ...この2人は師弟揃って容赦ないなっ....!」

 

「やめんかい」

 

 クリスに突っ込まれハアハアしだすダクネス。本当に許可して大丈夫だったかな....早くも不安になってきた

 

 

 全員で依頼書の内容を確かめている最中、ふとダクネスの方を見上げると、訝しげな表情でこちらを見つめていた。

 そんな顔できたんですね。

 

「そういえばちゃんと名前を聞いていなかったと思ってな。エクスにアルスだったか?」

 

「ああはい。エクス・アルビオです。英雄です」

 

「アルス・アルマルです。一応ウィザードです」

 

 名前を言った時、一瞬何かを考えるような顔をしたように見えた。

 

「私はダクネス。ただのダクネスだ。クルセイダーをやっている」

 

 ....何となく事情がわかった気がする。

 まあそこまで嫌な予感はしないが注意しておこう。

 

 

 




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誰か!その変態止めて!!

前話のまえがきにも書きましたが誤字報告感謝です!



 

 少し前を師匠とダクネスさんが談笑しながら進んで行く。それを後ろからクリスと見守る。

 

 2人と一緒にクエストへ向かうことになり、それぞれのスキル構成や得意なことを共有し人通りの流れを確認した際に、意外にもダクネスが話のまとめ役となり、話し合いはスムーズに行われた。あの変態性に目をつむれば案外常識人なのかもしれない。

 

「そういえばクリスさんって、ダクネスさんと結構長い付き合いなんですか?」

 

 前を進む2人に届かないくらいの声量で、隣のクリスに話しかける

 

「そうだけど...どうしたの?」

 

「いや1つ聞きたいことがあってですね....ダクネスさんって貴族の方ですか?」

 

「うわぁ....ちなみになんでそう思ったの?」

 

 クリスの反応を見るに、俺の予想はだいたい合っているのだろう。

 

「理由は何個かあるんですけど..普通自分のことただのダクネスって言わなくないですか?」

 

「なるほど...ほかには?」

 

「あとは...俺の容姿を見てから改めて名前を確認したこととか」

 

「それは...どうゆうこと?」

 

「具体的には顔を...ですかね。金髪碧眼。この世界の貴族の特徴だったりしません?」

 

「なんでそこまでわかんのさ。益々わかんなくなってきたよ」

 

「いやまああるあるネタなんで。どの世界の人間もゴールドは大好きなんですよ。なんでそれが体の一部になってる人は人気を得やすいっていうか成り上がりやすいっていうか..」

 

 人が世界に誕生し、文明を発展させていくにつれ、身分というものが出来上がっていく。その際異世界では魔法により3段飛ばしで文明が加速していくため、わかりやすいシンボルを持つ金髪のものが高い身分を得やすい傾向にある。

 

「あとは細かい所作とか話し方が冒険者っぽくないなーと」

 

「まいったなー、君の前では隠し事できないねこりゃ。まだ見通す悪魔(薄汚いゴミ)の力を借りてるって言われた方が信じれたよ」

 

 なんかすごいルビふられてなかった?今の一瞬クリスがめちゃくちゃ怖かったんですけど。

 

「ああ、あとモイラ様に俺とアルスさんがこっちの世界に来てるって伝えて置いて貰っていいですか?」

 

「...君の言い方的に運命を司る女神様と知り合いなの?本当に人間なんだよね?私ですらあの人のアポ取るの難しいよ? 」

 

「二人共なんの話をしているんだ?そろそろ目的地に着くぞ」

 

 

 話に集中しているうちに一撃熊が目撃される畑が見える位置まで来ていた。聞きたいことも話したいことも伝えれたのでよしとしよう。

 

 

 

 ******

 

 

 

 

「そろそろ一撃熊があの畑に下りてくる時間帯ですね」

 

 目的地に到着し、近くの草むらに隠れる。本来なら野生動物相手にこの程度の隠密は効果をなさないのだが、盗賊であるクリスのスキル『潜伏』により、格上か、アンデット系モンスター

 以外には気づかれることがなくなっている。

 

 辺りを見回しながらじっと待っていると、前方からモンスターの気配がしてきた。

 

「みんな、敵感知スキルに反応があったよ。」

 

 気配を感じると同時にクリスが敵を感知する。クリスのスキルと俺の自前の敵感知の範囲はほぼ同じくらいなのだろう。

 これまでの経験を経て得ることのできた技術(スキル)をスキルポイントを払うだけで手に入れることが出来るのは、少しだけ納得がいかない気がしないでもない。

 

 今回の作戦としては、不意打ちでクリスが拘束し、そこを師匠が魔法で滅多打ちにすると言うもの。拘束が解けたら俺とダクネスさんで抑えながら再び拘束のチャンスを狙っていくことになっている。

 

 火力が師匠の魔法だけとなっているが、困ったら雑に殴り飛ばせばいいので魔法の練習のつもりでいいと師匠には伝えてある。

 

 一撃熊が視認できる距離まで近づいて来た。のっしのっしと歩くその姿は全長約5メートル程で、前腕が異様に大きくなっており、甲殻に覆われている。確かにあれに殴られては、大抵の生き物がワンパンされることだろう。

 

 ふと潜伏スキルのために皆で合わせている手がぷるぷる震えていることに気づいた。目を向けて見ると震源はダクネスのようだ。武者震いか?ダクネスをよく知るクリスの方を見てみれば、青い顔をしていた。

 猛烈に嫌な予感がする。

 

「も、もう辛抱たまらん!行ってくりゅ!!」

 

 頬を赤く染めながら林から飛び出して行くダクネスをただ見送ることしか出来なかったのは仕方の無いことだろう。

 

「うおおおおおおお!」

 

 雄叫びを上げながら剣を振り上げ、一撃熊に向け振り下ろすダクネス。一撃熊も不意を突かれたのか無防備な状態でそれを迎えた。

 

 一閃

 

 力強い太刀筋は見事に障壁を砕き切りながら地面へと振り下ろされた。

 

 断ち切られたのが一撃熊の横の木でなかったら完璧だったのだが。

 

「グオオオオオオオ!!!」

 

 一撃熊がダクネスへ向け威嚇をする。

 それを両手を広げて受け入れるダクネス。

 

 クリスが呆れながら縄を構えるが、既に一撃熊はその巨腕を振りかぶっていた。

 とりあえず師匠に目配せしてダクネスの前へ駆ける。

 

 金属のひしゃげる音が周囲に響き渡る。巨腕がダクネスに振り下ろされるギリギリで間に割り込むことに成功した。

 

 一撃熊の渾身の一撃を受けた右腕にはヒビが入ってしまい、爪によって皮膚が裂かれ血だらけになったので、左腕で一撃熊の鼻頭に一撃を叩き込み動きを止める

 

「んな!?」

 

 驚愕した表情を浮かべるダクネスを蹴り飛ばし、緊急回避する

 

『トールライトニング!!』

 

 先程までいた場所に無数の雷が降り注いだ。少々オーバーキルな気がしないでもない。それに眩しいし音がうるさい。

 

 雷が止むと、そこには焼けこげた一撃熊の死体があった

 

「一応クエスト自体は達成ですね。作戦は意味ありませんでしたけど」

 

 それに師匠はこの世界の魔法を練習中のため、師匠の世界の魔法で倒してしまうのはあまりよろしくない。

 ダクネスの元まで駆け寄ると、幸せそうな顔をしながらお腹を押さえて気絶していた。

 

「本っっっっっっっ当にごめんなさい!!!」

 

 クリスが腰を直角に曲げて謝り出した。別にクリスさんは悪くないと思う。

 

「まあ全員無事でクエストクリア出来ましたし結果オーライですよ」

 

「その腕は絶対無事じゃないよね!?」

 

 今だ血の滴る腕を見て勘違いしているのか泣き出しそうな顔でわなわなするクリス。

 

「あー、師匠水ください」

 

「あいよー」

 

 師匠に血を流してもらい、鎧をはずすと、切り裂かれていたはずの傷口はなくなっている

 

「...え?なんで?ポーション飲んでたっけ...」

 

「いや自然治癒ですけど」

 

「本当に何者なの!?」

 

 英雄なんだからこれくらいすぐに治って当然だと思うのだが。

 

「まあえび先輩だし....」

 

「....んぅ、私はいったい....」

 

 クリスがドン引きしているタイミングでダクネスが目を覚ました。割と強めに蹴ったのにこんなにも早く目を覚ますの?頑丈すぎません?

 

「とりあえずバカネスは帰ったら説教だからね」

 

「おいちょっと待ってくれクリス!一体何がどうなってるんだ!?一撃熊はどうなった!草むらに潜んでいた辺りから記憶がないんだが!?」

 

 なんとダクネスは蹴られた衝撃で記憶を飛ばしていた。割と好都合ではあるかもしれない。

 

「ダクネスさんは一撃熊に突っ込んでってそのまま殴り飛ばされました。記憶が無いのは当たりどころが悪かったんじゃないですか?」

 

「確かに未だにお腹にひびき続けるこの重い痛みっ....だがなぜ鎧が裂かれ素肌が顕になっていない?」

 

 色々腑に落ちないところがあるようだが、押し通すことにしよう。

 

 

 ギルドに報告した際、2人が報酬の受け取りを拒否したのでありがたく師匠と山分けした。

 

 

 *****

 

 その日の夜。いつも通り藁の寝床で眠っていると、不思議な空間で目を覚ました。

 

 床は白と黒のタイルで構成されており、見渡す限り壁がない空間。転生する際に訪れた場所である。

 

 唐突に後ろに存在感を感じ振り返ると、そこには女神エリスがいた。

 

「突然のお呼び出し申し訳ありません...あとダクネスにはきつく言っておいたのでその謝罪も一緒に...」

 

 ほんの少しだけ気まずそうに頬をポリポリ掻くエリス様がそこにはいた。

 

「立ち話もなんですし...」

 

 エリス様が指をパチンとならすと、何も無かったはずの空間に椅子と机、そしていくつかのお菓子が現れた。

 

「どうぞお座り下さい」

 

 促されるまま椅子に座りエリス様と向き合う

 

「...これ食べていいですか」

 

「遠慮せずにどうぞ」

 

 小綺麗な包み紙を開けクッキーを口へ放り込む。甘くて美味しい。どうやら夢ではないようだ。こっそりポッケに入れながらエリス様の顔を見ると真剣な表情になっていた

 

「あなたをここへお呼び出ししたのはほかでもありません。改めて魔王討伐の依頼をしたいのです」

 

 それはこの世界に来る際に請け負ったと思うのだが....?

 困惑した表情を浮かべているのを見てエリス様が続ける。

 

「この世界では長い間。本当に長い間人間と魔族が争っています。何度も劣勢になる人類に救いの手を差し伸べているのは神々の慈悲深さだけではないのです。」

 

 静かにそして真剣な表情で話し始めた。長くなりそうな気配を感じたのでお菓子の包みを何個か手元にとっておく。

 

「あの世界は神々と悪魔にとって重要な位置にあります。お互いにあの世界を取られるとまずい、けれども直接的な介入は禁止されているため、悪魔側は魔族に、神々は人類に間接的な介入を施しているのです」

 

 それが転生者にもたらされる特典なのだろう。長い間転生者に神器や能力を与えてきたが状況が好転しないため、たまたま転生することになった異世界の英雄にこうしてお願いをしに来ている訳だ。

 

「...ということなのですが、受けていただけませんか。当然元の世界に戻れることとは別になんでも1つ願いを叶えて差し上げます....どうでしょうか?」

 

 心配そうにこちらを見てくるエリス様。その表情からは彼女にとってあの世界が天界の命運とかとは関係なく大切であることが伝わってきた。だが....

 

「心苦しいのですが、積極的に魔王討伐に乗り出すのは難しいです」

 

「そう.....ですか...理由を聞いても?」

 

「あの世界においても師匠は充分強いですが、まだ魔王軍幹部に勝てるほどではありません。師匠の実力が充分育つまでまだ時間がかかるでしょう。俺が無理矢理この世界に連れて来てしまった手前、無茶な真似はできません。」

 

 グリフォンや一撃熊程度なら師匠を守りながらでも簡単に相手できるが、魔王軍幹部や、魔王相手にそれができるかと言われると、無理だと言わざるを得ない。

 

 明らかにしゅんとするエリス様を見て俺は続ける

 

「それが1つ目の理由、2つ目の理由は、あの世界にはもう勇者がいるからです」

 

「勇者...ですか?」

 

「そうですね。エリス様は英雄と勇者の違いってなんだと思いますか」

 

 エリス様は少しだけ考えて

 

「英雄は、圧倒的な武力によって功績を立てたものへ与えられる称号です。勇者は、その身に宿す勇気と、知略と、ほんの少しの勇気で魔王を打ち倒すもの...でしょうか」

 

「さすが女神様ですね。そしてそのものたちは総じて運命に愛されています」

 

「そんな人が...もうあの世界に?」

 

「はい。エリス様もそのうち分かると思いますよ」

 

「それは..英雄の勘ってやつですか?」

 

「もちろん」

 

 俺の返事を聞いてエリス様は笑っていた

 

「じゃあ本当かもしれませんね。分かりました。あなたを信じて勇者を待ってみます」

 

「それでもダメだったら、師匠を隠して俺が1週間で魔王ヴォゴヴォゴにしてくるんで。任せてください」

 

「ふふっ、わかりました。今日は突然お呼び立てしてすみませんでした。最後に一つだけ」

 

 エリス様は机と椅子を片付け、俺の足元に魔法陣を浮かべながら、クリスのようなイタズラっぽい笑顔を浮かべてこちらへ振り返った。

 

「あの世界は楽しいですか?異世界の英雄であるあなたにとって満足できる世界ですか?」

 

 2つじゃん。という無粋なツッコミを飲み込み口を開く。

 

「当然ですよ。僕はそう思いますけど」

 

 周囲が眩い光に包まれた

 

 

 *****

 

 チクチクする藁の中で目を覚ます。ポケットを探ってみるがクッキーは入っていなかった。




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英雄とサキュバスとキャベツと家

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フンフン(・ω・三・ω・)フンフン


 

 エリス様に天界に呼ばれてからしばらく経って、アクセルの街に新たな風物詩が生まれた。

 1日1回、耳を劈く轟音と、腹の底を震わせる振動がアクセル中に響き渡る。下手人は想像の通りめぐみんだ。

 

 初めの数回は魔王軍の襲来と勘違いした人々がパニックに陥ったものだが、最近は「ああ、いつものか。」といった反応だけですぐに日常へと戻っている。慣れとは恐ろしいものだ。

 

 ただまあ、1度だけ早朝にこれが鳴り響いた時は、

 住民ブチ切れからのギルドへ苦情殺到、

 パーティーリーダーの佐藤カズマの土下座、

 めぐみん真顔の「あまりに気持ちのいい朝だったので撃ちました。反省はしていますが後悔はしてません」発言、

 カズマ怒りのめぐみん解雇宣言からのめぐみんの土下座がスムーズに行われ、緊急時以外の早朝及び深夜の爆裂魔法の使用を禁止するという約束が制定されるという騒動も起こったが。

 

 むしろその程度で許されるあたりこの街の住民はとても穏やかで親切だと思う。

 

 先述の通りカズマはパーティーを結成した。パーティーを組むこと自体は、初心者冒険者のクエスト成功率をあげる効果もあり、パーティーメンバーがいない時は即席のパーティーを組むことをギルドも推奨している通り、非常に有効な一手ではあるのだが、問題はそのパーティーメンバーだろう。

 

 冒険者のカズマ

 アークプリーストのアクア

 アークウィザードのめぐみん

 クルセイダーのダクネス

 

 一見上級職が3人もいる勝ち組パーティーのように見えるが、その実態は問題があると言わざるを得ないくせ者揃いのパーティーだ。

 カズマの幸運値が高いとは嘘だったのだろうか。

 

 あんなに格好つけてエリス様に宣言してしまった手前カズマパーティーには頑張って欲しいのだがどうなることやら。

 ちなみにカズマの特有のオーラは未だに健在であるため彼の覇道は順調ではあるようだ....知らんけど

 

 

 今日は師匠が魔導書の翻訳作業でいないので街を適当に探索することにした。アクセルの街はそこそこ大きいため未だに訪れていない区画がそこそこ残っている。なにか面白いものが見つかれば師匠にお土産でも買っていこうと思ったのだが...

 

「...モンスターの気配?街中で?」

 

 不意に人では無い者の気配を感じた。脅威度的にはまあまあと言ったところなので冒険者なら余裕で対処出来ると思うのだが、アクセルの街には当然一般市民も多く暮らしている。

 

 気配の方向へと進んでいくと、ダストとキースにばったり出くわした。

 

「おお、エビオじゃねえか!なんでお前がこんなところにいんだよ!」

 

「そうだそうだ!エビオにはアルスさんがいるだろうが!!」

 

 なぜ彼らがエビオという呼び名を知っているかはさておき、師匠がいるのにとはどういうことだろうか?

 

「あ?お前その顔まさか...知らねえのか?」

 

「嘘だろ!?」

 

「散歩してたらモンスターの気配がしたので退治しようかと..」

 

「「絶対やめろ」」

 

 2人は今までに見たことの無いくらい真剣な眼差しを向けてきた。

 

「いいかエビオ。俺たち冒険者は日々命をかけて戦う職業だな」

 

「確かにお前は命をかけてギャンブルしているな」

 

「そんな職業だからよ、遺伝子を後世に残さなきゃねえって本能が働くわけだ。」

 

「お前の遺伝子は残さない方がいいんじゃないか?」

 

「だが周りの露出の多い女冒険者に手を出してみろ?死ぬよりも恐ろしい目にあうことは容易に想像が出来るよな?」

 

「前科二犯が言うと言葉の重みがちげえな」

 

「さっきからうるせえぞキース!今大事な話をしてるんだ!

 ...つまりよ、この先にある店で働いているサキュバスの姉さんがたに定期的にいい夢を見せてもらうことで、俺らは溜まったものを発散できる。女冒険者も襲われるリスクが減る。お姉さん達も安全に生きていけるんだ。わかってくれエビオ。」

 

 大まかには理解出来た。

 なるほど言われてみれば俺がいた異世界にも似たようなものがあったような気がする。2人から女性冒険者には秘密と言われたので、忘れることにしよう。

 

 俺のいた世界の場所は女性冒険者達と神官達の決起によって粉々にされていた事を思い出した。合言葉は我々の婚期を取り戻せ!だった。この世界も同じ末路を追わなければいいが....

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者は至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します!街の中にいる冒険者は至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

 街中に大音量のアナウンスが鳴り響く。この世界に来て初めての経験だ。魔王軍でも攻めてきたのだろうか。どちらにせよ暇だったので急いでギルドへ向かおう。

 

 

 

 

 *****

 

 

「皆さん、突然のお呼び出しすいません!今年もキャベツの収穫時期がやってまいりました!今年のキャベツは出来がよく、1玉につき1万エリスです!既に街中の住民のみなさんは家に避難して頂いております。ではみなさん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに収めてください!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしないようにお願いします!なお、人数が人数ですので、報酬は後日まとめてお支払いします!」

 

 師匠と合流しギルドに到着すると、ギルド職員が拡声器のような魔道具を使って説明していた。俺にはいまいち内容が理解できない。キャベツを収穫するのに住民の避難はいらないし、逆襲されて怪我をするとはどういうことだろう。

 

「1玉1万エリスだって!頑張ろうね!えび先輩!」

 

 横の師匠は理解出来たらしいので疑問点について聞いてみる

 

「え、えび先輩知らないの?この世界の野菜は飛ぶんだよ?」

 

「師匠って人より脳みそでかいはずなのにアホですよね?」

 

「殺す」

 

 確かにこの世界に来てから野菜は火を通したものしか食べていないし、生の野菜を見ていない。サンマが畑で採れる世界なのだから野菜が飛ぶというのもあながち嘘では無いのかもしれない。どちらにせよクエストが始まればどういうことなのか分かるはずだ

 

『大地を穿つ炎の星よ、我が力の元に...』

 

「それはまじで洒落にならないんで勘弁してください」

 

 周りから拍手が起こるほど完璧な土下座を披露することで許しを得ることが出来た。

 

 

 

 

「あれが全部....キャベツ?」

 

 はるか遠くから飛翔する緑の大群。その数は100や200ではきかないだろう。 ただまあ1玉につき1万エリスもの報酬が得られるのはでかい。久々に英雄の本気を見せるべく、軽く準備運動をしていると師匠が何か差し出してきた。

 

「先輩はキャベツ破壊しちゃうからこれで」

 

 師匠が手にしているのは..広告を折り畳んで作られた普通のハリセンのようだ

 

「これすぐ壊れません?」

 

「一応《耐久》のエンチャントはしてあるから多分大丈夫だよ。ちゃんと機能するかの実験も兼ねてるからよろしく」

 

 エンチャントの魔法はこの前ダンジョンから回収してきた魔導書に記載された魔法の1つである。ここ数日の間に実用可能なレベルまで理論を構築していたのかと素直に関心した。

 

 手のひらにぺちぺちと当ててみると確かに頑丈になっていた。

 

「じゃあ、ありがたく使わせていただきますね。」

 

「うい」

 

 とりあえずこれでキャベツを叩き落とせば師匠が風魔法で回収してくれるらしいので、無心でひたすらに叩き続けようと思う

 

『エクスプロージョン!!』

 

 突然キャベツの群れに爆裂魔法が叩き込まれ、緑のカーテンに穴が空く。その爆風で前の方にいた冒険者の何名かが吹っ飛ばされていた。彼らはめぐみんに文句を言ってもいいと思う。

 

 とうとうキャベツの群れが冒険者集団にぶつかり始めた。熟練冒険者と思われる盾持ちの男性がキャベツの突進をくらい大きく体制を崩されている。本当にハリセンで大丈夫だろうか。

 

「おらあぁぁ!」スパーン!

 

 ハリセンから軽快な音がなり、キャベツが綺麗な状態で地に落ちた。ハリセンも壊れていない。

 この分なら多少本気を出してしまっても大丈夫そうだ。

 

「ちょ!?早いってえび先輩!回収が追いつかないって!」

 

 その後、ハリセン片手に目にも止まらぬ速さでキャベツを叩き落とす金髪の男はアクセルの都市伝説として語られた。

 

 

 *****

 

 

 後日報酬を受け取るためギルドにきたら何やら窓口の方から騒がしい声が聞こえた

 

「おかしいでしょ!?どういうことよ!!」

 

「そうは言われましても、アクアさんが捕まえたのは全てレタスでして...」

 

 どうやらアクアが回収したキャベツのほとんどがレタスだったらしく、ギルド職員に文句を言っているようだ..関わりたくないため、少し離れた席に座り軽食をとりながら順番を待つ。

 

「報酬いくらくらいになるかなあ..エビ先輩落とすスピード早くて数える暇なかったんだよね..」 

 

 大量に回収したのは確かなので回収したのがレタスじゃなければ3桁は硬いはずだ。

 

「ていうか今回の報酬次第ですけど、そろそろ家買いません?いい加減毎朝体ガチガチで起きるの辛くなってきたんですよね」

 

「なんでおめーは頑なに宿使わないんだよ」

 

 なんとなく今後の動向を決めながら、キャベツの大量収穫により安くなった野菜スティックを摘む

 

 \ヒョイッ/

 

 野菜スティックを摘む手が綺麗に躱された。

 ...活きがいい証拠でいいでは無いか。フェイントを交えつつ摘みに行く

 

 \ヒョイッ/

 

 ....ならば圧倒的な手数で勝負しようではないか!

 

 \スサササササ.../ 

 

 ダァン!「なめんな!」

 

「ちょ!えび先輩うるさい!台パンしないの!今年の野菜は活きがいいらしいんだから仕方ないじゃん!」 

 

 英雄の攻撃をここまで躱したのはこの野菜スティックが初めてかもしれない。...剣を抜きつつ次の攻防に入ろうかとしていると 

 

「エクスさーん!お待たせしました!受付にいらしてください!」

 

 ....この勝負はお預けにしといてやる。

 

 

 

「アルスさんの分も一緒にでいいとの事でしたので、こちら報酬の200万エリスとなります!」

 

 思っていたよりも少し報酬が多い。ハリセンでしとめたから状態が良かったのだろうか。

 

「...師匠、僕達が捕まえたのはレタスだったようで...分け前の20万エリスです。」

 

「おい袋見えてんだよ!」

 

 ちっ、勘のいい師匠は嫌いだね。報酬の100万エリスを渡し、再び野菜と戦おうとするが...

 

「師匠?ここにあった野菜スティックは?」 

 

「え?食べたけど...」

 

「...どうやって?」 

 

「ボルト使って動けなくした」

 

 それはずるくないだろうか...

 

「じゃあこの後どうしましょう?クエスト受ける時間はなさそうですし、不動産屋覗いてみます?」

 

「おー...本当に一緒に住むの?」

 

「え?嫌ですか?」

 

「嫌ではないけど...まあいいか。えび先輩だし」

 

 何やら師匠の様子が少しおかしいが、購入に対して意欲的ではあるようだ。気が変わる前に連れて行こう。

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 不動産屋に入ると、人あたりの良さそうな中年の男性が座っていた。

 

「こんにちは〜」

 

「こんにちエーーーーーックス!」

 

 軽く挨拶を済ませ、事情を話す。

 

「なるほど、その場合活動の拠点はアクセルとして考えておられるのでしょうか?」

 

「そうですね。僕が転移魔法を使えるので、ほかの街へ行っても帰って来れるのでこの街に住む予定です。」

 

「でしたら...ここはいかがですか」

 

 店員さんが見せてきた資料には、2人で住むには少々大きすぎる屋敷が載っていた。

 

「この大きさでこの値段...?」

 

「実はですね...この屋敷は以前貴族様の別荘として使われていたものなのですが...売りに出した辺りから悪霊が住み初めまして....」

 

「チェンジで」

 

 悪霊と聞いた瞬間師匠がバッサリと切り捨てた。条件的にはかなりいい屋敷だとは思うがやはり広すぎるし他の所でもいいだろう

 

「さいですか...ではこちらなんていかがでしょう?」

 

 少々残念そうな顔をしながら別の物件の話をし始めた。

 師匠と店員さんが真面目に話し合っているので話に入る隙がない。不動産関係には少し疎いので自信のありそうな師匠に任せて良いだろう...多分。

 

 その後条件に当てはまる物件が見つかったようで内見から購入までスムーズに行われた。

 値段はそこそこするが、今までのペースで魔物を討伐していれば1年程で完済出来るだろう。

 

 

「じゃあここ俺の部屋で」

 

「ここはリビングだろうが!」

 

「師匠の部屋はそこで」

 

「トイレに住めってのか!」

 

「ここが寝室みたいですね」

 

「なんでベットに枕2つ置いてあるんだよ...」 

 

「お風呂広くないですか!?師匠の頭が入り切るくらいでかいですよ!」

 

「おい表出ろ、師匠として引導を渡してやるよ」

 

「小さいけど庭もあるんですね、薬草とか育てれそう」

 

「表出ろってそういうことじゃねえんだよなぁ...」 

 

「お風呂気持ち良かった〜」

 

「広い風呂はいいねぇ〜」

 

「それじゃおやすみなさい!」 

 

「おやす...え?」

 

(一緒のベットで寝るの!?)

 

 

 久々にふかふかしたベットに横になることができ、急激に瞼が重くなっていく。師匠が隣で覚悟を決めたような顔をしているがどうかしたのだろうか。そんなことを考えているうちに、意識は深い闇の中へと落ちていった。

 

 




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追憶と散歩と二日酔いの英雄

急にお気に入り登録増えまくってめちゃくちゃびっくりした
ランキング乗ってたんすね...あわ(;˙꒳˙ 三 ˙꒳˙ 三 ˙꒳˙;)あわ

ご期待に添えるよう精進して参ります!

あと誤字報告感謝です!何度検閲してもすり抜けていくのでマジで助かってます!


 頭がぼーっとする。さっきまで何をしていたのか思い出せない。なんで森の中に?

 

 俺は昨日師匠と家を買って...それから...

 

「どうしたノ?エクスくん、また怖い顔してル」

 

 隣を見ると幼い魔人の少女が、上目遣いで俺の顔を覗いている。そうか。ここは夢の中だ。なぜなら隣にいる少女、レヴィさんは今日本にいる。

 

 それにしてもなぜ急にレヴィさんと旅をしていた時の夢を見ているのか。

 

「マタ昔のこと思い出しちゃっタ?」

 

 心配そうに、こちらを気遣うように優しく声をかけてくれるレヴィさんをみて、懐かしさから笑みがこぼれる

 

「オォ〜。笑っタ!良かったァー!」

 

 にっこりと笑うレヴィさん。昔はこんな感じだったっけ

 

「ボクはね!エクスくんに感謝してるんだヨ!!エクスくんがいなかったラ今頃どうなってたカ...」

 

 小さな体を大きく使い、身振り手振りで表現するレヴィさん。

 こんなこともあったなあと、心が穏やかな気持ちになってくる

 

「本当にありがトウ!これからもよろしくネ!!」

 

 そう言ってレヴィさんは走っていってしまう。

 追いかけようとするが体が重くて動かない。

 声を掛けようとしても声が出ない。

 まあ夢だから当然か。

 

 気づいたら周囲の景色が変わっている。

 レンガが敷き詰められた床に、崩れかかった壁、玉座のようなもの前にはなにかの死体がある..

 ここは....

 

「お前のその手で、俺達の旅を終わらせてくれ...」

 

 足元から声が聞こえた。聞き覚えのある声。

 跪きながら、優しい笑みを浮かべる男がいる。

 動き出そうとする体を全力で止めようとするが、体の自由は効かない。

 目を閉じようとしてもまぶたは塞がらない。

 

 この後.....俺は........

 

 

 *****

 

 

 目が覚めると外はまだ薄暗い。かなり早起きしてしまったようだ。なにか夢を見ていた気がするが思い出せない。汗で背中にピッタリと張り付いたシャツが気持ち悪い。

 

 隣を見ると、師匠は既に居ない。顔を洗うために1階に降りると、ベーコンの焼けるいい匂いがしてきた。師匠が朝ごはんでも作ってくれているのかもしれない。

 

「おはようございます師匠。朝早くないですか?」

 

「あー、おはよ。誰かさんのせいで昨日眠れなくてさ...」

 

 若干不機嫌そうに呟く師匠。よく見てみると目の下に隈ができている。

 枕が変わると寝れないタイプの人ではなかったと思うのだが。

 

「だから今日は昼過ぎまで寝てていい?」

 

「まあ特にしなきゃないことも無いんで大丈夫ですよ」

 

 となると今日は1人行動か、何をしようかあれこれ考えるも、クエストに行くぐらいしかすることがない。とりあえずギルドに行ってそれから考えよう。

 

「あとエビ先輩帰ってきたら家具見に行こ。ベッド買わなきゃ」

 

「え?ベッドならもうあるじゃないですか」

 

「買いに行きます」

 

「いやだから..」

 

「絶対に行きます」

 

 真顔の師匠からは今までにない圧を感じた。

 

「ていうか顔洗ってきなよ。あと髪ボサボサだよ」

 

「了解でーす」

 

 

 顔を洗い終わると、師匠が大きな欠伸をしながら寝室に戻っていくところが見えた。流し台には食べ終わった食器が置いてあり...

 

 あ、俺の分は作ってくれてない感じね。

 しょうがないからギルド行って朝ごはん食べよう

 

 *****

 

 

 ギルドに着くと、クエストボードの前に人だかりができていた。その中にめぐみんがいたので事情を聞いてみる

 

「これはどういう状況ですか?」

 

「おやエビオじゃないですか。どうやら近くの廃城に魔王軍の幹部が来ているようで、その存在感に当てられたのかあたりのモンスターが姿を消してしまったみたいで...せっかく杖を新調したのに使えないんですよね」

 

 確かに普段なら依頼が所狭しとはられているクエストボードが、今日はスカスカになっていた。残っているクエストは、この街の冒険者が受けるには難易度の高いクエストか、ギルド食堂の手伝い(料理スキル必須)や街中の掃除といった、普段なら誰も選ばないクエストばかりだ。

 にしても魔王軍幹部の襲来とは。始まりの街にそんなのが来るのは反則だと思う。

 

「おーいめぐみん。なんかめぼしいクエストはあったか...こっちの強そうな人は?」

 

「おやカズマにも何度か話したではありませんか。エビオですよ」

 

「あーあの高速キャベツハリセンの?こんな正統派な勇者みたいな感じなの?」

 

 いつの間にエビオの名が広まってしまったのだろうか。いやそれよりもキャベツハリセンとはなんだ。

 

「初めましてカズマさん。エクス・アルビオです。あとエビオってあだ名広めてるやつ教えてくれます?お話するんで」

 

 ぷいっとめぐみんが目をそらす。お前か。

 

「俺の事知ってるのか?」

 

 カズマが不思議な顔をして聞いてくる。そういえば話すのは初めてだっただろうか。

 

「結構有名ですよ。上級職3人侍らせてる金魚のフンのカスマとか。銀髪の女盗賊からパンツを奪って家宝にする!と高らかに宣言したパンツ脱がせ魔のクズマとか」

 

「おいその噂流してるやつについて詳しく」

 

「まあ後半はともかく前半に関しては、めぐみんともダクネスともクエストに行きましたし、アクアに関しても何となく察せる部分はあるんで...」

 

「分かってくれるのかエビオ...!って、なんでうちの駄女神のことまで知ってるんだ?」

 

「あー、分かりづらいかもしれませんけど俺ら同郷なんで」

 

「マジで!?」

 

 まあ俺も師匠も日本人では無いので分からないのもしょうがないが。

 

「2人でなんの話をしてるんですか?というかカズマ。そろそろいつもの日課に行くので付き合ってください」

 

「おおもうそんな時間か。エビオも行くか?めぐみんが爆裂魔法を打つのを見るだけだけど」

 

 めぐみんの爆裂魔法は既に見たし別に行かなくてもいいが、

 めぐみんが爆裂魔法を打てる場所なら師匠も魔法の練習ができるのではないだろうか。帰ったら聞いてみよう

 

「あー今日は遠慮しときます。もしかしたら師匠が行きたがるかもなんですけど、その時は明日着いてってもいいですか?」

 

「私は構いませんよ。というかまたアルスの魔法が見たいのでぜひ来てください」

 

 カズマ達と別れ、

 

 帰って師匠に今日あったことを伝えると割と乗り気だったので明日から爆裂散歩なるものに参加することとなった。

 

 

 

 

 ぽかぽかと陽気な天気の元、さわやかにそよぐ草原の中にシートを引き、俺とカズマは座っていた。耳をすませば小鳥の歌声が聞こえ、このまま昼寝でもしたくなる絶好のピクニック日和に、2人の魔法使いが並んで立っていた。

 

『エクスプロージョン!!!』

 

『トールライトニング!!』

 

 遠く、のどかな丘に建つ廃城に、 2撃の最上位魔法が展開された。先程までの穏やかな雰囲気が嘘かのように、体の芯まで響く爆発音と、腹の底を震わせる落雷の音が混ざり合い体を突き抜けて行った。一瞬遅れて熱を持った大気が暴風となって通り過ぎ、後に残ったのは倒れた2人の魔法使いだけだった。

 

「爆裂の衝撃波に、轟雷の光と音が重なって全身を突き抜け尚も止まらずに走り去っていくような感覚。それを追いかけるような暖かな風を受け止めた際に、肌にパチパチとした静電気が走るアクセント。ナイス爆裂!」

 

 カズマの詩人のような評価を聞いて、めぐみんが倒れながらも片手を突き上げサムズアップをした。

 

「というかあの城は本当に頑丈だな。今日こそ壊れたと思ったんだが」

 

 ここ数日めぐみんと師匠が魔法を打ち込みまくった廃城は、その全てを見事に耐えきって見せた。

 というか、気の所為でなければ壊れてたところが直っているような気さえする。

 

「それじゃあ帰るとするか。あっそうだ!この後ギルドの連中と飲むんだけど一緒にどうだ?」

 

 めぐみんを背負いながらカズマはこちらへ話しかけてくる。

 ここ数日の日課で、カズマとの距離も縮まったと感じているので行くのは構わないが。

 

「行ってもいいですか師匠」

 

「なんでぼくに聞くんだよ。ぼくはおめーの保護者じゃねーぞ」

 

 念の為師匠に確認を取ると、背中から気だるそうな声が帰ってきた。

 

「じゃあぜひ行かせていただきます。場所はギルドでいいんですよね?」

 

「おう!じゃあギルドで待ってるぞ!」

 

 

 

 ******

 

 .....

 

「頭痛ってぇ.....そういえばお酒弱いんだった.....」

 

 昨日はギルドでカズマや他の人達とお酒を飲んだのだが、記憶が一切残っていない。二日酔いとかいつぶりだろう...

 

「アカン...マジで吐きそう..師匠は...?」

 

 どうやってここに帰ってきたのだろう..師匠迎えに来てくれたのかな..悪いことしたなぁ...

 

 再び眠りにつこうとする体を持ち上げ、フラフラしながら階段を降りる。外の明るさ的にもう昼はすぎただろうか

 

「ししょぉ...いないんですかー?昨日はすみませんでしたー」

 

 リビングのドアを開けるも、そこに師匠はいなかった。

 家の中は静まり返っている。クエストにでも行ったのかな?

 

 台所で水を汲み、飲み干し 、再びリビングへ戻ると、

 机の上に1枚の紙が置かれているのを発見した

 

「えーと...『緊急アナウンスがあったので正門に行きます。体調が良くなったら来てね。アルス。』緊急アナウンス..?」

 

 ......なんだか凄まじく嫌な予感がする。

 俺はすこぶる最悪な体調を無視し、鎧を着るのも忘れ、静まり返った道を正門まで走った。

 

 

 正門の前には多くの冒険者が集まっており、その視線は前方へと固定されている。その視線の方向へ目を向けると、カズマパーティと、その中心に師匠が座っていた

 

「エビオ!来てたのか!」

 

 カズマがこちらを振り返り叫ぶ。その表情にはいつものような余裕はない。

 

「今来たとこです...大丈夫ですか師匠?」

 

 師匠は俯いたまま話そうとしない。背中に冷たい汗が流れるのを感じる

 

「すまない、庇いきれなかった...」

 

 後ろからダクネスが悔しそうに顔をしかめ、謝ってくる。

 もう一度師匠に目を向けるが、目立った怪我はない。

 

「...説明してもらってもいいですか?」

 

「...魔法打ち込んでた城があったろ?あそこに魔王軍幹部のベルディアが住んでたみたいで..さっきまでここに来てたんだ。そいつの死の宣告を食らって、ダクネスとアルスはあと1週間で...」

 

『死の宣告』、名前から察して1週間後に死に至る呪いだろう。

 

「...ベルディアは今どこに?」

 

「廃城に帰って行ったよ」

 

「...わかりました。師匠を頼みます」

 

「エビオ!?」

 

「っ!エビ先輩!!」

 

 俺は再び走り出した。

 




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英雄と魔王軍幹部

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あと二日酔いって浄化魔法で直せたりするんすかね。カズマとか二日酔いなってないし


 

 走りながら、考えていることはひとつだった。

 

 なんで.....なんでっ.....

 

 なんで二日酔いなんだ!!!

 

 いや格好悪すぎだろ!まだ怪我とかならわかるよ!?

 先の戦いで大きな怪我を負って治療中とかさ!

 鎧も着てねえしよお!寝巻きだぞこれ!?

 半袖短パンで爆走とかどこのわんぱく少年だよ!!

 

 そんなアホなことを考えて、気を紛らわせないとマジで倒れそうになる。

 てか途中で1回吐いたし。二日酔いで爆走するもんじゃないわマジで。

 師匠大丈夫かな...ベルディアボコって呪い解ければいいんだけど....

 

 死にそうになりながら走っているうちに、廃城に到着した。近づいてみて分かったが、中からおびただしい数のモンスターの気配がする。一番奥にはベルディアと思われる凶悪な気配も感じる。

 

 固く閉ざされた城門に、師匠に呪いをかけたことへの怒りと、二日酔いで走らされた怒りを込めて拳を握る

 

「こん、ばん、エェェェェェェェェックス!!!!」

 

 門は粉々になりながら吹っ飛んでいく。中を見ると、門を開けようとしていたのか数人のアンデットナイトと目が合う。

 

『よくぞ参った勇者よ、まさかこんなに早く来るとは思わなかったぞ。あの街にここまで勇気あるものがいたとはな。その勇気を称え扉を開こう。入ってくるが良い』

 

 どこからかベルディアらしき声が響くが、既に門は空いている。

 ここに来たことはわかっても、見ることはできていないらしい。本来なら門は勝手に開いたようだ。門を開けようとしていたアンデットナイト達が気まずそうに目を逸らした。

 

「...えーと...やりますか」

 

 その一言でアンデットナイトは剣を抜いた。こちらも剣を抜こうと背中に手を伸ばす。

 

 手は虚空を掴んだ。

 

 .....あれっ?

 

 何度リトライしても手が掴むのは虚空だけだった。

 

 .....やっべ、剣忘れた!!?

 まじのわんぱく少年じゃん!?半袖短パンで何しに来たんだよ俺!?

 

 再び気まずそうな雰囲気を醸し出すアンデットナイト達。そのうちの何体かは、1回帰ったらとボディランゲージで伝えて来る

 

「うっ、うるせえ!行くぞオラァ!!!」

 

 アンデットナイトの間合いに入り込み、剣を避けながら拳を振るう。アンデットナイトの鎧は硬いが、中の体は腐っているためか脆い。フロアを制圧するまでそう時間はかからなかった

 

 アンデット達を殴り飛ばしながら奥へ進んで行くと、変わった部屋に辿り着いた

 

「レンガを作るへや?こっちはコンクリート的なもの...?」

 

 つまりここは....

 

「最上位魔法で破壊された箇所を直すための部屋ってことか..」

 

 なんか申し訳なくなってきた。

 毎日毎日ここでレンガを作って修復していたらしい。

 なんなら道具の中にベルディア専用と書かれたものまである。

 魔王軍幹部が直々に修理していたのか.....

 

 見なかったことにしてさらに奥へと進み、1階を制圧した。

 アンデットナイト達はあまり大したことがないようだ。

 

 

 同じような流れで2階、3階と制圧した。上に進むに連れてアンデットナイトが大きくなり、装備もごつくなっていったがあまり関係なかった。

 

 ベルディアが居ると思われる部屋の前で待つ。同じ轍は踏まない。きっとまた開けてくれるだろう。

 

 1分待つ。2分、3分......

 

「こん、ばん、エェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェックス!!!!!!!!!!」

 

「キャアアアアァァァァァァ!??!?」

 

 勢いをつけて扉を蹴破ると、中から生娘のような叫びが響いてきた。部屋を間違ったかと思ったが、中にいたのは身をかがめ、頭を手に抱えた鎧の大男である。

 

「な、ななななななんなのだ貴様は!?もっと普通に入ってくることが出来ないのか!?あの街にはおかしなやつしかいないのか!?」

 

 こちらへと指をさしながら抗議してくるベルディア。

 だが抗議したいのはこちらだ。せっかく気を利かせて開くのを待っていたのに。いつまでたっても開けないそっちが悪いと思いませんか?

 

「だいたいなんだその格好は!半袖短パンってふざけてるのか!?虫取りにでも行くつもりか!?」

 

 痛いところをつかないでもらいたい。俺も結構気にしているのだ

 

「いや、待て、貴様1人か!?つまり貴様が我が城のアンデットナイト達を殲滅したのか!?どんな化け物だ!?」

 

 化け物。少々懐かしい呼び名ではある。日本へと転移してから呼ばれなくなったのを思い出す。

 

「そんなことよりも、師匠とダクネスさんにかけた呪いを解いてもらってもいいですか?」

 

「ふん、俺が来いと行ったのは紅魔の娘だ。貴様など知らん。というか貴様、あの場にいなかっただろう?何をしていた?」

 

「二日酔いで寝込んでました」

 

「二日酔い!?よりにもよって二日酔いなのか!?怪我とか、ほかのクエストを受けていたとかでもなく!?」

 

 うるさい。気にしてんだから黙っていて欲しい。

 さっさとボコって黙らせないと。

 

 一気にベルディアへ近づき、拳を振るう

 

「くっ、ここまで来ただけの力はあるようだな。本当に何者だ?まさか貴様が光の正体か?」

 

 ベルディアへ繰り出した拳は、ギリギリのところで剣の腹で受けられ、止められる

 

 そのままもう一度踏み込んで拳を振り抜く

 

「はあああああぁぁぁぁぁ!?」

 

 叫び声を上げながらベルディアは吹っ飛び、壁へと叩きつけられた

 

「あ、頭おかしいんじゃないのか貴様!?脳筋にも程があるだろう...って、うおぉぉぉ!?」

 

 近くにあった柱を折り、投擲し、再度接近を試みる

 

「こんなものっ!!」

 

 ベルディアは剣で柱を打ち返してきたので、拳で粉砕する

 

「はあ、はあ、貴様本当に人間か?よく考えるとあの数のアンデットナイトを相手して傷一つもついてないではないか..」

 

「人間ですよ。俺はそう思ってます」

 

「どういうことだ?」

 

「人々の既知から外れた存在は、英雄(化け物)と呼ばれるんですよ」

 

「...そうか、変なことを聞いてすまなかったな。我は魔王軍幹部ベルディア!魔王様の名にかけて、貴様を殺す!」

 

 ベルディアの纏うオーラがより一層凶悪なものに変わった。

 ここからが本番のようだ

 

 

 

 ******

 

 

 魔王軍幹部が越してきた廃城の玉座の間に、2人の男がいた。1人は地に伏せており、1人はボロボロになりながらも倒れた男を見下ろしていた。

 

「まさか拳ひとつで俺を圧倒したものがいるとはな。誰に話しても信じて貰えないだろうよ。きっと未来永劫貴様のようなものは現れまい」

 

 頭よりも高い位置からかけられるベルディアの言葉は、

 こちらを称えるものだった。

 

 途中までは割とボコボコにしていたのだが、ある段階から徹底的に距離を取られ、剣先による攻撃に切り替わったのだ。

 腐っても魔王軍幹部、その戦闘技術は生半可なものではない

 

 さすがに剣を忘れたのはまずかったか。

 腹につけられた深い傷から、血がどくどくと流れ出る。

 これを直すのはさすがに時間がかかりそうだ。

 

「せめて最後に名前を聞こう。貴様のようなものがいたと、俺の魂に刻んでやる」

 

「はあ....はあ....パブロ......ディエゴ.......」

 

「うむうむ」

 

「ホセ......フランシスコ........デ......パウラ....ホアン.......」

 

「うむ.....うむ?」

 

「ネポムセーノ................マリーア............デ.......ロス..........」

 

「まてまてまてまて!いくらなんでも長すぎるだろう!!?」

 

「レメディオス........クリスピン.........クリスピアーノ........」

 

「一旦やめろ!嘘を言うな!そんな名前のやつがいてたまるか!紅魔族でもそんな頭のおかしな名前付けんぞ!?」

 

「デ......ラ....サンディシマ.....トリニダード.....ルイス.....イ.......ピカソです」

 

「貴様、時間稼ぎのつもりか?なら諦めろ。その腹につけた傷は致命傷だ。人間に身ではどうにもならん。俺の手下になると言うなら直してやらんでもないがな」

 

 やばい....全然塞がらん.......マジで死ぬかも

 

『セイクリッド・ハイネスエクソシズム!!』

 

「ぎぃいやあぁぁぁぁああ!?!?」

 

 命を諦めかけたその時、アクアの声が部屋に響いた

 

「ってまずいわカズマさん!全然効いてないみたい!」

 

「いやどう見ても効いてる反応だったろ。ぎいぃやああって言ったぞ今、ぎいぃやああって」

 

 入口の方を見てみると、そこにはカズマとアクア、そして師匠がいた

 

「ってまずいわ!?ベリーの人が死にそうじゃない!?『ヒール』!!」

 

 アクアから放たれた光は、俺の体にぶつかり、腹に空いた穴を塞いでいった

 

「この馬鹿弟子があああああ!!!いつも1人で背負い込みやがって!!!ぼくは師匠だぞ!!!たまにはぼくにも頼れ馬鹿!!!」

 

 師匠が泣きながら何かを投げてくる。キャッチしてみると、1本の木の棒だった。

 

「エクス!!それを使ってベルディアを上に打ち上げろ!外でめぐみんが準備してる!アクアは補助魔法を!!アルスは天井を壊してくれ!」

 

「任されたわ!『パワード』!!『スピーダー』!!」

 

『ボンバーダ!!』

 

 アクアの補助魔法で体に力がみなぎり、師匠の魔法で天井に穴が空く。

 問題はこの木の棒だ、折れないか心配ではあるが、師匠がくれたのだ。安心して使おう。

 

 未だ悶えるベルディアへ近づくと、ベルディアはこちらへ剣を構えた。

 

「何度だって切るまでだ!!」

 

 こちらへ向かって剣を振り下ろすベルディア。その剣の側面に木の棒を合わせる。

 弾かれたのはベルディアの剣だった。ありえないといった表情を浮かべるベルディアの股の間に棒を通し、上へと切り上げる

 

「ぎゃあああああぁぁぁあぁぁあ?!!?!?!」

 

 ベルディアは絶叫しながら空へと打ち上げられた。

 

「エビオ!!こっちだ!!早く!」

 

 師匠を中心に魔法陣が展開されていたため、急いで円に入る

 

『テレポート!!』

 

 最後に見えたのは、打ち上げられたベルディアに、巨大な赤い魔法陣が重なった瞬間だった。

 

 

 

 *****

 

 

 眩い光がおさまると、いつもの魔法練習場所におり、少し離れたところに倒れためぐみんと、隣に座るダクネスがいた。

 

 冒険者カードを確認して喜んでいるのを見ると、どうやらベルディアを倒すことに成功したようだ。

 

 続けて手に握ったままの木の棒を見る。普通の木の棒だったらベルディアの剣を弾くことはできないし、ベルディアを空高く打ち上げることは出来ない。

 おそらく師匠がエンチャントをかけてくれたのだろう

 

「師匠!なんのエンチャントしてくれたんですか?」

 

「《耐久》《ノックバック》《アンデット特攻》だよ」

 

 師匠は呆れた表情でそう告げた

 

「そんなことよりさ、ぼくに言うことがあるよね」

 

 師匠はお怒りのようだった。さすがにその原因に気づけない程鈍い英雄ではない..しっかりと正座になおり、地面に手をつけ頭を下げ

 

「二日酔いで師匠を守れずすみませんでした!!もうお酒はやめます!!」

 

「ちげえよバカタレぇぇええええ!!!!」

 

 魔導書の角で思いっきり殴られた。ちょっと痛い

 

「ええぇ...違うのか...言うこと....あっ!呪いは大丈夫なんですか!?」

 

「それもそうだけど!!てかアクアさんが解呪してくれたんだけどさ!!!」

 

 は?解呪できたの?じゃあ無理する必要なかったやん!!

 

「...本当に分からない?」

 

「..........すみません」

 

 師匠からベルディア級の圧を感じる。

 

「ぼくを守ろうとしてくれるのは嬉しいよ。でもさ、ぼくがどんな気持ちで、小さくなってくエビ先輩の背中見てたと思う?たしかに呪いを食らっちゃったマヌケはぼくだけどさ..ぼくがっ、....傷だらけで倒れてるエビ先輩を見た時の気持ちわかる?」

 

 座って、子供を諭すように泣きながら訴える師匠。

 俺はまた大きな間違いを犯してしまったようだ。

 

「心配をおかけして本当にすみませんでした!!」

 

「ほんとだよばかでしいいぃぃ!!うわあああああああん!」

 

 師匠に飛びかかられ、後ろに倒れる。遠くからニヤニヤして見てくるカズマパーティは無視して、俺の胸で泣く愛おしい師匠を撫で続けた

 

 

 

「それにさ、城でも言ったけど、いつまでも守られてるのは嫌だよ。隣で戦わせろとは言わないけどさ。せめて背中ぐらいは任せてくれない?」

 

 その帰り道、冷静になったのか少し顔を赤くして離れて歩く師匠がそう呟いた

 

「わかりました師匠。これからは背中を任せます。なんなら前も任せますよ」

 

「お前も戦えよばかやろぉ」

 

 そう言って師匠は笑ってくれた

 

 

 

 *****

 

 

 なんか2億エリスの借金負ったんですけど。




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過去エビの話



注意:エクスの過去を捏造しているうえに、ちょっと重いかもです。

あと7月22日22:00からエビマルで案件配信だってさ!!!!
ぐへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ


 ベルディアの懸賞金3億エリス。

 それを2パーティーで割って1億5000万エリスが手に入るはずだったのだが....

 

「申し訳ありません..めぐみんさんが破壊した城及びあの丘は この街の領主アルダープ様のものだったようで.....」

 

 幾度となく2人の魔法使いの究極魔法を耐え続けた廃城だが、先に限界が来たのはなんと丘の方だった。

 丘が崩れたことにより廃城も瓦解した。

 

 ただ、あの城は永い間使われていなかったため問題ないとされていたのだが、それに待ったをかけたのがアルダープである。

 あの城はわしの先祖が買ったものなのだから、あの城の所有権はわしにあると書類付きで抗議されたため、弁償しなければ無くなった。

 

 総額7億エリス。何をどう計算したのかは一切知らされていないが7億エリスもの借金を負うことになった。

 ベルディアの懸賞金3億エリスを引いて4億エリス。

 それを2パーティーで分けることになり、2億エリスの借金を獲得した。

 

 家のローンも合わせれば3億近くになるマイナスの財産を得た俺と師匠は今....

 

 

 

「師匠ー、そこの本取ってください」

 

「自分でやれよー」

 

 家でふて寝していた。

 

「ほんとにどうしますー?」

 

「どうするってどうするのさー」

 

「いやアルダープを消そうか考えてて」

 

「バレないようにやりなよー」

 

 延いては現実逃避をしていた。カズマパーティーは今必死にクエストを探していることだろう。

 本来なら俺らもそうするべきなのだろうが、簡単なクエストは受けれないうえに、ベルディア討伐からまだ数日。借金を負ってから1日。

 まだ動く気にはなれなかった

 

「こんな仕打ちあるかよぉー...ぼくら頑張ったじゃん」

 

「ありますよー...貴族ってやつは大抵クソですからねー..」

 

「思ったより辛辣だなあ...きもちはわかるけどよぉ」

 

「ていうかあの廃城が都合よく悪徳領主のものとか有り得なくないですかね。絶対捏造してますって」

 

「悪い話しか聞かないしねぇ。ここまで評判悪くなるくらい色々やってるのになんで領主でいられるんだろうね」

 

「はぁー....金が欲しい.....王都まで行ってみます?」

 

「まあ1回行っちゃえば何度でもいけるしね。ぼくの世界のテレポートは優秀だなあ」

 

「この世界のテレポートのコスパ悪いですよね」

 

 聞いた話によると、この世界のテレポートはテレポート先に登録出来る数に上限があり、その数も少なく、魔力消費も激しいらしい。

 対して師匠のテレポートは登録先の上限がほぼ無いに等しく、魔力消費も軽い完全上位互換である。

 

「んじゃあ明日にでも王都へ向かうかー....今日はどうする?」

 

「このままダラダラするのもあれですよね..かと言ってクエストに行く気にはなれませんし....なんかあります?」

 

「えー...なんかって何さ。なんも無いけど」

 

「師匠ー、暇なんですよー...パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ..」

 

「分かった!分かったからそれやめて!」

 

「最初からその姿勢でいればいいんですよ」

 

「クソ野郎がよぉ...じゃああれ話してよ。えび先輩の過去の話。何気に1度も聞いてないと思うんだけど」

 

「えぇ...話すったって、僕の英雄伝説は話すことが多すぎるしなあ..何について話して欲しいですか?」

 

「んじゃあ前から気になってたんだけど、えび先輩のその強さはなんなの?どんな過去を送ったらその歳でその強さが手に入ったの?」

 

 やけに真剣な目を向けてくるなあ師匠は..そんな気になるかな...

 

「まあ暇つぶしにはちょうどいいので話しますけど..」

 

 

 *****

 

 

「当時の俺エクスアルビオ...いや、エクスはいわゆるスラムと呼ばれるところで暮らしていました。

 いつからそこで暮らしているのかは覚えてなく、物心がついた時にはそういう暮らしをしていましたね。

 覚えていたのはエクスという名前だけで、ほかは何も知らず、当然親の顔も覚えてませんし、名前も知りません。

 

 毎日ゴミ箱を漁るか、パンを盗む生活を送っていた中、ある男の人に出会ったんです。

 名をクラーク・アルビオと言いました。

 名前でわかると思うんですけど、俺の性は彼からもらいました。要するに養子として拾ってもらったんですよ。

 なんで俺を拾ったのかとかは聞かないでくださいね、俺も聞いたことがないので知りませんし。

 

 アルビオ家は代々魔法戦士の家系だったので、当然俺も魔法戦士として育てられたんですが、10歳の時の適正検査で魔力が0なことがわかりまして...俺の世界だと魔力っていうのは繰り返し魔法を使えば成長して、前衛職でも自己強化魔法をバンバン自分にかけてバフを詰んで戦うのが一般だったんですよ。

 つまり魔力が0っていうのは、戦えないことに等しかったんです。

 

 数年間続けて来た自強化魔法前提の剣技や、魔法の勉強が全て無駄だったとわかって、だいぶ落ち込みましたね」

 

 これが某呪いの漫画とかならフィジカルギフテッドになれたのかなぁ...

 

「えーと、ここまでが俺の少年期編ですね、何か質問はありますか?」

 

「えぇ?つまりえび先輩は英雄どころかなんの才能もない子供だったの?」

 

「そうなりますね。では問題、ここからエクス少年に何が起きたでしょうか!」

 

「...英雄の力に目覚めるとか..?」

 

「おぉー、いい線いってますね。正解は...何もです。」

 

「え?」

 

「これといった都合のいいイベントは起きませんでしたね。

 なのでエクス少年が行ったのはただの努力です。気が遠くなる程の。朝から晩まで剣を振って、時には魔物の討伐に参加してボコボコにされてました。何度も死にかけて、死にかけて、死にかけて、ようやく半殺しまで成長して、また死にかけました。

 

 他にやっていたことといえば、能力値をあげるハーブを主食にしていた時期もあります。まあ、あげるといっても、100あるうちの0.01ずつくらいしか上がんないんですけど、それも味はクソマズです。通称食べる拷問でしたし。なんならほんとに拷問に使われてたらしいですし。栄養価は完璧らしいんですけどね。

 この歳まで色々なものを食べましたが、あれがいちばんマズイです。龍角散を10倍濃縮して、お酢を1本入れたような味がします。二度と食べたくありません。

 

 それを食べ続けて、剣を振り続けて、ようやく同年代の実力者と肩を並べることが出来たんですよ。」

 

「...」

 

 師匠が黙ってしまった。明るく話してるつもりなんですけどね。俺からしてみればまだ笑い話にできるレベルの話なんだけどなあ。

 

「まあそんな生活を続けるうちに、魔王討伐の勇者パーティーに選ばれまして。勇者じゃないですよ?俺は戦士枠でした。

 パーティは勇者と魔法使いと僧侶と俺の4人でした。俺と勇者が男で残りは女性でしたね。

 まあ道中の話は割愛しましょうか、またいつか話します。

 ここでまたもや問題です。この勇者パーティー、最終的にはどうなったでしょうか?」

 

「ええっと、普通魔王を倒したんじゃ?」

 

「まあ正解ですかね。魔王は倒しました。ただ、魔王を倒したのち、勇者は僕が殺しました」

 

「えぇ!?どうしてそんな..」

 

「頼まれたんですよ。彼に。まず魔王と戦ったのは俺と勇者だけです。聖職者であるはずの僧侶は魔王軍に寝返って、魔法使いはある朝いなくなってました。装備一式は残っていたのできっと...俺達は旅の道中で人の醜さに触れすぎたんでしょうね。

 本当に世界を救うべきか、人間を助ける価値があるのか話し合った回数は、両手だけでは数え切れません。

 だから勇者も俺に頼む時に、このままで命をかけて守りたかった者たちを殺してしまう。だから頼むと言われました。だから俺は黙って首を..大丈夫ですか?具合悪そうですけど..」

 

「いや、そんな重い話は想像してなくてさ、えび先輩は大丈夫だったの?」

 

「いや、うーん...当時はくるものがありましたね。まだ若かったですし。で、そのまま王国に帰ったんですけど、王様になんて言われたと思います?」

 

「さすがに、何か労いの言葉を貰ったんじゃ...」

 

「今現在他国との戦争の準備を進めているから勇者パーティの力を貸してくれと。当時の精神がぶっ壊れてた俺はそれを引き受けて、毎日毎日戦場で戦い続け、最後には英雄と呼ばれていました」

 

「....」

 

「大丈夫ですか?師匠」

 

「大丈夫じゃないけど、続けて」

 

「まあもうだいたいは話きりましたけどね。この後は貴族達に政治に利用されそうになったり、何もしてないのに国王への反逆を考えたとかで罪に問われたり、ある日を境に魔王よりも恐ろしい化け物と世界の敵認定されたり散々な目に合いました。

 マジで世界滅ぼしてやろうと思いましたよ 」

 

「本当にひどいね....どうやってエビ先輩はそこから立ち直ったのさ」

 

「立ち直ったというか...人に期待するのをやめたというか...ああでも、転機はあったかもしれないですね」

 

「転機?」

 

「レヴィさんとの出会いです。世界の敵認定されてからしばらくフラフラと旅してたんですけど、奴隷商の馬車見つけまして、気まぐれで囚われてた人を解放したんですよ。

 その中のひとりがレヴィさんでした。帰る場所もない彼女を仕方なく旅に連れていくことにしてから、俺の精神は回復してきたと思います。

 今の俺があるのはレヴィさんのおかげですかねえ」

 

「そっか」

 

「だからあんま気にしなくていいですよ?俺からしたらもう終わったことなので」

 

「わかったよ。でも知れて良かった。エビ先輩の不思議だった部分が少し明確になった気がする」

 

「そうですか。まあ半分くらい嘘ですけど」

 

「....はぁ!?」

 

「ああ、あとちなみになんですけど、消えた魔法使い、この世界にいるかもしれません」

 

「はああああ!?」

 

「ダンジョンから持って帰って来た本あるじゃないですか。あれの中の何冊かあいつの筆跡で書かれてたんで」

 

「待って待ってわけわかんないって!どっからどこまでが嘘なのさ!!」

 

「信じたいとこだけ信じていいですよ」

 

 師匠はポカンと口を開けたまま固まった。

 

 

 もしかしたら彼女とまた逢う日が来るのかもしれない。

 出来れば、味方として会いたいものである。

 

 




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英雄と冬の精霊

昨日のエビマル配信めちゃくちゃ良かった!!!!
見てない人いたらぜひ見て欲しい。健康にいい。
未だに口角が上がったまま戻らねえよ..


 

 カーテンの隙間から薄い陽光が差し込む。

 何重にも重ねた毛布を捲ると、玲瓏な空気が肌を突き刺した。

 寝具に残る温もりに包まれたまま、もう一度眠りにつきたいという甘い誘惑を理性で抑え込むのに時間がかかってしまうが、何とか脱出しカーテンを開く。

 窓の外を見下ろすと、道に薄く雪が積もっており、今もはらはらと雪が降ってきている。

 

 そう、季節はもう冬になった。

 師匠と王都でクエストをこなすようになって数ヶ月経ち、クソ領主に負わせられた借金も約2000万エリス程完済した。

 けれど、あれだけ頑張って2000万エリス。師匠のレベルが15程上がったのは良かったが、このままのペースでは完済まで数年はかかるだろう。

 

 この世界にそこまで長期滞在する気がないのに、その大半を借金返済に費やすのはさすがに嫌だ。そろそろ本気で領主を星にする計画を立てようかとも思っている。

 また魔王軍幹部のようなものが現れれば全力で狩りに行くのだがそう都合よくは現れない。

 また真っ白なため息をつきながら1階へと移動する。

 

「寒う....あっエビ先輩起きてたんだ。おはよ」

 

 暖炉に火をつけて、簡単な朝ごはんを作っていると師匠が降りてきた。

 

「おはようございます師匠。だいぶ寒くなりましたね。あと朝ごはんできてますよ。パンとスープと目玉焼きとねる〇るねるねです」

 

「ぼくそれのねるね〇ねるね抜きで」

 

 2番の粉を入れながら、今日の予定を話し合う。

 まあクエストに、行くだけなのだが、なんと冬になって再びアクセルのクエストを受けることができるようになったのだ。

 というのも、冬の間は弱いモンスターなどは冬眠をしたり、活動が抑制化されたりするため、初心冒険者達の受けれるクエストが軒並みなくなってしまうのである。

 更には本来暖かい間、寒い北方の山に生息している凶暴な魔物などが人里に降りてきやすくなるので、この時期に貼られるクエストは総じて危険なものが多い。

 

 そのため、普段は初心者育成のためクエスト受領を遠慮している俺達もクエストを受けていいという許可が下りた。

 王都でもクエストは受けれるのだが、向こうの冒険者は冬でも関係なく活動するパーティが多い。そのため報酬のいいクエストは取り合いになるのだ。

 なので冬の間は競合の少ないアクセルで活動することになった。

 

 

 久しぶりにギルドの扉を開くと、いつもと変わらぬ騒がしさが身をつつんだ。冬の間はクエストに行かないだけで普通にギルドにはいるらしい。

 むしろこの時間から呑んでいる冒険者もいるので、普段よりも騒がしかったりするくらいだ。

 顔なじみの冒険者達に声をかけられながらクエストボードへと向かうと、カズマパーティがいた

 

「何受けるんですか?」

 

「おおエビオ!久しぶりだな!...そうだ!いいクエスト見つけたんだが一緒にどうだ?」

 

 そう言って手渡された紙に書いていたクエストは、雪精の討伐。

 

 ...なるほど。カズマはとうとう一か八かの大勝負に出たらしい。

 負った借金を一撃で返すつもりのようだ。そういうのは全然嫌いじゃないし、彼ならなんとかなるという安心感もある。

 ただ、だとしたらなんで俺を誘ったんだろう?

 

「なんでってお前....一緒に借金を負った仲じゃないか。一緒に頑張ろうぜ?」

 

「道中で強いモンスターに出会ったらエビオに任せるつもりですねこの男」

 

「こらめぐみん、本人はバレてないつもりなんだから黙っててやるんだ」

 

「そそそ、そんなんじゃねーし!でどうだ?予定があるなら無理にとは言わないが...」

 

「いえ、お言葉に甘えさせていただきます。いいですよね師匠」

 

「問題ないよ。すぐ行くの?」

 

「いや、準備もあるから2時間後、正門前に集合でどうだ?あと雪山だから防寒着は忘れないでくれ」

 

「分かりました。じゃあ2時間後で」

 

 ということで、この場は一旦解散となった。

 

 

 *****

 

 

 2時間後、正門前にて比較的もこもこしたカズマパーティと、

 ガチガチに装備を着込んだ俺と師匠が合流した。

 

 普段は使わないガチ装備である。もし仮にこれを着てベルディアの討伐に向かったのなら余裕でボコせた程のエンチャントを施してある逸品である。

 

 師匠にも魔法の威力と効率をあげる指輪と、各種能力をあげるブレスレット、氷属性耐性が着いたネックレスを貸した。何故か最初すごく拒否されたのだが、無理やり押し付けると顔を赤くして静かになってしまったし、装備の詳細について伝えるとめちゃくちゃ魔法撃たれた。あまりに理不尽だと思う。あとはお守りも持たせたし準備は完璧だ。

 

 気になるのはカズマパーティだ。これから決死の戦いを挑みに行くにしてはやや軽装、ほぼ防寒具の役割しか果たしていないように見えるが....

 

「ガチすぎないか?...いやでも雪山ならそんなもんなのか?」

 

 カズマもカズマで不思議そうにしている。なにか大きなすれ違いをしているような気がしないでもないが、さすがに大丈夫だろう。

 まさか冬将軍の存在を知らずにこのクエストを受ける者はいないだろうし。

 

「ねえねえもう準備は出来たんでしょう?じゃあ早く行きましょう!」

 

 虫取り網を掲げたアクアがカズマの服を引っ張りながら進んで行く。本当に大丈夫なのだろうか??

 一抹の不安を抱えながら一行は雪山へと向かった 。

 

 

 

 ぎゅむぎゅむと雪を踏みしめながらなだらかな斜面を登って行くと、開けた場所に出た。そこらじゅうに雪精がふわふわと浮かんでおり、早くもアクアが虫取り網を振り回しながら雪精を追いかけ始めた。

 

 この宙にたゆたう無害そうな雪精は、一匹討伐する事に10万エリスもの報奨金を得ることが出来る。この後に控えてる化け物のことを考えなければ、凄まじく美味しいクエストだと言えるだろう。

 

「じゃあ師匠、魔力消費しすぎいよう気をつけてくださいね」

 

「はいよぉ。じゃあちょっと離れててね。ゴホン、『地の底より燃え上がりし業火よ、我が力の元に爆炎となりて現れよ』」

 

 師匠の周りが赤い輝きを放ち始めたので少し離れる。

 

「『ヘルフレイムノヴァ』!!!」

 

 師匠を中心に、黒味を帯びた炎が球体となって広がっていった。

 それを逃れるようにこちらへとんできた雪精を3匹ほど切り払う

 

「...すげえ、あれが本物の魔法使いに、ちゃんと剣が当たる前衛か。うちのと変わってくれねえかなあ..」

 

「おい、詳しく聞こうじゃないか。というか、爆裂魔法使いがいるのに何が不満なのですか!」

 

「不満に決まってるだろうが!クエストに行くたびに色々ぶっ飛ばしやがって!ただでさえ借金で報酬から天引きされてるのにそこから修復代引かれて毎回かつかつなんだよ!!」

 

 カズマパーティも色々大変なようだ。

 

「師匠、今ので何匹くらいやりました?」

 

「うーんと、7匹だね。エビ先輩がやったのと合わせて100万エリス?」

 

「そうなりますね。カズマたちも結構やってるみたいなんでそろそろでしょうか。」

 

 師匠と話していたその時、山頂から吹き下ろしの強風が降りてき、舞い上がった雪によって視界が白く染まる。

 吹雪が晴れたとき、それはいた。

 

「出たわね。カズマ!何故冒険者がこんな美味しいクエストを放置しておくのか教えてあげるわ」

 

 アクアがそれから目をそらさずにカズマに声をかけた。

 

「あなたも日本に住いたんだし、昔からこの時期になると天気予報やニュースで名前くらいは聞いたことあるでしょう?」

 

 白一色に染め上げられた鎧兜からは、ベルディアとは比にならぬ殺気が放たれており、こちらから覗くことのできない眼は確かにこちらを睨んでいた。

 

「雪精達の主にして、冬の風物詩とも呼ばれる、冬将軍の到来よ」

 

「バカッ!このクソッタレな世界の連中は、人も食い物もモンスターも、みんな揃って大バカだ!」

 

 アクアの説明をうけ、カズマは涙目でそう叫んだ。

 やっぱ知らなかったんだ....

 

 冬将軍。国から2億もの賞金をかけられた特別指定モンスターの一体。その正体は、この世界に来たチート持ち日本人の思念によって実体化した冬の精霊である。

 賞金こそベルディアよりも1億少ないが、その実力は魔王にも届くと言われている。

 

 それが今こうして俺たちの前に敵対して現れている。

 冬将軍は鞘から刀を抜き、1番近くにいたダクネスへと斬りかかった

 

「くっ!?」

 

 ダクネスがそれを大剣で受け止めたが、あっさりと真ん中で叩き折られた

 

「ああっ!?私の剣がっ....!?」

 

 分かりやすく狼狽えるダクネスに再び刀を振り上げる冬将軍を横から蹴り飛ばす。

 

「めぐみん!爆裂魔法の準備をしといてください!タイミングは作ります!アクアは支援魔法を!カズマとダクネスは2人を守ってください!」

 

「ちょっと待って!?戦うつもりはなかったんですけど!?雪精を解放して土下座して許してもらう積もりだったんですけど!?」

 

「うるさいぞ駄女神!そういうのはクエスト受ける時に説明しろ!どっちにしろもうやるしかないんだよ!」

 

「ああもうどうにでもなれ!『パワード』!『スピーダー』! 『ガードナー』!!!」

 

 やけくそ気味のアクアから支援魔法が飛んでくる。

 ベルディアの時も思ったが、能力強化の倍率がおかしい気がする。さすがは女神の支援魔法と言ったところか。

 

 蹴り飛ばされた冬将軍が、再び接近して来る。

 構えられた冷気を放つ刀が一瞬ぶれたかと思うと、その剣先はこちらの首元へ一直線に向かって来ていた。

 

「『ライトオブアロー』!!」

 

 師匠が放った魔法の矢が冬将軍の手に突き刺さり、攻撃が中断される

 

「『スローダウン』!!..抵抗されるのか。『グラビティ』!!」

 

 冬将軍は師匠の重力魔法を喰らい、足元が深く雪に突き刺さる。

 

「オラあああああああ!!」

 

 その隙を逃さぬように、全力で叩き切る。

 冬将軍の体は2つに分かれるが、その瞬間吹雪が強まり、晴れた時には再び完全な冬将軍に戻っていた。

 

 精霊の体は純粋な魔力の集合体のようになっているため、今の一撃で致命傷になる訳では無い。

 だが冬将軍は切られた箇所を抑え、片膝を着いている。確実にダメージは入っているようだ。

 

 再び冬将軍が刀を抜き斬りかかってくる。英雄をして完全に見切ることが出来ないそれを剣で流し、肩口を切らせながら再び両断する。何度かそれを繰り返すと、冬将軍の鎧が砕けたまま再生しなくなった。

 

「エビオ!詠唱が完了しました!何時でもいけます!!」

 

「分かりました!行きますよ師匠!!」

 

「あいよぉ!!『空を断ち、大地を穿つ暴風よ、』」

 

 師匠が魔法に詠唱を始めたので、もう一度冬将軍に接近し、切りつける。

 冬将軍はそれを受け止め、鍔迫り合いのような状況になる

 

「『アルス・アルマルの名の元に現れ、全てを吹き飛ばしたまえ』!」

 

 俺は自分の剣ごと冬将軍の剣を上へ弾き飛ばし、素手で冬将軍の体を掴み押さえつける。

 

「『ヒューレン・フラミニア』!! 」

 

 師匠が起こした暴風は、俺ごと冬将軍を空へ持ち上げた。

 

「ちょ、アルス!これでは爆裂魔法が打てませんよ!?」

 

「大丈夫!『サモン』!『エクス・アルビオ』!!」

 

 師匠の横に魔法陣が現れ、俺が召喚された。

 

「えぇっ!?そんな魔法見た事ありませんが...まあいいでしょう!『穿て!!エクスプロージョン』!!!」

 

 めぐみんの放った爆裂魔法は、宙を舞っていた冬将軍に見事命中した。

 

「めぐみんやったわね!!2億よ2億!!これで高いお酒が沢山飲めるわね!そうと決まったらさっさと帰って祝杯を上げましょう!!」

 

 間髪入れずにアクアがフラグをたて始めた。こういう時に「やったか?」といったニュアンスの言葉を言うのはご法度なのだが....

 

「このバカ女神が!!なんでお前はそうお約束が好きなんだよ!!そんなこといったら!」

 

 突然の背後から、冷たい殺気を感じた。

 剣は先程飛ばしてしまったので、拳を背後に向けて振るうが手応えは無い。

 

 気づいた時には冷気を放つ白刃が、自身の喉元へ届こうとしていた

 

「くっ、『スティール』!!!」

 

 自身の首と胴を断とうとした白刃は、冷気のみを残し姿を消した。

 どうやらカズマがスティールを成功させたようだ。

 

「おおっ!取れた!...ってあれ?」

 

「カズマ!今カズマが盗んだ刀は冬将軍の体の1部で、魔力の集合体よ!冬将軍は盗まれてもすぐに再生成できるから気をつけて!」

 

「だからそれを早く言えよ!!...あっ...」

 

 気づいた時にはカズマの頭が宙に飛んでいて、残された体がドサリと音を立てて倒れていた。

 

 そのまま刀を返し、こちらを切りつけようとする冬将軍を真っ二つに両断する。冬将軍を復活させる吹雪が吹くことはなく、冬将軍は地に伏したまま霧状になって消えていった。

 

 




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勇者の復活と女神からの依頼

課題やったりGTA見たりしたら時間が経ってた。


 

 一面に広がった銀世界に、赤い花が咲いた。

 それは、残された者の心を乱すには充分すぎるものだった。

 

「カズ.....マ......?嘘ですよね?だって....こんな....」

 

 狼狽えるめぐみんをダクネスが抱きしめる。

 アクアはカズマの死体のそばにしゃがんでおり、表情を伺うことはできない。

 2億エリスと引き換えに得たのは、カズマの死だった。

 

「...大丈夫ですか師匠。」

 

「うん....なんとかね。正直まだ感情が追いつかないっていうか...現実と思えないっていうか....エビ先輩は平気なの?」

 

「平気ではないですよ。最後の最後で気を抜いてしまった俺の責任です..」

 

「それを言うなら私もだ。エクスの責任では無い。我々にできるのは、カズマを手厚く葬ってやることだけだ。ほら、めぐみん」

 

 淡々と言葉を紡ぐダクネスだったが、その表情を見れば、動揺する自分を抑え、無理にでも冷静になろうとしているのがわかった。

 

 ダクネスとめぐみんが、アクアの元へと近寄ったその時、

 

「『リザレクション』!」

 

「「あっ!」」

 

 カズマの死体の周りに、淡い光を放つ魔法陣が現れた。

 

「....あれ?おかしいわね。おーいカズマ〜?もうリザレクションかけたんだから帰ってきていいわよ〜?」

 

 アクアの発言で、ダクネスとめぐみんの表情が笑顔に変わった。

 おそらくアクアのかけた魔法は蘇生魔法だろう。

 

「はぁ〜?ちょっと、誰よそんなケチくさいこと言ってる女神は!!このエリートのアクア様に向かって!!名を名乗りなさいよ!!」

 

 何やらいろいろと問題が起こっているらしく、カズマの体は依然横たわったままであった。

 

「はぁ〜?エリスってあの上げ底エリス??この世界を担当しているからって国教にもなって、通貨の名前になったエリスね??ちょっとカズマ!それ以上ごねるようだったらお得意のスティールでその胸パッド奪ってやりなさい!!」

 

「お、おいアクア!敬虔なるエリス教徒である私の前でエリス様を愚弄するな!」

 

 先程までのシリアスな空気はどこかへ行ったので、文字化けして使い物にならない冒険者カードで唯一正常な、討伐したモンスターが記録される部分を見る。

 そこにはしっかり冬将軍の文字が刻まれていた。

 

 あれだけやって実は逃げられてましたと、蘇ったカズマに土下座しなくて良いことが確定し、ようやく人心地ついた。

 

 あとはアクアに膝枕されるカズマの復活を待つだけだ。

 

 

 

「....ん?ここは....?」

 

 少ししてカズマが目を覚ました。

 これには蘇らないのではと不安で目元に涙を浮かべ始めていためぐみんも、たまらずカズマに抱きついた。

 

 蘇ったばかりでキョロキョロと周りを見るカズマと目が合ったので、暖かい目を向けておく。

 別にかつての意趣返しとかでは無い、とかでは無いがもう少しだけニヤニヤしておこう。

 

 カズマがこちらを睨みながらも顔を赤くしているのを見て、アクアがゲスな笑みを浮かべた。

 

「あらぁ?カズマさんったら照れてるの?この麗しくも可憐な女神様の美しい御御足を後頭部で感じて不相応にも劣情を抱いてしまったの?プークスクス!でもぉ、カズマにはまず言うべきことがあるわよね?」

 

 カズマは先程までの赤らめた顔を、驚くべきスピードで真顔にさせて口を開いた

 

「チェンジで」

 

「上等じゃないのよこのクソニート!!そんなにあの子が気に入ったならもっかい会わせてやるわよ!!」

 

 素早い動きでマウントポジションをとり、拳を構えるアクアをめぐみんとダクネスが抑える。

 

 カズマは自分に体をぺたぺたと触りながら、真っ赤に染まった雪を見つめていた。

 

「なあエビオ?俺はどうやって死んだんだ?」

 

「斬首されてましたね」

 

「斬っ!?」

 

 顔を青くしながら首を触るカズマだが、アクアの蘇生の技術が完璧なのか傷一つ残っていない。

 

 冬将軍を倒した今、この場に残る必要は無いため、

 周囲に残っている雪精を狩りつつ、一行は帰路に着いた。

 

 

 ******

 

 

 ギルドに戻り、ルナさんから懸賞金である2億エリスをもらい、カズマパーティと山分けにした。

 手元に残った1億エリスは師匠と相談し、全額を借金返済に当てた。残り8000万エリス。減ったようでまだまだある。

 雪精の討伐報酬の200万エリスは生活費や道具代に回すことになった。

 

 

 

 冬将軍討伐から数日、

 今日も今日とてギルドへ向かっていると、どこからか楽しげな歌声が聞こえてきた

 

「わた〜しを〜♪推〜してくれるの〜なら〜♪爆裂をあ〜げる〜♪」

 

「すごい物騒な歌うたってません!?」

 

「おやエビオではないですか。...というか聞いていたのなら言ってください。恥ずかしいではありませんか」

 

「ああ、すいません。いやでも歌詞は物騒でしたけど歌は上手でしたよ。なんの歌ですか?」

 

「それが私にも分からないんですよね。今日見た夢の中でキラキラした場所でこの歌をうたってたので....というか今日は1人なんですね」

 

「そうなんですよ。なんでも俺の本気装備のエンチャント調べたいからって部屋にこもってしまって...」

 

 冬将軍討伐から帰ってきたその日、師匠に身ぐるみを剥がされ持っていかれてしまった。

 そこから今まで師匠の顔を見ていない。部屋の前にご飯を置いておくと、気づいた時にはなくなっているので、ご飯は食べていると思う。

 

 ニートと同居する家族はこんな感じなのだろうか。

 

「一体何がアルスをそこまで掻き立てるのでしょうね...」

 

 それは本当に謎だ。出会ってすぐの師匠はこうではなかったはず...

 

「めぐみんさんはこれからどこかに行くんですか?」

 

「いえ、今から宿に戻るとこですね。借金返済に当てた残りを実家に送ってきたとこなんですよ」

 

「めぐみんさんって普段の素行に反してまともなとこありますよね」

 

「そんなに我が爆裂魔法を喰らいたいならそう言えばいいじゃないですか!」

 

 俺はその場から全力ダッシュで逃げ出した。

 

 

 

 息を上げながらギルドに到着すると、珍しい人と出くわした。

 

「あっ!エクスくんだ!君は本当にちょうどいいところに来るね!」

 

「任せてくださいよ」

 

「だからまだなんにも頼んでないってば。とりあえずこの場では話せないことだから、着いてきて?」

 

 そう言ってギルドの戸を開けるクリス。今着いたばっかなんですけど...

 

 渋々着いて行くと、着いたのは森の中の小屋だった。

 

「ここは私が使ってる拠点のひとつなんだ。ここなら誰かに聞かれる心配もなく話ができるからね」

 

 クリスは自慢げな顔をしながら小屋に入っていく。

 中は綺麗に整理されており、所々に小洒落た家具や観葉植物が置かれている。

 まさか秘密基地を自慢したかっただけなのだろうか。

 そのためだけに長い距離を歩かされたのだとしたら納得がいかないが...

 

 クリスは棚から茶葉の入った壺を取り、魔道具を使ってお茶を淹れてくれた。なんだかオシャレな味がする。

 

「エクスくんはさ、今王都で噂になってる義賊って知ってる?」

 

「なるほど、義賊活動をしているクリスの手伝いをしろと。いいですよ、任せてください」

 

「そこまで話が早いと気持ち悪いね」

 

 女神がわざわざ義賊活動をする理由......

 

「神器の回収とかですか?」

 

「怖い!そこまでいくと本当に怖いよ!?なんで分かるのさ!?」

 

「まず人のいない場所まで連れてこられて、盗賊のクリスにその話をされたら義賊活動の協力依頼だってわかるじゃないですか。

 依頼しなきゃいけないってことは趣味じゃないと思うんですよ。

 じゃあクリスが欲しいのってどんなものかなって思った時に、考えられるのが人々に危険を及ぼすものかなーと。

 女神自ら回収しに行く危険なものと言ったら転生者に与えた神器しか思いつかなかったので。」

 

「....正解だよ...だけどそこは私に気持ちよく説明させて欲しかったかなー...」

 

「神器がある場所だと...貴族の屋敷ですか?」

 

「そうだね。彼らは資金力にものを言わせて珍しいものを集めたりするからさ。その中に神器があることが多いんだよ。それにそういう貴族は大抵後ろめたいお金を貯めてたりするから、それも回収してエリス教の孤児院とかに寄付してるの。

 エクスくんにはそのお金の2割を報酬として支払おうと思ってるんだけど、どう?」

 

「もちろんやりますよ」

 

 そんな面白そうなことやらないわけが無い。その上お金まで貰えるのだ。クリスさまさまだ。

 

「じゃあ最初に行く屋敷なんだけどー」

 

「アルダープにしましょう」

 

「即答だね。どんだけ恨みがこもってるのさ。でもざんねんながらもう行ったんだー」

 

「えぇー!?まじかー、うわー...なんか出てきました?」

 

「それが何もなんだよねー..」

 

「ええ!?そんなことあります?ちゃんと調べました?」

 

「失礼な!ちゃんと調べたよ!....あれ?調べた...よね?」

 

 突然挙動不審になるクリス。何やらきな臭い雰囲気を感じる。

 

「調べてなかったんですか?」

 

「いや、調べたことは確かなんだけど調べた記憶が..」

 

 明らかに言ってることがおかしい。今まで気づかなかったのだろうか?

 

「いや、まあいいや。とりあえず決まったらまた知らせるよ。エクスくんの部屋の窓の鍵は開けて置いてね。多分数日もしないうちに行くからさ。」

 

「分かりました」

 

 クリスは不自然に会話を切り上げて小屋から出ていった。

 どうやらアルダープはただの悪徳貴族では無いのかもしれない

 

 

 

 ******

 

 その日は結局受けれるクエストがなかったため家に帰ってきた。

 

「師匠ー!頑張るのもいいですけどたまには休んだほういいですよー?」

 

 寝てるのか不明な師匠に扉越しで声をかけると、中から物音がした。

 

「エビ先輩...」

 

 数日ぶりに開かずの扉が開き、中から疲れ果てた師匠が出てきた。

 

「お久しぶりです師匠。進捗はどうですか?」

 

「....ねぇ」

 

「え?」

 

「....わっかんねえよぉ!なんだよこれ!?重要な部分が全部隠匿されてるしされてない部分も難解すぎだろ!!こんだけ時間かけて全体の1%しか解読進んでないんだよ!?」

 

 師匠は床に倒れ込みながら叫んだ

 

「何食ったらこんな術式思いつくんだよ!こないだ習得したやつに比べて次元が違いすぎない!?」

 

「まあ世界最高峰の魔法使いが作ったやつなので」

 

「だとしたらその人イカれてるよぉ...足し算の次に積分解かされてるような気分だよ...それくらいやってることが違いすぎるんだよ...」

 

「ちなみに師匠ちゃんと寝てます?酷い隈ですよ?」

 

「寝てないよぉ....寝ようとしても頭の中で術式がぐるぐるして寝れないんだよぉ..」

 

 呪いでも仕込まれてるのだろうか

 

「とりあえず無理にでも寝ましょうね?」

 

「...運んで」

 

「はい?」

 

「ぼくもうここから動けない!動きたくない!!」

 

 師匠は色々限界らしい。脳が正常な判断をしなくなってきてるようだ。

 仕方がないので師匠を抱き抱え、ベットまで運んでいく

 

「おめぇはよぉー..いつまでもぼくの先にいれると思ったら大間違いだからな?」

 

 腕の中で師匠がそう呟いた。

 

「どういうことですか?」

 

 聞き返してみるが返事はない。見てみれば既にすぅすぅと寝息を立てていた。

 

 師匠をベットに寝かせて部屋を出る。

 あの疲れ様ならしばらく起きないだろう。

 




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アルスのお留守番

英雄めっちゃ打ってた。さすがすぎる。

毎度の事ながら誤字報告感謝です。まじで助かってます


 

 

 いつものように2人分の朝食を作っていて気づく。

 

「あっ、エビ先輩いないじゃん...」

 

 昨日の夜、エビ先輩が王都へと出発した。

 なんでも急用ができたらしく、ぼくは家で留守番しているように言われた。

 なんの用事かは聞かされていない。聞いてもはぐらかされてしまうだけだった。

 王都に向かうとの事だったのでからテレポートで送ろうか聞いみたけど、1度馬車で行ってみたいと断られてしまった。

 

 ....怪しい。

 あの面倒臭がりなエビ先輩が自分から馬車に乗りたいだなんて...

 景色をみたいにしても、まだ走っていきますと言われた方が納得出来る。

 その方が早いだろうし。よっぽど楽だろう。

 

 家を出る時も

 

「研究のしすぎには気をつけてくださいね。何かあったら『サモン』を使ってください。こっちの用事がひと段落したらすぐに飛んでくるので。ご飯もしっかり食べるんですよ?あとは...」

 

 といった具合に延々とぼくに言い聞かせていた。母親かよ。

 まだ保護者ムーブが抜け切ってねえなあ。

 こないだやらかしちゃったからあんまり強くは言えないけど。

 

 数日前の朝、気がついたらベッドで寝ていた。

 ぼくが研究室として使っている部屋にはベッドは置いていないので、起きるとしたら机のはずだった。

 朧気な記憶をひとつずつ辿っていくと、だんだんと顔が熱くなっていくのがわかった。

 

「あぁー....なぁにしてんだよぼくはー....」

 

 こういう時、都合よく忘れていて欲しいのにぼくの頭はしっかりと記憶している。

 エビ先輩が聞いたら、「人より頭がでかいんだから当たり前じゃないですか」とか言いそう。腹立つ。

 頭でかいって言ったら同じだけ可愛いって言わなきゃダメなのによぉ。

 まあ1回そのルールにして恥ずかしくてやめたのはぼくなんだけど。

 なんであいつは普通に言えちゃうんだ?普通可愛いっていうのが恥ずかしくなって頭でかいっていうのをやめない?

 なにが「頭でかいって言ってから可愛いって言うの面倒なんで先に言っときますね。可愛いですよ師匠」だ。

 

「あああああぁぁぁぁぁ.....」

 

 ダメだ、1回頭を切り替えよう。真面目なこと考えなきゃ..

 

 エビ先輩の本気装備はまだぼくの部屋に置いてある。

 あれからも少しづつ研究を進めているけど未だに進捗は3%程度。隠匿された部分に至っては全くと言っていいほど解読ができていない。できる気がしない。

 元々ぼくの世界とは違う魔法だから、習熟度が足りてないってのもそうなんだけど、それを差し引いたってこれはおかしい。

 

 ダンジョンから持ち帰ってきた翻訳済みの本達を何度読み返しても、あの装備に使われている術式の法則が見えてこなかった。

 

 さすがに1人では解読ができそうにないので、今日は知り合いに意見を求めに行こうと思う。まああの魔法を解読出来るかもしれない知り合いとか、2人しかいないんだけどさ。

 

 食べ終えた朝食を片付け、準備をする。

 手に持ちきれない分の荷物は魔法で浮かせて家を出た。

 

 

******

 

 

「__てことなんだけど...」

 

「なるほど、それでこの紅魔族随一の頭脳を頼りに来たと言うことですか。私を頼るそのセンス、なかなかのものだと褒めてあげましょう」

 

 めぐみんは早速持ってきた本に目を通しながら、ぼくが装備から読み取れた術式を転写したものや、現在わかっている情報を書いた紙を見ている。

 

 しばらくしてめぐみんが頭を抱えた。

 

「これは.....難解ですね。なんなんですかこれは。私をして初めて見る魔法理論ですよ....」

 

「やっぱりそうだよね...ほかの人の視点からヒントでも貰えたらと思ったんだけどさぁ....」

 

「うーむ...こっちの本に書いてあることはかろうじて分からなくもないですが...こっちの紙に書いてあるものは微塵も分からないですね...初級魔法と爆裂魔法くらい違いますよこれ..」

 

「だよねぇ...どうしようかなあ...」

 

「こないだエビオが1人だったのはこれを解読していたからなのですね....どうしてこれを習得しようと?」

 

「え?そんなの強くなるために決まってるじゃん」

 

 あとは未知の魔法に興味があるというのもあるけど、やっぱり強くなるためってのが大きいと思う。

 

「..私が思うに、もうアルスは十二分に強いと思うんですけど。多種多様の魔法を扱い、その威力は爆発魔法を超えるものもある。爆裂魔法ほどじゃないにせよ、広範囲高威力の魔法だって扱えて、しかも継戦能力が高いってどんな化け物ですか。正直、そこまで必死に強くなりたい理由が思いつきませんよ」

 

「それだけじゃだめなんだよ」

 

「はい?」

 

「あの英雄の隣に立つには、それだけじゃ足りないんだよ」

 

 強くなりたい理由。挫ける度に思い出す、脳裏に焼き付いたあの記憶。

 

「英雄...エビオですか」

 

「エビ先輩は無駄に強いくせにさ....いや、やっぱりなんでもない」

 

 あんまりペラペラ喋っていい話でもないだろう。めぐみんには悪いけど秘密にさせてもらう

 

「そこで話を止められると気になりますが...まあいいでしょう。話を戻しますけど、すみませんが私にはこの魔法の解読は難しいですね。生涯をかけて研究するならいつかわかるかもしれませんが、あいにく私は爆裂魔法を生涯愛すると決めたもので...」

 

 めぐみんは申し訳なさそうにそう告げた

 

「ううん、ごめんね急に押しかけて難題ふっかけて」

 

「いえいえ、嬉しかったですよ。爆裂魔法の使い手としてでなく、魔法使いとして頼ってもらえて。また何かあったら言ってください。次こそは力になってみせますよ」

 

「やっぱりめぐみんって爆裂魔法以外のとこはまともだね」

 

「それこの前エビオにも言われたんですけど...あなた方は私をなんだと思ってるのですか」

 

 その後は少しだけ世間話をして別れた。

 

*****

 

「__てことでウィズさん、今大丈夫ですか?」

 

 次に訪れたのは、ウィズ魔道具店。

 聞いた話によると、ウィズさんは元凄腕のアークウィザードだったそうで、とある異名を持っていたとか。

 

「はい!ちょうどお客さんもいませんし」

 

 ちょうどではなく、いつもじゃないかとは流石に言えなかった。

 

「ここでは少し狭いので奥へどうぞ」

 

 どこかワクワクした雰囲気を感じるウィズさんについて行くと、生活感のない部屋についた。

 机の上に紙束と羽根ペン。そのまわりに積み上げられた本達。

 それ以外のものが何も無い。

 

「ここでは普段帳簿をつけたり、本を読んだりしてるんです。決して家具を買うお金が無いわけじゃないですよ?」

 

 目を泳がせながら言い訳をするウィズさんを見て苦笑いを浮かべてしまう。

 聞く話によれば食費も大変との噂だが、あの品揃えを見れば納得できる。

 一体どうやって生きているのだろう。

 

 とまあ、そんなことはさておき、持ってきたものを机の上に広げる。

 ウィズさんはニコニコしながらその内の一部を手に取った。

 魔法が好きなのだろう。ぼくもその気持ちは分からなくは無い。

 

 早いぺースでページが捲られていくとともに、ウィズさんの表情は厳しいものとなって行った。

 

「すみません、本命の術式を見せてもらってもいいですか?」

 

「あっはい、どうぞ」

 

 ウィズさんの様子からは、先程までの朗らかなものは感じられず、その表情は真剣味を帯びており、声色はどこか焦りを感じさせるものだった。

 

「...これを、エクスさんが持っていたんですね?」

 

「..はい...そうですけど」

 

 ウィズさんは再び顎に手を当てて考えこんでしまう。

 

「結論から申し上げますと、私はこの魔法を知っています」

 

「えぇ!?どういうことですか!?」

 

 何かを決心したようなウィズさんから飛び出してきたのは驚きの発言だった。

 この魔法を知ってる?エビ先輩の世界の魔法を?

 

「それを説明するためにはまず、私の事から話さなければいけませんね。私は現在、魔王軍幹部の1人を務めています」

 

 再び爆弾発言が飛んできた。

 魔王軍の幹部....?

 

「魔王軍幹部とは言っても、結界の管理だけを担当するなんちゃって幹部ですけどね。話を戻すと、この魔法は私の同僚のアンブローズさんの魔法に酷似しています」

 

「魔王軍幹部の...同僚...?...あっ....」

 

『ああ、あとちなみになんですけど、消えた魔法使い、この世界にいるかもしれません』

 

「そういうこと....?」

 

「..何か心当たりが?」

 

「...ぼくとエビ先輩はここじゃない遠いところから来たんだけど、その装備はエビ先輩の昔の仲間が作ったんです。その仲間は旅の途中で突然消えたって...」

 

「まだ分かりませんが同一人物の可能性は高いかもしれませんね...ただ、そのアンブローズさん....」

 

「アンブローズさん...」

 

「なんと...」

 

「なんと...」

 

「とってもいい方なんですよ!私と同じで中立派の魔王軍幹部ですし!とっても気さくで面白い方なんです!」

 

 思わずズコーッと前に倒れてしまった。

 そんなコテコテなお笑いしなくてもいいじゃん

 

「私はその魔法について完璧にはわかっていないのですが..どうします?お手紙書いてみましょうか?」

 

 そんな簡単にアポ取れるもんなんだ。

 でもこれは僥倖なのかも?あの魔法を作った本人に会えるのか。

 いやでもさすがに危ないか...?ぼくはアンブローズさんがどんな人か知らないし...

 でも知りたい...一刻も早くあの魔法について知りたい...

 待てよ...?エビ先輩は昨日王都へ向かった。早ければ明日には到着する。

 ぼくが『サモン』を唱えて待機状態にしておけば、エビ先輩は用事が終わり次第すぐに帰ってくる。

 

 エビ先輩さえ帰ってくれば最悪の事態に陥っても何とかなるのでは....?

 ウィズさんが手紙を書いて送ったところで、到着するのは早くても3日後、魔王軍関係者ならもっとかかってもおかしくない。

 

 つまりここでウィズさんに手紙を書いてもらうことはただの時短でしかないわけだ。

 Q.E.D.証明完了ってわけ。

 

「よろしくお願いします!」

 

「わかりました!早めに送っておきますね〜」

 

 その日はるんるん気分で帰宅した。

 もうすぐあの魔法について知れるかもしれないと思うと、ワクワクが止まらなかった。

 

 

*****

 

 ウィズさんに手紙を送って貰ってから、次の日の朝。

 まだ外は薄暗いというのに、来客を知らせるベルが鳴っている。

 

「だれだよぉ〜...こんな朝から....」

 

 未だ眠い目を擦りながら玄関へと向かって歩く。

 意識は半覚醒といったところで、頭はまだ回っていない。

 

 肌寒さを感じるのと、寝癖がついたままなのを隠すためにフードを被る。

 

 最低限の身だしなみを整えたところで玄関の鍵を開けた。

 

「うち新聞はとってないんですけ...ど....?」

 

「初めまして。ウィズの紹介で来ました。アンブローズと申します、以後お見知り置きを」

 

 目の前に立つ女性の正体を知り、頭からサーっと血の気が引いていくのがわかった。




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王都へ向かう英雄と 乗り合わせた魔剣の勇者

 

 

 不規則なリズムで揺れる荷車の中で、特に面白みもない景色をぼーっと眺めながらため息をつく。

 

「暇すぎる....」

 

 先日、自室の窓に1枚の手紙が挟まれていた。

 クローバーの封蝋で閉じられたそれを開けてみると、そこには日時と場所のみが記されていた。

 記された場所は王都のとある貴族の屋敷。先日約束したクリスとの義賊活動の知らせで間違いないだろう。

 

 急いで準備して馬車に乗ったはいいものの、あまりにもすることが無さすぎる。

 これなら走って行けば良かったかもしれない。

 

「フフッ」

 

 同じ馬車の中から笑い声が聞こえた。

 音のした方へ目を向けて見ると、両脇で寝ている少女達にがっちりと腕を掴まれている金髪の少年が座っていた。

 

「ああ、すみません。そんなにつまらなそうにしている冒険者の方は初めてみたのでつい」

 

 そうやって口に手を当てて笑う彼は実に様になっている。

 まるで主人公のように見えなくもない。

 というか彼の纏うオーラからは、今までに無数にみてきた英雄になろうとするもの特有のものを感じる。

 ぱっと見た感じではあるが、実力だって相応にあり、それを背負っていくだけの信念の強さも感じられる。

 一目見ただけでここまでそう思わせられたのはいつぶりだろうか。きっと自己暗示にも近い彼の意思がそうさせるのだろう。

 ただ....

 

「ああ、自己紹介が遅れてしまい申し訳ありません。御剣響夜と言います。こっちは仲間のフィオとクレメア」

 

「エクスアルビオと言います。ミツルギさんはポケモンとかやった事あります?」

 

「おっと!?これは驚いたな...あなたもそうなんですね。えーと、ポケモンですね?もちろんやった事ありますよ?」

 

「初めに貰ったポケモンだけで戦いすぎて、手持ちの中でレベル差がついたことは?」

 

「?...ありますけど...」

 

「後半でそのポケモンが負けて、残りのポケモンが全抜きされたことは?」

 

「ありますけど...さっきからなんの話ですか?」

 

「あなたの現状と未来の話です」

 

「!?」

 

 ミツルギは目を見開いて驚いた。

 

「仲間を守りたいのは分かりますが、最低限のレベリングは必要ですよ」

 

 ミツルギは視線を落として考え込んでしまう。

 いきなり知らない奴からこんなことを言われたのだから当然だろう。

 

「....ご忠告感謝します。ですが、一目見ただけでそこまで決めつけられるとあまりいい気はしませんね」

 

「決め付けではなく事実ですよ。装備だけはいいものを使っているようですが焼け石に水です。市民に伝説級の装備を使わせたところで戦えるようにはなりませんし」

 

 さすがに市民ほど戦いに疎い訳では無いだろうが、ミツルギとともに冒険をする仲間としては明らかに力量が足りない。

 もしこれが、寝ている間も自身の強さを錯覚させるほどの技量の持ち主達だった場合は土下座しよう。

 

「....ちょっと、あんたさっきからなんなの?キョウヤのことが羨ましいからって適当なこと言ってんじゃないわよ!」

 

 いつの間に起きていたのか、クレメアと呼ばれた少女が叫んだ。

 

「そうよ!ひとりで冒険してて寂しいから私達に突っかかって来てるんでしょ!気持ち悪いのよ!」

 

 これはミツルギが守ってくれると信じきっているのか、自分達を強いと勘違いしているのか。

 どちらにせよミツルギパーティはとても危うい状況ではある。

 起きた彼女達の立ち振る舞いをみて、改めてそう思った。

 

「じゃあこうしましょうか。次の休憩地点着いたら勝負しましょう。そちら三人対俺一人で」

 

「あんた舐めてるの?キョウヤは魔剣の勇者って異名を付けられるほどの実力者よ?」

 

「キョウヤにかかればあんたなんてイチコロよ!ね?キョーヤ?」

 

 世界を救わんとこの世界にやってきた少年の仲間がこれなのはあまりにもミツルギが可哀想だ。

 彼が彼女達とパーティを解消する気がないのであれば、ここで一度現実を分からせた方がいいかもしれない。

 

 

 

 *****

 

「敗北条件は..そうですね。剣や槍による攻撃が相手に当たった時か行動不能に陥った時です。大怪我を負わせるようなことはなしにしましょうか」

 

「うん、それでいこう。フィオもクレメアもそれでいいね?」

 

「キョウヤがいいなら大丈夫よ!」

 

「身の程を分からせてあげましょう!」

 

 馬車から少し離れた荒野で俺達は向かい合う。事前に乗り合わせたアーチャーの方に周囲の安全確認をしてもらったので、暫くは大丈夫だろう。

 安全のために剣や槍先には布を巻いている。

 

「それじゃあこの石が地面に着いたらスタートで」

 

 石を上に放り投げると、ミツルギパーティが武器を構えた。

 石が地面に落ちた瞬間、フィオが腕を前に突き出しスキルを発動させる。

 

 

「あいつの真似をするのは癪だけど、ミツルギを馬鹿にしたあんたが悪いんだからね!『スティール』!」

 

 スキルを発動し終えたフィオの手には、俺の私物が握られていた

 

「なにこれ..?読めないんだけど」

 

「ねる〇るねるね!?なんでこんなもの持ってるんですか!?」

 

 懐にしまっていたねるねるね〇ねが奪われてしまったようだ。

 おそらく剣を奪いたかったのだろうが、盗賊スキルである『スティール』は対象からランダムでアイテムを奪うスキルだ。

 狙ったものを奪うには、カズマやクリスのような強運が必要だろう。

 

 一瞬混乱していたように見えたミツルギだったが、すぐにこちらに向き直り、間合いを詰めてきた。

 フィオとクレメアはミツルギを見たまま動かない。

 ミツルギの攻撃を躱し、適当に切り上げる。

 初心者をいじめているようで心が痛むがしかたない。

 

「「キョウヤ!?」」

 

 空中に打ち上げられ、キリモミ式に地面に着地したキョウヤ。

 既に意識はない。

 一応断っておくが、大きな怪我はしないように調節しておいた。

 

「さて...」

 

「よくもキョウヤを!」

 

 クレメアが槍を構えて襲いかかってくるが、構えを見るに、槍熟練度はアクセルの冒険者と同じくらいだろう。

 酷くはないが、ミツルギと並ぶには実力が足りなすぎる。

 槍を剣で弾き足を払って転ばせる。

 起き上がろうとする彼女の首筋に、布で巻かれた剣を当てる。

 この世界に来てから一番あっけない戦いでは無いだろうか。

 

「なぜ彼の攻撃に合わせて動かなかったんですか?」

 

「うるさいわよ!キョウヤがあんな簡単に負けるわけないわ!あなたもあいつみたいに卑怯な手を使ったんで..しょ...」

 

「今そういうのいいんで、質問に答えて貰ってもいいですか?」

 

 こんな状況になってもその姿勢を貫けるのは賞賛に値するが、今重要なのはそこじゃない。

 ノイズにしかならないので少しだけ殺気を当てると、クレメア表情はみるみる強ばっていった。

 

「だって..キョウヤの指示がないと..邪魔に..」

 

 目の端に涙を浮かべ、声を震わせながらそう答えた。

 

「そうですね。それがあなたとミツルギさんの力量差です。弱い奴が助太刀に入っても邪魔にしかなりません。唯一できるのは肉壁となることですが、彼の性格上それも不可能でしょう」

 

 視界の端で震えたままキョウヤを見つめるフィオに視線を向ける。

 

「あなたも言いたいことは分かりますね?」

 

 首を激しく縦に振るフィオを見て剣を下ろす。

 

「あなた達は、ミツルギの仲間にしては実力がたりません」

 

「そんなことわかってるわよ!でも...でもしょうがないじゃない!キョウヤみたいな天才に追いつけると思う!?」

 

 半狂乱になって叫ぶクレメアと、静かに俯くフィオ。

 彼女達も彼女達なりに悩んではいたらしい。

 

「しょうがなくないですよ。そんなことははっきりいってどうでもいいです」

 

 俺の発言を聞いて、二人はポカンとして固まった。

 

「おそらくミツルギは本気で魔王討伐を目指しています。それは仲間であるあなた達の方がよくわかってますよね?」

 

 二人は静かに頷く。

 

「本気で魔王を討伐するには、人間一人の力では限界があるので、ミツルギと肩を並べて戦う仲間が必要です。今のあなた達

がこの先ミツルギについて行ったとして何ができますか?」

 

 二人は視線を地面におとした。

 

「ミツルギに必要なのは、ともに歩み、ともに成長する仲間です。背中に隠れて甘い蜜だけをすするゴミじゃありません」

 

 二人は俯いたまま動かない。

 

「ミツルギにとって、あなた達がパーティにいる意味ってないと思いませんか?」

 

 二人は地面に崩れ落ちた。

 

「まあ僕は思いませんけど」

 

「「.....え?」」

 

 再びポカンとする二人。

 

「ミツルギからしてみれば、遠い故郷から出てきて初めてできたパーティメンバーですからね。大切じゃないわけないですし、きっと心の支えになっていることでしょう」

 

「待って、あなたは結局何が言いたいの?」

 

「分かりませんか?必要なのは、変化したあなた達です」

 

 二人はハッとした表情を浮かべた。

 

「でもとか、だってとか、そんなことを言っている間にミツルギとの距離は開いて行きますよ。彼に追いつきたいなら、彼と共に歩みたいなら、血反吐を吐きながらでも努力してください。それが出来ないなら黙って去った方がミツルギのためですけどね」

 

 俺としては、前者の方が好ましいが、それが無理なら後者を選ぶべきだとは思う。くだらない理由で沈んでいく英雄達はもう見たくない。

 

 どちらにせよ選ぶのは彼女達だ。

 

 

 

 *****

 

 

「....おっ?起きましたか」

 

「あれ...ここは..?」

 

 あれから少し経って、ミツルギが目を覚ました。

 まだ記憶が曖昧なようだが、すぐに思い出すだろう。

 

「そうか...僕は負けたのか...フィオとクレメアは?」

 

 俺は黙って指を指した。ミツルギはその先へ視線を移すと、驚いた表情になった。

 その先にいたのは、一心不乱に槍を振るうクレメアと、スキルの訓練をするフィオだった。

 

「あの二人..急にどうして...」

 

「ミツルギさんの隣で戦いたいそうですよ?」

 

 ミツルギは再び驚いてから、嬉しそうに笑った。

 

「どうして僕達にここまでしてくれたんですか?」

 

「ただの気まぐれですよ」

 

 決して暇だったからでは無い。

 

「あとそうだ!ねるねる〇るね!あれ貰ってもいいですか?久々に食べたくなって...」

 

 在庫はアイテムボックスに無数に入っているため、取られた1個とは別にいくつかプレゼントした。

 

 




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怪盗エビー

 

 草木も眠る丑三つ時、静寂に包まれた王都を二つの影が動いていた。

 

 一方は普段の盗賊衣装を身にまとい、1枚の布で口元を隠している。

 もう一方は黒いチャイナ服に、丸型のサングラスをつけている。

 

「....やっぱりふざけてない?」

 

「えぇ?どこがですか?」

 

「そのサングラスだよ!首から下はまだいいよ?闇夜に紛れてるし動きやすそうだし。でもそのサングラスはなに?正体隠す気ないでしょ!」

 

「いやいやいや、顔 隠すならサングラスに限るでしょ!サングラス外したらそんな顔だったの!?ってなりません?」

 

「いやいるけどさ!聞いたことないよ丸型サングラスの盗賊!せめてこれで口元も隠して!」

 

 そう言ってクリスがつけているものと同じ布が渡された。

 渋々それで口元を隠す。

 

「いややっぱ納得いかないっすね。クリスさんだって顔の7割くらい出してるじゃないですか。髪と目元見られてたら絶対バレますって」

 

「そうかなぁ...」

 

「てことではい。これどうぞ」

 

 懐からサングラスを取り出し、クリスに手渡す。

 

「い...いやだ」

 

「何が嫌なんですか!」

 

「嫌に決まってるでしょ!格好悪いよ!王都で噂の義賊のトレードマークがサングラスになっちゃうよ!」

 

「なんの問題があるんですか!クリスさんの目的は神器回収でしょ!それが続けれなくなる方が問題ですよ!」

 

「うぐっ..」

 

 クリスは少し悩んだあと、渋々サングラスを装着した

 

「似合ってるじゃないですか」

 

「うるさいよ!今日のところは仕方なくつけてあげるけど!次からは自分で普通のもの用意するから!グラサン盗賊団は今夜限りの結成だからね!」

 

「もう少し声量下げてもらってもいいですか?人がいるってバレると面倒なので」

 

「さっきから急に正論言うのやめない!?そういえば初めて会った時からこんな感じだったよね!?」

 

 初めてというのは転生の時のことだろうか。

 至って真面目なことしか言ってなかったと記憶しているのだが。

 

「なんでそんな釈然としない顔ができるのさ!!....私人選間違っちゃったのかなぁ...」

 

 どこか遠いところを見つめるクリスを背に、本日の目的である屋敷を見つめる。

 屋敷の周りはレンガ造りの高い壁で覆われており、門の前には二人の兵士が扉を守るように立っている。

 

 これをどう攻略するかが腕の見せ所となってくるわけだ。

 早速用意していた物をアイテムボックスから取り出す。

 用意したそれに火をつけようとした瞬間、クリスにその手を掴まれた。

 

「一応聞くけど、それはなあに?」

 

「ダイナマイトですけど」

 

「却下ァァァァァ!!!」

 

 用意したライターとダイナマイトを没収されてしまった

 

「ダメに決まってるでしょう!?さっきバレると面倒って言ったのはどこの誰さ!!」

 

「爆発する前に気づかれると面倒だったので」

 

「だとしても中にいる人に危険が及ぶかもしれないものはダメ!」

 

 確かにこの世界を担当している女神にとっては、無闇に人を傷つけることは許容しがたいのだろう。

 だがこの英雄を見くびらないで欲しい。

 真の賢者は、一の矢が外れた時のために二の矢を用意しているものなのだ。

 

 俺は再びアイテムボックスに手を入れた。

 

「....それは?」

 

「地球破壊爆弾ですけど」

 

「規模がでかくなってるじゃん!ていうかそれ四次元なポケットだったの!?」

 

「そこにいるやつは誰だ!」

 

「まずいっ!?」

 

 クリスが騒ぐから気づかれてしまった。

 作戦を変更し、まずは正面の兵士の無力化から始めることにする。

 音を立てずに素早く兵士たちの背後に回り込み、うなじに手刀を落とす。

 

「痛ってぇ!なんだ貴様..ぐえぇっ!?」

 

 上手く決まらなかったので普通に絞め落とした。

 もう片方の兵士が応援を呼ぼうとしたが、クリスに気絶させられてしまった。

 

「ミッションコンプリートですね、親方」

 

「もうなんでもいいよ...でも親方じゃなくて親分にして。そして今から私は君のことを下っ端と呼びます」

 

 細かい所を気にする親分の後ろをついて行く。

 潜伏スキルの共有の必要が無いことは事前に説明している。

 スキル無しで気配を完全に消す様を見せた時は、色々諦めたような顔をしていた。

 

 中は事前にクリスに渡された見取り図通りで、このまま何事もなければスムーズに仕事を終えることが出来そうだ。

 そんなことを考えていると、前を進むクリスからハンドシグナルを送られる。

 

『前方 足音 三人 隠れる』

 

 どうやら兵士の巡回らしい。

 クリスの指示に従い近くの観葉植物の影に身を潜めた。

 俺とクリスの横を兵士たちが鎧をガシャガシャ言わせながら通っていく。

 兵士たちが通路を曲がり姿が見えなくなったので、再び宝物庫への歩を進めていく。

 

 少し進んだところで再びクリスが止まった。

 

『前方 話し声 二人 近づいてくる 隠れる』

 

 クリスと一緒に近くの机の下に潜り込む。

 気配を消していると、二人の話し声が聞こえてきた。

 

「はぁ〜、もう門番の交代の時間かよ。」

 

「どうせこんな時間に誰も来ないのにな。寝てたら起こしてくれよ?」

 

「わあってるよ。お前も俺が寝てたら起こせよ?ご主人様に見つかったら減給どころじゃ済まないんだからよ」

 

 ...少々まずいことになったかもしれない。

 二人の兵士は入口の方へと向かっている。入口にいた兵士達の異変に気づかれるのも時間の問題だろう。

 ここで入口の兵士のように気絶させてしまってもいいのだが、気絶させる前に叫ばれてしまうと、屋敷中の兵士に気づかれるだろう。

 

 仕方ないと危険を承知で兵士たちを気絶させようと動いた瞬間、クリスに止められた。

 どうやらクリスは気づかれる前に、あるいは気づかれながらでもお宝の回収を強行するつもりのようだ。

 

 

 宝物庫と思われる部屋にたどり着くと、警備の兵が二人扉の前に立っていたが、立ったまま船を漕いでいる。

 クリスと共にバレないよう近づき、気絶させた。

 扉には南京錠のような鍵が物理的にかかっていたため、音のならないように曲げて破壊した。

 

「..思ってたよりも下っ端が優秀で腹立つんだけど。突入前のおふざけはなんだったのさ」

 

「俺は何時でも真剣で優秀ですよ?」

 

「はいはい。そういうことにしますよ」

 

 宝物庫の扉を開けた瞬間、屋敷内に警報が鳴り響いた。

 

「魔法的なトラップは確認できなかったから、多分さっきの二人が気づいて知らせたんだと思う。急ぐよ」

 

 中に入って金目の物をアイテムボックスへ詰めていく。この屋敷の主である貴族の黒い噂の証拠となるものも一緒に。

 証拠に関してはクリスが上手いこと白い貴族に見つかるようにしてくれるようだ。

 これだけのお宝から二割も貰えるとなると、借金の支払いが一気に進みそうだ。

 

 クリスは一番の目的である神器を探している。

 予め聞いた話によれば、探している神器は透明マントのような物らしい。

 それを使って暗殺やら証拠隠滅やらをしていたようである。

 

「あった!下っ端君!これも一緒に入れといてくれる?」

 

「被って逃げた方が良くないですか?」

 

「それもそっか。でも一人しか入れなそうだけど」

 

「俺はいいんで親分が被って逃げてください」

 

「むっ、私だってこんなのがなくても逃げ切れるよ!」

 

 善意で透明マントの使用を進めたら変な意地を張り出してしまった。

 

「じゃあこうしましょうか。俺が親分をおぶってしゃがみ歩きで出口まで向かいます。」

 

「却下で。私がこれ被るから下っ端君は頑張って」

 

「こっちだ!!宝物庫が空いてるぞー!!」

 

 そうこうしているうちに兵士たちが集まって来てしまった。

 俺はクリスが透明マントを被ったのを確認して、ポケットから煙玉を取り出した。

 

 足元で爆ぜた煙玉は、狭い宝物庫を一瞬で煙で満たし、俺達二人の姿を隠した。

 

「うわっ!?なんだこれは!!」

 

 困惑する兵士達の間をするりと抜けて逃げる。

 あとはこのまま出口を目指すだけだが、

 

「止まれ!!」

 

 目の前に剣を構えた金髪の少年が立ちはだかった。

 ....見間違いじゃなければミツルギだろう

 

「魔剣の勇者を前にして逃げ切れると思うなよ!!」

 

 雄叫びと共に剣を振り上げ、こちらへ走ってくるミツルギ。

 生憎今は剣を装備していないので、あれを受けることは出来ない。躱してもいいが、ここは後ろへ数歩下がって構える。

 

 ミツルギの剣が振り下ろされるタイミングに合わせて、俺は横の扉を開けた。

 ミツルギは俺との間に突如として現れた扉へ剣を振り下ろした。

 驚いて剣へ伝える力を乱してしまったミツルギの剣は、扉の中央あたりで止まった。

 

「んな!?」

 

 困惑するミツルギを、ドア越しに蹴り飛ばす。

 

「ぐわああああ!?」

 

 狙い通りミツルギの手から剣が離れている。

 落ちている剣を遠くへ蹴り飛ばしミツルギへ振り向く。

 既にミツルギは立ち上がっており、拳を構えこちらを見ていた。

 

「い、今のは油断しましたが、次はそうは行きませんよ」

 

 正直、犯罪行為をしているのはこちらなので顔見知りをぶっ飛ばすのは少し気が引ける。剣を蹴り飛ばした時点で引いてくれたら良かったのだが...

 背後から兵士の慌ただしい足音も聞こえてきている....

 

「大人しくお縄に着いてください。あなたはまだやり直せる」

 

 相変わらず穢れを知らない勇者してるな....

 あの純粋さには、ある種の懐かしさも感じる。

 とはいえ捕まる訳にはいかないので普通にぶっ飛ばさせてもらおう。時間もないので正面から行かせてもらう。

 

 ミツルギに掴みかかり、腹に気持ち弱めの膝蹴りを入れ、背後から向かってくる兵士へ向けて投げる。以上。

 毎回雑に処理している気がしないでもないが、これで事足りるミツルギが悪いことにしよう。

 念の為まきびしを撒いて出口へ向かった。

 

 

 

 ******

 

 脱出後クリスと合流し山分けをした。

 今回俺が報酬として得た金額は約2000万エリス。

 王都で数ヶ月クエストをこなして得ることができた金額を、一晩にして稼いでしまったわけだ。

 

「一応言っとくけど、一人で盗みに入ったりしちゃダメだよ?今回のお金は貴族が悪いことをして集めたお金だから成敗の意を込めて盗んだわけだし。それに一箇所にあれだけのお金を置いている方が珍しいからね。普通はもっと隠し場所を分散させるから」

 

「分かってますって。それはそれとして次の機会があったらぜひ誘ってください!」

 

「うーん...まあ働きぶり自体は良かったし...アイテムボックスは便利だし....でもなぁ...」

 

「...おっ?」

 

 師匠が『サモン』を唱えたようだ。

 ちょうど終わったところだし帰るとしよう。

 

「じゃあ次回があったらまた手紙ください!俺はこれで」

 

「えっ?あぁ..うん。ありがとねー」

 

 ひらひらと手を振るクリスを見てから、俺は『サモン』を承認した。

 

 

 ******

 

 

「おかえりー。早かったね」

 

「ただいま帰りましたー...ってあれ?緊急事態ではないんですか?」

 

「いやまあ緊急事態...だったのかな...?」

 

「...詳しく聞いてもいいですか?」

 

 




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襲来!アンブローズの巻

1ヶ月なんて経ってない。経ってないんだ!!


「ど、どうぞ....粗茶ですけど...」

 

「....あら、ご丁寧にどうも」

 

 目の前で物憂げに紅茶を見つめる美女、アンブローズ。

 腰まで伸びる長い銀髪は美しく、身長はえび先輩と同じくらいだった。...高っけぇ。知的な丸メガネをかけ、黒を基調とした服装は、どこか人間離れした雰囲気を醸し出している。

 そのスタイルは、暴力的とまで言えるほど豊満な....豊満...

 スレンダー美女の異名を欲しいままにするほど魅力的だ。

 

「なにか?」

 

「いえ何も」

 

 勝ったとか思ってない。

 

 彼女はおそらく、えび先輩の元仲間だ。

 えび先輩がいた世界で、えび先輩と仲間と共に魔王討伐を目指した英雄達の一人。

 そんな人が今、目の前に座っている。

 

 そんな彼女は今紅茶を凝視している。

 なんだろう。毒とかはいってないか警戒しているのかな。先に1口飲んで見せた方がいいかもしれない。

 

 彼女はぼくが紅茶を飲むのを見てから、ふぅと一息つくと、紅茶を一気に呷った。

 カップを口につけ、天を見上げたまま静止するアンブローズさん。その体制のまましばらくとまり、ゆっくりと顔を下げてくる。

 彼女の顔は真っ青に染まっていた。

 

「...ありがとう...美味しかったわ...」

 

「無理しないでください!?苦手なら別の物持ってきますんで!?」

 

 アンブローズさんは口を抑えながらプルプルと震え、ありがとうと小声で伝えてくる。

 ガラスのコップにクリエイトウォーターで水を注ぎ持っていくと、再び一気に飲み干した。

 

「ふぅ....お見苦しい所を見せてしまったわね。昔の仲間のせいで香草の匂いがトラウマなのよ...」

 

 忌々しげな表情を浮かべ誰かを呪うアンブローズさん。何がトラウマなのかは分からないが、その原因がえび先輩でないことを祈ろう。

 

 彼女はコホン、と咳払いをして話し始めた。

 

「さて..まず初めに聞いておきたいのだけれど、あなたはアロヴァンの人?」

 

「あろヴぁん?..聞いた事ないです」

 

「あら本当に知らないみたいね..じゃあどうして『エンチャント』について知ってるのかしら?」

 

 ウィズさんからの手紙には書かれていなかったのだろうか?

 

「ええと..この街の近くのダンジョンに魔導書があってですね....これなんですけど..」

 

 たまたま近くに置いていた魔導書の原本をこちらへ引き寄せアンブローズさんへ渡す。

 彼女はそれを受け取り中身をパラパラと流し見し、なるほど、と魔導書を閉じた。

 

「初心者向けの教科書ね。懐かしいわ。私も最初はこれを見ながら勉強したものよ」

 

 彼女はしみじみと、懐かしそうに表紙をさすっている。

 えび先輩に天才と言われている彼女にも、初心者の時代があったのだと少しだけ嬉しくなる。

 

「まあすぐに読み終わっちゃってオリジナル術式の研究をしたんだけど」

 

 天才はいる。悔しいが。

 

「なるほどね....でもこれニュータブル語でしょう?あなた読めないわよねこれ?」

 

「ぼくの仲間が翻訳してくれまして..」

 

「お名前は?」

 

 途端、彼女から圧が放たれる。おそらく意図したものではなく、感情の揺らぎから盛れ出してしまったものだと思う。本気ならもっと重苦しいはずだ。

 

「..エクス・アルビオって言うn「アルビオ!?」」

 

 驚いた様子の彼女は、椅子を倒しながら机に手をつき立ち上がった。

 

「アルビオがこの世界に来てるの!?同姓同名の別人じゃないわよね!?金髪タレ目のムカつく奴よね!?」

 

 あっけに取られているうちに距離を詰められ、肩を揺さぶられる。流石はえび先輩の元仲間なだけあって力がぼくより強く、何とか肯定の意を伝えると、彼女は床に座りこんでしまった。

 

「ウソ...かつての仲間の装備に施したエンチャントを解析している人がいるって言うから、あいつらの子孫か後継者だと思ったのに...本人がいるのは一番まずいわよ。大丈夫かなぁ、怒ってないかなぁ、怒ってるよなぁ...よし!」

 

 アンブローズさんは何を思い立ったのか勢いよく立ち上がり、魔法を唱え始めた

 

「何をする気ですか?」

 

「テレポートでここから逃げるのよ!」

 

「『スペルスブレイク』!!」

 

「何をするの!?」

 

 危なく逃げられるところだった。まだエンチャントについて何も聞いていないのに逃げられる訳にはいかない。

 

「ていうか何をそんなに恐れてるんですか?」

 

「だってぇ...魔王討伐の旅の終盤で逃げ出したのよ!?残された近接職2人からのヘイトなんて想像もつかないじゃない!」

 

「大丈夫ですって!えび先輩割と嬉しそうにアンブローズさんのこと話してましたから!なんなら今から呼びますか?」

 

「いぃぃぃぃやああぁぁぁぁぁ!!!確かに会いたい気持ちも無くはないけど!それ以上に後ろめたさが勝ってるのおお!!今あったら反射的に全力魔法を叩き込みかねないからやめて!」

 

 反射的に攻撃が出るタイプの人らしい。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「...落ち着きましたか?」

 

「...えぇ。何度もみっともないところを見せてしまった申し訳ないわね...それで術式の解析でしたっけ。どこまで進んだか見せてくださる?」

 

 アンブローズさんがひとしきり泣き叫んだあと、未だしゃくり泣く彼女をいいお茶菓子とコーヒーでなだめ、今に至る。

 

「なるほどねえ..まああれだけを読んでここまで解析できてるならすごい方ではあるわね。」

 

 コーヒーを飲みながらぼくが解き明かした箇所とその考察を書き記したものを眺めている。

 

「そうねぇ...ただ答えを教えられるのはつまらないでしょうし...」

 

 彼女はそう呟くと、どこからか2冊の魔導書を取り出した。

 

「こっちがその教科書の続きの上級編。でこっちが私が執筆したエンチャントに関する論文みたいなものよ。これをあげるから自力で解き明かしてみなさい」

 

 宙を漂いながらこちらへ渡された本を受け取る。上級編と言われた本は、初級編のものとだいたい同じくらいの厚さだった。

 問題はもう一方。ぼくでは読めない言語、ニュータブル語で書かれたそれは、日本でみた広辞苑を2つ重ねたくらいの厚さがある。

 もはや本の域にとどまっていない。

 

 ぎこちない笑顔で礼を言う。アンブローズさんはにこにこしながらどういたしましてと告げた。

 とりあえずえび先輩が帰ってきたら翻訳を手伝ってもらおう。

 

「ゆっくりと歩を進めちゃ、追いつけないわよ?」

 

 含みのある笑顔で語りかける彼女は、どこか懐かしそうな雰囲気を醸し出していた。

 

「..元の世界のえび先輩について聞いてもいいですか?」

 

 勇気を出してそれを口にする。以前えび先輩に聞いた時は結局はぐらかされてしまった。おそらくこの先も正確な話を聞けることは無いだろうという確信がある。

 だが目の前の彼女なら、もしかしたら教えてくれるのでは無いだろうか。

 そう期待し彼女の顔を覗くと、すごく困惑した顔をしていた。

 

「えび....えび?」

 

「あぁ!えっと...エビオ..じゃなくてエクス・アルビオです」

 

「エクス..アルビオ...エビオ....ブフッ、た、確かにエビオね!いいあだ名じゃない、アハハッ」

 

 どうやらツボに入ってしまったらしい。元いた世界ではエビオとは呼ばれていなかったようだ。

 意を決して聞いてみたが、暫くは答えれそうに無さそうだ。

 彼女が落ち着くまで上級編のさわりを眺めてみる。

 ...とても難解だ。

 

 

 

「あー、笑った笑った。でなんでしたっけ?エビオの話ね?」

 

 もうエビオ呼びに変わったらしい。

 

「と言っても、最後は知らないわよ?私の方が先だったし。それでもいいなら教えるわ」

 

「お願いします」

 

 ちょこちょこ思い出し笑いをはさみつつではあるが、アンブローズさんが語りだした。

 

「そうねぇ..初めて会ったのは、伝承に則って魔王討伐パーティを結成した時の顔合わせかしらねえ?エビオ以外の二人とは会ったことがあったから、初めましてはエビオだけだったかなぁ。元々冒険者にソロのヤバいやつが居るっては聞いてたから、どんなイカれたやつなのかは気になってたわ。

 

 でもね、顔合わせに現れたのは、当時18だった私よりも5つも年下の子供だったわ。そんな子供の癖にどこか達観した目をしたあいつを、私たちは心配したの。魔王討伐の旅は苦しいものになるから。そしたらあいつなんて言ったと思う?」

 

「なんかろくでもないことを言ってそう...」

 

「まあそんなところね。当時から人類最強と言われていた勇者に、『腕相撲しましょう!強化魔法もかけていいですよ!全力でかかってきてください!』って。3人ともあっけにとられてて当の勇者も思わず了承したの。

 

 周りのテーブルを片付けて、机に保護魔法をかけての勝負。当然勇者は自信に強化魔法をかけて構えた。対してアルビオは噂通り、自身に魔法をかけずに勇者の手を掴んで構えたの。

 僧侶の掛け声で腕相撲がスタートして...」

 

「スタートして...?」

 

「私と僧侶、あと周りに避けていた机が吹き飛ばされたわ」

 

「えぇ...」

 

「当時の私達も同じ反応をしたわよ。何がどうなったら腕相撲で衝撃波が発生するのか...辺りを吹き飛ばした当の本人たちは、机で組み合ったまま、熱烈な勝負を繰り広げていたわ。

 

『あーヤバイヤバイヤバイ!!?一瞬力抜こ?せーので!せーので行こう!行きますよ?せーの!...抜けよぉ!!』

 

『抜けるわけねえだろバカ!このガキ!!あーミシっていった!今ミシって!!いや俺の骨じゃないよ!?こないだ王様から貰った国宝らしい装備からなっちゃいけない音してる!!じゃあなんでこの机は無事なんだよ!!アンブローズのやつ頭おかしいんじゃないのか!?』

 

『ええほんとだ!!床とかもうボロボロなのに机だけ新品じゃん!もうあの人で良くない!?あの人に武器と装備作ってもらって全員で行けば人数差で押し切れるって!あと力抜よぉ!!子供相手に恥ずかしくないんですか!?勇者ですよね!?』

 

『お前みたいな子供がいてたまるか!?魔力なしでなんでここまで強いんだよお前!?面白いな!!仲間になれよ!!!』

 

『はい喜んで!!!あああぁぁぁ!?とうとう机が!?』

 

 で最後は盛大に土煙を上げながら全てを破壊して床を貫いてたわ。勝負は引き分けね」

 

「えぇ....」

 

「それから...あぁ、ごめんなさい。ちょっと魔王から呼ばれちゃったわ」

 

「まじですか...結局えび先輩がなんなのか分からなくなってきた」

 

「それに関しては私もわからないわよ」

 

 そう言い残しアンブローズさんは去っていった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「...てことがあって」

 

 えび先輩も過去エピソードを聞いたことを隠し、えび先輩に話した。

 

「やっぱアンブロいたんですね。聞いた限りだと闇落ちしてなそうで良かったです」

 

 魔王軍の幹部になっているのは十分闇堕ちでは無いだろうか。

 

「でそれが渡された魔導書ですね」

 

 えび先輩が指さしたのは上級編ではなく、広辞苑×2の方。

 

「じゃ!俺は用事があるんで!!」

 

「『グラビティ』!!」

 

「ぐあぁ!?」

 

 地に伏すえび先輩の肩をつかみ顔を寄せる。

 

「翻訳 、手伝って?」

 

「いやだあああああああああああああ!!」

 

 暫く寝れなそうだ。




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誰やねん

 

 

 

 

「.....だ、大丈夫か?エビオ」

 

 俺がギルドの机に突っ伏していると、頭の上からカズマの声が聞こえた。

 

「ああいえ、ここ3日ほど寝ずに活字を見続けたので...」

 

「本当に何をしてたんだ?」

 

 アンブロが来てから3日、俺と師匠はあの魔導書の翻訳に励んでいた。

 何回ページをめくっても、上から下までびっしりと詰まった文字が出てくる。その上ところどころ文字が潰れており読めない。さらに魔法用語がバンバン出てくるためその度に教科書からその説明文を探さなければいけない。

 

 初めはノリノリで取りくんでいた師匠も、2日目からは一言も喋らなくなった。3日目になってようやく発した言葉が、「1日休憩!寝ます!!」だった。

 

 そんなことをカズマに話すと、こんな提案をされた。

 

「いい店を知ってるんだ。着いてこいよ」

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 アクセルの街のとある区画、とある通りの、その路地の奥。

 看板を見る限りその場所は飲食店のようだが、それにしてはこの店に入るものの纏うオーラは違う。

 

 あるものは最終決戦へ挑む気迫を見せ、あるものは遠い故郷に帰省したような安心感を見せる。

 

 つまるところここは...

 

「サキュバスのお店ですね」

 

「なんだ知ってたのかよエビオ」

 

 カズマに連れられてきたいい店とは、以前魔族の気配を感じ討伐しようとし、通りすがりのダストに止められたあのサキュバスの店だった。

 

「俺はこの世界のことをクソったれだと思っているが、この店は例外だな。どんなことをしてもNOT GUILTY。だって..夢...だからなぁ!」

 

 ひとりでテンションが上がっているカズマ。早速扉を開こうとしていたので引き止める

 

「おいおいなんだよエビオ。お前はダストと違って金はあるだろう。お前には色々感謝しているが、それはそれ、これはこれだ。」

 

 なんだかとても失礼な勘違いをされているようだ。

 

「いいですかカズマ。いくら相手が魔物でもやっていい事と悪いことがありますよ。人間の法ではNOT GUILTYでも、倫理的にGUILTYなことはあるんですから」

 

「俺が何すると思ってんだよ!?夢を見せてもらうだけだって!サキュバスのお姉さんもそう言ってただろ!?」

 

 なんだか話が噛み合わない気がする。

 

「夢を見せてもらうって言うのは...?」

 

「え?いやだからサキュバスの能力で好きな夢を見せて貰えるだろ?それで現実ではありえないようなことも色々..」

 

 少し顔を赤くして説明をしてくれるカズマ。

 どうやらこの世界のサキュバスは、思いどうりに夢を作れるらしい。

 俺の世界にいたサキュバスは寝込みを襲ってくるだけだったので勘違いしていたようだ。

 

「すみません、色々勘違いしてました。行きましょう」

 

 困惑したままのカズマを連れて扉を開ける。

 扉を開くと、甘ったるい香りが鼻に突き刺さってきた。

 中は普通の喫茶店のような造りになっているが、全体的に色合いがピンクだった。

 

 来客を知らせる鈴の音がなり、すぐに奥から1人、サキュバスが歩いてきた

 

「いらっしゃいま..ヒィ!?」

 

 あぶない、反射的に殺気を飛ばしてしまった。これに関しては前世からの条件反射なのでしょうがない気がする。

 

「お、お客さん、驚かせないでください!残機が1つ飛ばされるかと思いましたよ!?」

 

「あぁ、すいません。つい癖で」

 

「癖で殺気飛ばすの怖すぎだろ。俺も背筋がヒュってなったぞ」

 

「コホン、改めまして、いらっしゃいませお客様。そちらは常連さんですね。奥へどうぞ。そしてお客様は初めてですよね?うちがなんの店かは聞いていますか?」

 

 やたらとくねくねしながら話すサキュバス。

 

「カズマから聞いてるので大丈夫です」

 

「かしこまりました!ではカズマ様の隣の席へお進みください」

 

 そこらじゅうを半裸のサキュバスが闊歩する店内を奥に進むと、スカした表情を浮かべながらシートに記入していくカズマがいた。

 

「カズマ、指定できるシチュエーションについて聞いてもいいですか?」

 

「おう。ビギナーのお前さんの質問に、サキュバスのお姉さんに常連さんとまで言われるこのカズマさんが答えようじゃないか」

 

「ありがとうございます。まず、故人は登場させれますか?」

 

「こじっ!?」

 

「可能ですよ。エビオ様がご存知の方ならどなたでも」

 

 一瞬で素に戻った常連さんの代わりに、近くにいた白髪のサキュバスが答えてくれた。

 

「それは本人ですか?それとも俺のイメージの具現化ですか?」

 

「そうなりますね。本人の魂をおよびするのは我々の分野ではありません。私たちにできるのは、お客様の記憶の中の人物をこちらで解釈して見せることのみです」

 

 やっぱりそうか。まああまり期待はしていなかったが。

 

「ご期待に添えずに申し訳ありません。今なら料金は発生していないのでキャンセルすることも可能ですが..」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 俺にとってそっちは本命では無い。別に試したいことがあったのだ。

 シチュエーションの欄に記入して、サキュバスに渡す。

 

「....?ありがとうございます。では今夜お客様の枕元へおじゃまさせていただきます。泥酔された状態で眠ってしまいますと夢を見せることができないのでお気をつけください」

 

 ペコりと一礼をし、店の奥へ戻っていくサキュバス。

 隣からカズマが不思議そうな目でこちらを見てきたが、すぐに自分の記入用紙の続きを描き始めた。

 

 ちらりとシチュエーションの欄を除くと、すごく細かな時でびっしりとその内容を書いている。

 

 俺は見なかったことにしてその店を後にし、どこか空いてる宿がないか探すことにした。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「いやー、エビオがここに来るのは初めてじゃないか?最近姿を見ないから心配だったんだが、元気そうで何よりだよ」

 

 暖色系の明かりに包まれた空間に、ダンディな声が響く。

 お客さんは俺だけのようなので、カウンター越しに2人で雑談をしていた。

 

「まあ俺お酒苦手なので...今は割と面倒なことになってますけど、まあそのうち帰ってきますよ。モイラ様からなにか聞いてないですか?」

 

「へ?モイラ様から?特には聞いてないけど...」

 

「あー、じゃあまだアポ取れてないんですかね。じゃあベルさん、俺と師匠は元気だってみんなに伝えてもらってもいいですか?」

 

「ああそゆこと。任せな。そんなことよりなにか飲むかい?色々話すこともあるだろ?」

 

「あー、じゃあ弱いやつ貰ってもいいですか?こないだお酒で失敗したばっかなんですよ」

 

「あいよー」

 

 そう言ってベルさんはシェイカーをシャカシャカしだした。

 

「そういえばなんですけど、ここから日本に帰ることってできないんですか?」

 

「ざんねんながらそれは無理だな。お客様1人につき、出入口は1つだ。入ってきたところから出るしかない。」

 

「まじかー。ワンチャン師匠だけでも送り返せないかと思ったのにな」

 

「ちゃんと責任をもって連れて帰ってくるんだな.....ん?お客さんか。誰だ?」

 

 ベルさんがなにかに気づいて扉へ目を向けてすぐに、その向こう側から何かがすごい勢いでとびこんできた。

 

「うぎゃぁ!?」

 

 扉をぶち破ってなお勢いがおさまらなかったそれは、ベルさんのバーの床に転がった。

 

「大丈夫かいお客さん?正規の方法で来ないからそうなるんだよ。ちょっとまちな」

 

 ベルさんが目を瞑り、ドアと転がってきたものに手をかざすと、壊れた扉は元に戻り、飛びこんできた客の怪我はなくなっていた。

 

 そう。ここは夢の世界の住人こと、にじさんじ所属ベルモンド・バンデラスのお店、『bar-デラス』。人々がここに来ることを願って眠りにつけば、誰でもこのバーに来ることができる。

その世界の主であるベルさんにとって、壊れた扉を直すことや、この世界で負った傷を治すことなど造作もないことらしい。

 ベルさんは人類が誕生するよりも前から生きているらしく、俺がどう頑張っても勝てない相手の1人である。

 

「いたた...ここはどこ...ってお客様!!!」

 

 起き上がった彼女、サキュバスのお店で俺に説明してくれた白髪のサキュバスは俺を見つけて大声をあげていた。

 

「お客様に夢を見せようとしたらすごい力で引っ張られたんですけど!?一体何がどうなってるんですか!?ここはどこなんですか!?」

 

 彼女は少しパニックになっているらしい。

 

「まあまあお客さん落ち着いて。てかエビオの知り合いか?」

 

 不思議そうにしているベルさんに、彼女についてと今日行ったお店に着いて説明する。

 

「なるほど。エビオの夢をいじろうとしたけど、エビオは既にここの夢に来ていたから、力まけして引っ張られたのか」

 

 次にパニックになっているサキュバスにこの場所の説明をする

 

「えぇ...こんな場所があるなんて、サキュバスクイーン様からも聞いてないんですけど...ていうかなんでそんなことしちゃったんですか!!」

 

「どうなるか気になったので」

 

「私で実験しないでください!!」

 

 プリプリと怒るサキュバスの前に、ベルさんがグラスを置いた。

 

「まあまあ、せっかくうちに来たんですから、くつろいでいってください。エビオから説明されてましたがあらめて。夢の世界のバーのマスター、ベルモンド・バンデラスと申します。以後お見知り置きを」

 

 バスの効いた良い声で自己紹介をしながら、流れるような所作でお酒を作るその様は、男の俺が見てもかっこよく感じるものだった。

 

 グラスに注がれた淡い色のお酒からはどういう理屈かオーロラが立ち上っている。少なくとも地球のお酒では無さそうだ。

 

「え、あぁ...じゃあちょっとだけ..」

 

 顔を赤くしながら席に着くサキュバス。おちたな。

 

「...ッハ!?だめだめだめ、私にはバニル様がっ!?」

 

「へぇ。お嬢さんにはいい人がいるんですか。どのようなお方なんで?」

 

「バニル様は..かっこよくて....///」

 

 身をくねらせながらバニル様とやらについて語り始めた。

 

「...残機が無数にあって...目からビームがだせて...///」

 

「チャイカみたいなもんか...?」

 

 それはチャイカさんに失礼じゃないかと思ったが...あの人ならできそうだ。

 

「それじゃあベルさん、さっき頼んだことお願いしていいですか?」

 

「ん?おう。なんだもう帰るのか?」

 

「まあ元々聞きたかったことも聞けたので。あっちに帰ったらゆっくり話しましょう」

 

「あいよ。あんまり遅くなるなよ?」

 

「任せてください。英雄ですよ?」

 

 そう言い残して、俺はバーの扉を開けた。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 外から明るい光が部屋に差し込み、意識が覚醒する。

 

「あー...今日も一日頑張りますか... 」

 

『デストロイヤー警報!!デストロイヤー警報!!冒険者は至急ギルドへ集まってください!!!』

 

「....へ?」

 

 




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対決!デストロイヤーの巻!

 機動要塞デストロイヤー。

 古の大国ノイズが開発した最後の対魔王軍兵器。

 永遠に燃え続ける伝説の宝珠を動力源としているため今も尚動き続けているそれは、過去から現在まで数多の街を踏み潰してきた。

 デストロイヤーが通った後はアクシズ教徒以外草も残らないと言われていることから、この世界の住人から天災扱いされていることが伺われる。

 

 

「...らしいよ」

 

「アクシズ教の扱い不憫すぎません?」

 

 先程アクセルの街に鳴り響いた、ギルドの緊急放送。

 その中にあった『デストロイヤー警報』という単語。

 キャベツの時のように紫色のじゃがいもが攻めてくるのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。

 デストロイヤーという単語に覚えがあった師匠が持ってきた、『アクシズ教徒でもわかるこの世界の危険モンスター集』の最後のページに先述の説明文と、蜘蛛型のロボの絵が載っている。

 ちなみに最初のページにはアクシズ教徒が載っていた。

 何故かは不明だがこの本は絶版になっており、著者は行方不明らしい。

 

「とりあえずギルドに行ってみましょうか」

 

「それもそうだね。やばそうだったら逃げよう」

 

 市民が慌ただしく走っていく流れに逆らって、俺と師匠はギルドへ向かった

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「店主さん来た!!」

「これで何とかなるかもしれん!!」

「勝ったな!!風呂入ってくる!!」

「店主さん昨日の夢ではありがとうございました!!」

 

 ギルドに着くなり何やら大騒ぎになっていた。後最後の男は周りの男性冒険者に肘打ちをされて蹲まっている

 

「カズマ、これはどういう状況ですか?」

 

「おお、エビオ!よく来てくれたな!」

 

 少しテンションの高いかずまに大まかな流れを説明してもらった。

 

 デストロイヤーを倒すために色々な作戦を立てていたこと。

 立てた作戦の多くが、過去の事例やデストロイヤーに貼られている強力な対魔法結界を理由にボツになっていたこと。

 そしてどうやらアクアがその結界を破れるかもしれないこと。

 爆裂魔法で消し飛ばせばいいとなったが、さすがに爆裂魔法1発では厳しそうなこと。

 そこに歴戦の冒険者と名高いウィズさんが来たことにより、勝ち確ムードが流れ出したこと。

 

「まあつまりはアクアが結界を破れるかにかかってるわけですね。師匠は結界破れたりしないんですか?」

 

「うーん、ぼくは複雑に絡み合った糸を1本ずつ解いていくみたいな感じでしか結界は解除できないんだよね。猛スピードで迫ってくる相手にはムリ」

 

「使えないっすね」

 

「はぁ!?じゃあてめぇがやってみろよぉ!そんな大口叩いたんだからできるに決まってるよなぁ!?」

 

「無理に決まってるじゃないですか。馬鹿なんですか師匠」

 

 怒りに任せて魔法を唱え出す師匠を、周りの冒険者がまあまあと宥める。普段は成り行きを見守ることしかしない彼らも、この緊急時は止めてくれることを学んだ。

 

「カズマ、うちの師匠も爆裂魔法ほどではありませんが広範囲高火力の魔法を使えますよ」

 

「そうだなー..両足に爆裂魔法打ち子んで機動力を無くす作戦に落ち着いたんだが、ぶっちゃけ両サイドの火力は足りてるんだよな..めぐみんと一緒に打ってもらうか?」

 

「何を言っているのですかカズマ!!私とウィズの神聖な爆裂くらべの邪魔をする気ですか!!」

 

「....だそうだ。でも一応破壊できなかった時のために後ろで待機してもらっててもいいか?」

 

「わかりました。師匠にそう伝えてきます」

 

 頼んだぞーとカズマの声を背に受け師匠の元へ向かうと、周りの冒険者に野菜スティックや唐揚げで餌付けされていた。

 

「師匠ずるい!俺にもください!!」

 

「あふぇふはへふぁいらふぉう(あげるわけないだろう)」

 

 食べ物を頬張っているせいでいつもより顔がでかい師匠が勝ち誇った顔でそう告げた。

 腹がったったので無言で師匠の唐揚げに手を伸ばすと、師匠に叩き落される。

 

「....師匠。弟子は師匠を超えていくものって知ってますか?」

 

「ふぁふぁっへほいよふほふぇしぃ(かかってこいよクソでしぃ)」

 

 方や剣を、方や魔導書を構えて睨み合う。

 

「...君らこの非常事態になにやってるの?」

 

 そこへ白髪の大盗賊。クリスがやってきた。

 

「止めないでくださいクリスさん、男には引けない時ってのがあるんですよ」

 

「んぐっ、今からこの馬鹿弟子に灸を据えてやるとこですよ」

 

「それはいいけどさ...もうみんな移動してるよ?」

 

「「えっ?」」

 

 辺りを見回すと、既に誰も残っていなかった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 急いで正門前の草原へ向かうと、街の住人と協力して、即席のバリケードが建設されていた。

 そのバリケードの前に、《クリエイター》が協力して様々な魔法陣を書いている

 

「ぼく手伝ってくるよ」

 

「了解です。ただ作戦開始前までには迎撃地点まで戻ってくださいね」

 

 あいよーと大きな声で返事をしながらバリケードへ向かう師匠を見守っていると、隣のクリスが真剣な顔で俺を見つめていた。

 

「...エクス・アルビオさん」

 

「はい」

 

「あなたはデストロイヤーを単騎で制圧する手段を持っていますか?」

 

「...」

 

「最近になってようやくあなたについて調べました。あなたがいた世界について、あなたが英雄と呼ばれていた時代と、その経緯について」

 

「...プライバシーの侵害ですよ?」

 

「それについては謝ります」

 

「....まあ、結論から言えば不可能ではないですね」

 

「ありがとうございます。それが聞けたなら十分です」

 

「...本当に最後の手段ですけどね。前も言いましたが、この世界には師匠もいるので」

 

「わかっています。...わかっているのですが...この作戦がアクア先輩次第って言うのが....」

 

「ですってよアクアさん」

 

「ぶえぇ!?」

 

 先程までの女神ムーブはどこへやら。吹き出しながら周囲を見渡すクリスがそこにいた。

 

「見間違いでした」

 

「本当にやめてよ!!死んだかと思ったじゃん!!」

 

「すみません、まじめな空気に耐えられなくて..」

 

「そこは耐えてよ!!せっかく女神っぽいことやってんだから!!」

 

 そこそこ大きい声で自分のことを女神と主張するクリス。

 これでは俺以外の人にバレていないのか、いささか疑問ではある。

 

「..ちなみにどやってデストロイヤーを倒すのか聞いてもいい?」

 

「ああ、地球破壊爆弾ですけど」

 

「またそれかよ!?もしかしなくてもこの星ごとはかいされるじゃん!!最後の手段だとしても絶対使わないでよ!?」

 

「じゃあ俺にはちょっと厳しいですかね」

 

「もっとこう... ギガスラッシュ的なので倒すのかと...」

 

「無理に決まってるじゃないですか。魔力のない一般英雄ですよ?」

 

「魔力ない一般人にたたき出せる功績じゃなかったと思うんだけどなぁ...」

 

『冒険者の皆さん!もうすぐ機動要塞デストロイヤーが見えてきます!街の住民は直ちに離れてください!!それでは冒険者各位は、戦闘準備をお願いします!』

 

「そろそろ来るみたいなので師匠呼んできますね」

 

「わかったよ」

 

「クリスさんが仕事をしなくて済むように頑張りますよ」

 

「ふふ、それじゃあ期待して待ってますよ?英雄さん」

 

 そう言ってクリスは人混みへ消えた。

 

「師匠〜、そろそろ移動しますよ〜!」

 

「りょうか〜い」

 

 師匠の協力もあり、完成した魔法陣の規模は大きく、アクセルの魔法使い総出で魔力を流せば、巨大なゴーレムを召喚することが可能らしい。万が一爆裂魔法で止まらなかった時の保険だ。

 

 先程の放送もあってか、冒険者たちの雑談はなくなっており、

 耳をすませば、既に遠くから地響きが聞こえて来ていた。

 

 

「何だあれでけぇ....」

 

 誰かがポツリと呟いた。

 地平線の彼方から顔を覗かせたそれは、遠目から見ても重厚感を感じさせ、大地を揺らす轟音は徐々に存在感を増している。

 

「あれがデストロイヤーですか」

 

「でっかぁ..」

 

「負けてないですよ」

 

「何がだ?オイ、言ってみろ?誰の何が負けてないのか言ってみろ」

 

『セイクリッドォォォォォ、ブレイクスペル!!!!』

 

 どこから取りだしたのか、アクアの構えた杖の先から光の玉が射出された。

 光の玉はデストロイヤーの決壊にぶつかり、少しの間拮抗した後、決壊はガラスが砕けるように破壊された

 

「今だウィズ!めぐみん!!」

 

 カズマの掛け声で同時に詠唱を始める2人、その真ん中の後方にて、師匠が魔法を準備している。

 

『『エクスプロージョン!!!』』

 

 デストロイヤーの両側の足元に、洗練された魔法陣が展開され、一拍を置いて爆炎が立ち上る。

 普段はアクセルの風物詩としてはた迷惑に鳴り響いているそれも、今この瞬間は希望の光となっているだろう。

 

 今だ立ち上る爆炎の中から、デストロイヤーが顔を出す

 

「ダメかっ!?アルス!!」

 

 カズマが焦った顔でこちらへ指示を飛ばすが、師匠は動かない

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 爆炎から出てきたデストロイヤーの頭は、徐々にその高度を落とし、鈍い音を立てながら地面へと落ち、慣性に身を任せ地面を滑り、何をしていたのか地面へ剣を突き刺し仁王立ちをしていたダクネスのまえで静止した。

 

「.....やったのか?」

「うおおおおやったぞおおおお!!!」

「俺らあのデストロイヤーを倒したんだー!!」

「アクセルに喧嘩をうったからこうなるんじゃー!!」

 

 そこらじゅうから冒険者の感性が上がる。

 

「おいバカー!!こんな時にそんなお約束みたいなこといっちゃ..」

 

「ねぇカズマさん!!デストロイヤーには30億の賞金がかかってるのよ!倒したのはうちのめぐみんなんだから多めに報酬が渡されるはずよね?喜びなさい冒険者達!!今日はカズマさんの奢りで飲み明かすわよー!!」

 

「このバカ!本当にバカだろお前は!?そんなこと言ったらこの後どうなるかぐらい..」

 

『この機体は機能を停止しました。搭乗員の皆様は直ちに避難してください。現在エネルギーの消費ができなくなっており、爆発します。 繰り返します..』

 

「ほら見たことかー!!!!!!」

 

 アクアの肩を掴み揺らすカズマの絶叫が、再び窮地に陥ったことを知らせていた。




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デストロイヤーの終焉と最高の魔法使い

 

 

 倒したと思った敵の奥の手によって再び窮地になる。そんなよくある展開で、アクセルの冒険者達は阿鼻叫喚の地獄絵図に陥っていた。

 冒険者たちの間では、「もう街を捨てて逃げるしかねぇよ!!」だの「もうだめだぁ...みんなここで死ぬんだぁ...」といった全てを諦めた声や、「ずっとお前のことが好きだったんだ!!」「ごめんなさい。生理的に無理」「グハァッ!!」と儚く散っていく者の声で溢れていた。

 

 既に辞世の句を読み始めたものもいるそんな中、あるベテラン冒険者が高々と剣を掲げた。彼はレベル30を越え、もうすぐ40に届くにもかかわらずアクセルの街に残っている変わった冒険者だと女性たちの間で囁かれているものだった。

 

「お前ら聞けぇ!!!...俺は行くぞ!!この街には守るべきものがあるだろう!!!お前ら忘れたのか!!!」

 

 その言葉に、周囲の冒険者がハッとする。

 

「明日死ぬかも分からない、世間では荒くれ者と後ろ指指される俺たち冒険者を暖かく迎えてくれた!!毎日武器を持つ理由をくれた!!そんなみs..街を守らねえで何が冒険者だっ!!!」

 

 その言葉に多くの冒険者が、自身の得物を強く握り治す。

 

「ここが正念場だ!!勝って今日もいい夢を見るぞー!!!」

 

「「「「オオオオオォォォォォォ!!!」」」」

 

 今、アクセルの冒険者がひとつになった。

 

 

 

「やるしかないね、えび先輩」

 

「あぁ...はい」

 

 確かにとても良い演説だった...守りたいものが娼館でなければ。ただまあ、これでみなが一致団結するならば何ら問題は無い。俺もデストロイヤーに乗り込む準備をしよう。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「狙撃ッ!!」 「狙撃ィ!!」「狙撃!!」「ソゲキッ!!」

 

 狙撃スキルを持つものたちが次々とロープのついた矢をデストロイヤーの上へ放つ。それがしっかりと抜けないことを確認して前衛職のものたちがデストロイヤーへと乗り込んでいった。

 

 俺は師匠と共に最前列に陣取っていたため、一番乗りでデストロイヤーに搭乗することができた。 周囲を見渡すと、学校の校庭程の広さに戦闘用ゴーレムが一定間隔に並んでる。その奥からは多くのバリスタがこちらを向いており、その口から矢が一斉に発射された。

 

『リフレクト!!』

 

 しかし矢は師匠の前に展開された結界により跳ね返され、それぞれの砲身へと帰って行った。

 

「...今のは?」

 

「飛び道具を反射する魔法。今のでバリスタは全部破壊できたっぽいね」

 

「もっとムカつく主人公っぽく」

 

「飛び道具を反射する魔法で矢を跳ね返しただけだが?...ぼくまたなんかやっちゃいました?」

 

「60点」

 

「うるせえ、ゴーレム来てるよ」

 

 目の前からは右手にサーベル、左手に小弓、モノアイで4本足のゴーレムがこちらへ向かってきていた。

 

「...師匠あれ見た事あるんですけど」

 

「1ターンで2回行動してきそうだね」

 

 キラーゴーレムから放たれた弓を掴んで捨てる。接近してきた個体の回転斬りを躱して拳で殴り飛ばす。思っていたよりも固くない。弓矢にさえ気をつければアクセルの冒険者でも難なく倒せるだろう。

 

 背後からは続々と冒険者が登ってきており、その中には魔力切れで倒れているめぐみんを抜いたカズマパーティもいた。

 

「おいダクネス見ろ!!キラー〇シンだぞ!!あれ持って帰りたい!!」

 

「おいカズマ!?何めぐみんみたいなことを言ってるんだ!?今はアクセルの街を守るために集中してくれ!!」

 

「ちくしょう、こんな時に限って正論言いやがって!!おいエビオ!!何体かなるべく綺麗に壊してくれ!!アクアにくっつけてもらって飾るから!!!」

 

 まさかのダクネスに正論を説かれながらも、あのゴーレムをフィギュアとして飾ることは諦めていないカズマ。仕方なしに剣を抜き、何体かを別々の切り方で倒しカズマの方へ転がす。

 

「ありがとうエビオ!!やっぱりお前は良い奴だ!!」

 

 泣く程嬉しかったのだろうか。残っているゴーレムはそれぞれ各冒険者パーティーによって包囲されており、殲滅が完了するのも時間の問題だ。ならもう奥へ進んでもいいだろう。

 

「師匠、行きますよ」

 

「あいよ」

 

 内部へ続くドアを蹴破り中へ進む。中では再びゴーレムが待ち構えていたが、たまたま抜いていた剣で斬り伏せ奥へと進んで行く。

 

「...ぼくの仕事ないんだけど」

 

「火力高い魔法だと周り崩壊しそうじゃないですか」

 

 不満気な師匠を連れ中を探索する。

 操舵室やゴーレムの生産ライン、食料庫など多くの部屋があったが、そのどこにも人の気配はない。部屋の中は不自然なほどに整っており、どこにも人が触れた形跡がない。埃が溜まっていたり蜘蛛の巣があったりする訳では無いのが余計に不気味だ。

 

「エビ先輩、これ」

 

 師匠が指を指しているのは清掃用ゴーレムと思われる、円盤型のロボットだった。なるほど、これらのロボットが機内の環境を整備していたのか。それに円盤型のこれは日本の俺の部屋にも同じようなものがある。後で持って帰ろう。

 

「おーい、見つけたぞー!!!」

 

 少し離れたところから冒険者の声が聞こえた。

 

 

 広い空間を師匠と迷子になりながら声が聞こえた場所に向かう。

 たどり着いた時には多くの冒険者が集まっており、その全てが拳を握りしめ、表情に怒りを浮かべていた。

 

「....何があったんです?」

 

「.....」

 

 無言で一冊の手記をこちらに渡すカズマ。正直読みたくないが、師匠は気になっているようなので師匠に渡して読んでもらう。

 

「えーと...まう月まう日、 国のおえあいさんが」

 

 無言で師匠から手記を奪い取る。

 

「まって!!ちゃんとやるから!!」

 

 却下。気を取り直して俺が読み始める。

 

「〇月‪〇日、国のお偉いさんが________」

 

 

 

 

 読み終わる頃には師匠の顔にも怒りの感情が伺えた。俗に言うアルマルモッチーンである。

 

 手記の要点をまとめるとこうだった

 

 とある大国の研究者に機動要塞を作れとの命が下ったが、資金不足とやる気不足でやけくそになり、蜘蛛を叩き潰した紙を提出したところ採用された。

 

 なんだかんだで完成してしまった機動要塞だったが、この設計で動き出すかは責任者の著者でも不明だったようで、これまたやけくそで酒盛りをし、酔った勢いで動力源に根性焼きを入れた。

 

 結果暴走。機体は誰にも止められなくなり、世界を踏み荒らすデストロイヤーが完成。そんな中で著者はなんの未練もなく成仏していたそうだ。

 

「なめんなっ!!」

 

 師匠が怒りを堪えきれずに、金属製の壁を殴りながら叫ぶ。震えながら屈んだ。とても痛そうである。

 

「アクアさんにヒールもらいましょうね」

 

「自分でできらぁ.....」

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

「ここが動力炉か」

 

 機動要塞デストロイヤーの最奥で煌々と光を放ち続ける伝説の宝珠コロナタイト。デストロイヤーの機能が停止した今、その熱エネルギーは行き場を失い膨張を続けていた。これをどうにかしない限り、デストロイヤーの爆発は止めることができない。

 

「どうにかしろったって...」

 

 現在この場には俺と師匠、全体の指揮を取っていたカズマに女神のアクア、そして魔法のスペシャリストとしてウィズが残っていた。他の冒険者達は既に脱出しており、外から様子を伺っている。

 

「なあエビオ、どうにかする手はないか?」

 

「俺にはちょっと厳しいですね..師匠どうです?」

 

「うーん...ぼくの氷魔法じゃ芯まで冷やすのは無理そうだし...封印も厳しそうかも....」

 

「アクア!!お前の女神的なパワーで何とかならんのか?」

 

「えぇ私!?悪いけど無理よ?悪しき者の力を抑えるとかならできるけどただの鉱石封印するのは専門外ね」

 

「なんだよ役たたず」

 

「なぁんですってぇ!?」

 

 こんな時にも仲良くケンカを始める2人を放っておき、視線をウィズに向ける

 

「ウィズさんはどうですか?」

 

「一応手がないことはないのですが...」

 

「ほんとかウィズ!?」

 

「テレポートでコロナタイトをどこかへ送ってしまう方法なんですが....今私が登録している場所はどちらにも人が多くいまして...ランダムテレポートだとどこへ飛ぶか不明なので危険なんですよ...」

 

「まじか....」

 

「師匠のテレポートは?狙ったところに飛べませんっけ?」

 

「予めマーキングしてれば行けるけど、してないなら近くにしか飛べないよ。できるのはここから外に出すくらい」

 

 うーむ.....ん?

 

「外に出てから思いっきり上に打ちあげればいいんじゃないですか?」

 

「おぉ!!...いや、爆発のタイミングが分からなくないか?」

 

「強い衝撃を加えたらすぐ爆発しそう....」

 

「じゃあダメかー...もうワンチャンランダムテレポートで良くないですか?」

 

「...そうだな。ウィズ、お願いできるか?」

 

「えぇ!?ですが..」

 

「大丈夫だ!全責任は俺が取る!俺って結構、運がいいんだぜ?」

 

「...分かりました。『テレポート』!!!」

 

 淡い光に包まれ、コロナタイトは姿を消した。ようやく一段落と言ったところだろうか。

 

「よし!!これで無事一件落着ね!!残ったデストロイヤーの残骸はギルドに何とかしてもらうとして、今度こそ帰って宴会をするわよ!!30億が手に入るんだがら高級シュワシュワ開けてもいいわよねぇ?」

 

「お前は...まあいいか。もう大丈夫だろ」

 

「2回目はさすがにないですよね」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ....

 

 ...デストロイヤーが揺れ始めた。

 

 

「....なあエビオ。これなんだと思う?」

 

「地震じゃないですかね」

 

「そっかー。じゃあ早く机の下にもぐらないとなー」

 

「ん?この世界に地震はないわよ?砂漠地帯の砂の王が地下を通ってるとかならともかく」

 

 アクアがそんなことも知らないのかと言いたげにこちらへ説明をくれた。

 

「じゃあこの揺れはなんだ説明してみろ駄女神!!」

 

 カズマに怒鳴られ、ようやく顔を青くしていくアクア。

 

「とりあえず師匠、みんなを外に送って貰っていいですか」

 

「....あいよー。『テレポート』」

 

 

 

 師匠の魔法で外に出ると、多くの冒険者が不安そうにこちらを見ていた。

 

「おいカズマ無事か!!コロナタイトはどうなった!この揺れはなんだ!?」

 

「落ち着けダクネス、コロナタイトは何とかなったんだが揺れはわからん!」

 

 振り返ってデストロイヤーの残骸を見ると、数箇所の装甲が赤熱化しており、その範囲が徐々に拡大してきている。

 

「お、恐らくですが、デストロイヤー内部に溜まっていた熱エネルギーが外に漏れ出てきているんです。この調子だとアクセル一帯が火の海になるかと...」

 

 一難去って、また一難去ってまた一難。くどい。いい加減地球破壊爆弾の出番だろうか。

 

「エクスさん、魔力を分けてくれませんか?」

 

 ウィズさんが何かを決意した顔で俺に告げた。きっとドレインタッチで魔力を回復しあれを消し飛ばすのだろう。彼女に取ってこの決断は自身の秘密を明かし、もうこの街にはいられなくなることを承知してのものだ。彼女がどれだけこの街を愛しているのかが伺えるが...

 

「俺が死ぬので勘弁してください」

 

「えぇ!?」

 

 何を隠そうこのエクスアルビオ魔力が一切ない。0である。元いた世界でもドレイン系の魔物に何度殺されそうになったものか。魔力がないため初手から生命力を削ってくるドレイン系の魔法は、この英雄の数少ない弱点でもあるのだ。

 

「ウィズ!ドレインタッチなら俺も使える!!あっちの自称女神から吸ってウィズに送れば..」

 

「真打登場!!」

 

 突然背後から声が聞こえた。全員が驚き後ろを振り向くと...

 よく見かけるモヒカン頭の冒険者が立っていた。

 

「....あの、もう大丈夫です。下ろしてもらっていいですよ」

 

 その男の背中からめぐみんが降りてきた。

 

「聞けばアレを消し飛ばせる程の大魔法使いをご所望のようですね!!いいでしょう!!さあカズマ!私に魔力を..」

 

「却下」

 

「...へ?」

 

 美味しいところをかっさらいに来ためぐみんに待ったをかけたのは我らが師匠、アルス・ザ・ビックであった。

 

「おい、今ぼくのことばかにしたか?」

 

「...なんの話ですか師匠」

 

「何を言うのですかアルス!!これは私の仕事で」

 

「カズマさんが皆の前で魔族のスキルを使うのはまずいんじゃない?わざわざそんなに危ない橋を渡る必要はないよ。アレを消し飛ばすくらいぼくにもできる」

 

「んな!?...とうとう正体を表しましたねっ!!美味しい所を持っていこうとしてもそうは行きませんよ!!カズマ!!何か言い返してやってください!!」

 

「ざんねんながらアルスが正しい。お願いできるか?」

 

「もちろん。皆下がってて」

 

 めぐみんがギリギリと歯を食いばりながらカズマに引き摺られて行った。

 

「出番が来て良かったですね師匠。俺もあっちで見てます」

 

「....待って」

 

「はい?」

 

 師匠に呼び止められたが、デストロイヤーの方を向いたままこちらを見ようとしない。

 

「....お前はぼくの弟子なんだからそばで見てて」

 

「...分かりました師匠。頑張ってください!」

 

 師匠は近くにあった木の棒を拾い、それを軸に魔法陣を展開する。

 

「『必壊代償』『魔力増強』『威力強化』『爆発強化』『詠唱強化』『範囲増加』『耐久変換』『多重詠唱』...今できるのはこれくらいかな」

 

 ただの木の棒に8つものエンチャントを重ねがけする師匠。本来ならエンチャント容量を超えたエンチャントをすると、装備が崩れてしまうが、それを無理やり成立させるエンチャントが『必壊代償』だったはずだ。一度の使用の後崩壊するのを条件に無理やりエンチャント容量を増やすそれは、向こうの世界ではメジャーなものではあったが、使える者は限られていた。ここ数日で実用レベルまで理解を深めたのかと思うとなかなか恐ろしいものを感じる。

 

「アルスアルマルが命ず。黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。

 

は?

 

 めぐみんのドスの効いた声が聞こえた気がした。師匠の周囲に魔力の風が吹き荒れ、周囲に魔法陣が乱立する。

 

覚醒の時来たれり 無謬の境界に堕ちしことわり 無業の歪みとなりて現出せよ....エビ先輩、先輩の師匠にできないことはないよ」

 

 イタズラっぽい笑みを浮かべこちらを振り向く師匠。

 つられて思わず笑ってしまう。

 

「穿てっ!!エクスプロージョン!!!!」

 

 即席の杖から放たれた光はデストロイヤーにぶつかり、一拍遅れて本日3度目の爆炎が立ち上る。それは前の2発に比べれば威力も範囲も劣るが、正真正銘の爆裂魔法だった。

 

「...エビ先輩、今の魔法は何点ですか?」

 

 師匠は立ち上る煙を見つめたままこちらへと問いかけた。

 

「百点満点 あげますよ。さすが俺の師匠です」

 

 百点満点の魔法使いは、百億万点の笑顔で振り返った。




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