ダンジョンで修行するのは間違っていない (カユ)
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プロローグ
第一話  原点(オリジン)


走る。走る。走る。

 

 

「ヴモォォォォォォォォォォ!!!!!!!」

 

 

背後から自分に迫っているだろう豚人(オーク)の声が聞こえる。

 

 

「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」

 

 

既に肉体は限界を迎え、足りない酸素を補充しようと肺が悲鳴をあげる。心臓は爆発するかのように鼓動し血液を全身に行きわたらせようとする。

 

まだ7にも満たない身体(からだ)でこの怪物(モンスター)から逃げきれているのは、ここが勝手知ったる村の近くの森であるというのと、追ってくる怪物が己から逃げる幼子(獲物)で遊ぶように敢えて逃がしているからだろう。

 

走っている間にもあらゆる感情が止まることなく溢れてくる。理不尽にも自分達の生活を奪った怪物に怒り、自らの家族と、友人と、村のみんなともう二度と会えなくなったことに絶望する。

 

弱い自分が囁く。逃げたところでどうするのか、と。帰る場所が無くなった自分がこれ以上逃げる必要はあるのか、と。

それでも足を動かすことをやめない。

 

 

「ぁっ……」

 

 

しかし、肉体には限界がある。幼子は木の葉に隠れていた木の根に引っかかり転んでしまう。必死に立ち上がろうとするが、体は言うことをきかない。

 

 

「ブモォォォ!!」

 

 

オークが右手で振りかぶった棍棒を転ぶように避ける。しかし、オークはまるで狙い通りだと言わんばかりに笑みを浮かべ、左脚で幼子を蹴り飛ばす。

 

 

「かはっッ!!!」

  

 

幼子の体は容易く浮かび大樹にぶつかる。その衝撃で肺の中の空気が全て抜けていく。朦朧とする意識を必死に繋ぎ止めようとする。

 

 

 

「ブヒッ」

 

 

自らを嘲笑う声に目を開けると、豚人(オーク)は醜いその顔に笑顔を浮かべゆっくりと歩いてくる。

 

死の恐怖に怯えながらも、何かできないかと思考し続ける。しかし、そこから幼子がどうにかできるわけもない。ただの人の身で怪物に抗うことなど不可能である。まして子供の体ではなおさら。

それでも精神(こころ)だけは屈しないと、決して目を逸らさずにその瞳に強い意思を込め睨む。

 

 

 

 

怪物が手に持つ棍棒を大きく振りかぶり、幼子は生き絶える。

 

 

 

 

 

 

 

これは怪物(モンスター)が蔓延る世界のありふれた話。怪物の群れに攻められ滅びる村。そんなどこにでもある悲劇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくぞ耐えた、幼子よ。後は(わたし)に任せるがよい」

 

「ブモォ……?」

 

目の前には男が立っていた。その男は現れると同時にオークが振りかぶっていた棍棒ごと袈裟斬りに斬りすててしまった。怪物の全身を覆う分厚い筋肉などまるで無かったかのように、静かに、滑らかに。何も力を持ってない者にとって絶望の象徴である怪物を何でもないかのように斬ってしまった。

 

その剣筋は相手を殺すための剣術と言うには余りにも美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはありふれた悲劇などではなく、一人の幼子の原点(オリジン)。剣を極めんとした一人の人間の物語、その序章である。

 

 

 

 




読んで下さりありがとうございます。次回以降はもう少し軽い感じの雰囲気になると思います。


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第二話  今後のこと

次回は軽くなると言いましたが嘘でした。
勝手にそうなっちゃったんです…


起きる。

古びた石でできているであろう天井が目に入る。

周りを見れば天井だけでなく石の壁に石の床、石の机に石の椅子という、ほぼほぼ石のまるで牢獄みたいな部屋だ。

ドアとさっきまで寝ていたベッドだけは石造りではなかった。

 

ふとコツコツと足音がドアの方からしてくる。

 

 

「ふむ、起きたみたいだな。ちょうど夕食しようと思っていたところだ。着いてこい」

 

 

部屋に入ってきたのはとても質素な服を着て、長い黒髪を後ろで結んだ偉丈夫の男だった。彼は詳しい説明もなしにまた出て行こうとする。

しかし今まで見たことがないような美貌だ。彼と比べれば村一番のイケメンと持て囃されていた刀弥でさえも遠く及ばないような…

刀弥って誰だ?

 

 

「ゔぐっ!」

 

 

急に頭を締め付けるような痛みが襲う。それは一瞬ではあったが強烈すぎた。

 

 

「むっ?大丈夫か、幼子よ!?」

 

 

部屋を出て行こうとしていた男がその黒い瞳を見開き慌てて走りよってくる。

 

 

「いえ…大丈夫です。それよりもここは何処でしょうか?」

 

「いや、今の苦しみようは全然大丈夫そうではなかったが…」

 

「本当に大丈夫です。物凄く痛かったですけど、もう痛くありません」

 

「そうか…あまり無理はせずとも良いぞ?あー、ここが何処かという問いに対する答えだがな。ちょうど猪を狩ってきてな?今から昼飯にしようと思っていたのだ。幼子も2日ほど眠っていたのだからお腹が空いてよう?それからというのはどうだ?」

 

 

確かに言われてみるとお腹が空いている。というか認識した瞬間猛烈な空腹感がきた。

 

 

「はい、ご相伴に預かります」

 

「いやそんなに畏まらなくても良いのだが…」

 

「いえ、神様に不敬があってはいけないので」

 

 

そう言った瞬間、男性おそらく神様は目を細め笑った。

 

 

「ほう?なぜそう思った?」

 

「御身から溢れ出る神威を感じたまででございます」

 

 

すると神様はきょとんとした目をし笑った。

 

 

「わっはっはっはっ!!!!!(わたし)は今まで影が薄いだの、もっと剣以外の事にも積極性を持てだの言われたことはあったが、神威が溢れ出ていると言われたのは初めてだ!お前は良い眼を持っているじゃないか!特別に(わたし)の特製スルメもご馳走してやろう!」

 

 

神様が大笑いしながら出ていくので、慌てて着いていく。

 

 

 

廊下も同じく一面石であったが着いて行った先の部屋は木製の暖かい雰囲気の部屋だった。中央に囲炉裏がありその上では、鍋がグツグツと肉と野菜を煮込んでいる。壁には達筆な字で【剣術無双】と書かれた掛け軸が掛けられている。

 

 

 

 

 

「さて、飯も食い終わったことだし、自己紹介としようじゃないか。(わたし)の名前はフツヌシ、剣神をやっている者だ!お前の名は何という?」

 

「わたしの名前は…トウドウ・飛鳥です。来月七歳になるはず…だったと思います」

 

「良い名である。それにしても、七歳というのは(わたし)の知識ではそんなに落ち着いていないし流暢な敬語も話さないはずなのだがな?いや、答えられないのなら答えずともよいのだが」

 

 

思い出そうとする。覚えているのは森の中を走り回る自分。それを追いかけてくる一匹の豚人(オーク)。そしてそれを一刀に斬り捨てた鮮やかな太刀筋、それだけだ。家族や友人の顔と思い出の全てが抜け落ちている。確かに大切なものだったはずなのに、深い喪失感だけが残る。

 

 

「すいません。わたしも…思い出せないのです。思い出せるのは名前と、年齢だけで…」

 

「記憶喪失…か…。覚えていないのなら仕方がない」

 

 

フツヌシ様は痛ましそうに僕を見て頭を撫でて言う。

 

 

(わたし)は時々旅をしていてな。偶々村に寄りかかって見たら村はオークに襲われていたのだ。慌てて生き残りがいないかオークどもを斬りながら村中を回ったが誰もいなくてな。全滅かと諦めていたところに森の方からオークの雄叫びが聞こえて急いで駆けつけたというわけだ」

 

 

フツヌシ様はそう当時の状況を語る。その瞳には後悔の念が宿っている。

 

 

「もう少し早く着けばと思うが、今は悔やんでも仕方なし…か。とりあえず飛鳥の今後を決めなければいけない。そこで提案だが、(わたし)の友神にタケミカヅチという武神がおるのだ。ソイツはお前のような身寄りを無くした子供を引き取り育てていてな。神の中でも飛び抜けた神格者だ。そこなら友人だってできよう。教えを請えば力だって身につくだろう。どうだ?」

 

 

フツヌシ様はそう提案してくる。わざわざ自分の為にここまでしてくれるフツヌシ様が言うのだ。その神様はいわゆる善神という御方なのだろう。武神でもあるようだし、力も身につくかもしれない。友人は…あまり分からないが。

それでも…

 

 

「フツヌシ様に剣を教えて貰えることはできないでしょうか?助けてもらった挙句図々しいことを言っているのは分かっています!ですがどうか!!」

 

 

そう言い土下座をする。何故かは分からないが人に無理を頼む時はこうするのだと記憶にある。無理だというのを分かっていても頼み込む。それほど魅了されてしまったのだ。あの剣の美しさに、あらゆる抵抗を無視するその理不尽さに。記憶もそれに伴う感情も失った自分に残っているのは、無力だった自分を救ったあの一刀だけなのだ。

 

 

「やめよ!やめよ!幼子に土下座させるなど(わたし)の罪悪感がすごい!」

 

「ですが!」

 

「分かった、分かった!お前を弟子にしてやる!面倒も見てやろう!だから土下座を止めるのだ!」

 

 

その言葉に顔をあげる。そしてフツヌシ様は土下座をやめた自分に安堵するかのように一息つき宥めるように言った。

 

 

「とりあえずお前を弟子にすることは了解した。が、もう幼子にとっては夜も遅い。お前はもう寝るのだ。色々なことは明日決めるぞ?」

 

「はい!」

 




これオラリア行くの後3話ぐらいはかかりそうだな(白目


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第三話  眷族(ファミリア)

今回は区切りがいいので二話に分けて投稿します。



起きる

 

視界に入るのは相変わらず一面石造りの部屋だ。昨日は剣を教えてもらえることにワクワクして眠れなかった。結局眠くなったのはかれこれベッドに入って一時間は経った後だっただろうか? 

 

ベッドから起き上がり伸びをする。文句を言ってはいけないのだろうが、自分にとって結構ベッドが堅かったのも、昨日なかなか眠れなかった理由の一つでもあるかもしれない。

 

部屋を出て昨日夕食を食べた居間に移動する。そこには既にフツヌシ様がいてお粥を作っていた。

 

 

「フツヌシ様、おはようございます」

 

「おぉ、おはよう飛鳥よ。今すぐにでも剣を振りたいという顔をしてるが、まずは朝飯を食べてからだ。お前は剣の話の時になると分かりやすく感情が表に出てくるなぁ」

 

 

フツヌシ様が呆れたように言う。自分はそんなにも分かりやすいのだろうか?と考えながら座る。頂いたお粥には卵も入っていて、塩の塩梅がちょうどよく優しい味がした。

 

 

「よしっ!そこに寝転がれ!神の恩恵(ファルナ)を刻むぞ」

 

「弟子にしていただけるだけでなく神の恩恵(ファルナ)も…!?」

 

 

弟子にしてもらうだけで嬉しいのに眷族(ファミリア)にもして貰える…!めちゃくちゃうれしい…!

 

 

「ですが、眷族(ファミリア)に入れていただくなら団長にも認めてもらわなくてはいけないのでは?」

 

 

そう言うとフツヌシ様は頭を掻きみだして言った。

 

 

「だぁぁぁっっっ!!!!!昨日もそうだが!幼子がいちいち細かいことを気にするんじゃない!!こんなところに一人で住んでる(わたし)に眷属がいるわけないだろう!?それと眷属になる以上は家族みたいなものなのだから、その仰々しい敬語も禁止だ!分かったな!?」

 

「は、はい…!」

 

 

あまりの剣幕に反射的に頷いてしまった。自らの命の恩人であり神様でもあるフツヌシ様への敬意を表すには、尊敬語でも足りないくらいだが本神が言うのなら丁寧語ぐらいで我慢しよう。

 

早く寝転がれと急かすフツヌシ様の言う通りに、服を脱ぎうつ伏せになる。フツヌシ様は壁に立てかけてあった刀を手に取り、鞘から抜いて横に立つ。

 

 

「では、これより恩恵を刻む。準備は良いな?」

 

「はい!」

 

 

そう返事を返すと背中に熱い液体がかかる感覚がした。

 

 

「むぅ…!」

 

「どうしましたか?」

 

「よかったな飛鳥、お前は間違いなく強くなれるぞ!今に写すからしばし待て!」

 

 

そう言うと棚から紙を取り出し、書き写したあとに渡してきた。

 

 

 

 

 

トウドウ・飛鳥

 

Lev.1

 

力 :I0

 

耐久:I0

 

器用:I0

 

敏捷:I0

 

魔力:I0

 

《魔法》

【】

【】

 

《スキル》

求道者(ソード・アトラクティッド)

・全アビリティの上昇率の高域化

・必要睡眠時間の減少

・肉体回復速度の上昇

 

 

 

 

「これは…つまり鍛錬しほうだいということですよね!?」

 

「うむ!寝る時間が減って早く回復するなど、武道者ならば誰もが欲しがるであろうレアスキルであることは間違いないな!さっそく今日から修行だ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

フツヌシ様と一緒に抑えきれない興奮を胸に外へ出る。

ひたすら修行だ。これから始めるのだ。いずれあの美しい剣に至るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
がちがちに小説を読んだわけじゃないので(もちろん改めて色々調べながら書いていますが)、設定など間違ってる場所などがあったら教えてくださるととても嬉しいです。


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第四話  剣の天稟(ソード・ギフテッド)

side 剣神(フツヌシ)

 

 

幼子、飛鳥を弟子兼眷族(ファミリア)にしてから一年が経った。当初は剣を振ったことしかない自分が子供を育てることができるか不安だったが、その思いは良い意味で裏切られることになった。

 

あまりにも良い子だったのだ。飛鳥が失っていたのは家族や友人の顔と思い出だけであり、一般常識やおそらく学んでいたであろう物事はしっかり覚えていたのだ。いや、顔や思い出を忘れていることは決して「だけ」とは言えないのだが。

 

そして精神的には、その年にしてはあり得ないほど聡明であり、大人びた性格をしていた。出会った当初の言葉遣いや態度を見れば分かりきっていたことだが。

 

 

「はぁっ、はぁっ!フツヌシ様…!隣山までの往復終わりました…!」

 

「よしっ、10分休憩だ!」

 

「はいっ」

 

息切れをしている飛鳥が膝に手をつきながら報告してくる。

あれからひたすら修練を積んだ飛鳥は肉体的、というか【ステイタス】という面では圧倒的な進化をしている。

 

 

 

トウドウ・飛鳥

 

Lev.1

 

力 :S 915

 

耐久:S 999

 

器用:S 999

 

敏捷:S 904

 

魔力:I0

 

《魔法》

【】

【】

 

《スキル》

求道者(ソード・アトラクティッド)

・全アビリティの上昇率の高域化

・必要睡眠時間の減少

・肉体回復速度の上昇

 

 

 

 

魔力は魔法が無いのだから当然とはいえ、それを除いたアビリティオールS。これが異常だというのは眷属がいたことがない自分でも分かる。伝え聞いた話によると、通常アビリティの伸びには個人差があり、伸びにくい項目のアビリティがあるという。しかし、スキルによって伸びにくい項目が消えるうえにおそらく伸び自体もよくなっている。一柱の武道家としては下記二つのスキルに注目していたのだが、一番やばいのは間違いなく、「全アビリティの上昇率の高域化」という効果だった。

 

 

 

そんなことを考えているうちに、おそらく10分ほど経っただろう。

手作りの竹刀を二つ取り片方を寝転がっている飛鳥に渡す。

 

 

「ほら、立て飛鳥!打ち合い稽古だ」

 

「はい!」

 

 

飛鳥は立ち上がり竹刀を構える。そこにいたのは何もできない幼子ではなく一端の剣士だった。

 

「行くぞっ!」

 

 

手始めに距離を詰め上段から斬り下す。飛鳥は身体を右にずらし避けたあと左下からの斬り上げをしてくる。それを身体を横にずらしギリギリで避ける。

 

「ハァッ!」

 

「避けの動作が大きい!もっと相手の剣の軌道を見ろ!そのせいで攻撃までの切り替えが遅くなってるぞ!!」

 

「はい!…ふっ!!」

 

 

今度は飛鳥の方から斬りかかってくる。上段からの振り下ろし、それを左に避けようとすると剣の軌道が横薙ぎに()()()

一度本気で振り下ろした剣の軌道を変えるなど、ステイタスという力が無ければできぬこと。普通なら想定外の動きであり、こちらは大きく避けることになり致命的な隙をさらしてしまうか、何もできず一太刀を浴びることになるかの二択だろう。

しかし…

 

 

「なっ!!!」

 

「甘い!」

 

自らの竹刀を飛鳥の竹刀に重ね、飛鳥の横薙ぎを柔らかく受け流し縦の軌道に変える。後ろに流した竹刀を上段に持ち上げ、バランスを崩した飛鳥の首に添える。

 

 

「終わりだ。」

 

「参り…ました」

 

 

降参の声に竹刀を下す。呆然としていた飛鳥は次第に頬を赤くし興奮した様子で詰め寄ってくる。

 

 

「今のすごいですフツヌシ様!速さを全く変えずに横薙ぎに変えたのに、それに竹刀を完璧に合わせて逸らすとか人間業じゃないですよ!」

 

「まぁ、神だしな」

 

「でも身体能力は一般人と同じぐらいなのに…!今のフツヌシ様には全く見えないはずの速さで、それを避けるでも防ぐでもなく、受け流すなんて!しかも横薙ぎを縦に変えられたのに違和感が全然なくて、こちらは体制を崩すことになって…!」

 

「当然力で無理やり軌道を変えても勝てないしな!飛鳥の刃先の向きを変えることであくまでお前の力を利用した形になるわけだ。目に見えないのはあれだ、感覚で合わせれば大丈夫だ!」

 

「すごすぎる…!!!」

 

 

飛鳥の尊敬の視線を浴びながら、冷や汗が出てくるのを感じる。さっきの剣は軌道が曲がったにも関わらず速度がほとんど変わっていなかった。通常無理に変えてしまえば速度は明らかに落ちてしまう。ましてや、それでも円を描く程度の曲がり具合なのだ。それがなんだあの角度は?直角とまではいかなくとも70度は曲がっていた。

お前はできないかと問われればできると言えるだろう。なにせ(わたし)は剣神であり、その業だけでかつて見た第一級冒険者と対等に戦うことだってできる。友神のタケミカヅチもできるだろう。

しかし飛鳥は()()()()()()()()()()()()()の今年八歳になる、ぎりぎり幼子を卒業したといえるくらいの少年なのだ。

 

その天稟とも呼ぶべき剣の才能に興奮を覚える。神は不変だ。故に剣神である自分の剣技がこれ以上極まることなどないし、肉体など言うまでもない。このまま成長すればこの少年の剣技は、間違いなく神域に足を踏みいれることができるだろう。人は無限に成長する。だからこそその輝きに神々(わたしたち)は熱狂するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

では、もしその先にさえも至ってしまったら?

神も知らぬ領域に至ったとき、その業は…どれほどのモノなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フツヌシ様?」

 

「ッ?!」

 

「どこか怪我しましたか?」

 

 

飛鳥の心配する声に飛んでいた意識が戻る。飛鳥に何処も怪我していないと伝え頭を撫でる。そうだ。確かにこの子の才能は驚異的だが、それでもそれ以前に()としてこの子には幸せであって欲しい。そこに神の身勝手な思いを押し付けてはいけない。自分はただこの子の幸せの為に剣を教えるのだ。自らの身を守れるように、大切なものができたときにそれを守れるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。というわけでフツヌシ様もまた神であったわけです。
ダンまちの世界において神は不変であり、武神であり武闘家なら自分がそれ以上強くなることは無いと言われたらどう思うのか?という私なりの解釈で書きまたした。(結果神らしいとも言える、人類が自分より強くなるのを望んでしまうという傲慢さ)
本当はただの修行パートだったのに、勝手にフツヌシ様がそう思考してました。

次回よりめちゃくちゃ重要な章が始まります。簡単に言えば、幼少期のアイズと飛鳥の邂逅ですね。バチバチのオリ展開です。そこでアイズに一つの楔が打たれ、そして飛鳥の飛躍が始まります。アイズと飛鳥は同じ歳であり、アイズが八歳、つまり黒いワイバーンを倒してLvel2になってすぐの時系列となってます。


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月下の誓い
第五話  予感


実は当初の予定では幼少期にアイズと絡ませるつもりは無かったんです。ですが、アイズ・ヴァレンシュタインが急に誰かのことを好きになるというところが想像できず…(実際原作だと18巻まで進んでも、気になっているや可愛がっているという感じはしても、ベルのことを好きとは表現されていないんですし)ちょっとでもアイズが主人公を好きになる過程とかを書きたいと思ったので変更したという裏話があります…
実はアイズの幼少期を知る為に慌ててソードオラトリア9巻を買って読みました。


side妖精の王女(リヴェリア)

 

 

今回の事の顛末はこうだ。

【ステイタス】が上がらなくなったアイズはより強くなる方法、つまり【ランクアップ】の方法を知りたがったが、フィン達との話し合いの結果、今のアイズに偉業の達成を教えるのは危険だ、と判断した。しかし、どこぞの軽薄な神がアイズに教えてしまい、アイズは一人での迷宮探索(ダンジョンアタック)を決行してしまった。

 

そこに───邪神が現れた。

その邪神はアイズに力を与えるなどとのたまい、闇派閥(イヴィルス)に勧誘した。それを断られた邪神はあろうことか迷宮内で【神威】を解放した。

迷宮(ダンジョン)は神を憎んでいる。自らの中に入り込み神の力(アルカナム)を使用した神を滅ぼさんと()()()()()()()()を生み出した。

 

私が駆け付けた時アイズは死ぬ直前だった。教えていなかった【エアリアル】の存在を叫べば、アイズはその強力すぎる魔法の力を使い黒いワイヴァーンを倒してしまった。

そうして、アイズは弱冠八歳にしてレベル2へと至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回は流石に何のお咎めも無しというわけにはいかない。それはアイズも分かってくれるかい?」

 

「うん…」

 

フィンが柔和な笑みで言ったことに、アイズは俯きながら小さく返事を返す。

ロキ・ファミリアの拠点である、黄昏の館の団長室にてロキやフィン、ガレスの四人で話し合ったことを伝える。

 

「罰としてアイズには一月ほど剣士の聖地ヴァルサにリヴェリアと行ってもらう」

 

「ぇ?」

 

「これは決定事項だ。変わることはない」

 

「な!なんで!?そんなの絶対に嫌!私は…!ダンジョンでもっと強くならないといけないのに…!!」

 

俯いていた顔を上げてフィンを睨むアイズ。みなアイズの悲願(ねがい)は知っている。そのうえで()()()()()()()()と判断した。

アイズに目線を合わせて言う。

 

「アイズ、私たちだってお前の強くなりたいという思いは知っている。だからロキだってお前に神の恩恵(ファルナ)を刻んだのだし、私たちも家族として受け入れた。なぁ…アイズよ、私たちが家族を心配することはいけないことか?」

 

「で、でも…」

 

「だから───お前ができるだけ安全に偉業を成すにはどうすればよいのかを考えた。そして、お前のレベル以外の力、業をさらに上げれば良いという結論に至った。剣士の聖地と呼ばれるヴァルサならば、お前はさらに上にいけるはずだ」

 

「それと、今回の事件があった以上君をオラリオ(ここ)においておくのが怖いという理由もある。彼は誘いに乗らなかった君を【神威】を解放してまで始末しようとしたわけだからね。今回僕たちは闇派閥(イヴィルス)の対応に追われてリヴェリアしか助けにやれなかった。」

 

フィンが理由を付け足す。正直ここまで理由を話してもアイズが頷くかは賭けだ。なにせこの子ならせっかくレベルが上がったのだから、迷宮に籠って【ステイタス】を上げた方がいいと言いかねん。

 

「…そこにいけばほんとうに強くなれる?」

 

「あぁ、それは保証しよう」

 

「わかった。じゃあ、行く」

 

悩む様子を見せながらも、私の顔を見るとアイズは頷いた。それと同時にアイズ以外の全員が安堵の息を吐き脱力した。

 

「ぃよっし!!ナイスやリヴェリア!完全に子供を心配するお母さんの顔やったで!さすがのアイズたんも今の顔にはイチコロや!!」

 

「誰がお母さんだ。アイズ、出発は明後日だ。この話を知っているのはここにいる私たちだけだ、他の団員には言ってはいけない。いいな?」

 

こくりと頷き部屋を出ていくアイズの腰には「アイズたんの柔肌を一か月は触れなくなるんやから今のうちに堪能させてや~」などと言いながら引っ付いてるロキがいるが気にせず引き摺っている。

 

アイズとロキが出ていくと、今までずっと黙っていたガレスが髭を触りながら口を開く。

 

「それにしても九魔姫(リヴェリア)と仮にもレベル2になったアイズがオラリオの外に出るのをよくあのロイマンが許してくれたのぅ」

 

「ロキが言うには、ずっと強制任務(ミッション)だの冒険者依頼(クエスト)だの受けているのだから文句は言わせない、とのことらしいよ」

 

「それだとあやつが顔を真っ赤にして怒っている姿が想像できるのぅ」

 

がっはっはとガレスが愉快そうに笑う。フィンが真面目な顔に切り替えてこちらを見る。

 

 

「それじゃ、アイズを頼んだよ」

 

「───あぁ、任せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

side 剣神(もう一人の保護者)

 

 

 

「なぁ飛鳥、剣士の聖地ヴァルサって知ってるか?」

 

「知りません!けどなんですかそのワクワクする名前の場所は!?」

 

普段は大人しい癖に剣の話になると急に子供らしくなる飛鳥。正直もっと子供らしく色んなことに興味を持って欲しいと思うのは()として仕方ないことだろう。

結果的に会話は基本的に剣の話になる。

まぁ取り敢えず剣の話をすれば元気になるのでそういう扱いやすいところはまだまだ子供と言える。

 

「古代に多くの英雄たる剣士を輩出した地だ。今も多くの剣士が集い日々修練を重ねていると聞く」

 

「英雄…剣士…!」

 

飛鳥のきらきらした目を見つめながら言う。

 

 

 

 

「飛鳥!旅に出るぞ!行き先は、剣士の聖地ヴァルサだ!!!」

 

「えぇっ!!??」

 

 

 

 

 

 

 




最初のアイズのレベルアップのお話はソードオラトリア9巻の内容です。そちらの主題は「家族愛」といったものでしたが、こちらでは敢えて書きませんでした。ぜひ原作の方を読んで確認してみてください…!あぁこうやってアイズはリヴェリア達を家族として受け入れていったんだなぁって思いました。

いよいよやっとアイズ(幼少期)と出会います…、
当初の予定じゃ三話目ぐらいで15歳ぐらいになっててオラリアにいる予定だったんですけどね…


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第六話  邂逅

アイズはリヴェリア達のことを家族として認めたというのと、なんだかんだいってレベル2にランクアップして、一時的に精神に余裕ができているという解釈をしてます。作中でも、リヴェリア達と一緒にいると年相応になるという描写がありましたし。
そして主人公ですが、一年ほどフツヌシ様と家族として生活し、当初と比べるとずいぶん子供らしくなっています。


がたごと、がたごとと少しだけ馬車が揺れる。

フツヌシ様には長時間馬車の揺れでお尻を打ったりするのはキツいらしく、今回は比較的揺れが少ない中級馬車での旅となった。運賃が割高になるが、馬車に乗るのは二組までで、クッションや軽食がついてくる。ちょっと背伸びした農民や冒険者が使うような馬車だ。更に上には、中に乗るのは一組だけで、まるで高級宿屋のような内装をした上級馬車というのもあるらしい。まぁ僕には縁は無いと思うけど。

 

フツヌシ様の家は村の外れにあり、村の近くに現れた魔物を狩ったり、僕が【ステイタス】を使い力仕事を手伝ったりして、金銭を稼いでいる。しかし、田舎の村にお金を使う機会などあまり無く、それが理由で今回は少し奮発して中級馬車を利用したわけだ。

 

そんな風に色々考えながら備え付けの窓から外の景色を眺めていたのだが…

一年ほど修行した末に身に付いた感覚が、先ほどから対面に座っている女の子から見られていると訴える。

 

 

自分達がこの馬車に乗り込んだあと、ぼろぼろのローブを深く被った女性と子供が入ってきて、二組が揃ったので出発することになったのだ。

 

大人の女性はボロボロのローブでは隠せないような気品があり、逆にそのアンバランスさで違和感がすごかった。女の子の方は馬車に入った瞬間、「動きにくい」と言ってローブを脱ぎ、その行動に大人の女性がため息をついていた。

 

その女の子は、馬車の中で日が当たっていないにも関わらず光っていると錯覚するほど綺麗な金髪で、宝石のように綺麗な金色の瞳をしている。少しタレ目ぎみの眼が眠そうな、それでいて柔らかい印象を与える。

神様と同じぐらい顔が整っている人を初めて見たのでつい見惚れてしまった。

しかし、フツヌシ様と間違いなく厄介事であると目でアイコンタクトをし、空気と一体化していたのだが…

 

じーー

やはり物凄く見られている気がする。

ローブを被って中級馬車まで使って目立たないようにしているあちらとしても、あまりこちらには関わりたく無いはずなのだから、自分を見ているわけがない!と納得させて勇気を出してチラ見してみる…

 

————見られてました。物凄く目が合ってます。

すると女の子はその小さく形のよい口を動かし聞いてきた。

 

「あなたも冒険者なの?」

 

「え?」

 

「だって、剣持ってる」

 

予想外の質問に一瞬答えに詰まる。いや驚いた理由は冒険者だと当てられたからでは無く、この綺麗な女の子から「も」という言葉が出てきたからなのだが。つまり…

 

「えっと…冒険者ではないけど神様から恩恵(ファルナ)は貰ってるよ?そういう君はもしかして冒険者…だったりする?」

 

「そう」

 

「そうなんだ!この年ぐらいで恩恵(ファルナ)を貰っている子とははじめて会うよ。よろしく」

 

「アイズ」

 

「へ?」

 

「わたしの名前はアイズ・ヴァレンシュタイン」

 

「あ、あぁ名前ね。僕の名前はトウドウ・飛鳥。極東出身だから飛鳥の方が名前だよ。よろしくねアイズちゃん」

 

「アイズちゃんじゃなくて、アイズって呼んで。ロキを思い出す」

 

「アイズ?」

 

あ、この子天然だ。名前を呼ぶと満足そうな顔で頷くアイズにそう確信する。ロキというのは誰か分からないがひどく嫌われているらしい。別にこのぐらいの年齢でちゃんづけで呼ばれているのは普通だと思うが。

 

「レベルアップはした?」

 

「いや、アビリティはもう良い感じなんだけどね。偉業をまだ達成していないからまだレベル1だよ」

 

「わたしはもうレベル2。前上がった」

 

「…ホント?」

 

本当のことだというアイズに驚愕の目を向けると、胸を張ってドヤ顔をする。相変わらず眠そうな眼によって生意気そうな仕草をしてもただ可愛いという感想しか出てこないのだが。

 

しかし本当に驚くことべきことだ。何せレベルアップというのは、神に讃えられるような偉業を成さなければできないと聞いている。それを自分と同い年ぐらいに見える女の子が成したと言っているのだ。この子はただ可愛い女の子ではないということなのだろう。

 

すると隣でアイズと喋っている僕に生暖かい目を向けていたフツヌシ様が驚いたように呟く。

 

「レベル2…だと…!?」

 

アイズの隣に座っていた女性が深い、それはもう深いため息をつきアイズに拳骨をする。

 

「アイズ、何の為に誰にも言わずにこのローブを被ってまで来たと思っている」

 

「あ…」

 

凛々しい声で女性は注意を促す。そしてローブを脱ぎ…

 

 

 

その下に隠れていたのは美しく鋭利な容貌だった。エメラルドのような美しい髪と瞳を持ち、その耳は鋭く尖っていた。はじめて見たが、魔法に長け美しい容貌の者が多いと噂に聞く妖精(エルフ)だろう。

 

「すまない、そちらにいるのは神とお見受けする。私の名前はリヴェリア・リヨス・アールヴだ。貴方の名前を聞かせてもらえないだろうか?」

 

(わたし)の名前はフツヌシという。しかし、妖精の王族(アールヴ)だと?なぜそのような者が護衛もつけずにこんなところにいる?」

 

「私はこう見えてロキ・ファミリアのLevel5の冒険者だ。

安全という面では問題ない。とはいえ目立つわけにはいかないので、こうしてお忍びで来ていた」

 

「ロキ・ファミリア…。確かゼウスとヘラの後釜に納まったというファミリアだったか?そんな者がここにいる理由は聞かない方がいいか?」

 

「詳しい事情は言えないのだが、目的はこの子の修行のためだ。一ヶ月ほど剣士の聖地と呼ばれているというヴァルサへ滞在しようと思っている」

 

「なるほど、それは奇遇だ。実は(わたし)たちも飛鳥にそろそろ剣士としての経験を積ませようと思って、ヴァルサに向かう途中なのだ。同い年ということだし、是非その娘には我が弟子と仲良くしてほしいのだが…」

 

 

 

 

 

「その前に一つ、お前に聞かねばいけぬことがある」

 

フツヌシ様は居住まいを正すと鋭い瞳をリヴェリア様に向ける。

 

「このような幼子がレベルアップなどというものをしたのは何故だ?このような子供がレベルアップするのにどこまで追い詰めた?」

 

 

 

「ちがう!!リヴァリアは悪くない!強くなりたいわたしをリヴェリア達は手伝ってくれてるだけ!」

 

アイズが瞳を大きく開き、フツヌシ様に叫ぶ。

その声にフツヌシ様はアイズを見る。

 

「なぜそうまでして力を求める?」

 

アイズは鬼気迫る表情で言った。

 

「強くなるため…!悲願(ねがい)を叶えるために力がいる!怪物(モンスター)を殺すための力が…!」

 

その表情に戦慄を抱く。先程まで得意げな顔をしていた幼い少女はおらず、そこにいたのは一人の復讐者(アヴェンジャー)だった。その瞳に宿る途方もない憎悪になぜかこちらの胸が痛くなる。

 

「止めることはできない…か」

 

フツヌシ様はそう呟き瞑目する。

 

「お前たちを誤解してしまったようだ。謝罪しようリヴェリア、すまなかった」

 

「いや…そう誤解されてしまうのも仕方ないだろうさ」

 

リヴェリア様は哀しそうに目を伏せる。

 

その姿を見てアイズもまた親に叱られた子供のように俯く。その瞳にはやはり強い憎悪が宿っていたが、同時にどこか迷子の子供のようにも見えた。

 

 

そこからは誰も口を開かず、無言の空間だけが広がる。

がたごと、がたごとと小さな馬車の音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あれ?何でこんな空気悪くなってるの?

主人公こと飛鳥君ですが、強くなるためには知識も大事であるという考えのもと、しっかり色々なことを勉強しているので、アールヴがエルフの王族というのもしっかり理解しています。本当に8歳の子供か?


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第七話  男なら

適当に書いてたあらすじ欄を変えました。
めちゃくちゃ重要なことですが、
・オラリオでロキ・ファミリアに入る。
・『死の七日間』に介入する
というのは今のところ決めています。
アストレア・レコードを読んだことない人は絶対読むべき。本当に泣けます。


 

 

 

少しずつ揺れがゆっくりになっていた馬車がついに止まる。御車台から中継地点の村に着いたという大きな声が聞こえる。その声に応じて外へ出る。まだ夕暮れになりかけぐらいの時間だが、今日はこのタンザ村に泊まり明日ヴァルサへ到着予定だ。

ヴァルサへ行く者達はみんなこの村を通っていく。ヴァルサは剣士の聖地としては有名だが、町としては普通の規模なため、中継地点にあるこの村も特別発展してる訳ではないそうだ。宿屋がニ・三軒建っているだけの長閑(のどか)な村だ。街道沿いのため治安は良く怪物(モンスター)もほぼ出ず、木の柵が囲うだけとなっている。その周りには黄金色の小麦畑が広がっている。どこか懐かしいような気分になる。

 

しかしそんなタンザ村の穏やかな空気とは反対に、馬車の中の暗い雰囲気のまま無言で歩いていく。宿屋まで案内してくれている御者は背後の空気に気付かず、タンザ村の特産は小麦だの、ここは自分の故郷であるなどと、あれこれと明るく説明してくれる。いや、彼は気付いていて敢えて空気を変えようとしてくれているのかもしれない。

 

 

後方を歩きながらアイズの後ろ姿を眺める。思い出すのは、先程の彼女が見せた強い憎しみの表情。どこまでも暗く、昏い瞳。まだ八歳の少女が浮かべてはいけないような表情。いや、少女であるとか関係なしに、今まで見たことがない顔。けれど、何故かそれに共感してしまうような、決して他人事じゃないような気持ちになる。

 

「今日泊まっていただくのは黄金の小麦亭というところでしてね。そこは何と言ってもタンザ村特産の小麦を使ったパンが絶品で────」

 

御者の人が身振り手振りで説明してくれている。しかし、頭の中を巡っているのはアイズのこと。喋ったのは少しだけだったけれど、悪い子ではないというのだけは確信を持てた。

ふと頭の中に()()()()()が浮かんできた。男なら女の子が悩んでたら慰めろ。誰の言葉かは思い出せないけど、その人の事を尊敬していたということだけは覚えている。

だから…

 

 

「アイズがなんでそんなに力を求めているのか、今日初めて会ったばかりの僕には分からない。でも、君が焦っているのは分かる」

 

立ち止まって呟く。【ステイタス】を持っているアイズとリヴェリア様にしか聞こえないぐらいの小さな声で。その声にアイズは振り返り、訝しげにこちらを見る。

 

「だから…今から勝負をしよう」

 

「ぇ?」

 

「焦っているときは剣を振るのが一番いいっていうのが僕の持論なんだ。すみませんリヴェリア様、少しだけアイズを借ります!」

 

アイズの手を握り走り出す。彼女は困惑している様子だけど手を振り払おうとはしない。

 

 

 

自分も、ふとした瞬間にどうしようもなく焦燥感を感じる時がある。それは寝る前だったり、食事をしている時だったり、様々だ。けれどそういう時は剣を取り外に出る。無心でひたすら剣を振るっていると、気が付けば焦りなどの感情は消えてなくなる。

 

自分には彼女が泣くのを我慢しているように見えた。迷子になって不安なのに、強がって必死に涙を堪えている、そんな小さな子供。まだ会ったばかりの自分が泣いてもいいんだよ、なんて言っても通じないだろう。自分は彼女とそこまでの信頼関係を築けていない。だから、気持ちの誤魔化し方を教えることにした。

 

 

背後からはフツヌシ様の困惑した声が聞こえる。

 

「ごめんなさいフツヌシ様!ちょっと来る途中にあった村の外のところに行ってきます!」

 

街道沿いの、村から走って五分ほどのところにあった開けた場所に向かう。素振りならともかく、村の中で勝負をするわけにはいかない。そこなら誰にも気を遣わずに剣を振ることができるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 剣神(フツヌシ)

 

飛鳥が何か呟いたと思ったら、勝負をするなどと言い出して娘を連れて行ってしまった。今まで同世代の子供と一切関わりを持ってこなかったからなのか、距離感を盛大に間違っている。

 

「おい急に何言っている飛鳥!…すまないな、うちの弟子が勝手にお前のところの娘を連れて行って。普段は初対面の子にあんなことはしないんだが…」

 

「いや、大丈夫だ。神フツヌシよ。少年はアイズを心配してくれたようだ。むしろあの子を心配するならあれくらい強引なほうがいい」

 

「そう言ってくれると助かるのだがな…」

 

「それにしても良く相手の事を見ているし、アイズ相手に引っ張れる胆力もある。どういう教育をしたらあのような聡明な子に育つのだ?実は小人族(パルゥム)で、もうすぐ成人と言われても私は驚かないぞ」

 

リヴェリアは感心したように言う。しかし(わたし)が出会った時には既に年不相応な賢さだった。記憶もなく、これからどうなるかも分からなくて不安なはずなのに、あの年齢の子にはありえないほど落ち着いて考え、自分がどうするかを冷静に考えていた。飛鳥の過去は知らない。あいつがどんな性格で、どんな風に笑っていたのか。飛鳥は元からあそこまで賢かったのか?それとも全てを失ったが故に大人にならざるを得なくなったのか。

時々思うのだ。もし村が怪物(モンスター)に襲われることなく、普通に育っていたのなら、この子は剣を執ることなどなかったのではないかと。

 

「飛鳥は記憶喪失だ。七歳より以前の記憶を持たない」

 

「なに?」

 

「村が怪物(モンスター)に襲われ、最後の生き残りのあの子を保護して引き取った。目覚めた時、あいつは(わたし)に剣を教えてほしいと頼みこんできたのだ。忘れているというより、心が無意識の内に思い出さないようにしている、といった感じか。だから、(わたし)もあいつの過去は知らない」

 

彼女は絶句した様子で声を失っている。飛鳥が思い出さないようにしている光景とはどれほどのものだろう?家族や友人との思い出を失ってまで、思いだしたくない記憶とは。

 

「飛鳥は思い出せなくとも、娘のあの怪物(モンスター)への憎悪に、何かを感じたのだろう」

 

彼女は悲しそうな表情で走っていく二人の背中を見て言う。

 

「どうしても思ってしまうな。なぜ…ただ普通に生きる子供たちがこんなにも辛い思いをしなければいけないのか、と」

 

(わたし)も…何度そう思ったことか分からない。しかし、過去を変えることは今の(わたし)にはできない。神の力(アルカナム)を持たぬこの身でできるのは、あいつに剣を教えることだけよ」

 

 

 

飛鳥に遮られる形になっていた御者の男は気を利かせてくれたのか、話を聞かないように途中から少し離れて待ってくれていた。その男に改めて案内を頼む。

 

「さて、荷物を宿に預けてあいつらを追いかけるとしよう。師として、(わたし)たちは勝負を見守らなければいけまい?」

 

「あぁ、行こう…」

 

 

 

 




ぶっちゃけこの頃のアイズって荒みまくっているから、大体シリアスになってしまう。ということでこの章は大体シリアスです。というかオラリオ行っても『死の七日間』だからしばらくシリアス?


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第八話  勝負

投稿頻度など割と重要なことを活動報告にて載せているので、この作品に興味を持って下さっているほんとうに有難い読者様はそちらをご覧になってください。





 

 

 

広場に着いた。

僕はあの日から一年間寝る間もなく剣を振り続けてきた。

考えることは常に剣のことばかりで、ここを通った時もこの広さだったらフツヌシ様と打ち合い稽古をするのに十分な広さだなとか、村からも比較的近いから鍛錬の場所に最適だなとか反射的に考えてしまっていたのだ。

 

「ここなら思う存分動けるでしょ?あ、でも真剣は危ないからこの竹刀を使ってね」

 

アイズは頷いて竹刀を受け取る。いつでもどこでもフツヌシ様と稽古ができるように竹刀は常にニ本持ち歩いている。フツヌシ様ならまだしも、【ステイタス】を持った僕の力では普通の竹刀じゃ当然耐えらないので、特別な竹を編んで作ったらしい。

 

「でも…いいの?わたしはレベル2だよ?あなたじゃ怪我するかも。手加減は…苦手だから」

 

「大丈夫、レベル1の差ぐらいなら剣の業でどうにでもなる事を教えてあげるよ」

 

当然のように戦うのには乗り気な辺り、やはりアイズもストレスが溜まっていたらしい。心配する言葉とは対照的に、竹刀を振って加減を調節しているやる気満々な彼女に苦笑いする。

しかし、剣の業だけで圧倒的な力の差を覆すフツヌシ様(化け物)に師事しているのだ。神様はよく第一級冒険者までなら戦えるなどと意味分からないことを豪語している。その弟子である自分ならレベル差一つぐらいはどうにかしなくはいけないだろう。それと、レベル差というのがどれだけ力が違うというのかを体感したかったので、敢えて挑発するように言った。

 

「じゃあやろう」

 

思惑通り彼女はムッとした顔をし、やる気を漲らせてくる。その単純さに子供らしさを感じ、微笑ましい気持ちになる。

 

 

 

「この石を上に投げて地面に落ちたら開始だ」

 

その言葉と共に石を空高く投げる。お互いに剣を構えて相手の目を睨みつける。

 

───石が落ちる音がする。

 

「ッッ!!」

 

疾い!

瞬間アイズが走り寄ってくる。想定していたより速い動きに一瞬反応が遅れる。顔に向かって伸びてきた竹刀をギリギリで避ける。最初から顔は本当に手加減無しというか殺しにきてないか?!

体制を崩した僕に彼女の連撃が襲う。それを出来うる限り最小の動きで避ける。どんな動きをするのか分からないので、初見の相手なら出来る限り余裕を持って避けたいのだが、大きく避ければ彼女の次の動きに追いつけないのでそれはできない。

ひたすら避け続ける。少しずつだが目が慣れてきた。今の自分じゃ真似出来ないほどの連撃だが、見えないほどではない。彼女の竹刀に僕の竹刀を合わせて受け流す。あの日、僕の竹刀を受け流したフツヌシ様の真似。

 

「ここだっ!」

 

受け流されると思っていなかったのか、驚いている彼女の胴に竹刀を振るう。

 

──決まった。

 

その確信は一瞬で驚愕に変わる。

 

「なっ!!」

 

アイズは今までで一番の反射と速さでもって避けて僕から距離を取る。

 

「危なかった…!」

 

彼女は驚いているようだが、こちらも冷や汗が出る。まだ速くなるのか、と。これが【ステイタス】の差。

なるほど、これならばレベルが下の者が上の者には敵わないなどと言われている理由も納得だ。けれど、突破口はある。その圧倒的な速さと比べると、どうにも力の方は劣るようだ。比較的まだ受け流すのは容易だった。

総評すると、彼女の剣は剣技を身に付けていない者を想定した、文字通り怪物(モンスター)を殺すためだけの剣なのだろう。そこに敵を欺く技はなく、ただいかに速く剣を振れるのかという技を突き詰めた剣。対人経験が豊富なら実に読みやすい剣とも言える。まぁそれは圧倒的な【ステイタス】が補うのだが。 

 

そこからはひたすら竹刀を斬り結ぶ。アイズがこちらに斬りかかっては、それを受け流して反撃する。その反撃を彼女が大きく避けて仕切り直し。ただそれの繰り返しだ。僕の速さだと彼女に攻撃が届くには遅いが、自らに迫り来る竹刀を受け流したり避ける分には十分だ。それゆえにお互いに決め手がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side

 

「驚いたな…!アイズと同年代で戦える者がいるとは…!」

 

「当然!なんたって(わたし)の弟子だからな!」

 

飛鳥の剣技は既に一流と言えるレベルまで到達している。足りないのはまだ幼い故の体格と様々な相手との戦闘経験の少なさだ。今まで(わたし)としか打ち合ったことがなかった飛鳥は、当然それ以外の剣技を知らない。特に自分より格上の身体能力を持つ相手との経験が無いのは致命的だったゆえ、この戦いは実に有意義なものになるだろう。

 

「特筆すべきはレベル差を覆すほどのあの業か。あそこまで美しい剣を振るう者はオラリアにもなかなかいないぞ?」

 

「飛鳥のスキルに睡眠時間を減らすものと疲労を軽減するものがあるのだ。あいつは二・三時間ほどしか寝ない上にそれ以外の時間の全てを己の鍛錬に費やすのだ。結果、飛鳥は齢八歳にしてあの領域まで至っている」

 

改めて考えると異常だな?どこの世に八歳で一流の剣士がいるというのだ。しかし、その成長っぷりは一人の剣士として実に楽しみでもある。

 

「…神フツヌシよ。そのようなスキルがあるというのは驚きだが、スキルというのはあまり人に言いふらすものではない。私は聞かなかったことにしよう」

 

「む?そうなのか?ではお前の言う通り聞かなかったことにしてもらうと有難い」

 

スキルを言い触らさない方がよいというのは知っている。飛鳥の有用性が分かるように、あわよくばロキ・ファミリアに飛鳥を改宗(コンバージョン)させるために、敢えてリヴェリアに喋ったのだ。

…飛鳥はもうすぐオラリオに行くだろう。(わたし)

が世話になっている村では強くなるには限界がある。力を求めるのなら、ランクアップは必須だ。そしてそれを成すには冒険をする必要がある。(わたし)も着いていきたいところだが、今世話になっている村を離れるわけにはいかない。飛鳥の村のように、怪物(モンスター)に襲われるかもしれないからだ。今回も療養目的の傭兵団が村に滞在するので、ここまで来ることができている。

ということで、飛鳥はオラリオで何処かのファミリアに入れてもらう必要があるのだ。ロキ・ファミリアならファミリアの規模自体が大きい上に、アイズという似た境遇を持つ子供がいる。今更一人増えた程度変わらないだろう。

 

「しかし終わらないな。まだ明日も移動なのだ。あの子達の為にももう終わらせよう」

 

「うむ、これ以上は千日手だな。…二人共稽古は終わりだ!!」

 

飛鳥の反撃に娘が距離を取ったタイミングを狙って声をかける。娘はまだやり足りないとばかりに不満そうな顔をしているが、飛鳥は元気良く返事をして娘に何やら話しかけている。

 

 

 

 

 

 

 

side 飛鳥

 

 

「アイズは凄く速いね!今回は僕の負けだよ。あのままじゃあ僕の方が先に体力が切れて負けてただろうからね」

 

「そんなことない、あなたの方が凄い…!何であんなにギリギリで避けれるの?どうやったらあんな風に受け流したりできるの…!?」

 

アイズが今までにない興奮した様子で迫ってくる。目は口ほどに物を言うという極東の諺があるが、まさに彼女を表す言葉だろう。表情は相変わらず無表情なのに、眠そうな目だけが大きく見開かれてキラキラ輝いている。まだ会って半日ほどだが、彼女の感情を察知するなら目を見れば大体分かることを理解した。

 

「ちょっと近い近い近い!説明するから落ち着いてアイズ!」

 

「落ち着いた」

 

あまりに綺麗な顔がすぐ近くに来るもんだから、耐え切れず制止の声をあげると、ビシッという効果音が付きそうなぐらい一瞬で気を付けの姿勢になる。

そういえばこの子は天然だったという事実を思い出ながら、彼女にさっきの勝負での立ち回りでどんな事をしたかを説明する。

フツヌシ様とリヴェリア様と一緒に村に戻りながらも説明するのだが、隣を歩きながらもアイズはその黄金の瞳でこちらの目と合わせるように聴いているので、少し照れくさい気持ちになる。そんな自分達をフツヌシ様達は微笑ましそうな目で見てくるので、何故だが無性に恥ずかしくなってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──突然村の方から馬の嘶きが聞こえる。

馬上には御者がおり蒼白な表情でこちらに向かって来る。御者が今までにないぐらい大きな声で叫ぶ。

 

 

 

 

 

怪物(モンスター)が…!()()()()()()が村を…!冒険者様どうかお助けを!!」

 

 

───瞬間、走り出す。持っていた荷物も背中に提げていた二本の竹刀も投げ捨て、ただ一本腰に提げていた剣だけを手に持ち駆け出す。

隣には同時に反応したアイズがいる。しかし【ステイタス】の差でその背中は少しずつ遠くなっていく。置いてかれないようにひたすら追いかける。

 

「お、おい待てアイズ!一人で突っ走るな!」

 

後ろからリヴェリア様の制止の声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

───ひどくあたまがいたい

 

 

 

 

 




過去が迫ってくる。


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第九話 忘れていたもの

 

 

 

 

タンザ村がはっきりと見えてくる。

オークによって黄金色に輝いていた小麦畑は踏み荒らされ、村を囲う木の柵は破壊され尽くしている。村の入り口にいたオークをアイズが一瞬にして斬り裂く。いや、あまりにも強すぎる力によって体が破裂したという表現の方が正しいだろう。その力は先ほどの勝負の時とは比べるまでもなく、不自然なほどに力が強化されている印象を受けた。その間にこちらも村に着き、アイズに襲い掛かろうとして背中を見せたオークの首を落とす。

 

 

 

───あたまがいたい

 

 

 

「アイズたち、お前らは村の右側を!私たちは左側を対処する!」

 

フツヌシ様に合わせて遅れて来たリヴェリア様が、後ろからそう指示を出す。

その声に頷きアイズと二人で村の右側へ駆ける。お互いオーク程度なら一人で戦えると判断し自然と別れる形になる。

ここら辺は、入り口に近いからか破壊の痕跡は濃厚で、倒壊した家々が瓦礫のように連なっている。

村の中心に着くと、悲鳴を上げ逃げ惑う村の人々が視界に入る。

 

 

 

 

 

オークから逃げていた女の子が、足が絡まり転ぶ。その子に振り下ろされようとしていた棍棒を横から蹴り飛ばし、首を刎ねる。

 

 

 

───目眩(めまい)がする

 

 

 

足が動かないであろう老人を一人の少年がオークから必死に庇っている。その少年を蹴り飛ばそうとしていた足を斬り落とし、すぐさまそのオークの心臓を穿つ。

 

 

 

───吐き気がする

 

 

 

数人の自警団と思しき青年達が、長らく使っていなかったであろう一部が錆びた鎧に身を包み、数匹のオークを相手に果敢に応戦している。一匹のオークに物陰から奇襲をかけ首を斬る。他の数匹に考える間を与えず、そのまま命を奪う。

 

 

 

───体が重い

 

 

 

オークを斬っては駆け出し次を探す。そんな事を繰り返すほどに、体は次第に重くなり思考に靄がかかっていく。ただ体に染み付いた剣の業だけは消えず、オークを斬り伏せていく。

 

 

そうやっている内に、村の奥に辿り着いた。そこには村長の家であろう立派な家が建っていた。

呼吸が荒くなる。

肉体は強張り思うように動かせない。

心臓が今にも爆発するかのように鼓動する。

 

 

 

 

 

果たして、そこには一人の男の子が尻餅を着いていた。

 

酷く怯えた様子で、傍の血溜まりに倒れる女性に泣きついている。

 

その前には()()()()()()()()()()

 

 

 

───ミシミシと脳の奥で何かが軋む音がする。

 

 

 

オークが棍棒を振り上げる。

 

その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぁ?」

 

────()()()の濁流が、頭を駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

お父さん達が今まで見たことないぐらい怖い顔をして話している。

 

 

『彩花、飛鳥、今のうちにお前達は裏口から森の方へ逃げなさい』

 

『風雅、貴方も一緒に…』

 

『駄目だ、俺は村の長として逃げてくる他の奴らを待たなければいけない。全員が来たら俺もすぐに後をついていくさ』

 

お父さんが冗談めかした顔で笑う。

どうやら誰かが来たから外に行くらしい。

 

 

『外に行くの?』

 

『…えぇ、今からちょっと森まで遊びに行くのよ。どっちが速いか走って競走しちゃおっか?』

 

『僕は強いよ、母さん!!かけっこじゃ誰にも負けたことないからね!』

 

『ふふっ、知ってるわよ。飛鳥は足が速いもんねぇ』

 

 

お母さんが安心させるように頭を撫でて微笑む。

そして、裏口から家を出る。

 

 

 

 

 

───裏口のドアを開けると、緑色の大きいナニカがいた。

 

 

それを見たお母さんは急に抱きついてくる。瞬間、強い衝撃を感じ吹き飛ぶ。気付くと地面の上に転がり、強く打ちつけた腰がジンジンと痛む。

 

 

『いたぁっ!!急に何するんだよ!かあさ…ん…?』

 

 

──口にした文句が途切れる。

お母さんはすぐ横に寝転がっていた。その体からは、じんわりと真っ赤な血が滲んでいる。

 

 

『お母さん!どうしたの!!?』

 

 

体を揺するけど、お母さんは返事を返さない。すると、横から荒い鼻息が聞こえてきた。

 

 

『ブモォォォ!!!』

 

 

そこには豚の頭をした化け物がいた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『だ、だれ?』

 

 

化け物は手を大きく振りかぶる。

 

その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『飛鳥!!!』

 

 

ドシャッと、何かが潰れるような音がした。

 

 

『…お父さん?』

 

『…大丈夫か、飛鳥?』

 

 

体からポタポタと血が垂れている。お父さんは、泣いている僕を慰めてくれる時のような優しい声で喋りかけてくる。

 

 

 

『なぁ飛鳥。お前の名前は空を飛ぶ鳥のように、自由に思うがままに生きてほしいという思いを込めて名付けたんだ。一週間も母さんと悩んだんだぞ?』

 

 

懐かしむように、そして寂しそうにそう言う。

 

 

『今から言うのはお父さんからの…最期の言葉だ。心して聴けよ?』

 

 

その背中に、返事ができない。

 

 

 

『───強くなれ!…絶望なんて笑って吹き飛ばして、大切な人を守れるような、そんな強い大人に…!』

 

 

その声にようやく理解した。化け物が襲ってきたのだ。そして、お父さんとお母さんは僕のことを守ってくれたのだと。

 

化け物が苛立った顔で殴りかかる。その度に鈍い音がして血が飛び散るけど、お父さんは決して倒れない。その後ろ姿は今まで見た中で一番男らしくて、大きく見えた。

 

 

『俺の誤った判断のせいで母さんは、彩花は死んだ…!あいつが守った命を、飛鳥だけは死なせるわけにはいかないんだよ…!』

 

 

 

『逃げろ、飛鳥!お前は生きろ!!』

 

 

 

 

 

その声に、弾かれたように起き上がり走り出す。

悲しみと、恐怖と、絶望で頭の中がぐちゃぐちゃになる。

ここは少し高台になっていて村を見渡すことができ、あちらこちらに怪物がいるのが見える。

 

 

 

 

 

───走る、いつもお菓子をくれる駄菓子屋のおばあちゃんが踏みつぶされているのが見えた。

 

 

───走る、いつも剣を教えてくれる警備隊のおじさんが心臓を手で貫かれるところが見えた。

 

 

───走る、いつも会うと頭を撫でてくれる美人な叔母さんが頭から食べられるところが見えた。

 

 

───走る、いつも一緒に遊ぶ親友が首を折られるところが見えた。

 

 

 

 

 

 

───走る、走る、走る。

 

目を逸らしたくなる思いを抑え込み、視界に入るすべてを脳に焼き付ける。

この景色を忘れないように、この思いを忘れないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は…………無力だ。

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

視界が戻る。

 

オークは男の子を庇う男性に棍棒を振るう。ここからじゃどう足掻いても間に合わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ダメだ。

()()()()は許せない。

 

それではあの日の繰り返しだ。守られて、逃げて、力を求めるしかなかった過去の(弱い)自分と同じだ。

 

何の為に剣を振ってきた?

 

家族の顔も、思い出も、何もかも失った筈の自分が剣を振り続けたのは、あの日無力を噛み締めた自分のことだけは決して忘れず、心の何処かで覚えていたからだ。

 

だから、()()失うわけにはいかない。

 

 

 

体勢を低くしてみっともなくがむしゃらに走る。

 

さっきまでの怠さは嘘のように消え、体は羽のように軽い。

 

今の僕には神の恩恵(ファルナ)があって、磨き上げた剣の業だってある。

でも、僕と彼らの距離は離れていて、未だレベル1の【ステイタス】じゃ到底間に合わない。

 

 

───また、失う。

 

もう大切な者を失いたくないと想い、あの時とは比べられないほどの力を身に付けたのに。

目の前で誰かの大切な人がいなくなる。あの少年はあの日の自分と同じように大切な人を亡くすのだ。

 

 

 

無慈悲にも棍棒は振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めよ(テンペスト)!」

 

 

 

 

 

 

疾風が体の横を通り過ぎる。

 

煌めくは金と銀の輝き。舞い踊る金色の髪に、(ほとばし)る銀の剣閃。

 

絶望の象徴は、その体中から血液を吹き出しながら呆気なく倒れた。

 

 

「大丈夫…ですか?」

 

 

 

そう親子に声を掛ける幼い彼女は、しかしその見た目の幼さとは正反対に大人びいて神秘的で、まるで人に救いをもたらす女神のように感じてしまった。

 

その姿に、僕はどうしようもなく目を奪われた。

 

 

 

 

 

 



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第十話  涙

 

 

 

 

ただ呆然と立ち尽くす。

 

気付けばフツヌシ様とリヴェリア様が合流していた。リヴェリア様は倒れている母親を見ると、詠唱をして魔法を使い一瞬で治療をしてしまった。どうやらオークを討伐すると同時に負傷者の治療も並行して行い、最終的に村の奥に位置するここまで辿り着いたらしい。今にも死にそうな重傷者もいたが、リヴェリア様のおかげで誰も死人は出ることは無かった。

親子はアイズとリヴェリア様にしきりに感謝の言葉を口にしている。

 

 

 

 

彼らは救われた。

 

両親の命は少年の目の前で失われず、助かったことを認識した男の子はアイズへ憧れの目線を向けている。誰も死なず、怪物(モンスター)に襲われたこの村で笑顔が失われることはなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕…は…!!」

 

 

───忘れて、いた

 

 

 

怪物(モンスター)に襲われて滅びた村があった。

 

ただその日常(幸せ)が失われることなんて微塵も疑わず日々を暮らしていた村があった。

 

 

奇跡は起きず、それら全てを失ったことを理解した自分はこの景色を忘れないと、そう誓った。……はずだったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!」

 

 

ガンっと膝をつき頭を地面にぶつける。その鈍い痛みと流れ出る血の感触は己の罪を自覚させた。

 

 

 

 

 

 

 

───忘れていた!!

 

あの日の絶望を、怒りを、何よりもただ守られて逃げるしかなかった自分(無力)への憎悪を!

 

呑気にも!愚かにも!あの情景を思い出したくない僕は、一年もの間思い出さないようにとただ剣を振るっていた!!

 

 

 

その結果が先程の無様さだ!この期に及んでも思い出すまいと精神(こころ)は逃げようとし、体は重くなっていった…!!

 

 

忘れずに向き合っていたのなら、もっと上手く立ち回れた!

もっと早く此処まで辿り着いて、間に合っていた筈だった!!

 

アイズがいなかったら、間違いなくあの父親は死んでいた…!

 

 

 

 

 

親子を救ったのはアイズで、僕はただの傍観者でしかなかった。

 

失ったと思っていた大切な人達との思い出は、ただ弱い自分が()()()()()としていなかっただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

己への抑えられない怒りを発散するように頭を何度も、何度も打ちつける。頭から暖かい血が流れていき、それに反比例するように体は冷えていく。

今の自分にはそれが心地良かった。

その痛みは、その冷たさは、罪を犯した自分を罰してくれているかのようだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だめ…だよ!」

 

 

────ふと、陽だまりのような暖かさが僕の体を包み込んだ。

思わず顔を上げると、アイズが眉を下げて悲しそうな顔でこちらを見ていた。同時に、彼女が膝をついて僕を抱きしめていることに気付く。

 

「あなたが、飛鳥が何でそんなに泣いているのかは分からない。…でも、自分を傷つけるのは絶対にだめだよ…!」

 

「ア…イズ…」

 

彼女の名前を呟くと、今僕の頭から流れる血が、彼女の白を基調とした服を赤く染めてしまっていることに気付く。その事実に慌てて距離を取ろうとする。

 

「ご!ごめ…!アイズの服汚して…!?」

 

 

 

彼女は、僕の頭をより強く自らの胸に抱き寄せる。流れ出る血が更に彼女を汚してしまう。

 

「だめ、飛鳥が頭をぶつけないって約束するまで、ずっとこうする」

 

彼女が強い語気でそう言う。その酷く心配する声に、血が上っていた頭が冷静になる。

 

「…ごめん、もう頭をぶつけないって約束するよ」

 

そう言うとようやく彼女は僕の頭を開放してくれる。けれど、その近い距離は変わらず真剣な目でこちらを見ている。その金色に輝く瞳に、場違いにも綺麗だなという感情を抱く。

 

「なんで…飛鳥は泣いてるの?わたしは、あなたのことをちゃんと知りたい」

 

「なんで急に…」

 

アイズの言葉に拒否の言葉を続けようとして、しかし彼女には自分のことを知ってもらいたいという思いが沸き、口を結んだ。

 

そうして迷った末に話し出す。

 

思い出そうとしなかった過去を。

 

己が犯した罪を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の故郷の村は金川村って言ってね。この村と同じように小麦が特産の村だったんだ」

 

金川村のことは今も鮮明に思い出せる。ここタンザ村のように、村の周りは広い小麦畑に囲まれていた。村の名前の由来は、その小麦畑がまるで金の川のように見えるという理由から来ていたらしい。極東においては主食は米であり、温暖湿潤な気候は小麦の生育に向いていなかったので、相当珍しい村だっただろう。

僕は小麦が実る秋の季節が好きだった。思えば、出会った頃からアイズの黄金色に輝く髪と瞳に惹かれていたのは、大好きだった秋のあの情景を思い出すからかもしれない。

 

怪物(モンスター)なんて全く出なくて、ごく稀に小鬼(ゴブリン)が出て退治されるぐらいの物凄く平和な村だったんだ」

「────あの日、豚人(オーク)の群れが村を襲うまでは」

 

真剣な表情をしていたアイズの表情が強張る。

 

「オークは瞬く間に村中に侵入した。父さんたちは僕に何も知らせず母さんと一緒に森の方へ逃そうとした」

 

吐き気がする。父さん達のただならない様子に気づいていたにも関わらず、呑気にかっけこだなんていう言葉にはしゃいでいた自分に。

 

「けれど、まだ村の奥である僕の家に来るのには時間がかかるはずのオークが一匹、裏口を開けるとそこにいたんだ。母さんは咄嗟に僕を抱きしめて、オークから身を呈して守ってくれた」

 

僕は何が起きたか理解できずただ狼狽えてた。いや、母が死んだかもしれないなどと理解したくなかったのだ。先ほどまでかけっこだなんて能天気にも考えていた自分は、その事実を受け止めきれなかった。

 

「理解が追い付かなくてただ呆然としていた僕は、オークが手を振り上げても何の反応も返さなかった。そこに今度は父さんが僕を庇った」

 

あの瞬間を僕は一生忘れないだろう。

 

「父さんは僕に最期の言葉を遺したんだ。『強くなれ、大切な人を守れるような大人になれ』ってね」

 

そう語る父さんの後ろ姿は、まるで物語に出てくる英雄のように格好良かった。

父さんは自分の誤った判断のせいで母さんは死んだなんて言っていたけど、その時の父は紛れもなく『大切な人を守ろうとする強い大人』だった。

 

「だから、その言葉を胸に刻んで走って逃げた。村のみんなが、親友が、大切な人達が襲われているのを見ても必死に逃げた。だって、あの日の僕にそれをどうにかする強さも、立ち向かう勇気もなかったから」

 

ただ怯えて助けようともしない自分が、力が無い自分が嫌いだった。

 

「ひたすらその光景を目に焼き付けた。彼らの最期から目を逸らすのだけは、違うと思ったから。この悔しさを絶対に忘れないって、強くなるって誓ったんだ」

 

明るくて、いつもふざけて母さんに怒られてるけど、何かあった時は誰よりも頼りになる父さんが大好きだった。

芯が強くて、でも僕のことを叱るたびになぜか母さんの方が泣きそうな顔をして、そんな強い愛情を向けてくれる彼女が大好きだった。

生まれた時からずっと一緒で喧嘩するときもあったけど、いつも僕を引っ張って笑わせてくれる親友が大好きだった。

駄菓子屋のおばあちゃんも、自警団のおじさんも、美人だった叔母さんも、みんな優しくてみんな大好きだった。

 

 

そう、もう僕の記憶にしか残っていない彼らのことを絶対に忘れないって誓ったのに。

 

 

 

 

 

 

「────でも、僕は忘れていた…!」

 

声が震える。アイズに慰められて一度引いていた己への怒りが、今度は哀しみと罪悪感に変わって甦る。

 

「僕は父さんも、母さんも、村の皆のことも、全部忘れていた。…ひたすら剣を振るって思い出さないように、あの日の出来事から逃げていた…!!」

「この村がオークに襲われても、僕は思い出してしまうことに怯えて、体は剣を振ることを拒否していた」

 

頭が痛かったのも、目眩が止まらなかったのも、吐き気がしていたのも、全部辛いあの日のことを思い出すことへの拒否反応だった。

そうして、あの少年を助けることができなかった。

 

「僕は何一つ変わってなんかいなかった。勇気なんてなくて、誰も守れなくて、強くなんてなっていなくて、弱いままの僕だったんだ………!!!!!」

 

 

 

 

 

顔をうつむける。彼女に今の自分を見られたくなかった。

 

だって、今の僕はきっと、情けない顔をしているだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーー!!!黒髪のお兄ちゃんだ!!!!」

 

 

 

突然幼い女の子の声が聴こえてきた。

 

声がした方を見ると小さい女の子が走り寄って来ているのが見えた。その背後にはたくさんの人がいた。誰もが破れた服を着ていたり、体が土や血の跡で汚れているが、その顔には笑顔が浮かんでいた。

 

茶色い髪をした女の子が僕の前に来ると、同じく茶色の目を輝かせて言う。

 

「お兄ちゃん、ルイをまもってくれてありがとう!これあげる!!」

 

そう言い僕の手をその小さな手で握り、緑色の綺麗な石を渡してくれる。

 

「これね!わたしの宝物なの!!大事な物だけどお兄ちゃんにあげる!」

 

「な、なんで…?」

 

困惑する僕に女の子は満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

「お兄ちゃんがわたしを、あの緑色の大きいぶたさんから守ってくれたから!!」

 

 

 

 

 

────その言葉にようやく気付く。

 

この幼い女の子は、村に来て一番最初にオークに襲われているのを見つけた子だった。

 

 

 

 

 

 

女の子の後ろから男の子が、数人の男性が、どこか見覚えのある人たちが笑顔で近づいてきた。

 

 

「兄ちゃん!さっきは助けてくれてありがとう!!」

 

おばあちゃんを助けようとしてオークに立ち向かっていた男の子が笑う。

 

 

「少年、本当にありがとう!!君のおかげで俺たちは助かった!!本当に感謝する!」

 

そう一部が錆びついた鎧を着た青年が、兜を脇に抱き姿勢よく礼をする。

 

 

「お前は相変わらずかてぇな!まぁそこがお前の良いところなんだけどな!!」

 

髭を生やした体格の良い男性が青年を茶化すと、膝をついて僕に目線を合わせ頭をわしゃわしゃと撫でる。彼もまた同じような鎧を着ている。

 

「ありがとな坊主!お前のおかげで俺もこいつらも死なずにすんだ。女房と娘にもまた会うことができたんだ。本当に助かった!!」

 

 

 

 

 

心が、揺れる。彼らの言葉が胸に染み渡っていく。

 

 

 

 

 

「俺も強くなりたい!兄ちゃんみたいに、カッコよく剣を振ってみんなを守るんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その、憧れの目を覚えている。

 

それは、あの日フツヌシ様に教えを乞うた自分だ。

 

見上げた瞳に写っていた自分の姿だ。

 

 

 

 

僕は彼にとっての、あの日の神様のようになれたんだ。

 

彼らを守ることができたんだ。

 

自分は家族のことから、辛いことから逃げようとしたけど、ちゃんと強くなれていた。

 

ひたすら剣を振るっていた日々は、決して無駄じゃなかったのだ。

 

 

アイズがいなかったら救えなかった命があった。

 

でも、僕がいたから救えた命もあった。

 

 

 

 

その違いは守られて逃げるだけだった、あの日の自分とは決して違うものだ。

 

 

 

 

 

涙が……零れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーー!!!アレクがお兄ちゃんのこと泣かしてる!!」

 

「はぁっ!?俺は別に泣かしてねぇよ!!」

 

「じゃあお兄ちゃんはなんで泣いてるの!!どうせアレクがいらないこと言ったんでしょ」

 

「いや言ってねぇし!」

 

「じゃあなんて言ったの?」

 

「別に、いいだろ!ルイには関係ないだろ!!」

 

男の子と女の子が言い合っている。周りの人はいつものことのように落ち着いており、二人のけんかを優しい目で見守っている。

 

 

 

 

 

 

 

僕と同じく数人の人に囲まれていたアイズが隣に来たのが分かった。

 

 

震えた声で彼女に聞く。

 

 

「僕は…彼らのことを守れたかな?」

 

「…うん、飛鳥はいっぱいオークを斬って、みんなを守っていたと思う」

 

「僕は昔の(弱い)僕じゃなかったかな?」

 

「うん。飛鳥はレベルが一つ下なのにわたしと戦えるすごい剣士だよ」

 

「…そっか、ありがとう」

 

 

 

 

 

涙が溢れてきた。

 

我慢しようとしても、嗚咽が零れてしまう。

 

泣いている顔を見せたくなくて顔を俯ける。すると、アイズが背中を優しく擦ってくれる。

 

その柔らかい手の動きで、必死に抑えていた心が優しく解される。

 

 

 

 

それからはずっと泣いた。

 

どれだけ泣いているのか、自分でも分からなくなるぐらいずっと。

 

ふと泣きながらも、あの日から一度も涙を流していなかったことを思い出した。

 

 

 

 

アイズはずっと手を止めず、ただ無言で隣にいてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、というわけで飛鳥君の過去についてでした。

今回はあと一話続きますが、それでタンザ村騒動編は終了です。剣士の聖地ヴァルサ編を三・四話ほど書いたら、ようやくこのオリジナル章『月下の誓い』は終わりオラリオに行きます。


活動報告にある通り、これからは投稿頻度は減りますが文量はこれくらい増やします…!


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第十一話  魔法

ようやく…!ようやく日常回が書けた。
シリアスパートは書くのが難しいけど、日常回はすらすらと書けますね。飛鳥君のシリアスパートは基本的に前回で終了ですので、これからは日常回が増えます。
キリがいいと言うことで、急遽こちらも投稿させていただきます。


 

 

 

side フツヌシ

 

 

 

 

 

 

最初リヴェリアはこちらのことを気にしながらオークを杖で撲殺していたが、(わたし)怪物(モンスター)と余裕で戦えるのが分かると、その事実に驚愕しながらも彼女は負傷者を回復することに集中した。そうしているうちに村の最奥にいた飛鳥たちの元へたどり着き、この村にいたオークを殲滅できたことを察し一息ついていた。

 

すると、ずっと呆然と立っていた飛鳥が突然叫び声をあげながら頭を地面へと打ち付けはじめたのだ。

 

 

 

 

 

オークの群れが襲われていると御者が言った瞬間から飛鳥の様子はおかしく、記憶が戻りかけているのではとは考えていた。けれど、(わたし)はそれでいいと判断した。こやつが力を求めるのなら、己の過去とはいずれ向き合わなければいけないからだ。

 

しかし飛鳥のあまりにも激しい凶行を見て、最悪な形で記憶を思い出してしまったことを悟った。

 

 

 

その酷すぎる自傷を急いで止めようとしたのだが、そんな(わたし)より速く動く小さな影があった。

 

────アイズだ。

娘は飛鳥の突然の所業に(わたし)たちと同じく驚いている様子だったが、一足早く意識を取り戻して駆けたかと思うと、優しく抱きしめてしまったのだ。

 

そして続く飛鳥を心配する娘の言葉に、任せても良いと判断した。

 

 

 

 

 

 

そうして、(わたし)たちは聴くこととなった。

 

飛鳥の初めて知ることとなる過去の話を。

 

 

 

 

 

 

飛鳥は過去を語り、自らを最低なやつだと嘲笑った。 

 

しかし、そうは思えないのだ。

だって、普通の子供ならただ怯えて逃げるだけだ。助かった後に己の大切なものを失ったことに、泣いて、泣いて、ようやく現実を受け止めて、そこから力を求めるのだ。なんなら、ただ失ったことを悲しむだけの人間がほとんどだろう。

 

けれど、飛鳥は逃げながらも目を逸らさなかった。

その場で辛い現実を受け止め、強くなることを誓ったのだ。

その精神力は、決してただの幼子が持っているものではない。

 

(わたし)に助けられたときも、その最後の瞬間まで心は屈さず目には強い意志が宿っていた。助かったと理解すると極度の緊張によって倒れてしまったが、それほどの精神的負荷に精神(こころ)が耐え切れずに忘れてしまったとしても、誰が責めることができようか?

 

 

 

 

飛鳥にそう語ろうとして、離れたところから聞こえた少女の声に足を止めた。

 

 

 

 

 

 

「あーーーー!!!黒髪のお兄ちゃんだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

少女が語る。

 

あなたは命の恩人だと。

 

ぞろぞろと飛鳥とアイズの周りに人々が集まる。

 

少年が、青年が、村の者たちが飛鳥たちに救われたと感謝の言葉を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リヴェリアよ、(わたし)たちは少し離れないか?」

 

「いいのか?お前の弟子を慰めなくて?」

 

「いいさ、(わたし)は少し出遅れてしまったようだからな。なにより、今のあいつには彼らの言葉の方が胸に届くだろうよ」

 

自嘲するようにそう言う。

 

「…」

 

「昔から友神に言われてきた。お前は剣を振るときは躊躇なんてものはないのに、それ以外のことになると途端にいちいち判断が遅くなると。先ほども(わたし)はうだうだと頭の中で考えて行動に移すのが遅かった。(おや)であるのならば、子が泣いていたのならまず抱きしめてやるべきだろうに」

 

剣のことしか考えてきたことが無かったからこそ、それ以外のことになると、途端に何をすればいいのか判断に迷ってしまう。飛鳥はいつも憧れの目で見てくれるが、実際のところ(わたし)はそんなたいそうなものじゃないのだ。そんなことを考えて落ち込んでしまう。

 

娘、いやアイズが飛鳥の隣に寄り添っている。その姿を見ていると、なにも話すことなど考えずにただ隣にいるだけでいいのだと、そう気づかされる。

 

すると、リヴェリアが空気を変えるように笑いを含んだ声で言う。

 

「やはり神でも親をするというのは難しいか?…そう思うのなら、後でもいい。抱きしめてやればいいじゃないか」

 

「なに?」

 

「別に親が子を抱きしめるのにタイミングなんて重要じゃないだろう?私は相手を思う気持ちが、本人に伝わることが大事だと思うぞ」

 

彼女は飛鳥の背を摩っているアイズを優しい目で眺めている。その柔らかい声色の言葉に感心する。

 

「そうだな、お前の言う通りだ。この後にでもあいつとは改めて話をしよう。…それにしても、ずいぶんと詳しいな」

 

保護者(おや)という観点でいえば少しは自信があるぞ?私たちの子(アイズ)にはここ一年間苦労させられてきたからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴェリアから今までの苦労(愚痴)を聞いているうちに、飛鳥は泣き疲れて眠ってしまったようだ。倒れないようにとアイズが向き合う形で抱きしめて受け止めている。

短い間で驚くほど仲が良くなっているようだ。

 

 

 

 

「なんというか、お主の子は随分と良い娘だな」

 

「…正直私も驚いている。アイズがああも他人の事を心配するような態度を取るとはな」

 

 

 

 

 

村長や村の人たちと話し、今日はもう夜も遅いということで寝ることにした。村の奥のほうは比較的家などの損傷は少なく、家が壊れてしまった住人は泊めてもらうようだ。

(わたし)たちは村を救ったお礼ということで村長の家にお世話になることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 飛鳥

 

 

気付けば、一面黄金色の小麦畑に立っていた。

 

空は青く澄み渡り、涼しい風が吹いている。

 

小麦畑は何処までも続き果ては見えない。

 

僕の周りだけは円状に10M(メドル)ほど何も無い空白地帯になっている。

 

『力が欲しいかい?』

 

突如背後から声が聞こえる。いや、それは声と呼べるものではないかもしれない。酷く不明瞭で、高くも聞こえるし低くも聞こえる音だ。言葉としては聞こえないのに頭では意味が理解ができる。

 

───欲しい

 

よく分からない場所に、不気味な声という異質な状況であるにも関わらず、僕は振り返り何の疑問もなく答える。

 

『どうして力がいるんだい?』 

 

───もう二度と大切なものを失わない為

 

父さんが遺した、絶望なんて笑って吹き飛ばすような、そんな強い大人になりたい。

 

 

『その為にはどんな力がいると思う?』

 

───疾さがいる

 

 

『身体能力でも、強力な魔法でもなく?』

 

───強力な魔法も肉体もどちらも大事だ

でも、僕は目の前にいるのに守れないなんてことは嫌だ。力はあるのに間に合わなくて死んだなんてことは許せない。

 

 

『君が守るのは大切な人だけかい?』

 

───違う

 

目の前で誰かの大切な人が亡くなるのは嫌だ。あの日の僕みたいな思いを誰かがするのも嫌だ。

 

 

『それは流石に傲慢じゃない?』

 

───そうかもしれない

 

でも、憧れたんだ。父さんも、フツヌシ様も、アイズも、みんな誰かを救おうとしていた。そして、彼らに救われた誰か(ぼく)がいた。そんな間一髪で誰かを救う英雄みたいな姿が、僕にはとても輝いて見えたんだ。

 

 

『君は英雄にもなりたいのかい?』

 

呆れた声が聞こえる。

 

───大切な人にとっての、自分が守りたいって思う人にとっての英雄でありたい

 

 

『やっぱり、君は我儘だ』

 

その咎めるような言い方に、しかし不思議と肯定されているような気持ちになる。

 

『…最後に改めて聞こう。君はどんな力が欲しい?』

 

 

 

 

 

────疾風のように駆けて視界に入る全てを救うような、そんな力が欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日が目に入る。

 

かつてないほどの爽快な気分で目覚めた。見覚えがないベッドと部屋に困惑して記憶を振り返る。

 

確か、村に着いた僕はアイズを勝負に誘い、それが終わったところにタンザ村がオークの群れに襲われていると聞いて、急いで救援に向かったのだ。

そしてオークを倒していくうちに過去の記憶を思い出して…

 

───酷く動揺した僕はアイズに慰められたのだ。

 

 

 

「恥ずかしい…!アイズにあんな慰めみたいなこと言って勝負したすぐ後に、僕がみっともないことして慰められてるじゃないか…!!」

 

恥ずかしさで顔が熱くなる。

穴があったら入りたいとはまさに今の気分を表すのだろう。ここには穴は無いから布団で代用するが。

 

「というかあの男の子を守るのに間に合わなかっただけで、誰も守れなかったなんて勘違いしすぎだろ僕!記憶を忘れていたのは絶対に許されないことだけど、その動揺でネガティブになりすぎだ…!」

 

たまたまあの男の子とその親を助けたのがアイズだっただけの話なのだ。そもそも僕たちは村のみんなを助ける為に手分けしてたわけで、誰を助けたとかに固執する必要はないはずだ。

 

家族の、村のみんなとの思い出と誓いを忘れたのは許されないことだ。これからも決して許すことはないだろう。

そのことを後悔するのはいい、しかしアイズの言う通り自傷するのは違うだろう。

それは痛みで勝手に赦された気になっているだけだ。結局また逃げようとしただけじゃないか。

 

それでアイズに慰められてしかも目の前でめちゃくちゃ泣いて背中も(さす)られて。

 

「あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!」

 

 

 

恥ずかしさに耐えきれず布団にくるまりひたすらゴロゴロ回転する。

 

「恥ずかしす────」

 

「───飛鳥、入ってもいい?」

 

「へっ?」

 

身悶えていると突然聞こえてきた声に驚きそのままベッドからゴトッと落ちてしまう。

顔の方からうつ伏せになる形で落ちたが、【ステイタス】があるので当然その程度で痛いわけもなく、突然声が聞こえたドアの方を見る。

 

するとアイズが勢いよくドアを開け、バッチリと目が合う。彼女は顔を顰めこちらに近づいて膝を抱えるようにしゃがむと、注意をしてきた。

 

「…頭打っちゃだめって約束したでしょ」

 

「え?」

 

「昨日もう頭を打たないって言った」

 

「えっと…?僕は頭を打ったりはしてないよ?」

 

突如彼女が言い放った言葉に困惑しながらも返事をする。すると彼女もどこか話しが噛み合わない空気を感じたのか首を傾げる。

 

「でもさっき声をかけたら部屋の中からゴトッて音がした」

 

その言葉の意味を数秒考えて状況を理解した。

どうやらベッドから落ちた音を僕がまた頭をぶつけていると思ったらしい。うつ伏せの態勢も床に頭をぶつけていると考えた理由かもしれない。

 

「僕は…アイズの声にびっくりして床に落ちちゃっただけで、頭をぶつけてたわけではないんだ…。その、勘違いさせちゃったみたいで申し訳ないんだけど…」

 

思わず申し訳ない表情をしてそう言う。彼女はきょとんとした顔をすると、次第に顔がほんのりと赤くなる。彼女は何もなかったかのように立ち上がり、部屋から出ていこうとする。しかし完全に出て行ったかと思うとドアから赤くなった顔だけをひょっこりと出し、部屋に来た用件を告げた。

 

「朝ごはんが用意できたらしいから、呼びに来た。それだけ…」

 

「あ、ありがとう?」

 

返事をすると、彼女は今度こそ完全に行ってしまった。

 

 

 

 

「えっと…可愛すぎない?」

 

僕は床にうつ伏せでドアの方を見るという、間抜けな態勢のままそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トウドウ・飛鳥

 

Lev.1

 

力 :S 999

 

耐久:S 999

 

器用:S 999

 

敏捷:S 999

 

魔力:I0

 

《魔法》

【アキレウス】

・付与魔法

・風属性

・詠唱式【駆け抜けろ(ブラスト)

 

【】

 

《スキル》

求道者(ソード・アトラクティッド)

・全アビリティの上昇率の高域化

・必要睡眠時間の減少

・肉体回復速度の上昇

 

 

 

 

「ま、魔法ですよフツヌシ様…!!!」

 

「…飛鳥。外に行くぞ!!」

 

僕は朝食を食べた後、神様に【ステイタス】を更新してもらうことになった。

なんとそこで魔法が発現していることが分かったのだ…!!

それが分かった瞬間神様とアイコンタクトをし、外で鍛錬という名の実験が今日の予定に決まった。

早足で外へ向かう僕ら。村長宅のリビングを通ると、そこで荷物を準備していたらしきリヴェリア様とアイズが顔を上げてこちらを見た。

 

「神フツヌシよ、ヴァルサへの出発は二時間後だと御者より連絡が──」

 

「──すまんリヴェリア!飛鳥が魔法を体得したから暫し外で試させてもらう!!」

 

「すみませんリヴェリア様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

「リヴェリア、わたしも見たい」

 

後に残ったのは唐突すぎる魔法の習得発言に驚くリヴェリアと、魔法の内容が気になり早く見たいと急かすアイズの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、そもそも魔法とはどうやって使うのだろうか?」

 

昨日アイズと勝負をした場所まで来て早速魔法を使おうとした僕に、神様は腕を組んでそう言った。

だがしかし問題無いのだ。何せ魔法の修得には知識が必要だ。そして僕は一年もの間、起きている間は勉強か鍛錬しかしてこなかった。

そう、今回の魔法もきっとようやく勉強の成果が出たということだろう。

僕の方が神様に教えるという状況に密かに喜びを抱きながら魔法について自慢するように語ろうとすると、横から涼やかな声が聞こえてきた。

 

「魔法を使うだけなら簡単だ、詠唱式を唱えればいい」

 

「むっ、そんなにあっさりしているのか。もっと小難しいイメージを持っていたがそうでも無いのか?」

 

「使うのは簡単だが扱う際には十分な注意が必要だ。魔法は総じて強力なものだ。その中でも長文詠唱というものはとりわけ広範囲なものが多く、よく気にする必要がある」

 

「なるほど…」

 

横でリヴェリア様が魔法について語ってくれるのを聴きながら、知識を披露する機会が失われたことに少し落ち込む。

すると、アイズが僕の袖をちょんと引っ張る。心なしかその目はワクワクしているように見えた。

 

「飛鳥はどんな魔法を使うの?」

 

「アイズ、まだ魔法を使う際の注意事項を語っている途中なのだが…。まぁいい、最悪私もいるからな。飛鳥は遠慮なく魔法を使うといい」

 

アイズが急かしてくれたおかげか、早速魔法の使用許可が降りた。

初めての魔法ということで、足を肩幅ほどに広げて体から力を抜き集中する。

 

 

 

駆け抜けろ(ブラスト)!………うわぁっ!!!」

 

 

 

突如背中に強い衝撃が走り、体が物凄いスピードで前方に押し出される。

体が空中に少し浮き、転びそうになるもギリギリで態勢を整えて着地する。

 

「超短文詠唱だと…!?」

 

「飛んだ…」

 

後ろからリヴェリア様とアイズの驚く声が聞こえる。

しかし、僕は一瞬でこの魔法の有用性に気付いていた。

体に力を込め走り出す。

 

速く(ブラスト)速く(ブラスト)もっと疾く(ブラスト)!!」

 

魔法を唱える度に体は風に押され走る速度が速くなる。この魔法は勢いのよい風を任意の場所より放出し、それを推進力とする魔法だ。

この力は凄まじい。圧倒的なスピードを誇りながらも、横から風を放出することで急激な方向転換や、ジャンプする時に足裏から放出することで翔ぶと言っても過言ではないほど空中に行けるのだ。

その分体への衝撃は強いが、それは【ステイタス】が上がれば上がるほど気にならないものになるだろう。

 

ひとしきりそうやって走り回っていると急激に体が怠くなり、魔法使用を中断する。

 

精神疲弊(マインドダウン)が近いのだろう。それ以上魔法を使うな、気絶してしまうぞ」

 

膝をつき呼吸を荒げる僕にリヴェリア様は近づいてそう言う。

 

「それにしても…超短文詠唱に、初めて魔法を使うが故に精神力(マインド)がほぼ無いであろう状態でその燃費の良さ。実に戦士に向いた強力な魔法と言えるな」

 

「素晴らしいぞ、飛鳥!!その機動力は戦いにおいて大きいアドバンテージとなるぞ!」

 

フツヌシ様が大きな声で叫び僕の背中をバンバンと叩く。その衝撃で一瞬息が詰まる。

 

「っ!ちょっ、神様今はキツいですそれ!!」

 

「むっ?すまんすまん悪いな飛鳥!!」

 

欠片も悪びれずにフツヌシ様は笑う。

 

「よし、それを使った打ち合い稽古をするぞ!どんなに強い力でも実践で使えなければ意味が無いからな!!」

 

「はい!!」

 

 

 

しかしはしゃぐ僕達にリヴェリア様の声が届く。

 

「ちなみにだが、お前たちは荷造りはもう終わったのか?もうすぐ、この村を出発する時間なのだが」

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………あ」

 

広場に僕と神様の間抜けな声が響き渡った。

 

 




現在のそれぞれの好感度及び印象

アイズ→飛鳥 同じ年でレベル一なのに、自分と戦えるぐらいの剣技を持つ強い剣士。似たような境遇に共感を覚えている。魔法を体得したことで勝っていた速さでも追いつかれ負けるのではと危惧している。好感度は(強さが)気になる人。

リヴェリア→飛鳥 おそらく世代最強のアイズとまともに戦えることに驚愕を抱いている。その剣技と魔法に、冒険者になれば間違いなく第一級冒険者に至れると確信している。個人的にはアイズと凄く相性が良さそうなので、仲良くなってあわよくば暴走しがちな娘を止めて欲しい。

フツヌシ→飛鳥 自慢の弟子。記憶を取り戻した飛鳥が前よりも子供らしくなったので密かに安堵している。剣士として成長が楽しみ。



飛鳥→アイズ  自分を慰めてくれたその優しさに感謝している。そんな彼女の憎悪の目を思い出して、傍に居て助けてやりたいと心の何処かで思っている。好感度は???


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第十二話  ヴァルサ到着

前話にて魔法の種類を放出魔法にするか付与魔法にするか悩んだ結果、付与魔法とすることにしました。
理由は後に本編で語らせていただきます。


 

 

 

タンザ村からヴァルサへの道中、僕はオラリオについてアイズに聞いていた。力を求めるのならやはり将来的には迷宮(ダンジョン)都市たるオラリオには行かなければならないからだ。アイズの説明は言葉足らずではあるが質問の仕方を気を付ければちゃんと聞きたいことが返ってくる。

そうしてオラリオについてある程度聞くことができ、他に何か質問したいことはないかと考えていると、今度はアイズの方が僕に質問してきた。

 

「飛鳥はどうやってそんなに強くなったの?」

 

「僕はフツヌシ様に剣を教えてもらったんだ」

 

「…神様?」

 

不思議そうな顔でフツヌシ様を見るアイズ。恩恵をもらっている僕が、それを授ける側の神様に戦いを教えてもらっていることが不思議なのだろう。

 

「えっと、フツヌシ様が剣神様っていうのは知ってる?」

 

そう言うとアイズはふるふると首を振る。

 

「フツヌシ様はね、剣神様だから当然凄い剣士なんだけど、剣技だけで僕を圧倒できるぐらいなんだ。フツヌシ様は第一級冒険者にも相手によっては勝てるって言ってたんだよ?すごくない?」

 

「ほんとに…!?」

 

驚いたアイズの表情。それを見て普通そうなるよなぁと思う。僕が聞いたのは神の恩恵などについてあまり詳しくない時だったから素直に尊敬の目を向けられたが、レベルの違いなどの力の差を知った今では、それがどれだけ可笑しいことか分かる。

しかし、タンザ村で神様と共闘してその強さを知っているはずのリヴェリア様までもが驚いているのは何故だろうか?

 

「オークを一瞬で倒してしまった時は酷く驚き、剣神だと知っておかしくはないかと己を納得させたが…それほどのものなのか」

 

「はっはっは!!まぁ古代の英雄は神の恩恵(ファルナ)など無しで怪物(モンスター)と戦っていたのだ!剣を極めた(わたし)にできないわけがないのだ!!」

 

「その理屈でいくとそうなの、か?」

 

僕も当時全く同じことを言われた。しかしそう言われてみたら納得できるのかもしれない。かの大英雄アルバートは神の恩恵(ファルナ)を持たぬ身でありながら、精霊の力を借りたとはいえ黒龍の片目を傷つけ世界の果てまで追いやったと言われている。

剣を司る神であるフツヌシ様がそれをできぬ道理はないということだろう。他にも神様の友神であるタケミカヅチ様もできるだろうと言っていた。

武神と言うのはみんなそんな化け物だらけなのか。

 

「アイズと勝負してレベルの差っていうのを理解した僕からしたら意味分からないんだけどなぁ…」

 

「レベル4までなら大抵のやつには勝てると思うが、レベル5だと相手がパワータイプなら、という仮定がつくがな!流石に予備動作が欠片も見えない相手だとこの(わたし)でもどうしようもない!!」

 

いっそ清々しいほどに笑う神様。そんな神様に向かってアイズが突然頭を下げる。

 

「わたしに剣を教えてください」

 

「…いいだろう、しかしヴァルサに着くのは夕方らしいからな。指導は明日の朝からになるぞ?」

 

「大丈夫…です」

 

その余りにも突然な話に僕もリヴェリア様も呆気に取られる。

 

「待てアイズ、急に何を頼んでいるのだお前は?」

 

「…?ここには剣の修行をしに来た。教わるのなら剣神様が一番良い」

 

「確かにそうだが…!!というか神フツヌシはそれで良いのか?!」

 

「構わんぞ、飛鳥に指導しているのに一人増えようが変わらないだろう?まぁそれ以上に娘に関しては飛鳥の事で恩があるからな!そのくらいのことは構わないとも!!」

 

「それはありがたいが…これはまた迷宮(ダンジョン)のこと以外でも教育が必要か…」

 

「な、なんで…?!」

 

リヴェリア様の後半の呟き声にアイズが酷く怯えたような顔をする。

リヴェリア様はため息を吐き真面目な顔をしてアイズに向き直る。

 

「本来他派閥の神相手に頼み事をするというのはそう簡単なものじゃない。まして神フツヌシは飛鳥という眷属がおり、その剣技というのはそのファミリアの宝とも言えるものだ。対価無しで教えを請うなど言語道断、いやそもそも教えてもらえることは普通ないだろう」

 

「でも、教えてくれるって言った…!!」

 

「そうなのだが…まぁ今回は特例とも言えるものだ。私たちが教えていなかったのが悪いが、本来はこのようなことは許されないことなんだ。分かったかアイズ?」

 

「…分かった」

 

素直に頷くアイズ。それにしても『教育』という言葉に強い拒否感を示していたようだが、アイズは勉強は好きじゃないのだろうか?

 

「しかし、他派閥から指導してもらうというのに礼をしないわけにはいかない。なにか私たちにできることはないだろうか?」

 

「ぶっちゃけるとファミリアとかいう意識は(わたし)にはあまりないからな。本当に今回の件は飛鳥へのお礼として教えてもよいのだが…」

 

「技…というのはそのファミリアの大事な財産だ。その程度のことでそこまでして貰うわけにはいかない」

 

「お前も大概妖精(エルフ)らしく頭が固い、いやこの場合は高潔というべきか?…まぁそこまで言うのであれば貸し一つ、と言うのはどうだ?現在のオラリオ最強の一角に貸しを作れるというのだ。それだけで十分だろう?」

 

「…感謝する、神フツヌシよ」

 

フツヌシ様とリヴェリア様のいわゆる大人の会話、というやつが終わったようだ。しかし、リヴェリア様の話した事は僕も知らなかったファミリアの常識といったことであり、こちらとしても聞けてよかったことだ。

神様は貸し一つなんて言っているが、実際大したことを言うつもりはないだろう。

 

 

それからは明日からが楽しみなのか、アイズがワクワクした様子で普段どんな鍛錬をしているか聞いてきた。そして僕の普段の一日を語ると、リヴェリア様は僕が【求道者(ソード・アトラクティッド)】によって睡眠時間すらも削って鍛錬と勉強しかしていないことに痛ましそうな顔をし、アイズはその効果についてとても羨ましがっていた。そして己のスキルについてそう簡単に他人に言うんじゃないと説教をされた。

 

これまでのことでリヴェリア様がとても良い人であると言うのは理解していたが、改めてお母さんみたいだなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きましたよ!ここが剣士の聖地ヴァルサです!!」

 

御者の声に窓から顔を出す。

視界に入るは8M(メドル)ほどの高さの壁と城門。その前には数台の馬車と旅人と思しき人々が並んでいる。世界の中心と言われるオラリオだとこれとは比べ物にならないほどの高さの城壁があるらしいが、人生において村しか見たことないような僕には、ニ階ほどの高さの石の壁が横にずっと続いていることだけでも十分に驚嘆を禁じ得ない。

 

「もう日も沈もうとしている。まずは宿を取らないか?アイズが世話になる以上同じ宿に泊まれば色々と都合が良いと思うのだが…何処に泊まるかはそちらに合わせよう」

 

「大変情けないが妖精の王族(アールヴ)が泊まるような宿となると、ちとこちらの予算が厳しいのだが…」

 

言葉の通り情けない顔のフツヌシ様。路銀は多く持ってきているとはいえ、流石に貴族や王族が泊まるような高級宿に三週間ほど滞在できるほどの大金は無い。

 

「私は確かに王族ではあるが今は冒険者だ。遠征ならテントに泊まったりするのだ。むしろそのような高級宿に泊まるつもりは元からないぞ?」

 

「それなら良かった!とはいえ高級宿とまではいかないが多少グレードの良い宿を取るつもりだから安心してくれ」

 

御者が門番と話し終え、馬車は城門の下をくぐり抜ける。

 

「それでは、私はここで失礼させていただきます!タンザ村を助けていただいたことは本当にありがとうございました…!」

 

城門のすぐ近くにあった馬車乗り合い場へと着き馬車から降りると、ここまでお世話になった御者さんにお互い別れの挨拶をする。

 

僕たちは宿を探しに町をぶらぶらと歩く。

道行く人の多くが腰に剣を下げていることにこの町の特色を感じる。

通りには大きな道場が幾つか見える。そこからは今日の鍛錬を終えたと思しき汗をかいた男性たちが帰路についているのが見える。そうした心身ともに疲れた者たちをターゲットにした屋台なども多くあり、忙しなく呼び込みの声があちこちから聞こえる。

 

「凄いな…オラリオの外でこれほど多くの剣士がいるところは中々見たことない」

 

「それには(わたし)も驚いてるな!通常戦士というのは戦いが無ければ一箇所の地には留まらないものだ。しかし剣士の聖地という町の噂は聞いていたが…いやはや思っていた以上に強者がおるかもしれんなぁ!」

 

フツヌシ様の言葉に一人の剣士として自然と胸が踊る。

これほど多くの道場があるということは様々な流派の技を見ることができるということなのだ。それは必ず己の糧となるだろう。

 

「むっ!この良い匂いはシチューか?匂いがするのは…あちらに違いない、行くぞ!」

 

突然立ち止まったかと思うとそう叫び少し狭い方の道に行く神様。僕達はそれに慌ててついていく。

大通りから外れた小さな道の両側には同じく小さな多種多様の店が並んでいる。

 

「フツヌシ様!そんな匂いだけで決めていいんですか?!」

 

「飛鳥よ、うまい飯の宿に外れは無い!食というのは肉体が資本の戦士にとっては大事なものだ。何よりうまい飯は鍛錬で疲れた心を癒してくれるものだ!!」

 

そう断じる神様。その言葉には説得力がある。

確かに普段の食事は神様と二人で作るのだが、凝った料理が多く美味しいものが多いのだ。

更に進んでいくとこの町の住宅街なのか、多くの家々が視界に入る。

 

「というわけで、此処で構わないなリヴェリア!」

 

「元よりそちらに任せると言っているからな。しかし貴方のお墨付きなら楽しみにしようじゃないか」

 

着いた宿の前にはアカシア亭と書かれている小さな看板。その外観は民家のように町に溶け込んでおり、遠くから見たら宿だと気づくことはないだろう。

そうして神様を先頭にドアを開けて中に入る。

 

アカシア亭の壁や天井は少し橙色がかった木材が使われており、暖かみを感じさせた。

この宿は優しそうな老夫婦の二人が営んでいるようだ。話を聞けば老後の趣味の一つとして経営しているので、敢えてあまり目立たないようにしているらしい。彼らにニ・三週間ほど泊まるみなを伝えると、早速夕食を戴くことになった。

 

「お待たせしました。当宿自慢のアカシア亭の兎煮込みシチューになります」

 

「おおっ!じつに美味そうだ!」

 

「…良い匂い」

 

暴力的なシチューの匂いが僕らを襲う。木を素材とした皿には荒目に切られた野菜と大きい兎肉が入っている。

その湯気と共に立つ芳醇な匂いに食欲を刺激され思わず唾を飲み込む。

食事の合図をし、スプーンで一口。

 

「うまい!!」

「おいしい…!」

 

僕とアイズの声が被る。目が合うとお互いに頷き合う。

これは人生で食べてきた中で一番美味しいかもしれない。やはりプロというのはここまで凄いのだろうか。

そのコクのあるとろりとしたスープにうっとりとする。じっくり煮込まれたであろう兎肉は驚くほどの柔らかさで、その淡白な味にシチューの味がよく染み込んでいる。

そうしてゆっくりと味わうように食べる。

 

 

「終わっちゃった…」

 

とても残念そうな声が耳に響く。そちらを見るとアイズがその眉尻を下げ、とても悲しそうな顔をして空になってしまった木の容器を見ている。

僕はゆっくり食べていたが故にまだ三分の一ほど残っている己のシチューを見る。

 

「…?」

 

「僕もうお腹いっぱいだからさ、良かったらこれ食べる?」

 

「いいの…?!」

 

気がつけば僕は容器をアイズに差し出していた。それもう何の迷いもなく。彼女の悲しそうな顔に耐えられなかった。

 

「ありがとう」

 

「っ!!…ど、どういたしまして」

 

彼女の少し口元が緩んだ笑み。

その破壊力はあまりにも強烈だった。

意識が飛ばずに返事をした僕を褒めてほしい。まだ会って2日ほどしか経っていないが、そんな中で初めてみた彼女の笑顔はあまりにも可愛かった。

 

そうして意識は飛ばさなかったが、先ほどの笑顔を思い出し一人悶々としていると、視線を感じた。

 

そこには微妙な顔をしてこちらを見ているリヴェリア様とにやにやしているフツヌシ様がいた。

 

「…別にアイズを甘やかしたりはしなくてもいいんだぞ?」

 

「すみません…」

 

「まぁまぁ、飛鳥は同年代の女の子と今まで関わりがなかったから免疫が無いのだろう。ましてやアイズほどの可愛らしい娘となると初めてじゃないか?」

 

 

神様の揶揄いの言葉と視線に耐えきれず僕は顔を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ!フッ!フッ!」

 

剣を掲げ、振り下ろす。

ひたすらそれを繰り返す。一振りごとに良くない点を洗い出し修正する。しかし、軌道がブレないことを意識すると今度は振り下ろしが遅くなる。

けれど、それで良いのだ。一振り一振りに集中し繰り返す内にそれらのズレは少しずつ整っていくことをこの一年でよく知っている。

 

「…999!…1000!!」

 

心の中で数えていた数の終わりを口にする。

素振りはウォーミングアップでもあり、とても大事な基礎だ。戦いを生業とするのなら実戦の方が重要かもしれないが、剣士として技を極めたいのならこういった単純なことこそ大事にしなければいけない。

一度剣を置き休憩を取る。

 

昨日は夕食をとった後は、各自部屋に戻り就寝までの数時間の間は自由時間となった。

スキルの効果もあり睡眠時間がニ・三時間ほどでよい僕は、物音を立てないでいい瞑想をしていた。フツヌシ様は雑念を消すというのは意識しない限りできないものであり、一朝一夕では身に付かないものだと言っていた。だから毎日繰り返してその切り替えを修得することは、実戦においての剣の冴えを支える一つの要因となるとも。

 

今はまだ四時ほどの早朝と言える時間。太陽が東に見えることはなく辺りは真っ暗だ。

冬から春へと季節を移している時期ではあるが、この時間の早朝ともなると真冬の如き寒さだ。

しかし【ステイタス】が多少緩和してくれ、素振りによって暖まった体はもう先程の寒さを感じさせない。

 

置いていた剣を取り立ち上がる。

今度は実戦を想定した動きを入れていく。己が理想の剣士(フツヌシ様)になった姿を思い浮かべ剣を振るう。ここでは先程の素振りと同じように、丁寧さに重きを置いたものだ。

瞑想で培った集中力を活かし意識を研ぎ澄ませる。

 

───足りない

 

神様の剣を意識する。

芸術のように美しくも力強い剣。あの日の僕を魅了した軌跡をなぞる。

 

 

ほんの少しずつであるが近づいていく。絶望を覆す剣に、あの日の憧憬に。

 

 

 

 

 

「ハッ!!」

 

───今のは会心の一振りだった。

まだ神様には遠く及ばないけれど、今までで一番綺麗に振れた。

 

 

 

 

 

 

 

「お…とう…さん?」

 

 

 

 

脱力した僕の耳に入る呆然とした声と、からんと何かを落とすような音。

 

そちらに見えたのは口を半開きに立ち尽くしているアイズの姿。

その手は力が抜けたように開いている。彼女の下に転がる一本の剣。

 

 

「ごめん、もしかして起こしちゃった?」

 

「……」

 

声をかけるも何も返事がこない。様子が可笑しいアイズに近づきもう一度声をかける。

 

「アイズ、大丈夫?」

 

「…っ!ごめん、ボッーとしてた」

 

彼女はようやく僕に気付くと、手を強く握り締め顔を(うつむ)ける。

今にも泣きそうな表情。その姿は何処かいつもより幼く見える。

 

「…がう、おと…さん…は」

 

僕に聞こえないほどの小さな声で呟くアイズ。顔を上げたかと思うと急ににとんでもない提案をする。

 

「…頭、撫でて」

 

「えっ?」

 

「はやく…!」

 

アイズの縋るようなその表情に思わず彼女の指示通りに手を伸ばす。

 

ぽすっと頭に手を置く。金色に輝く髪は見た目通りとてもサラサラで絹のような手触りだ。

十数秒ほどそうして撫でていると彼女は少し安心したようにしていたが、何かを否定するように首を振る。

 

「…やっぱり違う」

 

自分に言い聞かせるかのような彼女の言葉。今度ははっきりと聞こえた。『違う』とはどういうことだろうか?なにと『違う』のだろうか?

一連の流れが一つも理解できずに困惑する僕。

 

「ありがとう、もう部屋に戻る」

 

「どういたしまして?」

 

剣を拾ったかと思うとスタスタと宿の方へ歩いていくアイズ。

 

 

 

 

 

 

「………何でアイズここに来たの?」

 

後に残されたのは疑問を抱きただただ立ち尽くす僕の姿だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この小説は完全趣味であり作者の妄想を具体的にする為に書いていて、物語としては冗長な日常シーンも多くなりますので、そこは了承ください。

アプリゲームのキャラエピソードとか衣装エピソードとかああ言うのめちゃくちゃ好きなんですよね。つまり何が言いたいかというと作者が好き勝手に書きたいこと書きます。


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