EYESHIELD21 天使の軌跡 (沢霧春慈)
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序章 天使爆誕
序章


勢いで書いていますので色々とキャラやルールが違うかも知れませんが気にしないでください。


西暦2008年12月25日―――イエス・キリストが生誕した日を祝う日だが、日本の世間ではクリスマスと呼ばれるお祭りの日である。

 

 恋人や家族と過ごしたりする者がほとんどだが、雪が降る夜の東京スタジアムでは今年一番の大勝負が行われようとしていた。

 

 全国高等学校アメリカンフットボール日本最強決定戦“クリスマスボウル”―――東日本の頂点に立った高校アメフトチームと西日本の頂点に立った高校アメフトチームが日本最強の座を賭けて闘う夢の舞台。

 

 アメフト好きな者にとっては興味を惹いてならない一大イベント。おまけに今年は東西共に奇跡を起こして夢の舞台まで駆け上がってきた新鋭のチームだ。

 

 東の代表校は創部二年にして部員数わずか十五名。

春秋九連覇の神龍寺ナーガ、無冠の王こと王城ホワイトナイツ、最強のラインマンが所属する白秋ダイナソーズなどの強豪を倒してきた超攻撃型のチーム。

 

西の代表校は創部初年にして部員数も同じく十五名。

全ての始まりにして全ての頂点と呼ばれ、クリスマスボウルが始まって以来全勝を重ねてきた帝黒アレキサンダーズに始めて公式戦で黒星を付けた選手個性豊かな最恐攻撃チーム。

 

 それゆえに今年のクリスマスボウルはアメフト関係者にとっては注目の的であり、自分の目で見ようと東京スタジアムは観客で埋め尽くされていた。

 場内は和気藹々としており、観客達は試合が始まるのを待っている。

 

 『本日12月25日! ついにッ、ここ、雪の東京スタジアムに於いて―――東の王者と西の王者が激突ッッ!! 最強は果たしてどちらなのか!!? 全国高等学校アメリカンフットボール日本最強決定戦クリスマスボ~~~~ゥル開幕!! まずは選手紹介からです!!』

 

 場内にテンションの高い実況アナウンスが流れ、東側の選手から選手紹介が始まる。

 選手がチームのマスコットキャラクターを模した入場ゲートから選手紹介されながらフィールドに現われる度に、場内は歓声に包まれる。

 東側の選手紹介が終わると、次は西側の選手紹介が始まった。

 白いユニフォームに身を包んだ選手達が次々と現われ、拍手で迎えられる。

 

 『そしてフィールドを駆け抜けるのは! 時代最強最速のランナーにして超光速のランニングバック、“アイシールド21”小早川瀬那!!』

 

青いアイシールドが付いたヘルメットを腕で抱えた小柄な少年・小早川瀬那がフィールドに現われると今まで以上に大きな大歓声が起こる。

 会場にいるアメフト関係者は彼を見る為に来ていると言っても過言ではない。

 “アイシールド21”小早川瀬那というアメフトプレイヤーにはそれだけの価値がある。

 

 「すごい人だ、前よりも人が多い」

 

フィールドに出た瀬那は昔の懐かしさを感じながらベンチに向かう。

 そこには瀬那が所属するチームの個性豊かな選手達、マッチョな外人の監督権顧問、悪魔みたいな主務、美人の敏腕マネージャー、気の弱いトレーナーが揃っていた。

 

 「いよいよだな・・・やっぱり前もこんな感じだったのか?」

 

 感慨深く会場を見渡していた瀬那に声を掛けたのは長身の美少年。チームの司令塔であるクォーターバックを務める瀬那の親友だ。

 彼に声を掛けられた瀬那は小さく頷き、

 

 「前の時は大和君と試合に勝つ事しか考えてなかったから、あまり観客とか憶えてないけど前よりも多いと思うよ」

 「お前も奇特な人生を送ってるな。青春の高校生活を二回も楽しめるなんて役得だぞ」

 「確かにそうだね」

 

 親友の言う事は尤もだと思いながら瀬那は敵側のベンチを見る。

 そこには嘗てのチームメイトの姿がある。

自分を無理矢理アメフトの世界へと引きずり込んだ悪魔のクォーターバック。

デブで鈍足で気弱だけど誰よりも優しくて力強いラインマン。

老け顔の飛ばし屋キッカー。

キャッチに命を賭けたサル顔のレシーバー。

勉強漬けでスポーツ経験ゼロだが、誰よりも心の強い頭脳レシーバー。

バカで目立ちやがり屋のタイトエンド。

いつも仲良くつるんでいる不良のラインマントリオ。

小柄でいつも何を言ってるのか理解できないけどパワフルなラインマン。

影が薄い陸上部からの助っ人。

無類の酒好きで金使いの荒いトレーナー。

いつも自分の心配をしてくれていた幼馴染のマネージャー。

そして、いつも自分を応援してくれたチアリーダー。

何人か知らない顔がいるが、間違いなく敵は嘗て共にクリスマスボウルを制覇した泥門デビルバッツだ。

 

だが彼らは誰も自分の事なんか知らない。

そう思うと寂しく感じる。彼らと築いてきた絆が全て失われた様なものなのだから。

自分の人生はあの日、一度リセットされてしまった。

 

「なに辛気臭ぇ顔(ツラ)してんだよキャプテン」

 

瀬那の隣に立ち、その肩に逞しい手を置いて話しかけてきたのは親友のラインマンだ。

どうやら彼はデビルバッツの面々を悲しそうな顔でぼんやりと見ていた自分が気になった様だ。

 

「え、あ、ごめん?」

 

まだ出会って一年足らずだけど、クリスマスボウルを目指して苦楽を共にしてきた仲間達がいる。

そんな彼らよりも昔の仲間に今でもこだわる自分が情けなく思って瀬那は謝った。

 

「―――行こうみんな。頂点をもぎ取りに!」

「「「「「おう!!!」」」」」

 「選手整列!」

 

瀬那の言葉にチーム一同が返事を返し、審判が試合前の両チームの選手整列を伝える。

 両チームがフィールドの中心に整列する。

 

 『さあ遂に日本最強の座を賭けて東西の最強チームが激突します!! 東の王者・泥門デビルバッツVS西の王者・誠光エンジェルス!! 悪魔と天使!! 栄冠を掴み取るのはどちらだ!!』

 

 両チームの挨拶が終わり、試合の準備を始めながら瀬那は全てが始まった日の事を思い出していた。

 




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1st down 全てが終わり、全てが始まった日

年はてきとうです。


 ―――いいか・・・試合中は小早川瀬那の名前は捨てろ! そう、お前のコードネームは・・・・・・アイシールド21!!!

 

 最強のランナーという名のコードネームを知らずに無理矢理背負わされた日から七年の月日が経った。

 

 高校を入学してすぐにアメリカンフットボールという最強の球技を無理矢理始めさせられた虚弱・貧弱・脆弱・最弱と呼ぶに相応しかった昔の臆病な自分が今の自分を見たらどんな顔をして何を思うだろうか?

 

 幼馴染の少女に護られていた弱い自分を思い出して瀬那は自嘲の笑みを浮かべる。

 

 いま彼がいるのは渡米中の旅客機の中だ。

 高校でクリスマスボウルを制覇し、大学でライスボウルを二度制覇した瀬那は、いよいよライバルとの誓いを果たす為にNFL(ナショナルフットボールリーグ)のプロテストを受ける為にアメリカンフットボールの聖地アメリカへと向かっている。

 

 未だに日本人でNFLの選手になった者はいなく、瀬那自身もかなり厳しいのは理解している。

 生まれ持った人種と才能の壁。努力の二文字では決して超えられない力の差を知っても瀬那の気持ちは変わらない。

 敵わないと知っていてもひたすら挑み続ける。

 男なら誰もが持つ頂点に立ちたいという渇きを潤すために獣道を進み続ける。

 それがアメリカンフットボールという戦いの世界で瀬那という名のオスが知ったことだ。

 

 「いよいよアメリカだ・・・パンサー君達がいる世界に挑戦するんだ・・・」

 

 瀬那は手に握られた楕円形のアメフトのボールを見る。

 出立前に仲間やライバル達から送られたボールにはNFLに挑戦する瀬那に対する激励の文字で埋め尽くされている。

 アメフトを始めるまでは友達一人いなかった自分にとっては何よりも大切な宝物の一つだ。

 大学を卒業して全員バラバラの道を行った。

 それでもアメフトを続けている限りみんなとの絆は無くならない。

 今も、そしてこれからも。

 

 瀬那は携帯に保存してある仲間達との写真を見ながら高校と大学の七年間を思い返す。

 その時だった―――旅客機が大きく揺れた。

 

 「ひぃいいい、一体何が!?」

 

 グラグラと揺れる旅客機の座席にしがみ付きながらただならぬ事態を予感する瀬那。

 他の旅客達も突然の非常事態に平静を保てずに騒ぎ立てている。

 

 「何が起きてるんだ!?」

 「機長は何やってるんだよ!」

 「こんなの冗談じゃないわよ!」

 

 瀬那は仲間達から送られたボールを腕に抱きかかえながら事態の収束を願う。

 しかし事態は最悪の状況であることを機内に流れるアナウンスが知らせる。

 

 『本機はこれより不時着します。繰り返します。本気はこれより不時着します。お客様は衝撃に備えてシートベルトをきつく締めて掴まっていて下さい!!』

 「ひぃいいい、どうしてこうなるのォ~~~~!!!」

 

 最悪の事態に瀬那は目を瞑り、衝撃に備える。

 そして襲ってきた強い衝撃を感じると共に意識を手放した。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 「うわぁあああ~~~!!!」

 

 ベッドから落ちる衝撃と共に瀬那は目を覚ました。

 すぐに痛む身体を起こしてベッドに這い上がり、大きな安堵の息を吐く。

 

 「良かった・・・無事だったんだ・・・」

 

 自分が生きている事に安心しつつほっとすると、自分が今いる場所を確認して思わず固まった。

 瀬那が目覚めた場所は病院などではなく、既に荷物の整理を済ませて引き払った実家の自室だったからだ。

 疑問に思ってベッドから降りようとすると、手に慣れたボールの感触を感じて視線を向ける。

 そこには出立前に仲間から送られた筈のアメフトボールと大学生になって新しく買って貰った携帯電話があった。

 それを見て瀬那はほっとした。

 

 「ほっ、良かった、無くならないで」

 

 仲間から送られた宝物と思い出が詰まった携帯電話を手に持って机の上に置くと、瀬那はどうしてアメリカに向かった筈の自分が日本の実家にいるのか聞く為に自室を出てリビングへと向かう。

 するとそこには瀬那の父、小早川秀馬がいた。

 

 「おはよう、セナ」

 「・・・・・・・・・・・・ええええ!?」

 

 椅子に座って新聞を広げる父親がいつも通り挨拶をするが、瀬那は出立前に会った父の姿が若返っている事に思わず固まってしまった。

 

 「どうしたんだ? 今日は泥門高校の入試合格発表の日だろ」

 「泥門の入試合格発表・・・・・・?」

 

 父の言っている事が理解出来ずに瀬那はぼんやりと言葉を反芻する。

 そしてまさかと思いつつ父親に聞いてみた。

 

 「父さん。今日は2015年8月15日だよね?」

 「何を言ってるんだ? 今日は2008年の3月14日じゃないか?」

 「!?」

 

 父の言う事が本当かどうか確かめる為に瀬那は新聞やテレビのニュースを見る。

 するとそこにはしっかりと2008年3月14日と記載されていた。

 夢かと思って頬を強くつねるが感じる痛みが現実なのだと教えてくれる。

 次に鏡の前に向かって自分の姿を見てみるが、そこにはアメフトで鍛えた大人の自分ではなく、ただのパシリだった頃の貧弱な自分がいた。

 

 「どうしたのセナ? 早く着替えなさい、まもりちゃんが待ってるんでしょ?」

 

 後ろから聞きなれた母親の声が聞こえて瀬那は振り向くと、そこには7年前の姿をした母、小早川美生がいた。

 

 「な、何でもないよ!」

 「そう? ならいいけど・・・合格してるといいわね」

 

 心配そうに溜息を吐く母を見ながら瀬那は、泥門は定員割れで全員補欠合格なんだよ、と心の中で呟いた。

 

 「とりあえず早く着替えて朝食を食べなさい。まもりちゃんと一緒に合格発表を見に行くんだろ?」

 「う、うん、わかった」

 

 父、秀馬に言われて瀬那は二階の自室に戻って中学の制服に着替える。

 

 「まさか中学の時の制服をまた着る事になるなんて思ってもみなかった」

 

 黒い学ラン姿の自分を見て大きな溜息を吐くと、瀬那はリビングに戻って両親と一緒に朝食を食べる。

 そして朝食を食べ終えると玄関に向かい、靴を履いて制服のポケットに入っている受験票を握り締め、瀬那は家を出た。

 

 「行って来ます」

 「行ってらっしゃい」

 「気を付けてな」

 

 両親に送り出された瀬那は走り出す。

 三年間通った母校に向かって駆ける。

 

 「(足が遅い!? 想像したとおりのスピードが出ない・・・!)」

 

 いつも通りのスピードが出ない事に瀬那は苛立ちを感じる。

 アメフトを始める前の身体なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、鍛えた体がいきなり脆弱になったのはショックだった。

 

 「また鍛え直さないと!」

 

 どうして自分が過去にいるのか深く考えるのはやめた。

 とりあえず今は現実を受け入れて行動しよう。

 このままいけば自分はもう一度泥門デビルバッツの仲間達と一緒にクリスマスボウルを目指せる。

 もう一度みんなと戦える。そう思えば悪くない夢だ。

 息を荒くしながら止まらずに走り続け、懐かしい母校が見えると瀬那は微笑んだ。

 正門の前で急停止すると、そこには瀬那と同じく合格発表に来ている他校の人達が大勢いた。

 

 「セナ!」

 

 聞き慣れた声で名前を呼ばれてそちらを見ると赤毛の美少女が手を振っていた。

 

 「まもり姉ちゃん」

 「こっちこっち」

 

 手を振るまもりの下へと歩み寄る。

 社会人の大人となった彼女の姿を知る瀬那は、再び懐かしさを感じた。

 

 「受験番号は?」

 「021だよ」

 

 まもりと一緒に掲示版へと向かうのだが、

 

 「Ya―――Ha―――」

 「合格おめでとう―――!!」

 

 聞き覚えのある声がして顔を向けるとそこにはアメフトの赤いユニフォームを着た金髪の男とぽっちゃり体型の巨漢が合格者らしき少年を胴上げをしていた。

 

 「そういえば僕もやられたな、アレ」

 

 本当に懐かしいと思いつつ瀬那は掲示板を確認する。

 

 「021・・・021・・・」

 

 隣でまもりが小さく受験番号を反芻しながら掲示板を恐る恐る確認する。

 瀬那としては、どうせ定員割れで補欠合格なんだからと落ち着いていた。

 

 「あっ・・・・・・」

 「?」

 

 まもりが呆然と一点を凝視する。

 瀬那もまもりが見ている場所を見る。

 そして気付いた。気付いてしまった。

 020、022―――瀬那の受験番号が無い。

 すなわち不合格。

 

 「そんな・・・嘘だ・・・!?」

 「アリエナイィイイ!!」

 

 聞き覚えのある男(バカ)の叫びが聞こえたが、瀬那は呆然と掲示板の前で立ち尽くしていた。

 




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2nd down 悪魔への宣戦布告

近いうちに改稿しますので、その時の誤字などを直したいと思います。


「ただいま・・・」

 

 覇気を感じさせない静かな声で挨拶をしながら玄関のドアを開けて帰宅した瀬那は、玄関の段差に腰掛て、靴紐を解いて靴を脱いだ。

 

あれから「残念だったね」と悲しんでいるまもりに言われるまで呆然と合格者発表掲示板を見上げていた。

もしかしたら自分が見落としているのではないか、と何度も確認したが結果は変わらない。

何度見ても瀬那の受験番号021は無かった。

瀬那は泥門高校の受験に落ちたのだ。

つまり瀬那は泥門で、泥門デビルバッツというチームでクリスマスボウルを目指せないということだ。

泥門高校の入試合格発表を見に行った後の事を瀬那は呆然としていて覚えてない。

まもりが励ましか何か言っていた様な気がするけど耳に入っていない。

これは何かの悪い夢なんだ、一度寝て起きれば全て元通りなんだと思って帰路に着いていた。

 

「・・・まもりちゃんから結果は聞いたわ・・・残念だったわね」

「・・・・・・うん」

 

 背後から母の美生に声を掛けられた瀬那は申し訳無さそうに頷いた。

 受験に落ちて家に帰っていたらこんな感じだったのかと自嘲したくなるが、今はそんな気分じゃない。

 早く寝てこの悪夢から目を覚ましたかった。

 

 「ごめん、ちょっと寝るよ」

 「その前にお父さんと話があるからこっちに来なさい」

 「今じゃなきゃダメ?」

 「泥門に落ちちゃったから、滑り止めで受かった高校についての話よ」

 

 そう言えば嘗て滑り止めで父親の母校を受験した事があったな、と瀬那は思い出した。

 

 「・・・・・・うん、わかった」

 

 さっさと話を聞いて部屋に戻って寝ようと思いつつ瀬那はリビングへ向かう。

 そこには父、秀馬がおり、瀬那はテーブルを挟んで向かい合う様に座り、美生は秀馬の隣に座った。

 瀬那は両親の顔を窺うが真剣そのものであり、秀馬と美生も初めて見る瀬那の弱々しく申し訳無さそうな姿に怒る気も無かった。

 しばし互いに無言だったが、呼び出した秀馬の方から話を始めた。

 

 「泥門高校の件は残念だったな」

 「もう終わった事だから別にいいよ・・・・・・」

 「そうだな・・・確かに泥門は落ちたが、滑り止めで受けた父さんの母校には受かっている」

 「うん、知ってる」

 「それでだな・・・父さんの母校、私立誠光学院は兵庫県にあってね、全寮制の学校なんだ」

 「つまり、家から離れて高校生活を送るってこと?」

 「そうだ」

 

 その程度のことなら問題ない。

 瀬那自身は大学生の時に一人暮らしの経験がある。

 よく鈴音に家事など手伝ってもらったが、一人でも何とかできる自信はある。

 その後も父の母校の話が続いたが、瀬那の耳には入っていなかった。

 話が終わり、部屋に戻って寝ようとした瀬那は気になる事があって秀馬に聞いた。

 

 「父さん、その高校って、アメフト部あるの?」

 「アメフト部?」

 

 いきなり瀬那とは無縁そうなスポーツの名前を出されて秀馬は意外そうな顔をするが、気にするのはやめて真面目に答えた。

 

 「父さんの時は強豪として有名だったよ。それがどうしたのか?」

 「ううん、何でもないよ。ありがとう・・・」

 

聞きたかった事を聞いた瀬那は自室に戻ると、制服姿のままベッドに寝転がって目を瞑る。

 一度寝て目を覚ませば子供の自分から大人の自分に戻る。それを願いながら瀬那は眠りについた。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 「・・・・・・此処は?」

 

 気が付くと瀬那は自分の部屋ではなく別の場所にいた。

 元の世界に戻ってきたのかと思ったが、自分が着ている中学の制服と、成長途上の身体が違うのだと分かってがっくりと肩を落とすが、自分が今いる場所に気付いた。

 

 「此処って・・・東京スタジアム・・・?」

 

 高校アメフト選手にとって夢の舞台であるクリスマスボウルが行われる最終決戦場。

 嘗て瀬那がデビルバッツの仲間達と共にプレイし、全国制覇を成し遂げた場所であり、偽りのヒーローだった自分が本物のヒーローを倒して最強を証明した場所でもある。

 たった一試合、僅か数時間の出来事だったが、今でも瀬那はあの試合の事を憶えている。

 出来るならもう一度仲間達と一緒に試合をしたかった。

 しかしその夢が叶うと思った今日、泥門不合格という結果に終わって断たれた。

 瀬那が泥門で今年クリスマスボウルを目指す事は出来ない。

 その事実だけが辛かった。

 泥門の部活動は二年の秋まで。つまり今年しか二年のヒル魔や栗田と一緒に戦う事は出来ないのだ。

 瀬那は空を見上げながら嘗ての仲間達の事を思い出していると、背後から声を掛けられた。

 

 「ケケケケ。糞チビ、何バカ顔して呆然としてやがる。フィールドのど真ん中で絶賛野グソ中か?」

 「してないよ!!」

 

 思わず自然と声を漏らして振り向くと、そこには見知った人物がいて瀬那は驚いた。

 逆立てた金髪にエルフみたいに尖った耳。ギザギザの歯が生えた不敵な口に整った顔立ち。体付きはアメフト選手としては細身でスラリと背も平均よりも高い。

泥門デビルバッツの赤いユニフォーム姿の彼は、マシンガンを肩に担ぎ、いつもどおりの不敵な顔をして立っていた。

 

 「ヒル魔さん・・・!」

 

 瀬那は男の名を嬉しそうに呼ぶ。

 彼の名は蛭魔妖一。泥門デビルバッツの主将で司令塔を務める男であり、瀬那を無理矢理アメフトの世界に引きずり込んだ張本人である。

 

 「飛行機墜落に始まり、今度は泥門不合格か、落ちる所まで落ちたじゃねぇか!」

 「楽しそうですね・・・・・・」

 

 ケケケケ、と人の不幸を笑う悪魔に、瀬那はいつものヒル魔さんだと思いつつ溜息を吐いた。

 

 「それでどうするんだ糞チビ? そのまま現実逃避をして泣き寝入りすんのか、それとも新天地で頂点を取りに足掻くのか、どっちだ?」

 「・・・・・・僕は・・・」

 

 泥門に落ちた自分は別の学校に通う事になる。

 父の母校である関西の高校へと。そこでも必ずアメフトを続けてクリスマスボウルを目指すだろう。

 瀬那の夢はNFLの選手なのだから。

 瀬那は自身の覚悟が決まると目の前で真剣な顔でこちらを見据えるヒル魔に胸中を吐露した。

 

 「―――僕は関西の高校でクリスマスボウルを目指します・・・! 帝黒学園を倒して、クリスマスボウルで必ずヒル魔さんと、泥門デビルバッツを倒します!」

 

 その真っ直ぐな想いの込もった言葉を聞いたヒル魔は楽しそうな笑みを口に浮かべる。

 

 「ケケケケ、糞チビが言うようになったじゃねえか。おもしれぇ、俺とお前との戦績は一勝一敗だ。クリスマスボウルで決着を付けようじゃねぇか・・・!」

 

 瀬那とヒル魔は大学時代に二回だけ戦った事がある。

 どちらもクリスマスボウルを超える大イベント、ライスボウルの出場を賭けた大一番だ。

 ヒル魔と決着を付けたいという思いは今もある。

 ヒル魔はその決着をクリスマスボウルで付け様と言っている。

 

 「俺たちは必ずクリスマスボウルに行く。糞チビ、お前も関西の奴等をぶっ殺して必ずクリスマスボウルまで這い上がって来い。今年の12月25日のこの場所が俺とお前の最終決戦場だ・・・!」

 「はい!!」

 

 ヒル魔からの挑戦状に、瀬那は胸の奥から熱い何かが灯るのを感じてはっきりと返事をした。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 「・・・・・・やっぱり夢だったのか・・・」

 

 目を開けるとそこは自分の部屋だった。

 さっきの出来事は夢だったのだとすぐに悟るが、普通の夢と違っておぼろげなものではなく、はっきりと瀬那の記憶に刻まれている。

 夢の中で瀬那はヒル魔と約束した。

 クリスマスボウルで大学時代に付けられなかった決着を付けると。

 窓の外を見てみれば既に夕日が沈み始めていた。

 どうやら自分は半日近く寝てしまっていたらしい。

 

 「・・・行かないと」

 

 瀬那はこちらの世界のヒル魔に言いたい事があってベッドから身を起こすと自室を出て玄関に向かう。

 

 「どうしたのセナ、そんなに急いで?」

 

 玄関で靴を履いている瀬那に気付いた美生が声を掛けると、

 

 「ちょっと用があって泥門に行ってくるよ」

 

 いつもと違う堂々とした態度で言うと瀬那は、玄関のドアを開けて走り出した。

 突然家を飛び出して行った息子の何か吹っ切った姿に首を傾げながら美生は、どんどん後ろ姿が小さくなっていく息子を見送った。

 

 「ハァハァ・・・・・・」

 

 走る。ひたすら走る。

 泥門へ、言いたい事を言う為に瀬那は通い慣れた通学路を猛スピードで走り抜ける。

 商店街の人ごみをすり抜け、急な坂を駆け上がり、泥門高校が見えると正門を飛び越えてアメフト部の部室がある場所へと向かう。

 そこには探し人のヒル魔がおり、すぐ近くには栗田と都合良く武蔵がいた。

 キキキ、と靴底をすり減らしながら急ブレーキを掛ける。

 三人は突然現れた瀬那を驚いた顔で見た。

 

 「何か用か糞チビ?」

 

 全力で走って息を荒くしている瀬那に、ヒル魔が試す様な視線を向けつつ口を開くと、瀬那は口許に笑みを浮かべて彼らに宣戦布告する。

 こちらの世界の彼らは自分の事なんか露も知らないだろう。

 それでも瀬那はこの想いを伝えたくてはっきりとした声で伝えた。

 

 「今年泥門を受験して落ちた小早川瀬那です! 今日はヒル魔さん、栗田さん、ムサシさん、泥門デビルバッツに宣戦布告に来ました!」

 「僕達に宣戦布告?」

 「「・・・・・・・・・・・」」

 

 不思議な顔をする栗田に対して、ヒル魔と武蔵は無言で瀬那を見据える。

 

 「僕は関西の高校へ入学します! そこでアメフト部に入部して、必ず帝黒学園を倒してクリスマスボウルに行きます! そしてクリスマスボウルで泥門デビルバッツに勝って全国制覇してみせます! 今日はそれだけを伝えにきました!」

 

 言いたい事を言った瀬那は溜まった物を吐き出した様にすっきりとした顔をすると、三人の前から走り去った。

 

 「何だったのかな?」

 

 見知らぬ少年にいきなり宣戦布告された栗田は訳が分からないといった顔で二人に話を振るが、

 

 「知るか」

 「ライバルの出現と言ったところだろう」

 

 ヒル魔と武蔵は楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 「とんでもない事を言ってしまったな」

 

 昔の自分では考えられない大胆な行動だが、後悔は無い。

 瀬那は走りながらこれからの事を考える。

 今の自分のスピードは恐らく出会ったばかりの頃の進と同じ位。

 未来の自分と比べれば遥かに遅いし体力も無い。

 今の自分にあるのは長年の知識と経験で磨き上げた技術のみ。

 こんなレベルではクリスマスボウルなんか夢のまた夢だ。

 もっと強くならなければならない。

 

 「これから忙しくなるぞ。明日から猛特訓だ!」

 

 知り合いが誰もいない新天地での不安はある。

 それでも瀬那の目指す場所は変わらない。

 どんなに高い壁が立ちはだかろうとも必ず乗り越えてみせる。

 それがアメリカンフットボールを始めて学んだ事の一つなのだから。

 




次話から入学します。
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3rd down 黄金の脚を持つ少年

今作品は話の都合上オリキャラが多くなります。


 三月も終わり頃になり、世間の学生達は春休みを過ごしていた。

 誰もが自由に過ごす中、昼下がりの公園で小早川瀬那は独りトレーニングに励んでいた。

 上下黒のジャージに身を包み、手にはなけなしの小遣いで買った新品のアメフトボールをその細腕に抱えてひたすら己の身体を苛め抜く。

 広い公園のランニングコースを石蹴りしながら全力でダッシュを繰り返す姿は、周囲の者から見れば奇妙に映る事だろうが、これにはちゃんと意味がある。

 嘗て時代最強のランナー“アイシールド21”と呼ばれた瀬那だが、何の因果か解らないが過去に遡った時に、身体能力がアメフトを始める前まで大きく落ちてしまった。

 言うなればゲームをクリアして、鍛え上げたスキルを継承させて最初からやり直している状態だ。

 現状の瀬那は技術と経験はトップクラスだが、それを生かす肝心の身体能力が全然足りていない。自分が思った通りの動きがしたくても身体がイメージに追いつかないのだ。

 その証拠に一周一キロもある公園のランニングコースを走っているが、僅か十周したあたりから身体が音をあげ始めていた。

 

 「ひいいぃぃ・・・これで20週目・・・」

 

 息を荒げながら水分補給の為にふらふらしながらも水道へと向かう。

 その姿は凄いものだった。

 着ているジャージは汗で濡れ、汗拭き用のタオルも絞れば汗が沢山絞り出るであろうほど濡れている。

 

 「よし! さっぱりしたし、再開しよっと」

 

 ジャージやシャツなどの汗も搾り出して、冷たい水道水を頭に被ってさっぱりした瀬那は再びトレーニングを始める。

 今から一週間後には関西の高校へと入学する。

 現在の日本高校アメフト界には西高東低という言葉がある。

 アメフトは東日本よりも西日本の方が圧倒的に強いという意味である。

 そう言われる所以は、東日本と西日本の最強チームが激突する全国大会決勝戦“クリスマスボウル”で一度も東日本側が勝利したことが無いことに起因する。

 西暦1980年に始まったクリスマスボウルは、初代優勝校である関西の帝黒学園が現在に至るまで全て優勝している。

 東日本で不敗神話を築き上げ続ける神龍寺ナーガですら遠く及ばない力による絶対王政。

 瀬那が関西でクリスマスボウルに行くには、その絶対王政を終わらせなければならない。

 嘗て瀬那は東日本代表・泥門デビルバッツのエースとしてクリスマスボウルに参加して全国制覇したが、その時は頼もしい仲間がいた。

 だが今度通う関西の高校では新たな仲間と帝黒打倒を成し遂げなければならない。

 不幸中の幸いと言うべきか、瀬那は今年の帝黒がどれだけ強いか知っている。

 まだ見ぬ仲間達の事はともかく、帝黒に勝利する為には帝黒学園のエースにしてアメリカの元ノートルダム大付属中学校のエースランナー“アイシールド21”大和猛に自分が絶対勝たなければならない。

 その為に瀬那は春休みをトレーニングに費やしている。

 日本広しと言えども春休み中デスマーチをアメフト選手は自分位だろう。

 一日中トレーニングに明け暮れる瀬那に両親と幼馴染の姉崎まもりは何も言わなかった。

 それどころか何かやりたい事を見つけて以前よりも生き生きとしている瀬那の事を応援してくれている。

 

 「・・・これで37週目・・・・・・」

 

 昼食を食べて昼からトレーニングを再会してから四時間近くが経過した。

 もう既に四十キロメートル近く石蹴りをしながら全力疾走を繰り返しているせいで脚は震え、身体がもう休ませろと悲鳴を挙げる。

 それでもまだ休むわけにはいかない。休憩が少しだけ許される夕食まで後一時間半近くもある。

 そして夕食再開後に午前零時までトレーニングして、二十四時間休ませる事で筋肉を超回復させなければならない。

 二日分トレーニングをして二十四時間休ませて二倍超回復させる。

 それが嘗て泥門デビルバッツを奇跡のチームへと変えた拷問トレーニング“死の行軍(デスマーチ)”である。

 

 「あれ、あの子どうしたのかな?」

 

 休む事無くそのまま次の周回に突入しようとする瀬那だが、公園の出入り口の前で地図を片手に困った顔をしている少女見つけた。

 肩まで伸びたストレートの黒髪を二つに別けてお下げにした可愛らしい少女だ。

 おとなしそうで、年齢は瀬那と同い年位だろう。

 何か困り事だろうか、とお人好しの血が騒いだ瀬那は、トレーニングを一時中断して少女に歩み寄る。

 そこで瀬那は気付いた。

 少女の方へ猛スピードで走って来る一台の乗用車の存在に。

 少女は自身に迫ってくる暴走車の存在に気付いていない。

 

 「!? 危ないっ!!」

 

 最悪の事態を予想した瀬那は、腕に抱えたアメフトボールを放り出して全力で走り出す。

 瞬時にトップスピードまで加速する人間離れした脅威の瞬発力でスタートした瀬那だが、ほんの僅か間に合いそうに無い。

 

 (間に合わない!?)

 

 最悪の事態が頭によぎる瀬那。少女の方もようやく自分の方へと突っ込んで来る暴走車に気付いて、その可憐な顔を恐怖に歪ませる。

 それを見た瞬間―――瀬那の中に秘められたリミッターが外れた。

 

 (間に合えぇぇええええええ!!!)

 

 現在の自身のトップスピードである40ヤード走4秒4の音速の足がさらに加速する。

 そして辿り着くのは人類の限界速度―――40ヤード走4秒2という光速の世界。

 現日本最速の領域に達した瀬那は、トレーニングの疲れで悲鳴を挙げる脚に活を入れ、少女に向かって一目散に駆け抜け、立ち尽くす少女の身体を抱えると横に大きく跳ぶ。

 間一髪だった。

 間一髪で瀬那は事故に遭う筈だった少女を救い出すことに成功した。

 少女を救い出した瀬那は少女を腕に抱きかかえたままゴロゴロとアスファルトの上を転がる。

 さっきまで少女がいた方から車が何かに激突する音が聞こえ、転がる二人は誰かの手によって受け止められた。

 事故が起きた事に周囲が騒がしくなるが、瀬那はそんなこと気にできないほどほっとしていた。

 

 「ハァハァ・・・危なかった・・・」

 

 最悪の事態をまぬがれたことに安堵して息を吐く瀬那。

 少女の方も転んだ時にできた擦り傷程度で済んでいる。

 

 「無事か二人とも?」

 

 瀬那と少女を受け止めてくれた人物が二人に声を掛ける。

 

 「は、はい・・・」

 「はい・・・ありがとうございます―――」

 

 瀬那と少女は体を離してアスファルトに座り込み、少女はぼんやりとしながら答え、瀬那は受け止めてくれた人に礼を言いながら顔を向けると思わず固まった。

 受け止めてくれた彼は、パシリだった瀬那を戦士へと変える切っ掛けを作った因縁の深い相手だったからだ。

 被ったフード付きの白いジャージから覗く生真面目そうな精悍な顔と弛まぬ努力で鍛えられた筋肉質の身体。

 高校史上最強のラインバッカーにして瀬那の永遠のライバルであるパーフェクトプレイヤー―――進清十郎。

 それが彼の名前である。

 

 「どうした? 何処か痛むのか?」

 「いいえ、大丈夫です!」

 

 思わぬ人物に助けられて呆然している瀬那を訝しげに思った進が声を掛けると、瀬那はすぐに立ち上がって無事な事をアピールした。

 この時はまだライバルでも何でもない他人だが、嘗てのライバルに情けない姿を見せたくなかった。

 

 「そうか、なら良かった」

 

 すぐに立ち上がった瀬那の様子を見て進は、フッと微笑んだ。

 珍しいものを見たな、と思いつつ瀬那は尻餅をついて座り込んでいる件の少女に様子を尋ねた。

 

 「君は大丈夫? どこか痛いところはない?」

 「はい、ありがとうございます。どうにか無事みたいです」

 「そう、良かったぁ~。立てる?」

 

 少女の無事に瀬那はほっとして喜び、手を差し出す。

 少女は手を取って立ち上がるとスカートに付いた砂をパンパンと払う。

 三人が視線を向けた先には電柱に突っ込んでフロント部分が大破した車があり、野次馬らしき人達によって運転手が運転席から引きずり出されていた。

 

 「あ、警察を呼ばなくちゃ」

 「もう誰か呼んだんじゃないかな」

 「それでも一応警察に電話しといた方がいいだろう。事が事なだけにな」

 

 事故が起きた事を改めて実感した少女が携帯電話を取り出して、警察と救急車に電話しようとするが、瀬那が大勢の野次馬を見て必要無いんじゃないかなと呟き、生真面目な性格の進がしておいた方がいいと勧めた。

 少女は真面目そうな彼の言う通りだと思って電話しようとするが、現在の場所が分からない事に気づいた。

 

 「すいません・・・私、まだこちらに引っ越してきたばかりで場所が全然分からないから代わりに電話してもらえませんか?」

 

 少女は生真面目そうな進に携帯電話を差し出す。

 うむ、と頷いて携帯電話を受け取る進。それを見て瀬那は大事何かを忘れている様な気がして頭を捻り、はっととある一大事を思い出す。

 重度機械音痴である進に機械類を使わせてはいけないという暗黙のルールを。

 

 「進さん、僕が電話しますから!」

 

 進から少女の携帯電話を守るべく、進が持つ携帯電話にすぐさま手を伸ばすが。

バキャッ―――既に遅かった。

 少女の携帯電話は真っ二つに割れた。

 

 「・・・・・・電話がおかしい?」

 「きゃああああ!?」

 「ひいい、遅かった!」

 

 真っ二つになった携帯電話を不思議そうに見つめる進、それを見て少女は信じられないとばかりに悲鳴を挙げ、瀬那は間に合わなかったかと少女に内心謝った。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 「電話の件はすまなかった。必ず後日弁償させてもらう」

 「当然です! 買って貰ったばかりだったのに~~~!」

 

 申し訳無さそうに頭を下げて謝る進に対して、涙目で真っ二つにされた携帯電話を握り締めて見つめる少女。

 あれから警察からの事情聴取などを終えた三人は公園にいた。

 もう既に日が暮れ始め、公園内には瀬那、少女、進の三人しかいない。

 

 「とりあえず自己紹介しませんか? 私を助けてくれた貴方には後日お礼がしたいですし、貴方には壊された携帯の弁償をしてもらわないといけませんから」

 「うん、それもそうだね。別に僕はお礼とかいいけど」

 「うむ。相手の名前と住所を知らなければ弁償も出来ない」

 

 少女の言葉に頷く二人。瀬那の方は友好的だが、進に対しては棘を感じるのは恐らく気のせいではないだろう。

 

 「私の名前は澄原葵。春から泥門高校の一年です」

 「僕は小早川瀬那。春から高校一年、学校は関西の誠光学院高校」

 「進清十郎。春から高校二年だ、王城高校に通っている」

 

 三人は自己紹介を済ませると電話番号と住所など互いの連絡先を交換する。

 進だけは携帯電話を持っていなかった為、自宅の電話番号だったが。

 

 「小早川君はラグビーが好きなの?」

 

 葵が瀬那が腕に抱えて持つ楕円形のボールを見て聞くと、瀬那は苦笑した。

 

 「セナでいいよ。それとこれはアメフトのボールだよ」

 「そうなんだ、私の事も葵って呼んでくれてもいいよ」

 「ならそう呼ばせてもらうよ。こう見えても僕、アメフトの選手なんだよ」

 「へぇ~・・・そうなんだ」

 「ポジションは何処だ?」

 

 小柄な瀬那がアメフトの選手だという事を知った葵が意外そうな顔をし、瀬那に興味を持った進がポジションを聞いてきた。

 

 「ランニングバックです」

 

 瀬那は進の顔を真っ直ぐ見据えて答えた。

 二人の間に重苦しい空気が流れる。

 いきなり場違いな雰囲気になった葵は真剣な表情で相手を見据える二人を交互に見る。

 瀬那と進は互いに相手を見極める様に見据え、相手の力がどれ位なのか想像する。

 瀬那が知る現在の進の実力は40ヤード走4秒4の高校最速で、ベンチプレスは140キログラムという日本最強のアメフトプレイヤーに相応しい実力者だ。

 それに対して現状の瀬那の実力は進と同じく40ヤード走4秒4だが、その気になれば人間の限界速度である4秒2を出すことも可能だ。

 パワーに関しては―――百キロ以上も差があるため比べる事じたいが間違いだが、触れられもしないスピードには、どんなパワーも通用しないことは共通の認識である。

 現状の自分の力が進に通用するのか試したい。

 瀬那の中でその想いが膨らみ、瀬那は口を開いた。

 

 「進さん。僕と一回だけ勝負してもらえませんか?」

 「受けて立とう」

 

 瀬那の提案に進はあっさりと頷いて指の関節を鳴らす。

 進にとっては願っても無い事だった。

 彼は事故の一部始終を見ていた。何故なら彼も葵に迫る暴走車に気付いて助けようとしていたからだ。

 彼女を助けようと走り、間に合わないと自身の不甲斐無ささに怒りを感じていた彼の前に瀬那は現れた。

 高校最速である自身を上回るスピードで彼女の窮地を救った少年。

 同年代で自分よりも速い少年で、おまけに自分と同じアメフトプレイヤーである瀬那の存在は進の興味を大きく惹いていた。

 その彼から挑まれて受けないなど考えられない。

 

 「勝負方式は、僕が進さんを抜いたら勝ちで、止めたら進さんの勝ちでいいですね?」

 「それでいい」

 

 瀬那と進は互いに距離を取り、葵は二人の徒ならぬ様子を黙って見守っていた。

 

 「葵、悪いけど合図をしてくれないかな?」

 「う、うん。じゃあこの石が地面に落ちたらスタートだから」

 「ありがとう」

 

 足下にある手頃な大きさの石を拾って見せる葵に礼を言うと、瀬那はボールを腕に抱えて身構える。

 日が暮れて暗くなった公園に電灯が点き、冷たい風が吹き、葵は石を上に放り投げた。

 そして石が地面に落ちた瞬間、向かい合う二人の男は全力で走り出す。

 片方は現高校最速を誇る音速の脚、もう片方は人類の限界速度である光速の脚。

 瀬那の脚は過度のトレーニングと葵を助ける時に引き出した限界速度でぶっ倒れる寸前だったが、最強(アイシールド21)の称号を持つ者としての意地で今日二回目の光速の世界へと突入した。

 片腕で相手を仕留める進のスピアタックルに対して、瀬那が繰り出すのは自身の得意技。

 嘗てアメリカ横断する時に編み出し、クリスマスボウルで更に進化させた超必殺カット、その名は―――デビルバットゴースト!!

 スピアタックルVSデビルバットゴースト。

 勝負は一瞬で決した。

 

 (勝った・・・!)

 

 進を完全に抜き去った瀬那はぐっと手を握り締めた。

 瀬那はタックルが来る寸前にクロスオーバーステップとカットステップを激しく刻んで進の左横を光速の脚で抜き去った。

 結果は瀬那の勝利。

 抜かれた進は瀬那の方を真っ直ぐ見据え、葵はさっき目の前で行われた一騎打ちに目を奪われていた。

 アメフトを知らない彼女はさっきのがどれだけ凄かったか理解できないが、とにかく凄いという事だけは解った。

 

 「俺の負けだ、小早川」

 「ありがとうございます」

 

 互いに歩み寄って握手をする二人。

 瀬那は猛特訓の成果が出せて満足し、進は完全な敗北で新たな目標が出来て嬉しくて笑みを浮かべた。

 

 「関西の高校に行くと言っていたな?」

 「はい、関西の誠光学院です」

 「ならば俺とお前が公式戦で戦うにはクリスマスボウルでという事になる。今日は俺の完全な負けだが、俺はもっと強くなる・・・! クリスマスボウルで会おう・・・!」

 「はい、僕も必ずクリスマスボウルに行きます・・・! そして今よりももっともっと強くなって進さんに勝ってみせます!」

 「ああ、そうでなくては困る・・・!」

 

 ライバル宣言をしてがっしりと握手する瀬那と進。その姿を近くで見ていた葵は初めてアメフトに興味を持った。

 この日の出来事が彼女の高校生活を大きく変える事になろうとは、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 そして瀬那が地元を離れて関西の高校へと旅立つ日―――駅のホームに瀬那と葵はいた。

 

 「頑張ってね、セナがクリスマスボウルに行ける様に応援してるから」

 「ありがとう。葵も高校では陸上を続けるんだよね、僕も応援してるよ」

 

 二人は出会った日から親しくなって頻繁に会っていた。

 瀬那の両親、特に母の美生は彼女が出来たと誤解して喜び、幼馴染のまもりは弟が自分の下から巣立っていく姉みたいな複雑な顔をしていた。

 勿論二人の間にそんな関係は無い。せいぜい仲の良い友達レベルだ。

 

 「何かあったらいつでも相談してね、いつでも相談にのるから」

 

 葵は進に弁償させた新たな携帯電話を見せて微笑み、瀬那は葵の携帯電話を買いに行った時の事を思い出して苦笑する。

 真面目な進らしいと言うべきか、まさか携帯電話を買うのに同行するとは思わなかった。

 いつ店の携帯電話を壊さないかと見張っていたのは、まだ記憶に新しい。

 そんな他愛の無い話をしてると目的地に向かう新幹線がやって来た。

 

 「それじゃあ新幹線が来たからもう行くよ」

 「向こうで良い仲間が出来るといいね」

 「葵もね、行って来ます!」

 「行ってらっしゃい」

 

 荷物を持って新幹線に乗り込む瀬那を手を振って送り出す。

 瀬那は発進した新幹線の中から窓越しに葵が見えなくなるまで見つめ、自分の席へと向かった。

 座席に座って瀬那が鞄から取り出したのは、嘗て渡米する前に仲間から送られた激励の文字が書かれたアメフトボールと思い出が詰まった携帯電話。

 こっちの世界では使えない携帯電話だが、写真を取ったりする事くらいはできる。

 携帯電話ディスプレイに表示される高校時代と大学時代のデジタル写真の最後には彼女と撮った写真があった。

 

 「やるよ、僕は必ずクリスマスボウルに行く。絶対に・・・!!」

 

瀬那はボールを力強く握り締めながら自身を鼓舞した。

そして駅のホームから新幹線が見えなくなるのを見届けた葵は短い間だったけど一緒に過ごした友人にエールを送った。

 

 「頑張れ、セナ・・・!!」

 

 暖かな春の昼下がり、彼が乗る新幹線は関西の兵庫県へと向かう。

 そこで瀬那に待ち受ける数々の過酷な試練と出会いを知る者はまだいなかった。

 




励みになりますので感想・評価をお願いします。
次回から瀬那は高校入学させます。


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4th down 意外な顔合わせ

感想を返す暇も無いダメ作者をお許しください。
この物語はアメフト選手として成長したセナの奮闘記みたいなものです。



 東京を出立して数時間後―――明日から通う私立誠光学院高等学校がある兵庫県へと到着した瀬那は、一度学校に行って教員に今日から暮らす学生寮の地図を貰って寮の前まで来ていた。

 

「今日から此処で暮らすんだ・・・」

 

 瀬那は今日から三年間自分が暮らす事となる学生寮を見上げる。

 学生寮と聞いていたからアパートみたいな場所を想像していたが、実際に見た学生寮はマンションや住宅団地と呼んだ方が相応しい場所だった。

 教員の話によると、一部屋に四人で三年間共同生活をしてもらうらしい。

 

 「いい人達だったらいいんだけどな・・・」

 

 今日から共に暮らす仲間がどんな人達なのか想像しながら瀬那は寮に入って自分の部屋に向かう。

 

 (もし怖い人だったらどうしよう?)

 

 嫌な想像ばかりが頭に浮かぶ。

 部屋のドアを開けた瞬間、そこにはいかにも不良っぽい奴等がいて、自分にこう言うのだ。

 

 『お前、今日から俺らのパシリな』

 

 そして始まる高校三年間の高校生活ならぬパシリ生活。

 ひたすら光速の走(ラン)でパシリ続けてクリスマスボウルは夢で終わる。

 

 (いやいやダメだ! 例え誰が相手でも強気で行かなきゃ、クリフォードさんも言ってたじゃないか!)

 

 嘗てノートルダム大付属高校に招待留学していた時に、常に強気で退かない世界一のクォーターバックに言われた事を思い出しながら心に活を入れる。

 

 (それ恐いと言っても、峨王君やMR.ドンに比べればどんな奴でも恐くない・・・!)

 

 今までに出会った恐ろしい人達を想像していると、瀬那は自分が三人の仲間と暮らす部屋の前に辿り着いた。

 部屋の番号は021。

 何の因果か自分の背番号・受験番号と同じだった。

 表札には小早川瀬那と他のルームメイト三名の名前が書かれている。

 皇樹黎士、武神達磨、智慧森羅。

 この人達がルームメイトなのかと思いつつ瀬那は意を決してこっそりと部屋のドアを開ける。

 玄関には三足の靴があり、部屋の奥から話し声が聞こえた。

 

 「誰か来たみたいだぞ」

 「おっ! もしかして最後の一人か!」

 「なら出迎えてやらないとな」

 

 瀬那が来た事に気付いたらしく、部屋の奥から三人の男が出てきた。

 どうやら自分は歓迎されているらしいと、ほっとする瀬那だが出てきた男達を見て目を見開いた。

 

 (うわっ、みんな背ぇ高!?)

 

 部屋の奥から現われたルームメイト達は瀬那の想像よりも長身だった。

 最初に現われた一番でかい男は確実に190センチ以上あり、筋骨隆々としたガタイの良い体格をしている巨漢。短く刈った短髪に精悍で爽やかな顔立ちをしている。

 二番目に現われた男も190センチ近いスマートな長身であり、額に十字の刀傷があるのが特徴で、中性的に整った精悍な顔立ちをしている美少年である。

 そして最後に現われた男は、前者二人に比べれば背が低い方だが、それでも170後半位の身長がある黒縁眼鏡を掛けた優しげな少年。

 三人は玄関に立つ瀬那を見定める様に見ると、眼鏡を掛けた少年が口を開いた。

 

 「君が小早川瀬那君?」

 「はい、そうですけど」

 

 本人かどうか確認されて瀬那は頷いて答えると、眼鏡少年は笑顔を浮かべて右手を差し出した。

 

 「ようこそ021号室へ。丁度自己紹介をしてたんだ、こっちに来なよ」

 「あ、うん、こちらこそよろしく」

 

 良かった、良い人達みたいだと安堵した瀬那は差し伸べられた手を握って握手すると奥の部屋に向かう。

 1LDKだが中は広々としており、奥の畳部屋の隅には二段ベッドが二つあり、テレビやエアコンなどを始めとした娯楽の品や日常必需品が全て揃っていた。

 こんなに環境が良くて良いのだろうか?

 

 「学生寮って言うよりも普通の家みたいだね」

 「これら電化製品の事か? 俺達は運が良いんだよ、これらは先輩達が残して行った物なんだからな。他の部屋はこんなに物揃いが良くねぇぞ」

 「ああ、それでこの部屋だけ品揃えが良いんだ」

 

 部屋の感想を漏らした瀬那の疑問を美少年が答え、瀬那はなるほど、と一人納得した。

 

 「まぁ、荷物をその辺に置いて座れよ」

 「あ、ありがとう」

 

 巨漢に座布団を差し出されて四人は向かい合う様に座る。

 

 「自己紹介を始める前に何か飲み物でも出すか。お前ら、お茶、コーラ、サイダー、スポーツドリンク、どれが飲みたい?」

 

 美少年が一人立ち上がって冷蔵庫の前まで行くと三人に聞く。

 

 「僕はお茶で」

 「俺はスポーツドリンク」

 「俺はサイダー」

 

 瀬那がお茶、巨漢がスポーツドリンク、眼鏡少年がサイダーを要求すると、美少年は要求された飲み物と自身が飲むコーラを取り出すと三人に渡して席に着く。

 そしてコーラのプルタブを開けて一口飲むと、美少年が先立って自己紹介を始めた。

 

 「それじゃあ遅れて来た小早川君の為に改めて自己紹介するぞ。俺は智慧森羅(ともえ しんら)、青森から来た。気軽に森羅と呼んでくれ。趣味はゲーム全般とスケッチだ。高校じゃあ陸上部に所属するつもりで、将来の目標はオリンピックに出場して、十種競技(デカスロン)で金メダルを取る事だ」

 「十種競技(デカスロン)って何?」

 

 初めて聞く単語に首を傾げながら瀬那は森羅に聞くが、代わりに隣に座る眼鏡少年が答えてくれた。

 

 「十種競技(デカスロン)というのは二日間で十種の競技、百メートル走・走り幅跳び・砲丸投げ・走り高跳び・四百メートル走・百十メートルハードル走・円盤投げ・棒高跳び・やり投げ・千五百メートル走を行って、その記録を得点に換算して、合計得点で競う陸上競技だよ。競技の優勝者はキング・オブ・アスリートと称えられる。日本じゃそれほど有名じゃないけど、欧州では大人気の競技だ」

「へぇ~、凄いんだね」

 

十種競技(デカスロン)の話を聞いた瀬那は、素直に森羅が目指す場所は凄い場所なんだと認識した。

 どうやら彼は走って避けるだけが取り得の自分と違って、走・跳・投の三つそれぞれ相反する身体能力を必要とし、全て一線級の成績を残さなければ勝てない競技で世界の頂点を取ろうとしている。

 

「高校じゃ八種競技だからオクタスロンって呼ばれてるんだけどな」

 

 森羅が不満そうに呟きながらコーラを飲むと、話を聞いた三人は軽く拍手をする。

そして次は眼鏡少年が自己紹介を始めた。

 

 

 「俺の名前は皇樹黎士(すめらぎ れいじ)。鹿児島から来た。黎士と呼んでくれればいい。趣味はスポーツ観戦とスポーツ全般。高校じゃあサッカー部に入る予定で、将来の夢は日本代表。以後よろしく」

 

 自己紹介を終えた黎士は軽く頭を下げて一礼する。

 再び軽く拍手を送ると、次は巨漢がスポーツドリンクを飲み干して缶を握力で握り潰し、立ち上がると自己紹介を始める。

 座った状態から立ち上がった彼を見た瀬那は、本当にでかいと改めて思った。

 

 「俺の名前は武神達磨(たけがみ たつま)。北海道から来た。みんなからはダルマと呼ばれていたから、そう呼んでくれていいぞ。趣味は格闘技の研究で、部活は相撲部だ」

 「相撲? レスリングの方が似合ってるぞ」

 

 訝しげな森羅の言葉に他の二人も同意する。

 栗田みたいな丸々とした体型ならともかく、峨王みたいに見事な逆三角形の筋骨隆々とした身体付きは相撲よりもレスリングの方が似合っている気がする。

 

 「親が相撲取りだったからな」

 「なるほど、幼い頃から相撲をさせられたって訳だ」

 「そういうこと」

 

 達磨の話しから家庭事情を悟った黎士があっさりと言うと、達磨は苦笑しつつ頷いて座った。

 

 「最後に小早川だな」

 「うん」

 

 達磨に話を振られ、自分の自己紹介の出番が来た瀬那は立ち上がり、はっきりとした口調で自己紹介を始めた。

 

 「僕の名前は小早川瀬那。東京から来ました。セナって呼んでくれればいいよ。趣味はアメフトで、高校でもアメフト部に入るつもり。将来の夢はNFLの選手です・・・!」

 「意外だな」

 「おとなしそうな顔をしてるのに」

 「てっきり文化系だと思ってた」

 

 森羅、達磨、黎士が瀬那の小柄で細い身体を見て思った事を口から漏らす。

 それを聞いた瀬那は、やっぱりそんな風に見えるのか、と苦笑した。

 

 「ポジションはランニングバックと言って、ぶつかり合いじゃなく走り去るのが仕事だからね」

 

 瀬那がそう言うと、三人はなるほど、と納得する。

 自己紹介が終わった瀬那は自分の座布団に座る。

 そして話題はこれからどうするかに変わる。

 

 「これからどうする? 何処か遊びに行くか?」

 「そうしようぜ、部屋でじっとしてるのは性に合わないし」

 「親交を深める為に何か食べに行こうぜ、セナも行くだろ?」

 「うん、この辺の事は全然知らないし」

 

 達磨の提案に三人は賛成すると、立ち上がって玄関に向かい、靴を履くと外に出る。

 彼らとなら上手くやっていけそうだ、と瀬那はほっとしていた。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 それぞれ別の場所からやって来た四人はこれから三年間暮らす街を色々と見回りながら遊んでいた。

 金に余裕のある森羅の奢りでゲーセンやカラオケに行ったりしていると、既に日が暮れ始めていた。

 

 「日も暮れたし、そろそろ腹が減ってきたな」

 「ダルマ、さっきクレープ食べてたよね」

 

 腹が減ったと言う達磨に、瀬那はさっき彼がクレープを食べていた事を指摘すると、彼はしれっとした顔で、

 

 「あんなもんじゃ腹の足しにならん」

 

 腹部をごつい手で摩りながら言う。

 それを聞いた瀬那はよく食べるな、と呆れた顔をする。

 

 「確かにそろそろ晩飯時だよな・・・お前ら何が食いたい?」

 「いいのか? 今日一日お前奢りっぱなしだぞ」

 

 奢る気満々の森羅を見て黎士は彼の財布の中が心配で聞くが、森羅は心配無用と言わんばかりにニヤリと笑う。

 

 「心配するな、所詮ギャンブルで稼いだ泡銭だ」

 (ヒル魔さんみたいだな)

 

 森羅を見て、瀬那はギャンブルで小金を溜め込んでる某先輩の顔を思い浮かべた。

 

 「それより晩飯どうする? ・・・・・・電話か・・・」

 

 森羅が三人を見ながら聞くと、携帯電話の着メロが鳴り出して電話に出る。

 

 「はい、もしもし・・・ああ、アルルか。うん、分かった。こっちは四人いて、一人すげぇ食う奴がいるけどいいのか? そうか、分かったすぐに行く・・・」

 

 話が終わったらしく、森羅は電話を切ってポケットに仕舞う。

 

 「誰からの電話?」

 「俺の幼馴染も入学していてな、晩御飯を沢山作ったから食べに来ないかだとよ」

 

 誰からの電話か気になった瀬那が聞くと、森羅はあっさりと答えた。

 

 「お前らも来るよな?」

 「当然行くに決まってる!」

 「ご相伴に預かるよ」

 「行かせてもらうよ、森羅の幼馴染を見てみたいし」

 

 森羅の誘いに達磨、黎士、瀬那の三人は乗る。

 

 「なら行こうぜ、早く来いって言ってたしな」

 

 そう言うと森羅は歩き出し、三人も後に続く。

 何処に行くのかまだ聞いていないが、行く場所は限られているし、彼に付いて行けば自ずと分かる。

 森羅が向かったのはやはり学生寮だった。

と言っても瀬那達が男子が暮らすA棟とB棟ではなく、女子寮であるC棟である。

二階にある024号室の前まで来た四人。

森羅がドアをノックすると、ドアがゆっくりと開いて一人の少女が現われる。

 

「どうもこんばんわ。アルルさんから聞いてますんで上がってください」

 

彼女を見た瞬間、瀬那は驚き過ぎて固まった。

 

 (何故? どうして? 何で彼女が此処にいるの?)

 

長い金髪を三つ編みのお下げにし、パッと見温和そうで気弱な印象を感じさせる文化系美少女だ。

しかし瀬那は憶えている。

目の前の少女が帝黒の司令塔として最も危険な戦場に立って、クリスマスボウルで戦った事を。

 

「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたわ、すみません。小泉花梨と言います。どうぞよろしゅうお願いします」

 

 丁寧に頭を下げる彼女を凝視しながら瀬那は、一体どうなってんの? と頭の中で反芻した。

 




励みになりますので感想・評価をお願いします。
いつも皆様の感想に励まされていて感謝しています。
泥門の定員割れについては後に話で出します。


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5th down 似て異なる世界

ドラクエXにはまって執筆が遅れた愚か者をお許しください。


 「うわぁ~、すごいご馳走だ・・・!?」

 

 リビングにある大きなテーブルの上に置かれた料理の数々を見て瀬那は素直に感想を漏らした。

 焼き立てのパン、湯気立つクリームシチュー、揚げ立ての鶏の唐揚げ、新鮮な野菜のシーザーサラダ、どれもが食欲をそそる。

 瀬那の右隣に座っている達磨にいたっては食い入る様に料理を見つめて食事の時を待っている。

 キッチンの方に視線を向ければ、そこには花梨とそのルームメイトの女子達が取り皿を出したり、飲み物を準備したりしている。

 

 (どうして花梨さんが帝黒じゃなく誠光にいるんだろう? もしかして・・・・・・!?)

 

 もしそうならば、瀬那は自分が泥門に落ちていた事や、花梨が帝黒じゃなく誠光にいる事も、高校時代に存在しなかった澄原葵の事も納得できる。

 

 (もしかしてこの世界は、僕が泥門にいた世界と似て異なっているのかもしれない)

 

 一度調べてみた方がいいかもしれない。

 関東の事は嘗て制覇したから大体知っているが、瀬那は関西については帝黒しか知らない。

 特に高校アメフト界の頂点である帝黒学園に関しては一度チェックしておかなければならない。

 

 「森羅」

 

 瀬那は左隣に座る森羅に声を掛ける。

 彼は確かノートパソコンを持っていて、そっちの方面に詳しかった筈だ。

 

 「うん? なんだ瀬那?」

 「ちょっと調べたい事があるからパソコンを使わせてくれないかな?」

 「別にいいぞ、部屋に戻ったら使わせてやるよ」

 「うん、ありがとう」

 

 あっさりとパソコンを使わせてくれる森羅に礼を言うと、目の前の席に花梨を始めとした女子達が着席した。

 そこで瀬那は四人部屋の筈なのに女子達が三人しかいない事に気づく。

 

 「あと一人はどうしたんだい?」

 「天使さんなら今日は用事があるそうで外出してるんですよ」

 

 瀬那が疑問に思っている事を黎士が女子達に尋ねると花梨が苦笑しつつ答えた。

 

 「それじゃあ腹も減ったし、メシにしようぜ」

 「そうね、話なら食べながらでもできるし」

 

 森羅が食事を始めようと言うと、森羅の目の前の席に座る少女も同意した。

 

 「では、ご馳走を作ってくれた彼女達に感謝して、いただきます!」

 「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

 森羅が音頭をとると瀬那達も揃って挨拶をし、夕食会は始まった。

 女子達はゆっくりと食事を進めるが、男子達、特に達磨がすごい勢いで料理を食べておかわりをしている。

 瀬那もパンを一つ取って食べてみるが焼き立てのパンは市販の物とは比べ物にならない。

 皮はサクサクとしていて中身はフワフワ。とどめにジャム等を付けて食べたら病みつきになりそうだ。

 

 「パンはあたしが焼いたの。気に入ってくれた?」

 

 声を掛けられてそちらを見ると、そこには今日の夕食会を開いてくれた美少女、美空阿瑠琉(みそら あるる)が微笑んで瀬那を見ていた。

 

 「は、はい、とても美味しいです」

 

 瀬那は頬を赤らめながら感想を述べた。

 今まで幼馴染のまもりなどの美人を見てきたが、阿瑠琉ほどの美人を見るのは初めてだった。

 白く滑らかな肌。腰まで伸びた長く艶やかな黒髪に蒼穹の如く澄んだ碧い瞳。スッと通った線の細い顔筋や桜色の小さな唇などの秀麗な美貌。一見してハーフかクォーターを思わせる容姿をしており、体付きも着ている青いワンピースの上からでもはっきりと凹凸が分かる位成熟している。

 そして何より何気ない仕種に一つ一つが印象に残るほどの存在感がある。

 高嶺の花という言葉がよく似合う美人で、森羅とは同郷の幼馴染らしい。

 

 「良かった。まだ沢山あるからいっぱい食べてね」

 「ありがとう。パン作るの上手いんですね」

 「アルルの実家はパン屋を営んでるんだよ」

 「そうなんだ」

 

 嬉しそうに微笑む阿瑠琉に瀬那が聞くと、隣に座っている森羅が答えて瀬那は納得した。

実家がパン屋を営んでるなら、彼女もパン職人の技術を学んでいるのだろう。

 

「それにしても、よくパンを焼けるオーブンとかあったな?」

「ふふふ、いいでしょ。前の人が残して置いてくれたの」

「あ、本当だ」

 

 森羅が尋ね、アルルがキッチンに置いてあるオーブンに視線を向けて答えると、瀬那もそちらに視線を向けて自分達の部屋には無い巨大オーブンを見つけて呟いた。

 

 「小早川君、シチューの御代わりいるかな?」

 「うん、もらうよ」

 

 自分も後輩の為に何か残した方がいいかな、と思っていると瀬那は向かいに座る少女に声を掛けられる。

 少女の名前は庄司桜。

 阿瑠瑠と花梨のルームメイトで、肩まであるセミロングの黒髪に優しげな瞳と整った顔立ちをしており、清楚可憐という言葉が似合う美少女だが、どこか気弱な印象を感じさせる。 

彼女はどうやら瀬那が使っている空になったシチューの器が気になったらしく、瀬那は彼女善意に感謝つつ器を差し出す。

瀬那から器を受け取った桜は、席を離れてコンロに置いてあるシチューの鍋から湯気立つシチューを器に盛ると瀬那の前に置いた。

 

 「はい、どうぞ」

 「ありがとう、庄司さん」

 「ど、どういたしまして・・・」

 

 礼を言う瀬那に桜は頬を赤らめて伏し目がちに答える。

 それを見た瀬那が怪訝な顔をすると、

 

 「ははは。小早川君、桜ちゃんはちょっと人見知りが激しいんですよ」

 「そうなの?」

 

 苦笑しながら言う花梨。それを聞いた瀬那は確かめる様に聞くと、桜はコクンと頷いた。

 

 「そういえば、関西弁を喋ってるけど小泉さんって地元の人なの?」

 「いいえ、あたしは大阪出身なんです」

 

 食事に一息ついた黎士が花梨の喋り方が気になったらしく尋ねると、花梨はあっさりと答える。

 そこで瀬那はどうして彼女が帝黒じゃなく誠光にいるのか気になって思い切って聞いてみた。

 

 「どうして地元の高校に行かなかったんですか?」

 

 聞いた瞬間、花梨は嫌な事でも思い出したのかどんよりとした雰囲気になった。

 聞いちゃまずかったか、と瀬那は後悔するが既に遅く、花梨は何があったのか告白した。

 

 「じつは私、本当は友達と一緒に地元の帝黒学園に行きたかったんです・・・。けれど私の家族の父や兄達が強く誠光学院を推薦するんで私は何も言えんまま話が進んでしもうて―――」

 「つまり自分の意見を全く聞かない家族に薦められてわざわざ地元から遠く離れた高校に通うはめになった、と」

 

 花梨の告白を聞いた黎士が呆れた顔で言うと、花梨は頷いた。

 

 「つまりはそういう事なんです・・・。あ、でも誠光に来て良かったと私は思うてますよ。天使さんはともかく、アルルさんも桜ちゃんも好い人でちゃんと私の話を聞いてくれますんで」

 

 どんよりとした雰囲気で話す花梨を瀬那は同情したが、よく考えれば帝黒に行ってたら大和猛や本圧鷹に無理矢理アメフトをさせられる事になっていたのだからむしろ助かったのでは、と内心思ったが、もしもの話だから口には出さなかった。

 暗い花梨を見て何か感じるものがあったのか、桜は花梨の手を両手で優しく包み込む様に握った。

 

 「花梨さん・・・三年間仲良くしようね」

 「桜ちゃん・・・こちらこそよろしゅうお願いします」

 

 気弱な女子二人は互いを理解し合う様に言葉を交わす。

 この日、小泉花梨は生涯無二の親友を得るのだが、彼女が嘗ての高校時代と同じ様にこの世で最も戦場に立つのは、もう少し先の話である。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

食事会を終えて近所の銭湯で風呂を済ませた瀬那達は各々自由に部屋で過ごしていた。

達磨は既にベッドで眠り、黎士はベッドに寝転がって読書をしており、瀬那と森羅は高校アメフト界の情報サイトを閲覧していた。

その結果、関東の方は嘗てとあまり変わりが無いが、関西の方は大きく変わっていた。

 

(やっぱり僕が思ったとおりだ。前と全然違う・・・!?)

 

 瀬那が森羅の協力で調べた結果、知りたい事は大体分かった。

 関西の高校アメフト界の情勢、瀬那の知らない強豪と名選手達。

 そして知ったのはこの世界の帝黒アレキサンダーズは、嘗て瀬那が泥門デビルバッツに所属していた時にクリスマスボウルで戦った帝黒アレキサンダーズを遥かに上回るチームだということだ。

 去年のクリスマスボウルの記事を見てみたが、結果は157対0というかなり悲惨なものだったらしい。

 百年に一人の天才と言われる金剛阿含がいる関東不敗の神、神龍寺ナーガが一方的に蹂躙されている。

 さらに阿含と雲水を含む選手五人が病院送りにされている。

 当時の動画が無いからどんな試合だったのか分からないが、特に凄かった選手は月刊アメフトの記事で特集が組まれている。

 №1アメリカンフットボールプレイヤー・緋澄葉桜(ひずみ はおう)。

 日本最強の男、土門勝猛(どもん かつたけ)。

 フィールドの巨人、高峰純(たかみね じゅん)。

 彼らがいる限り帝黒打倒は夢のまた夢だろう、と記事に書かれている。

 この三人に加えて『アイシールド21』大和猛と『鳥人』本庄鷹が加わるのだから更に質が悪い。

 まさに瀬那がクリスマスボウルに行くのは夢のまた夢だ。

 そして強いのは帝黒だけではない。現在の関西には高校アメフト界の頂点に君臨する最強の帝黒アレキサンダーズを倒そうとする四つの勢力がある。

 日本最強パワーを誇る鬼ヶ島オーガ。

 パワー・スピード・タクティクス・ガッツ・チームワークの全てが揃った万能チーム、戦城ソルジャーズ。

 鉄壁を誇る関西最高の守備チーム、紅月ファイターズ。

 日本最高の高さと重さを誇る魁柔モンスターズ。

 反乱軍と呼ばれるこのいずれかのチームが毎年帝黒に挑んでは敗れている。

 それらに所属する選手も瀬那が嘗て戦った関東の猛者に負けず劣らない選手ばかりの様だ。

 日本最強のパワーを誇る『鬼神』大豪月覇鬼(だいごうげつ ばき)。

 関東の進清十郎、関西の陸奥総一郎と呼ばれる日本二大ラインバッカーの一人、『守護神』陸奥総一郎(むつ そういちろう)。

 攻撃のスペシャリストと謳われる西郷毅(さいごう つよし)。

 日本アメフト界最高の身長と体重を誇る五路雷二(ごろ らいじ)。

 いずれもかなりの強敵と予想できる。

 

 「これは想像を遥かに超えてクリスマスボウルは遠そうだよ・・・・・・」

 

 敵は強大。誠光学院がクリスマスボウルへ行ける確率などゼロに等しい。けれど瀬那は悲観などしていない。

 それどころか強い敵と戦えるのだと思うと純粋に嬉しかった。

 

 「まあ可能性は極めて低いがゼロじゃないからな。頑張れよセナ」

 「うん、ありがとう。明日から大変だ」

 「パソコンはもういいのか?」

 「うん、もういいよ森羅」

 

 パソコンを使わせてくれるどころか情報を探すのを手伝ってくれた友人に礼を言うと、森羅はパソコンをシャットダウンして閉じた。

 

 「それじゃ、明日は入学式だしもう寝ようぜ」

 「そうだね」

 

 森羅に同意した瀬那は自身の寝床である二段ベッドの上に上がる。

 背の高い達磨と森羅が下で、二人よりも背が低い黎士と瀬那が上のベッドを使う事になっている。

 ベッドに寝転がり布団を被ると森羅が部屋の明かりを消し、021号室一同は就寝した。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 「いよいよ明日入学式だね・・・」

 

 夜の闇が深くなった泥門高校のアメフト部部室で肥満体型の巨漢、栗田良寛が練習道具を片付けながら近くで制服に着替えている逆立った金髪の男に声を掛ける。

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 声を掛けられた金髪の男、蛭魔妖一は黙々と着替えを続ける。

 ほとんど栗田を無視してるようなものだが、彼と中学からの付き合いである栗田は気にしていない。聞いてくれるだけでもいいから独り話し続ける。

 そうでもしないと不安でしょうがなかった。

 泥門デビルバッツには栗田と蛭魔の二人しか部員がいない。

 創部当初は三人だったが、一人は家の都合でやめざるを得ない状況になって去って行った。

 いつか戻ってきてくれると信じている二人だが、それでも人数が全然足りない。

 アメフトは最低でも十一人選手が必要なのだ。

 つまり去って行った彼が戻ってきてくれても、後八人も選手が必要だ。

 最悪去って行った彼が戻って来ない場合は九人必要だ。

 去年は誰も入部してくれる者がいなかったから助っ人を呼んで大会に出場したが、結果は言わずともボロ負け。

 いくら運動能力があってもまともにアメフトの練習をしておらず、おまけに脅迫されて嫌々試合に出場させられた助っ人にやる気がある筈も無い。

 クリスマスボウルに行く最後のチャンスである今年はやる気のある正規の部員を集めるべくビラ配りなどを積極的に行った。

その結果が明日分かる。

 あれだけやってもし誰も入部してくれなかったりしたら今年最後のチャンスは全て水泡に帰す。

 それが何より恐かった。

 

 「あれだけビラ配りしたんだから、みんな入部してくれるよね」

「グダグダ言ってる暇があったら着替えて帰れ糞(ファッキン)デブ。明日の勧誘会で眠りやがったらぶっ殺すぞ」

「う、うん、そうだよね。明日は忙しくなるもんね!」

 

蛭魔に激を飛ばされて栗田は少しだけほっと気持ちになり急いでユニフォームから制服へと着替える。

そして部室の鍵を閉めると二人は帰路に着いた。

 その途中で栗田は流れ星を見つけて反射的に声を出して祈った。

 

 「仲間が出来ますように、あっ!? う~ん・・・一回しか言えなかったけど効果はあるよね」

 

 栗田は願いが叶う事を祈りつつ家に帰って行った。

 まだ見ぬ仲間達とクリスマスボウルを目指せる事に想いを馳せながら。

 




いよいよ入学です。
ドラクエをしながら執筆してます。


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6th down 新学期の始まり

遅くなって申し訳ありません。
執筆はちゃんと毎日してますので打ち切りだけはありません。


 私立誠光学院高等学校入学式当日、学生寮の部屋で目を覚ました021号室一同は、森羅と黎士が作った朝食を食べ、登校の準備を済ませていた。

 

 「お前ら忘れ物は無いな」

 

 森羅が確認する様に三人に聞くと、

 

 「うん、大丈夫」

 「昨日寝る前にちゃんとチェックしたからな」

 「そういうお前は大丈夫なのか?」

 

 瀬那が頷き、黎士がOKサインを出し、達磨が森羅に軽口を叩く。

 

 「大丈夫に決まってるだろうが、閉めるぞ」

 

 森羅は達磨の軽口に不敵な笑みを浮かべて答えると部屋の鍵を閉める。

 部屋の鍵は昨夜行われた話し合いで基本的に森羅が管理する事になった。

 理由は単純である。もし鍵を無くしたりしたら鍵を新たに作り直さなければならないからだ。

 

 「そんじゃあ余裕を持って登校しようか諸君!」

 

 達磨が爽やかに言うと、明るめの紺色ブレザーと青いネクタイにグレーのスラックスの制服姿をした四人は学生寮を出てすぐ近くの本校へと歩き始める。

 

 「それにしてもセナ、お前もう少し小さめの制服にした方が良かったんじゃないのか?」

 「これはこれでいいんだよ達磨。すぐに大きくなるんだから」

 「何だその確信めいた発言は」

 

 一人だけブカブカの制服を着ている瀬那を見て達磨が苦笑しつつ言うが、瀬那は全然気にせずに確信を持って断言して達磨を呆れさせる。

 成長すれば問題無い。瀬那は自分がまだ成長途上である事を知っているからの発言である。

 社会人になっても身長は平均よりも下だったが、今よりは随分伸びていた。

 今回が伸びるのか分からないが今のままという事はないだろう。

 

 「それよりも今日は昼で学校おしまいだけどどうする?」

 「僕はアメフト部の見学に行くよ」

 「俺も相撲部の見学に行く」

 「俺は部屋の戻るよ。森羅はどうするんだ?」

 

 森羅が放課後の事を三人に聞くと三人は各々答え、最後に黎士が森羅に尋ねると、飄々と答えた。

 

 「俺か? 俺はアルルと買い物に行く」

 「むっ・・・それはもしやデートでは?」

 

 達磨が興味深そうに尋ねると、瀬那と黎士も気になって耳を傾ける。

 

 「約束して異性と会うからデートだな」

 「森羅と美空さんって付き合ってるの?」

 

 昨夜の親しげな二人を思い出して瀬那聞いてみると、森羅は遠い青空を見据えながら呟いた。

 

 「あいつとはそんな浅はかな関係じゃねぇよ・・・・・・。ほら、さっさと行くぞ!」

 

 一人先を歩き出す森羅。それを見た三人は顔を合わせる。

 

 「どう思うお前ら?」

 「どうやら徒ならぬ関係を感じさせるね・・・」

 「何かあったんじゃないかな?」

 

 達磨が黎士と瀬那に聞くと、黎士は興味深そうに森羅の後ろ姿を見て呟き、瀬那は二人に何かあったんじゃないかと推測した。

 

 「まぁ考えても答えなんて出ないし、さっさと行こう」

 「それもそうだね」

 

 黎士の言う通り考えても推測の領域を出ないと思った瀬那は同意して頷き、先行く森羅の後を追った。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 瀬那達が登校している頃、今日から泥門高校の一年生となる澄原葵も登校していた。

 いつもと同じ二つに別けたお下げ髪の可愛らしい彼女だが、泥門高校の制服である緑色のブレザーとスカートに身を包み、学校指定の黒鞄を片手にいつもと違う通学路を歩いている。

 それが高校生になったのだと葵を実感させる。

 

 「瀬那も今頃登校してるのかな?」

 

 昨日関西へと旅立った友人の事を思い浮かべながら歩いていると、背後からシュタタタ、という軽やかな足音が聞こえて思わず振り向くと、

 

 「遅刻だぁあああっ!!」

 

 葵と同じ泥門高校の制服を着た少年が豪快な走りで隣を走り抜ける。

 そのまま呆然と少年を見送った葵は『遅刻』と叫んでいた少年の言葉が気になって時刻を確認するが、登校時間までまだまだ余裕がある。

 

 「一体なんだったんだろう?」

 

 少年が気になった葵だが、彼は自分と同じ高校の制服を着ていたから会う機会はいくらでもあるだろう、と思い学校へと向かう。

 そして彼女の思惑はすぐに当たった。

 今日から一年間仲間達と暮らす教室に先ほどの彼はいた。それも自分の席の右隣にだ。

 両腕を枕にし、机に突っ伏して寝ていて顔は見えないが、黒板に書かれた席順を見れば名前くらいは分かる。

 

 「須山弾(すやま だん)・・・・・・」

 「呼んだか?」

 「!?」

 

 彼の名前を呟くと、いきなり彼がむくりと顔を上げて応える。

 寝ていると思っていた葵は思わず驚いた。

 

 「起きてたんだ」

 「生憎眠りが浅いんだよ」

 

 大きな欠伸をしながら彼は体を起こす。

 初めて見て思った彼の感想は、磨けば光るだろう、だった。

 やや癖のある黒髪から大きくハネたアホ毛が特徴で、今は眠たげな顔をしているがそれなりに整った顔立ちをしている。

 背も高校一年生にしては高く、体付きも鍛えているのかブレザーの上からでもはっきりとガタイの良さが窺える。

 しかしやる気と言うか覇気が感じられず、それが彼の魅力を削いでいた。

 

 「今朝、遅刻だ、とか叫んでたけど・・・」

 

 今朝登校中に彼が慌てて走る姿が気になって聞いてみると、弾は大きな溜息を吐いた。

 

 「見てたのか・・・。起きて目覚ましを見たら時間が一時間ズレてたんだよ・・・」

 「それで遅刻だと勘違いして、急いで猛ダッシュ、と」

 「おかげで一番乗りだったぞ」

 「それは御苦労様でした」

 

 弾のマヌケな話を聞いて葵は苦笑を浮かべる。

 

 「それよりあんた誰?」

 

 思えば弾は自分と話している少女の事を何も知らない。この教室にいるという事はクラスメイトなのだろう。ならば名前くらいは知っておかねば。

 葵の事を何も知らない弾が何者なのか問うと、葵は自己紹介を始めた。

 

 「私はあんたの隣の席の澄原葵よ。よろしくね、須王弾君」

 「ああ・・・こちらこそ一年間よろしく」

 

 互いに挨拶をする二人。

 この瞬間から弾と葵、二人の長い関係は始まった。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 今日から瀬那達が三年間通う誠光学院高等学校に着いた。

 瀬那、黎士、森羅、達磨の四人は一年の靴箱の前に置かれた掲示版で自分のクラスを確認すると、

 

 「僕と森羅が一緒で、後はみんなバラバラか・・・」

 

 こちらに来て初めて出来た友人達である黎士と達磨が一緒のクラスじゃない事にがっかりするが、当の本人達は全然気にしていない。

 

 「別にいいんじゃねぇのか。住む場所が一緒である以上毎日会うんだし」

 「そうそう。それに隣のクラスだし、合同授業とかじゃ一緒だよ」

 

 達磨と黎士がそう言うと、それもそうだね、と瀬那は呟いた

 

 「俺としてはクラスメイトよりも担任が面白い奴だったら嬉しいけどな。」

 「それは言えてるかも」

 

 掲示板を見ながら言う森羅に瀬那も同意する。

 瀬那としてはみんな人の好い人だったらそれでいいのだが。

 もう一度自分のクラスと出席番号を確認し、次にクラスメイトの名前を確認する。

 するとそこには昨日会った女子達の名前があった。

 

 「そろそろ教室へ行こうぜ。人が混んで来やがった」

 「そうだな」

 

 森羅が掲示板の方へとやって来る生徒を見ながら言うと、達磨も同意して頷き、瀬那達は靴を脱いで自分の靴箱に入れ、屋内用のシューズに履き替えると自分達の教室へ向かう。

 

 「おはよう、森羅、セナ」

 「ああ、おはようございます、小早川君、智慧君」

 「おはよう・・・」

 

 今日から一年間勉強する1年2組の教室に入ると、阿瑠琉、花梨、桜の女子三人が挨拶をしてくれた。

 誠光学院の女子制服である明るめの紺色ブレザーと青いリボンに青白のチェックスカートを着ており、三人とも人目を惹く美少女だからかよく似合っている。

 

 「おはよう、美空さん、小泉さん、庄司さん」

 「おはよう」

 

 瀬那と森羅も挨拶を返すとそれぞれ自分の席に座る。

 ちなみにアイウエオ順である為、小泉花梨の隣が瀬那の席である。

 

 「これから一年よろしくおねがいします」

 「いえいえあたしこそ一年間よろしゅうおねがいします」

 

 向かい合って何度も下げる小市民な二人。

 それを見た森羅と阿瑠琉は、この二人似たもの同士だな、と思った。

 

 「・・・・・・それにしても・・・」

 「どうしたん、小早川君?」

 

 教室の中を恐る恐る見回す瀬那を怪訝に思い話しかける。

 すると瀬那は恐る恐る静かに口を開いた。

 

 「僕らのクラスさ、怖そうな人多くない?」

 「えっ!? ・・・・・・そ、そう言われてみれば、そんな気がする様なしない様な・・・」

 

 瀬那に言われて花梨も教室の中を見回す。

 いわれて見れば確かに恐そうな、簡単に言えば不良らしき男女が多い様な気がする。

 制服改造、髪染め、ピアスなどなど―――それだけで不良と決め付けるのは良くないかも知れないが、それでも気の弱い小市民二人にとっては居心地が悪い。

 気のせいかもしれないが彼らから視線を感じる。

 何か嫌な予感を瀬那は感じた。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 朝のホームルームが始まるチャイムが鳴り、クラスメイト全員が揃った1年2組の教室のドアがスライドして担任の教師が現われた。

 

 (外人・・・・・・?)

 (うわっ、凄いマッチョや!?)

 (知性を持ったゴリラみたいだな)

 (ワイルドな熱血教師っぽいわね)

 

 教室に入って来た担任教師を見て瀬那、花梨、森羅、阿瑠琉が各々心の中で思う。

 彼らの思った事は外れてはいない。

 これから一年間世話になる担任教師はどう見ても日本人の風貌をしていない。金髪翠眼のゴツイ白人だった。

 まだ壮年で、着ている背広の上からでもはっきりと分かる、はち切れんばかりに鍛えられた鋼鉄の肉体。

 口周りにワイルドな髭を生やし、厳つく強面の顔立ちをしてるが、その翠の瞳は知性を感じさせる。

 担任は教壇に立って教室にいる生徒達の顔を見回すと口を開いた。

 

 「おはよう諸君! 私は今日から一年間、君達の担任を務めるブライアン・マーフィーだ!」

 

 1年2組の担任教師、ブライアン・マーフィーは、見た目どおりの大きな声で、想像以上に流暢な日本語で自己紹介を続ける。

 

 「担当する教科は英語で、茶道部の顧問をしている。これから一年間よろしく! それじゃあ諸君らも出席番号一番から順番に自己紹介を頼む。名前はもちろん、好きなものや将来の夢なども言ってくれ」

 

 にこやかにブライアンがクラスメイトの自己紹介を始めさせ、出席番号順に次々とクラスメイトが自己紹介をしていく。

 簡単に名前だけで済ます者、丁寧に色々喋る者、ユーモアに自己紹介する者。

 人それぞれの個性を感じさせる自己紹介をし、とうとう瀬那の出番がやって来た。

 教室にいる者から視線を集めつつ瀬那は立ち上がり、ピッと背筋を伸ばして自身の自己紹介を始めた。

 

 「東京から来ました小早川瀬那です。好きなスポーツはアメリカンフットボールで、高校でもアメフト部に入部するつもりです。そして将来の夢はNFLの選手です・・・!!」

 「!?」

 

 瀬那の自己紹介を聞いたブライアンが目を見開いて瀬那を見つめる。

 まるで懐かしい何かを見たみたいに物憂げな目をしていたが、その視線に瀬那は気付く事なく自己紹介を終えて席に着いた。

 ちゃんと何事もなく自己紹介が終わってほっとする瀬那だが、次にブライアンから掛けられた言葉に思わず唖然とする事となる。

 

 「小早川・・・ウチの高校にアメフト部は無いぞ」

 「・・・・・・えっ?」

 

 




ちゃんと泥門側も書こうと思ってますけど、どう思いますか?


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7th down 誠光学院高校アメリカンフットボール愛好会

手抜き気味です。近い内に全て改稿します。


 ―――ウチの高校にアメフト部は無いぞ。

 

 担任から知らされた衝撃の発言から数時間後、入学式などの行事が無事に終了し、昼になって学校は終わった。

 誰もが教室から出て行く中、瀬那は独り屋上でぼんやりと生徒達が下校する光景を見つめていた。

 

 「はぁ~・・・まさかアメフト部が無くなってるなんて・・・・・・」

 

 もう何度目か分からない溜息を吐く。

 まさかアメフト部が無くなっているとは思わなかった。

 クリスマスボウルを目指す気満々だったからこそショックが大きい。

 担任のブライアンの話によるとアメフト部は嘗て強豪だったらしいが、とある事故で去年廃部になったらしい。

 

 「はぁ~・・・前途多難だ、これじゃあ今年クリスマスボウルに行くなんて夢のまた夢だよ・・・・・・」

 

 今年瀬那がクリスマスボウルへ行くには廃部となったアメフト部を復活させ、更に顧問とやる気のある部員を集め、チームをオールスター軍団である帝黒学園に勝たなければならない。

 普通に考えれば無理、と言うか絶対不可能だろう。

 それこそ泥門デビルバッツが全国制覇した時以上の奇跡が必要だ。

 あまりにも遠過ぎる道のりに嘆きたくなる。

 

 「うん? こんな所で何黄昏てるんだ、瀬那?」

 「森羅・・・」

 

 後ろから声を掛けられて顔を向けると、そこには下校した筈の森羅がいた。

 彼がどうして此処に?

 瀬那の記憶では、彼は学校が終わった後で阿瑠琉と買い物に付き合う約束があったはずだ。

 

 「美空さんとの約束はいいの?」

 

 どうして彼が此処にいるのか聞いてみた。

 

 「アルルとの待ち合わせまでまだ時間があるからな。ちょっと部活動見学してたんだよ」

 

 森羅はあっさりと答えると瀬那の横に並び下校する生徒を見下ろす。

 

 「・・・・・・そう」

 「随分元気が無いな。その様子だとアメフト部が無かったのが相当ショックだったみたいだな」

 

 元気の無い返事を返す瀬那。それを見た森羅は苦笑しつつ瀬那の小さな背中をパンパン、と軽く叩いた。

 

 「うん、まあね・・・」

 「そんな辛気臭い顔するなよ、高校生活は今日始まったばかりなんだぜ。アメフト部の件は残念だったろうが無いものは無いんだ。なら、とりあえずアメフト愛好会の方にでも行ってみたらどうだ?」

 「アメフト愛好会?」

 

 あまり彼の話を聞いていなかった瀬那だが、アメフトという単語に反応して聞き返す。

 

 「もしかして知らなかったのか? 去年廃部になったアメフト部の奴等が立ち上げて活動してるらしいぞ。こんな所で独り黄昏ている暇があったら行ってみたらどうだ?」

 「森羅・・・ありがとう! それって何処にあるの!?」

 

 希望を持つには十分な情報を聞いて瀬那はさっきまでの意気消沈していた態度とは打って変わって森羅に詰め寄り場所を尋ねる。

 

 「学校の裏山にある第二グラウンドだと。今はラグビー部が占拠してるが、そこがアメフト部の練習場だったらしい。そこにアメフト同好会もいるってよ」

 「早速行ってみるよ。森羅もどう? 一緒に見学に行かない?」

 

 部活見学をしている森羅も誘ってみるが、彼は首を横に振る。

 

 「悪いけど俺は一度部屋に戻って着替えてからアルルとの待ち合わせ場所に行くよ。もう待ってるだろうしな」

 「そうなんだ・・・本当にありがとう森羅!」

 

 情報を教えてくれた森羅に感謝の礼を言うと瀬那は風の様に走り去っていった。

 屋上から勢いよく走り去った瀬那を見て森羅は独りぼやいた。

 

 「やれやれ・・・世話の焼ける奴だ」

 「相変わらず優しいんだね。森羅はいつもそう」

 「なんだいたのか」

 

 瀬那が屋上から走り去るのと入れ替わるように阿瑠琉が嬉しそうな微笑を浮かべて現われた。

 

 「セナに元気が無いの気にしてたんでしょ?」

 「それはちょっと違うな。俺はセナが辛気臭い顔をしてるのが嫌だったから情報をやっただけだ。全ては自分の為だ」

 「正直じゃないわね」

 「バカ言うな俺はいつだって正直に生きてるさ、誰より純粋にな。それよりも此処にいるって事は、用事は済んだのか?」

 

 てっきりもう帰ってると思っていた彼女が此処にいる事に疑問に思って聞いてみた。

 すると阿瑠琉はあっさりと答えた。

 

 「用事って言うほどの用じゃなかったから抜けて来たのよ。もうこのまま買い物に行きましょ、部屋に戻る時間が惜しいから」

 「やれやれだな」

 

 相変わらず強引な幼馴染に腕を引かれながら森羅は屋上を後にした。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 屋上から飛び出した瀬那。

 森羅から教えてもらった情報を頼りにアメフト愛好会があるという学校の裏山へとひたすら駆け抜ける。

 そして学校を出て十五分ほど走った裏山の中腹にあるグラウンド、そこの隅っこにアメフト愛好会と札が掛けられた部室があった。

 すぐ近くに建つラグビー部の部室などに比べれば貧相極まりなく部室と言うよりも物置小屋みたいだ。

 

 「ここがアメフト愛好会・・・」

 

 部室の前まで来た瀬那は札を見てポツリと呟くと顔を引き締めて部室のドアを開ける。

 中にはまだ誰もいなかった。仕方なく中で待とうと部室に入り、中を見渡すと見慣れたアメフトの練習器具やボールなどがあり、棚の上には嘗て強豪だった名残の様に誇り被ったトロフィーなどが置いてある。

 その中で瀬那はとある物を見つけた。

 

 「これって・・・栗田さんやヒル魔さん達みたいな事をする人ってやっぱりいるんだね」

 

 瀬那が見つけた物、それは油性マジックで文字が書かれた学校旗だった。

 旗の中心には『絶対クリスマスボウル!!』と書かれ、その周りには御剣、緋澄、鳴海、鷺沢、伊吹、五人の名前が書かれている。

 彼らは廃部となった今でもクリスマスボウルを目指してるのだろうか?

栗田や蛭魔など昔の仲間を思い出しながら部室で独り待つ。

すると部室の外から話し声が聞こえ、ドアが開いて三人の男が現われた。

一人は泥門のムサシや神龍寺の山伏並みの老け面をしており、瀬那よりも背が低い小柄な男。

もう一人は短く刈った赤髪をしており、白人とのハーフみたいで真面目そうな顔立ちをしている男。

そして最後の一人は無造作に伸ばしたストレートの黒髪に鋭い眼差しをしたガタイの良い長身の男。

 男達は部室の中にいる瀬那を見ると一瞬きょとんとするが、すぐに立ち直って瀬那に声を掛けた。

 

 「おお、もしかして新入部員か!?」

 「部員じゃねぇよ、会員の間違いだろうが」

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 小柄の老け顔男が嬉しそうに言うと、鋭い眼差しの男が言葉の間違いを正し、ハーフらしき赤髪の男は黙々と手帳に何か書いている。

 

 「は、始めまして、小早川瀬那です・・・アメフト愛好会に入会したくて来ました」

 「おお、やっぱりかいな!? わいは伊吹平治(いぶき へいじ)や。歓迎するで」

 「はい、こちらこそ!」

 

 握手を求める小さなおっさん少年、伊吹の手を握って瀬那は握手を交わす。

 続いて赤髪の男が無言で右手を差し出す。

何故か左手には【鳴海・ジョン・優人です。よろしく♪】と書かれた手帳が瀬那に見せる様に向けられている。

 

 「あ、どうも・・・」

 

瀬那は疑問に思いながら差し出された手を取って握手する。すると伊吹が、瀬那が疑問に思っていた事を答えてくれた。

 

「ジョンは生まれ付き難聴で耳が聞こえないんや」

「そうなんですか・・・大変そうですね」

 

 瀬那はジョンの顔を窺う。

 耳が聞こえない―――それがアメフト選手にとってどれだけハンデなのか瀬那には容易に理解できた。

 耳が聞こえないという事は作戦や合図なども上手く伝わらないし、即座の対応の指示も伝わらないという事だ。

 

「それでも実力は確かだぜ。耳さえ聞こえていたなら今頃は帝黒のエースでもおかしくなかった」

 

 そう言ったのは鋭い眼差しをした男だった。

 

 「でも作戦とかはどうやって伝えるんですか?・・・・・・えっと・・・」

 「鷺沢一誠だ。作戦は手話で伝えるから問題ない」

 

 ここまで断言するという事は本当に大丈夫なんだろう、と瀬那は一人納得して話を変えた。

 

 「部員は僕を入れて三人だけなんですか?」

 

 旗に書かれた名前のうち二名足りない事が気になって聞いてみる。

 すると伊吹が丁寧に答えてくれた。

 

 「いんや、小早川を入れて六人や。一人は入院中で、もう一人はちょっとアメリカに行っとる」

 「アメリカに・・・・・・」

 「ははは、ちょっと眼の手術に行っとるだけや、秋大会までには絶対戻って来るさかい気にする必要は無いで」

 

 伊吹が笑いながら瀬那の肩をポンポンと叩く。

 

 「あいつらの事よりも今はアメフト部を復活させる事の方が大事だろうが、愛好会のままじゃ大会に出れないんだからな」

 「どうして廃部になったんですか?」

 

 今の状況を不満そうに言う鷺沢。どうしてアメフト部が廃部になったのかまだ知らない瀬那は尋ねた。

 すると三人は嫌な事でも思い出したのか辛そうな顔をする。

 

 「去年の秋大会前に大事故が起きたんだよ」

 

 最初に口を開いたのは鷺沢だった。

 

 「秋大会が始まって試合会場に移動していた俺達のバスにいきなり大型トラックが突っ込んできてな・・・選手の大半が大怪我して試合どころじゃなくなって秋大会は棄権したんだ。部員のほとんどが三年生で泣き泣き引退して人数が一気に減って、おまけに次を担う筈の有力な二年生三人が全員帝黒に引き抜かれて、残ったのは俺達一年が五人だけ。おまけに二人は事故で大怪我をしてリハビリ中だ。俺も右足を失ってこのざまだ」

 

 鷺沢が右足側のズボンの裾を上げる。

 そこに見えたのは人間の生身の足ではなく精巧にできた人工の義足だった。

 

 「大変だったんですね」

 「それだけならまだ良かったんだよ」

 

 どうやら今から語る出来事の方が嫌な事だったらしく、言葉に苛立ちを感じた。

 瀬那は黙って鷺沢の話を聞く。

 

 「事故で部員数が少なくなってからラグビー部の顧問をしてる教頭がやかましくなってな・・・。ラグビー部の顧問のくせにアメフトは危険なスポーツだとかなんとかのたまって最終的には校長の一存でこのざまだ」

 

 鷺沢は肩を竦める。

 あまりの出来事に瀬那は目の前の先輩達に同情した。

 さっき『大変だったんですね』と自分は言ったが、恐らく大変などという言葉では軽すぎるほど彼らは大事だっただろう。

 

 「とりあえず今はアメフト部を復活させようと校長や先公共に頼んどんやけど、どうもええ返事がもらえんのや」

 

 大きな溜息を吐く伊吹。

 その姿は哀愁を感じさせる。

 

 「【それよりも今日はどうする?】」

 

 彼らの様子を黙って見ていたジョンが、話が一段落したのを感じてメモを見せる。

 それを見た彼らはこれからの予定へと話を変えた。

 

 「頼むだけじゃダメだな。やっぱり署名活動でもするか?」

 「いやいや、今日は小早川の実力も知りたいし能力テストしようや。ええな、小早川?」

 「はい」

 

 今日の活動が決まり、聞かれた瀬那に異論なんかある筈も無く頷く。

 

 「そういや小早川のポジションは何処や?」

 「ランニングバックとセーフティーです。それと少しだけですけどクォーターバックもできます」

 「攻撃も守備も出来るのか。なら話が早いな。背番号は何番がいい?」

 「できたら21番がいいです」

 「了解。丁度空いてるぜ」

 「さてさて、こんな所で話しとる間があったらさっさと行こうや。高校生活は短いんやぞ」

 

 伊吹のその言葉に頷いた一同は部室から出て行った。

 




諸事情で少しだけ休載します。
途中やめだけはしません。


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