Violet Archive (文芸怪人)
しおりを挟む

XX 沈み切った陽光、踊る人でなし

主人公のプロフィール

名前 カルマ
フルネーム 七郷(ななさと)カルマ
性別 男(!?)
学園 連邦生徒会3年生
所属 連邦生徒会第1機動室
年齢 17歳
誕生日 4月1日
身長 172㎝
趣味 気分次第
デザイン VOFAN(願望)
イラスト VOFAN(願望)
CV 神谷浩史(願望)
ちびキャラ そんな技術はない


覚えている一番古い記憶は、血溜まりの中で死体に抱きしめられていたものだ。

 

そんな記憶を持つ人間がマトモな人生を送れるかという問いに関してはまあ無理だろうとい

う言葉が俺でも思い浮かぶが、実際畳の上で死ねないだろうなと思っていた俺も、まさかここまで奇っ怪な人生を送ることになるとは思ってもみなかった。

 

 

異形どもに10歳まで育てられ。

 

 

実験の影響で大虐殺を起こし。

 

 

逃げ込んだのは世間の濁りをかき集めた闇市。

 

 

思えば、ガキのくせにそこらの大人よりも強くて。

 

 

いつの間にか、俺は闇市の王になっていた。

 

 

でも、そんな身分が嫌で。

 

 

生まれ故郷からも逃げ出して。

 

 

驚くほどぬるま湯な『外』を見て。

 

 

自分の居場所は、『外』にはありやしないと気づいて。

 

 

結局、また戻ってきた。

 

 

 

 

「痛……くはないな。」

 

地面に激突した衝撃で思考を現実に引き戻され、俺は目の前の高層タワーで唯一空いた窓を見る。

 

落ちていた時間としては10秒にも満たなそうだが、まあ俺に気づくのが不可能ではない速度だったろう。

 

だから当然、何かしらのリアクションはあるわけで。

 

ジャケットについた汚れを払い終えるとほぼ同時に、胸ポケットに閉まっていたスマホが振動する。

 

ため息を吐きながらそれに応じると、いきなり大声で怒号をぶつけられた。

 

「あなたは何を考えてるんですか!」

 

「いや、そろそろ外回りの時間だったし、行くところが今日は多いからさ……。」

 

「そういう問題じゃありません!」

 

想像以上に怒られているようで困惑したが、とりあえずは宥めようと俺は言葉を返す。

 

「大した問題じゃないって、五体満足どころか傷一つねーからさ。頭から落ちてもこれってヤバくね?」

 

「あの高さから飛び降りておいて言うことですか!」

 

まあ正論だ。

 

「別に初めてってわけでもないだろうに……。」

 

「初めてじゃないとか、そういうのは関係ないんです!」

 

「だってさ、降りることに関しちゃエレベーターより速いんだし、だったらこっちにするじゃん?」

 

「あなた個人の考えでこちらをいちいちかき乱さないでくださ……いえ、そうではなくて!」

 

階段を数段まとめて飛び降りることもあるだろうにこれくらい俺の体基準で考えれば誤差だろうと思わなくもないが、まあそうは割り切れないものなのだろうか。

 

「……とにかく、『先生』に連絡するので、まずはそちらに向かうようにしてください。」

 

「……え!?なんで!?」

 

「当たり前です!」

 

「いや、ケガもしてないし通行人にも見られてないからいいじゃんか!これくらいじゃなんともないのは知ってるだろ!?」

 

降りる前に下はよく確認したので間違いない。

 

これを取り沙汰するというのは流石にやり過ぎではないだろうか。

 

「普通のやつなら飛び降りに相当するのは分かるけど、流石に……っておい!」

 

こちらの言い分を聞かずに相手は通話を切ったようで、無機質な電子音だけが響く。

 

「……はぁ。」

 

スマホをズボンのポケットに収め、外の駐輪場に停めておいたバイクの元へ向かう。

 

雇った、というか拾った部下が全員出払っていたのも幸いし、知り合いとすれ違うこともなく愛車の赤い初代モンスター(バイク)に辿り着く。

 

「まあ、建物の前まで行って上手いことごまかすか。」

 

バイクに跨ってこれまた赤いフルフェイスのヘルメットを被り、エンジンを蒸す。

 

「……出発進行。」

 

 

 


 

 

 

「やられた……。」

 

30キロの道のりをバイクで走ってきた末に見た、ガラス張りの建物の玄関前で立っている成人男性を遠巻きに見ながら、俺は頭を抱える。

 

「どうすりゃいいんだよ……どのみち忘れ物があるから中には入らなきゃいけないし、でもあの人がいるしなぁ……。」

 

バイクを押しながら人混みを盾にし、俺は建物の近くの路地に入り込む。

 

確かあの建物には裏口があったはずなので、そこから入ればいま外にいるあの人、つまり『先生』には気づかれずに忘れ物を回収してそのまま退散することができるはずだ。

 

途中で先生が(諦めるという理由は100%ないだろうが)中に戻ってくる可能性が無くはないが、それなら先程と同じ手段を使えば5秒程度で離脱できる。

 

そんなことを考えながら俺は裏口のドアを開け、エレベーターではなく階段を上った。それなりに高さがあるこの建物で、階段を使うやつはまずいない。つまりこれなら……

 

「いた!逃しませんよ、カルマ先輩!」

 

「はあっ!?」

 

気づくと紺色の髪の生徒が階段の上から降りてくるところで、俺は慌てて来た道を……

 

「待っていて正解でしたね……行きますよ!」

 

「下からもかよ!?」

 

恐らく階段を通るのを見越していただろう黒髪ロングの生徒を見て引き返すプランも破棄し、俺は一番近いフロアに出る。

 

しっかりと階段とフロアの間のドアは閉めて……

 

「階段は一つだけ、帰りは窓だなぁ……。」

 

「大人しく帰すとでも?」

 

声は遠かったが、すんでのところで足元の閃光弾に気づいてそれに背を向けて飛び退る。

 

ここまでしても視界には影響を及ぼすだろうが、今回取るべき手段は戦闘ではなく逃走だ。

 

視界が少し黒みがかっているくらいはなんとでもなる。

 

それにしても、見えなかったけどあの銀髪の生徒だよなぁ、てことはたぶんあいつも来る流れだよなぁ……

 

「本当はダメだけど……!あれしかない!」

 

近くの非常口から建物の外に出て、非常階段を使い目当てのフロアに辿り着く。

 

そこから最短距離で忘れ物をしたオフィスに向かい、竹刀袋を拾い上げて来た道を戻る。

 

非常階段は当然1階に繋がっているので、そこまで行ければ俺の勝ちは確定……

 

するはずだったのだが……

 

「ケガ……はしてないんでしたね。まあしていようがしていまいが、来てもらうんですけど。」

 

畜生、そこまで読まれていたとは。

 

視界は相変わらず暗いが恐らく薄ピンクの髪色の生徒の気配を察知した時点で俺は踵を返し、そのままエレベーターに駆け込んだ。

 

「玄関に近いけど、こっちを向いてなきゃまだ撒ける……!」

 

絶望的ながらもその可能性に賭けるかと思った瞬間、まだ1階は遠いのにエレベーターが減速する。

 

危機感に従って俺は天井板を竹刀袋で突いてズラし、口の紐に足を引っ掛けながら袋を蹴ってエレベーターの上に乗る。

 

行動が早かったおかげでエレベーターが停止してドアが開き始める頃には、竹刀袋も引き上げて天井板を元に戻す作業も済んでいた。

 

「もう逃げ道は……あれ?」

 

「一体、どういうことでしょうか……先生からの情報が確かなら、ここに逃げ込んだはずですが……。」

 

「まさか、もう降りて……。」

 

「いえ、それはないかと……。」

 

下から聞こえてくる先程の4人の声から先生はとっくに俺の企みには気づいていることにアタリはつけられたが、だとしてもこれは絶望案件だ。

 

こうなったらなりふり構ってはいられない。

 

先程の要領で一つ上の階のドアのところまで登り、そこのドアを手順を踏みつつなるべく早く開ける。

 

エレベーターが人を乗せる機会である以上はアクシデントの際に内側から開けるすべを用意しているはずだという考えが当たってよかった。

 

そのままドアをもう1度閉じて俺は非常階段へ向かう。

 

幸い他に来ている生徒はいなかったようで難なく俺は地面に降り立ち、バイクを停めた裏口まで全力で走った。そして辿り着いたのだ。だが……

 

「……終わった。」

 

バイクがない。ここでバイクがそのまま置いてあればハッピーエンドだったろうが、この状況は間違いなくバッドエンド確定である。

 

いや、まだ諦めるのは速い。諦めたらそこが終点だ。そんな思考の最中に肩に手を置かれる。

 

うん、諦めよう、ここが終点だ。

 

「……一応聞きますけど、ドゥカティ(モンスターのメーカー)は?」

 

「違法駐車をさせるわけにもいかなかったからね。来客用の駐車場に停めてあるよ。」

 

後ろから聞こえる成人男性の声。言うまでもなく彼が先生である。

 

「4人も来てるよ?どうする?」

 

「……とりあえず、説教の前にやれることやりますか。」

 

何かを悟ったのか先生が俺の脇下に両腕を回す。

 

俺は両手を少し上に向けてから、頭と一緒に下げた。

 

デカいカメラとパトランプがなかったのは残念だったが。

 

 

 


 

 

 

(開く赤い暗幕)

 

[映倫では……]

 

「だ違う!」

 

 

 


 

 

 

謎の電波ならぬフィルムを受信しかけたがそれは置いといて、俺は結局逃げ回っていた建物の中に連れ込まれた。

 

一応、俺の所属組織とこのオフィスに関する大まかな内容を……

 

 

「私が説明しましょう!」

 

 

「ダリナンダアンタイッタイ!?」

 

金髪でメガネを掛けた生徒が脳内で声を張る。

 

豊見(とよみ)コトリです!そしてその絶望的な滑舌の悪さは特撮番組『仮面ライダー(ブレイド)』に出てくる『オンドゥル語』ですね!」

 

「元ネタを察知された!?……やっぱりお前は何でも知ってるな。」

 

「なんでもは知りません、知ってることだけです!ちなみにこのやり取りは、作家の西尾維新先生の『物語シリーズ』にて行われるお決まりのやり取りです!」

 

「うん、そろそろ本題に戻ろっか?」

 

メタギャグはやりすぎるとシラケる、いやはや大先生には敵わんよ……

 

とにかく、説明好きな彼女が何故俺の脳内にいるのかも後回しにしてとりあえず奪われた説明をやらせることにした。

 

「分かりました!まず前提として、ここは数千の学園とその自治区によって構成された学園都市『キヴォトス』で、あなた、つまりカルマさんはそのキヴォトス全体を統率する『連邦生徒会』のお偉いさんです!」

 

うん、こういう自己紹介は俺がやるべきなんじゃないだろうか?

 

「前提ですので今まで言ってなかったのが悪いと思います!」

 

「うーん正論。」

 

「続けますと、カルマさん、以降は年上なのでカルマ先輩と呼びますが、カルマ先輩は連邦生徒会が新たに設立した部活である、連邦捜査部『シャーレ』の初代部長も兼任しています!」

 

「おう、そうだな。」

 

「シャーレの業務は主に『先生』という、キヴォトスの外部から招聘した大人の指示の下、様々な問題に対処する機関です!あと、山ほど書類仕事があります!」

 

どうやら今現在俺が脳内で相対している彼女は端から見たらドン引きの人形劇らしい。

 

でなきゃこんな説明の仕方を彼女は絶対にしない。そもそもエミュがガバすぎる。駄目だこりゃ。

 

「自分でやっといてあまりにも扱いがひどすぎませんか!?」

 

「いやまあ、本人の名誉を傷つけるものではないし……。」

 

「……それでは最低限の説明は終えたので、カルマ先輩は説教を聞き流していたことも含めて説教されてください!」

 

「えっ、ちょっ、おい!」

 

 

 


 

 

 

説教は増えなかったけどパイプ椅子から正座になったよ、やったね(ヤケクソ)!

 

まあパイプ椅子に正座よりはマシなのでそこは飲み込み、俺はようやっと説教に意識を向ける。

 

「それで、なんで今日は飛び降りたのかな?」

 

「……外回りの時間になって下に人もいなかったし、エレベーターより自由落下の方が速いんでそうしました。」

 

先生の質問に正直に答えると、全員が全員なんとも言えない表情を浮かべる。

 

「大丈夫ですよ、ケガもしてないし!あれ以来、めちゃくちゃ頑丈になりましたし!」

 

おかしい、前向きに言ったのに周囲の表情がさらに曇る。また俺何かやっちゃいました?

 

(今のは小説原作『賢者の孫』の主人公「おいバカやめろ!」これは)

 

思考を強制終了して、再度現実に意識を戻す。

 

「まあ人間やめることになったのは確かですけど、便利だし気にしてませんから!」

 

何故だ。

 

責任感が強いこの人の罪悪感を払拭するために言った言葉で、何故更にお通夜ムードが加速する?

 

 

 


 

 

 

脳内の彼女がしなかった説明を、一つだけ。

 

これは人でなしの半端者になった、愚かな神の話だ。




「Violet Archive」の注意事項
・これは、七郷カルマの個人的な極秘記録である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

01 かくして、黎明は現に昇る

ブルアカの世界で生徒ってこたぁ、アレの設定もいるよなぁ……
つカルマのヘイロー
・不可視、不定形だが赤と青が交じることなく構成されていることは分かる。


やいやいと騒がしい部屋に続く扉を開ける。

 

「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!」

 

おっと、修羅場かな?

 

「数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットアウトしたんだから!」

 

修羅場というか想像以上に大惨事だった。

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました。」

 

マジか……アイツら逃げたか……まあ誰が逃げたか想像はつくが……

 

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています。」

 

うっわ、そうなの……?仕事が増えるから嫌だなぁ……

 

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も500%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」

 

……確かに問題だけど何を今更?

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」

 

……ん?

 

「……連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました。」

 

「え、アイツ今いねーの?」

 

「「「「「……え?」」」」」

 

先程まで仲良くギャーギャーやってた5人がまとめてこちらを見る。

 

「か、カルマ先輩……?」

 

「ああ、そうだけど。」

 

「どうしてこちらに……?」

 

「いや、俺も連邦生徒会だし。」

 

「あの、連邦生徒会長について……。」

 

「知らん。つーか今知った。」

 

「……いつから?」

 

「数千ものなんたらってとこ。」

 

「……ちなみに、今までどちらに?」

 

「気になった本があったから、ちょっと一泊二日で買ってきた。」

 

流れるようにそれぞれの質問に答え、手元の本を見せる。

 

中坊の時に見つけてから、このシリーズがガチで好きなのだ。

 

ついに結婚した二人の新婚旅行は感慨深いものがあった。面白いが勝つのだが。

 

「んで、さっきから完全に置いてけぼりのこの人が前に話題に上がってた『先生』?」

 

ほぼ横にいた成人男性に目を向けつつ俺は黒髪ロングの眼鏡……同僚の七神(なながみ)リンに話題を振る。

 

「えっと……はい、そうです。連邦生徒会長がキヴォトスの外部から招聘しました……ではなくて。話を戻しますが、現状、『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政権を失っています。」

 

「あのセキュリティ、ダチ呼んで一回試してみたけどマジでびくともしないからな……開ける手段は?」

 

仕事の話はしっかりとする。

 

やりたいことをやるのが至上主義の俺だがやりたくないことをやらないわけじゃないし、やらなきゃならないことはちゃんとやる。

 

「それがあったらとっくにやっていましたよ。今はなんとかなりますが。」

 

「……ああ、先生なら対処できると?」

 

「私が?」

 

男性、以降先生は突然振られた話題に素っ頓狂な声を上げる。

 

「ちょ、ちょっと待って!話にぜんぜん追いつけないんだけど?」

 

直談判に来たであろう後輩たち(うち1名同学年)もすっかり毒気を抜かれたように先生に詰め寄ってくる。

 

「彼は行方不明になった連邦生徒会長が特別に指名した人物で、これからキヴォトスの先生として働く方です。」

 

「行方不明になった連邦生徒会長がしm」

 

「やっぱそうだよな。でも、なんでそんなことをしたのかねぇ?」

 

「まだ喋ってたじゃないですか!」

 

後輩の発言を遮るのに罪悪感を感じなくもないが、しかし今彼女から新たな情報は得られないと思うたぶん。

 

「続けますよ。先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。」

 

「ふむふむ。」

 

「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、際限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行うことも可能です。」

 

「まあ、アイツがこれ作って何をしようとしたんか分からねーけど、そういうもんって割り切るしかねーな。」

 

しかし、よく考えてみればいち組織が持つにしちゃ過剰すぎる権限じゃないかとも思う。

 

でもアイツのことだし、ちゃんと考えた上での判断なのだろう。

 

だとすれば俺は下っ端らしく、上の指示に従うだけだ。

 

「シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。先生を、そこにお連れしなければなりません。」

 

そういうとリンは端末を取り出し、誰かに通話をかける。

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……。」

 

「シャーレの部室?……ああ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?」

 

「キヴォトスっていっつもそうだよな……。」

 

キヴォトス広しと言えど、周りを見回せば確実にどこかで銃撃戦を見られる現状は流石にどうかと思わなくもない。俺が会長だったらなぁ……

 

「大騒ぎ……?」

 

「矯正局を脱出した停学中の生徒たちが騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ。」

 

「はいはい。またこれかよ……。」

 

騒ぎ=銃撃戦、これがキヴォトスの実態だ。

 

なんでこんなところが故郷なのだろうか、シンプルに恥ずかしくなってくる。

 

「連邦生徒会……というかその中の個人に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?」

 

「……うわアイツか!」

 

やり口で犯人が分かってしまい、俺は思わず頭を抱える。

 

そんじょそこらの不良とは段違いでヤバいやつを、また相手取らなきゃならないとか地獄か。

 

「それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしているらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?」

 

「いや、たぶんそいつ連邦生徒会の土地だから暴れてるだけだぞ。」

 

主にその個人に対しての私怨で。

 

「……。」

 

「すいません、黙ります。」

 

「まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大したことな……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!」

 

あ、切られた。

 

「……。」

 

「イラついてるねー、そんな顔ばっかしてるとモテな」

 

「黙っててください。」

 

「はい。」

 

「大丈夫?深呼吸でもする?」

 

茶化す俺となだめに入る先生。行動一つ取るだけでここまで差が出ようとは……これだから人間は面白い。

 

「……だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません。」

 

「そりゃそうだろ。この程度で大事にしてちゃキヴォトスなんてとっくに滅んでる。」

 

俺の茶々にリンは嫌そうな顔をするが、すぐに気を取り直して後輩たちを見やる。

 

「……?」

 

「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」

 

察しが悪いガキは嫌いだよ……俺も年は大差ないが。

 

「ちょうど各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです。」

 

そこから一拍置いて、リンは言う。

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう。」

 

「ちょ、ちょっと待って!?ど、どこに行くのよ!?」

 

「そりゃ現場だろ。戦場とも言うけど……ま、生きてりゃそういうこともあるって。」

 

人生に終点があるなら、戦場だってあるだろう。

 

 

 


 

 

 

硝煙の匂いに飛び散る火花、立ち上る煙。

 

「おーおー、やってるねー。」

 

「相変わらず余裕ですね……というか!なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!!」

 

紺色の髪色の少女、早瀬(はやせ)ユウカがキレ気味に叫ぶ。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……。」

 

薄ピンクの髪色の少女、火宮(ひのみや)チナツがたしなめる。

 

まあここらへんの対処に関しちゃ煽り癖が定着している俺にはキツいものがあるので、適当に投げておく。

 

「それは聞いたけど……!私これでも、うちの学校では生徒会に所属していて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が……!」

 

「連邦生徒会の俺の前で言われても何の感慨も湧かねーよ……っ!」

 

流れ弾がこちらに飛んできて、俺の側頭部を叩く。

 

かすかに脳が揺れたのを無視して、勢いが死んで足元に転がった銃弾を拾い上げた。

 

「JHP弾、しかも改造済みか……威力はわりかし高めだな。」

 

「相変わらず無茶苦茶な……。」

 

苦い表情で俺を見る黒髪ロングの眼鏡なしの少女、羽川(はねかわ)ハスミが、さり気なく先生をかばう位置に立つ。

 

「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です。」

 

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を!」

 

全員が携行していた銃を構え、臨戦態勢に入る。

 

「分かってるわ。先生、先生は戦場に出ないでください!私たちが戦ってる間は、この安全な場所にいてくださいね!」

 

「……さっき弾丸が飛んできたのにIQ2かな?」

 

「カルマ先輩は黙っててください!」

 

ほら、何か言うとこうなる。

 

「いや……私が指揮する、任せて。」

 

しかし先生はユウカの進言を退け、前に進み出ようとする。

 

「え、ええっ?戦術指揮をされるんですか?まあ……先生ですし……。」

 

どういう理論だおい。先生は過去に紛争地帯にでもいたのか?

 

「分かりました。これより先生の指揮に従います。」

 

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします。」

 

細かいことは置いといて、全員が乗り気なようで何より。

 

「……カルマ先輩?どこに行くつもりですか?」

 

銀髪の少女、守月(もりづき)スズミに静かに去ろうとしたのを咎められる。

 

「お前らが先生の指示で戦ってる間、俺は俺で動こうと思ってな。」

 

「いえ、それは構わないんですが……。」

 

「だって、俺と組むと誰も合わせられねーじゃん。」

 

とりあえず事実で黙らせて先生の方を向く。

 

「つーわけで、俺は別行動取りますけど、いいですよね?」

 

「……分かった。でもケガはしないようにね?」

 

「勿論。」

 

そして俺は得物の銃……は使えないので両腰の刀を抜く。

 

「え、銃じゃないの!?」

 

「はい……カルマ先輩、なぜか銃はからきしダメで……。」

 

「でも強いから手に負えないんですよね……。」

 

「お褒めに預かり光栄ですとでも言えってか?言わないけどさ……まあ、俺は先に行ってシャーレの部室内を掃除しておくから、お前らはゆっくり来りゃいい。」

 

隠れていく必要もなくなった俺は堂々と前に出て、銃撃戦を繰り広げる不良どもに向け、叫ぶ。

 

「お集まりの諸君!楽しんでるとこ悪いが、そろそろお開きにしてもらおうか!」

 

自分でもハリがあると思う声に気づいた不良たちが一斉に俺を見る。

 

「知ってると思うが、俺の名前は七郷カルマだ!んで、俺の名前を知ってるやつはもう分かってると思うが……。」

 

そこで言葉を切り、一番近くにいたやつを斬り伏せる。

 

「お前らの馬鹿騒ぎもここまでだ。」

 

少し間が開き、その上でやつらが雪崩のように襲いかかってくる。

 

「つーわけで、俺は先に行く!最低限しか倒さないから、後は任せた!」

 

後ろに声をかけてから、俺は二刀を振るって俺用の道を作る作業に取り掛かった。

 

 

 


 

 

 

一人を斬り伏せて蹴り飛ばし、向かってきた不良の足にぶつけて転ばせる。

 

そのまま反対の足も振り上げて宙返りをしながら、足元に飛んできた弾丸を回避。

 

着地の際に地面を強く蹴って後ろに跳び、先程の射手を斬り倒す。

 

そのまま一回転して着地し、捻った体を戻すように回転しながら前進して数人を吹き飛ばす。

 

「弱い弱い……アイツが扇動すると数は集まるけど、だいたい雑魚なんだよな……。」

 

しばらくぶりのこの状況に愚痴をこぼしながらも、俺は絶えず目の前の邪魔者たちを屠り続ける。

 

「にしても今回、数多くね?これに確か……。」

 

大きな機械が発する音が耳朶を直撃する。

 

周囲から人が既に退避しているのを見ると、どうやらこれの投入は予定通りだったらしい。

 

「巡航戦車が手に入ってるってのは聞いてたけど、俺にぶつけてくるとはね……。」

 

しかしこれ、操縦者はバカなのか?こんな距離だと……。

 

「砲身がこっちに向くわけねぇんだわ。」

 

主砲をくぐり抜けて戦車を一周し、両側のキャタピラを斬り裂いて強制的に停止させる。

 

そのまま後ろ側から戦車の上に登って砲身を斬り落とし、ハッチに刀を突き刺して一周、蝶番も壊れた入り口を蹴り飛ばす。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

内部に降り立った俺に悲鳴を上げる不良を刀の柄で殴り倒す。

 

そこからメインの基盤に刀を突き立てて脱出するのとコンマ数秒差で、戦車が爆発炎上した。

 

「ば、化け物だ……!」

 

「これが『狂鬼』……!?」

 

「あ、そっか……アレつけ忘れてた。」

 

黒地に赤のラインが入った鬼の仮面を取り出し、顔を覆う。

 

「これで、『狂鬼』の完成。さて……。」

 

怯える連中の中を悠々と通り過ぎながら、俺は彼女たちに聞かせるつもりもない言葉を放つ。

 

「踊ってもらおうか……『斬々舞(きりきりまい)』。」

 

刀で撫でた彼女たちは、意識を失いながら激しく回って踊り狂った。

 

 

 


 

 

 

ガラス張りの建物の地下で、鬼面を被ったまま目を閉じる。

 

「あら、これは……お久しぶりですね。それ、お大事にしてくれているようで何よりです。」

 

「貰いもんだしな、雑には使えねーよ。」

 

狐面を被った少女が、甘い声で俺に語りかけてくる。

 

しかし彼女の正体を知る俺は、それに心底どうでもよさげに返した。

 

「これが傷つくとしたら、戦場だけだ……もっとも、お前がその状況を早速作ったみたいだけどな……狐坂(こさか)ワカモ。」

 

建物内の掃除を終えて収めていた刀を、俺は再度引き抜いた。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは連邦生徒会の厄介者である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02 鬼の狐狩り

カルマくんの固有武器
・『霧凪(きりなぎ)
カルマが右手に握る刀で、銘のソースは鞘に彫られた文字。刀としては刀身があまりにも薄く、鏡レベルで光を反射するのが特徴。切れ味と滑らかさに重点を置いた逸品で、側面を叩こうとしても滑って折ることが難しい。実は刀身には『斬薙』と彫ってある。
・『羽賀月(うがつき)
カルマが左手に握る刀。こちらも鞘に銘が彫られている。あまり刀身が沿っておらず、霧凪とは反対で肉厚。頑丈さと貫通力に焦点を当てた一振りで、対物ライフルの射撃にも耐えることができる。刀身には『穿突』と彫られている。


「……そんで、一応聞くけどなんで脱獄した?」

 

「理由など必要でして?いえ、必要ないでしょう……どうしてもと言うなら、囚われの生活が嫌だったとでも言っておきますが。」

 

「うんにゃ、こっちだって聞く前から分かってた。別に取り繕わなくてもいい……どのみち、俺がもっかいあそこに叩き込めばいい話だ。」

 

お面越しに俺たちは言葉を交わす。

 

フラットな調子の会話に対し、両者の手には抜き身の刀と引き金に手をかけた銃剣だ。

 

たとえ俺たちのことをどちらも知らない人がこれを見たとしても、俺達の関係がどういうものであるかは容易に想像できるだろう。

 

「今回はそこそこ長い間閉じ込められてたし、だいぶ腕が鈍ってるんじゃねーの?」

 

「あなたこそ、手加減ばかりで本気を忘れたとは言わせませんわよ?」

 

「「……。」」

 

「場所を変えるか。」

 

「ええ。そういたしましょう。」

 

武装は解かないまま、俺たちは地上に上がって外へと向かう。

 

「聞きたいんだけど、どうしてここを選んだんだ?」

 

「連邦生徒会の土地を襲撃して、あなたに来ていただくため以外に理由があるとでも?」

 

「ですよねー……来る俺も俺だけど。」

 

「だからこそ、私もあなたを呼び寄せようとするのですが。」

 

前から先生たちが来る。

 

どうやら後を追ってついてきたようだが、まさかここまで早いとは。

 

思った以上に先生の戦術指揮というのは侮れないものらしい。

 

俺の隣に立つワカモの姿に後輩たちは竦み上がっていたようだったので、俺が前に出て彼女たちに告げる。

 

「安心しろ、お前らは巻き込まれない。」

 

「え……?いや、カルマ先輩、それってどういうことですか!?」

 

「簡単だよ。これからコイツと表に出る。」

 

そこで言葉を切り、俺は一番近くにいたユウカに耳打ちする。

 

「俺が戻ってくるまで、絶対に先生を外に出すな。」

 

それだけ言い残してワカモの方を見る。

 

「……。」

 

……お前、さては先生に惚れたな?

 

 

 


 

 

 

「で、どうすんの?俺の予想が正しければ、もうお前につきまとわれる道理はねぇはずだよな?」

 

「悟ったようでいて、案外分からないものなのですね。誰かを慕おうとも、それまでに懸想していた方への想いまでなくなるほど、心というものは簡単ではないのですよ?」

 

「あっそ。よく分かんねーよ、正直こういうことに関しちゃ。」

 

「それは感心しませんね……そういうことは男のあなたもしっかりと勉強しておかないと、後々大変なことになりますわよ?」

 

「いっそ、女に生まれられればねえ……キヴォトス唯一の男子生徒なの、実は結構気にしてるんだぜ?」

 

軽口を叩いてるとは言え、事実を言ってはならないという法はない。

 

なんなら嘘つきだって真実を話さなければ意味はないのだ。

 

「そういうことなら、私も男に……いえ、あまりなりたくはありませんね。」

 

「うわ素直。」

 

入り口の自動ドアをくぐって、瓦礫が吹き飛んで少し開けた場所に出る。

 

周りに散らばる鉄板からして、恐らくもう1台戦車があって先生たちが撃破したのだろう。

 

円形闘技場、ローマに行ったことがないからこういうものなのかは分からないが、こうしてみるとなかなか面白いものなのかもしれない。

 

「いつも通りのルールで?」

 

「ええ、いつも通りで。」

 

右足を引いて、二刀を構える。

 

彼女は銃口をこちらに向けながら足元に転がった手のひらサイズの瓦礫を手に取り、腕を勢いよく振り抜いて空中に放る。

 

「『狂鬼』、七郷カルマ……。」

 

「『災厄の狐』、狐坂ワカモ……。」

 

「「いざ、尋常に勝負!」」

 

瓦礫片が地面に落ち、引き金が小さく鳴って銃弾が放たれる。

 

俺はその弾道に左の刀を合わせて、弾丸を上方に弾き飛ばした。

 

鈍い音と小刻みな振動が手を通して全身に伝わる。

 

その感触が冷めないうちにと、俺は左右に大きく動きながら間合いを詰める。

 

流石に俺でも弾丸は避けられないが、照準を合わせるよりは速く動ける。

 

彼女もそれは既に把握済みで、距離を取ろうと後ろに動きながら銃口をこちらに向け続ける。

 

日頃なら刀使いと言うだけで対応が分からずしどろもどろになる連中ばかりだが、そうならないだけで彼女の実力が嫌でも分かる。

 

「……っ!」

 

舌打ちを一つ放って、俺は近くにあった瓦礫の山を切り崩す。

 

そうして射線を切りながら足を休め、左手の刀を円の反対側へ放り投げた。

 

狙い通りに突き刺さったそれは小規模な雪崩を引き起こし、俺と彼女が立つ円形を2つに仕切る。

 

「……随分と小狡い手を使うのですね。」

 

「今更すぎるしルールは破ってねーだろ。文句があるならこれに勝ってルールに新たな一文を付け加えるんだな……っと。」

 

幸いこちら側に流れてきていた刀を拾い上げ、即席の壁から離れる。

 

「さて、跨いで超えるにしちゃデカすぎる壁が出来上がっちまったな……たぶん、これ乗り越えた方が負けだろ。」

 

「あなたも私も、間違いなくその隙を逃すわけがありませんからね。だとすれば、このまま千日手ということになりますが……。」

 

ああ、乗り越えようとすれば間違いなく撃ち抜かれるか突き上げられるかのどちらかだ。

 

それを理解した上で俺は十分に助走距離を取って駆け出す。

 

「まあお前はそう言うだろうよ……この場合、必要なのは策じゃなくて奇策だからな。」

 

両の刀を振るう。

 

乗り越えるのではなく、突き抜ける。

 

壁を作ればその目的は侵入の阻止や射線のカット……とにかく、防御にまつわるものと思うのが自然だろう。

 

壁は防ぐもの、その認識は戦力的な観点の強い弱いに関係なく存在する、常識や共通認識のようなものだ。

 

だからこそそこをひっくり返すような発想は、ほぼ確実に相手の意表を突く。

 

いくら頭が良くてもひねくれ者でなければ思いつかないだろうそれを奇策と言うのなら、これこそ奇策だろう。

 

「そう来ましたか……!」

 

皮肉なことに、彼女もひねくれているので完全に意表を突くことはできなかったようだが。

 

瓦礫の下を駆け抜けるのに射線を散らすような揺動を挟む余裕はない。

 

既に周りはコンクリート片で半ば覆われているような状況の中、俺は足元の欠片を蹴り飛ばしながら彼女めがけて一直線に突き進む。

 

銃声。

 

俺の足の付け根を狙った弾丸は蹴り飛ばした欠片と衝突し、軌道を変えて足の間を抜けていく。

 

それを感じながら俺は右の刀を前方に突き出した。

 

「……私の勝ちですね。」

 

彼女は避ける素振りさえ見せず、ただ手にしていた()()を突きつける。

 

銃身も含めれば俺の刀と同じくらいの長さと見ていたそれは運悪く俺の得物よりも長かったようで、俺の攻撃が届くよりもコンマ数秒速く俺の胴を捉えた。

 

「マジ?完全に勝ったと思ったんだけどなぁ……。」

 

結果として止まらずに彼女に突き立ててしまった刀を引いて、鞘に納める。

 

「ええ。私も負けたかと思いましたが……他ならぬあなたの姿にヒントを頂きました。」

 

キヴォトスで刃物が台頭するような接近戦を仕掛けるバカは俺以外にまずいない。

 

だからこそその間合いに入った時に、俺の戦い方を参考にするやつがいるとは思わなかった。

 

毎度毎度、彼女と戦うと色々なことに気付かされる。

 

「俺もまだまだってことかねぇ?んじゃ、約束通り……何が望みだ?」

 

勝負に負けた方は何でも勝者の言うことを聞く。

 

それはオレと彼女の交流の初期から定めたルールであり、いまだにそれを破ったことは双方にない。

 

「あら……では、今度私に一日、付き合っていただきましょう。」

 

「ルールの追加じゃないんだな。」

 

「面白いものが見られましたから。わざわざ奇策を見られなくするのも勿体ないでしょう?」

 

どうやらとっさに考えた奇策は相当ウケたらしい。

 

次からはそれを含めたトラップを考えてみるのもよさそうだ。

 

「ならこれからも遠慮なく、策を弄させてもらうことにする……命令に関しちゃ、一日お前のプライベートに付き合えってことでいいんだよな?」

 

「ええ、日取りは追って連絡しますので。それでは私はこれで。」

 

そうして彼女はくるりと背を向け、無防備に去っていく。

 

俺は今になってぶり返してきた手の痺れを払うように手を振りながら、シャーレの部室へと戻っていった。

 

 

 


 

 

 

中に入ると先生や後輩たち、そして乗ってきたヘリで待機していたリンがいた。

 

「悪い。今回の主犯……狐坂ワカモは取り逃がした。」

 

開口一番、俺はそう告げて頭を下げる。

 

「とはいえ、しばらくはここに何かを仕掛けてはこないはず……。」

 

「それが『ルール』だからですか?」

 

「ああ……え?」

 

おい、なんでそれを……

 

「それにしても驚きましたよ。カルマ先輩って、意外と律儀なんですね。」

 

「な、何の話だ?別に俺は何も……」

 

「ですが、惜しかったですね……あの『奇策』。」

 

「お前らどうやって見てた!?」

 

絶対に俺と彼女の戦いを見ていたであろう後輩たちに思わず大きな声が出てしまう。

 

「ええ、『やりたいことは絶対やるがやりたくないことをやらないわけじゃない、楽はするけど手は抜かない』が彼の信条ですから。」

 

「やめろリン、度重なるインタビューで作り上げたイメージをぶち壊すのやめろ!」

 

「……あれ、ちゃんと受けてたんですね。」

 

「内容はだいぶ面白おかしく変えて事実は伝えてないけどな……じゃなくて!俺受けた旨を書類で送ったろうが!」

 

「流石にそこまで確認できるほど暇ではないので……私はあなたでもありませんし。」

 

体の言い逃げ文句を並べた後に、リンは眼鏡を押し上げる。

 

「……まあ、そういうところで会長はあなたをシャーレの部長に推薦したのでしょうね。」

 

「……は?」

 

「先生、本人がいないので説明が遅れてしまいましたが、シャーレは基本、各学園の生徒を集める構造上、初期に生徒が0人という事態が起こりえます。」

 

俺を無視したことには大いにダメ出しをしたいところだったが、しかしその言い分には納得できるところがある。

 

あくまで部活という形式を取っている以上、入部は生徒の意思に依るところが大きく初期には部員を集めるのも一苦労だ。

 

今回一緒に来てくれた後輩たちも半ば強引に連れてこられただけで入部するとは限らないというか正直言ってキツいだろう。

 

「スカウト等の手段もあるにはありますが、最悪強制動員にもなりえますし、自主的な退部という線もあります。」

 

「そうだね。部活ならやるのもやめるのも自分の意志だ。」

 

「ですが部活である以上、部員内でも行動できる人間が必要になります。そしてその人物が抜けるような人間だと困るわけですが……。」

 

そこでリンが俺を見る。

 

「はあ……もうオチは見えたからさっさと言えよ。やるから。」

 

「察しがいいのと諦めが早いのは助かります。先生、私からの提案は、こうして()()()()立候補してくれた彼、七郷カルマにシャーレの部長として先生の補佐と部員のまとめ役を任せようと思うのですが、いかがでしょうか?」

 

うん、まあそうだろうと思った。

 

「でもいいの?カルマも連邦生徒会として、忙しいだろうに……。」

 

「問題ありません。彼は楽に仕事を済ませる仕組みを一人だけ構築していますから。」

 

「単なる書類処理ソフトだろうに……それを蹴ったのはお前らだろ。」

 

ダチに作ってもらったのを個人的な使用期間を経てから導入を提案した時に過半数以上反対票を入れてボツにしたのはどこの誰だ。

 

あの後賛成票に入れてた同僚が一人貰いに来ただけだぞアレ。

 

彼女にはあげたけどお前らにはもう絶対にやらん。

 

「そもそもいいかどうかは俺が言うことだろうに。まあ、既にいいって言ってんだけどさ。」

 

そう言い切った上で俺は二人の横を通り過ぎ、執務室があるフロアへと向かう。

 

「そういうことだから……連邦生徒会第1機動室長兼、連邦捜査部『シャーレ』部長、七郷カルマ。どうぞよろしくお願いします。」

 

お辞儀はしない。頭を下げるのは閉幕の時か、謝罪の時だけだ。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは連邦捜査部『シャーレ』の部長である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03 狂に染まればまた狂う

・第1機動室
各部署で問題を起こしまくったカルマの隔離場所として設立された部署。元々は一つの部署だったが誰も彼に付き合いきれずに第1と第2に分離。長らく構成員が一人だけという事態が続いていたが、彼が3年生になってようやくスカウトに成功。現在なんと3人体制で仕事にあたっている。主な仕事は『各学園の視察』『武力以外の観点で危険な勢力への対処』『隠蔽された事件の極秘捜査』の3つで、現地で仕事を済ませて直帰なので基本的に部署に人はいない。でも何故か仲はいい。


シャーレの部長となって数日。

 

あの日一緒に来た後輩たちも結局入部したようで、部員0人問題は杞憂に終わったのだが、かといってそれ以上増やす手立てを現状持たない俺は、打てる手を考えながらシャーレの部室、正式名称シャーレオフィスの入口を通った。

 

先生と膝を突き合わせて徹夜で話し合った日から数日経ち、今日はそれについて話すために来たのだが……

 

「……。」

 

そんな思考を切り、俺は後ろを振り返る。

 

さっきまでは明らかにつけられていたのだが、今はその気配がすっかり失せている。

 

気のせい、なんて可能性はまずないだろう。

 

仮にも第一線で偵察に失敗したていで殲滅を繰り返している俺だ、害意や敵意くらいは勘づける。

 

まあ、この気配はもう少しどろどろした、なんというか気色悪いものだったが……。

 

「あ、カルマ先輩じゃないですか!」

 

入り口から入ってきたユウカに声をかけられる。

 

まさか、な……

 

「よう、ユウカ。今日は先生の手伝いで?」

 

「はい。先生が領収書をこれでもかと溜め込んでた上に、散財が多かったので……。」

 

「嫁かな?」

 

ジロっと睨まれる。

 

流石に今の発言はライン超えだと認識し、素直に謝ることにした。

 

「すまん、軽率だったな。それで、お前がその処理を手伝うってことか?」

 

「はい。先生、私がいないとダメそうですから……。」

 

呆れたようなため息を吐いちゃいるがユウカくん、頬を朱に染めてそんなことを言っても惚気にしか聞こえないぞ。

 

なんて言おうものならまた睨まれると思って寸前で飲み込む。

 

「あれ……?先輩、そういえば一人なんですか?」

 

「そうだけど……もしかして、俺の近くに誰かいたのか?」

 

「はい。白い髪の人が二人、先輩の後からここに入っていきましたけど……知り合いじゃないんですか?」

 

「……いや、知り合いだな、間違いなく。」

 

そう答える頃には既に俺は走り出していた。

 

これは下手したら先生の危機であるのと同時に俺の監督責任を問われかねない事態になりうる。

 

「ちょ、ちょっと、カルマ先輩!?」

 

ユウカが慌てて追いかけてくるが足並みを揃えちゃいられない。

 

俺はエレベーターを待つのももどかしく息切れ覚悟で階段を全力で駆け上がった。

 

 

 


 

 

 

息切れはしなかったしなんとか間に合ったようで、俺が先生のいる執務室の前に辿り着くと、案の定そのドアの前で二人の少女が銃を抱えて待機していた。

 

「本当に、やるんだね?」

 

「うん。室長を誑かす連中は、一人残らず排除しないと!だから室長を追ってここまで来たんでしょ!」

 

「でも、そういう人じゃなかったら?」

 

「それを確かめるために、まずは脅して拷問するって言ったでしょ!」

 

物陰に隠れて俺は彼女たちの会話を聞く。

 

「室長は騙されてるんだよ!だからその元凶は鼻からカレーうどんを食わせるくらいはしないと許されないよ!」

 

「やらせてることがガキ大将のそれだy……。」

 

「いいの、子供が思いつくことが一番残酷って室長も言ってたし!というかなんでそんな青い顔してるの?まさか怖気づいたとか言わないよね!?」

 

「……後ろの階段の入口。」

 

どうやら気づかれたようなので、鬼面と刀をしっかり戦闘態勢に整えてから俺は彼女たちの目の前に出る。

 

「……ふぇ?」

 

「うん、終わったね、私たち。」

 

「……。」

 

「あのー、室長?何か言ってくれないと私たちも怖いですよ……?」

 

「諦めなって。もうこの時点で詰みなんだから。」

 

刀を引く。

 

その動作を見た彼女たちはとっさに銃を投げ捨て、二人揃って土下座する。

 

「「申し訳ありませんでしたー!」」

 

「……どういう状況!?」

 

あ、ユウカ来た。

 

 

 


 

 

 

「……つまり、私がカルマに何かよくないことをしたんじゃないかと思って、私を問い詰めようとしたってこと?」

 

「そうみたいですよ。このバカたちは。」

 

「「うっ……。」」

 

正座をしている少女二人が下がっていた顔をさらに俯ける。

 

「そこ、背筋が曲がってる。」

 

「「はいっ!」」

 

「……一応、説明しますね。こっちのショートの白髪が辛坂(からさか)フミ、そんでロングの方の白髪が追後(おいご)セカイ。恥ずかしながら俺が連邦生徒会で持ってる部署、第1機動室の部下です。」

 

「はい……辛坂です……この度は申し訳ありませんでした……。」

 

「追後です……私は止めたんですよ?でもフミが聞かなくて……。」

 

「ん?」

 

「なんでもないです。」

 

パワハラと言いたければ言え。

 

正直自業自得だと俺は思うが。

 

「辛坂。」

 

「はい。」

 

「しばらくカレーうどん禁止な。」

 

「そんなぁ!」

 

一人崩れ落ちる。

 

「んで追後。」

 

「はい。」

 

「しばらく飯は辛坂に作ってもらえ。」

 

「殺すつもりですか!?」

 

二人崩れ落ちた。

 

「申し訳ありませんね。これでも普段は頼りになるんですけど……帰ったら少しばかり説教しないと……。」

 

「「ヒッ!」」

 

「その、程々にね……?」

 

この人の心は仏か何かか。

 

「まあ、いざって時には好きに使って構わないので……必要なら俺も付き添いますし。」

 

「そこまでしなくてもいいのに……。」

 

「部下のやらかしの責任を取るのも、上司の務めですしね。」

 

その上で俺は執務室の応接セットのソファに腰掛け、先生に腹案を語る。

 

「それで先生、今日、話を持ちかけた理由なんですけど。」

 

「うん。」

 

「シャーレの知名度を上げるために外部委託ですけど、連邦生徒会でホームページも作ってますし、この後開く予定の会見でも触れますが……やっぱり、直に交流するのが一番だと思うんですよ。」

 

そこで俺は手元のスマホから徹夜で作ったテンプレートを映し出し、先生に見せる。

 

「だから生徒の依頼に対応するためのページを個人的に作ってみたんですよ。俺の各学園への視察に同行してもらうことも考えなくはなかったんですが、生徒に寄り添う形を取りたいという先生の気持ちに合わせるなら、これなんじゃないかと思いまして。」

 

既に意向を聞いていたからこそ思いついたが、正直この案を出せた自分に興醒めしている部分があるのは内緒だ。

 

やることなすことが全て奇策や奇行になる狂人のつもりだったが、俺の実態はこんな当たり障りのないことを考えつくようなつまらない人間だったのかと嫌な気分になる。

 

「カルマ先輩、先輩方から聞いたイメージとぜんぜん違う……。」

 

「……こほん。とにかく、これに基づいてしばらくは行動していく形を提案したいんですが、どうですかね?正直2徹の頭で考えたので、問題があったら教えていただけると助かるんですが……。」

 

「うん、私もそれがいいと思うよ。それはそれとして……。」

 

先生がデスクから離れて俺の方へ近づいてくる。

 

「寝ようね?」

 

「……分かりましたよ。とりあえず、今日はこれを伝えるだけのつもりでしたし。」

 

俺の仕事が本格的に過酷になるのはもう少し部員が増えてからだろう。

 

だとしたら今のうちに取れる休みは取っておくに限る。

 

「まだ本決まりにするほど急いでいるわけでもありませんし、会見の直前くらいまでは検討しても大丈夫だと思います。それでは、お先に失礼しますね。」

 

「気をつけてね。」

 

退出際に一礼をしてから、俺はバカ二人を引きずって執務室を出た。

 

 

 


 

 

 

その数分後。

 

「なんで休もうとするとこうなるんだよチクショウ!」

 

不良どもの騒動に巻き込まれ、俺は我慢できずに叫んだ。

 

「マジでキヴォトスの治安終わってんだろ……。」

 

愚痴をこぼしながらも刀へ伸ばした腕を、フミに掴まれる。

 

「室長は休んでって言われたんだから、ここは私とセカイちゃんに任せてください!」

 

既に彼女は臨戦態勢。セカイの方を見てみると、そちらも既に準備を終えていた。

 

「こういう『雑用』は、本来私たちの仕事ですよね?だから、先輩は先に帰ってゆっくり休んでください。サービス残業です。」

 

「それダメなやつだろ……。」

 

そう返すも彼女たちは聞かず、敵の前に姿を現して挑発する。

 

「……室長の通る道を塞ぐな。」「……室長に手間を取らせるな。」

 

前言撤回、脅迫だよこれ。

 

にしてもスカウトしてすぐに教えたドスの効かせ方、しっかり覚えてたんだな……

 

そのまま彼女たちは敵の中に突っ込みながら不良どもを脇の方にのけていく。

 

俺はその行動に少し感謝しつつ、道を抜けて家へと向かった。

 

 

 


 

 

 

2DKのアパートの玄関で靴を脱ぎ、竹刀袋に入れた刀を壁の棚にかける。

 

そのまま冷蔵庫から作り置きの麦茶を出してコップに注ぎ、一息で飲み干した。

 

「あー……やっべ。」

 

慌てて洗面所に向かい、手洗いうがいを済ませる。

 

そしてその足で寝室に向かい、上に着た黒いジャケットを縫い目に合わせてハンガーにかけてベッドに倒れ込んだ。

 

疲れが急に来て、一気に体が重くなる。

 

暗くなっていく視界に抗いながら、俺はまだ戦場にいるかもしれない二人にメッセージを送った。

 

[わざわざありがとう。今日言った罰については忘れてくれて構わない。]

 

それだけ送って、俺はスマホの代わりに枕元の写真立てを見る。

 

堅物な友人と傲慢なダチと一緒に写った自分自身を見ながら、俺は意識が途切れる寸前で呟いた。

 

「どうせアイツらも、ろくに寝ちゃいないんだろうな……。」

 

こんなことを言えば、あの二人は「「あなたと一緒にしないで。」」とでも言うのだろう

か。

 

そんなしょうもないことを考えながら、俺は意識を遮断した。

 

 

 


 

 

 

「同じ水で例えるとすると、彼女が下水道に流れる水とするならば、私は澄み切った純正のミネラルウォーター……そして、あなたは年月を経て自然が作り上げた大河、といったところでしょうか。」

 

「珍しく随分と持ち上げるな。」

 

「普段は静かで、何をするでもなくただ流れ続ける……。」

 

「聞けよ。」

 

「それなのに底は見えず、ひとたび荒れれば無差別に全てを蹂躙する。」

 

「お前には俺がどんなふうに見えてんだ。」

 

「……正直に答えますと、見えてはいないでしょうね。少なくとも、あなた……七郷カルマの本質は。」

 

「へえ、『全知』なんて大層な称号貰ってる割に、あっさりと認めるんだな。」

 

「あなたが『無知の知』を教えてくれたおかげですよ。」

 

「あっそ。んで、俺を川に例えた上で何が言いたかったんだ?」

 

「下水道もミネラルウォーターも、どちらも人工物でしょう。ですがあなたを自然のものに例えた意味……あなたはもう、理解しているのでは?」

 

「……ひっでーの。お前まで俺を人外扱いかよ。」

 

「……この天才病弱美少女ハッカーは寛大ですから、誰にそう言われたかまでは聞きませんよ。」

 

 

 


 

 

 

「私は近いうちにあなたを殺す。」

 

「おうおう、いきなり物騒だな。」

 

「それなりに親しいあなたへの最大限の礼儀だと思ってちょうだい。非合理的この上ないのに、わざわざ宣言したんだから。」

 

「……要は俺が育ての下衆に教わった世迷い言を信じろと?そりゃねぇだろ。」

 

「そうなるわね。実際、調べるのにはかなりの時間を要したけど、得た結論はそれと同一のものだったわ。」

 

「うっわ……。」

 

「あなたは危険……いや、破滅そのものと言って差し支えない。そうでもなければ、あなたの強さには説明がつかない。」

 

「いやつくだろ……多分。」

 

「だからこそ、あなたを倒せる力を得て、私はあなたを殺しに行く。」

 

「……あっそ。できるもんならやってみな。」

 

 

 


 

 

 

「……。」

 

目が覚めてすぐに腕時計を見る。

 

とっくにテッペンを回ったそれを見て俺はため息を吐きながら、空きっ腹を押さえて台所へ向かう。

 

さっきというか就寝前に冷蔵庫を見た時には色々あったはずだが、米を炊いていないのでどうしたものか……。

 

「……マジかよ?」

 

ダイニングテーブルで、二人の少女が眠っていた。

 

そして鍋にはシャバシャバなカレースープ、微妙に床に残った粉からして手打ちだろううどんが茹でる前の状態でラップをされてテーブルに置かれていた。

 

ご丁寧にメモ書きまで置かれていて、

 

[今日のお詫びで材料を買って作りました。もし私たちが帰った後に起きたら、温めて食べてください。]

 

と書かれていた。

 

「……それで帰らず寝てちゃ世話ないだろ。」

 

一人ずつ抱えて彼女たちをベッドに運び、その上から布団をかける。

 

まったく、あの二人は本当に手が焼ける。

 

連邦生徒会に侵入して弟子入りを願い出るわ、トンチキな戦闘スタイルで困惑させるわ、少しでも俺に近づいたやつには探りを入れるわ、こうして誰にも話してない家に入ってくるわ……本当に、世話の焼ける後輩で、イカレた部下だ。

 

「まったく、類は友を呼ぶ……いや、朱に染まれば赤くなる、か?どっちにせよ、お前らのことは嫌いじゃねーよ……何の基準にもならねーけど、俺よりは。」

 

スープが入ってない方の鍋の水を取り替え、沸騰してから手打ちのうどんを入れる。

 

そのまま菜箸でかき回しながら、俺はしばらく何も考えずにただゆらゆらと動く白い紐状の麺をずっと見ていた。




「Violet Archive」の注意事項
・第1機動室は室長の狂信者で構成されている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

vol.1 対策委員会編
01 いざ、アビドスへ


・カルマ君の装備(服装のこと。装備品は帽子、グローブ、腕時計)
ズボンにシャツ、黒ジャケットのミレニアムの制服が普段の服装。理由は母校だから。私服姿や連邦生徒会の制服を着ている姿はかなりのレアで、その状態で見つかるとSNSで拡散待ったなし。ちなみに理由は女物が多すぎておしゃれなんかろくにできないから。ジャケットの内側には自作の装置『カルマギアシリーズ』が随所に搭載されており、いついかなる時でも戦闘に入れる工夫がなされている。実はシャツの内側に二つほどチェーンを巻いている。改造済みスマホ2台持ち。


「ういーっす。先生、元気してますか?」

 

今日も今日とて、オレはシャーレの部室に足を運ぶ。

 

まだまだ部員は少ないがこれから増やせばいい……ではなく、目の前に意識を向けると、先生が何かしらの旅支度をしているようだった。

 

「旅行……じゃないですよね。もしかして、早速依頼が来ました?」

 

「うん。荷物をまとめてすぐに行くつもりだったんだ。」

 

「ちなみにどこへ?」

 

「アビドス高等学校ってところなんだけど、知ってる?」

 

告げられた名前を少しばかり咀嚼し、俺は内心で眉をひそめる。知らない訳ではない。

 

むしろよく知っている方だ。

 

だからこそ依頼内容や起きるであろうゴタゴタが容易に想像できるのが非常に嘆かわしい。

 

「……ええ。あそこに知り合いが、何人かいるので。」

 

「なるほどね。なにか伝えることがあったら伝えるけど……。」

 

「あ、それは大丈夫ですよ。俺も行きますから。」

 

「……本当に?」

 

本当だ。

 

どうせ近い内に行く予定だったところに、先生が行くのならついていかない手は正直ない。

 

そもそも先生は銃弾一発で死にかねないのに単独行動をさせるわけにもいかないだろう。

 

特にあの辺は。

 

「そもそも、アビドスは遠いですよ?移動手段がなきゃ3日はかかります。砂漠化が進んで過疎りに過疎ったせいで電車とかバスはまず通ってません。お店も殆ど閉まってますし。」

 

「そうなの……?」

 

「何度も行ってるんで間違いないですよ。だから俺のバイクに乗って行きましょう。バイクというよりかはサイドカーですが。」

 

我が愛車、ドゥカティの初代モンスターの赤いボディを拝みながら向かえないのは残念だが、それはそれとしてサイドカーもしばらくぶりの運転なのでワクワクしている自分を感じながら、俺は先生にそう提案する。

 

先生は少しばかり迷った上で、俺の誘いに応じることにしたようだ。

 

「じゃあ、そうさせてもらうよ。準備にはどれくらいかかる?」

 

「仕事柄出張が多いんで、明日の朝には問題なく行けますよ。ガソリンを入れ直してから来るので、そんなに早くは来れませんが。」

 

「だったら明日の朝にしようか。仕事は大丈夫?」

 

「書類仕事は自動で処理できますし、よほどのことがなきゃ部下に任せればここら辺はなんとかなります。あまり長くなるようなら連絡は入れますし、問題ないですよ。」

 

何はともあれ、初めての誰かとの遠出だ。

 

年甲斐もなくウキウキする自分に苦笑しながらも、俺は早速準備に入る。

 

「だったら、今日はここで帰りますね。早めに荷物のパッキングを済ませたいんで。」

 

「分かった。また明日ね。」

 

俺はスマホのスケジュール帳に新たな予定を書き込みながら、部室を後にした。

 

 

 


 

 

 

砂漠は暑いイメージが多いが、正確に言うとそれに当てはまるのは昼の砂漠のみになる。

 

夜の砂漠は信じられないほどに寒く、大衆が抱く砂漠らしいイメージは本当に砂しかなくなるらしい。

 

こんな講釈を垂れて何が言いたいのかを明かすと、個人的には朝から太陽がガンガンに照りつける時間帯に砂漠に突っ込む選択をした自分がどうしようもないバカだというのを痛感したということだ。

 

寒いなら重ね着等の対策を講じることがまだできる。

 

ところが暑くなると屋根も冷房もないサイドカーでできるのは脱ぐことのみだし、流石に大衆の面前でそれはできない。

 

まあ既に人影一つない過疎地に辿り着いている以上はこんな文言は建前にしかならないが、まあ嫌なものは嫌だ。

 

「あっづい……水飲みます?」

 

「さっきも飲んだ気がするけど……大丈夫?」

 

「……あー、これ二人は無理そうです。」

 

ないことはない。小さじ一杯分くらいだが。

 

「もう少しで待ち合わせと言うか、出迎えの人に会うはずなんですけどね……。」

 

「暑い……カルマ、着いたら起こして……。」

 

「バカ!寝たら死にますよ!」

 

そんなこんなでギャーギャー騒いでいる内に、いつの間にやら市街地の少し開けたところに出る。

 

「ふう……先生、とりあえずここが待ち合わせ場所です。ここら辺には自販機もあったんで……。」

 

「そうしようかな……。」

 

「あ、カルマ先輩、もう来てたんだ。」

 

先生の分もまとめて飲み物を買ってこようとしたところに、待ち合わせ相手がやってくる。

 

灰色の髪に狼の耳、青緑に近い青色の瞳。そこにマフラーを巻いた少女、砂狼(すなおおかみ)シロコは、乗っていたロードバイクを降りてこちらに向かってくる。

 

「よう、シロコ。元気にしてたか?」

 

「おかげさまでね。そっちの人は?」

 

「話を聞いたんだけど、どうやらお前の後輩の依頼でこっちに来ることになったんだとさ。」

 

「そっか。じゃ、久しぶりのお客様だ。」

 

俺はお客様じゃねぇのかとツッコみたくもなるが、もてなされても困るのでそこには触れずにシロコに告げる。

 

「ああ。俺は少し飲み物を買ってくるから、少し二人で待っててくれ。」

 

「うん。先輩が戻って来しだい出発する。」

 

「つーわけなんで先生、今から買いに行ってきますけど、リクエストあります?」

 

「水……と言いたいところだけど、スポーツドリンクを頼めるかな?」

 

そりゃそうだ。

 

汗をかいてるのに水だけじゃ塩分が不足する。

 

俺もスポドリを買うつもりだったので丁度いい。

 

「そんじゃ、行ってきますねー。」

 

 

 


 

 

 

「4443、か……。」

 

スポドリ1本目はハズレ。

 

うまくいけば一回で済ませられると思っていたが、やっぱりそう上手くはいかない。

 

そんな最中に電話がかかる。

 

「……アイツ、ちゃんと来たぞ。」

 

[そっかー。今回もわざわざ悪いねー。]

 

「スケジュールに問題がありゃ来ねぇっての。そもそも出迎えられるような相手じゃないだろ、俺は。」

 

[いやー、後輩たちにも言い聞かせてはいるんだけどねー?]

 

間の抜けた声に呆れながら、俺は電話越しに相手の少女に話す。

 

「今回、俺以外にも一人連れて来てる。」

 

[へえ……誰?]

 

「先生って言えば、だいたい分かるか?」

 

[……なるほどねー。分かったよ、()()()()はカルマが来るまで寝てるから、後で紹介してね?]

 

そんなやり取りで通話を締め、俺はもう一本のスポドリを買う。

 

「……マジ?」

 

出てきた数字は4444。

 

見事に当たりだ。

 

これは間違いなく運がいいと言えるのだろうが、生憎欲しかったのは二本だけだ。

 

とはいえせっかく当たったのに引き換えないのも勿体ないので、俺は意を決してもう一本スポドリを手に取った。

 

「ま、ちょうどもう一人いるし?」

 

3本のペットボトルを左手の方に寄せ、先生たちの元へ戻る。

 

「戻りました……って、何やってんですか先生!?」

 

単刀直入に言おう。

 

先生がシロコの持ってたスポドリを飲んだ。

 

「か、カルマ……?」

 

「カルマ先輩が少し遅かったから、先生が我慢できなくなったって……。」

 

「なるほどな……すみませんね、知り合いから電話がかかってきたので。一応これ、渡しておきます。」

 

先生にペットボトルを手渡し、少し離れたシロコには投げ渡す。

 

「先輩……?」

 

「二本目買ったら当たった。先生が飲み干しちまったみたいだし、ちょうどいいだろ?」

 

「……うん。ありがとう、先輩。」

 

「礼はいいからさっさと行くぞ。合流した手前、流石にバイクを走らせる訳にはいかないしな。」

 

流石にロードバイクで全力疾走させるのも忍びないので、俺はバイクのハンドルを握って車体を押し始める。

 

「アビドス高等学校までの、案内よろしくな。正直自信がねぇんだ。」

 

 

 


 

 

 

「……もしかしてもうグラウンド入ってる?」

 

「ううん。まだ少し先。」

 

砂地=グラウンドという安直な式は今後二度と使わない。

 

というかさっきまでいた地域が無理やり砂漠の上に舗装を施していたことを思い出し、俺はサイドカーのケースから飲みかけのペットボトルを取り出し、少なめながらも口に含む。

 

即座に飲むなんて絶対にダメ。

 

「いや、元々はアビドスって最大規模の学園で、自治区もアホほど広かっただろ?生徒も多かったらしいから、グラウンドも広いんじゃないかと……。」

 

「確かに他よりは広いのかもだけど、あくまで学校の範疇。それに学校についてるならとっくに門を通ってる。」

 

「ですよねー……。」

 

「先輩、道のりに自信がないって本当だったんだ。」

 

仕方ないだろう。

 

ろくに数十年区画整理も行われていないせいで、ここら辺は迷宮と言って差し支えない複雑な構造をしているのだから。

 

ここ以上に複雑な地形を俺は知らないし、試しに使ったナビもまともに動かない。

 

後で交通室のバカ野郎を一回シメなければ……

 

「先生、もう少しで着くみたいですよ。ですからそろそろ降りて歩きません?」

 

「うーん、もうちょっと……。」

 

だらしない人だ。

 

連邦生徒会長がこの人を推薦したから、恐らく多分人格的には問題ないのだろうが流石に不安になる。

 

「仕方ない……校門が見えてきたら自分で歩いてくださいね?シロコ、具体的にはあとどのくらい?」

 

「ん、大体2キロ。」

 

「……は?」

 

 

 


 

 

 

自慢じゃないが都会暮らしだ。

 

だから近くというと地下鉄を使わないレベルの距離感を想定している俺とは違い、公共の移動サービスがまともに動いていないアビドス近辺では2キロは近所なのだろう。

 

この時点で俺のスポドリ残量は3割を切っていたものの、鋼の意志で耐えて、校門が見えるところまで中身は持ちこたえた。

 

「シロコ先輩、おかえり……って、カルマ先輩!?」

 

「そうだよ。久しぶりだな。」

 

廃れた校舎の一室に足を運ぶと、いきなり猫耳の少女黒見(くろみ)セリカが食いついてきた。

 

「そもそも連絡してんだから、来るのは分かってただろ。」

 

「うるさい!懲りもせずにまた来て……!」

 

「懲りないのはそっちの方だと思うけどな。」

 

セリカの発言はサラッと流し、俺は室内にいたもう二人に挨拶する。

 

「ノノミ、アヤネ、二人とも久しぶり。」

 

「お久しぶりですねー!」

 

「あ、ご無沙汰してます、カルマ先輩!」

 

主語は省くがデカい後輩の十六夜(いざよい)ノノミと、眼鏡に短めな黒髪で尖った耳の少女、奥空(おくそら)アヤネとも挨拶を返す。

 

「今日もサボりですか〜?」

 

「いや、仕事だよ。ちょっとばかし、ここに人を連れてくる用事があったんでついでにね。」

 

「そう、それです。先輩が連れてきたその男の人なんでしょうけど……何者なんですか?」

 

「お前が呼んだ相手だよ。シャーレの先生だ。」

 

移動中に先生に教えてもらったが、先生にアビドスのSOSを送ったのはアヤネだった。

 

まあ確かにここの連中の中で外部に頼る手を取ろうとするのは彼女だろうことは容易に想像できる。

 

俺の部署は学園の視察も職務の範囲内なので、個人を見る癖はキャリアを重ねる内に自然についた。

 

「その通りだよ。どうぞよろしくね。」

 

先生が丁寧に挨拶をする。

 

さっきまでの体たらくとは偉い違いだが、ここまでオンオフの激しい人なのか……ある種見習いたくなる切り替えの速さだ。

 

「そうだったんですね。まさかカルマ先輩が一緒に来るとは思いませんでしたけど……。」

 

「まあ俺が部長をやらせてもらってるし、これが初の依頼だからな、少しは俺も張り切るさ。」

 

「……。」

 

おっと、さっきからセリカの視線が痛い。

 

まあいつものことで慣れっこだが、たまたま気づいたこともあったので俺はこの場から外れることにした。

 

「そんじゃ、俺はちょっと近くに用事があるから、先生と話しててくれ。」

 

「先輩、案内はいる?」

 

シロコの気遣いは嬉しかったが、俺はここで首を横に振る。

 

「すぐそこだから一人でも戻ってこれる。心配には及ばねーよ。」

 

 

 


 

 

 

ジャケットの内側から取り出した鬼面を被りながら、俺は両腰の二刀を引き抜いて校門の前に立つ。

 

ヘルメットを被った集団と鉢合わせる形で俺は、彼女たちに語りかけた。

 

「この辺りだと、カタカタヘルメット団、だったか?生憎アビドスの連中は今、枯渇気味だった弾薬の補給中だ。」

 

相手は何も言わない。

 

まあ、カタカタヘルメット団のみならずヘルメット団とまとめられるフルフェイスのヘルメットを被った集団は声がくぐもって何を言っているのかいまいち分からない時があるから助かるが、こういうことをされると非常にシラケるから結果はマイナスだ。

 

「だからその間、俺が時間稼ぎに出てきたってわけさ。」

 

「……たった一人でどうにかなるとでも?」

 

「安心しろ、すぐに終わるさ。だって……。」

 

腰を沈めて突撃し、5人か6人を宙に跳ね上げる。

 

「どんだけ数をなそうが、雑魚は雑魚だ。」

 

「……!相手が持ってるのは刀だけだ、間合いを取って滅多撃ちに……。」

 

「しようとしたところを滅多斬り。いやはや、楽なお仕事だねぇ!」

 

隊列が密集していたのも相まって、今日はやけに攻撃がよく入る。

 

恐らく一撃で二人以上は持って行ってるはずだ。

 

そして既に俺の襲撃は全体に行き届いている。遠くにいたものは我先にと逃げ出し……。

 

「許さないんだから!」

 

「お仕置きの時間ですよ!」

 

「前は私に任せて。」

 

「状態、良好。行くよ。」

 

追いついてきたアビドスの面々が屠っていく。

 

「銃声はそんな鳴ってなかったのに、随分頑張って起きたんじゃねーの、ホシノ!」

 

先程は別室で寝ていたのだろう今日の電話の主で小柄なピンク髪の同学年小鳥遊(たかなし)ホシノを癖で煽る。

 

「悲鳴はたくさん聞こえたからねー、そりゃ気づくよ、『狂鬼』さん?」

 

盾で銃弾を受けながらショットガンをぶっ放して近くの敵を屠り、彼女は俺にそう返す。

 

「間違いねぇ……!」

 

既に蜘蛛の子を散らすように連中は逃げている。

 

しかしそれに追撃をかけるように、

 

「ノノミー、いきまーす!」

 

「オイ待てノノミ、俺の方も当たってるから!」

 

「あ、ごめんなさーい☆」

 

ノノミのミニガンをもろに喰らって服が少し破れた。




「Violet archive」の注意事項
・七郷カルマは連邦生徒会の顔役になっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02 強襲

カルマチェック(アビドス生編)
・小鳥遊ホシノ
強いね、戦闘は……見てられねーけど。
・十六夜ノノミ
お前マジで後輩か?俺より百倍人間できてるぞ?
・砂狼シロコ
まあ会話は成立するし関係は悪くはないかな……でも銀行強盗はやめろ。
・黒見セリカ
嫌われてるけど別に俺は嫌いじゃないんだよなぁ……。
・奥空アヤネ
諸問題を除けば、彼女がいる間はアビドスも大丈夫だろうな。

先生の見た目のイメージは便利屋漫画のやつ。


アビドス高等学校。

 

砂漠地帯を基盤としたキヴォトス最大規模の生徒数と自治区を誇っていたのも今は昔、現状は9億超の借金、わずか5名の生徒、砂漠化が進行した影響の都市の残骸と、かつての面影などとうに消え失せている。

 

生徒の殆どは転校や退学でここを去り、今残っている生徒は全員で『アビドス廃校対策委員会』という委員会を設立し、借金の返済に奔走している日々だ。

 

しかし借金に関しては利子の返済で手一杯、原因である砂漠化への施策を一切打てていない状況、増える見込みのない生徒数、そもそも現象している自治区内の人口……

 

そんな状況を鑑みれば、

 

 

俺はここを廃校にするべきだと思う。

 

 

 


 

 

 

「いやー、それにしてもカルマのおかげで助かったよー。」

 

ヘルメット団を撃退して一度校舎に戻ると、ホシノからそんな感謝の言葉を伝えられる。

 

「こんな状況でも、連邦生徒会の認可を受けた学校だ。それをヘルメット団に奪われると困る……それだけだ。」

 

「はいはい、そうだねー……。」

 

「カルマ先輩、相変わらず強い……それに、先生の指揮もよかったし……。」

 

シロコがそんな言葉を漏らし、胸の内につっかえていた疑問が腑に落ちる。

 

いつもに比べて彼女たちの取りこぼしが少なかったのは、そして俺への被弾が少なかったのは(あのミニガンは1発と考慮して)先生の指揮の賜物だったのか。

 

そういえばあの時の後輩たちも先生の指揮がすごいとか、そんな話をしていたような気もする。

 

まあ俺が他の人と組んで指揮を受けるとか無理ゲーなのだが。

 

味方がスナイパー片手撃ちで百発百中とかでもない限り。

 

「なるほどな……というかお前ら、さっき来た感じだと先生にろくな説明してないだろ。ホシノ、水道は止まってないよな?」

 

「なんとかねー。そろそろ点検の時期だけど、大丈夫だと思うよ?」

 

「ああ、じゃあ水道借りるぞ……先生、俺は色々と準備するものがあるんで、必要があったら呼んでくださいね?」

 

先生が頷いたのを確認してから俺は部屋を出て、背負っているリュックサックからレンガ大の石を取り出す。

 

そこから記憶を辿って一番近い水道に向かい、石を水に浸して床に置いた。

 

刀を抜いて石にあてがい、少し力を入れて滑らせる。

 

何度か繰り返して、水が濁ってきたらまた石を洗う。

 

その循環を作業的に繰り返しながら、俺は彼女たちに思考を巡らせる。

 

そもそも数十年かけて積み上がった借金をたった数年で返済するというのが無茶なのだ。

 

実際の期限はそれなりの年数を設けられているが、その間ずっと在学しているというわけにもいかない。

 

新たな生徒が入学してくるにはここはあまりにもハードルが高すぎる。

 

だからこそ、勝負を決めるなら彼女たちが生徒でいられる期間だろう。

 

そうしても生徒が入る見込みがない、砂漠化のせいで過疎化が進んでいるここが廃校になるのは不可避だろうが……

 

正直、俺は彼女たちがここまで必死に借金を返そうと躍起になっているのか理解できない。

 

俺自身、小遣い稼ぎの影響で銀行からの融資を受けている身ではあるが彼女たちほど切羽詰まっているわけではない。

 

そんな俺に理解が及ぶわけがないだろうが、それでも思わざるを得ない。

 

どうして、と。

 

楽して稼ぐ手段がないことはとうの昔に知り尽くしている。

 

だからこそ彼女たちが抱える借金の途方のなさも分かる。学校が抱えたものだから当然だが、個人でどうこうできるレベルじゃないのだ。

 

それを健気に返していくことが、虚しくならないのか。

 

どうしても俺には分からない。

 

「……今度、聞いてみるか。」

 

刀身と砥石の水を拭き取り、それぞれを納めるべき場所に戻す。

 

時間にすればそこそこ経っているのではないだろうか。

 

「いやー、本当にそれをやってる時は静かだね?」

 

だから、戻ろうとした時には向こうから彼女が来ていた。

 

「集中してないと指を切るからな。」

 

嘘でやり過ごして、俺は後ろにいるホシノに尋ねる。

 

「俺を呼びに来たんだ、どうせアレだろ?」

 

「うん、今日がいい機会だと思うんだ。」

 

ホシノと俺の思考が一致し、俺たちは同時に言葉を紡ぐ。

 

「「ヘルメット団の前線基地を潰す。」」

 

「……うへー、カルマってもしかしてエスパー?」

 

「んなわけ無いだろ……よくて腐れ縁だ。」

 

「だよね。それじゃあ行こっか?」

 

盾とショットガンは既に装備済み。

 

俺もそれに答えるように鬼面で顔を覆い隠す。

 

「他の皆は外で待たせてる。社長出勤の誰かさんはさぞ怒られるだろうねー。」

 

「そもそも聞かされてねぇからノーカンだろ。」

 

「刀を研いで準備までしておいて?」

 

「戦いの後は必ずやるんでね。」

 

軽口の応酬はいつも通り。

 

俺は彼女たちへの疑問を後回しに、目の前の草刈りに向けての策を練り始めた。

 

 

 


 

 

 

「……つまり、俺以外が正面で注意を引き付けてる間に、俺が後ろから奇襲をかけるってことですか?」

 

「うん。これならカルマへの被弾を減らしながら相手を取り逃さずに倒せると思って。」

 

先生の策に俺は思わず唸る。

 

ちょっとばかり味方の邪魔、もとい援護があっても大してダメージはなかったのでひたすらに暴れ散らかしていただけだったのだが、先生の作戦を脳内でシュミレーションしてみると、確かに敵が壁になって銃弾はこちらまで届きにくい。

 

「もう少し詳しく説明すると、私たちはヘルメット団に正面から戦闘をしかけて、徐々に後退して路地に誘い込む。相手が横に逃げる余裕がなくなった上で、隠れてたカルマが後ろから攻撃する、そういう作戦になるね。」

 

要はキヴォトスの外でいう釣り野伏せという戦法に近いものを取るらしい。

 

前提条件としてこの策を成功させるには、囮にして本隊の構成員が相手に追われていても冷静に対処できることが必要だが……

 

「このメンツなら、まあ問題なく遂行できそうですしね。いいと思います。」

 

先生の背丈を確認しながら俺はそう返す。

 

だいたい同じくらい。

 

どちらも痩せ型なので服のサイズは問題ないだろう。

 

「……あの、カルマ?」

 

「いい作戦ですけど、恐らく俺がいることも向こうに割れてます。ですので……。」

 

ジャケットと鬼面を外し、先生に満面の笑みを浮かべて見せる。

 

「先生には少々、コスプレをしてもらおうと思います。」

 

 

 


 

 

 

「追え!奴らを逃がすな!」

 

「馬鹿みたいに少数で突撃してきたことを後悔させてやれ!」

 

見事にヘルメット団は誘導に応じ、俺がいない本隊を追って狭めの路地へと入っていく。

 

「『狂鬼』はいるだけで何もしてこない!アイツが動き出すまでに潰せ!」

 

こちらの罠にも見事に引っかかってくれて何より。

 

俺は気配を殺しながら奴らの最後尾について行き、路地の入口で合図を待つ。

 

「はっはぁ!もう逃げ場はねーぞ、『狂鬼』サマとその他ぁ!」

 

最前線に位置するリーダー格の誰かがそう叫ぶ。

 

「……逃げ場がないのはそっち。」

 

「あぁ?」

 

[今です、カルマ先輩!]

 

「了解っ!」

 

校舎に残って支援に回っているアヤネの合図で俺は一気に路地に躍り出て、連中の最後尾に襲いかかる。

 

「こーんにちはー!」

 

「ふぎゃあっ!?」

 

蛇の顎のように開いた両足を閉じながら繰り出す飛び蹴りを喰らったヘルメット団員は紙のように吹っ飛び、軌道上の仲間をドミノ倒しのように転ばせていく。

 

「なんだよ新手か!?」

 

「一体誰……き、『狂鬼』ぃ!?」

 

「その通り……囮に嵌って、今どんな気持ちぃ?まあ、聞く前に倒すけどさぁ!」

 

敵陣の中央辺りまでタックルで何人かを突き飛ばしながら突っ込み、その勢いを利用して片腕で逆立ちをしながら回転蹴りをお見舞いして周囲のヘルメット団員の意識を刈り取る。

 

「ば、馬鹿な!『狂鬼』は確かにあそこに……。」

 

「だーかーらー、囮だっつってんだろうが!」

 

チラチラと見えるようになってきた鬼面に黒いジャケット、そして二刀のコーデを着こなす先生を確認しながら、先生が普段着用している白いコートを纏った俺は近くの倒れたヘルメット団員をジャイアントスイングで投げ飛ばして更にキルスコアを稼ぐ。

 

そして地面に落ちている銃の中から適当に一本を選んで拾い上げた。

 

「しめた!『狂鬼』は銃を使えない!今のうちに……!」

 

「お生憎様。『撃てない』だけなんだよねぇ。」

 

手首のスナップを効かせてスナイパーライフルを横向きに投げて、顔面クリーンヒットで2ダウン。

 

その容量で逃げようとする奴らを一丁も外さずに後頭部にブチ当てる。

 

「に、人間じゃねぇ……!」

 

「『狂鬼』なんだろ?鬼が人と同じことすると思ってんの?」

 

先生たちのいる側の敵勢力もかなり薄くなってきている。

 

そろそろ頃合いかと思って路地を外れようとすると、倒れていた大勢の内一人に足を掴まれる。

 

「逃がすか……!」

 

「はぁ……もう追う側は俺たちなんだけど?」

 

足を振り上げてヘルメット団員を中に舞い上げる。

 

それに背を向けるようにしてから俺はベルトの金具上部を右手親指で3度軽く押し、そのまま手をベルトの上に据える。

 

「またのご挑戦、お待ちしておりまーす。」

 

右手を払い、その勢いで体を180度回転させつつ落ちてきた相手のこめかみに回し蹴りを叩き込む。

 

蹴りの勢いを素直に受け継いだ彼女の体は壁に勢いよく叩きつけられ、そのままズルズルと落下する。

 

「ただ今をもちまして、殲滅式を終了いたします、っと。」

 

左足を引き戻してお決まりのセリフ、からの先生たちの方を見る。

 

[「「「「「……。」」」」」]

 

何故かドン引きされていた。

 

 

 


 

 

 

「カルマが戦ってるところ、初めて見たけど、その……。」

 

「そりゃ、あんまお行儀のいい戦い方じゃないでしょうよ。普段は刀がある分、いくらかマシですけど。」

 

「カルマ、先生はオーバーキルって言いたいんだとおじさん思うなー……。」

 

帰ってきてユニフォーム再交換を終え、俺は対策委員会の教室で駄弁っていた。

 

「あの子、悪い子なのは間違いないけど、あのキックはヤバいよ?おじさんも絶対喰らいたくない。」

 

「うわぁ目がマジだ……でもさ、アレくらいやんないと今回は最後の一人だったからいいけど、攻撃受けて服汚れるし……。」

 

「痛いとかでさえないんだ……。」

 

やめてくれ先生。

 

そんな人外の化け物を見るような目で俺を見ないでくれ。

 

人間だか……化け物ではないから。

 

「まあ、俺の戦い方の話は置いといて……先生、聞こえなかったんですけど何か俺に指示とかしてました?」

 

「いや、カルマは刀使いで、今日は無手だったでしょ?そんなタイプの子を指揮したことがなかったから、ひとまず戦い方を見てみようと思って指示は出さなかったんだけど……。」

 

「ふむふむ、それでどうすればいいか見当はつきました?」

 

「うん、思いつきはしたんだけど……やっぱり集団戦だとカルマの能力を100%活かすのは難しそうなんだ……。」

 

知 っ て た 。

 

そもそもが敵陣に突っ込まないとまともに攻撃できない武器だ、射程範囲には当然俺も含まれることになり多かれ少なかれ、味方の弾丸にも被弾しかねない。

 

実は今回も2、3発肋骨に当たった。

 

今度一回整体院に行こう。

 

スケジュールを空けておかねば。

 

「まあ、予想してた通りですね。そこらへんを詰めるのは追々として……今回の依頼は弾薬や補給品の提供、それだけでしたよね?」

 

「そうだね。最初に依頼されたのはそれだけだ。」

 

「だけど先生、正直に答えてくださいね……まだ何かするつもりでしょ?」

 

「……うん。少ししか力になれないかもしれないけど、アビドスの生徒たちを助けたいんだ。」

 

予想通りだ。

 

まだ一緒に仕事をするようになってから少ししか経っていないが、この人がこういう困った生徒たちを見捨てられるような人間でないのはとっくに理解している。

 

だからこそ……

 

「……視察の日を数日、ズラして正解でしたよ。」

 

「……?」

 

「アビドスは……まあ僻地なんで、そもそもの視察も長めの日程を取ってるんですよ。砂漠地帯も広いですし……だから、そうですね、あと2週間は俺も引っ張れます。」

 

「それって……。」

 

「ここまで来たなら、とことん付き合いますよ。シャーレの部長として、先生の仰せのままに動きましょう。」

 

「ありがとう、カルマ。でもその言い方はちょっと大げさすぎない……?」

 

「おー、カルマも協力してくれるの?」

 

「先輩が協力してくれるなら百人力だね。よろしく。」

 

「よろしくお願いしますね〜♣」

 

「そ、その、わざわざありがとうございます!」

 

対策委員会の面々の反応も悪くない。

 

まあそれなりに仲良くなれるように色々と努力したのだが……

 

「……ふざけないで!」

 

一人にだけ、どうにも効果が出ないのだった。

 

「セリカちゃん、カルマが嫌いなのは分かるけど……。」

 

「そんな反応しちゃ、めっ!ですよ?」

 

「ホシノ先輩もノノミ先輩も忘れたの?コイツが私たちになんて言ったか!」

 

セリカは怒りの形相で俺に詰め寄り、続きを一息に口走る。

 

「『ここの廃校はどのみち避けられない。だったらさっさと転校した方がいい。』……その言葉を忘れたなんて言わせない!」

 

「セリカちゃん、アレは……。」

 

「そんな奴が連れてきた大人も、私は信用できない!さっさと帰って!」

 

言い切るや否や、セリカは俺を突き飛ばして部屋から出ていく。

 

「カルマ先輩、セリカがごめん……ホシノ先輩、私、セリカのところに行ってくる。」

 

シロコもそう言って部屋を出ると、その場は何とも言えない空気に包まれた。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマはアビドスの対策委員会に転校を勧めている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03 俺のぐちゃぐちゃな日々

カルマの呼ばれ方一覧(一部抜粋)
『狂鬼』
『処刑室長』
『カルトの長』
『間合いがバグってる男』
『動く断頭台』
『鬼いちゃん』
『狂乱の鬼』
『頭のいいバカ』
『武装探偵』

ちなみに先生は借金のことをカルマが帰ってきて刀を研いでる間に聞きました。使ってないだろ?「まあルーティーンを崩すのもねぇ……。」とのことです。


「……自由登校だと、いつもセリカは来ないのか?」

 

アビドス二日目、俺は対策委員会の部室で算盤を弾いていた。

 

今日のアビドスは自由登校なので別に来る必要はないのだが、セリカを除く全員が今日も校舎に足を運んでいた。

 

「うーん、正直半々ぐらい?セリカちゃんは生粋のバイト戦士だからねー、おじさんはともかく、対策委員会で一番働き者だと思うよ?」

 

ホシノがいつもの如く俺の言葉に答え、俺はそれで満足して口を閉ざす。

 

「ホシノ先輩……毎度思うけど、カルマ先輩と仲いいよね。」

 

「うへー、そうかな?まあ同学年だし、気楽に話せる相手なのは確かだけど……。」

 

「俺が1年から室長だったから、付き合いも長いしな。」

 

「……もしかしてエリートコース?」

 

生憎島流しだ。

 

でなきゃこんな僻地に視察に来れるようなスケジュールなんざそもそも取れない。

 

俺は両手で抑えた竹刀袋の上に顎を乗せて机の上の地図を見る。

 

「アビドス砂漠の全体地図……?作るの大変だったろうなこれ……ん?」

 

砂漠の中でも海に接した一部を見て、そこに記された文字に目を奪われる。

 

「先輩も気になるんですかー?」

 

「ああ、まあな……ルビ振ってなきゃ素通りしてただろうけど。」

 

ノノミの言葉を受け、俺はさらにその地名に釘付けになる。

 

無名郷岬(ななさとみさき)

 

海へ突き出したその地は、何の巡り合わせか俺の苗字と同じ読みだった。

 

「ん……本当だ、すごい偶然。」

 

「カルマ先輩って、もしかしてこの土地に由来でもあるんですかね……?」

 

「……そういえば、ガキの頃はここら辺に住んでたって話をされたことがあるな。物心つく前のことだから、俺は覚えてないけど。」

 

「じゃあ、カルマ先輩のご先祖様もここに通っていたのかもしれませんね☆」

 

そう、なのだろうか。

 

先祖のことを想像したことなんざ、神について考えた回数よりも少ないが……

 

「っと、先生からメールが来てるな……[セリカのバイト先を知ってる?]って、嘘だよな……?」

 

考えてることはおおよそ察しがつく。

 

俺とは違ってセリカに歩み寄ろうというか、受け入れてもらえるようというか、何か力になろうとしているのだということは分かる。分かるがこれは……

 

「……一応聞くが、セリカのバイト先を誰か知ってるか?」

 

 

 


 

 

 

全員がセリカのバイト先のラーメン屋に向かう中で俺は部下に電話をかけてもらい、うまい具合に離脱する。

 

[室長、まだ帰ってこないんですか?]

 

「アビドス行く時はいつもこんな感じだろ?」

 

[そうですけど……次の視察は山海経ですよ?小道具はまだしも、大道具は色塗りも終わってませんし……。]

 

「ああ、それがあったか……台本は固まってたよな?それに合わせて進めといてくれ。」

 

[了解です!]

 

電話のついでに今後の打ち合わせも終わらせ、俺はこの地で絶対に会わなければならない知り合いの元へ向かう。

 

空きではないが何の看板も事務所名も記されていないテナントに足を踏み入れ、一番奥の部屋へと踏み入る。

 

「……事前に連絡をいただければ、菓子の一つでも用意したのですがね。」

 

「いらねぇよ、どうせロクでもないもんを入れるだろうが。」

 

「我々とて、食べ物に薬を盛るような真似はしませんよ。年々、そういった実験も厳しくなってきていますしね。」

 

デスクに肘をつけて手を組む黒いスーツの異形が、その微動だにしない顔から笑い声を漏らす。

 

「クックックッ……やはり、あなたの信頼を得るのは難しい。」

 

「信頼に値する行動を見てないからな。『黒服』って呼ばれ方に対するイメージも、お前のせいで固定されちまったし。」

 

「だからなんだ、そう言わざるを得ないような話ですがね。」

 

よくもまあ、あれだけトラウマを植え付けておいてこの男……?

 

とにかく、この黒服はこんな反応をできたものである。

 

俺がもう少し分別がなければ実力行使に踏み切っていたところだった。

 

「なんともまぁ、実に嘆かわしい。育てとはいえ、親に暴力は感心しませんよ?」

 

「今更すぎるだろ。」

 

「ええ。あなたは既に親殺しですからね。」

 

言葉で殴り合うのもいつも通り。

 

俺はさして気にした風も見せずに、黒服へと冷静に返答する。

 

「そもそもお前らを親なんて思っちゃいねーよ。自惚れんな。」

 

「ですが、こうして会いに来たのも事実でしょう?」

 

「……。」

 

実際にそうだから何とも言えない。

 

どれほど言葉を尽くそうがこいつに会うためにここに来たことが紛れもない事実である以上、俺もそう強く反撃に出られないのだ。

 

「……一応、育ての恩は感じてるからな、あの女以外には。」

 

「彼女を嫌うのもいつも通りですね……安定してきたということでしょうか?」

 

「そりゃ、自他ともに認める波乱万丈の半生に比べりゃ穏やかに見えるだろうよ。いつまた逃げ出すことになるか、毎日不安で仕方ねぇよ。」

 

「安定してきたのに不安とは、随分と皮肉ですね……まあ、そうさせたのは私たちですが。」

 

いい具合に気分が悪くなってきたので、俺は座っていた席を立つ。

 

それに気づいた黒服が、椅子から静かに立ち上がった。

 

「今日は、随分とお早いことで。」

 

「そんなにストレスも溜まってなかったからな。わりかし短い時間で発散できた。」

 

「それはよかったです……この後はどちらに?」

 

「近くに遊び場を作っておいたから、そこで暇つぶしかな。お前と会ってるなんて笑えないジョークを、さっさと忘れたい。」

 

「あなたの言い方に合わせるなら美学に反するから、ですか?正直、私には理解できませんが……。」

 

それはそうだろう。

 

目の前のコイツは目的のためには手段を選ばないし、どれほどダーティーな手でも他より効果があるなら平気でそれを実行するやつだ。

 

「そんじゃ、失礼するぜ。精々早死にするんだな。」

 

「だとしたらそれまでは、あなたをお迎えする用意は常にしておきましょう。」

 

二度と来ないでやろうか。

 

 

 


 

 

 

日も暮れた寂れた繁華街に下げられた暖簾の内1つをくぐる。

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンです!」

 

「一名で。カウンター空いてますか?」

 

事前情報の通り、ここでバイトをしていたセリカは俺に対するものとは思えないほど明るい声音で挨拶をする。

 

「分かりました!空いているお席にご案内しますね!」

 

カウンター席に通された俺は、前方のメニューを見ずにそのままオーダーを告げる。

 

「チャーシュー麺チャーシュートッピング、あと餃子を。」

 

「え……?は、はい!少々お待ちください!1番カウンター、チャーシュー麺チャーシュートッピングと餃子一つずつです!」

 

かけていた眼鏡を外し、おしぼりを広げて手を拭く。

 

そして箸を一膳取り出して、お冷のコップの上に置いた。

 

「それにしても、この店内に一人きりなんて、なんだか特別感が湧きますね。」

 

「閉店時間も近いですから、お客さんも殆ど帰ってますしね。」

 

他に客もいないので適当にセリカと駄弁る。

 

そうこうしているうちに厨房から柴犬タイプの獣人でここの店主である柴大将が注文した品々を持ってくる。

 

「はいお待ち!やっぱり兄ちゃんだったか。」

 

「え?大将、この人前にも来たんですか?」

 

「ええ、実は……。」

 

驚いたような表情を見せるセリカに対して、俺は被っていたカツラを取って地毛を見せる。

 

「この辺りに来るのも、初めてじゃないんでね。」

 

「……か、カルマ先輩!?」

 

「その様子だと、マジで気づいてなかったな。次にやる舞台もうまくいきそうで何よりだよ……頂きます。」

 

ネタバラシを済ませてカツラを被り直し、俺は目の前の食事に対して手を合わせた。

 

 

 


 

 

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 

店を出てから眼鏡の汚れを拭き取ってかけ直したところで、セリカが走って追いかけてくる。

 

「よう、来ると思ってたぜ。」

 

「うるさい!どういうつもりよ、アンタ!そんな変装までして……!」

 

「自慢じゃないが、それなりに有名人なんでね。変装してないとすぐに誰かに目をつけられる……あの大将、凄い人だよ。毎回違う変装してても気づくし。」

 

「……それはそれとして!なんでアンタがこんなところに居続けるわけ?」

 

口には出さなかったが答えは単純、俺はこの店が好きだからここに来てるだけだ。

 

彼女の心配するような何かを企てているという事実は一切ない。

 

「あそこだって、アビドスみたいに潰れればいいって思ってるんでしょ!」

 

「おっとぉ?俺はあくまで『アビドスを廃校にした方がいい』とは言ったけど、『アビドスなんか潰れればいい』とは思ったこともないぜ?」

 

「どっちも同じでしょ!そんなやつが連れてきた先生だって、どうせアビドスのことなんかどうでもいいに決まってる!」

 

セリカの激情は止まず、立て続けに俺へと叩きつけられる。

 

「先輩たちはなんでアンタなんかに絆されてんのよ!『転校した方がいい』だの、『ここの廃校は避けがたい』だの、好き勝手言ってるだけのアンタを!」

 

「……。」

 

「なんか言ったらどうなの?どうせまだあるんでしょ、私たちへの……!」

 

「静かに。」

 

少しばかり圧を込めながら放った言葉に、セリカと周囲に隠れていたヘルメット団がビクリと震える。

 

「……カタカタヘルメット団?アイツら、まだこの辺をうろついてんの?」

 

俺と話している時でさえ上げなかった銃を抱え、彼女は狙いを定めようとする。

 

「先輩、話は後。今はとにかく、コイツらを……。」

 

言い切るまで待っている余裕はない。

 

俺は全速力でセリカの背後に立ち、突撃をかけてきたヘルメット団員の足を払って地面に転がす。

 

セリカも銃を構えて応戦しているようだが……

 

「捕らえろ。」

 

落下音、そして連続して響いた爆発音で体が反応し、即座にカツラを押さえながら伏せる。

 

そして煙が引かない内にカツラから手を離し、自然に倒れた風を演出する。

 

少ししてから、人体が倒れる音。

 

恐らくセリカは耐えられなかったのだろう、それも見越して倒れたふりをしていたのが功を奏し、ヘルメット団の連中は油断したのかこちらへの警戒をまったく行っていない。

 

「続けますか?」

 

「いや、生かさなければ意味がない。この程度でいいだろう。車に乗せろ、ランデブーポイントへ向かう。」

 

「はい……コイツはどうしますか?」

 

「……正直、予想外だったが使えるものは多い方がいい。念のため、コイツも連れて行こう。」

 

うつ伏せに倒れて胸の内側へ折り畳んだ手でメッセージを打つ。

 

[あああかかかあああ]

 

それだけを送信して、俺はじきに近くに来るだろう連中に備えて目を閉じ、全身の力を抜いた。

 

ここで奴らを倒すのは簡単だ。

 

だが今回の場合、ことはそう単純ではない。

 

今まで無策での突撃が常だった連中が突然使ってきた計略。

 

恐らくこれから使うだろう人質作戦。

 

それらは全て暴れ回ることだけが目的のような奴らにはあまりにもらしくない行動であり、俺に違和感を抱かせるには充分だった。

 

極めつけはあの爆撃。

 

俺ほどとはいかないまでもそれなりの手練で頑丈なセリカが気絶するほどの威力だ。そうそう市場に流れるもの、ひいては奴らが手に入れられるような代物ではない。

 

ここまで来れば、カタカタヘルメット団をこちらに差し向けている何者かが裏に居ることなど容易に想像がつく。

 

思考を巡らせている内に体をロープで縛られて肩に担がれる。

 

「行くぞ。」

 

「はい……でもコイツ、なんかガッチリしてるんですけど……。」

 

「何かしらの腕に覚えのあるやつかもしれないな。これで倒れてちゃ世話ないが。」

 

「ですね……いや、それでもここまでなります?」

 

……まあ男女で骨格が違うのは事実だし。

 

 

 


 

 

 

「ねえフミちゃん?」

 

「何かな、セカイちゃん?」

 

「……昼の電話、室長からだよね?」

 

「うん。しばらく帰れないから準備は上手いこと進めといてだって。」

 

「ふーん……。」

 

「ふふーん。」

 

「あ?自慢?」

 

「いーやー?別に私に電話が来るあたり、私の方が信頼されてるんだなとか思ってないけど?」

 

「はっ倒すよ?」

 

「やってみなよ、私より足遅いのに殴れるならさ!」

 

「上等だこr……フッ……。」

 

「えっ、キモ……。」

 

「電話くらい別にいっか……私はメールが来たからね!」

 

「……は?」

 

「さてさて……私に向けて、何を伝えに……は?」

 

「急にキレるとか怖っ……くもないね、これは。」

 

「そうだね。ねえフミ?」

 

「セカイちゃん?」

 

「「ちょっと服買いに行く?赤の。」」

 

「……オッケ。」

 

「分かった。」

 

「「ちょっくら行こっか、砂漠まで。」」

 

 

 


 

 

 

「う、うーん……。

 

 ……へ?

 

 こ、ここは!?私、さらわれた!?

 

 あ、う……頭が……。

 

 ここ……トラックの荷台……?

 

 ヘルメット団め……私をどこに連れていくつもりなの……。

 

 暗い……けど、隙間から少し光が漏れてる。

 

 ……砂漠……線路!?

 

 線路がある場所って……ま、まさかここ、アビドス郊外の砂漠!?

 

 ……そ、そんな。ここからじゃ、どこにも連絡が取れない!もし脱出できたとしても、対策委員会の皆にどうやって知らせれば……。

 

 どうしよう、みんな心配してるだろうな……。

 

 ……。

 

 ……このままどこかに埋められちゃうのかな。誰にも気づかれないように……。

 

 連絡も途絶えて……私も他の子達みたいに街を去ったって思われるんだろうな……。

 

 裏切ったって思われるかな……。

 

 誤解されたまま、みんなに会えないまま死ぬなんて……。

 

 そんなの……ヤダよ……。

 

 ……。

 

 う……うぐぅ……。

 

 うっ、ううっ……。」

 

「……あの、さ。」

 

青春の特権、人前では言えない告白をあろうことかガン聞きしてから俺はセリカに声をかける。

 

「ぐすっ……へ?」

 

「なんつーか、悪い……だいたい何されるか分かっておきながら、罠に嵌まって。正直、ここまでメンタルズダボロになるとは思わんかった……。」

 

「……は?」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマはキヴォトス全土でその名を知られている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04 脱出作戦!

カルマ流戦闘の極意!

「当たらなければノーダメ」

「銃弾より速く動く必要はない。照準を合わせるのと引き金を引くのより速ければいい」

「相手の銃身よりも間合いを短く取ればこっちには絶対に撃てない」

みんなもやってみてね!


「……なんでアンタまでここに居るのよ!」

 

「そりゃ捕まったからだろ。」

 

先刻の涙はすっかり引っ込んだようで、セリカは俺に対していきなり大声で文句をつける。

 

「アンタならアレでも大してダメージ食らわないでしょ!全員倒すなり逃げるなりすればよかったじゃない!」

 

「仰る通りではあるんだが……連中の裏に何かいそうでね、探りを入れてみるつもりだった。」

 

「それでアンタが死んじゃ世話ないでしょ!私は別に……アンタが死ねばいいとか、思ってないのに……!」

 

「おいおい、泣くなって!」

 

また涙ぐむセリカをあやしながら、俺は語り聞かせる。

 

「初めて会った時のことは……まあ覚えてるよな。」

 

「……。」

 

「誤解されたまま死にたくねぇのは俺も同じだ。だから全部言うぞ。」

 

「……好きにすれば。」

 

言質は取った。

 

「正直、お前らは早く転校した方がいいと思ってる……アビドスの借金は学校のものでお前たちのものじゃない。お前たちが躍起になって返すべきものでもないんだよ。」

 

「何言ってんの、借金は……。」

 

「ああ、借りた金は返す。小学生でも分かる理屈だ。だけどそれに巻き込まれて……当人じゃないやつが苦しめられるのは、違うだろ。」

 

彼女たちは借金の返済に全力を注いでいる。

 

だけど彼女たちが居るのは会社でも事務所でもなく、学校なのだ。

 

学校行事や部活動、学校生活を潤す全てが借金に塗り潰され、彼女たちに学生としての喜びを与えることをどこまでも妨害する。

 

「手に入らないものはどうしようもない。でもお前たちの青春は違う。借金なんてなきゃ、きっと掴めるものなんだ。まあ……お前の言う先輩たちはそれを拒んだけど。」

 

「先輩たちが……?」

 

「俺が言っても信じないだろうから、そこに関しちゃ先輩たちに聞いてくれ……なあ、黒見セリカ?」

 

「な、何よ……?」

 

隙間から外を眺めながら、俺は彼女に言いたかったことを告げる。

 

「正直、ここからでもどうとでもなる。」

 

「え?」

 

「埋められて死ぬ必要なんざさらさらないし、なんなら埋められようが生きて帰れるぜ。」

 

「……だから何なのよ。」

 

チラチラと見える大型車両を確認しつつ、俺は彼女に溜めを置いて言葉を放つ。

 

「これからのお前には、こんなクソみてーな連中にさらわれるだの、ロクな目にも遭わねーし、終わりの見えない借金地獄に囚われて他に何もできなくても後悔しないでやっていけるか?」

 

「……。」

 

「その覚悟があるなら俺はもう何も言わねぇ、なんなら協力だってするさ。」

 

「……当たり前でしょ。」

 

セリカの返事を待つ。

 

「ここで逃げる方が後悔するでしょ、そんなの!私をナメないで!アンタの助けなんていらない、全部私たちで何とかする!」

 

「……ハッハッハ!やっぱお前、アイツらの後輩なんだな。」

 

あまりにも想定通りの反応に笑いを堪え切れないながらも、俺はしっかりと彼女の言葉を受け止める。

 

「な、何よ、急に笑って!」

 

「いや、先輩たちもお前みたいに頑固でさ、またこんな感じかーって思うとね?……本当、強いと思うよ。俺とは違って。」

 

「それって、どういう……。」

 

「気が向いて時間がありゃ話すさ。とりあえず今は、脱出が最優先だ。」

 

乗せる際に俺を縛っていたロープをトラックの隙間から垂らし、外に見えるようにする。

 

「敵も油断したねぇ。恐らくぱっと見丸腰の俺をお前に対する人質として当てようと思ったんだろうが……普通にお前は俺撃つだろ?」

 

「は、はぁ!?流石にそんなことはしないわよ!」

 

「だよな、悪い。とにかく、これのお陰で……救援を攻撃せずに済む。」

 

追跡してきたバスのような大型車両が、天窓を開けながら横に逸れる。

 

俺はそれを見計らって、トラック後方のドアを蹴り飛ばした。

 

「ええっ!?アンタ何やってんの!」

 

「説明は後!」

 

「いや、流石に……って何すんのよ!」

 

セリカを胸の前で抱えて、荷台の最奥部から助走をつけて車体の上に飛び乗る。

 

そこから俺は天窓を通り、車内に飛び降りた。

 

「ふう……脱出は成功、かな。」

 

「セリカちゃんの生存を確認しました!」

 

「よかったです~♣でも、こちらの眼鏡の方は……?」

 

「あ、俺だ。」

 

眼鏡とカツラを外し、カラコンも外して握り潰す。

 

「カルマだったの……?」

 

「うへー、おじさんも誰か分からなかったなー……。」

 

「時々思うけど……先輩、何ができないの……?」

 

「小魚を食うこと、かな。」

 

セリカを近くの席に座らせて、俺は運転席で車を運転する部下の元へ向かう。

 

「今日は……フミが運転してるんだな。」

 

「室長、かわりばんこで運転してて、たまたまフミが今運転してるだけです!」

 

「はいはい。セカイもお疲れ様。とりあえず二人とも、助けてくれてありがとな。」

 

「「……えへへ〜。」」

 

ふにゃふにゃな顔になった二人の頭を軽く撫でてから、俺は先生に報告を行う。

 

「カタカタヘルメット団の襲撃で、明らかにおかしい火力の爆撃がありました。恐らくですけど……何かしら大きな権力を持った組織が糸を引いている可能性があります。」

 

「そっか……それより、体は大丈夫?」

 

「俺は大丈夫ですけど、セリカが不安ですね……できれば、事を荒立てる前に帰還したいとこですが……。」

 

そんな願いも虚しく、トラックは急旋回でこちらを向いて特攻とでも言わんばかりに突っ込んでくる。

 

慌ててフミがハンドルを切ったが、それでも後方を擦ってしまう。

 

「「……あ?」」

 

「やっべ、連中終わったわ。」

 

「カルマ、部下さんたち、私たちのとこに来たときから凄い殺気を放ってるんだよね……。」

 

「私たちと室長でカスタムした車を……!」

 

「傷つけるなよ、下衆が……!」

 

急停車からのフミ離脱。そしてセカイが俺のところに竹刀袋を持ってくる。

 

「微塵切りにしちゃってください!」

 

「お、おう……。」

 

車を降りて、突っ込んできたトラックを左の刀の一突きで迎え撃つ。

 

そしたら爆発した。

 

 

 


 

 

 

「はあ……。あ、れ……?先生!?ど、どうしたの?」

 

「お見舞いに来たよ。」

 

「……ああ、私なら大丈夫。いつまでもこうしちゃいられないし。

 

 アヤネちゃんや他のみんなも心配してるし……バイトにも行かなきゃだし。

 

 だ、だから、お見舞いとかいいから!ほら見て、元気だし。」

 

「それは良かった。」

 

「……。

 

 あ、あの!

 

 ……え、ええとね……。

 

 そういえば、先生にちゃんとお礼を言ってなかったなあって、思って……。

 

 あ、ありがとう……色々と……。

 

 ……でもっ!この程度でアビドスの役に立てたなんて思わないでよね!この借りはいつか必ず返すんだから!

 

 ……。

 

 な、何よ!?何ヘラヘラ笑ってんの!?

 

 はあ、まったく。」

 

「元気なら何よりだよ。それはそうと……。

 

 カルマ、狸寝入りで盗み聞きするのはやめようね?」

 

 

 


 

 

 

「信じられない!なんでアンタはいつも私の話を聞いてるわけ!?」

 

「そりゃ近くにいるからだろ。」

 

先生が去った後に、俺はセリカと二人っきりで話していた。

 

「仕方ねぇじゃん、爆炎は大したことなかったけど砂が大量に目に入ったんだもん。」

 

「なんで爆発じゃなくてそっちで運ばれてんのよ!?」

 

「バカかお前、下手したら失明するぞ?」

 

「そうだけど!……はあ。」

 

保健室の中、セリカは俺の寝るものと隣のベッドで寝転がる。

 

「一応、アンタにも言っておく……ありがとう。」

 

「……そりゃ、どういたしまして。」

 

「……今、あの時のことを聞いたら答えてもらえる?」

 

「……。」

 

気が向いて時間があれば話すと言ったアレのことか。まあ確かに時間はある。

 

でも気分は……まあ、ここまで匂わせといて何も言わないのも生殺しだし、少しぼかして伝えることにする。

 

……ありのままに伝えれば、到底受け入れられるものではないだろうし。

 

「質問はなし。分かるように言うつもりはない。それでもいいなら。」

 

「分かったわ、じゃあ教えて。」

 

「……俺は向き合わなきゃいけないものを、何もかも投げ捨ててきた。」

 

「……。」

 

血の池に変わり果てたフローリングも、炎に包まれた研究施設も、思考を放棄したならず者たちも、全部俺が生み出したもので俺のが向き合うべきものだ。

 

しかし俺はそれをせず、ただひたすらに逃げ続けた。

 

「そんな成れの果てが今の俺だ……だから、お前らが眩しすぎた。」

 

「眩しい……?」

 

「俺みたいに非があるわけでもないのに、向き合い続けるお前らの強さが羨ましくて……妬ましかった。」

 

だからこそ、最初に転校を持ちかけたのだ。

 

勿論言い出したからには責任は取るつもりだったが、本音は『同じところまで堕ちてほしい』なんて浅ましいものだった。

 

馬鹿馬鹿しいにもほどがある。

 

責を負うべきではない彼女たちと大罪人の俺では天と地でさえも足りない差があるだろうに。

 

「でも、お前ら全然折れないからさ……こっちももう、応援するしかないなって思ったのよ。そうすれば、自分もいくらかマシな何かになれるんじゃないかって、幻想しながら。」

 

向き合わなければ、否、向き合おうとも自分がどうしようもないクズなのは変わらないのに。

 

「これが、俺の弱さ……キヴォトス最強だとか言われてる俺の、しょうもない実態。」

 

「……。」

 

「聞いてて気分のいいもんじゃなかったろ?詫びってことでこれ、貰っといてくれ。」

 

ポケットに入れていたチケットを1枚、セリカの居るベッドへ投げる。

 

「趣味じゃないなら、それなりの値段で売れるはずだから売っても構わない……じゃあな。」

 

とっくに痛みの引いた目を開けて、俺は保健室を去った。

 

 

 


 

 

 

「もうやめてくれ!人質を取ったのは謝るから……グハァッ!」

 

「はー……別に人質に関しては怒ってないよ?室長のことだから作戦の内だったろうし。」

 

「そもそも腹いせでやってるんじゃないんだよね。これは尋問だよ、尋問。」

 

「そうそう、誰が仕組んだのか……言えるよね?」

 

「……言えな、ングぅっ!?」

 

「嘘は良くないよね?」

 

「大丈夫、ちょっと濃度が高い濃硫酸を飲ませただけだから!室長が青酸カリでもキヴォトス人が死なないのは検証済みだし!」

 

「……本当に、言えません。たとえ第1相手でも、アイツらにバレたら私は……ギィッ!」

 

「……何勘違いしてんの?」

 

「あなたが死のうが、そんなことは関係ない。室長が知りたがってる情報を吐いたら、あなたはその辺に置いとくつもりだし。」

 

「そ、そんな……。」

 

「あ、大丈夫だよ?情報提供者があなただとは言わないから!まあ……ここの防犯カメラの管理会社があなたたちの元請なら、意味ないけど。」

 

「!ど、どうか……。」

 

「だったらさ、言えるよね?」

 

「……はい。私たちが依頼を受けたのは……っ!?」

 

「「……誰?」」

 

「……依頼人のことを、口走られちゃたまったもんじゃないわ。」

 

「ふーん……私たちの邪魔、しちゃうんだ?」

 

「『依頼がきっかけで対立するのは仕方ない』……そう言ったのは、他ならぬあなたたちの室長じゃないのかしら?」

 

「うん、そうだね……。じゃあ、私たちもあなたを思う存分撃てるってわけだ。」

 

「生憎、あなたたちとやり合うのは依頼にない……元々の依頼も、今できる分はあなたたちが片付けてしまった。その状況で、私たちは今、あなたたちと戦う理由なんてない。穏便に帰らせてもらえないかしら?」

 

「なるほどね。確かに、不要な戦いをする必要もないし、フミ、防犯カメラを一個、撃ち落として。」

 

「オッケー……ふむふむ。セカイちゃん、分かったよ。」

 

「ならいいか……じゃあまたね、便利屋68(シックスティーエイト)。金さえ貰えれば何でもする、なんでも屋さん。」

 

「……彼女たちはどうするのかしら?」

 

「聞いてたと思うけど、どうもしないよ?情報はもらえてないし、室長にどうしろとも言われてないから。」

 

「……そう。」

 

 

 


 

 

 

「確か、ここだよな……。」

 

校舎の裏に回って焼却炉を見つけた俺は、リュックに入れた炭を取り出して焼却炉の中に放り込む。

 

火をつければ炎が瞬く間に上がり、すぐに周囲の温度が上がる。

 

夜を迎えたここだと、それが本当に暖かい。

 

刀を鞘から引き抜いて、何度か振って折れた刃も取り出す。

 

今回は流石に刀が折れてしまったので、至急打ち直さなければならなかった。

 

ヤットコで折れた破片を奥の方へ置き、柄を取り外した根元の刀身は手前の方で熱する。

 

「……飛び込めば、流石に燃えるかな。」

 

自分で言ってすぐに頭の中で否定する。独り言だとすぐにこうなる、もうそれをどうにかしようとは思えないのだが。

 

「燃えたところで死にそうにないよなぁ、特に俺は。まあ、死んで詫びが甘えだって、分かっちゃいるけど。」

 

火あぶりなんて処刑方法を用いれば、俺が死ぬよりも先に燃料が尽きるだろうし、磔はまず槍が通らない。

 

釘の時点でもう無理だろうが。

 

ロクに傷がつかないこの体は、とことん死ぬことに向いていないのだ。

 

「誰か、ひと思いに刺しちゃくれないかな?できればクソみたいな理由で。それで死ねたら最高だよ。俺は俺をしょうもないクズだって笑えるのに。」

 

結局、何が好きだろうと何がしたかろうと、俺の根本は変わらずに死にたい、消えたい、それ止まりなのだろう。

 

「あーあ……誰か、俺を殺せるやつがいないかな。」

 

色が変わりつつあった鉄の塊を見て、俺は槌を構えた。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは自身に対して嫌悪感を抱いている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05 師弟対決・準備編

カルマは破滅願望があるけど他の欲求もあるから死んだりしないんだ、できないし。その分やりたいことをなるだけ迷惑をかけないようにやるのが生きるためのガス抜きとして必要になってる。まあ、これで自分のやりたいことをやった時に取り返しのつかないことが起きれば、迷わず死のうとするだろうけどね!


「……それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。」

 

アヤネの言葉で会議の幕が上がる。

 

「本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論ができると思うのですが……。」

 

「は~い☆」

 

「もちろん。」

 

「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない……。」

 

「……。」

 

そうだろと言える空気ではないので黙っておく。

 

「うへ、よろしくねー、先生。」

 

「よろしく。」

 

「カルマもね?」

 

「……いいアイデアが出せるかは分からねーけどな。」

 

それだけ言って視線を進行に向ける。

 

それを待っていたかのようにアヤネは会議を再開する。

 

「早速議題に入ります。本日は、私たちにとって非常に重要な問題……『学校の負債をどう返済するか』について、具体的な方法を議論します。ご意見のある方は、挙手をお願いします!」

 

「はい!はい!」

 

トップバッターはセリカ。

 

「はい、1年の黒見さん、お願いします。」

 

「……あのさ、まず名字で呼ぶの、やめない?ぎこちないんだけど。」

 

「せ、セリカちゃん……でも、せっかく会議だし……。」

 

「いいじゃーん、おカターい感じで。それに今日は珍しく、先生とカルマもいるんだし。」

 

「珍しくというより、初めて。」

 

「ですよね!なんだか委員会っぽくてイイと思いま〜す☆」

 

真面目とは。

 

まじ‐め【真面目】

〘名〙 (形動)

① 真剣な顔つきであること。本気であること。また、そのようなさま。

② 誠実であること。まごころがこもっていて、飾りけがないこと。

引用:コトバンクより

 

のっけからダメだった。

 

「はぁ……ま、先輩たちがそう言うなら……。」

 

おいセリカ。それでいいのかお前……嘘だよな……?

 

「……とにかく!対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産の寸前としか言いようがないわっ!」

 

何を今更。

 

「このままじゃ廃校だよ!みんな、分かってるよね?」

 

「うん、まあねー。」

 

「毎月の返済額は、利息だけで788万円!私たちも頑張って稼いではいるけど、正直利息の返済も追いつかない。」

 

ホシノの温度差が気になるところだが、今論ずるべきはそれではないのでセリカの発言に耳を傾け直す。

 

「これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアするだけじゃ限界があるわ。」

 

金をもらうボランティアはもうボランティアじゃねぇ!

 

と叫びたくなったが会議のスムーズな進行のためにここでは黙っておく。

 

金銭を送るのは贈賄かつ向こうも拒んでいることなので、今度辞書を送っておこうと決意した。

 

読んでもらえることを願って。

 

「このままじゃ、らちが明かないってこと!何かこう、でっかく一発狙わないと!」

 

「でっかく……って、例えば?」

 

「これこれ!街で配ってたチラシ!」

 

あ。

 

「これは……!?」

 

「どれどれ……『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』……ねえ……?」

 

言わんこっちゃない。

 

そういえばコイツはこういうのにすぐに引っかかることを忘れていた……

 

「そうっ!これでガッポガッポ稼ごうよ!」

 

「……。」

 

心配するなアヤネ、俺も今、同じ気持ちだ。

 

「この間、街で声をかけられて、説明会に連れて行ってもらったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売ってるんだって!」

 

「……。」

 

「これね、身につけるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの3人に売れば……。」

 

ここまで来ると不安になる。

 

コイツ、説明会で何か買ってきたり、会員になってたりしないよな?

 

「……みんな、どうしたの?」

 

「却下ー。」

 

「えーっ!?何で?どうして!」

 

「セリカちゃん……それ、マルチ商法だから……。」

 

「儲かるわけない。」

 

総攻撃。残念ながら仕方がない。

 

「へっ!?」

 

「そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるのかな……こんな怪しいところで、まともなビジネスを提案してくれるはずなんてないよ……。」

 

「そっ、そうなの?私、2個も買っちゃったんだけど!?」

 

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」

 

「……!!」

 

そもそも過剰な吸収が人体に有害と明記される物質をブレスレットにしたものを売るとか正気か。

 

「まったく、セリカちゃんは世間知らずだねー。気を付けないと、悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうかもよー?」

 

「お前がそれ言う……?」

 

「ん?カルマ、何か言った?」

 

「……いーや、なんにも。」

 

藪をつついたら隼が出てきたので素直に後退する。

 

「そ、そんなあ……そんな風には見えなかったのに……せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのに……。」

 

「大丈夫ですよセリカちゃん。お昼、一緒に食べましょう?私がご馳走しますから。」

 

「ぐすっ……ノノミせんぱぁい……。」

 

「うわぁ……。」

 

「えっと……それでは、黒見さんからの意見はこの辺で……他にご意見のある方……。」

 

まだ名字呼びは続けるのか、奥空さん……

 

 

 


 

 

 

その後、上がったのは生徒数を増やすために他校のスクールバスを拉致(ホシノ案)、銀行を襲う(シロコ案)、スクールアイドルグープ(ノノミ案)等のトンデモ案ばかりだった。

 

そして流れで先生にこれまでの案の中から選ばせるという暴挙に出て、散々悩んだ挙げ句にスクールアイドル(恐らく一番クリーンだったからだろう、プロデューサーになるとノリノリだったのは気のせいであってくれ)を選択し……

 

「いいわけないじゃないですかぁ!!」

 

とアヤネがブチギレてテーブルをちゃぶ台返しした。

 

「いつもふざけてばっかり!銀行強盗とかマルチ商法とかそんなことばっかり言って!」

 

この後めちゃくちゃ説教された後、俺たちは柴関ラーメンに来ていた。

 

「なんだか、すいません……カルマ先輩、何も悪くなかったのに……。」

 

「気にしてねーよ、俺から見ても酷いの一言に尽きるし、なんだかんだ止めなかったからな……いつも大変だろ?」

 

「はい……そういえば先輩は、何か思いつきましたか?その、まともなのが……。」

 

「うーん、全然具体的じゃないけど……砂漠だからって何もないわけじゃないだろ?だからオアシスとか遺跡とか、そんな箇所を巡るキャラバンツアーってのを考えたんだが……。予約制で回数を減らして競争率を高くすれば、1回のツアーでもそれなりの利益を得られると思ったけど……。」

 

「……ぐすっ。」

 

「……おーい、アヤネさーん?」

 

急に泣きつかれて困惑する俺に構わず、アヤネは泣きながら胸の内を叫ぶ。

 

「久しぶりにまともな意見を聞きました!ううっ……!」

 

「……これが向き合い続ける強さかあ。」

 

なんか思ってたのと違う。

 

頭をよしよししながらそんなことを考えていると、店のドアが開く音がした。

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンです!何名様ですか?」

 

ちなみにセリカはバイトである。

 

「4名でお願いできるかしら?」

 

セリカと会話を交わす声に気づいて振り向くと、薄い赤の髪色で角の生えたファーコート着用の少女とその連れが席に案内されるところだった。

 

「……よう、元気にしてるか?」

 

「ええ、それはもう絶好調よ!なにせ大口の依頼が……って、ししょ、室長さん!?」

 

先程までの落ち着き払った様子はどこへやら、薄赤色の髪の少女、陸八魔(りくはちま)アルはこちらに気付いて素っ頓狂な声を上げる。

 

「き、奇遇ね。こんなところで会うなんて……。」

 

「くふふ、アルちゃんがテンパってる〜。まさか、カルマ先輩にビビってる?」

 

「そ、そんなわけないじゃない!これはあれよ!寒いからよ!」

 

その分厚いコートを羽織らずに着ればいいのではないかとはツッコまない。

 

テンパる原因はおおよそついているし、それがアルをからかう白髪サイドテールの少女、浅黄(あさぎ)ムツキの反応からすれば、俺に対する負い目を抱く必要がないことだろう。

 

……

 

「それにしても、大口の依頼が来るとはな……いよいよ顔が売れてきたんじゃないか?」

 

「ええ……ええ、そうね!室長さんが仕事を回してくれたのが大きいとは思うけど……。」

 

「ちなみに、どこから?」

 

「……それは言えないわね。」

 

「そりゃそうだ。しっかりと指導が生きてるみたいで嬉しいよ。」

 

お冷を飲み干して、おかわりを注ぎながらもう二人、白髪ポニテに黒い流星が入った少女、鬼方(おにかた)カヨコと伊草(いぐさ)ハルカを見る。

 

カヨコは落ち着き払った様子で席に座っていて、ハルカは対象的に何かに怯えたように視線が店内を彷徨っている。

 

「そっちのお二人は、変わりはないかい?」

 

「……うん、良くも悪くも、何もないって感じ。」

 

「は、はい!お陰様でというか、図々しくといいますか、なんだかんだ生き続けています……す、すいません!私みたいなのが長々と……。」

 

「何もないならまだいい方、かな。そしてハルカ、一回落ち着こうか。」

 

アヤネからなだめる対象をハルカにスイッチして、俺はひたすら視線をハルカの目に合わせる。

 

「なあ、ハルカ。」

 

「は、はい!?なんでしょうか……。」

 

「報告でしか聞いたことないけど、ハルカって時々スタンドプレーが目立つ。」

 

「も、申し訳ありません!なんとお詫びすればいいのか……。」

 

「でもそれが後々にいい結果を及ぼしてる。試しに統計を取ってみたら、100%。」

 

「……へ?」

 

上げて落とす、この論法が相手の心を折るのに効果的なのは傾向として明かされていて、だとすれば落として上げる、これは相手の心を補強するのに使えるのではないかと彼女に試してみたら、これがあろうことかドンピシャで効いたのだ。

 

流石に言いすぎると補強以前に折れてしまいかねないから加減を見ながら色々試したが、彼女だけはどうにも予想がつかないので落とすのは一回に留めている。

 

「お前は凄い。動いた結果が全部いい方向に結びつくそれは、一種の才能だと思うよ。」

 

「そ、そうでしょうか……。」

 

「ああ。もっと自分を誇っていい。それと……いつも、ありがとうな。」

 

「……えへ、えへへ……。」

 

メンタルが安定したようで何より。

 

ちなみに目を見て話すのは基本だ。

 

ああいう子には一切の悪意の混じり気のない瞳を見せる必要がある。

 

ついでに接触は厳禁。

 

下手したら暴れる。

 

「カルマ、相変わらずハルカの扱いが上手いね……。」

 

「最近できてなかった感謝を伝えただけだ。大したことはしてない。それに……お前ら、結局アルにしかついてかねーだろ。」

 

「まあ、そうだね。」

 

「カルマ先輩のことは勿論好きだけど、一緒に働きたいかっていうとね?」

 

「でしょうよ。」

 

ムツキの挑発はスルーして、俺は麺も具も食べきったラーメンのスープを飲み干す。

 

「カルマー、知り合いと盛り上がるのもいいけど、おじさんたちも構わないと拗ねちゃうよー?」

 

「はいはい……明日は少し遠くの方まで行くから、今のうちに構うとしますかね……お前らも依頼、頑張れよ?」

 

「ええ!しっかりと成功させてみせるわ!」

 

 

 


 

 

 

「忘れてたけど、先輩はそもそも『アビドスとその自治区』の視察に来てたんだったね……。」

 

「ああ、さっきああ言ったけど、それならもう終わってるぞ。」

 

「……え?」

 

え?と言われても事実として終わっているんだからしょうがない。

 

アビドスが全学園でもトップクラスの自治区を持っていたのは事実だが、見るべきところは既に見尽くしているのだ。

 

「だからあそこで言ったあれは嘘。明日はアビドスにいるつもりだ。」

 

「そうなんですね……でしたら、どうしてそんな嘘を?」

 

「ま、お前らと違ってアイツらに予定を晒すのもなって。」

 

作戦が狂うから。

 

 

 


 

 

 

「……彼女たちが、アビドスの生徒ね。」

 

「あ、アルちゃん気付いてたんだ?」

 

「当たり前よ。戦いは情報戦、無策で勝てたら苦労はしないわ。」

 

「って、カルマが言ってたの?」

 

「と、とにかく!あの室長がいないなら、マークするのは小鳥遊ホシノだけでいいってことよね?」

 

「うん……リストにあった要注意人物表が事実なら、他は私たちでも何とかなるよ、社長。」

 

「そうよね!ハルカ、依頼主から送られてきた機械はどう?」

 

「こ、構造は大丈夫でした……あとは説明通り、電源を入れるだけです……。」

 

「ええ、それを小鳥遊ホシノにぶつけて動きを抑制した上で、私たちは他のアビドス生を倒す!これで明日は依頼達成、間違いなしね!」

 

「すっごーい、アルちゃん、アウトローみたい!」

 

「ええ、私は最高のアウトローよ!」

 

「……一応、プランAもできるようにしておかないとね。」

 

 

 


 

 

 

「カヨコは気付いてるだろうな……まあ、だとしても向こうが打てる手は限られてる。」

 

愛すべき部下たちの報告を受けて、即興で組んだ策にしては……ちょっとした仕込み程度だが上々だろう。

 

これで明日に相手が無策で突っ込んでくれればよし、策を弄してこようとなんとかなる。

 

「愛弟子への試練としても、悪くない内容じゃねーかな……どんだけ成長したか、楽しみだ。」

 

刀を磨く最終工程を終え、左の刀も復活を果たす。

 

「『狂鬼』たる力の片鱗……その身に刻みつけてやるよ。」




「Violet Archive」の注意事項
・陸八魔アルは七郷カルマの弟子である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06 師弟対決・実戦編

カルマチェック(便利屋68編)
・陸八魔アル
弟子としては理想的だけど、お前アウトロー向いてないよ……W見せてうまい具合に方向転換できないかな……?
・浅黄ムツキ
便利屋のアクセルやな、割とマジで。あとちょくちょくからかってくるのはなんで?
・鬼方カヨコ
こっちはブレーキだな、てかガチで第1起動室に来てくれねーかな?
・伊草ハルカ
俺もう、お前のこと分かんねぇよ……でもすごく役に立つし助かってるぞ!


「……あら、私のお師匠様は戦う前から随分と小汚い手を使うのね?」

 

「言いたいことは分かるが減点だな……戦いは戦闘だけを指さない。情報戦って言葉があるのは、そういうことだ。」

 

「ご忠告痛み入るわ。次回の参考にさせてもらおうかしら。」

 

「そうすればいい……次があればな?」

 

「勝つつもりかしら?」

 

「つもりじゃねーよ……勝つ。そんだけだ。」

 

「上等よ。師匠に初めての泥をかけるのも、弟子の務めだもの。」

 

 

 


 

 

 

「……いや、師匠なら止められるでしょ!?」

 

「バカかセリカ、弟子が俺を超えようと頑張ってるのを止められるか!」

 

全員が臨戦態勢に入った上でツッコまれる。

 

「にしたって、情報聞き出すとかできること、もっとあったでしょ!」

 

「無理だわ!依頼人の秘密厳守は絶対、これ、ビジネスの鉄則!」

 

「だったら、襲撃があることくらい私たちに言っておけばよかったじゃない!」

 

「……行くぞ!」

 

ギャーギャー騒ぐセリカを放置して俺は4人に突っ込む。

 

それを狙っていたかのようにアビドスの外壁が爆破され、黒地に青白い装飾が所々にある機械の軍勢が姿を表す。

 

「やっぱりカイザーだよなぁ!」

 

見た目からしてキヴォトスに存在する二大財閥の一角、カイザーコーポレーションの用いる戦闘用自動人形、通称オートマタの暴走機体だろう。

 

カイザーが一般的に用いる機体より性能はいいが、その全てが暴走するという理由で廃棄になったモデルで、俺たち第1起動室はこれを見つけ次第即座に処分しているのだが……

 

まさか、カイザーがこんな風に処理しようと企むとは思わなかった。

 

戻ろうにも既に壁ができている。

 

顔を左手で覆った俺に、アルたちは揺さぶりの言葉を投げかけてくる。

 

「室長さん、あなたがいた時の策も練っておいて正解だったわ。」

 

「くふふ、まんまと手のひらの上に乗っちゃったね?」

 

「ああ、そうだな……ハハッ……。」

 

顔を隠したまま、俺は上を向いて高笑いする。

 

「ハッハッハ!これだよこれ!誰かの手のひらに乗せられてから、一気にひっくり返すのが一番面白い!」

 

「……そうだった。普段がワンサイドゲームなだけで、こういうのに燃えるタイプだったね。」

 

後ろに向かって叫ぶ。

 

「先生、ちょいと罠にかかって分断されました!こっちはこっちでなんとかすんので、そっちはオートマタの処理をお願いします!」

 

返事を待たずに二刀を構え、便利屋の面々に向き合う。

 

「最初に言っておく……俺はかーなーり強い!」

 

「知ってるわよ……ムツキ、ハルカ、カヨコ!便利屋として、全力で依頼を遂行するわよ!」

 

 

 


 

 

 

便利屋の戦法は個人個人の役割が明確になっているので手の内は分かりやすい反面、その弱点を経験と技量でカバーできるというなかなかに厄介な集団としての風格が出ている。

 

最前線でハルカが敵を受け止め、アルの狙撃、ムツキの爆撃、カヨコの援護射撃と隙がない。

 

戦術としてはオーソドックスで単独の敵を相手取るには十分すぎる作戦だ。

 

だからこそ俺は彼女たちがいつも通りの策で来ると踏んで、真っ先に壁となるハルカを潰しに向かったのだが……

 

「今よ!」

 

後方に下がらずに3人はハルカを中心とした三角形を構成して俺を取り囲む。

 

「正面からやりあえば、私たちに勝ち目はない……なら、絶対に全員の正面に立てないようにすればいいでしょう?」

 

あまりにも乱暴なロジックだが俺に対する施策としては大正解なのが困る。

 

銃弾避けを銃口と引き金を引くタイミング、後は銃弾に込められる殺意の感知に頼り切りな俺に視覚が役立たずになることは大きなハンデなのだ。

 

三方からの射撃を嫌って誰か一人を片付けに行こうとすればハルカが追いすがりながら狙い目以外の3人が攻撃している間に目標も距離を取る。

 

中央のハルカに意識を向ければ四方からの滅多撃ち。

 

「……長い戦いになりそうだなぁ。」

 

足元を狙ったムツキのマシンガンの弾を跳んで避け、追撃のアルの狙撃を刀で受けて横向きの力を加え、カヨコの弾を素通りさせる。

 

そのまま倒れるよう着地してハルカのショットガンを透かし、ヘッドスプリングで飛び起きながらハルカの顔に蹴りを叩き込もうとするがこれは避けられる。

 

「やるじゃん。さっきの減点分はこれで帳消し……ここからどこまでやれるかな?」

 

「採点結果を聞くのは最後で結構よ……あなたが目を覚ました後でね、室長さん!」

 

 

 


 

 

 

「なんなのよこいつら!全然銃撃が通じないんだけど!?」

 

「ホシノとノノミの攻撃は通ってる!セリカとシロコは両端のオートマタを中央に寄せて!ホシノが引きつけたオートマタをノノミの一斉掃射で倒す!アヤネはホシノへのサポートを重点的に!」

 

「うへー、もしかしておじさんが要?流石に荷が重いよー?」

 

「荷が重いとかじゃなくてやらなきゃでしょ、ホシノ先輩!そうでもしないとこいつらを倒せない!」

 

「私も、ホシノ先輩にしかできないことだと思う。」

 

「……みんながそう言うなら、おじさんも頑張らないとねー。先生、前は私に任せて?」

 

「うん。頼りにしてるよ、ホシノ!」

 

 

 


 

 

 

弾丸を足に喰らいながらも刀を振るう手を止めず、ハルカの首を狙う。

 

しかし刀身を狙ったアルの狙撃に刃を差し戻されて避けられ、追撃を恐れて俺は刀を振り抜いたまま左に跳ぶ。

 

少し足を上げてくるぶしに当たっていただろう弾丸を踏みつけながらそのまま横向きに駆け、カヨコの方へと斬りかかる。

 

「……ここ!」

 

ハンドガンにつけたサイレンサーをいつの間にか外していたカヨコが、俺の眼前で銃を撃つ。

 

辛うじて避けることこそできたものの、本来の発砲音があまりにも大きすぎたそれのせいで一瞬、思考が止まる。

 

「死んでください死んでください死んでください……!」

 

そのせいで背後からのショットガン連打を避けられずにもろに被弾する。

 

苦し紛れに反撃をしようと振り返るが、既にハルカは退却し、カヨコも距離を取っている。

 

まるで、俺の周囲に何かがあるかのように……

 

「しまった!」

 

投げ込まれた鞄……にありったけ詰められた爆弾とアルの狙撃が交錯する。

 

炎と風、そしてプラスチック片や砂の打撃を俺は全身に受けることとなった。

 

「……やったん、でしょうか?」

 

「流石にこれをあの距離で喰らって、無傷なわけ無いでしょ……。」

 

「これで向こうに助太刀に回れるね!」

 

「……今のうちにリロードを済ませておきなさい。」

 

「あ、アル様……?」

 

「流石にこれは無理でしょ!多分……。」

 

「……。」

 

「あ゛あ゛ー……ゲホッゲホッ!久々にいいもん喰らったわ。」

 

少しばかり目がチカチカしたが頭を振って意識を無理矢理に覚醒させ、しっかりと便利屋の面々を見据える。

 

「嘘、ですよね……?アル様の攻撃を喰らっても、平然としてるなんて……。」

 

「ハルカ、これは現実よ。私たちの出しうる最大火力でも、少しもダメージを受けやしない。それが第1機動室長、七郷カルマなの。」

 

「……人間じゃない。」

 

「なにそれ!?私たちは化け物か何かを相手にしてるってこと!?」

 

「!?カヨコ、ムツキ、それはダメよ!」

 

 

「……あ゛?」

 

 

アルが青い顔をしていようが関係ない……徹底的に潰す。

 

「き、来ます!」

 

ハルカを素通りしてムツキの懐に飛び込み、脇腹を全力で殴りながら左の刀を引く。

 

「う、ぐうっ!?」

 

ヨロヨロと後退した体をサイドテールを掴んで強引に停止させ、そのまま一回転、振り回して叩きつける。

 

そこから背中に両の刀を執拗に何度も突き立て、その上で脇腹を狙って蹴り飛ばす。

 

「さっきと全く戦い方が……!?」

 

飛んできたムツキの体を受け止めたせいで対応が遅れたカヨコをムツキごと蹴る。

 

倒れ込んだ顔を踏みにじりつつ、叩きつけるように左の刀を振るう。

 

「うっ……く……!」

 

苦し紛れの銃撃が顎に当たる。

 

俺は地面に落ちたそれを見てから、カヨコを無理やり立ち上がらせて右腕でアッパーカットを放つ。

 

「っぁ……!」

 

既に二人とも意識はない。それでも俺が追撃を放とうとしたところに……。

 

「……ようやく片付いた!カルマ先輩、だいじょう……!」

 

向こうはオートマタの処理が終わったか。

 

でもそれとこれとは話が別。気絶したカヨコをムツキの真上に放り投げ、俺はそれを踏みつけようと歩を進める。

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

 

発狂寸前といった感じの叫び声を上げながら、ハルカがこちらへ突進してくる。

 

俺はそのショットガンの乱打を全て受けてから、右の刀を突き出して元いた場所まで吹き飛ばした。

 

「お前には興味ねぇよ……俺が用あるのはこの二人だ。」

 

「ちょ……カルマ先輩、流石にやりすぎでしょ!そこまでしなくても……。」

 

セリカの声がいい加減うざったらしいので、少し黙らせることにする。

 

「……やりすぎ?どこがだよ?」

 

「そ、それは……何を言われたかは分からないけど、そんなになるまで攻撃する必要なんて……。」

 

「……お前らに何が分かる?」

 

「……え?」

 

言い出したのは下策かとも思ったが、堰を切った感情は止まらずに言葉の奔流を生み出す。

 

「何もかもない0の状態から始まって、人間として認識されず、人間として扱われず、自業自得の大事故の罪を擦り付けられて、何も悪くないのに追われる日々。ようやく落ち着けた場所では神輿にされ、都合のいいように使い潰される。そこから逃げても俺なんかが入るには脆すぎる世界ばっかり……お前らはあんのか!?人じゃないって言われ続けてきたことが、実験台にされたことが、人殺しの罪を擦り付けられたことが、ただ都合のいい駒として扱われたことが、どう足掻いても世界に馴染めなかったことが、一度でもあるのかよ!?」

 

返事はない。

 

当然か、彼女たちが本来、知る必要のない暗部をこれでもかと曝け出してみせたのだから。

 

「それがないなら黙ってろ。俺が何を言っても意味ないだろうしな。」

 

握り直した右の刀を振り上げる。その手を先程とは桁違いの体感威力を与えるショットガンが穿ち、遮った。

「……クソが!」

 

左の刀を後方へ振るう。それはなにかの金属塊を弾き飛ばして、柔らかな首筋にめり込むように止まった。

 

「……黙ってろとは言われたけど、止めるなとは言われてないからね。」

 

「ホシノ。余計なことをするなって意味で言ったのが分からなかったか?」

 

「分かってるよ。でも、ここでそんなことしたら……本当に化け物になっちゃうよ?」

 

「……!」

 

刀が手から滑り落ちる。

 

ホシノは俺をゆっくりと優しく抱きしめ、そのまま耳元で囁いた。

 

「おじさんには、カルマに何があったのか分からないけど……それでも、人でいたい、そう思うならこんなことを……殺そうとしちゃダメ。」

 

「……そう、だな……。」

 

アルの方を見る。

 

怯えて足が竦んでしまっている我が愛弟子に、どうせうまく出来ていないだろうが笑顔を見せて、言う。

 

「悪いな、つい、頭に血が上っちまって……今日は、帰ってもらえないか?」

 

「え、ええ……ハルカ、立てるわよね?」

 

「は、はい、アル様。なんとか……。」

 

「ムツキの方をお願い。カヨコは私が背負うから……室長さん、今日は本当にごめんなさい。今後はしっかりと、知っておくべきことは伝わるようにするわ。」

 

怯えながらも気丈に答える姿に申し訳無さを抱きながらも、俺はそれを口に出せずに別の言葉を口に出す。

 

「ああ、頼んだぞ。分かったらさっさと行け……俺の気が変わらないうちに。」

 

 

 


 

 

 

「そのようなことが……。ククク……。」

 

「笑っていられるようなことじゃないでしょ?あなたたちのせいで、カルマは苦しんでいる。」

 

「ええ、原因の一部がこちらにあることは認めましょう。ですが……引きずっていることに関しては、彼自身の問題では?」

 

「……分かってるの!?全部黒服、アンタのせいだ!カルマが壊れてるのも、私には想像できないような酷い目に遭ったのも、暴走するトリガーが出来たのも、全部全てみんな!」

 

「クックックッ……いいですか?『暁のホルス』、もとい、小鳥遊ホシノさん。私は確かに彼を実験対象として利用し、人間としての扱いはしませんでしたが……私は彼の母親を殺してもいないし、逃げた彼を追ってもいないし、彼をブラックマーケットの王に押し上げたりもしていません。まあ、私()()ならどうかと聞かれれば、それに関しては分かりませんが。」

 

「……いったい、カルマは何者なの?」

 

「少なくとも、『人智を超えた何か』であることは間違いないでしょう……ああ、なるほど。それがトリガー……。」

 

「……どういうこと?」

 

「彼は『狂鬼』でも、『第1機動室長』でもない、『七郷カルマ』の存在を知る者に自らの存在を拒絶されると暴走する。今までの情報から、そう推測できるということですよ。」

 

「……帰る。」

 

「ええ。実験の際はまたお呼びしますので。くれぐれも彼を拒んで……殺されないでくださいね?」

 

「……。」

 

「きっと盾で勢いを殺さなければ、首の骨が折れていたでしょうから。」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマの逆鱗に触れた者は、例外なく蹂躙される。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07 ブラックマーケットで

・前置きで分かる!カルマ暴走の仕組み!
カルマくんは自分が異常性の塊なのを自覚しているから、どんな辛いことでも自分の性質や行動のせいだと解釈しているぞ!それとは別に生まれた時から悲惨な人生なので「なんで俺ばっかりこんな目に」という気持ちが先程の気持ちと天秤のように存在する!このどっちかを刺激するともう片方も負けじと激しくなり、それで感情の収集がつかなくなった結果暴走する!簡単な仕組みだね!
ちなみにカルマは図太い(そうでもなきゃとっくに化け物になってる)ので、大して知りもしなかったり嫌いな人から何言われても響かないよ!つまり、前回殺しかけたムツキやカヨコも好きだったってことだね!よかった!もう向こうはこっちを確実に避けるだろうけど!
カルマくんと仲良くなった時は、絶対に彼を拒絶するような発言はやめようね!暴走前に彼の感情が高ぶっているほど大惨事になるし、暴走時はボルテージが天井知らずに上がっていくから!
最後に、カルマと仲良くしたい人は頑張ってね!自分を避けさせるために自分のことを狂人とか言い出したり、ろくでもない人生を投げ出したいとか考えてるやべーやつだから!


「先生、カルマ先輩は……。」

 

「うん、メールにも電話にも応答がない……。」

 

「ですよね……先輩は、ずっとああ思ってたんでしょうか。」

 

「そうだと思うよ?おじさんが初めて会った時よりかは、マシになってたと思うけど……。」

 

「ホシノ先輩は、1年生の頃からカルマ先輩と付き合いがあったんですよね?」

 

「あったけど、今みたいな生ぬるーいもんじゃなかったよ?互いにとんがってた時期だからね、喧嘩ばっかりしてた。」

 

「ホシノ先輩がとんがってた頃……想像できない。」

 

「自分でもすっかり変わった自覚はあるからねー、カルマもきっと……いや、ないか。」

 

「せめて話せれば……どこにいるかも、分からないけど。」

 

「……とにかく、カルマに関しては私に任せてほしい。みんなは借金のことに集中して。」

 

「分かりました……先日の襲撃で使用されたオートマタを調べたんですが、あれらはどうやら、カイザーコーポレーションで製造されて、廃棄されたモデルだったようです。」

 

「つまり、カイザーが?でも私たちは、そこから借金をしてるのに、わざわざ潰す必要なんてないじゃない!」

 

「セリカちゃん、結論を急ぎすぎだよー。アヤネちゃん、廃棄されたモデルっていうのは、どういうこと?」

 

「調べた限りなら、既存のものに改良を施した高性能品なんですが……回路部分に問題があったようですぐに生産は打ち止め、全台廃棄の処分が取られたそうです。その多くはブラックマーケットに……。」

 

「ブラックマーケット……停学や退学になった生徒や不良たちがたむろしてる、あそこ?」

 

「はい。先日、こちらを襲撃した『便利屋68』もブラックマーケットに拠点を構えています。」

 

「噂は聞いたことがありますね……確か3大校の一つ、ゲヘナ学園の生徒が勝手に設立した企業で、『第1機動室の遊撃隊』と言われるほどにカルマ先輩から依頼を請け負っているとか☆」

 

「え……?まさか弟子とか言ってたアレ、本当だったの!?」

 

「だろうねー。カルマは嘘つきだけど、戦いにあたって敵の情報を誤魔化すようなことはしないから。」

 

「だとすれば、ブラックマーケットに何か、秘密がある?」

 

「だったら、行くしかない。」

 

「そうだねー、じゃあ、ブラックマーケットを調べてみよう。」

 

 

 


 

 

 

「誰も知り合いがいない、まっさらな状態だとここが一番気楽だな……。」

 

黒ジャケットの普段着ではなく、黒いコートにカツラとカラコンで変装してベール付きのハットを被った俺はブラックマーケットを彷徨い歩いていた。

 

仮に誰か知り合いと鉢合わせてもバレないようにと、我が母校の迷作、『変声ロリポップ』を咥える。

 

味は……ハズレ、レモン味だった。

 

「あ、ああー……。」

 

本題の声は少し低めの女声。コートの前を閉じればスタイルは隠せるので問題ない。

 

まあ知り合いと対面している最中に飴がキレたら終わりだが、ここじゃゆっくり喋る余裕もないので問題はないだろう。

 

「クッソ、結局あのまま逃げちまった……いっつもそんな感じだよな、俺の人生……。」

 

あの時自分お思いの丈をぶちまけるだけぶちまけて、あまっさえ味方に手を上げた俺が許されるとは思っちゃいないが、もうどうでもいい気がする。

 

それでも先生には謝ろうか、それで先生に言われたならアビドスの後輩たちにも謝ろうか……

 

そんな思考をぐるぐる回し続けているうちに、闇市の中で銃声と怒号が響き渡る。

 

「待て!」

 

「う、うわああ!まずっ、まずいですー!!つ、ついてこないでくださいー!!」

 

「そうはいくか!」

 

放っておいてもよかったが、今回の場合は追われている側が知り合いだとわかったので助けに向かう。

 

変装キットの一つである『銃剣:タイプ錫音(すずね)』を取り出し、チンピラを斬り伏せた上で刀身を前に倒して銃に切り替える。

 

「……ケガはないか?」

 

薄いブラウンの髪色の少女、阿慈谷(あじたに)ヒフミに声をかける。

 

「は、はい!その、ありがとうございます!」

 

「礼には及ばん。ただ胸糞が悪かっただけだ。」

 

それだけ言い残してクールに去ろうとしたところを、まさかのまさかすぎる連中と鉢合わせる。

 

「さっきの銃声は……って、もう終わってる!?」

 

「なんでこんなところにお嬢様学校のトリニティの生徒が?」

 

ああ神よ。

 

なんでこのタイミングでよりにもよってアビドスの生徒に会わせるんですか?

 

 

 


 

 

 

「彼女の名前は知らないから知りたければ彼女に聞け。花の女子高生同士だ、積もる会話もあるだろう。私はこれで失礼する。」

 

口調や息遣いも変えてやり過ごし、俺はその場を外れて周囲のチンピラを殲滅する。

 

虫と同じようにこの手の奴らは1匹見かければ10匹以上は固いので絶好の狩り場なのだ。

 

倒れ伏したチンピラを蹴り転がし、道の端にどけて中央を歩いていく。

 

「ま、待ってください!」

 

ヒフミに止められたが。

 

「……嫌だと言ったら?」

 

「お願いします、どうしても手に入れたいものがあるんです!」

 

……どうしよう、コイツが何がほしいかしっかり分かる。

 

「……案内するのは行きだけだ。後ろのお前らに関しては知らん。」

 

ついてきたアビドス勢と先生に釘を刺す。

 

「私は……そうだな、quickie(クイッキー)とでも呼べばいい。」

 

文字通り急ごしらえの名前を騙り、先程行こうとしていた向きとももと来た向きとも違う方へ足を向ける。

 

「分かったならさっさと行くぞ。ブラックマーケットは広い……社会の濁りを溜め込む程度にはな。」

 

 

 


 

 

 

「あれ?こんなところにカルマ先輩の写真がありますよ?」

 

細い路地を覗き込んで、ノノミがそんな言葉を漏らす。

 

「……気になるか?」

 

「はい、仲のいい方なので。」

 

「……関係ない気もするが、まあいいだろう。」

 

少し奥の方に入り、手頃なポスターを一枚剥がして持ってくる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「これで満足か?」

 

「嘘……これって、カルマ先輩の手配書!?」

 

持ってきた紙に、ノノミではなくセリカが食いつく。

 

「別に驚くことでもないだろう?」

 

「何よそれ……どういうこと?」

 

「ブラックマーケットは反体制の象徴。そんな場所で体制側の過激派を目の敵にしない理由などないだろう。」

 

そのまま後輩に手配書を押し付け、俺は再び歩き始めながら話を続ける。

 

「まあ、懸賞金は手配書を出した組織によってまちまちだがな。これに関してはよっぽど金がないか、ケチなんだろうな。どの道、アイツにいくら高い金をかけても無意味だろうが……。」

 

「あの……さっきからカルマ先輩に詳しすぎませんか?」

 

「私はアイツの協力者だからな。」

 

脳内でストーリーは既に出来上がっているので、ヒフミからの質問にも難なく答えられる。

 

ヒフミとアビドス勢は俺の話もしたのだろう、彼女が俺を知っていることに対しては何の質問も挟まなかったところから見れば。

 

「アイツとは長い付き合いだ。それなりにアイツのことだって知るさ。アンタのことも聞いてるぞ……先生。」

 

「カルマが話してたんだね。ちなみに今、カルマがどこにいるか……。」

 

「知れることは知っている。だが分からないものもある……私だけでなく、アイツの動きが予測できるやつがキヴォトスにいるか?」

 

反語と嘘のコンボを決めてから、俺は止めの言葉を放つ。

 

「アイツに協力してこそいるが、私はアイツが嫌いだ。先生、あんたらの案内もしてほしいなら今後、その話は出さないでもらおう。」

 

「……分かった。それと、流石にタバコは……。」

 

予想外の指摘にも動じず、俺は飴を一度出して見せてから口に戻す。

 

「見ていただいたように飴だ。煙いのは好かんのでね。」

 

そのまましばらく歩く。すると今度はシロコが口を開いた。

 

「クイッキーさん、その、銃……?とにかく、それは何なの?」

 

「今は銃の形にこそしているが、これは剣でもある。知り合いの作成者は『音銃剣錫音』なんて、大層な名前をつけていたが……私は錫音と呼んでいる。」

 

「そうなんだ。その子は、もしかして3大校のミレニアム?」

 

技術の最先端を開発し続けるそれは正体の母校だ。

 

同じだと怪しまれるのでここでは敢えて濁して答える。

 

「名前を聞いても分からないような末端、とだけ言っておこう。」

 

「うへー、確かに学歴マウントは辛いもんね?ここには3大校で、しかもお嬢様学校のトリニティ生もいるし。」

 

「い、いや、流石にそんな意地悪なことはしませんよ!?」

 

「どうでもいい。今の問題は目当てのものを手に入れられるか、だろう?」

 

何度目かの話の打ち切りを行い、俺たちはブラックマーケットの中央へと向かっていくのだった。

 

 

 


 

 

 

「はい……便利屋68です。

 

 依頼に基づいて先日襲撃を行いましたが、予想外のアクシデントに見舞われて……。

 

 ええ、第1機動室、しかもその室長がアビドスへの視察の最中でした。

 

 ええ、今回の件は勿論我々が不覚を取ったとしか言いようがありません。

 

 いえいえ、災害のようなものというお言葉はありがたくはありますが……。

 

 いずれにせよ、今突っ込むのは得策ではないかと。

 

 はい、はい……では、少し時期を見てからまたご連絡いただくということで……。

 

 はい。今後とも、便利屋68をよろしくお願いいたします。」

 

 

「……どうしてこうなるのかしらぁ……!」

 

「社長、私のせいで手をわずらわせることになって、本当にごめん……。」

 

「アルちゃん、私もゴメン……。」

 

「あなたたちは悪くないわ!私がちゃんと、あの室長の地雷を警告しておけば……。」

 

「わ、わわ、私も何も考えずに突っ込んじゃって……死んでお詫びしますので、どうかご容赦を……。」

 

「死ななくていいわ。あなたは二人を守るために戦ったんだもの!結果がどうであれ、あなたは私たちの誇りよ!」

 

「あ、アル様ぁ……!」

 

「それで……依頼は先延ばしになったみたいだけど、どうするの?」

 

「そう、問題はそこなのよ、カヨコ。あまり大口の依頼が入れられないし……しばらくは、第1からの依頼も受けない方が良さそうだし……。」

 

「アルちゃん、私は別に……。」

 

「ビジネスは信頼よ。気にしないなんて言っても、今回は私たちに落ち度がある。その状況で図々しい真似なんて出来ないわ。それに……そんなに震えた状態は、大丈夫とは言えないわよ?」

 

「……!」

 

「あなた達は今回、相当な重症を負っている。しばらく依頼は私とハルカで回すから、二人は一日でも早く、元気な姿を見せて頂戴。これは社長命令、いいわね?」

 

「社長……分かった。実際、こうやって体を起こしてるのも辛いしね。」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて休んじゃおっかな?」

 

「ええ。存分に休んで、また4人であの室長に挑んで、今度こそ勝つわよ!」

 

「無謀すぎ……でも、できたらいいよね。」

 

「くふふー、休んでる間に、いろいろと作戦考えよーっと!」

 

「わ、私も、アル様のお役に立てるように頑張ります!」

 

「ええ、それでこそ私たち、便利屋68よ!」

 

 

 


 

 

 

「ああは言ったものの、切羽詰まっているのは事実……。

 

 あのオートマタも廃棄予定だったものを格安で買い取れたけど、それでもあれだけの数を買い取れば、相当な金額になったし……。

 

 正直言えば、これ以上は企業の運営にも支障をきたしかねない……。

 

 ……やっぱり、融資を受けるしかないわね。」

 

 

 


 

 

 

「やはり、あの力は圧巻……直に叩かねばどうにもならないか?そもそも、アビドスの生徒たちも、データを上回る戦力に見えたが……。」

 

「……お困りのようですね。」

 

「いや、困っては……隠す必要もないか。あまりにも想定外だった。まさか、『狂鬼』がアビドスにも足を運んでいるとは……。」

 

「彼の動きを読むのは、100%当たる天気予報よりも無理難題と言いますからね。しかしその口ぶり……それ以外にも何か、気になることがあるのでは?」

 

「……見透かしたような言い方は気に食わんが、その通りだ。どう見ても、実際の戦闘力に対してデータが過小評価な気がしてな……もとから光るものがあることは理解していたが。」

 

「……データに不備はありません。これは単に、アビドスの生徒が更に強くなった、と解釈すべきかと。」

 

「それは一体……。」

 

「現状では、分からないとしか答えられませんね。こちらでも調べてみるつもりではありますが……恐らく何かしらの外的要因があった可能性が高い。」

 

「ものにはよるが、それなら……。」

 

「ええ、負けておいてこういう言い方は開き直りかもしれませんが、『相手が強化したのがアビドスの生徒だけでよかった』、そう言うべきでしょうね。もし彼にこの外的要因……Xとしましょうか、そのXが彼に干渉を及ぼしていた場合……。」

 

「オートマタも便利屋も、すべて『狂鬼』一人で事足りたと?」

 

「事足りたのは元々でしょうがね。とにかく、詳細が判明し次第、またお会いしましょう。では。」

 

「……。」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは謝罪が苦手である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08 銀行を襲うな、銀行は襲われるきっかけを作るな

カルマがアルにつけた修行一覧
・奇襲を主とした戦術指導(少数精鋭なりの戦い方)
・実戦形式のトレーニング(戦力強化)
・基礎体力の強化(技術を実践できる体作り)
・キヴォトスの危険な勢力や要注意人物の情報提供(喧嘩を売っちゃいけない相手に喧嘩を売らないように)
・経営の授業(正直気になるところが多々あった)
・マナー(交渉メイン)
・銃で人間は大丈夫でも建物などは無事じゃ済まないと強調(引き金を重くする)
・仮面ライダーW鑑賞会(理想像の軌道修正)
・向かってくるジープを飛び越える特訓(すぐ白目むくメンタルの強化)

ちなみにカルマはセブン一門にドン引きするタイプです。


えほん、あーあー…聞こえてる?

 

Hello! Everyone!

 

うんうん...わあ!凄い銃声だね!

 

今日も一日頑張って生きていきましょう!!

 

Be The MUSIC!

 

 

開幕早々現実逃避に走って申し訳ない。

 

こうでもしないとやってられなかったのだ。

 

何故かと言うと……

 

 

俺はキヴォトス最強、七郷カルマ。

 

後輩や同級生のアビドスの生徒と阿慈谷ヒフミ、そして先生とブラックマーケットに調査に行って、アビドスの借金を回収する男の怪しげな取引現場を目撃した!!

 

取引を見るのに夢中になっていた俺は、背後で何かしらを企てている仲間に気づかなかった・・・

 

俺は知らぬ間に覆面をかぶっていた仲間に強引に連れられ、気がついたら・・・

 

 

銀行強盗に加担していた!

 

 

七郷カルマが闇銀行を襲ったと奴らにバレたらいつも以上に命を狙われ、周りの人間にも被害が及ぶ。

 

とっさの判断で正体を隠すことにした俺は彼女たちに対して思いつきでクイッキーと名乗り、彼女たちの動向を見張るために、先生たちの集団に転がり込んだ。

 

 

声まで変えても中身は同じ、迷走気味のバーサーカー!

 

現実は、いつも非情!

 

 

……

 

ネタを抜きにして答えるならば、アビドスに定期的に借金を回収しに来るカイザーコーポレーションの一角、カイザーローンの職員がブラックマーケットの闇銀行にアビドスの借金を運び込んでいるのを発見したのがそもそもの元凶だった。

 

闇銀行はおおよその業務内容こそ普通の銀行と変わらないが、犯罪によって得た財貨の一部が流れてきて、更に犯罪に対する金銭的な支援を行うというイカれた銀行だ。

 

そこにアビドスの借金が流れていること、これはすなわち返済した借金は犯罪資金に変えられていたということに他ならない。

 

その事実を確認するために、彼女たちは集金関係の書類を確認することを提案するが、既に書類は銀行の中。

 

治安を考慮してか警備員も存在し、並の連中なら銀行に入ることすらままならないだろうが……

 

「銀行を襲う。」

 

「おいばかやめろ……やめろ……!」

 

まさかのアビドスが全員、乗り気で覆面を被る。

 

ヒフミも紙袋を被せられて……そうだコイツ、押しに弱いんだった!

 

それとなんだよ、覆面水着団って!お前なんなんだよ!先生も

 

「銀行を襲うよ!」

 

なんてノリノリだしさあ!勘弁してくれよまじで!大っ嫌いだバーカ!

 

「……くだらん。やりたければ勝手にやればいい。私は手を貸さんがな。」

 

「なんでよ、ここまで一緒に来たじゃない!」

 

いや、そのりくつはおかしい。

 

「勘違いするな、私は案内役として同行していただけで、お前らが何をしようと協力はしない。それは最初に言ったはずだが?」

 

「それは……。」

 

「そうだねー、じゃ、留守番でも頼もっかなー?」

 

「……まさか、そのために私にもたい焼きを?」

 

事ここに至る前に俺たちはたい焼きを奢られていた。

 

うっわ、ブラックマーケットでの貸し借りとか、絶対ろくなことにならないんだって……!

 

「フン……だったら、外で待つぐらいなら受けてやろう。その覆面は遠慮させてもらうがな。」

 

「うん。なら交渉成立だね。」

 

「……少しサービスをしてやろう。」

 

単身で銀行の入り口へと向かい、銀行のガードの前で分かりやすく財布を落とす。

 

それを拾おうとしたガードの手をはたいて財布を取り返しながら、俺はガードに罵倒を浴びせかける。

 

「勤め先の金は守るくせに、他人の金は盗むのか?……程度が知れるな。」

 

その言葉で神経を逆撫でるには十分だったようで、突っかかってきたガードをみぞおちを殴って落とす。

 

「さっさと行け……長居するのは御免だ。」

 

「ありがとうございます!これで心置きなく侵入できますね☆」

 

「そうだねー。じゃあ早速いってみよー!」

 

嬉々として強盗に向かう集団の最後尾についたヒフミの肩に手を置く。

 

「な、なんですか……?」

 

「逃げたくなったら迷わず外に出てこい。お前だけなら完璧に逃がせる。」

 

「あはは……分かりました……。」

 

 

 


 

 

 

「お待たせしました、お客様。」

 

「問題ないわ、頼むのはこちら側だもの。お茶も美味しかったから、もう少し待っていても良かったかしら。」

 

「左様ですか。本題に入る前に、一緒にご確認を。

 

 お名前は……陸八魔アル様。ゲヘナ学園の二年生ですね。

 

 融資の対象としては、社長を務める『便利屋68』、社員4人に対して社長はともかく、他の役職まで用意するのは肩書の無駄遣いと思わなくもないですが……

 

 業績を見る限りは問題なく融資が可能です。しかし……

 

 数日前に、随分大きな出費をされていますね。こちらは一体?」

 

「依頼先から廃棄予定だったオートマタを買い取ったのよ。戦力の増強として。」

 

「なるほど、そういうことですか……依頼が長期に渡り、その間の活動資金の獲得が難しいから当行の融資を受けたいとのことでしたが、結論としては融資自体は可能です。」

 

「本当なの?よかった……。」

 

「ですが……すぐに融資というのは無理ですね。お力になれず申し訳ありません。」

 

「……それは、どうしてかしら?」

 

「まだ融資を通せるという判断が下っただけだからです。ここから上に掛け合って金額が適切かなどの詳細をまとめた上で、こちらから提案したものを了承していただいて、初めて融資が通せるので。」

 

「……ええ、確かにいきなり金をよこせは通らないわよね。」

 

「お分かり頂けたようで何よりです。それでは……な、何事ですか?停電!?」

 

「……!」

 

「い、一体誰が!?パソコンの電源も落ちてるじゃないか!」

 

(「襲撃の基本としては、後先は問わないから電子機器は落とせ。通信系は問答無用で作戦前にな。相手を動揺させられるし、ログを残さないためにも絶対やれ。」)

 

「……行員さん、至急エントランスに人を集めてちょうだい!」

 

「は、はい?どうして……?」

 

「銃撃音は正面玄関の方から聞こえた……いるとしたらその近辺。そこに警備員を集合させれば相手は袋の鼠よ!」

 

「わ、分かりました……!」

 

 

 


 

 

 

覆面水着団を追ってまだ立っている銀行のガードがブラックマーケット全体の治安組織、マーケットガードの兵士と合流して出て行くのを見ながら、俺は物陰で変装を解いていつも通りの一張羅に鬼面を取り出す。

 

「うまく行ったようで何より……さて、ここまで来て何もしないのも、流石にアレだよな?」

 

もぬけの殻となった銀行の入り口へと向かいながら、俺は咥えていた飴を噛み砕く。

 

「あー……やっぱこの声が落ち着くわ。」

 

鬼面を装着して行内に踏み入る。

 

こちらに気付いたロボ頭の行員が驚愕の表情を浮かべたのに対し、俺は全力の笑顔で応えた。

 

「ほら、資金源(賞金首)が来てやったぞ……笑えよ。」

 

へたり込んだ行員は放置し、俺は散らばっていた書類をかき集めて斜め読みしてみる。

 

「うっわ……お前ら、本当にいろいろな犯罪に加担してるんだな。正直、俺もここまでとは思わなかった。コピー機は?」

 

ここで行員を立ち上がらせ、手元の書類をコピーするために案内をさせる。作業を終えた上で俺は行員へ、お礼の言葉を述べてみせた。

 

「ご協力感謝する。」

 

「お、俺をど、どうするつもりなんだ……!どうせここみたいに切り刻むんだろ?」

 

「いや?司法に委ねるだけだが……。」

 

「嘘だ……俺は知ってるんだ!お前が入った建物は、遅かれ早かれ例外なく崩壊してる!どうせここもそんなふうに壊すつもりなんだろ!」

 

なんか聞いたことある感じの噂だが、俺はそれには触れずに返す。

 

「だーかーらー、それは偶然だよ。いや、ある意味必然か。誇大広告だけど……俺の部下だよ、多分それ。」

 

「な……。」

 

「俺の手をわずらわせるような企業はなくなるべきなんだとさ。そういうことだから……俺を恨むのは違うんじゃねーか?」

 

「……。」

 

どうやら気絶してしまったらしい。

 

拘束で強く握りすぎたせいだろうか。とはいえ用事も終わったのでコイツに用はない。

 

その辺に放り捨てて帰ろうとした矢先に、俺はもう一枚の書類を見つけた。

 

「アイツも大変だねぇ……もうちょい場所は選んでほしいんだが。」

 

 

 


 

 

 

「どうしよ……黙って逃げた手前、何もなしで戻れるわけないよなぁ……。」

 

冷静になった上で後輩たちに謝ろうとアビドスの前に来たはいいものの、そこでぴたりと足が止まってしまう。

 

「いや……でもあんなの見られたら、もう怖がられるだけだろうし……。」

 

やっぱり偶然を装って遭遇して謝ろう。

 

そう思って踵を返すと、目の前にはピンクの髪が見えた。

 

「……うへ?」

 

「それはおじさんのセリフかなー、家出少年くん?」

 

逃げようと動き出すも時すでに遅し、ホシノに腕を掴まれて逃げられなくなった俺は後からついてきた後輩たちに囲まれる。

 

「カルマ先輩、いつ戻ってきたのよ!?心配したんだからね!」

 

「まあまあ〜、セリカちゃんの気持ちも分かりますけど、カルマ先輩も大変だったんですから♣」

 

「うん、先輩もいろいろあるんだって、分からなかったけど……。」

 

「か、カルマ先輩!?お、お久しぶりです……。」

 

もみくちゃにされながらも、思わず泣きそうになる。

 

こんなに近くに来て、純粋な心配の言葉を投げかけてくれることに。

 

今まで生きてきて、誰かに頼られることも慕われることもあった。だけど、あの状態の俺を見た上で俺を受け入れ、ひいては心配してくれる人間なんて初めてだったのだ。

 

なんとか意地で泣かずに耐え、俺は全員に謝罪する。

 

「本当に、すまなかった……!自分勝手な理由で、逃げ出して……!」

 

「ううん、大丈夫。銀行をおそ……調査の時にいてくれれば、頼もしかったけど……。」

 

「シロコちゃん、それはちょっと……カルマ先輩、こうして戻ってきてくれたので、全然大丈夫ですよ☆」

 

「べ、別にいなくても問題はなかったけど……何かあったら寝覚めが悪いから、無事でいたならそれでいいわ!」

 

「セリカちゃんが素直じゃなくてごめんねー。でもまあ、こうして戻ってきたんだし、結果オーライかな?」

 

それから先のことは覚えていないし、見えてもいない。

 

目の前にいるはずの後輩たちの顔さえ見えないくらいに何かが視界を遮って、何を言ったのかよりも先に聞こえる荒い息と嗚咽で塗り潰されたせいだ。

 

 

 


 

 

 

「ちょっと、どういうことよ!急に融資ができなくなったって!」

 

「仕方ないだろ!アイツが来たんだ、融資どころかこの銀行はもう終わりだよ!」

 

「何よ、アイツって!?」

 

「アンタも知らないわけがないだろ!第1、しかも七郷カルマだぞ!?アイツがここに来たってことは、近いうちにここも潰される……!」

 

「へえ、室長のこと結構知ってるんですね……クズの分際で。」

 

「こんにちは、癌細胞さん……あ、アルちゃんもいたんだ!久しぶりー!」

 

「……随分とお早いのね。」

 

「うん。あ、アルちゃんは早く逃げてね?今回アルちゃんは……このクズたちに騙されかけてたってこと、室長から聞いてるから。」

 

「ゲヘナの風紀委員に止められた口座も、また使えるようにしたから大丈夫だって!あと、今度差し入れを持っていくって言ってたよ!」

 

「……。」

 

「羨ましいなー、アルちゃんは妹弟子として可愛いから許すけど……。」

 

「多分、そうじゃなかったら殺してるくらいには羨ましいよね……。」

 

「愚痴を言いたいなら今度、無償で依頼を請け負うから後にしてくれないかしら?あなたたちの仕事は、それじゃないでしょう。」

 

「あ、そうだった!……焼却処理でいいんだよね?」

 

「いっそのこと、あれやってみない?建物ごと溶かすってあれ。」

 

「いいかも!それなら……周りも無事じゃすまないしね。」

 

「この際、ブラックマーケット全部潰す?私たち二人がガチれば、多分イケると思うけど。」

 

「やめといた方がいいんじゃない?普通なら室長がとっくにやってる作業だし、何か理由があるのかも。」

 

「あーね。だったらやめとこっか……溶かすにしても持ち合わせないし、今回は焼くだけにしてあげよっか!」

 

「オッケー!アルちゃん、ここはもうすぐ火事にするから早く逃げるよ!」

 

(……もしかして私の姉弟子、ヤバすぎ〜〜〜〜〜!?)

 

 

 


 

 

 

「失礼しまーす……。」

 

夜になる手前の教室に入る。

 

「待ってたよ、カルマ。」

 

既にいた先生が挨拶を返してきて、俺に向かい合う席を勧める。

 

断る理由もないので俺はその通りにして、先生を真正面から見据えることとなった。

 

「なんか、すいませんね。やるだけやって逃げるとか、部長として以前に人としてアウトで

しょ?分かってますよ、これは流石に許されないこと。自分でもこれはダメだな、悪いことをしたなって自覚はありますし……。」

 

「カルマに反省の気持ちがあるのは、十分に伝わってるよ。今回呼んだのは、別に聞きたいことがあったからなんだ。」

 

これは意外や意外。

 

先生から俺に聞きたいことなんて珍しい。俺の方には気になることが溢れんばかりにありながら聞けていないというのに。

 

「カルマの機嫌を損ねてしまうかもしれないけど……。」

 

「まあ、あんだけ暴れたから多少はスッキリしてますし……多分大丈夫だと思いますよ?」

 

「本当?なら……

 

カルマの過去について、聞かせてほしいんだ。




「Violet Archive」の注意事項
・実は七郷カルマは銃剣なら接射でのみ銃を撃てる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09 二者面談

逃げたカルマへの反応
・小鳥遊ホシノ
人づてに聞いただけだけど、よく折れないよね……。なんで逃げるだけに収まって、しかも帰ってきて私たちに逃げたこと謝れるの……?おかしいよ……。
・十六夜ノノミ
何がったかを深掘りするのもダメそうですね……しばらく様子を見たほうがいいんでしょうか……?
・砂狼シロコ
先輩、あんなに感情的になることがあったんだ……うん、やっぱりカルマ先輩も人間なんだよね。
・黒見セリカ
今回はちゃんと戻ってきたし、先輩って実は逃げてるつもりなだけなんじゃ……?
・奥空アヤネ
現場にはいなかったので何とも言えませんが、すごく悲痛な声で、戦ってる時も凄い叫び声で……なんだか、胸が締め付けられるみたいでした。
・阿慈谷ヒフミ
カルマ先輩が逃げるって、どんな化け物が攻めてきたんですか……?


「……マジで言ってます?」

 

「本気じゃなきゃ聞けないよ、こんなこと。」

 

「まあ、そうでしょうけど……。」

 

正直に言えば、誰にも話したくない。

 

なんなら自分の記憶さえ消し去りたいほどに凄惨な光景を話せと言われているのだ、気分を害するレベルの話ではない。

 

「……過去のことです。先生が何者だろうが、変えられやしないのに聞くんですか?」

 

「それを体験したカルマは、今ここにいるでしょう?過去は私にもどうにもできない……でも今を生きてるカルマの力にはなれる。まあ、私がどれだけ役に立てるかは分からないけど……。」

 

先生の瞳に邪念は感じ取れない。

 

「……なら、話しますよ。俺は片親で、その母親も生まれてすぐに自殺してます。」

 

「……。」

 

「左腕に包丁を、まっすぐに突き立てて。刺した場所が場所で、すぐには死ねなかったみたいですよ?少なくとも……フローリングの床を血の池にして、赤子だった俺を抱きながら事切れられるくらいには、死ななかったみたいです。」

 

「……なんで、そんなに詳しく?」

 

「覚えてるからですよ。おつむが優れてたんでしょう、親に感謝ですね……俺を置いて死にましたけど。」

 

いい加減あの時の泣き顔とステンドグラスのようだったハート型のヘイローが砕け散るさまを思い出したくもなかったので、さっさと次の話題へ切り替える。

 

「まあ頭はご立派でも体は赤子、そのまま誰にも気づかれなきゃ死んでたでしょうね。その方が楽だったとも言えますけど……。

 当時はアパートに住んでたんで、近隣住民がすぐに気づいて保護されました。

 それにしても事故物件って、本当に安くなるんですね。ありがたく有効活用させてもらってますよ。」

 

どうでもいい小ネタを挟んで重苦しい雰囲気を中和しつつ、俺は話を続ける。

 

先生は最初の質問以外は口を挟まないことから見るに、今は聞くことに専念しているのだろうか。

 

カウンセリングの基本は話を遮らない、意見を言わないというのはよく聞くが、先生もそれを知ってのことだろうか……まあいい。どうせ狂ってるのは自覚済みだ、とことん曝け出してみせようじゃないか。

 

「そんで保護された俺は、普通なら孤児院だとか、そういう施設へ向かうんでしょうし、俺も数日はお世話になったんですが……俺の場合、キヴォトスで唯一ヘイローを持った男ですし、物好きたちにとっては最高の材料だったんでしょうね……売られましたよ、文字通り。」

 

どれだけの買い値がついたのかは知らないし知りたくもないが、積まれていたいくつかのジュラルミンケースからしてアビドスの借金に並びうる額だろう。

 

つくづく俺の人生は、俺のものも俺以外のものも不平等であることを痛感させられる。

 

「まあ、この場合買い手が研究機関だっただけまだマシでしょうね。嫌ですよ、その手の店で働かされるなんて……冗談はこれくらいにしましょう。

 とにかく、俺は実験動物として、ガラスケースの中で見世物にされてましたよ。

 当然教育なんざ受けてないんで、言動もマジで猿でしたし。」

 

注射も当然嫌だった。今でも嫌だが。

 

「まあ、第2の転機、とでも言うんですかね?

 またしても死に損ねただけって見方もできますけど、ある程度体が成長してきて、いよいよ本格的に実験をスタートする……

 そんな矢先に事故が起きました。」

 

「事故……。」

 

「俺に何かしらを落とし込む……

 研究者たちの会話は音だけは覚えてたんで言葉を覚えてから理解したんですけど、そんな実験だったそうです。

 結果は失敗……大勢の研究員が死んでました。学はなくても死んでるのって分かるもんなんですね。見たことあるからかもしれませんけど。」

 

第2の転機について語り終え、俺は更に話を先に進める。

 

「まあ、そんな場所にいてもロクなことにはなりませんし、その場から逃げた俺が辿り着いたのは、なんとブラックマーケット。

 勿論ガキの俺が歴戦の犯罪者どもに敵うはずもなく……

 といくのが普通なんでしょうが、マジでどうなってんでしょうね、ワンパンでしたよ。」

 

本気で驚いた。

 

一切の誇張なく温室育ちのヒョロガリだった俺が華奢とはいえ体格的に遥かに有利なチンピラに圧勝するとは思わなかったから。

 

「そうなりゃ話題になるのは当然で、あっという間に俺はブラックマーケットの王に祭り上げられました。

 なんでも欲しい物が手に入ったんで、最初のうちは食べ物ばっかり持ってこさせてましたね。」

 

忌まわしい過去と言っておきながら、あまりに図々しいとは自分でも思う。

 

だがそれ以上に初めて見た固形の食べ物や水じゃない液体は魅力的だったのだ。

 

「でもまあ、ガキの腹じゃ食える量にも限界があるんで、すぐに色んなものを欲しがりました。

 そんなこんなを繰り返している内に、俺も段々と言葉を覚えてきて、ある時本をリクエストしたんですよ。」

 

あの時の自分を殴ってでも止めたいと言うべきか、そもそも過去に行けるなら自分を殺したいと言うべきか迷ったが、どちらにも決めきれないしどの道いい反応は得られそうになかったのでひとまず置く。

 

「ショックでしたね。初めて呼んだ本はありふれたハッピーエンドの絵本でしたけど、こんな世界があるのか、なんて驚きもしました。

 最初は憧れでひたすら喜劇、コメディ、勧善懲悪ものばっかり読みふけって……

 見事に嫉妬に変わりましたよ。

 何でこんな世界があるなら、俺はそこにいられないんだって。」

 

眩しい、その一言に尽きるのだろう。

 

俺にとってそれは楽園であり、自らが地獄にいることを示す残酷な看板でもあった。

 

「すぐさま読む本は変わりましたね。

 とびっきりの悲劇を、とびっきりの惨劇を、とびっきりの混沌を、自分を上回れるような悲惨さを求めて……

 それでも、悲劇さえ俺を惨めにするだけだった。」

 

実体験という補正を込みにしても、俺を超える境遇の人物なんてそうそう見つからなかったし、そんな彼ら彼女らにも救いはあった。

 

「アホみたいに本を読んでたら、嫌でも知識がついてきてようやく分かったんですよ。俺を祭り上げる連中も俺のことなんか見ていない……

 ただ強いやつをトップに立てておけば、周りに有利な交渉ができる。

 それだけの理由で俺は王にされ、何の実権も与えられてはいなかった。

 与えられたのはご機嫌取りのガラクタと、外からの溢れんばかりの敵意だけでした。」

 

だから各地のブラックマーケットの手配書に、俺だけは『生死問わず』の一文が追加されているのだ。

 

何もしていないのに矢面に立たされ、俺は全ての敵となっていた。

 

「まあ、ここまで来れば流石に逃げも板についてきますよ。

 研究員の親族やら生き残りやらが必死で追いすがってくるのを撒いたのも、100や200じゃ足りませんし……

 俺が逃げたブラックマーケットは、その日の内に住人ごと更地になりましたよ。

 これが第3の転機、死に損ないポイント3ですね。」

 

次行きますよ、と一応断りを入れておく。

 

先生はまだ、ひたすらに聞いているだけだ。

 

「絶望編はもうすぐ終わるんで、まあ気楽に構えててくださいよ。

 とにかく、例によって逃げ出した俺はキヴォトスで一般人にも銃を向けられる忌み子鬼の子としてブイブイ言わせてたわけですが……まあ、お察しの通り逃避に次ぐ逃避、キヴォトスからの脱出ですね。

 文字通りの密航ですよ。俺が乗ってるって知られた瞬間沈みますもん、その船。」

 

実際、密航も両手で数え切れないくらいには失敗している。

 

浅瀬で被害が殆どなかったのが幸いした。

 

俺からすれば死ねもしないので不幸いだったが。

 

「そんなこんなでキヴォトスの外へ。行ってみた感想としては……普通、ですかね?

 喜劇でも、悲劇でもない、ぬるま湯みたいな場所。そんなイメージです。

 まあ、後で勉強したら流れ着いたのが日本だったからでしょうけど。

 まあ、そんなぬるま湯が心地いいのは事実でしたけど、ここでも俺は異物。

 当然馴染めるわけがなく、すぐさま帰ることになってしまいました。あーあ……

 そこからはまあ、当時11歳だったんで必死で存在を隠しながら生きて、高校デビューに成功して、今みたいにキヴォトス最強としてクソみたいな世界を生きてるわけですよ。」

 

 

 


 

 

 

大幅に最後を端折って過去を語り終え、俺は先生に問いかける。

 

「どうでしたか?先生の反応次第では自伝を書くのもありかなーって思ったんですけど。」

 

「……カルマは、どうしてそんなに平気でいられるの?」

 

「……平気じゃないからああなったんでしょ。」

 

彼自身に悪意なぞ欠片も抱いていないのに、驚くほどに冷めた声が出る。

 

「クソみたいな人生でしょ?イカれた生き方してるでしょ?逃げてばっかでみっともないでしょ?好きに言ってくれて構いませんよ……大体、俺も思ってることでしょうし。」

 

「……カルマ。」

 

「正直、同情されるのも鬱陶しいんですよ。心配してくれるのは嬉しいですけど、知った気になられても困ります。」

 

こんな地獄、実際に見て聞いて触れて嗅いで舐め尽くさなければ到底理解はできないし、させる気もない。

 

「……こんな生き方してるから化け物呼びでブチギレるし、あんな野蛮な戦い方しかしないんですよ。実は伏線だった、これはびっくりですねぇ!ハハハ!」

 

そもそもほとんどあの時に口走ったようなものだし、伏線でもなんでもないのだが……

 

それでもバカみたいに笑い狂った後で、俺は先生に顔をずいと近づける。

 

「それで先生……どうやって力になるおつもりで?」

 

言いたいことを言い終えて、俺は席を立って教室を出ようとする。

 

「……待って、カルマ!」

 

「……何ですか?」

 

「正直、どうすればいいのかはまだ分からない……カルマが話してくれたことが、私には馴染みがなさすぎて、頭がこんがらがってる……それでも。」

 

先生も立ち上がって、俺に告げる。

 

「私はカルマに会えたことも、こうやって話を聞けたことも、いいことだって思えてる。それと……本当に逃げてるなら、そんなふうに詳細に語ることなんてできないと、私は思う。」

 

「……さいですか。」

 

「だから……これだけは覚えておいて。私は絶対に、カルマの味方だから!」

 

「ありがとうございます。それじゃあ、また明日。」

 

教室のドアを閉め、俺はすぐさま出口とは反対側で隣接した教室へ入る。

 

「二者面談の盗み聞きって、マジでやるやつがいるんだな……ホシノ、それとセリカ。」

 

 

 


 

 

 

「……気付いてたんだ?」

 

「伊達に最強やってねーっつーの。先生の手前かつ個人情報を含むからああは言ったけど、別に聞かれれば答えるくらいのことだしな。怒っちゃいない。」

 

適当に笑ってみせる。まあ向こうがどう思っていようが関係ない。

 

「一応、先生にも言ったけど同情はNGな……。」

 

「できるわけないでしょ!だって……だって……こんなの……現実味も何もありゃしないじゃない!」

 

セリカの叫び声で言葉がかき消される。

 

前々から思っていたが、彼女は絶対にいいカウンセラーにはなれないだろう。

 

「カルマ先輩……嘘よね……?先輩が考えた、物語か何かでしょ……?そうだって言ってよ……!」

 

「……リアリティがないって言われてもな。れっきとしたリアルだから、俺にはもうどうにもできねーよ。」

 

「セリカちゃんには、ちょっと、刺激が強すぎたみたいだねー……正直、過酷すぎやしないかとは私も思ったけど。」

 

「ああ、マジで出来すぎなほどに俺に対して災難ばっか降ってくる……正直、朝起きるのも夜寝るのもだるくてしょうがねぇ。」

 

より厳密に言えば生きること、だが。

 

「まあ、ちょっとハードだったかもしれないけど、盗み聞きした罰としてはちょうどいいんじゃないか?別に怒ってないけど、思うところがないわけじゃないし。」

 

「そうだねー、セリカちゃん、立てる?カルマにちゃんと、ごめんなさいしよっか?」

 

「ごめんなさい……私、先輩にあったことを甘く見てた……。」

 

「言ってねーから仕方ない。これから気をつけてくれればいいさ。そんじゃ……俺は帰る。」

 

二人に背を向けて、アビドスを出る。

 

「本当に、嫌な人生だよ……。」

 

いつにもまして吐き気と頭痛が止まらない。

 

最悪クラスのコンディションを無理やり内側に閉じ込めながら俺は街を彷徨い歩いた。

 

散在するカタカタヘルメット団の残党を一刀のもとに斬り伏せながら市街地を進んでいく。

 

ひたすら無秩序に散らばったやつらに目もくれず、俺はさらなる壊せる的を探す。

 

斬り捨てる。

 

また彷徨う。

 

斬り捨てる。

 

また彷徨う。

 

そんな作業を朝まで続ける。

 

「やっぱり、この世界はクソだ。」

 

ひたすらに心を殺して障害物をのけて行く。

 

「そんで俺はもっとクソだ。」

 

どこかに行って消えられることを願って、今日も俺は惨劇を起こす。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは同情を嫌う。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10 化かし合い

カルマのプライベート
・ミレニアムサイエンススクール演劇部
連邦生徒会に属しながらミレニアムサイエンススクールに通い続けるカルマが入っている部活。技術のゴリ押しで有名な部活だったが、現部長とカルマが時代を作った。カルマは副部長。
・七郷カルマの箱庭遊び
カルマが動画投稿サイトで開いているチャンネル。特撮趣味全開で雑談配信や特撮アイテムの解説動画が主流。乱入が多い。
・カンターレス
カルマと演劇部部長、セカイとフミで結成した歌い手グループ。メンバー全員、楽器の演奏を猛勉強中。


[……というわけで、彼女たちを連れて来ていただきたいのですが。]

 

「いやちょっと待てや。」

 

通信で一方的な要求をしてきた青髪の横乳……天雨(あまう)アコに物申す。

 

何故こうなったのかというと……

 

 

 


 

 

 

面談の後、夜の間に狩り尽くした戦果を憂さ晴らしに近くの電波塔に吊るしてから俺はアビドスへと向かった。

 

今日は自由登校だったので対策委員会の会議室にはノノミとホシノ、そして先生しかいなかったが特に何をするでもなくまったりとしていた。

 

そんな最中に知り合いから連絡が来る。

 

[おひさしぶr]

 

「間違い電話か……ん?」

 

[いくらなんでもいきなり切るなんt]

 

[やっぱ間違いだな……はあ……。」

 

[いいかg]

 

[これでよし……お?」

 

[毎回毎回勝手に切って!あなたに邪険にされなきゃならない覚えなんてないんですが!?]

 

「そういうとこだと思うぞ。あとこれに出たのも繰り返しのギャグは3回までだからだ。今後二度とかけてくんなよ?」

 

キレてるやつにはキレ芸で返す、最近のマイブームは功を奏したようで、電話をかけてきたアコは語気を弱めて会話を続ける。

 

[私だってかけたくてかけてるんじゃありません!アビドスに風紀委員の一隊が取り残されてなければ、そもそも連絡する必要もありませんからね!]

 

弱まってもこれって酷くね?

 

更年期?

 

「なんだよ、ゲヘナの風紀委員は家への帰り道も分からないのか?3大校が聞いて呆れるぜ。」

 

[遠方の学園との合同演習の帰りに、車両が襲撃されて取り残されただけです!あなたはともかく、あなたの部下よりも断然優秀ですから!]

 

「じゃあまとめて引き抜くか。」

 

[あなたなんかについていく人なんていませんょ。とにかく……。」

 

そして、冒頭のセリフへ戻る。

 

 

 


 

 

 

「おかしいだろ、そもそもの理論が。」

 

[ゲヘナとアビドス、両方の地理を把握している人材が、そちらにはあなた以外にいますか?至極妥当な判断だと思いますが。]

 

それ以前だ。

 

案内する義理はないし、そんな物言いをしておいてこの頼み方とか虫が良すぎるし、そもそもナビ……は死んでいた。

 

「……何か、忘れてるんじゃないのかね?」

 

[……何を?]

 

「俺の協力が欲しいんだろ?なら、それなりの態度ってもんがある。」

 

[はあ……。]

 

「小学生でも知ってるよ。人にものを頼む時の大事な……大事な七文字だ。」

 

指折りで数を数えてヒントを示し、アコの反応を待つ。

 

[……?]

 

「君、小学生以下か?」

 

[はあ!?誰が小学生以下ですか!そんな煽りかましてくる相手に、言うべきことなんかありませんね!]

 

どうやらマジで言う気がないらしい。

 

俺は少しドスを効かせた声で、通話口の向こうの彼女に怒鳴る。

 

なんともまあ勝手なものだ、先に喧嘩をふっかけてきたのは……俺だわ。

 

でも物を頼む立場ならこれくらい言えってんだ。

 

「お!ね!が!い!し!ま!thだろ!」

 

……お願いします。

 

「あ、聞こえない。」

 

おーねーがーいーしーまーす……!……協力して頂けませんか?」

 

想像以上に大声で結構びっくりした。

 

 

 


 

 

 

そんなこんなで俺は今、全員が盾にショットガンとかいうゴリゴリの近接戦を想定した部隊をキャリーしている最中だった。

 

「しっかし、お前らも大変だな……こんな辺鄙なところに取り残されて、赤の他人の俺なんかに先導されてよ。」

 

「いや、正直ゲヘナの不良たちを処理するよりはこっちの方がマシといいますか……。」

 

「Oh……。」

 

想像以上に疲れ切った表情を浮かべる風紀委員の諸君に俺は困惑の表情を浮かべずにはいられない。

 

ゲヘナは大規模ではあるが治安がダントツで終わっていて、唯一の治安維持組織である風紀委員会も委員長である空崎(そらさき)ヒナの戦力が巨大すぎるせいで、キヴォトスNo.2の強さを争う組織と謳われながらもヒナ以外は舐め腐られているというつくづく報われない集団である。

 

まあ、キヴォトスの大規模な治安維持組織は大体そんなもんだが……

 

ヒフミの属するトリニティ総合学園の治安維持組織、『正義実現委員会』は例外でこそあるものの、それ以外は知らん。あとNo.1に関しては察しろ。

 

ブラックマーケットが騒がしかったから見に行ってみれば、うちの部下が3人でカスタムした突撃車で闇銀行をぶち抜いてその上に放火をかましていたことを話せば、大体の人は納得するだろう。

 

なんなんあの二人……。

 

「それに、こうしてあの有名な七郷カルマさんとこうしてお話できたんで……。」

 

「え?俺悪評しか聞いたことないんだけど……。」

 

「カルマさん、私たち風紀委員みたいなところと、あまり連携しませんもんね……それでも私たちみたいな治安維持組織では、カルマさんって憧れの的なんですよ?」

 

そうだったのかと割とマジで驚く。

 

そういえば俺が知り合いじゃないやつで会話交わすの、治安を乱す連中ばっかりだな……

 

そりゃ嫌われるし、悪評しか出ないだろう。

 

「強くて、イケメンで、色んな人に配慮できて、ちょっと悪ぶるところも可愛らしくて……。」

 

「いや別に悪ぶってはいねぇよ!?」

 

「いや、ミレニアムから出てる雑誌『カルマ学会』では『七郷カルマは自らを偽悪的に言い表す癖がある』って、パイオニアの論文が出てますし……。」

 

「なんでミレニアムは俺の論文を書いてるんだよ!?俺は研究対象か何かか!?」

 

言ってすぐにそんな過去もあったと思い出す。

 

しかしそれは置いておいて、俺はアビドスにいる間にそこそこ増えてきた殴りたい相手をカウントしながら続きに耳を傾けた。

 

「学園の枠を超えてファンクラブもできてますよ?不可侵条約より効果がありそうで正直ドン引きですが……。」

 

「なんで!?確かに顔はいいよ?それにいろいろと活動してるけどさぁ!」

 

「それとこれはオフレコで頼みたいんですけど、風紀委員内ではカルヒナ本やカルアコ本なんかが流通してます。」

 

「自分をネタにされた生モノの話なんざ他人にできるか!というか、カルアコとかどこ需要だよ!?」

 

はっきり言おう、アイツは嫌いだ。

 

話は聞かない、意見は無理やり通す、文句をこっちにつける……

 

おまけになんだ、あのはみ出た横乳。アキバでも見たことねーぞそんな格好。

 

正直、エロい目で見たことはあっても好意的に見たことは一度もないと言い切れる。

 

「カルマさん、世間にはケンカップルという概念がありまして……。」

 

「需要について細かく解説しなくていい!というかカルヒナも謎だよ!事務関係の話しかしてねーぞ?」

 

「え?カルマさん知らないんですか?委員長、カルマさんが視察に来る日は爆速で書類仕事を終わらせてますよ?」

 

「……あー、多分それ働きすぎだろって注意したからバレないようにしてるだけだと思うぞ。」

 

「そんなだからヒナカル分からせが上位に来るんですよ。」

 

「新たなジャンル!?」

 

あまりにも理不尽かつ意味不明な罵倒に困惑しながらも歩む足は止めない。

 

ここで気になったのでメンツを確認……18人!?

 

 

Back to the history,remember I was born.

 

Back to the history,remember I was born.

 

Back to the history,remember I was born.

 

Back to the history,remember I was born.

 

イェーイ……

 

イェーイ……

 

イェーイ……

 

イェーイ……

 

 

危ない危ない、JASRACに殴られるところだった。

 

「……いや、まあそこら辺は置いといて……お前ら、本当に迷った、っつーか、取り残されたのか?」

 

「……どうしてそう思うんです?」

 

「お前ら、この前俺と戦った俺用の対策部隊だろ。」

 

風紀委員というかアコがぶつけてきた。

 

盾で受け止めてゼロ距離ショットガンで倒す。盾をこちらに向けて縦長の陣形を組んできた時はすわスパルタ軍かと身構えもしたが、実際にはショットガンが効かなかったので盾ごと斬り倒した。

 

「……はい。」

 

「んで、他校との合同演習も嘘、本来の目的は元々この近辺……より詳しく言えばゲヘナ所属の便利屋68の確保。違うか?」

 

「そうですよ。いやー……やっぱ分かっちゃいます?」

 

「荒事だけが俺の仕事じゃないのも知ってるだろ?」

 

「ええ、ファンなので。すみませんね、仕事な手前、ある程度は時間稼いだって事実が欲しかったんです。それでも、カルマさんを推す気持ちに嘘はない、それは信じてほしいですね。」

 

戦闘の少女が武装を放り出し、後方の仲間もそれに倣う。

 

「化かし合いは私たちの負けみたいです……もうここを抜ければ問題が起きた市街地、違いますか?」

 

「その通り。んでさ……お前ら、普通に帰れる?」

 

「まあ、はい。」

 

「じゃあ行ってよし。面白い話が聞けたから邪魔しないなら不問にするし、アコになんか言われてもどうにかしてやるよ。」

 

「……マジですか?ありがとうございます!」

 

彼女たちは即帰宅した。

 

 

 


 

 

 

「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについては私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する。」

 

現場に辿り着くも時すでに遅し、風紀委員による襲撃は終わり、知らない内に行われていた襲撃の謝罪をヒナが行っていた。

 

「今後、ゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することはないと約束する。どうか……。」

 

「ストップ。それを言うべきは別のやつなんじゃねーのか?」

 

謝罪を途中でぶった切り、颯爽と登場する。

 

「これ考えたのがお前だったら、もっとうまくやるだろうしお前自身が足止めに来るだろ……アコが馬鹿やったんじゃねーの?」

 

「ええ。でも私の部下である以上、私が謝罪しないと筋が……。」

 

「それに関しちゃ文句はねーよ。文句があんのは通信まで切ってだんまり決め込んでるバカにだ。」

 

「ああ、そういうこと……さっき謹慎させたけど、もう一回出るように言う。それでいい?」

 

問題ない。それさえやってくれればこっちもやりたいようにできる。

 

[……何の用ですか。]

 

「開口一番に言うことがそれか……なあヒナ。」

 

「何、カルマ?」

 

「今度ゲヘナにお邪魔するわ。」

 

「……ええ。なるべく安全な状態で迎えられるようにしておく。」

 

[ちょっと!どうして私を差し置いて委員長と……!]

 

「あのさあ……俺がなんでヒナにここまでさせたか分かってる?」

 

周囲の人間が一瞬騒がしくしたのを聞きながら、俺はアコに言葉を投げかける。

 

「お前のことが死ぬほど嫌いだ。それでもお前の依頼を受けたのは何の罪もない後輩を見殺しにするのが忍びなかったからだ。結局お前の罠だったけどな。」

 

[ええ。騙すのも戦略の一つでしょう?]

 

「生憎、今は連邦生徒会じゃなくてシャーレとして動いてるんでね……アビドスの味方、つまり風紀委員の敵だ。騙すのも戦略の一つ、確かにその通りだよ。でも……お前、風紀委員には便利屋が狙いって言ってたけど、シャーレが狙いなんだろ?」

 

[とっくに言ったことを今更自慢気に語られましても……で?だから何だって言うんです?]

 

悪びれる様子もない彼女に、俺はついに本題をぶつける。

 

「どの道アビドスは関係ないのに巻き込んで、謝罪の一つもなしは通らないだろ。」

 

[何を仰っているのか、さっぱり分かりませんね。そもそもこの地域は……。」

 

「お前らの自治区じゃねーのは変わらねーんだよ。そんな場所で好き放題やってるお前らは……そこらのカスどもと何も変わらねぇ。」

 

[……!]

 

彼女の行動に大義名分はあっても実際には大義の欠片もありゃしない、ただの損得勘定だ。

 

それを指摘した上で、俺は次撃を放つ。

 

「それに、間違いなくこの大勢で他の学園の自治区を通ってるよな?連邦生徒会も……そこそこの部署は黙っちゃいねーだろうよ。大変だな、アビドス以外にも謝るところが沢山あるぜ?お慕い申し上げるヒナ委員長も、日頃のそれ以上に忙殺されるだろうな。」

 

[あ、ああ……。]

 

どうやらしっかりと絶望してくれたようで何より。

 

しかしまだやってもらうべきことはやってもらってないので、俺は更に攻撃の手を強める。

 

「それじゃあ今度は、幼稚園児でも分かる大事な大事な6文字を言ってみようか?アビドスのみんなに、しっかりと聞こえるように。」

 

[……ごめんなさい。]

 

「うんうん、よく言えました!」

 

とびっきりの笑顔で褒めてあげて、俺はヒナに向き直る。

 

「まあ、とりあえず形だけは謝罪させたけど……ちょっとやりすぎたりしてなかった?」

 

「……分かってて聞いてる?それに謝罪の良し悪しは私に聞くべきじゃないっていうことは、他ならぬあなたが言っていたはずだけど。」

 

「そりゃそうだ。みんな、アコのやつもこうして謝ってるし、怒りの鞘を収めないか?」

 

反応はない。

 

肯定もないが否定もないこの状況なら、問題なしと見なしても構わないだろう。

 

「大丈夫そうだな。わざわざ手を煩わせて、本当に申し訳ない。」

 

「構わない。落ち度があったら謝るのは当然だから。でも……あそこまで執拗なカルマは初めて見たかも。」

 

「割と人によって接し方を変えるからな、俺は。」

 

それだけ言って、背を向けたヒナに手を振る。

 

「さて、俺たちも帰りましょうか?」

 

自分でも驚くほどに穏やかな気持ちで、俺はアビドスのみんなにそう呼びかけた。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは好悪の差が激しい人物である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11 砂上の楼閣に庭園はなく

カルマが関わるアプリ内のコンテンツ
・修練場
生徒を預けて自動的にレベルアップさせられる。通常任務を5ステージクリアするごとに預けられる人数が一人増加&経験値効率が上昇。
・無限回廊
だんだん強くなっていく敵を全滅するまで倒し続ける。周回数が多いほど貰える報酬が豪華になり、ガチ勢は200周1時間超の記録を叩き出したりしている。

ここ数話やりすぎた気がするので、今回は落ち着いたカルマをお見せできればと思っております。


紫の帽子を被った少女が最後のダンボール箱をトラックに積み終えたのを見計らい、先生と一緒に俺は彼女たちの前に出る。

 

「言ってくれれば手伝ったのに、寂しいなぁ……。」

 

俺の声に反応したのか、4人……便利屋68のメンバーがビクリと肩を震わせる。

 

「……まあ、あれだけ痛めつけといて何言ってんだって話だよな。」

 

「それ以前にあなたは今、アビドスの味方なんじゃないのかしら?それなのに、当面の敵である私たちに……。」

 

「依頼に失敗してトンズラしようとしてるお前らは敵じゃねーよ、二重の意味で。違うか?」

 

「……それなら、どういう了見でここに?いくらあなたが相手でも、ここまでうちの社員を痛めつけたことは見過ごせないわ。」

 

分かっている。

 

それに関して言うことがあるから俺はここに来ているのだ。

 

「要件はまさにそれだ……私情を挟んで執拗に攻撃を加えたこと、本当にすまなかった。」

 

深々とアルとその部下たちに頭を下げ、俺は謝罪の続きを述べる。

 

「大怪我を負わせたって先生から聞いて、心配だったんだ。もし何かあったらって……。」

 

「……もー、先生ったら大袈裟だなー!ちょっと怪我しただけなのに!」

 

ムツキが急に明るい声で話し出すが、その体には包帯が随所に巻かれていて、明らかに先生が言っていたことが事実だと分かる。

 

「それに、痛いのは確かだったけど結局は戦いだったわけだし、文句を言うのも謝るのも違うでしょ?」

 

「いや、だって……。」

 

「でも、そんなふうに悪いと思ってるんなら、言うことを一つ聞いてもらおっかなー?」

 

彼女がそう言うなら聞こう。それが俺にできる一番の償いだろうから。

 

「えーっとね……じゃあ、今度私たち全員に、何か美味しいものおごるってことで!」

 

「ああ……いや、そんなのでいいのか?接近禁止とか……。」

 

「地雷踏んだからって埋めた相手を責めるとか、流石にないって!でも、貰えるものは貰っておきたいし?」

 

何ともまあ強欲な理論だが、いつもそして今はさらに俺が言えたことではないだろう。

 

今回は全面的にこちらの非だ、俺はその言葉を受け入れる。

 

「気を遣ってくれてありがとう。それと、カヨコ。」

 

「私もムツキと同じ意見。特に何かしてほしいとかはないけど……変に気負われるとやりにくいから、そこはどうにかしてほしいかも。」

 

「それが望みなら喜んで……でも、もう1回だけ。本当にすまなかった。」

 

再度頭を下げる。

 

「これからは、どうするつもりなんだ?」

 

「ひとまずは、ゲヘナの自治区に戻るつもりよ。依頼に失敗した以上は、しばらく身を隠すことになりそうだけど……。」

 

「手違いでラーメン屋も爆破しちゃったしね!」

 

「……ん?あれ風紀委員じゃなかったのか?」

 

「「「……あ。」」」

 

「ハルカか?」

 

「ひ、ひぃっ!も、申し訳ありません!先走って暴走して、店を爆破しちゃって……お、お詫びとして私を爆破します!」

 

「落ち着け!先走ってとか暴走してに関しちゃ俺も人のこと言えねーんだわ!」

 

必死でハルカをなだめに入る。

 

「今回のは流石にマズいと正直思う!でも、店主さんは無事なんだよな?」

 

「は、はい……そのはずです……。」

 

「よかった……それなら、まだなんとかなるよ。」

 

「そうでしょうか……?」

 

「ああ。」

 

死人に謝罪できなかった俺が言うんだから間違いない。

 

「すぐじゃなくてもいい。しっかりとやったことを謝れば……あの人なら許してくれるさ。」

 

「はい……。」

 

ハルカが落ち着いたのを確認してから俺は先生の方を向き、先生にも頭を下げる。

 

「あんなことがあったのに、無理についてきてすみませんでした。」

 

「大丈夫だよ。カルマが謝りたいって気持ちは伝わったから。」

 

そう先生は答え、便利屋のみんなにも声をかける。

 

「また会おうね、アルも、みんなも。どうか気をつけて。」

 

「ええ、もちろんよ!先生、あなたとは事業のパートナーとして協業するのも悪くなさそうだし。」

 

「カルマ先輩が気に入る人だし、もっと詳しく知りたいかも?アビドスもいいとこだったし!」

 

「まあ……それはそうだね。」

 

「はい、本当に。」

 

……全員、先生に好印象を抱いてくれたようで何よりだ。

 

 

 


 

 

 

「……ねえ、カルマ。」

 

空き教室で天井を見上げてこちらに目を向けずに、ホシノが問いかけてくる。

 

「何だよ、藪から棒に。」

 

「おじさんが寝てるところにカルマも来るとか、何かやましいこと考えてない?」

 

「冗談はその一人称だけにしてくれ。」

 

「うへー、ちょっと冷たすぎない?」

 

遥かにマシな方だ。

 

「あの横乳への物言い、完全再現して聞かせてやろうか?」

 

「絶対嫌だ。」

 

「だよな。」

 

あの対応は正直誰でも嫌だろう。

 

だからアコにやったのだが。

 

「それで、本題なんだけどさ……カルマ、何か知ってるんじゃないの?」

 

「主語が不明瞭すぎて知ってるも知らないも言えねーよ、それじゃ……何かって何だよ、本当に。」

 

「借金というか……アビドスについてって言えば、分かりやすいかな?」

 

「いや、それに関してならお前らの方が知ってるだろ。」

 

とんでもない鎌かけを喰らって思わず面食らう。

 

普通に考えれば第三者の俺が当事者の彼女たちよりここに詳しいなんてありえないことは分かるだろうに。

 

「だよねー、変なこと聞いて……あ、シロコちゃんおはよー。」

 

ドアが開いた音でその方を見てみると、シロコが寝転がったこちらを見下ろすように入ってくる。

 

「ああ、悪いなシロコ、ちょっとゆっくりさせてもらってて……。」

 

しかしそんな俺の言葉を無視してシロコはホシノの方に足を進め、ホシノの体を無理やり起こして胸ぐらをつかむ。

 

机を巻き込んで大きな音を立てて、ホシノは少し驚いたような表情をしてからシロコに優しく、というよりはいつも通りの間の抜けた口調で尋ねる。

 

「いたた……痛いじゃーん、どうしたのシロコちゃん。」

 

「……いつまでしらを切るつもり?」

 

「いや、おいおい。シロコは一旦落ち着けって!」

 

慌てて飛び起きて二人を引き剥がすと同時に、慌てた様子で先生とノノミが入ってくる。

 

「うへー、何のことを言ってるか、おじさんにはよく分からないなー……?」

 

「……嘘つかないで。」

 

「嘘じゃないってー……ん?」

 

ここで二人も少し遅れて先生たちに気づいたようで、それぞれが先生の方を向く。

 

「……どうしたの?」

 

「いったい、何があったんですか……?」

 

「俺もそれが聞きたいですよ。急に入ってきてこうなって……。」

 

マジで何があったのか理解が追いつかない。

 

分かることといえばシロコがホシノに対して何やら思うところがあるくらいだ。

 

「ホシノ先輩に、用事があるの……悪いけど、二人きりにして。」

 

「うーん、それはダメです☆」

 

「ダメだろ、それは。」

 

ノノミと同時に口にしてしまい、一瞬互いの顔を見合わせてしまったが、すぐに本題へと戻る。

 

「対策委員会に『二人だけの秘密♡』みたいなものは許されません。何といっても、運命共同体ですから。」

 

「……流石に暴力スレスレのこれが起きて、二人っきりにする訳にはいかないだろ。」

 

だから俺はアルたちへの謝罪に先生を連れて行ったわけだし。

 

「いやいや、大したことじゃないってー。たぶんおじさんがこっそり昼寝してるのがバレたからだよ。カルマの煽り癖と同じくらい怠け癖は元からだけど、ここ最近はちょっと酷かったかもねー、反省だよー。」

 

「おい、なんで今ちょっと刺した?」

 

「細かいことはいいでしょ。そろそろ集まる時間だし、行こっかー。」

 

「……ん……。」

 

何やら釈然としない顔でシロコもホシノの後を追って部屋を出ていく。

 

それを見ていたノノミも浮かない顔をしていたからか、先生はノノミに声をかける。

 

「ノノミ、大丈夫?」

 

「はい、私は大丈夫です。……何か、言いたくないことがあるみたいですね。」

 

「話さなきゃならないことならホシノもシロコもちゃんと言うだろうし、変に心配する必要はないんじゃねーの?」

 

「はい……確かに、カルマ先輩の言うとおりですよね。私たちも行きましょうか。」

 

 

 


 

 

 

「……。」

 

まさか、本当にアビドスの面々よりも俺の方が知っていることがあろうとは。

 

どうやらアビドスの現状についての調査をしてきたらしいセリカとアヤネは、帰ってきてアビドスの自治区の殆どが既に借金の大元のカイザーコーポレーションに売り払われていることを報告した。

 

それに対して全員が驚きの表情を浮かべるのを見て、俺はつい口に出してしまったのだ。

 

「え?お前ら知らなかったのか?」

 

そして今に至る。

 

「そもそも、何でカルマ先輩は知ってるのよ!?」

 

「視察前の下調べは基本だ。自治区だって例外じゃない。」

 

「もしかして、視察はもう終わってるって言ったのも……。」

 

「マジ。調べたんなら分かると思うけど、もうこの学校のWi-Fiが届くところくらいまでしか自治区は残ってない。そんなだから、学校を回れば視察は終わりみたいなもんだったしな。」

 

てっきり分かっているものだと思って言わなかったことだが、こうなるなら言っておいた方がよかったかもしれない。

 

言ったところでどうなるという話だが。

 

「でも、どうして昔の生徒会は土地を……。」

 

「おかしな話じゃないさ。キヴォトスの外でも昔、領地を質屋に入れて当面の生活費を得てた人が多くいたらしいからな。」

 

鎌倉時代を引き合いに出すのもどうかと思うが治安に関しちゃどっこいどっこいなので別にいいだろう。

 

「まあ、絞りかすみたいなこの土地じゃ大した値段にゃならなかったろうが……だからこうなるまで売り払っちまったんだろうって、用意に想像がつくし。」

 

「まあ、大方そんな感じだろうねー。やっぱカルマは物知りで、おじさんの憧れだよー。」

 

「人生経験が違えば知ってるもんも違うだろ。それが分かったところで結局どうしようにも……。」

 

視線を動かすと、先生が手を上げている。

 

「そういえば、ヒナから聞いた話なんだけど……。」

 

「ゲヘナの風紀委員長から……?」

 

「カイザーが、アビドス砂漠で何かを企んでいるって……。」

 

飛び出てきた新情報を噛み砕く。

 

大半を買い取られたアビドスの自治区。

 

そして何かを企んでいるというカイザーコーポレーション。

 

明らかに法で認められた範囲を超えた利子。

 

これをまとめて推理すれば、ある仮説が成り立つ。

 

「カイザーはアビドスの土地……いや、そこにある『何か』を目当てに、法外な利息をふっかけた……?」

 

「ああもう、そんな難しいことを考えるより、先にやることがあるでしょ!」

 

セリカは推理を放棄したようで大きく声を貼る。

 

「実際に行けばいいじゃん!何が何だか分からないけど、この目で直接確かめた方が早いって!」

 

セリカの言葉が切れると同時に、その場が静寂に包まれる。

 

「な、何よこの雰囲気!私何かおかしい事言った!?」

 

「ううん、むしろ立派に育ってくれたなーって、おじさん嬉しくなっちゃって。」

 

「……ん、セリカの言う通り、見に行った方が早い。」

 

「ええ、ですが……砂漠と言っても広いですし、カイザーがどこにいるのか……。」

 

「それに関しては俺が調べる。情報系にはとことん強いダチもいるしな。」

 

アヤネの不安には俺が対処することにして、俺は先生へ話を振る。

 

「先生、ここは一発、景気よくお願いします。」

 

「うん……じゃあ、準備ができたら行こっか、アビドス砂漠へ!」

 

全員が頷いたのは言うまでもない。

 

 

 


 

 

 

「うへー、カルマ、どうしておじさんと二人きりになろうとしたのー?もしかしてそういうこと?」

 

「勝手に解釈してろ。俺が呼んだのは他の要件だからな。」

 

生徒総数の2乗近くある空き教室の一つで、俺は机の上で手を組んで顎を乗せ、ホシノに質問を投げかける。

 

「お前と俺には、共通の知人がいるはずだ。」

 

「……そりゃ、カルマだって対策委員会のみんなと仲良しだしねー、いちいち言うほどのことでもないんじゃない?」

 

「はぐらかすな。お前がバカじゃないことぐらい分かってる。誰のことを指してるかも、見当はついてるんじゃないか?」

 

「おじさんのことを買いかぶりすぎだって。教えてくれないと、私は分かんないかな……?」

 

「じゃあ言うぞ。ホシノ……お前、『黒服』に会ってるんじゃないのか?」

 

ずっと腹の中に会った疑念を吐き出してみせると、一瞬ながら確実にホシノの顔から表情が消える。

 

「カルマ、こういうのにはやけに鋭いよね……で?だとしたら何?カルマは私にどうしてほしくてその話をしたの?」

 

先程とは打って変わり、冷え切った声を出すホシノに怖気づくことなく俺は言いたいことを言い切る。

 

「アイツと会うのは勝手だ。でも、アイツの持ちかけてくる交渉は絶対に信じないで、絶対に応じるな。」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは黒服を信用していない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12 砂上の蜻蛉返り

ホシノとの会話に入るかと思った方。
残念、先送りなんじゃ。


スケバンの雑魚を狩り尽くし、オートマタやドローンのガラクタを叩き潰しながら砂漠を進む。

 

「相変わらず無法な強さをしてる……。」

 

シロコが背後で吐き出した言葉を聞き流しながら俺は二刀を振るって草を刈る用に敵を刈り取る。

 

「うへー、カルマが真っ先に見つけて倒しちゃうから、おじさんたちやることがないよー……。」

 

「索敵に集中してればお前らだってできるだろ……っと!」

 

刀を投げて前方のドローン群を複数体貫いて爆発させる。

 

「……いや無理でしょ!さっきからすぐどこかに走って行って戻ってきての繰り返しじゃない!」

 

「逃げてるわけじゃないんだからまだいいだろ。戦闘になったのも少ないし。」

 

「先輩が私たちが通る前に狩り尽くしちゃいますからね♣そこそこの数がまとまって来なきゃ、戦闘になる前に終わっちゃいますし……。」

 

「……話してる内にその集団が来たみたいだぞ、よかったな。」

 

ドローンとオートマタの混合でおよそ20体。流石に全部を狩るのは時間がかかる。

 

「ちょっ、何で言ったそばからそうなるのよ!?」

 

「噂をすればなんとやら、もしくは言霊かな?大穴で俺が超能力者ってとこか。でもまあ……お前らの出番だな。」

 

[……先輩は?]

 

「アヤネさん、よく考えようぜ?長い旅路、かわりばんこというかローテで戦闘を回したほうが楽じゃね?」

 

俺はいろいろと動きまくったのでしばらく休憩したい旨を伝える。

 

「ローテーションで疲労を分散するのは確かにいいアイデアですが……まさか、それを私たち対策委員会とカルマ先輩一人って内訳にするつもりですか!?」

 

「銃持ちが援護に入ると俺が100%の本気出せないって知ってるだろ?妥当な線だと思うが。」

 

先生の側について弾除けになる用意を済ませながら、俺は対策委員会に発破をかける。

 

「お前ら、アビドスを守りたい気持ちが本物なら見せてみろ……ん?」

 

その時スマホが振動し、俺に何かを伝える。

 

その振動パターンを把握した瞬間、俺は先生の側から離れて来た道を戻るように全力で駆け出した。

 

「ちょっ、どこ行くのさ?」

 

「悪い、行く前に張ってた警報装置に反応があった!俺はここで離脱する!」

 

「いや、待ちなさいよ!そもそも警報装置って……足はやっ!?」

 

セリカの声がぎりぎり聞こえたが、構っている暇はない。俺は全速力で砂漠を駆け抜けた。

 

 

 


 

 

 

途中まで乗ってきた電車に乗ろうと駅に向かうと、既にそこにはカイザーコーポレーション所属の民間軍事会社、カイザーPMCの兵士が張っていた。

 

「いたぞ、七郷カルマだ!」

 

「相手は銃を使えない!徹底的に距離を取れば……うぐっ!?」

 

左の袖口に仕込んだ機械、『カルマギア01:アサシンクロスボウ』を放って即オチ2コマを展開しつつ、立て続けに左の袖から『カルマギア02:キリングカード』を取り出してフリスビーのように投げ、3人をノックダウン。

 

そこから靴に仕込んだ『カルマギア03:インラインインザシューズ』で速度を上げて抜いた二刀で連中を斬り伏せる。

 

そのまま駅の改札に突っ込んでICカードをタッチしつつ通り抜け、階段を使わずに助走を活かしてホームを連続で跳び渡る。

 

ホームに停まっていた電車に突っ込んで通常状態に戻した靴でグリップを効かせて車掌室へ突っ込む。

 

一般人を巻き込みたくはなかったが、過疎地で乗客がいなかっただけまだマシだ。

 

「え、ええっ!?あなた何なんですか!?」

 

「説明は後!発進させるぞ!」

 

「いや、ちょっと待ってくださいよ!って、何する気ですか、うわぁあ!」

 

じれったいので車掌は外に出す。

 

ドアを閉めてすぐに俺はレバーを引き、電車を発進させた。

 

「マズい!電車が動き出したぞ、追え!」

 

スピードに乗り切る前にカイザーも車に乗って追いすがってくる。

 

仕切りがないからそのまま後ろについてくる車もいた。

 

「だったら……!」

 

車掌室を離れて一番前の連結部分に向かい、ひと思いに切り離す。

 

減速した後続車両は後ろにいた車を轢いて脱線し、更に多くの車を道連れにして爆発する。

 

「もうひと押し……!」

 

前方の窓を叩き割って左側に『カルマギア04:アドへシブボム』をべっとりと塗りつける。

 

そのまま右方向へ列車を飛び出して横付けしていた車を奪って加速すると、当然向こうもスピードを上げた。

 

そこを狙ったように俺は仕込みクロスボウで爆薬を塗りたくった部分を撃つ。

 

爆音、爆風。

 

こちら側に飛んできた車両を俺は加速によって通り抜けたが、反応も初期位置も遅れを取っていた奴らは避けきれずに電車の餌食となる。

 

「うし、ドンピシャ!」

 

そのまま車を走らせてアビドスの目前まで到達すると、なんか目の前に3台ほどバカデカいマシンがある。

 

全部が二足歩行型、大口径の砲構えてさらに大口径の機関銃2門を備えた『ゴリアテ』1台、機関銃とミサイルを搭載した『パワーローダー』が2台……

 

面倒臭い。

 

アクセルそのままで車から飛び降り、クラッシュさせてパワーローダーを一体オシャカにする。

 

車も見るも無惨な姿へと成り果てたが元々敵のものだしこいつらを倒せばもう校舎に入れる。

 

元々俺への対策として用意していたのか、2台とも校舎へ向けていた銃口をこちらに向け直す。

 

旋回が遅かったパワーローダーに飛び乗って俺はミサイルの発射装置を突き、一気に爆発させる。

 

「これであと1台。」

 

鬼面を取り出して戦闘態勢に入る。

 

運転中は流石に危なくて着けられなかったので、ここでとびきりの大暴れをしよう。

 

「さあさあ皆様、寄ってらっしゃい見てらっしゃい、キヴォトス最強による鉄屑解体ショー、間もなく開演でございます!」

 

機関銃の発射を先読みしてパワーローダーの残骸に身を隠す。

 

そこからクロスボウを打つが装甲が凹む程度で大したダメージはなし。

 

「やっぱ凹ませるくらいが限界か……なら!」

 

瓦礫の影から飛び出し、ゴリアテの横に立つ。

 

予想通りに旋回を行おうとした腰部にあたる関節パーツの隙間を狙い、俺はカードを投げ込む。

 

見事に隙間に入り込んで回路の一部を斬り裂いたカードは電流を受けて炎上し、一瞬で腰部ををショートさせる。

 

しかし仮にもカイザーの大型兵器、これで終わってはくれずに脚部を用いた旋回を行おうとする。

 

「……アホくさ。」

 

例によってこちら側の膝関節にカードを投げ込む。

 

これで足も役立たずになり、今度は腕部分を動かしてくる。

 

「バカすぎ。もうちょっとマシな設計にしろよ。」

 

見た目は堅牢かつ重厚なのに横に立てばワンサイドゲームな兵器が主戦力なあたりカイザーのあり方がかなり不安になるが、俺という人間からすれば間違いなくカイザーは敵なので心配する義理もない。

 

暴れようと思ったがこれじゃ物足りないにもほどがある、俺は鬼面を取り外して木偶の坊と化した鉄塊の横で深々とお辞儀をする。

 

「えー、この度は大変お見苦しいものをお見せしました。ですので今回はこの辺で締めさせていただきましょう!」

 

銃身を切り捨て、ゴリアテの上に飛び乗る。

 

「本日はお忙しい中、わざわざお越しいただき誠にありがとうございました!ぜひとも、次回作にご期待ください!」

 

脳天を貫いてゴリアテを爆破し、ジャケットについた汚れを払って愚痴をこぼす。

 

「はあ……雑魚相手だとどうしても盛り上がらねぇ。」

 

 

 


 

 

 

[カルマ、アヤネの通信が途絶えたんだけど何か分かる!?]

 

「カイザーが留守を狙ってアビドスに来てました。アヤネも拘束されてましたけど、今は無事ですよ。」

 

先生からかかってきた電話を受けながら、俺はカイザーの襲撃があったこととそれで占拠されたアビドスを奪還した現状を報告する。

 

「そっちは今、どんな感じですか?」

 

「砂漠の中で何か建物らしきものが見えて、それと同時にアヤネの通信が途絶えたんだ。だから気づかれないように身を隠しながら、カルマに連絡を取ったんだけど……。」

 

「あー、なるほど。」

 

「そ、その、すみませんでした!カイザーに拘束されてしまって、連絡ができなくなって……。」

 

「大丈夫だよ。ケガはない?」

 

「は、はい!何ともありません!」

 

アヤネが気丈に返事をすると先生は安心したようで、俺に対しての言葉を投げかける。

 

「カルマが警報装置を仕掛けてなかったら、大変なことになるところだったよ……ありがとう。」

 

「そりゃどーも。それで先生、俺は第2陣が来る可能性に備えてここに残るつもりです。」

 

「うん、そうしてくれると助かるかな……私たちが今から誰かを向かわせても、カルマの何倍も時間がかかるだろうし。」

 

その言葉に思わず思考が止まってしまう。

 

俺たちが行きに使ったルートの代替案はまずない。だとすれば帰り道で俺のやったことを当然知るわけで……

 

「……了解しました。ついて行けない代わりと言っては何ですが、アヤネのことは絶対に傷つけさせない、俺が守るので安心してください。」

 

「へっ!?ちょ、カルマ先輩!?」

 

「うん、カルマになら安心して任せられるよ。アヤネをよろしくね。」

 

「先生まで!?」

 

そこで先生との電話は終了し、俺はアヤネの方を見る。

 

何故か彼女は俯いて震えてる様子だったが……。

 

「おい、大丈夫か?って聞くのも違うか……拘束されてたんだもんな、そりゃ怖くなるか。でもまあ安心しろって。俺が来たからには、もう怖い思いはさせねーから!」

 

元気づけるつもりで言ったのだが、なぜか続いたアヤネの反応は怒りの感情が湧き出ていた。

 

「そうじゃないでしょう!いや、ある意味気遣いとしてはいいんでしょうけど!これは流石に言い方が悪すぎません!?」

 

「いや、言い方を良くしてああなったはずなんだけど……。」

 

「もういいです!私は先生たちのサポートに戻るので、カルマ先輩はさっさと防衛に向かってください!」

 

「いや、アヤネの側から離れない。校舎は乗っ取られてもすぐに取り返せるけど、お前を奪われたら取り返しのつかないことになりかねない。」

 

先生たちのサポートが途切れて全滅とか死んでも御免だ、そう思いながら諭すとアヤネは更にキレた。

 

「……カルマ先輩のバカ!」

 

頬を全力で叩かれた。

 

 

 


 

 

 

種明かしをすると砂漠で発見した施設はカイザーPMCの基地、そこで包囲されかけたがなんとか脱出はすることができた。

 

しかし今度は外で囲まれて絶体絶命の状況、そんな中に敵陣営の中から何者かが現れる。

 

[私有地に入り、暴れたことによるこれらの被害額……君たちの学校の借金に加えてもいいのだが、まあ、大して額は変わらないな……。]

 

通信越しに聞こえた男の声に合点が行き、俺は思わず声を出す。

 

「おいおい、マジかよ……まさか、カイザーコーポレーションの理事が出張るとか想定外すぎんだろ……。」

 

[ん?その声は『狂鬼』か?おかしいな……絶対に間に合わないように仕込みはしておいたのだが。」

 

「本気出して戦ったことなんざ一度もねーからな、正確なデータなんざ取れるわけねーだろ。おまけにご自慢の戦力も、笑っちまうレベルの雑魚だったぜ?」

 

[なるほど。ただの狂犬というわけではなさそうだ……借金の相手に襲撃を仕掛けさせるようなバカではないと思っていたのだが。」

 

「どうやら隠し事は得意だったみたいだな、兵器づくりと違って。んで、何が目的だ?」

 

[アビドス砂漠のどこかに眠る宝物の発掘……そのためにアビドスに土地を売らせた。]

 

あっさりと目的を話したカイザーの理事に信用がいかないのか、セリカが抗議の声を上げる。

 

[ふん、そんな嘘には騙されないわよ!だって……。]

 

「いや、ここでコイツが嘘をつくメリットはない。」

 

「……何でそう言い切れるわけ!?」

 

[リスクとリターンが噛み合っていないからだ。]

 

カイザーの理事が俺の言葉を引き継いで語る。

 

[連邦生徒会に対する虚偽申告で『狂鬼』が直接出向いてきて手を下すならまだしも、部下の二人が来れば惨劇は免れない。悔しいが第1に関して言えば、カイザーの全兵士を動員しても勝てないだろうさ。]

 

「そゆこと。まあ、既に法外な利息をかけてる時点でノルマはクリアしてんだが……まあ今回はそっちの拠点を襲った落ち度もあるし黙っておこう。」

 

[理解が早くて助かるな。では……。]

 

「ただし、だ。」

 

カイザー理事の言葉を遮り、俺は続きを述べる。

 

「アビドスの校舎は確実にアビドスのものだ。そっちも襲撃しといて、何もなしってのはあり得ないよな?」

 

[はて、そんなことをした覚えは……。]

 

「誤魔化しても無駄だぜ。アビドスに入る際にパワーローダーとゴリアテに対しての戦闘を配信で上げてる。後で確認して、チャンネル登録と高評価をよろしくな?」

 

相手の言い訳を潰すと、カイザー理事は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて答える。

 

[……今日の騒動は双方に問題があったとして、互いにお咎めなしということで決着を見るということか?]

 

「その通り。そして俺が第1機動室長兼シャーレ部長として、先生と一緒に保証人になる。お前らはアビドスに対する要求を強めることはできないが俺たちの餌食にもならない、これで十分だろ?」

 

[……今日のところは、それで折れておこう。]

 

カイザー理事の承諾を以て、この交渉は終わりを告げた。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは、鬼面を被る行為がなんとなくかっこいいからやっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13 不孝者たちのマウント合戦

カルマの設定がまとまってくるに連れ、ホシノとの絡みは絶対に入れておかないとなと思っていました。理由はまあ、原作履修済みの方ならご理解いただけるでしょうか。そんなこんなで温めておいたホシノとの会話も乗せつつ行きます。
感想は全部返します、評価も全部受け止めます。ですのでどうぞ遠慮なく、忌憚のない意見を聞かせていただければ幸いです。


「アイツと会うのは勝手だ。でも、アイツの持ちかけてくる交渉は絶対に信じないで、絶対に応じるな。」

 

「……へえー、たとえカルマの言う通りだとしても、カルマがそれを言う義理はないんじゃない?」

 

「お前が『裏切りかねない人間』かつ、それなりに大事だと思ってるから言ってんだよ。アイツの甘言に乗ってみろ、ロクな結末は得られない。」

 

「カルマも……そもそも違うか。カルマはうんもううんも言えないうちからそんな目に遭わされてるもんね。」

 

「……とにかく、アイツの持ちかけてくる話には何かしらの罠が……少なくとも裏があると思っとけ。」

 

「はいはいー、せいぜいおじさんも引っかからないように気をつけるよ。」

 

 

 


 

 

 

「待ってたぜ。」

 

深夜になって、唐突に開いたドアの方を見ずに俺はそう告げた。

 

「……うへー、カルマってばどうしたの?こんな夜遅くまで……。」

 

「大切な後輩と必死な先生を騙して裏切る気分はどうだ?」

 

「……。」

 

互いがショットガンと刀を突きつける。

 

冷めた瞳が相手の双眸をとおして自分の顔を見せた。

 

「汚い大人と一緒にしないでくれないかな?私はあの子たちのために……。」

 

「嘘を吐いて騙して、みんなからの思いを踏みにじった。そこに何の間違いもないだろうが、なあ?」

 

「……そもそも、カルマは部外者でしょ。」

 

「今更それを言うのか……で?黒服になんて唆されたんだ?」

 

肩をすくめて刀を床に放り出す。

 

ホシノは一瞬不可解なものを見るような目つきでこちらを見てきたが、すぐに元の表情に戻る。

 

「私がアビドスを退学してカイザーに行く代わりに、黒服が、というよりは黒服のいる組織がアビドスの借金の半分近くを負担してくれるって。なかなかいい話だと思うけど?」

 

「……お前、よくバカだって言われないか?」

 

「……は?」

 

「それで解決するわけないだろ。むしろ愚策でしかねーよ。」

 

散弾が腹部で爆ぜる。

 

ホシノの視線はこちらを軽蔑するものに変わり、口調も冷ややかなものに変わった。

 

「そっちこそバカじゃないの?こうでもしないとアビドスの借金は……。」

 

「だーかーらー!それをやったら借金どころの話じゃなくなるんだって!」

 

「……何の根拠もないのに、適当なこと吐かさないでよ。」

 

「なきゃこんなこと言わねぇよ。一から聞かせてやろうか?」

 

さらにもう一発。

 

先程とは違ってみぞおちを的確に狙った射撃を放ちながら、ホシノは言葉を重ねていく。

 

「どうせ黒服が信用できないからとか、そんな理由でしょ?はあ……もういいよ。」

 

「違う。理屈だってある、それにこうしなくたってアビドスの借金は……。」

 

今度は顔を撃たれ、言葉を遮られる。

 

「黙って。」

 

「誰が黙るかバカ。こちとら言いたいことを欠片も言えてねーんだよ。」

 

「聞きたくない、だから黙って。」

 

また顔を撃たれる何度も、何度も、何度も。

 

「部外者のくせに何が分かるの?黙ってよ。」

 

「土地の殆どが売り払われてることも知らなかったくせに、よく言うよ。」

 

「……うるさいなあ、もう!」

 

ひたすらに撃ち尽くして弾薬が切れたのか、ホシノは銃床で俺の側頭部を何回も殴る。

 

「なんでアビドスのためになることを、他人のカルマが否定するのさ!」

 

「他人から見ても愚策なのが一目瞭然だからだよ。」

 

銃床を手のひらで受け止めて、俺はホシノに拾った刀を突きつける。

 

「表に出な。話を聞かない頑固者に、久々にキレちまったよ。」

 

 

 


 

 

 

鬼面を被って刀を抜き、だらりと垂らした状態で構える。

 

「……随分やる気のない構えをするんだね。」

 

「変に力まないようにするための構えだ、何も知らないのに適当吐かすのはよくないな。」

 

「……正直、カルマに言われちゃおしまいだよね、それ。」

 

「じゃあおしまいなんだろ、お前は。」

 

刃先をゆらゆらと動かしながら、俺はホシノを煽る。

 

「ただでさえ勝てないのに盾もなしか?そっちの方がよっぽど勝負を捨ててるだろ。」

 

「さっき言ってたことをもう忘れたの?最後に戦ったのは2年前、その時から私だって成長してる。」

 

「それはこっちとて同じだ。」

 

体を前に倒すようにして足を踏み出し、一気に間合いを詰める。

 

「釣り合ってねえんだよ。そんな大層なモン()持って、刀の俺と張り合うのが限界な時点で。」

 

薙ぎ払いは手首を撃たれて減速して避けられ、そのまま反対側へ伸ばし切った肩口に銃口を当てられる。

 

俺はその勢いのまま回転して銃を引き剥がしてから脇腹に回し蹴りを踵から叩き込んだ。

 

「ぐっ……いったいなぁ。か弱い女の子になんてことするの?」

 

「俺の顔をさんざん撃つ前だったらその言葉で少しは動かされたかもな。今となっちゃ、何も思いやしねーけど。」

 

初撃が失敗した以上、もう正面から攻撃は仕掛けない。ひたすらに銃口を避けながら、俺は細かく突きを放つ。

 

それに呼応するようにホシノは俺と距離を取ろうとし、ひたすら俺が遠回りをしてホシノを追う展開となっていた。

 

「盾持ちじゃなかった頃にしても突っ込んでいくスタイルじゃなかったか?それが今の盾なしはこれだ。酷い劣化だな。」

 

「肉食動物の口の中に飛び込むバカはいない、そんなこともわからないの?」

 

「いや、人間ここまで堕ちるんだなーって思ってさ。」

 

「……もう、なんなのさ!」

 

突進を避けたホシノは俺の腕を掴んで引き寄せ、胸元を撃って押し倒す。

 

そのはずみで地面に転がった二刀の内一つを拾って俺の首に押し付ける。

 

「私一人が犠牲になってアビドスが救えるならそれでいいじゃんか!なんでカルマがそれを邪魔するの!?」

 

「……。」

 

「今まで大人も他の学園も、連邦生徒会だって何もしてはくれなかった!そんな中でカルマが本気で手伝ってくれたのが嬉しくもあったんだよ……?でも、なんで今になってそんなこと言うのさ!」

 

ホシノが悲痛な叫び声を上げ、刃から伝わる圧が更に強くなる。

 

「結局、カルマもあの人たちと同じだったの!?何か言いなよ!」

 

「……だから、それを言おうとしてるのにお前が聞かねーからキレてんだろうが!」

 

あまりにも勝手な言い分に限界を迎え、喉を押さえつけられながらも俺も叫び返す。

 

「そもそもお前が犠牲になって問題が解決しても、後輩たちや先生が嬉しくなんてならないのは分からないほどバカじゃないよな!?」

 

「でもこうしなきゃ……!借金だってこのままじゃ完済より先に誰もいなくなる!黒服が善意で言ってるわけじゃないことだって承知の上だよ、でもこうでもしなきゃキリがない!」

 

「それをやったらキリ以前に未来もねぇ、希望もねぇ状態にしかならねーんだって、さっきから言ってんだろ!そもそも借金だって学校のものでお前らのものじゃないんだ、お前が自分自身を投げ打たなきゃいけないもんじゃない!」

 

そんな必要もないことのために自らを捨てて、挙げ句に全てを失うような無駄な行動を俺は彼女にさせたくなかった。

 

彼女が自身を切り捨てる必要も、後輩たちにまで『失った人』ができる義理はないのに、大人のいいようにされてそうなってしまうなんて、道化もいいところじゃないか。

 

「執着する理由だって分からなくもねぇ、でもな……ここ(アビドス)はお前の大好きだった先輩の墓じゃねえ、あの人だって、お前がアビドスのためにこうすることを望んじゃいないはずだ!」

 

「……!」

 

更に刃が深く押し込まれ、いよいよ本格的に息が苦しくなってくる。

 

「カルマにあの人の何が分かるの!?」

 

「なら……お前には、分か、るのか、よ……!?」

 

意識が飛びかけたところで首元の拘束が解かれる。

 

「……ごめんね。おじさん、ちょっと感情的になっちゃった。」

 

「……。」

 

「とりあえず、カルマにも何か理由があって言ってるのは分かったよ、でも……今は正直、聞けそうにないかな。」

 

「……あっそ。」

 

ホシノがどいた後も俺は立ち上がれずに、ひたすらに彼女を見上げることしかしない。

 

「まあ、別にその交渉もいつまでって決まってるものでもないし、お金が絡むことだからねー、おじさんもちょっと焦りすぎたかも。だからこの話は明日、二人とも気持ちを落ち着けてからにしよ?」

 

「……ああ、それでいいよ。」

 

「そっかー、じゃ、また明日、だね。」

 

「……なあ、ホシノ。」

 

去り際のホシノに声をかける。

 

「あの人……ユメ先輩が本当にいたら、何て言うんだろうな……。」

 

「……あの人のことだから、どっちの話を聞くよりも先に『喧嘩はダメ!』って言いそうだけどね。」

 

「間違いねぇな。」

 

忘れ物を取りに行くと校舎に戻っていくホシノを見送ってから、俺は首を押さえつけられた刀をもう一度首に当ててみる。

 

刀を鞘に納めて首に手を当てながら、俺はグラウンドから去っていった。

 

まあ、次の日にはホシノの退部届を見ることになるのだが。

 

 

 


 

 

 

「ううー、借金が全然減らない……。」

 

「だから言ってるでしょうに。借金に囚われない学校生活を選んでもいいんですから、転校とかの手続きなら手伝いますし、いろいろと手は回しますよ?」

 

「心配してくれてありがとねー。でも私は、ここを守るって決めたから!」

 

「なら、何も言いませんけど……あ、ホシノか。よっす。」

 

「……こんにちは、出口はそっち。」

 

「分かってたけどどうもありがとう。帰る時はご好意に甘えてそこを通ることにする。行きも通った気がするけど、まあ気のせいか。」

 

「……。」

 

「と、とにかく!ホシノちゃんも来たんだし、早速話し合いを……。」

 

「先輩、彼、いやコイツを外に出さなくていいんですか?」

 

「おい何だその棘のある言い方!?」

 

「大丈夫大丈夫!カルマくんとはもうそこそこの付き合いだし、名誉アビドス生だから!」

 

「……名誉アビドス生?」

 

「今時珍しいアビドスへの協力者だからだってさ。ま、名前だけは大仰だけど要は友達って感じかな。」

 

「……あなたと?私は嫌ですよ、先輩。こんなやつと馴れ合うなんて。」

 

「言い方きっついなぁ……でも先輩とにそういう風に思ってもらえたのは、正直すごく嬉しいです。あなたは『裏切らない人』だと思うので。」

 

「こちらこそ!そこまで『信頼してくれる』なんて、ちょっと意外だったけど……。」

 

「……だって先輩、すごく優しいんですもん。そりゃあ好きにもなりますよ。」

 

「なにーっ!?ホシノちゃん、今聞いた!?カルマくんが私のこと……。」

 

「いや、待ってくださいよ!?今のは流石に語弊がありました、訂正を要求します!」

 

「……はぁ……。」

 

 

 


 

 

 

「どうして!どうしてあの時いてくれなかったの!?」

 

「……。」

 

「カルマがいたら、あんなことには……先輩は死ななかったのかもしれないのに!」

 

「それは、そうだけど……。」

 

「いくら助けたいって口で言ってても、どんな事をしようとあなたが先輩を見殺しにしたのは変わらない!カルマのせいだ!カルマが私たちを騙したから!」

 

「それはちが……!」

 

「何も違わないでしょ!先輩を助けられなかった、見殺しにした、挙げ句には好きだなんて先輩の気持ちを弄んだ!何が騙してないっていうの!?」

 

「……。」

 

「もう、二度とアビドスに来ないで。」

 

 

 


 

 

 

「……ホシノ?」

 

「あ、カルマじゃーん、久しぶりだねー。」

 

「その、お前、髪とか伸びたんだな……。」

 

「まあ、ちょっとイメチェンをね?すっかり年を取っておじさんになっちゃったからさー、せめて見た目くらいは若々しくというか、可愛らしくもしたくなるよ。」

 

「……そっか。似合ってると思うぞ?」

 

「うへー、そっかー……。」

 

「……。」

 

 

 


 

 

 

退部届に添えられていた俺宛ての手紙を握り潰す。

 

「……アヤネ。」

 

「カルマ先輩……?」

 

「俺は少し行くところができた。アヤネは先生たちにできるだけ早くここに来るよう言ってくれ。」

 

「は、はい……ですが、カルマ先輩は一体どちらへ……?」

 

アヤネの質問には答えず、俺は俺の言いたいことを言う。

 

「なあ、アヤネ。俺とホシノは対策委員会のメンバー内では一番付き合いは古いけど……実は、仲は最悪に重ねて悪かったんだぜ?」

 

「え……?」

 

「でも、不思議なもんだよな。クソみたいな仲でもこうして長く関わると……。」

 

鬼面を取り出して刀を抜く。

 

「どうしても手放すのが惜しくなる。」

 

「……。」

 

「つーわけで行ってくるわ。」

 

「ちょっと、待ってくださいよ!?」

 

臨戦態勢を見せることで戦闘の匂いを嗅がせることができたはず、アビドスを出る前に鬼面を外して俺はスマホを手に取り、頼れる部下と愛する愛弟子に連絡を取る。

 

「ホシノ、お前のせいでこっちが奔走させられてるんだからな……何かあったら、殺しても恨むぞ。」

 

一番最初に繋がったのは愛弟子。

 

「はい、便利屋68です……って、師匠!?」

 

「新しい事務所は見つかった、かつ社員は出払ってる感じか?」

 

「え、ええ。まだカヨコとムツキは怪我が治りきってないから療養中よ。ハルカも二人の看病と護衛に当てているし……。」

 

「なら久々に水入らずの弟子トリオってことだ。」

 

その言葉に少しの間を空け、アルは素っ頓狂な声を上げる。

 

「ま、まさか私単独で依頼を受けるってことー!?」

 

「落ち着け、俺の方からも支援を出す。依頼料は経費別、緊急だから言い値で応じる。依頼内容は……アビドスのヒーローになってもらうことだ。」

 

こうして俺はうまく行けば3人、失敗すれば二人の援軍チャンスに入ったのだった。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは強欲な存在である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14 業真流一門

・タグ「ヤンデレ」について
お察しの通り生徒たちを沼に引きずり込むと同時に、人に『七郷カルマ』を必要とされずに生きてきた半生の影響もあって、自分に対して好意を抱いてくれる人へはカルマも非情に重いです。相互に重いヤンデレ……最高やな!まあカルマくんの場合、あまりにも深くに踏み込もうとすると伝家の宝刀、爆逃げが発動するんですがね!

・前回のカルマくんの発言について
原作のあの辺りを見た時、『そうなるのは十分にわかるけど、それって後輩や先生を騙してることにならないの?』という感想が真っ先に浮かびました。ブルアカで初めて引いた☆3が通常ホシノだったので、少し特別な思いもあったのですが……それでも彼女の行動は彼女が嫌悪している大人と、ベクトルが違うだけで騙していることには変わらないんだよなと思ったからこそ、あの発言をカルマにさせました。先輩の墓じゃねぇ発言に関しては、カルマも人のことは言えませんがね。

・各話タイトルについて
カルマの個人的な記録なのでカルマがつけてます。



・カルマの暴走について
これに関してはムツキとカヨコ推しの皆様には本当に申し訳ないことをしてしまったと思っているので、今更ながら謝意を述べさせていただきます。この回でカルマの生い立ちに基づく地雷を仕掛けようと思っていたのですが、カルマの性格的にどうでもいい人間にはとことんドライで何を言われても響かないので、愛弟子に近しい人物でそれなりに交流もあった二人を選びました。ハルカはそういうことを言えないと思いましたし。もしそれによって不快に思われた方がいたとしたら、こちらで謝罪させていただきます。


「いい加減、君たちの肩を持つ『狂鬼』の方が少数派であることを理解した方がいい。その通り名に違わず、狂っているとね。」

 

なんともまあ、本人がいなければあのカイザー理事は勝手なものだ。

 

まあそんなだしそれがムカつくからこれから叩き潰すのだが……

 

「フミ、セカイ、ステイ。」

 

「……分かりました、室長。」

 

「でも、全部終わったら……いいですよね?」

 

「……情報を聞き出すための拷問は俺がやる。その後はまあ、好きにしろ。殺す以外で、だけどな。」

 

もうこうなったら発動を遅らせる以外には何もできない。

 

すまん、さっきは憤慨しかけたが今は普通に同情している。

 

安らかに眠れカイザー理事。アルの方に意識を向けると、姉弟子を見てドン引きしている。

 

「アル、この二人に関しちゃ深く踏み込まないのが正解だ……死にたくなければ。」

 

「し、師匠でも……?」

 

「ああ、多分恥じらいで錯乱して刺される。」

 

だからこそ彼女たちを育てつつも自分も殺されないように強くなっていかなければならない。

 

間違いなく俺が彼女たちより先に死んだらキヴォトスは一夜で塵になる。

 

「まあとにかくは様子見だ……。」

 

「アビドス最後の生徒会メンバー、小鳥遊ホシノが退学した。アビドスの生徒会は、もう存在しないも同然。君たちはもう、何者でもない。」

 

「あの反応……マジで何も知らなかったみたいだな、ホシノの馬鹿野郎。」

 

カイザー理事の言う通り、生徒会メンバーがいない状態での学園運営など不可能に等しい。

 

ましてや正式な部活も委員会も自治区もないなら、学園の自立、存続は不可能と判断され……廃校が確定する。

 

対策委員会も生徒会が機能停止した後に立ち上げられたもので、正式な承認を得ていないのだ。

 

カイザーはアビドスの土地を狙っていた。

 

だとすれば当然アビドスの校舎のある土地も狙っているわけであり、借金も返済できずに破産扱いとなって奴らの手に渡るのは容易に想像できるわけで、だからこそ俺はホシノを止めたのだ。

 

全てアイツが台無しにしかけたが。

 

「仕方ないな、この自治区の主人であるカイザーコーポレーションが、あの学校を引き受けるとしよう。そうだな、新しい学校の名前は『カイザー職業訓練学校』にでもしようか。」

 

あの狸、そこまで考えて……

 

明らかに生徒主体で構成されている学園が大半のキヴォトスの中で企業の手引を受けた学校なんて作られたら、パワーバランスが壊れるなんてものでは済まない。

 

間違いなく現在の勢力図は保てないだろうし、連邦生徒会だって無事ではいられないだろう。

 

「……室長、よかったですね。」

 

「アイツが、絵空事に酔いしれてて。」

 

……まあ、土台無理な話なのだが。

 

「まあまあ、もうちょい聞こうぜ?馬鹿な発言は積ませれば積ませるほど後が面白い。」

 

「……。」

 

「何だよアル、俺の性格が悪いのはいつものことだろ?」

 

「……あの大人、許せないわね。」

 

それは同意見。

 

彼女たちは全力で借金を返すために奮闘していた。だからこそ俺も仕事をいくらか回していたし、その働きに応じた対価を払って来たのだ。

 

彼女たちの誠意をあの手この手で踏みにじってきたのは許すべきではない。

 

そもそも借りた金を返すのは金融の基本だ。それを無視したカイザーは不当な業務どころの話ではない、金融の原則に抵触しているのだ。

 

そんな会社には、業務廃止命令が妥当だろう。おっと、奴が今彼女たちの努力を軽視する発言をした、そろそろ行くか。

 

「アビドスのヒーロー、カイザーの悪魔……まあ、好きな方を選べよ。」

 

「アビドスのヒーローで。どんな意味であれ、カイザーのために戦うなんて死んでも御免よ。」

 

「ならそれで。そんじゃ……突撃ぃ!」

 

「「イェッサー!」」

 

「ちょっ、ちょっと待って!?まさかこの車でそのまま突っ込むつもり!?きゃあああああ!」

 

 

 


 

 

 

[♪〜Thousand dreams〜♪]

 

カイザーの連中を蹴散らしてから突撃車を停車させ、爆音のミュージックに合わせて階段を降りる。

 

「カルマ……?」

 

「カルマ先輩……?」

 

「どうして……てっきり、ホシノ先輩を取り返しに行ったのかと……。」

 

「どこにいるかも分からねーのに行けるわけねーだろ。これを見越して戦闘準備をさせておくためのパフォーマンスだよ。」

 

それだけ後輩たちに言って、俺はカイザー理事を睨めつける。向こうは対して動じたふうも見せずに、淡々とこちらに返した。

「悪いがここは、アビドスではなくカイザーの土地となった。連邦生徒会が来るなら正式な手続きを踏んでから……。」

 

「そっちこそ入ってくるなら正式な手続きを踏めよ。ここはまだアビドスの土地だ。」

 

「アビドスに執着して現状が分からないのか?生徒会最後のメンバー、小鳥遊ホシノが退学した以上……。」

 

「退学した……?ハッ、そっちこそルールを知らねーみたいだな、カイザーさんよぉ!退学届はまだ『提出されただけ』だろうが!」

 

退学届は基本、その学園の生徒会が処理するものだが今回の場合は退学希望者が最後の生徒会メンバーだ、審議する場所がない場合、その判断は連邦生徒会に委ねられる。

 

「『受理する』には、それこそ正式な手続きを踏む必要があるわけだ!まあ、あいつらの働きぶりを見れば半年は先だろうけどな!」

 

「……なるほど、でもちょうどそこに、連邦生徒会の役員がいるだろう?だとすれば……。」

 

「断る。生憎、俺の管轄ではないんでね。そもそも退学希望者とは面接の上で退学の意向を確認する過程もある以上、アイツが囚われてる今は絶対に無理だな。」

 

散々利敵しかしていないホシノの、この状況でのファインプレー……まあ褒めるのは無理だが。

 

「……子どもの分際で……!」

 

カイザー理事がついにキレる。既にこいつらが領域侵犯をしたのは明らかなので、既に俺の弟子たちは切った貼ったの大暴れだ。

 

「何を勘違いしているのか知らないけど。」

 

俺も彼女たちに続こうと鬼面を取り出し、刀を抜く。

 

「子どもが大人に従う理由は敬意や利害や義務、もしくは圧力のどれかだ……そう俺は思ってる。」

 

体を捻って腰溜めに右手の刀を据え、居合の構えを取る。

 

「その人の言うことを聞きたいから、聞いた方が得だから、そうしなきゃいけないから、報復が怖いから……つまり。」

 

一閃。

 

斬撃が空気を巻き込んで肥大化し、最奥部まで駆け抜けていた突撃車を運転するセカイと遠距離で支援に入っていたフミとアルを除いてその刃をモロに受ける。

 

「欠片ほどの敬意を払う必要も一銭の得もない、義務をそっちから破った挙げ句俺の一撃で淘汰されるテメェら(カイザー)に従う理由なんざ、ハナからねぇんだよ。」

 

向こうは既に死屍累々、味方を盾にした敵だけが残っている。

 

「『霞刈(かすみがり)』……先生、残りをまとめて狩り尽くします。指揮をお願いできますね?」

 

「う、うん、分かった!」

 

「ぐ……!待機させていた部隊を全て連れてこい!ここで『狂鬼』を仕留める!」

 

カイザー理事が叫ぶ。

 

「何人来ようが同じこと……お前らぁ!俺の弟子名乗るんだったら全力で食い止めろ!俺も助力する!」

 

負けじと俺も吠えてみせた。

 

何であれ、コイツに負けるのは胸糞が悪い。

 

 


 

 

 

前方の敵を斬り伏せると同時に、背後に回った敵を狙撃銃が撃ち抜く。

 

「ナイスだ、アル!」

 

[いえ、これくらい当然よ!]

 

すると立て続けに狙撃銃弾が3発、周囲の敵をドンピシャで伸す。

 

[私も当てましたよ、室長!しかも3発!]

 

「おうおう、いつにもまして今日は調子がいいな、フミ!」

 

[久々に『業真流(カルマしんりゅう)』の揃い踏みですから!]

 

……一応言っておこう、俺がつけたんじゃない。

 

アルを弟子に取るとなった時にまだ中学生だったセカイとフミが「だったら流派を開かないと!」と言い出してつけた名前だ。

 

「カルマお兄ちゃん(当時は部下じゃなく、近所の妹分だった)は中学校でもファンクラブができるくらい人気だから、ここが本家だって示さないと!」

「そして私たちがその子の姉弟子になる!高校生になる前からカルマお兄ちゃんの特訓を受けられるんだから、最強になれるよね!」

 

だそうで……ガチでファンクラブが作られていると分かった時には腰を抜かした。

 

それにしてもよくもまあ、カルマと当てられるこの漢字を見つけたもんだ、俺の名前とは違うが。

 

[室長、跳んでください!]

 

「あいよっ!」

 

高々と跳躍して、突っ込んできた突撃車の上部に飛び乗る。

 

そのまま走り抜けながら、俺はカイザーPMCの会話に耳を傾ける。

 

「クソっ!あの車正気じゃねえ!何度も何度も轢き逃げして……ん?」

 

「何だよこれ、油?」

 

「油漏れ……?いや、何だこの袋は!?」

 

[時すでに遅し、爆破!]

 

この突撃車『攻撃的装甲車・帝国型』は俺とフミとセカイの共同制作で、俺が全体的な装甲とパーツのガワを、フミがバカ馬力エンジンとアホみたいな高性能タイヤを、セカイがやけに整った設備と走りながら油と爆弾を撒き散らして通った道を焦土に変える悪魔の機構をそれぞれ作り、連邦生徒会のなかでも随一の兵器と恐れられている。

 

ちなみに内部には簡易食堂と仮眠室、カラオケも設けているので長距離移動の際も使える。

 

改造車は車検を通らないなんてどうのこうのは、キヴォトスにはない。

 

「……ああもう!アビドスのことは私たちがやらないと!カルマ先輩!私たちも手伝うからね!」

 

セリカも、いや、対策委員会も戦闘態勢に入る。

 

「勝手にしな!精々轢かれないように気をつけろよ!」

 

 

 


 

 

 

「申し上げます!こちらはほとんど壊滅!これ以上ここに残ったら全滅してしまいます!」

 

「ぐぅ……退却だ!『狂鬼』、これで済むと思うなよ!」

 

威勢のいい言葉とは真逆にボロカスにやられたカイザーが撤退していく。

 

「今回は俺以外の方がキルスコア高いのになぁ……俺しか見てないあたり病気だろアイツ。」

 

そこから通信を使って俺が呼んだ助っ人全員に連絡する。

 

「お疲れ様。今日はとりあえずこれくらいかな。」

 

[[え?まだアイツ殺せてないですよ?]]

 

[ヒィッ]

 

「今回は侵犯以外に裁くものがない。これ以上はやり過ぎだよ、ルールとしては。ただ、ここでのやることは一通り終わったわけで、しばらくは待機……フミとセカイはそんな感じになる。」

 

[……まあ、室長がそう言うなら。]

 

[納得は行かないけど、我慢します。]

 

[それで、私はどうしたらいいのかしら?」

 

アルに言うことは既に決まっている。

 

「アルに頼んだ依頼はここまでだ。今はちょっと立て込んでるから、依頼料に関しては後で話そう。誓約書でも作っておくか?」

 

[一応、貰っておくけど……いいのかしら?私だけここから帰っても……。]

 

「元々部外者なところを強引に呼び出しただけだ、無理はさせられねぇよ。早く帰って社員たちを労ってやってくれ、強いていうなら、それがお願いかな。」

 

[……ええ、分かったわ!でも、また力が欲しかったらいつでも連絡してちょうだい!]

 

「ああ、頼りにしてる。セカイ、フミ、アルを事務所の方まで送ってやってくれ。」

 

[[了解!]]

 

突撃車が勢いよく走り去っていく。それを見送ってから俺は対策委員会に向き直り、自らを落ち着かせた上で彼女たちに声をかける。

 

「あー、戦闘前に言ったと思うけど、こうしてホシノが攫われている以上はアビドスを廃校にはできない。つっても、このままだと学籍どころか存在が消されかねないから相変わらず窮地じゃあるわけだが……。」

 

「そ、そうよ!まずはホシノ先輩を助け出さないと!」

 

「でも、どこにいるのか……。」

 

対策委員会もカイザー理事の放った言葉へのショックからだいぶ立ち直ったようで、次のことを思索し始める。

 

俺はその動き出した思考を一回止めるために、手のひらを強く打ち合わせた。

 

「とにかく!まずは作戦会議からだ、アビドスに戻るぞ!」

 

「ん、カルマ先輩が仕切るんだ。」

 

「嫌なら言ってくれ、喜んで譲る。」

 

そうしてアビドスへの帰路を辿る最中で、俺は先頭かつ横を歩く先生に耳打ちする。

 

「先生、俺はホシノの居場所を知っている……可能性がある人間を知っています。」

 

これも全て黒服ってやつの仕業なんだ。

 

「何だって!?それは本当かい!?」

 

「シー……俺はそいつとの……昔の名残ですけど、パイプを持ってます。先生をやつに会わせるくらいなら、難なくできるかと。」

 

過去を悔いないながらも俺を無碍にできない奴なら、俺の紹介で会わせることは容易だ。

 

「ホシノも、その名前を口にしてた……分かった。カルマ、今日の夜は空いてる?」

 

「空いていようがいまいが、一緒に行きますよ。俺は部長で、先生は顧問なんですから。」

 

「あらー、カルマ先輩と先生は、何の話をしてらっしゃるんですか?」

 

ノノミにこそこそ話をやんわりと諭され、俺は嘘で誤魔化す。

 

「いや、先生にキヴォトスだとカールもねるねるねるねも生き残ってるって話をしただけだ。」

 

「カールはまだしもねるねるねるねも!?」

 

俺は嘘を嫌わないし、大人を誰彼構わず嫌うわけでもない。良くも悪くも、不快に感じるかどうかが全てだ。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは騙すことにも騙されることにも抵抗はない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15 俺は何も知らない

一応地雷には例外もあります。

どうでもいい人の言葉
「人間じゃない!(根拠なし)」→効かない
「人間じゃない!(根拠あり)」→ガッツリ効く
この場合カルマは自己嫌悪に陥り、安心を求めて心を許した相手に縋ります。ここで突き放すようなことを言うと……
キヴォトスは滅びます。


「……お待ちしておりました、先生。」

 

黒服は先生に対して一礼し、それに応じて先生も礼を返す。

 

「無理に時間を取らせて、申し訳ありませんね。」

 

「いえいえ、彼の紹介がなくとも、あなたとは一度こうして、顔を合わせてお話してみたかったのですよ。」

 

黒服はちらりとこちらを一瞥しただけで先生に視線を戻し、そのままデスクへと戻っていく。

 

「俺は外で待機してますよ。話し合いの最中に手が滑っても悪いですし。」

 

それだけ言って俺は部屋を出て、そのまま室内の会話に聞き耳を立てる。

 

「あなたのことは知っています。連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。あのオーパーツ『シッテムの箱』の主であり、連邦捜査部『シャーレ』の先生。そして……あの七郷カルマに『忠誠を誓わせた』唯一の人間。」

 

「私は無理強いなんてしているつもりはないよ。カルマが私を慕ってくれているだけだ。」

 

「それは失礼。そのような意図はなかったのですが……ともかく、あなたを過小評価する人もいるようですが、私たちは違います。」

 

黒服はそう前置いて、先生に告げる。

 

「まず、はっきりさせておきましょう。私たちは、あなたと敵対するつもりはありません。」

 

それは正直、予想した通り。

 

「私たちの計画において、一番の障害になりうるのはあなただと考えているのです。アビドスの存在とは違い、あなたの存在は決して些事とは言えない。敵対することは避けたいのですよ。」

 

「……カルマは?さっきの話を聞く限り、随分と気にかけているみたいだけど。」

 

「あれは障害ではなく、最後通牒ですから……おっと、そういえば自己紹介をしていませんでしたか?」

 

『あれ』という言い方に一瞬背筋が凍りつきかけたが、言葉の綾だと強引に解釈して持ち直す。動いたのは心情だけだ、バレてはいないはず。

 

「私たちはあなたと同じ、キヴォトスの外部の者……ですが、あなたとはまた違った領域の存在です。適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。私たちのことは『ゲマトリア』、とお呼びください。そして私のことは『黒服』とでも。この名前が気に入っていましてね。」

 

ゲマトリア。名称はギリシア語で幾何学を意味する γεωμετρία(Geometry)に由来する、文字転換法の一つ。

 

文字はそれぞれの数値を持っていて、その文字の組み合わせである単語または文章も一定の数値を持つことになる。

 

数の象徴的意味を重視する上で、同じ数を持つ単語または文章は置換えが可能であり、それによってさらに深い意味を発見できるという考え方。

 

専門でないなりに解釈するならば、奴らは自分たちと同じ数値……何かしらの共通項を持つものに置き換えて現れ、それが理由で何かしらの意味を見出している者、ということになるのだろうか。

 

だとすればそれは何か……

 

いや、今考えるべきはそれではない。

 

思考を巡らせていたのはほんの一瞬のようで、話の内容も変わっていなかった。

 

私たち(ゲマトリア)は、観察者であり、探求者であり、研究者です。あなたと同じ『不可解な存在』だと考えて問題ございません。」

 

前置きは終わったようで、黒服は早速先生に問いかける。

 

正直不快だ、見た目も精神性も醜悪なお前らと、先生を一緒にするなと殴り込みたくもなるが、それをしないために俺は外に出ているのだと自分に言い聞かせてこらえる。

 

「一応お聞きしますが、私たちと協力するつもりはありませんか?」

 

「断る。そんなつもりは微塵もない。」

 

「……真理と秘儀を手に入れられるこの提案を断ってまで、あなたはキヴォトスで何を追求するおつもりなのですか?」

 

「少なくとも、そんな提案に興味はない。私はただ、ホシノを返してもらいに来ただけだ。」

 

……しかし、それにしてもここまで頑なな先生を初めて見たなと思う。

 

いつもの柔らかい物腰からは想像できないほどに芯の通った先生の態度に、俺は少し心を動かされる。

 

「カイザーから話は聞いています。彼に助けられたそうですね?」

 

「届け出に『顧問』としてのサインをしないっていう抵抗をこっちでもしてたけど、それで効果があるのか分からなかったからね。」

 

「なるほど、連邦生徒会への申請以前にあなたが先生である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要……そういうことですか。学校の生徒、そして先生、……ふむ、なかなかに厄介な概念ですね。」

 

キヴォトスの中枢たる連邦生徒会を軽視されるのも考えものだが、正直言えば連邦生徒会でも名が売れているのは現在失踪中の連邦生徒会長と俺の部署である第1機動室くらいだ。

 

体制側が舐め腐られて損をする、これはキヴォトスだけではなく世界でクソなところだろう。

 

感想でしかないが。

 

「アビドスを襲った砂嵐が自然災害なことも、彼女たちへの仕打ちに似たようなことが、外に目を向ければ幾度もあったことは分かってる。アビドスの砂漠化に悪役がいないこと、あなたたちがやったことがあくまでルールの範疇なのも……それでもあの子たちを騙し、心を踏みにじり、その苦しみを利用したあなたたちは許せない。」

 

「ええ、私たちがやったことは間違いなく悪事でしょう。ですが仰られた通り、ルールの範疇であって感情を抜きにすれば、責められるいわれはございません……先生、ホシノさんさえ諦めていただければアビドスについての問題はなんとかいたしましょう。カイザーに関しても同様です。ですからホシノさんの望んでいるように、大人しく折れていただけないでしょうか?」

 

「断る。何もこれはこっちの都合だけで言ってるわけじゃない……あなたたちのためでもある。」

 

「……ほう?」

 

黒服をこちらのペースに引きずり込むために、ここに来る途中に二人でこねくり回して作り上げた理屈を先生が立てる。

 

「ホシノの退学と身柄の引き取り、その引き換えにアビドスへの支援を行う。ホシノと交わした契約はそういうことでいいんだよね?」

 

「ええ、しかし先生、あなたのサインも連邦生徒会による受理もなされていない、よって小鳥遊ホシノは退学していない……そういうことですか。」

 

「うん、そもそもホシノが『退学する』という条件を果たしていない以上、この取引は現状、最初から破綻している。あなたたちは今、ただホシノを幽閉した上に借金に関しても無視を決め込んでいて、ルールの範疇からはみ出しているんだよ。」

 

「だとすればすぐに受理を……いえ、無理ですね。退学の際には『本人への担当者との面接による意思確認』が必要となる。」

 

そう、その仕組みがある以上はホシノ不在の現状で退学の処理を行うことは不可能だし、ホシノとゲマトリアの間に結ばれた契約も不履行の状態から脱却できないのだ。

 

こうなれば向こうには必然的に、ホシノを返す義務が生じる。

 

「カルマはこの契約不履行で酷くご立腹らしくてね。現時点で既に君たちの拠点内の捜索を検討しているって。」

 

「……クックックッ……一杯食わされましたね。彼にも伝えておいてください、『ご馳走様でした』、と。」

 

大して美味くも、否、上手くもない言葉を返しながらも黒服に効いた様子はなく、そのまま淡々と続ける。

 

「いいでしょう。ルールに則っているという唯一の旗印を崩されてまで、足掻くような真似はしませんよ……小鳥遊ホシノは今、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にいます。

 もはや意味もないですが、詳細は企業秘密とさせていただくとして……

 カイザーにも彼女を解放することを、この会談が終わったらすぐに伝えましょう。彼らがそれをよしとするかは、別問題ですが。」

 

結局、カイザーとやり合うことは避けられなさそうだ。

 

まあ遅かれ早かれ、叩き潰す大義名分はできているのだが。

 

「そういうことですので、どうぞホシノさんはご自由に連れ帰ってください。微力ながら、幸運を祈ります。」

 

先生はそれを聞いてすぐさま帰ろうとしたのだろう、それを引き止めるように黒服は声をかける。

 

「ああ、それともう一つ。」

 

「……何?」

 

「七郷カルマには十分にご注意を。彼の正体は私たちも掴みあぐねていますが、過去のデータが示す通りに解釈すれば……

 

下手に彼に踏み込めば、一刀のもとに消し飛ばされる

 

……そんな人智を超えた何かであることは、間違いありませんから。」

 

「……何があっても、カルマは私の大事な生徒だよ。」

 

「そうですか。それなら深くは追及しませんが……まだまだあなたには聞きたくとも聞けていないことが幾つもありますからね。くれぐれも、死なないように頼みます……先生、ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ。」

 

 

 


 

 

 

息が、出来ない。

 

先日のホシノにされた死を意識しつつもどこか高揚を感じたそれとは違い、ひたすら苦痛だけを与えてくる苦しさ。

 

それに呼応するようにぐにゃぐにゃに歪む視界。

 

やがては平衡感覚まで消え去って、俺は受け身を取る余裕もなく、その場に無様な姿で倒れ込んだ。

 

「ハァッ……ガァっ……っ!」

 

藻掻くように足が暴れ、手が自然と首の近くの虚を掴もうとして空を切る。

 

「カルマ!」

 

首筋を引っ掻くほどに肉薄していた腕を掴んで、先生が俺の動きを止める。

 

「カルマ、落ち着いて!」

 

「はあっ!はぁっ……せん、せい……。」

 

俺を壁に添えて座らせるように先生は俺の体を動かし、俺の目をじっと見る。

 

自分で見ても驚くほどに瞳孔の開き切った瞳には、我ながら恐怖を覚えた。

 

「先生……俺、人間ですよね?」

 

「うん、カルマは私の大事な生徒だよ。」

 

「俺を捨てたり、しませんよね……?」

 

「勿論。私は、カルマを絶対に見捨てないよ。」

 

「俺を道具として扱いませんよね……?」

 

「生徒を道具として扱うなんてしないよ。」

 

「俺を……殺しませんよね……?」

 

「殺さない。カルマは何も悪いこと、してないんでしょ?」

 

「……。」

 

歪んだ視界が戻ったと思いきや、今度は滲む。

 

「……すみませんね、面倒事を引き起こして。」

 

「カルマ、落ち着いたの?」

 

「ええ、なんとか。あとは……。」

 

先生が通ってきたドアに向かって蹴りを入れ、そこから大声で黒服に向けて叫ぶ。

 

「感情を抜きにすれば、って言ったよな!?だったら言わせてもらう……このクソ野郎が!

 お前らのせいで人生狂わされて、こっちは散々なんだよ!

 そのくせしつこくまとわりついて、今度は俺の近くにいた人まで奪おうってのかよ、ああ!?

 いい加減にしやがれ!お前らのせいでこれまで苦しめられてきたんだ、次こんな真似をしたらお前ら全員殺してやるよ!

 てゆーかさっさと消えちまえ!」

 

叫ぶだけ叫んで目を擦り、先生に向き直る。

 

「……これでスッキリしました。」

 

「そっか。じゃあカルマ……帰ろう。」

 

「はい。」

 

曲がったドアを視界に入れないようにしながら、俺と先生はその事務所を後にした。

 

 

 


 

 

 

「先生、カルマ先輩……何か、掴んだみたいだね。」

 

アビドスに帰ると、シロコが待っていましたとばかりにずいと出てくる。

 

「ああ、バッチリだ。後は正直、消化試合……っつーには俺以外にはデカすぎるかな、とにかく、後はシンプル……邪魔するやつを全員ぶっ飛ばして、ホシノを助け出す!そんでホシノをぶん殴る!」

 

「「「「「……。」」」」」

 

「いや、だって俺はこうなることが分かってたから居残りしてまでアイツにやめとけって伝えたのにさ……流石に俺にも思うところはあるわけよ。まあ、多少はね?やり返してもいいんじゃないかなーって……。」

 

「カルマ、流石に暴力はダメだよ?文句は言ってもいいと思うけど……」

 

先生に諭される。完全に擁護は出来なかったようだが。

 

「ん、多少は文句を言っても許されると思う。」

 

「お仕置きはどのみちしなくちゃと思ってましたし、ちょうどいいです♣」

 

「そのためにも、ホシノ先輩を絶対に助け出さないと!」

 

「はい!それじゃあ……。」

 

ここで先生が全員に激を入れる!

 

「ホシノを助けに行こう!!!『おかえり』って言って、『ただいま』って言わせよう!」

 

「わー、それいいですね!」

 

「な、何それ!?少し、むず痒いけど……いいわよ、やってやるわ!」

 

「絶対に助けましょう!……ですが、この戦力で……。」

 

「援軍にアテはある、任せろ。」

 

アヤネの不安に答えつつ、俺は全員のノリにそのまま乗っかる!

 

「難しいことじゃない、ホシノを助け出す、邪魔するやつは叩き潰す、やることと言えばこんだけだ……とことんやり切って、暴れ散らかすぞ!」

 

「「「「「「おーっ!」」」」」」

 

全員の心が一つになった瞬間だった。

 

 

 


 

 

 

「でも、流石に今日は遅いし準備もあるから作戦開始は明日からだ。」

 

「「「「「

……えーっ!?

」」」」」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは、人智を超えた何かである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16 赤信号を渡るやつ、みんなで叩けば怖くない

カルマの今回のカイザーに対する感想です。
まあ、本人は単独でも普通に勝てると思っていますが。
そしてはっきり言いましょう。
この作品では、七郷カルマを誰よりも強くするつもりです。


ゲヘナに来ていた。

 

「カルマ、ここが前に話してたゲヘナ学園だよね……?」

 

「ええ、治安で言えばキヴォトスでもトップクラスで終わってるゲヘナ学園ですよ。」

 

「その割には……。」

 

誰一人姿を見せない周囲を見回して、先生が言う。

 

「静かすぎない?」

 

「俺が来たからですかね?ここではいろいろやってますし……。」

 

接客が悪い、不味いと店を爆破する連中に毒入り料理のフルコースをご馳走したり、温泉を掘り当てるとか言って見境なく爆破や建物の解体をしていた連中のヘッドを顔だけ出して埋め立ててセメントで補強した上でそこに温泉があるとデマを流したせいかもしれない。

 

「……埋めるのはまだしも毒って何?危ないものは入れてないよね?」

 

「大丈夫ですよ、青酸カリでも死なないのは確認済みです……でも前回は手加減してヤドクガエル、ハブ、ツタウルシや……。」

 

「やりすぎだよ!」

 

「ハハハ、ヒナにもそう言われました。」

 

本題から逸れたことをさらりと流して、俺は話題を戻す。

 

「とにかく、ヒナに会うために風紀委員の詰め所に向かう途中で、面倒事が起きないに越したことは……。」

 

「急に静かになったけど、どういう……七郷カルマ!?」

 

「いや、先輩つけろよ。」

 

こちらに駆け寄ってきたのはゲヘナ風紀委員の2年生で、何故か前線を張る銀髪ツインテールのスナイパー、銀鏡(しろみ)イオリだった。

 

「なんでここに……いや、そっちは……先生?」

 

「やあ。」

 

元々不機嫌だった表情が更に濃くなる。

 

そういえば前にあのバカがやらかした不祥事の先鋒を務めたのが彼女だったか。そりゃあボロカスにやられた相手を指揮していた先生にいい感情を抱きやしないだろう。

 

悪いのは100そっちなのだが。

 

「とにかく、なんで来たんだ?」

 

「俺は連れだよ、今回のメインは先生だ。」

 

「ヒナに会わせてほしくてね。ちょっとしたお願いがあって……。」

 

包み隠さずに先生が放った言葉にイオリはキレた。

 

「はぁ?風紀委員長に会いたい?ゲヘナの風紀委員長に、そんなに容易く会えるとでも思ってるのか?」

 

「会おうとしているだけで別にどう思ってるかは関係ないし、そもそもお前が決めることでもないだろ。」

 

睨まれたがもう現時点で言いたいことは言い切っているのでノーダメージ。

 

「……そうだな、じゃあ土下座して私の足でも舐めたら……。」

 

「そうすればヒナに会わせてくれるんだな?」

 

「勝手にしろ。まあ……」

 

「だそうですがどうします?せんせ……!」

 

言葉を遮った俺が言い切るよりも早く、先生はその場に膝をついて頭を下げる。

 

見紛うこと無き『DOGEZA』だった。

 

「ええ……?」

 

あまりの迷いのなさに戸惑いを覚えるも、これもアビドスのためだと考えれば……

 

いや、待て。だとしたらこの先……。

 

予想通りと言うべきか案の定と言うべきかは定かではないが、土下座で3秒維持した先生は……

 

イオリの足に手ならぬ舌を出した。

 

「ひゃんっ!?ちょっ、まだ話の途中……んっ!ちょっと!?」

 

今確信した。この人はヤバい。

 

マジで土下座しろと言えば土下座するし、マジで足を舐めろと言われたら舐める人だ……

 

なんで事実を言ってるだけで人物評みたいになってしまうのか訳が分からなかったが、イオリはそんなことを考える余裕などなかったようだ。

 

「大人としてのプライドとか、人としての迷いとかはないのか!?」

 

「元々はあったけど……。」

 

「おかしい!ヘンタイ!歪んでる!」

 

「お前が始めた物語だろうが。」

 

イオリが言い出さなきゃこの人はここまでしなかったと思う。

 

「おい、カルマ、この人何とかしてくれ!」

 

イオリの縋る様子を見ないふりしつつ、俺はジャケットの内ポケットからボイスレコーダーを取り出した。

 

[そうすればヒナに会わせてくれるんだな?]

 

[勝手にしろ。まあ……]

 

「……なんで録音してんの!?」

 

「そりゃ、交渉の際には言質は取っておかないと。」

 

これで文字通り舐められた上でヒナに取り次ぐ約束は果たしてもらう。

 

「こんなヘンタイの大人に……!」

 

「何だか楽しそうね?」

 

「い、委員長……?」

 

「あれ?ヒナは俺たちが簡単に会えないような人なんじゃなかったか?イオリがそう言ってたけど……。」

 

事実を盛って伝えてヒナに聞かせる。

 

これはこちらをコケにしてきたイオリへの俺からの復讐だ。

 

「そう……私も誤解を招きやすいみたいだから、気をつけておくわ。それにしても……。」

 

俺への反応を済ませてから、ヒナは先生の方を見る。

 

「……自分の望みのために膝をつく姿なら、これまで何度も見てきた。でも、生徒のために跪く先生を見たのは初めて。」

 

ヒナには誠意として伝わったらしい。

 

「顔を上げてちょうだい、先生。言ってみて、私に何をしてほしい?」

 

「いや、その、委員長……先生は跪いてるんじゃなくて、その、足を、舐め……。」

 

「……?……!!!!???」

 

「いや、お前がそうしろって命じたんだろうが。」

 

それで被害者面はぶっちゃけどうかと思う。

 

先生がガチでやると思ってなかったのは同意するが。

 

 

 


 

 

 

ひたすらに文章を書き綴るバカの後ろから声をかける。

 

「お前みたいな首脳陣が反省文を書かなきゃならないようなことばっかしてるから、風紀委員は三流なんじゃねーのか、アコ?」

 

「……でしたら、邪魔をしないで帰っていただけますか?」

 

こちらも見ず、筆さえ止めず、アコは俺をあしらおうとする。

 

「ふーん、ヒナも他の奴らも手伝ってくれるってのに、お前だけは足並みを乱すんだな。」

 

風紀委員のトップ2とは到底思えない反応に呆れた様子をわざとらしく聞かせる。

 

「ヒナも思ったより、見る目がないのかねぇ?少なくとも俺なら……。」

 

言い切る前に立ち上がったアコによって俺は壁に押し付けられ、ジェケットを乱暴に掴まれる。

 

「……反省文を書くんじゃなかったのか?」

 

「……ヒナ委員長はこの際関係ないでしょう!」

 

「関係あるさ。風紀委員のトップとして打ち出した作戦に私情で参加を拒否する、そんなやつを上にのさばらせるなんて無能以外の何でもないだろ?違うか?」

 

「……!」

 

いくら彼女の気分を害そうがこちらには何の問題もない。だから俺は彼女をひたすらに煽る。

 

「治安維持組織は抑止力になって一流、問題を制圧できて二流、それすら出来ないのが三流だ。それを踏まえてお前らはどうだ?」

 

「……二流だとでも?」

 

「違うね、三流だ。学園外にもゲヘナ生による事件は起こり続けてるし、ゲヘナの部活である『美食研究会』や『温泉開発部』は連邦生徒会の第1、第2両方の機動室で要観察対象に指定されてる。つまり、風紀委員じゃどうにもできないって判断を既に下してんだよ。」

 

抑止力という点ではヒナがその役目を果たしているように思われるが、内部の問題に忙殺されている彼女は外部の問題に対処できないことを知っているゲヘナの生徒は自治区の外でやりたい放題だ。

 

ヒナ自身は一流だろう、しかしその抑止力が他が弱すぎるせいで効力を大きく削がれているのだ。

 

「そうなってんのは組織の運営に問題があるからだろう……実質ヒナのワンマンで、お前らが足を引っ張り続ける現状が。」

 

「黙っていれば勝手なことを……!」

 

「だったら説明してみろよ。ヒナのいない時に一層悪くなる治安を、あの書類の山に積まれた始末書の数を、『風紀委員で怖いのは空崎ヒナだけ』だって言われてる原因を。どうやって説明つけるんだ、なあ?」

 

「……!」

 

踵を返して机に戻るアコに、最後に声をかける。

 

「少ししたらヒナから呼ばれるだろうから、準備でもしておきな……足手まといその1さん?」

 

顔をずらしたところをペンが通り、壁に衝突して真っ二つに折れた。

 

 

 


 

 

 

今の一件でかなりメンタルに来ていたので、ダチに協力を仰ぐ電話をかけた。

 

「よう、俺だ。聞こえてるか?天才病弱美少女ハッカーさん。」

 

[ええ、バッチリ聞こえていますとも。それにしても……珍しいですね、この天才病弱美少女ハッカーに頼み事とは。]

 

「まだ何も言ってねーんだが……?」

 

[私のことを名前で呼ばない時はそういうことだと解釈していたのですが、違いますか?]

 

随分前というか2年前のことを根に持たれてる。

 

いやまあ確かにその時の流れでそういう分け方になっているのは否定しないし、そもそもが彼女を持ち上げて言うことを聞いてもらおうとしたからなのは否定できないが。

 

「まあいいや。そっちの思った通り、頼み事だよ……今日の。」

 

[これはまた、随分と急ですね。]

 

「まあな。カイザーに対する検査を迅速に行うから、部下を手伝ってやってほしくて……。」

 

[……カイザーも馬鹿なことをするものですね。]

 

あまりにも直球すぎる物言いに苦笑するも、俺は否定せずに話を進める。

 

「まあ企業である以上、綺麗事ばっかでもいられないってことかねぇ……こっちも趣味でできた膿みの一掃が面倒になってきたし。」

 

[いたちごっこに取り組むその姿勢には感心すら覚えますが、まずは目の前のことでしょう。彼女たちの検査を邪魔させなければいいということですか?」

 

「いや、むしろやってほしいのはアシストじゃなくて敵の妨害。アナログじゃあの二人に勝てるやつはカイザーにいないだろうし……ハッカーはデータを消すのも、作るのも……消させないことだって簡単だよな?」

 

そう、奴らに悪事の証拠データを消されれば終わりだし、アナログのデータ……

 

キヴォトスだと残ってそうだよなぁ……

 

でもまあ、検査という名の襲撃だし、多分燃える。

 

だからこそそのあたりの配慮をしっかりと行っておきたかったのだ。

 

[清々しいまでに荒々しい作戦ですね。ですが……久々に頼ってくれて気分がいいので、私にできることはしましょう。この天才病弱美少女ハッカーにできることを。]

 

「そいつはありがたいな。今度なんか土産に持ってくから、期待しててくれ。」

 

[あまり顎が疲れないものをお願いしますよ?]

 

おばあちゃんかな?

 

[それにしても、今回は随分と長い出張ですね?]

 

「僻地で少しばかり厄介事が起こってな……単位制にしといてガチでよかったと思うぜ。」

 

[……それはそれで寂しい気もしますがね。]

 

「何だよ、久々に3人で集まるか?」

 

ダメ元かつ流れで提案してみるが、彼女から聞けた反応は概ね予想通りのものだった。

 

[あなたと会えないのが寂しいのであって、あの女に会えないことは別にどうとも思っていませんよ?あなたとはすぐにでも会いたいのですが。]

 

「はいはい、今度どこか美味い店、3人で予約しとくからさ。また連絡する。」

 

まだ何か言いたげだった彼女を振り切って通話を切る。

 

俺は電話を閉じて、廊下の角に隠れる人影に声をかけた。

 

「プライベートな電話を盗み聞きするのは感心しないな……久しぶり。」

 

「あ、バレました?」

 

先日の推し宣言してくれた子だった。

 

 

 


 

 

 

「ん、準備完了。」

 

「補給も十分、おやつもたっぷり入れておきました!」

 

「こっちも準備できたわ!睡眠もしっかり取ったし、お腹もいっぱい!どっからでもかかってきなさい!」

 

「私の方も、アビドスの古い地図を全て最新化しておきました。」

 

「……とりあえずカイザーを追い詰める手はずは整えた。」

 

対策委員会全員の意気込みに気圧されつつも、俺も負けじと準備の成果を口にする。

 

「先生に教えていただいた情報ですと、ホシノ先輩はカイザーPMCの第51地区の中央あたりにいるはずです。」

 

アヤネから目的地を伝えられ、俺たちにもしっかりとエンジンが入っていくのを感じる。

 

「一番安全なルートで案内します、行きましょう!」

 

「それじゃ、出発!」

 

先生の声が号砲だったかのように、俺たちは動き出す。

 

「はい!ホシノ先輩救出作戦……開始です!!」

 

砂狼シロコ。

 

十六夜ノノミ。

 

黒見セリカ。

 

奥空アヤネ。

 

先生。

 

そして俺、七郷カルマ。

 

その他大勢のエキストラと呼ぶには豪華すぎる面子を迎えて、俺たちは囚われの姫、小鳥遊ホシノを助け出す一世一代の大立ち回りを、前代未聞のアクションショーを開演する。

 

台本もないし、敵の役者があまりにもショボすぎる気はするが、それもまた即興劇の醍醐味、彼らだってちゃんと敵としての不快感は感じさせてくれるはずだ。

 

勝算を考慮する必要はない、失敗を恐れる必要もない……絶対に勝つし、絶対に成功させる。

 

今やるべきことも、考えることもそれでいい。

 

取り敢えず助け出してから絶対に1発殴ることだけは心に決めて、俺は懐から鬼面を取り出す。

 

被って『狂鬼』の完成、まずはこれで奴らを殲滅することだけを考えるためのスイッチを入れる。

 

「ま、望むもん全部、手に入れられればそれでいいか。」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは敗北をイメージしない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17 砂に混じったゴミは砂ごと払え

今回の対策委員会への協力者一覧
・シャーレ
・第1機動室
・便利屋68
・ゲヘナ学園風紀委員会
・トリニティ総合学園
・天才病弱美少女ハッカーさん(A.Hさん)

原作より少し豪華になりました。
トリニティが来た理由としては原作通り+ゲヘナと違ってシャーレからも第1機動室からも要請は来てないけど行かなかったらゲヘナがつけ上がるからです。なんでそれを知ってるかって?そりゃあ、隠密できてないスパイがいるからですよ。


「……だーもう、キリがねえ!」

 

数だけは多いPMC兵士を斬り伏せながら、俺は愚痴をこぼす。

 

カイザー基地に来てまずは交渉を試みたものの、俺が単身かつ丸腰で歩み寄った時点で射撃された。

 

アイツらマジ?こんな無手の子どもが怖いの?

 

「子どもの分際で」とか吐かしたくせに?

 

「カルマ先輩、あれは使えないの!?あの、確か、カス狩りみたいな名前のアレ!」

 

セリカが流石に聞き流せない発言をする。

 

「『霞刈』だよ!そもそもアレは溜めが長いから牽制用以外には大して使えないんだ!」

 

極度の集中を要するこの技はそもそもが群れた敵を『間引く』ために最初に用いる技としての運用しかロクにできない。

 

前回打ってた時喋っていたのに関してはマルチタスクが可能な脳みそをしていただけであって、体が一つである以上は溜めの最中に口以外には大して動かせない。

 

しかし敵は目の前の奴らだけじゃない、現時点で既に第三波だがこれから先もまだまだ敵が出てくると思われる。

 

既に北方でヒナと風紀委員が一部兵力を止めてくれているはずだが、それで一気にスッカラカンになる程度の兵力ではないことは、基地の規模から容易に知れる。

 

……少し無理をするか。

 

「……どうしても使わせてーんなら、全力で奴らを押し留めろ!前には出てくるなよ、当てる当てないの選別はできない!」

 

左の刀を鞘に納め、右の刀に手を添える。

 

後方からの銃声の勢いが増し、ミニガンが、ドローンからの射撃が、ライフルの連続射撃が頭上を飛び越してくる。

 

俺は集中力をより高めるために、自らが定めたルーティーンを履行する。

 

「迫りくるは霞か、はたまた死か……何であれ、一刀の下に散らしてみせよう!……『霞刈』!」

 

振り抜くと同時に放たれた風の刃で敵を薙ぎ払う。

 

今回の『間引き』に適う者はいなかったようで、全員が倒れ伏していた。

 

「カルマ先輩、本当に刀だけしか使ってないの……?」

 

「……実はシロコ、俺も常々思っちゃいるんだ。これおかしくね?とはな。」

 

「いや、おかしいとか言うレベルじゃないでしょ!」

 

ツッコミを入れられながらもある程度のリラックスにはなった。

 

そこにアヤネの通信も入ってくる。

 

[みなさん、大丈夫ですか?]

 

「ん。」

 

「全っ然大丈夫!」

 

「私も大丈夫です☆カルマ先輩はどうですか?前線で銃撃を受け続けていましたが……。」

 

アレだけの数で一切弾丸を受けずに処理し切るのは流石に無理があったので、俺もそこそこの弾丸を受けてはいた。

 

まあケガ一つないのだが。

 

先生の方を見るが、こちらも無事な模様。

 

そういえば先生は先生で、あのタブレットからバリアが展開されていたのだったか。だとしたら心配して、いや、まあ損ということはないだろう。

 

[先生に教えていただいた座標はもう目の前なので、もう少しの辛抱です……!]

 

「まだまだ行けますよ〜!」

 

「先輩がヘイトを買ってくれてるから、こっちはほぼ無傷。」

 

「ヘイトを買ってるが無傷だ。しっかし、これをホシノはいつもやってんのか?キツくね……?」

 

普通にバンバンこちらにばかり弾丸が飛んでくるのに驚かされる。よくこれアイツは平然とやってたな……。

 

[……っ!前方に敵を発見しました!]

 

そんなよそに向かわせた思考もアヤネの通信によって引き戻される。

 

[距離は2km、もうすぐ接敵します!みなさん、対応の準備を……]

 

言葉に応じて溜めに入るが、その刹那の後に轟音が響く。

 

[!?あれは……。]

 

視線だけ後方に送ると、牽引式の榴弾砲がその筒から煙を上げていた。

 

「支援射撃?」

 

[……L118、トリニティの牽引式榴弾砲です!一体どうして……]

 

思わぬ援軍(?)に戸惑う中、向こうから通信が入る。そこで出てきたのは……

 

[あ、あぅ……わ、私です……。]

 

「ヒフミ!?」

 

「あっ!ヒフ……」

 

[ち、違います!私はヒフミではなく、ファウストです!]

 

……銀行強盗の時に名乗ったという覆面水着団のコードネームのことか。

 

しかし俺がそれを知っているのはおかしいので適当に困惑する。

 

[……。]

 

「わあ、ファウストさん!お久しぶりです!ご自分で名前を言っちゃってましたが、そこはご愛嬌ということで☆」

 

「いやヒフミだよな!?何だよファウストって!?」

 

「覆面水着団のリーダー。」

 

知 っ て た

 

[あ、あれ!?あぅぅ……!その、このL118はトリニティの牽引式榴弾砲ですが……と、トリニティ総合学園とは一切関係ありません!射撃を担当している皆さんにも、そう伝えておきましたので……。]

 

そりゃ英軍で開発された兵器だからトリニティだけが使えるわけでもないだろう。あえて言う必要もないというのに……

 

[す、すみません、これくらいしかお役に立てず……。]

 

「ううん、すごく助かった。」

 

「はい!ありがとうございます、ファウストちゃん!」

 

[あはは……えっと、みなさん、が、頑張ってください!]

 

感謝の言葉に照れながらヒフミことファウストは通信を切る。

 

「火力支援の直後に突撃、定石通りだね。」

 

[はい!敵は砲撃により混乱状態です、今のうちに突破しましょう!]

 

……トリニティにどうやって救援要請を?いや、ヒフミの働きかけか……

 

 

 


 

 

 

「ああクソ!なんでこうなるんだよ!」

 

「よりにもよって理事がいない時に第1とか、ふざけんな!」

 

「つべこべ言ってないでデータを消せ!奴らに握られたら終わりだ!」

 

「やってますよ……!な……!?」

 

「どうしてだ!データが消せないぞ!?」

 

「そんな馬鹿な話があるか!ほら……なん、だと……!?」

 

「だったらハードごと……ガッ!?」

 

「『グレーな企業の実態は程度を弁えた隠蔽体質』……そう室長に言われてたけど、これで事実なのかはっきりするね。」

 

「室長が言うならそうなんだろうけど……まあ、開いてみなきゃね?」

 

「そうそう、後で先輩にもお土産盛ってかないとね!何がいいかな……。」

 

「スルメとかどう?天才なら飲み込むタイミングが分かるのか気になってたんだよねー!」

 

「……匂いキツくない?」

 

「いいじゃんいいじゃん!室長、甲殻類と軟体動物苦手だし!」

 

「悪いこと考えるね……賛成!」

 

 

 


 

 

 

[目標の座標地点に到着!この辺りに、ホシノ先輩が閉じ込められているはずです!この周囲のどこかに、きっと……!]

 

敵襲を切り抜けて辿り着いた先に見えたのは見知らぬ、しかし見慣れた様式の建造物だった。

 

「……。」

 

「ここは……。」

 

「……ここ、学校?この痕跡……多分学校、だよね?」

 

「砂漠の真ん中に学校……もしかして。」

 

「……備えろ!」

 

納めていた二刀を引き抜いて臨戦態勢に入る。

 

「流石は『狂鬼』、気配の察知は十八番か……ここは、本来のアビドス高等学校本館だ。」

 

[!!]

 

対策委員会もようやく気付いたようだが時すでに遅し、俺たちは既にカイザーPMCの兵士に全方位を囲まれていた。

 

「あんたは……!!」

 

やはりここで邪魔してくるか、カイザー理事は。

 

目的地直前に全力で潰しにかかる、何とも性格の悪い作戦を考えつくものだ。

 

「よくぞここまで来たものだ、アビドス対策委員会。」

 

[敵の増援多数……!この数字、恐らく敵側の動ける全兵力が……カイザーPMCはきっと、ここで総力戦に持ち込むつもりです……!]

 

「……あれだけ子どもを見くびったくせに、今になってこれか?情けないとかそういうの通り越してダセェぞ、カイザー。」

 

挑発に乗らないことにしたのか俺の発言を無視した上でカイザー理事は続ける。

 

「砂漠化が進行し、捨て去られたアビドスの廃墟……ここが、元々はアビドスの中心だった……かつてキヴォトスで一番大きく、そして強大であった学校の残骸が、この砂の下に埋もれている。ゲマトリアは、ここに実験室を建てることを要求した。」

 

[実験室……!?]

 

「そんなことよりも、ホシノ先輩はどこですか!」

 

「あの副生徒会長なら、向こうの建物にいる。実権を中止せざるを得なくなった今、実験室ではなくただの牢獄だが……。」

 

「……っ!」

 

「彼女の元に行きたいのであれば、私たちのことを振り切って行けばいい。君たちにそれができるなら、の話だが。」

 

そもそもこちらの侵入に、今回は一切の非がない。

 

遠慮する必要はない以上問題は敵の数だけだ……それが大問題なのだが。

 

[この兵力、容易に通してくれそうにありませんね……。]

 

全方位を囲まれている以上、霞刈りは効果をなさない。

 

こういう時の技もあるにはあるが、これも無差別範囲技なので味方まで吹き飛ばしかねない。

 

どうしたものかと思案を巡らせていると……またもや爆発音が。

 

[また爆発!?こ、今度はなんですか?]

 

後方を振り返ると、煙の向こうに見える4つの影。

 

それ見た瞬間に俺は刀を逆手に持ち変える。

 

「怪我は大丈夫なのか?……便利屋68!」

 

「もっちろん!あんまりナメないでほしいかな☆」

 

「……本調子じゃないけど、問題ない。」

 

「お、お邪魔します!」

 

[べ、便利屋の皆さん……!?]

 

依頼無しで来るとはとんだ飛び込み営業だ。

 

その商魂に胸中で大きく評価を上げつつ、俺は思わぬ助っ人その2、便利屋68を見据える。

 

「やっと追いついたけど、なんか多いし、もしかして大事なシーンに割り込んじゃった?」

 

「うんにゃ、大事なシーンに不要なものが多いからな、そのお片付けパートだよ。」

 

「……ふん、こっそり助太刀しようと思ったのに、そう上手くはいかなかったわね。室長さん、この人たちは全員倒しても構わないんでしょう?」

 

アルがキメ顔で出てきて、一言ながらに頼もしいセリフを放つ。

 

「便利屋ではなく、協力者として言わせてもらうわ……ここは私たちに任せて、先に行きなさい!!!」

 

「!」

 

「!!」

 

「!!!」

 

「……はあ。」

 

アルはそのまま悠然とした姿勢を見せているが、今頃脳内はパニックになっているはずだ。

 

明確な敵対宣言を見逃すはずもないだろうカイザーに対抗するために、俺は逆手に握った左手の刀を天高く掲げる。

 

「先生……全員を伏せさせてください。」

 

「……分かった。みんな、伏せて!」

 

状況が飲み込めずとも先生の指示に従った味方を見届け、俺は左の刀を突き降ろして地面に打ち立て、それを中心に1回転しながら逆手で右の刀を振るう。

 

「『螺旋斬・蛇』!」

 

粗方の兵士を消し去った上で、俺はアルに叫ぶ。

 

「んじゃ、後は任せた!」

 

「えぇ!?いや、え、ええ!勿論、そのために来たんだから!」

 

「……あからさまにハードルを下げられたね。」

 

君みたいな感のいいガキは……いや、そういえばカヨコは年上だ。

 

しかし明らかにキャパオーバーな量をぶつけさせて大怪我させても寝覚めが悪い(どの口で言ってるんだとは自分でもつくづく思うが)、だから彼女たちがギリギリ勝てるラインまで敵の数を絞った。

 

実りある戦いになることを祈るばかりである。

 

「くふふー、カルマ先輩はそんなにアルちゃんがそんなに大事なんだ?」

 

「……今語るべきはそこじゃない。先に行かせてもらうぞ。」

 

ムツキの発言は流し、俺は対策委員会の殿(しんがり)につく。

 

「彼女たちが引き止めている内に、行きますよ!」

 

後ろから追い立てるように、俺たちは包囲網を突き抜けた。

 

 

 


 

 

 

[ホシノ先輩の位置、確認できました!あそこです、あのバンカーの地下に!]

 

敵軍を振り切って目的地は目前……。

 

「待て!」

 

しかし、しつこい奴もいるものだ。

 

「よくもやってくれたな、『狂鬼』……そして、対策委員会……!」

 

カイザー理事はあの時、とっさに部下を盾にして難を逃れたらしい……どこまでも上に立つ人物として腐った男だ。

 

「お前ら、先に行け。」

 

予想していた通りに殿の俺が単身残ろうとする。

 

「でも、先輩一人で……。」

 

「向こうも限界が近い。俺が奴らを相手取れば、お前らに回せる戦力はないだろうよ。」

 

元々こいつは捕まえるつもりだった以上、彼女たちの手を煩わせる気はさらさらなかった……

 

彼女たちが迎える大団円への道に、コイツは不要だ。

 

「ホシノにはこう伝えてくれ。『お前が早く来ねーと、また砂漠の上に死体が増えるかも』ってな。」

 

まあ、そんな予言を実現させるつもりなどないが。

 

「お前らはホシノを取り返すことだけ考えろ。このガラクタは……俺が片付けておく。」

 

「……分かったわ!絶対無事でいなさいよね!」

 

セリカが俺の言葉に応え、先陣を切って走り出す。

 

「先輩を信じる……すぐに戻るから。」

 

「帰る時は全員ですからね♣」

 

[……カルマ先輩、どうかご無事で!]

 

対策委員会も行き、最後には先生が残る。

 

「……先生、ああは言いましたけど常駐した警備兵くらいはいると思いますよ。」

 

「分かった。最後まで彼女たちのサポートに徹するよ。でも……。」

 

「今回力を貸すのはアビドス。俺じゃないはずですが?」

 

「……すぐに終わらせてくる。」

 

先生も進んでいき、相手も最後の攻撃の準備が整ったようだ。

 

「……随分と悠長だな?」

 

カイザー理事の言葉に気怠げに返す。

 

「おかげさまでな。しばらくBlue Archive(青春の記録)はお預けだ……喜べ、お前らをメインに祭り上げて、今から始めてやるよ……Violet Archive(暴虐の記録)を。」

 

右の刀でカイザー理事を指し、俺は冷え切った声でそう告げた。




「Violet Archive」の注意事項
・Violet Archiveは七郷カルマの血濡れた人生の記録である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18 悪人を貫き阿呆を殴る

『Violet Archive』
・『Blue Archive』にカルマが登場する世界線でメインストーリー最終編が実装されきった直後に実装された『サブストーリー』。本編でちょくちょく姿をくらましていたカルマに焦点を当てた構成になっていて、正規衣装だけが実装されないカルマ難民の拠り所となっている。


悲鳴、斬撃、沈黙。

 

悲鳴、斬撃、沈黙。

 

悲鳴、斬撃、沈黙。

 

悲鳴、斬撃、沈黙。

 

悲鳴、斬撃、沈黙。

 

悲鳴、斬撃、沈黙。

 

悲鳴、斬撃、沈黙。

 

悲鳴、斬撃、沈黙。

 

悲鳴、斬撃、沈黙。

 

悲鳴、斬撃、沈黙。

 

 

まとめて薙ぎ払えるところを、一人ずつ丁寧に斬り捨てる。

 

実際には彼らの散り様は別に悲鳴だけではなく無駄にバリエーションに富んでいたのだが、それについて細かく割く時間も紙面も必要ないので妥協して10行程度乗せることにした。

 

一応言っておくと死んではいない、流石にこいつらを殺して人殺し呼ばわりなんて、それこそ死んでも御免だ。

 

勿論一人ずつなんて効率の悪さで抵抗されない訳はなく、相当量の弾丸を喰らった。

 

 

微塵も痛くないが。

 

 

そもそも銃を使えない俺が刀を握っているのは、キヴォトスで日常的に用いられる攻撃の一切が俺に効かない、正確に言えばダメージにならないからだ。

 

そんなことにも考えが至らない馬鹿共は虚しく弾薬を消費し続け、そして敗者の山に積み重なっていく。

 

右の刀一本で敵兵を屠り去る。大体のゴミ処理が終わった俺は振り返り、最初にキープしていたとびきりの産業廃棄物に目を向ける。

 

「……カイザー、雑魚くね?」

 

「七郷カルマ……!」

 

右腕を串刺しにして尚、奴には睨めつける余力があるらしい。

 

 

 


 

 

 

「さて、誰か人が来るまでにお前の罪を再確認しておこうか。」

 

「フン、罪だと?笑わせるな。」

 

嘲笑(わら)いてぇのはこっちだよ。何をどう考えたら、お前に罪が無いなんて言える?やれやれ……腐ってもカイザーの役員、それなりに頭は回るかと思いきやとんだ無能だな。こりゃ黒服にもいいように使われるわ。」

 

とびっきりに口汚く罵って、俺はカイザー理事を詰める。

 

「そうだな……まずはホシノの引き渡しに応じなかったこと、そこから話そうか。」

 

「……そもそもここはカイザーの土地だ。黒服の実権が中止された今、小鳥遊ホシノは不法侵入者で。」

 

「ここで耳寄り情報その1!『カイザーコンストラクションは土地売却後もその地域の自治をアビドス高等学校に認め、何かしらの衝突の際はアビドス高等学校の判断を優先する』……土地売買に関する契約書には、こう書いてあった。」

 

要は対策委員会がカイザーにこの基地を引き払えと言えばカイザーは立ち退かなければならないし……

 

ホシノを返せと言えば返さなくてはならないのだ。

 

「それは貴様らが……!」

 

「先に仕掛けてきたから?あれれー、俺が最初に丸腰で向かったら撃たれたんですが、事実と矛盾してますねぇ?」

 

左腕にも刀を突き刺す。

 

悲鳴と罵倒は汚すぎるのでお耳汚しにならないよう省略させていただくが、何とも無様なものであったことだけは記しておこう。

 

「そしてここで耳寄り情報その2!本日、俺の部下たちがカイザーPMCに抜き打ち検査を行いました!」

 

「な……!馬鹿な、そんな急に……。」

 

「急でもなんでもねーよ、『学園自治区への侵略行為』なんて不祥事があれば、その企業の日頃の業務体制に疑問を抱かないわけがねぇんだわ。」

 

ざっとメールで送られた資料を確認してみたが、まあ酷いものだった。

 

法律のラインギリギリを攻める企業の実態は、法律に触れる都合の悪い事実を隠した『程度を弁えた隠蔽体質』だった。

 

「そもそも、何だその条項は……そんなものを認めたつもりは……。」

 

「交渉したのはお前じゃないだろ、その頭じゃこれ以下の契約しかできないだろうし。」

 

恐らく土地売買はコイツがトップに座る前にあったのだろう。

 

この契約内容になった理由が当時の担当者に僅かばかりの良心があったか、最初に無理難題をふっかけてからの用意していた妥協案だったからなのかは分からないが、まあアビドスの自治区で好き勝手やっておいてこれを知らないのはこの契約が過去のものだったからだろう。

 

もしこれができた時にアイツがトップだったなら……もう救いようのない無能としか言いようがない。

 

「学園相手の明確な契約違反、そして余罪もたっぷり。これはもう、カイザーPMC、カイザーコンストラクション、カイザーローンは業務改善命令……いや、業務停止命令かな?いずれにせよ、厳しい処分は免れないだろうな。おめでとう、これでカイザーコーポレーションでの役員の席も剥奪だろうな!」

 

「……ふざけるな……ふざけるなよ七郷カルマ!金も力もない、ただの子供の分際で……!」

 

今度は左腕の刀を抜いて右足に突き刺す。

 

機械の体は、血が出ないからいい……メインの基盤を壊さなければ直せるのだから、いくらでも痛めつけられる。

 

「そもそもアビドスのような、落ちぶれた学園に肩入れする必要がどこに……!」

 

「連邦生徒会傘下の学園だ。第2が殆どを担ってるけど、俺たちもそこそこの数の学園に視察に行ってる……その中で対策委員会を助けたくなっただけだ。」

 

失うまいと足掻く少女たちに。

 

一言で言えば、魅入られた。

 

「意味が分からん……!魅入られたからだと?何の得にもなりはしないのに……!」

 

「だろうな。お前はそう言うと思ってた……分かってもらえなくて……嬉しいよ。」

 

今度は右足に刺す。

 

これで四肢を全て刺し貫き、どこにも行けないようにした。

 

「アビドスの奴らも奴らだ!何故折れない!あの金額は今のアビドスに返せるものではないだろう!諦めた方が早いだろうに、毎日楽しそうに……!」

 

「俺に聞かれても分からねえよ……不快だけどここに関しちゃお前と違うのは一点だけか。意味不明なものに惹かれたか、それを邪魔と押しのけようとしたか。それだけの違いでこの差は笑えるけどな。」

 

俺の場合は、不快感で頬が引きつって口角が上がっているだけな気がしなくもないが。

 

『カルマギア04−2:アドへシブボムロープ』をカイザー理事の胴体に巻きつける。

 

粘着性がある爆薬でできたロープは簡単には剥がれない上に無理に剥がせばドカン、これの解き方は俺と部下しか知らない。

 

「ついでにメモ書きを貼って……ヨシ!これで他のやつも下手に手を出せないな!」

 

やるべきことを終えて、俺は手を叩いて埃を払う。

 

「そろそろ向こうも終わったかな……殴りに行くか。」

 

 

 


 

 

 

「カルマ!終わったんだ、ね……?」

 

先生のこちらを心配していたことが分かる温かい言葉を無視し、俺は立っていたホシノに向かって全力で走る。

 

そしてその勢いを乗せたまま捻った体を戻し、全力でホシノを殴り飛ばした。

 

「ええっ!?マジで殴ったぁ!?」

 

セリカのツッコミが冴え渡る。

 

「ちょっ、カルマ先輩何してんのよ!?」

 

「何って……ずっと言ってたぜ?『ホシノを助け出したらまず一発ぶん殴る』って。」

 

「マジでやるとは思わないでしょ!」

 

セリカに詰められるが、俺がされたことを思い返せばこれくらいではぬるすぎるだろう。

 

別に追撃を仕掛けるつもりもなかったので、俺はホシノが立ち上がるのを待つ。

 

「うわぁ!いきなり落ち着くな!」

 

「いや、殴るって言ったけど一発とも言ったし。」

 

「うへー、カルマの言ったことで追い詰められて、カルマの言ったことで助けられるとはねー……おじさん、頭がぐわんぐわんしてるよ。」

 

殴られた頬を押さえながらホシノはよろよろと立ち上がる。

 

「いてて……カルマ、いくらなんでも全力で殴り過ぎじゃない?」

 

「こっちが喰らったのは全力どころか全弾だし、殴打どころか乱射だし、攻撃どころか絞撃なんだが?」

 

「うっ……ごめん……。」

 

やはり事実で黙らせるのは気分がいい……ではなく。

 

「取り敢えず……おかえり、か?お前曰く俺は部外者みたいだが。」

 

彼女たちが出撃にあたって固めていた決意を俺だけ無視するわけにも行かない。

 

まあ、彼女には嫌な反応をされるかもしれないが……

 

「あ……それは……そんなつもりじゃ……。」

 

「分かってるよ、そんくらい。からかっただけだ。」

 

足元がおぼつかないホシノを抱え上げ、俺は返事を催促する。

 

「それよりも先に、言うことがあるんじゃないのか?」

 

「う、うへ!?この体勢で言うの?」

 

「ロクに立てないんだから仕方ねぇだろ。」

 

「誰のせいだと……うぅ……ただいま!」

 

ヤケクソみたいな挨拶だったが、正直それが聞けただけで十分だ。

 

 

 


 

 

 

「正直に言って、今回のお前ってマジの阿呆だと思うんだ。」

 

「う……。」

 

アビドスに帰還した後にホシノは即座に休むように指示を出され、俺が付添人として同行することになった。

 

いきなり彼女をぶん殴った俺が付き添うのはどうなのかなどと言われもしたが、まあそこは上手くはぐらかした。

 

こうして取り敢えずホシノを家に連れてベッドに転がし、俺は床にあぐらをかいて座っている。

 

「俺さ、お前としっかり話をするつもりであの時引き下がったんだぜ?お前がそう言ったから。それで蓋を開けてみれば、置き手紙残して抜け駆けかましてさ……理由があるから話を聞けって、あれだけ言ったのに。」

 

「それは、本当にごめんって……。」

 

「しかも無条件に信じて無計画に動いて……それのおかげで今回は助かったとも言えるけど、そもそもちゃんとそういう手続きを確認してりゃ、あんな甘言に乗らなかったはずだし。」

 

「わ、分かったから……。」

 

「後輩たちも泣いてたぞ?」

 

「それ、本当……?」

 

「嘘。」

 

「嘘なんじゃん!」

 

ベッドに寝ながらも体を起こしてツッコんでくるホシノを見て、俺は安堵の息をつく。

 

どうやら体調に関しちゃ心配なさそうだ。

 

「それにしても、無事でよかったよ……そんなに元気なら、これからの仕返しもちゃんと効くだろうし。」

 

「……え?殴るのだけじゃなくて?」

 

「お前が残したアレ、実はまだ読んでないんだ……だから、ここで音読しようと思います!」

 

懐から取り出したクシャクシャの封筒を見て、ホシノの顔が青ざめる。

 

「そ、それ……。」

 

「はいその通り、あの小鳥遊ホシノさんが黙って消えやがりました後に発見された置き手紙、しかも俺宛てのものですね!」

 

「か、返して……。」

 

「え、俺に見てほしいから置いただろうに読ませないで没収?そんな手紙なら書く意味ないよな?」

 

「それは、そうだけど……黙って消えようとしてたから書いたんであって、もうしないんだからいいでしょ?」

 

必死で手紙を取ろうとするホシノの手が届かないところに手紙を掲げながら、俺は更にホシノに言葉責めを仕掛ける。

 

「……ふーん、そんな恥ずかしいことを書いたんだ?」

 

「っ!?いや、そうじゃないけど……。」

 

「じゃあいいじゃん。それでは拝見……。」

 

「ちょっと待って!……あぁ……!」

 

ホシノも抵抗が無駄な状況になってしまったことを悟って崩れ落ちる。

 

俺はこれ幸いとばかりにまずはその文章に目を通し……

 

「……。」

 

「見られちゃった……うぅ……。」

 

「……なんつーか、悪い。この内容を茶化すために使おうと思って。」

 

「やめて!何その優しい目!?」

 

「キャラ崩壊してんぞ、割と深刻な。まあ、慌てさせた俺が悪いんだが……。」

 

手紙をちびちびと破く。所々で曲げたりしつつ、俺はホシノに再度話題を振る。

 

「そこに貼ってあるポスター、ユメ先輩の……。」

 

「うん。おじさんにとっては、残された先輩との数少ない繋がりだからね。」

 

ビリビリに破られたものを精一杯テープで直したのだろう、アビドスでかつて行われていた砂祭りのポスター。

 

あの人はアビドスの借金を返し切ってまた祭りを開き、アビドスを盛り返そうと本気で思っていた。

 

「大事にしとけよ?……っし、手紙の処分も完了!なんか飯でも作ろうか?数食分は確実に食ってねーだろ、実質カイザーに監禁されてちゃ。」

 

「そうだねー、おじさんも黙ってたけど、お腹ペコペコだったんだー。」

 

破いた紙を床の上に置き、俺は立ち上がる。

 

「そんじゃ、冷蔵庫の中身を借りるぞ。腕には期待すんな、自炊はしてるが。」

 

 

 


 

 

 

カルマへ

 

まず、昨日はごめんね。私はカルマの言葉を振り切って、その上カルマをこれでもかと傷つけた。

 

カルマは私のことを嫌いだろうけど、私は、少なくとも今の私はカルマのこと、嫌いじゃない。

 

だからきっと、そこかで甘えちゃってたんだと思う。カルマは私がやることを分かってくれるって。

 

結果はまあ、さっきの通り。予想と違っちゃったわけだけど、薄々気付いてたのかもね、こうなることに。

 

もう会うこともないだろうけど、もしまたあったら、多分敵同士かな?その時は私が過去を恋しがってる内に、殺してくれたら嬉しいかも……なんてね。

 

 

 


 

 

 

「『嫌いだなんて、違うって分かってるだろ?』かぁ……変な破き方してるかと思いきやそういうことか……。」

 

「ホシノー、コンソメあったから、ひとまずスープ作ったぞ?」

 

「おお、いいねー。それじゃ、あーん……。」

 

「え?俺が食わせるの……ハハッ、仕方ない、今回だけだからな!」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは小鳥遊ホシノに好意を抱いている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19 未完成の神秘

再確認
カルマのヘイローは不可視・不定形。だが赤と青で構成されていることは何故か確実に認識できる。


「またお会いできて嬉しいですよ、先生。」

 

「……私は会いたくなかったけどね。」

 

「まあそう言わずに……まずは小鳥遊ホシノの奪還、おめでとうございますと言うべきでしょうか。」

 

「私がやったんじゃない、あくまで生徒の努力の賜物だよ。」

 

「左様ですか……だとしたら先生、あなたに関しての質問をしましょう。先生、あなたは何故、あそこまでアビドスに手を貸したのですか?」

 

「……それが聞きたいの?」

 

「ええ。彼女たちに協力したところで、何が得られるわけでもありませんし、何かを失うわけでもない……

 それでも彼女たちに肩入れし、手を差し伸べた。それに際してあなたが何を考えたのか、興味がありまして。」

 

「理由、ね……。」

 

「何も、無意識で助けようとしていたということはないでしょう。物事には原因があり、行動には理由があり、全てに結果がある。当たり前のことです、キヴォトスの中だろうと外だろうと、どこの世界であろうとも。

 その中であなたが今回の行動を選び取った理由……それを私は聞きたいのです。」

 

「彼女たちに、助けを求められたから。それが理由だよ。」

 

「クックックッ……私が聞きたいのはそういうことではないのですが、先生、あなたにとってはそういうことなのでしょう。

 生徒の頼みを引き受けること、生徒の問題を解決することは、先生であるあなたの役目……

 そう思っているのでしょうね。」

 

「うん。それが大人として、先生としての果たすべき責任だから。」

 

「ふむ……あなたの殊勝な心がけに私が口を出す筋合いはありませんし、切り捨ててもらっても構いませんが……

 あなたの心がけを大人としての責務と言い切るその姿勢には、危うさを感じずにはいられません。」

 

「……それは、どうして?」

 

「端的に言いましょう。人が全ての責任を負うことなど、できはしませんよ。」

 

「……。」

 

「そうですね……あなたも私もよく知る、もしくは欠片も知らない彼がいい例です。彼は隠したがりますが、私まで彼に倣う必要はありませんし……。」

 

「カルマの過去のことは私も知っているよ。彼が話してくれたからね。」

 

「これはこれは……あの彼が、自らの過去をあっさりと他人に話すとは……どうやらあなたは、随分と彼に慕われているらしい。

 しかし、この際それは関係ありません。

 彼自身の人生の振り返り方には強く興味を引かれますが、今回私がお話するのは、私たちしか……少なくとも彼は知り得なかった彼の話です。」

 

 

 


 

 

 

「我々ゲマトリアがこのキヴォトスにやって来たのはほんの少し前ですが、実はこれが初めてではありません。

 

「今回お話しするのは最初の訪問……17年前のことです。

 

「我々は独自に手に入れた情報に基づき、ある一個人の邸宅……いえ、アパートの一室へ向かいました。

 

「そこには探求者である我々が、喉から手が出るほど欲しい物が眠っていましたからね。

 

「しかし、いざ蓋ならぬドアを開けようとしても鍵がかかっている。

 

「大家に尋ねてみればそこに住んでいた女性はたった一人の赤子を残して自殺とのこと、私たちはすぐさま、その子どもが引き取られたであろう施設を探し出しました。

 

「ここまで来れば分かるでしょう……ええ、そうですとも。

 

「我々は七郷家の神秘に興味を持ち、その実態を調べるために七郷の血を引いた、実験に使う子ども(モルモット)が欲しかった……

 

「だからこそ、彼を探すために我々は打てる手を全て打ち、その子どもを見つけ出しました。

 

「そしてその子どもを買い取ったのですよ……ええ、あなたであれば紛糾すると思っていましたよ。子どもを導くという立場を同じくする施設の職員が、まさかその子どもを金で売るとは思わなかったでしょうね。実を言えば、私たちも驚いてはいたのですが……。

 

「失礼、話が逸れました。

 

「ともかく、そうして買い取った子どもには既に『カルマ』という名前がついていましたが、研究者にとって個体名は不要、我々は彼を『(セブン)』とナンバーだけをつけ、それを用いて彼を表現しました。

 

「数字に関しては、単なる語呂合わせですがね。

 

「そして当時のゲマトリアでは、現在のメンバーはほとんど新入り、もしくは未加入の者が大半でした。だからこそ、彼を引き取ること以外には関与していなかったのですが……

 

「今となってはそれが幸いしたとしか言えないでしょうね。

 

「実験台が5歳になる頃に、我々はついに本格的な実験を開始しました。

 

「先生、七郷カルマのヘイローがいかなる形、色をしているかはご存知ですか?

 

「そもそもが見えない、形も分からない、しかし、青色と赤色で構成されているのは分かる。ふむ……

 

「気を落とさないでください、先生。それが普通の反応ですよ。まあ、我々の場合は赤と青、そういう認識ですが……。

 

「同じじゃないか?いえいえ、それなりに重要なところではあります。今はそこまでですが。

 

「ともかく、そのような未解明なものが多い神秘……未完成な神秘に形を与える実験を私たちは行いました。

 

「恐怖、喜怒哀楽と、様々なもので彼の精神性を固め、見えざるヘイローを白日のもとに曝け出す……

 

「しかし、一番最初に『恐怖』を植え付けたのが失敗でした。

 

「年端の行かない子どもは恐怖を目の当たりにすると何をするかは、先生、あなたもお分かりでしょう。

 

「彼が言っていた研究所の事故は、彼が恐怖を前に暴れたことが原因で起こったのですよ。

 

「そこに居合わせなかった我々と、実験会場の一番遠くにいた一人は難を逃れましたが……

 

「それ以外は、全員死にましたよ。

 

「現在よりも多く存在した、散っていった同士の中には責任者もいましたし責任感を感じている者もいました。

 

「ですがそれらの責任は彼らの身体と共に、一人の子供の拒否反応によって粉々にされました。

 

「我々が小鳥遊ホシノを実験台とした理由は、彼を除いた上でキヴォトス最高の神秘を持つからですが……正直、次点としてはあまりにも差がありすぎる。

 

「こういう言い方を嫌われるかもしれませんが、彼は()()()()()()()()()()()()

 

「……長々と語りましたが、私が言いたいことは責任を取るというのも個人の裁量を超えてしまえば、ただ悲劇が待つだけだということです。

 

「だからこそ責任を負わず、すべてを他人に投げる大人が多くいる理由でもあります。

 

「自分ではどうにもできないことがあると知っているから、その一線を越えないように一歩を踏み出さない。

 

「無論、それが全てだとは言いませんがね。

 

「そういった人々に比べれば、あなたは在り方として誠実そのものでしょう。

 

「負える責任を全て背負い込み、生徒の抱えている重荷を肩代わりする……

 

「しかしその有り様が悲劇を起こしうることを想定しない。

 

「そういう意味では、実験の成果はあったのでしょうね。

 

「生き残った私たちに、『この実験は無謀だ』『調子に乗りすぎた』『軽々に神秘に手を出すべきではない』……伝わった教訓は山ほどあります。

 

「しかしそれを踏み越えて我々は探求を続ける……ええ、先生。間違いなく私たちはあなたの嫌う無責任な大人でしょう。

 

「ですが私もいつ、背負った責任に潰されるかも分からないあなたを理解しかねています。

 

「何故生徒だからと責任をひたすらに背負えるのか?

 

「何故未だに限界が来ていないのか?

 

「何故?何故?何故?何故?何故?何故?ああ……理解できない。

 

「私には到底理解できません、あなたの心持ちが。」

 

 

 


 

 

 

「……言っても、多分理解できないと思うよ。」

 

「そうですか……残念です。」

 

「カルマについて、また一つ知れたことを嬉しく思うよ。内容は少し驚いたけど……私がなんとか、彼を傷つけないようにしてみせる。」

 

「……あなたが隠し持っているその、『大人のカード』を使ってですか?正直、おすすめはしませんよ……

 そのカードは文字通りの切り札のような存在ですが、あなたの生が、時間が代償となっている……

 そのリスクは、うっすらとですが分かります。」

 

「……リスクを飲み込むのも、大人としての責任じゃないの?」

 

「無責任な大人に聞いて、分かるものでもないでしょう。

 しかし先生、あなたのその切り札でも、彼に何かあった時の責任を取るのは難しい、いえ、不可能だろうと言わざるを得ません。

 いくらそのカードが掟破りな切り札だとしても、彼には通じない可能性が高い……

 トランプのジョーカーは無類の強さでも、それを手にする人間には何一つ実害を与えることができないように。」

 

「だとしても、私は私にできることをするだけだ。」

 

「それで何ともならないことがあると言っているんですよ。

 そもそもあなたは、キヴォトスの支配者になることもできた。

 一時的にせよ、このキヴォトスの全権をあなたは握っていた。

 それをみすみす連邦生徒会に明け渡す……実に勿体ない!

 真理と秘儀、権力、お金、力……その全てを捨てるなんて無意味な選択を、どうして!

 ……私はあなたを気に入っています。だからこそ、あなたのその選択が残念でならない。」

 

「あなたに残念がられようと関係ないよ。私は先生だ……生徒を助け、守るのが私の仕事であり、責任だ。」

 

「平行線ですね……私も年甲斐もなく少し熱くなってしまいましたし、今回はここらでお開きにしましょう。」

 

「……二度と会わないことを願うよ。」

 

「では私は、近い内に会えることを願っておきましょう。今回こそ意見の食い違いがありましたが、あなたの話は実に興味深い。」

 

「……。」

 

 

 


 

 

 

「ホシノ、この絵本は何だ?」

 

「あ、カルマはそれが気になるの?」

 

ホシノの部屋にあった絵本を手に取り、俺はパラパラとめくって流し読みする。

 

「ふむふむ……マジでこれ、幼児向け?」

 

「子供の頃は怖いとしか思わなかったけど、よく思い返してみるとすごい話だよね。『全ての神々を一柱の神が殺す』なんてさ。」

 

絵本でなければ許されないような、荒唐無稽な物語。

 

俺もホシノもこの絵本を笑い話のネタにするぐらいにはこの話を眉唾ものだと思っていた。

 

「船の上で宗教も地域も確執も超えて、すべての神が集まって宴会を開く、その中でも一際無名の神が余興を披露しようとして、それを了承する……

 無防備とはいえ、神だぜ?そもそも無防備になる理由だって雑すぎる……それを老若男女、神格問わず全滅、しかも一撃で、だ。

 神という存在に特攻を持っていたとしても、ああはならねぇだろ。そもそもそんな風に、神々が集まって楽しく宴とか、ファンタジーでも無理あるぞ。」

 

子ども向けの絵本の内容だからと言われればすごすごと引き下がるしかないが、それにしても思うのは明らかに皆殺しの犯人としては明らかに役者として弱すぎる、その一点だ。

 

「神というか神秘繋がりでキヴォトスを見てみろ、最強って言われてる俺が戦い方次第ではお前に完封されるんだぜ?」

 

「……あれ、カルマはやる気なかったでしょ。」

 

「さあな……にしてもこれ、書いの奴誰なんだ?一回顔を見てみたいぜ……んがっ!」

 

寝転がって表紙を見た瞬間、俺の手から絵本が滑り落ちる。

 

「もー、カルマってば何してんのさ?」

 

「手が滑って本が落ちた、字にすりゃそれだけのことだろ。大したことじゃねーよ。」

 

「で、作者は分かったの?おじさんも教えてほしいかなー。」

 

「よく俺の狙いが分かるな、てか覚えて……まあ絵本なんざ子供の頃にしか読まねーからな……。」

 

作者の名前を確認して、俺は即座に絵本を元あった場所に戻す。

 

「……少なくとも会えねーな。」

 

「え?結局誰だったの?」

 

「水ついでくるけどどうする?」

 

「あ、じゃあお願い……じゃなくて、誰だったの?」

 

「……言わなきゃダメか?」

 

ダメっぽい。

 

俺は観念してホシノの方に向き直り、ため息を吐きながら答えた。

 

「……七郷アイ、そう書いてあった。」

 

「……七郷?」

 

その通り。

 

「前に言っただろ?『お前は【夢】を奪われて、俺は【愛】を失った』なんてさ。」

 

「……カルマの、お母さんなの?」

 

「ザッツライト……まさか絵本を書いてるような人だとは、俺も思わなかったけどな。これでまた、親のことを一つ知れたよ。」

 

母親の自殺の理由に、創作活動のネタ切れという候補が加わったのは収穫だ……

 

そもそもどういう経緯で俺が生まれたのかも分からないのだが。

 

「どうして?カルマのお母さんなんだから、知る権利はあるんじゃ……。」

 

「俺はそもそも買われて以降の経歴が行方不明扱いだからな……今こうして連邦生徒会の七郷カルマとして持ってる戸籍も、ダチに作ってもらったもんだし……。」

 

「……うへー、ちょっとおじさん一人に話していい暗部じゃない気がするよ?」

 

「誰にも明かしちゃダメだしそもそもがアウトなんだわ。まあ幸い、俺とその行方不明児を両方知ってるやつが少ねーからな。どうにかこうにかやってこれてる。」

 

「ふーん……。」

 

……まさか、絵本から母親の話に移り変わるとは、ね。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷アイは、七郷カルマの母親である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20 020

これで対策委員会編も、完結ですね。
そして次は2章……ではなく、架空イベントに行こうかと思っております。


後日談というか、今回のオチ。

 

あの後、対策委員会は先生の働きかけによってアビドス高等学校の正式な委員会として承認され、生徒会としての役割も兼任することとなった。

 

とはいえ、最上級生のホシノが蹴ったせいで新たな生徒会長は決まっていないのだが、まあそこら辺は上手くやるだろう。

 

古代ギリシアもトップを据えない共和制を敷いていたんだ、よほど人数が増えない限りはどうとでもなるし、そもそもカイザーにつけ込まれた穴を塞ぐということには成功しているのでしばらくは大丈夫だ。

 

 

便利屋がバカやらかして爆破された柴関ラーメンは屋台として再開し、大将も前にも増して元気らしい。

 

セリカもバイトに再び向かうようになったので、そこそこ繁盛しているのだろう。

 

シャーレのオフィスに戻る前に、一度足を運んでおくつもりだ、変装なしで。

 

 

借金に関しては当然額が減ったわけではないが、カイザーローンが行っていた不正がバレて連邦生徒会全体が意識を向けることとなり、調査の末に業務停止処分を下されることとなった。

 

大量のリストラや出向が相次ぎ、株価もだだ下がりな現状を鑑みるとこのまま倒産もありうる。だとすればそもそもの借金を返す銀行が変わるが……カイザーより酷いというのはそうないだろう。

 

どのみち利息も今よりは遥かにマシになるはずだ。

 

 

そしてカイザー理事……

 

アイツに関しては思い出すのも嫌だが、後日談としては語らざるを得ないだろう。結果として奴は俺たち第1機動室が確保した上で聴取を行った。

 

案の定余罪が山ほど出たので搾り取れるだけ情報を搾り取ってから部下二人に任せた。

 

その後に警察に突き出したが役員として稼いだ汚い金が保釈金として使われ、現在は精神病棟にいるらしい。

 

一応フミとセカイには釘を差しておいたのだが、幾つか保管していた劇薬がなくなっていたので多分容赦なく行ったのだろう。

 

敵とはいえ流石に……同情しようかと思ったが無理だ。

 

役員でありながら蜥蜴の尻尾切りとして即座に解雇されたらしい。

 

これが日本なら労基法で本社を叩けたのだが、キヴォトスにおいて即日解雇は禁止されていないのでここで追及はできない。

 

まあ、普通にカイザー本社の機密情報もこれを機に握っちゃいるのだが、流石に今これを振りかざすのは野暮というものだ。

 

腐っても大企業、これを根元から切り崩せばキヴォトスは混乱どころでは済まない。申し訳ないが俺やシャーレでもどうにもできなくなるだろう。

 

ここは道化のふりをして見過ごすに限る。

 

 

カイザーPMC、カイザーコンストラクションも今回の一件で解体され、フリーになった土地は連邦生徒会が管理することになった。

 

アビドスにそのまま返すこともできたがそもそもの砂漠化の原因が不明な以上、キヴォトス全土がそうなる可能性も危惧して専門家を集めた対策チームを設立する方向だ。

 

砂漠の『宝物』に関する調査も兼ねて。

 

 

『黒服』に関してはあの事務所を引き払ったようで消息も途絶えている……

 

いや、まだパイプは生きているし連絡を取ろうと思えばいつでも取れるのだが、少なくとも俺から連絡しようと思うことは一生ないだろう。

 

対策委員会の調査はともかく、部下たちの調査にも引っかからないあたりは抜け目ないアイツらしいと思わなくもないが。

 

 

ともかく、対策委員会とその周囲で起きたゴタゴタについてのまとめはこれくらいだろうか。

 

そして現在、俺は……

 

 

 


 

 

 

「ん、カルマ先輩は少しホシノ先輩に近すぎると思う。」

 

ホシノに近いからとシロコに詰め寄られていた。

 

「いや、そんなに距離近くはないだろ。」

 

「カルマ先輩個人に宛てた手紙があるって、アヤネから聞いた。」

 

「……対策委員会じゃなくて付き合いが長いからじゃねーかな?」

 

同じ委員会のメンバーとただの知り合いでは伝えるものに差が出るだろう。そういう言い訳で乗り切ろうとするが……

 

「明らかにホシノ先輩に変化が起きてる……具体的に言えば、髪。」

 

「髪?」

 

「今まで以上にサラサラに、ツヤツヤになってる。」

 

……いや、俺のせいにされても困るのだが。

 

「というか、むしろ身だしなみに気を使うようになったならいいことだろ?俺が関わってようがいまいがどうでもよくないか?」

 

「そういう問題じゃない。ホシノ先輩がカルマ先輩の引き抜きに応じるかもしれないから。」

 

「引き抜きしようと思ったのだいぶ前だぞ!よく覚えてたな!?」

 

シロコが拾われた時期にこぼした本音をまさか今になって持ち出されるとは思ってもみなかったが、その試みはとうに挫折して諦めている。

 

シロコにそれを指摘されてもまったくもって的外れとしか言えないのだが……

 

「とりあえず、聞いておく……ホシノ先輩のこと、好き?」

 

「……まあ、好きだよ。」

 

「恋人にしたいくらい?」

 

「いやーきついでしょ。」

 

即答した。

 

「……え?」

 

「いや、ホシノのことは確かに好きだけど、付き合いたいかって言われると……正直なあ……。」

 

正直信じられてるとは思えないし、そもそもがめちゃくちゃ嫌われてたからな……正直、『互いに腹を割って話し合った』ことはないと断言できる。

 

そんな相手と恋愛関係に発展したいかと言われれば否としか言いようがない。

 

そもそも俺は自分の母親がどうして父親に当たる人物を好いたのかはおろか、自分の父親が誰かさえも知らないのだ。

 

それも分からないうちには俺も恋愛についてどうこう考えている余裕はない。

 

「まあホシノかどうかは関係なく、今のところ俺は誰とも付き合う気はねーよ。」

 

「……そう、なんだ。」

 

「ああ、マジでそんなつもりはない。俺は先生と少し今後の予定について打ち合わせがあるし、しばらく席を外すから……そっちも対策委員会の定例会議だろ?遅れないように気をつけろよ。」

 

「……わかった、それとカルマ先輩。」

 

シロコがこちらに顔を寄せて、耳打ちしてくる。

 

「先輩が……もしかしたら他のみんなも、何をしようと私は止めないから。」

 

「?……まあ、覚えとくよ。」

 

シロコがロードバイクを再び漕ぎ出して、アビドスへと進んでいく。

 

俺は先生を呼びに、シロことは反対の方へ進んでいく。

 

それにしても、シロコやホシノが俺をどうにかしようとするならともかく、他の奴らが俺に対してアクションを起こす理由に関してはさっぱり分からないが……

 

用心に越したことはないだろう。

 

 

 


 

 

 

「つー訳なんですが先生、何か分かります?」

 

「うん、刺されないように気をつけてね?」

 

先生に謎の注意をされる。

 

「私の経験上、絶対ろくなことにならないから。」

 

「……そもそも先生って何歳なんですか?」

 

「……三十路。」

 

「いやその割にはお若いですね!?」

 

それなりに過酷らしい先生の経歴とあまりの若見えに驚かされつつも、俺は先生と語らいながらアビドスへの道を辿る。

 

「というか先生、刺されそうになったことがあるんですか?」

 

「うん、学生時代に付き合ってた子にね……正確には『あなたのことは好きだけど、このままあなたと一緒にいたら殺しちゃうかも』って言われたんだけど……。」

 

「……いや、重っ!」

 

どんなメンヘラだその女。その人もなんでそんなことを……

 

「すごくいい子だったんだけどね。家庭的で、絵が上手で……。」

 

「何より、愛してくれたんでしょうね。そんなこと言うくらいなら。」

 

「うん、結局別れちゃったけど……今頃、どこで何をしてるのかな?」

 

本当にこの人はお人好しが過ぎないだろうか。

 

自分を殺すとまで言った人をいい子と言って、今でも気にかけることができるその在り方には正直戦慄さえ覚える。

 

「どんな人だったんですか?見た目というか……。」

 

「茶髪……いや、染めてるって言ってたかな。危ないことに動じないのに、怖いものには凄い驚く、頼りになるけど可愛らしい人って感じだった。」

 

名前も聞こうと思ったが流石にそれは踏み込み過ぎなので自粛する。

 

「まあでも、昔のことだよ。私も吹っ切れた……少なくとも、彼女が他の人とでも幸せになってくれているならそれでいいと思えるくらいにね。」

 

「幸せであることを願うばかりですね……そんで、俺が刺されそうって話ですけど。」

 

先生の過去の話を聞き終え、現在の俺の話へ戻る。

 

「えーっと……まず、カルマはセリカを励まして助け出したでしょ?」

 

「そもそも俺も一緒に捕まってたんですけどね?」

 

「それから、カイザーに拘束されたアヤネを助け出した。」

 

「後手後手の反応でしたけど……。」

 

「そして、ホシノを看病するためとはいえ、家に上がることができてる。」

 

「……。」

 

「少なくともこの3人は惚れてると思うよ?」

 

「いや、そのりくつはおかしい。」

 

思わずツッコんでしまった。

 

「私も、彼女に階段から落ちそうになったところを助けられてね……イチコロだった。」

 

「なるほど……参考にしておきます。」

 

随分とロマンチックな人生のようで。

 

悲劇を置き去りにした(個人の感想)人生を送ってきた俺からすれば羨ましい人生であるが、俺はそこには触れずに見えてきたアビドスの校門……

 

そこで完全武装した対策委員会に目を引かれた。

 

 

 


 

 

 

「何をしようと私は止めない、私はそう言った。」

 

「うん、だからお前まで武装してるとは正直思わんかった。」

 

何故か膠着状態が生み出されている。俺が何したってんだ。

 

「カルマ先輩?取り敢えず、先生をこちらに引き渡してください♣」

 

「いや、戦う理由ないだろ……まあ引き渡すけど。」

 

先生が向こうに行き、対策委員会の後ろに回る。

 

「……んで、どういう状況なんだこれ?」

 

「どういう状況って……ホシノ先輩に告白したのにどういうことよ、付き合う気はないって!?」

 

「いやそもそも告白をしてねーよ!?」

 

事実が歪曲されて伝わっていた。

 

女性同士のコミュニティでこの手の話は一瞬で広まるとは聞いていたしそれなりに実感を持っちゃいたが、それが高じるとこうなるとは……

 

「『誰とも付き合う気はない』……流石にアレをやっておいて、その言い分は許せないなと思いまして。」

 

「アヤネまで!?てかどれ!?」

 

やったことは全部覚えているがどれなのかが分からない。

 

それなりに第1機動室を運営する過程で覚えた女性を落とす技を無意識に使ったこともそこそこあったから尚更だ。

 

「それでおじさんたちは定例会議を少しお休みして、カルマに説教することにしたわけなんだー……ごめんね?」

 

「……話がまったく見えねぇ。」

 

「要は、カルマ先輩に少し『お仕置き』するってことです☆」

 

「……対策委員会の仲間の心をこれだけかき乱しておいて、責任を取る気はないみたいだから仕方ない。」

 

「いや待って!?いろいろと抜け落ちてる、情報が!俺にとって重要な情報がいろいろと!」

 

正直そういったものはないのだが時間稼ぎでそう返す。

 

取り敢えず時間を稼いでこの緊張状態に緩みを生み出す、話はそれからだ。

 

「そもそも俺、ホシノに言ったのは『嫌いじゃない』だし、セリカに関しては俺も捕まってたからだし、アヤネに至ってはただ妙な気を起こしたカイザーの下衆を叩き潰しただけだぞ!?」

 

「先輩も捕まってたとか、そういうのは関係な……いや、そもそも私じゃなくてホシノ先輩の話!」

 

「そうです!ホシノ先輩があくまでめい……問題なんで!」

 

「……カルマ、私のこと好きじゃなかったの?」

 

ホシノが顔を俯けて縮こまる。

 

「うう……酷いよカルマ……。」

 

「え、これ俺が悪いの!?」

 

「あらあら〜☆ホシノ先輩が泣いちゃいました!ですので……みっちり『お仕置き』ですね?」

 

「先輩を泣かしたのは……許さない。」

 

あっやべ、詰んだ。いや流石にこれは俺もホシノに謝っておくべきか……

 

あ!こいつ笑ってやがる!

 

ちくしょう、嘘泣きかよ!

 

「先生!」

 

「……カルマ、生きていたらまた会おうね。」

 

「先生!?」

 

おいそこ生徒を見捨てない!

 

そんな叫びを繰り出す前にホシノが盾を構えてこちらに突っ込んでくる。

 

「そういうわけだからさ……覚悟しててね、カルマ?」

 

「……!逃げるんだよ〜!」

 

飛んでくる弾丸をフル無視してホシノからひたすら逃げる。

 

「カルマってば、待ってよー。おじさんそんなに、スタミナないからさ?」

 

「だったらさっさとダレろよ!なんで加速してんだお前!?」

 

「疲れる原因が減ったからかな?カイザーの干渉とか……。」

 

「手助けしたのになんでそれで追い詰められてんだよ〜!?」

 

世の理不尽を嘆かずにはいられないが、そんなことをしてもホシノたちは止まらない。

 

そんな彼女たちに対して愛弟子に似たのか内心で白目をむきながら、俺はグラウンドをひた走る。

 

切った貼ったの大騒ぎを乗り越えた先の、他愛もない、しかし奇跡のような日常で。

 

 

 

【対策委員会編・完】




「Violet Archive」の注意事項
・他愛もない日常にも、奇跡は存在する。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

vol.2 時計仕掛けの花のパヴォーヌ編 前半戦
01 弊校へ登校


伸びねぇ……
本編行けってこと?
なんて言いつつもちょっとイベントの構成の仕方が固まり切っていない状況で見切り発車で始めてしまったのでしばらく非公開にします。本当に申し訳ございません、身勝手ではございますがご了承いただければ幸いです。


「先生、ミレニアムから要請が来たって本当ですか?」

 

シャーレオフィスに滑り込みながら、俺は真っ先に先生にそう尋ねた。

 

「うわぁ!本当に急だね……そうだよ、ミレニアムのゲーム開発部ってところから、廃部の危機だから力を貸してほしいって……。」

 

「ああー、なるほど……ああー……。」

 

個人的に交流を持っているからこそ、俺は敢えて言おう。

 

自業自得だ。

 

「その、マジで行くんですか?」

 

「うん……カルマ、なんか渋ってない?」

 

「そりゃ、通ってる学校だから色々と知ってはいますし……正直、自業自得としか言えない気がするんですよね、あそこに関しちゃ。」

 

これをあの部活の中で一番話が分からないやつに言えば

 

「なんでカルマもそんな酷いこと言うの!?私たち何もしてないのに潰されそうになってるんだよ!?」

 

と言われそうだが、そんなの知ったことか。

 

何もしてねぇから潰されそうになってるんだろうが。

 

「まあ、行くってんなら止めませんし、ついてきますよ?土地勘は俺の方があるでしょうし、俺も久々に行かねーと単位が少々ヤバいんですよね……。」

 

「……いや、だったら私が行こうが行くまいがカルマは行かなきゃダメでしょ!私も行くけど!」

 

「あ、行くんですね。一応部活って名目上、手伝いには俺も行けると思います。」

 

「いや、カルマも結局行くんだね!?」

 

それはそうだろう。

 

俺が部長である以上は先生に丸投げで任せっきりというわけには行かんのだ。

 

連邦生徒会の業務?アレに関しては上手いことやっている、詳しく言えば自動処理で済むようにソフトを組んでもらっている。

 

ミレニアムでも一番のダチに。

 

「つーわけで、今回は荷物の用意は……俺はいらないか。

 あ、先生はミレニアムの方に行くのは初めてですよね?一応、はぐれないように気をつけてくださいよ?

 ミレニアムの交通網は東京もドン引きするレベルの複雑さだし、自分で運転すると京都よりも地獄ですから……。」

 

「カルマ、大丈夫……?凄い顔してるけど……。」

 

イキってバイクで登校しようとした時に体験した悪夢を思い返して顔色が悪くなってしまっていたらしい。

 

俺はかぶりを強く振って苦い過去を振り払い、先生に背を向ける。

 

「じゃあ、俺はこれから学校に向かいますけど……それにしても先生、ここに来るの早すぎません?まだ6時ですよ?何なら8時に俺が上がってもまだやってますよね?」

 

「……。」

 

「……一応聞きますが、何時上がりですか?」

 

「さあ、何時かな……上がる時に時計なんて見ないからさ、ハハ……。」

 

有給を取った方がいい、入院してでも。

 

「俺がダチに先生用のソフトを作ってもらえるように口添えしましょうか?」

 

「その方がいいのかな……ごめん、考えさせて……。」

 

「Oh……。」

 

これはまずい。相当先生が限界に近い……何としてでも早急に休ませねば。

 

そういう意味ではゲーム開発部の方へ依頼の対処に行かせるのはいいのかもしれない。ゲームを作るというのは想像以上に労力を要するものだというのは既に痛感している。

 

先生も下手に手は出せないだろう。

 

「先生……休んでくださいね?」

 

「大丈夫……あと3日くらい頑張れば、寝れると思うから。」

 

……それは気絶では?

 

 

 


 

 

 

さて、久々にミレニアムに登校するにあたり、俺はラジコン式のロボットにリアカーを引かせて、そのリアカーに積んだ箱の中にいた。

 

……ツッコミたいことがあるのは分かる、誹りは後でいくらでも受けよう。

 

だが今は頼むから登校させてくれ、こうでもしないとどうしようもないのだ。

 

「……なあっ!?」

 

哀れ、校内に入ることはできたが玄関の段差でリアカーが転倒し、俺は惨めにも玄関で地面に這いつくばった醜態を晒すことになった。

 

「……か、カルマ先輩だぁ!?」

 

周囲にいた生徒たちが急に慌てだし、校内に警報が鳴り響く。

 

[エマージェンシー、エマージェンシー!ミレニアムサイエンススクール内に七郷カルマが現れました!近くの生徒は即座に確保し、セミナーまで連れてきてください!]

 

「いや毎度思うがどういうことぉ!?」

 

そう叫びながらもとりあえず立ち上がろうとしたところに網を投げられる。

 

「カルマ先輩、確保ぉ!」

 

「投網ぃ!?」

 

「運べぇ!」

 

「何この団結力!?」

 

人を危険呼ばわりされた上にぞんざいな捕まえ方をされて雑に運ばれる身となった俺は網の中でロクに動かせない手で額を抑える。

 

「……あのさ。」

 

「はい、何でしょうかカルマ先輩!」

 

「これ、毎回やるの疲れない?」

 

「毎回私が捕まえてるわけじゃないので!むしろラッキーです!」

 

うわあ……生徒会、ミレニアムでいうところのセミナーと違って連れてくる生徒にとってはお祭りみたいなものなのか……

 

「これで今日の自慢話のタネができました!先輩様々ですよ!」

 

「あー、うん……そりゃよかった。」

 

もう考えるだけで頭が痛くなってきたので、俺は思考を放棄して運ばれるがままに身を任せた。

 

 

 


 

 

 

「正直、俺が狂人って呼ばれる理由の4割くらいはお前らのせいなんじゃねぇかって思うんだ。」

 

「そんなこと私に言われても……。」

 

無事セミナーに連行された俺は目の前のユウカ相手に愚痴っていた。

 

「いや、考えてもみろよ。俺がそんなに登校してこないレアキャラだってのは分かるけどさ、だからって学校かくれんぼさせる必要はないと思うんだ。」

 

「それに関しては、先輩がすぐムキになるのも悪いと思います。」

 

「いや、そんなムキになってなんか……。」

 

「前回は巨大なスポーツカイトにぶら下がって屋上から潜入、前々回は下水道を通って潜入、これでムキになってないって言えますか?」

 

「すみませんでした。」

 

確かにムキにはなった。

 

絶対にバレないようにあれこれ策を巡らせたのは明確にこちらだし、そういう意味では彼女たちのバカ騒ぎに乗っかってしまっていたのだろう。

 

「いや、俺はもう人の目を引くことはある程度覚悟しちゃいるし、こうやって連行されるのも諦めちゃいるけど、なんでお前らに呼び出されてるんだ?」

 

「毎回先輩が来るとろくなことが起きないからですよ?」

 

「……?」

 

「前回はエンジニア部が作った武器で建物を一棟斬り刻んで、前々回は校内の自動販売機を全部バイクに変形させた。この後始末にどれだけ予算を使ったか言いましょうか?」

 

「うん、全面的に俺が悪かった。」

 

想像以上にやらかしていたことを思い出し、俺はすかさず頭を下げる。一切重みのない頭だが。

 

「はあ……とにかく!たまにしか来ないからって来た時にふざけ倒さないでください!先輩のおふざけは他の人と比べて洒落にならないんです!」

 

「そんな酷いことした覚えはねぇよ!?」

 

「ミレニアムの自地区内にあるWi-Fiを全部弱くしたり、区画ごとに順番に停電にしたり……あの後苦情が殺到したんですよ!?」

 

「それに関しては俺じゃねぇぞ!?」

 

それは会話中に言った冗談にバカウケしたダチが血迷ってやった所業だ。

 

なんならこれに関しては俺も解決のために奔走したので割りを食った方であり、責められるいわれは一切ないはずだ。

 

「あ、それはすみません……。」

 

「いや、謝ってほしいのはどっちかっつーとアイツだな……そういやどこいるの?あの馬鹿。」

 

「さあ……でも、知ってたとしても絶対に会わせませんよ!『あの二人は絶対に私のいない時に会わせないように』って、会長からも言われてるので!」

 

「あ、それだよそれ。いつもと違ってアイツがいないけど、どうしたんだ?」

 

いつもこうして顔を合わせると呆れ顔で接してくる一番の友人の姿が見当たらないのを受けて、俺はユウカに尋ねる。

 

「今日は何か用事があって、留守にしてるみたいです。最近、そういうことが増えてきた気がするんですけど仕事は問題なくこなしてるので、言うべきか迷っているんです……。」

 

「ああ、アイツ確かに変にアクティブなところあるからな。多分ミレニアムに関わってて、気になることでもあるんだろ。」

 

彼女のフィールドワークに引きずり回されていた頃を思い返す。

 

あの時に斬り裂けなかった大扉も、今ならスッパリ行けるだろうか……

 

「うーん、まあアイツに会えないのは残念だけど……今日はそのために来たわけじゃないし、仕方ないか。」

 

元々ただでさえ危うい単位取得がアビドスへの出張で更にヤバくなったので、久々にミレニアムに来たのだ……

 

連邦生徒会に所属していればそっちでいいのだが、俺の場合はあそことやや反りが合わないのでこちらに通っている。

 

「そもそも、なんで先輩はミレニアムに?その……文系はすごい成績ですけど、理系科目は普通くらいじゃ……。」

 

「ミレニアムで理系の普通はヤバいっていうのが一般論だぜ?それはともかく……まあ理系に関しては本を読んでても何ともならなかったからな。」

 

入試にあたって公式の理解が追いつかず、四則演算のゴリ押しで突破したのはいい思い出だ……

 

いや、普通にしんどかったし制限時間との戦いだったので悪い思い出か。

 

「だから理系が強いミレニアムに入ったけど、やっぱこういうのってなかなか身につかねーな……未だに数Ⅲの途中だ。」

 

口にしてからキヴォトスと日本の教育課程が別物だったことを思い出したが、まあそこら辺に関しては完全に個人の領域なので訂正をする必要もないと俺は判断した。

 

「んじゃ、授業に行かせてもらうぜ……あ、そういえば。」

 

「?先輩、どうかしたんですか?」

 

「いや、大したことじゃねぇんだが……先生が今日、ミレニアムに来るみたいだぞ?」

 

それだけ告げて俺はその場を後にする。

 

書類の山の崩落する音が聞こえた気がしたが、恐らく気のせいだろう。

 

 

 


 

 

 

授業が終わり、俺は先生にすぐさま連絡を取る。

 

[先生、今何してます?]

 

[今はミレニアムに向かってるよ。モノレールの中。]

 

報告を受けて、思いの外近くまで来ていたことに驚かされる。

 

正直アビドスほどではないにせよ、時間がかかると思っていたのだが。

 

[それなら、最寄り駅のロータリーでベンチに座って待ってるんで、そこで待ち合わせしませんか?自治区だけじゃなくて、学園そのものが相当広いので……。]

 

[分かった。なるべく待たせないように急ぐね。]

 

[モノレールは定時運行ですよ?]

 

定時運航率は……うん、半分を切っているとだけ言っておこう。

 

ともかく先生が急いでどうにかできる部分はもう過ぎている以上、もうこれ疲れてるだろとしか思えない。

 

いい加減、休ませる方法を見つけ出して実行しなければ、そんな訳のわからない

 

 

ケツイが みなぎった。

 

 

……それはともかくとして。

 

さっきからやけに見られている気がする。

 

一応害意はないようなので泳がせてはいるが、俺を見て何をしようとしているのだろうか?

 

まあ俺の監視であろうことは想像に難くないが……

 

とりあえず放置してベンチに座り、最近読んでいる小説を読みながら先生を待つ。

 

アメリカに渡った日本人の探偵が、日本絡みの殺人事件を次々と解決していく。

 

手裏剣が凶器だったり兵糧丸なるものが死体の胃袋に入っていたり、腕に傷をつける記憶術を施した死体だったりと選り取り見取りだったが、兵糧丸というものが何なのか分からなかったので本から離した右手を使ってスマホをいじり、兵糧丸について調べてみる。

 

超小型の携帯食で、成分的には様々な効果が見込めたもののやはり量の問題で小説のようになるだろうなと思いながら本とスマホを閉じるとタイミング的にもちょうどよかったようで、先生が……死にそうな顔でこちらに歩いてきていた。

 

「……待った?」

 

「全然平気ですよ。先生こそ、その……大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、日差しがいた……眩しいだけだから。」

 

アカン、これはガチでアカン。日光が目に入って痛いはもう完全にアウトだ。

 

なんとか休ませたいがここまで来た以上は先生も折れるまい、とりあえず今日は家に連行する。

 

先生と同性だからこそできる強硬手段をこの段階で使うことを決めながら、俺は視線に気を配りつつミレニアムの構内に再び足を踏み入れる。

 

「それにしても、ミレニアムって広いんだね……。」

 

「まあ、キヴォトス三大学園って言われるだけはありますからね。ゲーム開発部はこっちで、もうすぐ着くんじゃ……。」

 

言い切る前に後方で鈍い音がして、俺はとっさに振り返る。

 

視線は途絶えてこそいなかったが、こちらにどうこうするような意図はなかったはずと思いながら振り返ると……キヴォトス発祥のゲーム機『プライステーション』が先生の頭部に当たったようで、たんこぶを作って気絶した先生の横に転がっていた。

 

「あっ!やっちゃった……もしかして先生に当たっちゃったかも!?」

 

「プライステーションは無事!?ってああっ!しかもカルマ先輩も!?」

 

推測される軌道の先から顔を出した双子が俺に気づくと同時に、俺はニッコリと微笑んでみせる。

 

「……ふーん?」

 

「「も、申し訳ありませんでしたー!」」

 

叫ぶような謝罪が、ミレニアムにこだました。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマはミレニアムでも筋金入りのトラブルメーカーである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02 怠慢の結果

よく思うんだけど、伸びない作品と、伸びる作品には何の違いがあるんだろうか?
間違いなく伸びない作品の作者である私は思うわけですよ。どうして?


「……。」

 

「……。」

 

「……カルマ、さっきからこの子たちが黙り込んでるけど、どうしたの?」

 

「さあ、なんででしょうね?俺も分からなくて困ってるんですよ……なあ、なんでそんな畏まってるんだ?お前らの部室だろ?」

 

「「ヒッ」」

 

「……聞いてはみたんですけど、こんな感じですね。」

 

「うん、カルマはとりあえず圧を弱めようね?」

 

ゲーム機による強制睡眠導入が功を奏してギリギリ正気に戻った先生と先生が眠っていた間に目の前の二人に少しばかり『お話』していた俺は、目の前で正座のまま動かない少女たちの正面に座って彼女たちが口を開くのを待っていた。

 

「そ、その……シャーレの先生、ですよね?それと、カルマ先輩……。」

 

「ああ。俺がなんでいるかってのに関して答えれば、シャーレ部長でミレニアムの生徒だからだな。案内役かつアシスタントとしてここにいるだけだ。」

 

そう前置いてから、俺は続ける。

 

「だから、とりあえず依頼の内容を話してくれないと俺たちも動くに動けない。」

 

「は、はい、そうですよね……。」

 

「カルマ、圧。」

 

「あ、すみません。」

 

どうやらいつの間にかピリピリしていたようで、少し立っていた気を深呼吸で落ち着かせる。

 

「えっと……私は才羽(さいば)ミドリって言います。こっちがお姉ちゃんの、モモイです。」

 

緑ラインの猫耳ヘッドホンをした双子の妹の方であるミドリが、隣のピンク色ラインの猫耳ヘッドホンの姉のモモイを紹介する。

 

「才羽、モモイです……その、ゲーム機当てちゃって、すみませんでした……。」

 

「カルマ、手は上げてないよね?」

 

「上げるわけないじゃないですか。俺は個人間の諍いでは基本的に暴力を行使しませんよ?」

 

これに関しては自信を持って言い切れる。

 

ホシノとのアレは何だって?

 

……先に手を出してきたのは向こうの方だ。

 

「ゲーム機に関しては怒ってないから問題ないよ。今はとりあえず、依頼のことを聞かせてほしいかな。」

 

うっそだろおい、この人たんこぶまでできて怒ってないとか聖人か?

 

というかこの人が生徒相手にキレてるの見たことねぇな……

 

「……っ!先生がここに運ばれたって聞いたけど、本当!?」

 

慌ただしく入ってきた彼女(ユウカ)がキレるところは、今日見たが。

 

 

 


 

 

 

「本当にもう、あなたたちは何をしてるのよ!?」

 

ユウカが二人に説教をかましている間に、俺は先生にゲーム開発部の概要を伝えることにした。

 

「先生、ちょっとお時間いただけますかね?」

 

「うん、いいけど……。」

 

「じゃあ、ちゃちゃっと説明しちゃいますよ?ここ、ゲーム開発部は名前から分かる通りに、ゲームを制作する部活です。」

 

まあ、彼女たちが作ったゲームを俺は一つしか知らない。

 

そして俺はそのゲームに深い恨みを抱いている。

 

「恨み……?」

 

「はい。俺は不定期で配信を開いてるんですけど……その時に一度、赤スパで『このゲームをやってみてくれ』って……まあモモイのアカウントから来たんで、ものは試しと軽い気持ちでクリアまでやる宣言をして……地獄へ向かいました。」

 

あの時の苦しさは忘れられない。

 

本の虫としてストーリーに、ゲーマーとしてゲーム性に、配信者としてゲームの虚無っぷりに戦慄せずにはいられなかった。

 

しかし悪夢はそれだけに留まらず、視聴者から『このクソゲーもやってみてほしい』というスパチャが大量に送られ、収益も多かったもののほとんどがクソゲーの購入資金にあてるハメになり、配信の度にクソゲー漬けで発狂しそうになった。

 

というか何回か発狂した。

 

「……その、お疲れ様。」

 

「同情されるのは嫌いです……まあ、そういうゲームを作り上げた、そして部員もほとんどいない部活が廃部の危機に晒されている、これで大体、察しはつくんじゃないですか?」

 

クソゲー漬けになってもプレイした人間を無限の牢獄に拘束する『砦の刀・オノムジム』以外は

 

「あのクソゲーよりマシだ」

 

と自分に言い聞かせ続けて乗り切れてしまったあたり、相当なクソゲーであることは伺い知れようというものだ。

 

『賭博黙示録マルコ』でさえ名作と言えそうなほどこの部が作ったゲームに脳味噌がぐちゃぐちゃにされたのだ、悪い意味で。

 

「……大丈夫、何かあっても責任は私が取るよ。」

 

先生の目がなんか据わってる。

 

大丈夫かこの人、まだ寝足りないんじゃないか?

 

いや、確実に足りてないんだが……

 

「それにしても、廃部を食い止めるために『シャーレ』まで巻き込んで……たとえシャーレだとしても、連邦生徒会長が戻ってきたとしても、たとえ目の前のカルマ先輩が言ったとしても!ゲーム開発部の廃部はもう決まったことなの、これはもう誰にも覆せない。」

 

……説教が聞こえたがこれもう完結してない?

 

決定してるって、もう廃部の危機どころの話じゃないじゃん。

 

「そもそも部員数も足りてないし、部活としての成果を証明できないまま数ヶ月……廃部になっても、何も異議はないはずだけど?」

 

「異議あり!凄くあり!私たちだって全力で部活動をしてる!だからあの、何だっけ……上場閣僚?とかいうのがあってもいいはず!」

 

「いや、『情状酌量』だろ。」

 

モモイの言い分に思わずツッコむ。

 

「全力で活動してるとしても、構内にカジノを建ててギャンブル大会を始めるし、レトロゲームを探すとか言いながら古代史研究会を襲撃するし……全力だとしても、明らかにおかしいわよ!それにこれだけ各所に迷惑をかけて、よく毎度のように部費を請求できるわね!?真っ当な言い訳くらいしてみたらどうなの!」

 

「と、時には結果よりも、心意気を評価してあげるのも必要……。」

 

「負け犬の言い訳なんて聞きたくない。」

 

「その通りだとしても本人が言っちゃダメだろ……。」

 

「聞きたいのか聞きたくないのかどっちなのさ!?それとカルマ先輩もなんでそっち側!?」

 

事実を言っただけなのに酷い言われようだ。そして十分に絶望的な状況だろうにまだモモイは食い下がる。

 

「け、結果だってあるもん!私たちも、ゲームを開発してるんだから!」

 

「そ、そうですよ!『テイルズ・サガ・クロニクル』はちゃんと『あのコンテスト』で受賞、も……。」

 

「『テイルズ・サガ・クロニクル』?」

 

先生が疑問に思ったのかそのタイトルを口にした後に、俺の顔色が悪くなったのを見て何かに気付いたようだ。

 

「……そうね。確かに受賞、してたわ。その反応を見るに、先生はご存知ないようですね。先輩に関しては、まあ……。」

 

「やめろユウカ、その本気で憐れむような目はやめてくれ……!」

 

頭を抱えてうずくまる俺に憐れむような視線が少し突き刺さったが、すぐにユウカはゲーム開発部に意識を戻す。

 

「『テイルズ・サガ・クロニクル』……このゲーム開発部における、唯一の成果です。ゲームそのものもさることながら、レビューが大変印象的でした。」

 

そう言うとユウカは手元のスマホで問題のゲームのレビュー一覧を開き、先生に見せながら音読する。

 

「私がやってきたゲーム史上、ダントツで『絶望的』なRPG。いやシナリオの内容がとかじゃなくて、ゲームとしての完成度が。」

 

「このゲームに何が足りないのかを数えだしたらキリがないけど……まあ、一番足りてないのは『正気』だろうね。」

 

「このゲームをプレイした後だと、『デッドクリームゾーン』はもしかして名作の部類に入るんじゃ……って思っちゃうわ。」

 

「某箱庭遊びさんの配信がきっかけでやってみたけど、想像以上に地獄だった……だから今度七郷カルマさんには『MAKIJAKU アルティメットフィニッシャー』をやってもらいます。」

 

いやちょっと待て。

 

なんでよりにもよってそこのレビューでさらなる地獄への切符を渡されなければならんのだ。

 

「わ、私たちのゲームは、インターネットの悪意になんかには屈しな……」

 

「そうかもしれないわね。でも、そこに生きた見本があるでしょう?それに、あなたたちの持っている『結果』は『今年のクソゲーランキング1位』だけでしょう?」

 

「な、なんでも1位を取るのは凄いことだから……。」

 

先生のフォローがフォローになっていない。

 

俺もなんとか立ち上がり、会話に復帰した。

 

「これから新作出しても、ぶっちゃけ成果になるとは思えねーぞ。」

 

できないフォローはしないが。

 

「カルマまで……分かった。全部、結果で示す。」

 

「へえ……?」

 

「そのための準備だって、もう出来てるんだから!」

 

「え?」

 

「そうなの!?」

 

おいそこ、いきなりボロが出てるぞ。

 

「とにかく!私たちには切り札がある。その切り札を使って、今回の『ミレニアムプライス』に私たちのゲーム……『TSC2』……『テイルズ・サガ・クロニクル2』を、出すんだから!」

 

「ミレニアムプライス……って、何?」

 

「簡単に言えば、団体、個人問わずにミレニアム生による作品や発明の発表会で、コンテストとしての役割も兼ねてます。」

 

提出期限は2週間後、俺も個人と部活で既に作品は提出済みだ。しかしこれに彼女たちが出るとは……

 

「ここで受賞さえすれば、いくらなんでも文句は言えないでしょ!」

 

「……まあ、そうね。受賞できたなら、の話だけど。でもそれは運動部がインターハイに出るとか、そういうレベルじゃなくて……『高校球児がいきなりメジャーリーグに出る』みたいな、雲を掴むような話よ。」

 

「才能の世界だから、一概に言えねーけどな。」

 

「……じゃあ、『カルマ先輩を完封できる戦闘力を得る』ってたとえなら満足ですか?」

 

混ぜっ返したら想定外の流れ弾が飛んできたが、それはいい。

 

「……まあいいわ。なんでだろ、私もちょっと楽しみになってきたし。分かった、じゃあそこまでは待ちましょう。」

 

ユウカも何故か彼女の言い分に乗り気だ。動画投稿サイトのBOTではないが言わせてほしい。何故?

 

「今日からミレニアムプライスまで2週間……この短い時間でどんな結果が出せるのか、楽しみにしてるわ。」

 

それだけ宣言して、ユウカは俺たちの方に向き直る。

 

「先生、お見苦しいところをお見せして、申し訳ありません……次はもっと、落ち着いた状況でお会いしましょうね、先生。それとカルマ先輩……気をしっかり持ってくださいね。ではまた。」

 

「いや、わざわざ言わなくてもいいだろ!」

 

そんな言葉とまたも倒れ伏しそうになった俺を残して、ユウカは退出していった。

 

 

 


 

 

 

「んで、切り札ってのは?」

 

早速モモイに聞いてみた。

 

「それは勿論、先生のことだよ。」

 

「……私?」

 

先生を示して、モモイは話を続ける。

 

「私たちの目的は『廃墟』にあるの。元々は、連邦生徒会が出入りを制限してた、ミレニアム近郊の謎の領域。」

 

「馬鹿じゃねぇのかお前?」

 

おっと、思わず本音が口から出てきてしまい、モモイにジロリと睨まれる。

 

しかしモモイは俺には触れないことにしたようで、そのまま先生に語りかけた。

 

「誰も入ったことがないのか、そもそも入ることができないのか、それとも戻ってきた人が誰もいないのか……それすらもよく分からない……そういう、謎に包まれた場所があるの。」

 

「そもそも入れてねぇよ。」

 

「カルマ先輩、さっきから何なのさ!?ミレニアムプライスで受賞経験があるからってマウント取ってくるなんて最低だよ!」

 

「取ってねえよ!」

 

そもそも連邦生徒会の禁止は理由があるからで、それを犯そうとする奴らを公務員の端くれとして見過ごす訳にはいかない。

 

「一体どうして、そんなところに行こうと……?」

 

「いいゲームが作りたいから!私は、証明したいの。たとえ、今の私たちのレベルは『今年のクソゲーランキング1位』に過ぎないとしても。私が大好きな……私を幸せにしてくれた、このゲームたちが……決してガラクタじゃない、大事な宝物なんだってことを!」

 

「……お姉ちゃん。」

 

「いい話風にまとめてるが、これお前らがもっと早くに動き出してれば避けられた危機なんじゃ……。」

 

モモイに肘打ちされる。

 

そのまま腕をぶんぶん振って、モモイは高らかに叫んだ。

 

「そのためには、どうにか廃墟に入って、『あれ』を見つけないと!」

 

「『あれ』?」

 

「あ、順番がよくなかったかも。今度は、この話をしないとね。」

 

そこでモモイは一度間を置いて、先生に一歩近寄って話す。

 

「先生、『G.Bible』……って、知ってる?」

 

一瞬の静寂。

 

その後に少し考えてから俺の方を見た先生に、この展開を予想していた俺は先生に向かって包み隠さずに言おうと思っていたことを言った。

 

「いや、そんな顔して俺の方を見られても、俺は知らないですからね?」

 

嘘をつくのはよくない。

 

日頃それを知りつつ破っているが、今回は乗っかって正直に答えることにした。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマはクソゲーにトラウマがある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03 廃墟へ

改行多い方がいいのか……やっぱアナログとは勝手が違うな。

それはそれとして現状のカルマの戦力

・攻撃力
ケセド「何か第1陣と一緒に装甲をぶち割られたんだが……。」

・防御力
ビナー「ビーム!」
カルマ「服が汚れるだろうがぁ!」
ビナー(絶命)


あの、ゲーム作りに正解なんてないと思うんですよ、うん。

 

だってそんなものあったら、みんなゲームバズってるじゃないですか?

 

え、あるの?いやないないないない!あるはずないよ!

 

あるはずないけど……あるんすか?

 

いや、ないないないない!

 

圧倒的問題力、徹底的添削力。

 

ゲーム制作者のためのG.Bible。

 

 

失礼。現実逃避してしまった。

 

「……ねえ、お姉ちゃん。一体いつまでこうしていればいいの?」

 

「静かに。あっ先生、もうちょっと頭下げて……!」

 

はい、現在廃墟に来ておりますね、ハハハ!

 

……いや、マジでどうしてこうなった。

 

手頃な瓦礫に身を隠しながら、俺は我慢できずにため息をつく。

 

その直ぐ側をロボットが通ったせいで、息を殺さざるを得なくなってしまったが。

 

[……■■■ ■■■■……。]

 

[……■■■。]

 

[■■■■ ■■。]

 

2機のロボットが何やら会話を交わした後にこの場から去っていく。

 

「……ひゅー、もう行ったかな?よし、じゃあ行こう。」

 

「よし、じゃない!」

 

「おいこら待てや。」

 

ミドリの言葉に続いて俺もモモイへの攻撃に参加する。

 

「一体ここは何!?あんな謎のロボットが、数え切れないぐらい動き回ってるし!」

 

「何って……もう何回も言ってるじゃん。」

 

何故か自信満々なモモイはわざと間を置いた上で、ドヤ顔で告げた。

 

「『廃墟』だよ。」

 

「知ってるわ。というかなんでここに来てるんだよ!?」

 

キレるのもやむなしだから、事情を聞いてほしい。

 

前回『廃墟』へ行こうとしたモモイの馬鹿をかなりキツめに叱り、取り敢えず部長不在の今できることもなかったので俺たちはミレニアムを先生に紹介するために案内を開始したはずだった。途中までは順調に案内が進んだのだが……

 

「先輩がいない間に新しい区画が作られたから、そこも行かないと!」

 

モモイが放った言葉にまんまと乗せられてしまった。

 

そんな愚行を晒した結果、いつの間にか俺たちはモモイにドナドナされて『廃墟』に来てしまったのだった。

 

「出入り禁止の区域っていうからまあ、ある程度の危険は覚悟していたけど。いやあ、ヒヤヒヤするね……。」

 

「既にこっちは心の芯まで冷え切ってるぞ?」

 

明らかに俺をスルーしたモモイに対し、俺は湧き上がりつつある怒りを必死に抑えながらモモイに再度の警告を行った。

 

「よし!それじゃあ出発……。」

 

「聞け。」

 

一閃。

 

 


 

 

 

「うえ〜ん、カルマ先輩にぶたれた!」

 

「お姉ちゃん、それは自業自得だと思うよ……。」

 

どデカイたんこぶを作ったモモイが不平を言うが気にしない、というか取り合わない。

 

「……もうこの際手遅れだから聞くが、モモイ、『廃墟』ってのは何だ?」

 

「え、先輩知らないの?」

 

「立ち入り禁止区域に調査が入るのはそりゃそうだが、担当部署以外に情報が来るかと聞かれりゃそうじゃねぇんだよ。さっさと説明しろ馬鹿。」

 

「さっきから口調が強すぎない!?」

 

しでかしたことを考えてみろ。そうされる理由はいくらでも見つかるはずだ。

 

そう言いたいところだったが反省を促すためにあえて黙っておく。するとモモイは不満げなまま、

 

「仕方ないなあ……私もヴェリタスからちょっと聞いただけだから、分からないことだらけだけど……。」

 

おいこら反省しろよ。

 

「本来、ここの出入りは厳しく制限されてた、ってとこまでは先生にも言ったよね?」

 

そんな俺の怒りを無視して、モモイは話を進めていく。

 

お前、奥歯ガタガタ言わせたろうか?〆たろうか?

 

「うん、そこまでは聞いた。」

 

「うん。更に詳しく言うと、ここの出入りを制限して、存在自体をできるだけ隠そうとしていたのは……連邦生徒会長だったの。」

 

「連邦生徒会長って……急にいなくなっちゃったキヴォトスの頂点の人?」

 

「そう。あの人がいなくなってから連邦生徒会の兵力も撤収しちゃって、そのまま放置されてるみたい。」

 

馬鹿が。

 

ミドリの問いに返されたモモイの答えを聞いて、思わず身内への文句を胸中で呟かずにはいられなかった。

 

少しでも考えれば、どうして兵力を割いてまで人を遠ざけようとした地域から撤収するなんていう発想には至らないだろうに、うちのポンコツどもは何をやっているんだか……

 

「まあ、連邦生徒会の警備がいなくなったから、ヴェリタスの助けを得てここに来れたんだけどね!」

 

「お前マジではっ倒すぞ?」

 

「せんせ〜い、カルマ先輩がいじめる〜!」

 

先生に泣きつくモモイ。お前マジで痛い目に遭わせてやろうか?

 

「うーん……カルマ、モモイには後でしっかり話しておくから、暴力はやめようね?」

 

「……分かりました。」

 

先生がちゃんと言ってくれるというならそれに任せようと思い、俺はそこで追及はやめることにした。

 

「……カルマ、今更だけどヴェリタスって何?」

 

「いつ聞かれるかと思って待ってましたよ。簡単に言えば、ミレニアムの生徒会であるセミナー……それへの反対勢力として構成された、ハッカー集団です。俺のダチが部長を務めてるんですけど……。」

 

言ってて気づいたが、アイツの前では間違っても口に出せない表現だ。

 

特に『部長を務めてる』という表現が。

 

そんなことを本人に言えば、瞬く間に

 

「務めている?それは違いますよ。水が高きから低きに流れるように、このミレニアムが誇る天才病弱美少女ハッカーがハッカー集団の長に立つのは至極当然の流れであり、加えて手渡された水を託されたと言うことがないように、流れ着いた部長の座を務めているとは言いません。」(意訳)

 

といった意味合いの文言を延々聞かされることになるので本人の前では口にしないように気をつけつつ、俺は思考を現実に引き戻す。

 

「部長のヒマリ先輩によると、ここは『キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる、時代の下水道みたいな場所なのかもしれない』……って。」

 

「マジ?アイツが『かもしれない』って言ったのか?」

 

あの傲岸不遜で何もかもを知り尽くしたような態度を取り、そのくせ誰も追いつけないほどの知識と知恵を持ち合わせたアイツが、断定しきれないとは……

 

一体ここには、何が眠っている……?

 

「でも、なんでこんなところにG.Bibleが……あれ、ちょっと待って!?」

 

ミドリが質問をしようとしたが、何かに気付いたようだ。

 

「まさかとは思うけど……お姉ちゃんが『ここにG.Bibleがある』って言ったのは、『キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる』って聞いたから!?そ、それだけの理由でこんなところに!?」

 

「それだけじゃないよ。ヴェリタスにG.Bibleの捜索を依頼したら、座標を教えてくれたの。『最後にG.Bibleの稼働が確認された座標』をね。」

 

ミドリの疑惑を否定し、モモイは続ける。

 

「その座標が指していたのは、『普通の地図には存在しない場所』だった。その2つを合わせて考えると、G.Bibleはきっとここ……ずっと存在が隠されていた、『廃墟』にあるはず……カルマ先輩、そんな顔してどうしたのさ?」

 

「いや、お前にそういうまともな思考回路が残ってたんだなー、っていうのが意外でさ。」

 

「……私、もしかして凄く下に見られてる!?」

 

今までのやりとりからしてそれ以外に何かあっただろうか。あるなら誰か教えてほしい。

 

「と、とにかく!『G.Bible』について教えてもらえると助かるかな?」

 

先生が険悪な雰囲気になりかけたのを強引に切り替え、次の話題へと移らせる。

 

「そういえば、それも説明の途中だったね。簡単に言うと昔のミレニアムには、ううん、昔のキヴォトスにはね……伝説的な、ゲームクリエイターがいたの。その人がミレニアム在学中に作ったのが、『G.Bible』。」

 

……なんだろう。変な意味はないのだろうがゲームクリエイターと聞いて脳内にゥやらブゥン!等の文字列が脳内をよぎる。

 

しかし今は関係ないこと。俺は気を取り直してモモイの話の続きを聞くことにした。

 

「詳しい内容は分からないんだけど……その中には『最高のゲームを作れる秘密の方法』が入ってるんだって。」

 

「……それ、どこかのゲームクリエイター学校の広告じゃなくて?」

 

「違うよ!G.Bibleはあるって!読めば最高のゲームを作れるようになる『ゲームの聖書』は、絶対にある!そのG.Bibleを読めば、最高のゲーム……『テイルズ・サガ・クロニクル2』が作れるはず!ヴェリタスから貰ったこの座標に向かって行けば、そこにきっとG.Bibleが……」

 

……本当だろうか?

 

仮にそんな『聖書』があったとして、それは将棋の解説書を読みながら将棋を指すようなもので、いいものができるとは到底思えない。

 

そもそもデマである可能性が高いのだが、ここでそれを考えるというのはあまりに生産性がない。ここではあるとして考えるべきだ。

 

手に入れれば最高のゲームを作れる『何か』。

 

それの正体について真面目に考察するなら、『ゲームの原案に対する的確なダメ出し&修正案を提示するプログラム』だろうか。

 

しかしこれに関しては原案そのもののコンセプトがボロカスだった場合に問題がある。

 

コンセプトがダメでは名作はまず作れないし、そのものを変えてしまえば最高のゲームを『作る』ものになり、最高のゲームを『作れる』ものではないだろう。

 

だとすれば『脳に何かしらの刺激を与えて、脳そのものを変質させる文字通りの聖書』?

 

……流石に無いか。

 

それはもはやオカルトの類だし、個人差が出る類のものだ。まあ往々にして効能には

 

※結果には個人差があります

 

の文言がつくのは当然だが、流石にそんな催眠じみたものは用いないだろう。たとえ名作ゲームには得体の知れない魔力があるとはいえ。

 

それなら、一番ないであろう『秘蔵していた虎の子のゲーム』が封印されているのか?

 

……これに関しては絶対ないだろう。

 

ゲームクリエイターが自信作のゲームを何故隠す必要がある?出来がとびきり悪いと思っているのならまだしも、いいのならクリエイターとして出さないわけがない。

 

それこそ一般でいうところの『魔力』では収まらないレベルの何かを抱えた作品?いや、それを残したのはゲームクリエイターであって、魔法使いでも呪術師でも錬金術師でもないはずだ。

 

(……やっぱり、直接確かめるしかないか。)

 

元々俺もゲーム好きなので、名作ゲームが簡単に作れる用になるなんてものに興味が湧かないわけがない。

 

やりたいゲームを作って、楽しめる。

 

これができればどれだけいいだろうかと思って挑んだこともある。結果はまあ、お察しだったが(テイルズ・サガ・クロニクルよりは遊べた)。

 

だからこそ、ここまで来れば真実を掴んでやろうじゃないか!

 

そう決意を固めて顔を上げると……

 

「……■■■ ■■■■!」

 

「あ、あれって!」

 

「ロボット!?」

 

ロボットに見つかった。

 

「な、何だか凄い狙われてない!?こっちの方に集まってきてるし!?」

 

「うわわわ、ど、どうしよう!?」

 

「いや、お前ら一旦落ち着け!」

 

詰め寄ってきたロボットのうち1体を真っ二つに両断し、俺は左の刀も抜きながら戦闘に備える。

 

「あっち!工場みたいなのが見える!」

 

「え?こ、工場!?」

 

「お、先生ナイス!急いで!ロボットたちを突破して、あの工場に逃げ込もう!」

 

「現金な奴らめ……前にだけ集中しろ!後ろは、俺がなんとかする。」

 

威圧で機械の群れを抑えつつ、俺は開戦の合図を待つ。

 

「先生、戦闘の指揮をお願いします!」

 

ミドリの銃声とともに、俺はバツ印を描くように二刀を振り上げた。

 

 

 


 

 

 

斬撃を繰り返し、ひたすらに後方へ下がる。

 

「おいお前ら!まだ工場には着かないのか!?」

 

「ごめんカルマ、もう少しこらえて!」

 

「別にしんどいから聞いたわけじゃないんですけど、ねっ!」

 

少々無理をして繰り出した『霞刈』でロボットたちを切断もしくは交代させ、俺はしばらく忘れていた分を取り返そうと深く息を吸う。

 

「……開けた、カルマ先輩、突破するよ!」

 

走り出す足音を聞き届けてから、俺は後ろへ飛び退る。

 

そのまま後転の要領で銃撃をくぐり抜けて、俺も工場内へと入ることが出来た。

 

「取り敢えず入り口が絞れれば、『霞刈』でなんとか……ん?」

 

右の刀を腰に据えた後で、俺は異変に気づく。

 

「攻撃、してこない……!?」

 

それどころか先程まであれだけ敵意剥き出しだった機械たちが、まるで何事もなかったかのように去っていく。

 

「……助かったとかより先に、不気味だな。」

 

俺たちではなく、恐らくこの工場(?)に何かがあるのだろう。

 

この先に待ち受けるまだ見ぬ何かに備えて、俺は刀を鞘に収めながらも柄から手を離せずにいた。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマはゲームを愛する者である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04 ボーイミーツガール

対策委員会編では、カルマのパーソナリティに焦点を当ててきたので他の部分にも触れていこうと思います。


「ここって一体、何をするところなんだろう……?」

 

『廃墟』の中で逃げ込んだ建物の中で、モモイはそう呟いた。

 

……実際に、気になることではある。先程まで襲ってきたロボットがここに入った途端に俺たちを追跡するのをやめたことからして、恐らくここには何かがあるのだろう。

 

「カルマ先輩、あのロボットたちって、実は連邦生徒会が非常時に使うための秘密兵器、とかではないの?」

 

「そんな話は聞いたことねーし、水面下でその計画が進んでたとしてもアレを使うのは無理があるだろ。」

 

圧縮されているからなのか独自の言語体系を持っているからなのかは分からないが、わざわざ理解不能な言語を用いる必要性がない。いや、あるのかもしれないが。

 

「うーん、何か引っかかってるんだよね……大事なことを見落としているっていうか、それに……」

 

[接近を確認。]

 

「!?」

 

「えっ、な、なに?」

 

「部屋全体に、音が響いてる……?」

 

「……ッ!」

 

突如鳴り響いた音声に反応し、俺は全員の前に出て二刀を引き抜く構えを取る。

 

[対象の身元を確認します。才羽モモイ、資格がありません。]

 

「まあないだろうな。」

 

「煽り癖をこの期に及んで発動しないで!?」

 

茶番を繰り広げつつも警戒は緩めない。それに構わず謎の音声は何かの選別を続ける。

 

[対象の身元を確認します。才羽ミドリ、資格がありません。]

 

「私のことも……一体どういう……?」

 

[対象の身元を確認します……七郷カルマ、及びに■■■■先生。]

 

ミドリもふるい落とされ、俺と先生のジャッジに入る……いや、待て。

 

どうして俺と先生は二人同時にジャッジが下された?

 

[資格を確認しました、入室権限を付与します。]

 

「えぇっ!?」

 

「え、どういうこと!?二人はいつこの建物と仲良しになったの!?」

 

いよいよわけが分からない。

 

どうして俺と先生だけが『資格』を有している?そもそも『資格』の基準になるものは何だ?

 

[才羽モモイ、才羽ミドリの両名を、先生の『生徒』として認定、同行者である『生徒』にも資格を与えます……承認しました。下部の扉を開放します。]

 

「……下部?目の前の扉じゃなくて?」

 

アナウンスを受けて俺はすぐさま抜刀し、来るであろう事態に備える。

 

「下部って、もしかして……。」

 

「流石に違うでしょ。どこからどう見てもただの床……」

 

ミドリのお嬢さん、それはもはや前フリだ……

 

「ゆ、床がなくなっ……落ちるっ!?」

 

「うわわわっ!」

 

「……ですよねー。」

 

資格があるのなら、せめて自由落下ではなくエレベーターに乗せてほしかった。

 

 

 


 

 

 

「……おーい、取り敢えず生きてるか?」

 

「私もお姉ちゃんも無事です!先生は……ああっ!」

 

ふぉふぉ(ここ)に……。」

 

「カルマ先輩、先生は私たちのクッションになってくれたから大丈夫……いや待って、カルマ先輩はそもそもどこにいるの!?」

 

「上だよ。今降りる。」

 

壁に突き立てた刀を引き抜いて、ぶら下がっていた状態から地面に着地する。

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

「うん……二人もケガはない?」

 

「はい。ありがとうございます……。」

 

「そんな深いところまで落ちたわけじゃないみたいだけど……ん?」

 

既に立ち上がって周囲を見回していたモモイが、何かを見つけたようだ。

 

「ん……?どうしたのお姉ちゃん……えっ……!?」

 

ミドリもそれに気付いたようでモモイと同じ方を向き、驚いたような声を上げる。

 

「いや、一体何が……。」

 

「「先輩は見ちゃダメ(です)!」」

 

何やら俺が見てはマズいらしい。やむなく俺はそのままの向きで座り、二人の会話から何があるのかを類推することにした。

 

「お、女の子?」

 

「この子……眠ってるのかな?」

 

「……返事がない、ただの死体のようだ。」

 

「不謹慎なネタ言わないで!それに死体っていうか……ねえ、見て。この子、怪我とかじゃなくて……『電源が入っていない』みたいな感じがしない?」

 

「そう?確かに言われてみれば、何だかマネキンっぽいね。どれどれ……すごい、肌もしっとりしてるし柔らかい……あれ?ここに何か、文字が書かれてる。」

 

……大体分かった。

 

要は女児(現状年齢は推定不可)型のマネキン(?)が存在し、それが恐らく俺に見せられない、とはいえグロではない方面のもの、恐らくマネキンが衣服の類をまとっていないのか。

 

「……モモイ、文字はなんて書いてある?」

 

「えーっと、AL−IS……アル、イズ……エー、エル、アイ、エス?どう読むか分からないけど、この子の名前?……アリス?」

 

うん、それは多分型番というかコードネームの類だと思われるが……

 

「ちょっと待って、これよく見ると全部ローマ字なわけじゃなくて……AL-1S、じゃない?」

 

「え、そう?」

 

ミドリのおかげで正式名称が分かる。

 

「一体この子は……それにこの場所、一体何なんだろう?」

 

「この子に聞いた方が早いんじゃない?」

 

「起きて、話してくれるならいいんだけど……取り敢えずこのままじゃ可哀そうだし、服でも着せてあげよっか。」

 

「へえ、予備の服なんて持ってきてたんだ……ってそれ私のパンツじゃん!」

 

「俺がよそを向いてる意味は!?」

 

センシティブな内容を見ないように目を背けているのに別方面から攻撃を仕掛けてきたら意味がなさすぎるだろう。あくまで俺が最強なのはフィジカルが主なのだ。

 

「……ね、猫ちゃんの表情が違うから私の!……よし。これでいいかな。カルマ先輩、こっち向いていいですよ。」

 

ミドリの許可が降りて、俺は向きを変えて例のマネキン(?)をついに視界に捉える。

 

黒、いや、灰色か?身長以上に長い髪とあまりにも細く、白い肌。

 

少女としての造形が施されているそれは、ひと目見ただけでは人間ではないとは分からないだろう。

 

「今の技術では、絶対にできないレベルのオーパーツだぞこれ……[ピピッ、ピピピッ]……?」

 

謎の電子音とともに、人形の目が見開かれてその水色の瞳が露わになる。

 

「状態の変化、及び接触許可対象を感知。休眠状態を解除します。」

 

体を起こそうとしたのを見て慌てて距離を取る。立ち上がった人形……いっそ少女としよう、少女は俺たちを見渡し、その上で俺の前に向き、少しばかり硬直する。

 

「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません……状況把握、難航。会話を試みます……()()()()、説明をお願いできますか。」

 

「……俺?」

 

「肯定。七郷カルマ様、あなたが『AL-1S』の使用者であることは既に証明済みです。」

 

証明、と言われて真っ先に思い浮かぶのはここに来る前の資格云々だが、だとしたら先生ではなく俺というのがどうしても引っかかる。

 

「……一つ聞かせてくれ。せん……この人は使用者、じゃないのか?」

 

「……肯定。接触許可対象ではありますが、使用者ではありません。」

 

……どういうことだ?

 

自分自身が厄ネタなのは俺も知っているが正直これは嫌な予感しかしない。

 

自分自身が危険物であるからこそ俺にだけ反応が妙=それも厄ネタの図式を、俺は黒服どもに植え付けられているのだ。

 

つまり。

 

(帰りたい……!)

 

こう思わずにはいられないってことだ。

 

 

 


 

 

 

取り敢えずゲーム開発部の部室まで連れて来た。

 

「いや、言い出したお姉ちゃんもお姉ちゃんだけど、なんで先輩まで連れてくることに賛成したんですか!?」

 

「言っておくと積極的に賛成はしてない。俺についてくるから仕方ないっていう、消極的賛成だ。」

 

「それは、そうでしたけど……ああっ、私のWeeリモコンを口に入れないで!ペッてして!ペッて!」

 

AL-1Sがゲームコントローラーを食べようとしていた……

 

赤ちゃんかな?

 

「……なあモモイ、これって俺が引き取るしかないのかねぇ?」

 

「さあ?まあ、何にせよそれより先にやることがあるけどね。」

 

「……何かは聞かねぇぞ。もうオチは見えた。」

 

俺のため息と呆れが混じった発言をサラリと聞き流し、モモイは話を進める。

 

「さて、とりあえず名前は必要だよね。『アリス』って呼ぼうかな。」

 

「お前が決めるのか。」

 

「……本機の名称、『アリス』。確認をお願いします。」

 

「あー、俺がGOサイン出す感じか……まあ、いいんじゃないかな。」

 

正直ローマ字読み、しかも誤字を名前としてつけるのはどうなのかとは思わなくもないが、まあ俺の刀に刻んだ名も当て字なので人のことなんて言えやしないレベルなのだ。

 

「本機、アリス。」

 

俺の言葉を承認と受け取ったようで、AL-1S……ではなくアリスは少し微笑んだ、ように見えた。まあ気に入ってくれたなら何よりだ。

 

「さあ、それじゃ次のステップに行ってみよっか。」

 

「おい待てなんだ次のステップって。」

 

「いやいや、先輩もミドリもよく考えてみてよ。そもそも私たちが危険を犯してまで、G.Bibleを探してた理由は何だっけ?」

 

それはいいゲームを作ってミレニアムプライスを獲り、ゲーム開発部の廃部を避けるため、だったはずだ。

 

「それは……いいゲームを作って、部活を廃部にさせないためでしょ?」

 

ミドリも同じ解釈だったようで、俺はその言葉に乗っかって頷く。

 

「そう、今一番大事な問題はそれ。いいゲームも作りたいけど、部活を維持できなきゃ意味がない……ミレニアムプライスを獲るのは、あくまでその内の一つに過ぎない。」

 

「でも、『部員を増やす』のは無理なんじゃ……」

 

「ミドリ。今ここには何人いる?」

 

「……お、お姉ちゃん、まさかとは思うけど……この子をミレニアムの生徒に偽装して、うちの部に入れようとしてるんじゃ……!?」

 

狭い部室を往復しながら講釈を垂れていたモモイはミドリの質問には直接的に答えずアリスの方を見る。

 

「アリス!私達の仲間になって!」

 

一方のアリスはというと……

 

「ああっ!私の『ゲームガールズアドバンスSP』食べちゃダメっ!8コア16スレッドカスタムCPUに8K解像度を誇る、キヴォトス唯一の16bitゲーム機なんだよ!?」

 

「ドット式なのに無駄に高性能すぎないか?8Kは少なくとも死んでるだろ機能として。」

 

アレか?

 

発色がよくなるとかそういうことか?

 

「ああもう……だ、大丈夫なのかな……。」

 

「奇遇だなミドリ、俺も今そう思っていたところだ。」

 

何故か取っ組み合いになっているアリスとモモイを眺めながら俺はミドリの感想に同意して、俺は先生に声をかける。

 

……今のうちにトイレ行ってきていいっすか?遠いしアリスがずっとついてきてたからそろそろ行きたいなー、なんて。

 

「分かった。アリスにはうまいこと説明しておくから。」

 

 

 


 

 

 

[やっと電話を取りましたね!まったく、この天っ才病っ弱美っ少女ハッッカーの着信を無視し続けるとは、一体全体どういう了見で!?]

 

「久々に帰ったらブルーレイが1シリーズ分なくなってて誰かと思ったけど、お前だったのか。悪かったな、色々と立て込んでて出る余裕がなかった。」

 

ダチから何回か連絡が来ていたが無視していた俺が電話に出たら、案の定めちゃくちゃにキレられた。

 

[……その立て込んでいた理由を当てましょうか?]

 

「面白いな、やってみろよ。」

 

[『廃墟』に行っていたんでしょう?]

 

「正解。流石は『全知』だな。」

 

[……あっさり認めるんですね。]

 

「他人に言ってどうこうするクチじゃないだろ、お前は。」

 

軽口の叩き合いをできる数少ない人間を相手取り、俺は今日あったことを大まかに話す。

 

「……っつー事があってさ、『マスター』ってどういうことだ?お前なら、なんか知ってるだろ。」

 

[頼られておきながら、非常に心苦しくはありますが……私も『廃墟』の存在を知ってはいても、そのありようを知っているわけではありません。」

 

「……マジ?」

 

[マジです、大マジです。何ならマージ・マジ・マジーロです。]

 

うちで一緒に見た作品のネタを引き合いに出しつつ、相手は続ける。

 

[それにしても、あなたが少女を侍らせることになるとは……ふふ、ミレニアムどころか、キヴォトスがとんでもないことになりそうですね。]

 

「侍らせねぇよ。それこそ『マスター』の権限を使ってでもやめさせるわ。」

 

[根本的な解決には至っていない気もしますが……まあ、そこに関してはいいでしょう。今度、私にも会わせていただけますか?]

 

「会いたきゃ会いに来ればいいだろ。よほどのことをしない限り俺は止めねーよ。」

 

彼女の望みを肯定しつつも、しっかり釘は刺しておく。研究オタクのミレニアムでも折り紙付きの変人であるコイツは、正直行動を読めない。

 

[しかし、それにしても……『マスター』たりうるかが『資格』ではない以上、有資格者は何を基準に定められるのか……実に興味がありますね。]

 

「はいはい。なんか分かったら連絡をくれ。」

 

[ええ。ところで……。」

 

ヒマリが少し言いにくそうな様子で告げてくる。

 

[あなたの部下からスルメが送られてきて、部屋に匂いがこびりついた上に……その、飲み込むタイミングが分からなくて……。]

 

天才でもスルメを飲み込むタイミングは分からないのか。

 

そんなことを考えながらも透けて見えた部下の思惑に、俺は頭を抱えずにはいられなかった。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは『AL-1S』の使用者である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05 偽装工作

今更ながらAttention!

カルマは原作にいないから、いろいろと設定に変化が起きています!


「……んで?偽装しようにも色々とやらなきゃならないことがあるが、どうするつもりだ?」

 

ゲーム機を食べさせないようにと二人に頼まれてアリスを足の上に乗せながら、俺は言い出しっぺのモモイに話題を振る。

 

身分を偽造した身としてはこの手の作業は想像以上に面倒臭いのでお断りしたいのだが。何ならすぐに……

 

バレていなかった。

 

「まあ、まずは学籍と学生証をなんとかしないとね。ヴェリタスに頼んでくる!」

 

「おい待てモモイ、今何時だと……行っちまったよ。」

 

本当にあの馬鹿は……まあすぐに気づくだろうから放っておき、俺はミドリと先生に相談を持ちかける。

 

「さて、モモイが来るまでにこっちも工作を進めておきましょうか。ひとまず……何から教えればいいんですかね?」

 

「いやいや本当にやるんですか、カルマ先輩!?」

 

「どの道ロボットであることを隠さねーと面倒事になるのは100%確定してるんだ、だったらここで済ませるっきゃねーだろ。だとすると、書類面の制作は後回しにして、とりあえず『話し方』からか?」

 

今の喋り方は正直かなり危ない。まあ変人奇人が多いミレニアムだったら機械エミュしている生徒もいなくはないかもしれないが、そんな奴は噂になっているであろうしダメ。

 

「つーわけで話し方を覚えさせんと、どうしようもない……俺が覚え方が極端すぎるからなあ……。」

 

「先輩は、どうやって話し方を覚えたんですか?」

 

「取り敢えず覚えた話し方が研究者のだったりならず者のだったりで、まともな話し方を覚えてなかったからな……中学の時に必死で標準語と敬語と群馬弁を覚えてた。」

 

「カルマ、それって極端なのは経緯じゃなくて覚えようとした話し方ってオチ……?」

 

そんな誰も得をしないオチを用意はしない。俺は話しながら思いついた腹案を語り聞かせる。

 

「郷に入っては郷に従え、ここはゲームで話し方を覚えさせるなんてどうです?」

 

「ゲーム用語を多く用いれば、ゲーム開発に興味があるように見えるから、ってことですか?」

 

「ゲームに興味をもたせるって意味合いもあるけどな。問題はタイトルだが……。」

 

近くにあるゲーム機を拾い上げようとして……やけにてらてらしてるリモコンやゲーム機を避けて、俺は近くのゲームを拾い上げる。

 

「『流星のサービィ』……ダメだこれ人間の言葉を話さねぇ……『ゼルナの伝説』……いやこれ『ヒトリデハキケンジャ コレヲサズケヨウ』とか『ナンカコウテクレヤ』以外に文字見たことねぇ……!」

 

あれこれ探す中で、フリーになったアリスが新たな犠牲者を……出すことはなく一つのゲームを掘り当てる。

 

「疑問。これは何でしょう?」

 

俺はそれに答えようとしてフリーズし、後方に倒れ込む。

 

「カルマ、大丈夫なの!?」

 

「ダメかもです……嫌だ……アレだけは嫌だ……!」

 

俺が倒れた原因、それはアリスが手に持っていたカセットがあの地獄のゲーム『テイルズ・サガ・クロニクル』のものだったからだ。

 

……いや考えたらそもそもおかしいんだよ。なんで収録する媒体をカセットにした!?

 

「疑問、マスターはこれをやるなと言いたいのですか?」

 

「いや、やりたいんならやっても構わないけどおすすめはしないって話であって……。」

 

おい、どういうことだ。

 

何故か目が潤んでいるように見えるが、気のせいだよな?

 

「……そのゲーム、やりたいのか?」

 

「……肯定。アリスは対象に興味があります。」

 

……それを言われて「やめろ」と言えるかって?

 

 

 


 

 

 

無理に決まってんだろ。

 

「アリス、タイトルから分かるかもしれないけど、このゲームは童話テイストで、色彩豊かな王道ファンタジーRPGなの。」

 

「……フリースタイルの混ざりまくって真っ黒なパニックホラーじゃなくてか?」

 

思わず本音が出てくるが、アリスがこのゲームをやると決めた以上はもうこれが暫く続くと思われるので早々に諦めの姿勢に入る。

 

「そうだ、先生も後でやってみませんか?好きでしたよね、ゲーム。」

 

[コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた……]

 

「「……?」」

 

「えっと、王道とは言っても色々な要素を織り混ぜてたりするんだけどね。トレンドそのままでもダメだけど、王道にこだわりすぎても古くなるからってことで。」

 

その結果、明後日の方向へ我が道を爆走してちゃ世話ないわ。

 

[チュートリアルを開始します。まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください。]

 

「Bボタン……」

 

[ドカーーーーン!!]

 

「???」

 

 

〈GAME OVER〉

 

 

テイルズ・サガ・クロニクルを知ってるか!?

 

クソゲーの総合大学!

 

テイルズ・サガ・クロニクル!(クソゲー魂!)

 

ゲーム開発部にある一つのカセットで

 

UI シナリオ ゲーム性など

 

幅広いクソゲーが学べるんだぞ!

 

テイルズ・サガ・クロニクル!

 

 

「!?!?」

 

「あははははっ!予想できる展開ほどつまらないものはないよね!本当はここで指示通りじゃなくて、Aボタンを押さなきゃいけないの!」

 

「いやこれチュートリアルだろ。」

 

いつの間にか戻ってきていたモモイにも正論を浴びせかける。

 

それともアレか?

 

これが理不尽なクソゲーであることへのチュートリアルか?

 

初見殺しだらけのクソゲーだって導入か?

 

「お姉ちゃん……?学生証を作りに行くって言ってなかった?」

 

「行ってきたんだけど、遅い時間だったからか誰もいなかったの。また明日行く。」

 

「それはさておき、改めて見てもこの部分はちょっと酷いと思う。」

 

「……も、もう一度始めます……。」

 

ちょっとレベルではない酷い場面を見てなお、アリスはクソゲーに挑んでいく。

 

「再開……テキストでは説明不可能な感情が発生しています。」

 

「あっ、私それ分かるかも!きっと『興味』とか『期待』とか、そういう感情だと思う!」

 

「『絶望』や『驚愕』じゃなくて?」

 

肘打ち2回目。モモイはまたもや腕をブンブン振りながら、ゲームに取り組むアリスに視線を戻した。

 

[武器を装備しました]

 

[エンカウントが発生しました!]

 

(バンッ)ほら出た糞エンカ!

 

[野生のプニプニが現れた!]

 

「緊張、高揚、興味。」

 

「Aボタンを押して!今度は嘘じゃないから!」

 

「……嘘では、ないな。」

 

先の展開を知る者として俺は呆れ半分、ワクワク半分でアリスのプレイを見守る。

 

「Aボタン……『秘剣つばめ返し:敵に対して2回攻撃をする』行きます、プニプニに対して……秘剣!つばめ……」

 

[ッダーン!攻撃が命中、即死しました。]

 

 

〈GAME OVER〉

 

 

「!?!?」

 

[プニプニ:どれだけ剣術を鍛えたところで、我が銃の前では無力……ふっ。]

 

やっぱりこうなった。

 

「うーん、やっぱりプニプニが『ふっ』って言うのは不自然かな。」

 

「それ以前の問題だろ。」

 

「思考停止、電算処理が追いつきません。」

 

機械をショートさせるって、どんなゲームだ。

 

「……今度は銃の射程距離把握に努めながら、接近しすぎないようにプニプニを排除します。」

 

「そう、まさにそれ!あきらめずに繰り返し挑戦して、試行錯誤の末に答えを見つける!それがレトロチックなゲームのロマンだよ!」

 

「チュートリアルで基礎操作を差し置いて教えることじゃねーがな。」

 

口ではそう言いつつもこの先の地獄を思い浮かべ……思わず笑みがこぼれてくる。

 

なるほど、これは確かにうちのリスナーもクソゲーをやらせたくなるわけだ。

 

絶対に許さねぇが。

 

 

 


 

 

 

「……電脳処理系統、および意思表示システムに致命的なエラーが発生。」

 

「頑張ってアリス、ここさえ乗り越えれば待望のクライマックスだよ!」

 

「ううっ……!今のはどう考えても、『草食系』って言葉が思い出せないからって、それを『植物人間』って書いたお姉ちゃんのせいでしょ!?『ごめんなさい、私は植物人間ですので、女性に対して気軽に声をかけることはできません』ってテキストを読んだ瞬間に、アリスちゃんが一瞬意識を失ってたじゃん!」

 

「代わりのワードチョイスもそもそもの『草食系』って言葉への解釈も大間違いじゃないかこれ?」

 

大反省会を行いながらアリスのプレイを見守ること2時間、ついにアリスの冒険も佳境に迫っていた。

 

「……質問。どうして母親がヒロインで、それでいて実は前世の妻で、更にどうしてその妻のもとに、子供の頃に別れたきりの友人がタイムリープしてきているのか……いえ、そもそも『腹違いの友人』という表現はキヴォトスの辞書データには登録されていな……エラー発生、エラー発生!」

 

「モモイ、お前『こくご』からやり直せ。」

 

「もはや煽り癖ですらないよね、それ!?」

 

ちなみに先生は既にノックダウンされている。まあアリスが何度もエラーを起こすような作品を普通の人間が耐えられるかといえば無理だ。

 

「これが、ゲーム……再開します。」

 

「流石にこれと一緒にするのはほとんどのゲームに対して失礼だと思うぞ……。」

 

少なくとも『エンシャントロマン』以上にゲームを名乗ることが失礼な代物だと思う。

 

 

 


 

 

 

1時間後。

 

「こ、ろ、し、て……。」

 

「すごいよアリス!開発者二人が一緒とはいえ、3時間でトゥルーエンドなんて!」

 

「そ、それもそうだけど、もしかして、本当にゲームをやればやるほど……アリスちゃんの喋り方のパターンが、どんどん多彩になってきてる……!?」

 

死屍累々のアリスを横目に、モモイとミドリは大喜びだった。

 

「まったく……アリス、楽しかったか?」

 

「勇者よ、爾が同意を求めるならば、私はそれを肯定しよう。」

 

「……まあ、さっきよりは人間味が増した、のか?」

 

メカメカしさの代わりに少しばかり古臭さが出てきたが、まあこれくらいならキャラ付けとして許容できるラインだ(個人の感想)。

 

「と、ところでその……こういうのを面と向かって聞くのは緊張するんだけど……わ、私たちのゲーム、どうだった?面白かった!?」

 

「……説明不可。類似表現を検索……ロード中……。」

 

「も、もしかして、悪口を探してる……?そんなことないよね?」

 

「言われても仕方ねー出来だと思うぞ。」

 

3度目のエルボー。効かないというか逆に痛くなるだろうにモモイはまた俺の腹を殴る。

 

「……面白さ、それは、明確に存在……」

 

「おおっ!」

 

「プレイを進めれば進めるほど……まるで、別の世界を旅しているような……夢を見ているような、そんな気分……もう一度……もう一度……。」

 

「泣いたぁ!?」

 

面白さが存在したという一点を除いた上で意味を考慮しなければ概ね同意だが、まさか泣くほど感動したのか?

 

「私たちのゲームが感動的だったってこと!?いやー、頑張って作った甲斐があったね!」

 

「い、いくらなんでもそれは……というかこのゲーム、ギャグ寄りのRPGのはずだし……。」

 

「ありがとうアリス!その辺の評論家の言葉なんかより、その涙のほうが100倍嬉しいよ!あー、早くユズにも教えてあげたい……!」

 

「……教えなくてもいいかもしれないぞ。」

 

部室のロッカーへと向かい、そのドアを開ける。

 

「ふ、ふえっ!?」

 

「『廃墟』から帰ってきた時にはいた。おおかたアリスにビビって隠れてたってところだろ……違うか?」

 

「い、いえ、違いません……。」

 

ロッカーの中に引きこもっていたゲーム開発部の部長、花岡(はなおか)ユズを引きずり出してアリスの前にポンと置く。

 

「う、あ、あう……その、ありがとう。私たちのゲームを、面白いって言ってくれて……もう一度やりたいって言ってくれて……。」

 

オドオドした様子でアリスに感謝の言葉を述べるユズを見ながら、俺は少しばかり笑みがこぼれるのを自覚する。

 

「泣いてくれて……本当に、ありがとう。」

 

「???」

 

「面白いとか、もう一度とか……そういう言葉が、ずっと聞きたかったの。」

 

「……よかったな。」

 

彼女はここ数ヶ月、寮に帰らずこの部室にいた。いつも何かに怯えていた彼女が嬉しいと思えることがあったなら、何もしていないながらも先輩としては嬉しい。

 

「あれ?先輩っていつも、こういうの怒りそうなのに……。」

 

「誰が怒るか。作ったものを褒められて喜ぶなんて俺でもやってるわ……。」

 

モモイの茶々を受けて、俺もずっと言いたかったことを言わせてもらうことにする。

 

「俺、正直今のお前らの反応を否定するつもりはないし、いい気分になってるお前らを絶望の淵に叩き落としたいわけでもない……でも、ミレニアムプライスを獲りたいならあえて言うぞ。気持ちいい言葉に逃げるな。」

 

「「「……。」」」

 

「何かを作り上げる、表現することにおいて批判的な意見には改善点が隠れてることが多い。全部がそうだとは言わねーけどな。だからうちの演劇部でも舞台練習でダメ出しは遠慮なくするし、改善しようと案も出す……そういう姿勢を、クリエイターは忘れちゃいけない。」

 

少し言い過ぎたかと思って、俺はなんとか話題を切り替えようとする。

 

「なんてな。さて、アリスの話し方はまだまだ完全とは行かないし、日常会話に滞りがないとは言い難い……他のタイトルもやらせてみようぜ?」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは否定的意見を改善点を見つけるために確認する。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06 カルマの見解:演劇部は運動部

カルマがいるって言ってる演劇部部長のプロフィール

名前 モンナ
フルネーム寸田(ずんだ)モンナ
学園 ミレニアムサイエンススクール3年生
所属 ミレニアムサイエンススクール演劇部
年齢 17歳
誕生日 12月5日
身長 139㎝
趣味 散歩、自分を大きく見せること。
デザイン 江戸村ににこ
イラスト 江戸村ににこ
CV ずんだもん
ちびキャラ むむむ無理です絶対!



中学時代演劇部に入り、真っ先にこれを言われました。
実際体力ないと舞台上で倒れかねないんですよね、照明暑いし。


あの後にゲーム開発部によるゲームの推薦が続いていたが、朝になる頃まで起きていられたのは俺だけだった。

 

「おはよ〜……って、カルマ先輩がメガネかけてる!?」

 

「伊達、っつーよりかはブルーライト用だな。ずっとアリスとゲーム画面を見てるんだ、目が疲れないように対策しないと。」

 

目を覚ましたモモイに驚かれながらも、俺はアリスの横顔をちらりと見る。無機質だった表情もだいぶ柔らかくなり、始めた時よりも笑ったり驚愕したりところころと顔色が変化するようになった。

 

「いい兆候だな……そろそろ本職に頼むか?」

 

「本職?」

 

「簡単に言えばうちの部長。」

 

俺が話題に出した人物に対し、モモイはうんざりしたような表情を向ける。

 

……うん、まあ分かる。

 

「でもまあ、小物だけど演技は本物だからな。それっぽい語り方になるよう手を加えるくらい造作もないだろ……ついてこれるかは別として。」

 

「それはそうだけど……あ!そういえばヴェリタスに学生証を作ってもらいに行かないと!」

 

ドタドタと音を立てて走り去っていくモモイに影響されてか、ミドリも目を擦りながら起き上がる。

 

「うーん……えっ、もう朝!?しまった、準備しなきゃ……!」

 

「……ようやく気がついたか……無事に目を覚ましたようで何よりだ、君は運がいいな。」

 

「いきなり発言が不穏すぎる。」

 

なんというか、確かにアリスの話し方は改善されただろう。しかしこれ、危惧していた通りに偏りすぎてるな……

 

「あ、アリスちゃんか……調子はどう?色々覚えられた?」

 

「君の言葉を肯定しよう、必滅者よ。」

 

「な、何か偏った台詞ばっかり覚えてない……!?」

 

うん。

 

「ふぁ……みんな、おはよう……。」

 

「ユズも起きたか……先生、アンタが一番起きるの遅くてどうすんですか?」

 

半ば強引に先生を叩き起こし、揺さぶる。

 

「休日に入ったからって気を抜きすぎですよ。シャーレにそんなもんありゃしないのによくまだその生活リズム崩れませんね?」

 

シャーレに無休はあっても有給はない。

 

常識である。

 

「というか、先輩、そのメガネ……。」

 

「ブルーライトカット目当てだよ、幸い花粉症でもないしな。」

 

「それは分かりましたけど……先輩がメガネしてると、先生にちょっと似てますね……。」

 

「そうか?」

 

うーん、メガネをした上で鏡を見たことがないから正直分からん……

 

「ただいま!あ、みんなも起きたんだ、おはよう!」

 

モモイが部屋に帰ってきて、すぐさま手に握った学生証をアリスに差し出す。

 

「アリス、これ。」

 

「……?アリスは『正体不明の書類』を獲得した。」

 

「おっ、またさらに口調が洗練されてるね。これは『学生証』だよ。」

 

「洗練っていうか、レトロゲームの会話調そのものだけどね……。」

 

アリスがためつすがめつ学生証を検分した上で、首を傾げながらこちらに尋ねてくる。

 

「学生証……?」

 

「この学生証は、私たちの学校の生徒だっていう証明書。生徒名簿にもヴェリタスがハッキ……いや、登録してくれたから、もうアリスも正式に私たちの仲間だよ!」

 

「いや、正式ではないだろうが。」

 

偽造した戸籍で暮らしている俺も俺だが。

 

「仲間……なるほど、理解しました。パンパカパーン、アリスが『仲間』として合流しました!」

 

「ねえ今、ハッキングって……。」

 

「そもそもが偽造だ、真っ当な手は使えない。」

 

「細かいことはいいじゃんか!さて服装と学生証、それに話し方!この辺は全部解決できたから……あとは……武器、だね。」

 

「あ、その前に寄り道させてもいいか?武器を持つ前に行っといた方がいい場所もあるからさ。」

 

そそくさと出る準備をしつつ、俺は再度先生を叩き起こす。

 

「うーん、あと気分……。」

 

「どんだけ寝る気だよ……。」

 

「46億年くらい?」

 

「地球がもう一個できちゃうよ!」

 

 

 


 

 

 

武器を獲得する前に演技指導の方にお会いしておきたかったのには理由がある。

 

演劇部はステージ上で大掛かりな舞台装置や派手な演出を用いる都合上、銃火器による破損や引火はご法度である。

 

だからこそアリスが武器を手に入れて子どもみたいにはしゃがないうちにその方に顔合わせをしておきたかったのだ。

 

「んもー、どいつもこいつも本当に何なのだ!?特にモモイ!何度も舞台に上がる前に銃を置いてこいって言ったはずなのだ!」

 

「し、仕方ないじゃん!ミレニアムで銃の持ち込み禁止なの、ここだけだし!」

 

「何回も言ってるのに忘れたは通らないのだ!照明と一緒に吊るされたいのだ!?」

 

……恥ずかしながら、モモイにキレ散らかす黄緑色の髪をした彼女が、我らが演劇部の部長寸田モンナなのだ。

 

「野郎ぶっ殺してやらぁなのだ!!!」

 

「お前ちょっと落ち着け馬鹿野郎!」

 

「まあ冗談なのだ。というかモモイに関してはとっくに諦めているのだ。」

 

「うわぁ!急に落ち着くな!」

 

演技力の賜物なのだと胸を張りながら、モンナはアリスを見る。

 

「それで、彼女がさっき電話で言ってた演技指導の希望者なのだ?」

 

「ああ、天童アリス、勇者志望だ。」

 

モモイがつけたという名字も加えて紹介し、俺はアリスを前に押し出す。

 

「アリス、彼女は寸田モンナ。まあ……役者だ。」

 

「まあって、煽ってるのだ!?」

 

「いやいや、スターって話だろ。」

 

「……そうなのだ!ボクはミレニアムの大スター、寸田モンナなのだ!」

 

ちょっろ。

 

「任せるのだアリス!このボクが君をボク以上……は無理だけどカルマ以上の役者に、いや勇者に仕立て上げてあげるのだ!」

 

「ああ、よろしく頼むぜ大スター。でも今日は、彼女の武器を新調するから、また今度ってことになるかな。」

 

そう言い置いて去ろうとしたところを、モンナが肩を掴んだことで足が止まる。

 

「お前、どこ行こうとしてるのだ?」

 

「いや、アリスの武器新調の付き添い……。」

 

「冗談はチャンネル登録者の差だけにしとくのだ。ダブル主役の一人を任されときながらここ最近練習に顔を出してないのは、一体どういう了見なのだ?」

 

「いや、それは仕事で……。」

 

冷や汗が止まらないのを無視して俺は言葉を塗り重ねて逃走を図る。

 

「いや、アリスの武器のあれこれ終わったらちゃんとやるからさ。とりあえず行かせてくれない?」

 

「そもそもゲーム開発部の部員なんだから、セミナーならまだしもお前が行くのは筋違いなのだ。」

 

あ、これ無理だ。

 

「……さっさと舞台練前の外周、柔軟、筋トレをさっさとやってくるのだ!」

 

「はーい……。」

 

「……勇者よ、汝の度はここまでなのか?」

 

アリスに謎の煽りをうけ、俺は気丈に返す。

 

「いーや、少しばかり準備するだけだ。俺もすぐに追いつくから、安心して待っててくれ。」

 

「ええ、分かりました……あなたの武運を祈りましょう。」

 

 

 


 

 

 

「それで、天童アリス……アリスは一体何者なのだ?」

 

「ゲーム開発部の新入部員で、今日付けで編入してきたんだってさ。まあ、見てっつーか聞いての通りゲームオタクだよ。」

 

「バカにしてるのだ?」

 

「いや、なんでそうなる?」

 

外周から帰ってきて柔軟を始めると、モンナに問い詰められる。

 

「演者の端くれだから、演技してるかぐらい分かるのだ……明らかに、人のそれじゃじゃなかったのだ。」

 

「……お前にそんな視点があるとはな。」

 

うちの部長は想像以上に聡かったらしい。その上でモンナは俺に問いを重ねる。

 

「さっさとゲロるのだ。アリスは一体何者なのだ?」

 

「……昨日『廃墟』で見つけたロボット。」

 

「うっわ、それは確かに人には言えないのだ……。」

 

「だから言うなよ?」

 

「言うまでもないのだ。」

 

前に倒れ込んだところを押されながら、俺は彼女と会話を続ける。

 

「どうするつもりなのだ?ボクは正直、これ以上深煎りするつもりはないのだ……。」

 

「俺は先生が関わるって決めた以上は、関わるよ。なんというか、その……。」

 

「なんというか何なのだ?まさか……ロボフェチなのだ?」

 

なんだろう。ドチャクソに圧が籠もっていてアホほど冷たい声が後ろからかかってきて、俺は少しばかり困惑する。

 

しかしそれを踏み越えた上で答えた。

 

「別に性癖とかじゃねーよ。あくまで俺が所有者ってことになっちまっててな、見つけた時に。」

 

「……そういうことだって、納得しておくのだ。」

 

「ああ、別に性癖だとしてもお前にどうこう言われる筋合いは……おいちょっと待て押し過ぎ押し過ぎそもそも俺体はそんなに柔らかくないんだけど何してくれとんのマジで勘弁してくれやめていや割とすみません本気で洒落にならないんで痛い痛い痛い痛い!」

 

「……ざまーみろなのだ。」

 

 

 


 

 

 

「……筋トレでは上に乗ってくるんですかそうですか。」

 

「知った口聞いた罰なのだ、精々噛みしめるのだ。」

 

モンナを上に乗せながら俺は腕立て伏せをする。

 

「腕立てはこれでいいかもしれないけどさ、この後に控えた腹筋、背筋とスクワットはどうすればいいんだ?」

 

「腹筋は許してやるのだ。でも他は背中に乗っかるのだ。」

 

「……ちなみに理由は?」

 

「さっき言ったのだ。」

 

いや、マジで理不尽だろ……

 

「……人の気も知らないで。」

 

「何か言ったか?」

 

「耳までイカれたのだ?」

 

「そこまで当たり強くされるほどかよ……。」

 

体を持ち上げた勢いで手を打ち合わせながら、俺は背中に向かって文句を垂れる。

 

「正直、俺からしたらただの八つ当たりなんだけど。」

 

「……もうツッコまないのだ。それはそれとしてその腕立ては煽ってるのだ?」

 

「重石にしちゃ軽すぎるからな。」

 

「……みんな!協力してコイツを押し潰すのだ!」

 

しまった、これ地雷だった。

 

「いや、あの本当に反省してるんで、流石に全員は勘弁してほしいなーって……いやおい先に組体操して一気に乗るの!?本当にごめんなさい許してどうかお慈悲を……グアーーーッ!」

 

キヴォトスで俺は最強だが、流石に二十人を優に超える部員を全員背中に乗っけて腕立てなんかできるわけがなく、俺はその場に倒れ伏した。

 

「分かった、軽いちっこい煽りしたのは謝るから!だから降りて!痛い痛い痛い、息できない!」

 

「ん?ちっこい煽りは今回なかった気がするのだ……みんな、跳ぶのだ!」

 

「ウソダドンドコドーン!」

 

俺の悲鳴と同時に、何かが天井をぶち抜く音が聞こえた気がした。

 

 

 


 

 

 

「よし、行こっか!今度こそ、G.Bibleを手に入れるために!」

 

「……うん!みんなで、部室を守ろう!」

 

「……意気込んでるとこ悪いけど、これをお願いできるかしら?」

 

「うわ、またユウカ……って、カルマ先輩!?」

 

ユウカに米俵みたいな担ぎ方をされながら、俺はゲーム開発部の部室へ戻ってきた。

 

「腰をやっちゃったらしくて、ここの近くまで這って来てたわ……何があったか詮索する気は、正直怖くて無いけど。」

 

「確かに、先輩にダメージを与えるなんて、何者なの……?」

 

「いや耐久面が化け物なのは自覚してるけどそんなヤベー奴と戦ってはいねぇよ!?」

 

「先輩がヤバい人だから先輩の評価はちょっと、その……。」

 

おう何だミドリ、俺の戦力分析は信用出来ないとでも言いたいのか?

 

流石にキヴォトス人の標準で測ってるわ、見くびるな。

 

「その、お大事に……。」

 

ユウカが去った上で、モモイが切り出す。

 

「じゃあ、カルマ先輩も行こっか!」

 

「行けるわけねーだろバカ!」

 

「勇者よ、ここで、道半ばで倒れるのか?」

 

「もうとっくに倒れてるんだよ!既に教会案件だよ!」

 

うつ伏せから顔を上げるのも出来ない状態で俺は叫ぶ。

 

「うん、カルマもこんな状態だし……留守番を頼める?」

 

「はい……腰をいわして部活も休みになったんでしばらくはフリーです、ハハ……。」

 

「うん……無理はしないでね?」

 

先生と一緒にゲーム開発部の面々が『廃墟』へ再度出撃していく。

 

「……くっそ痛ぇ。」

 

腰をさすろうにも腕を回そうと体を捻る時点で痛い。

 

動くに動けずやること、いやできることがなくなった俺はひたすらに口を動かすことにした。

 

「ひつじがいっぴき……」

 

 

 


 

 

 

「彼も同行するかと思ったけど……これは予想外だったわね。」

 

「流石に彼も重圧には耐えられませんでしたか……。」

 

「……物理的な圧力が有効、これは覚えておくべきね。」

 

「まだ諦めてなかったんですか……?」

 

「諦める訳にはいかないもの。」

 

「……そうですか。それにしても……。」

 

[♪ ー 羊が一匹、闇の中

 

 全部斬り裂いていけ

 

 美しい夜が明けないのなら

 

 数字でも数えてみる?

 

 お前が一匹になったら

 

 その後はどうしてたい?

 

 この俺は姑息な一匹さ

 

 今はほっておいてくれないか

 

 ただお前は孤高の一匹さ

 

 未だ通り越してゆけ ー ♪]

 

「……上手いですね。」

 

「……そうね。」

 

「彼の歌の個人的なファンとして、あなたの行動は正直納得がいっていませんが……。」

 

「……いまは鑑賞会ではなくて、監視の途中よ。」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは監視対象である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07 Nerd VS Maid feat.Berserker

カルマの弱点
・重いもの(最低でも100kg単位)を乗っけると腰をいわす
・超火力(方舟のバリアををブチ抜く光の剣レベル)で死ぬ
・小魚(煮干し出汁の味噌汁も含む)が吐くレベルで嫌い
・正攻法が一番強いくせにすぐに策を弄する



「……もしもし、ホシノ?」
[お、カルマじゃーん、どしたの?]
「ちょっと腰をやっちゃってさ。」
[……。]
「ホシノって普段、こういう時どうしてるんかなーって……。」
[はっ倒すよ?]


「……つまりG.Bibleの確保には成功したものの、パスワードが開けられずにヴェリタスに頼ったけど、ヴェリタスでも『鏡』ってツールがなきゃ開けられない、と。」

 

「うん、でも『鏡』ってまだ言ってないよね?」

 

「前にダチが自慢してきたので。」

 

うつ伏せのまま『廃墟』から帰ってきたゲーム開発部と先生を出迎えた俺は、先生に湿布を貼られながら状況を整理していた。

 

「うーん、にしてもセミナーに押収されてて取り戻すにも一苦労、そしてミレニアムの治安維持部隊、『C&C』が動く……うっわ、随分とえげつない体制だな……。」

 

「カルマ先輩が弱気になってる!?やばいやつじゃんコレ!」

 

「モモイうるさい。」

 

「でも私に対する態度は崩れないんだね!?」

 

うるさいから仕方がない。

 

「こっちもヴェリタス、それとエンジニア部……あのバカたちも協力してくれるって話なら、こっちが頭を使えば互角にやり合えるだろ。」

 

バカ武器、バカ装置、バカ装備を作ることに定評のあるミレニアムが誇るバカ(エンジニア部)が協力するなら、トンデモアイテムのオンパレードによるゴリ押しも可能だろう。

 

「……こんだけあれば、俺が出張る必要もないだろ。」

 

「え……?先輩、協力してくれるんじゃ……。」

 

「腰をやらかした状態で荒事なんざできるか。出来たとして留守番だよ。」

 

湿布で軽減されて歩く座るはできるようになったものの、走ることも出来ないし戦闘なんて論外の腰痛状況で戦えるわけないだろいい加減にしろ!

 

「今この状況で俺にできることなんかねーよ……早めに復帰できるよう治療はするが。」

 

「うっそー、カルマ先輩が協力してくれる前提でプランを組んでたのに、これじゃ台無しじゃん!」

 

「俺の状態把握した上でその作戦を組んでたんなら救いようのないバカでしかねーぞ……まあ、応援はしてる。」

 

壁伝いに部室を出ながら、俺はスマホを取り出してこの事態に持ち込んだバカ野郎に電話をかける。

 

「おいアホ。」

 

[いきなりそんな挨拶ぶちかましてきて何なのだ?]

 

「うるせぇ、俺とて誰かさんのせいで腰の痛みが引かねーんだ、言葉遣いが荒くなるくらい許せ。」

 

[たとえ言ってる通りだとしてもえげつねぇ傲慢なのだ……。]

 

ちっこい阿呆に強めに当たりつつ、俺は本題に入る。

 

「そんで、本題なんだが……お前さ、いつも言ってるじゃん……そろそろ、俺を惚れさせてくんない?」

 

[……とっくに惚れてるもんだと思ってたのだ。]

 

「馬鹿も休み休み言え、その程度じゃ引く手数多の俺は欠片も動じねぇよ……んで、やってくれるのか?くれないのか?」

 

[さっきの言葉、そっくりそのままお返ししてやるのだ。で、何をすればいいのだ?]

 

俺は少し間を置いてから、考えた作戦を語り始めた。

 

「ゲーム開発部もC&Cもセミナーもエンジニア部もヴェリタスもコケにしつつ、ゲーム開発部のアシストもできる俺得のプランだよ。部室っつーか、舞台袖にあった……」

 

 

 


 

 

 

「♪もっちもっちずんだ

 Ah もちもちずんだ

 もっちもっちずんだ

 もちもちもちずんだ

 もっちもっちずんだ

 Ah もちもちずんだ

 もっちもっちずんだ

 もちもちもちずんだ……♪」

 

「楽しそうですね、モンナ先輩……それは?」

 

キャスター付きのジュラルミンケースを押して運んでいたモンナに、狙い通りにユウカが食いついた。

 

「あ、これはカルマが新しく考えた演出装置の試作品なのだ。」

 

「カルマ先輩が……嫌な予感しかしませんけど、どういう装置なんですか?」

 

「グランドピアノを10メートルの高さまで打ち上げてキャッチする……バネなのだ!」

 

あまりにも盛り過ぎだが、ケースの中にバネは仕込んであるので問題ない。嘘には真実を織り交ぜると効果が出やすい……

 

「……あまりにも荒唐無稽過ぎません?」

 

「まあ、さっき言ったのは理想なのだ。現時点じゃ、ピアノを打ち上げることは出来てもキャッチできずにピアノが爆発するのだ。」

 

「いや、打ち上げることはできたんですか!?というか、打ち上げちゃったんですか!?」

 

彼女の言っている理想云々は嘘である。

 

実際にピアノが宙に浮く演出をしたければピアノを上から釣り下げる方が現実的だし、この案だとピアノが弾むシーンしか演出できない。

 

いや、それはそれで面白い演出なのだが……

 

閑話休題。

 

「まあブツがブツだから、こうやって特別製のケースにしまって運んでるのだ。下手に人間が置くと10メートルどころじゃ済まないし、重機で置こうにもクレーン車が跳ね上がってクラッシュしたのだ。」

 

「なんでそんな危険なものを……?」

 

「面白い演出ができるのなら、我ら演劇部は悪魔にでも魂を売るのだ!」

 

「芝居がかって誤魔化さないでください!」

 

今回は気が立っているのか、やけに食いつきがいい。

 

前例の中では、空中に浮き上がってしばらくしたら燃えながら爆発する風船を作った時に匹敵するキレっぷりだ。

 

そんな言葉に痺れを切らしたのか、ユウカはジュラルミンケースを掴んでモンナから引き剥がそうとする。

 

「危険すぎです、持たせておくわけにはいきません!」

 

「何をするのだ!ミレニアムでは『結果』が全てって言っておきながら、結果を上げる機会を奪うなんてダブルスタンダードもいいところなのだ!」

 

「ああもう、フミちゃんといい、なんでカルマ先輩の知り合いはこうなの……?」

 

「ボクも流石にアレと一緒にされたくはないのだ!」

 

……俺と愛弟子に対する侮辱が入っていた気がするが、今出たら全てが台無しなのでこみ上げる殺意を必死に抑える。

 

そうこうしているうちに体格差で綱引きならぬ箱引きは決着がついたようで、頭上からユウカの声が聞こえてくる。

 

「まったく……とにかく、これは預かりますからね!」

 

「ま、待つのだ!持って行く……のは構わないけど、糾弾するならボクじゃなくてカルマにしてほしいのだ!」

 

「……この箱の中身が本当に、カルマ先輩の作ったものならそうしますね。」

 

「分かったのだ!それじゃあお達者でなのだ!」

 

モンナは急に声色を変えた上で、瞬く間に走り去っていく。

 

「はあ……カルマ先輩が腰痛でダウンしてるのが唯一の救いね。これからヴェリタスとゲーム開発部が、『鏡』を取りに攻めてくるっていう時に限って……。」

 

ユウカも逃げていくモンナを見送ってからため息を吐き、ジュラルミンケースを押して歩き始める。

 

「ひとまずは、今夜の襲撃をなんとかしないと……これの中身の精査は、それからね。」

 

その言葉に、俺はほくそ笑む。

 

これで作戦成功はほぼ確実。

 

まあこれの後にゲーム開発部が大ポカをやらかせばその限りではないのだが、ひとまずこれで『鏡』の奪取という目的は達成できるはずだ。

 

「後は、回復力次第かねぇ……。」

 

ジュラルミンケース……『飛び出せビックリボックス・マッサージ機能付き』の中で、俺は外に声が漏れないように呟いた。

 

「それにして重いわね……どんだけ大掛かりな装置なのよ?」

 

……まあ、人体が入ってて軽い方が問題だしね!

 

 

 


 

 

 

「……これじゃ、彼女たちは完全に道化ね。」

 

「道化は彼の領分だったはずなんですがね……まあ、私達の目的に支障はありませんし……。」

 

「ええ、でも……流石にマッサージ機だけで治るなんてこと、ないわよね……?」

 

「さあ……?」

 

 

 


 

 

 

治った。

 

頭を抱える友人とダチをイメージしたが今は関係ないので無視し、俺はパスワードを設定した箱から出る。

 

ん?ロックが掛かってるだろって?

 

何言ってんだ、人が中に入るタイプのびっくり箱なら内側からは普通に開くに決まっているだろう。

 

「んで、これが『鏡』と……やっぱ名前がそうだからってまんま鏡ってわけじゃねーんだな。とりあえず確保っと。」

 

セミナーが生徒から差し押さえた物品を保管する部屋の中をぐるりと見回すと、いくつか見覚えのある物がチラホラと目に入る。

 

「『空間切断剣:メダジャリバー』に『自販機擬態型鉄騎:ライドラベンダー』、『滑空凧:パラセール』……色々と持って行きてーもんは多いが、あんま持って行き過ぎてもマズい……パラセールだけにしておくか。」

 

窓を開けて折り畳んでいたパラセールを広げ、前に飛び出すようにして滑空を始める。

 

「高度は十分、このままミレニアムの境界線辺りまで滑空して……。」

 

頭の中で航路を描いていると、二列に並んだ銃弾がパラセールを穿つ。

 

俺はそれを受けて凧から手を離し、地面に転がって受け身を取りながら着地する。

 

「おーおー、腰をやったくせに随分と元気じゃねーか、ジジーさん?」

 

「生憎、同学年だからその理屈だとお前はババーさんだぜ……美甘(みかも)ネル。」

 

二丁のサブマシンガンを構えたオレンジ色の髪。

 

メイド服に似つかわしくない、殲滅と隠蔽によるセミナーへの『奉仕』を行う組織『Cleaning&Clearing(C&C)』の最強戦力にして、ミレニアムNO.2の戦闘力を誇るという少女、美甘ネル……!

 

「何がしたかったのかは知らねーが……まあ、そろそろ頃合いか?」

 

「……頃合いって?」

 

「奇策が云々語ってた脳味噌はどこ行った?……最強を交代する頃合いに、決まってんだろうが。」

 

銃撃を目線と銃口を見て回避し、物陰に隠れる。

 

「マズいって……!びっくり箱入りだと刀なんて持てないから、二刀を持ってきてねーんだわ!」

 

「オラオラどうしたぁ!?せこせこ隠れるのが最強か?」

 

こうなれば制服の各部に仕込んだカルマギアシリーズを動員して倒すしかない。

 

「……『カルマギア01:アサシンクロスボウ』!『カルマギア02:キリングカード』!『カルマギア03:インラインインザシューズ』!」

 

袖口のクロスボウと取り出したカードをネルに向けて発射し、車輪を出した靴でぐるぐると距離を詰めていく。

 

「チッ、刀はねーのか……まあ、完膚なきまでにボコボコにすればそれでいいんだろ!」

 

カードも鋼鉄製の矢も撃ち落とされ、靴のローラーを狙った射撃が放たれる。

 

飛び跳ねて避けるも、それはある程度抑制できていた動きを慣性に一任することであり……

 

「オラオラオラァ!」

 

銃撃を受けて後ろに押されていく。

 

防御態勢を取りつつ着地した時には既に、ネルは眼前まで迫っていた。

 

「接近戦を得意とする、お前らしい判断だよ……この距離はもう『俺の間合い』なことを考慮してない部分も、またね。」

 

彼女が踏み込んだ足元で爆発が起き、俺は爆風を利用して後方に飛び退る。

 

「……『カルマギア04:アドへシブボム』。」

 

「ケッ、何もかも見透かしたように……!」

 

携帯できるように威力はそれなりに抑えているせいで、爆炎を突っ切ってネルが銃口をこちらに押し当てる。

 

「これで終いだぁ!」

 

「……『カルマギア05:トライアームクロウ』。」

 

顕現した鉤爪で二丁のサブマシンガンを繋ぐ鎖を引き、銃口を強引に上に逸らす。

 

「『カルマギア06:シュートスタンガン』!」

 

首筋にトーキックを叩き込み、つま先に仕込んだスタンガンを押し付ける。

 

「……クハッ!」

 

彼女は少し硬直した後に、地面に膝をつく。

 

「……お疲れ様。」

 

 

 


 

 

 

「……完全に無駄足じゃん!」

 

「無駄足じゃないって誰が言ったよ?」

 

ゲーム開発部で戦果発表会を行う中、モモイが俺にキレた。

 

「本当にどうしようかって思ったんだからね!差押品保管所に行って、『鏡』がなかった時は終わったって思ったよ!先生には連絡入れてたみたいだけどさあ!?」

 

「まあまあ、無駄足じゃないとは言ってないが、無駄足だとも言ってないぜ?」

 

一日寝たきりだったのを鑑みて柔軟運動を行いながら、俺はゲーム開発部の面々に告げる。

 

「お前らがとびっきりの大騒ぎをかましてくれたおかげで、こっちがノーマークになった。まあ、俺が腰やってもマッサージ機で治るって読めた奴がいなかったせいもあるが……。」

 

マジでどうなってんだ俺の体。

 

「とにかく、『鏡』も手に入ったしG.Bibleの解析もできる……結果としては万々歳だろ?」

 

「そうですが、うう……マスターに完全に騙されました……これがガチ勢……。」

 

アリスまで完全にしてやられたことに思うところがあるようだった。これはモンナに語った作戦の狙いがドンピシャにハマった最高の結果だ。

 

「アリス……悔しいか?」

 

「悔しいです……このままじゃアリスは勇者じゃなくて愚者です!」

 

「ふむ……勇者になりたいか?」

 

「はい!」

 

アリスの意気込みを聞きつつ、俺は脳内で色々と考えを巡らせる。

 

「……なら、俺に任せろ。俺より……は無理かもだけど、向かうところ敵なしの勇者に育ててみせるぞ?」

 

「……ええ、なってみせます!あなたをも超えた、最強の勇者に!」

 

「おし、その意気だ!」

 

アリスの肩をパンと叩いた上で、俺はゲーム開発部と先生に向き直る。

 

「んじゃ、早速G.Bibleを解読してもらいに行きましょうか。」

 

「「「「いや、切り替え早っ!?」」」」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは他人を出し抜くことに快感を覚える。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08 開かれた聖書と道化の箱庭遊び

ミレニアムプライス:第1機動室の軌跡

・辛坂フミ
いや、自信作だったのに室長にもセミナーにも出すなって言われて、設計図も燃やされちゃったんですよ……いや、一回も実験してないし製造さえしてないのに顔を真っ青にされて、「やってたら大問題だわ!」って怒られる始末ですし……物理的な破壊が行われないから、いいアイデアだと思ったんですけどね……『プルトニウムボール』

・追後セカイ
はい、わたしもフミちゃんと一緒に『プルトニウムボール』を作ってました、あれ、実は持ち運ぶ時点でコンクリ製のケースに入れて持ち運んで、絶対に半開きの状態を維持しないといけないんですよ……正直、作ってる途中で私はビビっちゃって……はい、密告したのは私で……それによって私たち二人とも、ミレニアムプライス出禁になりました。

・七郷カルマ
演劇部は外部での公演主体でミレニアムプライスにはあんまり出ないけど、今回は演出装置『上に落ちる装置』と個人で扇を鍛造して提出した。受賞作?1年の時に出した『カルマギア07:スプリングアーマー』が記憶に残ってるな、初めて出品したもんだったし……ん、『プルトニウムボール』?……作り方は聞いてないよな?聞いてたら記憶、場合によっては命を消す必要があるんだが……なんでってそりゃ……アレが流通したらキヴォトスは滅ぶからだよ、シンプルに。



難産やった……


G.Bibleの世界へようこそ。

 

最高のゲームとは何か……

 

この質問に対して、世界中で様々な答えが模索され続けてきました。

 

作品性、人気、売上素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌の立つ演出など。

 

そういったものが最高のゲームの『条件』として挙げられることは多いですが、それらは全て、あくまで『真理』の枝葉に過ぎません。

 

最高のゲームを作る秘訣、それはたった一つです。

 

そしてこのG.Bibleには、その心理が秘められています。

 

最高のゲームを作るたった一つの心理、秘密の方法……

 

それを今こそお教えしましょう。

 

……

 

……ゲームを愛しなさい

 

ゲームを愛しなさい

 

ゲームを愛しなさい

 

あなたがこのボタンを押したということは、ファイルが壊れた、もしくは何か問題があったのでは、何らかのエラーが生じたのでは……と疑っている状況なのでしょう。

 

しかし、エラーではありません。

 

残念ですが、これが結論です。

 

ゲームを愛しなさい!

 

 

 


 

 

 

「あ、あー……やあ視聴者の諸君、七郷カルマだ。今日はミレニアムプライスに出てきたあの問題作の続編、『テイルズ・サガ・クロニクル2』のクリア耐久配信をやっていこうと思う。」

 

ミレニアムの近くで借りたネカフェの防音個室で、俺は配信を開始した。

 

上のアレは何か?

 

G.Bibleの全文。

 

[toisuto-ri-ga:クソゲー配信だ!みんな、スパチャとリクエストを投げろぉ!]

 

[geniusvenus:50,000クレジット・まだ『砦の刀・オノムジム』をクリアしてませんよね?]

 

[abagyaeshehu:なんでわざわざ地獄へ踏み込んでいるんだか……]

 

[zundapa-rinai:100クレジット・『MAKIJAKU アルティメットフィニッシャー』をやってください!]

 

[カフ:50,000クレジット]

 

[セカイ:50,000クレジット]

 

[カフ:50,000クレジット]

 

[カフ:50,000クレジット]

 

「おい、何度目かは忘れたがスパチャ合戦をやめろ……そしてクソゲーを勧めるな、これのせいで最近の睡眠時間、割と深刻な問題だからな?まあとにかく、今回はミレニアムのゲーム開発部が作った新作ゲームを遊んでいく……まあ、進歩していると思いたい。」

 

実を言うと俺は、開発に携わることはなかったし内容を聞いてもいない。じゃあ何をしていたか?

 

……襲撃なんて馬鹿をやらかした彼女たちへの処置を遅らせる根回しと、俺の潜入の隠蔽だ。

 

「つーわけでやってくぞ、続編ってことだから、世界観は繋がってるんだろうが……。」

 

[凄まじい戦いの日々から、10年が過ぎた……]

 

[korekuttemoiikana:凄まじい戦い(カオスなRPG)]

 

[dagamuimida:あの世紀末っぷりからすると、10年後には人類滅んでそうなんですが……]

 

[mukkorosumairu:11,123クレジット・出よ『サーモンライド』!時は満ちた!]

 

「……うん、まあこうじゃねーとな。」

 

しかし、G.Bibleが開封された直後の彼女たちの反応ときたら、それはまあ酷いものだった。

 

『聖書』に記されたのは心がけだけだった、要するに彼女たちが求めていた『作り方』には触れていなかったからだろう。

 

うん、端的にまとめると終わったと嘆いていた。

 

「さて、チュートリアルの戦闘だな……お、今回は銃装備か……技は……『接射』……。』

 

[usodadondokodonn:あっ(察し)]

 

[museruta-bo:上から来るぞぉ!気をつけろ!]

 

[エンカウントが発生しました!]

 

[野生のプニプニAが現れた!]

 

[ッダーン!!!]

 

ゲームオーバー。

 

[プニプニB:隠れて遠くから狙撃……楽なお仕事ですね。]

 

「……ざっけんな!前作リスペクトはゲームの基本だがここをリスペクトするなよ!挙げ句敵の知性がレベルアップしてるって酷すぎるって!」

 

早くもこの配信で台パンをかますことになったが、口角がブチ上がっているのも同時に感じる。

 

[geniusvenus:笑みが隠せていませんよ?]

 

「やっぱり?前作もやった人にしか通じない身内ネタだけど、俺はツボった。」

 

[kenjakigegege:クソゲー配信でカルマが笑った……!?]

 

[mukkorosumairu:1,123クレジット・今回はもしかして、理不尽要素はあっても神ゲーなのか……?]

 

「理不尽要素があったら神ゲーとは言わねーだろ。」

 

笑っといて何言ってんだと返されかねないマジレスをしながらも俺は続きへと、深淵へと踏み込んでいく。

 

それにしてもあの時、混沌の中放たれたアリスの言葉には痺れたなあ、テイルズ・サガ・クロニクルから感じた制作者の愛、あのゲームに触れた時に湧き出した感情の数々、その上でお出しされた諦めないあの姿勢……

 

あそこから信じられない筆の速さでこれを完成させたゲーム開発部の面々ほどではないが、俺も心を揺さぶられた。

 

逃げ続けた身だからこそ、余計に。

 

「お、今までなかったコマンド、『索敵』がついてる……あー、これで伏兵をバトルフィールドに呼び出せるのか。んで、伏兵の攻撃は即死……初手索敵必須じゃんか、だったら……。」

 

[プニプニA・プニプニBの合体技、『メテオエンドパニッシャー』!勇者カルマに999のダメージ!]

 

「いや、1残しぃ!?」

 

[oppeketenmukki-:草]

 

「いや、攻撃も防御もできないのに即死打たれても困るよ!?困るけどさぁ、流石にこれは違うだろ!」

 

台パンでウィーウィルロックユーを演奏しつつ、俺はチュートリアルにしては過酷すぎる展開に叫ばずにはいられなかった。

 

 

 


 

 

 

「コイツ、前作の植物人間?」

 

[geniusvenus:原作再現ですよ?ほら、笑ったらどうですか?]

 

……誰かは分かっているので今度俺からもコイツにスルメを送りつけてやろうと決意を改めつつ、俺は再度まみえることとなった植物人間との会話に入った。

 

[オッス、オラ「いやちょっと待てぇ!()()人になってるぅ!」]

 

植物人間ではなく、進化して野菜人になっていた。

 

[あれから修行してオラ、めちゃくちゃ強くなったんだ!]

 

「強くはなったかもしんねぇがよくこれ通せたな!?」

 

[museruta-bo:えぇ……(困惑)]

 

[パンパカパーン!孫悟空が仲間になった!]

 

うっわこれアリスが作ったパートか!

 

そういえばアリスに様々な版権物は見せてきたけど著作権に関するレクチャーしてなかったよこんちくしょう!

 

[abagyaeshehu:……これ、訴えられるんじゃないかしら?]

 

「奇遇だな、俺も同意見だ。」

 

遊べるうちに遊んでおこうと俺は今までより焦り気味でゲームを進めていく。

 

孫悟空が現れた!]

 

「ヤメロォ!版権的にもマズいしネームバリューや実績的にも勝てる見込みねーから!てかお前さっき、仲間になっただろ!?」

 

[zundapa-rinai:孫悟空にとってはただの修行だと思うのだ]

 

「知ってるよ!」

 

 

 


 

 

 

「……さて、難易度高めで時々エグすぎる演出が入っていますが、なんとかクリアしてまいりました。」

 

[geniusvenus:お疲れ様でした]

 

[hujakerunamoai:感想はよ]

 

「うい。まず、やってみた感想を端的にまとめると……面白かった!今回は相当叫んだけど前回はね、台パンが主体だったからね、ツッコミどころはあるけど普通に遊べました、ここ大事!」

 

プレイ終了。

 

「こ、ろ、し、て……。」とはならなかったからヨシ!

 

というか普通に面白かった!

 

「つーわけで解散!」

 

適当なところで配信を切り上げ、俺はネカフェを出る。

 

時間帯は既に夜に近しい時間帯、適当な店で飯を食うかと思い悩んでいると、

 

「あら、これは……お疲れ様ですね。」

 

なんか車椅子に乗った白髪の少女がいた。

 

「……さて、まだ大体空いてる時間帯だよな!」

 

「いや、今明らかにこちらを見ましたよね?」

 

「うっせ、究極変態痴呆ストーカー。」

 

「あまりにも言葉に棘がありすぎませんか!?」

 

恐らく近くの部屋を借りて張っていたであろう少女、明星(あけぼし)ヒマリを煽りながら俺は後ろに回り、彼女の車椅子を押す体制に入る。

 

「まあいい、飯食いに行くけどお前はどうする?お前をその辺に投げ捨ててからでもいいんだけどさ。」

 

「投げ捨てる必要はありませんよね……?まあ?この天才病弱美少女ハッカーと?どうしても?一緒に食事をしたいのなら?そのお誘いに応じても構いませんが……。」

 

「やっぱいい。悪かったな、無理に誘って。」

 

「食いつきが悪すぎません?」

 

仕方ないだろう、彼女が一緒だと極端に選べる店が減るんだから。

 

「んじゃ、先に送らなきゃいけないわけか……はあ……。」

 

「い、行きます!行きますから!」

 

「ふーん……じゃ、いややっぱいいわ。何が食いたいんだ?」

 

「でしたら、今日はパスタでしょうか。食べさせていただけますか?」

 

「ほざけ。」

 

 

 


 

 

 

「んで、どこまで巻き込むつもりだったんだ?」

 

「……?」

 

互いにミートソースをフォークに絡め取る最中で、俺はヒマリに尋ねることにした。

 

「巻き込む、とはどういうことですか?」

 

「暗号解析のためのツールをわざわざ物理的なアイテムにしてる時点でお察しだよ……お前が、セミナーに自分の作品を()()()()()ってのは。」

 

『鏡』がヴェリタスの部長であるヒマリの作品であることは知れている。

 

彼女の作品がよりによってセミナーに押収されるなど普通なら彼女は憤死しかねないだろうに、今回はやけに冷静だ。

 

だとすれば……全部、計算の内なのだろう。

 

俺がこうして気づくことも。

 

「……ふふっ、流石に隠し事はできませんね?」

 

「腹に一物抱えてても、演技ができなきゃすぐバレるぞ?お前もアリスと一緒にトレーニングするか?」

 

「大変興味深いですが、遠慮しておきましょう。天才病弱美少女ハッカーに運動部は、少しばかり荷が重いので。」

 

「言うなぁ……。」

 

ココアを啜り、俺は話題を元の方向へ切り替える。

 

「フラれたところでもう一度聞くぞ、どこまで巻き込むつもりだった?」

 

「セミナーにC&C、そしてゲーム開発部とヴェリタス。狙いとしてはここまででしたが、エンジニア部が噛んでくるとは……まあ、最有力候補としては考えていませんでしたね。」

 

「結局来るとは予想してたのか……アイツはお前サイドって認識してるけど、合ってる?」

 

「合っていますよ?あの女と一緒だなんて、いい気分ではありませんが。」

 

目の前のミートソースまでもが醜悪なものであるかのように苦々しい表情をしながら、ヒマリは愚痴をこぼす。

 

「まったく、人を駒のように扱って……。」

 

「ハハ、アイツは割と人を顎で使う癖があるからな……。」

 

ポテトの方をフォークに刺して、ケチャップもマヨネーズもつけずに食べる。

 

「美味い。やっぱこういう組み合わせはチェーンだからこそだよなぁ……。」

 

「……思ったのですが、多すぎませんか?」

 

「俺持ちだからいいだろ。」

 

「それはそうかもしれませんが……。」

 

既に空けたナポリタンの皿とグラタン容器、サラダが入っていたボウルを見て、ヒマリは俺に進言する。

 

「その、太りますよ?」

 

「大丈夫、最近は微減だ。」

 

「なんでこれだけ食べて、体重が微減で済んでいるんでしょうか……?」

 

「そういうお前はどうなんだよ、食事量からして見るからに減ってそうだが……ちゃんとそれ食べ切れよ?」

 

ミートソースを空けたところでまだ半分以上残っている彼女の皿を心配しつつ、俺はポテトを食べながらメニューを広げてどのスイーツを選ぼうか吟味する。

 

「まだ食べるんですね……。」

 

「いつものことだろうに。」

 

「あなたの胃袋が羨ましいですよ。私はあまり食べられないのに、体重は増減なし……あなたもあなたで微減となると危険域のはずですけど……。」

 

「だから食ってんだよ。あ、すみません……このチョコレートパフェ、一つ。」

 

ポテトが少なくなってきた頃合いを見計らい、俺は店員にデザートを注文する。

 

「そういや、まだ聞き損ねたことがあったわ。なんであんなことした?」

 

「ミレニアムで実験の理由を聞くことがどれだけ無意味かは、ご存知のはずでは?」

 

「まあ、実験だろうなとは思っちゃいたが……実験テーマって言い換えれば答えてもらえるか?」

 

「ええ、いつ作るか分からないレポートをまとめてからなら。」

 

どうやらとことん隠すつもりらしいが、別に構わない。

 

「まあ、ゲーム開発部絡みだろうし俺が食いつくのも無粋だな。」

 

所構わず首を突っ込むほど、愚か者ではないつもりだ。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは自分を愚者だとは思っていない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09 結果発表〜!(CV:浜田雅功)

何故かは分からんが、カルマとカエデを絡ませたい今日この頃。
ただそれをやるとワカモが文房具で武装して、ミネが国境線を消し、アツコが恋愛サーキュレーションを歌って、モモカが薙刀装備で、ナギサ様がキメ顔(無表情)で、ミチルが後ろ向きに自転車を漕ぐ……カオスやな!
ついでにカルマのお母さんのCV:折笠愛さんで行こか!
先生の声帯はまあ考えないとして……黒服はCV:三木眞一郎!


「別に、武器を提出したから性能の把握には付き合うけどさあ……!」

 

赤と金で対となる鉄扇を使って縦断を弾きながら、俺は現状に不平を唱える。

 

「なんでよりによって、テスト相手がコイツなわけ!?」

 

「あ゛ぁ゛!?あたしが相手じゃ不足ってのかよ?」

 

「いや、別に言ってねーよ。そんなこと言ったらキヴォトスで不足じゃねーやついないし。」

 

「……ブッ殺す!」

 

またネルと戦うことになっていたからだ。

 

だからさあ、せめて得意の得物でやらせてくれよ、面倒臭いんだって。

 

「ふむふむ、銃弾、しかも連射銃を完璧に弾いた……信じがたい耐久性ですね。」

 

「しかも見てくださいよ、一切の凹みがない。」

 

あーもう、やってることがことだから仕方ないとはいえ、審査員のガヤがうるせぇ!

 

イライラしながらも右の赤い扇……斬扇・日裂(きりおうぎ・にちれつ)を横薙ぎに振るってネルを後退させる。

 

そのまま左の金色の扇……斬扇・月裂(きりおうぎ・げつれつ)の反対側へ日裂を動かし、翼のように前方へ同時に扇いで後ろへと飛び退る。

 

「なんと!?風を送って翔ぶことまでできるのですか!?」

 

「ただでさえ鉄扇で相当な重さなのに、人体まで含めてこの翔び方とは……!」

 

爆風で評論家の皆様方が何を言っているのかは聞き取れなかったが今は関係ない。

 

そのまま空中で再度一扇ぎしてネルの真上に到達し、俺は扇を全力で上に向けて扇いだ。

 

「この開けた場所で、上からかよ!?」

 

放たれた弾丸を指を支点にして回転させた対の扇で弾き飛ばし、お誂え向きに上に掲げられた二丁の銃身を扇の弧で斬り裂く。

 

そのまま閉じた扇を横向きに持ち替え、両手を左右に広げた状態から一気に打ち合わせる。

 

元ネタは武器こそ持ってないものの、確かに人を噛み千切るような威力と動きのこの技に、他に名前をつけるは不敬か。

 

「……『暴飲暴食』!」

 

しかし、これより片手での平手打ちの方が強い元ネタはどうなっているんだろう?

 

ネルの顔を挟み込んだまま着地した俺は、一人そんな思考に耽っていた。

 

 

 


 

 

 

[これより、ミレニアムプライスを始めます!司会および進行は私、豊見コトリと!]

 

[茶々担当の寸田モンナでお送りするのだ!]

 

説明狂いのエンジニア部員と小物演劇部長が司会とか地獄か。

 

[それにしても今回、バカみてーに応募総数が多かったのだ。]

 

[おそらくは生徒会の方針変更により、部活動維持のために『成果』が必要になった影響かと思われます!]

 

[おーおー、みんな忙しそうで何よりなのだ。]

 

「……改めてコイツムカつくな。」

 

演劇部の後輩たちと小物を見ながら結果を見守る。

 

「……さて、ゲーム開発部の皆さん、そっちはどうですかね?」

 

[既にドキドキだよ!てゆーかなんで先輩はそっちにいるのさ!?]

 

「部長があそこで好き放題やってるから、副部長の俺がこっちをまとめとかねーと。」

 

リモートでゲーム開発部とも一緒だ。

 

[昨年の優勝作品であるノアさんの『思い出の詩集』は、本来の意図とは少し違ったようですが……その形而上的な言葉の羅列が、ミレニアム最高の不眠症に対する治療法として評価されました。]

 

[……いや、普通に出版社とかもっとそういうところに出せなのだ。]

 

「それを言っちゃおしまいだろうがよ。」

 

[えー、コホン!今回も『歯磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ』、『ミサイルが内蔵された護身用の傘』……『ネクタイ型モバイルバッテリー』、『光学迷彩下着セット』、『丁度缶一個なら入る筆箱型個人用冷蔵庫』……]

 

[『上に落ちる装置』、そして、あの名工、七郷カルマの新作『斬扇・日裂&月裂』や、キヴォトスのネットでどこかのバカが配信したこともあって盛り上がってるスマホ・マルチプレイ対応レトロ風ゲーム『テイルズ・サガ・クロニクル2』などなど!]

 

[今回出品された三桁の応募作品のうち、栄光の座を手にするのは、たった7作品!]

 

[受賞枠の数は変わってない辺り、セミナーの思惑が透けて見えるのだ!]

 

マジで消されるぞお前。

 

「なあユズ、ゲーム開発部部長のお前に聞きたいんだけど……部長が死んだら副部長がそのまま繰り上がる感じだったっけ?」

 

[!?!?]

 

[カルマ、今の質問は流石に……。]

 

「俺にとっちゃ切実な問題ですよ、先生。」

 

ガチで今際の際に小物がいる現状を鑑みれば。

 

[それでは第7位から、受賞作を発表するのだ!]

 

[7位はエンジニア部、ウタハさんの『光学迷彩下着セット』です!これは身に付けてもその下の素肌が見えてしまうため、着ているのかそうでないのか分からないというエキセントリックな作品ですが……露出症の患者さんが合法的に趣味生活を営めるという点で、大変高い評価を……その評価をした審査員が一体誰なのか、気になってしまいますね!とにかく7位!]

 

「トチ狂ってんなぁ……。」

 

部長の狂気を淡々と語れる後輩も、出来上がった発明も、審査員の評価も。

 

[まあ次は6位なのだ。『会計は白痴、かかってこいやセミナー』さんの作品、『ミサイルが内蔵された護身用の傘』なのだ!実技検査の際に一切雨が降らなかったから傘の性能は分からず、ミサイルの性能だけでこの順位に入ったのだ!ちなみに実験映像がこちらなのだ!]

 

【カルマがミサイルを刀で受けたら爆風で刀が折れた映像】

 

ミレニアム全体から歓声が沸き上がった。

 

[……いや、刀が折れただけでなんでみんな大盛り上がりなの!?]

 

[カルマ先輩の刀は折れず曲がらずよく斬れるで有名だからね!この前バラエティ番組で、クジラをを乗せても真っ二つに斬っちゃったし!]

 

……ただの素人が打った刀なのになんでこうも頑丈なのだろうか?

 

 

 


 

 

 

5位:クリスマスに鮭を予約するAI付き金庫(ヴェリタス)

 

4位:叫び声を上げる黒みがかったウォーターサーバー(家電開発部)

 

「クソみたいなのしかねぇ……。」

 

ミレニアムはバカの巣窟だったのか。

 

いや、にしたってこうはならないだろう……

 

「さて、受賞できるのはあと3作品だけどそっちは大丈夫か?」

 

[ヤバい、ヤバイよ……!]

 

[まs……ダルマ先輩、こっちは死屍累々です!]

 

「報告してくれてありがたいがアリス、俺の名前を群馬県高崎市の名産である置物みたいに言うな、僕の名前はカルマだ。」

 

[失礼、噛みました!]

 

「いや、わざとだ……。」

 

[噛みまみた。]

 

「わざとじゃないっ!?」

 

[カンナ見た?]

 

「今手元に工具持ってたら怖すぎるだろ!というかこのやり取り、なんでお前が知ってんだよ!」

 

これの元ネタの本は家に置いてあって、彼女が見る機会はなかったはずだが……

 

[ヴェリタスの先輩たちから『部長から渡されたんでカルマ先輩に返しといて』って言って渡されました!面白かったです!]

 

「あー、はいはい……。」

 

ヒマリのやつ、また勝手に借りていきやがった……何度も借りる時はせめて話を通せって言ってるのに。

 

そしてちゃっかりアリスも読んでやがる。

 

「今度続編を貸すよ、アホほどあるけど……あと3作品、まあ互いに祈ろう。」

 

[うわーん、カルマ先輩にこっちを納めてもらおうとしたのにお祈りゲー宣言されました!]

 

「じゃあどう返せばよかったんだよ!?」

 

 

 


 

 

 

3位:斬扇・日裂&月裂(七郷カルマ)

 

2位:ネクタイ型モバイルバッテリー(エネルギー研究会)

 

1位:叩くと増える小麦粉(新素材開発部)

 

「1位がトンデモ案件すぎないか?」

 

[カルマ、君の扇も相当にトンチキだよ?]

 

「……別にあれ、誰でもできるわけではないですよ?」

 

[人によってはあの動きができちゃう時点でヤバすぎるよ……。]

 

というわけで演劇部とゲーム開発部爆死だった……ん?

 

[本来なら、以上でミレニアムプライスは終了なのですが……]

 

[せこいセミナーの思惑には屈しねぇのだ!ここでまさかの『特別賞』を発表するのだ!]

 

想定外のチャンスを踏まえて俺は画面を二度見して、まだ切っていなかったゲーム開発部とのビデオ通話に語りかける。

 

「先生、まだ見てますよね!?」

 

[その……モモイが発狂して、テレビ壊しちゃった……。]

 

「はあ!?いや、まだ諦めるのは早いですよ!」

 

[……どういうこと?]

 

特別賞の存在を知る前にテレビをぶっ壊したバカのためにも説明して聞かせる。

 

「応募総数が多かったので、選外からも一作品だけ『特別賞』が授与されるんです!まだ『テイルズ・サガ・クロニクル2』は賞を取れる可能性がある!」

 

[本当!?]

 

「ここで嘘言っても何にもならないですからね!」

 

こっちも既にヤケクソである。

 

ただでさえ俺の作品が発表された時に『カルマ先輩が凄いのか作品が凄いのか全く分からない』と言われたのだ、色々とヤケになりもする。

 

自信作だぞ!?出来栄えは……ちょっと手元の最高傑作に比べて自信がないから名前の格を落としたけど!

 

見栄えにもこだわった赤と金の装飾!

 

金具まで太陽と月を表す形にして!

 

極限まで薄く、そして鉄の純度を極限まで上げて丈夫にした鉄板!

 

不快な音がしないようにコーティング!

 

弧の部分で斬撃を繰り出せるようにした上で、閉じれば打撃も繰り出せるようにして……

 

なのに何だってんだ、審査員が持ち上げられないくらいで!

 

30キロぐらい鍛えて持てよ!

 

[無茶言わないの……。]

 

「別に翔べって言ってるわけじゃないんですよ?片手で持ち上げて振ってみせろって言ってるんです。」

 

[あのね、ハンマー投げでも10キロは超えてないんだよ?]

 

「だから何だって言うんですか!?」

 

背中にくくりつけて翔んでやろうかとも思ったがそれは後回しにして、俺は中継に意識を戻す。

 

[つーわけで、特別賞を受賞したのは……なんと!]

 

[ゲーム開発部の皆さんの『テイルズ・サガ・クロニクル2』!審査員の皆様によると、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたことが、今回の『異例の選択』に繋がったようです!]

 

「……わーお。」

 

神様は見ている、といったところだろうか。

 

いや、見てたら落ちてるよなぁ……

 

とにかくこれで廃部も上手いこと躱せるだろう、形式に則ったものかはさておき、間違いなく彼女たちの作品が受賞したのだから。

 

正直、今となっては少し嬉しいかもしれない。

 

少なからずテイルズ・サガ・クロニクル2は面白いものだったから、続編が気になる。

 

ふざけた考えだが、3を出せばダウンロード数がギネス取れるんじゃないだろうか。

 

「……そして伝説へ、ってね。」

 

[ん?カルマ、今何か言った?]

 

「うんにゃ、ただの独り言ですよ。」

 

先生に頼んで、ゲーム開発部の部室内を映してもらうと……

 

[モモイ!ミドリ!アリスちゃん!ユズ!]

 

[ひいっ!もうユウカが!]

 

[ちょ、ちょっと待って!そんなすぐになんて……!]

 

[悪魔め!生徒会に人の心はないわけ!?]

 

?????

 

ユウカが入ってきた途端に彼女たちが慌て始めた。

 

「先生、もしかして……。」

 

[うん、ちょっとね……みんな、錯乱しちゃってたからさ。伝えられてないんだ。]

 

錯乱言うな。

 

その通りだけど。

 

 

 


 

 

 

結果的にゲーム開発部は廃部こそ免れたものの、特別賞はあくまで正規の賞ではないために部活動の廃止については『保留』、今後の活動を見て決めることになるという。

 

まあこれに関しては異論はないというか、俺が口を出すことでもないだろう。

 

取り敢えずゲーム開発部の一件は、一応の収束を見たと言っていい。

 

「……。」

 

だとすれば。

 

夜も更けて全員が眠りに就いたゲーム開発部の部室へ足を踏み入れ、無造作に置かれたゲームの中から、モモイの『ゲームガールズアドバンスSP』を拾い上げる。

 

考えるべきはアリスのことだ。

 

今このハードには、『廃墟』でG.Bibleと同時に取得した『Divi:Sion』なるシステムが入っているようなのだ。

 

そしてこの『Divi:Sion』が彼女たちに発した文言は

 

[あなたはAL-1Sですか?]

 

……確実に、何かある。

 

アリスに厄ネタがあろうことはとっくに把握済みだ。

 

でなければ俺のダチと友人は手を組まないだろうし、ゲーム開発部を張るはずがないし、そもそも俺を殺すことに躍起になっている友人が目を向けることもない。

 

ゲーム機の電源を入れ、画面に明かりが灯る。

 

見たことのあるホーム画面が一瞬映ったが、すぐに切り替わって真っ黒な画面の中に文字というシンプルな図面が出来上がった。

 

そして無機質な電子音が、こちらに囁く。

 

[……お初にお目にかかります、()()。]

 

存在しない紫の瞳を、俺は幻視する。

 

「……こちらこそ、会えて嬉しいさ。」

 

本気かどうか自分でも分からない言葉で、俺は答えた。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは名もなき神々の王である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10 狂言回し

カルマとワカモが天文台に並んで寝転がり、夏の大三角形を眺める幻想を受信しました。
あーっ、描きてぇ!だが技量がねぇ!
いっつもそうだよ俺!アイデアはポンポン出るのにそれを絵にできねぇ!
どうすりゃいいってんだよ!


「……なんで『廃墟』にお前がいんだよ、規制はどうなってんだ規制は。」

 

「連邦生徒会が引き払ったんでしょう。」

 

「そうだよ。まったく、何を考えればこんな事ができるんだ、あのバカどもは……。」

 

何故か『廃墟』に来やがった黒服とアリスのいた空間で、俺は相対していた。

 

「……そんで、今回は何のようだ?できれば早めに逝ってほしいんだが。」

 

「本音が漏れていますよ。」

 

「堰き止める気もねぇからな。」

 

「でしょうねぇ……今回お呼びしたのは他でもない、AL-1S……あなたたちが言うところの天童アリスについてですよ。」

 

……おい、俺名字が天童になったなんて聞いてねぇぞ!?

 

バカモモイの独断専行に業を煮やしつつも、もっとクソなやつが目の前にいるのでそっちに意識を戻す。

 

「で、何か分かったのかよ?」

 

「ええ、彼女は太古の遺品、オーパーツ……それも並々ならぬ力を持った、『名もなき神々の王女』と呼ばれるものです。」

 

「へえ……どれだけの力があるんだ?」

 

「世界を終わらせる、もしくは……『王』を殺しうる……かもしれない程度には。」

 

『女王』ではなく『王女』である時点で『王』がいるのは想定内だったが、それを殺せるかもしれないという結論に至るのは……

 

やはり、そういうことなのだろう。

 

「つまり、こういうことか?アリスは『名もなき神々の王』の伴侶として太古の『王』の信奉者が作り上げたもので、同時に『王』に弓を引く存在だって……。」

 

「ええ、それが『王』へ反旗を翻すためのものなのか、はたまた別の意図があったのかまでは判じかねますがね……彼女を造った、『無名の司祭』に。」

 

王女、王と続いて次は司祭か。

 

なんというか、それこそ王道RPGの要素のようだ。

 

「とりあえず、アリスについては分かった……でも、『王』と『無名の司祭』についてはどうなんだ?」

 

「無名の司祭についてはさっぱりですが、『王』に関しては少しだけ分かっています。」

 

「お前の言ってること、普段の行動を差し引いても信用出来ないからな……聞くだけ聞いてみるけど。」

 

「『あまねく神秘のひれ伏す存在』であり、『系統を超越した神話の唯一神』。そして……『脈々と血を繋ぐ、郷も名も無き一族』であるということが、現状分かっています。」

 

まさしく、神々の王と言わんばかりの威光。

 

与太と切り捨てられなくもないがここはキヴォトス、あらゆる神秘が積もった方舟だ……神秘に関わることには一定の信頼が含まれる。

 

「あとは……あなたが『王』の継承者であることぐらいでしょうか?」

 

「……話が見えないな、どういうことだ?」

 

「鎌をかけても動じませんか……ええ、別に貴方が知っているかどうかは関係ありません。ですが、私たちは知っているのですよ。貴方が『名もなき神々の王』である、と。」

 

黒服はそう告げることで満足したとでも言わんばかりに、その場を去っていく。

 

「であれば、そのヘイロー……未だ形を定めないそれにも説明が付きます。」

 

「……。」

 

「あなたの『神話』は、現在進行系で生み出されているのですから、完成した神秘を宿した生徒とは違う……誰かの神話を貰い受けたのではなく、あなたの道程……そのものが、神話となるのですから。」

 

 

 


 

 

 

「……こういうのって順番とかじゃねーのか?」

 

「仕方ないじゃん!どっちも一番最初を譲りたがらないんだからさ!」

 

「当の本人が言うのか……。」

 

両手の扇を扇いで、放物線を下りつつあった体を斜め上に打ち上げる。

 

「凄いです!目まぐるしく視界が変わります!でも……ちょっと目が回ってきました……。」

 

「悪いな、生憎扇は滑空に向いてない……というかそもそも、二人も抱えて翔ぶことを想定してない。」

 

モモイとアリスに挟まれながら俺は現在、ミレニアムプライスに出品した『斬扇・日裂&月裂』を使って空中を舞っていた。

 

「アリスもこれ、できますか?」

 

「まあ、扱いに慣れればな……あとこれは俺のイメージ通りに動けるように、言っちまえば俺様にチューンナップしたやつだから、新しく作ることになるだろうけど……。」

 

「えーっ、アリスばっかりずるい!私にも作ってよ!」

 

「まだ作るだなんて言ってないっての。そもそもお前だとまともに振れないし。」

 

アリスは多分普通に持てる。

 

打った時の反動が100キロ単位のバカデカレールガン、『光の剣:スーパーノヴァ』を普段使いで背中に提げてる時点でお察しだ。

 

でもなあ、モモイもアリスも所構わず振り回すだろうしなぁ……

 

少なくともこれ、軽く扇いで狙撃銃弾を体一つ分ズラせるくらいの風が起きるからなぁ……

 

「とりあえず扇に関しては保留……っと!」

 

細かく扇いで落下の勢いを殺しながら、俺は地面に降り立つ。

 

「はい、今日はもうおしまい。」

 

「えーっ!?ほんのちょっと翔んだだけじゃん!もっとこう……太陽までとか!」

 

「お前はバカか。太陽に近づいたら扇が溶けて墜落だよ。」

 

「アリス知ってます!『イカロスの翼』ってやつですね!」

 

先に降りたモモイとのやり取りをアリスが拾う。

 

「さてと……先生もやりますか?少しばかり風が冷たいですけど。」

 

「いや、遠慮しておくよ……でもカルマ、こんなことしてていいの?」

 

「ん?別に大丈夫だと思いますけど……。」

 

「いや、だってさ……もうすぐじゃないの?テスト。」

 

……えーっ!?

 

 

 


 

 

 

 

(うぉれ)は天才だー!

 

何でもできるんだー!

 

テストだって乗り越えてやるよー!

 

待ってろキャンパスライフゥー!

 

 

 

「……彼は何をしているのかしら?」

 

「何もテストの準備をしていなかったから、錯乱しているだけかと……。」

 

「セミナーから既に連絡が来ているわね。『カルマ先輩が壊れました』……字面だけ見ると、今更なのだけど。」

 

「何にしても、ぶっ壊れですからね……戦闘しかり、多才さしかり、狂いっぷりしかり……。」

 

 

 

俺は今ー!

 

モーレツにー!

 

勉強したいー!

 

気分だぞー!

 

 

 

「……それにしても、由々しき事態ね。」

 

「ええ、彼もミレニアム生である以上、そういった探求心は当然持ち合わせて……。」

 

 

 

俺は〜やるぜぇ↑〜!

 

絶対受かってみせるぜ↑〜!

 

合格してやる……ほあああああ!

 

 

 

「……一度、通信を切らない?」

 

「ミュートにしておきましょう。流石に彼だと、一瞬でも切るのが怖いです……うるささは、半分くらいマシになるでしょうし。」

 

 

 


 

 

 

「キヴォトスの外には韓国って国があってな、そこの受験生には、メガネにカメラや消しゴムにモニターを仕込んで通信で答えを教えてもらう奴がいるらしいんだ。」

 

[陛下、流石にそれはカンニング……許されないことだというのは分かります。]

 

『ゲームガールズアドバンスSP』からスマホに移植した『Divi:Sion』を手に、俺は電話をする時のように耳にスマホを当てながら屋上伝いに『廃墟』へ向かう。

 

「はあ……最強なのは武力であって、学力じゃねーんだけどなぁ……。」

 

[陛下、あなたは現状、生徒の中なら最強ですが……。]

 

「聞きたくない。」

 

[失礼いたしました。]

 

分かってる。

 

分かってますよー、以前砂漠のヘビを手遅れながらに、死にかけながら討伐したことありますから。

 

1年生の時だけど。

 

[……まあ、時間の問題だとは思いますが。]

 

「……マジ?」

 

[ええ。試してみましょうか?持って来いの的もありますので。」

 

「おお、それいいね。」

 

袖口から取り出したカードを後方に投擲し、ずっと背後を追ってきていたドローンを撃ち落とす。

 

「分かっちゃいたけど、マジで見張られてたとはな……誰がやってるかは大方割れてるが。」

 

[心当たりがおありで?]

 

「ああ、これで多分、7回目かな……。」

 

[7、ですか……。」

 

意味ありげに呟くのを聞きながら、俺は廃墟に降り立って足を緩める。

 

「……じゃ、案内してくれるか?」

 

[テストの方は、よろしいので?]

 

「別にほっぽり出しても点は取れる、不安ってだけでさ。赤点はない。」

 

伊達に意地と根性だけで6年にも及ぶ未就学期間を乗り越えて入試トップを取ってるわけではない。

 

実際、当時同率で合格しやがった身内がエグすぎるだけで俺が天才の部類に入ることは間違いないだろうし。

 

[ならいいのですが……。]

 

「ああ、構わない。だから、その的とやらについて教えてくれ。」

 

[承知いたしました。でしたら、前提知識として……デカグラマトン(神名十文字)という言葉に、聞き覚えはありますか?]

 

……あの黒服の話からなら、聞いたことがある。

 

 

遥か昔にキヴォトスの旧都心廃墟で行われた『神の証明、分析、そして新たな神を作り出す』という実験のために作り出された対・絶対者自律型分析システム。

 

それはやがて、その都市が滅び去ってなお解析を続け、研究の実在の確認すら困難になるほどの年月の果てに、そのAIは誰もいない廃墟で宣言した。

 

「Q.E.D」と。

 

証明、分析、再現。

 

その過程を経て、新たなる神は到来する。

 

己の神命を予言する10人の預言者とPathを開き、新たな『天路歴程』……『天の都』に至る道を歩きだす。

 

彼の者の神性を証明する過程は間違いなくSephira……世界を織り成す宝珠と呼んで差し支えない。

 

自らを『音にならない聖なる十の言葉』と呼称するもの。

 

それこそが『DECAGRAMMATON』。

 

 

……なんて知ったように言っているがちんぷんかんぷんな受け売りである。

 

「こんなとこだけど、自信はない……違ってたら遠慮なく言ってくれ。」

 

[いえ、概要は押さえていたようで何よりです……その上でお教えしましょう。あなたが相対しようとしている相手は『CHESED(ケセド)』、4番目の預言者にしてPathは『権力を通じて動作する慈悲』、自らを『慈悲深き苦痛を以て断罪する裁定者』とする、軍需工場の制御システムだったものです。]

 

「……あー、はいはい。物量作戦か?」

 

なるほど、この『廃墟』に異様に兵器型のロボットが多いのはこういうことか……この辺りが廃棄された軍需工場なら、そうなるのも頷ける。

 

[はい。大量のドローンやオートマタを繰り出し、本体は強固な外骨格装甲に保護されています。]

 

「うっわ、ダルそ……。」

 

[ええ、防御力に比べて陛下の攻撃力は未だに発展途上……そこを超えるための的には、ケセドは最適でしょう。]

 

「最適って……仮にも、作り物だとしても神だぜ?流石に不敬じゃね?」

 

それで宗教団体と揉め事起こすとか死んでもヤダ。

 

[問題ありません。人口の神であるという点は王女も同じですし……陛下は紛うことなき、神々の王なのですから。]

 

「……あっそ。」

 

正直、見たこともない神々の王であると言われても実感なんて湧く訳が無い。

 

でも、倒す際に躊躇しなくていいのは大きなポイントだ。

 

「まあ、色々と話しながらやってきますかね……そういやお前、名前って何かないのか?」

 

[……個体名としては『Key』というものがありますが。]

 

「ふーん……じゃあ、王女と同じルーツにあやかって『ケイ』とでもするか。」

 

[……ケイ?]

 

要するにモモイと同じ名付け方だ。

 

「俺の従者なんだろ?俺のものには俺が名前をつけないと、な。」

 

[……承知いたしました。今より私の名前は、ケイ。]

 

「まあ、よろしく頼むよ……で、あとどれくらいでケセドってやつのところにつくんだ?」

 

[そのことですが……来ます。]

 

急な殺気に感覚を刺激されて、ワイヤレスイヤホンを耳に詰めながら前方に意識を向ける。

 

ドローンにオートマタ、固定砲台(タレット)にゴリアテまで……目の前にはいかにもな扉……

 

「ここを通りたければこれを倒してから行け……まったく、面倒なくらいRPGの基本を踏襲してやがる。」

 

[……扉は二層、各扉を開けるためにはそれぞれ2陣営を相手取る必要があります。]

 

「なるほどねぇ、四天王……やっぱゲームじみてるな……。」

 

抜いた刀で叩き落としたドローンを蹴り飛ばして固定砲台にシュウーッ!

 

超!エキサイティン!

 

「とりあえず、ケセドのとこまで消化試合……後方に何かあったら教えてくれよ?」

 

[御意にございます。]

 

「あと、そんな畏まらなくて構わない、やりにくいんだよ正直。」

 

彼女の喋り方を自分にいいように矯正しつつ、俺は有象無象を斬り伏せる。

 

「おうおう、雑魚共!図が高いぞ、平れ伏せ!」

 

[……さては陛下、楽しんでいますね?]

 

俺に戦いを教えてくれた師匠はこう言っていた。

 

「戦いってのはなぁ、ノリのいい方が勝つんだよ!」

 

だとすれば、辛気臭く戦うよりもテンション爆上げで戦った方が強いに決まっている。

 

「『カルマギア08:オーラソードシステム』!」

 

刀の鞘から飛び出した刃だけの刀が手元の動きに合わせて宙を駆け、鉄屑をまとめて斬り伏せる。

 

「おいケセドォ!耳かっぽじってよく聞けよ?……俺、参上!」

 

[……?]

 

「行くぜ行くぜ行くぜぇ!」

 

第一陣を狩り尽くした俺はそのまま刀を振り下ろし……

 

行く道を塞ぐ一枚目の扉を、一刀両断した。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは戦闘時にテンションを上げる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11 滅風

カルマくん、実はグレゴリオの即死でHPが満タンなら半分残るくらいの防御力は持ち合わせています。ですが攻撃は、急所を狙わなきゃビナーをワンパンできないくらいしか持ち合わせてないんですよね。だからこそ、硬さに定評のあるケセドを潰せる火力がほしいわけです。まあそうでもなきゃ真のキヴォトス最強の看板を掲げることはできませんからね!


[陛下、流石に敵が可哀想かと……。]

 

「キヴォトスでは情けをかければ鉛玉をもらうぞ。効かねぇけどさ。」

 

[把握していますが、その……いささか陛下のものさしは極端かと……。]

 

「はい不敬。」

 

[申し訳ございません!]

 

「冗談だって……。」

 

ケイをからかいながらも雑魚を屠り、俺は一枚目の扉をくぐっていた。

 

「……それにしても、なんでこの扉斬ったんだろ?」

 

[……斬ったのは陛下のはずでは?]

 

「そうなんだけどさ……なんでそんなことしたか、自分でもさっぱり分かんねーのよ……雑魚じゃなくてもっと斬り甲斐があるものを斬りたかったのかな?」

 

[私に聞かれても困ります。]

 

その通り。

 

俺が分からないのに周りに聞いても分かるわけがない、聞いた俺がバカだった。

 

あ、勿論ケイを貶す意図は一切ないことも付け加えておく。

 

「そんで……お前って、大昔からいるんだっけか?」

 

[左様でございます。王女が嫁いだのは6代目……『滅帝・無名郷聖骸(めつてい・ななさとむくろ)』、かつてキヴォトスに打ち立てられた、最後の『王』です。」

 

「……最後?」

 

[ええ、彼の廃位と同時に、王女の意識と入れ替わった私がその一族を絶やしました。]

 

……いやいやいやいや、反逆じゃねーか!

 

「あのさ……急に不安になってきたんだけど。」

 

[申し訳ございません、言葉足らずでした。]

 

「なら説明してくれよ?嘘を吐いたらスマホごと斬る。」

 

[承知いたしました……結論から申し上げれば、介錯です。]

 

「あー、なるほど。じゃあいっか……ごめん、警戒しちゃってさ。」

 

それなら仕方ないね、うん!

 

[……よろしいので?]

 

「流石にこの状況で俺の言う事を聞かないほどバカじゃないとは思ってるからな。スマホの中じゃ殺すこともできねーだろ?」

 

[……はい。このスマホの機能をフルに使ったとして、陛下の髪の毛一本も切り落とすことはできないでしょう。]

 

「……早めに人形の体を得られるように動く必要があるな。お前の概要は伏せつつ。」

 

スマホにいるの不便すぎる。

 

音ゲーやろうとする度に

 

[陛下……申し訳ありませんが音量を下げていただけないでしょうか……?]

 

ってゆっくりボイス(魔理沙)で聞かれるの申し訳ない気分になるし面倒臭い。

 

早急に何とかしなければ……。

 

「どんな体がいい?」

 

[……逆に質問させて頂きますが、陛下はどのような女性がお好みで?]

 

「まあ、歳が同じくらいっつーか……寿命が同じくらいの人と一緒になりたいなと思ってるが……。」

 

[……。]

 

いや、なんか言えよ。

 

[女性の、外見の、好みをお聞かせ願えませんか?]

 

「うーん……身長はそんな拘るところもないし、顔はいいに越したことはないけど、どっちかって言うと一緒にいて楽しいかだからなぁ……。」

 

[……分かりました。では、私の質問に答えてください。まずは、美人系と可愛い系ならどちらがお好みで?]

 

うーん、ビジュアルだよな?なら……美人系はガハラさんとして、可愛い系は蛇神様?いや、この例えだと地雷しかないから選べねぇ……

 

うーん、でもなぁ……

 

「まあ、可愛い方が好き、かな?名画より小説の挿絵や漫画のキャラが好きだし。」

 

[なるほど……では、胸の大きさはどれほどが?]

 

「いきなり飛ばすねぇ!?」

 

いや、大丈夫?それ場合によっては俺が社会的に殺されない?

 

「あのさ、俺は別に性癖を開示したところでプラスどころかマイナスなんだが……。」

 

[王女や私は伽の相手も想定して作られています。陛下を満足させることができなければ、それは私の存在意義にも関わってくるのです。]

 

「いやしねぇよ!?」

 

なんでそこを想定してんだ!

 

[ですから、早く答えてください。図面が引けません。]

 

「思いの外職人気質……!」

 

まあ、俺の意見を熱心に欲してくれているってのに、適当に答えるのも忍びない。

 

「うーん、小さいのも大きすぎるのも、あんまりいい感じはしないかな……贅沢な願望かもしれないけど。」

 

[了解しました、それで行きましょう。次は……骨盤ですかね。]

 

……これ、どうした方がいいんだ?

 

あんまり大きすぎても小さすぎても、健康によくはなさそうだし……

 

「うーん、そこに関してはいい感じに調整しといてくれないか?」

 

[承知しました。腕によりをかけさせていただきましょう。]

 

「ああ、もうちょい詰めるところはあるけど……。」

 

開いた2枚目の扉を見ながら俺はケイに語りかける。

 

「これで、ケセドに会えるんだよな?」

 

[ええ、ですがこうして攻撃をしてきている現状から鑑みれば、恐らくケセドは陛下を『王』と認識してはいないのでしょう……まったく、これだから人が勝手に生み出した神もどきは……。]

 

「人口の神って点ではお前も同じでは……?」

 

[私は神が陛下の祖先への献上品として人に作らせたものですが?]

 

すまんかった。

 

 

 


 

 

 

「寄するは霧か、はたまた死か……何であれ、穿つのみよ!……『霧穿(きりうがち)』!」

 

半身でケセドを見据えながら体を捻り、肩の高さで横向きに構えた刀を一気に突き出す。

 

球状の鋼板をゴリアテを巻き上げながら刺突による風の槍が突き、爆音とともに大きく凹んだ。

 

「チッ、やっぱこれじゃダメだよな……?」

 

[ええ、これを貫く必要があります。ケセドは何度か機械兵を生成した後に、冷却のために装甲を解除しますが……その前に仕留められることが理想です。]

 

つってもなぁ、広範囲の殲滅に特化した霞刈じゃ、一点突破を目的とした霧穿より火力は出ない。

 

じゃあどうやって破る?

 

今まで以上の火力を出す方法を模索するが、今すぐできる方法となると何も思いつかない。

 

[……そもそも、先程の技はどうやって打っているのですか?]

 

「うーん、要は捻った体を戻す勢いで音速より早く刀を突き出す、つまるところただの衝撃波だからなあ……普通に減速して威力も逃げるし、これ以上は……。」

 

[陛下、まず斬撃や刺突で衝撃波が発生することが異常だと気付いてください。]

 

知ってる。異常だからキヴォトス最強できてるわけだし。

 

「衝撃波が逃げないようにしようにも、結局空気の動きだからなぁ……あ。」

 

[……陛下?]

 

「悪い、ちょっと試したいことができた。」

 

片手間で狩っていた機械兵を無視し、右手の刀を鞘に収めながら体を捻り、左の刀を肩の高さに構える。

 

[まさか、陛下……]

 

「ああ、その通りだよ。二刀流なんだから数で攻める、当然の理屈だろ?」

 

[ええ、理屈は納得できますが……本当にできるのですか?]

 

「一応、クソみてーな理屈は考えてる……ハマればいけるだろ。」

 

理屈!

 

まず『霧穿』で衝撃波を作って空気をまとめて押し出し、そこに空気を流れ込みます!

 

そこにすかさず『霞刈』!

 

今回の場合はケセドの方に空気の流れができているのでロスなく、しかも一点集中の気流で2撃目はほとんど威力が落ちない!

 

しかも吸い込みがあるので2撃目の衝撃波の方が速くなってほぼ同時に相手を殴る!

 

火力上がる要素しかないじゃん、やっべー!

 

「……楽観的だと思う?」

 

[というよりは徹夜のノリですね、ちゃんと寝ていますか?]

 

「……3!」

 

[寝てください、ケセドを倒したら迅速に。]

 

しっかり怒られた。

 

寝ることを決められながらも精神は集中させ、自己修復で凹みを直したケセドを見据え……

 

いや、なんで直ってんの!?

 

[曲がりなりにも神を模しているのなら、自己修復ぐらい当然かと……。]

 

「当然であってたまるか!」

 

気を取り直して左の刀で霧穿を……おい待てい機械兵!その赤く光り出したのは何じゃ!?

 

[陛下、ケセドが機械兵に自爆コードを入力しました!]

 

「はぁ!?もうヤケクソだよ、こうなったら……!」

 

スマホもただの爆発ではヒビ一つ入らないよう改造済みなのでお構いなしに霧穿を……あっちょっと待って爆発で地面抉れるなんて聞いてないしバランス崩れたらいくら精神集中しててm

 

 

 


 

 

 

「……くっそ痛ぇ。」

 

[本当に無茶苦茶ですね……。]

 

瓦礫の山の中から這い出て、俺はケイに尋ねることにした。

 

「ケセドは?」

 

[陛下の攻撃が暴発した結果、装甲含めて粉々に吹き飛ばされました。]

 

「……マジ?」

 

見てみると確かに、石ころと大差ないサイズに斬り刻まれた鋼板やメッタメタで穴が開きまくった球体が転がっている。

 

「……バランスボール?」

 

[ケセドの本体です。]

 

「……え、これが俺をああしたの?」

 

[正確に言えばケセドがあなたの技を暴発させる原因を作り、その結果でこうなっただけかと。]

 

マジかよ俺、ヤベーじゃん。

 

[ええ、まだ完全には程遠いですが。]

 

「……なんで?」

 

[今回の戦闘で確信しました……陛下の神秘は現在、何かしらの外的干渉によって阻害、封印、または歪曲されています。]

 

なんだろう、心当たりしかない。

 

「まあ、一時期実験動物だったしな。そん時に色々植え付けられたんだと思うぜ。」

 

[……その不届き者は今、どちらに?]

 

「もうあらかた……殺したよ。生きてるやつはどこにいるかも、名前も知らん。」

 

悪い、これ嘘、でもあの連中いないと俺の出自がはっきりしないんだ。

 

「今はまだ手を下さなくていい……いざって時は俺がやる。」

 

[……承知いたしました。お怪我は大丈夫ですか?]

 

「痛いだけで怪我はない……でも服がボロボロだな、一旦家に帰るぞ。」

 

[御意。]

 

目の前の球体を蹴り飛ばして、我が家への道を歩き出す。

 

「霧も霞も瞬く間に滅し、万物を壊す一陣の風……『滅風(めっぷう)』……。」

 

[陛下?いかがなさいました?]

 

「いや、ちょっと思いつきを口走ってただけだ。」

 

間違いなくこれは、切り札と呼ぶに相応しい威力だ……しかしこれは、強すぎる。

 

朽ちていながらも高くそびえていた街を見てみろ、今や瓦礫の山が各所に積み上がった荒野だ。

 

こんなのを人がいる時に使ったら、果たしてどうなる?

 

……考えるまでもない、間違いなく俺以外だと死ぬ。

 

未来永劫封印するしかないだろう、これは。

 

「……なあ、ケイ。」

 

[……何でございましょうか。]

 

「介錯を頼めば、殺してくれるか?」

 

[……それが、陛下の望みなら。]

 

あまりの忠臣っぷりに思わず笑いそうになる。

 

俺に付かせるには勿体ないくらいに、ひたむきな奴だ。

 

「……分かった。その言葉、最後までしっかり覚えておけよ。」

 

 

 


 

 

 

「……『廃墟』に入った瞬間、追加で放ったドローンが破壊されたわね。」

 

「彼の見張りについて回る問題点ですね。毎度対策はしているのですが……。」

 

「航空映像を見て。これも破壊されたけど……。」

 

「ええ、間違いなく……『廃墟』一帯は壊滅しましたね。」

 

「これを見ても、まだ考えは変わらないの?彼は間違いなく……。」

 

「ええ、『忘れられた神々の王』でしょう。でも、考えてもみてください……王たる者が、ただ破壊だけを行う存在だと思いますか?」

 

「……。」

 

「『名もなき神々の王女』同様、あくまで措置のための力と認識すべきではないでしょうか?」

 

「……それでも、脅威であることに違いはないわ。あなたも知っているでしょう?彼は目的のためなら、」

 

「誰であろうと敵と見なせる……ええ、その通りです。」

 

「キヴォトスのためには、彼は殺さなければならない。これはもう、逃れようのない事実よ。」

 

「あなたは本当に……それにしても、久々ですね。彼が技の開発に取り掛かるのは……。」

 

「……どうして、そう思うのかしら?」

 

「あら、偉大なるビッグシスター様も、とっくに分かっていると思っていましたが……前にも2回、いや、6回でしたか……似たようなことがあったでしょう?」

 

「……『霞刈』と『霧穿』といった技の類?でも、今回は規模が……。」

 

「ですから、彼はより威力が高い技を欲したんでしょうね。コンセプトとしては成功、まずまずといったところ……でも、いざ実行となって失敗した。まあある意味、彼のお決まりパターンとも言えますが。」

 

「……だとすれば、危険な状況だということになるわね。」

 

「いえ、流石に彼もこれを見て打てるようになろうとは思わないでしょう。今のところ、過剰戦力でしかありませんし。」

 

「これ……この威力の技をちゃんと撃てないと話にならない敵が出てくるとでも?」

 

「そうだとすれば、彼以外になんとかできる人材はいない……はっきりと言いましょう。彼に頼らざるを得ない状況がある中で、気が進まないことを無理に押し進める必要などないのでは?」

 

「彼を殺せる力があるのなら彼は必要ない。それだけのことよ。」

 

「……今話しても全く建設的な議論はできないでしょうし、私は帰らせてもらいますよ?」

 

「ええ、非合理的な話し合いは時間を無駄にするだけだもの。」

 

「また話し合いたい時は、いつでも連絡をお待ちしていますよ?……彼に憧れ、彼を妬んだ同士として。」




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは『忘れられた神々の王』である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12 「勝者による支配」論

なんだろう、ナギサ様に無表情で「僕はキメ顔でそう言った」って横ピースしながら言ってほしい。まあそれをやったらカルマはナギサ様にハーゲンダッツをあげなくちゃならないし、過去にモモカ(不死身)を殺してることになるし、ミカに「ナギちゃんどうしちゃったの!?」って聞かれること不可避なんですけどね!
まあとりあえずやっていきましょう!
9629……3!
アンケは12月7日までの予定なので、早めに投票してくれると嬉しいです!
感想と評価、お気に入り登録も、ドシドシよろしく!



「……ダニィ!?」
「ちょっと、カルマってばどうしたのさ!?」
「ホシノ、これ見てくれよ!」
「どれどれ……『Violet Archive』……お気に入り100人突破!?」
「まだかまだかと待ち続けた結果に、ようやく届いたんだよ!」
「うへー、本当だー……てっきり、エデン条約編まで欠片も届く気配が見えないと思ってたんだけどねぇ……。」
「ああ、次はエデン条約……そして、アプリもエデン条約で伸びた……ここまで来たら、もうね?」
「行くしかないね……エデン!」
「今夜は焼き肉っしょお!」


赤く染まった、主たる太陽神の大社

「神たる脅威の体現者」

神祖・無名郷神威(しんそ・ななさとかむい)

 

 

赤く染まった、哲学者を裁いた悪法の地

「絶対的権威による裁定者」

断公・無名郷刑部(だんこう・ななさとぎょうぶ)

 

 

 

赤く染まった、戦国の魔王の天主閣

「汚濁を祓いし侵略者」

武君・無名郷伐殺羅(ぶくん・ななさとばさら)

 

 

赤く染まった、支配者の残骸に打ち立てられた自由の純白

「才気を恣にした開拓者」

明皇・無名郷開(みょうこう・ななさとふーが)

 

 

赤く染まった、砂漠の何者よりも高い塔

「富を掌握せし絶対者」

金宋・無名郷幣蔵(きんそう・ななさとへいぞう)

 

 

赤く染まった、維持神を描いた王の墓

「万物を(くだ)す殺戮者」

滅帝・無名郷聖骸(めつてい・ななさとむくろ)

 

 

赤く染まった、乱世の奸雄の宮殿

「因果を無に帰す魔神」

覇王・無名郷業魔(はおう・ななさとかるま)

 

 

 


 

 

 

「なんで銅雀台なのかねぇ。いや、曹操は好きだけどさぁ……。」

 

わけの分からない夢から覚め、俺はそんな愚痴をこぼす。

 

[おはようございます、陛下……銅雀台とは?]

 

「キヴォトスの外の、中国って国に……今は跡地だけど曹操って人が建てた宮殿。まあ、宴会場としてしか使われなかったらしいが……。」

 

[なるほど。]

 

「まあ、もっと詳しく知りたきゃスマホも無制限プランだから好きに使ってくれ。俺は朝飯を準備するから。」

 

下着の上にストレッチパンツとパーカーといった姿のまま寝室を出て、台所に行く前に玄関の郵便物を取る。

 

「……キッショ。」

 

毎度の如くチラシに粘着質なストーカーからの手紙、アンチからの罵倒の言葉が書かれた紙をゴミ箱に放り、冷蔵庫のチルド室からからまぐろたたきを取り出して夜の内に炊いておいたご飯を茶碗に盛り付けてから多めに乗せる。

 

その上から刻みネギと醤油をかけて、俺は朝食の準備を終えた。

 

「いただきます。」

 

少し早食いなことを自覚しつつも食事を終えて、乾いていたマグカップに粉を入れてココアを作る。

 

[陛下、少し聞きたいことが……連絡先にある『ヘリアイア』というのは?]

 

「なんで真っ先に連絡先を確認してるんだお前は……それは裁判所だよ。こう見えて最高裁判所の裁判長だし、キヴォトス唯一の裁判官だよ、俺は。」

 

……仕方ないだろう、警察学校であるヴァルキューレ警察学校の人間以外に誰一人刑法を把握しきっているやつがいないのだ。

 

なんならヴァルキューレに聞き取り調査を行ったところ、

 

「刑法?そんなのいちいち意識しなくても暴れてるやつをしょっ引けばいいだけでは?」

 

と言い出す始末に頭を抱えた。

 

あそこの金髪ケモミミで『狂犬』と呼ばれる公安局長さんに意見書を送りつけた時はさぞいい気分だった……じゃなくて!

 

なんで!刑法を知ってるやつが!誰一人いないんだよ!?

 

お陰で弁護人も検察官も誰一人いないんだよ!

 

[はあ……しかし、流石にヘリアイアは自虐がすぎるのでは……?]

 

「裁判制度としてはザルもいいところだろ。これを許しちまうのはキヴォトスの悪法の象徴だよ……。」

 

でもやるしかないんですよね、俺しか裁判できないから。

 

ちょっと叫ぶ。

 

「ヴァアアアアアアア─────────ッ!!!」

 

「うるさいですよ、室長!」

 

「すみません!」

 

大家のフミに怒られた。

 

「まったく、いくら室長でも流石に大声は許せませんよ!ここ、アパートですからね!?」

 

「分かった、気をつけるから!」

 

「『出雲荘(いずもそう)』の評判落ちたら、室長のせいですよ!?」

 

「分かったよ、ごめんって!」

 

ドア越しに必死でなだめてなんとかフミを追い返す。

 

彼女を入れるとなかなか出ていかないしあとが面倒臭くなるので残念ながらこういう手段を取らせてもらった。

 

[……随分と、彼女と仲がよろしいのですね。]

 

「ああ、まあな。時々ブレーキがぶっ壊れるけど……自慢の後輩だよ。」

 

[後輩、ですか……。]

 

「どうかしたか?」

 

何か思うところがありそうなケイに問いかけてみると、少しの間を置いて彼女は答えを返す。

 

[いえ、陛下がそう仰るのなら、それでいいのでしょう。それと、質問なのですが……彼女の近くに、追後という姓を持った少女はいませんか?]

 

「……いるけど。」

 

[やはりですか……そういうこと、なのでしょうね。]

 

「……もしかして、『王』絡み?」

 

マジ?俺の周りそんなやつしかいないじゃん。

 

[極論を言ってしまえば、キヴォトスに存在する神秘を宿した存在は軒並み陛下の臣下であるのですが……彼女たちが特殊な役割を担っている、それだけは把握しています。]

 

「ふーん、まあ、それが分かったならまあいいか。」

 

後々詰めればいいし、彼女たちまで機械ということはないはずだ……ないよね?

 

[陛下、本日の予定は?]

 

「今日はちょっと、連邦生徒会に行かなきゃならないんだ。」

 

[……何をしに?]

 

「少しばかり、顔見せにな。」

 

嘘である。

 

最近やらかしたお小言をもらいに行くのだ。

 

俺が何したってんだ!

 

カイザー理事だったものを精神病棟に送って、砂漠地帯をカイザーから押収、廃墟地帯を更地にした……めちゃくちゃやらかしてたね、知ってた!

 

 

 


 

 

 

[……陛下。]

 

「ごめん。」

 

[バイクに乗るのなら、せめてスマホはズボンのポケットに入れてほしかったのですが。]

 

「……ごめん。」

 

めっちゃスマホを入れたジャケットが風で揺れた。

 

[乗り物酔いこそ私にはありませんが、流石に目が回りました……。]

 

「悪かったって……これから会議だから、しばらく会話には対応できなくなるけど……。」

 

[承知いたしました。しばらく私は、一人で音ゲーに勤しんでおきます。]

 

「……まさかガチャ回したのお前?」

 

[セガ カラフルパレット]

 

あ、逃げた。

 

「絶対回すなよ?」

 

[セカセカセカセカ]

 

「……音は切っとくか。」

 

スマホをマナーモードにしてポケットに突っ込み、連邦生徒会の根城である高層建築『サンクトゥムタワー』へ足を踏み入れる。

 

[陛下、何故ここまで所持しているカードに偏りがあるのでしょうか?]

 

「全部のガチャを回してるわけじゃねーからな。無課金だし。」

 

[……桃色の髪が好みだと。]

 

「2台持ちだからAP潰すぞ?」

 

 

 


 

 

 

「……つーわけで侵入者がいたらしい『廃墟』へ向かったら正体不明の球状の機械と遭遇、その場で応戦したが相手が自爆した。」

 

「自爆したのは先輩じゃないの?」

 

「違う。」

 

定例会議の最中に明太子味のポテチを食ってやがるピンク色の髪の馬鹿野郎もとい、公共交通機関や土木関係、地図関係を担当する交通室長由良木(ゆらき)モモカの茶々を適当に流しつつ、俺は虚偽申告を続ける。

 

「後で専門家に聞いたところ、球状の機械の名前は『ケセド』……太古のオーパーツと言って差し支えない存在だった。2年前に発見した蛇型の機械『ビナー』との関連性も見られる、よってあの一帯の調査は急ぐべきかと。」

 

「……既に更地なのにですか?」

 

モモカよりも薄いピンクの髪をした治安維持担当の防衛室長、不知火(しらぬい)カヤから真っ当な意見が出てきたことに驚きつつも、俺は澱みなく答えて見せる。

 

「確かに更地だが、建物が倒壊しただけで危険物が崩壊はしたとしても消滅したわけじゃないし、地下機構の殆どは生き残ってると思われる。調査をする目的はまだ生きている……そう判断したから報告した。それに、ケセドには自己修復機能もある。自爆も織り込み済みだった可能性が高い。」

 

不法侵入を隠蔽しつつ嘘を交えた報告を終え、俺は人差し指の第二関節でこめかみを押さえながら会議の全貌を見渡す。

 

連邦生徒会長の代行として現在のキヴォトスの行政権を担うリンを中心として、モモカにカヤ、そして連邦生徒会の巾着袋を握る青いショートヘアの扇喜(おき)アオイ、学園間の問題解決に動いているはずの金髪ロング調停室長、岩櫃(いわびつ)アユム、主だったメンバーはこんなところか。

 

「報告ありがとうございます。『廃墟』周りの対処に関しては、アビドス砂漠の件も含めて専門家を招集して対策を講じることにしましょう……他には何かありますか?」

 

「特には。」

 

「別にー?」

 

「ええ、何も問題はありませんとも。」

 

「は、はい。特に緊急の要件はなかったはずです……。」

 

口々に問題はないと述べるが正気か?

 

今のキヴォトスを見てれば、いくらでも問題点は……

 

いや、キヴォトスの外を知らなきゃそれを普通と思うだけか。

 

「そうですか……でしたら、会議はこれまでとしましょう。カルマ、あなたは残ってください。」

 

隣のモモカがコソコソとこちらを煽ってくる。

 

「先輩、居残りだってさ。この前言ってた、プラチナむかつくってやつじゃないの?」

 

「アレはプチムカつくの変形で大して怒ってるわけじゃないし、そもそも怒る道理はないからな……まあ、ようやくまともな話し合いができそうだが。」

 

「ふーん、これ食べる?」

 

明太子チップス……だが断る。

 

「生憎、何か企む時以外はうすしおしか食わないんだ。」

 

「そっかー、じゃあ何か企む時は?」

 

「コンソメ。」

 

「へー。」

 

聞けや。

 

 

 


 

 

 

「……それにしても、最近はやけに大人しいですね。」

 

「よその部署に口を出すなって散々言われてるおかげでな。いやー助かってるよ、キヴォトスのクソ行政に一切介入できないくせにヘイトばっかもらっちゃって。」

 

リンと二人きりになった会議室で初っ端から全力で皮肉をぶつけてみせる。

 

「引き継ぎ書類もなし、漢数字じゃないと内容の検分さえしないバカげた予算申請、誰一人自分の職掌内の問題を把握してない室長共……この状況でひたすらに飼い殺すためだけにうちの部署を動かすんだから、さぞ大層なご考えがあるんだろ?さっさと実行してほしいもんだがね。」

 

大体なんだよ漢数字じゃないとダメって、結局電子化やら記入の点から見ても算用数字にしない理由がないだろうにバカか?

 

「……私たちもできることはしています。まずは混乱状態に陥ってる内部の統率を……。」

 

「やるべきことを明確化した上で多少強引にでも頭が動かせばいい。この状況に至って尚後手後手の日和見主義だから連邦生徒会は舐められるし、治安は悪化の一途だし、各学園の独断専行を許しちまってんだろ。」

 

「……でしたら、あなたがやりますか?」

 

「別にいいけどさ、俺は。」

 

その場合……

 

「キヴォトスで大戦争が起きるのがほぼ確定だが。」

 

「いや、なんでそうなるんですか?」

 

「もうこうなったら全部焼き払って、スクラップ&ビルドの方が治安の改善は楽だ。」

 

はっきり言おう、キヴォトスの現状を見て俺は連邦生徒会を見限っている。

 

アビドスの借金、ミレニアム近郊の『廃墟』に滞在していた兵力の引き払い、無法地帯のゲヘナ、密告の手紙を大量に送りつけてくるトリニティ。

 

問題点を探せば腐るほどある、これを何ともできない、そんな動きを欠片も見せないトップを、所属してようがどうして肯定できる?

 

……できるわけがないだろう。

 

「『権力者による支配』でも、『強者による支配』でもない……『勝者による支配』こそ、このキヴォトスに最も適した支配体系だと思わないか?」

 

「……そのために戦争を起こして、あなたがキヴォトスを支配すると?……あなたが勝てるとは限らないでしょう。」

 

「じゃあ誰が勝てるんだって話だ……まあ、もうやる気もねーよ。どっかのバカが椅子だけ奪っていなくなったし、流石にキヴォトス全土の平定は1年未満じゃキツい。」

 

現状の判断を伝え終え、俺はその場を去る。

 

「それじゃ、俺はなんとかこっちに回してきた仕事と、増やした誰も触れない仕事を片付けてくるさ。」

 

 

 


 

 

 

「……霞刈。」

 

今回の相手は偽札を流通させていた連中の工場。

 

とはいえ、一撃で終わったが。

 

「……なあ、ケイ。」

 

[お呼びでしょうか、陛下?]

 

「ああ……ケイ、どうすれば俺は『王』になれる?」

 

こんな俺でも、曲りなりにキヴォトスを良くしたいと思っている。

 

そのために力を得られるのなら、得ておきたかった。

 

[……陛下はまだ『王』であるとはいえ、『王』であることを示せてはいません。冠も宮もない今、力を引き出すのは不可能です。しかし……それよりも先に、陛下の神秘を穢すそれを祓う必要があります。]

 

「……そっか。」

 

バイクに乗ってヘルメットを被り、スマホを取り出して画面を見る。

 

ちょうどケイが石を割ってボーナスアイテムを回復させたところだった。

 

「……何をやってる?」

 

[……イベランですよ、陛下。]

 

「やらなくていい。」

 

……もうヤダコイツ!

 

この従者パソコンに移していい!?ねえ!




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは「勝者による支配」の信奉者である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13 室長閣下はエンジニア部にお怒りのようです

タイトルはアレだけどあんま要素は使ってないかな……
それはそれとして、僕ね、生徒主人公のブルアカ創作が大好きなんじゃ。
だから先生視点を書いてないってのもあるが、まあそれはそれとして。
でも僕、主人公以外の視点を入れずに書くから割と分かりにくいことがあると思う。
これって直したほうがいいのかな……?
はい、駄文でした。これを読み切った人は下の駄文もよろしくぅ!



70連目でヒマリ引いたったぞオラァ!


白石(しらいし)ウタハ、豊見(とよみ)コトリ、猫塚(ねこづか)ヒビキ……。」

 

紫ロングの3年と例の説明狂い、黒髪でケモミミの1年二人を前に、俺は静かに湧き上がる怒りを必死に堪えていた。

 

「確かにこの前、内容をよく確認せずに刀を卸した俺にも悪いとこがあったとは認めよう。」

 

全員正座でしょぼくれているが知らん。

 

今日という今日こそは言わせてもらう。

 

「改めて確認しよう、嘘はなしだ……お前らは俺の刀を欲した時、なんて言った?」

 

「……カルマの刀について成分や切れ味などの詳しい調査を行いたい、そう言いました。」

 

「ああ、その時に俺がなんて言ったか覚えてるか?」

 

「あくまで調査だから改造はしない、絶対に折らない・傷つけない、終わったらちゃんと返す……この3つです。」

 

内容に間違いはない、それを踏まえて俺は本題に入った。

 

「じゃあ聞こう。お前らは俺から預かった刀をどうした?」

 

「……強度確認のためにプレス機にかけて刀を折って、それを直そうと溶接して、その痕跡を隠そうと改造を盛り盛りにした挙げ句返すのを先延ばしにしました……!」

 

「うんうん!ふざけんじゃねぇよ!」

 

近くにあった失敗作のコールドスリープ装置、『未来直行エクスプレス』を全力で蹴り飛ばす。

 

卵が割れる音がした。

 

「……なんで卵用のポケットまで作ってんだ!」

 

「急に話が逸れたね!?」

 

失敗して以降コレを冷蔵庫として使っているのは知っていたが流石にバカじゃねぇのと言いたくなる。

 

もういっそ縦向きに置けよ。

 

「んんっ、とにかく!何つーことしてくれてんだお前ら!俺が言った貸す条件一切守ってねぇじゃねぇか!」

 

「「「申し訳ありませんでした……!」」」

 

3人揃って土下座するところに軽蔑の視線を送りつつ、俺は被害の詳細をまとめる。

 

「お前らを信頼して、結構出来の良かった作品を持ってきたのにさ……。」

 

「……。」

 

やりたい放題された刀の銘は撃鈴(げきりん)、切れ味抜群だが折れやすいので刃筋のブレによる細かな振動を拾って鈴のような音が鳴るように調整した刀だ。

 

基本的に練習用の性能になってしまったが、斬った瞬間にりぃん……って音が鳴るのいい……よくない?

 

じゃなくて、これは結構な自信作だったのでお得意様のオークション会場に売り渡そうと思っていたのだが……

 

「お前らのせいで台無しだよぉ!」

 

「……。」

 

「大体、なんでプレス機で刀に対する耐久実験を行った!?刀に対する横からの圧力は厳禁ってずっと言ってんだろ!ああ!?」

 

横からの圧力に耐えられる刀はオリジナルだと今左手に装備している『穿突』以外に存在していないのだ。

 

じゃあそれを渡せって?

 

ナニイッテンダ!フジャケルナ!トイストーリーガ!

 

……失礼、メインウェポンに万一のことがあるかもしれない相手に渡せるわけがないと言いたかったのだ。

 

だってそうだろ?

 

「これはちょっと、鉄板さえ卸すの不安になるんだけど。」

 

「そんな……!そこをなんとか……!」

 

「いや、冷静に考えてみろ?契約における地雷を全抜きした相手と取引続けたいと思うか?」

 

「うっ……!」

 

事実を言われて言葉を返せなくなるなら最初からそんなことすんなよ。

 

そう思わずにはいられなかった。

 

「そういえば最初は鉄板とか、多少の整形はしたがただの部品の発注だったが……最近お前ら、何を頼んだ?」

 

「はんだ、です……。」

 

「おかしいよな?俺、鍛冶はやってるが流石にそういうのはやってないんだよね。なんで俺に頼むのかな?」

 

「カルマ先輩ならできるかと……。」

 

いや、そのりくつはおかしい。

 

「あのさ、それ理論的にはお前らエンジニア部がハードウェアだけじゃなくてソフトウェアも作れるって解釈されてるのと同じだからな?もしくはお前ら、ネジとボルトの違いも分からないの?とかそう言いたくなるレベルの思考だぞ?」

 

「うぐぅっ!」

 

めっちゃ効いてんじゃん。

 

「ちょっとコレはね……流石にセミナーにも苦情通した方がいいかもな……。」

 

流石に内容に俺が関わるとヘリアイア、もとい裁判所は使えない。

 

裁判官の立場に俺が立てないと上手く行かないどころか機能しないからだ。

 

だったらね……流石に生徒会に連絡するしかないじゃん、ね?

 

もうやめよっかな裁判長……法律で決まってるっちゅうんに判決に対して文句言うやつばっかやし……

 

「……あなたを詐欺罪と器物損壊罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたが契約違反を更なる契約違反で騙し、力作の刀を破壊したからです!覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!貴方たちは犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!」

 

もういい!コイツらだけは絶対裁く!

 

「裁判ですか!?アリスの出番ですね!」

 

「あ、ようアリス!元気にしてるか?」

 

「大丈夫だ、問題ない。です!」

 

「うん、流石にそれはやめとこうな?」

 

それはやられてコンティニューするまでの複合型のフラグなので次から気をつけるように指摘しつつ、俺はアリスに向き直る。

 

「そういや、『入学祝い』はどんな感じだ?」

 

「最高です!流石はアリスの剣の師匠にして、キヴォトス一の鍛冶師ですね!」

 

エンジニア部のバカどもはアリスを見習え。

 

彼女があまりにも熱烈に欲しがったので作ってあげた両刃の直剣『斬伐(ざんばつ)』を、アリスはすごく大事に使ってくれてるぞ。

 

アリスだけでも最低限の手入れができるように鍔を一度上下させるだけで完璧に刃を研ぐことができる構造を作ったのにわざわざ、

 

「カルマが研いでくれると、攻撃力や急所率にバフがかかる気がします!」

 

て言われて満面の笑みでメンテ頼まれてみ?

 

断れねぇだろうがよぉ!

 

「……って、その斬伐って刀、もしかして『神業物(かみわざもの)』ってことかい!?そんないいものを、どうして……!」

 

「うっさいウタハ、お前とアリスの信頼の差を考えろ。」

 

「いや、あんまりな発言だね!?」

 

「今回やったことも加味してな。」

 

俺の作った刀で市場に流通させてるものには大きく分けて3段階の等級がある。

 

コンセプト含めて成功した刀が『業物(わざもの)』(500は確定)、想像以上の性能で出来上がったものが『大業物(おおわざもの)』(上手く行けば億)、自分でもなんでこれが出来たのか分からないものが『神業物』(億超え確定)と区分している。

 

ちなみに俺が今装備してる『斬薙』と『穿突』は最初は売り物レベルになればつける銘すらないナマクラだったのを何回も打ち直しや折れた部分の継ぎ足しを行い続けて今の形になってる。

 

だからこそメインウェポンを変える気は今後一切ない!

 

……って、今はそんなことを話している場合ではなかった。

 

目の前のバカどもを断罪せねば。

 

「『大業物』貸して、これされちゃあね……信頼の欠片もなくなったよ。」

 

「すまない、本当にすまなかった!」

 

「好奇心で突っ走りすぎてしまいました!」

 

「申し訳ありませんでした!」

 

土下座ねぇ……それで許すとでも?

 

「アリス、何か食いたいもんある?」

 

「回らない寿司を食べてみたいです!」

 

「図太っ……せめて回る寿司で妥協してくれませんかね……?」

 

「無視……?」

 

そう、無視。

 

これが人間の心を最も抉る怒り、失望の表現方法だということはとっくに理解し尽くしている……!

 

彼女たちの表情は明らかに絶望したそれだ……!

 

勝った……

 

 

 

 

さあ、絶望しろ、挫折しろ、恥をかなぐり捨てて縋り付け……!

 

……俺、こんなに性格悪かったっけ?

 

「あ!カルマが新世界の神みたいな顔してます!」

 

「……お前、もしかして俺のダチ(ヒマリ)が勝手に作ったうちの合鍵でも貰ってる?」

 

「はい!」

 

「オーケー、アイツ後でマラソンの実刑判決だわ。」

 

「すみませんでした、だからどうか……!」

 

一向に彼女たちの方は見ない。

 

それが作戦の前提だから。

 

「うっ、ううっ……!」

 

うわぁ泣いた!早すぎるって!

 

「ああ、先輩たちが泣いてます。」

 

「……ほっとけ!」

 

「いや、ほっとかないでくださいよ!?」

 

ユウカにシメられなきゃいけなくなったじゃん!

 

あなたたちのせいだよー!

 

 

 


 

 

 

「アリスちゃんになんてもの見せてるんですか!」

 

俺の説明を聞いたユウカの第一声はそれだった。

 

もっと他に言うことあるだろうがよ、コイツマジで……

 

「そもそもカルマ先輩も、いくら刀を折られたからって……。」

 

「……『大業物』。」

 

「大惨事じゃないですか!?」

 

頭を抱えるユウカ。

 

まあ仕方あるまい、普通に数千万行く刀だからな……まともに刀を作れるのがキヴォトスで俺しかいないので、刀剣市場は完全に俺の独占状態である。

 

独占禁止法を発令されなきゃいいのだが……あ、そんな法キヴォトスにねーや。

 

……よく考えたらキヴォトスの法体系終わってね?

 

今に始まったことじゃねーけどさ。

 

「とにかく、これのせいで一回納品を見送らなきゃならなくなってさ……物好きなコレクターたちからの鬼電が今から怖くてしょうがねぇよ。ただでさえ刀一本で数千万の金が動くイカれたビジネス、乱れが発生したらもう、ね……?」

 

「前回もそんなこと、ありましたもんね……トリニティ生のカチコミ、カイザーの干渉、ミレニアム自治区の治安悪化、オークション会場の襲撃増加……うう、頭が……。」

 

あらら、ユウカのトラウマを刺激してしまったか。

 

まあ、あの時期は本当に酷かった……。

 

小説とアニメをもとに作った刀『微刀・釵(びとう・かんざし)』がエンジニア部に漏れて、奪われた結果オークション会場への納品が遅れ……

 

あれ、これもっと前に取引切ってもよかったんじゃ……?

 

「先輩が取引を切ったらエンジニア部の見境がなくなって他の部活にも被害が及ぶので絶対にやめてくださいね?」

 

「えぇ……でもなあ、マジでやりかねないよなぁ……。」

 

一応、加工した金属を卸しているのはエンジニア部だけではない。

 

エンジニア部だけ取引を切ったら、まあキヴォトスだし他の部活へ押し入るだろうなぁ……

 

「もういっそ、一切の取引やめて刀の取引だけにするかな……?」

 

「ミレニアムを更地にするつもりですか?」

 

まあエンジニア部だけやって他の部活がやらないかってなると……

 

ああ、絶対ありえないねそんなこと!

 

結局ミレニアム全土で暴動、ミレニアムは滅ぶ。

 

アカン、俺が取引で今の状態から少し動くだけでミレニアムが詰む。

 

友人が俺を殺そうとしてたのはこのせいやったんやね……(絶対違う)

 

「ねえ、エンジニア部はどうすればいいのかね?絶対今のまま許したくはねぇんだが。」

 

「それは、はい……エンジニア部の予算と製品の売上から補填になるかと……カルマ先輩、今までの『大業物』の売り値って記録してますか?」

 

「商売だからな、当然控えてる。電子化もしてるから、家に帰ってからお前のスマホに送ればいいか?」

 

「ええ、それさえ教えてくれれば後はこっちで対策を考えるので。」

 

今までやってなかった連絡先を交換して、俺は思ったことを口にする。

 

「……なんで俺より先に先生と連絡先交換しとるん?」

 

「私もシャーレの部員ですし……何か問題でも?」

 

「問題はないんだけどさ……今まで、連絡先も知らない後輩と仲良くやってたのかーって思ってさ。」

 

自分で言うのもアレだが、俺は有名人だ。

 

でも目立ち方が例によってアレなので、ダチと友人以外にプライベートな付き合いというものは全く無かったのである。

 

そんな中で俺に構ってくるユウカ……。

 

「惚れてまうやん、こんなん。」

 

「な、なぁっ!?」

 

「ハハ、まあ冗談だけどさ。」

 

「紛らわしいこと言わないでください!まったく……!」

 

顔を真っ赤にしたユウカ、美少女も相まって可愛いね。

 

エンジニア部とやってたギスギスからすっごい癒やされる。

 

こんなん虜になるわ、一家に一台ユウカセラピー、これ売れるぞオイ!

 

鉄鋼業じゃないけど手を出すか、ASMR!

 

上手い具合に写真を撮ってサムネにすればいけるでコレ!

 

「……何かよくないこと考えてませんか?」

 

「いいや?ユウカがアイドルとか声優やったら売れそうだなって思って。タイトルは……せや!映像付きのASMRみたいな感じで『先生、ちょっとお時間いただけますか?』ってタイトルがいいんじゃないか!?」

 

「……どうして!先輩が!私の!先生に対して!二人きりの時に!言った台詞を!知ってるんですか!?」

 

早瀬ユウカ暴走形態、発動。

 

「おっとぉ……?これはマズいな。『カルマギア03:インラインインザシューズ』!」

 

今度隠しコマンドでも仕込もうか。デカグラマトンを潰せるくらいのやつ。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマはキヴォトス唯一の刀鍛冶である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キヴォトス生徒名鑑:七郷カルマ(第1版)

アンケート的にもう、キャラとの個別イベントに舵切って良さそうやね……
せや、カルマが実装したらどうなるか試しにやってみよ!
まあ、素人のステ振りだからね、イカれてて当然、ガバ上等よ!
アコヒマを揃えた俺に資格はない!イクゾー!



「でもお前、あんなにほしいっつってるアル引いてないじゃん」

 △ △
(OMO)ウワァァァァァァ!


 

【挿絵表示】

 

 

 

やりたいことをやるのは変わらない。

ついていく人も選ぶだけだ。

 

 

 


 

 

 

・プロフィール

 

名前 カルマ

フルネーム 七郷ななさとカルマ

性別 男(!?)

レアリティ ☆3

役割 STRIKER

ポジション FRONT

クラス アタッカー

武器種 S(ソード)

遮蔽物 壊す

攻撃タイプ 振動

防御タイプ 重装甲

学園 連邦生徒会3年生

所属 連邦生徒会第1機動室

年齢 17歳

誕生日 4月1日

身長 172㎝

趣味 気分次第

デザイン VOFAN(願望)

イラスト VOFAN(願望)

CV 神谷浩史(願望)

 

 

・ステータス(MAX値)

 

HP:100000

攻撃力:13000

防御力:2400

治癒力:500

命中値:1300

回避値:150

会心値:1050

会心ダメージ率:300%

安定値:180

射程距離:300

CC強化力:0

CC抵抗力:200

市街地戦闘力:C

屋外戦闘力:C

屋内戦闘力:S

 

装備

レベル1:帽子

レベル15:グローブ

レベル35:腕時計

 

 

・スキル(MAX値)

 

EXスキル

斬々舞(きりきりまい)

コスト4、円形範囲内のユニットに攻撃力の900%分のダメージ

 

ノーマルスキル

鉄中移動術(+)

移動中、回避値が100%(150%)上昇

 

パッシブスキル

我流・業剣闘法(+)

攻撃力を27.0%増加(&攻撃力を1000増加)

 

サブスキル

極集中状態(ゾーン・オブ・アビス)

ユニット破壊時に攻撃力を20%増加

 

 

・基本情報

 

連邦生徒会所属、第1機動室室長にして、紛うことなきキヴォトス最強。

 

気分屋で有名であり、噂が独り歩きしているせいかほとんどの人が寄り付かないキヴォトス唯一の男子生徒。

自信を狂人であると自覚しつつもやりたいことが最優先のスタイルで我が道を行く姿にファンになるものもいる。

 

 

・固有武器

 

斬薙(きりなぎ)』&『穿突(うがつき)

 

詳細

カルマの相棒たる斬撃と刺突それぞれに特化した二本の刀。

初めて打ったナマクラを努力の末『神業物』に昇華したそうだ。

 

☆3

屋内の地形別戦闘力をSSに強化

 

・愛用品

 

『2つのチェーン』

 

詳細

カルマがシャツの内側に隠した首に巻く2つのチェーン。

カルマ曰く、「ダチと友人からそれぞれ貰った」とのこと。

渡された本人たちからは「2つを同時に巻くのはどうなのか」と言われているらしいが、カルマはどっちも外さないつもりらしい。

 

T1

攻撃力 200

 

 

・贈り物

高級贈り物

効果特大

音楽演奏会入場券

 

通常贈り物

効果大

映画の前売りペアチケット

 

効果中

ゲームガールカラー復刻版

古典の詩集

エーポッドプロ

 

 

・ボイス

 

入手:シャーレ部長、七郷カルマ……まあ、互いにやりやすいようにやっていきましょうや。

 

ログイン1:おいっすー、七郷カルマでーす

ログイン2:おはよう、こんにちは、こんばんは……こういう挨拶、時間帯で分けるのって面倒じゃないですか?

 

雑談1:今日も今日とて、キヴォトスは相変わらずですねぇ……

雑談2:俺はやりたいことは絶対やりますけど、やりたくないことをやらないわけじゃないんですよ?それが分からないやつばっかで、本当に……

雑談3:残業って嫌になりません?定時の意味がない……え、定時って何って?えぇ……?

 

編成1:生憎、人に合わせるのは苦手なんだよな……

編成2:ま、最強らしくやってきますか。

 

編成つかみ:いやー、俺を選ぶとはお目が高い!

 

マップ配置1:ソシャゲのイベント中なんだ、さっさと帰らせてもらうぜ?

マップ配置2:勝つつもりかって?違う違う……負けるわけがねーんだよ。

 

戦闘開始1:まあ……せいぜい楽しませてくれよ?

戦闘開始2:いざ、参る……なんてね。

 

移動:次はだーれだ?

 

エリア移動1:まだいるわけ?数だけは多い……

エリア移動2:はい次ー、テキパキやってくよー

 

遮蔽物:邪魔だなこれ……

 

回避:……マジ?これで当たると思ってたん?

 

被回復:ま、貰えるもんはありがたく頂きますよ、っと

 

被バフ:こりゃどうも。後で何かお返しする。

 

被自己バフ:ちょいと、ギアを上げるかね!

 

被CC1:少しは考えたな……

被CC2:んんっ、これはやるねぇ

被CC3:……うっざ

 

撤退:だっる……やってられるかこんなの……

 

EXカットイン1:踊ってもらおうか……『斬々舞』

EXカットイン2:刀の錆に?切れ味落ちるからやだね

EXカットイン3:はーい、オールクリア

 

EXスキル1:『斬々舞』!

EXスキル2:失せろ……!

EXスキル3:最強舐めんなクソカスが!

 

戦闘勝利1:俺の勝ちー、なんで負けたか明日までに考えといてください

戦闘勝利2:やっぱ勝つよね、知ってた

 

任務完了1:これで、心置きなく帰れる……

任務完了2:まあ、最強がいますし?

 

任務失敗1:モーマンタイ、次は勝つ

任務失敗2:敵も考えたねぇ……しっかりとやられたよ

 

強化1:ハハハ、いいねぇこの感じ!

強化2:なるほど、この発想はなかったな……

強化3:これ以上強くなって大丈夫?他の奴らが絶望しない?

強化4:最強がいつから成長限界だと錯覚していた?

 

固有武器装備:弘法筆を選ばず……とはいえ、やっぱいいものの方がパフォーマンスは良くなりますわな

 

カフェ1:ここでの仕事も悪くなさそう……荒事以外に残ってねぇ……

カフェ2:……すっげー落ち着く

カフェ3:ここに何かの店を誘致できないかねぇ……?

カフェ4:……ココアって持ってきていいんかな?

カフェ5:色々と面倒なの引っ掛けちまったから、逃げてきたのはいいものの……うわー、やだよ帰るの……

 

絆ランクアップ1:この前面白そうなもん見つけたんですよ。今度見に行きません?

絆ランクアップ2:「萌え」じゃなくて、「蕩れ」……最近はそうやって表現するのがブームみたいですよ?まあ嘘ですが

絆ランクアップ3:「月が綺麗」って文句を拒む時はなんて言えばいいんですかね……あくまでただの疑問ですよ?

絆ランクアップ4:暇ですねぇ……先生、なんか面白いことでもしません?

 

ハロウィン:流石に今年はあげる側かなぁ……まあ、もらえるもんはもらうんですがね?

クリスマス:いやあ、昨日はいいもんを見ましたよ……金こそ賭けてないけど、3連単がドンピシャ!くう〜っ、たまらんねこりゃ!

新年:明けましておめでとうございます……ん?確かに寝てませんよ、当然じゃないですか

誕生日:あんまり、自覚はないよなぁ……毎日が忙しすぎて、ね

先生誕生日:激務に浸るのは勝手ですが、自分の祝い事ぐらいは覚えておきましょうね……いや、実感なんて籠もってないですよ?部下にシメられてなんかいませんから

 

 

 


 

 

 

・今まで(パヴォーヌ1章まで)のカルマの道のり

 

 

連邦生徒会役員としてシャーレの先生とともにシャーレオフィスの奪還に協力。その際に狐坂ワカモと戦闘、敗れている。

 

 

シャーレ部長に就任。

 

 

先生とともにアビドスへ。到着直後にカタカタヘルメット団と戦闘、勝利。

 

 

アビドス近郊で『ゲマトリア』の黒服と接触。

 

 

ラーメン柴石で食事後、黒見セリカと共にカタカタヘルメット団に拉致される。

 

 

第1機動室、アビドス生と先生の協力を得て脱出、トラック1台を爆破し戦線離脱。

 

 

アビドスで便利屋68と交戦、相手二人に重傷を負わせたのち、アビドスから逃走。

 

 

ブラックマーケットにて『クイッキー』と名乗り、アビドス生の銀行強盗に加担。その後闇銀行から数々の違法な取引の証拠を入手する。

 

 

風紀委員の謀略を看破してアビドスへ進軍してきた風紀委員と接触。約1名を除き穏便な対処を取った。

 

 

アビドス性と砂漠地帯を進行中、アビドス校舎へのカイザーの襲撃を察知し単独で帰還。道中で無数のカイザーPMC兵士、ゴリアテ1台とパワーローダー2体を撃退。

 

 

アビドス生の小鳥遊ホシノと衝突。

 

 

部下や便利屋68の陸八魔アルと共闘し、侵略行為を行ったカイザーPMCを撃退。

 

 

先生に同行し『黒服』と接触。

 

 

ゲヘナへの協力要請、第1機動室へのカイザーPMCへの抜き打ち検査を指示。

 

 

砂漠地帯のカイザー基地を訪問、攻撃を受けたため応戦。敵被害多数。

 

 

アビドス生徒の軍事演習、ひたすらに逃げ回った挙げ句盾でボコボコに殴られる。

 

 

ミレニアムへ登校、捕縛される。

 

 

放課後にゲーム開発部と接触、『廃墟』へと向かう。無数の機械兵を撃破。

 

 

『AL-1S』を確保。

 

 

ミレニアムに帰還後、『AL-1S』改め天童アリスとオーパーツ級のクソゲー王道(?)RPG『テイルズ・サガ・クロニクル』をプレイ。

 

 

演劇部の活動に参加、活動中のアクシデントで腰痛になる。

 

 

ゲーム開発部の『鏡』奪還に先んじて寸田モンナと共に全方面を欺き、『鏡』を回収。脱出途中で美甘ネルと戦闘の末、勝利。

 

 

『テイルズ・サガ・クロニクル2』の実況配信を行い、当ゲームの知名度上昇に一役買う。

 

 

『ミレニアムプライス』の性能確認のために美甘ネルと戦闘、『斬扇・日裂&月裂』を使用し、勝利した。

 

 

『Divi:Sion』内部の『Key』と接触、『ケイ』と命名し行動を共にする。

 

 

『廃墟』にて黒服と接触。

 

 

『ケセド』と交戦、新技の暴発により『廃墟』ごと破壊した。

 

 

エンジニア部との衝突が発生、早瀬ユウカによって仲裁された。

 

 

 


 

 

 

「……ナニコレ?」




つーわけでカルマがブルアカに実装されたらこうかな?ってのと今までのカルマのやってきたことを簡単にまとめました!
次から個別ルートを書き始めます、今回はね、関わりを持ったというか、現時点でフラグが発生している(と思われる)面子を発生した(と思われる)タイミング順に書いていきます。
誰がフラグ発生してるか?それは……開けてみないことには、ね?
まあ、そんな感じでどうぞよろしくお願いします。



あ、今日は注意事項ないです。
本編じゃないので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

個別ルート 第1弾
「会って次には告ってくるとかガハラさんかな?」「あなた、そのヶ原というのはどちらさまで?」「あー、お前みたいな声の人」


デカグラマトンイベ、アコヒマを揃えてビナーに挑んだらアコとヒマを乗っけた上で御坂美琴レールガンを決めようとしたらもう既に50あったはずのゲージが5になってた。
おかしない?先生レベル77やとこんなもんなん?
まあともかく個別ルートだよー、まずはワカモから。
ワカモね、初めてガチャキャラで狙って引いたキャラだったからなー、感慨深いよね?
……水着だけど何か問題でも?
強いしいいやんけ!
え、何も言ってない?
……失礼しやしたー!


[約束を果たしてもらいましょうか?]

 

そんなメールが今日の朝、俺のスマホに届いていた。

 

「……うっわ。」

 

99+件。

 

重い重い重い重い、重すぎる。

 

「……ワカモさんさぁ、何してくれてんのさマジで」

 

取り敢えずワカモさんから来たメール以外を確認しながら郵便受けを見る。

 

なんかハーグってとこへの案内状が届いてたがどうせロクなものではないだろうと捨てて、ワカモのメールを開封していく。

 

「……うん。」

 

既読はついたな、ヨシ!

 

「あら、お返事はくださらないのですか?」

 

……だよねぇ!道理で風通しがいいなと思ったのよ!

 

お前窓割ったべ!?ふざけんじゃねぇよ!

 

俺はあんたを絶対に許さねぇ!

 

「……割ってはないよな?」

 

「ええ、まさかコンパスがこんな時に役に立つとは……『ヒロインなら文房具装備は基本』、正しくその通りですね。」

 

「うん、まず色んなところに謝ろうな?」

 

そもそも言ってない、内容が間違ってる、ガラスに穴を開けて不法侵入……

 

スリーアウト!チェンジ!ゲームセット!

 

「お前よくこれで約束どうのこうの口にできたな!?」

 

「それはそれ、これはこれ……あなたもよく使う定形では?」

 

「そうだけど!」

 

それを犯罪の言い訳は流石に通らないぞ!

 

俺裁判長だよ?裁くよ?

 

「トンチキステータスのあなたが私に勝てるとでも?」

 

「トンチキ言うな!そもそもステに関して今触れるな!」

 

自分でも驚いてるよあの数値!

 

ゲームバランスも何もあったもんじゃねぇし完全に単騎想定なのヤバすぎんだろ!

 

「それで?やりたいこと最優先でもやりたくないことをやらないわけじゃないあなたは、勿論私との約束を守ってくださいますよね?」

 

「お前さぁ、そりゃ約束は守るけどさぁ!」

 

偉大なる小説家の師匠は約束絶対守るマンだった、俺も習わなければ。

 

嫌だけど、そのせいでコイツとの約束遵守しなきゃならねーのすげぇ癪だけど。

 

「……で、どこに行くんだよ?」

 

「それは出てから決めましょう。何せ、1日は長いのですから。」

 

「……まず朝飯は食いに行かせてくれ。」

 

とりあえず最初に出したリクエストはそれだけだった。

 

 

 


 

 

 

胃が痛い……ココアが止まらない。

 

自販機で買ったココアとチョココロネを手に、俺は指名手配犯であるワカモの隣を変装した上で歩いていた。

 

「あなたは本当に、チョコレートがお好きですね……。」

 

「美味いからな、好きになるのも当然だろ……お前も食うか?」

 

ポケットからチョコチップメロンパン(圧縮済み)を取り出してワカモの方に突き出すと、距離を取られた。

 

解せぬ。

 

「……圧縮する必要、ありましたか?」

 

「そのままだとポケットに入らないんだから、当然あるだろ……。」

 

チョココロネを完食してココアで流し、メロンパンの袋を開ける。

 

最近見たアニメのせいで、食べる時は絶対にメロンパンを潰しているのは内緒だ。

 

キッショ。

 

「しっかし、お前も変装ぐらいしろよ……何だよその和服姿?」

 

「乙女の慎ましい努力が分からなくては、嫌われてしまいますよ?」

 

「大多数には嫌われてるから今更だろ。今更それを指摘されても動じねーよ。」

 

モテるしね、被害が出てるけど。

 

「で、どこ行くんだ?割と切実に建物に入りたいんだけど。」

 

「まずは、服屋にでも行きましょうか……女装をするなら、もう少しおしゃれに気を使わないとボロが出ますわよ?」

 

「やりたくてやってるわけじゃねぇんだわ。」

 

言っておこう。

 

キヴォトスの生徒、マジで俺以外男子生徒が存在しない。

 

だから生徒に変装するとなれば必然的に女装せにゃならんのだ。

 

「ええ、私のようなお尋ね者と連保生徒会の重役がお忍びで密会、なんて噂が立てばスキャンダルどころの騒ぎではありませんものね?」

 

「自覚して俺をなんとかしようとしてるんならとりあえず自首してくれ。処遇はなるべく上手いことやるから。」

 

「あら、あらあらあら……そこまでお気遣いしてくださるとは……。」

 

「お前の要求飲まねぇと面倒だからだよ、ったく……。」

 

コイツの機嫌を損ねると、すぐ脱獄して暴れ出すので骨が折れる。

 

流石に、最初の時ほどあっさりとは行かなくなったし……

 

(パチンッ)話をしよう。

 

アレは今から1年半……いや、2年前だったか……まあいい。

 

とにかく、私にとっては昔の出来事だが……君たちにとっても多分、過去の出来事だ。

 

 

 


 

 

 

「はじめまして、かねぇ……狐坂ワカモ。」

 

1年生の頃に彼女が起こした暴動の鎮圧に、既に第1機動室の室長に島流しされていた俺は単独で乗り込んでいた。

 

「あら、鬼の面……私以外にもいたのですね、こんな酔狂をやる人が。」

 

狐面をつけた彼女が表情が見えないながらにはっきりと笑っているのが分かる。

 

「心配しなくとも、すぐ一人になるさ……流石に獄中で仮面は許されねぇだろうしな。」

 

「……勝てるとでも?」

 

強気な発言に俺は刀で彼女を指し、声を張り上げて答える。

 

「ハッハッハ!勝てる勝てないじゃねぇ……勝つってんだ!」

 

「威勢のいい人は好きですよ……無謀な方は嫌いですが。」

 

まだ技量的に未熟だった俺は彼女の放った弾丸を避けきることが出来ず、当時は今と別のものを被っていた仮面が弾け飛んだ。

 

まあ問題ない、体に当たったわけではないし、そもそも相手を逃がさずこちらは倒れず、相手を捕らえれば勝ち……

 

そのように思考を回している最中に、彼女の手から銃が落ちる音を聞いた。

 

「……は?」

 

「あら、私としたことが……。」

 

銃を拾い上げるワカモに、俺は思わず刃先が下がってしまった。

 

「……どういうつもりだ?」

 

「いえ、その……魅力的だと、思ってしまいまして……。」

 

えぇ……?

 

試しに少し歩み寄ってみるが……

 

ウソでしょ……?

 

両手広げたんやけど……

 

……フッ。

 

駄目だ…まだ笑うな……35秒(あと一手)……35秒で勝ちを宣言しよう。

 

あまりにも無防備な彼女の胴に腕を回し、ひしと抱きしめる。

 

「!?!?!?」

 

「狐坂ワカモ……。」

 

耳元に顔を近づけて、下卑た笑いが見えないようにしながら宣言する。

 

「僕の勝ちだ。」

 

仕込んだスタンガンで落とした。

 

……いや、堕ちてはいたのか?

 

 

 


 

 

 

「……映画、ね。」

 

暗い屋内でパンツルックの足を組まないように必死で堪えながらスクリーンに意識を向ける。

 

完全にセレクトは彼女に任せたから、どんな映画なのかは分からないが……

 

いくらなんでも流石に、最近見た『ミミズ人間2』よりはマシだろう。

 

(……にしても、こういう映画の予告だけでもめちゃくちゃ面白いんだよな……。)

 

映画の予告が某カメラの前に流れるやつ、予告だけだが普通に面白そうと思うことがよくある。

 

もういっそこういうのだけまとめて上映してくれないかな……

 

(……コース料理の店でバイキングしてる図だこれ。)

 

自分の身勝手さに呆れつつ、肘掛けに乗っけてからガチガチに拘束された左手と肩に乗せられた彼女の頭に思考を移す。

 

近くね?

 

私達からは……以上です。

 

嘘です。

 

コイツ近いって……なまじスタイルいいから恋愛どうのこうの以前に、ね……?

 

バレてはならない

 

バレてはならない

 

バレてはならない

 

わざわざ自分の性癖の隠蔽のために貸金庫を使っているなんてバレたら終わる。

 

こんな風に愛くるしい振る舞いをしていても、彼女の本質がキヴォトス有数のテロリストであることを忘れてはならない。

 

そもそも、こうして大人しくしてくれる確証がなければ俺は彼女に失敗のリスクがあっても開発中の『滅風』を打つぐらいには警戒しているのだ。

 

……やっぱ今のナシ、あの技多分、霞刈や霧穿と違って成功しても威力が洒落にならない。

 

デカグラマトンの中でも防御力が売りのケセドであれだ、いくら(俺を除いた)キヴォトス最強格の生徒である彼女でも、最悪……いや、運が良くなければ死ぬ。

 

具体的にどうなるかと言えば……ミンチよりひでぇや。

 

いけない、ついグロ画像が頭の中に思い浮かんでしまった。

 

いつの間にかパルクーラーに転職していたパントマイマーを見ながら、俺は彼女のケモミミをモミモミする。

 

「!?」

 

シーッ。

 

一騎打ちに負けた腹いせをしながら、上がった銀幕に目を向ける。

 

(……恋愛映画、ね)

 

まあ当然か、俺を堕とそうとしてるんだし。

 

「……なあワカモ、この映画のレーティングって?」

 

「……?」

 

「あ、やっぱいい……タイトルは教えてくれるか?」

 

「『禁断の愛 〜許されないからこそ美しく〜』の映画化ですが……。」

 

フリーな右手で頭を抱え、なんで彼女にセレクトを任せてしまったのかと本気で後悔する。

 

あの、R15+以上確定なんですがそれは……

 

「お前さ、加減しよ……?」

 

「?さて、何のことでしょうか……それより、ポップコーンが冷めてしまいますよ?」

 

「ポップコーンは冷めねぇよ。」

 

そうは言いながらもポップコーンは食う。

 

美味い。

 

とはいえ、人気小説(世も末だな)だから内容は知っているのだが……

 

いきなり回想シーンから入って情事とか正気か?色々と技巧を凝らしてR15+でも大丈夫(?)なようにしてるが、だったら最初からやるなって……

 

コレには後ろにいた知り合いも驚愕で俺の席を蹴ってしまった。

 

「あ、すみません……。」

 

「いえ、お構いなく。」

 

日頃のモンスターのような振る舞いの欠片もない謝罪に相変わらず慣れないなと思いつつも俺は映画に意識を戻す。

 

[生徒と教師の壁なんてどうでもいい]

 

(トチ狂ってんなあ……。)

 

これが学園都市で表立って流通してるとか何なのさマジで。

 

しかも書き手の腕がいいから読み物としても面白いしさぁ……

 

え、これ見てワカモが息荒くしてるしより密着してくるんですが……

 

おいキヴォトスの映倫、お前らなんでR18+をR17+に改変してるんだ。

 

確かに初体験の統計は17歳が最多だけどさあ!(by日本財団)

 

「ハァ……ハァ……!」

 

左腕の拘束を振り解き、両のこめかみを中指の関節で圧迫する。

 

その後の映画を彼女は満喫できなかっただろう、寝てもらったから。

 

 

 


 

 

 

「……映画を見られなかったことへ何か追及をした方がいいのでしょうか。」

 

「自業自得だから諦めろ。」

 

フードコートにて積み上げたドーナッツ(今回ではないが映画見てやってみたくなった)を将棋崩しのようにかわりばんこに取りながら昼飯とする。

 

「……それにしても、よく飴を舐めながら食べられますね?」

 

「まあ、変装を必要だと判断した時には鍛え始めてたからな。パーティーグッズとして売ってるから入手は割と簡単だし、買いだめれば練習もしっかりできるって寸法よ。」

 

「相変わらず抜かりのない……それでこそ七郷、いえ、阿良々木(あららぎ)コヨミといったところでしょうか。」

 

変装の際に一番よく用いる、最古の偽名をワカモは呼ぶ。

 

……まあ元ネタは男なのだが元ネタも元ネタで女装してたからヨシ!

 

ちなみに今回この変装を選んだ理由は偽装した身分の中で明確にワカモとの繋がりがあると知られているのがこの変装だけだからだ。

 

公の場に出る以上、その手の配慮はしなければ。

 

「気苦労の多いことですね。いっそのこと、今の仕事をやめてはいかがですか?」

 

「やりがいを感じてるから結構。残業は絶対にしないしな。」

 

ブラック労働はクソ、はっきり分かるんだね〜。

 

……なんで学生の身空でこんな真理に気づかねばならないのか。

 

俺は……がっかりした……

 

「……どうしてもって時は死んだことにして逃げるから、よろしく頼む。」

 

「そこまで悲壮な覚悟を決めるほどのことなのですか……?」

 

「まあ、お前が連邦生徒会からしたら危険分子もいいとこだけど俺からしたら裏の連中の中で一番安全かつ安心できるくらいには。」

 

「……いや、私はマシというだけで裏扱いなのですね?」

 

何か違うだろうか?

 

いや、何も違わない(反語)。

 

「むう……むぐぅっ!?」

 

「ほら食え、映画のお礼に僕持ちだ。」

 

変装のためなら一人称だって変える、それが俺の流儀(プロフェッショナル)

 

「少しばかり面白い提案があるんだが、どうだ?」

 

「……まずはその、試みとやらを聞いてみないことにはなんとも言えませんね。」

 

「いつもの一撃当てた方が言うことを聞く、あれなんだけど……次は『スペシャルタイム』にしないか?」

 

「……あら、それはいよいよ覚悟ができたということでしょうか?」

 

スペシャルタイム、それはいつもの約束事よりも踏み込んだ内容を勝った際に相手に命じる事ができる不定期のイベントで、オレと彼女の合意の元に発生する。

 

最も、施工から今までこれが実際に適用されたことはないのだが。

 

「まあ、関係は持ち続けたいけど煮え切らない状況を続けたいわけではないからな。デートもした、ケリを付けるにはいい頃合いだろ。」

 

「ええ、私も異論はありません……あなたを虜にするために、できる限りの準備をしてから挑ませていただきます。」

 

形容しがたい関係に、名前がつくのはいつなのか。

 

答えを知るのは、彼女一人だけだ。




「Violet Archive」の注意事項
・次の戦闘で、七郷カルマと狐坂ワカモの関係性が確定する。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「室長、カレーうどんです!」「うん、朝にしちゃ重くね?」「その、カルマお兄ちゃんに食べてほしくて、ダメかな?」「おかわり!」「やったー!」

カルマのヒミツ①
・実は、フミやセカイの兄貴分として高校生になる前からかわいがっていた。



刺身最高!刺身最高!
あなたも刺身最高と叫びなさい!

ということで某埼玉県映画を見てきました。
いやー開幕からぶっ飛んでておもろかったわ。
でもやっぱね……阿久津の残骸で……
笑っちゃうよね(たはー)。
そして麻実麗……君、本当にアメリカに渡ってたの?
アメリカ村じゃなくて?

そういえば、この作品に関して宣言しておきます。


この作品は!
絶対に!
生徒は死なせません!


「……で、お前なんで俺の部屋に勝手に入ってきてるの?」

 

「合鍵はありますよね?」

 

「うん、お前が大家だからな。」

 

4人用のテーブルの真向かいに座るフミに、俺は思わずツッコんでしまった。

 

「この前窓を壊されたって言ってたので、室長が寝ている間にちゃちゃっと直しちゃおうかなーって。」

 

「……このホーム画面は?」

 

「アッソレハ」

 

メッセージが入ってきて浮かび上がったホーム画面には俺の寝顔が映っていた。

 

メッセージを見てみると送り主はセカイで、

 

[フミちゃん、抜け駆けは禁止って言ったはずだけど?]

 

……怖っ。

 

「……なあフミ。」

 

「……何でしょうか?」

 

「すっぴんを撮るな。」

 

「普段メイクしてませんよね!?」

 

うん、でもそうじゃねぇだろ。

 

「……すみませんでした。」

 

「よろしい。次からは気をつけるように。」

 

鶏肉と人参、そしてネギの入ったカレーうどんを

 

啜る〜!

 

……Vanitas vanitatum et omnia vanitas.(虚無の虚無、全ては虚無なり。)

 

うちの親も言っていた……気がする。

 

「それにしても、ここまで世話を焼くなんてお前も物好きだよな。」

 

「……はい?」

 

「まあ、好かれてる人間がいないとは言わないけど嫌われてる人間の方が圧倒的に多い俺にここまで構うとかさ?」

 

「嫌ってる人間って誰ですか?教えてください、すぐに処理しますから。」

 

あ、そうだ……コイツかなり強火のファンガールだったわ。

 

「そして、今すぐ逃げましょう。大丈夫です、私もいますから……。」

 

「ストップストップ!一回落ち着こうか!」

 

近づいてきていた口に鶏肉を突っ込んで黙らせ、俺は何度目かもわからない思考に入る。

 

(まったく、みんな可愛いんだからこんな男にうつつを抜かさなきゃいいのにさ……。)

 

性格にアクの強いものこそあれど、彼女たちは美女であることは間違いない。

 

男からしたら相当な優良物件だろうに、俺が取っちゃって……美男は罪ってことか?

 

俺の内面もある程度知ってるはずなのになぁ……。

 

「なあフミ、今日、何か仕事あったっけ?」

 

「ブラックマーケットでパーティーが開かれるとの情報が入ったので、潜入するつもりですが……。」

 

「じゃあそれ、一緒に行こうか。」

 

「……いいんですか?」

 

よくなきゃ言わない。

 

「悪人の金に手を付ける気なんざ毛頭ないが……会合が行われるのは表の店だろ?」

 

「はい、高級レストランでビュッフェ形式なんて、大層な用意がされてます。」

 

「……食いたくね?」

 

「……まあ、カレーうどんだけじゃ栄養が偏りますからね。」

 

その言葉を皮切りにカレーうどんを完食した俺達は衣装をまとめて置いてある部屋へと向かった。

 

 

 


 

 

 

「いやはや、まさかあなたがいらっしゃるとは、欠片も思っていませんでした……。」

 

「否定するわ。そう思ってるなら何故あなた達は私に招待状をよこさなかったのかしら?」

 

例によって女装した俺は棒を引き抜いた『変声ロリポップ』(パイン味)を舐めながら受付にいた裏の者に挨拶代わりのジャブを浴びせる。

 

「そうね……おおよそ私は招待なしでも勝手に来ると思っていたか、もしくは来ないようにしていたかのどちらかじゃないかしら。」

 

「いえいえ、『姫』と呼ばれる四季崎(しきざき)ヒテイ様を遠ざけようとするつもりなど、我々には欠片もございません。ただ我々は、四季崎様のご学業に支障が出てはいけないと思ったのみで……。」

 

「あなたの言うことは分からなくもないわ。今はそれで納得しておきましょう……連れがいるけど、構わないわよね?」

 

「勿論。ですが、名前だけは伺っても?」

 

予想されていた反応だったので、俺がそのまま喋る。

 

一夜(いちや)イア、新しく雇ったボディーガード兼、話し相手とでも言えばいいかしら。」

 

「左様で……承知いたしました。会場の者にも伝達しておきます。」

 

「結構よ、私の側付きに対して余計な詮索をする阿呆はいないだろうから。会場は?」

 

「横の扉をくぐれば会場でございます。それでは、ごゆっくり。」

 

受付を突破して会場へ変装したフミを引き連れて入り込み、人のいない場所まで動いた上で彼女に問いかける。

 

「人が多いけど大丈夫?」

 

「はい。しつちょ……姫には弾丸の一つも届くことはないでしょう。それにしても姫、どうしてここまで敬われているのですか?」

 

演技指導の効果は上々、上手い具合に口調も変わっている。

 

「敬われているわけないでしょう。どちらかと言えば神輿ね……まあ、いつも通りと言えばそれまでだけど。」

 

四季崎ヒテイという変装パターンには『七郷カルマと接点がある』という特異性をもたせることで裏社会へ紛れ込む際のアドバンテージを用意している。

 

それによってブラックマーケットを潰さないように色々と手を回していると思わせているのだ。

 

滑稽だ、もっともこれをガキの頃にやれていれば……いや、当時の情勢を思い出しても俺ほど『平和の象徴』たる存在はいなかった以上、思考するだけ無駄か。

 

……そんなヒーローに、なったつもりはないんだけどなぁ。

 

「……姫!折角のパーティーです、思惑はさておき楽しみましょう。」

 

「行かなくもないわ。」

 

二人で手元の皿……ではなく用意したマイ皿とマイ箸を使って、ビュッフェ形式の中でも数で数えられないものだけを選んで取っていく。

 

「姫、唐揚げは……。」

 

「駄目よ。死にたいのなら話は別だけど。」

 

「ですが……。」

 

「何か、気づかない?」

 

パーティー会場の料理を一望できる位置へと移動した上で、俺はフミに尋ねる。

 

「……確かに、個数で数えられるものはほとんど手を付けられてないですね。」

 

「否定するわ、全く手を付けられてない……あの人を除いてね。」

 

何も知らない哀れな犠牲者は皿にフライドチキンを移して、会場の隅に着いてから食べる。

 

「見ておきなさい。今回のパーティーの……一人目の犠牲者よ。」

 

「犠牲者って、そんな……。」

 

「否定するわ。これはパーティーと銘打った……。」

 

「おい、何があった!」

 

犠牲者はそれを口に含んで少しの間を置いて倒れ、()()()()()()()()()が駆け寄ってくる。

 

「……ね?これはパーティーと銘打った腹の探り合いにして抉り合いなの、覚えておくといいわ。」

 

「そんなこと言ってる場合じゃ……!私、行ってきます!」

 

「あなたの優しさには感心するけど、その行動は否定するわ。彼はもう助からない……ブラックマーケットの団結に法はない。裏では誰もが誰かを出し抜こうとしている……そんな世界よ。」

 

「そんな……。」

 

見てみればやはり、犠牲者の周りにいるのはこの業界に慣れていない新参者が多い。

 

他は何事もなかったかのように歓談をしたり、飲み物に手を付けたりしている。

 

それが動き出したのは、死体の側にいた一人が救急車を呼ぼうとした時だった。

 

「イア、後ろを向いていなさい。」

 

「ですが、姫……!」

 

「耳も塞いだ方がいいわね……二人目よ。」

 

仮にでも裏社会の会合、表の公的機関を導入するわけには行かない。

 

食べかけのフライドチキン(死に至る猛毒)を詰め込まれるのは、普通に考えれば分かることだった。

 

「……あなた、正直侮っていたでしょう?」

 

「はい……。」

 

「でもそれがブラックマーケット……私が現状放置を決め込んでるのもコレのせいよ。コレを力技で潰して、少しでも取りこぼしが起きれば……キヴォトスのニュースに、殺人事件が載るのが当たり前になるでしょうね。」

 

彼女にもそろそろブラックマーケットの怖いところをしっかりと教えようと思っていたが、よりにもよって最悪のタイミングだった。

 

これ以上は感化できない今、俺は会場に備え付けられたマイクを握ってクズ共に呼びかける。

 

「……これはどういうことかしら?」

 

集団は答えない。

 

「私はパーティーがあると聞いたから来たのであって、こんなものを見るために来たのではないのだけど?はあ……もういいわ。」

 

俺は意思表明を行いながら、部下への躊躇を消し去る一言を言い放つ。

 

「これがパーティーの姿?私は何と言われようが否定するわ……イア、勿体ないけど……吹き飛ばしなさい、こんな人以下の獣の集まり……料理ごとね。」

 

それをいい切った後にマイクを放り捨てて一つの鉄扇、『習作・星裂(しゅうさく・ほしざき)』を広げて帰路を辿る。

 

咆哮と悲壮な叫び声が聞こえたがそれに振り返るつもりも、資格も俺にはなかった。

 

 

 


 

 

 

「カルマお兄ちゃん……。」

 

家に帰って私服に着替え直し、俺とフミは背中合わせに床に座っていた。

 

「……随分懐かしいな、その呼び方。」

 

実際は高校に入る前までこの呼び方だったから、実質呼ばれていなかった期間は1年にも満たないのだが……まあ、今はそれを考えるべきところではない。

 

「今日は悪かったな……正直、ああまでなるとは読めなかった。」

 

「大丈夫……これも、仕事だから……。」

 

「溜め込むな。セカイもこうだったからさ……流石に一人には、なれそうにないよな?」

 

「うん……。」

 

縮こまって震える彼女を放っておくほど、俺は人として腐っていたくはない。

 

「今日は泊まってけ。俺は隣の部屋で寝るから、何かあったら呼んでくれれば……。」

 

「……一緒に寝る。」

 

「……マジで?」

 

互いに高校生だぞ?マジで言ってんの?

 

「さっきからずっと、あの会場の喧騒が耳から消えてくれなくて……お兄ちゃん、上書き、してよ。」

 

「……とびきり明るい物語を考えとくよ。」

 

そう告げて俺は立ち上がり、キッチンの前に立つ。

 

シチューでも作ろうか、とびきり真っ白な……肉は入れないほうがいいな、味気なくはなるが……鮭はあっただろうか?米じゃなくて鮭にシチューをかけるのもいいかもしれない……

 

「……フミさんや、流石にシチューのルーを取りに行けないんですが。」

 

背中から拘束まがいの強さで抱きつかれた状態で、俺はそう告げる。

 

「……。」

 

「……はいはい。」

 

一度引き剥がして体を反転させ、こちらからも抱き返す。

 

「怖かったよな、辛かったよな……ごめんな、本当に。」

 

「……ばか。」

 

「おいおい、流石にひどくないか?」

 

「私に任された仕事なのに、心配だからってついてきて、私が足を引っ張ったのにお兄ちゃんが謝るなんて、ばかじゃん……!」

 

そうかねぇ……妹の諸々を背負うのは兄の役目だと思うんだが。

 

「まあ、シスコンを馬鹿って言うならそうなんだろうよ。ましてや、実際に妹なわけでもねーしな……でもさ、これだけは覚えててくれ。俺はお前のことが大好きだ。」

 

お兄ちゃんと呼んで慕ってくるのが大好きだ。

 

室長と呼ばれながらも軽いノリで話せる今が大好きだ。

 

カレーうどんの話になると急に狂い出すのが大好きだ。

 

辛坂フミという存在が大好きだ。

 

「まあ、困ったら頼れよ。兄としてでも、先輩としてでも、上司としてでもさ。」

 

「うう……ひっぐ……!」

 

「泣くなって……美人が台無しだぞ?飯作るから、待っててくれ。」

 

胸元に埋められた顔を見ないようにしながら、俺は彼女の真っ白な頭を撫でた。

 

 

 


 

 

 

「……まだ眠れてないか、フミ?」

 

俺にしがみつくように横になる彼女に向けて、問いかける。

 

「……。」

 

「大丈夫そうだな。」

 

どうやらすっかり眠りに落ちているらしい。

 

そんな彼女の寝顔に安堵を覚えつつ、俺は今日のことに対して思考を巡らせずにはいられなかった。

 

(やっぱり、彼女に『表』まで伝えるのは厳しそうだな……。)

 

裏で殺人が起きるのは当然として、表でもそういうことがない、なんて言えるわけがない。

 

今のところ、そういう事件に噛むのは俺だけで留まっているが……彼女たちはまだ、俺が卒業しても連邦生徒会であり続けるのだ。

 

俺のしたことと同じことをやってほしいとは思わない……でも、俺と同じ立場に立つ以上は俺が捉えていたものを彼女たちにもしっかりと捉えてほしかった。

 

その結果がこのザマ、彼女の心に深い傷を負わせてしまった。

 

「つくづく馬鹿だし、救いようがないな、俺って……。」

 

こうなるまで貶めて、更に傷つけようとしているのか。

 

つくづく自分の傲慢さに嫌になる。

 

「高校生になる前からずっと、『第1に来るな』って言ったくせにあっさり受け入れちゃったのも、こういう現場に行かせるのも、終わってるよなあ、人として……。」

 

やけに強く抱きつかれた気がしたが、気のせいだろう。

 

眠っていて尚求められるほどに彼女に好かれているとは思えないし、彼女に咎められたくない、嫌われたくない……

 

身勝手ながらにそう思っているから、俺はそう結論付けた。

 

 

 


 

 

 

「……お兄ちゃんの分からず屋。絶対に……

 

離さないからね?

 

……私も、寝るか。」




「Violet Archive」の注意事項
・ブラックマーケットにおいて、殺人は常套手段である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「セカイ、レコーディングだがカフも来れなくなった」「行かせましたね?」「まあ、同伴で」「ですよね」

第1メンバーのスタンス

・フミ
全肯定BOTその1。基本的(カレーうどん以外)にはカルマの指示を受けるしカルマに対するアクションはあまり行わない。好きですかって?当たり前じゃないですか。アプローチはしても私から告白するのは不敬だからしませんけど。

要約:お兄ちゃん大好きだけど迷惑はかけられない……あ、お兄ちゃんは好きなだけ迷惑かけていいからね!あ、迷惑じゃないけど!

・セカイ
フミのスタンスには概ね同意だけど障害と見なしちゃったら裏も取らずに突っ走っちゃうからなあ……私がしっかりしないとといった感じのお姉さん気質。カルマは好きだし、上手い具合にかっさらう策を考えている。

要約:フミちゃん、カルマお兄ちゃんのためでもやりすぎだって……お兄ちゃん、私が本気で求めたら、受け入れてくれるよね……?



ブラックマーケットに付いての釈明

ブラックマーケットがいくらえげつなくても、治安キヴォトスなことを考えると何故ここが特別に忌み嫌われるか疑問なところがあったんですよ。中退、退学した生徒たちならヘルメット団もそうですし、あちらは各学園でも積極的な行動を取るのに、ブラックマーケットにはノータッチなのは何故か。その結果たどり着いた結論は『ブラックマーケットは表社会で一切姿形を見せない、殺人という要素が含まれているからではないか』というものでした。
基本的にブルアカはバッドスチル以外は殺人が起きません。今作ではカルマによってゲームボーイに追いやられたケイに関して言えば、原作で消滅はしたものの所々で復活フラグが立っている模様で、ゆくゆくは戻ってくるんじゃないかなーと思っています。消したままも惜しいでしょ、あの手のキャラ。
脱線しました。
とにかく、そんなブルアカの世界でブラックマーケットに特異性を持たせるとしたらどの点か、それを考えた結果が殺人です。あくまで個人の解釈ですので、「こうなのではないか?」というような考えがある人は教えていただけたら幸いです(恐ろしく早い感想乞食、俺でなきゃ見逃しちゃうね)!



七郷カルマァ!
何故君が事前の報告を受けずに……前書きに登場できたのか。
何故私がお前の前に顔を出せたのか、何故私の声が頭に響くのかァ!(アロワナノー)
フミ「それ以上言うな!」(ワイワイワーイ)
その答えはただ一つ……
セカイ「やめろォォォ!」
ハァァァ……七郷カルマァ!
モンナ(無言で走り出す)
この小説がが!今話の執筆中に……!UA20000をォ……!
突破したからだァァア゛ーーーーーッハハハハッ!!(ターニッォン)
ア゛ーーッハーッハーッハーッハッ!!!
(ソウトウエキサーイエキサーイ ターカーナール)
ア゛ーーッハーッハーッハーッハッ!!!
モンナ(無言で黎斗の胸ぐらを掴む)
カルマァ「『Violet Archive』が……UA20000突破……?」ッヘーイ(煽り)
カルマァ「嘘だ……俺を騙そうとしている……!」ッヘーイ(煽り)
(記憶がフラッシュバックし、辻褄が合う)
(回想)
《頭が……》
《うわああーーーっ!!》
(心臓の鼓動)
ああぁ……ああ……ああァッ……!
ああーーーっ!!うわあァァッ!ああアァ……!
ハァァハハハ……!
あぁっ……うわああーーッ!!ア゛ァァァーーッ!!

See you Next game

カルマ「いや、別にいいことだからこれやるのは違うんじゃ……。」
ヒドォチョグテルトヴッドバスゾ!
カルマ「おちょくってんのはお前だろ……ということで、UA20000突破です。これからも頑張っていくので、感想や高評価、お気に入り登録で応援よろしくお願いします。」
おーねーがーいーしーまぁーす!
カルマ「土下座すんのはテメェだよ。」


「仕方ないから二人で収録できる曲に行くか……やるって決めた曲の中で、今行けるやつってあるか?」

 

貸し切ったレコーディングスタジオにて、俺とセカイは急遽変わった予定を再調整していた。

 

「歌ってみた動画で、最近録ろうって決めていた中だと室長、じゃなかった……GOMA(ゴーマ)さんと私……セカイのデュエット曲なら『Potatoになっていく』ですかね……でもこの前、『Mr. Showtime』を上げたばっかりですし……先輩一人のをそろそろ上げた方がいいんじゃないかなと。」

 

「ええ……こんな野郎の歌が聞きたいやついる?」

 

「いますよ?キヴォトスはゴーマさん以外に女子生徒しかいないから、それこそアイドルみたい人気ですし。」

 

「アイドルねぇ、そういやこの前は、モンナが『アイドル』だっけ?だとしたらガッツリ男声曲がいいのか……?」

 

セカイから渡されたスマホで確認する限り、やるとしたら『LOSER』や『馬と鹿』だろうか?

 

常々から歌うならこれかなーと思っていた曲だが……

 

「『馬と鹿』かな……。」

 

「あー、それ行きます?先輩がやる曲、最近そういうのが多い気がしますけど……。」

 

「そんなにか?」

 

「えーっと……『悔やむと書いてミライ』のソロバージョン、『フォニィ』とかですね。」

 

うわぁ、なんてことだ……意識していない内に選曲に明らかに傾向が出来てしまっていた。

 

これはいかん、何せ……

 

「……ゴーマさん?また出てますね、癖。」

 

「はい……。」

 

煽り癖と同じくらい身についてしまった自虐癖、どうしたものだろうか。

 

直すつもりも毛頭ないのだが。

 

「じゃあどうすんだ?他にもなんかあったっけ……。」

 

「……あ!ありましたよ、これ!」

 

セカイがチャットによる会議の履歴を確認し、ある一曲を拾い上げる。

 

「……別にやるけどさ、俺のソロを録る必要もなくないか?」

 

「録れる内に録っちゃった方がいいと思いますよ?先輩の後に、私もソロ録っていいか聞くつもりでしたし。」

 

「……おっけ、じゃあやるか。」

 

ヘッドホンを装着し、マイクの前に移動する。

 

「……うし。準備はOKだ。」

 

「じゃあ行きますよ?」

 

目を閉じて頭の中で、俺は曲に自らを照らし合わせた。

 

 

 


 

 

 

「誰もが突然に始まった

デタラメなシナリオの上で」

 

無茶苦茶な人生を送ってきた自覚も、恥の多い人生を送ってきたという自覚もある。

 

そんな人生だが、他人から見ればそこいらの誰彼と違いはすれど大差ないようなものなのだろうか。

 

「それは映画のような

まるで映画のような

どこにでもあるストーリー」

 

それこそ、使い古されたテンプレートに則った量産型の映画のように。

 

「間違いだらけの道のりだ

丸付けられるのは幾つだ」

 

クソみたいな生き方に、自分の選択で起こした惨劇と、犯した罪(間違い)の数など両手の指で数え切れるようなものではないだろう。

 

そのくせ、何か正しいことは出来たか?

 

その答えは、確実に否だろう。

 

「何が良くないのか

何処が良くないのか

そこまで教えてくれよ」

 

だったらどうすればよかったんだ?

 

どうすれば正しく在れた?

 

贖うにはどうすればいい?

 

誰か、分かる人がいるなら教えてくれよ。

 

「明け方の妄想

貴重な逃避行と

勘違いの英雄ごっこ」

 

馬鹿みたいに自分が許されているんじゃないかと妄想する毎日。

 

その下に押しのけて見て見ぬふりをした物事。

 

そんな歪さを抱えながらヒーローに憧れた結果、そんな英雄の猿真似を続ける自分。

 

「もう渋滞してんだ

どうしようもこうしようもないよな」

 

そんな自分に思うことなんて腐るほどある。

 

だからって、それをどうにかする術を持たないのにどうしろというのか。

 

「こんなはずじゃなかったよなって

どんなはずだったんだよなって

思えば思うほど」

 

こんな自分になりたかったわけじゃない。

 

だからってどんな自分になりたかったという代替案もありはしない。

 

考えたところでないものねだりを繰り返すのが関の山だからだ。

 

「いやこれじゃないない

ハマり悪いよな」

 

どんな自分を描けど満たされない、どこか違うと思ってしまう。

 

どこまでも俺は、自分の在り方を掴めない。

 

「向いてないない

今すぐ辞めてしまうか」

 

どうやら俺は、自分を美化する幻想に対する想像力が絶望的にないらしい。

 

いっそきれいな自分でありたいなんてあさましい願望を諦めれば、楽になれるんだろうか?

 

「そりゃないない

いつになれば僕は

主役になれるんだろうな」

 

……そんなこと言ったって、諦められるわけないだろう。

 

まったく、いつになったら俺は七郷カルマ(俺が望む俺)を確立できるのか。

 

「いつの日かバイバイ

終わりはくるから

拍手喝采

笑顔でカーテンコール」

 

どうせ終わる日は来る……多分。

 

それまでどう思っていようが、別にいいだろう?

 

「変えたい未来はここにあった

思うままに好きなように」

 

だったら、軋もうが痛ましかろうが、捻じ曲げてしまったって構わないはずだ。

 

自分のなりたい自分に、なっても構わないんだろう?

 

「これはそうだ

最底辺から駆け上がった

映画のようなストーリー」

 

だって俺は、最底辺から自分を捻じ曲げ続けながら今まで生きて、成り上がってきたのだから。

 

 

 


 

 

「……はい、OKです。」

 

ガラス越しにセカイが声をかけてくるのを、俺はヘッドホンを外しながら聞き届けた。

 

「おう、どうだった?」

 

「やっぱり一曲目だから、ゴーマさんのテンションが尻上がりな感じになっちゃってますね……後でもう一回録る感じです……。」

 

「了解。」

 

俺個人の性質として、どうにも最初から全力全開!とは行かないらしい。

 

慣れたものでこそあるがどうにもなぁ、これは直しときたいんだよなぁ……

 

「一回休憩して、水を飲みつつお前が歌うのを聞いてからもう一回行くか。つーわけで、場所交代な。」

 

「分かりました。そっち行きますね?」

 

こっちに入ってきたセカイは俺からヘッドホンを譲り受けた後、俺に抱きついて頭を擦り付けてきた。

 

「……あの、セカイさん?」

 

「なんですかフミにはやるけど私にはやらないっていうんですかそうですか。」

 

「……あー、はいはい、そういうことね。」

 

言わんとするところを察して抱き返す。

 

その上で彼女の頭を撫でたところで、ようやく彼女は満足したようだ。

 

「んー♪」

 

「……とりあえず収録するぞ、準備してくれ。」

 

「はーい!」

 

「やれやれ……。」

 

機材の前に座り、操作を開始する。

 

「あ、曲はもう準備してるんで、そのまま流してください!」

 

「ほいほーい、じゃあ行くぞ?」

 

軽快な音楽と併せ、俺は彼女の歌声に耳を傾けた。

 

 

 


 

 

 

「もっと君に恋したいスキスキ星人

落っこちそうな浮遊感も宇宙のせいなのだ」

 

……男声の曲を彼女が歌って女声曲を俺が歌うとか、これもう分かんねぇな?

 

「出逢って何度恋をした?

ふたりだけの異空間で

ほら視線が合っただけで

また妄想ちゅちゅちゅ」

 

収録なのに投げキッスとかノリノリだねぇ……こっちにも来るのか。

 

「知ってたいのなにもかも

声で伝えて欲しいのです

この星がもしもなくなってからじゃ

遅いんだだだ」

 

にしてもやっぱ、うちの妹分たち歌が上手いな……

 

それに今日はやけに調子が良さそうに見える。

 

……まさか、本当に効果が出てるのか?

 

こっちを向くようにマイクの向きを調整したのが。

 

「君が隠したハートを(ハートを)

僕は今も欲しいんだよ(欲しいんだよ)

スキのシグナル出してよ(出してよ)

恥ずかしがらないで」

 

いやあ、それにしてもステージでやるライブ並みのファンサだな。

 

本番の気持ちは大事だけど、これちゃんと持つよな?

 

……まあ、持つか。

 

「もっと君に恋したい スキスキ星人

アイラブユーのメッセージに 鍵をしないで」

 

俺の方を指さして鍵を開けるように手首をひねるセカイ。

 

アイドルやなぁ……

 

うちの子きゃわわ〜!

 

……少々取り乱したか。

 

「ちょっと苦い心の距離も宇宙のせいにして

『この星で一番好き』って言って!」

 

うーん、なんか目の前を示すような行動多くね?

 

ライブならもうちょい、会場を広く使う想定でもいいかもな……

 

まあ、今度歌うことになったとしたらその時に打ち合わせよう。

 

「(せーの!)

もっと君に逢いたい スキスキ星人(ハイ!)

アイラブユーの気持ちで何光年も飛べるよ

宇宙的観測最大級にスキスキでいて(ハイ!)

君と宇宙で甘い色の恋をしたいのだだだ」

 

いやあ、顔がいいし表情もイキイキしている。

 

俺よりよっぽどアイドルだろ。

 

「(チュチュチュル チュチュチュ)

君の声が僕のいるリーズン

(チュチュチュル チュチュチュ)

スキは見えないとわかんないから

(チュチュチュル チュチュチュ)

君の声が僕のいるリーズン

(チュチュチュル チュチュチュ)

スキは見えないとわかんないから」

 

うーん、やけに感情が乗ってるな?

 

俺と違って尻上がりではなく最初からバッチリ準備ができるタイプだが、流石にここまでノリにノッているのは初めてじゃなかろうか。

 

成長しているんだなぁ……

 

「見せてほしいの」

 

アウトロまでノリノリで演じきり、100点満点中100万点のレコーディングだったと言っていいだろう。

 

 

 


 

 

 

「やりましたよ!ゴーマさん!」

 

「ああ、スゲー歌だったよ、セカイ!」

 

感動のあまりにひしと抱き合った上で、俺たちは感想会に入る。

 

「いやー、にしても凄い感情の籠もり具合だったな!もうこれ本職だろ!」

 

「そ、そうですか……?」

 

「うーん……少し、収録の時に動きが大きかったからもうちょっと落ち着いてってことぐらいかな?あと、音が入ってないか確認をしないとな。」

 

そこが唯一の不安点として思っていたところなので、そこはしっかりと断っておく。

 

「う、そっかぁ……じゃ、じゃあ……ゴーマさんとしてじゃなくて、お兄ちゃんとして、言ってほしいんだけど……。」

 

……確かに第三者の意見は重要だ。

 

第三者と言えるかとなると怪しいが……まあ、お兄ちゃんなら頼みを無下にする訳にはいかないだろう。

 

「……きれいな歌声だった。動きも可愛らしかったし、アイドルみたいだったよ。やけに感情が籠もってる気がしたけど……そういう相手がいるなら、もっと早く教えてほしかった……なっ!?」

 

いきなり視界がグラつき、俺は床に押し倒される。

 

「お兄ちゃん……いや、カルマくん。お兄ちゃんだなんて呼んでるけど、血が繋がってないのを忘れたわけじゃないよね?」

 

やべえこれ捕食者の目だ、この前映画館で肉食獣(ワカモ)がした目と同じだわ。

 

「どうしたの?カルマくんはこれぐらい、簡単に振り払えるでしょ?」

 

……うーん、好感度を見誤ったか。

 

フミが大丈夫そうだったから油断していたが、そういえば割とセカイは割り切る性格だし感情に支配されても周りが見えるタイプだったことを、すっかり失念していた。

 

さて、ここからどうやって状況を巻き返すか……

 

「そんなカルマくんなら、受け入れてくれるよね……?」

 

「……そっちに覚悟があるならな。」

 

横に転がるようにして体勢を逆転させ、その上で額と鼻先を触れ合わせる。

 

「こういうことだぞ?お前がやろうとしてたのは。」

 

「……。」

 

「……やっぱりか。」

 

全く動じてないどころか、むしろより昂ってんですけどコイツゥ!?

 

目が光を失ってるのにギラギラしてる……どうなってんですかねぇ……?

 

「……いいよ?」

 

「よくねぇよ。」

 

いや、マジでよくねぇよ。

 

高校生だぞ?

 

いや、それならむしろ普通?

 

……いやいやいやいや!

 

流石にこれはアカンですよ!

 

兄妹とか以前にそういうのはちゃんと段階を踏んで……

 

というか今のところ、誰とも付き合う気ねぇんだよ!

 

「……仕方ない、か。」

 

顔を離した上で、少し低めの声で圧をかけるように告げる。

 

「目を閉じろ。」

 

「……はい。」

 

あまりにも従順に(誘い受けか?)目を閉じた彼女の顔に手を添え……

 

全力のアイアンクローをブチ込んだ。

 

「痛ぁ!」

 

「百歩譲ってタガが外れるのはまだいいが、ここレコーディングスタジオだぞ!?汚すわけにはいかねぇだろ!」

 

「イタタタタタ!分かりました、反省します、反省しますからぁ!」

 

信用ならない。

 

だから続けるね?

 

「じゃあ、しばらく俺の家に上がるの禁止ね?」

 

「ええ〜っ!?」

 

「反省、してるんだよな?」

 

「……はい……。」

 

なら……

 

ヨシ!

 

ヨシ!

 

ヨシ!

 

「じゃあ、収録に戻ろうか。俺がもう一回やるから、しっかり頼むぞ、セカイ?」

 

「……分かりました、ゴーマさん。」

 

ふむ……流石にそっけなすぎたせいか、彼女がひどく落ち込んでいる。

 

ちょっとだけ、飴をあげることにしよう。

 

耳元に顔を寄せ、吐息混じりで囁いてみせる。

 

「来週呼んであげるからさ、な?」

 

「……はい!」

 

嬉々として収録機材へと向かう彼女を見届けてから、俺もマイクの前へと向かった。

 

 

 


 

 

 

「……決める道筋をつけてくれるなんて、やっぱり甘いよね?」

 

 

 


 

 

 

俺は何を見てヨシって言ったんですか?

 

ちなみに撫でてノックダウンした。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは最初から全力が出せない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「(個別ルートって)こういうのでいいんだよこういうので」「アンタ輸入雑貨商じゃないでしょ!?」「いや、それも趣味でやってるぞ?」「どんだけツテがあるのよアンタ!」

デカグラマトンの中だと、ビナーどゲブラがかっこいいと思うんだ。
あの強そうな感じが好キィィィー(バアンッ!)


友人の

 

[氷河で気になるものを見つけたから、同行してもらえないかしら?]

 

というお誘いに一瞬の迷いもなく無視を決め込み、バイクのハンドルを柴関ラーメンの方へと切ったのが2時間前。

 

現在俺はチャーシュー麺チャーシュートッピングと餃子を前にしてセリカと駄弁っていた。

 

「相変わらず、健康に悪そうな食べ方を……。」

 

「餃子は野菜料理だぞ?不摂生ってことはないだろうよ。」

 

「……というか、変装はしなくていいわけ?」

 

「ああ、よく考えたらここ、変装して誤魔化す対象がいないし。」

 

屋台になってもこの注文ができるのか不安だったが、問題なかったようで何よりである。

 

しかし……やっぱこれ……

 

ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)

 

ζ*'ヮ')ζウッーウッーウマウマ

 

 

ウッーウッーウマウマ

 / ̄ ̄ヽ  へ―-へ

`/∩""リ∩ ノノ∩LLL∩

/<(゚∀゚)〉ζ<('ヮ')〉

LL(<Y>(イ   ( 召(イ

  )__)))  )ニニ)))

  しソ    しソ

 

……たまらんな。

 

「あ、そういえば!この前のチケットなんだけど!」

 

「ああ、これね……行けないから渡したんだけど、お前も用事があった感じか?」

 

「いや、バイトを調整して行ったし、楽しめたんだけど……なんでこれなの……?」

 

「え、なんか駄目だった?」

 

おかしいな……一際見どころがあるレースだったと思うんだが……

 

「いや、なんで競馬場なのよ!?明らかにおかしいでしょ!」

 

「G1だぞ?さぞ見応えあっただろうよ……それと、馬券を買うのがアウトなだけで別に入場に規制はない。」

 

「まあ、見ごたえはあったけど……何故かおr、私も走りたくなっちゃうくらいに……。」

 

……何か他の意思が働きかけてない?

 

「そもそも、先輩って競馬が好きなの?」

 

「見る分には。乗ったことはないから何とも言えねーが……キヴォトスの外にちょくちょく行ってるんだけど、その時にハマってさ。」

 

確か、広告で見たのは皐月賞の時だっただろうか?

 

それ以降、家に置いてあるタブレットのアプリを起動しなかった日は1日としてない。

 

白衣に萌え袖ってヤバいだろ、桃色の髪と同じくらい気を引くわ。

 

異論は認める。

 

「キヴォトスの外だと、まあ日本にしか行ってないんだが、競走馬への興味も高まってたからな……割とそっちの方に入るには敷居が低い時代だったよ。」

 

「時代って……。」

 

「揚げ足取りはなしな。」

 

レンゲでスープを掬って啜りながら、俺はセリカとの会話を更に広げようと踏み込む。

 

「キヴォトスでも競馬ってのは公営ギャンブルだからな。関わってる身としちゃ、もっと盛り上げたいんだがね……。」

 

「……カルマ先輩って、逆に何に関わってないの?」

 

「中枢の行政。」

 

「一番関わってないとダメなやつじゃん!?」

 

それはそうなんだが、その文句は俺じゃなくてそういう体勢にした状況判断の出来ないバカども(連邦生徒会の同僚たち)に言っていただきたい。

 

まったく、あの連中はいつまで頑なに俺の協力を拒むんだか……

 

「まあ、色々と楽しんで生きてるよ。そっちはどうだ?びっくりするほどマシになったとはいえ、まだまだ借金は残ってるだろ。」

 

「あー、それは……まあ、確かに今までの利子からだいぶ下がったから、過払い分も借金そのものに当てられて、9億円が6億5千万円くらいにはなったけど……まだまだ見通しは遠いって感じ。」

 

「あー、そっか……。」

 

正直、今のメンツがどれだけ頑張ってもその後に繋げなければ意味がない。

 

「流石にこの立地じゃ、新入生も望み薄だろうしなぁ……。」

 

「対策は考えてるんだけど、いいものがなくて……。」

 

……まああの会議の体を装った茶番をこれでもかと見せつけられたら「でしょうね」としか言いようがない。

 

「そういえば最近、『金椀』っていう商品がキヴォトスで出回ってんだが……。」

 

「え、な、何!?何のこと!?」

 

彼女に会ったらこれを忠告しておこうと決めていたのだが……ダメだったみたいですね……

 

現代の情報伝達の……限界っ……!

 

「いくら入ってるか分からない小振りな蓋付きのお椀って体で売り出してこそいるものの、その実態は量産品の粗雑なお椀に100円以下の現金を入れただけ、そのくせ値段は万を超える……そんな人間のクズみたいな商法でのさばってるやつがいるんだ。」

 

「そ、そうなんだ……でも、SNSだと最大額の5万円入ってたとか、言ってる人もいたけど……。」

 

ウソでしょ……?

 

マルチ商法に引っかかる時点で薄々感づいてはいたが、あまりにも危機意識が低すぎる。

 

そんなだから相手の秘策に気づかず拉致られるのでは?

 

俺?何言ってんの、秘策に気づいた、倒されなかった、敵の術中に嵌った振りをして相手の拠点や裏に潜む組織を割り出そうとした、完璧なムーブでしょうよ?

 

失敗しただろって?

 

……うるせぇ!行こう!(ドンッ!!)

 

「サクラだよ。企業の方があくどい商法を疑われないように身内に当たったふりをさせてんだ……買い手に対しては一切入れてねぇよ、そんな額。」

 

「また、騙されたの……?」

 

それみろコイツ、また買ってやがった!

 

「2食もやし生活の末に、20個も買ったのに……。」

 

「……〜〜〜!」

 

バカだコイツ、バカすぎる!

 

どうするってんだよ、20個もお椀買って!

 

アレか?正月に親類全員呼ぶのか!?

 

にしたって限度ってもんだあんだろ!

 

そもそも売ってる方も売ってる方だろ……

 

「……大将、俺が持つからセリカにも食わせてやってくれ。」

 

「お、おう……。」

 

「え、ええっ!?いや、そんなことしなくても……。」

 

「食っとけ、倒れるぞ?」

 

そうなればバイトどころではないだろうに。

 

「う、うう……分かったわよ!」

 

客足が欠片も見えないことを確認してから、彼女は俺の隣に座る。

 

「……アビドスのみんなは元気か?」

 

「……急に何?」

 

「いや、ちょっと気になってさ。今度行くのはしばらく後になりそうだし……。」

 

今回来たのはラーメンを食いに来ただけなので、アビドスに顔を出すのも躊躇いがあった。

 

仕事でもないんだから差し入れくらい持っていかないと、示しがつかないだろう。

 

「それに、この時間でお前がバイト入れてるってことは今日は自由登校だろ?挨拶は全員いる時にするさ。」

 

「……それもそっか。」

 

納得したらしいセリカは、対策委員会の近況を教えてくれる。

 

「ホシノ先輩は、時々だけどスマホを見つつニヤニヤしながらだけど、仕事をするようになったわね。ノノミ先輩が嬉しそうな顔してるけど……アヤネちゃんも最近、ぼーっとしてることが多くなったかも?シロコ先輩は相変わらず銀行強盗のプランを練り続けてる。全体的に、気が抜けてるんじゃないかって思ってるけど……。」

 

「……まあ、カイザーから解放されたしな。学生の身空だ、浮かれるなっていう方が無理じゃないか?」

 

「だとしてもよ!借金がなくなったわけじゃないんだから、むしろこれから気を引き締めないと!」

 

それはそう。

 

なんだかんだしっかりしてるよなぁ……

 

「これで見え見えの悪徳商法に引っかからなきゃ、文句の付け所がないんだけどな……。」

 

「……先輩、私のことそんなふうに見てたの?」

 

「ああ、キヴォトスってそういう傾向はあるけど、それでもセリカは美人だと思うぞ?」

 

……割と誰にでも言う自覚はあるが嘘ではない。

 

名画を綺麗と評する時に同様に評した作品がいくつあるかなんて考えることがないように、俺は女性に美しいという言葉を使っていた。

 

これをどう判断するか、それは他者に任せよう。

 

「色々なものを見てきたから、目は肥えてるつもりだよ。その上で可愛いし、美人だと思うぞ?」

 

「は、はあっ!?何よ急に!?本当に何かあったんじゃないの!?」

 

よかった……掛かりはするけど暴走はしない……!

 

フミやセカイやワカモを見てきた後で不安になっていたが、あれが異常だったんだ……!

 

「結婚しよ」

 

「なあっ!?」

 

「……あ、悪いな。最近メンタルに来ることが多かったから、つい……。」

 

「どんだけ疲れてるのよ……。」

 

呆れ顔を浮かべたセリカの前にラーメンが置かれる。

 

「いただきます……アンタこそ大丈夫なの?とてもじゃないけど、すごく疲れてるみたいだけど……。」

 

「言葉を真に受けるからマルチ商法や詐欺に引っかかるんだろ……ただ指名手配犯に連れ回されたり、妹分がギャン泣きしたり、チームメイトに押し倒されたりしただけだよ。」

 

「女難とかいうレベルじゃないわね……近いうちに刺されるんじゃないの……?」

 

「刺されたところで効かねーし、大丈夫だろ、多分。」

 

キヴォトスで最強を名乗る以上は、自分以外の全てを力押しでなんとでもできるくらいには強くないといけない。

 

ここテストに出るぞー、メモっとけー。

 

「身を固めるべきかとも思うけどなー、どうにも気分が乗らないんだよ。」

 

「……もういっそ、彼女を作っちゃえばいいんじゃないの?先輩、顔がいいから引く手数多だと思うんだけど……。」

 

「……事実だとしても嬉しいことを言ってくれるな。」

 

「毎度思うけどその自信なんなの!?」

 

面がいいのも引く手数多なのも事実だからな、自信以前の問題だ。

 

「外見の好みで選ぶつもりもないしな。付き合うにあたって、互いにストレスがない方がいいだろうし。」

 

性癖で付き合う相手を選ぶと後悔するだろうことは、経験がないなりに思い至っている。

 

別に淫蕩の限りを尽くしたいだなんて思っちゃいないのだ。

 

具体的に言うなら、甘々なイチャイチャが売りの漫画みたいな恋がしたい。

 

恋愛になったらの話だが。

 

「……その、恋人って、どういう人がいいとかはまだないってこと?」

 

「ん?まあ、そうなるかな……実際にそういう人がいたなら、とっくにアプローチかけてるだろうし。」

 

「ふ、ふぅん……じゃ、じゃあ!私とかならどうなのよ?」

 

「何その聞き方?まあいいけどさ……うーん……。」

 

セリカが彼女かぁ……

 

男冥利に尽きる可愛いし魅力的な子だとは思う。

 

しっかり者なのも高評価だ、俺は思いつきでなんでもやっちゃうから憧れるという意味でもいい子だという評価を下せる。

 

でもなあ……メディアリテラシーがなぁ……

 

直情的すぎて罠にも嵌りやすいし……

 

敵が多い俺が、彼女にするのはちょっと申し訳ない。

 

「……俺が釣り合ってないし、何より俺と付き合ったらろくなことにならないだろうからな……流石に受け入れるのは難しいと思うよ。別に、お前に限った話じゃなくて。」

 

「……あっそ。」

 

なんか急にそっけなくなったな……

 

「……スープも最後の一滴まで美味いな。」

 

「それは本当にそう思うわ。」

 

会話が……!

 

会話が続かない……!

 

スゲー気まずいんだよ、これ……!

 

「……聞きたいんだけどさ、その……また、見たいか?」

 

「レースを見に、ってこと?」

 

「ああ。興味があるなら、一緒に行ってほしくてさ……そ、その!実を言うと競馬とか見るタイプの知り合いがいないから、毎度一人で寂しく見ててさ……。」

 

「急にボッチ宣言されてどう反応すればいいのよ!?」

 

まずボッチ宣言って言わないでくれよ!

 

友達はいるんだ、趣味が合わないだけで!

 

でもさあ、ようやく興味を持ってくれる人に出会えたんだよ!?

 

縋りたくもなるよ、何がなんでも!

 

「もう、嫌なんだ……!美容院でしか競馬に関する話ができないなんて……!」

 

「別に美容院じゃなくたってしたいならすればいいでしょ!?」

 

それが出来たら苦労しないし、してもシラケるだけだろああ!?

 

俺はなぁ!そういう経験を!これ以外にも何回もしてるんだよ!

 

特撮然り、小説然り、映画然り、ゲーム然り……

 

同世代も異性ばっかだからオープンに話せる相手がいないんだわ!

 

「……あーもう、分かったわよ!今度一緒に行ってあげるから、その時は早めに連絡しなさいよね!」

 

「グスッ……ひぐっ……!あ゛り゛か゛と゛う゛!゛」

 

「ガチ泣きじゃないの!?」

 

だってよぉ……!

 

セリカ……!

 

胸が(切なさと嬉しさでいっぱいなんだよ)!!!

 

「一緒に2000mを2:00.3(35.5)で駆け抜ける瞬間を見よう!うわあああああん!」

 

「ちょっ、泣きながら抱きつくのやめなさいよ!あとなんなのよそのやけに具体的なレコードと上がり3ハロンのタイム!?そんなに詳しいこと知らないんだけど!?」

 

じゃあなんでレコードと上がり3fだって分かんだよ?

 

知ってんじゃねぇか。

 

「まあ、楽しみにしてるよ。」

 

「うわぁ、急に落ち着くな!」

 

「泣くなって言ったのはそっちだろ?」

 

「……もうやだぁ!何なのこの先輩!?」

 

頭を抑えて嘆くセリカを見ながら、俺は込み上げる笑いを抑えずにはいられなかった。

 

そしたら殴られた。

 

解せぬ。




「violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは趣味がマイナーで肩身の狭い思いをしている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「アル、これ蜂蜜パイって言うんだけど」「いただくわ!」「これにマタゴダケをまぶした」「やってることアウトローすぎない?」

今まで、細部(?)をちょいちょい弄ってきたくらいの原作改変だったからこそ、今のうちに言っておきたい。



エデン条約編は

今までとは段違いで洒落にならないくらい

原作改変を行います!



あ、あとマタゴダケは嘘です。
師匠ジョークです。


「おいおい、このままじゃ周回遅れだよ〜?」

 

「ぜえっ、ちょっとっ、はあっ、速すぎないかしら……?」

 

「なーに言ってんの、姉弟子のペースだよこれ?しかもセカイの方。」

 

「私が……ハアハア……しばらく会わないうちに……ぜえっ……何があったのよ……!?」

 

ジャージ姿でゲヘナ近郊の運動場を走るアルの後ろから、某青い怪物から逃げるホラゲーのBGMを流しながら追いすがる。

 

「あと一周!周回遅れしたらペナル(ティー)だからねー?」

 

「な、なんですってー!?」

 

「大丈夫大丈夫、運動した後なら効果抜群だろうしさ!」

 

「トドメって意味合いになってない!?」

 

 

材料(1人分) 作り方

・トマト…1/2個

・赤ピーマン…1/2個

・ニンジン…1/2本

・リンゴ…1/2個

・バナナ…1/2本

・タバスコ…大さじ1

・にんにく…1/2個

・七味とうがらし…ひとつまみ

・きなこ…大さじ2

・水…50cc

 

1. 赤ピーマンの種をあらかじめ取っておく。

2. バナナの皮をむく。

3. ニンジン・リンゴは皮つきのまま、すべての材料をぶつ切りにする。

4. ぶつ切りにした材料をミキサーに入れる。

5. 「弱」で約1分~1分30秒ミキシングする(よりドロリとさせたい人は、やや短めにすると良い)。

 

 

これでスポーツ後の体力回復、美容・便秘解消と効能モリモリなんだからいいと思うんだけどなぁ……

 

ごめんなさい嘘吐きました。

 

こんなの死んでも飲みたくないです。

 

「死にたくないならさ……?走ろっか?」

 

「ひいいいいいっ!」

 

(……これハルカに見られたら殺されかねないな。)

 

たとえ見られたら殺されそうになるのだとしても、それは今アルに追い込みをかけない理由にはならない。

 

音量上げろ!生前葬だ!

 

「オラオラア!ペース落ちてんぞ!」

 

「はいぃ!」

 

……これ、大丈夫だよな?

 

訴えられたりしないよね?

 

 

 


 

 

 

どうやらアルの脚質は追込だったらしい。

 

勿論皮肉である。

 

「ほーいお疲れー。これ飲む?」

 

「……ええ……。」

 

なんてことはない普通のスポドリ(未開封)を手渡しして、俺はぐったりと背もたれに身を預けるアルの隣に座る。

 

「タイムは今までに比べて、段違いに上がってる。しばらく見てなかったけど、しっかり鍛えてたんだな。」

 

「当然よ……!一流のアウトローたるもの、研鑽を欠かすわけにはいかないもの……!」

 

息も絶え絶えだが、ここまで舌が回るとは……そろそろ、基礎体力の向上を図るトレーニングのレベルを引き上げてもいいかもしれない。

 

「狙撃手の本懐は遠距離からの奇襲……どこから撃ってくるか分からないからこそ怖い。だけどそれ故に、一度撃ったら別のポイントに移動する必要がある。そのための移動で体力が尽きちゃ世話ないからな……総力と持久力は上げといて損はない。」

 

「そうね……でも……銃を撃てないのに……やけに詳しすぎないかしら……?」

 

「孫子の兵法、『敵を知り己を知れば百戦殆うからず』……戦いは情報戦、だとすれば敵の強みだって当然知っておかなくちゃならないからな。」

 

弱点を狙って長所の餌食になっても、長所を潰した結果弱点を見いだせなくても勝てない。

 

自分の能力によるゴリ押しでも、相手に対する優位性(メタ)を取っただけでもまだ十全とは言い難い。

 

戦闘において重要なのは『いかに相手の長所を踏み倒して、弱点に自らの全力を叩き込めるか』という、言うは易く行うは難しな姿勢なのだ。

 

「でも、師匠……それらを全て理解した上でも、敵と自分の間に埋めようのない力量差があったらどうするのよ?」

 

言いたいことは分かる。

 

敵を知り尽くし、策を弄して優位を取り、弱点にありったけをぶつけても勝てないような理不尽の権化、そんな輩が現れないとも限らない。

 

そんな時に、俺がやったような滅風(大博打)の選択肢を取るのは馬鹿でしかないだろう。

 

「だから鍛えるんだよ。勝ちたいのなら、自分を高めることを怠るな……まあ、結局はこういうことになるんだろうな。いくら周囲を引っ掻き回して相手を術中に陥れようが、最終的に頼らざるを得ないのは自分自身だ。」

 

ここで言う鍛えるというのはフィジカルに限った話ではなく、頭脳やメンタルも含まれる。

 

「次の特訓に入ろうか。ためs……やりたいことは有り余ってるからな。」

 

「明らかに新しい特訓を考えてるわよね……?」

 

「まあ、久々だからな。」

 

それにしても、日に日に力をつけていくアルを見る度に、俺は自分の計画が着々と進んでいっていることを自覚して悪い笑みを隠せなくなる。

 

陸八間アル補完計画

 

学園最強格と言われる生徒レベル……具体的に言えばホシノやネルレベルまでにアルを育て上げる計画である。

 

そこ!ガバチャーオリチャーばっかとか言わない!

 

「誰も何も言ってないわよ!?」

 

 

 


 

 

 

遡ること2年前。

 

当時は今では考えられないヘビーローテで絶賛売り込み中だった俺は、その強さが周知されていなかったことも相まって食って掛かるやつが多かった。

 

俺を知る者の当時の評価は、

 

問題児。ただし最強。

 

だったので喧嘩を売ってきた連中がどうなったかと言うと、まあうん。

 

その中でもやけに印象に残った一件がある。

 

「はっはぁ!生意気な口を聞いてようが、人質を取りゃ連邦生徒会のテメェは動けねぇよなぁ!?」

 

どこぞの下衆が中学生の眼鏡っ娘を人質に取って見せたのだ。

 

「……俺が嫌なことを教えてやろうか?」

 

「ああ?何だよ、言い訳か?」

 

「まずは小魚。味噌汁の出汁に使っても駄目なレベルで受け付けないんだ。」

 

二刀を後方に引き、右足も大きく後ろへ運ぶ。

 

「次は負け。何であれ黒星は貰いたくないもんだね。」

 

「じゃあ、残念だったな。」

 

雑魚の言葉は耳に入れない。

 

膝を曲げて姿勢を低くし、重心を後ろに傾けつつも前傾姿勢は維持。

 

「そんでもって一番、反吐が出るほど嫌いなのが……。」

 

一息に下衆の眼前に迫り、後ろに追いやられていた人質に当たらないように気を配りつつ、二刀による挟撃を繰り出す。

 

「下衆な策を弄した挙げ句負ける雑魚だよ。」

 

物理的な死体蹴りを行った後で、俺は蹲って震えていた元人質の少女に声をかける。

 

「大丈夫か?」

 

「……。」

 

俺にもビビっちゃったか……

 

怖がってる子には同じ目線に立つ。

 

顔は怖くならないように。

 

「怖かったろ?」

 

「は、はい……。」

 

「まあ、しばらくコイツは起きないだろうが……早めに帰った方がいいな。キヴォトスの夕暮れは、闇への入口……可愛らしいお嬢さんには似合わない。」

 

……イタいとでもなんとでも言え!

 

あるじゃん、そういう時期!

 

それにさ、恐怖を上書きするために怒りや羞恥……何でもいいから表出させる感情を変えさせた方がいいと思ったから!

 

「月下美人、なんて言葉もあるけどな。それが闇なのか、はたまた月なのか……悪い、浸りすぎたな。」

 

「いえ、その、別にいいんですけど……変わった人ですね……?」

 

「かかっ、よく言われる。」

 

不思議といつもの似た言葉と違って不快にならなかったので、笑い声を抑えずに少女に答える。

 

「こんな変わり者な男だ、暇な身さ……今度会ったら、挨拶くらいはしてくれよ?」

 

『カルマギア05−2:トライアームクロウ・ショットバージョン』を近くのビルに発射し、ウィンチで巻き取ってその場を去る。

 

オ・ルボワール(ごきげんよう)!可愛らしいお嬢さん!」

 

これが後に愛弟子となる、陸八間アルとの出会いだった。

 

 

 


 

 

 

「それにしても高校生になるやいなや、いきなり俺のところに来て『私を月下美人なアウトローにしてください!』って言ってきたのは流石に驚いたよ。」

 

「なんで今蒸し返すのよ……!」

 

射撃体勢に入りながら顔を抑えるアル。

 

「あまりにも面白すぎてさ、今でも覚えてんのよ。それはさておき……そろそろやるか。」

 

袖口から大量にカードを取り出し、それらをシャッフルしながらアルと距離を取った上で叫ぶ。

 

「今からランダムにカードを投げるから、それを当てつつ撃ち落とす!それが今回の特訓だ!」

 

「絵柄まで!?」

 

「スコープあるなら余裕だろ!ほら行くぞ!」

 

手首のスナップを効かせ、絵柄の面が彼女に向くように回転させながらカードを投擲する。

 

「ちょっ、回転させるの!?ああもう……ダイヤの3!」

 

うだうだ言いつつも、しっかりと命中させるあたり……

 

やっぱ一流だよな陸八間さんは!

 

だが無意味だ。

 

「残念!正解はハートの5!」

 

少し回転を緩めて投擲。

 

「……クラブの(ジャック)ね!」

 

ヒット。

 

……これは流石に意地が悪すぎただろうか?

 

「残念!クラブの(キング)なんだなこれが!」

 

「あまりにも難しすぎない!?」

 

「スコープ使っても豆粒な群衆の中から目当てのやつだけを撃ち抜く想定だとでも思えば身が入ると思うぞ!」

 

「気合以前に視力の問題じゃないかしら!?」

 

口を動かさず手、目、そして頭を動かせ!

 

……やっぱこっちに伝わらないから口も動かせ!

 

「そら行くぞ!次!」

 

今までとは段違いの速度と回転でカードを投擲する。

 

「は、速っ!?しかもこれ……白紙(ブランク)?」

 

この速度でも撃ち落とすか……!

 

流石だ、陸八間アル……!

 

当てればな。

 

「お生憎様……クラブの(エース)でしたあ!」

 

「2回目からあまりにも悪意が強すぎない!?」

 

「よく考えろ?戦いの場において敵が親切なんてこと、あり得ると思うか?」

 

「……ないわね。」

 

でしょ?

 

だから必要なんですよ、理不尽難易度が。

 

「オーケー、次は曲げるぞ!」

 

「曲げるってどういうこと!?」

 

「直線で飛ばしてたけど、次からは上昇したり落ちたりするってこと!勿論、直進もするし緩急もついてる!」

 

「難易度に実績が追いつかないんだけどー!?」

 

ほら泣くなー、次行くぞー!

 

胸を張って生きろ。

 

己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。

 

歯を食いしばって前を向け。

 

君が足を止めて蹲(うずくま)っても時間の流れは止まってくれない。

 

共に寄り添って悲しんではくれない。

 

だから必死で今鍛えるんだよぉ!

 

 

 


 

 

 

時は進み、夕暮れ。

 

「もう、限界……!」

 

顔面から地面に倒れ込みそうになったアルを抱きかかえ、手元のスポドリを飲ませる。

 

「おーい、毎度見慣れた光景だが大丈夫か?」

 

「大丈夫だったら、倒れたりしないと思うわ……。」

 

「おいおい、いつもの見栄張りアルちゃんはどうした?」

 

顔は見えないがおそらく赤面しているだろう。

 

何故分かるかって?

 

それは……

 

俺は、賢い!

 

まあ、イケメンだからね。

 

抱きとめられて赤面しない子の方がおかしい……とまでは言うつもりはないが、大抵の女子なら堕ちる自信がある。

 

まあ、キヴォトスで情報を抜き取るためにハニートラップ覚えて損はないですし?

 

「そんじゃ、特訓の成果を確認しに……密猟者潰すぞ!」

 

「いきなり物騒すぎない!?」

 

「いいじゃんいいじゃん!俺が楽しければそれでいいじゃん!」

 

右の刀をブンブン振りながらアルにダル絡みする。

 

ですけど、あの、アルさん?

 

いつまで起き上がらずに抱きとめられた状態でいるんですかねぇ……?

 

「どうせならさ、終わった後に写真撮ろうぜ?……月の下で撮ってさ、見せてくれよ、月下美人さん。」

 

「〜〜〜〜〜!?!?」

 

突き飛ばすように俺から離れたアルは赤みが引かない顔のまま、高々と宣言する。

 

「……しょうがないわね!そんなに私に見蕩れたいって言うなら、見せてあげないこともないけど?」

 

「ハハハッ、いいねぇ!蕩れさせてみろよ、陸八間アル!」

 

高笑いをしてみせ、俺も彼女を煽り立てる。

 

「だとしたら、さっさと行くぞ。戦で重要なのは先手を取ること。わからん殺しで叩き潰す!」

 

「ええ、援護なら任せなさい!」

 

「じゃあ、目的地まで復習していくぞ!敵を探すために必要な呪文はレベリオ!できるよな?」

 

「できないわよ!?」

 

ですよねー、これゲームのやつだったわ。

 

「……そういえばさ、アル。」

 

「あら師匠、どうしたのかしら?」

 

「さっき抱きとめたときなんだけどさ……。」

 

その言葉を告げた瞬間、アルの顔から表情が消える。

 

何故?何故?何故?何故?何故?何故?

 

ああ……理解できない。

 

「何かしら?重かったの?それとも他に何か?」

 

「まあ、異性な手前、体への接触には配慮してきたんだけどさ……アルって実は、めちゃくちゃスタイル良かったんだな。」

 

「……ど、どういうことかしら?」

 

「いや、今まで愛弟子としてしか接してこなかったから気づかなかったけど、アルも女性なわけで……好きな人とかできたら教えてくれよ?できるだけ相談に乗るからさ?」

 

彼女も年頃の娘である以上、色恋沙汰が絡んでくることもあるだろう。

 

そんな時は師匠として良い結果になるよう応援しよう、俺はそう決意した。

 

「……そう。分かったわ。」

 

……不機嫌になったんですが?

 

なぁぜなぁぜ?




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは弟子の恋愛に寛容である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「やってられませんよこんなの!」「ま、まあ、奇抜な発想が必要な時もあるからさ?」「銀行でアイドルライブを開いて人ごと強盗がですか!?」「俺が悪かった」

キヴォトスがない世界線で神戸でミカに出会う話を考えた。
勢いで台湾行きそうだし。
それを見て主人公もバイトを必死で探すんだよね。
この世界線、なんか二人とも中国人アーティストにハマってそうだな……
……いーあるふぁんくらぶだコレ!?

課金は嫌いだ
運がドツボに嵌ったら(出費が)痛いし
(爆死で)顔が濡れるのがいやだし
確定演出は熱い(狙い通り引けるだなんて言ってない)し
集めた石で回してる方が楽しいし
だから課金なんて無くなっちゃえばいいんだ

※ちなみに作者は無課金勢です。


アビドス高等学校。

 

キヴォトス社会の縮図にしてクズのカイザーの魔の手を振り切れたとはいえ、まだ本命の借金は健在であり、新入生が入る見込みが薄い。

 

つまるところ、未だに詰みかけの状況を脱却できてはいないのだ。

 

「だからこそ、今でも打開策は必要……そういう意味じゃ、お前の危機感は本当にいい方向に作用するとは思う。だがな……。」

 

アビドスから少し離れたファミレスで、俺はココアを片手にアヤネの愚痴を聞いていた。

 

「うん、辛いよな。他の連中が真面目にやってくれないの。」

 

「はい……!」

 

ちょっと女子〜、アヤネちゃん泣いちゃったじゃん!

 

「ちなみに聞かせてくれ。今回はどんな案が出た?」

 

「銀行強盗、金椀、ハーメルンの笛吹き男、写真集……もう、嫌になりそうなんです……!」

 

「うん、サラッと俺も巻き込まれそうになってたね?」

 

「はい……。」

 

本当に止めてくれて助かった……

 

「よかったのか。ホイホイついてきて」とか絶対にやりたくねえ……

 

「大体さ、俺が先導したら確実にどっかで襲撃されるんだよ。絶対アビドスまで誘導とか無理だぞ?」

 

「いや、そこなんですね……?」

 

「まあ、モテるのは事実だし。」

 

嬉しいのは確かなんだが、やっぱね、唯一の男子だからってそこまで狂うか?って思いは拭えないのよ。

 

やっぱ、人気者って罪なんやなって……

 

「それで俺を頼った、と……でもさ、俺だって相談されたからには真剣にやるが、まともなアイデアが出る保証はできないぞ?」

 

「それでも大丈夫です、と頼んでいる手前は言いたいんですが……できれば、そういう案は口には出さないでほしいです。正気を保っていられる自信がないので……。」

 

「Oh……。」

 

どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!?

 

対策委員会……お前らのせいでアヤネちゃんのメンタルはボドボドダァ!

 

お前を殺す(デデドン!)

 

……失礼、打ちひしがれたアヤネちゃんの顔を見ていたらついつい怒りが抑えられなくなってしまった。

 

「まあ、今日は予定が空いてるから呼んだんだろ?ゆっくりと話すことにしようか……なんか頼むか?俺が持つから、遠慮しないで言ってくれ。」

 

「えっと、それは流石に悪いですよ……。」

 

「じゃあ俺が二人で食えるようなもんをチョイスするか。すみません……ポテト一つ。」

 

とりあえず大皿のものを用意して、と。

 

「それじゃあ、早速始めようか。1時間や2時間じゃ、到底終わらなそうだし。」

 

 

 


 

 

 

幕末期の福井藩に招聘された熊本藩士、横井小楠は経済において倹約よりも大いに商業を興せと説いたらしい。

 

「とはいえ、現状アビドスは土地もほとんどないし、金がないから借金を抱えてるわけだしな……今握ってる手札で勝負をするしかないわけだ。」

 

「そうなんですよね……あと、横井小楠って方はいったい……?」

 

「キヴォトスの外の偉人だよ。少しマイナーだけどな……。」

 

キヴォトスで幕末の偉人ならどれくらいまで伝わるだろうか?

 

……坂本龍馬でもギリな気がするな。

 

「ともかく、取り敢えずは何かを切り売りしていくようなやり方だといつか限界が来るから、何かしら継続的に資金が入ってくる物があった方がいいと思うんだが……。」

 

「……。」

 

アヤネ、すごい勢いでメモを取ってんな……。

 

箸でポテトをつまみながら偉そうにならないように講釈を垂れる。

 

まあ、それなりに小遣い稼ぎはしてるから参考にはなるんじゃないだろうか。

 

「その上でアビドス近郊にある『強み』ってもんを探さなきゃならねー……何がある?」

 

「……砂?」

 

「重症だな……。」

 

マジで何もないんだな……

 

埼玉県なんてレベルじゃねぇぞ……?

 

「もういっそ砂でなんとかするか?具体的には野球場に砂を卸したり、砂場の砂……これ、どんくらい砂の採取地に金が入るんだろ?」

 

スマホで検索すると、売値は1立米数千円ってところの模様。5千円レートで考えると百万円稼ぐためには200㎥……

 

しかしここまで来ると重機のレンタル代も発生するから……コレは1台月極10万円前後……だとすると100万円稼ぐにはさらに20㎥追加で220㎥。

 

……深さ1mで掘ったとしたら一戸建て2軒分の広さだ。

 

普通に大工事じゃねぇか。

 

「……徒労って気がしなくもないな。他の考えるか。」

 

「そうですね……。」

 

やっぱり、砂で色々作るしかないか?

 

サンドアート……もしくは砂のお城?

 

砂で絵を書くのは難しいか……砂漠は広いとはいえ色とりどりなわけではない。

 

だとすると、ギネス認定のデンマークレベル(20m)は欲しいが……労力が……人手が……費用が……

 

そこまで来ると図面も必要になるだろうし、相応の技術が必要となる。

 

勿論デザインが論外だと人は来ない。

 

アビドスの人材だと……

 

「……あれ?これ詰んでね?」

 

「……はい……。」

 

何故だろうか、なんて考えるまでもない。

 

既に切り売りを限界までやったせいで金策の元手が存在しないのだ。

 

「うーん、これどうすっかねぇ……。」

 

「だとしたら、デジタル系統でしょうか?ミレニアムの独壇場という気も、しなくはないですが……。」

 

「それはマジでそう。なんであっこまで技術方面がミレニアムに頼りっきりなのかねぇ……。」

 

ミレニアム以外の3大学園でであるゲヘナとトリニティの方が、技術は発展しそうだが……。

 

戦争は技術を発展させ、平和は文化を育てるという言葉をどこかで聞いた気がするが、なんでバチバチに嫌悪し合っているあの2校で伸びないのか……

 

ミレニアムも馬鹿な発明ばっかだし……

 

とっくにキヴォトス(この世界)がディストピア未満の何かであることなんてとっくに理解しちゃいるが、実質的な進歩が0なのは流石にどうなのよ?

 

学生が主体で行政握ってるのも疑問だし……

 

いや、今はそれを考えるべき時ではない。

 

「となると、クリエイター的な方向性……ノノミの案に寄ることになりそうだな……。」

 

「……。」

 

「……大丈夫か?」

 

「は、はい!ただ、丁寧に可能性が潰されていくなーと思いまして……。」

 

まあ、個人の感想だが経営は思いついたプランを片っ端からできない理由を探すって感じだしなあ……

 

にしたって今回はできない理由が多すぎるが。

 

「うーん……ローコストで始められて継続的に金が入ってくる、そして元は十分に取れるようなもの……カイザーにされたことの暴露本?」

 

「キヴォトスが揺らぎますよ!?」

 

「へーきへーき。カイザーは潰してもいいと思うんだ。さんざん面倒事を持ってきやがったし、あの猿共。」

 

「私怨!?」

 

やりてー、めっちゃカイザーの集会に行って

 

「私に従え、猿共。」

 

って言ってやりてー!

 

何なら重役……願うことならトップをぺしゃんこにしてぇー!

 

「……悪い、少し浸ってた。」

 

「とんでもなくカイザーを嫌ってますね……?」

 

「まあ、そりゃな……アレより嫌な気分にしやがるの、黒服んとこだけじゃないかな?」

 

アイツらマジでもげろ。

 

いや、やっぱもげるな、俺の正体を把握し切るまでは。

 

赤いババアは死んでよし。

 

そんな感じかな。

 

「うーん……それにしてもやっぱ、とっさに聞かれてもいいアイデアは思いつかないかな。」

 

「ですよね……すみませんでした、わざわざお時間を取らせて。」

 

「それについては気にしてないから、別に構わない。元々ファンボーイとして支援はさせてもらうつもりだしな、スケジュールをやりくりするくらいはどうってことない……色々と考えてみるわ。」

 

すっかり冷えた、まだ大量に残っているポテトを処理に入る。

 

「困ったらいつでも呼んでくれ。役立たずなりにできることはやるからさ。」

 

流石に徳政令は無理だが。

 

 

 


 

 

 

「いらっしゃいませー……きゃあっ!?」

 

銃声が聞こえたのと同時に俺は携帯しているリュックから折りたたみ傘を取り出してポテトに硝煙がかからないようにした。

 

「カルマ先輩!?」

 

「伏せろ。」

 

「え……!?」

 

「いいから伏せろ。すぐに終わらせる。」

 

銃撃の発生源である大柄なスケバンはスカスカの店内に苛立ちを感じながらも、唯一いた俺たちに向かって歩みを進めてくる。

 

帽子を被ってサングラスをかけていた俺は伏せたアヤネに意識が向かないように応対した。

 

「おいテメェ、何見てんだコラ?」

 

「いやいや、随分と元気な可愛らしいお嬢さんが来たな、と思っただけですよ。」

 

連れは起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる。

 

そういった意味合いの弁明を挟んでから、俺は舌を回す。

 

「ポテトはいかがです?生憎、注文してから時間が経っているのですっかり冷めていますが……。」

 

「ふん、乞食をするほど金に困ってるわけじゃねぇよ。舐めてんのか?」

 

おだて失敗(ファンブル)……これは早急にリカバリしないとアヤネの胃痛が悪化する。

 

「いえ、そんなつもりは全く……ただ、食べ物は分け合って食べたほうが美味しいともいいますし、おすそ分けということであなたもどうかと。」

 

「……なるほどな。まあいらねえよ、テメェらが頼んだんだからテメェらで食え。」

 

一定の距離を取りながらスケバンは答える。

 

……マズいな、俺の正体に当たりをつけられてる。

 

今回はアビドス近郊ということもあって顔を隠しただけだったのが裏目に出たか……

 

相手もそれなりの強者なのだろう、容易に仕掛けちゃくれないか。

 

「……そうですか。それならお言葉に甘えて。」

 

ならば、こちらから仕掛ける。

 

ポテトに向き直り、箸で一本つまんで口に入れる。

 

「……オラァッ!」

 

スケバンが逡巡の後に手にしたショットガンを突きつける。

 

その銃口を空いた左手で押さえながら、俺はスケバンに説教をする。

 

「駄目じゃないか……わざと作った隙にホイホイ乗せられなかったのは高評価だが、攻撃を仕掛けるならその迷いは致命的だ。ま、お前の最適解は俺が七郷カルマだって気付いた時に大人しく退散すべきだったってことだ。そうすれば……。」

 

銃を捻って手を離させ、そのまま振り上げて顎に打ち付ける。

 

「一番痛くない方法でお縄につけたろうに。」

 

崩れ落ちたスケバンに瞑目して俺は惜しい、と思う。

 

環境が良ければもっと強くなれたかもしれないのに。

 

「……アヤネ、もう大丈夫だぞ?」

 

「……。」

 

「おーい?」

 

「……。」

 

え、マジで寝た?

 

「……面を上げい。」

 

「黄門様みたいな呼び方しないでください!」

 

「あ、起きた。」

 

というか、黄門様知ってんのか……。

 

 

 


 

 

 

「『水戸黄門』は1話完結が基本だが、実は1度だけ前後編で放送したらしいんだ。そうしたらメインの視聴者層のご老人方が『来週まで生きてられるか分からないのに前後編なんてやめてくれ!』ってクレームを出して、それ以降二度と前後編で放送しなくなったらしいぞ。」

 

「わざわざ解説ご苦労さまですね!」

 

状況要約。

 

アヤネがキレた。

 

以上。

 

「そもそも、あんな歯が浮くような台詞をよくもまあ誰彼構わず言えますね!?」

 

「やだなあ、ああいうのは策略か本気でしか言わないぞ?」

 

「……じゃあ、私にああいうこと言ったのはどっちなんですか?」

 

……アビドスに侵入したカイザーから開放したあとのアレか。

 

正直なことを言えば、(激しい感情の渦に飲まれている人や打ちのめされている人を落ち着かせる時の)癖で言ってしまったのは否めないが……

 

ファミレスを出てアヤネを送り届けつつスケバンを引きずりながら、俺はある策を思いついた。

 

「そうだな……。」

 

さり気なく建物の方へと寄っていき、アヤネの肩が壁に触れそうになる寸前で壁に……

 

 

ドンッ!!

 

 

「……どっちだと思う?」

 

「〜〜〜〜〜!?!?」

 

Oh!

 

アヤネさん俺の瞳WATCH!

 

カワイイ カワイイネ

 

「ハハハ、まあ、そこら辺は詮索しない方がいい夢見れるんじゃない?」

 

「カールーマーせーんぱーいー!」

 

「ウソウソ!好きに解釈すればいいさ。あ、あとこれ、最近アビドス近郊に潜伏してる可能性のある指名手配犯のリストだ。対策委員会の方にも共有、よろしく頼む。」

 

「あなたって人は……!貰いますけど!」

 

リュックから取り出した封筒を乱雑にひったくって、アヤネは歩くスピードを上げる。

 

「おいおい……ちょっと待てよー!」

 

……今気づいたが、これ対策委員会に俺のしたこと話されたら俺詰みません?

 

まあいいや、最悪逃げられる。

 

「寂しい独身男性にかまってくれよー、アヤネちゃんってばさー。」

 

「知りません!」

 

ニヤけ面を浮かべながら、俺は彼女に合わせてペースを上げる。

 

それでも彼女は顔を見せたくないからか、どんどんペースが上がっていく。

 

気づけば俺たちは引きずっていたスケバンへの配慮さえ忘れ、二人で街の中をひたすらに走っていた。

 

なお、この後に警察にスケバンを引き渡した時にスケバンが数千万の懸賞金がかけられていた凶悪傷害犯だったことを知ったアヤネの表情と素っ頓狂な声は、俺だけが知る秘密とさせていただこう。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマには口説き癖がある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「とあるブツが復活したから手伝ってくれ」「うへー、おじさんに何をさせる気?」「蛇狩り」「よーし行こっかー」

ラクレス……死ぬな……!
41話も溜めてあんなカッコいいセリフ吐いておきながら死ぬとか、ぜってー許さないからな!?
鮭を食え鮭を!

デカグラマトンで合体ロボを作ってみたいとは思うが、あれが合体したらとんでもない大きさになりそうなんだよね……かといって余剰パーツなんか作れるわけねーだろ!生物なんだから!戦隊ロボでもそんなこと……したわ!
でも、10体いるからなあ、まだ出揃ってない……10体?
デカグラマトンは合体したらキングオージャーになるのか……?


「……ねえ、カルマ?」

 

「ん?どうしたよホシノ?」

 

クレーン車で砂漠を爆走しながら俺は隣席のホシノの質問を聞く。

 

「なんで電磁石をぶら下げながら走ってるのさ?」

 

「アビドス砂漠には、本当に少量だけど砂鉄が混じってることもある……これが刀の素材として本当に良質なんだよ。」

 

「ふーん……って、今まで砂鉄を黙って持って行ってたの?アビドスの貴重な資源を?」

 

「あ」

 

しまった、墓穴を掘った……!

 

「うーん、これは流石に許容できないかな?」

 

「その刀は売ってない。殆どが業物、大業物だからそれなりの金額になるだろ……あ、流石に斬薙と穿突は渡せねーが。」

 

「いや、そこまで強欲じゃないけどさ……じゃあ今度から、それをこっちが刀を作ってって依頼を回すよ。砂鉄もおまけでさ?」

 

「……いいな、それ。要するに材料を用意して刀を得る……なかなかにいいアイデアだと思うぞ……モノカルチャー経済になりそうで怖いが。」

 

まあでも、元手となる金を稼ぐにはもってこいか?

 

先日アヤネと頭を悩ませた詰みかけの現状を打破する一手になるかもしれない。

 

「……他の子のこと、考えた?」

 

「ああ……この前、アヤネにアドバイスを求められてさ。その時のことも絡めて考えてた。」

 

「あー……この前、カルマに口説かれたってアヤネちゃんが言ってたのはそういうことだったんだね?」

 

「いや、口説いたつもりはないけどさ……って、は?」

 

あれれー?

 

なーんで事実が歪曲された上で対策委員会に伝わってるんですかねぇ?

 

……口止めし損ねた!

 

「最近だと、セリカちゃんとも遊ぶ約束したんだっけ?いやー、モテモテでおじさんは嫉妬しちゃいそうだよ。」

 

「そっちに関しちゃ否定はしない。まさか俺以外にも興味を持ってくれる人がいるとは思わなかったからな。」

 

「ふーん、ちなみにセリカちゃんを何にハマらせたの?」

 

「競馬」

 

ぶん殴られた。

 

「なんてもんに落としてんのさ!?よりにもよってセリカちゃんに!」

 

「落ち着け!競馬って言ってもギャンブルじゃなくてレースとしてだ!そもそも俺たちの年齢的に馬券は買えない!」

 

「そもそも、どうして競馬なのさ!?」

 

「キヴォトスの外でレースを見て……。」

 

嘘です、美少女アプリから入りました。

 

「……。」

 

そして恐らくバレてますねクォレハ……

 

「……ま、いいけどさ。」

 

あの、ホシノさん?

 

痛いです、凍てつくような視線がマジで痛いです。

 

「セリカちゃんがギャンブルにハマったら、カルマの責任だからね。」

 

「分かったよ……あと、別にアヤネは口説いてねぇからな。」

 

「どうだか。カルマはすぐに女の子をその気にさせるようなことを言うからね、私は信じられないかなー……。」

 

うわお……本気でそんなつもりはないのにホシノの猜疑心にはしっかりとロックオンされていますねぇ……

 

マジでどうしてこうなった。

 

「いや、分かるよ?おじさんなんかよりアヤネちゃんやセリカちゃんの方がかわいいと思うし、おじさんよりもスタイルいいしねー……。」

 

「らんす、個性なんだからそこを比べるつもりもねーが、顔なら一番好みだと思うぞ?」

 

「スタイルについては言及しないんだね。」

 

「どう答えても蔑みの視線を向けられる未来しか見えねぇからな。」

 

未来視は知り合いの領分だが、別に未来予測は俺でもできる。

 

「そろそろ、真面目な話もしとかないとな……今回討伐に向かうのは、ここ数年になって発見された『ビナー』っつー蛇型の……機械だ。」

 

「機械って言葉にやけに含みがあったけど、何か普通と違うの?」

 

「……ヘイローがある。これが意味すること、分かるよな?」

 

「……うへー、面倒どころじゃあ、ないね。」

 

要はカイザーの雑魚よりも圧倒的に堅い。

 

「更にはエグい威力のビームを含めた火器類を使ってくる。1年前は、ボコボコにされながらも大破させるのがやっとだった。」

 

「どんな化け物なのさ……。」

 

なんか1年前も報告した時にこんな反応されたな……

 

みんな、俺のことなんだと思ってんのさ?

 

「無敵の狂人だけど。」

 

「心の声への突っ込みはメタいからなしにしようぜ?」

 

この反応が一番メタいのだが。

 

「というか、大破したならわざわざ『狩る』必要はないんじゃないの?トドメって言うならまだ分かるけど……。」

 

「実を言うと、最近わかったことだがビナー等のヘイロー持ちの大型機械……『デカグラマトン』と銘打った連中には自己修復機能が備わってる。」

 

「あー……それ大丈夫?本当に倒せるの?」

 

多分なんとかなる。

 

多分、きっとメイビー……

 

ケセド倒せたしへーきへーき(復活しないなんて言っていない)!

 

「まあ、いざとなったら俺が守るから安心しろよ。」

 

「……カルマ、本当にそういうところだよ?」

 

「何の話だよ?」

 

目的地が近づいてくる中、ホシノは俺の方へと体を寄せてくる。

 

「カルマが言う通り、本当に口説く気はないとしても……カルマみたいな人に言われると、女の子は勘違いしちゃうものなんだよ?言われたのがおじさんじゃなかったら、カルマでも唇くらいは奪われてたんじゃないかな?」

 

「……肝に銘じとくよ。それより、ついたら顔パス、ほとんど休むことなく戦闘に入るから準備はしておいてくれ。」

 

「つれないなー……でも、仕事だもんね。」

 

ショットガンに弾薬を装填するホシノ。

 

絵になるねぇ……

 

「それにしても、カルマが戦いの時に落ち着いてるなんて珍しいよねー。おじさん、びっくりしてるもん。」

 

「……まあ、過去にボコされた相手だしな。」

 

彼女にも知る権利があるかもしれないが、俺は言うつもりなど毛頭ない。

 

それは俺が告げるべきことではないし、知ろうとしてもいけなかったことだからだ。

 

ただ一つ、考えることが許されるなら。

 

傷一つ与えられずに死んだ彼女は、どんな思いだったんだろうか。

 

 

 


 

 

 

ことの発端は砂漠地帯の調査の際に、過去に大破させたビナーの目撃情報が寄せられたことだった。

 

まあ、当時も自己修復に散々苦しめられていたからどうせ復活するんだろうなあ……と半ば諦めの境地に達していたからどうってことはなかったが、その時の他の奴らの慌てっぷりは最高だった。

 

危機意識のなさがにじみ出てたね、それで行政握るとかふざけてんのか?

 

更には警護の担当者全員ダウン。

 

弱すぎなんだけどマジで!

 

防衛室の名が泣くぞこれ……

 

「そんなわけで、今回の討伐パーティーは俺とホシノの二人だけです!」

 

「なんて死地に連れ込んでんのさ!?」

 

「いや、道連れにちょうど良さそうだったからさ……おい!盾で殴るなよ!」

 

ガンダムかよ……

 

「小鳥遊はビナー戦に行っても、九割九分死なんと判断した。俺も同様の理由でな。俺の新技は役に立……。」

 

「私は!?私は1%の致死率があっても連れて行くの!?」

 

こちらに食ってかかろうとしたホシノだったが、突如地面が揺れだしたことで失敗して転ぶ。

 

それに対して俺は彼女の手をつかんで引っ張り上げながら、大きく後ろへと跳んだ。

 

轟音、砂煙、そして駆動音。

 

先程まで俺たちが立っていた地点から、ビナーが一撃で屠り去ろうと飛び出てきた音だった。

 

「……AIの学習速度を舐めてたわ。こりゃキツい戦いになるぞ。」

 

「あれ、飲み込まれたらどうなるんだろ……。」

 

「砲門になってるから、最奥部まで行くと熱で焼かれるし撃たれる前に出ないとアウト。取り敢えずは相手の攻撃を……。」

 

そう言いながらもビナーから切らずにいた視界は、あの蛇が再度地中に潜ったことを確認していた。

 

(まさか、モグラ叩きを仕掛ける気かよ!?)

 

口の中に入ればまずアウトな現状、出てくるギリギリの場所で待機して出てきた瞬間にタコ殴り、なんて芸当ができるわけもない。

 

「……取り敢えず、俺がお前を抱えて移動する。だから、できそうだったら俺の肩越しでもいいからビナーを射撃してチマチマ削っていくぞ。」

 

「悔しいけど、そうするしかなさそうだねー……カルマみたいに、攻撃がどこに来るか分かるわけじゃないし。」

 

やれやれ、新技ブッパでなんとかなる相手ではなくなってしまったらしい。

 

人口の神が叩き出した結論がモグラ叩きなの笑う笑えない。

 

ふざけんじゃねぇよ!

 

 

 


 

 

 

「ダメだね、遠すぎる……カルマ、もう少し近くにいることってできない?」

 

「できるならとっくにやってるよ……!」

 

作戦はうまくいっていない、うまくいく見通しが持てないとしか言いようがなかった。

 

そもそも、高速でとある物体が地中から突き出てきた場合、出てきた部分以外の土壌もダメージを受ける。

 

つまり、ギリギリ近くでは崩落に巻き込まれてビナーの長すぎる胴体の後方に叩きつけられるしかないのだ。

 

「今のところ、感じる殺気で避けちゃいるが……これなら、殴れる間合いに行くよりホールインワンの方が楽……!」

 

「か、カルマ……?」

 

どしたのホシノ?

 

震えてるじゃない。

 

(夜に入った砂漠の)極寒のせい?

 

それとも恐怖?

 

「ねえカルマ、まさかとは思うけど……。」

 

「なあホシノ、『一寸法師』って昔話は知ってるか?」

 

「……おじさん知らないし、知りたくもないかなー……でも、なんでそんな童話が出てくるの?」

 

「砲身は人二人なら余裕の広さ、だったら一気にカタをつける……取り敢えず、弾薬は……消費してないか。」

 

何をするって?

 

そりゃあ、デカブツ退治の常套手段(内部で暴れ散らすん)だよ。

 

「つーわけで、次に出てくる地点……の口の部分は、ここ!」

 

「カルマ!?あんな化け物の口の中に突っ込むのはやめた方がいいとおもうんだk」

 

最後まで言い切らないうちにビナーが飛び出てきて、俺とホシノを飲み込む。

 

それを確認した上で俺はホシノを離し、上方へ向けて刀を四方八方へ振り回しながら叫んだ。

 

「今だ!撃って撃って撃ちまくれ!」

 

「ひあああああ!?」

 

流石はホシノ、パニクりながらも仕事はこなす……

 

「俺も仕事をしないとね……『霧穿』!」

 

不安定な状態ながらもコアに向けてしっかりと突きを放ち、その反動でホシノの重さを背に受けながらも咆哮を上げるビナーの口から飛び出す。

 

のたうち回ったビナーが爆発四散してから10秒後、俺たちは『カルマギア09:バックパラシュート』を使って地上に降り立った。

 

 

 


 

 

 

「あの、ホシノさん?」

 

「……。」

 

「いや、確認取らずにビナーの口に突っ込んだのは謝るからさ……?」

 

「……。」

 

説明しよう!

 

ホシノが拗ねた!

 

以上!

 

「……カルマ。私、正直死ぬかと思ったよ?」

 

「はい……。」

 

事実だから言い返せねぇ……

 

「でもさ、俺が結果として助け出したわけだし……。」

 

「マッチポンプって知ってる?」

 

「すみませんでした。」

 

ん?

 

おじさんが横文字?

 

……妙だな。

 

「ビナーと同じ目に遭いたい?」

 

「僕は嫌だ!」

 

「よーし、口開けよっかー。」

 

「ヤメロー!シニタクナイ、シニタクナーイ!」

 

なんとかしようとしたけど大失敗した。

 

(ブッブー!)これでは、いけませんね。

 

「そっかー、じゃあ……正座。」

 

「アッハイ」

 

なんで正座するのかって?

 

いくら俺でも関節は人並みの耐久性だからだよ。

 

「カルマ、一応聞くけど他の子……特にアビドスの子にはこういう死地に踏み込むようなことに巻き込んでないよね?」

 

「……はい。」

 

「……。」

 

「あがっ!?」

 

撃ったね……!?

 

「セリカちゃんから聞いてるよ?カタカタヘルメット団のアジトを割るためにセリカちゃんを巻き込んだってね。」

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

ヤバイよヤバイよ、バレてるよ……

 

「いや、死地というほどのものじゃ……だってヘルメット団だぜ?拘束しようなんて思考もなかった連中に遅れを取るわけねーだろ。」

 

「生物としての格の違いに関して話すつもりはないよ?」

 

撃ったね……

 

二度も撃った……!!

 

親父(詳細不明)にも撃たれたことないのに!!!

 

「カルマさ……おじさんが言うのも何だけど、そんな綱渡りみたいな生き方してたらロクな死に方しないよ?」

 

本当にお前が言うのも何だよ。

 

何なら一回、綱から落ちてんのよお前。

 

よく今も生きてられてるなだよ、お前に対する感想。

 

「元からロクな死に方するとは思ってない。別にどう死のうが、今更気にしないよ。」

 

何なら一番無様で滑稽で、でも周りには知れないように死にたいと思ってる節もあるからな俺……

 

「……じゃあ、こうしよっか?今度から、誰かを危険な場所に巻き込まない……そして、一人でもなるべく安全に気を使う。キヴォトス最強ならできるよね?」

 

「お前は俺の親かよ?そもそも、一人の時まで制限する必要……。」

 

「ビナーに飲み込まれるのをもう1回見るとか、心臓に悪いにもほどがあるよ。」

 

「せやな。」

 

約束しといた。




「Violet Archive」の注意事項
・七郷カルマは畳の上で死ぬ予定はない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「あのさ、アリス」「何でしょうか?」「一応聞くけどなんでドアが壊れてるんだ?」「スーパーノヴァが入り切りませんでした!」

エイプリルフール(12月)ネタ
楽曲 ぼくカルマー


(前奏)

かっか、かっか

(間奏)

かかっか かっかか かかカルマ



……何やってんだ俺は。

マジで難産でした。
引き出しが少ない、個別ルート書くのむずくなってきた……

やってみせろよカルマ!

なんとでもなるはずだ!

ネタ切れだと!?

カルマ「いや、ネタ切れなのは俺じゃなくてお前だろ」

ウソダドンドコドーン!


「師匠!アリスは新しい技を覚えたんです!」

 

「……マジ?」

 

「大マジ!」

 

拝啓、天国(?)にいるだろうお母さんへ。

 

俺は今日、天上天下唯我独尊したアリスに殺されるかもしれません。

 

おかしいなあ……その境地に辿り着くとしたら、俺が一番乗りだと思ってたんですが?

 

「ちなみに、どうやって覚えたんですか?」

 

「SAOです!」

 

……アリスは剣が1本だから初期の方、もしくは2つ目のゲームからだろうか?

 

「……技名は?」

 

「『シャープネイル』です!」

 

「3連撃!?」

 

連撃なんて教えてねえぞ!?

 

飲み込みが早いとかのレベルじゃない……

 

「新たな技を覚えたアリスは、今日こそ師匠に勝ちます!勝負です!」

 

「2万年早いぜ!」

 

壊れたドアを更に破壊しながら俺はアリスを鍔競り合いをしつつ家の外に飛び出て、車が出払った駐車場に出る。

 

「室内で暴れられちゃ、たまったもんじゃねーからな……少しは場所を考えろ。」

 

「先手必勝です!」

 

心構えを覚えているのはいいんだ、問題はそれを場所も考えずにやっていることなんだ。

 

「魔力充填を開始……アリス、行きます!」

 

斬伐の鍔を上下させて刀身を研いだアリスは、体ごと回転をかけて空気を一閃する。

 

「威力は十分、だが振りが大きいな。まあ、この間合いに慣れない相手には通じるかもしれないが……。」

 

いつもは左に握っている刀を右手に持ち、俺はその斬撃を左の二の腕で刀身を押さえながら受け止める。

 

「俺に通じる手じゃねえよ。」

 

横向きに回転してアリスの剣をいなしつつ、俺はアリスの横を駆け抜ける。

 

そのまま後ろに回って首筋を狙って回転しつつ刀を振り抜く。

 

「させません!」

 

アリスも剣を振る勢いで体を反転させ、両手で握った斬伐で受け止める。

 

「ぐっ……!」

 

この体勢で受け切るか……

 

流石は馬鹿力。

 

「……これを試してみようか!」

 

引いた刀を逆手に持ち替え、ボクシングで言うフックのような挙動で細かく、そして鋭く斬撃を放つ。

 

「攻撃のテンポが早すぎます……!」

 

「何言ってんだ、連射銃の方がまだ早いだろ?」

 

アリスが飛び退く。

 

片手で握った剣を背中の方へと引き絞る彼女を見据えながら、俺は刀を左手に持ち替えて