錬金術士は働きたくない! (天枷美春)
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プロローグ

『旅に出ますわ、一緒に行きましょう?』

そんな幼馴染の一言を拒否しなかったので、ボクは、レティシア・ソルイルナは、大型荷車(キャラバン)で移動をしている。

たった二人でだ。

序にいうなれば、ボクが二人だけの旅団(キャラバン)の団長であるらしい。

何でかなー。

 

 

「レティ、食糧が見えたので狩って来ますわ」

 

「あー、うん。お願いー」

 

 

そう言って、ボクを誘った張本人が馬車の外へと飛び降りる。

お嬢様風に話す彼女はアリア・エストレシア。

あくまでもお嬢様風、アリアの家は貴族であったらしいのだが、数代前に没落したので似非お嬢様である。

心の持ち様は貴族で有り続ける為に、彼女の家は貴族風の口調で話をするらしい。

まあ、見た目的にも似合っているのでボクは何も言わない。

話を戻すが、中々にワイルドである。

得物さえあれば、否、得物が無くても工夫を凝らし狩ってくる。

荷車を止めて出迎えの準備をしていると、この辺りに生息している割と美味しい大型草食竜の首が刎ね飛ばされていた。

 

 

「狩りましたわ!」

 

「ん」

 

 

剣に血を付着させながら良い笑顔でボクを呼ぶ。

流石に解体作業を住居も兼ねる荷車の中でやる訳にもいかないから外に出る。

アリアと旅をする様になってから、インドア派(ひきこもり)のボクも随分とたくましくなった、なってしまったと苦笑する。

 

 

「しかし、見事に首を落としたね」

 

「貴女が作った【研磨鉄粉】のお蔭ですわ。骨を加工しただけの剣が、鉄剣の切れ味になるんですもの」

 

「切れ味と技術は別だと思うけどねー」

 

 

先ずは血を瓶へと溜める。

幾ら草食で大人しく、自然界の最下層に居る存在であろうとも竜種は竜種、質が低くとも全ての部位が素材になる。

そして、材料をどこまでうまく扱えるかがボクの錬金術(ちから)にかかっている。

まあ、大層に言った所で日常に少し役立つ程度の物しか作れないのだけど。

 

 

「肉は塩漬け、内臓はその辺の水で洗って、皮は貴女の釜に……ですわね?」

 

「うん。幸いにもすぐ隣は【海】だ、塩にも、塩水にも困らないから贅沢にいこう」

 

「はいですわ」

 

 

ボクの錬金釜に皮を放り込む。

皮をなめす技術も道具も無いので、肉や体液を綺麗にすると言った前段階の状態を作る。

なめした物に比べれば多少値が落ちるとは言えども、十分な交換材料として役にたってくれるのだ。

と言う訳で、洗う程度であるが一番初めに皮を処理しておく。

 

 

「…………偶には新鮮なお肉も食べたいですわ」

 

「くふふ、内臓はどうしても足が早いしね。でも、新鮮な内臓(モツ)を食べる事が出来るのは、狩った人間の特権だよ?」

 

「解っていますわ。ですが、毎度塩漬けのお肉では、飽きてしまいますの」

 

「確かに。冷やす物があれば鮮度も落ちにくくなるんだろうけどね。でも、そんな物を買える程、資金が無いよ」

 

「…………作れませんの?」

 

「無理」

 

 

とても残念そうな顔をされる。

確かに、有ったら便利そうな道具であるとは思えるのだが、錬金術で作るのには知識も技術も道具も皆足りない。

大体、釜一つで何を行えと言うのか。

尤も、超が付くレベルで一流の錬金術士は、本当に釜一つで何でも作るらしいのだが、それをアリアに言うと色々と勉強させられそうなので黙っておく。

 

 

「…………そうだね。偶には好きな部位を食べれば良いんじゃないかな?」

 

「まあ、言ってみる物ですわ!」

 

 

取りあえず、好きな物を食べさせて機嫌を良くさせておこう。

時々野生動物並に勘が働くから、気づかれない様にしないと。

 

 

「あと少しで村の筈だからね。全速力で進めば、新鮮なお肉で、何か良い物と交換してもらえるかも知れない……1日程度なら、ボクの魔力ももつしね」

 

 

保存の道具は無いが、保存させるのに適した魔法はある。

と言っても、初級魔法の【アイス】を、魔力が続く限り使うだけなのだが。

 

 

「でも、解ってるよね?」

 

「ですわ。その一日は、全力で貴女を守り抜けば良いのでしょう?」

 

 

ボク達錬金術士は、錬金術の媒介として素材以外に魔力を使う。

その他にも、製作した物に魔力を込める事で効果を高めたりする事が出来る。

そんな中、一日中別の事に魔力を使うとなると、戦闘はおろか本業すら出来ない。

まあ、アリアがボクを全力で守ると宣言した以上、ボクと食料の為に本当に全力で戦うのであろう。

そうだとすれば、きっと凶暴な竜が現れようとも倒してしまうだろう。

 

 

「うん、そう言う事だね。ま、何事もない内に通り過ぎていくのが一番さ」

 

「ぶもー!」

 

 

そうしてボクはこのキャラバンを牽く【ぞう】のモスに合図を送る。

モスも言語を理解しているのか、力強く返事をして歩む速度を上げる。

小さな家と言っても過言でないこの荷車を、たった一匹で引っ張るのだが、ぞうとしてはまだ子供であるらしい。

角と鬣もまだ成長途中のモスだが、獣を狩るのを手伝ってくれる程度には頭がいい。

 

 

「んじゃ、次の村まで、ぜんそくぜんしーん」

 

「ですわ」

 

 

――――――今よりはるか昔、世界は今ほど単純では無かった。

生きて居る事が当然であった時代、人が忘れた事が多かった時代。

それらすべてに終わりが来た一日をして、人々は【黄昏】と呼んだ。

幾年が過ぎた今は、人が、否、生物が生命(いのち)を謳歌する時代である。

厳しくも、美しい事では無いのだろうか。

 

 

「『――――――黄昏に沈みゆくこの世で生きる事も』」

 

 

古い、とても古い(ウタ)を口ずさみ、ボク達は海沿いの寂れた道を進むのであった。

 




人物紹介

レティシア・ソルイルナ
主人公
種族:人間
役割:錬金術士/キャラバンマスター
名前の響きと性格が合っていない少女その1
元々ボクっ娘が大好きなのさー!
初期コンセプトは『くふふ系ボクっ娘』
と言うか、私のテンプレキャラだから、ブレないと思う。


アリア・エストレシア
種族:人間
役割:戦士/商人
名前の響きと性格が合っていない少女2
初期コンセプトは『野生系お嬢様』
書いた感じ『ツンしないツンデレ型野生系お嬢様風バトルマスター』へとブレすぎた。
キャラ付けは、MHのプレイヤーハンター。


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1話

「小さな村なのに、雑貨屋があるんだねぇ」

 

「ええ。この村は、お嬢さんの様な旅の人が通る道でもあるからね」

 

 

海沿いの小さな村にある雑貨屋で、ボクは物資の補給をしていた。

成程、旅人が通る道と言うのも頷ける品揃えだ。

何時もはアリアも一緒に行っているのだが、全力の護衛をしてもらったので、先に休憩させている。

 

 

「必要物資以外もどうだい? お嬢さん達、結構儲かっただろう?」

 

「くふふ」

 

 

否定はしない。

野生の動物である大型草食竜、名前はブロスと言うらしいが、矢張り人の生活圏内には入って来ないらしい。

狩るには村から遠出しなければならないし、遠く成れば成るほどに危険な生物に出会う確率も多くなる。

家畜も簡単につぶせる物でもないし、中々に新鮮な物を食べる機会は少ないらしい。

保存食にしないで正解であったと思う。

勿論、同じような理由で素材の持ち込みも喜ばれた。

 

 

「血は流石に売れなかったけどねー」

 

「そう言った材料を必要とするのは魔法使いとか、その辺じゃないかな?」

 

「くふふ、違いない」

 

「でも良かった。今丁度この村には、旅の【魔法使い】さんが来てるんだよ」

 

「へー。じゃあ、運が良ければ売れるかも知れないね」

 

 

自分でもニヤリと笑っているのが解る。

一応、血も腐るので肉のついでに冷やしていたのが功を奏すかもしれないのだ。

 

 

「っさて。それなりの情報だったし、何か買って行ってよ?」

 

「えー、この村に滞在してれば解る事だしねー…………くふふ、取りあえず。この古そうな本を見せて欲しいかな」

 

 

軽口に軽口を合わせながら、一冊の本を手に取ってみる。

パラパラと流し読みをしながら、割と面白い内容である事を店主へと伝える。

 

 

「辞典なの、かな? 古くから伝わってる料理のレシピとか、この辺りの生物や魔物について書かれてもあるし、店員さん、何これ?」

 

「解らない、旅の人が使えないし要らないって置いていった物だしね。買うかい?」

 

「…………そんな、付加価値が下がりそうな事を。取りあえず、お幾らで?」

 

「サービスして、これくらいかな?」

 

「うん。高い」

 

 

相場が解らない品物なので、買える値段であっても値下げをしてみる。

其処には、自分には必要無い物だが、取りあえず情けで買ってやろうと店員に伝わる様にしてみれば、何か変化があるかもしれない。

何せ、店員からしてみれば使えなくて要らないと言う、聞くだけならゴミ同然であると他人の主観が刷り込まれている。

ボクに出来る事は、どれだけ安く買い叩けるかであった。

 

 

「お兄さんや、サービスしてそれだけってのは、必要とされてない物を売りつける金額とは言えないねー?」

 

「いやいや。君、これにちょっと興味を持っただろう? 別の旅人さんから必要とはされていなくても、君なら必要とするかも知れないじゃないか」

 

「惜しいね。確かに、興味は持ったけど、態々お金を出してまで欲しいって言う内容じゃ無かったかな、それがボクには多少有用でも」

 

 

半分嘘で、半分本当の事を言ってみる。

殆どは自分には扱えない内容であるのだが、一部は錬金術の内容も書かれていた。

と言うか、本当に雑多な内容が書かれてある本であり、割とマイナーであると自負する錬金術士も使える本であると言うのに、使えないと言った旅人はどんな人物であるのかと考えてしまう。

まあ、確かに相棒(アリア)の様に剣だけの人間には必要ないのかも知れないのだけど。

色々と考えながらも、どうなるか考えて居たら、横槍が入った。

 

 

「――――その金額なら、言い値で買うけど?」

 

「む」

 

「へえ、だとさ。嬢ちゃん、どうする?」

 

 

黒いローブにとんがり帽子、一目見て魔法使いを、ボクは想像した。

この店員が言っていた魔法使いとは、きっと彼女の事であろう。

と、そんな事はどうでもよく、言われた金額は正規の値段。

つまり、この状況からその辞典らしき本を買うには値段を釣り上げる必要がある。

そう考えて、ボクは――――――

 

 

「いや、買い手が見つかってよかったね、店員さん?」

 

 

即座に諦める。

この時点で行ってはならない事は、客同士で値段を釣り上げてしまう事。

最悪な事を考えてみれば、店員と魔法使いがグルである可能性もある。

確かに錬金術のレシピを逃す事は多少の損失かも知れないが、其処まで本腰を入れて覚える必要もない。

それに、簡単な材料くらいは今見て覚えた。

分量等は、調合しながら覚えていけば良い。

だから、簡単に諦めて見せた。

 

 

「あら、冷静ね。欲しい物なら、もう少し欲を出すかと思ったけど」

 

「別に欲しい物じゃ無いしね。オークションは勘弁さ……それに、君はその本が欲しいんだろう?」

 

「欲しいけど、この店員の言い値じゃ買えないわ。元々旅人なんて、お金を稼ぐ方法は少ないしね…………この店員には世話になったから、多少お財布を潤わせてあげようかなって思っただけよ」

 

「くふふ、それは残念。で、そう言う事だそうだよ、店員さん」

 

「はぁ…………どっちに転んでも、売れると思ったのになぁ。じゃあ、この値段でどうだい?」

 

「――――――まだ、高い」

 

 

くふふ、ボクは、容赦は、しない。

この交渉が終わる頃、魔法使いの娘にはドン引きされたし、店員も涙目であったけど、結果本は買えたので、万事良しとする、まる。

 

 

 

 

 

・・・・・・

「アリアー? アリアー?」

 

「何ですのー?」

 

「お客さん」

 

 

キャラバンに戻ってみても、アリアの姿が無かったので呼んでみる。

どうやら武器を磨いて居た様で、大剣を担いで現れた。

因みに、お客さんとは先刻の魔法使いである。

 

 

「アルフライラ・アンニール。お客さんって紹介されたけど、貴女の所のキャラバンについて行きたいの」

 

「私はアリア・エストレシアですわ。同行? ええ、構いまわせんわよ」

 

「早っ!? この娘がアンタが許可したらキャラバンに居れても良いって言ってたけど、そんな簡単に入れても良い訳?」

 

「なら、尚更問題ありませんわ。団長は、私でなくてレティですもの」

 

 

アリアのその言葉にとても驚かれている。

確かに、見た目的にも、喋り方的にもお嬢様っぽい人物が現れれば、このキャラバンを取り仕切っていると思うのも不思議ではない。

と言うか、未だにボク自身が何で団長なのかが不思議でならない。

 

 

「くふふ。ま、これでキャラバンに入団おめでとうって感じだけど。何で入りたかったか聞いて良い?」

 

「…………普通、それは先に聞いておくものよ………………その本よ」

 

「ああ、コレ?」

 

 

ボクが買った古書をアリアへ説明しながら見せる。

動物や魔物の生態がそれなりに書かれているので、アリアも興味深そうに読んで居る。

あのアリアですらそうなのだから、余計にこの本を置いていった人物は本当にどんな人物なのかと考えてしまう。

 

 

「アンタがどの部分に興味を持ったか解らないけど、私にとっては貴重な魔導書で、そして料理のレシピ本と言う訳」

 

「料理?」

 

「自己紹介が完全じゃ無かったわね。私はアルフライラ・アンニール。魔法使い、そして料理人よ!」

 

「…………毒でも盛られそうな恰好ですわ」

 

 

【マジカルシェフ】と、アンニールは名乗ったが、風貌だけ見ればどこが料理人なのであろうかと、失礼にもボクは思ってしまった。

それはアリアも同じであった様だ。

勿論、ボクは分別を弁えているので多少うろたえても口には出さない。

表情には出ているかもしれないが。

 

 

「酷い事を言うわね。コック帽に、調理器具が収納できるローブ。旅をするには丁度良い恰好じゃない」

 

 

ローブは兎も角、とんがり帽子はコック帽であったらしい。

まあ、魔法使いでもあるのだから間違っていないと納得しよう。

 

 

「兎に角! 私はその本のレシピを求めてキャラバン入りした訳!」

 

「ああ、うん。良いよ、解った。正直な所、この本には様々な知識活用術(レシピ)があるみたいだからね、共有しながらってのは解る話さ」

 

「所で、アンタは何が気になった訳?」

 

「君と似た様な物さ。ボクは錬金術士、日常生活をちょっと便利にする程度のね」

 

「あら、魔法使いは一応間に合ってたのね」

 

「んーん、ボクはあくまでも錬金術士だから、初級魔法を適当に使う程度しか出来ないよ。例えば、今回みたいにお肉を新鮮なまま保存したりね」

 

「アレ、初級魔法の応用だったのね。目から鱗だわ」

 

 

成程、アンニールは頭は固くないようだ。

初級程度の実力で何が出来るかを考え、手のひらに冷気を作り出している。

次からは、保存とかは任せても良いのかも知れない。

 

 

「ふーん。二人以上で行動できる事の強みね。魔力って、休んだりしないと回復出来ないから魔法を使い続ける訳にもいかないし」

 

「一応、スタミナ回復の薬とか、魔力回復の薬とかのレシピは知ってるし、作れるけど。アレは薬草類が生えてる森とかじゃないと作るの難しいんだよね」

 

 

今言った様な物は、交易で売らない物のリストに入れている。

まだまだ駆け出しの冒険者だとボク達は理解している。

どんな危険が待ち受けているかも解らない、命より大切なものは無いのだから。

 

 

「内陸はまだ豊かだけど、その分強力な生物や魔物も多い。海は海で危険には変わらないけど、成程、其の境界線上を行くので在れば道には迷わないわね」

 

「そう言う事。まあ、このまま歩いて居れば大きな街にぶつかるかも知れないしね」

 

「後は、最近の事ですが、この地域の生物や魔物なら、私一人でも大丈夫だと言う事が解っていますわ」

 

「アリア、君基準で考えられても困る」

 

「骨だから、軽いのですわ」

 

 

だからと言って、一体どこに自分の身長もある大剣を片手で振り回す人間がいるのだろうか。

もう少し、割と異常な身体能力に気づいてもらいたいね。

ほら、アンニールも冷や汗を流してる。

 

 

「で、でも。それなら海に出ても良いんじゃない?」

 

「んー、どうだろう。外洋に出なければ、大丈夫かな?」

 

「モスが移動できる場所なら問題ありませんわ。砂場だと、いざと言う時に逃げ辛いので選ばなかっただけですので…………と、言いますか。レティ、貴女が団長なのですから、どうするかは決めてくださいな」

 

「それもそうだね。じゃあ、人数が増えて3人になった事だし、1回海に出てみようか」

 

 

海沿いを進むことに変わりないけど、ボク達は海に出る。

大丈夫、無茶はしない。

それでも、無茶をしないと決めていても、予想がつかない地に、ボク達は心を躍らせる。

 




人物紹介

アルフライラ・アンニール
種族:人間
役割:魔法使い/料理人or料理人/魔法使い
すっげーアラビアンな名前になった料理人兼魔法使い。
キャラコンセプトは、アーシャのアトリエのウィルベルさん。
役割の所は左がメインで、右がサブって設定してたけど。
彼女の場合は両方とも極めたい感じの人。
まあ、まともなの此処までだね、多分。


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2話

「此処にも植物が生えていますわよ」

 

「ん」

 

 

指示された場所を見てみると、確かに何かの植物が生えていた。

こうして共に行動してみると解るが、アリアは見落としがちな採取のポイントを的確に見つけ出す。

野生の感が働くとは本人の弁であるが。

心こそ高潔であれの家訓の裏腹には、涙ぐましい生への努力があったのではないかと勝手に考えてしまう。

 

 

「信じられない、【レッドハーブ】だよこれ。ほら、辛い奴」

 

「何で、海に…………ここ、元々地上だったりする訳?」

 

 

アンニールはそう言うが、可能性は低い。

地図で確認しても、此処は海の中だ。

黄昏より徐々に水が消えたと言われている、海の。

この地域に住むボク達にしてみれば、海とは塩気が強い地帯だ。

元々は一帯全てに水があったそうだが、歴史家の法螺じゃないのかと思えるほど何も無い。

 

 

「この地帯に生えれるって事は、塩害に負けない強さって事?」

 

「ですわね。環境の激変があったと言われている黄昏その日から、かなりの年月ですもの。海に植物が適応してもおかしくありませんわ」

 

「…………雨が降ると塩分が溶け出して、直ぐに塩水に成る地域に良く根差そうと思ったものね」

 

 

その意見にはボクも頷く。

だけど、そのお蔭で旅が少し楽になるのだから、この劣悪な地で生きようと思った植物に感謝をする。

 

 

「これでスタミナ回復の薬は作れるね。レッドハーブがあるなら他の4種類のハーブも生えてると有難いんだけど」

 

「なるべく多く集めるのが良いわね。レッドハーブなら料理にも使えるし」

 

「料理か、料理に使えるなら次の村とかに持ち込むのも良いね。錬金術の材料としては、少し扱い辛いし」

 

「スタミナ回復薬以外にも、使い道あるわけ?」

 

「うん、純粋に属性の力を抽出した錬金補助剤が作れるんだけど、紛らわしくてね」

 

 

そう、補助剤を作るとなると実に紛らわしい。

名前はレッドハーブ、だけど属性の力を抽出すると白色になる。

同じ様に薬になる別の四種類のハーブも、補助剤を作るとなると見た目の色とは全く別の色へと変化する。

補助剤の質的に有効なだけに、早く覚えておいた方が良いとは思うのだけれど、まとまって取り扱う機会が無いからどうしても後回しになってしまう。

 

 

「材料と色の関係……実家で呼んだ魔導書にそんな事が書かれてた様な気もするけど。まあ、関係は無さそうね、錬金術だし」

 

「くふふ。それよりかは、今ある辞典を使って調べた方が何か解るかもね」

 

「民間療法とか載っていませんの? あ、レッドハーブは虫除けの為に粉末にして食糧庫に置いておくと良いと聞きますわ」

 

「………………お婆ちゃんが居る」

 

 

取りあえず、専門的でなくても会話に加わりたいのが解る。

何時もはボク任せにしているアリアだが、構って欲しいオーラが見えて微笑ましい。

言ってみただけと言う雰囲気だが、悪い事は言ってないのでボクはそれを採用する。

 

 

「でも良いね、民間療法。錬金術で一段階上の技術に上げてみようか」

 

「できますの?」

 

「くふふ、この本に載って居ればね」

 

 

でも、錬金術のページは捲らない。

其処に載っているのは大抵技術的な事、そして戦闘用の道具だから。

そして民間療法のページを捲るが、レッドハーブを使うとは何処にもない。

だけど、似た様な素材を使っているページを見つけた。

 

 

「あー……【トウガラシ】? 挿絵には、レッドハーブが描かれてるけど」

 

「別の地域ではそう呼ばれている、もしくは昔そう呼ばれていたのでは無くて?」

 

「確かに。素材の地域差とかは、珍しい物でも無いしね。レティシア、先ずは作ってみたらどうよ?」

 

「そだね」

 

 

アンニールに釜をすぐに使えるようにしてもらう。

具体的には、煮立たせる必要が無い熱湯を出して貰い、火をつけて貰う。

ボクはその間にレッドハーブ……トウガラシでいいや、すり潰して準備が整ったら釜の中へと入れる。

先ず行うのは錬金補助剤の作成。

愛用の杖に魔力を込めながら釜をかき混ぜる。

込める量は強すぎても弱すぎても駄目で、この辺りは反復による経験を積むしか、適正量を導くことは出来ない。

流石に補助剤を作る時に失敗が出来る程ボクは初心者と言う訳でも無いので、かき回していると中の水が白くなっていく。

腕を止め、瓶に詰めかえれば【錬金補助剤(白)】が完成する。

 

 

「できたー」

 

「透明ね。嗅いも無いし、味は、いやその前に飲めるの?」

 

「味は有りませんわ」

 

「…………飲んだこと、あるのね」

 

 

アリアが飲んでしまったのは、ボクが無毒な薬品だと言ったからであろう。

新しい物を作るたびに、食べないでって言う必要があると感じた瞬間だった。

 

 

「辛くないなら、調味料としては使えないわね。辣油と同じ様な作り方してるのに」

 

「らーゆ?」

 

「調味料の一つよ。アンタは水で煮出したけど、それを油でやるの。色々と調味料を入れてね。油自体にレッドハーブと調味料の風味が付くし、油に沈殿してる素材カスも料理のアクセントとして使えるわ」

 

「それは……辛そうですわ」

 

「辣いわ。材料さえそろえば、作るのは簡単よ」

 

「くふふ。別にボクは煮出してる訳じゃ無いからね。このトウガラシが持つ属性を抽出してるだけだから、料理とは全く違うよ」

 

 

一応、料理の真似事も出来るとは伝える。

今回はトウガラシに宿る元素の力を取り出しただけ。

例えばパンとトウガラシを混ぜればトウガラシパンと言う物を作る事が出来る。

尤も、そう言った合成は中々難しくて、完成品のイメージが確りと出来ていないと作り出すことは出来ない。

想像する力が大事なのだが、それは今から作る物にも関係してくる。

 

 

「さて。もう一回レシピの確認かな。此処に書かれている民間療法として冷え性防止の為に、トウガラシを適当に切って、薄い布で包んで手足の末端に巻きつけるって言う事が書かれてるね」

 

「大雑把に書いてあるだけね。そんなのレシピって言えるの?」

 

「専門書以外はこんな感じだよ、錬金術ってね。料理だって同じだよね、必要な材料と、調理方法が書かれても、下処理方法が書かれて無かったり」

 

「ああ」

 

 

話ながら再び用意してもらった錬金釜の前に立ち、同じように素材を投入する。

今回は【トウガラシ】、【包帯】、【錬金補助剤(白)】である。

トウガラシ一単位に対し、包帯一単位は多すぎるとボクは予測する。

実際には作成は可能かも知れないが、多分ものすごく効力が低い代物が出来る。

逆に、包帯が受け入れれるキャパシティ以上のトウガラシを入れると、凄まじい効力の代物に成るだろう。

ただし、使用者に害を及ぼす効果が付く可能性も高い。

効力はそれなりにあるが、副作用は無い物を作らなければならない。

その為には、トウガラシと包帯が均等になる必要がある。

単位では無くて、性質で。

失敗はしたくない、失敗すれば訳の分からないゴミにしかならないし、ボクも無駄に魔力を消費することに成る。

資材が潤沢にある訳でも無いのだから、慎重にやるしかない。

 

 

「…………ねえ、レティシア。錬金補助剤って、一本で良いの?」

 

「んー? ああ、オリジナルのやり方だよ。補助剤に関しては少しずつ混ぜながら様子を見て増やしていくのさ。幾ら錬金釜と言えど、放り込むだけで何かが合成されるならボク達要らないしね」

 

 

取りあえず一本は入れないと合成は始まらないと言うのもある。

そして、分量を間違えると、下手すれば爆発すると言うのもあるから。

最後に爆発したのは、旅に出る前の事だったかな。

確りとした計算式が必要な技術なのに、計算式は手探りで見つけなければならないと言う、面倒臭い技術である。

だけど、それが良い。

そんな事を考えながら釜をかき混ぜて居た所、追加で補助剤を2.5本使った辺りでボクの魔力が材料に馴染み始めた。

悪くない感覚だと、補助剤の投入を止め、暫くかき混ぜ続けるとソレが出来上がった。

 

 

「【ホットパック】の、完成かな?」

 

「見た目はと赤い包帯ね」

 

「んー……成功なのか失敗なのか解らないねコレ。補助剤の時は、色は赤が白に成れば成功なんだけど、コレはトウガラシの色が包帯に移動した感じだし」

 

「使ってみれば解りますわ」

 

「ちょっ!? まだ安全かどうかも試してないのに何でホイホイ使うのさ!?」

 

「レティを信じているからですわ」

 

 

そう言う科白は意中の相手に言ってあげようよ。

仕方が無いので、アンニールには治療魔法の準備をして貰って、アリアを観察する事にした。

何かボクばかりアリアに慌てさせられている気がする。

あー恥ずかしい。

 

 

「………………暖かくなって来ましたわ」

 

「痛くない?」

 

「ええ」

 

「この温かさが何分持続するかによっては、極寒の地でも行動できますわね」

 

「いや、これを全身に巻くのはちょっと抵抗が。まだドリンク状にして、体の中から温める作用の薬を作った方が…………うん、今度作ってみよう」

 

「…………人が閃く瞬間を見たわ」

 

 

突拍子もない事を考え、実現させようとするのは錬金術士のサガだから仕方ない。

ただまあ、アリアが進んで被験者に成ろうとするのをどうやって止めようか。

 

 

「まあ、その話は置いといて。まだ暖かい?」

 

「ですわ。ですが、少しずつ効力は落ちてきているのは解りますわ。勿論、まだ暫く普通に使えるレベルではありますの」

 

「…………30分くらい、かな? 寒冷地帯の採取とかには向かないね」

 

「元々治療具ですわ。凍傷や、冷え性に使えば良いではありませんか」

 

「うん、そうしよう。それで、アリア、此処からが本題だ……売れそう?」

 

「常備薬、とまではムリですわ。ですが、人体を温めると言う効力で見るならば、多くの場面で役に立つことは間違いありませんの」

 

 

大体は予想していたけど、野生系お嬢様(アリア)がそう言ってくれるなら大丈夫。

暫く寒い地方に行く予定は無いし、いざと言う時のための資金を稼いで奥の悪くない。

そして、包帯はまだある、それなりの量を作って置こう。

 

 

「んー……材料はまあ、同じ分量でやればいいか。そうすると、トウガラシが足りないかな」

 

「なら、採取に行ってきますわ」

 

「待って、採取に行くのも良いけど、もう一つ別の奴を作ってから行こう」

 

 

三回目となる釜の準備をしてもらう。

今度はトウガラシだけを使う。

こっちは旅の為に常備出来れば割と楽な代物である。

早く採取に行きたいので、さっさと作ろう。

煮立つ鍋に、トウガラシを放り込めば、錬金開始の合図――――――

 

 

 

 

・・・・・・

「所で、錬金術士って裏方担当だって勝手に思ってるけど。戦闘に参加して良いわけ?」

 

「そりゃボクだって出来れば錬金術だけやって居れたら最高だけどね。アリアばかり外での仕事は気が引けるよ」

 

 

基本的に、キャラバンの中に居れば魔物とかに襲われる心配はない。

モスが番犬代わりとなり、襲ってくる生物自体が少ないのだ。

小さくてもぞうなのだと、優秀な護衛に感謝している。

 

 

「後は、今回は簡単に作りすぎたから。このアイテム、ボクが魔力を込めないと使えないし」

 

「【獣よけ】ね。そんな小さな玉が、本当に使える訳?」

 

「使えますわよ、獣どころか、的確に使用すれば大型の魔物にですら効果がありますわ」

 

 

アリアは効果を知っているので代わりに説明してくれている。

だけど、実際に使ってみれば解るとか言いながら魔物を探さないでほしい。

 

 

「保存も効くし、使わない事に越したことは無いね」

 

「生物は兎も角、魔物が全然居ないと言うのも変な話ですわ」

 

「モスがついてきてるから、襲われないだけじゃないの?」

 

「………………魔力の残り香があるわ。戦闘が行われた後よ」

 

「って事は、魔法使いが居るんだ」

 

 

流石に本職ともなると、魔力の乱れを感知する事が出来るみたいだ。

アリアが反応していない所を見ると、近くに気配が残って居る訳では無い様だけれど、準備しておいた方が良いし獣よけを渡しておこう。

 

 

「成程。道理で気配がしないわけですわ」

 

「これ【海熊】だよね……?」

 

 

海を生息域としている熊だから海熊と名付けられた魔獣。

確か、非常に獰猛で、爪の一撃は岩すら抉り取ると言う。

そんな海熊が何故、干乾びて死んでいるのか。

ついでに、その死体から明らかに此処に生息していない植物が生えている。

 

 

「魔力の元はコイツね。厳密に言えば、この植物だけど」

 

「この植物も、魔物の一種だったりするの?」

 

「流石に解らないけど、見た目は【林檎】の木よ。林檎もなってるし」

 

 

確かに、小ぶりだが良い赤色をした見た目林檎がなっている。

アリアが安全かどうか確認しながら林檎をとるが、何も起きない。

流石にその林檎を口にしようとしているのは2人で無理やり止めた。

やれやれだ。

 

 

「問題ありませんわ」

 

「一応、だよ? それで、アンニール的には、コレの説明できる?」

 

「コイツを養分にさせて木を一気に生やしたと見るわ。他の傷口に何かの種も見える。つまり、死んだのは種を打ち込んだあとよ」

 

「出来る?」

 

「無理ね。少なくとも、並の術士じゃ出来ない芸当。序に、並以上ならそのまま倒した方が早いし、可能性があるとするならもっと自然に近い生物ね」

 

 

因みに、ボクは条件さえ整えば出来そうである。

何かの種を埋め込んで、その後【栄養剤】を振り掛ければと言った所。

そして、アンニールの言う様に、そんな事やるくらいなら誰かに任せて倒した方が早い。

だから錬金術士がやった可能性も視野に入れてみたが、効率の悪さを考えれば可能性は低そうだ。

 

 

「魔物同士の争いかもね。まあ、今回はこれで戻ろうか、その木も回収しておこう、完走させれば木材になるし」

 

「解りましたわ」

 

「手伝うわ。私も使いたいし」

 

 

二人がかりで木を切り倒している。

聞いてみれば、アンニールは木片でスモークチップを作るとか。

燻製器はウチには無いが、どうするつもりなんだろう。

取りあえず、やる事は終わったと木を積み込んで採取は終わりだ。

終わりの筈だった、アリアが急に剣を構えなければ。

 

 

「銃声ですわ、小さいですが聞こえましたわ」

 

「よく聞こえるねぇ。遠いの?」

 

「いえ、近くね。私は魔力を感じたんだけど。多分、そこの岩山を迂回した先よ」

 

「…………危うきには近寄らずってのが一番だろうけど。銃を使ってるなら魔物では無いだろうし、見に行こうか」

 

 

さっさとキャラバンに原木を詰め込み、モスを走らせることにした。

近づくにつれ、ボクも魔力を感じ取れる様になってくる。

先刻も言った通りに、ボク自身はそう言った修行をしていないから感じ取れないのだが、今は無理やり感じ取らされている。

つまり、かなり乱闘な魔力戦が行われて居る様で、魔法使いであるアンニールからしてみれば、かなり気持ち悪い状況みたいだ。

そんななので、ボクが酔い止めの薬を出していると、モスが急に止まる。

バランスを崩して倒れそうになってしまった。

 

 

「モス、何があったのさ?」

 

「ぶもー……」

 

 

モスが止まったのも仕方が無い状況だった。

行く手を阻む様に巨大な木の根が生えている。

このままではキャラバンは通れない。

 

 

「この木、間違いないわ。この先に海熊をあんなのにした奴がいる」

 

「んじゃ、通れないしモスはお留守番」

 

「ぶもっ!」

 

「行きますわよ、根っこくらいならレティの道具も無しで切り捨てれますわ!」

 

 

アリアが一振り。

それだけで木の根が薙ぎ払われていく。

武器の使い手が優秀だと、只の骨の剣でも此処まで出来るのだと感心して、アリアに続いて行く。

そして、戦闘が行われている場所にたどり着くと、俄かには信じられない光景が広がっていた。

 

 

「軽く草原になっていますわ」

 

「何か悪い夢でも見てるみたい」

 

「現実よ。気持ち悪くて、頭も痛くて。嫌になる現実よ」

 

 

その草原のど真ん中で、一際大きな海熊が暴れていた。

多分この辺りのボスだろう。

そして、アリアの言うとおりに銃声も響いている。

響いているのだが、それでも尚小さい銃声と、ボクには海熊が一人で暴れているようにしか見えない、狙撃されているのだろうか。

 

 

「どうなってるの、コレ?」

 

「良く見てみると良いですわ。可愛らしい射手(ガンナー)が、近接戦闘をしていますのよ」

 

「可愛らしい………………ああ、確かに可愛いね」

 

 

目を凝らして見ると、小さな妖精らしき存在が必死に攻撃を躱しながら銃を撃っている?

断定できないのは、どう考えてもその妖精が発射するには似つかわしくない大きさの銃。

と言うよりもボクの身長と大して変わらない大きさの銃が勝手に攻撃を仕掛けているのが見えるからだ。

妖精は囮で、本命として別のガンナーが隠れて居るのだろうか?

 

 

「あの妖精、随分と木気の魔法に長けてるのね。風を操って、重砲や軽弩を配置。あのボス熊が隙を見せたら射撃って言う風に」

 

「ガンナーと言うより指揮官ですわね」

 

「どっちでも良いけど、助けは必要そう? 必要だったらあのデカいのを此方に振り向かせてくれると有難いんだけど」

 

「必要ですわね。如何せん、隙を見て撃ち込んでいるのではボスを倒すのに時間がかかりますの。近接武器なら威力もそこそこですから構いませんが、銃となると弱点部位にしこたま打ち込んでナンボ、ですわ」

 

「だそうで。アンニール、耳元あたりに爆発起こしてコッチ振り向かせて」

 

「了解」

 

 

どうやら対生物に関してはアリアの方が優秀そう。

確かに、妖精さんも壁際に押し込まれそうになっており、このままでは一撃を貰う方がさきであろう。

まあ呑気に見ている場合では無いので、アンニールが呪文を詠唱している間にアリアに次の行動を伝える。

そう言えば、獣よけが大型の魔物に効果があるのかと疑われていたが、どうやら実際に使用してみる場面は近かったみたいだ。

 

 

「【エクスプロージョン】!!」

 

 

耳元で大爆発が起きる。

いや、其処までの爆発をやる必要は無かったのだけれど。

一撃で倒せるなら倒してしまえば良いのだが、一応アンニール的には手加減が必要なのだと思ったらしい。

あの威力で手加減しているのかと思える程度には強かったが、まだ動ける様で、此方に気づいた。

 

 

「アリア、作戦変更。口の中に一つ、爆発した側の目の付近に一つずつ飛ばして」

 

「解りましたわ……!」

 

 

急な指示の変更であったが、アリアは上手くやってくれた。

右の親指で弾いた獣よけの薬は、怒り、そして此方に向かってきている海熊の口の中に入り、もう一つは左の指で弾き、指定した所へと飛んで行った。

確認をしたら、後はボクが魔力を込めるだけ――――

 

 

「爆ぜろ!」

 

「ォ――――――ォオオオオ!!?」

 

 

丸薬が破裂し、海熊に降りかかる。

トウガラシがレッドハーブと同じモノであるならば、成分は刺激臭と辛味。

まあ、傷口に染み込めば激痛が走るだろうし、そんな成分が口内で爆発すれば正常な思考と行動は出来ない。

事実、声にならない声を上げながらのた打ち回っている。

 

 

「アリア、止めを!」

 

「はいですわ!」

 

「いや、それには、およばない」

 

「――――うん?」

 

 

少し片言な声が聞こえたから、横を見たのだが、いつの間にか先程まで戦っていた妖精が此方側へと来ていた。

風の魔法を使って居た所みるに、一気に加速してきたのだろうか?

近くで見ても小さく、二の腕の長さと同じくらいだった。

だから、運んできた銃の大きさが異常な程に見えてしまう。

 

 

「たすかった、れいをいう」

 

「まあ、成行きだから気にしないで良いよ。でも、止めは良いの?」

 

「このまほうは、たいしょうが、いきてないと、こうかうすい」

 

「生きてないと?」

 

「みてろ。『いのちは、うばい、うばわれ、はぐくまれる。そもまた、うばわれるさだめと、なる。はえよ、たいじゅ。だいちにめぶく、いのちのあかしよ』」

 

「グルォォォ――――――………………………………」

 

 

変なイントネーションの詠唱であった。

そんな詠唱で大丈夫なのかと言いたくなってしまったが、成功したのを見ると今ので何も問題が無かったのだろう。

海熊の体を食い破る様に、植物の根が出て来る。

先程見てきた林檎の木と繋がった。

傷口から生えた木、撃ち込まれた種、そしてそれらを可能にする魔法と銃。

この妖精が全てを行ったのだとボク達は理解した。

声こそでなくなったが、海熊はまだ生きている、生きていて逃れようとしている。

けれどもう、根は体所か大地へと根づいてしまっており、もう逃げれない。

動きが完全に無くなったと同時に、木も成長を止めたのだけれど、其処には先程とは比べ物に出来ない、ボク達ですら遙か高く見上げる必要な林檎の木が生えていた。

 

 

「壮観、ですわ」

 

「元海とは思えない風景になったね」

 

「自然に近い生き物ってズルいわね。これほどの魔法、人が行うにはどれくらいかかるやら」

 

「そうほめるな、はずかしい」

 

 

きっと褒めてはいない。

けど、驚きの言葉しか出ないのは当然で、それが妖精への賛美に繋がっているのは間違いないだろう。

 

 

「妖精さん、この木どうするの?」

 

「ティポット。それが、なだ。ついでに、さんもいらない。しつもんに、こたえる。これは、このままだ」

 

「このまま……こんな所に生やして、すぐ枯れない?」

 

「いずれ、たいじゅのいのちが、つきれば、かれる。だが、それまでは、かれない。このちは、しおのだいちだが、なに、あいしょうはわるくない」

 

「林檎の木って、塩害に強かったかな……?」

 

「そういうはなしではない」

 

 

そう言う話では無いらしい。

ティポットは言葉足らずなのか、それとも説明する気が無いのか解らない。

アンニールは理解しているみたいだけど、ボク達に上手く説明でき無い様だ。

悩んでいると、ティポットはふわふわと空へと飛びあがり、林檎をこっちへと持ってきてくれた。

 

 

「おおいになやめ、ふるきせかいを、おわらせるものよ」

 

「や、まあ良いけどね。それで、ティポットはこれからどうするの? 海熊の主も倒して、こんな緑化運動もして」

 

「りょくかうんどう、このはたらきは、そうよぶのか。いいひびきだな、わたしは、せかいじゅうに、りょくかうんどうを、おこないたい」

 

「う、海も?」

 

「うみも、だ。だいたい、なまえこそうみだが、いまここはだいちだろう。くさきをはやして、なにがわるい」

 

 

軽口のつもりで緑化運動と言ってみたのはいいけれど、本人は緑化運動を本気で行っているみたいだった。

ボクとしても、世界中に植物があるなら食糧事情とかも楽になるから良いのだけど、ティポットが其処まで考えながら行っているかは解らない。

林檎をシャクシャクと美味しそうに食べている姿を見ながら、ある事を思い出してしまった。

 

 

「そう言えば、ティポットには悪い事をした事に成るのか」

 

「ん、わたしは、おまえとは、はじめてだぞ」

 

「いや。小さ目の海熊を、似た様な方法で倒してたでしょ?」

 

「――――ああ。そう言えば、木材になるからと言って切り倒しましたわね」

 

「な、に。なんだと」

 

 

頬を膨らませて怒っている。

不謹慎ながら可愛い姿であったが、取りあえずキャラバンへと案内する。

そこでまた、解体された原木を見て、肩を落としているのであった。

 

 

「まあでも、奪い奪われ育むって自分で言ってるんだし、仕方ない事よね。ほら、ちゃんと利用するから」

 

「……………………わかっている。いきるということは、そういうことだ。ただ」

 

「ただ?」

 

「なっとくがいかん」

 

「だよねー……いや、うん。本当にごめん」

 

「ばつとして、わたしをのせろ。とんでいるのも、つかれる」

 

 

その言葉が口から紡がれたときには、既に荷物は詰め込まれていた。

別に乗せるくらい、ボクとしては問題がないので、他二人を見てみたのだけど、苦笑しながら仕方ないって顔をしていた。

 

 

「なんだ、いいのか?」

 

「いや、別に良いよ。乗せるくらい、ね」

 

「いってみるものだな。なに、ただでのるのは、すかない。ついでに、たすけられたれいをする、れいがかんりょうするまで、ともにいる。もういちどいう、わたしは、ティポット。こんごともよろしく」

 

 

小さな小さな妖精が旅の同行者になった。

何時まで一緒なのかは解らないけれど、まあ楽しそうな娘である。

 

 




人物紹介

ティポット
種族:妖精
役割:農家/ガンナー
初期コンセプトは『イタズラ好きな妖精さん(ウフフ)』
…………どうしてこんなキャラになった。
重砲も軽弩も、まあMHのボウガン系統だと思って頂ければ。
撃ち出してるのは種なので、そらダメージは少ない。


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3話

「ぶもー」

 

 

今日も元気にモスが吼えている。

声の具合からして次の村が見えてきたのだろう。

そう思って外に顔を出してみれば、屋根が見えてきていた。

 

 

「むらか、なにをこうにゅうする」

 

「取りあえずは、食糧かな。何か最近、キャラバンの団員が増えてきたしね、食糧が追いつかない」

 

「しょくりょうか、にんげんはおおぐいだからな」

 

「君の体格からすれば、異常な量を食べてる事は自覚してね?」

 

「むう」

 

 

そう、ティポットは良く食べる。

では済まされない程度に健啖家である。

1回の食事で林檎を5個、6個は当たり前で、言い方が悪いかもしれないが雑食性であるために肉も野菜も構わずに食べる。

植物を生やす魔法を使ったところで、並程度の魔物では一食分の食事量しか確保できないし、生やした物を持ち運べるほどこのキャラバンは広くない。

食糧確保はかなりの課題となっている。

まさか、余裕を持って買った食糧一か月分が、二週間で無くなるなんて。

 

 

「ねー、モスもおかず一品減らされたら嫌だよねー?」

 

「ぶも…………」

 

「ひとりと、いっぴきに、けったくされている」

 

「移動可能な菜園とか作れれば、ボクも楽なんだけどねー」

 

「つくればよいではないか、れんきんじゅつしなのだろう?」

 

「どっちかと言うと、大工の仕事だよ」

 

 

錬金術士はあくまでも錬金術士。

自分の所有する釜以上の大きさのものは作れない。

逆に言えば、そんな釜があれば作れる……のかな?

 

 

「そして、そんな移動菜園なんかを運ぶモスの身にもなろうよ」

 

「なにをいう、まだこどもとてあまやかすな。もすはいつかおおぞらまでてにするぞ。りくかいくうをすべる、おうじゃとなろう」

 

「いや、それは法螺吹きすぎでしょ」

 

「うむ。りくのおう、くらいにはなるかもな」

 

 

時々予言者風に訳の分からない事を言うが、当たった試はない。

大体、まだまだ子供だっていうのに、陸の王に成る事すら何年かかる事やら。

 

 

「ぶもー!」

 

「む。こやつもまだまだ、よりょくはあるそうだ。いちど、さいえんもかんがえてみてくれ」

 

「はいはい」

 

「そろそろ次の村に到着ですわ。レティは、売るものと買う物を確りと確認しておいてくださいな」

 

「はいはいー」

 

 

村の入り口につく、けど何かがおかしい。

道は村まで続いているから、ここは多分正式な村の入り口なのだろう。

けど、入り口付近には見張りらしき人物が居ない。

其れほどまでに不用心が出来る程安全な村ならば良いのだが、そうではなさそうだ。

村の中を覗いて見ても、人っ子一人居ない、滅びた様な村だった。

 

 

「事件の香りね。戦える準備はした?」

 

「とーぜん。閑散としてるから、何処から襲ってきても可笑しくないしね」

 

「………………人は居るみたいですわ。非常に弱々しいですが、それぞれの家の中から、気配が確りとしていますもの。一番活発な気配は、教会から、ですわ」

 

「ならば、いくしかないな、きょうかいに」

 

 

その教会の前までたどり着いた後、念には念を入れて、アルフライラとティポットの二人に風の魔法を使って開けて貰う。

扉が開いても何も無かったので、結果的には杞憂であった。

 

 

「ようこそ、いらっしゃいました。私が、この教会の司祭代理を務めています、リンク・ストリックです」

 

 

教会の中には、司祭が本を読んでいる所であった。

この際代理である事が気にならないくらい、彼女は特徴的な耳をしていた。

 

 

「エルフ?」

 

「はい。珍しいですか、エルフの司祭は?」

 

「エルフの方は、初めて見ましたわ。それよりも、この村はどうなっていますの?」

 

「見ての通り、いえ、見ていないかも知れませんが、この村は正体不明の病に侵されております」

 

「見てませんわ、誰も。ですが、村中に人が一人も居ない訳は、解りましたわ」

 

 

とても面倒な状況の村にたどり着いてしまったと思ったのはボクだけでは無い様だ。

しかし、この問題を解決しない事には、補給も儘成らないのであろうと言う事は想像にも難くない事だろう。

 

 

「ひとつきこう。なぜおまえは、そのやまいに、おかされていない?」

 

「此処に赴任して、まだ早い事もあると思います。前任の司祭様より、この村の異常を知らせる手紙が、私達司祭が所属する【エクレシア】に届いたのがひと月前。そこから早馬にて移動して……と、言った所です」

 

「随分と長い病気だね」

 

「いいえ、本来はもっと短い筈です。我々司祭が日々の【祈り】で、病魔の進行を抑えているのです」

 

 

祈りとは、比喩表現でも何でもない。

エクレシアの神官たちは、皆が一定以上の治療魔術を行えるエリート集団。

つまり、目の前の司祭は、小さいとは言っても村全体を治療できる程の実力者である事が解った、そして村に蔓延する病気とやらが、強い部類である事も。

それでも、本人がその病気にかからないのは不思議な話なのだけれど。

 

 

「前司祭殿は、何と?」

 

「それも解りません。私と交代するなり倒れ、目覚めていませんので」

 

「八方ふさがりじゃない。代金置いていくから、適当に補給して進んだ方が安全ね」

 

「この土地の物は、全部感染していると考えても良いと思うけどね。本当に、何で司祭様は感染しないのやら」

 

「…………私、元々鍛冶師なんです。時々、自作の魔除けとかを作って居るので、それが可能性としてはありますね」

 

 

そう言って自らが鍛えたのであろう武器や装飾品を取り出す。

鉄が材料と思われる無骨な大鎚と、それに反するかのようにきめ細やかな細工が施された装飾品が出される。

ボク自身は細工が凄いと思う程度であったが、アリアが両方に反応したので、武器も装飾品もかなり良い代物だと言う事が解った。

 

 

「その装飾品、村の人に近づけたら駄目なの?」

 

「全然効果がありませんでした」

 

「そりゃそうよ、毒を防ぐお守りがあったとして、毒になってからお守りを付けても遅いのと同じよ。にしても、アンタ凄いわね、武器は……アンタ専用のだから兎も角、装飾品は十分に効力を発揮してるわ」

 

「その力を見込まれて、エクレシアに呼ばれた様なものですから」

 

「そのエクレシアは、何故一人だけを派遣するに止めたのです。貴女の様な司祭様が複数いれば、作業の分担も楽ではありませんの?」

 

「慢性的な人員不足は、この時代は何処でも同じですから」

 

「世知辛いねー…………」

 

 

かといって、このままでは村も全滅してしまうだろう。

それどころか、立ち寄る旅人に感染して大陸全土に広がってしまう可能性すらある。

個々にそれなりに出来る面子が揃ったのだから、此処で解決しておくべきだと皆に言う事にした。

 

 

「取りあえず、治療薬作るかなー。司祭様、緊急事態だし勝手に使いたいんだけど、【アイスプラント】……いや【ホワイトハーブ】はこの村にあるかい?」

 

「ホワイトハーブですか、食材を扱っている店にあると思いますが」

 

「良いね。じゃあ案内して欲しいんだけど。その前に、ティポットとアルフライラは井戸の水を採取して。素手では触れない様に」

 

「解った」

「りょうかいだ」

 

「レティ、私は何をすれば宜しくて?」

 

「…………ボクの釜持ってきて」

 

 

案内は司祭様だけでも構わないし、かと言って採取は素手でやるなと言っても絶対に言う事を聞かないだろう。

だったら適当な力仕事を任せるに限る。

そんな考えが伝わってしまったのか納得がいかないような顔をしていたが、ボクの行動開始の声と共にバラバラに行動し始めたので、後は与り知らぬ事である。

 

 

「ホワイトハーブは、塩の代わりによく使われる食材と聞いていますが、それを何に使うのです?」

 

「ん、ああ。まだボク達自己紹介してなかったね。レティシア・ソルイルナ、錬金術士さ。つまりは、そう言う事」

 

「成程。教会の教えとしては、神が定めた形を壊す者。故に異端となっていますが、今この場に置いては何も関係の無い事ですね」

 

「おや、意外といけるクチ?」

 

「私も鍛冶師ですから。インゴットを叩いて作り変えるのが好きなんです」

 

 

割と寛容な人で助かった、のかな。

それとも、神の教えとやら関係なしに村の人を救いたいだけなのかもしれない。

そんな事を考えて居ると食料品店に到着した。

司祭様は普通に中に入り、当然であるかのようにアイスプラントを持ってきた。

罪悪感が全然無さそうに行動しているので、大人しそうな見た目とは裏腹に、大胆なのかもしれないね。

武器も巨大なハンマーだし。

 

 

「これだけあればよろしいですか?」

 

「十分すぎるね。後は釜を――――――」

 

「持ってきましたわ!」

 

「ん、次は空の瓶をあるだけ持ってきて」

 

 

アリアがお湯がたっぷりと入った釜を担いできた。

どうやら途中でアルフライラにお湯を入れて貰ったらしい。

之で楽になったと、次の指示をアリアに出しておく。

何やるか解らない娘(アリア)は手持ち無沙汰にさせないようにしておくのが一番であるとボクは良く知っている。

用事を伝えたらボクも早速火をつける。

最近なんだかんだで錬金術を使う機会が多かったので、技術も上がったし、比例して一日の消費魔力量が多くなるから、伴って魔力量も少しずつ上がっている。

お蔭でアルフライラ程ではないけど、強火でお湯を沸かせれるくらいまで出来る様になってしまった。

 

 

「んじゃ、やろうか。全部ぶち込んで……と」

 

 

後は何時ものように釜をかき混ぜるだけ。

今回は、錬金補助剤は使わない。

アイスプラントに備わっている力を抽出するイメージで魔力を通し、釜をかき混ぜ続けるのだ。

つまり、やって居る事はトウガラシの元素を取り出した時と同じ。

取り出す対象が元素か潜在能力かの違いである。

失敗する道理は無い、いつも通りに色が変化するまでかき混ぜ続けるだけだ。

 

 

「出来た。【ブラックポーション】」

 

「…………ホワイトハーブ、でしたよね?」

 

「この世界では良くある話さ」

 

「――――――瓶を持ってきましたわ!」

 

「うん、休んで……いや、瓶に詰めるの手伝って」

 

 

薬となるポーションは出来たが、まだまだやらなければいけない事がある。

採取が終わった二人が帰って来るまでに、鍋を空にしておかなければいけない。

だからさっさと瓶に詰めてしまおう。

 

 

「みず、くんできたぞ」

 

「鍋の中に入れて。ついでにアルフライラー?」

 

「解ってるわ、煮立たせればいいんでしょ」

 

「うん、今回は沸騰させながらやるから、ボクがかき混ぜれる程度の炎でお願い」

 

 

ひとつ、病気の原因にあたりをつけてみた。

水だ、井戸が汚染されているのではないだろうかと。

ひと月近く良くなる気配が無い病気と成れば、飲食物に原因が来ている可能性がある。

それらが汚染されていれば、自然に直るわけもない。

だから今から行う錬金は、不純物と水とを分離させるようにかき混ぜる。

沸騰させてからやらないのは、水溶性の毒であった場合、蒸発して空気中に散布されない様にするため。

最終的に出来上がったのは、紫色の結晶だった。

 

 

「完成」

 

「【魔素結晶】じゃない。たったこれだけの水に、結晶化出来る程の量が入ってたわけ?」

 

「魔素って何ですの?」

 

「簡単に言えば自然物以外の魔力よ。魔力は世界に存在するすべての物に宿ってるって言う話でね、それを使って魔法を唱えたりするんだけど、まあそれは置いといて、その魔力が濃かったりすると有害なのよ」

 

「まりょくには、それぞれはちょうがある。もつものによってちがう、ゆえに、たしゃのまりょくはうけいれづらい。ほんらいは、そのていどのはなし、なのだが」

 

「偶に居るのよ。自身の魔力を扱い切れず、放出し続けるのが。ソレが魔素中毒の症状を他人に引き起こさせたりするの」

 

 

扱い切れない魔力は自分にとって毒である。

放出する事で死なない様に本能が調節するそうだ。

しかし、そんな状態になっている生物自身も魔素中毒であり、生きている限り魔素をばら撒くとアルフライラは話した。

ボクの予想はそれなりに当たって居た様で、そして井戸水が汚染されていると言う事は、この井戸の源流となる場所が汚染されていると言う事である。

 

 

「さて、原因も解ったし、問題解決に行こうか。司祭様、この井戸は何処の水が流れ込んできているんだい?」

 

「出来れば、案内したいのですが、私がこの村から離れるとその魔素中毒の進行が進んでしまうのでは?」

 

「それも含めて、問題解決さ」

 

 

ブラックポーションを魔素結晶へとおもむろにぶちまける。

シュウシュウと言う音が聞こえてきたのだが、それが聞こえなくなる頃には無色透明な結晶へと変化しているのであった。

 

 

「中和完了。これで自然由来の、指向性のない【無色の魔力結晶】になったね。これでもう無害、同じように二、三本ブラックポーションを飲ませれば、完全治療となるから」

 

「ッ……! 解りました、直ぐに皆さんに飲ませてきます!」

 

 

持てるだけのポーションを持ち、司祭様は走っていく。

慌てる必要は無いが、のんびりとする理由もない。

残っているポーションも手分けして村人へと配る事にするのであった。

直ぐに食事が出来る様にと、植わっている野菜や井戸水に振り掛けるのも忘れない様にしないとね。

 

 

 

 

・・・・・・

「助かりました、錬金術士の少女さん」

 

「いえいえ、此方の司祭……代理様が材料を使わせてくれたから、話が早く進んだだけさ」

 

 

目覚めていなかった為、そもそも自力でポーションを飲める状態では無い司祭様だったが、五本ほど無理やり司祭代理様に飲まされたらしい。

他の村人より消費した量が多かったが、それだけ重篤な状態であったのかと、間に合ってよかったとボクは胸をなでおろす。

そんな司祭様であるが、無理やり起き上がって原因の排除に向かおうとするボク等を見送りに来てくれていた。

 

 

「司祭様が復帰なされましたので、私はもう代理である必要はありませんね。レティシアさん、どうか私の事はリンクと呼び捨てで構いません」

 

「了解。まあ、司祭様に司祭代理様に、こんがらかりそうだし、呼ばせて貰うよ」

 

「それでリンク殿、本当に貴女まで原因排除へ向かうのですか?」

 

「はい、司祭様。十日間、彼女たちが来るまで何も出来ずにおりました。せめて、私も手伝いたいのです」

 

 

巨大なハンマーを掲げながら言う姿は、神官職に就いている者には見えない。

一応、エクレシアの教えでは殺生は禁じられていると聞いていたけど、明らかにこの武器だと叩き潰す事しか出来無さそうだ。

これはリンクの性格によるものなのだろうか、でも司祭様も咎めようとしていないから地方に来ると黙認される部分もあるのかもしれない。

そんな事を考えながら、ボクらは司祭様へ別れを告げ、水源へとキャラバンを動かす。

 

 

「水源までは遠いの?」

 

「人の足で、半日と言った所です。キャラバンならば、引いている動物にもよりますが…………すみません、この種類のぞうは見たことがありません」

 

「大丈夫、人の足で半日なら、モスにかかれば一時間もかからずにつくよ」

 

 

そう言った頃には、もう村が小さくなっていた。

モスをそれなりに早く走らせているため、キャラバンの進みが非常に早い。

不慣れなアルフライラやリンクは倒れない様に必死で捕まっている。

逆に、同じく不慣れでもティポットはノリノリでモスの頭の上で指揮を執っている。

 

 

「所で、その湖って、魔素中毒にかかりそうな生物とかって住んでるの?」

 

「…………司祭様が仰るには、古くから蟹の魔物が主であったと言っていました」

 

「カニ、ねえ」

 

 

淡水の湖に生息する蟹の魔物と言えば【岩蟹】とか言う、甲羅を岩で武装したのが居た事を思い出す。

けど、あの蟹は別に暴走させるほど魔力を持っていない蟹であり、刺激さえしなければ安全であったはず、何かが起きているのだろうか。

揺れでバランスが崩れ、あまり考えもまとまらないので、急に作業をし始めたアリアを見てみると、林檎の原木で何かを作って居た。

 

 

「アリア、何作りだしたの?」

 

「蟹釣りの餌ですわ」

 

「………………なんで、蟹釣り?」

 

「原因とされる湖の主は、蟹なのでしょう? その主に変異が起こったのか、それとも主を倒して別の原因がその湖を汚染したのか、どちらかですわ。どうせ水の中に入るのは危険なのですから、蟹が主のままである事を予想して、釣り上げるのが一番ですわ。それを行う上で、程よい香りを発する林檎の原木は、適していますのよ」

 

 

巨大な蟹を想定している様だ。

確かに、岩蟹であるなら長い年月で巨大に成長しても可笑しくは無いけど。

無いけど、そんなロープと原木を加工しただけの釣り具で、本当に釣れるのかは疑問な所に思える。

 

 

「そんな事やるより、爆弾とか、私達の魔法で気絶させれば良いんじゃない?」

 

「そうだぞ、」

 

「駄目ですわ。エクレシア本部の方が居る前で、禁止されている漁は出来ませんわ。たとえ、許可が頂けたとしても、本部への報告に、怪しまれるべき点を残すのは我々旅人としては、避けたい所ですの」

 

 

アリアの言っている事は正しい。

影響力の強い団体であるエクレシアを敵に回すのは得策では無い。

だけど、だからと言って原因であるかも知れない蟹を釣り上げて対処したとか書かれても、怪しまれるだけじゃないのかと思ってしまう。

ほら、リンクも結構困った顔をしている。

まあしかし、結局は成る様にしかならないだろうと溜息を吐いたところで、その問題が予測される湖が見えてきた。

 

 

「あー……原因解りやすいね」

 

「ほら、やっぱり蟹が原因ですわ」

 

 

其処まで広くない湖のど真ん中に巨大な水晶の島の様なものがあった。

色は紫色、つまり魔素結晶である。

沈んでいて詳しくは解らないのだが、薄らと岩蟹らしき特徴も見える、背負っている形になるのか。

アリアの言う様に本当に蟹であったし、結晶を作り上げるくらい重度の魔素中毒に陥っている事を考えても、この周囲は大丈夫なのかと頭が痛い。

取りあえず刺激をしない様にキャラバンを此処で止め、湖畔まで歩いて行く。

 

 

「あのかには、みずうみ(なわばり)からはでない。そういうしゅうせいだ、だからしゅういに、おせんがまかれることは、ない…………と、いいな」

 

「かと言って、アレを何とかするために湖に入ったら、私たち一発で中毒者側ね」

 

「ですから、釣り上げると言っていますわ」

 

 

そう言って魔素結晶に向かって思い切り原木を放り投げた。

普段から馬鹿力なだけあって、水晶に命中させている。

50mくらいある様に見えたんだけど?

 

 

「ほら、かかりましたわ!」

 

 

中毒に汚染されていても食欲はあるのか、はたまた本能なのかは解らないが、原木に喰らいついている。

此処から下手をすると湖に引き込まれるけど、どうするのかと見ていると、アリアのお嬢様らしくない掛け声と共に、巨大な蟹が、空を飛んでいた。

何この娘、おかしい。

 

 

「釣り上げましたわ」

 

「んな事良いから離れるよ!?」

 

 

このままではボク達が潰される。

轟音が響いて地面に叩きつけられた蟹をはさみこむ様に、ボクとリンク、それ以外と言う形に分断された。

若しくは挟撃している、とも言える、のかな?

 

 

「足ですわ! 幾ら魔物と言えど姿形は蟹! 足の半分を折れば動けなくなりますわ!」

 

 

全員に伝わる様にアリアが叫んでいる。

でも、世の中には尻尾を斬ったら二足歩行を行い始める蠍の魔物とか居るらしいから、余り油断はできないよアリア。

 

 

「しかし、困ったね。大鎚じゃボクを守って動くのは難しそうだよね」

 

「このような経験は、結構ありますから」

 

「ふえ…………おおー!?」

 

 

【アタックアップ】、【ガードアップ】、【マジックアップ】が矢継ぎ早に唱えられた。

エクレシアの神官が得意とするのは回復魔法と、補助魔法と聞いている。

それであったとしても此処までの高速詠唱は、エルフと言う魔法に慣れ親しんだ種族の力もあるのだとボクは思う。

反対側から魔法使い二人が補助魔法(バフ)がかけられたに関して驚いている様子が此方に伝わって来た事、見えない位置に正確に魔法を使える実力もある。

 

 

「なんか、司祭、いや神官か、ソレより聖騎士(パラディン)みたいだね」

 

「…………残念ですが、利き手に盾を持ちより多くを守る技術はないです。どちらかと言うと、両手持ちのこの鎚で粉砕する方が私に合っています」

 

 

そう言って此方に振り下ろされた岩蟹の手に合わせてハンマーを振りぬいていた。

纏っていた岩を、甲羅ごと打ち砕いた事に、リンク自身も驚いていたが、どうやら負けじとアルフライラも補助魔法(デバフ)を蟹に使って防御力を下げていた様である。

 

 

「攻撃力半減だね」

 

「ええ、足を狙わずとも倒せそうです」

 

「まあでも、足があると湖に逃げ込むかも知れないから、弱る前に破壊しておくのが一番だろうね…………っと!」

 

「何を投げたのです?」

 

「今のボクには、使い道が無さそうな石ころ、かな――――――ティポット! 岩蟹の真下に無色の魔力結晶投げ込んだから、種に使って!!」

 

「りょうかいした」

 

 

指向性が無い只の魔力の塊と言う事は、誰かに導かれればその色に染まると言う事。

ティポットの魔法はある程度生命力を消費させなければ直接植物は生やせない。

別に、大地から直接生やして良いけれど、それは大地の生命力を奪っている事に他ならず、長い目で見た場合続けて植物を育てる事には不向きとなる。

だからボクは、その生命力の代わりの素材を放り込んだ。

しかも、無色の魔力結晶はボクが錬金術で作り出したアイテム故に、使われる魔法に干渉する事だって可能になる。

ティポットの詠唱が終わった時、何時もの様な植物の木では無く、巨大な槍が背中の魔素結晶ごと貫いていた。

声なき蟹は、そのまま崩れ落ちる。

ボク達の、勝利だ。

 

 

「これで、あの村は救われました、めでたしめでたし。なーんて上手く行くわけ無いっての、現実舐めんなっての」

 

「この一帯の浄化、魔素汚染された岩蟹の処理、やる事は沢山ありますわ」

 

「私も、エクレシアに何と報告をするべきか。錬金術士に、高濃度魔素結晶。そして当然、事の顛末も」

 

「そ、それは何とかしてもらわないと困るかなー、本当に」

 

「この分だと、背中の魔素結晶を浄化するだけでどれだけかかるやら。放置出来ないし」

 

「厳重に管理しながら放置するのも一番何だけどね。こういうの浄化できるのって、現状では錬金術士(ボク)だけだし」

 

 

あるだけのブラックポーションを振り掛けても何とか出来そうにない。

ティポットの魔法で木を生やしたところで汚染された木が生えるだけ。

しかも、この量からすれば先日のソレを上回る規模の木でだ。

地道に魔力結晶を削っては浄化と言う作業しか方法は無さそうで、どれだけこの地域に足止めさせられるのだろうか。

 

 

「ぶもー?」

 

「ああ、モス……ごめんね、もう戦闘は終わったけど、ちょっとこの地域汚染されてるから近づいちゃ駄目だよ?」

 

 

騒音が聞こえなくなったからとモスがキャラバンを引っ張って此処まで来ていた。

下手をすれば魔素中毒になる可能性もあるので、近づいて欲しくないボクであったが、何か予想以上にこの子は生物として優れている様であった。

 

 

「モス、危ない……って」

 

「何か食べているようですわ」

 

「魔素を、食べてる?」

 

「ぶもー!」

 

 

近づくなと言っているのに近づいて行くのを止めようとしたのだが、今回は珍しく言う事を聞きそうに無かった。

そして魔素結晶の前に止まり、紫色の煙を吸い取り始める。

連動して少しずつ魔素結晶の紫が薄くなってきているので、アリアの言う様に本当に魔素を食べているのであろう。

 

 

「モ、モス、食べても美味しくないよ? ほら、いつも通り干し草一杯あげるから」

 

「あきらめろ、どうみてもおいしそうに、たべている」

 

「だけど! モスが魔素中毒になったらどうするのさ!?」

 

「ならんだろう。むしろ、せいちょうするために、ひつようなしょくじ、みたいだぞ?」

 

 

一番冷静なのはティポットの様だ。

ボクとしては魔素自体が危険だと思っているから、取り込んだモスが中毒になってしまうのではないかと心配なのだが。

でも、ティポットの言う通り、魔素を食べる量に合わせて体が大きくなっていく。

ついでに、角も巨大になり、皮膚も硬化して鱗状になった。

 

 

「……………………動物だろうが魔物だろうが、魔素を好んで食べる存在なんて聞いたことが無いんだけど?」

 

「魔族とか?」

 

「魔族は人型と言われています。そして、モスさんは禍々しい雰囲気はありませんので、魔に属するものでは無い気がします」

 

「エクレシアの神官さんが言うなら大丈夫だよね」

 

「大丈夫ですけど、報告する内容が更に困ります」

 

 

それはボク達も似た様な物で、モスとかに関して色々と調べなければならなくなった。

まあしかし、それ以外に起きている問題はモスが解決してくれたので、高濃度の魔力結晶になった物をキャラバンに詰め込んで村に帰る事を決めた。

 

 

 

 

・・・・・・

「村人は、すっかり元気になったみたいだねー」

 

「ええ。貴女の残した薬が、皆をお救い下さいました」

 

 

村に戻ると、司祭様が出迎えてくれた。

村人も完全に回復したようで、元気に動いている。

病気明けなんだから、もっとゆっくりさせれば良いと司祭様に言ってみた。

司祭様も同じことを村人に伝えたそうなのだけど、村を正常に運営する為にもこれ以上休んでいる暇はないと押し切られたらしい。

だから、雑貨屋だろうが宿屋だろうが平常運転しているらしい。

 

 

「まあ、村が機能してるなら旅立つ準備でもするかなー」

 

「随分と滞在は短いのですね」

 

「ボクにはこれと言った旅の目的は無いけど。他のみんなは旅する理由ってのもあるみたいだから、ゆっくりはしてられないのさ」

 

「成程。旅人の方にも、色々あるのですね。ならば、準備は私も手伝いましょう」

 

 

本当、この村の神官職の人たちは割と寛容的だ。

エクレシアから離れている事も関係しているのか、それともどこも其処まで厳しくないのか、何にせよ旅人的には有難い話だ。

 

 

「私も手伝いましょう」

 

「…………リンク殿。貴女は貴女で本部(エクレシア)へと戻る必要があるのでは?」

 

「あ、私こちらの方々について行くことに決めました」

 

「それボクは初耳だけど!?」

 

 

何か着いてくる事が本人の中では決まっていた。

初めて会った時は大人しそうな人かと思ったけど、物凄く自由奔放な神官だ。

 

 

「本部に戻ると、この事件を説明する必要が出てきます。報告書として作り上げて、錬金術士の名を出しても良い反応は得られません。ならば、適当な日数を共にし、問題無しと報告することが、結果的に貴女方の手助けになります」

 

「…………エクレシア本部までは、流石に行かないよ?」

 

「ええ、一番近い所で降ろして頂ければ良いです」

 

 

どうやら本気で着いてくる様だ。

旅の護衛が増える事は嬉しいのだが、もうそろそろ乗るスペースが無くなる気がする。

 

 

「と言う事なので、キャラバンを改造しても良いですか?」

 

「改造…………ああ、鍛冶師だもんね」

 

「はい。長居はしないとの事なので、一日で仕上げます」

 

 

と言うか、設計図はもう既にできているらしく、見せてくれた。

帰りのキャラバンの中で書き上げたとの事で、その辺りから乗る気満々だった事にはボクも司祭様も苦笑してしまった。

今までのモスならば結構な重労働になる図面だったが、中型の魔獣と言っても良いサイズまで姿も能力も進化した今ならば問題が無いと思う。

そして、本気で一日で仕上げるつもりらしく、ボク達が旅の用意をしている間、ずっと鉄を叩く音や鋸で木を切る音が響いていた。

 




人物紹介

リンク・ストリック
種族:エルフ
役割:鍛冶師/神官
エルフ耳でリンクだって!? 博士、お許しください!! 『エアアア!!』とか叫びません。
初期コンセプトから其処まで変わらなかった人。
メイスを持つ神官は多いけど、ハンマー持つ神官は少ないかなぁ……と。


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4話

忙しいんや、ss書いてる暇あらへん(白目)


カンカンと言う小気味良い音が響いている。

それはリンクが皆の武器を叩いて強化している音。

馬車の中で。

モスが引っ張る大型荷車(キャラバン)が、大型荷車改(キャラバン・かい)へと生まれ変わった事で、詰めなかった荷物も積めるようになった。

例えば、皆の共同スペースとなる場所は一回り大きくなっただけでなく、ボクとアリアだけのスペースと言う形で二階が建築されたり、ティポットの菜園用の施設、ライラの書斎、勿論ボク専用の錬金スペースだってある。

リンクも途中までは一緒に行くと言う事になり、キャラバンを大改造するついでに自分の商売道具の一つである高炉まで設置されている。

もう一度言う、馬車の中で。

 

 

「流石に煩かったですわ」

 

「まあでも、昼だし良いじゃない」

 

「ふふ、私も夜この音を出すのは忍びないです」

 

 

魔力結晶を使用して、武器の威力の底上げをしてもらった。

と言っても、骨の大剣とか木の杖とか、M61ヴァルカン5mmガトリング砲と言ったボク達の武器の後ろに精々『改』と付いた程度である。

本格的に強化をしたいなら、武器に合った素材を見つける必要があるらしい。

出来る様になった事は、武器に属性を乗せて攻撃が出来る様になった事。

遠距離主体のボクとかには其処まで関係のない話だけど、アリアとかは魔法使いの力を借りて剣を振るう事だって可能になった。

ボクが作って居る研磨鉄粉の属性版だと、リンクが言っていた。

同じ様な要領で属性を込めれるアクセサリーを作ってくれた。

言っても魔力結晶を削って磨いて、ブレスレットにしただけなんだけど、魔法のブーストに使えるから十分強力である。

尤も、使い切りだから切り札に出来そうなのはライラとティポットくらいだけど。

 

 

「しかし、煩いのはこれで終わりです。全員分の武器は叩き終わりましたし」

 

「防具とかはどうするの?」

 

「皆さん軽装ですし、此方は縫います」

 

「かじしとは、なんでもやる、のだな…………」

 

「自惚れている訳ではありませんが、信仰深い鍛冶師程度では、エクレシアの神官になる事は出来ませんから」

 

 

そんな神官様をボク達は良いように使っている訳だけど、大丈夫なんだろうか。

取りあえず、リンクは同行者と言うよりはお客さんと言う形だし、余り無茶はしてもらわない方向で話は決めてある。

本人の実力が高ければ高いほど、無茶が無茶じゃ無くなるのはご愛嬌、でもそれは一芸特化が集まりだしたこのキャラバンでは案外普通の事なのかもしれないね。

 

 

「鍛冶師なのに仕立ても大工も行うは何でなのよ」

 

「武器を打つ事とクギを打つ事、防具を作る事と服飾を行う事に対して違いはないですから」

 

「…………結構違う気がするわ」

 

「そうですか?」

 

 

まあ、本人が同じだと納得しているから、良いんじゃないかなと聞きながら思う。

ボクだって錬金術士の傍ら薬師の真似事だってするし、ライラだって料理を作って居るように見えて魔法の触媒を作って居たりする事もあるし。

………………間違えて食べたけど美味しかった。

 

 

「私の事は取りあえず置いといてですね、皆さんはどの様な防具(ふく)を必要としていますか?」

 

「防御力優先、かな? ボクとアリアは【遺跡】とかに潜る事もあるし、とにかく頑丈さ優先で服とかは作ってもらってるんだけど」

 

 

どれほど困難な道のりを乗り越え、お宝を手に入れて脱出しても、壊滅的な格好をしていれば感動も半減してしまうだろう。

と言うか実際にあった、恥ずかしかった。

他の冒険者に見られくて良かったのが幸いで、その日からボクとアリアは服は何よりも頑丈さを優先する事にしている。

 

 

「ああ、頑丈さは必要ですね。私も時々、素材を取りに行くために近くの遺跡に潜ったりする事が多いので解ります」

 

「そうねー。私は普段ダンジョンいかないけど、アンタ達と一緒なら潜る事になるし、頑丈な服なら良いかも?」

 

「そもそもだ、わたしは、なにもなしでも、いいのだぞ」

 

「いくら妖精は自由だからって、止めておいた方が良いと思うよ、裸は」

 

 

確かに、背中の羽が上手く扱えなくなるから服は邪魔なのだろう。

だけどだからと言って裸で行動されると困る。

妖精って割と自然に近い存在で、動物よりは魔物に近い存在だから、裸で大丈夫なのは解るんだけど、そのまま放置しておいたら主にボク達がとても白い目で見られることに成るのは間違いないしね。

 

 

「その辺りは考えて作るので大丈夫ですよ。材料は少なめで済みますし」

 

「それなら、たのむぞ」

 

「どの程度頑丈にします? もう少し材料を揃えれば、魔法耐性を持つ服が作れますけど」

 

「ん、材料にもよるかな?」

 

 

作れる材料ならボクが作れば良い。

が、残念な事に遺跡でしか見られないような物が必要になる事が説明で分かった。

魔力耐性がある服は結構役立つし、どうしたものだろうか。

そんな事を考えながら、皆にどうするかを聞いてみたけれど、満場一致で遺跡に潜ることに成るのだった。

遺跡に潜るのに防具が必要で、防具を作るのに遺跡に潜る必要があるのは、何か変な因果な気がする。

 

 

 

 

・・・・・・

「入りたいって思った時に遺跡ってあるから、有難いよねー」

 

「元々海岸沿いは村も遺跡も多いですわ。黄昏より以前には、人が居ない場所など無かったと古書にも書かれていますし」

 

 

そう、基本的に遺跡とはかつての町の名残。

人が住むことを放棄した建造物の中で、長い時間を耐え形を今に残す物が遺跡と呼ばれているだけの話。

古ければ古いほど、黄昏以前を知る資料が眠っていたりする事があるけれど、其処まで古い遺跡なんて誰かに探索されているだろうし、ボク達は学者でも何でもないので態々探したいとも思わない。

 

 

「私は遺跡に入るの初めてだけど、何か気を付けておいた方が良い事ってある訳?」

 

「魔物とかに気をつければ良いと思うよ。嘗ては居住区だったことが多いから、トラップとかなんて滅多に無いし」

 

「…………その割には、今から入ろうとしてる所は、大変そうに見えるんだけど?」

 

 

リンクが忙しそうに治療を施している。

治療を受けているのは先に遺跡を散策したと思われている冒険者たち数名。

リーダーらしき人物を除いて全員が毒や麻痺と言った状態異常に体が侵されていて、明らかに中で何かがあったと解る。

しかし、そんな事は置いといても、まさか散策する前から回復役の魔力が消費されるなんて思わなかった。

 

 

「ア、アンタ等……礼を言う、助かった!」

 

 

まあ、助けを求めて泣きついてきた冒険者のリーダーが居るし、普段なら金銭を要求する所だけれど、今回は別の形で報酬を貰おう。

 

 

「礼なんか要らないから、情報頂戴。中で何があったのさ?」

 

「――――――解らねえ! 魔法で生命探知を行っても何一つ引っかからない、安全な遺跡だと思ったのによ!? 気づけば一人一人毒で狩られていったんだよ!!」

 

「んー……【幽霊】にでもやられた? そう言うのが住み着いている可能性は十分に考えれる訳だし」

 

「物理的な一撃を喰らっていますわ。首筋に一突き、小さな針で刺されたような傷跡がありますの」

 

「序に、毒物も自然性由来の物と、魔力性の物が混在しています。片方だけならば早く終わるのですが、混在しているとなると些か手間取ります」

 

 

正直な話、ボクの薬を使わないで済むなら楽で良かったのだけれど、そうも言ってられない状況の様だ。

仕方がなく、備蓄してあった二種類のポーションを振り掛ける。

本来は一人一本が適正量だけれど、今はリンクが治療の魔法を使っているから相乗効果でこれ一本で十分だろう。

実際に、それで効果もあったみたいだ。

 

 

「自然性の毒は【レッドポーション】、魔力性の毒、つまり【呪い】は、魔素中毒と同じ様な症状だからブラックポーションで治る。リンクの魔法を後押しさせて貰ったよ…………でも、複数人治せるとは言っても、やっぱり情報料として使うのは勿体無かったかなー?」

 

「あまり欲に走らない所は私としては好ましい所です」

 

「ふふん。神官様がそう言うなら、そう言う事にしておこう……で、結構話はそれたねアリア。物理的な一撃って言うと、やっぱり人か何かなの?」

 

「人は居ないわ。アンタ達の会話が気になったから、この遺跡全体に生命探知の魔法をかけてみたけど、一切反応は無しよ。そこの冒険者の魔法が未熟って訳でも無いみたい」

 

「魔物も?」

 

「そう、魔物もよ」

 

 

幽霊でも無く、しかし生命体でも無い。

と言うか誰も居ない事が明言されているのであれば、後は下手なトラップに引っかかった事くらいしか無い気がするけど。

それも違うらしい。

何せ、リーダーさんは声を聞いたと言っているのだ。

そう言う情報はもっと早く言えっての。

 

 

「生命体で無い、声がある。魔導人形(ゴーレム)の類でもいるのかな?」

 

「考えにくいわね。私の……って言うか、生命探知の魔法って、魔力反応含めて探す事が出来る訳だし」

 

「実際には罠を踏んだだけでは無いですの? 声は、後付けで録音装置の中に入れておけば良いですし」

 

「………………そう、言われれば、そうなのかも知れねえ。俺達、ってか俺が聞いたのは『帰れ』ってのと『出ていけ』の2パターンだけだったからな。無視してたら、電の様な音と光がして、俺意外が倒れてたって訳だ」

 

 

だからもっとそう言う情報は早く言えと……。

色々と突っ込みどころは多いのだが、罠と言う事でリーダーさんもそれで納得したし、罠に気を付けて進もうと言う方針になった。

だけどまあ、一応念を入れた陣形で進んでいくのも悪くは無さそうだ。

 

 

「よし、ではボク達はアリアを中心とした陣形を組もう。左右にボクとライラ、前にリンクで後ろにティポット!」

 

「…………その陣形は、中央の人物を守る為に使われる物ではありませんか?」

 

「普通はね」

 

 

そう、普通は中央を守る為に一番体力が低い人物……大抵はボク辺りを置いておくのが一番なんだろうけど、今回はこれで良い。

アリア以外訳が分からないと言った顔をしているが、寧ろアリアが意味を解っているのならば問題ない。

治療が終わった冒険者達に別れを告げてボク達は遺跡へと入る。

 

 

「んー…………本当に静かな遺跡だね此処」

 

「言ったじゃない。生命反応は何もないって」

 

 

生命体が活動をしている痕跡は見られない。

正面入り口を抜けると広いホールに出たけど、やっぱり遺跡内は静寂に満ちている。

だけど、違和感がある。

 

 

「綺麗すぎますわ。遺跡とは、殆どが廃墟ですのに、なぜ此処まで整理されていますの?」

 

 

アリアが言うとおり綺麗すぎる。

放置されていれば埃も積もるはずだし、壁や床にヒビだって入っているのが普通。

だと言うのに、此処は寂れてはいても、痛んではいない。

そう、何かがあると、ボク達に疑問が湧いてきた時だった。

 

 

『――――――帰レ』

 

「嘘…………生命探知に引っかかってないわよ?」

 

「機械音声ですわ。人が話す音とは、少しばかり違いますもの」

 

「………………良く解るねえ」

 

 

正直、ボクには普通の声にしか聞こえなかったのだけれど。

まあアリアが言うんならそうなんだろう。

警告音が聞こえたと言う事は、何かこの先にある……もしくは今この場に何かが起こると言う事だから皆が気を引き締めている。

 

 

「取りあえず、ガードアップをかけておきましょう」

 

「ええ、ではかけ終わり次第進みますわ」

 

『止まレ』

 

「くふふ、止まれと言われて止まるなら、誰も此処に入らないって」

 

 

機械音声を無視する形。

これは前に入った冒険者たちと同じ形で進んでいる。

この後に電の様な音、そして光が来るらしい。

だけど、ボク達が予想していた事とは実際は違った。

 

 

「ならば、我が一撃を喰らって帰レ」

 

「!」

 

 

機械音声が、ボクの言葉に反応をした。

そして、後は先刻の冒険者たちと同じ感想になる。

電の如き轟音と共に、光が見えた。

 

 

「――――――ま、届かせるわけにはまいりませんわ」

 

「防いだカ」

 

「正面から堂々と奇襲とは、流石に人を舐めすぎていますわ」

 

 

初めに狙われたのはリンク。

見えない速さで、それこそ本当に閃光が見える速さで、一撃を喰らわせようとしていたみたいだけど、アリアは後一歩で届く一撃の間に剣を差し込んでいた。

と言うか、ボクは見えなかったんだけど、アリアには見えていたみたいで。

人として成長の仕方を間違えたんじゃないかな、アリアって。

 

 

「面白イ。一撃で壊滅しなかったパーティは初めてダ」

 

「一撃で壊滅しない様に組んだ陣形ですわ。私を守れる位置に皆が居ると言う事は、逆に私が皆を守れる位置に居ると言う事ですの」

 

「盗人にしては、中々に考えている様だナ。良い、次も楽しみにしているゾ」

 

「逃がしませんわ! レティ、アレを何とかしてから行きますから先に行ってなさい!」

 

「いや、攻撃に反応できるの君だけだから、どっかに行かれると…………聞こうよ、ボクの話」

 

 

離脱していく襲撃者をアリアは追いかけていく。

絶対に逃がさない自信があるのだろうけど、流石に前衛をリンクだけにするのは止めて欲しかったな。

 

 

「全く、先刻のが何体も居たらどうするんだよ」

 

「それについては大丈夫でしょう。先程のは【機械人形(オートマタ)】と呼ばれる黄昏以前の代物ですし」

 

「おーとまた? ひと、ではないのか?」

 

「幸い、間近で確認できましたから…………機械音声と、目が硝子である事。後は生命体ではない事を考えれば、考えれるのはそれくらいですね」

 

「ゴーレムとは違う訳?」

 

「ええ、その辺の物に魔力を入れて動かす事とは、また違う技術ですね……と、言いますか、旧時代の遺産と呼ばれる程度には謎の存在ですよ。私もエクレシアの資料で一度読んだだけで、まさか本当に動いている物をみるとは思いませんでした」

 

 

リンクも説明し始めたけど、エクレシアと言う地には、この時代の宗教が始まった場所にして、総本山であるのだけれど、それだけの場所では無い。

門を開き、どんな種族であろうが学ぶ気概があるならば招き入れる学園を初めとして、様々な施設が集合している。

そして、世界に存在している旧時代の遺産を収集する部門もあるらしい。

此方は歴史に何が起こったのかを解明すると共に、黄昏以前の生活を再び取り戻そうとする目的で運営されているそう。

尤も、時代が開きすぎていて研究が全然進まない部門らしいけれど。

 

 

「全ての叡智を集わせようとしてる割には、冒険者や錬金術士(ボク等)には割と厳しい所だよね」

 

「そうですね。冒険者の方々は何となく解ります。遺跡を破壊して攻略したと言う者や、略奪を行う者。後は私怨も交じっているのでしょうが、横取りされた遺産を高く売りつけようとする者が原因でしょう……錬金術士の方に関しては、私程度ではどうも………………」

 

 

何故か錬金術士と職業を指定してまで否定に走られている現状が解らない。

錬金術士なんて、余程の天才と呼ばれる人物でも無い限り、影響を及ぼさない。

前に一度その辺でであった司祭職の人に話を聞いてみたけど、神の教えに反すると言う尤もらしい理由しか解らなかった。

まあ、ボクは錬金術士で冒険者だから、二重の意味でアウトの可能性が高いけど。

 

 

「――――おっと、扉。罠はありそう?」

 

「無いわね。序に、鍵の様な代物も無し、普通に入れるわよ」

 

「………………遺跡って言っても、所詮は民家だねぇ」

 

「『元』をつけなさいよ。その言い方だとただの泥棒にしか聞こえないじゃない」

 

「くふふ、やってる事は変わらないさ。今回は、人じゃない住人が居る元民家に押し入っての強盗だね」

 

「私、引き返したくなってきたのですが……」

 

 

くふふ、もう遅い。

まあ、エクレシアの教義に合わせれば、押し込み強盗(いせきたんさく)は推奨されている事なので問題ない筈、リンク的にも。

そんな事を考えながら扉を開けてみると、機械で埋め尽くされた部屋だった。

 

 

「これは………………ボクには全く価値が解らないね」

 

 

多分、アリアがこの場に居たとしても、価値は解らないだろう。

…………価値がありそうなものを勘で当てる可能性はあるけど。

そんな機械が並ぶ部屋であった。

つまりは、外れ部屋。

 

 

「しぜんと、あいはんしすぎている。いますぐに、しょくぶつで、おおいたいくらいだ」

 

「コレが旧時代の人間が生きた証らしいし、仕方ないわよ」

 

「んー…………それでも、何か探さない、と……?」

 

 

液体に包まれた巨大なガラス管の中に、ソレは浮いていた。

先刻、ボク達を襲ってきた機械人形と、全く同じ形の物だ。

 

 

「リンク、1体だけじゃなかったの?」

 

「動いては居ませんので、何も問題ありません…………取りあえず、旧時代の遺産に違いないでしょうから、歴史的な発見とも言えるのですが」

 

「発見をしても、解明に繋がらなければただのコレクターアイテムになるだけだね。此処に書かれている文字すら読めないんじゃ…………辛うじて、数字の『0』は読めるね」

 

「――――『ZERO』ではなイ。『O(オー)』と、読むのダ」

 

 

そんな言葉が、耳元で聞こえた。

気づいた時には、ボクは床に組み敷かれていた。

余りの速さに、誰もが反応できずにいる。

こういう時場面は何度かあったであろうリンクでさえ。

やっぱりアリアと別れたのは失策だったと、今此処に居ない幼馴染を恨む。

 

 

「動くナ。少々手荒な真似になるゾ?」

 

「何時の間に…………ってかアリアは? 後痛い!」

 

「煩い女だナ……あの女は撒いタ。この場所は私の補給の場で、戻ってきた時に運よく、いや運悪くお前たちが居ただけダ。後、痛くするつもりは無かっタ。あの女の仲間だからな、かなり鍛えられてるものだと思ったガ」

 

「あんな人の枠超えた様な存在と、ボクを一緒にするなっての! 大体、このキャラバン最弱だってのに!」

 

「…………その様だナ。筋肉の付き方、立ち回りから推察できル」

 

 

そう言って少し押さえつける力を弱めてくれた。

だからと言って、抜け出す事が出来る程ボクは実力がある訳でない。

精々もぞもぞと体を動かして邪魔してやるくらいだ。

 

 

「動くなと言っていル。締め落とすゾ」

 

「…………こっちに注意を向けてたら、皆が倒してくれないかなーって?」

 

「何を言っていル。お前程度、抱えたまま全員を昏倒させれル」

 

「恐ろしい機械だね、全く」

 

「お前らの様な存在が、侵入しなければ私も働く事などなイ」

 

 

溜息を吐いている。

機械なのに割と仕草が人間に近い。

そう言った所も含めて、機械人形は旧時代の遺産と呼ばれているのかな?

 

 

「そう言えば、働くって、何で働いてるの?」

 

「……………………目の前に居るのは、私の元になった人間ダ。名前は知らされていなイ。故に私達の型番にO(オリジン)をつけ、エクレール=MOと呼んで居ル」

 

「ああ、人間なんだ…………人、間?」

 

 

機械の生産施設では無かったけど、知らされた真実は俄かには信じられない。

一体、目の前の少女は何時からこの装置の中に居るのだろう。

満たされている水も、きっと普通の水じゃ無い筈、目の前の信じられない技術は、成程確かに旧時代の遺産とも言える。

 

 

「彼女が目覚めるまで守ル。それが私、エクレール=M7に主より課せられた命令ダ」

 

「………………ろぼっとよ、このにんげんは、いきているのか?」

 

「生きていル。尤も、食事その他は全て、この装置で管理しているがナ」

 

「信じられないわね。此処が遺跡って呼ばれるようになってから、何年たってると思って居るのよ」

 

「与り知らぬことダ。私の仕事は、侵入者の排除。そして、彼女の体調管理を行う事だけダ」

 

 

その主人に言いつけられた護衛対象の彼女が何年目覚めていないのか知らないけど、ずっと命令を守っている事を考える随分と主人想いの機械だと思う。

そう言った部分では人間らしくない。

 

 

「んー…………ま、こんな所で良いかな。面白い話も聞けたし、ティポット」

 

「うむ」

 

「貴様ら、何をするつもり――――――ガ」

 

 

何かには気づいて、ボクを絞め落とそうとしたけど、流石に遅い。

と言うか、絞め落とすべきはボクじゃ無くてティポットだったね、ご愁傷様

 

 

「これ、ハ。何ダ! 何故植物ガ!!」

 

「企業秘密、かな?」

 

 

勿論、ティポットの魔法で生やしただけだけど。

媒介はボクが付けてた魔力結晶ブレスレット。

一回限りの魔力ブーストで、爆発的に生えた植物でしばりつけただけ。

まあ、彼女相手には一回しか使えなさそうな裏ワザかな。

 

 

「じゃあみんな、逃げるよ!」

 

「何、倒さないの? あれだけやられて?」

 

「別に、ボクは怪我も何もしてないしね。後、彼女にはお仕事(・・・)がある。此処で壊すのは可哀想だよ」

 

「お前、ラ! 待て、逃がさン! 数発、殴ル!!」

 

 

とか何とか。

植物はまだまだ成長し続けているので、抜け出すには至ってないけど、怒って居るのは良く解る。

だからさっさとこの部屋から退散していくのが一番。

部屋から出る時に、ドアの所を更にティポットの植物で塞いで、リンクとライラの2人がかりの強化を行ったのは、やりすぎかも知れないけど。

 

 

「それで、出口とは正反対の方向に逃げている訳ですが?」

 

「流石に何も盗らずに出ていくのは冒険者として名折れだよ。それに、数発殴られる程度で済むなら問題ないさ」

 

 

元々、この遺跡には素材を探して入って来たんだし、アイテムを使った以上何か持って帰らないと勿体ない。

まあ、その辺の機材を持って帰るのも良いかも知れないけど、今欲しいのは防具の素材だしね。

どうせ捕まる時は一瞬なので奥へ奥へと走っていくと、突き当りの扉の前には何故かアリアが居た。

しかも割と荷物を抱えている。

 

 

「――――――――あら、やっと合流出来ましたわ」

 

「アリア!」

 

 

感動の再開だ。

ボクはアリアに駆け寄り――――――ほっぺたを思いきり引っ張る。

 

 

いふぁい(痛い)ですわ!」

 

「君が何とかするって言ったから任せたのに、ボク等思いっきり遭遇したよ!!」

 

「あ、あら。それは申し訳ないですわ………………直線ではあちらの方が速くて、振り切られましたの」

 

「もう、相手のスペックが解ってないのに勝手に行動しない事。それで、その荷物何?」

 

「久々に楽しめそうな相手でしたのに…………………………この荷物は、レティに合流する前に、適当に部屋を漁って見つけた物ですわ」

 

 

そう言ってアリアが見せてくれたのは、何やら古い言葉で書かれている本、美しい細工が施された調度品、そして女性物の服だった。

服は、水中の彼女の物だろう。

かなり良い素材だから、材料まで分解してリンクに頼めば、良い防具になりそう。

だけど、これを持っている所を見られたら、先刻の機械人形にどこまで追いかけられるか解らない代物だね。

まあ、アリアには追々話す事にして、突き当りの扉に入ろう。

他の部屋はアリアが漁ったっぽいし。

 

 

「それで、最後の扉の中はっと…………書斎?」

 

「書斎より、目の前の骨に注目しなさいよ、骨に」

 

 

解ってるとも、あえてスルーしたわけだし。

書斎らしき場所に入ると、椅子にもたれ掛かかっている骨が嫌でも目に入る。

肉等は無く、かなり長い年月放置されてきた事が解る。

行き倒れとかは、旅の途中で良くある話だけど、家の中で骨と服だけしか残っていないと言うのは結構異様な光景だと思う。

 

 

「この様子では葬儀での祝福などされていない筈ですが、アンデッドにはなっていませんね」

 

「あの機械人形が、侵入者を拒み続けたから、悪霊も入って来れなかったのは容易に想像がつくけど。逆に、拒み続けたから、発見が遅れた感じ?」

 

「主も私も、誰も発見してくれなどとは、頼んでいないガ?」

 

 

デジャヴである。

と言っても、今度はボクの耳元で声が聞こえた訳でも無く、ボクが組み敷かれていた訳でも無い。

ボク達の背後から、普通に声がかけられただけである。

 

 

「ご主人……この骨が?」

 

「そうダ。その骨が我々エクレール=Mシリーズの開発者ダ。既に死んで久しイ」

 

「死んで久しい…………雇い主が死んでも命令を遂行するのは人形の鏡だね」

 

「いヤ。死んだら命令は解除されル。そして主は、死んでなど居なかっタ」

 

「?」

 

「そこに居るのは紛れも無く私の主ダ。私は、主の死を知らなかっタ。主は死んでいないものだト…………認識していたかっタ」

 

 

ボク達の横を通り過ぎ、既に骨となっている主人の所へと歩く。

機械音声なのに感情がこもっている。

だから、尚更悲しそうに聞こえる声で、機械人形は歩く。

 

 

「しかし、侵入者が主を見つけてしまえば、言うだろウ。これは『死体だ』ト。そうなれば、私に下された命令はすべてなくなル。だから私は侵入者を拒んできタ…………私は、命令が遂行できなくなるのが嫌だったのではなイ。既に居ない主との繋がりが消えるが、嫌だったのだヨ」

 

 

椅子にもたれ掛り眠る主を優しく抱きしめると、砂の様に細かくなり崩れた。

限りなく長い時間、形を保っていたのが奇跡だったのだ。

風が吹いても同じように壊れる事は解っている。

それでも、まるで、互いに役目は終わりだと言わんばかりに崩れていった。

 

 

「長い間、世話になったし、世話をしたナ。主…………………………さて、お前ラ。責任を取って貰うゾ」

 

「…………責任の取り方によるね」

 

「簡単ダ……いやその前ニ。お前たちのリーダーは誰ダ?」

 

「うん? ボクだけど――――――――――」

 

「一発殴らせ、ロ!」

 

 

今度はボクにも見えた。

見えたと言っても、踏み込んだ瞬間だけである。

この遺跡の材質じゃないと、砕きかねない程強く蹴りだしていたのが、轟音の真相。

今回は最初と違い、様々な所へと飛び跳ねている。

時々彼女らしき姿が、光の線となって見えるだけ。

その光も、二重三重と重なる程速い。

後は同じ、ボク達には反応する事が出来ない速さ。

そう、同じ、初めと全く。

 

 

「言ったでしょう、正面から堂々と奇襲とは、人を舐めすぎていますわ、と」

 

 

それでもアリアは、ボクを一撃から守ってくれた。

最後は天上を足場として、ボクの頭へと拳を振り下ろしていたようだ。

解っていたかのように、アリアは剣をボクの頭の上に翳していた。

 

 

「邪魔をするナ。私がこれから先を歩むためにも、原因を一発殴らねば気がすまン」

 

「いや、うーん。ボクも一発程度なら良いけど…………」

 

「あの速さと質量で殴られて居たら、貴女死んでいましたわ」

 

「手加減! 手加減して一発なら良いよ!!」

 

 

アリア曰く、止めなかったら腐った果物の様に破裂してたらしい。

同じ様な速さであっても、小さな針を刺していた時とは訳が違うようだ。

 

 

「手加減、カ。アレでも十分に手加減をしたつもりであったガ。人とは脆イ……ん、そう言えば昔見た映像で、女同士が喧嘩していた時は、拳で無かったナ。私もソレに習おうカ」

 

「ッ……!?」

 

 

何が起こったのか解らなかった。

一瞬意識が飛びかけた事と、後から来る痛みから、ボクは平手打ち(ビンタ)された事がぼんやりと理解できた。

随分手加減されたんだろうけど、まあ見えない事には変わらない。

 

 

「まだ殴りたい、お前には恨みがあル。まだ叫びたい、主を返せト……だが、そんな無様に立ち止まる訳にもいかなイ。これで、お相子とすル」

 

「痛た…………もう終わり? 帰って良い?」

 

「しばし待て、新しい主ヨ。私を置いて行くにしろ、連れて行くにしろ、先ずは命令(オーダー)を寄越セ」

 

「あ、新しい、主!?」

 

「そうダ。私はたった先刻主が不在となっタ。そして、入れ替わる様にお前たちが来タ。このチームのリーダーはお前。不在となった主の代わりとするならば、リーダー格しかあるまイ」

 

「え、ええー…………」

 

 

ボクを引っ叩いて、恨みもあるとか言ってたけど、ボクならそんなの主にしたくないと思うんだけどな。

まさかとは思うけど、これでお相子と言った時点で、彼女は主への感情と、ボクへの感情を処理したんだろうか、機械的に。

主が死んでいないと認識を書き換える程度には、器用な娘だから、そんな事はしていないと思うけど、実際ボクで良いんだろうか。

 

 

「ハハ、困った顔をしているナ。良い、私に取りあえず今までの雑務を命令しロ。そして放置しておいてくれれば良イ。オリジンが目覚めるまで待ツ。ソレが私に唯一残った、主との約束だからナ。後は私を放置しておいてくれれば良イ」

 

 

うん、やっぱり。

この娘は感情を処理しきれてなんかいない。

ましてや、機械的に処理するなんて、もっとできそうにないみたいだ。

このままだと動けないって言うんなら、元ご主人さんには悪いけど、ボクが命令を下すしかないのかな。

 

 

「解った。命令を下すよ――――――――」

 

 

 

 

・・・・・・

「本当に、良かったんですの?」

 

「ま、仕方ないね。あの場に居るよりはずっと良いさ。殆ど同じ仕事だし」

 

「確かに、やっている事は変わらんナ。遺跡の用心棒から、キャラバンの用心棒に変わっただけダ」

 

 

結局の所、エクレールにはボク達についてきてもらう事にした。

勿論、オリジンのお嬢さんも一緒に。

機械一式を詰め込めむと、流石に手狭になるけど、此方にはリンクが居る。

更に改造してもらった。

流石に、旧時代クラスの遺跡だった事、そして遺跡破壊をしている事でとても悩んでいたけれど、最終的には鍛冶師としての彼女が勝利した。

 

 

「しかし、何故私を連れだしタ?」

 

「レティもちゃんと考えているのですわ。あの遺跡は、辺境と言う事もありますが、攻略されていなかったからこそ、人が少なかったのですわ」

 

「…………逆ではないのカ?」

 

「逆じゃないんだね、コレが。この時代、皆生きていく事に必死だからね。態々死の危険がある遺跡に一番乗りで攻略しようなんて人、少ないのさ」

 

 

そう言った意味では、気絶させて送り返していただけのあの遺跡は、挑戦しやすかった部類に入るけど。

だけど、それだけの話。

自分の実力に合わない遺跡だって理解すれば、人は寄り付かなくなる。

 

 

「それで、攻略されるト?」

 

「危険は排除されたと考えて、二番手以降がわらわら来るよ。そんな中、彼女を守るのと今、どっちが良い?」

 

「ハ。成程、思い出の地くらい、静かにさせて貰いたいものだがナ」

 

「くふふ、大丈夫大丈夫。めぼしい物全部こっちに詰め込んだし。価値が無い遺跡だってわかれば、何れは静かになるよ」

 

「――――――成程」

 

 

そう言って3人で笑う。

色々と想い出を詰め込んだ結果かなり大荷物になって、少しだけ重く感じているモスに牽かれ、キャラバンは道を進んでいく。

 




人物紹介

エクレール=M7
種族:機械人形(オートマタ)(ロボット)
役割:学者/暗殺者
彼女は学者です。ええ、学者です。
初登場ssで、学者らしさが全然出てこなかったけど、仕方ないよね。
一撃必殺モードだったし。
彼女の学者における役割ってのは、何か難しそうな物が出てきたら。
M7「これは……○○カ。まさか現存していたとハ……!」
誰か「知っているのか、エクレール!?」
って言う役割。名前もエクレールだし。
まあ、学者って言うより識者? 広○苑?

Mはメシエと呼んでください。
M7……メシエセブン…………セイクリッド……うっ、頭が!


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5話

約1年ぶりの投稿。
エタったと思った?
私はそう思った!

なお珍しく前後編。
そして後編はまたいつか。


「大きな都市だねー」

 

「ええ。とても活気がありますわ」

 

 

旅を初めてもう一年くらいだろう。

旅立った正確な日付は覚えてはいないけど、だいたいそれくらいであるとボク達は予想をしている。

ここ数か月で一気に同行者が増えたこともあるし、今までの様に気ままに旅をする事は出来なくなるだろう。

だから今日は、初心に戻る為にアリアと一緒に街を見て歩く事にした。

 

 

「ま、此処は物流の拠点だしね。大きく人が集まるのも頷ける」

 

「『元』港町、らしいですわね」

 

黄昏以前(むかし)は、海にも水があったらしいからね。そりゃ、これだけ大きく海に面していれば『フネ』も出しやすかったんじゃない?」

 

 

前にも話した通り、ボクらが知る海は塩の大地。

『フネ』と呼ばれる大型の水上用移動乗り物がこの街からも出ていたと言われても、実感がわかない。

そして、フネと聞くと『船』が連想される。

元々は同じ意味合いだったのかもしれないけれど、今では別の乗り物しか想像できない。

 

 

「っと、フネで思い出したけど、此処からは船は出てないんだね」

 

「まあ、出す意味も有りませんわ。地図を見ればわかる通り、南に広がる海には、何も大陸らしきモノは見当たりませんし、船が出てもこの三角みたいに尖っている大陸が邪魔で大回りですわ」

 

「出せそうな方向は西回りだけど…………ボク達が北方向だしね」

 

ついでに、大きな移動手段にはなるけど、その分お金もかかるから結局は無理そう。

言ってみたけど、暫くはまた陸路になりそうだ。

 

 

「それで、レティ。貴女としては、どういった道のりでここから先を進みたいと考えていますの?」

 

 

ボクがこれからの事を考え始めたのを察したのか、レティもどうするのかと聞いてくる。

まだ決めきれていないボクとしては、予定となる考えを述べるだけにする。

 

 

「ん……大まかに、三つ、いや四つかな」

 

「まあ、三つの意味は大体解りますわ。一つはこの三角の半島に沿って南に、今まで通り海沿いの道へと進む事。もう一つは東へ真っ直ぐ。最後に…………北へ山越えでしょう?」

 

「そう、そしてその四つ目の意見としては、山越えじゃなくて山を迂回。北西に進むっていうちょっと戻る道のりになるけど、北の山脈を越えていくよりは楽だね」

 

 

どのルートであっても道はある。

最後のルートは遠回りになることもあって、進む人も来る人も少なそうではある。

けれど、他の三つは確実に進んでいける。

此処は物流拠点と言われているけれど、適した場所だからそう言う街になった訳で、旅人にとっては出発地点としても休憩地点としても優秀な土地だ。

 

 

「決めかねると言った顔をしていますわ。今までの貴女なら、多少面倒くさくても割と安全な海沿いルートですけれど…………」

 

「そうだねー。なーんか、北の山越えルートを考えてるんだよね、ボク」

 

「ふふ。やはり貴女はリーダーですわ。そう言うところが昔から大好きですわ」

 

「うー……うるさいなー…………」

 

 

どうやら、アリアにはボクが薄々と考えていることすら筒抜けの様で。

全く、これだから勘の良い幼馴染は嫌いだよ。

そんな事を考えているのすら見抜かれそうで、ボクは苦し紛れにレティを置いて早歩きで街を周る事にするのだった。

 

 

 

 

・・・・・・

「――――っとぉ! 嬢ちゃんたち、買い物上手だねえ!」

 

 

値切って値切って、値切りまくった。

店主が威勢よく言っているが、原価ギリギリの所まで持ち込んでヤケクソになっていると見て良いだろうね。

ボクだけなら兎も角、野生の勘と商人としての勘でどんどん攻めるアリアと一緒なんだから。

 

 

「まあでも、良し悪し含めてこれだけ買い取ったんだから、感謝してもらっても良いんじゃないかな?」

 

「そうですわ。儲けは出るように値切りましたわ」

 

「嘘じゃねえから恐ろしいぜ……ったく。所で、あんた等旅人、いや冒険者だろ? 武器とかその辺は買わなくていいのか?」

 

「今のところ要りませんわ。この娘、錬金術師ですし、仲間には優秀な鍛冶師も居りますの」

 

「何だ……嬢ちゃん錬金術師だったのか。言ってくれりゃとっておきの品を見せたのによ」

 

「くふふ。見たからと言って、果たしてボクが買うかな?」

 

「まあ、先ずは説明が先だ」

 

 

そうして目の前に、袋に入った黒色の粉が置かれた。

ここは青果店であったはずなのだけれど、それはどう見ても野菜、ましてや果物には見えず、もしかすれば黒胡椒みたいな調味料に見える品物だ。

だけど、現実は斜め上におかしかったようだ。

 

 

「黒色火薬……どうだい?」

 

「……………………店主、錬金術師を一体なんだと思ってるんだい?」

 

 

青果店でまさか火薬を目にすることがあるとは想像もしなかった。

確かに、黒色火薬などという時代遅れな代物を有効活用できるのは錬金術師くらいでありそうだけれども、幾らなんでも突拍子がないだろう。

 

 

「しかもこれ、湿気ってるね」

 

「おう、つまり爆発しない黒色火薬だが、錬金術師ならコレでも有効活用できるだろう?」

 

「料理人に対して、腐っている所は使わないようにして料理しろって言ってるような物だね、ソレ。その程度の代物だから、値段を提示してくれないかい?」

 

「レティ、ちょっと待ちなさいな……店主さん、その火薬、どこで手に入れましたの?」

 

 

あえてボクがツッコミを入れなかった事に対して、アリアは入れていく様だ。

だけど、結構ソレは重要な事だったみたい。

 

 

「この街の到る所に存在している。と言ったら、嬢ちゃんたちなら意味も解るかい?」

 

「――――――遺跡」

 

 

成程、遺跡から発掘された代物がこの店主の家にはあるという事みたいだ。

そして、その遺跡はこの街の中にある……黄昏以前の代物ではなさそうだけど。

黄昏以降、文明が衰退した後にもう一度歴史をなぞり始めた人類が作った黒色火薬、といった所かな。

 

 

「つまり、その火薬を買えばボク達に有力な遺跡の場所を提供してくれるって事? だったら、ボクが錬金術師である意味は?」

 

「在庫処分だ。見ての通りここは青果店、こんな危険なもの、万が一にも爆発したらやってられねえぜ。俺が知ってる目ぼしい遺跡も教えるからよ、コレも一緒に買い取ってはくれねえか?」

 

 

詰まる所、処分も兼ねた丁度良い相手だったという事らしい。

まあ、安く買い叩いた分もある事だから、余ったお金で買えるだけ買っておこうと、またアリアと結託して値切り交渉を行うことにした。

というか、本当に黒色火薬は要らなかったみたいで、大樽二つ分という青果以上に量が多い量を渡され、流石にアリアも重そうに運ぶ羽目になった。

 

 

 

 

・・・・・・

「アンタねえ……もう少し考えてモノ買ってきなさいよ。アンタはともかく、私たちの使い道が無いじゃない」

 

「まあ、在庫処分を一掃する代わりに、未踏破の遺跡について教えて貰えたんだからいいじゃん?」

 

 

どうやら、この街は黄昏以前に栄えた街の上に作られた場所であるらしい。

嘗ては見上げるほど高い建物が存在していたとか、黄昏と共に消えていった技術である古代の機械等が時々発掘されるとか、そういう話。

だから今でも一攫千金を狙う冒険家は遺跡に潜り、複雑怪奇な地下を探検するのだとか。

勿論、帰って来ない人も多いっていう、とんだ物流拠点である。

 

 

「それに、大岩とかが塞いでるなら火薬で爆破できるし、割と一石二鳥だよ」

 

「……その火薬、使えるの?」

 

「くふふ。使えるようにする」

 

 

丁度良く拠点で留守番をしていたライラに錬金セット一式を用意してもらい、大釜の中に湿気った火薬を放り込み、魔力を込めてかき混ぜる。

今回は割と単純な状態だったから、すぐに錬金も終了した。

 

 

「ほら、黒色火薬と水に分離した。これで火薬の方は直ぐにでも使えるし、水だって飲むことも出来るよ」

 

「錬金術師って、付術士(エンチャンター)みたいな事も出来るのね」

 

「くふふ。魔法学っていう大本が一緒の、分化した体系じゃないか、魔力を扱うモノは全て。だから相互に関係しあってるのさ」

 

 

今のポーションだって、民俗魔術学(ウィッチクラフト)の一分野が発展して出来た代物だし、付加効果を持つライラの料理だって同じような代物だ。

というか、考えて作っているとはいえ、ただの食材を使った料理に能力上昇効果があるとか、ライラも錬金術に一歩踏み込んでいる気がしてならない。

 

 

「わかった様なわからない様な……まあいいわ。それで、その火薬どうするの? 普通に使えるようになったって事は、もし静電気でもあったら爆発するのよね?」

 

「……………………爆発しないようにさっさと加工しちゃおうか」

 

 

この後、考えなしに錬金するなとツッコミが入ることになった。

どうするのかと聞かれたから実践しただけじゃないか…………。

仕方がないので、もう一度ライラに鍋を準備してもらい、ぐるぐるとかき混ぜることにする。

別のものに錬金(へんか)させてしまえば簡単には爆発もしなくなるし、ついでにアイテム使用にボクの魔力が必要だと言う事にしておけばさらに安全だ。

という感じに錬金をしていたら、調べ物に出かけていたアリアが戻ってきた。

 

 

「中央広場で旅芸人の方が芸を行っていましたわ」

 

「これだけ大きな都市なら、そういった人もいるだろうね…………で?」

 

 

ボクの記憶が正しければ、教えて貰った遺跡の場所を下見してくると言って出かけて行った筈である。

手に買い食いしたのであろう何かの紙袋を持って帰ってきたアリアに対して、完成したばかりの爆弾を構えるボクは悪くないだろう。

 

 

「お、お待ちなさい! ちゃんと場所を見つけてきましたわ! コレは、その…………そう、労働に対する正当な報酬というやつですわ!」

 

「……………………アリア、帰ってきた時の第一声には気を付けようね。それで、未踏破の遺跡の場所は?」

 

「この街の教会ですわ。地下墓地(カタコンベ)がどうも遺跡へと続いているとの事で、厳重に封印されていますわ」

 

「エクレシアの管理下じゃないか。リンクに入れて貰うように頼むの?」

 

「普通ならそれが一番楽ですわ。カタコンベに潜り込んで、その先に無理やり進んでいくのも可能といえば可能ですが…………まあ、今回は依頼として遺跡調査の事は話されましたわ」

 

「依頼?」

 

 

偶然遺跡の位置を知っただなのに、そんな依頼だなんてうまい話なんてあるのかってアリアに聞いたみたけれど、どうやら教会側にはボク達に受けて貰うのが割と都合が良かったみたいだ。

 

 

「どうやら、遺跡が見つかったのは地下墓地を拡張しようとした時らしいですの」

 

「あー……解ったわソレ。いくら死者が弔われてから埋葬されてるとは言っても、その先の遺跡の『連中』は別って事ね」

 

「なるほど、遺跡に住み着いている魔物の影響で、下手をしたら地下墓地の遺体まで魔物に成りかねないんだね」

 

 

教会側としては、いくら封印が出来ているとは言っても死者の力が強くなりすぎて万が一に破られてしまうかもしれないという事。

そんな折、エクレシアの本部神官がこの街に来た事で、また共にしている仲間の実力も保証できるとリンクが言った事から、正式な依頼としてこちらに伝えたらしい。

 

 

「錬金術師に関してはどうなのさ?」

 

 

この話を聞いていたのはリンクとアリアだ。

正式な依頼と言う事はエクレシアでの禁忌とされる錬金術師であるボクの事はどうなるのかというのが正直な感想。

2人とも、嘘をついてまで依頼を受ける性格じゃないし。

 

 

「名より実を取るそうですわ。現状、被害らしい被害は出ていませんが、それ故にエクレシア本部に報告しても人員が来ることは叶わず、かといってその辺の冒険者に頼むのも安心は出来ないとの事、ですわ」

 

「まあ、あくどい冒険者って依頼から逃げたりするしね。その点で言えば、ある意味ではリンクに監視されている身だし、リンクには頑張ってボクらの事を上に報告してもらわないといけないしねー」

 

 

ボク達にとっても、受ける意味は十分にある依頼だった。

というか、受けておいた方が得である部類の依頼だから、早速という事で正式に依頼を受けに行く必要がある。

どれくらい遺跡調査に時間がかかるかは分からないけれど、本来の滞在時間より伸びるのは確実だという事だね。

 

 

 

 

・・・・・・

「コレはコレは……貴女がリンク様を乗せたキャラバンのリーダーである、レティシア様でございますな?」

 

「うん。正式に依頼を受けさせて貰うと思ってね」

 

 

老司祭様とボクとで握手をしている。

宿屋には書置きを残してきたので、暫くしておけば準備も整うだろう。

 

 

「それにしても、地方都市や村の司祭様って、大体の人が錬金術師に割と寛容だけれど、いいの?」

 

「ホッホッホ。錬金術師による被害など受けてはおりませんからな、色眼鏡で見ることが難しいのです」

 

「くふふ。立派な心掛けで」

 

「……………………所で、お話は変わりますがレティシア殿。貴殿等の遺跡調査に、一人程ご同行の許可を頂けませぬか?」

 

「うん? 教会の人? ボクは別に良いけど」

 

「いえ、我々はリンク様も居りますし、貴女方を信頼することに決めております。教会の関係者ではありません。どこかから、話を聞きつけた旅芸人が同行の許可を申し出たのです」

 

 

既にそこまで信頼されているのには驚いたけれど、旅芸人を同行させるという話にも驚いた。

連れていくのは会ってみないとわからないという顔をしていたら、老司祭様がこの場にその旅芸人を連れてきてくれた。

 

 

「『初めまして。私が紹介にあたりました旅芸人にございます』」

 

「初めまして……一癖も二癖もありそうな人だね」

 

「『ホッホッホ。お褒めに預かり光栄にございます』」

 

 

ツッコミ所が満載な人物が連れてこられたから、どんな判断でこの人物を紹介してくるんだと司祭様を見る。

まあ、きっと押し切られたんだろうと、すごく申し訳なさそうな顔でこちらを見てくる司祭様で納得する。

そんな彼、いや彼女かもしれない人物は、本当にツッコミ所が多い。

服装こそ、ライラが普段着ている様な衣装だから、ライラの同郷かもしれないけれど、手や足など、見える部分は褐色の肌。

顔には表情を一切読み取ることが出来ない仮面があり、唯一見える口から紡ぎだされた声は先ほどの司祭様と全く同じと言っても差支えない声だった。

詰まる所何が言いたいのかというと、無茶苦茶怪しいって事だね。

 

 

「……………………アリア?」

 

「すっごく、怪しい。ですわ」

 

 

アリアまで同じ意見となると、本格的に関わらない方が良さそうな人物である。

野生じみた勘は、本当に信じられるものだから。

それでも、司祭様がボク達へと頼んできたのだから、話くらいは聞いておくべきともいえる。

 

 

「それで、君。名前と職業は?」

 

「『失礼したね。私の……まず、芸名だけど、芸名は【アメンホテプ53世】と言うよ、宜しくね」

 

「…………芸は声真似? あと、ボクの一人称『ボク』だから」

 

「『これは失礼したよ』」

 

 

一瞬にして声がボクのソレと同じになる。

確かに特技としては凄い部類になるんだろうけど、こんなので旅を続けれるほどのお金を稼げるのかな?

 

 

「『それで、ボクの名前はナラト=アモン・ゴールド。職業旅芸人…………ものまね士をしながら世界各地を渡り歩いているのさ……一応女性だよ』」

 

ものまね士(パントマイマー)、ねえ……?」

 

「あら、割と侮れませんわよレティ。この方がどこまでものまねする事が可能なのかは解りませんが、真似る事で技術を盗み自分のモノに出来るのならば、一人旅だって可能ですわ」

 

「『そうそう、そういう事。幸いにもボクは多少魔力もあるから、魔物とか呼ばれてる連中の行動だって真似することが出来るさ』」

 

「ふーん、割と便利そうだねソレ。所で、ボクは錬金術師なんだけど、ソレも真似する事可能?」

 

「『錬金………………いや、ちょっと無理だね。アレは本人の才能による所が大きい。何でもかんでも魔力で再現ってのは、無理かな』」

 

 

実に意外、錬金術の再現は無理らしい。

アレは技術の一つだと思うんだけど、ナラトが言うには才能が必要だって。

まあ、簡単にできるなら一応は便利な能力なんだから、誰もが使えても不思議じゃないんだろうけど。

 

 

「さてと。最後に聞いていい? 何でこの遺跡に潜りたいのさ」

 

「『それを語るととっても長い事になるから端折って話すけど、このナラト=アモン・ゴールドには、見つけなければいけないお宝があるのさ』」

 

「お宝?」

 

「『そう。10センチ大の宝石なんだけどね。ソレを探し求める事がボク達の悲願なのさ。芸名でもあるアメンホテプ53世ってのは、各地に散らばったボク達の合言葉の一つみたいなモノ』」

 

「その宝石がこの遺跡の奥に眠ってるとか?」

 

「『それは解らないね、ボクは別に万能じゃないんだから。だけど、黄昏で失われた宝石が今まで見つかっていないのも事実だし、可能性があるとしたらこうやって未踏破の遺跡の中に眠っている可能性に賭ける事だね』」

 

「その話を聞いた上で、その宝石の所有権を我々が主張したらどうするつもりですの? これでも私たちは冒険者、有体に言えば金目の物なら売り払いますわ」

 

「―――――――別に? どうもしない。我々はその宝石を見つける事に長い年月をかけてきただけだ。ソレが人の手に存在しているのであれば、都合が良いと言う理由もあるが」

 

 

アリアの質問に対し、誰の声でもない声が聞こえてきた。

不思議な話であるのだけれど、ボクにはその初めて聞いた声がナラト本来の声なのであろうと思えた。

 

 

「どうもしないなら、別に連れて行っても良いんじゃないかな?」

 

「レティがそう言うのならば構いませんわ。私たちだって寄せ集めキャラバンなのですし、冒険に一人増えようが何も問題ないですわ」

 

「『…………それはありがたいね』」

 

 

そして全員揃い6人、ナラトを入れて7人となったボク達は、地下墓地へと向かうことになった。

 




ナラト=アモン・ゴールド(アメンホテプ53世)
役割:ものまね士/物理学者
何だろうねこの娘。
一応、珍しく名前に全部意味あるキャラではあるんだけど、こう穿ち過ぎてたぶん元ネタが一番分かりにくいんじゃないかと思ってる。
コンセプトは…………なんだろう。
褐色の王族(?)
トリックスター(?)


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6話

前後編だと言ったな? アレは嘘だ。
何故か前中後編の三本立てになったわ(白目)


「流石に大都市。入り組んでるね」

 

「地下に墓地を作るとなると、地上との兼ね合いや地盤によっても影響されます。また、幾ら火葬のちに祝福を行い埋葬されているとは言っても、長年による陰の気からのアンデッド化という事も考えられますので、ソレを防止するための魔術的な循環を考えた構築をしていく内に………………と言うのは、儘ある話です」

 

 

リンクの説明を聞きながら、ボク達は地下墓地(カタコンベ)を進んでいく。

成程、確かに計画的に作ってあるみたいだ。

これだけ遺骨が散乱していると言うのに、むしろ何か清らかな気分にすらさせてくれる場所になってる。

だからこそ、問題があるとすれば。

 

 

「…………封印された先、つまり計画よく作ることが出来なかった最下層が、汚染されやすいって事、だね」

 

「じつに、いんきくさい。なあ、しょくぶつをはやしても、いいか?」

 

「良いかも知れませんわね。陰気……つまり魔素を栄養として育つ花を植えておけば…………って」

 

「気づいたね、アリア。ソレ蟹の時に無駄だって結論付けたよね」

 

「『ひつようなのは、まそ、をじょうかするしょくぶつ。というわけか』」

 

「アンタ、声真似は構わないけどもっと流暢に喋れる奴にしなさいよ。聞きづらいわ……それでティポット、そんな花は有ったりするの?」

 

「しぜんゆらい、ではそんざいしないな」

 

 

そういってボクの方を見る。

つまり、錬金術と組み合わせることで浄化作用を持つ花を作れと言う事だろう。

が、レシピが無い。

というか、仮に有ったとしても、ソレを作成するだけの機材が無い。

ボク鍋だけで可能なのは比較的簡単な錬金だけだから。

 

 

「【マナフラワー】と言う奴だナ。突然変異で生まれんこともなイ……が、突然変異組は解りやすく言うと『魔物』ダ。むしろこの先にたくさん居るかもナ」

 

「あーあ……モスが入れるなら、前回みたいに食べて貰うんだけどなー」

 

「『…………何? 魔素を食べる生物だト?』」

 

 

次は機械音声、そしてその語尾のぶれすらも声真似を再現して此方を見てくる。

そういえば、2人ともモスの偏食の事を知らないんだった。

ついでに、ナラトに関してはモスにすら会っていない。

 

 

「そうそう。ボク達のキャラバンを引いてくれる【ぞう】なんだけどね。なんか、魔素を食べて浄化してくれるんだよ」

 

「流石に引きこもっていた時間が長かったからナ。データとしては存在している【ぞう】とはまた別物であっタ。つまり進化したという事だナ」

 

「『幾ら進化しようとも、魔素を食べる動物など聞いたことが無いガ…………まあ良イ。実際に存在しているのだからナ』」

 

「でもまあ、流石にモスは此処に入れないから、別の方法を考えるしか無いんだけど」

 

 

案外長いホースをここまで持ってくれば、モスが吸い出してくれるかもしれない。

と言っても、アレ以来モスが魔素を食べる機会に出会えて居ないから、たまたまだったりするのかもしれないけど。

 

 

「リンク、そろそろですわね?」

 

「…………ええ。みなさん、各々の武器を構えてください」

 

 

そんな事を話しながら最下層を歩いていると、アリアとリンクが何かに気づく。

その何かとは、そろそろ魔素によってアンデッドモンスターとして骨が動き始める濃さになったという事。

そして、野生の勘(アリア)職業柄気配を感じ取りやすい人(リンク)の様に直ぐに気づかなくとも、カタカタと骨が打ち合わさる音が聞こえてくればボク達だって普通に戦闘の準備だと解る。

 

 

「それで、戦闘はどう進めるの神官さん?」

 

「魔素で祝福を汚された所に、奥から出てくる霊によって肉体が乗っ取られて居るわけですから、霊払いを行えば解決は出来ますね」

 

「私、そっち系の魔法は得意じゃないからリンク一人に任せることになるんだけど」

 

「どうせ骨ですわ。粉砕すれば動けないと解った霊も別の骨に乗り移るでしょうし、その折に進んでしまえばいいのですわ」

 

 

随分とアリアらしい意見が出たけれど、ボクもコレには割と賛成。

なんせ遺跡探査を考えても見れば、まだ入り口も入口な所にいるのだから。

リンクとしては遺骨を弄ぶ霊は許せないと言った気持でもあるみたいだけれど、現実問題としてここで時間を取られるわけにもいかないのでアリアの意見に従うようだ。

 

 

「まあ、でも。気持ちは解りますわ……レティ、アレは当然持っているのでしょう?」

 

「――――――くふふ。当然」

 

「それは……灰ですね?」

 

「そう。対アンデッド用の錬金アイテム、その名も【退魔灰粉】だよ」

 

 

最近はアンデッドと戦う機会が無かったから、倉庫の肥やしになっていたけれど、こんな感じの遺跡に潜るなら持ってくるのは当然の代物。

先ずは実演と言う事で、アリアの大剣に一掴み振りかける。

そしてそのまま流れるように近づいてきたスケルトンを袈裟切りにすると、中に取り付いていた霊が浄化されて消えていく姿が見えた。

 

 

「武器に振りかけるだけで浄化作用がつくお手軽アイテム! まあ、なんか剣士はアリアだけだから全然用途無いけど、切れ味を鉄製のソレと同じにする【研磨鉄粉】のお仲間さんだと思ってくれれば良いよ」

 

「使用感が同じですから、粉をかけて複数回武器を振るうと、またかけ直しですわ。普通ならばそこが隙と成りえるのですが…………」

 

「7人も居ればそれぞれカバーし合えるって寸法さ」

 

「錬金術って本当に何でも出来るわね。まあ、話を聞く限りは同じようなことが出来る付術士(エンチャンター)とは一長一短みたいだけれど」

 

「戦闘は臨機応変が基本だしね。一度呪付すると長持ちするけど、直ぐに効果を消すのに手間がかかるエンチャント、呪付する回数が多くなるけど、変えていけるコッチと……両方あるのが便利と言えば便利かな」

 

 

他にも、エンチャントではできない使用方法としてはこの粉を直接ばら撒いても多少効果はある。

勿体ないけど。

一応、魔素結晶に成程濃くないレベルの魔素ならば、弱める事ができる。

皆に数袋ずつ渡して使い方を見てみれば、それに近い使い方をしているのはティポットだった。

弾丸に粉を撒き、アンデッドを打ち抜いて浄化したのちにそのまま植物を生やしている。

確かにその方法なら汚染された植物も育たないから一石二鳥とも言える方法だ。

 

 

「しかし、奥に進むにつれてどんどん増えるわね」

 

「『それだけ当たりが近いという事ですわ。この先は大規模な地盤沈下で沈んでしまった建造物ですし、それ故に多くの方が長い間弔われずに居たのです。ですから、成仏したくて必死にこちらに来るのですわ』」

 

「つまり、再殺してやれば良いのだナ?」

 

「そ、そこは浄化と言ってあげて下さい」

 

 

軽く冗談を言い合いながら向かってくる(スケルトン)、今起き上がろうとしている(スケルトン)、そして遺骨に取り付こうとしている(スピリット)を成仏させながら突き進む。

実に戦力過多に見えるけど、そりゃここ唯の墓地だし、王族の墓とかじゃないから武器も一緒に埋葬するなんて言う事できないしね。

蘇っても素手なら脅威でもなんでもないのが実状っていう。

 

 

「遺跡入り口、見えましたわ!」

 

「難なく突破、だね」

 

「皆さんが通り次第、早急に地下墓地と繋がっている部分を封印します。最悪、私たちがこの遺跡を踏破出来なくとも、流れ込みによるアンデッド増加は防げますから」

 

 

そう言って、リンクがエクレシアの魔術を使って霊や魔素が流れていかないように封をする。

後は飛び出した先を適当に片づければ、ベースキャンプの完成となるんだけど…………

 

 

「何コレ、水場?」

 

「違うぞ主。コレはプールダ。水泳を目的とした人間の娯楽施設ダ」

 

「あー、プールか。いやエクレール、流石にボクもプールは知ってるよ。アリアの実家にある持ち運び可能な小さい奴だよね? 流石に騙されないって」

 

「レティ、ウチが貧乏貴族であることを知っていて、なぜ其処まで酷いことを言いますの…………つまり、コレが本物の個人所有のプールなのでしょう?」

 

「『少し違うわ。この規模からすると、高層建造物(ビルディング)の施設の一つ、所謂室内プールって奴で、観光客向けの物よ』」

 

 

観光者向けにそう言う施設が作られていたとかナラトから説明が入る。

嘗ての『海』は水に満ち溢れていたとよく言われているけれど、そしてこの街はその海沿いに建てられた街だというのに。

それでもプールなんていう人工の施設で遊んでいたと聞いてしまうと、やっぱり昔の海に水なんて本当にあったのかって思えてしまう。

 

 

「にしても、此処は中層なのか。ナラトが言うには高層建築らしいから、遺跡踏破も大変だね」

 

「『流石に全エリア踏破は無理よ。土砂が流れ込んでフロア全体が埋め立てられてる可能性があるわ。加えて下層は水が張ってる可能性だってあるし』」

 

「意外と行動できる範囲は狭いって訳だね。まあ、だったら当初の予定通り此処をベースキャンプとしようか。水もあるし」

 

「――――――――なッ、『ま、まテ。此処の水を飲むのカ!?』」

 

「今、少し素がでましたわ」

 

「くふふ。旅人の癖に、汚い水飲み慣れてないってのは中々に珍しいよね……まあ、ボク達も慣れてないと言えば慣れてないんだけどさ」

 

 

流石にそのまま水を飲むつもりは無いから消毒する。

汚れた水の不純物を取り除いて真水にする事くらい、錬金術師にはお手の物だし。

だから早速ライラと一緒に魔方陣を書いて、宿に設置してある大釜をこっちに転送(アポート)してもらった。

ベースキャンプが作れるなら、そこで錬金術を行使してしまえば良い。

ライラが居なければ此処までの規模ではできないけれど、別に小さな鍋でも錬金術は出来るし、実際にも前はそうしてた。

まあ、飲み水だけならボクが魔法で出しても良いんだけど。

 

 

「うん。あとは水大量に作っておくから、ライラとティポット以外のみんなは2人以上でチーム作ってベースキャンプ作成のための安全確保。余裕が出来たら上下階に深く踏み込まない程度に見てきても良いよ」

 

「わたしは、のこるのか?」

 

「うん。ちょっとやって貰いたいことあるし」

 

 

残っている退魔灰粉を回収し、哨戒に出向く4人に均等に分配する。

多分無くなったら帰ってくるだろうから、それまでにこっちも終わらせておかないとね。

 

 

「さて、始めようか」

 

「いいのか? あのはいは、これからさきも、いせきこうりゃくにひつようだとおもうのだが?」

 

「うん、そうだね。だから今から作るのさ。幸いにも材料はたっぷりあったし」

 

「…………確かに、アンタがさっきからスケルトンの欠片を拾ってたのは見てたけど、まさか本当に材料にするつもりだったなんて」

 

「いや、だって都合よく材料が揃うからさ。あとは適当に木があれば良いんだけど、コレもティポットのおかげで解決するし」

 

「しょくぶつのかいしゅうは、していなかったな。つまり、はやすのか? だが、なえどこはどうするのだ?」

 

「それで、今水を錬金してるのさ」

 

 

大量に真水を生成しているわけだけど、出てくる不純物っていうのは別にゴミだけじゃない。

蟹の時みたいにひどく汚染されている訳ではないけど、多少この水も魔素に汚染されているんだから、大量に分離させていけば、【魔素結晶】だってちゃんと作れる。

後は前回同様ブラックポーションを振りかければ【無色の魔力結晶】へと早変わり。

コレを苗床にして木を生やして貰えば、材料の完成。

 

 

「ってか、唯の木と骨であんなモノが出来るわけ? やっぱり錬金術って訳解らないわ」

 

「ううん。退魔灰粉の原料が出来るだけだよ。ライラは聞いたことない? 霊木って」

 

「霊験あらたかとか言われる割と貴重な樹木よね? 確か、高品質な道具の素材として使われるとか聞くし、その所為で原木自体は全然市場に出ないって話の」

 

「そうそう。実は、アレを加工すると【退魔灰粉】になるのさ。もっと簡単に作りたいなら焼くだけで作れるけど。壊れた霊木制の道具とかあれば、焼いて灰にするのも一つかもね」

 

「で、その原料を…………作る!?」

 

「まあ、流石に霊木と全く同じものを作るって訳じゃないんだけどね。此処にある木材を霊木レベルにまでランクアップさせるってだけの話」

 

 

物質の本質に作用するのが錬金術の神髄。

材料さえ揃えてしまえば【黄金】すら作れると言われるからこその錬金術。

そしてそれが、前にリンクが言っていたように神が定めた形を壊す事に繋がるんだと思う。

 

 

「ま、やることはいつもの錬金術と変わらないんだけどねー」

 

 

今作った真水。

スケルトンの欠片、つまりは骨。

ティポットが生やしてくれた木。

そしてローゼル、今の呼ばれ方でブラックハーブと呼ばれる植物から属性の力を抽出して作った【ブルーポーション】を入れ、魔力を込めてかき混ぜる。

水溶性でもない物もあるというのに全てが水に溶け、混ざり合った頃、ついに霊木が出来上がった。

 

 

「できた。後はコレを複数回繰り返すだけさ。それで数を揃えてしまえば良い」

 

「スケルトン……アンデッドは土に属する存在、だったら木の力を高めるにはちょっと相性が…………水も追加で加えたことが何か関係あるのかしら……?」

 

「ライラ?」

 

「何でもないわ。詳しく調べてみたいものね、錬金術ってどんな仕組みなのか。属性魔法に似ているから、たぶんそこに解明の切っ掛けが……だったらエクレシアの教えを考えると――――――」

 

「くふふ。まあ、そう言った研究はもっと安全な時にお願いしたいね。次行こう、次」

 

 

何かライラが魔法使いとして錬金術に興味を持ったみたいだけれど、今はそんな事をやっている場合じゃないからボクも協力してあげることはできない。

と言うか錬金回数が多い、つまり割と魔力消費するからあまり長い時間をかけたくないのがボクの本音である。

 

 

「あ、最後に一つ良い? 焼いただけって言ったけど、それって何か特殊な方法で焼いたりするわけ?」

 

「いや、そんな事は無いよ。火種の材料にしたり、暖を取るための薪にしたりするその残りの灰が退魔の効果を持ってるから。もちろん、もっと純粋な代物を作るために更にコレを【レッドポーション】を使って錬金したのを【退魔灰粉】って呼んでるだけだし」

 

 

ちなみに、レッドポーションの材料はレシピ集にはセンブリと書かれた、今はイエローハーブと呼ばれる代物の事。

見た目全然黄色じゃないんだけど、根っこが黄色で、材料としてはその部分を使う事が多いからボクも名前には納得している。

 

 

「だったら、焼くのは私がやるわ。アンタの工程が多すぎて魔力消費も大きいだろうし」

 

 

それに関しては事実であって、霊木が十分すぎる量が出来上がるころには、全員の残り魔力もかなり少ない量になってしまった。

 

 

 

 

・・・・・・

「あら、いい匂い。鹿肉ですわね?」

 

「…………ほんとアンタって料理人殺しね。何で臭み取りして更に香草練りこむまでやった肉を嗅ぎ別けるのよ」

 

「解る物は解るのだから仕方ありませんわ。所で、かなり新鮮な香りですけど、矢張り現地調達ですの?」

 

 

下層方面に向かったアリアとナラトが戻ってきて全員集合となった。

それより前に戻ってきたリンク・エクレール達は鹿を狩猟してきたので、ライラが解体して調理を始めていた。

同じような感じで何かを狩猟してきたかアリアを見たけれど、まさか熊を担いでくるとは思いもしなかった。

 

 

「鹿はまだわかるガ……いや、仕留めたのは私だから当然としテ。何で人の身で熊を仕留めることが出来ル?」

 

「まあ、ほら。アリアって普段からあんな娘だから」

 

「違いますわ! 仕留めたのは私ではなくナラトですわ!」

 

「『一応ものまね士ですわ。嘗ての経験から、魔力で強化した一撃を急所に叩き込めば大抵の生物は屠れますの』」

 

「あー、うんうん。熊殺しすごいねー」

 

 

魔力で強化しようが普通は熊とかには挑んだりしないと思う。

まあでも、魔物じゃないんだし何とかなる物なのかな…………?

 

 

「まあ良いわ。何時もの事じゃない……で、この熊は保存食にするわ。もしくは食べたい部分があったら言いなさい」

 

「……………………熊の手を使った料理は、できますか?」

 

「リンク?」

 

「あ、あの! その昔、エクレシアでのお祝い事の時に出された料理なのですが、とても美味しくて!」

 

 

普段は清貧を心掛けているリンクでも、食欲には勝てなかったみたい。

本人もそれが解っているのか、かなり恥ずかしそうな顔をしている。

 

 

「無理よ、下ごしらえに無茶苦茶時間がかかるわ。それこそ、この遺跡踏破と同じくらいの手間ね」

 

「そう、ですか…………」

 

「んー、だったらこの遺跡攻略してから食べれば良いだけじゃない? 熊って確か、冷凍に近い温度なら保存出来たよね?」

 

「それもそうね。と言うかよく知ってるわねアンタも。常に冷気の魔法ともなると魔力の関係上難しいけど……凍らせておけば楽よね」

 

 

結果、ベースキャンプに氷漬けの熊のオブジェが誕生することになった。

リンクがその後の事を考えてとても嬉しそうにしているのが印象的に見えた。

 

 

「だったらさっさと食べて先に進むべきね。上に行く? それとも下に行く?」

 

「上層は殆ど埋まっていタ。2人で探索しきれるほどにナ。だから下層を重点的に探索するべきだろウ」

 

「あれ、でも鹿が居たんだよね?」

 

「不自然に一匹だけナ。罠かとも思ったが、暫く観察した後に何も無かった為に狩猟しタ」

 

「運悪く下層から来てしまったのでしょう。下層には色々と動物が住み着いていましたわ」

 

 

その中で何で態々熊を狩ってきたのかは疑問だけれど、それとは別の方向で新たに疑問がわいてくる。

 

 

「色々と居たって、この遺跡はどこかに繋がってるのかな。黄昏からずっと地中なんでしょ、ここ?」

 

「『埋没した建造物だし、たぶんそれは無いと思うよ。魔素が充満している関係上、何かが下層に居るって考えた方が良い…………もしくは、下層がビオトープになっているかだね』」

 

「ビオ……何?」

 

「『人間を除いた自然生物のちっちゃな世界と考えればいいよ。一応、このビルも巨大だからそう言った設備を作ろうと思えば作れるんじゃないかな。逆に、自然に出来たとは考えにくいけど』」

 

 

なんにせよ、何かの意思が関わっているって言う事かな。

魔素が広がっている件も含めて、さっさと魔素の出本を何とかしに行く方がよさそうな気がする。

 

 

「とりあえず、体力回復したい娘は肉、魔力回復したい娘はスープを食べなさい。レティシアはスープをさっさと飲んで下層への準備をする事」

 

「はいはい」

 

 

一応、飲みながらでも作業は出来る。

やる事なんて使った灰をかき集めるだけ、それで退魔灰粉の劣化品の完成(?)

所で、このスープ錬金術で作ったポーションと効果がほとんど同じなんだけど、この先にそれぞれのポーションを作る必要はあるんだろうか。

こっちは食事にも使えるし。

 

 

「さって、魔力回復。とりあえず、下に向かうのは良いとして。アリアたちはマッピングとかはどこまでしたの?」

 

「マッピングも何も、そこにある階段は、居り続ければ最下層まで行けますわ」

 

「『そもそもですわ。人が使う事を念頭に設計されている以上、此処は腐っても遺跡(住居跡)なのであって、迷宮(ダンジョン)ではありませんわ』」

 

「…………ソレもそうだね。じゃあ、重要拠点以外は後回しで行こうか」

 

 

話しながらその階段を下りていく。

統一規格の建物であるらしく、同じような階段が四角を描くかのように地下に伸びている。

こんな灯りがランプや松明だけの状況では、感覚も狂いそうになるけれど、書かれている数字が今いる階を解りやすく伝えてくれる。

 

 

「随分と下りて来たねえ。やっとここが1階……元地上階か」

 

「不気味なまでに動物も霊も来ませんわ。そして、まだ地下に続く階段すらあるみたいですわね」

 

「…………この階層までよく降りてこられたと言うべきですね。地下3階以降は、完全に水没しています」

 

「こんな海辺近くの都市だと言うのに、此処まできてやっと水カ。随分と貴重になったものだナ」

 

「まあ、今なら水くらい魔法で出せるしね」

 

 

今の時代であれば別に貴重でもなんでもない。

確かに魔法を使える人間こそ限られてはいるけれど、その技術を独占して門外不出としている所なんて無い。

信じられないレベルでお金になる、とかならまだそう言った話もあるのかもしれないけれど、魔法としては初歩の初歩の水生成。

相互協力がこの時代で生きていくのに大切な事なんだし、態々敵を作る行為なんて誰も行わない。

 

 

「――――――まあ、置いといて。どうする? これ以上地下にはいけないけど、地下2階を先に見て回る?」

 

「ほかに、ほうほうもないしな。それに…………このさき、だろう?」

 

「ええ。魔素を感知してみれば、この水の先ではなく地下2階のエリアから強く感じます。魔素を垂れ流している存在は、この先です」

 

「じゃあ、行こうか。この扉を開けたらすぐにでも戦闘が出来るように」

 

 

ボクの言葉に言われるまでもなく、皆が武器に退魔灰粉を振りかける。

加えてライラが魔物の数を調べようと魔法をかけてみるけれど、計測不能。

多分すさまじい数が居るんだろうと、全員が嫌そうな顔をしながらも扉を開ける。

そして、目に飛び込んできたのは驚きの光景だった。

 




作中でナラトが言ってるように、ダンジョンじゃねーです!
あくまでも、あくまでも遺跡とは住居跡なのです!
だから大勢が利用していたようなところは機能的であってしかるべきで、あっちこっちに階段があったり複雑に絡み合った通路があるのはおかしいと思うのですよ。
ええ、別にダンジョン描写書くのが面倒だからボス直行ルートを考えたとか、そんなわけではございませんからね、決して! 決して!!


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7話

ちょーひさびさにつづきをかいてわたしはねむるのです。


「…………此処、本当に黄昏以前に存在していた場所なの?」

 

 

扉を開けた先に広がるのは広い空間だった。

何に使われていたのかわからない機械の残骸、みたいなものも見える。

黄昏以前の遺産があることを考えれば、此処は確かにそう言った場所だったって思えるんだけれど、俄かには信じられない程度には変貌してる。

 

 

「この模様、っていうか様式? 儀式よね、それも召喚系統の」

 

「ご丁寧に祭壇まで有りますわ。それも、趣味の悪いオブジェと共に」

 

 

このフロアは元々は周囲にある機械を使った何かをする所だったんだと思う。

けど、ライラやアリアが言ったように今は『何か』の儀式が行われている場に変わってる。

祭壇を中心とした血で描かれた魔方陣、儀式を強化するように建っている骨のオブジェ。

何でこんなものが街の地下に眠っていたのかと頭を抱えたくなる。

 

 

「何か異質な存在が上に。もしかして、召喚された存在なのでしょうか?」

 

 

リンクの視線の先、祭壇の上空にソレは居た。

幾多の顔があり、人間や動物のパーツがあった。

遺跡には割と潜っているからわかるけど、アレは生物じゃない。

つまり霊の類なんだけど……

 

 

「じったいか、しているぞ」

 

「…………信じられんナ。そもそも霊、つまり魂の質量とは黄昏の直前ですら計測することが出来ない、理論のみが提唱された存在だというのニ」

 

「『目の前のアレが真実だナ……おおよそこのビルが沈んだのは黄昏と時を同じくしてと仮定しよウ。この床に描かれた召喚系の様式が今も起動していた場合、黄昏から今に至るまで邪魔されることな魔力を貯め続け、アレを召喚しタ……と言うのはどうダ?』」

 

「1000や2000の魂では済みそうにありませんね。もしかしたら、我々の手には余る代物かもしれません。地上に戻り、本部の高司祭さまを急ぎ派遣してもらうのも一つかと」

 

「そう簡単に地上に戻れるなら良いけどね」

 

 

勘の鋭いアリアじゃないってのに、嫌な視線を浮かんでいる霊から感じる。

ただ浮かんでいるだけで、何かをしている様には見えないのだけど、取り込んだ魂から形作られるその体のパーツ、主に無数の『目』が、こっちに向けられている。

そんな、嫌な感覚がひしひしと伝わってくる。

 

 

「では、身体強化の魔法だけでもかけておきましょうか」

 

「――――いや、それはナラトが出来るならやって欲しい。出来る?」

 

「『くふふ、勿論。ものまね士だからね』」

 

 

いつの間にかボクの笑い方までしっかりと真似するようになっていたナラトが、いつかのリンクみたいに魔法を矢継ぎ早に唱えてボク達の身体能力を強化する。

そして、ボクの意を酌んでくれたライラが浮かんでいる集合霊に弱体化の魔法をかけていた。

複数の存在であるって事に加え、精神力の塊みたいな存在だからあまり効果はなかったみたいだけれど、それでも十分やりたい事は出来そう。

 

 

「ねえ、念のためにアリアに聞いておきたいと思うけど、アレ突っ込んでくると思う?」

 

「…………思いますわ。今私が感じている視線は、ヒトと言うよりは動物のソレですの」

 

「じゃあ大丈夫かな? ティポット、霊木を浮かせてくれない?」

 

「べつにかまわんが…………ああ、うちこむのか?」

 

「そうそう。リンクのハンマーでフルスイングしてもらおうかなって」

 

 

魔法をリンクに使わせなかったのは、全力でハンマーを打ち込めるようにしてもらう為。

身体強化の魔法もあるし、打ち負ける事も無い筈。

ボクが霊木に魔力を込めれば効果も上がる。

後は目の前の集合霊が突っ込んでくるのを待つだけ。

本当、霊木を作りすぎておいて良かった。

 

 

「――――来ますわ」

 

「予想より動きが鈍いね?」

 

「『まあ、動物霊が多いみたいだから、どう動くか制御しきれないんじゃない? 個と言う存在ですら矛盾があってぶつかり合うのに、他の集合体のアレなんて尚更だよね』」

 

 

支配権が誰にあるかが解らない状態なんだろうね。

それでも、本能をむき出しにしながら此方に近づいてきてる。

 

 

「ここまではっきりと近づかれると、もはやテレフォンパンチですわ。思い切りカウンターを決めるのも一つですわ」

 

「おい。かぜのちからであとおしをする。うちだせるぞ、しゃていけんないだ」

 

「――――では、打ち抜きましょう」

 

 

リンクが持つ巨大なハンマーが、思い切り振りぬかれる。

空中に固定された霊木の真芯が捉えられ、そしてティポットの風の魔法でブーストと旋回運動が加えられて真っ直ぐに飛ぶ。

集合霊はよけない、いや避けられずに突き刺さる。

ちなみに、霊木を加工した灰だから(スピリット)にはよく聞くんだけれど、霊木単体だとそこまで効かないんだよね。

だから――――――

 

 

「ライラ、燃やして」

 

「了解。ってか、霊にそこまで火の魔法効かないし、一気に爆散させるわよ? 【エクスプロージョン】!!」

 

 

ボクの魔力に点火させる形で打ち込んだ霊木を一気に燃やして、そして爆発させる。

そう、霊木ではそこまで効果が無いなら退魔灰粉に変えてしまえば良い。

効果は絶大、集合霊の半分以上を消滅させ(けしとばし)、歪な球体だった体をいくつかの断片として千切る事に成功した。

 

 

「まだ動いている断片は、1つ……だけ? なんだろうね。本体とかあったりするのかな?」

 

「解らんナ。そもそも、アレは集合霊だから全てが本体だろうニ?」

 

『――――――――テ』

 

「話しかけて……いえ、何か呟いて居ますわ!」

 

『ウエテ、シニタクナイ』

 

『ヤメロ、オレハチガウ』

 

 

声の高さも響きも全く違うけれど、動いている断片は怨嗟の声を響かせる。

ボク達へ突き刺さる視線のようなモノはだいぶ減ったけど、今度は今度で耳が痛くなる。

 

 

『タスケテ』

 

『オナカガスイタ』

 

『イケニエヲ』

 

『ギシキヲ』

 

『シヌノハイヤダ』

 

「ッ…………祭壇に魔力が、魔方陣が起動してる!」

 

 

集合霊の声に呼応するかの様に、魔力が集まり、輝きを放つ。

たかが召喚の儀式といえど、この区画全てを使ったソレはもはや大規模な儀式と言う他無い。

そんな召喚に応じて現れたのは――――――――

 

 

「ライオン!? コレだけ大掛かりな儀式なのにただの動物を召喚ですの!?」

 

「いや、アリア()じゃないんだから、大型肉食動物なんか呼ばれたら結構辛いよ? 一般人には」

 

「『熊殺しも可能な女は放っておくのが良いよ、多分ね』」

 

 

さっき熊を殺したのはナラト()だけどね。

それにしても、この召喚の意味がやっと解った。

 

 

「これ、使い魔召喚(サモン・ファミリア)の魔方陣だったんだ……アリアが言うわけじゃないけど、コレだけ大掛かりな設備なのに、何で……?」

 

「だけど、費用対効果は十分よ。魔力が溜りやすい儀式設備の配置、大掛かりな魔方陣。それなのに呼ぶのは小さな群れ、数日もあれば同じことを繰り返せるわ」

 

「じゃあ、『アレ』は一体どこから――――――」

 

『ショクジ、ダ!』

 

『クウゾ! イキノコルタメニ』

 

『タスケテ』

 

『タスカッタ』

 

 

召喚されたライオンを見た集合霊の声に、歓喜とも呼べる声が入り混じり聞こえる。

そして集合霊の断片が群れへと襲い掛かるけど、体積が減った所為なのかさっきとは違って随分と軽快な動きになっている。

その内の数匹は逃げ出すことが出来たみたいだけれど、他は全て集合霊に飲み込まれ、その後には死骸だけが残っていた。

 

 

「………………なるほどな。あれは、たましいをくって、そんざいをおおきく、したのだな」

 

「つまり、今に至るまで召喚しては喰らい、召喚しては喰らいと延々と続けていたのですね」

 

「何千単位の魂量では済まないわけだね。黄昏後からずっと続けてきたなら、成程十分な数になる。逃げ出した動物もこのビルに住み着いたって事か」

 

「『で、人間霊と動物霊だけ、そりゃあ弱い訳だよ。この地が死霊で溢れかえる前に見つけれて良かったねぇ』」

 

「ええ。やるべき事は儀式の破壊、その前にアレを何とかするのも必要ですわね」

 

『――――タリナイ』

 

『ハラガ、ヘッタ』

 

『マダクウゾ』

 

『タスケテ』

 

『マダ、クエルノガ、アルゾ』

 

 

向うもボク達を『食事』として認識したみたい。

あらゆる視線が、得物を狩るソレとしてボク達に向けられる。

けれど、けれど今度は受け取る意味も変わってくる。

 

 

「アレがボク達を食料としか思って居ないなら、それは既に動物や魔物と同じ……っていうか、狭義ではスピリット体は魔物の一種だよね」

 

「何か崇高な目的で呼び出された存在かと思って焦りましたわ。狩るか狩られるかで考えるのは、今の時代の節理。ですわ」

 

「あいてはまもの、ぶっとばそう」

 

 

臆することなくそれぞれが武器を構え、退魔灰粉を振りかける。

実に頼もしい。

アリアなんかは、汚れるのも構わずに全身に被り、集合霊へと向かって走ってく。

いや、本当に頼もしいね。

 

 

「ちょっ! 待ちなさい! 触られたライオンが死んだの見てたでしょ! かなり強力な【エナジードレイン】使ってるのよ!」

 

「だから全身に振りかけたのですわ! エナジードレイン対策、十分に効果は、あり、ます、のっ!」

 

 

あろう事か集合霊を右足で蹴り抜いてよろめかせた後、背負っていた大剣で抜刀切りを行い袈裟懸けで切り裂いた。

いや、うん、ボクのアイテムを信頼してくれるのはうれしいけど、かなり危険な事をやっているのには気づいてほしいね。

 

 

『オオオオオオオ!』

 

『イタイ』

 

『キズツイタ』

 

『タスケテ、タスケテ……』

 

『コロサレル』

 

 

更に二つに分けられた集合霊から怨嗟の声が再び響く。

が、止まっては居られない。

直ぐにボク達も魔法でアリアの援護をしないとね。

 

 

「『ウゴイテイルノハ、ヤハリカタホウカ。ナニカヒミツデモアルノカ?』」

 

「何故敵の声真似をすル。我々の内の誰かで良いだろウ」

 

「『声を発する連中が相手ダ。万が一に言葉が通じるのであれば、騙す事も出来るとは思わないカ?』」

 

「やれるかどうかも解らない事を急にやろうとするのはあまり感心できません。とりあえず、動かせるのは一つだけみたいですね。逆に、くっ付けばまた動き始めるという事ですから、浄化できる私は他の断片を浄化しましょう」

 

「『手伝います。ええ、ものまね士ですから』」

 

 

霊の浄化に関しては、流石にエクレシアの神官であるリンクにしか使えないと思ったんだけど、ナラトはそれでも使えるみたい。

此処まで来るともう、ものまね士と名の付いた胡散臭い何かにしか思えないね。

 

 

「「時の歩みに背きし邪なるモノよ、神の光の下に在りし時へと還れ【ルミエール】」」

 

 

声も魔力も完璧にシンクロしての詠唱は目をつぶるともうどっちが本物なのかが解らないね。

それで、唱え終わるとその名の通りルミエール(小さな光)が燈る。

蛍のように淡い輝きを放つ光で、断片となり散らばっている集合霊は浄化されていく。

でも、本体には全く効果が無いみたいで、変わらずに襲いかかかってくる。

 

 

『サカレル、イタイ、イタイィ』

 

『タス、ケテ…………』

 

「面倒な事ダ。動物霊らしき存在は切り離してやれば消滅すると言うのニ」

 

「じみちに、けずっていくのがいいだろう。じゅんとうに、よわくなっている」

 

 

斬って、抉って、貫いて……そして千切って浄化を繰り返すことで圧倒的だった規模も、エナジードレインの力も弱まってきている。

リンク達にルミエールを続けて貰えば、確実に倒せる相手になっている。

 

 

「……………………やっぱり、違和感がありますわ」

 

「んー……集合霊が、分裂しても一つしか動かない事?」

 

 

多少は話す余裕も出て来たのか、アリアが珍しく戦闘中に関係なさそうな話をしてくる。

確かに、集合霊の性質としては結構おかしいと言える。

集合霊は、名前の通り霊が集合することによって形作られる魔物で、レギオンと呼ばれている。

あくまでも集まっているだけだから、個々に分裂することも可能で、複数に分かれてこちらに襲い掛かってくる事もある。

でも、目の前の集合霊にはそれがない。

 

 

「ソレもありますが、叫ぶ声こそ複数で、様々な声が聞こえますわ。ですが、ですが一つだけ何度呟いても同じ事を言っている霊が居ますの」

 

「ああ、『タスケテ』とか言っている奴だナ? 確かに音声的には同一存在ダ」

 

「集合霊なのですから、その状況に応じた我の強い魂が叫ぶと言った事ならば解りますわ。ですが、食事を見つけたときも『タスケテ』と言うのはおかしくありませんの?」

 

「成程。そう言った特定の状況下で強く応じる魂を、押さえつけて顕現することが出来る個体…………?」

 

 

俄かには信じにくい話だけれど、レギオンに『核』となる存在があるのかもしれない。

全ての魂を一つにとどめておける程の。

 

 

「とりあえず、助けてって言ってるんだから、助けてあげようよ」

 

「そうですわね」

 

 

勿論、ボク達に出来る事は消滅させることだけ。

退魔灰粉を振りまきながら斬る事幾回か、ついに変化が見えてきた。

 

 

『オ、オオオ…………アタ、タカイ……』

 

「やっとレギオンらしく、別れても行動する様になってきましたね」

 

『コレで……やっト…………おわ、ル…………』

 

『終わらせテ……クレぇ』

 

『どこの国のヒとか、知ラナいが……感謝、スル』

 

「本体らしき存在以外ハ、随分と未練はなさそうだナ」

 

 

悪意があってこちらも仲間に引きずりこもうとしているんじゃ無くて、逆に彼等は消滅してがってる。

と言うか、既に摩耗し切っているだろう筈の自我が残ってる。

ボク達の事を、認識してる。

 

 

『……………………愚カナ選択を、しまシた』

 

『全テハ。アノ日から始まったノデしょう』

 

 

ぽつり、ぽつりと、魂が消滅しながらも分割された霊は語りだす。

本体から発せられた怨嗟の声とは違う、歓喜に咽ぶような声で。

 

 

『ここハ、見ての通リ。多くの人ガいる場所でした』

 

『とてモ頑丈デ。この様ニ災害デ沈んでも、問題が無イくらいには』

 

『コこハ娯楽施設ハ、十分でした、エエ。娯楽だけハ…………』

 

『だケレど、希望ハアリまセンでした』

 

『パンドラの箱……地獄の釜。狂った世界ニ染まるノハ、時間の問題デした』

 

 

有体に言ってしまえば、話を聞く意味なんてない。

むしろ、聞いて居るつもりもない。

軽くなったのか、段々素早くなってくる本体を叩く事が先決で、彼らは千切れて勝手に消滅していくだけの魂なんだから。

それでも何か、自責の念に縛られて、まるで誰かに懺悔を聞いて貰いたいのか勝手に喋っている。

 

 

『狂人ガ……イエ。我々も最早狂っテいたノデしょう。生贄ヲ捧げ、この世のモノならざる存在ニ、願おウと』

 

『選ばれタのは。唯の少女。何事もナイ、唯の…………』

 

『ソウだ……! 俺が、オレがアノ、ガキを贄に……神デモ悪魔デも良い! オレを俺を俺をオレを助けテくれる存在に祈っタんだ!!』

 

 

消えていく魂に混じって、ひときわ強く自己主張する狂った魂がいる。

言動からしても、この騒動の原因の一人。

 

 

「死にたくないっていう祈りが合わさって、今の今まで残れる儀式が完成したってわけね。自業自得じゃない。それに、願いは叶ってるわよ肉体こそ死んだけど、魂は殆ど不滅に近かったし?」

 

『嫌ダ! もういやダ! 死ぬんだ! 俺は死ぬんだ!! 天国でも地獄デモ、どこでも良い。俺はモウココはイヤだ!!!』

 

「くふふ。良かったね、また願いは叶うよ。尤も、皆昇天してるんじゃ無くて、魂ごと消滅してるんだけどね」

 

『良い! ソレで良い。兎に角……もう…………イヤだ……………………』

 

 

随分勝手な物言いだけど、最後まで喚き散らしていた魂も拡散した。

残るのは、無駄な魂をそぎ落とした女の子が一人。

もう、助けてと叫ぶような声は聞こえないけれど、しっかりと目の前には居る。

 

 

「…………随分とおとなしくなりましたわね」

 

「『まあ、先ほどまでの状態、惨状カ。アレは本能で生きる【動物霊】に、ソレを糧として生かされ続けた【人間霊】の意識が、彼女に融合していたからナ。そりゃあ煩わしイ』」

 

「アンタ、意外とよく知ってるのね。物理学者とも聞いたけど」

 

「『何、伊達や酔狂でものまね士をしている訳じゃないサ。色々みてきタ、そして色々と知っているだけダ』」

 

 

正直、その機械音声をどうやってものまねしているのかが不思議でならないけど。

いまはその問題は置いといて、目の前の問題をどうするべきか考えなくちゃいけない。

とりあえず、話しかけてみる。

 

 

「で、君どうするの?」

 

『わた、し?』

 

「おー…………やっぱり他の連中と同じで意思疎通も出来るんだ。うん、君」

 

『……………………生きたい』

 

 

もう既に死んでる存在に、生きたいと言われた。

いや、無理難題が過ぎる。

 

 

「消滅する気はないの?」

 

『嫌。やっと、痛くなくなった、煩くなくなったのに』

 

「リンク、神官様的にはどうするのさ」

 

「え、えっと。問答無用……と、言うわけにも。魂が悪霊へと変化した訳でもありませんし、先ほどの方々と違って、摩耗して消滅した訳でもありませんので…………後、本人の同意がなければ、送れませんし」

 

「うへー…………取りあえず、一緒に来る?」

 

『…………うん』

 

「まったく、アリアのキャラバンには変なのがどんどん増えるよ」

 

「お待ちなさい、キャラバンマスター(団長)は貴女ですわ。そして、その変人筆頭に言われたくありません」

 

 

ティポット(妖精)加入あたりからなんかまともに人が増えていない気がする。

まあ、別に犯罪者集団じゃないから別に良いんだけど。

 

 

「所で、アンタ此処の召喚陣を作動させてたみたいだけど、コレまだ使えるの?」

 

『出来る。やる?』

 

「いや、やらないわよ。誤作動があるとまた問題が起こるから壊したいんだけど」

 

 

ライラの言いたいことが何となく解った。

この儀式用魔方陣、確かに祭壇を中心として広がってるんだけど、どこまでが魔方陣の範囲なのかが今一わからない。

 

 

『大丈夫。祭壇を壊せば止まるよ……元々の始まりは、あのテーブルだけだったんだから』

 

「……そう」

 

 

何時かの昔、自分がイケニエに捧げられた場所だって言うのに、とても落ち着いた声でこの娘は言った。

その祭壇にはもう骨すらなく、儀式の核となるその場所は寂しい限りだった。

 

 

「で、どうやってあのテーブルを破壊するつもり? 簡素なテーブルとは言えど、長年の魔力に晒されて私程度じゃあ傷一つ付けれれそうにないわよ?」

 

「……………………買っておいてよかったよね。火薬」

 

 

まあ、腐っても黒色火薬。

その破壊力の低さには正直脱帽したいレベルだけれども。

まあ、道理を無理で押し通してしまうのが錬金術師(ボク)の役目だしね。

 

 

「アリア、剣を貸して」

 

 

黒色火薬では足りない。

アリアの馬鹿力でも多分無理。

だったら、黒色火薬から爆発と言う要素だけを抜き出して、アリアの剣に付与してやれば届く。

そう、大釜をライラに転送してもらって、黒色火薬とアリアの剣を錬金すれば。

 

 

「完成! アリア、ぶった切って!!」

 

「はいですわ!!」

 

 

毎回思うけれど、その細腕のどこに力があるのだろうか。

自身の身長程もある大剣を右肩から担ぐ様に構え、深呼吸をしている。

これが本気になったアリアの大剣の扱い方。

まるで力を大剣へ移すように、動きが止まる代わりに絶対とも言える一撃を対象に叩きこむ。

突っ込んでくる獣にも最大威力で難なく行うアリアだ。

ましてや動かぬテーブルなど、失敗するはずもない。

 

 

「一…………二…………せやああああああああああああ!!!」

 

 

振り下ろされた一撃が、祭壇を纏う魔力へと到達する。

普通は弾かれるんだろうけど、アリアを舐めて貰っちゃ困る。

そのまま魔力の防御をぶち貫いて、ボクが付与した爆発の力と共に、祭壇に届けばいい。

アリアの力が全て、内側か崩壊させる力へと変換される。

一瞬光ったかと思うと、後は砂みたいに細かくなって崩れていった。

 

 

「…………レティ。貴女意外と恐ろしい物を作りますわね」

 

「人には向けない様にね」

 

 

とりあえず、問題ごとは終わったし帰ろう。

この幽霊少女の話も聞かないといけないし。

 

 

 

 

・・・・・・

「長く潜っておられましたが、無事で何よりですな」

 

「いやはや全くだね。とりあえず新しい娘も増えたし」

 

「ベル様、でしたかな?」

 

『うん……ベル=ニケ。お話に聞いたずーっと昔(黄昏前後)に幽霊になったの。色々とあったから、色々と出来るようになったわ』

 

 

召喚の触媒にされたからなのか、今でも召喚術は可能らしい。

加えて、色々な生物と融合したから動物や魔物の事は良くわかるらしい。

 

 

『ごめんなさい。迷惑をおかけしたみたいで』

 

「何の何の。大事になる前に全てが終わって有りがたい限りです。それに、自身に非が無い事で謝るのはお止しなさい」

 

「くふふ。()()()()も消えちゃってこの話は終わりって事だよ、ニケ」

 

『うん…………』

 

 

子供の癖に、変なところでマセてるね。

まあ、言っても10歳くらいしか変わらなさそうだけど。

 

 

「さて。お疲れでしょう、今日はゆっくりと休まれてはいかがですかな?」

 

 

気を使ってくれたのか、司祭様が話を変えてくれる。

司祭様にしても、孫みたいな年齢の少女が、悲しそうにしているのはアレなんだろう。

 

 

「そこまでしてくれるのはあり難いね」

 

「いえいえ。お礼もありますし、それに私もその昔は旅をしたものでして。冒険の話というモノには年甲斐もなく――――」

 

 

成程、どうやらこの老司祭様は、そう言った話が好きな様だ。

泊めるついでに話でもと言った感じだろう。

だったらボクらも話をするのはやぶさかじゃないと言うわけだ。

 

 

――――そうして、長い長い一日の出来事は終わっていくのだった。

 




人物紹介

ベル=ニケ
種族:幽霊(元人間)
役割:召喚士/ブリーダー

錬金術士の物語って言ったら幽霊少女必須やろ!!
いや、必須かどうかは知りませんが、元ネタ問われたらそんな感じです。

名前がね、中々決まらないんだコレが。
武器何にするか未だに決まってないのが怖いところ。
たぶん、召喚したモノをぶつける戦いですよ多分。
この話が続くかは本気で置いといて。


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