肥満児二人。ただし最強。 (悲しいなぁ@silvie)
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本編
1話


人の悪意、負の心から産まれる呪霊と呼ばれる異形達。

それを狩る人間達を呪術師と呼ぶ。

呪術師達はその力量によっていくつかの階級に振り分けられ、その最上位…呪術師の枠組みを超えた存在に与えられる階級を特級と呼ぶ。

そして、その枠組みを超えた埓外が()()ここ東京都立呪術高等専門学校に居る。

 

「うん、術式を使ってきたから期待していたが…やはり1級以上の呪霊は旨味が段違いだ!

悟もひと口食べるかい?」

 

「傑…ケンカ売ってんの?俺は呪霊喰えねーって何度言えばわかんだよ」

 

一見して、二人共…かなり巨大(デカ)い。

上に(タッパ)は勿論、厚みも横幅(ふとさ)もそこらの高校生(パンピー)とはケタ違いの巨体(ガタイ)であるこの二人こそ呪術界が頭を抱える超新星。

特級呪術師五条悟と同じく特級呪術師夏油傑である。

 

「アンタら朝っぱらからよくそんな食べれるわね…

見てるだけで気持ち悪くなってくんだけど」

 

机の上に山積みされたこぶし大の黒い球体をひょいひょいと飲むように食べる夏油とそれを羨ましそうに見ながらこれまた机の上に山積みされた日本各地から取り寄せた銘菓を頬張る五条。

現在時刻は朝の8時半…朝のホームルームさえ始まらぬそんな時刻からドカ食いを敢行(キメ)る二人にドン引きしながらも動物園の動物を観察するように見る家入硝子。

この三人こそが今現在の呪術界で最も価値のある三人と言っていい現代の異能達である。

 

「ふふ…いやだなぁ硝子、私が食べてるのは呪霊だよ?

人の負の心から産まれたスピリチュアルな存在…そんなものにカロリーが有ると思うかい?

つまり…呪霊はこんなに美味しいのにゼロカロリーの完璧な食材なんだよ」

 

「じゃあこの腹回りはなんの冗談なワケ?」

 

分厚い学ランの上からでも易易と掴める腹肉を鷲掴みながら問う家入に夏油はやれやれと肩を竦めた。

 

「あのさ硝子、俺は六眼(りくがん)やら術式で滅茶苦茶アタマ使うんだよ理解(わか)る?

アタマってのは人間の身体の中で一番エネルギー使うんだぜ?

だからこうやって糖分摂ってんの」

 

「この顎見る限りエネルギー使えてないと思うけど?」

 

ごちゃごちゃぬかす五条の顎と喉の肉を鷲掴みながらタプタプと揺らす家入に五条はわかってねぇなぁとため息をつく。

 

「ホームルームを始めるぞ、悟と傑はもう食うのやめろ

あと硝子、お前も二人の肉を揺らしてないで席に戻れ」

 

扉を開けて入って来たイカつい剃り込みにこれまた強烈な顔面の一目でカタギでは無いと断言出来る容姿の担任、夜蛾正道は三人にキビキビと指示をしていく。

はーい、と間延びした返事と共に席に戻る家入…しかし、夏油と五条は我関せずと呪霊玉や喜久福を頬張り続ける。

 

「………おいお前ら、食うのをやめろ」

 

「夜蛾先生、私のコレは食事ではなくあくまでも呪霊退治ですよ

呪術師としての責務を果たしているだけです」

 

「そ〜そ~、俺のも常にベストコンディションを保つ為に必要なんで」

 

食べる手を休めずに宣う二人。

 

「屁理屈をこねるな馬鹿共!」

 

「ぐっ!」「ごっ!?」

 

そんな二人に夜蛾の拳骨が落ちたのは言うまでもない。

 

(いっ)てー!舌かんだじゃねぇかよ!!」

 

「そうやってすぐ暴力に訴える…やれやれ、これだから心が貧困な人間は」

 

二人の反応に夜蛾は渾身のため息を吐き出しながら頭を抱える。

 

「実は…お前達二人に指名が入っている」

 

「俺ら二人に?特級二人も要るなんてどんな任務だよ」

 

「私達二人で同じ任務にあたるんですか?

正直言って過剰戦力では?」

 

「いや……正直言って()()()()と思っている」

 

「は?」

 

「それは私達二人だからですか?それとも──特級二人でも…ですか?」

 

「………後者、この任務は天元様直々の依頼だ

内容は2つ、〝星漿体〟天元様との適合者

その少女の護衛と───抹消だ」

 

 


 

「でもさー呪詛師達が狙うのはわかるけど盤星教の方はなんでガキんちょ殺したいわけ?」

 

スタスタ…というよりドスドスが似合う五条は自販機で躊躇なく飲めば逆に喉が渇きそうな程に甘い缶コーヒーを選び購入する。

 

「崇拝しているのは純粋な天元様だ

星漿体…つまり不純物が混ざるのが許せないのさ、悟だってスイパラでケーキの隣にゼリーを置かれたら生地が水分吸ってそうで嫌だろ?」

 

夏油は五条から激アマ缶コーヒーを躊躇なく受け取ると一息飲みほして語る。

 

「なーる…まぁ大丈夫でしょ、俺達最強だし」

 

飲み終わった缶を呪力で米粒大に圧縮し、もう一本買おうと財布に手を掛ける五条。

 

「………悟、前から言おうと思っていたんだが

一人称『俺』はやめた方がいい、誰しもが私達のように富める者じゃないからね

痩せ細った連中は心も貧しいから揚げ足とりに使われるよ」

 

夏油の言葉に五条が嫌そうに舌を出した瞬間、件の少女が待ち合わせに指定したビルから爆発音が響いた。

 

「これでガキんちょ死んでたら俺らのせい?」

 

その五条の呟きを聞いた訳でも無いだろうに、炎上し煙を上げるビルの1室から落下する点のように小さい影。

 

「恨むなら天元を恨みな」

 

呪詛師団体『Q』の構成員は落下する星漿体、天内理子を見ながら呟く。

 

ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス

 

「ナイスキャッチ、でも目立つのは勘弁して欲しいんだがね」

 

それは、異様な光景だった。

ビルを…地面に垂直に建つビルを、肉達磨が()()()いた。

そして落下する星漿体を抱き留めるとこちらへ向かって歩を進めている。

一瞬にして呆けていた脳味噌は急速回転し思考が纏められていく。

 

(術式…っ!重力を操る術式か?それとも引力や磁力を操る類の可能性も───いや、無いわ……普通に足刺さっとるわ…)

 

ドスドスとビルの壁面に足を突き刺しては引き抜くを繰り返し、純度百パーセントの力技にて壁歩きを成立させる夏油。

驚くべきはその速度、夏油は壁に足を突き刺しては引き抜きを繰り返しながらも陸上の短距離メダリストすら霞む速度で動いていた。

 

「そ、その制服…高専の生徒だな!?止まれ!」

 

「全く…欠食児童はこれだから困るな

もっと大きな声で言ってくれ、そんなか細い声では私の鼓膜は揺れないよ」

 

顔や腹の肉をぶるんぶるんと震わせるながら迫る夏油に恐怖やらなにやらよくわからない感情を抱く構成員であった。

 

 


 

「ああ、別に謝らなくてもいいよ?

私は君達のように痩せ細った人間の味方さ…なにせ私も中学まではそうだった

この術式に目覚めて呪霊食に行き着かなければ私も今頃君達のように見るも無惨に痩せ細り貧困な心を持った人間のままだったろうからね」

 

顔面が陥没する程に殴られたQの構成員に腰掛けながら話す夏油。

彼の尻の下からはか細いうめき声が響く。

 

「そうだ!君もコレを食べてみないかい?

丁度いいのがあるんだ…3級の呪霊なんだが見た目が甲殻類系だったしきっと蟹のような味がする筈だよ!

……………まぁ、悟はコレを食べて一週間程死にかけたけど」

 

「んーー!!んーーーー!!!」

 

夏油は座布団と化した構成員の口に尋常ならざる腕力で呪霊玉をねじ込んでいく。 

構成員の涙ながらの抵抗も、天内やその世話係の黒井のドン引きも夏油の手を止める事は出来ない。

 

「ん…?」

 

8割方呪霊玉が構成員の口に捩じ込まれた所で夏油の携帯にメールが届く。

 

「…コレ、君の上司?」

 

自身の所属する団体の最高戦力が自身と同じく巨漢の座布団と化している写真に男は言葉もなくただ力無く頷いた。

 

呪詛師団体『Q』─壊滅



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2話

「ゆとり極まれりだな!普通命狙われてんのに学校(ガッコー)行くか!?」

 

無事に星漿体である天内理子とその世話係黒井美里達と合流したはいいものの、予想外にアグレッシブな天内の要望により彼女の通う学校まで二人は来ていた。

 

「そう怒るなよ悟、天元様からの命令(リクエスト)ってのもあるけど…天元様と同化したら彼女は高専最下層で結界の基となる

スイパラや食べ歩きだってもう行けなくなるんだ」

 

夏油の声に五条は肉で圧迫され細くなった目を見開く。

 

「好きにさせよう、それが私達の任務だ」

 

「……でもさ、現実問題どう護衛すんの?

俺の術式知ってんだろ?離れた位置からどうこうすんならガキんちょごと吹っ飛ばす事になるけど」

 

「問題ないよ、私の耳は10km先の食材(呪霊)の声も聴き逃さない

こうやって耳を澄ましていれば──悟、今すぐ理子ちゃんの所へ」

 

もちもちの顔をキュッとシリアスに引き締めて五条に指示を出す夏油。

 

「あ゛?」

 

「二人…歩き方や身のこなしからして術師が敷地内に不法侵入(はい)った」

 

 


 

二人と黒井は学校の廊下を駆ける。

五条と夏油がそれはそれはブルンブルンと頬肉やら喉肉を揺れ動かしつつもビデオの速送りじみた速度で走る姿は最早一種のジョークのようだなと黒井は場違いにも思った。

 

「天内は!?」

 

「この時間は音楽なので音楽室か礼拝堂に!」

 

「レーハイドゥ!?…傑!どっちだ!?」

 

「礼拝堂の方から声が聴こえる!悟は黒井さんの護衛を兼ねつつそっちへ!」

 

瞬時に校内の地図を頭に描きながら話す二人。

つい先程一目見ただけのソレを脳内で完璧に思い描ける優秀な頭脳と、それだけ酷使しても一っっっ切消費し切れないカロリーを摂取しているのが瞬時にわかる。

 

「傑は?」

 

「私は不審者(アンノウン)のおもてなしさ」

 

ドスドスと廊下を揺らしながら走る夏油、その眼前に作務衣姿の男が現れる。

 

「その制服…呪術師、それも卵か」

 

「そっちも卵だろ、中身は腐ってそうだけどね」

 

禿げ上がった頭部を隠す手拭いを見ながら鼻で笑う夏油。

 

肥満児(デブ)が…っ!」

 

「失礼だな、ぽっちゃりだよ」

 

苛つきを隠しもせずに男は自身の前後に式神を配置する。

 

「式神遣いか…私、苦手なんだよね」

 

「ふっ、なら…死ね!」

 

手と顔面を無理矢理くっつけたような見た目の式神が跳ねるように夏油に飛びかかる。

 

「ほら…式神って呪霊と違って()()()()()()からさ

昔、ソレ狙いで禪院の十種影法術(相伝)を探しに()()()したことがあったけど…いやぁ、不味かったね」

 

向かって来た式神を握り潰しながら軽々と言い放つ。

 

「結局目当ての術式持ちすら居なかったし…もしかしたら十種影法術の式神は美味しかったりするのかな?」

 

贅肉でタップタプの顎に手をやりながらまだ見ぬ美食に思いを馳せる夏油に男はフルで脳味噌を回転させる。

 

(敵を前にしてこの余裕…そして今の体捌き、間違いなく近接系の術式!

ならばどうにかして儂に近付こうと考える…式神使いの儂に近付ければ勝ちは揺るぎ無いと思っておる

若いな…呪力量は向こうが上、しかし……圧倒的に経験値が違う)

 

「……色々考えてるとこ悪いけど」

 

瞬間、夏油が男の視界から消える。

 

「意味ないよ」

 

それが、男の最後に聞いた言葉だった。

 

ゴシャア!!!

 

「私は自分の術式が…この世の何よりも素晴らしいモノだと確信してるし、それが揺らぐ事も無いんだけど()()()()()()()()()()

まぁ適材適所ってヤツさ、火を着けたければライターがあるし…敵を倒したければ拳がある」

 

頭が廊下にめり込んだ男を見ながら呟く夏油。

呪術師界一の動ける肥満児(デブ)、それが夏油傑である。(言うまでもないが二番目は五条悟)

 

「さて、あと一人…さっさと片付けて理子ちゃんとオヤツタイムをしないとね」

 

アレは流石に痩せ過ぎだ、と言いながらグルメ情報誌を広げる夏油。

ソレには近場のステーキハウスやカレーショップのページにぎっしりと付箋が貼られていた。

 

 


 

「3000万…今夜は鰻かな、人を殺して食う飯は美味いんだ」

 

「鰻か…ナマズっぽい呪霊ならこないだ見付けてとっといたんだ、私のオヤツにするつもりだったんだが…仕方ないね」

 

「へっ…?モゴォア!!?」

 

紙袋を被った男が背後からの声に一瞬気を取られたその瞬間、悍ましい程の早業で紙袋を奪い盗られ口に玉を詰め込まれた。

成人男性の握りこぶし程もある呪霊玉を無理矢理詰め込まれた男の顎はガコン、と哀しげな音と共に外れた。

 

「何かをやり遂げた後の食事の美味しさは私もよく知ってるよ

だから……美味しい鰻は私が代わりに食べてしまおう、残念だけど死人()に口無しってね」

 

苦悶の表情を浮かべながら口の端に泡を垂れ流す男は出目金のように眼球が膨れ上がり、でろりと顔面からはみ出ていた。

……その生死など、態々確かめる必要もないだろう。

 

 


 

「「「「「キャーーーー!!!」」」」」

 

天内の無事を確認しに礼拝堂に急行した五条は天内のクラスメイト達に囲まれていた。

 

「もちもちでパンダみたい!」

「グラサンが顔の肉に埋まってて草」

白髪鬼(ホワイトヘアードデビル)!?」

「ヒャアもう我慢出来ねぇ!!」タプタプタプタプタプ

 

瞬く間に顎肉をタプタプされ始めた五条は若干苛つきながらも瞬時に抜け出し天内を担ぎ上げ外に出る。

俗に言うお米様抱っこである。

 

「この豚ァ!あれほどみんなの前に顔を出すなと!!」

 

「お前……後でマジビンタな」

 

青筋を立てながらもなんとか平静を保とうとする五条の上で天内はギャーギャーと喚く。

 

「呪詛師襲来、後は察しろ」

 

「…っ!」

 

言葉に詰まる天内に五条は一抹の罪悪感と共に確認をとる。

 

「……このまま高専いくぞ、友達が巻き込まれんのは嫌だろ」

 

「………」

 

俯く少女に悲しげな顔の黒井、五条は自身の判断は間違っていないと自分に言い聞かせながら飛ぶように走る。

 

(彼女はもう、スイパラや食べ歩きだって行けなくなるんだ)

 

夏油の言った言葉が何度も脳内でこだまする。

 

「どうしろってんだよ…クソッ!!」

 

「おいおい悟、そんなに怒ってどうしたんだ…腹ペコかい?」

 

「傑!」

 

3人に合流した夏油は瞬時にそれぞれの表情から事の経緯をおおよそ理解した。

そして───

 

「悟、理子ちゃん、黒井さん…ご飯にしよう」

 

「「「は?」」」

 

食欲を優先した。

 

「こっ、この状況で何を言っとるんじゃ!呪詛師が来ておるんじゃろ!?」

 

「あぁ、ソレね…今ざっと調べたけど呪詛師御用達の闇サイトで君の首三千万円だってさ、人気者は辛いね」

 

「…っ!なら!」

 

「だから、ご飯にする」

 

なんでもないと言うように話す夏油に焦れた天内が声を荒げるも、それを受け流すように笑う夏油。

 

「悟はそろそろ空腹で頭が回りにくくなってきてるし、何よりお腹が空くとイライラし易い

それに、理子ちゃんと黒井さんも…肩肘張り過ぎだ

まだ同化まで2日もある、そんなんじゃとてもじゃないが保たないよ」

 

そう言って笑う夏油に、毒気というか何かを抜かれた三人は不承不承といった風についていった。

 

「さあ、美味しい鰻でも食べようか」

 

 


 

「理子ちゃん、出会った時からずっと言いたかったんだが…君の欠食児童(ガリガリ)っぷりは少々目に余る

だから…これより『デブエット』を行う!!」

 

都内某所の鰻屋へ来た一行はそんな夏油の宣言に首を傾げた。

 

「デブエット…?」

 

「傑、ナニソレ?」

 

「ふむ…悟、君は年頃の女子達が行う蛮行──通称『DIE(ダイ)エット』を知ってるかい?」

 

「ダイ…エッ、ト……?」

 

始めて言語を獲得したロボットのような喋りに天内と黒井がマジかこのデブという目を向ける。

 

「この世にはあろうことか食事の量を減らしたり、あまつさえ1食まるごと失くして自分から痩せ細ろうとする人種が一定数居るのさ」

 

何故かね、と心底理解できないという風に話す夏油。

その脂肪は豊満であった。

 

「マジかよ…そんな……飯減らすとか、じゃあなんの為に生きてんだよそいつら…」

 

心の底からショックを受けた五条は若干声を震わせながら夏油に尋ねる。

 

「………わからない、成長期における食事の重要性など最早語るべくもないというのにね…」

 

こちらも本当にわからないと目を伏せる夏油。

そんな二人を天内と黒井は動物園の動物を見るように眺めていた。

 

「だからこそ…!その愚かしいDIEエットの逆!

清貧なんぞクソ喰らえ、富める者こそ真に清らかなのさ」

 

言いながら手を挙げ店員を呼ぶ夏油。

 

「さて、手始めに…メニューに載ってるものを一通り暴食(イッ)てみようか」

 

伝票を書こうとする店員にメニュー表そのものを手渡しながら、夏油は眩しい笑顔と共にサムズアップした。



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3話

モソ…メシャ…モニュ…ナポ…

ガシャガシャぐァつぐァつぐァつ

 

鰻屋で鰻を食べているとは到底思えない音で食事をする二人を未確認生物でも見るかのように観察する天内と黒井。

 

「ほら、全然食べてないじゃないか理子ちゃん…手と口動かしなさい」

 

「も、もう無理じゃあ!美味いには美味いが妾はフードファイターじゃない!!」

 

「フードファイター…?可笑しな事を言うね

食材(フード)とは戦うんじゃない…戴くんだ、感謝と共にね

私達の血肉になってくれてありがとう、命を奪ってごめんなさい…私個人の考えだがいただきますにはそういう意味も多分に含まれてると思っている」

 

「妾の…血肉に……」

 

天元との同化を運命づけられた星漿体、天内理子は夏油の言葉を噛み締めるとゆっくりと手元のひつまぶしを見る。

 

「ごめん…なさい……ありがとう──いただきます」

 

目に涙を溜めながらゆっくりとひつまぶしを食べる。

香り、温度、食感、味、咀嚼音。

全てを忘れないように、全てを戴く為に…ゆっくりと。

 

「……ご馳走さまでした!」

 

2時間後、鰻重にひつまぶし等の合計3膳を食べきった天内は疲れたような…それでいてとても嬉しそうな顔でそう言った。

 

「お粗末さまでした」

 

鰻重に蕎麦、更にはカレーまで含め4キロ弱の料理を胃袋に収めた夏油はまるで子の成長を見守る親のように笑った。

 

「じゃ、そろそろ飯行かね?傑」

 

こちらはメニュー全頼みの弊害によりダブりにダブった鰻重や鰻丼を中心にセットメニューまで含めた4.5キロ強の料理を胃袋に収めた五条がモッチモチの頬肉を揺らしながらのたまう。

 

「そうだね、()()()()()()()()()()…晩は肉系にしようか」

 

「………は?」

 

天内は目の前でぷるぷると震える肉塊共の耳を疑う会話に呆然と声を漏らす。

 

「さ!理子ちゃん…君にこの世で1番の美食──人の金で食う焼き肉を食べさせてあげよう!」 

 

「ふ…ふざけるのも大概にしろ!この肥満児(デブ)ーー!!!」

 

「お前、ホントにマジビンタ……」

 

むっとした五条が口を開いた瞬間、その巨体が停止した。

 

「なんじゃ!!やる気かこの豚が!妾を殺る気ならまずは貴様から死んでみせよ!!」

 

「…………」

 

「……な、なんじゃ…?なぜ急に黙って突っ立っとるんじゃ…?」

 

あぁ…来た…

漲るカロリーでトぶぜ

 

ガゴシャア!と崩れ落ちた五条を夏油はやれやれと担ぎ上げる。

 

「お、オアァァ!?ご、五条が死んだぁ!!!」

 

「ん?……あぁ!違う違う、コレは死んだんじゃなくて気絶しただけだよ

血糖値スパイクってヤツさ」

 

大量の炭水化物()と意地汚く独占した糖分(デザート)により爆発的にブチ上がった五条悟の血糖値は彼に一時の気絶(睡眠)を与えた。

そして、護衛任務中にドカ食い気絶部を敢行(キメ)た彼を夏油は誇らしげに見るのであった。

 

 


 

護衛3日目(同化当日)

都立呪術高専、筵山麓

 

「結局、あれから一回も襲撃無しだもんな…気の張り損だ」

 

ズコー、とハンバーガーショップで購入したシェイク(言うまでもなく最大サイズ)を吸い上げ(ダイソン)る五条。

 

「最悪じゃ……肥満児(デブ)共のせいで…ふ、2日で4キロも……」

 

そんな五条の後ろをふらふらと歩く天内とその天内を心配そうに見る黒井。

 

「まぁ、相手からすれば四六時中私達が理子ちゃんに張り付いてる訳だしね…当然と言えば当然さ」

 

更にその三人の後ろを呪霊玉を齧りながら歩く夏油。

本日の呪霊玉は夏油がへそくりとして食べずに置いていたとっておきである。

 

「美味いな…ゲテモノは美味と相場が決まってるだけはある!」

 

黒沐死──再起不能(リタイア)

 

特級の呪霊玉を瞬く間に完食した夏油は長い階段を登り終えると三人に向き直る。

 

「皆、お疲れ様…高専の結界内だ」

 

「これで一安心じゃな…」

 

「で、ですね…」

 

夏油の言葉に最早その程度ではテンションを上げる事すら出来ない程に乙女の秘密(ウエイト)を凌辱された天内。

そして、同化についていまだ自身の心を整理しきれない黒井。

そんな二人の上の空な返答に夏油は曖昧な笑みを浮かべるとシェイクを暴飲()る五条の肩を叩く。

 

「悟も…本当にお疲れ」

 

「………二度とごめんだ、ガキのお守りは」

 

五条のセリフにお?とファイティングポーズをとる天内。

五条は2本目のシェイクを袋から取り出しつつ天内に中指(ファック)で応える。

 

「素直じゃないね、この3日間気絶してる時以外は術式を解いてないだろ?それに睡眠もだ…」

 

ムッチムチの指を突き立てる五条に近寄ると耳打ちする夏油。

五条は鬱陶しそうに突き放すとゲー、と舌を出す。

 

「問題ねぇよ…健康診断前の断食やった時の方がしんどかったわ」

 

サクッ

 

瞬間、五条の脇腹から刃物が突き出た。

 

「馬鹿な…ここは高専結界の内側だぞ!!」

 

「アンタ…どっかで会ったか?」

 

夏油の叫びが響く中、五条は背後の襲撃者を見る。

 

「気にすんな…俺に豚の知り合いなんて居ねぇよ」

 

襲撃者が腹部に刺した刀を上に斬り上げようと力を込める。

しかし、それより先に…五条悟の術式が発動した。

収束する負の無限級数、無限の収束は瞬時に男の体勢を崩す。

そして、その隙を見逃す程に夏油傑は甘くない。

夏油は瞬時に男の懐に潜り込むとその身体を蹴り飛ばす。

 

「悟!!」

 

男が石畳を削りながら神楽殿の一つに突っ込んだのを確認しながら夏油は五条の名を叫ぶ。

 

「問題ない、術式は間に合わなかったけど内臓までは届いてないし呪力で強化して刃をどこにも引かせなかった」

 

五条は本当に大丈夫だと立ち上がる。

 

「でかいクリームパン齧ったみたいなもんだよ、中身(クリーム)まで全然届いてない」

 

五条は男が飛んでいった方向を睨むと夏油の方を見ずに話す。

 

「天内優先、アイツの相手は俺がする

傑達は先に天元様の所へ行ってくれ」

 

「………油断するなよ」

 

「誰に言ってんだよ」

 

夏油は親友の言葉に天内と黒井を連れ駆け出した。

 

 


 

高専最下層、薨星宮 参道

 

昇降機で地下深くまで降りてきた夏油は涙と共に別れの言葉を交わす天内と黒井をじっと見つめていた。

 

「ここが…」

 

「あぁ、天元様の膝元…国内主要結界の基底、薨星宮本殿

ここからあの大樹に向かって行けば天元様の元まですぐさ」

 

天内は何も言わず目を伏せる。

 

「………それか、引き返して黒井さんも連れてデブエットの続きをしよう」

 

「……………はぁ?」

 

9割9分9厘の何言ってんだこの豚がこめられた返答。

そして…1厘の期待が混じった、返答。

 

「君と会う前に悟との話し合いは済んでる

大丈夫、なんとかなるさ」

 

夏油はブ厚い胸を更に張って、誇らしげに言い切る。

 

「私達は、最強なんだ」

 

「理子ちゃんがどんな選択をしようと、君の未来は私達が保証する」

 

ムッチムチで、ブ厚く、巨大(デカ)く、何より温かい手が…天内に、星漿体ではなく天内理子に差し伸べられる。

 

「何それ…訳わかんない

初対面で人に呪霊玉(毒物)食べさせてるし、学校で暴れるし、デブエットとか訳わかんない事言って体重増やしてくるし!」

 

「うん…ごめんね」

 

ポロポロと溢れるように出てくる天内の言葉を聴き逃さないようにゆっくりと聞く夏油。

 

「急に、説教臭いこと言ってくるし…でも、変に優しいし…なにより、二人共…私を私として接してくれた…

星漿体(トクベツ)じゃない、ただの天内理子(ワタシ)と居てくれた…」

 

ボロボロと天内の目から涙が溢れる。

 

「私、私…っ!もっと皆と…一緒にいたい!!

もっと皆と…色んな所に行って色んな物を見て……

………もっと!!」

 

顔を涙でぐしゃぐしゃにするのは、夏油の前に立って居るのは

トクベツな一人だけの人間ではない。

何処にでも居て、此処にしか居ない

そんな、一人の天内理子(少女)だ。

 

「帰ろう、理子ちゃん」

 

「……うん!!」

 

タン

 

銃声が響き頭が弾かれたように動く。

 

「…………チッ、勝手に射線に入ってんじゃねぇよ

殺処分すんぞ…豚が」

 

「そっちこそ…勝手に入ってくるんじゃない

駆除するぞ…猿が」

 

襲撃者、伏黒甚爾は血塗れの夏油傑と対峙した。

 



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4話

「夏油!ち、血が…こんなに出て……」

 

頭部から噴出する血液は既に夏油の髪を朱く染め、黒い学ランをより濃く彩る。

 

「理子ちゃん、下がって…!」

 

「夏油…っ、でもっ!!」

 

夏油のモッチリとした手が天内の頭をポンと撫でる。

モッチリムチムチの夏油の手…手?

……………夏油の右クリームパンが天内の頭を撫でる。

 

「こんなもの、私にとっては町でアンケート取らされた位のハプニングさ…さ、行け!!」

 

天内を退避させ、襲撃者に向き直る夏油。

 

「終わったか?三文学芸会はよ」

 

首に呪霊を巻き付けた甚爾はハンドガンで肩を叩きながら夏油を睨む。

 

「………なんで、お前がここにいる」

 

「なんでって…あぁ、そういう意味ね

お友達なら死んだぜ、ブランド豚…五条豚の刺し身ってとこか」

 

「そうか」

 

夏油傑という男は、温厚で知られている。

呪術高専に入学以来一度も怒ったことがないと自他共に認めるその性格(と体型)からついたあだ名が『呪術界のトトロ』(言うまでもないが硝子考案)。

いつも笑みを絶やさず、後輩からの信頼も厚い。

五条家の秘蔵っ子、孤高の天才と呼ばれた肥満児五条悟の無二の親友とまでなった夏油傑。

そんな彼が、産まれて始めて抱いた──

 

「死ね」

 

剥き出しの、殺意。

夏油は一足で甚爾に肉薄する。

 

「はしゃぐなよ肉団子」

 

軽く振り上げた甚爾の脚が夏油の顔面を打ち抜き、そのまま蹴り飛ばした。

夏油は薨星宮に乱立する建物の一つに激突する。

 

「喜べよ、お友達と違ってお前を殺す気はねぇ

呪霊操術使いなんだってな?特級様は有名で良いな」

 

ガラガラと崩れた建材を掻き分けて立ち上がる夏油を見下ろしながら甚爾は口を止めない。

 

「俺は生まれつき呪力が全く無い特異体質、天与呪縛ぐらい知ってるだろ?

呪力が無い俺はさしずめ透明人間…結界を抜けてきたのがソレだ

呪具は物体を格納出来る呪霊に呑ませ、ソイツを俺が呑み込めば…あらゆる呪具を携帯したまま結界を素通りできる」

 

甚爾が話し続ける中、夏油は血塗れの学ランを脱ぎ捨て顔にべっとりとついた血を拭う。

 

「強化されてるのは身体能力だけじゃねぇ、五感や知覚能力も強化されてる…呪霊を飼えてるのはそういうことだ」

 

「終わったか…」

 

「あぁ?」

 

「天与呪縛…術師(わたしたち)と同様に情報の開示が能力の底上げになることは知っている

だから──腸が煮え繰り返ろうと我慢して聞いてたんだ」

 

再び、夏油が甚爾に肉薄する。

 

「お前は…完膚なきまでに叩きのめす

だから──後で泣き言を言うなよ」

 

「悪いな、豚語はさっぱりだ」

 

ガゴン、と互いの蹴りがカチ合うと金属音に似た音が響く。

蹴り足は一瞬拮抗するもすぐに均衡が崩れ甚爾の足が弾かれる。

しかし、甚爾は弾かれた勢いそのままに軸足で回転すると蹴りを振り抜いた夏油の頭頂部に両者の力で加速した踵落としを叩き込む。

 

「ぐっ…!」

 

「お前ら豚共は、俺から言わせれば我慢が足りない

自分の欲すら我慢できねぇ(ゴミ)が俺に勝てるって夢見ちまったか?」

 

床をぶち抜きそのまま下層まで落ちる夏油を見ながら、しかし甚爾は天内を探しに行こうとは動かない。

 

(どうなってる…?今までの賞金目当て(ザコ呪詛師)相手に術式を使わなかったのはまだわかる…だが、なぜ今呪霊操術を使わない?

何かを狙ってんのか…)

 

夏油は壁を蹴りながら空中を跳ねるようにして戻ってくる。

 

(さっきから馬鹿の一つ覚えに突っ込んでくんのもわからねぇ

殺さねぇって言ったから調子づいてんのか?)

 

「お゛お!!」

 

その巨体からは想像できない速度でのラッシュ…しかし、甚爾はそれらを全てかわしていく。

 

(……仕方ねぇ、死なねぇ程度に斬って黙らせるか)

 

甚爾は呪霊の口に手を突っ込むと大振りな刀を取り出す。

 

「待ってたぞ…お前が武器を取り出すのをな」

 

瞬間、夏油が更に加速した。

その目はただ1点、甚爾の首に巻き付いた呪霊のみを見ている。

 

(この豚…っ!今までのは全部ブラフか!

狙いは俺の格納呪霊…!だが、やっぱり我慢が足りねぇな

刀はまだ呪霊の口から引き抜ききってない、呪霊操術が発動するまでに天逆鉾に持ち替えるぐらい訳ねぇんだよ)

 

甚爾は瞬時に刀を呪霊の口に入れ直すと触れた術式を強制解除する特級呪具、天逆鉾を取り出し呪霊に手を伸ばす夏油を嘲笑う。

そして──

 

『■■■■■■!!!?』

 

ガチン、という音が響くと共に──武器庫呪霊の頭が()()()()()()

 

「な…っ!!」

 

瞬間、死んだ呪霊の身体を無数の呪具が突き破り周囲にばら撒かれる。

 

「悟が負けた…なら術式を無効化する呪具を持っている

そう考えるのが妥当だろう、尤も…クロマニョン人とは別の進化の途をたどった君には思いつかなかったかもね」

 

ゴクン、と齧り取った呪霊の一部を呑み下すと夏油は構える。

 

「来なよ…それとも、武器が無いと怖くて戦えないのかな?」

 

(………呪具は散らばっちまったが天逆鉾は手元にある

釈魂刀も足元…そんだけありゃあこの豚捌くぐらい問題ねぇ)

 

違和感

 

「驚いた…喋るだけじゃなくジョークも言うのか、最近の豚は」

 

甚爾は瞬時に距離を詰めると夏油の顔を蹴り飛ばす。

 

「ぐっ…!」

 

「遅ぇよ」

 

立ち上がる夏油の腹を釈魂刀で突き刺す。

釈魂刀は斬り裂いたものの魂を斬る。

故に、その斬撃は…硬度を無視した必殺となる。

腹、脚、腕、そして肩口から袈裟斬り。

夏油は瞬時に二桁に迫る斬撃を受け崩れ落ちた。

 

「これで、後は星漿体さえ()れば終わりだな」

 

まず立ち上がれない負傷だと判断した甚爾は天内を探しに動く。

 

「……クソ…これだけは、使いたくなかった……」

 

「……あぁ?」

 

耳を澄ました矢先、血の池に沈む夏油の呟きを甚爾の人間離れした聴覚が拾う。

 

「私の術式、呪霊操術は降伏した呪霊を自身に取り込み使役できる」

 

ふらふらと立ち上がる夏油、しかしその目は…まだ死んでいない。

 

「階級換算で2級以上の差があれば降伏を省きほぼ無条件で取り込める」

 

もう死の寸前まで負傷している、呪霊操術の暴走を考えれば甚爾は既に夏油に危害を与える事は出来ない。

 

違和感

 

「取り込む際には呪霊を小さな玉に纏め、それを口から食べる事で完了する

味は呪霊の階級によって変化し、基本的に階級が上がれば上がる程に美味で口当たりも良くなる」

 

「術式の…開示……」

 

違和感

 

温厚で知られる夏油傑にも、2つ…たった2つだけ()()がある。

1つは仲間、相棒である五条悟と親友と言って憚らない家入硝子に高専の後輩達や教員も含めた仲間達を傷付けられること。

もう1つは…食べ物を粗末にすること。

呪霊操術を持つ夏油の中で、呪霊は食べ物に分類される。

故に、夏油は術式を知覚した瞬間から今に至るまで…ただの1度も呪霊を使役し戦わせたことがない。

 

夏油は呪霊操術の有用性を知る上層部より1級術師として登録され、その後すぐ4級術師へと降格させられた。

 

夏油は呪術界の歴史で唯1人、自身の術式のほぼ全てを自身の意思で縛っている。

夏油は史上で唯一、僅か一週間という短期間で4級から特級へ階級を跨いだ呪術師である。

 

呪霊操術、数百年に1人とも言われる術式の術式効果…その殆どを縛るという破格の縛りは1つの非常識を生んだ。

縛りにより、夏油は呪霊を取り込むとその呪霊が持つ呪力を()()()()()()()()()()()

 

夏油は既に、4体の特級呪霊と58体の1級呪霊を含む延べ7883の呪霊をその身に取り込んでいる。

それらの膨大な呪力は夏油の身体に収まりきらず、その周囲に超超超高密度の呪力の塊として漂っている。

その超密度は、あろうことか適性の無い一般人にすら視認可能で…それどころか、()()を得るに至る。

 

「極ノ番」

 

上層部はその規格外の呪力総量をもって、夏油傑を特級術師に認定した。

夏油傑、その呪力総量は──

 

「うずまき」

 

自身を除く2人の特級術師、及び現在確認されている12体の特級呪霊の総量を優に上回る。

 

「あぁ…だから使いたく無かったんだ、コレは消耗が大きいしなにより──」

 

呪霊操術の極ノ番うずまきは術式によって使役した呪霊を呪力の塊に変換する…しかし、夏油傑が使ううずまきは──通常のソレと一線を画す。

 

夏油の周囲を黒い極小の球体が取り囲む。

夏油傑の奥の手(うずまき)は──自身の持つ呪力全てを、極小の球体として出力する。

その結果、彼の周囲に帯同する超密度の呪力すらも総動員される。

 

「少し痩せる」

 

血に塗れた美丈夫は細く、しかし逞しく引き締まった肉体で甚爾の前に立つ。




次回かその次で最終回です


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最終回

私です


夏油はうずまきを使う際、呪霊操術にて呪霊そのもので戦闘を行わない縛りに加え更に複数の縛りを追加していた。

 

1つ、このうずまきにより発生した全ての呪力を伏黒甚爾相手にしか使えないようにする縛り。

2つ、呪霊を呪力に変換する際に起こる術式の抽出を放棄する縛り。

そして…これが最大にして、夏油の怒りを象徴する縛り。

3つ、夏油はこれ以後、呪霊操術にて得る全ての呪力を自身の周囲に一切漏らさないという縛り。

これにより、夏油の周囲に超密度の呪力が発生する事は無くなる。

それは──これ以降、夏油傑が太れない事を意味する。

 

縛りとは、自らに課す誓約。

その効果は本人にとってその縛りがどれだけ大きいかによって決定する面もある。

他者からみればどれだけ苦行に見えようと、本人が気にしていなければその効果は低く…他者からみればどれだけくだらなかろうとも、本人にとってソレが身を切るように辛ければその効果は高くなる。

 

元々の縛りも合わせ計4つの縛りから成る極ノ番は、平時に比べ200%の出力で発動した。

 

「ごっ…!?」

 

甚爾の顎が跳ね上がる。

その勢いは大木の幹のように太く、筋肉質な身体が軽く数メートル程浮かびあがる程である。

 

「てめぇ…なんだソレは……っ!!」

 

「聞こえないな、もっと近くで喋ってくれ」

 

再び、甚爾の身体が弾かれたように吹き飛ぶ。

 

(どうなってる…!?あの黒い玉の効果か?

極ノ番とはいえ呪霊操術の術式効果からかけ離れた事はできないはず…っ!)

 

甚爾は空中で体勢を整えると壁に着地する。

そのあまりの勢いと衝撃に着地した石造りの壁面がクレーターのように抉れるも甚爾はすぐさま夏油の方へ向き直る。

しかし

 

「っ!?どこに行った…あのガキ!!」

 

先程まで夏油がいた場所にはチリ1つ無い。

 

「悪いね、コレを使うのは2度目なんだが…加減が効かない

弱い者いじめをする気はなかったんだ…本当に、ごめんね」

 

甚爾のすぐ隣、同じく壁に立つ夏油は心底申し訳無さそうに苦笑するとそのまま甚爾を殴り飛ばした。

 

「まさか…っ!呪力による身体強化か!?ありえねぇ…こんな上昇率、まず肉体がブッ壊れるはず…!」

 

「貧相なのは身体だけじゃないようだね…目の前で起きてる事を否定してなんの意味があるんだい?」

 

再び、衝撃。

甚爾はピンボールのように弾け飛びながらも思考を高速で回し続ける。

 

(考えろ…何かタネがある……怪しいのはやっぱりあの玉だ

攻撃自体は徒手空拳、ならあの玉は何に使う…?)

 

「……色々考えてるとこ悪いけど、意味ないよ!」

 

夏油が甚爾の視界から消え…衝撃。

吹き飛んだ甚爾が薨星宮に乱立する建物の一つに激突する。

奇しくも、先程の焼き直しとなる構図であった。

 

「君の敗因は…最初の一撃で私を殺さなかった事、かな」

 

「随分と玉っコロが減ったじゃねぇか」

 

瓦礫の上で大の字に寝転がる甚爾は夏油を見もせずに話す。

 

「玉遊びは俺も好きでね…つい何玉あるか数えちまった」

 

よっ、と身体を起こすと甚爾は夏油に向き直る。

 

「お前の高速移動はその玉から呪力をジェット機みてぇに噴射(フカ)してんだろ」

 

「………やれやれ、わかったところでなにかあるのかい?

私の動きが目で追えない事実はちっとも変わってないよ」

 

「敗因がどうだの言ってたな?

なら──お前の敗因は練度不足だ、自分(てめぇ)で言ってたように加減が効かねぇのは致命的だったな」

 

甚爾は大きく足を広げると深く腰を落とし両腕を構える。

『不知火型』防御を棄てた、攻撃の構えである。

 

「男抱く趣味はねぇが、仕方ねぇ

来いよ──VIP待遇だ」

 

違和感

 

瞬間、再び夏油の姿が消える──衝撃。

 

「がっ…!?」

 

顔面を強打され、吹き飛ぶ──夏油。

 

「馬鹿な…!」

 

「どんだけ速かろうが直線でしかねぇなら怖かねぇ

五感も強化されてるって言ったろ、目で追えなくても五感で追えばタイミング掴むくらい訳ねぇよ」

 

顔面を打ち抜かれた夏油は先の負傷も含め全身から血を噴き出す。

 

「夏油!!大丈…誰じゃ貴様ぁ!!」

 

血塗れで膝をつく夏油に天内が駆け寄る。

………激ヤセの結果別人と思われてファイティングポーズをとられているのは言わぬが花である。

 

「ありゃあ星漿体のガキか?

ようやく運が回ってきたな…後はあのガキ()れば終わりだ」

 

甚爾は瓦礫の山から抜け出すとゆっくり二人へと歩を進める。

 

「理子ちゃん…離れるんだ……」

 

天内は夏油の前に立つと向かってくる甚爾を睨みつける。

 

「ゲスめ!妾を殺したくば、まずは貴様から死んでみせよ!」

 

震える身体に震えた声で…揺るがぬ信念と共に叫ぶ。

 

「違うよ、理子ちゃん…危ないから離れて欲しいんだ

そこだと巻き込まれる──加減が効かないヤツだからね」

 

天内の震える肩を掴むと夏油は自分の後ろにひょいと移動させる。

 

「巻き込まれ……?」

 

「もう忘れたのかい?言ったろ」

 

夏油はスッと上を見ると、たっぷりと溜めて…胸を張る。

 

「私達は最強なんだ」

 

爆発音と共に甚爾の背後にあった建造物が爆ぜる。

まるで、隕石でも落ちてきたかのように。

 

「傑、ちょっと痩せた?」

 

白髪に、空を写したように美しい瞳。

そして──ギリシア彫刻のように均整のとれた玉体。

特級術師五条悟が戦場に降り立った。

 

「ウケんだけど」

 

「ウケないよ…というか痩せた(ソレ)は悟もだろ」

 

「ご、五条が……性格の悪いドラえもんから性格の悪いイケメンになっておる!!」

 

「天内、お前後でマジビンタな」

 

3人がわいわいと騒ぐ中、甚爾はゆっくりと目を閉じていた。

 

「反転術式か…」

 

正解(せいかーい)!まぁ、オマエが散々斬ってくれたおかげで内臓治して飛んでった手足くっつけてってしてたらこんな貧相(ヒンソー)な身体になっちまったけどな!!」

 

キレ気味に叫ぶ五条。

反転術式は頭で回す、極限状態での限界を超えた脳の使用と出血多量によるリソース不足。

それに加え、修得したての反転術式で治す為範囲は限界まで絞る必要があった。

五条は涙と共に自分の脂肪を捨てる覚悟を決めていた。

 

五条がスッと構える。

反転術式により生まれた正の呪力を自身の術式に流し込む。

構える五条を見て夏油もまた構える。

自身の周囲に浮かぶ呪力の塊を1つの大きな球に変え撃ち出す極ノ番の正道。

 

「術式反転『赫』」

「極ノ番『うずまき』」

 

違和感

 

「こんな化物相手なんて割に合わねぇ」

 

いつもの俺ならそう言ってトンズラこいた。

だが、直前に五条家の秘蔵っ子を…現代最強の呪術師を倒していた。

だから…否定したくなった、捻じ伏せてみたくなった。

俺を否定した禪院家、呪術界…その頂点達を。

自分を肯定するために

いつもの自分を曲げちまった

その時点で負けていた

 

自尊心(それ)は捨てたろ」

 

最強の挟撃が天与の暴君を撃ち抜いた。

 

 


 

「そんな…可哀そうに、こんなに痩せちゃって……っ!」

 

家入硝子は震える手で五条と夏油の顎を触る。

男性らしく突出した喉仏と、鍛えている事が一目でわかる逞しい筋肉質な触り心地。

 

「私のタプタプーーーーーッ!!」

 

「ごめんよ硝子」

 

「つーか、俺らが謝る必要あんの?」

 

「なに私の許可なく痩せてんのこのイケメン共!

タプタプモチモチの癒しボディから一山幾らのイケメンに成り下ってさ…!」

 

「うっせぇな!!俺だって太ろうとずっと食ってんだよ!!

でも太れねぇの!!」

 

ポカポカと胸を叩いてくる家入に五条がキレ気味に返す。

 

「悟、痩せ細る前…体重はどうだった?」

 

「は?………3桁超えてたけど」

 

「そういう意味じゃないよ、恐らくだが…ずっと横ばいじゃなかったかい?」

 

夏油はシュッとした顎にしなやかな指をあてて話す。

 

「コレは仮説だが、私達は摂取したカロリーと消費するカロリーが釣り合っていたんじゃないかな…?

だからアレ以上に太りも痩せもしなかった…だが、なんの因果か私達は二人共こうして痩せ細ってしまった」

 

五条は夏油のセリフに顔を青ざめると震えた声でたずねる。

 

「じゃ、じゃあなにか…?俺達はもう……ずっとこのままなのか…?」

 

「嘘よ……嘘って言ってよ夏油!!」

 

震える親友達に縋りつかれるも、夏油は目を固く瞑り首を振る。

 

「…………何見せられてんだコレ」

 

そして、そんな3人の少し後ろ。

呪術高専東京校の教室の片隅で伏黒甚爾は鎖や紐でグルグル巻きにされて席に座らされていた。

 

「どうしたんだい?今日からクラスメイトになるんだ…もっと輪に入ってきても良いんだよ?」

 

「ふざけるのも大概にしろ、俺は呪術師になんざなる気はねぇ」

 

そもそも呪力もねぇしな、と言いながら甚爾は机に突っ伏す。

 

「自分を否定した呪術界や禪院家を、見返してやりたくないかい?

呪力の無い君が1級以上にでもなってみな…吠え面をかく筈だよ」

 

「………自尊心だのは捨てたんだ、今さらそんなモンどうだって──」

 

「良いじゃないか」

 

「あ゛ぁ?」

 

「別に、1度捨てた物を拾っては駄目だなんて法は無いだろう?

今日から拾いなおしてやりなよ」

 

軽く言い切る夏油に甚爾は苦々しく顔を歪める。

 

「この…クソガキが」

 

その言葉は、夏油だけに向けていないような響きだった。

 

 


 

最悪だ、最悪の万が一が出た!

 

『素晴らしい…鏖殺だ』

 

全身に特徴的な紋様が浮かぶ男は心底嬉しそうに叫ぶ。

 

「恵、これはどういう状況かな?」

 

そのすぐ隣に、いつの間にか黒い長髪を後ろに纏めた美丈夫が立っていた。

 

「夏油先生っ!なんでここに…?」

 

「大事な生徒が悟の無茶振りで大変だって伊地知から聞いてね

さっさと任務を片付けて来たのさ」

 

『まったく、いつの時代でも厄介なものだな呪術師は』

 

傷付いた伏黒を気遣う夏油のすぐ後ろに呪いの王『両面宿儺』は迫っていた。

 

「先生、後ろ…!!」

 

伏黒が焦ったように叫ぶも、夏油はまるで気にせずゆっくりとした動作で立ち上がる。

 

「大丈夫だよ、恵も知ってるだろ?」

 

「私達は───」

 

宿儺の手が夏油に肉薄した瞬間、宿儺の身体が床に叩き付けられた。

 

「───最強なんだ」

 

「傑、今どういう状況?」

 

 

 

問題教師二人。

ただし───最強。

Fin



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オマケ
オマケ


「ぐ…っ!!なんで両手の私が右手一本相手に負けんだよ!」

 

真希は訓練用の薙刀を振り回しながら甚爾を狙う。

 

「おいおい、俺がガキ共相手にそんな酷ぇことするかよ」

 

ギュウ、と甚爾の腕が一回り程膨れると荒縄の如く浮き上がる筋繊維がその破滅的な腕力を否が応にもわからせる。

 

「サービスだ、指3本で良いぜ…勝てたら焼き肉奢ってやるよ」

 

五条がな、と付け加え悪い笑みを浮かべながらちょいちょいと手をこまねく。

 

「〜〜〜ッ!!上ッ等ッッ!!パンダ!棘っ!全員でやんぞ!」

 

「ムリだって真希、指3本でも甚爾に勝てたら1級だぞ」

 

「おかか…」

 

パンダと狗巻はげんなりしながら首を振るも真希は青筋を立てながら薙刀を振りかぶる。

 

「くたばれアル中教師!!!」

 

真希の人間離れした腕力と長い薙刀の遠心力も相まってその先端速度は刃が付いていないにも関わらず致命的なソレとなる。

 

「ほい」

 

甚爾は手を狐の影絵のようにして力を込め、バチン!とデコピンを放つ。

 

「〜〜〜〜ッんで!デコピン一発で圧し折れんだよ!!」

 

地団駄を踏む真希をカラカラと笑う甚爾。

 

「鍛え方が足りねぇな…ガキ共」

 

再び悪い顔で笑う甚爾…しかし、唐突に彼のポケットから電子音が響く。

 

「あ?」

 

甚爾がポケットから携帯を取り出しその画面を見ると…スッと笑みが消えその額に一筋の汗が流れた。

 

「………今日はここまで、後はテキトーに自習とかしとけ」

 

「はぁ!?逃げんのかよ!!」

 

「おいおい甚爾、体育で自習とか聞いたことないぞ」

 

「しゃけ!」

 

3人からのブーイングに軽く舌打ちをすると甚爾は焦ったように周囲を見渡し、とある人影を見付け大声で呼びかける。

 

「オイ、()()!」

 

甚爾のその声を聞いた瞬間、それまで天与の暴君ですら目を凝らさなければ見えない距離にいた米粒程の人影が甚爾達の目の前に現れた。

 

「はーい!どしたん甚爾君!」

 

直哉はニコニコと心底嬉しそうに笑いながら甚爾に話しかける。

 

「丁度いい…お前このガキ共に稽古つけてやれ」

 

「何や、そんぐらい勿論ええよ!」 

 

ニコーっと笑いながら答える直哉。

 

「あと、ついでに金貸せ」

 

甚爾はそんな直哉に手を差し出しのたまう。

しかし───

 

「うん!幾らぐらい要るやろ──」

 

直哉が言いながら財布を出すと甚爾はソレを奪い盗り札を全て抜き取ると投げ返す。

 

「っし、じゃあな」

 

おおよそ数十万程の札束を乱雑にポケットに捩じ込むと凄まじい速度で甚爾は走り去って行った。

 

「別に返さんでもエエからねー!!」

 

そんな甚爾の背中に叫ぶと直哉はゆっくりと真希達の方へ振り返る。

 

「…チッ、しょーもな…なんで僕がガキの面倒見やなアカンの?」

 

「お前情緒どうなってんだ」

 

直哉は露骨に嫌そうな顔で真希達を見るとしっしっ、と手を払う。

 

「ほな、僕今から任務やから適当に遊んどいてや」

 

そう言って背を向ける直哉。

 

「あーあ、甚爾はちゃんと組み手してくれんのになぁ」

 

「ツナマヨ」

 

「……………あ゛?」

 

そんな直哉に真希と狗巻のクソデカ独り言が響く。

 

「仕方ないだろ真希、直哉は任務で忙しいんだってよ

……………まぁ、甚爾は特級呪霊祓う前に俺達と組み手してから行ってたけどな」

 

「…………ちょお待ってや、それやとまるで僕が君らガキ共と組み手してたら任務に支障出るみたいに聞こえるんやけど…?」

 

「おぉ?そりゃ悪かった…俺はパンダだから人間の言葉が難しいんだ」

 

「やめとけパンダ、こんな口だけのクズ煽ってその気にでもさせてみろ

任務失敗して死んだコイツの回収で私らまで手間掛けさせられんぞ」

 

「上等じゃボケェェ!!!組み手でもなんでもしたるわぁ!!」

 

顔面にミミズが這ったような極太の青筋を立てて吠える直哉。

禪院直哉、その煽り耐性は皆無であった。

 

「でもなぁ…甚爾は指3本で相手して勝てたら焼き肉って言ってたのになぁ…」

 

「仕方ないって真希、直哉は1級だろ?

甚爾も同じ1級だけど…実力だけなら特級だもんな」

 

「スパム」

 

三人は小馬鹿にした顔で更に直哉から譲歩を狙う。

しかし

 

「指3本…?ええで…なんならもっとハンデあげよか

指一本でも僕に触れたら、焼き肉でもなんでも連れてったるわ」

 

瞳孔がガン開きになった眼で静かに言う直哉。

禪院直哉、その器は寿司パックの醤油差しよりも小さい。

 

直哉の言葉に口角を吊り上げた3人はでも、と続ける。

 

「無理すんなよ…煽って悪かったって、流石の私も禪院家の次期当主サマの財布に追い打ちかませねぇよ…なぁパンダ」

 

「おう、俺達ちょっと悪ノリが過ぎたよな

悪かった直哉、任務の前だし軽く稽古つけてくれりゃあそれで良いぞ…なぁ棘」

 

動くな

 

狗巻は瞬時に口元を覆う布をズラし呪言を使う。

直哉の身体が硬直したのを見て、パンダと真希が走る。

 

「死ね直哉ァー!!!」

 

「焼き肉ゲットォォォ!!」

 

完全なる不意打ち、しかし──

 

「ホンマ…傷付くわ」

 

パン、と軽い手拍子が響く。

それと同時に、直哉が3人の視界から…消えた。

 

「狗巻君、呪言師は基本的に1人で戦う事は少ないけど…

それでも近寄られた時用に近接は鍛えなあかんよ?」

 

狗巻の後ろから響く声、咄嗟に再び布をズラし呪言を使う。

 

吹っ飛ッ!!?」

 

パァン!と狗巻の目の前で直哉が大きく手を叩き合わせる。

まるで相撲の猫騙しのようなソレは込められた呪力も相まって一瞬、狗巻の喉を詰まらせる。

 

「蛇の目に牙の紋様…ちょっと詳しかったらすぐに呪言を疑うで?

そんで、呪言師なら…喋る前に潰してもうたらええ」

 

直哉は狗巻の足を蹴り上げるとそのまま頭を掴んで地面に叩きつける。

 

「ーーーーーッ!!」

 

肺の空気が無理矢理押し出されのたうつ狗巻を視線から外し再び直哉の姿が消えた。

 

「パンダ君はもうちょい手数が欲しいとこやね

近接しか出来へんにしても式神用意するとか…もうちょい頭使おか」

 

「ぬおりゃ!!」

 

パンダは背後に立つ直哉へ裏拳を振るうも当たらない。

 

「呪力操作もお粗末や…頭で考えてから呪力を移動させてもうてる

呪力操作は身体に呪力を追いつかすんやなくて、身体と呪力が一つになるようにするんやで?」

 

「べちゃくちゃうるせぇよ!!」

 

真希が訓練用の木刀を振るうもそれをあえて紙一重で避けていく直哉。

 

「真希ちゃんは…アカン、もう全部(ぜーんぶ)ダメや

お母ちゃんの子宮ん中からやり直した方がええんとちがう?」

 

クスクス、と笑う直哉に木刀を振り下ろし続ける真希。

その威力は避けた直哉の代わりに抉られた地面が証明していた。

 

「直哉…お前、パンダを舐め過ぎだぜ?」

 

真希の横薙ぎにしゃがんで回避した直哉はその視線の先にパンダを捉える。

だが、パンダはもう…パンダじゃない!

 

激震掌(ドラミングビート)!」

 

ゴリラとなったパンダが思い切り地面を叩く。

呪力とその腕力が合わさったソレは地面を激しく揺らし、直哉の姿勢を崩す…筈だった。

 

形態変化(ソレ)も見た目が変わり過ぎやわ

最初の奇襲ぐらいには使えてもそれが通じんかったらジリ貧やで?もっと、手だけ変化させるとか使う直前に変化するとかせんとな」

 

直哉はゴリラになったパンダの姿を見た瞬間、両手で地面を叩き身体を浮かせることで振動を回避していた。

そして、浮き上がったその勢いのままに真希の顎をサマーソルトキックの要領で蹴り上げる。

 

「ぐっ…!!」

 

「ホンマ…弱過ぎて慣らしにもならんわ」

 

蹴りの威力で仰向けに倒れた真希を見下ろしながら鼻で笑う直哉。

 

「いつも言うてるやろ真希ちゃん、僕の3歩後ろ歩けって

そしたら弱っちい真希ちゃんと真依ちゃんはちゃぁんと強い僕が守ったるわ」

 

クスクスと笑う直哉。

 

「フンッ!!」

「おがぁっ!??」

 

そんな直哉のスネに真希渾身の蹴りが入った。

 

「おっ、おぐっ、おっ…っ!!?」

 

スネを抑えながら転がる直哉、その額には脂汗が浮かんでいた。

 

「へっ、ザマァ」

 

真希は悪い笑みと共によっ、と起き上がる。

 

「焼き肉ゲット!私を褒め称えろ野郎共!!」

 

「おう!良くやった真希!………滅茶苦茶卑怯だったけど」

 

「焼き肉!」

 

キャッキャッとはしゃぐ3人にようやく痛みが落ち着いてきた直哉が立ち上がる。

 

「待てや…!触ったらって言うたやろ…何処の世界にその条件でスネ蹴り飛ばす阿呆がおんねん…!」

 

「あ〜?足にも指はついてんだろうがよみっともねぇ

素直に油断して負けましたって言えや」

 

「〜〜っ!!こんのブス!!人が手加減したったら調子に乗りおって!」

 

「やんのかウンコクズがよ!!」

 

ギャーギャーと小学生以下の悪口合戦を始めた直哉と真希。

そして、その二人を少し離れた所から見る二人がいた。

 

「ちょっと…止めてきなさいよ乙骨」

 

「あはは…ちょっと難しいかな」

 

特級術師乙骨優太と真希の妹禪院真依の二人である。

 

「難しいとかそんなの聞いてないわよ

今日はお姉ちゃんとタコパする予定なんだから早く止めてきなさい」

 

「えぇ…?でも…良いじゃないですか、なんだかんだ楽しそうだし」

 

互いの髪を引っ張り合いながら悪口を吠え合う二人は…どこか、歳の近い兄妹のように見えた。

 

「早く行かないとアンタがお姉ちゃんに惚れてる事バラすわよ」

 

「行ってきます!!」

 

血相を変えて走っていく乙骨を見ながら真依は一人呟いた。

 

「ホント…男って馬鹿ばっかりね」

 

 


 

「遅ぇぞクソ親父!」

 

恵は眉間にシワを寄せながら玄関ドアを開ける。

 

「……」

 

甚爾はバツが悪そうに黙ったまま家に上がると真っ直ぐリビングへ向かう。

 

「おい!聞いてんのかよ」

 

「恵、そんなに怒らないの!

パパもお仕事だったんだから…ね?」

 

「………ん」

 

津美紀が吠える恵をどうどうと抑えていると、甚爾がリビングのテーブルに幾つかの袋を置く。

 

「……なんだよその袋」

 

不服そうな恵をよそに津美紀が袋に書かれた店名を見て声を上げる。

 

「コレ…人気のケーキ屋さんのじゃない!

どうしたの?」

 

「別に……貰いもんだ、甘いモンは好きじゃねぇ…やるよ」

 

甚爾はぶっきらぼうに言うと居間の畳に寝転がった。

 

「っ!!お前…今日は津美紀の誕生日だぞ!?

それを貰いもんでどうにかしようって」

 

「恵」

 

甚爾に掴み掛かろうとする恵を津美紀が手で制す。

 

「どけ津美紀!コイツは一回殴ってやらなきゃ…」

 

「そうじゃなくて…コレ、見て」

 

津美紀は箱を開け中のケーキを見せる。

 

誕生日おめでとう

 

フルーツをたっぷりつかったタルトケーキの上にはチョコプレートにメッセージが書かれていた。

店員が書いたにしてはやけにガタガタで、歪な文字で。

 

津美紀はニコニコとしながら包丁と取皿を用意する。

 

「パパも食べるわよね?」

 

「……なら最初っからそう言えよ」

 

嬉しそうな津美紀と不貞腐れる恵。

そして、耳まで真っ赤になった甚爾は暫く二人の方へ振り向けないままでいた。



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【豚の】呪術廻戦を語るスレ【すみか】

1:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

このスレは週刊少年ジャンプで大人気連載中の漫画『呪術廻戦』を語るスレです

 

2:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

立て乙

 

3:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

立て乙骨

 

4:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>3裏梅も見てます

 

5:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

氷凝呪法!?

 

6:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

豚骨憂太 僅か三ヶ月で特級へと返り咲いた五条悟、夏油傑に次ぐ現代の──肥満児(いのう)

 

7:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>6乙骨君は肥って無いんですけど!?

 

8:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

逆になんであの二人に囲まれて太らねぇんだよ

オセロでも黒に挟まれたら黒くなんだろ

 

9:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

乙骨君がデブッたら呪術廻戦0が汚れんだろうが

 

10:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

そうかな……そうかも……

 

11:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

言うて夏脂が全コマでよだれ垂らしてた時点で終わりだろ

 

12:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

乙骨と喋っとる時も視線が合っとらんのよ…

 

13:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

里香ちゃんに釘付け()なんやぞ

 

14:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

高校教師が小学生女児を見てヨダレを…事案かミ?

 

15:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

いわれがあり過ぎる……

 

16:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

でもちゃんと最後は乙骨と和解したから……

 

17:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

和解……和解かな…あれ……

 

18:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

0巻夏豚「彼女の想いとでも言うのかな…式神化している

中々に女誑しだね、乙骨君」←ふむ…

過去編夏t「式神は呪霊みたいに美味くないから嫌い」←あっ…

 

19:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

食えなくなったから露骨に興味無くして…

 

20:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

おいあんた!!ふざけたこと言ってんじゃ…

 

21:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

ちゃんとケンジャキ倒したのでセーフ

 

22:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>21ゲゲゲー!?

 

23:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>21芥◯下々ってそういう…

 

24:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>21羂索な

 

25:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

羂索とかいう呪術廻戦で夏油の事を二番目に愛してるヤツ

 

26:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

クソ気持ち悪ぃ…仮にもラスボスがもたらしていい嫌悪感じゃないだろ

 

27:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

宿儺の器いるけど1から作らな無理やなぁ←わかる

せや!ワイが産んだろ!!←キッショ…

私は今、初めて恋をした少女のような心持ちだ←ジャンプそっ閉じ

 

28:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

よりにもよって主人公の母親がコレとか終わってるだろ

 

29:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

I am your mother

 

30:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

最低なダース・ベイダー

 

31:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

術師としては珍しい?武器の使用肯定派だからな夏油も羂索も

 

32:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

夏油は肯定派っていうか…なんていうか……

 

33:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

コマンドー以外で初めて見たわあの効果音

 

34:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

デェェェェン!!

 

35:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

呪霊には術式の相性的に対策不要なので術師対策をします←わかる

なのでソードオフショットガン二丁に閃光手榴弾、破片手榴弾に発射式ナイフを装備します←なんで……

 

36:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

近距離に絶対の自信を持つゴリラだ…面構えが違う

 

37:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

良いだろ?五条悟と二人で最強であり続けてる男だぜ?

 

38:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

【悲報】羂索さん、領域の無駄打ちで呪霊操術を無効化したとはしゃいでしまう

 

39:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

呪霊操術〝は〟無効化したから…

 

40:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

メロンパンナちゃん「領域はわざと展開させてあげたのさ

自分よりも格上の術師と戦うのは初めてかな?夏油君」

サマーオイル「領域はわざと空打ちしたのさ

自分よりも格上の術師と戦うのは初めてかい?羂索君」

 

強すぎるだろこのデブ

 

41:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

もう太ってないのにいつまでデブいじりされるんだ…

 

42:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

本人が自分で身体の贅肉は無くしても、心の脂肪まで捨てた覚えはないって言ってるのでセーフ

 

43:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

それまで言っていたガリガリとか富める者の基準が肉体ではなく精神性の話と判明した名シーン

なお、それはそれとして肉体的にも太りたい模様

 

44:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

美醜基準が平安なんよ

 

45:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

これには平安人の宿儺もにっこり

 

46:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

絶対的な強者!!それ故の孤独!!

あなたに愛を教えるのは!!

 

47:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>46これに関してはマジで夏油の言葉が端的過ぎてな…

 

48:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

絶対的な強者(呪霊のグルメ)

それ故の孤独(ぼっち飯)

 

49:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

五条が悲しそうに「学生の頃みたいに馬鹿やってらんねーからさ…大人ってのは窮屈だよ」って言うシーンでシリアスかと思ったらただ単に呪霊喰い一緒に出来ないってだけのシリアルだった

 

50:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

学生の頃でも呪霊食って寝込むのはダメだろ

 

51:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

そこで宿儺の器ですよ

 

52:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

毒無効が悪さし過ぎてる……

 

53:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

嬉しいさ…やっぱりご飯はみんなで食べる方が美味しいからね

 

54:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

夏油は呪霊食仲間が出来てすくーなは友達が出来て…ヨシ!ハッピーエンドだな!!

 

55:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

美味い飯に釣られるラスボスが居るらしい

 

56:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

サマーコレステロール「最近術式のさらなる可能性を見出したんだ」

 

極ノ番

うますぎ

 

57:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>56呪霊操術に謝れ

 

58:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>56そのレス、呪霊操術が見たらどう思うでしょうか

 

59:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

すくーな「ふん、心配せずとも殺しはせん

俺も飯抜きは御免被るのでな」

こんな宿儺見たくなかったよ…

 

60:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

でも虎杖との「契闊』で変身する宿儺は好きだろ?

 

61:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

それはズルじゃん……

 

62:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

相棒と合言葉を言って変身するのは全生命体が好きだろ

 

63:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

夜蛾が宿儺用の呪骸作ってくれた次の話でようやく宿儺と虎杖が背中合わせで戦うの見て

あぁ…ジャンプだなぁってなった

 

64:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

虎杖→近距離

血塗→近〜中距離

壊相→中〜遠距離

脹相→近〜遠距離

宿儺→近〜遠距離

バランス良すぎるだろこのパーティー

 

65:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

良いだろ?血の繋がった兄弟だぜ?

 

66:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

宿儺は呪胎九相図だった…?

 

67:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

そう考えると宿儺が指不足で弱体化してるの差し引いても万強過ぎん?

 

68:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

主人公とその兄弟に元ラスボス候補の5人(?)がかりと戦って善戦すんなや

 

69:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

はい縛りおばさん

 

70:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>69お姉さんだるぅぅぉお!?

 

71:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

縛りの大切さを教えてくれてるんやぞ

 

72:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

サンキューよろず

 

73:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

ミミナナも縛りの大切さを知ってたらなぁ……

 

74:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

夏油さん……どうして……

もう太らないって約束したじゃないですか!!!

 

75:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

次術師と約束する時は縛りであることを明確にするんだね

じゃねぇんだよ

 

76:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

まぁ…最終決戦で全力出さないとだったから…

 

77:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

肥満化は夏油傑の悪癖から生まれ、呪力操作の精度と縛りによって失われた

だが、領域展開で縛りの対象(術式)が焼き切れた事により

夏油傑は肥満化をモノにしていた!!

 

78:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

すまない直哉、私は今…君のために怒っていない

誰も憎んじゃいない

今はただただ──この脂肪(おもみ)が心地良い

肥満児「天上天下唯我独尊」

 

79:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

直哉君が死んだ後にこれされて情緒滅茶苦茶になったんですけど!?

 

80:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

やっぱ呪術師ってクソっスね

奇譚のない意見てやつっス

 

81:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

真希ちゃん…みんなに言うといてや

中々、悪くなかった

 

あんだけメスガキしてた直哉の最期がコレはやめてよ…

 

82:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

それもこれも全部羂索ってヤツのせいなんだ!!

 

83:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

クソメロンパンがよ

 

84:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

気持ち悪いこと以外はマジで欠点が無いからな

 

85:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

呪術廻戦ってまだ連載やってんの?

推しが死んでから読んでないわ

 

86:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>85誰推しだったの?

 

87:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

パパ黒

 

88:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

あっ…ご愁傷様です……

 

89:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

津美紀と恵に向かってる攻撃を見つつ、俺なら先に相手を仕留められる!…からの、身体が勝手に動いちまったで二人の盾になってるのはやめてよ……パパ黒がちゃんと親になったから死ぬのはやめてよ!!!!

 

90:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

恵をお願いね…と五条の愛ほど歪んだ呪いは〜が同時に流れるのは本当に人の心が無い

しかも甚爾は甚爾で拾い直した自尊心で大丈夫だって二人を逃がすし…最期ぐらい1人じゃなくて良いじゃん……

 

91:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

でも……その後の最終決戦開始の扉絵は良かったよ

 

92:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

あのさしす組三人のヤツね…アレは…まぁ…うん、良い

 

93:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

問題児三人。

問題教師三人。

ただし──無敵。

 

94:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

二人で最強、じゃあ三人なら?の答えでコレお出しされたらそりゃ無量空処よ

 

95:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

生きるという行為に無限回の推し活を強制されてしまう…

 

96:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

最終決戦は最強二人に20本宿儺も居るから安心感エグい

 

97:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

ついでに鹿紫雲と秤と乙骨と万も居る

 

98:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

でも五条と宿儺はすぐに煽り合いするからチームワークが…

 

99:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

「俺がいない時代に生まれただけの、凡夫」

「俺より先に生まれただけだろ?お爺ちゃん」

ホントに味方同士か?コイツ等…

 

100:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

とにかく信じろ…脂肪は全てを解決する!!

 



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葦を尊ぶ

昔から、上手いこといかん人生やった

甚爾君や五条君、夏油君達に追いつこう思て必死に…死ぬ気で鍛錬積んで

そんで、強くなればなるほど…わかった

僕は、あっち側には死んでも立てへん

強くなればなるほどに、僕とあの人達との差を嫌になるぐらい思い知らされる

影を踏むどころか…背中すら見えん

遠くにおるんなら追いつきたいってはしゃげる

けど…わかってもうた

あの人達は……俺は、周回遅れなんやって

 

 


 

「七海、灰原背負って行けや…ここは僕が残る」

 

「何を…!何を馬鹿な事を言うんですか!直哉、君も一緒に…」

 

「行け言うとんねん!!おどれ等みたいな足手まとい居るだけ邪魔やねん!」

 

灰原は…もう戦えん、七海も一杯一杯や

でも…二人にはまだやる事がある

僕には、そんなもんあらへん

 

「ふざけるな!!私と灰原が…仲間を見捨てて生き延びたいなんて言うと思うか!?」

 

知っとるわ、そんくらい

何年一緒やと思てんねん

やから……知っとるやろ

 

「行けや…行ってくれ」

 

呪術師なんぞ消耗品や

命の軽さで右に出るもんは中々ない

やから皆…腐ったドブみたいな目ぇしとる

灰原、お前のその無駄にキラキラした目…鬱陶しいけど嫌いやなかった

七海、いっつも忙しそうで目に隈作ってたけど…お前の目も中々悪くなかったで

必要なんは、二人みたいな人間や

僕みたいなんはこれからに必要ない

 

「直哉…っ!!」

 

「はよ行けや…僕が無駄死にしたら呪ったるで」

 

すまんな七海…また隈増やしてまう

でも…僕にはこんな事しかできへん

僕は……あっち側とちゃうから

 

「逃がすと思うかい?」

 

「眼の前の僕無視して二人狙いかいな…傷つくわ」

 

頭に縫い目のある女

間違いない、傑君が言っとった…コイツが羂索

本気の傑君とやり合って逃げ切った、間違いなくあっち側

僕の勝ち目は……無い

 

「投射呪法か…呪術の近代化で生まれた術式

でも、あまり唆られないな」

 

眼の前に立っとるだけ…やのに全身から汗が噴き出す

ホンマに正直な体や…勝ち目なんぞ無いから逃げろって全身が叫んどる

 

「逃げたとこで……何処に行くねん」

 

甚爾君…会ったらなんて言うやろか

何死んどんねんって怒られる?

ようやったって褒めてくれたり…それは夢見過ぎか

 

「何の為に…こんな事するんや

呪霊と手ぇ組んで、大昔の術師まで呼び出して…何考えとんねん!!」

 

「何の為に…?……私はね、ただ興味があるのさ人間という生き物の行き着く先にね

猿から進化した人間はこの数千年でどれだけ進化した?

答えは…全くだ、腕は変わらず2本!足も同じ!

尻尾が無くなって…代わりに何かが生える訳でも無く、背中だって羽の一つも出来やしない!!

数千年経って…変わったのは呪いを覚えた事だけさ

だから、ここから更に先を見るにはもっと時間が掛かる

でも…そんなもの、待っていられない」

 

「小難しいことガタガタぬかすなや…僕は何がしたいか聞いとんねん!」

 

「呪力の最適化だよ

この国の人間達と天元を同化させ1つの生命体へと昇華させる

天元は今、人間というより呪霊に近い…よって、天元との同化はこの国の全人口

一億人の呪力を孕んだ呪霊になると私は踏んでいる」

 

「一億人の…呪霊……っ!」

 

「その為に、夏油君の持つ呪霊操術が必要だ

フフフ、私は今…初めて恋をした少女のような心持ちだ

柔軟な思考、術式と縛りへの理解、そして…強さへの執念

夏油傑、彼は私が出会ってきた術師の中で最高の術師と言っていい

そんな彼を超えて見る景色…さぞ面白い筈だ!」

 

「それで……お前に何の得があんねん」

 

「得?……おかしな事を聞くね

そんなもの、やってみないとわからない

もし一億人から出来る呪霊が抱腹絶倒の面白顔だったりしたら…中々面白いだろう?」

 

「……人の心とかないんか?」

 

「それ、呪術師に必要かい?むしろ邪魔なだけだと思うけど」

 

もうええ…話しとったらこっちがおかしなる

人間と話しとる気にならん

戦力差は絶望的……でも、僕の術式は格上相手にもワンチャン狙える……!

最高速まで加速して…一撃で仕留める!

 

「まだ話の途中だったのに…仕方ない

領域展開─胎蔵遍野

単純な速度特化の術式…術式自体の可能性こそ薄いが戦う上では煙たいからね」

 

領域…っ!こんな簡単に……クソっ!!

 

「ナメんなや!!」

 

「落花の情、御三家秘伝の領域対策か…彌虚葛籠や簡易領域と違って領域の中和を行わず自動的に呪力で攻撃を弾くプログラム

メリットとしては領域の押し合いが発生しないから格上相手でも有効なこと

デメリットは…複雑な術式の前では無力な事と──間断無い攻撃の前では術者の呪力が保たない事」

 

ぐっ…!!コイツの領域は──重力!!

全身がブッ壊れそうな力が常時掛かっとる…一瞬でも落花の情が解ければ──死ぬ

 

「動けないだろ?早く諦めてくれるかい…私も暇じゃないんだ」

 

クソ…っ!戦闘中に欠伸かい…それとも、僕とじゃ戦闘にもなっとらんってか

 

「時間稼ぎに熱心なところ悪いけど…五条悟も夏油君も間に合わないよ

二人は今、宿儺との怪獣大決戦の真っ只中…暫くは勝手に動けそうだ」

 

「時間稼ぎやと…っ!誰が…そんなもん、するか…!」

 

「だから…意味ないって」

 

ぐっ…!更に重力が強く…!!

 

「真人の成長は私の想像を遥かに超えた…呪霊を捕食する夏油君という天敵が、本来…人が感じる事のない捕食への恐怖が進化圧となり真人の成長を促したのさ

嬉しい誤算だよ、もしかすれば呪霊操術の獲得を待たずとも死滅回遊を始められるかもしれない

……だから、さっさと死んでくれないかな?」

 

アカン…意識が……

 

 

──ホント、一山幾らの木端イケメンって感じ

五条と夏油と伏黒とアンタ…4人並んだら消えるんじゃない?

 

──直哉、一人称は私…もしくは僕にしなさい

今からそんなだと苦労するよ?

 

──強くなる方法?そんなん俺が知るかよ

……死ぬ気で食って太りゃ良いんじゃね?

 

──手前(テメェ)の為に命賭けれるヤツは居ねぇ

だから…命賭けても良いようなモン作れれば、お前もちっとはマシになれるかもな

 

──二人を連れて出ていく?

……一体全体、どういう風の吹き回しだ?

 

──私はどうなっても良いから…お姉ちゃんだけは助けてあげて!!

言いそびれてたけど…あの時は……その……ありがとね

 

──真依になんかしてみろ…ブッ殺してやるからな!!

なんで、なんで置いてくんだよ!私だって…私だって呪術師なんだ!!

 

 

「……なんで最後に見んのがお前やねん、そこは甚爾君やろ」

 

全く…こんなん、死んでも死にきれんわ

最期に見んのがブスの泣き顔やなんて…そんなん、お断りや

おいコラ、なに見下してくれとんねん……!

 

「そこに立つんは、俺や!!」

領域展開─時胞月宮殿

 

「領域展開…死の間際に会得したのか

死の瞬間には脳が変異し非術師ですら呪霊を認識できる程の負荷が掛かる

非術師でそれならば…術師なら尚更だ

しかし…ソレ、意味あるの?

領域展開は魔法じゃない、君の負傷は消えないし…私の領域と押し合いになる以上、領域の必中効果だって…」

 

えらい悠長に喋っとるやんけ

誰が初めて使う領域なんぞに頼るなんて言うた?

 

瞬間、羂索の肩を禪院直哉の手が叩いた。

投射呪法…1秒を24分割しその中で動きを作る事で桁外れの速度と精密性を獲得する術式。

欠点はあらかじめ作った動きしか出来ない事と、過度に物理法則を無視した動きを作った場合術者がフリーズする事。

その法則は──術者が触れた対象にも強制される。

 

「──ッ!!?」

 

直哉はこの渋谷で、一度も自身以外に投射呪法を使用していない。

故に、この一手は……確実に成功する。

 

羂索、1秒間の行動停止(フリーズ)

 

「お゛お゛ッ!!」

 

呪術を極めることは引き算を極めること。

呪詩、掌印など術式を構成あるいは発動させるまでの手順をいかに省略することができるかで術師の腕は決まる。

最速の術師と呼ばれる禪院直哉、その速さは術式によるものだけでは無い。

投射呪法の術式そのものを限界まで簡略化し、可能な限り特化させている。

直哉は1秒を24分割し、更にその分割された時を分割する。

羂索のフリーズからコンマ8秒、直哉はトップスピードに至る。

その速さは音を超え、その精神は肉体の反射速度と同列となる。

 

ソレは打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。

限界まで加速した直哉の打撃は、呪力と同時に炸裂する。

 

黒い火花は、葦を尊ぶ。

 

黒閃

 

勝てる!!会うんや…もう一度、みんなに…!!

勝って、みんなに…!!

 

領域を囮にした奇策。

しかしソレは──既に、夏油傑が見せている。

 

「中々やるじゃないか…最近の術師にしては」

 

ゴボ、と血を吐き捨てながら羂索は首を鳴らす。

 

「なんで…」

 

投射呪法のペナルティは肉体の停止のみ。

思考は…呪力操作は阻害しない。

 

羂索は投射呪法による1秒間のフリーズ中、即座に領域の対内条件を変更していた。

羂索の領域、胎蔵遍野は結界の外縁を閉じない。

結界の出入りを自由にするという縛りにより領域の効果範囲を底上げしている。

その効果範囲は、直哉の領域外殻を完全に包み込んでいる。

羂索は直哉が領域効果を使用しない事を逆手に取り、領域間の必中効果の奪い合いを放棄した上で直哉の領域を破壊するために全ての呪力を領域外殻にぶつけた。

領域は結界術の先にある技術、その本質は対象を閉じ込めること。

内から外への衝撃には無類の強さを誇る反面──外からの衝撃には、脆い。

 

直哉の領域は破壊され、再び──直哉を胎蔵遍野の超重力が襲う。

領域展開で呪力を使い果たした直哉に落花の情を使用する呪力は…残されていない。

 

「直哉ぁ!!!」

 

偶然とは、常に…都合の悪い場合に起こる。

偶然、宿儺と最強達の戦場から逃げた先だった。

偶然、素の身体能力の高い彼女が先行した結果…その場面に1人だけ間に合った──間に合ってしまった。

禪院真希は、禪院直哉の最期に出逢った。

直哉の眼が真希を捉える。

 

確信、次の一言が自身の最期に発する言葉になるという絶対的死の確信。

 

最初は、甚爾君が言っとった事を確かめる為だけやった

死んでもどうなっても構わんようなのを選んで…適当にやるだけのつもりやった

………やったのになぁ…

 

 

──なんで…なんで私が待機なんだよ!ふざけんな!私だって呪術師なんだ…もう!アンタに守られてたガキじゃねぇ!!

 

うるさいねん、黙って僕の三歩後ろ歩いとれ

………遠く行ったら、護ったれへんやろ

でも…もう付いて来んでええ

地獄(これ)は僕が独り占めや…お前みたいなブスに死んでまで会いたないわ

せやから…お前らはこっち来んなや

 

「真希ちゃん…みんなに言うといてや

中々、悪くなかった」

 

不快な水音と噎せ返る程の血の匂い。

禪院真希は、自身を地獄から連れ出してくれた…兄のように慕う男の血と臓物と脳漿の混じった液体を全身に浴びた。




どこかに夏油傑、一か八か─0.2秒の糖質制限というネタを入れようとして忘れました


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埋玉

 

愛は一つになりたいという願いである

 

──プラトン『饗宴』より

 

 


 

 

─東京メトロ明治神宮前駅B5F副都心線ホーム─

 

「お前…お前なんなんだよ!!」

 

一体の特級呪霊の咆哮が木霊する。

人の呪いから産まれた呪霊、最も人に近き呪霊は今…

人から産まれ、最も人から遠い──天与の暴君に追い詰められていた。

 

「見りゃわかんだろ、俺は呪術師(お前の敵)だ」

 

真人の精神は、既に限界を迎えていた。

自身より賢しく、強かった特級呪霊…漏瑚は変な前髪の男に喰われ

優しく、理性的だった特級呪霊…花御もまたお洒落を履き違えた前髪の男に喰われ

まだ呪霊としては弱かった特級呪霊…陀艮など散々殴られ死ぬ寸前まで痛めつけられた後、極ノ番 うますぎ(悪ふざけ)の末に生きたまま宿儺と前髪に喰われた。

 

そして──真人自身もまた夏油傑と対峙し、命からがら逃げ延びている。

否、逃げ延びていると言うのも烏滸がましい。

自分が計画に必要なのだと羂索があのお化け前髪と戦って注意を逸らさなければ…確実に喰われていた。

 

ストレス

 

真人は人が人を呪う(はら)から産まれた呪い。

大地(漏瑚)森林(花御)大海(陀艮)などは…まだわかるだろう。

だが……真人はわからない。

人の呪いである真人だけはわからない、理解できない。

自身に向けられる、食欲を。

夏油(ヒト)真人(ヒト)へ向ける食欲、それはあまりにも新鮮で…悍ましき感覚だった。

 

呪霊操術、その最大の強みは手数の多さでもまして呪霊を美味しく食べられる事でもない。

呪霊操術の最大の強み、それは──呪霊に対する絶対的有利。

夏油傑は、全ての呪霊の──天敵にあたる。

そして──

 

「無為転変ッ!!」

 

真人の手が辛うじて甚爾に掠る。

真人の生得術式、無為転変は触れた対象の魂を操作する事でその肉体すらも自由自在に変化させる。

防御方法は自身の魂を呪力でガードすることのみ、単純な呪力量で真人を圧倒しようとも魂さえ無防備なら問答無用で死に至らしめる…強力にして無法の術式。

肉体とは魂の容器に過ぎず、その魂に追従するしかない…真人にとっての厳然たる理によって作用する術式。

しかし、その(ルール)の外…理外無法の怪物が存在する。

 

「なんで……なんで効かねぇんだよ…ッ!!

確かにお前の魂に触れて、歪めたんだぞ!?」

 

生まれ付き一切の呪力が無い甚爾は当然ながら魂を保護などしていない。

故に、本来ならば真人の指先一つ掠ればそのまま死に直結する。

しかし、厳然たる事実として…甚爾は傷一つ無く生存している。

 

「今のが七海と灰原が言ってた魂への攻撃って奴か…

よく分かんねぇけど、俺の肉体は特別だからな

テメェが粘土遊びしようが俺の肉体には関係ねぇってこったろ」

 

(魂が肉体に負ける…!??そんな…そんなこと、ある筈が…)

 

あまりにも無法、甚爾の暴論とそれを裏付ける現実に真人が立ち竦んだ一瞬…その一瞬の間隙に甚爾が懐に飛び込む。

 

(この…っ!!落ち着け…コイツに無為転変(術式)が効かないように、呪力の無いコイツの攻撃も俺には効かな…)

 

ドンッ!!と、重機の駆動音が如き爆音と共に真人の腹に深々と拳が突き刺さる。

甚爾の拳には、彼の愛娘…伏黒津美紀の作った呪具であるメリケンサックがはめられていた。

 

「チッ、呪具を着けてたのか……でも無駄だよ

どれだけ肉体を破壊しようと、魂のカタチを強く保てばダメージなんて」

 

受けない…そう言おうとして、真人の口から吐瀉物と共に大量の改造人間が吐き出される。

 

「ど、どぶじッお゛ゔぇぇ!!?」

 

言葉にならない疑問。

真人の脳内を凄まじい数の疑問が駆け巡る。

 

(なんで…!?魂のカタチは強く保っていた筈…!

あの呪具の効果?

ダメージが…

痛い…ッ!!

それにしては呪力を感じない…?

まさか……)

 

「知覚しているのか…っ!?魂の輪郭を!!」

 

「あ゛ー?なんだ、最近の呪霊は宗教の勧誘まですんのか?」

 

怠そうに頭を掻く甚爾、しかし…真人は確信する。

 

(間違いない…コイツも同じだ…!宿儺の器と同じ、魂の輪郭を知覚している!!)

 

天与の暴君、全てを縛られて生まれた伏黒甚爾は何者にも縛られぬ肉体を得た。

その肉体は全てを見通す。

見えるもの、見えないもの

視えるモノ、視えないモノ

その視界に──魂如きが映らぬ道理無し。

 

(最悪だ…夏油傑だけじゃなかった……ッ!!

コイツもだ、コイツも……俺の〝天敵〟!!)

 

ストレス

 

生物の進化に於いて、重要なファクターとして『淘汰圧』と呼ばれるものが存在する。

過酷な環境、凶悪な伝染病、そして…天敵。

それらに適応、ないし克服した種のみが生き残りその他全てが淘汰される。

これにより進化が為されていく。

 

ストレス

 

かつて、七海建人と灰原雄そして虎杖悠仁の3名により死の淵まで追いやられた真人は死という生物における最大のストレスから逃れる為天敵を克服する術を──領域展開を会得した。

そして今、真人は伏黒甚爾と夏油傑を克服する為の術を編み出そうとしていた。

 

ストレス

 

困惑と恐怖に揺れていた真人の眼が、甚爾へと定められる。

ソレを、狙って出せる術師は居ない。

しかし──真人は今、確信を持って放つ。

 

黒い火花は、微笑む相手を選ばない。

 

黒閃

 

真人の拳撃と甚爾の拳撃が真正面からかち合うと真人の拳が爆砕する。

 

「このゴリラ…ッ!!でも、黒閃を経て理解した──俺の本当の…剥き出しの魂を!!」

 

真人の手が甚爾ではなく真人自身を触る。

 

「無為転変ッ!!」

 

ソレは、自身の生を脅かす天敵を克服する為に編み出されたもの

真人の、人の呪いの真の姿

 

遍殺即霊体

 

呪いは今、漸く生まれ墜ちた。

 

「おー、すげぇすげぇ…恵がガキん頃に好きだったぜ

で…、変身ヒーローの次は何やんだ?」

 

真人の変化をせせら笑いながら甚爾はその顔を蹴り飛ばす。

しかし

 

「もう効かねぇよ…!オマエを殺して…俺は更に先へ行く!」

 

真人は微動だにせず、逆に甚爾の足を掴み投げ飛ばす。

甚爾は空中で猫のように身体を捻ると難なく着地し真人を睨む。

 

「強がるなよヤセ我慢、足にきてんぞ」

 

軽口を言いつつも、甚爾は真人を蹴った足に目を遣る。

遍殺即霊体は、両肘にあるブレード以外は()()()()()という『縛り』によって爆発的に強度をあげている。

その強度は、実に平常時の倍程にもなる。

 

「それはテメェもだろマヌケ!!」

 

素早さすらも先とは別次元へと至った真人は瞬時に甚爾の視界から消えると背後からブレードによる強襲を仕掛ける。

甚爾は人間離れした反射神経で頭部に迫ったブレードを躱すも、僅かに頬が切り裂かれ血が噴き出す。

 

(勝てる…っ!!コイツは今の速度を目で追えてなかった!

攻撃も通らない、勝てる!!コイツはここで殺す!!)

 

真人の口角が吊り上がったのと、甚爾が口に手を突っ込んだのは同時だった。

 

「……?何を…」

 

「うぉぇっ……ふー…ちと遊び過ぎちまった

おい呪霊、悪いがそろそろ死んでくれ」

 

(呪霊…?体内に呪霊を飼ってたのか…?なんで今それを…)

 

甚爾の手が呪霊の口に入ると、中から一振りの刃が抜き出される。

その呪具の名は──釈魂刀、遍く全ての魂を斬り裂く特級呪具。

無機物の魂すらも知覚する、天与の暴君にしか扱えない一振り。

 

窮鼠猫を噛む…しかし、猫を噛んだ鼠はその後どうなるか?

怒り狂った猫に惨殺される他無し。

天敵とは──克服し得ないからこそ天敵と言う。

 

甚爾の一振りが、真人の腕を斬り飛ばした。

 

「ごあぁぁぁ!?」

 

声にならない叫び。

真人は全力で飛び退きながら頭を回転させる。

 

(あの刀…魂を直接斬り裂いてるのか!?

駄目だ…外側は硬く出来ても、魂自体の強度は変わらない…っ!!)

 

真人はそれでも足を止めない。

最高速度で壁を、天井を、地面を蹴って的を絞らせない。

 

「攻撃が通っても…!当たらなけりゃ一緒だろうが!!」

 

「バーカ、当てられるから構えてんだろうが」

 

真人が攻撃に転じた瞬間、今度は真人の右足が宙を舞う。

天与呪縛のフィジカルギフテッド、強化されているのは単純な筋力だけでは無い。

五感に加え、第六感とも言うべき直感すらもが超人的なのだ。

 

片腕と片足を無くした真人が無様に転げる。

甚爾は呪具の峰で肩を叩きながらゆっくりと迫る。

 

「クソ…来るな…!来るなよ!!」

 

「はいはい、お疲れさんっと」

 

トドメを刺そうと呪具を振り上げた瞬間、甚爾の背後…真人から見て正面を2つの影が通った。

 

「親父…っ!」

「パパ!」

 

伏黒恵と伏黒津美紀

二人は七海と灰原…二人の1級術師と特級術師乙骨憂太の三人と共に渋谷に同行していた。

しかし、羂索が受肉させた千年前の術師『鹿紫雲一』と『万』の襲撃を受け散り散りになった結果…偶然この場に辿り着いた。

 

甚爾の脳内が無数の思考によって埋められる。

伏黒甚爾、瞬間…一瞬の停止。

 

その一瞬を、真人は逃さない。

真人の両肘のブレードが一直線に恵と津美紀へ迫る。

 

(馬鹿かコイツ…もう振りかぶってんだぞ?

あいつらに攻撃が届くよりも、テメェが死んで消える方が速ぇんだよ!)

 

血飛沫

 

真人は人から生まれた呪い。

何よりも…人に近き呪い。

その思考は──最も、人を解する。

 

「守るよなぁ!!テメェの大事な家族を!!」

 

真人は二人を見た瞬間に理解する。

その魂のカタチ、動きから…二人が甚爾の家族だと瞬時に見抜いた。

 

故に──二人の前で串刺しになった甚爾は、真人の想定通りだった。

 

「親父…何やってんだ…!!」

「パパ!!血が…血がこんなに…!」

 

甚爾は事も無げに腹から突き出る真人のブレードを切断すると、駆け寄ってきた二人を抱き締める。

 

「心配すんな…こんなモンかすり傷の内にも入らねぇよ

恵、津美紀連れて離れとけ…アイツ祓ったら俺もすぐ追いかけるからよ」

 

優しい笑顔。

全てを壊す事しか知らなかった男の…笑顔。

恵と津美紀…家族である二人しか知らぬ笑顔。

そして……甚爾が嘘をつく時の──笑顔。

 

二人は、涙を堪えながら駆け出していた。

 

「よかった…」

 

甚爾の口から…誰にともなく、声が漏れた。

 

「あん時に、あのデブの言う事…聞いてよかった」

 

身体が、勝手に動いちまった

絶対に当たらねぇ…その確信があった

それでも……99.9999999%当たらなくても、限りなく0に近くても

あいつらに当たる可能性が、0じゃねぇと思ったら…身体が動いちまった

 

あなた───恵をお願いね
 
愛ほど歪んだ呪いはねぇよ
                                                                          

 

わかってる

いい土産話があるんだ

この俺が…娘に誕生日だってケーキ買ってやったんだ

そん時、恵のやつ…すげぇ顔してよ

ああ──お前に聞かせてやりたい話が山程あるんだ

 

わかってる

俺がお前と同じ場所になんて行けっこねぇことぐらい

でも、もし…もしもまた会えたら

そん時は────

 

 

「いい加減にしろよ化け物!!腹に穴まで空けて生きてんじゃねぇよ!」

 

魂のカタチを無理矢理変えて見かけだけ治した真人は自身に背を向ける甚爾へ飛びかかる。

 

「──ッ!!こ、コイツ…立ったまま……ッ!」

 

何者にも縛られぬ、天与の暴君

最期まで、(こうべ)は垂れず膝も着かぬ。

 

その死に顔は、満足気で──満ち足りたものであった。

 

 


 

 

死滅回遊──仙台コロニー──

 

 

「オマエの親父は呪力も無い出来損ない

そんな親父のガキなんだ…生きてても仕方ねぇだろ!」

 

真人が高笑いと共に改造人間達を放つ。

すぐに壊れてしまう弱い改造人間…それに混じって放たれる多数の魂を練り合わせ造られた幾魂異性体と呼ばれる改造人間。

 

「黙れ、確かに…アイツは俺の性別も知らねぇで恵なんて名前をつけるようなクズだ

でも…アイツの事を何も知らねぇヤツが…

親父の事を何も知らねぇお前が!俺の親父を悪く言うんじゃねぇ!!」

 

迫り来る改造人間達を始末しながら、恵は自身の左腕に右手を重ねる。

 

「布瑠部由良由良」

 

布瑠の(こと)十種神宝(とくさのかんだから)が持つ絶大な呪力を呼び覚ます言葉。

それが呼び覚ますのは、長き呪術の歴史の中で最強と呼ばれる式神。

その式神は──史上、誰も調伏成し得ていない。

 

その名を──八握剣異戒神将魔虚羅

 

(布瑠の言に法陣!間違いない、アレが羂索の言っていた魔虚羅…!)

 

「道連れ上等って訳ね、親父が呪力ならガキは脳味噌が無ぇってか!

調伏の儀式範囲外まで逃げ切れねぇとでも思ってんのかよクソガキ!!

俺が範囲外に出たら…死ぬのはテメェ1人なんだよ!」

 

真人は魂の輪郭を捻じ曲げ、自身の身体を造り変える。

それは、最早現存する生物にすら似つかない…異形。

翼を持つ獅子が如き異形は駆けるように宙を飛ぶ。

 

(思った通り…!アレから逃げ切るのはそう難しくない

元々が攻撃やらに使うモンじゃなく只の儀式、強制力も拘束力もないなら速さでちぎれば良い

そして…俺が遠くへ逃げれば、当然標的はガキに移る!)

 

真人は勝ち誇りながら下を見る。

いったいどんな挽き肉になったかと視線を下ろした──その一寸先に、巨大な剣が迫っていた。

 

「へっ…?」

 

理外の光景に呆けた真人は、昆虫標本のように魔虚羅の持つ退魔の剣に串刺しにされた。

退魔の剣…その名の由縁は──呪霊に対する殺傷能力。

退魔の剣は負の力である呪力の逆、呪霊の弱点である正の力を宿している。

瞬間、真人の身体が弾け飛んだ。

 

 

天与呪縛のフィジカルギフテッド、呪力を持たない伏黒甚爾は呪術的には存在しないものとして扱われる。

呪術の極致、領域展開ですら呪力を持たない甚爾は建物等の無機物と同じ扱いとして認識されない。

認識されない──無機物と同じ

それは、十種影法術における調伏の儀ですら例外ではない。

 

伏黒甚爾が家族へ遺した最後の想い。

伏黒恵は既に、十種影法術の式神──その全ての調伏を完了している。

 

天与の暴君、その息子は──親に与えられた想いで戦う。




どこかに
甚爾「もう禪院じゃねぇ、婿に入ったんでな…今は伏黒だ」
直哉「………け……ッ…!」
直哉「NTR(ネトラレ)やんけ〜〜!!」
硝子「寝てから言え」
というネタを入れようとして忘れました


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【肥満児二人。】呪術廻戦を語るスレ【ただし最強。】

708:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

直哉ー!!直哉、直哉。直哉!直哉!!

直哉ァー!!!

 

709:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

(かえ)ってくる…!オレ達の〝禪院直哉(オウゴン)〟が(かえ)ってくる!!

 

710:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

復ッ!!活ッ!!!

禪院直哉復活ッッ!!!!

 

711:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

【朗報】仙台コロニーにて直哉再登場

【悲報】呪霊化しているのでゴタゴタが片付いたら死ぬ模様

 

712:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>711あのさぁ……

 

713:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

直哉再登場で泣きながら喜んでた真希真依と呪術師側に見付かれば討伐対象になるのがわかっててなお飛び出してきた直哉の対比エグ過ぎんか……?

 

714:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

真依から自分を殺してパパ黒みたいな化け物になれ(意訳)って言われてゲロ吐いて泣きながらできないって震えて

それでも石流達が来たから真依と一緒に死ぬか真依殺して自分だけ生き残るかの2択迫られて、その最後に泣きながら助けて…直哉……って呟いたの見て直哉が出て来ない選択なんてできる訳ねぇ……

 

715:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

全く…取柄のお顔がグズグズやんかって言って出てくるの流石にカッコ良すぎて主人公かと思った

 

716:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

てか呪霊直哉強過ぎんか…?

特級呪霊含む4対1で勝つって、作中上位勢入りしたんじゃね?

 

717:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>716それもだけど過去編でサマーオイルが普通に喰ってた黒沐死があんなに強いのにもビビったわ

 

718:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

夏油と五条は比較に出すなよ

 

719:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>7164対1じゃなくてちゃんと背中は真希に任せてたから…

 

720:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

真希ちゃん、背中は任せたで…呪術師なんやろ?

──ッ!応っ!!

これだけで何人の直希勢が救われたか…

 

721:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

なお、背中どころか速すぎて着いて行けない模様

 

722:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

Q.相手が領域展開してきたらどうすれば良いですか?

A.領域展開する前に手を切り落として掌印を結ばせなければいい

 

723:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

これが最速の術師ですか…

 

724:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

やはりスピード…!スピードは全てを解決する!!

 

725:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

そもそも恵が二人を置いて行ったのが悪い

 

726:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

恵も恵でパパ黒殺されてるからね…

 

727:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>725恵は奥の手のまこーらが無差別デスマッチャーだから味方が居ると出せないのもある

 

728:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

じゃあ誰が一番悪いってんだよ!!

 

729:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>728仙台着いて早々に地元でテンション上がってどっか行った万

 

730:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

直哉が全部片付けた後でウェディングドレス着て式には呼んで上げるって言いながら登場したの見て

あぁ…コイツはどこまでいっても呪いなんだ…ってなった

 

731:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

クソ無能がよ

 

732:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

強いのが敵の時だけじゃねぇかお前よぉ!!

 

733:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

テリーさんかな?

 

734:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

お前ら引き換え券のこと万って言うのやめろよ

 

735:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

なんで直哉とか恵が真面目に戦ってるのに単行本表紙がウェディングドレスの万なんだ……

 

736:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

瞬間、読者の脳内に溢れ出した()()()()()()()

 

737:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

このままじゃ宿儺が世にも珍しい作中で結婚式を挙げるラスボスになっちまう……

 

738:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

もう宿儺ラスボスにならねぇだろ

 

739:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

渋谷の最強決戦でもお兄ちゃんに虎杖投げて

小僧…悠仁を連れて離れていろ、貴様らでは塵も残らん

って言ってたし、もう味方側だと思うけどなぁ

 

740:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

ていうか恵が親子マコラで真人倒してんのに表紙とれんってマジ?

 

741:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

親子かめはめ波みたいに言うな

 

742:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

まこーらは強過ぎて恵の呪力じゃ暴走させとくしかないのがね…

 

743:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

理想→恵「行け!マコラ!!」まこーら「マコー」真人攻撃

現実→恵「行け!マコラ!!」八握剣異戒神将魔虚羅「■■■■!!」無差別破壊

 

744:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

バッジが足りなくて言う事聞かないのかな?

 

745:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>744マコーラはポケモンだった…?

 

746:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

消費呪力がデカ過ぎてマコラ1体出すだけで恵は置き物になるし、それでも呪力足りないからマコラは自分勝手に暴れるだけとか終わってるだろ

 

747:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

でもメロンパンナちゃんが言うには最強の式神らしいし…

 

748:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

羂索「十種影法術だけでは決して調伏出来ない式神を十種影法術だけで調伏しなければならないという縛りで成立する最強の式神」

やっぱバグじゃねぇと倒せねぇじゃねぇか!!

 

749:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

パパ黒ありがとね…

 

750:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

あーあ…直哉も復活したしパパ黒も生き返んねぇかな…

 

751:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

甚爾は呪力ないのがね…

あったらワンチャン呪霊化したけど

 

 

 


 

893:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

【朗報】伏黒甚爾復活【夢女子歓喜】

 

894:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

パパ〜!!パパ…パパァー!!!

 

895:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

甚爾の死に脳を焼かれた連中が息を吹き返してる…

 

896:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

婆「降霊術やるンゴ」

婆「どうせなら強いの降ろしたいンゴねぇ…せや!」

 

897:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

限度があるだろ

 

898:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

真人の時も思ったけど、やっぱパパ黒おかしいよ……

 

899:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

息子の窮地に駆け付ける親の鑑

 

900:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

真人の無為転変効かないのが伏線だったとは…このリハクの目をもってしても……

 

901:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

このおっさんいつも節穴だな

 

902:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

パパ黒にしろ直哉にしろ…禪院家のイケメンは死んでも蘇る法則でもあんの?

 

903:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

もう禪院じゃねぇ、婿に入ったんでな…今は伏黒だ

 

904:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

言いたいだけだろ

 

905:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

直哉とパパ黒のタッグがまた良いんだよ…ホント……イイ…

 

906:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

投射呪法が自分以外にも使えるってのはずっとあったけど、妨害じゃなくてサポートとしても使えるんだ…

 

907:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

でもそれって味方が24fpsにすぐ対応できる場合だけですよね…?

 

908:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

なんかすげーはやくてつよいヤツ

 

909:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

最終決戦に最高戦力ブチ当てるこの無法感良いな…

 

910:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

最終決戦メンバー

VS一億呪霊→五条、夏油、宿儺

VS羂索→虎杖4兄弟、パパ黒、恵、日車、万、直哉、乙骨、秤、高羽

遊撃→鹿紫雲、九十九、東堂

 

なんだこのボクが考えた最強の呪術パーティー…

 

911:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

このメンツ相手でも戦闘が成立すんのマジでどうなってんだよメロンパンは

 

912:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

メロンパン「久々だね…君にお腹を蹴られるのは」

ラスボスが主人公に言うセリフの中で歴代1位だろ

 

913:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

キッッッッショ……

 

914:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

だからラスボスが与えていい嫌悪感じゃねぇんだよ

 

915:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

てか羂索見てて改めて思うけど…呪霊操術強くね?

 

916:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

死滅回遊の目的の一つだったからな…無理矢理術師化させて呪霊操術探すのは

 

917:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

おかしい…呪霊操術は殴る蹴るしかできない脳筋術式の筈…

 

918:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

やっぱり夏油のって邪道なんだ…

 

919:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

本来は遠距離から弓チクする術式で矢握り締めてウンバボしてるのが夏油

 

920:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

羂索も一応夏油の使い方考慮したけど無理だったで笑った

 

921:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

味方陣営含めて三人の肥満児が飛び回る最終決戦になるところだった…ってコト!?

 

922:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

これが3びきのこぶたですか…

 

923:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

ていうかなんで夏油と五条は肥満児スタイルになってんの…?

 

924:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

傑は〝肥満児〟に戻った

俺だけが残されて…傑の肥満が領域展開後の数分間だけと知って、安心した

安心してしまった自分に吐き気がした、親友の幸福を喜ぶよりも自分の孤独を恐れた性根に絶望した

からの

夏油「これより、デブエットを始める!!」

ですよ

 

925:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

硝子も呼んでる、これでいつでも新鮮な胃腸をお届けさ

じゃなくてですね…

 

926:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

でも夏油の一緒に来るだろ?相棒はよかった

 

927:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

その後の寂しんぼか…って笑う五条も含めててぇてぇ…

 

928:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

その後の肥満児二人。ただし最強。がもっかい扉絵になるの含めて好き

 

929:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

なお裏梅はサプライズデブエットしてきた二人にブチギレる模様

 

930:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>929すくーなは爆笑してたのでセーフ

 

931:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

てか裏梅は今なにしてんの……?

 

932:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>931祝勝会の準備

 

933:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

えぇ……

 

934:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

万と宿儺と夏油から鬼のリクエストをくらって今死ぬ気で調理中だぞ

 

935:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

戦えよ

 

936:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

お前ソレ観戦中の日下部さん達にも言えんの?

 

937:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

日下部さん達が居ないと何やってるかわかんないだろ!!

 

938:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

>>937達ってか…解説なら日下部さんだけで十分なんじゃ…

 

939:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

日下部篤也…逆にお前は何を解説し得ないのだ

 

940:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

灰原の根明成分も摂取しないとキツいだろ

 

941:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

てかそもそも戦場では領域展開飛び交ってるから一定以下の戦力だと居ても無意味

 

942:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

領域展開のバーゲンセールきたな

 

943:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

最終決戦のお祭り感ヤバいな…

 

944:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

ていうか改めて東堂ヤバいな…

 

945:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

通常術式が必中でインテリゴリラの兄弟(ブラザー)は好きですか?

 

946:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

おかしい…顔があかんわって煽る直哉とか名シーンはいっぱいある筈なのに何故か東堂がキモい顔で拍手するシーンしか思い浮かばん…

 

947:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

特級だろうが一億呪霊だろうが問答無用で位置替えするヤベーヤツ

 

948:以下名無しに変わりまして呪術師がお送りします

やはり筋肉…!筋肉は全てを解決する!!

 

 

 

 

 


 

禪院直哉

外科手術にて脳幹部に小型の爆弾を入れている

常に呪力で保護しなければ爆発して即死するが、自己補完の範疇程度の呪力消費の為自分の意思と無関係に呪力を消費し切るレベルの相手(羂索)クラスでなければ発動しなかった保険

呪力でとどめを刺さなければ死後呪いに転じる

愛ほど歪んだ呪いはない

 

禪院真希&真依

ゴタゴタが片付けば直哉が殺されるとも知らずに嬉しそうにはしゃいでいる

勝ったら本家のUSJに行こうと約束している

 

伏黒甚爾

もしこの世界に神という存在が居るとして、もしその存在に知性があるならば

神は彼を溺愛している

 

夏油&五条

この度最終決戦に向けて再肥満化

胃が物理的にはち切れる度に反転で治すという死のデブエットを超えて再び肥満児(さいきょう)になった

 

天内&黒井

あの後二人で街のパン屋さんとなる

常連客は七海

二人のデブエットを聞いて呆れたような少し嬉しそうな顔でパンを届けに来た

 

宿儺

人を笑顔にして食う飯は美味いか?

 

羂索

多分登場人物の中で一番原作エミュできてる自信がある




これにて真の完結ということで


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玉響

なんとXにて支援絵を戴きました
気になる方はトップページに置いてあるので……見よう!


死滅回遊──西東京コロニー

 

 

羂索により過去の術師達と強制的に覚醒させられた術師達が入り乱れるその戦場にて、優雅に舞う影があった。

 

「貴方達が何者かは知りませんが、悠仁(おとうと)がポイントが欲しいと強請ってきまして…

できれば大人しく降参してくださると助かるのですがね!」

 

蝕爛腐術─極ノ番 翅王

生得術式の極致、呪術の最終段階とも呼べる超高等技術をまるで息をするかのように繰り出す。

空中にて静止する血液が美しき蝶の翅を思わせる緻密な模様を描き出し…その全てが、対峙する術師に牙を剥く。

150年もの間、自身の術式と向き合い続けた壊相だからこそ可能な数十本もの同時操作。

その血液に触れることは──死を意味する。

 

「婆ちゃん、下がって!」

 

呪詛を唱える老婆を背に庇い、青年がその身に翅王の牙を受ける。

 

(老婆を庇ったか…翅王は直接攻撃能力自体は低いですからね)

 

青年が苦痛にあえぐも、その傷自体は死に繋がるものではない。

焼け爛れ、激痛を伴おうとも翅王の牙にそれ自体で死に至る威力はない。

しかし、翅王には──蝕爛腐術には、その先がある。

 

「蝕爛腐術『朽』」

 

青年の全身に、毒々しい紋様が浮かび上がる。

蝕爛腐術、その真髄は──対象の分解。

 

「壊相!殺しちゃダメだからな!!」

 

「はぁ…わかってるさ悠仁

殺さずとも、翅王と朽の痛みで直に気絶する」

 

遠方からの虎杖(おとうと)の声に肩をすくめる壊相。

やれやれと口では言いながらも、弟から頼られた事で露骨に機嫌が良くなっている事が読み取れる。

 

「しかし…その異様とも言える庇いよう、長期戦はリスキーですね」

 

弛んでいた口角が引き締められ、鋭い眼光が相手を射貫く。

身を挺して…というには流石に行き過ぎている青年の献身といまだに止まぬ老婆の呪詛。

産まれ堕ちて日の浅い壊相ですら、この状況の異様さは理解できる。

 

しかし、壊相はまだ知らない。

人の悪意を──呪いのなんたるかを。

 

「……時間を掛け過ぎたな、来るぞ」

 

虎杖達から少し離れた位置にて頬杖をついていた宿儺が立ち上がる。

呪いの王、両面宿儺が立ち上がらなければならない事態だと判断した。

 

「もうええぞ」

 

老婆の──オガミ婆の呪詛が、終わった。

その声に反応した青年は、朽により体内から分解される苦痛に文字通り血反吐を吐きながら小さなカプセルを口に含んだ。

 

「させるかっ!」

 

再び、翅王の牙が迫る。

そして、それよりも早く──オガミ婆が呟いた。

 

「禪院甚爾」

 

瞬間、翅王が誇る数十もの血の牙が──爆ぜた。

 

「………降霊術か、貴様ら…死体を弄んだ(つかった)な」

 

後方から、周囲の空間が揺らぐ程の…熱を伴った感情が──両面宿儺の憤怒が壊相を打った。

自身に向けられていないと知った上でなお、全身の細胞全てが生存を諦める程の怒気。

壊相は粘性をもった汗を垂れ流しながらゆっくりと道を開ける。

 

呪いの王、両面宿儺に対峙するは呪いから解き放たれた男。

天与の暴君、禪院甚爾。

 

「宿儺!どうし……伏黒、先生……?」

 

宿儺から放たれる膨大な呪力にすぐさま駆け寄ってきた虎杖は自身の目を疑った。

そこに立っている筈のない人物、死んだ筈の親友の父親の姿に。

 

「小僧、()()はあのちゃらんぽらんではない

降霊術…死者を顎で愚弄する(つかう)、呪いだ」

 

宿儺が…四腕二面の鬼神が構える。

 

「俺が夏油と五条達と戦っていなければ…死なずにすんだろう

………死んだ貴様に詫びはせん、ただ──俺の渾身で()いてやろう」

 

「孫、術師は全員──殺せ!」

 

オガミ婆の怒声に、首をバキバキと鳴らす甚爾。

 

「孫…?何を─」

 

「術師は全員ね……テメェも術師だろ」

 

甚爾の裏拳がオガミ婆を吹き飛ばした。

 

「…………ありえん、降霊術で降ろされた死者が術師に逆らうなぞ」

 

構えを解きもせず、呆然と呟く宿儺に甚爾は得心いったと手を打つ。

 

「降霊術……?ああ…そういう」

 

困惑する宿儺と虎杖達を後目に甚爾は殴り飛ばしたオガミ婆の懐を漁り携帯電話を奪い取る。

 

(11月3日……俺が死んでから4日経ってんのか)

 

甚爾は自身の身に起きた出来事の全てを、自由意思で身体が動くならば問題無しと断じ現状の把握へと思考を切り替える。

自身よりも優先すべきものがあるから。

甚爾は虎杖達に恵と津美紀の安否を確認しようと声を掛け──る、前に手に持っていたオガミ婆の携帯へ着信が入る。

電子音が鳴る中、甚爾は()()()()()()番号に目を見開くと携帯を耳へとあてがった。

 

「もしもし…?」

 

『その声、どうやら上手くいったみたいだな

これで…1つ貸しだな、禪院』

 

なぜこの状況を把握しているのか、なぜ伏黒甚爾が降霊術を無効化しうると知っているのか…無数の疑問にも、甚爾は何も言わずに笑う。

情報で飯を食っている男だ、それだけ有能なのだろう。

 

「何回も言ってんだろ、もう禪院じゃねぇ」

 

オガミ婆の降霊術は彼女の死後も継続した。

しかし、永遠ではない…器である孫の呪力が尽きた時点で降霊も終わる───ハズだった。

はじめから禪院甚爾の肉体に上書きされた孫の魂に呪力はなく、その上その肉体は呪力を消費しない。術式は終了する契機を失った。

重なったイレギュラーによる術式の暴走。

肉体の情報しか降霊されていない甚爾は、器が壊れるまで本能のまま戦い続ける───ハズだった。

 

恵をお願いね

 

魂さえ上書きする天与の肉体─暴走した術式さえ彼の前では

 

「今は、伏黒だ」

 

伏黒甚爾───完全復活

 

天与の暴君、その牙は常に愛する家族の敵へと向かう



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夏油VS宿儺!至高のギョーザ勝負!!

東京都立呪術高等専門学校──調理室

日本に蔓延る呪いを祓う為、日夜日本各地を飛び回る者達の胃袋を支えるその調理場にて二人の益荒男が対峙していた。

方や、史上最強と呼ばれる呪いの王。

四腕二面の鬼神、両面宿儺。

方や、呪術界のトトロと呼ばれる男。

都立呪術高専ドカ食い気絶部が誇る名誉部長、夏油傑。

 

二人は互いに包丁を手に睨み合っていた。

 

「これより!料理バトル一本勝負を始める!!

ルールは簡単、二人には冷蔵庫にある食材だけを使って一皿仕上げてもらう!

それを俺を含む三人の審査員が食べて、勝者を決める!

待った無し…開始ィ!!」

 

夜の9時過ぎとは思えない声量で叫ぶ白髪の美男子、五条悟は校内から適当に攫って連れて来た残りの審査員の肩をバシバシと叩きながら笑う。

 

「………任務終わりにいきなり拉致られたと思ったら料理バトルだぁ?

…………酒に合うの頼むわ」

 

日下部は三人の最強相手に抵抗は無意味と早々に諦めた。

 

「………んぅ……」

 

そして、こっくりこっくりと船を漕ぐ鹿紫雲。

見た目は中性的な美丈夫だが、中身はちゃんとおじいちゃんである鹿紫雲は既に就寝していたところを五条に連れて来られていた。

 

そんな審査員側の温度感とは違い、二人は燃え盛るような闘争心を剥き出しに冷蔵庫を開く。

しかし…

 

「……なんだコレは、碌な食材が入っておらんぞ」

 

「ビールと調味料に……あっ、挽き肉はあるね」

 

冷蔵庫の中身を見た二人はそのあまりにも質素な内容に思わず固まる。

 

「いやぁ〜、食堂のおばちゃんに冷蔵庫の中身使っていいかって聞いたら怒られちゃってさぁ

しゃあねぇから歌姫ん家の冷蔵庫パクって来たってワケ!」

 

悪びれもせずにケタケタと笑う五条。

バカ目隠しのあだ名は伊達ではない。

 

そんな五条の話を聞き流しながら、二人は限られた食材からいくつかを選ぶと自身の調理台へ向かう。

 

「これは…二人共同じ……か?」

 

日下部が呟く。

二人の調理台には、ほとんど同じ食材が並べられていた。

 

宿儺 玉ねぎ、キャベツ、れんこん水煮、挽き肉、餃子の皮

夏油 玉ねぎ、白菜、干し椎茸、挽き肉、餃子の皮

 

「おや、奇しくも同じ構え……という訳じゃなさそうだね」

 

「クックックッ、心配せずとも他の料理で逃げるなど狡い真似はせん

構えろ、火力(ギョーザ)勝負といこう」

 

「餃子…!二人のメニューは同じ餃子か

……まぁ、酒にも合うし言うことなしってカンジだな」

 

「……ぅー…ねみぃ……」

 

歌姫の冷蔵庫から缶ビールを取り出しながら席に腰掛ける日下部と、眠気を必死に堪えながら目を擦る鹿紫雲。

完全に観戦モードである。

 

「ニラとかネギが無くて玉ねぎってトコがマジで歌姫ってカンジでウケんだけど」

 

鼻で笑いながら鹿紫雲の肩を揺する五条。

ちなみに、後日歌姫に泣きつかれた硝子からアッパーカットを喰らうことになる。

 

調理を開始した宿儺は、しっかりと四本の手を洗うと玉ねぎを手に取り…上に投げた。

 

「『解』!」

 

空中の玉ねぎが瞬時に微塵に切られると下に置いてあった金属ボウルに入っていく。

 

「………チッ、起き抜けになんつーもん見せやがる」

 

鹿紫雲は犬歯を剥きながら笑う。

悪態をつきながらも、心底嬉しそうに。

 

「呪力の刃が玉ねぎの細胞一つ一つの隙間を縫うように通されてる

恐らくだが、切られた玉ねぎ自身すら切られた事を自覚してねぇだろうな」

 

「なるほど…野菜類は切断面から水分と一緒に旨味が流れ出るが、それは細胞壁を傷つけちまうからだ

極論、一切細胞壁を傷つけずに切れるなら水分も旨味も流れ出る事はない……

宿儺は食材から旨味を極限まで逃さずに調理する気か」

 

突然連れて来られたにも関わらずすぐさま解説を始める二人。

だからデブ目隠バカ目隠しに狙われるのである。

 

宿儺は残りの具材を術式で微塵にしながら夏油の調理風景へ目を向ける。

 

(ケヒッ、下処理は万全…万に一つも俺の負けはありえんな

さて、夏油傑…お前はどう魅せる?)

 

薄ら笑いを浮かべる宿儺の視線の先では───

 

「フンッッッ!!」

 

一頭の夏油(ゴリラ)が白菜と玉ねぎを握り潰していた。

 

「おいおいおい!何やってんだ、頼むぜ夏油!?」

 

「……あんな乱雑に潰してちゃ焼き上げでベチャついた餃子になる

何考えてんだ…?」

 

「まさか宿儺のを見て勝負投げてんじゃねぇだろうな…?」

 

「んなわけねぇだろ…黙って見てな」

 

自分が拉致しておいてとんでもない言い草である。

 

(………何を考えている?

味では勝てぬとパフォーマンス重視に切り替えたか?

フン、どちらにせよ…夏油、お前はこの一手で──詰みだ)

 

「裏梅!!」

 

宿儺が腕を挙げ叫ぶ。

 

「此処に」

 

その声に応える影が一つ、天井の点検口から降ってきた。

恭しく頭を下げながら宿儺の三歩後ろにて控えるは、宿儺の忠臣裏梅。

宿儺に来いと言われて迷いなく羂索を裏切った生粋の狂信者である。

 

宿儺は裏梅を見ると何も言わず腕を挙げ続ける。

 

「氷凝呪法『霜凪』」

 

裏梅の吐息が極寒の吹雪となって宿儺の腕を瞬時に凍結させた。

 

「なにを…?」

 

「宿儺め、そこまでやるか……ッ!」

 

日下部の驚愕に、鹿紫雲は一拍おいて理解する。

その光景に、理解させられる。

 

「熱か…!宿儺は手を凍らせる事で、餡を捏ねる際に手の熱が入るのを防ぎやがった!!」

 

ハンバーグなどにも言える事だが、挽き肉を使う料理では熱が天敵とされる。

何故か?挽き肉、ミンチとは他の加工肉や精肉方法と比べ表面積が大きくなる。

結果、酸化や劣化も早く【傷む】のも早くなる。

そこへ熱が加わればその速度は更に加速する…その上、脂を多く含むミンチは手の温度ですら脂が溶け出し食感や食味に影響するから。

故に、挽き肉を捏ねる際には手を氷水で冷やしたりタネを入れたボウルを冷やしながら捏ねる等のテクニックが要求される。

宿儺は、それを完全にクリアしていた。

 

「宿儺はもう焼きの段階…流石の手際だな」

 

「だが、この焼きで全てが決まると言っていい

ここでミスれば夏油にも勝ち目が出るんだがな…」

 

餃子を包み終えると、宿儺はフライパンに餃子を並べ──構えた。

 

「『■』『(フーガ)』」

 

並べられた餃子のすぐ上を劫火の矢が通り、五条へ向かう。

 

「審査員へのお触りはご遠慮くださーい」

 

五条の眼の前で停まった矢は五条の呪力で掻き消される。

フライパンの上には、芸術と言える美しい焼き目のついた餃子が並んでいた。

 

「火入れも最速、最小限…勝負ついたな」

 

フライパンに皿をあてがい盛り付けると宿儺は三人の前に歩み出る。

 

「夏油はまだのようだな…まずは俺の方から寸評願おうか」

 

手早く小皿に3つに分けると箸と共に渡す宿儺。

 

「ん……?おい、醤油なり酢なりはねぇのか?」

 

「…………要らねぇってこったろ」

 

三人は同時に餃子を口に運ぶ。

 

「こっ、これは──っ!!」

 

「なるほどな…」

 

「美味い…」

 

沈黙、あれだけ雄弁であった三人が黙る。

その手は砂漠を歩く者が水を求めるかのように自然と、本能的に餃子へと伸びる。

 

大皿に盛られた餃子が、僅か数分で空になる。

誰が語らずとも、証明された。

宿儺の一皿は──美味い。

 

「おや、もう食べ終わったんだね

私の方もそろそろ焼き上がるから少し待ってくれるかい?」

 

「ふっ、ようやく焼きの段階とはな…随分と悠長なことだ」

 

夏油、と言おうとした宿儺が固まる。

その視線の先、今まさに焼きの行程に入ろうとする夏油の手にあるのは──凍った餃子だった。

 

瞬時に振り返る宿儺、その前には滝のような冷や汗と共に地に額を擦る裏梅。

 

「申し訳ありません…!宿儺様、如何様にも罰を!!」

 

「いけないなぁ、宿儺…君も手を借りた以上、裏梅は今回の戦いに於いて調理器具と同じだよ

当然、私にだって手を借りる権利がある」

 

凄まじい覇気を放つ宿儺に夏油は軽く言いながら餃子を焼き始める。

 

(なんだ…なにが狙いだ…?あくまでもパフォーマンス…?

…………まさかっ!!)

 

呪いの王、両面宿儺が一つの()()()に気付いたのと夏油の餃子が焼き上がったのは奇しくも同時であった。

 

「何もかけずとも食べられるけど、お好みで酢醤油をかけてもイケるよ」

 

三人の前に夏油の一皿が饗される。

三人の箸が餃子に伸び──

 

「あっ、ごめんごめん…言い忘れてた

この餃子には食べ方があってね…食べる時は決して前歯で噛んじゃあいけないんだ

一口めを口の奥でね…奥歯で噛んで食べてくれるかい」

 

夏油の説明に首を傾げながらも、三人は一口に餃子を頬張る。

そして…

 

「なっ、なんだこりゃあ!!?」

 

「まさか…っ!」

 

大声で叫ぶ日下部を後目に、鹿紫雲は餃子をもう一つ手に取るや否や半分程で…噛みちぎった。

 

瞬間、辺りに──()()()()()()()()が撒き散らされた。

 

「やれやれ…だから奥歯でって言ったのに」

 

「やはりな…この餃子、まるで小籠包のように中にスープを抱え込んでやがる

だが、どうやって……?」

 

仕方ないなぁ、とボヤきながら飛び散った液を拭く夏油と考え込む日下部、鹿紫雲。

 

「クックックッ…なんだ、わかったの俺だけか」

 

邪悪な笑みと共に五条は餃子を食べる。

 

「傑が材料握り潰してたのも、焼き上げ前に凍らせてたのもちゃんと意味があんのさ

宿儺が素材本来の旨味を極限まで逃さないように作る『至高の餃子』だとするなら──傑のはその対極、素材の旨味全てをスープに変えた『飲む餃子』ってコト!」

 

「飲む餃子……なるほどな」

 

「確かに宿儺とは対極だな…まさか、玉ねぎや白菜の細胞壁をわざとブッ壊して旨味を絞り出すとは」

 

「それだけではないな…この旨味と香り、干し椎茸か」

 

いつの間にか夏油の餃子を食べながら宿儺が問い掛ける。

 

「流石だね、干し椎茸のもどし汁をゼラチンで固めて餡に入れてあるんだ」

 

夏油の答えに宿儺は天井を仰ぎ見る。

 

(俺の調理に落ち度は無かった

完璧な下処理、火入れも調味も盛り付けも…俺の持ち得る全力だった)

 

「ふざけるな!!飲む餃子だと?そんな奇をてらっただけの一皿に負ける訳が無い!!

負けてない!負ける訳が無いッ!宿儺様が負ける訳が無い!!」

 

怒涛の剣幕と共に夏油に掴みかかる裏梅。

その裏梅の肩に、手が置かれる。

 

「やめろ裏梅、これ以上…俺に恥をかかせる気か」

 

裏梅の顔がくしゃくしゃに歪み声もなく泣き崩れる。

 

(わかっていた…あの挽き肉は、少し()()()()()

臭いが出ていた…黒胡椒を使ったが、マスキング*1を考えるならば生姜やニラを使うべきだった

ニラは無く、生姜はすり下ろしチューブのみ…他の具材との調味の兼ね合いと完成形のコンセプトから使う選択肢は無かった

もし、あと少しでも食材の質が高ければ…勝っていたのは俺だった

だが、具材の目利きとそれに合った調理法の選択──)

 

宿儺はゆっくりと夏油に視線を合わせる。

 

「俺の──負け、か」

 

最強が、決定した。

 

「よし、じゃあ宿儺…もっと美味しい餃子を食べたくないかい?」

 

しかし、夏油は手を洗い直すと宿儺の手を引き調理場へ戻る。

 

「は…っ?離せ!!世迷い言を抜かすな!

俺の調理法と貴様の調理法…そのどちらもが至上だった!アレ以上の餃子など、食材を変えねば不可能だ!!」

 

「うーん……調理法だとか、食材だとか……

宿儺、料理とは──『食』とは、そんなにも窮屈かい?」

 

「は………?何を…」

 

呆ける宿儺の背中を夏油の大きな手が叩く。

 

「来なよ、そして早く作ろう…これから忙しくなるよ」

 

夏油が大きく腕まくりをしたのと、ソレは同時だった。

 

「疲れたぁー…てか腹減ったぁ〜」「虎杖、制服脱ぎ捨てんな…跡残んぞ」「あ゛ー!!誰でもいいから早く化粧水持ってきなさいダッシュで!乙女の柔肌が刻一刻とダメージ受けてんのよ!!」「映画観に行くって言うから着いていったのに…騙された……」

 

「小僧……?」

 

「わっ!ナニソレ夏油センセ!?それ…俺らも食べていい?」

 

「勿論さ、早く手洗いうがいして来なさい」

 

任務終わりで疲れ切った一年生達が帰ってくる。

土汚れが顔にまでついた虎杖はニコッと大きく笑うとはーい!と大きな声で洗面所に向かう。

 

「また何か作ってるん゙ですね……

…………もし、その…良かったら……親父の分も作ってくれませんか…?

確か、もうすぐ任務終わって帰ってくるんで」

 

「心配しなくとも皆の分を作るつもりだよ、恵も早く手を洗って来なさい」

 

すんません、と頭を下げながら洗面所に向かう伏黒。

 

「餃子……夏油先生、ニンニクとニラは……!」

 

「ふふっ、勿論入れてないよ

野薔薇のはスープ餃子で用意も出来るけど…どうする?」

 

野薔薇はパチンと指を鳴らしながらやりぃ!と笑う。

流石わかってるわね〜と上機嫌に洗面所に向かって行った。

 

「僕の分も有るんですか…?僕、今日は五条先生に騙されて着いていっただけで……全然手伝いも出来なかったのに…」

 

「順平、君も含めてみんなまだ術師の雛鳥だよ

雛の内に、いくらでも失敗しなさい…その失敗の次を保証するのが私達教師の仕事だ

疲れたろう?今日はしっかり食べて寝るといい」

 

はい…!と曲がり気味だった背をピンと張って吉野は洗面所に駆けて行った。

 

「ほらほら、手を止めちゃダメだよ宿儺

あと二、三十分もしたら二年達と甚爾が帰ってくるし、その次は直哉と三年達も帰ってくるよ!」

 

「……………何故俺が小僧共の分まで作らねばならん」

 

「おや?食べたくないのかい、美味しい餃子」

 

宿儺はガシガシと頭を掻くと舌打ち一つ、調理場へ向かう。

 

「さて…忙しくなるね!」

 

 

 


 

「うんっっっっっま!!!

夏油先生って滅茶苦茶料理上手じゃん!!」

 

「食いながら喋んな…美味いです、夏油先生」

 

「どこぞのバカ目隠しと違って話がわかるわよね〜

寝る前のスープは身体も温まるし美容の味方よ」

 

「すご…!母さんの餃子より、なんていうか…その……本格的って感じだ…」

 

「海老天!」

 

「傑…いつも言ってるけど、俺は綿なんか食わん……」

 

「やめとけパンダ、昔それで笹持ってこられてたろ

てか美味ぇなほんと…」

 

「夕飯って軽くでいいんだけど…食べ過ぎちゃうかも」

 

「うん、ほんと凄いね…両面宿儺の作った餃子なんて……」

 

「おい五条、俺のビール何処だ?」

 

「はい甚爾君!!良かったらビール注ごか?

………あと乙骨君、ちょーっと近ないか…?あとで、僕とお話ししよか」

 

「美味しいけど……なんか女子力負けてるみたいでやだ…」

 

「ん〜、良いな…二人の熱を感じるぜ!」

 

ガヤガヤと、食堂が瞬く間に埋め尽くされる。

 

「悪いね裏梅、君の負担が一番多くなってしまったかな」

 

「イヤミか貴様ッッ!!!」

 

「もう…普通に労ってるだけだよ」 

 

裏梅が騒ぐ中、宿儺は淡々と調理し続ける。

 

「よし、こっちは一段落ついたし…宿儺、君も食べてきなよ」

 

パチン、と手を打って夏油が笑う。

 

「なに……?……どういう意味だ、結局材料を買い足しただけでほとんど変わらん餃子だろうが」

 

怪訝な表情の宿儺の背をまぁまぁと押しながら無理矢理席につかせる夏油。

 

「おっ!宿儺、お前滅茶苦茶料理上手かったんだな!!」

 

「フン…貴様らの為に作った訳では無い

それに、食味ならば夏油の方が上だ」

 

座るや否や声を掛けてきた虎杖に鬱陶しそうに吐き捨てると宿儺は忌々し気に夏油が作った餃子を箸で摘まむ。

 

「んー…夏油先生の餃子もスゲー美味いけど……

俺は、宿儺の餃子の方が好きだけどな」

 

「……なに…?」

 

「良くぞ言ったぞ器ァ!!そうだ!!宿儺様が負ける訳が無いのだ!!!!」

 

宿儺が振り向いた先には裏梅にガクンガクンと揺さぶられる虎杖が居た。

 

「おっ、おっ、おう……?てか…こんだけ美味いんなら、後は好みなんじゃねぇ……?」

 

「…………そんな訳があるか…優劣はついた

……まぁ、小僧の貧相な舌では感じ取れぬだろうがな」

 

小さく呟きながら、ゆっくりと箸を口に運ぶ。

 

「なぁ宿儺、またなんか作ってくれよ!

俺、丼物とか麺系が良い!!」

 

「貴様ァ!!事もあろうに宿儺様を賄番にしようというかぁ!!?」

 

再びガクンガクンと揺さぶられる虎杖。

 

「や、やめ、やめろ…やめろって!これ以上馬鹿んなったらどうすんだよ!!」

 

騒がしく…何より、笑顔に溢れた空間。

その中心には料理が並び、周りにはそれを食べて笑いながら楽しそうに過ごす人々。

 

二度目の生を受けた両面宿儺をして、初めてみる光景であった。

 

「…………美味いな」

 

自然、手が伸びる。

こんなにも美味かったろうか?

調理は一流でも、素材は三流もいいところだったはずだ。

 

「…………そうかこれが……そうか」

 

いつかの言葉

絶対的な強者!それ故の孤独!

あなたは独りじゃない

 

裏梅は宿儺に心酔し、崇拝している。

共に卓を囲む事など、ありはしない。

 

万は宿儺を愛し、全てを受け入れた。

全てを愛する事は、全てを嫌う事と同義である。

 

 

憧れは理解から最も遠く、愛は理解と呼ぶには独善的だ。

 

 

呪いの王、両面宿儺は理解を求めない。

群れねば生きられぬ有象無象と違い、宿儺には力があったから。

 

最強、夏油傑の周りには人で溢れている。

大切な仲間を守り抜くだけの力が夏油にはあったから。

 

宿儺の頬をナニカが伝った。

 

「クックックッ…ハッハッハ!!」

 

(そうか…こんな気持ちか

負ければ死んだも同然…死に、感情など伴う筈もなし

だが……違った)

 

「完敗だ……言葉もない!」

 

両面宿儺、千年越しの敗北

しかし──その顔は清々しい笑顔であった。

 

 

 


 

オマケ 万劇場

 

「すっ、宿儺の…て、て、て…手料理!!!?」

 

「あぁ…喰いたければ勝手にしろ」

 

(喰いたければ勝手に…手料理……つまり…………!!)

 

「新婚生活!?そうなの?そうなのね!そうなのよ!!」

 

「やめとけよ万、どうせまた家入の世話になるんだから…」

 

「離しなさい血塗!!宿儺が……宿儺が私に食べて♡って!!」

 

「いえ、そんなことは一言も言ってませんでしたが…」

 

「……でもいいのよ…」

 

「……は?」

 

「罠でもいい……罠でもいいのよッッ!!!」

 

 

この後しっかりキンッされて硝子の仕事が増えた。

 

*1
香辛料、香味野菜等で肉や魚の嫌な匂いをやわらげること



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世界で一番大嫌い

「真希ちゃんは弱いんやから、僕の三歩後ろ歩いとき」

 

いつもそう言って、私の前を歩くその背中が嫌いだった。

 

 

私と真依は生まれた時から終わってた。

呪術師なんつークソの集まりの中でもとびきりのクソを集めて御三家っていう蓋をした中身。

禪院家に生まれた私達は、人間として扱われなかった。

呪力が無くて呪霊も見えねー私と、ハズレ扱いされる術式と中途半端な呪力の真依に術師に非ずんば人に非ずを地で行く禪院家での立ち位置なんてモンは無かった。

ガキの頃からイジメのオンパレード、無視や陰口なんてのはマシな方で私も真依も毎日新しい怪我や痣を増やしてた。

極めつけは、私達を生んだ親が一番私達を嫌ってた事だ。

私達の出来が悪いから自分が当主になれなかったと喚いては指導と(うそぶ)いて暴力を振りかざすクソ親父(ジジイ)

私達に生むんじゃ無かったと言い続けたクソ母親(ババア)

私達はあの家で、空腹と痛みに耐えながら…寄り添い合って震えてた。

────あの日までは

 

 

「ふぅん…ま、どうせなら顔ぐらいマシなん選ばんとやる気出ぇへんしな

お前らでええわ……おい、お前ら──今日から、俺がお前ら二人を守ったる」

 

そいつの顔ぐらいは知ってた。

禪院家の当主、直毘人の息子…次期禪院家当主の最有力候補、禪院直哉。

クソ山の大将…私達とは無関係の筈の人間。

最近は東京の方へ行ってて家には居なかった筈だが、なんで居るんだコイツ…?

 

「はぁ……甚爾君ももうちょいマトモな事言うて欲しいわ

自分より大事なモンつくれやなんて…そんなトンチで強なれるんならとっくになっとるっちゅうねん」

 

悟君は悟君で太れとか意味わからん事言うし…とブツブツ言いながら直哉は私達の前にでかい風呂敷包みを放ってきた。

 

「そら、おどれらには一生縁ない(たっか)い菓子やで

とりあえずそれ食うて、俺に一生懸命媚びとれや」

 

嫌な奴、それが私達から直哉への第一印象。

でも……その日は、生まれて初めてお腹いっぱいで眠れた。

 

 

 

 


 

「可愛い〜!全っ然禪院に似てないね!!」

 

「妹が居たんですね…一人っ子だと思ってましたけど」

 

それから、クソ親父と話をつけたらしい直哉に連れられて東京の高専に何度か行った。

 

「灰原…それどういう意味や

あと七海、お前もなんや言い方にトゲあんねんけど?」

 

ていうか従姉妹や、兄妹ちゃうと直哉は嫌そうに否定していた。

この頃になると、直哉についていくのに拒否感は無くなってた。

体裁を気にする直哉は私達に高い飯を食わせてくれたし、口は悪くとも家の連中みたいに暴力をふるってきたりもなかった。

 

「うんうん!僕も妹居るからわかるよ!!

やっぱこんぐらいが一番可愛いよね〜!!!」

 

「いえ、君の性格的に兄妹が居るタイプじゃないなと思っただけです」

 

「お前ら……やっぱ嫌いや」

 

なんとなく、直哉(コイツ)が変わったのは此処に来たからなんだろうなと思った。

直哉は、高専ではずっと機嫌が良さそうで…よく笑ってたから。

 

 


 

「強く、ならなアカン……何がなんでも…ッ!」

 

ある日、直哉が大怪我して帰ってきた。

産土神信仰、土地神を祓う任務で一級呪霊とやり合ったらしい。

いつも話してた二人を庇ったせいで死にかけた、とその二人から聞いた。

二人は直哉を家まで運んでくると、すぐに治せる人を呼んでくるって出て行った。

 

「なんや……!見下ろすなや、クソガキ……!」

 

いつも偉そうで、厭味ったらしい直哉が血塗れでゼェゼェと変な息の仕方をしてた。

そんなのに詳しくない私でもわかった、コイツは今…死にそうなんだ。

 

そう思ったら、自然と真依と二人で血を拭ってた。

タオルを水に濡らして、傷が開かないようにゆっくりと。

 

「──ッ!触んなや!!どけ!俺に…近寄んな!」

 

ボロボロのくせに凄い力で暴れる直哉を二人で抑え込みながら折れてる足には氷を包んだタオルを当てて、血が止まらない腹の傷は二人でぐっと押さえて止血した。

暴れてた直哉はしばらくすると気絶してた。

私と真依は……泣きながら血を拭ってた。

多分、私達はもう戻れなくなってたんだと思う。

惨めでひもじいあの頃に。

だから……二人で泣きながら直哉を介抱した。

 

 


 

直哉は、あれから少しだけ変わった。

私達へのイヤミが減って…代わりに、いつもの食事が豪華になった。

何か欲しい物が無いか聞いてきたり、行きたい所が無いか聞いたりもしてきた。

はっきり言って気味が悪かったが、真依が喜んでたから…私も嬉しかった。

 

「………あんな家、俺が当主になったらぶっ壊したる

せやから………もうちょい待っとれ」

 

私達は、その言葉を支えに生きる事にした。

この頃には、家に帰らず…ずっと直哉と一緒に居た。

 

 

ある日、家から連絡が来て私達を一度家に帰すよう言われたらしい。

直哉は少し嫌そうにしながら私達に聞いてきた。

 

「帰りたかったら帰ったらええ……

帰りたないんなら、断っといたる」

 

私達は、迷いなく帰りたくないと言った。

 

 

「最近、形から入ろうと思っとってな

どうせ甚爾君に潰されかけた家や…俺に潰されても構へんやろ」

 

その日、直哉は出掛けてくるって言って…帰ってこなかった。

次の日に帰ってきた時は、またボロボロになってて…

直哉は、その日──禪院家の当主になった。

 

「ふん、あんな家…元からいつか潰したろ思てたんや

プライドだけ一丁前のザコしか居らん、あんなんと関わっとったらザコが伝染(うつ)るわ」

 

直哉はボロボロのまま、私達を抱き締めてきた。

血の匂いと、ごつごつした大きな手…不思議と嫌な気にはならなかった。

 

「安心せぇ、あんな家()うなっても…俺がお前らを守ったる」

 

 


 

「アカンな、もう全部アカン…術師向いてへんで」

 

 

小、中学には直哉が通わせてくれた。

何するにしても大学なんぞ出るに越した事ないねんから、と私達二人が大学卒業出来るだけの貯金をずっとしてたらしい。

あんな奴ら(禪院家)の手なんぞ借りたないやろ?と、笑う直哉とぼーっと見返す真依に何も思わない程私は感性死んじゃいない。

 

「高校は…高専行く、私は呪術師になる」

 

だから…私はアイツの荷物になんてなりたくなかった。

強くなって、私は一人でも大丈夫だって言いたかった。

私は大丈夫だから………真依と、居てやってくれって。

 

その日、初めて──直哉に殴られた。

 

直哉が怒鳴ってるのなんて、久しぶりに見た。

直哉が怒ってるのなんて、久しぶりに見た。

 

直哉が泣くのなんて──初めて見た。

 

「何考えとんねん!お前が呪術師になんぞなる必要ないやろ!!」

 

………うるせぇ、あるんだよ。

じゃないと、お前はずっと…私を守るだろ

じゃあ───お前を、誰が守るんだよ

 

それからしばらくして、私は家を出て高専に入った。

真依はついてくるなって言ったのに、無理矢理ついてきた。

 

高専は…思った以上に居心地が良かった。

同年代はみんな、気のいい奴らだったし御三家だのに偏見も無かった。

 

 

私達が高専に入って3ヶ月が過ぎた頃、直哉が高専に教師として入ってきた。

 

 

 


 

私達が直哉との距離が掴めないまま、時間だけが過ぎた。

私と真依と直哉の玉虫色の関係が徹底的に変わったのは…憂太が入ってきて、少しした頃だった。

 

呪詛師羂索による、百鬼夜行

夏油先生と憂太に憑いてる里香を狙ったソレに、高専に逃げ込んでた私と真依は巻き込まれた。

 

未登録の、炎の特級呪霊

 

バカ目隠しも、夏油先生も、甚爾も、憂太も…誰も間に合わない。

みんな、他の場所で戦ってる。

 

 

私達はまた、寄り添い合って震えるしかなかった。

 

 

「だから言ったやろ…向いてへんって」

 

寸前まで迫ってきていた熱が、いつまで経ってもこない事に疑問を抱く前に直哉の声がした。

 

直哉は、私達の三歩前に立って──全身を灼かれていた。

 

「直哉……なんで……」

 

いつだったか、家入さんから聞いた事がある。

反転術式の治療でも、デカイ傷や火傷なんかは跡が残るって…

 

「なんで……笑ってんだよ……!」

 

全身から呪力を吹かして、すぐに火は払ったみたいだけど…全身火傷してんだろ…?

なのに、なんで………

 

「やっと……わかったわ

甚爾君も悟君も傑君も…みんな、こんな風にやっとったんか」

 

そら、強い筈や…直哉は笑いながら私達を抱き締めた。

 

「何度でも言うたる…僕が、守ったる

せやから、下がっとき」

 

違う…違うんだよ

直哉、私達は───私は

私は、お前の後ろで守られたいんじゃない

お前の──お前の横に立ちたいんだ

 

後ろに居たら、お前は私を見ないだろ

見ろよ…私を!

 

私だけを見ろよ

 




後編へ続きます


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伏黒甚爾は助けない

──記録2007年9月

■■県■■市(旧■■村)

 

ガシガシと甚爾は乱雑に頭を掻きながら冷めた目で地下牢を見つめる。

 

(ま、古い村だしな…座敷牢の類なんざねぇ方が不自然…か)

 

 

任務概要

村落内での神隠し、変死

その原因と思われる呪霊の祓除

 

 

その日、甚爾はすこぶる機嫌が悪かった。

休日に家でスポーツ新聞を広げながら競馬場に置いてある簡易鉛筆片手にどの馬にするかと悩んでいた時に、流れた大型アミューズメントパークのCM。

普段なら見向きもせず、脳内に記憶として残りもしないソレをいまだに甚爾が覚えているのには当然訳がある。

 

「あっ!ここ…前に友達が行って、凄く楽しかったって言ってたわ!」

 

津美紀が、そう言ったのだ。

勿論、その言葉は甚爾に向けられたものではない。

津美紀の隣に座る恵に向けて語られている…しかし、天与の暴君の耳は数キロ先の蝶の羽音すら聴き逃さない──ましてやそれが家族の声だと言うならば尚更に。

 

津美紀は元々、ほとんどと言っていい程に我儘を言わない。

誕生日やクリスマスでも欲しい物を聞かれ、「家族みんなと幸せに暮らせたらとっても嬉しい」と笑顔で言い切ってしまう。

甚爾が給料日にパーッと使おうと好きな物を食わせてやると街に繰り出しても「みんなと一緒なら何を食べても美味しいの」と笑顔で自分と恵の食事を見る、ほつれた服を見て新しいのを買ってやると言っても「服なんて繕えばいいじゃない、それよりもそのお金で恵に何か買ってあげて」等々…多少押し付けるように買い与えなければ私物すらろくに増やそうとしない。

そんな津美紀が、言ったのだ。

 

「いつか…みんなで行けるといいな」

 

甚爾の感覚が研ぎ澄まされる。

天与呪縛のフィジカルギフテッド、御三家として得るはずだった全ての呪力と引き換えに得た…天与の肉体。

このレースは、確実に当てる。

 

伏黒甚爾という男は、競馬で当てたからパーッと使うという口実がなければ家族と遊園地に行くことすら出来ないのであった。

 

………………その後、素寒貧になるまで負けた挙句直哉から3桁万円のお小遣いを奪い取貰った事は言わぬが花…というやつだ。

 

ともかく、紆余曲折ありながらも恵と津美紀の二人と共に遊園地へ行こうと休みを調整しらしくもなく浮かれていた正に前日…

 

「おーい、甚爾さぁ…ちょっと任務代わってくんね?

天内達誘って沖縄行こうと思ってさぁ〜」

 

デブ目隠五条悟にそう絡まれた。

 

「テメェ、脳味噌まで脂肪詰まってんのか?

嫌に決まってんだろ、他あたれ」

 

直哉とか居んだろ、と絡みついてきた五条にアイアンクローをかましながら引っ剥がす。

 

残念(ざんね〜ん)!直哉達2年も誘ってるから甚爾(オマエ)しか残ってねぇよ!」

 

死ぬほどむかつく顔で煽ってくる五条。

甚爾の無言のハイキックは無限に阻まれてしまった。

 

「夜蛾センからオマエが休みだって聞いてんだよ!

ど〜せパチか馬だろ?社会貢献(こーけん)しとけって

それに…この任務、元は傑のでさ

アイツ、最近痩せ過ぎてて……心配なんだよ」

 

五条の自分勝手な話を眉間にシワを寄せながら聞いていた甚爾は五条の消え入るような言葉尻に更にシワを深くして大きく息をつく。

決して、決して五条悟の願いを聞くのではない。

 

ただ───伏黒甚爾は、夏油傑に借りがあるのだ。

少し、返しきれそうにないような…借りが。 

 

 

その結果が今の状況である。

既に3人分のチケットまで購入してしまっていた為に昔の仕事仲間である孔時雨に二人を預け、自分は一人でこんな山奥まで電車やらを乗り継いで6時間近く掛けて辿り着いて…コレだ。

 

「恵と津美紀ちゃんの事なら気にすんな…お仕事頑張れよ、パパ」

 

そう言ってニヤニヤと笑っていた孔時雨の顔が本当に腹立たしい。

 

「仕方ないわよね…パパ、気をつけてね」

 

そう言って寂しそうに、心配を掛けないように無理に笑っていた津美紀の顔が本当に腹立たしい。

 

「………クソ親父」

 

そう言って不機嫌そうに不貞腐れていた恵の顔が、本当に……本当に腹立たしい。

 

 

その日、甚爾はすこぶる機嫌が悪かった。

 

 

「おい、このガキ共…どうすんだ?」

 

後ろに控えていた村人達数人に聞くも、口々に捲し立てる。

自分でなければ騒音にしか聞こえないだろう早口で、口々に。

 

(呪力があんのか…この分だと術式持ちかもな)

 

冷めた目で、牢の中の二人を見る。

饐えた臭いに垢やフケが浮いた身体、こけた頬に痣だらけの顔。

恐らく、このままだと数ヶ月ももたないだろう。

そして、後ろの連中はそれを当然だと思っている。

 

(……任務内容は呪霊の祓除、問題の呪霊はもう祓った

態々金にもなりゃしねぇ人助けなんざ…ごめんだね)

 

冷めた頭でそう結論づけ、とっとと帰る。

それが、甚爾という男の生き方だ………普段通りであれば。

 

 

その日、甚爾はすこぶる機嫌が悪かった。

 

 

甚爾は牢の前にしゃがみ込むと二人に目線を合わせる。

 

「ガキ共、お前らは誰かに助けて欲しいのか?

それとも────助かる方法が知りてぇのか?」

 

もし、方法が知りてぇなら…

甚爾はゆっくりと牢の格子木に手を掛ける。

 

「喧嘩の仕方ぐれぇは…教えてやるよ」

 

その日、美々子と菜々子の世界は変わった。

煙草と血の匂いが染みついた、不器用な男の手で。

 

 

・担当者(高専3年 伏黒甚爾)派遣から5日後旧■■村の住人112名の入院が確認される

・全て呪霊による被害と思われたが残穢が無く、顔面の殴打痕から伏黒甚爾の暴行と断定

 

・上記を伏黒甚爾本人も認めた為、伏黒甚爾を4級術師へと降格

更に任務の不当な交代が認められた為、夏油傑・五条悟両名も同じく4級術師へ降格

監督不行き届きとして夜蛾正道1級術師も同じく4級術師へ降格処分とする

 

 


 

その頃肥満児(デブ)

 

 

「いやぁ…驚いたな

悟、君…いつ原付きの免許なんて取ったんだい?」

 

長い長い下り坂を二人乗りで爆走する夏油と五条。

満面の笑みを浮かべる夏油はついこの間まで回転寿司を何かの隠語だと思い「寿司が回るわけねぇだろ…馬鹿にしてんの?」と真顔で言っていた親友の肩を叩きながら尋ねる。

 

いや本当に…悟も同じくらい忙しかった筈だろう?

今年の夏は、ポン菓子のように呪霊が湧いた…

ついつい普通の食事を忘れて呪霊しか食べずにいたせいで不覚にも500グラムも痩せてしまったぐらいだ。

 

「おいおい傑…なに馬鹿言ってんだよ

原動機付き自転車だろ?自転車(チャリ)に免許なんて要らねーって言ったのオマエじゃん」

 

「…………ん?」

 

「ていうか傑…オマエさ、もっと言葉を選んだ方がいいんじゃないか?」

 

夏油は自分の耳が急速に腐敗したせいで聞き違えた可能性を一生懸命に信じながら冷や汗をダラダラと流し親友の顔を見る。

親友、五条悟は……その名の通り、まるで悟りを開いたかのように達観した表情で──へし折れたブレーキレバーを握っていた。

 

「今際の際だぞ」

 

「キッショ…なんで取れるんだよ」

 

 

夏油傑、五条悟──全治1週間




肥満児二人「……は?」

夜蛾「何度も言わせるな、甚爾が集落の人間を全員殴り飛ばした挙句双子の女の子を連れ帰ってお前らに育てさせろと言って帰った
後、俺も含めて全員4級に降格した」


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葦巣の悔い

支援絵を貰う度に続きを書く乞食とは私の事です


あれから、直哉は変わった。

 

私達によく話し掛けてくるようになったけど、他の奴らと同じ…あくまで生徒として接してくる。

全身に残った火傷の跡は、「勲章って奴やな」って笑ってた。

 

あれから、真依は変わった。

よく笑うようになった。

直哉の事でずっと悩んでたのは私もよく知ってる…関係が改善して安心したんだろう。

放課後には直哉を誘って三人で飯に行ったり、休みの日には買い物に出掛ける事も増えた。

 

あれから、私だけが変わってない。

直哉との関係も、向こうが一方的に変わっただけだ。

直哉に意地張って、家出てったあの日から…私だけが変わってねぇ。

 

 


 

「真希ちゃんと真依ちゃんは留守番や

四級の出番なんぞあらへんで」

 

10月31日、渋谷で大規模な帳が降ろされた…らしい。

直哉は私達にそう言いながら家を出る。

 

「…っ!待てよ、私も連れてけ!!」

 

「………はぁ、そのちっこい頭ん中はおが屑でも詰まっとるん?

今言うたやろ、付いてくんな…邪魔や」

 

突き離すような冷たい声色で直哉は睨みつけてくる。

 

「なんで…なんで私が待機なんだよ!ふざけんな!私だって呪術師なんだ…もう!アンタに守られてたガキじゃねぇ!!」

 

 

だから…そうやって背を向けるなよ

こっちを──私の方を向けよ

私を見ろよ!直哉!!

 

 

「うっさいわ、お前らは僕の三歩後ろ歩いとればええねん」

 

直哉はそう言うと私達を残して駆けて行く。

一瞬で砂粒ぐらいに小さくなった背中を見ながら、真依がぎゅっと指が蒼くなるぐらいに手を握り合わせて祈ってる。

昔みたいに肩を震わせながら、目尻に涙まで貯めて、必死に祈ってる。

……………最悪だ

それを見て、思っちまった

真依を心配するよりも、真依に寄り添うよりも先に──

直哉(アイツ)を追いかける理由が出来たって、思っちまった

 

なぁ…直哉、責任とれよ

お前のせいで私はこんな…クズになっちまった

 

 


 

真依に絶対着いて来ないように言い聞かせて飛び出してきた私は運良くパンダと日下部さんに合流してなんとか今の渋谷の状況を把握出来た。

非術師の出入りを阻害する帳、術師の出入りを阻害する帳…そして、夏油傑と五条悟…両面宿儺の3人以外の出入りを阻害する帳。

その三種類が今の渋谷に有るらしい。

日下部さん達はその帳を維持してる呪具の破壊と呪詛師の捕縛、そして巻き込まれた一般人の救助に動いてる。

……本当なら、私も手伝うべきだ───でも

 

「アイツは…直哉は何処に居るんですか?」

 

口から出たのは、自分勝手な──本音

 

「直哉は…わからねぇ

アイツは俺達よりも先に渋谷に来てたからな」

 

首を振る日下部さんに頭を下げて駆け出す。

アイツの性格的に考えて、ちまちま人助けなんてしてない筈だ

多分、直哉なら……元凶を狙ってる筈。

 

走る

とにかく、地下へ

下へ下へ下へ…走る

 

吐き気がする程の血と死臭を振り切って

夥しい数の人骨と遺体を見ないふりして

とにかく、地下へ

 

途中、気絶した虎杖を抱えた脹相達とすれ違った。

 

「逃げろ!先は地獄だぞ!」

「真希さん、この先で宿儺と夏油さん達がやり合っています!

もし行くなら出来るだけ迂回を!」

「兄者!ゆうじが起きないよぉ〜!!?」

 

確か、九相図の三人は全員が1級術師相当なんだったっけ

………正直、私一人でこれ以上進むのは限界だ

どうにか……

 

「……頼む、一緒に来てくれ」

 

交渉にすらなってねぇ、ただの我儘

それに対して声を上げようとする壊相と血塗を脹相が手で制した。

 

「何故だ、先には地獄しかない…何処へ行く気だ」

 

「…………直哉の所へ

私達の───────私の、兄貴の所へ」

 

「そうか」

 

短い返答と共に、脹相は目を閉じてゆっくりと愛する三人の弟達へ向き直る。

 

「壊相、血塗…行くぞ」

 

「……っ!頼むっ!私一人じゃ」

 

「勘違いするな…俺達は、お前と共に行くと言っている」

 

…へ?と、呆気にとられる真希に脹相は首を傾げる。

 

「自分から同行を提案しておいて…了承された事に不満でもあるのか?」

 

「い、いやっ!違う……けど…なんでだ…?

どうして私と来てくれるんだ…?」

 

「知れた事──俺が、お兄ちゃんだからだ」

 

「……………………………は?」

 

本当なら、こんな命懸けの場面で協力してくれるって言ってくる相手に向けるような顔でも声音でも無かった

無かったけど…仕方ねぇだろ

マジで意味わかんねぇ…

 

「俺は九相図達の…そして悠仁のお兄ちゃんだ

誇るべき、最高の弟達のお兄ちゃんだぞ?ならば俺は、常にそんな最高の弟達の為に最高のお兄ちゃんで在らねばならん

そんな俺が…兄の為に命を懸けるお前を見過ごして、ここで逃げ帰っては───俺は、そんな俺をお兄ちゃんと認めないだろう」

 

私の困惑を見た脹相が胸を張ってそう答えた。

…………言われても意味わかんねぇ

わかんねぇ…けど、これでようやく──直哉の所へ、行ける

 

 

 


 

 

嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!

うそだ………

 

下へ向かう途中、七海さんが灰原さんと言い合いをしている場面に出会した。

普段は、性格が正反対みたいな二人なのに互いに信頼しあって意見が割れるのすら珍しい二人が…だ。

 

「離せよ七海!直哉が…僕のせいで!!」

「行ってどうする!!足手纏いが増えるだけだ!」

「そんなの…っ!じゃあ、どうすれば良いんだよ!?」

 

二人共、ボロボロの身体で取っ組み合いをしている

けど……私の意識は、もうそんな事を認識できてなかった

 

「直哉…直哉は何処に居るんですか」

 

二人に掴み掛からなかったのは奇跡に近い

身体と声が震えて、理由もなく涙が流れる

 

二人は私達を見ると苦しむような、哀しむような顔で…指差した。

私を止める脹相達の声を振り切って、私は走った。

 

 

 

「直哉ぁ!!!」

 

 

視線の先には、血塗れでボロボロになった直哉が居た。

綺麗な金髪が血糊でべったりと顔に貼り付いて、何度もマメが潰れてゴツゴツになった手がひしゃげてて

頭が真っ白になる

言いたいことがあったのに

なんで置いてったんだって言いたいのに

喉が握り締められてるみたいに

息が詰まって

違う

違う…私は、私は強くなったんだ

あの時の、震えて泣いてただけの子供(ガキ)じゃ…

 

「真希ちゃん…みんなに言うといてや

中々、悪くなかった」

 

ずっと、好きだったのに

礼の一つも言ってないのに

 

護るって言ったのに

嘘つき

 

「中々楽しかったよ、バイバイ」

 

噎せ返るような血の匂い

そして、直哉が抱き締めてくれた時の体温が…身体を包んで

ブラウンの綺麗な瞳が、足元に転がって

 

「ゔ、おぇぇぇ…っ!」 

 

あんなに動かなかった口から、止め処なく胃液が出ていく

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い

頭が、どうにかなりそうで

 

「伏せろっ!」

 

だから、その声にも反応出来たってより崩れ落ちたってのが正しい。

 

「………今、結構気分が良いんだけど

後口を汚さないでくれない?」

 

脹相の放った血の一閃、赤血操術が誇る最速の一撃【穿血】を軽く躱すとため息と共に羂索が(のたま)う。

 

「壊相!血塗!」

 

脹相の声より先に駆け出した二人が崩れ落ちた真希へ手を伸ばす。

 

「あのさぁ…」

 

壊相が翅王による攻撃を仕掛けながら、血塗が吐血により面制圧をかける。

回避をするにしろ、術式で払うにしろ、確実に生まれる隙で真希を助ける…兄弟の無言のシンパシーによる即興の策。

しかし…

 

「確かに、今の私は術式が焼き切れて反転術式のせいで呪力も低減している」

 

羂索は、二人の攻撃にあえて()()()()()()()()()()

 

「なっ!?くっ…蝕爛腐術『朽』」

 

羂索の猛進に虚を突かれるも、壊相はすぐさま切り替えて『朽』によるダメージと苦痛により隙を作ろうと──

 

「その上、彼から貰った黒閃で内臓の幾つかが潰れて動きも鈍っている──でもさ」

 

そんな考えは、飛び膝蹴りを加えられ苦痛に呻く血塗の姿に掻き消えた。

 

「血ッ塗ゥウウウウウ!!」

 

叫ぶ壊相の意識はここで途切れる。

最後に見たのは、頭に縫い目のある女のつまらなそうな顔と拳だった。

 

()()()()で埋まる差だと思ってたの?

君達の頭まで空っぽにした覚えは無いんだがね」

 

背後から来る穿血を見もせずに躱しながら唯一立っている脹相へ向き直る。

 

「脹相、君達の前に居るのは──千年以上生きた呪術師だ」

 

「加茂憲倫…っ!!」

 

そこからは、よく覚えてない

後から聞いた話じゃ、夏油先生が助けに来てくれてなんとかなったみたいだ

九相図の三人も、虎杖も、私も…多少の怪我で済んだ

よく、覚えてない

 

「夏油くん…君は呪術師に向いてないよ

精神構造が非術師のソレから変わっていない」

「怖いなぁ、そんな顔をしないでおくれよ…かわいい生徒が私の間合いだよ」

 

「ありがとう、君みたいな足手纏いが居てくれたお陰で助かったよ

取れなくて残念だったね、仇」

 

覚えて……ない…

 

 


 

 

あの日から、真依はおかしくなった

今度、直哉と一緒に出掛けるんだって服を選んでる

私は…何も言えなかった

直哉はもう死んでるなんて、どの口で言うんだ

私のせいだ…私が、もっと強かったら

直哉は……直哉は

震える手で、首から下げた()()()の中身を見る

大丈夫、わかってるよ

目を合わせて、そう言ってから軽く唇を這わせる

それだけで、少しだけ気が楽になった

 

憂太から無理矢理聞き出した…羂索(アイツ)は死滅回遊ってのを始めたらしい

行かないと

じゃねぇと、私は───ただの足手纏いだ

 

 

 

甘かった

全部、全部が

私は、自分が思ってるよりもずっと弱くて

私は、自分が思ってるよりもずっと…護られてたんだ

 

仙台のコロニーに着いてすぐに、恵の奴が一人で行っちまった。

それだけなら良かった…でも、その後すぐに一緒に来てた万って術師まで居なくなった。

夏油先生から特級に近いって言われて、コイツが付いていくなら問題無いって言われてたのに…

私が一人でどうにかしないと…

側には、真依が居る

今の真依を一人には出来なかった…でも、ただでさえ無理言って迷惑掛けてる私が真依の事まで頼める訳がない

真依だけは…私が、護ってやらねぇと

 

「食傷気味だな…こう味気ないモンばっかだとガツンと濃い奴をヤリてぇんだけどな」

 

後ろから、リーゼントの男がゆっくりと歩いて来てる。

脚が動かねぇ…たった一発、それも掠っただけでコレだ

本当に…泣けてくる

 

『呪術師向いてへんで』

 

ああ、そうだったよ…やっぱり、直哉の言う通りだった

私は、弱くて…護られてばっかだった

認めるよ…認めるからさ……

真依だけは、真依だけは助けてくれよ…

私がトチッて死ぬ分には納得いくからさ…真依は、違うだろ?

真依は私に巻き込まれただけなんだ…だから、頼むよ

 

『お姉ちゃん』

 

その声に、すぐに後ろを振り向く

でも、真依は私が持たせた御守りを握り締めて震えてる

じゃあ…この声は、誰の──

顔を上げた先に、真依が立っていた

 

『随分前に…直哉から聞いたのよ、何で呪術師にとって双子が凶兆か

一卵性双生児は呪術では同一人物だって見なされるから…お姉ちゃんは私で私はお姉ちゃんなの

私がいる限りお姉ちゃんは一生半端者なの』

 

「何…言って……」

 

『全部、捨てなさい』

 

真依が私の手を掴んで、震える真依の首に──

 

『私はもう、駄目よ…わかるでしょ?

だから──最期は、アンタがして

呪力もなにもかも私が持っていってあげるから』

 

真依の首に、手がかかる

 

「お姉ちゃん…何、するの…?」

『一つだけ約束して』

 

「いや…嫌ァァァ!!やめて!なにするの!?」

『全部、壊して』

 

「お姉ちゃんはおかしくなったのよ!」

『全部だからね』

 

暴れる真依の爪が顔や腕に切り傷を創る

私は…私は

 

 

「出来ないよ…真依…っ」

 

痕が残るくらいに絞めた手を離す

真依が咳き込みながら蹲る

私は…私は……

駄目だ、頭ん中、ぐちゃぐちゃで

 

 

「嘘つき…護るって、言ったのに」

 

 

「助けてよ…直哉」

 

 

リーゼントの男から感じる呪力が膨れ上がる

せめて、最期は…真依と一緒に

 

 

「全く…取柄のお顔がグズグズやんか」

 

 

そっと、優しく目元を拭われた

誰かなんて、聞くまでもない…この世で一番聞いてきた声だ

誰かなんて、見るまでもない…この世で一番見てきた格好だ

なんでとか、どうやってとか…聞くことなんて山程あるのに

声が…全然出なくて

 

「ほら、真依ちゃんも泣き止み

…しゃあないな、今度どっか連れてったげるから」

 

私達の側にしゃがみ込んで、後から後から溢れ出る涙を…優しく拭いながら

そう、笑った

 

相変わらず、火傷の跡が残ってて

相変わらず、困ったような笑顔で

相変わらず、私達に甘いままの──私達が好きな人

 

「ほら、真希ちゃんもとっとと立ちや」

 

「た、立つって…なんで…」

 

駄目だ…まだ、碌に喋れねぇ

 

「はぁ…?まさか、俺に一人でやれって言うん?

とっとと立てや──背中は任せたで、呪術師なんやろ」

 

グッと引っ張り起こされる

ゴツゴツで、硬いのに…優しい手

あぁ、本当に…単純だ

こんな一言で、全部…

 

「───ッ!応!!」

 

「可愛い家族が見とるんや、カッコつけさせてもらうで」

 

 

 

 


 

禪院直哉

この後、二人の【御守り】の中身を見て大層曇った

 

禪院真希、禪院真依

一度折り目がついた紙はどんなに綺麗に広げても、決して折り目が消える事はない



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京都姉妹校交流会─殲滅戦─
1話


アンケートで最下位だったので書きました
私は天邪鬼です


「ッッッッッッッッたく!!!人に何本ジュース買わせんのよあのバカ目隠し!!」

 

釘崎野薔薇はこめかみにバキバキの青筋をおっ立てて叫ぶ。

 

「てか夏場におしるこなんて飲んでんじゃないわよ!!!」

 

「釣りはとっとけって言われてホイホイ乗ったお前が悪い

いいから手ぇ動かせ釘崎、まだ二十本しか買えてねぇぞ」

 

激昂する釘崎の背後で両手一杯におしるこ缶を抱えた伏黒がため息をつきながら遠い目をしていた。

 

「だってフツー、万札渡されて釣りはとっとけって言われたら…乗るでしょ!?」

 

んがぁぁ!!詰まったぁ!!と喚きながらキレ散らかしている釘崎。

 

「………ん?」

 

そんな同級生の姿に、更に遠い目をする伏黒。

悲しい理由ではあるが遠くを見ていたからか、伏黒は釘崎よりも先に…その二人組に気付いた。

 

「あの…やっぱやめましょうって東堂さん

東京校の皆さんに普通に挨拶して普通に帰りましょて」

 

「フン、だから挨拶をしに来たんだろう

もっとも…少々我流だがな」

 

一人は燕尾服のような格好の男、そしてもう一人は…

パイナップル(ヘッド)の──狂人

 

「………なんだアンタら」

 

「あ…は、初めまして〜俺…やなかった、僕京都校の新田言います

今日は東京の皆さんに挨拶だけして帰ろ思てまして…」

 

「今年の交流会、乙骨が出ないって聞いてな…いや、別に不満がある訳じゃない

三年の二人は出るし──何より、お前も出るんだろ?Mr伏黒」

 

東堂はゆっくりと伏黒に歩み寄りながら着ていたシャツを引き裂く。

 

「呼ばれてるわよ伏黒、アンタの友達?」

 

「んな訳ねぇだろ…パイナップルの知り合いなんか居ねぇよ」

 

「そう謙遜するな、高専一年にして既に1級術師…そう多くは居らん

結構有名人だぞ、お前」

 

東堂は伏黒を値踏みするように上から下へ見ると底意地の悪い笑みと共に問う。

 

「さぁMr伏黒…どんな女がタイプだ」

 

「……なんで初対面のアンタと女の趣味を話さないといけないんですか」

 

「そうよ、ムッツリにはハードル高いわよ」

 

「ほ、ほらほら東堂さん!向こうさんもそう言ってはるんやし、もう帰りましょて!!」

 

新田が東堂の制服を掴み思い切り引っ張るが…悲しいかな、圧倒的な膂力の差により微動だにしない。

 

「気にするな…ただの品定めだ

これは持論だが、性癖にはソイツの全てが反映される…女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん

最後の交流会なんだ、どうせなら最高の相手とやり合いたい…だからさっさと答えろ」

 

安心しておけ、お前がつまらんのなら秤を狙う。そう言いながら東堂は好戦的な笑みを絶やさない。

伏黒はそんな東堂を見ながら考える、自身にとってのゴール…目指すべき着地点を。

 

(釘崎は丸腰…この東堂(パイナップル)は論外として、連れの方は常識人っぽいな

なら、とりあえず適当に答えて帰ってもらうか…秤先輩には悪いけどこんなん相手に一々付き合ってられん)

 

「別に、好みとかありませんよ

その人に揺るがない人間性があれば…それ以上は何も求めません」

 

適当、と思いつつも口にしたそれは伏黒の本音であった。

その時、彼の脳裏に浮かんだ人物が誰かなど…言うまでもなく。

 

「………ふむ」

 

伏黒の答えに東堂は口元へ手をやりながら黙考し始める。

横で批評家面をしながら寸評する釘崎に意識を向けず、無言で佇む東堂を見る伏黒。

その脳内では、ようやくと言っていいほどに遅ればせながら東堂の名が一つの心当たりと繋がっていた。

 

「嘘は言っていない…魂からの性癖(答え)に違いはない──が、全てを語った訳でもない…違うか?」

 

東堂はゆっくりと伏黒に向かって歩き出す。

 

(東堂…あの東堂か!

去年起きた呪詛師羂索による未曾有の呪術テロ…京都に現れた一級呪霊13体特級呪霊2体を1人で祓ったっていう、あの東堂!!)

 

「1級術師ともあろう男の性癖がそんな程度の筈がない!

何故隠す!何を恥じる!?俺はお前のどんな性癖も笑わん!!

さぁ!答えてみろMr伏黒!!

因みに俺は、身長(タッパ)(ケツ)がデカイ女が好み(タイプ)です!!」

 

お互いに手を伸ばせば届く距離にまで詰め寄った東堂は唾液を飛び散らせながら叫ぶ。

まだ日も高い時間帯、ポリスメンは今日も職務怠慢の誹りを受ける。

 

「………色白で、黒髪ポニーテールのしっかり者だけどちょっとおっちょこちょいな自分よりも他人(まわり)を優先するような女…です」

 

相手を理解した伏黒には、この場を武力で収める選択が無くなった。

まず間違いなく釘崎に危害が及ぶ上に、あの連れでは東堂を止めるなど不可能だ。

だから…業腹だが伏黒は包み隠さず素直に答えた。

 

「…………成る程な」

 

数秒…もしかすると数分はあったかと錯覚する程の時間の後、東堂は得心いったと呟く。

 

「やはり、俺には語れんか…ならば!直接身体に聞く他あるまい!!」

 

東堂の身体から敵意と共に膨大な呪力が噴出する。

 

「ッ!逃げろ、釘崎!!」

 

伏黒の声と、東堂のラリアットは殆ど同時だった。

東堂のギロチンの如き…否、咄嗟に呪力で防がなければ事実首が刎ねられたであろう一撃に伏黒の身体が吹き飛ぶ。

 

「さぁ、死ぬ気で受けろよ!」

 

高専の敷地を抉りながら着地した伏黒の目に映ったのは、既にこちらへ拳を振り上げる東堂。

 

「クソ…ッ!やってやるよ!」

 

伏黒は瞬時に両腕を交差させると、拳を振り下ろす東堂へ突っ込んだ。

 

「何っ…!?」

 

力と速度が乗り切っていない東堂の拳を交差させた腕で滑らせるように上へ弾く。ソレは、空手などに見られる十字受けと呼ばれる…受けに特化した技術である。

 

伏黒は渾身の右拳を逸らされ、ガラ空きとなった東堂の腹に呪力で強化した膝を叩き込んだ。

しかし──

 

「クックックッ…やはり、良いな…!

さぁ!俺にもっと魅せてくれ、Mr.伏黒!!」

 

東堂は右拳を逸らされたと見るや、瞬時に腹部を全呪力で保護していた。

 

ダメージは、最小限に抑えられた──しかし、それは伏黒の攻撃が膝蹴りで終わっていた場合に限る。

伏黒は膝蹴りをあえて振り抜き体勢を低く屈めると、東堂のズボンの裾を持ち引いた。

ボッカ ジ カウサ、と呼ばれるカポエイラの技術…人体構造上、どれだけ力を込めて踏ん張ろうとも膝関節の可動域に逆らわず与えられた力が東堂の体勢を崩しそのまま仰向けに転倒させた。

 

「ぬっ!?」

 

そのまま、転倒した東堂の顔面へ一切の躊躇無くストンピングを敢行する伏黒に東堂は口角が釣り上がるのを止められなかった。

 

(コイツ…!細身の薄っぺらい身体(ガタイ)かと思えば…とんでもない!服の下はワイヤーを束ねたような極太の筋繊維で造られたワガママボディ!!恐らく、体重は俺とさして変わらんな…腕力(パワー)は俺の方が上、しかし敏捷性(アジリティ)技術(テクニクス)は向こうに分があると見た)

 

「これが…ギャップ萌え、という奴か」

 

顔面を踏み締められ、無数の擦過傷を創りながら…笑う。

 

パン

 

軽い拍手の音と共に、伏黒の足元から東堂が居なくなる。

 

「良い…!実に素晴らしいぞ!!

さぁ!俺にもっとお前を…剥き出しの伏黒恵を魅せてくれ!」

 

「言われなくても見せてやるよ…気持ち悪ぃ」

 

伏黒が総身に呪力を滾らせながら手印を結ぶ。十種影法術の式神達の召喚が──行われる、その正に寸前に新田新の声が響いた。

 

「握手会!間に合わんようになりますよ!!

その為に東京まで来たんやないんですか!?」

 

瞬間、東堂から一切の呪力が消失し伏黒に背を向ける。

 

「Mr伏黒!勝負は交流会まで預けておこう…俺にはこの命よりも大事な予定がある」

 

東堂はズボンのポケットから大量の紙束…握手会のチケットを取り出し、それを伏黒に見せつけながら爽やかな笑顔と共に言う。

 

「高ミナ乙女達の個握がな!!」

 

気付かなかった、伏黒は眼の前に居る東堂が起こした理解不能なアクションに困惑し周囲への警戒が切れていた。

気付かなかった、東堂はもうすぐ始まる個別握手会と想像以上だった伏黒との交流会での戦闘への高揚で周囲が見えていなかった。

故に、二人はその人物の接近に一切気付かなかった。

呪術高専東京校二年、伏黒津美紀の接近に。

 

「あら…?コレって美々子と奈々子の握手会チケットじゃない!

もしかして…恵のお友達?」

 

東堂がこれみよがしに持つチケットを見ると、津美紀は嬉しそうに笑った。

 

「津美紀…っ!?」

 

「ほう…美々子ちゃんと菜々子ちゃんの良さが理解(わか)るとは

中々良い趣味だ、お嬢さん」

 

「勿論!美々子と菜々子の良い所なら一杯知ってるわ!」

 

確信、これ以上津美紀を喋らせてはならないという嫌な予感が伏黒の全身を走る。

 

「待て!津美紀──」

「だって、私達は二人の──姉兄(きょうだい)だもの!」

 

瞬間、東堂の脳内に溢れ出した──()()()()()記憶

 

 

 


 

 

『行ったぞ、葵!』

 

『任せてくれ!義兄さん!!』

 

伏黒の声に合わせて、東堂の拍手の音が響く。

東堂の術式が二人の前に迫っていた呪霊と他の呪霊とを入れ替え、それを伏黒が瞬時に式神で祓う。

 

『流石は義兄さんだ!』

 

『ああ…だが、葵のサポートあってこそだ』

 

呪詛師羂索により引き起こされた百鬼夜行、京都の町並みを埋め尽くさんばかりに現れた呪霊達を東堂と伏黒は祓っていた。

 

『ふふ…相変わらずだな義兄さんは、行き過ぎた謙遜は時に嫌味だぞ?』

 

『…悪いな、気ぃ付けとく』

 

命を懸けた局面でありながら、二人は軽口を叩きながら呪霊を祓っていく。

それは、二人の実力が過剰だから…ではない。

確かに、東堂も伏黒も同じ1級ではあるが対する呪霊達も1級から準1級の強さを持っている…その上、奥で此方を伺う個体は恐らく特級に近い。

状況ははっきり言って絶望的だ。とてもではないが1級術師が切り抜けられる範疇を逸脱している。

冷静に状況を俯瞰する脳味噌が、冷静に告げる…だが、東堂のIQ53万の脳内CPUが導き出した答えは──

勝利(ビクトリー)

何故なら──俺は独りじゃないから!

 

『行くぞ義兄さん!早く帰らねば美々子ちゃんと菜々子ちゃんがへそを曲げてしまう!!』

 

『ああ…呪霊共より、そっちのがよっぽど面倒くさいしな

気張れよ葵!』

 

『応!!』

 

そして、二人は呪霊の海へと飛び込んで───

 

 

 


 

 

「あの後、拗ねた美々子ちゃんと菜々子ちゃんに京都名物を山程買いに行ったっけ……」

 

「……………………………は?」

 

突然固まったかと思えば、天を仰ぎながら顔面からよくわからない汁を分泌する東堂に伏黒はドン引きしていた。

 

「どうやら俺達は、義兄弟のようだな」

 

「…………アンタ、頭おかしいのか?」

 

その後、あの恵にお友達がこんなに…と涙を滲ませる津美紀の絶望的な勘違いをなんとか正しながら現場から遠ざけ

義兄さん!?なぜだ…俺だ!貴方の弟、東堂葵だ!!等とよくわからない言語を吐くパイナップルを連れに押し付けながらなんとか場を収めた。

 

伏黒恵、肥満児や天与の暴君とその貢ぎマゾ達に囲まれた

庵歌姫に次ぐ現代の───苦労人

 

 

 


 

 

隙間に肥満児

 

 

「あーあー…皆さんお待たせしました

それでは手短に」

 

宗教団体【盤星教 時の器の会】、その本部にて一人の男がマイクを片手に壇上へ上がる。

 

「今この瞬間からこの団体は私のモノです

名前も改め、東京都立呪術高等専門学校ドカ食い気絶部の出張支部となります

皆さんは今後、私に従って下さい」

 

反対多数

 

「困りましたね…そうだ!!

園田さん、よろしければ壇上へ…そう!アナタです!!」

 

ゴシャア!!と派手な音を立てながら園田と呼ばれた男が倒れる。

その口からは、パンパンに詰め込まれたビッグマックとフライドポテトが飛び出していた。

男は──夏油傑は、園田が血糖値スパイクによって気絶した際に頬に飛んで来たマックシェイク(バニラ)を親指で拭い取るとそれを舐めとりながら底冷えした表情で宣言する。

 

「私に従え、欠食児童(ガリ)共」

 

ドカ食いは素晴らしい、それが──私の選んだ本音

 

──記録 2007年 8月

■■都■■市

 

任務概要

  宗教団体の内情調査

 

・担当者(高専3年 夏油傑)派遣から5日後、旧【盤星教 時の器の会】の信徒2万5000名のBMIの急上昇が確認される

 

・現場に残された指紋と大量のマックの空袋により、夏油傑の犯行と断定

 

・しかし、肥満化した信徒全員からの強い要望と呪術総監部への多額の献金により夏油傑特級術師への処罰は見送られる

 

・しかし、今回の一件によりカバーストーリー【適度な肥満は健康的】の適用が発生した為、監督不行き届きとして夜蛾正道1級術師を4級術師へ降格処分とする



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2話

京都姉妹校交流会、当日

その日、庵歌姫は既に帰りたい気持ちで一杯だった。

交流会の前に互いの顔合わせも兼ねて、一回集まっとかね?という連絡が後輩である五条悟から届いたからだ。

…………教えてねーんだよ!!お前にケータイの番号もメアドも!!というツッコミが喉まで出掛けたが、歌姫ももう大人である。なんとかその言葉を飲み込んで東京まで来ていた。

しかし、しかしだ……何事にも限度というものがあるだろう

 

「あ〜…眠ぃ、おい恵…終わったら起こしてくれ」

「もう、甚…やなかった

津美紀ちゃん、行儀悪いで?」

「………………」

 

なんか、滅茶苦茶ガタイの良い男三人がスカート履いてる。 

 

なんか、滅茶苦茶ガタイの良い男三人がスカート履いてる…

 

なんか、滅茶苦茶ガタイの良い男三人がスカート履いてる?

…………………………………なんで?

 

「……おい五条、私の見間違いじゃなきゃ変態が三人居るんだけど」

 

「なに?歌姫ってもしかしてそういうの差別しちゃう人?

あのさぁ〜俺ら教師だぜ?ジェンダーやらLGBTQやらも理解してやらねぇとさ」

 

ニヤニヤと心底腹の立つ顔でそう言いながら、まぁ…仕方ねぇか歌姫だしと締めくくる五条。歌姫は心から思った、此処が日本で良かった…と、アメリカならもう撃ってる。

 

「……………で、そこの三人は……何?」

 

「スー…スー…」

「嫌やなぁ歌姫先生、もう何回か顔合わしとるやないですか

禪院真依ちゃんです」

「…………禪院真希です」

 

立ちながら寝ている大男、きゅるん♥としなをつくる金髪、顔面に明らかに殴られたであろう青痣がくっきりと浮かぶ男。

三人は思い思いの返答を返してきた。

 

「…………スーッ…」

 

歌姫は必死に眉間を抑えながら深く息を吸いこむ。アンガーコントロール……あれ?何秒数えるんだったかしら…まぁ、十秒ぐらいで良いか……

 

「………フーッ…」

 

うん、ちょっと落ち着いてきたわね………うん……うん

 

「ざっっっっっけんじゃないわよ!!!!!」

 

血圧がとんでもない事になりながら歌姫は吼えた。そして、その勢いのまま説明すら放棄して立ち寝をしている甚爾へ詰め寄る。

 

「オラッ!!起きろ!起きなさい!!甚爾でしょ!!ねぇ!!」

 

「チッ………スー…」

 

ガックンガックン揺さぶると一瞬目を開けて舌打ちをした後にまた寝息が始まる。歌姫はカチカチと歯を鳴らしながら青筋を立てる。

 

「はぁ……?なに…?私相手なら起きる必要もないってコト……?ねぇ……キレそう……ねぇ!!!」

 

もうキレてるというツッコミをする者は流石に居なかった。

 

「いやもうキレてんじゃん、どしたの?更年期?」

 

いや、五条が居た…顔と戦闘能力以外0点男、五条悟が居た。

 

「お前らのせいなんだよ!!!!!起きろ!!そして私に説明しろ!!伏黒甚爾ぃぃ!!!!」

 

身長差故に飛び上がるようにして甚爾の顔面を殴打しながら叫ぶ歌姫。しかし、残念ながら殴った歌姫の拳の方がダメージは大きかった。

そんな歌姫の必死の思いが伝わったのか……それとも虫がたかって苛立つのと同じ現象かは不明だが、甚爾がようやく目を醒ます。

 

「チッ………高専二年、伏黒津美紀でーす」

 

なおもパンチを止めない歌姫の額を長い腕で押し止めながら心底面倒臭そうに言う全身ピチピチスカート男。

 

「どこが!!??アンタから津美紀ちゃん要素探すくらいなら徳川埋蔵金探す方が楽よ!!!!」

 

「何言ってんだ、ちゃんと等級も4級だろーが」

 

「アンタのは降格喰らってるだけでしょうが!!!!」

 

片手で歌姫を抑えながらもう片手を口元にやって大あくびをする甚爾。

 

「親馬鹿過ぎる!!良い加減子離れしなさいよアンタ!!」

 

「チッ…っせぇな……ツミキナニイッテルカワカンナーイ」

 

「おお!???ならせめて術式見せて見なさいよ術式!!」

 

甚爾のあからさまに此方を小馬鹿にした態度に血管がはち切れんばかりにブチギレながら叫ぶ歌姫。その顔面は既に真っ赤である。

 

「へいへい、術式ね…」

 

甚爾はかったるそうにポケットからタバコを取り出し、それを口に咥える。

 

「ホレ」

 

咥えたタバコの前で親指と中指を擦り合わせると、バンというちょっとした発砲音に近い音が鳴りタバコに火が灯った。

 

「構築術式でライター作った…これで良いか?」

 

「いや……もう…凄いけども!!凄いけど呪術関係ない!!!フィジカル!!ついでに人間でもない!!!」

 

あまりの出来事にちょっと怖くて涙が出そうになりながら叫ぶ歌姫。指パッチンで火を出す生物を見れば誰だってそうなる。

ぜぇぜぇ、と荒い呼吸をしているとそっと背を撫でてくれる三輪と新田。ありがとう…私、アンタ達の為に頑張るからね…

 

「恵君!貴方からも言ってやって!!」

 

歌姫は眼の前のスカートゴリラに話が通じないと見るや飼育員さん(伏黒恵)に標的を移す。

恵とはそこまで交友は無い、無いが…苦労人仲間として無言のシンパシーを感じていた。きっと、向こうもそうに違いない…!

 

「すみません庵先生…」

 

しかし、歌姫は一つ勘違いをしていた。

そう、この家庭は───

 

()()()()()()…後で言って聞かせますんで」

 

親馬鹿とシスコンで構成されている。

 

「嘘でしょ……」

 

ガックリと膝をつく歌姫。こんなに落ち込んだのはヤックルの(ケツ)に矢がブッ刺さった時以来である。

だが、だが……それでも歌姫は立ち上がる。必ずや、かの邪智暴虐な馬鹿共を除かねばならぬと決意して。

 

「………アンタ達は?そこの二人はなんのコスプレ?」

 

しかし、この天与のゴリラにこれ以上構うのも精神衛生上良くない為暇してそうな金髪と顔面青痣親父の方にシフトした。

 

「もう、やから禪院真依ちゃんやって言うてるやんか歌姫先生」

「……………禪院真希です」

 

「…………百歩、百歩譲って直哉は理解(わか)るわ…

てめぇは誰だよ!!!!おい!!そこのオッサン!!ねぇ!誰!?誰なの!!?怖いんだけど!!!ねぇ!!」

 

「ぜ…禪院真希です……」

 

「それしか言えねぇのかよ!!!アンタの名前聞いてんの!!ねぇ!!」

 

オッサンと呼ばれた事に割とショックを受けながらも俯いて機械のように同じセリフを繰り返すオッサン。

 

「もう、やめたってや歌姫先生…お姉ちゃんが怖がっとるやんか」

 

「わ…わた、私は…」

 

金魚のように口をパクパクさせながら何かを歌姫に伝えようとするオッサン。歌姫はそれを見て近付こうと──

する、その前に直哉がオッサンの首を掴んで宙吊りにする。

 

「私は…?私は何なん?僕、そんなセリフ言えなんて頼んだ覚えないんやけど…おい、何とか言えやカス

おどれは僕の言うた事だけやっとればええんや…自我なんぞ出すなや」

 

腕一本で持ち上げられたオッサンの身体がバタバタと暴れるも、直哉はまるで意に介さず握力を強める。

 

「あ、ぐぅ…、がっ…!」

 

「それとも、まだ殴られ足りんか?扇のオッサン」

 

「あ、あぅ……」

 

パッと直哉が手を離すとオッサン…改め禪院扇は情けなく尻から落ちてその場に蹲る。

何も知らない人間から見れば、ピチピチミニスカ金髪細マッチョがピチピチタイトスカートポニテのオッサンをボコボコにして泣かせているという地獄である。

 

「地獄か!!!!」

 

というか歌姫から見てもそうである。

 

「いや……もう泣いてんじゃないの!!やめてあげなさいよ直哉!!」

 

「えー…こんなんで泣いてまう方が悪いんとちゃう?」

 

「いや…でも!!それでも謝ってやんなさいよ!四、五十代のオッサンのガチ泣きなんてこれ以上見たくないのよ!!」

 

「もう〜……扇のオッサ……

やない、お姉ちゃん…ごめんちゃい♥」

 

謝りながら恐喝している…後に歌姫はその場面をそう評した。

 

「………とにかく、と・に・か・く!!

アンタ達は流石に駄目よ!!甚爾はまだ親だから万歩譲るけど…アンタ達は駄目!!親代わりと知らないオッサンは駄目!!」

 

「えー…ええやんか、扇のオッサンは二人のガチ親父やで?

髪型も似とるし…実質真希ちゃんやろ?」

 

「ガチ親父!!????このオッサン二人の親なの!!?」

 

オッサンという単語が出る度に啜り泣く声が聞こえるが、それを気にしてくれる人間はこの場に居なかった。

 

「そやで、半分同じ血で髪型も一緒…ついでにザコなとこも似とるし大体真希ちゃんやろもう

………いやな?最初は僕も蘭太くんとか連れて来よ思ててんで?ただ蘭太くんも甚壱くんも誰も彼もみーんな任務で出払うとってなぁ

僕かて妥協してんで?誰が好き好んでこんなオッサンの女装なんて見たがるかいな」

 

屋敷で休暇を取っていた扇を殴り倒して無理矢理身ぐるみを剥いだ男のセリフである。

 

「ぐぅ………でも!!こんなんじゃ交流会になんないじゃない!!

4級三人が抜けて1級二人と……オッサンが入ってるのよ!?」

 

「だから俺も4級だって言ってんだろ」

 

「扇のオッサンも一応特別1級やで」

 

「禪院真希です……」

 

ついでに言えば、三年の秤金次も1級で恵も1級な為戦力差がとんでもない事になっていたりする。

 

「Ms庵!」

 

パン、と場の空気を締めるように東堂が手を叩く。

 

「切り替えるべきだ……実力伯仲の術師同士の鎬の削り合いから、如何に強敵相手に立ち回り自身の長所を押し付けられるかへと…今!!目標が変わっただけだ」

 

確かにそうではある、自分の実力を大きく上回る相手との戦闘でなければ得られないものも確かに多い……だが──

 

(((((東堂(コイツ)に言われるとなんか腹立つ)))))

 

京都高生の心が一つになっていた。

 

「それに…これ以上お義父さんと義兄さんの前で恥はかけまい」

 

東堂はビッ、と襟を正すと甚爾と恵の方へ向かっていく。

 

「初めまして…お義父さん!」

 

「……………あ゛?」

 

殆ど寝起きの甚爾は聞くだけで小動物なら殺せそうな声で聞き返す。

お義父さん?何言ってんだこのゴリラパインは

 

「私、美々子さんと菜々子さんの二人と結婚を前提にお付き合いをしようと思っている東どぅぅううぐぅ!!」

 

東堂のキモいセリフを聞き終わる前に、甚爾は躊躇無く東堂の額に火の付いたタバコを押し当てていた。

 

「てめぇ…頭ん中身までパイナップルか?とっとと失せろ…」

 

「お義父さん!!確かに娘さんを大事に想う気持ちはわかぐううぅぅぅぅ!!!」

 

2本目である。

 

「お、おとぐゔゔぅ!!お義父さぐゔゔぅぅぅぅ!!

聞いて下ぅぅぅゔ!!おぐゔゔぅ!!!」

 

口を開く度に額に押し当てられるタバコ。

既に東堂の額には六つの火傷(クリリン)が刻まれていた。

 

そんなこんなで、前途多難な京都姉妹校交流会は始まるのであった。

 

 

 

 


 

 

高ミナ乙女達

高田ちゃんと美々子と菜々子の三人からなる高身長アイドルユニット

結成理由は甚爾が居酒屋で偶々出会った高田ちゃんと意気投合した結果である。

 

メカ丸

もう少し後で誰にとは言わないが滅茶苦茶怒られる事になる。

「テメェ情報と違うじゃねぇかよ!!なんだあのバケモン達は!!」

 

花御

真人から学生同士の戦いと聞いていますが…心が痛みますね

この星の為とは言え…未来ある若者を手に掛けるのは




パパ黒と直哉が積み上げてきた好感度が……消えた…?


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3話

「フンッッッ!!ハァッッッ!!!!」

 

呪術高専、京都校の生徒及び引率の教師の為に用意された部屋から野太い声と機械の出す硬質な音が響く。

最新鋭のトレーニングマシンで己の上半身の筋肉を虐め抜くは誰であろう──京都校の学長、楽巌寺嘉伸その人である。

 

「クゥッッッッッッ!!ヌゥアッッッッッッ!!」

 

顔には玉のような汗が浮かび、一回毎に汗が周囲に撒き散らされる。

楽巌寺の使用しているマシンは、チェストプレスと呼ばれる物。主に上腕三頭筋や胸筋を鍛えるマシンであるが…楽巌寺はそのマシンにあろうことか、110kgの重りを載せていた。

チェストプレスは成人男性…それもジムに行き慣れたトレーニーですら80kgでトレーニングする者も多い。更に言えば、この110という数字はマシンの限界重量であった。

その証拠に、楽巌寺は既に数十回目となる反復動作を終えていた。

 

「フシュウゥゥゥ……いかんのう、チェストプレスは10RM*1が目安とわかってはおるが…こんな負荷では儂の筋肉ちゃんが大きくなれんわ」

 

マシンから立ち上がり、タオルで汗を拭い取るとため息をつく楽巌寺。ちなみにこのマシンの搬送・搬入にかなりの手間や時間が掛かる事へ苦言を呈されたが、全て捻じ伏せている。

 

「やはりバーベルを持ってくるべきじゃったか…」

 

ガシャガシャとシェイカーでプロテイン(フルーツ味)と水を混ぜながらぼやく。運動後のプロテイン補給をさっと済ませ、楽巌寺は備え付けの冷蔵庫からタッパーを取り出して中身を小鍋に移し火にかける。

 

「儂の筋肉ちゃん達がお腹が空いたと泣いておるわ…ふふっ、()い奴よ」

 

トレーニング後の45分はゴールデンタイムと呼ばれる。

何故か?理由は単純である。筋トレによる高負荷を掛けられた筋肉は損傷し、消耗する…しかし、その傷付いた筋肉達がタンパク質によって修復、増強される事によって筋肉というのは肥大していく。これを筋合成(アナボリック)と呼ぶ。

そのアナボリック、そしてその為に必要なタンパク質の供給はトレーニング後の45分間でピークに達する。一説にはトレーニング後45分間の筋肉へのアミノ酸供給量は実に平時の3倍ともなる。

故に、トレーニー達が涙を流して喝采するアナボリックの為にはトレーニング後の速やかなタンパク質補給が肝。

楽巌寺はタッパーの中身…鶏ささみとブロッコリーの豆乳スープを温め終わると直ぐに口へ運ぶ。

身体への負担を考慮し、人肌程度に温められたスープが喉を通り胃へ移動し、そして腸にて吸収されその栄養が全身の筋肉へと行き渡る。

楽巌寺は涙を流していた…悲しいのではない

これは感謝

自身の筋肉、その礎と成る食材達への感謝

そして、自身に筋肉の…『食』の喜びを教えてくれた一人の呪術師への感謝の涙であった。

 

 

 


 

 

楽巌寺嘉伸は、少し前までは骨に皮を張ったような…そんは貧相な身体であった。PFCバランスも考えず、筋肉ちゃん達の為のタンパク質すらおざなりにし碌に食べようとしない…そんな枯れた老人だった。

今にして思えば、自分は死んでいたのだろう…老獪が褒め言葉となる呪術上層部に長年身を置き、酸いも甘いも綯い交ぜに飲み干す生き方をしてきたツケと言えばそうだ。

食事は日に最低限…金を掛ければ形に成るかと高い肉を食えど、二口目に手が伸びぬ事などしょっちゅう。魚介が食事の中心になり…好物だった天ぷらも油に胃をやられると手が伸びなくなっていた。

 

人はパンのみに生くるものに非ず、されどまたパンなくして人は生くるものに非ず。

 

楽巌寺嘉伸は、死んでいたのだ。

生きながらにして、死んでいた。

他者の足を引き、自身の益に繋げようと考える者ばかりの世を見過ぎた。

他者の為に動ける者が、自身の為にしか動かぬ者に殺される世を嘆いた。

いつしか、喜びも悲しみも自身から切り離し『そうであるからそうする』という考えを徹底するようになった。

 

その男と出会ったのは、そんな人生に絶望することにも飽いてきた頃だった。

男は言った、『何故世界はもっとただ美味しく…そして平和にいられないのか』と。

男は言った、『何故世界には今だ貧困と飢えがあるのか』と。

男は、たった半日で呪術界の闇を…上層部の膿を照らした。

 

男の名は、夏油傑───呪術総監部の全員を強制的にドカ食い気絶させ肥満児にした罪で呪詛師認定されるも、その後他ならぬ呪術総監部の者達からの嘆願で特級術師へ返り咲いた男である。

 

夏油傑に肥満児へと変えられた人間の中に、楽巌寺も含まれていた。

楽巌寺は、医者からの苦言や動けぬ事で発生する命の危機の為に死ぬ気で減量を始めた……そして、再び知ったのだ。

厳しい食事制限の中で、医者に黙って食う海老天のなんと美味いことか。

長いランニングの後に、こんなに頑張ったのだと自分を騙して貪るジャンクフードのなんと官能的なことか。

 

足らぬを知る事で、楽巌寺は再び食の楽しみを思い知ったのだ。

そして、減量が終わった時…楽巌寺の身体は元よりも一回りも二回りも巨大に(おおきく)なっていた。枯れ木のようだった手足には健康的な張りのある肉が付き、落ち窪んでいた顔も健全に膨れ、皮が垂れ下がっていた腹にはうっすらと腹筋が浮かぶ程になっていた。

 

あの時の感動を…どうして言葉にできよう。

鏡の前で数時間、ともすれば一日は立っていた。

ぺたぺたと鏡と自分の身体とを触りながら、理由もわからず涙を流す。

 

食への喜び、食への感謝

肉への喜び、肉への感謝

 

楽巌寺は、夏油傑に生き返らせてもらったのだ。

命の恩人…どころではない。死んでいた自分に新たな命を授け…剰え、新たな生きる喜びまでもを教えてくれたのだ。

 

今や、呪術総監部はトレーニーの巣窟である。

溜め込むだけで碌に使いもしなかった年寄り達が、今や新たなマシンやプロテインが出る度に血眼になって買い漁る。

口を開けば政治や足の引っ張り合いしか出なかった口からは、今やどんなトレーニングをしているだとか食事のメニューがどうだ以外に無くなり。

出る杭を打つことしか考えなかった脳味噌は、今や如何にしてバルクを上げカットを際立たせるかしか考えていない。

今日も総監部からはマシンの音とプロテインを振る音が響き渡り、新人呪術師のコールが聞こえるという。

 

 

 

楽巌寺は目尻に溜まった涙を拭き取るとシャワーを浴びて交流会へ向かう生徒達へ発破をかけようと呼び集める。

 

魅せてやりたいのだ…かの夏油傑に!

貴方が救った者が育てた生徒達だと…貴方の望む世界を見たい者は、一人ではないのだと!!

 

 

 


 

 

「嘉伸!東京校の伏黒恵はやはり…俺の見込んだ通りの男だった!!」

 

東堂は嬉しそうに楽巌寺へ微笑みかける。

 

「じゃろうな、かの伏黒甚爾の息子…それはそれはワガママボディであろう」

 

そう、東堂葵に伏黒恵の事を伝えたのは他でもない楽巌寺なのだ。

楽巌寺は知っていた…総監部の老人達が臍を噛んで羨ましがる筋肉の持ち主、伏黒甚爾を。

あのバッキバキにキマったカット、上がり過ぎて外を歩けるか心配に成る程のバルク、服の上からでも隠しきれない程のデカさ…そんな筋肉の持ち主が甚爾である。

そんな筋肉に愛された男の息子…弱い道理があるまい。

 

「ああ…!一見すると細いが、体重は俺と変わらんかもしれん…!!」

 

しかし、そこまで知っていた楽巌寺ですら…東堂の報告に目を見開いた。

 

「馬鹿な…!!伏黒恵は175センチ程と聞く、葵と同じだというならば……っ!!」

 

「ああ…!おそらくスペック*2は──夢の50台の筈だ」

 

楽巌寺が膝から崩れ落ち、両手を握り祈るように掲げる。

 

「まさか……!まさかぁ…!!観音様が…」

 

「ああ…!正に神憑り的な肉体だ

一本一本が金よりも重く、ダイヤよりも貴重な筋肉だろう」

 

 

と、筋肉達磨二人がコントをやっている様を他の生徒は冷めた目で見ていた。

 

『また始まったカ…こうなると二人は長いゾ』

「はぁー…最悪、ちょっと止めてきてよ加茂くん」

「私!?」

「すいません…僕らやと力不足でして」

「お願いします、加茂先輩!!」

 

定期的に発作を起こす二人に加茂はおずおずと近付くと野生動物に話しかけるように怖怖と口を開く。

 

「そ、その……楽巌寺学長、そろそろ交流会に向けての話を…」

 

「葵、加茂は何kgくらいかの?」

 

「ふむ…」

 

東堂は素早く加茂の背後に回ると瞬時に羽交い締めにし持ち上げる。

 

「う、うおぉっ!?」

 

「ふぅ…相変わらず、性癖も薄っぺらいが肉体(ガタイ)はより薄っぺらいな

70…いや、服を抜けば目方は68kgといったところか」

 

加茂は血液を操作する自身の術式の都合上、頻繁に体重を計測している。自身の扱える血液量を直感のみではなく数値として理解する為だ。

そんな加茂が今朝測った体重が、68.0kg…東堂の言った通りである。シンプルに気持ち悪い。

 

「ふむ、儂も年かのぅ…最近、スペ値が100を割っとらん者の声が聞こえんでなぁ」

 

「加茂、性癖のつまらんお前に最早期待などしていない…

が!お前の術式の都合上、戦闘における肉体改造の占めるウェイトが他の術師よりも大きいのは明白!!

だというのに何故鍛えん!?何故己の肉体を蔑ろにする!?」

 

「あ…ええと……」

 

理不尽な罵倒と正論に殴られた加茂は何も言えず俯く。

こんなでも加茂家の次期当主筆頭候補である。

 

「東堂くん、今日は好きなアイドルの番組があるって先週から言ってなかったっけ?」

 

そんな可哀想な加茂へ西宮が助け舟を出す。

………実際は加茂が生贄としての役割を果たせなかったので仕方なくというのは密に、密に……

 

「ぬっ!!俺としたことが…危うくリアタイを逃すところだった、礼を言うぞ西宮!

嘉伸!伏黒恵は俺が相手をする!!それ以外は好きにしろ」

 

東堂はそれだけ言うと凄まじい速度で走り去る。巨体が走るその音に楽巌寺は満足そうに頷くと生徒達を見渡す。

 

「皆、己の筋肉に恥じぬ交流会にするように」

 

楽巌寺を除く全員のやる気が下がった。

 

 

 


 

 

「ん~、どうすっかな」

 

出自不明の帳、呪詛師の襲来…交流会の最中に起こったそれらの問題にも五条悟は呑気に赤福を頬張りながら考える。

 

(生徒達の方は…ま、問題ないな

そもそもアッチには傑が居るんだから何が来てもまぁ行けんだろ

呪詛師は……歌姫と楽巌寺(ジジイ)が相手してんのか

歌姫んトコには真希と真依に津美紀も居る、歌姫の術式の事も考えればこっちも問題ねぇな

ジジイの方は……)

 

 

「なんだその身体…ッ!オイオイオイ!!なんつー爆肉鋼体(ドスケベボディ)してんだこのジジイ!!!

こんなもん、俺に家具にされる為に産まれてきてんだろ…」

「ゴチャゴチャうっせぇ!あんま言ってっと家具にしてやんねーぞ!?家具にされたくねぇのかよクソジジイがよ」

「来やがれ、ドスケベジジイ!」

 

 

(うん……ま、なんとかなるだろ)

 

楽巌寺と戦闘中の呪詛師、組屋鞣造の気持ち悪いテンション

そしてそもそも、楽巌寺の気持ち悪いテンションと突然始まる自身の筋肉との会話が五条は普通に苦手であった。

 

「どうすっかな、このままここで茶菓子食ってても良いんだけど…」

 

本来…ここで五条悟は呪詛師の始末と生徒達を護る為に帳の破壊、侵入した特級呪霊の相手をしていた。

しかし、度重なるイレギュラーの末…五条悟の六眼が一つの呪力を感知した。

 

「お前、七海と灰原が言ってた呪霊だな?こんなトコで何やってんだ」

 

高専忌庫、種々様々な呪具を保管する其処に侵入し今正に呪物を持ち去ろうとしていた真人の前に立ちはだかる…五条悟(さいきょう)

 

『五条悟…!』

 

真人の総身に緊張と共に呪力が奔る。

 

「チッ…何やってんだって聞いてんだろ、頭使うのは傑の仕事だってのに…

まぁいいや……とりあえず、お前は殺す」

 

『ハッ…祓うの間違いだろ、呪術師!!』

 

正史に於いて、渋谷での時間稼ぎ…その一コマでしかなかったソレが異なる歯車の噛み合いにて全く別の様相を呈す。

蝶の羽搏(はばた)きが竜巻きを起こすが如く───

人の呪いと最強のマッチアップが実現した。

 

 

 


 

 

パチリ、パチリと硬質な音が響く。

頭に縫い目のある女は机の上に置かれた将棋盤を睨むと目を閉じながら天を仰いだ。

 

「私の負けだね…さっきまで駒の動きも知らなかったクセに、嫌になるよ」

 

『……一つ、聞かせろ羂索』

 

羂索と机を挟んで向かいに座る呪霊は丁寧に駒を片付けながら呟く。

 

「あぁ…そういえば負けたら言う事聞くって言ったっけ?

でも、縛りも結んでない口約束だよ?そこら辺…君には説明しなくてもいいよね」

 

『構わん…答えられぬなら答えられぬでいい

羂索、其方人等(そちとら)は…一体何を企んでいる?』

 

「……あのさぁ、もっと具体的に聞いてくれない?

何を企んでいるって…確かに私はお喋りだけど、懇切丁寧に一から説明する程に優しくないよ」

 

はぁ…とクソデカため息をつく羂索。

悔しい事に整った容姿のお陰でそれすらも絵になっていた。

 

『五条悟に夏油傑…何故最強二人の居る【今】事を起こす?

其方人等の術式ならば次の百年に賭けた方が余程建設的であろう』

 

「あー…そういうね…ん~~、まぁ………これぐらいなら教えても良いかな?

─────面白いと思ったから」

 

『……………なに?』

 

心底訳がわからないといった風に聞き返す呪霊。しかし、羂索はそんな事は関係ないとばかりに話し続ける。

 

「人は、山頂の景色に感動するんじゃない…自分が苦労して山を登り切った事実に感動しているのさ

ほら、よく言うでしょ?空腹は最高のスパイスって…アレと同じだよ

要は付加価値だよね…どんな美食でも飢え死に寸前で食べる腐ったパンに勝てないし、どんな名画も自力で登った山の景色には勝てない

だから──興味が湧いたんだ

現代最強の呪術師、夏油傑と五条悟の二人を欺き躱し…出し抜いて見る景色───一体、どれだけ面白いんだろう……!!

私は今、ヒーローショーの幕が上がるのを待つ幼子のような心持ちだ」

 

その瞳を爛々と輝かせる羂索。その輝きは美しい容姿である事を差し引いて尚、見た者全てに不快感と強い忌避感覚えさせるものであった。

 

「あとは…君のお蔭ってのもあるかな

最高に面白そう…でも、いかんせん戦力不足は否めないからね

だから、君には感謝してるよ───蝗骸(こうがい)

君が仲間になってくれたお蔭で、楽しめそうだ」

 

『お前達人間の機微など、呪霊である此方人等(こちとら)にはわからぬ…しかし、これだけは覚えておけ

此方人等の(なかま)に手を出してみろ…死を持って償わせてやるぞ、羂索』

 

呪霊の静かな、それでいて炎のように激しい気迫にも羂索は肩を竦めて笑う。

まるで、眼中に無いかのように

 

「怖い怖い…全く、仲間思いだね──呪霊のくせに」

 

『話は終わりだ…此方人等も高専へ向かう

真人と花御が向かっていて…万が一も無かろうが、それでも後詰めをするに越したことはあるまい』

 

精悍な顔つきの青年のような、四腕の呪霊…()()()()()()、蝗骸は自らの仲間の安否を確かめる為に東京へと向かう。

 

蝶の羽搏きは、未だ──止むことを知らない

 

*1
レペティション・マキシマムの略。簡単に言うとその負荷で何回やると限界かを表している…10RMだと十回が限界な負荷という意味

*2
身長から体重を引いた数字。本来は高い程良いとされる



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4話

「あー…かったりぃ……」

 

「やる気ないねぇ〜金ちゃん」

 

東京高専三年、秤金次は両手をポケットに突っ込んで大きく背を曲げて不愉快さを隠しもせずに森の中を歩く。

その秤の横を歩く同じく東京高専三年の星綺羅羅、メイクもバッチリ決まっており正に美少女……だが男だ。

 

「やる気なんざ出る訳ねぇだろ、呪霊祓いレースなんて直哉さんと甚爾さん居てどうやって負けんだよ」

 

そう、秤は端的に言うとがっかりしていた。東堂程ではないが秤とてかなり血の気が多く喧嘩っ早い方だと自覚している…喧嘩も勝負事も好き、ならば交流会など嫌う理由がない。

だというのに…コレだ。

禪院家現当主、禪院直哉と天与の暴君、伏黒甚爾

共に1級術師の中でも更に上澄み、限り無く特級に近い……否、特級の条件の一つとして【単独での国家転覆】という項目が無ければ今日にでも特級認定されても何らおかしくない実力者。

そんな二人が居て、どうやる気を出せるというのだろうか

 

「チッ…何が秤もきっと熱くなれるだ

五条先生のフカシだったな…こりゃ」

 

開始前の集まりであの二人とオマケのオッサンが参加すると聞いた時点で、本当は帰る気だった。

腹いせに近所のパチ屋にでも寄って、パーッと出して綺羅羅と旨いモンでも喰って…気晴らしに遠出でもしようかと考えていた。

そんな秤を、五条悟が止めたのだ。

必ず、自分に熱を感じさせる程の交流会になる…と言って。

 

「もしかしたらすごい呪霊が出るのかもよ?」

 

「だとしても2級ぐらいまでだろ、学生同士の戦いで術式持ち(準1級以上)なんて出さねぇよ」

 

そして、2級呪霊などもし仮に接敵したとしても相手にならない。

秤とて1級術師、2級呪霊相手に熱くなるほど弱くはない。

 

「ったく、せめて早く終わって──」

 

ピン・ポン・パン・ポン、という軽快な音と共に、会場の森の一帯にその放送は響いた。

 

『テステ〜ス!緊急連絡、緊急連絡でーす!!

たった今より、一発逆転の大大大大どぅぁあい!!チャンス!

たった一体で1億ポイントの呪霊を放ちまーす!

皆!!頑張ってね〜』

 

秤は呆けた綺羅羅と顔を合わせて、考える。

 

「一匹で1億点って……ひと昔前のクイズ番組かよ

……こりゃマジに1級呪霊ぐらい用意して──」

 

そのセリフを秤が最後まで言い切る事はなかった。凄まじい速度でこちらに向かってくるとんでもない呪力の持ち主を見つけたから──

 

『ドスコイ!!』

 

パワのある掛け声と共に跳躍!木々を避けることもなく飛び上がるとひねりを加えてキリモミ回転をしながらドリルめいて落下!

周囲の木々が薙ぎ倒され、周囲一辺が開ける程の衝撃と共に降ってきたソレは…

 

『ドーモ、ハングリースレイヤーです』

 

全身を恐ろしい赤黒に染め上げた装束に身を包み、金属のメンポで口元を隠す。そのメンポには恐怖を煽る字体にて『飢』『殺』の二文字。

ハングリースレイヤーは両手を胸の前で合わせると、秤達へ頭を下げオジギする。

 

イクサに臨むジュジュツシにとって、アイサツは神聖不可侵の行為。古事記にもそう書かれている。

アイサツされれば返さねばならない…!!

 

「……………何やってんだ、夏油先生…」

 

しかし、秤はオジギもなくアイサツを返さない…スゴイ・シツレイである。

 

『なんの事かな…?私はハングリースレイヤーだよ』

 

「いや、前髪そのまんまだし…声もこもってっけど全然変わってねぇし…」

 

秤はガックリと肩を落としながら眼の前の相手を見る。

そう、曲がりなりにもしっかりと視認していたからこそ…秤はそのアンブッシュになんとか反応できた。

 

『イヤーッ!!』

「あっぶ!!?」

 

危ない、と言おうとしたが左頬が避けきれず手刀で抉り取られる。正直に言って、反応出来たのは奇跡に近いだろう…そう自分でも思う程に速く、鋭い手刀だった。

 

『そのゲトー?とやらは知らないけれど…

このまま抵抗しないなら…君、死ぬよ?』

 

「…………良いな」

 

熱を愛する秤だからこそ、その言葉が嘘ではないとすぐにわかった。本当にこのままならば相手は…夏油傑は此方を殺す気で来るんだろう。

 

「最強が、殺す気でやってくれるだぁ?」

 

秤の口角が釣り上がる。

現代最強と呼ばれる呪術師が、殺す気で…本気で相手をしてくれるのだ、それで熱くならない奴など───

 

「サイコーだ!」

 

男じゃねぇ!!

 

領域展開──坐殺博徒

 

東京高専三年、秤金次。

特級術師、乙骨憂太がノッてる時は自身よりも強いと断言する男が今…現代呪術界の頂点へ挑む。

 

 

 


 

 

ズッ…と木の影から悍ましい呪力と共に人型の異形が現れる。

人間が森へ向ける畏怖から生まれた呪霊、花御は周囲の草花や木々に語り掛ける。

 

ningennokodomowomimasendesitaka?』

 

独自の言語体系を獲得する程の知能、そして漏れ出る呪力から花御の強大さと異質さが否が応にも理解させられる。

 

花御は草木からの返答に耳を傾けながら周囲の呪力を探る。

ここでは、少しわかりにくいので花御の言葉を翻訳させていただく。

 

『人間の子供は知らないが、女装したオッサンなら見た?

……………どうやらお疲れのようですね、後で腐葉土や堆肥を持って来ましょう』

 

周囲の草木から次々に報告される、女装したオッサンの情報。

花御は思った、やはり時間はあまり残されていない…自然はもう限界なのだと。

 

「禪院、禪院真希です」

 

独自の言語体系を獲得する程の暴力(しつけ)、そして漏れ出る呪力から眼の前の術師の実力と狂気が否が応にも理解させられる。

女装したポニーテールのオッサンが訳のわからない事を言いながら腰の刀に手をかけている。

 

花御は眼の前の全てが白昼夢であって欲しいと強く願っている。

 

ここでは、少しわかりにくいので扇の言葉を翻訳させていただく。

 

「見た所、草や木の呪霊…と言ったところか?

呪力から断ずるに等級は低く見積もって尚特級だろう、が…己の不運を呪うがいい」

 

本来、花御の言葉は独自の言語体系により音としては認識出来ずとも意味はテレパシーのように脳内に流れる。

しかし、扇の言葉はシンプルに伝わらない。ただの禪院真希ですを繰り返す女装したオッサンである。

 

禪院真希です(術式開放)禪院真希です(焦眉之赳)!!」

 

すなわち、こうなる。

刀を抜き放ちその刀身に業火を迸らせようと周囲にとっては禪院真希ですを繰り返すオッサンでしかない。

本人はややドヤ顔なところも含めて本当にどうしようもない。

 

(わからない、この術師の言葉の意味が…縛りか何かでしょうか?

炎の術式……地力の差があるとはいえ相性が悪い、騒ぎになれば五条悟や夏油傑も駆けつけてくる……

事が大きくなる前に速やかに仕留めるとしましょう)

 

花御は、今回の陽動作戦を自ら買って出ている。他の特級呪霊と比べても破格の耐久を誇り、更に森が広がるこの立地で生存に重きをおいた花御を易々と祓える存在などそうは居ない。

例え五条悟や夏油傑が来ようとも、生徒を盾にすれば逃げ切る事も可能…そう考えていた。

それは、決して間違いではない。むしろそれ以外に無いと言える程の最適解。

そんな花御に、誤算があったとすれば──

 

『さぁ、死して賢者となりなさい

 

──その場に、三人目の規格外が居たことである。

 

(……?なぜ、私の身体が眼の前に…?)

 

突如、視界が動いたかと思えば、眼の前に自分の身体がある。

まるで俯瞰視点のように術師と自身を見下ろして──

 

(違う!まるでではなく…私の首が、飛んでいるのですか!?)

 

自身の身体…しかし、其処にあるべき頭部はなく。上から見下ろすこの視点。

花御は混乱の極致に陥れられるも、なんとか体制を立て直さんと頭部のみで術式を発動させ…

 

「直哉!」

 

「はいはーい!!」

 

その花御の頭部が、一人の男に捕まえられた。

 

投射呪法のペナルティ、頭のみで…尚且つ捕まった状況でどうして己の思うように動けようか。

花御は天与の暴君と御三家当主の手で、戦う前に詰まされたのであった。

 

 

 

甚爾は釈魂刀で肩を叩きながら眼の前の首だけとなった呪霊を見つめる。

 

「いやー…それにしてもホンマに来るとはなぁ

()()()()()()()()()()()()!!」

 

「気ぃ抜くなよ直哉、コイツ一匹だけとは限らねぇからな」

 

直哉は花御の頭を適当に振り回しながら投射呪法で縛り続ける。

天性のコマ打ちセンス、もしくは人間離れした身体能力でも無ければ対応出来ない投射呪法であるが…ここまで乱雑に振り回されてはそのどちらもを持っていたとしてもどうしようもないだろう。

 

「大丈夫やって!甚爾くんと僕、ついでに扇のオッサンまで居るんやから…特級でもなんでも掛かってこいってモンや」

 

「禪院真希です…」

 

「だと良いがな」

 

甚爾はバキバキと首を鳴らしながら五感をフルで働かせる。

 

(帳が降りてやがるな…だが、中の呪霊はコイツ一匹

外も騒がしいが、五条のアホがなんとかすんだろ)

 

帳内の広大な範囲を即座に索敵し終えると甚爾は大きく息を吐いて呪具を片付ける。

 

「直哉、帰んぞ」

 

「はいはーい!」

 

甚爾の言葉に直哉もまた緊張を解いて後ろにぴったりと付いて行く。

 

「アイツには、また借りができたな」

 

甚爾はそう独りごちる、その顔は…嬉しそうに笑っていた。

 

 

ピッチピチの女装をしたオッサン三人組という点を除けば少しエモかったかもしれない。

 

しかし、何故甚爾が花御の高専襲撃を予期できたのか…?

話は、数日前に遡る。

 

 


 

 

「高専が襲撃される〜〜!?」

 

痛々しい火傷の跡が目立つ金髪の美丈夫、禪院直哉はそんな馬鹿なと言わんばかりに驚く。

 

「いやいやいや、流石にあらへんて甚爾くん…高専襲撃やなんてどんなアホでも考えさえせんで?」

 

東京高専、直哉自身も所属する其処には特級術師である五条悟と夏油傑…更には乙骨憂太の三人が居る。当然ながら直哉や眼の前の甚爾も対人に限るならば特級術師とさえ見劣りしない実力者であるし、直哉の旧友である二人の1級術師や反転術式を唯一他者に施せる家入硝子の存在etc…

等々、東京高専には恐ろしい程の実力者達が居る上に天元による結界まであるのだ。

だからこそ、直哉の馬鹿でも考えつかねぇよそんなモンという評価は正しい。正しいが……

 

「アホで悪かったな……」

 

過去に高専を襲撃した誰かさんはこめかみに血管を浮かべながら直哉にアイアンクローをかました。

 

「ぐわああああ────ッ!!な、なんで甚爾くんが怒るん!?」

 

「ともかく、だ

俺が腐ってた時からの連れがそう連絡してきやがった…ムカつくが腕は確かだからな」

 

万力のようなアイアンクローから解放された直哉はぺたぺたと頭を触って頭蓋骨が変形していないか確認しながらコクコクと相槌を打つ。

 

「腐ってた時って…術師殺しやってた時やね?

そん時の知り合いって……あの刑事さん?」

 

「元な、今は情報屋兼斡旋業者ってトコか」

 

裏専門のな、と〆る甚爾。ちなみに直哉からすれば孔時雨は伏黒宅へ遊びに行けば五回に一回は居るオッサンという認識である。

 

「へ〜…でも、情報屋やからって高専襲撃(そんな)情報仕入れれるもんなん?」

 

「あのなぁ……情報なんざ手間と時間と金さえ掛けりゃ誰だって掴めんだよ

だから、本当に腕の良い情報屋ってのはその掴んだ情報から何が起こるかを商品にする」

 

「……………??」

 

こてん、と可愛く小首をかしげる直哉。

なお、二十代後半の成人男性のソレは甚爾の舌打ちで返された。

 

「例えば、どっかが戦争しようとしてるとして…その国で急に武器の輸入が増えたっつー情報を掴んだら、お前はどう考える?」

 

「えーっと……そろそろ戦争が始まるんやなぁ…とか?」

 

「2点」

 

「ひっっっく!!?なんでなん!??」

 

「そんなもんガキでもわかんだよ

孔時雨(アイツ)なら輸入した武器の種類から仮想敵を割り出して、その仮想敵の敵国相手に商談持ってくだろうよ」

 

「はえ〜」

 

「そんな奴が、高専周りがきな臭えって連絡寄越してきやがった」

 

甚爾の顔がキュッと真面目モードへ変わる。

 

「高専相手にマジにやり合うなんて考える奴らだ、集められてるであろう呪詛師のリストも送らせたが…俺も知ってる奴らが何人か居やがった」

 

「甚爾くんが知ってるって…それは、術師殺しが仕留め損ねた相手ってこと……?」

 

ゴクリ、と直哉の喉が鳴る。もし、そんな相手だと言うなら…自身ですら勝てない可能性も──

 

「いや、仕留め損ねたっつーか……

依頼金の倍額で雇われ直してたっつーか……」

 

「えぇ………?」

 

甚爾の目が無茶苦茶泳いでいる。というか汗が凄い。

 

「いや……その……な?二億で雇い直すって言ってきたから……」

 

そう、かつて術師殺しは呪詛師達…オガミ婆や粟坂二良らと対峙し、ボコボコにした過去があった。

そもそもが呪詛師稼業…恨みを買う事がステータスになるような世界に生きるプロなのだから術師殺しに依頼が届くのも当然と言えよう。

 

この因果は、後にオガミ婆が【最も強い人間】を降霊させる際に迷わず甚爾を選ぶきっかけにもなっていたりする。

 

「まぁ、なんだ……ガキ共じゃ荷が重い相手なのは間違いねぇ

だから、交流会に俺らも参加する」

 

「…………まぁ、言うてる事はわかったけど」

 

「よし、じゃあお前…真希か真依から制服借りてこい」

 

「…………ハァ!??」

 

「はぁじゃねぇよ、今回の相手は態々交流会の日を狙ってきてやがる…内容も場所も機密の筈のな

だから、内通者を疑った方が話が早いんだよ」

 

「それと二人から制服借りるんがどう関係あるん!?」

 

「馬鹿正直に俺達が参加しちまえばその情報が漏れるかも知れねぇって事だ

俺達が参加するって知れれば向こうは違うタイミングでコトを起こす可能性がある…んで、それを今回みてぇに予期出来るかって言うとそうじゃねぇ

だから、俺は伏黒津美紀でお前は禪院真希か禪院真依として参加する」

 

「いや……わかるよ?言ってる事はわかるけども……!!」

 

「んだよ、ガキから制服借りるだけだろ?」

 

「あのなぁ!!僕は今なんや知らんけど滅茶苦茶真希ちゃんと気不味いんやで!!?術師なんぞなるなってあんだけ言うたのに勝手に高専入るし!!真依ちゃんも着いてってまうし!!!!

そんな二人から制服借りるって………無理やん!!

しかも万が一!万が一この情報がハズレやったら!??

そうなったら僕ら制服借りるだけ借りて特に何もないモンスターやで!??」

 

涙目になりながら叫ぶ直哉。残念ながら思春期である二人の家族の気持ちはまるで理解できていない。

 

「何も無かったらね…そりゃそん時が一番良いだろ

俺とお前が親馬鹿だって笑われるだけで済む」

 

叫ぶ直哉を肴に缶ビールを呷る甚爾。

その顔は、慈愛に満ちた…親の顔だった。

 

 

 


 

ハングリースレイヤー

推定特級呪霊…?

底無しの呪力と高い近接戦闘能力を持つ。

前髪を馬鹿にすると白いのと共に相手を捩じ切ろうとするぞ!!

 

花御

このあとスタッフが美味しくいただきました

 

伏黒津美紀

急に父親が制服を貸せと言ってきたので正座させてお説教をした。

でも、自分を心配しての事だとわかったので最終的には貸した。

 

禪院真希

貸せなんて言われてない

 

禪院真依

なんで言ってくれないの?

 

禪院扇

禪院真希です…

 

禪院直哉

賢いので呉服屋で制服を買った

 

羂索

キッショ…じゃあなんでピチピチなんだよ



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5話

今回は短めです


やっぱり…思った通り!

 

「チッ、逃げんなゴキブリ!!」

 

「無駄無駄、そんな攻撃…何回やっても同じだよ」

 

五条悟は魂を知覚していない…!!

 

高専忌庫の前で五条悟は未だ真人と戦っていた。

否、戦うと言える程にそれは公平ではない。五条悟が一方的に真人を殺して解して並べて揃えて晒して刻んで炒めて千切って潰して引き伸ばして刺して抉って剥がして断じて刳り貫いて壊して歪めて縊って曲げて転がして沈めて縛って喰らって辱しめて、自身にできる全てをもって蹂躙していた。

しかし、それでは真人は祓えない。

真人の術式【無為転変】は自身と自身が触れた対象の魂を変化させる。故に魂を肉体の上位に置く真人にとって、肉体の欠損はなんら意味を為さない。

 

驚くべき事に、真人は既に2分間もの間五条悟から命を狙われながらも生存していた。

 

(今は増援を警戒してか使ってこないが…そろそろ拙いな、流石に領域を使われちゃどうしようもない)

 

しかし、当然ながら追い込まれているのは真人である。

五条悟には魂に攻撃出来ずとも此方を戦闘不能にする術が…領域展開【無量空処】がある。

 

真人が恐れるべきは、その一点のみ。

更に言えば自身も領域展開を習得している真人は逃げる事のみを考えるならば五条悟に領域を使わせたとしても逃げ切る算段があった。

 

しかし、真人は理解していなかった

否、理解していた。これまでの戦闘で文字通り骨身に染みて理解していた…

それでも、真人は理解していなかった

 

現代呪術界の頂点を───最強、五条悟を

 

「面倒臭ぇな…」

 

五条はぼそっと呟くと掛けていたサングラスを握り潰す。

その下には、丁寧に研磨された宝石を思わせる蠱惑的な瞳

名を六眼、全てを見通す因果の一つ。

 

「位相、波羅蜜、光の柱」

 

五条がこの日初めて紡ぐ、無下限呪術に定められた呪詞の詠唱。

現代最強が放つ、渾身の一撃。

 

「術式反転【赫】」

 

五条の指先から放たれた無限の発散は抵抗なく真人の腹部とその後ろの山肌を大きく削り取った。

 

「どんなに強力な一撃だろうと…」

 

真人の腹部が瞬く間に、逆再生のように復元される。

 

「魂に響かないオマエの攻撃は無意味なんだって──」

 

先程までの焼き直し、真人にとって肉体の欠損はなんら意味を為さない。

肉体『の』欠損は

 

「……あれ?」

 

ごぼっ、と真人の口から血が溢れる。

五条はそれを視認すると同時に駆けた。

 

(まさか…まさか…っ!!コイツ、六眼を──俺の術式を通して、知覚したとでも言うのか…ッ!?魂の──輪郭を!)

 

五条悟を知る者は皆こう囁く───【天災】五条悟。

 

黒閃

 

気安く振るうその一撃が、並の人間の全身全霊

凡人がその生涯をかけて辿り着く境地に遊び半分で手が届く

故に天才、それ故の天災

同じ生物であると認める事が、自身の不出来を認める事に等しい程の才能

五条悟の拳は、黒い火花を伴い呪霊の四肢を吹き飛ばした。

 

「………で?てめえは誰だよ」

 

五条の前に、四肢を…交差した四本の腕を吹き飛ばされた()()姿()()()()が立ちはだかる。

 

恙無(つつがな)いか?真人』

 

蝗骸(こうがい)!!』

 

呪霊は誰何の問いに答えず、呪力を巡らせ腕を直す。

 

(………面倒だな、コイツ)

 

五条は苛立ちで更に眼を鋭くする。

 

(六眼でも術式が視えない…まず間違いなく呪具か何かで隠蔽してやがる

それに、感じる威圧感と呪力もチグハグだ…呪力操作が相当巧い

つまりこの呪霊は目の前のツギハギや傑が言ってた火山頭より──ずっと長く存在してる可能性が高い)

 

『恐ろしい…恐ろしいぞ、五条悟

此方人等(こちとら)を、虫の如く踏み潰せる筈の此方人等を些少の油断も無く警戒するその在り方が…此方人等は堪らなく恐ろしい』

 

「怖えなら目でも瞑ったらどうだ?

気付かねぇくらい一瞬で祓ってやるよ」

 

五条の安い挑発にも蝗骸は取り合わず…スッと手を上げる。

 

『合わせろ…領域展開

 

「あ゛!?」

 

それは、五条をして想定外の行動。

呪霊の領域展開、それは現代最強との正面対決を意味していた。

 

「チッ…領域展開──無量空処

 

必中必殺の領域を持つ真人の情報を受け取っていた五条は迷わず自身の領域を展開する。

異なる生得領域によって構成される二つの領域、その外殻が接触する──それよりも速く

 

領域展開──自閉円頓裹

 

真人の領域が展開された。

蝗骸の狙い、それは──三つの領域による、必中効果の争奪戦。

二者間のソレと比べ遥かに難度の増す三者間での領域合戦、更には三つ巴では無く2体1…如何なる天才と言えど、確実に始末し得る程の圧倒的不利条件。

 

「驚いたよ…マジで」

 

しかしそれは、相手が───ただの天才であった場合である。

 

「この程度で俺に勝てると思ってる、ちっちぇ脳味噌にな」

 

五条悟の領域展開から僅か4秒…蝗骸と真人の領域が、破壊されようとしていた。

 

『己の生得領域を呪力という絵の具で現実に描き出す…それが領域展開

そうだとするならば、領域外殻はさしずめカンバスと言ったところか

恐ろしい男よ…三者間の領域展開、吹き荒れる嵐の前でカンバスに砂絵を描くが如き御業』

 

蝗骸の顔には、未だ…恐怖も焦りも無い。

全てが…想定通りである為に。

 

『恐ろしい…故に、備えるのだ

五条悟、其方人等(そちとら)は知らぬだろう

五条悟、其方人等は知れぬだろうよ…あまりにも強くあるが為に───弱者の狩りを、其方人等はまるでわかっておらん』

 

領域展開

 

構築される、()()()()()()

蝗骸の狙いは最初から───

 

『遅いぞ、朧絶(ろうぜつ)

 

『おやぁ?貴方が手間取っているから手を貸しているというのに随分な物言いではありませんか?』

 

──四者間での領域合戦

 

「……………クソッ」

 

硬質なガラスが砕けるような音と共に、全員の領域が破壊される。

 

『三者間ですら神業と言う他ない…だからこそ、其方人等ならば出来るであろう

だが───四者間、描くカンバスすら無ければ仕様があるまいよ』

 

領域展開直後は、脳の術式に関係する部分が焼き切れ生得術式の使用が困難となる。

それは、例え五条悟と言えど──例外ではない。

 

「領域も術式も無し…で、小細工は終いか?」

 

しかし、しかしながら……領域の無駄打ちによる術式の制限──それを小細工と斬って捨てるだけの実力差が両者にはある。

 

『まさか!これからが本番ですとも』

 

『そういう事だ』

 

朧絶の声に反応し、のっぺらぼうのような呪霊が四方へ駆ける。

それに合わせ、蝗骸の身体からけたたましい騒音と共に黒い波が──飛蝗の群れが飛び立つ。

 

「……は?」

 

『此方人等の式神…等級にして1級以下であれば触れるだけで死は免れまい』

 

『此方も選りすぐりの術式を持って来ましたとも!

そちらの等級で言うならば放った8体の全てが1級!さぁ、速く追わねば…大事な足手纏い(お仲間)が死にますよ?』

 

空を黒く覆う程の飛蝗の群れ、その一匹一匹が…必死の威力を持つ純粋なる呪力の爆弾。

術式が焼き切れようと、六眼が二人の言葉に嘘は無いと伝える。

 

一瞬、刹那の逡巡──

五条悟、生まれて初めての敵前逃亡

 

「お前…(ツラ)覚えたからな──次は祓う(ころす)

 

『そうか、それは恐ろしい…なるべく早く忘れてくれ』

 

ダンッ、と地面に罅割れを作りながら飛び上がる五条。

 

『………ふぅ、帰るぞ真人、朧絶』

 

『ハーイ!あんがとね、蝗骸!!』

 

蝗骸はそれを見る事もなく背後の二人を連れ、帰路に…

 

『待ってください、蝗骸

五条悟は今術式の使用が不可能…つまり、厄介な無下限のバリアとやらも無いのでしょう?

ならば……ここで狩ってしまいましょう!

先程も言いましたが選りすぐりの術式を連れて来ています、如何に五条悟と言えどアレ等を倒すとなればかなりの消耗を…』

 

『朧絶、五百放った此方人等の式神がもう百を切った…帰るぞ』

 

五条悟が去った事で蛇口が壊れたかのように噴き出す汗を振り払いながら蝗骸は二人の腕を引く。

 

『ば、馬鹿な…私の作品が……全滅……ッ!?』

 

『やーい!怒られてやんの〜』

 

放った呪霊の全てが祓われた事を知覚し、震える朧絶をせせら笑う真人。

その手には、高専忌庫より奪い盗った呪物が。

 

『フ、フフ…今は、今は敗れておきましょうとも!

ですが…次はこうはいきませんよ!!』

 

決意を新たに燃える朧絶を無視して二人は飛ぶように駆ける。

 

 

その数十秒後、砲弾のように三人が居た場へ五条悟が着地する。

あまりの衝撃にクレーターができるも気にかけず辺りを見渡し、舌打ちを一つ。

 

「足の早い…ゴキブリが!」

 

現代最強の呪術師は高専敷地内に放たれた五百体の式神と八体の1級呪霊を

領域崩壊後僅か82秒で鏖殺!!

 

 

 


 

 

真人

死にかけたが、五条の領域という最高峰の手本を間近で見た事で自身の領域を更に洗練した。

 

朧絶

大人気スマホアプリ【呪術廻戦ファントムパレード】に登場するので誰?となった兄貴はプレイしよう

術式名【奸骨奪胎(かんこつだったい)

他者の術式を奪い他者に分与する術式。

 

蝗骸

この後花御が美味しくいただかれた事を知り号泣することになる

術式名【餓喰呪法(がしょくじゅほう)

使役する飛蝗の式神に付与されている。

 

五条悟

原作より明らかに強化されている天災

そら切磋琢磨できる親友がいるならそうなる

外面担当(夏油)が居る為、原作よりも短気で粗暴。



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