歴史の立会人に (キューマル式)
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第01話 シロッコ、ジオン軍に立つ

ガンダムカードビルダー稼働当時、執筆していた作品。

パプティマス様はオカルト以外では倒せなかった最強の敵だと思うんですがどうだろう?




 

 さて突然だが……『転生』というものをご存知だろうか? 

 二次創作などでテンプレートともいえるもので、大概の場合、間違いで殺してしまった神様が何かしらの能力を与えて漫画などに酷似した異世界へ送ってくれるというものだ。

 まぁ、物語を面白おかしくするための味付けといったところだ。

 これだけで『転生者』というものが酷く荒唐無稽なことはわかるだろう。しかし、『転生者』と言われる者は、実は本当に存在する。

 何と言っても……この私がそうなのだから。

 

 とはいえ、私も『神』などという者に出会ったことなど無い。

 私の場合、ある日気がつくとある人物になってしまっていたという、転生というよりは『憑依』といった方が正しい状態だ。しかしながら、その人物が将来有するだろう才能をすでに知識として得てしまっているところは、なるほどよく聞く何かしらの特典を付けてくれる神様転生というやつに類似している。

 そう、私は現在自分が『憑依』している人物が誰なのか理解しているし、ここがどんな『世界』であるかも理解している。この人物が将来開発するだろう理論やシステムも、すでにこの頭の中にある。

 だがしかし、私とその『人物』はすでにイコールでは繋がらない。それは私がいる状況が、すでに私が知るはずのその『人物』とはかけ離れてしまっているからだ。

 この『世界』に産まれ落ちてから十数年、今までの自分の辿ってきた人生は、もはや私の知る『人物』のものではない。

 これは気まぐれな神のいたずらか、はたまた悪魔の導きか……。

 

「ここに居たのか」

 

「ん?」

 

 見れば私を呼ぶのは、私の良く知る友である。

 

「ドズル学校長が君と私をお呼びだ、シロッコ」

 

「そうか、やっとか……今行く、シャア」

 

 私は読んでいた本を閉じると、シャアと共にこのジオン士官学校の校長室へと向かっていく。

 

 

 そう、何の因果か、私は『初代ガンダムの世界』で、どういう訳か『パプティマス・シロッコ』として友である『シャア・アズナブル』とともにこのジオン士官学校で過ごしている。

 

 何故、こんなことになったのか……?

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 そもそも、私はごくごく平凡な学生であった。別に死んだという記憶があるわけではない。そんな私は気付いた時には、赤子として父と母に抱かれていた。

 何が起こったのか混乱する私の視界に飛び込んできたのは巨大な木星の威容、同時に呼ばれる名前と何処からか流れ込んでくる未来の技術知識に、自分が『パプティマス・シロッコ』としてこの世界に生を受けていることを理解した。

 

 確かに、私はガンダムという作品において『パプティマス・シロッコ』というキャラクターは大好きだ。優れたニュータイプとしてのパイロットスキル、ティターンズを乗っ取るまでの策謀と知略、そして優秀すぎるMSを自力開発する天才性……その思想や狙いについては疑問な点も多いし人を道具として利用する尊大な態度はいささか問題だが、能力でいうなら個人的にはガンダムシリーズにおける最優秀の人物であると思っている。

 また、その搭乗MSにおいても私は大好きだ。

 転生する前にはほとんど誰にも理解されなかったが、シロッコの『ジ=O』を私は至高のMSの一つとして推している。

 一見すると武装はビームライフルとビームサーベルのみ、その後に現れたファンネルなどの特殊装備を持ったMSと比べるとかなり地味な印象を受ける。さらに独特なずんぐりとしたフォルムは鋭角的なデザインの多いガンダムにおいては見劣りするかもしれない。

しかし、そこがいいのだ。あくまで信頼性の高い基本装備であるビームライフルとビームサーベルだけを採用。そして全身にくまなく装備されたアポジモーターと機体追随性を驚異的に上げるバイオセンサーを装備。

 モビルスーツに必要なものは特殊な機構ではなく、自分の思い通りに素早く動く運動性。武器は信頼性の高さを重視し冒険はせず、しかし隠し腕というギミックによる近接奇襲が可能。美しすぎるコンセプトだと思う。

 

 とにかく、よく分からないがこうなってしまっては『パプティマス・シロッコ』として生きるほか無い。私は産まれた木星船団での幼少期、出来る限りのことをした。各種論文を読み漁り、暇があれば機械をいじり作業用重機(のちのプチモビ)を動かしては自らを鍛えた。さすがは『パプティマス・シロッコ』の身体、知識も操縦技術もすんなりと入っていくし、木星という環境のおかげかいつの間にか危機察知能力や空間把握能力が尋常では無くなる……私は幼くして『ニュータイプ』として覚醒していた。

 幼い子供であった私の行動は良く奇異の眼で見られたものだが、そんなものは関係ない。この世界はこれから大きな戦火に巻き込まれていくのだ。自らを鍛えなければどこで死んでしまうか分からない。

 無論私は、私の知る『パプティマス・シロッコ』のような最後を遂げる気はさらさら無い。そもそも、中身である私がごくごく平凡な一学生だったのだ。知識や能力が幾らあろうが、大それた野望など持ちようはずもない。増長と慢心、そして他者への尊大な態度は敵だ。

戦争に関わらず技術者として生きてもいいし、このまま木星船団で過ごすのもいい。とにかく、私は歴史の中心にいるつもりはなく、歴史の傍観者になろうと心に決めていた。だが、その破綻はまるで定められたかのように突然だった。

 

 木星船団も地球圏に帰還し、私は初めて見る地球に興奮を隠せないでいた。その時我々が滞在していたのは奇しくもあのサイド3である。何でも、母がこちらの出身だったのだそうだ。

 だが地球連邦との関係も日に日に悪化していくこの時期だ、私はテロ事件に巻き込まれ両親を失ってしまう。

 身寄りとなるものを亡くした私だったが、そこに母と既知の間柄だと言う女性が私を引き取りたいと言い出したのだ。

 その女性の名とは『アストライア・トア・ダイクン』……あの『ジオン・ズム・ダイクン』の妻であった女性だった。かくして私はアストライア・トア・ダイクンにより引き取られ、彼と、のちの『シャア・アズナブル』ことキャスバルと出会ったのである。

 アストライア・トア・ダイクンは真に素晴らしい女性だった。私に本当の息子同然に愛情を注いでくれたのである。あの包み込むかのような母性はなるほど、かのシャアがララァ・スンの中に母の姿を求め続けたのも頷けた。実際に私もこの新しき優しき母や、私を迎え入れてくれたジオン・ズム・ダイクンには心からの感謝をしているし、情愛は尽きない。

 そんな生活の中、自然と私は新たな家族であるキャスバルとアルテイシアとの関係も築いていった。

 正直に言って私の前世(と言っていいものか?)の記憶のせいでシャアの印象はよろしくなかった。あのアクシズ落としに関しては擁護出来ない下策であったとも思う。しかし幼いせいか素直かつ真面目なキャスバルを実際に前にするとそんな気も失せ、経験によってああも変わってしまったのだろうと納得するとわだかまりは消えていた。何より同い年の友人のいなかった私にとっては同い年の同性の初めての友人だ、彼とは素直に友誼を結んでいた。

 一方のアルテイシアも私のことを『シロッコ兄さん』と呼び、キャスバル同様に懐いてくれた。

 

 しかし、そんな生活も数年で終わりを告げる。ジオン・ズム・ダイクンの暗殺である。

 私も前世の知識を使って何とか止めようと考えたが、当時の私は10にも満たない子供だ。注意を促すことが精々であり、どうしようもなかった。

 その後のことは、今思い出しても悔しさが募る。ザビ家からのキャスバルとアルテイシアとの逃亡の日々、尽力してくれたジンバ・ラルの死、そしてそんな中でのアストライア・トア・ダイクンの死……それを前に、私とキャスバルはザビ家への復讐を誓い合ったのである。

 

 

 そしてその計画の第一歩として私とキャスバル……シャアはジオン士官学校へと入校したのだ。

 ジオン士官学校では、私とシャアはとにかくその存在感を示すことにした。訓練・試験での成績はもとより私の方はいくつかの論文も発表し、技術者としての側面も発揮。

 またジオン士官学校での重要人物であるガルマ・ザビへの接近も行った。今ではガルマは私とシャアを友として手放しで信用している。ザビ家の者ではあるが、この素直さに関しては正直好感が持てた。

 

 そしてUC0078、現在であるが私たちは一つの事件を起こした。あの『暁の蜂起事件』である。私とシャアによって提示された作戦、そこに我々によって誘導されるようにガルマが立ち、連邦軍駐屯地へと突撃を行ったのである。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「まぁ、こんなものだろう」

 

「私の予想通りだな」

 

 ドズル学校長に呼び出されお決まりの罵声の後、私とシャアは学籍を抹消され除隊処分を言い渡されたが、それは始めから想定内の出来事だ。

 

「なに、しかし短い間のことだ」

 

 もうすでにジオンと連邦の間で緊張はどうしようもないほどに高まっている。そうかからずに、我々も呼び戻されることだろう。

 

「その間君はどうする、シャア?」

 

「地球へ降りる」

 

「……南米か」

 

「さすがの洞察力だな、シロッコ」

 

「なに、君の能力と考えを読んだだけのこと。

 君ほどに優秀な者ならそう出るだろうと思ったまでだ」

 

「君に言われると世辞と分かっていても、悪い気はしないな」

 

 そう言ってシャアは笑う。

 

「そう言う君はどうする、シロッコ?」

 

「私か? 私はもう決まっている」

 

 そう言って、ビッと掲げるのは一通の手紙のようなものだ。

 

「あの坊やに頼んで紹介状をしたためてもらった。

 権力やコネというのはこういう時こそ使うべきだ」

 

「開発か……」

 

「連邦との戦争は、もはや避けられん。

 優秀な兵器はいくらあっても足りまい」

 

「その通りだな」

 

 そう言って、私とシャアは交差点へとやってくる。

 

「ではな、地球では気を付けろシャア」

 

「君もな。

 君の造った兵器で戦えることを楽しみにしている」

 

「期待には応えよう」

 

 そう言って互いに笑い合うと、私とシャアは別れる。だがその道が再び交わるのはそう遠いことではない。

 時に宇宙世紀0078、戦争の足音は近くまで来ていた……。

 

 

 

 




とりあえずの第一話でした。
次回からはツィマッドのお話に行きます。

ドム……カッコイイですよね?


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第02話 ツィマッド社

ツィマッド魔改造。
ジオニックの汚い陰謀さえなければ、ヅダはザクに勝っていたのだ!!

とりあえずドムが欲しい……。


「ふん……このデータならば目標値の達成は確実だな」

 

「す、凄い。

 この改善ならエンジンの安全性もばっちりだ!」

 

 私の試作した図面とシミュレート結果に、研究員が驚きの声を上げるが私にはここから先の時代の技術理論もある。この程度は出来なければ困るのだが、そんなことを言う訳にもいかず、謙虚なように返す。

 

「何、驚くようなことではない。

 君たちの基礎設計が優秀だっただけのこと。 私は少々手を加えたにすぎんよ」

 

「……君のような天才が『あの時』にいてくれたら、こいつは今頃主力MSだったろうに……」

 

 そう言って悔しそうに研究員が見上げる先には一機のMSが鎮座している。

 『EMS-04 ヅダ』だ。

そう、今私がいるここは『ツィマッド社』の研究施設である。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 シャアと同じく除隊処分となった私はガルマにしたためてもらった紹介状で、『ツィマッド社』に技術者として潜り込んでいた。

 何故そうしたのかと言われればそれは単純、連邦に勝つためにである。

 すでにジオンは私の故郷も同然、敬愛する母の1人であるアストライア・トア・ダイクンの故郷でもあるし、それを既得権益にしがみ付いた連邦上層部に巣食う俗物どもに蹂躙されるのは耐え難い。

 それに私の実の両親を巻き込んだテロも、裏には連邦軍があったことは知っている。そう言う意味では連邦も私の復讐の対象だ。憎きザビ家に加担しているような形になるが、負けてしまってはどうしようもない。

勝つためには技術力を高めねばならないため、私は技術者という立場で『ツィマッド社』へとやってきたが、これが曲者である。

私の頭の中にはすでに愛機とも言える『ジ=O』の設計が出来上がっている。造れと言われれば、資材と時間を潤沢に与えてくれるなら造ることは出来ようし、もっと時間さえあればさらに研究を進め、それこそ『タイタニア』や『サザビー』にも至ってみせよう。だがジ=O……もっと言えばその技術すべてをすぐに公開することは危険であるとも考えている。

この世界は前世の私(一般人の学生)の知る『初代ガンダム』の世界と酷似しているが、私の存在という異物によってどう変わるか分からない。さらに技術を公開したことでそれが漏れ、私の知らないような敵が現れてしまっても困る。

そこで私は技術者という身分で、少しずつ技術を開放、MS技術の成長を後押しし、加速させることにしたのだ。

 

 

 では何故、私はその技術の提供先に『ツィマッド社』を選んだのか……これはガルマも頭を捻っていた。『ジオニック社』の方がザクを正式採用しておりMSのノウハウは多いのでそちらの方が良いのではと勧めてくれたが、私はあくまで『ツィマッド社』で頼んだのだ。

 『ツィマッド社』と言えば一年戦争での名機である『ドム』を作ったメーカーである。その他にも『ヅダ』に『ゴッグ』と中々に面白いものを造っているし、それらに装備するジャイアントバズや135mm対艦ライフル、ゴッグの腹部メガ粒子砲など武器も優良だ。そして極めつけは『ゲルググ』と時期主力量産機の座をかけて争った『ギャン』だ。ゲルググとのコンペに敗北したギャンだが、そのコンセプトは『ガルバルディα』、その発展機である『ガルバルディβ』、そしてアクシズの『Rジャジャ』と続く優秀な機体だ。特にギャンに搭載された『流体パルスアクセラレーター』のシステムはMSの運動性を大きく向上させる優れたシステムである。それらの技術の早期導入が私の目的だ。

 つまり、まとめるとこうなる。

 

 

1、ドムの早期開発によるジオン軍の戦力増強

 

2、有用な武装の開発

 

3、MSの運動性向上のための技術の促進

 

 

 こんなところか。

 ドムは私の知る一年戦争でも優秀な戦果を上げた傑作MSだ。これが早期に投入できれば数で劣るジオン軍にも勝ち目はある。少なくとも、その後の高性能MSの投入までの時間稼ぎにはなるだろう。とにかくドムの開発は最優先の課題だ。

 次にMS用の武装の開発。MSの武装はビームが中心になっていくし、私の中にはそのために必要なエネルギーCAP技術の理論はある。しかしそれをすぐに公開するのも考えものだ。ビームライフルに代表されるビーム兵器はその整備に高い技術が必要となるが、今後の劣悪な環境下で補給も細々とした地上侵攻作戦を考えるとビーム兵器の維持は難しいし、大気中でのビーム兵器は威力が減じられる。無論、ビーム兵器は今後絶対に必要になるため開発はするが、まずは現行のザクでも使用可能な実弾兵器の開発に力を入れるべきだろう。さしあたっての目標はジャイアントバズの開発と改良だ。

 その次は流体パルスアクセラレーターに代表されるMSの運動性向上の技術開発だ。これは私がいつかMSに乗ることになった場合、通常のカスタム機では不満すぎるための、いわば個人的な趣味としてだ。これはマグネットコーティングなどの技術の導入を考えている。

 

 とにもかくにも、まずはドムだ。

 ドムの基礎開発は0078年の段階ですでに始まっている。地上での運用を前提としたMSの行動範囲の拡大のため、ホバー推進のMSの開発がそれだ。その最大のネックとなる大出力エンジンのために、私は『ヅダ』の木星エンジンの改良を行っていたわけだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「この想定値を大幅に超える大出力に安定性……これならすぐにでもホバー推進MSの開発に行けますね」

 

「なに、このくらいどうということではないよ」

 

 上機嫌で話しかけてくる技術者に私も上機嫌で答えながら冷たくなったコーヒーをすする。私としても『木星』の名を冠するエンジンが不良品呼ばわりされるのはいささか思うところがあったので少しばかり本気で改良に勤しんでしまった。これなら今すぐドムに搭載しろと言われても十分すぎるだろう。

 

「んっ?」

 

 その時、この工房に1人の少女がいることに気付いた。私もかなり若いが、その少女は若いというより幼い。恐らく歳は15にすら届いていないだろう。その少女が軍人らしき者と共に工房内を歩いている。その2人、私には見覚えがあった。

 やがて2人はこちらにやってきた。

 

「これが『EMS-04 ヅダ』……ザクと性能差を見せつけながら、事故で採用されなかったMS……」

 

「それは過去の情報だな。 このヅダの木星エンジンには私が手を加えた。

 もはやあのような爆発事故はないよ。

 どれ、データを見るかね?」

 

 そう言って手元の端末のデータを見せると少女はまるで子供のように……いや実際彼女は子供なのだが……目を輝かせる。

 

「すごいすごい! この最大出力値なのに凄く安定してる。

 これ、あなたがやったの?」

 

「もちろんだ。

 こんなことなど私にとっては造作もないよ」

 

 そう言って微笑みかけると、少女は何かに気付いたようにハッとして私に向き直った。

 

「ごめんなさい。

 アタシ、メイ・カーウィン!」

 

「ほう……あのメイ嬢だったか」

 

 そう元気よく自己紹介をする彼女に私は目を細める。

 『メイ・カーウィン』のことは私も知っている。あのザクの開発にも関わった天才少女である。だが、それ以上に彼女を知っている理由はある。それは、彼女は『ダイクン派』の家系であることだ。

 いずれ、シャアと私はザビ家とことを構えることになるとすると、『ダイクン派』は絶対に味方にしたい相手である。そのため、『ダイクン派』の主だった人物には目星を付けていた。もっとも、未だ時期尚早として『ダイクン派』との接触は持っていない。今不用意な行動を行ってもザビ家に気付かれ、謀殺されるのがオチだからだ。

 

「噂は聞いているよ。

 私は……」

 

「知ってるよ。

 パプティマス・シロッコでしょ。 あの『暁の蜂起』の」

 

 ガルマと共に引き起こした『暁の蜂起事件』、あれの中心人物であったガルマ同様、私やシャアも相応の賞賛を受けている。メイの私を見る目は有名人を見る子供のそれだった。

 

「名前を知ってもらっているとは光栄だな」

 

「他にも論文読みました。

 シロッコさんって、MSの開発まで出来るんだね!」

 

「何、機械いじりが趣味でね。

 その趣味がこうじてといったところだ」

 

 そうメイと挨拶を交わすと、今度はその隣にいた軍人が声を掛けてくる。

 

「私はダグラス・ローデン。 彼女と共に視察に来たものだ。

 君のような優秀な技術者と会えて光栄だよ」

 

「こちらこそお会いできて光栄です、大佐殿」

 

 そう言って差し出された手に握手を返すと、ダグラス大佐は目を細めながら言う。

 

「失礼だが……君とはどこかで会ったことがなかったかね?」

 

「大佐の記憶違いでは?

 私には記憶はありませんが……」

 

 無論、嘘である。ダグラス・ローデン大佐も『ダイクン派』の人物だ。その昔、私がキャスバルたちと暮らしていた頃、ジオン・ズム・ダイクンと会話しているダグラス・ローデン大佐を見かけたことがある。だが、あの時の子供が私だということはまだもらすべきではない。

 

「そうか……いや、すまない。おかしなことを言った」

 

「いえ」

 

 それ以降はダグラス・ローデン大佐は無言であった。

 その変わりとばかりにしきりにメイ・カーウィン嬢が技術的な話をしてくる。その会話の中で、私はメイ嬢の優秀さを知る。

 

(なるほど……『天才』ということか)

 

 彼女は間違いなく、『天才』と称される人種であろう。出来ることなら味方に引き入れたいものだ。

 何、ものは試しだ。

 

「こんなに楽しく話せたのは久しぶり。

 ありがとう、シロッコさん!」

 

「何、私も非常に有意義な時間だった。

 またいつでも来るといい」

 

「本当!?

 それじゃまた来るね!

 絶対だよ」

 

 そう言って何度も手を振りながら工房から去っていくメイ嬢。私も、なんとも裏表のない心地よくも純粋なしぐさに思わず笑顔で手を振り返す。

 すると、それまで何も言わなかった技術者からの冷たい視線を感じた。ニュータイプの直感で不愉快なことを考えているのが分かる。

 

「何か?」

 

「いや……君、ロリコンだったんだね」

 

 失礼な、私をどこかの赤い男と同列にしないでもらいたいものだ。

 彼女は間違いなく『天才』であり、しかも『女』……これからの時代に無くてはならない者だと確信している。

そんな未来ある者を導き、愛でることは歴史の立会人としての私の責務である。断じて低俗な理由などない。

 ……ただ、少し欲をいえばアルテイシアのように兄のように懐いてくれれば言うこと無しだが。

 

「いや、今の君の顔、間違いなくマズイから。

 明らかにヤバい人の顔だから」

 

 未だ失礼なことを言う技術者を無視して、私は端末に視線を戻し、次なる図面を引く作業に入るのだった……。

 

 

 



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第03話 ララァ・スン

オリジン側の設定を使ってますが……ララァさえ生きてればシャアはまともだったと思いたい。


時間は瞬く間に過ぎて行く。宇宙世紀0078末。

 

「動いた、動いたぞ!」

 

 技術者のその言葉を皮切りに、通信機の向こうから歓声が次々に上がるのを私は諌める。

 

「気持ちは分からんでもないが、まだ通常の起動を行ったばかりだ。

 これより各種テストに移る」

 

 そう言って私は足元のペダルを押し込む。僅かな振動、そして滑るように進み始める機体。今、私が乗っているのはザクでもヅダでもない。ついに完成したドムの試作機である  『プロト・ドム』のコクピットに私は居た。

 そこに再び通信が入る。その声は幼い少女のものだ。

 

『お兄さん、問題はない?』

 

 それはあのメイ・カーウィン嬢である。あの後も宣言通りこのツィマッド社の工房に顔を出すようになっていたメイ嬢は、いつの間にやらこのプロト・ドムのスタッフの一員となり、私のことを『お兄さん』と呼んでは懐いてくれている。

 ……お陰で私は『年端もいかぬ少女に兄と呼ばせるロリコン』だと、工房で陰口をたたかれてしまっていた。

 勘違いの無いよう言っておくが、才能あるものを愛でているだけであり私はけっしてロリコンなどではない。そのことに軽いめまいを覚えつつも、私はメイ嬢に答える。

 

「問題は無い。

 改良した『木星エンジン改』の出力も安定している。

 ただ脚部ホバー推進機関に若干の振動を感じる。許容範囲内だろうが、データを取っておいてくれ。

 では、このまま最高速度試験に移る」

 

 そう言って私はゆっくりとさらにペダルを押し込んで行った。

 見る見る上がる速度。150、200、250……トップスピードだ。

 

『どう、お兄さん?』

 

「問題は無い。

 エンジン出力も安定しているし、ホバー推進機関も問題は無い。

 だが……トップスピードまでの到達がいささか遅いな。

 急加速にも対応できるようにすべきだろう。

 あと機体の特性のせいもあるだろうが、旋回性能が低いのは辛いな」

 

 そう言って私はプロト・ドムに戦闘時のような機動を取らせる。ジグザグとした機動から、スラスターを使った切り返しで瞬時に後ろに振り返る。

 

「急速旋回も出来ないことは無いが、これはザクから乗り換えるのでは中々慣れるまでに時間がかかるだろう」

 

『……そんな機動を何でお兄さんはいきなり出来るの?』

 

「何、操縦には少し自信があるだけだ。

 続けて武装の試験に移る」

 

 そう言って、今度は腰のウェポンラッチに装備した物を担ぐように構えさせる。ドムの正式装備、360mmジャイアント・バズである。

 標的に狙いを定め、トリガーを引く。発射されたジャイアント・バズの弾頭は標的に命中すると大爆発を起こした。

 続けて、いくつも現れる標的にプロト・ドムを走行させながら連続してジャイアント・バズの引き金を引いた。装弾数10発を撃ち尽くしたところで、再び通信を入れる。

 

『全弾命中だよ、お兄さん!

 威力はやっぱり、ザクの240mmザクバズーカとは比べ物にならないよ。

 何か気付いたことはある?』

 

「威力のほどは申し分ないが、次弾装填の速度はやはり改良の余地があるな。

 あと高速走行中で狙いがズレる。 照準システムに手を加えるべきだろう」

 

『うんうん!

 分かった、それじゃ一度戻って、お兄さん』

 

「了解だ。

 パプティマス・シロッコ、帰還する」

 

 私はそう言ってプロト・ドムを工房の方へと走らせた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 工房に戻り、プロト・ドムのテスト結果を見ながら、確認を行う。トライアンドエラーの繰り返し、これこそが開発というものだ。

 

「ホバー推進機関に僅かな振動……後は高速時の武器照準システムの調整の要アリということか」

 

「ヒートサーベルの方はどう、お兄さん?」

 

「ザクの装甲クラスを溶断出来るまでの加熱時間が2.8秒……出来ることならもう少し短縮したいところだ」

 

「でも、そんな急加熱を連続するとヒートサーベルの耐用回数が減っちゃうよ」

 

「そこは頭の痛い話だな。

 しかし、接近戦において瞬時に敵を切り裂けなければそれは致命傷になりえる」

 

 メイ嬢とあれやこれやと意見を交わし合うが、同じような知識や技術を持つ者同士の会話は実に有意義だ。私の知る原作のパプティマス・シロッコは凡人を見下す態度を取っていたが、こうやって『天才』との楽しい会話をした後では、俗人との会話すら億劫になってしまうのかもしれない。

 ……断じて、技術者として天才と話をするのが楽しいのであって、幼い少女と話すのが楽しいと言っている訳ではない。

 そんな風にメイ嬢と話をしているときだった。

 

「ほう。 やっているな、シロッコ」

 

「シャア! 帰っていたのか」

 

 やってきたのは地球に降りたはずのシャアだ。ジオン軍服を着こみ、その顔にはマスクを付けている。そしてその傍らには、褐色の肌の少女の姿があった。

 

「その格好……復帰したのか?

 しかも中尉か……」

 

「ああ。 実は復帰してから……連邦の人型を撃破することになってな」

 

「ほぅ、連邦のMSか……」

 

 私は頷きながらその出来事を思い出す。

 確かミノフスキー博士の亡命を阻止するために出撃したジオンのザクと連邦の試作MSが戦い合った『雨の海海戦』だ。非公式ながら、歴史上初のMS対MSの戦いが起こった事件である。そして、その時に派遣されたザクのパイロットが目の前のシャアに『黒い三連星』のガイア・マッシュ・オルテガ、そして『蒼い巨星』のランバ・ラルであった。

 結果はジオンMSの圧勝、しかしこれを機に開発主任であったテム・レイは一層ジオンのMSに対抗意識と危機感を募らせ、あの伝説のMS『ガンダム』の開発へと繋がっていく。

 

「それで、連邦のMSはどうだった?」

 

「ザクの相手ではなかったよ。

 少なくとも今のところはな」

 

「確かに、技術は日々進歩する。

 今は取るに足らなかろうが、将来は分からん。

 だからこそ、こちらも進歩を止めてはならん」

 

 そう言って私はプロト・ドムを見上げると、シャアもつられる様にプロト・ドムを見上げた。

 

「これが君が手掛けている新型か……。地上戦用なのか?」

 

「これはな。 ただ、これの改良型として宇宙用のドムもすでに設計してある。

 基本構造はほとんど変わらないつもりだ」

 

「さすがだな、シロッコ」

 

「ふっ、この程度は造作もない」

 

 そしてしばし他愛無い世間話をシャアと雑談する。

 

「ところで……君がただの世間話をしに来ただけではあるまい。

 その隣のお嬢さんの紹介かね? 地球では、随分と遊んでいたようで……」

 

「シロッコ、そう私をいじめないでくれ。

 紹介しよう、彼女はララァ・スンだ」

 

「初めまして、ララァ・スンです」

 

 そう言って挨拶をする褐色の少女は、あのシャアとアムロに後々まで影響を与え続けるララァ・スンだ。

 同時に、何やら撫でられるような感覚が突き抜ける。

 私はトントンと数度額を指で弾くと、改めてララァへと向き直った。

 

「初めまして、私はパプティマス・シロッコだ。

 シャアの友人、といったところだ」

 

「ええ、よく話は聞いています。

 飛びきりに面白い男だ、と」

 

「ほぅ……その話はぜひともくわしく聞かせてもらいたいものだな」

 

 そう言ってジロリとシャアを睨むと、シャアは露骨に視線を外す。

 

「しかし良かった。

 友人としてはシスコンのシャアは、永遠に女性との付き合いができないのではないかと危惧していたのでな」

 

「誰がシスコンだ、シロッコ」

 

「君だよシャア、ララァ嬢のお陰でやっと妹よりもいい女が世界にはいることが気付けたのだろう?」

 

「……それならば、私の方こそ君は女性には興味がないのかと友人として心配していたが杞憂だったようだな。

 中々にチャーミングな女性だ。

 ただ……ロリコンは犯罪のようだぞ、シロッコ」

 

「誰がロリコンか、誰が」

 

 どうも根も葉もない噂はシャアの耳にも入っていたらしい。そのことにため息をつくと、私の影に隠れるようにしていたメイ嬢を紹介した。

 

「彼女はメイ・カーウィン嬢。

 君も名前くらいは聞いたことがあるだろう?

 ザクの制作にも関わった才媛だ」

 

「は、初めまして……」

 

「初めまして、メイ・カーウィン嬢。

 私は……」

 

「あ、知ってます。

 あの『暁の蜂起』の時にお兄さんと一緒だった……」

 

 どうやら『暁の蜂起』事件の時のことで、シャアのことも知っていたらしい。まるで有名人を前にする子供のように、目を輝かせている。

 

「……『お兄さん』?

 シロッコ……君は本当に……」

 

「先に言っておくが君の考えているような関係ではないぞ。

 ただ同じ技術に携わる者同士、慕ってくれているというだけだ」

 

 シャアの疑惑の視線を、私はピシャリと切り捨てた。

 

「さて、積もる話もあるが私も見ての通りこのMSのテストで忙しい身だ。

 そのような訳で今日はそろそろ……」

 

「待て、少々いじり過ぎたのは謝る。そう冷たくしないでくれ。

 私がここに来た理由はまだあるのだから」

 

 いい加減話を切り上げようとした私に、シャアは少し慌てたようにして懐から手紙のようなものを取り出した。

 

「これは……」

 

「君の召喚状だよ、シロッコ。 君も晴れて復帰というわけだ。

 そこで君の復帰に際して、『ある方』が直接会いたいと言っていてな。

 こうしてメッセンジャーとなったという訳だ」

 

「なるほど……」

 

 シャアのもの言いに召喚状を裏返すと、そこに書かれた署名でその正体がわかり苦笑する。

 

「了解だ。 すぐに向かうことにしよう」

 

「ああ、積もる話はまた後日に」

 

 そう言って、私は周りに指示を出し身支度を始め、シャアたちはそのまま工房を出て行こうとする。

 そんなシャアたちの背中へと、私は声をかけた。

 

「時にララァ嬢。 人と獣が違うところは何だと思うかね?」

 

「? 『理性』を持つことでしょうか?」

 

 突然の質問に訳が分からないという顔で、それでもララァは答えを返す。

 

「近いが違うな。

 確かに『本能』によらず『理性』を持って行動するのは人の特権だ。

 しかし私はもう一歩踏み込み、『相手に会話によって理性的に接し、相手を理解し時に自らの考えを改める』ことだ。

 『本能』では、他者の『本能』とぶつけ合わせればどちらかが滅ぶしかない。

 しかし『理性』、そしてそこから産まれた『会話』でなら、相手を理解し時に自らの行動を改めることができる。

 それこそが人と獣の違いであると、私は思う」

 

「はい……」

 

「何、ただ『会話』というものの有用性を語った他愛のない話だ。

 忘れてくれていい。

 ではな」

 

「……はい」

 

 そう言って手を振ると、ララァは小さくお辞儀をしてからシャアと連れだって出て行った。そして居なくなってから、私はトントンと数度額を指で弾く。

 

「いきなり初対面で私の心に触れようとしてくるとは……不愉快だな」

 

 先ほど、ララァとの会話の際の撫でられるような感触……あれはニュータイプの力でこちらの心に触ろうとしている感触だった。こちらもすぐさまそれは防いだが、いきなりの行為に不快感はある。最後のララァとの会話は、『いきなりニュータイプの力で心に触れようなどとせず、まずは会話を試みろ』という苦言というか抗議の言葉であった。

 

「まぁいい、釘は刺した。 これで少しは変わるだろう」

 

 それだけ言うと、私は残りの作業へと急いだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「どうだった、彼は?」

 

「あなたの言う通り知的な、とても面白い人でした。

 でも……ちょっと怖い……」

 

 工房からの帰り道、シャアの質問にララァが返す。

 シャアの友人だという、あのパプティマス・シロッコという男……確かにシャアの言う様にまごうことなき『天才』だ。

それに心に触れようとした途端のそれを拒絶するような感覚に最後のあの言葉……間違いなく自分と同じタイプの人間なのだろうと何処となく理解する。

 だからこそ、怖い。

 

 彼にもし野心があったら?

 その野心がシャアに害を及ぼしたら?

 

 被害妄想的な考えだが、そう考えてしまうだけの才能をシロッコは持っていた。

 だがそんなララァの心情を知らず、シャアはアハハと笑ってと返す。

 

「そうか。 怖い、か。

 確かに、彼は少し冷たい感じの男だからな。

 しかし、話して見ればあれで彼はいい男だぞ」

 

 その言葉に、ララァはハッとした。

 今しがたシロッコに言われたばかりだというのに自分の力が通用しなかったこととその才能に恐れ、無意識のうちに彼を理解しようということを放棄していたことに気付いたからだ。

 

(特別なことではなく、ただ話すだけでも……人は分かりあえる)

 

 次に会った時には、もっと話をしてみよう……ララァはそう心に決めたのだった……。

 

 

 



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第04話 開戦の足音

シャアの最大の失策はガルマを殺したことなんじゃないかと思う……。


 

「どうぞ、入ってくれ」

 

「はっ。

 入ります」

 

 ジオン軍施設に呼び出された私は、応接室の扉を潜る。

 

「久しぶりだな、シロッコ」

 

「これはお久しぶりです、ガルマ大佐殿」

 

 そう、そこにいたのは士官学校の同期でもあった『ガルマ・ザビ』、私を呼び出した人物だ。

 

「ハハハッ、やめてくれ。

 兵が見ていないのであれば、昔のようにガルマでいいよ」

 

 そう言って照れたように癖っ毛を指で弄ぶガルマ。変わらないものだ。

 しかし、その部屋の中に居たのはガルマだけではなかった。

 

「貴様がパプティマス・シロッコか……」

 

 そこにいたもう一人に、私は驚きが隠せない。何故ならその人物はジオン突撃機動軍司令『キシリア・ザビ』少将であった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「どうした? 座るがいい」

 

 キシリアに促され、私は向き合う形でソファに腰かける。

 

「今日呼び出したのは他でもない、貴様の復帰についてだ。

 ガルマがお前をいたく買っていてな、復帰後お前を手元に置きたいと言って聞かんのだ」

 

「それは……光栄であります」

 

「事実、貴様は優秀なようだ。

 士官学校時代の成績はガルマやシャア・アズナブルと競い合い、MS操縦の実技においてもシャア同様群を抜いていた。

 おまけに技術者としても確かな才がある。

 ツィマッドで貴様が手掛けるMS……あれのデータを見せてもらった。

 ザクの採用で安泰だと思っていたジオニックの連中が、青い顔で後発MSの開発に熱を入れているそうだ。

 ジオニックの連中の尻を叩く、いい薬になったよ」

 

「過分な評価、光栄であります」

 

「謙遜するな。

 貴様の優秀さは確かに認めるよ」

 

 そう言ってカラカラとキシリアは笑ったが、すぐに真顔に戻る。

 

「優秀な貴様だ、能力的にはガルマの頼み、聞いてもいいと思っている。

 だが一つだけ、ガルマの元に置く以上どうしても私自身で確認したいことがあってな。

 こうして来てもらった訳だ」

 

「なるほど……私の育ちですな」

 

「さすがに話が早いな。

 お前はあのジオン・ズム・ダイクンに引き取られた……いわゆる『ダイクン派』なのでな。

 その本音を聞いておきたいと思った」

 

 それはいつか来るとは思っていた話だ。

 私はジオン・ズム・ダイクンに引き取られ育てられた。そのため、私は自動的に『ダイクン派』だと認識されている。

 ジオン・ズム・ダイクンの暗殺を機に『ダイクン派』の主だったものが政治的、あるいは本当の意味で抹殺されザビ家独裁政治になっているこのジオンで、『ダイクン派』だというのは目を付けられるに十分だ。

 

「姉上、それは何度も言っているではありませんか。

 シロッコはジオン・ズム・ダイクンを育ての親に持ちますが、それ以上に私の友であります。それに彼ほどの男に二心があれば、私など士官学校時代にとっくに謀殺されていますよ」

 

「『復讐心を隠してお前に近付くため』、とは十分考えられる。

 そしてお前は替えなど利かないザビ家の男、どれだけ用心してもしすぎるというものはない」

 

 ガルマは即座に助け舟を出すが、キシリアはそれをピシャリと遮ると私に視線を戻す。

 

「だが貴様の才能は、それを理由に捨ておくにはあまりに惜しい。

 だからこそ、手元に置くにあたりその本心が聞きたいのだ」

 

 そう言ってこちらの出方を窺うキシリア。

 その様子に……私は笑った。

 

「何が可笑しい?」

 

「失礼ながら、情報に鋭敏なキシリア様とは思えぬお言葉でしたのでつい」

 

 私がキシリアを笑ったことでガルマはハラハラしたような顔をするが、逆にキシリアは面白そうに目を細める。

 

「ほう……言ってみよ」

 

「では……確かに私の育ての親はジオン・ズム・ダイクン、私は確かに『ダイクン派』となりましょうな。

 しかし私は所詮拾われ子、ほかの『ダイクン派』のお歴々と違い、後ろ盾となるようなものは何一つ持ち合わせていません。

 そんな男が一体何を、どのように為すのか?

 仮に何かを為すのなら、他の『ダイクン派』との接触を図るでしょう。

 しかし、その兆候が見られないことは、情報に詳しいキシリア様もご存知では?」

 

「……」

 

 無言のキシリアだが、これは肯定だろう。

 

「それに巡り考えて頂ければ……そもそも私が身寄りを失った事件、裏に居たのは誰でしょうか?」

 

「……連邦か」

 

「その通り。

 私の本当の両親を殺し、今なお第二の故郷となったこのジオンに対して圧力をかけ続ける重力に魂を引かれたノミども……腐った地球連邦にこそ私の復讐の矛先は向くと考えますが?」

 

「なるほど……」

 

 キシリアは呑み込むように数度頷く。

 

「つまり、貴様にはザビ家に対する復讐心などなく、地球連邦にこそ復讐心が向いていると?」

 

「その通りです。

 お疑いなら、血判でもしましょうか?」

 

「……意外と古風なことを言うな、貴様は。 なに、その必要はない。

 ガルマの希望通り、我が突撃機動軍へと入隊してもらう。

 パイロットとしても技術者としても、貴様には期待している。

 私の期待、裏切るなよ?」

 

「もちろんであります、閣下」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「姉上、ありがとうございます」

 

「何、可愛いお前の頼みだ。

 シャアの方は残念ながらドズル兄さんに持っていかれてしまったからな。

 せめても、ということだよ」

 

 シロッコの退出した室内、自分の頼みを聞いてくれた姉にガルマは頭を下げ、キシリアも微笑みながらすっかり冷めたお茶を口にして、先ほどのシロッコの様子を思い出す。

 

(士官学校時代の各種の成績は群を抜いている。

 指揮官としての適性もアリ、技術者としての才も溢れている。

 おまけに今日のあの態度……人を率いるカリスマ性も備えているだろう。

 『天才』というものは、いるところにはいるものだな)

 

 シロッコの才気を瞬時に見抜いたキシリアだが、同時にそれだけの才気があるからこそシロッコに危険は無いと判断していた。

 技能に優れ、頭がよく、カリスマ性を持つ……だが、言ってみればシロッコはそれだけである。

 何を為すにしても、大義や担ぎあげる御輿が無ければ、大事は為せない。

 そういう意味では後ろ盾が何もなく、そういったものを持つ『ダイクン派』との接触もないシロッコでは何も出来ず、したところで必ず失敗する。失敗すると分かっていることをやるのは『天才』のする行動ではないだろう。

 世の中には『感情』にまかせ、失敗すると分かっていても突き進む人間はいるがシロッコはそういったものとは真逆に位置する存在だと、今の会話でキシリアは判断した。そうとなればシロッコのもつ才能は有益、ぜひともガルマの元、ひいては自分の手元に置いておきたい。

 キシリアは政治欲旺盛な女性だ。兄弟であるギレンやドズルを政敵としてみなしている部分もあり、いつかそのために争うことになると踏んでいる。その時のために、彼女は実績や優秀な人材を抱え込むことには積極的だった。そして、例えそれが腹に抱えるものがある獅子であろうが、自分ならば飼いならせるという自信がある。

 

(少なくとも、連邦が消えるまでは何の行動も起こすまい。

 それまでにその成果、存分に絞りとってやろう)

 

 そう考えながら、キシリアは冷めたお茶をゆっくりと嚥下するのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……危険無しと判断したか、逆に監視のために手元に置いたか。

 しかし大勢は変わるまい」

 

 私は届いた少尉の階級章と軍服を前に呟く。これで私は正式に軍へと復帰ということになった。キシリアは私のことは後ろ盾もなく、仮に二心があっても飼いならせると踏んだのだろう。

 確かに、普通に見ればそうだ。

 だが……『シャア=キャスバル』という大きすぎる御輿を私は知っている。キシリアもそのことは知らないのだろう。シャア・アズナブルとキャスバル・レム・ダイクンの入れ替わりによって、キャスバルは死亡が確認されている状態だ。まさかそれが私のすぐ傍にいるとは夢にも思うまい。

 

「とにかく、ドムや他のことはしばらくは任せるしかないだろう。

 ただ……『アレ』は欲しいな。

 少しガルマに頼んで見るか……」

 

 そう言って私は、私がいない間にも困らぬように、工房に渡すデータを作成していく。

 ドムもそうだが、その後に続くだろう技術の基礎や、MS用武装の試作原案など、造るべきものはいくらでもある。

 そんなことを続け、いつの間にか私は軍に出向く日になっていた。

 

 

 

「お兄さん……戦争に行くの?」

 

「今の情勢では、戦争は避けられんだろうな」

 

 その日、軍に戻るという話を伝えるとメイ嬢は寂しそうに目を伏せる。やがて意を決したように顔を上げると、メイ嬢は何かを差し出してきた。

 

「これは?」

 

「あの……お守り。 お兄さんが無事に帰ってこれるように、って」

 

 それは古風な布袋のようなお守りだ。何とも前時代的な風習だが、私のことを思ってというのは嬉しく感じる。

 

「わかった。 ありがたく貰っておこう」

 

「待って!」

 

 そう言って私は懐にそのお守りを入れようとしたのだが、メイ嬢はそんな私の手を引いて止める。

 すると、何を思ったのか自らの髪を一房掴むと、それを刃物で切り、私に差し出してきた。

 

「な、何を?」

 

 突然の行動に目を丸くする私に、メイ嬢のほうも私の反応を想定外のように首を傾げる。

 

「だって……お守りを渡す時には一緒に『毛』を渡すんだって……」

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 その言葉に、様子を見守っていた工房から音という音が消えた。

 

「……メイ嬢、その話は一体誰から?」

 

「? あの人だよ」

 

 そう言って指差すのは、私のことを散々とロリコン呼ばわりしてくれた技術者だった。

 

「……そうか。

 メイ嬢の気持ち、確かに嬉しい。 だがその綺麗な髪だ、不揃いなままも良くない。

 そこの君、頼めるか?」

 

「は、はい!」

 

 言われた女性技術者は、髪を整えるためにメイ嬢を連れて工房から出て行く。

 それを見届けてから、私はその問題の技術者へと向き直った。

 

「さて……何か申し開きはあるかね?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!

 確かに悪戯心もあったが、こんなことになるとは思わなかったんだ!

 それに……君だってちょっとは嬉しいだろう!」

 

「そうか、分かった。 中々冴えない遺言だったな。

 連邦の前に……まず、お前から血祭にあげてやる」

 

 そう言って私はプレッシャーを開放する。

 その恐怖に顔を強張らせながらも、その技術者は未だわめき立てる。

 

「待て、待ってくれ!

 私は間違えたことは言っていない!

 それに本当の意味で捉えても、君も嬉しかっただろう!?

 想像したまえ、あの娘が下の……」

 

「分かった。 お前はもう、消えていい」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 とある技術者の悲鳴が、工房内に木霊する。

 

 

 

 そして……宇宙世紀0079、1月3日。

 『一年戦争』と呼ばれた戦いの幕が上がった。

 

 



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第05話 グラナダ侵攻作戦

物凄く短め……戦闘シーンって本当に難しい……。


 宇宙世紀0079、1月3日7時20分。

 ジオン公国は地球連邦政府に対して宣戦を布告、ここに『一年戦争』と呼ばれた戦いの火蓋が切られた。

 とはいえ、これは私の知る知識での戦争だ。ここに私という異分子が存在している以上、『一年戦争』となるのかどうかは分からない。だが、緒戦の流れは私の知る『一年戦争』と同じであった。

 

 宣戦布告の直後、ジオン軍は電撃的にサイド1・2・4に対して奇襲を敢行、NBC兵器を使用して壊滅的な被害を各サイドに与える。

 同時にジオン軍は月面都市グラナダの占拠のために進行を開始。私は、そのグラナダ侵攻部隊の中にいた。

 

「少尉殿、機体の状態は?」

 

「何処にも問題はない。

 いつでも出撃が可能だ」

 

 整備兵の言葉に、私はチェックしていたコンソールから顔を上げる。私が今乗っているのは頭部とスパイクアーマーのみを紫色に染め上げた『MS-06C ザクⅡ』である。

 

「出撃5分前です。 少尉殿、ご武運を」

 

 整備兵のその言葉に敬礼で返事をし、私はノーマルスーツのバイザーを降ろす。私の知る原作のパプティマス・シロッコはノーマルスーツは着なかったが、私の場合は元が平凡な一学生だ。心配の種を減らすためにノーマルスーツは着用することにした。それにこれからの実戦で私がどこまで戦えるものなのか試すという意味合いもある。

 私はハッチを閉めるとザクⅡを動かして武装を装着していく。

 右の腰にザクマシンガン、腰の後ろにパンツァーファウストを2本とマシンガン用のマガジンを2つ、左の腰にヒートホーク。そして最後に無骨なライフルを両手で抱える。

 この、ライフルはヅダの135mm対艦ライフルである。今回の戦いに際し、私がガルマに頼んで使用の許可を貰ったものだ。ツィマッド社としても、『その有用性を是非実戦で証明してほしい』と喜んで提供してくれた逸品である。

 それを装備し出撃準備を終えた私は、時が来るのを静かに待つ。

 そしてその時は来た。

 

『モビルスーツ隊は全機発進。

 敵戦力を撃破して下さい』

 

 その言葉と共に一斉に各艦からモビルスーツが出撃していく。

 そしてついに私の番だ。

 

『ご武運を、少尉』

 

「了解した。

 パプティマス・シロッコ、ザク、出るぞ!」

 

 その言葉と共にペダルを踏みだし、私のザクは宇宙へと飛び出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 連邦軍のグラナダ駐留部隊は今、未曾有の大混乱の中にいた。

 

 ジオン公国からの宣戦布告、そしてほぼ同時にサイド1・2・4へのジオン軍の奇襲によって連邦本部との連絡系統は混乱に陥った、

 しかし、ここグラナダはジオン本国であるサイド3に近いこともあり、昨今の情勢から近いうちに戦争が始まることを予感していたため、ジオンの宣戦布告からの混乱からはすぐに立ち直り、攻めてくるだろうジオン軍に対して多数の巡洋艦、戦艦、そして宇宙戦闘機によって防御陣を組み、万全の態勢を敷いていた。

 その守りは厚く、例えジオンが攻めてこようと他方からの増援が来るまで持ちこたえられるだけの自信が連邦軍のグラナダ駐留部隊にはあった。しかし、その自信は即座に撃ち砕かれる。

 そもそも、この当時の連邦軍はミノフスキー粒子下での戦闘を軽視していた。マゼランやサラミスに代表される連邦軍の宇宙艦艇は、高度な長距離レーダーと誘導兵器による遠距離先制攻撃を念頭に置いた設計がされていた。しかしミノフスキー粒子の散布によってその頼みのレーダーと誘導兵器がすべて無用の長物になってしまったのだ。

 同じく、宇宙戦闘機もこの影響を大きく受けることになる。ミノフスキー粒子下で誘導ミサイルが使い物にならなくなった宇宙戦闘機は機銃による接近戦を挑まざる得ない状況になったが、AMBACによる姿勢制御を可能としたモビルスーツに対し、悠々背中を見せて弧を描きながら旋回する宇宙戦闘機は的以外の何物でもなかったのである。

 

「くっ、状況知らせよ!」

 

「『セレター』『ブイン』轟沈!!」

 

「『アリューシャン』より発光信号!

 我、戦闘能力ヲ喪失セリ! 後退許可ヲ請ウ!」

 

「トリアーエズ隊、損耗率80%を超えます!?」

 

 どれもこれもが絶望的な報告である。その内容に艦長は怒りと共に艦長席の肘かけに拳を撃ち下ろした。

 

「クソッタレ!

 ジオンのモビルスーツはタダのおもちゃじゃなかったのか!?

 ミノフスキー粒子下でもレーダーと誘導兵器で遠距離砲撃で難なく撃ち落とせるとか分析したバカはどこのどいつだ!!」

 

 連邦軍のグラナダ駐留部隊の旗艦、マゼラン級戦艦『ワシントン』の艦橋で艦長が余りに見積もりの甘かった上層部と、戦術分析結果を出した科学顧問団に怒りを露わにする。

 その時、オペレーターの悲鳴のような声が響く。

 

「艦長! 敵のザク(一つ目)が一機、対空防衛網を突破! 本艦に接近中です!!」

 

「弾幕を張れ! トリアーエズ隊も呼び戻せ!

 何が何でも、あのザク(一つ目)を叩き落とせ!!」

 

 その言葉と共に、周辺の艦とともに濃密な機銃の弾幕が張られるが、接近するザクはまるでそこに攻撃が来ることが分かっていたかのようにゆらりゆらりと踊るように機銃の弾幕を避けて行く。

 

「なんであれが避けれるんだよ!?」

 

 宇宙艦艇数隻による濃密な対空機銃網が、そのたった一機の敵を撃ち落とせない……その信じられない事実に、オペレーターは絶句した。

 そのザクの頭と肩は紫に塗られ、踊るように揺れる紫色は死に誘う不気味な鬼火のように見える。

 

「ウィルオウィスプ……」

 

 思わずそう艦長が呟くのと、ザクから放たれた135mm対艦ライフルの砲弾が艦橋を直撃するのはほぼ同時だった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「墜とさせてもらう!!」

 

 135mm対艦ライフルが直撃し、マゼラン級の艦橋が吹き飛ぶ。

 リロードが完了した135mm対艦ライフルを再び発射、それはメガ粒子砲の砲塔部分から突き刺さるとその内部で爆発、マゼラン級は船体を真っ二つにしながら爆発した。

 

「やはり対艦ライフルは有効だな」

 

 思わず笑みが漏れる。装甲の厚いマゼラン級相手では、ザクバズーカではこうはいかなかっただろう。対艦ライフルは貫通力に優れ、相手の装甲を貫通したのち内部で爆発することで艦艇相手に致命的なダメージを与える。こと艦艇相手にするならばザクバズーカより優秀であると言える。

 私は行きがけの駄賃とばかりに、サラミス級にも対空砲火を掻い潜り対艦ライフルを発射、爆沈させる。

 

「2つ! もう1つ!!」

 

 私は弾の切れた対艦ライフルを放って、両手に一本ずつパンツァーファウストを持つと同時に撃ちだした。その弾丸がサラミス級のエンジンブロックに直撃、後部のエンジンから跳ね上がるようにして爆沈する。

 

「こんなものか……」

 

 そう呟いた直後、レーダーに機影が映る。宇宙戦闘機のトリアーエズの部隊だ。

 その数は3機。

 

「そのような機体で私に勝てると思っているのか?

墜ちろ、蚊トンボ!!」

 

 トリアーエズからの機銃を避けるのと同時に抜き放ったザクマシンガンで先頭の1機を撃墜。残った2機はこちらに旋回しようとしてくるが素早く振り返り、そのガラ空きの後ろからザクマシンガンを撃ち放って1機を墜とした。

 旋回を終えた残った1機が再び私に接近してくるが、私はその機銃を避けると腰のヒートホークを抜き放ち、すれ違いざまに断ち切る。

 

「こんなものか……よし、後退する!」

 

 連邦艦隊はすでに潰乱を始めている。勝負はすでに付いていた。

 弾薬の補給のために後退した私の耳に、グラナダ制圧の報が届くのはそれからすぐのことだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「さすがだなシロッコ、素晴らしい戦果じゃないか!

 ジオン十字勲章ものの働きだよ!」

 

「何、MSの性能と連邦軍の怠惰な慢心のせいだよ」

 

 艦艇3隻を撃沈する戦果を上げた私が戻ると、ガルマが私を出迎えて労いの言葉を掛ける。

 

「我が軍はどの戦場でも大勝だ。

 連邦ごとき、我らジオンの敵ではないよ」

 

「ガルマ、それは気が早いというものだろう。

 この戦争は始まったばかり、将である君が緒戦での勝利で浮足立っては兵に示しがつかんぞ」

 

「あ、ああ。 それもそうだな。

 済まない、少し浮かれ過ぎていた。

 忠告、感謝する」

 

 私がたしなめるとガルマは素直に襟を正し、深く頷く。

 そう、戦争は始まったばかりである。

 

 

 開戦からの一週間に渡る、いわゆる『一週間戦争』はジオンの破竹の快進撃となった。

 ジオンはサイド2のコロニー『アイランド・イフィッシュ』に核パルスエンジンを装着、コロニーを巨大な質量兵器として落下させるコロニー落としを敢行した。

 落下するコロニーはしかし、連邦の抵抗のために南米ジャブローには直撃せず、連邦を屈服させるには至らない。

 

 ジオンは第二のコロニー落としのためにルウムに進出。

それを阻止するために連邦のレビル将軍率いる艦隊が出撃。

 

 ここにルウム戦役の火蓋が切られようとしていた……。

 

 

 



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第06話 ルウムに紫の鬼火は揺れる

連邦の渾名持ちって、アムロ・レイの『白い悪魔』とユウ・カジマの『蒼い死神』くらいしか覚えが無い。
後はリド・ヴォルフかな?

カッコイイ渾名には憧れないんだろうか……?


 宇宙世紀0079、1月15日。ルウム宙域にて、ジオン軍と連邦軍が対峙する。

 先の『一週間戦争』と『コロニー落とし』によって戦争の早期講和を狙っていたジオン公国だが、南米の連邦軍本部ジャブローを狙ったコロニー落としは目標を外し、オーストラリアへと落下。ジオン公国の狙う早期講和のためには次なる戦いが必要になった。

 第二のコロニー落としを行うためにジオン軍はルウム宙域へと進出、その動きを察知した連邦軍の名将レビル率いる艦隊は残存するほとんどの戦力を集結させルウムへと向かう。

 戦力比1:3という圧倒的な連邦軍の数を前に指揮を執っていたジオンの名将ドズル・ザビはコロニー落とし作戦を中止、互いの全戦力が正面からぶつかり合う大会戦の火蓋が切られることになる。

 

 

 この第二次コロニー落とし作戦の指揮を執っていたのは先も述べた通りドズル・ザビであり、その麾下の宇宙攻撃軍がこの作戦の中心である。

 しかしジオンの命運を決するような大作戦だ、政治的野心が強く何かと他の兄弟と張り合うキシリア・ザビも日頃のことは棚に置いて戦力の一部をドズルの支援としてルウムに向かわせることになる。

 これに対し特に政治的な野心もなく、また優秀な軍人であったドズルは戦力が増えることを手放しで歓迎。ドズルと同じく、政治的野心もなく若いガルマは『ドズル兄さんを助けるのだ!』と意気揚々と出撃を志願し、名目上のキシリアの送った支援艦隊の長官としてこの戦いに派遣される。その派遣された戦力の中に、私は居た。

 

 

 この作戦における宇宙機動軍の役割は、正面からドズルの宇宙攻撃軍にぶつかっている連邦艦隊を横合いから攻撃し宇宙攻撃軍を支援するというものだ。すでに戦端は開いており、メガ粒子の光が飛び交い、爆発の閃光とともに幾多の命が散っていく。そんな戦場を、横合いから殴りつけるように宇宙機動軍のモビルスーツ隊は強襲した。

 

「そこぉ!!」

 

 連邦からの砲火を掻い潜り、懐に飛び込んだ私のザクⅡの対艦ライフルの弾丸がマゼラン級戦艦の艦橋に直撃する。しかし近すぎたのか、砲弾は爆発することなく艦橋を貫通してしまった。

 

「ちぃ!?」

 

 こちらに向けて放たれる機銃を避け、そのままリロードの完了した対艦ライフルを放つ。今度の狙いは船体前部の主砲塔と中央区画、2発・3発と直撃させていくと内部での爆発で重要区画をやられたらしい、内側から膨れ上がるように爆沈した。

 

「まるで相手にならん。

 モビルスーツ無しの連邦では当然かもしれんが……これではわざわざ死にに来ている連邦の兵が哀れだな」

 

 独りごちてから私は何かを感じ取り、そちらのほうにカメラを向ける。

 

「この感覚……君か、シャア!」

 

 見れば赤いザクⅡが艦艇を蹴りながら高速で跳躍を繰り返し、次々に連邦の艦艇を沈めている。世に言う『三倍のスピードで迫る赤いモビルスーツ』である。

 それを実際に目にすることになり、私はついつい笑いを洩らしてしまう。

 

「く……ははははは!!

 さすがはシャアだ! これはこちらももう少し活躍せねば友人として不釣り合いになってしまうな!!」

 

 そう言って私は再び連邦の艦隊へとカメラを向けた。

 幸いなことに、物量豊富な連邦軍はまだまだ掃いて捨てるほど残っている。

 

「連邦兵よ、こんなところで朽ち果てる己の不幸を呪うがいい!」

 

 私は弾の切れた対艦ライフルを放棄すると、右手にザクマシンガン、左手にパンツァーファウストを構えて連邦の艦艇へと向かっていく。

 私は、こちらの迎撃に出る宇宙戦闘機をザクマシンガンで撃ち落としながら、連邦の艦隊へと進んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 『ルウム戦役』と呼ばれるルウムでの攻防は、ジオン軍の勝利という結果に終わった。

 連邦艦隊はそのほとんどの戦力を消失し、旗艦『アナンケ』を撃沈され脱出したレビル将軍が拿捕されるという勝利である。

 とはいえ、ジオンのこうむった損害も決して軽いものではなかった。そもそも3倍近い敵戦力とのぶつかり合いである。そのため多数のムサイ級・チベ級の艦艇が戦没した。それでも勝利することができたのは『モビルスーツ』という革新的な新兵器を投入していたおかげである。

 そしてこれまでの戦いでそんなモビルスーツを操り、通常では考えられないほどの多大な戦果を生んだ、いわゆる『エースパイロット』と呼ばれるものたちが登場する。その存在は異名と共に味方からは尊敬と期待を、敵からは畏怖を向けられる。

 ジオン公国はプロパガンダを兼ね、エースパイロットは積極的に前面に押し出し国民からの人気取りとした。その一環として今日、授与式が行われることになった。

 

 

『赤い彗星』シャア・アズナブル。

 

『青い巨星』ランバ・ラル。

 

『黒い三連星』ガイア、マッシュ、オルテガ。

 

『深紅の稲妻』ジョニー・ライデン。

 

『白狼』シン・マツナガ。

 

 

 その他、多くのエースパイロットたちがこれまでの戦いで名を上げ、その報償を受けるためにそこに集まっていた。そしてその中には、私の姿もあった。

 

「やぁ、シャア。

 君の活躍、ルウムでの戦いで見せてもらったよ。

 流石だな、『赤い彗星』殿」

 

「その渾名、何やらこそばゆいな」

 

「なに、すぐに慣れるよ」

 

 一等礼服を着こんだ私とシャアは、授与式の待合室で顔を合わせるとしばしの間、談笑していた。私のからかいに、今度はこちらの番だとでもいうようにシャアは言う。

 

「だが、活躍というのでは君の方が凄いと思うがな。

 私もあの戦いで君の戦い、見せてもらったよ。

 凄まじい強さだった、『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』殿」

 

 

紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』パプティマス・シロッコ。

 

 

 いつの間にやら私はそのように渾名されていた。

 私としては自分の操縦技術、そしてニュータイプとしての先読みを駆使して最小の動きで敵の攻撃を避けながら攻撃していたのだが、その動きがゆらゆらと踊るようだったという。

 そして私のパーソナルカラーとして塗っていた頭部と右肩の紫色、これがその機動とスラスター炎と相まって紫色の炎が揺れているように見えたらしい。その様を誰かが「鬼火のようだ」と言い出し、いつの間にやら『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』などという渾名となってしまったようだ。

 

「何ともご大層な渾名だ。

 どうにも違和感が大きい」

 

「それこそ君の言った通り、すぐに慣れるさ」

 

 先ほどのお返しだとでも言わんばかりのシャアに、私は苦笑すると話題をすり替える。

 

「しかし……よもや私が勲章を授与されるとは思わなかった。

 私はその……『アレ』だからな、こういうものとは無縁だと思ったのだが」

 

 言葉を濁して『アレ』と指したものに気付き、シャアも同意するかのように頷く。

 『アレ』というのは、私が『ダイクン派と見られている』ということだ。

 ジオン国内における『ダイクン派』を、少なくともデギン、ギレン、キシリアと言ったザビ家の面々は危険視しておりその取り締まりはかなり厳しい。『ダイクン派』によるクーデター未遂やら暴動などもあるため、その警戒度は非常に高い。『ダイクン派』というだけで出世の芽が摘まれた軍人は数知れず、家を取り潰された名家も少なくは無い。

 だからこそ『ダイクン派』だと疑われている自分にこのような機会は無いと思ったのだが……。

 

(ガルマの坊やと、キシリアの抱え込みの一環といったところか……)

 

 私はそう推測する。事実、この推測はほとんど正しかった。

 

 始めはギレンも『ダイクン派』の疑いもあるため勲章授与や昇進に関しては渋っていたのだが、ガルマがシロッコの戦果を正当に評価すべきと強く主張、これにキシリアが乗った。

 ガルマとしては友人であるシロッコを高く買っているし、友人としての情もある。その彼が多大な戦果を上げながら評価されないのは我慢ができなかった。

 一方のキシリアは功績に見合う報償を与えることでシロッコの心変わりを防ぎ、自分の手駒としたいという思惑があった。それにシロッコは『ダイクン派』と疑われているからこそ取り立てるべきとも考えていた。『ダイクン派』であろうと、武勲を上げれば評価されることを示し、『ダイクン派』のザビ家への反発を防ぐ一助にしたかったのだ。無論、これは現状シロッコが『ダイクン派』との繋がりが無いからこそ安全だという判断の上での話なのだが。

 一つ推測が外れていたのは、自分の昇進の後押しにはドズル・ザビも加わっていたことだ。ドズルとしてはシロッコはキシリアの子飼いの上、『暁の蜂起事件』のせいでいい印象はあまりない。だがガルマの入れ込む友人だということ、そして政治的な野心もなく武人であるドズルは多大な戦功に見合った報償が与えられないことは、武人として許せなかったのである。

そういった事情で家族3人から言われては流石のギレンも頷かざるを得なかったのだ。

 

 

 

「貴様の戦果、聞き及んでいる。

 今後も我がジオンの理想のため、その力を発揮するがいい」

 

「はっ!」

 

 式典にて、手づからエースパイロット1人1人にジオン十字勲章を付けて行くギレン・ザビ。

 その姿を映像ではなく身近で見ることで納得する。

 

(なるほど……確かに時代を動かす『天才』の1人ではあるのだな)

 

 その戦略や先見性、政治的な手腕は確かに『天才』のそれだろう。しかし、私はこの男が歴史を動かす瞬間など見る気はない。

 

(精々、今のうちに権力に酔っているがいい。

 私とシャアが必ずその喉笛、噛み切ってやろう)

 

 心の中でほくそ笑みながら、私はその勲章を受ける。

 こうして私とシャアは『少佐』へと昇進した。今後の事を考えれば、地位は高い方がいい。

 渾名に関しては違和感があるのだが、これもすぐに慣れることになった。

 

 

 

 エースパイロットたちの活躍や華々しいジオン軍の戦果に、ジオン国民は色めき立っていた。そして、それは軍も同じだ。

これだけの多大な戦果を上げたのなら連邦政府とてもう戦争継続の意志はあるまい。これでジオン公国の悲願である独立を成し遂げられる……誰もがそのように思っていた。

 しかし、その予想は最悪の形で裏切られる。

 捕虜としていたレビル将軍が脱出、全世界に向けてジオンの困窮を知らせるいわゆる『ジオンに兵なし』の演説を行ったのである。これにより講和を考えていた連邦政府は戦争の継続を決定した。

 

 そして、戦争の舞台は地球へと拡大していくのである……。

 

 

 



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第07話 集う女たち

昨日、日間ランキングを見てびっくり……何故に1位!?
日間ランキングの1位が取れました。これがガンダムのネームバリューの力か……。
読者のみなさん、読んでいただきありがとうございます!
正直、マウンテンサイクル(私のHDD)から発掘された過去の黒歴史に加筆したものだったので、こんなに好評とは思いませんでした。
今後もどうぞよろしくお願いします。

今回からシロッコ様の直属の部下たちが登場。
この子ら、みんな好きだったなぁ……。



 宇宙での戦いで連邦を屈服させることが出来なかったジオンは、地球侵攻を余儀なくされる。

 無論、ジオンに地球侵攻の準備が無かった訳ではない。宇宙世紀0078の段階でジオニック、ツィマッド双方に地上での戦いを考慮した陸戦MSの開発を依頼していることからも分かる通り、地上侵攻の準備は最初からあったのだ。

 とにかく地球連邦政府への恫喝と、戦争継続に必要な資源調達を目的とした地球降下作戦が決定される。その第一段階として月のマスドライバーを降下予定地点に向けて射出、対空防衛網にダメージを与えることが始まった0079の2月頭、私はガルマに呼び出しを受けていた。

 

「お呼びでしょうか、大佐」

 

「ああ。

 楽にしてくれ、シロッコ少佐」

 

 そうソファを勧めると、ガルマは手ずからお茶を淹れる。

 

「大佐、そのような気遣いは……」

 

「なに、このくらいはさせてくれ。

 それに今は誰も見ていない。

 軍人としてではなく、いつものように友人であるシロッコとして接してくれ」

 

「そうか。 わかったよ、ガルマ」

 

 私は頷いて、ガルマの淹れたお茶をすする。なるほど、香りからして普通とは違う。

 

「このお茶はいい物だな」

 

「分かるのか、シロッコ?」

 

「なに、日頃飲んでいるものとは段違いだというだけだよ。

 それでガルマ、旧交を温めようと呼んだのかね?」

 

「僕としても旧交を温めたいのだが……『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』のパプティマス・シロッコ少佐はそれほど暇ではないだろう?」

 

「それは君もだよ、ガルマ・ザビ大佐殿」

 

「ははは、気楽な士官学校時代が懐かしいよ」

 

 互いに苦笑すると、ガルマは一つのファイルを取り出した。

 

「確かに、今の時期はどこも忙しい。

 各モビルスーツ工房では今、地球降下作戦のために南極条約による対核防御を排除したF型、そして地上戦用のJ型へとザクⅡの改修作業を急ピッチに進めているが……不安はつきまとう」

 

「あの重力の井戸の底は我々スペースノイドにとっては未知の領域、準備はどれだけしても十分とはなるまい」

 

「予定通りならば来月……3月の頭には地球降下作戦が開始される。僕も地球侵攻軍の一員として参加することが決まった。

 そこでシロッコ……君には僕と一緒に地上に降りてほしい」

 

 そう言ってそのファイルを私に渡してくる。

 

「ほぅ……独立戦隊の設立か……」

 

 そのファイルはガルマ直属の独立戦隊の立ち上げについての資料であった。その任務は単純なモビルスーツによる敵の撃滅から、新規モビルスーツや武装の開発と改善のためのデータ取りまで多岐に渡っている。

 

「まさしく、君直属の便利屋だな」

 

 私の感想に、ガルマは苦笑した。

 

「確かに求めているものが多いのは認めるが、君ならば出来ると僕は思っているよ」

 

そう言ってガルマはどこか遠くを見つめる。

 

「僕は『親の七光り』……そう陰口を叩かれていることは知っているし、否定はしない。

 事実、ギレン兄さんやドズル兄さん、キシリア姉さんに比べて僕の能力が劣っているのは事実だろう。

 だが……僕はそれで終わりとすることは良しにしていない。

 必ず功を上げ、『親の七光り』で無いことを知らしめたいのだ。

 だからこそ、そのために信頼おける協力者が手元に欲しい。

 そして、それが出来るだけの能力あるものは君とシャアを置いて他にいないと思っている。

 だからこそ、この話を受けてほしい……」

 

「……そうまで言われては断りようがないよ。

 このパプティマス・シロッコ、その任を受けよう」

 

「ありがとう、受けてくれて嬉しいよ。

 物資に関しては出来得る限りの協力をする。

 人事に関してもよほどのことが無い限り希望通りになるように努力しよう。

 必要なものをピックアップしておいてくれ」

 

 その後は、士官学校時代の他愛無い思い出話に花を咲かせることになった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「さて……」

 

 私はその帰り道、ファイルの内容を思い出していた。

 部隊の設営に関しては願ったりである。私とシャアの目標である『打倒連邦・ザビ家』のためには、功績を重ねる必要がある。そのことを考えると恵まれた環境かつザビ家の近くに入りこめる絶好の機会だ。

 ただ問題は、部下をどうするかということである。

 今回はガルマ直属ということでかなり無茶な人事も許されるようだ。それはいいのだが、いつかザビ家と袂を分かつことを考えると、そこに連れていけるような人材が欲しい。

 加えて言えば、当然人材は優秀な方がいい。これらの条件の合致するものは……そう考えながら歩いている時だ。

 

 

 ドン……。

 

 

「むっ?」

 

「ごめんなさい……」

 

 薄汚れたコートにハンチング帽をかぶった小柄な人影が、私にぶつかる。そのまま小声で謝るとそのまま歩き去っていこうとするのを、私はその手を捕まえた。

 

「ふむ……中々いい腕だが、相手は見極めた方がいいな」

 

 その人物の手には、私の財布が握られている。

 

「放……して……」

 

「そうはいかん。

 窃盗は犯罪だ。 未遂とはいえ見過ごすわけにもいくまい」

 

 私の言葉にその人影は再びもがく。

 その時……。

 

「むっ!?」

 

 今一瞬、この人物からの思念のようなものを感じた。

 これはニュータイプ……またはその素質があると見た!

 その時、もがいた為にハンチング帽を取り落とした人影は、その素顔を見せる。

 

「女の子……か」

 

「……」

 

 私の言葉に、少女は無言だ。歳の頃は15前、多分メイ嬢と同い年といったところ。綺麗な短髪だが、その髪は少し薄汚れている。

 私は手を離すと、問い詰めるように少女に詰問した。

 

「親はどうしたのだ?」

 

「……親は、いなくなった」

 

 死んだという意味か、はたまたどこかへ蒸発か……それは好都合と、私は心の中で笑う。

 

「名前は?

 名前は何と言う?」

 

「……マリオン。 マリオン・ウェルチ」

 

 そう言って私に対し、どこか脅えるようにして少女……マリオンは名を名乗った。

 

「そうか……。

 では、マリオン。 私のところに来るつもりはないか?」

 

 警戒心を抱かせないように手を広げるようにして、出来る限りやさしく語りかける。

 すると、ますます警戒心を強めたように目を細めるとマリオンは言い放った。

 

「……ロリコン?」

 

「違う! 私はそのような低俗なものとは断じて違う!」

 

 失礼なもの言いに一瞬だけ私は声を荒げるが、一つ咳払いをして呼吸を整えると変わらず微笑みながらマリオンに言う。

 

「マリオン、君には才能がある。

 私ならばその才能、余すところなく引き出してみせよう。

 無論、このようなスリなどしなくてもいい生活を私が責任もって約束しよう。

 どうだ?」

 

 差し出した私の手と私の顔を不安そうに交互に見つめ、ややあってポツリと言った。

 

「……本当?

 本当に今の生活から抜け出せるの?」

 

「もちろんだ。

 後は君がこの手を取るだけだ。 さぁ……」

 

 その言葉にマリオンは意を決したようにゆっくりと私の手を取る。

 

「マリオン、君は今、最良の選択をした。

 その選択を後悔させることはしない。

 さぁ、行こう」

 

「……はい」

 

 こうして、私は将来の楽しみな部下を1人手に入れることになった。

ちなみにマリオンを連れ帰ったところ、『私はロリコン』だという根も葉もない噂が飛び交う様になってしまった。

 まったくもって失礼な話だ……ただ単に、才能溢れる愛でるべき『女』が少女だというだけのことであるというのに。

 低俗なものに品性を求めるのは絶望的かもしれんが、最低限の礼は持ってもらいたいものである。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 翌週、私はあのツィマッドの工房にて人を待っていた。

 このツィマッドの工房は戦争開始によって軍事施設化し、私のオフィスのような形になっている。今日はガルマに頼んでいた人材がやってくる日だ。

 そんなことをしているうちに、ドアをノックする音がする。

 

「入りたまえ」

 

「失礼します」

 

 そして入ってくるのは栗色の髪の女性だった。

 

「クスコ・アル。 着任いたしました」

 

「ごくろう」

 

 そして入ってきたのはクスコ・アル中尉である。ニュータイプの素養のある女性であり、私が是非自分の副官として欲しいとガルマに頼んだ人材だ。

 

「遠路ご苦労だった。 楽にしてほしい」

 

「はっ!」

 

 敬礼をして休めの体勢のクスコに、私は言い放つ。

 

「来てもらったところ済まないが、もう少し待っては貰えないか?

 もうしばらくで他のパイロットたちも到着するはずだ。 揃ってから話を始めさせてもらいたい」

 

「構いません」

 

 待つことしばし、再びドアがノックされ入ってきたのは年若い3人の少女である。全員が直立不動の体勢で敬礼を行う。

 

「ニキ・テイラー准尉、着任しました」

 

「同じくレイチェル・ランサム准尉です」

 

「お、同じくエリス・クロード准尉であります」

 

「ご苦労だった。 全員、どうか楽にしてほしい」

 

「は、はい」

 

 そう言って返事をするが3人は変わらず緊張の面持ちだ。

 

「君たちは私の2期下の士官学校生だ。 私にとっては後輩にあたる。

 そんなに堅くなることはない」

 

 彼女たち3人はついこの間まで士官学校生であった。戦時下のため特別繰り上げ卒業によって配属された新兵である。

 

「いえ、あのシャア少佐と同じく伝説的な先輩であるシロッコ少佐の前ですし、その……」

 

 全員を代表するようなニキの言葉に、そんなものかと私は苦笑すると全員の前に立って話を始めた。

 

「さて、自己紹介をしておこう。

 私はパプティマス・シロッコ少佐である。

 君たちも聞いている通り、我々はガルマ・ザビ大佐の直属の部隊として新型兵器開発や武装のためのデータ収集を中心にした、独立戦隊として活動していくことになる。

 そのため難度の高い任務に従事することも多い。

 特にクスコ君を抜いた3人は未だ実戦を知らないため、不安は大きかろう。

 だが、私は諸君らならそれを超えられるものであると確信している。

 全員、ジオン公国のために一層努力することを期待する」

 

「「「「はっ!」」」」

 

「部隊の編成に関しては後にしよう。

 とりあえず、我々の使用するモビルスーツを見てもらいたい」

 

 そして私は全員を先導してモビルスーツ工房の方へと進んで行った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「これがこの度実戦に投入される新型MS『ドム』の先行量産型である」

 

「これが……」

 

 そこには、地球降下作戦前に何とか完成した『ドム』の先行量産型が3機、並んでいた。

 ザクとは違う威容に、全員が目を奪われる。その時、1機の『ドム』が格納庫へと戻ってきていた。そのドムの色は紫色だ。

 そのドムがハンガーにロックされパイロットが降りてくると、そこに白衣の少女が駆けよってくる。

 

「マリー、お疲れ様。

 どうだった?」

 

「ん……どこにも問題ないわ。

 流石メイね」

 

「もう、そんなお世辞言っても何も無いよ」

 

 そう言って語り合うのはマリオン・ウェルチ嬢とメイ・カーウィン嬢の2人である。

 あの後、連れ帰ったマリオンを工房で紹介すると、私手ずからモビルスーツ戦の訓練を施した。ニュータイプの素養があったためかそれとも本人の努力か、マリオンは真綿が水を吸う様に日々その技術を高めている。そんな中、同い年ゆえかいつの間にか2人は親しくなり、今では名前で呼び合う仲だ。

 

「2人ともやっているな」

 

「あ、お兄さん!」

 

「兄さん」

 

 私に気付いた2人がすぐに駆け寄ってくる。

 ちなみに、マリオンもここでの生活に慣れ私に懐いてくれたのか、いつの間にやら私を『兄さん』と呼んで慕ってくれている。

 昔、アルテイシアにもそう呼ばれていたが、何ともこそばゆい気持ちになる。

 

「私専用のドムの調子はどうかな?」

 

「ばっちりだよ、お兄さん!

 関節強度も、スラスター出力も問題無し。

 エンジンも出力調整して最適化したから、通常機よりもずっと動けるよ!」

 

「兄さんの指示通り、反応速度優先の調整にしたわ。

 敏感過ぎて物凄く動かしにくい……でも、これで問題ないんでしょ?」

 

「ああ、それでいい。

 よくやってくれたな」

 

 私は2人を労い、その頭を撫でると2人は嬉しそうに目を細める。一方、その様子を眺める4人は唖然とした表情であった。

 

「すまない。

 紹介しよう、君たち同様部隊の一員であるマリオン・ウェルチ嬢と、部隊の整備技術主任のメイ・カーウィン嬢だ。 双方仲よくして欲しい」

 

 その様子に4人はますます困惑顔をする。

 だが、無理もあるまい。新型機から出てきたのが自分のたちより年下の15にも満たない少女であり、さらにその機体の整備技術主任が同じく年下の少女なのだ。驚きもするだろう。

 ……何やら非常に失礼なことを考えている気がするが、私はそのことには努めて気付かないフリをした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 マリオンとメイ嬢にニキ、レイチェル、エリスの案内を任せると、私はクスコと共にオフィスで部隊についての話をしていた。

 

「クスコ中尉。 君にはドムを預ける。

 それとニキ准尉とレイチェル准尉を任せるので作戦中は両名を指揮してほしい」

 

「了解しました。

 残ったエリス准尉は少佐が指揮するのですか?」

 

「ああ、マリオンと共に私が直接指揮を取る」

 

 その言葉に、クスコは意外そうな顔をした。

 

「よろしいのですか、少佐?

 エリス准尉の士官学校での成績は、ニキ准尉とレイチェル准尉に比べ数段劣ります。

 少佐と共に行動するとなると明らかに実力不足かと……?」

 

「だからこそ、だよ。

 何、私が直々に指揮をとるのだ。 死なせはせんよ。

 エリス准尉は磨けば光ると、私は思っているからな。

 そう、私は彼女たち3人には多大な期待をしているのだよ。

 君に預けるニキ准尉とレイチェル准尉も、存分に鍛えてやってくれ」

 

「少佐がそうおっしゃるなら、努力します」

 

「頼む。 せっかくガルマや方々に頭を下げて集めた者たちなのでな」

 

「あら、これだけ綺麗どころの女ばかり集めてハーレムでもおつくりになるつもりなんですか、少佐?」

 

 ジオン軍では功績あるものは、戦場に愛人を連れて行くこともある。クスコはどうやら私がそういう意図で呼び寄せたのではないかと、少し挑戦的な視線で言った。そんなクスコに私は肩を竦めて言い放つ。

 

「そんなつもりはないが、私は時代を動かすのは『女』だと思っている。

 そんな期待を寄せる『女』たちにみすみす散って欲しくは無いというだけだよ」

 

「存外フェミニストなのですね、少佐」

 

「そんなつもりはないがな。 親代わりだった人の教育の賜物だよ」

 

 面白そうにコロコロと笑うクスコに、私は苦笑すると外を眺める。

 

「地上は連邦の領域、いかにモビルスーツがあれど苦戦は必至だろう。

 時間はあまり無いが、出来る限りの準備をしてくれ」

 

「了解です、少佐」

 

 そう言ってクスコは退出する。

 

「さて……」

 

 そう呟いて私は目を瞑った。

 『ドム』の早期開発は成った。まだ本格的な量産とは行っていないが、本来のロールアウトよりも半年以上の前倒しである。無論、まだ実戦を行っていないので改良点は出てくるだろうが、それでもそう時間のかかるものではない。まずは連邦に対して多少の時間は稼げたと見ていいだろう。

 とはいえ、ドムもそう長くは戦線を維持できまい。

 ドムのような局地戦機は問題も多い。ザクのような地上でも宇宙でも等しく使える汎用機こそが最終的に一番重要なのだ。早めに次期主力汎用機の開発に進まなければ明日はない。

 それに武装も重要だ。そろそろ、次に開発する汎用機に合わせてビーム兵器も開発すべきだろう。

 

「やれやれ、やることは山ほどあるな」

 

 そうため息交じりに呟くが、いつの間にか私は笑っていた。自分の持つ能力を全力で傾ける日々というのはとても充実している。

 ……もしかしたら原作のシロッコも野望などではなく、こうやって自分の才能をフルに発揮した充実感ある日々を送りたかっただけなのかもしれない……そんなことをふと私は思ったのだった。

 

 



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第07.5話 酒の雫と友の声

今回の話、内容的には取り留めない話なんですが……この3人の会話は、近いものはよく現実でします。

「あの鬼教官、今は○○にいるって」

「同期のあの子、結婚したってさ」

「お前のせいであの時、連帯責任で走らされたの忘れてねぇぞ」

など、同期で顔を合わせて呑むとこんな会話になって懐かしいあの頃のことを話します。
辛い生活でしたが、それを一緒に過ごした同期の桜との酒の席の会話はこんなものです。

……原作のシャアとガルマもきっと、こうやって語り合ったことあったんだろうなぁ。



 サイド3のその酒場は、戦争中だと言うのに大いに賑わっていた。いや、賑わっているのは戦時下だからかもしれない。『戦争』というビリビリとした緊張感に常に包まれているからこそ、そこから一歩離れれば心を開放したくなるものだ。そして、酒というものはその一助にはうってつけである。

 その酒場の奥、そこは喧騒からはうって変わって落ちついた上品な造りとなっていた。『貴賓室』と書かれたその部屋は、今日は貸し切りである。

 

「この忙しい時期にすまないな、シャア。

 だが、地球に降りる前にこうして会いたかった」

 

「なに、構わんよ。 宇宙は今は小康状態、こちらも哨戒任務で少々の時間の融通は利く。

 それに私としても君やシロッコには会いたかった」

 

「そうだな、地球に降りてはこういった機会は滅多にない。

 貴重な機会を逃すというのは愚かな選択だからな」

 

「……君らしい言葉だな、シロッコ」

 

 私の言葉に、シャアは苦笑する。そして、我々3人はそれぞれにグラスを手に取った。

 

「何に乾杯するかね?」

 

「やはりここはジオン公国にか?」

 

 私とシャアの言葉に、ガルマは首を振った。

 

「いや、ここは……英霊となった同期の友たちに、しよう」

 

 『一週間戦争』……華々しい戦果でのジオンの勝利だが、レビルの『ジオンに兵なし』の演説でも分かる通りかなりの戦死者も出ている。その中には、私たちと同期の者たちの名もちらほらとあった。

 

「わかった、それで行こう」

 

「では……英霊となった同期の友たちに……」

 

「「「乾杯っ!!」」」

 

 カラリッ、とグラスの中で氷が鳴った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 我々3人はゆっくりと会話を交わす。部隊のことであり、ジオンの今後のことでありその内容は様々だ。そして、その内容は自然な成り行きで思い出話へと移っていく。

 

「しかし……こうして酒を酌み交わしていると、士官学校時代のシロッコ、君を思い出すよ」

 

「私としては、もっと他のことで思い出してもらいたいものだ」

 

 そんな風に私を見てくるガルマに、私は心外だと肩を竦める。だが、横合いからシャアがガルマの言葉に合いの手を入れた。

 

「いや、ガルマの言い分ももっともだと思うぞ。

 同室の私は隠すのに苦心させられたものだよ、『酒蔵の主』殿」

 

 それは士官学校時代の、同期からの私の愛称の一つだ。

 私は士官学校時代、自室に酒を多量に隠し持っていた。それをたまに同期の中で振る舞い秘密の酒盛りをしていたため、同期の親しい者たちからは隠れた愛称として『酒蔵の主』と呼ばれていたのである。

 

「その酒でよく酒盛りをしたのだ。 そう言う意味では君たちもとっくの昔に共犯だよ」

 

「ははは、それはそうだ。

 ……そう言えば聞いてみたかったのだが、あの酒は何のために持ち込んでいたんだ?

 僕たちに無償で振る舞うというためでもあるまい。

 飲むにしても、君はそれほど飲める口ではないだろう?」

 

 そのガルマの問いに、私は笑って答える。

 

「先輩方につかう『通貨』だよ」

 

 士官学校は閉鎖空間であり、娯楽というものは少ない。そんな環境の中では、嗜好品の類は時に『通貨』として通用するのである。

 見廻りや寮監の先輩に渡しておくと、情報を聞き出せたり何事かを見過ごしてもらったりと、融通が利くようになって非常に便利だ。

 そのことを話すと、ガルマは感心したように頷く。

 

「なるほど、シロッコの先輩方からの受けが良かった理由はそれか。

 しかしそんな根回しをしていたなんて、さすがはシロッコと言ったところだな」

 

「どんなことであれ、自らの置かれた環境を快適にするためには労は惜しまぬほうがいい。それがどこでどのように役立つかもしれんからな。

 ……今だから言うが、あの酒が無ければあの『暁の蜂起』も成功したかわからんぞ」

 

「何?」

 

「あの『暁の蜂起』は私とシャアで素案を立てたが……シャア、私がどうして、あの時見廻りの人数と時間と巡回ルート、そして兵器庫のカギの位置とパスを正確に知っていたと思う?」

 

 それを聞いたシャアとガルマは、堪らないと言った感じで笑う。

 

「ハハハッ、これはいい!

 私たちの起こした『暁の蜂起』の成功は、酒のおかげか!」

 

「それはケッサクだ!」

 

「だろう?」

 

 アルコールのまわり始めた頭に、今の話はツボであったようだ。あのシャアとガルマが、いつもの様子からは考えられないように腹を抱えて笑い、私も笑う。

 

「では、あの『暁の蜂起』を成功させてくれた、偉大な酒にも乾杯するか?」

 

「ハハハッ……それもそうだ。

 ではあの蜂起を成功に導いた偉大なる酒に……」

 

 未だ腹を抱えながらも、我々はグラスを掲げる。

 

「「「乾杯っ!」」」

 

 

 カランッ……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 笑いも収まったころ、私は新しい話題を振る。

 

「『暁の蜂起』と言えば、1つ私にも読めなかったことがある……」

 

「ほぅ……シロッコがか?

 まるで相手の手の内を知り尽くしているような、あれだけ見事な作戦を立てた君にも、読めなかったことがあるとは……」

 

 シャアがウィスキーのグラスをあおりながら、意外そうな顔をする。

 

「なに、私にだって分からないことはあるさ、シャア」

 

「それで、シロッコでも読めなかったこととは何なんだい?」

 

 ガルマがそう先をうながすと、酒を口に含む。それをしっかりと確認してから、私は言った。

 

「無論、あのゼナがドズル学校長とくっついたことだよ」

 

「ブフッ!!」

 

 ガルマが酒を吹き出し、大いにむせ返る。

 

「大丈夫か、ガルマ?」

 

「あ、ああ。 ありがとう、シャア」

 

 シャアの差し出した手拭きで、むせながら口を拭うガルマに私は笑う。

 

「2人ともあの展開は読めたか? 少なくとも、私は読めなかった」

 

「私も読めなかった。 というよりも、読めるものなどおるまい。

 ゼナは同期の男から人気もあった。誰がその心を射止めるか、裏ではトトカルチョもあったはずだ。

 ドズル学校長とは接点など、あの『暁の蜂起』以外になかったと思うのだが……」

 

「ドズル兄さんが言うには、あの時銃を突きつけられて、なにかこう、『運命』を感じたらしい」

 

「なるほど……。

 それなら、ゼナをドズル学校長の抑えに抜擢した私たち3人は、ドズル学校長にとっては恋のキューピットというわけか」

 

「ヘアバンドを付け不敵に笑うキューピットか……絵面は絶望的だな」

 

「仮面のキューピットよりは怪しくないと自負しているよ、シャア」

 

 互いに皮肉げに笑い合う私とシャア。

 

「2人はそれで済んでるだろうが……僕など同期のゼナを『義姉さん』と呼ぶんだぞ。

 彼女のことは決して嫌いではないがこう……違和感がすごい」

 

「それはもう君の一生につきまとうものだ。

 素直に慣れたまえよ」

 

「それはわかっているよ……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 そうしている間にも、時間は流れる。すると、今度は思い出したかのようにガルマが言った。

 

「そうだ。 シャア、君もいい女性(ひと)を見つけたという話じゃないか。

 僕にも見せてくれないか?」

 

「……シロッコ、君か?」

 

「そう怖い顔をしないでくれ、シャア。

 私としてはやっと来た友の春の喜びを、多くの友と共有したいというだけだよ」

 

 恨みがましいシャアの視線を、私は肩を竦めてやり過ごす。その様子に、シャアも諦めたのか、懐からフォトを取り出した。それを興味深そうにガルマが覗き込む。

 

「綺麗な女性(ひと)じゃないか。 おめでとう、シャア。

 何と言う女性(ひと)なんだ?」

 

「ララァ・スンという。

 今はフラナガン機関にいるよ」

 

 その言葉に、私は酒に口を付けながらピクリと眉を動かした。

 ジオンのニュータイプ研究所である『フラナガン機関』、それは私の知る『原作』ではキシリアが設立するものであり『ブラウ・ブロ』や『エルメス』といった、強力なニュータイプ専用機を造り上げているが……。

 

(まだ2月だぞ。 私の知る『原作』なら、フラナガン機関の設立は宇宙世紀0079の6月以降だったはず)

 

フラナガン機関設立が、随分と前倒しになっている。

 

(私の干渉が、バタフライエフェクトのように影響を及ぼしているというのか……?)

 

 少しだけ疑問に思ったが、今は酒の席。私とてアルコールで頭をやられいつものようには思考できない。仕方なく今の疑問は頭の隅へと追いやる。

 そんなことをしているうちに、今度はシャアが逆襲だとでも言うように話の矛先を私に向けてきた。

 

「女性といえば……噂で聞いたが、シロッコは幼い少女に自分を『兄』と呼ばせ、その地位を利用して幾人もの女を囲っていると聞いたが?」

 

「……根も葉もない噂に踊らされるとは。

シャア、君らしくないな」

 

「そうかな?

 私はメイ嬢が君を『お兄さん』と呼ぶのを聞いているのだぞ?

 ついにシロッコが本性を露わしたか、と思ったが」

 

 その言葉に大仰に私は天を仰ぐ。

 

「何だその本性、とは。

 私は常に紳士であるという自負がある。

 確かに私の部隊は女性ばかりだが、それは優秀な人材を揃えたらそれが女性だったという結果論にすぎんよ」

 

「ほぅ……ぜひとも見せてもらいたいものだな。

 君の手掛ける部隊というものを」

 

「生憎とフォトなど持ち歩いてはいないのでな。 またいつかの機会に見せよう」

 

 シャアの攻撃を、私はあくまで流す。しかし、それが横合いから痛撃を受けるとはこのシロッコを持ってしても読めなかった。

 

「シロッコの部隊なら、僕が画像を持っているよ」

 

「ブゥ!!?」

 

 その言葉に、私ははしたなくも大いにむせ返る。気管に入りこんだ酒の焼けつく感覚に咳を続ける私を尻目に、シャアとガルマの会話は続く。

 

「おお、さすがはガルマだ」

 

「フフッ、いつまでも親の七光りとは言わせんよ。

 僕は上官であるしな、部下を気にかけるのは当然だ。

 そして……こういう機会でシロッコにひと泡吹かせられると思って持ってきていたのだ」

 

「ガルマァァァ! 貴様、謀ったなガルマァァ!!」

 

「フフッ、これでやっとシロッコに一つ勝てそうだ。

 恨むなら自分の才能を恨むといい」

 

 復活した喉での私の声をあざ笑うかのように、ガルマはシャアに私の部隊を見せていた。

 それを見てシャアは……。

 

「シロッコ……友人として言うが、ロリコンは犯罪なのだぞ」

 

「ララァ嬢に手を出している君のどの口が言うか、シャア」

 

「しかしな……これは想像以上だぞ」

 

 見ればその端末の写真はどんなタイミングで撮られたのか、左右からメイ嬢とマリオンに抱きつかれている瞬間のものだ。

 

「ちなみにそのマリオンという少女は14歳。

 シロッコのことを『兄さん』と呼んでいるぞ」

 

「ええい、ガルマ! 余計なことを!」

 

 しれっ、と余計なことを洩らすガルマを睨むが、ガルマは素知らぬ顔で上品そうにウィスキーをあおる。その言葉をきいて、シャアが私を見る目がさらに冷たくなった。

 

「噂はどうやら噂ではなかったようだな」

 

「……言っておくが、私は彼女たちの将来性に期待をよせているのであって、君の考えているような女性を囲うような真似をしようという意図は断じて無い。

 本当だぞ」

 

「なるほど、将来性はあるな。

 クスコ中尉はすでに美人だが、他の隊員たちも後数年もすれば誰もが思わず振り返る美貌の持ち主になるだろう。

 その先見性……やるな、シロッコ」

 

「ええい! 違うと言うに!!」

 

 アルコールに頭をやられた者同士、何を言っても無駄である。

 そんな私とシャアに、グラスを傾けガルマは言った。

 

「ロリコンたる我が友人たちに……乾杯」

 

「「誰がロリコンか!!」」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……ときにシャアよ、そう言えば1人、女性の話でなんの被害もこうむっていない者がいるな」

 

「そういえばそうだな、シロッコ」

 

 私とシャアはニヤリと笑うと、ガルマを見る。

 

「ぼ、僕か!?」

 

「他に誰がいるというのだ?」

 

「我々2人がこうも被害を受け、1人無事というのは虫が好かん。

 さぁ、ガルマ。 君の話を聞こう」

 

 シャアと私はそう促すが、ガルマは呻るばかりだ。

 

「そう言われても……今のところ僕にはそういう浮いた話はないな」

 

「意外な話だな……」

 

「君は士官学校時代から、幾人もの同期の女性から言い寄られていただろう。

 それに君の場合、見合いの話くらいはあるだろうに?」

 

「……それらは全部、『ザビ家』に恋をしてるんだよ」

 

 シャアと私の言葉に、ガルマはポツリと言った。

 

「確かに何人もの女性に言い寄られもしたし、見合いの話もたくさんある。

 だが、それは僕を、『ガルマ・ザビ』を見ているのではない。『ザビ家』を見ているんだよ。

 ……僕は確かにジオンを指導する『ザビ家』の男、そのことに誇りはあるし、ジオン公国国民のために尽くさなければという義務感はある。

 だが、それはあくまで外側だ。『ガルマ・ザビ』という本体が、『ザビ家』という皮を被っているのだというのに、皆その外側だけを見て僕と話をする。

 僕にはそれが煩わしい……。

 だからこそ、『ザビ家のガルマ』ではなく『ガルマ・ザビ』として付き合ってくれるシャアやシロッコには感謝しているんだ」

 

「「……」」

 

 その言葉に、私とシャアは何も言えない。

 

「恋愛でも、僕はそうありたい。

 『ザビ家のガルマ』ではなく、ただの『ガルマ・ザビ』を愛してくれる女性に巡り合いたいんだ。

 ザビ家の男ということで少し諦めていたが……ドズル兄さんとゼナの結婚が、僕に諦めるべきではないと教えてくれた。

 ……自分でハードルを上げてしまったということさ。お陰で、今は浮いた話の一つもない。

 2人にはすまないが、僕にはそういう話はないさ」

 

「「……」」

 

 そして、ガルマはすまなそうに頭を下げるのを見て、私もシャアも何も言えなかった。

 やがて、ゆっくりシャアがグラスを取る。

 

「そうか……。

 では、今回地球へ行くことで出会いもあるかもしれん。

 私もララァと巡り合ったのは地球でだからな」

 

「そうだな。

 ……よし、ではまた呑むとしよう。

 我が友ガルマに良き出会いがあるように、我ら3人の道行きに光があることを祈って乾杯だ」

 

「ああ」

 

「分かった」

 

 

「「「乾杯!」」」

 

 すっかり氷の溶けたグラスは何の音も立てない。

 少しぬるくなった酒を、私たちはゆっくりとあおった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 酒宴は終わり、私たちは分かれ分かれに帰路に着いていた。

 静かな夜は、今が戦時下だと言うことを忘れさせる。しかし、確実に連邦との戦争は続いており、今の瞬間もどこかで誰かの命が散っている。

 そんな思考を、私は頭を振って消し去った。

 

「何とセンチメンタルな感情か。

 まったく……ガルマのせいだな」

 

 アルコールによって纏まらぬ思考に、私は苦笑する。

 

「『ザビ家のガルマ』ではなく『ガルマ・ザビ』として付き合ってくれる……か。

 ガルマ、君の目は節穴だぞ」

 

 ガルマの言葉を思い出し、私は苦笑した。

 こう言っては何だが、私とシャアほどに腹に一物抱えた者は無い。この胸には『打倒連邦・ザビ家』の思いが膨れ上がっている。

 しかしそんな相手に、知らぬこととはいえガルマは無上の信頼を寄せるのだ。こちらとしては複雑な気分であると同時に、悪い気はしない。

 私とシャアにとって『ザビ家』は打倒する相手だ。ガルマが、『ザビ家のガルマ』であったなら何の気兼ねもなく利用し、その喉笛を引き千切って復讐を果たそう。

 

 しかし……『ザビ家のガルマ』ではなく、ただの『ガルマ・ザビ』は復讐の対象か否か?

 

「……今、考えることではないな」

 

 私は頭を振って、その思考を振り払う。

 今、自らの為すべきは成果によって地盤を固めること。

 発言力を増し、確固たる地位を築くこと。

 なんの準備も出来ていない今、自らが為すべきはそれだ。

 私やシャアが何かを為すまでには、まだまだ時間はある。

 

 だが……できることなら……。

 

「ガルマ、地上での君を見定めさせてもらおう。

 そして、いつか来るその時には……『ザビ家のガルマ』ではいてくれるなよ」

 

 私はそれだけ呟いて、帰路を急いだ……。

 

 

 



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第08話 重力の井戸の底へ

今回から地上編。
舞台を地球に移し、ついにドムがその真価を発揮することに。
ギレンの野望的に考えると、降下作戦時にドムとか凶悪すぎる。

ドム万歳! ツィマッド万歳!


 

 

 宇宙世紀0079、3月1日。 第一次降下作戦、発動。

 黒海沿岸、オデッサへと降下した第一地上機動師団はオデッサ周辺を制圧、その周辺に広がる大規模な鉱山地帯から戦争継続のためのレアメタルなどの戦略物資を入手することに成功した。

 

 そして宇宙世紀0079、3月11日。第二次降下作戦発動。

 北米大陸制圧を目的にした、この第二次降下作戦の指揮官はガルマ・ザビ大佐。そしてその直属だった私の隊もそれに従い、地球へと降りたったのだった。

 

「各機、状況を知らせよ」

 

 夜闇の中、私はHLVからゆっくりと紫のドムを発進させながら状況を確認する。

 メインウェポンとしてジャイアント・バズと左右前面の腰アーマーにその予備弾装を2つ、右の腰にはザクマシンガン、左の腰にザクマシンガン用の予備弾装が1つ、そしてヒートソードを装備している。

 

『こちらマリオン。 ドム2番機、問題ありません』

 

『こちらクスコ。 ドム3番機、こちらも問題ありません』

 

 続けて出てきたのは通常の黒いドム。

 こちらは通常通りジャイアント・バズとヒートソードを装備し、ジャイアント・バズの予備弾装を前後の腰アーマーに4つ装備していた。

 

『こちらニキ。 ザク1番機、システムオールグリーン。 問題無しです』

 

『同じくレイチェル。 ザク2番機、問題無く起動しました』

 

 続けて出てきたのはザクⅡの地上戦型であるJ型である。脚部にミサイルポッドを装備し、手持ちの武器はザクマシンガンに予備弾装3、クラッカーが2つに、ヒートホークを装備している

 

「エリス機はどうした?」

 

『す、すみません。 エリス機、ドム4番機起動しました』

 

 一つ遅れて出てきたのはドムの最後の1機である。その装備はザクマシンガンにその予備弾装を前後腰アーマーに合わせて4、左右の腰アーマーにシュツルムファウストを1本ずつにヒートソードというものだ。未だ練度に不安のあるエリスはジャイアント・バズを取り回すのは不安が残るため、弾幕を張ることのできるマシンガン装備である。

 

『エリス、あんた1人だけ新型貰ってるんだから、もっとしっかりしなさいよ』

 

『ご、ごめんなさい』

 

 レイチェルの言葉に、恐縮したようにエリスが頭を下げる。

 

「仲の良いのはいいことだが、おしゃべりはそこまでだ。

 これより我が隊は、スコット航空基地の制圧作戦に移る!」

 

 これより先、ジオン軍が作戦行動をするにあたって制空権の確保は重要課題である。そのためキシリア直属の特殊部隊、『闇夜のフェンリル隊』は本隊に先行して降下、ニューヤークの航空基地の制圧に向かっている。その動きに連動するように我々は五大湖周辺に存在する連邦軍のスコット航空基地を占拠することが目的だった。

 このスコット航空基地、ミデア輸送機やガンペリー輸送機などによる各部隊への物資の空輸を目的とした航空輸送隊の重要拠点基地なのである。ここに集積された物資と、ミデアやガンペリーといった大量の輸送機を抑えることで北米地域全体の、ひいては連邦軍全体の補給を滞らせ、連邦軍の動きを鈍らせることができるという場所だ。

 無論、連邦もバカではない。スコット航空基地には多数の防衛隊が展開していることは予想された。しかし第二次降下作戦の本命とも言えるキャリフォルニアベースを攻略する関係上、大部隊を裂くことは出来ない。そこで白羽の矢がたったのが、新型機を開発し運用している私の部隊ということだ。

 

「後続の歩兵隊が到着するまでに、夜闇に紛れて接近し敵の機甲戦力を殲滅する。

 第一隊は基地南部の平野部分から直進、その間に第二隊は基地北側に回り込んで基地内部に突入。敵が混乱している間に第一隊も基地に突入し第二隊と合流、基地の残存戦力と司令部を叩く。

 今回の任務は今後の地球での戦い全体に関わる、重大な作戦である。初陣の者も多い中でこのような重要な作戦というのは緊張もするだろう。しかし、君たちならばできると私は確信している。

 クスコ中尉、第二隊を頼む」

 

「了解です、少佐」

 

「マリオンとエリスは私に続け!

 囮でもある危険な任務だ、ドムの性能があると言っても慢心せずに気を引き締めろ!

 では出撃!!」

 

 その言葉と共に私はペダルを踏み込むと、ドムはホバーの滑らかな動きで進み始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「急げ、すぐにでも宇宙人どもはやってくるぞ!」

 

 スコット航空基地司令であるR・F・エドワーズ准将は部下に向かって檄を飛ばしていた。オデッサ地域を占拠された段階で予想は出来ていたが、ついにこの北米大陸にもジオン軍が降下してきたのだ。

 

「ニューヤーク航空基地に連絡。

 すぐに航空部隊を要請しろ!!」

 

「そ、それがニューヤーク航空基地から入電。

 現在ジオン軍の攻撃を受けているとのことです!」

 

「チィ! 奴らめ、手が早い!?

 防衛の機甲部隊を出せ! 

 ここの物資が無くなれば、各戦線が飢えることになるんだ。出し惜しみは無しだ!

 稼働できる61式戦車、ホバークラフトはすべて出して防衛線を構築!!

 宇宙人を基地に近づけるな!」

 

 エドワーズ准将は舌打ちすると、防衛部隊の発進を指示する。

 

「61式戦車、51両。 ファンファン35機……奴らのザクの速度なら防衛線を構築し集中砲火を浴びせかければ撃破も可能のはずだ」

 

 エドワーズ准将は冷静に的確な指示をしていく。だが……。

 

『敵の人型を確認!!』

 

「なっ!? バカな、早すぎるぞ!?」

 

 機甲部隊からの報告に、エドワーズ准将は唖然とした。まだ機甲部隊の防衛線の構築は終わっていない。ザク(一つ目)の移動速度ならば十分に防衛線の構築の余裕はあったはずだ。

 

「どういうことだ! ザク(一つ目)の移動速度はそこまで速くは無いはずだぞ!!」

 

『そ、それが!

 敵はザク(一つ目)ではありません!!

 見たこともない人型……新型です!!』

 

「なにぃ!?」

 

 そして、指令室に機甲部隊のガンカメラからの映像が映し出される。その映像にエドワーズ准将は戦慄した。

 それはザクなどよりも数段早く駆け抜けて行くモビルスーツだ。ザクのように一つ目(モノアイ)だが、それがザクのように横だけでなく縦にも動いている。

 だがエドワーズ准将が真に戦慄したのは新型モビルスーツだからではない。先頭の1機は紫色に塗られていた。機甲部隊からの集中砲火を、まるでゆらゆらと踊るように避けて行くその様は間違いない。

 

「『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』、パプティマス・シロッコか!?」

 

 ジオンの誇るエースパイロットの1人がこの基地へと攻め込んできていることに、エドワーズ准将はつららを背に突き刺したかのような悪寒を感じていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「遅い!」

 

 私はジャイアント・バズをファンファンの集団の中に撃ち込んだ。ジャイアント・バズは直撃しなくてもその爆風だけでファンファンをなぎ倒し行動不能にする。

 

「よし!」

 

 足の速いファンファンを潰したことで敵の戦線に大きな穴が開いた。そこを全速力で駆け抜け、足の遅い戦車部隊の後方に回り込むとザクマシンガンとジャイアント・バズを両手で乱射する。

 混乱した戦車部隊が砲撃を浴びせかけてくるが、そんなものは当たりはしない。

 そうしているうちに、今度は私を狙った61式戦車がマリオンからのジャイアント・バズの直撃を受けて跡形もなく吹き飛び、その隣の61式戦車はエリスからのザクマシンガンの直撃を受け爆発する。

 私とマリオン・エリスに挟まれる形になった61式戦車部隊はまともに狙いをつけることもできずに次々に破壊されていく。

 

「まさに蚊トンボだな。

 可哀相だが、このままご退場願おうか!」

 

 次々と、面白いように破壊されていく機甲部隊。これならば私が居なくても大丈夫か。

 

「ムッ!?」

 

 そのとき、私は基地から何かを感じ取る。

 カメラを最大望遠にしてみると、大型格納庫のシャッターが開き、ミデア輸送機が出てこようとしていた。

 輸送機だけでも逃がそうというのだろう。

 

「中々いい判断だが、もう遅い!

 マリオン、エリス! ここは任せた!

 敵は慎重に一台ずつ潰していけ!」

 

 それだけ指示すると、ドムをトップスピードで滑走路へと走らせる。

 基地からの迎撃の砲撃を避けながら加速し、離陸体制に入っていたミデア輸送機のコックピットに、ジャイアント・バズを向けた。

 

「墜ちろ!!」

 

 放たれたジャイアント・バズの360mmの炸薬は狙い違わずミデア輸送機のコックピットに直撃、コックピットを失ったミデア輸送機が失速し、滑走路中ほどで爆発炎上する。

 

「そこだ!!」

 

 私は駆け回りながら格納庫の入り口を潰して、後続の輸送機を発進できないようにしていった。

 私に向かって基地の機銃からの火線やミサイルトレーラーが集まってくるが、それを上空から打ち下ろすように降ってきたミサイルが吹き飛ばした。ザクⅡJ型の脚部三連ミサイルである。どうやら第二隊が突入を開始したようだ。

 

『少佐、無事ですか?』

 

「もちろんだ、クスコ中尉。

 司令部の破壊と、各種銃座の破壊は任せる。

 私はマリオンとエリスたちのもとに戻って、機甲戦力の撃滅を……」

 

 そう呟いた瞬間だが、私はマリオンたちのほうから感じるものがあり、言葉を切る。

 そして、そのタイミングでマリオンから通信が入った。

 

『敵機甲部隊の排除が完了しました』

 

「ほぅ、想定よりも早いな。 2人ともよくやってくれた。

 では2人とも私に続き基地に突入、敵の抵抗を排除し、第二隊を支援せよ!」

 

『『了解!』』

 

 その答えを聞くのと同時に、私は未だ動きまわるミサイルトレーラーにザクマシンガンを撃ち放つ。

 未だ抵抗はあるが、機甲部隊が全滅した以上長くは保つまい。

 

 その5分後、スコット航空基地司令部は破壊され、後続から追いついた歩兵部隊によって施設が完全に占拠されたのはそれから1時間後のことだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「素晴らしい戦果! さすがはシロッコだ!」

 

 地球に降下したばかりのガルマは、シロッコによるスコット航空基地占拠の報告を受け、その内容に手放しで賞賛の声を上げる。

 連邦軍の航空補給路の要となるスコット航空基地の占拠によって、北米戦線だけではなく欧州戦線も連邦の抵抗力は弱まったはずである。それにそこから手に入れた物資は膨大なもので現在のジオン軍にはありがたい。それになにより嬉しいのはスコット航空基地の大量のミデア輸送機やガンペリー輸送機を無傷で鹵獲できたことである。

 陸戦兵器であるモビルスーツは、歩行によって移動するためその行動半径は思ったよりも小さい。当然ジオンでもモビルスーツの輸送を考えたガウ攻撃空母やファットアンクル輸送機などは設計されているが、今現在はそういったものがないのだ。だが、連邦のミデア輸送機やガンペリー輸送機はその大積載量によってモビルスーツの輸送も可能である。モビルスーツ隊の機動力を大幅に上げる輸送機の奪取に、ガルマは小躍りして喜んだ。

 

「それにしても……凄いな、シロッコの手掛けた『ドム』の性能は」

 

 ガルマは添付されるデータに、今日何度目かの驚きを隠せない。

 『ドム』の性能に関しては資料として見せてもらっていたが、実戦での結果は驚きのものだ。

 投入されたのは先行試作された4機、うち1機はシロッコの専用機なのでどのような戦果でも納得できる。

 しかし、4機のうち2機には今回が初陣となる新兵が搭乗していたのだ。そんな新兵も今回の出撃で目覚ましい戦果を打ち立てている。しかも、損害は新兵のドムが小破というものだ。これは新兵のドムの肩に、戦車の砲弾が当たったということだが肩の稼働にほとんど問題なく、装甲で止まっている。恐るべき重装甲だ。

さらにメイン武装となっているジャイアント・バズの威力も、既存のザクバズーカとは比べ物にならない。機動力・装甲・攻撃力と、ザクとは一線を画す性能だ。

 『ドム』の存在を知ったジオニック社が、第一次降下作戦の際に新型陸戦モビルスーツである『先行量産型グフ』を投入し活躍したという報告があったが、地上での主力モビルスーツの座は、恐らくドムのものとなるだろう。

 また、既存のザクが使うバズーカも、ザクバズーカもより強力なジャイアント・バズへと更新すべきだとガルマは考える。

 そこまで考えて、今は目の前のことに集中すべきだと頭を振ってそのことを一度隅に押しのけると、全軍に向けて指示を出す。

 

「栄光あるジオン公国の勇士たちよ、進め!

 目標は北米最大の連邦軍基地、キャリフォルニアベースだ!!」

 

 ガルマの指揮の元、モビルスーツ隊がキャリフォルニアベースへと進んで行く。

 その戦列は、連邦軍からすれば圧倒的な『死神の列』である。

 そして、それに抗う術は、連邦には無かった……。

 

 

 

 宇宙世紀0079、3月12日。

 全軍の先陣を切り、キャリフォルニアベースの防衛部隊に特殊部隊『闇夜のフェンリル隊』とシロッコ率いる部隊が襲い掛かり、その戦線をかき回し、本隊と合流後これを壊滅させる。

 翌、3月13日。

 キャリフォルニアベースは無血開城に近い形でジオン軍によって制圧され、ここに第二次降下作戦は終了を見た。

 

 この戦いによりジオン軍は、キャリフォルニアベースの連邦軍次期主力潜水艦U型を含む潜水艦群と、工廠を無傷で手中にする。

 この潜水艦群は海洋地域にまでジオンの行動範囲を広め、工廠は改装され地上でのモビルスーツ生産の一大拠点となっていくのだった。

 

 

 



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第09話 キャリフォルニアベースの日々

週間ランキングで1位になれました。
……自分でも信じられない。

これからもがんばっていきますので、よろしくお願いします。

今回は地盤固めの話。
地上制圧には、やっぱ海を支配しないと。



 

 宇宙世紀0079、3月18日。 第三次降下作戦、発動。

 アジア、オセアニア、アフリカへと降下した部隊はアジア地域の要所であるペキンを制圧、オデッサとの欧州戦線と補給ラインが確立する。

 同時にオーストラリア大陸も3分の2を制圧。

 アフリカ大陸もキリマンジャロ鉱山基地を中心とする各種鉱山基地を制圧、大量の物資採掘拠点を入手することに成功する。

 ここにジオン公国は地上の半分近くを制圧するに至った。

 

 しかし急速に広がった戦線に補給線は伸びきり、物資が末端にまで届かないといった事態も発生。コロニーとは違う地球の環境に、兵たちから戸惑いと不安の声も聞こえる。さらに連邦軍本部であるジャブローの位置も特定できず、ジオン公国の勝利の決定打には届かない。ここに戦線は完全な膠着状態に陥ったのである。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あ、それはこっち!

 そっちのはプログラムを改修するからちょっと待って!」

 

 キャリフォルニアベースの工廠に、メイの指示の声が木霊する。今、キャリフォルニアベースの工廠はモビルスーツ生産用に変更する作業に大わらわだ。

 

「どうかね、メイ嬢?」

 

「あ、お兄さん!」

 

 私の姿を認めたメイ嬢がトテトテとこちらに駆けてくる。可愛いものだ。

 

「順調だよ、この分なら3月中には生産ラインが完成するよ」

 

「その分ではドムの第一次生産は4月頭というところか……」

 

 優秀なスペックデータと、そして私の部隊の目覚ましい活躍によって『ドム』はジオン公国に正式に採用される運びとなった。

 地球でのモビルスーツ生産は今後ドムが中心となる予定であり、今頃、オデッサやキリマンジャロといった地上の拠点でもドムの生産ラインが構築されつつあるだろう。

 同時に、武装もザクバズーカの生産が取りやめになり、代わりにモビルスーツ用のバズーカはジャイアント・バズを中心に生産されることになった。このお陰で、ツィマッド社は笑いが止まらないらしい。

 だが、こうなると面白くないのはジオニック社である。ザクⅡで築き上げたモビルスーツ企業ナンバーワンの座を脅かされたジオニック社は、巻き返しのためにすでに新型モビルスーツの開発に着手しているそうだ。

 私としても『ドム』で満足するつもりはない。そして次なる新型モビルスーツのための案をすでに持ってきていた。

 

「メイ嬢、実は見てもらいたいものがある」

 

 そう言って私は3つの案をメイ嬢に見せる。さっとその中身を見たメイ嬢だが、その顔が見る見る喜色に染まっていった。

 

「ドムの改修案に水陸両用モビルスーツの再設計、それに……モビルスーツ用の手持ちビーム兵器の開発!?

 凄い、凄いよお兄さん!!」

 

 今回、私が持ってきたものは3つである。

 

 

1.ドムの改良型、『ドワッジ』の設計。

 

2.『ハイゴッグ』の設計。

 

3.『ビームライフル』『ビームサーベル』の基礎理論と設計。

 

 

 以上の3つだ。

 

 ドムは優秀なモビルスーツだが、それだけでいつまでも戦線を維持できはしない。だが、地上の重力戦線は現在、ドムの量産体制に入っている。そのため、そのドムの改修型でさらに陸戦に特化した『ドワッジ』の設計を持ってきたのだ。これなら完成したものも改修するだけで戦力アップが見込めるし、生産ラインの大幅な変更は無いためスムーズに移行できる。

 2つ目は、7割が海である地球を攻略していくためには水陸両用モビルスーツはどうしても必要となる。そのためのモビルスーツだが、ツィマッド社が現在設計・試作している『ゴッグ』は些か問題があった。それなら最初から、のちにゴッグを再設計しなおして優秀な機体となった『ハイゴッグ』の方を早期に投入すべきだとして、設計を持ってきた。

 3つ目はそろそろ今後を見据え、本格的に『ビームライフル』と『ビームサーベル』の開発をすべきであると考えたためである。今のところ強力な実弾兵器であるジャイアント・バズで事足りているが、その期間もそう長くは無い。ビーム兵器優勢の時代はすぐそこまで来ているのだ。だからこそ、早い段階でその投入に踏み切るため、開発を始めようと思う。

 

「それで意見を聞きたいのだが、メイ嬢はどう思う?」

 

「うーん……ドムの改良型の『ドワッジ』は比較的すぐできると思う。防塵対策や廃熱ダクトとか、結局はマイナーチェンジの域を出ないし。

 2つ目の『ハイゴッグ』はやってみないと……本国の『ゴッグ』のデータはあるけど水中と言う特殊状況下で使用するモビルスーツだし、シミュレートだけで出来るかどうか言うのは危険だよ。実機を造って実際に地球の海に潜らせてみないと分からない」

 

「その通りだな」

 

「最後の3つ目は……確かにこれが完成すれば、モビルスーツは圧倒的な火力を手に入れられるけど、これこそ本当に未知の領域だよ。

 メガ粒子を縮退寸前で保存する技術は開発を進めているところらしいけど、まだそこまで達していないし……」

 

「そこは任せてほしい。

 なに、私も勝算もなくこんな話はせんよ」

 

 何と言っても私の中にはその完成系、そしてさらにそれ以降に続く技術と理論があるのだ。こんなことで躓くとは考えてもいない。

 

「お兄さんがそういうなら間違いないんだろうけど……。

 あれ? このビーム兵器搭載の試験機、ザクⅡS型をベースに改修するの?

 ドム使わないの? ドムの方がジェネレーター出力高いのに?」

 

「確かにそれは考えたのだがな……。

 改修を行うにしてもドムでは、ハッキリ言ってそんな拡張性はない」

 

 そう、ドムは優秀なモビルスーツだがすでに『完成』されたモビルスーツだ。

 熱核ホバー機能など、各種機能をコンパクトに詰め込んだため、正直大幅に改修できるような拡張性は無くなってしまっている。これは私がドムの単純な改修型である『ドワッジ』を提案したことでもわかるだろう。

 その点、ザクⅡはかなりの拡張性を持つ。ザクⅡはそのしっかりとした基礎設計から、様々なバリエーションを生む母体として使われたことも、その優秀さを物語っていた。

 それにザクⅡはドムと違って汎用機、今後宇宙での検証実験をすることを考えると、宇宙にも出れる機体で実験をした方がいいだろう。

 

「確かに私は、ザクにとって代わるためにドムを完成させたが、ザクはザクで優秀なモビルスーツだということは認めている。

 今回のビーム兵器試験用の改修で、ザクⅡS型をベースにするのもそのためだ」

 

「なるほど……確かにそうだね」

 

 私の言葉に納得し、メイ嬢は何度も頷く。

 確かにザクⅡは名機と呼ぶにふさわしい優秀なモビルスーツだ。

 だがこの時、その優秀さゆえに悲劇を呼ぶことになろうとは、まだ私にも想像はできなかったのである……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 メイ嬢と別れモビルスーツ工廠を離れた私は、今度はモビルスーツの演習場へとやってきていた。

 見ればマリオン、エリス、ニキ、レイチェルの4人が演習を行っている。

 

「これは少佐、どうしました?」

 

 監視所に入るとクスコが敬礼をして出迎えてくる。私はそれに敬礼で答えてからその横に並んだ。

 

「どんな感じかね?」

 

「そうですね……」

 

 私に問われ、その形のいい顎に指を添えてからしばし思案するクスコ。

 

「まずマリオンですが……流石は少佐の秘蔵っ子ですね。

 機体操縦と反射神経は抜群、格闘は苦手のようですが射撃センスはそれを補って有り余ります。

 まるで『そこに来ることがあらかじめ分かっていた』かのような、見事な予測射撃です」

 

「ほぅ……」

 

 その言葉に、私は思わず感嘆の声を洩らす。どうやら順調にニュータイプとしての素質を開花させ始めているようだ。

 

「ニキ准尉とレイチェル准尉もいい仕上がりです。

 ニキは基本に忠実な動きで、中々のレベルの射撃・格闘のセンスを持っていますね。それに彼女は、戦場全体を見渡すいい観察眼を持っています。磨けば部隊を安心して任せられるだけの指揮官になるでしょう。

 レイチェルのほうは射撃・格闘ともにニキより上かもしれませんが、無謀な部分も見受けられます。思い切りがいい、と言えば聞こえはいいですが……正直、彼女だけでは早死にするタイプですね。しかしニキと組ませることで、その手綱をニキが握り、彼女の持ち味が十分に生かせるようになります。

 あの2人はいいコンビですよ」

 

「そうか、それはいいことだ。

 それで、残ったエリスはどうだ?」

 

 その言葉に、クスコは何と言っていいものかと、少しの間思案した。

 やがてゆっくりと口を開く。

 

「射撃・格闘、そして単純な操縦技術……私が普通の教官なら、すぐさまモビルスーツから引きずり出してマゼラアタックにでも乗せますね。

 本人の努力は認めますが、戦場に立つには未熟と考えますよ。

 この間の戦果も、ドムの性能のおかげでしょうね」

 

「では、引きずり下ろすかね?」

 

 私が先を促すようにそう言うと、クスコは肩をすくめた。

 

「言ったではありませんか、私が『普通の教官なら』、と。

 ……こう言うのは不合理かもしれませんが……私は彼女には『何か』を感じます。

 『女の勘』、でしょうかね?

 実際、彼女は非常に『運がいい』場面に出くわしています。

 この間のスコット航空基地の時……彼女の受けた砲弾ですが、あれは死角から放たれた間違いなく直撃のコースの一撃でした。

 しかし彼女はそれをドムを旋回させ捻ったことで、肩アーマーへの小破にしています。

 あれは、彼女の実力で狙って出来る機動ではありません。それこそ『そこに来ることがあらかじめ分かっていた』ようなことでもない限りはね。

 『運良く』とも取れますが……私は彼女には『何か』を感じました。だからこそ、彼女の成長を見たいとも思います。

 少佐も同じ考えなのでは?」

 

「さて……ね」

 

 そう言って私は肩を竦める。

 ……どうやらエリス准尉もその才能を開花させつつあるらしい。またクスコ中尉も、漠然とした状態だがニュータイプ能力に目覚めかかっていると見ていいだろう。ニキ准尉とレイチェル准尉にしても、着々と仕上がりつつあるようだ。

 

「しかし、どうやら私の隊は安泰といったところなのは喜ばしい限りだ。

 4月の頭にはニキ准尉とレイチェル准尉にも『ドム』を回してもらう。

 今のうちからローテーションさせて慣れさせておいてくれ」

 

「はっ!」

 

 そう敬礼をするクスコを尻目に、私は演習場を後にした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「シロッコか、待っていたよ」

 

 私はキャリフォルニアベースの指令室でガルマと会っていた。

 

「どうだい、ドムの生産については?」

 

「生産ラインについては、3月中には稼働できる状態になる」

 

 ガルマは私にソファを勧めると、そのまま現状を尋ねてくる。

 

「それはよかった。

 ドムは間違いなく、この重力戦線を支える重要な機体になる。

 本国の方でも、ドムの宇宙タイプのリック・ドムの生産を検討中だそうだ。

 ドムシリーズが量産された暁には、連邦など怖くはないよ」

 

「ガルマ、それは早計というものだ。

 ドムは確かに優秀だが、それだけで連邦には勝てんさ。

 さらに『その次』を考えて行かねばな」

 

「『その次』か……また期待させてもらうよ。

 キャリフォルニアベースの資材は好きに使ってくれていい」

 

「フッ、期待は裏切らないことを約束しよう。

 ところで……私を呼んだのはドムの進捗状況の説明のためかね?」

 

「それもあるのだが、用事はそれだけではない」

 

 そう言ってガルマは手元から資料を取りだしてきた。

 それは物資の目録と、何やらシンボルマークのようなもので、トカゲの絵が描かれていた。

 

「その資料に書かれている通り、明日、こちらにザンジバル級機動巡洋艦が3隻届く」

 

「ほぅ……新型のザンジバル級を3隻とは、豪気なものだ」

 

「なに、それだけこの重力戦線が重要視されているということだよ。

 そしてそのうちの一隻は……シロッコ、君に任せたい。

 今、この瞬間から君の部隊は『第五独立戦隊 リザド隊』と呼称、ザンジバル級を母艦とし活動してもらう。

 それは部隊のパーソナルマークだ。 どうかな、気に入ってもらえたかな?」

 

 そろそろ作戦行動のために母艦となるものが欲しかったところだが、機動性の高いザンジバル級が手に入るというのは嬉しい誤算だ。

 

「虎の子のザンジバル級を一隻貰えるとは……身に余る光栄。

 戦果をご期待下さい、ガルマ大佐」

 

「期待しているよ、シロッコ少佐殿」

 

 そう言って敬礼すると、ガルマも苦笑しながら敬礼を返した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 宇宙世紀0079、3月。

 地球降下作戦を成功させたジオン軍は、各種重要拠点を改造しモビルスーツやそのパーツ・武装の生産拠点を築き、その勢力地盤を固めて行く。

 そして宇宙世紀0079の4月頭、キャリフォルニアベースでは第一次生産分とも言えるドム20機が完成した。

 

「私に客だと?」

 

 私が完成したドムの第一次生産分のチェックを行っていると、クスコによって来客が伝えられる。

 

「はい。 それもお二人です」

 

「この時期にか。

 内容は分かっているが無碍にはできんか……分かった、会おう」

 

 私はドムのチェック作業を他の整備に任せると、尋ねてきた2人の方へと向かっていく。

 2人はドムを見上げながら、何か談笑を繰り返していた。私は2人に敬礼をしながら近付く。

 

「お待たせして申し訳ない。 ダグラス大佐にゲラート少佐」

 

 その2人というのは以前メイ嬢と一緒にいたところを会ったダグラス・ローデン大佐と、『闇夜のフェンリル隊』隊長のゲラート・シュマイザー少佐であった。

 

「いや、突然の訪問に対応してもらったのだ。

 こちらの方こそお礼を言いたい、『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』、パプティマス・シロッコ少佐」

 

 ゲラート少佐の方はそう返すと握手を求めてくる。

 

「久しぶりですな、少佐。

 もっとも、あの時はこのような大人物になるとは思いもしなかったよ。

 『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』殿」

 

「ははは、あまり若者をいじめないでいただきたい。 ダグラス大佐」

 

 以前にも会ったことがあるためか、どちらかと言えば気安いダグラス大佐とも握手を交わす。

 

「それで、お二人とも私に御用とは?

 もっとも、内容はある程度察していますが……」

 

「そうだな……私もダグラス大佐もそちらの予想している通りの内容なのだが、ドムを我々の部隊にも廻してもらえないだろうか?」

 

「ふぅむ……」

 

 予想通りの言葉である。ガルマの片腕でありこのキャリフォルニアベースでのモビルスーツの生産に対する大きな発言力を持っている(少なくとも周りからは私はそう認識されている)私のもとには、こうした相手が数多く来ていた。どこもかしこも、新型は喉から手が出るほどに欲しいのだろう。そこで私は、この2人の事を考える。

 

 ダグラス・ローデン大佐……外人部隊の司令官であり、『ダイクン派』としても知られる人物。外人部隊はつねに激戦区へと送られる故にその練度は非常に高い。それに、彼はメイ・カーウィン嬢にとっては父親のような存在であるらしく、私の元にいるメイ嬢に今現在も様々な便宜を図ってくれている。

 

 次にゲラート・シュマイザー少佐……キシリア・ザビ直属の特殊部隊『闇夜のフェンリル隊』の隊長。その実力のほどは、第二次降下作戦でも遺憾なく発揮された。また、彼も『ダイクン派』の人間で、あの青い巨星ランバ・ラルとは戦友であり親友である。

 

 ……双方ともにここで恩を売るメリットは大きいだろう。特にゲラート少佐の場合、『闇夜のフェンリル隊』はキシリア・ザビの直属だ。ここでドムを渡さない場合、のちのちに何が起こるか分からない。

 

「……いいでしょう。 そちらの部隊にドムを送ることを約束しましょう」

 

「おお、ありがたい!!」

 

「感謝します、シロッコ少佐」

 

「いえ、『理想を同じくする同志』、協力は致しましょう」

 

 そう言って私は2人と握手を交わす。

 

 翌日、私からの口利きでチェックの終わったばかりの新品のドムを一個小隊、つまりは3機ずつを『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』へと渡した。

 向こうも貰えて1機であると思っていたのだろう、新型を一個小隊も廻してもらえるとは予想外だったらしく、ダグラス大佐もゲラート少佐も目を丸くしていた。

 恩を売るのなら最大限でなければあまり効果は無い。それに強力な部隊を指揮する、『ダイクン派』の2人にパイプが出来たと思えばドムの6機など安いものだ。

 

 いつかのための地盤は、着々と固まっていった……。

 

 

 



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第10話 躍進するメカニズム

なんとこの作品が、月間ランキング1位になれました!
こんなにうれしいことはない……!
読者のみなさんには感謝です。
これからもがんばっていこうと思います。

今回は開発話、強力水泳部員の誕生です。


 宇宙世紀0079、4月。

 ジオンの北米戦線は支配地域を盤石とするために動いていた。

 

 ガルマは各地の晩餐会などに精力的に出向き北米大陸の有力者たちと接触、そのパイプを使ってジオン軍に敵対しないようにロビー活動を行っている。流石はザビ家の男、そういった行動は上手い。

 同時に、この忙しい中に一部部隊を裂いてまで戦禍に巻き込まれた民間人への救援などもガルマは積極的に行い、同時に民間人に対する非道は厳罰に処すると全軍に徹底した。

 ザビ家はどうか知らないが、ガルマ本人のジオン国民を思う心は本物だ。そして占領下でも紳士的に、本国のジオン国民に接するように占領下の民間人に接することを心がけたのである。ザビ家という政治中枢の人間であることで培われた『国民感情に対する配慮』を、意識せずに発揮した形だろう。

 おかげで北米でのジオン軍の評判は悪くない。むしろそれなりに受け入れているといった風潮すらある。

 ただ、その中でガルマはニューヤーク有力者の娘、イセリナ・エッシェンバッハという娘と出会ったそうで、その娘に心奪われてしまったようだ。相手もまんざらではないらしい。

 

「君やシャアの言った通り、地球では良い出会いがあったよ。

 この間もイセリナは……」

 

 仕事も終わり、夜に突然指令室に呼ばれたと思えば、酒盛りと称したのろけ話を聞かされるハメになった。何とも歯が浮くようなのろけ話を友人ということで黙って聞いてやれた私の精神力は、さすがニュータイプと自分を褒めてやりたいところだ。

 

 一方、ジオン軍としては北米に残存していた連邦の残党部隊を掃討していたが、これが中々上手くいかなかった。

 北米は未だ一部地域が連邦の制空権であり、その場所に南米から空輸などによって補給が行われていて連邦残党が抵抗を続けている。また海に面した部分でも一部連邦の勢力は残っており、南米から船舶や輸送機による補給が届いているらしく、未だ頑強な抵抗をする地域もある。その戦力には未だに機甲戦力が多数残存しており、決して甘く見れる戦力ではなかった。

 

 戦場は膠着状態の様相を呈しているが、この間にも広がる戦線に対応するため兵器の生産と配備は急ピッチに進んでいる。ドムは第三次生産と合わせてキャリフォルニアベースだけで70機ほどがすでに戦線に投入された。オデッサなどを足せば、すでに100機以上のドムが前線に投入されたことになる。これを多いと見るか少ないと見るかは考えどころだ。

また制空権確保のための戦闘機『ドップ』。行動範囲を広める『ガウ攻撃空母』や『ファットアンクル輸送機』といった航空機も充実させている。

 陸上戦力も主力戦闘車両である『マゼラアタック』に、小規模移動基地とも言える陸戦艇『ギャロップ』の生産も開始した。

 また軍の眼となる偵察機……ミノフスキー粒子下ではレーダーの使用には制限がつくので高度な情報収集力を持つ偵察機の有無は死活問題に成りえる。これは従来の偵察航空機の『ルッグン』、そして一部のザクを改修し『ザク強行偵察型』として投入している。

 これらジオン軍は兵器生産に余念がない。

 そして、私も新型のモビルスーツの開発に忙しい日々を送っていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 宇宙世紀0079、4月28日。

 

「よし、ではテストを始めてくれ」

 

『了解。 マリオン・ウェルチ准尉、テスト開始します』

 

 私の言葉と同時に、マリオンの操るドム改修型、『ドワッジ』が走行を始める。

 ドワッジは外見はほとんどドムとは変わらない。しかし、内部的には防塵フィルターの強化や追加プロペラントの増設にジェネレーター出力の上昇、冷却機能の強化に各関節の反応強化という総合的な強化が為されている。

 

「調子はどうか?」

 

『良好です。 ドムとあまり変わらないはずなのに、そのくせ動きに癖がない』

 

 マリオンの驚きの声に、私は満足げに頷く。

 ドワッジは一年戦争期のドムの最終量産タイプである。その性能は陸戦においてなら最優秀であったとすら称され、後年でもジオン残党軍によって運用が続けられているくらいだ。

 その後も一しきりのテストを行ったが結果は良好、これをもって現在のドムの生産ラインに手が加えられ、少しずつ生産はドワッジに変わり、すでに生産を終えたドムも順次ドワッジへの改修作業を行っていくことになる。

 

「ドワッジは問題無さそうだな。

 では、次のテストに移る」

 

 その言葉に、私の隣でメイ嬢が頷いた。

 

「ハイゴッグ試作1号機から3号機まで、テストを開始してください」

 

『了解、ハイゴッグ試作1号機、エリス・クロード准尉、テストを開始します』

 

『同じくハイゴッグ試作2号機、ニキ・テイラー准尉、テストを開始』

 

『ハイゴッグ試作3号機、レイチェル・ランサム准尉、テスト開始します』

 

 メイ嬢の指示と共に、今回の本命とも言える青い機体が立ち上がった。全体的に丸みを帯びたその形状は水陸両用モビルスーツのそれである。

 このモビルスーツは『ハイゴッグ』、ツィマッド社の水陸両用モビルスーツである『ゴッグ』を再設計したものである。

 そもそも、ツィマッド社の水陸両用モビルスーツである『ゴッグ』はジオン軍が初めて正式採用した水陸両用モビルスーツである。

 早期から地球侵攻の可能性を考えていたジオン公国はジオニック・ツィマッド・MIPの各社に水陸両用モビルスーツの開発を依頼していた。

 そのうちジオニック社はザクをベースとして『ザクマリンタイプ』を作成するが、その性能は軍の要求を満たすことが出来なかった。

 一方のツィマッド社はこの『ザクマリンタイプ』のデータから、新規に水陸両用モビルスーツである『ゴッグ』を完成させるに到り、これをジオン軍は正式採用することになる。

 ちなみに、この水陸両用モビルスーツの開発に一歩出遅れたMIP社だが、MIP社はその後も研究を続け、水陸両用モビルスーツの傑作機『ズゴック』の完成に至るが、それはまだ先の話だ。

 閑話休題。

 

 とにかくこのゴッグ、地球降下作戦にも投入されサイド3で造られた実機がこのキャリフォルニアベースにもあるのだが、これを水陸両用モビルスーツの主力にするのは些か問題だ。

 水圧に耐えることを中心にしたために厚くなった装甲と、水冷式を取り入れたためメガ粒子砲を撃てるまでに至った高出力ジェネレーターと見るべきものは多いが、ゴッグは陸戦能力と機動性が劣悪という欠点があった。そこでそのゴッグを、まるで別物と言えるほどに全面的に改修したのがこの『ハイゴッグ』である。

 

 このハイゴッグが完成すれば、ジオン公国の海洋支配は問題ないところになるだろう。ある意味ではジオン公国にとって何より重要なモビルスーツかもしれない。

 

「よし。

 水中は地上とは勝手が違う。 ある意味では宇宙よりも人類の侵入を拒む世界だ。

 眼に見える計器すべてに気を配り、目に見えぬもの、気配にも気を配れ。

 機体を押し潰そうとする水圧の気配すら、感じ取れ。

 細心の注意を払い、テストを続けろ」

 

『『『はい!』』』

 

 私の言葉に3人は答え、ハイゴッグが水中へとその機体を沈める。

 そこからの各種テストは良好なものだった。

 ゴッグの重装甲をオミットしたために得られた軽量ボディによる機動性と、それによる格闘性能の向上。武装の見直しによる攻撃力の上昇。

 そして……。

 

「それではビームカノンの射撃実験を開始して下さい」

 

 ハイゴッグの腕部には、メインウェポンとしてゴッグの腹部メガ粒子砲を小型化したビームカノンが装備されていた。

 ゴッグにはジオン軍初となるメガ粒子砲が搭載されていた。これは水冷式の大出力ジェネレーターの採用によって有り余るほどの出力を得られたためである。しかしこのメガ粒子砲は収束率が低く、射程が短い上に威力・連射性に乏しくおまけに異常に重かった。ゴッグの本体重量が80tほどなのに、このメガ粒子砲だけの重量が30t以上である。その収束率を高め、小型化したものがこのハイゴッグのビームカノンだ。

 

『エリス機、射撃します!』

 

 ハイゴッグ試作1号機が放ったビームカノンは、敵に見立てた鋼板に風穴を開けた。この鋼板はザクⅡの装甲を想定しており、その威力の高さを窺える。

 

「凄い……これがビーム兵器の威力……」

 

「これでも大気圏内ゆえに威力は軽減されているのだ。

 これが宇宙でならどうなるか……」

 

 私の言葉に、メイ嬢がブルリと身体を震わせる。ビーム兵器の恐ろしさというものを思い知ったのだろう。

 

「……何故私がビーム兵器にこだわるか、分かるだろう?」

 

「うん……。

 お兄さんが今手掛けてるモビルスーツ用の手持ちビーム兵器って……出来そうなの?」

 

「何、目処はついた。

 そうかからずに……そうだな、来月にはお披露目できるだろう」

 

「そんなに早く!?」

 

 メイ嬢は驚きの声の後に、眼をキラキラと輝かせる。その表情は早く見せて欲しいと言うのがありありと分かる。私はそれに苦笑すると顎でモニターを指した。

 

「気になるのは分かるが、今は目の前のテストとハイゴッグの実用化が先だよ」

 

 言われて、ハッと気づいたようにメイ嬢はモニターへと視線を戻す。そんな中でも、ハイゴッグは次々にテスト内容をこなしていた。

 結果は良好、細かい手直しは必要になるが実用に耐えるだけの結果が出ている。その結果にメイ嬢を含めたスタッフたちが湧き立つ中、私はしばし考えていた。

 ハイゴッグは間違いなく優秀なモビルスーツだ。これで水中と水辺の戦いでジオン軍が連邦軍に押されることはないだろう。

 しかし、果たしてそんな優秀なモビルスーツをいくら開発したところで連邦に勝つことができるのか?

 連邦の生産力は絶大である。その圧倒的物量でモビルスーツの量産をされれば果たして押し返せるのか……?

 

「……」

 

 いや、私の知る原作では連邦でモビルスーツの量産体制が確立されるのは10月~11月といったところ、まだ時間はある。

 それまでにハイゴッグによって南米の調査を行い、ジャブローの位置を特定する。そこを攻めて連邦の息の根を止めるのが良いだろうか?

 

(幸いまだ時間はある。 今は地盤を固める時期だ。

 今のうちに功績を上げ、人脈を増やしながら開発を行い、好機を待つしかない……)

 

 そう思う。 まだ時間はある。

 だが……私の勘というか、何かが囁くのだ。

 

『そう上手くは行かんぞ』、と。

 

(このザラつくような、肌にまとわりつく嫌な予感……。

 何かが起こるというのか?)

 

 不吉な予感を感じて、未だ喜び合うスタッフを尻目に私は手元の端末でファイルを開く。

 そこに映し出されているのは、今の時代では存在できるはずのない私の愛機だ。

 

「……お前の力、案外早めに必要になるかもしれん」

 

 私は押し寄せる不安にそれだけ呟いた。

 

 

 



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第11話 軍人は負け犬にあらず

今回はある意味では歴史大崩壊の一つ。

あるネームドキャラを味方に引き入れました。
この人、生き残って欲しかった……。
時代に乗れずに自分の生き方を変えられず、それでも軍人として戦場で働きたい思いがあったのは事実。
こういう不器用なキャラは大好きです。



 

 宇宙世紀0079年5月9日、アリゾナの半砂漠地帯。私はニキとレイチェルを連れてモビルスーツで走行中だった。

 北米大陸では、未だに連邦の抵抗勢力が根強い。戦線も虫食い状態であり、所々に連邦の勢力圏があるような状態だ。

 それを掃討し戦線をしっかりと構築できればいいのだが……生憎と人手が足りず、そこまでには至っていない。ついこの間も物資集積場が1つ、連邦に襲われて破壊されてしまったところである。

 クスコはマリオンとエリスを監督し、メイ嬢と共にハイゴッグの調整とテストをさせている。そのため、私は手の空いたニキとレイチェルの演習も兼ねるように哨戒任務に出ていた。

 ニキとレイチェルは新しく受領したドワッジの慣らしをするように、その感触を確かめる。私の搭乗機は専用のドムだ。

 

「ニキ、レイチェル。

 ドワッジの様子はどうか?」

 

『良好です。

 ドムと操作性の差もなく、違和感はありません』

 

『すごいですよ、この子の性能!

 これだったら連邦なんてさっきみたいに楽勝ですね』

 

 先ほども連邦の残存戦力である61式戦車3台を発見、瞬く間にニキとレイチェルによって撃破されている。

 

「こらこら、61式戦車ごときドワッジで楽勝でなければ困るよ。

 これごときのことで慢心はいかんな」

 

『そうよ。

 少佐の言う通りよ、レイチェル』

 

『はぁい。 気を付けま~す』

 

 気の抜けたような返事をするレイチェルに私は苦笑しながらも、現在の戦況を考える。

 確かに現在ジオンは押しているだろう。だが、それはモビルスーツの性能あっての話だ。しかし、モビルスーツだけで地上のすべてが制圧出来るかと言えばそうではない。

 モビルスーツは高価な兵器であり数が限られる。

 『戦いは数』とはドズル・ザビの言葉だが真実だ。モビルスーツは強力だが、全ての戦線に投入できる数はない。そうなればモビルスーツ以外の通常兵器の出番なのだが……コロニーでのシミュレーションだけで設計した戦闘機の『ドップ』、攻撃空母『ガウ』などを見ればわかるがあまりにお粗末すぎた。

 本来ならその辺りも私が提案すべきかもしれないが、モビルスーツの開発を最優先しているためそこまで手が廻らず、ノータッチである。

 

(モビルスーツ以外の戦力の増強もしたいところだ……)

 

 思わず天を仰ぐ私。だがその時、私は空から何かを感じる。

 

「ん?」

 

『どうしました、少佐?』

 

 動きを止めて空を見る私に、追随していたニキも機体を止めて私に聞いてくる。

 

「あれは……?」

 

 カメラを向けてみると宇宙から降下してくるコムサイが見える。

 

『えー……ありました、あれは第603技術試験隊のコムサイのようです。

 何でも試作兵器の再評価試験で降下してきたと……』

 

 その時だ。そのコムサイに向かって、ロケットの発砲煙が見える。

 

『敵襲!? レイチェル、近くの味方は!』

 

『付近の第67物資集積所、応答なし!

 ミノフスキー粒子が濃いのか……』

 

「希望的観測は捨てた方がいい。第67物資集積所は連邦に襲われたと見て良いだろう。

 しかし……なんだ、今日だったのか……」

 

『はい?』

 

「いや、何でもないよ」

 

 聞き返してくるニキに私は返してから指示を出す。

 

「これより友軍の救助に向かう!

 ニキ! レイチェル! ついて来い!

 味方を死なせるな!!」

 

『『はい!!』』

 

 その返事を聞きながら、私はほくそ笑む。ドムとドワッジの足の速さなら間に合うだろう。あの人材……死なせるには惜しい。

 

(運がいいな、私は)

 

 私は心の中で笑いながら、ペダルを踏み込んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ガタガタと揺れる機体と大音響ドラムのような120mmザクマシンガンの銃声を聞きながら男……デメジエール・ソンネン少佐は薄く笑った。感じる全てが、今、自分が戦場にいるということを伝えてくる。

 

 ソンネン少佐は元は戦車教導団の教官を務めるほど優秀な戦車兵であった。

しかし、時代はモビルスーツの時代。戦車はモビルスーツに主力兵器の座を奪われ、それにともない多くの戦車兵がモビルスーツへの転科適正試験に受かってモビルスーツ乗りという戦争の主役の座を得た。

 しかし、ソンネン少佐はモビルスーツへの転科適正試験には受からなかった。新時代の兵器モビルスーツに拒否された、旧時代の古参戦車兵……それがソンネン少佐である。

 そのことで自堕落な生活を送り、糖尿病も患った。ドロップがなければ痙攣発作すら止まらない壊れた身体……しかし、それでも軍人としての魂は腐ってはいなかった。

 

 自分はまだ戦える。時代に取り残された戦車乗りでも……モビルスーツとでも戦える!

 そしてその相棒も時代に取り残された兵器だった。

 モビルタンク『ヒルドルブ』……半モビルスーツ形態への変形を可能にする、超弩級戦車である。しかし、モビルスーツの汎用性によって必要無しと判断された過去の遺物だ。

 

 おあつらえ向きの相棒だと、ソンネンは思う。

 時代に取り残された者同士、それでも自分たちは戦えるということを証明してやろう。

 

 

 コムサイから投下された彼のヒルドルブは、現在コムサイを襲った連邦の部隊と交戦中だ。その敵部隊は鹵獲しただろうザクⅡ6機を使い、味方を装って物資集積場を襲っていたのだ。

 すでに2機のザクⅡを撃破している。残りはザクⅡが4機に61式戦車が2両だ。

 

「スモーク散布!!」

 

 ピンク色のスモークで視界を遮りながら、ヒルドルブはモビルスーツの上半身と戦車の下半身を持つ半モビルスーツ形態に変形するとザクマシンガンを乱射して、一機のザクⅡの足を撃ち抜く。

 そして反転すると、今度はヒルドルブ自慢の30サンチ砲が火を噴いた。この30サンチ砲は旧式の宇宙戦艦が装備していたものを転用した物、その火力は凄まじく、直撃を受けたザクⅡが文字通り弾け飛ぶ。

 ヒルドルブのキャタピラが猛然と大地を噛み、マシンガンを乱射しながら走り出す。マシンガンの乱射でザクⅡをハチの巣にして撃破。

 そのザクⅡの持っていたマシンガンを奪い取り、残った61式戦車が2両を葬る。

 

「あと1つ!」

 

 残ったザクⅡは猛然とマシンガンを乱射しながら接近戦を仕掛けようとしてくる。すぐにヒルドルブを向けようとしたソンネンだが、キャタピラに撃破したザクⅡの残骸が挟まり、動かない。

 しかし、ソンネンはその経験から、すぐさまに適切な、そして大胆な選択をする。

 

「弾種、対空用榴散弾(type3)! 信管0距離!!」

 

 音声入力に指示すると、30サンチ砲を迫るザクⅡとは逆方向に撃った。その反動でヒルドルブが浮き上がる。その瞬間に片側だけのキャタピラで走行したのだ。

 そのまま体当たりを受けたザクⅡは倒れ込みながらもその手のザクマシンガンを向けてくるが、次弾を装填し終えたヒルドルブの対空用榴散弾(type3)が0距離で火を噴き、散弾によってザクⅡがハチの巣になった。

 

「へ、へへ……惜しかったな」

 

 倒れ込んだザクⅡにそう呟いてから、ソンネンは手の中のドロップを見つめた。

 このドロップは自分の象徴、新時代の象徴であるモビルスーツに受け入れられず、自堕落な生活に堕ちて行った象徴だ。

 だが……そんな自分でも戦えることを今、証明してみせたのだ。

 安堵と充実感でゆっくりとソンネンは目を瞑る。だが、その充実感は長くは続かなかった。

 

「っ!?」

 

 突然の振動に現実に引き戻されたソンネン。そこには、撃破したはずのザクⅡの姿があった。足を撃たれたザクⅡだが、その足を引きずってヒルドルブに組みついたのである。

 ザクⅡはザクマシンガンのストックを鈍器変わりにヒルドルブの頭部にあたる部分に叩き付けた。そのたびにコックピットが揺れる。

 ヒルドルブには腕があるが、それでも格闘戦など出来ない。

 

『ははは、ほんと、惜しかったな。

 片足くらいで仕留めた気になるなよ!』

 

 この至近距離だ。何処を撃とうが120mmの弾丸は装甲を貫徹できるだろう。

 0距離でザクマシンガンを構えながら連邦のパイロット、特務部隊『セモベンテ隊』の隊長、フェデリコ・ツァリアーノ中佐は勝利を確信する。

 しかし……。

 

『そうだな、本当に惜しかったな』

 

『えっ?』

 

 次の瞬間、ザクⅡはコックピットのある胸のあたりから、真一文字に両断されていたのだ。

 

「何、だ……?」

 

 コックピットを襲った衝撃のせいで頭を打ち付け、血を流したソンネンは見た。いつの間にかやってきた紫色のモビルスーツがヒートサーベルでザクⅡを切り裂いたのである。

 

『こちらはパプティマス・シロッコ少佐だ。

 そちらは無事か?』

 

「へ、へへ……噂の鬼火さまか。俺も運がいいな。

 助かった。 ちょいと頭を打ったが、こっちは無事だ」

 

『わかった。 コムサイはこちらに任せてもらう。

 救援も呼んだのでしばらく休んでいるといい』

 

「ああ、そう……させてもらうぜ。

 今なら……いい夢が見れそうなんだ」

 

『そうか……それなら話は後にしよう。

 では、良い夢を』

 

 その言葉に、ソンネンは朦朧としていた意識を手放す。

 最後の最後でヘマをしたが、まぁいい。

 自分は生きている。生きて……また戦車兵として戦える。

 

「俺は……まだ戦えるぞ……」

 

 それだけ呟くと、ソンネンはしばしの間眠りに入ったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あの高名なパプティマス・シロッコ少佐とお話しできるとは……光栄であります!」

 

「いや、こちらこそ技術を齧るものとして有意義な会話ができるのを嬉しく思うよ、オリヴァー・マイ中尉」

 

 私は帰還したキャリフォルニアベースの工廠で、コムサイに搭乗していたオリヴァー・マイ技術中尉と握手を交わしていた。続いて、その後ろにいた、キツい眼をした女性が名前を名乗る。

 

「モニク・キャデラック特務大尉です。

 今日は助かりました、シロッコ少佐」

 

「友軍を救援するのは当然のことです。

 私はジオン軍人としての責務を果たしたにすぎませんよ」

 

 あのあと私が呼んだ輸送隊によってコムサイは無事に回収、2人を保護することに成功した。

 そしてヒルドルブとソンネン少佐も無事に回収、ソンネン少佐はこのキャリフォルニアベースの所属となることになったのである。

 

「これが少佐が手掛けたというモビルスーツですか……」

 

「ああ、ドムとその改修型となるドワッジだ。

 双方とも中々のものだよ」

 

「あの……少佐殿。

 出来ればお願いが……」

 

 『技術馬鹿』とも揶揄される彼の眼は、まるで子供のように輝いていた。私はそれに苦笑すると頷く。

 

「君たちを宇宙(そら)へ送り届ける定期便は明後日の出発だ。

 それまでなら、好きに工廠を見て回っていい。

 私が許可しよう」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 マイはそう言ってモニクを見ると、モニクはどこか諦めたようにしながらも頷いた。

 

「では、早速見させていただきます!」

 

 言うが早いか、彼は制作途中のドワッジの元へと走っていった。

 

「あの技術馬鹿は……」

 

「ははは、良いじゃないですか。

 私は同じ技術を齧った者として、彼のような愚直な技術者には尊敬にも似た念を感じますよ。

 そしてその技術への飽くなき探求心がジオンの未来を造るのです」

 

 ため息をつくモニクに笑いながら、私は答えた。

 

「さて……モニク大尉も疲れたでしょう?

 部屋を用意してあるというので、どうぞお休みください」

 

「……それではお言葉に甘えて」

 

 そう言って、モニクは去っていこうとするが、その途中モニクは振り返った。

 

「少佐。 ソンネン少佐を助けてもらい、ありがとうございます」

 

「先ほども言いましたが、軍務の上での行動です。

 友軍は見捨てられませんので」

 

「それでも……とても良いものを見せてもらいましたから、個人的にお礼を言わせてもらいたかったのです」

 

「ほう……良いもの、とは?」

 

「今日の一度の勝利で、負け犬が負け犬じゃ無くなった。

 錆ついた殻を破って昔尊敬した人が帰って来た……それが見られました」

 

 それだけ言ってペコリと頭を下げると、今度こそモニクは部屋へと引き上げて行った。

 

「……やれやれ、あんなに柔らかい顔もできるのだな」

 

 最後のセリフは、あのキツい眼がずいぶんと柔らかくなっていた。それほどに、ソンネン少佐については思うところがあったのだろう。

 ソンネン少佐はモニク大尉の教官であった。モニク大尉はソンネン少佐を尊敬していたのである。しかし、モビルスーツの転科適正試験に落ちて自堕落に変貌した姿に失望、ソンネン少佐のことを『負け犬』と罵っていたのだが、今回の戦いの勝利で、ソンネン少佐が昔の尊敬していたソンネン少佐に戻ったと感じたのだろう。

 

「では……その負け犬を返上した少佐殿に会ってくるとするか……」

 

 私は工廠の奥へと向けて歩き出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 整備兵が忙しく動き回る中、ソンネンはヒルドルブを見上げていた。

 

「……」

 

 土で汚れたキャタピラに、穿たれた弾痕……そのすべてが、あの戦いが現実だったことを物語る。

 そして……自分とヒルドルブは勝った。時代遅れの自分たちが、それでも戦えるということを示したのだ。

 

「気分はどうですかな、ソンネン少佐殿?」

 

「これはシロッコ少佐。 今日は助かった。ありがとう」

 

 ソンネンが敬礼をすると、シロッコも敬礼を返す。

 見れば見るほど若い。自分の半分程度の歳の若さだ。だが、シロッコがモビルスーツを操り信じられない戦果を叩きだすエースパイロットでありガルマ・ザビの腹心の部下であることは知っている。

 これが自分にはなれなかった、新しい世代の軍人の姿なのかも知れない……そんな風にソンネンは思う。

 

「私のような若造に、そんな大仰な礼は結構ですよ」

 

「命を助けられたんだ、お礼ぐらい言うさ」

 

 言って、シロッコと共に並んでヒルドルブを見上げる。

 

「モビルタンク『ヒルドルブ』……データと今日の戦闘の映像、見せてもらいました。

 ザクⅡ5機と61式戦車2両撃破……今ならジオン軍のモビルスーツ撃墜王ですな」

 

「よしてくれよ」

 

 シロッコの軽口に、ソンネンは手をヒラヒラと振って苦笑する。

 

「そんな称号、俺には似合わんね。

 俺は戦車兵として、戦場で戦えるんならそれでいい」

 

「戦車兵として……ですか?」

 

「ああ。

 モビルスーツに乗るのは、お前らみたいな若い奴らに任せるさ。

 だが、時代遅れの戦車兵の俺だって、祖国のために戦うことはできる。

 なぁに、こいつは俺の意地だよ。

 最後まで捨てられなかった、戦車兵としての意地だ」

 

「戦車兵の意地……ですか」

 

 しばしの間、両者は無言だ。

 

「……ソンネン少佐、確かに今回は戦果を出しましたがヒルドルブが量産されることはないでしょう」

 

「……だろうな。

 もう時代はモビルスーツのもんだ。 戦車なんて古臭いものはいらないだろうよ」

 

「……果たして、そうでしょうか?」

 

「?」

 

 シロッコのもの言いに、ソンネンは首を傾げながらシロッコを見る。

 

「新しいものができたから古いものはいらないのか?

 もしもそれが正しいと仮定すれば、歩兵などという兵種は残ってはいないでしょうな。

 しかし、現実として歩兵は必要であり、存在し続けている……」

 

「何かい?

 モビルスーツに駆逐されちまった俺たち戦車乗りは、まだ必要だってのかい?」

 

「当然でしょう?

 モビルスーツは強力でも数が少ない。 数の上ではジオン軍の主力は未だに戦車ですよ。

 そして、嘆かわしいことにジオンのマゼラアタックは連邦の61式戦車に比べ圧倒的に不利だ」

 

「……OK、シロッコ少佐。

 俺に何をさせたいんだ?」

 

「なに、古参戦車兵として協力して欲しいということですよ」

 

 そして取り出したもの、それはマゼラアタックの改修計画だった。

 

「この計画に少佐に参加してもらいたい。

 モビルスーツとも戦える戦車隊のための計画です。

 無論、それを率いるのはソンネン少佐とヒルドルブです」

 

「……本気で言ってんのかい?」

 

「無論。

 ヒルドルブも今回の戦闘で問題は見つかっているので、改修した方がいいでしょう。

 その際には私も協力しますよ」

 

 そんなシロッコの言葉に、ソンネンはしばし沈黙する。

 

「一つだけ確認だ。

 俺達は……戦車乗りはまだ、戦ってもいいんだな?

 戦場はまだ、俺達を必要としてるんだな?」

 

「もちろん、そのための計画です」

 

「うし! 乗った!!」

 

 パァンと手を叩くと、ソンネンはマゼラアタックの改修計画の書類を受け取る。

 

「見てな、モビルスーツだって驚くような戦車と戦術を造ってやる」

 

「楽しみにしていますよ」

 

 それだけ言うと、シロッコは去っていく。

 その背中を見送ると、ソンネンは未だ傷だらけのヒルドルブを見上げた。

 

「相棒。 俺達はまだ、戦えるみたいだぜ」

 

 ソンネンは無骨な鋼鉄の塊であるヒルドルブが、笑ったような気がした……。

 

 

 



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第12話 パールハーバー、血に染めて

ギレンの野望的に、めんどくさいステージの攻略作戦開始。
連邦でやると、ここの攻略はめんどくさかったなぁ……。





 

 宇宙世紀0079、5月21日。

 ジオン公国軍司令、ガルマ・ザビ大佐によって新たな命令が下った。

 

「これより我が軍は、連邦軍の太平洋の要所である『ハワイ』を攻略する!!」

 

 ハワイ……そこは太平洋における連邦軍の海洋艦隊の拠点である。

 現在、連邦軍の勢力下の地域はその本部のある南米、トリントン基地を中心とするオーストラリア東側地域、マドラス基地を中心としたアジア南方地域、そしてベルファスト基地を中心としたイギリス地域、そしてこのハワイである。

 これらの基地は海で繋がっており、船舶を利用した補給ラインが相互に整っている。その海上補給網の中心を担っているのがこのハワイだ。ここを手中に収めることで、ジオンは連邦の海上補給網を寸断することが出来るようになる。

 しかし、ハワイは四方を海という天然の要塞に囲まれた堅牢な要塞でもある。

モビルスーツは強力だが陸戦兵器、海を越えるには船舶なり輸送機なりによる運搬が必要になる。ならば、モビルスーツの出てこない輸送中の段階で叩けばいい……その連邦軍の戦術思想によって、ハワイは異常なまでの航空機と対空防衛網が敷かれ、旧世代の空母やミサイル艦による海上防衛網も幾重にも張り巡らされていた。

 

 無論、ガルマもそれは理解している。

 そのため上陸占拠用のモビルスーツを輸送するガウ攻撃空母やファットアンクル輸送機、鹵獲したミデア輸送機を大量のドップ戦闘機で防衛し、ルッグン航空偵察機で索敵を密にしてのハワイへの接近を試みることになった。

 そして、ガルマはこのハワイ攻略戦に虎の子とも言えるザンジバル機動巡洋艦の投入を決定。ガウやファットアンクルを大きく超えるその装甲と戦闘力は、被害に眼をつぶればモビルスーツ隊の降下を強行できると踏んだのだ。

 その情報を掴んだ連邦軍はそれをさせまいと大量のTINコッド戦闘機をハワイに配備、ハワイではジオン・連邦の戦力がぶつかる大空中戦が繰り広げられる……予定であった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 その日、連邦軍のハワイ基地は朝から殺気だった雰囲気に包まれていた。ジオン軍の次なる目標がハワイだと知らされ、それが近いからだ。

 ジオンのモビルスーツを相手に散々な惨敗を受け続けた連邦軍だが、今ここにいる戦闘機のパイロットたちの士気は異常に高かった。

 

「宇宙人どもに思い知らせてやるぞ。

 この青い空では俺たちが王様だってな!」

 

「おう!

 あのクソったれたジオン野郎どもに、たらふく海水を飲ませてやる!!」

 

 所々で殺気だったパイロットたちの声が聞こえる。

今回の戦いの主眼は海上での航空機による空中戦だと言われている。それならば今まで散々煮え湯を飲まされてきたジオンの人形(モビルスーツ)はいない。純粋な空中戦ならこちらの方が有利……モビルスーツの登場により辛酸なめ尽くした連邦軍のパイロットたち。彼らには自分の鍛え続けてきた空中戦なら負けないという自信と自負があり、そのホームグラウンドである純粋な空での戦いに『今までの借りを返してやる!』と息巻いていたのだ。

 パイロットの士気もそうだが、整備や基地の指揮官側の士気も同じような理由で高い。

 いつスクランブルがかかっても大丈夫なように、滑走路にはTINコッドが何十となく駐機し、整備兵がいつでも出せるようにスタンバイしている。

ここ、ハワイの航空基地は自分たちのハワイ防衛が成功することを微塵も疑ってはいなかったのである。

 しかし……。

 

 

ドゥン!!

 

 

「な、何だ!?」

 

「おい、あれ見ろ!?」

 

 突然の爆発音にうろたえる中、同僚の声に従いパイロットたちは滑走路の方を見る。そこには……。

 

「ジオンだと!?」

 

 駐機していたTINコッドが炎を上げ吹き飛び、その黒煙の中にジオンのモビルスーツ特有の、赤いモノアイを見る。

 ザクとは違い水色の丸い、手も鉤爪になっているものだが間違いなくそれはジオンのモビルスーツだ。

 

「チクショウ! 対空レーダーは昼寝でもしてたのかよ!!」

 

 モビルスーツが空から来たと思い、空を見上げて毒づくが青い空は雲一つない快晴。そこには敵の航空機の姿はない。

 

「おい、あれ見ろ!」

 

 同僚の指さす方向、それは水平線の彼方まで見渡せる青い海。その海が突如として爆発した。海面が盛り上がったと思うと、膨れ上がるように水柱が立つ。

 だが、それは爆発ではなかった。その水柱の中を、駆け昇るように空に昇るのはモビルスーツだ。先ほどの駐機場のものと同型、しかし紫に塗装されたものである。

 

「う、海からモビルスーツだと!?」

 

「ヤバい、こっちに!?」

 

 想定外の出来事にそのパイロットは呻くが、それ以上彼らに混乱する暇すらありはしなかった。その紫のモビルスーツが腕を向け、そこに装着されたハンドミサイルが発射されたからだ。

 

「あ、ああ……」

 

 かくして、青い空で燃え尽きることを望んだ連邦軍のパイロットたちは空へ上がることも出来ず、地上で赤い炎に焼き尽くされたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……今の感じ、どうやらパイロット宿舎だったようだな。

 可哀そうだがこれも戦争だ」

 

 私はハイゴッグの機体背部の強襲用ジェットパックを空中で切り離し、着地させる。周りを見れば、クスコ以下5人もジェットパックを使った強襲を成功させ、連邦軍の航空基地に降り立っていた。

 

 ハワイの攻略に置いて、ハワイが四方を海に囲まれた天然の要塞であることはこちらも分かっていた。

 正攻法でモビルスーツの空輸による占拠をしようとした場合、敵戦闘機と護衛戦闘機との戦いになり、確実に数機は輸送機が墜とされてしまう。いや、地球をホームグラウンドとする連邦との航空戦では最悪逃げ場のない海上で全滅させられる可能性すらありえた。

 そこで私は、ハワイの連邦軍航空基地への奇襲によるハワイ防空網の破壊を提案した。

 ガルマはドップを中心にした護衛戦闘機を集めており、ザンジバル機動巡洋艦を投入するという情報を意図的に流す。

 そして連邦の注意を空へと集中させ、そのうちにキャリフォルニアベース攻略戦時に鹵獲したユーコン級潜水艦3隻に各種テストを完了させたハイゴッグ先行量産型6機に搭乗した我々リザド隊が航空基地を強襲、ハワイの防空能力を奪うというのがこの作戦である。

 

「よし、全機攻撃開始! 基地施設を破壊する!!」

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

 隊員たちの返事を聞き、私はハイゴッグを疾走させる。機体軽量化による機動性は良好、ブースターを使ったその動きはザクよりも上だ。

 

「墜ちろ!!」

 

 私は滑走路から緊急発進しようとするTINコッド戦闘機や戦闘ヘリに120mmマシンキャノンと、手のビームカノンを乱射した。離陸体勢にあって回避など出来ないそれらは面白いように撃墜されていく。

 

「クスコ! ニキとレイチェルを連れて基地東側のレーダーと対空防衛施設を破壊しろ!

 マリオンとエリスはこのまま私と共に基地施設を破壊しながら、司令本部を破壊する!!

 続け!!」

 

 格納庫・弾薬庫・兵舎……基地施設が抵抗もなく吹き飛んで行く。何とか起動した61式戦車もビームカノンの直撃によって飴のように溶け、次の瞬間には膨れ上がるように爆発した。やがて司令本部が見えようかというところで、クスコからの通信が入る。

 

『シロッコ少佐、申し訳ありません!

 デプロック6機、離陸を許しました! 

 気を付けて下さい。 そちらに向かっています!!』

 

「むっ!」

 

 空にカメラを向ければ、対モビルスーツ爆撃機であるデプロックが編隊を組んでこちらに向かっている。

 モビルスーツはどちらかといえば対空戦は苦手だ。広い空を飛びまわる航空機には中々攻撃を当てることができないからだ。

 ザクマシンガンなどの連射の利く武器ならまだしも、単発射撃兵器で航空機を墜とすのは至難の業と言ってもいい。だが、それは普通ならの話だ。

 

「そこだ!」

 

 私はハイゴッグの両手を空に向け、ビームカノンを撃つ。狙い通り、2本のビームはデプロックの2機を貫き、空中で爆発させた。

 

『凄い……』

 

『あんなに完璧に当てれるなんて……』

 

 マリオンとエリスが驚いたような声を上げるが、そんな2人に私は命じた。

 

「こんなことはお前たちもできる。

 私はこのまま進んで司令部を叩く。 お前たち2人はあの残った4機のデプロックを落とせ」

 

『そんな無茶な! 少佐じゃないんですから!』

 

「無理な話ではない。

 心を研ぎ澄ませて、相手の動きを感じるのだ。

 後はその場所に、置いてくるように射撃をすればいい。

 ……できるな?」

 

『……分かりました』

 

『りょ、了解。 やってみます!』

 

 私の言葉にマリオンとエリスも頷くと、生き残ったデプロックへ射撃を始める。

 私はそれに背を向けて、司令本部へとやってきていた。

 

「むっ!?」

 

 直前で何かを感じた私は急制動をかけて方向転換。私が進むはずだった場所をロケット弾が通り過ぎて行く。

 

「今のは……」

 

 ハイゴッグのカメラをそちらに向けるとザクⅡが2体、1体は連邦の100mmマシンガン、もう1体は連邦のロケットランチャーを構えており、今しがた私にはなったロケットランチャーから硝煙がたなびいている。

 私を仕留め損なったことで、100mmマシンガンを持った方が私に向かって射撃を始めた。

 

「こんなところにも鹵獲品か……。

 私を狙ったその奇襲、敵ながらよくやったと褒めてやりたいところだ。

 しかし!!」

 

 私はペダルを踏み込むと、ハイゴッグはスラスターを全開にしながら空へと飛び上がり、100mmマシンガンを避ける。100mmマシンガンの火線が私のハイゴッグを追うが、それを振り切るようにロケットランチャーを構えるザクⅡの背後に降り立つ。慌てて振り返るザクⅡのコックピットに、私はハイゴッグのバイス・クローを突き立てた。

 ビクリと痙攣するように一度跳ねると、ザクⅡの動きが停止する。

 その間に100mmマシンガンを持つ方のザクⅡが回り込み、側面から私に向かってマシンガンを連射する。しかし私はバイス・クローを突き立てたザクⅡをその銃弾の盾にした。そしてそのままスラスターを全開、ザクⅡを盾にしながら100mmマシンガンを持つ方のザクⅡに突進する。

 投げつけるように突き出したザクⅡにぶつかり、100mmマシンガンを持つ方のザクⅡが折り重なりようにして倒れる。

 すぐさま機体を起こそうとするがそれより早くハイゴッグのビームカノンがそのコックピットを貫いた。

 

「その機体と腕では私には勝てんよ。

 さて……」

 

 パイロットを失い大破したザクⅡ2機を尻目に、私は基地司令部に機体を向ける。両手のビームカノンと胴体の120mmマシンキャノンの一斉連射により、基地司令部は崩れ落ちた。

 

「こちらシロッコ。 目標は完全に破壊した。

 各員状況知らせ!」

 

『こちらマリオン、敵デプロック隊全機撃墜。

 周辺施設もあらかた破壊しました』

 

 その報告に思わずニヤリとする。最初は不安を口にしていたが、やはりその才能を開花させつつあるようだ。

 さらに驚いたことに4機中、2機はエリスが撃墜したそうだ。

 普通ならば彼女の腕ではまともに当てられないだろうことを考えると、こちらも成長著しい。

 

「ほぅ……やはりやればできるではないか」

 

『いえ、ただのまぐれですよ』

 

 エリスの言葉は謙遜なのか本気なのか判断しかねるが、良い傾向だ。

 

『こちらクスコ隊。

 対空ミサイル、対空砲設備およびレーダー施設破壊しました。

 途中、ザクⅡが出た時にはちょっとしたスリルでしたが……全員無事です』

 

「……そちらでも出たのか?」

 

『はい、ただこちらは1機だった上相手パイロットが素人だったので、3機での集中砲火でご退場願いましたわ』

 

「……」

 

 その言葉を聞いて、私は何か引っかかるものを感じた。

 鹵獲品がこんなにも多い……?

 

「……まぁいい。

 任務終了だ、すぐに合流地点にまで後退するぞ!」

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

 

 こうして、私のリザド隊は連邦軍のハワイ航空基地の奇襲を成功させた。

 この奇襲によって航空戦力のほとんどと、目となるレーダー施設を失った連邦にジオンを止める力は無かった。

 やってきたモビルスーツ部隊はほとんど抵抗もなく降下、残存していた陸上戦力を殲滅し連邦軍は降伏、ハワイを占拠することに成功した。

 これにより『南米―オーストラリア』間の補給ルートはジオンによって封鎖されることになり、連邦のオーストラリア戦線は大きな痛手を負う。

 さらに今回の戦いでハイゴッグの有用性を確認したジオン軍は、ハイゴッグの量産配備を開始する。ハイゴッグはハワイ、北米東海岸に潜水艦艦隊と共に配備され、太平洋および大西洋の制海権を握り連邦の補給路を寸断。連邦兵からは『海の悪魔』として恐れられるのだった……。

 

 

 



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第13話 平和な浜辺で

各人の水着は皆さんの脳内で御想像ください。


 照りつける太陽と輝く海、それは戦争中だろうと何であろうと変わらない。

 

「あははは! マリー、こっちこっち!」

 

「待って、メイ」

 

 水辺で戯れるのはメイ嬢とマリオン。明るいワンピースの水着は、彼女たちがまだ15にも満たない年相応の少女だということを思い出させる。

 そのすぐそばではニキ、エリス、レイチェルの3人がビーチバレーの興じていた。

 

「あはは、それ!」

 

「ちょっとレイチェル! もうっ!」

 

「あ、こっちに!」

 

 彼女たちもスポーツタイプの水着に身を包み、その健康そうな身体を晒している。メイ嬢やマリオンよりも女性としての丸みを帯び、成長というものを窺える姿だ。

 周りでは、同じように開発スタッフや整備士たちが思い思いの遊びに興じている。

 ここはキャリフォルニアベースすぐ近くの海岸である。ハワイ攻略作戦が終了し、その功績も認められた我々リザド隊は休暇をもらうことになったのである。そしてこうしてのんびりと海岸で水遊びとなっているということだ。

 そういう私はというと、トランクスとパーカーというこれまた海用の出で立ちでパラソルの下で端末とにらめっこをしている。

 

「おにーさん、泳ごうよ!」

 

「兄さんも、さぁ」

 

 水遊びをしていたメイ嬢とマリオンがこちらにやってくる。

 

「すまないがやることがあるのでな。

 2人で楽しんでいるといい」

 

「えー、休暇なのにお仕事なの?」

 

「休みも大切です、兄さん」

 

「そうは言うがな、部下が休んでいるうちに仕事を進めるのも、上に立つ者の役割だということだよ」

 

 そう言って2人の方を向くと……。

 

「へぁっ!?」

 

 ……おかしな声を洩らしてしまった。

 何故なら……2人は私の嫌いな、あの赤い物体を美味しそうにシャクシャクやっていたからだ。

 

「あ、お兄さんも食べる?」

 

「おいしいよ」

 

「……いや遠慮しよう」

 

 私は2人の食べかけのスイカバーを極力見ないようにして丁重に断る。アイスクリームなどならまだ分かるが、あの2人は何故スイカバーなど食べているのか?

 私が断り続けていると、しばしの間2人は不満そうにしていたが諦めたのかそのまま海に戻っていった。

 しばらくすると、今度はニキ・レイチェル・エリスの3人がやってくる。

 

「少佐、おつかれさまです!」

 

「今は休暇中だ、敬礼はいらんよ」

 

 代表するように真面目に敬礼をしてくるニキに、私は苦笑する。

 

「少佐は何を?」

 

「なに、少し君たちの成長を確認していたところだ」

 

 そう言って見せる端末には、ニキ・レイチェル・エリスの戦績が表示されている。

 

「3人とも目覚ましい戦果だ。

 これではもう新兵(ルーキー)とは言えんな」

 

「そんな、少佐とクスコ中尉のおかげですって」

 

「謙遜することは無いぞ。

 レイチェル、君はここぞというところで敵に肉薄し、相手の防御に穴を開けている。

 その君を守るように的確にニキが動き援護する。

 この一連のコンビネーションにはどのような敵でも手を焼くだろう。

 これは戦果にも表れている」

 

 この2人は共同戦果が多い。その辺りのコンビネーションは見事だ。

 

「少佐にそう言ってもらえるとは、自分もレイチェルも恐縮です」

 

「うむ。 そしてエリス」

 

「は、はい!」

 

 私が名前を呼ぶと、エリスは弾かれたように返事をする。

 

「そう構えることはない。

 君の戦績も見事だ。 確かにまだ射撃・格闘と心もとない部分はある。

 しかし君の努力の跡はしっかりとこうして戦績に残っている。

 この間のハワイでのデプロックの撃墜を見させてもらったが、見事な予測射撃だった」

 

「そんな、あれはマグレで……」

 

「ならばマグレを必然に変えるように努力するといい。

 今後とも、期待している」

 

「は、はい!」

 

 その後、3人と2・3取り留めもないことを話すと、3人は再び連れだって海へと向かっていく。

 それを見て私は再び端末を見るが、その時周りの男たちからどよめきが起こった。

 何事かと思い視線を巡らそうとすると……。

 

「少佐、ここ宜しいですか?」

 

 そこにはクスコの姿があった。抜群のスタイルをまるで見せつけるように、際どい赤のビキニで身を包んでおり、男たちがその姿にどよめく。

 

「海岸は私の所有ではない。

 好きなところでくつろぐといい」

 

「そうですか、では」

 

 そう言って栗色の髪を掻き上げると、サングラスを掛けてビーチチェアへと座った。

 そのしぐさ一つ一つに周りで見ている男たちがどよめく。彼女自身も自分の姿に自信があるのだろう。そのどよめきに、まるで誇らしいかのように薄く笑う様はどうに入っている。

 

「少佐は泳がないのですか?」

 

「私はインドア派でね。

 こうして端末をいじるほうが合っている」

 

「それは残念です。

 一度、少佐がそのヘアバンドを取っている姿を見てみたかったものですから。

 絶対に外さないので、実は身体の一部なんじゃないかと兵たちの間では有名ですよ」

 

「ヘアバンドの適度に頭を締め付ける感じが好きでな。

 なに、私とてなにも四六時中付けている訳ではない。

 シャワーとベッドに入るときにはさすがに外すよ。

 そんなに興味があるのなら、見せようか?」

 

「あら? それはシャワーとベッドにまで付いて来い、という夜のお誘いですか?」

 

「魅力的な話だがやめておこう。

 私程度ではクスコ中尉のような美女には釣り合いが取れんよ」

 

 私がそう言って肩を竦めると、クスコは意外そうな顔をした。

 

「……正直意外です。

 少佐はこう言った冗談は苦手かと思っていましたから」

 

「私とて堅物というわけではないよ。

 冗談くらいはわきまえているし、士官学校時代はそれなりに遊びもした」

 

「きっとその甘いマスクで女の子をたくさんお泣かせになったんでしょうね」

 

「そういじめんでくれ、クスコ中尉」

 

 面白そうにコロコロと笑うクスコに、私も苦笑する。年齢は同じくらいのはずだが、完全に遊ばれていた。

 

「ですが安心しました、少佐に恋慕を抱いている娘はそれなりにいますので。

 少佐はそういったことに興味がないという噂でしたが、その子たちも頑張れば少佐と添い遂げられるという情報は朗報ですわ」

 

「ほう、そんな噂まであるのか?」

 

「女は噂が大好きな生き物ですから。

 特に少佐は有名人ですからね、色んな噂が付きまとってますよ。

 例えば……『ロリコンである』とか」

 

「ああ、それは私も知っている。

 はなはだ遺憾な話ではあるがな」

 

 出所はまたあの技術者だろうか?

 腕は良いのだが、少し考えねばならないかもしれん。私は少しだけ痛む頭を抱える。

 そんな私を面白そうに見つめると、クスコは追撃を仕掛けてきた。

 

「聞きましたよ。 あのメイちゃんから『お守り』を貰おうとしたそうで……。

 それにマリオンにも『兄さん』と呼ばせていますし」

 

「大人の悪戯に、何も知らないメイ嬢が踊らされそうになっただけのことだ。

 マリオンの方は行く当てのないところを保護したことで、私を慕ってくれただけのこと。

 私が強要したことは一度もないよ。

 しかし……」

 

 私はそう言って、水辺で遊び合うメイ嬢とマリオンを見つめた。

 

「愛おしいという感情は、確かにある」

 

「……驚きました。 まさかご自分からロリコンを肯定なさるとは……」

 

「そういう意味ではない。

 私はあの2人も愛おしいが、同じ感情をニキ・レイチェル・エリスにも抱いている。

 そして……君にもだ、クスコ」

 

「……え?」

 

「私は君を愛おしく感じているよ、クスコ」

 

 そう言うと、クスコは少しだけ顔を赤くしたようにして、聞き返してくる。

 

「それは……どういう意味で取ればいいのでしょうか?」

 

「これは以前にも話した私の持論だが、私は時代を動かすものは『女』だと思っている。

 そして、私はここにいる全員に時代が欲する才能を見出しているのだ。

 だからこそ、そんな君らを愛おしく感じる」

 

 その言葉に、クスコは呆れたようなため息をついた。

 

「……そうですね、少佐はそういう人ですね。

 少しだけでもときめいた私がバカでした。

 結局は人間としてでなくその才能を愛しています、ということですか?」

 

「……確かにその才能に期待する部分もあるが、それだけではなく一個人としても大事に思っている。

 そうだな……そう言う意味では君たちのことを『愛している』と言っても過言ではあるまい」

 

「……ここまで信用できない『愛している』は、初めて聞きましたよ」

 

「私は常に真摯に語っているつもりなのだがな。

 とにかく、君を含め私は隊のものを全員、大切に想っているつもりだ。

 少なくとも……このような戦争で散るべきではない。

 次代を創り、精一杯生きてほしいというのは私の偽らざる本音だ」

 

「……」

 

 その言葉に、クスコは押し黙る。

 今は連邦との戦争中だ、もしかしたらお互いに明日には死んでいるかもしれない。それでも生きて欲しいという私の言葉に、クスコが何を思ったのかは私は分からない。

 やがてポツリとクスコは言った。

 

「……少佐はこの戦争、どう見ますか?」

 

「……そうだな。

 周りは離れているし、砂浜には盗聴器もあるまい。

 それに休暇中の戯言だ、お互い好きに話すとしよう」

 

 そう言って周囲を確認し、私は少しだけ声を控えながら言った

 

「……正直、難しいと私は思っている」

 

「『ジオンは負ける』、と?」

 

「そこまでは言わんよ。

 今は優勢の上、ザクを大きく凌駕する性能のドムの量産にも漕ぎ着けた。その改修型のドワッジも順次生産され、現在あるドムの改修も進んで行くだろう。他にもハイゴッグや私の考えている新兵器のプラン、そして本国や様々なところで研究されている新兵器たちは連邦にとってはすべて脅威になることは間違いない。

 だが、それでも連邦の国力は脅威的の一言に尽きる。物量による飽和波状攻撃を繰り返されてはたまらないが、それができるだけの国力が間違いなく連邦にはある……」

 

「それでもモビルスーツがあれば……」

 

「連邦も研究していないと思うか?

 間違いなく、連邦もそう遠くないうちにモビルスーツを戦場に投入してくる。

 それまでの間に、何とかして技術的なり戦果的なり連邦に大きなアドバンテージを確保できるかどうか……この戦争の行方を握るのはそれだろうな」

 

「……」

 

 私の言葉に、クスコは押し黙る。その胸にあるのは不安なのか、はたまた別か……それは分からない。

 私はフッと笑うとクスコの肩を叩いた。

 

「心配するな、とは言わんが私も負けるつもりは無い。

 私は連邦には少々恨みを持っていてな……」

 

「……少佐も、ですか?」

 

「……実の親を、連邦が関わったテロで亡くした。

 連邦にもまともな人間はいるだろうが、少なくとも連邦上層部の既得権益にしがみつく腐敗しきったダニどもは滅ぼすべきだと、私は考えている。

 だからこそ、私は最善を尽くすことを誓おう。

 勝利のために、な」

 

 しばらく無言だったクスコは、やがて私をしっかりと見つめながら言葉を返した。

 

「……信じますよ、少佐のその言葉」

 

 その言葉に偽りは無かった。

 

「信頼には、応える。

 さて……飲み物でも持ってこよう。

 何がいいかね?」

 

「個人的には、少佐が酔う姿というのも見てみたいので何かアルコールを……」

 

「いいだろう、私もあまりアルコールには強くは無いが付き合おう。

 カクテルでいいかな?」

 

「お任せします、少佐」

 

「私のセンスには期待してくれるなよ」

 

 私は苦笑しながら、飲み物を調達しに向かう。

 

 

 その後も地球の新鮮な食品を使ったバーベキューでスタッフたちの労をねぎらい、英気を養う。

 それはこの戦争の中の、それでも確かにある平和の一幕だった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 南米……そこは連邦の本拠地である。

 その密林の中から、巨大な船が大地を踏みしめて進んで行く。

 陸上戦艦ビックトレー、その長大な砲撃力で動く要塞とも言える連邦の兵器である。それが2隻、大量の61式戦車と航空機を連れて進んでいく。

 そしてその中に……数多くの青い巨人の姿があった。巨人のその単眼が、赤く輝く。

 向かう先は北米大陸。

 北米に、これまでにない激戦が迫っていた……。

 

 




次回からは、この物語序盤の激戦を数度にわたって投稿します。
シロッコとガルマは、北米を守りきれるのか?

ご期待下さい。


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第14話 フェニックス大会戦(その1)

今回から数回にわたってシロッコ・ガルマのジオン北米軍と連邦軍との決戦、『フェニックス大会戦』に突入します。
今までシロッコのやってきたことの総決算となる戦い、お楽しみに。

……何だが感想で深読みが多くて驚く。
みんなジオニックの陰謀大好きだなぁ。
どうやらツィマッド社精神が刷り込まれているようで実によし。



 宇宙世紀0079、6月。

 この月、歴史が一つ動き出そうとしていた……。

 

 

 

 北米と南米とを繋ぐ玄関口、メキシコ。

 ここは南米に本拠を持つ連邦と、北米にその勢力を持つジオンの境界に位置する最前線である。

 しかし、最前線とはいってもここ最近は平和なものだ。連邦軍は各戦線での敗北による戦力回復のため攻めてくることもなく、偵察機の哨戒と、それに向かっての散発的な対空砲火だけとなってしまっていた。

 

「ったく……地球ってのはホントに暑くていけねぇ」

 

 言いながら、そのジオン兵ははだけた軍服の胸元にパタパタと風を送る。気候が完全に調整されたコロニーで生まれ育った彼らにとって、地球の気候はそれだけで違和感と、いくばくかの不快感を彼らに与える。

 

「ホントそうだぜ。 さっさと終わらせて、冷たいビールで一杯やりたいもんだ」

 

「おお、いいなぁ! 俺も付き合うぜ」

 

「……言っとくが奢らないぞ」

 

 そんなだらけ切った会話を2人のジオン兵は、監視用トーチカの中で言い合う。見上げる空は青……コロニー落としの影響で天候不順が多い今では、こんな天気は非常に稀だ。

 だがそんな青い空に、奇妙な音が響いた。

 

 

 ヒューーーーー……

 

 

「おい。

 何だ、この音?」

 

「まさか……」

 

 

 ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

 

 耳をつんざくような爆発音と衝撃に、ジオン兵たちは思わずひっくり返る。

 

「何だ! 連邦か!?」

 

「それ以外に何があるんだよ!

 さっさと探せ!!」

 

 慌てて、2人は周辺を双眼鏡で見渡す。

 高濃度のミノフスキー粒子下ではレーダーよりも肉眼の方が優秀だ。2人は高倍率の双眼鏡で索敵を行う。

 すると……。

 

「!? あれ、見ろ!!」

 

 言われるままにその方向を見れば、そこには無数の61式戦車、そしてその横にはまるで小山が動いているかのような巨大な物体がある。

 それは……。

 

「ビッグトレー級地上戦艦!?」

 

 それはホバーとキャタピラによって推進する連邦の陸上戦艦である。その巨大な船体には大艦巨砲の権化とも言うべき大口径実弾砲が取りつけられている。ビッグトレーは長距離誘導兵器が有効とされた時に設計されたもので、設計時にはその存在そのものを『時代遅れの金食い虫』と罵られた代物だ。

 しかし時代とはどこでどう転ぶのかわからないものである。ミノフスキー粒子下での戦闘で誘導兵器やレーダーが無力化されたことで大口径実弾砲の価値が一気に高まった。そのため、現在では強力な長距離砲撃能力を持つ連邦の移動要塞としてその力を存分に発揮しているのである。今しがたの砲撃音は、そのビッグトレーの巨砲の咆哮であった。

しかも……。

 

「ビックトレー級が2隻だと!!?」

 

 1隻で基地の砲撃一つ分とも言われるビッグトレーが2隻……それは基地が2つ攻めてくるのに等しい。その事実に、ジオン兵からサァっと血の気が引いた。

 

「連邦の大攻勢だ! すぐに連絡を!!」

 

「おい、待て!?」

 

 慌てて通信機を取る相方を止め、再びそのジオン兵はその方向を指差した。

 そこに見えたものは青い単眼の巨人……モビルスーツだ。

 手に持つ盾には連邦軍を示すマークがあるため、その所属が連邦軍だということが分かる。しかし、そんなものはどうでもいい。

 そのモビルスーツをこのジオン兵たちは知っている。いや、それは彼らにとってある意味では象徴的なものだった。

 

「ザクだと!?」

 

 その連邦のモビルスーツはまごうことなくザクⅡだったのである。

 

「鹵獲機か!?」

 

「あの数を見ろ!!」

 

 見ればざっと見でザクⅡは20機以上はいる。それぞれが連邦の100mmマシンガンやロケットランチャー、180mmキャノンを持ち、ビッグトレーや61式戦車を守るようにモノアイを激しく動かしている。

 

「どこのバカだよ! あんな数のザクを連邦にくれてやったのは!!」

 

「知るか!?

 それより映像は撮ったな? すぐに……」

 

 しかし、彼らはそれ以上の言葉が言えなくなった。

 見ればいつの間にか近付いたザクのモノアイが真っ直ぐにこちらを向いていた。その威圧感に金縛りにあったようにジオン兵たちは竦みあがる。それこそ、今まで連邦兵が感じていたものだった。

 

「あ、ああ……」

 

 口から洩れる恐怖の声。そしてザクから発射されるロケットランチャーの弾丸。

 しかし、最後の瞬間まで彼らはジオン兵だった。迫り来る最後の瞬間を前に、ジオン兵たちは送信のボタンを押す。

 仲間のための貴重な情報を送り出した後、そのジオン兵たちはトーチカごと爆炎に包まれた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 私はその日、柄にもなく緊張気味にそのテストを行っていた。

 

「これより携行式ビーム兵器の検証実験に入る」

 

 今日はついに完成したビーム兵器のテストを行う日だ。

 そう言って私が立ち上がらせたのは目立つ黄色に塗装されたザクⅡS型である。このザクはモビルスーツ用ビーム兵器の検証のための機体『ビーム兵器試験ザク』……通称『ビームザク』である。

 本来の『原作』としての流れなら高機動型ザクR2を元に造られる機体だが、私のいる場所は地上な上、次期汎用機のテストヘッドとするためにザクⅡS型をベースにした改造だ。その外見はザクⅡS型そのままであるが、その内部には大幅な手が加えられている。

まずジェネレーターがドム以上のもの……私が次期汎用機用に設計していたものに換装され、エネルギー伝達バイパスなどが増設されている。他にも廃熱関係など、ビーム兵器を運用するにあたっての細かな改修がされているのだ。

 私はサムソントレーラー3台に積まれた武器を見た。

 

「まずは試作ビームサーベルのテストに移る」

 

 そう言って手に取ったのは筒状の物体。この筒からメガ粒子を刃状に固定し敵を切り裂くのがビームサーベルである。

 私はビームサーベルをザクに持たせると、エネルギーバイパスをビームサーベルとの間に繋げる。

 

「これより、ビームサーベルを起動する」

 

 そして発生したものは黄色い光の刃……ビームサーベルだ。

 

『お兄さん! ビームサーベル、起動したよ!』

 

「ああ、大丈夫のようだ。

 数値に問題はないか?」

 

『メガ粒子収束率、安定してるよ』

 

「よし。 ならば今度は威力検証に移る」

 

 そうして出てきたのは宇宙戦艦級の装甲板である。そのまま私はビームサーベルを振るった。

 次の瞬間には、何の抵抗もなく黄色の刃の一閃によって溶断された装甲板がゴトリと転がる。

 

『……すごい』

 

 その光景にメイ嬢が思わず呟く。それはビームサーベルの威力が、宇宙戦艦級の装甲を一瞬で貫けるということを意味していた。

 

「これで驚いていてはこれからもたんぞ。

 続けて、試作ビームライフルのテストに移る。」

 

 そう言って今度は試作したビームライフルを手に取った。形状は連邦のガンキャノン用のビームライフルに近い。ナックルガード付きのそのビームライフルを手に取ると、今度は遠距離に先ほどと同じ装甲板がせり上がる。

 私はそれに向かってライフルを向けると、トリガーを引いた。瞬間、発射された黄色い閃光は遠距離にあった装甲板に穴を開ける。

 

「……よし、結果は良好なようだ」

 

 銃身加熱・廃熱ともに問題無し。内部のメガ粒子も安定している。威力に関しても、大気によって威力を減じられていてもこれだ。遠距離から敵の艦艇クラスの装甲を貫き、モビルスーツなら一撃である。

 

「最後に……試作ビームスナイパーライフルのテストに移る」

 

 私はビームライフルをエネルギー切れの15発を撃ち終えてトレーラーに戻すと、最後に長大な長さの銃をとった。

 ビームスナイパーライフル……原作的にはザクⅠスナイパータイプの装備となるものである。

 長大な銃身をしっかりと両手でホールドすると、機体を海上へと向ける。カメラを最大望遠にしてみるとその先には標的となるブイが浮いていた。

 その標的に向けてトリガーを引くと、ビームライフルよりも明らかに高出力の黄色のビームが高速で飛んでいく。そして、ブイを貫いた。

 

「威力・射程ともに計算通りだが……」

 

『発生熱量が想定よりも多いね。

 あと照準システムについても、もう少し煮詰めた方がよさそう』

 

「とはいえ、大筋では成功だな」

 

『ビーム兵器……モビルスーツの武装に、確実に革命が起こる……』

 

 メイ嬢は今回の実験の成功が、間違いなくモビルスーツの歴史に記されるような革命だということに、今さらながら驚きを隠せないでいた。賢いメイ嬢だ、今回のことでビーム兵器の時代が来ることを気付いたのだろう。

 他のスタッフからも、実験の成功にどよめきと歓声が起こった。

 

『ビーム兵器の実用化検証実験は成功だよ。 戻ってきて、お兄さん。

 お祝いの準備は出来てるから、楽しみにしててね!

 主役なんだから遅れちゃダメだよ』

 

 ビーム兵器という画期的な新兵器の実用化成功を祝して、今日はこれからささやかなパーティの予定だ。

 

「そうだな、すぐに戻るとしよう。

 素敵なパーティを期待しているよ」

 

 そう言ってビームザクを戻すために動こうとしたときだった。

 

「ん?」

 

 通信機の向こう側がやけに騒がしい。その騒がしさは、ビーム兵器実用化の興奮とは違うものだ。

 やがて通信機から聞こえてきたのは、メイ嬢の声ではなかった。

 

『シロッコ少佐……』

 

「これはこれは、ガルマ大佐」

 

 それはガルマのものだった。その声は明らかに堅い。

 

『シロッコ少佐、新兵器の開発おめでとう。

 僕もそれを祝いたいが……至急、話したいことがある。

 今すぐ戻ってくれ』

 

「……了解した。 至急、帰還する」

 

 ガルマのその声からただならぬ事態を感じ取った私は、ビームザクのブースターに火を入れ、最大速度で工廠へと急いだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「連邦の大攻勢か……」

 

 急ぎ戻った私がガルマの執務室で聞かされた情報は、やはり緊急事態だった。

 南米からメキシコを通過し、このキャリフォルニアベースへと連邦軍の大部隊が侵攻しているというのだ。

 

「しかもこれは……」

 

 そう言って私は1枚の写真を手に取る。そこに写っているのは青い色の、単眼(モノアイ)の巨人。見間違うはずもない。それはザクⅡだった。

 私の原作的な知識で言うと、『連邦版ハイザックカラーのザクⅡ』である。そのザクの数は1体や2体ではない。その数は、おそらく20を超える。

 

「いったい連邦はどこでこれだけのザクⅡを手に入れたのだ……?」

 

「……ガルマ、それをまさか本気で言っているのではないだろうな?

 同胞を疑いたくない気持ちは分かるが……その感情は冷静な判断の妨げになる」

 

「……」

 

 私の言葉に、ガルマも黙った。

 常識的に考えてこれだけのザクが鹵獲されるほどジオン軍は馬鹿ではないと思いたいし、そうは考えにくい。

 となればこれらのザクⅡは連邦で『生産』されたものであるとしか考えられない。

 ザクの詳細な設計図という、最重要軍事機密が漏えいしたことになる。当然、軍内にも何かしらの内通者がいることは間違いないし、それを調べることは重要だ。

 だが、それは今すべきことではない。今すべきは、この大攻勢をどのように乗り切るかということだ。

 

「……ガルマ、こちらの戦力は?」

 

「正直に言うが……かなりマズイ」

 

 ガルマの話では、今回の南米からの侵攻と同時に北米の残存連邦勢力が一斉に攻勢を開始したらしい。そちらの対処があるため、下手に各地に展開中のモビルスーツを引きぬくことはできない。

 同時に、5月末のハワイ攻略が痛かった。ハワイの占拠と地上部隊の掃討のためにモビルスーツを投入しているが、そのモビルスーツはそのままハワイの防衛用になっている。

 そういう事情も重なり一時的ながらキャリフォルニアベースの総戦力は低下しており、連邦もその時期を狙ったのだろう。

 

「稼働可能なモビルスーツは44機。 戦車は150両程度か……。

 それで、連邦の戦力は?」

 

 その言葉に、ガルマは苦虫を噛み潰したような顔をすると一枚の資料を取り出した。

 そこには連邦の推定戦力が書き込まれている。

 

「モビルスーツは20~30機程度だが……。

 シロッコ……戦車600両にビックトレー級陸上戦艦2隻というのは何の冗談だろうか?」

 

「連邦め……いよいよその国力にものを言わせてきたな」

 

 連邦はついにその物量で押し潰す腹積もりのようだ。

 いかに一両一両では組し易い61式戦車でも、600両もの物量があれば話は別。脅威以外の何物でもない。

 

「幸いなことに、こちらのモビルスーツは高性能なドムとドワッジを中心としている。

 その機動力に物をいわせた機動戦術なら時間は稼げるが……問題はビッグトレーだ。

 ガルマ、わかっているとは思うがこの戦いはビッグトレーにキャリフォルニアベースに近付かれた時点で我らの、引いてはジオンの負けだ」

 

 キャリフォルニアベースはジオンの地球上における最大の兵器生産拠点だ。この施設にダメージを受けることはジオン全体にとっても致命傷になりえる。そのため、こちらはビッグトレーの超長距離砲撃の射程内にキャリフォルニアベースが入る前に連邦をどうにかしなければならない。

 

「分かっているよ、シロッコ。

 少しでもこちらのドムとドワッジの有利な地形を選ぶ。

 場所はここ……アリゾナのフェニックス近郊の砂漠地帯、ここで迎え撃つ!」

 

「だが……ガルマも分かっているだろうが、こちらは極力被害を最小限にしながら相手に出血を強いる必要がある」

 

 兵器生産力にジオンと連邦では大きな差がある。

 今回の敵を退けたとしても、全滅に近い状態になっては意味が無い。こちらが戦力の回復をさせる前に連邦が戦力を回復させる方が明らかに早いからだ。その先に待っているのは真綿で首を絞めるように物量で圧殺される未来である。

 

「しかし、そんなことどうやってやる?」

 

「……」

 

 私はしばし、目を瞑り額をトントンと叩く。

 そして、目を開いた。

 

「……ガルマ、いくつか頼めるか?」

 

「ああ!」

 

 こうしてこの戦争の行く末を決めるターニングポイントとなる大会戦、『フェニックス大会戦』の幕は上がるのだった……。

 

 

 



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第15話 フェニックス大会戦(その2)

フェニックス大会戦その2、今回は主人公不在のガルマたちの奮闘です。
戦車はやっぱ強いと思うんだけどなぁ……。


 宇宙世紀0079、6月6日。

 連邦軍は北米地域奪還を目的として、ビックトレー級陸上戦艦2隻を中核とする大軍を派遣。その陣容には連邦で極秘入手した設計図を基に生産されたザクⅡを投入、600両を超える戦車を揃えた大陸上部隊であった。

 これに対しガルマ・ザビ大佐はキャリフォルニアベースの稼働可能な部隊のほぼすべてを投入し、フェニックス近郊の砂漠地帯で迎え撃つことを決意する。

 ここに、歴史上初となる、モビルスーツ同士の集団戦闘が展開されることになったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「我が方の航空隊が頑張ってくれました。

 敵航空隊、大打撃を受け撤退していきます」

 

「よかった……」

 

 臨時指揮所としているダブデ艦橋でその報告を聞き、ガルマはホッと息をついた。

 北米の戦闘機が発進できる航空基地がまともに残っていなかったこと、そして先のハワイ攻略戦においてTINコッドやフライマンタ、デプロックなどかなりの量の航空機がパイロット込みで損失してしまったために、空での戦いはジオン側に軍配が上がったようだ。

 だが、そんなことで喜んではいられない。

 

「すぐにルッグン偵察機を出せ!

 敵の陸戦部隊が来る! その陣容と数、方位知らせよ!

 各戦闘部隊、いつでも戦闘可能な状態にスタンバイをしておけ。

 場合によっては、僕もドワッジで出る!」

 

「はい!」

 

 ダブデのブリッジオペレーターがその指示をすぐに全軍に知らせ、にわかに騒がしくなる。

 そんな艦内で、ガルマにだけ聞こえる声で隣に控えていたダロタ中尉は言った。

 

「……どうなると思いますか、ガルマ様?」

 

「……分からんよ。

 ただ、今は全力を尽くすのみだ」

 

 そう言って肩をすくめたガルマ。その時、ブリッジオペレーターからの鋭い声が飛んだ。

 

「ルッグン06号、敵を確認しました!

 数は……モビルスーツ24機! 戦車……約500両!?」

 

 その言葉は悲鳴に近い。

 

「最初からほぼ全軍……連邦はいきなりの力押しですね」

 

「いや、当然の判断だと思う。

 こうも戦力差があるのなら、力押しは有効な戦術だよ。逆に被害が出てからでは、単純な力押しはやりにくいからね。

 とはいえ……こちらとしては頭を抱えたくなってしまうな」

 

 そういってガルマは、一度大きく息を吸い込むと全軍へと攻撃命令を出した。

 

「全軍、攻撃開始!

 モビルスーツ隊は各機各隊相互に連携し攻撃を行え!

 決して安易な突撃はするな! こちらの被害を抑えつつ、少しずつでいいから相手に出血を強いるんだ!

 補給部隊はいつでも補給のできるように準備を!

 出し惜しみは無しだ! 予備のマシンガン、バズーカもいつでも使用できるように用意しておけ!

 ダブデはこの地点に固定、砲撃支援と指揮を執る。

 この戦いはジオンの命運を左右するものと心得ろ! 各員の努力と奮戦を期待する!

 ジオンの勇士たちよ、共に戦い、勝利を手にしよう!!

 ジオン公国に、栄光あれーーーー!!!」

 

『『『『『おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!』』』』』

 

 前線からの鬨の声が、通信機越しに聞こえてきた。

 

 宇宙世紀0079、6月6日10時26分。

 この戦争序盤の天王山とも言うべき戦い、『フェニックス大会戦』の幕が切って落とされたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 戦況は一進一退だった。

 連邦はその有り余る大戦力を持って、ジオン軍を包囲殲滅しようと目論む。連邦のザクはその61式戦車の動きを支援するように動いていた。

 これに対しジオン側の指揮官ガルマは、少ない戦力を効果的・集中的に投入することで連邦に対し出血を強いていた。

 ダブデからの長距離砲撃支援によって、連邦の61式戦車部隊の防衛陣に隙を造り出すと、そこにドムとドワッジが突入、混乱する連邦軍に対しマシンガンとバスーカによって損害を与える。

 それに気付いた連邦が混乱から脱し、そのドムとドワッジを包囲殲滅しようという動きを見せるとドムとドワッジは一転して逃げに転じ、包囲網完成前に離脱。自軍陣地へと戻るという機動戦術を繰り返す。

 連邦としては一方的に殴られ、殴り返そうとしたらその前に逃げられるという状態を繰り返されているのだ。たまったものではない。

 それを指揮するガルマの確かな才能を感じさせる見事な指揮だが、これもドムとドワッジというモビルスーツが無ければ為し得ないものだ。

 ドムシリーズの最大の特徴は何と言ってもその快速にある。ジャイアント・バズの攻撃力や重装甲も特徴ではあるが、ドムの最大の武器はその『足の速さ』だ。

 第二次世界大戦時、電撃戦を開発したグデーリアン上級大将も『厚い皮膚より早い足』と、足の速さが戦闘においていかに重要か言葉を残している。

 友であるシロッコの開発したドムとドワッジの特徴と利点をしっかりと理解していたガルマは、それを最大限に生かす戦術を駆使して連邦の大軍を前に奮戦を見せていた。

 

「ダブデ、艦砲射撃を右翼に集中!!

 右翼の敵を崩せ!!」

 

「モビルスーツこっちにも廻してくれ!」

 

「第3、第4モビルスーツ小隊補給中。

 補給完了まであと10分はかかります!」

 

「敵の山だ! 連中、後からあとから出てくるぞ!!

 きりが無い!!?」

 

 ダブデの艦橋である指揮所は怒号がひしめき合っている。

 

「……」

 

そんな中、ガルマは戦況図を見ながら深く思案していた。

 

(どうする?

 連邦もバカじゃない。 ダブデと火砲による射撃で隙を作るのはいい加減に限界だ。

 それに……61式戦車の護衛についているザクが厄介だ。

 ドムの突撃でもザクのせいで61式戦車を上手く叩けず、かといってザクを攻撃させようとすれば、その間に包囲網の完成されドムが脱出できなくなる……)

 

 モビルスーツを相手取るのがこんなに辛いとは……連邦にザクⅡの機密を漏らしただろうバカを八つ裂きにしてやりたい、と心の中で呟く。

 しかしそんなことで現状は変わる訳もなく、ガルマは苛立たしげに前髪をいじると現実を見ることにした。

 

(各モビルスーツは補給や応急修理で、動ける数が少なくなって来ている。

 このままでは……遠からず物量に押し切られる。

 そろそろ『手札』を切る必要があるが……もう少し、もう少し敵に混乱していてもらわねば迎撃されて失敗に終わる……)

 

 あと『一手』が欲しい……そうガルマが思ったその時だった。

 

「左翼、敵部隊に混乱! 陣形、崩れています!!」

 

「何! 今、左翼には支援射撃は向かっていないはずだが……」

 

「それが……第五戦車隊が敵側面から攻撃を仕掛け、敵に甚大な被害が出ています!

 そのため、敵左翼が混乱を……!」

 

 そのオペレーターの言葉に、ガルマはガバッと顔を上げた。

 

「第五戦車隊……シロッコの言っていた戦車隊か!!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「よし、お前ら始めるぞ!

 連邦の連中に……戦争を教えてやる!!」

 

『『『おう!!』』』

 

 通信機の向こうからの気合の入った声を聞き、デメジエール・ソンネン少佐はドロップを一つ口の中に投げ込むとモニターに目を移した。

 その先には連邦のザクⅡ3機と、それに護衛された大量の61式戦車の姿が見える。つくづくザクⅡと戦う縁があるものだと、ソンネンは苦笑した。

 

(だが……何であろうが俺たちは負けねぇ!)

 

 ソンネンは自身の生まれ変わった相棒に語りかける。

 『ヒルドルブⅡ』……それが改修された新たな相棒の名前だ。

 砂漠での戦いにおいて損傷したヒルドルブは、発見された問題点をシロッコ監修のもとで改修(魔改造?)され、さらに最強の戦車となっていた。

 その最大の特徴は、移動システムがキャタピラから熱核ホバーに変更したことだ。

 戦車に使われるキャタピラは、不整地などの踏破性能は高いが摩耗の多い整備士泣かせのシステムであり、細かな整備とその場所への運搬する車両を必要とする。

 普通の戦車ならまだしも、ヒルドルブのサイズでこれでは採用されなかったのも頷ける。

 そこで、その移動システムをドムによって完成し、ハイゴッグによって小型・応用化出来るようになったホバー推進システムに変更しようというのだ。それによって整備性の向上と速度の上昇、そして装甲の充実化が図られたのがこの『ヒルドルブⅡ』である。

 

 そして、その『ヒルドルブⅡ』の周りにいる戦車も、『マゼラ・アタック』とは少し異なっていた。

 マゼラ・アタックの不自然に高かった砲塔は、61式戦車並に低くなっていた。

 そしてトップ側の操縦席はガラスキャノピーではなく、金属の装甲で覆われたコックピットになっている。

 ベース側の側面には左右2基ずつ、対MS・対戦車有線ミサイルポッドが付けられていた。

 これぞシロッコから来たマゼラアタック改修計画の産物。ベテラン戦車兵たちの意見をふんだんに取り入れて完成した改修型マゼラアタック、『マゼラ・ストライカー』である。

 

 『ヒルドルブⅡ』1両に『マゼラ・ストライカー』12両……これがソンネン率いる第五戦車隊だ。

 

 

 

「初撃で先頭のザクを狙う。

 その後はヒルドルブは対戦車焼夷榴弾(HEAT/I弾)を撃ちながら接近、かき回しながらマシンガンの雨を喰らわせてやる。

 ストライカーはスモーク散布後に残ったザクをやれ!」

 

『了解! ケツから熱い一撃喰らわせてやりますよ!』

 

『175mmのぶっといやつをプレゼントだ!』

 

 そう言ってゲラゲラ笑う部下の言葉に、ソンネンは嬉しそうに頷く。

 ソンネンの部下、それは全員が歴戦の戦車兵だ。モビルスーツ主役の時代に、それでも戦車にしがみ付いていた、1人残らず生粋の大馬鹿野郎どもだ。

 

「ザクをやった後は目標自由。

 ただし、敵が混乱から抜け出したら離脱しながら撃ちまくれ。

 今日のここは、連邦の61式戦車のスクラップ場だ!!」

 

『『『了解!!』』』

 

 そして、ヒルドルブの30サンチ砲が吼える。

 発射された徹甲弾は、その威力を持ってその連邦ザクを上下に泣き分かれさせた。その爆発に、61式戦車と残りのザクはこちらへと視線を向けようとする。

 そんな中、ソンネンはヒルドルブを発進させた。キャタピラとは違う、ホバーの高速移動で駆けながら、ほぼ真上に突き立った30サンチ砲を撃ちまくる。それは地表寸前で爆発すると真っ赤な炎をまき散らした。その超高温によって範囲内の61式戦車が焼けていく。

 そんな中61式戦車を守ろうとザクがヒルドルブに100mmマシンガンを撃ちかけてくるが、その視界が突如ピンク色の煙で隠された。マゼラ・ストライカーからのスモークである。

 ザクはそのモノアイを激しく動かし周囲を探ろうとするが、その時ザクの脇を何かがすり抜けていった。

 次の瞬間、ザクが後ろからの衝撃に胸を貫かれてうつ伏せで倒れ込む。

 ザクの後ろには硝煙棚引くマゼラ・ストライカーの砲塔部、『マゼラトップ』が浮いていた。

 慌てて残った最後のザクがマゼラトップにマシンガンを構えるが、そのザクも複数のマゼラトップからの集中攻撃によって沈黙させられた。

 

 護衛のザクが全滅したことに驚く61式戦車だが、次の瞬間には空に浮かんだ12機のマゼラトップからの砲撃、地上に残った12両のマゼラベースからの機銃とミサイルの集中砲火によって爆発炎上していく。その敵戦車部隊が全滅するまで、攻撃開始から3分とかかっていない。

 強力な戦果ではある。しかし、疑問はあった。

 『マゼラ・アタック』は、車体部の『マゼラベース』とVTOL機能を持つ砲塔部『マゼラトップ』へと分離する機能を持つが、その機能は限定的だ。マゼラトップの飛行可能時間は5分程度だし、戦場での再接続ができないため、緊急脱出として使用し後方に撤退するのに使われるのみである。それを、全車がこのようないきなり分離する使い方をするのはあり得ないはずだ。

 しかし……。

 

『うしっ、それじゃ戻るぜ!』

 

『OK、優しく抱き止めてやるよ』

 

 戦車兵たちは言い合うと、分離したマゼラベースへとマゼラトップ戻っていく。そして、ガチャンという音と共に再びマゼラ・ストライカーの姿へと戻ったのだ。

 

 ソンネンがシロッコから言い渡されたマゼラアタックの改修計画、これは現役の戦車兵たちの意見がふんだんに取り入れられた。

 

 

1.キャノピーの装甲化による生存率の上昇。

 

2.車高低下による、被発見性の低下。

 

3.砲塔部の旋回。

 

4.攻撃力の上昇。

 

 

 現役の戦車兵たちからの意見によって提示されたのが以上の内容である。『マゼラ・ストライカー』は、これらの意見をクリアするために計画され、シロッコとメイの技術の産物として産まれた。

 その結果として、

 

 ガラスキャノピーを廃止し装甲化。

 車高低下。

 マゼラトップ砲塔部の旋回可能。

 マゼラベースへのミサイルの増設。

 

 という改装が為されている。

 だがそれと同時にもう一つ、野心的な機能が取り入れられた。それが『マゼラトップ分離後の戦場での再接続可能』である。これによってマゼラ・ストライカーは単体で地上と空との3次元攻撃が可能になったのだ。

 もっとも『航続距離5分』『整備性が悪い』などの解決していない問題はある。しかし、十分な火力を持ち、幅広い応用が利くマゼラ・ストライカーは、モビルスーツですら倒せる強力な戦車になったのである。

 

「よし! このまま戦果を拡大する!!」

 

『『『了解!!』』』

 

 ヒルドルブと共にマゼラ・ストライカーが進む。

 この新たな武器を手に入れた古参戦車乗りたちの奮戦は、しだいに連邦の左翼に大きな混乱を招き寄せるのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「よし、『手札』を切る!」

 

 ソンネンたち第五戦車隊を中心とした活躍で左翼部分の圧力が減った。動揺によって連邦軍の陣形に乱れが生じている。それを見て、ついにガルマは一つの『手札』を切ることにした。

 

「やれッ!!」

 

 ガルマの指示の元、ジェットエンジンの光を残しながら、その巨体が高速で戦場を進んで行く。

 その黄色の巨体の名は……『カーゴ』である。

 カーゴは『ギャロップ陸戦艇』がけん引する、物資運搬及び乗員の宿舎としても使用できる外付けユニットだ。ギャロップ陸戦艇と同じくホバー機能を持っている。それを改造し、ジェットエンジンを付けることで自走可能にしたのが今のカーゴだ。

 そして……その腹の中には今、爆薬を満載していた。

 これがガルマの『手札』の1つ、遠隔操作型の自爆特攻兵器『カーゴ爆弾』である。ガルマはこれを敵の只中で爆発させようという魂胆なのだ。

 カーゴに気付いた61式戦車が迎撃しようとしてくるが、もう遅い。ジェットエンジンによって砲弾の如く迫り来るその黄色の小山は、混乱した連邦軍では止められなかった。

 

 爆発と閃光が、連邦軍の只中で巻き起こる。凄まじい量の爆薬によって生じた衝撃と爆風はまるで核爆発の如くである。

 

「連邦軍に対し、多大なダメージを確認しました!」

 

「よし!」

 

 戦果の大きさに、思わずガルマは拳を握りしめる。

 その時、ダブデの艦橋から遠く彼方に、色つきの煙のようなものが上がるのを見た。その煙の色は……紫だ。

 

「シロッコ、やってくれたのか!!」

 

 ガルマがそう呟いた瞬間、ダブデのオペレーターからの声が響く。

 

「各戦線で連邦軍が撤退を開始しました!

 敵、酷く混乱しているようです!!」

 

 送られてきたカメラ映像には、隊列も組むことができず思い思いに逃げて行く連邦軍の姿があった。

 

「よし、このまま追撃戦に移行する!!

 みんな、苦しいだろうがあともう一歩、頑張ってくれ!

 奴らをこの北米から叩きだしてやるんだ!!」

 

 ガルマの声は即座に前線へと伝えられ、ジオン軍は逃げる連邦の背中へと襲い掛かっていくのだった……。

 

 

 



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第16話 フェニックス大会戦(その3)

フェニックス大会戦のシロッコサイドです。
きりのいい所で切ったら、物凄く短くなった……。

明日には続きを上げます。


 

「……始まったか」

 

 遠雷のように響く砲声に、私は少し感慨深く呟く。

 

『……少佐、味方は大丈夫でしょうか……?』

 

「なに、ガルマならば保たせてくれるはずだ。

 その間に、我々は我々のできることをせねばならん。

 味方を思うならば、今に集中することだ」

 

『はい……』

 

 私の言葉にエリスは頷く。

 私の率いるリザド隊は現在、連邦との戦闘には参加していない。

 私の役目、それは……。

 

『少佐、捕えました。

 最大望遠、10時方向の岩場。

 情報通りビックトレー2隻を含む敵の中枢です!』

 

「ごくろう……」

 

 クスコの声に、私は頷いた。

 そう、私の率いるリザド隊の任務は、こちらの最大の懸念事項であり敵の司令部でもあるビッグトレー2隻を撃破することである。

 大軍同士のぶつかり合いはまともにやっても双方に出血を強いられ、互いに体力を奪われていく。しかし、連邦はまだしもジオンにはそんなものに付き合っていられるような体力は無い。

 そのため早期決戦が必要となるが、その手段として頭を潰すという策に出たのである。ビッグトレーを潰すことで混乱する連邦軍を押し返し大出血を強いる。そしてこの北米に対する反攻作戦をしばらくの間頓挫させようというのが狙いだ。

 

「これだけ濃いミノフスキー粒子下だ、未だあちらも気付いていない。

 奇襲を行いビッグトレーの連邦の上層部を叩いて、敵の指揮系統を混乱させる……言葉にすれば単純だが、61式戦車約100両の弾幕の中に飛び込まねばならん。

 我ながら、正気の沙汰とは思えんな」

 

『……』

 

 通信機の向こうで全員が息を呑むのが分かった。

 

「しかし、諸君らの乗るドワッジの性能、そして今までの訓練の成果を、実戦で培った実力を信じろ。

 諸君らならこの任務を全うできると私は確信している。

 では……リザド隊、出撃!!」

 

『『『『了解!!』』』』

 

 私はそう言ってペダルを踏むと、私専用のドムが猛然とした勢いで進み始める。

 私のドムは決戦仕様とも言うべき重装備だ。今回は多量の敵と戦うことが予想されるため開発されたばかりで装弾数の多いMMP80マシンガンを装備し、前腰のアーマーにその予備弾装を装備。後腰にはジャイアント・バズとその予備弾装を2つ、左右の腰にはパンツァーファウストを2本に背中にヒートサーベルである。

 その私の隣を走行するのは副隊長のクスコのドワッジだ。

 装備はジャイアント・バズにその予備弾装4つ、パンツァーファウスト2本に背中にヒートサーベルである。もっとも標準的な装備だ。

 私とクスコの後ろにはエリス、ニキ、レイチェルのドワッジが付いてきている。

 エリスのドワッジは両手にMMP80マシンガンを装備し、前と後ろの腰アーマーにその予備弾装を4つ、左右の腰にはパンツァーファウストを2本に背中にヒートサーベルという装備だ。ばら撒きによる制圧射撃を中心で考えられた装備である。

 ニキはジャイアント・バズにその予備弾装4つに背中のヒートサーベル、そして面白いことにグフ用のシールドを装備していた。シールド内部には3連装ガドリングガンの設置されたタイプで、手に持たなくても射撃ができる。本来重装甲でシールドを用いないドワッジだが、仲間のフォローに廻ることが多いニキは、仲間を庇い、攻撃にも転用できるこのシールドを好んでいた。彼女らしい武器選択である。

 レイチェルはMMP80マシンガンを装備、その予備弾装を前に1つ。腰にはジャイアント・バズに後ろの腰にその予備弾装1つ。右の腰にはパンツァーファウスト1本に背中にヒートサーベル、そして左の腰の前後にはクラッカーを装備していた。これも乱戦への突撃を好むレイチェルらしい装備と言えよう。

 この5機で、ビッグトレーに向かって突っ込んで行く。

 

「!? 気付かれたか!!」

 

 こちらに気付いた61式戦車たちが、こちらに車体を向けようとしてくるがそれより早く、私はパンツァーファウストを撃ちだしていた。61式戦車の一団のただ中で炸裂したパンツァーファウストの爆風が61式戦車をなぎ倒す。

 

「つづけぇぇぇ!!」

 

 私はMMP80マシンガンを乱射し、その戦線に穴をこじ開ける。

 それに続いて、クスコたちも思い思いの武器を撃ち込んで61式戦車たちの陣形に穴を開けた。

 

「普通にやっても61式戦車の主砲は動きまわるドムを捕えられん!

 絶対に足を止めるな!

 各機連携を怠らずに進め!!」

 

『『『『了解!!』』』』

 

 我々の動きに、明らかに61式戦車は混乱して統率を失いかかっている。

 これならば……私がそう思った瞬間だった。

 

「ぬっ!?」

 

 私はドムをロールさせながら急速旋回させると、そこを砲弾が通り抜けて行った。

 今のはマグレではない。明らかに私を狙い、当てに来ていた。

 見ればそこにいたのは連邦のザクⅡだ。180mmキャノンを装備し、その銃口から硝煙がたなびいている。

 その横には連邦のシールドを左手に持ち、右手には100mmマシンガンを構えた連邦のザクⅡがいる。

 

「角付き……隊長機か」

 

 油断のないその動きからは相当の技量が見て取れる。

その瞬間、エリスたちの声が通信機から響いた。

 

『隊長! こちらに連邦のザクが2機護衛に付いています!

 つ、強い! 当たらない!?』

 

『エリス、下がって!』

 

『ニキ、このままだとエリスが挟まれる!?

 私が突貫するから援護して!!』

 

 どうやら苦戦しているようだ。しかしドワッジに乗ったエリスたちを苦戦させるとはこの直衛のザクに乗った連邦パイロットたちは明らかにエースだ。

 特に角付きの隊長機からは強者の気配を感じる。

 

「しかし、前線ではなく自分たちの護衛にこれだけのエース部隊を温存できるとは……連邦の人的資源はうらやましいな」

 

『……どうします、隊長?』

 

「やることは変わらん。

 あの2機を突破し、ビッグトレーを叩くぞ!

 クスコ、援護しろ!」

 

『了解です、隊長!』

 

 私はドムのモノアイを激しく動かして周囲を見ながら、その2機のザクに向けてペダルを踏み込んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「へっ! こんな後方に配置されて腐ってたけどよ!

 俺たちゃツいてるな!

 ジオン野郎に鉛玉を味わわせてやる!」

 

『おう、3匹もいるんだ。

俺にも残しとけよ!』

 

 連邦のパイロット、ベルナルド・モンシア中尉は僚機のアルファ・A・ベイト中尉に答えて、手にした100mmマシンガンを乱射する。

 だが、その攻撃を3機のドワッジは高速で回避する。

 

「ちっ! やっぱスカート付きは速ぇな!

 当たりゃしねぇ!」

 

 モンシアがそう舌打ちすると、それに答えるように通信が入った。

 

『やれやれ、情けないですね。 そんな無名の雑魚を墜とせないなんて。

 こちらは大物、『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』、パプティマス・シロッコですよ』

 

 通信機の先、チャップ・アデル少尉から飛び出した名前に、モンシアは度肝を抜かれる。

 

「マジかよ! 勲章もんの獲物じゃねぇか!

 俺達にも残しとけよ!」

 

『死体撃ちくらいなら、させてあげますよ』

 

 そんな風に軽口を叩きあうモンシア、ベイト、アデルの3人に怒号が飛んだ。

 

『こら貴様ら! 戦場で何を話しとるか!!』

 

 彼ら3人を率いるサウス・バニング大尉である。

 

『戦場で手柄の話などするな!

 そんなことを気にしている暇があったら、敵を倒し生き延びることに集中しろ!!』

 

『『『りょ、了解!!』』』

 

 いかにモンシア、ベイト、アデルの3人とて、バニング大尉には敵わない。萎縮し、借りてきた猫のように大人しく返事をするとモンシアとベイトは目の前の3機のドワッジへと意識を集中させる。

 モンシアとベイトの足止めによって時間ができたせいで、61式戦車部隊が集結しつつある。

 

「おい、スカート付きの足をやるぞ!」

 

『任せろ!!』

 

 モンシアの100mmマシンガンとベイトの構えるロケットランチャーが火を噴く。それは動きまわるドワッジの足を狙っていた。

 そしてそのうちの1機に100mmマシンガンが当たり、その動きが止まる。

 

『いまだ!!』

 

 ベイトのザクⅡの放ったロケットランチャーが、そのドワッジの左の膝に直撃した。

 左足が吹き飛び、その加速のままドワッジが派手に倒れ込む。そこに61式戦車がトドメを刺そうと火力を集中させた。

 だが、その一斉発射は割り込んできた2機のドワッジによって防がれる。1機のドワッジは盾を構え、もう1機のドワッジは右腕を盾に使って仲間を守ったのだ。

 1機の盾が砕け、もう1機のドワッジの右腕が派手に吹き飛ぶ。

 

「ケッ! 仲間を庇うってか。泣かせるじゃねぇか!

 でもな……戦場にはレフリーも審判もいねぇんだよ!」

 

 そしてモンシアはトドメを刺すべく、ヒートホークを抜き放った。

 

「死ねよや!!」

 

 必殺のヒートホークがドワッジへと迫る。

 



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第17話 フェニックス大会戦(その4)

フェニックス大会戦、決着編です。
序盤の総決算となりますので、お楽しみに。

注意:連邦派の人は今回は読まない方がいいかもですよ。



「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 左膝を撃ち抜かれ、レイチェルのドワッジはその勢いのまま地面へと倒れ込んだ。

 

「う、うぅ……」

 

 散々にシェイクされた頭を振りながら、レイチェルは状況を確認しようとする。すると、倒れ込み格好の的となった自分のドワッジを狙う61式戦車の砲口を見た。そして、その主砲が一斉に咆哮する。

 

(あ、死んだ……)

 

 まるでスローモーションのようにまわりが見える中、レイチェルはそんなことを思った。しかし……。

 

『『レイチェルッッ!!?』』

 

 動けないレイチェル機の盾になるように、ニキとエリスのドワッジが割り込んできた。

 61式戦車の砲弾が2機に襲い掛かり、炸裂音が響く。

 

「バカ! 2人とも!?」

 

 思わずレイチェルが怒号のように叫ぶが、それに答えたのは同じく怒号だった。

 

『うるさい、どっちがバカよ!

 いつもいつもこっちの気も考えないで突っ込んで!

 私がフォローしてなきゃあんた10回はもう死んでるわよ!

 11回目……今回も助けるから感謝しなさい!!』

 

『ドワッジの装甲なら、このくらい!!』

 

 しかし、その強力な砲撃はニキのドワッジの構えた盾を撃ち砕き、エリスのドワッジの右腕を肩口から吹き飛ばす。

 

『『きゃぁぁぁぁぁ!!』』

 

 その爆発に煽られ、完全に体勢が崩れた。

 

『死ねよや!!』

 

 連邦のザクがヒートホークを構えて飛びかかってくる。明らかな直撃コースだ。

 そして……そこに黄色い閃光が、通り抜けた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あんっ?」

 

 必中のヒートホークを振りかぶり、動けないドワッジに飛びかかるモンシアは、モニターがいやに明るいことに気付いて、どこか間の抜けた声を上げた。

 そしてその正体を探ろうと視線をはわせようとした瞬間、ザクのコックピットを黄色い光が満たす。

 

「……!?」

 

 モンシアは声を上げる間もなく、その光の中に溶けて行った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……当たった」

 

 マリオンは銃身の冷却とエネルギーチャージを行いながら、短くそう呟く。

 マリオンの乗機、それはドワッジではない。目立つ黄色に塗装されたザク……『ビームザク』である。ビームザクは岩場の上で片膝をつき、長大なライフル……『試作ビームスナイパーライフル』を構えていた。

 マリオンは、シロッコの指示で今回の作戦において別行動を取っていた。それは遠距離からのビッグトレーの狙撃である。

 宇宙戦艦の主砲並の威力と、超長射程を誇る『試作ビームスナイパーライフル』ならばビッグトレーすら当たりどころ次第では一撃だ。それを見越して、マリオンは1人狙撃ポイントに別行動で来ていたのである。

 ビーム兵器の欠点は、その光によって居場所がばれやすいということだ。だからこそ、ギリギリまで射撃はしないように指示されていたが、仲間の危機に思わず引き金を引いていた。

 

「……ごめんなさい」

 

 戦いを好まないマリオンは、今しがた撃ち抜いたザクに懺悔の言葉を呟く。

 しかしそれも一瞬、その視線はすぐに鋭いものに変わりスコープを覗いた。

 

「戦いは好きじゃない。

 でも……戦わなければみんなが、兄さんが傷ついてしまうから。

 だから……あなたたちを撃ちます!」

 

 そしてマリオンは意識を集中させる。

 遠距離からの狙撃を当てることは至難の業だ。それが大きなビッグトレーであっても、カメラには米粒程度の大きさにしか映らず、射撃管制もまだ完全に調整されたとは言い難いこの機体ではその難易度は跳ね上がる。

 しかし、今マリオンは、ビッグトレーよりもずっと難易度の高い、動き回るザクに直撃をさせた。それはシロッコの言葉のお陰だ。

狙撃に対してシロッコはマリオンの才能を認めて、一つのアドバイスをしていたのだ。

 

「相手の気配を、その存在を感じ取り、その見えた動く先に置いてくる……」

 

 シロッコの言葉を反芻しながら、先ほどと同じように心を落ち着ける。

 心を周りの空間に溶かすかのように、自らの身体が拡散していくイメージを抱く。そして……。

 

「!!?」

 

 ……来た!

 先ほどのザクの時と同じように電流にも似た『何か』が突き抜ける。カメラには見えていない、その向こうにある『存在』を確かに感じた。

 

「行って!!」

 

 その『存在』に向けて、マリオンはトリガーを引いた。

 黄色い閃光が空間を切り裂く。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「やってくれたな、マリオン」

 

 ビームスナイパーライフルによってザクが貫かれるのを見て、私は呟く。

 その光景は連邦を混乱に陥れるには十分だった。

 

『バニング隊長! モンシアが!!』

 

『今の光……メガ粒子砲なのか!! どこかにそんな大型艦が潜んでいるのか!!』

 

 再び黄色の閃光が通り過ぎて行く。

 

『ビ、ビッグトレーが!!?』

 

 その閃光はビッグトレーの1隻に直撃した。船体ブロックのほぼ中央を貫かれ、ビッグトレーが停止する。

 

『どこからです!?』

 

 ザクは構えた180mmキャノンでその光の伸びてきた彼方を見やる。

 しかし……。

 

「私を前にして、よそ見はいかんな」

 

 私を前に、そのような悠長なことを許す気は無い。私はその180mmキャノンを構えるザクへと急速接近すると、ヒートサーベルを抜いた。

 

『しまっ……』

 

「遅い!!」

 

 慌ててかわそうとするが、踏み込んだドムの一撃でザクの両腕が180mmキャノンごと宙を舞う。

 

『アデル、退避しろぉ!!』

 

 隊長機が100mmマシンガンを乱射し、援護に入った。仕方なく、私は接近を諦めるが……。

 

『私のことを忘れてもらっては困るわ』

 

 クスコのドワッジのジャイアント・バズが放たれた。それは両腕を失ったザクの胴体に直撃、モビルスーツを一撃で撃破する威力のジャイアント・バズによってザクの上半身は砕け散り、残った下半身がゆっくりと倒れ込んだ。

 

『アデル!! よくも!!』

 

「ふん!」

 

 ザク隊長機は激昂しながらも隙のない動きで私のほうに向かってくるが、そこにクスコのドワッジのジャイアント・バズが放たれた。

 

『くっ!?』

 

 たまらず横に飛んでザク隊長機がそれを避ける。

 

『シロッコ少佐、ここはお任せ下さい。

 少佐はあのビッグトレーにトドメを』

 

「クスコ、任せる!」

 

 それだけ言うと、私はマリオンの狙撃で船体に穴のあいたビッグトレーへと向かっていく。私を止めようと、生き残った61式戦車がその砲口を向けてくる。

 

「そんなもの当たるものか!!」

 

 ドムを激しく左右に揺らし、その攻撃を避けながらも速度を緩めず、ついに私はビッグトレーへと肉薄した。

 

「プレゼントだ」

 

 私はドムの後ろの腰にマウントしていたジャイアント・バズの予備弾装を手にすると、それをマリオンのビームスナイパーライフルによって穿たれた穴へと放り込む。そして間髪入れずに、そこにジャイアント・バズを叩きこみ、スラスターを全開にして全速離脱。

 一撃でモビルスーツを吹き飛ばす形成炸薬弾10発分の炸薬がビッグトレーの内部で炸裂、その爆発はビッグトレーを内側から膨れ上がるようにして吹き飛ばした。

 

「これで1つ!  あと1つは!?」

 

 その時、すでにもう1隻のビッグトレーはその護衛の61式戦車と共に撤退を進めていた。今から追えば、まだ残っている61式戦車部隊に背を向けることになり危険なところだ。

 

「ふん、未だ奮戦中の味方を置いて逃げるか。

 その判断は確かに悪くは無い、頭を潰されればどんな軍でも烏合の衆と化すからな。

 しかし……戦いとは一手二手先を読んでするものだよ」

 

 その時、逃げるビッグトレーの一団の左翼から突然の爆発が巻き起こる。

 どうやら、来てくれたらしい。

 私の元に通信が入った。

 

『こちら『外人部隊』所属、ケン=ビーダーシュタット少尉以下3名。

 これよりパプティマス=シロッコ少佐の部隊を援護し、ビッグトレーを攻撃します』

 

「時間通りだな。 助かる」

 

『ダグラス大佐からの伝言です。

 「ドムの時の恩に報いらせてもらうよ、シロッコ少佐殿」

 以上です。

 ……ドムを3機も廻して頂き、我々も感謝しています』

 

「なに、君たちのような優秀な者たちに使ってもらえるのだ。

 ドムも喜ぶだろう」

 

 モニターでは外人部隊のケン少尉の率いるドム3機が縦横無尽に動き回り、撹乱しながら敵を切り崩す。特にケン少尉の働きは凄まじく、鬼神の如き良い腕だ。

 彼らにドムをいち早く回したことは間違いではなかった。

 同時に、今度はビッグトレーの一団の右翼から爆発が起こった。

 見れば『外人部隊』とは別のドム3機が、右翼から猛然と襲い掛かっている

 そして再びの通信。

 

『こちらは闇夜のフェンリル隊所属、ソフィ=フラン少尉以下3名ですわ。

 これよりパプティマス=シロッコ少佐を援護し、ビッグトレーを破壊します』

 

「そちらも時間通りだな」

 

『降下地点からの移動、このドムのスピードだからこそ間に合ったのですわ。

 ゲラート少佐よりの伝言ですが、

 「今度はこちらが恩に報いる番だ、シロッコ少佐殿」

 とのことです。

 このような強力な新型、廻して頂きありがとうございます』

 

『こちら闇夜のフェンリル隊所属、シャルロッテ=ヘープナー少尉です。

 こんな凄い新型貰えて……ありがとうございました、シロッコ少佐!』

 

「なに、ドムも君たちのような美しく強い女性に扱ってもらえて喜んでいることだろう。

 私は相応しい者のところに、相応しいものを贈ったにすぎんよ」

 

『まぁ、少佐ったらお上手ですわね』

 

 私の言葉に、ソフィ少尉はコロコロと笑った。

 

『あのー、闇夜のフェンリル隊所属、ニッキ=ロベルト少尉ですが……。

 俺、男なんですけど……』

 

「……さて、では外人部隊と闇夜のフェンリル隊にはビッグトレーとその部隊を頼む。

 私はこちらの残存部隊を叩くのでな」

 

『って、無視ですか少佐殿――!?』

 

「フッ。 冗談だ、ニッキ=ロベルト少尉。

 君にも戦果を期待する」

 

 私はそれだけ言って、未だ戦闘を続けているリザド隊の部下たちの元に急ぐ。

 

 

 『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』……この2隊の作戦参加こそ、ガルマに頼み込んだ案件だった。

 ビッグトレー2隻の撃沈のための作戦……その内容はこうである。

 まずキャリフォルニアベースに存在するザンジバル級は3隻、これらに攻撃隊を搭載。

 1隻目のザンジバル級の部隊が、ビッグトレーを強襲する。その間に残り2隻のザンジバル級の部隊はビッグトレー2隻を含む連邦部隊の後方に移動しモビルスーツを投下、そこからビッグトレーを狙うという手だ。ミノフスキー粒子によってレーダーがほとんど使い物にならず、対空監視網が穴だらけだからこそできる作戦である。

 1隻目のザンジバル級の部隊はビッグトレーを撃沈出来ればそれでよし。それができなくても囮として敵の眼をそらし、残り2隻のザンジバル級の部隊の攻撃でビッグトレーを叩く、というものだ。

 

 だが、この作戦は敵の後方に単独降下をすることになる。もしも作戦が失敗すれば、敵陣の奥深くで包囲され、殲滅されてしまうだろう。そのため、この作戦に参加する部隊には高い練度が要求された。

 1隻目のザンジバル級の部隊は私のリザド隊で決まりだとして、残りの2隊をどうするか……そこで白羽の矢を立てたのが『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』である。

 以前ドムをいち早く廻した恩もあるし、あの2隊なら練度に関して間違いない。そこでこの2隊を作戦に参加させるようにガルマに根回しを頼んだのだ。

 

 今回は私が1隻のビッグトレーを仕留めたが、残り1隻の退路を塞ぐ形で強襲できたということだ。こうも上手くいくと、ついつい笑いが漏れてしまう。

 私の背後で、ひと際大きな爆発が巻き起こる。

 それは『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』の攻撃でビッグトレーが撃沈された音だ。

 

 

「……勝ったな」

 

 私はそれだけ呟くと、ガルマにもこのことを知らせるために、紫の信号弾を撃ち上げたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 自分たちに襲いかかろうとしていたザクがビームスナイパーライフルに貫かれ、パイロットを失ったザクはそのまま倒れ込む。

 

『モンシア!? クソっ!!』

 

 仲間を失った連邦のザクがロケットランチャーを向けるが、ニキとエリスとレイチェルはすでに行動に移っていた。

 

『いけぇぇぇ!!』

 

 レイチェルのドワッジは倒れたままの体勢で腰からクラッカーを手にすると、それを敵に向かって投げつけた。

 

『おおぅ!?』

 

 ザクが怯み、周辺の61式戦車がその爆風に煽られ停止する。

 

『今よ!!』

 

 ニキはジャイアント・バズを右手で、そしてレイチェル機の持っていたMMP80マシンガンを左手に持つと、それを周辺の61式戦車に向けて乱射する。

 次々に破壊されていく61式戦車。その中をエリスのドワッジはスラスターを全開にしてザクに向かって走り出す。

 

「わぁぁぁぁぁ!」

 

 左手に持ったMMP80マシンガンを乱射するが、すぐに弾切れになってしまった。左手一本ではリロードも出来ない。それを投げ捨てると、エリスは背中からヒートサーベルを抜き放つ。

 真っ直ぐな鉄の棒を構え、エリスのドワッジはザクへと接近する。

 だが……。

 

『真っ直ぐ来るとは!

 バカが、死にやがれ!!』

 

 クラッカーの衝撃から回復した連邦のザクが、ロケットランチャーを構えて発射する。

 ドムの機動は直線だ。その機動では、自分からロケットランチャーに突っ込んで行くことになる。

 ザクに乗るベイトは勝利を確信してほくそ笑む。

 だが、死と隣り合わせのその瞬間、エリスは電光のように何かが駆け抜けて行くのを感じた。

 

「わぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 瞬間、ドワッジが手首の関節を回すと、ヒートサーベルをそのまま地面に突き刺した。

 その瞬間、ドワッジがあり得ない機動……『直角』に曲がった。

 ターンピック、とでも言うのか。

 ヒートサーベルを地面に突き刺しそれを支点にすることで、迫り来るロケットの目の前で直角に曲がり、エリスはそれを紙一重で避けたのだ。

 

『なにぃぃ!!?』

 

 必中の一撃を避けられたベイトは大きく動揺する。

 エリスは曲がったその瞬間、ヒートサーベルから手を放し、腰からパンツァーファウストを引きぬいて、その引き金を引く。

 至近距離から放たれたパンツァーファウスト、しかも一瞬でも動揺したベイトにそれを避ける術はなかった。

 

『う、うぉぉぉぉぉぉぉ!!?』

 

 断末魔の雄たけびと共にパンツァーファウストは着弾、ザクを木端微塵に吹き飛ばした。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 急速な機動から開放され、エリスは大きく息をつくが、そこにニキからの怒号が飛んだ。

 

『何してるの!

 レイチェルを連れて下がるわよ!

 急いで!!』

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

 言われてエリスはレイチェルのドワッジの右手を掴む。

 同時に、61式戦車に乱射していたニキがジャイアント・バズを投げ捨て、空いた右手でレイチェルのドワッジの左手を掴む。

 そのまま、ニキとエリスのドワッジはスラスターを全開にして、レイチェルのドワッジを引きずりながらその場から高速離脱していく。

 そんな中、3人は空に紫色の煙を放つ信号弾が上がったのを見た。

 

「少佐が、やってくれたんだ!」

 

 作戦は成功、あとは生き残るだけだ。

 それだけを思いながら、3人は後方へと退避していった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 連邦軍はビッグトレー2隻とその指揮系統の中枢を破壊され、壊乱が始まっていた。

 統制も何もあったものではなく、撤退を開始していく。

 そんな中追撃戦で連邦へとさらに出血を強いろうとしたのだが……。

 

「ほぅ……」

 

 あの隊長機のザクⅡが殿を務め、援護を続けている。見ればあのクスコが押され気味だ。

 強いとは思っていたが想像以上のパイロットだったようだ。

 

「クスコ、手こずっているな。

 私がやろう。

 かわりに、後方に下がった3人の援護に廻ってくれ」

 

『少佐……了解しました』

 

 そう言ってクスコはその場を離脱していく。

 

「さて……では始めるか!」

 

 私はジャイアント・バズを発射しながら、連邦のザクへと接近を試みる。

 すると、ザクは左手に持った連邦のシールドでジャイアント・バズを受けながらも100mmマシンガンを乱射してきたのだ。

 

「ぬっ!?」

 

 100mmマシンガンの弾がジャイアント・バズに当たる。ジャイアント・バズを投げ捨てると、装填された炸薬に引火し、ジャイアント・バズが吹き飛んだ。

 私がジャイアント・バズを失ったのを好機と見たのだろう。100mmマシンガンをこちらに向けてくるが、私は一歩も引かずにヒートサーベルを抜きながら接近していた。

 

 

ザンッ!!

 

 

 赤熱化したヒートサーベルが、ザクの右腕を溶断する。

 

「墜ちろ!!」

 

 私はそのままヒートサーベルを振り下ろすが、ザクはとっさにシールドを投げ捨てると、左手でヒートホークを抜き放ち、ヒートサーベルを防いだ。

 

「良い反応だ。 だが、しかし!!」

 

 ドムのパワーに負け、ヒートホークが弾き飛ばされて宙を舞う。

 

「このドム、ザクとはパワーが違うのだよ! ザクとは!!」

 

 今度こそ倒すべく、私はヒートサーベル構える。

 しかし。

 

「何!?」

 

 瞬間、モニターが閃光によって白く塗りつぶされた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「これでどうだ!!」

 

 ザクの中で、バニング大尉は必死の操縦を繰り返していた。

 モンシア・ベイト・アデル……部下は皆戦死し、護衛対象であるビッグトレーも撃沈されてしまった。

 この戦いは連邦の負けだ。

 だが、せめて部下たちの仇は取る。そして味方の撤退を援護するのだと、バニングは敵の圧倒的な技量の前にチャンスを待った。

 そして、その唯一のチャンスが到来した。近接戦闘時に、閃光弾を撃ち上げることで相手の視界を奪ったのだ。

 千載一遇、唯一のチャンス。

 バニングはザクを地面を転がるように動かす。そしてその転がる先には……さきほど切り落とされたザクの右手と、それの握っていた100mmマシンガンがある。

 バニングのザクは地面を転がりながら残された左手で100mmマシンガンを掴むと、その銃口を紫のドムへと向ける。

 その瞬間……。

 

「!!?」

 

 モニターには、赤熱したヒートサーベルが画面いっぱいに映っていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 投げつけた赤熱したヒートサーベルが、ザクの頭部を貫通する。

 

「すまないな」

 

 私はそう言ってそのままザクへと接近すると、投げつけたヒートサーベルを掴みそのまま下へと振り下ろした。

 縦に割られたザクが倒れ込み、そのまま爆発する。

 

「いいパイロットだった」

 

 私はそう言ってザクのパイロットに敬礼をすると辺りを見渡す。すでに勝敗は決していた。撤退していく連邦部隊には、未だ余裕のある『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』が攻撃をしてくれている。

 

「こちらシロッコだ。

 リザド隊各機、状況知らせよ」

 

『こちらクスコです。

 機体の損傷は軽微ですが、ジャイアントバズが弾切れ寸前です。

 これ以上の作戦行動は難しいですね』

 

『こちらニキ、こちらも弾切れ寸前です』

 

『エリスです、右腕損壊によりもう戦闘は……』

 

『レイチェル、左脚部損壊により移動不能です』

 

 どう考えても追撃戦に移れる状況ではない。

 

「では全機、ザンジバルとの合流ポイントまで速やかに移動。 撤収する。

 追撃戦はガルマや、他の余力のあるものに任せることにするぞ」

 

 

 

 こうして、この戦争の序盤戦の天王山とものちに言われる『フェニックス大会戦』はジオンの勝利で終わった。

 連邦はこの戦いで投入したザクⅡは全機未帰還、戦車も無事に撤退ができた数は80にも届かない数であり、連邦の北米奪還は完全に頓挫。各地の連邦勢力も攻勢を終了させ、北米地域のジオンの勢力基盤は盤石なものになっていく。

 しかし、この戦いで連邦はザクⅡとはいえモビルスーツの量産体制が整ったことを意味していた。

 

 モビルスーツを手に入れた連邦……これからの苦しい戦いを誰もが感じていたのだった……。

 

 

 




次回は土曜日に更新します。
フェニックス大会戦の後始末と大事件発生。
次回で第一部完となります。


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第18話 かくて歴史は砕け散る

ドム全機、ジャイアント・バス構え!
目標、『原作』! 撃てぇぇ!!

……残念、『原作』は崩壊してしまいました。

今回で物語の序盤、第一部完となります。



 『フェニックス大会戦』……連邦の北米大陸奪還を狙う大部隊と、キャリフォルニアベース駐留軍との間で行われた大規模戦闘はジオン軍勝利に終わった。戦力の大損失をした連邦は南米ジャブローまで撤退を余儀なくされる。

 無論、ジオンも被害はある。しかし、戦車600両に量産されたザクⅡ約30機という驚異的な物量を投入されたことを考えれば、むしろ軽微な損害だったとも言える状態だ。

 

 

 この勝利の原因はいくつかある。

 まず一つがガルマの取り続けた戦術である。

 ガルマは無謀な正面突撃を決してさせず、迎撃戦のみに集中した。そして敵戦線の綻びをダブデや火砲での砲撃によって造り出し、そこに快速を誇るドムシリーズで切り込み出血を強いる機動戦術を取り続けた。そのため、こちらの戦力の低下を最小限に抑え、相手には最大限の出血を強いたのである。

 ドムシリーズの特徴をよく掴み、それを最大限に生かした見事な用兵であった。

 

 

 二つ目の勝因、それがモビルスーツ以外の通常兵器の活躍だ。

 ソンネン少佐率いる第五戦車隊は、その性能を駆使して相手側面から痛撃を与え、敵戦線に伝播するような混乱を生じさせる戦果を生みだした。

 この戦いで投入された新型戦車『マゼラ・ストライカー』の活躍は目覚ましく、即刻生産ラインが造られゆっくりとだが量産体制に入ることになる。

 そして戦果以外でも、彼ら第五戦車隊の活躍は大きな意味合いを持っていた。モビルスーツ以外の通常兵器の見直しと、それを扱う者への意識改革である。

 モビルスーツの登場で、戦場の主役はモビルスーツへとシフトした。それによってモビルスーツ以外の兵器を扱う者には「自分たちは所詮脇役」という、諦めのようなものが漂っていたのだ。

 しかし、戦いに主役も脇役もない。ソンネン少佐たちの活躍は、通常兵器を扱うどこか諦めた者たちに「自分たちもやればできる」ということを強く植え付けさせ、その意識を良い方に改革させたのだ。

 この働きによって、ソンネン少佐は中佐へと昇進。他の戦車兵たちも多くが賞与を与えられ、モビルスーツ以外の通常兵器を扱う者の希望であり、羨望の的となった。

 同時に、モビルスーツ開発を優先することで後廻しになっていた通常兵器の新型の開発も、それらの意識に後押しされ促されることになる。

 『フェニックス大会戦』の勝利の理由の一つは、敵に制空権を取られなかったことだ。

 これはドップ戦闘機隊の奮戦の結果もあるが、どちらかと言えば連邦の失策であったことのほうが大きい。

 先の『ハワイ攻略戦』において連邦は大量の航空機をパイロット込みで失ってしまい、その補充ができていない、航空戦力が回復しきれていないうちに『フェニックス大会戦』になったのだ。『フェニックス大会戦』が連邦が完全に航空戦力を回復してからだったら、戦いはどうなっていたか分からない。

 これは連邦の軍事行動に様々な政治的思惑が絡んだ結果、早期に北米奪還作戦が開始されてしまったためだ。

 次回もそんな敵の失策に期待するわけにもいかず、早急に制空権確保を目的としたドップに変わる高性能戦闘機の開発が進められることになる。

 

 

 そして三つめの勝因が、『強襲部隊によるビッグトレーの早期撃破』である。

 私率いる『リザド隊』、そして『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』というトップレベルの戦闘力を持つ強襲した3部隊が早期にビッグトレー2隻という、連邦司令部を潰したことで連邦軍の指揮系統が壊滅、自らの持つ大戦力を統率できなくなってしまった。

 その撃破のタイミングが遅ければ、的確な指揮の元で大軍に攻められたジオン軍はもっと大きな出血を強いられていただろう。

 

 

 他にも勝利のためになったものはたくさんあるが、大きな勝因を考えるとこの三つである。

 だが……この勝利に酔う訳にはいかないことを私は知っていた。

 

「……」

 

 私は無言で、ファイルをめくる。

 そこにはメイ嬢が纏めてくれた、あの連邦のザクについての調査結果が記されていた。

 

 あのザクⅡは『基本的に』はF型のようだ。

 何故ここで『基本的に』などという含みのある言葉を使ったのか、それは各所に連邦独自のものと思われるシステムが盛り込まれていたからだ。

 

 まず関節部、駆動系には本来のザクの流体パルスシステムの他に、別の駆動装置が組み込まれていたらしい。そのため運動性がオリジナルのF型よりもあきらかに上だ。

 このシステムを私は知識として知っている。連邦系モビルスーツの駆動系で使われているフィールドモーターシステムだ。

 さらにジェネレーター出力もF型よりも上だった。

 そして一番の脅威とも言える部分は制御を司るコンピューター部分だ。ジオンの機体管制コンピューターより性能は明らかに上であり、機体制御の精密さとパイロットの負担軽減能力を高めている。

 総合的な性能としてはザクⅡS型に近い性能があると言っていい……メイ嬢の調査レポートはそのように締めくくられているし、私も同意見だった。

 

「ふぅ……」

 

 私はファイルを閉じて机の上に投げ出すと、椅子に深々と腰掛け眼を瞑った。

 

「どこの誰かは知らんが……困ったことをしてくれる」

 

 思わずため息をつく。

 ザクⅡは拡張性溢れる、優秀な機体だ。そのため連邦は手に入れたデータから手を加え、スペックアップした形で量産してきたのだろう。

 そう、『量産』だ。

 連邦は6月のこの段階で、モビルスーツを量産するまでの体制に漕ぎ着けたのである。

 私の知る『原作』なら連邦の量産型モビルスーツのGMの量産体制が整うのが10月ごろ、4カ月も前倒しになっている。

 

「不味いぞ、これは」

 

 ザクⅡS型はエース専用にカスタム化されたザクⅡの高性能型である。それに準ずる性能の機体を量産されるとなるとかなりまずいことだ。パイロット次第とはいえ、ドムですら墜とされる可能性がある。

 このままでは『自分たちの造り出したモビルスーツの象徴であるザクによってジオン軍は敗北する』という、あまりに笑えない最悪のシナリオが現実味を帯びてくる。

 そうさせないためには、今以上の戦力拡充と戦略が必要になってくるだろう。

 

「……」

 

 幸いにして、戦力拡充に関してはいくらでも案はある。

 次期主力汎用モビルスーツの設計はほぼ完成している。これの性能はザクとは比べ物にならない。10月にあるだろう『オデッサ作戦』には纏まった数が投入できるように急ぐべきだろう。

 また、今回特筆すべき戦果を発揮した新型戦車『マゼラ・ストライカー』の増産と配備を急ぐ必要もある。

 制空権の確保用に新型航空機の開発も後押しすべきだろう。

 さらに、今回の連邦ザクで手に入った技術のフィードバックも重要だ。ガンダムにも搭載されていたという教育型コンピューターが代表的な例だが、コンピューター関連はジオンより連邦の方が上である。『原作』においても、アムロ=レイの膨大な戦闘データがあったとはいえ、モビルスーツの操縦に関しては訓練期間も短かった連邦パイロットがジオンのパイロットと渡り合えた理由は、このコンピューター性能の差がパイロット能力の差を埋めてしまったからだという説もあるし、それは恐らく正しい。

 今回のことで手に入った連邦コンピューター技術は、すぐにでも解析し既存の機体に載せるだけで戦力の大幅アップが見込めるだろう。

 自惚れではなく、技術的にはいくらでも何とかしようがある。だが現実には、戦争は技術だけでは勝ちようが無いのだ。

 

「……ガルマにでもいい、思い通り動かせる、直属の軍団が欲しい」

 

 そんな呟きが自然と漏れていた。

 ガルマは肩書は『地球方面軍司令』となっている。しかし、地球方面軍は突撃機動軍からの編成……つまりガルマは『キシリアから借りた兵を動かしている』に過ぎないのだ。

 そのため、ガルマが独断で好きに動かせる戦力は私のリザド隊を含め少数、実はそれほど多くない。それ以上を動かすには、命令関係でどうしても『お伺い』をたてなくてはいけない時があるのだ。

 今回の『フェニックス大会戦』でも、『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』を動かすためにガルマに頼んでキシリアに『お伺い』をたてたうえで、やっとこの2隊を遺憾なく動かせるようになったのだ。これが無ければもう少しスムーズな用兵が可能で、とれる手段も増えるのだが……。

 もう一つ同じような理由で苦労しているのが『情報』である。ジオンにも優秀な諜報部が存在するが、それはギレン直属、キシリア直属といった感じでガルマはそこから『情報を廻してもらっている』状態なのである。そのため、情報の鮮度や信頼性には時に首を傾げるものもある。これも直属の諜報部でもあれば効果的に活用できるだろう。

 

「ままならんものだな……」

 

 こうなると、自分のできることの少なさを痛感する。

 だが、嘆いていても始まらない。

 いつかの日のために着実に自分の仲間を増やし、そして戦争には勝利させなければならない。そのための努力を続けねばならないだろう。

 

「人材が欲しいな……。

 少し、前倒しをすることが必要なのかもしれん」

 

 現在、地球上にはいくらか仲間に引き入れたい人材がいる。今は北米関係で私も忙しかったが、今回の『フェニックス大会戦』の勝利で、北米の連邦勢力はしばらくは大人しくなるだろう。

 余裕のある今のうちに、そういった人物とパイプを造っておきたい。

 

「……そうだな。

 各戦線への技術支援等の適当な名目を付けて、ガルマに少し地球全土を旅することを許可してもらうか」

 

 私はそんなことを考えながら、その案を現実にするための具体的な内容を考え始める。

 その時だった。

 

 

 コンコン……

 

 

「ん?」

 

 ノックの音がする。こんな夜更けに誰だろうか?

 

「開いている。

 入ってくれ」

 

「……すまない、上がらせてもらうよ」

 

「ガルマ?」

 

 入ってきたのはガルマだった。だが、何やら様子がおかしい。

 

「どうしたのだ、『フェニックス大会戦』を勝利に導いた名指揮官殿が、何を暗い顔をしている?」

 

「……」

 

 私は努めて明るく言うが、ガルマの表情は硬いままだ。ここに来て、何かただならぬ事態が起こっているのを私は確信する。

 そして、しばらくするとガルマは言った。

 

「シロッコ。

 すまないが僕と一緒に、一度サイド3に戻ってくれないか?」

 

 それは突然の、本国に戻るという話だった。

 

「地球戦線のこともあるから、向こうにいる期間はそう長くない。

 滞在期間は長くとも2週間といったところだ。

 急な話ですまないが、準備ができ次第すぐにでも出発したい。

 頼めないか?」

 

「君がそう言うなら私としては構わないが……いかにせん、あまりに急な話だ。

 それに連邦がしばらくは大人しいだろうとはいえ、『地球方面軍司令』の君が本国に帰る用事……一体何があったのだ?」

 

 私の質問にガルマはしばし遠い目で中空を見上げる。

 そして……ゆっくりと、その言葉を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キシリア姉さんが……死んだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……かくして歴史は、私の知る『原作』からは大きく道を外れ、混迷の道を進み始める。

 この歴史の先にある物の姿は……私にもまだ見えない。

 

 

 



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第19話 それぞれの思惑

今回はキシリア死亡のお話。
紫ババアも随分お甘いようで……。

慢心ダメ絶対!


 

 その建物は、まるで紋章のような形状だった。

 地球の建造物とは明らかにデザイナーの感性が違うとしか言えない建物……その名を『ジオン公王庁』という。

 その建物の一室で、一人の男は執務机でその報告を聞いていた。

 

「そうか。 キシリアは死んだ、か……」

 

 そう呟く男の名は『ギレン・ザビ』、ザビ家の長兄にしてジオン公国の実質的な指導者であり独裁者である。

 そのギレンへと、一人の青年が手元の資料を見ながら言葉を続けた。

 

「はい。

 例の件で調査中、『不幸』にも潜んでいたと思われる連邦の諜報員によって殺害されました」

 

「そうか……国の未来に関わる大失態を犯したとはいえ、それは『不幸』なことだ」

 

 妹の死の報告を聞くギレンだが、その表情に悲しみは無い。むしろ、うすら笑いさえ見てとれる。

 

「今は戦時中だ。

 突撃機動軍には我が親衛隊を送り、私が直接統率することにしよう」

 

「ギレン閣下に従わない場合はどうしますか?」

 

「そうだな。

 その時には、またお前にその者の『説得』を頼むとしよう」

 

「かしこまりました……」

 

 そう言って敬礼すると、その青年は総統室を出て行こうとする。

 その時、ギレンはその青年に声を掛けた。

 

「お前の働き、見事だ。

 お前の存在を明かすこと、このままなら近いうちにその機会が来そうだ。

 これからもその働き、期待している」

 

「はい……ご期待には必ず答えます!」

 

 そう言って青年は敬礼と共に、今度こそ総統室を出て行った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 私は、今しがたのガルマの言葉に驚きを隠せない。

 

「……キシリア・ザビが……死んだ?」

 

 まるで自分に言い聞かせるかのように呟くと、ガルマは肯定するように頷く。

 

「一体、何があったというのだ……説明してもらえまいか、ガルマ?」

 

「ああ、実は……」

 

 そして、ガルマはキシリアの死に至るまでの事情を話してくれた。

 キシリアの死亡のきっかけになったもの……それはザクⅡの機密情報漏えい事件だった。それにキシリアは深く関わっていたという。

 キシリアは連邦の内部情報を知るために内通者・離反者になるものを探していた。いわゆる『切り崩し』というやつである。

 そこで、そのことを任せられた腹心の部下であるマ・クベ大佐が選んだ相手が、地球連邦軍、エルラン中将だった。キシリアはマ・クベを通じてエルラン中将から連邦の内部情報……連邦製モビルスーツ開発計画『V作戦』などの情報を手に入れており、切り崩し工作は成功したかに見えたのだが……これがいけなかった。

 エルランはマ・クベやキシリアに従うフリをしていただけだったのだ。いわゆる『二重スパイ』というやつである。そしてマ・クベとキシリアは、エルランによってザクⅡの詳細な設計図を含む最重要機密情報をまんまと持っていかれてしまったのだ。

 この大失態のためマ・クベは処刑、キシリアは更迭される運びとなったのだが、その際にエルランとの連絡役として潜入していた連邦の工作員によってキシリアは暗殺されてしまったという。

 

「……正直に言って、僕自身も混乱していてよく状況が呑み込めていない。

 だからこそ、サイド3に一度戻らなければならないんだが……シロッコ、君にも来てほしい。

 名目上は護衛ということで、君のザンジバルでサイド3の往復をしてほしいんだ」

 

「なるほど……」

 

 ガルマの話を聞き終えて、私は頷きながら考えを巡らせる。

 ザクの件については納得がいった。『原作』の知識を持っている私としては連邦のエルラン中将はそんなやり手には思えなかったが、普通に考えれば何かに秀でていない人間がつけるほど地球連邦の中将という位は安いものではない。権謀術数渦巻く地球連邦という伏魔殿をのし上がってきた人物だ、そのエルランをマ・クベとキシリアは見誤ったのだろう。その件については納得できる。

 しかし、あの情報に鋭敏であり慎重派、状況を読むことに関しては天才的なキシリアが混乱状態とはいえ果たして、近くにいた連邦工作員に暗殺など許すだろうか?

 どうしても首を傾げざるを得ない。

 

(……むしろ、身内に討たれたと考える方がしっくりくるな)

 

 キシリアはつねに政権を握りたがっていたし、ギレンもそんなキシリアを邪魔だとは思っていた。ザクの件にかこつけて、ギレンがキシリアを排除したというのが真相なのだろうと思う。

 この戦時下の余裕のない状況で政権争いとは恐れ入る話だ。むしろ最初から仕組まれていたのではないかと思うほどのギレンの素早い対応に、ザクの件すらキシリアを貶めるための策略ではないのかとすら考えてしまう。その行動力には、称賛すら贈りたい。

 そんなザビ家に私は心底呆れるが……ギレンがキシリア排除を好機と見たのと同時に、キシリアの死は私にとっても好機だ。

 何と言っても、私とシャアのターゲットの1人が消え、足りないと思っていたものを手に入れられる機会に恵まれたのだから。

 私は心の中で込み上げる笑いを押し殺すと、ガルマへと語りかける。

 

「ガルマ……キシリア閣下の死、心中察するよ。

 しかし今は戦時下だ。

 きついもの言いになるが、悲しみの前に君にはやるべきことがあるはずだ」

 

「やるべきこと?」

 

「そうだ。

 今の地上にはキシリア閣下の兵や、その直属だった部隊が数多くいる。

 だが、こんな連邦との緊迫した状況でキシリア閣下がザクⅡの情報を連邦に漏らしたとなってみろ、その配下だった彼らは他の兵との間に摩擦が起こり、下手をすれば補給すらままならん。

 ザクⅡの件は確かにキシリア閣下たちの失態かも知れんが、前線で戦う彼らには関係の無い話だ。

 彼らを助けるために、君は動かなくてはならない……」

 

 私の知る『原作』でも、ドズル派のランバ・ラルはキシリア派との対立のため補給が受けられないという事態に陥り、全滅の憂き目にあってしまう。

 今の状況では、逆にキシリア派の兵だからという理由で補給が受けられないという事態に陥りかねない。

 私の言葉で、ガルマはその意図を悟ったらしい。

 

「……僕に姉上の兵を取り込めというのか?」

 

 私の言葉は、地上のキシリアの勢力を取り込んで自分のものにしてしまえということだ。

 醜い政権争いを見てきたガルマはそういった光景を何度も見てきた。それが政治というものだというのは理解しているが、まるで屍肉に群がるハゲタカようだとも捉え、あまり良い感情は湧かない。

 そのため、それを提案する私を少し睨んでくるが、私は肩を竦めて言い放つ。

 

「違うな。 取り込むのではない、受け継ぐのだよ。

 ジオンのために戦う勇士である彼らに、罪など一切ない。

 その彼らが上層部(うえ)の事情で混乱するなどあっていいはずなかろう。

 だからこそ、キシリア閣下の遺志を受け継ぎ彼らに安心して戦えるように取り計らうのは、キシリア閣下の弟として、地球方面軍司令としての君の務めだ。

 そのためにも彼らを部下とし、君の名のもとでその身分を保障するのだ」

 

「……」

 

「それに……キシリア閣下はザクⅡの情報漏えいという失態を行ったが、そのままでよいのか?

 そうではあるまい。

 君がキシリア閣下の部下たちを自らの臣下に加え、彼らと共に多大な戦果を上げることこそ、今は亡きキシリア閣下の失態による汚名をそそぐことになるのだよ」

 

「……」

 

 その私の言葉を飲み込むようにガルマは数度頷いた。

 ……言っている内容はさっきと同じ、『自分の派閥に抱きこめ』なのだが、ものは言いようだ。同じ内容でも、言い方が変われば印象は変わる。『これは亡き姉のためだ』と言えば綺麗に聞こえるから不思議なものだ。

 やがて、ガルマの中で納得したらしく、頷きながら言った。

 

「……わかった、すぐにでも取りかかろう」

 

「そうだな特にキシリア閣下の部下には優秀な特務部隊が多い……『外人部隊』に『闇夜のフェンリル隊』、『サイクロプス隊』などの面々がそれだ。

 まずは彼らだけは何としても取り込んでくれ」

 

「この間も君と一緒にめざましい活躍をした部隊だな……わかった、すぐにでも手配する。

 だが、『サイクロプス隊』というのは初耳だな」

 

「潜入工作などで戦果をあげている部隊だよ。

 中々の戦果なので目に止まっていただけだ」

 

「シロッコがいうなら、相当なものなんだろうな……」

 

「後は潜水艦隊に特殊潜入隊に特殊諜報部隊……彼らも必要だ」

 

「確かに……」

 

「そう言えば、オデッサ基地はどうなる?

 マ・クベ大佐は、地上の最重要拠点とも言えるあの基地の司令官だったはずだが?」

 

「ああ、ヨーロッパ方面指令のユーリ・ケラーネ少将が引き継いだよ」

 

「ユーリ・ケラーネ少将か……」

 

 私はしばし考える。ユーリ・ケラーネ少将はザビ家の親戚筋とも言える家柄で、その用兵能力も高い。こちらにはガルマがいる以上、上手く立ち回れば味方に出来そうだ。

 ただ、ギレンともある程度近い人物のため、警戒も同時に必要そうな相手ではある。

 

「とにかく、私はザンジバルのブースター取り付け作業と整備、それと我々がいない間の地上での戦略の素案を創ろう。

 どちらにせよザンジバルの準備には2日はかかる。

 物資の積み込みも合わせて出発は4日後……それまでにすべきことをするとしよう」

 

「わかった……僕は全力を持って、地上に残った姉さんの部下たちの身分を保障するように取り計らおう」

 

「ああ、頼む」

 

 それだけ言うと、ガルマは自室へと引き上げて行った。

 ガルマがいなくなり1人になった私は、呟く。

 

「そうか……キシリア・ザビが逝ったか……。

 クックック……」

 

 気付いた時には私は笑っていた。私とシャアの目的の一つ、『ザビ家打倒』のうちの一つがいつの間にか達成されたのだ。私は一しきり笑うが、すぐにその表情を戻す。

 

「笑っていられるような状況でもないな……」

 

 確かにキシリアは死んだが、それで終わりではない。むしろ政権抗争を勝ち抜いただろうギレンはさらに力を増しているだろうことが予想できる。

 それに連邦がモビルスーツをこの段階で量産してきたというのも、ジオンにとって頭の痛い問題だ。

 そのためにもサイド3で状況確認も必要だが、同時に連邦の勢いを削ぐための戦略が必要である。しかし、幸運なことにキシリア麾下の特務部隊を使えるとなれば、使える手段はいくらでも考え付く。

 

「ガルマの抱き込み次第だが……中々いけそうではないか」

 

 戦略については、私の頭の中で素案だけは纏まった。

 あとはサイド3で何が起こるか、である。

 私には、ただの訪問では終わらないだろうという確信があった。ニュータイプの勘……という大層なものではない。

 もしも私の考えた通りなら、キシリアを排したギレンはさらにその地盤を固めようとするだろう。必ず、何かの動きがあるはずである。

 

 どちらにせよ、キシリアという人物の死から時代は大きく動くと見ていいだろう。

 

宇宙(そら)か……シャア、君は今、何をしている?」

 

 私は見えぬ宇宙(そら)を見上げ、ポツリとそう呟いたのだった……。

 

 

 

 



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第20話 再会の宇宙

今回の内容は一言。
ツィマッド万歳!!


『コンバットマニューバP&C』

攻撃力:4200
消費EN:30
射程:1~3、P兵器

……数字にするとこんな感じです。



『メインブースター点火、カウントダウンスタート』

 

 その音声を聞きながら、私は隣を見た。

 そこではガルマが、ノーマルスーツを着ながら少々緊張の面持ちだ。

 大気圏脱出は初めてなのだし分からなくもないが、何となく予防注射を嫌がる子供のように見えてしまい、思わず笑いがもれる。

 

「ガルマ、そんなに緊張しなくてもいいではないか」

 

「分かっているよ。

 だが、宇宙(そら)に上がる瞬間は無防備になるからな」

 

「それは私の護衛では不安だということかな?」

 

「ち、違う! そう言うわけではない!」

 

 そうやって必死で否定してくるガルマに、私は笑いをかみ殺す。

 

「シロッコ……あまりからかわないでくれ」

 

「だが、緊張はほぐれたろう?」

 

 そうしている間にも、カウントダウンは終わりを迎える。

 点火したブースターによって加速する私のザンジバル級機動巡洋艦『ユーピテル』は、地球の重力を振り切り宇宙(そら)へと駆け昇っていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

宇宙(そら)、か……」

 

 自分を縛っていた地球の重力は消え、無重力状態に私はベルトを外すと指示を出す。

 

「大気圏離脱後の異常は無いか、各部チェックを開始しろ!

 周辺警戒、怠るな!」

 

 そしてその言葉と同時に、私は不吉な何かを感じた。『ユーピテル』に衝撃が走る。

 

「今のは!?」

 

「れ、連邦艦です!

 連邦の艦に補足されています!!?」

 

「哨戒部隊に捕まったか……あまり運はよくないようだな。

 いや、運の無いのはどちらかな?」

 

 私は1人笑いをかみ殺すと、指示を出す。

 

「私はモビルスーツで出る。

 あとは頼む、キリシマ大尉」

 

「わたくしにお任せ下さいませ、シロッコ少佐。

 総員戦闘配置! 各対空砲座、用意!!

 近付くやつぁはブッ殺……墜として差し上げなさい!」

 

 私は後のことを艦長のフローレンス=キリシマ大尉に任せるとモビルスーツデッキへと急ぐ。

 

「さて……」

 

 モビルスーツデッキにはすでにリザド隊の面々が集結していた。私は口早に指示を飛ばす。

 

「クスコ、ニキとエリスを率いてザンジバルの護衛をしろ。

 久しぶりの宇宙の上、機体はザクだ。

 勝手が違うから気を付けるように」

 

 そう、ドムでは宇宙で使えないため、仕方なく今回はザクⅡを護衛として持って来ているのだ。

 こういうときに局地戦機は不便だ。汎用機の重要性を、つくづく思い知る。

 

「マリオンは、もしもの時のためにビームザクでビームライフルを装備して待機。

 敵にビームライフルの情報を教えてやる気は無いが、いざとなれば出てもらう。投入の判断はクスコに任せる。

 レイチェル、君は待機だ。まだ傷が痛むのだろう?」

 

「隊長、こちらから攻撃はしないのですか?」

 

 一しきり指示を飛ばした私に、横を進むクスコが聞いてくる。

 

「宇宙では防衛の方が重要だからな。

 防衛に戦力を裂く」

 

 宇宙では母艦をやられることが何よりも怖い。母艦がやられては、どんなにモビルスーツ戦で勝っても漂流するしか無くなってしまうからだ。

 しかも今回はガルマの護衛が任務である。そのため、隊のほとんどを艦の防衛に廻したのだ。

 とはいえ……攻撃をしないという訳ではない。

 

「攻撃はする。 相手も条件は同じ、母艦を墜とされれば終わりだからな。

 だがその戦力は最低限……私1人でいい」

 

 その言葉に、クスコは苦笑した。

 

「『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』の何が最低限の戦力ですか……。

 ただご自分が宇宙の感覚を取り戻したいだけなんじゃないですか?」

 

「良い勘だ、クスコ中尉」

 

「わかりますよ、そのくらい」

 

 肩を竦めるクスコに苦笑して、私はザクとは違う紫の機体に乗りこむ。この機体、長らく死蔵されていた機体だったが、宇宙(そら)での運動性はザク以上であり、また連邦がザクを投入してきたことから味方から誤認されることを防ぐために持ってきたものだった。

 エンジンに火を入れながら、私はこの機体に語りかける。

 

「お前の心臓(エンジン)、そして強度は私自らが再設計したのだ。

 存分に力を発揮して見せろよ」

 

 そう言ってコツンとコンソールを叩いた。

 

『発進準備完了。 少佐、ご武運を!』

 

「了解した。

 パプティマス=シロッコ、出るぞ!」

 

 ブースターをふかしながら、私は久しぶりの宇宙(そら)へと飛び出したのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「よし、情報通りだ。

 たまには諜報部もいい仕事をする」

 

 その連邦パイロットはザクの中でそうひとりごちる。

 彼らはジャブロー上空の制宙権を担う、防空艦隊の一部だ。そんな彼らの元に、連邦本部からある指令が下る。それはキャリフォルニアベースから打ち上げられるザンジバル級機動巡洋艦の撃沈である。

 諜報部の情報で、キャリフォルニアベースのザンジバル級が、大気圏離脱用のブースターを装着、機体整備を急ピッチで行っているという。サイド3では、未だ詳細不明な情報ながらキシリア・ザビが更迭されたという情報もある。

 この情報と急なザンジバルの大気圏離脱装備……これらを総合すると、このザンジバル級には重要人物が搭乗している可能性が高かった。もしかしたら、あのガルマ・ザビの可能性もある……そう判断した連邦本部は本来制宙権保持のための防衛戦力であるジャブロー防空艦隊から戦力を抽出し、一時的にジオン戦力下へと打って出ることを決定した。

 その戦力は連邦ザクⅡ6機、ボール12機、サラミス級宇宙巡洋艦4隻、コロンブス級宇宙輸送艦2隻という、機動巡洋艦1隻にぶつけるには些か過剰な戦力ではあった。

 

「よし、モビルスーツ隊は接近。 ボール隊は援護。

 必ず敵には3機一組で当たれ!」

 

 その指示の元、モビルスーツ隊とボール隊は動き出す。

 ザク1機にボール2機を1グループとし敵にぶつける……この部隊を任された彼の指示は現実的かつ非常に適切だった。彼の指示に落ち度は何一つない。

 では、彼の何が悪かったのかというと……これは『運』が悪かったとしか言いようがない。

 

『た、隊長! 敵モビルスーツがこっちに!?』

 

「ザクか? それともドム(スカート付き)の宇宙タイプか?」

 

 隊長の言葉に、そのボールのパイロットは震えるように答える。

 

『それが……見たこともない機体です!?』

 

「ジオンめ、また新型を繰り出してきたのか!?」

 

『は、速い!! ザクよりもずっと速い!?

 それにあの色は……!?

 う、うわぁぁぁぁぁぁ!!?』

 

 その言葉を最後に、そのボールとの交信は永遠に途絶された。

 

「一体……!?」

 

 隊長はザクのモノアイを動かし、それを見て心臓を鷲掴みにされるような感覚を味わう。

 敵は一機、それはスマートなフォルムの機体だ。背中にむき出しにされたようなブースターをふかし、ボールはもとよりザクすら寄せ付けない圧倒的な機動力で動きまわっている。

 しかし、本当に彼を恐怖させたのはその機体ではない。

 その機体は……紫に塗られていた。その色の意味するものは一つ。

 

「『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』、パプティマス・シロッコだと!?」

 

 彼は死神の冷たい鎌の感触を、首筋に感じていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……やはり機動性はザクの比ではない。

 安全性さえ確立されればなるほど、これが採用されないのは『ジオニックの陰謀』とは言いたくなるものだ……」

 

 そう呟き、私はペダルを踏み込む。

 すると、背中の木星エンジン改は私の要求に答え、圧倒的な推力を生み出す。そのスピードでこちらへとキャノンを乱射してくるボールに接近、通り抜けざまにジャイアント・バズを直撃させて、ボールを爆発させた。

 その爆発の中を、私の乗機はモノアイを激しく動かし、次なる獲物を探す。

 この機体の名は『EMS-04 ヅダ』であった。あのザクと正式採用を巡って争ったツィマッド社の機体である。

 その後、保管されていたヅダを私はドム用の木星エンジン改のテストベッドとして改造し、さまざまなデータ取りに使っていた。そして、そのまま『大気圏下での運用実験』という名目で私と共に地上に降りていたのだが地上はドムの天下、今さらヅダの実験などしたところでどうしようもなく長らく死蔵されていたのだが、私は今回の宇宙へ戻るという際に、自分の乗機として改良・調整・整備を行い持ってきたのである。『大気圏下での運用実験』で持ってきた機体を宇宙空間で運用する……なんともおかしな気分だ。

 

「しかし……久々の宇宙(そら)か」

 

 私はヅダを操りながら、久しぶりの宇宙の感覚を取り戻していた。

 『大地』という不動のものがある地上とは違い、どこにも足がつかずフワフワと浮遊した感覚……重力から解き放たれた解放感、これこそが宇宙の証し。この解放感と共に、魂の枷すら解き放った者がニュータイプなのだ……そんなことを実感する。

 だが今は戦闘中だ、雑念は振り払い、この戦いに集中する。

 

「遅い!」

 

 ヅダはその間にもボールの1機に接近すると、その名の通りボールを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたボールがザクとぶつかり、そのザクの動きが止まる。

 その瞬間にザクへとジャイアント・バズを直撃させるとザクが爆発、それに巻き込まれたボールも吹き飛んだ。

 

「どうやら、まだ敵のパイロットはモビルスーツの宇宙戦闘に慣れていないようだな……。

 これなら艦艇を相手にする時のためにバズーカは温存した方がいいか」

 

 私はジャイアント・バズを腰のラックにマウントすると、右手にMMP80マシンガン、左手にヒートホークを手にした。

 マシンガンを撃ちながら接近する私に、狂ったようにボールがキャノンを、ザクが100mmマシンガンを撃ってくるが、それは分かりやす過ぎる攻撃だ。ニュータイプの感覚で、相手パイロットの明確な敵意と混乱と怯えが手に取るようにわかる。それを避けることは容易い。

 

「そんな生の感情丸出しの攻撃など!!」

 

 2機のボールをハチの巣に変え、ザクの胴に通り抜けざまにヒートホークを叩きこむ。ところどころに穴の開いたボールと、胴体部分を溶断されたザクが続けざまに爆発した。

 そのころになると、やっと連邦も最初の混乱から脱したのか、距離を必死で取りながら、連携し弾幕を張って私を墜とそうと狙ってくる。

 

「ほう……やはり数が揃われると厄介だな。

 すべて倒すには弾と時間が掛かる」

 

 だが、私は敵の猛攻に何ら恐れは感じていなかった。

 何故なら……私はこちらに近づいてくる、良く知る存在を感じ取っていたからだ。

 

 

 ドゥン!

 

 

 私に攻撃していたザクが1機、粉々になって吹き飛んだ。

 何事かとその僚機のボールがその方向を見るが、その瞬間赤熱したヒートサーベルによって真っ二つになって爆散する。

 

『敵の援軍なのか!?』

 

 そして、混乱する敵機を通り越し、彼はそこにいた。

 

『こちら『グワラン』の護衛隊所属の、シャア=アズナブルだ。

 合流ポイントに先行してこちらに来たが……余計なおせっかいだったかな、シロッコ?』

 

 そう、やってきたのはシャアだ。

 今回の件はザビ家にとって一大事、当然ながらドズル=ザビもサイド3に行く必要性があった。それならばと、ドズルはガルマと合流し、一緒にサイド3へと行くことになったのである。シャアはドズル・ザビの乗艦である『グワラン』の護衛の任務についており、先行して単機でこちらに合流しにきたようだ。

 友との久しぶりの再会にここが戦場だということを忘れ、つい笑ってしまう。

 

「いいや。 援護に感謝するよ、シャア」

 

 そう言ってシャアの搭乗する赤い専用のリック・ドムが、私のヅダの隣に並ぶ。

 

「そう言えばシャアよ。

 こうして戦場で共に並ぶのは、あの『暁の蜂起』以来だな」

 

『そうだな……。

 また戦場で君の隣に立てること嬉しく思う』

 

「私もだ。

 あの時のように私の背中、君に預ける」

 

『では、私の背中も君に預けよう』

 

「共に行くぞ、『赤い彗星 シャア=アズナブル』!!」

 

『了解した、『紫の鬼火(ウィルオウィスプ) パプティマス=シロッコ』!!』

 

 私とシャアは同時にペダルを踏み込むと、機体が急加速する。

 加速力は私のヅダの方が上だ、私の後ろに続くようにシャアのリックドムが続く。

 

「墜ちろ、カトンボ!!」

 

 ヅダのMMP80マシンガンでハチの巣のなったボールが爆散する。それを見て1機のボールが私に照準を合わせるが……。

 

『やらせんよ』

 

 リック・ドムからのジャイアント・バズに直撃し、粉々に弾け飛んだ。

 ザクの一機がそんなシャアに100mmマシンガンを向けるが、それを撃たせる気は無い。

 

「遅い!」

 

 すり抜けざま、ヅダのヒートホークがザクのその右腕を斬り飛ばす。

 

『もらった!』

 

 そして右腕を失い体勢を崩したザクに、リック・ドムがヒートサーベルを突き刺した。

 コックピットを貫かれたザクを、シャアのリック・ドムが蹴り飛ばす。ザクはスパークしながら力なく浮遊し、数秒の後に爆発した。

 私とシャアの即席のコンビネーション。だが、この連携攻撃はともすればあの黒い三連星の『ジェットストリームアタック』を越えるだけのものであると確信できた。

 

「流石だな、シャア。

 即席で、こうもこちらの動きに合わせてくれるとは」

 

『君が合わせやすく動いてくれているお陰だ、シロッコ』

 

 ここは戦場だというのに、互いに微かに笑いさえ漏らす。

 命を預ける存在に、これ以上の相手はいない。私とシャアは同じことを感じていたと思う。

 

「艦艇を含め、まだまだ敵は多いが……大したことはあるまい」

 

『こちらは『紫の鬼火(ウィルオウィスプ) パプティマス=シロッコ』と『赤い彗星 シャア=アズナブル』……ジオンのエース2人だ。

 数の違いが、決定的な戦力の差ではないことを連邦に教えてやるとしよう』

 

「ただし授業料は高くつくぞ。

 何と言っても、我々2人を相手にしたのだからな!」

 

 同時に、再び私とシャアはペダルを踏み込む。

 紫のヅダと赤いリック・ドム……二つの光が、戦場を駆け抜け抜ける!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ぜ、全滅?

 会敵からまだ3分しか経ってないぞ。

 それがザク6機、ボール12機が……全滅?」

 

 ザンジバル級の撃沈命令を受けた艦隊を指揮していたパオロ・カシアス中佐はオペレーターからの言葉が信じられなかった。

 

「う、嘘だろう? 冗談なんだろう?」

 

 報告の虚偽を希望する問いなど、長い軍人生活で使うことなど絶対にあり得ない。しかし、その問いを自然としてしまうほどの衝撃を彼は受けていた。

 だが、狼狽するパオロの言葉に、こちらも同じく狼狽しながらもオペレーターが返してくる。

 

「……事実です。

 全機からの応答が途絶えました。

 爆発の光も確認しています……」

 

「そんなバカな……」

 

 そう言って宇宙の闇を見つめるパオロだが、そんな悠長な時間は残されてはいなかった。

 

「艦長、敵機がこっちに!!?」

 

「!?」

 

 そして、その場にいた全員がその紫と赤の光に恐怖する。

 

「『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』と『赤い彗星』だ!

 に、逃げろ!!」

 

 敵を前にいきなり逃げろという、軍人としての資質を疑われかねない指示をしたパオロを誰が責められるのか?

 むしろその指示は彼我戦力差を鑑みた上での最良の指示であったと称賛されるべきだろう。

 その証拠に、3隻のサラミスはそれから5分もたたぬうちに爆発の閃光の中に消えて行ったのだから。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……なかなか優秀な指揮官だったようだな」

 

 私は撃沈したサラミスから離脱していく脱出用ランチの多さに思わず言葉を洩らす。

 これだけ脱出者が多いというのはそれだけ総員退艦の指示が早かったということである。

 早々に敗北を悟り、抵抗より脱出に力をいれたあたりは見方によっては『臆病』とも見えるかもしれない。しかし『臆病』さとは、時に戦場では美徳になりえる。適度に臆病なものは慎重になり、引き際をわきまえているからだ。

 その証拠にこれだけ味方を生かすという結果を生んだのだから、そういう意味でもこの指揮官は有能なのだろう。

 

「……」

 

 私は残り1隻のサラミス級へと逃げて行く脱出用ランチに向けていた銃口を下げた。モビルスーツ戦でも脱出したポッドを好んで撃つようなものはいまい。同じ理由で私は無益な殺戮は避けた。

 それに残ったサラミス級もすでに反転し、逃げの体勢に入っている。速力は残しているようだが、私とシャアの攻撃で砲塔等は見るも無残に砕け散り、戦闘能力は残っていない。

 今回は護衛任務であるし、その護衛対象から離れ過ぎる訳にもいかず、ここで追撃は打ち切ることにした。

 

「それに、どうやら合流のようだからな」

 

 『ユーピテル』に接近してくる、ドズル・ザビの搭乗するグワジン級戦艦『グワラン』の姿が見える。

 

『シロッコ、戻るとしよう』

 

「そうだな、シャア」

 

 私のヅダとシャアのリック・ドムは同時に反転すると、スラスターをふかして母艦へと帰還するのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「久しぶりだな、ガルマ。

 お前の地球での活躍のことは聞いているぞ」

 

 招き入れられた『グワラン』の司令室で、ガルマは久しぶりに兄であるドズルと対面していた。そのいかつい外見同様の豪快さを全身から醸し出す変わらぬ兄の姿に、ガルマはある種の安心を覚える。

 

「兵たちが優秀だったおかげです。

 僕などドズル兄さんに比べればまだまだですよ」

 

「謙遜などするな、ガルマよ。

 お前なら、いつか俺をも使いこなせる稀代の将になれると俺は信じているんだ」

 

「兄さんの期待に応えられるかはわかりませんが、僕はできる最善を尽くしますよ」

 

「うむ、それでいい」

 

 しばしドズルとガルマは兄弟水入らずの世間話をする。そして、頃合いを見計らったガルマはその話題を切り出した。

 

「ところでドズル兄さん……キシリア姉さんのことは……」

 

「……直接の確認はできていないが、事実らしい」

 

 ガルマの言葉に、ドズルは重々しく答える。

 

「僕はまだ信じられないんだ。

 キシリア姉さんが死んだなんて……」

 

「俺だって信じられんし、信じたくないが……間違いはないようだ。

 まったく……俺より先に逝きおって……。

 どうでもいい策など講じる頭があるくせに、逝く順番すら守れんとは……あのバカ者が」

 

 そう憮然としたドズルの言葉には、妹を失ったさみしさが見て取れた。

 

「ギレン兄貴は俺たちが戻ったのを見計らってキシリアの国葬を執り行うとのことだ」

 

「国葬、ですか?」

 

「ああ。 さすがにキシリアの死は隠しきれんからな。

 『ザクⅡのデータを連邦に渡そうとした部下の暴走を止めようとして殺害された』……そういうことになるらしい」

 

「そう……ですか……」

 

 ガルマとしては、ギレンがキシリアの国葬をという話には納得しかねる部分もあった。

 キシリアはザクⅡの情報漏えいに関わった。これは覆せない大失態である。しかしこの国葬はその事実を上手く覆い隠し、キシリアの名誉を守るものになる。

 そう考えればこれはギレンなりのキシリアに対する兄心とも取れなくもない。しかし、家族として姉の冥福を静かに祈りたい気持ちはあり、ある意味では国家のパフォーマンスとして姉の死が使われるというのは気分のいいものではなかった。

 それが顔に出ていたのだろう、ドズルも苦虫を噛み潰したような顔で頷く。

 

「……納得できん気持ちはわかる。

 だが今は連邦との戦争中だ、無用な混乱は避けねばならない。

 ただでさえ前線では連邦のザクⅡが現れたことで動揺が起こり、キシリアが情報を流したという噂までまことしやかにささやかれている。

 それを払拭するためにも必要なことなんだろう。

 キシリアの突撃機動軍も、混乱が起こらないようにギレン兄貴が直接指揮をするそうだ」

 

「ギレン兄さんが?」

 

 その言葉に、ガルマは引っかかりを覚える。

あまりにもギレンの動きが早すぎだ。そう考えると、次から次におかしな点が浮かび上がってくる。そのすべてが、ガルマをある一つの可能性へと導いた。

 

(まさかギレン兄さんが姉さんを……)

 

 そんな風に考え始めたガルマに、ドズルの声が飛んだ。

 

「ガルマ、それ以上は考えるな!」

 

「ドズル兄さん……」

 

「……俺たちは血の繋がった家族だ。

 今は家族の死を悼み、その魂の安息を祈る……それだけでいい。

 それ以上は考えるな」

 

「……わかりました」

 

 ドズルの有無を言わせぬ口調は、まるで自分に言い聞かせるようだ。その言葉に、ガルマも頷く。

 その様子を見て、ドズルも肩の力を抜いた。

 

「後で食事を供にしよう。

 ゼナやミネバも喜ぶはずだ。ゼナもお前には会いたがっていたからな」

 

「わかりました。

 そうだ、丁度同期のシャアもシロッコもいるし、後でゼナとは一緒に思い出話でもしますよ」

 

「あいつらか……」

 

 シャアとシロッコの名前に、ドズルは露骨に嫌そうな顔をする。

 

「前から気になってましたが、ドズル兄さんは何であの2人を毛嫌いするんですか?

 2人は我がジオンの誇るエースたちです。その力は凄まじい上に、僕の友ですよ。

 あの『暁の蜂起事件』のせいですか?

 それなら、あれは僕も……」

 

「そうではない。

 いや、それもあるんだが……」

 

 いつもの豪快さはどこへやら、何か言いにくそうに口ごもる。

 

「ゼナがな……その……士官学校時代にあの2人のことを……好いておったらしい。

 昔のこととは分かっているんだがな……」

 

「ああ、そういうことで……」

 

 どうやらドズルがシャアとシロッコが苦手な理由は、酷く個人的な嫉妬だったらしい。

 厳つい外見に似合わず、まるで少年のような兄に思わず笑みの漏れたガルマだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「久しぶりだな、シロッコ」

 

「それはこちらのセリフでもある。

 シャア、宇宙に戻って早々に君と再会できるとは嬉しい限りだ」

 

 私とシャアは互いに再会を祝っていた。今は勤務中なので酒とはいかないが、互いに飲み物を口にする。

 

「しかし……色気のないところに連れ込んでくれたものだ」

 

 そう言ってシャアは辺りを見渡す。ここは私のザンジバル級機動巡洋艦『ユーピテル』の機関室の奥だ。

 轟々と常に『ユーピテル』の心臓が動く低い音が響いている。

 

「君ほどの有名人、食堂にでも連れて行けば大騒ぎになってゆっくり話などできまい。

 それに……内緒話をするのならうってつけだろう?」

 

「なるほどな……」

 

 『ユーピテル』は私の艦とはいえどこで誰が聞いているか分かったものではないし、盗聴器という可能性もある。その点、ここはそういう内緒話にはうってつけだ。

 

「シャア……率直に言おう。

 今の君からは、何か悩みのようなものを感じる。

 友として、何かあったのなら力を貸すが?」

 

「シロッコ……君の勘は鋭いな。

 まるで彼女と話をしているようだ……」

 

 その言葉に、私は感じるものがあった。

 

「彼女……ララァ=スンか?」

 

「……ああ、実は……」

 

 そして語るシャアの話、それはまた厄介な話だ。

 

(この分ではサイド3でも動きまわらねばならん。

 さて……どうしたものか……?)

 

 私は額を数回トントンと指で弾くと目を瞑り、深く思考に浸るのだった……。

 

 

 




シロッコ専用ヅダとシャア専用リックドムの揃い踏みは夢の構図。
ツィマッドの夢は輝いていますよ、デュバル少佐。
もっとも、この構図は今回限りです。
シャアは今回の宇宙での話で、普通では絶対乗らせない、乗っちゃいけない機体に乗り換えることになりますので。

次回ですが……そろそろ週2の更新は辛くなってきましたので、毎週土曜日0時の更新にしようかと思います。

次回もよろしくお願いします。


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第21話 技術者の語らい

これからは週一投稿にすると言ったな?
あれは嘘だ。

いえいえ、今回はたまたまストックができたので今まで通り水曜の0時に投稿です。
これからも余裕があれば水曜と土曜の0時の投稿を。
余裕が無ければ土曜の0時の投稿でいこうと思います。

ジオンの技術に関する話。
そしてシャアの新しい搭乗機が何かほぼ判明。もっとも、実機はもう少し先の登場ですが。



『私の妹、キシリア=ザビは死んだ。

 常にジオン国民のために時にその政策で、時に軍略でこの国に尽くした妹だった。

 だが、そんな妹は連邦の凶弾の前に倒れた。

 ジオンの強さの秘密を探る、薄汚いネズミに対し、それをさせまいと毅然と戦ったうえでの死であった。

 国のため、諸君らのために尽くしたキシリアは死に、諸君らの父や子も多くが死んだ。

 

 こんなことがあってよいのか?

 国のため、ジオン独立という正義のために戦ったものたちが死に、薄汚い盗人である地球連邦が幅を利かせていてもよいのか?

 

 否! 答えは否である!!

 諸君には、今一度思いだしてもらいたい。

 地球連邦がどれだけこれまで長きに渡り、我ら宇宙に住まう者を迫害し、搾取を続けてきたかを。

 どれだけ、地球連邦が我ら宇宙に住まう民の声を踏みにじってきたかを。

 そこには断じて、『正義』などない!

 『正義』無き者に、人類を導くという資格はないのだ!

 

 そして人類を導くべき真なる優良種とは、『正義』を手にこの宇宙で独立を求め、地球連邦の横暴なる態度に毅然として立ち上がった、我らジオン国民だけなのである!

 

 この戦争はただの独立戦争ではなく、『正義』のための戦いである。

 キシリアも諸君らの父と子も、その『正義』の礎となって死んだのだ。

 

 その死を、我らは無駄にしてはならない!

 

 国民よ、立ち上がれ。

 その胸にある悲しみを怒りに変えて、立てよ国民!

 

 この戦争に勝利したとき、始めて我らジオンの正義は完成し、そのときこそ死した諸君の父も子も、キシリアも、永遠の喜びの中を漂うだろう!

 

 ジークジオン!!』

 

 

『『『ジークジオン』』』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……まさしく見世物(ショー)だな」

 

 テレビからキシリア=ザビの国葬の様子が流れているのを見ながら、ポツリと呟く。

 妹の死というものを装飾し、その創られた世界に熱中する群衆……これはギレンが国民向けに作った『見世物(ショー)』である。

 しかし、それによって本当に国民を熱中させることができる人間がいかほどにいるだろうか?

 その手腕は悔しいが『天才的』としか表現しようがない。

 

「……」

 

 暇つぶしにつけていたがいい加減に見ていられなくなり、私は応接間のテレビを消した。

 今日は私はある場所へと出向いている。ここで人と会う予定だ。

 やがて、コンコンと扉を叩く音が響くとその人物が顔を見せる。

 

「お待たせしました、パプティマス=シロッコ少佐」

 

「いいや、時間通りだよ、オリヴァー=マイ中尉」

 

 私のやってきた場所、それは……ジオン技術本部であった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「モビルスーツ携行式ビーム兵器のデータ、確かに受け取りました。

 これで公国のモビルスーツ開発はさらに加速します。

 素晴らしい成果ですよ、少佐」

 

「なに、優秀なスタッフたちのおかげだよ」

 

 そう言って私は和やかに返す。

 私が来ているのは技術本部にビーム兵器のデータを渡すためだった。

 ビーム兵器の開発成功はすぐに軍上層部に報告され、そのデータ提出を要求されたのだ。私としてもビーム兵器は普及してもらわないと困る。そのために設備など必要なものはいくらでもあるためここは出し惜しみしないと決めた。

 そこで、私は昔助けたことで顔も知っているオリヴァー=マイ中尉へとデータを渡したということだ。

 しかし……私の目的はそれだけではなかった。

 

「ところでマイ中尉、このあと昼食でもどうかね?

 私もサイド3に戻ったばかりでね、今後のためにも『色々』教えてほしいことがあるのだよ」

 

「……そうですね。

 今後のためにも『色々』、ですね」

 

 事前に少し話をしていただけあって、スムーズに進む。

 私はマイ中尉と共にサイド3の昔なじみの店を訪ね、そこでパスタなどつまみながらマイ中尉と話をすることにした。

 

「それで、シロッコ少佐は何が聞きたいんですか?」

 

「とりあえずは……ジオニックの様子を教えてくれないか?」

 

 まずは一番気になる部分を聞いてみた。

 

「ご存知の通り、例のザク情報漏えい事件で大ダメージを受けてますよ」

 

「だろうな」

 

 ここに来る途中、新型汎用機までの繋ぎとなる宇宙用主力モビルスーツの座を、リック・ドムが勝ち取ったという話を耳にした。

 リック・ドムの対抗馬はジオニックの高機動型ザクであった。高機動型ザクは優れた性能を持っていたが扱いにくいという欠点もある。しかし、今回なによりも高機動型ザクを不採用に陥れたものは『ザクであること』だった。

 ミノフスキー粒子下の戦闘は有視界近接戦闘、目視が非常に重要になる。そんな中、敵と同じ形状をしている時点で高機動型ザクは問答無用で不採用だったというわけだ。

 

「ザクの納品は全面ストップ。 前線ではザクの使用を控えるような話も出ています。

 ジオニックの上役は青い顔をしてましたよ」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「しかし商魂たくましいもので、もうジオニックからザクの再利用計画案が上がってきていますがね」

 

 そう言って、マイ中尉は数枚の資料を見せてくれた。

 

「これはなんとまぁ……」

 

 そこに映っていたのは、ザクの上半身にガトルの推進機を下半身にしたモビルスーツだった。私の原作的な知識から言えばデラーズフリートのモビルスーツ、『ドラッツェ』である。

 前線でザクの使用が禁止されそうな状態なので、その改造案として外見の変わるドラッツェを提案してきたらしい。

 

「宇宙は今後、リック・ドムとこの宇宙用改造ザク『ドラッツェ』が主力になりそうです。

 他にも、支援用としてザクの武装を流用した戦闘用ポッド『オッゴ』も提案、これも採用が決定されています」

 

「ジオニックはたくましいな……」

 

 私は少し重くなった頭を抱えた。

 

「しかし、リック・ドムにも稼働時間など弱点は存在します。

 これはあくまで新型主力機投入までの、繋ぎにしかすぎません」

 

「わかっている。

 私の方も、ビーム兵器を標準装備した新型汎用機を設計中だ。

 ツィマッドから、そう遠くないうちに提出されるだろう」

 

 その私の言葉に、マイ中尉は何とも言いにくそうな顔をした。

 

「何か?」

 

「……これは噂ですが、ジオニック社は今回のザクの件で大ダメージを受け、次の次期主力モビルスーツには社運をかけているといいます。

 そのため、軍内に様々な伝手で、なりふり構わぬ手を使っていると……」

 

「つまり……最初から次期主力モビルスーツはジオニックの新型で内定していると?」

 

「あくまでも噂ですが……。

 もっとも新型の性能が低ければそれも絵に描いた餅でしょうが、それだけの性能がジオニックの新型にあるのも事実ですよ」

 

 そう言ってマイ中尉はその写真を見せてくれた。

 

「……もう実機が出来上がっているのか?」

 

「ええ。 少佐のドムに触発されたらしく、開発にはかなり力が入れられたそうです。

 高機動型ザクⅢ……新たな開発コードは『ゲルググ』です。

 ビーム兵器使用を前提として開発が進んでいた新型ですよ」

 

 どうやら、私のドムの早期開発はツィマッドだけではなく、ジオニックの開発を早めることになっていたようだ。写真には私の良く知る原作の『ゲルググ』にそっくりな機体が映っている。ただ背中にはドムと同じヒートサーベルを装備し、右の背中にはジェネレーターに直結された銃……私の原作の知識としてはガンダムF91の『ヴェスバー』のような形状のものが装備されている。

 それを見て、私は頷いた。

 

「なるほど……ジェネレーター直結型の手持ちメガ粒子砲を主兵装とする予定で造っていたのか……」

 

「ええ、ライフルサイズへの小型化は無理だったようで……。

 ですが今回の少佐のエネルギーCAP理論のおかげでライフルへの小型化が可能になりました。元々ジェネレーター直結型手持ちメガ粒子砲を装備する予定だったので、ジェネレーター出力も十分すぎます。

 おそらくビームライフル装備に設計変更されたタイプを次期主力機のトライアルに提出してくるでしょうね。そちらのほうが生産性・整備性・機動性がグンとあがりますから。

 それらがされていない現段階でこのスペックというのは……凄いものですよ。

 それに、スペック表に現れていない部分も凄いです。

 少佐から提出してもらった、連邦型のコンピューターシステムとモビルスーツ制御OSの技術情報……コンピューター関連の技術では連邦の方が上というのは本当だったんですね。

 情報提供された各社がこぞって研究・搭載を予定しています。

 当然ゲルググにも搭載されるでしょうから、操作だって各段に容易になるはずです」

 

「確かになかなかのものだ。

 これ以上の機体の設計自体はできるが……生産性などを鑑みると、どうなるかはわからんな」

 

 さすがは数カ月投入が早ければジオン軍が勝利していたとまで言われる名機ゲルググである。おまけに政治的な力はジオニックは相当に強い。

 

(現段階でほぼ完成している以上、これは次期主力モビルスーツの座はゲルググに持っていかれるかもしれんな……)

 

 私はそんな風に考える。

 だが、それならそれでも構わない。私の目的はあくまで連邦との戦争に勝利することだ。別に私の手掛けたモビルスーツが正式採用されることが目的ではない。ゲルググはそういった意味では納得のできる性能をもっており、これが正式採用されるとしても、何の文句もなかった。

 

(それに、その間に先の開発を進めればいい話か……)

 

 そう考えて、私は次期主力モビルスーツのことは考えないことにした。

 

「ジオニック社の近況はわかった。 次はMIP社はどうだ?」

 

「MIPですか?

 あそこは……モビルスーツ開発からは撤退しました」

 

「何だと!?」

 

 あまりに予想外の言葉に、私は一瞬言葉を荒げてしまった。

 何でも水陸両用モビルスーツでのシェアを狙って新型モビルスーツを開発していたが、ツィマッド社の『ハイゴッグ』の登場によって、後発でシェアを奪うのは不可能との判断を下し、モビルスーツ開発からは撤退したという話だ。なんと私がハイゴッグを早期投入した影響で、MIP社の傑作機『ズゴック』を殺してしまったのである。

 今まで私の干渉で開発促進などのプラスにことが働いていたため、このマイナスの影響には驚いてしまった。

 

「そのかわりMIP社は提供されたハイゴッグのデータを元に、人型を排して性能を特化させたモビルアーマーの開発の方にシフトしました。

 これがMIP社の新型です」

 

 そう言って見せられたのは腕付き三角形……モビルアーマー『ビグロ』である。

 どうやらMIP社はモビルスーツ開発に廻していたリソースをすべてモビルアーマー開発に廻したようだ。ビグロの開発がかなり早い。

 

「人型での汎用性を捨て大型化したことで、高速・高火力・重装甲を実現。

 その分コストは高くなりましたが……」

 

「コンセプト的にはどう考えても量産兵器ではない、ハイエンドで少数配備を前提としているから問題もあるまい。

 これももう実戦配備段階なのか?」

 

「はい。

 すでに生産も始まって、7月の中旬には数機がソロモンに配備されるそうです」

 

 ビグロの高速・高火力・重装甲からくる一撃離脱は、宇宙での敵戦艦撃沈に非常に有効だ。その機動力はモビルスーツの防衛線をすばやく突破し、その装甲は近接対空砲火を物ともせず、その火力は敵艦をたやすく撃破するだろう。

 それが7月の段階で本格導入されるとなると心強い。

 ゲルググにビグロ……どうやら宇宙の方はそれほど心配はなさそうだ。

 

「ありがとう、マイ中尉。 おかげでいい話が聞けたよ」

 

「少佐にそう言ってもらえると嬉しいですね」

 

 そう言ってマイ中尉は照れ臭そうに笑った。

 

「他には気になる話はあるかな?」

 

「そうですね……あの話があります。

 『フラナガン機関』と『公国突撃隊』です」

 

「『フラナガン機関』と『公国突撃隊』?」

 

 私はオウム返しに返していた。

 『フラナガン機関』は知っているが、『公国突撃隊』という組織は初耳だ。

 

「『フラナガン機関』はご存知かもしれませんが、キシリア閣下がニュータイプの研究とその軍事利用・専用特殊兵器の開発のための機関です。

 それが……今回の騒動のどさくさで亡命者が出てしまって……」

 

「ああ、それは聞いているよ」

 

「はい。

 そういうこともあり、『フラナガン機関』はギレン閣下の直属である『公国突撃隊』が監督することになるらしいです」

 

「それは監督というより『監視と管理』だろう?」

 

「そうともいいますね。

 この『公国突撃隊』……もっと言えばギレン閣下の後押しで、『フラナガン機関』はかなり技術力が上がる予定です。

 ジオニック社やMIP社の技術者を、半ば強制的に引き抜いて廻すみたいですからね」

 

「そうか……それで、その『公国突撃隊』というのは?」

 

 私が促すと、マイ中尉は少しぬるくなったコーヒーを一口すすると説明を始める。

 

「『親衛隊』はご存知ですよね?」

 

「ああ」

 

 『親衛隊』はよく知っている。あのデラーズフリートを起こして反乱を行う『エギーユ=デラーズ』を隊長とする集団だ。

 本来は『親衛隊』はザビ家を守る集団なのだが、今では狂信的なギレン信仰者で固められ、『本土防空隊』と並ぶギレンの私兵である。

 

「『公国突撃隊』は同じような……『親衛隊』の一派のようなものです。

 その構成員は若手の兵卒や将校、果ては士官学校学生から一般の学生まで……。

 ギレン閣下に忠誠を誓い、ことあらば命を捧げるといった集団ですよ。

 これが、若者の間ではかなり数を増やしています」

 

 若者を中心としたギレン信仰者の民兵組織と、それを統括する正規兵といった感じだろうか?

 いや、『ギレン教信者』とでも言った方が早いか?

 どちらにせよ、そんなものが流行っているとは嘆かわしい限りだ。

 

「ちょっと前は学生のクラブ活動程度の規模の運動だったんですが、今では『公国突撃隊』はギレン閣下の強力な後押しもあり、急速に発言力を増しています。

 これに加えて、少佐から提供された連邦製コンピューターのデータから、経験の低い者でもモビルスーツを扱えるようになるための操縦システムの開発をギレン閣下は厳命しましたし、操作の容易な『オッゴ』の即時採用、今回の事件のせいで前線に出せないザクを訓練用で都合してみたり、ギレン閣下の『公国突撃隊』への支援の幅はかなり広いですよ。

 噂では学徒出陣のための布石なんじゃないかと言う話もあります」

 

「学徒出陣か……」

 

 その単語を聞いて、嫌な気分になる。

 古来から正規の長期的に育てた兵ではなく、強制徴用した早期戦力を投入して戦争に勝利した国家はない。

 学徒出陣など亡国の足音としか思えないが、現実味がある話だから嫌なものだ。

 そこまで考えてから、私は自嘲気味に笑う。

 

「……15にも満たないメイ嬢とマリオンを戦場に連れだしている私のような男が言えたことではないか……」

 

「はい?」

 

「いや、こちらの話だ。

 それよりありがとう、非常に有意義な話だったよ」

 

 特に最近勢いを持つギレンの私兵『公国突撃隊』というのは興味深い話だ。

 今後もその動向には気を付けることになるだろう。

 

「……自分のような技術屋がこんなことを言っていいのかわかりませんが、『公国突撃隊』にはあまりいい噂を聞きません。

 『暗殺』などの後ろ暗い仕事をしているとも聞きます。

 ……少佐、気を付けてください」

 

「わかった、忠告感謝しよう」

 

 私はマイ中尉に礼を言い、食事を終えて別れた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「さて……」

 

 ずいぶんと話し込んでしまったが、幸いにも時間はある。次の目的地へと移動することにしよう。

 私はタクシーを拾うと、郊外の病院へと向かった。

 

「……」

 

 白い壁と鼻をつく薬品の臭いの中、私はその病室をノックした。

 

「失礼する」

 

「……君か、シロッコ」

 

 病室に入ると、そのベッドサイドの椅子にはシャアが座っていた。

 そしてその視線の先には……ベッドでこんこんと眠り続ける、ララァ=スンの姿があった。

 

「……医者の話では、身体はどこも悪くは無いそうだ。

 ただ意識だけが戻らない……」

 

 その話を聞きながら、私はさもありなんと思う。

 私もニュータイプとしての力ですぐに分かった。何故なら、今のララァ=スンは抜け殻だからだ。その身体に宿るべき意識……『魂』ともいうべきものは、今その身体の中には無い。

 『フラナガン機関』でのある実験の結果、ララァ=スンは眠り続けている。

 そして、私はそれをやった相手を知っていた。

 ララァ=スンを眠りにつかせ、連邦へと亡命した男……。

 

(クルスト=モーゼス。

 貴様は私とシャアの敵、そして……我々ニュータイプの敵だ。

 望み通り、誰が裁かれる者なのか教えてやる。

 必ず、血祭りにあげてやろう……)

 

 私は、私と友に喧嘩を売った男の、そしてニュータイプにとっての敵の名を心の中で呟いたのだった……。

 

 

 




今回は丸々技術関係の話でした。

そして何度か予告していた、シャアが本来絶対に乗ってはいけない新しい搭乗機は蒼いドレス(塗装)と大きな帽子(頭部)がチャームポイントのあの子です。
しかもこの機体、座ると女の子が手取り足取り導いてくれるんですよ(意味深)。
ジオンの騎士? 知りませんな。

マリオンを仲間にしたり、7.5話の段階でフラナガン機関の早期設立とララァがフラナガン機関にいるという話にシロッコが違和感を覚えたりなど推理材料はありましたから、結構な数の人たちには予想通りの展開なんじゃないかなぁ。
感想で『ララァに乗る』と冗談めかして書いていた人がいましたが、実はそれが一番正解に近いという……「ニュータイプか?」と思いましたね。

次回は土曜日0時の更新、3人娘の休日のお話の予定。
次回もよろしくお願いします。


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第21.5話 女たちの休日

今回はリザド隊所属の隊員たちの休日風景の話。
シロッコについてのそれぞれの見解や、今後のためのちょっとした伏線らしきものもちらほらと……。



「ふぅ……」

 

「お疲れ、ニキ」

 

「お疲れ様」

 

「ああ、ありがとう」

 

 少し疲れた表情で椅子に座ると、それを追うようにレイチェルとエリスも椅子に座り、ニキの前にコーヒーを差し出してくる。

 ニキはお礼を言いながら、渇いたのどをコーヒーで湿らせた。

 

「それにしても、ニキって話上手だね」

 

「? そうかしら?」

 

「なんていうのか……すごく似合ってる」

 

 エリスの言葉にニキは首を傾げるが、その隣ではエリスの言葉に同意するようにレイチェルはウンウンと頷く。

 

「そうよね。私やエリスの話とあいつらの喰いつき方が違ったもの。

 ニキだけ教官に、『またやってくれ』って言われてたし」

 

 ニキ、レイチェル、エリスの3人娘は今、サイド3の古巣ともいえる士官学校に来ていた。ここは士官学校の食堂である。

 

 久しぶりのサイド3、停泊中にシロッコから休暇をもらった3人は士官学校にあいさつに来ていた。その時、恩のある教官から学生向けに話をしてほしいと頼まれたのである。

 3人はジオンでは英雄的なエースパイロットの1人、『紫の鬼火(ウィルオウィスプ) パプティマス・シロッコ』の部隊の一員だ。学生としても大いに興味のあることだったのだろう。3人は断り切れずなれない様子ながら教壇に立ち、学生たちに生の戦場の様子を話したということだ。

 

「ニキ、あんた実は教官とかあってるんじゃないの?」

 

「……そうね、戦争が終わったらそういうのもいいかもね」

 

「戦争が終わったら、かぁ……」

 

 レイチェルはその言葉を言いながら伸びをする。

 

「そうなったら、私は実家のパン屋でも継いでやろうかなぁ」

 

「レイチェルがパン屋って……似合わないわね」

 

「なんだとこのー。

 こう見えても、可愛い看板娘として地元じゃちょっとは有名だったんだぞー」

 

 あははと笑ってじゃれあうニキとレイチェルに、エリスもクスクスと笑いを漏らす。すると、レイチェルは新しい獲物に狙いをさだめたようにエリスに言った。

 

「エリスは『アレ』よね、戦争終わったらなりたいものって」

 

「? 『アレ』ってなに?」

 

 首を傾げるエリスに、ニヤニヤ笑いながらレイチェルは言った。

 

「決まってんじゃない。

 シロッコ少佐の、お・よ・め・さ・ん」

 

「ああ……」

 

「な、なに言ってるのよ!」

 

 レイチェルの言葉にニキは納得といった感じで頷き、エリスは顔を赤くしてブンブンと首を振る。

 

「あんたが少佐にホの字なのは、みんなとっくに知ってるわよ」

 

「……ホの字って、いったいいつの時代の言葉よ」

 

「コラっ、ニキ! 話の腰を折らない!」

 

 ニキのツッコみに返すと、レイチェルはわざとらしくコホンと咳払いしてから再びエリスへと話を振る。

 

「で、好きなんでしょ、少佐のこと」

 

「……うん」

 

 エリスは顔を赤くしてうつむきながら、コクリと小さく頷く。

 

「やっぱ、そっかー。

 少佐いい人だもんね」

 

「……士官学校を卒業したばかりの私たちを、ここまでにしてくれた人。

 少佐は凄い方よ」

 

「確かにシロッコ少佐は凄いわよね」

 

 ニキの言葉にレイチェルは同意するように頷くと、一つため息交じりに言った。

 

「顔良し、頭良し、おまけに国の英雄で、地位もある。

 あれで『ロリコン』でさえなければなぁ……」

 

 レイチェルの言葉は、ある意味では部隊内での暗黙の了解のようなものだ。

 

「……ホントなのかな? 少佐が『ロリコン』って噂……」

 

「そりゃガチなんじゃないの?

 メイちゃんとマリちゃん見てれば分かるじゃない」

 

「あの2人の懐き方は尋常じゃないわね。

 それに噂ではあの2人から『お守り』を、手ずから剃って手に入れたそうよ」

 

「……それMP呼んだ方が良くない?

 14歳相手にそれって、完全に『事案』でしょ」

 

 どうやら噂は尾ひれ背びれが付くどころかついに羽根までつけて飛び回っているようだ。だが、実際に身近でシロッコという人物を知れば知るほど、噂が真実ではないかと考えてしまう。

 その言葉に、エリスは大仰にため息をついた。

 

「はぁ……。

 なんでお母さんは私をあと3年遅く産んでくれなかったの……?」

 

「……親不孝も大概なセリフね。

 それ、本当に言ったらお母さん泣くわよ」

 

 若干黒いエリスのセリフに、ニキはジト目で返した。

 

「でも、少佐がロリコンじゃなかったとしてもライバルは多くて苦労するわよ」

 

「そうよね。 クスコ中尉なんて完全にガチで狙ってる感じだもの。

 海の時とか、この間のフェニックスの戦いの戦勝祝賀会とか……」

 

「それ言わないでよ。

 メイちゃんとマリちゃんだけだって強敵なのに、クスコ中尉までライバルとか私絶対むりー」

 

 グデンと力尽きたように食堂の机に身体を投げ出すエリス。それを顔を見合わせてニキとレイチェルは苦笑した。

 

「エリスは少佐のどこが好きになったの?」

 

「それは凄いし格好いいし……それに私を褒めてくれるから」

 

 レイチェルの言葉に、エリスは身を起こす。

 

「私、士官学校時代は全然ダメダメで……いくら努力しても全然上達しなくて……教官とか同期からも『お前は絶対早死にする』っていつも言われてた」

 

「ああ……確かにあったわね、そんなの」

 

「でも、少佐は私をずっと諦めず、色々教えてくれて……。

 戦果が出るようになって褒めてもらって、それが凄く嬉しくて……。

 そのうちに思ったの、『ああ、ずっとこの人の傍にいて、ずっとこの人に尽くせたらどれだけ幸せなんだろう……』って」

 

「エリスはお手軽ね。

 褒められて懐くとか、子犬じゃないんだから……」

 

 あははとレイチェルはヒラヒラと手を振るが、エリスの方は至極真面目な顔だ。

 

「お手軽でも犬でもいいよ。

 だって……『褒めてもらえる』って、私のことを認めてくれてるってことだもの。

 誰だって『自分に価値が無い』なんて思って生きてたくない。『自分には何かの価値があるんだ』って胸を張って生きたいよ。

 それをシロッコ少佐は与えてくれた。褒めてくれて認めてくれて、『ああ、私には価値があるんだ』って胸を張れるようになった。

 だから私は、シロッコ少佐が好きなの」

 

「……そっか」

 

 エリスの言葉に、レイチェルは頷く。

 自分の価値を誰かが認めてくれる……それは確かに幸福なことだ。恋に落ちても致し方あるまい。

 そんな恋ができているエリスを、レイチェルは少しうらやましく思った。

 

「でも、少佐を狙うとするとライバル多いわよ?

 少佐、基本的に女の子なら誰にでも甘いから。

 下手しなくても、ライバルってうちの部隊だけじゃないし」

 

「この間のフェニックスの戦いの時の戦勝祝賀会、少佐は『闇夜のフェンリル隊』の女性士官にも頻繁に声をかけてたわよ」

 

「少佐って完全に女誑しよね。

 うちの部隊なんて裏じゃ『シロッコのハーレム』とか言われてるし」

 

 そんなレイチェルとニキの評価に、エリスはあははと笑う。

 

「少佐が言うには教育の賜物なんだって。

 少佐ってジオン・ズム・ダイクンに……」

 

「エリスッ!!」

 

 その時、エリスの言葉を遮るようにニキの鋭い声が飛んだ。ゆっくりとレイチェルが辺りを見渡すと、食堂の士官学校生からの視線が集中していた。その中には鋭い視線も含まれている。

 

「……何よ?」

 

 レイチェルが辺りを見渡しながら低い声でいうと、士官学校生たちはそそくさと視線を外す。

 

「……何よ、あの感じ悪いの」

 

「腕章見なさい、『公国突撃隊』よ」

 

 嫌悪感を露わにするレイチェルに、コーヒーを啜りながらニキが答えた。

 

「私たちの士官学校時代もあったけど、ギレン閣下からの後押しがあって最近急に勢力を伸ばしてるらしいわ。

 訓練用のザクとかシミュレーターとか新品増えてたでしょ?

 あれもギレン閣下が『公国突撃隊』のために入れてくれたらしいわよ」

 

「『公国突撃隊』って昔もあったけど、なんだか宗教みたいで嫌だったのよねぇ」

 

 ポリポリと頬を掻きながらレイチェルが呟くと、ニキが続ける。

 

「今はそれがかなり酷くなってるのよ。

 士官学校生の新入生は先輩に強制入隊させられて、色々叩きこまれるそうよ。

 彼らの前で、『ジオン・ズム・ダイクン』は禁句みたい。

 それだけで『ダイクン派』だと見なされるらしいから」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 謝るエリスに、気にするなという風にニキとレイチェルは肩を竦める。

 

「どうせまた地球に戻るんだから、どう思われたって別に構わないわ。

 それより、続きは?」

 

 そう言ってニキはエリスに中断した先の話を促す。

 

「それで……シロッコ少佐の『育ての親』の奥さんの、教育の影響なんだって。

 だから『私はフェミニストで紳士なのだ』、って言ってたよ」

 

「『ロリコン』のどこか紳士なんだか……」

 

 レイチェルはそう言って肩をすくめた。

 

「しかし、その話が本当だとするとエリスにもチャンスは大いにあるわね」

 

「? ニキ、どういうこと?」

 

「今の話を聞くに、少佐の人格形成には『育ての親』の奥様……つまり少佐の『育ての母』の影響が強いというこということよ。それは女性の好みにも出るはず。

 そして少佐は『ロリコン』と称される年下好き……これらから総合すれば、少佐の好みは『母のような包容力で包み込んでくれる年下』となるわ」

 

「おお、それならエリスいけるかも!」

 

 ニキの分析に、レイチェルはパチパチと手を叩く。

 

「もっとも、好みが『母親のような年下』とか公言されたら、マザコンとロリコンのダブルパンチで女としてはドン引きなんだけど……」

 

「それ言っちゃダメよ」

 

 ニキの身も蓋もない言葉に、レイチェルは呆れたように肩をすくめた。

 だが、とうのエリスは真剣な顔で、何かを決意したように頷く。

 

「私、頑張る」

 

「……ニキ、あんたのせいで明らかに何かエリスが良くない決意をしちゃったわよ」

 

「さぁ? 私は冷静に分析しただけよ」

 

 しかしエリスの気合はたったの一瞬、何やら考えて再び机に突っ伏す。

 

「でもなぁ……それ言い出したら、メイちゃんとマリちゃんが無茶苦茶強いし。色気でいけばクスコ中尉だっているからなぁ」

 

「あ、また潰れた」

 

「見てて飽きないわね」

 

「あーうー……あのメンバーから一番取るなんて難しすぎるよぉ」

 

 突っ伏しながらジタバタと手を動かす子供のようなエリスに、ニキは再びコーヒーを口にすると言った。

 

「少佐相手に、一番になる必要あるのかしら?」

 

「ほぇ? どういうことです?」

 

「だから『あの少佐が『女1人』で何とかなると思うの?』、ということよ」

 

 その言葉に、エリスはゆっくりと身を起こした。

 

「少佐は……『大きすぎ』て、女1人じゃ受け入れきれないわ」

 

「えっ、ニキってもしかして少佐と寝……」

 

「この頭の中がピンク色の馬鹿(レイチェル)は無視して。

 そう言う意味じゃなくて、私が言ってるのは『器』の問題よ。

 シロッコ少佐は……本物の『天才』よ。それもそこら辺に転がっているようなレベルの『天才』じゃない、歴史を動かせるレベルでの『天才』よ。

 それは分かってるでしょ?」

 

「それはもちろん」

 

「少佐がいなかったらドムもここまで早く配備されてないだろうし、あのビーム兵器なんて絶対に歴史に名前が残りそうだもの」

 

 レイチェルもエリスも、当然だと頷く。

 

「男女の恋愛って基本は支え合い、お互いがお互いに依存することじゃない。

 少佐はいいわよ。女がどれだけ寄りかかっても支えるどころか、悩みを根本から完全粉砕するだけの実力がある。

 じゃあ逆に……あの少佐に悩みとか打ち明けられたとして、それを1人で何とかできる?

 きっとあの少佐を本気で悩ませることなら、もう『歴史』レベルの大事よ。

 それを1人で受け入れて支えてどうこうできる?

 私がシロッコ少佐が『大きすぎる』っていうのはそういうことよ」

 

「「……」」

 

 そのニキの言葉に、レイチェルとエリスはどこか納得してしまった。

 

「もしかしたら……いえ、無意識にだと思うけど、シロッコ少佐は自分でそれに薄々気付いてる。

 だから、自分のこれはと思う女性をたくさん身近に置いてるのよ。

 『1人だけを愛して依存したら、その重さで相手の女を押し潰してしまう。だからたくさんを愛して、たくさんの女で分散して自分を支えてもらおう』……そう無意識に、無自覚に判断してるんじゃないかしら?」

 

「『天才』すぎて1人を愛するわけにはいかない……ってこと?」

 

「普通の恋愛と同じく、辛い時にただちょっと女に寄りかかりたい……たったそれだけのごく普通をやるためにも、『ハーレム』という集団を形成しないとそれすらままならない……。

 自分の還る『誰か』を見つけるんじゃなくて、自分の還れる『集団』を創らなければならない……『天才』っていうのも辛いものね」

 

 ニキはそう言って、シロッコへの評価を下す。そして、その評価はレイチェルとエリスには酷く妥当のように思えた。

 

「だからね、エリスに必要なのは『一番になること』じゃなくて、『平等であることを妥協する』ことだと思うの。

 少佐の器量なら何人だって受け入れて、本気で愛してもくれると思うわ。

 ただ、その『自分以外にも愛されている誰かがいるという事実』に『妥協』できるかどうかということよ。

 それができないと、多分ダメね」

 

「……わかった、私頑張るよ」

 

 ニキの言葉に、エリスはゆっくりと頷いた。その様子にニキも満足したように頷く。

 

「つまり……『目指せ2号さん!』ってことよ!」

 

「それは違うでしょ……」

 

 レイチェルの言葉にニキは肩を竦め、あははとエリスは笑う。

 

「さて……そろそろ行く?

 サイド3での折角の休みなんだから、少し羽根を伸ばさないと」

 

「あ、それならあの店のスイーツ食べたい。

 ニキのおごりで」

 

「ふざけたこと言ってるとはたくわよ。

 まぁ、食べに行くのは賛成だけど。

 エリスもそれでいいでしょ?」

 

「うん!」

 

 そして3人は立ち上がった。

 これは戦争の中、それでもたまの休みの穏やかな一幕……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 その日、サイド3で久々の休みを貰ったクスコは街を練り歩いていた。いわゆるウィンドウショッピングである。

 戦時中ということもあり決して活気づいているとは言えないが、それでもそれなりの数の人間が、同じように今ここにある平和を謳歌していた。

 クスコは相当な美人だ、その綺麗な栗色の髪をサラリと流すと、道行く男の視線を感じる。そんな視線の男数人から声をかけられるがクスコも慣れたもの、上手くかわすと元通りウィンドウショッピングに戻っていく。

 常に感じる男からの視線、それを感じながら顔には出さないが心の中では侮蔑していた。

 

(誰も彼も同じような反応ばかり……。

 スリルの欠片もない、なんて面白くもない生き物……)

 

 自分を前に鼻の下を伸ばし、あわよくば一晩程度の下心丸出しの男たちのどこに面白見があるのか?

 そのことに嘆息すると、クスコはふと、他の男たちとは違う存在を思う。

 

(パプティマス=シロッコ……か……)

 

 シロッコという男は、他の男とは一線を画す存在だ。

 行動に発言……そのすべてが自分を惹きつけてやまない。

 その才能に裏打ちされた自信に溢れたその姿は大きく見え、しかしその才能に増長しているわけではなく謙虚さと用心深さが見て取れる。それでいて、少しからかえば困った顔で苦笑し、新しい技術を開発している時にはまるで子供のように目を輝かせながら開発に勤しむ。

 どこまでも理知的な大人と、どこか抜けた子供を同居させたような人物……それがクスコの思うパプティマス=シロッコだった。

 そんな一見アンバランスなシロッコを、クスコは可愛らしいと思う。同時に、彼の才能に痺れもしていた。

 突飛なことを言いだし、しかしその天才的な手腕で必ず道を切り開く。次に何をしでかすのかまるで読めない。

 そんなシロッコとの行動は常にスリル満点だ。次に何をされるか分からない……そんな相手に振り回されることが、クスコは楽しくてしょうがない。

 そこまで考えて、クスコは考えてしまう。

 

(これって『恋』、なのかしらね……?)

 

 クスコは、実は男嫌いである。

 彼女はまだ少女の頃、連邦兵によって両親を虐殺され、そして彼女自身も辱めを受けたという暗い過去を持つ。そのため『男』という生き物自体をある意味冷めた感情で見ていた。

 だからこそ、彼女には『恋』と呼ばれる感情を抱いたことなど思い当たらない。

 だから分からないのだ。今わき上がっているこの感情……シロッコの隣にいて刺激を求めるこの感情が『恋』なのかどうか。

 正直、3人娘の誰かにでも話せば一瞬で結論が出てしまうのだが、クスコにはこんな話を誰かにする気は無かった。

 そんなことを思いながら歩くクスコは、ふと道端の露天に目を止めた。

 見れば花の形をしたブローチがいくつも置いてある。そのうちの一つが、目にとまった。それは先端が大きく開いた漏斗形の赤い花だ。

 手にとって見ると、それを見た露天の主である老婆は面白そうな顔をした。

 

「それはマンデビラじゃよ。

 花言葉は『情愛』、そして……『危険な恋』じゃ。

 お嬢ちゃん、面白い恋をしとるのかえ?」

 

 その言葉を聞いて、クスコは笑った。

 

「ええ。

 恋かどうかわからないけど、危険でスリリングな日々は送れてるわ。

 これ、貰えるかしら?」

 

「毎度あり」

 

 クスコは受け取ったブローチをそのまま懐に忍ばせた。

 

(『危険な恋』ね……恋かどうかは分からないけど、次はどんなことをやらかすのかが楽しみだわ。

 これが『恋』かどうかは、ずっと近くで見れてばそのうち答えもでるでしょう……)

 

 そう思いながら、休日へと戻っていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 手に入れたサイド3での休みに、リザド隊の母艦となるザンジバル級機動巡洋艦『ユーピテル』の艦長、フローレンス=キリシマ大尉は酒場のドアを開けていた。

 所々からの喧騒が心地いい。この雑多な騒音の群れは、どこか懐かしい故郷のコロニーを思い出した。その酒場の奥、知り合いと久しぶりに会うためにフローレンスは待ち合わせ場所に急ぐ。

 その時、彼女の尻を酔っ払いの1人が撫でる。そして、それに対するフローレンスの対応は早かった。

 

 ズガンッ!

 

 十分に腰の入った鋭い回し蹴りが酔っ払いに決まり、吹き飛ぶ。

 

「気安くさわるんじゃないよ、このドクサレが!

 アタイの尻は安ぁないんだよ!!」

 

 吹き飛び、気絶した酔っ払いの男に罵声を浴びせかける。しかし、その瞬間自分に視線が集中していることに気付き、わざとらしくコホンと咳払いすると、

 

「まったく、礼儀がなっておりませんわね」

 

 などと咄嗟にいつものようなお嬢様然とした猫を被る。

 しかし、その化けの皮の下をしっかりと目撃した後に、そんなものが何の効果もあるはずも無し。フローレンスはそそくさと逃げるように待ち合わせ場所に向かう。

 すると、そこでは待ち合わせの相手が腹を抱えて笑っていた。

 

「アンタその猫かぶり、まだやってたのかい?

 相変わらず無駄なことしてるねぇ」

 

「うっさい!

 久しぶりに会うのに、もっと気のきいたことぐらい言えねぇのかい」

 

「そりゃ悪かったさ。

 でも、ねぇ……くくく……!」

 

 未だ腹を抱えて笑うその人物の隣にフローレンスは憮然とした様子で座ると、即座に黒ビールを2人分注文する。すぐにジョッキで運ばれてきたその黒ビールを2人は掲げた。

 

「よく生きてたねぇ。

 とっくにくたばったかと思ってたよ」

 

「そっちこそしぶといみたいじゃないの。

 それこそゴキブリ並にさ」

 

「あたしゃ悪運が強いのさ」

 

「それじゃこっちも」

 

「そうかい。

 なら、お互いしぶとく生き残ってる悪運に……」

 

「悪運に……」

 

「「乾杯!」」

 

 そう言ってフローレンスは彼女……シーマ=ガラハウ中佐とともにジョッキの黒ビールをあおった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 シーマ=ガラハウ中佐とフローレンス=キリシマ大尉……この2人は同郷の生まれだった。2人の生まれはサイド3でも貧困層コロニーである『マハル』である。強くならなければ生きていけないような貧困のコロニーで育った2人は、そのしたたかさで片や海兵隊を率いる女傑、片や特務部隊旗艦の艦長である。

 

「まったく……あのころはこんな風になるとは思いもよらなかったねぇ」

 

 貧しさから抜け出そうと軍に志願した時を思い出し、シーマは苦笑する。

 

「何言ってんの、アンタ昔っから男ども大量に子分にしてたじゃん。

 今の職業アンタにこれ以上ない位ぴったりだよ」

 

「……それ言ったらアンタもだろ?

 アンタに迫って、タマ潰されかかった男がどれだけいたと思ってんだい?」

 

「それはそのバカ男どもが、わたくしの眼鏡にかなわなかっただけですわ」

 

 シーマのツッコミに、フローレンスは肩を竦めわざとらしい芝居がかったお嬢様口調でいう。

 

「で、御眼鏡にかなうような男は居たのかい?

 その猫被った口調だって玉の輿狙うとか言って、男が寄りついてくるようにやってるんだろ?」

 

「それが全然。 寄りついてくるのなんてバカとアホばっかだよ。

 てめぇら、自分のツラ鏡で見てから出直せっての」

 

「そりゃ、ご愁傷様だねぇ……」

 

 そう言ってシーマは肩を竦めると、思い出したように言った。

 

「そういや、アンタの上はあの噂の『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』様だろ?

 どうよ?」

 

「あー、あれねぇ……」

 

 言われてフローレンスは腕組みをし、うーんとシロッコのことを思い浮かべる。

 

「顔良し、頭良し、地位もある。

 そりゃ優良物件さね。部隊の娘っ子どもが虜になるのも無理ねーわな。

 でも……あれロリコンだからなぁ。

 あれ、自分の部隊の娘どもを厳重立ち入り禁止しにした区画に毎回連れ込んでんだよ。

 兵器開発やってるっていうけど……別の『開発』に勤しんでんじゃないの?」

 

 断りをいれておくと、シロッコがモビルスーツ開発を行う区画は機密の塊であり、そこへの立ち入りは厳重に管理されている。そこに開発や機体テストの目的でメイやマリオン、リザド隊の面々を連れて行っているのだ。しかし、周りからはシロッコが女を連れ込んでいるようにしか見えないようである。

 

「ふぅん……噂の天才様がロリコンとはねぇ……。

 まぁ、誰にだって弱点はあるってことかい」

 

「まぁ、『マハル』の猿みてぇな男どもよか、よっぽどまともだけどな!」

 

 いい感じで酒も廻ってきて、フローレンスはゲラゲラと笑った。

 しかし、シーマは渋い顔でゆっくりジョッキを傾ける。

 

「……どうした?」

 

「いや……ちょっと小耳に挟んだ話があってねぇ。

 アタシらの故郷の『マハル』が無くなるって話さ」

 

「えっ、何で!?」

 

「理由はアタシも知らないけど、軍で接収して何かするらしいよ。

 住民を強制移住させるんだってよ」

 

 そう言ってシーマは残った黒ビールを一気にあおると、次の一杯を注文する。

 

「……その話、マジなのかい?」

 

「……ああ。

 あのアサクラが絡んでるらしいからね、かなり確度は高いよ」

 

「……」

 

 その話を聞いて、フローレンスは何とも言えない気持ちになった。

 確かに『マハル』はうらぶれた貧困コロニーで、楽しいことなど何一つなかった。だがそれでも自分たちが産まれ育った故郷なのだ。それが消えるというのはどうしようもなく物悲しい。

 

「これでアタシらは帰る場所は無くなったってことだよ。

 ……もっとも、アタシにゃとっくの昔に帰る場所なんかありゃしないんだけどね」

 

 そう言ってシーマは自嘲気味に笑った。

 シーマの海兵隊は、ジオン軍の嫌われものだ。『一週間戦争』でのコロニーへの毒ガス注入を行ったのもシーマたち海兵隊であり、それ以降も汚れ仕事をし続けるため、海兵隊と聞けばジオンのほとんどの兵は毛嫌いする。だからこそ、ジオン軍でもよりどころが無い自分に『帰る場所が無い』とシーマは自嘲した。

 

「アンタも、アタシから離れた方がいいんじゃないかねぇ」

 

「ふん……!」

 

 ある意味では自分との付き合いで害が及ぶことを心配したシーマの言葉に、フローレンスは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、残った黒ビールを一気にあおると空のジョッキをドンッとテーブルへ叩きつける。

 

「アタイをそこら辺のクソどもと一緒にすんじゃないよ。不愉快だね。

 それに……『一週間戦争』での一件の裏は、アタイは知ってるんだよ」

 

 海兵隊の悪名の始まりとも言えるコロニーへの毒ガス注入……これは実はシーマたち海兵隊は中身は催涙ガスだと聞かされて注入を行ったのだ。

 この話をフローレンスが知ったのは『一週間戦争』の直後、家で今日と同じようにシーマと酒を飲んだ時だ。そのままフローレンスの自宅に泊っていったシーマが夜中にうなされながら飛び起きた。慌てて起きたフローレンスはそこで見たのは、あのシーマが子供のように涙を流しながら『知らなかった、知らなかったんだよぉ!』と謝罪を繰り返す姿だった。そして、そのことでフローレンスは『一週間戦争』での毒ガス注入の真実を知ったのである。

 

「それに……もう腐り過ぎて糸引いてるような縁だよ。

 今さら切ろうと思って切れるかい」

 

「……そうかい」

 

 しばし、そのまま無言でフローレンスとシーマは新たに注文した黒ビールをあおる。そして、小さな声でシーマは言った。

 

「……ありがとうよ」

 

「今さら改まってそんなこと言う仲かい、アタイらは?」

 

「それもそうだねぇ」

 

 そう言って互いに苦笑する。

 すると、しばらくしてフローレンスは言った。

 

「……アタイから上にあんたのこと話付けてみようか?」

 

「アンタがかい?」

 

「知っての通り、天才様はあのガルマ様の右腕だ。かなりの発言力もある。

 アンタほどの腕と度胸があれば……」

 

 だが、その言葉にシーマは首を振った。

 

「アタシだけって訳にはいかないさ。

 海兵隊の連中はみんな、同じ目にあった仲間さね。

 あいつら置いてアタシだけは逃げれないね」

 

「……そうかい」

 

「ただ……天才様やガルマ=ザビにパイプができるってのはいいねぇ……。

 最近、こっちも空気が不穏だ。

 特にギレン=ザビの周りはここ最近特にきな臭い。

 もしもの時……鞍替え先があるってのはいいかもしれないね。

 実は新兵器開発でそのテストパイロットに海兵隊(うち)のやつを、って話がある。

 『ヴェルナー=ホルバイン』ってやつだけど……こいつがいい腕してるんだよ。

 これの地上(そっち)に派遣の話があったときには、話付けてくれるかい?

 アタシら海兵隊が使えるってことを証明して、売り込んでやるさ」

 

「……わかった。約束する」

 

「ああ、約束さね」

 

 そう言って、2人は約束の指きりの変わりにジョッキをカツンとぶつけると、一気に黒ビールをあおった。

 

「「おかわりだ!!」」

 

 そして間髪おかずに次の一杯。

 2人の酒盛りはまだまだ続きそうである……。

 




原作でシロッコが大量に女に言い寄っていた理由をなんとなく推理してみました。
人それを自己弁護とも言う。
エリスはサラのような『認めてくれるから』、クスコは『スリルがあって刺激的だから』というシロッコへの好意の寄せ方でした。


ニキ「好みが『母親のような年下』とか公言されたら、マザコンとロリコンのダブルパンチで女としてはドン引き」

シロッコ&原作シャア「「……」」


次回もよろしくお願いします。


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第22話 少女が問う、人の革新

今回はみんな大好き、あの娘の登場。

その友達枠でジオンのおでこちゃんも。
……『ギレンの野望』のジオン編ではやりようによってはポコスカ人が抜けて、最後にはこの子とあいつしか頼れるのいなかったなぁ。

注:今回はニュータイプについての作者の考察(持論?)や、『原作』でのあるキャラの行動について若干アンチ気味の内容です。
  その辺りの苦手な方はお気を付け下さい。



「……」

 

 国葬が終わり、ガルマは椅子に座っていた。その視線は魂が抜けたように宙を漂い、所在無げに前髪をいじる。

 国葬が終わって今の今まで心のどこかで信じられなかったキシリアの死を現実のものとして受け入れ、その胸には亡き姉との思い出がよぎる。しかし、不思議なもので何故か涙は流れない。

 ガルマは今、そんな虚脱感にも似た感覚に身を任せていた。

 

「ガルマ、その癖はあまりいいものではないぞ」

 

「あ、ドズル兄さん……」

 

 言われてバツ悪そうにガルマは前髪をいじるのをやめる。そんなガルマにため息をつくと、ドズルはガルマの隣に座った。

 

「俺も気持ちは分かる。 家族の死はいつでも辛いものだ。

 キシリアが死ぬなど、俺も未だに信じられんし信じたくは無い。

 しかし、お前も俺も生きている。必要以上にキシリアの死に引っ張られているのは、死したキシリアも望むまい。

 気をしっかり持つんだ、ガルマ」

 

「わかってますよ、ドズル兄さん」

 

 その言葉にドズルは破顔すると、ガルマの肩をポンと叩く。

 

「その意気だ、ガルマ少将」

 

 ガルマはフェニックス大会戦での活躍、そしてキシリアの死によって少将へと昇進した。名実ともに『地球方面軍』の総司令官である。

 

「少将というその責任の重さ……僕にはまだ自分がそれほどの器があるのか疑問です」

 

「謙遜するな。

 お前の活躍、そしてその実力は俺も、そしてギレン兄貴も認めている。

 だからこその昇進だよ。

 決して、お前の思っているような『親の七光り』というわけではない。

 だから自信を持て、ガルマ」

 

「……ありがとう、ドズル兄さん」

 

 そう言うドズルの気遣いに、ガルマも表情を崩した。そんなガルマに満足そうにドズルは頷く。

 

「そうだ、ガルマ。

 お前の昇進祝いだ、何か欲しいものはあるか?

 俺に出来ることなら何だって用意しよう」

 

 ドズルのその言葉に、ガルマはハッキリと言った。

 

「それなら……シャアを下さい、兄さん」

 

「わかった、すぐに手配しよう」

 

 そのあまりにもアッサリな様子に、ガルマは少し拍子抜けする。

 

「あの……自分から望んでおいてこんなことを言うのもなんですが、本当にいいんですか?

 あのシャアほどの男を、そんなに簡単に手放して」

 

「確かに『赤い彗星』ほどの男、手放すのは惜しい。

 しかし手放す相手がガルマだというのなら、何も文句はない。

 それに、お前ならシャアを欲しがるだろうとは予想していた。

 あいつを今回の俺の護衛に加えたのは、こうなるだろうとことを見越してのことだ」

 

「さすがの読みですね、ドズル兄さん」

 

「おだてるなよ。

 それに戦力に関しては補充のアテもある。

 キシリアの子飼いだった『紅い稲妻』と『黒い三連星』……俺のところに来るそうだ。

 ギレン兄貴が突撃機動軍を率いると聞いた途端、これだ。

 他にもこういう鞍替えの話はいくつもある。

 まったく……兄貴も嫌われたものだ」

 

 ドズルはガハハと笑うと、すぐに真剣な表情に戻った。

 

「……正直、ギレン兄貴の周りは最近やたらときな臭い。

 もともと稀代の策略家と呼ばれた兄貴だ。

 俺は政治に関しては疎いが、綺麗事だけではやっていけん世界だということは理解している。

 しかし、それにしたって最近はどうも、な……」

 

「……」

 

 ドズルは言葉を濁し、ガルマも黙って頷いた。

 キシリア亡き後、突撃機動軍を取り込もうとギレンはかなり強引に動いているという。反抗的な旧キシリア派の将校を排除の方向で動き、どこまで本当かわからないが、粛清の噂まであるくらいである。そのため、ドズルの宇宙攻撃軍への転属を願い出るものや、ガルマの庇護を求めてか、地球への転属を望む者もいるという。

 

(ただでさえ連邦との戦争で人手はいくらあっても足りないというのに……。

 ギレン兄さんはいったいなにを考えているんだ……)

 

 そんなギレンの行動に、さすがのガルマも腹を立てていた。

 今は一致団結して連邦と戦うべき時である。そこを派閥争いなど馬鹿げた話だとも考えていた。

 

「なぁ、ガルマ……いや、ガルマ少将。

 シャアの件、頼みを聞いたのだ。

 一つ、俺の頼みも聞いてはくれんか?」

 

「構わないけど……どんなことです、ドズル中将?」

 

「ああ、実は……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「見えたな……」

 

 サイド3を出港した私のザンジバル級機動巡洋艦『ユーピテル』は、サイド6を経由して地球への道行きを急いでいた。

 見えてきたコロニー群、これこそジオン・連邦双方に対して中立を宣言している『サイド6』である。

 そしてそのサイド6の1つ、パルダコロニーが我々の目的地だ。

 振り返れば、そこにはリザド隊の面々が全員揃っている。

 

「目的地に到着だ。

 ガルマ少将とシャアを呼んで来てくれ」

 

 今、『ユーピテル』にはガルマの他にもシャアが乗っていた。ガルマの部下として地球に降りるためだ。そして……ここはシャアにとっては無関係の場所ではない。

 

「それはいいのですが……今回我々はここに何のために立ち寄ったんです?

 まだ目的を聞かされてませんが……」

 

 クスコが少し遠慮がちに問うと、私は笑って答えた。

 

「何、囚われの幼き姫君を助けに参ったのだよ」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 ……何やら全員からの視線が冷たい。

 

「……冗談だぞ」

 

「えっ、今の冗談だったんですか?

 私たち一同、『また女の子を囲い込むのか』と思っていたのですが?」

 

「しかも『幼い』と付いている以上、小さな子なのでしょう?

 わたくしたち、良からぬたくらみの片棒を担がされるのかと思いましたが?」

 

「……私は人攫いか何かかね?」

 

 クスコ中尉とキリシマ大尉が代表して言うが、何とも失礼な話だ。それでは私がどうしようもない男のように聞こえるではないか。

 しかし……『誘拐』に近い話ではあるので、『良からぬたくらみ』やら『人攫い』というのはあながち冗談というわけではない。

 マイ中尉の話では近日中にここは『公国突撃隊』の監督下に置かれる。その前に、ことを為さねばならない。

 

「とにかく、ガルマ少将とシャアを呼んで来てくれ。

 フラナガン機関に到着したとな」

 

 サイド6『パルダコロニー』……ここはジオンのニュータイプ研究の最前線、フラナガン機関のある場所だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 白い壁に囲まれたそこは、まるで病院のようだった。どこからか漂ってくる鼻をつく薬品のにおいがそれに拍車をかける。そのにおいに、私の横を歩くメイ嬢とマリオンは顔をしかめていた。

 ここはフラナガン機関の研究棟、今我々5人、私にガルマにシャアにメイにマリオンは研究員に案内されながら歩いていた。

 

「こちらは薬物によって強いストレスを与える実験でして……」

 

 ガルマやシャア、そして私といったジオン内でも地位もあり有名なものを前にしたからだろうか。聞いてもいないのにその研究員は、まるでおもちゃを自慢する子供のように楽しそうに人体実験の過程について事細かに説明してくれる。

 

「……」

 

「……」

 

 その話を聞きながら、メイ嬢とマリオンは私の服を不安そうな顔でギュッと掴んでいた。

 私はその頭を撫でてやると、シャアとガルマに目配せする。すると、シャアもガルマも無言で頷いた。

 

「君たちの研究についてはよくわかった。

 だが……それは今する話ではないのではないかな?

 彼女たちレディに聞かせる話ではないな」

 

「す、すみません、シャア少佐。 つい……」

 

「謝罪はもういい、それよりもはやく案内を頼む。

 地球のこともあって、我々もあまり暇ではないのだよ」

 

「は、はい! ガルマ様!」

 

 2人にそう言われると、その研究員も黙って案内に戻った。

 

「……すまんな、2人とも」

 

「なに、君の気にすることではないよ、シロッコ」

 

「僕たちも思ったことを言ったまでだ。

 事実、レディたちに聞かせるような話ではないだろう?」

 

 小声での私の詫びに、シャアとガルマは気にするなと言う風に小さく肩を竦める。

 やがて、我々は1つのドアの前へとやってきていた。

 

「ここですよ」

 

 研究員が指し示すドア、それを開け我々は中に入る。

 

「誰……?」

 

 そこには1人の少女がいた。無機質な部屋の中、ベッドの上で熊のぬいぐるみをギュッと抱きしめていた。

 年はメイ嬢とマリオンの1つほど下、将来の美貌を約束されたような整った顔立ちに、フルフルと揺れるツインテールの髪。その瞳は不安そうに揺れている。

 ガルマはそんな少女の前に出ると、目線を合わせるように膝をついた。

 

「初めまして、私はガルマ・ザビだ」

 

「ガルマ様……? どうして、こんなところに……?」

 

「私は君を、ここから助け出しに来たんだよ。

 マハラジャ=カーン殿のご息女、ハマーン=カーン嬢」

 

 そう、この少女こそあのアクシズの氷の女帝となる、あのハマーン=カーンであった。

 ハマーン=カーンのフラナガン機関からの救出……これを言いだしたのはガルマだ。聞けばどうやら、ガルマもドズルに頼まれての行動らしい。

 ハマーンは幼くしてそのニュータイプとしての才能を見いだされこのフラナガン機関に送られていたが、これはマハラジャ=カーンに対する人質という意味合いもあった。基本的に中立な立場を取るマハラジャ=カーン、それを逆らえないようにするキシリアの策である。

 だが、そのキシリアは死んだ。それを機にドズルはハマーンを救出してほしいと、ガルマに頼んだのだ。

 ハマーンには姉がいた。彼女はドズルの侍女……その実はマハラジャ=カーンが忠誠の証しとして差し出された妾である。彼女の死について、ドズルは大いに責任を感じていた。そこでせめてその妹であるハマーンを助けようと思ったのである。人情厚いドズルらしい話だ。

 しかし、そこに1つ問題がある。助け出したハマーンをその後どうするか、である。ハマーン=カーンはマハラジャ=カーンに対する、これ以上ないくらいのカードである。あのギレンが放っておくはずもない。実際、『公国突撃隊』の管理にはニュータイプ研究をそのまま消すのは惜しいという思惑と同時にその意図もあるだろう。

 初めはドズルも自分の信用できる場所に匿おうと考えていたが、今ギレン周辺には不穏な空気が漂っている。しかも相手は政治力にかけてはドズルなど足元にも及ばないほど格上のギレンだ、ドズルですらいつまで匿えるかわかったものではない。そこでガルマによって地球……ギレンの手の届かないところまで連れて行って欲しいとのことだ。

 

 この話を聞かされた私の動きは早かった。何故ならマイ中尉からの忠告で『公国突撃隊』なる組織がフラナガン機関の監督に着くはずなのを知っており、この『公国突撃隊』がギレン子飼いの中でも要注意なのを聞いていたからだ。『公国突撃隊』と鉢合わせし、何かがあれば不味い。そこで滞在予定を大幅に短縮し、フラナガン機関へと向かうことになったのだ。おかげで隊員たちの休暇は途中で取りやめとなり、レイチェルには大いに不満がられたものだ。

 とにかく急ぎフラナガン機関へ行き『公国突撃隊』の到着前の今のタイミングでハマーンを救出、そのまま地球へ降下。あとは距離を理由に何を言ってこようとのらりくらりとギレンをかわす……これが基本的な計画である。

 

「君は私と一緒に地球に降りるんだ」

 

「地球? 本当に?」

 

 そう言ってハマーン嬢はガルマの手と顔を交互に見やる。その目には拭いきれない不安が見て取れた。

 

「……」

 

 それを見て、私は意識を集中させニュータイプとしての力を開放した。

 瞬間、世界は反転し私は宇宙のような空間に浮いていた。同じく、その空間に浮くハマーン嬢が驚きで目を見開いている。

 そんな彼女へと、私は大仰に礼を取った。

 

「初めまして、ハマーン=カーン嬢。

 私はパプティマス=シロッコ、君と同じくニュータイプだ」

 

「あの『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』の。

 あなたも……ニュータイプ?」

 

「その通りだ。

 ……さて、ハマーン嬢。 我々は君を連れだしに来た。

 君は不安がっているようだが、心配する必要はあるまい。

 ガルマやシャアはよき男だ。 そして私のような『同類』も、私を含め部下には幾人かいる。

 安心してガルマの手を取るといい」

 

「はい……」

 

 ハマーン嬢はそう言って頷くが、やがて顔を上げて私を見て言った。

 

「あの……教えてください。

 『ニュータイプ』って……何なんでしょうか?」

 

「何?」

 

「ここの大人たちはみんな言います。 私は『ニュータイプ』だ、って。

 『ニュータイプ』の研究のためだって言って、色んな……いやなことをするんです。

 そんな実験のせいで……私を可愛がってくれたお姉さんも……」

 

 その時、私の中にハマーン嬢の見た光景が入り込んでくる。

 自分の身体を調べられることへの不快感。薬物などの投与による、自分が削られていくことへの恐怖が伝わってくる。

 その記憶の中には、ララァ=スンの姿があった。優れたニュータイプとして、ハマーン嬢を庇うかのようにその身を差し出し、率先して実験に参加するララァ。

 その辛さを隠し、常にハマーン嬢やほかの子供たちを気遣う優しさを見せるララァ。

 そして……実験により意識を失い、目覚めぬララァ。

 心を支えてくれた先輩であり姉のようなララァを失ったことで、ハマーン嬢の不安は抑えきれないところに来ているようだ。

 

(ララァの与える影響はシャアだけではなかったのだな……)

 

 ララァ=スンという稀代のニュータイプの影響は、途方もなく大きいようだ。そのことに私は少しだけ驚く。

 

「『ニュータイプ』は人の革新、素晴らしい能力……その研究のためだからと、私たちを散々に扱っておいてここの人たちは陰で言うんです。あいつらは『化け物』だ、って。

 教えてください、シロッコさん。

 『ニュータイプ』は……私は、『化け物』なんですか?」

 

「『ニュータイプとは何か?』……か。

 ハマーン嬢はその歳で難しいことを考える」

 

 言われ、私はしばし思案した。

 

「反応速度の上昇、未来予知とも言える危機察知能力、空間把握能力の増大にモビルスーツを始めとしたマシーンへの適応力……なるほど、ざっとニュータイプの特徴を列挙してみたが確かに『化け物』と称されても仕方ないかもしれん」

 

「じゃあ……」

 

「いいや、ハマーン嬢。 今あげたのはあくまで戦闘におけるニュータイプの特徴だ。

 そして……ニュータイプは戦争の道具ではない。

 戦うことだけがニュータイプではないよ」

 

 私はそう答えていた。

 

「私も、ニュータイプの本質は何かと問われても、正解は分からない。

 しかし、今のように時間も空間も越えて他者と心を通わせ、互いを理解する……これが『ニュータイプ』であると思う」

 

 だがしかし……と私は続ける。

 

「だからと言って、人は肉体を持ち、互いの生きる環境の違いがある。仮に全人類がニュータイプになって心を通わせ理解し合おうとも、争いは無くなるまい。

 ニュータイプは万能ではないからな。

 だが……ほんの少しだけ争いの少なくなった、優しい世界にはなるだろう」

 

 これは、前世の記憶とこの世界で生きた私を統合した上での、私の結論だ。

 『ニュータイプ』は万能でもなく、魔法のような力でもない。誰かと分かりあえるようになるための、一種のコミュニケーションツールに過ぎないと考える。

 

 だからこそ、私は『原作』におけるシャアの思想、そしてアクシズ落としは下策と切って捨てる。『原作』のシャアは人類が皆ニュータイプになれば世界は変わると思っていたようだが……ニュータイプを過信し過ぎている。

 ニュータイプであろうが無かろうが、人である以上譲れぬものがある。仮に全人類がニュータイプとなり相互に理解し合おうとも、譲れぬものがあるのなら互いを理解し合いながらも争うことはやめられない。私とて相手がニュータイプでありその心を理解しても、その相手が私の周りのものを害しようとするなら容赦なく引き金を引くだろう。

 シャアの思想には『人類をニュータイプにする』、というものが終着点で、それ以降がない。それなのにアクシズ落としにより強制的に宇宙に人類を出すことでニュータイプになることを促進するという、性急すぎる手段をとったのだ。目指すべき終着点が誤っているのに退路を断つような下策……これはもはや笑うしかない。

 もっとも『原作』におけるシャアにとってアクシズ落としなど、ただアムロ=レイとの決着の場を整える『舞台演出』でしか無かったのかもしれない。

 無論この『世界』での我が友、シャア=アズナブルにはこんなバカなことをさせるつもりはないし、そこに繋がるだろう『歴史』など私が打ち砕いてみせるが。

 

「ニュータイプの力は、そんな『今より少しだけ優しい世界』に繋げるためのものだと私は考えているし、今はその力で戦うことを私は躊躇わない。

 しかし……これは私の答えだ。 ハマーン嬢、君の答えではない。

 君はその答えを見つけなければならないだろうが……ここでは決してその答えは見つかるまい。

 だからこそ、ガルマの手を取りたまえ。

 君の問い……『ニュータイプとは?』という問いの答え探しは、その瞬間に始まるのだから」

 

 私の言葉を、ハマーン嬢がどのように受け取ったかは分からない。しかしハマーン嬢はゆっくりと、しかししっかり頷いた。

 私はそれに満足して頷くと、開放していた力を止める。周りの宇宙は消え去り、意識は先程の部屋へと戻る。

 ハマーン嬢の前には変わらずにガルマがいた。恐らく本来の時間の流れでは数秒の時間程度しか経ってはいまい。

 ハマーン嬢はゆっくり、ガルマの差し出す手を取った。

 

「ガルマ様、1つだけわがままを言っていいですか?」

 

「何だい?」

 

「友達を1人、一緒に……」

 

「分かった、呼んできたまえ」

 

 ハマーン嬢はガルマにペコリとお礼をすると、どこかへと出ていく。

 しばらくの後、ハマーン嬢は1人の少女の手を引いて戻ってきた。歳はハマーン嬢と同じくらい、金のショートヘアをカチューシャによっておでこが大きく出ているのが特徴か。

 

「君の名前は?」

 

 ガルマの問いかけに、その少女はゆっくり答える。

 

「レイラ。 レイラ=レイモンド……です」

 

「ほぅ……」

 

 飛び出した名前に、私は思わず声に出してしまった。なかなか面白い人物がハマーン嬢の友人でいたものだ。

 

「レイラ、一緒にここから出よ?」

 

「……本当にいいの、ここから出て?

 それにここから出たって結局……」

 

 ハマーン嬢に促されても、レイラは渋い顔をする。そしてこちらを見る目には、明らかな不安と不信感が見て取れる。ここでの体験によって、我々のような大人を信じられないのだろう。私は苦笑すると、一歩前に出た。

 

「ここでの生活のようなものが繰り返されると思っているのなら、そんなことはない。

 それに……私の傍には君たちほどの歳の子たちもいる」

 

 そう言って私は傍のメイ嬢とマリオンを押しだした。

 

「初めまして、あたしメイ=カーウィン」

 

「マリオン=ウェルチよ」

 

「ここでの生活で大人を不審がるのも分かる。

 だが、この子たちを見て、我々がここの大人たちと同じことをしているように見えるかね?」

 

「……」

 

「レイラ嬢、ここにいては何も始まらん。

 大人が信じられないのであればどうかな、メイ嬢とマリオンの態度を信じるのは?」

 

「……確かに、その2人からはあなたへの親愛を感じる。

 分かったわ、ハマーンと一緒にここから出して……お願い」

 

「レイラ!」

 

 一緒に来てくれることに感極まったのかハマーンがレイラに抱きつくと、レイラも嬉しそうな顔をした。そしてそんな2人に「もう大丈夫」とメイ嬢とマリオンも2人を安心させようと撫で擦る。少女たちの美しき光景である。

 

「さすがシロッコ、幼い少女の扱いは上手いな」

 

「常に紳士として接しているだけだよ、シャア」

 

 何か含みのあるシャアの言い草に、私は肩を竦める。実際、こういう説得のために幼いメイ嬢とマリオンを連れてきたのだ。これは私の作戦勝ちといったところだろう。

 そんな光景を尻目に、私はガルマへと声をかけた。

 

「ガルマ、彼女たちを連れて『ユーピテル』に戻っていてくれ。

 私は、シャアと共にもう一つの用事を済ませてくる」

 

「用事?」

 

「言っただろう?

 私たちはもう1人のお嬢さんを連れに行ってくる。 蒼いドレスの素敵な方だよ」

 

 そう言ってニヤリと笑うと、私はシャアと連れだって歩き出した。

 私にとってはここからがメインイベント、こう言っては何だが、ハマーン嬢たちの件はガルマから頼まれた、ついでに過ぎない。

 私は最初から地球への帰路でフラナガン機関へと行くことを考えていたが、その目的は別にあった。その目的を果たすために、シャアとその場所へと急ぐ。

 その途中、私はふと思ったことを小さく呟いた。

 

「……シャア、よくもハマーン様をああもしてくれた」

 

「? 何か言ったか、シロッコ?」

 

「いや、何も」

 

 今のは私の知る『原作』のシャアへの言葉だ。あの素直なハマーン嬢が、氷の女帝に変わったのはどう考えても『原作』のシャアに問題がある。

 

(しかしこの『世界』のシャアは大丈夫だろう。

 そう信じたいし、そうなる状態にはしないようにせんとな……)

 

 そのためにはこれから行く場所の『アレ』……なんとかせねばなるまい。

 私は気持ちを切り替えると、シャアと共に先を急いだ……。

 

 




みんな大好きはにゃーん様、お友達もセットでお買い得だよ。

これでリザド隊主要なメンバー(女性)はほぼ揃ったかな?
これからは男どもの発掘です。

次回はシャアの搭乗機の登場。もうバレバレですが……。
次回もよろしくお願いします。


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第23話 EXAMシステム

今回は短い話なので、水曜日も投稿です。

シャアの新しい機体の登場。
そしてシロッコが死にかけます。



「これか……」

 

 私はシャアと共に、トレーラーに横になった彼女を見上げる。肥大化した頭に、蒼いドレス(塗装)がチャームポイントのお嬢さんだ。

 そして、私はその名をポツリと呟く。

 

「『イフリート改』……」

 

 それが彼女の名前だ。

 『イフリート』はジオニック社がグフの発展型として開発していたモビルスーツだ。ツィマッドのドムの開発によって、ジオニックは開発中のグフでは地上でのシェアは取れないと悟ったのだろう。ドムを越える陸戦機を、としてその開発はスタートしのだが……そんなことをしている間にも私の影響でドムシリーズは活躍を続け、地上での主力機は完全にドムのものになってしまっていたため、ジオニックはイフリートの正式採用を完全に諦めてしまった。結局、イフリートは試作機を含め8機しか製造されず、時代の影に消える運命のモビルスーツとなってしまったのである。

 だが、その性能は破格であった。ジオニックにはツィマッドのようなホバー推進システムのノウハウがないため移動は従来通りの歩行型となったが、『それならホバー並に走ればいいじゃないか』という狂気の屁理屈による偏執的なまでの脚部と各部関節の強化、近接格闘戦のための出力アップ、そして出力アップによって開いた重量による重装甲化などがそれである。

 特にイフリートのジェネレーターはゲルググ用に試作されていた、ビーム兵器の使用を前提としたような高出力ジェネレーターが使われたという話もあり、地上格闘戦においてはドムはもちろん、ゲルググを越えるというレベルの破格の性能である。

 本機はその『イフリート』に、クルスト=モーゼスの開発した特殊システム『EXAMシステム』を搭載した改造機だ。

 

「『EXAMシステム』か……」

 

 私はそう吐き捨てるように呟く。

 『EXAMシステム』はフラナガン機関のクルスト=モーゼスによって造られたシステムだ。本来の開発目的はニュータイプの能力と戦闘力をシステムにより再現できるようにして、戦力底上げを狙うというものである。

 しかしクルストはその過程でニュータイプを研究すればするほど、強力なニュータイプによって自分たちオールドタイプは駆逐されるのではないかという強迫観念に支配されていく。そこでいつの間にか『対ニュータイプ』を目的としたシステムの開発に向かっていった。そして完成されたのがこの『EXAMシステム』である。

 ニュータイプの意識……『魂』というものをコピーすることで、ニュータイプのような能力をパイロットに与えるのがこの『EXAMシステム』だ。

 意識を取り込まれたニュータイプは当然、意識不明になって目覚めることは無い。何故なら、自らの『魂』とも言うべきものをマシーンの中に閉じ込められているからだ。

 ニュータイプを生贄に捧げることで完成した対ニュータイプ殲滅システム……それが『EXAMシステム』である。

 そして……その生贄になったのが、シャアにとって何よりも大切な彼女、ララァ=スンだった。

 

「……」

 

 この展開を私は、私だけは予想しておかなければならなかった。

 本来の『原作』では『EXAMシステム』の生贄に捧げられたのはマリオンである。しかし、彼女は私が保護していた。

 ならば当然、他の誰かが『EXAMシステム』の生贄に捧げられる可能性はある。そして……あの2月のシャアとガルマとの酒の席で、シャアはララァがフラナガン機関にいると言っていた。

 『EXAMシステム』の研究には、ニュータイプは必須。それは強力なら強力なほどいい。最初から優れたニュータイプの力を示しているララァが『EXAMシステム』の被験者に選ばれる可能性は十分すぎるほどにある。それを私はすっかりと失念していたのである。

 

「それでシロッコ……この機体が何だというのだ?」

 

 シャアは『EXAMシステム』の本質……ニュータイプの『魂』とも言うべき意識を閉じ込めているとは知らないが、ララァが意識不明になった原因の機体だけに不快そうだ。

 

「……落ちついて聞いてくれ、シャア。

 今から、ララァ嬢が目覚めない理由を教えよう」

 

「何っ!?」

 

 驚きに目を見開くシャアを尻目に、私はコンソールで機体をチェックする。

 

「『EXAMシステム』は……機体駆動系とは切り離されている。

 これなら『EXAMシステム』のみを起動できるな……」

 

 それを確認した私は、シャアに向き直ると言った。

 

「シャア、答えは『EXAMシステム』を起動させればわかる。

 私を信じて、この機体に乗って『EXAMシステム』を起動させてくれないか?」

 

「君がそう言うのなら……」

 

 そう言って、シャアは『イフリート改』のコックピットへと昇った。そして、脇で私が見上げる中、シャアが『EXAMシステム』を起動させる。反応は、すぐだった。

 

「こ、これは……ララァ!!?

 シロッコ! これは……これは一体!?」

 

「シャア、落ちつけ!

 その感覚をあるがまま、ニュートラルに受け止めろ!

 君ならば! 君ならば出来るはずだ!!」

 

 初めての感覚にシャアが戸惑いの声を上げるのを聞いて、私は少し早計だったかと後悔する。

 だが、それだけでは終わらなかった。

 

 

 グッ!!

 

 

「な、何ぃ!!」

 

 システムから切り離されていたはずのイフリート改が動き、左手で私を捕まえたのだ。

 

(ゆ、油断をした!

 『EXAMシステム』……クルストのニュータイプへの執着心を甘く見ていた!?)

 

 完全にシステムから機体制御を切り離していたはずなのに、『EXAMシステム』によってイフリート改は殲滅すべき敵……ニュータイプである私を狙ったのである。

 

「ぐ、あぁぁぁ!?」

 

「シ、シロッコ!!」

 

 ミシミシと、ゆっくりと圧力がかかっていく。その中で、私は叫んでいた。

 

「シャア、落ちつけ!

 その破壊衝動はクルストによってララァ嬢の心が無理矢理捻じ曲げられた結果にすぎん!!

 ララァ嬢を誰より知る君ならば、それがララァ嬢の本当の心でないことは分かるだろう!

 ならば、造られたその感情を制御できるはずだ!

 そのような造り物に負けるな、シャア!!」

 

「ぐ、おぉぉぉっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……どれほどの時間だったのか?

 本来なら短い時間だろうが、我々にとっては果てしなく長い時間だった。ゆっくりと、イフリート改の腕から力が抜けていく。それは『EXAMシステム』の殲滅衝動をシャアが制したという証拠であった。

 

「ぐ、うぅぅ……」

 

「無事か、シロッコ!」

 

 倒れ込みそうになる私を、機体を停止させたシャアが飛び出してきて支える。そんなシャアに私は皮肉げに笑って言った。

 

「フッ……死ぬかと思ったよ、シャア。

 謀るつもりなら、前もって言って欲しいな」

 

「すまん!

 もう少しで私は……取り返しのつかん過ちを犯すところだった」

 

「気にすることは無い。何が起こるのかしっかりと説明していなかった私が悪いのだ。

 それに……クルストの執念を甘く見ていた……」

 

 私はシャアから離れ立ち上がると、改めてイフリート改を見上げる。同じようにシャアも私に並んでイフリート改を見上げた。

 

「……ララァ嬢が目覚めない理由は分かっただろう?」

 

「……ああ、私も感じた。

 ララァの『魂』はあのシステムの中に閉じ込められている……。

 これが……ニュータイプの感覚……」

 

 自らの手を見つめるシャアに私は頷いた。

 

「そうだ。

 そして……その残り3つの『EXAMシステム』を持ってクルストは連邦に亡命したのだ。

 すべての『EXAMシステム』を破壊しなければ、ララァ嬢の『魂』は解放されん」

 

「……」

 

 私の言葉に、シャアは硬い表情で頷く。そんなシャアに苦笑して、私はその肩をポンと叩いた。

 

「ガルマには『EXAMシステム』が連邦で実用化されることの危険性は説いた。クルストの追撃の許可は貰っている。

 地上の諜報部を動かし、クルストと『EXAMシステム』の行方を追う予定だ。

 そして見つけ出した時には……君と私の2人で潰す!」

 

「シロッコ、君もか?」

 

「『EXAMシステム』の危険性はシャアも分かっただろう。

 それに……『EXAMシステム』を積んだモビルスーツは生半可なものではない。

 残りの『EXAMシステム』は3つ……3対1ではいかにシャアでも分が悪いからな」

 

「何から何まですまん、シロッコ」

 

「君と私の仲だ、礼などいい。

 それに……個人的にも、ニュータイプとしてもクルストは許せん。

 君やララァ嬢のことが無くても、私は『EXAMシステム』を潰すために動いたはずだ」

 

 それは偽らざる本音である。

 私はクルスト=モーゼスをはっきりと討つべき『敵』と認識していた。

 

「イフリート改の受領も話はついている。これはもはや君にしか扱えないだろうからな。

 『ユーピテル』への搬入は頼んだ。

 あとで君のパーソナルカラーに塗り替えておくよ」

 

 それだけ言うと、私は一足先に『ユーピテル』へと戻っていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ハマーン嬢とレイラ嬢、そしてイフリート改の積み込みなどのすべての作業を終わらせパルダコロニーから『ユーピテル』は出港した。

 

「こちらの仕事は終わった。

 後は地球まで……任せたぞ、キリシマ大尉」

 

「ええ。 わたくしにお任せあれ、シロッコ少佐。

 少佐は今のうちにお休みくださいな」

 

「そうだな、流石に疲れた。

 少しの間、休ませてもらおう」

 

 流石にいろいろあって疲れもした。そう思い自室に戻ろうとブリッジのドアに近付いた時……。

 

「むっ!?」

 

 電光のように、何かが突き抜ける。私はその感覚に従って振り返った。

 宇宙の黒の中に、ゆっくりとした噴射炎が見える。こちらと同じザンジバル級機動巡洋艦だ。それがパルダコロニー目指して進んでいる。

 

「あれは?」

 

「えーー……確認できました、ザンジバル級機動巡洋艦『ニュルンベルク』。

 所属は……『公国突撃隊』です」

 

「間一髪、ということか……」

 

 オペレーターの返答を聞きホッと胸を撫で下ろす。もしタイミングがずれていれば、ハマーン嬢たちの救出で一悶着あっただろう。

 だが、このざわつきはそれだけではないはずだ。

 

「この感じ、この私の壁になる者がいるというのか……?」

 

 そう呟くが、今はことを構えるときでもないし、すでに地球への加速に入っている。こちらを追うような真似はするまい。

 私は頭を振って、今度こそ自室に戻っていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ザンジバル級『ユーピテル』、地球への進路を取ります」

 

「……チィ」

 

 オペレーターからの報告を聞きながら、その青年は小さく舌打ちする。

 フラナガン機関からの通信でハマーン=カーンがガルマによって連れ出されたことはすでに聞いていた。その場にいれば何かできたかもしれないが、こうなっては後の祭りである。

 

「キシリア様に続き、どうやらガルマ様もギレン閣下を好いていないと見える。

 ……いや、違うな」

 

 そこまで呟いてから、その青年は首を振った。この素早い行動力は、ガルマのものだけではない。それは恐らくガルマの右腕とも称される男のもの。そして、ガルマの元にはもう一人無視できない者が加わっている。

 

「ガルマ=ザビ。

 赤い彗星 シャア=アズナブル。

 そして……紫の鬼火(ウィルオウィスプ) パプティマス=シロッコ。

 もしギレン閣下の障害となるのならその時は……この私の手で討ちとってみせる!」

 

 それだけ呟くと、その青年はフラナガン機関への道行きを急いだ……。

 

 




もう少しでシロッコがカヲルくん(TV版)になるところだった。またはケーラ。
イフリート改の魔改造については少し先になります。

次回はシロッコたちがいない間の重力戦線の様子について。

次回もよろしくお願いします。


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第24話 重力戦線 戦果報告書(前編)

今回はシロッコたちのいない間の地球での戦いの様子です。
珍しい人物たちの活躍となります。
ある意味、『これがやりたかっただけだろ』を繋げた状態。

思いのほかに長くなったので前後編に分けました。


 見上げればどこまでも青い空、見渡す限りの青い海を連邦の輸送船団が進んでいた。

 宇宙世紀になっても、船舶を用いた輸送は重要だ。『輸送』といえばミデアやガンペリーなどの航空輸送機を思い浮かべるかもしれないが、そのペイロードには限界はあるし、何より自身の消費する燃料との比率を考えればそこまで経済的ではない。船舶は未だに『輸送』においては中心的な存在だった。

 そんな輸送船団で海を眺める2人、彼らは訓練課程を終えたばかりの連邦軍のモビルスーツパイロットたちだ。彼らは自分の愛機となるザクと共に、この輸送船で任地へと送られる最中である。

 

「ようやくだ。

 あっちに着いたら、俺たちのザクでジオンのやつらを地球から追い出してやろうぜ!」

 

「……」

 

 景気のよい言葉に、相方は無言であった。いつもとは違う様子に、彼はいぶかしむ。

 

「おい、どうかしたのか?」

 

「ん?

 ああ……実は俺、海って苦手なんだよ」

 

「何だよ? ガキの頃に溺れかけたとかか?」

 

「まぁ、ガキの頃の思い出なのは間違いないけどな……」

 

 そういって照れくさそうに鼻の頭を掻く。

 

「うちのオヤジ、旧世紀の骨董品のムービーを集めるのが趣味だったんだよ。

 その影響で物心つくガキのころから、旧世紀のムービーを見て育ってな。その中に……人食いザメの話があったんだよ。

 ガキの頃に見たそれがトラウマでさ、それ以降海が苦手になっちまったんだ……」

 

「ははは、そいつぁ災難な話だな」

 

 その連邦兵はアハハと笑い飛ばす。

 しかし超巨大人食いザメは所詮ムービーの中だけの存在だ。だが、現実にはそれよりももっと怖い、『海の悪魔』がいるのである。

 それを2人は思い知ることになる。

 

 

 ウ―――――!!

 

 

「な、なんだ!?」

 

「サイレン!? ジオン野郎か!?」

 

 突然の警報に2人は辺りを見渡す。その周りでは兵員があわただしく動き始めていた。

 

「おい、どうした!?」

 

「ジオンだ、ジオンが来るぞ! お前らも持ち場に急げ!!」

 

 1人の兵員を捕まえて話を聞くと、やはりジオンの襲撃らしい。そのとき、水中からの爆発の水柱が上がった。

 

「……護衛のフィッシュアイがやってくれたのか?」

 

 期待を込めて海面を見つめる。しかしその時、ピンクのモノアイの光とともに水柱が上がり、青いモビルスーツが空中へと飛び上がってくる。

 

「ジ、ジオンだ!!」

 

 その1機を皮切りに、次々とジオンの水陸両用モビルスーツ『ハイゴッグ』が空中へと飛び上がり、連邦の輸送艦へと飛び乗る。

 そして、そのうちの一機は2人の連邦兵の乗る輸送艦にも……。

 

 

ドォン!!

 

 

「うわっ!?」

 

 モビルスーツという大質量の着地の衝撃に輸送艦は激しく揺れ、誰もが手近なものにつかまって身体を支える。だが、彼らにそれを気にする余裕は無い。何故なら、ハイゴッグが左手のハンドミサイルユニットを地面……自身の降り立った輸送艦へと向けたからである。

 ハイゴッグが再び飛び上がると同時に、ハンドミサイルは発射された。

 着弾、そして爆発。

 輸送船の竜骨はへし折れ、船体は真っ二つになって積み荷もろとも海の底へと引きずり込まれていく。

 海に投げ出され、海水をたらふく飲まされ遠のく意識の中で思う。

 

(う、海になんか来るんじゃなかった……)

 

 それだけを思いながら、彼は大量の鉄くずと共に海の底へと沈んでいったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 敵輸送艦に飛び乗り、再びのジャンプと同時に射撃、そして着水。

 急機動で無理をさせてしまったのではないかとすぐに計器を確認するが、負荷はほとんどない。

 それを見て彼は得意そうに言った。

 

「さすがハイゴッグだ、何ともないぜ!」

 

 彼……ジオン軍の海洋部隊の一員であるコーカ=ラサ曹長は自機の性能に感嘆の声を上げながらも次の獲物を狙う。だが、それをさせまいと水中用ボール『フィッシュアイ』が着水したラサ曹長のハイゴッグに接近してきたのだが……。

 

「へっ! ウスノロが!

 このハイゴッグの動きに追いつけるかよ!!」

 

 ドムの熱核ホバー推進システムを発展させたハイゴッグの推進器は圧倒的な水中速度を発揮する。その速度でフィッシュアイを振り切ると、ハイゴッグは再び海上へと飛び上がった。

 ハイゴッグ最大の武器はこの機動性だ。水中から水上と瞬時にその推力で飛び上がることで立体的な動きをするハイゴッグ、それに水中運用のみのフィッシュアイは対応できなかったのである。

 そんなハイゴッグが、集団で襲ってきたのだからたまらない。次々と輸送艦群は海の底へと沈んで行く、輸送船団は壊滅ならぬ『消滅』といっても差し支えない大損害を受けていた。

 その奇襲を終えたハイゴッグ隊は増援の現れる前に悠々と海に消えていったのである……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……今回の奇襲も上手くいったな」

 

 彼はこの新型のM型潜水艦『マッドアングラー』の艦長であり、このマッドアングラー隊の隊長、フラナガン=ブーン大尉である。

 帰還したハイゴッグ隊の報告を聞き、その戦果に満足そうにすると部下たちに命令を下した。

 

上層部(うえ)からの命令だ。 連邦の輸送隊は輸送艦一隻、輸送機一機も通すな。

 連邦どもには海水浴を楽しませてやれ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 隊員たちの顔には『まだまだ暴れ足りない』というのが雄弁に見て取れた。それを見ながらブーンはこれからここを通るだろう連邦兵に、少しだけ同情したくなったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふぅ……」

 

 彼は一つ息をつくと、ペンを置いた。

 まだあどけなさを残す彼は、連邦軍のモビルスーツパイロット候補生の1人である。ここ連邦軍のモビルスーツパイロット養成施設で現在、パイロットとしての訓練を受けている最中だ。

 モビルスーツ……それはこの戦争において、戦争のあり方自体を変えてしまった新兵器である。だが今までの兵器系統に存在しない、人型のマシーンを操るというのは簡単なことではない。そこには様々な知識とセンスが問われ、一朝一夕にできるようになるといったものではないのだ。そこには今までの経験も何もない。その証拠に傍の同じ候補生には彼の父親ほどの年齢の人間もいるくらいだ。連邦にとってモビルスーツパイロット育成は急務であり、モビルスーツパイロット候補生たちはこの施設で毎日をハードな修練に費やしていた。

 誰も彼もがそのハードな内容に、一日の終わりにはクタクタになって眠りに着くが、彼はそれでもいつもの習慣になっている日記をつけていた。

 ここは寝るためだけの簡素な部屋だ。2段ベッドが二つ、仕切りの薄い布程度しか遮るものは無い。そこに下着姿で横になり、ペンライトの明かりを頼りに日記をつけていたがそろそろ自分も寝なければ明日に差し支える。

 彼は日記を閉じると布団を被り、眠りに入った。睡魔が彼の意識を刈り取ろうとゆっくりと迫るその時……。

 

 

 ドゥン! ドゥン!! ドゥン!!!

 

 

 連続した爆発音に睡魔は吹き飛び、彼は目を見開く。そしてそこには……。

 

「!!?」

 

 彼の視界いっぱいに、『上の階』が広がっていた。彼も、彼とともに訓練に明け暮れていた仲間たちもすべてその瓦礫の下で、死神にその命を刈り取られたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふぅ……」

 

 男は闇の中で大きく息を吐いた。

 その男は闇に溶ける黒色の全身タイツのようなものを着込んでいた。それは温熱遮断機構(サーモプロテクト)を備える、秘密潜入用の特殊戦闘服である。それを身に纏った彼はジオン特殊潜入隊の工作員、アカハナであった。

 

「大したことないな」

 

『それは少尉だからですよ。

 そうでなければ、ああも簡単に連邦の施設内に侵入して爆弾など仕掛けられませんって。

 敵基地内の主要目標の倒壊が確認できました。

 見事な手並みですね、少尉』

 

「ははっ、おだてたって奢りの約束は忘れないぞ」

 

 耳の通信機から聞こえる若い男のオペレーターに、アカハナも軽口を返した。

 

『あははっ、やっぱり駄目ですか。

 分かりました、私も潔く奢らせてもらいます。

 帰還、お待ちしておりますよ、少尉どの』

 

「了解、これから帰還する」

 

 そう言って交信を終わらせると、アカハナは偽装した自らのモビルスーツのコックピットハッチを開くとそこに潜り込む。茶色く、丸みを帯びたそれは水陸両用モビルスーツである。これこそ、スウィネン社によって開発された特殊潜入モビルスーツ『アッガイ』の再設計モデル、『アッガイⅢ』だ。

 スウィネン社は元々土木・作業機器のメーカーであり、そんなスウィネン社によって開発された水陸両用モビルスーツが『アッガイ』である。しかし水陸両用モビルスーツにはすでにツィマッド社の『ハイゴッグ』という高性能機がいた。

 MIP社ですらその性能を前に巻き返しは不可能だと判断した高性能機『ハイゴッグ』、それよりも数段は性能の劣る『アッガイ』はそのまま歴史の闇に消えていくモビルスーツになるはずだった。しかし、そんな『アッガイ』に一つの光明が灯る。

 『アッガイ』はその形状と内部機構によって廃熱と静粛性に非常に優れていた。その上、装甲には特殊電波吸収剤が塗られており、形状のせいもあってレーダーに探知されにくい。その高い隠密性に目を付けた特殊潜入部隊が採用を決めたのである。

 同時に、『アッガイ』存続を決めた大きな事件が起きた。あの『ザク情報漏えい事件』である。

 この事件によって連邦軍はザクを量産させることに成功した。そのためジオン軍ではザクは旧式化したこともあり順次外見の変わる改装を施されたり、作業用・訓練用に廻されるなどしたが、それでもパーツは大量に余る。

 『アッガイ』はザクのパーツを流用しており、『アッガイ』は余ったパーツの受け皿としても注目された。さらにそこにツィマッド社との『ハイゴッグ』とのパーツ共用を考え、あのパプティマス=シロッコ少佐協力の元で再設計されたのがこの『アッガイⅢ』である。

 純粋な戦闘能力に関してはさすがに『ハイゴッグ』には及ばないが元になった『アッガイ』と比べ劇的に向上、特徴でもあったステルス性を維持しつつ静粛性ホバー推進システムによる高機動を実現、しかもほとんどのパーツがザクとハイゴッグの流用のためパーツが手に入りやすく整備がしやすいという代物である。

 アカハナのアッガイⅢは、その自慢の静粛性でゆっくり静かに、河から海へと消えていった……。

 

 




よく訓練されたガノタ兄弟の会話。

私「アッガイってさ……」

弟「さんをつけろよデコ助野郎!!」

私「アッハイ」

というわけでこの作品ではシロッコ印の魔改造で、アッガイにはⅢがつきました。
アッガイにはさん付けを忘れずに。いいね?

今回は地球を離れる前にシロッコが提案した戦略の様子でした。
正直、今回やりたかったことは『さすがハイゴッグだ、何ともないぜ』と『スネークアカハナ』だけです。
これがやりたかっただけだろと言われたら、その通り。
しかし私は謝らない。

次回は後編。
こういう強襲作戦には欠かせない、あの部隊の活躍です。

次回もよろしくお願いします。


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第25話 重力戦線 戦果報告書(後編)

今回はみんな大好き『あの部隊』の様子です。

そして今回も言ってみたかっただけだろ、な内容。



 暗いコックピットの中、光は計器からの明かりだけ。そんな中を、ソナーと解析された海図情報を頼りに、男は海中で黙々とモビルスーツを進ませる。

 

「……」

 

 男は自然な動作でコックピット脇から煙草を取り出すと火を付けようとしたが、途中で気付いたように手を止めた。この煙草はまだ、吸うべき時ではない。

 

 モビルスーツパイロットは、よく『儀式』を行うことがある。

 例えば任務前に新しい本を買って読まずに自室に置いておく。

 例えば先の休暇の申請書を作っておく。

 例えば酒場で一番高い酒をボトルで買って、封を開けずにおいておく。

 例えば……。

 その内容は様々、意図的にやりのこしを作ったりして『生きて帰る』という思いを新たにするための『儀式』である。

 そして彼にとっての『儀式』こそ、この煙草だ。

 作戦中は決して吸わない。そして終わった後の一服のために、また生き残る……そう決意を新たにしながら煙草を元に戻すと彼……『サイクロプス隊』隊長、ハーディ=シュタイナー大尉は部下たちへ通信を送った。

 

「全機速度このまま。

 予定通り、襲撃時刻は03:00(マルサンマルマル)

 海上は現在ハリケーンによって視界は限りなく悪いとの報告だ。

 戦闘時には周辺警戒を怠らないように。

 ミーシャ、景気付けもいいがほどほどにな」

 

『へへっ』

 

 通信機の向こうで部下のミーシャが笑うのが分かる。大方、また作戦前に一杯あおっていたのだろう。本来コックピット、それも作戦前ともなればアルコールは禁止だが、それがミーシャなりの『儀式』だということを知るシュタイナーは、ただそれだけにとどめた。

 

「ミーシャとアンディは突入後は東側へ進出、目標を破壊していけ。

 ガルシアは俺と一緒に西側から目標を破壊していくぞ。

 敵戦力との交戦は判断に任せるが、我々の作戦目的は忘れるなよ」

 

『了解。

 へへっ……派手なおはようのあいさつと行きましょう』

 

「ガルシア、やる気があるのはいいが足をすくわれるなよ。

 ……時間だ、行くぞ!!」

 

『『『了解!!』』』

 

 シュタイナーの号令とともに、サイクロプス隊全員のハイゴッグは強襲用ジェットパックの出力を最大にして、海中から一気に空中へと躍り出た。

 下降しながら、全機が右手のハンドミサイルユニットを発射する。そのミサイルは空中で多弾頭に分かれると、さらに空中でバラバラになり、胞子のように何かを広範囲にばら撒く。そして、連邦施設に連続した爆発音が響いた。

 今の大量に分かれたのは吸着爆弾である。広範囲の『建物』を倒壊させることを目的にしたそれは、瞬時にして周辺を瓦礫の山へと変えた。

 連邦の施設からサーチライトが夜の闇を切り裂く。そんな中、瓦礫の山となり炎の燻るそこにサイクロプス隊は着地を果たした。

 

「では作戦通りに行くぞ。

 散開!!」

 

 滑るようにシュタイナーのハイゴッグは疾走しながら、右手のビームカノンを射撃した。夜の闇と嵐の雨によってサイクロプス隊を発見できなかった連邦は慌てて迎撃態勢を整えようとするが、起動したばかりのザクや戦車がそのビームに次々と貫かれていく。

 シュタイナーはビームを受けてドゥっと倒れたザクの脇をそのまま駆け抜け、続くガルシアが倒れたザクのコックピットにバイスクローを突きたて、トドメを刺した。

 そのまま抵抗を排除しながら進んだシュタイナーは目標……基地司令部の建物に辿り着くと120mmマシンキャノンとビームカノンを乱射、瞬時にボロボロになった建物にトドメのバイスクローを突き立てて完全に崩壊させた。しかし、そこでシュタイナーは空中へと飛び上がると、残されていた左手のハンドミサイルユニットを発射する。その弾頭は先が鋭角的になったミサイルが3発へと分離すると、基地司令部のあった場所の地面へと潜り込んで行く。そしてしばしの後に爆発した。

 これはヅダの135mm対艦ライフルを元に開発された特殊貫通炸裂弾、いわゆるバンカーバスターである。基地司令部の地下壕に避難した将官も、これでは1人残らず生きてはいまい。

 その時、同じような音が基地のそこかしこから響いた。それは目標としていた施設……兵舎などの人員収容施設を破壊し、念入りに避難先の地下壕まで潰したという証拠である。

 

「よし、作戦は完了だ。

 戦果を拡大しつつ、撤退を開始する」

 

 言うが速いかシュタイナーは反転、周辺の施設にビームカノンと120mmマシンキャノンを撃ち込みながら後退を開始した。燃料タンクが爆発し、嵐の豪雨でも消えない業火が基地をなめる。

 

「む……?」

 

 見ればホバートラックと歩兵隊が、対戦車ロケットランチャーを必死になって準備していた。シュタイナーは即座に武器を選択するとトリガーを引く。

 ポンッという軽快な音とともに撃ちあがったそれは、歩兵隊の頭上で炸裂した。空中からベアリング弾を浴びせかける対人兵器である。文字通りのベアリング弾の雨によって砕かれ、引き裂かれた歩兵隊は、それ一発で無力化されていた。

 

『うわぁ……ミンチよりひでぇや』

 

「……これも戦争、命令のうちだ」

 

 そう、これも命令のうち。シュタイナーは逃げ惑う敵歩兵や人員へと2発3発と対人兵器を撃ち込む。

 

『そういや、そうでしたね』

 

 ガルシアも頷くと、ビームカノンを乱射し周辺の施設を破壊、シュタイナーと同じように対人兵器により歩兵を掃討しながら撤退ポイント……海へと戻ってきた。

 ミーシャ、アンディのハイゴッグと合流を果たし、シュタイナーたち『サイクロプス隊』は来た時と同じように海の中へと消えていく。

 

「……今回も生き残れたな」

 

 合流ポイントでユーコン級潜水艦に収容されながらシュタイナーは煙草を取り出すと火を付け、大きく吸い込む。

 

「ふぅ……」

 

 シートに深く身体を預け、ゆっくりと紫煙をくゆらせた。

 潜航中の潜水艦は当然換気などできない。だから空気が汚れるような煙草は嫌われる。おまけに整備の若い連中が、計器からヤニが落ちないと愚痴を漏らしていたのを思い出す。

 だが、知ったことか。

 作戦終了後のこの一服だけは誰にも文句は言わせない。

 シュタイナーは生き残ったという証しである煙草を、再び吸い込んだ……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふむ……」

 

 私は各地からの報告書を読みながら、地球を離れていた間の状況を確認する。

 

「どうやら私の提案した戦略はうまく機能しているようだな」

 

 そう言って私は頷く。

 私は宇宙へ行く前に、この戦争での地上軍の動き……戦略を提案していった。ガルマの口利きもありその戦略は実行に移されている。

 

 連邦の工業力は絶大だ。その工業力を持ってザクの量産を始めた連邦に、ジオンはこれからかなり辛い戦いが予想される。

 この状況で戦争に勝利するために提示した戦略だが……これは至って単純かつ当然の話だった。

 

 

 まず1つ目が、徹底した海上輸送網の寸断である。

 連邦の地上での主な支配領域はジャブローを中心とした『南米』、トリントンを中心とした『オーストラリア東部』、マドラスを中心とした『インド・東南アジア』、ベルファストを中心とした『ブリテン』である。これに北米のフロリダを中心とした地域や一部のヨーロッパ地方が加わるといったところか。

 どんな軍でも補給は最重要課題だ。それに自慢の工業力で兵器を作るにしても、工場までの資源の輸送が必ず必要になる。これらの支配地域は海で繋がっており、海上輸送が重要な役割を持っていた。

 そこでハイゴッグを搭載した潜水艦隊による徹底した通商破壊……『MSウルフパック』とでも呼ぶ戦法で、これらのシーレーンの攻撃を強化したのである。

 いかに国力があろうと、それを支える物資と人の流れを止められてはたまらないはず。今は膨大な備蓄資源で廻っているかもしれないが、そのダメージは連邦にボディブローのようにゆっくりと、そして確実に蓄積されていくだろう。

 

 2つ目……これは戦争の側面を、より強調させたものだ。

 『戦争』とは、国同士の果てしない命の損耗である。そして私の提示した戦略は、言うなれば『徹底した人殺し』だった。

 モビルスーツだろうが他の兵器だろうが、必ずそれを操る『人間』というパーツを必要とする。操る人間がいなければどんな強力なモビルスーツもただの置物になりさがるのだ。しかし、兵器を操るという特殊な技能を持つ人間を作るには大量の物資と、何よりも時間がかかるのだ。基本的には兵士というものは決して、畑では取れないのである。

 モビルスーツなどの兵器生産力……これはどう逆立ちしてもジオンでは連邦には敵わない。それならばその訓練中の人間や、基地への強襲でも『人間』を重視して襲う……徹底した『ソフトキル』の戦略である。

 これはジオンは本国が宇宙……連邦からは手の届かないところにあり、人材の育成を安全に行える。しかし連邦は地球という、現在戦端の開かれた地域で人材育成をしなければならない。地球上というだけでは、基本的に安全な『後方』というものがほとんどないのである。しかも、その数少ない安全な後方(ジャブローなど)で育った人材も、先の『MSウルフパック』によって他の地域にほとんど移動できずにいる。

 これを繰り返すことで、連邦の稼働できるモビルスーツの数をハードではなく、ソフトの面で減らすというのがこの戦略の趣旨だ。

 

「しかし……思った以上に優秀だな」

 

 私は報告の中でも特に『マッドアングラー隊』、『サイクロプス隊』、そして潜入工作員の『アカハナ』の戦果が目にとまった。『原作』でも名前を聞く者たちだが、やはり優秀なようである。

 これはガルマに頼んで報償を与えるようにしたほうがいいだろう。特に『ソフトキル』は戦場での戦いと違い、『汚れ仕事』とも言えるものだ。これをしっかりと上の命令でやったと責任の所在をはっきりし、それに携わった彼らを正しく評価してやらなければ組織への忠誠心に関わる。

 それにこれは今回が最初で最後ではない。これからも同種の任務はいくらでも頼むことになるだろう。彼らには気持よく働けるようにしなければならない。

 そこまで考えて、私は苦笑した。

 

「……こんな戦略を平気な顔で提案できる辺り、私は死んだら確実に地獄へ堕ちるだろうな」

 

 だが、私は後悔もしなければ謝罪もしない。

 何故なら、これは『戦争』だからだ。

 『恋愛と戦争はあらゆることが正当化される』、とはイギリスのことわざだっただろうか?

 連邦はなりふりかまっていて勝てるような甘い相手ではない。それに訓練所の襲撃なども、降伏した捕虜を虐殺するような明確なルール違反ではない。

 ならばその手段を躊躇いはしない。

 

「誰かの言葉ではないが……我々は『遊びでやってんじゃないんだよ』ということだな」

 

 そう、これは遊びではなく戦争だ。

 勝利のためにあらゆる手段を尽くす必要がある。

 それに、この手が血塗れなのは今さらだ。死んだ後に閻魔大王のお小言が一つ二つ増える程度のこと、我慢するとしよう。

 その時だ。

 

「お兄さん」

 

「兄さん……」

 

「ん……?」

 

 見ればメイ嬢とマリオンが私のところにやってきていた。

 

「新型機のテストの準備、できたよ!」

 

「もうみんな待ってるわ」

 

「そうか、もうそんな時間だったか……」

 

 私は端末の電源を落とすと、立ち上がって歩き出す。そこを両側に並んでメイ嬢とマリオンも歩き出した。

 向こうを見ればそこにいるのは私の部隊、リザド隊の面々である。

 

「……死なせたくはないものだ」

 

 思わず、私は呟いていた。

 あれだけ散々あくどく手を血で染めながら、何とも虫のいい話だ。しかし、知ったことではない。

 知りもしない地球の裏側の他人と、目の前の手の届く人間の生死を同等に考えられる者などいはしないだろう。そんなものが存在したら絶え間なく泣き続けるだけで人生は終わってしまう。

 それと同じだ。

 所詮顔も見えぬ、名前も知らぬ他人の生死など些細事だ。

 そんなものより目の前の知人の安否を気遣うのはまっとうな感覚だと思える。

 

「え?」

 

「お兄さん、何か言った?」

 

「いや……やることが多いなと思ってな」

 

 そう、やることはいくらでもある。

 それは連邦への勝利のため。

 それはザビ家への復讐のため。

 それは……死なせないため。

 

 私は気持ちを新たに、格納庫へと向かうのだった……。

 




シロッコたちのいない間の地球戦線の様子でした。

重力戦線はシロッコの進言の元、『無制限潜水艦作戦による徹底した通商破壊』と『兵器そのものより人を狙うソフトキル重視の破壊工作』に力を入れています。
正直、真面目に考えてこれ以外に連邦への勝利の可能性がカケラも見えません。

これ以外にNBC兵器やコロニー落としを使わずに連邦に勝つ方法があったら、誰か伝授してください。わりとマジで。

普通なら国家が終わるレベルの状況なんですが……これだけやっても普通に戦争継続できる連邦の工業力と人的資源はチートすぎる……。

そして今回のこれが言いたかっただけだろは『サイクロプス隊のミンチよりひでぇや発言』と『シロッコのあそびでやってんじゃないんだよ』でした。

次回もよろしくお願いします。


追伸:ビルドファイターズトライの第一話は主人公のドムが格好良すぎた。
   走る、ホバーターンを使った回し蹴り、ソフィさん並の正拳突き……まさか主人公の操る格好いいドムが見れる日がこようとは……。
   つーか、走るドムとかトゥルーオデッセイにそんな場面あったなぁくらいしか思いつかん。
   一期の時のギャン推しといい、スタッフには明らかにツィマッドの者がいると見た。

   ツィマッド万歳!


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第26話 両エースの新型機

今回は題名通り、そろそろ性能のきつくなってきたドムに替わるシロッコの専用機と魔改造されたシャア専用イフリート改の登場です。
シロッコの機体、それはもちろん……。


 

 ヴィーーン……

 

 

 ジェネレーターに火が灯り、機体がゆっくりと動き出す。

 コックピットに座り、それを振動で感じながら私はゆっくりとレバーを動かした。すると、それに応えて機体は滑らかに動き出す。

 計器類をチェックするが、どこにも異常は見られなかった。

 

「よし、これよりテストを開始する。

 ギャン、出るぞ!!」

 

 私はペダルを踏むと、それに応えてギャンは力強く飛び上がった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 『ギャン』……これは私が次期主力汎用モビルスーツとして設計していた機体である。私の知る『原作』においてもゲルググと次期主力機の座を争った機体だ。

 しかし……『原作』において、その機体はあまり高く評価はされていない。

 ギャンのコンセプトは『最強の格闘戦機』であった。そのための高出力ビームサーベルや流体パルスアクセラレーターシステムによる高い運動性は確かに素晴らしいものだった。

しかし主戦場はすでに宇宙へと移り、敵である連邦のモビルスーツはビーム兵器を標準装備である。そのため、そもそも接近戦に持ち込みにくく、おまけに宇宙空間での機動性に難ありという状態。しかもビームライフルは装備できず、ミサイル満載で誘爆の危険性が高いシールドが主射撃兵装という有り様。これではビームライフルとビームナギナタを標準装備し、宇宙・地上での戦闘をそつなくこなすことのできるゲルググが次期主力汎用モビルスーツに選ばれたことも頷ける。

 私としても『原作』のままならギャンとゲルググどちらを選ぶと問われたら、迷わずゲルググを選ぶ。そして、そんな『原作』と同じギャンをそのまま提案などするはずもなかった。

 

 まずは武装について、ビームサーベルの装備は当然としてビームライフルも標準装備とした。さらに盾を全面的に変更、あんな『原作』のような爆薬満載の盾は困るが盾に攻撃能力というアイデア自体は悪くない。実際に時代が進めばシールド裏側にミサイルを搭載したタイプは多いし、場合によってはビームキャノンやメガ粒子砲を装備したタイプの盾もある。

 そこで採用するのは、やはりグフシールドを改造したものだった。正確には3連装ガドリングガンを装備したタイプで、3連装ガドリングガンを90mm速射砲に変更した。この90mm速射砲はMMP80マシンガンと弾薬が共通で、同じマガジンを差し込んで使用できる。つまりこの盾はMMP80マシンガンを内蔵したグフシールドということである。

 同時に盾としてなにより重要な防御力の面も変わっている。その装甲には従来の超硬スチール合金ではなくギャン本体にも使用した『チタン・セラミック複合材』と『衝撃吸収発泡材』との多重階層構造になっており、もちろんのことだが本体装甲より強力だ。

 

 武装も随分変わったが、本体も随分変わっている。

 駆動系には『原作』のギャンの最大の特徴である高い運動性を誇る『流体パルスアクセラレーターシステム』を搭載、そして限定的ながら各所に連邦からフィードバックした『フィールドモーターシステム』も搭載され、高い運動性を獲得した。

 また、空間戦で問題のあったバックパックはガンダムのようなランドセルのタイプを採用し、空間戦闘の能力を高めるのと同時に地上では高い推力による連続ジャンプも可能だ。

 そして脚部にはハイゴッグで成功した小型熱核ホバーシステムをさらに小型化したものを搭載、これによってギャンはドムのような『ホバー』と、ザクやグフのような『歩行』を任意で切り替えて使えるようになった。ドムと作戦行動をともにし、さらにドムの苦手としていた立体的な上下の動きにも対応してみせたのである。

 

 装甲系に関してもこの『ギャン』は特殊だ。

 従来の『超硬スチール』の装甲ではなく、もっと強度と重量に優れた『チタン・セラミック複合材』を採用。これによって細身の見た目以上の防御力を誇っている。

 そして防御においてギャンの目玉の一つが、全身と盾に施した『耐ビームコーティング』である。

 『耐ビームコーティング』……それはビームライフルでもビームサーベルでも、1度ならその威力を減じて防ぐことができる特殊コーティングである。さすがに高出力ビームを完全に防ぐことはできないが、それでもあると無しとでは生存率が全く違う。

 毒は解毒剤とセットにして、始めて意味を為す。

 これから連邦にもビーム兵器搭載のモビルスーツが現れることは確実のため同じようにビーム兵器の防御策は必要だ。特に人的資源の厳しいジオンには、生存率を上げる装備は必須とも言える。

 同じようにビーム兵器防御策としてIフィールドというのも考えたが、これはコストが高く小型化が難しいため見送りだ。

 そのため、安価で『塗る』だけで効果のある『耐ビームコーティング』の開発を急ぎ、それがギャンには施されていた。

 

 武装面・機動面・装甲面と様々な方面で新しいものを盛り込んだこの『ギャン』だが、さらにもう1つ重要なものを搭載していた。

 それは新型のコンピューターだ。機動経験から行動パターンを蓄積し、自己のシステムをより高精度に自ら更新していくコンピューター……そう、『原作』で言うところの『教育型コンピューター』である。

 教育型コンピューターはあの『原作』における『ガンダム神話』の一因となったものだ。このコンピューターを積んだ機体はまさしく戦えば戦うだけレベルアップしていく。このコンピューターからのデータが『原作』では『ジム』に生かされた。教育型コンピューター無しでは『ガンダム神話』は生まれず、『原作』での連邦のモビルスーツ導入がすんなりといかなかっただろう。

 

 

 この『ギャン』の特徴を纏めるとこうなる。

 

1.ビームライフル、ビームサーベルの標準装備。

2. グフシールドを強化した攻盾システムの搭載。

3.『流体パルスアクセラレーターシステム』と『フィールドモーターシステム』による高い運動性の獲得。

4. バックパックの変更による空間戦闘能力と地上跳躍能力の強化。

5.小型熱核ホバー搭載による、ドムと同等の直進速度と地上展開力。

6.『チタン・セラミック複合材』の採用による装甲強化。

7.『耐ビームコーティング』の採用による対ビーム防御力。

8.『教育型コンピューター』の導入。

 

 他にも細かな部分はあるが、『原作のギャン』と比べて大きく変わった部分はこんなところだ。

 ハッキリと言ってこの『ギャン』というモビルスーツはすでに、『ギャン』という名前の『原作』とは違う別の何かである。この内容は『原作』でいうと、ギャンの完成形である『ガルバルディα』を越え『ガルバルディβ』の領域に片足を踏み込んでいる。言ってみればこの『ギャン』は『プロトタイプガルバルディβ』といえる1.5世代型モビルスーツに分類される機体として仕上がっていた。

 

 もっともこの豪華仕様は私の乗るこの試作機の1機だけだ。

 教育型コンピューターは異常にコストが高いため、量産機に乗せられるものではない。それに『チタン・セラミック複合材』も全身に、というのは現在はコスト的にも難しいからだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「動きは良好だな」

 

『小型ホバー装置にも問題ないよ』

 

 私はテストの通りにギャンを動かし、モニターに表示される数値とメイ嬢からの言葉に満足げに頷く。

 流体パルスアクセラレーターにフィールドモーターシステムを併用した各部の運動性は良好だ。脚部の小型化した熱核ホバー推進システムで地面を滑り、急停止と方向転換、そして膝関節とスラスターを使ったドムの苦手としていた立体的な機動をスムーズに行う。しかもこれだけの動きをしても、関節部を含む機体ストレスはほとんどないほどにタフだ。

 ビームライフルとビームサーベルのチェックも問題は無い。そして耐ビームコーティング……地面からせり上がってきた装甲板に、私はビームライフルを撃ち込む。

 黄色の閃光は装甲板に直撃するが、拡散するようにそのビームの光は消えていった。後には少し溶けながらも形をとどめたままの装甲板が残っている。

 

『ビーム減退を確認。 耐ビームコーティングも実証実験終了だね、お兄さん』

 

「もっともビームサーベルには時間稼ぎにしかならんし、高出力ビームは耐えきれないだろうが……それでも無いのとでは雲泥の差だからな。

 ギャンの仕上がりは良好だが……そちらはどうか、クスコ中尉?」

 

『こちらも順調です』

 

 その時、私のギャンの前を通り過ぎる影があった。

 それはクスコに任せる色違いのギャン、『量産型ギャン』である。

 私のパーソナルカラーである紫ではなく、サンドブラウンの機体は外見上は私のギャンとそっくりだ。唯一、頭部のアンテナが低いことが外見上の違いか。

 このゲルググとのコンペに提出する『量産型ギャン』は連邦タイプの通常のコンピューターを搭載、『チタン・セラミック複合材』の使用も盾と主要部分のみでその他は通常の超硬スチールだ。

 それでもビーム兵器の使用を前提とした高出力新型ジェネレーターのハイパワーは、ドワッジを越えるレベルの防御力を実現している。

 

『新型のジェネレーターの出力も良好。

 それに新型のコンピューターのせいですかね。 ドワッジの時よりも動かしやすく、反応も素直です』

 

「そうか……」

 

 どうやら連邦型コンピューターの技術を導入した新型コンピューターは十分にその優秀さを発揮してくれているようだ。

 『ギャン』の仕上がりは良好、リザド隊のメンバーには全員この『量産型ギャン』か、またはジオニックの『ゲルググ』に近いうちに乗り換えてもらうことになるだろう。

 それまでの間に、既存のドムやドワッジへ新型コンピューターを導入するのを進める必要もある。

 

「とはいえ、ここまでは順調か……」

 

 そう頷くと、私は今日のメインディッシュをたいらげることにした。

 

「クスコ、今すぐ下がって待機をしていろ。

 どんな不測の事態が起こってもいいようにな」

 

『? わかりました』

 

 通信でクスコにそう命じると、クスコは首を傾げるようにしながらも、言われたままに下がっていく。それを見届けてから、私は次の相手を呼び出した。

 

「シャア。 聞こえているか、シャア」

 

『聞こえているよ、シロッコ』

 

 その言葉とともに赤い影がギャンの前に降り立つ。ドムやギャンとは大きく外見的な印象が違うそれこそ本日のメインディッシュ、シャア専用の『イフリート改』である。

 

 EXAMシステム搭載実験機である『イフリート改』、EXAMシステムの発動によって驚異的な力を発揮する本機だが、EXAMシステムの動きに耐えるにはその機体性能には大きな不満のあるものだった。

 EXAMシステムの要求する機動によって各部関節はすぐに限界となり、EXAMシステムの処理をしようとした制御コンピューターは通常の2倍以上にも肥大化したというのに、それでもその処理が追い付かずオーバーヒート状態という有り様だ。いくらなんでも、そんな機体を何もせずにシャアに渡すわけにはいかない。そこでこのギャンに合わせる形で大規模な改修を行った。

 ギャンに使用している流体パルスアクセラレーターにフィールドモーターシステムを併用した駆動系に変更し、エネルギーバイパスを増設することでビーム兵器の使用が可能になった。左右の腰の本来ならヒートサーベルの設置されたマウントスペースには、このギャンと同じく左右に1本づつのビームサーベル発生器が設置されている。

 次に頭部だが、ブラックボックス化しているEXAMシステムやそれに接続されているコンピューターには下手に手を出すことができないが、それでも冷却装置を増設することで動作安定性を高めている。

 そして反応速度もシャアに合わせてピーキーに調整し、シャアのパーソナルカラーである『赤』で染め上げたものがこの『シャア専用イフリート改』である。

 

「しかし……イフリート改が『蒼』以外の色というのも奇妙なものだ。

 もっとも、だからこそ『蒼』など残す気も無いが」

 

 EXAM搭載機の『蒼』という色には、特別な意味がある。『原作』においてはマリオンが、こちらではララァのようだが、彼女が宇宙の色を『蒼』と表現、そこからクルストはニュータイプの見た宇宙の色の『蒼』をニュータイプの象徴とし、ニュータイプを制した証しとしてEXAM搭載機を必ず『蒼』で染める。

 だからこそ、EXAM搭載機が『蒼』以外の色というのは私としては違和感があり、同時にその意味を知っているからこそ、ニュータイプとして『蒼』という色を残すのは気に入らないという、半分半分の複雑な気持ちで私はシャア専用の赤いイフリート改を見つめる。

 ……正直、頭から下はほとんどこの『ギャン』と同等であり、しかも象徴である『蒼』を無くしたコレを、本当に『イフリート改』と呼称していいのかどうか判断に迷うところだ。

 

「どうかな、シャア。 イフリート改の様子は?」

 

『素晴らしいとしか言えないな。 ビームライフルといい、ビームサーベルといい凄まじい威力だ。

 それにこれほどに動けるモビルスーツは初めてだよ』

 

 どうやらシャアにとってもイフリート改の性能は驚きであったようだ。しかし、まだこれで驚いてもらっては困る。

 

「シャア、驚くのは早いだろう。 その機体の目玉はEXAMシステムだ。

 これよりEXAMシステム発動下での機動実験に移ってくれ」

 

『EXAMシステムを動かすのか?』

 

 この間私を殺しかけたことを思い出しているのだろう。 その口調はどこか堅い。

 

「気持ちは分かるが、その機体の全力をテストしておかねば戦場で困る。

 そして……君にもシステムに慣れてもらわねば、本当に困る」

 

 渋るシャアに、私はやや強い口調で言い放つ。

 EXAMシステムは対ニュータイプ殲滅システムであり、システムが起動し私のようなニュータイプを感知したら最優先目標として襲う『暴走』があらかじめ織り込まれており、一度暴走すれば敵も味方も無くなってしまう。

 私を含めニュータイプ、またはその素養を秘めたものが多いここでそれは非常に困る。

 しかし、制御さえできれば擬似的にニュータイプの感覚を持って戦える優れたシステムであることは間違いない。EXAMに使われている意識はあのララァ=スン、相性は抜群なのだしフラナガン機関の一件でシャアはその制御にも成功している。制御はそう難しいことではあるまい。

 それになにより、私はこのEXAMを巡る一件でシャアには完全にニュータイプとして覚醒して欲しいと思っていた。そう考えればララァのいるEXAMはシャアにとって自転車の補助輪のようなものだ。存分に練習してもらうとしよう。

 

「今回は私もモビルスーツに乗っているのだ。 万一の時には私が全力で君を止めよう。

 だから安心してEXAMシステムを起動したまえ」

 

『……分かった、これからEXAMシステムを起動する』

 

 私に促され、シャアはEXAMシステムを起動させた。

 

 

<EXAMシステム、スタンバイ>

 

 

 どこかで聞き覚えのある……ララァ=スンによく似た声のマシンボイスの後、イフリート改のモノアイが深紅に染まり、途端に私への殺気にも似たものが放たれる。

 一瞬制御に失敗したのかと思ったが、その殺気はすぐに成りを潜めた。

 

「大丈夫か、シャア?」

 

『……ああ。

 この衝動はララァのものであって、ララァのものではない。

 それに流されなどしないさ』

 

「それでいい。

 ニュータイプの感覚だけを、今は素直に受け入れ、思うままに機体を操るといい」

 

『そうしよう。

 テストを続行する』

 

 EXAMシステムを発動したイフリート改は、テストをこなすべく飛び去っていく。その先のテスト機動は、今までとは比べ物にならない。

 どうやらシャアはEXAMシステムを順調に使いこなせているようだ。そのことにホッと息をつくが、同時にそのテスト風景に物足りないものを感じてしまった。シャアの実力では、淡々とした動かないターゲットへの射撃や回避機動の試験など、退屈なだけだろう。

 それに……今のシャアにはどこか『戸惑い』のような雑念を感じる。

 そこまで考えると、私はちょっとしたことを考えてニヤリと笑った。

 

「メイ嬢、聞こえているかな?」

 

『何、お兄さん?』

 

「なに、今すぐに用意してもらいたいものがあるのだが……」

 

 私はちょっとしたイタズラのために、メイ嬢にそれの用意を頼んだのだった……。

 

 




というわけでここからのシロッコの愛機はギャンでした。
弱点の克服された、ギャンはいいものだ!

イメージ的にはゲルググB型のバックパックを付けて、ビームライフルとビームサーベルとグフシールドを付けたギャンです。
プラモで再現すると結構見栄えがいい。グフシールドって格好いいなぁ。

次回もよろしくお願いします。


追伸:ビルドファイターズトライ、次回はギャン子登場!
   ギャン子なのにギャンじゃない!
   まぁ、Rジャジャはギャンの後継機ですが……。

   第一期のギャン推しといい、時代はツィマッドのものだな。


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第27話 エースたちの遊び

今回は短めの話です。



(風を、感じる……)

 

 シャア=アズナブルがEXAMシステムを発動させたイフリート改の中で思ったのはそれだった。

 モビルスーツの装甲越しだというのに、まるで生身のままにその場に立っているような感覚。その感覚に、シャアは戸惑いを覚えた。

 

(『世界』とは……こんなにも様々なものに満ち溢れているのか……)

 

 あまりに多くのものが感じられすぎて、逆に恐怖すら覚える。

 そんなシャアを、ララァの幻影が微笑むように見下ろしていた。

 

「……そうだな。 これがララァの、そしてシロッコの感じている『ニュータイプ』の世界なのだな」

 

 『ニュータイプ』……シャアの父、ジオン=ダイクンが提唱したジオニズムによってその存在が予見されていた、宇宙に進出した人類の新しい姿。

 その実在と感覚を実感することで、シャアは人類の可能性を感じていた。同時に、すでにその域に達しているララァやシロッコに羨望を覚える。

 そこまで考えて、シャアは頭を振って苦笑した。

 

(いや、今私がシロッコに感じているのはもっと子供じみたことか……)

 

 シャアは、自分がシロッコに感じているものがただの嫉妬だと気付いた。それもララァと同じ感覚・感性を共有しているということへの嫉妬……子供じみたララァへの独占欲の裏返しだ。そのことを自覚すると、どうしても苦笑が漏れる。

 

(……とにかく、今はこの感覚を受け入れ、自分のものにしなくては)

 

 自身の中の余計な雑念を振り払ったシャアは再び機体のテスト過程に戻る。

手足と同じ感覚でモビルスーツが動く感覚、今まで以上にスムーズでそれでいて鋭い動作でテストをこなしていくシャアだが……。

 

<少佐……>

 

「むっ!?」

 

 ララァの声に導かれるように背中越しに感じた気配に、シャアはイフリート改をサイドステップを踏ませる。すると、今までイフリート改のいた場所がベショリと紫色に染まった。

 

『今の不意打ち、よく避けたなシャア』

 

「シロッコか」

 

 シャアのイフリート改の前に両手に2丁の120mmザクマシンガンを持ったシロッコのギャンが降り立った。

 

「テストの予定にはないが?」

 

『なぁに、君があまりに退屈そうだったのでね。

 余興だよ』

 

 そう言って、シロッコのギャンは左手に持った120mmザクマシンガンを投げてよこす。

 

『それには赤い塗料のペイント弾が装填されている。

 機体完熟も兼ねて、私と模擬戦といかないか?』

 

 シロッコの幾分挑発的な物言い、そしてニュータイプの感覚が無くてもシロッコが今、笑っているのがわかる。

 だからシャアも笑って言葉を返した。

 

「構わないが……部下たちの前で負けてしまうことになるが、君はいいのか?」

 

『はははっ! 言うではないか、シャア。

 士官学校時代は私との模擬戦で負けて、10回は食堂のランチを私に奢ったというのに』

 

「私は同じ賭けで君に11回はランチを奢らせたが?」

 

『記憶のねつ造はいかんな、シャア。

 私はそんなに奢った覚えは無いが?』

 

「私も君に10回も奢った覚えは無いが?」

 

「『……はははははははっ!』」

 

『過去の記憶があいまいなようだが……今日の君の奢りは確定だ、シャア!』

 

「それはこちらのセリフだ、シロッコ!!」

 

 同時に、シャアのイフリート改とシロッコのギャンは同時に引き金を引いていた。互いの弾丸は目標を外し、地面に赤と紫の塗料をぶちまける。

 格闘戦は無いが実戦さながらの撃ち合いを、シャアとシロッコはお互いの先読みとその操縦技術を駆使して続ける。

 ジオントップエース同士の演習……それはそのまま教材に使ってもいいほどの見事な動きの連続だ。イフリート改が射撃をすれば、ギャンは空中に飛び上がりスラスターを操って空中で『横ロール』しながらその弾丸を避ける。

 ギャンが着地と同時にホバーで横滑りしながらイフリート改を狙うと、イフリート改は地面を転がりながらその射撃を避け、ギャンへと射撃を続ける。

 

『どうだ、シャア?

 少しは気が晴れたか?』

 

「何?」

 

『動いていれば、余計なことを考えなくても済む。

 目の前のことを自然に受け止めるだけで一杯になるからな』

 

 そう言われて、シャアは理解した。この演習というのはシロッコなりの気遣いなのだ。

 ニュータイプの感覚への戸惑い、そして羨望や嫉妬といった自分の負の感情をシロッコは何となく察して、気晴らし半分のつもりでこんな演習を仕掛けてきたのだろう。

 事実、シロッコとの演習を始めてからニュータイプの感覚に対する驚きもなく、むしろ今はそれを駆使してシロッコに追い付こうという考えしかない。戦いの中、余分な感情は無く素直にニュータイプの感覚を受け止めていた。

 相変わらず……よい男だ。

 

「……気遣い感謝する、シロッコ」

 

 友の気遣いに、シャアは先程までの羨望も嫉妬も抜け去り、自然に礼を言っていた。

 

『ほぅ……では私の勝ちで、奢りということでいいかな?』

 

「いいや、私も中々負けず嫌いでね。

 感謝の気持ちは、君に奢らせることで表そう」

 

『シャアよ、言葉の意味を辞書で調べることを勧めるぞ。

 内容が支離滅裂ではないか』

 

 シロッコが苦笑し、シャアも自然と微笑んでいた。

 しかしそれも一瞬のこと、シャアは真剣な表情に戻るとレバーを握り直す。

 

「シロッコ、そろそろ決着を付けよう」

 

『そうだな。

 私も今そう思っていたところだ』

 

 そして……シロッコとシャアは同時にペダルを踏み込んだ。

 互いに一直線にギャンとイフリート改が突き進む。そして……同時に発砲。

 

『くっ!』

 

「ちぃ!?」

 

 互いに直前で銃を持っていない方の手で銃の方向をずらされ、お互いの弾が見当違いの方向へと着弾する。

 そこからは極至近距離での、銃による捌き合いだ。敵の銃身の方向を見極め機体を捻りかわす、そして再びの発砲。だが再び直前で銃身を払いのける。お互いに相手の行動を先読みしながらの、高度な極至近距離格闘射撃戦だ。

 それはまるで東洋武術の組手のような、相手との間の「陣地」を奪い合う舞のようでもある。

 そして……。

 

『もらった!!』

 

「終わりだ!!」

 

 

 ガウン!ガウン!

 

 

 同時に、2発の砲声が鳴り響いた。

 

『この勝負……』

 

「引き分けだな」

 

 ギャンとイフリート改双方のコックピットハッチは、べったりと塗料で染まっている。これが実戦なら双方コックピットを貫かれ戦死である。

 

「この場合はどうする、シロッコ?」

 

『お互いに奢るということでいいだろう。

 これでイフリート改のテストは終了だ。

 戻ろうか、シャア』

 

「ふっ、了解した」

 

 シャアは幾分か軽くなった心とともに、シロッコとともにキャリフォルニアベースへと戻っていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 私がシャアとメイ嬢、そしてクスコとともに食堂にやってくると、そこには先客がいた。

 マリオン、ニキ、レイチェル、エリス、そしてハマーン嬢とレイラ嬢の6人が揃って幸せそうな顔でケーキを食している。

 それをシャアの部下であるアポリー中尉とロベルト中尉が苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。

 

「どうしたのだ?」

 

「あっ、少佐!」

 

 私に気付いたニキが立ち上がり、同時にハマーン嬢とレイラ嬢を除いた全員が立ち上がると敬礼をしてくるが、私とシャアはそれに敬礼で返すと座るように手でジェスチャーする。

 

「で、どうしたのだ?」

 

「いえ、みんなで戦利品を頂いているだけです」

 

「戦利品?」

 

 聞けばどうやらこのメンバーでコンビでの演習をやったところ、アポリー・ロベルト組が敗北し、全員にケーキを奢らされることになったという。

 彼ら2人もまだ地球の、そして与えられたドワッジにも慣れていないだろうからマリオンたち私の部下に負けるのはわかるが、驚いたことにハマーン嬢とレイラ嬢のコンビにも敗北したという。

 フラナガン機関でのモビルスーツの訓練は一通り受けているとは聞いていたが、まさかそこまでとは思いもよらなかった。

 

(いや、ここは流石というべきか……)

 

 ハマーン嬢とレイラ嬢には、ニュータイプの素質がある。その力はやはり絶大なのだろう。ただ、こうして幸せそうにケーキを頬張っているのをみると、歳相応の少女にしか見えない。その光景を、私は微笑ましく感じた。

 

「いやぁ、美味しい美味しい。

 悪いですね、アポリー中尉もロベルト中尉もゴチソウサマです!」

 

「……悪いと思ったら、少しは遠慮ぐらいしろよ」

 

 レイチェルの白々しい言い草に、アポリー中尉は憮然として言い放つ。

 

「次もよろしくお願いしますね!」

 

「今日はまだ地上に慣れてなかったからたまたまだ。

 次は負けるかよ」

 

 次まで言い出したレイチェルにアポリーは肩を竦めた。

 

「だいたい、ケーキなんて頬張りやがって……。

 ここは戦場だぞ。 そんな甘ったるい匂いの戦場があるかよ」

 

 よほど悔しいらしい、アポリーもロベルトも少々不機嫌そうにしているため、そんな2人を隣に座ったシャアが諌める。

 

「まぁ、そういうな。

 糖分は疲労回復の効果がある。 ある意味では戦場に必要なものかもしれんぞ」

 

「ですが戦地でケーキってのは……」

 

 アポリーはなおも何か言いたそうだったが、その時座った私とシャアの前に注文していたものが持ってこられた。

 

「お待たせしました、『紫芋のタルト』に『ラズベリーレアチーズケーキ』です」

 

 私の前には紫色をした『紫芋のタルト』が、シャアの前には赤い『ラズベリーレアチーズケーキ』がホールで置かれる。

 それを見て、アポリーとロベルトは目が点になった。

 

「あのぉ……シャア少佐にシロッコ少佐? それは一体……?」

 

「見ての通り、シロッコに奢らせた『ラズベリーレアチーズケーキ』だが?」

 

「私の方もシャアに奢らせた『紫芋のタルト』だが?」

 

 先程の互いの賭けの結果である。

 

「言っただろう、糖分は疲労回復の効果があると。

 それにケーキといったものは、重力の無いところでは喰えないからな。

 貴重なものだぞ」

 

「は、はぁ……」

 

「さぁ、切り分けよう。

 メイ嬢もクスコももちろん食べるだろう?」

 

「私の方もどうかな?」

 

「あ、いただきます!」

 

 かくしてリザド隊一同とシャア隊は、ケーキを摘まみながら交流を深めたのだった。

 ちなみにこの時の『紫と赤のケーキを食べるシロッコとシャア』という場面は写真に収められ、基地内はおろか本国にまで流出することになるのだが、それはまた先の話だった……。

 

 




MSガン=カタとはニュータイプの先読みを用いたMS戦闘術である。
これを極めることにより攻撃効果は120%上昇、防御面では63%上昇。
MSガン=カタを極めたものは無敵になる!

……そんな演習風景でした。

劇場版Zでは、みんなでケーキを食べるシーンがお気に入りだったりします。

次回はギャンとイフリート改の初陣です。
場所は……ヒルとゲリラがお出迎えの緑の地獄。
来週もシロッコと地獄に付き合ってもらう。


追伸:ビルドファイターズトライが面白い。
   ギャン子ちゃん、動くといい感じだった。『北宋の壺』のネーミングセンスはさておいて。
   Rギャギャが少し欲しくなってしまった……。


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第28話 闇夜の森

今回からしばらくの間、シロッコたちは戦線を移動することになりました。

ギャンとイフリート改の初陣です。



「よし、この先は河だ!

 逃げたジオンの連中だって足が止まるはず!

 そこを叩くぞ!!」

 

 彼は部下たちにそう通信してから、自身のザクを走らせる。

 渡河には大きな危険を伴う。どうしても行軍速度が遅くなり、背中を見せることになるからだ。特にこの先の河には橋は無い。いかにモビルスーツだろうと速度が遅くなるのは必至であり、追う側としては大きなチャンスだ。

 やがて彼は部下の5機のザクとともに森を抜ける。

 

「居たぞ!」

 

「やった、カモだ!」

 

 そこには渡河の真っ最中のジオンのモビルスーツ2機の姿があった。『ザク』と『グフ』である。どちらも損傷は激しく、グフなど左の肘から先が無くなりそのスパークが闇夜の中に浮かび上がっている。それが背中を向けながらのろのろと河を渡っているのだ、これほど簡単な相手は居ない。

 連邦兵たちは意気揚々と100mmマシンガンを構えて撃とうとした。

 その時だ。黄色い閃光が闇夜を貫き、連邦のザクの1機を撃ち抜いた。

 

「な、なんだ今のは!」

 

「ザクが一撃で!?」

 

 突然のことに混乱するその一瞬の隙を付き、横合いからの爆発でザクの1機の左腕が吹き飛び、その方向を向こうとした瞬間に再びの爆発で今度は胴体がバラバラに吹き飛ぶ。

 

「何っ!?」

 

 慌ててモニターを向ければ、そこには河の上を滑りながらジャイアント・バズを射撃するドワッジの姿があった。

 ホバー推進システムは水上を走ることもできる。本来はジャングルの中ではドワッジは有効に動けないが、河を地面に見立てることで平野と同じような機動をドワッジはしていたのである。

 

「くそっ!? スカート付きか!!」

 

「さっきの光はどこからだ!?」

 

「バカ、やめろ!!」

 

 突然の襲撃に混乱し、ドワッジと、先ほどの閃光の出所辺りに100mmマシンガンを乱射する部下に隊長は制止の声を上げるが、次の瞬間あの黄色の閃光にまた1機のザクが貫かれた。

 

「ここじゃいい的だ!

 森に戻れ、早く!!」

 

 瞬時にして半数の部下を失うことになりながら、隊長は指示を飛ばした。

 事実ドワッジのようなホバー機動のモビルスーツは森ではその行動を大きく制限されることから深追いはしてこないはず。それに先程の敵の狙撃と思われる攻撃も、森の中に隠れてしまえば当たるものではない。

 しかし……。

 

 

 ピピピッ!!

 

 

「なにぃ!?」

 

 機体のセンサーの反応に慌ててその方向を向こうとした瞬間、2機のモビルスーツが跳び出してくる。サンドカラーの見たことも無い細身のモビルスーツだ。

 その機動性はこの戦線においてもっとも厄介な相手といわれる『グフ』を遥かに超えている。そして、そのうちの1機の持つ銃から黄色い閃光がほとばしり、ザクを貫いた。

 

「これはビーム!?

 ジオンはビーム兵器の開発に成功したのか!?」

 

 隊長も、噂ではビーム兵器の開発の話は聞いたことがあったが実物を見たのは初めてだ。噂では宇宙戦艦の主砲並の威力があるというが、いとも容易くザクを撃墜した辺り誇張というわけではないだろう。その事実にサァっと血の気が引く。

 もう1機はビーム兵器ではなく、通常のマシンガンをザクへと浴びせかけてきた。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!?」

 

「バカ、森から出るな!!」

 

 先程のビーム兵器のせいで半ば恐慌状態にあった最後の部下である新兵は、その新型機のマシンガンから逃げるために、追い立てられるように森から飛び出してしまった。

 しかしそれこそが狙いだ。森から出た瞬間、2機のドワッジのジャイアント・バズの射撃が飛ぶ。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!?」

 

 咄嗟に直撃だけはさけるが、ジャイアント・バズの炸薬の爆発にあおられ、動きが止まる。その瞬間、どこからともなくあの黄色いビームの狙撃によって新兵のザクは貫かれていた。

 

「こ、こんなバカな……」

 

 瞬時にして自分以外の部下が全滅したことに、隊長は焦りと恐怖でカラカラになった喉から声を絞り出す。

 そんな連邦隊長機のザクを、ビーム兵器を装備した敵の新型がゆっくり見つめ、そしてモノアイが赤く輝いた。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そのモノアイの輝きに、彼の精神は耐えられなかった。雄たけびを上げながら、破れかぶれでヒートホークを抜き放ち、その新型に斬りかかろうとする。だが次の瞬間、ビーム兵器の閃光が走り、彼のザクの右腕をヒートホークごと吹き飛ばした。

 そしてマシンガンを装備していた方の1機が急接近、手にした筒からの閃光が剣に変わる。

 その光の剣……ビームサーベルによってコックピットを貫かれ、彼の肉体は瞬時に蒸発したのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 夜のジャングルは暗く、不気味だ。

 その闇夜のジャングルを3機の青い、連邦のザクが歩いていた。

 その3機は100mmマシンガンを構えながら矢の形……アローフォーメーションをとって互いに周囲を警戒しながら歩いていく。

 

「「「……」」」

 

 彼らは無言だ。

 今は勝ち戦の追撃戦とはいえ、この地形ではどこで奇襲を受けるか分かったものではない。そのためセンサーの感度はすでに最大、周辺警戒を厳として慎重にジャングルを進んでいる。

 短期間ながら訓練で叩きこまれた基本をよく守った、正しい姿である。

 しかし、マニュアルというものは何時の時代も穴があるものだ。万全だと思うマニュアルの通りに動いても、想定外の出来事によって対処できなかった事例などそれこそ掃いて捨てるほどある。

 そしてマニュアルというものには、『一般的に起こりえること』しか載っていない。悲しいことにどんな優秀なマニュアルにも、『怪物と出会った時の対処法』など載っていないのである。

 

 

ゴゥ!!

 

 

「「「!!!?」」」

 

 突然の爆音にも似たスラスター機動音に、3機のザクは同時に空を見上げた。

 そこには、月を背に跳び上がる見たことも無い赤いモビルスーツの姿があったのだ。

 ジオン特有の赤く輝くモノアイがレールに沿って左右に揺れる。それはまるで獲物を前に舌なめずりするかのようにも見えた。

 

「ジオンだ! 撃ちまくれぇぇぇぇぇ!!」

 

 隊長のその言葉を皮切りに3機のザクからの100mmマシンガンの連射がその正体不明の赤い機体に向かって放たれるが……。

 

「!? バカな、なんだあの機動性は!?」

 

 その赤い機体は空中で『横にロール』をしながら、100mmマシンガンのロックを振り切って着地をする。

 そして大地を蹴って3機のザクに向かって走り出した。

 

「は、速すぎる!?」

 

「何だこれ!?

 グフの倍以上は速い!!?」

 

 赤い機体の尋常ならざる速度に、連邦兵から悲鳴が上がる。この戦線では陸戦に特化した『グフ』を見かけることも多いがその速度も相当なもので、『グフ』を相手にする場合ザクではとにかく距離をとって射撃戦に持ち込むようにと教え込まれている。

 だが、この赤い機体はその『グフ』など比べ物にならない速度だ。それもそのはず、この赤い機体は踏み込みと同時にブーストを吹かしているのだ。

 これは言うほど簡単な技術ではない。踏み込みとブーストのタイミングを完全に合わせることが出来なければ、即座にバランスが崩れて転倒してもおかしくない。だが、この赤い機体はその超難度の機動を、流れるかのように淀みなく行っているのだ。だが目の前に迫る脅威への対処で精一杯の連邦兵には、それを考える余裕はなかった。

 その別次元の速度と赤い色が、連邦兵たちにどうしてもいやなものを連想させてしまうからだ。

 

「この速さに赤い色……まさか、まさかまさか!!??」

 

 そして、ついに赤い機体が3機のザクの作る三角形(トライアングル)の中心に潜り込んだ。

 

「しまった!?」

 

 『数の違い』というのは確かに有利不利に関わる大きな事柄だが、その数の違いというのは懐に入り込まれると無効化されてしまう。何故なら、懐に飛び込まれた場合同時に攻撃できる数と手段は限られてしまうからだ。それを考えない場合、起こるのはみじめな同士討ちである。

 だが、その状況に持ち込むためには敵の砲火に自ら飛び込んで掻い潜る必要があり、それは普通中々上手くいかない。

 だが、この赤い機体のパイロットはそれを難なくやってのけたのだ。そのために必要な、自分の技量への自信と愛機への信頼、そして敵の砲火に身をさらすことも厭わない勇気のすべてがこのパイロットには備わっている。

 そして、その瞬間に連邦兵たちは、敵のパイロットが誰なのか確信した。

 

「『赤い彗星』シャア=アズナブル!?

 何でこんな戦線に……!!?」

 

 次の瞬間、赤い機体の両手から黄色い光の刃が伸びた。クルリとその場で、まるでプロペラのように回転する。

 瞬間、巻き起こったのは死の旋風だった。

 黄色い光の刃によって、一瞬で2機が横に真っ二つにされる。一歩引いていたことでかろうじて1機のザクが奇跡的に回避に成功するが、彼の運もそこまでだった。

 即座に赤い機体が一歩を踏み込み、光の刃を構えた両手を振り下ろした。

 光の刃がザクを、Ⅹ字に焼き切る。同時に赤い機体は跳躍、それを追うように3機のザクが爆発した。

 爆発の閃光を背に着地する赤い機体は、黄色い光の刃を消すと再びモノアイを激しく動かし周囲を確認すると、ジャングルの中へと戻っていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「どう……なっているんだ!?」

 

 連邦のザク乗りである彼は今、混乱の極みにいた。

 彼に与えられた任務は追撃任務だ。連邦の攻撃によって撤退していくジオンを後ろから撃つだけの簡単な仕事であるはずだった。

 事実、彼は先の戦いにおいて2機のジオンのザクを撃破することで自分の技術にも自信が持てていた。

 だからこそスコアを伸ばしてやろうという気概のもと、部下たちを率いて来たのだが……その部下たちが次々に何者かによって撃破されているのだ。

 しかも……。

 

 

『こ、こいつ……速すぎる!?』

 

『見たことも無い機体だ。

 な、何だあの光!? た、隊長ぉぉぉぉ!!』

 

 

 そして通信機からは爆音と、その後にはノイズだけが残る。それに苛立たしげに舌打ちすると彼はザクをその場所に向かって走らせた。

 

「見たことも無い機体だと!? ジオンの新型なのか!?」

 

 先程の部下の断末魔の悲鳴を思い出し身震いしながらも、部下たちのことを確認せずにおくわけにはいかない。

 彼は恐怖を押し殺しながら、ザクを進めていく。

 

「……いやな場所だ」

 

 彼は周りの景色を見ながらポツリと呟いた。

 ジャングルという緑の世界は、まるで人を飲み込もうとする巨大な化け物のようだ。その雰囲気はモビルスーツに乗ろうと変わらない。しかも今は夜、不気味さは通常の三倍増しである。

 彼は、怪物の口の中に飛び込むような心境でゆっくりと部下たちからの最後に通信のあったポイントへと進んで行く。

 森の開けたその場所では横に真っ二つにされたザクと、コックピットに大穴の開いた2体の残骸が転がっていた。左肩のシールドにつけられた番号から、部下たちのものであると分かる。

 

「どこだ! どこに居やがる!!」

 

 彼のザクは油断なく100mmマシンガンを構えて、辺りを警戒する。

その時、彼は確かに見た。

 

「紫の……炎?」

 

 闇夜のジャングルの中に、ボゥっと浮かび上がるその炎は不気味にゆらゆらと揺れている。

 

「敵か!?」

 

 一瞬呆気にとられるがすぐに敵だと気付き、100mmマシンガンをその紫に向けて乱射するが……。

 

「何で、何で当たらないんだよ!?」

 

 そんな彼をあざ笑うかのように、ユラユラと揺れながらその紫の炎は彼のザクへと接近してくる。

 そして、遂に彼はその姿を認めた。

 この戦線ではよく見かけるザクやグフ、そしてドムとはまるで違う。  シャープな細身のその機体は、まるで中世の騎士だ。そのシャープな外見の通りの、ザクやグフやドムとは別次元の高機動で動きまわっている。

この戦線では始めて見る、ジオンの新型のモビルスーツである。

 だが、彼の心臓を心底震えあがらせたのはそれが新型だからではなかった。

 その機体は、紫色で塗られていたのだ。

 ユラユラ揺れる、不吉な紫の炎といえば……。

 

「『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』パプティマス・シロッコだと!?

 あいつは北米にいるんじゃないのかよ!!?

 何で、何でこんな戦線に!?」

 

 彼の驚きはすぐに絶叫に変わり、狂ったように100mmマシンガンを乱射させる。過熱した砲身が闇の中に赤い色を浮かび上がらせるが、それでも紫の機体に傷を穿つことは叶わない。

 そして紫の機体が銃口をザクへと向ける。

 次の瞬間、ほとばしる黄色の閃光の中に彼の意識は永遠に溶けていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……これで周辺の敵は始末できたか……」

 

 私は額の汗を拭うと、通信を開いた。

 

「こちらの敵は排除できた。

 そちらはどうか?」

 

 ややあってクスコからの通信が帰って来た。

 

『こちらも問題ありません。 味方の撤退を援護し、敵を撃破しました。

 ニキ『少尉』たちも、いい働きです。

 特にマリオン『少尉』の狙撃精度は相変わらず凄いですね』

 

「分かった。詳しい報告は後で聞こう。

 味方を援護しつつ、撤退ポイントにまで下がってくれ、クスコ『大尉』」

 

『了解しました、シロッコ『中佐』』

 

 クスコへの指示を終えると、私は次の相手を呼び出す。

 

「シャア、そちらはどうだ?」

 

 すると跳躍した赤い機体が私のギャンの傍らに降り立つ。シャアのイフリート改である。

 

『こちらも敵を撃破した。 しばらくは追っては来れまい。

 もっとも……この地形では防衛ラインなど有って無いようなものだ。

 どれだけ連邦の部隊を防げたか分からんがな』

 

「この場所では、戦線とはまさしく『点と点』だからな。

 さぁ、我々も戻ろう」

 

『了解しました、シロッコ『中佐』どの』

 

「……君に言われると、何やらこそばゆいな」

 

 未だ慣れぬ呼称に苦笑して、私は再びしたたる額の汗を拭った。

 ここは爽やかな気候のキャリフォルニアベースでは無い。

 ここはジメジメとした湿気と生い茂る緑の地獄……『東アジア戦線』だ。

 

 




というわけで今回から『東アジア編』の開始です。
どうしてこうなったかという状況説明は次回に。

そして東アジア地区と言えば当然ですが、あの人たちの登場です。
次回もよろしくお願いします。


追伸:ビルドファイターズトライ、ギャン子の知名度が非常に高くてビックリ。
   やはりギャン使いとしてかなり強かった模様。
   そしてグリグリ動くSDガンダムが見れて幸せです。

   ……SD編ということでジオダンテでないかなぁ?


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第29話 東アジア戦線へ

今回はシロッコたちが東アジア戦線にやってくることになった話。

そしてやっと、ついに、ちらりとあの機体が出てきます。
完成はまだ遠いなぁ。



 そもそも、私たちが『東アジア戦線』にやってきたのには理由があった。

 

「ふぅむ……」

 

 6月も末にさしかかろうというその日、私はキャリフォルニアベースの奥にある、私の工房にいた。

 次々に新技術を生み出すこの場所は最高の防諜を誇る場所だ。この場所に出入りできるのは私の認めたメイ嬢やマリオンたち部隊の者、他に信頼できる数人ほどであり、今ここにいるのは私1人である。

 もっともその過剰な防諜体勢のせいで『シロッコの連れ込み宿』やら『シロッコのおもちゃ箱』など揶揄されているのはいささか不愉快な話だ。

 とにかくその工房で私はその日、ジオン本国からのメールを端末で眺めていた。

 そのメールの相手というのは、あのオリヴァー=マイ技術中尉である。度々縁のあった彼と私はこうして個人的に情報交換を行う関係になっていた。

 今回送られてきた内容、それは私にも深く関わるものである。それはついに始まった時期主力モビルスーツコンペの内容であった。

 私の手掛けたツィマッドの『ギャン』とジオニックの『ゲルググ』……この2機の各種性能を比較し、その優秀さを競う技術の勝負だ。どうやらマイ中尉もこのコンペに技術評定役の一員として参加しているらしく、その状況を事細かに送ってくれるのはありがたい話である。

 しかし、私は今回の採用はジオニックの『ゲルググ』で決まりだろうと心の中では考えていた。

 私の『量産型ギャン』は性能では『ゲルググ』を凌駕しているという確固たる自信はある。しかしジオニックにとって社運を賭けた『ゲルググ』は、私の提出した『量産型ギャン』に比べて『格段に劣っている』わけではない。十分に納得できる性能は持っているのだ。ジオニックの政治力は絶大であり『ゲルググ』の性能も十分なら、私としては今回の正規採用の座など『ゲルググ』に渡してもよかった。だからこそ今回の『量産型ギャン』は数々の新機能を投入した、『エポックメイキング的要素を大量に取り入れた新技術実証機』に近いものに仕上がっている。そのため、生産性や整備性の面でやや難のあることは私自身認めているし、敢えて無視した。その辺りを鑑みて、最終的な軍配は『ゲルググ』に上がるだろうと考えている。

 だから、私が今回求めているのは他のものだった。

 

「……どうやらジオニックの技術者への良い刺激になっているようだな」

 

 マイ中尉のメールではその技術力と独創性にジオニックの技術者たちが青い顔をし、そのすぐ後に『量産型ギャン』の詳しいデータを穴が開くほどに見ていたらしい。いい傾向である。

 特に顕著だったのは『ゲルググ』の開発主任だ。

 

「『ギャンの優秀性はゲルググを越えており、一対一ではゲルググはギャンに敵わないだろう』……か」

 

 『ゲルググ』の開発主任の言葉のようだ。

 正直すぎて、いささか彼の今後に不安を覚えるが、自分の手掛けた機体だからという思いにとらわれず客観的に優秀性を認めるというのは技術者として正しい見方であり好感が持てる。

 

「名前は……ほぅ、あの『エリオット=レム』、か……」

 

 彼の名前は『原作』でも聞いている。高機動型ザク開発で有名で、ドムやゲルググが登場してもザクの強化にこだわり続けていたほどの技術者である。

 どうやらこの『世界』では例の『ザク情報漏えい事件』のせいでザクの命運が絶たれ、そのままジオニックの新型機『ゲルググ』の開発主任をやっているようだ。

 

「……できることなら、彼のような技術者をもっと抱え込みたいものだ」

 

 そう言って、私は椅子に深く身体を預ける。

 連邦は強大だ。国力・工業力・人的資源で劣るジオンにとって、唯一の希望は技術的な優位とそれを生かした戦略で連邦に出血を強いる他ない。

 だからこそ2歩3歩と技術を進めなければ、勝利はありえないのだ。

 

「ギャンとて、所詮は次のための繋ぎであるしな……」

 

 そう言って私は工房の奥……厳重に封印されたブロックを眺める。

 そこでは今、3体のモビルスーツをゆっくりとだが作成中だ。

 1機は『骨格』のみの状態で鎮座しており、各種実験と調整、修正とを行っている。

 

「全天周囲モニターとリニアシートは問題ないな。

 コックピットのイジェクションポッド化も設計上は問題ないはずだが……これもそのうちテストせねばなるまい」

 

 一番作成の進んでいる『骨格』のみの機体のテストデータを眺めながら私はひとりごちる。

 結果は悪くない。いくつかの検証と修正を加えていけば、この機体もそう遠くないうちに戦線に投入できるようにはなる。

 

 残りの2機はまだ10%にも満たない作成率であるが、かなり巨大なモビルスーツであることは少し完成した脚部だけで見て取れるだろう。

 このように次に次にと技術を進めていかなければ、勝ち目はない。

 だが一気に技術を出し過ぎるのも問題があり、私は大いなるジレンマを抱えながら開発を行っていた。

 そんな風に物想いに耽っていた時だ。

 

 

 ピピピッ!

 

 

「ん……?」

 

『シロッコ少佐、ガルマ様がお呼びです。

 すぐに司令室に来てほしいと……』

 

「分かった、すぐに行く」

 

 内線での呼び出しに答え、私は端末を閉じると司令室へと向かった。

 

「シロッコ、よく来てくれた……」

 

 司令室にはガルマ、そしてシャアがすでにおりソファへと腰掛けている。

 

「ガルマ……その……大丈夫なのか?」

 

 私はガルマの顔を見た途端、思わずそう口に出していた。それほどに今のガルマの顔は酷い。目の下に大きなくまをつくったその顔は、明らかな疲労の色を隠せていない。

 だが私の言葉にガルマは笑って答えた。

 

「なに、前線の兵たちの苦労に比べれば、こんなものどうということではないよ。

 それに……僕の戦いは今が踏ん張りどころだからね」

 

 キシリアの死後、地上の全権を任されることになったガルマにはその引き継ぎとも言える仕事が当然のように大量にあった。だがガルマは今それ以外にも大きな仕事を抱えており、それのために奔走しているのだ。

 

 ガルマは地球降下作戦以降、一貫して占領地の統治には気を配り続けていた。軍の規律を徹底して住民に対して非道を行わないようにし、治安維持や都市の復旧支援として貴重な戦力や物資を割いたりもしている。その甲斐あってジオンは少なくとも北米において住民から確固たる支持を得ていた。連邦が撤退の際、物資の強制的な徴収……ありていに言って略奪行為を行い、住民感情を悪くしていたのもこれに手伝っている。

 そして、それが意外な形で実を結んでいた。ガルマの心奪われた女性であるイセリナ=エッシェンバッハはニューヤーク前市長の娘であり、その父であるエッシェンバッハ氏がガルマのそれらの人道支援措置を見て、その交際に賛成の立場をとったのである。友人としてガルマの恋愛がうまくいきそうだというのは喜ばしいことだが、これはそれだけに留まらなかった。

 エッシェンバッハ氏は連邦の中央議会にも太いパイプを持っていた。ガルマはエッシェンバッハ氏の伝手でこのパイプを利用できるようになったのである。ガルマとしてはこんなことなど考えもせず純粋にイセリナ嬢との恋愛を進めていただろうが、まさに『棚からぼた餅』といったところだ。

 『戦争』とは交渉の一種である。

 『戦争』とは極端に言えば『話し合いで解決しないから、ぶん殴って言うことを聞かせる』というものでしかない。ましてや、どちらかが滅びるまで続けるというものでもない。だからこそどこかで落とし所を見つけなければならないが、そのためには相手側に政治的な味方をつくることも重要である。

 このところのガルマはこのパイプを使って政治工作に奔走していたのだ。

 

「身体をいとえよ、ガルマ」

 

「わかっている……と言いたいが、これから2人に厄介なことを頼む身としてはこの程度の無理は無理のうちに入らないよ」

 

 そう言ってガルマは私に座るようにソファを勧めた。

 

「まずはいい話だが……シロッコ、色々あって遅れてしまったが君や君の部隊の昇進が決まったよ。

 おめでとう、シロッコ中佐」

 

 それはフェニックス大会戦からこっち、『ザクの情報漏えい事件』や『キシリア死亡事件』などで忙しく、先延ばしになっていた昇進の話だ。

 資料を見れば私が『中佐』に、クスコが『大尉』、マリオン・エリス・ニキ・レイチェルの4人が『少尉』とモビルスーツ隊の人間の階級が1階級ずつの昇進となった。

 さらに見れば、フェニックス大会戦で活躍した『外人部隊』や『闇夜のフェンリル隊』、そして『サイクロプス隊』などの大きな功績を挙げた特殊部隊に対しても軒並み昇進や賞与等の措置がとられている。

 これはキシリア亡き後を継ぐにあたって、ガルマの心証を良くするための一種の『ばら撒き』であるが、その効果のほどは高い。

 

「おめでとう、シロッコ中佐。

 一歩抜かれてしまったな」

 

「なに、君ならすぐに追いつくさ、シャア」

 

 シャアの言葉に私は少し気恥ずかしく手をヒラヒラと振って流すが、ガルマは少しだけ神妙に同意した。

 

「……そうだな、シャアの実力ならすぐに追いつくだろうさ」

 

「その言い草とこのタイミングでの私の昇進……私とシャアはどの戦区で暴れてくればいいのかな?

 東側の情勢があまり良くないとは聞いているが……?」

 

 最上位の階級者が複数居ては、部隊の命令系統に支障が出ることもある。これは私の階級をシャアより上にして私とシャアを派遣部隊として送り、滞りなく部隊運用するためだと私は読んだ。

 そうなればその戦線は間違いなく激戦区、しかも最近あまり戦況の良くない場所だろう。

 

「流石はシロッコ、耳が早いな」

 

 そう言って頷くと、ガルマはスクリーンを起動させ戦況図を映し出す。

 

「シロッコから提案のあった大規模通商破壊作戦はかなりの効果を挙げている。

 おかげで連邦の動きは全体的に鈍化していることが確認できた。

 しかし……一部では未だに連邦の動きが活発な地域もある。

 それが『東アジア地域』だ」

 

 東アジア地域は資源の豊富な土地だ。それこそ、ここで採掘される資源だけでこの地域の連邦軍の腹を満たせるだけの各種の豊富な資源が採れる。しかも、産地から工場までの海上移動距離も短いため、通商破壊をしようにも連邦の防御が集中・徹底しており難しい。

 海がダメなら陸から攻め落としてしまえば……と思うと、今度はジャングルなどの低インフラ地帯が軍の足を止める。

 この地域は攻めにくく守りやすいという拠点としては絶好の場所なのである。

 

「連邦の一大拠点マドラス……ここで生産された大規模部隊がペキン攻略のために接近中だ。

 規模としてはフェニックス大会戦と同等か軽く越える規模の部隊だな。ペキンを守るには数が足りないし、守りきれたとしても長期的な維持は不可能だろう。

 そこで、ジオン地上軍は遺憾ながらペキンの放棄を決定した」

 

 ……仕方のない判断だろう。ペキンはそこまで重要拠点というものでもない。そこで変に固執して戦力をすり減らすことの方が問題だ。

 

「今、ペキンは撤退準備の真っ最中、準備ができ次第西側へと撤退を行う。

 だが当然連邦も追撃を行うだろうし、迎撃の準備も整わないうちに侵攻された場合、あの地域を担当するギニアス少将の戦力だけでは防ぎきれるかどうかわからない。

 もしギニアス少将が敗れ東アジア地域一帯をとられた場合……」

 

「西のオデッサか……」

 

 シャアの言葉に、ガルマは頷く。

 

「オデッサは重力戦線の重要拠点だ。 ここを陥とされるわけにはいかない。

 そのためギニアス少将から援軍の要請は来ているが……どこも人手不足でいっぱいいっぱいだ。

 しかし、地上軍の司令として友軍の危機を黙って見ているわけにはいかない。

 そこで……僕から最大の援軍をギニアス少将に送りたいと思う。

 シロッコ、シャア……行ってくれるか?」

 

 ガルマのその言葉に、私とシャアは立ち上がるとビシッと敬礼をする。

 

「了解しました、ガルマ少将閣下。

 必ずや連邦の足を止めて見せましょう」

 

「私とシロッコ中佐の力で、勝利の栄光を閣下に!」

 

「出立は準備ができ次第で頼む。

 必要なものは何を持って行ってくれてもいい、僕が許可する。

 2人とも……東アジア戦線を頼む」

 

 そんな私たちに、ガルマも敬礼を返した。

 

「では、準備があるのでこれで」

 

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 

 そういって退室しようとした私とシャアを、ガルマが呼び止めた。そして少し言い難そうに苦い顔をして前髪をいじると、意を決したように言う。

 

「実は……ハマーン嬢とレイラ嬢を連れて行って欲しいんだ」

 

「何だと?」

 

 その言葉に、私は思わず首を傾げてしまう。

 

「私たちはこれから戦地に向かうのだぞ。 

 それに同行とは……彼女たちは君の保護する、いわばゲストだ。

 それなのに一体何を考えているんだ、ガルマ?」

 

「……シロッコ、君の言いたいことはもっともだ。

 だが……ここが安全かと言われると、頭の痛い話だがそう言いきれないんだ」

 

 ガルマが言うには、どうやら彼女たち2人の身柄の引き渡し要求がギレンから再三にわたって来ているらしい。ガルマも上手くかわしているようだが……いつまでそれができるかも分からないという。

 

「最悪、ギレン兄さんが強行手段に訴えかける可能性もある。

 このキャリフォルニアベースだって、兄さんのシンパは多い。

 ここが彼女たちにとって完全に安全かと言われると、情けない話だが頷けない……。

 だから、もっとも信用のおける2人に頼みたいんだ。

 彼女たち2人も君たちによく懐いていることだし……頼む」

 

 私はその言葉に、心底呆れてしまった。見れば隣ではシャアも呆れたように肩を竦めている。

 

「この戦時下の忙しいときに、そのようなことをしているとは……」

 

「これから戦地に向かう部隊の方が安全とは……世も末だな」

 

「うっ……それに関しては申し開きのしようもない……」

 

 私とシャアの言葉に、ガルマも心底悪いと思っているらしくどうにも小さくなっていた。私はその姿にため息をつくと言う。

 

「……戦場に絶対は無い。

 それを理解した上でなら他ならぬ君の頼みだ、受けよう」

 

「ああ、頼む。

 2人になら任せて大丈夫だろう」

 

「言ったぞ、戦場に絶対は無いと。

 だが……私の力の及ぶ限りは傷付けさせないことを約束しよう」

 

 どこか楽天的なガルマに再三の釘をさすと、私とシャアは今度こそ部屋を退出した。

 しばらくシャアと連れだって歩き、周辺に人影が無いことを確認すると、私とシャアは同時に大きくため息をついた。

 

「この戦時下に、ザビ家は一体何をやっているんだ?」

 

「マハラジャ=カーン殿を自陣に抱えることのメリットを考えてのことだろうが……この時期にすることではあるまい」

 

 ギレンVSキシリアの政争と同じような、ある種のギレンとガルマの確執に私もシャアも頭を抱える。ギレン=ザビが政治的・軍事的にリーダーとしての器を持っているのは認めるが……何でもかんでも自分の優位に他者を押しのけようとするのは人心掌握の面で大いに難アリとしか言えない。

 この他人をまったく信用しない態度……あの男、人間を好きになったことがない男なんじゃないだろうか?

 まぁ、奴の場合『善意』はないだろうが。

 

「しかし東アジア戦線か……あの辺りはジャングルの多い、ドムのホバー機動が生かせない地形だ。

 少し考えた方がいいかもしれん」

 

 あの地域は地形の関係で、ドムの量産後にもザクや、オデッサで少数量産されていたグフの方が好んで使われていた。何でも生産されたグフの80%以上があの戦線に投入されていることからも、それは分かる。

 

「とにかく準備に入ろう

 私は部隊の招集と、主計課へ物資について話をつけに行ってくる。

 ……後から来いよ、シャア」

 

「……すまんな、シロッコ」

 

 そう言うと、シャアは私に頭を下げてから歩き出した。

 シャアの行き先は検討が付いている。医療ブロックの一画……ララァ=スンの病室だ。彼女は宇宙から地上に来る際に、私たちが一緒に連れて来たのである。

 残念ながらEXAMとクルスト=モーゼスの情報は未だ無い。しばらくここを離れることになるし、その顔が見たいのだろう。

 

「我が友人たちは揃いも揃って春ということか……。

 私も出遅れたものだな」

 

 そう言って私は苦笑してから思考を切り替えると、地形から必要なもの考え出す。

 

「本当は全員ギャンを配備したいところだが……無い物ねだりをしても仕方あるまい。

 クスコとエリスの『量産型ギャン』にニキとレイチェルの『ドワッジ』、私の『ギャン』、それに……『ビームザク』の試作機、あれをある分持っていこう。森林地帯ならドワッジより有効かもしれん。

 シャアの隊の分も合わせると……『ユーピテル』以外にファットアンクル輸送機も必要か……」

 

 ブツブツと呟きながら私は歩き出す。

 

 そして5日後……私の率いるリザド隊とシャア隊は東アジア戦線に到着、ペキンから撤退中の友軍に追撃をかける連邦に、夜闇にまぎれて打撃を加えたのであった……。

 

 




ガルマは山本五十六長官のような軍政タイプだと思うんですがどうか?
イメージ的に政治的才覚はそれなりにありそうなんですが。
重ね重ね、シャアとガルマは合わせるとバランスの取れた存在なのに、どうしてシャアはガルマ殺しちゃうかなぁ……?

本当は東アジアでの整備風景まで入れるつもりでしたが、思いのほか長くなったので次回にまわしました。
次回はメイちゃんとシロッコ先生のビームライフル講座という名の整備話。
そして、あのカッコイイおっさんの登場です。

次回もよろしくお願いします。


追伸:今週のビルドファイターズトライ。
   本当にいろんなMSが見れて楽しい作品です。
   個人的には水泳部には頑張って欲しいところ。しかし、宇宙ステージになったら本当にどうするんだろうか?

   ところで今回一番笑ったのはあの、謎のジムタンク。
   あれは一体なんなんだ?
   いや、むしろキャノンもなく、マゼラベースの機関砲だけで、あいつは一体何がやりたかったのだろうか?
   ガンプラは自由だなぁ(笑)


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第30話 整備士の苦悩

今回は短めで、メイちゃんの整備士苦労話。
宇宙世紀の戦争において整備士って、おそらく一番重要な職じゃなかろうか?


 

「ふぅむ……やはりキャリフォルニアベースとは勝手が違うか」

 

 戦闘から一夜明け、私はメイ嬢からの整備の報告を聞いていた。基本的に問題はないが、この湿気や泥でデリケートなビーム兵器の整備に手間どっているとのことだ。

 

「うん、分かってはいたけど信頼性と稼働率の面でビーム兵器はまだまだ考えることがあるよ。

 その部分だと、やっぱり実弾兵器の方が上だから」

 

 メイ嬢はポリポリと頬を掻きながら報告書を読み上げてくる。

 

「あと心配してたビームライフルの件だけど……計算上、15発だね」

 

「3発も減ったな……1.2倍の消費ということか」

 

 私はメイ嬢の言葉に頷く。

 今私が話をしているのはビームライフルの弾数の話だ。実を言うと、ビームライフルの弾数というものは実弾兵器と違って一定していないのである。

 

 ビームというのは膨大なジェネレーター出力によりメガ粒子を生成・縮退させて、収束し相手に放つ兵器だ。だが、これを行うためには膨大なエネルギーが必要となり、モビルスーツのサイズで携行するには難しい。

 それを可能としたのがエネルギーCAPという技術だ。これはメガ粒子を縮退寸前の状態で保存しておくものである。つまりこの技術によって『生成』の過程をとばすことができるようになり、本体からのエネルギーによって縮退寸前のメガ粒子を反応させて射出することが可能となったのである。

 これによって生まれたのが『ビームライフル』という兵器である。

 仕組みとしては『水鉄砲』を想像すれば分かりやすい。水の変わりにメガ粒子が入っており、それを相手に飛ばすのだ。

 

 さて、ビームライフルはそうして生まれた画期的兵器だが、もちろん問題が無いわけではない。ビームは環境変化に非常に敏感なのだ。

 宇宙でなら何の問題も無いが、大気中ではもちろんその威力が減退してしまう。この東アジア地域は多湿な環境下だから、その減退率はもっと高い。そこで必要なのが、『ビームライフルの調整』だった。

 減退して弱くなるのなら、減退を計算の上でそれでも有効打になるように『1発に使用するメガ粒子の量を増やせばいい』のである。だからこそ、環境に合わせた『1発でどれだけの量のメガ粒子を反応させるか?』という調整が必要になるのだ。

 

 以上の理由でメイ嬢に『この多湿な地域での有効打を放てるように』ビームライフルの調整を依頼していたが、その結果1発の消費が1.2倍となってしまったというわけである。これは中々に問題だ。

 

 まずは純粋に弾数が少なくなる。ビームライフルの仕組みは先に説明した通り、水鉄砲のようなものだ。貯蔵されているメガ粒子は一定なのに消費量を増やせば、弾数が減るのは当たり前の話である。しかも一年戦争期のビームライフルは本体にメガ粒子を貯蔵する方式だ。この方式だと弾の補給は専用の設備を備えた母艦や基地でしかできない。

 いかに強力な武器でも継戦能力が無いのは困る。一応ビームライフルを複数マウントしていくというのもアリではあるが、当然ながら重量がかさんでしまうことになる。補給しにくいビームライフルの弾数が減るというのは大きな問題なのだ。

 

 次に、機体のジェネレーターを酷使する。

 ビームライフルは貯蔵されたメガ粒子に、それに見合ったエネルギーを本体から供給し反応させることで放てる。使用するメガ粒子を増やせば、反応に必要な要求エネルギーも当然増えるのだ。そのため、本体ジェネレーターを圧迫することになる。戦闘中にジェネレーターのパワーダウンなどいきなり起こってはたまったものではないから、この消費エネルギー増加というのは結構に痛い。

 

 さらに内部部品の寿命が速くなる。

 理論上、調整を行えば貯蔵されたすべてのメガ粒子を使用した強力な一撃を繰り出すというのは計算上は可能だが、現実的ではない。それをやろうとすればビームライフルそのものが持たないからだ。同じように壊れるほどに出力を上げなくても、確実に内部部品にダメージは蓄積され頻繁なパーツ交換が必要になってしまい運用のコストが跳ね上がる。

 

 これらの理由により、ことは単純なものではなかった。

 ……こう考えると、『原作』のユニコーンガンダムとビームマグナムは実に規格外だ。

 複数の(エネルギー)パックによる継戦能力の確保、使用出力調整をコックピットのボタン一つで行えるオート機能、そして大量のメガ粒子を反応させるのに足るユニコーンガンダムのジェネレーター出力と、それだけの攻撃を連続して行えるタフな砲身とシステム……なるほど、ガンダムの極致の一つというだけのことはある。

 

(少なくとも、(エネルギー)パックくらいは早めに開発して投入すべきだな……)

 

 私は次の開発方針を心の中でひそかに固める。

 

「状況は分かった。

 だが、ビーム兵器の威力はその欠点を補って有り余る。

 苦労かけると思うが整備の皆の頑張りに期待させて欲しい」

 

「うん、分かった!」

 

 そう言って元気に頷くメイ嬢に私は笑って先を促す。

 

「次に各機体の状況だけど……お兄さんやクスコさん、それにエリスさんの『ギャン』は問題なし。

 相変わらずお兄さんの専用ギャンの動きは凄いから膝を中心にストレスはあるけど、一応は許容の範囲内だね。

 同じようにニキさんとレイチェルさんの『ドワッジ』にも問題ないよ」

 

 全員、昨夜の戦闘では目立った損傷は無かったのでその辺りは問題はなさそうだ。

 

「次にマリーのザクだけど……」

 

 その言葉に、私は思わず奥に視線を巡らせた。

 そこには1機の茶色のザクが整備を受けている。

 それはマリオン専用の『ビームザク・スナイパー』である。ビーム兵器実験機だったビームザクを狙撃型にカスタムしたものだ。

 頭部を通常のザクタイプから強行偵察型ザクに使用されるカメラ強化されたタイプに換装し、背中のランドセルから円盤……複合レーダーレドームが左の肩の位置に来るようアームで取り付けられている。ビームスナイパーライフルによる狙撃を念頭に入れたカスタム機だが、狙撃だけの機体ではない。

 接近戦用にビームサーベルを装備し、機動性も悪くは無い。当然ながらビームライフルも扱えるので、狙撃の必要が無いような場合には他のモビルスーツとともに通常戦闘が可能だ。この『ビームザク・スナイパー』、『原作』での『ジムスナイパーカスタム』に相当するような『狙撃にも対応させた全体性能向上機』として仕上がっているのである。

 

「結構急造のカスタムだからどこか不具合が出るかと思ったけど、特に不具合は確認できないよ。

 流石お兄さんの設計だね」

 

「当然だ。

 マリオンを欠陥のある機体などには乗せられんからな」

 

「ただ機体自体は問題ないけど、マリーが射撃システムがちょっと甘いから調整して欲しいって」

 

「ふむ……」

 

 

 ビームは重力・磁場・地球の自転・湿気……あらゆる環境すべての影響をうける。遠距離狙撃ではその影響も大きいだろう。この湿気のせいで、また細かな調整が必要なようだ。

 

「わかった。

 それに関しては私も後で作業に加わろう」

 

「最後にシャアさんのイフリート改なんだけど……お兄さん、これ見てよ」

 

「……凄いな、色々な意味で」

 

 ため息をつきながらメイ嬢が見せる手元の端末を覗き込み、私は思わずそう呟いた。

 そこに出ていた戦闘中のデータは凄いものだ。そして……それに比例するように機体のストレスも凄い。どうやらこの地形のぬかるみなどの中を動き回ったため、脚部関節を中心にストレスが溜まったらしい。キャリフォルニアベースでのテストの時には無かったストレス値だ。

 私としてもこれには驚きだ。あるいはこの機動こそ、シャアの実戦での本気ということなのだろう。

 

「凄いのは分かるけど……これじゃ早速足周りをオーバーホールしないと……」

 

 これからの作業を考え頭を抱えるメイ嬢に苦笑し、私は小さな声で囁くように言った。

 

「頑張ってくれたら、後で秘密で持ってきたケーキをあげよう。

 マリオンやハマーン嬢たちと仲良く食べるといい」

 

「ホント! やったぁ!

 絶対だよ、お兄さん!」

 

 そう言ってやる気を取り戻し元気に整備に戻っていくメイ嬢を見送る。

 

「ふっ、やはりまだ子供なのだな」

 

 その歳相応な反応に、思わず笑みが漏れた。

 

「……中佐、だらしない顔してますよ」

 

 するとそんな私に後ろからクスコが、呆れたような顔で言ってきた。

 

「そうか?」

 

「ええ。

 メイちゃんに甘くて毎回そんな顔をしてるから、兵たちに『ロリコン』とか陰口を叩かれるんですよ」

 

「むぅ……しかし、私は皆に同様に接しているつもりだが?」

 

「では、私にもケーキはあるんでしょうか?」

 

「……大人には我慢も必要だよ、クスコ大尉」

 

「だろうと思いましたよ、中佐」

 

 そう言ってクスコは肩をすくめながら大仰にため息をつく。随分な言われようだが、事実メイ嬢たちに甘い部分があることを自覚しているので言い返せない。

 私はクスコの視線に居心地の悪いものを感じ、椅子から立ち上がって辺りを見渡した。

 そこには『ユーピテル』の他にファットアンクル輸送機2機が着陸し、そこかしこであわただしく人が動きまわっている。

 

「どうしました、中佐?」

 

「いや……私の部下の多さに少し自分で驚いただけだ」

 

 この人数がすべて部下、そのことに少しだけ気が重くなる。

 

「今さら何をいいますか。

 それに……中佐ならこの程度の人数、わけなく指揮してくれるものと確信してますよ」

 

「それはプレッシャーかな? それともお世辞かな?」

 

「いいえ、純然たる事実です」

 

 その言い草に私は苦笑して、着込んでいた軍服の襟元を正すと歩き出す。

 

「そろそろかな?」

 

「ええ、むこうでシャア少佐がすでに待っています」

 

 やがて、開けた場所では同じく軍服を正したシャアがそこで待っていた。

 

「来たか……」

 

「ああ、先方をお待たせするわけにもいかんからな」

 

 そう言って空を見上げればそれは時間通り、1機のルッグンが飛んでくるとゆっくりと降下してくる。

 やがてゆっくりとした足取りで降りてきた者、それは巌のような男だった。

 『実直な武人』という言葉が服を着て歩き出せばこういうものと言うイメージがそのままの人物である。顔に刻まれた皺一つ一つすら、経験とそれから培った自信の表れであるかのように見えるから不思議だ。

 階級は大佐、私とシャアは即座に敬礼すると、向こうも敬礼を返す。

 

「よもやガルマ様の切り札と名高い『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』と『赤い彗星』を援軍として送っていただけるとは……」

 

「友軍の救援は当然のこと、ガルマ少将からも東アジア戦線の友軍を必ず助けるように命じられております」

 

「私もシャア少佐も最善を尽くしましょう」

 

「これで兵たちの士気も上がろう。 感謝する」

 

 そう言ってこの男……ノリス・パッカード大佐は頭を下げたのだった……。

 

 




メイちゃんとシロッコのビーム兵器講座と、みんな大好き漢の中の漢、グフカスを一躍最高に格好いい機体にした男、ノリスさんの登場でした。
こういう人がいるからジオニストはやめられない。

次回もよろしくお願いします。


追伸:今週のビルドファイターズトライ。
   ウイニングガンダムが他の二体に合体するサポートメカなのは知ってたけどあの変形は面白い。
   あと敵のEz-8改造機3機は本当にいい戦い方をしてた。
   ギャン子、シールドで殴り潰さなくても(笑)
   相変わらず面白い戦いの見れる楽しい時間でした。
   次回はディスティニーガンダムの登場のようで楽しみです。


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第31話 作戦会議と思惑

今回はまったく話が進んでいませんが、ノリスさんとの会談話。
ここで改めて文章にすると、アプサラスは本当にオーパーツだなぁ……。


 『ユーピテル』の作戦室に移動した私とシャア、そしてノリス=パッカード大佐は戦況図を前に今後の作戦を立てることになった。

 ここ東アジア地域の最高階級者はギニアス=サハリン少将だが、ギニアス少将は技術将校であり、軍事に関しては専門というほどではない。その軍事的な補佐をするのがこのノリス=パッカード大佐である。彼はサハリン家に長らく仕える軍人でありギニアス少将の信頼厚く、この地域での事実上の最高司令官とも言える。

 

「指揮権に関してだが、そちらには要請という形をとらせてもらえればよろしいか?」

 

「昨日今日この戦線に来た我々よりもノリス大佐の方がこの戦線については熟知しているでしょう。

 餅は餅屋といいますし、出来得る限りそちらの要請に応える形で動きましょう。

 無論、こちらが独自に動く必要がある場合には情報共有をお約束します」

 

「それはありがたい」

 

 やはりノリス大佐は歴戦の軍人というだけあって軍を熟知している。我々のような特務部隊というのはその権限でとかく好きに動き回る傾向がある。大規模作戦においては一部に好き勝手動かれては自軍全体の行動に支障がでる。だからこそ本来なら命令でその動きを縛りたいところだが、我々は『ガルマの切り札』である。そう頭ごなしの命令で縛るというのも、ガルマとの関係を考えると問題だ。そこで双方に支障のない、『要請』という形で協力し合うことを確認し、釘を刺したというわけだ。

 戦況図を前に、ノリス大佐は言う。

 

「貴官らの昨夜の襲撃で連邦の追撃の足が鈍り、おかげでかなり数の友軍がジオン勢力圏まで撤退することができた。

 重ね重ね、感謝する」

 

「とはいえ、まだまだ安全圏に脱出できていない友軍も多数いましょう?」

 

「そうだな、シャア少佐の言う通りだ。

 連邦の追撃の足が鈍ったとはいえ、それは『一部』にすぎんからな」

 

 ノリス大佐が呆れたように頷く。

 私もシャアも昨夜はかなり暴れたつもりだったが、あれでもほとんど連邦の追撃スピードは変わらないらしい。その連邦の物量には驚きを通り越して呆れ果てる。

 

「そして……その追撃に友軍が捕まった」

 

 そしてノリス大佐は地図上の一点を指差す。そこは森の開けた場所にある廃都市のようだ。

 

「何とか廃都市へ逃げ込んだが身動きが取れない状態らしく、至急の援軍要請が来ているが……これが中々の曲者だ」

 

 そう言ってノリス大佐は都市の周辺図を映し出した。

 

「見ての通りだが、この都市は左右を山に囲まれている。

 そして正面の森には連邦の追撃が迫っており、退路は必然的に残された後方の平野部となるが……どうやら連邦はこの左右の山にかなりの規模の砲撃部隊を送り込んでいるらしい」

 

「なるほど……」

 

 どうやら味方は半包囲状態であるらしい。左右の山岳地帯のような移動に難のある方向に向かえば足の鈍ったところに後ろから連邦の追撃部隊が襲い掛かる。残された平野部からの脱出を試みようとすれば、遮蔽物の無い中で敵の砲撃部隊の集中砲火を受けることになる。なるほど、これは見事に詰んでいる。

 

「このままではそうかからずに友軍は全滅となるだろう。

 出来得ることなら……救出したい」

 

 少数の傷ついた味方を救うために多くの無傷の味方を危険に晒すというのは、ただ単純に数の問題だけをとって言えば下策である。しかし、ことはそんな数の問題だけで推し図れるものではない。

 兵にとって最も重要なものの一つ、それは『自軍への信頼』だ。その軍の行動や思想にある意味で信頼を寄せるからこそ、前線で兵士は死と隣り合わせでも戦える。

 それを単純に数の問題で少数を切り捨てた場合、兵士にはどうしても『俺たちもいつか切り捨てられるんじゃないか?』という『自軍への信頼』への疑いが芽生える。そしてそれはゆっくりと軍を浸食し、その士気はどうしようもなく下がるだろう。

 『大を生かし小を殺す』のは確かに戦場では仕方のない判断だ。だが、その仕方のない判断だけを続けていてはいけない。その辺りのバランスが難しいのである。今回の救援に関してもその辺りのバランスを考えた上での、指揮官としては中々難しい選択なのだろう。

 

「周辺の制空権は?」

 

「奪取……とはいかなくても、地上に手を出されないくらいの互角には持って行けよう。

 『天才』の設計した新型戦闘機も配備されたことであるしな」

 

 そう言ってノリス大佐は私を見た。

 ノリス大佐が言っているのは私が本国に戻る前に設計を残して技術部に渡しておいた戦闘機、『ドップⅡ』のことである。あの『フェニックス大会戦』のおり通常兵器の重要性を再認識したことで、通常兵器の見直しは押し進められていたので私がそれを後押しするつもりで技術部に渡したものだ。

 とはいえ、これは設計などという大それたことをしたわけではない。『ドップⅡ』の外見……それはあの鶴のように突き出たコックピットを胴体部にまで下げた、連邦軍の『デプロッグ爆撃機』や『フライマンタ爆撃機』、『TINコッド戦闘機』に近い形状をしていたのだ。

 正直に言えば、ジオンの航空兵器は頭を抱えるものが多い。コロニーという地上を知らない場所で設計されたため航空力学をまったく考慮せずブースター出力だけで空を飛ばせるという、頭の痛い仕様なのである。その点、航空力学に正面からケンカを売っているドップよりも、連邦の航空機の方が優秀だ。

 そこでもう『ドップ』の後継を考えるよりも連邦の航空機をこちらなりに国産化しようという考えの元に造り出されたのが『ドップⅡ』である。地上制圧の際にいくつか連邦の『TINコッド戦闘機』や『フライマンタ爆撃機』の生産工場を接収していたのでその解析は容易であったし、生産にもすぐに入れるための選択だった。

 ただドップの方も優れている部分があり、それを盛り込んだ形で私が設計を書いた。具体的にはキャノピーと出力系である。

 有視界戦闘を最初から考慮した『ドップ』は、一体型の丸みを帯びたキャノピーで視界を広く取っていた。同じように『ドップⅡ』はティアドロップ型の一体化防弾ガラス製で視界を広くとれるようになっていた。また航空力学に正面からケンカを売っているためブースター出力はドップの方が高いので、出力系はドップの方を採用した。

 『ドップⅡ』は言わば、『ドップ』と『連邦系航空機』の合いの子である。『ザク情報漏えい事件』でザクを解析・量産されたことだし、ある意味その意趣返しのようなものだ。その性能は絶大……とはいかないが、性能差で連邦戦闘機に遅れをとることは無いだろう。

 ともかく、空からの脅威に怯え続ける必要は無いようでそれはありがたい。

 

「制空権が取られていないのであれば……行けるか?」

 

 私はしばし考えた後に、その方策をノリス大佐とシャアへと話す。

 

「なるほど、シロッコらしい無茶を言ってくれる」

 

「貴官、本気か……?」

 

 シャアにはらしいと笑われ、ノリス大佐には正気なのかを疑われる。

 

「しかしこちらは少数。

 この数で遂行可能な上、被害を出来得る限り抑えなおかつ連邦の追撃を抑えられると判断しますが?」

 

「それは成功すればの話だ」

 

「失礼ながらノリス大佐、私も成功しないような話をする気はありませんが?」

 

「ふむ……」

 

 しばし長考に入るノリス大佐。成功と失敗のリスクとリターンを計算しているのだろう。

 

「……分かった。

 貴官の言う通り確かに成功した場合の効果は大だ。 その作戦で行くとしよう」

 

 そう言ってノリス大佐が頷いたことで、作戦の発動は決定した。

 

「物資はあまり潤沢というわけでもないが、出来る限り都合はしよう。

 何か、そちらからの要望はあるか?」

 

 ノリス大佐のその言葉に、私は内心でほくそ笑む。

 

「では1つ……ノリス大佐は愛機であるグフを駆り、パイロットとしても素晴らしい腕を持つエースであると聞き及んでおります」

 

「あの『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』に言われると、何かの皮肉のように聞こえるな」

 

 ノリス大佐はそう言って苦笑する。

 

「私はモビルスーツの開発も行っていることは知っていましょう?

 そこで私は大佐用の改修機をお渡しする準備があります」

 

「何?」

 

 そう言って私が見せたものは、カスタムした『ビームザク』の1機である。汎用型である『ビームザク』を陸戦仕様としてカスタムしたものだ。その外見はザクというよりグフ、言ってみれば『ビームグフ』である。それもそのはず、改修の際に使用したパーツはB3型グフ……いわゆる『グフカスタム』のパーツを多く流用しているのだ。

 さらにジェネレーターは『量産型ギャン』のものに換装されており、全体に耐ビームコーティング処理もされている。外見的にはグフカスタムだが、陸戦性能は『量産型ギャン』に引けをとらない機体として仕上がっていた。

 ……ここまでくれば『量産型ギャン』を渡した方が早いと思うかも知れないが、ギャンシリーズは今だ試作機の域を出ないもので、保守のためのパーツというものが出回っていない。しかも使用場所は明日の補給も分からぬこの劣悪な環境下だ。そのためパーツが手に入りやすく稼働率が少しでも上がるように『改修機』という形をとったのである。

 

「ほぅ……これが噂に聞く、天才のモビルスーツか……」

 

 興味深そうに資料をめくるノリス大佐の顔つきが徐々に驚きに変わっていく。やがて、その資料を閉じた。

 

「素晴らしいモビルスーツだ。 『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』が技術者としても天才だというのは本当らしい。

 しかし解せん。 これだけのモビルスーツを私に渡して、貴官は何を望む?

 正直に言って、このモビルスーツに釣り合うだけのものがこちらで用意できるとは思えんが……」

 

 こちらの出方を窺うような視線に、私は言った。

 

「私の望みは1つ、ギニアス閣下と話す機会を頂きたい」

 

「そのくらいならば私が取り成してもよいが……一体何を閣下と話すつもりだ?」

 

「何……閣下の造っているというモビルアーマーについてですよ」

 

 私のその言葉に、スイッチでも切り替えたかのようにノリス大佐から威圧感と殺気にも似たものが私に放たれる。

 

「……その話、どこから?」

 

 ノリス大佐のその声からは、私への最大限の警戒が見て取れた。

 それも当然だろう、極秘裏に進めているモビルアーマー『アプサラス』のことを言い当てたのだから。

 

 『アプサラス計画』……それはギニアス=サハリン少将が心血を注いで開発するモビルアーマーと、それによるジャブロー破壊計画だ。

 ミノフスキークラフトによる飛行を行い、単体での大気圏離脱と突入によって連邦本部ジャブローに降下、ジャブローの核攻撃でさえ防ぐ防護壁を貫く大口径高出力メガ粒子砲によってジャブローを破壊するというのがギニアス少将の『アプサラス計画』である。

 その計画の中核であるアプサラスについて触れたのだからその警戒も分かる。

 

「私も技術者の端くれ、技術者には技術者のネットワークというものがありましてね。

 そういった関係で、とだけお答えしましょう」

 

「なるほど……」

 

 私の説明に一応の納得をしたのか、ノリス大佐が何度か頷く。もちろん大嘘であるが、ノリス大佐が信じたのならそれが真実でいいだろう。

 

「そして技術者として、私はアプサラスの技術に大いに興味がある。

 そしてギニアス閣下にとって悪い話でないことは、お渡しするモビルスーツを見てもらえれば分かるはず」

 

 そう、私は今回『改造ビームザク』……『ビームグフ』をノリス大佐に提供すると言っているが、これはギニアス少将へ私の技術を見せるための、ギニアス少将に向けたプレゼントなのだ。

 

「つまり貴官の望みは……」

 

「ギニアス閣下と、そのお抱えである技術者たちとの技術交換を希望しています」

 

 実はこれは、私にとってはこの戦線に来た最大の理由と言っていい。

 モビルアーマー『アプサラス』……これはこの時代のモビルアーマーとしてはオーパーツと言ってもいい性能を誇っている。ジャブローを撃ち抜くための収束と拡散を使い分ける大口径メガ粒子砲は凄まじい。

 だが、真に凄まじいのはそれらを制御するF・C・S(ファイア・コントロール・システム)である。なんとこのF・C・S(ファイア・コントロール・システム)、拡散メガ粒子砲モードの際に、256もの敵目標のマルチロックオンが可能なのである。

 普通の拡散メガ粒子砲はいわばショットガンのようなもので、広域に撃ちだしてその散弾は当たるも八卦当たらぬも八卦といったところだ。しかしアプサラスは違う。アプサラスの拡散メガ粒子砲はこの散弾1発1発が明確に敵を狙っているのである。その制圧力は絶大と言っていい。

 このマルチロックオン機能、私の『原作』の知識を持ってしても同機能を備えたものはそう思いつかない。それこそSEED系モビルスーツの『フリーダムガンダム』やその系譜といったところだ。逆に言えばそれほどに先進的なものである。

 『原作』では狂気に堕ちたギニアス少将が開発に携わった技術者たちを殺害してしまったため技術が失われてしまったことは残念でならない。

 だからこそ、その技術をどうしても確保しておきたかった。

 

「技術交換か……」

 

 ノリス大佐は考え込むように顎を撫でさする。こちらの真意を計っているのだろう。

 

「……私では返答できかねる。

 この話は持ち帰りギニアス閣下に伺いたてるが、それでよいか?」

 

「ええ。

 国力に劣る我々ジオンが連邦に勝てる可能性があるとしたら、技術での優勢は絶対に必須。

 ジオンの未来のためにも良い返事を期待させていただきます」

 

「わかっている。

 私の方からもそれとなくギニアス閣下には口添えをしてみよう」

 

 そう言ってノリス大佐は立ち上がった。

 

「どちらにせよ、すべてはこの難局を乗り切ってからだ。

 次の戦いで『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』と『赤い彗星』の活躍、この目で見させてもらおう。

 双方、大いに期待させてもらおう」

 

「「はっ!!」」

 

 私とシャアが敬礼し、ノリス大佐も敬礼を返す。

 こうして、今回の会談は終わりを告げた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……」

 

 シロッコたちとの会談を終えたノリス=パッカードは、帰りのルッグンの中でこの会談について考えていた。

 

「技術交換か……」

 

 シロッコの言葉を、ポツリと呟く。

 どこからアプサラスの話を聞き付けたのかはいまいち釈然としないが、この技術交換の話は悪い話ではない。いや、悪い話どころかとてつもなくいい話である。

 ノリス大佐の仕えるサハリン家は名家といっても、もはや家名のみの没落した名家だ。それが未だ名家足り得ているのはギニアスの政治力、お抱え技術者とギニアス自身の技術力、そしてサハリン家が消えることを惜しんだデギン公王の後ろ盾のおかげである。

そのため、サハリン家の未来は非常に危うい。

デギン公王も政治的な実権はギレンに握られ、その後ろ盾とていつまでもアテにはできず、サハリン家の未来は非常に危うい。

 それに……。

 

(ギニアス様はそう、長くは無い……)

 

 ギニアスは過去のある出来事のために不治の病を患い、その命は残り少ない。ギニアスが倒れればサハリン家をギリギリのところで支えている政治力と技術力という柱は崩れ落ちる。サハリン家はギニアスの実妹であるアイナ=サハリンが継ぐだろうが、彼女にギニアスと同じものを求めることなど、とでもできない。

 サハリン家の命運は尽きたも同然だが、今回の話はそこに一条の光明となりえる。

 パプティマス=シロッコとシャア=アズナブル……この2人の名は軽いものではない。

 互いに戦場に解き放たれれば一騎当千のエース、しかも部隊運用・指揮官としても確かな才を見せ、ただ戦働きだけの猪武者ではないことは間違いない。

 特にシロッコの方は様々な技術を開発する技術者でもあり、ギニアスもその技術には注目していた。

 そしてこの2人はジオン地上軍司令であるガルマ少将の片腕とも称されている。このところメキメキと頭角を現し、今は亡きキシリアから様々なものを継いだジオンのプリンス、ガルマ……しかしガルマはこのところ、ギレンとの不仲の噂を耳にする。

 そこに来てガルマは自身の『切り札』と言える2人を揃って派遣してきたのだ。

 

(やはりこれは……サハリン家を自分の幕下に引き込もうという意図と考えるべきだろう)

 

 実際にはガルマはそこまで深く考えたわけではなく、どこも戦力が足りず少数しか援軍を送れぬ中、その小数で最大の戦果が見込めるとしてシロッコとシャアと言う『切り札』を切った。

 いわばガルマなりの善意の結果なのだが、それほどに深読みせざるを得ないほどにこの2人の派遣というものの周りに与える影響は大きかった。

 そして、そのシロッコがサハリン家の技術に興味を持った。これならばサハリン家は上手くすればガルマという新しい後ろ盾を得、技術集団として生き残ることもできるかもしれない。

 

「……できることなら、アイナ様には不自由なく過ごして欲しいものだ」

 

 アイナ=サハリン……過去の事件からギニアスに負い目を感じ、ギニアスのためにまるで人形のように尽くす彼女に、長らく仕えてきたノリスは父親にも似た感情を持っていた。

 少し前はまるで人形のように我がなかったが……宇宙(そら)から降りてきて、少し変わったように思う。それまでは宇宙(そら)でテストパイロットをしていたようだが、搭乗していた機体が墜とされたと聞いた時には肝を冷やした。だが無事で、しかも若干柔らかくなったその顔を見たときには心底安堵したものである。

 そこまで考えて、ノリスは頭を振った。

 

「今はまず、友軍を救出することだ」

 

 まず集中すべきことは目の前のことだ。それ以外の雑念は今は捨て去ろう。

 だがそれが終わったら、ギニアスには今回の技術交換の件を強く勧めようと心に誓うノリスだった……。

 

 




今後の方針を決めるだけのお話でした。
……本当にアプサラスはとんでもない公式チート。

そしてみんな気にしてたグフカスタムの改造について。
ビーム兵器使用可能なギャン並の機体、『ビームグフ』として進呈することになりました。
このビームグフ……『B4グフ』とか『グフカスタムB型』とかそんな名称になるでしょうが、活躍はもう少しお待ちください。

次回ですが……すみませんが2週間ほど出張に行ってきますので来週の更新はお休みします。
包囲された味方部隊の救援、そして連邦の新型機が多数登場予定です。

次回もよろしくお願いします。


追伸:トライファイターズ、デスティニーガンダムが格好良かった!
   シモンは今後も出てきて欲しいなぁ。

   ただ……ジオン水泳部を出オチにしたスタッフは絶許。

   そして……長き時を経て、遂にリアルの『レッドウォーリア』がトライファイターズに登場・発売決定!!
   一期でパーフェクトガンダムが出た時から期待してましたが本当にやってくれるとは!!
   バンダイはいい仕事をする!
   ボンボンを読んでいた子供の頃が懐かしい。


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第32話 包囲友軍救出作戦(その1)

出張からやっと帰ってきました。
そんなわけで2週間ぶりの投稿です。

今回から包囲された友軍を救出するための作戦が開始されます。
今回はシロッコサイドの話






「……作戦は以上である。 質問のある者はいるか?」

 

「……」

 

 私の言葉に、ブリーフィングルームは静かだ。 だがしかし、それは納得しているというより驚きとある種の慣れのためだ。

 

「相変わらずと言うかなんというか……」

 

 クスコに至ってはその呆れを隠そうとすらしていない。

 

「クスコ大尉は反対かな?」

 

「いえ、代案もありませんしやることはあの『フェニックス大会戦』と変わりません。

 私以下リザド隊一同、異存は無いはずです」

 

「同感ですね」

 

 ニキがそう言って頷くと、レイチェルが大仰に肩を竦めた。

 

「なんかこんな無茶な難易度の作戦、もう慣れっこになりましたよ」

 

「が、がんばります!」

 

 エリスが若干力んだ様な返事を返すのを聞いて、私も苦笑を返す。

 

「確かに難しいことは認めるが、私の選んだ諸君なら遂行できると確信している。

 メイ嬢、『アレ』の準備はどうか?」

 

「出撃する機体には装着完了してすぐにでも行けるよ、お兄さん!」

 

「結構、流石はメイ嬢だ」

 

「えへへっ」

 

 私がメイ嬢の手際を褒めると、メイ嬢は照れたようにポリポリと頬を掻いた。

 

「他には何かあるかな?」

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 そう言って手を挙げたのは『ユーピテル』の艦長、フローレンス=キリシマ大尉だ。

 

「キリシマ大尉、何か?」

 

「この作戦プランですと、この『ユーピテル』とファットアンクル輸送機の護衛はアポリー中尉とロベルト中尉となっていますが……」

 

「何か不満か?

 彼らはシャアの部下で、その腕は私としても心から信頼できると思うが……?」

 

「腕の方はわたくしも信頼してるんですが……うちの規模で直衛が2機ってぇのが不安なんですよ」

 

「ふむ……不安はわからんでも無い話だが、一応ここはこちらの勢力圏下の後方だ。

 それほどの戦力が必要とは思えんし、実際の話これ以上の人員は護衛に裂けんぞ」

 

「わかってますよ。

 それで万一の時には、アタイが予備機を使わせてもらいます」

 

「キリシマ大尉が出るのか……。

 いいだろう、万一の際には君の判断に任せる。

 もっとも、万一のことなどないほうがいいがな」

 

「それは違いないですねぇ」

 

 そう言ってキリシマ大尉はクツクツと笑う。

 

 それを最後にブリーフィングは打ち切られ、各々が持ち場へと向かう……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「さて……」

 

 私は整備されたギャンを見上げながら1人ごちる。そこにシャアがやってきた。

 

「出撃だな」

 

「シャア、今回の出撃大丈夫とは思うが……くれぐれも気をつけてくれ」

 

「わかっている。

 と、言いたいところだが、他でもない無茶を言ってきた本人の言う言葉とは思えんな」

 

「私とて無茶を通せる男だから頼んでいるのだ。

 マリオンを付けてはいるが……君以外の他の誰にも、こんな一見無謀な突撃など頼めんよ」

 

 皮肉げに笑うシャアに、私も皮肉げに肩を竦めて返す。

 

「ほう、『無謀』という自覚はあったのだな。

 では援軍を追加で要請したいところだ」

 

「我に余剰戦力無し。

 言いたいことがあれば、いずれヴァルハラで聞こう」

 

「ならばここで死ねばヴァルハラでは私の方が先達だな。

 その時には後から来る君やガルマをせいぜい雑用でこき使ってやるから覚悟するといい」

 

「それは勘弁願いたいものだな」

 

 冗談を言い合い、そして私とシャアはどちらともなく笑い合う。

 

「……死ぬなよ、シャア。

 私は、君がこの世界の『歴史』に必要とされている人間だと考えている」

 

「……なんとも過分な評価だな。

 だが、『歴史』が必要としている人間というのは、君のことだろう。

 これからの『歴史』がどう動こうと、その動く歴史の渦中に君がいないなどということはあるまい?」

 

「私は『歴史』を動かす様な指導者にはなれんよ。

 だからこそ、その指導者の影で歴史を見る『歴史の立会人』となろう。

 少なくとも、『歴史の傍観者』には決してならんことだけは約束しよう」

 

 私は、『ガンダムの世界』を知る転生者(?)だ。

 私は今まで、『歴史』に対して大きく影響を与えてしまった自覚を持っている。だからこそ、『歴史の傍観者にはなるまい』……それだけは心に誓っていた。

 『歴史』の渦中でそれに立ち会い、自らの行動の結果をどんなものであれ受け入れる……これは私なりの責任でもあり、覚悟でもあった。

 

「それはよかった。

 面倒事をすべて放り投げて星間旅行にでも行かれたらどうしたものかと思っていたところだ」

 

「そのような無責任なことせんよ。

 シャア、君の中での私のイメージについて少し話し合う機会が欲しいぞ」

 

「君ならやりそうだと思ったまでさ」

 

 そして、再び笑い合う。

 

「……では行こう。

 シャア、また後で」

 

「ああ、また後で」

 

 そして、私とシャアはそれぞれの乗機へと乗りこむ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……」

 

 包囲された友軍の東側に位置する山岳、そのすそに広がる夜の森林地帯を私を先頭にゆっくりと進む。そして、予定ポイントへと到着した。

 

「全員、問題は無いな?」

 

『隊員一同、問題ありません』

 

「よし、では全員作戦開始まで待機せよ。

 周辺警戒は怠るなよ」

 

 私はクスコの返答に満足すると全員に機体を屈め、身を隠すように指示した。

 今回の戦いも夜間奇襲戦となる。ミノフスキー粒子によって長距離レーダーや通信が阻害されるようになってから、視認という非常に原始的な確認方法が重要になってきた。その視界を遮る夜間というのは、奇襲にうってつけだ。

 そして今回、我々は全機に奇襲用の『ある装備』を装備している。

 

『中佐、時間です』

 

 クスコのその言葉と同時に、目標である山岳地帯に爆発の閃光がきらめく。見れば空には無数のブースター炎が見えた。

 これはドダイ爆撃機からの支援爆撃である。夜間爆撃は命中率に難があり敵の砲撃陣地を崩すことはできないが、混乱させるには十分である。少なくとも……我々の突入に十分な混乱を与えてはくれていた。

 

「よし! 全機起動!

 ホバーシステム始動開始! 準備でき次第、爆撃によって混乱した敵砲撃陣地を制圧する!!」

 

 私のギャンが立ち上がり、ホバーシステムによってその機体が地面より浮き上がる。そして、私は装備されたあるボタンを押した。

 

 

 ドゥン!!

 

 

 瞬間、爆発にも似た衝撃がギャンの背後からすると、ギャンは圧倒的な加速で進み始めた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ちぃっ!? ジオンめ!!」

 

 彼は忌々しそうに、空中のブースター炎を睨む。

 彼はこの山岳地帯に陣取る砲撃部隊の前衛戦力だ。

 この山岳地帯での連邦の布陣は高所に砲撃部隊が陣取り、そして比較的低い部分にその護衛となる部隊が陣取っている。

 山岳地帯は登坂のため進軍速度が遅くなる。それはモビルスーツであっても変わらない。そのためこの布陣は鉄壁の守りを誇る。

 攻めてこられても足の遅くなった敵を前衛が釘付けにし、上部の砲撃部隊からの火力支援によって敵の殲滅が可能だからだ。

 唯一怖いのは航空機からの攻撃だが、これは近隣の味方の航空隊が傘をかけてくれている。万全とはいえないが、十分だろう。

 

『そんなもん当たるかっての!』

 

 新兵の1人が、ジオンの当たらない爆撃に得意になって100mmマシンガンを乱射するが、彼はそれを止めた。

 

「やめとけ、どうせ当たりはしない」

 

 彼の言う通り、100mmマシンガンもジオンの爆撃も、ほとんど当たってはいない。

 ミノフスキー粒子によって精密射撃ができなくなってから、兵器類の命中率は激減した。特に視界が悪くなる夜間はそれが顕著で、それこそ視認できるような距離にでも寄らなければ、まともな命中弾を見込めない。

 

「それより周囲を警戒しろ。

 ジオンが来るぞ!」

 

 彼はそう部下たちに指示を飛ばす。

 先にも述べたように夜間爆撃はミノフスキー粒子によって極端に命中率が落ちて、大した効果は見込めないだろう。そして、それはジオンも分かっているはず。だがあえてそれをしてきた以上、二の矢三の矢を用意していると見て間違いは無い。

 爆撃の混乱に乗じての奇襲は常套手段、彼は冷静にその可能性を考えると機体を戦闘態勢に移す。

 彼の搭乗機、それは普通のザクとは違っていた。

 左肩のスパイクアーマーが撤去され、変わりに右肩と同じくシールドアーマーを装備している。全体的にも装甲を増加したようにずんぐりとし、腰や足には増設した動力パイプが見える。だが、やはり大きな差はバックパックから両肩に突き出たスプレーミサイルランチャーの存在だろう。

 『ザクM』……通称『ミサイルザク』と渾名された連邦のザクバリエーションの一機である。装甲を強化し、低反動スプレーミサイルをばら撒くことで中距離支援に特化させた機体だ。

 

(さぁ、来い! ジオン野郎!!)

 

 彼は心の中で呟くと、油断なくスプレーミサイルランチャーと手にした100mmマシンガンを構えてこれから来るだろう部隊の迎撃に備える。

 奇襲とは、あるとわかっていればその効果と成功率は激減する。おまけに、地形的にここは守る方が圧倒的に有利だ。歩行するザクやグフはもとより、ドムをはじめとしたホバータイプの機体も、登坂の際には動きは平野ほど速くは無い。その機動性は十分に生かせず、ただの的になり下がる。

 

(今の爆撃で混乱させての突撃だろうが……残念だったな!)

 

 彼は勝利は約束されたものと信じて疑っていない。

 しかし……。

 

『来ました、ブースター炎!!』

 

「やっぱりか!

 どうせ足が止まってる。 的にしてやれ!!」

 

 思い通りに事が運んだことに彼は内心ほくそ笑みながら部下に指示を飛ばすが、それはすぐに混乱に変わった。

 

『な、何だこのスピード!?

 落ちるどころか、ドムのトップスピードよりずっと速く動いてる!?』

 

「ば、バカな!?」

 

 部下の悲鳴のような声に、彼はモニター越しに見た。

 見たことのない新型モビルスーツと、そしてドムの強化型『ドワッジ』の部隊だ。

 しかし異常なのはその速度、明らかにドムの地上踏破速度の、比喩の類ではなく倍以上の速度で動いているのだ。

 それを見て、彼は敵の意図を知る。

 

「ま、不味い!?

 奴らここを突破して、一気に砲撃部隊に肉薄するつもりだ!!

 弾幕! ここで食い止めろ!!」

 

 その言葉とともに、彼の『ミサイルザク』が100mmマシンガンとスプレーミサイルランチャーをばら撒く。

 しかし、当たらない。敵モビルスーツ隊は彼らの攻撃をあざ笑うかのように彼らを通り過ぎざまに一撃を与えると、残った彼らには目もくれず砲撃部隊を目指す。

 そして、彼のミサイルザクにも紫の機体が接近していた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 絶叫なのか雄たけびなのか分からない声とともに撃ちだされた100mmマシンガンを、あざ笑うようにかわしながらすり抜けざまに紫の機体は手にした光の剣……ビームサーベルを発生させる。

 メガ粒子で形成された刀身はそのスピードのまま、何の抵抗も無く彼のミサイルザクを真っ二つにすると、振り返ることも無く後方の砲撃部隊へと向かっていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「連邦のザクバリエーション機か……」

 

 私は今しがた倒した、敵の新型を思い出す。

 ザクにガンキャノンのスプレーミサイルランチャーを装備させたような機体だった。低反動のスプレーミサイルランチャーはばら撒きが可能で制圧能力も高い。中距離支援機として、なかなかいい機体だと思う。

 事実、普通にぶつかり合ったのでは距離をとられての制圧射撃に苦労させられただろう。

 

「だが今回は運が無かったな」

 

 私は強烈なGの中でそうひとりごちる。

 私とクスコ機、エリス機、ニキ機、レイチェル機の5機のリザド隊は明らかに異常な速度で山岳地帯を一気に登坂していた。

 その秘密……それは全機の背中に付いている装備のおかげだ。それは外付け式の筒状のブースターである。それの圧倒的な推力が、機体を加速させていた。

 強襲用外付け式高出力ブースター兼プロペラントユニット……通称『シュツルムブースター』である。

 あの『フェニックス大会戦』の折り、私のリザド隊はビッグトレーへと突撃を行ったがその際、ビッグトレー到達前に足止めを強いられた。これには敵に強力なパイロットがいたこともそうだが、何より強襲のための速度が遅かったという根本的な問題もあったのだ。その問題点から解決のための答えの一つがこの『シュツルムブースター』である。

 本来なら0083の『ガーベラ・テトラ』のための強襲用装備だが、構造自体は単純なもの。作成自体にそう苦労はしなかった。ただし、重力圏下で使うならホバー推進型の機体でなければ制御は中々難しい。加えて今回は敵砲撃部隊へと肉薄することからスナイパーの必要も無く、マリオンはシャアの方についている。

 

『見えました中佐、敵砲撃部隊です!!』

 

 見ればもう敵砲撃部隊は目の前だ。『ガンタンクⅡ』と思われる大型の砲を備えた車両が6両、ゆっくりとこちらに照準しようとしてくるが、ここまで接近されてはその砲撃性能を生かせまい。

 

「全機『シュツルムブースター』切り離せ!

 敵砲撃部隊を殲滅せよ!!」

 

『『『『了解!!』』』』

 

 『シュツルムブースター』を切り離したことにより一気に速度が落ち、通常戦闘速度のまま、私は腰の後ろにマウントされたビームライフルを取り出すと、トリガーを引いた。

 発射されたメガ粒子は、難なく『ガンタンクⅡ』を貫き爆発させる。ノロノロとしか動けないタンクでは、弾速の速いビームライフルの前では的も同じである。隣で同じく、クスコもビームライフルでガンタンクⅡを爆散させた。

 マシンガン装備のエリスのギャンは、ニキとレイチェルのドワッジと連携しながら格闘戦に持ち込んでいる。

 比較的装甲の厚い『ガンタンクⅡ』はマシンガンやバズーカにはめっぽう強いためそう簡単に撃破に至らないが、格闘戦なら話は別だ。

 エリスが操るギャンのビームサーベルがガンタンクⅡを真っ二つに引き裂き、レイチェルが操るドワッジのヒートサーベルがコックピットを焼き切る。

 生き残った『ガンタンクⅡ』が格闘によって足の止まった2機に砲塔を向けようとするが、ニキのドワッジがジャイアントバズを連射し、視界を遮るようにしながら援護する。この3人のコンビネーションはやはり見事だ。

 これならば制圧も間近だろう……そう思った瞬間だ。

 

「むっ!?」

 

 感じた殺気に、私はギャンを横に滑らせる。

 すると、そこを100mmマシンガンと思われる弾丸が通り過ぎていった。

 

「直衛か?」

 

 そう呟き振り返った私が見たのは、連邦のザクバリエーションだった。

 両肩はシールドアーマーに交換され、左肩にはレドームユニットが増設されており一目で長距離に対応したタイプだと分かる。目を引くのは右肩、背中のバックパックに接続された長い砲身、それは紛れもない長砲身のキャノン砲である。

 その長砲身のキャノン砲は、『ザメル』のように折り畳み式になっており今は折り畳んだ状態だ。その状態で手にした100mmマシンガンの射撃を行ってきたのである。

 

「ほう……連邦の新型、長距離型のザクバリエーションか。

 連邦も中々面白い機体を造る。

 だが!!」

 

 私はその言葉とともにペダルを踏み込む。

 そんな私のギャンに、そのザク……『キャノリーザク』はよたよたとなんともゆっくりとした動きで100mmマシンガンを照準し撃ってきた。

 思った通り、当然のことながら重い長砲身キャノン砲をつけたことで機動性は落ちているようだ。そんなノロノロした動きでは、私とギャンは捉えられない。

 

「墜ちろ、カトンボ!!」

 

 ビームライフルの閃光は狙いたがわず『キャノリーザク』を貫く。

 敵砲撃部隊が殲滅されたのは、それからまもなくだった。

 

『中佐、敵砲撃部隊の殲滅完了しました。

 こちらの被害はありません』

 

「ごくろう。 だが、すぐに次が来る。

 全員準備をしろ!」

 

 カメラの望遠機能で見てみれば、突破してきた前衛部隊がこちらに殺到して来ている。その数はこちらの4倍以上だ。本来なら高所をとったこちらに地の利があるとはいえ、あまり楽観できるものではない。

 しかし……。

 

「もっとも……ここまでくればこちらの勝ちだがな」

 

 そう呟くと同時に、敵部隊に爆発の閃光が生まれる。それをやったのは私の部隊ではない。

 それは一機のグフの仕業だ。ヒートサーベルをザクに突き刺し、両断する。我々リザド隊に注意が行っているうちに肉薄したのだ。

 モノアイを激しく揺らして次の獲物を見定めるそのグフ。その機体はグフB3型……『グフカスタム』である。その機体のパイロットは1人だ。

 

『待たせたな、シロッコ中佐』

 

「時間通りですよ、ノリス大佐」

 

 見ればノリス大佐のグフカスタムを先頭にしたグフ5機が、背後から敵部隊へと斬り込んでいた。それは、この作戦が最終段階に入ったことを意味している。

 

「全員ノリス大佐の部隊を援護!

 連邦部隊を挟み撃ちにして殲滅する!!」

 

『『『『了解!』』』』

 

 まさしく『前門の虎、後門の狼』。

 挟撃される形になった連邦部隊は、瞬く間にその数を減らしていくのだった……。

 

 

 




航空爆撃により敵戦線に脆弱点を作り出し快速部隊によって突破、後方を強襲。
その後遅れてきた味方と反転した快速部隊により、残された敵前線部隊を挟撃殲滅。

ローマを震撼させたハンニバル様の機動包囲戦や、グデーリアン様の電撃戦まんまな戦いでした。
素晴らしきかなブリッツクリーク。

そして……夜戦!
ミノフスキー粒子のおかげでレーダー警戒網が崩壊し、夜戦は本当に脅威だと思う。
やったね、これでバリバリ夜戦ができるよ、川内ちゃん!

今回登場した連邦のザクバリエーションの『ミサイルザク』と『キャノリーザク』は、作者の作ってる改造ガンプラが元。
キャノリーザクなんてアーマードコアのグレネードを無理矢理バックパックに取りつけた無茶仕様。
しかしザクの片膝射撃体勢も結構カッコイイです。
他にもシュツルムブースターの辺りなどACのVOBのイメージままですね。
私もレイヴン・リンクスでもあったのでこの辺りに強い影響を受けてます。

次回はシャアサイド。
ついに実戦であのシステムが発動します。

次回もよろしくお願いします。


追伸:先週と今週のビルドファイターズトライ。
   ギャン子ちゃんの圧倒的なヒロイン力!
   あの演出はビルドファイターズじゃなきゃ確実に死んでたな。

   スガさん、人間的にはとてもいい人だ。
   また登場してほしいなぁ。

   そしてこの平成の時代に、VガンとはいえまさかMAガンダムが見れるとは……。
   スタッフは本当にガンダムを愛しすぎているなぁ。


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第33話 包囲友軍救出作戦(その2)

最近めっきり寒くなってきましたね。
私もちょっと風邪でダウンしてました。
ヤバイヤバイ、週1投稿ペースが崩れそう。

今回はシャアサイドの戦い、そして当然あのシステムが起動します。


「……」

 

 出撃前、シャアはイフリート改を見上げ無言だった。

 出撃前というこの時間は幾度経験したところで緊張するものだと、シャアは心の中でひとりごちる。

 シャアほどのエースパイロットが緊張など……などと思うかも知れないが、むしろ緊張しない方が問題だ。

 『緊張』とは、つまり『警戒心』の一形態である。警戒心のない兵など、戦場ではカカシにも劣る。

 本当に強い兵というのは堅くならぬ程度に程よく緊張感を持ち、その緊張感を注意力と集中力とに転化できるもののことを言う。そしてシャアは間違いなくそんな『強い兵』であった。

 

「しかしシロッコめ……改めて無理難題を言う」

 

 思わず苦笑が漏れたが、それが信頼ゆえだと思えば悪い気はしなかった。

 

(それに……これは私への『テスト』でもあるだろうしな)

 

 シロッコの作戦……と言っていいものかどうか、これの意図をシャアは正しく受け止める。

 その時、シャアの背後に人の気配がした。

 

「シャア少佐、そろそろです」

 

 見れば、マリオン=ウェルチ少尉がシャアに敬礼していた。今回はマリオンはシャアとともに行動することになっている。

 その幼さを残す少女の、どこかぎこちない敬礼にシャアは苦笑すると、返礼を返す。

 

「準備はいいかな、マリオン少尉」

 

「はい、万全です」

 

「すまないな。

 本当ならシロッコと共にいたいだろうが、私の援護にまわってもらって」

 

「いえ、今回の作戦では私のビームザクでは一緒の行動はとれません。

 それに、兄さ……シロッコ中佐は『シャアを助けてくれ』と私にいいました。

 その期待には必ず答えます」

 

 その言葉の節々からシロッコへの確かな信頼を感じる。その忠誠心に、よくもここまで仕込めるものだと、シャアは内心で改めてシロッコに感心していた。

 

「そうか……では今日は安心だな。

 君が私を守ってくれるのだろう?」

 

 そうシャアが言うと、マリオンは意外にも首を振った。

 

「私も守ります。

 でも……それ以上に、あの人があなたを守ってくれると思います」

 

「……君も分かるのか?」

 

 イフリート改を見上げながらのマリオンの言葉に、シャアは少しだけ驚いたような顔をしたが、よく考えればあのシロッコが目をかけた少女だ、ニュータイプとしての才があったとしても何もおかしくは無い。その予想を裏付けるように、マリオンはコクンと頷く。

 

「このマシーンからは……シャア少佐に対する親愛のようなものを感じます。

 そして暖かい女性の心も……。

 だから、今夜は私とこの人との2人でシャア少佐を守ります」

 

「そうか……ならば安心だ。

 行こう、マリオン少尉」

 

「はい、シャア少佐」

 

 シャアの言葉にマリオンが答えると、2人は自らの乗機へと上っていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「作戦開始か……予定通りだな」

 

 作戦開始時刻、友軍の西側に位置する山岳地帯に連続した爆発の閃光が巻き起こる。それはドダイ爆撃機の支援爆撃である。

シャアはそれを『眼下』に眺めながら、作戦が開始されたことを知る。

 そう、シャアは今その山岳地帯の光景を『眼下』に見下ろす位置にいた。

 シャアの搭乗するイフリート改とマリオンのビームザクスナイパーは今、ドダイに乗って夜の空に居たのである。

 

「では、行くとしよう……」

 

 イフリート改は機体を固定させるためにドダイを掴んでいた腕をはなすと、ドダイの上に立ち上がる。

 

「援護を頼む」

 

『ご武運を、シャア少佐』

 

 雑音混じりの短距離通信でマリオンにそれだけ言うと、シャアのイフリート改は空へとその身を投げ出した。

 

 

 今回、シロッコがシャアに頼んだことは単純明快だった。

 つまり『ドダイに乗って敵陣に降下、制圧してきてくれ』、である。

 作戦の内容としてはシロッコのとった戦術とほとんど同じ、ドダイの爆撃で混乱する敵に降下、混乱中の敵を制圧するというものだ。ただ敵への接近に使用する足がシュツルムブースターかドダイかという違いだけである。

 何故、今回の作戦でシロッコたちがシュツルムブースターを使い、シャアの方はドダイを使ったのかと言えばこれには理由があった。

 まずシュツルムブースターはその性質上、地上での運用の場合ホバーシステムの搭載された機体で無ければ制御が難しく、ホバーシステムの無いシャアとマリオンの機体に装備するのは難があったのである。

 それにもう一つ……シュツルムブースターはシロッコがテストを行ったとしても、新開発のものだ。『万一』の想定外の故障などもあるかもしれない。シロッコなりがついていればそんな時対処のしようもあるだろうが、そうでないシャアには『万一』があっては不味いのだ。

 そう……降下するのはシャアのイフリート改のみ。マリオンがドダイに乗って上空からスナイパーライフルで援護射撃をしてくれるが、敵陣に突入するのはシャアだけなのである。普通には『死んでこい』と言っているに近い無理難題だが、シャアはシロッコの真意を正しく汲み取っていた。

 

(『EXAMシステムを実戦で使え』、ということだな)

 

 そう、シロッコは実戦の場で『EXAMシステム』を使うことをシャアに要求しているのだ。

 『EXAMシステム』は時として、パイロットの意思を無視した暴走を引き起こすシステムだ。そのことは『EXAMシステム』によって危うくシロッコを殺しかかってしまったシャアにはよく分かる。

 その後、何度も『EXAMシステム』を起動させてのテストは行っている。しかし、実戦であっても大丈夫かと問われれば、首を傾げざるを得ない。それほどにEXAMシステムは『読めない』のである。だからこその実戦の中でシャアが『EXAMシステム』を制御できるかどうかを計るテストが今回なのだ。

 単機突入であれば、もし暴走を引き起こしたとしても周りには友軍はおらず、被害を出さなくて済む。イフリート改の射程外である上空からの援護と、万一のときのシャアを回収するためにマリオンを着けてくれたのはシロッコなりの、精一杯の心遣いであった。

 

(シロッコ)の期待には応えたいが……。

 問題は私にそれほどの才能があるかということだな」

 

 降下するイフリート改のモニターには夜の空を引き裂く、対空砲火の火線が映る。

 恐らく空を飛ぶドダイに向けて撃っているのだろう。明確にイフリート改を狙っているものはまだ無い。しかし、それも長くはないだろう。もうそろそろ、シャアのイフリート改の存在に気付いてもおかしくない距離だ。全員が気付かぬほど連邦にマヌケを期待するのはいささか無理がある。

 シャアはスティックから右手を放すと、プラスチックカバーに覆われたボタンに手をかけた。

 

「……ララァ、私を導いてくれ」

 

 そして、シャアはそのボタンを押し込む。

 

 

<EXAMシステム、スタンバイ>

 

 

 ララァ=スンによく似た声のマシンボイス、そして……シャアの見る『世界』が一転する。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ジオン野郎め! 墜ちやがれ!!」

 

 この山岳地帯を防衛する連邦は突然の夜間爆撃に虚を突かれたもののすぐに混乱から回復、空を飛ぶドダイに向かって対空火器による射撃を開始する。

 しかしレーダー誘導ならばまだしも、ミノフスキー粒子によってレーダーが死んでおりほとんど命中していない。

 

「クソッタレが! 全然当たらねぇ!!」

 

 そう吐き捨てながらも、ザクが100mmマシンガンを上空にばら撒く。

 その時だ。

 

「ん?」

 

 空に輝く月の中に……何かがいる。

 それはグングンと大きくなっていき……やがてそれが何なのかしっかりと確認する。

 

「も、モビルスーツ!? ジオンだ!!」

 

 そう、それはジオンのものと一目で分かるモノアイのモビルスーツだ。

 

「おい! あれグフじゃねぇぞ!?

 見たことのねぇ機体だ!」

 

『構うか! 降りてくる前に蜂の巣にしてやれ!!』

 

 見たことの無い新型に驚きの声をあげるのは一瞬、すぐに4機のザクから100mmマシンガンが放たれる。

 その時、彼らはこの敵機の撃破を疑ってはいなかった。

 モビルスーツは陸戦兵器だ。そのため、航空機のように自由に空を移動できるわけではなく、空での動きなど重力に引かれて下へ下への一方通行だ。ブースターを吹かせれば多少は動き回れるだろうがそれでも多少程度のものである。そんなものは的とそう大差ない。

 

「死ねよ、ジオン野郎!!」

 

 100mmマシンガンの火線がその機体をハチの巣にせんと迫る。

 しかし……。

 

「!?」

 

 その機体はブースターを吹かしてその火線を避ける。そのブースターのパワーにも驚いたが、何よりの驚きはその正確性だ。まるでそこをマシンガンの弾が通ることを分かっていたように、スレスレのところを最小限の動きで避けているのである。

 しかもそれはマグレではない。その証拠に同じような回避を続け、未だに無事にこちらへと向かって来ているのだ。

 

『な、何だこいつ!?』

 

 そのあまりの異常性に誰かが悲鳴のような声を挙げると、その機体は脚部のミサイルランチャーを撃ってきた。有線で放たれたそれはザクの周囲で炸裂し、爆煙を巻き上げる。それによって、ただでさえ夜間で悪い視界が完全に塞がれていた。

 

『くそっ!? 見えねぇ!?』

 

『奴はどこだ!!』

 

「!?」

 

 その時、彼が咄嗟に横に転がるようにしてザクを横にずらしたのはほとんど勘の偶然であった。だが、その偶然が彼を救う。

 彼のザクが今まで立っていたところを、『赤い彗星』が通り過ぎていった。真っ赤なその機体はその加速と重量のままにキックを叩き込む。蹴られたザクがまるで空き缶のように派手に吹き飛ぶと、2機のザクを巻き込む形でぶつかりバランスを崩した。

 赤い機体はそのまま地面に着地すると、腰から銃を引き抜いて振り向きざまにもつれ合う3機のザクに向かってトリガーを引く。

 放たれたものは閃光だった。

 その閃光は中央にいたザクを直撃し爆発、その爆発に至近距離で巻き込まれた残り2機も爆発の閃光の中に消えていく。

 それがほんの数秒の間に起こったのである。

 

「な、なんだあいつは……」

 

 まるで悪夢を見ているような気分で呟き、その時になって彼は相手の機体が『赤い』ということに気付いた。

 

「あ、赤い彗星!?」

 

 まるでその答えを待っていたかのように、モニターの中で赤い機体がこちらに向かって走り出す。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!?」

 

 左手に光る剣を握りしめながらこちらへと迫る赤い機体に、彼はすぐさまザクを立ち上がらせると100mmマシンガンを構える。

 しかしその瞬間真上から叩き下ろすように閃光が走り、100mmマシンガンが腕ごと吹き飛ぶ。

 何が起きたのか分からぬうちに、彼の乗ったザクは赤い機体の光る剣によって横に切り裂かれ、爆発の閃光の中に消えていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「流石はシロッコの秘蔵ッ子だ。

 凄まじい腕前だな」

 

 上空から100mmマシンガンを持った腕を正確に貫いたマリオンの狙撃に、シャアは感嘆の声をあげるが、それも一瞬だった。

 

<少佐……>

 

「むっ!!?」

 

 心に響くララァの声に導かれるままにイフリート改を横にステップを踏ませるとそこにミサイルが降り注ぎ爆発する。振り向けばそこにはこちらに向かってくる、背中にミライルランチャーを装備したザク……『ミサイルザク』の姿があった。

 スプレーミサイルランチャーが連続して発射され猛烈な面制圧攻撃が降り注ぐが、シャアのイフリート改には当たらない。

 

(見える! 私にも敵の動きが見えるぞ!

 だが、これは……!?)

 

 『EXAMシステム』によりニュータイプの感覚をものにしたシャアには、相手の動きが確かに見えていた。だが、それと同時に猛烈なまでの『不快感』を感じる。

 相手から、まるで粘つくような不快なもの……『殺意』が纏わりつこうと手を伸ばしてくるのがわかる。そしてそれを避け、その不快なものを感じる場所にトリガーを引けば発射されたビームによって『ミサイルザク』は貫かれていた。

 それによって『不快感』は消え去るが、シャアはコックピットの中で一つ息を付くと垂れる冷や汗を拭う。そして、シロッコがあれほどに『EXAMシステム』を危険視していたのが分かった。

 

(性能もそうだが……これは下手をすれば精神がもたんぞ)

 

 実戦で『殺意』に晒されることがこんなにもストレスとなるとは思わなかった。これでは下手なパイロットでは精神を破壊されてしまう恐れもある。

 

「しかし、シロッコはこの感覚の中で戦っているのか……。

 いや、違うな。

 シロッコはもっと、ずっと洗練された感覚を持っているのだろう」

 

 つくづく恐れ入る男だと思う。ニュータイプの感覚を知っただけの、ニュータイプのなり損ないの自分ではまだまだだ。

 

(だが……置いていかれたくはないな)

 

 そう苦笑すると同時に、山岳地帯の高所からまた『殺気』を感じる。

砲撃部隊からの砲撃だ。

 その『殺気』を避けながらイフリート改を疾走させると、その動きを援護するように上空からマリオンが砲撃部隊に向かって狙撃を続ける。

 弾雨を越えて肉薄したシャアに、動きの遅い砲撃部隊には為す術は無かった。

 マリオンの正確なビームスナイパーライフルの狙撃という援護の元とはいえ、シャアは単機で山岳地帯の敵勢力を、短時間のうちに排除していた。

 しかし、戦闘が終わっても今なお僅かに残る『不快感』に、シャアは顔を顰めるのだった……。

 

 

 




そんなわけでシャアのEXAM起動の話でした。
ユウ=カジマのようにミサイル基地とダブデを単機で潰すよりは、ずっと小ぶりな戦いですが……改めてEXAMはヤバいシステムだと思う。

次回はいやな予感的中のお話。
そしてついに初陣を飾る人たちが。

次回……体調が戻ればまた来週には投稿したいなぁ。
次回もよろしくお願いします。


追伸:今週のビルドファイターズトライ。

   水着回だけど……いろいろ水着のお姉さんで遊び過ぎだろ、おい!
   モデル高校生の一般人に、いきなりバーザムを勧めるユウくんはかなり業が深いなぁ。

   そして相変わらずビルドファイターズでのベアッガイの扱いはいいなぁ。
   
   次回は一期のニルスも出てくるし、また楽しみです。


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第34話 敵奇襲部隊迎撃戦(その1)

お久しぶりです、やっと体調の戻ったキューマル式です。

今回はシロッコたちの作戦と同時刻のユーピテルサイド。
どういうわけか嫌な予感ほどよく当たるものです。
そして、ついに彼女がMSへ。



「……確認できました。 ジオンのファットアンクル輸送機2機にザンジバル級巡洋艦1隻です」

 

「ザンジバル級か……ずいぶん大物だな」

 

「どうします、隊長?」

 

「こちらはモビルスーツ2個小隊……やりようによっては打撃を与えられるだろう。

 戦闘準備だ。

 地球は俺たちの大地だ、土足で入り込んできたジオンの連中にはおかえり願うとしよう」

 

「「了解!!」」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「作戦、始まった頃ですね。 中佐たち大丈夫でしょうか……?」

 

 ザンジバル級巡洋艦『ユーピテル』のブリッジ、不安そうなオペレーターの声に、艦長席に座したフローレンス=キリシマ大尉は朗らかに笑いながら答える。

 

「我らがジオン公国の誇るエース、『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』と『赤い彗星』ですわよ。大丈夫に決まっていますわ。

 それより、周辺警戒を怠らないように」

 

「大丈夫ですよ、艦長。

 ここは後方なんですし、みんなマニュアル通りにしっかりやってくれてます」

 

「そう、それなら安心ですわ」

 

 若い女性オペレーターの答えにフローレンスはかわらず朗らかに笑いながらも、心の中ではまったく逆のことを考えていた。

 

(マニュアル通りにやってますなんて、まるっきりアホの言うことじゃないかい!

 本当に大丈夫なのかねぇ……)

 

 そのどこか緩んだ思考にフローレンスは心の中で悪態をつくのと同時にふと思う。

 

(思えば……アタイらの部隊は少し『勝ち過ぎ』なんだよ)

 

 結成以降、リザド隊は数々の困難な作戦を成功させジオンに勝利をもたらしてきた。それは天才シロッコと彼の育て上げた精強なモビルスーツ隊の働きのおかげだが、もちろんのことながらこれはパイロットだけではなく部隊全体で掴んだ勝利でありそれを隊員一同、誇りに思っている。それは良いことなのだが……どこか危ういのだ。

 別に『勝利』が悪いというのではない。特に戦場での『敗北』などイコール『死』である。問題なのは勝つことで生まれる心の隙だ。

 『勝利』はある意味、強い酒に似ている。程よい『勝利』は士気の高揚と精神的な余裕を生むが、『勝利』に酔い慢心と油断に溺れては、精強な兵もとたんに新兵以下になり下がる。

 

(勝ちすぎることによる弊害……このあたり流石の天才さまでも今一つ理解していない節があるね)

 

 その辺りは基本的に人生負け知らずで生きてきただろうシロッコには難しいのかもしれないと、フローレンスは心の中で呟く。

 ならば、そこは自分の役目だ。今までの人生、勝利の美酒も敗北の泥もさんざんに舐めてきたのだ。その辺りの経験は役に立つだろう。

 フローレンスはこの作戦が終わったら少し本気でこの件を片付けようと、綱紀粛正の案を頭の中で練っていく。

 その時だ。

 

 

ピピピッ!!

 

 

「!? これは……熱源反応です!!」

 

「敵かい!?」

 

 その報告にフローレンスは思考を一気に戦闘用に切り替える。

 

「高速熱源接近! ミサイルです!!」

 

「機銃で迎撃!!」

 

 『ユーピテル』の機銃砲座が火を吹き空から迫り来るミサイルを撃ち落としていくが、数発がさばき切れずに着弾、船体への直撃はなかったが爆発の衝撃が『ユーピテル』を揺らす。

 

「きゃぁぁぁ!!?」

 

「今のはどこからだい! 索敵急げ!!」

 

「はい!

 ……! 見つけました、正面モニターに出します!!」

 

 そして『ユーピテル』のモニターには、望遠したカメラがとらえた敵の姿が映っていた。森の中に脚部にミサイルポッドを装備したザクが2機、そして両肩にスプレーミサイルランチャーを装備したミサイルザクの姿を認める。

 

「スクランブル!

 アポリー中尉とロベルト中尉のドワッジ、迎撃に向かいます!」

 

「……」

 

 その光景をモニター越しに見ながら、フローレンスはいやな予感がした。

 別にアポリーとロベルトの腕を疑ったのではない。2人の腕ならば、今こちらに攻撃を仕掛けているあの3機を抑えてくれるだろうという確固たる信用はある。問題は、この攻撃自体が何か作為めいたものを感じることだ。

 『ユーピテル』と2機のファットアンクル輸送機の着陸しているここは森の開けた場所だ。迎撃に向かうには当然のことながら機動力が落ちる森に入るしかないが、ドム系は得意のホバー機動ができないため機動力の低下が特に激しい。

 本来なら森になど入りたくないが、相手の射程がこちら以上の上、すでにこちらに向かって撃ってきている以上、迎撃を出さないという選択肢は無しだ。

 加えて相手は3機という複数、当然1機で行かせるわけにもいかずアポリーとロベルトの2人で迎撃に向かった。

 これがもし、こちらの護衛戦力を釣り出すためのものだとしたら……。

 

「エンジン始動、離陸急げ!

 急いでこの場を退避するよ、ファットアンクルにもそう送れ!!」

 

 矢継ぎ早にそれだけ指示すると、フローレンスは蹴飛ばすような勢いで艦長席から立ち上がり出口へと走る。

 

「艦長、どちらへ!?」

 

「格納庫! アタイも出る!!」

 

 それだけ言うと、1秒でも惜しいとばかりに『ユーピテル』艦内を全力疾走し始めるフローレンス。そんなフローレンスの耳につけたインカムから、再びオペレーターの悲鳴のような声が上がった。

 

『新たな敵、人型3機!!?』

 

 ほぼ同時に、再び衝撃が『ユーピテル』を襲う。

 

「やっぱりかい! ほんと、嫌な予感ってのはあたるもんだよ!!」

 

 ここに来て、危惧していた部隊規模に対する護衛戦力の少なさが出た。

 フローレンスが走りながらもチラリと窓の外を見れば、ファットアンクルの1機が被弾したらしくローターから炎を噴き出している。そんなファットアンクルにトドメを刺そうというのか、突っ込んできたザクがそのファットアンクルに向かって100mmマシンガンを構えた。

 しかし……。

 

 

ガゴォォォン!!

 

 

 ファットアンクルの格納庫が内側から吹き飛んだ。そしてそこから飛び出したモビルスーツがザクを殴りつけて100mmマシンガンを止める。

 それは……。

 

「調整中のビームグフじゃないか!?」

 

 それはノリス=パッカード大佐への引き渡しのために最終調整を行っていたはずのビームグフだ。

 

「あのグフ……よく見たら丸腰じゃないかい!?」

 

 急いでいたのだろう。手持ち武器がないのは分かるが、調整中のため内蔵武装のワイヤーヒートロッドすら取り外されており完全な丸腰の状態だ。

 

「一体誰が乗ってんだい!?」

 

 そう言いながら、フローレンスは格納庫へと急ぐ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 時間を少し、遡る……。

 その時、彼女……ハマーン=カーンは親友であるレイラ=レイモンドとともにファットアンクル輸送機でメイ=カーウィンの整備の様子を眺めていた。

 

「整備なんて眺めてても面白くも何ともないでしょ。

 部屋にいればいいのに……」

 

 トレーラーの荷台に横になった『ビームグフ』の関節部を端末でチェックしながらメイが後ろを振り向く。

 

「そうは言ってもね……マリーが戦いに行ってるのに部屋でジッとしてるっていうのも……」

 

「ああ、それはわかるかも……」

 

 レイラのその言葉に、メイはポリポリと頬を掻く。戦場に出た友人が心配になって落ちつかないというのはメイ自身、整備としていつもその感覚を味わっているのだからよく分かる話だ。

 そう、友人である。

 年齢も近く、自然と一緒に居る時間の多かったハマーン=カーンとレイラ=レイモンド、メイ=カーウィンにマリオン=ウェルチの4人は今では仲の良い親友同士である。

 よく4人でお茶を飲みながら喋っている光景はリザド隊では有名で、誰もがその微笑ましい光景に心をなごませていた。

 本国に彼女たちくらいの娘を残している者も多く、彼女たちに自分の娘を重ねる者も多い。さらに単純に見目麗しい美少女4人組である。そのため彼女たちはリザド隊では年齢関係無く人気の高いアイドル兼マスコットのような存在だった。

 閑話休題。

 

「ごめんなさい、メイ。 でも、なんだか落ち着かなくって……邪魔はしないから私たちもここに居させてもらっていいかしら?」

 

「もちろんだよ」

 

 ハマーンがすまなそうな顔で頼むと、メイも笑って快諾した。そしてハマーンとレイラの眺める中、メイは再び『ビームグフ』の最終調整に入る。

 

「これが……シロッコ中佐の造ったモビルスーツ……」

 

「うん、ビーム兵器使用を前提としたビームザクの陸戦強化型……『ビームグフ』だよ」

 

 そう言ってテキパキと各部のチェックを行っていくメイ。

 

「整備、熱が入ってるわね」

 

「それはそうだよ、ハマーン。

 だってシロッコお兄さんが私に『頼む、君にしか頼めない』ってお願いしてきたんだもん。

 もう、もーっと私を頼りにしてもいいんだよお兄さん。

 さぁ、私に甘えに来たまえ! なーんちゃって」

 

「メイ、あんた今の顔ちょっと不気味。 あと妄想も大概にね」

 

 そう言ってエヘヘと笑いながら身体を不気味にくねくねゆするメイに、レイラは若干引き気味だ。恐らくメイの脳内では今頃美化されたシロッコが、事実からはずいぶん誇張された形でメイに囁いているのだろう。

 

「あ、あはは……メイは本当にシロッコ中佐が大好きなのね」

 

「もちろん!

 私はマリーや他の人たちみたいに戦えないし、こういう得意分野で『できる女』をアピールしないとね」

 

 ハマーンとレイラは、メイの様子には笑うしかない。同時に、したたかに自分の存在をアピールしにいっているメイに案外策士なんだと驚く。

 恋を知れば、女は誰でもこうなるのかも知れない……ハマーンとレイラはそんな友人を微笑ましく思うとともに、少しだけ羨ましく思った。

 その時……。

 

「「!!?」」

 

 ハマーンとレイラの脳裏を、電光のように何かが突き抜けていくのを感じた。

 

「? どうしたの、2人とも?」

 

「ダメ! メイ、伏せてぇぇぇ!!」

 

 メイが様子のおかしい2人にいぶかしむのと、ハマーンの声が響くのはほぼ同時だった。

 

 

 ドゥゥン!!

 

 

 爆発音、それに次いで激しい揺れがファットアンクル輸送機を襲う。

 

「「「きゃぁぁぁぁぁ!!?」」」

 

 その揺れで、3人は揃ってトレーラーの荷台部分から投げ出されていた。

 

「痛ぅ……」

 

 身体をしたたかに打ち、その痛みに顔をしかめながらもハマーンは身体を起こす。

 すると……。

 

「きゃぁぁぁ!!

 メイ! メイ!?」

 

 レイラの悲鳴に目を向ける。そこにはトレーラーの荷台から落ちた時に打ち付けたのか、頭から血を流すメイの姿があった。

 

「あうぅ……」

 

「メイ! しっかりして、メイ!?」

 

 どうやらレイラはハマーンと同じく無事らしい。即座にメイの元に駆け寄るレイラ。

 ハマーンもまた、跳ねるように飛び起きるとメイのもとに駆け寄った。

 

「メイ、しっかり!?」

 

「!? ダメよ、レイラ!」

 

 メイを抱き起こしゆすろうとしていたレイラを、ハマーンは慌てて止める。頭から血を流しているのだ、それを下手に揺らしてしまってはどうなるか分かったものではない。

 

「ハマーン、メイが!?」

 

「分かってる、早くメイを安全なところに運びましょう!」

 

「でも、安全なところってどこよ!?」

 

 レイラの言葉どおり、今ここは混乱の極みにあった。ファットアンクルの格納庫の一部が壊れ、何人かがその下敷きになっていた。

 内部も大変な騒ぎだが、外も酷い。整備などのため機材や物資の一部は外に出していたのだが、それに被弾し爆発炎上、何人もの整備兵が火を消そうと動き回る。

 この混乱の中、安全なところなどどこにも考え付かない。

 その時、再び2人の脳裏を電光のようにイメージが突き抜けていく。

 この襲撃は終わってなどいない。むしろこれから、敵がここに来る。

 そしてこのままでは、きっと避難は間に合わない……そのことを2人は直感的に確信した。

 

「……ハマーン」

 

「……うん!」

 

 レイラの言葉にゆっくりとハマーンは頷くと、目の前のさきほどまでメイが整備していた『ビームグフ』を見上げた。そしてトレーラーへとよじ登りグフのコックピットに滑り込むと、滑らかな動きでハマーンはグフの起動をしていく。

 ジェネレーターに火が灯り、グフのモノアイが光り輝く。

 

『私が時間を稼ぐから、その間にメイをお願い、レイラ!!』

 

「わかった! 無理はしないでよ、ハマーン!!」

 

 メイを引きずるようにしながら避難していくレイラをモニター越しに横目で見ながら、ハマーンはグフの上半身を起こすが……。

 

「ダメ、このままじゃ間に合わない!」

 

 ハマーンはペダルを踏み込む。途端にスラスターに火が入り、座った状態だったグフを強引に推し出す。スラスターの推力に押されながらも空中でバランスを取ると、グフはその勢いでファットアンクルの格納庫の扉を体当たりで突き破る。

 

「やぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そしてそのまま、100mmマシンガンを撃とうとしていたザクへと殴りかかってそれを止めた。

 

「私の友達……やらせはしない!」

 

 ハマーンがペダルを踏み込むと、それに応えてグフは再びザクへと向かっていくのだった……。

 

 

 




というわけでお友達を助けるために、遂にハマーン様の出陣です。
道を開けよ、ハマーン様のご出陣じゃ!! ハマーン様ばんざーい!!
なんかグフを白く塗ってやりたい……。

次回は連邦部隊との戦いの続きです。
次回もよろしくお願いします。


追伸:先週と今週のビルドファイターズトライ。

   メイジン回としかいいようのない暴れっぷり。いいぞもっとやれ。
   レッドウォーリアが動くとか……長生きはするものだ。
   アドウさんには最終的にガンキラーに乗って欲しい私はガンダムボーイ世代です。

   それにしても枯れた花が蘇るとか……お前はキン肉マンか?

   次回も楽しみです。


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第35話 敵奇襲部隊迎撃戦(その2)

年末年始が忙しく、これが今年最初の投稿となりました。
今年もよろしくお願いします。

今回ははにゃーん様たち留守番サイドの攻防戦となります。
そして連邦にはネームドキャラが登場。
彼らのことが即座に分かったら、結構なガノタです。



「吶喊します!!」

 

「ナオ軍曹、待ってください!」

 

 100mmマシンガンを乱射しながら突撃するナオ=ジェシカ=パーカー軍曹のザクに追随し、セバスチャン=クリエ軍曹のザクがロケットランチャーを発射しながら駆ける。

 

「ジオンはここから出ていけ!」

 

 ナオは才色兼備な女性パイロットだが、ことジオンとの戦闘においてはこれ以上ないほどに勇猛果敢な戦いぶりを見せる。その100mmマシンガンで的確に、次々と物資を破壊していく。

 

「悪いけど、こっちも任務なんだ」

 

 クリエは、元はパイロットではなく整備兵である。ジオンの侵攻とその戦略にあって、パイロットの不足からせっかく整備したモビルスーツが稼働できず、そのためにまともな防衛戦もできずにメカニック仲間たちが次々と殺されていくという現状を見かねて自らパイロットに志願した整備兵兼パイロットである。

 ある意味ではシロッコの提案した『ソフトキル戦略』の成功を示すような人物であるクリエは自分たちの襲撃によって逃げまどうジオンの整備兵たちにどこか同情めいた想いを抱くが、すぐに任務だと余分な思考を振り払いナオのザクを援護する。

 そんなクリエのザクが放ったロケットランチャーは逃げようと離陸のために回転を始めたファットアンクルのローターに直撃、炎をあげながらローターが停止する。

 

「とどめ!!」

 

 そのファットアンクルにとどめを刺そうと、接近したナオ軍曹のザクが100mmマシンガンを構えた。

 その時。

 

 

 ガゴォォォン!!

 

 

 ファットアンクルの格納庫が内側から吹き飛び、そこからグフが飛び出してきた。勢いの乗ったグフの拳が、ナオのザクに叩きつけられる。

 

「ナオ軍曹!?」

 

「くぅ……このくらいなんだというの!!」

 

 その衝撃にたたらを踏んだザクだが、ナオはすぐに体勢を持ち直すとグフに向かって100mmマシンガンを構えようとした。だがそれより先にグフは一歩踏み出すと、ナオのザクに組み付く。

 

「これじゃ撃てない!?」

 

 ナオ機を援護しようとロケットランチャーを構えたクリエ機だが、ロケットランチャーはその爆風によってもダメージを生み出すもの、組み合っているような超接近戦では同士討ちの危険から撃てない。それどころかグフはナオ機をクリエ機との間にくるように、ナオ機を盾にしながら巧みに動いていた。

 

「このぉ!!」

 

 ナオも何とかグフを振りほどこうとするものの、単純なパワーではグフの方が上だ。とてもではないが振りほどけない。

 

「ナオ軍曹、今行きます!」

 

 クリエのザクはロケットランチャーを腰にマウントすると、かわりにヒートホークを構えた。接近戦なら組み合っていても援護できるという考えのもとでの、正しい判断だろう。

 しかし……。

 

『好き勝手やってんじゃないよ!!』

 

「うわぁ!!?」

 

 無数の弾丸が通り過ぎ、そのうちのいくつかがザクの装甲を叩く。クリエは慌ててザクを物陰に滑り込ませると、その弾丸の飛んできた方向を見た。

 そこにいたのは1機のザクだ。両肩がスパイクアーマーになっているほか、各所にも改造の跡が見受けられるのがメカニックでもあるクリエには一目で分かる。間違いなくただのザクではない。そのザクは右手にはMMP80マシンガンを、そして左手には巨大なガドリング砲のついたシールドを装備していた。

 

『ここまでやってくれたのですから……覚悟はできてんだろうな、クソども!』

 

 そのザクはマシンガンとガドリングを乱射しながら、戦場へと突っ込んできた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 『ユーピテル』の格納庫に残っていた『ビームザク』の1機に搭乗したフローレンス=キリシマ大尉は装備したMMP80マシンガンと、左手の複合攻盾兵装、いわゆる『ガトリングシールド』を乱射しながら戦場へと駆けつけた。

 

「そこのグフ、乗ってんのは誰だい!」

 

 短距離通信で怒鳴るように問いかけると、その声にか細い声が答える。

 

『ご、ごめんなさい。

 私、ハマーンです』

 

「あの嬢ちゃん!?

 一体どういうことですの……ってぇ聞いてる場合じゃねぇわな。

 今行くからそれまでそっちを抑えつけときな!」

 

 言ってフローレンスはMMP80マシンガンとガトリングシールドを乱射する。その弾幕に牽制され、クリエのザクは物陰から出て来れない。

 そのままハマーンの援護に駆けつけようとしたその時だ。

 

 

 ピピピッ!!

 

 

「ッッ!!?」

 

 フローレンスの鍛え抜かれた実戦での勘で、警告音とともにフローレンスは機体を大きく後ろにステップを踏ませる。

 そこに巻き起こる爆炎、それは180mmキャノン砲の弾丸だ。もしそのまま進んでいれば直撃を受けただろう。

 

「小賢しい真似を!!」

 

 即座にフローレンスはその発射点である森に向けてMMP80マシンガンとガトリングシールドを乱射する。弾丸が木々をなぎ倒し、チロチロと燃える木片が宙を舞う。

 だが、同時に空に木片とはまったく違うものが飛び上がっていた。

 それはザクだ。その頭部には隊長機を示すブレードアンテナが立っている。さらにバックパックも一回り大型になり、コックピット前の胸部装甲も追加が加えられていた。

 

「角付き!? 隊長機かい!?」

 

 フローレンスは知る由もないが、これは連邦版ザクバリエーションの1機、隊長機使用の改造機である『ザク強化型』、通称『強化ザク』である。通信機能の強化と前面装甲の追加、バックパックの高出力化による機動力の増加といった総合的な強化のされた機体だ。

 その強化ザクが、フローレンス機からのMMP80マシンガンとガトリングシールドを大きく跳び上がって避ける。その手には肩に担いだミサイルランチャーが両手に計2基、構えられている。

 

『喰らえや!!』

 

 強化ザクに搭乗するのは連邦軍バルザリー小隊の隊長であるバリー=バルザリー少尉である。その咆哮とともに、ミサイルランチャーから全弾、計12発のミサイルが発射された。

 

「ちぃ、さかしいよ!!?」

 

 即座にフローレンスがMMP80マシンガンとガトリングシールドで弾幕を張り、ミサイルを迎撃しようとする。

 

『おうおう、派手だねぇ』

 

 その光景に軽口を叩きながらも、バリーは弾切れのミサイルランチャーを投げ捨てると、右手で腰の後ろにマウントされた100mmマシンガンを引き抜き、左手にヒートホークを握らせる。

 一方のフローレンスはミサイルを迎撃しきれず、1発が咄嗟に構えたシールドで防いでいた。

 

「ちぃ!!」

 

 巻き起こる爆風の中をバリーの強化ザクが100mmマシンガンを連射しながら突っ切り、ヒートホークを振り下ろす。赤熱したヒートホークの刃がシールドに食い込んだ。

 

「くっ!?」

 

『おらぁ!!』

 

 なおも体重をかけながらフローレンス機を押し切ろうとする強化ザク。

 

「舐めてんじゃ……ないよ!!」

 

 しかしフローレンス機はヒートホークを押し返すと、お返しとばかりにMMP80マシンガンを撃った。

 

『おっと!』

 

 しかしバリーの強化ザクはそれを、どこか余裕すら見せながら避けた。そして地面に降り立った強化ザクの100mmマシンガンの射撃に、フローレンスは咄嗟に機体を物陰に滑り込ませる。

 物陰に隠れながら、フローレンスはつぅ、っと冷たい汗が流れるのを感じた。

 

(こいつ……侮れないね!)

 

 フローレンスは強化ザクに乗ったバリーの技量に舌を巻く。それにフローレンスの乗る『ビームザク』はビーム兵器を使えるように改造を施しているというだけで、元はただのザクS型だ。純粋な性能面だけを言えば、強化ザクには劣る。そのため、さすがのフローレンスも攻めあぐねいていた。

 

『クリエ、ナオの援護を』

 

『りょ、了解!』

 

 そうしている間に、フローレンスによって動けなくなっていたクリエ機が自由になってしまった。バリーの指示によってクリエ機が再びヒートホークを持って組み合うハマーンのグフの元へと向かおうとする。

 

「マズい!?

 ハマーン、そこからさっさと離れな!」

 

『くぅ!?』

 

 ハマーンも状況が悪いことも分かっているらしい。グフはスラスターに火が入ると、ザクを引きずりながらその場を離れようとする。組み合うザクは盾代わりだ。今、その盾が無くなれば射撃武器のいい的である。組み合ったまま離脱を計るという判断は悪くない。

 だが、それをヒートホークを抜いたクリエのザクが追いすがる。このままではそうかからずハマーンは追い付かれて斬りつけられるだろう。

 その時だ。

 

『とりゃぁぁぁぁ!!』

 

『ッ!?』

 

 ファットアンクル輸送機から飛び出したドワッジが肩口からクリエのザクへとぶつかった。その衝撃にザクがたたらを踏む。

 

「今度は誰だ!!?」

 

『わ、私レイラです』

 

「今度はデコ娘の方かい!」

 

 新たに現れたドワッジはレイラだった。彼女は怪我をしたメイを預けると、残っていたドワッジに乗ってハマーンの援護に現れたのである。

 

「もう何にもいいませんわ。

 いいから手ぇ貸しな!!」

 

『は、はい!』

 

 言われてレイラが搭乗するドワッジは、両手に装備したMMP80マシンガンを乱射を始める。MMP80マシンガンの90mm鉄鋼弾がクリエのザクを襲う。

 

『う、うわぁぁぁ!?』

 

『クリエ!? 今行く!!』

 

 威力の低いマシンガンのためすぐに致命傷にはならないが、その弾幕にさらされ後ずさるクリエ機。そんなクリエ機を援護するためバリーの搭乗する強化ザクは目標をドワッジへと変更すると100mmマシンガンを放った。

 レイラはいったん攻撃をやめ、その100mmマシンガンの弾丸を避ける。ドワッジからの弾幕にさらされたクリエのザクは退避を始めた。しかしバリーの注意がレイラに向かったということは、バリーの抑えていたフローレンスが自由になったということだ。その瞬間をフローレンスは逃さない。

 

「今だ!!」

 

 チャンスと見たフローレンスは、物陰から空中にスラスタージャンプで飛び上がった。そして空中でMMP80マシンガンとガトリングシールドをクリエのザクへと向けて照準する。

 

「よくもやってくれたねぇ……。

 倍返しだよ! 受け取りな!!」

 

 そして放たれたものは弾の嵐だ。

 濃密な弾幕がまさしく雨のように降り注ぎ、ザクの装甲を撃ち抜いていく。

 

『う、うわぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 その弾雨が腰にマウントしたロケットランチャーの残弾に引火し爆発、次いで本体のバックパックから引火しザクは上半身を大爆発させた。

 

「まず1機!!」

 

『クリエぇぇぇぇ!!?』

 

 上半身を失い、膝から倒れ込むザクの下半身。部下を失ったことにバリーは絶叫するが、バリーにも動揺している余裕はない。クリエ機を撃墜したフローレンスはそのままバリーの強化ザクに狙いを定めていたからだ。

 たまらず物陰に隠れるバリーの強化ザク、その様子を尻目にフローレンスは通信機に呼び掛ける。

 

「ここは任せて、あのハマーンの嬢ちゃんの方に行きな、デコ娘!」

 

『デコ娘って!?

 わかりました、行きます!』

 

 ちょっと額が広いことを気にしているレイラとしては『デコ娘』呼ばわりには思うところもあったがこの状況である、即座にハマーンの方へと援護に向かう。それを確認すると、フローレンスは強化ザクへと意識を再び向けた。

 物陰から飛び出した強化ザクの100mmマシンガン、それをフローレンスは機体を物陰に走らせながらMMP80マシンガンで応戦する。

 

「ちぃ! 敵ながら目がいいじゃないかい!!」

 

 フローレンスは時折フェイントとしてジグザクと動いているのにも関わらず、100mmマシンガンの弾丸は数発が構えたシールドに当たり、弾けていく。その腕に、フローレンスは素直に感心した。しかし、だからこそやりようはある。

 バリーは物陰に隠れたフローレンスのザクに、警戒しながらも接近する。部下であるクリエがやられたこともあり、バリーはそのザクだけは墜とすと意気込んでいた。

 その瞬間、物陰から再び空中に踊り出す影があった。またクリエを殺った空中からの攻撃かとバリーは反射的に反応し、機体を空中へと向かせる。だがそれは、フローレンスのザクではなかった。

 

『何ッ!?』

 

 空中にあったそれは、ガトリングガンの銃身と弾倉である。それを理解したとき、バリーは自分が敵の策にまんまと引っ掛かったことを悟った。

 

「目の良さが命取りだよ!!」

 

 パージしたガトリングガンを囮にし注意が行ったその瞬間、フローレンスはここが勝機とスラスターを全開にして物陰から飛び出した。MMP80マシンガンを連射しながら一直線に強化ザクへと駆ける。駆けながら、フローレンスの搭乗するザクの手にはガトリングをパージして空いた左手にはビームサーベルの筒が握られていた。

 

「終わりだぁぁぁ!!!」

 

『う、うおぉぉぉぉぉ!!?』

 

 一気に接近戦に持ち込んだフローレンスの搭乗するザクが、ビームサーベルを振るう。その光の刃は強化ザクの胴体に直撃し、何の抵抗も無く横一文字に強化ザクを切り裂いていた。爆発の閃光に、強化ザクが砕け散る。

 

「やったかい……」

 

 強敵の撃破に、フローレンスは一つ息をつく。だがまだ終わりではない。

 今度はハマーンたちの方をだと、フローレンスは休む間もなく機体を向けた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 組み付いたまま、ハマーンの搭乗するグフは戦場から離れるように移動していた。

 

『このぉ!!』

 

 しかし、組み付いたままのザクも大人しくしているわけもない。グフの拘束から左手を引き剥がすとその左拳をグフへと叩きつける。

 

「きゃあ!?」

 

 その衝撃にグフがたまらずたたらを踏んだ。その隙に、ナオは右手の100mmマシンガンを構える。

 この至近距離である、低威力の100mmマシンガンも十分な脅威だ。普通ならばその脅威を前に少しでも距離を取りたくなってしまうものだがしかし、ハマーンは違った。

 

「!!?」

 

 この極限でハマーンが選んだのは前進だった。勇気のいる判断、だがその判断は正しい。なんといってもハマーンのグフは丸腰なのである。距離を放したところでいつまでも100mmマシンガンを避けきれるものではなく、反撃もできないとなれば極至近距離を維持し続けることこそ最善なのだ。

 

「たぁぁぁぁ!!」

 

『何ッ!?』

 

 100mmマシンガンの射撃より早く、再び踏み込んだグフが左足で蹴り上げる。それによってナオの搭乗するザクの手から100mmマシンガンが空中へ飛んだ。しかし射撃武装を失ったナオだが、その闘争心は微塵も揺らがない。

 

『この!? ジオンめ!!』

 

「!?」

 

 ナオの搭乗するザクはスラスターを全開にすると、グフへとぶつかっていった。

 

『このまま叩きつけてやる!!』

 

 グフを押し出しながら壁に叩きつけようとするナオ。

 

「まずい!?」

 

 それを感じ取ったハマーン、そこからの動きは条件反射に近かった。

 グフはぶつかるザクの腕を掴む。そして左足裏をザクの胴体に押し付けると、そのまま蹴り上げた。

 

「たぁぁぁぁぁ!!」

 

『ッ!!?』

 

 ナオには、何が起きたのか分からなかった。水平を保っていた機体がクルリと反転すると、次の瞬間には轟音と衝撃を伴って、背中から地面に叩きつけられていたのだ。

 これを外側から見ていて格闘技を知るものなら、ハマーンが何をやったのかわかるだろう。ハマーンはナオのザクの勢いを殺すこと無く、蹴り上げるように投げ技……柔道の『巴投げ』をグフで行ったのである。

 

「ふぅ……」

 

 『巴投げ』で地面に叩きつけられたザクはピクリとも動かない。グフを立ち上がらせハマーンはそれを確認すると、大きく息をついた。

 

『ハマーン!! 無事!!?』

 

 こちらに向かってくるドワッジから通信が入る。それがレイラのものだと気付いたハマーンは安心したかのように肩の力を抜いて返答しようとした。

 

「ええ、こっちは大丈……」

 

 

 キュピィィィン!

 

 

「!!?」

 

『ハマーン!!』

 

 電光のように駆け抜ける感覚、危機感とも呼べるそれをハマーンとレイラは同時に感じ取る。そして、その原因を2人は正しく感じ取っていた。

 

『ジオンは……ここから出ていけぇぇぇぇ!!』

 

 立ち上がったザクがスラスターを全開にして、左手でヒートホークを振り上げながらハマーンの搭乗するグフに背後から襲いかかったのだ。

 

「『ッ!!?』」

 

 そして、そこからのハマーンとレイラの動きはまさしく神業だった。

 レイラのドワッジが左手に持っていたMMP80マシンガンを空中に放り投げる。

 ハマーンはまるで背後に目があるのではないかというレベルの正確な機動でサイドにステップを踏む。紙一重でヒートホークをかわしたハマーンは、レイラの投げたMMP80マシンガンを空中で掴むと、そのまま反転した。そしてハマーンのグフと、ホバー機動でその横に並んだレイラのドワッジが腰だめにMMP80マシンガンを構える。

 

「『わぁぁぁぁぁぁ!!?』」

 

 2丁のMMP80マシンガンが咆哮した。

 至近距離から放たれた無数の90mm鉄鋼弾が、ヒートホークを振り下ろし隙だらけのナオの搭乗するザクを穿つ。

 その凶暴な弾丸の嵐の前に、ザクはまるで踊るように弄ばれる。そしてMMP80マシンガンのマガジンを撃ち尽くし空になったとき、ザクは糸の切れた人形のように膝をついた。

 

「お、終わった……?」

 

 極度の緊張から解放されハマーンは息を吐く。

 その時、ザクのコックピットハッチが開いた。

 一年戦争期のモビルスーツには、基本的に特別な脱出機構のようなものを備えた機体は少ない。そのため、機体が危険な状態になれば搭乗員は乗りこんだときと同じようにハッチを開き脱出するしかないのだ。

 そして、ハマーンとレイラはそこで今まで戦っていた相手の姿を見る。

 ザクから出てきたのは、女性だった。連邦の軍服を着たその女性は、ハマーンとレイラの2人から見ても素直に綺麗だと思える。そんな女性が脱出のためにコックピットから出てきたのだ。

 だがその時、ザクの受けた機体ダメージは限界に達していた。ザクのバックパックが爆発し、それに連動するようにコックピット内部が爆発する。

 そして……ハマーンとレイラの2人ははっきり見てしまった。コックピット内部からの爆発に吹き飛ばされ、その女性が空中へと投げ出されるその瞬間を……。

 ザクは膝をついた状態でも10m近い高さがある。その高さから、勢いよく吹き飛ばされたのだ。

 

 5回、である。

 吹き飛ばされた連邦の女性兵……ナオ=ジェシカ=パーカー軍曹が地面で『バウンドした回数』だ。

 絶対に、間違いなく生きていない落ち方と回数だった……。

 

「う、うぅ……」

 

『あ、ああ……』

 

 そのすべてを目の当たりにしたハマーンとレイラの2人は同時に、いいようもないほどの不快感を感じた。2人は喉を掻きむしるように胸元を開け、何度も何度も深呼吸を繰り返すが、まったく楽にならない。それどころか不快感は増し、遂にハマーンとレイラの2人は耐えきれずにコックピット内で嘔吐をしてしまう。

 それでも、全身を襲う不快感と震えは収まることは無かった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 やがて迎撃に出ていたアポリー・ロベルト両名も敵を撃退し、『ユーピテル』やファットアンクル、そして多くの貴重な人員は守られた。

 しかし、この襲撃は今まで連戦連勝であったリザド隊に、多くの傷跡を残す結果となったのである……。

 

 

 




そんなわけで奇襲部隊との攻防戦でした。
何とか勝利しましたが、ハマーンとレイラはキツイことに……。
バルザリー小隊も本来の陸戦ガンダムなら違ったかもしれませんが、機体がザクじゃなぁ……。


ナオ「ジオンはここから出ていけ!」

「はいはい、修羅双連撃修羅双連撃」

ナオ「(´・ω・`)ショボーン」


タックル連射のせいでカウンターの決めやすく攻略が簡単なナオさん、この作品でも酷い目に……。
次回は事後処理のお話。
帰って来たシロッコは何を思うか……次回もよろしくお願いします。




追伸:今週のビルドファイターズトライ。

   ガンダム定番の強化人間枠的なヒロイン、シアの登場でテンパるフミナ先輩が可愛い。

   しかしメイジンは登場するだけで笑えてくるというおいしいキャラだなぁ。
   新型機も出てくるようだし、これから楽しみすぎる。

   ただ……レッドウォーリアの出番がこれっきりってことは……ないよなぁ?


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第36話 『戦い』と『納得』と

お久しぶりです。

リアルでの事情やらなんやらで筆が進まず、久しぶりの投稿となります。
今回はハマーン様とレイラへのアフターケアのお話です。



 包囲された友軍の救出作戦から一夜明け、私は『ユーピテル』の執務机にいた。早くも上がってきている報告書に目を通していく。

 その時、来客を知らせるベルが鳴った。

 

「どうぞ」

 

「私だ、シロッコ」

 

 入ってきたのはシャアだ。

 

「昨日の作戦の報告書の追加だ。

 それと……ギニアス閣下から感謝の言葉が届いている」

 

「ほぅ……」

 

 私はシャアから報告書を受け取ると、その内容に目を通す。

 昨夜の強襲作戦によって、東西の山岳地帯に展開した敵砲撃部隊は殲滅された。それによって包囲網は解かれ友軍は撤退を開始、制圧した山岳地帯にはザクのマゼラトップ砲装備型やザクキャノン、マゼラアタックといった砲撃部隊を配備し、友軍の撤退を引き続き支援することになっている。

 友軍を苦しめた高所からの砲撃が、今度は友軍に追いすがる連邦の足止めになるというわけだ。この辺りは事前にノリス大佐に話をつけてあったために動きが速い。

 連邦の追撃部隊に関しては未だに脅威ではあるが……実はそれに関してもガルマ経由で少し手を打ってある。上手くいけば、連邦の追撃部隊どころか、この地域の連邦の動きそのものを鈍らせ、早期に膠着状態には持ち込めるだろう。

 戦果だけを見るなら十分な大成功だ。

 

「今回の作戦、大成功と言ってもいいな……」

 

 だが、そんな私のつぶやきをシャアは呆れたように、ため息まじりに否定する。

 

「シロッコ、ひとかけらも思っていないことをうそぶくのはやめろ。

 自分すら騙せぬ嘘は、聞かされる他人にとってはひたすら不快なだけだぞ」

 

「……分かるかね?」

 

「ニュータイプで無くとも、今の君のイラつきは手に取るように感じられるぞ。

 それも無理からぬことではあると理解できるがな」

 

「……」

 

 シャアの言葉に、私は押し黙る。

 事実、私は今回の作戦を『大成功』などとは思っていない。むしろ、私は今回の戦いは『大失態』であると思っている。

 確かに友軍の救出作戦のはずが敵陣地の殲滅戦となり、私の部隊はその作戦を完遂、連邦に対し大出血を強いただろう。結果だけ見れば『大成功』とも言えなくない。だが、そんな『どうでもいいこと』では取り繕えないほどの『大失態』を私は演じてしまっていた。

 

 

 停泊中の部隊への奇襲攻撃……私たちのいない間に起こったこれは、まさに痛恨の大失態だった。

 被害はファットアンクルの1機がローター損傷の大破、多少の資材の喪失、そして整備兵含む12名の戦死……数字にしてみて、これが多いか少ないかは判断しかねるところだ。しかし、数字に表れていない被害が大きすぎる。

 それはハマーン嬢とレイラ嬢である。先の奇襲を受けた際、ハマーン嬢とレイラ嬢は残っていたモビルスーツに搭乗して、ここを守るために戦場へと出た。そしてその中で人の『死』をニュータイプとしての感覚で強く感じ取ってしまい、強いショックを受けてしまったのである。

 これはまごうこと無く、私のミスだ。

 確かにここは『後方』とも言える場所だ。しかし、この東アジア地域には『戦線』などという上等なものが存在しない。『線と線の戦場』とは違い、ここは『点と点の戦場』なのだ。そんな『点と点の戦場』には厳密な『後方』などというものは存在しない。自分の周囲すべてが『最前線』なのである。私はそんな単純なことを、分かっているつもりでも理解できていなかった。だからこそ『ここは後方だから大丈夫』などという言葉で、護衛をおろそかにしてしまったのである。

 確かに護衛に廻せる戦力が無かったことは事実だが、それならばノリス大佐から戦力を借りるなり何なり、どうにかして用立てる努力をし結果をだすのは指揮官としての義務であり責務である。それすらしていないのだから、言い訳すらできない。

 それに、『ハマーン嬢とレイラ嬢を戦場に出してしまった』というのも大きなミスだ。彼女たちは、ガルマのゲストに近い。特にハマーン嬢は国家の重鎮であるマハラジャ=カーンのご息女である。その彼女たちを危険な戦場に出したのだから、その責任は甚大だ。

 もっとも、彼女たちが戦ってくれなければ、被害はもっと甚大なことになっていただろう。彼女たちの戦場へ出たという行動について、私は2人を責めれるはずもない。すべての問題は、『敵の攻撃に対する対処を怠り、結果としてハマーン嬢とレイラ嬢が戦わざる得ない状況を作った』という、私のミスである。

 

 

 この件に関しては、即座にガルマに連絡し頭を下げることになった。ガルマに2人を任されたこともあるが、今回のことがギレンに知られれば問題も大きいからだ。

 レイラ嬢はともかく、ハマーン嬢は名目上はガルマの預かっている政府高官の娘である。それを危険に晒したのだ、ギレンなら今回のことを口実に、危険だからと嬉々としてハマーン嬢たちを自分に渡せと言ってくるだろう。そうなった場合、言っていることが正論である以上追及をかわすのが難しくなる。そのためにも、ガルマの力も借りた大規模な情報隠ぺいも必要だろう。

 

「……実はシロッコたちがここを離れてから、ギレン兄さんからのハマーン嬢の追求の話が弱くなってね。これなら隠ぺいも上手く行く。

 ここは僕に任せてくれ」

 

 ガルマも私が『戦場において絶対は無い』と何度も言っていたためすぐに理解し、情報隠ぺいに動いてくれたが……私としては責められた方が気が楽になるというものだ。

 ……少しギレンの態度の変化には引っかかるものを感じるが、失態を犯した今の私が言える話でもない。

 ギレンの介入という最悪は回避できるだろうが……問題は2人の心についてだ。

 

 

「……シャア、2人はどうしてる?」

 

「今は同じ部屋で、寄り添うように休んでいるようだ。

 同じ経験をした2人だからな、少しでもそれを分かち合おうというのだろう。

 私も今回、EXAMシステムを使って『あの感覚』は味わったが……あの歳の、しかも女の子には厳しすぎる」

 

 ニュータイプの感覚での戦いは、相手の『死』を様々な形で感じてしまう。私も『命の砕ける音』を聞いているし、『死んだ人間の思念が身体の中に入ってくる』というものも経験している。その不快感を思い出したのか、シャアは苦い顔をしていた。

 そこでふと、シャアは疑問を口にする。

 

「これは私も聞きたいのだが、シロッコはどうやってあの感覚と折り合いをつけたのだ?」

 

「慣れ、だな。

 入り込んでくるすべてを余すことなくニュートラルに受け止めていては、さすがにパンクしてしまうよ。

 ああいった感覚は慣れれば私のように自分の意思でそれなりに取捨選択できるようになるし、君のような強い精神力があれば耐えることもできるだろう」

 

 だが、さすがに幼い2人にはそれは無理だったということだ。『感じすぎる』ことは決して幸せなことではない。そのことによる精神へのダメージを、2人はモロに受けてしまっている。

 私は執務机から立ち上がった。

 

「行くのか?」

 

「後廻しにできるような問題でもないのでな。

 こんなことで、彼女らの未来に影を落としたくは無い」

 

「もっともな話だ。

 ……私も行こう。

 あの感覚は私も今回初めて体験した。立場としては同じようなものだ。

 ならば同じ経験をした者として、少しぐらいは役立てるだろう」

 

「……すまんな、シャア」

 

 私とシャアは連れだって、ハマーン嬢とレイラ嬢のいる部屋へと歩き出した……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 薄暗い部屋の中、ハマーンとレイラは寄り添うようにベッドの上にいた。

 

「「……」」

 

 2人は膝を抱えるようにベッドの上に座り、俯いている。ハマーンの左手とレイラの右手はしっかりと繋がれており、まるでお互いの震える身体を抑えるかのようだ。

 事実、暗がりのため分かりにくいが2人の身体は小刻みに震えている。何度も何度も、不意にその脳裏にフラッシュバックしていくのはあの光景……自分たちの撃ったザクの爆発で吹き飛ぶ連邦の女性兵とその時感じた不快感……何かが身体の中に入ってくる感覚だ。あの感覚はきっと『死んだ人間の魂』なのだろう……そんなことが2人には漠然とだが理解する。

 彼女たちぐらいの少女には『人の死』というのは目の前で起こるだけで十分にトラウマだ。しかも彼女たちはそのニュータイプとしての強すぎる感性で感覚的にも『人の死』を感じ取ってしまったために二重のダメージを受けてしまっているのである。

 そんな2人の部屋の扉が開くと、2つの来客の姿があった。

 

「マリー……それにメイ……」

 

 僅かに顔を上げたハマーンは来訪者の姿を認めた。

 マリオンはいつものように感情の読みにくい、無表情でハマーンとレイラを見ている。その影に隠れるようにしてメイの姿があった。その頭には真新しい包帯が巻かれている。

 

「メイ、怪我は……?」

 

「うん、大丈夫」

 

 あの襲撃の際に怪我をして頭から出血していたメイだが精密検査の結果異常は見られず、メイの怪我は表面的なものだけである。その報告にはハマーンもレイラもホッと胸を撫で下ろした。

 

「……2人とも、少しは落ち着いた?」

 

「「……」」

 

 マリオンの気遣うようなその言葉に、ハマーンとレイラはどちらも首を振る。

 

「ダメ……目を瞑ると今でもあの光景が浮かんでくるの……」

 

 弱々しく頭を振るレイラに、ハマーンが続ける。

 

「それに……あの瞬間に感じたものが……まるで忘れられない……」

 

 普段の2人からは考えられないようなその弱々しい姿に、マリオンは納得するように頷いた。

 

「そう……2人はその人の『死』を感じてしまったのね。

 私もわかる。 あの『嫌な音』や『身体の中に入ってくるもの』は私も戦場で感じるもの」

 

 マリオンも戦いの中で、『命の砕ける音』や『身体の中に入ってくる思念』の不快感を思い出して、同意するように何度も頷いた。

 

「……マリーはあの感覚をいつも味わっているの?」

 

「ええ……私もうまく感覚を制御できているわけではないから、感じすぎてしまうことは多いわ」

 

「あの感覚を何度も……」

 

 その言葉に、レイラは理解できないといった感じでマリオンを見る。あの不快感は、できれば二度と味わいたくないものだ。

 

「マリーは……強いのね……」

 

 ハマーンの言葉に、しかしマリオンは首を振る。

 

「私は強くなんかない。 本当は戦いなんかキライよ。

 争いなんて無くなってしまえばいい……そう思ってる。

 でも……私は戦うわ」

 

 その迷いのない口調に、思わずハマーンとレイラは目を向けた。

 

「私は……こんなにも戦えてしまえる。

 そして戦わなければ守れないものが、守りたいものがあるから……私は戦うわ」

 

「守りたいものって……?」

 

「みんなよ」

 

 そう言ってマリオンは微笑んだ。

 

「この部隊のみんな……クスコ大尉にニキ少尉にレイチェル少尉にエリス少尉、みんなみんな私に優しくしてくれるの。キリシマ大尉だってああ見えて優しいし。

 私は親無しだったから、どれもこれもあの時兄さんの手を取らなかったら手に入らなかったものだわ。

 それに……今はメイもハマーンもレイラもいる。

 私は一緒に居たいと思える、たくさんの人たちと出会えた。そんなみんなと一緒にいるために、そんなみんなを守るためにだったら……私は戦えるわ」

 

「そのために、人を殺してしまっても?」

 

「殺してしまった人たちには、私が死んで魂になってから謝るわ。

 でも生きているうちは、私は私が『正しい』と思うままに生きたいの。

 今の私の『正しい』は、大切な人たちが無事であることよ」

 

 その言葉で、ハマーンとレイラはマリオンの中で優先順位による取捨選択ができているのを悟る。マリオンは決して争いを好いてはいないが、優先順位による取捨選択に従い、『割り切れている』のだ。だが、頭でそれができていてもそれを実行に移せるのとは違う。それを為せるマリオンに、ハマーンもレイラもマリオンの強さを思い知る。

 そんな2人に、マリオンは少しだけ表情を崩して言った。

 

「難しい話は今はどうでもいいの。

 私が今言いたいことはたった一つ……ハマーンとレイラが無事でよかった。

 メイたちを守ってくれて、ありがとう……」

 

「マリー……」

 

 それは気心の知れた友人たちの無事を心から喜ぶ、あまりにも自然なマリオンの本心だ。それをハマーンもレイラも感じ取る。そのとき、マリオンの後ろに隠れるようにしていたメイが前に出た。

 

「ハマーン、レイラ。

 あのね……私は難しいことは分からないけど、これだけは言いたいことがあるの」

 

 そしてメイは呼吸を整えるように息を吸うと言った。

 

「2人とも、助けてくれてありがとう……」

 

『ありがとう』……たったこの一言で、ハマーンとレイラは救われた気がした。

 あの連邦の女性兵の『死』の感覚は未だに残っているし、罪悪感は消えない。だが、そうしなければ今度はメイたちが死んでしまっていたのだ。あの連邦の女性兵とメイの命を天秤に掛ければ、彼女たちにとって尊いのはもちろんメイだと断言できる。彼女たちはそう『選択』したのだ。

 そしてメイからの『ありがとう』という言葉で、彼女たちはその『選択』が間違っていないと心の中で『納得』ができたのである。

 

「メイ……」

 

「ハマーン、レイラ……」

 

 いつの間にか、ハマーンとレイラは泣いていた。それは心の重荷が軽くなったためか、それとも今だ残るわだかまりを押し流すためか……いろいろな感情が混ざり、当人たちにも分からない。

 そんな2人をマリオンもメイも抱きつくと、いつの間にかもらい泣きでもしたかのように2人も泣いていた。

 そのまま涙を流す4人の少女たちは、いつまでも抱擁を続けたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「うっ、うぅ……」

 

「よかった、よかったよぉ……」

 

「2人して……何をもらい泣きしてるのよ……?」

 

「そう言うニキだって泣きそうじゃないの」

 

 私がシャアを伴ってやってきた段階で、ハマーン嬢たちの部屋のドアの外の廊下は間違いなくこの艦内で一番人口密度が高い場所になっていた。

 ドアのすぐ側では中の様子をうかがっていたニキ・レイチェル・エリスの3人がもらい泣きをしている。ハマーン嬢たちを心配していたのは、何も私やマリオンとメイ嬢だけではないようだ。

 

「……どういう状況かな、これは?」

 

「可愛い妹分を慰めようと入るタイミングを伺いドアの前でスタンバっていたら、何やら美しい友情でお役御免になった者たちが感化された、というところですよシロッコ中佐」

 

「では、君もその一員かなクスコ大尉?」

 

「……美しいものに素直に反応できないほど、すれているつもりはありませんよ」

 

 そう言ってクスコも目頭を擦る。

 

「なるほど、少し遅かったようだな」

 

「ええ、今入っていっても、ただの道化になるだけですわね」

 

「……君もいたのか、キリシマ大尉」

 

 肩を竦めるフローレンスに、私は少しだけ驚いたように言う。

 

「この間のここを襲ってきた小隊はかなりの手練でしたわ。

 もしアタイ……わたくし1人しかいなかったら、被害はもっと深刻になっていたのは間違いありません。

 だから、あの子たちの行動は間違いじゃなかったと『納得』させてやりたかったのですが……私の出る幕も無く、『納得』してくれたようですわ」

 

 そう言うフローレンスの言葉に、私は頷く。

 戦いを心の底から望むものはそう多くない。そんな中で、望まぬ戦いをするためには戦うことに『納得』していなければならない。

 例えば『任務のため』でも『国のため』でもなんでもいい、『正義のため』、『大義のため』、場合によっては『金のため』でもいい。ようは自分が戦うことに理由と意味を見出し、それに『納得』しなければ始まらない。最初から兵としての訓練を受けている自分たちのようなものはその辺りを自然と理解できているが、それのないハマーン嬢とレイラ嬢にはそれが無かった。そんな状態では心が持たなくなる。だからこそ、彼女たちが『納得』するように話をするつもりだったが……マリオンとメイ嬢に先を越されてしまったようだ。

 感謝と同時に、少しだけ心苦しい気持ちになる。

このことは指揮官として私が行うべき仕事でもあった。戦場において一番簡単な『納得』のための理由は、『上官の命令だから』である。いわば指揮官の仕事とは、そんな感情の矛先になり、そこから逃げないことなのだ。その仕事を先を越されてしまったというのはマリオンとメイ嬢には心苦しく思う。

 そこまで考えてから、私は少し頭を振って思考を切り替える。少し自分が不甲斐ないが結果としては思う通りのいい方向になったのだから、別のことを考えなければならない。そんな私の思考を読んだのだろう、クスコが言ってくる。

 

「……あの子たちが望むなら、私が面倒を見ますが?」

 

「……頼めるか?

 正直、ハマーン嬢とレイラ嬢が戦場に出ることが今回限りとは思えん」

 

 これはニュータイプの勘……と言うより、ほとんど確信である。マリオンによって戦うことに『納得』した2人は、もし再び何かあれば戦場に出ることだろう。その時に困らないようにすることも私の仕事の一つだ。

 

「それに今回のことで思い知ったが……部隊規模に比べ、人員が不足している。

 護衛機なども考えれば、もう少し人員が欲しいところだ」

 

 人員不足はどこの部隊でも深刻だが、リザド隊でもその問題は大きい。しかも新兵器運用の多いこの部隊に求められるのは、高い技量である。その調達は容易なことではないし、無理に腕のいい人間を引き抜けば、その部隊との軋轢を生みかねない。

 理想は、『腕はいいが誰も欲しがらない人員』である。そんな都合のいい人材、この戦時下のどこにいるというのか……?

 すると、その思考が漏れていたのだろうか、フローレンスが言ってきた。

 

「中佐……実はわたくしの個人的な伝手で、人材のアテがありますわ」

 

「……それは興味深い話だな。

 是非聞かせてもらいたいが……少し後にしよう」

 

 そう言って、私は顎でドアを指す。部屋の中の泣き声はもう止んでいた。もうすぐ4人が出てくるだろう。

 

「せめて年上の者として、立ち直った少女たちを温かく迎えるとしよう……」

 

 ゆっくりと開くドアを見ながら、私は苦笑しながら呟くのだった……。

 

 

 





 『納得』は、すべてに優先するッ!! ということでハマーン様たちも戦いに『納得』を見出して頂きました。
 ……正直、過去最大級の難産です。
 やりたいことと書きたいことが決まっているのに筆が進まないというのは、本当に久方ぶりです。


 次回は連邦の追撃を頓挫させるための特殊部隊と、そしてあのアムロとガンダムにほとんど勝っていた個人的にはジオン最強部隊のお話の予定。
 次回もよろしくお願いします。


 追伸:今週のビルドファイターズトライ。

    カリマーーーー!? 貴重なMA枠がただのかませにーーーー!?
    正直、これは少し悲しい……。
    あのルールだと、3対1になるMAはかなり厳しいので、それを承知でMAを選び、どんな風に活躍するのか楽しみだったのですが……。

    トライオン3には夢とロマンとがてんこ盛り。ああいうのは大好きです。
    だが、足りないぞ。ドリルは……どこだ?

    ……なんか画面にメイジンが映るだけで笑えるようになって来たが、もう末期症状だろうか?

    次回も楽しみです。



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第37話 連邦追撃頓挫作戦(前編)

再び更新に2週間もかかってしまったキューマル式です。
誰かゆっくり小説を書く時間を下さい、マジで。

今回は連邦の追撃を頓挫させるための作戦です。
思いのほか長くなってしまったので前後編に分けました。
今回はその前半になります。
あの色々大人気なルーキーの登場です。

……『あの部隊』の登場までいかなかった……。



 

 薄暗いコックピットの中に表示されていく海図情報、それに従いながらレバーを操作する彼の表情には余裕というものはまるでない。それもそのはず、新兵である彼にとってこれは完全な初陣だからだ。

 何でこんなことに……彼は胸中でそう呟く。

 戦時下の特別措置によってジオン本国では今、学校の早期卒業措置がとられている。彼もつい数か月前まではハイスクールに通っていた学生であった。しかし、数年前から戦争のために国家総動員体制であるジオンでは、普通の高校でさえモビルスーツシミュレーターによる訓練を含む軍事訓練をカリキュラムに組み込んでいる。さらに戦争開始からは、『公国突撃隊』の後押しもありその辺りがかなり強化されていた。これは明らかに学徒出陣までを見据えた国家戦略である。

 とにかくその教育課程の中、ハイスクール時代からモビルスーツシミュレーターで高い適性を示していた彼はハイスクールの早期卒業と同時に訓練学校へ入れさせられ実戦へと配置となったのである。しかもその配置先というのが最前線である地球、しかも特殊部隊と来た。これで緊張するなと言う方が無理である。

 そんな彼の元に隊長からの通信が入った。

 

「ッ!?」

 

 急なことで軽いパニックになってしまい、通信の受信ボタンを押すだけでまごついてしまう。

 

『どうした、反応が遅いぞワイズマン伍長。

 何か問題があったか?』

 

「あ、は、はい!

 あ、いえ問題ありません、大尉!」

 

『……気持ちは分かるが、あまり固くなりすぎるなワイズマン伍長。

 そんなことでは戦場では生き残れんぞ。

 気楽に、とは言わん。 だが、肩の力は抜け。

 とにかく、死なないようにうまく立ち回れ。

 いいな?』

 

「りょ、了解です!」

 

 そう恐縮しながら彼……バーナード・ワイズマン伍長は頷いた。

 

『そうだぞ、新入り。

 俺より階級が下の奴がいなくなると困る。死ぬんじゃねぇぞ』

 

「りょ、了解です、ガルシア曹長」

 

『ふんっ』

 

 ガルシアなりの精一杯の励ましを受け、バーニィは覚悟を決めるように1つ息をつく。

 

『よし、予定ポイントに到達。

 深度20まで浮上』

 

 シュタイナーの指示のもと、ハイゴッグを水深20メートルにまで浮上させるサイクロプス隊。ここで潜水艦の潜望鏡のように有線センサーカメラだけを浮上させ海上を探り、作戦の開始までをはかるつもりだ。

 しかし……。

 

「うわっ!?」

 

『!?

 何をしている、ワイズマン伍長!?』

 

 海中で一定の深度を保つのは難易度の高い操縦技術を求められる。バーニィとて、その訓練はしっかりとした上でこの場にいたはずだ。しかし、初陣の緊張からか操縦のミスによってバーニィはハイゴッグを完全に浮上させてしまったのである。

 

 

 ゴンッ!

 

 

 さらに悪いことは続く。

 バーニィが浮上させてしまったのは警戒中の巡視船の真下だったのだ。船底への衝撃とともに巡視船がバーニィのハイゴッグの姿をはっきりと確認していた。巡視船からのサーチライトの光が、バーニィのハイゴッグの姿を闇夜の夜にはっきりと浮かび上がらせる。

 

「て、敵に発見されました!?」

 

『チィ!?』

 

 その報告にシュタイナーは舌打ちをすると、すぐに作戦の今後について考えを巡らせる。

 

『隊長、どうします?』

 

『この作戦に関わるのは我々だけではない、中止はできん。

 作戦変更、我々の方が『先』に仕掛ける!!』

 

『『『「了解!」』』』

 

 ミーシャの言葉に即決したシュタイナーの号令によって、サイクロプス隊は奇襲作戦から通常の強襲作戦へと切り替えて動き出した。背中のジェットパックとスラスターの推力を全開にして海から陸に上がると、そのまま全速で正面の基地……連邦の制圧した『ペキン基地』へと向かう。

 途端、彼らの5機のハイゴッグに向かって、基地から迎撃の弾幕が張られていた。

 

『クソッタレ!

 誰かさんのおかげで、熱烈な歓迎じゃねぇか!』

 

「す、すみません!」

 

『ガルシア、ヒヨッコに噛みつく暇があったら目の前の敵に弾を喰らわせろ!』

 

『わかってますよ!』

 

 シュタイナーの言葉に従って、ガルシアのハイゴッグが右手のハンドミサイルユニットを向けた。そこから発射されたのは4発のミサイルだ。それは飛行しながらさらに分裂すると地面に広範囲に渡って着弾する。これは対地攻撃用の多弾頭ミサイルであった。

 これによってペキン基地の砲座のいくつかが吹き飛び、迎撃の弾幕に穴が開く。

 

『よし、今のうちにスロットル全開で飛び込め!

 遅れたら蜂の巣だぞ!』

 

 言われるまでも無い。サイクロプス隊はそのまま、ペキン基地の敷地内に突入していた。

 

『よし、ここからは打ち合わせ通りだ。

 ミーシャとガルシアはこのまま東側の対空砲施設と飛行機用滑走路を、アンディとワイズマンは俺と一緒にこのまま北側の対空砲施設を破壊する。

 他の目標への攻撃は任意、だが我々の最大の攻撃目標は基地の対空砲の無力化だ、それを忘れるなよ!!』

 

 ミーシャとガルシアは早速と言った感じで、見つけた戦闘車両などに向かって弾をばら撒きながら移動を開始する。

 それを横目に確認しながら、シュタイナーもアンディとバーニィを連れて行動を開始した。建物の影から影へ、遮蔽物を利用しての移動を繰り返していく。

 その頃になって、ようやく連邦も足並みが整ってきたのか、起動に成功したザクが迎撃のために出撃してきた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 ザクが100mmマシンガンを乱射する中、バーニィのハイゴッグが突貫。数発の弾が当たるがそれは丸みを帯びたハイゴッグの傾斜装甲によってあらぬ方向に逸れて、装甲を貫通できずに終わる。そしてバーニィのハイゴッグがバイスクローをザクのコックピットへとねじ込んだ。ビクンと痙攣するように数度ザクが反応するが、モノアイの光が消えザクが倒れ込む。

 

『ほぅ……思いきりと腕はまずまずだな』

 

 その姿を見て、シュタイナーはバーニィの評価を少しだけ上方修正する。人手不足でシミュレーターで高得点をたたき出すだけの優等生、すぐ死ぬようなヒヨッコを押しつけられたかと思ったがなかなかどうして、モビルスーツパイロットとしての腕と度胸は悪くない。磨けば光る……中々の拾いものかもしれないと、シュタイナーはバーニィの評価を一段上げた。

 

『さすがに一筋縄ではいかんか……』

 

 ザクの1体をビームカノンの連射で蜂の巣にしながらシュタイナーはポツリと呟く。やはり急な作戦の変更で、思った以上に侵攻スピードが遅い。他の部隊との連携となるこの作戦には、明確に制限時間が存在する。時間がくれば作戦の成否に関わらず、サイクロプス隊は撤退しなければならない。しかし、集まりだしたザクによって進路を阻まれ、思うように進めないのだ。

 

『隊長、自分が囮になります。

 その間に、ここを突破し目標の破壊を!』

 

『待て、アンディ!!』

 

 シュタイナーの制止を振り切るようにアンディは建物の物陰から出ると、彼らに向かって100mmマシンガンを撃つザク2機へと突進していった。低く地面を滑るようにスラスターを使って移動すると、まずは右側のザクに向かってビームカノンを放つ。

 至近距離でのビームカノンによって蜂の巣にされたザクがアンディのハイゴッグに向かって倒れ込んできた。アンディはそのザクの頭を掴むと、ゴロリと素早く横になったままもう片方のザクへと振り向いた。

 寝転んだ状態のハイゴックに浴びせようとしていた100mmマシンガンは、先にハイゴッグによって仕留められたザクが盾となって、ハイゴッグまで届かない。友軍機を撃ってしまったことに、ザクの100mmマシンガンの連射が止まる。そしてそれこそ、アンディの望んでいた瞬間だ。

 倒れたザクを盾にしながら、ハイゴッグがビームキャノンを向ける。その閃光はザクのコックピットを焼き焦がし、ザクはそのままの勢いで倒れ込んだ。

 

『進路クリアです、隊長』

 

 アンディは盾にしていたザクを放り投げるようにして、ハイゴッグを立たせる。

しかし……。

 

『後ろだ、アンディ!?』

 

『なっ!?』

 

 入り組んだ建物の物陰に隠れていたザクが飛び出してきた。ザクはアンディのハイゴッグの背後をとると、100mmマシンガンを浴びせかける。

 

『う、うぉぉぉ!?』

 

『アンディ!!?』

 

 運動性を重視したハイゴッグの装甲はそれほど厚くは無い。至近距離、それも背後からの100mmマシンガンの徹鋼弾によってボロボロと砕かれ、ドウッとアンディのハイゴッグが倒れ込む。

 

『アンディィィィィィ!!?』

 

 シュタイナーの叫び。だが、その瞬間バーニィが動いていた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!?」

 

 低く滑るように滑走するバーニィのハイゴッグ。それにアンディ機を撃破したザクが反応するが、ジグザグに滑るバーニィのハイゴッグをザクの100mmマシンガンは捉えきれない。そしてバーニィのハイゴッグのバイスクローが、ザクの頭部を貫いた。頭部から炎を上げ、座りこむようにしてザクが倒れ込む。

 

「はぁはぁ……」

 

『ワイズマン伍長、よくやった!!』

 

 バーニィとしてはただ無我夢中だったが、咄嗟のその反応にシュタイナーは掛け値なしの称賛を送る。そのとき、通信機から声が聞こえた。

 

『う、うぅ……』

 

『無事か、アンディ!?』

 

 それは撃破されたアンディからだ。

 

『状況知らせろ、アンディ!?』

 

『機体は……もう動きません。

 100mmがコックピットを掠ったせいで、その破片が腕と足に……』

 

『負傷したのか!?』

 

 その言葉にシュタイナーは考えを巡らせる。時間はかなり押している。アンディを回収するために時間をかけては、任務達成は難しい。

 その時、バーニィからシュタイナーに通信が入った。

 

「自分が助けに行きます!

 隊長は目標を!!」

 

『……わかった。

 だが、死ぬのは許さんぞワイズマン伍長!!』

 

 それだけ言葉を残して、シュタイナーのハイゴッグは先に進む。

 それを横目で見ながら、バーニィは倒れたアンディ機の傍に自分のハイゴッグをしゃがませるとコックピットハッチを開き、ワイヤーで地面に下りると一目散にアンディ機のコックピットハッチへと急ぐ。外部の手動レバーでコックピットを開くと、始めて嗅ぐ濃厚な血の匂いにバーニィは顔をしかめた。

 

「ご無事ですか、少尉!?」

 

「……喚くな、新兵(ルーキー)

 この程度じゃ、まだ死にはしない」

 

 砕けたコックピットの破片によって左手と左足から血を流しながら、それでもアンディは意識をしっかり持ち、自らの止血作業を行っている。

 

「肩を貸します!

 すぐに自分の機体へ!」

 

「ああ……」

 

 アンディは機密保持のための自爆コードを自機へ入力して、バーニィに肩を借りながら機体から這い出る。

 

「大丈夫ですか、少尉?」

 

「ああ……。

 まったく……新兵(ルーキー)に心配されるなんてな。

 ヤキが廻ったもんだ」

 

「……新兵(ルーキー)古参兵(ベテラン)を心配しちゃいけないなんてルールないでしょう」

 

「へっ、言いやがるじゃないか」

 

 アンディのもの言いにいくらかムッとしたバーニィが言い返すと、アンディはその言葉が気に入ったのか僅かに微笑む。

 そのとき。

 

「右だ、ワイズマン!!」

 

「なっ!?」

 

 突然の声に驚きながらも、バーニィは咄嗟に空いた右手で腰のホルスターから護身用のハンドガンを引き抜くと、そのトリガーを引いた。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 見ればそれは、連邦軍のパイロットスーツを着たバーニィほどの歳の若い男だ。恐らく先程のザクのパイロットなのだろう。バーニィの雄たけびとともに放たれたハンドガンの弾丸は、見事にその人影の頭を撃ち抜いていた。

 

「いい腕だ、ワイズマン」

 

「……」

 

 アンディの言葉に、しかしバーニィは無言だ。それもそのはず、これはバーニィにとって初めての『殺人』である。

 無論、今までのモビルスーツ戦での間でバーニィに殺された人間はいくらでもいるだろう。しかし、モビルスーツでの戦いは相手が見えない。だからその罪悪感を感じにくいのだ。しかし今はバーニィの目の前、互いの顔の見える位置で間違いなくバーニィの撃った弾丸で人が死んだ。脳漿が飛び散り濃厚な血の匂いが、言い訳しようのないほどに『殺人』を意識させる。

 ある意味新兵(ルーキー)の掛かりやすい病気であるが、それを感じたアンディはバーニィへと声を投げかけた。

 

「しっかりしろ、ワイズマン!

 お前がそんなことじゃ、自分だけじゃなく味方も殺すぞ!」

 

「わかって……います」

 

「いいや、わかっちゃいない。

 いいか、お前がそんなことじゃ今ここで俺が死ぬ。

 お前は俺を殺すつもりか?」

 

「そんなつもりは……」

 

「だったら撃て! 迷わず撃て!

 上官命令だ、俺のためにぶっ殺せ!」

 

 それは初めての『殺人』という行為の重みを、自分に向けようというアンディなりの優しさだ。上官の命令だからと言い訳ができるのなら、気も楽になるだろう……自分も新兵(ルーキー)だったころをアンディは思い出す。

 

「……了解です」

 

 バーニィはまだ感情の整理は付かないようだが、それだけ呟くとアンディを抱えたまま自分のハイゴッグへと戻る。

 

「少尉、鎮痛剤(モルヒネ)は……」

 

「いらん。 それより、集中しろ。

 俺の命はお前に預けてるんだからな」

 

 言われて、バーニィは機体を起こすとゆっくりと自分たちに向かって2機のザクが向かってくるのが見えた。

 

「不味い……2対1か……」

 

 バーニィが不利を悟って呻く。

 そのとき……。

 

 

 ドゥン! ドゥン!! ドゥン!!!

 

 

 ペキン基地のそこらじゅうから、連続した爆発音が響いた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「どうやら時間らしいな……」

 

 混乱するバーニィ、だがアンディは納得するように頷く。そして、バーニィに接近してきていた2機のザクに黒い影が襲い掛かった。

 その影は背後からグレネードランチャーを射撃、その直撃にバックパックから炎を吹いて爆発するザク。僚機を失ったことに驚いた残りのザクが振り向くと、その瞬間鋭い爪がコックピットを突き破っていた。瞬時に2機のザクを屠った黒い影から通信が入る。

 

『こちら、特殊工作隊アカハナ』

 

 それは特殊工作部隊の工作員、アカハナと彼の愛機『アッガイⅢ』であった。

 

『作戦の段取りが違うぞ。

 どうしようかと思ったところだ』

 

「ああ……すまない。

 手違いで段取りを変えさせてもらった」

 

 どこか憮然とした感じのアカハナに、バーニィに変わってアンディが答える。

 

 実はこの作戦、当初の予定ではサイクロプス隊の突入はこの爆発の後だったのだ。

 ペキン基地はついこの間までジオンのものであった。そして基地を放棄するにあたって、ジオン軍は数多くの『嫌がらせ』を残していったのである。

 例えば施設の道を所々でコンクリートと硬化ベークライトを流し込んで物理的に塞いでみたり、本当は何の変哲もない部屋に『伝染病患者隔離施設』という看板を立てかけてみたりだ。この嫌がらせの絶妙なところは、『面倒だがやろうと思えば拠点として使えるように復旧できる』ことである。

 ジオンは施設の破壊を最小限にして撤退していったのだ。連邦は最低限しか施設を破壊する暇がなかったのだろうと判断したのだが……実はこれがジオンの狙いだったのである。

 連邦に拠点として安心して使ってもらい、そこを工作員の潜入によって打撃を与えようと言う、『基地を囮にした破壊工作作戦』だったのだ。

 当初の予定では工作員の仕掛けた爆弾で混乱しているところにサイクロプス隊が奇襲、アカハナの撤退を援護するとともに対空砲施設を無力化する手はずだったが……バーニィのミスにより順番が逆になってしまったのだ。

 

『こっちの仕事は終わりだ。

 そっちは……』

 

 アカハナがそこまで言うと、ひと際大きな爆発と同時にシュタイナーからの通信が入った。

 

『対空砲施設の無力化に成功した。

 ミーシャ、ガルシア、そちらの首尾はどうだ?』

 

『こちらも対空砲施設の無力化、それと飛行滑走路の破壊完了しています』

 

『ワイズマン、アンディは回収したか?』

 

「はい! 少尉ならここにいます!

 それに潜入していた工作員とも合流しました!!」

 

『よし、即座に撤退!

 遅れるな!!』

 

 シュタイナーの指示の元、サイクロプス隊とアカハナは一目散に海に向かってスラスターを吹かせる。それを追い連邦も砲火を浴びせかけるが、それよりも早くハイゴッグとアッガイⅢは海の中へと飛び込んで行った。

 すぐに追撃をしようとする連邦だったが、すぐにその考えは捨てることになる。何故なら、レーダーがペキン基地に迫る大航空隊を感知したからだ。

 アカハナによるモビルスーツハンガーや兵舎を狙った潜入爆破、サイクロプス隊による奇襲による対空砲施設の無力化、そしてガウ攻撃空母を中心とした対地爆撃部隊による爆撃……これこそがこのペキン基地打撃作戦の最終段階だ。

 

 ガウ攻撃空母、そしてドダイ爆撃機からの爆弾が、対空砲施設を失い滑走路を破壊され空に対して無防備になったペキン基地へと、文字通り雨あられと降り注いだ……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ドガ!!

 

 

「ぐっ!?」

 

 バーニィは殴られた頬の痛みに顔をしかめたが、すぐに姿勢を正して直立不動の姿勢をとる。シュタイナーは殴った右手を振るとほぐすように振った。

 

 ここはサイクロプス隊とアカハナを回収したユーコン級潜水艦のモビルスーツデッキである。

 回収後、アンディはすぐに医務室に運ばれることになった。幸いなことに命には別条は無く、その報告を聞いたサイクロプス隊一同は胸を撫で下ろす。その後、最初のミスを起こしたバーニィに対してシュタイナーが『修正』を行ったところだ。

 

「貴様1人が死ぬのは勝手だが、それに隊全体を巻き込むことは俺が許さん。

 貴様のミスが、どれだけ隊に危険を及ぼしたか分かっているか?」

 

「はい、理解しています……」

 

「……次は許さん。 肝に銘じておけ」

 

 話はそこまでという風にシュタイナーは煙草を取り出すと、火を付けて紫煙を燻らせた。バーニィはというと、さすがに気落ちしているのが見て取れる。それを見てシュタイナーは煙草を一本取り出すと、バーニィへとよこした。

 

「あの、これは……?」

 

「なんだ、煙草はやらんのか?

 くれてやる、少しぐらい吸ってみろ」

 

 そう言って火を付けてやると、バーニィはそれを吸い込み、そして慣れていないためすぐにむせ返る。そんなバーニィに苦笑しながら、シュタイナーは続けた。

 

「ワイズマン、最初のミスが無ければお前の今回の働きは中々だ。

 パイロットとしても、中々筋がいい」

 

「はぁ……」

 

「今回初陣だったようだが……『童貞』を卒業してどうだ?」

 

 『童貞』というのは、『初めての殺人行為』のことである。

 

「どう、と言われても……」

 

 その言葉に今だ心の整理がついていないのか、バーニィは顔をしかめる。シュタイナーはそんなバーニィの肩をポンと叩いた。

 

「酷かもしれんが、これが戦争だ。

 なるべく早く慣れろ、そして必要なら躊躇うな。

 戦場では躊躇った奴から死んでいく……俺は部下をそんなことで死なせるつもりは毛頭ないからな」

 

「隊長……」

 

「バーニィ、お前は俺の部下、サイクロプス隊のメンバーだ。

 隊長命令だ。勝手に死ぬな。

 死ぬくらいなら、敵を殺して生き残れ。

 わかったな? 返事は?」

 

「は、はい!!」

 

 不器用な敬礼をしながら答えるバーニィに、シュタイナーは苦笑する。そしてこれは、シュタイナーがバーニィをサイクロプス隊のメンバーとして心から認めた瞬間でもあった。

 それを待っていたかのようにミーシャとガルシアも寄ってくる。

 

「よろしくな、下っ端!」

 

 バーニィの肩に腕を廻しながらガルシアが言ってくる。ミーシャは手にしたスキットルを一口あおると、それをバーニィに投げ寄こした。

 

「ほれ、飲め」

 

「はっ、ですが自分は酒は……」

 

「なにぃ? 俺の酒が飲めねェってのか?

 上官命令だ、飲め!」

 

「は、はい!」

 

 言われて慌ててスキットルをあおり、度の強い酒にバーニィがむせ返るとその様子をミーシャはガハハと豪快に笑った。

 

 潜航中の潜水艦では、煙草もアルコールも厳禁だ。その様子を、ユーコン級潜水艦の乗組員が何か言いたげな顔で見ていくがサイクロプス隊のメンバーは気にもとめない。新しい戦友を迎え入れた時なのである、堅いことなど誰にも言わせはしない。

 サイクロプス隊の小さな新人歓迎会はそうしてしめやかに行われるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 対空砲施設を無力化されていたペキン基地は、その爆撃により拠点として致命的なまでのダメージを受けてしまう。施設はもとより、アカハナの仕掛けた爆弾によって兵舎やモビルスーツハンガーが集中的に爆発したため、人的にも大きなダメージを受けていた。そのため、ジオン追撃作戦の中止と追撃部隊の呼び戻しを行うことになる。

 ペキン基地へと後退していく連邦の追撃部隊。

 しかしその背後から、ジオンのさらなる追撃が迫っていた……。

 

 

 




サイクロプス隊とアカハナの共同戦線でした。
Gジェネではジャブローに一緒に潜入してきたこともあったなぁ……。

次回は『個人的にアムロinガンダムを最も追い詰めた部隊』の登場の予定です。
次回もよろしくお願いします。


追伸:今週のビルドファイターズトライ。
   
   フミナ先輩すげぇ!
   SDのリアルモードなんて懐かしすぎて涙が出そうだ。

   次回は同門対決みたいですが……仁義なき殴り合いなんだろうな。
   1期の時のVSフェリーニ戦のような戦いを期待したい。


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第38話 連邦追撃頓挫作戦(後編)

お久しぶりです、キューマル式です。
異動やらなんやら、リアルで忙しかったため久しぶりの投稿になりました。

今回は、あの部隊の活躍です。
あの部隊の有用性はマンガや、ビルドファイターズでやっと証明されたと思う……。



 

 

 薄暗い森の中を、地響きのような足音を響かせながら巨人……連邦のザクが歩いている。

 本隊から離れ、哨戒任務を行っているこのモビルスーツ小隊……ザク3機が歩く様子は、どこか肩を落として見える。だが、それはおそらく見間違いではないだろう。

 彼ら連邦の将兵たちの胸中にあるのは、『こんなはずではなかった』という思いだからだ。

 

 ジオンの3度にわたる地球降下作戦によって打撃を受け、大幅に後退し主要拠点までの後退を強いられた連邦軍は、ついにジオンの強さの象徴であるモビルスーツの量産にまで漕ぎ着けた。

 徹底的に輸送線を叩くジオンの通商破壊作戦のせいで厳しい戦線は多いのだが、この東アジア戦線はすぐ近くに資源産出場があり、その効果は薄い。

 そのおかげもあって、連邦軍の中でもいの一番に戦力を回復させたこの東アジア戦線の将兵たちには、

 

「自分たちが最先鋒となってジオンを地球から叩きだしてやる!!」

 

という強い意気込みがあったのである。

 

 その勢いのまま、地球連邦東アジア方面軍はジオンの拠点となっていたペキンを奪還、追撃戦によって退却していくジオン軍にさらなる出血を強いていた。

 連邦軍は追う者でジオン軍は追われる者……それがペキン奪還以降のこの地域での認識である。

 しかし……連邦の将兵たちの、一体誰が考えただろうか?

 その構図が一瞬にして逆転するなどと……。

 

 連邦の拠点となったペキンが、ジオンの奇襲攻撃によって甚大な被害を受けたのだ。

 近代戦は当然、兵器を用いた戦いだ。しかし、兵器というのはしっかりとした補給と整備があってはじめて効果を発揮する。特に巨大な人型兵器である『モビルスーツ』が主兵装となった今回の戦争は、巨大な精密機械であるモビルスーツの整備をし続けなければならないが……モビルスーツは巨大ゆえに本格的な修理や整備のためには、それ相応の設備が必ず必要だ。

 この地に『遠征』をしている今の地球連邦東アジア方面軍にとって、奪還したペキン基地はそれを行うための重要拠点、それを失うことはこの『遠征』の失敗を意味する。そのため連邦はペキンの守備を固めるために追撃を即刻中止、ペキン基地までの即時後退の命令が出ていた。

 だが、そんな退却していく連邦軍に対し、今度はジオン軍が襲い掛かる。

 古今東西の戦いにおいて、一番難しいのは撤退戦だ。連邦軍は襲い掛かってくるジオン軍を退けながら、一路ペキンへの道を急いでいるのだが……。

 

「チクショウ、全然進まねぇ……」

 

 ザクの連邦パイロットは吐き捨てるように呟いた。

 追撃のときにはジオンの退却の足を鈍らせてくれた森が、今度は平等に連邦軍の退却の足を鈍らせていたのだ。

 結果、連邦軍はジオンの追撃によって大きな出血を強いられている。

 しかも、連邦軍の足を鈍らせているのは何も森だけではなかった。

 

「ん?」

 

 何かに気付いた1体のザクが森へと100mmマシンガンを向けた。

 

「何だ? ジオンのモビルスーツか!?」

 

 僚機もそれにならって100mmマシンガンを構えるが、そこにあるのは昼でも薄暗い、濃い森があるだけだ。

 

「何かいた気がしたんだが……」

 

「センサーには特に反応ないぞ」

 

 ミノフスキー粒子の影響によってほとんどのレーダーやセンサーは機能しなくなっているが、それでも完全に使えない訳ではない。短距離でのレーダーやセンサーでの探査は未だに可能だ。モビルスーツほどの大きな物体を、この距離で見逃すほどではない。

 そもそもモビルスーツなら、いかに薄暗くても影なり何なりが目視で分かるはずだ。

 

「……気のせいか」

 

「驚かせないでくれよ。 ったく……」

 

 彼は一気に膨れ上がった緊張感が霧散していくのを感じ、安堵の息をついた。

 だがその瞬間、ポンッという小気味のいい音とともにザクの目線……頭部モノアイの高さに何かが撃ち上がった。

 

「「「!!?」」」

 

 迫撃砲か何かかとコックピットの中で、思わずパイロットたちは身を固くする。だが、その弾が生んだ物は爆発の熱ではなく、目を焼く強力な閃光だった。

 

「これは!?」

 

「ぐあっ!?」

 

「閃光弾!?」

 

 3人はもろに目をやられてうめき声を上げた。そんな中でただ1人、この偵察隊の隊長である1人だけは、反射的に盾にするようにコックピット前にザクの左手を持ってくる。

 すぐにモニターが自動で明度修正をしてその影響を最小限に抑えようとするが、それでもパイロットたちは一時的に目をやられていた。

 

「くそっ、ジオン野郎どもか!?」

 

「それ以外あるか!! さっさと構えろ!!」

 

 その時、何かが高速で近付いてくる。

 

「あれは……」

 

「ワッパ?」

 

 それはジオン軍で正式採用されている偵察用浮遊バイク『ワッパ』である。ジオン軍の特徴的な緑色のノーマルスーツを着た兵士の乗るワッパ数台がこちらに向かってきていた。

 その行動が、連邦のパイロットには訳が分からなかった。

 ワッパは確かに非常に機動力ある車両(?)だが、その分積める武装には限りがある。どうしても軽武装しか積めず、装甲目標と戦うには明らかに不利だ。

 それが、分厚い装甲を持つモビルスーツに一気に向かってくるとはどういうことなのか……?

 疑問は尽きないが、何であろうと敵であることは間違いない。

 連邦のザク3機はワッパに向かって100mmマシンガンを撃とうとするが、目をやられ反応が遅れたことで懐に入り込まれてしまう。

 

「しまった!?」

 

 何かしらが起こると身構える連邦のパイロット。しかし衝撃はなく、ワッパの集団はザクを通り過ぎていく。

 ザクをすぐに旋回させワッパの去った方向を向くが、そこではワッパの張った煙幕によってほとんどまわりが見えなくなっていた。

 

「何だったんだ、今のは?」

 

 構えた100mmマシンガンの銃口を上げ、そのパイロットは首を捻る。

 

「わからん……」

 

 その言葉に偵察隊隊長も首を捻ったが、その時モニターに映る僚機のザク、そのコックピットを守る胸部装甲板に奇妙なでっぱりがあることに気付いた。

 それが気になって目を凝らそうとしたその瞬間、爆発の衝撃が機体を襲い、ザクがバランスを崩して倒れ込む。

 

「なぁ!?」

 

 その衝撃に、したたかに身体を打ち付けた隊長は頭を二・三度振ると、すぐに部下の確認をとった。

 

「無事か!!」

 

「痛ぇ、痛ぇよぉ!

 め、目が! 目がぁ!!」

 

「……」

 

 1人からは悲鳴が返ってくるが、もう1人からは応答がない。

 

「な、何が起こった!?」

 

 混乱する隊長は、うつ伏せの状態に倒れたザクを立ち上がらせようとするが、それができない。

 大急ぎでダメージ状態を確認すると、ザクの左肘と右膝から先が無くなっていた。仕方なく残った右腕でザクの上体を起こし、周りを確認する。

 すると同じように僚機のザクが仰向けで倒れ込んでいた。双方とも、片足の膝関節から先が無く、コックピットの辺りの胸部装甲板から煙を上げている。

 

「な、何が起こったんだ……?」

 

 目の前の光景が信じられず、偵察隊隊長は呆然と呟く……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「デカイ音を3つ確認。

 連中、全員ぶっ倒れたみたいですよクワラン隊長」

 

「へっ、成功だな」

 

 部下からの報告に、ワッパを走らせながら隊長であるクワラン曹長は笑った。その手には何かのリモコンが握られている。それこそが、今しがた連邦のザクを倒したものの正体だった。

 クワランたちワッパ部隊は、すり抜けざまに吸着爆弾をザクの各所に仕掛けていたのである。それによって関節を壊されたり、コックピットのパイロットをやられ、ザクは倒されたというわけだ。

 

「それにしても、よくリモート装置なんてお高いモンがこんな辺鄙な戦線にありましたね?」

 

「ああ、それだったらちょいと、な」

 

 部下の言葉に、ニカリとクワランは笑う。その様子に、どういうことか思い当たった部下はまたかと肩を竦めた。

 クワラン曹長は通信機を無断拝借し、物資を都合することを多々行っていたのだ。この爆弾のリモート装置も、そうやって都合したものである。

 

「だってこの作戦やるなら、リモート装置はなきゃどうしようもないだろ。

 下手に時限装置にして、その間に解除でもされたら目も当てられねぇ」

 

「同じじゃないですか?

 戦場でいつ爆発するか分からない爆弾を解除しようなんて度胸の座ったヤツ、そうそう居ませんって」

 

「いやいや、いるかもしれないぞ。そういう度胸の座ったヤツ。

 まぁ、そんなヤツはそうはいないだろうが、本当にいたら称賛ものだな」

 

 部下の言葉に、クワランはそう冗談めかして返す。

 

「おい、後方にいる連中にあのモビルスーツのこと送っとけ」

 

「了解!」

 

 クワランの言葉に、通信兵が連邦のザクと遭遇したことを通信で伝えた。その様子を、部下の1人が口惜しそうに唇を噛む。それをワッパを走らせながらも気付いたクワランは、部下のワッパに並んだ。

 

「どうした、景気悪い顔して?」

 

「いえ、これだけやってるのにあまり手柄にならないのが少し悔しくて……」

 

「ああ」

 

 そういうことか、とクワランは頷く。

 このワッパによる吸着爆弾戦術は、一撃離脱が旨とされているため戦果確認がしにくい。しかも吸着爆弾ではモビルスーツを完全破壊できるわけではないのでまだ動き、後から来た部隊が撃破したということで手柄を持っていってしまうこともある。

 手柄を立てて、さっさと本国のサイド3に帰りたいと思っている彼らにとっては『労多くして功少なし』といったところだ。

 だが、そんな部下の肩をクワランは叩く。

 

「焦るな焦るな。

 最近じゃ着実に俺たちの手柄も増えてる。

 このまま続ければ、サイド3に帰るのだってもうすぐさ。

 それより……下手に焦って死んじまう方が問題だよ」

 

 そう言って、クワランはワッパのスピードを少し上げ、集団の先頭にたった。

 

「こんな戦争で死ぬのなんて割に合わねぇ。

 だからこの全員で、必ず生き残ってサイド3に帰るぞ!

 いいな!!」

 

 このクワランという男、物資を無断で都合するような不良下士官だが、仲間を思う気持ちは人一倍だ。だからこそ、部下たちは彼につき従う。

 

「「「了解!!」」」

 

 クワランはその返事に満足するように一度頷くとワッパを基地に向けて加速させる。

 薄暗い森の中を、勇敢な鉄の駻馬の群れが駆け抜けていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふふっ、どうやら順調そうではないか」

 

 私は開いた端末で、昨今の東アジア戦線での戦況の報告書を読み、その内容に満足して呟く。

 特殊部隊の活躍によるペキン基地施設の破壊、そしてそれに続く敵追撃部隊に対する逆追撃作戦……この2つによって連邦はペキン基地まで撤退し、しばらくは動き出すことができないだろう。それほどまでに、今回連邦の受けたダメージは大きいはずだ。

 

「それにしても……ワッパによる爆弾設置戦術がここまでいい結果をだすとはな」

 

 ワッパによる吸着爆弾設置戦術……これは『原作』を知る私としては強力な戦術ではあると知っていたが、今回はこの戦術が様々な効果を生んだのである。

 このワッパによる吸着爆弾設置戦術だが、実は攻撃力はそれほど高くはない。当たり前だがビームライフルのように敵を一発で爆散させるような破壊力はなく、コックピット前に仕掛けてパイロットに大ダメージ、または関節部に仕掛けて腕部や脚部の局部破壊が精々だ。この『派手に壊れない攻撃力の低さ』……これが今回、逆に撤退していく連邦軍に大出血を強いることになったのである。

 

 今回連邦が後退していくのは、『ペキン基地の防衛のため』である。特殊部隊の奇襲によって戦力の減退した基地を守るための戦力を集めるために、退却していくジオンの追撃を諦め、後退を選んだ。

 だがそれは当然、『戦力のある部隊が戻ってくる』ことを狙ってのことだ。誰も身一つで帰ってこいとは言わない。武器である車両やモビルスーツをペキンに持ち帰らなければ意味が無いのだ。そんな連邦に襲い掛かったのが、ジオンの追撃部隊、そしてその先鋒がワッパ部隊である。

 さて、ここで先述したとおりワッパの攻撃力は低い。ワッパによる吸着爆弾設置戦術では、派手にモビルスーツは壊れない。それは……『直せば使える』ことを意味するのである。

 機体を破棄する場合、機密保持も兼ねて完全に破壊しなければならないというのは両軍では共通だ。特に最近量産に成功したばかりの連邦にとっては、モビルスーツとは高価で数の少ない貴重な兵器である。

 高価な兵器であるモビルスーツ、しかもペキン防衛のためにも持ちかえることを強く義務付けられた連邦軍の各隊はワッパによってつけられた『直せば使えるが足は止まる』程度の損傷に、

 

『直せば十分使える高価な兵器を、自ら壊して急ぎ後退する』か、

『敵の追いすがる状況で、時間を浪費しても直して持ち帰る』か、

 

 という難しい選択を迫られたのである。そして、それがいくつもの悲劇を生んだ。

 修理の最中にジオン追撃部隊に追い付かれ、全滅する部隊がそこかしこで続出したのである。逆に傷ついた機体を自壊させ後退に成功した部隊も、強力な武器であるモビルスーツを無くし戦闘力は著しく低下した。

 結果としてペキン基地まで無事に戦闘能力を保持したまま後退できた部隊など、元の3分の1にも満たないだろう。

 ワッパの低い攻撃力が、逆に連邦に判断ミスを誘発させ、とてつもない大出血を強いたのである。

 

 こうしてジオンは、連邦をペキンにまで押し返すことに成功した。

 しかも、この戦いでジオンにはある嬉しい収入が入っていた。それは……大量の『連邦ザクの鹵獲』である。

 鹵獲というのは、敵の戦力が減りこちらの戦力は増すという、有効かつ正当な戦術である。だが、鹵獲兵器というものは普通自軍の兵器とは規格などが違っており、所詮使い捨てでしかない。

 しかし『連邦ザク』はその名の通り、ジオンから手に入れたザクの設計図から造られたものである。そのパーツは独自のものもあるが、基本的にジオンのザクと変わらないのだ。そしてそれは、鹵獲品でありながら補給・整備を行い長期的に運用できることを意味する。

 ジオンの各戦線は、どこも補給が潤沢などとは言えない。特にモビルスーツなどは数少なく、定数割れもよくある話だ。そこにこの『大量の連邦ザクの鹵獲』は天の恵みみたいなものである。しかも『連邦ザク』の方がジオンのザクより性能がいいのだから、好かれないはずはない。この連邦からのザクの逆輸入、前線では特に好評だったのである。

 

「お兄さん、随分楽しそうだけど何見てるの?」

 

「ん? ああ、昨今の戦況を少しな」

 

 自分でも気付かぬうちに、あまりに愉快な状況に笑ってしまっていたらしい。『敵から盗み出した設計図で造った兵器を敵に奪われ攻撃される』……舞台にでもしたら笑いで一週間は愉快な気分でいれる自信がある。

 隣に座っていたメイ嬢に言われ、私は手にした端末をパタンと閉じた。

 今、私のいる場所は輸送機の中である。

 隣にはメイ嬢が座っており、後ろを見れば部下であるリザド隊の面々やシャアたち、そしてハマーン嬢とレイラ嬢までが乗っていた。

 今、我々はある人物の招きによって移動中である。

 その人物というのは……。

 

「むっ、着いたようだな……」

 

 輸送機はゆっくりと着陸を始める。

 そして輸送機から下りた我々を、2人の人物が出迎えた。

 1人はノリス=パッカード大佐、そしてもう1人は……。

 

「やぁ、君に会えるのを楽しみにしていたよ。

 『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』、パプティマス=シロッコ中佐」

 

 そんな人物に、私は敬礼と供に返す。

 

「いえ、こちらこそ類稀な技術者でもある閣下にお会いできて光栄であります。

 ギニアス=サハリン少将閣下」

 

 その人物こそこの東アジア戦線の最高司令官にして、『アプサラス計画』を推し進める技術者、ギニアス=サハリン少将だ。

 私はついに、ギニアス少将との面会を実現させたのである……。

 

 

 




というわけでクワランのワッパ隊の話でした。
タイムストップ作戦を見ても思いましたが……モビルスーツも戦車と同じで随伴歩兵いないとダメじゃないか、と思ってしまいます。

次回はギニアス少将との会話の予定。
まだ忙しい日が続きますので時間はかかるかも知れませんが、気長に自壊を待って頂ければ幸いです。

次回もよろしくお願いします。


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第39話 アプサラス

お久しぶりです。
仕事と……活動報告にも書いたようなゴタゴタがありまして久しぶりの投稿となりました。
今回はGPシリーズと並ぶガンダム世界のオーパーツの登場ですが……。

ドム万歳!!



「どうかな、中佐。 ここの設備は?」

 

「素晴らしいの一言ですな。

 これならばよほどのことがない限り、連邦には勘づかれないでしょう」

 

 私の言葉に彼――ギニアス=サハリン少将は満足げに頷いた。

 ここはギニアス少将の居城とも言うべき、ラサ秘密基地だ。山を丸々1つくり抜いて作られたその基地は秘匿性が高く、要塞としての防御力も高い。

 前線基地とは違い、この東アジア方面軍の司令部の入っている場所としてはその秘匿性の高さは大いに評価できる。

 私たちはそんなラサ秘密基地内に招待され、ギニアスに案内されるまま施設を見て回っている最中だ。

 

「そう言ってもらえると、私も嬉しい限りだ。

 連邦などに知られれば、うるさくて集中して開発も出来んからな」

 

「しかも工房の設備も一流の物を揃えてらっしゃる……。

 さすがですな、ギニアス閣下」

 

「我々のような開発者にとって、最高の道具を揃えるというのは何より重要なのでね。色々無理をしてでも取り寄せた。

 ここは物資という面では、中々に不便でな。ここにいるノリス大佐には色々と苦労をかけたよ。

 ノリスが優秀で助かっている」

 

「もったいないお言葉です、ギニアス様」

 

 あははと上機嫌に笑ってノリスの労をねぎらうギニアス少将に、ノリス大佐は会釈程度の礼をする。この基地は秘匿性の高さゆえに大がかりな物資搬入には向かず、欲しい部品が中々手に入らないもどかしさを抱えているようだ。その辺りの調達のために、ギニアスやノリスはいつも苦心しているらしい。

 なるほど、分からない話ではない。

 そう考えるとガルマのお膝元であるキャリフォルニアベースで、資材を使いたい放題で開発を行う私は恵まれすぎている。

 そんなことをしているうちに、やがて我々はギニアス少将の案内で厳重にロックされたドアの前にやってきた。

 

「ここから先は機密となりますので、無用の方の入室はご遠慮願いたい」

 

 どうやらここから先が、この施設の最重要区画のようだ。

 

「わかった。 シャアとメイ嬢は私についてきてくれ。

 クスコ大尉、皆を頼む」

 

「了解しました、中佐」

 

 クスコは他の皆を連れ、兵に連れられて移動する。

 今夜はギニアス少将の好意で晩餐会が予定されている。一足先に会場へと向かったのだろう。戦いの中での、せめてもの気晴らしになってくれればいいが……そんな風に思う。

 

「さて……」

 

 では、こちらもここにきた目的(メインディッシュ)を平らげるとしよう。

 私とシャア、そしてメイ嬢はギニアス少将とノリス大佐に続き、その厳重なゲートを潜り抜ける。

 そしてそこに待っていたものは……。

 

「うわぁ……!!」

 

「ほぅ……これは……」

 

 メイ嬢は目をキラキラと輝かせ、シャアは感嘆の声をもらす。

 そこにあったのは、このラサ秘密基地の心臓部とも言うべき研究区画だ。何人もの研究員がせわしなく動き回り、最新の機器が稼働する。そしてその中央部に鎮座するのは、まさしく鋼鉄の塊だ。

 ミノフスキークラフトでの飛行のために航空力学のくびきから解き放たれ、およそ航空兵器とは思えないダルマのような形状。その中央部には艦砲用を超えるサイズの超大口径収束・拡散偏向メガ粒子砲の砲門が天井からのライトに照らされ、怪しい輝きを放っている。

 これこそ連邦軍本部ジャブローへの攻撃を行う『アプサラス計画』の要、ギニアス少将が心血を注いで開発を続けているモビルアーマー『アプサラス』である。

 その姿は私の知る『原作』に非常に酷似しているのだが……。

 

「……」

 

 ただ一点、どうしても違和感の覚えるところがある。それはアプサラスの頭部だ。

 私の知る『原作』では、アプサラスはザクの頭を取りつけていた。そのために『ザク頭』などと呼称されることもあるくらいである。

 しかし、今私の目の前のソレは『ザク頭』ではなかった。その頭部は私のよく知る、特徴的な十字レール式のモノアイによって構成されている。

 そう……『ドム』である。アプサラスは『ザク頭』ならぬ『ドム頭』となっていたのだ。

 

 だが冷静に考えてみれば、これは当然のことかもしれない。アプサラスはジオン本国ではなく地球のこのラサ秘密基地で、ギニアス少将の元で開発されたモビルアーマーだ。言ってみれば、それは正規品というより現地改修機に近い。そして、前線にある基地では慢性的な補給不足に悩んでおり、開発を行おうにも本国のように新しいパーツがすぐに手に入るわけではないのだ。例外は地上の一大生産拠点であるキャリフォルニアベースで開発をしている私くらいのものだろう。

 そのため現地開発は既存の機体のパーツを流用したりしながら進められる。このアプサラスもそんな『既存の機体のパーツを流用した』機体なわけだが……私の知る『原作』とでは流用する機体が違う。

 『原作』では大量に量産されていたザクのパーツが流用されていたが、ここでは私がドムを早期に開発した。さらに例の『ザク情報漏えい事件』のせいで、ザクそのものの生産も打ち切りの状態である。そのため、今現在地上でもっとも生産され流通しているのは『ドム』シリーズの機体なのだ。

 この東アジア戦線では森林地帯などの地形的な意味でザクやグフのような歩行型のモビルスーツが好まれているがそれはあくまで例外、ジオン地上軍の主力はすでに『ドム』シリーズなのである。

 手に入りやすさ、そして性能の双方で『ドム』のほうが『ザク』より上なのだから、パーツの流用がドムからになるのは当たり前の話だ。そのため、アプサラスは『ドム頭』になってしまったのである。

 

「どうかな、私のアプサラスを見た感想は?」

 

 そう言って得意げなギニアス少将。その姿はどこか、おもちゃを自慢する子供のような印象すら受ける。客観的に見ると、私もこんな風に他人から見えているのだろう……そう思うと苦笑がこぼれた。

 

「素晴らしいですな、このサイズまでにミノフスキークラフトとメガ粒子砲を小型化できるとは……」

 

 私は素直にその技術力を褒め称える。その言葉に、ギニアス少将は満足するように頷いた。

 

「ははは、アプサラスに必須だったドムの開発者である君に言われるとうれしい限りだよ」

 

 聞けば、当初はアプサラスはザクのジェネレーターを数基直結させるつもりだったようだが、それよりさらに高性能なドムのジェネレーターを使うことでその数を減らし、その空いた分の重量やスペースを冷却機能の強化など別の機能に廻すことができて、アプサラスの完成度が上がっているようだ。

 私のドムの早期開発が廻りに廻ってアプサラスの開発を後押ししていたとは、なんとも感慨深いものだ。

 

「私のドムをそこまで評価していただけてるとは光栄です、ギニアス閣下」

 

「謙遜はしないでくれ。

 君の技術力……それはこのアプサラスの更なる発展に必要だと思っている。

 このアプサラス、まだ完成というわけではないのでな」

 

「……」

 

 そう言って鋭い視線をアプサラスに向けるギニアス少将。その瞳の奥には狂気の炎がチロリと見え隠れするが、私はあえてそれを無視した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 優雅な音楽にきらびやかな装飾、それは一時、今が戦時であることを忘れさせる。

 今、私はギニアス少将主催の晩餐会に出席していた。

 晩餐会とはいえ、参加者はこの地域の将兵たちを中心とした身内向けのものだ。そのため、ひっきりなしにやってくるものたちに挨拶をしてまわったりと、晩餐会という名の職務と言っても過言ではない。

 私は区切りがついたところで壁に寄り掛かって、一息をつく。

 

「シロッコ、調子はどうだ?」

 

「見ての通りだ。

 君と同じく、壁へと戦略的撤退中だよ」

 

 肩をすくめると、シャアもお互い様かと顔を見合わせて苦笑し合う。そして自然に、シャアと並んでぐるりと会場を見渡していた。

 

「……さすがは地上での激戦区、古強者が多いと見えるな」

 

 シャアの言葉に私も頷く。身体の運びや周囲への意識の配り方、そして何より纏う覇気が並大抵ではない。

 

「なるほど、さすがはノリス大佐殿の配下だな。

 よく訓練されている」

 

「その言葉、彼らに直接言ってやったらどうだ?

 『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』から褒められたとなれば、彼らのやる気も上がると思うぞ」

 

「『赤い彗星』からの言葉でも同じ効果が見込めそうだな。

 ならばそれは君に任せるよ。

 私は……そうだな、見目麗しい女性たちを愛でる方を任せてもらおうか」

 

 そう冗談めかして言う私の視線の先には、リザド隊の面々が揃っていた。皆、ギニアス少将の用意したドレスを纏っている。

 ただでさえ見目麗しいクスコやニキ、レイチェルにエリスが着飾っているのだ。その華やかさに関してはそれこそ、そこだけ次元が違う。

 同じようにハマーン、レイラ、メイ、マリオンの4少女たちもドレスで着飾り、その存在感はクスコたちと同じく、大輪の花のようだ。

 

「あの見目麗しい容姿で普段は優秀な兵であったり技術者であったりするのだから、天とは二物も三物も与える不公平なものだよ」

 

「それを君が言うか?

 天から大量の物を与えられた『天才』の君が」

 

 シャアは呆れたといった感じで肩を竦め、私もそれに苦笑で返した。

 

「楽しんでくれているかな、シロッコ中佐、シャア少佐?」

 

「はっ。

 お気遣いありがとうございます、閣下」

 

 やってきたギニアス少将に私とシャアは即座に敬礼する。その時、私はその後ろにいたその存在に気付いた。

 ドレスで着飾った、美しい女性だ。その美貌はクスコたちに勝るとも劣らない。年齢は私やシャアと同じくらいか、たれ目がちな目じりは柔和そうな印象を醸し出す。

 そんな2人の後ろにはノリス大佐が私やシャアと同じく、ジオン軍1等礼服で直立不動の姿勢をとっていた。

 そんな中、ギニアス少将はその女性を紹介する。

 

「紹介しよう。 私の妹のアイナ=サハリンだ」

 

「アイナ=サハリンです。

 はじめまして、パプティマス=シロッコ中佐、シャア=アズナブル少佐」

 

 ……どうやらこの東アジア戦線のヒロインの登場のようだ。

 

「はじめまして。

 あなたのようなお美しい女性にお会いできるとは光栄の極みですよ、アイナ嬢」

 

「お上手ですね。 お世辞でもうれしいですわ」

 

「いえいえ、私の心からの本心ですよ」

 

 朗らかに笑い合い、私はアイナ嬢と二言三言と言葉を交わす。そしてその話に区切りがついたところでギニアス少将は私に言った。

 

「ところでシロッコ中佐、少し話をしたいのだが……別室でどうかな?」

 

 そう言ってドアを指すギニアス少将。無論、断ることなどあるはずもない。

 

「了解です、閣下」

 

 私の言葉にギニアス少将は満足そうに頷くと、隣のアイナ嬢に言う。

 

「アイナ、お前はお客人たちの相手をしなさい」

 

「わかりました、お兄様」

 

 そんな中、私もシャアに声をかけた。

 

「シャア、しばらく任せた。

 アイナ嬢が美しいからと、あまり羽目を外すなよ」

 

「私は女性には一途でな、この件に関しては君より信用があると自負しているが?」

 

「シャア、それでは私が女性に一途でないように聞こえるではないか」

 

「客観的に己を見ることは大切なことだと友人として忠告するよ、シロッコ」

 

 冗談めかしたかけ合い。シャアに笑い『頼む』とポンと胸を叩くと、私はギニアス少将に連れられて会場を後にする。

 ギニアス少将の後ろに控えていたノリス大佐が、残ったシャアたちに洗練された綺麗な礼をしてから付いてくるのが見えた。

 

 




ドム頭の魔改造アプサラス登場。
技術状態と情勢を考えるとザクを使う必要が……ねぇ?

次回はギニアスとの話し合いの予定。
また気長にお待ちください。

次回もよろしくお願いします。


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第40話 ハマーンとアイナ

今回はサハリン家の取り込みと、ハマーン様とアイナ様のお話です。




 別室に通された私は、ギニアス少将と今後の話を始めた。

 

「では纏めるが……中佐はアプサラスに使用されている収束・拡散メガ粒子砲とそのF・C・S(ファイア・コントロール・システム)の技術を欲しいと?

 そしてその対価として……」

 

「私の持つ最新のビーム兵器・耐ビーム兵器技術、そして……私の開発した新型モビルスーツ『ギャン』に搭載された新型ジェネレーター5基を提供する準備があります。

 このジェネレーターは、先にお渡ししたノリス大佐殿のビームグフ……『B4グフ』に搭載しているのと同じものです」

 

 私もギニアス少将も技術畑の人間、腹芸は得意とは声を大にして言えない。だからこそ、もう最初から互いの技術(カード)を見せ合い、率直な話をすることにした。

 

「ノリスに渡されたあの『B4グフ』のスペックデータは確認させてもらったが……あれは素晴らしい。あのビーム兵器の使用を前提とした、高出力かつタフなジェネレーターは『ドム』のそれを超える。

 それに携行式ビーム兵器やビームコーティングの技術も素晴らしい……」

 

「いえいえ、閣下のアプサラスの収束・拡散メガ粒子砲と、それを制御するF・C・S(ファイア・コントロール・システム)には私も脱帽ですよ」

 

「……最高機密として防諜にはかなり力を入れていたのだがな。

 どのようなルートか分からないが、中佐はよほど耳がいいと見える……」

 

「ええ、このような世界で生き残るには、耳の良さは必要でしょう?」

 

 私が意味深に言うと、ギニアス少将はもっともだと肩をすくめた。

 無論、私の発言はただのハッタリである。少なくとも『アプサラス』に関しては、私の『原作』での知識からつついた結果であり、ギニアス少将たちの防諜は実際には成功しているのだろう。

 

 私の技術交換の提案に、ギニアス少将は考えるような様子を見せる。おそらく今、ギニアス少将の中では『2つの顔』がせめぎ合っているのだろう。

 

 ギニアス少将の『アプサラス』に対する思い入れは、もはや『狂気』の領域にある。『原作』ではその完成のために幼馴染であるはずのユーリ・ケラーネ少将を殺害し、完成後は『アプサラス』の技術を誰にも渡さないために、その開発に携わった技術者たちを皆殺しにしてしまったくらいだ。

 それほどに入れ込む『アプサラス』に、今回の提供するものがどれだけ有用かは瞬時に理解できたはずである。

 例えば最新のビーム技術であるメガ粒子を縮退寸前で保存する『エネルギーCAP』、これを利用すれば常にメガ粒子をプールしておくことができ、メガ粒子砲のさらなる威力アップとチャージ時間の短縮、そして安定性が見込める。そして耐ビームコーティングはどうしても被弾率の高い大型兵器であるアプサラスの防御力アップに繋がるだろう。

 さらに高出力ジェネレーターは攻撃力のアップ、速度のアップ、そして装甲のアップに繋がるなど様々な恩恵を期待できる。

 これらを知りながらこの話を蹴るようなことは、『技術者としてのギニアス』には絶対にできない。

 

 しかし、それがこの私……『ガルマ=ザビの片腕とも称されるパプティマス=シロッコからの提案』ともなれば話は変わる。どうしても私の後ろにいるだろうガルマの、その意図を考える必要があるからだ。

 ギレンとガルマの不仲という噂……チラホラ聞こえるその噂、それを考えればその意図を深読みするなというほうが無理だ。結果としてサハリン家当主という『政治家としてのギニアス』が即決を避けたのである。

 

 その様子を気付いた私は、決断を促すために二の矢を放った。

 

「ギニアス閣下、ガルマ様には私から『サハリン家』の技術力について説明をしており、多大な期待を寄せています。

 私が言うのもなんですが、悪い話ではないと愚考しますが?」

 

「……」

 

 『サハリン家』という単語をあえて強調した言葉に、ギニアス少将は押し黙る。

 彼ら――いわゆる『名家』にとっては、家の存亡というものは大きすぎる問題だ。それはサハリン家のような、『没落し、実質名前だけの名家』にとっても変わらない。

 いや、むしろ再興のチャンスともなることには、必ず飛びついてくるはずである。そして……私のその予想は正しい。

 

「ギニアス様……」

 

「いや、わかっているノリス」

 

 何かを言おうとしたノリス大佐を、ギニアス少将は手で制した。そして、真っ直ぐに私を見ながら言う。

 

「シロッコ中佐、この技術交換の話、確かに受けさせてもらう。

 そして……事あらばガルマ様にお味方することを確約しよう」

 

 それはギニアス少将率いる東アジア方面軍が、ガルマ支持の姿勢を表明した瞬間だった。この動きに、私は心の中でほくそ笑む。

 これだけ『サハリン家の技術力』を強調したのだ。『原作』でのようにお抱えの技術者たちを殺害するような暴挙はもはやないだろう。それ以前に、この技術提供で『アプサラス』の完成が早まり実戦投入できれば、不利な戦況になってもひっくりかえせる可能性もある。

 この技術、そして勢力基盤の拡大は今後の……ともすれば『連邦以外が敵になる』可能性を考えると大きなものだ。

 本当なら小躍りして喜びを表現したいところだが、感情は努めて表には出さない。そんな私に、ギニアス少将はある疑問を口にした。

 

「しかし一つ聞きたいのだが……ガルマ様や中佐は何故、我々を引き入れようと?

 こう言ってはなんだが……同じ技術者集団で我々サハリン家よりも好条件の集団はいると思うのだが……?」

 

 ギニアス少将としては自分たちへの注目度に、どうにも引っかかりを覚えているようだ。私も素直に『原作ですごいのを知っていたのでガルマに強く推しました』とは言えず、苦笑しながら答える。

 

「ご謙遜を。

 『アプサラス』は間違いなく、目を見張るほどの高い技術の結晶です。それも私やガルマ様が注目するほどのね。

 それに閣下はこの東アジア方面軍という、確固たる軍事的な発言力を持つ。これだけで注目に値するだけの価値は十分にあるでしょう。

 それに……失礼を承知で言わせてもらえれば、閣下の『サハリン家』が死に体であることも我々にとって都合のいい理由です。

 死に体のサハリン家が、よもやガルマ様を裏切りはしないでしょう?」

 

「はっきりと言ってくれるな」

 

 すでに死に体の『サハリン家』はいつでも潰せる程度の存在だからまさか裏切りはしないだろう、それでいて他と比べ数段高い技術力を持つから肩入れした――その理由に、なるほどと納得しギニアス少将は苦笑した。

 そんなギニアス少将に、私はもう一つ……非常に個人的な、注目に足る理由を話した。

 

「もう一つ理由を上げるなら……『親近感』ですかな?

 私が個人的にも『親近感』を感じるから推した……これでは答えになりませんか?」

 

「『親近感』?

 私と中佐にそれほどの共通項は無いように思えるが……?」

 

 その言葉に、私は首を振る。

 

「実はあるのですよ。

 15年前の……『宇宙港爆破テロ事件』です」

 

 その言葉にギニアス少将、そして背後に控えていたノリス大佐までもピクリと眉を動かす。その反応は当然だろう。何故ならこの『宇宙港爆破テロ事件』こそ、ギニアス少将の人生を、そして『サハリン家』の命運を狂わせた事件だったのだから。

 

 今から15年前、新たな宇宙港の開港の際にその事件は起こった。

 開港式典に合わせるようにした爆破テロ……それによって当時、開港式典にやってきていた多くの人間が死傷するという大惨事が起こったのである。

 そしてこの事件に、幼かったギニアス少将とアイナ嬢の兄妹は巻き込まれた。2人はある区画へと閉じ込められてしまったのである。

 すぐに救助隊が2人を助けにやってきたのだが、その際に問題が起こった。それは救助隊が持参したノーマルスーツの数だ。

 それまでにも幾人もの救助を行った救助隊に残っていたノーマルスーツは1着のみしかなかったのである。そして安全区画に脱出するにはどうしても有害宇宙線に汚染された区画を通る必要があった。

 2人のいる区画の酸素は残り僅か、後続の救助隊を待つ余裕はない。幸いにして、有害宇宙線に汚染された区画も酸素等は正常だ。

 そして救助隊は1着しかないノーマルスーツをどちらに着せるかという、命の選択を迫られたのである。しっかりした兄と、未だ幼い妹……救助隊がどちらを選択したのかは言うまでもない。

 結果、2人は命は助かったがギニアスは有害宇宙線によって不治の病を患い、アイナは兄の犠牲によって助かったという罪悪感から必要以上に、まるで人形のようにギニアスに尽くすことになる。そして、次期当主たるギニアスの病は、サハリン家凋落の決定的な一打となってしまった……そんな事件だ。

 

 このテロ事件、実は裏で連邦によって引き起こされたものだったのである。独立気運を高めるジオンに対する連邦からの示威行為……それがこのテロ事件の裏にある真実だった。

 そして、この事件には私も深く関わっている。それというのも、私が実の両親を失った事件こそ、この『宇宙港爆破テロ事件』だったのだ。

 つまり、私とギニアス少将の連邦に対する憎しみの根源は同じなのである。それを私は『親近感』という言葉で表した。

 

「そうか……」

 

 私の話に、ギニアス少将が何を感じたかは分からない。ただ数度、目を瞑って頷くのみだ。

 そして、目を開いたギニアス少将はノリス大佐を呼ぶ。

 

「ノリス……。

 例のことだが……シロッコ中佐にも参加を要請しようと思うがどうだ?」

 

「よい考えかと思います」

 

「?」

 

 何やら主従2人は納得しているようだが、私としては何の事だかさっぱりだ。そんな私に、ノリス大佐の方からの説明が入った。

 

「私の方から説明しよう。

 実はアプサラスの実戦テストを兼ね、連邦の基地への襲撃を計画しているのだ。

 それに中佐たちも加わってもらいたい」

 

「ほぅ……」

 

 その言葉に、私は思わず声を漏らす。

 アプサラスに心血を注ぎ徹底した秘密主義を貫いていたギニアス少将が、その試作段階のアプサラスを実戦に投入し、あまつさえそれを部外者であるものに見せることは普通ならあり得ない。それをするというのはこちらに対しそれだけの信頼を寄せているという証左であると同時に、自分たちの価値をアピールする狙いもあるのだろう。

 どうやら、ギニアス少将は予想以上に私に心開いてくれているようだ。

 

「了解です。

 ではどこを攻めますか? ペキン辺りを灰にでもしますか?」

 

「冗談を。

 ペキンは『いてもらった方が助かる』ことは、貴官も理解しているだろう?」

 

「これはご無礼を」

 

 ついつい試すようなことを言ったことを、私は素直に詫びる。そして、どうやらノリス大佐の戦略的な思考は私と同じようで安心した。

 そう、今はペキンには連邦がいてくれた方が都合がいい。

 

「では目標は……?」

 

「それは……ここだ」

 

 そして広げた地図でノリス大佐が指し示した場所の名は……東アジア方面の連邦軍拠点、その名も『コジマ基地』であった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……ふぅ」

 

 晩餐会の主催者たる兄に代わり、挨拶をすませたアイナ=サハリンは会場の熱気にあてられた身体を冷ますようにバルコニーに出た。

 兄のギニアスは今、ガルマの片腕とも称されるかの有名な『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』パプティマス=シロッコとの会談に臨んでいる。ノリスから聞いた話では、サハリン家再興のための光明になり得る、大事な話のようだ。

 その行く末を案じながら、アイナは空を見上げる。そこに煌めく星々の輝き、それを見ていると宇宙(そら)でのことを思い出してしまい、ついその名前が口に出る。

 

「シロー……」

 

 宇宙でのあの極限状況、敵であるはずの連邦軍の士官であるはずなのに、ともに生き残るために手を取り合った青年士官だ。

 その真摯な姿勢と、真っ直ぐなまなざしは今でもアイナの胸に深く刻まれている。

 そして元から争いを好まずある意味では『まっとうな』思考をしているアイナには、この戦争に対して否定的な見方をしていた。

 シローのように、敵であろうとも手は取り合える……理想論だと理解していても、自分がその一端を経験した今、そんな思いは膨れ上がっていた。

 その時。

 

「アイナ様?」

 

「ハマーン様……?」

 

 見れば、カーン家の息女であるハマーン=カーンがバルコニーに出てきている。

 

「どうなさったのですか、ハマーン様?」

 

「アイナ様と同じです。火照った身体を冷ましに。

 ……隣、よろしいですか」

 

「ええ、どうぞ」

 

 自然と2人で並んで星を見上げることになるアイナとハマーン。

 

「地球から見る星は、宇宙で見るものとはまた違った赴きがありますね。

 静かで綺麗で……今が戦争中だなんて忘れてしまいそう」

 

「そうですね、ハマーン様……」

 

 答えながらも、『戦争』という単語にアイナは微妙な表情を造ってしまう。それに敏感に気付いたハマーンはアイナに聞いた。

 

「戦争は悲しいですね。

 ジオンはスペースノイドの独立のために戦っているというのに、連邦にもスペースノイドはおり、互いに所属する陣営の違いで争っている」

 

「そうですね……敵である彼らとも、そしてひいては連邦政府とも、戦争では無く対話で分かりあえればいいのですが……」

 

「かつて、ジオン=ダイクンも連邦からの平和的な交渉による独立を目指しましたがそれは為らず、デギン公王は軍事力を持つことで連邦との対等な立場での対話を望みました。しかしそれでも連邦は対等な対話には応じず、今に至っているのです。

 悲しいですけど、対話だけではジオンの独立は永遠に不可能だったのでしょう……」

 

「ええ、そうでしょうね……」

 

 アイナはハマーンの言葉に頷きながら、自分より5つは年下だというのにその見識に感心する。

 そして、ハマーンはさらに驚くべき話を続けた。

 

「……実は私、この間モビルスーツで戦闘に参加しました」

 

「!?」

 

 それはアイナにとって驚くべき話だった。

 自分よりも家格がずっと上のお嬢様であり、それもこんなに小さな少女が戦争で命のやりとりを行ったというのだ。

 

「……連邦の奇襲に合い、自分や友達を守るために私は戦いました」

 

「辛くは……無かったのですか?」

 

「辛いですよ、人殺しなんて。

 でも……あの時戦わなければ、もっと多くの大切な人たちが死んでしまったのも事実。

 それを見て見ぬふりは絶対にできない。

 それは、カーン家の娘としても、ハマーン=カーンという1人の人間としても見過ごしてはいけないことだと思うのです。

 だから……辛いですけど、悔いはありません」

 

 古来から、名家や貴族というのは『高貴なる義務(ノブレス・オブリージュ)』の思想の上に成り立つ。社会的地位のあるものは、それ相応の責任を負う義務を持つという考え方だ。

 しっかりとした表情でのその言葉に、アイナはハマーンの中に人の上に立つべきもののもつ高貴な魂を見る。

 そんなアイナの感心を知らず、ハマーンは悲しそうに続けた。

 

「平和への想いや願いだけでは、何も変わらない……。

 戦わなければ、すべてをただただ奪われるだけの時は必ず存在する……だから戦う。

 現実は悲しいですね」

 

 でも……、とハマーンは言葉を繋ぐ。

 

「でも……確かにただの理想かもしれないけど……私は誰かと分かりあうことを諦めてはいけないと思います。

 それが例え、今は戦うしかなくても……」

 

「ハマーン様……」

 

 いつかシロッコの語ってくれた、ニュータイプの力の意味。それは分かりあうためのものだという言葉をハマーンは忘れていない。

 だから一見理想論の絵空事のように聞こえるアイナの『敵とも分かりあいたい』という発言をハマーンは肯定して支持するのだ。

 そのハマーンからの言葉はアイナのどこかモヤモヤしていた気持ちを、少しだけ軽くしてくれる。

 

「そろそろ冷えてきました。 中に戻りませんか?」

 

「ええ、そうですね。

行きましょう、アイナ様」

 

「ええ」

 

 ゆっくりと、2人は晩餐会の会場へと戻っていく。

 これが後々にまで長く続くハマーン=カーンとアイナ=サハリンとの邂逅となるのだった……。

 




サハリン家との技術提携と、ハマーン様とアイナ様の交流でした。
ギニアスの過去については小説版を参考にしています。
しかし今読み直しても、キキの件を除いても小説版08小隊はエグイなぁ……。

次回はシロッコの東アジア戦線での最後の戦い、コジマ基地殲滅戦……に見せかけたアイナ様再会編です。

次回もよろしくお願いします。


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第41話 戦場の再会

思ったより早く仕上がったので、土曜の投稿予定を繰り上げました。

今回はコジマ基地襲撃……に見せかけた、アイナ様の再会編。
ただせっかくの再会だというのに……。



 

 閃光の雨が、空を彩る。

 拡散メガ粒子砲の閃光がまるでシャワーのように空にきらめくと、その光に貫かれたTINコッド戦闘機の編隊が一瞬にして光の花となって散っていく。それに混乱した残り僅かなTINコッド戦闘機の生き残りも、何の抵抗も出来ずに突っ込んできたドップⅡ戦闘機によって叩き落とされた。

 

『すごい……』

 

 通信機越しにエリスが息を呑むのが分かる。他のメンバーも同様の感想を抱いているだろう。かくいう私も、同感だ。

 

「まさかここまでとはな……」

 

 私は横を見ながら呟く。そこにはその閃光を放った存在の姿があった。

 ダルマのように丸い身体にドムの頭をもつモビルアーマー、ギニアス少将の実妹であるアイナ嬢の搭乗する『アプサラス』である。

 私と、そしてエリスとマリオンは今モビルスーツでドダイに乗り、『アプサラス』とともに空に居た。

 周りには数多くのドダイ爆撃機。ほとんどが対地攻撃用に爆装をしているが、そのうちの何機かには爆弾のかわりに我々と同じようなザクやグフといったモビルスーツを載せていた。そして、それらを護衛のドップⅡ戦闘機が守る。しかし、その数はあまり多くは無く、普通ならば防空能力に不安を覚えることだろう。

 しかしその懸念は『アプサラス』の前ではいらぬ心配だ。事実、今連邦の基地から発進した防空戦闘機隊はアプサラスの拡散メガ粒子砲の一撃でほぼ全滅である。

 やがて、ギャンの最大望遠にしたカメラが連邦軍の基地の姿を捉えた。それはこの東アジア戦線において連邦の重要拠点でもある、そしてこの部隊の攻撃目標でもある『コジマ基地』であった。

 

 

 さて、ここでもう一度こちらの部隊の状態を説明する。

 モビルアーマー『アプサラス』に、リザド隊からは私とエリス、マリオンの3人だ。

 シャアはEXAMシステムを使用したことでイフリート改に大規模な整備が必要となり、ドム系の機体はドダイへの積載にあまり適さないことから不参加とした。その指揮をクスコに任せ、前回の教訓から『ユーピテル』の護衛についてもらっている。

 そしてドダイに乗ったビームグフこと『B4グフ』を駆るノリス大佐が指揮する精鋭モビルスーツ隊が合計10機、その他のドダイには対地攻撃用の爆装である。そして対空護衛機としてドップⅡが10機ほどだ。

 どう考えてもこの編成は基地の占拠を目的としたものではない。それもそのはず、この編成は『基地の完全破壊』を目指したものだからだ。

 何故『制圧』ではなく『破壊』なのかというと、それは『限られた戦力でより効果的に連邦に多くの出血を強いるため』である。

 

 先の奇襲および空爆作戦、さらに追撃戦によって連邦の『ペキン基地』は大きなダメージを受けた。これを回復させるには『補給』は不可欠である。

 『補給』とは『点と点を線で繋ぐ』ことだ。生産された物資を『点』である集積所に集積し、そこから次の『点』や必要としている各部隊へと分配していくことである。その『点と点』を繋ぐ補給の道が、いわゆる『補給ライン』だ。当然の話だが、この『補給ライン』の距離が長ければ長いほど、補給は困難になっていく。

 

 それを踏まえ、今のこの東アジア戦線の状況を見てみる。

 この地域の連邦の本拠地とは、インドにある一大拠点である『マドラス』である。しかし、生産されるのがマドラスでも補給ラインがマドラスから各部隊に繋がっているわけではない。その物資は中継地点ともいえるこの『コジマ基地』に集積されてからさらにその先にある『ペキン基地』や各部隊に配られている。

 つまり『コジマ基地』は軍事拠点であると同時に、この東アジア戦線において『点』、いいかえると『ハブ』とも言える役割を果たしている重要拠点なのだ。

 『コジマ基地』を破壊することで物資の中継点は無くなり『ペキン基地』への補給は、マドラスからペキンまでという長い長い補給ラインでもっての補給を強いられる。陸路・海路のどちらをとっても大量の出血を免れまい。

 ならばいっそペキンを放棄すれば……そうも思えるが、実はそれも現状では難しい。

 そもそも、『コジマ基地』を失えばペキン基地からの撤退先は遥か遠くマドラスだ。とても無事に撤退しきれるものでもない。

 それに『ペキン基地』の戦力は激減しているが人員の規模は決して小さくは無い。まったくの外界から遮断された『孤島』ならまだしも、しっかりと陸で繋がった地域の味方をそう簡単に見捨てられるはずもない。

 ペキンという手負いの基地()を殺さず生かし、そのために送られてくる補給物資()補給隊(餌係り)ごと叩き続ける……これがノリス大佐が言っていた、そして私の考えと同じこの東アジア戦線での戦略である。

 狙撃手(スナイパー)は1人に怪我を負わせそれを餌に助けにきた仲間を次々に射殺するのを常套手段としているが、言ってみればこれはその拡大版ともいえる戦略だ。

 

 もっとも、この戦略のためには『コジマ基地の完全破壊』が必須になる。そのためにはガウ攻撃空母も含めたような大量の爆撃隊とそれを護衛する戦闘機隊、そして残った敵を倒すモビルスーツ隊と大戦力が必要で、本来なら実行は中々難しい。

 だが、そのすべてを『アプサラス』という切り札(ジョーカー)が可能にした。

 

『行きます!』

 

 通信機越しに、アプサラスを操るアイナ嬢の声が聞こえる。その言葉とともにアプサラスの大口径収束メガ粒子砲は放たれた。

 ジャブローの分厚い防御装甲を貫くことを目的としたそれは、試作段階とはいえ凶悪なまでの威力によって眼前の『コジマ基地』を一撃で焼き払う。建造物が次々と意味を為さない瓦礫へと代わり、連続した爆発の炎がコジマ基地を包んだ。

 一撃……ただの一撃で連邦の重要拠点であった『コジマ基地』はその機能のほとんどを喪失させてしまった。

 

『アイナ様、お見事です。

 あとは我々にお任せを』

 

 そう言ってノリス大佐のB4グフを載せたドダイが前に出ると、それに伴い他のドダイ隊も前に出た。

 爆装したドダイからの一斉爆撃、その爆撃が僅かに残っていた『コジマ基地』の対空砲や施設を破壊していく。それを確認してから、モビルスーツ隊が降下を始めた。

 

『仕上げに行ってまいります、アイナ様。

 ……シロッコ中佐、アイナ様をよろしく頼む』

 

「了解です、ノリス大佐」

 

 私の返事を聞いてか、ノリス大佐の操るB4グフが降下し、地上でモビルスーツ隊の指揮に入った。

 我々リザド隊はアプサラスの護衛ということで戦闘には参加せず、ドダイに乗ったままアプサラスの傍に居続ける。何故なら、この戦いにおいて私を含めたリザド隊は『お客様』だからだ。

 この戦いはある意味『デモンストレーション』でもある。

 アプサラスの性能、そしてノリス大佐率いる『サハリン家』のモビルスーツ隊が精強であることを私に、ひいてはガルマに示しガルマ陣営での『サハリン家』の地位を確かなものにするためのものだ。戦力的に少し少ない気がするのも、そのためのデモンストレーションの一種である。私もそれを理解しているからこそ、積極的な戦闘介入はせずに観戦に廻っていた。

 それにしても……。

 

「……大丈夫ですかな、アイナ嬢?」

 

『は、はい。 大丈夫です……』

 

 隣を飛ぶアプサラスに触れての接触回線に、アイナ嬢は少し声が震えていながらも冷静に答えていた。その様子に私は「おやっ?」と思う。

 アプサラスはギニアス少将にとって切り札中の切り札だ。だからこそ信用ある身内のアイナ嬢にしか、ギニアス少将は搭乗を許していない。しかしアイナ嬢はあくまで一般人、軍人ではないのだ。宇宙ではモビルスーツのテストパイロットも務めるほどなのでその操縦テクニックなどの技術的な面の適正は高いだろうが軍人としての精神的な部分……敵を打ち倒すことに対する精神的な耐性がないのである。だから、私としてはこの作戦でショックでも受けているのではないかと思ったが……意外にも平気そうだ。

 

「無理はなさらないでほしい。

 あなたは我々のように軍人ではないのだから」

 

『お気遣いありがとうございます、シロッコ中佐。

 でも……今は戦わなければならない時なのでしょう。

 戦わなければならない時に、それから逃げてはいけない……私は、そう考えますから……』

 

 その心境の変化とでも言うものに、私は思わず感嘆の息を漏らす。どうやら私の知る『原作』よりも現実的で効率的な見方のできる理想論者であるらしい。あるいは、何かのきっかけで変わったか……聞くところによれば、あの晩餐会以降ハマーン嬢とは懇意であるというから何かしらの影響を受けたのかもしれない。いい傾向だとは思う。

 私がそんなことを考えていると、突然警戒音が鳴り響く。

 

「何だ!?」

 

 すぐにチェックをすると、その警戒音は私のギャンからではない。隣のアプサラスからだった。見れば、アプサラスがどんどん高度を落として行っている。

 

「アイナ嬢、どうした!?」

 

『アプサラスの推進系が……! 高度が維持できない!?』

 

 未だ試作兵器であるアプサラス、どうやら安定性はまだまだのようだ。それを見て私は素早く指示を出す。

 

「エリスは私と一緒に降下、周辺警戒にあたる!!

 マリオンはそのまま空中からの警戒にあたれ!!」

 

『『了解!!』』

 

 エリスとマリオンに指示を出すと、私はギャンをドダイから空中に身を投げ出させた。重力に引かれ降下していく機体を、スラスターを連続して吹かせることで減速しながら、未だに抵抗を続けている対空砲および車両に向けてビームライフルを撃ち込む。

 ビームの奔流によって吹き飛ぶそれらの爆発を背に、ギャンはゆっくりと地上に降り立った。

 

「むっ!?」

 

 同時のアラート。見れば着地した私に向かって、どうにか起動を完了させたザクが担いだ6連装ミサイルランチャーを発射していた。

 

『中佐!!』

 

 それに気付いたエリスが、手にしたMMP80マシンガンとシールドに搭載された機関砲でミサイルを迎撃する。

 

「墜ちろ!!」

 

 そしてそのお返しと私のギャンから放たれたビームライフルの閃光はザクを貫き、ザクは風穴を開けた状態でドウッと倒れ込んだ。

 

「よくやってくれた、エリス」

 

『当然のことをしただけです、中佐』

 

 どこかはにかんだようなエリスの様子が、通信機越しにも伝わる。それを感じながら、私はギャンで周辺を見渡した。

 奇跡的に残った戦闘車両や起動したザクが何とか反撃を試みようとするもまったく足並みが揃わず、ノリス大佐率いる精強なモビルスーツ隊によって次々に各個撃破されている。

 すでに戦況は掃討戦の様相だ。連邦としても、もはやコジマ基地は放棄以外の選択肢がないだろうほどに破壊しつくされている。作戦は完全に成功だ。

 そんな中、不調をきたしたアプサラスが地面すれすれにホバーリング状態で制止した。

 

「そちらはどうですか、アイナ嬢」

 

『推進系のパワーがほとんど上がりませんが……少し調整すれば何とかなるはずです』

 

「分かりました。 では、アイナ嬢はアプサラスの復旧を。

 エリス、私とともに周辺の警戒だ」

 

『了解です!』

 

 そう言ってアプサラスを背に、私とエリスのギャンは周辺の警戒を強める。

 その時だった。

 

 

ピピピッ!!

 

 

「何ぃぃ!?」

 

 突然の反応、その場所は……真後ろ!?

 

『うぉぉぉぉぉぉ!!』

 

『な、何ですって!?』

 

 アイナ嬢の狼狽の声に慌てて振り返れば、アイナ嬢のアプサラスに飛びかかる1機のモビルスーツの姿があった。

 それはザクではない。脚部や胸部は確かにザクのそれだが頭部と腕部は私の知る『原作』のジムに近いものであることが後ろ姿だけでわかった。

 外見だけなら知識にはある。おそらくは『原作』において、鹵獲したザクを改修したと言われているモビルスーツ『ザニー』だ。

 そのザニーは今、『原作』では装備していなかったはずの光の剣……ビームサーベルを片手にしている。この『世界』での立ち位置はザクとジムの中間に位置する、ビーム兵器実用機体なのだろう。それが隠れていたアプサラス真下のがれきから飛び出し、アプサラスに襲い掛かったのだ。

 

「ちぃ!?」

 

 振り向きざまにビームライフルを構えるが、そのトリガーは引けない。何故なら、ビームライフルの威力は強すぎる。これではザニーを貫通してアプサラスにまでビームが直撃してしまうだろう。

 そしてザニーはそのままアプサラスの右前面に張り付くとビームサーベルを突き立てた。

 

『このぉぉぉぉ!!』

 

『離れなさい!!』

 

 ビームサーベルによって機構を焼かれながらも、アイナ嬢はアプサラスを激しく振ってザニーを振り落とそうとする。

 その激しい揺れにザニーはビームサーベルを取り落としていた。

 

『このぉ! 墜ちろ、墜ちろぉぉぉ!!』

 

 それでもザニーはアプサラスにへばり付きながら、頭部のバルカン砲をゼロ距離で連射する。アプサラスの装甲が弾け、弾丸が内部機構に火花を散らした。

 我々もそれを黙って見ている訳にはいかないが、いかんせん位置が悪い。

 私とエリスの火器ではザニーだけでなくアプサラスまでも傷付けてしまうことは確実だ。マリオンの狙撃に関してもマリオンはアプサラスの後方の空、狙撃できる位置ではない。よしんばザニーだけを撃ち抜いても、これではザニーの誘爆でアプサラスまで致命的な損傷を負ってしまう可能性が高い。

 

「ええい! アイナ嬢、今その敵機を引き剥がす!!」

 

 私は即座にギャンからビームライフルを捨てると、アプサラスに向けて走り出した。一方のザニーは未だに頭部バルカンの射撃を続けている。

 

『連邦兵、離れなさい! 死にたいのですか!!』

 

 アイナはアプサラスを揺らしながら、接触回線で敵の連邦兵へと通信を送る。事実、このままアプサラスが爆発を起こせば組み付いているザニーも誘爆で吹き飛ぶだろう。

 しかし、そこからの反応はアイナ嬢にとっては予想の範囲外だった。

 

『その声は……アイナ!? アイナ=サハリン!?』

 

『まさか……シロー!? シロー=アマダなのですか!?』

 

 驚いてか、ザニーからのバルカンが止むが、驚きは私とて同じだ。

 

(あのザニーのパイロットはシロー=アマダか!?)

 

 その瞬間、アイナ嬢からの悲鳴のような声が聞こえる。

 

『ダメ! 今の攻撃で推進系が暴走を!!

 シロー、離れて!!』

 

『アイナ!!』

 

 アプサラスのミノフスキークラフトが暴走を始め、爆発的な加速で再び空へと向かおうとする。

 私はそれを見てギャンのスロットルを全開にした。

 

「ちぃ!!」

 

『中佐!!?』

 

 ギャンはそのままザニーと反対……アプサラスの左前面にへばり付く。しかし、アプサラスという規格外のモビルアーマーの推進力は欠片たりとも揺るがない。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 私のギャン、そしてシロー=アマダのザニーを載せたまま、暴走したアプサラスは空の彼方へと駆け上がるのだった……。

 

 




シロー「せっかくアイナと再会して温泉でラブラブしようと思ったのに、何か変なヘアバンド男がついてきた件」
シロッコ「(#^ω^)ビキビキ」

そんなわけでシロー&アイナ様の最重要イベントに、シロッコが着いていくことに。

次回は『ドキッ、男だけの雪山遭難編』になる予定。
更新は2週間後くらいかなぁ……?

次回もよろしくお願いします。


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第42話 雪山の邂逅(その1)

今回は08小隊の雪山イベントinシロッコなんですが……書いてて量が妙に多くなったので分割することにしました。


 ジェットコースターというものがある。誰もが子供の頃に乗ったことがあるだろう。

 上へ下へと縦横無尽に動き回るそのスリルを味わい楽しむというのは、この宇宙世紀であっても変わらぬものだ。

 実の両親に連れて行ってもらった覚えはあるし、義父ともいえるジオン=ダイクンに連れられて少年時代にキャスバルとともに乗ったこともある。双方とも、子供の頃の楽しい思い出だ。

 しかし……もしジェットコースターに安全ベルトが付いていなかったらどうだろうか?

 スリルを楽しむなどという悠長なことを言っていられる人間など、果たしているのだろうか?

 

 まさに今の私が、そんな気分だった。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 私のギャン、そしてシロー=アマダのザニーをその身に纏わりつかせながら、暴走したアプサラスが飛ぶ。

 上に下に右に左に、推進系が暴走し正常な制御を失ったアプサラスはまさしくジェットコースターだ。だがもちろん、安全ベルトなど存在しない。

 さらに言えば、アプサラスは一気に上昇し現在高度は1万を超えている。モビルスーツにはブースターが装備されているとはいえ、パラシュートなどの降下装備なしにこの高さからのダイブなど死と同義だ。

 ギャンとザニーはみっともなくも大樹につくセミか何かのように必死でアプサラスにしがみ付くことで、祈るような気持ちでアプサラスの安定を待った。

 やがてどれぐらいの時間がたったか……縦横無尽に動き回っていたアプサラスの挙動が安定していき、ついに水平になる。

 

「ふぅ……」

 

 私は思わず、安堵の息を付いていた。

 

『シロー、シロッコ中佐、無事ですか?』

 

 アイナ嬢の安否を気遣う声が接触通信から聞こえた。

 

『ッッ!?』

 

 その言葉を聞いた途端、条件反射的にシロー=アマダのザニーがギャンに顔を向けた。それは当然、その頭部バルカンの砲口がこちらを向いたことを意味する。

 それに対して私も素早く左腕に装備されたシールド内蔵の速射砲をザニーに向けた。

 

『シロー!? シロッコ中佐ッ!?』

 

 その様子に、アイナ嬢は驚いたような声を上げた。

 互いに銃口を向け緊張感の高まる中、私はアイナ嬢のアプサラスを介した接触通信で慎重にザニーへと呼びかけた。

 

「……こちらジオン公国軍所属、パプティマス=シロッコ中佐である。

 連邦のパイロット、聞こえているか?」

 

 ややあって、ザニーからの応答が返ってくる。

 

『こちらは地球連邦軍所属、シロー=アマダ少尉だ。

 聞こえている』

 

 やはりこのザニーのパイロットはシロー=アマダで間違いないようだ。

『原作』での主人公の1人との邂逅というのは個人的に感慨深いものを感じながら、私はシロー=アマダへと話をする。

 

「我々はアイナ嬢のモビルアーマーに掴まっている。そのバランスは非常に不安定だ。

 もし今ここで大きなバランスの変化があった場合……私か君のモビルスーツが落ちた場合だが、その急激なバランス変化に耐えきれずアイナ嬢のモビルアーマーも墜落の憂き目をみるだろう。

 我々は今、運命共同体というわけだ」

 

『……』

 

 通信機の向こうでシロー=アマダが頷いているのが何となくわかる。

 

「そこで提案だ。

 この状況を脱するまでの間だけでも、我々の間で一時休戦といかないかね?

 今戦争を続けても、全員揃って無駄死にをするだけだ」

 

 数瞬の間の後、答えが返ってきた。

 

『……了解した。 この状況じゃ、生き残るために協力したほうがいい。

 一時休戦の提案を受け入れるよ』

 

 そして私とシロー=アマダはお互いに向けた銃口を降ろす。

 緊張感が霧散していくその様子に、アイナ嬢がホッと息をつくのが分かる。

 

「貴官の理性的な判断に感謝する、アマダ少尉」

 

『こっちもあの有名な『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』と戦わなくて済んで正直ホッとしている』

 

 連邦にまでしっかり浸透している自分の渾名に苦笑しながら、私はアイナ嬢へと話を向けた。

 

「アイナ嬢、そちらの様子はどうか?」

 

『今のところは安定していますが……正直、いつまた異常が起こるか分かりません』

 

「連絡は……無理だな」

 

 この高濃度ミノフスキー粒子下では、長距離通信は不可能だ。

 追跡してくる味方があればいいが、ドップを振り切るほどの速度でかなりの距離を飛んだためそれもない。

 そもそもコジマ基地襲撃部隊の航空機はそれほど航続距離に余裕があるわけではない。今のアプサラスはとっくの昔にその航続距離の外だ。

 

「やれやれ、頭の痛い話だな」

 

まるっきり『遭難』の状態に、私は苦笑した。

そんな私に、アイナ嬢の意を決したような声が聞こえる。

 

『……中佐はお聞きにならないのですか? 私とシローのこと……』

 

 連邦の士官と知り合いということで何か言われると思っていたのか、アイナ嬢の声は堅い。その様子に私は苦笑した。

 

「別に何も言わんよ。 連邦兵とて人間、いい人間はいるだろう。

 それと知り合い、分かりあうこともある。

 スパイ行為を働いていたのなら話は別だが……そうでないなら、特に言うことはあるまい。

 私はそこまで頭が固くはないよ」

 

『……ありがとうございます、中佐』

 

 私の言葉にアイナ嬢は胸を撫で下ろす。

 私としては『原作』での知識もあり、アイナ嬢とシロー=アマダの関係は知っていたので今さらだ。

 それに今はアプサラス……アイナ嬢に命を預けているのである。ここでアイナ嬢の機嫌を損ねる気はない。

 そして何より、個人的には少し、居心地の悪さと罪悪感もある。

 私も必死だったので今の今まで気付かなかったが、この状況は私の『原作』での知識からかなり状況が異なるが、2人が再会し秘めた思いを明かし合うというところである。そこに割り込んでいるという自覚もあり、心苦しくもあった。

 

「とにかく、再び問題が起こる前に着陸したほうが……」

 

 そう言いかけたその時だ。

 ガコンッ、という不吉な音が聞こえたと思ったら、アプサラスが高度を落とし始める。

 

「アイナ嬢!?」

 

『推進系が、またパワーダウンを!?』

 

 高度はみるみる落ち、ほとんど墜落の域だ。アイナ嬢は必死の制御で何とか水平だけは保ってくれているが、アプサラスの勢いは止まらない。

 ……仕方がない、ここは決断の時だ。

 

「アイナ嬢、ここは胴体着陸を試みるしかあるまい!」

 

『でもここでは!?』

 

 辺りは雪の残るヒマラヤ山岳地帯、平野でさえ危険な胴体着陸の危険度は倍増である。しかし、ここで迷っても仕方がない。

 

「構わん、私に任せたまえ。

 アマダ少尉、君はどうする?

 この高度なら無事に降りられるが……」

 

『今は休戦中のはずだ。 俺も協力する!』

 

「結構! ならば接地と同時にスラスターを全開にしてブレーキをかける!」

 

『わかった!』

 

 そして、ついにアプサラスは山肌を沿うように胴体着陸を開始した。

 

「いまだ!」

 

『スラスター、全開!』

 

 私のギャンとシロー=アマダのザニーがスラスターを全開にする。

 しかし……。

 

「くっ!?」

 

『止まらない!?』

 

 ギャンとザニーの2機がかりでも、加速のついたアプサラスという大質量は止まらない。スラスターを全開にし、全力で足を踏ん張っているにもかかわらずその勢いは止まらない。

 

『シロー!? 中佐!?』

 

 アイナ嬢の切羽詰まった声。

 その声に従ってカメラで真後ろを見れば、その先は断崖絶壁だ。それまでに止まらなければ、崖の下へと真っ逆さまだろう。

 

「まったく、楽しませてくれる!」

 

 そう毒づきながらも、私はペダルをいっぱいまで踏み込んでアプサラスを抑えた。少しずつアプサラスの速度は下がっていくが、それでも危険は変わらない。

 勢いを殺すために下ろされ、地面との間に火花を散らせていたアプサラスの着陸用支持脚が脱落する。

 

『もういい! シローも中佐も離脱してください!!』

 

 迫る断崖絶壁に、アイナ嬢の悲鳴のような声が響く。そのアイナ嬢の声に答えるようにシロー=アマダが絶叫した。

 

『アイナァァァァァ! 好きだ!!』

 

『!!?』

 

 ……何なのだろうか、このともに命をかけていながら蚊帳の外にいるかのような感覚は?

 これが本来『原作』ではいるべきではない者である私が受けるべき罰なのか?

 非常に居心地が悪い……。

 

 とにかく、私のギャンとシロー=アマダのザニーの全力のおかげか、アプサラスの勢いが収まっていく。そして……断崖絶壁の、本当にギリギリのところでアプサラスは止まっていた。

 

『……止まった?』

 

 アイナ嬢の呟きに、私もホッと胸を撫で下ろす。

 しかし……。

 

 

ガラッ!!

 

 

『ッッ!!?』

 

『!? シロー!!?』

 

 断崖絶壁のギリギリのところに足をかけていたザニーだが、そこが重みに耐えかねて崩れ、ザニーが切り立った崖を落ちていく。

 

『うわぁぁぁぁぁ!!?』

 

『シロー!!?』

 

 シロー=アマダとアイナ嬢の悲鳴のような声の中、私は動いていた。

 

「ちぃっ!?」

 

 ギャンが地を蹴り、自ら崖に飛び込むと落ちていくザニーの手を掴む。

 

『シロッコ中佐!? 何故!?』

 

「何、今は休戦中なのだろう!!」

 

 同時に私はペダルを踏み込むと、ギャンのスラスターを全開にした。

 だが……。

 

「くっ!? さすがにギャンも限界か!?」

 

 アプサラスを止めるために酷使を続けていたスラスターはオーバーヒート状態で、とても上昇は不可能。落下の衝撃を多少和らげる程度の効果しか持たない。

 落下のすさまじい衝撃が、ギャンと私に襲い掛かった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「シロー!? シロッコ中佐!?」

 

 崖を真っ逆さまに落ちていった2機のモビルスーツにアイナは呼びかけるが、通信機は反応がない。

 それもそのはず、ミノフスキー粒子も残留しているし、外部の天候もよくない。これでは通信状態は悪くなって当たり前だ。それに今までの度重なる不調によって通信機そのものも故障していたのだ。

 アイナはアプサラスのハッチを開けると、空を仰ぎ見る。

 ここにもコロニー落としによる地球規模の天候異常の影響が出ているようだ。そこにはコロニーではあまりお目にかかれない、白い雪がチラホラと舞っている。空も暗く、風も思いのほか強い。もしかしたら吹雪くかもしれない。

 このままでは2人の身が危険だ。

 

「助けにいかなければ!」

 

 アイナはそう決意し、行動を始めた。

 備え付けられていたサバイバルキットを背負い、友軍への救難信号のビーコンを出す。

 そして、もしもの場合を考えてアプサラスの自爆装置をセット、そのスイッチをノーマルスーツと同期させた。

 

「待っていてください。 シロー、中佐!」

 

 準備を終えた彼女は、防寒着ともいえるノーマルスーツのまま雪山へと飛び出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 それは士官学校を卒業し、初勤務の期間を終えた後の初めての休暇だった。

 立派になった彼を、両親は温かく迎えてくれた。

 同時に、彼の故郷は平和だった。

 日々サイド3――ジオン公国との関係はキナ臭いものになって来ているが、そんなものは遠い彼方の話だと住民たちは誰もがそう思い、昨日と同じ今日を、今日と同じ明日を生きる。

 それが終わるなど、彼を含めたここ『アイランド・イフィッシュ』の住民は誰も思っても見なかったのである。

 

 軍からの緊急呼び出し、ついにジオン公国が宣戦布告したのだ。

 すぐにノーマルスーツに着替えて即応態勢を整える彼……だが彼の見たものは、この世の地獄の光景だった。

 

 最初は何が何だか分からなかった。

 コロニーの外壁を突き破って侵入してきた一つ目の巨人……ザクの放った砲弾が空中で爆発し、毒々しい色の煙が充満していく。

 その煙の正体は致死性の毒ガス……『G3ガス』だ。

 バタバタと倒れていく住民たち。

 それは近所のおばさんであったり、幼いころからの友人であったり……見知った人たちだった。

 そして彼の父も、目の前で息を引き取った。G3ガスによって皮膚がただれ、伸ばされた手は彼のノーマルスーツのバイザーに、まるで涙のように血の筋を残す。

 

 その血の赤は、彼の心に深く焼きついた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 悪夢に、自分の叫びで目を覚ます。

 そして目に飛び込んできたジオン軍の軍服に、彼は半ば反射的に飛び掛かっていた。

 

「ジオンめ! ジオンめっ!!」

 

 だがしかし、そんな彼はそのまま手を取られ、組み倒されてしまう。

 

「ぐぅ!?」

 

 地面に叩きつけられた衝撃に息が詰まる。そして、そんな彼に呆れたような声が言った。

 

「やれやれ……我々は休戦中ではなかったのかね?

 突然の協定破りはあまり褒められたものではないな、シロー=アマダ少尉」

 

 その声に彼……シロー=アマダは我に返る。

 今自分が飛び掛かった、その人物は……。

 

「『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』パプティマス=シロッコ……」

 

 その言葉に、シロッコは皮肉げに笑うのだった。

 

 

 




ビームサーベル温泉まで辿り着かなかった……orz
次回こそは行けるかなぁ……。

更新の目処は2週間以内です。
次回もよろしくお願いします。




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第43話 雪山の邂逅(その2)

……思ったより長くなってしまった。
ある意味大惨事のお話。
だが私は謝らない。


 パチパチという音を立て、固形燃料が燃える。

 私はその炎を見ながら、傍らのシロー=アマダへと話しかけた。

 

「もっと火に寄ったらどうかね?

 さすがにその格好では寒かろう?」

 

 私は長袖のジオン士官服姿、そしてシロー=アマダはあの高温多湿な地域での標準的な半袖の連邦軍服だ。長袖の私ですら寒いのだから、半袖のシロー=アマダには堪らないはずである。

 こんな時、宇宙服でもあり防寒着としては一流のノーマルスーツがあればいいのだが……基本的にモビルスーツ搭乗時はノーマルスーツ着用が推奨されているが、生命に関わる宇宙ならまだしも、地上でノーマルスーツを着込む者はあまり多くない。そのため、私のギャンやシロー=アマダのザニーにはノーマルスーツが積み込まれていなかったのだ。

 無い物ねだりをしても仕方なく、私はおとなしく火をおこして暖を取っているわけだが……シロー=アマダはサバイバルキットにあった保温シートにくるまりながら、どうにも警戒感を持って私から距離を置いている。

 その様子に、私はため息交じりに言った。

 

「今は休戦中なのだろう?

 何か害を為すつもりなら、そもそもここまで連れてきてはおらんよ」

 

 そう言って私は洞穴の周囲の岩壁を指差す。

 あの時……私はギャンでシロー=アマダのザニーを支えようとしたが、すでにアプサラスを受け止めることで全開にしていたギャンのスラスターはオーバーヒート寸前、支えるどころか2人揃って崖から転がり落ちてしまった。

 その時の衝撃でギャンは右の膝関節が破損、同時にザニーを掴んでいた右腕は肩からもげて脱落していた。

 一方、ザニーの損傷はもっと酷い。

 両足が完全に砕け折れ、受身でも取ろうとしたのか左腕が肘からあらぬ方向に曲がっており、さらに正面装甲が吹き飛びコックピットが丸見えという有り様だ。思った以上の損傷に、私も心配になってシロー=アマダの救出に向かったが……この男、ずいぶん悪運が強いらしく気絶だけで怪我の一つもない。

 アイナ嬢のこともあるしそのあたりは安心したわけだがここはヒマラヤ山脈の高所、しかも雪がちらほらと見える状態である。コックピットむき出しのザニーに放置では確実に凍死する。

 かといって空調の生きているギャンに乗せてやるのも論外。ギャンは機密の塊、それに連邦の士官を乗せるなどできるはずがないし、何より男と相乗りなど心情的にご免こうむる。

 そこで私はシロー=アマダを連れて近くにあった洞穴に避難しているというわけだ。

 

「敵の士官を前に緊張は分からんでもないが……礼の一つくらいは言ってもらいたいものだな」

 

 私はマグカップを差し出す。

 

「コーヒーだ、飲むといい。

 何、遠慮はいらんぞ。 どうせ君の機体に積んであったサバイバルキットの中身だ」

 

「あんた、勝手に……」

 

 何か言いたげな顔をするが、シロー=アマダはマグカップを受け取るとコーヒーをすすった。それを見て、私も自分のマグカップにコーヒーを注いで口にする。